カインの腐敗録 (痛い作者ことカイン=9)
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新たな死霊術師の誕生
第0話 カイン=9の誕生


 Infinite Dendrogramの二次創作もっと増えて。


 □2045年2月21日 戒能九玖

 

 ボクこと、戒能九玖(かいのうないん)は今年中学一年生になる。それなりな成績、それなりな学力で、それなりの私立中学校に合格し入学することとなった。なんということは無い、それなりな人生を送る一人の人間、ってやつさ。

 いや、だからどうというわけじゃないが。あくまで、ボクはボク自身という個を再認識する為に、こうして己を振り返っている、というわけだ。個我(アイデンティティ)は大切だろう?たとえ断片(フラグメント)回想(レミニセンス)であろうと無意味じゃないはずだ。

 まあ、今こうして語っているボクがボクじゃない、ボクという存在が別のボクを押しのけて表層に出ているだけかも知れないが。それは瑣末なことだろう。

 まあ、兎に角続けさせてくれ。ボク自身、あまり多く語ることも無い程度にはまだまだ若輩でね。それほど時間は取らないだろう。

 先に述べた通り、ボクはそれなりの私立中学校に入学するわけだ。だが、それでも受験というのは初めての経験でね。だから、最低限以上には勉強した。ありとあらゆる誘惑を断ち切り、全てを遮断する、というのはなかなかに味わうことのできない体験だと思う。そこに生じる苦難も、ね。

 それでも、ボクには一つだけ、ボクの心を掴んで離さない誘惑があった。それはまあ、ゲームというやつで、その中でも昨今話題となったもの、VRMMOという代物なんだ。近所に住む、言わば姉のような存在である女性から聞かなければ、その存在すらも知らなかっただろう。ボク自身、ゲームにはてんで興味もなかったわけだからね。

 だが、非日常、とりわけ新たなる世界、家や学校なんかじゃない第二の世界をボクに提供してくれるらしいソレ(・・)は、大いにボクの好奇心を揺さぶり続けた。

 

 そう、つまりだ。

 

 ボクはこの度、兼ねてより購入し、受験の為にと封印していた〈Infinite Dendrogram(インフィニット・デンドログラム)〉というゲームにログインしようと考えているわけさ。

 なに、ボクとて事前に情報を得ないほど無計画じゃないさ。だけど、一から十まで知りたがる程無粋でもない。

 要は、ボクはこれから始まる新たな世界への序章(チュートリアル)ってやつに心踊っているわけさ。これよりは、ボクが紡ぐんじゃない。ボクが歩む物語そのものなんだ。心踊らぬわけがない。

 締め括って、頭に装着した機械のスイッチを入れる。

 

 今、キミはボクのことを痛々しいヤツだと思ったんじゃないか?

 

 それは間違いじゃない。

 だけど、ボクは人間という存在の中にあって、無限の可能性の一つに過ぎない個。つまり、アレだ。

 

 

 

 

 

 

 ―――ボクは、ただの中二病さ。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 気がつけば、ボクは馴染んだ自室とは明らかに違う空間にいた。

 その部屋は木造洋館、その書斎を思わせる造りをしており、もうそれだけでボクの好奇心を煽る。木の匂いも再現されている辺り、この空間はボクみたいなタイプの人間からしてみれば興味をそそられないわけがない。ここで、本を読むというのはかなり惹かれるものがある。

 暫く、この部屋について思考に耽っていると、何者かがボクに声を掛けてきた。

 

「ようこそー」

「あ、ああ。よろしく」

 

 少し声が上擦ってしまった。

 そこに居たのは猫である。木製の椅子に座ってこちらを見つめるその姿は、猫に他ならない。

 ⋯⋯猫は、苦手なのさ。アレルギーというわけじゃないが、猫の死体を見た時の経験以来、どうしても猫を直視できないんだ。

 

「ああーもしかして猫は苦手なのかなー?」

「⋯⋯ああ、実を言うとそうなんだ」

「それならー無理にする必要は無いよー」

 

 ありがとう、ボクがそう言うと、猫は気にすることないよー、と言って朗らかに微笑んだ。

 なるほど。管理用AIが十三番、チェシャ⋯⋯確かに馴染みやすいのかもしれないね。まあ、ボクの担当がチェシャであったことには、少しばかり驚きを隠せないが、それとて、些細なことだろう。

 

「まずはー描画選択をーしてねー。今から変えるよー気持ち悪くなったら言ってねー」

「ああ、それなら問題無いよ。ボクは、アニメーションを選択する」

「分かったよー。その感じだとーログインをする前にーひと通りは調べてきた感じかなー?」

 

 頷くと、チェシャは説明の有無をボクに問う。実際、説明が欲しいのは各種初期設定のシステム、主にアバターなどについて知識だけだ。早く始めたくて、ボクの心が逸っているのも事実。

 その旨を伝えると、チェシャはオッケーという気の抜けるような返答をして次の設定に入った。

 

「それじゃあー手短にやるねー。⋯⋯次は、プレイヤーネームの設定だよー」

 

 プレイヤーネームについては、Web小説界隈で使っているボクのペンネームを使うつもりでいる。ボク自身、Web小説を初心者から脱したくらいには齧っている。戒能のカと九玖のルビであるナインから取っている。九、玖、どちらも9でナインだなんて、ボクの両親のネーミングセンスはどうなっているのだろうか?色々な意味合いで。

 話が逸れたな。

 

「プレイヤーネームは、カイン=9でお願いできるかい?」

「オッケー。設定したよー。次はアバターだね」

 

 チェシャの言に合わせて、ボクの目の前にいくつもの画面とのっぺらぼうのマネキンが出現する。なるほど、これが一ヶ月間ログインとログアウトを繰り返させるほどにキャラクターメイクに熱中させたという噂のシステムか。

 だが、ボクはこれに時間を取るつもりはない。

 

「アバターはリアルのままでお願いするよ」

「⋯⋯本当に良いのー? アバターの変更は出来ないよー?」

「ああ、構わないさ」

 

 そう言うとチェシャは渋々ながらも受け入れてくれた。

 そもそも、ボクは第二の世界を求めているんだ。それに、ボク自身を偽る必要は無い。まあ、自らを偽る、ボクじゃないボクが存在するというのも惹かれるものがあるのは偽りじゃない。

 が、ボクはこのまま行く。このことについて例の近所の女性に伝えた時は全力で反対されたが、まあ、あの人とはそれなりの付き合いだし、ボクの意志を尊重してくれる辺り、根は良い人ってヤツなんだろう。末恐ろしい人だけど。

 

「次はー初心者用の配布アイテムを渡すねー」

 

 チェシャが取り出したのは小さなカバン。それは、何の変哲もないものだが、中身は異空間につながっているという、とても好奇心を刺激するものだ。見た目は少し気に食わないが、買い換えることも出来るらしい。余裕が出来たら探してみようか。

 

「それとー初心者装備も配布するねー。どれが良いか選んでねー」

「それじゃあ⋯⋯」

 

 チェシャが取り出したのは、様々な装備が載っているカタログのようなもの。ボクは、試しにペラペラと捲ってみる。あった。

 ボクが選んだのは、フード付きの簡素な黒いローブ。そして、武器には先端が髑髏を模した杖を選択した。

 如何にも、怪しい魔術師といった風貌だが、それで良い。ボクは、闇の魔術師、その中でも死霊術師(ネクロマンサー)に強い憧れがあるのだ。

 何故って?だって、格好良いじゃないか。骨とかゾンビが特別好きなわけじゃない。ボクはもっと直接的に魔法らしいモノの方が好きだったりする。

 なら何故、死霊術師などと言うものを選んだのかと言えば、ただ単に、第二の世界を歩むなら何らかのロールになりきる所詮ロールプレイに興じるのも一興だと思ったまでのこと。でもって、ただの魔法使いじゃつまらない。小説を書く上でも、自らの思い描く世界に没入するのは大切なことだ。理想の自分、理想の存在に己を投影してみせること。ボクからすれば、それはかなり重要なことだと思える。

 その点、自他共に認める中二病なボクは、他の人よりも有利ってわけだ。まあ、そう上手く行くとは思えないがやってみるだけやったって構わないだろう。

 それに、ボクにはもうひとつだけ目的があるんだ。まあ、それについては、またいつか語るとしようか。

 今は、さっさとチュートリアルを終わらせたい。

 チェシャに選んだものを伝えると、何やら気の抜けるような掛け声と共に、僕の視界が黒い布で少しばかり遮られる。これはフードか。

 チェシャが、いつの間にか取り出した姿見に映るボクの姿を確認する。フードを付けている時は、正しく“駆け出し”闇の魔術師といった容姿だ。背中に括りつけられている杖も拍車をかけている。フードを取ると、ボクの現実での容姿と瓜二つな長い黒髪が姿を現した。常にフードを付けていれば顔が誰かにバレることも早々ないだろう。

 

「如何にもって感じだねーボクは良いと思うよー」

「ありがとう」

 

 うんうんと頷くチェシャは、確かにそうなんだろう。AIでありながらこの良さがわかるとは、ボクとしても運命を感じざるを得ないな。

 

「後は、これだね。5000リル」

「1リルが現実でいう10円くらいだったかな」

 

 手渡されたのは五枚の銀貨。五万円というのはゲームではどれくらいなのだろうか?まあ、向こうで追って試していけば分かるか。

 

「そして、お待ちかね⋯⋯だと思うエンブリオの移植だよー」

「エンブリオ⋯⋯」

 

 意外かも知れないが、これについて、ボクはあまり注目していなかった。

 何故ならば、ボクが求めてるのはあくまでもインフィニット・デンドログラムという第二の世界であり、別にゲーマーでもないボクは、巷で噂のエンブリオには惹かれるところが少なかったのだ。

 近所の女性は、エンブリオのシステムとティアンとの関わりこそがこのインフィニット・デンドログラムの醍醐味だと言っていたが、ティアンとの関わりはともかくとしてエンブリオについてはよく分からないというのが正直なところ。その女性は確かメイデン?とかいうタイプのエンブリオらしいが、かなりレアなのだという。確かに、彼女ならそんなレアなタイプでも引き寄せることが出来るだろう。そんな予感がする。

 僕には、精々が粗製濫造のエンブリオが関の山だろうさ。まあ、だが、この感じならエンブリオにも期待しても良いかもしれないが。

 

「はい、移植完了ねー」

「あまり変わった実感は無いものなんだな。ボクとしては、もう少し劇的になにかあるものかと」

「まあねー。それは第0形態だから、まだまだ卵なんだよー」

 

 なるほど、この淡いながらも確かに光り輝くこれは、エンブリオの卵というわけか。だったら、今は気にしても仕方ないな。

 

「エンブリオはー孵化後の紋章に収納できるようになるからねー」

「分かったよ」

「まあ、いつ孵化するかも分からないし、気楽に待っていると良いよー」

 

 そういうものか。まあ、ボクのエンブリオ、個性(パーソナル)なんて大したことないだろうけど。光り輝く何かが僕に秘められているのだとすれば、それは、少し惹かれるかも。

 

「それじゃあー最後にー所属する国家を決めようかー」

「質問なんだけど、死霊術師、ネクロマンサーになれるのは何処かな?」

「んー、これ、答えちゃって良いのかなぁ⋯⋯。僕としては答えるのも吝かじゃないんだけどねー。まあ、チュートリアルも他のマスターと比べてかなり早く終わっちゃったし、特別に教えてあげちゃおうかなー」

 

 そう言うと、チェシャは机の上に地図を広げる。そして、唐突に地図上に立ち上がった七つの光の柱の内の一つを指し示す。

 

「いろいろとあるし、死霊術師になるならこの妖精郷レジェンダリアがオススメかなー」

「分かった。それならレジェンダリアにするよ」

「オッケー。最後になるけど、他になにか聞きたいことはある?」

 

 その質問に、ボクは首を横に振った。まだまだネットワークの情報だけでは分からないこともあるだろうが、チュートリアルでそこまで知りたくはない。

 

「それじゃあーレジェンダリアの首都、アムニールに飛ばすよー」

「ああ、頼んだ」

「ああっと、その前にーこれだけは言っておかないと」

 

 唐突にチェシャの雰囲気が変わる。伝えたいことがあるらしい。

 

「君の手にある<エンブリオ>と同じ。これから始まるのは無限の可能性」

 

 先程までの気が抜けるような間延びした口調から、しっかりと語り伝えるような口調に。もしかして、これがチェシャの素か。

 

「<Infinite Dendrogram>へようこそ。“僕ら”は君の来訪を歓迎する」

 

 その言葉の直後、ボクの周りの全てが瞬間的に消え去った。あの良い雰囲気の書斎は愚か、チェシャさえもそこにはいない。文字通り、全てが消え去ったのだ。

 

「なるほど、そういうことか」

 

 眼下には見覚えのある世界の形。これは、あの地図と同じだな。

 そうこう考えていると、ボクの体が吸い込まれるように大陸のある箇所、チェシャの勧めで選択したレジェンダリアへと向かい、高速で落下していくのが分かった。

 にしても、一昔前のライトノベル作品、それも転移系みたいな始まり方だ。マンネリだが、まあ良い。これくらいが始まりには丁度良いものさ。

 吹き付ける風にフードが外れかけるが、右手で抑えて阻止し、ボクは不思議な高揚感を噛み締めた。

 

 こうして、ボク戒能九玖改めカイン=9は<Infinite Dendrogram>の世界に足を踏み入れることとなったのであった。




 感想、誤字脱字報告お待ちしております。来ると、作者は喜びのあまり筆を走らせます。


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第一話 カイン=9の就職

 案外、トントン拍子に進んで行きますかね。


 □霊都アムニール カイン=9

 

 案外、ダメージを負うこともないんだな。あんな速度で落下したら、着地時には衝撃くらいあるものかと思ったが⋯⋯。そこら辺は出鼻をくじかれる、というわけにもいかないらしい。

 

「へえ、これが⋯⋯へぶっ!?」

 

 痛い。どうしてこんな所で転んだんだボクは⋯⋯。

 原因を知ろうと足元を見れば、そこには小さな石が落ちていた。

 いや、石如きで転ぶなんて今どき無いだろう。周りの視線が生暖かいものでとてもじゃないがいたたまれない。

 だが、そんな気恥しさも、この世界の感触の前ではどうでも良くなってしまった。

 

「これが、インフィニット・デンドログラム⋯⋯ああ、確かにこれならばボクの第二の世界足り得るに違いない」

 

 風に乗って運ばれる自然の匂い、途切れることがないながらも不思議と心地好い人々の喧騒。そして何より、ボクがボクの足でこの地に立っているという体感。

 ああ、素晴らしい(マジェスティック)。この一言以外に、言葉が浮かばないよ。ボクの想像力は矮小な物でしかなかったのだと痛感する。

 ボクの狭い世界、家でも学校でも絶対に得ることはできない。これは、彼女もボクに勧めるわけだ。新たな世界への鍵ってヤツは、思わぬところにあるものとはよく言ったものだね。

 

「さて、行こうか」

 

 ボクは、意気揚々とその場から歩き出した。

 特に目的はない。強いて言うなら、この世界をもう少し身近に感じてみたい。それだけだった。序に運命ってやつの思し召しで【死霊術師】のジョブクリスタルも見つけられたら良いかな。

 まあ、まずはそこの気になる鞄屋さんでも確認しよう。

 

 ◇

 

「案外、簡単に見つかるものだね」

 

 こうして数十分も歩き回ってみれば、霊都アムニールは思ったよりも広くなかった。いや、大まかな所にしか行ってないというのもあるかもしれないが、こんな所でネクロマンサーのジョブクリスタルに出逢えるとは思ってもみなかった。

 如何にもな暗い雰囲気を纏った野晒しの儀式場。一言で言えばそんな感じだが、その中央には文字通りのクリスタルが浮遊している。

 

「アレに触れれば、ボクも死霊術師になれるのかな?」

「暫し待たれよ、客人」

 

 ジョブクリスタルに触れようとした時、渋い声がボクを呼び止めた。辺りを探せば、ジョブクリスタルの後側で紫色の装飾が付いた黒いローブの人影が、そのうっすらと見える赤い眼光でボクを見詰めている。

 先程までは居なかったが⋯⋯あの位置から見えなかっただけ、というのもあるかもしれない。いや、無いな。ボクが彼の気配に気が付けなかった。恐らく、彼は今のボクなんかじゃ到底手の届かない所にいる存在なのだろう。

 だが、ボクも退くわけにはいかない。あの感覚を確かめる為(・・・・・・・・・・)にも、ネクロマンサーになることは必須なのだから。

 

「ほお⋯⋯マスターは大抵が道理も無く、我ら闇に潜みし者達の禁忌の術を得ようとするもの。だが、其方の眼からは何らかの理由があると見受けた。さて、如何に?」

「⋯⋯」

 

 な、何だこのかっこいい人は⋯⋯。

 恐らくはティアン、あの人曰くは人と変わらぬ意思を持ったNPCのはずだ。それが、惜しげも無くこんな格好良い台詞(セリフ)回しを使うなんて⋯⋯。

 

「ボ、ボクはつい先刻マスターとなったばかりだ。それは間違いない。だけど、ボクは確かめたいんだ」

「⋯⋯」

 

 無言でボクに続きを促す彼の姿に、ボクは話して良いものかと逡巡する。

 ――だが、そんなことで悩むのは、全くもってボクらしくない。

 

「ボクは、あの時に感じた、非日常感をもう一度感じたい」

「あの時⋯⋯」

「自分語り、失礼するよ」

 

 ボクは一言断りを入れてから、ボクの身の上について語り出した。ボクがこの世界に訪れた最大の理由だ。

 

「昔のことさ。道端で猫の死体を見つけてね。ああ、なんということは無い、餓死した猫だったよ」

 

 少し腐敗しかけていて、蛆も少なからず集っていたが、致命的な外傷はなかった。あれは、飢えたその果てであったのは間違いない。

 そして、ボクはその死体を拾い上げて蛆を取り払った。だけど、それだけじゃない。

 

「だけど、ボクは興味本位でその猫の骸を冒涜した。切り開き、抉り抜いて弄んでしまった」

「⋯⋯」

「ああ、勿論、己を嫌悪もしたさ。好奇心に恐怖も覚えた。しかも、その体内には赤子が、それも少し前まで生きていたのであろう赤子が居たんだ」

 

 最初は墓でも作ってやろうなんて考えていた。だが、ふとした瞬間に、ボクはその死骸にどうしようもなく引かれた。

 誕生日にもらった多機能ナイフを使って、ボクは家の倉庫で猫の骸を弄んだ。

 そして、その体内、冷たくなった胎内に赤子を見つけた。その赤子は、ボクが取り出した時にはもうすでに死んでしまっていて冷たくなっていたが、それでも生きていたことだけはボクに鮮明に伝えた。

 その時に、拭いきれないあの感覚(・・・・)が、渇望(・・)が芽生えたんだ。

 

「ボクは、あの時に感じた生命の呆気なさとその先に、生命の辿り着く終着点に可能性を感じたんだ。あの子猫は、本当の意味ではまだ死んじゃいない。いや、その(ゼーレ)はボクなんかじゃ計り知れないところにあるって、そう感じたのさ」

「⋯⋯」

「突拍子もない話だろう? おかしな事を宣う小娘だって嘲笑ってくれて構わない。だけど、ボクはその真意を掴むために、ただそれだけの為にこの世界に飛び込んだ。だから、ここで退くわけにはいかないんだよ」

 

 そこまで言い切って、ボクはどうしようもなく不安に駆られてしまう。ボクは、これでもまだ中学一年生になる直前だ。まだまだ何も知らない子供だ。そんな餓鬼が大層にもこんなことを考えているなんて、普通じゃない。それは、ボク自身も分かっている。だから、誰にもこの話はした事がない。今回は、これを言わなきゃ、前には進めないって言う確信があったからだ。

 これはボクの紛れもない本心なんだ。偽りで塗り固めた今まで、非日常のようで全くもって日常から乖離していないボクの人生の中にあって、確固たる真実、非日常の欠片をボクはそこに見た。

 

「くくく、くはははは!!」

「⋯⋯」

 

 だが、案の定、それはあんなに格好良いと思った人にさえ笑われる始末。

 おかしいな。少し、目頭が熱くなってきた。ボクはこんなにも弱い人間だったか。やっぱり、ここでもボクは非日常を得ることは出来ないのか。

 だが、彼の返答はボクが考え、予期していたものとは掛け離れていた。

 

「面白いぞ小娘。前にも似たようなマスターは居たが、其方も大概だな」

「へ?」

「惚けるな、童よ。許すと言っておるのだ。だが、其方はまだネクロマンサーとしての力を修めるには足りないのではないか?」

 

 足りない? 何が? 先程までとは一変した彼の歓迎的な雰囲気もそうだが、不意を突かれたかのような確認に、ボクは戸惑いを隠せなかった。冷静になるんだ、ボク。慌てるのは、それこそボクらしくない。

 ⋯⋯ああ、そうか。考えてみればそうだな。

 いきなり死霊術師になれる可能性の他に、段階を踏まねばならない可能性を、ボクは見失っていたらしい。

 

「まあ、其方にとっても我にとっても幸いなことに、死霊術師の準備期間である【霊魂の案内人(ネクロガイド)】のジョブクリスタルはここのすぐ近くだ。今すぐにでも行ってくるべきだと思うぞ」

 

 それならば早速行ってこよう。

 そう言えば、彼にとっても幸いだというのはどういうことなのだろうか?

 

「ああ、久方振りにネクロマンサーの術を修めるに値するマスターが来たと思ったが故な。我としても、楽しみであることは認めよう」

「⋯⋯へえ。それじゃあ、よろしく頼むよ師匠(マスター)

 

 心得た、そう言ってローブを翻す姿は格好良かった。アレは、確かにボクが目指すべき場所成り得るかもしれない。

 いや、まずはその霊魂の案内人とやらになってくるとしようか。ああ、先程までの陰鬱とした気持ちが(フォルス)のようだ。




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第二話 カイン=9の修行

 展開が早すぎる気も⋯⋯。でも、ゆっくりやるとぐだぐだしてしまいそうというジレンマ⋯⋯。


 □霊都アムニール 【霊魂の案内人】カイン=9

 

 無事に霊魂の案内人のジョブを手に入れたボクは、逸る気持ちを抑えて師匠である彼の元へと急いだ。

 彼は、ボクが来るまであそこで待っていたらしい。ボクが無事にジョブに就けたことを確認すると、彼は付いてくるように言った。なんでも、修練は地下でやるらしい。死霊術師になる為の修練が、奇妙な儀式場の地下で行われる。なんだか、それらしい雰囲気だ。

 

「さて、それではネクロマンサーの術を伝授する為にも、其方には霊魂の案内人としてのレベルを上げてきてもらおうか」

「それは良いけど、何をするんだい?」

 

 石造りの螺旋階段を下り辿り着いたのは、冷ややかな空気の漂う、所謂地下墓地。こんな所で何をするんだろうか?レベル上げというからには、モンスターを倒したりするのだろうか?

 ボクの質問に、彼は行動で応えた。

 彼が手元の石版を操作すると、縦に配置された棺桶の一つが横にずれて、一つの入り口が姿を現した。

 

「ここは⋯⋯」

「ここは、我が直々に修練する死霊術師の為の特別なダンジョンというやつだ。喜べよ、我の教えを乞う事の出来るものは数人と居ない。マスターで我の教えを乞うことが出来るのは其方で二人目だ。さらに言えば、メイズの馬鹿弟子が何処かへと消えた故な。我も暇だったのだ」

「なるほど⋯⋯ね」

 

 そのメイズとかいう死霊術師は、彼の弟子、要するにボクの兄弟子というヤツになるんだろう。まあ、見知らぬ存在について思案するのも馬鹿らしいが。

 そもそも、ボクはマスターだが、彼はティアンなのだろう。つまり、交わることのほとんど無い乖離した存在というわけだ。

 

「さて、其方には、霊魂の案内人固有の魔法である《魂の送還(ソウル・リマンド)》が備わっているはずだ」

「ああ、確かに持ってるよ」

「其れを使い、この下にいる亡者達の魂魄を送還するのだ。さすれば、50レベルに到達することも長き道のりではあるまい」

 

 そうすることで経験値を得ることが出来ると。それならば簡単だ。

 

「だが、我は一切関与せぬが故、独力で彼らを還してみせよ」

「へえ⋯⋯面白い。やってみせるさ」

 

 そう言って、僕は意気揚々とダンジョンに挑むのであった。

 

 ◇

 

「⋯⋯思ったよりもいないな」

 

 地下墳墓、それもこんなにもそれらしい雰囲気を醸し出しているというのに、そこにはネズミの一匹も存在しない。倒れた棺桶や、開いた棺桶。朽ちた棚やテーブルが、皆一様に蜘蛛の巣に覆われ、埃に塗れている。

 辺りに警戒しながら歩いていると、唐突に縦に設置されている棺桶の扉が開き、通路を塞ぐようにして、二体の見るからにアンデッドなモンスターが現れた。青白い肌に、両眼には蒼い灯火を宿している。簡素な腰巻きのみを装備しているものと、胸に布を巻いているものの二体だが、さしずめ男型と女型と言ったところか。どちらも、手には剣や斧などの武装をしている。

 

「なんという名前のモンスターかは知らないけど、潔く送還されてくれ」

「⋯⋯オオオァァアォォ」

 

 ボクの言葉は理解していない。当たり前か。彼らはアンデッド、更に言えばNPCの類ではなく、モンスターエネミーの類いだ。元からそのような機能は併せ持ってはいないに違いない。

 

「《魂の送還》!」

「ア⋯⋯オオオォォ」

 

 宣言と共に突き出したボクの右の掌から発された淡い光は、彼らの身体を包み込む。

 すると、ボクを今まさに殺さんとしていた二体の人型は、片方は光の粒子となり、もう片方は操る糸が切れたかのようにそのまま地面に倒れ伏した。

 良かった、二体ともボクよりレベルが16以上は上じゃなかったようだ。この《魂の送還》という魔法は、対象のレベルが使用者よりも16以上高いと効果を発揮しないのだ。更に言えばレベルが高ければレジストされやすい。しかもネームド、ユニークには絶対に通じず、多少なりとも強い意志を持つ者には簡単にレジストされてしまうらしい。だが、彼らには通じた。要するにレベルが15以下だったということだろう。更に言えば、意思もほとんど残っていなかったに違いない。

 MPのゲージを確認すれば、六分の一は減っている。しかし、レベルは二つ上昇していた。

 

「⋯⋯思ったよりも簡単だな」

 

 この調子なら、あと二日三日で達成出来るだろう。いや、没頭すればもっと早くに出来るかもしれない。まあ、十中八九、こんなつまらない作業ではボクの精神力が尽きるだろうが。それでも、やれる時にはやっておくべきだろう。

 

「そう言えば、あの遺体? ⋯⋯遺体はどうすれば良いんだろうか」

 

 そう考えて、動かなくなったアンデッドの身体を触ってみると、ウィンドウが出現する。

 もしかして、これ、回収出来るのか?

 一応、表記名は【死霊戦士完全遺骸 男性体ドラウグル】としてアイテム扱いとなっているけど⋯⋯。推察するに、あのモンスターは恐らくだがドラウグルというのだろう。男性体だから、男性体ドラウグル。その完全な遺骸だから、死霊戦士完全遺骸の表記となっていることは想像に難くない。一応、アイテムと同じような扱いでアイテムボックスに入れられるようだから、入れておこう。

 そう言えば、モンスターなどは頭上に名前が表示されるらしいが、どういうわけか見ることが出来なかった。何らかのスキルでも持っているのだろうか。死霊戦士ということは生前に何らかの妨害系スキルを持っていたのかもしれない。

 アイテムとなった遺骸を回収して、ボクは立ち上がった。次いでに落ちていた武器を拾ったのは内緒だ。見た目から古き良き様(ノスタルジック)を感じさせるから、すごい惹かれた。こういうのは、是非ともボクの部屋に飾っておきたい。まあ、おいおい、こっちで家でも買えたら良いなとは思う。買えるのかは知らないが。

 閑話休題。

 

「よし、この調子で倒して行こう」

「オオオオ⋯⋯」

 

 幸先が良いな。新たに棺桶を突き破り、また新たに立ち上がり現れたのは三体。どれも男性体で、大斧や刀剣を装備している。今度は彼らの頭上の名前がしっかりと見える。

 ボクは、ニヤリと笑って彼らへと右手の掌を突き出した。

 

「《魂の送還》!!」

 

 ◇

 

 今日で何度目かになる粒子となって散っていくアンデッドの姿を見届けながら、ボクは嘆息した。MPの問題もあって、休憩を挟みながらだったからか、精神的疲労が強い。

 

「ふう⋯⋯ここら辺で引き上げようか⋯⋯」

 

 随分と深くにまで潜ったことだろう。こちらの世界の時間で三時間はこのダンジョンに潜っている。

 レベルは思った通りかなり上がった。具体的には、25まで上がっている。これはかなり早い方なのではなかろうか。思った通り、というのは、この魔法《魂の送還》は経験値を稼ぐ効率が凄まじく良いのだ。四分の一くらいの確率で発生するアンデッドモンスターの完全遺骸としてのアイテム化時を除いて、完全?な送還が成功した時にはかなり大量の経験値を入手しているらしい。

 ボクは、これにはリソースが関係しているんじゃないかという仮説を立てている。まあ、憶測に過ぎないが、送還によって跡形も残らなかった場合は、全てがボクに経験値として流れ、逆に形、アイテムとして残った場合はそこにリソースが割かれているのではないかと考えている。

 完全遺骸の方も、男性体が十三体、女性体が十体程手に入った。こちらも収穫は大きいと言える。まあ、用途については不明だが。

 ちなみに、レベルが10を超えた辺りから大体のドラウグルは名前を見ることができるようになった。やはり、レベル差でステータスの類を隠蔽するスキルが働いていたのだろう。名前が見れなかった最初の二体は、運良くレベルが低かったに違いない。

 

 そうこう考えながらもう少し潜ろうと歩いていると、目の前に明らかに違う蜘蛛の巣と植物の蔦で覆われた扉が現れる。

 

「⋯⋯」

「⋯⋯ウォォォオオ」

 

 そして、案の定出てきたのは、今までに出会ってきたドラウグル達とは掛け離れた雰囲気を纏う一体のアンデッド。右手には片手斧を持っている。頭上の表記は無し。名前を見ることができないということは、この亡者は今までのヤツらとは格が違うと考えて良いだろう。

 先手必勝。今までのヤツらがいけたんだ。こいつもいけるはずだ。

 

「《魂の送か――」

「オオオ⋯⋯《ファイアーアロー》⋯⋯!!」

「⋯⋯っ!?」

 

 右手を突きだし、魔法を唱えようとする。

 だが、それよりも早く、アンデッドの宣言(・・・・・・・・)により発生した十数本の赤く燃え盛る矢が、ボクを貫いて燃やし尽くした。

 驚愕を覚えれど、痛みすら感じることなく。燃え尽きる直前に見えたのは、堂々と立つ一体のアンデッドの姿であった。

 

 

 

【致死ダメージ】

【パーティ全滅】

【蘇生可能時間経過】

【デスペナルティ:ログイン制限24h】




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第三話 カイン=9の現実

 今回は、カインの現状です。さて、初めての原作キャラですけど、こんな感じで大丈夫でしょうか⋯⋯とても心配です。


 □戒能九玖

 

 目覚めは悪くない。

 いや、目覚めた気分は最悪だが、目覚め心地は悪くなかった。頭が鮮明に冴えている。これならば、なんでも出来そうだ、なんて全能感に浸ってみもする。

 だが、そんなことではこの心に食い込んで残っているような、そんな妙なもやもやは晴らせなかった。

 

「参ったね⋯⋯」

 

 ああ、参った。

 まさか、あんな所で早々にデスペナルティを負ってしまうとは。まだ、レベル上げもし足りない上、エンブリオも孵化していないというのに、明日のこの時間帯までログインできないというのはなかなかに辛いものがある。

 ⋯⋯なるほど、確かにゲーム、いやこの〈Infinite Dendrogram〉はハマるね。まさか、自他共に認める飽き性なボクが、Web小説以外で続けられそうなモノが他にもあるなんて思いもしなかったよ。

 だが、そんな〈Infinite Dendrogram〉も当分はプレイすることが出来ない。

 気分はさながら、興味対象(ニンゲン)を失った悪魔(サタン)⋯⋯いや、おもちゃを取りあげられた赤子のようだ。なんて粗末な。頭は冴えていても、今日のボクの語りはあまり冴えていないようだ。

 

「もう八時か⋯⋯」

 

 時計を見れば現在は朝の八時。これから寝る時間だ。

 ボク自身、駄目だと分かってはいるが、受験が終わり卒業式を終えてから、ここの所、ボクの生活は訳の分からないことになっている。親からも一応の注意は受けたが、起きたい時に起きる、寝たい時に寝るという生活が板についてしまっている。

 両親は今年二歳になる弟を連れて海外に行ってしまった。それも拍車をかけて、ボクの不規則な生活を助長してしまっている。いや、ボクのことを気にかけた両親により、あの人がしばらくボクの面倒を見ることになっているが⋯⋯。あの人が助けてくれるのはありがたいけど、あの人は面倒くさいんだ。というよりも、どうして中学一年生になるばかりの娘を家に一人で置いていくのか。気分はさながら、いつか両親に勧められて鑑賞した子供な罠を張る映画のようだ。まあ、ボクにあんなことをするやる気も力もないが。

 ⋯⋯にしても、そうか。

 

「⋯⋯まだ四時間しかプレイしていないのか。向こうの時間はかなり速いらしい」

 

 それもそうだろう。三倍だ。あちらの世界の(とき)は、こちらの三倍の速度で流れている。

 プレイを開始したのは午前四時。向こうでは大体12時間くらい過ごした。だが、これからあちらの時間で三日も待たせることになるのだ。師匠は心配していないだろうか。

 ⋯⋯いや、無いね。彼みたいなタイプは奔放に生きるモノだって、ボクの直感が囁いている。というより、そうじゃないとボクのイメージが崩れる。

 

「⋯⋯寝るか」

 

 ボクは、襲ってきた眠気に身を任せ、暖房の効いた暖かな部屋で横になった。

 ああ、タンクトップくらい着替えるべきだったかな⋯⋯。いや、良いか⋯⋯。今は⋯⋯眠りたい⋯⋯。

 

 ◇

 

「⋯⋯案外今日の眠りは浅かったようだね」

 

 時計を見れば、現在時刻は十五時。午後三時ということは、七時間は寝たのか。

 

「うわ⋯⋯」

 

 ベッタリと身体に何かが張り付く不快感。嫌な予感がしながらも恐る恐るタンクトップを触れば、汗でびしょびしょになっていた。まだ夜も肌寒いというのに⋯⋯。早めに風呂に入ろう。

 

「ああ⋯⋯またあの時の夢を見たのか⋯⋯」

 

 最近では内容を忘れていることの方が多いが、いつかの猫の死体を弄んだあの日から、度々ボクの夢にはあの猫が現れるようになっていた。いや、正確には猫ではない。猫の魂だ。それが、ボクに語りかけるのだ。

 ――魂の冒涜者、汝の魂はいつか我が食い荒らす。それを忌避せんとするならば、魂の価値を――。

 なんということは無い、それこそボクのように中二病臭い発言だが、あの時のボクは本当に恐怖したものだ。実際、ボクは小学1年生の時には既にこの治してはならない病を患っていた。そんなボクのちょっとした肥大妄想だろうと、無理矢理納得することであの時は誤魔化していたが、今なら分かる。

 あの夢は、ボクを導く為に幼き日のボクが精一杯の語彙力で生み出した天啓のようなものだろう。ご丁寧にも、その為ならば、ボクには全てを払わせるという脅迫付きの天啓。そう考えれば、なるほど。理屈は無いが、しっくりくるものがある。

 そして、それを果たしたいと考えるボクがいるのも事実であった。

 

「さて、さっさと風呂に⋯⋯」

 

 ボクが立ち上がったのを見計らったかのように、家のインターホンが鳴った。ああ、来てしまったか。

 

「はぁ⋯⋯」

 

 渋々。そう、渋々ながら、階段を降り、家の扉を開く。

 そこには、髪を後ろで結った女性が待っていた。美人だ。まあ、本性は美しいとは思えないが。いや、ある種の美しさを内包している、とも言えるか。

 

「ナインちゃん、まだ昼夜逆転しとるんかえ?」

「月夜さん、別に毎日来なくったって⋯⋯」

 

 ボクの苦言をはんなりとした喋りで受け流し、いつも通りに彼女、扶桑月夜(ふそうつくよ)さんは家の中に入っていった。

 彼女は、近所に住んでいる例の女性。妙なカルト教団のトップで、ボクを〈Infinite Dendrogram〉に誘った張本人だ。

 曰く、ナインちゃんなら面白そう、らしい。ボクはおもちゃかなにかなのか。

 いや、実際のところ、この怪物(・・)はボクのことをおもちゃ程度にしか見ていないかもしれないが。

 まあ、それで良い。癪だが、ボクが一方的に姉のような存在として慕っているだけなのだから。彼女がどう思っていてくれようと、矮小な身に浸りたいボクには分からなくて良い。

 

「で、今日は」

「その前に、お風呂に入ってきー。そんな格好、お姉ちゃん恥ずかしゅうて仕方ないわー」

 

 ああ、そう言えばそうだった。とりあえず、お風呂に入ってこよう。

 月夜さんの事だ、別になにかするわけでもないだろう。カルト教団のトップの割には、何となくイメージと違う人物ではある。まあ、やはりというべきか頭がおかしいのはこういう類特有のものなのだろう。それに、時折正気を疑う常軌を逸した行動に及ぶこともあるが、まあ、頭がおかしかろうと馴れればどうということは無い。

 それに、結局のところボクからしたら、幼い頃から親交があって慕っている姉のような存在⋯⋯ってやつなのさ。

 

 ◇

 

「ふう」

 

 湯を張る暇もなかったため、シャワーで済ましたが、汗でベトベトのタンクトップを着て過ごすよりかは余程良い。

 髪の毛を乾かし、替えのインナーシャツに着替えてリビングに戻ると、そこでは月夜さんが椅子に座ってテレビを観ながら、チャンネルを変えていた。

 

「ナインちゃん、〈Infinite Dendrogram〉、始めたんやねー」

「⋯⋯うん」

 

 何故知っている⋯⋯。

 いや、ボクがお風呂に入っている間にボクの部屋でも覗いたのかもしれない。そう思いたい。部屋の鍵は閉めてるけど。

 

「どうやった?」

「まあ⋯⋯面白い、かな」

 

 ボクがそう言うと、月夜さんは目を細めてボクを見据えた。

 ああ、この反応はボクの答えが好ましくなかったのだろう。

 

「そうやない。ナインちゃんの目的は達成出来そうかっちゅうことえ」

「⋯⋯ああ。まだ分からないけど、ボクの願いは叶いそうだよ。恐らく、ね」

 

 この反応が欲しかったらしい。月夜さんの機嫌は目に見えて良くなった。まあ、言わされた感じがあるのは癪だけど、この人が喜ぶなら、ボクとしても吝かじゃない。自分で言っててチョロいものだと思うが、この人の妹を勝手に自負しているくらいなのだ。この程度は仕方ないだろう。

 月夜さんは、続けてボクに問うた。

 

「スタートは何処にしたんかえ? もちろん、アルター王国やろ?」

「ボクは、レジェンダリアを選択したよ」

 

 瞬間、部屋の空気が凍りついた。ぶわっと、冷や汗が吹きでる。

 ああ、選択を間違えたか。

 

「ナインちゃん、うちは〈Infinite Dendrogram〉を勧めた時、アルター王国を選択するように言うたよなあ?」

「⋯⋯そうだったかな」

 

 まるで心臓を掴まれているかのようだ。しかし、この殺気にも似た感覚には慣れたもの。彼女は、意図してか意図せずか、時折こんな雰囲気を纏う。

 まあ、身内、と言うよりは長年の付き合いからくる相互理解から、その殺気もすぐに収められた。

 

「まあええ。ナインちゃんの目的⋯⋯“魂の在処の把握”が達成出来たらでもええから、うち(アルター王国)に、そしてうち(月世の会)においでえな」

「⋯⋯分かった、考えとくよ」

 

 その答えに満足したらしい彼女は、いつも通りの雰囲気に戻っていた。

 ああは言ったが、恐らくその日は来ないだろう。

 “魂の在処の把握”、これはボクの〈Infinite Dendrogram〉における永遠の命題なのだ。

 これが達成された時、それはすなわち、ボクが〈Infinite Dendrogram〉を去る時に他ならない。

 気まずい沈黙が流れるが、それも仕方ない。始めたばかりで終わりの話をするというのも、変な話だな。

 その点、微塵も気にしていないらしい月夜さんは凄いと思う。

 月夜さんは、ゆっくりとした所作で椅子から立ち上がると、台所に向かった。⋯⋯嫌な予感がする。

 

「辛気臭い話も終わりにして⋯⋯今日はうちが晩御飯を作ったげるわ」

「いや⋯⋯今日はインスタントラーメンの気分で⋯⋯」

「そないなこと言うて、いつもインスタントラーメンばっかり食うとるんやろ? たまには、お姉ちゃんが愛情込めて作るえ」

 

 いや、それはまずい。味は微妙だが、その微妙な味が、濃くてどろりとした素材を台無しにするような味付けのものを好むボクからしたら、かなり精神的にクるのだ。

 

「任しときー。うち、〈Infinite Dendrogram〉でも料理の練習しとるんや。大分上達したでー」

「いや、だから良いって」

「遠慮せんでええよー」

 

 ああ、これは逃げられないな。

 ボクは、抵抗を諦めて、大人しく席に着いた。さて、果たしてボクは〈Infinite Dendrogram〉にログインできるのだろうか⋯⋯。とても不安だ。

 だが今は、腹を括ってこの戦場(食卓)に臨むしかあるまい。




 感想、お気に入り登録お待ちしております。誤字報告やアドバイスもどしどしお願いします。特に、設定の矛盾や原作キャラ関連⋯⋯。


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第四話 カイン=9の納得

 今回、大分説明が長いですが、まあこのチートじみた職業の云々を明かしていく形となります。


 □戒能九玖

 

「ほな、ナインちゃん、またなー」

「ありがとうございました」

 

 ひらひらと後ろ背に手を振って帰っていく月夜さんを見送り、ボクは安堵のため息を吐いた。やっぱり、味は微妙であった。ただ、今日は向こうで用事があるらしいため、早めに帰ってくれたのだ。

 やっと帰ってくれた。あの人と一緒にいると精神的に穏やかじゃない。

 

「⋯⋯もうこんな時間か」

 

 リビングに戻り時計を見れば、時刻は既に午後の10時を指している。ペナルティ解除までのあと10時間、何をして暇を潰そうか。

 

「そう言えば、小説の更新しとこうか」

 

 言うが早いか、ボクは愛用しているWeb小説サイトを開き、早速ログイン。マイページに入ってみると、そこには感想通知がひとつ。⋯⋯久しぶりの感想だな。どんな物好きがボクの小説を読んだのだろうか。

 

「⋯⋯もう少し文章内のルビを減らして⋯⋯内容は面白い七割、奇妙三割⋯⋯まあ、普通の感想だね」

 

 だけど、感想をもらって嬉しくないはずがない。それにアドバイスもくれている辺り、この人はボクに、ボクの作品に期待してくれているのかもしれない。光栄なことだね。

 お気に入りは4000と少し。このサイトに登録して書き始めた頃は、全く伸びずに悩んでいたものだが、しばらくすると勝手がわかって楽しくなってきた。たまに日間ランキングの下の方に顔を出す程度には読んでもらえているということ。それは、ボクからすれば、いや、大抵の作者にとってはとても嬉しくて名誉なことだと思う。

 感想とアドバイスへのお礼と努力する旨を伝えて、感想欄を閉じる。

 

「今日中に、書き溜めでも増やしておこうかな」

 

 そうと決まれば、ボクは感想をもらった嬉しさを燃料にして、スマートフォンに指を走らせた。

 

「にしても、佐々木以蔵さん⋯⋯ね。どんな人なんだろう」

 

 感想をくれた人の名前を頭に浮かべ、どのような人か夢想する。名前の感じからして、剣豪とか武士とか剣客のようなジャンルが好きなのだろうか。いや、でもボクの作品はローファンタジーものだし、もしかすれば本名をもじったタイプかも知れない。

 顔も知らない見ず知らずの人物に対して、ああでもないこうでもないとあれこれ考え、そして、執筆に集中するために散らした。

 

「もっと⋯⋯上手に書けるようになろう」

 

 読んでくれている人の為にも、そして、ボク自身の為にも。

 

 ◇

 

「はあ、やっぱり、プロットがあっても、細かな展開を考えるのはとてもじゃないが疲れるね」

 

 まあ、それも楽しみのひとつと言われれば言い返せはしないし、実際、ボクもそれを楽しんでいるのだから、満更でもないわけだが。

 それに⋯⋯、

 

「そうか、向こうでなら眠ることも出来るのか。なるほど」

 

 気分転換と称して、〈Infinite Dendrogram〉のスレッドや攻略サイト、情報交換の為の掲示板などを見て回ったせいで、あまり集中できなかった。

 

「これじゃあ、まるで想い人を待ち遠しく思う乙女だね。まあ、ボクはそんな柄じゃないけど」

 

 独り言ながら、時計を一瞥すれば、時刻は午前七時過ぎ。

 そろそろ時間だ。適当な物で軽食でも摂って、トイレに入ってから部屋に行こう。

 

 □霊都アムニール 【霊魂の案内人】カイン=9

 

「⋯⋯戻ってきた、ね」

 

 目の前に広がったのは、昨日と変わらぬ霊都の姿。時々、ボクの怪しい姿を訝しげに見る人もいるが、すぐに興味を失って歩みを再開する。衛兵も例外ではないようだ。

 はて、こんな如何にもなにかやらかしそうなマスターがいるというのに、どうして平然としていられるのだろうか?

 いや、まあ掲示板などを見た感じでは、この国はどうしてか、頭のおかしい人間や行動が異常な人間、“変態”と呼ばれる存在の群生地らしいという情報をちらりとだが見た。だからこそ、ティアンも正常なマスターも、そんな光景を平然と受け入れられるに違いない。

 だから、街中を爆走する幼女は知らないし、嬉嬉としてそれを追い掛けるほぼ全裸の女性も知らない。ボクは、そんな事案まっしぐらな光景は見ちゃいない。

 

「まあ良いか。取り敢えず、師匠のところに急ごう」

 

 半ば逃避しながら、ボクは師匠の元へと急いだ。

 

 ◇

 

「ふむ、異界より帰ってきたか、其方よ」

「ああ。待たせて悪いね、師匠」

 

 ボクが儀式場に赴くと、そこには変わらずに師匠がローブの袖の中で腕を組んで、クリスタルの前で立っていた。やはり、ボクがいなくても彼は全くもって普段通りであったのだろう。

 

「まさか、早々に死ぬとは思わなかったが、初めての体験であったろう? ならば、よかったでは無いか」

「そう言われると耳が痛いね」

 

 いや、三日間も、それも帰ってくるとも限らないマスターを待ち続けるのは、彼であっても面倒、と言うよりかはもどかしかったのかもしれない。

 まあ、次は気を付けよう。

 

「其方、今、レベルはいくつになった?」

「えーと⋯⋯」

 

 ステータス画面を見れば、ボクのレベルの表記は25。丁度、下級職の折り返し地点と呼ばれるレベル帯となっていた。ここからは、レベル上げも難しくなるだろう。

 

「25だね」

「そうか。其方、扉を守りし者【ドラウグル・コル】に殺されたのであろう? 彼の者のレベルは45前後。殺されるのも道理である。他の地下墳墓なら、もう少しレベルが低かったり、逆にレベルが100を超える“王”なる存在もいるようだが、ここの【ドラウグル・コル】のレベルは他と比べればあまり高くない」

 

 なるほど、ボクを殺したあのモンスターは【ドラウグル・コル】というのか。コル、つまりアイルランド語で戦士ということ。あのドラウグルは、ドラウグルの中でも強い戦士の遺体ということか。

 それにしても、レベル45前後⋯⋯ボクの二倍近くレベルが高い。個人的には、25から上へのレベルアップもなかなかきついくらいなので、初期装備であったとはいえ、それなら一撃で殺されるのも納得出来る。

 だが、他の墳墓にはアレよりももっと強い戦士、もっと言えば“王”がいる、ということか。今のボクじゃ、覚醒したって勝てないかもね。まあ、先は長いということ、かな。

 

「なればこそ、其方には早急にレベルを上げ、彼の者を打倒してもらわなくては困る」

「⋯⋯どうしてかな?」

 

 ボクが理由を聞けば、彼は瞑目して口を開いた。

 

「この墓は、古代ノールドの民の墓であってな。彼ら古代ノールド人は、怨念に似て非なるもの、“誇り”を動力にしてこの墓を守っている。いや、彼らの誇りは定期的に復活するのでな。しかも、どういうわけか消滅してもまた復活する。このままでは、彼らの子孫も墓参りができないわけだ」

「なるほどね。そう言えば、彼らの遺体がドロップしたら回収しても良いのかい?」

「構わぬ。所詮、誰の物かも分からぬ誇りが独り歩きしているような存在だ。遺族も、墓に用があるのであって、彼らに用はない故な」

 

 なるほどね。誇りが混ざりあって生まれただけの、言わばただのアンデッドと化した祖霊よりも、形ある墓の方が大切ということなのだろう。

 ということは、彼らの死体は回収しても良いわけか。それなら、気兼ねなく存分に回収してしまおう。別に、何かに使うわけでもないが。いつか、使いそうな、そんな気がする。

 

【クエスト【墓掃除―地下墳墓モルブイン 難易度:二】が発生しました】

【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】

 

 なるほど。これがクエストというものか。自動発生するというのは確認したが、本当に唐突に発生するものだね。

 

「じゃあ、もう一回行ってくるとするかな」

「うむ。今度こそ、其方が扉から帰ってくることを期待していよう」

 

 今度は、油断はしないさ。

 同じ轍は踏まない。失敗だったら尚更だ。それが、ロールプレイヤーってものだろう? まあ、あんまりロールプレイ出来てないけど⋯⋯。

 

 ◇

 

「《魂の送還(ソウル・リマンド)》!!」

「オオォォォ⋯⋯」

 

 現れたドラウグルを、《魂の送還》により即送還する。

 あの説明を受けた後なら、この魔法、ひいてはこの職業【霊魂の案内人】の役割も理解できる。そして、マスターの中でもボク含めて片手で数えられる人間しかこの職に就かない、いや就けない理由が分かった。

 荒ぶる霊魂の怨念を鎮め、アンデッドの魂を送還する事がこの職業に就いた者達に求められること。それだけで、余程の物好きでもなければ、この職業に就く気も萎縮するだろう。

 さらに言えば、この職業は、ほとんどティアン専用みたいなものなのだ。それも、何らかの暗い事情があったりして表に出ないような類のティアンのもの。そして、この職を斡旋するのも同じティアンくらいのものだろう。というより、こんな益の大きい職業を、マスターが教えるはずもない。人間っていうのは、そういう生き物なのさ。

 だから、師匠が何らかの念を抱きボクにこの職業に就くことを指示してくれたのは幸運であった。何せ、【死霊術師(ネクロマンサー)】は下級職で、特に制限もなく就くことが出来るのだから。あの時、ボクも、なんの支障もなく【死霊術師】の職に就くことが出来た。

 だが、そうしたほとんどのマスターは挫折するのだろう。【死霊術師】は嫌われ者だから。死者を冒涜する、それはこの世界を生きる生命、ティアンからしたら許し難い暴挙に違いない。マスターと言えど、現実世界を生きる人間だ。ボク達と何ら遜色のない彼ら(ティアン)に後ろ指を指されながらこの世界で生きるのは辛いだろう。有名所でありながら【死霊術師】のマスターは総人口が、おおよそ500人を切っているのも、それが理由なのかもしれない。

 その点、こうして【霊魂の案内人】の職に就けばレベル上げも容易く、その仕事柄、多少なりともティアンからも寛容される。それだけで、この職業に就くメリットとなる。

 個性(パーソナリティ)が欲しいものなんだ、人間は。【死霊術師】に就きたいと思う人間なんて、どうせひねくれた天邪鬼ばかり。だから、他の人間が【死霊術師】になることも寛容し難いのさ。挫折するなら結構、そういうことだろう。情報を提示しない理由なんて、それで十分さ。

 まあ、ボクは別にどちらでも構わないが。あくまで、憧れはあっても【死霊術師】は手段として見ている面が強い。

 

「アォォォオ⋯⋯」

「⋯⋯もう少し、レベル上げに付き合ってもらおうか、古代人」

 

 考えを切り上げ、新たに現れたドラウグル目掛け、ボクは右の掌を向けた。




 感想、お気に入りよろしくお願いします。私の筆(指?)さばきに直結します。

 追記
 ご指摘に伴い、【ドラウグル・コル】のレベルを60→45に低下。レベル100を超えた個体云々への補足を追加。


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第五話 カイン=9の再誕

 初めての山場⋯⋯というやつですが、勢いで書いてしまったので、いつも通り、クオリティは御察しです。ただ、少しだけ書き方を変えてみましたので、主観ですが良い感じだなぁとは。まあ、それでも低クオリティですけど()


 □地下墳墓モルブイン 【霊魂の案内人】カイン=9

 

「⋯⋯こんなもの、かな」

 

 現れた最後の【ドラウグル】を送還し、近くにあった埃を被った今にも壊れそうな椅子に座る。

 ボクのレベルは、今ので48にまで上がった。ひとつの下級職のレベルが最大50なのを考えると、こちらの時間で二日間通して潜ったと考えれば、それなりの速さなのではないだろうか。

 それに、途中から、 【ドラウグル】の完全遺骸が鞄に入り切らなくなった為に回収は諦めたが、それでもかなりの数を回収出来たと思う。ログイン初日に4000リルで買った鞄だが、初心者用の三倍程度は入るらしい。

 この二日間、地上に出ることなく潜り続けていた為、体中に埃や蜘蛛の巣が付着しているが、それ以外は特に問題は無かった。いや、汚れというのは女性にとっては問題なのだろうが、ボクはそういうのは余程でなければ気にしない質だ。

 これは、順調と言えるのではなかろうか。

 故、そろそろ【ドラウグル・コル】に挑もうかとも考えたが、策も何も無い。今は、そんな状態で挑むのも不安なため、どうしようかと地下墳墓を探索中である。

 エンブリオでも孵化してくれれば何とかなりそうなものだけど⋯⋯。

 考えながら、左手でうんともすんとも言わない己のエンブリオを眺める。どういう訳か、僕のエンブリオはこちらの世界で六日経ったというのにも関わらず、なんの反応もない。情報交換掲示板には、大体一日から二日で孵化する場合がほとんどということだったが⋯⋯。デスペナルティで進化が遅れる、にしては一回のデスペナルティに対して長すぎる気もする為、少し、いや、かなり不安の種となっている。

 

 どうしたものか⋯⋯。

 そんな時、視界の端、埃を被ったテーブルの上に掌大の水晶が見えた。まだ来たことの無い場所だったか?

 

「⋯⋯?」

 

 アイテム名は【ジェム‐《ファイアーエクスプロード》】。ファイアーということは、十中八九火属性の魔法だろう。アンデッドには効果覿面のはずだが⋯⋯。なぜ地下墳墓に火魔法のジェムが?

 それにしても、ジェム、ジェムか。これまでの探索中にも、鍵のかかった宝箱――スキルの有無で断念した――や、巻かれた紙などのなんらかのアイテム、チーズなど色々と見つけたが、ジェムは初めて見る。しかも、どういうわけかジェムはもう一つあった。

 

「ボクは、ズルをしているのだろうな」

 

 初心者に過ぎないながらも、職業やアイテム、情報など、同じ初心者達の中でもボクはかなり恵まれている方だろう。それは間違いない。

 そして、運、リアルラックというヤツもボクには備わっているらしい。

 

「⋯⋯よし。やってみせよう」

 

 見つけた二つのジェムを回収し、ボクはいつかの戦士の元へと向かった。

 今度こそは彼を成仏させてみせるさ。ああ、ボクなら間違いはない。

 

 ◇

 

「アオオォォオ⋯⋯」

「居た⋯⋯」

 

 前回見つけた時と同じ場所に、ソイツは佇んでいた。

 右手の片手斧は健在。少し焦げた左手を垂らしてはいるが、魔法が衰えるなどということも無いだろう。アンデッドだし。炎の魔法が使える時点でアンデッドかどうかも怪しいけど。

 まあ、それは些細なことだ。そもそも、どうしてボクやネットの常識なんかで、カレ(・・)を測ることが出来る? そんなこと、出来やしない。

 

 ――彼は英雄の末路。なればこそ、矮小な凡人に過ぎないボクの物差しなど通じはしないのさ。

 

 だからこそ、ボクも計らない。

【ドラウグル・コル】がボクに気が付く前に、柱から飛び出して一気攻勢に出る。

 

「《魂の送還》!!」

 

 ボクの右手から放たれた《魂の送還》は、【ドラウグル・コル】の意表を突いて彼を送還しようと襲い掛かる。

 そして、彼に白と青の波動が直撃し、

 

「ウァア!!」

 

【ドラウグル・コル】は、それを一喝で打ち破った。

 やっぱりか。なら、彼の体力を削ぐしかない。幸いな事に、ボクの手元には、片方は攻撃特化のもの、もう片方は切り札としてのものの二つのジェムがある。

 ファイアーエクスプロードの説明からすれば、その元々の威力とアンデッドとの相性を加味して、当たれば確実に彼の体力を大幅に削ぐことが出来るだろう。

 それなら、当てれば良いだけのこと。

 

「ウォオオ!」

「くっ⋯⋯案外、乱暴だなキミは」

 

【ドラウグル・コル】の片手斧の振り下ろしを、間一髪で横に飛び退くことで避ける。だが、その一撃は、直撃した岩を崩し、破片をボクに飛ばした。

 

「今ので、十分の一も削れるのか⋯⋯本当に紙だな」

「ウォア!!」

 

 危ない。なんとか体勢を戻し、さらなる間一髪で柱を盾にする。無様に逃げ回っているだけだが、それ以外にできることは無い。

 今は、機を見るだけ。

 だが、何もしないよりは少しばかり抵抗する方がマシだろう。だから、抵抗させてもらうよ、英雄。

 

「⋯⋯《魂の送還》!」

「ウォアア! ⋯⋯意味⋯⋯無キ⋯⋯事!!」

 

 喋れたのか。いや、理性など残っていないだろう。ただ、祖霊たちが事実を伝えた、それだけの事に違いない。

 

 ああ、そうやって強者の余裕を振り撒いていれば良い。遊んでいれば良いさ。

 

 ――勝つのはボクだ。

 

 ◇

 

「はぁ、はぁ⋯⋯」

「汝⋯⋯マダ⋯⋯逃ゲル⋯⋯カ?」

 

 当たり前だ。まだ好機じゃない。いや、好機は幾つかあったが、ボクじゃ到底掴むことは出来なかった。

 まだ、足りない。

 体力が残り五分の二程度で、左腕が【骨折】していること以外はまだ普通だ。なら、まだやれる。

 ジェムも残っているし、《魂の送還》はあと六回は使える。十分だ。

 

「ウォォォオ!!!」

「⋯⋯っ!!」

 

【ドラウグル・コル】によって砕かれ、ボクが来た時よりも少しばかり綺麗になったフロアをチラリと確認し、身を守れる場所を探す。

 ⋯⋯無い。賭けだが、避けるか。

 痛覚をオフにしていなかったことが災いして、とてもではないが感じたことの無い痛みに悲鳴を上げる身体を酷使する。

 その場から、出来る限り飛び退いて、全身を使って彼から距離を取る。

 

「ク、ソッ!!」

「ウォォ!!」

 

 大きな破片がボクに直撃し、ごっそりと体力をけずった。彼は、そのまま次の攻撃に移ろうとする。

 だが、これは好機だ。彼は、意味の無い攻撃しかしないボクの反撃など気にも留めていない。攻撃することに夢中で、彼が手傷を負うような攻撃をボクがするなんて思いもしないだろう。

 それで良い。

【ドラウグル・コル】の死撃が命中する寸前で、出しておいたジェムを使用する。その爆炎は、ジェムから溢れ出し、無防備な【ドラウグル・コル】に襲いかかった。

 

「――食らえ、古代人ッ!!」

「ウォォォオアアア!!??」

 

 爆熱する炎が、【ドラウグル・コル】の身体を包み込む。

 質量の爆発と炎の熱に【ドラウグル・コル】が苦悶の声を漏らしながら、膝を着いた。

 

 このまま決める。

 そう考えて、もう一つのジェムを使うために意識を割いたその瞬間。

 ボクは確かに油断(・・)した。

 

「うぁっ⋯⋯!?」

「「ウァァァァァァァァアアアアア!!!!」」

 

 片手斧によって右足が切り飛ばされ、状態異常に【部位欠損】が追加される。そして、鈍い痛みがボクを襲った。

 炎に炙られ、膝を着いた体勢ながらも、英雄はしっかりとボクを仕留める為に機会を狙っていたらしい。

 

「⋯⋯ぐっ!!」

「⋯⋯終ワ⋯⋯リ⋯⋯也⋯⋯!!」

 

【ドラウグル・コル】が、やっとボクを仕留められることに安堵するかのように即座に片手斧を振り下ろそうとする。それは、ボクの頭部をかち割ろうとし、ボクが咄嗟に出した両腕を容易く切断しようと迫る。

 残った体力は十分の一程。避けなければ確実に死ぬが、今更避けることは叶わない。

 ⋯⋯詰んだか。油断したな。

 だが、次もう一度来れば、彼を倒す事も出来るだろう。今日のところは、ここでデスペナルティを負うのも致し方なし、か。

 

 ⋯⋯何だろうな。

 おかしい。どうして、ボクは笑っているんだ?

 ああ、そうか。怖いのか。惨めに逃げ回ってなんとか一撃当てて、そしてまた死ぬ。確かに滑稽で笑える。

 師匠に失望されることが? それとも、前回とは違って現実性(リアリティ)に満ち満ちた死を経験することが、だろうか。恐怖で笑うっていうのは、こういうことなのか。

 まあ、どちらにせよ、これがボクの運命(ドゥーム)だった。それだけの事さ。

 ⋯⋯。

 ⋯⋯⋯⋯。

 いや。

 

 ――それで良いのか?

 

 何度も挑み、少しずつ弱らせてから倒す。彼は、ただのモンスターで、ボクは一介のプレイヤーでしかないのだから、それがプレイヤーの行動としては最善策なのかも知れない。

 だが、それは、気高く誇り高い英雄に対して相応しい仕打ちなのか?

 

 ――いいや、違うね。

 ここで諦めることは、ボクにとっても彼にとっても好ましいことじゃない。そのはずだ。だから、負けない。いや、死なない。どんなになっても、ボクは足掻く。

 何より、ボクは師匠と約束したんだ。

 

「ちゃんと扉から帰ってくる、てね」

 

 だから。そう、だから、

 

 

 

「ボクは、ボクがどうなろうと死ねないんだ!!」

「ウオオオオ!!」

 

 迫る片手斧が、ボクの左手に触れる直前、ボクは目に映った光景を直ぐには飲み込めなかった。そう、言葉で言い表すなら、正しくこういうことだ。

 

 

 

 ――ボクの身体は腐敗(・・)した。

 

 

 左手の甲にある卵の形をしたエンブリオは、身体が腐敗した女性のような紋章の形となり、ボクがマスターであるという証を示す。ボクの左腕を断ち、右腕をも断って、ボクを殺そうとした凶器は、当初の予定を狂わされ、ボクの腐敗した左腕の半ばで止まった。

 

「うぁぁぁああ!!」

「⋯⋯何⋯⋯ダ⋯⋯!?」

 

 何がなんだか分からないが、これは逃すことの出来ない好機と見た。

 どういう訳か向上した筋力で片手斧ごと【ドラウグル・コル】の体勢を崩し、最後の切り札足るジェムを起動する。

 

「《ホワイトバインド》!!」

「⋯⋯動⋯⋯カヌ⋯⋯!?」

 

 現れた白い杭が、英雄の体を柱に縫い止める。どれだけ力を込めて抗おうとも、アンデッドには解除不可能だろう。説明テキストにはそう書いてあった。

 これで、条件は揃った。

 

 ああ、これでやっとキミの魂を送還できる。

 

 

「終わりだ、《魂の送還》!!」

 

「ヌウァァアアア⋯⋯!!」

 

 

【ドラウグル・コル】は、断末魔を上げながら、両膝を着いて動かなくなった。最後の最後まで握られていた片手斧が、虚しくも音を響かせながら地面に落ちた。

 あれ程までに古代の武勇と魔法で猛威を奮った、古代の英雄は物言わぬ遺骸となったのだ。

 綺麗さっぱりとしてしまったフロアに、墓場特有の肌寒さを感じる静寂が戻る。

 だが、この熱を冷ますことは出来ない。

 

 

 

「ボクの勝ちだな、英雄」

 

 

 

 ボクの、勝利だ。揺らぐことの無い、ボク自信が掴み取った勝利だ。

 心地好い。ああ、とても好い気分だ。勝者の特権ってヤツか。

 

 出来ることなら、このまま、意識を失って⋯⋯。

 

 ボクは、余韻に抗うことが出来ずにその場に倒れ付した。

 ボクが最後に見たのは、英雄(【ドラウグル・コル】)の守っていた扉が開く瞬間であった。




 感想、お気に入りよろしくお願いします。よろしければ、ご指摘などもして下さると幸いです。


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第六話 カイン=9の就職2nd

 取り敢えず、エンブリオの詳細です。


 □霊都アムニール 【霊魂の案内人】カイン=9

 

 スッキリとした肌寒い空気を身に感じて、ボクの意識は浮上した。

 

「⋯⋯起きたか」

「⋯⋯ああ、師匠。おはよう」

 

 どうやらボクは、儀式場の平らな石の台座上に寝かされていたらしい。傍から見れば、生贄に捧げられる少女、といったところかな。いや、違うか。

 恐らく、というより確実に師匠がボクを運んでくれたのだろう。また、師匠に迷惑をかけてしまった。

 だが、師匠はそんなことは気にしないのだろうな。そんな予感がする。いや、確実に。

 

「その肢体が、其方のエンブリオ⋯⋯というものか」

「そうらしいね」

 

 師匠の言葉に思考を切り上げる。

 肉が腐り、膿んでとてもじゃないが直視出来ないような状態となっている両の手のひらを眺め、ボクは嘆息した。

 なるほど、これがボクのエンブリオ⋯⋯。自分の身体だからか、思っていたよりも、気持ち悪くはならないものなんだね。

 

「まあ、祝福しよう。祝福を受け付ける身体かは知らぬが」

「ああ、どうも」

 

 そう言って、メニューの詳細ステータス画面に追加された<エンブリオ>の欄を確認する。

 

 【半神死霊 ヘル】

 TYPE:ボディ

 到達形態:Ⅰ

 

 ステータス補正

 HP補正:D

 MP補正:F

 SP補正:G

 STR補正:D

 END補正:G

 DEX補正:G

 AGI補正:G

 LUC補正:G

 

 ヘル、確か北欧神話の方の女神だったか。死者の国、ヘルヘイムを支配する存在らしいが⋯⋯。まあ、【死霊術師(ネクロマンサー)】なんて目指してるボクにはお誂え向きってヤツかな。

 にしても、ボディなんて項目は、攻略サイトにも掲示板にも無かったけど⋯⋯。

 

「新種、か」

 

 ああ、なんて惹かれる言葉だ。ボクだけの唯一(ユニーク)、語呂は悪いが、嫌じゃない。

 次いで、保有スキルの欄も確認する。

 

 『保有スキル』

 《完全亡者肢体(パーフェクト・アンデッド・ボディ)》:

 全身を特異アンデットの肢体に置換する。聖属性、火属性、各種状態異常に耐性を獲得する。また、HPの自動回復に大幅な補正がかかる。切断系攻撃による被ダメージ量二倍。欠損した部位が擬似アイテム化する。

 パッシブスキル

 

 なるほど、完全にアンデッド化するわけか。無限の可能性、ならばボクのエンブリオがこんな変わり種でもおかしくはない、ということか。だが、どうしてボクのエンブリオがこんなにも変わりすぎたものになったのかは、果たして謎のままだ。まあ、嬉しいけど。嬉しいけど。

 己のエンブリオについて思案していると、師匠の方から何かが投げ渡された。驚きながらもなんとか受け取ると、手には冷たいぐちゃっとした感覚が。

 

「うわっ⋯⋯ああ、これボクの脚か」

「左様。どうするかは分かるか?」

 

 そこにあったのは、【ドラウグル・コル】によって切り離された僕の右足。

 ああ、もしかして⋯⋯。

 ボクはその考えに至り、己の足の断面に、切り離された右足の断面をくっ付けた(・・・・・)。すると、見るだけで怖気と不快感を煽るような、黄色い膿とどろりとした血液、蠢く腐った肉が、久しく会っていなかった己の足との再会を、まるで歓喜するかのように繋ぎとめた。

 

「ああ、これで治るのか⋯⋯」

「そのようだな」

 

 状態異常の欄を見れば、先程まであったはずの【部位欠損】が無くなっている。ただ断面と断面をつけただけで治るなんて、便利なカラダだ。ちなみに、とっくのとうに【骨折】の状態異常は無くなっていた。

 完全にアンデッドだねこれは。まさか、死霊術師志望が死霊になるなんて、考えもしなかったが、これはこれで⋯⋯。

 

「案外、悪くないな」

「左様か」

 

 師匠の問いに頷き、ボクは立ち上がった。体力ゲージを確認すると、どういう訳か全回復している。師匠が何かしてくれたのだろうか?

 

「いや、我は何もしておらぬ。其方の身体が、エンブリオが、回復を補助したのだろう」

「なるほどね」

 

 そう言えば、スキルの説明にそんなことも書いてあったな。自動回復への補正か。こちらも便利だ。

 確か、失われた部位はデスペナルティ以外の自然回復では治りがとても遅いとかなんとか。その点、自動回復補助と欠損部位の瞬間接着はかなり強いと思う。

 

「墓掃除、達成したようだな」

「うん。なんとかね」

 

 そう返すと、彼は一度頷いた後に口を開く。

 

「感謝しよう。そして、其方を正式に我が弟子として迎えよう」

 

【クエスト【墓掃除―地下墳墓モルブイン】を達成しました】

 

 師匠の言葉と共に、クエスト達成のメッセージが表示される。なるほど、これがボクの初クエスト達成、というやつか。確かに嬉しいものだね。

 

「何か、報酬の一つでも差し出すことが出来たら、と思うが⋯⋯」

「いや、いいよ。ボクはこれで十分さ」

 

 流石にこれ以上何かを貰うのは気が引ける。だが、師匠はなかなか納得出来ないらしい。律儀な人だ。

 とは言うものの、ボクはボクで様々なものを貰っている。だからこそ、これ以上はいらないという旨を伝えようとした時、彼はボクの身体、露出している腕などの部分を見て、何かを思い付いたらしい。

 

「そうだな。その身体では人と会うのは不便であろうし、其方には、あれを授けよう」

「あれ?」

 

 暫し待っておれ、そう言って彼は儀式場に併設された、石造りの小屋へ入ってしまった。

 

 ◇

 

「これだ。受け取るが良い」

「これは⋯⋯?」

 

 渡されたのは、青い卑金属に民族模様のようなものが刻印された篭手とブーツ。アイテム名は【古戦士の篭手】と【古戦士のブーツ】と、そのままだが、ドラウグルのモンスタードロップだろうか。

 貰うわけにはいかないとも思うが、その反面、これがあることのメリットはかなり大きい。

 不思議だが、今の己の姿を嫌悪することは無い。自分の身体ということもあるのだろうか。それとも、どういう訳か顔は腐敗していなかったから、というのも有り得る。だが、ティアンや普通のマスターからすれば、この見た目は悍ましいことこの上ないだろう。

 だから、有難く貰っておこう。それに、貰わないとテコでも動きそうにない。今の師匠からは、そんな感じがする。

 

【装備しますか?】という表示にYESを選択する。すると、両腕の肘から先と、両足の膝から下が何かに覆われた感触を覚えた。

 篭手やブーツなんて、初めて身に付けたが、これはなかなか⋯⋯。コスプレ、か⋯⋯。

 

「いやいや、ないね」

 

 コスプレなんてボクの柄じゃないさ。顔立ちはそんなに整ってないし。

 

「これなら、ボクの身体も隠せるね」

「うむ。では、早速ネクロマンサーの術、【死霊術師】の職を得るが良い。其方は、真に相応しいと、我が認めたのだからな」

 

 そう、これで念願の【死霊術師】のジョブに就くことが出来る。そう考えれば、デスペナルティなんてつまらないものを負わなくて良かったと、もう一度思えた。

 

 彼に促されるままに、ボクは儀式場のクリスタルに触れる。そして、表示にYESを選択し、【死霊術師】のジョブを獲得した。

 

「晴れて、其方も我ら【死霊術師】の仲間入り、という訳だ」

「ああ、お陰様で、ね」

 

 あまり、感想はないものなんだね。まあ、就いただけだしそんなものか。最初から備わっているらしい《死霊術(ネクロマンシー)》が、使えるスキルの欄に追加されたが、それも使ってみなければ分からない。

 

「さて、早速使いたい⋯⋯けど、それはダメ⋯⋯かな?」

 

 彼は、難しい顔をしてボクを見つめた。フードの下から見える赤い眼光は、逡巡しているように見える。

 

「⋯⋯そう急くでない。其方の、《死霊術》の力を使うには、死体が、【完全遺骸】が必要だ。生憎と、我は持ちえておらぬ故な⋯⋯すまないが」

「いや、それなら持っているけど⋯⋯」

 

 ボクがそう言うと、彼は思い出したかのような仕草をして、口を開いた。

 

「そうか、【ドラウグル】の遺骸があったか。久しく《死霊術》を使っていない故、忘れていたが、それならば問題はあるまい」

 

 付いてこい、そう言って師匠は地下墳墓への扉へ向けて歩き出した。

 

 ◇

 

 地下墳墓の、テーブルやベンチなどがある少し開けた場所に来ると、師匠はある一点を指した。

 

「では、そこにドラウグルを」

「分かった」

 

 ボクは、持ちうる【死霊戦士完全遺骸 男性体ドラウグル】と【死霊戦士完全遺骸 女性体ドラウグル】をアイテムボックスから取り出した。

 その数、ざっと40体程度だが、その光景は壮観である。

 

「⋯⋯其方、回収し過ぎではないか?」

「⋯⋯やっぱり、そうかな⋯⋯」

 

 師匠の目が痛いが、使うかわからなくても、回収できるだけ回収したい、いわば貧乏性のようなものがボクにはある。だからという訳では無いが、致し方ないことだと思う。

 

「だが、まあ、良い」

 

 そう言うと、彼は徐に、地面に転がるドラウグル達の遺骸を物色しだした。

 そして、その中の一つを引っ張り出すと、しゃがみ込んで右の掌を当てた。

 

「見ておれ。⋯⋯《死霊術》⋯⋯」

 

 瞬間、奇妙な光が男性体ドラウグルの遺骸を包み込む。

 そして、光が晴れた時、

 

「⋯⋯ウウ⋯⋯⋯⋯」

 

【ドラウグル】は仮初の命を持って息を吹き返した。先程まで空洞しか存在していなかったその眼窩には、ボクが対峙した時と同様に青い光が宿る。

 なるほど、これが《死霊術》か。

 

「今のが怨念ではなく、MPを使っての《死霊術》だ。我が教えるのは、MPを使っての《死霊術》のみである。怨念を使うことを、我は好まぬ」

「分かったよ」

 

 僕の返答に満足したらしい師匠は、次はボクがやる番だと目で促した。

 最も近くの適当な男性体ドラウグルを選び、その側にしゃがむ。そして、埃をかぶった冷たい肢体に触れ、意識を集中させた。

 

「⋯⋯《死霊術》」

 

 ボクの右の掌から放たれた光は、ドラウグルを包み込んだ。

 成功、かな。

 初の《死霊術》の行使に、内心緊張していると、光が晴れた。

 

「⋯⋯アアオオ⋯⋯」

 

【ドラウグル】の両目に、青い光が灯った。

 それは、例え仮初でも、命を、()を感じた。パーティーの欄には、ボクの他に【ドラウグル・使役】が追加されている。

 

「⋯⋯これは⋯⋯」

「成功、だな。初めてにしては悪くない」

 

 ⋯⋯そうか。やはり、コレが、死霊術こそが、ボクの求める答えへの道なのだろう。

 ならば、極めるしかない。当たり前だろう。やっと叶うんだ。ボクの願いが。妥協はしない。

 

「くく、その顔、良いぞ。ああ、面白い。其方は、旧来とは違った冒涜者となりそうだ。実に楽しみだ」

「⋯⋯ありがとう」

 

 師匠は、やっぱり【死霊術師】だ。その歪んだ笑みは、確かに負に傾いている。

 だが、今のボクの笑みも、大概だろう。だが、この込み上げる感情の波を抑えることは出来ない。

 

「ククク、アッハッハッハッハッ!」

 

 ボクが、魂を究明する。解明してみせるさ。この世界なら、それが出来る。そう実感している。そう予言してみせよう。

 

 だから、今暫くは、不明(アンノウン)の高揚感に酔い痴れさせてくれ。




 感想やお気に入り登録、よろしくお願いします。よろしければ、アドバイスやご指摘などもよろしくお願いします。
 ⋯⋯執拗過ぎないかな⋯⋯(不安)

 追記
 ご指摘に伴い、エンブリオ【ヘル】の表記を【半神死霊 ヘル】に変更致しました。


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見習い死霊術師の護衛
第七話 カイン=9の参加


 新章突入です。


 □地下墳墓モルブイン 【死霊術師】カイン=9

 

 カビ臭く、埃や蜘蛛の巣で視界がいっぱいとなるような、もう見慣れた地下墳墓の通路を抜ける。

 

「D、全待機」

 

 そして、ボクは今回の目当てであった場所に辿り着いた。追従する者達に指示を出し、蜘蛛の巣を払いながら、広場の中央まで歩を進める。

 

「⋯⋯見つけたよ」

 

 ボクは、薄く埃を被ってしまったソレ(・・)を回収し、来た道を戻った。

 

 ◇

 

 あれからというもの、ボクは何か変えるでもなく今まで通りに地下墳墓に潜っていた。

 新しく就職した【死霊術師(ネクロマンサー)】のジョブのレベル上げに勤しんでいたのだ。

 使役したドラウグル達と(・・・・・・・)

 目の前に、二体のドラウグルが現れる。レベルが上がったボクからすれば、あまり脅威とは思えない。それに、言った通りボクには仲間がいる。

 

「ウウウ⋯⋯」

「D1からD4、ドラウグルを攻撃開始。D5、D6は欠員時補充まで待機」

 

 ボクがそう言うと、後ろで待機しているD──【ドラウグル・使役】の内の四体が、それぞれの武器を構えて、ドラウグルに襲いかかる。

 二対一で戦い始める彼らを見ながら、ボクは警戒を続ける。

 

【死霊術師】となったことによって、ボクは【死霊戦士完全遺骸 ドラウグル】を従属アンデッドモンスター、【ドラウグル・使役】として従わせることができるようになった。

 当初は、六体と言わず、十数体程、叶うならば所持していた遺骸全てを従属させたかったが、それは今のボクでは不可能であった。

 理由の一つに、彼ら従属アンデッドは扱いとしてはテイムモンスターという類に似ており、それの制限が少し多い版といったところがある。僕のキャパシティでは、レベルにして10前後の彼らを六体使役できれば良いといったところであった。

 え?どうしてDかって?ドラウグルで良いだろ?

 

 ⋯⋯そういうの言ってみたかったのさ。気にしないでくれ。

 

「ウォオ!!」

「ウオォォ⋯⋯」

 

 ドラウグルというモンスターの性質なのか、MPを使っている弊害なのか、未熟なボクでは満足に操ることも難しく、彼らには機械的な動きしかさせられない。だから、今もこうして二対一を余儀なくされている。それに、彼らがボクを主と認めていないような感じがするのも事実だ。

 まあ、それは時間が解決してくれる。いや、時間に伴うボクの努力が解決してくれるだろう。

 

「ウォォ⋯⋯」

 

 そうこうしている内に、彼らは各々の担当していたドラウグルを処理したらしい。D3──二刀使いの個体が刃を突き立てる姿を一瞥して、今日はそろそろログアウトするかどうか悩む。

 

 あれから、【死霊術師】のジョブに就いてからあちらの世界で一日と少し、こちらの世界には三日は居る。

 

「これは、完全にハマってるね」

 

 まあ、これも仕方が無いことなのさ。

 目的、とは言うが、そんなに焦ってやることでもない。いや、死ぬまでには達成したいが、ボクとしてはそんなに焦ってやるのも違う気がするのだ。

 まあ、というのは言い訳で。

 ボクは今、完全に本来あるべき姿の〈Infinite Dendrogram〉を遊んでしまっている。まあ、死霊術師が、この世界に沿うモノかは分からないが。無限の可能性というだけあり、それも一つの道と思いたい。

 そして、これがまた案外楽しかったりする。恐らく、今でも他のゲームにはここまで没入できないだろうけど、〈Infinite Dendrogram〉なら、最低限のあっちでの生活以外ではずっとこちらに居られる気がする。

 

「D、全待機。オペレート終了」

「「ウォォ⋯⋯」」

 

 ボクの声で、彼らの目に宿る青い炎が消えた。

 いや、正確には消えてはいない。ボクの起動の声、《アウェイキング・アンデッド》によって彼らはもう一度動き出す。

 

「この状態だと、他のドラウグルも襲ってこないのは驚きだ。何らかの違いでもあるのか⋯⋯」

 

 いや、そんなことはボクには分からない。ゲーム上の仕様以外に説明出来ない。今度、師匠にでも聞いてみようか。

 

「そう言えば、師匠、何処に行ったんだろう?」

 

 ボクが地下墳墓に頻繁に潜るようになってから、師匠の姿は見えなくなった。置き手紙には、しばらく留守にする、という一文のみ。

 正直言って、心配はしてないが、もう少し詳細が欲しかったとも思う。まあ、ボクが同じ立場ならボクだってそうするかもしれないけど。

 

 そんなことを考えながら、帰路を進んでいると、ようやく地上への扉に着いた。

 なんだかんだ言って、ここまで来たら後は外に出てログアウトするだけだ。するだけなんだけど⋯⋯

 

「あ⋯⋯」

 

 後ろ髪を引かれる想い、というのはこういうことを言うのだろう。

 残してきたDを思うと、未練が首をもたげる。

 

「もう少しだけ⋯⋯」

 

 その言葉を行動に移そうとして、それを咎めるかのような、そんなタイミングでボクの前に二つのアナウンスが表示された。

【アナウンス 尿意】

【アナウンス 空腹】

 

「ああ⋯⋯いや、興が殺がれた⋯⋯ログアウトしよう」

 

 それでも、未練が沸き上がってくる⋯⋯というわけでもなかった。

 ここ数日で何回か見たが、このアナウンスだけは、不快感を示さざるをえない。こちらの世界とあちらの世界が、まるで混同されているかのような、そんな感覚を覚えるのだ。

 

 師匠から使うことを許されている石造りの小屋に入り、石の長台の上に毛布が敷いてあるだけの簡素なベッドに寝転がる。

 

「また明日」

 

 メニューを操作し、ログアウト処理を行った。

 もう慣れた意識が遠のく感覚に身を任せ、この世界との一時の別れを想う。

 

 ◇

 

「ふう」

 

 〈Infinite Dendrogram〉の装置を外し、襲ってきた尿意と空腹感を無視して、ベッドに仰向けになる。

 時刻を見れば、今は夕方の八時。どうにも規則正しい生活に戻りつつある。

 

「そう言えば⋯⋯はぁ、憂鬱、だね」

 

 そろそろ中学校が始まる。だから、生活リズムを小学校時代(厳密にはまだ小学生なのだが)と同じものに戻そうとしているのであった。まあ、一日一食のご飯を食べてお風呂に入り、着替えるだけなのだが。それ以外は、あちらの世界でのことがほとんどだ。

 

 何となしに、携帯を起動し、メール箱や小説サイトの通知を確認し、〈Infinite Dendrogram〉のスレッドや掲示板を検索していた。

 

「⋯⋯パーティーメンバー募集?」

 

 なんということは無い、最新の書き込みだが、ボクはそれにどういうわけか目が留まった。

 珍しい書き込みというわけでもなければ、特に目を引く要素があるわけでもない。何ら変哲はない、既視感に溢れた書き込みだったが、ボクはその書き込みをタップした。

 

「⋯⋯」

 

「レジェンダリアで普通の人求む」⋯⋯ね。

 気になったものは仕方ない。概要だけでも聞いてみるかと、その旨をレスで伝える。

 まあ、変態の国と言われるだけあり、レジェンダリアには常軌を逸した思考のマスターが多いようだ。ボクも、ここ数日の間に幼女と追いかける全裸女性以外に、テイムモンスターか何かのスライムに浸かりながら移動するマッチョとか、悪魔のような蝙蝠にも似た羽を片側だけ生やした高笑いする女性とかを見ている。高笑いする女性は、少し気になったから、話し掛けようとしてしまった。いや、だって、格好良いし⋯⋯。

 閑話休題。

 だからなのか、レジェンダリア関連のパーティーメンバー募集の書き込みの中でも、「普通の人」「一般人」「逸般人お断り」などはそれなりの数を見る単語だ。

 レスが来るまでにトイレと食事を済ましておこう。そう考えて、ボクはベッドから起き上がった。

 

 ◇

 

「⋯⋯クエスト⋯⋯アルター王国までの護衛⋯⋯その手伝い⋯⋯どんな職業でも歓迎⋯⋯ね」

 

 案外レスは早く返ってきていたようで、ボクがベッドを発ってからものの数分で概要が書き込まれていた。

 他にも、いつのまにかもう一人この掲示板に参加している。メンバー募集をかけた【戦士(ファイター)】のラインハルトと、【毒狩人(ポイズン・ハンター)】のみいこ。レベルとしては、ラインハルトは42、みいこは43。ボクは、【霊魂の案内人(ネクロガイド)】がレベル50で【死霊術師】がレベル13、合計63レベルであるため、二人よりは20レベル程度高い。まあ、昼間はほとんど戦えないため、ボクとしては、そこまで使えるわけでもないのだが、夜間はとても役に立てるだろう。

 みいこは参加する気満々であるため、彼らは実質的にはボクのレスを待っているようだ。

 まあ、恐らく【死霊術師】であることを伝えたら、彼らはボクとはパーティーを組めないと判断するに違いない。

 そう思ったのだが、彼らの反応はボクの予想するものとは違った。

 

「はぁ⋯⋯まあ、良いか」

 

「【死霊術師】だから何だ?」という反応と、「【死霊術師】なんて格好良い!」という反応。前者はラインハルト、後者はみいこだ。

 なるほど。この反応は、彼らの生来から来るものか、それともレジェンダリアの変態を見慣れたが故に出来るものなのか。まあ、その方がありがたい⋯⋯のかな。

 ボクは、参加することを伝える。

 すると、感謝するの短い一言と、細かいことは集合時に伝えるという旨、集合時間と集合場所についての記載があった。集合時間はあちらの世界で明後日の午後14時、こちらの世界では昼下がりだ。場所は初ログイン地点から程近い公園。それなりに時間はあるけど、まあ、向こうにずっと入れば良いかな。

 

 そう考えて、ボクは早速装置を付け、ログインした。

 

 ◇

 

 ログインして早々に、待機している彼らの身体を迎えに行く。

 

「《コンプリーティング・ネクロマンス》」

 

 これは、己のMPを使った従属アンデッドに対して、魂を送還し、仮初の命を抜き取る魔法だ。ちなみに、経験値は発生しない。

 これのお陰で、いつでもどこでも彼らをアイテムボックスに収納出来る。

 

「さて、取り敢えず⋯⋯行くか」

 

 煩わしい為と外していたフードを深く被り、ボクは昼下がりの街に繰り出した。目指すは師匠にオススメされた消耗品屋だ。

 




 感想、お気に入りよろしくお願いします。アドバイス、提案もよろしくお願いします。
 なんだかんだ言って、お気に入りとか評価が欲しくてやってる訳でもないけど、感想とか来たりお気に入り登録とかされると目に見えてやる気が出るのも事実⋯⋯。まあ、今は書き続けます。


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第八話 カイン=9の金策

 金策回。なんか、大金貰った。そんな回です。


 □霊都アムニール 【死霊術師】カイン=9

 

「またいらしてくださいねー」

「⋯⋯はぁ」

 

 消耗品などの買い物を済ませたボクは、手持ちのリルの少なさに顔を顰めた。

 特に使うことも無いので、必要無いと思っていたが、こうしてこの世界で暮らしてみると、かなり重要だということが分かる。

 仕方ないから、手持ちの物を売ろうにも、ボクの手持ちはドラウグルらの完全遺骸と彼らの武器、チーズや巻かれた古ぼけた紙など、売れそうなものは何も無い。

 

「手詰まり⋯⋯か」

 

 本当に手詰まりだ。取り出したチーズを眺めながら、ボクは溜息を吐いた。

 聞き忘れてたけど、今回のクエストの報酬が高ければ御の字、安ければどうにかして金策を行わなければ。

 

 そんな時、霊都の所々に設置されているベンチに座るボクに誰かが声をかけた。

 

「そこのお嬢さん、チーズなんか持ってどうかしたのかい?」

「ええ、まあ⋯⋯ええ⋯⋯」

 

 振り返り、声を掛けてきた存在を視認する。そして、ボクは困惑の声を漏らしてしまった。見知った顔だ。いや、ボクが一方的に彼のことを知っているだけだが、彼のことを思い出すのにかかった時間は一瞬。それ程までに、彼の印象(インパクト)は濃い。

 

「むむ? どうかしたのかな、お嬢さん。私の顔に何か?」

「⋯⋯いえ、なんでも」

 

 その存在は、一言に言って鍛え上げられた(マッスル)そのもの。貧弱なボクの語彙力では、彼の見事なまでに整った肉体をこれ以外の言葉で表現出来ない。割と顔も整っており、あちらの世界でならまあまあ人気のボディービルダーと言われても納得出来そうだ。

 

 だが、そんなことよりも、さらに目を引くもの。いや、目を逸らしたくなるもの。

 

「ああ、私のエンブリオが気になるのかな?」

「⋯⋯」

 

 気にならない訳が無い。その鍛え上げられた筋肉も目を引くが、その下にいるソイツはベクトルも次元も違う。

 ああ、だって、ソレ(・・)は⋯⋯

 

「TEKELI-LI TEKELI-LI」

 

「“ショゴス”は私の友人兼アッシー君だ」

 

 ショゴス、それは小説家ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの物語に登場する粘体生物(スライム)

 太古の地球に飛来した宇宙生物である「古のもの」達によって創造された、漆黒の玉虫色に光る粘液状生物。ネットの界隈では、その鳴き声と共にそれなりに目にするワードだ。

 だが、そんなものまでエンブリオになるのか⋯⋯。というより、そんな粘体生物の中に沈んでいること自体がおかしいのだが。アッシー君って⋯⋯。移動手段なのか。

 

 ボクが内心疑問を重ねていると、粘体生物はその身体を伸ばし、

 

「TEKELI-LI!」

「あ」

 

 ボクの手の中にあったチーズを攫っていった。あれ、もしかしてあの粘体の中って溶けたりするのか?

 

「こら、ショゴス! それはお嬢さんのチーズだ! ペッしなさい!」

「TEKELI-LI! TEKELI-LI!」

 

 筋肉とショゴスの格闘戦を見ること数分。

 とうとう根負けしたショゴスが、中からほとんど欠片になるまで溶けたチーズを吐き出した。シュウウという音を立てながら、急速に小さくなっていくそれを見て、ボクはショゴスに浸かっていたこの筋肉がどうしてデスペナルティになっていないのか気になった。が、なんとなく気合いとか努力とか言われそうなので聞くのはやめた。

 

「すまないな、お嬢さん。大事なチーズだったろうに」

「⋯⋯いえ、別に大事って訳じゃ」

 

 ボクの言葉を遮って、彼は捲し立てる。

 

「私の名前はジェイクだ。是非とも、君の悩みを聞いて差し上げよう。遠慮はしないでくれ」

「⋯⋯はぁ」

 

 彼、ジェイクさんはそう言うとボクの返答を待った。

 ⋯⋯どうしよう。この人には頼みたくない⋯⋯。

 

「⋯⋯何か、良い金策とかってあるかな?」

「金策? なるほど、君はお金に困っているのか! 尚更、チーズを奪ってしまったこと、申し訳ない!」

 

 この人、土下座しそうな域である。

 どうしよう、とても面倒臭い。いい人そうではあるけど、どことなくこの人はボクとは思考している次元が違いそうだ。

 

「なら、私がお金を出そう! 生憎と今の手持ちは三億リル程しかないが、どれだけ」

「いいや、お金は結構だよ」

 

 それ以上先は言わせない。

 ボクは、卑しい物乞いになるつもりは無い。だから、お金を無償で受け取るつもりは無いし、月夜さんにも師匠にも、お世話になった分は返す。

 

「⋯⋯そうか。それなら、良い仕事を見繕ってあげよう」

「良い仕事?」

 

 ボクが聞き返すと、彼は白い歯を輝かせ笑顔を見せた。そして、僕に背を見せて着いてくるよう促した。

 その姿は、なんというか貫禄に溢れていて、歴戦の覇者と言われても納得出来そうだ。

 

 下半身がスライムに取り込まれてなければ。

 

 ◇

 

 彼の後ろに着いて歩くこと十数分。

 彼は徐に立ち止まり、道の脇にあった建物を指した。

 

「ここだ」

「ここは⋯⋯?」

 

 看板には、何やら上手な絵でキャラクターが描かれている。それも美少女や美女ばかり。ガラス張りの壁には、内側からサンプルと書かれたイラストが貼り付けてある。そのどれもに同じく美少女や美女が描かれている。

 ⋯⋯オタク的趣味?

 

「ここは、絵画屋。それも、“コスプレした女性マスター”のイラストを専門に販売している店だ。ちなみに、男は外見が女であっても描かないし、男そのものも言語道断らしい」

「絵画屋⋯⋯?」

 

 絵画屋?それにコスプレした女性マスターって⋯⋯まさか。

 

「ここで、何をするんだい?」

「何って、君がコスプレをして、ここの店主に描いてもらうのさ! 君、見た感じだとリアルも女の子だろう?」

 

 そうだけど、なぜ分かったんだ。

 ああ、いや、余程ロールプレイ、ネカマが板についていなければ、VRMMOである〈Infinite Dendrogram〉じゃ所作で簡単に分かるのか。そんなことが、掲示板に書いてあったのを見た事がある。

 だけど、コスプレか⋯⋯。今のボクの身体じゃ、難しいモノがあると思うけど⋯⋯。

 

「何か、心配事でもあるのかな? 嫌なら、別のところを紹介するが⋯⋯」

「⋯⋯ボクのエンブリオが、問題で⋯⋯」

 

 ボクがそう言うと、彼は頭に疑問符を浮かべた。エンブリオが問題になるなんて、そうそうない事だし、その反応が普通なんだろう。だけど、ボクの〈エンブリオ〉TYPE:ボディの【半神死霊 ヘル】は、ボクの身体そのものに影響する。

 

「ボクのエンブリオ、TYPE:ボディっていうヤツで」

「ふむ、新種か。ボディ、というからには身体、アバターに影響を及ぼす類いかな?」

 

 ジェイクさんの言葉に頷いて、左手のガントレットを外す。そこには、目を覆いたくなるような惨状、腐敗した肉と黄色い膿、どろりとした血液が滴る紛れもないボクの腕があった。ちなみに、どういう訳か、何かに触れてもこの身体の肉片や膿、血液すらも付着することは無い。常に身体にくっついたままだ。そのお陰で、ボクの装備品は全然綺麗だし、そこは助かっている。

 

 ジェイクさんは、最初は驚いていたようだが、すぐに思案する顔になった。こうして真面目な顔をしていれば、見てくれは整っているのだが⋯⋯。まあ、下に問題があるので上なんて関係ないが。

 ほんの少しして、彼はボクを見つめた。

 

「なるほど。まあ、そんなことはあまり関係ないと思うよ」

「何故だい?」

 

 いやだって、こんな身体じゃあ、頭から下を隠し切れる衣装じゃないと駄目だと思うんだけど。そうしたら、着れる衣装も大幅に減ることは簡単に分かる。

 

「まあ、私も断言できないが。だけど、そう言うのはイラストだから誤魔化せば良いし⋯⋯」

「良いし⋯⋯?」

 

 まあ確かにイラストだから、そういうところも融通が効くだろう。だけど、ボクみたいな(ゲーム内とはいえ)腐敗した身体の女を直視して描きたいと思うような人間も居ないだろう。

 そう考えていたのだが⋯⋯、

 

「それに、うちの国は“変態の巣窟”だからね。ボクの知り合いにも、ゾンビ好きなマスターとか全然いるし、もっと言えばこの国にはネクロフィリアも何人かいるくらいだ。この国、本当に終わってるよ。それに」

 

 死体性愛、屍体愛好、屍姦好き(ネクロフィリア)⋯⋯。

 唐突に襲ってきた寒気、悪寒を頭を振って誤魔化し、話の続きを待った。

 というか、キミに「この国、終わってるよ」、なんて言われたくはないと思うのだけども。まあそういうことは飲み込んでおくべきかな。

 

「この店のオーナーは、人外娘大好きと言ってはばからないからね」

「あぁ⋯⋯なるほどね」

「ほら、案外大丈夫だろう? 私はここで少し休憩してから行ってしまうが、彼女は、アレで優しい人間だ。だから、心配することは無い」

 

 それなら、確かに大丈夫そうだ。

 ボクは、ちょっとした安心感を覚え、ジェイクさんにお礼を述べる。彼は、「気にするな、これもお詫びの印、というやつだ」と言って、スライムに肩まで浸かってしまった。そんな奇怪な行動にも、この少しの間にもう慣れてしまったボクが恐ろしい。

 

 まあ、物は試し⋯⋯かな。

 そう考え、ボクは取り敢えず、店に入ってみることにした。

 

 ◇

 

 扉に付いたベルを鳴らしながら店の中に入ると、綺麗に片付いていて、こざっぱりとした印象を持てる店内だった。こういう所は絵の具とかで汚かったり、紙が散乱しているイメージがあったのだが、ボクが思っているようなそういうモノではない様だ。

 しばらくすると、カウンターの裏から人影が見えた。

 

「いらっしゃいませ、ですわ」

「⋯⋯貴女は⋯⋯!?」

 

 出てきたのは、いつか見た“仮称片翼の悪魔”。まさか、こんな所で逢えるとは思わなかった。凄い、感動だ。

 黒のメッシュが入った美しい白髪を伸ばした長身の美女。そして、その右肩からは悪魔のような翼を生やしている。服装は、ズボンにTシャツという極めてラフなものだが、気飾ればさぞかし美しいだろう。

 そんな彼女は、ボクの姿を捉えるとすぐに目を細めた。

 

「貴女は、どっち、かしら?」

「⋯⋯買わない方、でお願いします」

 

 ボクが控えめにそう答えると、彼女は笑みをたたえて、「こっちにいらっしゃい」、そう言ってボクをカウンターの裏の通路に招いた。

 

 十数歩歩いて辿り着いたのは、絵描きの部屋という言葉がそっくりそのまま当て嵌る様な一室。

 ハンガーにはいくつもの服が飾ってある。そのどれもが、現実では着ないようなものばかりだ。

 

「じゃあ、下着以外、脱いでくださいな」

「⋯⋯見ても、驚かないかい?」

 

 ボクのその言葉に疑問符を浮かべた彼女は、次いで「もちろんですわ」と柔らかな微笑みを浮かべた。

 やっぱり怖いけど、ジェイク君も言ってたし、多分大丈夫。その筈だ。

 ボクは、ウィンドウを操作して、装備を全て解除する。

 

「まあ⋯⋯」

「この醜いモノが、ボクの身体、さ」

 

 彼女は驚いたかのように目を丸くしている。

 彼女の目の前には、首から下が全て腐食し黄色く膿んだ身体が晒されている。顔だけ腐敗していないのが、却って不気味だ。

 ボクの心情、考えについてとやかく言われてもボクはまったく気にも留めないけど、偶然の産物とはいえ見た目についてとやかく言われるのは年相応に少し怖い。

 

「⋯⋯い」

「え?」

 

 彼女は小さく言葉を漏らす。聞き取れなかったボクは、彼女に聞き返した。

 

 

「綺麗⋯⋯可愛いですわ⋯⋯人外娘ハスハスですわぁ」

 

「へ?」

 

 

 驚いて彼女の方を見ると、彼女の頬は赤く染まり、目はボク以外を映していなかった。怖い。心做しか息も荒いし。なんか変な事口走ってるし。

 というか、まさかそんなことを言われるとは思わなかった。

 

「是非、是非、私に描かせてくださいな!!」

「わ、分かったよ」

 

 彼女の圧に押されて、ボクは承諾してしまった。

 と言うより、このほとんど裸の格好、かなり恥ずかしいんだけど、服着ても⋯⋯え、駄目? ⋯⋯分かったよ。

 

 ◇

 

「はい、今日の分のお給料。またいらしてくださいな。カインさん、とても可愛かったですわ。私も満足でしてよ」

「⋯⋯どうも」

 

 結局、着せ替え人形となった末、絵もたくさん描かれ、開放されたのは夜の九時過ぎであった。

 一番最初に描かれた、ボクの下着姿のイラストは、彼女、アステリア・レイルさん──名前は途中で教えてもらった──が大切そうに抱えていたため言い出せなかったが、出来れば捨てて欲しかった。

 名残惜しそうにしながらも、艶やかで満足気な表情でボクに袋を渡す彼女の姿を見たら、なんだかんだ言って、悪くは無い仕事だったかな、とも思う。どうせ暇だったしね。

 まあ、際どい衣装とか多くてちょっとアレだったけど。

 にしても、コスプレか⋯⋯。いつか、また機会でもあればやってみるかな。

 らしくもなくそう考えて、もらった袋を開け、ボクは驚愕に目を小さく見開いた。

 

「⋯⋯なんか、沢山入ってるんだけど」

 

 いや、法外すぎる。なんで、こんな大金が?

 袋の中身全てをもらってしまっても良いものなのか。その額、ざっと1000万リルは下らないだろう。日本円で1億円は流石に笑えない。

 え、だって、ボク、服とか着てポーズ取ってただけなんだけど⋯⋯。

 リルの中に二つに折られた紙切れを見つける。

 

「⋯⋯ああ、そういうことか。いや、納得出来ないけど」

 

 要約すると、「色を付けておいたから、暇な時にでもまた描かせてね」ということらしい。まあ、それくらいなら⋯⋯。

 思わぬところでお金について解決出来てしまった。まあ、今後も通うということを考えたら、少しばかり時間が制限されるが、それでもメリットが大き過ぎる。いや、本当に、こんな大金もらって良いのかな?

 

「⋯⋯考えないようにしよう。それが良い」

 

 結局、ボクは思考を放棄して、リルを回収した。ちなみに、総額1500万リルであった。

 

 ⋯⋯いや、おかしい。

 

 この日、ボクはなんとも言えない罪悪感に苛まれながら、残りを過ごすこととなった。




 感想、お気に入り登録よろしくお願いします。アドバイス、ご指摘もよろしくお願いします。
 ⋯⋯投稿感覚、早いでしょうか?


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第九話 カイン=9の出会

 そろそろタイトルが思い浮かばなくなってきたこの頃です。



 □霊都アムニール 【死霊術師】カイン=9

 

 差し込む朝日の煩わしさを伴って、意識が覚醒する。

 この世界で寝るのは初めてじゃない。まあ、寝ずに地下墳墓に篭もっていることの方が多いのだが。

 

「んー⋯⋯よく寝た」

 

 この硬い石造りのベッドにも慣れたもので、初日は痛さに、寝起きの不快感に顔を顰めたものだが、今ではそれもない。むしろ、快眠出来ている程である。人間慣れる生き物とはよく言ったものだ。

 時刻を見れば、今は朝の六時過ぎ。集合時間までは、あと八時間程度は余裕がある。まあ、余裕と書いて暇と読むのだが。ああ、とても余裕()だ。こういうことさ。

 だが、そんな栓のなくグダグダとして、くだらない言葉遊びをしているのも飽きてきた。言葉遊びは節度を持ってするべきだ。

 さて、本当に何をしようか。

 

「⋯⋯そうだ、試行錯誤でもしようか」

 

 どうせやることも無い。ならば、兼ねてよりやろうと考えていた、とあることについて試行錯誤することにした。

 ククク、如何にも死霊術師っぽい、(ネガティヴ)の側面的行為だ。少し心躍る。

 

 アイテムボックスから色々と取り出して、それらを石の台座の上に置き、ボクはそれらと向き合った。気分は工作する子供番組のおじさんだ。

 

「どこから手をつけようか⋯⋯」

 

 時間はたくさんある。気の向くままにやろう。ククク。

 

 ◇

 

「ふう、完成だ」

 

 思ったよりも手間取ることも無く、簡単に終わった。それでも、丁度良い時間潰しにはなった。

 時刻は十二時少し前。公園までの道のりで適当に食べ物でも買って行けば、ぴったりだろう。

 そう考え、完成したソレをアイテムボックスに回収する。ストレージ容量を確認し、ボクは少し思案した。

 

「そう言えば、これだけリルがあるんだし、そろそろ、新しいアイテムボックスを買っても良いかもね」

 

 アイテムボックスは、常にドラウグルの完全遺骸と彼らの武器で満帆なのだ。初期配布のアイテムボックスも併用しているが、まるで足りない。これから先、何か重要な物が手に入っても、容量不足で持てないんじゃ笑い話にもならない。

 

「⋯⋯買っていこうか」

 

 そうと決まれば話は早い。

 ボクは、フードを被って小屋を出発した。暫くは戻らない。あのベッドともしばしの別れだ。名残惜しいわけではないが、感慨深いものがある。

 

 やっぱり、アイテムボックスにはどうしてか惹かれるものがある。

 

 ◇

 

 木で出来たシンプルな作りの扉を開けて、ボクはこれで三回目の来店となる鞄屋の店内を見渡した。いくつもの鞄、アイテムボックスが上から吊り下げられている光景は、何度見ても飽きない。あのアイテムボックスはどれくらい入るんだろう、あのアイテムボックスは何で出来ているんだろう。そう考えると、堪らなく全部欲しくなる。まあ、さすがに全部買えるほどのお金は無い⋯⋯と思うが。

 すると、小さく咳払いが聞こえた。

 そちらの方を見れば、そこには、標準(デフォルト)で退屈そうな顔を隠そうともしない、頭部の毛量の薄い店主が居る。カウンターの裏側で椅子に座って頭をポリポリと掻くその姿は、お世辞にも店員には思えない。

 そんな彼とは、もう顔見知りと言っても良いかもしれない。

 

「嬢ちゃん、また来たのか」

「また来たよ」

 

 ボクのことを嬢ちゃんと呼ぶ彼の顔は、非常に面倒臭そうだが、纏う雰囲気はそこまで非歓迎的なものじゃない。

 

「今日は買ってくのかい?」

「ああ。値段に糸目はつけない。ここで、一番小さくて一番大量に入る鞄、売ってもらえるかな」

 

 そう言うと、彼は目を丸くした。

 まさか、数日前には初心者丸出しのマスターであったボクが、そんなものを求めてくるとは思いもしなかったんだろう。ボクも同じ立場だったら疑う。

 

「⋯⋯嬢ちゃん、金は、あるんだろうな?」

「ああ、あるよ。1500万リル」

「は?」

 

 ボクが所持金を提示すると、彼は今度こそ絶句した。

 まさか、初心者がものの数日でそんな大金を持って帰ってくるなんて、誰が考えられるものか。

 

「それが本当なら、800万リルだ。800万リルで、おもしれえもんを売ってやる」

「買おう」

 

「ちょっと待ってな」、そう言って彼は店の奥に行ってしまった。何を持ってくるんだろうか。

 

「こいつだ」

「これは?」

 

 彼が持ってきたのは、黒い外套。それもローブの上から羽織れるタイプのものだ。

 はて、この外套に何があるんだろうか?

 

「これは、アイテムボックス付属式の外套。いや、外套型アイテムボックスって言った方が良いか」

「外套型アイテムボックス?」

「見てみな」

 

 店主は外套を捲り、裏側を見せてくる。

 そこには、びっしりとポケットがついていた。もしかして、これ一つ一つがアイテムボックスってことか?

 

「ポケットの数は驚愕の五十個。その一つ一つが、お前がこの前買ってったアイテムボックスレベルの収納量を誇る」

「⋯⋯」

 

 あのアイテムボックスは、初心者用鞄の三倍入る。それが五十個⋯⋯教室150個分、重さにして150トンか。なるほど。でも、もう少し入るものも⋯⋯

 

「さらに、これのすげえところは、外套装備でありながら、外套装備じゃあなく、アイテムボックスとしてカウントされるってぇところさ」

「?」

「要は、装備品の枠を取らねえ。この上から外套を装備することだって出来る。ちなみに、外套装備として装備品枠取って装備することも出来るぜ」

 

 なるほど。そういうことか。あくまでアイテムボックスだから、外套装備を別個に付けて戦力強化も図れる。

 それに、個人的な話だが、この先、何らかの上半身装備を手に入れた時、確実にこの初心者装備のローブは外すことになる。このローブが無いと、ボクの顔を隠すことが出来ない。

 だが、幸いなことにこの外套にはフードも付属している。

 

「しかもこいつは、外套装備でありながら、耐久力が異常に高ぇ」

 

 彼が懐から取り出したナイフをこの外套に突き付けると、普通なら破けるところ、なんとナイフを弾いたのだ。

 

「⋯⋯買おう」

 

 これは買うしかない。

 裾がボロボロに破けていて、見た目もかなり良い感じだし、何よりボクはこの外套を付けて戦う時を想像して、ある展望(ビジョン)が見えた。

 店主に800万リルを支払い、【黒箱外套衣】を入手する。そして、早速羽織った。

 うん、死霊術師らしさがワンランク上がった。そんな気がする。

 

「毎度ありー」

「ああ、また来るよ」

 

 良い買い物が出来た。8000万円分を使ったというのに、損をした気分は微塵も無い。まあ、もらった額がおかしかっただけ、というのもあるだろうが。

 

 まあそれはさておき。そろそろ時間だ。

 ボクは外套を翻し、公園へ向けて歩き出した。

 

 ◇

 

 公園に着くと、そこには全身皮鎧姿の男性が居た。頭部まで完全に覆っている。

 

「キミが、ラインハルト君か」

「⋯⋯貴女は⋯⋯みいこさん、ではないな。カイン=9さんで合っているか?」

「うん、ボクはカイン=9だよ」

 

 なるほど、彼は堅物だな。それも、ロールプレイに興じれるタイプの堅物だ。こういうのは、ロールプレイならなんでもする。どんな状況下でも聞き分けがないタイプだ。

 

「知っていると思うが、俺はラインハルト。【戦士(ファイター)】のラインハルトだ。君は要らない、ラインハルトで良い。これからしばらくの間、よろしく頼む」

「ご丁寧にありがとう。ボクは【死霊術師(ネクロマンサー)】のカイン=9さ。ボクもカインで良いよ。よろしく」

 

 握手を交わす。互いに篭手を通しての握手だが。うん、信用は出来ないが、信頼は置けるタイプだとは思えた。

 

「カインは見るからに、という感じだな」

 

 ラインハルトは、ボクの格好を指してそう言ったのだろう。確かに、この格好はなかなか怪しさ満点だ。

 

「そうかな? まあ、始めたばっかだけど、巡り合わせが良くてね。この通りさ」

「そうなのか。俺は初めてあっちの世界で一週間程度は経つな」

「ボクもそれくらいさ」

 

 まあ、この時期に始める、ということはボクと同じく中学生に上がったか高校生に上がったかのどちらかだろう。

 いや、あっち(リアル)の詮索はつまらないね。妙な考察癖はボクの悪い癖だ。

 

「取り敢えず、これからの話はみいこさんが来てから、だな」

「うん、ボクもそう思う」

 

 よ、とまで言おうとしたところで、向こうからバタバタと駆けてくる音が聞こえた。

 

「お待たせしましたぁ〜!!」

「⋯⋯いや、差程待ってはいない」

「ボクも今来たばっかだよ」

 

 ボク達がそう言うと、如何にもファンタジーな狩人といった見た目の彼女は、薄く橙色みがかった白髪を揺らして、ボク達に向けて小さく腰を折って謝罪した。

 騒々しい人かと思ったが、礼儀正しい人だな。

 

「【毒狩人(ポイズン・ハンター)】のみいこです! みいこ、と呼んでください。よろしくお願いします!」

「【戦士】ラインハルトだ。ラインハルトと呼んでくれ」

「で、ボクが【死霊術師】のカイン=9だ。ボクもカインで良いよ」

 

 元気の良い人だな。

 まあ、ラインハルトが冷静なタイプ、ボクもどちらかと言えば冷静よりなタイプだし、案外つり合っていて丁度良いのかもしれない。

 

「じゃあ、そろそろ行こう。今回の依頼主とは、霊都の門の前で合流する約束だ。歩きながらにでも話そう」

「了解」

「分かりました〜」

 

 歩き出したラインハルトに追従して、ボク達も歩き出す。

 まあ、募集をしたのはラインハルトだし、ボク達はあくまでもヘルパーだから、リーダーは彼で良いだろう。

 

 公園を出てしばらくすると、ラインハルトが徐ろに話し出した。

 

「俺は、〈エンブリオ〉の恩恵もあって、前衛を張れる。みいこには後衛をお願いしたい。カインには⋯⋯」

「ああ、ボクなら昼間はあんまり役に立てないから、夜間までは補助要員ってことで。夜間は、ボク一人で構わないからさ」

 

 最低限の出来ることと出来ないことは申告しておく。これはパーティーを組む上で必須だ。特に、ボクが何も出来ないような役立たずだとは思われたくない。

 だから、夜間は全てボクが引き受けよう。

 ボクの進言に、最初は訝しげにしていたラインハルトだが、少しすると納得したのか、ボクの方を見詰めて口を開く。

 

「了解した。期待してるぞ、【死霊術師】」

「ハハ、任せたら良いさ」

「私も頑張ります!」

 

 案外、パーティーというものも良いものかもしれない。

 まあ、護衛対象と彼ら(ラインハルトとみいこ)は殺させないさ。フラグ、じゃないよ。

 ボクなら、それが出来るからね。




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第十話 カイン=9の出立

 流石に一日二話更新はキツイですね〜。ただでさえ低いクオリティがさらに下がりました()
 それと、一話の誤字報告をしてくださった方、ありがとうございました。とてもありがたいです。


 □シンク林道 【死霊術師】カイン=9

 

 馬車隊の最後尾の馬車に揺られながら、遠ざかっていく緑を眺める。

 二つ先の先頭の馬車からは、朗らかな商人の声とラインハルトの声が聞こえてくる。

 

「いやはや、マスター殿、依頼をお受け下さりありがとうございます。助かります」

「いえ、俺達も依頼を受けたからには、貴方方を送り届ける責務がありますので」

 

 まあ、こういうこと、平たく言って機嫌取りは苦手だから、助かると言えば助かる。ラインハルトは素で誠実で気高い男の為、ボクみたいな怪しい風貌のマスターや、みいこみたいな緩そうなマスターよりも、彼らからすれば信用に値するのは分かる。

 実際、ロールプレイとはいえ、ラインハルトのあれは凄いと思う。

 だけど、こうして出番まで蚊帳の外というのも⋯⋯

 

「何だかねぇ」

「ですねぇ〜」

 

 隣のみいこも同意してくれる。いやまあ、理解してるかは分からないが。

 あまりにも暇なので、ボクは一時間前の出立を回想した。

 

 ◇

 

 特にこれといった会話もなく、道路を歩くこと数分。

 ボク達は霊都から、シンク林道──レジェンダリアからアルター王国へと続く道の一つ──への門に辿り着いていた。

 

 そこには、三台の馬車が停まっており、商人と見られるティアンや軽装に身を包んだティアンが荷物を積み込んでいた。

 その中の一人、身なりが最も良い商人風の男が、ボク達の姿を認めこちらに駆け寄ってくる。

 

「お待ちしておりました。貴方方が、今回同伴してくださるマスター様方ですかな?」

「そうです」

「そうだよー」

「ああ」

 

 ボク達の返答に満足気に頷いた彼は、「ナイール!」と向こうで忙しく働く中の一人を呼びつけた。

 

「マスター様、こちらナイールと申しまして、私の商隊の護衛隊長を務める男です」

「ご紹介に預かりました、ナイールと申します」

「ご丁寧にどうも。俺は、ラインハルト。こちらの狩人がみいこ、こちらの術者がカイン=9と申します。これから、アルター王国までの間よろしくお願いします」

 

 ナイールさんは、ラインハルトを見て、次いでみいこ、ボクと視線を移す。ラインハルトさんを見る時の彼の視線は、とても頼り甲斐のある男を見る物であったが、ボクとみいこを見る時の目は、怪しげな物を見る目であった。

 まあ、この世界を生きる者であるティアンであり、しかも、商隊の護衛隊長だ。彼、ナイールさんが、ボクとみいこ、特にボクを怪しげな物を見る目で見るのは納得出来る。

 あからさまに怪しい見た目だが、ラインハルトの仲間であるから一応の信用は得ることが出来たらしい。ラインハルト様様である。

 

「私共はまだ用意がありますので、ナイールと護衛の擦り合わせをお願いします」

「分かりました」

「さあ、こちらへ」

 

 ボク達はナイールさんに促され、馬車の一つに乗り込んだ。中には、小さな机とその上に地図があった。先程まで、彼らティアンの間で擦り合わせをしていたのだろう。

 

「シンク林道を抜け、国境を越える。ギデオンで補給を済ませた後は、ネクス平原、サウダ山脈を超え、アルター王国王都アルテアに到着するという流れです。五日間で到着する予定ですが、質問はありますか?」

「⋯⋯ギデオンへの到着は何日後となる?」

 

 ラインハルトの質問に、ナイールさんは答える。

 それはボクも気になっていた質問だ。流石に五日間拘束されるというのは難しい。あっちでの生活もある。

 

「二日の内には着くでしょう。マスター様の離脱はこちらも視野に入れております故、離脱は一声お声掛け下さい」

「了解した」

 

 なるほど。良心的だ。

 さて、それが分かればボクからも聞くことは無い。みいこも同様らしい。

 質問はあるか、というラインハルトの目線に頭を振ることで答える。

 

「それでは、準備が整いましたらお呼び致しますので、ご自由にお過ごしください」

「ああ」

 

 とは言われたものの、やることも無いし、今の内にアイテムボックス内の確認でもしておこうか。

 

 ◇

 

 こうして、ボク達は霊都アムニール、レジェンダリアを出立した。

 ⋯⋯したのだが。

 

「暇だね」

「暇ですね〜」

 

 暇だ。

 護衛だから分かってたとはいえ、まさか、ここまで暇なクエストだとは思わなかったよ。

 

「まあ、何も起きなければ幸い、だけどね」

「そうですねぇ」

 

 みいこと一緒になって、馬車の中でだらける。

 正直言って、やることが無いと言えば嘘になるが、それをこんな人目のあるところでやるというのも流石に気が引ける。いや、死霊術師ロールプレイの一環とでも思えば、出来ないこともないのだが、別に急いでやることでもなし、ということでやっぱり暇だ。

 

「御者君、後どれくらいだい?」

「マスター殿、まだ出立して間もないですよ。休憩まででも後五、六時間はかかります」

 

 そうか⋯⋯本当に暇だな。

 正直言って、暇過ぎて何か起きないかとすら思ってしまう程だが、早々何か、それこそ襲撃など起こるわけもない。

 

「⋯⋯はあ⋯⋯」

「カインちゃん、どうかした〜?」

「ああ、いや⋯⋯暇だなって思ってね」

 

 みいこは、あまり得意じゃない手合いだ。

 月夜さんのような命の危険を感じる程じゃないが、というより月夜さんも別に苦手というわけじゃないが、ボクは総じてホワホワとした緩いタイプや掴み所のないタイプは苦手らしい。

 まあ、アステリアさんの次、二人目となる知り合いの同性のマスターだから、仲良くしたいとは思う。

 

「良ければだけど、カインちゃんはリアルは何をしてるか、教えて欲しいな〜、なんて」

「⋯⋯」

 

 人のリアルに踏み込むものではない、そう忠告しようかとも思ったが、暇だし、それくらいなら問題ないと判断する。

 こういうタイプは、策士系と本当に緩いだけの二種類が居る。そして、ボクの感、女のカンってヤツは、彼女が後者の緩いだけのタイプだと判断した、というわけだ。狙ってやってる緩さではなく、天性の緩さだろう。

 

「ボクは、今年で十三になる。中学一年生のガキだよ」

「へえ〜じゃあ、私と一緒だね〜」

「そうなのか⋯⋯へ?」

 

 それは驚きだ。まあ、大人であれだけ緩い感じだと逆に心配になるが、まさかボクと同い年だとは思わなかった。

 

「まあ、アバターは大人っぽく頑張ってみたから、そんな風には思われないけどね〜」

「いや、大人っぽくはないと思うけど」

「ええ〜。そんなことないよ〜、頑張ったんだから。プンプン」

 

 口でプンプンなんて言う人初めて見たよ。

 ボクが参加しているコミュニティー“闇に飲まれし若き集い”にも、こういうタイプは居ない。

 まあ、あそこはあそこで別のベクトルに傾いてるからね。ボクも、語彙(ボキャブラリー)が増えるから案外重宝している。というか、話が合うから、結構居心地が良いのも事実だ。メンバーの“Juli”さんとは、あちらが中学生、先輩後輩という繋がりで受験期間中など、よくお話したものだ。今も交友は続いているが、あちらも〈Infinite Dendrogram〉に没頭しているらしい。〈Infinite Dendrogram〉においても彼女の方がボクよりも先輩だ。

 

「そんなこと言ったら、カインちゃんは若すぎじゃない〜?」

「いやまあ、ボクはボクでリアルそのままの顔だからね。全く変えてないし」

「へ?」

 

 信じられないものを見るかのような目で見られる、とはこういうことなのか。

 Juliさんにこのことを伝えた時は、素の状態で凄い心配されたものだ。というか、叱られた。流石に、髪の色とか目の色くらいは変えるべきだっただろうか。とは言っても、もう今更だ。

 だけど、みいこにそんな目で見られるのは不服だ。今ならその気持ちもなんとなくは分かるけど。

 

「くくくくく」

「あはははは」

 

 自然と笑みが込み上げてくる。

 なんだかんだ言って、同い年との会話、というのは案外楽しいものだね。それは認めよう。実際、大人と語らうのはあまり好きじゃないけど、コミュニティーのメンバーや、今こうしてみいこと会話するのはとても面白い。

 ボクの目に広がる世界では、彼ら彼女らのような歳の程近い存在は得難いものだからね。理解者(シンパサイザー)は、貴重な存在さ。

 

「ま、これからよろしく頼むよ」

「良ければ、フレンド登録しよ〜?」

 

 ありかな。

 ボクはみいこの提案を受け入れ、フレンド画面を操作しみいこにフレンド依頼を送信、彼女の方も直ぐに承諾を押したようで、ボクのフレンド欄にはアステリアさんに続き二人目のフレンドが登録された。

 

「じゃ、このクエスト終わらせたら、王都で少し遊ぼ〜?」

「ああ、構わないよ」

 

 実際、終わった後は商隊の用事が終わって帰路に着くまで暇なので、その申し出を受けることは全然構わない。

 現実では今日で2月25日。中学校が始まるまでは、あと一ヶ月と一週間ちょっとある。帰路も含めれば、大体四日間はこのクエストに取られることになるが、アルター王国にも行ってみたかった為、それは全然問題ない。憂鬱だが。

 

「じゃあ、クエスト達成まで、がんばろ〜」

「ああ、そうだね」

 

 取り敢えず、御者の生暖かい視線が気になって仕方ないが、無視しよう。無視だ無視。

 どうせ暇だし、今の内に睡眠を取っておこう。

 そう考えて、ボクは馬車の床に雑魚寝する。みいこが何か言っているが、もう耳に入って来ない。

 暖かな風が吹き付ける中、ボクの意識は闇に沈んでいった。

 

 こうして、クエスト初日は何事も無く終わりを迎えたのであった。




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第十一話 カイン=9の夜間

 駆け足過ぎて、少し微妙な、そんな感じが⋯⋯。


 □シンク林道 【死霊術師】カイン=9

 

 薪の火が、月明かりすら薄らとしか届かぬ暗くなった辺りを照らす。出立の翌日。ボク達はあと少しでシンク林道を抜ける、そんな所まで来ていた。

 

「それでは、カイン=9様、今宵の夜間の警護、よろしくお願い致します」

「ああ、任せてくれ」

 

 他の二人はあちらの世界での、それぞれの事情で、野営地点に着いてから早々にログアウトしている。

 まあ、彼らもマスターで、リアルある者故、致し方ないことである為、ボクも特に言うことは無い。というよりは、昼間に出没したモンスターは彼らに任せっきりだったからその分、ボクも働かなきゃいけないとボクから願い出たのだ。

 腰に付けたアイテムボックスから、ドラウグルの完全遺骸を四つ取り出す。それに合わせ彼らの装備品も。

 

「《死霊術(ネクロマンシー)》」

 

 動き出した彼らは、各々、落ちている武器を拾い上げて腰や背中に装備する。

 ボクが今死霊術で蘇生したのは、片手斧使いのD1、大剣使いのD2、二刀使いのD3、両手斧使いのD4。基本的に、戦闘は彼らに任せっきりだが、まあ、【死霊術師】とはそういうモノだと思う。

 

「D、馬車隊の周り十メートルを探索。探索終了後、馬車隊近くで四方警戒」

「「ウォォ⋯⋯」」

 

 ドラウグルらに指示を出し、ボクは薪近くの椅子代わりにしている大きな石に座った。残りMPは半分程度。やはり、MPを注いで作るにはボクのMPは貧弱過ぎる。そこら辺も考えなくては。

 そう言えば、師匠は元気だろうか?二週間程度開けるという旨を記した置き手紙を置いてきたが。そもそも師匠、どこに行ったんだろうか?あの人が死ぬとは思えないし、ああいう類の人間が責務──彼は【死霊術師】のクリスタルの守り手らしい。──を放り出して逃亡することも考えられない。まあ、全て僕の憶測で、希望的観測でしかないが。

 あれこれ考えていると、カップを二つ持った商隊長さんが、こちらに歩いてくるのが見えた。「お隣、座っても?」と尋ねられたので、別段問題も無いため頷くと、彼はボクの隣の石に腰かけた。

 

「カイン=9様、お飲み物でも如何ですかな?」

「ああ、ありがとう。頂戴するよ」

 

 差し出されたカップを受け取り、カップの中身を見詰める。やっぱり、今のボク、凄い不気味だな。水面に映るボクの姿は、一言に言って闇の魔術師、悪の魔術師と呼んでも何ら遜色のないものであった。

 だが、どういうわけか、ゾンビやスケルトンのようなあからさまなアンデッドではなく、ドラウグルという未知だが屈強な戦士を彷彿とさせる彼らを使役しているボクは、彼ら商隊の死霊術師への見解を塗り替えた、らしい。らしい、というのはナイールさん含む護衛隊の人達からは、あからさまに警戒されているからだ。まあ、当たり前だけど。逆に、そんなすぐさまボクへの見識を改める彼ら商隊長達の方が心配になる。

 別に、Dも結構見た目的にはアンデッドしてると思うけど。そう言ったら、商隊長は「纏う気迫がアンデッドとは違う」と熱弁してくれた。まあ、悪い気はしなかったけど。彼も、変わってるな、とは思った。

 

「⋯⋯カイン=9様は」

「カインで良いよ」

「いえいえ、そういう訳にもいきません。私達ティアンからすれば、マスター様方には守って頂かなくてはなりませんので。ナイールや護衛隊だけでは我らの戦力も心許ない限りですので」

 

 ナイールさんはレベル48の【騎士(ナイト)】。他のティアンの人達もそれより低い場合はあれど高い人は一人もいなかった。

 まあ、この旅が終わる頃にでも、打ち解けられれば良いさ。

 商隊長は、ごほんと咳払いをしてもう一度口を開く。

 

「カイン=9様は、お若い様ですが、どうして【死霊術師】に?」

「⋯⋯どうして⋯⋯か。まあ、一言で言うなら、魂の在り処、それを見つけたいんだ」

「魂の在り処、ですかな⋯⋯それは、どのようなもので?」

 

 どのようなもの、そう聞かれるとまだ分からないとしか言いようがない。ボク自身、あの感覚が何なのかは確証がないし、それは気の所為だ、そう断じられてしまえば言い返せなくなる。

 だけど、

 

「魂は、死んだらそこで途切れるものじゃない。宗教なんて信じないけど、ボクは、魂の旅路にはまだ先があると、そう思っている。それこそ、終わりなき旅路が、ね」

「終わりなき旅路⋯⋯ですか。それは、マスター様方の感覚からくるもの、ではなさそうですね」

 

「まあね」、そう言ってボクは後ろで警戒を続けるDの一体を見詰めて話を続けた。

 

「言ってみれば彼ら、ドラウグルに留まらず、アンデッド達にはボクや君達に宿るような魂がある。そんな気がするのさ。それは、ボク自身でも定かじゃない、ただの直感に過ぎない」

 

 だけど、これだけは言える。

 

「ボクは、君もボクも同じ生きとし生けるものの総括、その断片(パーツ)のひとつとして“生きている”、そう考えている。いや、魂を有するモノとしてはアンデッドもその括りに入れてあげたいんだ」

 

 何を言っているのか、分からないと思うけど、ね。

 温くなった紅茶を飲んで、乾いた喉を潤す。

 

「いえ、素晴らしいお考えだと、私は思います」

「そんなお世辞は」

 

 ボクの言葉を遮り、彼は力強い言葉を放った。

 

「貴女の考えは、私達ティアンとは一線を画する。私目の見てきたマスター様方の中にも、貴女程に高尚で素晴らしい視点を持つ方を、私は見たことがありません」

「⋯⋯ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」

 

 フードを引っ張り熱くなった頬を隠す。

 そんな事を言われたのは初めてだ。

 そもそも、こんなことを赤の他人に喋ったこと自体初めてのことで、どうしてこんなにもすらすらと話したのか自分でも不思議で仕方ない。

 でも、

 

「クク」

「どうかされましたかな?」

「ああ、いやなんでもないよ。ちょっとおかしかっただけさ」

 

 言えて良かった。

 彼のお陰で、ボクも決意が固まった。

 

 

「ボクは、この目的を、必ず果たす」

 

 

 この〈Infinite Dendrogram〉を楽しみながら、ね。両立させることくらい、ボクには容易いことさ。

 だって、この世界を実験場程度にしか思わないなんて、失礼なことだろう? なら、ボクは両立させなきゃいけない。

 全く、罪なゲームだよ、〈Infinite Dendrogram〉。

 

 だが、まあ、そうじゃなきゃボクもやらないさ。

 

 ◇

 

 商隊長も戻り、商隊のほとんどが寝静まった頃、ソレは訪れた。

 

「ウォォ⋯⋯」

「⋯⋯敵、か」

 

 D1が武器である片手斧を構える。それに釣られるかのように、他のDもそれぞれの武器を構えた。

 

「D1、D3馬車を守れ。D2とD4は半径50メートル圏内を散策、見つけ次第に排除しろ」

「「ウォォオ!!」」

 

 それぞれに指示を出し、ボクはアイテムボックスを漁る。そして、新たに四体のドラウグルの完全遺骸を取り出し、《死霊術》を行使した。回復していた魔力がごっそりと削られる。これで、MPはあと三分の一程度。

 かくなる上は、まだ完成していないけど、奥の手を使うしかない。

 

「D5からD8、命令があるまで待機」

 

 立ち上がった彼らに指示を出し、ボクはその場で警戒する。夜目が利くわけでもなく、そういう類のスキルを持っているわけでもないボクは、この未だ燃え盛る薪が生命線となる。

 

 暫くすると、森の方から何らかの獣の唸り声とドラウグルの威嚇の叫びが聞こえてくる。

 狼系のモンスター【ティールウルフ】か。数にもよるが、ドラウグルが押される程じゃないだろう。

 だが、念には念を入れる。

 

「D5、D6。D2達の加勢に行け」

 

 指示を出した二体が、戦闘音の方へと走って向かっていく。これで死なれたら困るが、まあ、大丈夫⋯⋯

 

「GARRRRR!!」

「うわ!?」

「ウォア!」

 

 ⋯⋯じゃなかった。

 D7が庇ってくれなければ、確実に易くないダメージを食らっていた。

 今回はかなり数が多いな。まさか、二方に別れて襲ってくるとは。

 D2達が戦闘を終わらせてこちらに戻ってくるまで持ち堪えられるか、正直言って五分五分、だな。何故って?それは、ボクが弱いからにほかならないね。Dにボクを守らせながら戦うのは少しばかりきついものがあると言えよう。

 まあ、耐久力はどういうわけか【戦士(ファイター)】であるラインハルトを差し置いて、このパーティー内で一番高いのだが、ローブの防御力など皆無なので、ラインハルトやみいこよりも紙装甲なのは確かだ。この状態になってから死んだことは無いのでどれだけ脆いのかは分からないが。

 

「取り敢えず、ボクの命に代えても、Dが彼らに指一本触れさせないよ⋯⋯ってとこかな」

 

 これ、フラグだったりしないよね?

 そんなことを気にしている場合か、とでも言うかのようにティールウルフが襲い掛かる。

 

「GARRR!」

「D7、反撃! D8、先制!」

「ウオォ!!」

 

 噛み付かれながらのD7の両手斧による一撃が、狼の頭を粉砕した。次いで、こちらの様子を伺っていた一体をD8の二刀の短剣が切り捌く。

 

「何とかなりそうだ」

 

 残ったティールウルフの数を確認し、ボクはそのままDに次なる指示を出した。

 

 ◇

 

「ふう⋯⋯こんなものか」

「ウォォ⋯⋯」

 

 何とかなった。途中から、護衛隊のメンバーも加勢してくれたこともあり、当初の予想よりも損害は軽微であった。

 だが、損害は決して無視できるものでは無い。

 

 

「⋯⋯ありがとう、勇士(D7)。安らかに逝け」

 

「ァア⋯⋯ァァ」

 

 今にも命尽きようとしているD7の傍らにしゃがみこんで、労いと感謝、弔いの言葉をかける。

 一人の戦士(ドラウグル)の身体は、光の粒子となって消えていった。魂の在り処へと逝く、というにはいささかに軽い。彼に申し訳なく思う。

 

「⋯⋯D、起動終了。《コンプリーティング・ネクロマンス》」

 

 片膝を着いた状態で起動を停止した彼らの体は、最初からは掛け離れてボロボロであった。ティールウルフらに噛み付かれ、引き裂かれたその肢体は、生気のない物と言えど痛々しい限り。ボクがもっと上手くやれていたら、彼らを傷付けることは無かった。それは紛れもない事実だ。

 

 ああ。申し訳ないという思いか、これは。

 ボクの力不足が招いた現実と、それに晒された彼らの姿をまざまざと見せつけられるようで腹立たしい(・・・・・)。魂を冒涜してでも甦らせたというのにこの体たらく。子供の癇癪のようなものか。

 

 弱いな、ボクは。

 

 登る朝日に照らされながら、ドラウグル達を回収する。

 護衛隊の一人から掛けられた言葉を無視して、ボクは馬車に乗り込んだ。




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第十二話 カイン=9の到着

 駆け足だけど到着。今回、一話並みの文字数。ここのところ、厨二病成分が薄くて辛い。どうにかしないと。


 □国境付近 【死霊術師】カイン=9

 

「そろそろ国境、か」

「そうだね〜」

 

 ログインしたラインハルトとみいこに、昨夜の襲撃について報告し、準備を整えたボク達は、国境を越える為出立していた。

 それから間もなくして、国境付近に辿り着いた馬車。ボクとみいこは、御者の隣から、遠くに小さく見える決闘都市ギデオンを見つけ、少し浮いた気持ちとなっていた。

 

 そんな時、吹き抜けた風に乗って、ここ数日でもう慣れた異臭に気が付く。それは、鼻がおかしくなりそうな悪臭。ファンタジーモノには必ず出てくる小人のものだ。

 

「⋯⋯襲撃だね〜」

「ああ、任せた」

「よろしくお願いします、マスター様」

 

 御者の彼とボクの声援を背に、みいこは、馬車から軽快に飛び降りた。

 見れば、先頭馬車に乗っていたラインハルトも、既に槌を装備して戦闘態勢を取っていた。

 

「ラインハルト〜、ちゃっちゃとやるよ〜!」

「油断は、するな」

「はいはい〜」

 

 ラインハルトは、さして気にするわけでもなく、静かに当たりを警戒する。恐らく、比較的隠れる場所の少ない国境付近に出現するモンスターで、あまつさえ気配を隠す知性があり、あのような悪臭を放つのは⋯⋯

 

「ゲギャギャ!」

「やはりゴブリン、か」

「ゴブリンですね〜」

 

 唐突に、近くの岩陰から飛び出した小汚い小人は、ラインハルトへと、短剣で持って斬りかかる。

 その一撃はラインハルトの左手の盾によって防がれ、お返しとばかりに、右手の片手槌による迅速且つ重い一撃が見舞われる。

 

「ふんっ!!」

「ゲギャ!?」

 

 それは、ゴブリンの脇腹に命中して横薙ぎに吹き飛ばす。四、五メートル程度吹き飛ばされたゴブリンは、光の粒子となって消滅した。レベル差的にも、ステータス的にも彼の方が圧倒的に強い。

 

「ギギギャ!!」

「⋯⋯っ!」

 

 だが、ゴブリンはまだまだ居る。合計で十体程度はいるんじゃないだろうか。ティールウルフよりも人間的に思考する分、読みやすくはあるが、難敵だ。

 

「ラインハルトには、指一本触れさせないよ〜!」

「ギ⋯⋯ィ⋯⋯!?」

 

 新たに現れた内の一体が、ラインハルトへと襲い掛かる手前で、みいこによって番え撃ち放たれた毒矢(・・)に貫かれ沈黙する。動かなくなってから暫くして、力尽きるかのように光の粒子となった。

 

 みいこの〈エンブリオ〉である緑の弓、TYPE:アームズ【必命貫弓 フェイルノート】は、番えた矢を当てたい部位に必ず命中させるスキル《必当の弦》というスキルがあるのだとか。成功判定は、狙った部位の致死率と、自身と相手のDEX、AGI、LUCの三つのステータスに依存するらしい。

 だとすると、みいこのジョブである【毒狩人(ポイズンハンター)】との相性はかなり良い。当てられさえすれば、【毒狩人】の本領である毒をどう使うかなど考えるまでもない。

 実は策士なのか? ⋯⋯いや、そんなことないか。

 

「⋯⋯ボク、やっぱりあんま必要無いよね⋯⋯まあ、ずっとログインしてる分、夜の警備とかはボクが全部引き受けるけどさ」

 

 どうしよう。暇過ぎて、思考から漏れ出た独り言が加速する。

 そんなボクを哀れに思ったのか否か、御者がボクに話しかけて来る。

 

「それにしても、マスター様はお強い⋯⋯」

「だね⋯⋯。特に彼らの連携はなかなかだよ」

 

 そうなのだ。彼ら、初対面のはずなのだが、やけに連携が取れている。正直言って、夜間さえなければボクなんか必要ないレベルだ。言ってて悲しくなってくる。

 

「いえいえ、カイン=9様にも助けられております」

「いやいや。昼間は彼ら、夜はボク。当然のことってヤツさ」

 

 そう。当然のことで、別にボクに賛辞が送られることじゃない。

 だが、どういうわけか、彼らはボクら〈マスター〉に対して腰が低いのだ。曰く、商人の癖みたいなものらしい。よく分からないが。

 

「そろそろ終わったようだよ」

 

 先程から比べて随分と静かになった。

 ラインハルトの声とゴブリンの悲鳴が聞こえ、そちらの方を振り向けば、そこにはゴブリンに向けてハンマーを振り下ろすラインハルトの姿が。

 

「っらぁ!!」

「ギギィ!?」

 

 そして、振り下ろされたハンマーは最後のゴブリンの頭を打ち砕き、戦闘が終了した。

 

 

 

 ⋯⋯かに思われた。

 

 

 

「⋯⋯うぅっ!?」

「みいこ!」

 

 少し離れた場所にいたみいこの苦悶の声が聞こえ、そちらを振り向けば、そこには腹部から剣の切っ先を生やして膝を付くみいこの姿が。

 その下手人を探せば、ソイツは、みいこの背中に足を掛けて刃を引き抜く最中であった。その顔は笑みをたたえて醜悪に歪んでいる。

 

「くはははは! マスターと言えど、闇討ちには弱いなぁ!」

 

 ソイツは、正しく盗賊といった様な出で立ちをしており、〈マスター〉ならロールプレイ、ティアンなら生粋の盗賊に思われる。そして、その右手には紫色の布が巻き付けられている。

 

「おい、お前ら! さっさとこいつら殺して、積荷を奪うぞ!」

「「応!」」

 

 後から現れたのは、似たような身なりをした四人の男達。皆同様に、紫色の布を右手に巻き付けている。

 その姿に、正確にはその紫色の布に見覚えがあるのか、御者の人が驚いたようにその名を口にした。

 

「パープル・クロス?! 近頃噂になってる、マスター殺しの極小規模盗賊団です!」

「マスター殺し?」

 

 ボクの疑問に、御者の彼は早口に答える。

 ギデオン周辺⋯⋯というよりは、レジェンダリア以外の場所については疎い為、彼らの知識を持ち合わせていなかったボクとしては、とても助かる。

 

「その名の通り、彼らの右手にある紫色の布が目印の盗賊団です。マスターを優先的に殺し、抵抗しない限りティアンは殺さないスタンスらしいですが⋯⋯」

「私たちの積荷を奪われる訳にはいかないのです! 何卒、どうか、何卒、我らの積荷をお守りください、マスター様方!」

 

 大声でボク達に助けを求め懇願する商隊長の声に押されるかのように、ボクは馬車から飛び降りた。

 そして、アイテムボックスから完全遺骸を取り出す。

 昼間はかなり厳しい戦いを強いられるが、やらない訳には行かない。

 ラインハルトも考えは同じだったようで、槌を構えてもう一度戦闘態勢に入っている。

 パーティーの欄を見れば、幸いなことに、麻痺にかかっているだけで、みいこはまだ死んでいない。

 

 なら、まだ笑って彼らを見逃せる。

 

「《死霊術》。D1からD9へ、一人につき三体で望め!」

「「ウォォ!!」」

「ひっ、ゾ、ゾンビ!?」

 

 ドラウグルを見た盗賊の一人が恐怖し、悲鳴を上げる。

 だが、その男に盗賊のリーダーが叱責した。

 

「何を狼狽えてやがる! 相手は所詮、日中のアンデッドだ! 俺たちパープルクロスの敵じゃねえ!」

「⋯⋯言ってくれるね。ラインハルト、リーダーともう一人は任せても良いかい?」

「ああ、任せろ。⋯⋯《望火昂尚結界(ザ・プロモーティブ・ファイア)》!」

 

 彼がそのスキルを宣言した瞬間、ボク達に暖かな感覚が与えられる。すると、ボクのステータスにHP自動回復速度向上やHP上限向上、SP上限向上などのバフが追加される。

 これが、彼の〈エンブリオ〉、TYPE:テリトリー【望火与聖 プロメテウス】のスキル。

 残念なことにボクには効いても、D達には効かないようだが、Dには時間稼ぎをしてもらうつもりだ。だから、ボクには考えがある。今度こそ、誰一人として魂の旅路に向かわせはしない。

 

「くそ、なんだコイツら! アンデッドの癖に、あんまり弱くなってねえぞ!」

「狼狽えるなっつってんだろ! 所詮はアンデッ⋯⋯っ!!」

「余所見を、するな⋯⋯!!」

 

 基本的に、日中のアンデッドの戦闘力低下は凄まじいの一言に尽きる。夜、上級パーティーを全滅させるようなアンデッドでも、昼には下級パーティーに殺られることがあるくらいだ。それくらいには戦闘力低下が著しい、のだが⋯⋯

 

「生憎と、ドラウグルは普通じゃなくてね!」

「ウォォオオア!」

 

 どういうわけか、ドラウグルはその低下が三分の一程度で済んでしまっているのだ。それでも、大きいものは大きいが。

 おっと、解説してる場合じゃない。

 ボクは、倒れ伏すみいこの元まで駆け寄った。

 

「みいこ、喋れるかい?」

「う、うん。なんとかまあ⋯⋯ごめんね、足引っ張っ」

「それ以上は言わなくて良い」

 

 幸いなことに、みいこに仕掛けられた麻痺毒は身体の自由を奪うだけの類だったようで、あまり強いものではなさそうだ。

 ボクはみいこの傷口に懐から取り出した瓶の中身を振りかける。

 一つは回復促進のポーション、もう一つは状態異常回復の解毒ポーションだ。どちらもそこまで高いわけではないため、あまり効果は望めない。そう思ったのだが、案外効くものだったようで安心した。

 みいこの麻痺が消え、《望火昂尚結界》によって強化された回復力とポーションの回復力強化でみいこの体力は瞬く間に回復していく。

 

 よろけながらも立ち上がるみいこに肩を貸し、不意に彼女に訊ねる。

 

「みいこ、やれる?」

「当然だよ!」

 

 その返答は、流石は彼女だと思わせるものであった。

 彼女は、〈エンブリオ〉を召喚し矢を番える。

 

「カインちゃん、ありがとうね! 私、働くよ!」

「了解。絶対に勝つよ」

 

 弦を引き絞り、狙いを定めるみいこの姿は、不思議と見惚れるものがあった。

 ⋯⋯見惚れている場合じゃない。

 見れば、D達は段々と押されてきている。

 

「ボクも、奥の手を出す、かな」

 

 ボクは、MPポーションを浴びるように飲み干す。そして、外套の裏側に隠すようにしながら、一つの遺骸を取り出した。

 

「《コンプリーティング・ネクロマンス》」

「ウァ⋯⋯」

 

 戦闘を続行していたD達は、糸が切れた人形のように地面に倒れた。最初は疑問に思っていた様子の盗賊団達は、死霊を操っていたボクを倒せば良いと判断したらしく、こちらへと駆け寄ってくる。

 ⋯⋯甘いね。

 

 膝を付く完全遺骸の背中に手を当てて、僕の残ったありったけのMPを込める。

 

 

 

「《死霊術》──行くよ、英雄(・・)!」

 

 

 

 ボクが《死霊術》を発動した瞬間、今にもボクを殺そうと襲い掛かる彼らへと、ボクの外套の中から影が飛び出した。

 

 

「「ウォォォォォオ!!!」」

 

「ヒィっ!?」

 

 英雄の雄叫びが草原に伝播する。

 それは、いつか、ボクを殺したあの英雄【ドラウグル・コル】のものに他ならない。

 身体のいくつかの箇所を古ぼけた紙で覆われていることを除けば、その勇姿はボクを殺した時と何ら遜色はない。

 

「汝ラニ⋯⋯死ヲ⋯⋯」

「あ、殺したら駄目だからね」

 

 聞いているのか聞いていないのか、物騒な言葉を発した彼、DC1は硬直する盗賊団の一人に向けて飛び掛る。

 

「ウォォアア!!」

「がァッ!?」

「うグッ!?」

 

 左手に持つ斧の刃の無い方で盗賊の一人を殴り飛ばし、さらに、近くに居たもう一人の盗賊を蹴り飛ばした。

 その姿は、とても弱体化しているとは思えない。

 それもそうだろう。

 

 彼には、残るMPを全て注ぎ込んだ。それは、数値にしてD一体に込める時の五倍に及ぶ。

 陽の光で弱体化しにくいドラウグルの、それも英雄に、それだけのMPを注ぎ込んでいるのだ。むしろ、地下墳墓で戦った時よりも強くなっているのは想像に難くない。

 

「フゥア!!」

「ぐフッ!?」

 

 最後の一人の腹部に、斧を握った方の拳で一撃を入れ、英雄は瞬く間に盗賊団の過半数を戦闘不能にした。

 流石は、ボクを殺しただけある。英雄も、敵ならば恐ろしいが、味方の時のなんと頼もしいことか。

 

 あちらは、どうなっているだろうか。

 そう思い、ラインハルト達の方を見れば、あちらも佳境に入っていた。

 

「くそ、てめえら雑魚みたいな動きの癖に、やりやがる!」

「賛辞として受け取っておこう」

「ありがとう〜!」

 

 苦しそうな顔をする盗賊団のリーダー、そして倒れ付す盗賊団の一人。対するラインハルトの声音には余裕が垣間見える。みいこは言うまでもない。

 ⋯⋯随分と余裕そうだな。援護には行かせなくて大丈夫そうだ。ボクは、《コンプリーティング・ネクロマンス》を唱えることで、英雄の魂を送り返す。【死霊古強者修復遺骸 ドラウグル・コル】をアイテムボックスに回収し、気絶している盗賊団数人を縄を借りて縛りに行く。

 その間にも、向こうの戦闘は聞こえてくる。

 

「さっきのお返し、だよ! 《麻痺毒付与(パラライズ・ポイズン)》! てやぁ!!」

 

 ラインハルトが盗賊団のリーダーをラインハルトが抑えている隙に、みいこが撃ち放った矢を足に掠らせた。

 すると、リーダーは膝を付いて動きを止めてしまう。その隙に、みいこは容赦なく《麻痺毒付与》の施された矢を撃っていく。

 ⋯⋯本当に容赦ないな。まあ、みいこも多少の恨みがあったんだろう。麻痺毒に多少なりとも耐性を持っていたあのリーダーが悪い。そういうことしておく。

 

 ◇

 

 彼らが動けない内に彼らの装備品のほとんどを解除し、縛り上げて、馬車の荷台に載せたボク達は、ギデオンへ向かう馬車や旅人の列に加わっていた。

 

「ありがとうございました。お陰で助かりましたよ」

「何より、ですね」

「うんうん」

 

 商隊長の安心した顔を見ると、何だかこちらまでほっとした気持ちになる。

 実際、今回は、ボクがポーションを買っていなければアウトだったかも知れない。自惚れるわけじゃないが、ゲーム初心者ガイドを見ておいて正解だったね。

 そして、それ以上に、ラインハルトが頑張ってくれていなければ、時間稼ぎすら難しかっただろう。彼には、感謝してもし足りない。まあ、したところで彼は受け取らないかもしれないが。

 

「さてと、これで一息付けるね」

「ああ、そうだな」

 

 ボクは、ギデオンへの列を眺めながら、安堵のため息を吐く。そして、同じく列を眺めるラインハルトに声を掛け、

 

 

「ラインハルト、頑張ってくれてありがとう。キミが居なければ、どうにもならなかっただろう。キミのお陰さ」

「⋯⋯ああ、その礼、受け取っておこう」

 

 

 どうしてか返事が遅かったが、それでも、ラインハルトはボクの礼を受け取ってくれた。これは信頼されてきたってことかな?

 それなら嬉しい、かもね。

 

 列が進み、やっとボク達の番となる。商隊長は、ナイールさんに受け付けで雑務を指示すると、ボク達に向き直った。

 

「それでは、マスター様方、我々は明後日まではこちらに滞在する為、暫くは自由行動となりますので、よろしくお願いします。何かあれば、お声がけ下さい」

「了解した」

「了解〜」

「分かった」

 

 ボク達は、それぞれ解散し、ギデオンの街を歩き始めた。

 ボク? 特に目的はない。だけど、ログアウトして、いろいろと済ましてから闘技場を覗いても良いかも知れない。

 

 ボクは、あれこれと考えながらギデオンの街を歩く。

 少し、その心持ちは明るかった。




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第十三話 カイン=9の休息

 ラインハルトとの交流イベントみたいな、そんな回です。
 今回は文字数少なめです。


 □決闘都市ギデオン 【死霊術師】カイン=9

 

 あの後、一度ログアウトしたボクは、あちらの世界での諸々と用事を済ませ、もう一度ログインしていた。

 ただ、今回はいつも通りとはいかず、一日と半日程度しか滞在できないが。

 

「⋯⋯そろそろ、かな」

 

 辺りはそろそろ日が昇る頃合い。

 ボクは、このギデオンで人を待っていた。彼は、もうログインしているようだし、すぐに来るだろう。

 ⋯⋯噂をすれば、というやつだ。

 向こうからこちらに駆け足で向かってくる人影に手を振る。向こうは手を振り返してはくれなかったが、代わりに走る速度を速めた。

 

「すまない。待たせた」

「いや、待ってないよ」

 

 実際、一時間程度しか待たされていないため、別にそんな謝ることではないのだが。ボクは、金髪慧眼の二枚目といった容姿の彼、ラインハルトにそう言おうとして辞めた。

 どうせ、彼は受け取らないだろう。

 待つのは得意だしね。

 

「じゃあ、行こうか」

「ああ」

 

 ボク達は、ゆっくりと大通りを歩き出した。

 人通りはほとんどなく、少し肌寒い大通りは寂しさを漂わせていた。

 

「本当なら、朝からみいこも来られれば良かったんだけどねぇ」

「彼女は、家庭の事情があるらしいからな。無理強いは出来ない」

「それもそうだ」

 

 まあ、夕方には来れると言っていたし、間に合うだろう。というより、現実世界は、今は午前二時過ぎなのだ。とても健康そうな彼女がログインしていそうにもない時間である。親とか、そこら辺の事情もあるだろうしね。

 

「さて。ラインハルトは、昨日の戦闘でレベル50になったんだろう? で、次に取るジョブをぼくに相談したい。キミはそう言ったね」

「ああ。カインはオレよりも〈Infinite Dendrogram〉に詳しそうだったからな」

 

 ⋯⋯んー。別にそんな詳しくないんだよねぇ。

 

「ラインハルトは、他にもいろいろとゲームはやっているだろう?」

「まあ、な」

「言ったらアレだけど、ボクはこの〈Infinite Dendrogram〉が初めてのゲームだぞ?」

「⋯⋯そうなのか?」

 

 あれ?言ってなかったかな?

 ボク自身、雰囲気でならなんとなく分かるけど、そんなにゲームに詳しいわけじゃないし、〈Infinite Dendrogram〉の事情に詳しいわけでもないんだよ。

 まあ、ラインハルトのために、あの人にいろいろと聞いてきてあげたけど。

 

「まあ、頼れる先達に教えを乞いてきたから、任せてくれて良いよ」

「⋯⋯恩に着る」

 

 その対価はかなり重たかったけど。特に精神的にキツイものがある。対価は一緒にお風呂とは、あの人は何を考えているのか。何が、「お姉ちゃんっぽいことしたいんや」だ。ボクはもう中学一年生だぞ。子供扱いもそろそろ辞めて欲しい。そう講義すると、「ツンデレいうやつやな」と流された。ボクはツンデレじゃない。せめてクーデレにしてくれ。いや、それも微妙だけど。

 頭を振って、思考を無理やり放棄する。考えるな。どうせ逃げ場はない。なんとも恐ろしいことだ。

 

「⋯⋯取り敢えず、どこか座れる所にでも行こうか」

「ああ、それなら、商隊の人から良い場所を聞いている」

「じゃ、そこに行こう」

 

 ラインハルトに道案内を任せ、ボク達は目的地へと向かった。

 

 ◇

 

「ここだ」

「ふむ。洒落たカフェってところ、かな」

 

 辿り着いたのは、かなりお洒落な雰囲気の木築のカフェ。朝早くからやっている割には、中には既に何人か客が居た。

 ボク達も近くの席に座り、給仕のティアンにコーヒーを二つ頼んだ。

 

「俺が出そう」

「いやいや、ボクが」

 

 受けてばっかりだけど、やっぱりなるべく施しは受けたくないんだ。そう言っても、彼は引き下がらなかった。どうしたのだろうか?

 

「カインがポーションを使わなければ、そして、あのアンデッドを出していなければ、俺達は負けていたかも知れない。お前には恩がある」

「いや⋯⋯あれは別に⋯⋯。はぁ、分かったよ。その礼、受け取ろう」

 

 彼はやはりロールプレイとか関係なく、根っからの筋を通すタイプなのだろう。だから、ボクが拒否したところで、彼はボクの分まで払おうとするに違いない。なら、ありがたく受け取っておこう。

 実際、あれはボクがボク自身に使うため、消耗品屋で買っておいたポーションであったのだが、あの感じだとボクが使うのはMPポーションだけであったし、今度からはMPポーションだけでも良いかもしれない。

 だけど、これからもパーティーを組むことがあると考えれば、仲間用にポーションを用意しておくのも一つの案だ。まあ、また礼とか言われるのは面倒だけど。

 

 閑話休題。

 ボクはラインハルトに、話を本題に戻すよう目で促す。

 

「ああ、すまない」

「いや、良いよ。誠意ある人間は嫌いじゃない」

 

 誠意ある、ということは何事にも真剣に取り組める証拠だ。ボク自身、誠意はあると自負しているが素直じゃないタイプ故、誠意を前面に押し出せる人間は尊敬する。

 ⋯⋯おっと、また話が逸れた。

 

「それで、キミは【戦士(ファイター)】の他に取りたいものが特にあるわけじゃないんだろう?」

「ああ。だが、白兵戦を主にしたいと考えている」

「なるほどね」

 

 彼の〈エンブリオ〉なら、後衛でも十分に戦えるとは思うが、彼自身の意見を尊重しよう。それに、彼の勇姿はドラウグルの勇姿に似て、見惚れるものがある。

 

「なら、上級職に上がれば」

「いや、そう考えもしたのだが⋯⋯。すまないが、俺はやれることを増やしたいんだ。俺が、ただしぶといだけでは、意味が無い」

「⋯⋯そうか」

 

 なるほどなるほど。やれることを増やしたい、ね。なら、答えは一つだね。

 

「それなら、【闘士(グラディエーター)】をオススメするかな。ボクの助言者曰く、その超級職である【超闘士(オーヴァー・グラディエーター)】は、もう枠が埋まってるらしいけど、オールラウンダーで色々できるって点なら、今のキミが求めるものにピッタリだと思うよ」

「⋯⋯【闘士】⋯⋯」

 

 月夜さんからは、他にも【騎士(ナイト)】や【蛮戦士(バーバリアン・ファイター)】、【狂戦士(バーサーカー)】に果てには【力士(レスラー)】なども紹介されたが、聞いてみた感じでは、【闘士】が適切だろうと判断した。

 彼も異論は無さそうな雰囲気なので、気に入ってくれたと考えよう。

 

「助言、感謝する。それでは、少し行ってくる」

「へ?」

「すぐに戻ってくるが、一応お金は置いていこう」

「いや、ちょ」

 

 彼はコーヒーを飲み干すと立ち上がる。そして、頼んだ分よりも明らかに余剰な分を含んだお金をテーブルの上に置いていくと、飛び出すかのように店を出て行ってしまった。

 

 ⋯⋯いや、流石に即決即行過ぎないか?まあ、彼らしいと言えば彼らしいけども。

 置いていかれたボクは、仕方無しに、まだ暖かいコーヒーを口に含んだ。

 

 ◇

 

 それから十数分が経ち、慌ただしく店の扉が開かれる。

 そこに居たのは、ラインハルト。彼は、椅子に座ると開口一番に「すまない」と謝罪した。

 

「待たせた」

「んー? いや、ボクはそんな待ってなどいないさ」

 

 ボクはボクで、このカフェに常備されているらしい適当な本を読んでいたため、そこまで待たされた感じはしない。お代わりのコーヒーもそこまで冷めていないし。

 にしても、キミ、謝罪し過ぎじゃないか?

 

「すまない、不快にさせたか?」

「⋯⋯ああ、いや。別にそういうわけじゃないんだ」

「?」

 

 これも、彼の素なのか?

 ⋯⋯もしかして、彼、ロールプレイしてない?

 ⋯⋯そんな馬鹿な。こんな堅物が、向こうの世界にいる、と言うのか?

 彼の透き通った慧眼を見つめ思考する。

 

「まさか、ね」

「どうかしたのか?」

「いや、なんでもないさ」

 

 不思議そうにする彼を尻目に、ボクは本を静かに閉じて、元あった棚に戻す。

 取り敢えず、時間はまだまだあるが、何をしようか。ボク自身、異性と遊ぶ事などないし、遊んだ事もない。そんなボクが、何か案を浮かべられる訳が無いのだが、ラインハルトは何か案とかあるだろうか。

 ボクは、ボク自身については適当にぼかしつつ、彼に聞いてみる。

 

「いや、俺も特に案はない。無策な男ですまない」

「いや、ボクも薄々そうだろうなとは思ってたさ」

 

 だが、そうすると、本当に何もやることがなくなってしまう。

 何か、何かないだろうか⋯⋯。

 

「ボクは学生なんだけど、ラインハルトはあっちで何をしてるんだ?」

 

 秘技、話繋ぎ。どうせ、話すこともないし、この際だ。多少、あちらの世界でのことについて話したところで、話題になりこそすれ、支障はないだろう。まあ、彼が嫌がれば、別の手段を考えるが。

 

「⋯⋯俺も、学生、高校生だ。それとこんな形だが、列記とした日本人だ。いつもキャラクターは金髪慧眼にしているからな」

 

 渋々ながらも、ラインハルトも応じてくれる。

 まあ、日本人だということは流石に分かる。日本人じゃなきゃ、そんな流暢な日本語は喋らない。あ、いや、高性能な翻訳機能があるんだったか。なら、これから先、日本語で話す相手が日本人だとは限らないんだな。なるほど、気を付けよう。

 だが、なるほど、学生か。高校生と中学一年生二人⋯⋯事案? ⋯⋯ま、まあ、何にせよ学生パーティーだ。

 みいことボクが同い年、彼が高校生。それなりには、ちょうど良いんじゃないか、そう思える。

 

「へぇ、なら歳も近いね。まあ、同じ学生同士仲良くやろう」

「ああ、こちらこそ。再度、よろしく頼む」

 

 同じ学生という認識(レコグニション)があるからこそ、ボク達の間の壁が無くなるというものさ。向こうも承知の上だろう。ボクに明かしてくれたのは、きっと信頼され始めているからに他ならない、と思う。

 だから、それを知れたという意味でも、この情報提示は意義のあるものだと、ボクは考えている。

 それに、これからも縁があるかもしれないからね。何かと向こうも気が楽だろう。

 

 ボク達は、もう一度握手を交わし、互いに絆を深めた。ように思う。いや、お互いを再度仲間として認識した、と言った方が正しいかな。

 

 仲間、やっぱり悪くないかもね。まあ、ボクは一人の方が気楽で良いけど、たまにはこうして友人と親しくするのも一興。

 そんなことを考えながら、ボクは、カップの中の残り少ないコーヒーを呷った。




 感想、お気に入り登録、よろしくお願いします。
 特に、そろそろ、感想欲しいなぁ、なんて図々しくもワガママに思ってみたり。まあ、来なくても全然まだ頑張れますけど、ね。でも、感想とかアドバイスを下されば、暗き道に光明が見えるというか(曖昧)
 ということで、これからも応援よろしくお願いします。


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第十四話 カイン=9の邂逅

 感想でも言われましたし、私自身、そう考えていたので、少しばかり早足となります。
 どうだろう、彼っぽいと良いなぁ。


 □決闘都市ギデオン 【死霊術師】カイン=9

 

 あの後、適当に観光していたボク達は、みいこと合流して、観光中に見つけた飲食店に訪れていた。

 

「取り敢えず、残りの道筋の方針を固めよう」

「おー」

「ああ」

 

 ラインハルトの言葉に、肯定の意を示す。

 ラインハルトも新たなジョブを手に入れた為、改めてボク達パーティーの役割分担を考えるらしい。

 別にそんなことをしなくても分かり切っているとは思うが、報告連絡相談は大切だろう。

 

「みいこは後どれくらいでレベル50になる?」

「私はね〜、あと2レベルだよ〜」

 

 メニューを操作しながら報告する彼女。あと2レベルということは、先にみいこのレベルを最大にして、王都に着いてからジョブを取ってもらうのも良いかもしれない。護衛中に出てきたモンスターをみいこに回して、こちらが援護すれば容易にとどくだろう。

 ラインハルトも同意見だったらしく、彼がみいこにその旨を伝える。

 みいこは、多少遠慮しているようであったが、細かく説明すると折れてくれた。

 

「カインは、どんな感じだ?」

「ボクは後少しで【死霊術師(ネクロマンサー)】が30レベルになるよ」

 

 《死霊術》で使役したアンデッドモンスターが獲得する経験値は、そのほとんどが使役者にいく。到達レベルに余剰がある場合は、そのアンデッドモンスターへの供給割合がもう少し大きくなるが、そんなことは早々無い為、今回の護衛クエスト間で獲得した経験値により、ボクのレベルはかなり高くなったと言えよう。

 ラインハルトは、得た情報を踏まえ考えをまとめたらしく、それなら、と続けた。

 

「俺が前衛をしつつ、みいこがとどめを刺していく形で行こう。カインは役目は無さそうだが、後半はまた、よろしく頼む」

「了解〜」

「分かった。任せてくれ」

 

 出立は、明日の夜明け。それまでは、羽を伸ばそう。

 

 ◇

 

 解散し、宿屋で各々仮眠を取った翌日。

 ボク達は、まだ日も登っていない早朝に、馬車の停泊場に集合していた。

 

「それでは、マスター様方、よろしくお願いします」

「ああ」

 

 ラインハルトは、もう既に脳も起きて元気そうだ。

 それとは対照的に、眠たげに目を擦るみいこの側によって、話し掛ける。

 

「寝られなかったのかい?」

「ううん。ただ、朝は弱くてねぇ〜」

「まあ明け方なら、まだボクも多少は戦えるから、ゆっくりしてて良いよ」

 

 明け方でも、既に半減するのだが、それはそれ。戦えないわけではない。

 ありがとうと礼を述べ、ゆったりとした動きで馬車に乗り込むみいこを見て、ボクは内心頭を抱える。まあ、みいこは大丈夫、だろう。多分。

 

 ボクは、不安を誤魔化すように辺りは見回した。

 そんな時、視界に映ったほっそりとしたローブに目が止まる。

 

「⋯⋯似た匂いがするね」

 

 四脚、人馬体のその存在からは、ボク、【死霊術師】と似たような何かを感じた。向こうもボクに気がついているようだ。

 惹かれたボクは、ふらふらと彼の元へと歩き出した。

 

「キミ、【死霊術師】か、それ以上のティアンだろう?」

「⋯⋯分かるか。【死霊術師】を選ぶだけのことはある、というわけか」

 

 まあ、【死霊術師】を選んだから分かったのだと言われれば、広い意味では間違いじゃないが、別に【死霊術師】になっても、分からない人にはわからないと思う。

 だけど、彼程に濃密なナニカを纏っていれば、誰でも分かるかも知れない。

 

「⋯⋯〈マスター〉が、“不死身の人でなし”が、私と同じ道を進むか」

「悪いかい?」

「⋯⋯いや、どうということは無い。あの座に着くのは、貴様らの様な凡百のアンデッドではなく、この私なのだから」

 

 あの座? ああ、もしかして【死霊術師】系統の超級職の事だろうか。まあ、別にボク自身、それが欲しいわけじゃないから、彼がソレを望んでいてもボクには関係の無いことだ。

 無いこと、だけど、

 

「キミは、どうしてソレ(・・)を目指すんだ?」

「どうして? ククク、不死身の人でなしがそれを聞くか」

「?」

 

 ⋯⋯ああ、そうか。何らかのメリットが、ボク達にあって彼らティアンに存在しない強みが、ソレにはあるのだろう。

 恐らくは、ボク達が〈マスター〉、プレイヤーであるからこそ備わっているモノ。彼らからすれば、チートそのものとしか形容できぬ不死性、ソレを求めているのやもしれない。

 

「ご名答。随分と頭の回る〈マスター〉だな」

「どうも。そういうキミも、随分とボク達のことを敵視しているようだね」

 

 そんなことを言われるとは思ってもいなかったのか、彼は、フードの下の顔を呆然とさせる。

 

「⋯⋯敵視してなどいないさ。ただ、羨ましいだけだ。何の努力もなく、産まれ出でたその時より、真なる不死性を兼ね備えた貴様らが、私はどうしようもなく羨ましいのだよ」

「⋯⋯へえ」

 

 言葉を紡ぐ彼からは、確かに、紛うことなき憧れ、羨望が垣間見えた。

 ティアンなら、そういう考えに至ることもあるのだろう。

 いや、ボク達よりかは、余程、その可能性が大きい。

 何せ、身近な所に、ボク達(マスター)という不死身の存在が居るのだ。羨望の気持ちは誰だって持つだろう。

 

 だが、そうか。初めて、そんな思考のティアンを見た。師匠(マスター)は正直言ってよく分からない人だし、ボクには計れない。だけど、この彼の想いは痛いくらいに分かる。分かってしまう。

 ⋯⋯面白い。

 

「キミの魂、どんな具合かな」

「⋯⋯貴様も、なかなかに狂っているな。私を見て、その魂を知りたがるなど、常人の〈マスター〉の思考とは思えん」

 

 そんな頓狂な言葉に、彼は嘲る姿勢を崩そうともしない。

 だが、ボクを嘲笑する彼の瞳に、ボクは映っていた。その瞳には、邪さなど欠片も無く、純粋な憧れがあった。それはきっと、ボクの魂への熱意に似たナニカである。

 

「下見に来てみれば、面白いモノと相対することが出来た」

「それはおめでとう」

 

 ああ、悪くない。キミは、ボクの到達点の一つにして未だ先の存在。そういうことだろう?

 ああ、だから、キミが死んだら、ボクのアンデッドにしてやる。

 

 

「キミ、死んだらボクが復活させてあげるよ。キミが欲する不死性だ。なあに、亡骸は大切にするさ。

 ──喜んでいいよ、兄弟子(・・・)クン」

 

 

「──抜かせ、妹弟子(・・・)。私は死なぬ。あの座に辿り着くまで、私は死なない。この道を、師匠にも貴様にも、凡百の〈マスター〉にも、邪魔させはしない」

 

 

 メイズ、彼はボクが超える。それまで、彼が死なないことを祈ろう。

 ボクは、彼に背を向けて、出立準備を終えたらしい馬車へと向かっていった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □王都アルテア 【死霊術師】カイン=9

 

「やっと着いた〜」

「ご苦労様でした、マスター様。滞在時間はそれほど長くはありませんが、明後日の出立までどうぞごゆるりと」

 

 そんなこんなで道中でも危険なことは無く、ボク達は、予定よりも遅れつつ王都アルテアに到着した。

 ギデオンでほとんどの荷物を降ろしている為、馬の負担も少なく、まあまあの距離だがここまで早く到着できた。これでも、予定より遅れているのは、アムニールからギデオンまで道中での襲撃が多かったからだという。

 荷降ろしを始めた商隊の面々に別れを告げ、ボク達は王都アルテアに歩き出そうとする。

 しかし、商隊長がボク達を呼び止めた。

 

「ああ、申し訳ございません。すっかりと忘れておりました。こちら、盗賊団“パープルクロス”捕縛の報奨金です」

「ああ、感謝する」

 

 商隊長が取り出したのは、少し大きめの布袋。

 彼らが引き受けてくれるということで、この前捕縛したパープルクロスの受け渡しをお願いしていたのであった。

 

「報酬は〜?」

「それは、ボクも気になるね」

「そう急かすな」

 

 ラインハルトが中身を確認し、絶句する。

 ?どうしたのだろうか?

 

「⋯⋯300万リルだ」

「嘘でしょ?」

「嘘だろう?」

 

 流石にそんなたくさん⋯⋯。

 だって、彼ら、案外あっさり倒せたぞ?

 

「彼らが盗んで行った物には王家への貢物などもございましたので。それと、ほとんど無傷で彼らを捕縛してくださったのもあったのでしょう」

 

 なるほど。確かに、マスター殺しを目的とするのだから、マスターが護衛する商人を狙うだろう。そんな商人は、大抵の場合重要な積荷を運んでいる。そんなヤツらをほとんど無傷で捕縛したのだし、それくらい報酬があっても頷ける。彼らのアジトを見つけ出すことも容易だろう。

 

「取り敢えず、三等分で良いか?」

「良いよ〜」

「ボクもそれで構わない」

 

 まあ、本当なら彼らが全部貰ってくれても構わないのだが、ここで変に遠慮するのも気が引ける。というより、お金はいくらあっても困らない。

 

「じゃー、これで今夜は宴だー」

「⋯⋯まあ、構わないが」

「昨日も宴じゃなかったかな?」

 

 いや、まあ、別に参加も吝かではないけど。でも、少しは自分の装備とかに使って欲しい。

 だけど、まあ、

 

「⋯⋯クク」

 

 なんだかんだ言って、ボク達は、良いパーティーになってきたと思う。

 あっちじゃ友達と呼べる存在は少ないし、Juliは盟友だし。似たようなものだけど。

 だから、こういうのも悪くないと思えるのは、素直に彼らのお陰だろう。

 

 

 

 ■【大死霊(リッチ)】メイズ

 

 拠点をギデオン近くに設け、カルディナとの協力も結び付けた。

 そして、何度目かのギデオンの下見をしていた時に、私はアレと出会った。

 元々、師匠(マスター)が新たな弟子、それも〈マスター〉の弟子を取ったということは、アムニールに潜む協力者から聞いていたが、よもやこのような所で会えるとは思いもしなかった。

 

 最初見かけた時は、何ら変哲のない凡百の〈マスター〉の一人かと判断しそうになった。だが、違う。

 あれは、まだ【死霊術師】であると言うのに、産まれ付いての“不死身の人でなし(アンデッド)”であると言うのに、あの時点で“アンデッド”であった。

 外套で隠しているようだが、私のような【大死霊】には一目で分かる。

 

「〈エンブリオ〉に腐敗させられた〈マスター〉か」

 

 〈エンブリオ〉、〈マスター〉の象徴足るそれは、〈マスター〉に多大なる力を齎すとされる。

 他でもないそれが、アレを、彼女を生きる屍(リビング・デッド)に変えたのだ。

 ならば、彼女こそ、【死霊王(キング・オブ・コープス)】に相応しいのやも知れぬ。世界が選んだ存在、なのだとしたら、私が辿り着く事は無いのかも知れない。

 

 だが、それでもあの座に着くのは私で、彼女ではない。

 

 真祖の吸血鬼にして、【無命王(キング・オブ・ノーライフ)】である師匠ですら、辿り着かなかったあの座に、私こそが辿り着く。

 そうすることで、私は師匠を超えたことになる。そう確信している。

 それを、ぽっと出の〈マスター〉如きに譲るつもりは無い。

 

 急がねば。【死霊王】となる為に、猶予はない。

 幸い、準備はあと少しで整う。

 

 それまでは、まだ雌伏の刻を過ごそう。

 




 恐らく次の話か、その次の話から突入する次章では、ガッツリと死霊術師っぽいことをしたいと思います。⋯⋯出来ると良いなぁ。
 それでは、感想、お気に入り登録、よろしくお願いします。誤字報告、アドバイスご指摘もどしどしお願い致します。


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簡易設定集その1
ここまでの設定


 今日は忘年会なので更新おやすみです。


■登場人物

 

・【死霊術師(ネクロマンサー)】カイン=9

通り名:“見習い死霊術師”

本名:戒能九玖(かいのうナイン)

年齢:13

メインジョブ:【死霊術師】(死霊術師系統下級職)

サブジョブ:【霊魂の案内人(ネクロガイド)】(霊魂の案内人系統下級職),

備考:主人公,本来の意味に近い中二病,それなりの速さでレベルを上げている,実は高所恐怖症,世界が腐らせた女

リアル:私立中学一年生,小説家志望

ネーミング由来:名前をもじったものに、九玖を数字に。

生年月日:2031年11月16日

保有スキル

魂の送還(ソウル・リマンド)》,《死霊術(ネクロマンシー)》,《アウェイキング・アンデッド》,《コンプリーティング・ネクロマンス》,《ネクロ・オーラ》,《ネクロ・リペア》,《ネクロ・エフェクト》,《ネクロ・エクスプロード》

デスペナルティ

【ドラウグル・コル】

<エンブリオ>:【半神死霊 ヘル】

TYPE:ボディ 到達形態:Ⅰ

紋章:“腐敗した女性”

 

・【無命王(キング・オブ・ノーライフ)】サイモン・ダガー

師匠。メイズ曰く“真祖の吸血鬼”。作者的には、『あれ?それってモンスターじゃない?』ってなった。

 

・【戦士(ファイター)】ラインハルト

暫定ロールプレイヤー。おそらく日系外国人。エンブリオは【望火与界 プロメテウス】。

 

・【毒狩人(ポイズン・ハンター)】みいこ

緩いプレイヤー。カイン=9と同い年。エンブリオは【必命貫弓 フェイルノート】。

 

・商隊の面々

暖かな商隊の面々。

 

・パープルクロスの面々

マスター狩りのティアン盗賊団。地味に懸賞金額が高かった。また出るかも。

 

・メイズ

サイモン・ダガーの元弟子。つまり、カイン=9の兄弟子。

 

 

■登場アイテム一覧

 

【死霊戦士完全遺骸 男性体ドラウグル】

アンデッドモンスター【ドラウグル】、その男性体の完全遺骸。

【死霊戦士完全遺骸 女性体ドラウグル】

アンデッドモンスター【ドラウグル】、その女性体の完全遺骸。ちなみに、本作ではそこまで男性体と女性体に対して言及はしない。

【死霊古強者遺骸 ドラウグル・コル】

【ドラウグル・コル】の遺骸。焦げてしまっていたり、とダメージが大きい。

【死霊古戦士修復遺骸 ドラウグル・コル】

【太古の羊皮紙】によって修復された【ドラウグル・コル】の修復遺骸。

【ジェム‐《ファイアーエクスプロード》】

【ジェム‐《ホワイトバインド》】

【古戦士の篭手】

【古戦士のブーツ】

【太古の羊皮紙】

古ぼけた羊皮紙だが、レジェンダリアの濃密な魔力によって変異している。古いものと親和性が高く、作中では、【死霊古強者遺骸 ドラウグル・コル】の損傷部位に貼り付け、【死霊古強者改造遺骸 ドラウグル・コル】を制作した。

 

 

■ストーリー

 

序章 新たな死霊術師の誕生

戒能九玖は自覚ある中二病にして、中学一年生の少女である。

彼女は、己の願いを胸に秘め、〈Infinite Dendrogram〉にログインする。

そんな彼女を待ち受けるモノとは⋯⋯?

 

一章 見習い死霊術師の護衛

晴れて【死霊術師】となった戒能九玖ことカイン=9。彼女は、己の願いを果たすことを第一としながら、〈Infinite Dendrogram〉をプレイしていた。そんな時、彼女はパーティーを組むこととなる。

彼女の初めての冒険、その行方は⋯⋯?

 

二章 死霊術師、死兵になる

【死霊術師】のレベルをカンストさせたカイン=9は、己の現状に悩んでいた。次に取るべき職業、自らのビルドについてである。

そして導き出す答え、それは⋯⋯?

 

三章 死霊術師、■■へ跳ぶ

 

四章 死霊術師、■■■■■

 

五章 死霊術師の■■■■■

 

――以降未定――

 

 

(°#°)←【ドラウグル】

 




 それでは、次回更新までお待ちください。


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肉体派死霊術師の完成
第十五話 カイン=9の発見


 久しぶりの投稿、と言うよりも展開改変。あの展開が無けれり行き詰まらなかったので、生贄云々は丸々カットして、この厨二病をやりたい放題することにしました。
 再始動のようなものです。

 追記
 諸々の展開を鑑みて、当小説を続行するにはカインの〈Infinite Dendrogram〉開始時期をレイより一ヶ月早い程度にすることとしました。通告が遅れてしまい、申し訳ございませんでした。


 □地下墳墓モルブイン 【死霊術師】カイン=9

 

「【魂の送還(ソウル・リマンド)】!」

「ウォォ⋯⋯」

 

 ボクの手から放たれた送還の一撃により魂を送還されたドラウグルが倒れる。

 埃が舞う薄暗い通路で、ボクは喜びに肩を震わせた。

 

「やった⋯⋯ついにやったぞ、ボクは」

 

 ボクは成し遂げた。

 ボクは、やっとレベル50の【死霊術師】になったんだ。これで、次の段階に進める。

 長かった。あちらの世界での二日をかけて、ボクはとうとう成し遂げたのだ。

 

 ◇

 

 帰りの護衛任務までしっかりと終了したボクは、ラインハルトとみいこにしばしの別れを告げて、久しぶりになるジョブクリスタルの元、居候だが暫定ホームへと帰ってきていた。

 

 まだ、師匠は帰ってきていないようだ。手紙も無駄になったな。

 ボクは置き手紙を回収しつつ、小屋を確認した。埃をかぶった石机を手で払い、床も立て掛けてある箒で履いておく。

 そして、小屋の石椅子に座って一息吐くと、徐に立ち上がり、

 

「よし、レベル上げをしよう」

 

 レベルを上げねば、新たな職にも進めないし、これから先何かがあってもどうにもならない気がするのだ。それだけは拙い。

 

 そうして、ボクは地下墳墓へと潜った。

 

 ◇

 

「次のジョブは何を取ろうかな⋯⋯このまま上級職に進もうか⋯⋯」

 

 そんなことを考えながら、地下墳墓の扉を目指して歩いていると、開いた棺桶の一つにあちら側にある通路まで貫通したものを見つけた。

 

「あれ? こんな道あったかな?」

 

 初めて見る通路だ。まるでボクを導くかのように、そこに存在している道は、確かにボクの興味を惹いた。その先に、何があるのか。とても気になる。

 ボクは、その先にある何かに惹かれるように、その通路を歩き出した。

 

「うわ、埃まみれだね。蜘蛛の巣も大量だ」

 

 歩き出して早々に、ボクは歩くだけで漂う埃に顔を顰め、分厚い蜘蛛の巣に嫌気が差す。

 手入れされておらず、人の入りも全く確認できない。

 だが、珍しいことにドラウグル達は胸の上に両手を重ねて、深く安眠している。

 まるで、彼らの魂も眠りにつく程に、ここが神聖だとでも言うかのようだ。

 

 得てして、それは正解であったのだろう。

 恐らく行き止まりなのであろうちょっとした広場に着く。

 その中央には、見紛う事なき“ジョブクリスタル”が見えた。

 

「⋯⋯なんだろうか、これは」

 

 ボクはそのジョブクリスタルに触れる。

 すると、ソレはボクが触れるのを待っていたかのように、神々しく輝いた。

 

素晴らしい(マジェステック)⋯⋯」

 

【このジョブに就職しますか?】そんなウィンドウがボクの前に現れた。

 いや、どうしてこんな所にジョブクリスタルが?とか、ジョブが分からない、とかそういうことは気にならなかった。

 

 だけど、ボクはNOを選択していた。

 別になりたくなかった訳じゃない。でも、今のボクはこのジョブに就くには値しないと、そう感じたのだ。

 それは、このジョブクリスタルの後ろにあった、一つの棺桶が目に付いたからかもしれない。それが、濃厚な死の気配をボクに突き付けていたからやも知れぬ。

 

 何にせよ、ボクはこのジョブに就くことなく、来た道を戻っていった。

 

 来た道を戻り、アレをその時まで忘れよう。そう思ったのだ。

 

 ◇

 

 地上に到達すると、ジョブクリスタルの付近に見知った影を見つけた。

 

「帰ったぞ」

「師匠、お帰り」

 

 そこに居たのは師匠である。久しぶりに見たが、変わったところはなさそうだ。

 ボクが彼に手を振ると、彼は懐から何かを取り出し、ボクに軽く投げ渡す。

 それは、光を飲み込むようなどす黒い色のクリスタル。禍々しさをありありと感じさせるソレは、どう考えても良いものじゃない。

 

「わ⋯⋯何だい、これは?」

「それは、いつか分かる。その道を歩むことはないかもしれないが、その時まで、それを持っていろ。良いか?絶対にその時まで、それを使うでないぞ?」

「⋯⋯分かった。受け取っておこう」

 

 ボクは外套のアイテムボックスに【怨霊のクリスタル】を収納する。少し肌寒い感じがした。気の所為だ。

 

「見れば其方、身体も精神も成長をしたようではないか」

「かも知れないね」

 

 身体、というのはレベルの話だろう。で、精神というのは今回の護衛のことだろうか。別に、身体はともかくとして、精神は成長した訳でもないと思うのだが。

 

「まあ、まだ途上の身だからね。遠く及ばないさ」

「うむ。なればこそ、其方は新たなジョブに着く必要性がある」

「新たなジョブ?」

 

 ボクが疑問を投げると、彼は頷き口を開く。

 

「其方は、新たなジョブとして【大死霊(リッチ)】が就職可能となっている。それは、分かるだろう?」

「まあね。だけど、その口ぶりじゃ、ボクが就くべきジョブとは違うんだろう?」

「左様」

 

【死霊術師】のレベルを最大にした、要は究めたのだから、次なるはその更に先。上級職である【大死霊】だということは、容易に予想が着く。

 だが、彼は、ボクに別のジョブについてもらいたいらしい。

 

「其方には、まだ【大死霊】になる為の素質が足りない」

「素質?」

「身体だけでなく、精神も【大死霊】となったことで惑わぬようにしなくてはならぬ」

 

 なるほど。ボクは〈マスター〉だから、そこら辺は別に良いだろう。とは思わない。

 何故ならば、彼は師匠であって、ボクの導き手なのだから。それに、ティアン、この世界のみにしか生きられない存在だとしても、彼はボクよりも先達で、ボクよりも遥かに高みに居る。

 彼の言葉の方が重たいのは事実だろう。

 

「故、其方にはこの⋯⋯【適職診断カタログ】〜⋯⋯ゴホン。これを授けよう」

「何だい、今のレアシーン」

「気にするでない。これは、しきたりだと我が友も言っていた」

 

 我が友⋯⋯?師匠の友って⋯⋯どんな人なんだろう?

 というか、何で師匠にそんなことを教えたんだ⋯⋯?イメージが壊れ⋯⋯壊れ⋯⋯いや、レアシーンだし案外悪くは⋯⋯。

 しばらく悶々としていると、待ちかねたらしい師匠がカタログの角でボクの頭を叩いた。痛くはないが、脳に衝撃が走る。

 

「ふぎゅっ!?」

「雑念に囚われるでない」

「いったぁ〜⋯⋯こほん。痛いじゃないか」

 

 ボクは師匠からカタログをひったくるように取ると、適当にページを開く。

 そして、そのページに見えたとある職業に目が止まった。どうしよう、すごい惹かれる。

 

「⋯⋯【生贄(サクリファイス)】?」

「ふむ、【生贄】か。就職可能なようだな。MP上昇量はかなりのものだ」

「MP上昇⋯⋯」

 

 ボクが取るべきジョブはこれなんじゃないのか?

 現状、〈エンブリオ〉の上昇補正でボクのHPと何故かSTRは、並大抵の下級戦闘職近接系マスターを凌ぐ程になっている。その反面、ボクのMPはとてつもなく低い。補正もほとんど得られず、【死霊術師】というジョブ自体も特殊だが別にMPが上がりやすいわけではなかった。それに、思うのは、現在のMPは【霊魂の案内人(ネクロガイド)】の上昇量に依存しており、満足に【死霊術】を使えていないような気がするのだ。きっと、これは気の所為じゃない。それに、いつかは、“屈強なるアンデッド軍団”⋯⋯みたいなものもやりたいしね。

 

「それはあまりおすすめ出来ないな。もう少し見ても良いのではないか?」

「ううん⋯⋯まあ、それもそうだね」

 

 ボクは珍しく否定的な師匠の言葉に促され、ページをめくる。すると、もう一つ就職可能らしいジョブが目に入った。

 

「戦士系統下級職、【古戦士(オールド・ファイター)】?」

「ほう、懐かしい」

 

 こんな職業、聞いたことがない。

 いや、膨大に過ぎる〈Infinite Dendrogram〉の情報量、ジョブ量に紛れてボクが無知なだけだったのかもしれないが、ビルドなどの云々で掲示板を漁っていたボクが、見落としは考えにくい。月夜さんも言及しなかった。

 それに、師匠は知っている風だが、懐かしい、ということはその名の通り古いジョブなのだろう。

 まあ、なんだかんだ考えたが、このジョブには心当たりがある。さっき、ボクが見つけたあのジョブクリスタル。アレでこのジョブに就くことが出来るであろうことは、予想が着いていた。

 

「それは、古ノールド人の本物の戦士が就きし古のジョブ。今となっては、ロストジョブであったはずだが⋯⋯」

「そうなのかい?」

「うむ。ノールド人も数が少ない上、混血を繰り返し惰弱でな。認められることが少ないのだ。だが、しかし、其方をドラウグルが少しは認めた、ということ。それは、誇っても良いぞ」

「ドラウグルが⋯⋯」

 

 だけど、あの棺桶の中にいたナニカは、ボクを認めた訳ではないらしい。アレに打ち勝てるようにならなくては、ボクはあのジョブに就くには値しないだろう。

 他にもいくつか下級職ジョブを見たが、他に気になったのは【死兵(デス・ソルジャー)】と【古戦士】の二つのみ。だけど、【死兵】に関しては完全に名前で選んだし、このジョブが今のボクに有益かと言えばそうでも無い。

 ⋯⋯とは思ったんだけど。

 

「ボクは【死兵】を取る事にするよ」

「何故?」

「ちょっと試したいことがあってね」

 

 失敗した時の損失はかなり大きいけどね。

 ボクは、師匠に手を振りながら【死兵】のジョブクリスタル目指して駆け出した。

 

 

 ■【無命王(キング・オブ・ノーライフ)】サイモン・ダガー

 

 勢いよく飛び出していった彼女を見送り、我は思案する。

 彼女は、我が弟子にして我が師匠、我が友である【冥王】ベネトナシュと肩を並べられるに至るか。

 ⋯⋯いや、まだ分からぬな。しかし、その素質はあると見て良いだろう。

 

 ああ、あの娘は、確かに特別な〈マスター〉だ。

 

 だが、腐る可能性も孕んでいる。アレを腐らせず、真なる【死霊王】にする事は、かなりの難業。一言に言って、寿命近き我が身では、次なる《無命転生》にまで間に合わぬやも知れぬ。

 しかし、出来ない訳では無い。

 なにより、アレを腐らせるのは我とて望むところではない故に。

 メイズの愚弟子は、我が至らぬばかりにあの体たらくとなってしまったが、ヤツでは【死霊王】には至れぬ。

 

 だが、彼女は違うのだ。我が、〈マスター〉の中で初めて、【死霊王】になるべきと見出した逸材。腐らせる訳にはいかぬ。

 

 さて、そこまで導くは我の役目、ということ。

 

 

「ククク、我が腕の見せ所、ということよな」

 

 

 夕暮れ、夜が顔を出した刻。

 我が笑いは、暗がりに伝播した。

 




 感想などなどお待ちしております。


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第十六話 カイン=9の日常

 やっと投稿。
 そう言えば、カイン=9を超絶下手な絵で描きました。イメージが壊れる可能性もあるかもしれないので、自己責任で閲覧下さい。

 追記
 諸々の展開を鑑みて、当小説を続行するにはカインの〈Infinite Dendrogram〉開始時期をレイより一ヶ月早い程度にすることとしました。通告が遅れてしまい、申し訳ございませんでした。


 □霊都アムニール 【死霊術師】カイン=9

 

「へえ⋯⋯超級激突ね」

「はい〜。リアルなら来月下旬に執り行われるらしいんですけど、もしもチケットが取れるようなら一緒に行かない〜?」

 

 木漏れ日の差し込む公園で、ボクはその提案に対して黙考していた。誘ってくるのはみいこ。ベンチに座るその傍らには、メタリックな金色に輝く兜が置かれている。狩人に兜って⋯⋯。

 

 話は戻るが、超級激突についてである。

 確か何も予定は無かったはずだし、参加は出来る。それに、超級同士の戦いってヤツも見てみたい。

 ただ、ついさっき三日がかりで【死兵】のレベルをマックスにし終わって、【古戦士】のジョブを取ってきたばかりのボクとしてはビルドの構築に勤しみたかったのも事実だ。〈Infinite Dendrogram〉しかゲームをしたことがないボクとしては、このビルドというのがなかなか楽しくてね。

 

 前回モルブインで、例の【古戦士】のジョブクリスタルに触れた時の濃密な殺気は、先程行った時には感じられなかった。だから、【古戦士】のジョブを取る事にしたのだ。

【死兵】のレベルをマックスにしたから、合計レベルが150を超えたので取得を許してもらえたのかもしれない。まあ、強引にでも取ることはできたが、それはやっぱりなんというか嫌だったからね。多分というか、絶対に死ぬ。

 

 ボクは、この世界ではあまり死にたくないんだ。

 死ぬのが怖いと言っても良い。

 この世界、〈Infinite Dendrogram〉はゲームなのに、変な話だよね。自分でも分かってるさ。この世界がリアル過ぎるから、錯覚しているだけだって、ね。

 

 閑話休題だ。

 別段、断る必要も無い。何せ、超級激突はボクの知見を広めてくれるに違いないのだから。このデンドロという世界を生きるカイン=9という存在に何らかの影響を与えてくれるのは確かだ。

 

「良いよ、行こうか」

「やった〜。約束ですよ〜」

「ああ、約束だ」

 

 ただひとつ思ったのだが、超級激突のチケットは高いんじゃないだろうか?

 何せ、超級職マスター同士ではなく、超級エンブリオ、“超級”マスター同士の戦いである。そんなもの、誰であっても観てみたいに決まっていると思う。

 チケットが易々と入手できるとは思えないのだが⋯⋯。

 

「チケット? 大丈夫ですよ〜。私、これでもリアルラックは良い方ですから〜。この前ガチャ引いた時は、コレも手に入れましたし」

 

 そう言って見せてきたのは、彼女の装備の中で一つだけ明らかに雰囲気が異質な兜。聞いてもはぐらかされていたのだが、もったいぶっていただけか。

 いったい、この兜がなんだと言うのだろうか?

 

「この兜の名前は【傑竜兜 ドラグヘルム】と言うんですけど〜、この前の依頼の報酬金とパープル何とか捕縛の報酬金で引いたガチャから出たんです〜」

「ちょっと待ってくれ」

「はい〜?」

 

 いや、「はい〜?」じゃない。

 なんで、UBM特典がガチャから排出されるんだ。というか、なんでガチャでそんなものを当てているんだ。絶対にそれ、確率がおかしいヤツだろう。リアルラックが良いとかそういう話なのか?

 

「Sの文字が刻まれたカプセルの中から出てきたんですけど〜、多分これ、死んだティアンの人の持ち物だったりするんでしょうね〜」

「⋯⋯ああ、多分ね。この世界は、課金があるならまだしもそんなものは無い。だから、ガチャ如きでUBMの特典武具、それも無垢な唯一無二が当たるなんて考えにくい」

 

 全て憶測だし、ボクの希望的観測でしかないが、間違ってはいないだろう。

 マスターは本当の意味では死なない。だから、マスターの特典武具はずっとマスターが持ち続けることになる。それこそ、引退してでもだ。

 だけど、ティアンの特典武具は違うだろう。NPCである彼らにとっての死は、現実でのボクらの死と同じだ。“魂の在処”へと旅立ってしまう。

 まあ、そもそもティアンがUBMなんていう存在を倒せるのかは分からないが、師匠とかなら容易く出来てしまいそうだ。

 

 自由を提供すると共にリアルも提供する〈Infinite Dendrogram〉が、マスターの欲深き賭けに“当たり”を提供するというのなら、それくらいのこと(死亡したティアンの特典武具の再分配)はしてもおかしくないだろう。

 

「おめでとう、と言って良いのかな?」

「ん〜、私はあんまり気にしてないからね〜。曰く付きでも、強ければ使うよ?」

 

「目の前で悲劇が起きるなら尚更ね〜」と気負いなく最後に付け加えたみいこは、恐らく世界派のマスターなんだろう。

 月夜さんに教えてもらったのだが、この、世界派と遊戯派という括りは面白いね。当てはまる人にはかなり正確に当てはまる。

 

「⋯⋯まあ、何か良いことあると高確率で悪いこともやってくるから、ゼロサムなんだけどね〜」

「⋯⋯」

「⋯⋯あはは」

 

 ⋯⋯取り敢えず、ボクの方でも手に入らないか色々やってみよう。

 当面は、超級激突までにやれるところまでやっておく。

 

 でも、今日は何処にも潜りたくない。絶対にだ。

 

 ―――もう、一日23時間ログインは絶対にしない。やることを終わらせたらすぐにログアウトして寝てやる。

 

 

 ◇

 

 

「もう良いかい?」

「まだですわ。もう少しそのままでお願いしますわね」

 

 気恥しさでどうにかなってしまいそうだ。

 今着せられているのは黒いナース服。残念ながら無い胸を無理やり寄せて蠱惑的なポーズをさせられているが、向かいの鏡に映るボクは全然魅惑的じゃない。

 しかも、さっきは所謂ビキニアーマーを着せられた。まだ小六の子供に何を着せているんだ⋯⋯。

 

 アステリアさんの絵画屋には今回が二回目となる来店である。

 お金が必要だったり時間が空いた時にでも来て欲しいと言われていた為、装備の新調をしようと思い体を売りにきたのだが、先程約束した超級激突のチケットを手に入れるのにもお金が必要であるのでそれも含めてコスプレコースにしたのだ。後悔している。

 え、なんでオールしたのにログアウトすらせずバイトをしているのかって?⋯⋯なんでだろう。深夜テンションと言うヤツだろうか?

 

「さて、と。こんなものですわね」

「おぉ、凄いね」

 

 リアルで出来ることは、こっちの世界でも出来る。

 ボクは、そんな凄い技術なんて持ってないし素直に尊敬する。小説?あんなのは小説もどきさ。偉大なる先駆者の足元にも及ばないよ。まあ、いつかはその次元に辿り着きたい、とは思っているけどね。

 

 何はともあれ、アステリアさんの絵は凄かった。

 こんなにも色気の無いゾンビ娘を、おぞましくもその中に美しさの垣間見える一枚の絵画にしてしまうのだから。

 

「それほどでもないですわ。素材が良いからこんなにも素晴らしい絵が描けるのでしてよ」

「アステリアさんは、お世辞が上手いね」

「もう。世辞ではありませんのに」

 

 器用にも片翼をパタパタさせながら絵の具を乾かすアステリアさんを眺めながら、そんなことに使うものじゃないのでは?と浮上する疑問を飲み込んだ。というより、アバターメイクの翼なのに、なんで自在に動かせているのだろうか?

 尽きない疑問を全部飲み込んでいると、アステリアさんが何かを思い出したかのように口を開いた。

 

「そう言えば、あのスライム男がシンク林道の方にUBMを討伐に行ったようなのですけれど、私は呼ばれませんでしたの。まあ、ティターニアの勅命だったみたいですし、仕方の無いことかもしれませんけど」

「ジェイクさんが?」

「ええ。私と彼の仲なのですから、呼んでくれても良いでしょうに」

 

 何でも、ジェイクさんはこの国のアイドル【妖精女王】直々の依頼で、シンク林道に出現したUBMの討伐に向かったらしい。

 ジェイクさんって、そんなにすごい人だったのか。スライムに包まれたただの変態かと思っていた。

 

「少し前の戦いで切らしてしまったので、UBM素材が欲しいのですけれど、どうにも私一人では古代伝説級は討伐出来ない上、一人ではシンク林道の奥まで辿り着けるかも分からないのですわ」

「なるほど」

 

 アステリアさんのジョブについて聞いたことはあるが、はぐらかされて教えてもらえなかった。だが、時々会うジェイクさん曰く、エンブリオの到達位階も、条件付きだが強さもジェイクさんの方が下らしい。恐らく、UBM素材はその強さの条件に関わってくるのだろう。

 

「さ、休憩は終わり! まだまだ描かせてもらいますわよー!」

「⋯⋯お手柔らかに頼むよ」

 

 余談だが、絵画屋を出てげっそりしたボクの手元には前回の二倍の額が握らされていた。

 

 

 □シンク林道 【兵卒王(キング・オブ・ソルジャー)】ジェイク・スタンドアローン

 

 

「ふうむ」

 

 どうしたものか。

 ショゴスは開幕数分で殺られて(・・・・)しまった。“上級エンブリオ”が必殺スキルを用いても敵わず、ものの数分で粉砕されたのだ。唸りたくなるというもの。

 そもそも私の戦闘能力は、上級エンブリオであるショゴスとの連携がウェイトを占めるが、そのショゴス亡き今、私は目の前のコイツ(・・・)と単身戦わなくてはならない。

 

「ハッハッハァ! 全くもって勝ち目が無いね!」

『AAAAAAAAAA!!』

 

 自らの勝利を確信でもしているのか、目の前で彷徨する全長10メートルを優に超す巨大なモンスター、古代伝説級(・・・・・)UBM【壊腕精霊 バスタースプリガン】を睨みつける。

 こうなるんだったら、お姫様から依頼を受けた時にアステリア辺りにでも声をかけておくべきだった、かな。

 そもそも、まだ戦うつもりは無かったんだけどね。ショゴスも条件が揃わなくては大して強さを発揮できないから、軽く偵察のつもりであったのだが⋯⋯。

 

 ⋯⋯今となっては後の祭り、か。

 

 

「⋯⋯仕方が無い。腹を括るしかないようだ」

 

 バスタースプリガンが油断している今のうちにストレージから、持ち手まで燃え盛る撃鉄式馬乗槍【撃赫焔槍 ガイ・トリクス】と近未来的な様相の片手剣【機動剣 エクサセンチュリオン】を装備、身体にはお姫様から賜った【妖精大騎士鎧シリーズ】を装備する。

 

 これで、完全装備。

 本気(マジ)本気(マジ)で後には引けなくなった。

 ここで私が一矢報いることがすら出来ずに負けたとなれば、私はレジェンダリアの面汚し。お姫様の期待に背くことにもなる。

 

「腕の一本や二本、もらっていくぞ」

『AAAAAAAA!!』

 

 大体、「舐めるな、雑魚」と言ったところか?

 ならば、有言実行。

 

「“討伐ランキング”二位、【兵卒王】ジェイク・スタンドアローン、参る!!」

 

 装備スキルによって強化された膂力で地面を蹴り、遥か上で嘲るバスタースプリガンに肉迫。【撃赫焔槍 ガイ・トリクス】のスキル《マキシマム・ブレイズ・キャノン》を発動。

 砲口から放たれた火炎がバスタースプリガンの顔面を焼く。

 

『AAAAAAAAAA!?』

 

 唐突な顔への攻撃に、そのダメージにバスタースプリガンは両の怪腕を振り回すのをすんでのところでバスタースプリガンの胸元を足蹴にして回避。

 アレに当たると、ショゴスのようになってしまう。それは拙い。

 何としてでも、コイツを弱体化させる。後はアステリアとかそこら辺がどうにかしてくれるに違いない!うん!

 

「まだまだ終わらんぞ!」

 

 左手の【機動剣 エクサセンチュリオン】のスキル《ハイ・マニューバー》を発動。AGIをさらに強化してバスタースプリガンへと斬りかかった。

 




 私の読み込みの甘さなんですけど、ジュリエットの年齢と主人公の年齢は同じには出来ないみたい。ジュリエットは中2だけど、カインはまだ小六。なんという⋯⋯。
 ジュリエットの年齢改変しても良いのだろうか? 初の原作との乖離ポイントがジュリエットの年齢って⋯⋯。クロウレコードは読んでないので矛盾点とか発生するかもしれないし⋯⋯どうしよう。
 何はともあれ、感想などなどお待ちしております。


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第十七話 カイン=9の挑戦

 所謂「まだだ」とかゾンビスタイルで生き長らえながら、高威力の大魔法を連発するようなしょうもない回。こうでもしなきゃ格上なんて倒せないので、仕方がない。

 追記
 諸々の展開を鑑みて、当小説を続行するにはカインの〈Infinite Dendrogram〉開始時期をレイより一ヶ月早い程度にすることとしました。通告が遅れてしまい、申し訳ございませんでした。


 □霊都アムニール 【死霊術師】カイン=9

 

 朝目覚めた時、動かないはずの存在が勝手に動き出していたらどう思うだろう?

 上体を起こして、辺りを見回すボクの頭の中は、さながら世界の真理に辿り着けそうだというその直前、自分の進んできた道が過去辿り着けなかった先駆者のそれと同じものを辿ってきたに過ぎないと理解した時の冒険家だろうか。

 

「ォォォオ」

「え、なんで動いているんだい?」

 

 幽鬼の如く、上半身をだらりとさせながら行ったり来たりするドラウグル達を眺めながら、ボクは困惑の頂点に立ち尽くしていた。しかもなんか、辺りには瘴気みたいなのが漂っていて心做しか薄暗いし。

 それにしても、今日はよく舌が回る。

 この状態に思い当たる節は無いわけではないが、そうだとしたら何故今なのか。

 ボクは、急ぎメニューからエンブリオ(・・・・・)の欄を確認する。

 

「ボディ・テリトリー?」

 

 案の定、ボクのエンブリオ【半神死霊 ヘル】は第二形態へと進化を果たしていた。

 だが、問題はそれではなく、カテゴリーである。

 テリトリーとは、いわゆる結界型。

 つまり、身体型のボクのエンブリオに新しく結界型が付いたということ。そんなことがあるのかは知らないが、そもそもボクのエンブリオのカテゴリーはボディというとにかく珍しい型だ。考察も当てにはならないだろう。

 この結界のスキル名は《死者界(ヘルヘイム)》。ヘルの国、ヘルヘイムだね。

 効果は⋯⋯これは⋯⋯。

 

「弟子よ。そのスキルを切ってくれないか? 故なく蘇らされた者たちが煩わしい」

「ああ、すまないね師匠。⋯⋯それにしても、どうして今進化したのだろう?」

 

 アクティブスキルみたいなので、解除することが出来てほっとする。

 経験値のようなものがエンブリオに蓄積したから勝手に進化したのだろうか。

 ⋯⋯何にせよ、検討は付いても確信が得られないんじゃ考えても致し方ない、ね。

 

 ボクは思考を中断すると、レベル上げの為に日課となった墓掃除へと向かうことにした。

 スキルについても、いろいろと試したいことがある。まさか、先取りしたコレが役立つかもしれないとは思ってもみなかった。

 

「さて、弟子よ」

「改まって、どうかしたのかい師匠?」

 

 早速今日のレベル上げをこなそうと思っていたら師匠に引き止められた。

 いったい、どうしたのだろう?

 

「【古戦士】としての己を鍛えに往くのなら、その前に深淵に踏み込むと良い」

「深淵? ⋯⋯あ、え、でも良いのかい?」

「良いも悪いもない」

 

 彼が言う深淵が、死霊術師系統上級職【大死霊(リッチ)】のことを指しているのは分かったが、どうして今なのだろうか?

 

「元より、もう一つジョブに就いた時点で【大死霊】への道を示そうとは思っていたのだ」

「⋯⋯なるほど」

 

 つまり、ボクはもうそうなれる、【大死霊】となるに相応しい器であると師匠から認められたということ、だろうか。

 ⋯⋯ちょっと、嬉しいかな。うん。努力が実を結ぶっていうのは、中学を受験した際にも体感したけど、アレと比べてもコチラの方が数倍強い感動と実感を与えてくれた。

 

「早く取ると良い」

「ああ。それなら、そうさせてもらう」

 

 見慣れた祭壇のジョブクリスタルに触れ、【大死霊】のジョブを選択。確認にYESを押した。

 

 すると、

 

「へえ。あんまり変わった感じがしないものだね」

「うむ。元よりお主は半分がアンデッド。ジョブよりも、エンブリオの方が強大であったのだろう」

 

 聞くところによれば、【大死霊】になると種族が強制的にアンデッドになるらしいが、ボクの場合は何ともなかった。

 師匠は、ボクのエンブリオがボディだから、そちらの方が表出して、【大死霊】によるアンデッド化は免れたのではないかと言うが、ボクもそう思う。

 

「なんだか、締まらない⋯⋯ね」

「致し方あるまい。そもそも、喜ぶことでも無いだろうに」

「え」

「む?」

 

 いや、種族そのものがアンデッドになるなんて格好良いじゃないか。

 え、知らぬ? ⋯⋯そうか。

 

 

 

 □地下墳墓アンルシガナ 【大死霊】カイン=9

 

 

 

「終わり、で良いかな」

 

 やっと、【古戦士】のレベルが50になった。

【霊魂の案内人】様々だね。恐ろしく経験値効率が良い。

 流石に上級職のレベル上げともなればそうはいかないだろうが、下級職のレベル上げならば三日、あちらの世界で一日ダンジョンに篭れば50レベルになる。流石にオールしたわけではないので五日ほどかかったが、それでも普通のマスターよりかは圧倒的だ。しかも、【古戦士】は【霊魂の案内人】や【死霊術師】とシナジーがある。

 もうすぐ3月になるし、学校の方もいろいろとあるからこんな風にほぼ丸一日ログインなんて出来なくなるだろう。なればこそ、今のうちにやれるだけやっておく。それが、最善だとボクは思う。超級激突の日も迫っている。

 《死者界》についてもあらかた分かった。これがどういう使い方が出来るのか、とかそういうのも把握出来たと思う。

 後、【ドラウグル】の完全遺骸がいつの間にか外套のボックスいっぱいになってしまった為、一度帰ってボックスを整理したいというのもある。沢山回収したし、かなり使った(・・・)が、それでもボクの足元に至るまで物言わぬ屍となったドラウグル達が転がっている。

 せっかく取った【大死霊】のレベルも最大にしたかったが、正直言ってもう今日は疲れた。合計レベルも荒稼ぎによって271になったし、今日はこの辺で良いだろう。

 

 この《地下墳墓 アンルシガナ》は霊都アムニールから少し離れた場所にある、古代ノールド人の地下墳墓のひとつだ。

 師匠から教えてもらったいくつかの地下墳墓の中でも、いちばんアムニールから近い場所であった為、【古戦士】のレベル上げの為にこの世界で五日前から篭っていたのだ。【死兵】のレベル上げの時もここでレベル上げをしていた。

 

「《死者界》はあと一回だけど、日付が変わったら全回復するみたいだし、向こうで休憩したら【大死霊】もレベル最大にしよう」

 

 予定も決めたし、早く帰ろう。

 

 

 □

 

 

「⋯⋯?」

 

 帰る為、来た道を上へと向かって引き返していると、ふと縦にされた棺桶群のひとつ、底が抜けて通れるようになっている通路が目に入った。

 地下墳墓の通路は木の根が張っていたり、蜘蛛の巣や埃まみれになっている普通の通路の他に、こうした縦に置かれた棺桶の底が抜けて通れるようになっている所謂隠し通路が存在する。

 この通路はさっきまでは開いてなかった。誰か他のマスターやティアンが来たという可能性も考えにくい。この地下墳墓は【霊魂の案内人】のスキル《霊魂の呼び声》でしか入り口を見つけることが出来ないのだ。

 ⋯⋯まだ時間は大丈夫。五時間前に軽食も摂ったしトイレも済ませてきた。

 

「⋯⋯もう少し潜ろうか」

 

 ボクは、誘惑に抗うことなく通路の先へと歩を進めた。

 あんなに意味有りげに道が開かれていたのだから、何も無いということは無いだろう。

 そう思い薄暗い道を進んでみるが、特にこれといった変化はない。道中のドラウグルは死霊術師としての力を使うまでもなく《霊魂の送還》でどうにかなる。

 たまたま開いただけの普通の道だったのだろうか?どうにもそうは思えないのだが、この様子ではそう納得するしかないのだろうか。

 

 結局、このまま行っても特に何も無いと判断し、帰ろうと身を翻した直後、

 

 

「⋯⋯かふっ」

 

 

 口から血が吹き出し、視界端に【部位欠損】の状態異常の文字が浮かび上がる。

 

 何処をやられた?その答えは簡単にわかった。

 

 心臓だ。痛みは無い。だが、日常生活では味わうことの出来ないような凄まじい苦しみがボクに襲いかかる。

 それを、空を舞う(・・・・)頭を別のことに回転させて無視する。

 心臓だけでなく、今の状況判断に務めた一瞬で頭も切り落とされてしまったらしい。

 

 一体誰にやられたのか?それもすぐに分かった。

 

 

『ホウ。心臓ヲ消シ飛バシ、首ヲ撥ネタトイウノニ、生キナガラエルカ』

「⋯⋯生憎と他とは違う体でね」

 

 

 ボクの後ろには、いつの間にか全身に銀色の鎧を纏った戦士の姿が。その言葉からして、こいつが僕の心臓を消し飛ばし(・・・・・)、ボクの頭部を切り落とした(・・・・・・)に違いない。もう少し切られる位置がズレていたら即死していたね。

 

 フルであったHPが凄まじい速さでゼロになり、ゼロになった瞬間、【死兵】の固有スキル《ラスト・コマンド》が発動。擬似アイテム化した頭部をキャッチして首から上を失った身体に接着。視界の中で一分弱のカウントダウンが始まるのを見届けながら、バックステップでソイツと距離を取った。デンドロを始めてから、身のこなしが格段に上達したように思う。

 

「⋯⋯っ」

 

 切り飛ばされただけの首と違って、失われた心臓は修復出来ない。だが、心臓を失った苦しみ程度なら、目の前のことに集中していれば無視できる。

 問題は、このU()B()M()【黒銀英雄 ドゥー・アルガッド】にどうやって勝つか。

 

 ⋯⋯取り敢えず、さっさと《死者界》を発動しようか。これで、《死者界》は今日はもう発動出来ないが、大丈夫だ。これで決めるから。

 

『⋯⋯我ガ同胞(ハラカラ)ヲ、死霊ヲ使役セシメル者カ』

「ご名答」

 

 空間が塗り変わる。

 禍々しい瘴気が漂い始め、回収できずに放置していた完全遺骸のドラウグル達が徐に立ち上がった。その目は、普段《死霊術》で使役している時とは違って紫色の怪しい光を灯している。

 

《死者界》は半径10メートル以内に効果を及ぼす、ボクのエンブリオ【半神死霊 ヘル】が新たに獲得したテリトリーとしてのスキル。

 その効果は、範囲内に存在する魂無きもの、平たく言えば完全遺骸などに仮初の魂を与えて使役するというものだ。MP消費は無し。ただし、効果時間は10分。加えて、連続使用は不可。使用回数は一日三回。これだけでは、利点が《死霊術》と違ってMPを消費しない程度しかない。

 だが、このスキルにはもうひとつ効果がある。

 

「すまないね」

「ゥァ」

 

 待機するドラウグルの内の一体が、まるで糸が切れたかのように倒れ伏すと同時、ボクのゼロのままであったHPが半分ほど回復した。逆に、倒れたドラウグルは光の粒子となって消えてしまった。

 

 これが、《死者界》の第二の効果。

 範囲内の《死者界》によって使役している存在を自らに還元し、その分、HPを復活(・・)させる。これは、既に死んでいるボクにも適用される。

 

 死んで《ラスト・コマンド》により仮初の命を、限られた時間を与えられているだけに過ぎないはずのボクの視界には、既に《ラスト・コマンド》の時間カウントは無い(・・)

 

 考え方としては、一度死んで失った魂を外部の魂から補っている感じだろうか。

 こんなにもシナジーのあるスキルが、ボクみたいな塵屑から生まれるとは思わなかった。

 

『魔性メ』

「なんとでも呼ぶが良いさ」

 

 実際、ズルみたいなものだ。

 それに、こうしている間にもボクのHPは凄まじい速さで減っていっている。

 

 何せ、心臓が無い。

 

 ボクのエンブリオは、切断されたりいろいろで身体から身体の一部位が離れても、それが擬似アイテム化し、断面とくっつけることで再生する。さっきの首みたいにね。

 だが、何ものにも例外があるように、ボクのエンブリオだって万能じゃない。

 今回のような心臓を完全に破壊されてしまった場合なんかは好例だ。そもそも、ボクのエンブリオは半神死霊。半分は死霊だけど、もう半分は神、というか扱い的には普通のマスターの体だ。だから、心臓や頭部を完全破壊されたらHPが尽きて死ぬ。

 つまり、ボクは今現在進行形で死のうとしている最中というわけだな。

 

「⋯⋯さて、じゃあ勝たせてもらおうか」

『調子ニ乗ルナ⋯⋯!』

 

 大剣を構える彼に対して、ボクはフッと笑みを浮かべた。

 勝ち筋は無いが、彼を倒す方法くらいはあるだろう。

 例えばジェムとか、英雄とか、ね。

 

 それに、怨念はとっくのとうに溜まっている。

 

 

「―――《デッドリーミキサー》」

 

 

 翳した手から、渦巻く強大な怨念のエネルギーが放出される。

 直撃した《デッドリーミキサー》は着実に【ドゥー・アルガッド】の体力を削った。

 というよりも、上半身の右側を消し飛ばした(・・・・・・)

 

 《デッドリーミキサー》は溜まった怨念を放出する高威力の大魔法。

 なんでこんなに怨念が溜まっているのかと言えば、《死者界》によるアンデッドの自らへの還元は、ボクの肉体に怨念を溜めるからだ。

 それだけじゃない。

 

 

『グウァァァッ⋯⋯!? 貴様ァァ、何故ダ⋯⋯! 何故、強クナッテイルッ⋯⋯?!』

「申し訳ないけど企業秘密だ」

 

 ボクの今の合計レベルは273《・》。

 種明かしをするならば、やはり《死者界》の還元による効果だろう。ボクにもよく分かっていないが、高確率でボクはゲームバランスを壊すようなズルをしている。

 

 つまり、こういうことだ。

 

 

「ゥァア」

「ボクの身と成れ⋯⋯なんてね」

 

 

 いつの間にか半分を切っていた体力を復活させる為に還元したドラウグルが、光の粒子になって消えてゆく。

 レベルの欄を見れば、ボクの合計レベルは274()になっている。

 

 さて、スキルの残り時間は後九分。

 

 悪いけど、これもボクの力だ。

 勝たせてもらうよ、UBM。

 

 

 □

 

 

【<UBM>【黒銀英雄 ドゥー・アルガッド】が討伐されました】

【MVPを選出します】

【【カイン=9】がMVPに選出されました】

【【カイン=9】にMVP特典【黒銀古鎧 ドゥー・アルガッド】を贈与します】

 

 

「⋯⋯初めてのUBM討伐がこんな汚いやり方だなんて、信じられない⋯⋯」

 

 身を投げ出すようにその場に転がったボクの第一声には、ありありと情けなさと悔しさが混じる。

 完全に物量に頼った戦い方だ。戦士達にも、倒した【ドゥー・アルガッド】にも申し訳が立たない。勝てれば良いが、勝った後に後悔するかしないかは別だ。

 しかも、《死者界》が切れて危うく死ぬところだった。逃げ回っていたら、ちょうど日付けが変わって《死者界》の使用可能回数が増えなければどうなっていたことか。

 

「ギリギリで、しかもこういうやり方でしか倒せないのはどうにかしなくてはいけないね」

 

 レベルは300になった。後は、埋まっていない下級職二つを何にするか決めて、だね。

 新たな当面の方針を決めて、さあ帰ろうかと思い立ち上がった。

 

 

「あ」

 

 

 ボクは死んだ(・・・)

 

 

【致死ダメージ】

【パーティ全滅】

【蘇生可能時間経過】

【デスペナルティ:ログイン制限24h】




 勘のいい人とかは、とっくのとうに【霊魂の案内人】の経験値効率の良さの理由とか、《死者界》でレベルが馬鹿上がりする理由とか分かってるんだろうなあ。いや、別に勘が良くなくても分かるか。
 ちなみに、成長期みたいなものなのでさっさと楽出来なくなります。


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