ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり 未踏査地区編 (ロートシルト男爵)
しおりを挟む

登場人物紹介

不定期更新

考証等不十分な点や疑問がありましたらぜひ指摘して下さい。




登場人物

 

豊川正志

 

陸上自衛隊3等陸曹。

25歳。

身長170cm。

東海地方出身。

職種は野戦特科。

髪の色は茶、瞳の色は黄色。

色白で鼻周りにそばかすがある。

いわゆるミリオタ自衛官。

 

入隊動機は「趣味と実益を兼ねる仕事且つ安定していて母親に楽をさせられるから」で、一人親の母の反対を押し切って入隊した。

極度のあがり症で新隊員教育では所謂エース(要領の悪い隊員)だったらしいが、武器分結、射撃等の技能検定は優秀だった模様。

趣味はマンガ、アニメ、ミリタリーゲーム等(オタク趣味だが萌え要素、性癖はかなり偏っている模様)

好物は羊羹、寒天ゼリー等で甘党(下戸ではない)

 

 

 

大津厳十郎

 

陸上自衛隊1等陸尉。

49歳。

身長190cm。

髪の色は黒、瞳の色は金。

外見年齢は20代の若者で、肌は死体のように白い。

職種は施設科→情報科。

東海地方出身。

祖先は日露戦争で奉天会戦に参加し、「コサック殺しの大津」の異名を持つ旧日本軍第3師団の騎兵で、母方が代々ユサールの家系のハンガリー人。所謂軍人のサラブレッド。

レンジャー、空挺、格闘、射撃等数々の徽章を持っており、銃剣道、剣道の有段者。

趣味は刀剣蒐集、美食。

地雷、破壊筒等の爆発物好き。

酒豪にして性豪。

好奇心旺盛で奇天烈な性格だが部下の指導には厳格。そのくせ合理主義で、自衛隊の煩雑且つ非合理的な規律は勝手に曲げてしまう癖がある。

好物は度数の強い酒、特地原産の珍味等で、若返りの為にアクアスの尾鰭、翼竜の睾丸等をせっせと食べており、周りの部下達にも食べさせている模様。

豊川の前期教育時代の元営内班長で、その奇天烈かつ悪趣味な性格からあだ名は「変態長」

 

 

 

 

フェルネット・ブランカ

 

ヒト種。

旧帝国植民地、アヴァロン王国第一王女。

帝国の影響力弱体化後に独立を図った旧植民地にて、貴族らが主導する王党派と元老院議員らが主導する共和派の争いの末勝利し王となった父、ヴェルモット・アヴァロンの娘。

同地にやってきた「緑の人」が父を謀殺したと信じ込んでおり、なぜか自衛隊に対して拒否反応を示す。

髪の色は薄紫。

髪型はセミロングとボブの中間。

目の色は金。

 

 

 

ヴェルモット・アヴァロン

 

ヒト種。故人。

旧帝国植民地、アヴァロンの大貴族。

アルヌスの戦いに於ける帝国軍植民地駐屯部隊の撤退に伴い、帝国からの独立を呼びかけた。

貴族の生まれながら経世済民を座右の銘とし、貧困世帯からの徴税免除などを公約する愛民派。

大の愛娘家であり、娘のフェルネットを溺愛していた。

独立後のアヴァロン内乱では、政情不安定な独立直後は王政の方が安定した統治が出来るということで、他の貴族からも推薦されて王党派の旗印となり共和派に勝利。

ヴェルモット1世として即位後、何者かに暗殺された。

 

善通寺 崇

25歳。

近畿地方出身。

陸上自衛隊3等陸曹。

機甲科偵察隊出身。

豊川の同期。

身長は165cm。

容姿は茶髪、瞳の色は茶。

趣味はバイク、四輪バギー等であらゆる乗り物の操縦技術に長けており、自衛隊に入った理由は「働きながらバイクに乗れるから」

元暴走族→走り屋の所謂ウェイ系だが豊川の影響でオタク趣味にも理解を示す(性癖はノーマルな模様)

好物はたこ焼き、串カツ、ホルモン等。

実家は難波の居酒屋。

 

 

千僧義雄

 

陸上自衛隊陸曹長。

45歳。

北陸地方出身。

普通科出身。

第7偵察隊部隊長。

身長は173cm。

大津と共に豊川らの新隊員教育も務めたこともあるベテラン曹長。

元レンジャー。

通称「鬼の千僧」

泣く子も黙る鬼陸曹だったようだが子供が生まれてからは多少丸くなった模様。

豊川らの前期教育期間中は「大津と並んで怒らせたらあかんやつ」「怒らせたら地球が崩壊する」と噂されていた模様。

好物は越前そば等北陸料理全般。

 

 

久居 権三郎

 

陸上自衛隊2等陸尉

50歳。

北海道出身。

職種は高射特科。

一児の父。

自衛官歴30年のベテラン幹部。

定年退職を予定していたが、銀座での門の出現直後、一人娘の久居円が帝国側に拉致陵辱され、無言の帰宅をして以来特地の人間に対する復讐を誓い、勤務継続を決めた。

容姿は白髪オールバックに銀縁の角眼鏡(大津の趣味に付き合わされる形で特地の珍味や魔法に手を出したお陰で肉体的には若返っており、見た目年齢は30歳程)。

娘の死後は帝国主義、弱肉強食思想に取り憑かれ、「文明の劣った国の人民を優れた文明を持つ国が支配する事こそ人類の歩んで来た正しい歴史」という考えを是としている。

好物は毛ガニ、寿司等。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

序章

ファルマート大陸東部、碧海沿岸。

アヴァロン王国王宮。

 

 

 

アルヌス式の六陵郭の城壁に守られた王都の中心に聳える王宮——現国王ヴェルモットが住まう大理石の宮殿。

宮殿正門から続く、インドのタージマハル庭園に似た四分庭園を進んでゆくのは複数のOD色の車両——陸上自衛隊の高機動車。

そしてその車列に随伴するのは最新式の迷彩服4型を身につけ、89式小銃を「担え銃」で担ぐ無数の自衛官達の縦隊。

総数約1個中隊。

彼らの顔や身体、銃剣は所々返り血に染まっており、小銃の消炎制御退器(フラッシュハイダー)にもまた鉛色の発射ガスがこびり付いていることから、彼らが城門の近衛達を打ち倒してここに押し入ったことが容易にうかがえるだろう。

アヴァロン王国——大陸東部、旧帝国植民地に勃興した王国。

数年前アルヌスの丘に出現した『門』より現れた自衛隊との戦いで帝国は6割もの兵力を失い、帝国属国、周辺諸侯陵から大規模な兵力の招集がなされた。

このアヴァロンの地も例外ではなく、帝国植民地駐屯軍の殆どが帝都へと徴集された。

その後、帝国の軛から解放されたこの地にて内戦が勃発。

現国王ヴェルモットを筆頭とし、貴族からなる王党派、そして平民議員らからなる共和派の争いは数ヶ月続き、その内戦の最中、突如現れた通称「緑の人」——自衛隊が王党派に加担したことにより、この国は王政となり繁栄を極めていた。

自衛隊は現地住民、亜人種、果ては共和派の捕虜達をも丁重に扱い、奴隷制など古くからの因習を禁止し、王宮の周りに城下町を作り、新興王国を滅ぼさんとする周辺諸国や帝国軍の襲撃を悉くはね返し、この国に恒久の平和を齎した。

見返りといえば多少の金銀、石油や硝石、鉄、作物や家畜などの食糧ばかりで、掠奪もせず女も買わない。

故に彼ら自衛隊は現地住民らから奇異の目で見られながらも、愛され、感謝され続けていたのだ。

 

 

そう、この事件が起こる今日この日までは……。

 

 

この国の先人達が築き上げた美しき文明の結晶に対し唾するように、ピカピカに磨き上げられた半長靴のゴム底が庭園の石畳を踏みつけてゆく。

 

水平直角一直線。

号令も無しに歩調、隊列を一切乱さず進む兵士達を見た彼らはその練度の高さに度肝を抜かれたことだろう。

厳格な規律の下、ただ淡々と鉄の器で敵を屠ってゆく二百人で1つの殺戮マシーンを止められる者はこの世界には居ないのだ。

 

 

 

「気をつけ‼︎中隊長登壇。中隊長前へ(まいえ)

 

89式小銃を「立て銃」の姿勢で構え、各班縦隊の隊形で並ぶ200人の若き自衛隊員達の前に現れたのは作業帽と作業服、弾帯と半長靴のみの軽装の自衛官。

襟には一等陸尉を表す緑線に3つの桜が刺繍された階級章を一対つけ、両袖、ズボンの裾には他の隊員同様一枚の紙のようにアイロン線がぴっちりつけられている。

しかし、腰の弾帯には鍔まで血で赤く染まった長大なサーベルを提げており、迷彩色の作業帽からはwac(女性自衛官)のように長い黒髪が伸びていることから、彼が普通の自衛官でないのは明らかである。

身長は約190cm。平均身長の高い特地のヒト種の中にあってはさほど珍しくない高さだが、日本人の中では珍しく、身幹順(背の順)で並んだ先頭の隊員達の誰よりもずば抜けて高い。

注目すべきはその長身だけではなく、目深に被った作業帽の鍔鍔の下から覗く色素の薄い金色の眼に凍死体のような白い肌。堀りの深い目鼻立ちで、その男が純粋な日本人ではなく西洋人(コーカソイド)との混血(ハーフ)であることが伺える。

 

「中隊長にたーいし、敬礼」

 

列外に立ち中隊長に正対する白髪に角眼鏡の初老の幹部自衛官——副中隊長の久居権三郎が嗄れた大声で叫ぶと、号令に合わせて列中の自衛官達が立て銃のまま一糸乱れぬ動きで銃礼を行う。

 

第1混成調査中隊中隊長、大津厳十郎一尉は眼前の隊員達の基本練度の練度に満足した様子で鼻を鳴らし、その血塗れの白い大きな手を作業帽の鍔の右端に合わせて挙手の敬礼で答礼を行った。

 

「おはよう‼︎」

 

「「おはようございます‼︎」」

 

「事前に通告した通り、本日より貴官らは、私の一存により自衛隊の任を解かれることとなる。貴官らの中でこの命令に対し、異存がある者、正直に挙手せよ」

 

「「なし‼︎」」

 

「よろしい。それでは予定通り総員200名。本日を以って我が王立軍の隊員として任命する。貴官らはこの大陸の全てを統べるまで行軍を続ける神の軍勢となったのだ。故に以降の任務、決して忌憚なきよう……以上。事後の行動にかかれ」

 

「別れて事後の行動。わかれ‼︎」

 

「「別れます‼︎」」

 

 

大津が回れ右をし、サーベルを抜いて宮殿の正門へと続く階段を駆け上がると、他の隊員達も各々銃を「控え銃」で構え、その後に続いてゆく。

 

かくして、血塗れの新国王の誕生と共に王都の長い長い冬が始まったのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話 大陸東部にて

第1章 大陸辺境

 

 

ファルマート大陸。アルヌスより東へ2000キロ地点。

 

補給地点たる帝都、ロー河を経て自衛隊地形掌握圏外とされるグラス半島よりさらに東へ進む高機動車とダンプ車(3トン半)の車列。

 

「全く、どこを見ても山と野原ばかりだ…本当にこんなとこに居んのか?大津班長……」

 

土煙のこびりつくフロントガラスの向こうを所在なさげに眺めながら、陸上自衛官、豊川3曹は呟いた。

 

「まぁあの人も物好きやし、案外こういう所で天幕張って寝てたりしてんちゃうの?」

 

助手席に座る豊川の横でハンドルを握る茶髪の3曹、善通寺崇は、蒸し暑く陰鬱な車内の雰囲気を紛らわせるべく茶々を入れた。

 

「まさかな…ハハハ……」

 

「いやぁでもあのハンチョ、色々話してくれたやん。ホラ、PKOでイラク行って髭剃ってたせいで向こうのオカマに狙われたとか、カンボジアで孵化直前の茹で卵やら虫料理を食ってゲー吐いたとか、ジプチやったかハイチやったか、フランス語が上手すぎて現地の人に驚かれたりとか…。あの人特地語の辞書とか会話集書けるくらいやし、案外こっちでの生活が楽しすぎて戻って来なくなったとか……?」

 

「んなわけあるか。あの鬼陸曹が職務をほっぽり出してこんなとこに逃げてる筈はねえよ。まさかとは思うが……向こうで捕まったり命を落としたりしてねぇといいが」

 

数年前銀座に開かれた(ゲート)より現れた無数の帝国軍兵士の襲来。

その過程で多数の帝国軍兵士が逮捕者という形で事実上の捕虜となり、現場を歩いていた一般市民もまた帝国側に拉致された。

その後は外務省(霞ヶ関)の協力もあり、現地邦人の帰還、捕虜の返還にも成功した。

つまり、日本と帝国間の長い戦争は特地に攫われた邦人の奪還に端を発するものと見てよい。

故に、特地で消息を絶った日本人が自衛官であるといった今回の案件は、日本政府、帝国両政府にとって何物にも先んじて解決せねばならない急務となったのである。

 

「コラ豊川!縁起でもねぇこと言ってんじゃねぇ」

 

「す、すいません曹長」

 

後部座席に座る体格のいい老け顔の曹長——千僧義雄が飛ばした喝にビビった豊川が思わず身を竦める。

 

「でも曹長、本当に生きてるかどうかわかんないって話ですよ。先行偵察に行った空自のF-15J(イーグル)も航空科のOH-1(ニンジャ)も音信不通って聞きましたし…もしかしたらあの伊丹2尉が倒したっていう炎龍に今頃食われてるとか……」

 

「バカ! お前もやめろって!あのレンジャー大津のことだ。きっとまだ生きてるさ。それに一尉には施設科、普通科その他混成の一個中隊と装備が一緒だ。きっと何かあるんだろう」

 

「何か…と言いますと……?」

 

「そ…そこまでは……あの変人一尉の腹の中までは俺も分からん」

 

大津厳十郎一等陸尉——銀座に門が開かれた当初より施設科部隊の一員として対帝国軍用の陣地構築やアルヌスでの現地人への民生支援などで活躍し、帝国皇太子ゾルザルの起こしたクーデタでは嘘か本当か190cmもの体格を活かし自ら4本の破壊筒(バンガロー)を抱えて投げ飛ばし、帝国軍陣地を爆破したという噂すらある偉丈夫である。

その後は幹部となり、情報科に職種変換した後は特地の地理、言語、動植物等の調査を行なっていたという。

今回の任務は自衛隊地形掌握圏外とされる大陸東部——旧帝国植民地における調査のための基地設営に向かった大津1尉率いる混成部隊の救出である。

元々帝国周辺の地理は自衛官達の間でも完全に掌握されておらず、「北に氷雪山脈とハイエルフの森がある」「西に砂漠がある」「南に碧海がある」とかなりいい加減な情報しかないのが現状だ。

加えて自衛隊との交戦、ゾルザルによるクーデタを経て失墜した帝国の権威、軍事力に呼応するように数多もの旧植民地、藩王国が独立。盗賊や傭兵団長までもが国王を名乗り群雄割拠するちょっとした戦国時代となっているのが現在の大陸東部である。

故に帝国としては情勢不安な辺境の治安維持並びに調査協力を日本に求め、帝国との和平を維持したい日本側としても協力を惜しまない方針を示した。

かくして大陸東部——碧海沿岸にジブチ方式でその拠点が建設されることとなり、その下準備としての調査に向かう最中突如姿を消したのが件の大津一尉率いる混成調査部隊である。

 

帝国皇帝モルトの怪死後、ゾルザルのクーデターを経て無事帝国皇帝として即位した皇女ピニャ・コ・ラーダらの協力もあり、今回の任務では帝国の全面協力が得られることとなった。

 

豊川らの第七偵察隊もアルヌスで武器弾薬等を受領後、帝国領内にて水、食料を調達。万全の状態で東へと出発した訳である。

 

『現在時刻1200(ヒトニィヒトマル)。 各員1300(ヒトサンマルマル)迄食事並びに休憩とする。

 

『『了解』』

 

休憩のために車列を止めるよう千僧が呼びかけ、後ろの高機と3トン半が等間隔で停止する。

 

『下車よーい‼︎』

 

『下車‼︎』

 

『銃‼︎』

 

『銃‼︎』

 

後方の3トン半から各バディに手持ちの64式小銃を手渡しつつ降りてゆく陸士達を横目で見ながら、豊川らも高機から下車してゆく。

 

「さて飯だ飯だ」

 

豊川はダンプから降ろされた段ボールの中からOD色の缶をいくつか取り出し、千僧と善通寺に渡す。

 

「うわっ……また缶飯(1型)かいな……もう飽きたわ」

 

「まぁそう言うな。俺はコレ、割と気に入ってんぜ?特にこのとりめしとかは味付けそんな濃くないし、『ご飯とおかず』の日本人の食生活にも合致してる。それに赤飯も塩分とれて腹持ちいいし。あとウインナーソーセージとハンバーグも美味いな。」

 

「ほんまかいな……お前ある意味大津班長並みの物好きちゃうん?俺もう飽きたわ〜はよ帰って千日前の串カツ屋で一杯やりたいわぁ」

 

カンメシこと戦闘糧食1型——最近ではめっきり見なくなったが、昭和の自衛隊黎明期より長らく隊員達の間に賛否両論の嵐を巻き起こして来たロングセラーレーションである。

空中投下にも耐える耐久力、25分湯煎すれば3日間食べられる利便性、演習中のスタミナ回復に十分なボリュームがある反面毎日食うと便秘になる、一食分800g近くもある重量、湯が無いと食えない。寒冷地で凍るといった欠点も持ち合わせ、現代では2型——通称パック飯に置き換えられたという。

特地派遣部隊に配備された小火器や戦車が64式や74式等旧式のものばかりなのと同様に、飯の方も旧式だ。

一説には門の向こうに廃棄しても構わない物品を優先的に流しているという噂だが、景気に関わらずいつも金の無い防衛省のことである。あながち嘘ではない。

 

「そして特に旨いのが……これだ」

 

とりめし缶を半分程食った所で、豊川がシーチキン缶サイズの薄い缶に缶切りを当て、キコキコと開ける。

豊川は中から現れた黄色の塊を一切れ箸でつまむと、そのまま口に放り込みボリボリと旨そうに咀嚼した。

 

「まぁ……たくあん漬が旨いのは認めるけどな。でもな〜、せっかく特地行きが決まって、帝都でももう2、3日は旨いもん食ったり女の子と遊べる思ってたのに……残念やわぁ〜」

 

「食い物の話はもういいとして、女っつったら帝都はスゲエらしいぞ。飛田も吉原にも負けねぇくらいの別嬪、しかも人外が選びたい放題の店があるらしい。帰ったら行こうぜ」

 

「ぜ…絶対やからな。ちなみに豊川は何系が好きなん?」

 

「俺か?俺は何でもいけるぞ?エルフ、バニー、メイド、褐色、獣耳、体操服、セーラー服、ロリ系、女王様あとは……」

 

「もうええわ!よーそんな出てくるなぁ。やっぱ怖いわぁガチモンのエロゲオタクって」

 

嵩ばらぬよう食べ終わった缶から小さい順に重ねつつ、二人は談笑し続けた。

 

 

* * * * *

 

 

 

高機にもたれかかり、スモッグ一つない晴天を見上げる豊川の耳にカン‼︎とジッポーの蓋を開ける特徴的な音が入る。

隣を見やると、そこには中帽(ライナー)を被ったまま煙草を咥え、紫煙を吐き出す千僧の姿があった。

 

「お疲れ様です」

 

豊川はいつものように挙手の敬礼を行い、高機助手席の足元から針金製の取手のついた赤いペンキ缶を取り出し千僧に手渡した。

 

煙缶(エンカン)を」

 

「おお、いつもすまんな」

 

「いえいえ」

 

「お前は吸わんのか?」

 

「ええ、陸教(リッキョー)の時吸う時間が無くてやめました。それに体力検定の3000m、まだまだタイム縮めたいですから」

 

「真面目な奴だなぁ。感心感心。俺も最近体にガタきてっし、娘にも『煙草臭い』って嫌われてるからなぁ。禁煙すっかなぁ」

 

「ええ、ぜひ」

 

豊川も食後の一服を決め込むべく、戦闘服のカーゴポケットからアルヌスで買ってきた特地の菓子——我々側の世界でいう牛軋糖(ヌガー)に近いナッツ入りの蜂蜜菓子を取り出し、包み紙を剥がして口に放り込んだ。

 

 

「………ん?」

 

「どうしました?曹長」

 

「おい豊川、眼鏡(がんきょう)出せ。あっちに誰かいる」

 

「了解」

 

豊川は眼鏡を手にし、東の方角に向けて歩哨の要領でゆっくりと目に近づけた。

 

「人員1、川沿い。北から南に移動中。尚負傷している」

 

眼鏡の向こう側では、ヒト種であれば恐らく10代後半の女性が杖をついて歩いていた。

衣服は一介の町娘といった感じだが、その裾や袖は所々破れており、命からがらどこからか逃げてきたといった感じだった。

 

「了解。接触するぞ」

 

「え?いいんすか?現地人と無闇に接触して」

 

「怪我してんだろ?だったら人命保護が最優先だ。きっとワケありなんだろ。でなきゃこんな野原の真ん中で女一人、足引きずって歩いてる訳ねえ。行って助けるぞ。全員乗車よーい」

 

「じょ、乗車‼︎」

 

 

* * * * *

 

「ご、ご機嫌よう。お嬢さん」

 

豊川が特地語での挨拶と共に少女に差し出した手は、平手によって払われた。

 

「こ、来ないで‼︎」

 

「あちゃぁ、、警戒してる。やっぱ帝国じゃ有名な俺ら自衛隊も、辺境じゃまだまだ知名度低いのかなぁ」

 

「いや、これは明らかに警戒してる。というかお前のこと睨んでんぞ。豊川、お前この子に何かしたか?」

 

「何もしやしないですよ‼︎やだなぁ人聞きの悪い」

 

「来るな‼︎あっちへ行け‼︎人殺し!」

 

傷だらけの少女は、肩まで伸ばした紫の髪を振り乱し、その黄緑の瞳を潤しながら手に持った杖代わりの棒切れを振り回す。

 

「なっ——人殺しだと?テメェ言わせておけば……」

 

豊川は咄嗟にそれを避けると、戦闘訓練の癖かバックステップを行い、64式小銃の太い消炎制退器を目の前の少女に向けた。

 

 

 

「おい豊川。銃口どこ向けてんだ」

 

「で、でもコイツが——」

 

「下ろせ…何か事情があるんだろう」

 

「す、すいません」

 

 

ヒトゴロシ——そう呼ばれるのは何年ぶりだろうか……。

 

平和憲法の下、軍隊を持たない国となった日本に於ける、軍ならざる唯一の軍事組織たる自衛隊。

その職務は大きく分けて災害派遣、PKO(平和維持活動)をはじめとする国際平和協力活動、そして国防の3つである。

故に訓練内容も支給される装備も、「自国の平和を守る」という目的を達成する為の「人を殺めるためのもの」である事は否定出来ない。

故に、災害派遣等で自衛隊を好意的に見ていない現地住民から「人殺し集団」と野次られたこともあったし、豊川もまたそれを諦め受け入れてきたのだが、いざこんな特地に来てまで同じ事を言われると夢にも思わなかったことからショックを受け、ついカッとなってしまった。

 

「お嬢さん、私達は自衛隊だ。別に君に危害を加えるつもりはないから安心してくれ。私達はこの土地に調査に来て消息を絶ったある将校を探しているだけなんだ。何か知ってたら教えてくれないかね…?」

 

千僧が、いつも部下に対し向けている強面を解き、腰を屈めて少女の身長まで目目線の高さを合わせると、まるで自分の娘に語りかけるような優しい口調で話し出した。

 

「……知ってるわよ。ジエイタイの事も、その将校の事も」

 

「ほ、本当か⁈その将校——大津厳十郎1尉とその部下は生きているのかい?」

 

「ええ、生きているわ。とびっきり最悪の状態でね。詳しい話は場所を変えてしましょう。ここから北へ行った先にある村までその鉄のクルマで連れて行って頂戴。敵対行動を取らないって事を条件に貴方達に教えてあげるわ。この地域で一体何が起きてるかも併せて、事の顛末全てをね」

 

「わ、わかった。おい善通寺。お嬢さんをお連れしろ。豊川は適当に何か作れ!」

 

「りょ、了解‼︎」

 

善通寺がそそくさと高機動車のドアを開け、慣れない手つきで少女をエスコートするのに合わせて豊川もまた食べ残したカンメシのいくつかをズボンのカーゴポケットから取り出し、彼らの後を追った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2章 亡国の王女

 

 

「申し遅れたわ。私はフェルネット・ブランカ。ここ、アヴァロン王国の第1王女……元だけどね」

 

高機動車で村へ向かう途中。薄紫の髪をした少女、フェルネットは小さな手に湯気の立つ飯盒と民生品のスプーンを握りながら静かに切り出した。

飯盒の中身はカンメシのコーンドミートベジタブルに熱湯を加えてスープにしたものに同じくカンメシの白飯を混ぜた簡単な肉雑炊。2日ばかり何も食べていないというフェルネットの為に、消化に良く且つ肉野菜の栄養が取れるものをと豊川が気を利かせて作ったものだ。

 

「元…と、いいますと?」

 

千僧が首を傾げながら尋ねる。

 

「文字通り『元』よ。今、私の父——ヴェルモット・アヴァロンが座っていた玉座に座っているのは別の人——あなた達のよく知ってるオオツ一尉よ」

 

「な…そんな馬鹿な‼︎」

 

「そんなに驚かないで頂戴。私は事実を述べただけ。あいつら——ジエイタイは調査に来たとか何とかで暫くこの地に居たわ。あいつらは、当時王党派か共和派かで内戦が起きてたこの土地で、私達の側——私の父が筆頭となっていた王党派に加担して、見事共和派を倒し、父を王にしてくれた。王国には見たこともない鉄の鶴や猪がやってきて、次第に城壁が作られ、王都が出来始めた。新しく出来た王国の存在を快く思わなかった帝国や周辺諸侯の連中の襲撃も、奴らは火を噴く鉄の杖を持って追っ払ってくれたわ……」

 

「し、知らなかった……あの大津一尉がそんなことを…」

 

「私達は完全に腑抜けてた。私も父も、あいつらを最低限の見返りだけで動いてくれる傭兵程度にしか思っていなかったもの。でも違った。オオツが私達に最後に求めた見返り…それは、この王国そのものだったの」

 

「なるほど…それでさっき我々を『人殺し』と……」

 

「ええ、さっきは酷いことを言ってごめんなさい。あなた達が奴らと別の部隊で、私達の敵じゃないって事は理解出来たわ…」

 

「殿下、お…俺もさっきはカッとなって……ご無礼を」

 

助手席で話を聞いていた豊川は振り向き、フェルネットに頭を下げた。

 

「いいのよ。やっぱり本当は礼儀正しいのね、ジエイタイって……。でも、あいつらは違った」

 

「大津一尉達は政権を奪った後、一体何をしたんですか?」

 

「簡単よ。奪って、殺して……。帝国兵や盗賊の方がまだマシに思えるくらい…色々と……女の口からは言えないことも含めてね……。終いには『反乱が起きないように旧王国の血を絶やす』とか言って、逃げ延びた先の、当時召使いの実家があった村にまでやって来て、私は命からがら、着の身着のまま逃げてきて今に至るってワケ。私は助かったけど親戚から父と親交のあった門閥貴族まで、全員首を斬られて殺されたわ……」

 

「ひ…酷い……お許し頂けないとは思いますが、一尉に代わってこの千僧、謝罪させて下さい」

 

千僧が中帽を脱ぎ、その場に伏せるのを見てフェルネットは「面を上げて」とだけ言った。

 

「いいえ、むしろ頭を下げたいのはこちらの方よ。だって貴方達の目的はこの地からオオツと部下を連れ帰る事でしょう?だったら私からこの国の皆を代表してお願いするわ。ジエイタイの皆様、どうか我が国からあの征服者達(コンキスタドーレス)達を追い払って頂戴。鉱物資源の採掘権でもなんでも渡すから……だからお願い…私たちに…父が作ろうとした平和な国を返して頂戴‼︎」

 

 

フェルネットは高機動車の座席に座ったまま頭を垂れながら千僧に要請する。

言葉を続けるうち彼女の声は次第に鼻声になり、高機動車の床には大粒の涙がポタポタと落ち始めた。

 

「わ…わかりました。殿下。ここは一つ、我々にお任せ下さい」

 

「ほ…本当に助けてくれるの…?私達をこの地獄から」

 

「ええ、我々は自衛隊です。たとえ他国にいようとも、人命が常に最優先ですから。殿下の命も貴国の民の命も、必ずやお守り致しましょう」

 

「曹長、村が見えてきました」

 

「了解だ善通寺。さぁ姫様、もうすぐ目的地です。お話の続きは村でしましょう」

 

「わかったわ。村に着いたら適当に貴方方の宿も手配しておくわ。事情は私から話しておくけど、事情が事情だから一応気を付けて……あと、色々あるかもしれないけど、どうか気を悪くしないでね」

 

「了解。慣れておりますのでご安心を」

 

フェルネットを乗せた高機動車とその後に続く3トン半からなる車列は、特地文字で『ロコト村』と書かれた看板に従いノロノロと走り続けた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「これは……なんと惨い…」

 

ロコト村中心部。

大通りを進む高機動車越しに村の様子を見た豊川は、思わずそう呟かざるを得なかった。

 

まず目に入るのは荒れ果てた荒野——所々目に入る立ち枯れた小麦の穂を見るに、ここがかつて麦畑だったことが伺える。そしてそれとは対照的に村一面に咲き乱れる芥子の花畑だ。

花に粗末な木桶で水をかけるのは子供か年老いた老爺ばかりで、若い男女の姿は稀だ。

 

「ああ、ケシ畑ね……そっちの世界では薬にも使われるらしいけど、ここでは煙草みたいにキセルで吸うのが一般的だわ。勿論父は『これを吸うとみんな駄目になってしまうから』って栽培を禁止したんだけど……。オオツは農民にこれを作らせて税として収穫分を取り上げに来るの。取ったケシは煙草にして王都で売ってるそうだわ。平和だった王都の治安が一気に悪化して、本来肥沃な土地のこの村で餓死者が出るようになったのは奴らがこれを植え始めてからよ。ほら、あそこ」

 

フェルネットが助手席に身を乗り出し、フロントガラスの向こうを指差す。

 

「——っ⁈し、死んでる……」

 

窓の向こうでは、まるでミイラのように痩せたまま干からびて横たわる野良着姿の老婆と、それを必死に揺り動かすヒト種の痩せた男児の姿があった。

災害派遣で何人もの仏に手を合わせ、人の死に向き合って来た筈の豊川にとっても、この光景は余りに残酷に映った。

 

「この村じゃもう見慣れた光景ね…でも仕方ないわ。男達は普通の農業だけじゃじきに干上がることを知ってるから家族を養うために奴らが持ってる鉄の杖やクルマを作る工場か鉱山、油田に出稼ぎに行くしかないし、女達は綺麗なのは種族関係なくみんなオオツ達の後宮(ハレム)に連れていかれるか王都の売春宿に身売りに行く。村に残った者達は最低限の食用作物の栽培を許されつつもこうしてアヘンばかり作らされるってワケ」

 

 

武力攻撃を伴わない敵国の間接支配——大津はかつて大英帝国が清朝に、大日本帝国が台湾や満州に行ったのと同様の手法を学んだのだろう。

一度阿片に手を出せば、その者はいかなる手法を使ってでもそれを手にしようともがき、それを提供する側の傀儡(マリオネット)となりながら緩やかに社会生活を破綻させてゆく。

国民全体が中毒者になってしまえばやがて治安、経済、国民の健康全てが破壊され、自ら手を下す事なくその国の主権が掌握できることを、大津は知り尽くしていたのだ。

 

「さぁ、着いたわ。ゼンツウジ……とか言ったわね。あの宿屋前にクルマを止めて頂戴。あそこが私の隠れ家よ」

 

「は、はい‼︎」

 

善通寺は部隊で叩き込まれた通り、車内の隊員やフェルネットの身体に慣性がかからぬようゆっくりとクラッチペダルとブレーキにかかる力を調節し、静かに高機動車を停止させた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「殿下‼︎生きておられたのね‼︎良かった……」

 

村の中でも一際大きな建物の門扉が開かれ、中から現れたヒト種の少女——褐色の肌に小柄な背丈、茶の短髪に気の強そうな風貌が特徴的なメイド服の女にフェルネットは抱擁を受ける。

 

「ええレア。貴方も無事でよかった……飲まず食わずで逃げている所を、そこの人達に助けてもらったわ…」

 

(うぉっ⁉︎か…褐色貧乳メイド……しかも見た感じツンデレ。俺の性癖にどストライク……)

 

(やめとけって豊川。不謹慎やぞこんな時に)

 

豊川が小声で始めた不埒な性癖開示トークを善通寺が小声ながらも全力で阻止しにかかる。

勿論会話は日本語だから彼女らにその内容が知れることはないものの、相手の知らない言葉で第三者と会話する行為は時として悪口や密談と取られるため異文化交流に於いてはタブーだ。

 

「そこの人達……?ひ、ひぃっ⁈な、何の用⁈うちには何も無いわよ⁈帰って頂戴‼︎」

 

フェルネットが指差す方向——つまり豊川らの方を向いたレアの顔が凍りつき、遅れてその表情に警戒と憎悪の色が入る。

 

「安心してレア。この人達は征服者達(コンキスタドーレス)じゃない。あいつらとは別の部隊で、オオツ達を連れ帰ってくれるそうだわ」

 

「そ…そう。私、てっきり殿下がとうとうあいつらの軍門に下ったのかと……」

 

「そんなことしないわよ。落ち着いてレア。私はまだ諦めた訳じゃない。それにこの人達はあくまで私達の味方。今度こそ私達に平和を齎してくれると信じてるわ。だから、あまり邪険にしないであげて頂戴」

 

「……全く。殿下も相変わらずですね。その理想主義的な人の良さ、お父様そっくり……。いいわ、殿下がそういうなら、ちゃんとおもてなししないとね。はじめまして、私はレア・アスール。フェルネット王女付きのメイド長よ。そしてここは私達の隠れ家。普段は宿屋をやってるように見せてるわ。3階は空き部屋になってるから、部下のメイド共々好きに使ってやるといいわ。けど、夜の相手は期待しないでね」

 

「自分は豊川正志、陸上自衛官3等陸曹です‼︎歳は23歳、甘党です」

 

「俺は善通寺崇や。階級は同じく3曹。よろしゅうな」

 

「自分は千僧義雄。階級は曹長でこいつらの隊長をしております。他にも陸曹、陸士長が20名おりますが、時間がかかってはいけませんので紹介はこの場では割愛しておきましょう」

 

「トヨカワにゼンツウジ、それにセンソウね。覚えたわ。何人かの相部屋になるけど早速全員宿に——」

 

「いえ、この度の不都合は別の部隊の者とはいえ我が自衛隊が起こした不始末。これ以上ご迷惑をかける訳には参りません。折角の申し出有難いのですが、今宵は彼らに野営をさせるつもりです」

 

「え…?野営って…野宿ってこと?そんな……気を遣わなくても…」

 

「いえ、我々自衛隊は『自分達で出来る事は自分で』をモットーとしておりますから。勿論フェルネット殿下の護衛の為宿に何人か不寝番をつけさせますから、そこだけご了承下されば幸いです」

 

「わ…分かったわ……じゃあせめて食事だけでも——」

 

「いいのですよ。アスールさん。そちらが苦しい状況なのは存じております。むしろ食事を提供するべきはこちら側です。夕刻になりましたら広場に村人をお集め下さい。アルヌスと帝都から仕入れてきた穀物がたんまりありますから、後で給養員に炊き出しをさせます」

 

「し…信じられない……。あいつらと同じ緑の服を着た人だというのにここまでしてくれるなんて……」

「『献身、尽くせ一途に』——これもまた我々のモットー。これが本来の我々の本来の姿です」

 

「ほ…本当に感謝するわ。アリガトウ」

 

レアは拙い日本語でそう言い、ぎこちなくお辞儀をすると、フェルネットの世話をすべく宿の奥へと消えていった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3章 野営にて

 

 

「ちっくしょう……なんでお前とソーチョだけ宿泊まって俺らは野宿やねん……ホンマだるいわぁ……」

 

カンッ!カンッ!と天幕のペグに金槌を打ち付けながら、善通寺はぶつくさ文句を垂れた。

 

「しょうがないだろ?殿下の警護には最低二人必要、後は前哨長と当直陸曹が必要だからな」

 

「えぇなぁ……。なんやねんこの中不条理。でもお前、宿泊まるゆうたらあのメイドのネーチャン達と会い放題やん。ひょっとしたら夜の方もワンチャンあるんちゃうん?」

 

「馬鹿言うな。会ってまだ一日も経ってねえぞ。それに…こっちじゃ女は買うなと言われているだろう。俺だって変な病気は貰いたくねぇさ」

 

天幕のタープの端末をペグに固定し、ピンと張りながら豊川は善通寺の文句に相槌を打ってやる。

 

「…よし、後はポールを立てるだけ……っと。善通寺、俺はメシの方見てくる。その辺の見張り頼む」

 

「あいよ」

 

 

 

* * * *

 

 

 

ロコト村、中央広場。

紫紺がかかった橙の夕空に、飯が炊ける時に出る甘く白い湯気が立ち昇っては消えてゆく。

その煙の出元は高機動車で牽引された野外炊具(フィールドキッチン)であり、炊具の周りには「これは一体何の騒ぎだ?」と次々と現地住民により人だかりが出来てきていた。

 

炊具の6つの釜のうち3つの釜の中では米——日本ほど水の便が良くない特地に於いても育つよう首都農大の研究者達が品種改良を重ね、アルヌス郊外で試験栽培していた通称「特地米」が炊かれており、残り3つの釜では日本本国から支給された味噌と乾燥野菜を煮込んだみそ汁が炊かれている。

 

「中の様子はどうだ?」

 

「はい!ほかほかであります!」

 

「よし!開封よーい!」

 

「開封!」

 

壮年の糧食班班長が大声で叫ぶと、若い陸士達はせっせと釜の蓋を開け、先端が人の頭ほどもある巨大なしゃもじで炊きたての飯が固まらぬよう切るように混ぜてゆく。

白飯の中に所々垣間見える薄茶色い粒は帝都で購入した特地産の小麦だ。

 

日本に於いて古来より軍隊のメシは麦飯と決まっている。

戦後の復興期を生きた世代の方々には「昔を思い出すから」と未だ抵抗が残るらしいが、少なくとも全国各地の自衛隊駐屯地では若い隊員達の間で今日まで特に抵抗なく消費されている。

もちろん防衛省が麦飯を採用し続けている理由は古来よりの伝統もあるが、隊員の健康維持の為でもある。

 

庶民の間で精白米が食べられるようになった江戸時代から肉や魚などの副食が十分摂られるようになった戦後しばらくまで、脚気は結核と並ぶ日本の二大国民病と恐れられていた。

特に猛威を振るったのは明治27年の日露戦争の頃であり、死者総数の内訳20%は脚気による死者だったらしい。

当時の陸軍軍医——時のドイツ帝国より最新医学を学び、作家としても活躍した某による「脚気細菌説」と同時期の農学者や海軍軍医により提唱された「栄養説」の論争は盛んに繰り返され、陸軍は結局前者を採用して白米のみを支給し続けた結果、栄養失調による死者数の増加はのちの彼らにとって苦い教訓となった。

ちなみに海軍に於いては肉、パン食中心の洋食が採用されたお陰で脚気患者数は激減したという。

尤も特地に於いては地域にもよるが西洋同様肉、麦食が庶民の食生活の中心であるため脚気の心配はないだろう。

勿論、食用作物が十分に採れないこの村に於いては村人の健康状態がどの程度であるか、改めて衛生科による検査が必要になるだろうが……。

 

 

「よし。上出来だ。それでは皆様一列に順番に並んで下さい。食器はできれば各家庭の物を。無ければこちらで用意しますから」

 

飯炊きの陸士が慣れた様子で指示を出し、腹を空かせた村人達を並ばせてゆく。

定期的に起こる自然災害に備えて自衛隊の各駐屯地では災害派遣に於ける炊き出しの訓練も行われている。

災害大国の日本で培われた経験が食料事情の悪いこの特地に於いても存分に活かされたのだ。

 

「うわっ!何だこれ!めちゃめちゃ美味え‼︎」

 

「ねぇジエイカンさん!この赤くて酸っぱいのなーに?」

 

「あぁ、これか?これは梅干っていってな、日本で昔からご飯と一緒に食べられてるプラムの塩漬けだ。そのまま食ってもいいけど種はちゃんと捨てるんだぞ」

 

木のボウルに盛られた白飯の上に乗せられた梅干——これも味噌と合わせて日本から持ち込んだ物を指差しながら、獣人種の男児が豊川に尋ねてきた。

豊川は飯盒に盛られた自分の分の食事を口に運びつつ、優しく質問に答えてやる。

 

「いい香りがするわね。トヨカワ。私達にも分けてくれないかしら?」

 

子供と談笑する豊川の背後に、フェルネットとレア、他お付きのメイド達までやってきた。

 

「で、殿下?いけません。庶民と同じものをお出しするなど……近くの農家から豚でも買って料理させますから暫くお待ちを——」

 

「何?トヨカワとか言ったわね。殿下が庶民と同じものを食べられないお高くまとまった人とでも言いたいワケ?」

 

「い…いえ……」

 

「いい?殿下も亡き父君も、民の事を第一に考える心の優しい方々なの!そんな事で貴重な家畜を取られた農民を見て殿下が何を思うか……あんた考えてから物言いなさいよね‼︎」

 

「し……失礼しました……」

 

つっけんどんに言うレアの言葉に平謝りする豊川の肩をぽん、とフェルネットが叩いた。

 

「その辺にしておきなさい。レア。トヨカワは私の命の恩人よ。昼も行き倒れそうだった私に、わざわざ自分達の分まで削って肉粥を作ってくれたわ。あまり邪険にするなと、私は忠告した筈よ」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「謝罪は私ではなくトヨカワに!いいわね?」

 

「…はい……」

 

レアは豊川に静かに頭を下げ、その後人数分の食事を要求した。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「………あったかい……」

 

広場に幾つか置かれた丸木細工のベンチに腰掛けたフェルネットは、味噌汁の入った椀を両手で掴み、一息ついた。

 

「お気に召しましたか?殿下。食後はお茶をご用意致します」

 

「ええ。ありがとう。そちらの国——ニホンの軍人達は皆こんなに美味しい陣中食を?」

 

「ええ。余裕がある時はこうして野外調理が行えますが、演習中や戦場の最前線で火が炊けないような状況でも素早く、温かく、日を置いても腐らず、普段と変わらない食事がいつでも摂れるよう戦闘糧食(レーション)というものが支給される事もあります。昼餉に殿下にお出ししたのも、そのレーションにあたります」

 

箸が使えないため木製のスプーンで飯や味噌汁を口に運ぶフェルネット達を横目に、豊川はスラスラと説明を続ける。

 

通称「駅前留学」——自衛官達に課せられる特地語の事前研修の効果は覿面だ。

外交等公の場面を除き、外国語を学ぶ上で最も意義があることといえばまず「自国の文化がどのようなものか他国の国民に紹介する時」が挙げられるだろう。

衣食住、宗教、思想その他——それらは相手国の言葉に翻訳されて初めてその国の人口に膾炙する。

近年の諸外国に於けるスシ・ブームが良い例だが、ある一つの地域、民族間で共有されているガラパゴス的文化は交流を通じてグローバルのものとなるし、また、社会の発達段階に於ける「近代」を経験していない地域に於いて、先進国との交流を通じて人権思想などのグローバル的概念が流入し、その地域の発展に役立つ場合もある。

鎖国中の江戸幕府に突如現れた黒船の存在が後の明治維新の契機となったように、門のこちら側——即ち我々の世界がここまで発展した理由……それはひとえに人類が今日まで幾多の争いや交渉を経験しながらも推し進めたグローバル化の賜物といって良いだろう。

勿論かつての列強諸国のように「これがグローバルスタンダードだ」と先進諸国の文化を発展途上国に押し付ける事は必ずしも正しい行いではないし、それを受け入れるか否かの決定権もまた受け取る側にある。

だが、変わろうが自国の常識に凝り固まろうが結局自由意思による選択の機会はあるべきであり、その為にも政治的利害の如何に関わらずあらゆる国同士で民間レベルの文化交流は行われるべきである。

 

野外炊具を囲んでワイワイと騒ぎ食事を摂る村人達を横目に、豊川は水筒のアルミカップに注いだ緑茶を一口啜り、濃紺へと変わってゆく特地の空を見上げた。

 

 

 

* * * *

 

 

「交代」

 

村のはずれに掘られた歩哨壕の中、バディの西田と共に着剣した64式小銃を腰だめで構え夜間歩哨につく豊川の陰にぴったり寄り添いながら、善通寺は小さな声で交代を告げた。

 

古来より昼間、夜間問わず歩哨の重要性はいかなる国の軍に於いても変わらない。

例えば朝鮮戦争中、基地の歩哨についていた韓国軍兵士の隙をついた朝鮮人民軍の兵士達が基地に潜入し、仮眠をとっていた米、韓国軍の将兵を叩き起こして捕縛し、重要機密と武器を奪った後に短機関銃で全員を射殺したという痛ましい事件があったという。

つまり、戦闘継続の為に必要な休息を隊員達が取っている間は歩哨の監視のみが部隊全体の運命を左右するといってよい。

 

「ああ、もう交代か。後はよろしく頼む」

 

「ええで。姫様との一夜、どうぞ楽しんで来ぃや」

 

嫌味ったらしく言う善通寺の言葉に、豊川は眉をひそめる。

 

「別にそんなの期待してねぇよ。俺はただの当直で、部屋は姫様の隣だ。くだらねぇ事ばっか言ってねぇでさっさと監視を始めろ」

 

「へいへい」

 

豊川は敵方から見えぬよう、「銃口上方控え銃」で銃を構えて屈む姿勢——通称「ガチョウ歩き」で壕の中に身体を隠しつつ、村の方へと去っていった。

 

 

* * * * *

 

 

「アー。だるいなぁ。いつものこととはいえ退屈やわぁ。はよ交代してタバコ吸いたいわ」

 

満天の星空の下、善通寺は歩哨壕の中ぶつくさ文句を垂れる。

歩哨、警衛、当直等の特別勤務は、自衛官のうち、特に退屈を嫌う者に関しては大変苦痛なものである。

ちなみに歩哨は勤務中喫煙してはならず、許可なく座臥してはならないとされている。

 

善通寺は先程から監視位置は空際線上を透視——即ち、地平線上に浮かんだ敵影をすぐ見つけられる位置に陣取っているのだが、一向に敵どころか動くもの一つ見ていない。

 

「まぁそう言うな。これも仕事だ。敵と戦わなくて良いだけマシと思え」

 

「いやゆーてもな、俺せっかく特地来れるって聞いてあの第3偵察隊みたくドラゴンと戦ったり甲冑着た兵隊とやり合えるってワクワクしてたのに何やこれ。場所違うだけでやっとること演習と大差ないやん」

 

「まぁそれはそうだが——ん?」

 

「どしたん?」

 

西田が言葉を止め、彼方に現れた車両——見間違いでなければおそらく陸自の高機動車の方向に目を凝らした。

 

「車両1。中央道」

 

「了解」

 

「外哨長、こちら第一歩哨……あれ?」

 

敵方にこちらの動きがばれぬよう緩慢な動きで電話機を握り、口元に当てる。

 

「外哨長!こちら第一歩哨!おくれ‼……クソっ‼︎繋がらん!」

 

「こっちに来るぞ‼︎」

 

そうこうしてゆくうちに車両は近づき、左右のドアから数十メートル先で停止して中から何人かの人影を吐き出す

歩哨中に発見した車両は停止させて取り調べることになっている。

善通寺は西田と共に構えた64式の切換えレバーを(安全装置)から(単射)に回し、銃口下向きで壕から這い出た。

 

「誰か?誰か?だれ———」

 

車両の方向から僅かに見える幾閃もの光。

同時に闇夜に響く乾いた発砲音。

 

銃を構えながら3度誰何していた西田の鉄帽(テッパチ)越しの額に突如小さな穴が開き、その身体が緩やかに壕の中へ崩れ落ちてゆく。

 

「——ひ、ひぃっ⁈」

 

先程まで共に監視を行っていたバディが敵の射撃により屍体となった事をようやく確認した善通寺は、恐怖で顔を引きつらせながらも正面の散兵に銃口を向け、床尾板を肩付けする。

 

「銃を捨てろ。両手は見える位置に」

 

「——?」

 

突如背後からかかる声。

善通寺がゆっくりと頭を横に回すと、そこには顔面にドーランをベタ塗りし、着込んだ戦闘服4型の胸元にダイヤ(レンジャー)徽章を付けた自衛官三人が、着剣した89式小銃を構え切っ先を首元に突きつけていた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4章 新王降臨

 

 

 

ロコト村 中央広場の宿

 

『第7偵察隊、豊川3曹。入ります』

 

『入れ。敬礼は省略だ』

 

小隊本部と化した宿の一室。千僧は許可を得てドアを開け、入室した豊川の敬礼を遮った。

上官の居室への入室要領をはじめ、自衛隊のあらゆる規則は指揮の系統に従い順序よく行わなければならない。

よく営門通過や入室要領を間違えていた新隊員時代の豊川に千僧はそれを身体で覚えさせていたのだが、一方で『いたずらに形式にこだわり時期を逸してはならない』というのもまた自衛隊に於ける規則である。

千僧やその辺もよく理解しているつもりであり、彼に形式の省略を許した。

何故なら、外哨から前哨に至るまでの連絡の途絶に加え、遥か遠くで銃声が鳴るというこの一帯で起きている、早急の解決を要する何らかの異常事態を察知していたからである。

 

「曹長!どう致しましょう⁈」

 

「どうもこうもあるか!こりゃ襲撃だ。通信の途絶……多分有線がブッタ切られてやがるか通信妨害(ジャミング)が起きてやがる。この手口……特地(こっち)の人間の仕業じゃねえ……多分大津ん所の奴等の仕業だ」

 

「やはり……大津一尉ですか…?」

 

「ああ。あいつの中隊には富士学校の評価支援隊(アグレッサー)R(レンジャー)持ち普通科隊員がわんさかいるって話だ。奴等にとっちゃ自衛隊を相手にしたゲリコマ活動は本職みたいなモンだろうよ」

 

「……で、どうするでありますか?」

 

「見ての通りだ。俺はここを動けねぇし、お前は姫様を守るしかねぇ。宿の警衛についてる2人を斥候に出すつもりだ」

 

「了解です。直ちに二人に申し送り——」

 

「待て!外の様子がおかしい‼︎」

 

千僧と豊川がゆっくりと窓際に近付き、薄布のカーテンをずらして緩やかな動作で外を垣間見る。

 

「あれは……善通寺‼︎」

 

「シッ‼︎でかい声を出すな。こりゃまずい事になったぞ……」

 

窓の外から一望できる中央広場では、小銃を構えた何人もの自衛官らに監視されたまま二列縦隊短間隔で歩く偵察隊の隊員達の姿があった。

皆一様に結束バンドで後ろ手に縛られ、銃、弾帯、サスペンダー、鉄帽などは取り上げられている様子だ。

皆見知った顔ぶれで、その中には善通寺の姿もあった。

おそらく、先程の銃声が示す通り何者かが歩哨の監視を突破し、就寝中だった隊員達に奇襲をかけて捕縛したのだろう。

 

捕虜護送中の隊員が指示を出すと皆「左向け止まれ」をし、その場に降り敷かされる。

 

豊川は千僧の顔を縋るように見つめ、指示を仰ぐ。

だがその千僧の顔もまた険しく、どうすることもできない不甲斐なさに表情を強張らせていた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「おいお前ら!何してくれとんねん!お前ら同じ自衛官やろ?何でこないな事すんねや」

 

「だ、黙らんか⁈撃ち殺すぞ」

 

「銃口こっち向けんなや!ドアホ‼︎」

 

地べたに胡座をかかされた状態で着剣した89式の切っ先を向けられながらも善通寺は見張り役の自衛官に啖呵を切る。

はじめは冷静な目で静かに監視していた見張りも、その五月蝿さに堪忍袋の緒が切れたのか段々と苛立ちを語気と表情に出し始めた。

 

「……おい、コイツどうするよ高松」

 

「知るかよ杉田。テキトーに床尾板打撃でも食らわして前歯二、三本も折ってやりゃ大人しくなるだろうよ」

 

杉田と呼ばれた自衛官はその手に握った強化プラスチック製の89式の握把部から手を離すと、銃把を握り込み目の前で喚く善通寺に躙り寄る。

 

「な…何する気や……辞めぇや!こっちくんな‼︎」

 

「少し静かにしてもらおうと思ってな」

 

「ひ…ひいっ‼︎」

 

 

 

 

「そこまで‼︎」

 

思わず目を瞑った善通寺の耳に、聞き慣れた甲高い声が入る。

 

思わず目を開けると、まず目に入るのは停車中の高機動車のヘッドライトの光を受けて黒光りする半長靴の爪先、そして長い長い2本の迷彩柄の脚だった。

弾帯を巻いた腰の左にはアラビアの騎士が使うような長く曲がりくねったサーベルを括り付け、右腰から太腿にかけてはSiGP220(9ミリ拳銃)の入ったホルスターが吊られている。

 

「お…大津……班長⁈」

 

肩まで伸ばした髪、自分が新隊員だった頃より幾分若返った顔から最初は見間違えかと思ったが、善通寺は目の前に立つ男がかつての班長——大津厳十郎その人であることを認識した。

 

「杉田2曹…。私は君達に忠告した筈だ………客人は丁重に扱え……とな」

 

「で…ですが陛下…。こいつが余りに五月蝿くて……それで高松1曹が——」

 

「ほう?高松。お前の指示か……」

 

「ハ……ハイッ‼︎」

 

高松と呼ばれた1等陸曹が不動の姿勢のまま、3本線入りの襟書を縫い付けた襟首を脂汗で濡らしつつ答えた。

 

「高松よ……。私は君を誤解していたよ……。優秀な君なら私の指示を一字一句漏らさず聞いてくれると信じていた……」

 

「…も、申し訳ございません」

 

頭を垂れながら謝罪する高松の右後ろに大津が立ち、その長い腕を首に巻きつけ耳元で囁く。

 

「なぁ高松。出発前私は何と言ったか……もう一度言ってくれないか?」

 

「は、ハイッ!きゃ…客人は…丁重に扱え…と……」

 

「うんうん。で、続きは?」

 

「特に豊川と善通寺には絶対に暴りょ——ぐはぁっ⁈」

 

言葉を続ける高松の鳩尾に突如大津の右アッパーがめり込み、高松はその場に崩れ落ちる。

 

「そこまで分かってて何故殴らせた⁈えぇ⁈コラ‼︎俺の命令が聞けねぇってのか⁈あぁ?だったら現場でテキトーな自己判断せず事前に意見具申しろといつも言ってるじゃねぇか⁈それとも何か?俺をそんな融通も効かねぇ本土のウスラトンカチ共と糞味噌にしてんのか⁈あぁ⁈答えろやクソボケ‼︎」

 

先程の優しげな口調とはうって変わって大声で怒鳴り散らしながらマウントポジションで高松を殴りつける大津。

高松の顔はみるみる腫れ上がり、拳が振り下ろされる度に大津の白い顔が血飛沫で赤く染まってゆく。

 

「ど…どうか……もうお許しを…」

 

「よくも私の臣民の前で王である私の顔に泥を塗ってくれたなぁ貴様。死ぬか?責任取ってこの場で死ぬかテメェ‼︎」

 

「そ…それが陛下の命令でしたら……この高松喜んで…」

 

「……よろしい。未遂且つ初犯ということで命だけは助けてやる。さぁ!下がって顔でも冷やしてこい。その見苦しい顔で客人の前に立つな」

 

「は…はい!ありがとうございます!」

 

血塗れになった顔を掌で押さえながら、高松はそそくさと去っていった。

 

 

「ふぅ……疲れた…。さて、久しぶりだな善通寺君。再会早々お見苦しいところを見せて大変申し訳ない。折角お前達に会えると聞いてプレスもバッチリ、爪先もピカピカ、特地(ここ)一番の理髪師と爪磨きまで雇ったというのにあの馬鹿のせいで全部血塗れ。台無しだ」

 

大津厳十郎。

その風変わりさは方面隊規模で有名だ。

自衛官の六大義務の一つである「品位を保つ義務」を極端に拡大解釈し、五十路を迎えようというのに変に身嗜みに拘る。

営内では男の癖に部外のネイリストの元に脚繁く通い、浴場から出るときは高級化粧水やら乳液を塗りたくってくる。

当然教育の面では身嗜みや内務に厳格な指導を入れるが、「連帯責任の腕立てなど古臭い」と区隊の指導方針から堂々と外れ、一方でミスをやらかした部下に対しては先程のように堂々と鉄拳制裁をかます。

近年の教育隊で、いかに体罰廃止の方針が示されようとも御構いなしである。

 

「どこまでがネタでどこまでが怒りのラインか全く読めない」

 

入隊後彼の班に配属された者は、他のどの班よりも優秀な成績を残して後期部隊へ行くものの、皆口を揃えてそう言うという。

 

 

「変わりはないか?見たところ曹としての生活も上手くやってるようだが」

 

「ああ、いつも通りやで。そっちも相変わらずのようで」

 

「まぁな。昔を思い出したか?最近は昔にも増してキレやすくなってな…更年期障害を疑った方がいいかもしれん」

 

「自衛隊病院ならロハで受けられんで。早いとこ帰って来いや。俺らはハンチョ迎えに来たんやから」

 

「知ってる。今まで何度もその誘いを受けて来たな……だが答えは決めてるつもりだ。帰る気はない」

 

 

「何でや‼︎」

 

 

「その辺の話についてはまたもう一人——豊川が来た時にでもじっくり……食事でもしながらしよう。善通寺。ところで豊川の姿が見えんが…どこにいる?」

 

「豊川は…知らん!俺が歩哨交代した後の話やから……」

 

「ほう。じゃあ私の方から呼ぶとしよう。お〜い!豊川〜?みんなの大津班長がお呼びだゾ〜〜?」

 

「チッ‼︎無視か。おい矢口。軽機(ミニミ)を貸せ」

 

「は、はい‼︎只今‼︎」

 

大津は、機関銃手の矢口が恭しそうに差し出したミニミ軽機関銃を掴むと、被筒部から伸びた脚付きのフォアグリップを握り、槓桿を引いて初弾を装填した後、その銃口を宿の方に向けた。

 

「とーよかーわくん‼︎一緒に遊びましょ」

 

ダダダダダダダダダダッ‼︎

 

闇夜に響く断続的な発砲音。

数珠繋ぎに飛び出る薬莢とベルトリンクから分離されたM27弾帯の金属片が夕立のようにばらばらと地面に降り注いでゆく。

 

 

「武器、弾薬等を愛護節用せよ」

 

そんな戦闘間隊員一般の心得などどこ吹く風と、大津は窓という窓、壁という壁に連射(フルオート)で5.56mm弾の雨を降らせてゆく。

 

数ある機関銃の中では比較的軽量とはいえ、本来伏射で運用する筈のミニミを、銃口を一切ブレさせずぶっ放し、大津は某元加州知事の映画俳優もかくやといった感じでかつての教え子が隠れる宿へと慈悲の鱗片すら見せずに射撃を続ける。

 

「あっつ‼︎クソっ‼︎矢口‼︎換えのベルトリンクと銃身を持って来ぉい‼︎」

 

「りょ、了解‼︎」

 

 

 

* * * * *

 

 

「無事か⁈豊川‼︎」

 

「はい‼︎曹長もご無事で‼︎」

 

穴だらけになった小隊本部の壁際にて、千僧は床に伏せたまま豊川に生死を確認した。

 

「トヨカワ‼︎これは何事ですの⁈」

 

尋常じゃない外の状態に対ししびれを切らしたのか、フェルネットが警衛の二人の静止をものともせず寝巻きのまま穴だらけのドアを押し開け入ってきた。

 

「ば、馬鹿!伏せろ‼︎」

 

「ああっ⁈な、何を⁈」

 

第3匍匐——即ち片肘と臀部を床につけた状態の匍匐で這い寄って来た豊川に足を引っ張られる形でフェルネットが転倒し、そのまま床に伏せる。

 

「大津だ。奴が来た。歩哨の隙を突かれて俺ら以外はみんな捕まっちまった…」

 

「そ、それは本当なの?トヨカワ。あいつ…最近は王宮から滅多に姿を現さなかったのに……」

 

「…おそらく、奴の狙いは俺と殿下でしょう。だから直接こんな所まで来たんだ。このままじゃあいつら……部下が全員やられてしまう」

 

「とーよかーわくーん‼︎居るんだろう?命令だよ。一緒に飯でも食おう。そこの姫君も連れてさっさと出てこないと今度はこいつらが標的になるよ♡」

 

窓の縁から外の様子を垣間見ると、既に捕虜となった部下達にミニミの銃口を向けた大津が満面の笑みでこちらを見ていた。

 

「……曹長。殿下とメイド達を連れて逃げて下さい。俺が行かなきゃ…あいつら殺されます」

 

「駄目だ豊川‼︎お前が一人であの気狂いの前に立って、指揮官の俺がのうのうと逃げるなど…許されない‼︎」

 

「曹長!奴の目的は俺です!俺と善通寺なら大丈夫ですから。ですがこのまま俺が逃げたら…部下は殺されてしまいます‼︎」

 

「トヨカワ‼︎私もセンソウに賛成よ!私が代わりに奴らの前に出て、跪いて奴の靴に口づけをすれば……あなたも部下も救われるわ」

 

「殿下…命の価値は平等。自分はそう考えております。ですが殿下だけは違う!殿下がもし敵の軍門に下ったり処刑されたりすれば、現政権に抵抗する者の意志はいずれ挫かれ、お父様の希望は叶えられぬまま終わってしまいます!」

 

「トヨカワ…」

 

「殿下の命は我々のそれより重い……塗炭の苦しみに喘ぐ民の為にも、どうかそれを自覚して、ご自分の命を大切にして下さいませ」

 

「……分かったわ。どうかご無事で。あなたにエムロイのご加護を」

 

伏せた姿勢のまま、フェルネットは豊川の手を取り、その甲にキスをした。

 

「ト〜ヨ〜カ〜ワ〜⁈待ち草臥れたぞ〜?あんまり待たすようだと村人もこの銃の餌食になるがそれでもいいかねぇ?」

 

「ハンチョー!悪りぃ待たせた!ちょっとお色直しに手間取った。すぐそっちに行くから勘弁してくれ!」

 

「豊川〜。随分待ったぞ?あと少しでこいつらバラす所だったよ……私はしょっちゅうお前に言い聞かせたよな?『常に物心両面の準備をしとけ』って。新教(新隊員教育)からやり直すかぁ?」

 

「そ、それだけは勘弁してくれ〜」

 

平気な顔をして人が殺せる人間の元へと足を運ぶ——その恐怖を紛らわす為にも豊川は大声で戯言の応酬を繰り返しながら、一歩一歩宿の出口へと向かってゆく。

 

「止まれ‼︎両手は頭の上に!武器は持ってないな?」

 

大津配下の自衛官達が一斉に銃口を向けながら、宿の門扉から現れた豊川に向けて叫ぶ。

 

「別に何もねぇよ。銃口下げろよ…またハンチョに殴られてぇか?お前ら」

 

「…うっ……」

 

恐怖で声を震わせながらも豊川は軽口を叩き、自分に向けられた89式小銃を下げさせる。

 

「上出来だよ豊川くん。なかなかの胆力だな。流石陸教(陸曹教育隊)を乗り切っただけある」

 

「ま、まぁな。あそこの先任助教に比べたらハンチョのパンチなんて怖かねぇ」

 

「ほうほう…嬉しいよ。あの射撃以外何をやらせても駄目駄目のクソエースがここまで成長してくれて……出来ることなら君が言いつけ通り姫君と…千僧ほか数名をもエスコートしてくれたらもっと嬉しいんだがねぇ…」

 

「悪りぃハンチョ。みんなあのドサクサで逃げちまったみたいだ。俺だけは約束通りきたから許してくんねぇかなぁ……」

 

「ふむ…逃げたか……まぁいい。小さな国だ。じき見つかるさ。さて……行くぞ。ようこそ我が国——アヴァロン王国へ。君だけはVIP待遇で入国を許可する。王であるこの私直々の接待、どうぞ楽しんでくれたまえ。ハッハッハッハッ‼︎」

 

自分より頭一つ分高い大津に背中を抱き抱えられる形で、豊川は高機動車の後部座席に乗せられる。

 

「「乗車よーい‼︎」」

 

「「乗車‼︎」」

 

捕虜となった部下達、そしてそれを護送、監視していた自衛官達も次々と後続の 96WAPC(96式装輪装甲車)に鮨詰めで乗車していく。

 

賑やかだった中央広場からは一台また一台と車両が去ってゆき、やがて元の静寂を取り戻した。

 

 

 

群青から曙色へと変わりつつある地平線の彼方へと、緑色の車列が向かってゆく。

 

彼らの姿が見えなくなる頃には既に空も曙色へと変わり、絶望と悲しみに塗れた明日の訪れを知らせる鴇色の太陽が再び顔を出し始めた。

 

 

 

 

 

 




大津がミニミぶっ放すシーンは自衛隊が出てくる某ホラーゲーからのインスピレーションです。
ミニミ、撃ってみたいなぁ…(ちなみに筆者はAKMとか5.56mmの小銃とか9mmは射撃経験あります)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5章 王の宴(上)

 

王都 アヴァロン駐屯地 久居権三郎の居室。

 

日本側のそれと変わらぬ官舎の一角に備え付けられた仏壇の前で正座し、手を合わせる久居。

棚引く線香の紫煙の向こうにはかつての愛娘。久居円の遺影があった。

 

久居は愛していた。

自衛官である父を尊敬し、自分も防衛医大を受験すると張り切って勉学に励む娘を。

時に喧嘩しつつも高校から帰ったら毎日予備校に通わせ、帰宅時間に合わせ遅めの夕食まで用意していた。

そんな目に入れても痛くないような娘はあの夏の日、齢18にして命を落とした。

 

銀座事件——銀座に突如として開いた門より現れた幾千もの帝国軍の軍勢の襲撃を受け、当時級友と銀座を歩いていた円は混乱の最中、連れ去られた。

 

娘が行方不明となったと知った妻は狂気の底に堕ち、久居もまた眠れぬ夜を過ごしながらも、アルヌスの丘で飛龍や翼竜の軍勢を短SAM(短距離地対空誘導弾)で一匹また一匹と粉々にしながら特地での勤務を続けた。

 

当時の3等陸尉、伊丹耀司の指揮下にある第3偵察隊の活躍により娘含む拉致被害者の安否が確認された時には血眼になって娘の名を探した。

だが帝国を通じてアルヌスへ届けられたのは娘の死亡通知書と、遺品の髪飾りだけだった。

 

帝国側の報告では、円は帝都の女衒に売られ、帝国兵や人外の獣達にその身を辱められ、ろくな食事も与えられずに衰弱死したという。

 

それを聞いた久居は3日間泣き続け、涙が枯れたある日を境に呟くようになった。

 

「特地の人間全てに、自分の味わった苦痛を100倍にして返す」と。

 

勿論専守防衛を国是とし、他国の争いに関与しない方式の時の日本政府の方針により戦争の機会はなかなか与えられなかった。

だが時の皇太子、ゾルザル・エル・カエサルの仕組んだクーデタによる帝都内部に於ける抗争の際には誰よりも最前線に立つことを志願し、槍と盾しか持たない帝国兵や掃除夫(オプリーチニナ)の軍勢を87式自走高射機関砲(スカイシューター)の水平射撃で肉塊に変え続けたという。

 

帝国との国交回復後は原隊に復帰し、胸の内に冷めやらぬ憎しみの炎を秘めながらも淡々と日々の勤務を続けていたようだが、ある日駐屯地を訪れた大津にその手を握られ、こう言われた。

 

「貴官の活躍は噂に聞いている。私には貴官が必要だ。そして貴官にも私が必要だ。私の下へ来い。そうすれば貴官の復讐は続けられる。我等が身、朽ち果てるその日まで」

 

と。

 

「円……昨日は10人殺したぞ。そっちももう賑やかだろう。ほら、今日の分の飴だ」

 

久居は懐から市販の飴を取り出し、仏壇に置かれた菓子入れに一つ放り込んだ。

 

「特地で人間を殺したら10人毎に一個の飴玉を仏壇に備える」

 

毎朝起床してから久居が行う習慣だ。

菓子入れには既に20個もの飴が積まれていた。

 

「『目には目を、歯には歯を』……ハンムラビ法典か……。相変わらずだな。久居」

 

仏壇に正対する久居の肩に、いつの間にか入ってきた大津の白い手が置かれる。

大津は第3種夏服のワイシャツと緑のスラックスを着込み、肩章に私物の緑ベレーを通している。

 

ちなみに門の向こうでは陸自伝統の緑の制服に代わって紫紺の新制服が採用されたとかされないとかいう噂があるそうだが、隊員達からの評判は専ら悪い。

評価は概ね「自衛隊っぽくない」「ナスみたい」「警察官っぽい」と散々であり、部隊によっては未だに旧制服が着続けられているという。

「自衛隊の海兵隊」とも呼ばれる水陸機動団の設立を見てもわかるように、中国の制海権拡大、北朝鮮のミサイル問題などに伴いこれまで縦割りであった陸海空の自衛隊の相互連携が防衛省に於ける方針の大綱となり、陸上自衛隊もまた統合幕僚監部の象徴色である紫紺を従来のオリーブ色に代わって採用したという。

尤もおエラ方の意図を理解できない国民や一般隊員達からの評価は既に記したように今ひとつであり、同時に高い調達資金、森田内閣に続いて発足した時の新政権による失政、汚職も相まって「税金の無駄遣いではないか?」「こんなことに金使うなら居室の壊れかけのアイロンや洗濯機をなんとかしろ」との声まで上がっている。

もちろん門開通から特地入りして久しいこの中隊に於いては支給は間に合っていないし、仮に支給されていたとしても、もはやサイコパス的と言える程合理主義的な大津のことである。おそらく頑なに着るのを拒み部下にも決して着ることを許さないだろう。

 

 

「ええ、中隊長。これが私の余生に於ける唯一の生き甲斐です」

 

「皮肉だな久居。元々その言葉は『やられた程度にせよ』という意味で作られたというのに…」

 

「ええ、存じておりますとも。ですが私はもはや自衛官ではない。況してや人間ですらない……復讐に身を焼かれたただの殺人鬼です。人間には人間のルールがあるように、鬼にもまた鬼のルールがあるのですよ……」

 

「気に入ったぞその言葉。私もそれには同意だ。私も自分を自衛官とも人間とも思っていない。だが、今の私はこの地を統べる王でもあり、貴官は宰相でもある。どういう成り行きか……とにかくそうなったからにはそれらの責務も全うしなければならん。それは分かるね?」

 

「ええ。陛下の職務、決して邪魔立ては致しませんし、己の使命も自覚しているつもりです」

 

「よかろう。ならば今日は殺しは無しだ。事前に話した通り客人を招いているのでな。示された時間に王宮に出向いてくれると助かる。久々の宴会と洒落込もうじゃないか。特上のトカイワインが届いている頃だろうし、席も既に取ってある。万年喪中のつもりか普段一滴も飲まない貴官も、たまにはリラックスした方がいい。娘さんもそんなことで腹を立てるような性格じゃないだろう?」

 

「ええ、陛下のお誘い、ぜひ乗らせて下さい」

 

「よし。では私も宿題があるのでな。失礼するよ。この仕事を続けて久しい貴官には言うまでもない事だが…くれぐれも時間にだけは遅れないよう……国賓を待たせたとあっては王である私の面子が潰れるのでな。以上!別れて事後の行動、わかれ‼︎」

 

「別れます‼︎」

 

久居はポマードで固めた白い毛髪の頭を下げて10度の敬礼をし、胸に留められたピカピカのダイヤ徽章と格闘徽章を光らせながら飄々と退出してゆく大津の広い背中を見送った。

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

どれほど眠っただろうか……。

 

今日の朝方。目隠しの麻袋を被せられ、大津の部下達に小突かれるがままに車両に詰め込まれ、暫く揺られているうちに恐怖で疲れ果てた豊川はいつのまにかうとうとと眠り込んでしまった。

目が覚めれば見慣れぬ一人部屋。

豊川は辺りを見回す。

自分の身体に掛かっている毛布とシーツはきちんと自衛隊式に端を三角に織り込まれており、完璧な状態のベッドメイキングがなされている。

ベッド脇のサイドテーブルにはガラスと真鍮で作られた花型の読書灯が備えられており、ペルシャ絨毯のような豪華な絨毯の敷かれた床の上にはマホガニー材のデスクと牛革のリクライニングチェアが一つずつ設置されている。

見慣れたフランスベッドを除けば、ここはどこかの高級リゾートホテルではないかと錯覚しそうな程上等な部屋だ。

 

「そ、そうだ‼︎善通寺を探さなければ…出口は……駄目か。じゃぁ窓は——なっ⁈」

 

出入口には人の気配。おそらく見張りがついているだろうということで諦め、豊川はベッド下に揃えて置かれた半長靴を履いて窓の方へと向かったのだが、ガラス窓の向こうに映る景色を目にした豊川は絶句した。

 

まず目に入るのはアルヌス式の六陵郭に囲まれ、寸分違わぬ高さに揃えられた石材の建造物が立ち並ぶ街。街の外れにはアステカのテオティワカンのような階段ピラミッドが幾つかあるように見える。

巨大な街の中には、その一部だけ切り取ったかのように柵が張り巡らされ、他の建物とは打って変わって真っ白で屋根の平たい、自衛隊の隊舎のような建物がずらりと並んでいる。

 

アヴァロン王国王都——大津が建設した鉄壁の城塞がそこにはあった。

 

「出ろ」

 

ふとドアが開けられ、89式小銃を3点スリングで提げた見張りの自衛官が退室を促す。

胸元の名札と3本線の腕章から判断するに名前は「佐藤」で、階級は陸士長だろう。

 

「なぁ、ここは何処なんだ?部隊のみんなは何処だ?」

 

階級が一つ下ということもありやや語気を強めに尋ねる。だが佐藤はそれらの質問に何一つ答えることなく淡々と豊川の後ろに回り、目元にOD色の布を巻きつけ後頭部で本結びにする。

 

「な、何をする⁈」

 

「陛下からの呼び出しだ。今からお前を連れて行く。暫く黙ってろ。そして何も見聞きするな。死にたくなければな」

 

「……」

 

何かに怯えているかのように酷く冷たい言い方をする佐藤に背中を押されるがままに、豊川は居室から外へと続く廊下を歩かされ続けた。

 

 

* * * *

 

 

 

「さて、これで主賓は揃ったな。佐藤。いい加減そのむさ苦しい目隠しを取ってやれ」

 

「はっ」

 

佐藤に誘導されるがままに歩き続け、座らされた椅子の上で豊川はようやく目隠しから解放された。

 

久々に戻った視界に、窓から差し込む幾筋もの陽光が直撃し豊川はやや目を眩ませる。

明るさに目が慣れるにつれ、豊川は眼前の景色に再度驚く。

 

 

まず目の前に広がるのは白いクロスの敷かれた巨大なテーブル。

机上には白磁の皿。その上には王冠型に折られたナプキン。それを囲うように置かれたナイフ、フォーク、スプーン、フィンガーボウルにワイングラス。

どれも自衛隊の合言葉「水平直角一直線」に倣うように、まるで毛布の上に分解した小銃の部品のように誤差±5mmで並べられている。

 

豊川の向かい側の席に座るのは3種夏服に身を包んだ大津。豊川から見て大津の左隣には丙-2。つまり戦闘服に半長靴だけの姿の善通寺。そして右隣には大津と同じく夏服の見知らぬ自衛官。

やや後退したオールバックの白髪と銀縁の角眼鏡がジジ臭さを漂わせるが、その風貌は大津同様若かった。

肩章と名札から判断するに階級は2等陸尉。名前は久居だろう。

 

「豊川、善通寺、ようこそ我が王宮へ。歓迎するよ。改めて自己紹介しよう。私は大津厳十郎。元陸上自衛官にして、この国の王だ。こっちは久居権三郎。同じく元自で、訳あってこの国で宰相をしている。よろしくな」

 

「………」

 

「ん?何だこの空気は。待てよ…私には言わなくても分かる。豊川、君は今無性に腹が減っていて、食卓に座ったからにはこんな与太話より前菜を出せとそう言いたいのだな?」

 

「い、いえ…」

 

「腹が減った」——それは大津の班に於いて、班長に決して言ってはならない禁句となっているため、豊川は咄嗟に口を噤む。

 

大津の自衛官としての風変わりな性格は今に始まったことではないが、食に関しては特に注意を要する。

入隊して間もない頃、初めての引率外出。

街を散策して暫く、班員の一人が「腹が減った」と呟いたのを耳にした大津は、徐に班員全員を行きつけのフレンチに連れて行ったという。

大津はナイフとフォークの使い方も分からぬ豊川達を見てクスクスと笑いながら昼間からワインを3本近く空け、飯代の支払いに戸惑う班員達の目の前で諭吉(一万円札)の束を置いて「あとはごゆっくり」とだけ告げて出て行った。

それ以来大津の前では「時間がない」と並び「腹が減った」はタブーとなったのだ。

 

「まぁ来てもらったのが明け方近かったからな…日課の起床ラッパも特例で取り止めにし、朝飯も出さず君達を昼まで寝かせておいたのは私の裁量だ。遠慮しなくていい。デュセス!ティア!ビスコッタ!皿と酒を持ってこい!!」

 

「「はい、陛下」」

 

大津の背後で控えていたヴォーリアバニーのメイド達——デュセス、ティア、ビスコッタと呼ばれた三人は大津の合図でそそくさと側のワゴンに向かい、配膳を始める。

テーブルの中央にはファターニェーロシュ。つまりサラミ(コルバース)やフォアグラの乗った肉の盛り合わせが置かれ、各人の皿の上にはグヤーシュ——肉野菜をパプリカ粉とワインで煮込んだスープが配膳される。

 

「さて、召し上がれ。なぁに、心配いらない。既に女官達に毒味はさせてある。ちなみにこのグヤーシュは特に旨いぞ?お袋が56年の動乱で逃げて来た時持ってきたレシピそのままで作らせた。特地(こっち)の材料じゃ旨く出来るか心配だったが…旨く出来た方だ。召し上がれ(ヨー エートヴァージャ)

 

「い…頂きます」

 

豊川と善通寺は大津に促されるままにスプーンを手に取り、グヤーシュを口に運ぶ。

 

味はたしかに旨い。ハンガリー料理自体を食べたことのない二人にとっては新鮮な体験ではあったが、それでも旨いことは確かだ。

 

「デュセス!酒を」

 

デュセスと呼ばれた黒毛のヴォーリアバニーは細い身体で一升瓶程の大きさの瓶を抱え、各々のグラスを黄金色のワインで満たす。

 

「班長!いい加減に——」

 

「積もる話もあるだろうが、それはこの杯を空けてからでも遅くはないだろう?豊川よ。いつも時間に追われる毎日を過ごしてきたんだ。たまにはゆっくり食事をするのも悪くないと思うが?うん?」

 

「………」

 

旧知の仲とはいえ昨日まで自分に銃を向けあまつさえ連行までした相手にいきなり宴席に呼ばれ、いつまでこんな茶番に付き合わされるのかといい加減しびれを切らした豊川はつい声を荒げたが、大津はその金色の瞳で彼を見据えつつ言葉を遮った。

 

「久居、善通寺、そして豊川。杯を持て。では改めて……再会を祝して‼︎」

 

大津の取る音頭の下、自衛官達による昼間からの奇妙な宴会が幕を開いた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 王の宴(下)

久々の投稿。

そいやトカイワインって飲んだことないのでamazonあたりで買ってみようかしら(グヤーシュはある)


 

 

アヴァロン王国、王都。

 

何杯目かのトカイワインを空けながら器用に肉を貪りつつ、大津はかつての部下達に向けて口を開いた。

 

「さて、私はあまり食事の席で堅苦しい話をしたくないのだが…これ以上君達にただ飯を食うだけの退屈な時間を過ごさせるのも酷な話だ。本題に入ろうか」

 

「……本題…ですか」

 

「ああ、先程も言った通り、私以下部下全員に帰隊の意志は無い」

 

「何でや!」

 

「何故かって…?そうだな…兎にも角にも私はこの特地で過ごすうち、いつしかこの国の王となった訳だ。成り行きか自分で選んだ道か……どちらかというと後者だろうな。日本(そっち)に対する未練は無きに等しいし、私がこの土地に来る随分前から、あの国の為に尽くす気持ちも失せたというのが率直な感想だ」

 

「だからって……班長、あなたの行いは国家へ、そして国民の負託への反逆ですよ⁈我が国では誰も、そんな身勝手な理由で部隊を抜けた貴方方を許す者はおりません!」

 

「ほう。吹くようになったな豊川。やはり君は強くなった。やはり自衛隊はいい。特に君のように真面目な人間が成長する場所としてはな。だが、知っての通り自衛隊は有事の際任務を遂行し、国民を救う為の組織だ」

 

「ええ、分かっています」

 

「任務遂行と生命の救済、それがイコールで結ばれるものではないことは、災派も経験した君になら分かるだろう?」

 

「……ええ。たとえ自衛隊としての任務を遂行したとしても、死にかけの全ての人間を救う事は出来ない。そして、仮に救えたとして、必ずしも感謝されるとは限らない」

 

「そう、私が言いたかったのはそれだよ豊川君。阪神淡路で、イラクで、東日本で、そして海の向こうのハイチの瓦礫の中で、善きサマリア人の法など通用しないことを私は痛感した……そして私は決めた。『もう、救いきれない人間に対する憐憫の念を持つのをやめよう』『どうせ感謝されるどころか憎まれ口を叩かれ、存在を認められないのなら、これ以上ここに居る意味は無い』と」

 

「だからって、門の向こうの特地でこないな酷い事をしてええなんて…そんな理屈通らへんで!」

 

「ドンッ」と食卓を叩きながら、善通寺が声を張り上げた。

 

「……席に座りたまえ。善通寺君。食事中に食卓を叩くのはマナー違反だって知らないのか?」

 

長い髪の向こうでギョロリと覗いた金色の瞳に恐れをなした善通寺は、そそくさと席に戻った。

 

「さて…『私がどうしてこの特地で国まで乗っ取り国民を食い物にして好き放題やらかしているのか?』そう聞きたいわけだね?善通寺君。それに関しては隣の久居から解説してもらおう。眠くなる話だがそっちから質問してきたことだ。ちゃんと聞くようにな」

 

大津から水を向けられた久居は手元のワインを一口啜って喉を潤すと、口を開いた。

 

「……石器を持つ者が青銅器を持つ者に、青銅器を持つ者が鉄器を持つ者に、そして鉄器を持つ者が銃や火砲を持つ者に敗れ、征服されたように有史以来、人類は優れた文明を築いた者だけが劣った文明を持つ者を好きなようにしてよい、とそうしたルールの下生きてきた訳だ。インディオを虐殺したピサロやコルテスのようなコンキスタドール達は、いわば綺麗事を抜きにして考えれば当時の人間として正しい事をしてきた訳だ」

 

「……」

 

「無論21世紀の国際社会でこの考えは通用しないのかもしれない。だが(ゲート)の向こうのこの特地では未だこのルールに従って人々が暮らしている訳だ。奴隷制や人身供養を当然の事として受け入れ、

人権という言葉の意味も知らずにね……故に、我々が彼らのルールの下で己の実力を行使する事に対し誰が咎めるだろうか?という話だ。別に国際法や日本国のルールが通用しないこの地で自衛隊の流儀を突き通す必要は無い」

 

「……もし、この国で行われていることが諸外国やマスコミに漏れたら、我が国の威信に関わります。恐らく彼らは言うでしょう。『平和憲法を掲げる日本国の自衛隊が、かつての旧軍の如く門の向こうの民間人を虐殺し圧政を敷いている』と」

 

「豊川…と言ったかね?君は本当に頭の回る男だ。大津の話からは想像もできない程に賢い。だが、『マスコミにも諸外国にも好きに言わせておけばいい』というのが我々の総意だ。この世界へ通ずる(ゲート)は銀座一箇所のみ。我々の行いが気に入らないなら、どこの国の回し者であろうと銀座の門を潜ってここまでくればいい。我々に勝てる火力と軍勢を引き連れてな」

 

「文句があるのなら直接攻めて来ればいい。だが自分達の下に辿り着く為には日本国の自衛隊を倒す必要がある」

 

「そして、自分達を止められる力を持つ者はこの特地には居ない。もし唯一居るとすればそれは自衛隊だけ」

 

論理は単純にして明快。

瀬戸際外交に見えて緻密な計算の元に行われた造反。

 

豊川にも善通寺にも、返す言葉が見当たらなかった。

 

「さて……豊川くん。本音を言えば我々、君達陸曹陸士をこのまま返したくはない。取り逃がした千僧の事もある。どうせいずれ攻めてくるとはいえ、君達をここでアルヌスへ返せば後から敵として討たなければならないと知っているからな……」

 

「……無理だとは思いますが、部下の陸士達だけでも…解放してやってくれませんかね…」

 

「ほう。そちらの要求は部下の解放か。別に『帰したくない』と言っただけで、無理な話と決めつけるのは早いんじゃないか?」

 

「…?」

 

「君の要求はよく分かった。で、君には何が出せる?」

 

グラスから手を離し、テーブルクロスに両肘をつきながら大津は訊く。

豊川は両手を膝の上で小さく震わせながら、静かに答えた。

 

「みんなを帰す代わりに、俺たち2人は、は…班長の部隊に……残ります」

 

「⁈」

 

豊川の言葉にまず目を見開いたのは善通寺だった。大津も少し驚いた顔を見せたが、すぐその白い顔に微笑みを浮かべて席を立ち、ゆっくりとその大きな手を豊川の背中に置いた。

 

「…ふふふ……そうか…そうか…君ならばぜひそう言ってくれると信じていたよ。豊川くん。我々も丁度特科の砲班長をやれる人材が欲しかったものでね…だが一つ誠に残念な事がある」

 

「ざ…残念ですか?」

 

「部下を逃す代わりに私の部隊に加わり力になりたい。君の実に立派な考えに対し、どうやら君の片割れは不服なようだ」

 

嫌な予感。

豊川は大津の言葉に従うように善通寺に目を向ける。

 

「——?や、やめろ!善通寺!」

 

善通寺はテーブルクロスの下で隠し持っていた9ミリ拳銃を構えていた。

その照星と照尺が結んだ先には、大津がいた。

 

「……撃たないのか?そのまま構えているだけでは何の意味もないぞ?一生そうやっていたまえ」

 

「だ、黙れ!誰がお前なんかの!お前なんかの下で働くかっ‼︎」

 

 

 

乾いた発砲音。橙色のマズルフラッシュ。

 

最高級のペルシャ絨毯の上に鈍い音を立てて落ちる空薬莢。

 

挑発に乗せられた善通寺はその銃口を大津に向けたまま、つい引き金を引き絞ってしまった。

 

 

暫しの沈黙の後、豊川は急いで背後を振り返って大津の姿を見る。

 

その姿は全くの無傷。

OD色の制服にはほつれ一つ見られなかった。

 

「……な、何でや…は…外した?まさか⁈」

 

善通寺の射撃の腕は豊川程は高くない。しかし機甲科偵察隊出身という職種柄、拳銃射撃の訓練は少なからず受けてきた分、この距離で外す事はあり得ない。

 

となると考えられるのは、大津が鋼と謳われるその身体で銃弾をはじき返したという冗談のような結論だけだ。

 

「……いいや、善通寺。ちゃんと当たってるよ。いや、当たったというより『私の皮膚ギリギリまで弾が接近した』というのが正解かな」

 

「ど…どういう原理や?」

 

「特地に来てまだまだの君達も知っているだろう?科学力の乏しいこの特地では『魔法』なる概念が存在することを。随分と興味深いから、私も習いたくなってね……ロンデルから一番の魔導師を拉致して来て日がな教えを請うていたという訳だ」

 

「ま…魔法?」

 

「そうだ。ちなみに今のは簡単な防御魔法。50calや35mmの掃射を跳ね返せと言われると苦しいところがあるが、小銃弾の単射くらいなら避けるのも造作もないというわけだ。後は発火、爆破魔法、物体浮遊も少し…。本当はもっと学びたかったが、生憎雇っていた導師が急にここでの生活を怖がってか逃げ出してしまってな……折角美味い飯に最高の寝床と決して安くない月謝まで払ってやったのに……ファック!すぐに逃亡先を割り出して刺客を送り込んで一家郎等蜂の巣にしたお陰で今度は自分で魔導書を紐解くしかない毎日の始まりだ…。お陰である程度の魔法は自分でも編み出せるようになり、ロンデルでは博士号まで取った事もある。尤も、更に上の導師号に挑もうとした時は私の研究の先見性を理解出来ない老害共にペンキを投げ付けられたものだから、仕返しに刺客をまた送り込んで其々に相応しい末路を用意してやったが……」

 

「キ…キチガイ…やっぱあんたは殺人鬼や……」

 

「こらこら、そんな汚い言葉を使うものじゃない。子供が聞いていたらどうするんだ?ちなみに、こういう事もできる。よく見ていたまえ」

 

大津が片手を豊川の肩に乗せたままもう片方の手を善通寺に向けると、善通寺の身体がまるで操り人形のように持ち上がり始めた。

 

「な…何やこれ⁈は、離せ‼︎」

 

「あっちの世界でいう念動力(サイコキネシス)のようなものだ。身体に流れる電気信号を操れるようで、やろうと思えばこのまま心臓を止めたり首や手足を曲げてはならない方向に曲げたり思い切り地面に叩きつけたりもできる」

 

「⁈ひいっ‼︎」

 

淡々と恐ろしいことを口にする大津を目にし、善通寺は思わず声を上げる。

 

「さてさて善通寺くん。そういう危ないものは食事の席には持ってこないのが礼儀と言うものだ。このまま腕をねじ切られる前に捨てるのが賢明だと思うがねぇ…」

 

「くっ…畜生っ!」

 

善通寺が渋々右手の握力を緩めると、掌から落ちた9ミリが「カシャリ」と金属音を立てて絨毯に叩きつけられた。

 

 

 

「さて……そろそろお開きといこうか…興が醒めてしまった……デュセス!この場を片付けておけ。残飯の類は城下の奴隷共にでも投げつけておけ」

 

「はっ!」

 

デュセスと呼ばれた黒毛のヴォーリアバニーは、大津の言葉に耳をピンと立てて反応すると、部下のメイド達を引き連れて食い散らかされたテーブルを片付け始めた。

 

「誠に申し訳ない。豊川くん。君の言いたい事はよく分かってるつもりだ。だがもう暫くVIPルームの方で待っていてくれると助かる。くれぐれも、単独で何処かに行ってしまわないでくれよ、、私は君の唯一の取り柄である誠実さを信じているからな」

 

「は…はい……班長。あの、善通寺の方は——」

 

「ああ、あいつか……あいつは君と違ってマナーを理解していないようだから、この私直々に指導を入れようと思う。なぁに、殺したり後遺症が残るような怪我はさせないから安心したまえ。さて佐藤!豊川くんをゲストルームへ。丁重にな」

 

「はっ!」

 

宙に浮かされたまま磔のような格好で拘束された善通寺の姿を不安げに見つめる豊川の黄色い双眸は、佐藤によってかけられたOD色の目隠しによって完全に覆われた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。