戦姫絶唱シンフォギアAL 不思議な歌と錬金術士達 (東山恭一)
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序章
邂逅


ギャラルホルンのアラートが発生したという事で呼び出された装者達。司令が出撃前のブリーフィングで装者達に話していたが「エルフナイン君から話がある」とエルフナインに話を引き継ぐ、それを受けたエルフナインが口を開いた。

 

「実は今回のアラートが特殊でして」

 

エルフナインの言葉にクリスが眉をひそめた。

 

「特殊…?」

「はい、今までに見た事のないアラートです。強いアラートと言うわけでも無いですし…特殊と言うほかありません。ですので一層の注意を払って欲しいんです」

「そいつはまた…」

 

クリスが唸っていると真剣な面持ちで翼が切り出した。

 

「と言うことは移動したらすぐに非常事態と言うこともあり得ると言う訳だな?」

「ええ、十分考えられる事かと」

「なるほど…では人員の選出も慎重に行った方がよさそうだな」

「そんなの決まっているじゃない」

 

マリアが会話に割り込むと翼が疑問の表情でマリアに聞いた。

 

「決まっている、と?」

「ええ、ここはLiNKERを使わない貴方達で行った方が良いんじゃないかしら?」

「…なるほど」

 

翼が合点がいったように頷くと切歌と調が食い下がってきた。

 

「どう言う事デスかマリア?」

「私達じゃ、実力不足って事?」

「そう言う事じゃないわ」

 

マリアが首を横に振ると続けて話し始めた。

 

「向こうで何が起こるかわからない以上、いざという時にLiNKERが切れてしまってはどうしようもないわ。行くにしても安全が確保されてからね」

「確かに…その通りデス」

「決まりね、悔しいけどとりあえずは貴方達に譲るわ」

 

話を聞いていたエルフナインは翼に向き直って話し始めた。

 

「では響さん、翼さん、クリスさんが行くと言う事で良いですね。3人も大丈夫でしょうか」

 

それを受けて3人は頷いた。そしてギャラルホルンの前で響が弦十郎に言った。

 

「じゃあ行ってきます師匠ッ!」

「ああ!いつも通りガツンとかましてこいッ!」

 

その会話を最後に3人はギャラルホルンでのワープを開始する。ワープ途中には特に何もなく無事に先の世界へとたどり着く、そこはいつもの公園ではなく森の中だった。

 

「ありゃ、早速違いますね」

「ああ、まずは周辺探索としよう。場所が違うのかもしれん」

「ギアはどうする」

「もしもの時のためにつけたままにしておこう」

「了解です!」

 

3人は一度ギアをつけたまま周りの探索を始める。すると翼が二人に小さな声で言った。

 

「立花、雪音、隠れるぞ。大きな声を出すな」

「えっ…?」

「早く」

 

翼は困惑する響の手を引いてクリスと共に近くの草むらに隠れる、困惑した響が翼に聞いた。

 

「急にどうしたんですか?」

「足音がした」

「? それだけだったら…」

「バカ、用心するに越した事はねえだろ」

「そっか、そうだよね」

「シッ、近づいてくるぞ」

 

3人が息を潜めていると足音の主が現れた。現れたのは二人の少女で両方とも背が同じくらいで片方はピンクの長髪を後ろで団子状にまとめたおっとりとした雰囲気で両手で杖を持っていた、もう片方はベージュの長い髪をそのまま垂らしている快活そうな少女だった。

 

「女の子ですけど…」

「うむ…盗み聞きするようで悪いが少し会話を聞いてからにするか」

「だな、いきなり襲われねえとも限らねえし」

 

3人は引き続き二人を見ていると会話が聞こえてきた、快活そうな少女がもう片方に話しかけていた。

 

「ねえリディー、これで材料は集まったかな?」

 

リディーと呼ばれた少女は快活そうな少女の持っているカゴを少し漁ったあと答えた。

 

「うーん、もう少し植物を集めてからにしよっか」

「りょうかーい!ね、帰ったらどうする?」

「そうだねぇ…おやつにしようか」

「やった!よーし、はりきって集めちゃうぞー!」

「あ!スーちゃん待ってー!」

 

そこまで聞こえたが二人は走り去ってしまい視界からも消えてしまった。3人は草むらに隠れたまま話し始めた。

 

「植物集めてたみたいですけど」

「植物…?植物を集めて何をするのだ…?」

「アレだろ、草使った料理。七草がゆとかあるだろ」

 

クリスの言葉に二人は納得すると同時に少し悲しげな顔をした。

 

「まさか食べるのに困っているのか…?」

「だとしたら可哀想…」

「いやおやつって言ってたしそりゃねえだろ。そんな事より一つ気になることがあったんだが…」

「何かあったのクリスちゃん?」

「あのやんちゃそうな方…ハジキ持ってたぞ」

「えっ」

 

3人の中にどよめきが広がる、その中で翼がクリスに聞いた。

 

「なあ雪音、それは本物だったのか?」

「なんとも…モデルガンと言われてもおかしくはない感じでしたけど」

「そうか…」

 

翼は少し考えた後周りを見てから立ち上がって言った。

 

「考えても仕方ない。もはやここで得られる情報はなさそうだ、とりあえずはこの森を出るとしよう」

「はい」

「おう」

 

3人が歩き出そうとすると後ろから鳴き声が聞こえた。振り向くとそこには青いブヨブヨとした質感の生物がいた。それを見て3人は一瞬で戦闘態勢に入る。

 

「まさか新手のノイズッ!」

「どうやら特殊アラートも伊達ではないと言った感じだな」

「ハッ、どんなノイズでもすぐに風穴開けてやらあッ!」

 

が、その意気込みとは裏腹にその生物はクリスの銃弾一発で弾けて消えてしまった。

 

「あ?大分脆いノイズだな」

「もしかしたらその分量が多いとか…?」

「いや…周りに同じようなノイズは見られないが…なっ!?」

 

翼が後ろを向いて驚くと二人もそれに合わせて振り向くと響達よりも巨大な先ほどの生物がいた。

 

「デカっ!」

「だが大きさ如きで私達を脅かせると思わないことだ!」

「そういうこったな、さてやるぜ!」

 

3人が再び戦闘態勢に入ると後ろから大声が聞こえた。

 

「あー!デッカいぷに!」

「スーちゃん、誰かいるよ!助けなきゃ!」

「おうよリディー!援護お願い!」

 

スーと呼ばれた少女は銃を取り出し弾丸を連発する。リディーと呼ばれた方は爆弾を出して青い生物に投げつける。3人が唐突のことで一瞬動きが止まった内に少女二人は手早くその生物を片付けてしまった。そしてスーと呼ばれた方が3人に向かって話しかけた。

 

「大丈夫だった?…ってあれ?貴方達ここらじゃ見ない服装してるけど…」

 

その問いに翼が答える。

 

「あ、ああ。すまない、服装の件については今は話せないが…その辺りは見逃して欲しい」

「えー?変なの、まあいいけど。それで、こんなところでどうかしたの?」

「うむ、初めての土地で迷っていてな。どこかに街がないだろうか」

「あるよ。アダレットって言うんだけど…」

「アダレット?」

 

翼が首をかしげると少女もまた疑問の表情で返した。

 

「あれ?アダレット知らない?」

「ああ。ここの辺りはよく知らなくてな」

「そっか、本当に知らないんだね。んじゃ案内してあげる…えっと…」

 

少女が言い渋っていると翼が察したように自己紹介を始めた。

 

「私は風鳴翼。こっちは雪音クリス、こっちが立花響だ」

「よろしく」

「よろしくね」

「えーと…カザナリ…さん?」

「翼で良い」

「え?…そっか、じゃあそう呼ばせてもらうね。私はスール ・マーレン。気軽にスーって呼んでね!こっちはリディー・マーレン…ってリディー?少しは喋ったら?」

「だってスーちゃんが一人で喋るんだもん…あ、リディーって言います。スーちゃんの姉です、よろしくお願いしますね」

「ああ、よろしく頼む」

 

互いの自己紹介が済んだ後にスールが切り出した。

 

「んじゃアダレットにしゅっぱーつ!ちゃんと付いて来てね!」

「ああ」

 

二人の後ろをついて行く3人。その途中でクリスが翼に小さな声で話しかけた。

 

「信用して良いんですかね」

「向こうも同じ感情だろう、腹の探り合いをするにしてももう少し落ち着いてからだ。しかし「服装」と言われた以上下手にギアを解除出来んな…」

「まあそこら辺はどうにかするっきゃねえ…にしてもアダレットか…」

「もしかしたら並行世界じゃなくて異世界だったり?」

 

響が横から割って入る、その言葉に翼は少し顔をしかめた。

 

「ありえるが…もし本当ならあまりぞっとしないな」

「ちげぇねえ、こっちの常識がまるっきり通じないって事もあるからな」

「まあとにかくは街についてからだ」

「わかりました」

「おう」

 

そして五人は一路アダレットに向かった。




ヤリタカッダケーなので他二つより更に投稿が落ちるかもしれませんがよろしくお願いします。あとクロスオーバーは初めての試みなので色々多目に見てくれると嬉しいです。


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錬金術の世界

五人は森を抜け当たり障りのない会話をしつつしばらく歩くと中世ヨーロッパ風の城と城下町ようなものが見えてくる、その時点でようやく装者三人はここが異世界なのだと確信し、気を引き締める。そして大きな門をくぐった後リディーが三人に振り向いて言った。

 

「三人ともようこそアダレットへ…と言いたいんですけど…」

「どうしたの?」

 

言い渋ってるリディーに代わってスールがピシャリと言った。

 

「三人ともぶっちゃけ凄く怪しいのでこれから取り調べするね!」

「ああ…まあそれはそうだろうな。珍妙な服装で自分の事をロクに明かさないとなれば確かに取り調べしたくもなるだろう。承知した、立花と雪音も良いだろうか」

「はい、まずは相手に信頼してもらわないとですね」

「まあやましい事なんてねえし、先輩も腰を落ち着けられたら話せるだけは話すんだろ?」

「まあな」

 

三人が同意するとリディーが言った。

 

「じゃあ決まりですね。家…は片付いてないし、万が一って事もあるし…スーちゃん、ソフィーさんの所に行かない?」

「そうだね、もし何かあってもソフィーさんとフィリスさんが居れば何とかなるでしょ。じゃ、案内するね」

(完全に怪しまれてる…)

 

三人は自身らの疑われっぷりに溜息をつきながらも姉妹の後をついていく、着いた所は小さなテントだった。

 

「じゃあちょっと待ってて下さい」

 

そう言って姉妹はテントの中に入って行った。姉妹がいなくなった後、クリスが切り出した。

 

「完全に怪しまれてんな、まあ当然っちゃ当然だが」

「ああ、だからこそこれからの話でその疑いを晴らしていく他ないだろう」

「大丈夫です、話ができるなら人は分かり合えますよ!」

「お前にとっちゃいつもの事か、心強いこったな」

 

そこまで話すとテントからリディーが顔を出して三人に言った。

 

「どうぞ、入って下さい」

「入って…ってえ?テントに?」

「そうですけど…どうかしました?」

「どうしたもこうしたもお前こんなちっこいテントにこんなに入れるかっての」

「ああ、それなら大丈夫ですよ。まずは入って下さい」

 

リディーは笑ってそう言うとテントに引っ込んだ。

 

「何だぁ?この世界じゃおしくらまんじゅうでもしながら話すのか?」

「郷に入れば郷に従うまで、行くぞ」

「はいッ!おしくらまんじゅうなら負けませんよッ!」

「そうじゃねぇだろ…」

 

そう言って三人がテントに入ると一歩目で目の前の光景に立ち尽くした。

 

「これは…」

 

三人の前に広がっていたのは奥に充分な広さの部屋が奥に三つ連なる光景、外のテントの大きさとはとても見合わない広さだった。

 

「え?え?何でこんな広い部屋が…」

「どう言う事だよこれは…」

 

三人が呆けていると奥からリディーとスール 、そして赤い髪でマリアと同年齢くらいの優しげな雰囲気の女性がやってきて女性が三人に呼びかけた。

 

「あれ?怪しい人って聞いたから警戒してたけど…そうでもなさそう?おーい?」

「…はっ、あ、ああ。すまない、少し呆けていた」

「どうかしたの?」

「いえ大丈夫です、それより貴方は…」

「あたし?あたしはソフィー・ノイエンミュラー、ソフィーで良いよ」

「私は立花響です、こっちの赤い子が雪音クリスちゃんで青い方が風鳴翼さんです」

「よろしくね三人とも…で」

 

自己紹介が済むとソフィーが話を切り替えた。

 

「リディーちゃんとスーちゃんが怪しい人って言って連れて来た割には…服装以外は特に怪しくなさそう?」

「ではまずその服装から話をするとしよう。少し驚くかもしれないが…二人とも、解除するぞ」

「はい」

「おう」

 

三人がシンフォギアを解除すると目の前の三人は驚いた表情をして固まっていた。

 

「さっきのあたしらみたいだなこれじゃ」

「ソフィーさーん?リディーちゃんスーちゃん?」

「あ、ああ。ごめんね、急に服装が変わったからびっくりしちゃって…」

「まあそうなるだろうな、服装と言われた手前下手に戻すと混乱しかねないと思ったからな。まずはこれから説明させてほしい」

 

翼はシンフォギアシステムの事、聖遺物の事、それが選ばれたものの歌によって励起する事を伝えた。ソフィーはそれを興味深げに聞いていて話終わると目をキラキラさせて話し始めた。

 

「歌いながら戦うシンフォギアかぁ…なるほど…」

「あとは一番重要な私達の事だが」

「そう言えばそうだね、翼ちゃん達はどこから?」

「実は…異世界と言ったら信じてもらえるだろうか」

 

それを聞いたソフィーと姉妹は目を丸くするがすぐに納得した。

 

「よく考えたらそれもそうか…シンフォギアなんて聞いた事ないし、何より異世界って言われてもあんまり抵抗無いしね」

「そうなのか?」

「うん、色々旅して来たからね!」

「そうか、話が早くて助かる。あとは目的なんだが…ソフィー、つかぬ事を聞くが」

「? うん」

「この辺りで人が灰になったと言う話を聞かないだろうか」

 

それを聞くとソフィーは怖気付いた表情になって聞き返す。

 

「え…?聞いた事ないけど…何それお化け?」

「お化け!?何!?翼さん達ゴーストハンター!?」

「いや違うのだが…それと言うのもだな」

 

翼は再びギャラルホルンの事と人を炭化させるノイズ、そしてその変異体であるカルマノイズの事について話した。

 

「ノイズ…人を炭化かあ…リディーちゃんとスーちゃんは聞いたことある?」

「そんな恐ろしい話聞いたことないよ!」

「私も聞いたことありません…」

「ふむ…ではノイズ被害はこの街では出てないと言うことか。では別のところか、この辺りに他の街はあるか?」

「んー…小さな街ならあるだろうけどここほどの街はないかなあ」

 

それを聞くと装者三人は不審に思い考え込んだ。いくら特殊な事態と言えどギャラルホルンがカルマノイズ出現地からそう遠い場所に自分たちを出すとは思えなかったからだ。考え込んでいるとリディーが口を開いた。

 

「もしかして最近のレンプライア騒ぎと関係あるのかなあ?」

「レンプライア?」

「はい」

 

響の疑問の声を受けてリディーが話し始めた。

 

「レンプライアって言って絵の中の世界にいる怪物なんですけど」

「絵の中?」

「はい、信じられないかもしれないですけどそうなんです」

「大丈夫だよ、絵の中もある意味異世界だし!」

「あ、そっか。で、そう言うことなんです。それが最近多く出現してて」

「ノイズと何か関係あるかもって事?」

「かもしれません、けど…」

「けど?」

「絵の中は危険が多くて…実力的に信頼できる人じゃないと入れないんです」

 

それを聞きクリスが会話に横から割って入る。

 

「それだったら大丈夫だろ、自慢じゃねえが腕には自信あるぜ」

「じゃあ試験させて下さい」

「試験だぁ?」

「はい、これから私達と依頼をこなしに行ってもらいます。そこでクリスさん達の実力を測らせて下さい」

「ハッ、上等だ。やってやろうじゃねえか!」

 

他の二人も同意して話が決まる。依頼をこなしに行こうとテントを出ようとするが翼がソフィーを呼び止めた。

 

「ソフィー、一ついいか」

「ん?どうかした?」

「このテントのことなんだが手品か何かか?」

「ああこれ?錬金術で作ったんだよ」

 

その言葉を聞いた途端装者達の表情が一変する。

 

「ソフィーは…錬金術士なのか?」

「うん、リディーちゃんとスーちゃんもそうだけど…まさかそっちの世界にも錬金術があるの?」

「そうなのだが…一つだけ聞きたい。パヴァリア光明結社という組織を知っているだろうか」

「パヴァリア?んー…聞いたことないなあリディーちゃん達も知らないよね?」

 

ソフィーが聞くと姉妹は二人とも知らないと答えた、それを見て翼は胸を撫で下ろした。

 

「ああ、それならば良いんだ。危うく嵌められたかと思ってしまった」

「嵌める?どうして?」

「パヴァリア光明結社…ひいては錬金術士はこちらの世界では世界に仇なす敵だった。錬金術を使い世界を掌握しようとしたのだ」

 

それを聞いたソフィーは少し悲しげな顔をした。

 

「そっか…錬金術を悪いことに…悲しいな、錬金術はみんなを笑顔にする物なのに」

「…そうか、すまない。辛い話をしてしまった」

「ううん、大丈夫。さ、行こう」

「ああ、行くぞ。立花、雪音」

 

そう言って翼達は依頼のためにテントを出た。



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初めての依頼

「で?どこ向かってんだこれ?街中で出来る依頼なのか?」

「ううん、こなすって言ってもこなす依頼がまず無いからね。王城に受けに行かなきゃ」

「何だ、もうあるのかと思っちまったよ…え?王城?」

「うん、あの豪華な建物。試験ってなれば普通の依頼より王城からの依頼の方が良いかなって」

 

スールが指差したのは町の外からも見えた白亜の城、その偉容にクリスは少しだけ身じろぎした。

 

「そうか…なんか緊張すんな」

「大丈夫だって!あ、ついたよ」

「心の準備くらいさせてくれよッ!」

「雪音、漫才をやってる場合ではないぞ」

「漫才じゃねえッ!」

「あははっ、クリスちゃん面白い!」

「うっせぇバカ!」

 

そんなやり取りをしつつ六人は王城に入る。入ったところには広いエントランスがあり右に何個か椅子と机があり正面には受付があった。リディー達は受付に向かい人を呼ぶ、すると奥から金髪碧眼の女性が出てきた。

 

「あら双子ちゃん達、どうかしたの?」

 

スールと話していたクリスは女性の声を聞いて咄嗟に声が出た。

 

「マリア?」

「え?」

「あ、いや。何でもねえ…声が知ってる奴に似てたもんだからよ、すまん」

「あらそうなの?良いのよ別に。で?どうかしたのかしら?」

「はい、この人達なんですけど…」

 

リディーは翼達の事と目的、そしてレンプライアの事に関して関係があるかもしれないから絵の世界に入れるために試験をしたいということを話した。

 

「なるほど、絵の世界にね。ちょうどいい依頼が今来てるの」

「ホントですか!」

 

女性の返答に響は表情が明るくなる。

 

「ええ、新緑のオーダリアの魔物の活動が激しくなってるようなの。このままじゃ被害が出そうだから様子を見てきて必要なら討伐をしてもらわ」

「新緑のオーダリア?」

「ええ、ここからそう遠くない場所よ、受けてくれるかしら」

「もちろんですッ!」

「おいおい一人で突っ走るなっての」

 

クリスが響を諌め正式に依頼を受けた後六人はアダレットを出て新緑のオーダリアに向かう途中でソフィーが装者に尋ねた。

 

「ねえ、そのカルマノイズってほっといたら危ない感じ?」

「ああ、何せ消えない上に放置しておけばこちらの世界にもカルマノイズが出る危険性がある。迅速に倒さねばならない」

「そういうこったな、さっさと行くぜ」

「分かった!頑張ろ…って言ってもこの依頼はあたし達手出ししちゃいけないんだっけ?」

「そうですよ、ソフィーさんが手伝うとすぐ終わっちゃいますから」

「もー、買いかぶりすぎだよー」

 

そう言ってリディーとソフィーが笑う、翼は少し眉をひそめソフィーに聞いた。

 

「ソフィー、つかぬ事を聞くが…ソフィーは手練れの錬金術師なのか?」

「え?いやいや、そんな事ないよ。あたしなんてまだまだ」

「そんな事ないですよ!ソフィーさんは凄い人です!」

「ふむ…」

 

その光景に翼はなんとなく察した風に続けた。

 

「なるほど、研鑽の途中と言ったところか?」

「うん、あたしの夢は錬金術でみんなを笑顔にする事だからね」

「そうか…良い夢だ」

 

優しく笑っている翼にスールがツンツンと翼をつついて声をかける。

 

「翼さんは夢あるの?」

「ああ、私も世界に羽ばたく歌手として、そして人を友を護る防人として更に研鑽を積まねばならない」

「え?翼さん歌手だったの?」

「そう言えば言ってなかったな」

「凄いね、フィリスさんが聞いたら喜びそう!」

「フィリス…?」

「うん、説明したいところだけどもうすぐ着くからまた後でね」

「ああ、楽しみにしておこう」

 

六人は爽やかな風が包む平原に到着する、そこには動物達が朗らかに過ごす場所だが少し様子が違った。

 

「…雰囲気が変です」

「何かピリピリしてるね、ヤな感じ」

「翼ちゃん達、気を引き締めてね」

「承知、元よりそのつもりだ」

 

警戒して歩き出す六人、錬金術師三人の予感は的中したのか大きな咆哮がすぐ近くで聞こえた。

 

「皆さん、あっちです!」

「うん!」

 

六人が向かうと上半身が鷲、下半身がライオン、響達の世界では空想の存在とされるグリフォンが暴れまわっていた。

 

「ええっ!?グリフォン!?」

「響さん、驚いてる場合じゃないです!」

「う、うん!行くよッ!」

 

響の聖詠が辺りに響く、シンフォギアを纏った響はグリフォンに飛びかかり顔に拳を叩きつける、だがグリフォンは物ともせず羽根をはためかせ風で響を吹き飛ばした。

 

「うわっ!?」

 

煽られた先で同じくシンフォギアを纏った翼に受け止められ態勢を立て直す。

 

「ったくこのバカ、先走るんじゃねえっての」

「その通りだ立花、一人でこなしてしまっては試験として意味があるまい」

「分かりました、じゃあ三人で行きますよッ!」

 

異世界での戦いの幕が切って落とされた。

 



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依頼完了

「さーて、異世界最初…2度目か?まあ良い、派手にぶちかますッ!」

「応ッ!立花、まずは斬り込むぞ!」

「はいッ!」

 

響と翼がグリフォンに突っ込み攻撃を加える。だがグリフォンは空に飛び立ち近接では届かない距離まで登ってしまった。

 

「逃さん!」

 

翼がアームドギアを変形させ青い斬撃を飛ばすがそれすらも悠々と身を翻しかわされてしまう。

 

「だったらハチの巣にしてやるッ!土砂降りなァ!」

 

クリスがガトリングを展開してグリフォンに向けて乱射する、グリフォンは大きく旋回しながらかわしつつクリスを睨んだのち突進を仕掛けた。

 

「うおっ…と」

 

クリスはグリフォンの本体こそ避けたがその巨体から繰り出される突風に少し怯む。そして立て直すと既にグリフォンが2回目の突進を始めていた。

 

「やべ…ッ」

「危ないッ!」

 

響が前に躍り出てグリフォンの顔面を殴りつける。一瞬押し切られそうになるが脚部のジャッキを地面に固定しそのまま拳を振り抜く。飛び退ったグリフォンは更に高空へと登っていった。

 

「やらせっかよ!乗れ!」

 

クリスは大型のミサイルを二基射出する、それに響と翼が飛び乗りグリフォンへの距離を近づける。

 

「一撃で決めるッ!」

 

ミサイルはグリフォンを追い越しグリフォンの上を取る。そして二人が飛び降り無防備なグリフォンの背中に拳と剣を突き立て地面に叩きつけた。

 

「…ふぅ」

「もう動かないな、討伐完了だ」

「今日の晩メシはコイツか?」

「それいいね!美味しそう!」

「冗談だっての」

「だが戦勝の祝いには良いかもしれんな」

 

3人が話しているとソフィー達が興奮しながら響達に話しかけて来た。

 

「凄いね3人とも!初めてなのにグリフォンやっつけちゃうなんて!」

「あれがシンフォギアって言うんですか!」

「ねぇねぇクリスさんのミサイルどうなってるのか見せて見せて!」

「あわわわ3人とも落ち着いて!」

 

なんとかソフィー達を窘め話を再開させる。

 

「…で、これで任務完了という訳だな?」

 

翼がそう言うとリディーが微笑んで返答した。

 

「はい、お疲れ様でした。じゃあ帰りましょうか」

「んーつっかれたぁ、お腹減ったなあ」

「その前に報告だろ?食い意地張ってんなあ」

「そうだったぁ…」

 

六人は王城に行き報告をする。

 

「…と言うことで暴れていたグリフォンを討伐、他に異状はなかったため帰還しました」

「お疲れ様三人とも、以降はこちらで様子を見るわ。何はともあれ、これなら絵の世界に行っても申し分なさそうね」

「ええ、ありがとうございます…と、そう言えばまだ名前を聞いていませんでした」

「あら、そう言えばそうね。私ったら…私はミレイユ・フェリエ・アダレット。よろしくね」

 

ミレイユの名乗りに翼は疑問の表情を浮かべミレイユに質問した。

 

「ミレイユ女史、今「アダレット」と名乗りましたが…もしかして」

「ええ、そのもしかして。私ここの王女なの。双子ちゃん達言ってなかったの?」

「そう言えば忘れてました…」

「あらあら、まあ良いけれど。まあそう言う訳だから、よろしくね」

「あ、ああ。よろしくお願いします」

 

先ほどとは打って変わって堅くなった翼をミレイユは笑って窘めた。

 

「良いのよそんなにかしこまらないで、ミレイユさんって呼んでくれれば」

「分かりました、ではそのように」

「ええ、ともかくお疲れ様。もう帰って良いわよ」

「はい、では」

 

六人はミレイユに別れを告げて王城を出る。道中でスールが三人に切り出した。

 

「ねぇ三人とも、これからどうするの?泊まってくの?」

「うーん、向こうの世界での報告もあるし一旦帰ろうかな」

「そうだな、心配させてもあまり良くない。スール、すまないが泊まりはまた今度だ」

「ちぇー、せっかく色々聞かせてもらおうとしたのに」

「次会ったら腐る程聞かせてやるよ」

「ホント!?楽しみにしてるね!」

「ではな、また会おう三人とも…ああそうだ」

 

別れ際、翼が思い出したように振り返ると話し始めた。

 

「実は私たちの仲間がもう三人いる、次来るのはその三人かもしれない…と言うか十中八九そうなるだろう」

「他の人?」

「ああ、三人とも手練れだ。どうか試験は免除してやってくれないか」

「じゃあ話はつけておきますね」

「感謝する、名前を伝えておく」

 

翼はマリア達の名前と外見を伝える、そして「これはどうしても信じられなければ」と付け加えて秘密の判別方法を伝えておいた。

 

「…と、そういう訳だ」

「はい、分かりました。じゃあきっとまた会いましょうね」

「うん!じゃあねみんな!」

「イヤでもまたそのツラ拝むことになりそうだけどな」

 

三人はゲートを通ってS.O.N.Gに帰還し、弦十郎に向こうの世界の事を報告した。それを聞いた弦十郎は唸った。

 

「アダレット…錬金術の平和利用…なるほど、特に敵性となる人物は見られなかったのだな?」

「はい、課せられた試験もこなしました。これでカルマノイズの討伐に臨めるかと」

「分かった、引き続き任務を続行してくれ」

「承知しました…そうだ、マリア」

 

翼は一度話を切ってマリアに話を振る。

 

「何かしら」

「向こうに話を通しておいた、マリア達も怪しまれずに向こうに行けるぞ。安全も確認されたし行ってみるのはどうだ?」

「そうね…」

 

マリアが考えていると切歌と調が割って入った。

 

「アタシ行ってみたいデス!」

「私も…興味ある」

「切歌、調、遠足じゃないのよ。これはあくまで任務なんだから…でも、興味あるのは否めないわね。次は私達が行くわ」

「そうか、ではそうしよう」

「やったデース!…ん?」

 

切歌がふと見ると少し残念そうな顔のクリスが居た。

 

「クリス先輩、浮かない顔デスね。どうしたデス?」

「べ、別になんでもねえよ」

「そんな事ないデス、なんか残念そうな顔してるデスよ」

 

それを聞いた響がいたずらっぽく笑いながら言った。

 

「向こうの子と色々話す約束してるからそれじゃないかなぁ?ね?クリスちゃん?」

「バッ…テメッ!余計なことを!」

「あはは、図星なんだ?」

「先輩可愛いデース」

「っせぇ!」

 

クリスは赤くなりながら否定する、それを見かねたマリアはクリスを宥めてから話し始めた。

 

「分かったわよ。クリス、今回は代わってあげるから次行くときは譲りなさい」

「だからそうじゃ…まあ…ありがとよ」

「どういたしまして」

「楽しませてあげてきなさい」

「だからちげーってのッ!」

 

S.O.N.Gは楽しい喧騒に包まれて時間が過ぎていった。



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ざわめきの森
いざ、絵の世界へ


ゲートを通って再び最初に降り立った森にやってきたクリス、切歌、調。クリスが辺りを見回した後安堵したように溜息をついた。

 

「どうしたデスか、先輩?」

「いや、もしかしたら別のところに放り出されるんじゃねえかって心配だったんだ。特殊って言ってたしな」

「森の中ですけど…人の気配もないし」

「街からちょっと離れてんだ、つっても手入れはされてるしそこまで危険な森じゃないらしい。ほら、行くぞお前ら」

「はいデス」

「分かりました」

 

そう言って3人が歩き出そうとすると前から声が聞こえてきた。

 

「ホント!?歌いながら戦うの!?凄い凄い!私も早く会いたい!」

 

大きく明るい少女の声が聞こえてくる。その話している内容はおよそ自分たちの事だろうと思ったクリス達は一度足を止めた。

 

「先輩、この声の人知ってるデス?」

 

切歌が聞くとクリスが答えた。

 

「いや、こんなバカみたいに煩い声は知らねえな。向こうにもまだお友達がいたってワケか?」

「どうしますか?」

「あたしが会ったやつらの友達なら悪いやつじゃねえだろ、このままご対面と行こうぜ」

 

3人がそのまま歩いて行くとリディーとスール、そして濃いベージュの髪で弓を持った少女が現れた。

 

「よぉお前ら、コッチの都合でまたあたしが出張って来た」

「あ、クリスさん。そっちの二人は?」

「前言ってた仲間だよ」

 

クリスがそういうと切歌と調が自己紹介を始めた。

 

「暁切歌デス!よろしくお願いするデス!」

「月読調、よろしくね」

「私はリディー・マーレンです。よろしくお願いしますね」

「アタシはリディーの妹のスール ・マーレン。よろしくね」

 

四人が自己紹介を済ませるとクリスがリディーに聞いた。

 

「なあ、お前らが連れてるのって…」

「あ、今紹介しますね。フィリス・ミストルートさん。私達の友達です」

 

フィリスと紹介された少女はハキハキと自己紹介を始めた。

 

「フィリス・ミストルート!旅の錬金術師でソフィー先生の弟子だよ!好きな食べ物はお肉!よろしくね!」

「あぁ、こいつら二人は今言った通り。あたしは雪音クリスだ、よろしくな」

「うん!ところで…」

「何だよ」

 

フィリスがクリスの肩を掴んで興奮気味に訪ねた。

 

「ね、シンフォギアって今着てるのがそうなの!?歌いながら戦うってホント!?ミサイルとかわーって出るの!?見せて!」

「だぁぁ揺らすな揺らすな!全部そうだよ!戦いっぷりはその時になったら見せてやるから待ってろ!おい双子姉妹!こいついつもこうなのか!」

「いつもはもうちょっと落ち着いてるんですけど…昨日帰って来てからクリスさんたちの事話したらずっとこんな調子で」

「また面倒なのに捕まっちまったな…つーかいつまで引っ付いてんだお前は!とっとと街に行くぞ!」

 

何とかフィリスを落ち着け6人はアダレットに向かった。到着すると切歌と調がワクワクした様子で話し出した。

 

「調!お城デスよお城!やっぱりここ異世界デス!」

「うん、お伽話みたい」

「あんまりキョロキョロすんなよ、迷子になっちまう。で?今日はどうすんだよ、いよいよ絵の中に突入か?」

「ちょっとだけテントで作戦会議してから行きましょう、準備とかありますし」

「そうか、じゃあ行こうぜ」

 

テントに到着しマーレン姉妹とフィリスがテントに入る。クリスもそれに続いて入ろうとするが切歌と調が躊躇してるようで振り向いた。

 

「どうしたんだよ」

「ここが噂の四次元テント…」

「そんな尻込みするほどのもんでもねえよ」

「大丈夫デス?なんか入ったら体がゴチャゴチャーってなったり…」

「そんな恐ろしい事あってたまるかッ!さっさと付いて来いって」

 

3人がテントに入ると姉妹とフィリス 、ソフィーの他に銀の長髪の落ち着いた印象を受ける少女が居た。銀髪の少女はクリス達を見ると微笑んで話し始めた。

 

「おや、貴方達が…話には聞いています。私はプラフタ、ソフィーの師匠です。よろしくお願いします」

「あ、ああ。よろしく」

 

クリスは受け答えをした後少し困ったような顔をした。

 

(ちょっとあの子の声に似てたな。ビックリしちまった)

 

そうしているとフィリスが話を切り出した。

 

「それでそれで?今日は絵の中に行くんだよね?どの絵に行くの?」

「どのって…絵って一つじゃないんですか?」

 

質問した調にリディーが答えた。

 

「はい、幾つか拾ってきた絵とか集まった絵とかあってそれぞれ違う世界が広がってるんです」

「そうなんだ…」

「それで、今回はざわめきの森に行こうかなって」

 

リディーがそう言うとソフィーがテントの奥に、スールがテントの入り口に行こうとしたがそれぞれプラフタとリディーが捕まえた。

 

「ソフィー、まだ話の途中ですよ」

「ちょっとお腹痛くなっちゃってー…あ、あはは…と言うわけで今回の件はパス…」

「スーちゃん、どこ行くの?」

「いやー急に頭痛くなっちゃってー…今回はちょっと無理かなーって」

 

あからさまな二人をプラフタとリディーは一蹴した。

 

「そんなこと言って逃げるつもりでしょう、

バレバレですからね」

「やだやだやーだー!あそこだけは許してっばぁ!」

「ダメだよスーちゃん。スーちゃんにも協力してもらわないと」

「うわぁぁぁぁぁぁん!リディーの鬼!悪魔!」

 

怖がってる二人を横目に切歌がフィリスに訪ねた。

 

「なんデスかそのざわめきの森って、そんなに危ないところデスか?」

「危ないって言うかあの二人は単純にあそこが苦手なだけって言うか…」

「どういうことデス?」

「出るんだよね…ユーレーイ…」

 

フィリスは手を前に垂らし驚かすような口調で「うらめしや〜」と言う。それを聞いてソフィーとスールは更に騒ぎ始めるが装者の3人にも少なからず波紋が広がっていた。

 

「幽霊…お化けデスよ調…ちょっと怖いデス」

「私も怖いけど切ちゃんと一緒なら…」

「はっ、何怖がってやがる。全部ハチの巣にしちまえば同じこったろ」

(わざわざ私達の部屋に来てまで…)

(心霊番組見てた人のセリフとは思えないデス…)

 

なんとか騒ぎを収め会議を再開し、リディーが話し始める。

 

「それで、奥まで行って異常が無いようならそれで良し。何か異常があったならそれを上手く取り除いて帰ってくる。それで行こうと思います」

「流れはいいけどよ、メンバーはどうすんだ?二人戦力外通告食らってんじゃねえか」

「大丈夫です、スーちゃんならいけます」

「むーりー!」

「ソフィーなら大丈夫ですよ」

「やーだー!」

 

再びソフィーとスールが騒ぎ始めた。

 

「ダメじゃねえか…別のメンバー連れて来た方が良いんじゃねえか?」

「よし分かった!プラフタとじゃんけんして負けたら諦める!」

「何が分かったんですか…」

「あたしも!あたしもリディーとじゃんけんして負けたら行く!」

「もー…分かったから、じゃあ行くよ」

「じゃんけん!」

「ぽん!」

 

ここはざわめきの森、鬱蒼と樹木が茂りどこからか噂話をするようなひそひそ声が聞こえ視線を感じる幽霊たちの社交場。そしてそこに響く声は…

 

「負けたぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「あたしも負けたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「先生と探索だー!やったー!」

「揃いも揃ってうっせぇ!いい加減腹くくれっての!」

「先輩怖くないデス?」

「ここまであからさまだと逆に怖くない、いや普通のお化けも怖かねえがよ」

「切ちゃん、離れないでね」

「もちろんデース、どこでも調と一緒デスよ」

「お前らもそう言う事は家でやってくれ…ったく、大丈夫なのかこれで…一応カルマノイズ倒しに来てるってのに」

「大丈夫ですよ、スーちゃんもソフィーさんもやる時はバッチリやる人です」

 

クリスがため息を吐いて呆れるがそれを聞いて少しぎこちなく笑った。

 

「ま、そう言うなら信じるが。さ、行くか」

「はい、行きましょう」

 

そう言ってクリスとリディーは他のメンバーを連れて歩き始めた。カルマノイズ狩りが本格的に始まりクリスは気を引き締めた。



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黒い影

「うっし、騒いでるのも落ち着いたみたいだし探索始めっか…つってもあたしらが先行しても仕方ねえか」

「デース、案内して欲しいデス」

「あ、はい。こっちです」

 

リディーが先導して歩き出そうとするがスールがリディーの腕をがっちり掴んだまま動かないのでリディーがむっとしながら言った。

 

「こらスーちゃん、そんなにくっついたら歩けないでしょ」

「そんな前に出たらお化けに襲われるよぉ…行かないでリディー…」

「ワガママ言わないの」

「やぁぁぁだぁぁぁぁぁぁ!!」

 

姉妹喧嘩の光景を見たクリスは呆れたようにため息をつきながらフィリスの方を見るがそちらもソフィーが捕まえていて動ける状況ではなかった。

 

「あはは…ごめんねクリスちゃん」

「あー…んじゃしょうがねぇ、後ろから指示出してくれるか。それなら怖がりも納得するだろ」

 

スールとソフィーも納得しリディーが後ろから指示を出しながら進んでいくと先の方に看板が見えた。

 

「看板…?ご丁寧に案内板か?」

 

クリスが近づこうとすると後ろからスールの叫び声が聞こえた。

 

「クリスさん!それ読んじゃダメ!」

「あん?なんだよ藪から棒に」

「それ読むと呪われるの!本当に!」

「呪われる…か。どう思うよお前ら」

 

クリスが切歌と調に話しかけると二人は少し考えた後答えた。

 

「どう思う…って聞かれてもデスね」

「正直ピンとこない…」

「まあそれもそうか…おい、呪いって具体的にどんななんだよ」

「アタシの時はこの絵の奥にこないと大変なことが起きるって言う呪いだった!」

 

さも大ごとのようにに言うスールだがクリスはそれを聞いてなお看板の方に向かって行った。

 

「何だよバカバカしい。ほらお前らついてこい、こっからじゃ見えねえから近くまで行くぞ」

「中々剛毅ですね先輩…」

「デース…」

 

三人は近づいて看板を見る。その看板は真っ白で裏にも何も書かれていなかったのでクリスは呆れたようにため息をついた。

 

「おいおい、何も書いてねえじゃねえか」

「もしかしてお化けがいない…?」

「レ…レンプラントが暴れてるとかデスかね?」

「レンプライアだよ切ちゃん…」

「おいこりゃどう言うことだよ」

 

クリスは後ろの3人に尋ねるとフィリスから返答が返ってきた。

 

「うーん…切歌ちゃんの言う通り本当にレンプライアが暴れててお化けが活動できてないのか…それともお化けたちが別の驚かし方を用意してるとか…?」

「別の驚かし方!?」

「そんなバリエーションいらないよぉ…」

「お前らなぁ…こんな看板一つでギャーギャー言ってんじゃねえよ」

 

クリスは3人の方を向いたまま看板に手を付く。

 

ベチャ、と音がした。

 

「ん…?」

「どうしたデス先輩?」

「いやなんか変な感触が…」

 

クリスは自分の手を見ると戦慄した。

 

「ッ…!?」

 

自身の手が血の色で赤く染まっていた。切歌と調もクリスの手を見ると短い悲鳴をあげた。

 

「これ…もしかして…」

「デデデデース…そんな訳…」

「いいか…?そーっと看板の方見るぞ…」

 

3人はゆっくりと看板の方に向き直る。そこには大きく「タスケテ」と書かれていた、3人は悲鳴を上げて慌てながらリディーたちの方に戻って行った。

 

「ほら!言わんこっちゃない!」

「スールの言ったいたずらと格が違いすぎるデース!普通にホラーデスよ!」

「何だよアレ!?」

「アタシに聞かれても分かんないよ!」

「とりあえずみんな落ち着いてー!」

 

ソフィーがフィリスの後ろからみんなを宥めて何とか探索を再開した。

 

「初っ端から驚かされちまったが気ぃ取り直して行くぞ」

「ねぇクリスちゃん、やっぱり帰らない?」

「ここまで驚かされると黒幕ひっ捕まえねぇと気がすまねえよ。それとお前もちっとは前に出たらどうだ?一応年長者だろ?」

「うっ…それを言われると弱い…」

「私も先生のかっこいいところ見てみたいなー…って」

 

フィリスのおねだりにソフィーは少したじろいだ後観念したようにため息をついた。

 

「フィリスちゃんの頼みなら仕方ない…覚悟決めるよ!」

 

そう言ってソフィーは決意の表情でフィリスの前に出る。そしてフィリスの方を振り向いて言った。

 

「もしもの時はプラフタやみんなによろしくね!」

「先生!?死ぬ覚悟まで決めないでください!」

「平常心が無くなってる…!」

 

ソフィーが発起したためフィリスも装者達の近くに付いて歩き始めた。またしばらく歩いているとフィリスが遠くの方を凝視し始めた。

 

「フィリスさん、何か見つけたんですか?」

「いや…何かこっちに向かってきてる気がするんだけど…あ」

「あ?何だよ何かあったのか?」

「幽霊がいっぱいこっち来てる…」

「デデデデース!?どうするデスか!?」

「どうするったってやるしかねぇだろうがよ!」

「でも幽霊だと物理攻撃効かないんじゃ…」

「あ…」

 

クリスはギアを構えるが調の分析に急に及び腰になってしまった。

 

「…どうすんだよ」

「気づいてなかったんですか…」

「呑気に喋ってる場合じゃないデス!もうそこまで来てるデスよ!」

 

切歌が指差した方には幽霊の大群がおおよそ50mほどまで迫っていた。

 

「こう言う場合はどうするんだよ双子姉妹!」

「だだだ大丈夫!逃げるが勝ちだよ!腰抜けたけど!」

「何も大丈夫じゃねーじゃねーかッ!ったく世話の焼けるッ!」

 

クリスはリディーとスールを担ぎ上げ逃げようとするが既に幽霊が目と鼻の先に来てしまい既に逃げるのは不可能だった…が

 

「あ…?」

 

幽霊達はクリス達など知らぬ存ぜぬと言った風に脇を通り抜けて行った。クリスはしばらくその光景をぽかんと見ていたが背中の衝撃でハッとした。

 

「こらー!いつまで抱えてるつもりなの!?パンツ見えちゃう!」

「あ、ああすまねえ。早とちりして悪かった」

「助けようとしてくれたんですし気にしなくて大丈夫ですよ」

「ああ…しかし何だったんだアレ…何か分かるか?」

「いえ…いつもは普通に戦っていたので脇目も振らずに何処かに行くなんて事無いんですけど」

「キナくせぇな…」

「ねぇねぇ、もしかして幽霊達も何か怖がってたとか?」

「はぁ?何で怖がらせる側が怖がってんだよ」

 

そのツッコミにソフィーが考えながら答えた。

 

「もしかしたら奥でレンプライアかカルマノイズが暴れてるんじゃないかな…?」

「確かにそれならホラー看板も合点が行くデス」

「幽霊が助けを求めてる…って事?」

「そうなってくるね、やっぱり奥に進んだ方がいいのかも」

「流石手練れってとこか、見直したぜ。腰が抜けてなければだけどなッ!」

 

ソフィーはさっきの幽霊の大群で腰が抜けてその場にへたり込んでいた。

 

「動けない…」

「先生立てますか?」

「うん…よっ…と。ふぅ、びっくりした」

「とにかくグダグダしてる暇はなさそうだ。一気に奥まで行くぞ」

「そうですね、そうしましょう」

 

そう言って一行は最奥に急ぎ墓石が目につくようになる。そのまま進んでいくと大きな黒い影が見えた。

 

「なんか居るデス!」

「レンプライアかッ!?」

 

その影がクリス達の方を向くと先ほどの幽霊が巨大化して漆黒に染まっていた。

 

「幽霊のレンプライア!?」

「そんなの聞いた事ないよ!?」

 

幽霊はこちらに近づいてきて腕を振り上げた。

 

「避けろッ!」

 

クリスの声で全員は振り下ろされた腕を飛びすさって避けた。

 

「どうするデス!?」

「とにかくまずは1発!」

 

調が小さな電鋸を雨あられと飛ばし幽霊に当てるが全く意に介してない風に行動を緩めなかった。

 

「効いてない…!?」

「これならどうだぁー!」

 

スールが爆弾を投げつけると一瞬だが怯んだ様子を見せた。

 

「やった!効いてる!」

 

だが幽霊は大きく体を震わせると自身の周りに小さな黒い幽霊を大量に生み出した。

 

「うひゃあ!?」

「数が多すぎる…!」

「皆、一度逃げよう!」

 

ソフィーがそう言うと全員幽霊を牽制しつつなんとか絵の世界から脱出出来た。

 

「はぁ…はぁ…」

「何とか逃げて来られた…」

「とりあえず情報整理しようか、あの幽霊ちょっとしか戦わなかったけどこれだけの人数なら何か分かるかも」

「だな、ほら。ダラけるなら家帰ってからにしろ」

 

クリス達は画廊を出てフィリスのテントに向かっていった。

 



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対策会議

久しぶりです、平成最後の投稿となります。今回はあんまり動きはなく情報整理となります。


フィリスのアトリエにて、一行は机を囲み作戦会議をしていた。

 

「ねぇクリスちゃん、あの幽霊で一つ…思い間違いじゃなければ聞きたいんだけどさ」

「何だよ」

 

ソフィーは少し嫌悪感を混じらせた顔でクリスに尋ねた。

 

「あの幽霊の相手してる時…なんか胸がざわざわした気がするんだ。冷静でいられないって言うか」

「あー…やっぱりか。お前らもか?」

 

クリスはフィリス達にも聞くと全員同様に頷いた。

 

「そうなるとカルマノイズ絡みにもなってくるな…ややこしい事してくれるぜ」

「どう言う事?」

「カルマノイズはな、近くにいる人間の破壊衝動を無差別に増幅させるんだよ。ギア纏ってれば平気だがな。あと生半可な攻撃じゃすぐに再生されちまうんだ」

「でもクリス先輩、カルマノイズのその能力は一般人なら誰彼構わず同士討ちを始めるほどの破壊衝動に襲われるはずです」

「あー…そうだな、じゃあお前らが平気だったのは何でだ?錬金術でなんかしたか?」

「ううん、何もしてないよ。確かにザワザワしたけどそんな誰彼構わず攻撃したいなんて事はないし…」

 

ソフィーの言葉を聞いて装者側は知識及ばずといった風に唸っていたがその内にクリスが口を開いた。

 

「すまねぇ、もう少し情報をくれ。そのレンプライアってのも影響されてるかもしれねぇからよ」

「そっちはリディーちゃん達の方が詳しいかな?」

「あ、はい…ってスーちゃん!」

 

リディーはいつのまにか寝ていたスールを揺り起すとスールは椅子をガタンと鳴らして飛び起きた。

 

「ふやぁッ!?何何!?」

「もう!また寝てたでしょ!」

「だって話が難しかったんだもん!」

「もう、他人事じゃないんだからちゃんとする!」

「はーい…」

「それで、レンプライア…黒の絵の具って言ったりするんですけど…は、絵の世界に生まれた歪みなんです。これが広がると絵がどんどん真っ黒になって全部真っ黒になっちゃうとその世界がなくなってしまうんです」

 

それを聞いていたスールはリディーに話しかけた。

 

「ねぇリディー、よく考えたらレンプライアの事なんだしネージュちゃんに聞いた方が早いんじゃない?」

「あ、それもそっか。じゃあそうしようか」

「ネージュ?誰デスか?」

「絵の具の世界って特殊な絵の具で出来てるんだけどね、その絵の具を作った人だよ。あと自分でも絵の世界作ってるよ。見たでしょ、氷の宮殿みたいな絵。あの中に居るの」

 

それを聞いたクリスは少し考え込んだ。

 

「ちょいと情報量が多くなってきたな。こりゃ一度戻った方がよさそうだな」

「あのカルマノイズもどきもエルフナインなら何か分かるかもしれないデスよ」

「だな、一度帰るか。すまねえな、ロクな事できねえで」

「いえ、こちらも出来ることはしておきますね。明日には分かると思います

「おう、ありがとよ。じゃ、また明日にな」

「バイバイデス!」

「じゃあね、皆」

 

S.O.N.G.に帰った3人は司令とエルフナインにレンプライアとは何かと言うことと特殊なレンプライアの事を伝えた。

 

「再生力が高く周りに仲間まで呼び出すレンプライア…まるでカルマノイズみたいな特徴だな」

「どうだエルフナイン、何か分かるか?」

「以前並行世界でアダムスフィアを取り込んで更なる凶暴化を果たしたカルマノイズと同質のものではないかと思います、カルマノイズがレンプライアを取り込みレンプライアのような特徴を得て絵の中で活動している…もしくは逆もあり得ます」

「逆?レンプライアがカルマノイズを取り込んだって事?」

「はい、聞いたところレンプライアには侵食能力があるようなのでそれを使い絵の中に発生したカルマノイズを取り込んだのではないかと言う可能性もあります」

「なるほど…どちらにしても脅威であることには変わりない。ところでクリス君、そのレンプライアに炭素分解能力はあったのか?」

 

司令の問いかけにクリスは首を横に振った。

 

「いや、分かんねえ。あたしらが見たのは一体だけだしそいつを警戒して向こうの連中には触らせないように立ち回ってたからな」

「無いなら無いで越したことはありませんが…」

「そいつは向こうでも調べてるみたいだぜ、明日分かるって話だ」

「分かった、では明日まで待機して出直しとしよう。メンバーは…」

「今回出なかった3人で良いんじゃねえか?マリアもいい加減行かねえとな。向こうも悪いもんじゃねえぜ?」

 

クリスがそう言うとマリアが興味ありげに笑った。

 

「そうなの?じゃあ楽しみにしていようかしら」

「マリア、遠足ではないと言ったのはお前だぞ」

「分かってるわよ」

「とにかく明日だな。立花、マリア、今日は明日に備えて早く寝るとしよう」

「はーい」

「ええ、分かったわ」



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対策会議sideアダレット

結構間が空いてしまいました。とりあえずこれで整理回は終わりとなります。次回は少しほのぼのとした感じで休息回としたいと思います


響、翼、マリアの3人はゲートを通りアダレットへとやってきた、マリアが物珍しげに街を見回していると翼が窘めた。

 

「マリア、あんまりキョロキョロしているとおのぼりさんに見られてしまうぞ」

「う…そうね、少しみっともなかったわ。やっぱり少し珍しくてね」

「翼さんマリアさん、アトリエに着きましたよ」

 

響の呼ぶ声がして二人は少し足早にそちらに行った。アトリエに入るとソフィーとフィリス、そしてプラフタがいた。ソフィーは3人を見ると話しかけた。

 

「いらっしゃい響ちゃん達、そっちの人は?」

「私たちの仲間でアガートラーム装者のマリアさんです」

「なんか紹介が大層ね…初めまして、マリア・カデンツァヴナ・イヴよ。マリアで良いわ、よろしく」

「よろしくマリアさん、私はソフィー・ノイエンミュラーって言うんだ。それで、あっちの子はフィリスちゃん、あっちはプラフタ。3人共々よろしくね!」

 

自己紹介が終わると翼が部屋を見回した後ソフィーに聞いた。

 

「ソフィー、リディーとスールはどこに?」

「あの二人なら自分達の家にいるよ。何か二人に用事?」

「昨日調べられることは調べると言っていたと聞いたからな、成果を聞こうと思ったのだが…何分最初は警戒されて家を教えてもらえなかったからな。もし差し支えなければ教えてもらってもいいだろうか」

「うん、多分もう教えても大丈夫かな。えっとね…」

 

ソフィーにリディーとスールの家の位置を教えてもらうと翼は礼を言ってマリアに呼びかけた。

 

「マリア、行くぞ」

「分かったわ、一応任務だから事は早い方が良いのでしょう?」

「ああ、立花も…立花?」

「ヒビキなら奥でフィリスに錬金術を見せてもらってますよ」

 

プラフタがそう言うと奥から響の歓声が聞こえて来た。

 

「そうなの…全く響は…まあ良いわ。二人で行きましょう?」

「そうだな、行くとしよう。響を頼むぞソフィー、こひ…プラフタ」

「うん、いってらっしゃい」

「…ええ」

 

二人がアトリエを出るとマリアが少し呆れたように翼に言った。

 

「貴方、何呼び間違えてるのよ。あの顔は完全に勘付かれてたわよ」

「私としたことが…声も小日向に似ているものでな、それに立花の事だったからつい、な」

「気をつけなさい」

「ああ」

 

そうして話していると後方から呼びかけられる、振り向くとマリアより一回りほど大きい金髪の気障っぽい雰囲気を纏った男がいた。

 

「お姉さん達、暇かい?良ければこれから俺と一緒にお茶でも…」

「ごめんなさい、貴方のような軽い男は好みじゃないの。行くわよ翼」

「あ、ああ」

 

マリアはピシャリとそう言うと翼の腕を引っ張ってその場から去った。少し歩いて後方を見て男が追ってこないのを見ると溜息をついた。

 

「失敗だったわ、まさかナンパされるなんて…」

「アレがナンパか、初めて遭遇したな」

「そりゃそうでしょ、向こうじゃ私たちは名の知れた歌手なんだから。そんな命知らずな奴は居ないわよ」

「それもそうだな、しかしナンパのおかげで道を逸れてしまった」

「足止め食らっちゃったわね、さっさと行きましょう」

「ああ」

 

そうして二人がリディーとスールのアトリエに着くと翼がドアをノックして呼びかけた。

 

「リディー、スール。風鳴翼だ、勝手だがソフィーに家を教えてもらった。入っても良いだろうか」

「あ、はーい。今開けますね」

 

リディーの声がしてすぐにリディーがドアを開けた。

 

「いらっしゃいませ、あれ?今回は二人だけですか?」

「立花も来ているのだがな…向こうのアトリエでフィリスと油を売っている」

「あはは…そうなんですか、とりあえず入ってください」

「ああ、失礼する」

「お邪魔するわね」

 

二人が家に入るとスールがさっきの金髪の男と話していた。

 

「お前はッ!?」

「さっきのナンパ男!」

「んなっ!?何でここに!」

「ちょちょちょっと!待ってください二人共!」

「どうしたと言うのだリディー」

「確かにこの人はナンパ魔でどうしようもないヘタレな人ですけど悪い人ではないんです!落ち着いてください!」

「リディーお前どさくさ紛れに言いたい放題言うな!」

 

 

二人が一度引き下がるとリディーはふぅと息をついた。

 

「リディー、調べたことの成果について聞きに来た」

「ああはい、どうせですのでフィリスさんのアトリエで話しましょう」

「そうね、響もいるしそれが良いわ」

 

そこまで話すとリディーが「ところで…」と言ってマリアに聞いた。

 

「貴方の名前をまだ聞いてなくて…」

「ごめんなさい、紹介が遅れたわね。私はマリア・カデンツァヴナ・イヴ。よろしくね」

「はい、よろしくお願いしますね。私はリディー・マーレン、こっちは妹のスーちゃんです」

「よろしくね!マリア・かでんちゃ…あうっ、舌噛んだ!」

「分かりにくいだろうからマリアで良いわよ」

「はい…」

「それで?こっちの人は?」

 

マリアが聞くとスールがサラリと答えた。

 

「マティアスだよ、リディーも言った通りロクデナシのナンパ魔だけど悪いやつじゃないからよろしくしてあげてね」

「スー、お前どこ目線だこのっ!」

「わー!マティアスが怒ったー!」

 

その光景を見ていたマリアと翼は軽くホッとしたように呟いた。

 

「二人を疑っていた訳ではないが…何というか…」

「悪い人ではなさそうね、良かったわ」

 

そう言った後二人を止めて五人でフィリスのアトリエに戻る、アトリエに入ると奥から歓声が聞こえてきた。

 

「おおー!凄い!凄いです!」

「でしょー!?」

「あ、翼さんマリアさんお帰りなさい!フィリスさんの錬金術凄いんですよ!」

「立花、錬金術なら向こうの世界でも何度も見てきただろう?何故そんなに…」

「違うんですよ!こう、材料をドーンと入れて釜をグールグールって!」

 

響は興奮したように身振り手振りで自分を見たことを伝える、翼とマリアはそれを見てもピンと来ていない様子だった。

 

「材料をドーン…?」

「釜をグールグール…?」

「え?そっちにも錬金術があったって聞きましたけど…」

「私が見たのはこう…手を出すと紋章が出てきてそこから竜巻やら防御壁やらが出てきたな」

「えっ!?釜使わないんですか!?」

「聞いたところでも釜を使うなんて話は聞いてないな

 

翼がそう言うとソフィー達錬金術士が真剣な顔で話し始めた。

 

「私達のアルケウス・アニマを使った感じのものなんですかね…?」

「でもそんなの使うなんて言ってなかったじゃん」

「もしかして既に調合されたアイテムを使ってるとか…?」

「世界が違うんだし錬金術のそもそもの体系が違うんじゃない?」

 

議論が白熱しそうになったところでマリアが手をパンパンと叩いたあとソフィー達をたしなめた。

 

「はいはい積もる話は後でね、今は絵画の作戦会議でしょう」

「ああそうだった、こう言う話になるとつい熱が入っちゃって。じゃあ作戦会議行ってみよー!」

「おー!」

「それでリディー、スール。調べ物の首尾はどうだ」

「あ、えっとですね、前回言ってたネージュちゃんを当たったりしたらですね…」

 

リディーはメモ帳を取り出して内容を拾うように話し始めた。

 

「えーと、頑丈な上に強力な再生能力があるがそれ以外の特殊能力はなし。仲間を呼び出すことができる。ここまででも厄介なんですけどこれが特に厄介で…」

「と言うと?」

「錬金アイテム、シンフォギア共に効果はあるが片方だけでは決め手にならないとの事です」

「と言うことは…」

「連携が大事ってこと!私たちの連携で一気にドカンとやっつけちゃうの!」

 

スールが人差し指を立てて腕を前に出す仕草をしながら言った。それに響が気合たっぷりに反応した。

 

「分解能力もないって分かったし皆で行きましょう!」

「あ、響さんちょっと待って下さい!」

「え?」

「その…申し訳ないんですけど、調べ物に追われてて探索のためのアイテムの準備とか済ませてないので明日まで待ってくれませんか…?」

「えぇ!?ここに来てトンボ返り!?」

「本当にごめん!けど一泊分の宿は確保してるからぜひ泊まっていって!」

「どうするマリア」

「一泊くらいなら大丈夫かしらね、今回はお言葉に甘えさせて…あ」

 

マリアは何かに気づいて振り返るとそこには不機嫌そうなマティアスがいた。

 

「マティアス…悪かったわね」

「このまま絵の世界行くのかと思ったら連れてこられ損じゃねえかよ…まあいいや、綺麗な女の子も沢山見れたし我慢しますかね。んじゃ俺は一足先に帰るわ、じゃあな!」

「悪いことしたわね…借り1と思っておきましょうか、とにかく響、翼、今回はこっちに泊まるとしましょう」

「はいっ!」

「承知した」



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