エンドスタート (まゆう)
しおりを挟む

番外編
篠宮束と彼女の初遭遇


リハビリ代わりの番外編を書いてみました。
キャラが迷子で読みにくいと思いますが良ければ楽しんでいただければ幸いです。

エタらないで本編も少しずつ進めていきたいと思いますので、よろしくお願いします!


「ふぁ〜〜」

 

 防衛任務も休みでさらに学校も休みとあって10時過ぎまでたっぷり睡眠を取って、朝食と昼食を一緒にして食堂でご飯を食べたおれはいつものようにランク戦ブースへと足を運んでいた。

 いつもなら誰かしら適当な相手を見つけてランク戦に入り浸る所だけど今日のおれはしっかりと目的がある。

 

 その目的は、期待の新人の実力を確かめることだ! 

 

 つい先日ボーダーの入隊式が行われて新たにそれなりの数のC級隊員がおれたちの仲間に加わった。

 初めは全員一律1000ポイントから始め、訓練やソロのランク戦で鎬を削りならが正隊員になる為に必要な4000ポイントを目指すことになる。

 だけど、その中にも例外がある。

 

 入隊試験を終えて受かった訓練生は正式入隊日まで仮入隊という形で訓練を行うことができる。その中でも才能を認められた隊員には初期の1000ポイントにある程度のボーナスがつく。

 本来なら多くても1000程度のボーナスなんだけど、今回噂になってる訓練生の初期ポイントは3600、しかも同い年。

 

 これは是非とも実力を確かめたい! というわけでおれはソロランク戦ブースを目指しているわけだ。

 

 ランク戦ブースに到着し少し周りを見渡すとおれのよく知る映画大好き攻撃手の先輩がいた。

 

「荒船さ〜ん、こんにちは〜」

 

「ん? あぁ、篠宮か。元気だな」

 

 この人は荒船哲次さん理論を組み立ててマスターランクまで到達した理論派攻撃手だ。面倒見も良くてたくさんの人に慕われてる。弱点は全く泳げないことと、犬が苦手なこと。どっちもかなりの重症でその時だけはとても情けないことになるのも慕われる一因な気がする。

 

「もちろん元気だよ! それでさ、荒船さんはあのこと知ってる?」

 

「あのこと? あぁ、あれか。超有望な訓練生の話か」

 

「そう! それそれ! 誰だかわかる?」

 

 荒船さんも噂はしっかり把握してたらしくすぐにおれの話を理解してくれて、ブース前の人だかりを指差した。

 

「どうやらあの人だかりらしいぞ。さっきまでランク戦を見てたがなかなかの実力だった」

 

「へぇ〜、荒船さんがそう言うなら期待できるね! ちょっと行ってくる!」

 

「あ、おい篠宮!」

 

 荒船さんの呼び止める声を無視しておれは人だかりに向けて走って行った。

 

 人混みをかき分けて期待の訓練生を視界に収めたときの第一印象は「随分綺麗な子だなぁ〜」だった。ボーダーの女性は桐絵とかを筆頭に綺麗な人が多いけどこの子は見劣りしないくらいには綺麗な顔立ちだった。

 もっとも少し吊り上がった目から何というか生意気そうな感じがびんびんと感じられたんだけど。

 

 まぁ、なんにせよ今回のおれの目的はこの子なわけでとりあえず声を掛けないといけない。

 

「初めまして! おれは本部所属のソロのA級で篠宮束、多分君と同じで中学2年だ! よろしくな!」

 

 そう言って彼女に向けて手を出すと、目の前の女の子は「……A級」と小さく呟いてからおれと目を合わせて自己紹介をしてくれた。

 

「初めまして、私は木虎藍。よろしく、篠宮くん」

 

 木虎が出した手を取ってくれたのでそのまま握手をして数回腕をブンブンと振ってみたがどうやら木虎にはお気に召さなかったらしくてを振り払われてしまった。

 

「急に何をするのよ!」

 

「いやぁ〜、ごめんごめん。ついついね」

 

「はぁ、それでA級隊員が何の用かしら。わざわざこんなことをしに来たわけじゃないでしょ」

 

「お、話が早くて助かるよ。ここでさポイントの増減が無ければ正隊員とも模擬戦できるの知ってる?」

 

 このランク戦ブースではC級隊員同士、正隊員同士で模擬戦を行うとポイントの増減が発生するが、ポイントの増減を無くせば正隊員と訓練生でも模擬戦が可能だ。

 とは言え、訓練生が使えるトリガーの数はたった1つ。もし訓練生と模擬戦をするならトリガーの数は1つに制限すべきだしおれもそうするつもりだ。

 

「知らなかったけど、つまり貴方は私と模擬戦がしたいということよね?」

 

「その通り! おれのメインはスコーピオンなんだけどこっちもスコーピオン1つでやるから戦おう! 入隊した時点で3600ポイントも貰った君の実力が知りたいんだ」

 

「そうね、同い年とはいえA級隊員と戦えるならいい機会だわ。ぜひ、お願いするわ」

 

「よしきた! それじゃあおれは105に入るからよろしくな!」

 

「ええ、こちらこそ。それと、別に他のトリガーも使っていいわよ」

 

「う〜ん、まぁ考えてはおくけど。多分必要ないんじゃないかな?」

 

 才能があると言ってもまだ訓練生。それに対しておれは3年間ここで自分の強さに磨きをかけてきた。スコーピオン1つだけでも訓練生に負けるつもりもないし、他のトリガーを使って公平性を蔑ろにするつもりもない。おれにとっては当然のこととして答えたつもりなんだけど、どうやら木虎はそうは受け取ってくれなかったらしい。

「必ず使わせるから!」と、そう言って怒りながらブースに行ってしまった。

 俺がやってしまったか、と思い呆然としていると

 

「まぁ、見た感じ気の強そうなやつだしな。とりあえず俺も楽しみにしてるからいい戦いを見せてくれ」

 

 そう言って荒船さんが頭に手を置きながら声をかけてくれた。

 

「了解です。負けるつもりはかけらもないですから!」

 

 おれはそう荒船さんに言い残して指定したブースへと入っていった。

 

 

 

 ・

 

 

 

「ん? おぉーカゲ、ランク戦でもしにきたのか?」

 

「なんなんだよ、この人だかりはよぉ」

 

 ランク戦室のロビーに入ってきた見慣れたボサボサの髪を見つけて荒船が声をかけると、いつものごとく粗野な口調で影浦が人混みを睨みながら返事をした。影浦はサイドエフェクトの影響であまり人混みを好まないのでいつもに増して刺々しい。

 

「見ろよ、今篠宮と今季入隊の有望株が模擬戦してんだ」

 

「なんであいつがわざわざ訓練生なんかと模擬戦してんだよ」

 

 影浦からすれば訓練生なんて相手するだけ無駄な雑魚の集まり。偶にできるやつもいるがわざわざそいつと模擬戦をしようとは思わないだろう。自分と近しい実力である束がわざわざ訓練生と模擬戦をする理由がわからなかった。

 

「まぁ、入隊した時点で3600ポイントが付いてて自分と同学年って事でどんなもんか気になったんだろ」

 

「3600だぁ、確かにそりゃなかなか見ねぇがボロカスにやられてんじゃねぇか」

 

 影浦の言う通りオーソドックスなルールである10本勝負でもう既に5本が終了し、束が5本を先取している。それも一方的に。

 

 6本目が始まるが木虎の拳銃(ハンドガン)から放たれるアステロイドは完全に射線が読まれ掠りもしない。そして束は弾丸を確実に避けつつしっかりと間合いを詰めている。

 

「確かに多少はできるやつみてぇだがこの程度ならたかが知れてるぜ」

 

 木虎は射線を読まれていることに早い段階で気付き、それに対応する工夫もしているがこの場合は束がうますぎた。束の機動力はボーダー随一、それはたとえ機動戦用のオプショントリガーを使えなくても変わらない。

 変幻自在のアクロバティックな動きに木虎は対応しきれていない。

 

「まぁ、いきなり篠宮のあの動きについて行けってのはだいぶ酷だろ」

 

「はっ! だとしてもこれじゃああいつの期待は満たされねぇだろうよ」

 

 そう行っている間にも束のスコーピオンが木虎のトリオン供給器官を刺し貫き6本目が終了する。このまま模擬戦が続くなら間違いなく影浦の言う通り束の期待は裏切られることになるだろう。

 

 だがそうはならない、彼女は木虎藍。

 

 1年後、A級5位嵐山隊のエースとなり篠宮束の良き友人に、そして好敵手とも呼べる存在になる少女だ。

 

 

 

 ・

 

 

 

(くっ、いくらA級と言っても同い年。まさかこんなに差があるなんて……)

 

 木虎には屈辱と焦りがあった。ボーダーへの仮入隊で才能を認められポイントに大きなボーナスをもらい、入隊後最初の訓練でも歴代で最速の記録を叩き出した。正隊員達にも褒められ、エンジニアや上の人達にも声をかけられる。

 調子に乗っていない、そう言えば嘘になるだろう。訓練生にも自分と同じくらいできる隊員はいなかったし、正隊員の模擬戦を見ても自分よりも動きの悪い人も多くいた。

 

 だからこそ、束に声をかけられたとき思ってしまった。「A級とはいえ同い年ならきっと自分でも勝てるだろう」と。

 

 蓋を開けてみれば大きな間違いだった。ここまで8本を終えて木虎の勝ちはゼロ。最初からここまでずっと圧倒され続けている。正式に入隊してまだ一週間程度とはいえ、木虎は自信を粉々に砕かれた気分だった。

 

(くっ、この動き……。同じトリオン体の筈なのに動きが全く違う!)

 

 今も木虎は動きを予測して偏差射撃を繰り返している。恐らく正隊員でもこの銃撃を完璧に回避できるかと問われれば難しいと答える隊員の方が多いだろう。

 

 だが、篠宮束はそれをやる。

 

 ボーダー随一の機動力、そして間違いなくボーダー最高の身体操作能力、最後に3年間の研鑽、それが合わさってこそのボーダー攻撃手ランク第4位、篠宮束だ。

 

 束が木虎の拳銃を蹴り上げる。

 

「くっ!」

 

 木虎は蹴り上げられた勢いも利用して後ろに下がる。ここまでの戦いで束の間合いは把握している。まずは距離をとってそこから立て直そうと考えたが、その後は訪れなかった。

 

「まだこれは見せてなかったよね。そこも間合いだよ」

 

 木虎の首が落ちる。

 

(今のは……なんて速さなの……)

 

 瞬間的に伸縮した鞭のようにしなるスコーピオンの高速斬撃が木虎の首を落としたのだ。

 

「やっぱり、他のトリガーはいらなかったね」

 

『戦闘体活動限界、木虎ダウン』

 

 木虎の体が緊急離脱用のベッドに落ちる。そのタイミングでブースに束から通信が入った。

 

「実力は大体把握できたかな。充分強かったし、すぐ正隊員になれると思うよ。でも、多分おれには勝てない。まだやる?」

 

 束にとってはもともと勝てて当然の勝負だ。同じトリガー1つの制限があっても訓練生に負けるわけにはいかない。とは言え木虎が強かったのも事実だった。結果で見れば圧倒してるのは束だが木虎はしっかり束の動きを把握し、対応していた。

 

「私はどうやら思い上がってたみたいね……。ありがとう篠宮くん、感謝するわ。……その上で、最後まで戦って欲しい」

 

 ここまでの戦いで束の実力は充分わかった。トリガーを1つしか使ってない以上本来の実力はさらに高いだろう。

 それでも、負けっぱなしでは終われない。

 

 木虎藍は負けず嫌いな少女だった。

 

 

 

 ・

 

 

 

「最後まで戦って欲しい」

 

 多分木虎には最初慢心があったんだと思う。A級とはいえ同い年のおれにならいい勝負、いや、「勝てる」ときっと思っていたんだろう。実際まだ正式入隊から一週間程度だったけど木虎の実力は高かった。すぐにでも正隊員に上がれるだろうし、現状でもB級下位とならいい勝負どころか勝つこともできるだろう。

 

 それでもここまでおれ相手に9連敗。それも木虎の対応も踏まえた上でそれを圧倒するような戦い方をした。いくら才能があってもこの程度で心が折れるならその程度だと思ったからだ。

 

 だが、どうやら木虎の心はまだまだ折れてないらしい。むしろ、最後は必ず一矢報いてやる、そういう気迫が表情と言葉から伝わった。これは最後まで少しも油断はできない。

 

「わかった、やろうか。まぁ、負けるつもりはないけどね」

 

 その言葉を合図に仮想空間への転送が始まる。

 

 ある程度の間合いを確保した状態で転送され、先に動いたのは木虎だった。そして、その動きは完璧におれの意表を突いた。

 

 距離をとっての射撃、ではなく。木虎が選んだのは真正面からの突撃だった。

 

「いいね! 真っ向勝負は望むところだ!」

 

「真っ向勝負? そんなことしないわよ。勝てるわけないもの」

 

 射撃を絡めながら真正面からの突撃してきた木虎を迎撃するためにおれも片刃の形状でスコーピオンを生成し迎え討とうとした瞬間、木虎は斜め前方、つまりおれの真横に向かって一気に跳んだ! 

 

「それくらいじゃ意表はつけないよ!」

 

 その程度の変化で一本をくれてやるつもりはない、正面に振り下ろそうとしていたスコーピオンを振り下ろしの途中から真横への体ごと振り回す横薙ぎへと変化させる。

 

「この程度で有利が取れるなんて思ってないわ!」

 

 木虎を捉えるはずだった横薙ぎは木虎が当たり直前に全力で後方に跳んだことで空振りに終わる。そして、木虎はその動きの中でもしっかりと狙いをつけて射撃ができている。

 勢いのまま射線から離れ、スコーピオンを伸縮させる高速斬撃で木虎を狙うが木虎は前方に飛び込むことでこの斬撃を回避する。

 

「もう見抜いたのか。すごいね」

 

「こんな不恰好な回避しかできなかったわ」

 

 あの、高速斬撃を見抜けれる訓練生は恐らくいないだろう。一回くらっただけでそれを見抜き回避までした木虎は充分賞賛に値するはずだ。そして何より、木虎は戦い方を大幅に変えてきた。距離を取れる拳銃の有利を捨ててあえて接近戦で確実に弾丸を命中させるつもりだろう。

 あの距離のままではおれに弾丸は当たらないのだからいい判断だと言える。だがそれは木虎に接近戦に対応できる才能があってこそ。

 ここまでを見る限り木虎は充分接近戦も対応できそうだった。

 

「行くわよ!」

 

 もう一度木虎が突っ込んでくる。

 

「こっちも行くぞ!」

 

 そして今回はおれも同じタイミングで踏み出した! 

 

 木虎の銃撃を前に出ながら身体を揺らすことで回避していく。それに対して木虎はおれに当てるというよりどちらかというと動きを制限するような射撃に変えてきている。そのせいで大きく躱しながら前に出ることが難しくなった。

 木虎の狙いはゼロ距離射撃のはずだ、たしかにゼロ距離なら避ける避けないは関係ない。狙いがわかる以上距離をとって戦うこともできないことはない。でも、そんな考えで戦えば負けるのはおれだ。自分からしかけろ、相手の思惑も食い破って必ずおれが勝つ! 

 

 すでに距離はブレードの間合い。この間合いでは撃たれてから回避はいくらトリオン体の反射速度があっても間に合わない。射線を読み取り、そこに身体を入れないようにする。そして木虎が撃った、そのタイミングで深く身体を沈めそのまま斬り上げる!! 

 

 並の攻撃手なら避けられない一撃だったはずだが木虎はこれを身体を真横に晒すことで紙一重で避ける。そして、木虎は斬り上げた俺の左腕を掴みそのまま自分の方へと引っ張った! そのせいで不安定な姿勢だったおれのバランスが崩れ木虎の方へ倒れこむような形になる。

 

「くそっ!」

 

 倒れこむ前に崩れたバランスを掌握して右手に再生成したスコーピオンで首を狙って斬りかかるが、この一手は上半身を晒した木虎の首を浅く裂くに止まる。

 

 パンッ! パンッ!! 

 

 そして2発の弾丸がおれの供給機関を貫いた。

 

『トリオン供給機関破損、篠宮ダウン』

 

 ボスッ、そんな間抜けな音と共におれはブースの緊急脱出用のベッドに落ちた。最後、木虎は相打ち上等だったんだろう、だからこそあれだけ距離を詰めてきた。まぁ、結果は木虎の首は薄皮一枚裂かれた程度でおれは供給機関を撃たれて負けた。あそこで無理せずに一度しっかり立て直せば負けることは無かったかもしれないけどそれはおれの戦い方じゃない。なら、おれの戦い方を負けた9戦で頭に叩き込み最後に勝ちを拾った木虎の完勝だ。

 

 ブースを出ると目の前でカゲさんがにやにやとおれの方を見ているのを発見してしまった。ランク戦をする前はいなかったので多分途中でここに来て荒船さんあたりに声をかけられたんだろう。

 

「おい篠宮ぁ、負けてんじゃねぇか」

 

 わかるぞ、これはおれをおもちゃにしようとしてるカゲさんだ。だけど負けてしまったのは事実なので何も言えない。

 

 ぐぐぐ……、と唸っていると横から木虎に声をかけられた。

 

「篠宮くん」

 

「ん? どうしたんだ木虎」

 

 木虎は少し言い淀んだ様子を見せ、顔をしかめっ面にして一つ息を置いてから「ありがとう」とそう言った。

 

「お礼言われるようなことしてないよ。おれの方こそボコボコにして悪かった」

 

「いえ、いいのよ。むしろ本当にお礼を言いたいくらいなの。あなたのおかげで高くなりかけていた鼻を叩き折ることが出来たわ。最後の一本は本当に自分の自信にもなったし」

 

「まぁ、確かにおれに勝つつもり満々だったもんね、最初。まぁ、最後は一本取られた訳だけど」

 

 プライドの塊のように見えて自分に非があることは認めて頭を下げられるらしい。おれに迷惑をかけた訳でもないから別に何も言わなくたって良さそうなものだけど、きっと木虎は自分に厳しい性分なんだろう。そんなやつは割と好きだ。

 

「今度は正隊員になったら、貴方にまた勝負を挑むわ」

 

「もちろん、その時は受けて立つよ。次はパーフェクトだからな藍」

 

 手を差し出しながら言うと、木虎はおれが急に名前で呼んだことで少し面食らったみたいだけど「ふー」とため息をついて笑顔を見せながらおれの手を取ってくれた。

 

「ええ、次は絶対に負けないわ篠宮くん」

 

 こうしておれと藍は初めて出会い、初めてのランク戦を行ったのだった。

 

「それはそうと、藍はトリオンあんまり多くないみたいだし正隊員になったらスコーピオン教えてやるよ」

 

「……そうね、教えてもらえるなら教えてもらおうかしら」

 

 藍が正隊員になってからスコーピオンを教えた師匠はおれなのだと追記しておこう。

 

 

 

 ・

 

 

 

「篠宮くんの印象最初はこんなのじゃなかったのに」

 

 ラウンジで飲み物を飲みながら藍と話していたら急にそんなことを言われた。

 

「急になんだよ」

 

「ふと最初に会ったときのことを思い出したのよ。最初は少しふざけたところもあったけど同い年で実力もあって凄い人だって思ってたのに……」

 

 その言い方ではまるでおれがダメなやつみたいではないかと藍に文句を言えば、その通りでしょととてもありがたいお言葉を貰ってしまった。

 

「なんでおれがダメなやつなんだよ……」

 

「はぁ……、トリガーの私的利用に隊務規定違反、本部内で米屋先輩や出水先輩たちとトリオン体で大騒ぎ。ほんとに、こんな人だとは思ってなかったわ……」

 

 非常に疲れた様子を見せて、大変珍しいことに藍は机にうつ伏せにズルズルと沈んでいった。どうやら相当参ってしまったらしい。

 

「おれは藍の印象出会った頃とあんまり変わってないけどね」

 

「一応聞いておいてあげるわ」

 

 じろっ、とこちらを今にも襲い掛かりそうな眼光で睨みながら聞いてくる藍におれは笑いながら答えた。

 

「プライドが高くて自分に厳しい自信家のキレイな女の子、かな」

 

 藍はポカンとした後少し赤くなった顔を「バカじゃないの」と言いながら晒した。

 

 その後米屋先輩が空気をあえて読まずに赤くなった木虎を弄ったことで木虎の機嫌は更に下降していくことになるがそれはまた別の話である。

 




如何でしたでしょうか?よければ感想や評価どしどしお待ちしてます!!

次は本編を書く予定ですが番外編になったらすいません…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

原作前
篠宮束と影浦隊


はじめまして!ワートリのオリ主の小説になります。
良かったら読んでいただけると嬉しいです!


  界境防衛機関ボーダー。

  それは、 異世界からの侵略者『近界民(ネイバー)』と戦うための組織だ。

 

  今からおよそ4年前。おれの住むここ、三門市は近界民からの大規模な攻撃を受けた。今もなお多くの爪痕を残すこの第一次近界民侵攻は、多くの死者と行方不明者、多数の重軽傷者をだした。

 

  そして、この近界民からの攻撃を食い止めたのが、現ボーダーの前身となる組織である旧ボーダーだ。彼らはこのような事態に備えて独自に近界民特有の技術である『トリガー』を解析、研究をしてトリガーを用いて近界民たちを撃退した。

 

  この時謎の武装勢力として旧ボーダーについては様々な憶測などが飛んだらしいのだがそこは割愛させていただく。

 

  そのボーダーは瞬く間に三門市の被害地の中心に現ボーダー本部基地を作り上げ、近界民たちの出入り口である「門」を本部基地の周辺、現在の警戒区域に誘導する装置を開発した。

 

  そしてボーダーは三門市を守るための隊員を集めて今まで三門市をボーダーの脅威から守り続けている。

 

 さて、おれは三門市やボーダーの中には多いであろう近界民被害者の1人であり、ボーダーに所属する中学3年生だ。他の人と少し違うことがあるとすれば、父と母と姉、そして妹、全ての家族を失い逃げていたところを現ボーダーの幹部に助けられたことだろうか。

 

  おれは、近界民が憎い、許せない、根絶やしにしてやりたいとも思う。

  でも、それ以上に新しくできたかけがえのない、大切な仲間たちを守りたい。おれを絶望と憎しみから救ってくれた新しいボーダーの家族たちを。

 

  この物語はそんなおれ、篠宮 束(しのみや たばね)の物語だ。

 

 

 

 ・

 

 

 

  今、おれがいるのは警戒区域の中のすでに捨てられた民家の屋根の上だ。

 

  ところで、ボーダーの防衛任務について知っているだろうか?ボーダーにはいくつかの支部があり、防衛任務はそれぞれの支部を中心として5部隊、3交代制で行われている。

  本来なら部隊単位で行われる防衛任務だが、ソロの隊員が部隊に混ざったり、もっと防衛任務に入りたい隊員が集まり混成部隊で防衛任務を行うこともある。

 

  つまり、何が言いたいかと言うとだ。現在おれは影浦隊との合同防衛任務中だ。

  おれはA級ソロ隊員なので影浦隊にお邪魔させてもらってる形になる。

 

「おいこら、篠宮ぁ。なにぼ〜っとしてやがる」

 

 髪を乱雑に伸ばし放題にしているギザギザの歯が特徴のこの部隊の隊長、影浦 雅人が相変わらずの汚い口調でおれに声をかけてくる。かくゆう影さんもぼぉっとしてた。つまりはおれもカゲさんも暇なのだ。

 

「仕方ないよカゲ。こんなに暇だったら、束くんもぼぉっとしちゃうよ」

 

  この人は北添 尋。大きくて丸いこの部隊の良心だ。側から見ればまるで菩薩のようにいつでもニコニコしてるのに実はカゲさんと8度ものタイマンを繰り広げそして友情を育んだというボーダー屈指の武闘派お肉だ。

 

「うっせぇよ、ゾエ。てめぇはだまってろ!」

 

『そーだ、うるせーぞゾエ!』

 

「2人ともゾエさんに辛辣っ!」

 

  通信越しにゾエさんに暴言を吐くこの人は影浦隊のオペレーターである仁礼 ヒカリだ。この影浦隊をまとめる影の番長にして、ゾエさんに死んでこいという命令を下すパワー型軍師だ。

  ちなみにこの人は手間のかからない弟がいるせいで年下の隊員達に世話焼きたがるという厄介な性質を持っていたりする。

 

『ヒカリも無駄口叩かない方がいいんじゃない。きたよ』

 

 先輩であるヒカリ先輩にも敬語を使わないこの不遜な後輩は絵馬 ユズル。中学生の中ではおれに次ぐポイントを保有する才能抜群のこの隊の狙撃手だ。

 

『お、おらおめーら仕事だぞ。誤差3.2だ、キリキリ働けよ!』

 

  ヒカリ先輩の通信を聞きながらまずは先におれと影さんが動く。ユズルは狙撃手だから狙撃ポイントから動く必要がないし、ゾエさんは銃手で基本的に影さんのサポートに回ることが多い。

  このチームは影さんの圧倒的な近接戦闘を活かすために乱戦にあえて持ち込むような戦法を得意とする過去にA級在籍経験ももつボーダーのトップチームの1つだ。

 

「篠宮ぁ、左やれ!おれは右を片付ける」

 

「了解、カゲさん!」

 

  敵の数はそれなりに多い。だけど、おれと影浦隊にかかればこの程度何でもない。

 

  その時、後ろからおれと影さんのいる前方のトリオン兵に向けて爆撃用の射撃トリガー「炸裂弾」が降り注いだ。

  この混乱に乗じて影さんが乱戦で敵を落としていくのが影浦隊のスタイルだ。

 

  だが、今回の相手はトリオン兵。近界民を倒すための力、トリガー技術の根幹をなすトリオンを利用して作られた予めプログラミングした動きしかしないただの機械の兵隊のようなものだ。これはあくまで目くらまし。そしておれと影さんにとってはこれで十分だ。

 

  レーダーで確認できるおれの受け持ちのトリオン兵は6体。まずは1体、炸裂弾で起こされた煙からおれの方に向けて突っ込んでくるトリオン兵に攻撃手用のトリガーであるスコーピオンを一閃する!

  弱点を一撃で切り裂かれたトリオン兵は沈黙し、2体目に向かおうと目を向けた瞬間にユズルの狙撃が炸裂した。この狙撃は1番でかい砲撃用のトリオン兵であるバンダーの弱点を1発で撃ち抜く。

 

「さすがユズルだ。影さんも張り切ってるみたいだし、おれもいっちょ頑張るか!」

 

 おれと影浦隊ぐらいの実力があるならこの程度のトリオン兵は大した障害になることもない。結局それなりの数が現れたはずのトリオン兵は、ものの数分も経たないうちに全滅することになった。

 

 

 

 ・

 

 

 

  場所は変わって影浦隊の作戦室におれはお邪魔している。

  チームを組んだB級以上の正隊員には作戦室が与えられる。この作戦室には割とチームの個性が出ることが多い。例えばここ影浦隊作戦室は影さんたち男組はあまり私物の持ち込みもなく基本的には片付いている。ある一角を除けば…。

 

  おれたちは今その一角であるところのヒカリ先輩の許可なく入ることは許されない場所にいる。

 

  その名は、「こたつ」だ。

 

  ヒカリ先輩の許可なく入ることのできないこたつだけど、今はヒカリ先輩だけが追い出されてる。

  こたつの四隅を占領しているのはおれと影浦隊の戦闘員である3人だ。

 

「おら、最下位とっととカード切りやがれ」

 

「うっせぇぞ、カゲ!切ってんだろうが!」

 

  カゲさんの言葉の通り、最下位になった人はこたつの中に入ることができずに、カードを切るルールでやっている。つまり、このゲームのいまの最下位はヒカリ先輩だ。この1個前まではカゲさんだった。

  そしていつものことながらそのしわ寄せがゾエさんに行った。めちゃくちゃ足でげしげしされてる。

 

「ちょ、痛い痛いよヒカリちゃん!なんでゾエさん蹴るの!?」

 

「お前が幅取りすぎてんだよ!!」

 

「平和だねぇ、ユズル」

 

「これ平和ってゆうの?争ってるけど」

 

「楽しそうにじゃれあってるし平和でしょ」

 

「「じゃれあってねぇよ!!」」

 

「はははっ!息ぴったりだね、カゲさんもヒカリ先輩も」

 

「「ぴったりじゃねぇよ!」」

 

「ぴったりじゃん」

 

 ユズルの一言にカゲさんとヒカリ先輩は声を詰まらせた。その様子におれは声を上げて笑い、ゾエさんはいつも通りのニコニコ顔だ。そしてゾエさんに2人からの蹴りが入る。

  まったくもって酷い扱いだけどこれが影浦隊の日常風景だ。

 

「相変わらず影浦隊は楽しいね」

 

  3人の様子を目の端に捉えながらおれはユズルに声をかけた。

 

「束さんもうちに入ったら?もうずっとソロでやってるよね?」

 

「そうだ!篠宮ぁ、うち入りやがれ!」

 

「ゾエさんも束くんが入ってくれたら嬉しいよ」

 

「まかしとけ!アタシがおまえもしっかりオペレートしてやるよ!」

 

「それはすごいありがたいんだけどね…」

 

 おれはほとんどチームを組んだことがない。現ボーダー設立時から入ったおれは今のA級昇格の条件とは違うA級昇格試験を受かってA級隊員へなった。臨時でチームを組んだり、混成部隊に混ざったりする以外は基本的にチームを組んでいない。

 

  そんなおれでもチームに誘ってくれる人たちが影浦隊以外にもいる。

 

「おれをチームに誘ってくれるのは嬉しいけど、他のチームにも声かけられてるからね…。じゃあ、入ろうかとはなかなか決められないよ」

 

「いや〜束くんは真面目だね〜」

 

「んなもん気にしになくていいっつってんのによぉ」

 

「はぁ〜、束は色々考えてんだなぁ。アタシは少し寂しいぞぉ」

 

「ちょ、ヒカリ先輩やめて。わしゃわしゃしないで」

 

 ヒカリ先輩からの執拗なわしゃわしゃをこたつから出ることで逃れて、おれは作戦室の入り口の方まで歩いて行く。

 

「どこ行くの?束さん」

 

「ランク戦行ってこようと思って。カゲさんも一緒にどう?」

 

「あ、仕方ねぇなぁ。相手してやるよ」

 

「あ、おい!おめぇら勝ち逃げすんじゃねぇ!」

 

「ごめんね、ヒカリ先輩!また遊びくるから!」

 

  おい、まて!とヒカリ先輩の声を後ろに聞きながらおれとカゲさんは作戦室を素早く後にする。

  するとその後ろにゾエさんとユズルもついてきた。多分ヒカリ先輩の相手がめんどくさかったんだろう。

 

「ゾエさんとユズルはどうするの?」

 

「ゾエさんは2人のランク戦見てようかなぁ〜。ユズルは?」

 

「おれは狙撃手の訓練室に行ってくる。たぶんまだ訓練してるだろうから」

 

「そっか、じゃあまたなユズル」

 

  ユズルの頭をわしゃっとしてからユズルと別れて、おれたちはソロランク戦ブースに移動を始めた。ユズルはすごい嫌そうな顔をしてたけど、おれは気にしないことにしている。

 

 

 

  ・

 

 

 

  ソロランク戦ブースにつくと人がそれなりにいた。主に訓練生であるC級隊員が多い。

  このソロランク戦の訓練室はチーム戦用のものとは違いC級隊員たちも自由に使える。もっとも正隊員とC級ではポイントの移動のある模擬戦はできないようになっているが。

 

「じゃあおれ197番に入るからね」

 

「あぁ、10本でいいか」

 

「10本でいいんじゃない?基本これだし」

 

「そぉだな。おまえが勝ち越したら飯おごってやるよ」

 

「やった!めっちゃ頑張るよ!」

 

  おれとカゲさんがブースに入るとカゲさんからソロランク戦の申請が届く。ちなみにおれは今攻撃手ランクの第4位、カゲさんはある事情からランキングにはいってないけど、おれとカゲさんの実力はだいたい同じくらい。そこまで差はない。

 

  カゲさんからの申請を受けてトリオンで作られた仮想空間へ転送される。マップは大していじらずに市街地A、超標準マップだ。

 

  チームランク戦だと各チームのメンバーがある程度の距離を置いてランダムに配置される。だけど、ソロランク戦の場合はお互いが見える位置に転送される。これは広いマップに2人をランダムに配置すると一本に時間がかかりすぎることを防止するための措置だ。

 

  だから、転送されると同時におれとカゲさんは重さがほぼゼロでスピード型の攻撃手愛用の攻撃手用のトリガー、スコーピオンを両手に持ち斬り結んだ。

 

「オラオラどうした篠宮ぁ!このままじゃ刻んじまうぞ!!」

 

「まぁまぁ、カゲさん。勝負はまだ始まったばかりでしょ」

 

  スコーピオンは軽いがその反面脆い。つまり受太刀には向かない。おれたちはスコーピオンで斬り結びながら壊れたスコーピオンを破棄し、再生成しながら戦っている。

 

  さて、先ほども言ったがおれとカゲさんの実力は拮抗してる。実力が拮抗してる2人が斬り合えば互いをザクザクと削りながらトリオンを消耗していくことになる。

  この場合重要なのは工夫だ。いかに相手の意表をつくか、相手を崩し隙を作り出すかが重要になってくる。

 

  先に動いたのはおれだった。

 

  カゲさんのスコーピオンが空を切る。

 

「ちっ!テレポーターか!」

 

「あたり!!」

 

  おれはカゲさんの後方5メートル程度の位置にテレポーターを使い移動して、その瞬間機動戦用のオプショントリガーグラスホッパーを起動して加速しながらスコーピオンを振り切った!

 

「ちっ!この手は何度か見せてんだろうが!」

 

  テレポーターは視線を向けた先に数メートルから数十メートルテレポートするトリガーで一見強力だが移動した距離に応じて相応のインターバルが設定されている。対してグラスホッパーは機動戦用のオプショントリガーでジャンプ台を設置するトリガーだ。1個だけでなく複数に分けることも可能だがその場合は出力が落ちてしまう。この2つの機動戦用のオプショントリガーを駆使した戦い方がおれの戦闘スタイルだ。

 

  これで一本取れたらラッキー程度にしか思ってなかったけど、やっぱりカゲさんは対応してきた。

 

  でも、まだまだだ。

 

  おれはさらにカゲさんの周りをグラスホッパー を使い縦横無尽に跳ね回る。グラスホッパーを使った技の1つ、「乱反射」だ。

 

「あいっかわらずウゼェが、それも対応済みだ!!」

 

  おれが斬りかかろうとしたその瞬間を捉えてカゲさんの一撃が迫る。

 

  だけど、おれは当然カゲさんなら対応してくれると信じてた。

 

  もう一度グラスホッパーを起動する。今度はおれに向けてじゃない、カゲさんの体に当たるように置かれた1枚のグラスホッパーによりカゲさんは後方に吹っ飛んだ。

 

「まずは一本!」

 

  後方に吹き飛んだカゲさんの首を、左右のスコーピオンを無理や繋げ射程距離を伸ばす大技、「マンティス」で一気に刈り取る。

  意表をつけたおかげで普段のカゲさんなら避けられたであろう一撃が綺麗に決まった。

 

『伝達系切断、影浦ダウン』

 

  スコーピオンの特徴は軽いだけじゃない。その最大の特徴は体のどこからでも出し入れ自在で、長さも自分で調整できることだ。ただ本来スコーピオンで後方に吹っ飛んだ相手をその場から動かずに倒すことは不可能だ。

 

  それを可能にしたのが「マンティス」だ。

 

  メインとサブ両方のスコーピオンを起動し2つを強引に繋げることで、スコーピオンとしては圧倒的な射程距離を得られる。おれとカゲさんが模擬戦の中で偶然発見した技であり、使い手もおれとカゲさんぐらいしかいない。それだけ使い所が難しいということだ。

 

  ボーダーのトリガーはメインとサブに分かれている。メインに4つ、サブに4つ、計8つのトリガーをセットできるが、同時に使うことができるのはメインとサブそれぞれ1つずつが原則だ。つまり、マンティスを使えばほかにトリガーが使えなくなり逆にそこを狙われる可能性もある。

  メインとサブ両方で攻撃するのは強力な分リスクも大きいのだ。

 

「ちっ!まだ一本目だ、次行くぞ篠宮ぁ!」

 

「もちろん!今日は負けないよ!」

 

  この日のランク戦は5対5の引き分け、そのあと一本のみの延長戦をやってあとちょっとのところでおれがカゲさんに負けてしまった。

 

 

 

 ・

 

 

 

  さて、模擬戦には負けてしまったがおれはカゲさんとゾエさんの好意で飯を奢ってもらっている。

  この場には模擬戦を見ていなかったヒカリ先輩とユズルも来ている。カゲさんはものすごい嫌な顔をしていて、それをヒカリ先輩が大笑いしている光景も見慣れたものだ。

 

  鉄板の上でジュージューと美味しそうな音を鳴らしている円形の食べ物をカゲさんが慣れた手つきでひっくり返してくれる。

 

  そう、おれたちは今カゲさんの実家のお好み焼き屋「かげうら」でお好み焼きを食べている。接客業なんてできなさそうなカゲさんだけど、お店の手伝いはしっかりこなせているのは本当に不思議だ。

 

「で、結局なんでおめぇらはついて来たんだよ。おれは篠宮だけのつもりだったんだぞ!」

 

「いいじゃねぇか、いいじゃねぇか。細けぇこと気にすんじゃねぇよ。ハゲるぞ」

 

「ハゲねぇよ、ぶっ飛ばすぞ!」

 

「オレは束さんに誘われて」

 

「おれが誘いました!」

 

「ゾエさんはその場にいたから流れで」

 

「ちっ、まぁいい。せいぜい金落としてってくれや」

 

  諦めた様子でお好み焼きをまた焼き始めたカゲさんを見ながら、おれはお好み焼きをハフハフしながら食べていく。

  相変わらずカゲさんの焼くお好み焼きは絶品だ。一度食べたらやめられないし止まらない。

 

  カゲさんのお好み焼きを味わっていると、ヒカリ先輩がフーフーと冷ましたお好み焼きをおれの方にまるで食えっ!とばかりに押し付けてくる。ものすごい恥ずかしいけど、ヒカリ先輩の顔を見るに食べなければ終わらない…。周りの3人は助けてくれる気配さえない。カゲさんはニヤニヤしてるし、ゾエさんはいつも通りのニコニコ顔、ユズルに至ってはこっちを見ることすらしない。

 

  仕方がないのでヒカリ先輩からのお好み焼きを食べるとヒカリ先輩はニマッと大きく笑った。どうやらご満悦のようです。

 

「どうだ!うめぇか、束!」

 

「うん。美味しいよ、ヒカリ先輩」

 

  これだけ言い残し、隣に座るゾエさんをヒカリ先輩の方に押しのけて位置を交換する。

  ゾエさんが何かを言ってるけどあえて聞こえないふりだし、見ないふりだ!

 

  ごめんゾエさん!ヒカリ先輩からのアーンに何度も耐えられるほどの気力はないんだ!

 

「カゲさんとやるより疲れたよ…」

 

「お疲れ様。ヒカリのあれは病気みたいなものだからね」

 

「おら、これでも食っとけ!豚玉上がりだぁ!」

 

「ありがと〜カゲさん!めっちゃうまいよ!」

 

「あったりめぇだろ!しっかり食ってけよ」

 

 ある程度食べ終わったところで、作戦室で話したことについてゾエさんが話を振ってくる。

 

「そういえばうち以外だと束君どこに誘われてるの?」

 

「どこだったかな?確か太刀川隊と二宮隊と那須隊と柿崎隊、あとは荒船隊にも誘われてたかな?」

 

「は〜、さすが束くんだねぇ。A級1位にB級1位からも誘われるなんて」

 

「うちだって2位だろうが!」

 

「それは関係ないよヒカリ。束さん強いからね、そりゃあ誘われるよ」

 

「荒船んとこだけはやめとけ。弾除けになる未来しか見えねぇ」

 

  荒船隊はB級中位に位置する部隊だが、その最大の特徴はメンバー3人全員が狙撃手というところだ。ボーダーにチーム数は確か28。その中でもこれだけの尖った編成のチームはなかなかない。

 

  カゲさんの言う通り攻撃手のおれがこのチームに入れば前を一人で抑える大変な役になること間違いなしだ。

 

  うん。流石にそれは辛すぎる…。

 

「あ、そういえば!迅さんから玉狛にこないかとも言われたよ」

 

「なんか、それは物騒だね。なにか起こりそう」

 

「迅さんが言ってるってなるとなんか意味ありそぉだよなぁ」

 

「でも、それもまだ決めかねてるし。もうちょっとよく考えてみるよ」

 

「そぉしとけ。そんでうちに入れ」

 

「それも含めてね」

 

 

 

 ・

 

 

 

「ばいばーい。カゲさん今日はありがとう!」

 

「おぉ、気ーつけて帰れよぉ」

 

  解散して今は帰り道。カゲさんは実家なのでカゲさん以外の4人で歩いてる。

  おれは自分の家が警戒区域の中だし、家族もみんな居なくなってしまってる。だからボーダーに入隊した時に開発部の部長であるボーダーが誇る超有能技術者である鬼怒田さんからボーダー本部内に自分の部屋を作ってもらった。

 

「んじゃ、アタシはここだ!またな!」

 

「うん、また」

 

「またね、ヒカリちゃん」

 

「気をつけてね、ヒカリ先輩」

 

「おうおう、可愛い奴だなぁ」

 

  最後にヒカリ先輩にふんだんにわしゃわしゃされてからヒカリ先輩と別れ、次にゾエさんと別れるとユズルと2人になった。

 

「ユズルおれの部屋泊まるか?」

 

「いや、今日は帰るよ」

 

「そうか、んじゃあここまでだな。気をつけてなユズル」

 

「うん、束さんも。またね」

 

「おう、またな!」

 

  ユズルと別れ本部への直通通路へと向けて歩き出す。

  今日は色々あったけどいい日だった。こんな風に仲間と一緒に遊んでご飯を食べれるようになるなんて、入隊した時は思わなかった。

 

  復讐が第一じゃなくなったおれを疑問に思う時もあるけど、おれは今のこんな穏やかな時間が好きだし、このままでいいと思ってる。だからきっともっと強くなる。

 

  もう二度と大切なものをなくさないために。




地の文が多すぎたり、余計な情報あったりでまとまりきれていないし、キャラも掴みきってるとは言えませんが不定期になるとは思いますが連載していく予定です!

良かったら感想や評価お待ちしてます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

篠宮束のプチ騒動

第2話です。今回は束がプチ騒動を起こします。
長くなりそうなので2話に分けました。

1話もそうでしたが改行ミスってるので読みにくいと思います。すいません…。3話からは改善したいと思いますので、よろしくお願いします!


「何をしてるの!あなたは!!」

 

  ここはボーダー本部内の食堂。今の時間は真昼間。そこにこんな怒鳴り声が飛んでくれば注目の的になるのは当然だ。

 

  しかもおれに怒鳴り散らしているこの女の子はボーダー内の有名人だ。

 

  つまりは、周りの視線がすごく痛い…。

 

「本当にあなたは何を考えてるの!もっとボーダー隊員としての自覚を持ちなさい!」

 

「いや、でもさおれの方がボーダー歴は長いんだぞ?木虎」

 

「言い訳しない!!」

 

「はい!すいませんでした!」

 

  こいつの名前は木虎藍。A級5位嵐山隊のエースを中学3年生にして務める凄腕だ。嵐山隊はボーダーの広報部隊も兼ねているので実は結構有名だったりする。そうじゃなくてもこいつくらい可愛ければどっちにしろ注目を集めてただろうけど。

 

「ちょっと!篠宮くん!話聞いてるの!」

 

「あ、ごめん聞いてなかった」

 

  さらに顔を真っ赤にしながらものすごい勢いで罵倒が飛んでくる。それをめんどくさいので聞き流していると、木虎の後ろから声がかかり、木虎は慌てた様子で振り返った。

 

「木虎、どうしたんだ?そんなに怒って」

 

「あ、嵐山さん!!」

 

「嵐山さん久しぶり〜、とっきー先輩に綾辻先輩も。あとついでにさとり先輩」

 

「久しぶりだな!篠宮!」

 

  嵐山隊の隊長を務める万能手、嵐山准さん。その抜群のルックスと性格でたくさんの人を虜にしているまさにボーダーの顔だ。

  実は弟と妹が大好きのブラコンシスコンだ。

 

「うん。久しぶり、束」

 

  嵐山隊の名脇役にしてバランサー、時枝充先輩。通称とっきー先輩。多分この人がいなかったら嵐山隊は回らない、サポート能力に定評のある万能手だ。

 

「束くん久しぶり〜」

 

  オペレーターの制服を着こなしたこの人は綾辻遥先輩。見ての通り嵐山隊のオペレーターにして才色兼備の高嶺の花。ボーダー内外に数多くのファンを作るとっても綺麗な先輩だ。

  完璧に見えるけど絵心だけはなぜかなくて、あの堅物であるボーダーの司令官である城戸政宗を瞠目させたらしい…。

 

「おれはついでなの!!」

 

  このどうしても3枚目が抜けてない人は佐鳥賢先輩。ツインスナイプという必殺技を編み出し、2丁の狙撃銃を操る変態狙撃手だ。おそらく世界広しといえど狙撃銃を2丁振り回す変態はこの人だけだ。

  嵐山隊のギャグ担当。

 

「それで、一体どうしたんだ木虎?」

 

  嵐山さんが改めてといった感じでいったん間を開けて木虎に問いかけた。

  これに答える木虎はまるでたいそう呆れました、という具合にひたいに手を当てて首を振る。

 

  そして一度おれを睨んでこう言い放った。

 

「聞いてください嵐山さん!!トリガーをなくしたんですよ彼は!!」

 

  つまりおれが怒られてたのはそうゆう理由だった。

 

 

 

 ・

 

 

 

  さて、おれがトリガーをなくしたのに気がついたのは今朝のことだ。

 

  朝食も食べ終わり、学校も防衛任務も全て休みだったからおれは暇を持て余してた。

  じゃあランク戦でもしに行こうと思い、いつものようにポケットにトリガーを突っ込もうとしたときだった。

 

  いつも置いてあるはずの机の上にトリガーが置いてないことに気づいた。

 

  これはまずいと思い部屋中をどったんバッタン大探し。

 

  結局部屋の中にトリガーは見つからず仕方ないので探してもらうことにした。

 

  ボーダーのトリガーには全てのトリガーに使用したかどうか、どこにあるのかを探知できる機能が付いている。

  つまりこの機能があれば、おれのなくしたトリガーを探してもらうことができるというわけだ。

 

  だけど、これを頼みに行くということは必ずおれの師匠の1人にバレる。確実に怒られる。

  でも、背に腹は変えられない。足取りは重いけどおれはボーダー本部長であり、おれの師匠にして恩人である、忍田真史に会いに行くことした。

 

「失礼しまーす、忍田さんいますか?」

 

  挨拶をしながら本部長室に入ると、目当ての人物である忍田さんと本部長補佐を務める沢村響子さんの他にもう1人いた。

 

  そう、おそらくなんらかの報告を忍田さんにしていたであろう木虎藍だ。

 

「どうしたんだ束?ここに来るなんて珍しいな」

 

「いや、ちょっとすこーしだけその、用事が…」

 

  チラッと木虎の方を見るとどうぞ、というように目配せしてきた。

 

  木虎に聞かれればああなることはなんとなくわかってたので聞かれたくなかったけど仕方なかった。

 

「その、トリガーなくしちゃいました!」

 

  本部長室の空気が凍りついた。

 

 

 

 ・

 

 

 

「そのあと沢村さんが司令室と連絡とってくれて、食堂にあるらしいってなって今に至ります」

 

  と、これまでの顛末を嵐山さんたちに語り終わる。木虎は心底呆れているというのを隠しもせずに大きなため息をつく。

  嵐山さんたちもこれには苦笑いだ。

 

「まぁ、なんにせよトリガーが見つかったならよかったな!」

 

「ですよね!トリガー見つかったんだからそれでいいのに、藍ったら口うるさいから」

 

「口うるさいってなによ!!あなたに自覚がなさすぎるの!」

 

  おれの言葉にさらに怒りを増幅させた藍は赤かった顔をさらに赤くしておれに向かって怒鳴り散らす。

  そしてさらに注目を集める悪循環。ゴリゴリ精神が削られる…。

 

「しかしまぁ、やることなすことぶっ飛んでるよね篠宮は」

 

「いや、さとり先輩には負けるよ!どこの世界に狙撃銃2丁持ってる狙撃手いんのよ」

 

「ツインスナイプは唯一無二だからね!」

 

  さとり先輩とおバカな会話を繰り広げてる横で何やら話していた様子の嵐山さんと藍だが、なんでですか!という藍の声がこちらまで聞こえてきた。

 

「どうしたの嵐山さん?」

 

「いや、仕事のことで木虎を探してたんだけどな、篠宮も木虎も楽しそうだし2人で遊んできていいぞって言ってたところだ!」

 

  いや、嵐山さんそんなこと言ったらそりゃ藍ツンツンしちゃいますよ。

 

  とはいえ、もう嵐山隊の中でそのことは決定してしまったようだ。

 

「じゃあ、またな2人とも!」

 

  嵐山さんの爽やかな笑顔とともに嵐山隊の4人は藍を置いて食堂から去っていく。

  藍は置いていかれたままぽかんとしてる。本当に置いていかれるとは想像してなかったんだろう。

 

「とりあえず飯でも食うか」

 

「はぁ…、そうねそうしましょう。お腹も空いたし」

 

「そりゃあ、あんだけ怒鳴り続けてたらなぁ」

 

  笑いながら言った言葉に帰ってきたのは無言のひと睨みと一発のげんこつだった。

 

  こいつ、おれが生身なの忘れてやがる…。トリオン体で生身を殴るんじゃねぇよ。

 

  トリガーを起動し、トリオン体に換装すると生身よりもはるかに強靭な肉体が手に入る。それで生身の人間殴るのは本来よくない。まぁ、藍もおれ相手でなければそんなことしないだろうけど。

 

  ちなみにトリオン体に換装した後生身の肉体はトリガーに収納される。

 

  失言を最初にしたのはおれだ。仕方なくため息をついて先に進む藍を追いかけた。

 

 

 

 ・

 

 

 

「藍も飯食うときは生身に戻すんだな」

 

「ええ、トリオン体のままだと太る可能性が大きいし」

 

  このトリオン体のまま飯を食べると太るというのが女性の隊員の中の問題の1つだ。

  トリオン体はすごいもんで、食べたものの栄養をほぼ100%還元できるので、食べれば食べる分だけ体に吸収されてしまう。

  さらに満腹感が薄れてしまうとなってしまえばいくらでも食べて止まらないなんてこともある。実際エンジニアチーフの寺島雷蔵はこれで太った。

 

  だから飯を食うときにはトリオン体を解除し生身に戻す女性隊員は割と多い。

 

  木虎は他人にも厳しいがそれ以上に自分にも厳しい。そんなやつのことだからきっと体調管理や体型維持も仕事の一つとして完璧にこなしていることを想像するのは簡単だ。

 

「まぁ、そうか藍だもんな」

 

「何よそれ」

 

「お前はすごいやつだなぁってことだ」

 

「な、急に何言いだすのよ!」

 

「本当のことだぞ?」

 

「な、え…」

 

  赤くなって俯いてしまった藍を見ながらおれは海鮮丼と麻婆豆腐という謎コンビのA級定食を消費していく。

  相変わらず不意に褒められるのが弱いやつだった。

 

  だいたい飯も食い終わり食後に飲み物を飲みながら、さてこれからどうしようかと藍に話を振る。

 

「こっからどうしようか。藍もお暇を出されたんだし暇だろ?」

 

「暇だなんてことはないわ。鍛錬に、暇を出されても仕事はある。何より勉強だってしなくちゃいけないし」

 

「はぁ、真面目だねぇ藍は。お前はもっと肩の力抜いた方がいいと思うぞ」

 

「あなたは抜きすぎなのよ。実力があるんだからもっとしっかりしなさい」

 

「なんだ、おれのこと認めてくれてんのかよ」

 

「ええもちろんよ。実力は、ね」

 

「けっ、可愛くねぇやつ」

 

「可愛げなんてなくたって別にいいわ」

 

「ですか」

 

  何度繰り返したかわからない不毛なやりとりを繰り返していると、またも藍の後ろ側から声がかかった。

 

  おそらくこの相手だったらおれの後ろから来てれば嫌な顔を隠そうとしないだろうと確信できる相手だ。

 

「お、篠宮と木虎じゃん。2人で食堂いんのは珍しいなぁ」

 

「どーもっす、陽介先輩」

 

「…米屋先輩…」

 

  おれは気づいていたので普通に、藍は面倒なところを見られたとでも思っているのかため息をつき、不機嫌なまま返事をした。

 

  この人は米屋陽介先輩。A級7位三輪隊に所属する槍の弧月を使う珍しい攻撃手だ。

  誰の教えも受けないで我流でA級まで上り詰め、初手で首をよく狙う通称妖怪首おいてけだ。

 

「陽介先輩も飯?」

 

「おぉ〜そうだ、隣いいか」

 

「どうぞ、どうぞ〜」

 

  おれの隣の椅子を引いて隣に陽介先輩をご案内する。おい、藍。その嫌そうな顔やめろ、仮にも先輩だぞ。

 

「んで、どうしてこんなことなってんだ」

 

  陽介先輩にことの始まりをきっちり説明してあげると、やはり爆笑している。

  この人は楽しいことが大好きだからな。こんなことになると思ってた。

 

「おいおい、そんなこえぇ顔で睨むなよ」

 

  藍の今にも人を殺しそうな視線を受けてビビる陽介先輩。まぁ、この人と生真面目な藍は性格が合わないからなぁ、なんて思っていると陽介先輩がある提案をしてきた。

 

「おれ、これから弾バカと緑川とランク戦の予定なんだけどお前らくるか?」

 

「なんで私が、嫌で「やります!」す」

 

「よし、決定!んじゃいこーぜ」

 

  藍が断る前におれと陽介先輩で決定させてしまう。こうすればなし崩し的に藍は連れて行くことは可能だ。

  なんだかんだ言ってこいつ押しに弱いからな。

 

「はぁ…」

 

  ため息をつきつつもう藍は行かないなんて言わない。これで俺たちのこれからの予定は決定だ。

 

 

 

 ・

 

 

 

  陽介先輩が食い終わるのを待っておれたちは3人でランク戦ブースまで歩いて行く。

  はっきり言ってこの3人で歩くのはすごく目立つ。なんせA級隊員が3人、さらにはこの3人でつるむことがまずないときてる。

 

「目立ってんなぁ。まぁ、そりゃそうか」

 

「この3人で本部の中歩き回るとかまずないですからね」

 

「はぁ、ますます嫌になってくるわ」

 

「まぁ、いいじゃねぇか。藍もみんなとランク戦しろよ。好きだろ駿」

 

「ちょっと、その言い方やめてもらえる!?」

 

  陽介先輩の約束していた相手の1人緑川駿はおれと藍の一つ下。つまり後輩だ。

 

  藍は後輩から尊敬されるのが好きで、ついでに年上からは認められたい欲求が強い。

 

「お、もうあいつらいんな〜」

 

  ブースに着くともうすでに陽介先輩と待ち合わせていた2人がいた。

 

「おっせぇぞ槍バカ!てか、なんで木虎と篠宮いんだ?」

 

  この人はA級1位太刀川隊に所属する凄腕の射手である出水公平先輩。通称弾バカだ。

 

 射手というのは銃手と違い銃を使って弾を打ち出すのではなく、直接弾を打ち出すポジションだ。威力、弾速、射程を調節したり、トリオンキューブを自在に分割して射出することのできるポジションだ。

 

「あれ?束先輩と木虎ちゃんじゃん!なんでいるの?」

 

  こいつは緑川駿。A級4位草壁隊の攻撃手であり中学2年生でA級所属する凄腕だ。

  おれと同じスコーピオン使いでよくランク戦もやるし、部屋にも遊びに来てくれる可愛い後輩だ。

 

 ちなみにこの2人と陽介先輩の3人合わせてA級3バカと呼ばれることもある。

 

「さっき食堂で会ってよ〜、連れてきた」

 

「よっす、出水先輩、緑川!」

 

「どうも、緑川くんは久しぶりね」

 

「おい、木虎扱い違いすぎだろ」

 

  基本的に藍は年上にはツンツンしてるから仕方ない。だからよく可愛くねぇな、なんて言われてるんだけどな。

 

「これで5人だしもう1人連れてきたらチーム戦出来るね」

 

「おっ、確かになぁ。誰か捕まるかなぁ〜」

 

「誰かしらはつかまんだろ」

 

「そうだね!このメンツなら最低でもマスタークラスだといいけど!」

 

  マスタークラスというのはトリガーのポイントが8000点を超えることだ。トリガーのポイントは4000を超えるとB級に上がることができ、8000を超えるとマスタークラスと呼ばれ一つの区切りになる。

 

  さて、ツンツンしてる藍は置いておいて4人でだれか探しているとこちらに声をかけてくる子がいた。

 

「こんなに集まってどうしたんですか?束先輩?」

 

「おっ!双葉!ちょうどいいタイミングだ!」

 

  この子は黒江双葉。A級6位加古隊の攻撃手であり、最年少のA級隊員だ。

  ちなみに駿は幼馴染であり、山の中の分校に通っていた元野生児だ。

 

「え?どうしたんですか?」

 

「これでチーム戦できるな!!」




よかったら感想や評価お待ちしてます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

篠宮束のチーム戦

今回は前の続きからで、チーム戦になります。






「はぁ、この5人でランク戦ですか…」

 

「おう!よかったら双葉も混ざらないか?」

 

「そうね!よかったら一緒にやりましょう!」

 

「はぁ…、まぁいいですけど」

 

「うっ…」

 

 相変わらず双葉は藍に冷たい、なぜかはわからないが。おかげで藍が落ち込んでしまってる。

 

「もうちょっと藍に優しくならないのか双葉?」

 

「無理です。諦めてください」

 

 まるで、ガーンと擬音がつくかのように膝から崩れ落ちる藍を見て苦笑い。双葉は冷めた目つきで藍を見ている。これがさらなるダメージになってしまっているのがちょっと見ていられない。

 

 あいも変わらず藍と双葉の仲は絶対零度のようだ…。

 

「でも、この6人でチーム戦だと偏りませんか?」

 

「確かに!ほぼ攻撃手しかいないもんね」

 

「これだと弾バカいるチーム有利だな」

 

「おい、うるせーぞ槍バカ!」

 

「誰か他の射程持ち探しますか?」

 

「それだと人数合わなくなるんじゃない?」

 

 全員でうーんうーんと唸っているとランク戦ブースが少しざわつく。なんだと思って見てみると人数の問題も射程の問題も全て解決してくれる2人組が現れた!

 

「カゲさんとゾエさんみっけ」

 

「お、これでちょうどいーな」

 

「4対4だと少し多くないですか?」

 

「ま、その辺はどうにかしてこーぜ」

 

 おれたちの中では参戦はすでに決定しているがこちらに歩いてきたカゲさんとゾエさんにこの状況を説明する。

 この人たちならまず間違いなく乗ってくるだろうけど。

 

「あ?面白そーじゃねぇか。全員軽くひねってやるよ」

 

「ゾエさんも大丈夫だよ」

 

 やっぱり2人なら混ざってくれると思ってた。

 

「チームはどうすんだ?」

 

「適当にくじでいいんじゃない?」

 

「ま、それが妥当かな」

 

「くじ作んの面倒だしグッパーでよくねーか?」

 

「「それだ!!」」

 

 カゲさんの質問に緑川が答えおれが同意して陽介先輩に2人で賛成する。

 

「じゃ、射程持ちは分けるって事で。せーの」

 

「「「「「「ぐっとぱー」」」」」」

 

 藍と双葉は掛け声を出さなかったがこれでチームが決定だ。

 まずはグーチームがおれに双葉に藍、射程持ちで出水先輩。

 パーチームがカゲさんに陽介先輩に緑川、射程持ちとしてゾエさんだ。

 

 うん、こっちには藍と双葉の仲悪いコンビがいて、あっちはカゲさんとゾエさんが一緒になったしコンビネーションはしっかり取れるだろう。

 

「おい、篠宮」

 

「…どうしたの出水先輩…」

 

「不利じゃね?」

 

「言わないでよ…」

 

 もうすでに藍と双葉の空気は最悪だ。こっちサイドは色々とゴタゴタしているが、向こうは和やかなムードだ。

 

「設定どうするよ?」

 

「ランダムでいいんじゃない?極端に不利になるステージあんまりないだろうし」

 

 陽介先輩からの質問におれが答え全員がブースに移動し、いよいよチーム戦だ!

 

「さて、こっちの作戦はどうする?」

 

「近い人から合流でいいんじゃないですか?」

 

「だな、それが1番妥当だろ。双葉もそれでいいな」

 

「はい!大丈夫です!」

 

 こちらの会話がひと段落したところでカゲさんから通信が入る。

 

「んじゃ始めんぞ」

 

「うん。よろしくカゲさん」

 

 転送が始まりいよいよ開戦だ!

 

 

 

 ・

 

 MAPは工場地帯で天候は快晴。環境設定もランダムにしてたから、変な設定にならないか不安だったけどこの環境設定なら特に問題はない。

 

 レーダーを確認すると1人足りない。おそらくゾエさんあたりがバッグワームを起動してるんだろう。おれたちの位置はおれと双葉が1番近くて少し離れて出水先輩、藍は大分距離があるな。

 おれも一応バッグワームを起動して通信を入れる。

 

『藍だけ大分遠いな、どうする?』

 

『そっち側で合流してくれていいわ。バッグワームで隠れながらそっちに向かうから』

 

『オーケー、カゲさんに気をつけろよ』

 

『ええ、わかってる』

 

『おれと双葉、出水先輩は合流しましょう』

 

『オーケーオーケー、どう合流する?』

 

『1番近いのは私と束先輩なので先に私たちですか?』

 

『ああ、それがいいだろ』

 

『了解です!』

 

『んじゃお前らくるまで俺は見つかんないようにしとかねーとな』

 

 まずは双葉と合流だ。不安要素があるとすればカゲさんだな。合流を無視して突っかかってくる可能性がある。

 

「よぉ、篠宮ぁ〜遊ぼうぜぇ!!」

 

 とか思ってたらカゲさんがこっちに来てしまった。藍にカゲさんに気をつけろって言った手前くそ恥ずい…。

 

『影浦先輩に気をつけろじゃなかった?』

 

『うるせぇよ…』

 

 藍からの茶々入れの通信一方的に切って、カゲさんと斬り結ぶ!

 

「オラオラ!行くぞ篠宮ぁ!!」

 

「一旦落ち着こうよ、カゲさん!」

 

 カゲさんに捕まってしまった以上、この人を振り切って合流は厳しい。ここはカゲさんを俺が抑えて、双葉と出水先輩に合流してもらうのがいいだろう。

 

 カゲさんをこの場で押さえつつ、出水先輩と双葉に通信を繋ぐ。

 

『すいません、カゲさんに捕まっちゃいました』

 

『オーケーと言いてぇとこだが、こっちも槍バカと緑川に捕まっちまった。黒江フォローにもらっていいか』

 

『マジっすか…。双葉!出水先輩のフォロー行けるか?』

 

『もう向かってます!』

 

『流石だな。こっちはカゲさん抑えるんでそっち任せました!』

 

『任された!下がりつつ黒江の方に向かうぞ!』

 

『わかりました!できる限り急ぎます!』

 

 とりあえずあっちは任せてていいだろう。ゾエさんがこっちに来られると厄介だし、できたらここでカゲさん落としたいけど相手が相手だ。そう簡単には行くわけない。

 

「さて、どうするかな」

 

「隙だらけだぞ!!」

 

「くっ…!」

 

 一瞬カゲさんから注意が逸れたのを見計らった鋭い一撃をかろうじて避けるが、頬をかすったせいでうっすらとトリオンが漏れる。

 

 そしてまたカゲさんと斬り合いだ。

 

 ソロでカゲさんとやるならリスクを冒してでも強引に攻めるのはありだけど、今回はチーム戦だ。無理に攻めて俺が落とされたら元も子もない。

 

 俺の役目はまずカゲさんを抑えること。双葉と出水先輩が組めば押し負けることはまず無いだろうし負かすことも可能だ。そうなれば一気にこっちが有利になる。

 

 ならおれはこっちが優勢になるまでこの人を抑えて待ち続ければいい。

 

「おいおいどうした!篠宮ぁ!圧が足りねぇぞ!」

 

「今回はチーム戦だからね、ここは落とされないで抑えること優先だよ!」

 

 大振りの一撃と見せかけてグラスホッパーを踏み込み後ろに飛ぶ。その瞬間にスコーピオンを左右同時に起動しマンティスでカゲさんの腕を狙う!

 

「ちっ!」

 

 流石にそう簡単には腕はくれないけど、多少はかすった。ずっと近距離で斬り合ってたから意表はつけたみたいだ。

 

 マンティスでも届かない間合いもとってひと息つこうとしたタイミングでそれはきた。

 

 ドガガガガガッ!!!

 

 という連射音とともに銃撃が背後から襲ってくる!

 

 これを間一髪で回避はできたけど足が削られた!ゾエさん今回はメテオラで場を荒らすんじゃなくておれを取りに来たか!

 

「おい、ゾエてめぇ追い込んでやったんだから決めやがれ!」

 

「ごめんごめん、でも足は削れたから大丈夫でしょ」

 

「はっ!まぁな。さてこっから2対1だぞ篠宮ぁ」

 

「それは困ったなぁ、ゾエさんかカゲさんあっち行ったりしない?」

 

「無理だ!」

 

 このカゲさんの言葉と同時に第2ラウンドが始まった!カゲさんの攻撃だけでも手一杯のところにゾエさんの射撃まで加わるとなればこれはもう逃げの一手しかない。

 

「逃げてんじゃねぇ!」

 

「いや、これは逃げるしかないでしょ!」

 

 カゲさんの変幻自在のスコーピオンとゾエさんの連射からグラスホッパーとシールドを併用しつつ逃げに徹する。

 攻撃するにしても左右両方でスコーピオンを起動するマンティスは他のトリガーが使えなくなるで使えない。

 

 とくれば、攻勢に出るにはカゲさんに寄るしかないが、ゾエさんがそれをさせないように動いてる。そう簡単に寄らせてもくれない!

 

「とっに!強いなぁカゲさんたちは!」

 

『篠宮くん、出水先輩たちのフォローに入って1人落としてから出水先輩に向かってもらおうと思ってんだけど、大丈夫?』

 

 カゲさんたちから逃げ回ってると藍からの通信がきた。こっちを助けて欲しい気もするけど、おれがここで2人止めれればあっちに人数をかけられる分余裕が生まれる。

 

 藍の作戦はおおいにありだ。そしておそらく、藍はおれならカゲさんとゾエさんを抑えられると踏んでの案だろう。

 

 なら、ここは乗るべきだ!

 

『頼んだ!こっちはどうにかしとく!』

 

『ええ、了解。出水先輩ということでいいですか?』

 

『オーケーだ!こっちで追い込む、落としやすい方から落としてくれ!』

 

『…お願いします』

 

『ええ、了解』

 

 

 

 ・

 

 

 

 バッグワーム奇襲という戦法がある。

 レーダーステルスを実現するこの対電子戦用のステルストリガーは体を透明にするカメレオンとは違い、あくまでレーダーステルスを実現するだけであり体を見えなくすることは不可能だ。

 カメレオンはレーダーに映るという欠点はあるが。

 

 基本的には狙撃手が愛用するこのトリガーだが、隠密行動に長けた隊員ならこのトリガーを用いて暗殺とも呼べるような奇襲戦法を取ることが可能になる。

 

 木虎藍もその1人だ。

 

(さて、出水先輩と打ち合わせた奇襲のポイントにはついた。あとはタイミングね)

 

 出水と木虎が打ち合わせたポイントは工場内部の機材などが積み重なり死角の多くなっている一角だ。

 木虎はそこの屋根を支える鉄骨の上に位置取っている。

 

「ふぅ…」

 

 木虎が一つ息をついたタイミングで戦闘音が聞こえてくる。

 

(きた!)

 

『木虎!そろそろ追い込むぞ!』

 

『了解です』

 

 戦闘音が徐々に大きくなり姿が捕らえられるようになってきた。

 

 黒江が攻撃手から1番の人気を誇るバランス重視のブレードトリガー『弧月(こげつ)』で、鍔迫り合いを演じていた米屋を押し返す!

 

 米屋もそれに逆らわずに距離を取り、弧月を振り切った体勢の黒江に緑川がスコーピオンを構え追撃しようとしたタイミングで、出水の射撃用トリガー『誘導弾(ハウンド)』が米屋と緑川を襲う。

 

 ハウンドは敵を自動で追尾する誘導弾だ。追尾の方法はトリオン体の反応を追尾する「探知誘導」と視線で対象を正確に追尾する「視線誘導」がある。弾速が早すぎると誘導性能が落ちる欠点はあるが、牽制や撹乱、その名の通り敵の誘導にも使える優秀なトリガーだ。

 

「うおっ!あっぶねーな弾バカ!」

 

「とっとと撃ち抜かれろ!」

 

 軽口を叩き合いながら出水の攻撃が徐々に米屋と緑川を押し込んでいく。

 

「うわっ!やっべっ!」

 

 ついに出水のハウンドが緑川を捉えそうになった、そのタイミングで緑川がグラスホッパーを使い上へと逃げる。

 

「おしおし、飛んだな緑川」

 

「えっ⁉︎」

 

 緑川が声を上げたときには既に木虎による奇襲が完璧にはまっていた。

 狙いすましたスコーピオンの一閃は緑川の頭と体を泣き別れにした。

 

「うわ、まじか。ごめん、よねやん先輩」

 

 緑川が光とともに『緊急脱出(ベイルアウト)』していく。

 

 緊急脱出は正隊員のトリガーに標準装備されているトリガーだ。これにより、万が一防衛任務のときなどにトリオン体が破壊されても、生身のまま戦場に放置されるのではなく基地まで脱出させてくれる、なくてはならないトリガーだ。

 

「おいおい、まじか。これはやべー」

 

「出水先輩、予定通り篠宮くんの援護に」

 

「あいよ、こっちは頼んだぞ」

 

「ええ、任せておいてください」

 

 出水が束の方に向かって走っていく。ここで緑川を落としたことで戦局は一気に束たちに傾いた。出水が援護役として加われば影浦と北添と、互角に戦えるだろう。

 

「さぁ、双葉ちゃん仕事を果たしましょう」

 

「…はい、束先輩のためなので」

 

 相変わらずの黒江にダメージを受けた様子の木虎だが拳銃を構えて戦闘態勢をとる。

 

 米屋、黒江も戦闘態勢をとりこちらでも2対1の第2ラウンドが始まった!

 

 

 

 ・

 

 

 

 お、緊急脱出の光が見えた!藍たちがやってくれたみたいだな。

 

「これでこっちもイーブンまで持ってけそうだね」

 

 カゲさんたちも誰か落ちたらこっち側に出水先輩が来ることは当然わかってる。

 

「早く落とさないと出水くん来ちゃうね」

 

「けっ!来る前に仕留めりゃいいんだよ!」

 

 その言葉とともにカゲさんの攻撃の圧がさらに増す!

 カゲさんの間合いと手数は攻撃手の中でも随一と言ってもいいくらいだ。本気になったこの人とゾエさんから生き残るのはいくらなんでもきつすぎる…。

 

 カゲさんの四方八方から襲って来るスコーピオンを、ゾエさんの隙間を縫うような連射を、グラスホッパーだけでなくテレポーターも併用して避けまくる!

 

 カゲさんが攻撃に専念できるのはゾエさんが常にシールドを張れる状態を保ってるからだ。相変わらず体に似合わずサポートもできるのが凄いとこだ。

 

『篠宮シールド張りな!』

 

 出水先輩からの通信が入り、指示通り前面に左右両方のシールドを起動して両防御(フルガード)の体制をとる!

 

 カゲさんとゾエさんが下がったのと同じタイミングで出水先輩の弾丸が飛んで来る。

 この弾は自由に弾道の設定が可能な『変化弾(バイパー)』というトリガーだ。

 もっとも、その場その場で弾道を引いて撃てるのは出水先輩とB級那須隊の隊長那須怜先輩くらいで、大抵の人は予め弾道を設定しておく。

 

 バイパーがカゲさんたちの張ったシールドに衝突する。普通のバイパーならここで防がれて終わりだ。

 だけどこの弾はシールドに衝突した瞬間、爆発した!

 

『トマホーク』バイパーとメテオラを合成して放つ合成弾、言わば射手版両攻撃(フルアタック)だ!

 

 合成弾は強力な分作るのにも時間がかかるし、扱いにくい。一部の射手しか使えない高等技術だ。

 ちなみにこの合成弾は出水先輩がなんとなくでやったら成功したというとんでもエピソードがある。出水先輩が弾バカと呼ばれるゆえんだ。

 

「まじかよ!あれでほぼ無傷とか!」

 

「カゲさんにはあれあるからね。だいぶ早めに下がってたし」

 

 カゲさんとゾエさんは早めの退避が功を奏してほぼ無傷だ。あのタイミングでここまで防げるのは流石としか言いようがない。

 

「ちっ!めんどーになったが仕方ねぇ。削りきるぞゾエ!」

 

「了解、カゲ」

 

「出水先輩援護任せました!」

 

「任しとけ!しっかり仕留めろよ」

 

 出水先輩の両攻撃ハウンドが開戦の合図だった。

 

 ハウンドをゾエさんのシールドが防ぎ、カゲさんは前に出ながら合間を縫ってマンティスで切りかかって来る!

 

 おれはマンティスをさらに前に突っ込むことでかわし両手にスコーピオンを構えてカゲさんに突っ込む。

 ゾエさんの弾を出水先輩がシールドで防ぎ、バイパーを使いゾエさんとカゲさんを狙うがカゲさんは身のこなしだけでそれを避けさらにおれに向かって攻撃してくる。

 ゾエさんもシールドを使いつつ弾幕を切らさない。

 

 射手と銃手は撃ち合いになれば銃手が有利だ。トリガーを引いてトリオン有る限り弾を撃ち続けられる銃といちいち弾速や威力などを設定して撃つ射手では連射性能に差があるからだ。

 

 だが、出水先輩はボーダーの中でも屈指の射手だ。連射性能の差を特殊弾を絡ませたり、時間差で弾を打ち込んだりしながら発想でカバーしていく。

 

 工場地帯の中でも大きな広場だからこそ、弾を縦横無地に走らせる!

 

 基本的に出水先輩はゾエさんもカゲさんも両方狙うように撃っている。これも射手の利点の一つだ。銃と違い弾をある程度浮かせたり、散らせたりしながら様々な角度で射撃できる。

 

 出水先輩のハウンドがカゲさんに食らいつく!

 

 流石に避けきれなかったカゲさんがシールドを張り防ぐ。

 今まで動くことで回避してきたカゲさんがやっとシールドを使ってくれた。

 この瞬間はカゲさんはマンティスを使うことができない!

 

 おれはテレポーターを起動し一気に距離をゼロにしてカゲさんの後ろに移動する!

 

「もらった!」

 

「あめぇよ!!」

 

 隙をついた筈なのにカゲさんの反応は早い。カゲさんとは何度も戦ってるから予測されてた!

 

 カゲさんのカウンターを体を後ろにギリギリまで逸らしてよけた上でカウンターとしてスコーピオンを水平に振るった。

 

 カウンターとして辛うじて振っただけだったが、カゲさんの腹を薄く裂くことができた。

 

 そして、離脱のためにもう一度テレポーターで飛ぶ。

 

「ちっ!やるじゃねぇか」

 

「今のはほんと危なかった!やっぱ強いなぁ」

 

「今ので落としきれなかったのでかいなぁ」

 

「次を考えよう!出水先輩!」

 

 そして、動き出そうとしたときだ。緊急離脱の光が2つほぼ同時に飛んで行く。

 

『すいません…、落とされちゃいました』

 

『いやなに、陽介先輩と相打ちなら充分だ!』

 

『私はそっち向かってるわ』

 

『は〜しんどかったけどなんとか勝てそうだな』

 

『まだ油断できる相手じゃないけどね』

 

 内部通信で話していると「ちっ!!」という大きな舌打ちがカゲさんから聞こえてきた。間違いなくチームが自分たち2人だけになったのがわかったのだろう。

 

「さて、藍もこっち向かってるみたいだし勝負決めようか!」

 

「これはしんどいねカゲ」

 

「うっせぇよ!できるだけ粘って死にやがれ」

 

「ひどい⁉︎」

 

 無駄口を叩いていてもこっちへの注意は全く切らない。まだ負けるとは思っていない、勝つつもりだ!

 

「行くぞ篠宮」

 

「こっちこそカゲさん」

 

 同時に一歩目を踏み込み最後の戦いが始まった!!

 

 

 

 ・

 

 

 

「いや〜どうにか勝てたぁ〜」

 

 ぐ〜っと伸びをしながらブースから出ると違うブースからは不機嫌オーラを振りまいているカゲさんを先頭にパーチームのみんなが出てくる。

 

「お疲れ様です束先輩」

 

「双葉もおつかれ」

 

「双葉ちゃんお疲れ様」

 

「…お疲れ様です」

 

 珍しくいつもの不機嫌さが少しなりを潜めたかな?この言葉で藍の顔は輝いている。

 

「いや〜危なかったなぁ」

 

「ですね…。まさかあそこから藍が落とされておれも出水先輩もここまで削られるとは…」

 

「やっぱつえーわ影浦隊」

 

 本当に最後はギリギリだった。

 

 あの後戦いの最中に藍が参戦。不意打ちが効かないカゲさんを狙わずゾエさんを狙いに行くもギリギリのところで躱されてそのまま3対2の乱戦に突入。藍の一瞬の隙をつきカゲさんが藍を落とし、落とされながらもゾエさんを崩したところで出水先輩がゾエさんを落とした。

 その後はカゲさん1人になったがそれでも強かった。結局おれは腕一本を犠牲にしてカゲさんを落としたけど、それまでにかなり削られて結局腕を落とされて緊急離脱してしまったので事実上の相討ちだ。

 

「でも楽しかったぁ!」

 

「次は負けないからね!」

 

「木虎に落とされたのがムカつくなぁ」

 

「今度もまた落としてあげますよ」

 

「次は1人で勝ってみせます!」

 

「ゾエさん疲れたよ〜」

 

「篠宮ぁ!またやんぞ!」

 

「了解!」

 

「おっと、俺は防衛任務だった!先戻るぜ!またな!」

 

 出水先輩が防衛任務でブースを後にしたのを合図に全員が解散する。

 

 おれは藍と一緒に嵐山隊の作戦室に向かう。

 

「楽しかったか?」

 

「ええ、まぁそれなりに楽しかったわ。あなたは?」

 

「もちろん、すっげぇ楽しかったぁ!今度は藍と1対1でやろうな」

 

「ええ、考えておくわ」

 

 こう言ってるがきっと藍は戦ってくれるだろうし、また楽しみが増えた!

 

 今日は疲れたけど本当楽しかったぁ!

 

 程よい疲れを引きずりながらおれは藍とともにボーダー本部の廊下歩いた。




読みにくいとこがたくさんあったかと思いますが、読んでいただきありがとうございます!

もう少しまともな文才を、手に入れられるように頑張りたい!

評価や感想お待ちしてます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

篠宮束と玉狛支部①

長くなりそうな予感したし切りがよかったので、前後編に分けました!

ついに約2年ぶりの新刊きましたね!スクエアに移籍もすんで毎月楽しみです!


「あれ?束じゃない。なんで玉狛にいるの?」

 

「おっす、桐絵。迅さんに呼ばれてちょっとね」

 

 今日おれは学校終わりにボーダーの支部の1つである玉狛支部に来ていた。

 

 そして、支部のリビングに入ってきたのは髪を腰ほどまで伸ばした見た目だけは綺麗な女の子だ。小南桐絵、玉狛所属のA級隊員で攻撃手ランク3位につけている人物だ。ちょっと、信じられないくらいに騙されやすかったりするのが面白いのでよくいじられている。

 

「てか、あんたいい加減私にも先輩をつけなさいよ」

 

「桐絵は桐絵でしょ。もう今更直んないよ」

 

 桐絵とおれはおれがボーダーに入隊した頃からの付き合いなので四年くらいになる。当時のおれはいっぱいいっぱいで周りに当たり散らすこともよくあった。そんなおれを変えてくれた1人が桐絵だ。

 おれがこの人を桐絵と呼び続けてるのはその時の名残だ。

 だいたい桐絵もA級1位部隊の隊長である太刀川慶(20)を呼び捨てなんだから人のこと言えないはずだ。

 

 桐絵がムキーっ!となって地団駄を踏んでいるがあえて見ないふりを敢行して、テレビを見ているとまたガチャリとドアが開いた。

 

 出てきたのはカピバラに乗ったお子ちゃまだ。

 

「お〜たばね、ひさしぶりだな。今日はどうしたんだ?」

 

「おう、陽太郎久しぶり。迅さんに呼ばれたんだよ」

 

 このお子ちゃまは玉狛のS級お子ちゃま隊員、カピバライダー林藤陽太郎だ。

 乗っているカピバラは雷神丸、玉狛のペットだ。こいつを陽太郎と桐絵は犬だと思っている。どう見ても少なくとも犬ではないと思うんだけど…。

 

「ほう、じんが。なんのようだ?」

 

「わかんないけどなんとなく予想はつくよ」

 

「どうせまた玉狛に入れってことでしょ?」

 

「うん。多分ね」

 

 迅さんはここ最近何度もおれを玉狛に来るように説得している。あの人がやることなら間違いなく意味があるんだろうけど、今のところおれはそれを断り続けている。

 

「たばね!たまこまにくるのか!」

 

「今のところはこっちに移動する気はないかなぁ」

 

「そうか…、ざんねんだ…」

 

 本気で残念そうな顔をしてる陽太郎の頭を撫でながらあやしてやっているとまた扉が開いた。

 

「ん、束もう来てたのか。迅はもう少しかかるぞ」

 

 この人は木崎レイジさん、玉狛の筋肉だ。生身の訓練を大事にする人で、トリオン体を動かすのは生身の感覚だから生身でしっかり動けるようになれば、トリオン体ではさらに動けるようになると言われて何度も一緒に訓練させてもらってる。

 

「おう、久しぶりだな束」

 

 この人は烏丸京介先輩、通称とりまる先輩だ。嵐山さんと並んでボーダー内にファンをもつモサモサしたイケメンだ。弟妹が多く、バイトを掛け持ちし家計を支えてるすごい人だ。

 

「レイジさん、とりまる先輩!久しぶり!」

 

「なんでとりまるには先輩なのよ!!」

 

「そりゃあ実はおれが小南先輩よりも年上だからですよ」

 

 あぁ、またやったよとりまる先輩。桐絵を1番おもちゃにしてるのは間違いなくこの人だ。

 

「えっ!そうだったの⁉」

 

 この人もこの人でなんで信じるんだそんな明らかな嘘。ほんとわざとやってるんじゃないかって疑ってしまうレベルだ。

 

「嘘に決まってるでしょ。毎回毎回騙されすぎだよ」

 

「なっ、騙したわねぇ!!」

 

 桐絵が何故かヘッドロックをおれにかけようとしてくるのでそれをスルッとかわす。

 

「毎回言ってるけどそれおれじゃなくてとりまる先輩にやるべきだから」

 

「いや、俺も勘弁してくれ」

 

 ヘッドロックを避けられ、からかわれた桐絵はさっきに輪をかけてムキーッッ!!としてるがそれも慣れたもので陽太郎も含めて全員がスルーだ。

 

「あ、そうだ。レイジさん、お土産キッチンに置いておいたからよかったら食べてください」

 

「ああ、毎度悪いな束。迅と宇佐美が来るまでお茶にしよう」

 

 レイジさんが入れてくれたお茶を飲みながら、おれが持ってきたいいとこのどら焼きを机を囲んでみんなで食べる。

 

「そういえばこの前木虎たちとチーム戦してたんだな」

 

「あれ?なんで知ってるの?」

 

「偶然ログを見つけたんだ。珍しいメンツだったからな」

 

「え?なにそれ!私も見たい!」

 

「うむ、おれもたばねの戦いを見たいぞ!」

 

「端末から見れるだろ、自分で見ろ」

 

 レイジさんからボーダーから支給される端末を受け取り、そこにこの前やった4対4のチーム戦の映像を取り込んで桐絵と陽太郎の2人で食い入るようにその映像を見てる。

 

「今日は飯は食って行くのか?」

 

「うん、ついでに泊まってけって林藤さんが」

 

「そうか、束の部屋はいつものとこのはずだからあとで布団を出しておこう」

 

「ありがとう!レイジさん!ところで今日のご飯は?」

 

「私よ!」

 

「つまりカレーってこと?」

 

「なによ、カレーで悪いわけ?」

 

「いえ、まったく!桐絵のカレーは美味しいです!」

 

「ええ、そうでしょうとも!」

 

 そうドヤ顔で起伏の乏しい胸を張る桐絵に呆れ気味の表情のおれたち。

 桐絵はカレーしか作れない。まぁそのカレーはとても美味しいんだけど、桐絵が玉狛の夕食当番の時は常にカレーだ。

 一度カレーを褒めようものならおれの部屋に3日連続でカレーを差し入れられた時は流石に引いた。

 

 味はとても美味でした。

 

 その後のランク戦でおれは初めて桐絵から勝ち越すことができたのだけどそれはまぁ別の話だ。

 

 

 

 ・

 

 

 

「ごめーん、もうみんな揃ってるね」

 

「まだ、迅さんも林藤さんも帰って来てないよ宇佐美先輩」

 

「そっか〜よかったよかった」

 

 この人は宇佐美栞先輩、玉狛支部所属のオペレーターで元々は本部で現A級3位の風間隊のオペレーターをしていた人だ。

 ボーダー内でメガネ人口を増やそうとしていておれも何度かメガネを勧められた。別に目が悪いわけじゃないのに。

 

 宇佐美先輩が帰って来てから少ししてやっとおれを呼び出した張本人が帰ってきた。

 

「いや〜悪いな呼び出しといて」

 

「ほんとだよ迅さん」

 

「悪い悪い、実力派エリートは大忙しでな」

 

 この自分のことを実力派エリートとか言っちゃう人がおれを呼び出した張本人。玉狛所属のS級隊員、迅悠一だ。

 

 S級というのはボーダーの中でもたった2人しかいない特別なトリガーに使うことが許された隊員だ。

 S級が使うトリガーはブラックトリガーといって、俺たちの使うノーマルトリガーとは段違いの出力を誇る。だけどこのトリガーは優れたトリオン能力者が自分の持つ全トリオンを注ぎ込むことで自分の命と引き換えに作り出すことができるトリガーだ。だからなのかこのトリガーにはトリガーになった人の意思が反映され使い手を選ぶ。使えない人は起動すらもできないのがブラックトリガーだ。

 もっともこのトリガーはトリオン能力が優れているからといっても必ずしも成功するわけではないので、余程のことがない限り進んで作ろうとすることはない。だからこそ希少で強力無比なトリガーだ。

 

「さ、迅もきたことだしご飯にしましょう。束、出すの手伝いなさい」

 

「はいはい。おれお客さんなはずなんだけどなぁ」

 

「いいから、動け!」

 

 桐絵に急かされて仕方なくカレーの用意を手伝うこと数分、リビングには美味しそうな匂いを漂わせるカレーが全員分並んだ。

 

「ボスから先に食べてていいって連絡来てるし食べちゃいましょ」

 

 桐絵の言葉で全員がそれぞれいただきますと口にしてカレーに手をつけ始める。

 

「どう?」

 

「うん、相変わらず桐絵はカレーだけは上手いね」

 

「カレーだけってどうゆうことよ!」

 

「だって桐絵カレーしか作れないじゃん!」

 

「おいお前ら、落ち着いて食え」

 

 桐絵がまたまたムキーッとなったがレイジさんの鶴の一声で渋々といった様子でカレーに集中した。

 

「あ、そうだそうだ。なぁ束、何度も言うようだけどお前うち来ないか?」

 

 カレーをある程度食べ進めたタイミングで迅さんが恐らく今日の本題であろうことを聞いてくる。

 

「意外ね、あんた、束と2人でその話するのかと思ってた」

 

 桐絵の言った通りおれも2人で話すものだと思ってたけど…。

 

「ああ、まぁそのつもりだったんだけどさお前らにも聞いといて欲しかったんだ」

 

「俺たちにも関係のある話ということか?」

 

「そこはまだわかんないんだけどね。可能性はあるよ」

 

「迅さんならおれの答えが変わらないことはわかってるんじゃない?」

 

「まぁ、な」

 

 一拍おいて迅さんは険しい顔つきになって再び話し始めた。

 

「束、この話するかは迷ってたんだけど行った方が良さそうだから言っておく。みんなも聞いてくれ」

 

 こうゆう雰囲気の迅さんは大事な話のときだ。とても、大事な話だ。

 

 普段はへらへらふらふらしてる人だけど実はとてもとても重いものを背負ってみんなを守るために戦ってくれていることをおれだけでなくみんなが知っている。

 

「そう遠くないうちに近界民の大規模な攻撃がある」

 

 一瞬目の前が真っ暗になった。呼吸が荒れる。隣で心配してくれている桐絵の声が遠くに感じる。

 

 蘇るのは四年ほど前の記憶だ。

 

 空が真っ暗に染まってそこから見たことも無いような怪物たちが出てきて街を潰していった。

 日頃の行いが悪かったのか、運が悪かったのか、何が悪かったかなんて今となってはわからない。

 結果として、おれの家族はみんな死んでしまったんだから。

 

 火の手から逃げる人を見た、瓦礫から手を伸ばす人を見た、その中を一人で必死に逃げるおれを覚えてる。

 

 祖母も父も母も姉も妹もみんな死んでしまった。力がなかった、助けるための力が。林藤さんと忍田さんに助けられて戦うための力をもらった。それでもたまにおもってしまう、あのときおれも一緒に死ねたら、と。

 

「束!しっかりしなさい!」

 

 フッと、目の前に元の景色が戻ってきた。息が荒い、心臓は自分のものではないみたいに速く脈打っている。一体どのくらいの時間こうなっていたのだろう。状況がほとんど変わっていないから恐らくほとんど時間は経っていないだろう。

 

「ハッ、ハッ、ハッ…ふぅ…。ごめん、桐絵ありがとう。もう大丈夫だよ」

 

 おれの肩の上に心配そうに置かれた桐絵の手をどかす。突然のことで動揺してしまった。吹っ切れた気でいてもまだまだちっとも吹っ切れていないみたいだ。

 

「ちょっと、迅!あんたねぇ!」

 

「桐絵!大丈夫、迅さんのせいじゃない」

 

「それは、そうかもしれないけど…」

 

「続けて迅さん」

 

 おれのために怒ってくれてる桐絵には感謝しかないけどこれでは迅さんも続きを話せない。

 

「ああ、ごめんな束。少し性急すぎた」

 

「大丈夫だよ、気にしないで」

 

「ああ、悪いな。いつになるかは詳しくはわからない。けど、かなり大規模になる」

 

「その大規模侵攻とおれたちに何の関係がある?」

 

「ああ、ここからが本題だ。この大規模侵攻で束が敵に攫われる未来が見えた」

 

 今度は全員が時が止まったような感覚を味わった。

 




感想や評価お待ちしてます!

主人公の設定一応置いておきます!

主人公設定
篠宮 束 シノミヤ タバネ
中学三年生 ポジション 攻撃手 アタッカー
年齢15歳 誕生日 4月4日
身長163cm 血液型A型
家族構成 祖母 父 母 姉 妹
好きなもの 鍋 焼肉 家族 仲間
関係性
忍田さん、林藤さん←師匠
鬼怒田さん←部屋をくれた丸い人
風間さん←恩人
小南←恩人その2
太刀川←強いけどやばい人
木虎藍←仲間
緑川駿←可愛い後輩その1
黒江双葉←可愛い後輩その2
絵馬ユズル←可愛い後輩その3
パラメータ
トリオン 7
攻撃 11
防御・援護 6
機動 11
技術 9
射程 2
指揮 3
特殊戦術 5
TOTAL 54
TRIGGERSET
MAIN
スコーピオン
グラスホッパー
シールド
テレポーター(試作)
SUB
スコーピオン
グラスホッパー
シールド
バッグワーム

大規模侵攻直後から入隊した古株の隊員の1人。家族を全て失い、一人で逃げているところを林藤さんと忍田さんに助けられたことが縁でボーダーに入隊する。
入隊当初は家族を全て失ったショックから精神状態が不安定な状態にあったが師匠である林藤さんや忍田さん、風間さんや小南の影響で本来の明るさを取り戻した。
アタッカーとしてはグラスホッパーとテレポーターを併用する高速機動と変幻自在のスコーピオンで削り倒すヒャハー系アタッカーの1人。
スコーピオンの扱いは影浦に勝るとも劣らず日々影浦との模擬戦でその腕を磨いている。マンティスは2人が模擬戦している中偶然生まれた技の一つ。
家族を失った反動からかボーダーの仲間を特に大事にしていて、後輩への愛が深い。
ユズルを激しく後悔させた経験を与えた張本人。
鬼怒田さんの好意でボーダー内に自分の部屋を与えられており、入隊後からそこに1人で暮らしている。仲の良い隊員たちの溜まり場になっている。
数少ない一万越えのアタッカーでありアタッカーランクの4位に付いている。中学生の中では一番のポイントの持ち主。
実はスコーピオンだけでなく孤月もある程度使いこなしており、忍田さんから孤月の扱いを教わった純血統の孤月使い。最終的にはスコーピオンに落ち着いたが、今でも孤月を使ってランク戦をしたりしている。孤月を使ってもマスタークラスの実力者。
TRIGGERSET孤月版
MAIN
孤月
旋空
シールド
グラスホッパー
SUB
スコーピオン
シールド
グラスホッパー
バッグワーム


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

篠宮束と玉狛支部②

出来るだけ早めにお送りしたつもりです!

後編になります!今回少し話が重いです。



「おれが…攫われる…」

 

 近界民がこちらの世界に攻めてくる目的はトリオン能力の高い人間を向こうの世界に連れて行くためだ。

 トリオン能力が高ければ兵隊として、低ければトリオンだけを抜いて使うために近界民はこちらの世界に攻めてくる。

 

 だが、ボーダーの正隊員には緊急離脱がある。攫われることなんてなさそうなものだけど…。

 

「緊急離脱があっても攫われるってことですよね?」

 

 とりまる先輩がおれの疑問を言葉にしてくれた。

 いや、どちらかというと気を使って一旦落ち着かせるために話をおれ以外で回そうとしてくれているのかもしれない。

 

「ああ、でもあくまでも最悪の未来だから必ずしもそうなるわけじゃない」

 

 迅さんは未来を見ることができる。

 

 トリオン能力が高い人は先天的にもしくは後天的に稀に副作用(サイドエフェクト)と呼ばれる能力を発言することがある。

 迅さんのサイドエフェクトは『未来視』その名の通り未来を見ることができるものだ。ボーダー基準ではSランクの超感覚に位置するサイドエフェクトだ。

 

 ちなみにAランクは超技能、Bランクは特殊体質、Cランクが強化五感になる。

 

 未来視のサイドエフェクトは未来が見える、それだけ聞けばいい能力に思えるが見える未来を選ぶことはできないし、見たことのない人の未来は見えない、なにより見たくもないような未来を見てしまうこともある。

 今回のがまさにそれに当てはまると思う。

 

「だから迅さんは玉狛に入れって言ってたの?」

 

「ああ、そうだ。うちに入れば束用に調整してたうちのトリガーを使える。それはこの最悪の未来を変えるための力になってくれるはずだ」

 

 玉狛で桐絵たちが使ってるトリガーは本部の企画から外れたワンオフものだ。

 本部のトリガーが大人数での運用を想定して継戦能力を重視して規格化しているのに対して、玉狛のトリガーはそれぞれの使用者のスタイルに合わせた、オリジナルのトリガーを使っている。

 このトリガーは近界民技術(ネイバーテクノロジー)を活かした規格外のトリガーで、性能は高いけど汎用性とかは完全に度外視してる。

 

 おれは玉狛に結構入り浸っているので遊びの一環として玉狛でしか使わないおれ専用のトリガーを開発してもらった。

 ただそのトリガーは本部の企画を外れているのでもし使うのなら玉狛に移動するしかない。だから迅さんはおれを玉狛に入れたいんだ。

 

「まぁ、散々断ってきたことだし今すぐ決めるのは難しいだろ?」

 

「うん…、ちょっと頭が追いつかないかも…」

 

「なら、もうこの話は一旦おしまいにしましょ!」

 

「そうっすね」

 

「ご飯食べて片付けちゃおか。食後のデザートも用意してるよ〜」

 

「たばね、大丈夫か?心配しなくてもいざとなればおれが守ってやるぞ!」

 

「陽太郎…、ありがとな…」

 

 ぽん、と、おれの頭に大きい手が乗っかりそのままわしゃわしゃと力強く撫でられる。

 

「レ、レイジさん?」

 

「心配しなくても俺たちもお前のことを守ってやる。だから安心しろ」

 

 今の言葉をみんなが思ってるよというようにみんな笑って頷いてくれる。

 

 ほんとにこの人たちは…、自分の身が危なくなる可能性だってあるのにそれでもおれを助けてくれるって笑って言ってくれる。

 

「うん…、ありがとう!でも、おれもみんなを守ってみせるよ!そのために強くなったんだから!」

 

「ほんとは防衛戦に出てもらわないのが1番なんだけどな…」

 

 迅さんは、はぁと大きく息をついてそして笑った。

 

「ま、束ならそういうだろうと思ったよ。束は強いからな、あてにさせてくれ」

 

 おれも迅さんに大きく笑みを返して。

 

「サイドエフェクトが言ってた?」

 

 迅さんの口癖を逆手に取ったような言い方に迅さんは苦笑いだ。

 迅さんから一本取れる機会はあんまりないからおれは勝ち誇ったような笑みを浮かべて大きく笑った。

 

 このやり取りにつられたように玉狛支部に笑い声が響いた。レイジさんはやれやれと言ったようにかぶりを振って、とりまる先輩はいつも通りの無表情だったけど。

 

「お、どうした?なんか盛り上がってるな」

 

 ガチャリとリビングのドアが開き入ってきたのはこの支部の支部長にしておれ助けてくれた恩人にして師匠、林藤匠さんだ。

 

「林藤さん!お帰りなさい!」

 

「おう、遅くなって悪いな」

 

「ほんとに大遅刻よボス」

 

「いや〜ちょっと忙しくてなぁ」

 

 これで県外にボーダー隊員をスカウトに行っている2人以外全ての玉狛のメンバーが揃った。この8人がボーダー最強とも言われる玉狛支部の全メンバーだ。

 

「さ、束。約束通り模擬戦やるわよ」

 

「よっしゃ!今日は負けないからね」

 

「束、それ終わったら後で俺んとこ来てくれ。少し話そう」

 

「うん、わかった!」

 

 そう言い残しておれと桐絵はリビングをでて模擬戦に向かう。

 なぜか陽太郎も付いて来たけど。

 

 

 

 ・

 

 

 

 コンコンと二度ノックをしたら中からいいぞ〜という声が聞こえたので、ドアを開けて支部長室へと入る。

 

 中にいるのは当然支部長である林藤さんだ。

 

「おう、待ってたぞ。で、どうだった?」

 

 ニヤッといやらしい笑いを向けながら模擬戦の結果を聞いてくる。この様子だと絶対に想像ついて言ってるな、この人…。

 

「負けた…、7対3で…」

 

「かぁ〜、やっぱりか。まだ桐絵には敵わないな」

 

「うっ…でも最近はいいとこまで行くようになったし…」

 

 桐絵は強い。旧ボーダー時代から所属していてその長さは迅さんよりも長い。戦闘経験はおれとは全然違う。

 それでも最近は負けるにしても惜しいところまでは行くようになった。これも林藤さんや忍田さんたちおれに戦い方を教えてくれた人たちのおかげだ。

 その中に桐絵が入ってるのが悔しい限りだけど…。

 

「ほれ、コーヒー。これ持って屋上行くか」

 

「うん、ありがとう」

 

 おれのコーヒーにはちゃんと砂糖とミルクが入ってる。林藤さんはよくコーヒーを淹れてくれるのでわかってるからね。

 

「一本ずつでよかったか?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

 屋上へと出るドアを開けると冷たい風が吹いた。

 

「さむっ!」

 

 おれは慌ててコーヒーを両手で持って暖をとる。

 

「もうだいぶ寒くなって来たなぁ」

 

「うん」

 

 おれはたまにある林藤さんと2人で夜コーヒーを飲みながら屋上で話すこの時間が結構好きだ。気分がサーっと落ち着いて行くのがわかる。

 

「あれから4年だな。どうだ、心境の変化はあったか?」

 

「4年も経てばね。今でもこんな風に笑っていられるのがたまに信じられないくらい」

 

「そうだな、実を言うと俺はこいつはダメかもしれないなって思ってたんだ」

 

「おれが、だめ?」

 

 そんな話は聞いたことがなかった。おれがだめって言うのはどう言うことなんだろう。

 

「あぁ、家族がみんないなくなって精神的に追い込まれていずれ潰れちまうんじゃないかってな。ハラハラしながら見てたよ」

 

 確かにあの時のおれは余裕がなくて、ずっと訓練をして意識を失ってまた起きて訓練を始めるみたいな生活をしてた。

 誰もいなくなってしまって、体を動かしていないともう一歩も進めないような気がしてがむしゃらに訓練を積んでいた。

 

 …家族を殺した近界民に復讐をするために。

 

 林藤さんは一度コーヒーを飲んで一息ついてから続けた。

 

「だから嬉しいんだ。今、お前がこうして笑って、楽しく暮らしてるのを見るとな」

 

「それは、桐絵に風間さん忍田さんにボーダーのみんな、そしてもちろん林藤さんのおかげだよ。もし、林藤さんと忍田さんに助けてもらわなかったらおれはあのまま死んでた」

 

 近界民に壊された家から逃げられたのはおれと姉ちゃんだけ。妹とばあちゃんは家の下敷きになって助けられなかった。外に出てたお父さんとお母さんも建物倒壊に巻き込まれる形で死んだ。

 姉さんと2人で逃げてたけど姉さんもおれを逃がすために死んだ。

 たった1人で逃げるのは辛くて、心細くて、何度も来た道を引き返そうと思った。いや、林藤さんと忍田さんに助けてもらわなければ確実に戻っておれは死んでいた。

 

 あの時、おれの目の前に現れた近界民を倒しておれを助けてくれたその時から、おれはもう一度生きることができるようになったんだ。

 

「そして、桐絵と風間さんがおれを変えてくれてボーダーの仲間たちがおれの新しい家族みたいになった。復讐じゃない、守るために強くなれたんだ」

 

 あの時の荒れて荒れていっぱいいっぱいのおれを変えてくれたのは桐絵と風間さんだった。忍田さんと林藤さんだけじゃない、この2人との出会いが無ければおれはおれとして今ここに立てていない。

 そしておれが変われば周りも変わる。いつのまにかおれの周りにはたくさんの仲間ができた。信頼できる先輩、切磋琢磨して時にふざけあえる同級生、たまに生意気だけど慕ってくれる後輩、本当にたくさんの仲間ができた。

 

「だから、おれの今の目標はボーダーの仲間たち、いや新しくできた大切な家族たちを、守るために強くなることなんだ」

 

 ふわっと柔らかく先ほどよりも少し暖かい風が吹いた気がした。

 

 林藤さんは一度つけている眼鏡をあげて目頭を揉むようにしてから、泣き笑いのような顔でこう言ってくれた。

 

「束、お前にはまだまだ楽しいことがたくさんある。俺たちもお前を守るから、絶対に無事でいるんだぞ」

 

 きっと林藤さんも迅さんの予知を知っている。おれの話を聞くだけじゃなくて、予知のことを聞いたおれに対して精神的なケアをするのもこの話の目的だったのかもしれない。

 

 おれの答えは決まってる。

 

「もちろん、おれもみんなを守ってみせる!おれはみんなのことが大好きだからね!」

 

 

 

 ・

 

 

 

 翌日朝起きて目をこすりながらリビングに入るといい匂いが漂って来た。スパイシーなスパイスの匂いだ。

 

「ふぁ〜、おはよう…」

 

「おはよう束!早く顔洗って来なさい!」

 

「また、カレー?」

 

 つまり今日の朝は昨日の残り物のカレーらしい。

 

「なに?文句あるの?」

 

「ううん、ないです…。顔洗ってくる」

 

 昨日あんなにいっぱい作ってどうするんだと思ったけどこの分だとおれの部屋にカレーのストックを差し入れしに来そうだ…。

 

「束、学校まで車で送っていくか?」

 

「大丈夫、早めに出れば間に合うし歩くよ」

 

「結構遠いし乗せて貰えばいいんじゃないか?俺も小南先輩も宇佐美先輩も乗ってくぞ?」

 

「そうよ、あんたも乗せてもらいなさい」

 

「そうそう遠慮なんてしなくていいんだよ〜」

 

「ああ、その通りだ。遠慮なんてしなくていい」

 

「じゃあ、お願いしようかな」

 

 今日も今日とて学生の仕事は学校でお勉強だ。ボーダー隊員だって例外はない。まぁ一応防衛任務の都合上学校を早退したり遅刻したりはあるけどそれは公欠扱いだし。

 

 今回は登校にレイジさんが車を出してくれるらしいからお願いした。

 いつもは警戒区域の中をトリオン体で突っ切って、警戒区域から出たら歩いて登校している。ぶっちゃけトリガーの私的利用で隊務規定違反だけど登校に関してだけはなんとかして例外を取ってくれた。鬼怒田さんと忍田さんと林藤さんが。

 

 朝飯を食い終わったらそれをみんなで片付けて学校に行く用意をする。

 それが終われば全員が玄関に集合だ。

 

「それじゃあ、全員気をつけてな!」

 

「きをつけて行ってくるんだぞ」

 

 林藤さんと陽太郎はお見送りだ。

 

「「いってきます!」

 

「いってきます」

 

 レイジさんは軽く手を挙げただけだしとりまる先輩も相変わらずのローテンションだ。

 

「なに笑ってんの?」

 

 桐絵から声をかけられる。

 どうやら思っていたことが顔に出てしまったみたいだ。

 

「最高にたのしいなって思ってさ」

 

 桐絵はこの答えに満足したのか一つ息をついて、それからニッと笑いながら俺の頭をわしゃわしゃする。

 

「そうね、すっごくたのしいわ」

 

 そう言ってまた大きく笑った。




いかがでしたでしょうか。束の過去が少し明らかになったお話です。
小南と風間さんのエピソードはまたいずれどこかで

次が終わったあたりで原作入りたいなぁと考えています。

感想や評価などお待ちしてます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

篠宮束と那須隊

お待たせいたしました!遅くなって大変申し訳ありません…。

今回の話にオリジナルのオペレーターが出てきます。のちに大規模侵攻編で束くんのオペレートを担当してくれる予定です。

では、本編を楽しんでいただけたら幸いです!





 キーンコーンカーンコーン。

 

「よし、じゃあ帰りのホームルームも終わりだ気をつけて帰れよ」

 

 チャイムがなりホームルームも終わりやっと長い学校も終わりだ。そしてこれからおれを待つのは防衛任務、今日はB級の那須隊と合同だ。

 

 那須隊の狙撃手である日浦茜とは同じ学校で学年も一緒だから那須隊も特に仲のいい部隊の一つだ。

 

「茜、本部行こう」

 

 隣のクラスの茜を迎えに行くとクラスの女子からキャーキャーと声も聞こえるし、男子からは恨みがましい視線を向けられるけど無視だ。めんどくさい。

 

「あ、束くん!ちょっと待ってて!」

 

 茜は現在のボーダーの最年少女子狙撃手だ。師匠はナンバー2の狙撃手である奈良坂透先輩、本人も努力するタイプだしきっともっと上手くなるはずだ。

 そして、茜がトリオン体で付けてる指ぬきグローブはかっこいいと思う。

 

「お待たせ!」

 

「おう、行くか」

 

「茜ちゃんまたね〜」

 

「またね〜」

 

 茜がクラスメイトたちと一通り挨拶を終えるのを待って歩き出す。

 学校終わりや早退で防衛任務に行くときは見慣れた光景だ。柿崎隊と一緒のときは一つ下の学年の巴虎太朗と一緒だ。

 なので別に茜と何か特別な関係であるわけではないけどそこは中学生、2人で歩いて入れば同じボーダーで仲のいいこともあり勘繰られることも多い。

 茜が男子人気があることも大いに原因の一つだろう。

 

「そんなことないよ!束くんすごい人気あるんだから!」

 

「それこそ、そんなことないだろ。声かけられたこととかほぼゼロだぞ」

 

「それはきっと女子が牽制しあってるからだね」

 

「なんだそれ、めんどくさいな」

 

 おれには全く女子の世界は全くわからない。そもそも牽制しあってるってなんだよ。

 藍とか桐絵みたいにわかりやすければいいのになぁ。

 

「束くんかっこいいし、A級隊員だし女子の憧れなんだよ」

 

「かっこいいかなぁ?それにA級ってだけでそんな風になるもん?佐鳥先輩とか嵐山隊で唯一キャーキャー言われないけど」

 

「束くんかっこいいよ!仲良くない人にはちょっと適当なところあるけど!佐鳥先輩はまぁ…」

 

 おいおい、まぁって茜も大概ひどいな。佐鳥先輩、最年少女子狙撃手からもこの扱い…可哀想だけど、おもしろい。流石だ。とりあえず心の中だけで手を合わせておこう。

 

 茜と校庭に出て学校を出ようとしたときだった。

 

『緊急警報、緊急警報。市街地に(ゲート)が発生します。近隣住民の皆さんは直ちに避難してください。繰り返します』

 

 鳴り響いたのは門が開いた警報。本来なら市街地では聞かないはずのものだ。

 

 そして開いた場所はまさに今おれと茜、そのほかにも生徒たちがたくさんいる校庭だ。

 

「門、なんでここに…」

 

「ど、どうしよう束くん!」

 

 おれもよく理解できてない、誘導装置の故障かはたまたなんらかの別の原因か。

 

 だが今は後回しでいい。原因の解明は超優秀な鬼怒田さんたち開発部に任せておけばいいからだ。

 ならおれたちのやることは単純だ。

 

「やるぞ茜、虎太郎はいないから2人だけだけどあれぐらいなら問題ない」

 

 門から出てきたトリオン兵はたったの2体、戦闘用のトリオン兵であるモールモッドだが問題ないだろう。

 

「そ、そうだよね!私たちがやらなきゃ!」

 

「「トリガー、オン!!」」

 

 起動の意思さえ持てば勝手に起動してくれるが言葉を発する人も多い。今回はボーダー隊員がいるぞ!、という目印にもなる。

 

「篠宮くんと日浦さんだ!」

 

「よかった、ボーダー隊員だ!」

 

 茫然自失となって校舎の方に逃げていた生徒たちがおれと茜が換装したことに気づいてワッと盛り上がるができたら避難してほしい。

 

「全員校舎の中に入って先生の指示に従え!!近界民はおれたちが処理する!!」

 

 珍しく怒鳴り声のようなものを出したせいで声が上ずったけどある程度の効果はあったみたいだ。校舎の出入り口でたむろしてた生徒たちが先生の誘導に従って避難してくれた。

 

「声うわずってたね」

 

「うるさいぞ、援護頼む。速攻で片付ける!」

 

「了解!」

 

 一体目に近づけば反応して来たモールモッドが武器である二本の鎌のような腕を振り切ってくる。

 

「遅い!」

 

 スコーピオンを二回振るって腕を落とす。あとは弱点の目玉を仕留めるだけだ。

 もう一体のモールモッドは茜に任せよう。

 

「茜浮かせるから仕留めてくれ!」

 

「え…、了解!!」

 

 少し戸惑ったみたいだけどおれの意図は察してくれたみたいだ。

 2体目はおれを無視して校舎の方に向かう動き見せている。その2体目の体の下にグラスホッパーを置く。それに触れたモールモッドは真上に跳ね上がる!上に跳ねればでかい一発で狙撃しても問題ないと思う。

 

 あまり時間をかけたくない、一撃で仕留める!

 

「らっ!」

 

 ズガッン!!

 

 おれのスコーピンがモールモッドを切り裂くのと茜のアイビスがモールモッドに撃ち込まれたのはほぼ同時、周りに被害もないし上出来だろう。

 

 アイビスは狙撃手用のトリガーで威力重視の狙撃銃だ。狙撃手用のトリガーはトリオン能力によって決まった能力が伸びるようになっている。つまり、アイビスだと威力が伸びるようになる。

 

「本部、こちら篠宮。市街地に門が発生、その場にいたおれと日浦で処理しました」

 

 本部に連絡を入れると通信を返してくれたのは忍田さんだった。

 

『ああ、確認した。よくやってくれた、回収班を向かわせているから引き継ぎが済んだら両隊員は予定通り防衛任務に向かってくれ。那須と熊谷には先に向かってもらう』

 

「篠宮了解」

 

「日浦了解です!」

 

 どうやらこうなることを見越して先に回収班を向かわせてくれてたみたいだ。

 

「茜、おれ先生とちょっと話してくるから見ててもらってもいいか?」

 

「あ、うん!わかった!」

 

 茜に現場を任せていったん離れて先生に状況を説明しに行く。

 

「篠宮、一体どういうことなんだ?」

 

 どういう事と言われてもわかることはおれも少ない。とりあえずわかってることを話せる範囲で話しておいた方がいいだろう。

 

「門が開いた原因はわかりません。誘導装置の故障かも知れませんけど今の所詳しくは」

 

「そうか、まだ生徒は帰宅させない方がいいよな」

 

「そうですね、今から回収班が来ますので彼らの指示に従っていただけるといいと思います」

 

 そう言ったタイミングで校門の方から車のエンジン音が聞こえてきた。

 どうやら回収班が到着したみたいだ。ほんとにかなり早く着いたな。忍田さんはどのタイミングで回収班を呼んだんだ…。

 

「回収班来たみたいですね、引き継ぎ済ませて来ます。そのあとすぐに防衛任務なのでおれたちはこれで」

 

「ああ、わかった。気をつけてな!」

 

 回収班と話をしている茜の方に向かって歩くいく。茜と話している回収班の人は俺にとって仲のいい開発部のチーフエンジニアだ。

 名前は寺島雷蔵さん、元凄腕の攻撃手で弾トリガーの流行に切れてエンジニアに転向した経緯を持つ人だ。元は細かったがトリオン体での食事をとりすぎたせいで丸くなってしまった。

 

「雷蔵さん!」

 

「ん、ああ篠宮お疲れ様」

 

「お疲れ様!なんで雷蔵さんが回収班にいるの?」

 

「ああ、鬼怒田さんに行って来いって。原因探るなら現地見て来た方が早いでしょ」

 

「なるほど、確かに!」

 

「2人とも防衛任務に行ってきていいよ。あとはやっておくから」

 

「「了解!」」

 

「行こう、茜」

 

「うん!」

 

 雷蔵さんに場を引き継いでおれたちは学校を出て防衛任務に向かった。

 

 

 

 ・

 

 

 

「ごめんなさい!那須先輩、熊谷先輩、志岐先輩!」

 

「遅れてごめん!」

 

 おれと茜は結局防衛任務には間に合わず30分ほど遅れてしまった。

 

「大丈夫よ、お疲れ様」

 

 遅刻したおれたちに優しく声をかけてくれた人が那須隊隊長である那須玲先輩だ。

 出水先輩と同じくリアルタイムでバイパーの弾道を引くことができる数少ないシューターで、機動力と弾で敵を追い詰めるスタイルを取る。

 生まれつき体が弱く、ボーダーの「体の弱い人をトリオン体で元気にできるか」という研究に協力する形でボーダーに入隊した人で、今ではトリオン体で運動することが好きだったりする。

 ちなみに茜の師匠、奈良坂先輩のいとこで、桐絵のクラスメイトだ。

 

「大変だったわね」

 

 こう労ってくれたのは那須隊攻撃手の男前女子、熊谷友子先輩だ。

 基本的に防御重視で那須先輩の防御に回ることが多いからソロポイントはそんなに高くないけど捌きや返しの技術は一級品でおれたち男性攻撃手陣からも一目置かれている。

 那須先輩と親友同士で玲、くまちゃんと呼ぶ仲だ。おれはくま先輩って呼んでいる。

 

 そして、ここに極度の男性恐怖症で年上に対しては日常生活に支障をきたしてしまうレベルのオペレーター志岐小夜子先輩を加えたのが那須隊のメンバーになる。

 男性恐怖症の志岐先輩がいるから那須隊に混ぜてもらうときは本部の中央オペレーターの人にオペレートしてもらってる。

 

 今回オペレーターをしてくれてるのは宵坂詩音(よいさかしおん)さん、本部所属の中央オペレーターで部隊によっておれをオペレートしてくれる人がいなかったり、混成部隊のときはよく担当してくれてる。

 

「しかし、市街地に門開くなんて災難だったわね」

 

「まぁ、おれと茜のいるところに開いたのが不幸中の幸いってやつだよね」

 

「確かに、2人がいなかったら大変なことになってかも知れない」

 

「ほんと怖かったですよ〜」

 

「原因はわかってないんでしょ?」

 

「はい、誘導装置の故障ではないってことはわかってるみたいですけど」

 

「まぁ、その辺は超優秀な鬼怒田さんたち開発部に任せとけば大丈夫だよ!」

 

「篠宮くんはほんとに開発部のみんなが好きね」

 

「まぁこの子しょっちゅう開発部入り浸ってるしね」

 

 くま先輩の言う通りおれは開発部によく出入りしている。トリガーの調整はもちろん、新トリガーのテスターに呼ばれたり、トリガーで一緒に遊んでみたり、そのせいでポイントを没収されたことも何度もある。

 鬼怒田さんにも何度も怒鳴られてるけどおれはあそこにいる人たちが好きだ。優しくて、優秀でいつもおれを気にかけてくれてる。鬼怒田さんはよく部屋に様子を見に来てくれるしね。

 

「おれはあそこにいる人たちもみんな大好きだからね!」

 

「あんたよくそんな恥ずかしいこと自信満々に言えるわね」

 

「ふふっ、篠宮くんらしくていいじゃない」

 

「そうですよ!私も先輩たちのこと大好きですから!」

 

「茜、あんたまで」

 

 くま先輩が額に手を当ててはぁ、とため息をつく様子を見ながら笑い声が響く。

 そのタイミングで、ふと思い出した。そういえば報告に行かないといけないないんだった。

 

「あ、那須先輩!」

 

「どうしたの?」

 

「さっきの市街地に門が開いた件でおれと茜防衛任務の報告と一緒に来いって言われてたんだった!」

 

「あ、忘れてた!」

 

「そうだったんだ、わかったわ。あとで一緒に行きましょう」

 

「うん、ありがとう!」

 

 そしてこのタイミングでオペレーターから通信が入る。

 

『篠宮くん、門が発生するわ。多いわね、門が5つ、誤差3.14、くるわ!』

 

「那須先輩!」

 

「聞いたわ!茜ちゃんはすぐに狙撃位置について!」

 

「了解です!」

 

 那須先輩の指示を聞いて茜が元から決めてあった狙撃ポジションへ移動を開始する。今日のおれは那須隊のメンバーだ、指示は那須先輩からもらうべきだろう。

 

「おれはどうする?」

 

「篠宮くんは自由に動いてもらって大丈夫よ、小夜ちゃんは篠宮くんのオペレーターと情報を共有してね」

 

「了解!」

 

『情報共有完了したわ、いつでも動いてくれて大丈夫よ』

 

 那須先輩からの指示から時間もたいして経たないうちに情報の共有は完了したみたいだ。やっぱり壱岐先輩もしおんさんも優秀だ。

 

「くまちゃんは私と篠宮くんのサポートをお願い!」

 

「任せなさい!」

 

「くま先輩よろしくね!」

 

 そう言い残しておれはグラスホッパーを起動、トリオン兵に向かい一気に突き進む!

 

『しおんさん、敵の数は?』

 

『バンダーが8、モールモッドが12、バドが6の計26体ね、大型や飛行型は那須さんや日浦さんに任せて篠宮くんはモールモッドを優先的に狙って』

 

『了解!』

 

 トリオン兵の群れに突っ込みすれ違いざまにモールモッド一体の弱点を裂いて、もう一体の腕を落とした。

 そして腕を落とした一体をもう一振りで倒してからさらに動く。集団を相手にするときは止まらないのが鉄則だ。囲まれてしまったらいくら雑魚だといってもめんどくさい。

 

『右からモールモッド1、正面バンダー1、日浦さんが目の前のは狙撃するわ、篠宮くんは右を』

 

 その指示を聞く前に体は反応している、でかいのは茜たちに任せてる、ならでかいの無視したって構わない。目の前に捉えたモールモッドに腕を二度振るえば一振りで両腕は落ちる、二振り目で弱点を切り裂いた。普通なら届かない間合いでもマンティスは届くからね。

 

『流石ね、残りのノルマは8体よ。この調子ならどうにか無事に切り抜けられそう』

 

『みんな強いから当然だよ』

 

 おれはまだ三体しか倒してないけど多分くま先輩が倒したんだろう。茜の狙撃と那須先輩の射撃ででかいのも飛んでるのも減ってるし、おれはおれの仕事を果たそう。

 

 そう、気持ちを入れ直して次に向かおうとしたときだった。

 レーダーに2つの敵を示す点が市街地の方に向かってるのが見えた。

 

『しおんさん、トリオン兵が!』

 

『バンダーが2体市街地に向かってるわ!迎撃して!』

 

『了解!』

 

 茜の射線では弱点を捉えられないしあの距離じゃ那須先輩も届かない、ならおれが直接行って斬った方が早い。

 

 グラスホッパーにテレポーターも併用して一気に距離を詰める!

 だけど間に合わない!二体のうち、一体が砲撃の態勢に入っている!

 まずい、と思ったとき、ドゴオォォォン!!という音とともに茜のアイビスを使った一発が砲撃の準備に入っていたバンダーを狙撃した。弱点は打ち抜けずまだ動いてはいるが砲撃の軌道は空に逸れた。

 

 その隙を逃さない!

 

 グラスホッパーを使って弱点に届く間合いまで飛び上がる。

 

 マンティスを使って一体目、そして二体目を片付ける。

 

 結局そのあとは特に大きな問題もなく多くのトリオン兵をしっかり4人で片付けることができた。

 

 珍しく一気に大量のトリオン兵が出てきたりイレギュラーな門に遭遇したり今日は厄日なのかもしれない。

 

 

 

 ・

 

 

 

「「「失礼します」」」

 

 意外にも多くのトリオン兵が出て少ししんどかった防衛任務を終えておれたちは今本部長室へ防衛任務の報告とついでにさっき起こったイレギュラー門に対する説明をしにきた。

 

「こちらが防衛任務の報告書です」

 

「ああ、ありがとう。随分と多かったみたいだな」

 

「はい、少し驚きました」

 

「まぁ、おれたちなら余裕だったよ!」

 

「束、あまり慢心はするなよ。いずれ足元をすくわれるぞ」

 

 忍田さんにそう言われたがそれはもちろんわかってるつもりだ。

 

「もちろん、わかってます」

 

 慢心は自分だけじゃなくて周りも危険にさらす。だったらおれが慢心なんてできるわけがない。

 

「どうやら余計な心配だったようだ。さて、では束、日浦。先ほどのイレギュラー門についての現場での状況説明を頼む」

 

 さて、ここでやっとおれと茜にとっての本題だ。

 

「本日の午後4時過ぎ、中学校の校庭に門が発生、出てきたトリオン兵はモールモッドが2。これを日浦隊員とともに殲滅、回収班に引き継いだのち防衛任務に向かいました」

 

「ああ、間違いないか?」

 

 おれの言葉に間違いがなかったかどうかを茜に確かめる。

 

「間違いありません!あ、もう一つ」

 

「なんだ?」

 

「大きな被害もなく、転んで怪我をした人が数人でた程度でした」

 

「そうか、ありがとう」

 

 茜の補足説明に忍田さんが笑って頷いた。忍田さんはこういうふうに緊張感を解くのが上手いと思う。

 

「大きな被害が出なかったのは幸いだが、現場に居合わせた隊員として何かおかしなことなどはなかったか?」

 

 忍田さんの質問におれも茜も首を横に振る。おかしなことと言われても市街地に門が開かれたこと以外に何もない。

 

「そうか、現在もまだ原因は調査中だ。各隊員に非番の場合も市街地に門が開いた場合、優先的に対処するように伝えておくしかないな」

 

「あ、わかってると思いますけど一つだけ」

 

「ん、どうした?」

 

「迅さんにも頼るべきだと思います。大事ですからね」

 

 こんな事態の時は迅さんの未来視のサイドエフェクトは有効だ。あの人の力があれば解決までの時間は短縮されるだろう。

 

「ああ、すでに迅には伝えて調査も頼んでいる」

 

 どうやらおれが一言付け足す必要はやはりなかったらしい。

 

「さて、那須、日浦、束ご苦労だった。あとはゆっくり休んでくれ」

 

「「はい、失礼します」」

 

「またね〜忍田さん!」

 

「束、少し待ってくれ」

 

 挨拶を残して部屋を出ようとすると忍田さんがおれを呼び止めた。

 那須先輩たちは一歩おれより先で立ち止まっておれは忍田さんに振り返った。

 

「どうかしたの?忍田さん」

 

「ああ、いや大したことじゃないんだが」

 

 頭に疑問符がポコポコで始めたところで忍田さんが続けてくれた。

 

「あまり無理をするなよ。また修行をつけてやる」

 

 これを言うためにわざわざ呼び止めたんだ。少し笑ってしまって忍田さんが気にしてしまった。不器用な人だ。

 

「ごめん、忍田さん変な意味じゃないよ?」

 

「そうか」

 

「ありがとう!無茶はしないよ、みんなもいるし!」

 

 忍田さんは少し笑って頷いた。

 

「そうだな、今のお前には仲間がいる。那須、日浦、束のことを頼んだぞ」

 

「はい、任せてください」

 

「了解です!」

 

 忍田さんに頼まれていい返事を2人が返す。なんかとても気恥ずかしい…。

 

「ほら!2人とももう戻ろう!またね忍田さん!」

 

 赤くなってしまった顔を誤魔化すようにして2人を出口の方に押しやって部屋を出る。

 出るときの忍田さんの顔は笑っているように見えた。

 

 

 

 ・

 

 

 

 本部長室を出て本部の廊下を3人で歩く。このあとは特に予定はないからランク戦でもしようかなぁ。

 

「篠宮くんはこのあと予定ある?」

 

「ううん、ないよ!ランク戦でも行こうかと思ってたところ」

 

「じゃあうちの隊室でお茶でもどうかしら?いい茶葉があるの」

 

「お菓子もあるよ!」

 

 那須先輩と茜の誘いは予定のないおれにとっては魅力的な相談だ。

 

「じゃあお邪魔しようかな!でも、志岐先輩は大丈夫?」

 

「大丈夫よ、篠宮くんは年下だし少しずつでも慣らしていかないと」

 

 那須先輩、思ってるよりスパルタだ…。

 

 まぁ、那須先輩がいいって言うならお邪魔させてもらおう。たまにはお茶でもいいしながらゆっくりするのも悪くない。

 それが気心知れた仲間なら尚更だ。

 

「行きましょうか、くまちゃんがお茶を入れて待ってるわ」

 

「「はーい」」

 

 茜と2人で返事をして那須隊の隊室まで歩く。

 

 最後は平和に忙しかった1日は過ぎていった。




宜しかったら 評価や感想お待ちしてます!

次回からはワートリ本編に入ります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

原作開始
篠宮束と空閑遊真


またまたお待たせしてすいません。原作突入です。
今年の投稿はこれで最後になりますが、来年もよろしくお願いします。


 少し肌寒いけどトリオン体なら寒さも暑さも関係ないのでそよそよとそよぐ風に打たれるのが気持ちいい。地面にではなくて、屋根の上に立っている分余計に風が気持ちよく感じるような気がする。

 

 現在おれは防衛任務の真っ最中。午後の気持ちいい風と空にでてる太陽のおかげでだいぶ心地いい。戦争をしてるなんて忘れてしまいそうだ。

 

 だけど残念ながらそんな穏やかな昼下がりの防衛任務が終わってしまったことを知らせる通信が入ってしまった。

 

『防衛任務に出ている各隊員に緊急通達!!』

 

 しかもその通信はなぜか現在防衛任務にお邪魔させてもらってる諏訪隊のオペレーター小佐野瑠衣先輩じゃなくて本部の中央オペレーター室に詰めている沢村さんからだ。

 

「ありゃ、これはなんか異常事態かな」

 

『現在三門第三中学にイレギュラー(ゲート)が発生!嵐山隊と諏訪隊と合同任務中の篠宮隊員はすぐに現場に急行してください!』

 

 ここ最近イレギュラーな門が市街地に開くことが頻発してる。普通の門は本部の誘導装置に誘導されるから警戒区域内に発生するはずだけど、誘導装置が故障してないにも関わらず市街地に開くらしい。今まではおれの体験したやつも含めて偶然にも非番の正隊員の近くで開いたから被害は出ていないらしいけど今回はよりにもよって三中だ。あそこは確かボーダーの正隊員はいなかったはずだ。

 現在イレギュラー門の原因を鬼怒田さんを筆頭に開発室の皆さんが寝る間を惜しんで解析してるけど成果はなかなか出ていないらしい…。

 

 それにしても、嵐山隊じゃなくておれも行くの?

 

「沢村さん、おれも行くの?嵐山隊より遠いけど」

 

『あなたの機動力が必要よ。全速力でお願い!』

 

「了解。諏訪さん、てなわけで一旦持ち場離れます!」

 

『おう!行ってこい篠宮!』

 

『オペレーターとして宵坂さんをつけるわ』

 

『ありがとう、沢村さん!しおんさん案内よろしく!』

 

『ええ、任せて。時間がないから急いでね』

 

『了解!』

 

 さて、行くか。おれはグラスホッパーを起動して三門第三中学までの道を駆け抜ける。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 タンッと校舎の塀を飛び越えて三門三中に到着すると生徒たちはほぼ校庭に避難していて、校舎の壁にモールモッドが一体張り付いて登ろうとしている。校舎の中で激しい音も聞こえるし中でどうやら暴れてるのもいるみたいだ。

 

「篠宮現着、処理を開始します!」

 

『数はモールモッドが二体、篠宮くんの判断で仕留めて』

 

『了解!』

 

 ボーダー隊員だ!と言う声を後ろに聞きながらグラスホッパーを起動、モールモッドを横に捉えるところまで飛び上がって腕を二度振るう。

 スコーピオンを2つ無理やり繋げたマンティスによって切り裂かれたモールモッドを踏みつけ叩き落としつつさらに上へ。

 

 おれがモールモッドを倒したのとほぼ同じくらいに暴れる音が止まっていた。

 考えられるとすれば残っていた生徒が殺されたか、なんらかの戦闘が終わったかだ。

 

 少し申し訳ないが窓を蹴り破って校舎の中に入る。すでにモールモッドが派手に壊してたし気にしないことにしよう。

 

「…これは…」

 

『もうやられてるわね』

 

 しおんさんの言った通りおれの目の前にはすでに倒され動かなくなったトリオン兵、そしてトリガーを起動している白髪のちびっことメガネの中学生だ。

 

 取り敢えず報告するにしても何するにしても事情を聞いてからだな。

 

「ボーダー本部所属、篠宮束だ。この近界民は君が?」

 

 おれの質問にメガネくんは少しうろたえて、白髪のちびっこはどうしようかと考え込んでいるようだったが、メガネくんが前に出てきて事情を説明してくれた。

 

 メガネくんは一度白いちびっこに目配せをしてからおれの質問に答えてくれた。

 

「C級隊員の三雲修です。この近界民は僕のトリガーを使って彼が倒しました」

 

 

 ふむ、C級のトリガーは訓練用に出力を押さえられている。C級のトリガーを使ってモールモッドをこれほど鮮やかに倒したと言うことはかなりの実力があると言えるはずだ。

 つまり、この白いちびっこはこちらの世界の住人ではない可能性を否定できない。

 

 近界民である可能性を、だ。

 

 おれは一度しおんさんとの通信を何も言わずに切った。これからする話を本部に伝えるかは白いちびっこ次第だ。

 

「まずはC級隊員がおそらくトリガーを使ったであろうことは置いておく」

 

「えっ?」

 

「今はそんなことよりも、白いちびっこお前に聞きたいことがある」

 

「空閑遊真だよ。それで、なに?」

 

「そうか、なら空閑。…お前は近界民か?」

 

 白いちびっこ改めて空閑の目付きが少し厳しくなりまとう雰囲気が変わったように感じた。どこか飄々とした印象から歴戦の戦士のようなそんな感じに。

 そしてメガネくんのあの狼狽えよう、答えはわかってしまったようなものだけど実際に聞くことに意味がある。

 

「誤魔化すのは無理そうだな。…お前の言う通りおれはお前らで言うとこの近界民だよ」

 

 やはりおれの予想は当たったようだ。遠征について行った以外でトリオン兵ではない人型の近界民にあったのは初めてだ。

 

「あんまり驚かないんだな。オサムは近界民が人なのも知らなかったのに」

 

「おれはあっちの世界に行って人型近界民には会ったことがあるんだ。C級にはその辺説明されてないからメガネくんがわからないのは仕方ないよ」

 

 近界民達の世界は『近界(ネイバーフッド)』と呼ばれている。

 そして門を開いて近界の世界を探索する遠征と呼ばれるものがボーダーでは極秘に進められている。おれは一度同行したことがあるが未知の世界の探検は不謹慎だけどワクワクした。

 

 ちなみに現在はA級のトップチームが三部隊合同で遠征に行っている。予定ではそう遠くないうちに帰還するはずだ。

 

「それで、どうするの?ボーダーに報告すんの?」

 

「いや、それはお前次第だ」

 

 意外そうな顔をする空閑にその理由を教えてやる。

 

「さっきも言ったがおれはあっちの世界に行ったことがある。だから近界民にもいいやつがいることも知ってる。もっとも…、お前が四年前こっちの世界を攻め込んだ国のやつなら話は別だ…」

 

 一拍おいて続ける。果たしておれはふつふつと湧き上がるこの憎しみをうまく隠せてるだろうか。

 

「その場合は悪いが、ここで捕獲させてもらう。…それが無理なら殺してやるよ…」

 

 ああ、無理だ…。どれだけ時が経っても、あの時の怒りを憎しみを無くすことなんてできない。おれの家族を殺した国を許すことなんてできるわけがない。

 

 だけど、その怒りだったり憎しみをその国以外に向けるのは違うと思う。それをおれは風間さんや桐絵から教えてもらい、近界への遠征で学ぶことができた。

 

「でも、多分お前は四年前とは関係ないだろ」

 

「ふーん、なんでそう思うの?」

 

「…おれの勘だ!」

 

 嫌な沈黙が俺たちの間を流れた。

 

 まぁ、取り敢えず嵐山隊もそろそろつくだろうし早めに戻った方がいいだろう。

 

「取り敢えず、この件はおれが預かる!上のこいつはメガネくんが倒したってことでいいな」

 

「あ、はい。わかりました」

 

「敬語じゃなくていいよ。おれも中学生だ」

 

「あ、うん。わかった」

 

「メガネくん、名前は?」

 

「あっ、…三雲 修です。えっと…」

 

「篠宮束、呼びやすいように呼んでくれ」

 

 そう言ってメガネくん改め三雲くんに手を伸ばす。

 

「あ、よろしく篠宮」

 

 おずおずとおれを握手してくれた三雲くんの次は空閑と握手だ。

 

「よろしくな空閑」

 

「おう、よろしくなタバネ。遊真でいいよ」

 

 なんというか、開けっぴろげなやつだな。仲良くなれそう気がする。

 

「おーけー、よろしくな遊真。さて、早いとこ下に戻ろう」

 

 多分だけど遊真は悪いやつじゃない。おれはおれの勘に従うことにして三雲くんと遊真を連れて生徒たちが集まっている校庭へと向かった。

 

 

 

 ・

 

 校庭につくと、わぁ!と歓声が響いた。生徒を守ったボーダー隊員だ。こうなるのはよくわかる。

 

 取り敢えずおれは三雲くんと遊真を生徒たちの輪に残して、もうすでについていた嵐山さんたちのところに向かう。

 

「嵐山さん!お疲れ様です!」

 

「ん?篠宮か!よくやってくれたな!」

 

 嵐山さんがバシバシとおれの背中を叩いてくる。シスコンにしてブラコンの嵐山さんの弟妹はこの中学校に通っているから感情が振り切ってる気がする。

 はっきり言えばすごく痛い…。

 

「あ、嵐山さん!痛い痛い!」

 

「ああ、すまないな篠宮!だが流石だな!」

 

「その下に落ちてるのはおれがやったけど上のやつはおれじゃないよ。おれは間に合わなかった」

 

 嵐山さんは不思議そうな顔をしてる。

 それはそうだろう、おれじゃないなら誰がやったんだという話になるからだ。

 

 おれは人混みの真ん中にいる三雲くんを拝借して嵐山さんの前まで連れて行く。

 

「上のを片付けて生徒を助けてくれたのはこいつだよ」

 

 嵐山さんの頭にはきっとハテナが浮かんでることだろう。なんせ連れて来たのは見るからに弱そうなメガネだ。まぁ、倒したのはこいつじゃないわけだけど嵐山さんに伝えるわけにもいかない。

 

 三雲くんに目配せすれば少し慌てて自己紹介をしてくれた。

 

「C級隊員の三雲修です。待っていたら間に合わないと思い、自分がやりました」

 

「C級…!」

 

 三雲くんの顔が曇る。おれのときは遊真の問題があったから置いておいたことだからな。

 

 でもまぁ、嵐山さんなら頭ごなしに怒るようなことにはならないだろう。

 

 嵐山さんが三雲くんの肩をがっと掴む。

 

「そうか、よくやってくれたな!」

 

 三雲くんが呆気にとられている。テレビで見る嵐山さんは爽やか全開だけど実際のこの人はちょっと天然も入ってる熱血爽やかだからな。面食らって冷や汗かいてもしょうがない。

 

「この学校にはおれの弟と妹も通ってるんだ!ありがとう!」

 

 そう言って嵐山さんは弟妹の元へと向かって行く。

 

「面食らうでしょ。あの人ブラコンでシスコンなんだ」

 

「えっ?…いや、それよりもなんで…」

 

 三雲くんの疑問は多分、隊務規定違反をしたのに褒められたこと、いや賞賛されたことだろう。

 嵐山さんも隊務規定違反だってことはわかってる。それでも、C級でありながら市民を守るために武器を取り、そして守ったことを賞賛したんだ。

 

「お前は市民を守ってくれたからだよ。間違いなく死人が出なかったのはお前のおかげだ」

 

「…ありがとう…」

 

 三雲くんが困り顔をやめて少しほころんで感謝の言葉を口にしてくれた。

 

 まぁ、それでも違反は違反。なんかしらの処分はあるだろうけどね…。

 

 さて、ここまでおとなしくしてたキツめの声がこのタイミングで聞こえてきた。

 

「嵐山さんも篠宮くんも、違反者を褒めるような真似をしないでください」

 

 まぁ、藍ならそう言うだろうなぁ。わかってた。

 藍の言うことも一理あるっていうよりは正しい。いかに人を救ったとはいえ違反は違反だ。

 

「だが、彼は人を救ってくれたわけだし…」

 

 嵐山さんが三雲くんをかばおうとするが残念ながら藍にはあまり効果が無いであろうことはおれも、もちろん嵐山さんも分かっているはずだ。

 

「確かに彼がやったことは評価に値します。ですが彼はC級隊員です。これを許せば他のC級隊員にも同じような違反をする人間が現れます。ヒーロー気取りの実力不足な隊員が現場に出れば、いずれ深刻なトラブルを招くのは火を見るより明らかです。C級隊員に示しをつけるため、ボーダーの規律を守るため、彼はルールに則って処罰されるべきです」

 

 まぁ、藍の言うことはもっともだ。大いに正しいけど、この場で言うようなことでもないし、なんだったら処罰するかどうか決めるのもおれたちじゃない。

 

 まぁ、こいつの性格上、対抗心が出てしまってこんな言い方しかできなかったんだろう。もうちょっと柔らかくなれば色々と楽なのにな。

 

 そしてその藍につっかかったのは遊真だった。

 

「お前なんで遅れて来たのに偉そうなの?助けたのはオサムで間に合ったのはタバネだろ」

 

「なっ…、あなたは誰?」

 

「オサムとタバネに助けられた人間だよ」

 

 おっと、なんとなく分かってたけど好戦的だなこいつ。三雲くんは止めようとしてるが止まらない。

 

「そもそもお前は間に合ってないんだから何も言う資格ないだろ」

 

「確かに私は間に合わなかったから何も言う資格はないかもしれない。でもね、彼はまだ訓練生であるC級で基地外ではトリガーの使用許可はないの。トリガーを使って人助けをしたいならボーダーの許可が必要よ、当然でしょ?トリガーはボーダーのものなんだから」

 

「何言ってんだ?トリガーはもともと近界民のもんだろ?」

 

 おっと、この流れはまずい。藍がやり込められそうな気がしてならない。プライドが高くてそれだけの実力もあるけどなにせ隙も多いやつだからなぁ。

 

「おまえらはいちいち近界民に許可とってトリガー使ってんの?」

 

「あなたボーダーの活動を否定する気…!」

 

「おい、落ち着きなよ藍。遊真はそんなこと言ってないだろ」

 

「あなたは黙ってて!」

 

 聞く耳持ってくれない。もうどうにでもなってしまえと思ったので、成り行きを見守ることにする。

 

「…ていうかおまえ、オサムが褒められるのが気にくわないだけだろ」

 

「なっ…」

 

 図星突かれちゃったか〜。こうなったらもう逆転は不可能だ。

 

「何を言ってるの⁉︎わっ…私はただ組織の規律の話を…」

 

「ふーん、おまえ…つまんない嘘つくね」

 

 そしてこのタイミングで手を打つ音が二度聞こえた。

 

「はいはいそこまで」

 

 この言い争いに終止符をうち仲介してくれる人は嵐山隊の名バランサー、とっきー先輩だ。

 

「現場調査は終わった。回収班呼んで撤収するよ」

 

「とっきー先輩!おつかれ!」

 

「うん、おつかれ。木虎の言い分もわかるけど、三雲くんの処罰を決めるのは上の人だよ。オレたちじゃない。ですよね?嵐山さん?」

 

「なるほど!充の言う通りだ!今回のことはうちの隊から報告しておこう。いいな、篠宮」

 

「了解、嵐山さん」

 

「よし、三雲くんは今日中に本部に出頭するように。処罰が重くならないように力を尽くすよ。本当にありがとう…!」

 

「…そんな…こちらこそ…」

 

 嵐山さんと三雲くんが握手をしてこの騒動はお開きとなった。

 

 本部に戻ったあと通信を切ったことをめちゃめちゃしおんさんに怒られたけど、今度野良猫の写真撮ってくるので許してください…。

 

 最終的にはホクホクしてたしまぁいいか。




楽しんでいただけたでしょうか?いただけたら幸いです。

今年ももう終わりですね、来年はもっと面白いものを作れるように頑張りたいです!

そして、平成最後のコミケに行けなかったのがとてもくやしいぃ…。
一回しか行ったことないんですけど…

では、来年もよろしくお願いします。

感想評価お待ちしてます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

篠宮束と空閑遊真 2

お待たせしたかはわかりませんがお待たせしました!本編続きです!

もう小説の書き方が全然わかんなくて死んでます!駄文ですが楽しんで頂ければ幸いです!


 しおんさんからのお叱りを猫の写真や調べてあった猫の集会所とも呼べる穴場スポットを教えることでなんとかのがれた翌日、C級を含めた全ボーダー隊員に緊急任務の通達がきた。

 

 その内容は『イレギュラー(ゲート)の原因の一斉駆除作戦』だ。

 

 どうやら今まで市内に発生したイレギュラー門は『ラッド』という小型のトリオン兵が原因らしい。外見は完全に虫、小型といえどトリオン兵なのでまぁまぁ大きい。端的に言って別に虫嫌いでもないおれから見ても気持ち悪い。藍などは露骨に嫌そうな顔をしたくらいだ。

 

 このラッドというトリオン兵はどうやら周りの人間から少しずつトリオンを集めて門を開くらしく、ボーダー隊員の側で開くことが多かったのはトリオン能力の高い人間からは大量のトリオンを得られるから、らしい。まぁそれでボーダー隊員の近くで開くのなら不幸中の幸いだと思う。

 

 さて、らしいと言ったのはこの話をおれが今現在直接聞いているからだ。

 

 誰からかと言われれば、一昼夜かけて行われたラッド駆除作戦の疲れを取るため泥のように眠ろうと思っていたおれの部屋に無理やり押しかけたセクハラエリート迅さんからだ。

 

「それで迅さん、話はわかったけどそんな話をするためにわざわざおれの部屋に来たの?」

 

「なんだ、束。ちょっと刺々しくないか?」

 

 それはそうだろう。迅さんもだろうけどおれだって一昼夜かけてラッドを駆除したせいで疲れてるんだ。いくら戦闘能力皆無とは言っても一方的にずっと、駆除してれば疲れもたまる。

 

 じろ〜っと迅さんを半目で見つめ続けると迅さんはため息をついて観念したかのように本題を話し始めた。

 

「ん〜と、束は空閑遊真って知ってるか?」

 

「え……⁉︎」

 

 迅さんの口から出た名前につい動揺が顔にも声に出てしまった。もちろんその名前は知っている。昨日遭遇した近界民(ネイバー)の少年の名前だ。

 だが、まさか迅さんの口からその名前が出るとは思わなかった。おれはこのことをボーダーの関係者の誰にも言っていない。この話が城戸司令に伝われば間違いなく遊真を捕獲ないし抹殺することはわかりきっているからだ。まさか、もう既に迅さんは上層部にこの話を伝えたのか……、と色々な考えを頭の中でグルグル回していると、答えは目の前の迅さんからもたらされた。

 

「大丈夫だ、お前が思ってるようなことはしてないよ」

 

 ほっ、と一息ついてしまった。どうやら遊真の正体を知っているのはおれとおそらく迅さんだけらしい。まだ出会って数分しか経っていないが仲良くなれると思った少年を捉えたり抹殺はしたくなかった。

 

「迅さんは、その……知ってるの?」

 

「その子が近界民ってことか?」

 

「やっぱり……、でも誰かに言ってないんだね」

 

 迅さんは近界民なら誰彼構わず攻撃するような考えは持っていないけどそれでももしおれたちの世界に悪い影響が出ると分かれば行動を起こすはずだ。その迅さんがおれにだけ伝えに来たということは遊真はおれが思っていた通り悪い奴ではなかったのだろう。

 

「実はな、今回のラッド騒動原因を見つけたのはその遊真なんだ」

 

「……遊真が?」

 

 確かに、近界民である遊真はおれ達よりも近界(ネイバーフッド)やトリオン兵に詳しいだろうから原因を突き止めることも可能かもしれない。そして、詳しいことはわからないが迅さんは『未来視』のサイドエフェクトを利用することで原因を知っている遊真に接触したのだろう。

 

「三雲くんも束は知ってるよな?」

 

 また以外な名前が出て来た。今日は疲れてるのに迅さんに驚かされっぱなしでさらに疲れる……。

 

「はぁ……、何か三雲くんも関係あるの?」

 

「はは、悪いな疲れてるところに。まぁそうだよ、というよりメガネ君から遊真に接触したんだ」

 

 なるほど、そういうことか。

 

 迅さんは見たことのない人間の未来は見えない。つまり、今回は三雲くんの未来を見てラッドのことがわかるやつと接触することがわかったから、三雲くんについて行って遊真と接触したということだろう。

 

「それで? 迅さんはおれに何をさせたいの?」

 

「相変わらず束は話が早くて助かるよ」

 

「迅さんのことだからこんなタイミングでくるってことは何かおれにやらせたいことがあるからだってわかるよ」

 

 いつもの迅さんならきっとこの疲れたタイミングでわざわざ意味のない話はしに来ないし、そもそも迅さんは基本的に意味のないことはしない人だ。まぁ、もちろん意味もなくお尻を触ったりはするんだけど。

 

「束に何かやらせようってわけじゃないさ。これを伝えてどう動くかはお前次第だ」

 

「わかった、肝に命じておくよ」

 

「よし、まぁ簡単に言えば遊真のことで三雲くんに監視がついてる」

 

 なるほど、つまり本部(この場合は城戸さんになるけど)は遊真が近界民ってことはわかってないにしても三雲くんがおそらく近界民と関わりがあるだろうってことはわかってわけだ。

 

 だとすると監視についてるのは三輪隊だろう。今、城戸さんが直接動かせて一番強いのは三輪隊だ。近界民との戦闘も想定してるなら多分一番強い部隊を当ててるはずだ。

 

「おれは遊真の実力を見たわけじゃないけどそう簡単に捕まったり負けたりするとは思えないけど」

 

「ああ、俺もそう思うよ。いくら腕がたつとは言え三輪隊じゃ遊真には勝てないだろう」

 

 やはり、三輪隊が監視についているらしい。そして、戦闘になることもほぼ確定だ。

 だけど迅さんが三輪隊じゃ勝つのは難しいとかの表現じゃなくて、勝てないと断言したことに疑問もある。迅さんが勝てないと言った以上間違いなく三輪隊では勝てないということだ。とは言え三輪隊はA級7位の間違いなくボーダートップチームの一つだ、いくらなんでもそう簡単に負けるとは思えない。

 

「束の疑問も最もだけどな、でも三輪隊じゃ遊真には勝てない。もちろんお前も勝てないだろうな」

 

 そう言って、一つ息をついて迅さんは言った。

 

「遊真は(ブラック)トリガーなんだ」

 

 

 

 ・

 

 

 

 今おれは迅さんに伝えられた遊真と三輪隊がぶつかる場所、旧弓手町駅にいる。何が起こるのかある程度迅さんに聞いた結果、たとえ遊真が三輪隊に捕まることや殺されることがないとしても友達のピンチを知っていながら無視することはできなかった。

 

 あらかじめ駅の構内からは見えないけどある程度声は聞こえる位置に隠れていると、遊真と見たことのない小さな女の子を連れた三雲くんが駅の構内に現れた。

 何やら話した後、遊真の指輪から黒い炊飯器のようなものが出てきて話し始めた。

 

(初めて見るな……、あれはトリガーか? それともトリオン兵?)

 

 そんなことを考えていると、黒い炊飯器の機能なのか小さな女の子のトリオンが視覚化された。

 

(え……、なんてでかさだ……。おれの何倍……、いや、二宮さんよりも多いんじゃないのか……)

 

 あまりのトリオンの大きさに思わず動揺が表にも出てしまったが、遊真たちには気づかれなかったようで良かった。

 

 トリオン量は即ちトリガーを使う才能だ。少なければそもそもトリオン体で戦うことができない。そもそもトリガーをセットする時点でその分のトリオンを消費することになり、そのトリガーを使えばさらにその分トリオンを使う。つまりトリオン体で戦う場合、セットしたトリガーと緊急脱出(ベイルアウト)機能を装備した分のあまりのトリオンで戦うことになる。そして、この余りのトリオンが多ければ多いほど戦いに余裕ができる。

 ボーダーで最もトリオン量が多いのはB級一位部隊を率いる二宮匡孝さんでその戦い方は簡単に言えばゴリ押しだ。豊富なトリオン量を活かして正面から弾トリガーで削りきる、それができるだけのトリオン量と実力があってこそだが、シンプル故にそう簡単に崩すこともできない。その戦い方で二宮さんは太刀川につぐソロ総合二位、射手ランキング一位についている。

 

 だが、あの小さな女の子は二宮さんと比べてもまちがいなくトリオン量が多い。

 

(あれだけのトリオンがあるならトリオン兵から相当しつこく狙われてたんだろうな)

 

 近界民がこちらの世界に来る理由は基本的にはトリオンを持つ人間を集めるため。トリオン量が多ければそれだけトリオン兵からは狙われやすくなる。きっとあの子はなかなかの苦労をしてきただろう。

 

 そんなことを考えていると、ついに遊真たちの前に三輪隊の2人、隊長の三輪秀次先輩と陽介先輩の2人が現れた。

 本来の三輪隊はこの2人にさらに狙撃手の奈良坂透先輩と古寺章平先輩がついているが、ここにはいないなら恐らくどこかの狙撃ポイントに潜んでいるんだろう。

 

 三輪先輩が遊真に銃を向ける。

 

(遊真が形だけでも戦うより戦闘行為を何もしない方がいいはずだ。仕方ないそろそろ出るか)

 

 おれはそう考えて三輪先輩たちに向けて声をかけた。

 

「三輪先輩、少しまってください!」

 

 その場にいる全員がこちらを向く、浮かべる表情は様々だ。怪訝な顔をする三雲くんと三輪先輩、楽しそうにこちら見てニヤニヤする陽介先輩、不思議そうな顔をする遊真に状況についていけない女の子。

 

 おれの方針は決まってる、遊真には戦わせない。三輪隊を撤退させることは難しいだろうけど、そこは迅さんをあてにさせてもらおう。

 

「なんのつもりだ篠宮。そいつは自分を近界民だと言った。なら、そいつを殺すのがボーダーの仕事だ」

 

 三輪先輩が低い声でおれを睨みつけながら静かに怒りをぶつけて来る。三輪先輩の怒りの理由もおれは分かっている。それでも、おれは遊真を殺そうとも、遊真が襲われているのを黙って見てようとは思わない。

 

「三輪先輩には悪いけど、遊真はおれの友達だ。友達を守るのに理由はいらないですよね」

 

 ギリッと三輪先輩が歯を鳴らしたのがわかった。おれの発言だけでなく後ろで爆笑している陽介先輩のせいでもありそうだけど。

 

「あくまで邪魔をするんだな篠宮」

 

「遊真を攻撃するつもりならもちろん」

 

「お前ならそいつらの危険性がわかってるはずだ! なのに何故!」

 

 三輪先輩の言う通り、おれも近界民に家族を殺された被害者の1人だ。充分危険性は理解している。

 

「わかってます、だけどそれと遊真のことは関係ない! だからおれはこいつを助ける、それだけです」

 

「俺たちは城戸司令の命令を受けてここにいる、邪魔をする以上お前でも容赦はしない」

 

 一瞬目に動揺が浮かんだような気がしたけど、三輪先輩はそれをすぐに引っ込めてこう言った。

 

 本当なら穏便に済ませたかったけどこうなった以上そうもいかない。今も三輪先輩は油断なく銃をこちらに向けているし、陽介先輩を気を抜いているように見えて油断なくこちらを見ている。

 

「遊真、お前が手を出すのはまずい。ここはおれに任せてくれないか?」

 

「ユーマ、ここはタバネの言う通りにした方がいい。今ボーダーと余計な争いを起こすのは避けた方がいいだろう」

 

 黒い炊飯器がおれの提案を後押ししてくれる。

 

「そうだな、わかった。なら、たばねに任せることにするよ」

 

「ああ、任された!」

 

 遊真が三雲くんたちの方へと下がったのを見届けておれは片手にスコーピオンを起動しつつ三輪先輩たちに目を向けて改めて告げる。

 

「と、言うわけだから悪いけど止めさせてもらうよ」

 

 そう言って不敵に見えるように笑った。

 

 




読了ありがとうございました!

よければ感想評価等お待ちしています!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。