やはり俺の学校生活はおくれている。 (y-chan)
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#1

八幡といろはが同じ学年になったらどうなるんだろうと言うコンセプトで始めます。
どうぞよろしくお願いします。


あー、目眩がする。

 

春休み明けの青々とした快晴が俺の身体を蝕む。

とうとう身体が日光に拒絶反応を見せたかと思い、これから3年世話になる学び舎、総武高校の通学路を自転車で駆ける。

 

中学の頃に思春期の恥部をここまでかと見せつけ、周りとはある意味で一線を置いた俺にとって、この進学高に通う事で全ての人間関係をリセットし、よろしく高校デビューな心境で少し…いや、かなり期待はしているであろう。

 

そう考えながら総武高校新入生比企谷八幡は初めての通学路を駆けていく。

 

ん?

 

 

道中、遠くから聞こえた叫び声に顔を向ける。

 

そこには車道に飛び出したこわいもの知らずのワンちゃんがこちらに向かって横断しているでは無いか。

 

さらに突然の横断者に気づいても止まれない高級車が迫っていた。

あきらかにワンちゃんの行動経路とスピードを予測すると轢かれるのは目にみていた。

 

軽く舌打ちをし、自転車のハンドルをワンちゃんの方に傾ける。

 

犬よか猫派なのだが目の前で車に轢かれては新学期早々に寝覚めが悪い。

 

そして自転車の警音器と急ブレーキでワンちゃんに牽制して移動を止めるところまでは覚えている。

 

目が覚めたら異世界じゃ無かった病室だ。季節は秋だった。

 

俺の留年が確定した。

 

 

***

 

 

目が覚めると看護師は慌ただしくエスカレーションを行う。

そしてまた慌ただしく病室に入ってきた父や母…そして小町が目を見開き、驚き、そして涙を見せた。

 

どうやら俺は昏睡状態だったらしく、医者から最悪一生このままと脅されていたらしい。

何それこわい。というか小町をこわらせるな○すぞヤブ医者。

 

それからはリハビリを行いながら身体は順調に回復していった。

一人前に身体を動かせる様になり、退院となる頃には師走の風情が姿を現し始めていた。

肌寒さが寂しさを思い出させ、そして今年の終わりの意識をかき立ててくる。

 

退院の日程も決まり、愛着が湧き慣れ親しんだ病室と別れの日が明確になった事で寂しさがこみ上げてきた。

別れを惜しむようにベッドに横になり、この1年の振り返りをやってみた。

 

といっても今年1年は身体を直す事ぐらいしかやった事が無い。

 

来年からはまた1年生をやり直すのか……。

留年の強みといったら去年の内容をもう一度くりかえす強くてニューゲームなはずなのだが、1日目登校前で事故に遭っているだから、なんのうま味もねぇ。

 

不幸中の幸いといって良いのか、元から知ってる奴はいない事だ。

知り合いがいないことを条件として俺は高校を選んだのだから当然だ。

俺が年上である事を喋らなきゃ、まずバレることは無いだろう。

 

そこまで考えた後、ベッドで横になっていたせいか、急に睡魔に襲われ次第に意識を手放す事となった。

 

***

 

 

「おー、さっむ暖房暖房、炬燵炬燵」

 

退院し、既に留年が決まっていた俺は学校に行く気力も無くやる事も無く炬燵と暖房という2重の現代の利器を使用し温々と本を読みあさっていた。

 

そして両親も、小町も平日は職場や学校に行っている。

最初の頃はなんとも悪くも無いのに悪い事をしている気分になっていたこの生活も、慣れてくるとともに罪悪感などはなくなりつつあるのだが、どうにも時間を持て余してしまうというのが課題となってきた。

 

「問、働かなくて食べる飯はうまいか」

 

「答、人の奢りの飯がうまいように、働かないで食べる飯は格別だ」

 

というようにどうでも良い独り言が増えた。

いつの日だろう、それをたまたま耳にした小町から「ただでさえ気持ち悪いおにぃちゃんがさらに気持ち悪くなった」と『キモい』では無く『気持ち悪い』と省略せずにいわれた辺りに本気さを感じて真面目に傷ついた。小町ちゃん酷い。

 

正直な話、ここ最近は家に引きこもってばかりであり、あらかた本を読み終えて暇を持て余しているのも独り言を助長させる一因だろう。

 

世間のプロ引きこもりニート面々には申し訳ないが、たまには外にでたい衝動に駆られる。

 

「少し、散歩するか」

 

また独り言がでてしまった。

 

 

****

 

 

玄関の扉を開けたとき、外界からの冷気が一気に流れ込み、温々と暖房や炬燵に慣れた身体はすぐさま肌寒さを感じた。

 

 

同時にやはり12月という今年の締めを連想させる

淡い哀愁じみた感情が俺の中を駆け巡った。

 

「今日は少し遠出してみるか」

 

電車で、田舎寄りの都会の駅で降りた。

そこから駅前にある本屋をいくつか回り、少ないお小遣いを捻出し、厳選した本を数冊購入した。

我ながら突発的に思いついた散歩とはいえ、十分楽しめた。

 

たまにはこういうのも悪く無い。

 

目的を果たして本屋からでたときには、既に黄昏時となっていた。

そんな空をみて、かなりの時間を厳選に充てていたのだなと理解した。

 

駅へと向かう最中に見覚えのある緑の看板を見つけ、足を止める。

 

「サイゼか」

 

少し遠くまで来て今は黄昏時、少し腹も空いてきた辺りだ。

軽食くらいなら帰る最中で消化されるだろうと踏んで俺はサイゼにへと足を向けることにした。

 

少し混んでいるかと思いきや、客は疎らだ。

駅前でこの時間にこんな疎らなんてこのサイゼ潰れるのでは無いだろうかと心配になってしまう。

 

とりあえず店内を見回して、適当な席に案内される。

その途中で、ボックス席で勉強している1人の女子学生が目についた。

中学校の制服だろうか?肩まで伸びた亜麻色の髪の毛と幼さがまだ残るが、整った顔立ちで受験勉強している姿がちょっとだけ小町を連想させたからだ。

 

彼女のテーブルに総武高校のパンフが勉強道具と一緒に置いてある。

 

もしかしたら来年同じクラスになるのかもしれない。

若干の期待が込み上げてくるが、理性でそれを切り捨てた。

 

案内された席はボックス席だった。

その女子中学生の隣の席だ。

 

えっ何なのこのサイゼ、この時間に1人ボックス席とか案内しちゃって良いの?

こわい読もう。

 

案内された席で既に決まっているメニューを注文する。

サイゼのドリアは人類史上まれにみる最高の作品だ。

 

注文を終え、届くまでの間に今日の戦利品をみて、軽く読そうなラノベ辺りを手に取り読み始める事にした。

 

…集中力の途切れと同時に周囲の雑音が耳に入ってくる。

どうやらお隣さんが騒がしい。

 

あの女子中学生もうぇーいやらうぇーいやらやっている類いの人種だったのだろう。

 

ただ、騒ぐにしてももう少し場所を選んで欲しいと

嫌悪感に悩まされるがよくよく耳を傾けるとそうでも無いようだ。

 

「ごめんなさい。今そんな暇は無いので」

 

「そんな事いわずにさぁ、ちょっとお話ししようよ」

 

どうやら受験勉強をナンパ野郎に邪魔されているみたいだ。

まぁ、ボックス席で広々と受験勉強しているうえに、その容姿だ。

目をつけられても仕方が無いだろうとみてみぬ振りを決め込んだ。

おっ、丁度ドリアが運ばれてくる。

 

届いたドリアを俺の席に置く店員に追加注文を伝え、ドリアをスプーンですくい食事にありつく。

 

俺の注文を聞きつけた店長らしき人物が颯爽とナンパ野郎の前に現れ、笑顔のまま店内マニュアルに沿ってナンパ野郎を退店へと追いやった。

 

何がスゴイって最後まで笑顔を崩さなかったところだよ。

プロ精神を感じる。

 

店内でナンパとか店側からすると迷惑行為の何物でも無いのだ。

それと可愛い女の子と知り合えるワンちゃんの正義感で対峙するよりも店員に任せる方がはるかに効率的だ。

 

そう思いながらドリアを食べて終えてもう少しラノベを読む。

厳選しただけあり、面白くやめ時がわからない。

 

…ふと周りの雑踏が耳に入る。

周りを見渡すとようやくこのサイゼも人が混み合ってきたようだ。

どうやら潰れるかどうかというどうでも良い心配は杞憂だったようだ。

 

「あの」

 

聞き覚えの無い声が隣から聞こえ、動揺して少し肩が跳ねる。

声の聞こえた方へ向くと、隣のボックス席にいた亜麻色の髪の毛の女子中学生が立っていた。

その女子中学生は、少し愛らしい微笑で俺に語りかけてくる。

 

「驚かせてごめんなさい。突然で申し訳ないんですけれど相席させてもらえませんか?」

 

「えっ?なんで?」

 

速攻でOKを出さなかった俺に彼女のまゆが少し動くのを見逃しはしなかった。

こいつ、絶対即答で相席を了承してくれると思っていたに違いない。

こいつはやべぇぞ。できればあまり関わりたく無い。

 

「周りをみて下さいよ。お客さんいっぱい入ってきてるじゃ無いですかー?それで1人ボックス席ってなんか居心地悪いじゃ無いですか?」

 

おいおい、さっきの丁寧な口調はどこに消えたよ?

一気にフランクになったな。

 

「それはわかるが、カウンター席まだ空いてるじゃん?」

 

「カウンター席だと狭いんですよねー」

 

「わがままかよ」

 

「そういうわけなんで、相席お願いしても良いですか?」

 

ぺこりと腰を折り、浅すぎず深すぎない礼をされてた。

 

仕方ない。ここまでされたら流石に断れない。

余計に食い下がられても面倒くさいだけだ。

 

まぁ、俺も丁度1人ボックス席で居心地が悪かったが、相席ならそれも相殺されそうだしな。

 

「まぁ特別断る理由も無いし、どうぞ」

 

そういって向かいの席へ手のひらを向けて彼女を迎え入れた。

 

「ありがとうございます」

 

少し顔を傾けはにかむような笑顔でいわれた礼に悪い気はしなかった。

俺の頬に少しだけ熱が籠もったのは内緒の話。



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#2

中学生のいろはってどうだったんだろうと想像を膨らませてたら膨らみすぎてどうしよう。



それからしばらく彼女は受験勉強を、俺はラノベに目を走らせ、無言の空間が続いた。

 

「あの」

 

先に口を開いたのは亜麻色の髪の毛の女子中学生だ。

視線を彼女に移すと、教科書とノートに視線を交互に移しながら話しかけてる。

ながらで頭に入るのかな?人によるか?

 

「さっきはありがとうございます。その…人を呼んでくれて」

 

どうやら俺が呼んだ事を知っていたようだ。

 

「当たり前だ。明らかな店内迷惑行為だったからな」

 

「それでも誰でもできる事ではないはずです。本当に助かりました。」

 

意外だったが彼女はさっきから締めるところは締める。

顔が良い分、だいぶ遊んでいるだろうと先入観に支配された自分を悔いた。

 

「ま、助けになったなら何よりだ。…総武受けるのか?」

 

「えっ?」

 

あれ?なんでこいつそんな事知ってるんですかって顔されてね?

めっちゃ警戒されているよねこれ?

 

「あぁ、すまん。席案内された時の動線でテーブルに広げられてたのみたんだ」

 

「あぁ、なるほど」

 

どうやら今の返しで正解だったようだ。

さらになに人のテーブル勝手に見てんのよ気持ち悪いまで言われる事を想定してた。

 

「はい、ここの制服が凄く可愛くて猛勉強です!」

 

「制服かよ」

 

「制服は大事ですよ?女の子の8割は制服で高校を決めると言っても間違い無いですから!」

 

確かに女の子は制服の可愛さで高校を決める話があるが8割ってどこから出した数字よソース出せよソース。

 

「まぁ、頑張れる理由があるなら頑張れば良いんじゃないか?」

 

「それはそうと、お兄さんは何されてるんですか?」

 

「暇つぶし」

 

「っえ?学校とか行ってないんですか?同い年くらいに見え…いえ人生を諦めたかのような目をしているので少し年上には見えるのですけれど…」

 

おいおい、人生を諦める目ってどんな目だよ。

新小岩にそういう奴ら沢山いるらしいぞ?

あれ?もしかして俺の居場所は新小岩だって遠回しに言ってる?

 

「まぁ、年上ではあると思う。ちょっとワケありでな。来年から学校に通う予定だ」

 

「そうなんですね。どこの学校ですか?」

 

「総武」

 

言葉はなかったが目を見開いて口を開けて俺を見ていた。

多分言葉なく驚いているのだろう。

 

「すごい偶然じゃないですか〜。同じ高校のせんぱいと同席するなんて」

 

えっ?何もう受かった気でいるの?うち進学校なんだけれど?

 

「先輩とかではないぞ。俺1年生やり直しだから」

 

「えっ?せんぱいって不良なんですか?」

 

いつの間にか呼び方がせんぱいになってるんだけれどこれいかに?

 

「だからワケありなんだよ」

 

「あぁ〜、そうなんですね〜」

 

察してくれたらしくそれ以上の追求はしてこなかった。

比企谷八幡2回目の1年生。

1回目は初日すら登校できておらず、強くてニューゲームも出来ねぇ。

どんなクソゲーだよほんっと。

 

「それじゃ、既に受験をパスしているせんぱいは私に勉強を教えてくれるんですね」

 

ん?何言ってるのかな?誰とお話していたのかな?

俺には見えない何かとお話してたのかな?

 

「まて、どこから勉強を教えるという話になった」

 

「だって私国語が苦手じゃないですか〜」

 

「初めて知ったわ、何それ?自己紹介?」

 

ムーっとふくれっ面をした表情もやはり顔の造形からとても愛らしく見えるが

俺の過去の経験上それを鵜呑みにしたら自分の首を絞める事になるとわかりきっている。

ここはいかにうまく話をそらせるかが重要になってくる。

 

「だってせんぱいは新学期まで暇なんですよね?」

 

「暇に見えるか?」

 

得意げに数冊ある本を見せ、問を求めてみた。

 

「見えます」

 

あれれ〜??おかしいぞ??傍から見たらそんなに暇人に見えるの八幡?

ちょっと悲しい。

 

「兎に角、受験勉強は基本ひとりの戦いだ。それに俺が人ひとりの人生の面倒を見るには責任が重すぎるんだよ」

 

「えっ?」

 

突然の間が空気を凝固させる。

亜麻色の髪の毛の女子中学生は僅かに頬を染め、口元に軽く握りしめた小さな手を添えながら少し悶えたような表情をしているが、俺は何か悪い事を言ったのだろうか?

 

「あの、もしかして口説いてます?助けた事にかこつけていきなり人生に責任を持つとか重すぎてキモいです。あとせんぱいの存在が生理的に無理なのでごめんなさい。」

 

「あれ?受験勉強の話からなんで俺ディスられてるの??」

 

「そんな事よりも勉強教えて下さいよー」

 

「無理」

 

普通の男子ならこんな可愛い女の子に勉強を教えられるなら喜んで受けるだろう。

しかし俺は知っている、男という生き物は目で生きる生物だ。

 

整った顔立ちの彼女に言い寄られると俺も悪い気はしない。

礼儀正しいし親しくしたいという感情はある。

 

しかし定期的に会うとすると、確実に情が生まれる。

そしてその情は何かをきっかけに愛情へと変化し、恋愛感情を生むのだ。

 

そうなるとあとは瓦解の一途をたどることだろう。

相手の何気ない言動を自分の都合の良い解釈で捉え、

さも自分に気があると何の根拠もない結論を立て

その都合の良い解釈を、理想を、妄想を相手に押しつけるのだ。

そしてある行動をきっかけに関係が崩れる結末へと進むのだ。

俺はそれを関係の消費期限と呼んでいる。

 

だから俺はその芽を摘む事にした。

 

「俺が教えなくても多分あんたは合格する。今まで勉強してきたんだろ?」

 

適当な『お前なら問題なく合格できる!根拠はないけれどな!』論を持ち上げ

話をあやふやにしてみる作戦に出てみる。

 

彼女は瞳を左上に寄せふむっと親指を顎に乗せ何か考えている様だ。

良かった、感情論で言ってくるちゃんじゃなかった。

 

「それじゃ合格したら、1つ私の言う事聞いてくれます??」

 

何それ?なんで俺そんな事聞かなきゃならんのだ?

 

「嫌に決まってんだろ、なんで会ったばかりの人にそんなお願いされなくちゃいかんのだ?」

 

「そりゃ、こんな可愛い後輩が入学したらせんぱいだって嬉しいでしょ?」

 

「とうとう自分で言いやがったな」

 

「で?どうですか?」

 

 

「どのみち、断ってもあの手この手で言ってくるんだろ…めんどいから分かった。一応、無理無茶面倒くさい依頼だけは勘弁してくれ」

 

「最後の面倒くさいは約束しかねますけれど、それ以外はちゃんと約束しますよ〜」

 

「おっけ。まぁ頑張れや」

 

その回答を聞いて、彼女は上目遣いで悪戯に微笑じみた表情を俺に向け、

『約束ですよ』と囁くように呟いた。

 

そして向かいの彼女は帰り支度を始めていた。

 

「そろそろ帰らないと私の家門限あるんですよねー」

 

「そうか、勉強の邪魔をしてすまんな」

 

「そんな事はないですよー。ご褒美約束してもらえましたから」

 

受かるかどうかは知らんがやる気は出たみたいだ。

 

「そういえばせんぱいの名前聞いてなかったです、それくらいは教えて下さいよー」

 

「あー、比企谷八幡だ」

 

「ならせんぱいでいいですね」

 

あれー?名乗った意味は?

 

「げせぬ」

 

「私、一色いろはって言います!来年から宜しくお願いしますね。せんぱいっ!」

 

それが自然でできるのだろうか訓練したのだろうかは知らないが

上目遣いでそそる仕草は可愛げがあるなと思ってしまう。

 

だからもう受かった気でいるなよ…

 

一色は互いの自己紹介を終えると早々と店内から出て行き駅へと向かっていった。

 

っふと彼女の言動をどう表現すれば良いのだろうと思考を走らせる。

小悪魔的?ちょっと重い。ビッチ?いや軽すぎる。

インテリ系ビッチ?何それ新ジャンル?超高校級の誰かさんみたい。

 

考える事に飽きたので外を覗いてみる。

 

既に黄昏時を過ぎ、街灯や店舗看板が辺りを照らし、色彩を放っている。

それを見ながら俺は長居しすぎたと思い立ち、会計に向かうのだった。

 

 

***

 

 

季節は巡り2度目の4月を迎えた。

 

まだ肌寒い季節でありながら青々とした快晴が俺の身体を蝕む。

とうとう身体が日光に拒絶反応を見せたかと思い、これから3年世話になる学び舎、総武高校の通学路を自転車で駆ける。

 

これなんてデジャブなんて思っていない。

 

今回は怖い物知らずの犬も、やっさんよろしくな高級車とも遭遇せずに無事に学校にたどり着く事ができた。

 

1年越しにようやく学校生活が始まったのだ。

これから俺の学校ドタバタ青春ラブコメが幕を開けるっ!

比企谷先生の次回作に乞うご期待!

 

教室に入るなり、見知った顔を中心に人だかりができていた。

その人だかりの男女比率を見るに、男子が8に対して女子が2……。

あーこりゃ完全に女子の敵認定されるタイプの奴だわー。

関わらないでおこ。

 

そう思いそろっと自分の席へと足を進める。

 

「あーっ!せんぱ〜いっ!おっそーい!」

 

あー、見つかった…

中学の時は効果抜群だったステルスヒッキーの効果がでない。

一色は鷹の目でも持ってるのか?ミスディレクション防げるぜ。

 

ってか同級生だからね?せんぱい呼びやめてね?

君の連れてる人だかりの目線がすごく刺さるのよ。

 

人だかりを割り、俺の元へ歩み寄る一色

その表情は少し得意げだ。

 

「何そのどや顔?」

 

「せんぱいの言うとおり合格してきましたよっ!」

 

「おぅ」

 

「えっ!?それだけですか?もっと何かないんですか?」

 

相変わらず上目遣いとこの仕草…

明らかに自分が可愛いという事を自覚して

使っているな。なんとも打算的

 

「まぁ…頑張ったな」

 

無意識だった、多分小町にやっている癖がそのまま行動として反映されたのだろう

亜麻色の髪の毛に手を置こうとした

 

ただ一色は、その動作を何かと察するに一歩後ろへ後退した。

目的地の無くなった手を俺は元に戻した。

 

一色はいつもの愛らしい微笑めいた表情は変わらない。

…が、彼女の視線が冷ややかで明らかに他人行儀な姿勢になり

これ以上踏み込むなと言う警告を鳴らしているようだった。

 

「確かに何かないですかって言いましたけれど〜。せんぱいにはそこまで求めてないです。それに周り見て下さいね。新学期早々変な噂とか勘弁なんで…」

 

「…悪かったな。癖みたいなもんだ」

 

「え〜、せんぱいってもしかして中学の頃、結構モテていたんですか?ごく自然な動作でしたよ?」

 

「違う、妹がいる。お前と似たような感じのタイプでな」

 

一色は俺の言葉を聞いていたずらに微笑みながらまくし立てる。

 

「えー?せんぱいやっぱり口説いてます?妹に見えるとか言っていて実は淡い恋心とか育んじゃっているんじゃないですか?そんな妹と同然に見られていい気になる女子なんていないのでまずは妹と女子の区別を付けるところからお勉強し直して下さいごめんなさい」

 

「妹に見えるとか言ってねぇし。それに妹はお前より可愛いわ」

 

「まぁ、いいです。今回はこのくらいにしておきます」

 

そう満足そうに呟くと一色は自席へと戻っていって

周りの男子達とまたおしゃべりを開始した。

 

俺も机に座り、授業開始まで机に突っ伏して時間つぶしに思考する。

 

そういえば一色と喋っているとき、あの男子諸君の顔は

なにやらちょっと居心地の悪い感じだったな。

 

自分はわざわざ出向いて話しているのにあいつは相手が話しかけてきた。マジ卍。

そのあとに磯野ー、こいつハブにしようぜー的な宜しく中島君さながらの強行手段を執りかねない。

 

それを考えると確かに一色の言うとおり頭撫でるのは避けて正解だった。

もし一連の動作が全て執り行われていたら、俺の学校生活またもや1日目にして男子共通の敵として君臨するところだった。そこは一色に感謝だ。

 

一色について、あいつは自分がほかの女子より可愛いと自覚している女子だ。

まずあの人だかりは作戦で作りあげた物だろう、自己顕示する事により

ほかの女子への牽制をする事でまだ定まっていないスクールカーストの階級を

駆け上がっていく作戦なのだろう。

 

えっ、もうスクールカーストなんてそんな選定が始まっているの??

学校怖い。社会怖い。これはもう専業主夫しか道がなくなってきたな。

 

そこまで考えて飽きた。

 

ちょうど、開始のチャイムが教室に鳴り響き皆が席に着く。

 

さてようやく、俺の学校生活が始まる。

 

机に突っ伏した身体を起き上がらせ、教壇をみてしみじみと思った。

 



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#3

学校での初日全ての日程が終わり、帰宅するべく駐輪場へ向かう。

 

その道中の廊下の端に髪を染めて制服を着崩してミニスカでミニスカな派手めな今時女子高生がいる。携帯を片手に持っているが画面を覗いている訳ではなく歩行者をチラチラと確認している。

誰かを探しているのだろうか。

 

胸元のリボンから見るに2年生と判別できる。

その出で立ちは一色に負けずというかそれ以上に可愛らしい顔の作りと胸の圧倒的母性が存在を主張している。

 

なのでたとえ廊下の端にいても、その存在は他の人たちも認知され、注目を浴びてしまう。

というかこの学校に一色以上がいるのか頭を抱えてしまう。

 

どうなってんだこの学校は、裏でアイドルの育成でもやってんじゃないのか?

んじゃ俺もプロデュースしてくれよ、青春アミーゴ。そっちかー。

 

俺と一瞬目線があったら小走りでこちらへ向かってきた。

一瞬目が合っただけで感知されるとか何?

目と目が合った瞬間好きだと気づいちゃった??それあるっ!…ねーよ。

 

今日はやけに可愛い女子に話しかけられる日だな。まぁ嬉しっちゃ嬉しいけれど。

 

「あのっ、比企谷君ですか?」

 

「そう…ですけど、2年生が俺になんか用すか?」

 

「ちょっと来てもらっていいかな?ここじゃ少し喋りにくいし。」

 

彼女が少し周りを見て困った様な表情をする。

俺も周りを見渡すと確かにさっきまで注目を集めていた可愛い女子がこんな冴えない野郎にしゃべりかけているのだ、そりゃ注目されてもおかしくはない。

 

「まぁ、いいっすけれど…」

 

「それじゃこっちこっち〜!」

 

連れてこられたのはどうやら購買近くの中庭だ。

下校時間なので中庭に生徒は疎らだった。

話すには丁度良い場所だと思う。

 

駆動音してはやけにでかい音を立てている故障一歩手前の自販機でスポルトップと男のカフェオレを購入し、近くの座れる段差に腰掛ける。

 

目の前の2年生女子もその隣に腰掛ける。

これでようやく話ができるステージが整ったと言うわけだ。

 

「すみません、先にお名前聞いて良いっすか?ちょっと初対面なんで」

 

「あぁーっ!ごめんねっ!そういえば名乗るの忘れてた〜、私、由比ヶ浜結衣です。

 2年生だよ」

 

「由比ヶ浜先輩っすね、俺比企谷八幡っす」

 

「うんっ、よろしくねっ!」

 

「とりあえず、これどぞ」

 

「あっ、ありがと〜」

 

俺が先ほどのカフェオレを手渡し、由比ヶ浜先輩がお金を払おうとしたが、俺はそれを制した。

 

「気にしないでいいっすよ。俺が勝手に買ってきたんで」

 

「そんな事は無いよー。ありがと」

 

そう言って彼女は俺手に100円玉を置いた。

まぁ、特に遠慮する必要も無いしもらえる物はもらっておこう。

 

「早々でなんなんですけれど由比ヶ浜先輩の話ってなんですかね?俺、先輩と関わりが合った訳でもないんすけれど」

 

「えっとね…」

 

そう言って由比ヶ浜先輩は立ち上がり俺の前に立ち腰を深々折り、頭を下げた

 

「あの時サブレ…私の飼い犬ね!救ってくれてありがとうっ!あと…」

 

由比ヶ浜先輩は続けて口を開く。

その声色は重く、低い声はとても悲しそうだった。

 

「あなたの大切な時間を止めちゃってごめんなさい…」

 

いきなりの謝罪だったが話の内容を察するに1年前のあの犬の飼い主が由比ヶ浜先輩だったという事だろう。

 

確かに俺は実質、由比ヶ浜先輩達と同じ学年になるはずだった。

しかし交通事故により1年というブランクができてしまった。

由比ヶ浜先輩はその事故のきっかけを作ったことに対する罪悪感は計り知れないだろう。

 

しかし当の本人の俺はと言うと、長い春休みからようやく抜けたと言う感じだ。

運良くクラスメイトと顔合わせをする前に事故っているので、2年生は俺の存在を知らないし、知り合いが居る訳でもない。

結論、学年が1つ違う以外何も気負いする必要が無いのだ。

 

「確かに事故は起きた、でももう過ぎたことっすよ。それに不幸中の幸いで、クラスメイトと顔合わせする前の事故だったんで、2年生に俺の顔知っている奴らいないと思うんすよね」

 

「そうだけどっ!」

 

「由比ヶ浜先輩は気負いしすぎっすよ。俺は怒ってすらいないです。…と言う事は由比ヶ浜先輩が気に病む必要がないと言うわけっす。これでこの話は終わるんですよ。ハッピーエンドっす。」

 

さっきからやたらっすが多いな、なんでも語尾にっす付けたら後輩キャラなると思ったら大間違いだぞ!

 

「あははー…比企谷君は優しいね」

 

由比ヶ浜先輩は自責の念が緩くなったのか、淡く笑みを浮かべたその表情はとても魅力的で照れが生まれ言葉を詰まらせて目を背けてしまった。

 

「ならさ、私と友達にならない?」

 

「へ?」

 

唐突な提案に素っ頓狂な声を上げてしまった。恥ずかしい。

 

なんかこの展開…前にも同じ感じな奴無かった?

なに大胆な告白は女の子の特権ですとでも言うのか?

会話の脈略完全無視でいきなり友達要求とか『あなたとお友達になりたい』って

俺だけが見えない自己紹介ボード掲げてるの?

何それ怖い。

 

「いきなりっすね」

 

「まぁ、これもひとつの縁っていうかなんていうか。ヒッキー喋っててちょっと面白いかなって?」

 

 

そう言われると悪い気はしないが、関係の消費期限理論が頭をよぎる。しかし定期的に会わなければ問題は無い。その理由はもちろんある。

 

友達になったとして、結局は学年の壁に阻まれるわけだ、早々関わりがもてず最終的に友達から知り合いへ、そして伝説へ。あれ?概念になるのかな?僕と契約してお友達になってよ。

関わる度に魂が汚れていく友達とかどうなのよ?闇落ち必須ですね。

 

ってかヒッキーってなんやねん、引きこもりちゃうで。

やべぇ怒りで口調が関西弁になってしまった。関西弁警察に○されっぞ!?

 

「別に良いっすけれど」

 

まぁ1年と2年とじゃそこまで頻繁に関わる事は無いだろう。

とりあえず友達になっておきましたーと体よく言っておいて

時間が友達であった事すら忘れさせてくれる。

ソースは俺。忘れられた側だけどな。

 

「それじゃ私1年の教室に遊びに行くね」

 

由比ヶ浜先輩のその提案をのむことに迷った。

2年が1年の教室に良く来るのもその逆も正直教室全体を刺激し、注目を集めてしまう。

あまりやりたくはない。となると俺が出せる折衷案はこうだ。

 

「年生が1年生の教室に行くのはちょっと注目集めちまうんで、たまに昼休み適当にご飯食べながら喋れば良いんじゃないすかね?携帯とかで連絡し合えば問題ないですし」

 

「それあり!ヒッキーって頭良いねっ!」

 

「ひ、ヒッキー…?」

 

「そう!比企谷君のあだ名っ!私も別に先輩呼びじゃないくても良いよ〜、タメ口で大丈夫!歳は同じだしねっ!」

 

ヒッキーって引きこもりみたいだろやめろよ。

確かに1年病院と家に引きこもっていたけれどそれでヒッキーとか…それあるっ!

 

「まぁ…分かりま…分かった。ゆ、由比ヶ浜」

 

「うん、宜しくねヒッキー!あっ、連絡先交換しよ」

 

終始、由比ヶ浜先輩のペースに乗せられた様な感じだったが、とりあえず、自責の念を取っ払えて良かった。ただなんか距離が近いなこの人、自分が可愛いって自覚あるのかな?

まぁ自然に接してくれる分やりやすいと言うか何というか。あまり頭を使わなくて良い。

…あっ、誰かさんへの皮肉とかじゃないよ?

 

「すいませ…すまん。俺、連絡先の登録のしかた疎くて」

 

だっていままでアドレス帳にのってるのって三件だけだしね。

そりゃ疎くて当たり前。赤外線のやり方も分からない。え?今時QRコード?

LINE?あれでしょ、相手のアカウント奪い合うゲーム。奪ったアカウントで電子マネー買ってもらえるんでしょ。

 

「そっか、私慣れてるからちょっと貸して〜っ」

 

おもむろに携帯を取り出し、由比ヶ浜に渡す。

由比ヶ浜は手慣れた操作で番号を登録してくれる

 

「はい、ヒッキー」

 

登録し終えた携帯をまた俺に返される。

お父さん、お母さん、小町以外の女の子のアドレスが初めて携帯に入ったよ。

八幡頑張った。

 

「うす」

 

「今日は突然現れてごめんね。でもすぐにでも謝りたかったの…」

 

「…いや、気にしてくれてありがとう」

 

「それじゃ、そろそろ私行くねっ!今日はありがとう、ヒッキー!」

 

満面の笑みを浮かべ、由比ヶ浜は小走りに去って行った。

 

遠くなる由比ヶ浜の背中を見つめ中庭に残された俺は考える。

連絡先にのっている名前を確認する。

 

『由比ヶ浜結衣』きっと1年近く自分のした事に自責の念を抱えていた、

交通事故がもっと軽微なものだったら、もっと違う出会い方をしただろう。

だが今の彼女はそれから解き放たれた、これからきっと彼女はさらに魅力的になる。

 

彼女の人生の中で1度くらい登場人物として名前が出たのは悪い気はしない。

しかし今後は、モブとして名前のない一役者として見られる事だろう。

なぜなら俺は彼女の不安を解決してしまったのだから。

何かしらの興味が無いと人は他人を判別しない。

 

今まで、自分が交通事故を引き起こしてしまったという自負の念が存在し、俺への謝りたい、自分の劣勢である現状を変えたいという気持ちが強制的に俺に興味を持つよう働きかけ動いたのだろう。

それを解決してしまった今、その興味が消え失せたと言える。

 

彼女を支えるのは俺ではなく彼女と同じ魅力を持っている誰かだ。

期待は捨てた、俺は主人公では無いのだから。

 

ズズズ…とスポルトップが中身を失った音が聞こえる。

これ人がいる前で鳴ると若干恥ずかしかったりする。

でかく鳴るとどんだけ吸引力ツエーのよってなる。

吸引力のかわらないただ1つの八幡。

それ以上いたらドッペルゲンガーだからね?

 

立ち上がり、飲み終えたスポルトップをゴミ箱に捨て、俺も駐輪場へと歩き出すのだった。



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#4

ほんとマジでガチで家に帰してもらっても良いですかね??

 

由比ヶ浜の件が重なり若干遅い下校時間、人も自転車も疎らとなった駐輪場で誰か待っている一色を確認すると深いため息をつかざる得ない。

 

俺の歩いて来る姿を認識したのだろう一色がふふんと得意げな顔で待ち構えていたが、おれの歩調は止まりもせず遅くもならずそのまま一色とすれ違う。

 

「っちょっとせんぱい〜!」

 

せんぱいって誰先輩ですかね?ご存じないです。

 

そのまま自分の自転車を見つけの鍵を解錠するところで一色が強制的に視界に登場する。

 

「ちょっとせんぱい!無視はいじめの始まりですよ!」

 

「いじめをいじめと認識しなければいじめは起きないんだよ」

 

「なに言ってるんですか?正直キモいです」

 

お前、それ殺すとか死ねとか相手に向けて言ってんじゃねぇ!ぶっ殺すぞ!

と同じ事言っているからね?自覚してる?

 

「お前のそのキモい発言も俺をいじめてるからね?」

 

「そんな事よりも〜!…さっきの2年生、何ですか?」

 

後半になるにつれて言葉冷たくなってるから。

 

ってかこいつも見ていたのか。

別にこれと言って話すような事でも無いからな。

 

「別に話すようなことじゃねぇよ」

 

まぁ由比ヶ浜の情報をむやみやたらに公開する必要も無いし俺がそれを喋って何のメリットがあるかというわけでもない。

ここは濁した方が身のためだ。

 

「むー、携帯渡して連絡先交換してたじゃないですか〜」

 

だから、その軽いふくれっ面の表情と上目遣いはやめなさい。

お兄ちゃんスキルを強制発動するから。

 

ってかそれも見てたの?もしかして口説いてるんですか?一色さんちょっとストーカーの資質あるんじゃないですかね怖いですごめんなさい。

 

「あれは成り行きで交換することになったんだ」

 

「じゃあ私も教えるんで携帯貸して下さい」

 

一色さん?いつもは上目遣いなのになんで今上から目線なのかな?

下目遣いも得意だったりする?

 

まぁ別に連絡先増えるくらいどうでも良いけれど。

 

「まぁ、いいけど…」

 

一色に携帯を渡すと自分の携帯と交互に見ながら操作を始めた。

女の子はみんな携帯電話のスペシャリストなのかな?

指の動きが速すぎて分かんねぇ。

 

「せんぱい友達いないんですね」

 

「いきなり核心つくな。泣いちゃうだろ」

 

何こいつ俺になんの恨みがあって俺の傷心抉ることするの?

 

「それより、さっきの2年生って由比ヶ浜先輩って言うんですね」

 

多分連絡帳を見たのだろう四件しかないし、由比ヶ浜の名前は目立つ

 

「そうだが、俺の個人情報どこ行ったよ?」

 

「せんぱいの個人情報は私の個人情報です」

 

「なにそのジャイアン理論」

 

「はい、登録終わりました」

 

喋りながら2台の携帯操作できるってやばいな。

何がやばいってやばいくらいにやばいやつがやばい事しているんだ。

もう何言ってるか分かんねえがとにかくやばい

 

そんな事を考えつつも一色から携帯を返してもらう。

五件に増えた連絡先をみて少し顔の表情が緩くなったのを感じた。

 

「せんぱい、その表情キモいです…」

 

一色は嫌悪感丸出しのうわぁ…っというような嫌悪感丸出しの表情で俺から2歩くらい遠ざかった。

 

やめろよ、比企谷菌って言われてみんな俺から物理的に距離取ってたの思い出しちゃうだろ。

 

特にツラいのはどんな授業の時でも机を必ず離されるって所だ。

 

給食の時なんざ皆机合わせて島を作ってるのに俺一人の机だけ孤島だったわ。

 

…思い出したら涙腺が緩くなっちまう。

 

「用件はそれだけか?なら帰るわ」

 

「ちがいますよ〜、ほらあれです。ご褒美もらいに来ました」

 

「はぁ?何言ってんのお前?」

 

「ちょっと、何ナチュラルに忘れてるんですか!」

 

あー、そう言えばそんなこといったな。

絶対受かんねぇだろとか思ってたわ。

 

「あー、あったな。で?結局何して欲しいの?できることは限られるが?」

 

「それなんですけれど〜、今気になる人がいるんですよね。」

 

「……は?」

 

一色さん?まだ入学1日目ですよ?

それでいきなり気になる人がいるとか頭の中どうなってるんですか?

女の子は素敵なハッピーセットでできているとでも言うんですかね?

おいおい、ハッピーセットで人体錬成出来るのかよ。

なるほど、そのとき正常な思考を持って行かれたのか。納得。

 

俺の怪訝な表情を見るに一色はどうやら何か勘違いをしたらしくニタっといたずらに笑う。

 

「あれ〜?せんぱいもしかして今俺の事じゃね?って考えませんでした?勘違いも甚だしいですが、まだ2回しか会ったことが無いせんぱいは今後の頑張りに期待ですよ?」

 

そんな事みじんとたりとも考えたことは…いやちょっとはあった。

ってか今後の頑張りって何だよ、比企谷先生の来世に期待ってか?

何それ人生ガチャなの?イケメン当たるまでリセマラOK。

…自殺喚起に繋がるからやめた方が良いよ??

 

「うっせ。ハッピーセットのこと考えてたわ」

 

「えー…それはそれで意味不明で相当キモいです…」

 

あ、うん。多分俺もそれ言われたら引くわ。

 

「それより相手だれだよ。それが分からんと動けん」

 

「そうですね、これです」

 

そう言うとすっと携帯を見せてきた。

画面には確かに爽やかなイケメンが隠し撮りされていた。

 

「隠し撮りかよ」

 

「許可取ろうものなら周りの先輩の視線が怖くて」

 

流石にそこで割って入る根性はなかったみたいだ。

 

「とりあえずこいつと付き合えるように俺は動けば良いって事か」

 

「まぁそういうことです」

 

よりにもよって1番面倒くさいお願いを出してきやがった。

恋愛経験なぞ振られた事くらいしかない俺にとってはどうやって成功に導くなぞ知らんぞ。

 

「ちなみに俺そんなに恋愛経験ねぇからそこまで気の利いたアドバイスとかできないぞ」

 

「せんぱいにそんなの期待していませんよ?でも実験には付き合ってもらいますよ」

 

「実験?」

 

「やっぱり向こうはよりどりみどり取る手数多に引く手数多のイケメンじゃないですか。そうなるとやっぱり私からアプローチしないといけないじゃないですか。だからせんぱいをつかって実験をしようという考えです!」

 

ふふんと得意げに仁王立ちで胸を張って自信満々に語っているようで悪いが

なんかマッドサイエンティストの臭いがしていた。

 

「っというわけで、4月16日ちょうど休みじゃないですか〜、実験に付き合ってもらいますよ〜」

 

1週間以上先の予定入れられるとかなに?

もうそんなにお友達と予定つめっつめなの友達100人できんの早くね?

 

「面倒くせぇ」

 

「ちゃんとお願い聞いてくれるって話じゃないですか、しっかりと付き合ってもらいますよ!」

 

今度は前屈みの上目遣い、両手は後ろで組んで斜め45度の微笑めいた仕草。こいつ自分を可愛く見せるパターン幾つ持ってるの?108くらいあるんじゃね?

 

「へいへい、そんじゃもう帰って良い?」

 

話は決まった。とりあえずその日まで俺は一色と関わらなくて良いというポジティブ思考でいるとしよう。今日はもう色々とありすぎなんだよ。家に帰って寝かせろ。

 

「せんぱい、駅まで後ろに乗せて下さいよ〜」

 

やだ、一色大胆。でも俺それを友達に見られるのは恥ずかしい。

友達いないけれど。いや1人いたわ。やべーこのネタ効果薄れる。

ってか自転車の二人乗りって普通に道交法違反だからね?

 

「やだ。それに2人乗り道交法違反だからな…」

 

「むー、なら押していきましょ」

 

「なんでお前と一緒に帰る前提なんだよ」

 

「こんな可愛い子が1人で歩いていたら危ないじゃないですか」

 

「自分で言っちゃったよ…そんな危険がはびこるような時間帯でもないでしょ」

 

「そんな事は無いですよ?前にサイゼにいたナンパなんてしょっちゅうですから」

 

やはりあれはまだ一端だったのね見えないところで苦労している一色ぱいせんカッコイイ。

でも自分でそれを振りまいてね?俺の感心を返せ。

 

「まじか、お前が周りに愛嬌振りまくっているからじゃないのか?」

 

「ほら、行きますよーせんぱ〜い」

 

「っは?」

 

どうやら深く突っ込ませないように話は一緒に帰ると言う事で決まってしまったようだ。

先を歩く彼女の歩幅は狭く、ゆっくりだった。

俺が追いつくことを前提として先を歩いているのだろう。

 

っふと、視野を広げると

青々としていた空は朱の色を纏い、春夜の訪れを感じさせた。

桜色の花弁が風で舞い、その光景に彩りを与え、最後に彼女がその絵の中心に存在することでこの光景は完成した。

 

俺は深くため息を吐きながら自転車を押し、一色と共に校門を出るのであった。



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#5-1

ネタを詰め込みすぎたら大変なことになってしまった回


卯月の肌寒い気温が肌を刺激する。

俺の気持ちとは裏腹に晴れ上がった快晴が引き締まった群青の空を見せ、その下にある街を活気だてているかの様にこの目に見せてくれる。

 

こんな日は日光の下のほうが気持ちがよかったりする。

冷房付けて扇風機付けて毛布にくるまってるくらい贅沢な感じだ。

 

今日は一色の実験に付き合ってやる日なのだが、なにぶん女子と2人で休日一緒にいる経験など小町と母様以外初めてでどうすれば良いか分からん。

 

同じ千葉の兄妹を真似して深夜に小町に馬乗りで人生相談持ちかけようと思ったが流石に躊躇してしまう。

 

そんな真似しようものなら白黒の車と青い制服のお兄さん達につれて行かれちゃう。

あれは心身を妹に捧げたスーパーイケメンHENTAIお兄ちゃんじゃないと

成し遂げられない芸当だ。俺には難易度が高すぎる。非常に残念だが…無理だ。

 

約束した時間よりも10分程早く到着した。

メールで駅前に集合と言っていたが、駅前のどこに集合とは聞いていなかった。

とりあえず改札近くで待つことにした。

 

待っているだけなので手持ち無沙汰になってしまう訳だが、そういうときに限って時間という奴は遅くなってしまう…

 

とりあえず、近場の壁に寄りかかって、携帯を開く。

画面を見る振りをしながら、今日の目的について少し思考を走らせてみる。

 

まずは状況確認をしてみよう。

 

一色はあの爽やか系イケメンと付き合いたいとそう言った。

俺はその手助けをすれば良い。それだけだ。

 

で?なんで俺は今日呼び出されているのだろうか。

 

正直話だけだったらメールでもできたはずだ。

結局そのイケメンの奴についても外面知っただけで名前すらわからん。

覚えようとも思わねぇ。

なるほど、俺も相手に全然興味が無いことを表してるな。

 

一色には今日なにすんだとメールは送っているが、返信は『内緒ですっ』っと言われ、教えてすらもらえなかった。

 

このことから言えるのは、俺はこの実験中に一色から何かしらの指示をもらう事があると言う事だ。その指示が一体何なのかは分からない事が俺の最大の不安なのである…

 

うーん、冷静に考えると一色のあの様子だと外見だけで惚れ込んだ感じだろう。

一目惚れに似たようなものだとおもうが大丈夫なのだろうか?

黒歴史増やすぞ?

 

ってか他の誰かと付き合っていたらどうすんだこれ?

 

あの時完全に頭働いてなかったからテキトーに答えちまったのが悔やまれるぜ…

 

 

ん?

 

 

視線を感じ、いったん思考をきって視野を戻す。

俺の3歩くらい前に一色の姿が映った。一瞬うわぁ…という顔をしていたがすぐに取り繕っていつものちょっと口角を上げた表情に戻った。

え?俺なんかスゴイ顔してた?

 

それよりも声かけてね?ちょっと驚いたわ。

 

「せーんぱいっ、お待たせしました〜」

 

「声かけろよ、びっくりすんだろ」

 

「驚かせようとしたんですよ?」

 

「あー、そうですか。ならその作戦に見事に引っかかったわー」

 

棒読みにも近い台詞を吐きながら駅前の時計を見る。集合5分前だ。

 

ふふっっと微笑を浮かべる一色が再度『お待たせしました』と口を開く。

その微笑めいた表情に不意を突かれつい視線を外してしまう。

 

「別に待ってねぇよ。集合時間前だ」

 

「確かにそうですね。でもいまのポイント高いですよ」

 

「そ、そうか」

 

打算的とは分かっているのだが、どうもその仕草と表情に

照れを隠しきれない。これが男のさがというやつか。

 

そういや、こいつのこの仕草どう言い表せば良いかって前に考えたな。

候補が結構あったが、結局どれもしっくりこなかったな。

 

「そういえばだいぶ考え更けていましたけど何かあったんですか?」

 

「今日の事について何すんだろうなって想像していただけだ」

 

「想像って…せんぱいキモいです」

 

えっ?俺が発言する想像ってそんなにキモい?

あいつが発言したら別の意味で捉えちゃうよね〜って事?

俺そんなキャラクター確定してねぇし、される様な友達いねぇし!

不審者扱いならあるぞ!…っそれかっ!

 

「さいですか…」

 

「とにかく、あの人の件について情報収集してきたのでどこか入りません?」

 

「そうだな。落ち着けるとこ探すか…」

 

適当に駅前を歩く、やはり天気が良いのか建物と空のコントラストがハッキリとしていて、晴れた街を歩いているという情調を刺激する。

 

すると見覚えのある緑の看板が…

 

「おい、サイ…」

 

「却下です」

 

せめて最後まで言わせてよ…

 

「せんぱいサイゼ好きですね」

 

「そりゃ、うまいし、広いし、いつまでも居座れるし」

 

「たしかにそうですけれど〜。サイゼだと雰囲気でご飯まで一緒に頼んじゃいません?せめて食事は別の所でしたいんですけれど」

 

「あー、確かにあるな。ドリンクバーだけ頼もうとしたら何故かドリア頼んでるとか毎回だわ」

 

「なら探す所はカフェとかそういった所にしましょー」

 

「お、おぅ…」

 

なんか建設的な会話に見せかけて自分の欲求を押し通しやがった。

 

「あっちなんてどうですか、格安のチェーン店カフェ」

 

「お、おぉ…」

 

「どうかしました?」

 

「なんかオシャレなカフェに行くかと思いきや普通の所選択するんだなって思ってな」

 

「オシャレなカフェ行ってもせんぱい緊張しちゃいますよね」

 

一色さんマジ気遣いできるマジ良い子マジ卍。

おっ、マジ3つで鳴けんじゃね?鳴くだけの八幡。マジ役に立たねぇ…

その前に麻雀のルール知らんわ。

 

「そうだな。気遣いありがとな」

 

「せんぱいが緊張して顔真っ赤にしてぷるぷるしていると私も恥ずかしいので、今回はここでしましょうー」

 

悪かったな、流石に顔真っ赤にしてぷるぷる震えねぇよ。挙動不審にはなるがなっ!ガハハッ!!

 

「さいですか…」

 

「ほらせんぱいっ!いきますよー」

 

 

***

 

 

チェーン店系のカフェに入るのは初めてではないが、俺はそうそう来る所ではない。店内はモダンな木目?ウッドテック?まぁ木を意識したようなオシャレな店内だった。

 

俺はもうこれでも十分オシャレなカフェだと思うんだけれど、オシャレなカフェはさらにオシャレなカフェなの?混乱するから進化後に名称追加してくれよ、オシャレなカフェ・ブルーとかオシャレなカフェの極意とかおらワクワクすっぞ。

 

「せんぱい、いま凄くどうでも良いこと考えていませんか〜?」

 

「い、いや、そんな事は無いぞ?」

 

「だって店内見て口角ヒクヒクしてますよ」

 

嘘だろ!?ちょっとうまいこと考えたから1人でウケてしまった。昔、思い出し笑いを小町に見られて『おにぃちゃん!!!外でその笑い方絶対しないでね!確実に不審者と思われて通報されるから!』って言われてたの忘れてた!自重しよう…テヘペロ☆

 

「自重します…」

 

「何考えていたんですか?」

 

えーそれ聞いちゃう?八幡張り切っちゃうぞ。

 

「一色、漫画は読んだことあるか?」

 

「はい、有名所でしたら」

 

「俺はこのカフェが十分オシャレなカフェだと思うんだ。しかしお前の言うオシャレなカフェはこれより上位のオシャレなカフェなんだろ?オシャレなカフェのオシャレなカフェってて言いづらくないか?」

 

「いえ、そういうのは店名で言いません普通?」

 

真顔でそれ返されると俺のネタへの導線が消えてしまうんだが…

冷静に考えるとその通りだ。俺の熱意返せ。

 

「一色、お前のネタ潰しの会話に涙が出そうだぜ…」

 

「せんぱいなら泣いた分だけ強くなれるんじゃないですか〜?分からないですけれど?」

 

なんでこいつこんなネタ知ってんの?ってかそれどこのサイヤ人だよ。

 

「アスファルトに咲く花みたいに…俺、強くなれるのか?」

 

「そもそもアスファルトに花の種が発芽するような栄養素ありましたっけ??日光も当たらなさそうですし。発芽しないんじゃないですかね?」

 

ヤーメーローヨー。現実突きつけるなよほんとに悲しくなるだろ。

 

「…明日こねぇじゃん。夢も希望もねぇな。」

 

「あのー?さっきからなんの話ですか???せんぱいなんでどや顔してるんですか?今かなり気持ち悪い顔していますよ?」

 

「その言葉が今日1番俺の心を抉ったわ…帰って良い?」

 

ごめん小町、お兄ちゃん学ばなかったわ…

 

 

閑話休題

 

 

店内の暖房が効きすぎていたのでホットの気分は失せ、アイスコーヒーを注文し、カウンターからガムシロップを5つほど取って空いている2名席に腰掛ける。

 

向かいに一色が対面で座ると、まじまじと俺のコーヒーを覗いてきた。

一色もアイスのカフェモカを頼んでる。やっぱり暖房ききすぎだよねここ…

 

「せんぱいって甘党なんですね。ガムシロ5個も入れる人初めてました〜」

 

「人生は苦いからな、コーヒーくらい甘くしたって文句は言われんだろ」

 

ストローでズイズイとコーヒーを飲み干してく。アイスコーヒーってすぐ無くなるよね。

 

「はぁ?」

 

なんかむかつく返し方すんな。折角キリッと言ってやったぞ感出したのに。…あっ、さっきも出したわ。

 

「っで?そろそろ情報を開示して欲しいのだけれど?」

 

「そうです、そうです」

 

一色は携帯のメモ帳に情報をまとめているのだろう携帯をいじりだした。

 

「名前は葉山隼人先輩です。2年生でいま総武高校で1番イケメンな男子です!」

 

おいおい、狙うレベルたけーなー。

 

「となるとかなり競争率たけーだろうな」

 

「まぁ、そんじょそこらの女とか私の敵ではないですけどね…」

 

一色こわっ!?なんでそんな笑顔でここまで冷酷な声がだせんの?前に腹話術とかやってた?

 

「それでも、お前以上の女子がいない訳でも無いだろ。そこら辺考えておかないと」

 

「まぁ、そこですよね」

 

「で、他に情報は?」

 

「部活はサッカー部所属みたいですね。実際放課後部活でているの確認とれてるんで確実だと思います」

 

おー、ちゃんと裏とってんだな。こいつ以外と優秀なのかもしれないな。

 

「ほぅ。なら部活入ってお近づきになるのも1つの手だな」

 

「それは考えてるんですけれど、プライベートが無くなるっていうのがちょっと迷い所なんですよねー」

 

まぁ確かに、青春を部活に費やす様な性格してなさそうだしな。

 

「他には?」

 

「いつも、6名?7名くらいのグループで固まっているみたいです」

 

人数が曖昧だ何。たまに抜けとかが発生するって事か?

 

「あー、と言う事は葉山先輩を中心としたスクールカースト上層部って所か」

 

「そのグループのうち、女子は何人だ?」

 

そう聞くと、一色が怪訝そうな顔した。

 

「あの…せんぱいが女子の人数聞くって非常に危ない感じがして…」

 

「俺、結構まともな人間だからね?」

 

「そうです…よね。信用します…」

 

信用するってその顔絶対信用してないよね。手伝えって言ってきてそれないよー?

 

「女子は3名です。…でうち1名がせんぱいと前話していた由比ヶ浜先輩です」

 

意外なところ…いや妥当か、由比ヶ浜の名前が出てくることに納得できた。

 

「まぁ、そいつら全員お前の敵だと思った方が良いな。なんせ1番葉山先輩に近い奴らだ」

 

誰もいないよね?せんぱいに奴らって言っちゃった。

学校じゃないのにちょっとビクビクしちゃう。

 

「そういえば彼女の有無とかは?」

 

「いえ、今の所誰かと付き合ったって話は無いらしいですね」

 

「ふーん…」

 

「…ねぇ、せんぱい?」

 

一色の笑顔の視線が刺さる。

なぜなら微笑を保ったまま声がやたら低く冷酷だからだ。

 

俺は急遽姿勢を正す。

 

「な、なんだ?」

 

「私のこと馬鹿にしてます?他人事だと考えています?」

 

「い、いやそういうことはないぞ?」

 

「さっきから、すぐ考えれば出てくるような事ばっかり言ってますよね?真剣に考えていますか?」

 

「それは一色が優秀って事だろ。きっとうん多分そうだと思う」

 

「まったく全然使えないせんぱいですね。しっかりしてくださいっ」

 

おぃ、そんな怒った顔しながらカフェモカ飲むな。

ちょっと可愛いと思ってしまっただろうが。

…ってか年下に怒られている俺まじ悲惨…

 

「まぁ、いいです。今日買い物の時間で1つくらい妙案出して下さいね!」

 

ん?

 

「おい、買い物の時間ってどういうことだ?」

 

「これから、買い物行くじゃないですか〜?」

 

「いや、初耳だぞ!?そこまで付き合うとは聞いてない」

 

「え?もしかして今口説いています?初めて女の子と買い物一緒に行くからって既に付き合ってる雰囲気だして彼氏面とか引くし気持ち悪いし無理だしもう少し女心を勉強してから出直してきて下さいごめんなさい」

 

最後にぺこりとお断りのお辞儀までされてしまった。

 

「…彼氏面してねぇし、無理矢理ねじ込んだ感あるんだよなーそれ」

 

てへっっとお辞儀の頭を上げてテヘペロのポーズしてるし。

どうせ計算ずくだろう。

 

うーんもう少しでこの表現を表せる言葉が出てくるんだがまだ出てこないなー

愛らしい?あくどい?なんか違うんだよな。

 

「良いじゃないですか〜、こんな可愛い女の子とデートできるんですから〜」

 

「自分で言わなきゃな」

 

「で?一緒にお買い物行ってくれますよねっ」

 

俺はまた深くため息をつき、『行くぞ』と言いカフェの外へと向かった。

後ろから『あー待って下さいよー』と一色の声が聞こえたが無視した。

店外に出るとアイスを頼んだことを後悔した。寒い…

 

 

二人が出た店内

 

返却トレイに返されたグラスに残っている氷がカラン、と音をたて実験第二部の開始コングを鳴らした。

 



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#5-2

たまに実体験ネタを出すとこう…くるものがありますね…


ひとしきり買い物を終えて、ショッピングモールから出た。

 

頂点を過ぎ、傾いた太陽が行き交う人々を照らし細長い影を作り出す。

その影はひとつふたつとすれ違い、増えたり減ったり大きな影に飲まれたり2つの影が重なったり様々な模様を映し出した。まるで人間関係の縮図を目の当たりにしているかのように思えた。

 

「買い物楽しかったですね!せんぱいっ!」

 

その声で俺は現実逃避から引き戻された。

 

日の傾き具合からかなりの時間を一色の買い物に付き合わされたのだろう。

両手いっぱい買い物袋持たされてるしね…

どっからそんな金出てくんの?

もしかして:パパ活してる?

 

結局、実験と言いつつ、体の良い荷物持ちが欲しかったという感じなのだろう。

 

次からどんな誘いも断ろう。絶対にだ!

 

一色よ…買い物も終わったし、もう…俺に用ないだろう?

別にもうご飯とかいいからさっ…帰ろ?

駅向かってるよねこの道?

 

一色を先頭で歩かせ、俺はそれについて行く。

だって広い歩道じゃないし、迷惑だろ普通?

 

俺の辞書に横並びという文字はない。

基本後ろでついて行く金魚の糞スタイル。

あらやだ、糞だなんてはしたない。

 

ならセンスある男、比企谷八幡のもっと洒落の効いたネーミングセンスを見せてやろう。

 

ドラクエスタイル。

 

もうちょっと頑張って考えろや。

 

「せんぱい何か食べたいものあります?」

 

一色が歩きながら後ろを振り返り質問をしてくる。

 

こら、ちゃんと前を向いて歩きなさい。

 

「もうご飯とかいいから帰りたい」

 

「どれだけおうちが恋しいんですか」

 

「外に出て半日たつと家に帰りたくなる病気なんだよ」

 

「ハッ」

 

ちょっと?一色ちゃん?お行儀のよくない笑い方しないの。俺が泣いちゃうでしょ?

 

「せんぱいは私を家まで送っていく責任があるんですからね!ちゃんと最後まで付き合ってもらいますよっ!」

 

えっ?なんだって?

 

どっかのラノベ主人公みたいな難聴じゃないが、こいつ今俺に崩壊の呪文唱えなかった?聞かなかったことにするわ。

 

「ちょっとまて、駅までじゃねぇの?」

 

「女の子にこんな大量の荷物を持って帰れとかせんぱいは女の子の取り扱い方が本当になってないですね」

 

そんじゃ取扱説明書出してくれよ。

俺の目の前に居る不良品を交換する案内番号さがすわ。

 

「その大量の荷物を買ったのはお前なんだが…」

 

「そういうわけでよろしくお願いしますね!せーんぱいっ!」

 

だめだ、聞いちゃいねぇ…

 

 

***

 

結局、一色に連れられ、駅前のレストランに入ることにした。

 

入ったところは、またもや木の雰囲気を出したレストランだ。

何か森ガールが生息してそう。

ゆるふわ系な一色もぱっとみ森ガールっぽく…見えないな、森ガールに謝れ。

 

ただ洒落た感を出そうと書体崩し過ぎて店名何書いてるか読めねえ。

本末転倒じゃねぇか、大丈夫かこの店?

 

俺たちは広々とした4人掛けの席に案内される

対面に腰掛け、俺はようやく両手の紙袋から解放された。

 

両腕に血液が流れてくるこの感覚…

俺、生きてる!!

 

「せんぱいはこういったお店とかこないんですか?」

 

一色ちゃん?もしかして知ってて聞いてる?ねぇ?知ってて聞いてるでしょ!

 

「基本サイゼだな、安いしドリンクバーついてるし長居できる」

 

「女の子と一緒にいるときはサイゼの事は忘れましょ?」

 

サイゼはいつまでも俺の心の中にいる。

ズッ友だよっ!!

 

「小町ならそんなこと言わないのにな」

 

「むー…女の子と一緒にいるときはほかの女の子の名前出すのはNGですからね?」

 

「その女の子と一緒にいるときはって奴、枕言葉になってないからね?多用するのやめよ?ちなみに小町は妹だ。」

 

そんな女の子女の子言われたら意識しちまうだろうが。。

 

「本当に妹いるんですか?そうは見えないんですが?」

 

え?なに?一人っ子に見える。

小町居なきゃ俺、存在意義ないからね。

 

「おいやめろよ。小町は俺の想像だけの存在じゃねーぞ」

 

この世界が夢の中で、交通事故に遭ってから俺はずっと病院のベッドで寝たきりだった。その前は小町という想像上の妹を作り出して生活していた。母は言った『八幡、あなたに妹はいないの』とかそんな展開いらないから。それならむしろ異世界転生させてくれよ。

 

「そうなんですね〜、じゃあ今度紹介してくださいよ〜」

 

「えっ?普通に嫌なんだけれど」

 

「えー!?何でですか〜?」

 

「小町に悪影響を及ぼすだろ」

 

「人を悪の元凶みたいに言わないでくださいよ」

 

「お前の、あの…なんだ…?打算的な表情?っていうのか?仕草?小町が真似したらどうすんだよ」

 

「どうなるんですか?」

 

「小町がそんなの覚えたらお兄ちゃん逆らえない…」

 

一色が少しんー?と考え事をしているらしい可愛い仕草一瞬だけして、ッハっと何かに気がついたあと、ちょっと興奮気味にまくしたてる。

 

「もしかして今口説いてました?いろは、お前の表情ひとつで俺は何でも尽くしていけるとか遠回しにくさい台詞を言ってもせんぱいはただキモいだけなのでもっとストレートに言ってくださいごめんなさい」

 

お前の頭の中ハッピーセットかよ。

わざとやってるだろ…

 

「ツッコミどころ多すぎてどこツッコめば良いかわかんねぇよ…」

 

「ですよね〜」

 

一色はふぅっと嘆息をつき、背もたれにもたれかかる。

 

「それじゃ、とりあえず何か頼みましょっか」

 

「そだな」

 

ふざけたやりとりを終え、俺たちはメニューに視線を落とす

 

おいおい、サラダ1つで野口氏が一枚で足りないお値段ってなんだよ。

 

どんな高級店に入ったんだよ一色。

 

「おい、ここどんだけ高級店だよ、俺そんなに金無いぞ」

 

俺の不安な表情を察してくれたのか一色が『あ〜』と何か思い出したかのように説明を始めた。

 

「あっ、せんぱい。言い忘れてましたけれど、ここのお店、大皿を取り皿で分けるスタイルらしいので単品料理頼むと痛い目みますよ。量的にもお財布的にも」

 

それ中華料理店じゃね?明らかに中華な雰囲気だしてないでしょ。イタリー系中華とかそういうコンセプトのお店なの?何それ新しい。でも遠回しでお一人様禁止してるよね?え、ちがうの?フードファイター育成してんの?それもどうかと思うぞ。

 

「せんぱい嫌いな物ってあります?」

 

「トマトだな」

 

「それじゃこれにしましょう」

 

一色がメニューに載っている写真を指したのが、

トマトばかりを使用した贅沢パスタ。写真を見るからでも判るこのゴロゴロに入っているトマト。

 

一色ちゃん?これは何の嫌がらせかな?

 

「ここってトマト美味しいんですよね〜」

 

「もっと別の選択肢もあるだろ?」

 

「もー、わがままですねー。ならハーフアンドハーフで頼みましょ」

 

「お前ブーメランって言葉知ってるか?胸に手を当てて自分の行いをよく振り返ってみ?」

 

すると一色は俺が言ったとおりに胸に手を当てて目をつむって考え始めた。

 

こうみると大分可愛いなこいつ。

 

「私可愛い」

 

俺の感心返しやがれ

 

「半分トマトの奴と半分ボロネーゼでいいだろ」

 

「承知です〜」

 

一色が従業員を呼び、手際よく注文を終える。

 

「何かつかれた…なんでこんな取り分けするタイプの店選んだ?」

 

「やだなぁ、せんぱいに取り分ける女子アピールするために決まってるじゃないですか〜」

 

「それ言ったら全て台無しじゃね?」

 

「いいんですよ〜、こう言うのってむしろ隠しているよりも最初に言っていた方が好印象なんですよ?」

 

「たしかに、一気にお前への警戒度が限界値振り切ったわ」

 

「そう言いながら少し期待してたりするんですよね?せんぱいっ」

 

「そ、そんな事は無いぞ?」

 

「せんぱい…勘違いしちゃって、良いんですよ?」

 

上目遣いで俺に顔を近づけて猫なで声で一色はささやく

 

あーこの会話の流れに雰囲気…非常にまずいな。

 

「信用ならねぇ奴が信用できない言葉吐いてもな…」

 

「えー、私せんぱいから信用されてないんですかー?」

 

「あぁ、お前が漫画のキャラだったらいつか俺を裏切る」

 

「何ですかその例えキモいですよ」

 

なんで漫画で例えようとするとキモいとか言われるの?

お前ら漫画嫌いなの?読むだろ少年漫画よりもエグい少女漫画って奴を。

 

「でもでも1周回って信用しても良いかなって思いません?」

 

「マイナスをマイナスで乗算するとプラスになるようにか?…んな訳あるか。借金を借金で乗算しても借金が途方もない金額に増えるだけだ」

 

「えー、じゃあどうやったらせんぱいに信用されるんですか〜?」

 

「企業秘密」

 

「周りには内緒にしますから教えて下さいよ〜」

 

「そういう奴ほど信用ならねぇ。…俺の友達の友達の話だが、好きな人いるかと聞かれ、大丈夫!内緒にする!つってたから話したのに翌日にはクラス中に広まっていて、好きな人には何故か告白していないのに振られるという珍事があってな」

 

「どんな悲しい過去背負っちゃってるんですかせんぱいは…」

 

「お、俺の話じゃねーし」

 

「だってせんぱい友達いないじゃないですか〜」

 

「ぐっ…!」

 

とりあえず話をそらせる事が出来た。

勘違いしても良いという甘い台詞とあの仕草も合わさってくると物凄い攻撃力生んでくるな。魅了成功率にどんだけ極振りしてんだよ。

危うく言葉を鵜呑みにするところだったわ。

 

「ってか先輩にも好きな人いたんですね-」

 

「…中学は思春期真っ盛りだったからな。黒歴史しかねぇ」

 

もう思い出したくもない事ばかりだ。

 

「へぇ〜、気になりますね。どんな子がタイプなんですか?」

 

「お前と真逆なのがタイプだな」

 

「それ私が目障りで生理的受け付けない男子に言い寄られた時に言う台詞ですよ」

 

「おまえ、なかなか酷いな。若干引いたわ」

 

「せんぱい?ブーメランって言葉知ってますか?」

 

「さーて、飯まだかなー」

 

「あー、話そらした〜。…別に良いですけれど〜」

 

ぶすーっとふくれっ面でコップを傾ける一色を見ながら俺は小町と一緒に居るかのような楽しさを感じるのでだった。

 



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#5-3

スタバのアールグレイとお供のスコーン風味な甘めです。


大皿に乗せられた2種のパスタを一色が丁寧に小皿へと盛りつけていく。

 

俺に盛り付ける女子を見せつけると豪語しているだけあって、パスタは小皿にきれいに盛り付けられていっている。

 

この光景にデジャブを感じ、どこで見たのか記憶をたどる。

すると、家で小町によくしてもらっている食卓の風景と似ていることに気づいて苦笑が漏れる。

 

「せんぱい?何想像しているかは知りませんけれど、また笑いが漏れてますよ?」

 

いきなりニヤって見られたらそりゃ怪しまれるわな。こりゃ失敬。

 

「ちとこの光景にデジャブを感じてな。小町によくやってもらっている光景に似てたんだよ」

 

「それって遠回しに口説いてます?いろはなら俺の奥さんに相応しいとか順序すっ飛ばすのは構いませんがせんぱいの収入面が心配なので安定した収入が入るまでごめんなさい」

 

もう何度目になるかわからないこの下り、一色は取り分けに集中しているのか、その言葉に感情はなくただつらつらと言葉を並べているだけだった。つまりは棒読みだ。

 

よく取り分けながらこんだけ言葉並べられるなと感心し、俺はその言葉の返しを考える。

 

「俺専業主夫志望なんだけれど…。ってかお前の頭の中の俺は名前呼びなのかよ」

 

「そうですよー。なので現実と差分が出てくるわけです。せんぱいが名前呼んでくれたら埋まるんですけれどね〜」

 

一色が盛り付け終わった小皿をこちらへと寄せながら期待を込めて、俺ににっこりと微笑む。

 

「呼ぶわけねぇだろ」

 

何言っちゃってんのこいつ。

妄想寄りに現実変えに来てる辺りやべぇぞ。

 

「まぁそんなことより、せんぱい?国語得意ですか?」

 

唐突に一色が両手を合わせ質問を切り出す。

文系は俺の得意分野だし。

 

「大得意だが?」

 

「では問題です!」

 

なんだ突然。俺に国語の問題で勝負しようっての?

おもしれぇ。千葉と国語の問題で俺に勝てる奴はそうそういないぞ。

 

「全てのかな文字を重複させずに使った誦文の事を何歌と言うでしょう?」

 

「いろは歌」

 

「え?なんて言いました?」

 

「いろは歌」

 

「最後の歌邪魔だから捨てましょう、ほらリピートですよ」

 

「何がそんなことよりだよ。がっつり名前言わせようとしてんじゃねぇよ」

 

「むー、これなら確実に呼んでもらえると思ったのにな-」

 

「詰めが甘いわ」

 

「まぁいいです。こんなくだらない事してないでさっさと食べましょ。のびちゃいますよ」

 

あれぇ?こんなくだらない事を始めたのお前なんだけれどなぁ-?

 

軽く嘆息をつき、先ほど渡された小皿に視線を向ける。

 

綺麗に磨かれた真っ白な小皿が暖色の照明で淡く彩られ、それに乗せられたボロネーゼがひときわ色濃く映る。

 

なるほど、これがインスタ映えという奴か。

食事は見た目も楽しむとはよく言ったものだ。

 

一色を見ると自分が盛り付けた小皿を写真に収めていた。

あっ、ここにもインスタ女子がいたのね。

 

そう思いながらボロネーゼをすする。

 

「こーら、せんぱいっ、すすっちゃうとソース服に飛んじゃいますよー。スプーンで丸めて食べちゃって下さい〜」

 

だれが年上なのか分からないな。

 

 

***

 

 

食事を終え、腹休めに背もたれにもたれ掛かる。

その瞬間にふぃーっと声が出てしまう。

余は大満足でおじゃる…

 

「さて、せんぱい?何か忘れていませんか?」

 

「スイーツなら一人で食ってくれ、もう入らん…」

 

「違いますよー、葉山先輩の件!今日中に何か妙案出してくださいねって言ったじゃないですかっ!」

 

あー、そんなことも言っていたね。

了承した覚えはねぇけど。

 

「すまん、完全に忘れていたわ」

 

半目で見てくる一色を目の前に超高速で考えをまとめる。

 

「せんぱい?私との時間が楽しかったからって当初の目的を忘れてたら本末転倒じゃないですか?それともー?また私と遊びたいって遠回しにアピールしています?」

 

アピール遠回してどうするよ?それアピールじゃねーじゃん。

 

「わーたわーた。今俺なりにまとめてみたわ」

 

「早いですね」

 

「意外と頭の回転は良いんだよ」

 

「そういう自慢良いからそのアウトプット見せてくださいよ」

 

意外と成果主義なのね一色さん。

 

「とりあえず、お前はサッカー部入れ」

 

「はぁ?何で、サッカーとか興味ないし臭いの嫌なんですけど?」

 

「まぁ話は最後まで聞け。やっぱり葉山先輩との接点を掴むには定期的に会うことだろ。単純接触効果という心理学があるんだがな、接触頻度を増やすほど人は好印象を受ける。つまり、上級生との接点を下級生でも持てるってのが部活の良いところだ。さらに、しっかり仕事ができるんならさらに好感度アップ。葉山先輩目的で入った女子なんぞ仕事できんだろうし葉山先輩以外の男のマネジメントまでやらないし面倒臭がるだろう。それでも我慢して続けられるなら葉山先輩からも一目置かれ他の女子どもを出し抜ける事間違い無しだ」

 

「なるほど、一理ありますね」

 

「よし、そんじゃこれで決めようぜ」

 

「しかし、駄目です」

 

っえー!!!俺結構これ最高の案じゃんって思ったのに…

 

「プラスここにせんぱいもサッカー部に入るって案を提案します!」

 

「はぁ?」

 

あっ、素でむかつく返答が出ちまった。

まぁいいや、少し厳しめに意見してやろう。

オレヲマキコムナ。

 

「だって私だけ苦労するとか無理ですし…先輩がいれば苦労が半減するし」

 

「そこは葉山先輩頼れや、俺ばっか頼って勘違いされたらどうすんだよ、本末転倒じゃねぇか」

 

「むー…せんぱいが提案したんですから、最後まで面倒見る責任があると思います」

 

「そんな責任ねーよ。やるかやらないかはお前の判断だ。全てお前の責任でやるんだ」

 

「怖いんですよ…周りが敵でひとりで立ち向かうって?ひとりくらい仲間が居ても文句はないんじゃないですか?」

 

「立ち向かう覚悟もねぇなら最初から諦めろ。俺は手伝わん」

 

「…うぅ」

 

涙目で俺を見つめてくる一色をみて心が少し心が痛む

 

…っ、言い過ぎたか?

ちょっと泣きそうになってるし…

いやしかし、ここで甘やかしたらつけあがるし…

 

 

 

…うー

 

 

 

 

そんな顔すんなし。

 

「その、なんだ?葉山先輩に振られたらまぁな…その…なんだ…付き合ってやっから」

 

 

 

 

「ぇ?」

 

 

 

 

 

あれ?この間…なに

俺なんか変なこといった?

 

「せんぱぃ?今私に告白しました?」

 

「ふぁ?」

 

変に高い声が出た。

あーっ!?なるほどっ!!そういう風に捉えちゃう!!

照れくさく早く会話を終わらせようとして主語抜けるとかどんなミラクルミスだっ!

弁解しないと!

 

「っち、違うっ!そういう意味の付き合うではなくて…!」

 

やばい、テンパりすぎて上手く言葉が出てこねぇ…

 

「なるほど。つまりせんぱいはもし私が葉山先輩に振られたらせんぱいが強制的に彼氏になると…そう私を脅迫するんですね…」

 

こいつ何言っちゃってるの?

 

脅迫ってなに?脅迫って?

小学生の頃に罰ゲームで俺に告白しようとした女子が俺に告白することが嫌すぎてまじ泣きしてなぜか俺がその他多数の女子に集団シカトされた思い出がリフレインするからまじやめてね?

 

「確かに妙案って言うか背水の陣ですね。逃げ道をなくせば確かに必死で頑張れそうです。せんぱいが考えた妙案。この手で行きましょう!」

 

何故が一色はひとりうんうんと納得している。

何言っちゃってんの?ちょっと性格前向きに変わってね?

さっきまでひとり無理とか言ってたよね?

 

「いやちょっとまて、だから…」

 

「よーっし決まったら一気にやる気出てきた!せんぱいっ、今日はもう帰って良いですよ〜。私作戦練るんで」

 

「お、おぅ…」

 

あーもういいや…。

もう解放して貰えるんだ?んじゃ帰る-!

 

帰ろうと支度を始めた時、隣にある紙袋が視線に入る。

 

 

「いや、やっぱ送るわ。荷物重いだろうしな」

 

「ふぇ!?」

 

一色ちゃん、女の子がそんなやらしい声出しちゃ駄目ですよ?

八幡、不審者に見られて青い制服のお兄さんに職務質問されちゃうからね?

 

「どどど、どうしたんですかさっきまで嫌がってたじゃないですか」

 

「妹の教えでな。女の子には優しくしろとよ」

 

そういうと、一色は両手で顔を覆い下を向いて『水まで攻めてくるとか聞いてない…』とよく分からない事をつぶやいていた。

 

ひとしきり落ち着いたタイミングで再度彼女に声をかける。

 

「それじゃ、出るか」

 

「そうですね」

 

料金はサイゼよりも高いものの、そこまで高くはなかった。

二人以上で来るならね。

 

外に出る。日はすでに身を隠し、辺りは暗く夜が到来していることを感じさせる。

その闇を覆い隠すかのように無数の街灯が、街の姿を変えていた。

 

 

***

 

 

「ここまでで大丈夫ですよ」

 

一色がそう言って俺の手から紙袋を受け取る。

 

「そりゃあな。これ以上踏み込めるかよ」

 

一色の宣言通りしっかり家の前まで送っているのだから。

 

これ以上どこまで送るの?自分の部屋?

何ちょっといやらしいこと期待しちまうだろ。

だって俺も男子高校生なんだから。

 

「せんぱいにおうちの場所知られちゃいましたね。私逃げられなくなりましたね」

 

「何か含む言い方やめてね?何もしないからね?」

 

やめてね?勘違いしちゃうから。

 

「せんぱい知ってます?そう言う人ほど信用できないって?」

 

「否定はできんな、むしろ一理ある」

 

「ちゃんと来るなら連絡くださいね?女の子は家にいても準備ってものがあるので」

 

「あー、はいはい。いつか多分くるんじゃね」

 

「期待していますよ。今日はありがとうございました。」

 

ちょうど、ここが去り際かな?

そう思い、踵を返し駅へと戻ろうとした時、思い出した。

 

おっと、そういえば忘れていた。

危うく渡しそびれるところだった。

 

「ついでだ、これも入れておくわ」

 

「へ?」

 

一色が受け取った紙袋の中にラッピングされた小物をつっこんだ

 

「まぁ、いらなけりゃさっさと捨ててくれ。そんじゃ…」

 

気恥ずかしさからその場を立ち去り、そのまま早歩きで駅へと向かった。

 

教室でふと耳に入ってきた一色と友人との会話を思い出す。

その際に誕生日の話をしていたのが不可抗力で耳に入ってきた。

そして今日が一色の誕生日だった事を知った。

 

キモがられるかなーこれ、俺がそいつの立場ならマジでキモいから二度と近づくなって言うくらいやりそう。じゃあなんでやったの俺?ドMなの?

 

携帯が震える。多分さっきの件で一色からのメールだろう。

恐る恐るメールを覗いてみる。

 

--- 誕生日プレゼントありがとうございます。まさか知っているとは思いませんでしたよー?最後の最後で渡すなんて、せんぱいはひきょうですね。---

 

なんで知っているのって言う追求がなかった…とりあえずほっとしたわ。

 

--- うっせ、渡すタイミング無かったし。とりあえず、誕生日おめでとう ---

 

--- ありがとうございますฅ(ミ・ﻌ・ミ)ฅ ではまた学校で〜 PS:外出るときの洋服は小町さんに選んでもらって下さいね。---

 

俺の服装ダメだった?何も言われなかったから大丈夫だと思っていたのに…

帰りに小町に聞いてみるか。

 

こうして、俺の長くも面倒くさい1日は幕を閉じた。

 

辺りはすっかり闇に落ち、気温が下がって軽く身震いする。

っふと空を見上げると欠けた月が雲で霞むことなくハッキリと映し出され、周りには無数の小さな粒があった。それらが全て星なんだなと世界の広大さを感じさせた。

 

この空に比べれば俺の悩みなんて小さな物だろうと考えようとしたが、大きかろうが小さかろうが結局は俺が面倒くらっていることには変わりが無い。

 

それにこの空に比べればってそもそも比較対象が違いすぎる…人間と空を

比較対象にすんじゃねぇよ。空ってそもそも悩む思考すらないからな?

 

それなら別の比較対象を用意するべきだ。人遺伝子合致率で考えるとチンパンジーかゴリラだ。…なぜ生物学的な霊長類を取り入れたよ。せめてホモサピエンスで括れや。

 

どうでも良い考えをしていると目先に丁度駅が見えてきた。

ようやく帰れると感情がこみ上げ、今までの思考を全て投げ捨て俺は足早に駅へと向かうのだった。

 

 

 



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#6-1

曇天の空は日射を遮り気温を落とした。

さらにその雲はいつ雨を降らせてもおかしくないような空気を醸し出していた。

 

そんな中、俺は自転車を走らせる。

ちょっと雰囲気的にいつ雨が降ってもおかしくない。

少し急ごうとペダルを力強く踏む。

ケイデンスを上げるぞ!

 

そう思った矢先、赤信号に止められた。

畜生、俺の体力返しやがれ。

 

信号待ちの気紛らわしに昨日家に帰った後のことを思い出す。

 

拘束から解かれ嬉々として家に帰った迄はよい。

そこからさらに玄関前で正座させられるとはお兄ちゃん思いもしなかった。

 

「おにぃちゃん…小町おにぃちゃんがコンビニに行くんだろうなって思ってその格好見過ごしたの、わかる?でもその予想を裏切ってデート?…おにぃちゃんの一生で数回あるかないかのビッグイベントでその格好はないよ…小町一生の不覚だよ」

 

「えっ、そんなにダメだった!?」

 

「ありえないよー?上はジャージで下はスウェットって、コンビニによく出没する田舎のヤンキーみたいな格好」

 

小町ちゃん?それってお兄ちゃんも田舎のヤンキーって遠回しに言ってる?

 

「まじか…めっちゃ楽なのに」

 

「着心地の問題じゃないよー?、今度から女の子と遊びに行くときはちゃんと小町に言うこと!わかった?」

 

「はい…」

 

外では恥ずかしい格好だって知らなかったんだよ。

でもそういうこと後で言われるとすげー恥ずかしいよな。

しばらくはあの場所に近づかないようにしよ…

 

目先の信号が青へと代わり、ペダルを踏み、俺は急ぎ学校へと向かった。

 

 

***

 

 

教室に着き、いつも通り俺は机に突っ伏してHRまで、眠りにつこうとした。

そこでいきなり声をかけてきたメガネ野郎がいた。

 

おっおぉ…人に声かけられるなんて中学3年の夏以来だ。

 

ってか、んだよ。

俺のスゥウィートタイムを汚すんじゃねぇ。

 

「比企谷先輩、もしかして昨日、一色さんとデートしてました?」

 

「はぁ?」

 

目が覚めたわ。

 

ってかその一色いろは。

お前のせいでほかが先輩呼びになっちまってるだろうが。

 

「いや、違ぇし…あれはデートじゃねぇ。一方的な荷物持ちだ…」

 

「まぁ、見ればいくら何でも分かりますよ。先輩どうしたんですか?5秒で支度しろとか言われた格好してましたよね?」

 

やめろよ、40秒でももっとマシな格好できるとか遠回しに言わなくていいから。

俺のナウでデリケートな羞恥心抉ってくるな。

 

「ってかお前誰だよ?」

 

「っえ!?相模ですよ。最初のLHRの時に自己紹介しましたよね」

 

「40名近く居る奴らの自己紹介って一度に覚えられないでしょ普通」

 

お前興味ない奴の名前なんて覚えるか?覚えないだろ?無駄な労力だろ?

そんなの完全記憶能力でもない限りあり得ないわけだ。

一回言えばわかるとかそんな幻想ぶっ殺せや。

 

「そうですね、確かに」

 

おっ、意外と素直だな。

 

「ときに相模、なぜお前がその情報を持っている?ショッピングモールにいるときにでも出くわしたのか?」

 

「違いますよ。あれ、グループチャットで回ってきたんですよ」

 

そう言って相模はグループチャットの画面を見せてきた。

ってかこういうメッセ関連って普通に人にも見せるんだね。

友達いねぇからわかんねぇや。あっ1人いたわ。

 

『一色いろは、彼氏とデートしてるwwチョーウケるんだけどw』

『格好wwww田舎のwwwwヤンキーwじゃんww大草原ふっかふかwwwwww』

『えー兄貴とかじゃねぇの?』

『あれこの人確か同じクラスだったよね?誰だっけ?』

『ばっか、同じクラスのヒキタニ先輩だろw』

『ちげーよ比企谷先輩だろ!前に2年の人と話してんの見た』

『えーっっていうことは一色さん比企谷先輩とつきあってるの?』

『その可能性もなきにしもあらずだな。』

 

・・・

・・

 

「こいつら一色の話より俺の事馬鹿にしすぎだろ」

 

俺の居ない所で俺の話題で持ちきりとか俺大人気だな。

おっ、また3つ揃ったな、また鳴けるぜ。むせび泣く八幡。

哀れ過ぎるだろ…

 

それよりも大草原ふっかふかってなんだよ。

なんか包まれる優しさを感じちゃうだろ。

そんな大草原で、俺は貝になりたい。

 

「まぁこんな会話があったわけで早速事実の有無を確かめに出向いてきたわけです」

 

「野次馬根性出しすぎて引くわ」

 

「罰ゲームですよ」

 

「それ免罪符じゃないからな?」

 

俺を罰ゲームの景品にすんのやめてね?

罰ゲームでバレンタインあげるとか、罰ゲームで映画行くとか、罰ゲームで食事行くとか、罰ゲームで告白するとか罰ゲームで付き合うとかあれ?罰ゲーム何か可愛くないか?

 

まぁ理想はそうだな。

だが現実はこうだ。

 

罰ゲームでデートするとか言われてそれでもデートだと頑張ってファッション整えたはずなのに当日待ち合わせに誰も来ず、学校では遠くから撮影された俺の自慢のファッションが拡散され笑われていた。

 

なかなかエグいだろ?誰が俺に罰ゲーム押しつけろっつったよ。

自分で完遂しろや。

 

「とにかく、比企谷先輩は一色さんと付き合ってる事実はなかった…ということですね」

 

「みんな一色好きだなぁ」

 

「そりゃ-、あの顔と性格ですからね。モテるかと思いますよ」

 

携帯をいじりながら相模はそう答える。

多分またグループチャットで今の話を伝えているのだろう。

 

「そうか…」

 

あの性格の裏を知っているのかねぇ?

確かに男ウケする性格ではあるな。

大体可愛い女は面倒くさいんだよ。

小町が良い例じゃねーか。

小町は可愛くて面倒くさいのが良いんだよ。

悪いか!!

 

「実際、何人かの男子とは既に遊びに行ったって噂ですしね」

 

そのうちの一人が俺なんだろうがな。

 

「まぁ、良いんじゃねぇか。あいつが好きでやっている事だし。わざわざこっちが詮索する必要ねぇだろ」

 

「意外と一色さんの肩持つんですね」

 

「いや?そうでもないぞ。興味を持たないようにしてるだけだ」

 

「一色さんに興味を持たないとか先輩もしかして…」

 

そう言って、相模は1、2歩俺から遠ざかった

 

「おぃ、ぐ腐腐腐な考え方はやめろ」

 

あははと軽く笑った後、一礼して相模は俺の席を後にした。

おぃ、本当に今の誤解解けてるんだろうな?解けているんだろうな!??

 

まぁ、邪魔者がいなくなったのでようやく俺のスゥウィートタイムを始めることができる。

机に突っ伏して目を閉じる。

 

興味が無いか…

 

そいつが今何をしているとか何を考えているとかそれを考えるだけ時間の無駄だ。

やるべき事は目の前に沢山あって、相手がいないと答えが出ない事に時間を費やすことは時間の無駄遣い以外に例えようのない行動だ。

 

それは机上の空論ではなく、考えるだけ考えて間違った答えを出し、それに気づかず行動して笑われ続けた俺だからこそ言えるのだ。

 

たまに正解の答えを出すこともあった。

その正解で得られた幸せという時間は酷にも有限で最終的に絶望を俺に押しつけてきた。

よって俺は結論づけた、幸せとは不幸の始まりなのだと。

 

つまりは正解でも不正解でもどちらをだしても不幸になるのだ。

俺の導き出した答えは、初めから相手に興味を持たないということだ。

 

ふと携帯が震える。小町が何か忘れ物をしたのかと突っ伏した体を起こし、携帯を覗く。

 

--- やっはろー、ヒッキー!今日ってお昼ってどうかな? ---

 

どうやら彼女は俺のことを忘れていなかったらしい。

ってかやっはろーってなに?

 

 

***

 

------Iroha View

 

お昼休み。

お昼は基本1人だ。

まぁ女子を敵に回すようなことをしている自覚はあるもの。

それでも度々昨日の事を聞かれる。

 

誰でも行くような近場のショッピングモールで2人一緒にいたんですよ?

そりゃ聞かれますよねーって、自覚はありました。

 

一色いろはは比企谷八幡とデートしていた。

その実体は荷物持ちでもそれを信じてくれる人間はどれ位いるだろうか。

拡散された写真を見ながらため息がでる。

 

9割はそう思うよね。

 

だってだって、いくら何でもあの格好で一緒にいるっていったら、どっかのコンビニで偶然バッタリと会ってそのまま荷物持ちになってもらったって言い訳すら通じる位THE・部屋着なんですからねせんぱい。

 

現に、『先輩を荷物持ちに使うなんて一色さんすごーい』とか言っている奴いるし。

 

皆が言う事も分かります。

私もあのデートを評価するならば、マイナスの点数を付けていたところです。

 

何度見てもどう見ても変わらないトップスがジャージにパンツがスウェットの超ラフスタイルファッション。

 

あれはお家でのみ許される格好ですよ。

 

よくその格好で外出られましたね?

田舎のヤンキーですか?

その姿で駅前に立たれていたとき、すごく残念な気持ちになりました。

 

苦言の百や二百言ったり、荷物持ちやらせないと何着ていくか苦悩に苦悩を重ねた私が報われません。

 

ましてや、苦悩して決めてきた私の服装にたいして、一切何も言ってこないとか…

今まで一緒に遊んだ男子の中では初めてです。

 

女性慣れしていなさそうな人だとは思ってはいましたが、実際お母さん以外の女性と一緒に歩いた事無いのでは?と思うくらい私に対し配慮がない。

本当に妹がいるんですかね?

 

一応女子と一緒に行動している認識はあるみたいで、常にどこかをキョロキョロと淀んだ瞳が忙しなく動いているんですよね…変なところで意識されても困ります。

 

極めつけには、たまに何か考えついたのかニヤっと口角が上がったりするあたり、香ばしい気持ち悪さが漂って来ます。

 

正直買い物中、何度か他人のふりしたかったです。

 

でもでも、最後はちゃんと家まで送ってくれて誕生日プレゼントまでくれたんですよ?

ちゃんとヒントは与えたんですがね。

 

ちょっと遠回し過ぎたかなって思ったんですがね…

 

それをしっかりと拾ってくれたんですよ?しかも最後のタイミングで出すなんて…

やっぱりせんぱいはあざといですね。

 

 

あ〜…今、クズ男に貢いでいる女の気持ちが痛いほど分かる。

これはちょろい…ちょろいろはだ。

 

やめろ出てくるなちょろいろは。

そうだ、葉山先輩の事を考えよう。

 

葉山先輩は聞けば聞くほど漫画のイケメンなんだよなー。

この学校に葉山ありと言うくらいの知名度だしね。

 

尾ひれが付いているのを考慮しても、文武両道、眉目秀麗を実現したかの人物。

うん、やっぱり葉山先輩をもっと深く知れるように努力しなきゃね。

 

うーん、せんぱいももう少し頑張ったら葉山先輩より少し下の顔になると思うんだけれどせんぱいはそこを頑張らなくていいや。変な虫ついても困るし。

 

 

あ〜…今、『私だけがあなたの事を分かってあげられる』とか付き合ってもないのに彼女面するスゴイ痛い女の気持ちになってた。イタタタタ…これはイタいろはだ…

 

やめろ出てくるなイタいろは。

そうだ、葉山先輩のことを考えよう。

あれ?さっきも同じ事考えていたデジャブ?

 

ポンッとメッセージアプリの着信音が鳴り、携帯を手に取る。

さて、どこの男子が私を誘いに来たのかなと覗いてみると、由比ヶ浜先輩と仲良く昼食を取っているせんぱいの写真がアップされていた。

 

ふーん、やっぱり由比ヶ浜先輩と仲良しなんだ。

ってかせんぱい?入学してすぐに可愛い女子と知り合うって面食いなの?あー胸も大きい方がいいの?ちょっと高望みしすぎじゃないですか?可愛い女子1人で我慢してもらっても良いですか?もちろんせんぱいは年下好きですよね?

 

あれ?何だろう、この胸の内を駆け巡るどす黒い感情は。

これはやばい、やばいろはだ。

 

やめろ出てくるなやばいろは。

そうだ、あれを思い出そう。

せんぱいのしでかしたミラクル。

 

『その、なんだ?葉山先輩に振られたらまぁな…その…なんだ…付き合ってやっから』

 

うんうん、これこれ。完全に告白。

最初のデートで告白なんてせんぱいもなかなかやりますね。

まぁ本心からじゃないの分かってますけれど、ちょっとときめきましたよ。

 

…よし、だいぶ落ち着けた。

 

それにしても、冷静になって考えて見ればこの写真って結局誰が撮っているのだろう。

明らかな隠し撮りを2度目…

 

ちょっとしつこく感じられ、私の不快感はこの投稿した人物に移り変わった。

 



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#6-2

曇天の雲は雨が降るか降らないかの拮抗状態を維持しつつどんよりと辺りを薄暗くさせる。

流石に外で食べれないと判断した俺たちは、教室棟と特別棟を結ぶ渡り廊下の休憩スペースを利用する事にした。

 

室内なので雨が降ろうが安心だ。

ただ人目につくのが難点な所だがな。

 

「隼人君?うん、知ってるよ。同じクラスだし」

 

どうやら一色の言っていたことは本当みたいだ。

由比ヶ浜も葉山先輩と同じグループに所属している。

となると、もう少し情報を引き出すことも可能か。

 

「そうか、葉山先輩ってなんか部活しているのか?」

 

「確かサッカー部!あと戸部っちも!あれ?もしかしてヒッキー、隼人君に憧れていたりする〜?」

 

んなわけねぇだろ。

その戸部っちって言うのは滅茶苦茶いらねー情報だな。

 

「いや違う…ちょっと色々と1年でも話題になっててな」

 

「あ〜、やっぱり1年にも話題になっちゃう感じ?隼人君スゴイ人気だし」

 

「んで、俺が年上だからって葉山先輩となんか絡みないとか?聞かれるわけだ」

 

一色とか一色とかな。一色しか聞いてこねぇがな。

 

「なんかヒッキー皆のお兄ちゃんって感じだね」

 

なんで俺クラスの代表みたいな言われ方されているんだが…

由比ヶ浜の中で俺は一体どんな設定になってんだ?

 

「いや、お兄ちゃんって呼んでくれるのは妹だけで十分だ…」

 

「確か小町ちゃんだよね…」

 

あれ?なんで知ってんの?

 

「ん?小町を知ってるのか?」

 

「うん、ヒッキーが入院している時、あたし1度小町ちゃんに会ってるんだ」

 

「なん…だと…」

 

あー、俺が寝ている時ね。

見舞いに来たとか小町言えばいいのに。

 

「まぁ見舞いとか来てくれてありがとな」

 

「そんな事ないよ」

 

「っで話を戻すが、サッカー部って事はやっぱマネージャーとかわんさかいるんか?」

 

わんさかいるんだろうなー。

考える事は皆同じなんだよ。

憧れの人にどれだけ身近にいられるかって言われたらそりゃ部活だからなぁ

 

「そうそう、入部希望の女子が多すぎて、マネージャーは入部規制しているって隼人君言っていたよ」

 

おーっ…入部規制って何だよ。初めて聞いたぞ。

想像を絶する人気っぷりだな葉山人気。

作戦が既に瓦解してんぜ…仕方ねぇ、もう少し押してみるか。

 

「由比ヶ浜、ちょっとお願いがあるんだが、葉山先輩と会わせてもらっても良いか?」

 

「えっ?なんで?」

 

まぁそうなるな。

とりあえず体の良い返しを口にすることにした。

 

「実はサッカーに興味がある女子がサッカー部に入りたいと言ってきててな、入部規制されているならなおのこと葉山先輩に話を通さないと入れないと思ってな」

 

「うーん、まぁ一応連絡するだけはしてみるけどー。期待しないでね?」

 

よし、まぁダメだった場合はダメだった場合で諦めよう!そうしよう。

 

「おぅ」

 

そうして焼きそばパンを頬張ろうとした矢先、廊下側で声がした。

 

「あれ、ユイじゃん」

 

由比ヶ浜の肩が少々揺れた。

慌てた様子ですぐに視線を彼女の元に向ける

 

「優美子っ!やっ、やっはろー!」

 

俺も後を追うように視線をその優美子先輩へ向けた。

その女帝と思える佇まいに息をのんだ。

一瞬でその場の雰囲気が緊張感に支配された。

 

「へぇ〜、どこ行ったのかと思ったら1年生に手を付けるなんてやるじゃん」

 

「ちょっ、優美子そんなんじゃないからっ!」

 

「まぁ、どうでもいーけど、それよりもお昼一緒にどう?みんなきてっし」

 

「えっ、うーん…」

 

チラリと俺の顔を見る由比ヶ浜にコクリと頷いてみせる。

あれは逆らえねぇ、なんだよ覇王色の使い手か?

 

「う、うん分かった!それじゃヒッキーまたねっ!」

 

「あぁ」

 

優美子先輩の後を追う由比ヶ浜を見送り、リア充も大変なんだなと小学生並みの感想が出た。

 

***

 

飯を食べて、さっさと教室に戻ったのだがどうも雰囲気が殺伐としている。

と言うか俺をチラチラと見てひそひそと話しすんのほんとやめて欲しい。

 

というか、朝のグループチャットの画像まだ引きずってんのかこれ?どんだけ一色大人気なんだよ。

 

「…比企谷先輩」

 

ひそひそ声で相模が俺を手招いていた。

どうやらこの教室の雰囲気について何か知っているらしい。

 

「いや〜、比企谷先輩流石ですね。まさか2年生の女子にまで手を出すとは思ってもみなかったですよ」

 

んな訳ないだろ。

 

「はぁ?どういうことだ?」

 

「これですよこれ」

 

そう言ってまたグループチャットを見せてもらった。

すると由比ヶ浜と喋っている所をどうやら誰かに撮られていたようだ。

 

「おぉ…マジか…」

 

最初の写真は、一色がいたから撮られているものだと思っていた。

しかしそれは勘違いで、俺がいたから撮られたと言う事だ。

俺が何かしら女子に近づこう物なら向こうはどこからかそれを撮影し、またグループチャットにあげるだろう。

非常に動きづらいな…

 

「相模、とりあえず違うとだけ言っとくわ」

 

「一色さんに続いての可愛い先輩と知り合いとか、比企谷先輩はタラシですかね?」

 

「そんなんだったら今頃俺はラノベヨロシクのハーレム主人公だっつの」

 

「うわぁ…よくそんな返し思いつきますね。引きましたよ」

 

なん…だと…

 

お前明らかにラノベ好きそうな顔してるだろ?通じないとかありかよ…

 

「まぁ、同い年だから知り合いが多いんだよ」

 

とりあえず同い年という理由でごまかしてみることにした。

 

「まぁ確かにそうですよね、いくら比企谷先輩でも知り合いの一人や二人はいますよね。失礼しました」

 

「ほんと失礼だなお前」

 

ナチュラルにディスってくるあたりそこにプロ意識を感じてしまうわ。

 

俺は自席に戻り今後の行動方針を決めることにした。

俺がターゲットっていうのは分かった。

下手に動けばまた噂の種にされるのは目に見えている。

と言うことは俺が何もしなきゃ特に何も動かないって事だ。

 

ならここ数日は何事もなく過ごしておけば諦めるもしくは相手から何かしらの行動を起こしてくる。

 

そう考え自分の机に突っ伏して視界をシャットアウトした。

 

 

***

 

 

それから数日がたった。

4月も残りわずかで終わり、同時に5月の大型連休というビッグイベントの気配を感じる。

 

胸がピョンピョンするような嬉しい感情が日に日に高まっていた。

 

教室ではこれから訪れるGWの予定についての話題で占めていた。

 

俺の行動方針は変わらず何もしないだ。

そのおかげでグループチャットも沈黙したままでそのまま時が過ぎれば忘却曲線に基づき皆忘れていくだろう。

 

しかし、別の問題が発生した。

どうやらGWの訪れに浮き足立っているのか一色に囲っている男子連中がやけに一色に馴れ馴れしいスキンシップをする様になっていた。

 

女子連中はそれを見て遠目で笑っている。

相変わらず同性の敵が多いことで。

 

現状は一色もうまくかわしている様だが、これ以上激しくなるとトラブルになってきそうだな。

 

…とは言っても、結局は自分のブランドとキャラクターを確立させようと愛嬌を手加減なく振りまいた一色も悪い。

自分でまいた種だ、自分で解決してくれ。

 

そうして見ない振りを決め込んだ。

気紛らわしいにラノベでも読んでみる。

聞きたくなくても聞こえてきてしまう一色とその取り巻く男子一同の会話。

 

「なぁ、いろはぁ〜?比企谷先輩とも一緒に行ったじゃん?だから俺ともさ、放課後どっか遊びいかね?」

 

「んー、最近門限早くなっちゃったから早く帰らないといけないんだよねー。ごめーん。」

 

訳:お前と遊ぶ時間、ねーから。って言ってそうな感じだな。

 

「それじゃ、休日とかどう?丁度見たい映画あってさ」

 

「うーん、休日の予定埋まっちゃってて〜…また今度ね?あと女の子に気安く触れちゃダメだよ〜?」

 

その今度はいつになるんでしょうね。

というか、最近周りの男子に触れられることが多くなったな。

スキンシップそんな過剰で大丈夫か?

 

全く内容が頭に入らないラノベを鞄にしまい、俺は机に突っ伏し、考えに更ける。

 

状況を整理する必要がある。

 

まず一色いろはからの依頼、これは葉山先輩に近づくために協力しろというものだ。

 

次に、俺に対しての盗撮問題。

 

…先にゴールを選定しておくか。

まず前者について、一色いろはと葉山先輩をつなげる事で依頼は達成される。

後者については犯人の発見。まぁこれは時間がかかりそうだ。

 

一色いろはからの依頼を考えるに、今彼女にとって『好ましくない』状況だ。

この状況を作り出した要因として俺と一緒に映っている写真が起因している。

 

グループチャットで投稿された画像が大きく一色いろはという美少女へアプローチできるハードルを下げている。

 

今回それに食いついたのがチャンスを伺っていた臆病な奴らだ。

 

美少女と、イケメンと…それこそ魅力的な何かを持っている人と何かをきっかけでお近づきになりたい。

誰もがその願望を持っている。

 

しかし、現実は非情で近づきたいのだけれどもきっかけが掴めず話すことができない。

掴めたとしても一言二言で会話が終わってしまう。

 

踏み込みたいけれど踏み込めない臆病な自分を見て見ぬ振りをして、自分に有利なチャンスがあれば今度こそと身を潜めて伺っている。

 

それがチャンスを伺っていた臆病な奴らだ。長いからお猿さんと訳そう。

 

そんなお猿さん達が何故今回この話題に食いついたのか。

 

皆が知っている話題になっており、かつ自分達よりカーストが下の奴が彼女と近づくことができた前例があるのだ。

 

自分達にできないはずはない。

 

そんな思考だろう。

 

しかし経験が浅いせいか、相手のことを考慮せず身勝手なコミュニケーションを繰り広げている様をみると非常に滑稽だ。

 

さて、次に一色いろはの話だ。

彼女はそれこそカリスマを持っている。

彼女は自分が人よりも容姿が上である事と、それを生かせるキャラクターを理解している。

 

人間関係においても同性を切り捨て異性向けにフォーカスしている。

尖った要素で勝負している辺り、ざっくりと例えるならばベンチャー企業と言った所だ。

 

彼女のキャラクターの特性上、男子と分け隔て無く話すことができる。

というか男心を理解し、いかに異性に可愛く自分を見せるかということに長けている。

 

彼女がやっている事として、可愛い自分、守ってあげたくなるような可愛らしい自分のキャラクターを周囲に認識してもらい、こんな可愛い自分をちやほやしろと自己顕示欲を異性にぶつけているだけに過ぎない。

 

今まで、彼女は可愛いからカースト上位なんだろうな、という思い込みが抑止力として働いていたのだろう。

 

だから彼女のキャラクターが成立し、お猿さん達も社交辞令と認識する事ができた。

理性を保つことができたのだろう。

 

しかし、その思い込みが1枚の写真で崩された。

 

身近になってしまったその可愛い美少女のキャラクターが自分だけに向けられていると勘違いしたお猿さん達が我先にと暴走してしまった。

 

そして現状が作り出された。

外面に翻弄され、言葉、表情を鵜呑みにしているお猿さん達がわんさかと群がっている。

 

あんな格好の男でもあの美少女と一緒に歩けるのだ、この美少女はきっと俺も受け入れてくれる。

あれで大丈夫なら俺はもっと大丈夫だろうと考えての行動だろう。

 

一色いろはは自分のブランド、キャラクターを壊さないようにとお猿さん達とコミュニケーションを取り計らっている。

 

しかし、お猿さん達は彼女の言葉を表情を外側だけ鵜呑みにし、都合良く解釈し、それを彼女に押しつける。

 

皆がやってるからな、誰よりも自分を見てもらいたいにも関わらず、赤信号皆で渡ればなんとやら。

 

…傍から見たら本当に滑稽だな。

 

最終的に一色いろはは自分のブランドもキャラクターも無視してでも彼らを否定しなくてはいけない。

せざるを得ない。

 

なぜか?興味が無いからな。目障りなだけだ。

 

さぁ、愛情が否定された奴らは何をするか。

そいつを排除しようとするだろう。

愛情の裏側は憎しみだ。

 

あの手この手を使って、一色いろはの人格もブランドもキャラクターも全て壊しにかかるだろう。

 

相手は一人でしかも女子だ。

今までの彼女の行動から他の同性からも協力は得られるだろう。

 

ミンナデヤレバコワクナイ。

 

…ヘタな怪談より怖い話だ。

 

では、この問題をどうすれば解決できるかだ。

 

答えは簡単だ。

 

崩れてしまった彼女のカーストを蘇らせて見せつけてやれば良い。

こいつはお前らが相手して良い人間でないと再認識させてやれば良い。

 

だれが?

 

適任がいるじゃないか。

 

葉山隼人という人物が。

 

携帯が震え突っ伏した身体を起こし画面を見る。

 

--- やっはろー、ヒッキー 隼人君話聞いてくれるってさ〜 ---

 

ナイスタイミングだ、由比ヶ浜。

 

 



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#6-3

放課後、厚く雲は空を隠し続けている。

最近はこんな天気が続いている。

まるで俺の心の中を映し出しているようだ。

 

俺の心の中っていつも雲がかってるだろ。

と言うことは未来永劫晴れ渡ることはないと言い換えても過言ではない。

そうなりゃ農作物に多大な被害が被る。

世界的な飢饉に見舞われるかも知れない。

 

俺の心の中を現実に映し出したら人類が滅亡するな。

 

日も暮れようとしているのだろう、辺りはいつも以上に薄暗くなっていた。

気温も下がり、肌寒く身震いをしてしまう。

 

そんな中、俺は中庭で葉山先輩を待った。

しばらくすると、由比ヶ浜の姿が見えた。一緒に歩いている高身長で爽やか系な男子も同時に確認できた。多分あれが葉山先輩なのだろう。

 

「ヒッキー!隼人君連れてきたよー」

 

「おぅ、由比ヶ浜。ありがとう」

 

こう面と向かって立ち合うと、写真で見るよりもかなりイケメンだな。

めちゃくちゃ爽やか系なイケメンで人柄も良さそうだ。

 

「初めまして。君かな?俺を呼んだのって」

 

「初めまして。葉山先輩ですよね。お時間頂いてありがとうございます。1年の比企谷です」

 

「あぁ、そんなかしこまらなくて良いよ。結衣から聞いているが、君も俺と歳は変わらないんだろ?」

 

由比ヶ浜? おれの個人情報ダダ漏れすんのやめてね? どこまで喋ったのかはわかんねぇけどさ。

 

「まぁ、そう言ってもらえると助かります」

 

「それじゃ、用件を聞こうかな? 」

 

「端的にサッカー部の女子マネージャーに1人勧誘してもらいたいんですよ」

 

「勧誘してもらいたい? 俺にか? 入部届を出せばいい話ではないのか? 」

 

「由比ヶ浜からはサッカー部のマネージャー枠は入部規制が敷かれていると聞きました。なので直接葉山先輩にお願いをしに来た限りです」

 

「そうか…ではその子はここに?」

 

「いえ、今はいません」

 

「俺としては、人に頼って自分は出てこないという子をマネージャーに迎えるのは遠慮したい所なのだが…別に理由があるんだろ?」

 

勧誘してもらいたいということについて何かしらの事情があるとすぐに察したか。

流石カースト上位。

 

「もっともな話です。それに併せて事情をお話しさせてもらうと…」

 

俺はグループチャットでの盗撮の件と現在一色が置かれている状況について説明した。

 

「…なるほど、君と一緒に動いては、いつ誰が撮影してくるか分からない。火に油を注ぎ兼ねないという事か。だから俺が一色さんをサッカー部に勧誘させることでその男子たちから一色さんを引き剥がしたいと。つまりはそういうことだね?」

 

「なんか、キモいね。女の子1人にそんな群がって、相手のこと全く何も考えて無いじゃん」

 

由比ヶ浜が口にする言葉の節々に怒りの感情が垣間見えた。

 

「誰彼構わず愛嬌振りまいていた一色も悪いがな」

 

「わかった、状況は理解した。ただ、一応聞いておこうと思うのだけど、君ならどうする?」

 

どういうことだ? 俺ならどうする… 俺が何もできないからこうやって頼み込んでいるんだ。

 

「俺にできることはそれをお願いするくらいです」

 

「そうか。いや変なことを聞いてすまない。その依頼、確かに引き受けたよ」

 

「ありがとうございます」

 

まずは第一関門突破って奴だな。

不意に安堵の息が漏れた。

 

「比企谷もサッカー部に入るか? 選手部員は随時募集してるぞ」

 

葉山先輩は爽やかの笑みを絶やさず部員勧誘を始めたが、俺にそんなスマイルは効かない。

効くのは夢見がちなTHE女子高生だろう。

 

「遠慮しておきますよ。俺、球技だけ極度の運動音痴なんで。ボール蹴ると真横に飛ぶんすよ」

 

苦笑交じりに答えてみた。

まぁそんなこと無いんだけれどな。

 

「そうか、残念だな」

 

顔をポリポリと掻いているさまも絵になっている。

やっぱイケメンは違うな。

 

「ヒッキー、その一色さんって人と結構仲いいの? 一緒にデート行ったようにも聞こえたよ-?」

 

聞いて良いのか悪いのか、でも好奇心には勝てず恐る恐る由比ヶ浜が探りを入れてくる。

 

「確かに少し話す仲ではあるな。それに出かけたのは荷物持ちとしてかり出されただけだ」

 

「そ、そうなんだ。ふーん」

 

由比ヶ浜はどうやら納得してくれたらしい。

写真を見せればさらに納得してもらえただろうがあいにく携帯に写真は入っていない。

 

「そうだ比企谷、連絡先交換しておこう。」

 

「いいですよ、はい」

 

そう言って俺は葉山先輩に携帯を渡す。

 

「比企谷… 歳は同じだとしても先輩に丸投げするのもどうかと思うぞ?」

 

「葉山先輩、これは効率を重視した施策です。ほとんど連絡先を交換していない俺がやるよりも葉山先輩がやる方がかなり時間的が短縮できて互いに余計な時間さかなくても良いと考えます」

 

「結衣は既に登録されているんだな」

 

「う、うん。ちょっと色々とあって…っね、ヒッキー!」

 

「お、おぅ」

 

もうちょっとごまかしに手を加えて欲しいよ由比ヶ浜。

 

「葉山先輩… 俺の数少ない連絡先見るのは勘弁頂きたいんですが…葉山先輩と違って友達少ないんでその…恥ずかしいので」

 

「すまんすまん、少しからかってみたい気持ちになってな」

 

「まぁ、先輩だから今回は何も言いませんが。次はないですよ?」

 

「その発言もどうかと思うぞ? もしかして俺を先輩とみてなくないか?」

 

「そんなわけないじゃないですかぁ〜」

 

「それは誰の真似だ? 噂の一色さんか?」

 

「へぇ〜、ヒッキーと一色さん結構仲いいんだねー」

 

「んな訳ないだろ。あいつの口調がやけに特徴的だっただけだ」

 

こんなじゃれ合いの時間も悪くないと思えたが、小雨が降り始めた事がこの時間の終わりを告げた。

 

「それじゃ、俺は部室に顔を出すから、皆気をつけて!」

 

そういって葉山隼人は小走りでグランドへ向かっていった。

俺たちも中庭から室内に入り、雨から逃れることにした。

 

「ヒッキーはこれから帰るの?」

 

由比ヶ浜が俺を気にかけて話しかけてくる。

 

「そうだな。うちに帰るか、サイゼに寄るかで迷ってる」

 

「ヒッキーサイゼ好きなの?」

 

それ聞いちゃう?

語っちゃうとキモがられるから一言で言っちゃうよ?

 

「あぁ、愛していると言っても過言ではない」

 

「愛してるって…ヒッキーキモいね」

 

おい、由比ヶ浜。

いま俺の心を抉ったのと同時にワールドワイドのサイゼファンをディスった自覚はあるか?

言葉気をつけろよ。

 

「サイゼ良いだろ。長居できるしドリアうめぇし」

 

「そうだけれど、流石に愛してるまではいかないなぁ〜、皆で駄弁ろーって時とかに使う程度だし」

 

リア充さん達は遊ぶ場所がたくさんあって羨ましいですねー。

 

しかし世の中にはたった1つの愛を育むと言うのが一般的に重要視されてんじゃん?

それを考えると俺のこのサイゼ愛も純愛の1つなんじゃないか?

サイゼの中心でドリアを叫ぶ。

 

ただの注文じゃねーか。

叫んだら迷惑行為だからな!

SNS拡散からの出禁まであるぞ。

涙なしでは語れねぇ名作だな。

 

「世の中数多の選択肢が存在すんだろ?俺はその中でサイゼを見つけたんだ。サイゼを愛してるんだ。他は見向きもしねぇよ」

 

「んんっ?なんかカッコいいこといってる風だけれどちょっと違くない??」

 

「おっと、流石に一緒にいるとまた写真撮られかねない。俺そろそろ行くわ」

 

「うんっ、またねヒッキー」

 

そう言って由比ヶ浜と別れ俺は下駄箱へと向かった。

 

 

***

 

 

翌日、教室は相変わらず変わらず騒がしい。

 

それは放課後になろうとも変わらず、GWというイベントをどう過ごすかと言う話題で教室に残り雑談をしているクラスメイトが大勢いた。

 

最高のベストコンディションじゃないか。

 

俺はと言うと、携帯をいじりながらその様子を観察していた。

さて、あとは葉山先輩が一色を勧誘しにくれば完璧だな。

 

一色とはいろいろとあったがこれで終わりだな。

最後に俺が出来ることはこの依頼を見届けるだけだ。

 

そう思いながら葉山先輩が来るのを心待ちにしていた。

 

 

「一色さん、あのさぁ」

 

 

やけに通る声が教室内に響く。

 

一色の机の前にいる髪型で誤魔化した雰囲気イケメン系男子が一色に向けて発された疑問の言葉は、放課後暇を持て余した生徒共々には非常に面白そうなエンターテインメントを提供してくれる魅惑なワードだったに違いないだろう。

 

「GWさ、一緒に遊び行かない?」

 

このご時世、メールとかチャットで誘うんじゃなくて直接会って口頭で誘うとかなかなか勇気ある行動だと思うぜ。関心関心

 

「あー、GWなんですがちょっと予定が詰まっていて」

 

でも可愛い女の子は予定が詰まっているのが世の常だ。

しかもそれが予定と言う名で包まれた暇な時間と言う事まで知っているぜ。

遠回しにお前と過ごすんだったら一人でいた方がましと言われているのだ。

ソースは俺。

 

「それってまたあの人とかな?」

 

そう言って何故か彼と俺の目が合った。速攻でそらしたけど。

えっ好きになっちゃった?

 

「まぁそれもありますが」

 

えっ!? あるの? 何も予定聞かれてないんですけれど。

 

「まじか。あの人と一緒で大丈夫?」

 

「大丈夫って何ですか〜?」

 

「だってあの人ダブっているし、それにたまに本読みながらニヤってしている所とか怪しいじゃん」

 

なん…だと…まさか教室でもニヤついていたのか…誰も言わねぇから気づかねえよ。

言ってくれる友達いねぇしな。

次から無個性彼女系の小説学校で読むのやめよ。

 

「あー、大丈夫です。怪しいだけで特に無害なので」

 

一色ちゃん?それフォローしてる?

 

「うーん、それでも俺心配かな。どうかな俺も一緒に」

 

「別に心配される必要は無いですよ。偶然にもせんぱいとは何度か話しましたし」

 

「へぇ、もしかして比企谷先輩の事…気になるとか?」

 

「そんなわけ無いじゃないですか。そう思われている事自体心外ですよ」

 

ちょっと、俺同じ空間にいるんですけれど…

あと、一色?ちょくちょくこっちに視線送んのやめてね。

 

「そうなんだ。ならさ、彼との予定はやめて俺と遊ばないか?」

 

「それはなんでですかね?」

 

「彼よりも俺の方が一色さん楽しませられるっていう自信かな?」

 

「へぇ〜、そうなんですね」

 

「だから…」

 

「ごめんなさい、お断りします」

 

彼が言葉を全て発言しきる前に一色は曖昧な表現を使わず。

ハッキリときっぱりと断りの言葉を口にした。

 

その言葉は教室中に響き渡り、聞き耳を立てていた周囲すらも言葉を忘れ一瞬の静寂が教室を支配する。

 

「えっ、な、なんで?」

 

彼もここまでハッキリと拒絶の言葉を口にされ焦りの表情が拭えないらしい。

 

「だって、そういう人に限って大体とりあえず女の子が喜ぶようなお店選んで、とりあえず当たり障りない話題を話して、とりあえず買い物してって…何でしょう当たり障りないテンプレですかね?そこに私も当てはめようとしている感じがしてるんで」

 

「それが普通なんじゃないかな?だって俺ら高校生だし」

 

こいつの言う事も間違っちゃいない。

だが、一色の言っている事も分からなくもない。

一色は自分のその容姿から中学の頃から誘われることが多かったんだろう。

 

誘われてホイホイついて行ったは良いが大体同じ場所、似たような会話、同じ場所で買いもの。

頻繁に誘われる側のみが知ることのできるエンドレスなんちゃらって奴ですかね。

 

となると一色はそうなる奴をパターン化する必要があったわけだ。

そういう奴の傾向を読み解いて事前に回避する。

 

一言二言の遠回しで察してくれると嬉しいが、それでも踏み込んでこようとする奴はハッキリと断ってやった方が効果的だと言う事か。

なるほど。

 

えー、人誘うのにも受けるのにもなんでここまで考えないといけないわけ?

こえぇよ。やっぱりボッチは最高だな。何も考えなくて良い。

 

「そうだね。それが普通だね。でも私は普通じゃ満足しない。だから断っています」

 

「なんだよ…それっ!」

 

彼は怒り任せ、机に手を叩きつけた。

凶暴な音は教室中響き渡り、静寂を与えた。

周りの全ての人の動作を停止させ、その光景に注目させた。

その脅迫にも近い行動に流石の一色も怯んでしまった。

 

流石に見ていて気分が良い物ではないな。

しかしただの傍観者の俺に何ができるというのだ。

何もできやしないさ。

できることと言えば葉山先輩早く来てと思うことくらいだ。

 

っふと葉山先輩の言葉を思い出す

 

『君ならどうする?』

 

どうする、か…傍観者の俺になにができる。

葉山先輩はいつ来るか分からない。

来るまでに俺にできることはなんだ。

周りはエンターテインメントとしてしか状況を見ていない。

 

そうなると俺が行動するしかない。

くそっ、時間が無い…俺ができる最善の策…

あーもう思いつかねぇ!!これしかねぇっ!!

 

意を決し席から立ち上がり、言葉を発した。

 

「おい、いい加減…」

 

「うるせぇ!」

 

俺の言葉は怒声にかき消され、緊迫感のみが教室を支配する。

 

「…スポルトップも飽きたしマッ缶に戻るか」

 

俺は何事もなかったかのように席に着席してラノベを開く。

 

おぉ…なんちゅう迫力だよ。

本当にお前年下なの?全然そう思えねぇよ。

 

彼は怒り任せでまくし立てるような事はせず、1度深く息を吐いて会話を再開させた。

 

さっきの怒声で彼の怒りは分散されただろう。

人は叫ぶことにより、過度なストレスから解放されるのだ。

狙ってやったわけではない。

偶然が生んだ産物だった。

 

「なに、一色の同中の奴らから聞いたけれどいつも男とっかえひっかえしてんじゃないの?」

 

「そんなわけ無いじゃないですか。私だって選ぶ権利はあります」

 

どうやら一色も立て直せているようだしどうにかなった感はある。

俺頑張った。

 

「てことは高校になって、あれと出会ったから変わった系か?」

 

そう言って先ほど怒鳴った相手に彼は視線を向ける。

 

「だから、せんぱいとは本当に何も無くて」

 

「知ってるぜ。入学当初から仲が良かったじゃん?駐輪場で待ち合わせしたりな」

 

まさかそこまで見られているとはなぁ。

人の目ってどこにあるか分かったもんじゃないな。

 

「それは、相談があったから」

 

「なんだよ相談って」

 

「それはこれから起こる事だ」

 

俺はその会話に無理矢理横やりを入れる。

どうやらこの茶番劇のお時間はようやく終わりを迎えるようだ。

彼は舌打ちをしながら俺に振り向くが、聞こえて来た声ですぐに教室の出入り口に振り向き直した。

 

「一色さんはいるかい?」

 

その声の持ち主こそ皆の葉山隼人だ。

 

よぉヒーロー、登場が遅ぇよ。

 

 

***

 

 

一色は喜々として葉山先輩の元に向かって行き、そのまま2人で廊下へと出て行ってしまった。

事態が収拾したと認知した周りはそれぞれの友人達と感想を述べなが教室を後にしていった。

 

残された俺もさっさと帰宅の準備を整えていた。

 

「知っていたのか?」

 

「そうだな。依頼は葉山先輩とのつながりを作る事。それで俺は使われていたってことだ」

 

「そうか…」

 

これで思い知っただろう。

自分が相手にしていたのは雲の上にも近い存在だ。

多分こいつ以外にも狙っていた奴らはいただろうが、あの葉山先輩が誘うのだ二の足踏むに違いない。

 

放心状態の彼を背に俺は教室を出る。

 

これで一色いろはの依頼は完了だ。

今日はご褒美に行きたかったラーメン屋にでも行ってみるのもありかもしれんな。

 

そうして俺は、ラーメンに思いを馳せ、足取り軽く下駄箱に向かうのだった。

 

 

 



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#6-3-view iroha

別視点を用意してみました。

良い日をお過ごし下さい。


最近は教室がやけに賑わっている。

多分GWが近いからだと思う。

 

そのGWの予定を埋める相手として私はよく誘われる。

毎年の事なのだが今年は全て断っていたりする。

その理由は初対面の人から2人きりで遊びに行こうと誘われるのが今年は非常に多いからだ。

 

私とせんぱいが一緒に遊びに行った写真が出回った辺りからそういう人たちが増えていった気がします。

 

誘い文句をよく聞いてみると、せんぱいが私を誘えるなら自分もワンチャンあるのではと言うような根拠のない理由でした。

 

せんぱいは誘っていないです。

私が誘ったのです。

 

そこをはき違えないで頂ければと思いました。

 

あといきなり肩触られるとか頭撫でられるとか正直キモいんですが、体裁を取るために一旦我慢しています。正直ストレスがたまりますね。

 

まぁ、担任に相談するという事も手段の1手ではありますが、そんな事したら学校内での私の立ち位置が危ぶまれてしまいますので、それは最終手段としての行動であり、まだそこまでの領域に踏み込んでいる訳ではありません。

 

そんな事を考えているとまた、私の席にちょっと緊張した面持ちの男子がやってきた。

まーたGWのお誘いでしょうね。

 

「一色さん、GWさ」

 

もう聞き飽きました。

 

「ごめんなさぃ、GWはもう予定埋まってて…」

 

相手に本当に申し訳なさそうにみえるこの表情は手慣れたものだ。

これで断ればヘタに踏み込まれずに済むので非常に有用だ。

 

「そ、そうなんだ…わかった…」

 

そう言って寂しそうに去って行く名も知らぬ男子を見ながら私は思う。

今現在、私の手帳のGWの予定は真っ白だ。

私はこれからこの予定を埋める予定なのだ。

とりあえずせんぱいの予定を聞き出し、そのまま言質を取らなければなりません。

 

あの人絶対GWは暇ですよね。

暇じゃなければ逆に何の予定が入っているか詳細に伺う必要があります。

事と次第によっては同伴も覚悟してもらいます。

 

なので、私のGWの予定は現在埋まっています。

嘘はついてないよ。

…それにしても、せんぱい?

 

私は教室の端にある先輩の席を一瞬だけ視界に入れる

 

放課後であるにもかかわらず、なんで席から立とうとしないんですか?

せんぱい今日日直でもないですし、何ですか誰か待ってるんですか?

私を待っているとか?

 

凄く嬉しいですが教室で待たれると他の人の目があるのでちょっと恥ずかしいです。

駐輪場で待ってて下さいってメールしようかしら。

 

そんなこんな考えていたらまた1人GWの予定を埋めに男子がやってきた。

 

「一色さん、あのさぁ」

 

彼の口調からやけに自信が漏れ出ている。

あー、これは対応間違えると面倒くさい勘違い系男子だ。

私の直感がそう判断した。

 

「GWさ、一緒に遊び行かない?」

 

私、あなたと喋った記憶が全くないのですけれど。

それよりも名前なんでしたっけ?

 

まずは敬語抜きで喋れる仲になる事から始めなきゃダメなんじゃないでしょうか?

 

そんな状態でいきなり遊びに行かないって、色々とすっ飛ばしすぎています。

まず順序を守りましょうかって話です。

 

「あー、GWなんですがちょっと予定が詰まっていて」

 

「それってまたあの人とかな?」

 

彼はせんぱいの方を見てそう言った。

 

「まぁそれもありますが」

 

反射的にそう答えてしまった。

一瞬ヤバっと思ってせんぱいの方に視線を向けたら、そんな話聞いてねぇって顔していた。

せんぱい?お行儀が悪いですよ。聞き耳立てちゃダメですよ。

 

「まじか。あの人と一緒で大丈夫?」

 

大丈夫? うん大丈夫ですよ。

だってせんぱい私のおうちまで知っていますし。

ちゃんと送ってくれますしね。

 

「大丈夫って何ですか〜?」

 

「だってあの人ダブっているし、それにたまに本読みながらニヤってしている所とか怪しいじゃん」

 

あーなるほど。

確かに私も1度勘違いしましたね。

ダブってるからって不良とかそんなイメージ。

でも話してみると博識だったりするから不良とかではないんですよね。

学校ちゃんと来てるし。

 

何かしらの理由はあるんだと思うけれどちょっと聞きづらいんですよね。

 

あと、せんぱいが読んでいる本って、確かライトノベルって奴ですよね。

たしかせんぱいが前に力説していたのを思い出しました。

人目気にせずに笑えるって事は面白いのかな?

今度貸して下さいと言ってみよう。

 

…っあ、そうだった、彼の返答忘れてた。

 

「あー、大丈夫です。怪しいだけで特に無害なので」

 

「うーん、それでも俺心配かな。どうかな俺も一緒に」

 

別に心配される必要が無いんですが…

一緒にってせんぱい逃げちゃうじゃないですかやめて下さい。

 

「別に心配される必要は無いですよ。偶然にもせんぱいとは何度か話しましたし」

 

「へぇ、もしかして比企谷先輩の事…気になるとか?」

 

悪いですか?

 

「そんなわけ無いじゃないですか。そう思われている事自体心外ですよ」

 

でも恥ずかしいのでこの場は濁させてもらいます。

せんぱいの反応が気になります、今どんな反応してます?

 

チラチラとせんぱいの様子をうかがって見てみましたが半目でした。

せんぱい?言葉の裏を読んで下さいね。

 

「そうなんだ。ならさ、彼との予定はやめて俺と遊ばないか?」

 

この人は何を言っているんですかね?

 

「それはなんでですか?」

 

「彼よりも俺の方が一色さん楽しませられるっていう自信かな?」

 

自信過剰も甚だしい。

私とあなたは実質初めましてです。

それなのにあふれ出るその根拠のない自信は何でしょうか?

 

「へぇ〜、そうなんですね」

 

「だから…」

 

とりあえずこう言った早とちりで勘違いな人には何の飾り気もない率直な断りを入れた方が伝わりやすい。

 

「ごめんなさい、お断りします」

 

「えっ、な、なんで?」

 

うん、やっぱりこうかばつぐんだ。

 

「だって、そういう人に限って大体とりあえず女の子が喜ぶようなお店選んで、とりあえず当たり障りない話題を話して、とりあえず買い物してって…何でしょう当たり障りないテンプレですかね?そこに私も当てはめようとしている感じがしてるんで」

 

「それが普通なんじゃないかな?だって俺ら高校生だし」

 

私、可愛いんですよ。

そんじょそこらの女子と一緒にしてもらっては困るわけで、誰よりも男子の誘いを受けていて遊びに行っているわけですよ。

 

もう単なるテンプレじゃ満足できないんですよ。

それがわからないなら普通の女の子誘っとけって話なんですよ。

 

「そうだね。それが普通だね。でも私は普通じゃ満足しない。だから断っています」

 

どうやら今の言葉が彼のプライドに傷を付けてしまったらしい。

 

「なんだよ…それっ!」

 

いきなりのことでかなり驚きました。

彼は机を思いっきり叩きました。

それは初めて男子から向けられた怒りの表現で、怖いって気持ちが全身を駆け巡った。

ちょっと泣きそうになりました。

 

そんな中、ヘタレで不格好ではありますが、言葉で立ち向かおうとする人が居ました。

案の定せんぱいです。

 

「おい、いい加減」

 

なんだろう、今までの怖いって気持ちが消えていきました。

私にはせんぱいが味方してくれる。

 

「うるせぇっ!」

 

うるさいのはどっちですか。

せんぱいに対する口の利き方がなっていないですね。

私も怒りますよ。

 

なんで私がこんな人に怖がらなくてはならないのだ。

むしろ立場が危うくなっているのは相手の方じゃないか。

 

「なに、一色の同中の奴らから聞いたけれどいつも男とっかえひっかえしてんじゃないの?」

 

もう大丈夫。怖くない。

 

「そんなわけ無いじゃないですか。私だって選ぶ権利はあります」

 

誰が言ったかは分からないですが昔の話しを掘り返してまで言う事ですかね?

私だって選ぶ権利はありますよ。

 

何もせずに待ちぼうけするよりも、選びに行く行動力はありますよ。

他の女子と一緒にしないで下さい。

それが嫌いなんですよ。

 

「てことは高校になって、あれと出会ったから変わった系か?」

 

中学生の時点で出会ってますし、そこまであなたに語る必要はないです。

あなたの目的自体もうお断りしていますし、もうここからは蛇足ですね。

適当に受け流させてもらいますね。

 

「だから、せんぱいとは本当に何も無くて」

 

「知ってるぜ。入学当初から仲が良かったじゃん?駐輪場で待ち合わせしたりな」

 

本当に人の目ってどこにあるか分からないですね。

あの時はあの手この手でせんぱいを誘っていた時期じゃないですか。

 

それにしても本当に諦めの悪い方ですね。

ベクトルさえ間違えなければ良い人なんでしょうけど。

 

「それは、相談があったので」

 

「なんだよ相談って」

 

適当にでっちあげようかな。

葉山先輩狙ってますーとか宣言したくないし。

 

「…それはこれから起こる事だ」

 

急にせんぱいからよく分からない横やりが入った。

私も何のことか分からなかったが

 

「一色さんはいるかな?」

 

この声、この言葉を聞いて理解した。

葉山先輩だ。

 

せんぱいはこれから起こる事と言った。

つまりは葉山先輩が来ることは予定調和だった。

 

あぁ〜…

 

ほんっっとぉ〜にあの人、なんなんですか。

 

私を打算的とよく言えますね。

ここまであざとく事を運んでくるのはちょっと…かなりぐっときますね。

 

まさかこの状況になる事を先読みしてたんですか?

こんな手を打ってくるなんて思ってもみなかったですよ。

 

えっ?これ私のためだけに仕組まれた事ですよね?

…せんぱいの事だからこれを他の女の子にもやりかねないですね。

 

そうなるとやはりせんぱいを保護する必要があります…

その作戦会議の為、いまは戦略的撤退をさせてもらいます。

 

また戻ってくるので覚悟しておいて下さいね!

せんぱい。

 

えへへぇ〜。にやけが収まらない

 

***

 

 

私は葉山先輩に連れられ特別棟の渡り廊下にある休憩スペースにたどり着いた。

そこで葉山先輩は自動販売機で飲み物を奢ってくれました。

 

「すまない。時間を取らせてしまって」

 

「いえいえ、むしろご指名頂いて感謝感激です」

 

まさかこうして葉山先輩とお話し出来る日が来るなんて思ってもいなかったです。

 

「そう言ってもらえると助かる。早速本題なんだが一色さん、サッカーに興味は無いかな?」

 

「凄く興味あります!」

 

いやぁ、そこまで興味があるわけでもないですけれど、あの葉山先輩からのお誘いですし断るわけにはいかないじゃないですかぁ〜。

 

「そうか。ならサッカー部のマネージャーなんてやってみない?」

 

「えぇっ!?良いんですか?なんか入部規制を敷かれていた位競争率高いって聞きましたよ?」

 

せんぱいには話はしませんでしたが、サッカー部は葉山先輩人気のせいもあって、マネージャー枠に入部規制が敷かれているのは知っていたんですよね。

 

元々せんぱいと約束を取り付ける口実なだけだったんですが、まさか入部の約束を取り付けるなんて…

実はとんでもなく優秀だったりしますあの人?

 

「あぁ、彼が勧めるんだ。是非とも入部して欲しい」

 

葉山先輩も認めちゃってるし。

 

「え?…せんぱいがですか?」

 

「そうだ。仕事はできるからこき使って欲しいとのことだよ」

 

あー…なるほど。

仕事しないマネージャーしかいなかったから仕事出来る人を持ってきたから使ってくれ的な感じで交渉が進んだのがよくわかりました。

ドナドナですね。

 

「な、なるほど〜」

 

「っと言うわけで、この入部届を書いてもらって、正式にマネージャーになってもらおうかな」

 

まぁ、葉山先輩とお近づきになれたことだし、このくらいは目をつむってしっかりとマネージャーを全うしますか。

 

ここまでしてくれたせんぱいの顔に泥塗る訳にもいきませんしね。

 

「はい、わかりました」

 

「練習はGW中にもあるんだけど、これそうかな?」

 

なっ!?

ちょっとそれは聞いてない。

しかし、お願いしているのが葉山先輩だ…クソ〜、これは断れない…

せんぱい?恨みますからね!!

 

「だ…大丈夫です…」

 

こうしてせんぱいと過ごすはずだったGWはどうやらサッカー部員のお世話へと様変わりしてしまうみたいです。

 

今年のGWはとても休めそうになさそうです。

 

 



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#7

雨の日の平日は嫌いだ。

雑踏とする駅に行かなくちゃならんし、電車車内も混雑していて疲れる。

学校でも外で食べる選択肢がなくなり、教室で食うしかないのだ。

前の件もあり、俺にもちょくちょくと周りから目を向けられちょっと居づらいのだ。

 

まぁそんなこんな今日1日をどうにかやりすごし、ようやく愛し我が家の玄関前だ。

 

駅前でサイゼに入るかどうか迷ったが、小町が早く帰ってくることを懸念し、苦渋の決断だが寄らないことにしたのは内緒の話だ。

 

玄関の扉を開いた瞬間に、室内の暖かな温度が外の肌寒い冷気と入れ替わると同時に、我が家に染みついた生活臭が俺に向かって流れ込んでくる。

この瞬間、やっと帰ってきたんだなとほっと安堵の息が漏れる。

 

「ただいまー」

 

「なぁ〜」

 

玄関前で待ち構えていたカマクラが返事してくれた。

なにげに珍しいので少し嬉しい。

 

しかし、どうやらカマクラが想像していた人物とは違ったらしく、すぐさま興味を失せたかのようにどこかに行ってしまった。

 

小町じゃなくて悪かったな。

その対応、八幡的にポイント低いぞカマクラ

 

どうやら小町はまだ帰ってきていないようだ。

 

一旦自室で着替え、リビングに向かった。

 

とりあえず冷蔵庫を開けて麦茶をとりだす。

 

なんか冷蔵庫って何の用もないのに開けたくなるよね。

何の用もないのに話しかけたい恋人のようだ。

 

恋人は冷蔵庫か…大人になればその意味分かるって隣のオシャレなお姉さんが言ってたな。

冷蔵庫の中身は酒とつまみしか入ってなさそうなイメージなんだが。

 

もしかしてどうにもならない世の中を酒とつまみで現実逃避することを意味してたりする?

世知辛ぇ…

ってかそもそも隣にはムッキムキのマッチョのお兄さんがすんでたわ。

 

隣に可愛いくて俺にだけ優しくしてくれる幼馴染みがいる世界で俺は生まれたかった。

お姉さん全く関係ねぇじゃん。

 

そんなくだらない事を考えながらコップに麦茶を注ぐ。

コップに麦茶が満たされる音のみが耳に入る唯一の音だった。

満たされた後の何一つ音の発さない静まった空間は孤独を連想させられる。

身体を動かした時にかすかに聞こえる衣擦れの音が俺を我に返してくれた。

 

紛らわすかのようにわざと喉を鳴らしながら麦茶を飲み干す。

 

こんな静けさの中、一匹で何時間も放置されたら流石のカマクラも鳴きたくなるわな。

 

そんな事を考えてさっさとこの静けさとおさらばしようとテレビを付け、ソファーに腰を下ろした。

 

ちょうど可愛らしい女の子がメタモルフォーゼして悪を倒すアニメが映し出されていた。

女の子らしくステッキとか使って可愛らしく魔法で悪を退治する…なんて甘っちょろい奴ではなく魔法という名の格闘術を用いて悪をボッコボコにする奴だ。

 

マジカル☆ファイト。

 

何でも頭にマジカル付けりゃ良いって風習やめねぇか?

この可愛らしい文字列をよくよく見てみると本気狩りの文字が隠れてるんだぞ?

どう考えても健全な女の子発言して良い単語じゃねーよ。

猟奇的としか言いようがない。

…おっと、熱くなってしまった。

すこし、頭冷やそっか。

 

まぁそれでも俺はこのアニメは好きだ。

何が良いかって分かるか?

 

殴っても殴られてもどちらも痛いんだ。

どちらも傷つくんだ。

だからこそ、ひとつひとつの戦闘において主人公と悪は互いの想いをぶつけ合い、自分の正義を示し、拳を突き合うのだ。

もちろん子供向けアニメ上、約束されし勝利の主人公の法則は破られないが、悪はきっと最後まで我が覇道に向かった事に対し悔いる事は無いだろう。

我が生涯に一片の悔い無しってな。

 

…あれ?悪死んでね?

 

結局現世では許されないのね。現代社会の闇を感じるぜ。

その覇道、ゴッホのように死後に評価されるに違いない。

それでも闇だがな…

 

そんな事を考えながらアニメを鑑賞していたら玄関から鍵が開く音がした。

どうやら小町が帰ってきたようだ。

 

少ししてから扉が開く音がし、それと同時にドタドタとカマクラが玄関に向かって駆けていく振動が床から伝わってきた。どうやらお目当ての小町ちゃんが帰ってきた事を察知したようだ。

 

「ただいま〜」

 

いつもの聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

「おぅ、おかえり」

 

少し声を張りその声の返答を口にする。

若干大きすぎて少し恥ずかしかった。

 

リビングの扉が開かれて制服姿の妹が姿を現す。

若干雨に濡れた制服姿が目に映る。

 

「タオル。用意するか?」

 

「んーん、大丈夫」

 

「そうか」

 

とりあえず俺の姿を見てふぅっと嘆息をつき、そのまま自室へと戻っていった。

カマクラは小町の後ろをそのままついて行った。

どんだけ従順なんだよカマクラァ…

 

寒そうな小町の姿をみて何か温かい物でも出してやろうと考えた。

お袋が会社仲間にもらったという紅茶がある事を思い出し、戸棚を探す。

 

「おっ、あったあった」

 

戸棚にしまわれていた缶にはマルコポーロと記載が記されていた。

缶を開けると上品でかつ芳醇な甘い香りが漂ってきた。

 

「お〜、これ、結構お高い奴じゃね?まぁいいか。」

 

電子ケトルを起動させた後、ティーパックに茶葉を適量詰め込んだ。

 

 

***

 

 

丁度紅茶をマグカップに入れ終わったタイミングでリビングにカマクラを抱いた小町が姿を現す。

どうやら部屋着に着替えたようだ。

 

「小町、紅茶はどうだ?あったかいぞー?」

 

「うんっ!いる〜!」

 

そう言って小町が嬉しそうに返事をする。

マグカップを受け取りながら小町は別の質問も投げかけてきた。

 

「おにぃちゃん、お風呂入る?」

 

「あ〜、はいるはいる」

 

「うん、それじゃ誰がお風呂掃除するかゲームで決めよっか!」

 

うん?小町ちゃん?今日はおめぇが掃除当番でしょ?

なにゲームで掃除当番決めようなんてずる賢い真似しようとしているのかな?

 

「小町、お前が今日掃除当番だろーが」

 

「だって〜、今日カー君いつも以上に甘えてくるんだから仕方ないでしょー」

 

それに合わせたように小町に抱かれたカマクラが『なぁ〜』っと鳴く。

 

んだよそれ。俺のお家ヒエラルキーはネコ以下かよ。

 

「しゃーねぇな。んじゃ適当なゲーム付けるぞ」

 

そう言ってテレビ台に設置しているゲーム機の電源を付けてコントローラーを手に取る。

ソファーに腰掛けた小町にコントローラーを1台渡しその隣に俺も腰掛けた。

 

「おにぃちゃん、レース弱いのに大丈夫なの?」

 

「これでも練習したんだぞ。いつもの俺と思うなよ」

 

「へぇ〜、ならその腕前みせてもらおっかなぁ〜?3戦勝負で!」

 

その後、兄妹揃ってゲームに没頭した。

成績は互いに1勝、次で決まる訳だ。

そして最終レース開始のカウントダウンが始まった。

 

ふと思いついた事を口にしてみた。

 

「なぁ小町。そういえば聞きたい事があったんだが」

 

「なにおにぃちゃんが珍しい」

 

「お前、由比ヶ浜と会ってたんだってな」

 

カウントが0になりレースが始まる。

 

しかし小町のキャラクターの様子がおかしい…

 

動いていないのだ。

 

「小町?どうした?コントローラーの充電でも切れたか?」

 

ふと小町に視線を向けると俺に向けて開いた口と何かに怯えているかのような目をした表情の小町が視界に映った。

 

俺は何かとんでもなくまずい事を口にしたのだと自覚した。

 

「おにぃちゃんは…由比ヶ浜さんと会ったの?」

 

小町の震えた声に反応し、膝の上で丸まっていたカマクラが小町の膝の上から離れた。

何か空気みたいな物を感じ取ったのだろうか。

 

「あぁ、入学初日に会ってる」

 

少しの間があった…とても緊迫しており、一瞬の間だと思うがそれが幾時も経ったかの様な感覚に取り憑かれた。

 

「おにぃちゃんはさ…由比ヶ浜さんを許せるの?」

 

それは事故のことなんだろう。

そういえば、事故の話を小町は一切話題にしなかったな。

 

「俺は許した。というか俺が正義感振り翳して車に飛び出さなければこの事故は起きなかったはずだろ」

 

「うん。おにぃちゃんはそう思うよね」

 

小町の声はいまだ震えている。目尻には薄らと涙すら見えている。

こんな小町を見るのは初めてだ。

 

どうやら俺が思った以上に俺の容体を心配していたのが表情を見ていてからも分かる。

ここで何か気の利く言葉をかけてやればと俺は自分の無知を悔やんだ。

 

「でもさ、小町はまだそうは思えないんだ。お家には誰も居ないし、病院に行ってもさ…ベッドで、色んな機械に繋がれて声をかけても反応しないおにぃちゃんを見てたんだ、見続けてたんだよ?最悪ずっとこのままって言われて凄く悲しかった…小町達が何をしたのってそんな考えがずっとぐるぐるぐるぐるしてるときにっ、さっ…、由比ヶ浜さんが来たんだよ…」

 

「そうか」

 

その後の話は小町は語らなかったが大体読めた。

小町は由比ヶ浜に俺を寝たきりにさせた怒りをぶつけてしまったのだろう。

 

「おにぃちゃんが由比ヶ浜さんを許したは分かったんだけど…けど小町はまだ時間がかかりそうだよ。ごめんね、おにぃちゃん…」

 

多分、自分でも制御できないくらいの事をやってしまったのだろう。

社交的である小町だからこそ、起こした行動に一番驚いているのは小町なのだ。

それなら兄として、そんな妹をあやすことすらできず何が兄妹だ。

 

「気にすんな、ってか小町が俺の容体そこまで心配してくれてただけでも幸せ者だ」

 

そういうと小町の怯えた表情が和らいできた。

少しは役に立てたようだ。

 

「そうだよ〜?小町のお出迎えするのはおにぃちゃんの役割なんだからねっ!」

 

「へいへい」

 

「そんなおにぃちゃんが生きててくれて、一緒にお話しできるの小町凄く嬉しいよ。あっ、これ小町的にポイントたっかいー♪」

 

「本当にポイントたけーじゃねぇか。しゃーねぇ…」

 

どうやら俺の知らないところで心配させちまってたみたいだし、ここはお兄ちゃんらしい所を見せてやるか。

 

「今日くらいは、風呂掃除代わってやるよ。おっ、これ八幡的にポイント高い」

 

「いつも小町が代わってあげてるんだからこれくらいでポイント高いとか言っている時点でごみぃちゃんだよ…ダメダメだよ」

 

「ちょっと小町ちゃん?俺のやる気返して」

 

「だから今日は小町もおにぃちゃんと一緒にお風呂掃除するねっ!」

 

「んじゃ二人で手分けしてやるか」

 

「うんっ!」

 

兄妹水入らずの風呂掃除。そりゃ、他人から見れば単なる掃除だろう。

でも俺たち兄妹からすれば、これはきっと欠けてしまっていた空白の時間を埋める大切な何かのはずで――

ふとそんな考えが頭をよぎった。

 

部屋にかすかに漂う紅茶の淡い芳香が鼻を抜け、感情を刺激する。

嬉しそうに風呂場へと向かう小町を見ながら俺はきっと今、とても嬉しいのだろうとそう結論づけるのであった。

 



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#8

今回も小町回


長らく続いた曇りの日々からようやく解放され、青々とした空が久し振りにその色彩を魅せる。

照りつける日光は若干肌寒さを残す

さらに休日である事も合わさってか外に出たい気分に惑わされるだろう。

しかし、引き籠もる兄の紋章を持つこの俺にはそんな雰囲気に騙されない。

 

「ほら、おにぃちゃん、行くよー」

 

しかし、出たがる妹の紋章を持つ小町には負けてしまう。

2つ合わさると真なる千葉兄妹の紋章になる。

効果は未来永劫とても仲良しだ。

 

ちなみに上位に始まる千葉兄妹の紋章がある。

効果は因果をねじ曲げて兄妹で結婚できる。

マジで始まってやがる。

 

先日、小町の気持ちを聞き、兄妹として仲を深めた。

久し振りに揃って外出をしようと小町から提案され、兄妹揃ってラーメンを食べに行こうという話になった。

 

「さて、小町。ラーメンは何系がいいかな?」

 

「うーん、どうせなら冒険系がいいかな?」

 

ほぅ、我が妹ながら攻めた事を言う。

いつもはなりたけに向かうのだが、今回のような趣旨も嫌いではない。

 

「なるほど、ならここだっ!って所に入ってみるか」

 

「うんっ!」

 

そして俺たちは千葉のラーメン激戦区と目される場所へと足を踏み入れ、ラーメン屋の選定を行っている最中だ。

 

ラーメン激戦区と目される場所は1本道であり、道の両脇に数々のラーメン店が独自の店構えをし、俺の興味をそそった。

昼前で人はまだ疎らだが、人気店は既に行列ができあがっていた。

 

「おにぃちゃん、あれなんてどう?」

 

小町が指を指す方に視線を向けると、焦がし醤油イカスミラーメン富山ブラックの文字が映った。

なんか全て黒なんだけれど。何この厨二病をそそる感じのラーメン。

 

「昔のおにぃちゃんなら喜びそうだね。あれ〜なんて言ってたっけ?名もなき神?」

 

ちょっと小町ちゃん?

トッピングにお兄ちゃんの黒い歴史まで掘り返さなくても良いんだよ?

 

「何のことだか忘れたわ」

 

「まぁ、小町は何の能力も無い今のおにぃちゃんのほうが好きだよ」

 

それは厨二病じゃない俺の方が大好きという事だよね?

 

「おい小町、それってお兄ちゃんは無能ですって遠回しに言ってる?」

 

「そんなこと無いよ〜、っで?どうするのおにぃちゃん?」

 

「食べる度にお兄ちゃんの黒い歴史が掘り返されそうだから別にしよう」

 

押し入れにしまっている政府報告書とか神界日記とか思い出すから無理。

 

「はーい」

 

そう言って小町と俺は別のラーメン店を探すことにする。

 

「あっ、ここなんてどう?」

 

小町が小綺麗なラーメン店を見つけ看板へと足を向ける。

俺も小町に引かれて看板前へと足を運んだ。

 

「ほぅ、鶏がら醤油ベースのラーメンか…良いんじゃないか?」

 

しかし、小町はちょっと悩んでいる感じだった。

口にしてみたは良いもののちょっと違った感じだったんかな?

 

「うーん…自分で見つけてあれだけれどちょっと冒険感が足りないな〜」

 

そもそも冒険系ラーメンって定義が分からんよな。

財宝を求めて大航海を始めちゃうの?つえぇ奴と戦っちゃうの?

あっ、それ少年系だわ。

 

結局チョイスが平凡すぎる事からこのラーメン店も見送ることにした。

 

「なかなか見つからないね〜」

 

「そだな」

 

そして再度、ラーメン店選びをしていると一際賑わいを見せている店があった。

店の前には行列ができており、店前に置かれている品書きが俺の興味がそそる。

 

「魚介豚骨つけ麺、天一並みのとろみスープが特徴か…」

 

ふむ、見るからにこってりだな。うーむ……しかしつけ麺か、まぁ嫌いでは無いが小町の反応を見て決めてみるか。

 

「お〜、これ結構冒険感ない?」

 

結構乗り気だったみたいだ。

まぁたまにはつけ麺も悪くないか。

 

「あぁ、面白いな。太麺の自家製麺か……けっこう興味出てきたぞ」

 

つけ麺と言う所を差し引いても興味が湧く品書きだ。

 

「それじゃここにしよっか!」

 

「そだな」

 

小町と共に行列に並ぶことした。

そういえば店の名前見てなかったなと思い、店前に堂々と掲げられている看板を見上げる。

 

「っげ…」

 

毛筆書体で『麺処一六八』と力強く堂々と書かれた看板をみて、すぐに思い浮かべるのがあの打算的な女の顔だ。

今は小町との兄妹水入らずの時間なのだから思い出させないで欲しかった。

 

「おや、君は…」

 

並んでいる俺たちの前にいる女性の人が振り向きざまにそう言った。

美人でスタイルも良くカッコイイ人だなと俺に印象づけた。

もしかして俺達の後ろに知り合いが並んでいたのだろうか。

 

「確か…比企谷、だったな」

 

どうやら俺達に聞いている様だ。

 

小町の知り合いかと小町の顔を伺うが誰この人?みたいな表情を作っていた。

 

「すいません、どちら様ですか?」

 

とりあえず、こちらからも返答をと思い聞いてみる。

 

「あぁ、突然すまない。私は平塚静、総武高校の生活指導をしている」

 

げっ、まさか同じ高校の教師と鉢合わせるとはついてねぇ。

 

「そうですか」

 

「そして君は、比企谷八幡だろ?君は教師の間では珍しいのでな。勝手に顔と名前を覚えさせてもらっていたんだ」

 

「どうせ進学校のダブった生徒として珍獣扱いって事なんですよね」

 

担任は俺を腫れ物のように扱うし、その他の先生も大体そんな感じだ。

事なかれ主義な教師が多いから俺に下手に関わってこようとしないから楽だったのだが。

 

「そうネガティブに捉えるな。小さな命を救ったその行動力は流石だと思うぞ」

 

この教師はどうやら他の先生とは違うようだ。

堂々と腫れ物に触ってくる。

面倒くせぇな。

 

「そんな大層な事なんざやってないませんよ」

 

「ただ、自身の犠牲を顧みないというのはいささか考え物だぞ」

 

「休みの日に偶然遭遇した生徒にも指導とは仕事が捗りますね」

 

「おにぃちゃん、捻くれない」

 

なに小町、いきなり会話に入ってくんなし。

 

そんな俺の思いをよそに小町は目の前に居る教師と話し始めた。

 

「平塚先生でしたっけ?兄がお世話になっています。比企谷小町と言います。比企谷八幡の妹です」

 

小町の声色が変わる。

多分よそ様向け用小町に切り替わったんだろう。

我が妹ながらその切り替わりの早さ、風の如し。

 

「ほぅ、礼儀正しい妹さんだな。最初は比企谷の彼女かと思ったが」

 

「そんなわけ無いじゃないですか〜」

 

やべぇ俺これ結構気に入ってるかもしれない。

 

「……キモい」

 

ちょっと、小町ちゃん?

どういう意味でそのキモいの発言が出たのかな?

お兄ちゃんの発言かな? それともお兄ちゃんの彼女と思われたこと自体かな?

どっちにしてもこうかばつぐんに心を抉ってるからね。

 

「そ、そうか。では兄妹で仲がよいのだな。私は一人っ子なのでわからないのだが、兄妹はそんなものなのか?二人で腕を組んでいるのは……」

 

兄妹じゃ普通のことじゃないのか?小町はそう言ってたぞ。

 

「普通ですよ。多分」

 

そ、そうかと平塚先生は軽く咳をする。

 

「そういえば、先生もラーメンお好きなんですか?」

 

「あぁ、そうだな。今日は久し振りに晴れたから行きつけに来たんだ」

 

「おっ?行きつけと言うことは味は保証付きみたいな感じですかね」

 

我が妹ながら流石だ、会話を盛り立ててくれる。

俺だけだったらここで会話終了して気まずい沈黙が流れていたに違いない。

 

「はっはっは、こってりが好きだったらこの店はオススメするよ」

 

ラーメンの話だったら少しは話に入れそうだ。

……というかこの話題は興味がある。

ちょっとだけ会話に混ぜてもらうか。

 

「つけ麺って所がちょっとあれっすけどね」

 

「なんだ、つけ麺は嫌いなのか?」

 

「嫌いというわけではないですが、段々と汁が冷えていくのがちょっと……それを避けて熱盛りにすると今度は麺のひっつき具合が気になるんですよね。時間経つと麺が干からびてしまうのもあって早く食べないとって焦りも出てくるので味わえないと言うか」

 

「あぁ、そういうことか。この店はな、鉄をあぶっていてな。汁が冷たくなったらその鉄を入れて熱々に戻す事が出来るんだ。なかなか面白い試みだろ」

 

なるほど、そういったいかに冷やさないかという仕組みを考える店は確かに好感度が高い。

是非その仕組みを使ってみたいものだ。

 

「ほぅ、それは面白い」

 

俺と平塚先生のラーメン談義が始まり、行列の待ち時間が本当に一瞬の様に過ぎ去っていった。この人相当なラーメン好きだろ。

 

どうやら席が空いたらしく、店員が俺たち3人に向けて案内の言葉をかける。

 

「お客様3名ですかー!」

 

「いや、2名で…」

 

俺がそう言おうとしたら小町がそれを遮った。

 

「3名で〜す」

 

「3名様ご案内!いらっしゃいませ〜!」

 

そう店員が元気よく案内を言い終えたあとに

その他店員全員が『いらっしゃいませ!』と元気よく口を揃えた

 

何この店。滅茶苦茶元気いっぱいなんだけれど。

圧倒されるわ。

 

3名と言う事で奥のテーブル席に案内され

平塚先生が対面に俺たち兄妹が横並びで座る。

 

「おにぃちゃん」

 

先ほど迄の元気で高い声と違い、呆れた声が俺の耳に届く。

 

「なんだ小町、トイレか?」

 

視線を向けると小町は眉をひそめ、俺を見つめていた。

ちょっと小町、そんなに見つめられると恥ずかしい……んだよ?

 

「ちがくて、あれだけ熱心にラーメン談義してたくせになんで2名って言っちゃうかな?」

 

「小町ラーメン談義ついてこれないだろ」

 

ぼっちだから分かるんだが、2人だけが分かる話題を話している際、その話題に入っていけない1人って居づらいし気まずいよね。

 

何かを理由に離れたくなる。

その気持ちすごいわかるから気を利かせたんだが……

 

「えっ!もしかして小町が1人だったの!?」

 

「会話に入れないでただそこに居る辛さって俺、自分事のようにわかるからな。だから一人でゆっくり食べさせてあげようと配慮したんだが…」

 

「ちょっとごみぃちゃん、変な気遣い起こして可愛い妹を1人でラーメン食べさせるなんてどうかと思うよっ!小町的にポイント低い!」

 

「はっはっは、君たち兄妹は面白いな」

 

「面白くしているつもりはないんですがね」

 

「兄妹仲睦まじい事は良いことだ。仲が良すぎるのもあれだがな」

 

「ははっ、流石に兄妹で恋人とか結婚とかは創作の話ですよ」

 

「えっ?おにぃちゃん小町と結婚しないの?」

 

…おや?真なる千葉兄妹の紋章のようすが…

やっべぇ、キャンセルボタンどこだよ!

 

「ちょっ小町、人前でそういう冗談言わない」

 

「さっきのお返しだよ」

 

くっそ、内心ちょっと嬉しかった俺がいる。

 

「け、結婚か…」

 

「平塚先生もお相手いらっしゃるんじゃないですか?かなり綺麗ですし」

 

「…ぐっ」

 

小町、ちょっと待て。

平塚先生の様子がおかしい。

 

「きっと結婚も秒読みとかっ!あっ、式には呼んで下さいね!」

 

「うぐぅ…」

 

この反応…ことから察するにお相手がいないのだろう。

それも長い間。

 

「小町、やめて差し上げろ」

 

「えっ、やっぱり?」

 

えっ、知っててやってたのお前?

鬼畜の所業じゃねぇか…

 

「いいもん、いいもん…」

 

ほらぁー……周りからのプレッシャー思い出して幼児退行しちゃったじゃねぇか。

非常に可哀想だ……誰かもらってあげてっ

 

 

***

 

 

「お待たせ致しました!特製つけ麺2つとトマト味玉つけ麺です」

 

「おぉ〜…」

 

どろっとしたつけ汁を見た瞬間に分かる。

これは麺にかなり絡みつくだろう。

 

そして太めの自家製麺、店内の照明が冷水で締めた麺に反射し輝いて見える。

食べ応えがありそうだ。

 

無意識にゴクリと喉がなってしまう。

 

器に手を添えると縁まで温かい。

直前まで器を温めていたに違いない。

 

「君たちはこの店は初めてだったか?」

 

そう平塚先生はそう俺たちに問いかけてきた…ということは何か食べ方があるのか?

 

「何か通な食べ方があるんですか?」

 

「察しが良いな、そうだ」

 

「是非ご教授頂ければ」

 

「あぁ、では手始めに…」

 

こうして、俺たち比企谷兄妹は平塚先生の課外授業を受け、つけ麺をすするのであった。

 

 

***

 

 

食事を終え、店から出る。

店前に並んでいる行列は俺たちが並んでいた時より長くなっていて早くこの店と出会えて良かったと心から思った。

 

「ふぅー美味しかった〜お腹いっぱいだよ〜」

 

お腹をさすりながら小町は満足実にそう口にした。

確かに、濃厚なつけ汁と太麺は来て良かったと本当に満足できるボリュームでありクオリティーだった。

店名は個人的に気に食わんがまた来よう。

 

「あ、あと、ありがとうございます、奢ってもらって」

 

この人いつの間にか会計を終わらせていたのだ。

食券タイプの先会計だとそういうのはすぐ分かるんだけれど、後会計だと直前まで分からないんだよなー。

 

「あぁ、気にすることはない。良い食事ができた礼だ」

 

やだぁ、ちょっとときめくじゃねぇか。

なにこの人、マジモンのイケメンじゃねぇか。

もしかして少女漫画によくいる花しょってる系イケメン?

 

「では、私はそろそろ行くとするよ。2人ともこれからの休日を楽しんでくれ」

 

「はい、そのつもりです〜」

 

小町が元気よく答えると平塚先生はあぁと微笑を小町に見せ答えた。

そして平塚先生は俺に視線を向ける。

 

「比企谷、何か相談があるなら私を頼れ」

 

「いきなりなんですかね。まぁ…考えておきます」

 

「教師らしいことをするのも1つだと思ってな。それでは行くとしよう」

 

そう言って平塚先生は俺に背中を見せ去って行った。

彼女の背中を見送った後、また小町が腕を組んできた。

 

「さて、おにぃちゃん。どこ行こっか?」

 

どうやら今日1日、小町に付き合わされるみたいだ。

とりあえずゲーセンとか行ってみるか。

 

「ゲーセンでも行くか」

 

「あーいいねぇ〜、メダル落とす奴やりたいねぇ」

 

「んじゃ行くか」

 

「うんっ」

 

昼下がり、青々とした空の下、兄妹は休日の談笑を楽しみながら歩みを進めた。

 




ようやく平塚先生出せた〜。


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#9-1

ちょっと長めです。


月をまたぎ平日がやってきた。

実は今回のGWは4月から休みが続く訳では無く、4月と5月を土日でまたぎ、その後に平日2日を挟んだ後、5連休が始まる。あまり使えないGWだ。

まぁ、普段より多く休めるだけありがたいではあるが……平日の気だるさが半端ない。

 

そんなやる気の無い平日にチャリ2人乗りをご所望の小町を送りながら学校へ向かう。

小町を下ろす際に、『ついでに作ったの!おにぃちゃんのっ!』と照れを隠しきれていない小町から弁当を渡された時は感動して涙が出そうだった。

 

中学では給食あるだろうとか無粋なことは言うまい。

それが千葉のお兄ちゃんクォリティー。

 

チャリこいでる最中に、後ろから細かい注文飛ばしてきたときはこのガキはなんだとか思っていたが、そんな事はもうどうでもいい。

 

今日1日幸せだ。

 

昼休みになり、最近見つけた特別棟の一階、保健室横、購買斜め後ろの場所で俺は小町の弁当を食べている。

 

ここはちょうど良い風が吹く。

俺はこの優しい風を肌で感じながら過ごす時間は嫌いじゃない。

 

視界にはテニスコートが映り、そこでテニス部員らしき女子が1人で昼練に励んでいた。

 

ほー、熱心なことに。

そんな事を思いながら弁当をつついていた。

 

「あれ?ヒッキー?」

 

風がどうやら知り合いの声を運んできたようだ。

 

『風』のワードが、治まったと思っていた厨二病を思い出させるぜ。

そんな男子高校生の日常ってあるだろ?……えっ、ない?マジで?

 

「由比ヶ浜か」

 

「なんでそんなところにいんの?」

 

吹き付ける風で、なびくスカートを抑えながら俺に尋ねてきた。

 

「ちょうど風のあたり心地がいい場所があってな。そこで飯を食べるのも一興だと考えてな」

 

我ながら即興で思いついたにしてはなかなか言い台詞じゃねぇかと自画自賛してみる。

 

「へぇ〜、あれだね、傷心に浸ってる感じ!」

 

「んんん?」

 

由比ヶ浜の自信満々な発言に一瞬遅れを取ったがもしかしたらと言葉を返す。

 

「正しくは『感傷に浸る』な。感傷にすら浸ってないがな」

 

一瞬何言ってんのこの娘と思ったわ。

っは!?もしかして今から傷つけますって遠回しに言ってる?

 

「へぇ〜、ヒッキーそういうの詳しいね。」

 

んなわけねぇか。

常識だ。

 

「まぁな」

 

よし、これで会話終了。

由比ヶ浜、さっさと切り上げてくれ。

俺は一人で小町の手作り弁当を……っお?

 

「なぁ、由比ヶ浜」

 

「ん?なに、ヒッキー」

 

興味津々に由比ヶ浜が俺に寄ってきて、隣に座る。

ちょっ!?近い近い近いっ!!

 

「えっと……だな、小町についてなんだが」

 

「あっ……」

 

その件の話をすると由比ヶ浜は俯き表情が暗くなった。

 

「小町ちゃんから聞いちゃったんだね」

 

「あぁ、細かい所までは聞いては居ないが、大体雰囲気で察した」

 

「そっかぁ……」

 

沈黙の時間が続く。

 

ヤバい。

 

自分から地雷踏みにいって、実際この雰囲気になると何話せば良いか分からなくなるって、とんでもなく最低最悪クズ野郎だなと俺自身思う。

 

「あ〜……なんというかな、由比ヶ浜。小町も言い過ぎたって自覚はあったみたいだ」

 

「えっ?」

 

由比ヶ浜は俯いていた顔を少し上げて意外そうな顔をしていた。

 

「本人的にはもう少し時間がかかるって話だったから、まぁ後は時間が解決してくれるだろ」

 

「そう……だね、でもそれに任せておくときっと後悔しそう」

 

「そうなのか?」

 

「うん、これはあたしが起こした責任だから」

 

責任か。そのギャルギャルした容姿で言うような台詞ではないのだが、まぁそれはさておき、俺の事故の件が彼女にどうやら様々な効果を与えているらしく責任感はあるようだ。

 

「ちょっと自分でもやり方探ってみる。ありがとっ、ヒッキー」

 

不意に向けられた笑顔に心臓が跳ね上がる。頬が熱くなるのを感じた。

くっそ、こいつこんな顔も出来たのか。

 

「あ〜っ!ヒッキー顔赤くなってる〜」

 

「うっせ、勘違いすっからその笑顔向けんな」

 

「えへへ〜」

 

そういうのやめてね?

俺の青春ラブコメがとうとう始まっちゃうのって勘違いしちゃうだろうが。

 

「それにしてもホントに気持ちいいね〜ここ」

 

「だろ?俺はここをベストプレイスと名付けることにした」

 

「なにそれ、ウケる」

 

ウケる要素何一つないのだが……

もしかして叙述トリック使ってんの?

やるじゃねぇか由比ヶ浜、俺に文系で喧嘩売るなんて。

その挑戦受けてやる。

その答えは『ウケると言いつつ全然ウケない』だ。

理由はその口調が明らかに棒読みだからだ。

 

……やべぇ、言ってて悲しくなってきた。

 

「最近一色さんとは?」

 

一色とは依頼終わってからは全然話してないんだがな。

別に話しかける用事も無いし。

 

「最近サッカー部で忙しいんじゃないか?ってか全然喋ってねぇな」

 

「ヒッキーもう少し一色さんかまってあげなよ」

 

一色も俺に構ってもらうよりも葉山先輩に構ってもらった方が嬉しいだろ。

 

「なんでだよ。そんな時間あんなら小町構ってるわ」

 

ここ最近マジで懐いてるからな。

デレ期なのかもしれん。

 

「ヒッキーほんとシスコンなんだね……気持ち悪い」

 

「いきなり気持ち悪いとか傷つく覚悟する前に俺の心を抉らないでね?」

 

まさかここでフラグ回収してくるとは由比ヶ浜やりやがるぜ。

 

あはは〜と俺の言葉を受け流し、由比ヶ浜が視線をテニスコートに向ける。

すると何かに気づいたらしく言葉を口にする。

 

「あー!あれさいちゃんじゃない?」

 

いや、さいちゃんじゃない?って言われても誰だよ。

 

由比ヶ浜の視線を追うと先程から1人で自主練している女子テニ部員を指していた。

 

「知り合いか?」

 

「同じクラスなんだっ」

 

「そうか」

 

なぜか由比ヶ浜は声を上げ、そのさいちゃんとやらを呼び寄せる。

 

あのぉ……由比ヶ浜?

同じクラスってことは俺の先輩な訳で俺の肩身が狭くなるんだが……

 

そんな気をよそにそのさいちゃんという女子は俺たちに走り寄ってきた。

 

その女子は潤んだ大きな瞳ときめ細やかな肌、華奢な体つきで乙女と言う言葉を体現したかのような美少女だった。

さらに汗で濡れた髪と汗がつたう肌が色っぽさを感じさせた。

 

「あっ、由比ヶ浜さん……と?」

 

その女子は俺を見るなり首をかしげる。

そりゃわからんよな。

 

「あぁ、すいません。1年の比企谷です」

 

軽い会釈と一緒に名乗り、自己紹介を終える。

 

「そうそう、ヒッキーだよ」

 

由比ヶ浜さん?ヒッキーというあだ名を広めるのは勘弁してもらってよいかな?

 

「そうなんだ!僕は戸塚彩加。よろしくね比企谷くん!」

 

太陽のような眩しい笑みを俺に向ける戸塚先輩をみて、俺は天使がご光臨されたのを目撃してしまったのだと理解した。

 

僕っ娘かぁ〜。この世に存在するとは思いもしなかったわ。

 

「女子テニスも昼練やるんですね」

 

「えっと、僕男なんだけどなぁ……」

 

 

 

 

ハッと時間が停止したかのように思考が止まっている事に気がつき、俺は意識を取り戻した。

 

誰かそして時は動き出す。とか言ってくれりゃぁ助かったのだがスタンドを使える奴は早々いねぇ。

 

「えっ……はっ??」

 

言葉につまる。理解に苦しむ。

由比ヶ浜に視線を向けるとうんうんとうなずいている。

なんか『その反応わかる〜、あたしも通った道だから〜』とか上から目線な事を考えてそうなのが癪だ。

 

戸塚先輩?

もしかして特殊なご職業のお父さんとかいらっしゃいませんかね?

んで、昔テニスの勝負で引き分けた男の子ともう一度勝負するために男の子って偽っていません?

全然騙せてませんよ?

 

俺の顔に嘘だろと出ていたのだろうか、戸塚先輩は体操着の裾を手で握りしめ、上目遣いで目を潤しながら俺を見つめ口を開いた。

 

「証拠……見せようか?」

 

その恥じらう姿は艶めかしく、下手するとあの打算的な女以上の効力を持ってるんじゃないかと思うほどだ。

 

何だろう。なんかとてもいけない事をしている気分だ。

ヤバいこのままでは俺は引き返せない領域に足を踏み入れかねない。

 

『おいおい、こんな絶好のチャンスはねぇよ』と俺の耳元でデビル八幡が囁く。

そうだよな、向こうから言ってきているしこんな絶好のチャンスを逃すのはないよな。

 

『お待ちなさい!』

 

おっ、お約束の天使が来た。

 

『どうせなら壁ドンした後、「戸塚先輩!!ぼかぁ、ぼかぁもう!抑えきれませんっ!!」と情熱的攻めて、戸塚先輩の服を脱がせるのはどうでしょう』

 

いやまて、どんな展開期待してんだよ。

やけに具体的なんだよ堕天使が!それできるのどう考えても幽霊退治のお兄さんだろうが。

俺のキャラ崩壊してんだよ。

ってか止めに来いよ。

 

「だ、大丈夫です。知らなかったとは言え、配慮が足りなかったです」

 

苦しげな口調でとりあえず戸塚先輩の申し出を断ると、そっかと目尻に涙を浮かべ、輝かしい満面の笑みを俺に向けた。

 

あぁ……守りたい、その笑顔。

 

「うぅん、別にいいよ、それより比企谷君って1年生なんだね。どうかな?テニス部とか興味無い?きっと楽しいと思うよ」

 

 

あー……戸塚先輩個人には凄く興味があるけれども、テニス部にはあまり興味が無かったりする。

 

……戸塚先輩の愛らしさに負けて入部希望を出そうかどうか瀬戸際まで追い込まれたが、俺自身俺の性格をよく分かっている。

 

絶対に続かない。

 

「戸塚先輩。俺、球技だけとんでもない運動音痴発揮するんで悪いんですがちょっと無理っすね」

 

「そっかぁ……残念……」

 

戸塚先輩のしょんぼりとうな垂れる姿も可愛くうつり、手のひらを高速回転させようとする衝動に駆られるが、理性でそれを阻止した。

 

でも、戸塚先輩1人でも全国行けそうな気がする。

イルカとかクジラとかラッコとか可愛らしい名前の技、使えるでしょ絶対。

 

戸塚先輩がどれだけ可愛くても、どれだけおねだりされても聞けない願いという物はある。

ほれ、毎日部活行く根性自体、俺には無いわけで……その見下げ果てた根性さまのおかげでバイトも面接でバックレたしな。

 

「まぁなんというか、すいません」

 

「あーっ!」

 

いきなり由比ヶ浜が大声を上げ、俺の肩が跳ねる。

 

なんの前触れも無くいきなり大声を上げるもんだからちょっとびびっちまったじゃねぇか。

 

「そうだった! 優美子の飲み物買うの忘れてた! 」

 

えっ?こいつなんでパシられてんの?

 

「お前、パシられてんの?いじめ?」

 

「違うよ〜、罰ゲーム」

 

ってか由比ヶ浜?結構お時間経ってるんですが……大丈夫なんですかね?

 

「あーね、ほれそろそろ戻らんとチャイムなるぞ」

 

「うん〜、ありがとねヒッキー!またね、さいちゃん」

 

そう言って由比ヶ浜は小走りで校舎の中に戻っていった。

 

「僕もそろそろ着替えてくるね。またね、比企谷くん」

 

「はい。また、戸塚先輩」

 

三人以上のグループ特有の共通の友人が居なくなった居心地の悪さを感じ取ったのか戸塚先輩もどうやら席を外してくれるみたいだ。

 

戸塚先輩がテニスコートに戻る姿を確認した後、ようやく食べる途中だった小町弁当に箸を伸ばすのだった。

 

 

***

 

 

翌日、ベストプレイスで弁当を食べていたときのことだ。

テニスコートを覗くと、いつも通り練習している戸塚先輩の姿が見える。

遠目から見ても天使だ。守ってあげたい庇護欲に駆られてしまう。

 

そんなテニスコートを覗きつつ弁当を頬張っていたら、どうやらテニスコートにお客さんが出向いてきたようだ。

 

あれ葉山先輩じゃないか。

他は?優美子先輩と誰だあの金髪?知らねー。

由比ヶ浜は……いねぇな。

 

あぁ、あれが一色の言っていた葉山グループって奴か。

どうやら葉山先輩と戸塚先輩が話をしている。

 

話が終わったのか、葉山グループは戸塚先輩の反対側のコートを陣取った。

何これ、試合でも始めんの?戸塚先輩VS葉山グループの?えっ、練習の邪魔じゃね?

 

……まぁいいか、弁当食べながら観戦するのもありだろ。

 

弁当を食べながらそんな光景を眺めていると、やはり戸塚先輩は毎日練習しているだけあって、素人揃いの葉山グループはほぼ一方的なゲームを強いられていた。

 

あーこれはなんと表せば良いか……主人公最強の異世界転生Web小説を読んでいるかのような展開だな。

圧倒的な力の差で蹂躙されているわ。

 

葉山グループはこぞって天使の裁きを受けていた。

 

このまま全員負けて終わりかなと思ったらそうでもなかった。

どうも優美子先輩がやけに動けている。

経験者なのだろう。

なかなか白熱したバトルが繰り広げられていた。

ってか、普通に戸塚先輩も優美子先輩も強くね?

 

……しかし、ゲーム後半で戸塚先輩が無理にボールを追ってしまった為か、体勢を崩し転倒してしまった。

結構派手に転倒してしまった事から向かいの優美子先輩も心配して駆け寄っていった。

 

その後、どうやら戸塚先輩が負傷したらしくゲームは中断。

葉山グループと共に保健室に連れられる戸塚先輩を俺は見送った。

 

戸塚先輩の負傷を心配した、今すぐにも保健室に駆け込みたい気分になったが、まだあの先輩グループも一緒に居ることだろう。

俺一人であの先輩グループの中に入るのはハードルが高い。

なので、次会ったときにでも大丈夫でしたか?とでも言ってみようと心に決めた。

 

観戦も終わったしそろそろ教室に戻ろうかと思った矢先、久し振りに俺に向けられた声が風によって運ばれてくる。

 

「あ〜、せんぱーい〜!こんな所にいた〜」

 

話しかけられるのは1週間経たないくらいだが久し振りな気がする。

 

一色は両腕を左右に振りながら小走りで俺まで寄ってきた。

 

「せんぱいに話したかった事があったんですよぉ〜」

 

照れたような、瞳を潤し、何か恥じらいのあるように頬を赤く染めるながら彼女は俺に向けて言の葉を口にする。

 

「この女だれ?」

 

言の葉と表現するのがおこがましい程、風情も何も無い低く冷淡な声色が耳に入ってきた。

 

と同時に彼女の携帯が俺の前に強引に提示されそこに映し出されているのは俺と戸塚先輩だった。

 

「……というのは冗談です」

 

一色は口角を上げたすこし微笑めいた表情に戻した。

 

一色ちゃん?

ちょっと冗談にしては迫真の演技過ぎて八幡びびっちゃったよ?

 

「んだよ、驚かせんなよ」

 

「それよりもせんぱい、また撮られちゃってますよ?」

 

「……まじか」

 

一色が見せたその画像から察するにグループチャットにまたあげられたのだろう。

最近姿を見せないと思って安心していたがやはりまだ観察されていたか。

 

「これどうすっかな、すげぇ迷惑……」

 

「普通の男子だったら女子と2人でご飯食べるとか〜、一緒に買いものするとか〜、そんなイベント頻繁に無いと思うんですけれどね〜」

 

一色が呆れたような表情で亜麻色の髪をクルクルと指でいじりながらそう言い放つ。

 

「それお前が言うか? ってかなんで俺だけ狙い撃ちで撮られているのかも分かんねぇしな」

 

「これはもう担任相談とかじゃないですか?あまりにもしつこすぎる感じがしますよ」

 

「あぁ、そうなんだがなぁ……」

 

うちの担任、自分のこと以外に興味なさそうなんだよな。

明らかに俺に何も問題起こすなよっていう雰囲気が漂っているって言うか……

あまり信用したくない大人だったりするんだよな。

 

『比企谷、何か相談があるなら私を頼れ』

 

っふと休日のあの言葉が頭をよぎる

先日会ったあの人を思い出す。

 

確か……平塚先生だったか。

相談してみるのもありだな。

 

「まぁ、うちの担任はナルシストで自分の事以外興味なさそうだしな。それよりも別であてがあるからそっちで相談してみるわ」

 

「そうですか、早く解決できるといいですね」

 

そんな事無くすためにこの問題はさっさと解決しないとな。

 

「そうだな」

 

放課後にでも職員室寄って相談してみるか。

 

「……っで、この女は誰ですか?」

 

おや、さっきも感じた雰囲気悪い一色がぶり返したぞ?

冗談じゃ無かったのかな?

 

「あぁ、この人は戸塚先輩と言ってな。驚くなよ、実は天使なんだ」

 

とりあえず淡々と事実だけを一色に伝えて見る。

 

「はぁ? せんぱい今日は一段と気持ち悪いですね。……私が聞いているのはそんな事じゃ無くてっ!」

 

「本当なんだがなぁ……」

 

こうして、昼休み終了のチャイムが鳴るまで、しつこく戸塚先輩の事を聞いてくる一色に付き合う羽目になった。

 

事実を伝えているはずなんだけどなぁ……。

 

 

***

 

 

今日の学校の授業は全て終わり、放課後の廊下では明日から始まる連休の話題で談笑を交える生徒達とすれ違う。

目的の部屋に到着し、ふぅっと息を整える。

 

職員室に入る機会はそうそう無い。

自分の中でも少し緊張気味なのが分かる。

 

職員室の扉を数回ノックし、失礼しますと扉を開く。

中は空調が効いており、廊下よりも温かい。

 

ちょっとだけ教師だけずるいなという感情が芽生えたが、今はどうでも良いことなので思考を切り捨てた。

 

職員室の少し奥の方に見覚えのある後ろ姿を見つけた。

どうやら本当にうちの先生だったらしい。

 

俺は、その後ろ姿のデスクまで足を進め、平塚先生の後ろまでやってきた。

 

平塚先生はどうやら配布するプリントを作成しているのか、パソコンで打ち込んでいる様子だ。

 

作業途中の姿を見てしまい、声をかけるのを躊躇ってしまう。

 

タイピングで固定された姿勢を変えようとすると共に、黒く艶のある長い髪の毛が揺れる。

この姿をじっと見ていたいという思いに駆られたが、どうやら俺の存在に気づいたようだ。

平塚先生はタイピングを止め、椅子を回転させこちらへと目を向けた。

 

「比企谷か、どうした何か相談か?」

 

「はい」

 

「そうか……それでは一旦あっちに行ってもらって良いか?すぐ向かう」

 

そう言って、平塚先生は職員室奥にあるパーティションで区切られたスペースを指で指した。

 

「わかりました」

 

平塚先生の指し示したスペースへ足を進めると、煙草の薄い香りが鼻腔に入ってきた。

ここはどうやら教師達の喫煙スペースを兼ねているようだ。

 

ソファーが2種類あった。

片方が大人3名が座れるほどの革張りのソファーが1席とガラステーブルを挟み同様の1人用ソファーが2席隣り合うように置かれている。

 

俺は1人用のソファーに腰を下ろた。

なかなか高いソファーなのか深く沈む。

 

あまり慣れない場所であるのか、俺は自分が若干緊張しているのが分かる。

 

平塚先生は俺が着席した後1分もしないうちにスペースに入ってきて俺の目の前の席に腰掛けた。

そしておもむろに胸ポケットから煙草を取り出す。

 

「すまない、いいか?」

 

そう言って平塚先生は煙草を見せる。

俺は頷いてそれを了承した。

 

平塚先生は煙草の箱をトントンと叩き葉を詰め、1本取り出し火を付ける。

タールの濃厚な香りと青白い煙が辺り一面に漂う。

 

平塚先生は俺に配慮してか、横に煙を吐いた。

それと同時に、俺へ視線を向けて微笑めいた表情で口を開いた。

 

「さて比企谷、どうした?」

 

優しく落ち着いた口調に、心地よさすら感じた。

先ほど迄の緊張感が和らぎ、動揺せずに言葉を口にすることができた。

 

「はい、実は……」

 

それから俺はグループチャットにて俺の行動を監視している人間がいる。

それによって被害を被った先日の事件を平塚先生に話した。

 

「なるほど、写真を投稿した人間には話を聞いたのか?」

 

「聞きました。どうやら画像は投稿した本人でなくて、大元はSNSの鍵アカウントを利用して投稿してるみたいです」

 

「ふむ、となると運営側に報告してアカウント停止はどうだ?」

 

「停止されても別アカウントで復活される恐れがあります。その場合、警戒される可能性も無きにしもあらずなので…」

 

「そうか、下手に動かれると面倒な訳だな」

 

平塚先生はふむ、と腕を組み両目を閉じて頷いていた。

それと同時に何か別の策が無いかを考えている様子だった。

 

「ですのでネット上では無く、リアルで突き止めるのが効果的では無いかと」

 

「なるほど。その対処については教員側も協力できるはずだ」

 

「ただ、ここまで来てなんですが、俺はそこまで大事にはしたくは無いんです」

 

1番の問題はここだ。

俺自体がそこまでこの問題をおおっぴらにはしたくない。

 

この問題がおおっぴらにされた後に流れる情報で一色いろはや、戸塚彩加、由比ヶ浜結衣にまで影響を及ぼすことになる。

 

俺だけの問題で彼女らに迷惑をかけることはあってはならないのだ。

 

「そうだろうな……しかし、教員側が動くとなるとやはり学校中に知れ渡る事になる」

 

「ですよねぇ……」

 

顎に手を当て、考えている平塚先生の姿は真剣に考えてくれているのだと分かる。

俺のあまり大事にしたくは無いというわがままも汲んでくれている。

無茶なお願いをしているのは分かっているが何か打開策は無い物かと頼ってしまう。

 

「ひとつ、解決策というわけでは無いが、大事にせずに動ける方法ならある」

 

「なんですかそれは」

 

「あぁ、奉仕部という部活動があってだな。そこだったら大事にせず解決できるかもしれん」

 

「と言う事は先生では難しいと言う事ですか」

 

「大事にせず助けたいという気持ちは十分にあるのだが、私も教員という立場なのでな。教員が動かない方法と言ったらこれ位しかできない。先日相談にのると大言を吐いたばかりなのにな……すまない」

 

「いえ、確かに相談にはのってもらえましたし、希望は見えました。その奉仕部を紹介してもらってもいいですか?」

 

「わかった。では向かうとしようか」

 

そう言って平塚先生と俺は立ち上がり、忙しなく教員が動いている職員室を後にした。

 

 

***

 

 

特別棟の階段を平塚先生は一段一段飛ばさずに上がっていく。

俺もそれにつられ、平塚先生の後を追うように階段を上がっていった。

 

特別棟は教室棟より生徒は疎らで辺りはしんっと静まっており、俺と平塚先生2人の階段を上がる靴の音のみが耳に入る。

 

「比企谷」

 

ふと階段を上りながら、平塚先生は俺の名を呼ぶ。

それに応答するように俺もはいと返事をした。

 

「特別棟に来るのは初めてか?」

 

「来るとしても1階にある購買くらいですよね。2階以上の階層には行ったことはないです」

 

「そうか、たまには足を運ぶのも悪くないぞ」

 

「まぁ、考えておきます」

 

そう言って会話が終了した。

 

俺たちは、そのまま4階まで上がり、廊下を迷うこと無く進む平塚先生の後を追う。

平塚先生が立ち止まった場所、どうやらここが奉仕部の部室らしい。

 

何も書かれていない教室の前に俺と平塚先生は立ち、先生は教室の引き戸を開けた。

 



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#9-2

教室の引き戸を開いた。

室内の空気が新たな道を見つけ、そこをめがけ流れを作りだした。

その流に逆らうように立ち尽くす俺に、空気の流れは淡くフルーティーな香りを鼻腔に残していった。

 

室内に入った時、一番先に目についた光景は1人の美少女の姿だ。

長い艶のある黒髪が揺れ、整った顔立ちと透明感のあるきめ細やかな肌がレースのカーテンで柔らかくなった日射で彩られ、静かに文庫本をめくるその姿に俺は呼吸をするのを忘れる程、魅入ってしまった。

 

彼女が文庫本をゆっくり閉じて机に置く。

顔をこちらに向けた時、あまりに綺麗だったので息をのんだ。

 

「平塚先生。何度も言っていますが、入室の際はノックして入って頂けないでしょうか?」

 

その声で俺は現実に引き戻される。

彼女の履いている上履きの色を見る。

どうやら2年生のようだ。

 

おいおい2年生……美少女揃いすぎだろ。

この人が大ボスかよ。

 

「悪い悪い」

 

反省する様子は無い様な口調で軽く平塚先生は謝る。

 

「それが悪いと思っている人の態度だと思えないのですが」

 

「まぁそう言うな雪ノ下、そう言ってお前が返事をした試しがないだろ?」

 

「先生が返事をする前に入ってくるんですよ」

 

どうやら彼女は雪ノ下と言う名らしい。

彼女の視線が俺へと切り替わる。

ゾクッと冷ややかな感覚にとらわれた。

 

「平塚先生、彼は?」

 

彼女の言葉が耳に届く。

凛とした声色は彼女の姿にふさわしく思えた。

 

「比企谷八幡です。宜しくお願いしましゅ」

 

緊張が口調にも現れてしまったらしい、かみかみな口調で自己紹介をしてしまった。

やばい、もう帰りたい。

 

「比企谷……」

 

彼女はそうつぶやくと少し目を見開いた様子だったが、すぐに元に戻った。

 

なんだ?新しい無言語コミュニケーションか?

それとも俺の存在感を感じ取るには何かしなきゃ見えないとか?

俺は幻のシックスマンかよ。

いや、おれはエイトマンだ。

出番こなくね?万年補欠じゃねーか。

 

「私は雪ノ下雪乃、2年生よ」

 

『2年生』という部分を強調した感じだとどうやら年上を敬いなさいと遠回しに言ってるように感じられた。

まぁ、年齢的には変わらねぇんだけどな。

 

「何か不服でもの申したいって表情をしているわね。どうぞ、学年が下といえど言論の自由は保障されてるわ。叩き潰すだけだけれど」

 

俺の考えを悟ったのか雪ノ下先輩は不快気に眉を寄せこちらを見返してくる。

 

先ほどまで俺が彼女に感じた清純なイメージとはかけ離れた言葉を向けられ、俺の中の彼女へのイメージが崩れ去る音がした。

 

っふと太宰治の「グッド・バイ」でも似たような場面があったことを思いだした。

声色が悪いせいですごい美人が台無しって表現だったか?

しかし目の前の雪ノ下先輩は声色は悪くないのだ。

口が悪い。

 

「雪ノ下、彼は依頼人だ。虐めてやるな」

 

うまい具合に平塚先生が割って入ってきてくれた。

 

「依頼人……なるほど。では彼はこの部がどういう部かご存じなのでしょうか?」

 

「そこまでの説明はしていない。お前に任せる」

 

雪ノ下先輩は諦めたかのように軽く嘆息をつき、俺へと目線を合わせる。

 

「この部は奉仕部よ。迷いし子羊を善き羊飼いが救済する為の部活動よ」

 

無償の人助け的な奴?ボランティア的なものか。

分かることは人が来る依頼を請け負う助ける部活だ。

 

「とりあえず、依頼を請け負う部活って認識でいいですか?」

 

「近いけれど認識に違いがあると嫌なのでもう少し詳細に説明させてもらうわ。」

 

そういうとこほんと咳き込んだ後、姿勢を正して口を開いた。

 

「常に結果を与え続けず、方法を教えてあげるそんな部活よ」

 

なんか聞いたことがあるな。

 

「魚を与えるのではなく魚を釣る方法を教えてあげるって言葉のほうが理解しやすいかしら」

 

確かに聞いたことのある言葉だ。

つまりは方法探してやっからあとは自分で試せって部活動ね。

 

「私は優れた人間は哀れな者を救う義務があると教えたんだがな」

 

補足を入れるかのように話す平塚先生の言葉が耳に入る。

確かノブレス・オブリージュって奴か。

言葉カッコいいよな。なんか高貴な感じがする。

 

「それで?あなたはどんな依頼かしら」

 

それを考えて、よくよくこの雪ノ下先輩を見ると気品のある容姿と丁寧な言葉遣いを見るに貴族みたいな雰囲気は出している……さっき叩き潰すって言っていたけれどな。

ノブレス・オブリージュって確か貴族はその身分に対する責務を果たせってそんな意味だったはずだ、雪ノ下先輩に限定するなら言葉として間違っちゃいねぇ。

他の部員もこんな感じなのか?それだったらギスギスしすぎだろこの部活。

 

「どうも最近、俺をストーキングしている奴がいまして」

 

「物珍しい方もいるものね」

 

言われると癪だがあながち間違ってもいないから何も言い返せねぇ……

 

「まぁ、俺が女子と二人でいるとなぜかそいつが盗撮してSNSにあげちまっている。俺はそれをどうにかしたいんです」

 

「それなら教師に言うなり、SNSの運営会社にアカウント停止の申請ができるのでは?」

 

そう言って、雪ノ下先輩は平塚先生に目をやる。

平塚先生は首を横に振り、その案は既に却下されたのだと表現で雪ノ下先輩に伝えていた。

 

「教師に言うと大事になってしまいますから、それは避けたい所なんです。アカウント停止申請ももっともな話なんですが、新たにアカウント作成され、かつ相手側に動きを勘づかれて警戒される恐れが出てくるので……」

 

「別に恐れることは無いわ、まずはアカウントを停止申請から始めてはいかがかしら?あと平塚先生も話を聞いているのであればあなたの担任にその旨をお伝えして即刻HRで話をするなりすれば解決するのでは?」

 

「いやそれは……」

 

いくら何でもリスクが高すぎる。

ちょっと真っ直ぐ過ぎやしませんかねこの人。

そう考えていると横から平塚先生が助け船を出してくれた。

 

「まて、雪ノ下。少し考えてみろ、ネット上の面識が割れていない状況は違うぞ」

 

雪ノ下先輩は平塚先生の助言を元に再度考えて居る様子だった。

そして考えがまとまったのか静かに口を開く。

 

「確かに、下手な動きをすると暴走しかねないわね。同じ学校でさらに顔、名前が知られている相手だとするとその対応は確かにリスクを秘めているわ」

 

良かった。

ご納得して頂けたようだ。

 

「話の続きなんですが……それで平塚先生に相談したところ奉仕部って言う部活があるから大事にしたくないならばまずは相談してみてはどうだって話でここに来たって訳です」

 

「なるほど、話の経緯は分かったわ」

 

「今後俺を監視する様な真似をしないようにしてもらえればそれでいいです」

 

「では裁判にしましょう」

 

「そうです……? えっ? ちょちょちょ!? なんでそんな話になるんですか?」

 

雪ノ下先輩?

人の話聞いていました?話の流れ完全に無視していますよね。ちょっといきなりぶっ飛んだこと言わないでもらっても良いですかね?

 

「比企谷君、こういった人のプライベートを拡散する行為って、プライバシーの侵害といって個人の隠したいと言う意思を踏みにじる最低な行為よ。自分の姿を現さず、あなただけを狙い晒すということは、あなたが人畜無害な人間であり何も反抗をしてこないから図にのって続いているだけであって、あなたがその気ならすぐさま警察へ通報し犯人の住所を割り出せるし、肖像権の侵害で裁判沙汰に仕立て上げられるけれどいかがかしら? 弁護士の用意なら任せて」

 

そんな月9ドラマバリの大事にしたくないからここに来たんだよ……。

 

「それは最終手段に取っておきましょう。まずは犯人を探すというアプローチから初めて行くのはどうですかね?」

 

俺の必殺、面倒な案は『それ、リーサルウエポンにしようぜ』

意味はゲームで最後の最後まで使わない完全回復アイテム的な立ち位置。

 

雪ノ下先輩はふむっと頷いた後、顎に手を当て少し考えていた。

 

「犯人の姿は見た覚えはないの?」

 

「みてないです。いつの間にか撮られていたので」

 

「なるほど。……となると最初に犯人をおびき寄せる必要があるわね」

 

「どうやっておびき寄せるんですか?」

 

「比企谷君、連休明けで良いわ。お昼休み、一緒にご飯はどうかしら?」

 

「は?」

 

ほんといきなり突拍子もない事を言い始めるなこの先輩は。

 

「勘違いして欲しく無いのだけれど、女子と2人の時のみに撮影をされているということは私と一緒にいることで犯人をおびき寄せることができるのではないかという事よ」

 

「えっ?俺も協力するの?」

 

「当たり前じゃない。人任せにして良いとは一言も言っていないわ。それに見つけるにあたって見ての通り人手が足りないのよ」

 

まぁ、一人で動けない分、協力者がいると言うことは願ったり叶ったりだな。

 

「ん?この部活、他の部員はどうしたんですか?」

 

そう言って俺は平塚先生を見る。

 

「この部には雪ノ下以外居ないぞ」

 

平塚先生?

なに『当たり前だろ?そんなの』たいな表情で話してるんですか?

それもはや部活じゃないような気がしますけど?

 

「部員は1人ですか……さいですか」

 

まぁ、人任せにするような案件でもねぇしな。

仕方が無い、協力して見つけることにしよう。

 

「まぁ、私のような女の子とお昼を一緒にできるんだから、あなたはむせび泣いて喜んでも良いかはずなんだけれど」

 

「どこのお嬢様ですかね?時代錯誤感半端ないっすよ?」

 

「なぜ? あなた、私のこと見たときすぐに可愛いって思ったでしょ? その通りよ」

 

なんで俺の周りの女子は皆自分で自分のこと可愛いとか言いやがるんだ。

その通りだから何も言い返せねぇ……

 

「いやそうじゃなくて、もう少し言い方がありますよね?」

 

「あら?私、頭を使うしゃべり方をしていたかしら?」

 

これちょっと話がそれていっているな。

俺がディスられていく方面でな……

そんなのご免被りたいのでさっさと話戻そう。

 

「まぁ話を戻しますけれど。ちょっと気になったのが雪ノ下先輩が俺と写真を撮られるとトラブルに巻き込まれる可能性が出てくると思ったんですよ」

 

「それはどうしてそう考えられるの?」

 

「以前に俺と一緒に写真を撮られた女子がなんかそれを機に男子に言い寄られるトラブルに巻き込まれた事がありましてね。とりあえず解決はしたのですが……その案だと、雪ノ下先輩がトラブルに巻き込まれないかなと思いまして」

 

「ふぅん。ご心配ありがとう。でも私そんなこと全く気にしないから、大丈夫よ」

 

まぁ、寄ってきた男がいたとしてもこの毒舌で心折れるだろうしな。

俺もこいつが女じゃなきゃ顔面殴りつけていたところだ。

 

「はぁ……」

 

「対応は連休明けということで大丈夫?」

 

「大丈夫です」

 

「では、そのように」

 

話は一段落して一旦緊張感が和らいだ。

なぜ気軽に相談してみよーぜーの流れだったはずなのにいざ箱を開いてみると誹謗中傷言われないといけないのか腑に落ちないがまぁ、協力者を得るという所で解決への一歩は踏み出せただろうと自分自身に言い聞かせた。

 

共通する話題が無くなり、シンっと静まった室内で雪ノ下先輩がテーブルに置いてあるカップを手に持つ音が聞こえた。

 

彼女はそのまま紅茶を口にする。

ティーカップに口を付け紅茶を飲む姿も上品で絵になっている。

 

カップから動いた事により香りが拡散されたのかふわっとした甘い上品な香りが鼻腔を抜ける。

 

どうやらその視線に気がついたかのように雪ノ下先輩が視線を向けた

 

「あら?あなたも飲む?」

 

「良いんですか?」

 

「いいわ。趣味でやってるもので、あまり上手とは言えないけれど」

 

「おぉ、雪ノ下ちょうどいい、私にも入れてくれないか」

 

そう言って近場の椅子を1つ引き寄せて平塚先生はそこに腰下ろした。

 

「はぁ……平塚先生はガツガツと飲み過ぎなんですよ。茶葉がいくらあってもたりなくなります。部活動経費があるなら別ですが」

 

「そういうな、雪ノ下。お前の入れる紅茶はうまい。自信を持て」

 

「それとこれとは話が別な気がしますが……まぁいいです。」

 

そう言って雪ノ下先輩は立ち上がると窓際に置いてある場所に移動した。

2つの紙コップに用意し、ティーパックを入れて電子ケトルからお湯を注ぐ。

しばらくして、雪ノ下よりどうぞとほのかに香る甘い香りの紅茶が差し出された。

 

「すいません、ちょっと猫舌なもんで少し待ってから飲んでも大丈夫ですかね?」

 

「あら、急かしてごめんなさい」

 

「やはりなかなかうまいぞ、雪ノ下」

 

「平塚先生、うまいしか言っていませんが他に表現できる事は無いのでしょうか?」

 

「ない!」

 

「現国教師がそれでいいのですか……」

 

「仕事で無いならそれでい〜い〜」

 

なんか気だるそうに姿勢を崩し言葉を崩す平塚先生を前に、俺は職員室で話をしたあのイケメンな平塚先生が崩れ去っていくのを感じた。

 

とりあえずこれで良かったのだろうか。

様々な不安が残っているが、まぁ問題の解決に向けて進んでいるだろいと踏んで、俺は紙コップに入った紅茶を啜るように飲むのであった。

 

あっっつ!!

 

 



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