サスケとナルトは家族 (ジーザス)
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プロローグ
1


NARUTOが書きたくなったので書いた。

ただそれだけの作品。


〈化け狐〉〈化け物〉

 

それがナルトにつけられたあだ名だ。その昔、ナルトの住む〈木の葉の里〉が九尾の妖狐に襲われた。

 

父は里を守るために、母はその父を支えるために戦い、そして2人は帰らぬ人となった。生まれたばかりのナルト1人を残して。〈木の葉の里〉を襲った九尾は、ナルトの中に封印されているからあのような呼び方をされる。

 

でも帰らなかったこと・封印したことをは悪いことではないはずだ。里を守って九尾をナルトに託したということは、ナルトの命を守るということと同じだから。

 

鍛えればいつか九尾の力を使いこなせる日が来るかもしれない。それが自分を守り仲間を守る力となるから。

 

 

 

 

 

父母である波風ミナト、うずまきクシナが何故死んだのか。またこうして自身が忌み嫌われている理由を、ナルトが知っていると里の上層部は知らない。本来であれば秘匿しなければならない情報を何故知っているのか。それはミナトとクシナの友人であった、フガクとその妻であるミコトが話したからだ。

 

これから先家族ぐるみで関わると思っていたはずだった。その2人が残した形見であるナルトに黙っていることことなどできない。上層部に逆らってでも知らせておくべきだと判断して話した。2人の子供なら、それを知っても受け入れてくれると信じていた。

 

6歳の誕生日に話すと、ナルトは2人の予想通り驚きはしたもののすんなりと受け入れた。それを踏まえて自分たちのことを両親だと言ってくれた。その時の嬉しさといったら、イタチやサスケが生まれたときと同じ喜びだった。

 

 

 

 

 

罵声と石による攻撃を避けながら里の端へと歩いていく。何処にいても化け物を見るような視線を向けられるから、ナルトにとって心の安らぐ場所は1つしかない。門をくぐって家に帰ると、エプロンをつけた女性が迎えてくれた。

 

「お帰りナルト」

「ただいまおばさん」

「お母さんでいいって何度も言ってるのに」

 

ふくれっ面をしながらも微笑む容姿は、とても三十路には見えない。美人で優しいミコトは、里内でもかなりの人気を誇っている。

 

「サスケはどこですか?」

「イタチと一緒に修行中よ。もうすぐアカデミーが始まるから」

「なにぃぃぃ!またあいつイタチさんと修行かよ!行ってきまぁす!」

 

玄関で回れ右して、ナルトはいつもの修行場所へと走っていった。

 

 

 

「相変わらず負けず嫌いなのだなナルトくんは」

 

襖を開けて出てきたフガクは、手を袖に突っ込みながら微かに微笑んだ。

 

「サスケと同い年ですから負けたくないのでしょう。血の繋がりがなくても2人は双子のように育ちましたから」

「義兄弟でありながらライバルか。アカデミーを卒業してからの班分けがどうなるかだな。高い実力が拮抗しているとバラバラにされる可能性がある」

「ナルトとサスケは2人揃って真の力を発揮しますからね」

 

今の悩みはアカデミーを卒業し、下忍になったときの班分けだ。どの班も実力が同一になるよう編成されるので、実力が拮抗しているナルトとサスケは、離されることがほぼ決定してしまっている。

 

単独でもアカデミー入学前に下忍並みの実力を備える2人の将来が楽しみであり、不安要素なのだ。

 

「その時になればまた考えればいい」

「はい、あなた」

 

フガクの右肩に頭を乗せるミコトの表情はとても幸せそうだった。




少ないかな?でも最初だからこんなもので。


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2

気付けば投稿から3ヶ月近くそして評価の高さに驚いております。

設定などナルトの父母はおらずうちは家に引き取られていたというだけの勢いで書いてしまった作品がこうなるとは。期待に添える気がしませんがちょくちょく更新していこうかなと思っています。

それでは久しぶりの投稿どうぞ~


オレは今の自宅となっている場所から、一直線に秘密の修練場所へと向かった。サスケばかりが指導してもらっていると思うと腹が立ってくるから、その怒りを力に変えて全速力で向かう。

 

「うおぉぉぉぉぉ!って、うひゃぁ!」

 

森の中を全力疾走しているとクナイが飛来してきた。ある程度の余裕を持って避けたけど、なんとなく殺気を含んだ攻撃だと思ったのは気のせいじゃない。

 

「やいサスケ!刺さってたらどうしてくれるんだってばよ!?」

 

目的地について第一声がそれだった。すると今まさにクナイと手裏剣を投げようとしていたサスケが、不満そうな眼を向けてくる。

 

「うるさいウスラトンカチ、ちょうど良いタイミングで声かけるな。お前を的にしてもいいんだぞ」

「んだとこらぁ!?俺だって負けねぇぞ!」

「まあまあ2人とも。落ち着きなさい」

「ナルトが!」

「サスケが!」

 

2人が言い争っていると、サスケの練習を見守っていた少し大人びた青年が微笑みながら仲裁に入った。仲の良い2人にさすがの青年も苦笑するしかないのか。言い争いを再開したことを咎める様子はない。

 

「1時間も見てやったんだから、サスケが引いてあげなさい」

「でもさぁ」

「そうだそうだ。今度は俺が教えてもらう番なんだから、サスケは引っ込んでろ!」

「なんだとナルトぉ!」

 

喧嘩を止めさせたはずなのに、三度言い合いを始めるので青年は額に手を当てることしかできなくなっていた。

 

「ナルトもサスケも喧嘩はダメだぞ。母さんに怒られたくなかったら今すぐ止めることだ」

「「う…」」

 

母さん(ナルトにとっては義母)の立場を出されては、さしもの2人も止めざる終えなくなるようだ。それだけ母さんの立場が強いのかなって思うよ。たまに父さんだって尻込みしているから、もしかしたら一族で強いのは女性で一番強いのが母さんなのかも。

 

「じゃあナルトの修行を始めようって言いたいところだけど。まずはこれを持ってほしい」

「「これ?」」

 

ナルトとサスケに、縦7cm横5cmの紙切れのようなものを4枚それぞれに2枚ずつ渡す。2人が首を傾げるので、取り敢えず受け取るように押し付ける。

 

不思議そうに眼を向けてくるので、自分もポケットから取り出し右手に持つ。指先に少し力を込める。すると炎が立ち上り紙を焦がし灰へと変えた。

 

「おぉ…」

「うそ…」

 

その様子に2人が驚きの声と表情を見せる。それを見て自分の顔に笑みが浮かんだことを、自覚するのに少しばかり遅れた。どうやら自分は、こういう年下の子供が見せるあどけない仕草に飢えているみたいだ。

 

「これは〈チャクラ紙〉というんだ。特別な栽培方法で育てられた木から構成された紙。取り敢えず2人もチャクラを流し込んでみてくれ」

「といっても流し方わかんないってばよぉ」

「兄さん、どうすればいい?」

 

そういえば2人はまだアカデミーに入ってないから、チャクラについては知らなかったな。でも早めから知っていても損はないだろうし、万が一(・・・)のことを考えれば知っていてほしいから教えておくべき事だろう。

 

「わかった。まずチャクラについて教えておこうか。チャクラとは人体を構成する膨大な数の細胞一つ一つから取り出す〈身体エネルギー〉、修行や経験によって蓄積した〈精神エネルギー〉の2つから構成される。あらゆる《術》を発動するために必要な源だ。ここまではいいか?」

「なんとかだってばよ」

「このウスラトンカチが」

「なんだとこらぁ!?」

「はいはい、落ち着きなさいナルト」

 

余計な合いの手は入れるべきではないかなと後悔したけど、後の祭りだったから考えるのをやめておいた。

 

「コホン、とまあ簡単に言えばこれがなかったら忍者にはなれないということだ。おっとナルト、君は気にしなくていいぞ。君には俺以上のチャクラが流れているのが視える(・・・)からな」

「おっしゃぁ!」

「なっ!」

 

喜びにガッツポーズを決めるナルトと、予想外の真実を告げられて呆然とするサスケの反応は対照的だった。

 

「だがそれを使いこなせるかどうかは君次第だ。どのように進化させるかも君の努力次第だぞ」

「そんなぁ…」

 

持ち上げて落とすのが俺の性ではない。今のは不可抗力だと知っておいてもらいたいかな。地面に力なく落ち込むナルトを立たせて、チャクラの流し方を説明することにした。

 

「なんて言えばいいんだろう。人間って慣れると感覚で行動するようになるからね。機械的に言ってしまえば、指先から体内の力を外に出すって感じかな」

「体内の力を指先から出す感覚…」

 

ぶつぶつと呟きながら紙に一生懸命力を込める2人に苦笑するけど、その気持ちは理解できるしこつを覚えるまでは難しいのも知ってる。だからこそ短期間でこつを覚えてもらうことで、この先のあらゆる難関をも乗り越えられるようになってほしい。

 

「おっ?!」

「やった!」

「上出来だ2人とも」

 

ナルトの両手の紙は真っ二つに切れている。対してサスケは右手の紙が自分と同じように燃え尽き灰になり、左手の紙には数多の皺が走っている。

 

「これは一体?」

「ナルトは風遁、つまり風の性質を現している。サスケの右手は火遁で火の性質、左手は雷遁で雷の性質だ」

「風遁は全距離、火遁は中距離、雷遁は近距離でその秘められた威力を発揮する」

「俺は性質が1個か…」

「これが才能の差だナルト」

「それは違うぞサスケ」

 

ナルトより使える術が多いことで、優越感に浸っているサスケに注意した。怒られるとは思ってもいなかったのか、サスケは驚いて俺を見ている。

 

「性質を1つしか持たなくとも名を馳せた忍びはどの里にもいる。逆に性質を2つ以上持っていたにもかかわらず、使いこなせなかった忍びだって多くいただろう。結局はその人が使いこなせるかどうかによって変わるんだ」

「ごめん兄さん・ナルト。そんなこともわからなかった自分は馬鹿だ」

「そう落ち込むなってばよサスケ。オレだって本気で怒るつもりもねぇってばよ」

「ナルトの言う通りだぞ。反省しているならそれでいい」

 

人間という生き物は、他人より勝っている才能があると優越感に浸って見下すことがある。けどサスケは自分の過ちを受け入れ、丁寧に誠心誠意謝罪したからナルトも気にしていない。

 

だから微妙な空気にならずに、楽しげな空気が今のこの森に流れているんだろうな。もしこれが赤の他人だったとしたら?それほど仲が良くない人だったら?そんなことを考えると気分が落ち込むところまで落ち込みそうだった。

 

そんなことを考えるのは野暮かな。

 

「そろそろいい時間だから帰ろうか2人とも」

「何も教えてもらってないぞオレは!」

 

今にも拗ねそうだったので苦笑してしまう。ちょいちょいと手でナルトを招くと、不思議そうな顔をしながら近づいてきた。

 

タイミング良く、人差し指と中指でナルトの額を小突く。

 

「許せナルト、また今度だ」

「いてっ」

 

額を抑えイタチを睨むナルトの眼は、恨めしそうだったが何処か嬉しそうだった。

 

「ということで、ドロン」

「あっ、イタチさんずっこ!」

「兄さんが逃げた!」

 

イタチは2人がまだ忍術を使えないと知っていながら、忍術を使って逃げることを決断した。れは可愛い弟と、家族同然の存在である義弟の悔しそうな顔を見たいという想いがあったのかもしれない。なんにせよイタチは大人びて見えても、意外と悪戯っ子なのだということがわかった。

 

「追い掛けるぞサスケ!」

「俺に指示するなウスラトンカチ!」

 

2人は同時に走り出し、先にイタチを捕まえるとばかりに互いを抜かし抜かれつつを繰り返し森の中を疾走した。イタチが気付いていたかどうかは定かではないが、確実に2人は気付いていなかった。

 

仮面を被った(・・・・・・)何者かが見張っていたということを。




イタチさんみたいな兄貴がほしいなと思っています。それはNARUTOファンであれば誰しもが思うことでしょうとも。

カッコいいなぁ。最後の別れの言葉とか涙腺崩壊させられるかと思いました。


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3

長いねぇ。


日も昇らない前に吹く風が襖を叩くのを、目覚まし代わりに起き上がる。誰も起きていないことを確認してから、音を立てずに襖を開ける。玄関までの長い距離を抜き足差し足忍び足で一気に駆け抜ける。

 

うちは一族が暮らしているのは、里の端であるから修行場所まではそれなりに距離もあるし時間もかかってしまう。でも持久力や筋肉を鍛えるにはもってこいだ。

 

「いっちょやってやるってばよ!」

 

五月蠅くならない程度に、しかし自分に気合いが入る程度には大きな声を出して走り出す。地面を蹴って門を飛び越え、中心部へ向かって伸びる路地を駆けた。

 

「まったくよくもまあ、こんな朝早くから修行に行けるもんだ。俺なら布団で丸くなっているのに。それに似てサスケは熟睡中だ」

 

うちは一族が暮らす住居の中でも最も高い建造物から見下ろす人影。そこにいたのは頬に深い皺が刻まれている少年だった。

 

 

 

口から漏れる息は白く、寒い季節であることを如実に示している。

 

「寒いってばよぉぉ!でも負けねぇ俺は負けねぇぞぉぉぉ!」

『朝っぱらから五月蠅いぞ小僧』

 

他者には聞こえない。しかし少年には聞こえる未知の声音。だが少年は知っているそれが誰なのかそして何者なのか。

 

「そっちから話しかけてくるなんて珍しいってばよ。どうしたんだ?」

『お前が叫ぶとワシが居るここにも反響する。もう少し声量下げろ。そして眠らせろ』

「かたいなぁもう少し楽しくやろうってばよ」

『ワシは九尾だ。尾獣の中でも最強の存在。人間などと馴れ合うつもりはない』

「そう言いながらもオレと話してるってばよ」

『ぐっ』

 

口には出さずとも1人と1体は会話を成り立たせている。それは体内に封印されているからという単純なことではなく、それなりに関係を築いているからだ。

 

「馴れ合うつもりがなかったら、オレに話しかけなかったらいいんだってばよ。オレから話しかけることがなければそっちが話すこともない。ということはオレと話すことを望んでいる。そして人間と馴れ合うつもりがあるってことだってばよ」

『…グウ』

「狐が狸寝入りするなってばよ!」

『ぐあっ!わかったわかった!だから叫ぶなナルトっ!』

「わかれば良いんだってばよ」

 

会話をしながらもナルトは、雪の積もった住宅の屋上を脚伝いにして〈火影岩〉へと向かっている。目的地はそこではなくその奥にある岩場だ。到着するまでには、森を少しばかり抜けなければならないがそれも修行の一環。面倒だとか時間の無駄だと考えればそこで終わりだ。

 

『しかしあれ以来、修行に精を出すようになったようだなナルト』

「チャクラ性質だっけ?サスケには2つあってっとぉ!危ねぇ落ちるところだってばよ」

 

雪で隠されていた溝に足を取られながらも、ナルトは会話を続けている。

 

「オレには1つしかなかったから悔しいんだ。修行していたら、いつかもう一つの性質を身につけることができるかもしれない。サスケに負けたくないから、こうして誰にも見つからない時間から頑張るんだってばよ」

『ワシは人間でないしチャクラ性質と関係がない。だからお前の苦労はわからんが、努力するのは間違っていないと思うぞ。結果が出るかどうかは知らんがな』

「母ちゃんはどうだったんだってばよ」

『クシナか?あいつは封印術に長けていたな。うずまき一族自体が封印術を得意としていたから当然と言えば当然だ。そもそも封印術は才能が主にものを言う。できない輩には一生できず、できる輩は一度見せれば再現してみせることも可能だ。ワシはクシナとお前のように関係を築いてこなかった。どのような苦労をしてきたのか理解はおろか知る術もない。ワシは中身でクシナは器というそれだけの関係だった』

「苦労してたんだな2人とも」

『笑止、お前が異常なだけだ。尾獣と仲良くなろうとは誰もが忌避するものであって考えもせん』

 

実際、尾獣を保有する五大国は道具としか扱わない。尾獣の器である人間通称人柱力を嫌い蔑み迫害してきた。いつ暴走するかわからない何をされるかわからない。といった人間の魂胆に組み込まれた原始的な本能の恐怖。

 

中にいるからこそ尾獣にはわかる。自分たちが静かに暮らしていたくとも、人間はそれを許さず奪い去るものだと。

 

「それにしても九喇嘛は随分オレに寛容だってばよ」

『いや、その、ワシもここまで親しくされることはなかったからな。どう接すれば良いのかわからん』

 

両手の指先を合わせてイジイジしながら、チラチラと自分の下に立つナルトを見ている様子が眼に浮かぶ。小さな山程度の巨体を誇る狐が、そんな行動をしているのを想像すると噴き出しそうだ。

 

「初い奴だってばよ!」

『ワシを馬鹿にしてるだろこら!』

「いや親近感ってやつだってばよ」

『けっ、図々しい小僧だ』

 

文句を言いながらも、まんざらでもない様子でそっぽを向く九尾に、ナルトは苦笑しながら〈火影岩〉を目指すのだった。

 

 

 

その頃火影室で3代目火影こと猿飛ヒルゼンは、パイプを吹かしながら資料に目を通していた。手元に積み重ねられた資料には近隣諸国の情勢や軍備拡縮やら。〈木の葉の里〉の経済関係などジャンルが多種多様に含まれている。

 

一夜漬けで一通りの仕事を終えたところで、久方の一息をついていた。

 

「まったく年寄りにこの量とはのぉ少しは考えんか。上層部も何をやっているのかわかったもんじゃないぞい」

「ヒルゼン、いつまであの件を放っておく気だ?事は一刻を争うのだぞ。手遅れになっては他国に示しがつかん」

「ノックもせずに入ってくるとは。また礼儀がなくなったのではないか?ダンゾウよ」

「お前と儂の仲だろうに。その程度で怒るとは引退も近いのではないか?」

「相変わらず口が減らんの」

 

ドアを開けて入ってきた人物に眼を向けずとも、ヒルゼンはほくほくと言葉を交していた。口では言い合ってはいるが、嫌みを言い合うほどには時間も心の余裕もあるようだ。

 

ダンゾウと呼ばれた老人は右手と右眼がなく杖をついている。不気味な様子の老人の放つ空気は、そこらにいる引退した元忍の老人程度ではなく、歴戦の戦士という強い覇気を発している。実際、かなりの腕前の忍者であるが今は木の葉を裏から支える〈根〉として活躍している。

 

ヒルゼンと同期で同じ隊であったことから関係は深い。ヒルゼンが3代目を継いだことから若干敵視しているが、互いに信頼はそれなりにあるからか、表と裏の長として里を大切に想っている。

 

「その件は何度も言っておるじゃろう時間をくれと。時には時間が解決してくれるかもしれんしな」

「とは言うがな。もう見過ごせないところまで来ているのは知っているだろう。いつ暴走しても可笑しくはない」

「だからイタチを使えと?精神的に未熟な子供に、そんな辛い思いをさせるなど儂にはできん」

「未成熟だからこそ矯正ができる。イタチはもう子供ではないと意見は一致したはずだが?奴は子供の考えを持たず、儂ら年長者でさえ驚かされる才能を無駄なく発揮する。それがうちはイタチという忍びだ」

 

話の内容は皆目見当もつかないが、イタチが話題の中心でありキーマンであることは疑いようもないことだ。

 

「それに九尾の小僧をうちはに預けるとは何を考えている?九尾襲撃事件の黒幕はうちは一族だというのに」

「これこれ結論はそう急ぐものではないぞ。まだうちは一族が犯人だとは誰も下しておらんのだ。事は慎重に行かんとな。それにナルトをうちは一族に預けたのは、双方に利益があるからじゃ」

「ほう?聞かせてもらおうか」

 

ダンゾウが向ける冷ややかな視線にもめげず、ヒルゼンは穏やかな笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「ナルトの母親であるクシナはフガクの妻のミコトと仲が良かった。それに誕生日も近いこともあり、容易に受け入れてくれるだろうと儂は考えた。結果、儂の考え通りに事件後に引き取ってくれたので満足じゃった」

「それはうずまきナルトの利益だ。うちは一族に利益があるということはどういうことだ」

「九尾の人柱力がいるとなれば、うちは一族は力を得たことになる」

「暴走する理由になるではないか」

「まあ最後まで聞け。九尾を手中に置いたところで、事件の容疑をかけられているうちは一族は、容易に事を動かせなくなる。クーデターを起こしたがっている一部とは違い、ナルトの親代わりのうちはフガクは幸いにもクーデターに積極的ではない」

「消極的でもないがな」

 

ダンゾウの茶々にもヒルゼンは笑みでスルリと躱して話を続ける。

 

「つまり容疑をかけられているうちは一族は九尾が手中にいることで動けず、フガクにとっては妻の友人の子を育てることと、クーデターを抑えることの理由になる。ここまでくればわかるじゃろう?」

「…イタチが木の葉側にいることで周囲のうちは一族への評価は上がり、木の葉の考えをうちは一族へ漏らすことでイタチの一族内での信頼を得ることができるか。イタチがおらねば成り立たんぞ」

「わかっておる。いたからこそこうして双方に支障をきたさない策を練ることができているのじゃ」

「だがいつまでも保てるとは思っておらんだろうな?」

「…わかっておる。最悪の事態になる前に儂がどうにかしよう」

 

先程まで浮かべていた笑みは消え失せ、里長としての責務を常に抱えている者にふさわしい顔つきになる。こういう風に気持ちを即座に切り替えることができるから、ヒルゼンが火影として選ばれたのだ。

 

「あまいなヒルゼン。問題になりそうであれば、芽吹く前に摘み取っておくのがもっとも的確な策だ」

 

そう言い残して火影室からダンゾウが出て行った後、ヒルゼンはため息を吐いた。普段からダンゾウと会話する場合は話題は決まっている。うちは一族の反乱と里を選べという脅しは、あの事件から続いているからだ。

 

今の最大の問題はそれであった。

 

「もしもを語るのは間違っておるじゃろうが、ミナトが生きておれば問題はなかったのかのう。ナルトか。イタチとサスケの2人と関わってどのように成長していくのか楽しみだのう」

 

そう言って一日の幕開けを告げる朝日を火影室の窓から眺めるヒルゼンの顔には、孫を見るような穏やかで優しい微笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

「だっしゃあぁ!今日の修行は終わりだってばよ」

 

そう言って雪が積もった地面へ、玉のような汗をたんまりとかいたナルトが横たわる。

 

『1ヶ月前よりは成長したな。ワシの毛1本程度だが』

「はんっ、九喇嘛の毛で例えられてもわかんねぇよ!わかりやすく説明しろこの能無し!」

『なんだと!?それが尾獣最強のワシに対する態度かあぁ!?』

「アカデミー入学前のオレと同レベだから言ってるんだってばよ!」

『それ以上口答えすれば身体乗っ取るぞこら!』

 

いやはや幼児と言い合う厄災とも呼ばれる存在とは見ていて悲しくなる。ダンゾウとヒルゼンが重々しい話をしているというのに、九尾が少年と喧嘩とは世も末かもしれない。

 

「帰るってばよ。腹減ったしみんなが心配するかもしれねぇ」

『気をつけろよ。最近は里も騒々しいからな』

 

不器用にナルトの身の危険を心配する尾獣最強。なんとも不思議な光景ではあるが見ていて心安らぐ光景にも見えた。森を向けて父であり4代目火影の〈火影岩〉からダイブする。真冬の凍えるような刺すような冷気も、修行で熱を発している身体にはなんら影響も与えない。

 

むしろちょうど良い具合に冷却してくれるようでもあった。耳元を抜けていく風音。橙色の朝日に照らされた里は綺麗だ。振り返れば他の顔岩とは違い穏やかな表情にも見える1つの顔。それは顔を全く知らないナルトにとって、色がついていて本来の表情を浮かべているようにも見えた。

 

『ミナトか。あの頃のワシは暴れることしか知らなかったな。今思えばあんなに破壊と殺戮をしていた自分に吐き気がする』

「父ちゃんってどんな人だったんだ?話では知ってるけど、九喇嘛の方が近くにいただろ?」

『第一印象は女男みたいなひょろい子供だったな。クシナと同じ意見だったことは少し癪だが。だが見た目とは違い、多方面に優れた忍びだったのも事実だ。あいつが使う《飛雷神の術》は、ワシをわくわくさせる代物だったぞ』

「強かったんだな」

『だからこそ火影になった。人望もあり強く優しくもあった。だからこそ誰もがついていきたいと思ったのだろう。その血がお前にも流れていることを忘れるなよ?お前は尾獣となった母であるうずまき一族の血を引き、火影になった男の血を継いだ忍びだ。そして尾獣最強のワシがいる。これほど居心地の良い場所にはもう二度と出会わないだろう。だからナルト死ぬなよ?寿命以外で死ねばこの里を破壊するからな』

「善処するってばよ…」

 

気が付けば地面まではあと僅か。このままの勢いで地面に着地すれば、いかに人柱力であるナルトでも大怪我は免れない。

 

だが…。

 

「よっと、反動が痛いなぁ。どうにかならないのか?九喇嘛」

 

人間にはない尻尾(・・)。それも緋い衣(・・・)で覆われた一本の尻尾で、地面を捉えて衝撃を吸収していた。

 

『無茶言うな。それを使えるだけでも立派なもんだ。ワシのチャクラはお前自身のものとは似て非なるものである以上、本当の意味で得ているわけではないのだから反動は付きものだ。ワシのチャクラには、かつての怨みや憎しみといった怨念が混ざっている。お前の持つチャクラは、真逆の愛や友情といったもので形作られているからな。それに触れている部分がワシのと拒絶反応を起こしているっていうわけだ』

「怨念?拒絶反応?」

『…簡単に言えば負の感情と拒否する反応だ。今はそれだけ理解していればいい』

 

6歳の子供に理解できる内容ではないのは確かだ。それを話題にする九尾も九尾だが。来たときのように家々の屋上を駆けていると、奥まった路地の一角で可笑しな光景を発見した。

 

縄で縛られガムテープを口に付けられた少女が、4人ほどの黒装束の男に囲まれていたからだ。異様というよりは危険というのが1人と1体の見解のようで、何も発さずに路地へと着地した。

 

「何者だ!?」

「それはこっちのセリフだってばよ!なんで女の子をこんなふうにしてんだ!?それにその服装は木の葉の忍びじゃねぇ。誰だ!?」

「金髪碧眼のガキ。まさか…殺せ!こいつは九尾の人柱力だ!」

 

1人の叫びに合わせて男たちがナルトへ襲いかかった。ナルトの背後には縛られた少女がいるため、避けることはできないし狭い路地である以上応援も呼べない。6歳の子供が大人4人に勝てるビジョンなど見えない。

 

それはナルトが普通の6歳児(・・・・・・)だったならの話だが。だがナルトは残念だが普通の子供ではない。4代目火影と先代の人柱力の子供であり、九尾に気に入られた現在の人柱力だ。

 

「こ、これが九尾の人、柱力か…」

 

一瞬で無力化された黒装束たちは白目をむいて気を失った。

 

「やっぱ体術は鍛えておくべきだな。イタチさんやサスケのおかげで戦えたぜ」

『及第点だぞナルト。言葉を発さずに刈り取らなければ、思わぬ不覚を取る可能性もあるぞ』

「わかってるってばよぉ。いちいち細かいんだから」

「んんんんん!」

 

取り敢えずは肩を塞がれている少女を助けるのが先だ。体に巻かれている縄はそれなりに太く、結び目は固く締められている。手で解くには時間がかかると判断したナルトはチャクラを指先から放出し、ナイフのように形状を変化させた。

 

「んんんんん!」

「怖がらなくていいってばよ。縄を切るだけだから」

 

ナルトが落ち着くように言うと、眼に涙を浮かべた少女は大人しくなりされるがままになる。チャクラで形成されたナイフは切れ味が良いらしく、あっという間にロープを切り落としていた。その次に口を塞いでいたガムテープを外す。

 

「…助けてくれてありがとう」

「偶然だってばよ。それから今のうちに逃げた方がいいぞ。じゃあな」

「あ、待って。…行っちゃった。誰なんだろうあの子」

 

少女にできたのは、壁をひとっ飛びしていったナルトの背中を見送ることだけだった。




ダンゾウとヒルゼンが九尾事件の黒幕がマダラであるとは知らず、うちは一族でもあるかどうかわからないという設定なのでよろしくお願いします。

自分もわからないので原作改編と言うことで。

九尾とナルトが仲良いのはキャラ崩壊というよりは原作の九尾よりおとなしめな性格だったということで


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アカデミー編
4


お気に入り数と評価が怖い...。




少女はどうやって家に帰ったのか覚えていなかった。気が付けば自宅に帰っていて、母親に抱きつかれ胸にすがりついたことだけしか記憶にはなかった。

 

そして今は自分の部屋のベッドで穏やかに寝息を立てている。

 

「こうして幸せそうな様子で寝ていると心から安心する」

 

そう言って娘の頭を撫でながら涙を流している父親は、言葉通りに肩の荷が下りた穏やかなものだった。隣には涙を拭きながら微笑んでいる女性が寄り添っている。

 

「今まで情報もなかったのにいきなり帰ってきたからびっくりしたわ」

「どうやって戻って来れたのか。何か言っていたか?」

「『金髪碧眼の子が助けてくれた』って言ってたわ」

「金髪碧眼?まさかナルトくんが?」

 

予想外の人物の登場に、父親は嬉しそうにそして意外そうに聞き返していた。彼かもしれないという情報でも忌避せず、むしろ好意的に話を進める人物はそういない。

 

ナルトが〈人柱力〉であり、10年前に〈木の葉の里〉を襲った化け狐が封印されているのを知っていながら忌み嫌わない。それは彼が無視できる間柄でもなく、保護せねばならないと思っているからだ。何故なら彼はナルトの父である4代目火影 波風ミナトと友人同士だったからだ。

 

友人の子供というだけで、親代わりになるには十分過ぎる理由だった。たとえ元凶である九尾が封印されていたとしても、それは拒絶する理由にはならない。

 

一時自らが保護しようとヒルゼンに示談したほどだ。だがヒルゼンはそれをやんわりと断った。その事に対して怨みはないし、うちは一族に預けるという考えも間違っているとは思わなかった。むしろそれこそ正しい手段ではないかと思うぐらいだった。

 

ヒルゼンは彼に代償としてナルトを監視役を与えた。監視といっても行動などを見張るという悪い意味ではなく、身の安全を保証するといういわば護衛のようなものだ。

 

彼はそれを嬉々として受け入れこの6年間、任務などでどうしても離れなければならない場合を除いて見守ってきた。だがその隙を突くかのように敵は現れ娘を拉致した。里に侵入するにしても、住民に知られないように拉致する手際の良さには脱帽するしかなかった。

 

いつ何処で拉致されたのか情報がないまま無駄に時が過ぎた。彼等がその異変に気付いたのは、夕方になっても自宅に戻らず、友人たちに聞き回っても目撃者がいないことを知ってからだ。

 

ヒルゼンがそれを知ったのは事件発生から4時間が経過してからだった。取り敢えず自宅待機せよと彼はヒルゼンに指示され、帰宅すると拉致され里にはいないと思っていた娘がいた。

 

「これから火影様にお伝えしてくる。もしかしたら今日は帰って来れないかもしれない。先に寝てくれてていい」

「わかりましたお気を付けて」

「ああ」

 

父としての顔つきから1人の忍びに戻った男は、妻に見送られ火影室へと向かうのだった。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

火影室は血相を変えた2人の忍びで空気が殺伐としていた。

 

「火影様、未だに消息は掴めません!」

「こちらでも情報はありません!」

「ふむ…さてどうしたものか」

 

パイプを吹かしながらヒルゼンは背後にある窓から里を眺めている。慌てふためいているよりは、里を守る長として落ち着いている方が理に適っていた。

 

とはいえ里の子供が行方不明になってから、かなり時間が経っている。目撃情報の一つもないというのに焦ることなく普段通りでいる様子は、いささか不謹慎ではあった。それも里を代表する一族の血を引いているなら尚更に。

 

「里内はくまなく探したか?」

「いえ、完全とは言えません。捜索を行っていないのは〈死の森〉を含む一部です」

「暗部を向かわせるべきかの…」

「火影様!」

 

自身が指揮を執る部隊を派遣しようかと考えていると、1人の男が息を切らして火影室へと転がり込んできた。

 

「息を切らしてまでやってくるとは焦りすぎじゃぞ」

「お伝えしたいことが!」

「言ってみぃ」

 

男は呼吸を整え喜びを隠しきれない様子で口を開く。

 

「娘を発見しました」

「「何!?」

「なんと」

 

報告へやって来ていた忍びたちは、驚きを見せヒルゼンはほっと息を吐いた。里の大問題になる前に解決したことに安堵し、パイプの煙を一際大きく吸い込んだ。

 

「容態はどうじゃ?」

「極めて安静です。今は自宅で眠っています」

「それは何よりじゃ。ではお主たちに別の任務を言い渡す。あやつの持ってきた巻物を読み犯人を捕縛せよ」

「「御意!」」

 

男が巻物を渡し2人が去ってからヒルゼンは声をかけた。

 

「まずは無事で何より。若き命が維持できたことが何よりの収穫じゃ」

「ご迷惑をおかけしました」

「お主が謝ることではない。責任はむしろワシにある。里の治安を甘く見ていたのじゃからな」

「それこそ我々忍びの責任です!火影様が責任を負う必要はありません!」

 

血相を変えて叫ぶ男は、娘の安全を怠っていた自分自身に苛立ちを募らせていた。〈木の葉〉は他国より安全だと思い込み、いつも通りに任務をこなしていたことが腹立たしかった。

 

だがそれはそれで仕方ないことなのだ。忍びにはできる加減というのがあるのだし、何もかもを未然に防げるというわけでもないのだから。

 

「話を戻そうかの。どうやって犯人から逃げおおせたのじゃ?〈木の葉〉を代表する一族の娘とはいえ、忍術を嗜んでいない6歳の幼子じゃ。目撃情報の一つも残さない手練れから逃げるのは、どう考えても不可能じゃろう」

「妻によると、娘が『金髪碧眼の子に助けられた』と言っていたようです」

「…つまりはナルトというわけじゃな?」

「それしか考えられません。黄色の髪といえば、ミナトかナルトくんしかいませんから」

「このことは伏せておくべきか公にするべきか。判断に迷うところじゃの」

 

ヒルゼンの悩みは至極真っ当だ。秘密にすれば彼の娘がどうやって保護されたのかを説明しなければならない。隠蔽工作も難しくはないが、ヒルゼンの性格上は隠し事はなるべくしないでおきたいので難しい。

 

逆に公にすればナルトがどのような立場に置かれるかわからない。〈人柱力〉として認知されるナルトが、偶然とはいえ救助したことを知ればどのような視線を向けられることか。周囲の機嫌取りという最悪の評価を下されるのは想像に難くない。

 

そうなればナルトへの対応は、これまで以上に過激なものになるに違いない。そうなればナルトの怒りが九尾へ伝わり、二度目の破壊が起こるかもしれない。それを防ぐためにうちは一族へ協力を仰ぐにも、不満を募らせていることを考慮すればはばかれる。

 

要するに八方塞がりなために、2人は深く悩んでいるのだ。

 

「上層部にだけは知らせておくべきかの」

「それしかないでしょうね。それからうちはフガクとミコトには知らせておくべきかと。なんせ2人はナルトくんの保護者ですから」

「当然じゃな。ワシもあの2人には極力隠し事は無しにしたい。それに2人が知り得ないナルトの近況報告をしたときの嬉しそうな表情は心が安らぐ」

「見ているこちらも笑みがこぼれるほどですから。それと娘にも知らせておきます」

「よかろう」

 

ヒルゼンは彼が娘に話すことを許可した。被害者なのだから正体を知らせるのは当然といえば当然なのだが、それ以上にナルトのイメージを払拭するという狙いもあった。

 

6歳にもなれば周囲が言うことも、ある程度は理解できるようになる。ナルトがなんと言われているのか。知らず知らずのうちにその言葉に洗脳され、同じように侮辱する大人になってしまう。それを防ぎたいのも理由の一つだった。

 

それからは他愛もない世間話で場には穏やかな空気が流れていた。

 

 

 

ほどなくしてナルトによって成敗された犯人は、捜索隊に捕縛されて敢え無く御用となった。彼が火影室にいた忍びに渡した巻物には、妻から聞いたことが事細かに記されていた。

 

娘が何を話したのかどのように犯人が倒されたのか。場所は何処だったのか。等々、几帳面な彼の性格を体現したかのような代物だったとか。

 

 

 

事件の全容を知らされた彼の娘が、よからぬ方向へ走っていくとは、誰も思いはしなかっただろう。それはヒルゼンも彼も例外ではない。だがそれは周囲からすればという注釈付きであり、ヒルゼンや彼からすれば喜ばしいことに違いはなかった。

 

よもやその子供がナルトに《好意(・・)》を抱き、アカデミーに入学するとは。

 

 

 

 

 

その名を山中いのという。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

時は過ぎて春。あの事件が解決してから、僅かに2ヶ月ではあったが里は賑やかであった。それもそのはず忍者としての才能有りと評価され、入学を許可された子供とその親が、喜びに満ち溢れた様子でいても可笑しくはないのだから。

 

「忘れ物はない?ハンカチとティッシュは持った?」

「「母さん…」」

「…母さんも落ち着きなよ。2人が引いてるからさ」

 

満面も笑みで玄関から送り出す母親に、嬉しそうにしつつも3人は若干引いていた。サスケとナルトは言わずもがな。イタチまでがそうしてまで口にするのが、どれほどのことか想像もできないことである。

 

そして疑問に思うのが、ナルトが見送っているミコトに対して「母さん」と呼んだことだ。2ヶ月前なら「おばさん」と呼んでいたというのに。だがナルトにもそう呼び変える理由があったのだから、問いただすのも野暮だ。

 

ナルトがミコトを「母」と、フガクのことを「父」と呼び始めた理由は些細なことだった。

 

アカデミーに入学するには簡単な試験をパスする必要がある。パスするにはチャクラコントロールを軽く使いこなす必要があり、チャクラコントロールするには日々の生活がものを言う。

 

それは成長に問題がない生活(・・・・・・・・・)だ。

 

親がおらず育てる人がいなければ、アカデミーに入学することも生きることもできない。だがナルトは入学することができて生きることができている。フガクとミコトがいなければ、ナルトは何もできずに路頭に迷い生きることができなかった。

 

つまり「父・母」と呼び変えることは、ナルトにとって最大の感謝の印を形で示すことに他ならない。言葉にすることでその意味は大きく変わる。言葉は人を容易く傷つけ容易に命を奪う。されど心を癒やすことも立ち上がらせることも奮い立たせることも可能だ。

 

全ての事象には裏と表があるように言葉にだってある。それが形になることでより効力は増す。

 

ナルトが知ってか知らずかは別にしても、2人にとって待ちに待ったものであったのは間違いない。ナルトがそう口にしたときには空気が強ばったものだが、誰も茶々を入れずむしろ喜びに満ちあふれた様子で受け入れた。

 

サスケは笑顔でナルトの頭を撫でてイタチはそれを写真に収めた。フガクとミコトに至っては、互いに抱き合い涙を流したほどだ。

 

ナルトがそれを口にしたきっかけは、ナルトがいのを救ったことを2人が褒め称え、豪華な夕食になったときのことだ。そしてそれは偶然か否か。その日にはアカデミー入学許可証が届いた日でもあった。

 

「嬉しくてねぇ。どう口にしたら良いのかわからないの」

「いつも通りで良いよ母さん。行ってきます」

「「行ってきまぁす!」

 

そう言ってナルトとサスケは、互いに抜かれ抜かしを繰り返してアカデミーへと向かう。それを見てイタチは困ったなぁという風に笑みを浮かべて任務へと向かう。

 

それをミコトが微笑ましそうに見送るのだった。

 

 

 

「今日からアカデミーなわけだけど。どんなことを学ぶんだってばよ」

「さあな。思いつくのは簡単な忍術とか手裏剣術、体術じゃないか?」

「どっちもイタチさんに鍛えられたから後れを取る気はねえってばよ」

 

住宅の上を飛び交いながら会話を続ける。

 

「チャクラ馬鹿なナルトには必要ないしな。むしろ必要なのは短気を直すことだろ?」

「んだとコラァ!?黙ってたらいい気になりやがってザズゲェ!」

「やるか!?このウスラトンカチ!」

 

とまぁ楽しそうにアカデミーへと向かっていく2人を、うちは一族のみなさんは、いつも通りだと気にする様子もなく放っているのだった。

 

口喧嘩をしながら走っていくと、10分程度でアカデミーの門が見えてきた。今日からここで忍術を学ぶことができると思うと、わくわくするのが自分でもわかった。サスケやイタチと訓練していたから、忍術を知らないというわけではない。

 

だがずっと同じ相手ばかりだったから、時には違う人と比べたいと思うだけだ。だが今の時点で、下忍レベルのナルトとサスケが満足できる相手がいないのは仕方ない。

 

門をくぐって教室へと入ったナルトは、自身に向けられる視線にため息を吐いた。これまで里を歩き身に染みて感じた視線と全く同じであるからか、想定以上には落ち込むことはなかった。その理由として友好的な視線があったからだ。

 

「おっはよナルト・サスケ。朝から機嫌良くなさそうだねモグモグ」

「朝から挨拶とかめんどくせぇ。取り敢えずはよ~っすナルト・サスケ」

 

最初に声をかけてきたのは、教室の一番前の席に陣取っている2人組だった。朝っぱらからポテチをバクバクと食しているちょいとぽっちゃりな少年と、生きるというより呼吸することさえ面倒くさいという風な少年。行動と見た目はともかく、2人は里内でも有名な一族出身でナルトに好意的な存在である。

 

その理由としてナルトの行動が理由なのだが、本人は至って気付いていない。鈍感なのか気にしないからなのか、正直わからないのが第三者からの意見だ。

 

「おっはよっすチョウジ・シカマル。けど朝から油っぽいのは胃に良くないってばよチョウジ。それに朝から面倒くさそうなのはやめろってばよシカマル」

「…朝一番に面倒な奴らに絡まれた」

 

母親のような挨拶をするナルト、面倒くさいという表情をしているサスケ。表情は対照的であっても喜ばしいのは事実なようで、サスケの口角が上がっているのをシカマルは眼にしていた。

 

「隠しきれてないぜサスケ」

「…結構目聡いなお前」

「モグモグシカマルはモグモグこう見えてモグモグ他人をモグモグちゃんと見てるからね。あ~美味しかった」

「…こっちが胸焼けするから食べるのやめろチョウジ」

 

頭を抱え出すサスケに構わず、チョウジはマイペースを続けた。

 

「ねえねえ、次はどれにしたらいいかな?バーベキュー味?それとも盛り盛りチーズ?それともグレートスペシャルチョコフレークがいいかな?サスケ」

「食べるのやめろつったろコラァ!」

 

対照的すぎる味のチョイスと自分の言葉を聞かないことに、サスケの怒りは爆発した。

 

「うわっ何するこいつ!これはボクのもんだぞ!」

「うるせぇ!いいから取り上げだこれは!」

「2人ともやめるってばよ!」

「勉強とか面倒くせぇ。つ~か止めるのも面倒くせぇ」

 

チョウジからポテチを取り上げようとするサスケ。奪い取ろうとするサスケからポテチを守ろうとするチョウジ。2人を止めようとするナルト。そしてそれを見て見ぬ振りをするシカマル。

 

周囲の子供たちは我関せずを決め込んでいた。そうとなれば道は一つしかない。向かうのは破滅だ。

 

「くっそこいつ!」

「あげないぞ!ちゃんとほしいって言わないとボクはあげない!」

「いらねぇよ!こいつ食べ物になったら面倒だな!」

「食べ物に関して言えば、チョウジは鉄壁だぜ」

 

取り上げることに苦戦しているサスケに、援護なのか豆知識なのかわからない言葉を口にするシカマルは、参戦する気はことさらないようだ。まあ彼の性格を考えればそれも仕方ないことなのだが。

 

「くっそぉ!いい加減に諦めろこのデブ(・・)!」

 

サスケが発した一言で教室中の空気が凍った。そして割れた。

 

「あいつ…」

「あ~あ、やっちまった」

 

空気が凍り割れたことを気にするより前に、ナルトとシカマルはサスケの言葉に頭を抱えた。そして事件現場から少しずつ離れていく。

 

「今、なんて言った?ボクがなんだって?…ボクは〇〇じゃない。ボクは〇ブじゃない。ボクはデブじゃない!ボクはぽっちゃり系(・・・・・)だぁ!」

「げ、チョウジの奴がキレやがった!」

「シカマルぅ、これやばいってばよ」

「俺には止められねぇ。てか面倒くせぇ」

 

ナルトは助けをシカマルに請わなかった。何故なら絶対に手を貸さないとわかっていたからだ。

 

「ボクは怒ったぞぉ!〈倍化の術〉ぅ!《肉弾戦車》だぁ!んごろごろごろごろごろごろ!」

「止まれこのバカ!」

 

サスケの静止もむなしくチョウジは爆走する。

 

「ぽっちゃり系万歳!んごろごろごろごろ!」

「「「「「「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!」」」」」」

 

ナルトが所属するアカデミーの教室はチョウジの否、〈秋道一族秘伝《倍化の術》〉によって悲惨な状態にまで追いやられてしまった。




みなさん救出された娘をあの娘と予想していたかな?そうだったら嬉しいなぁ。



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5

ああっ、そんな、ああ、みさなん、もったいないっ、ああ、っ、いけませんっ、おおお〜っ!

ホホホホホホッ、ホアハッハハハァ!

ソードアート・オンライン アリシゼーションより



前回の投稿から3日でお気に入り229、UA6395も増えるという珍事...。

みなさん期待し過ぎですよぉ!

評価も8.4ですとぉ!?


「今日から新入生の担任か。就職以来初めてだから緊張するなみんな良い子だったら良いなぁ」

 

顔の中心を傷が斜めに走っているのが、印象的な男性はどうやら教員のようだ。まあ先の台詞を聞けば誰でも気付くだろうが、あまりにも優しい風貌なのでそんな印象を抱けなかった。

 

「みんな、おはよう…」

 

ドアを開けて教室にいる生徒に、声をかけようとしたが声は尻すぼみになっていった。それもそのはず、何故なら目に飛び込んできているのがとんでもない絵面だったのだから。

 

「あっ、ぐっも~にんイルカ先生!」

「ぐっも~にん、じゃないだろナルトぉ!」

 

イルカに笑顔で挨拶したナルトだったが、怒鳴られて笑みを引きつらせていた。まあそれは仕方ないだろう。何故なら教室が、とんでもない惨状になっているのを知っていたし、元凶の1人でもあったから。

 

床を見れば至る所が陥没し、またはめくれ上がっていたり教卓や机はガラクタと化している。さらには生徒がそこらへんで白目をむき、気絶しているのだから無理もない。

 

「初っぱなからこれだと先が思いやられるってばよ」

「お前が言うなこのバカ!」

「いってぇぇ!」

 

イルカに頭を殴られて、ナルトはあまりの痛みに転げ回っていた。

 

「生存している生徒に命ずる。気絶した生徒を医務室に連れて行き、教室の掃除をすること。いいな?」

「へいへ~い」

「面倒くせぇ」

「仕方ないか」

「モグモグバーベキュー味って美味い!」

 

それぞれの返事を返して生存者4名(元凶とも言う)は、各々で誰がどの役割を担うのかを話し始めた。

 

それをため息を吐きながらも、まんざらでもない様子で微笑むイルカは良い先生だ。その笑みにはたくさんの意味合いが含まれているが、本人以外に知る由もなかった。

 

 

 

「じゃあ、授業始めるぞ」

 

事態の収拾後、イルカは授業を始めたのだが...。

 

「「「「…」」」」

「返事をしろぉ!」

 

自分の言葉に4人が返事をしないのでイルカはブチ切れた。

 

「…はーいだってばよ…」

「しゃあねぇ」

「面倒くせぇ」

「モグモグ盛り盛りチーズ美味しい。ん?はい、ポテチはなんでも好きです!」

「誰もそんなこと聞いてないぞチョウジぃ!」

 

個性ある返答をするのでイルカは頭を抱えたくなった。それなりには勉強する姿勢を見せる2名、まったくその姿勢を見せない1名、そして問題なのが未だにポテチを頬張っている存在が1名。

 

教室にいるのがこの4名しかおらず、その4名がこの有様であれば仕方ない。それも入学初日であれば尚更だろう。

 

ナルトにイルカ先生と呼ばれた男性の名前はうみのイルカ。

 

アカデミーの講師で忍者としての地位は中忍。性格はお人好しで、どんな生徒にも真摯に向き合う優しさを持ち合わせている。講師としての腕前は確かで、卒業生からの支持は歴代で見ても上位に食い込む。

 

なのに…。新学期早々何故こうなってしまったのかイルカは落ち込んでいた。人気もあり評価もあり人徳もある彼でさえ、手の付けようがないほど荒れた。

 

どんな悪ガキでも入学当日に、問題は起こさないだろうと思っていた。

 

過去を見ても問題を起こす生徒は数多いた。むしろ問題を起こさない生徒の方が少ないぐらいで珍しい。講師としては問題がない方が嬉しいが、多少起こしてくれた方が話題を作りやすいしきっかけができる。だからといって起こしすぎもさすがに論外だが。

 

「イルカ先生が怒ってるってばよ」

「これが怒られずにいられるか!どうすんだよ!この教室を誰が修理すんだ!?誰が金払うんだ!?」

「「「「イルカ先生」」」」

「こっの大馬鹿者どもぉ!」

 

どうやらイルカの苦労は始まったばかりのようだ。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

入学初日の授業を終えて4人は帰路についていた。初日ということもあり本来であれば、自己紹介と忍者学校つまりはアカデミーの説明で終わるはずだった。

 

だが教室破壊の責任と罰として説教を喰らっていたので、帰宅時間は15時という微妙な時間となっていた。

 

「遅くなったってばよ」

「誰のせいだろうな」

「帰るのも面倒くせぇ」

「モグモググレートスペシャルチョコフレーク、これもいいなぁモグモグ」

 

商店街を歩きながらそれぞれが個性のある言葉を吐き出す。ナルトとシカマルからすれば、巻き込まれた立場だから文句を言うぐらいは許される。

 

だがサスケにはその権利がないはず。今回の説教の発端は、彼が禁句を口にしたことなのだから。

 

チョウジもその一言で怒るなと思うだろうが、あの二語はタブーであるから仕方ない。暗黙の了解としてサスケも知っていたのだが、怒りで何処かへと置き忘れていたようだ。

 

「何処行こうにもあんまり過ごす時間はないってばよ」

「修行するか?」

「修行も遊ぶのも面倒くせぇ」

「焼き肉行こうよ」

「「「早い」」」

 

3時から焼き肉はさすがに無理がある。それに1人だけ莫大な量を食い切る存在がいるから、3人は同席することをよく思わない。親から月に少しだけ小遣いをもらっているといっても、1000~1500円とかその程度だ。

 

それぐらいで焼き肉に行けば、あっという間に予算オーバーだ。それも割り勘ともなれば3人が憤慨するだろうし。

 

「えぇ~お腹いっぱい食べたかったのにぃ」

「人の倍食べる奴が、なんで食わない俺たちと同じ料金払ってるんだよ」

「そうだそうだ。不公平だってばよ」

「食べるのも面倒くせぇ」

 

騒ぎながらも笑顔で会話をする様子は、無邪気で見ている方からすれば心温まる。商店街でナルトを見かけると、露骨に嫌そうな顔をする住人もいる。

 

だがサスケやシカマル、チョウジといった里を代表する一族の次世代が、隣にいるからか暴挙にでるような輩はいない。でていたら住人が唯では済まなかっただろう。ナルトにやられるというよりは、3人にやられるというのが正確である。

 

よく喧嘩をするが兄弟のように育ったサスケ。助けるのは面倒だが、幼馴染の危険を救った張本人だから無視しないシカマル(素直に言えば攻撃されるナルトを見たくないから)。幼馴染を助けた人物であり、いつも仲良くしてくれるうえにお菓子もくれるから無視しないチョウジ。

 

ナルトはサスケが周囲に怒ってくれる理由を知っているが、シカマルやチョウジが怒ってくれる理由は知らない。小さい頃から仲が良かったからと思っているがそうではない。シカマルとチョウジにとってナルトはかけがえのない友人だからだ。

 

幼馴染の救出も理由の一つでも一番は、共に語り合い遊び、悪戯をすることが楽しいからだ。シカマルは面倒くさがりだが、案外悪戯好きでナルトに向けられた悪意にかなり敏感だ。ナルトと一緒にいれば騒動に巻き込まれるが、楽しいし何より飽きないから近くにいる。

 

チョウジも理由の大部分がシカマルと同じで、一緒にいて楽しく飽きないから。それにお菓子を頻繁にくれるから、手放したくないというお茶目な理由もある。

 

「捕まえてくれ強盗だぁ!」

 

商店街を歩いていると、刃物を振り回しながら鞄を抱えている中年の男が走ってきた。店主なのだろうかエプロンを腰に巻いた男性が、道行く人に声をかけている。

 

「どうするってばよ」

「捕まえなきゃ駄目だろうな。見て見ぬ振りは〈木の葉の里〉を代表する一族としてできない」

「目撃してなんで捕まえなかったのか母ちゃんに言われるのも面倒くせぇな」

「捕まえたらお菓子くれるかな?」

 

全員が顔を見合わせてニヤリと笑うと各々が作戦位置に着く。5年の付き合いからか言葉を交わさずとも互いの行動を先読みし、流れるようにやるべきことをこなす4人。

 

「いつでもいいぜチョウジ」

「行くよぉ《部分倍化の術》!」

 

先程の口ぶりとは違い、隠しきれない喜びを見せるシカマルが合図する。チョウジの右手の上腕二頭筋から先が肥大化し、年の割に体格の良い体に不釣り合いなサイズまで大きくなる。そのまま右手を地面に振り下ろすと、風圧と地面の震動で窃盗犯?もしくは強盗犯がたたらを踏む。

 

「〈忍法《影真似の術》〉」

 

シカマルの影が変形し、バランスを崩し逃走を阻害された犯人へとかなりの速度で地面を縫っていく。犯人の影にくっつくと犯人はぴたりと動きを止めた。

 

「今だ!」

「「おう!」」

 

号令と共に屋根の上から2つの影が、僅かな時間差で犯人の近くへ飛び降りる。

 

「とった!」

「喰らえ、うちは一族秘伝(サスケ本人曰く)体術、《四肢連弾(ししれんだん)》!」

「くそ、返せ!っぐはぁ!」

 

ナルトに鞄を奪い取られそちらに意識を向けてしまい、時間差で降りてきたサスケによる両手両足の殴打によって、犯人は意識を刈り取られて路上に屈した。白目をむきだらしなく気絶している様は、情けないの一言に尽きる。

 

「ナイスアシストだってばよチョウジ・シカマル」

「そっちだってなかなかじゃん」

「時間差攻撃とはなぁ。つーか褒めるの面倒くせぇ」

「素直に褒めろ」

 

シカマルの面倒くさがりに買い言葉で返答するサスケだが、褒められて嬉しい顔は隠せていなかった。

 

 

 

その後、犯人を〈木の葉警備隊〉に預けて帰ろうとした4人だったが、被害に遭った店主にお礼をしたいと言われ店先で待っていた。

 

「さっきはありがとうね。これはちょっとしたお礼だよ」

 

差し出されたものを見て嬉しそうに顔を綻ばせた4人だったが、袋の数を見て表情をしかめっ面に変える。それを見た店主が不思議そうに聞いてきた。

 

「これじゃ不満だったかい?」

「いや、貰えるのは嬉しいんだけどよ。なんで袋が3つ(・・・・)なんだ?普通なら4つだろ」

「なんでだい?奈良シカマルくんと秋道チョウジくんにうちはサスケくんになんだから3つだよ」

 

屈託のない笑みで悪びれる様子もない店主に、3人は露骨にため息を吐いた。

 

「あのなぁ、ナルトのぶんがないのが可笑しいって言ってんだよ俺たちは」

「ナルトのぶんをわざと抜いているならキレるぞこっちは」

「そうだそうだ可笑しいよ!ナルトにないなんて可笑しい!」

 

憤慨するシカマル・サスケ・チョウジの様子を見て、理解できないとばかりに笑い飛ばす店主はまったく気にしていないようだ。

 

「何を言ってるんだ君たちは。そこにいる化け狐にお礼だって?冗談じゃない。そんなことしたら店の名前にドロを塗ることになる。それは勘弁だ」

「…ふざけんな!ナルトが何したってんだよ!ナルトだって好きでこうなったわけじゃねぇんだよ!」

 

堪忍袋の緒が切れたサスケが店主に掴みかかる。

 

「サスケ、そこらへんに…」

「お前は黙ってろナルト!」

 

サスケのあまりの剣幕にさすがのナルトも口を挟めなくなる。隣に立つシカマルやチョウジも、唖然として見るほどの怒り模様ならどれほどの怒りが、サスケの内に煮えたぎっているかわかるだろうか。

 

サスケにとってナルトは、兄を横取りしようとする気に食わない存在だ。しかし嫌いではなく、むしろ好きである。自分を高めてくれるライバルであり弟だ。

 

うちは一族の血を引いていなくとも、ナルトはサスケにとってかけがえのない存在だ。だから無下に扱われてしまったことに怒りを抱いている。

 

「これまでどんな目に遭ってきたのかお前にわかるのかよ!何も知らず何も知らないのに罵倒されたり、石を投げつけられ暴力を振るわれる痛みをお前は知ってるのかよ!」

「理解したくもないんだよサスケくん。理解してどうなる?何かが変わるのかい?」

「ちっ!おい、行くぞ!」

「ちょっと待てよサスケ!」

「あ〜あ、行っちまった」

 

シカマルの独り言は己の本心をさらけだしたものだった。シカマルも店主の言い様は無視できないものだったし、サスケがあれだけ怒る理由もわかっている。だがいつもの癖で怒るに怒れなかった自分の不甲斐なさを情けないと思いつつ、これから改めればいいと思うのだった。

 

「おっさん、俺はこれからもうここで飯買わねぇことにするわ。親友にあんなこと言われちゃ我慢出来ねぇ」

「ボクは一族みんなに言っておくよ。『あの店で買うな』ってね」

「そ、それは困るよ君たち!」

 

焦り始める店主に冷めた視線を向ける2人。

 

「当然の報いだぜ?友人を馬鹿にされちゃ黙ってられないのが人間の性ってもんだ」

「難しい言葉を使うねシカマル」

「わかった!謝るから許してくれ!」

 

そう言いつつ頭を下げる店主に、2人は冷ややかな視線を向ける。子供が大人に向けるような視線ではなく、敵を嫌う忍びとしての視線だった。

 

「謝るならナルトとサスケに言うべきだな。それにあんたが謝るのは、ナルトのためじゃなくて自分と利益のためだろ?論外だぜその考えは」

「大人のくせにそんなこともわからないの?二度とボクたちに近づかないでよね!」

 

そう言い残して2人は感謝の袋を受け取らず、ナルトとサスケが去って行った方向へ歩き出す。捨てられた店主は、ナルトに怒りをぶつけるように呪詛を撒き散らしながら店内に引き返して行った。




期待に応えていくのが作者としての仕事。

とはいうもののそれは難易度高めですよ〜。頑張って書いていきますのでよろしくお願いします!


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6

こうなるとはなかなかやるではないか。しかし甘いぞ!...まあ、及第点というところか。これからも鍛錬に励め、雑種。


Fate/英雄王より


お気に入りと評価、UAがぁぁぁぁ!


「ほんっと最悪!」

 

そう毒づいているのは頭に包帯を巻き、腕のそこかしこに絆創膏を貼ったサクラ色の髪をした少女であった。お気に入りの赤いリボンをぼろぼろにされたことがお気に召さなかったらしい。

 

この少女だけではなく、多くの人間がお気に入りのものに傷を付けられればそうだろうが。それを抜きにしても、ご立腹なのは変わらなかった。

 

「そこまで怒らなくてもいいんじゃない?」

「これが怒らずにいられるかっての!入学早々に怪我して授業も受けられないなんて最悪よ!」

「初日ぐらい別にいいと思うけど。どうせ自己紹介とかそういうので授業も終わりだったろうし」

 

実際、初日の時間割は1限目が教員とクラスメートの自己紹介及び校内の説明、2限目が校内探索という感じたった。別段気にすることもないことだが、どうやらその少女はそれが気に入らないみたいだ。

 

「大体今日の元凶はナルトでしょ?ふざけんなっての」

「…あれはサスケくんがチョウジに禁句を言ったからよ。ナルトのせいじゃないよ」

「ナルトがそいつに声をかけられなかったら、こうはならなかったの!」

 

予想外のところで想い人の名前が上がり、頬を少し紅く染めた少女は非が無いことを説明する。好意を抱いている相手を悪く言われたくないというのが大半を占めていたが、サスケが原因であることを言っておくことも忘れない。

 

その辺りもしっかりと周囲を見ていなければできない。まあ、恋愛事情が行動させたのは否めないのだが。

 

「にしても今日は商店街がお祭り騒ぎね」

「仕方ないでしょ。今日は入学初日なんだから。昨日のお祝いの余韻が残っても可笑しくはないもの」

 

2人はチョウジの《肉弾戦車》による被害を受け、医務室で介抱されていた。目が覚めて異常がないことがわかり、帰宅の許可が下りて今に至るということだ。

 

未だ多くの気絶者がいるがそのことを話題にはしない。何故なら目の前に高速回転する人間の身体が迫る様子が、数時間経った今でも脳裏によみがえるからだ。

 

そういうことでサクラ色と金髪の少女は、時間が微妙なこともあり、里内の人が多く往来する場所を暇つぶしがてら歩いていた。店先には〈アカデミー入学おめでとう〉の旗などが並んでいるので活気に溢れている。

 

入学当日から3日間は何処の店も特売価格で売り出す。そのため何処の店もしのぎを削って特売状態だ。だからこの3日間は商店街が一時的な戦場と化し、殺伐とした空気になるのは否めない。だがその方が子供にとっても遊びやすくなるので文句はないようだ。

 

「これからどうする?15時っていう微妙な時間だから何処行こうにも中途半端になるし」

「勉強は勘弁よね。明日から授業だから今日ぐらい羽伸ばしたいもん」

「どうしたものかよね~」

「捕まえてくれぇ!強盗だ!」

「「ええ!?」」

 

こんなめでたい日に強盗だなんて嘘でしょ?と言いたいのか。2人は声のした方へ顔を向ける。するとそこでは、鞄を抱えた男が刃物を振り回しながら逃げているのが見えた。

 

「止めた方が良いよね?」

「でも刃物振り回してるよ!?私たちじゃどうにもできないわよ!」

 

それもそのはずだ。入学したばかりの少女が強盗に挑むのは無謀であるし、刃物を振り回していれば尚更だ。足止めをしようにも人質に取られるのが眼に見えている。金髪の少女からすれば、トラウマのようにあの頃(・・・)の悲劇が脳裏にフラッシュバックする。

 

悩んでいる間にも犯人はかなりの速度で逃走を続けている。どうしようか悩んでいると、知った顔が行動を起こすのが見えた。

 

「あれはシカマルにチョウジ?それにあの髪の色はナルト?」

「捕まえようっての!?無茶よあんな体格の男に勝てるわけがないわ!」

 

サクラ色の髪をした少女、春野サクラは少年4人が筋肉マッチョに飛び掛かると思っていたようだ。さすがにその馬鹿4人組でもそこまで無謀な真似はしない。

 

だって4人には捕まえる別の方法があるのだから。

 

「心配しなくても大丈夫よ。直ぐに犯人捕まるから」

「なんでいのはそこまで落ち着いていられるのよ!あんな大男に子供4人が勝てるわけないじゃない!」

「いいから黙って見なさいよ!」

 

大きな声で言い返されて驚き、サクラは怒りの矛先を素直に押さえ込んだ。言われたように視線を4人と逃走する犯人へと向ける。

 

2人の少年が店の上へと飛び上がり、残った2人が路上で構える。黒髪の長髪を頭上で結んだ少年が、左の人差し指と中指を右手で包み込むような不自然な形で膝立ちになる。

 

後ろでは教室で見た腕が大きくなる様子を見て、サクラは呆気にとられる。だが教室でのように身体全体が肥大化するのではなく、右腕だけという限定的な変化に驚く。その巨大化した右手を叩き付けると、不自然な波が地面を伝っていくのが視えた。

 

それが周囲になんら影響を及ばさず、逃走していた男だけに届いているのが不思議でならなかった。波で足場を取られたたらを踏んだ男に、長髪の少年の合図と共に上空から降ってきた影が男に襲いかかった。

 

黄色い髪をした少年が男から鞄を奪う。それを取り返そうとする男に時間差で降ってきた黒髪の少年が、両腕と両足の連擊で昏倒させた。それが5秒にも満たない間に起こったことなど、忍術を学んでいないサクラからすれば信じられないことだった。10歳の少年らが呆気なく大男を捕縛したその現実に、ある意味ショックを受けていた。

 

「ね、言ったでしょ?大丈夫だって」

「…う、そでしょ?あんな簡単に捕まえるだなんて」

「シカマルとチョウジとサスケくんは里を代表する一族出身だし、ナルトはサスケくんと兄弟みたいに育ったって言うしね」

「ナルトとサスケくんが兄弟みたいに育った?」

「うん、ナルトはうちは一族じゃないけど事情で預けられたらしくて、小さい頃から忍術の修行受けてたみたい。だからナルトが3人に後れを取ることもないの」

 

自信満々に胸を張って説明するいのにサクラは驚愕していた。まさか他里にまで名を馳せる一族に育てられ、しかも遅れを取ることなく活躍するのを見て、自分の評価を誤っていたことに気付かされた。これまでのナルトへの評価と今の違いに戸惑いを感じていた。

 

「よく知ってたわねその情報」

「2人とは家族ぐるみの付き合いあるからね。ナルトは好きだからだけど///ボソボソ」

 

最後の方は小声で聞き取れなかったが、サクラは笑顔で言葉を交わす4人に称賛にも似た視線を向けていた。

 

この日、何故か《内なるサクラ》が形成されるのだったが、誰もがその存在を認識することはなかった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

翌日の教室はいささか居心地が悪かった。ナルトからすれば人外的な何かを見るような視線より、今向けられる視線の方が慣れていないからか落ち着かない。

 

「これって俺のせいか?」

「それ以外にねぇってばよ」

「視線を無視するのも面倒くせぇ」

「お菓子くれないの?」

 

少々最後の台詞だけは趣旨が違うが、概ねいつも通りの4人であるのは間違いない。クラスメートが4人に訴えるような視線を向ける理由は、昨日理不尽な理由で医務室行きになってしまったからである。

 

だがその中でも、悪い視線を向けていない人物がいるのも確かだ。

 

いのは言わずもがな。サクラもそのうちの1人だ。昨日までナルトは里の人たちが言うような不気味な存在だと認知していたが、あの一件を見て以来、周囲の反応が過剰すぎると考え直していた。

 

強盗を捕獲した後の4人でしていた会話やその他の3人の笑顔。それは大人たちが言うような異質なものではなく、年頃の少年たちが物事を楽しんでいる図だったからだ。

 

ナルトと言葉を交わすシカマルやチョウジ、サスケの眼にはナルトを忌避する感情が一厘も見当たらなかった。むしろ愛情にも似た優しげな光が宿っているようにも見えた。あの後、強盗の被害に遭った店主に連れられていったのでどうなったかはわからない。

 

自分たちはそれから里の名物であるあんこ屋で、だべっていたのでどうなったかは知らないのだ。いのの話を聞く限りシカマルやチョウジが、ナルトを友人として慕っているのは、小さい頃から一緒に修行をした仲だからとか。

 

里を代表する一族である山中一族・奈良一族・秋道一族は、昔から《猪鹿蝶》として他国に知れ渡っていた。だからその一族の血を引くいの・シカマル・チョウジが、仲良くしていても別段可笑しな事はない。

 

だがうちは一族で育ったというナルトや、その血を引くサスケと関わりがあるというのはいささか疑問である。うちは一族には宜しくない噂が昔から里内に出回っていたからだ。それでも親同士が関わりが深いということと、子供の歳が近いということで関わりがあっても可笑しくはない。

 

一見すれば実に意味のある関係を築いている。里を代表する一族の次世代同士が、互いを高め合うきっかけにもなるのだから悪いことは何一つ無い。

 

でもサクラはそれ以外にも理由があるのでは?と少しだけ思うことがある。確証もなければ証拠もないものだが、小さな本当に意識しなければわからない程度の疑問である。だからそのことを口にする気はないしどうでも良かった。

 

「ナルト、ようやく来たか」

「ひっ!」

 

そう後ろから声をかけられてナルトは悲鳴を上げた。女性の声音ではあったが、如何せん性格が性格であるし、逆らえない人物だから本能的な恐怖が漏れ出ている。

 

「...おはようだってばよヒナタ(・・・)…」

「もっと元気に挨拶しろ。殺すぞ?」

「おはようございます!」

「ああ、おはよう」

 

《白眼》全開で脅されたナルトは、体中から冷や汗を噴き出させながら大きな声で挨拶をする。その後ろでビクビクと怯えている3人組がいるが、そこは割愛させていただく。

 

関わりがないわけでもない3人は、逆らえない実力の持ち主にひれ伏すしかなかった。

 

「いいかお前ら。ナルトはオレの男だ。奪いたければ力尽くで奪いやがれ」

「「「「「…」」」」」

 

6歳という年齢に不釣り合いなややボリュームのある胸部をナルトに押しつけながら、《白眼》全開で教室中を睨む〈木の葉の里〉を代表する日向一族の長女 日向ヒナタ。

 

一族でも歴代に類を見ない才能ぶりと言われているが、性格が性格なので次期当主候補にはなっていない。そういうこともあって誰もヒナタには逆らえず何も言えない。いや、そもそも逆らうという概念さえ抱くことがないという方が正しいか。

 

「それには異議あり!」

「ああん?」

 

勇者が現れる。反対意見を持ち出す存在がいると誰が予想できただろうか。アカデミー生はいざ知らず、下忍は元より中忍でさえ頬を引くつかせるというのに。

 

「恋は戦争よ!それを理解していない貴女は、異常としか言い様がないわ!」

「あんだとてめぇ!」

「「「「「「ひいぃぃぃぃぃ!」」」」」

 

ナルトたち4人を含む悲鳴が教室中に響き渡る。その威圧にも負けないどころか、ヒナタの眼前まで接近する度胸に誰もが「おお!っ」と声を上げたくなる。といっても萎縮しているクラスメートが声を上げれるわけもなく、教室に立っているのはヒナタといのだけ。

 

いや、膝が笑い今にも崩れそうないのを後ろから、ヒナタからは見えないように後ろから支えているサクラを含めば3人。修羅場と化している教室を、どうにかできる人物は2人しかいないのでそこに頼むしかない。

 

地震でも起きて頭部を守るかのように床にへばりついている様子が、余計に教室のシュールさを醸し出している気がする。

 

「ほ~う?怖がりながらも前に出てきたのだけは褒めてやるぜ。けどなぁ誰かに支えられながら(・・・・・・・・・)じゃないと、立てないようなあまちゃんとはやらねぇ主義なんだよオレは」

 

《白眼》は相手の〈経絡系〉を見ることが出来る《血継限界》だ。人間1人もしくは壁1枚隔てたところで、簡単にごまかせる代物ではない。ましてや一族きっての強さを誇るヒナタの《白眼》は、〈経絡系〉を見るだけには収まらず、〈点穴〉さえ見つけ出す。

 

だから見えないようにしていても、発動させられていては意味がなかった。

 

「っ!それでも私は立つわ!1人でできないなら誰かの力を借りてでも立ち上がる!それが私の忍道よ!」

「…へぇ、お前心意気だけはいいな。けど腕前はどうだろうなぁ!」

「「きゃあ!」」

 

ヒナタが予備動作無しの右の掌底を繰り出すと、あまりの風圧にサクラといのが後ろに倒れ込んでしまう。背後を見れば手形がガッポリと出来上がっている始末。

 

掌底はいのの左耳を直ぐ側を通過していたらしい。それだけの風圧が発生していれば、いのとサクラの左の鼓膜は使い物にならなくなるはずだ。それでも2人の鼓膜が無事なのは、ヒナタが計算して放っているからであり偶然の賜物ではない。

 

「この程度で終わるとかまだまだだな!それでナルトの彼女に立候補したのかよ片腹痛くなるぜ」

「そ、そんなのじゃないわよ!///」

 

赤面して怒る辺り自分から暴露しているようなものだが、生憎それを口にすることが出来る人間はここにいない。いたとしても口にはせず黙り込んでいるから。

 

シカマルとかチョウジとかシカマルとかチョウジとか。サスケは薄々感づいてはいるものの、確信が持てていないので除外しておく。

 

「恋は戦争か。まあいい勝てると思ったときに来な。いつでも相手してやるからよ」

「…やってやろうじゃないの」

 

ここに両者が敵同士と認識したことで宣戦布告ということになる。2人とも異議は無いようなので決着がつくまで続くことになるだろう。

 

「第1次正妻戦争勃発だな」

「恋も面倒くせぇ」

「手伝ったらお菓子くれるかな?」

「「ありそうだな」」

 

教室の隅の方で固まって、行方を案じていた3人はホッと一息つき、ながらなかなかシュールな会話を交わしていた。ヒナタの耳に入らなかっただけ行幸と言えよう。

 

ヒナタもある程度気が済んだらしく、その後は問題なく物事が進んでいった。というよりは別人とも思える性格の変わり様で、今では自分の行動と発言に赤面し、額を教室の壁に何度も何度も打ち付けている最中だ。

 

この日向ヒナタは、普段は男子と話すのが苦手な男心をくすぐる健気な少女なのだ。だが恋愛事になると豹変し、肉食系というより暴力系に早変わりする。

 

〈欲しいものは力づくで奪う〉という格言を持ち、その言葉通り進撃するのだ。敵に回せば命はないと思わせられるので、家族といえどぞんざいな扱いはできない。

 

父であるヒアシは親バカなので、そんなヒナタも可愛がる可愛がる。頼まれればなんでも買うような始末であり、宗家だけでなく分家も悩んでいる。分家はネジのことでも悩んでいるので、一族揃って悩みに悩んでいる。

 

 

閑話休題。

 

 

とはいえ、この惨状は言葉にしがたく教室には微妙な空気が居座ったままである。

 

始業時間になるとイルカが入ってきた。だが教室の後ろに小さいとはいえ手形が残っているのだから、教卓から生徒を見渡せばどうしても視界に入ってしまう。

 

せっかく1日で修理した教室に、真新しい傷跡ができているのを見ればショックを受けてしまうのは致し方ない。

 

だからそれを眼にしたイルカが泡を吹いて気絶し、2日続けて授業が飛んでしまったのも仕方がない。




ヒナタを日向一族最強にしました。ネジがどうなるかって?それはお楽しみですよ!


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7

此処まで来たらあと100歩だ。音を上げるなよ?雑種。

Fate/英雄王より



前回の投稿から気付けばUAが5995、お気に入りが108増えていました。

恐ろしいですな。でも見てくれることに感謝を!




2日続けて授業を行えなかったイルカは、少々憔悴しきっていた。長年講師を務めてきた中で、ここまでひどいことになるとは予想していなかったからだ。

 

それでもめげないのが教師としての役目であり、イルカの長所でもある。立ち直りが早く前向きに考慮することをモットーとしてやり遂げる。

 

それがうみのイルカという〈木の葉の里〉で、教師をしている人間の本質だ。

 

 

 

 

「おはようみんな。うん、今日は何事もなく始業までに席に着いているな。やればできるじゃないか。さて今日から本当に授業を始めるが、入学試験において、類い稀なる成績を残した生徒が3人いた。その3人を発表し、みんなの目標にしてもらいたい」

 

そう言いながら名簿を開き、パラパラとページをめくっていくイルカを見て生徒たちはざわめきだした。3人のうちの2人は誰なのかは、生徒たちの視線を見れば自ずとわかるだろう。

 

濃い群青色の上着を着た年の割には少し幼い容姿の少年。白い瞳で両の指先を合わせてイジイジしている、年の割にナイスバディで気弱な少女。

 

言わずもがなサスケとヒナタだ。サスケは自身の才能をまだ上手く操れてはいないがうちは一族出身だし、ヒナタは日向一族で類を見ない天才だと称されているし。

 

クラスメートであれば、その2人を見つけるのは容易いことで間違えるはずもない。

 

だが最後の1人が誰なのかがわからないらしく、隣同士で「ああでもないこうでもない」と話し合う始末。楽しそうに相談し合う様子を見てイルカが合図を送る。

 

「はいはい、そろそろいいか?発表するぞ。まず入学者主席はうちはサスケだ」

「「「「おおぉぉぉ~」」」」

 

予想通りではあったが、それでも生徒たちは拍手をサスケに送る。

 

「やったなサスケ!さすがオレのライバルだってばよ」

「ふん、当たり前だ。俺はうちはを継ぐ忍びとして当然のことをしたまでだ」

 

本人はいたって平静・冷静を務めようとしてはいるが残念かな。喜びを抑え切れておらず、口元がほころんでいたのをナルト・シカマル・チョウジは見落とさなかった。それをこそこそと3人が小声で話し合い、笑みをこぼしているのはなんとも和やかだ。

 

「みんなの反応を見る限り予想通りだったみたいだな。サスケは入学試験におけるペーパーテストつまりは筆記試験で満点、実技試験でも文句なしの満点だ。それに比べてシカマル、両方50点以下とは何様だこらぁ!」

「そこで俺に矛先向くのかよ面倒くせぇ。別にテストが全てって事じゃないでしょうが先生?実戦で結果を残せば良いんすよ」

「さすがシカマルだな」

「やっぱりシカマルだってばよ」

「シカマルだもんね。ジョロキア・ハバネロ・鷹の爪をタウマチンとチョコレートでコーティングしたポテチなかなかいけるね!食べてみる?」

 

なんということだろうか。世界でもっとも辛い唐辛子の中でも上位に食い込む2種類と、世界で最も甘いものとして有名なものを合わせたお菓子を食べるとは。見ているこっちが胃をやられそうなコラボレーションにかかわらず、チョウジは馬鹿食いしている。

 

「おう、サンキュー。ごはぁ!辛ぇぇ!でも甘ぇぇ!それでいて美味い!なんだこれは!」

「でしょ!でしょ!いけるよねこれ!」

「チョウジぃぃぃ!教室で菓子を食うな!それになんだジョロキア・ハバネロ・鷹の爪をタウマチンとチョコレートでコーティングしたポテチって!?甘いのか辛いのかわからん!」

 

チョウジの前で仁王立ちになり、説教するイルカの顔が凄いことになっている。イルカは元々温厚な容姿をしているから、鬼の形相とまでは行かないが、それでもいつもの面影は見えない。

 

「先生もいる?」

「いるかぁ!胃がやられるわこんなもの!没収だ!」

「あっ、ボクのお菓子先生が取った!《部分倍化の術》!」

「のわぁぁぁ!」

 

哀れやイルカは、チョウジの張り手によって数分間気絶してしまったのであった。

 

 

 

「コホン、では次席を発表する」

 

右頬にガーゼを張って不機嫌そうなイルカが、先程と同じように教卓から名簿を開いている。自分が原因だというのに、チョウジは新たなポテチを開けて美味しそうに食していた。

 

「次席は日向ヒナタ」

「「「「おおおぉぉぉぉ~」」」」

「あわわわわわわ。ネジ兄さんでさえこんなことはなかったのに」

 

まさか自分とは思っていなかったのか。ヒナタは挙動不審に陥り、教室中に視線を走らせていた。だがヒナタとは違いクラスメートたちはこれもまた予想通りとでも言うように、納得顔でヒナタを見たり、しきりに首を縦に振ったり拍手を送ったりしている。

 

「お呼びですかヒナタ様!」

 

突如、教室のドアを開けて少年が片膝立ちで入ってきた。長髪を後ろでくくり白い眼をした少年の正体は、日向一族分家の嫡男そしてヒナタの従兄でもある日向ネジである。

 

「なんでネジ兄さんが!?」

「こらぁネジ!さっさと教室に戻れこの大馬鹿者!」

「なりません!ヒナタ様のお呼び出しとあらば他里からでも疾風の如き参りますぞ!さあ、なんなりとこのネジにご命令下さい!む!?」

 

頭を垂れていたネジが顔を上げると、視界の端に黄色い髪が映った。それが何なのかを知っているネジは敵意を向けるのだった。

 

「貴様、ヒナタ様と同じクラスにいるとは恥を知れぃ!」

「はあっ!?意味分かんねえってばよ!」

「問答無用!貴様とヒナタ様がつり合うわけなかろうが!成敗してくれる!」

 

そう言って腰を下ろし、拳法の構えを取り始めるネジに、イルカはあちゃ~とばかりに首を振るしかなかった。腰を下ろして拳法の構えを取るのは、百歩譲って許してやってもいいが、《白眼》全開にされるのは堪らなかった。

 

「なんでこうも次世代の日向一族は、《白眼》全開にするのが早いんだってばよ」

「同感だ」

「抑えるのも面倒くせぇ」

「どうせ直ぐ終わるでしょ。イチゴ味は安定だなぁモグモグ」

 

ナルトの発言はごもっともらしく、サスケはため息を吐き、シカマルは頭の後ろで指を組みチョウジはポテチを食する。教室の端でヒナタが俯いているのは誰も気付かなかった。

 

「今の言葉は許さんぞナルト!悪即斬!はあぁぁぁ!」

「お前の場合は悪即殴だってばよ!」

「いい加減にしろやこのクソ従兄ぃぃぃぃ!」

「へばぁぁぁぁぁ!」

 

ナルトに飛び掛かったネジが突如奇声を上げて、運動法則を逸脱した角度で床に落下する。生徒たちが恐る恐る声のした方を見ると女王が降臨していた。服装が変化して前開きのパーカーを開き、年齢には不釣り合いな胸部を見せつけ見下ろしている。

 

「ヒ、ナタ様?おおぉぉぉぉ!眼福ですぞ!この日向ネジ一生に悔いなし、へぶらっはぁぁぁ!」

「惚けた顔すんなやごらぁぁぁぁ!こんのエロ餓鬼が調子乗ってんじゃんねぇぞ!?あ゛!?それになんだ?オレとナルトがつり合わねぇとか抜かしやがったなぁ、おい!そんなにお望みならいくらでもやってやんよぉぉぉ!」

「¥jdsjディうぃおンsdごおおぢdぉぉぉぉ!」

 

言葉にもできないような叫び声が教室の中央から響いている。生徒たちは眼つぶり、耳を塞ぎながら机の下へ避難する。そうでもしなければ、今度は自分がやられると思ったのだろう。

 

数分後、正気に戻ったヒナタが馬乗りになっていたことを理解したことでようやく事態は終息した。血塗れになったネジはヒザシによって木の葉病院へ運ばれた。

 

これによりネジが、日向一族内で頭を抱える問題の一つをもたらしているという現実を誰もが知った。そして日向ネジという人間性を暴露されることとなり、日向一族が一時的に少しだけ肩身の狭い思いをすることになるのだった。

 

日向ネジは変態でマゾで重度のシスコンであるという真実が、翌日から里内に流れるようになったのは想像に難くない。

 

自分のしたことが恥ずかしかったのか、教室に静けさが戻った頃にヒナタは、顔を真っ赤にさせて教室の壁に額をしきりにぶつけ始めた。机の端だったことが幸いしたのか、立ち上がって移動する必要もなく横を見ればすぐ壁がある。

 

そんなヒナタを微笑ましそうに見るクラスメートとイルカに、優しいのか人でなしと言うべきなのか迷うところだ。しばらくしてヒナタが落ち着いたところで、イルカは発表を再開した。

 

額から血を流し壁には血痕が。そして机の上に血溜まりを作りながら、イルカの声に耳を傾けているヒナタの姿はかなりシュールだ。

 

「第3位はうずまきナルト」

「「「よっしゃぁぁぁ!」」」

「「「「……」」」」

 

先程とは違い喜んだのは4人だけで、他は無関心や驚きで言葉を発していなかった。

 

「やったなナルト!」

「さすがナルトだとだけ褒めとくぜ」

「さすがナルトだね!あっ、ポテチいる?」

 

褒めすぎだとばかりに・ナルトは自分を褒め称えるサスケやシカマル・チョウジにちょっとだけ食って掛かっていた。といってもそれは喧嘩とかではなく、友人としてのじゃれ合いに近い遊びだ。

 

そんなナルトの成績に驚いていたのは、いのとサクラも同様だった。自分を助けた少年の腕前がその程度とは思っていない。むしろサスケやヒナタ以上の実力者なのではないかと思うぐらいだ。だから入学試験の結果に少しだけ不満そうだったのは間違いない。

 

「ナルトって勉強できたんだ」

「私からしたら3位ってのが気に食わないけどね」

「どうして?」

「え?いや、その、ほらこの前強盗をみんなが捕まえたことだったでしょ?あの時の動きを見たら、ナルトはサスケくんより上なんじゃないかなって思っただけ」

 

慌てながらもそれっぽい説明に疑問を感じないらしく、サクラはナルトを笑顔で褒め称えている3人と、もみくちゃにされているナルトに視線を向けていた。

 

サクラの眼にはその景色がどう映ったのだろうか。

 

〈化け狐〉と貶され忌避され人外扱いされ、人間として見られない。そんな風に今までのナルトがサクラには見えていた。だが実際はどうだろうか。少ないながらも彼を励まし褒め称えている人がいる。それも里を代表する一族の次世代があんなに楽しそうに。

 

ちらりと視線を隣へと向ければ、とても楽しそうな4人に向けられながらも友人の瞳はナルトに釘付けになっている。それは恋する乙女と呼ばれるような熱い視線で、ナルトを見ている姿がとても幸せそうだった。あれほど煙たがられているナルトに向けられる視線としては異質。

 

フガク・ミコト・イルカ・ヒルゼンが向ける子供に対して見せる愛情とは違う想い。1人の異性として見る瞳は、綺麗でいて儚げにも見えるのが不思議だった。

 

「この3人の実力は今回の入学者で突出していてな。これは個人的見解だが、今の時点で既に3人は下忍レベルかそれ以上の腕だと思っている。特別に下忍にしたいところだが、特別扱いをするわけにはいかない。だからみんなにはこの3人を見習って精進してもらいたい」

「「「「「「「はい!」」」」」」」

「いいですか?先生」

「ああ、いいぞ」

 

多くの生徒が元気よく返事した中でしなかったのが数人いた。そのうちの1人が手を上げて発言許可を願ったため、イルカは笑顔で許可をする。

 

よもやその発言が空気を悪くするとは知らず。

 

「試験結果は納得できるぜ。うちは一族と日向一族出身の奴らが、平凡な生活をしてきた俺たちより上なのはよ。けどな、理解できねぇことが一つだけあんだ」

「ほう、それは何かな?」

「なんで〈化け狐〉が3位なんだ?可笑しいだろ。6年前に里を破壊した野郎が同じクラスにいるなんて異常じゃねぇか。今すぐやめさせるか殺せよ。おんなじ教室で勉強するなんて反吐が出る」

 

言い方に腹が立ったのだろうか、イルカの拳を握る力が強くなる。いや、それだけではない。サスケ・シカマル・チョウジが怒りの形相で発言者を睨み付けていた。

 

だがその視線を受けても動じるどころか、むしろ自信を付けたように言葉を発し続ける。

 

「お前らだって本当は思ってんだろ?こんな奴と一緒にいたくもねぇってな」

「ふっ、バカらしいな。いや、バカを体現した奴にそんなことを言う価値はないか」

「…なんだと?」

 

サスケの人を馬鹿にしたような発言に、バカ呼ばれされた少年はまなじりをつり上げた。

 

「ナルトが〈化け狐〉?何も知らないくせに知ったような口利くな。ナルトはナルトでそれ以外の何者でもねぇんだよ。ナルトは俺のライバルで家族だ。それ以上ナルトを誹謗中傷するなら、一族総出でお前を成敗するぜ?」

「そこまで言われたらオレも黙っちゃいられねぇよな。面倒くせぇとか言うつもりもねぇよ」

「ボクも嫌だね。友達がそんな風に言われたら、じっとなんかしてられないもん」

 

最初に立ち上がったサスケに続き、シカマルとチョウジがナルトを背に庇うように立つ。それを見た少年が少しだけたじろいだが、虚勢でも張ったかのように足を踏み出した。

 

「お前らイカレてるだろ!なんでそんなやつ庇うんだよ!?」

「「「友達だからだ!」」」

「理由はそれで十分よね」

「いの?」

 

いつの間にか自分の横に立っていた幼馴染に驚いたのか。シカマルが疑問系の形で名前を呼ぶと、いのが不敵な笑みを浮かべた。まるで自分にも格好付けさせろとばかりに。

 

「おいおい何の真似だよお前ら。なんでそっち行くんだよ!」

 

よく見ればサクラやヒナタまでもが、ナルトを庇うように立っている。残りの生徒はどちらに行けばいいのか悩んでいるようだが、今の時点で戦力や人数で見ると明らかにナルトが有利だった。入学試験主席と次席、さらには里を代表する一族の次世代がいるのだから。

 

「そりゃ考えればわかるだろ。お前に味方するよりナルトのために戦うことを選んだんだよ。人を噂や見かけだけで判断するような奴に味方する奴なんて、お前の側にいる奴らだけだってことだ。これでわかるだろ?お前よりナルトの方が火影に相応しいってな!」

「ふざけんな!〈化け狐〉が火影になるだと!?調子こいてんじゃねぇぞ!…おい山中、お前がこっちに来るなら彼女にしてやっても良いぜ?俺の彼女になったら未来は明るいからな」

 

これがいのではなく、サクラや他の女子生徒であったらなんて反論するだろうか。「バッカじゃないの!?」とでも言うのだろうか。

 

「バッカじゃないの!?あんたの彼女なんて死んでもお断りよ!お生憎様、私は何があってもそっちにはつかない。未来が約束される?茨道しか見えないし、不幸になるのが眼に見えているわよ」

 

実際に口にしたことでいのの心の強さがよくわかる。恋心が理由もあるだろうが、今回ばかりは人間を否定されたことが一番の理由だった。

 

「春野、お前もこっちにこいよ」

「絶対に嫌よ!いのがこっちにいるし、あんたみたいな人間お断りね!」

「…どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがってっ!」

「そりゃ自業自得ってもんだ。ナルトを友人だと思ってる奴らの前で、そんなこと言えばこうなるさ」

 

シカマルの言うことは至極当然のことだ。だが怒りと辱めで心の均衡を保てなくなっている相手に対して、正論過ぎる言葉を投げかけるはマズイ。それがどれだけ正しいことだろうと間違ってなかろうと。

 

「おい、〈化け狐〉」

「…なんだってばよ」

「今から勝負しろ。俺が勝ったら俺の自由にさせろ」

「じゃあ俺が勝ったら二度と関わるなってばよ」

勝てたら(・・・・)な」

 

その少年が浮かべた笑みに全員が息を飲んだ。イルカは大人であったからなんとも思わなかったようだが、面倒くさいことになったなとため息を吐くしかなかった。




ネジはアレに加え新しいものまで追加しました!楽しんでいただけたら幸いです!


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7.5話

2ヶ月ぶりの更新...。すみませんでしたぁ!

しかも本編ではなく過去という、なんとも言えない話。

更新が難しいので、ゆっくりと待ってもらえれば幸いです。


「恐れていた事態が起こったか!」

 

ヒルゼンは自室から見える里の惨状を目にして、普段から使用している戦闘服に手を通していた。本来ならばあってはならない事態に、冷や汗が穴という穴から吹き出してくる。

 

心配していたことであったが、自身が推薦した次代の火影がついていのだから、万が一のことは無いと思っていた。警備が甘かったとは言うまい。結界は里内でも五本の指に入る忍に頼み、万全を期して張ってもらったのだから綻びは無いはずだ。彼等が予想外の事態に巻き込まれた以外には考えられない。

 

「ミナトかっ!?まったく無茶するのぅ...」

 

里の中心から禍々しいチャクラを凝縮させた玉を、〈時空間結界〉で遠くに飛ばした張本人に聞こえぬと分かって呟く。空気に溶けるように消えていった玉は、遥か彼方へと飛ばされたというのに、地を震わせる振動がとてつもない。

 

「3代目様、九尾が!」

 

仮面をつけた男が音もなく傍に現れても、ヒルゼンは微動だにせず問いかける。

 

「わかっておる。被害と避難はどうじゃ?」

「被害は出現からの数分で出現場所を中心として半里が壊滅、被害は拡大しております!避難は特別上忍と中忍を中心として行っており、完了には今しばらく!」

「待ってはくれぬよな。ワシも行く。ワシが着くまで何としてでも押しとどめよ!」

「御意!」

 

来た時と同じように、音もなく消えた自身直属の部下〈暗部〉に指示を出すと、ヒルゼンは相棒を呼び出した。

 

「〈口寄せの術〉!」

『...余程のことになっているようだなヒルゼン』

「会話はなしじゃ猿魔。一大事故、少々荒っぽくなるぞ」

『文句などない。お前のやりたいようにやれ』

「では行くぞ!」

 

〈火影室〉のガラスを破って、ヒルゼンは被害の拡大している戦場へと躍り出た。

 

 

 

「ぬん!〈手裏剣影分身の術〉!さらに〈火遁 火龍炎弾〉!名付けて〈炎纏(えんてん)手裏剣〉!」

 

空気を焦がすほどの熱を放つ炎を纏った数多の特大の手裏剣が、凄まじい速度で飛翔する。鋼のような硬度を持つ九尾の皮膚に突き刺さるが、九尾は気にせず攻撃された腕を振り払う。

 

「〈土遁 土流壁〉!ぬうっ、これほどまでとは。想定が甘かったか」

 

まともに喰らえば即死級の風圧を、どうにかして防ぎながらつぶやく。ただ腕を振り回しただけで、周囲の木々や岩は為す術なく吹き飛ばされる。地面は深く抉られ、地獄が口を開けて待っているようにも見える。

 

いや、地獄は目の前にもある。どれだけ攻撃を加えてもダメージが通っているようには見えず。どの属性も効果はないように思える。

 

避難の誘導に当たっている特別上忍以下の忍びを除いて、今ここにいる人数が最大戦力。総攻撃を開始して僅か30分。満身創痍になる忍びはあとを絶たず。重傷者を優先的に治療しているのもあるのだろう。戦線復帰する人数と、怪我をして戦線を退いていく比率が合わない。

 

どうにかして里外へと追い出したが、ヒルゼンの体力は限界に近かった。チャクラはまだどうにかなる。だが身体が言うことを聞かない。

 

「ワシも老いたのぉ...これしきのことで膝をつくとは」

『情けないとは言わんぞヒルゼン。九尾を相手にして、その程度の疲労と怪我で済んでいることが奇跡だ』

「褒めてくれるのか?」

『褒めずしてどうする?...それでやれるか?ヒルゼン』

「鼓舞してくれるのは嬉しいんじゃが、ちと老人の扱いが酷くないか?猿魔よ」

 

猿猴王猿魔の変化した武器を杖代わりとして立ち上がる。口元に笑みが浮かんではいるものの、それが強がりであることは誰にでもわかることだった。

 

ヒルゼンを止めようとする忍びは誰一人いない。止める余裕もないのもあったが、それ以上に止められないからだ。ヒルゼンの忍びとしての才能を知っているからこそ、誰も引き留めず最前線で戦う後ろ姿を見届ける。

 

「九尾よ、今こそワシらが討ち取る!ハッ!」

 

足裏に極限にまで高めたチャクラを移動させ、年齢を感じさせない速度で接近する。普通ならば、チャクラの熱と圧力で地面が耐えられないはずだった。だがヒルゼンの場合はそれを感じさせない。いや、起こさせず完全に掌握したまま走り続ける。その速度は〈疾風〉とでも称されるほどに。

 

「ぬんっ!せいっ!むんっ!」

【老いぼれが!失せろ!】

 

途方もない速度で身体を叩かれたからなのか。九尾がそれまでまったくと言っていいほど、してこなかった個人への集中攻撃が行われる。両爪による引っ掻きからの九つの尾による薙ぎ払い。さらには遠吠えと、地面からの揺れによる聴覚と三半規管への刺激が、僅かずつヒルゼンを追い詰めていく。

 

「ぬあっ!」

『ヒルゼン!』

 

遂に九尾の攻撃がヒルゼンを捉えた。直撃こそ免れたものの、上空から地面にたたきつけられた衝撃で、ヒルゼンはダメージを受ける。衝突の瞬間、金棒を地面に突き刺すことでどうにか振動を減らしたものの、完全には防げなかった。あまりの衝撃にヒルゼンは立ち上がることは愚か、指を動かすことも出来ない。

 

「3代目様!」

「む...こりゃ派手にやられたのぉ...」

『...一応、無事なようだなヒルゼン。だがかなりヤバいぞ、見ろ』

 

猿魔に言われて眼だけを動かすと、火影岩に向けて放った技と同じものが九尾の口内に見えた。この距離で放たれれば自分どころかほぼ全員が死んでしまう。

 

それだけはあってはならない。未来を担うはずの忍びを失うことは、家族を失うことと同じだ。ヒルゼンにとって里の人間全てが家族。悪人だろうと善人だろうと。老若男女問わず。誰もが等しく自分の子供であり親であり家族。

 

猿飛ヒルゼンという忍びはそういう人間性なのだ。自己よりも他者を優先する人間。だからこそ忍びは、里内の人々はヒルゼンを〈火影〉として崇める。人を導く才があり、人望もある。関わらずとも自然と歩みを見てみたい。そう思わせる不思議な魅力を持つ忍びだ。

 

「また、打つのか...!」

 

轟音が鳴り響き、地形を変化させるほどの攻撃が目の前で準備されている。どうにかして起き上がった満身創痍の身体では何も出来ない。直撃を免れても、余波または追撃を喰らうのは目に見えている。ここまでかと諦めかけたその時。

 

「ミナトっ!」

 

大きなガマ蛙が空中から現れ九尾を地に沈める。

 

「この大きさを飛ばすにはそれなりのチャクラがいる!少しの間でいい、抑えててくれ!」

【いくらワシャでもこ奴はそう抑え込めんぞ!】

 

僅かな言葉を交わすことで、チャクラを練る時間を取得する。ガマ蛙を残してミナトは遠くへと飛んだ。

 

「あっちか!...ちと遠いわい。医療班すぐにワシの治療じゃ!ミナトを追いかける!」

「しかしっ!」

「4代目が命をかけて戦っておるのじゃぞ!先代がただ眺めているだけで、務めを果たせるわけなかろうが!」

 

普段から温厚なヒルゼンが怒声を迸ることが、どれほど異常なことか。九尾が完全復活したこと自体が異常なことではあるが。その気迫に逆らう部下は誰一人いない。手の空いている医療忍者はいなかったが比較的軽傷である者、あるいはある程度傷が癒えた者が指示を出した。

 

数人の医療忍者がヒルゼンの傷を癒す。チャクラを送る者と傷を塞ぐ者とに分担され、効率よくそして念入りに治療を行った。

 

 

 

巨大な爆発からどうにか難を逃れたミナトは、息を切らしていた。

 

「直ぐに結界を張らないと...ハアハア、チャクラが!」

「私は、まだ、やれるわ…」

 

ミナトの妻でありナルトの母である、うずまきクシナの背から鎖が飛び出した。それは九尾を縛り付ける。

 

「無理するなクシナ!君の身体はもう!」

「...わかってるわ、もう長くないってこともね。でもナルトのためにできるなら構わない。だって将来は里を救う英雄になるんだもの」

「クシナ、...君の言う通りナルトは英雄になる。でもそれは火影の子供だからとか、人柱力の子供だとかそんな理由じゃない。自分の力で切り開いていくんだ。..クシナ、.今の君にもう一度九尾を封印すれば身体が耐えられない。オレも体力がないから無理だ。...だからナルトに封印するよ。〈八卦封印〉でね」

 

覚悟を決めたミナトの瞳と声音に、クシナは目を見張る。それは怒りと納得という相反する感情による作用だった。

 

「何を言ってるの!?ナルトがそんな重荷を背負うことなんかないじゃない!火影の貴方ならわかるでしょ!?人柱力になった忍びがどんな扱いを受けるのかを!」

「...そうだね。確かにナルトが里同士の均衡を崩す力を得る必要は無い。オレも本当ならナルトに封印したくない」

「だったら...「でも」っ!」

「でも自分の息子だから預けたいんだ。完全にじゃなくていい。少しでいい。彼ら(・・)を理解してやれる存在になって欲しいんだ」

 

ミナトは尾獣が抑止力であることを、もっとも理解している忍びと言ってもいいだろう。尾獣がどのような視線に晒され、どのような扱いを受けているのかを根本的に理解している。存在自体が危険極まりないというのに、それを体に宿した人間など爆弾を抱えているようなものだ。

 

いや、実際抱えている。

 

尾獣を宿した忍び、つまりは人柱力。その者の意思ひとつで、街や里を破壊させることが可能だからだ。彼等は存在を自ら望んだ訳では無い。強大すぎる力を分裂させて生まれた生物だ。

 

罪はない。

 

だというのに、弱者はそれの生を否定する。自分より強い存在は頼りたくなる生き物だというのに、強すぎる存在は恐怖の対象としてしか見ない。それを火影という里を守る忍びが知らないはずがない。

 

「ナルトのことを思うなら、封印なんかする必要ないじゃない!それが父親のすることなの!?私はナルトにそんな思いをして欲しくない!尾獣バランスのため。国のため。里のために。私のためにナルトを犠牲にする必要なんかないじゃない!」

「国を捨てることも里を捨てることも、それは子供を捨てることと同じだよ。それ以前にオレたちは忍びだ。ナルトならきっと正してくれる。里を守る長に選ばれたオレが、自分の息子だけを特別扱いはできない。家族を里を守る義務があるんだ。...君の残り少ないチャクラとオレのチャクラを組み込めば、いつか出会えた時にナルトの未来を支えられる。...信じてみよう。なんだってオレたちの息子なんだから!」

 

ミナトの全てをナルトに預けるという気持ちを、理解できないクシナではない。言わざるとも、心を読み取ることは造作もない。

 

だからその気持ちが痛いほどよくわかる。

 

息子にとてつもない重荷を背負わせてしまうことを。どのような扱いを受けるのかを。だがそれを乗り越えてくれる。その苦しみを糧に、前へ歩いてくれると信じている。

 

 

 

「結界が張られておる...九尾を外に出さないためか。いや、むしろ...」

 

眼に見えない壁(・・・・・・・)に片腕で触れながら、ヒルゼンはつぶやく。その先では、鎖で拘束されている九尾と戦闘中の4代目火影とクシナがいる。手を貸したいところではあったが中に入れない以上、どうすることもできない。中へ入るために結界を解けば、九尾を解放するきっかけになるかもしれない。

 

ようやく追い詰めたというのに、それではこれまでの犠牲が無駄になってしまう。九尾襲来による死傷者は1000を超える勢いだ。今ここで終わらせなければ次はない。それを見越してミナトは結界を張っていたのだろう。

 

「3代目様!」

「無駄じゃ。これから先は九尾を外に出さぬために張られた結界で進めぬ」

「ではどうすれば?」

「2人に賭けるしかなかろう」

 

ヒルゼンの瞳には、2人が命をかけて終わらせようとしているのが明瞭に写った。ヒルゼンの方角からはナルトの存在は確認できず、2人が互いに向かい合っているようにしか見えない。

 

「小さくなったがまだ完全とは言えんな…」

 

ミナトが見た事のある印を組み、何かが身体にぶつかるような体勢を取った。すると九尾の巨体が半分ほどにまで縮小される。

 

何故小さくなったのか。ヒルゼンや周囲にいる上忍には理解出来ない。まさか2人がナルトに九尾を封印しようとしているなど、考えもしないだろう。人柱力だった親が子供に封印すれば、この先どんなことが待ち受けているか想像できないはずがない。

 

九尾が人の身長を軽く超える爪を突き立てる。ナルトに刺さるのを防ぐため、クシナとミナトがそれの軌道上に飛び込んだ。

 

「子供がいるのか!?」

「かばったようです!」

 

爪が2人の身体をボロ切れのように易々と貫く。九尾を封印するための儀式用台座に眠るナルトには、ギリギリで触れていない。あれほどの速度で閃き突き出された爪を、自らの身体で威力を阻害し子供を守った。親としての役割を果たすというものを体現したようである。

 

「まさか子供に封印するのか!?ミナト、よすんじゃ!」

「ナルト、父さんの言葉は...口うるさい母さんと同じかな。〈八卦封印〉...」

「ミナトぉぉぉぉ!」

 

眩いばかりの光が結界内を埋めつくし、ヒルゼンたちの視界までも奪う。ヒルゼンの声は、光に飲まれるように儚く消えていった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「うむうむ、元気そうで何よりじゃ♪」

 

見るからにご機嫌なヒルゼンが、スヤスヤと気持ちよさげに眠る赤子を見てだらしなく頬を緩ませる。

 

「火影様?」

「寝顔は笑みを浮かべて目を細めるミナトに瓜二つ。ぐずった時の怒る顔は、クシナを思わせるのぉ♪」

 

尚もヒルゼンの頬はだらけていく。

 

「...火影様?」

 

2度目の問いは少しばかり間隔が空いた。

 

「むふむふ...む、なんじゃ?」

昨日も(・・・)来られていましたが、仕事はよろしいので?」

「仕事よりこっちが優先じゃ。おほっ、欠伸もまたかわええのぉ。食べてしまいたいわい」

「渡しませんよ!」

 

今にも食しそうな勢いのヒルゼンから赤子を守る。当たり前のこととはいえ、何故ヒルゼンが機嫌を害しているのかがわからない。

 

「火影のワシから遠ざけようとは。いい度胸じゃのミコト(・・・)!」

「いくら火影様でも許せません!血が繋がっていない(・・・・・・・・・)とはいえ、私たちの子供(・・・・・・)に危害が及びそうになれば、親として守るのは当然のことです!」

「預けた恩を忘れよって!」

「それとこれとは話が別です!職務を放棄してまで来る必要はございません!」

「火影じゃからいいんじゃ!時には来たくなるもんじゃい!」

毎日(・・)が時にですか?4代目が亡き今、里を護っていくべきなのは3代目様です。立て直しを図っている現状で、この子(・・・)に会いに来る頻度が高すぎます。3代目様が今すべきことを、ご自身が1番よくお分かりなはずです」

 

ミコトの言葉はもっともである。

 

九尾襲来からまだ1週間。被害の確認と死傷者の把握は、依然として進んでいない。里の中心部に現れたことが、被害の拡大を促したのは言うまでもない。被害の拡大を防ぐため、里の外へ追いやる作業も助長させていた。

 

不幸中の幸いだったのは、里の実力者たちの大半が里帰り中だったことだ。普段は他里との国境付近で警戒に当たっていた彼らも、その日は珍しく非番だった。

 

そのお陰でミナトが駆け付けるまで、耐えきれたという結果に至る。重なっていなければどれほどの被害になっていたことか。

 

彼らがいても、現在確認が取れているだけでも死傷者は1000を超えている。このままいけば、少なく見積っても2000にまで増えるだろう。

 

まさに不幸中の幸いだった。

 

「...わかっておる。わかっておるんじゃが、生まれてまもないナルトが不憫で不憫で仕方ない。両親から本当の愛情を与えて貰えないのは、命ある者としてあまりにも悲しすぎる。愛情を与えられなかった者が、どのような末路を辿って来たか。ワシは多くのそれを見てきた」

「...心中お察しします。確かにミナトくんやクシナくんから、真の愛情を抱けなかったナルトくんですが。何一つ心配することはありません。私たちがナルトくんを未来ある里を、世界を造り上げてくれる忍びに育ててみせます。彼が世界を憎まず、愛してくれるようなそんな人間に」

 

ミコトの夫であり、うちは一族の実質的リーダーであるフガクの瞳には煌めくものがある。それが友人同士であったミナト夫妻に対する悲しみ。そしてこれからの覚悟を秘めた光であることを、2人は察していた。

 

いつかナルトが、そして2人の血を引いているサスケが里を率いてくれると願う。かつて〈木の葉の里〉を創設した初代火影 千手柱間のように。

 

「うむ、その誓いは天晴れじゃ。誰に託せばいいか悩んでいたことが、馬鹿馬鹿しく思えるほどにな」

 

肩の荷が降りたように、穏やかな表情をうかべるヒルゼン。未だスヤスヤと眠り続けているナルトの髪を、優しく撫でる。まるで実の我が子のように力強くそして愛おしそうに。

 

自分たちの前から、里の中心部へ帰っていくヒルゼンの背中は眩しかった。ナルトの未来を明るくするためこれまで覚悟してきた気持ちを、さらに強化なものにしたように。

 

「ミナトくんが亡くなってから、3代目様も意気消沈していた。それを癒すためにナルトくんを見に来ていたのだろうな。お気持ちは納得できるが、職務を疎かにしてまで来てはダメだろうな」

「一仕事終えてからというのが宜しいでしょうね」

 

ヒルゼンを見送る2人の視線の先には、ヒルゼンの頼りがいのある背中があった。

 

 

 

 

 

後日またヒルゼンがやってきて、夫妻とちょっとした口論になったのはまた別の話。




はい、原作通りで面白要素ゼロぉ(某番組風)。

許してにゃん。

次話の更新は未定...。すみません


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8

はい、3ヶ月ぶりの投稿です。長い間書かずにいてすみませんでした!

評価もUAも気付かずうちにすごい増えてますね!さあ、夏休みの間に少しぐらいはすすめましょう!


「あいつら馬鹿だろ」

 

そう愚痴っているのは、今年度入学者で屈指の人気を誇るうちはサスケだ。6歳とは思えない少しばかり大人びた容姿は、同級生や年下の女子から崇拝かと思うほどの信者数を抱えている。サスケからすれば迷惑な話ではあったが、慣れたものであまり気にしてはいないようだ。

 

将来を約束された名家に生まれたことが、良いことなのか悪いことなのかサスケにもわからない。努力しなくとも、多少のことはできる程度には力を受け継いでいる。だからといってサスケは修行を疎かにしたことはない。名家に恥じない実力と名声を得るために努力をしてきた。

 

兄の背が見えないほど離れていても、目標として見てきた。イタチからは「〈うちは一族〉ということに執着するな」と、よく諭される。

 

それはもし万が一〈うちは一族〉がなくなった場合(・・・・・・・・・・・)、何を目的として生きていくのか。〈うちは一族〉にということではなく、自分自身の未来のことを目的にする。

 

それがイタチの願うサスケの成長だった。

 

「まあ、仕方ないんじゃないか?あいつらからしたらナルトは恐怖の対象だ。十分すぎる理由だと俺は思うぜ」

「そうだとしても納得はできねぇだろ。ナルトは嫌いだが好きだ。そんなことを言われたら腹が立つ」

 

矛盾した感情ではあるが、シカマルたちはそれが何を示しているのかを理解していた。その間、ナルトは教室の外にある広場になんとも言えない表情をしながら立っている。ここは手裏剣術の練習場としても使われるため十分な広さがある。もちろんそれ以外の用途としても利用されるが、主な使用方法は手裏剣術か体術である。

 

「いいか?今回は特例として試合を認めるが二度目はないからな。今後このようなことがあるのなら、俺はお前らに一切授業を教えない」

「俺は気にしねぇよ。何故ならこの試合に勝つのは俺だからだ」

「オレも文句ねぇってばよ。どんな理由であってもイルカ先生に迷惑かけたくねぇし」

 

イルカの言葉に双方共に返事を返すが、それは対極的な意味合いを含んでいた。

 

因縁を付けた少年からすれば勝てば良いだけ。または入学成績3位に負けるはずがなく自分の方が上だという傲り。3位になれたのも、脅しをかけて得点を増やしたという根拠も証拠もない思い込み。それらが自然体でいながら、隙を見せていないナルトへ向けられる視線に含まれる感情だった。

 

対してナルトの場合は、イルカに余計な手間と迷惑をかけてしまったという罪悪感が心の中に渦巻いていた。自分が入学成績で3位という順位を出してしまったが故に、こんなことになってしまったのだと。

 

だがそれは仕方ないことなのだ。全力で試験を受けなければ、これまで育ててくれた義両親に申し訳が立たない。手を抜いて入学したとしても、それらは2人を冒涜することに他ならない。だが良好なまたは優秀な成績を残せば、周囲から訝しげな視線を向けられる。試験官を何かしらの方法で惑わしたという、根も葉もない思いを抱かせてしまう。

 

成績が良かろうが悪かろうが、結局はナルトにとってどうにもならない板挟みとなっている。そんな精神が不安定になってしまうであろう生活の中で、ナルトが負の感情を爆発させることがなかったのは、友人たちの存在と支えがあったからだ。

 

義兄弟であり好敵手(ライバル)でもあるサスケ。恋心を抱いてくれているいの。面倒くさがりだが親友とみてくれるシカマル。お菓子ばかり食べているが、ナルトを大切だと想ってくれているチョウジ。何よりこの4人がナルトを励まし、痛みを和らげていたということが安定剤として働いていた。

 

「マジかよ…。ナルトは何も悪くないだろ」

「別にいいんじゃない?」

「ああ!?」

 

イルカの突き放すかのような言葉に、苛立ちを覚えたサスケが我慢の限界を絞り出すかのように呟く。それに対してチョウジは間違っていないとも聞こえる主張したため、サスケは納得がいかないらしくチョウジに喰いついていた。

 

「落ち着けよサスケ。チョウジは何もこれが正しいなんて一言も言っちゃいねぇ」

「…だが間違っているとも言ってない」

「そうだな。けど俺も別にこれでいいと思ってる」

「何?」

 

シカマルが言うことに理解できないとばかりににらみ返すサスケだったが、シカマルはそれ以上何も言うつもりがないらしくナルトを見据えていた。それを見てサスケは諦めたようにため息を吐き出し、友人たちと同じように視線をナルトへと向ける。

 

「準備はいいな?始めっ!」

「だらっ!」

「…」

 

イルカの合図と共に少年はナルトへと飛び掛かるが、無表情にそれを躱すナルトの動きは流れるようだ。無駄な力が身体のどの部位にも働かず、しかし必要最低限の移動または体重移動で攻撃をいなす。見れば見るほど鮮やかで華麗に動き続ける。

 

「クソが!〈分身の術〉!」

 

少年が印を結ぶと、少年と瓜二つの姿をした人間が現れてナルトへと飛び掛かっていく。分身が攻撃を繰り出すと時間差で本体がナルトへと殴りかかった。しかし同じようにナルトは表情を変えずに見つめる。1つだけ違ったことといえば、攻撃を躱すのではなく受け流していることだ。拳を捌きながら脚による払いを受ける。

 

何故躱すのではなく受けるようになったのか。それは攻撃を繰り出している少年の表情を見れば一目瞭然だろう。全力でないとはいえ、口だけではないことを示す鋭い攻撃を躱されたことで精神の安定は崩れている。攻撃がかすることもしないので少年は、速度もない考えもない唯がむしゃらに攻撃を繰り出すだけになる。

 

力任せな攻撃を躱されることなく、真正面から受けられる現実が少年の心を余計に焦らせていた。人間は攻撃が当たらなければ苛立ちを示す。また受け止められることも精神的な不安を増やす結果になる。しかし攻撃を躱されるのと受け止められるのとでは、いささか自身が受けるダメージの種類が異なってくる。

 

躱されるということは、相手の技量が自身の技量に勝っているということを示す。反対に受け止められるということは、互いの実力が拮抗しているが決定打にならないということを示す。

 

しかし今回の戦闘に置いて、最初は攻撃を躱され続けたが今起こっているのは、攻撃を受け止められている。

 

攻撃を躱せるだけの実力差があるというのに、わざわざ受け止めている(・・・・・・・・・・・)

 

つまりそれは舐められている。そんな現実に思い至った。

 

「馬鹿にしやがって!」

「馬鹿にしてるのはそっちだってばよ」

「黙れ!てめぇなんかの化け物が学校に通うことが、なんでできるんだよ!」

「...知らねぇよ。オレは助けてもらった恩を返すために強くなる。だから邪魔すんなってばよ!」

 

両手を掴まれたことでどうすることもできない少年は、憎々しげにナルトを睨み付けその腕から逃れようともがく。だがどう角度を変えて動かそうにも、びくともしないことに焦りが募っていく。

 

「お前を育てた奴は気でも狂ってたんだろ!?お前を利用して里を壊す気なんだよ!っうああぁぁぁぁ!」

 

焦りと苛立ちが募りに募って、口にしてはいけないことを口走ってしまう。それはナルトにとって無視できない言葉であり、怒るには十分すぎる理由だった。掴み取っていた腕を砕かんばかりに力を込められ、少年はあまりの激痛に悲鳴を上げざる終えない。

 

「それを二度と口にするなってばよこのクソ野郎がぁ!」

「グボァ!」

 

掴み取っていた両腕をクロスさせて無理矢理捻り込む。痛みに耐えられず、体勢を崩して無防備になった腹部に膝蹴りを加える。痛みで前屈みになったところを、一本背負いの要領で地面に叩き付けた。

 

あまりの衝撃に一瞬呼吸困難に陥った少年は、呼吸を所々途切れさせながらも立ち上がる。口元からは血が垂れており腹部に手を添えているところを見ると、かなりのダメージを負っているのがわかる。

 

「…てめ、こ、殺…す。お、俺、が…」

「…これでわかっただろ。お前はオレに勝てないって」

「この勝負…「俺、は…負けない!〈忍法 毒煙の術〉!」おいっ!」

「なっ!」

 

イルカが試合を終わらせようとした瞬間、少年が忍術を発動させた。満身創痍の身体であるはずなのにそれを感じさせない声量で発すると、名前通りに毒々しい紫色の煙が周囲に流れ出した。

 

「てめぇオレを狙えってばよ!」

「知らねえ、なぁ!ゲホゲホ、俺の、言葉を…、聞かず、てめえ、の、味方…してる、や、つら…には、ハアハア、お似合い、だぜ!」

 

煙はナルトの方面へ流れることはなく、心配そうに見守っていたクラスメイトの方へと流れている。煙を吸ったクラスメイトたちが激しく咳き込み苦しそうにしている。中には毒性に耐えられず、気を失って倒れている生徒が何人もいる。

 

「ゲホゲホ、クソっこの程度の火じゃ防げねぇ!」

「面倒くせぇな!ゲホゲホ」

「ゲホゲホ、ここまで来るなんて!」

 

サスケ・シカマル・チョウジは倒れる様子はないが、それでもかなり危険な状況だった。煙から逃げようにもよほど重たいらしく、地面すれすれを移動する煙にクラスメイトが巻き込まれ、息止めの限界を迎えて吸い込み倒れていく。

 

「アハハハハハハハハ!全員死ね!俺の考えに納得しない奴らは全員皆殺しだ!ハハハハハハハハ!」

「この馬鹿野郎が!」

 

ナルトが関係のないクラスメイトまで巻き込む少年に、怒りの矛先を向ける。

 

『おい、ナルト』

『九喇嘛?』

 

ナルトの脳に響くような低い声が聞こえた。気が付けば床が水で覆われた大きな門のある場所に来ている。

 

『放っておけば全員気絶するぞ』

『わかってるってばよ。でもどうしたらいいんだ?』

『空へ打ち上げろ。それから思いっきり燃やせ』

『空へ移動させるのはいいけど、燃やすってどうするんだってばよ?』

『いいのがいるじゃねぇか』

 

ニヤリと笑った九尾にナルトはしばしの間、ぽかーんとしていたが何をすれば良いか思いつき大きく頷いた。

 

『サンキューだってばよ九喇嘛』

『ふん、これくらいで礼はいらん』

『九喇嘛ってばやっぱし優しいってばよ』

『バ、バカそ、そんなことあるか!ワシはお前が死んだら困るから言っただけだ!』

 

わかりやすくそっぽを向いた九尾に嬉しくなって笑顔を浮かべたナルトは、意識を浮上させ自分がすべきことを実行に移した。

 

「みんなに危害を加えやがって!オレが終わらせてやるってばよ!〈風遁 収封(しゅうふう)〉!」

 

ナルトが術を発動させると、周囲に広がっていた毒の煙が動きを止めて集まり始めた。煙が集まってくると大きく巨大化していき、近くにあった樹をも軽く越えるほどにまで成長する。長方形に形作られその煙量に驚かされる。

 

「むむむむむむむ!〈風遁 気流乱舞!〉」

 

長方形に形作られた煙を空高く移動させながら、遠くへ移動していた人物へ声をかける。

 

「サスケぇ!火を頼むってばよ!」

「俺の火じゃ消えねぇぞ!」

「オレが力貸すってばよ!」

「何かわからんがしゃあねぇなっ!いくぜ〈火遁 豪火球の術〉!」

 

業火の玉がサスケの口から吐き出され煙へと飛んでいく。サスケが言ったように、煙自体を消失させることは簡単ではなかった。だがそれは1人(・・)でということであって、2人(・・)でということではない。

 

「〈風遁 烈風掌〉!」

 

ナルトが合掌すると暴力的なまでの風が発せられ、煙に衝突寸前だった業火の玉を背後から飲み込む。膨大な風圧と業火が合わさったまま煙に衝突すると、とてつもない衝撃波と爆音がアカデミーの広場に轟いた。黒色の煙が晴れると、そこにはあったはずの紫の煙はなく青空が何事もなかったかのように広がっていた。

 

『よく理解したなナルト』

『火が駄目なら威力を上げればいいだけの話だってばよ。また頼むぜ九喇嘛』

『気が向いたらな』

 

そう言う九尾の顔は微笑ましそうにしている。かつて〈木の葉の里〉を破壊していたとは思えないほど穏やかな笑みだ。どれだけナルトという存在が九尾に良い影響を与えていたのか、簡単には測ることができない。

 

きっとよほどの変化を与えるほどの試練を、ナルトは乗り越えて九尾を納得させたのだろう。

 

「イルカ先生!みんなを医務室に運ぶってばよ!」

「わかった急げ!動ける奴は全員救助してくれ!」

 

毒煙から逃げるのを誘導させていたイルカが、ようやく戻ってきたのを見つけたナルトが声をかける。テキパキと倒れているクラスメイトを運ぶナルトを、サスケたちが暗い表情を浮かべながら見ていた。

 

「万事休すだったがどうにか間に合ったな」

「言っただろ?別にいいって」

「それがどういうことなのか教えてくれないか?」

「簡単だよサスケ。あの場でナルトを特別扱いしていたら、ナルトの評価はもっと悪いことになってた。最悪ナルトが誰かに暗殺される可能性があったもん」

「…」

 

チョウジの真面目な顔つきに、サスケは「冗談だろ」とは言えなかった。チョウジがそんな非常識なことを言うはずもなければ、今の状況で口にできるはずがない。そういう理由でサスケは反論することができなかった。

 

「そういうわけで、俺たちはイルカ先生の言葉は間違ってないと思ったわけだ。もちろん正しい言葉遣いと方法とは思ってねぇよ。なんせナルトはただ因縁というかいちゃもん付けられただけだからな。そこに対してサスケがイルカ先生の言葉に怒りを抱いたのは理解できる。きっとあれはイルカ先生なりのナルトへの思いやりだったんじゃねぇかな」

「…俺はナルトがこれ以上苦しまないようにしたい。見ているこっちがこれだけ辛いんだ。ナルトが感じてる哀しみはきっと普通じゃない」

「…だよね。ボクもナルトが感情を爆発させないことが疑問だよ。でもナルトの気持ちを軽くできるのはきっとボクたちだけなんだ。だからボクは見返りを望まずに手を差し伸べるよ」

「まったくだ。でもチョウジはお菓子なら要求しそうだけどな」

「え?あ、それいいね!」

「おいシカマル、余計なこと言うなよ!」

 

悪戯小僧のような悪い笑みを浮かべたシカマルに、サスケが割と本気でたしなめようとする。だが時既に遅しで、チョウジの眼に良からぬ光が灯ったのを見てサスケは諦めを決定した。

 

「お~い、3人とも手伝ってくれってばよぉ!」

「うん、今行くよ。2人とも仕事だよ」

「まったく仕方ねぇ」

「面倒くせぇけどサボるのも面倒くせぇ」

 

いつも通りの2人に苦笑を浮かべながら、チョウジは自分たちを呼んでいるナルトへと脚を動かすのだった。

 

 

 

 

 

ナルトやクラスメイトに危害を加えた少年は、退学を言い渡され家族共々里外へと出て行った。彼を支持していた数人も居心地が悪くなったのか数日で自主退学を希望した。元クラスメートの報告によると、彼等に似た人物が生きる屍となっているのを見たらしい。




重い話でしたが次からは少しくらいは明るくいきたいです!


忍法 毒煙の術・・・オリジナル術。術者の技量により毒性を変化させることができる。
風遁 収封(しゅうふう)・・・オリジナル忍術。気流を操作して気体を収集する術。


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気がつけば前回の投稿から19日が経過しており、UAが6245お気に入りが60増えていました。

本当にありがとうございます!書く意欲が増すのでこれからもよろしくお願いします!


アカデミー入学早々に事件が複数勃発し、それらを自ら終息させたナルトだったが評価は相変わらず低かった。その理由の一つとして、好感度の上昇を狙った行動として捉えられていたからだ。

 

周囲から避けられている者は、良い行いをして振り向いてもらいたい。少しでも印象を改善したいがために、感心されるようなことをする。しかしそれは当然の思考であって、その行動が間違っているわけではない。

 

悪いことをしたならば、その印象をひっくり返すほどの地道な努力が必要となる。その道のりは犯してしまった罪の大きさに比例して厳しくなるものだ。

 

…とは言うが、ナルトの場合はそれとは全くの別物である。ナルトは意図してあのような事件を起こしたのではないし、ナルト自身があのようなことをしでかしたのではない。そもそもナルトを忌避する理由が間違っているのである。

 

だがまあ家族や友人を失った者からすれば、元凶が封印されているナルトに最低の評価を下すのは致し方ないと思う。愛する者を失った感情という者は見ていられないほどなのだから。しかしそのことを何の罪もないナルトに全てをかぶせるのは間違っている。

 

いのの誘拐未遂事件を公にナルトが解決したと公表しなかったのも、ナルトに対する批判を集中させないためのヒルゼンなりの配慮だった。解決したのは〈暗部による手柄ではあるが誰であるかは公表しない〉というものが真実として里の者に説明されている。

 

名前を公表できない理由ももちろん存在している。〈木の葉の里〉を裏から支える存在が、表に出ることは許されないからだ。容姿も名前を知らないからこそ、他里への脅威にも抑止力にもなり得る。それに暗部は隠密行動を主にしているのだから、影の存在が日の当たる表舞台で堂々と活動できるわけがない。

 

ここまで長々と暗い話を綴ってきたが、もちろんナルトへの評価が下がっているばかりではなく。上昇していることもまた事実。サスケやシカマル、チョウジは言わずもがな。サクラやヒナタも好感度はうなぎ登りだ。

 

いのと言えば、もはや恋心は抑えきれずに周囲に誰がいようと気にせずナルトにくっつく始末。事の顛末を詳細に知らされているイルカからすれば嬉しい現実であった。生まれてこの方、一部以外からは除け者されてきたナルトへ周囲の視線も憚らず、好意を降り注がせている人物がいることが我が事のように嬉しかった。

 

とは言うものの、嫉妬心もそれなりに渦巻いているのも確かだ。30歳には届かずとも20代後半であるにも関わらず、色恋沙汰が年齢イコールとなってしまっている状況。

 

自分と同じように孤独を味わってきたナルトが、目の前でイチャイチャしていれば嫉妬心を抱いても可笑しくはない。いや、むしろ当然と言っても良いのではないのだろうか。そうでなくては困る。

 

イルカは元からナルトへの好感度は高い。気にかけねばならない弟のような守るべき存在だからだ。そんなイルカに触発されたのか。アカデミーで教師を仕事とする教員や事務員は、あの事件以降ナルトへの評価を改めるようになっていた。

 

100%好意があるというわけではない。入学以前と比べれば、180度違うといいきれるぐらいには変化している。廊下ですれ違えば、笑顔で挨拶したり時たまにお菓子をくれたりと、対応はそれなりに柔らかくなっていた。

 

その変化に気付かないナルトではない。自身を忌避する視線を生まれてから延々と受け続けていたのだから、そういう人間の感情の変化には敏感だ。最初の頃はもちろん驚いたものだが、自身への好意的な行動はやはり嬉しいようだ。

 

普通ならば、今まで自身を敵のように見ていた相手が掌を返すように親身になれば誰だって違和感を抱く。抱かないのは余程の楽観者か大馬鹿者のどちらかでしかない。だが先述したように、そういう人間の感情に敏感なナルトだったからこそ、すんなりと受け入れることができたのだろう。

 

イルカのように最初から好意を抱いている者は少なかったが、その内の1人に数多くの教員から慕われ信を置かれている講師がいた。

 

その名をミズキと言った。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「やあ、ナルトくん。少しだけ時間を貰えないかな?」

「ミズキ先生?わかったってばよ。サスケ、先に行ってくれってばよ直ぐ追いつくから」

「ああ、わかった」

 

下校しようとしていたナルトを呼び止めたミズキは、木の葉でも人気のスポットである景色の良い建物の屋上へと連れてきた。ベンチに座るナルトへ缶ジュースを渡して、自分も同じように座って語りかける。

 

「この前は大活躍だったみたいだね」

「そんなことないってばよ。友人を守りたいと思ってやっただけだから」

「それでもたいしたもんだよ。結果的に誰も重傷にならず、数日後には以前と変わらない学校生活を送ることができたんだから」

 

感謝されるようにそして同時に褒められることが、ナルトはむずがゆくてしょうがなかった。悪い意味合いではなく嬉しいという意味合いである。

 

「毒を街に拡散させることなく、局所的な場に留めたのは真っ当な判断だった。あんなものが街に充満したら、大混乱だったろうからね」

「何も起こらなかったのはサスケのおかげだってばよ。集めることしかできないオレってば、その先のことはどうしようもなかった。でもサスケが炎を使えるって知ってたから、一か八かで試したらいけたんだ」

「君は自身の手柄ではない。むしろサスケくんこそが立役者だって言いたいんだね?」

「その通りだってばよ」

 

ナルトの謙虚な態度にミズキは微笑みを浮かべ、年長者としての経験を語り聞かせることにした。

 

「謙虚になることは悪いことではないけど、程々にしないと嫌われるから気をつけてね。たとえサスケくんが最終的なピリオドを打っていたとしても、それまでに上手く連携をとれるよう行動した君の策も評価に値するものだ。だから君は胸を張って自分の手柄でもあると言って良い。任務だって同じようなものさ。任務の完了を決定づけた者が、周囲から一番評価されるのは当然のことだ。だがそこまで誘導した者こそボクは賞されるべきだと考える」

 

自分の話に耳を傾けたままのナルトに微笑んで、講師たる威厳を以て講義を続ける。

 

「例えば暗殺をスリーマンセルで行ったとしよう。その中にはどんな対象であっても一突きで対象者を殺せる技量を持つ者がいる。その人物1人でターゲットを狙おうとしたが、護衛に阻まれ決定打を決めることができない。だがその人物以外の2人が護衛の意識をずらしたことで、隙を見つけることができた。そして一撃必殺の腕を持つ人物が放ったことで任務は達成された。どういうことかわかるかい?」

「…たとえ強力な暗殺術を持つ忍者でも、1人では完遂することはできない?」

「完璧だよ。護衛の意識を外させた瞬間にその人物は終焉を決定づけた。ボクが言いたいのは、終わりを決定づける瞬間を作った人物こそ、誰からも祝福されるべきだってことさ」

「それを置き換えたら、サスケに〈火遁〉を発動させたオレが貢献者って事?」

「ああ、そういうことだ。君には彼を凌ぐ技術を身につけられると確信している」

 

先程の優しい微笑みから打って変わって、真剣味のある表情を浮かべながらミズキはナルトを見る。その瞳に映る真剣さに、ナルトは嘘を言っているようには見えないと思えた。揺らぐことのない光とその真剣な声音は、ナルトの技能でも看破できない。

 

「オレがサスケを越えられる忍びになれる?」

「長年教師をやっていたからある程度のことは計れると自負しているよ。そのためにとっておきの秘密を君に教えてあげよう」

 

サスケを越えられる忍びになれると言われたナルトは、歓喜に震えそうになる身体を押さえ込んだ。ナルトにとってサスケは永遠のライバルだ。体術の腕前は互角だが忍術を比較すれば一歩も二歩も劣ってしまう。ナルトが上手く忍術を扱えない理由としては、九尾を封印している〈八卦封印〉によるチャクラの制限だ。

 

だからなのだろう。ナルトがミズキの言葉の誘惑に抗うことなく聞き入ってしまったのは。

 

ミズキの言葉を聞き逃すまいとナルトは耳を傾けるのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

その日の夜、ナルトはヒルゼンの自宅に侵入してあるものを盗み出した。それは初代火影が自ら危険と称した忍術が記されている〈封印の書〉であり、そのことは瞬く間に上層部に広まることとなる。

 

それを知った里の上層部は怒り狂って緊急会議を開催していた。

 

「今回の事件はあまりにも酷すぎます!」

「悪戯どころでは済みませんぞ!」

「…うむ、各々ナルトがいるであろう場所の捜索を頼みたい。発見しても確保せず儂に知らせてほしい。儂自ら趣いて返してもらうことにしよう」

「「「「御意!」」」」

 

暗部を含めた上忍たちはヒルゼンの自宅眼から里内へ散らばっていった。ヒルゼンはパイプを吹かしながら、空を見上げている。今起こっていることが悪い冗談であると願うかのようにも見えた。

 

「…火影様、少し時間をいただけますか?」

「いのいち、それにフガクもどうした?」

 

捜索へ向かったと思いきや、その場に残ったままの2人にヒルゼンは振り向かず問いかける。

 

「今回の件、腑に落ちないのです」

「何が言いたいのじゃ?」

 

いのいちの神妙な声音に違和感を抱き、ヒルゼンは背を向けままではいられなくなったようだ。振り向いた様子は火影として当然のように、動揺していない里長として相応しい態度だった。パイプは未だに吹かしたままだが…。

 

「ナルトくんが悪戯でこのようなことをするはずがないと確信しています。彼は生まれてこの方、一度も問題という問題を起こしていません。そんな彼が危険な〈封印の書〉を盗み出すとは考えられないのです」

「私も同様です。彼がそのようなことをするはずがありません」

「ふむ、お主らの言いたいことはわかるがのぉ。監視カメラにはナルトがばっちりと記録されている。これはどうしようもない事実じゃ」

「〈変化の術〉を使えば誰でもナルトくんに化けられます」

 

もちろんヒルゼンはそのことを理解している。〈変化の術〉は外見を変えることができる有能な忍術である。何処かへ侵入する際に、顔ばれしている忍びなら一目見ただけで警戒されてしまう。そういう時に役立つものだ。といっても声や性格を真似るものではない以上、変化する相手を知っている者に出会えば容易く看破されてしまう。

 

だが今回は音声拾う監視カメラではなかったため、本人なのかまたは別人であるのかまではわからない。

 

「一番の解決方法で簡単なのは、〈封印の書〉を持つナルトかナルトに化けた誰かを見つける事じゃ。2人とも頼むぞ」

「「はっ!」」

 

捜索隊として里内へ散っていった2人を見送ってから、ヒルゼンは自室の水晶玉でナルトの位置を見つけ出すことにした。

 

 

 

 

「こんなところかな?案外簡単にできたってばよ」

「見つけたぞナ・ル・トっ!」

「あっ、イルカ先生みっけ!」

「先に見つけたのはこっちだ馬鹿者!…ったく迷惑かけやがって。ここで何してたんだ?」

 

普段と変わらない会話をする2人を見ていると、今が緊急事態であるということを忘れてしまいそうだ。

 

「術の練習してたんだってばよ」

「こんなところでか?」

「ミズキ先生が教えてくれたんだってばよ。この巻物とこの場所を、っイルカ先生危ねぇ!」

 

突然ナルトがイルカを突き飛ばし放たれたクナイから守る。その間にもナルトは一撃もかすることなく避けきる。

 

「ひゅう~。入学者成績3位は伊達じゃないってことだねナルトくん」

「ミズキ先生、何で…」

 

樹の上から見下ろしてくる人物に、ナルトは信じられないとばかりに動揺を隠し切れていない。ナルトにしては珍しいことだと、サスケや友人たちが見ればそう思っても仕方ないほどだ。

 

「ミズキ、何のつもりだ!?」

「お前に用はない。ナルト、巻物を渡せ。お前には必要のない代物だ。それとも交換条件として何かが必要か?」

「何かって何だってばよ」

「くっくっくっく。教えてやるよお前が煙たがられている理由をな!」

「やめろミズキ!」

 

イルカの制止も虚しくミズキはある秘密を暴露していった。

 

「お前には知られてはならないある掟が作られている。それはお前の正体が九尾のバケ狐だと口にしない掟だ!」

「ミズキっ!」

「お前がイルカの両親を殺し、〈木の葉の里〉を壊滅させた張本人なんだよ!お前は憧れだった火影に封印された挙句、誰からも忌み嫌われてきた。その理由がこれなんだよ!」

 

ミズキにすれば、それはナルトにとって堪えようのない事実だと確信していた。ナルトが夢見ている火影が自身にそんなことをしていたなどと知れば、どのような行動をするのか目に見えていた。

 

イルカもナルトが、その事実に耐えられないと思っていたことだろう。里を守る長がそんなことをしていたとナルトが知れば、かつてのようなことが起こってしまうと。

 

だがミズキの間違いは浅はかすぎた。ナルトにとっては既に知っていた事実であり、何より自分が生きている意味そのものだったからだ。

 

「オレがバケ狐...か。それは間違ってるってばよ。オレはうずまきナルト火影を志す忍びだ!」

「何を言っている!お前が厄災をもたらす悪だってことを今ここで俺が教えてやる!」

『やめとけ』

「「っ!」」

 

突然に何処からか地響きのように腹の底へ響く声が聞こえてきた。

 

「だ、誰だ!?」

『お前の目の前にいる』

「なに!?」

 

ミズキの視界にいるのはナルトだけ。先程の声とは違う異質な声音は、ナルトから発されるとは思えない。だが、その声はナルトから聞こえてくる。

 

『ワシの名は九尾。貴様が厄災とぬかしたそのものだ』

「何を言って...そうか!これは幻術だそうに違いない!」

『はぁ、貴様は大馬鹿か?ナルトは幻術を苦手としているのを、教師である貴様が知らないわけがなかろうに』

「...ま、まさか本当に九尾、なのか…?」

『だからそう言っているだろうが』

 

ミズキの状況理解の遅さに九尾はため息を吐く。ナルトをよく見れば、普段の大人しそうな容姿とは違い、幾分かきつめな見た目になっている。

 

水色の瞳は獰猛性のある獣に。肉食性のある動物のように鋭い犬歯。頬にある髭のような見た目も相まって、まるで貪欲さに飢えた肉食動物そのものだ。

 

その見た目から絞り出される声音が、ミズキの恐怖心を否応なく高めていた。イルカも久方ぶりの恐怖に震えてはいるが、あの頃のような嫌な空気を感じてはいない。

 

『貴様はナルトをバケ狐と言ったな。それは間違っている。ナルトはナルトであってバケ狐ではない。尾獣の中でも最強である九尾を宿す人柱力だ。貴様の言うバケ狐とやらはワシのことだろうな。...さて、ナルトを侮辱したことに対する怒りをどうぶつけることにしようか』

「待ってくれ九尾!」

『あぁ?…てめぇは確かナルトの担任だったか』

 

九尾の射抜くような視線にたじろぎながらも、イルカは言うべきことを口にする。

 

「たとえ掟を破ったからといって、何も殺さなくても!」

『甘いな。そんなあまちゃんだから、ナルトが敵意を抱かれても当然としか思えない』

「っ!」

 

現実を突きつけられイルカは何も言えなくなってしまう。確かにナルトは自分と同じ両親がいない子供として、長い長い孤独を味わってきた。うちは一族が代わりに育て、愛情を惜しみなく注いだとしても、本当の親から注がれる愛とは大いに違う。

 

ナルトが欲しているのは、血の繋がった親からの愛情。表に出さず自身で気付いていなくても、チャクラにはその感情が溶け込んでいる。だから九尾は否応なくそれを知らされる。だがそのことをわざわざナルトに伝えることをしない。

 

する意味がないからだ。それを知ってしまえば、対価を要求することなく我が子のように育ててくれるフガクやミコトを侮辱することになると理解しているからだ。九尾にとって2人は宿主であるナルトに暖かみを与えてくれる存在。無碍にすることは憚られた。

 

『ここでお前があいつを生かそうと、どちらにせよワシらを殺すつもりだぞ』

「ミ、ミズキ」

「ここでバケ狐とイルカを殺し、巻物を火影様に届ければオレの昇進は間違い無しだ!じゃあなぁ!」

 

ミズキが狂気に満ちた笑みを浮かべ、背中に背負っていた巨大な手裏剣を両手に握り投げつけた…と思いきや。

 

「ぐふっ!貴様ぁ!」

「オレを殺すのは勝手だけど、イルカ先生まで巻き込むなってばよ!」

 

その手から巨大手裏剣が放たれる瞬間、ナルトの右膝がミズキの顎を蹴り上げていた。その勢いはアカデミーに所属する子供とは到底思えない力だった。ミズキの身体は運動法則に則って、見事な放物線を描いていく。とはいえ、さすが講師である忍者らしく背中からではなく脚から着地する。

 

あまりの痛さにしかめ面をしながら憎々しげに、ミズキはナルトを睨み付けていた。

 

「これ以上イルカ先生に手ェ出してみろ。ぶっ殺すぞ?」

「「っ!」」

 

6歳とは思えないドスの効いた声音と殺意に、さしものナルトへ友好的な感情を抱いているイルカでも寒気を抱かずにはいられなかった。ではナルトを害悪とみなしているミズキはどうだろうか。

 

「っこの、落ちこぼれのバケ狐がぁ!」

 

意外と怖じ気づくことなくナルトへ向かっていった。いや、今の場合は虚勢であると言った方が的確かもしれない。呼吸は乱れ接近する脚は脆く、攻撃を繰り出すための印を結ぶ指はせわしなく震えている。

 

「オレが落ちこぼれじゃないのを見せてやる」

 

ナルトが両人差し指と中指を十字に交差させた。

 

「〈影分身の術〉!」

「なっ!」

「…なるほど。ナルトお前って奴は」

 

煙が晴れると、ミズキの周りには大勢のナルトと同じ姿をした人間が立っていた。いや、ナルトに似た人間なのではなく、全てがナルト自身だ。分身や残像ではなく実体そのものを作り出す高等忍術。分身と違い影分身は、大量のチャクラを消費するため、上忍クラスでも数十人を作り出すのがやっとだ。

 

だが今のナルトが作りだした実体の数は優に100を越えている。何故アカデミーに入学したての子供が、それほどの莫大な量のチャクラを有しているのか。それはナルトが尾獣と呼ばれるチャクラの塊である彼等を、その身に宿しているからだ。

 

つまりナルトは九尾を宿しているから、これほどの人数の実体ある分身を容易に作り出せる。

 

『取り敢えず、イルカ先生を殺そうとした罪からだってばよぉ!』

「ちょ、待っ…」

 

結果、ミズキはナルトによって処断されたのだった。それを水晶で見ていたヒルゼンは、穏やかに微笑んでいるのだった。

 

 

 

数時間後、イルカによって連行されたミズキは厳重に警備された地下牢獄へ収容となった。

 

事態の結果報告として、「ミズキの計画を知っており、ナルトはミズキの誘惑に惑わされた振りをしてミズキに指示された場所へと趣いた。そこに現れたミズキを戦闘で気絶させた」という旨で里の上層部へ知らされることとなった。

 

ミズキの悪行をイルカとヒルゼンが利用した格好となったが、2人からすればナルトへの評価を変えようという思いが強かったからそうしたまでだ。里の上層部もあまりに都合の良すぎる事情に難癖を付けたかったようだが、証拠もない以上どうすることもできなかった。

 

ナルトがミズキに騙されたのを知っているのは、その場に居合わせたイルカだけだったのが大きかった。詳細はもちろんヒルゼンやフガク、いのいちには共有させている。いのいちに伝わったということは、〈猪鹿蝶〉として活躍する秋道一族、奈良一族、山中一族には伝わることだろう。

 

だがフガクがいるといっても知らされるのはミコトやサスケ、イタチにそしてイタチの信頼する友人1人だけになる。フガクとしては、ナルトのことをあまり良く思っていない一族に知らせるのは気が引ける。一族としての共有情報にするか、家族としての縁が強い血縁関係が濃い家族内に留めるのか。それはフガク次第だ。




本来であれば、この話は卒業試験の後に起こった事件です。しかし今回は前話であのようなことが起こっているので、書いても可笑しくは無いかなと思って、敢えて書いてみました。

賛否両論あると思いますが、次話でまたお会いしましょう!


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お待たせしました1ヵ月ぶりですね。申し訳ありません!中々時間が取れず、FGOやSAOの投稿を優先しておりましたせいで遅くなってしまいました。

まだまだ物語は始まったばかりです。可能な限り投稿は続けますので、これからもよろしくお願いします。

前回投稿からUA5803、お気に入り44増えておりました。感謝です!


ミズキによる〈「封印の書」窃盗未遂事件〉があったものの、それからはそれなりに平穏な日々が続いた。あの事件以来、ナルトへの評価は悪くないものになっている。クラスでの事故勃発を最小限に留めた頃より、明らかに印象は良くなっていた。

 

ナルト自身はその評価に、申し訳なさを抱かずにはいられない。公に発表された内容としては、〈自分がミズキの暗躍を見抜き、騙された振りをして捕縛した〉ということ。事実とは違うことを真実と思い込み、自分へ優しく接してくれるクラスメートに罪悪感を抱くのは仕方ない。

 

幼い頃から忌み嫌われていたナルトにとって、その変化はありがたく感じてしまう。いくらフガクやミコトが本当の子供のように愛情を注いでくれていても、やはり少しでも外に出れば化け物呼ばわりされる。

 

親代わりとクラスメートでは年齢の違いだけに、頼りがいの度合いが根本的に違う。サスケやチョウジ、シカマル、いのに本当のことを知らせられないことがどれだけ辛いことか。ナルトにすれば耐え難い苦痛なのだ。

 

だがその心がすさんでしまいそうな時に支えてくれるのは、誰よりナルトの境遇を理解している九尾である。この世に生を受けて僅か数時間で、九尾はナルトに封印された。

 

ナルトが街を歩けば物を投げつけ、悪口を聞こえるように口にする。自身が言われているとわかっていても、実際に言われているのはナルトだ。里内の人間はすべての責任をナルトへと向けていた。

 

それが九尾にとって有り得ないことだった。

 

ナルトは自身が封印される〈器〉でしかない。何故〈本体〉ではなく、〈器〉がそんな風に言われなければならないのか。

 

あぁ、腹立たしい。これだから人間という矮小で脆弱な生き物は、進化という方法を思いつかない。他者を犠牲にしなければ生を謳歌できない俗物が行ける世界なんぞ、〈六道仙人〉が望んだ世界ではない。

 

尾獣が静かに暮らそうと思い、山の奥深くに巣くっていても人間は見つけ出してしまう。自分たちを脅かす存在は、消し去らなければならない。そう思い込んでしまうのだ。なんと哀れな生き物なのか。なんと傲慢で欲深い生き物なのか。

 

どれだけ時代を生きようと、人間は古来より何一つ進歩などしていない。

 

 

 

 

 

「なぁ、サスケ。最近イタチさんなんか可笑しくないか?」

 

そう問いかけるナルトの声音と表情は、言葉通りに不安を抱いている様子だった。今ナルトはサスケと共に、火影岩の上にある岩場で、体力&チャクラ修行を行っている最中だ。

 

「分からなくはないが、俺たちにはどうすることもできない」

「それは理解してるってばよ。でも気になるんだ」

 

ナルトの表情は暗い。それを示すかのように、片手で岩場を上っていたナルトの速度は遅くなっていく。今2人がいるのは、断崖絶壁に近いほぼ凹凸のない場所。チャクラによる吸着がなければ、谷底へ真っ逆さまなのは確実だ。

 

「...で、お前は何処が可笑しいと思うんだ?」

 

ナルトより少し上を上っていたサスケが、両脚を壁に張りつけた状態でナルトに問いかける。壁に直角で立てているのは、チャクラの性質を変化させ足裏に集めているからだ。

 

「顔色とか雰囲気がさ、なんか違うんだってばよ。昔はおおらかで優しくて暖かったのに、今は冷たくて痛いんだ。まるでクナイを張り巡らしているみたいで」

「疲労だろう?兄さんはここの所、長期間の任務で里を留守にしていた。帰ってきても火影への経過報告と道具の調達だ。休む暇もないのだから気を張っていればそんなものだろう」

「それならいいんだけどさ...」

 

イタチはこの3年の間に〈暗部〉へ所属していた。〈暗部〉とは火影直属の裏部隊で、潜入捜査や情報収集を生業とする忍者だ。彼らは仮面を付け、本名を隠したコードネームで互いを呼び合う。

 

イタチはその才を遺憾なく発揮し、〈暗部〉内でも指折りの実力者へと上り詰めている。本来であれば歳若い青年に成果を上げられるのは、長年務めているものからすれば不満を抱かずにはいられない。

 

だが〈暗部〉に配属される者は、里のはみ出し者あるいは才能がそちらに向いていると判断された、異端者の集まりだ。だから妬みや憂いとは縁遠い存在であるからして、その程度のことでいがみ合ったり、仲違いしたりはしない。

 

浮かない顔で俯くナルトに、サスケは元気づけるように笑顔を浮かべながら言い放つ。

 

「そういやお前は崖登りで俺に負け越してたよな?これで今日も俺が勝ったら負け越しが増えるぞ」

「うおおおおお!負けてたまるかァ!」

『うっせぇぞナルト!少しは静かにしろ!』

 

気合いを入れて叫ぶナルトに、睡眠の邪魔をされて九尾の怒った声がサスケにも届く。サスケは九尾の声を聞いているからそこまで恐れることは無い。アカデミーに入学してからの4年の間に、会話を幾度となく繰り返した。

 

ナルトの心奥深くにある場所ではなく。ナルトの意識と切り替わって現れた九尾と。

 

九尾は問うた。ナルトへの想いは本当なのか。ナルトを家族として、義兄弟として、好敵手として認めているのか。ナルトの過去をどう思っているのか。

 

サスケは答えた。ナルトは家族で義兄弟で好敵手だと。ナルト以外に、自分を自分として理解してくれる存在はいない。血縁関係があろうがなかろうが自分には関係ない。同じ志を持つ者は、互いに認め合い競い合うべき存在だと。

 

それを聞いた九尾の笑みを、サスケはきっと忘れないだろう。厄災と畏怖され1匹で里を破壊できる存在の笑顔など、見れることなどないのだから。

 

『サスケ、お前はナルトの良き理解者だ。3代目のジジイやイルカの小僧以上にな。ナルトの心の支えは誰でもない、心の底からあいつを理解してやれる存在だけだ』

 

穏やかな笑みから一転して、次の瞬間には沈痛な面持ちで九尾は語り始めた。

 

 

 

 

『ワシは昔から破壊という概念しか持っていなかった。形あるものが消えていくのは愉快痛快。得がたい愉悦に他ならなかった。...ワシら尾獣は何処にいようと忌避される。憎悪の塊であるワシらは、すべての災いの元凶として憎しみの対象となった。ワシらが関わっていなかろうと、ワシらに全てが降りかかった』

「...お前は怒りを感じなかったのか?」

『感じたとも。何故ワシらのせいになるのか。何故ワシらが静かに暮らすことを許さないのか。それが昔からの疑問だった。ほとんど覚えてはいないが、ワシを封印された者共、ナルトの前任者共はこぞってワシを嫌悪し憎んだ』

 

皮肉な笑みを浮かべながら九尾はサスケを見つめる。

 

「でも何故ナルトに対しては穏やかなんだ?」

『ナルトはワシを憎まなかった恨まなかった。ワシが封印されているが故に迫害を受け続けた。だがそれでもナルトは笑ってワシを許した。その時ワシは初めて恐怖した。何故こやつはワシを憎まない?ワシがいるから傷つくというのに。ワシに対してナルトは感謝しか言わない。笑顔を屈託のない笑みをワシに向ける?』

 

ナルトの意識と入れ替わっている九尾は、襖を開けて縁側へと下り立つ。庭にある池の揺れる水面で反射する己の〈器〉を、慈しみが宿った瞳で見返す。

 

『化け物と呼ばれたとき、ナルトの感情がワシに流れ込んできた。「仕方がない。これは誰にもある理不尽が自分だけ多いだけだ。」そんなことを僅か6歳のガキが考えると思うか?大の大人でも受け入れきれず発狂する』

「なんでナルトは耐えられたのか、だよな?...ナルトの精神力が尋常じゃなかったんじゃないのか?」

『その可能性も無きにしも非ずだろうが。てか、てめえは自覚しろ』

「は?」

 

サスケは何を言われたのかわからなかった。ナルトの過去を聞いているというのに、何故自分が指摘されるのか理解できなかったのだ。

 

『誰のおかげでナルトが暴走せずにいられたと思ってるんだ?お前だお前。お前がナルトを支えてきたから、普段の日常が当たり前になっとる。まさか気づいてなかったのか?』

「俺がナルトを救っていた?馬鹿馬鹿しい。俺はナルトのような、腕が立つ奴を失いたくないだけだ」

 

サスケの言葉に九尾は内心ため息を吐く。その行為自体がナルトを救っていたという事実だと言うのに、認めないことが腹立たしかった。

 

『まあ、ワシは知らん。ともかくお前のおかげで、ナルトは何も変わらず穏やかに過ごせている。それさえ知ってくれていたらいい』

 

そう言う九尾が穏やかに、親が子を慈しむような表情を浮かべながら口にする。

 

『ナルトほど心地いい〈器〉は二度と訪れぬだろう。だから頼む、ナルトを守ってやってくれ。俺の安全よりあいつの安全を作ってくれ』

 

その言葉が九尾の心からの叫びだとサスケは理解した。自分の命よりナルトが大切と言っているのだと。ナルトが死ねば自分は自由になるというのにそれを望んでおらず、むしろナルトの中にいたいという思いが伝わってきた。

 

 

 

 

あの日、サスケは自分自身に誓った。ナルトが決して自分を呪うことなく、笑顔で生きられる世界を作ってみせると。そのためにはまず自分が変わらなければならない。今の腕ではその理想は夢のまた夢。届かぬ儚きものとなってしまう。

 

そうしないために自分が強くなり実力を示す。憧れを抱かれるような存在になって、ナルトを毛嫌いする存在を見返してやる。

 

だからサスケは〈火影〉を目指す。

 

「負けてられねぇよな。兄さん、兄さんはナルトと俺をどうしたいんだ?」

 

雲ひとつなく暖かな日差しが降り注ぐ空を見上げ、サスケは誰にも聞かれることのない問いを投げかける。空へ放ったはずの問いは自分自身に降りかかる。自問自答しても答えは見つからない。

 

かぶりを振ることで頭から追い出したサスケは、ナルトを追って〈片手崖登り〉を再開するのだった。

 

 

 

 

それから少しばかりして、あの悲劇の事件は起こる。それがよもや、運命を左右するなど2人は知る由もなかった。



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11

1ヶ月弱ぶりの更新です遅くなって申し訳ありません。新しい物語書くのに費やしていたらこうなりました。

今回は結構文字数が多いのでよろしくお願いします。


その日の放課後。ナルトとサスケはイルカに呼び出されて、アカデミーの一室にいた。もちろんこの呼び出しは、成績不良や悪質な行動をとったことを、怒られるものではない。

 

もっともイタズラ好きなナルトであるからして、そのようなことで怒られないとも限らないが。さすがに被害者を怒らせるようなところまでは、ナルトでも行き過ぎたマネはしない。

 

「悪いなナルトにサスケ。もう帰宅時間だというのに残ってもらって」

「気にしなくていい。みんなと帰ろうとしてるオレたちを呼び止めるぐらいだから、余程のことなんだろ?」

「理解が早くて助かるよ」

 

部屋の空気は軽いとは言えないが、かといって重いというわけでもない。そう感じてしまうのはイルカの表情が、普段と比べて2割ほど深刻そうだったからだ。

 

「今日、2人を呼んだのはアカデミーを卒業したあとの話だ。下忍になればチームを組んで任務にあたることになる。チームはそれぞれが均等な力関係になるよう割り振られるんだが」

「つまりイルカ先生が言いたいのは、俺たちが同じ班になる可能性が低いってことか?」

「ああ、お前たちの実力は拮抗しているからな」

 

アカデミー内での順位は、ナルトが三席でサスケが首席となっている。次席にはヒナタがいるとはいえ、3人の間には目に見えるほどの実力差は存在していない。

 

若干サスケが忍術で優っているだけだ。その差はおそらく、サスケが優秀な一族の血筋だというのもあるだろう。だがナルトも、決して優秀な血筋ではないというわけではない。

 

ナルトの母は《封印術》を得意とするうずまき一族であるからしてどちらかといえば、うちは一族に及ばないまでも相当優秀な血筋だ。ミナトの場合は、個人が優れているという面が強い。ヒナタが出生した日向家の場合も〈木の葉の里〉や〈五大国〉でも名の通った名家である。

 

サスケ、ヒナタ、ナルトの3人がイルカの担当している学年で、屈指の実力を誇っているので比べようがない。3人を同じ班にしてしまうと、他とは次元の違う域に至ってしまう。

 

彼らが力をつければ、里内のパワーバランスが崩壊しかねない。それに伴う里の混乱を利用して、他国が攻め込んでくる可能性がある。それらがイルカやヒルゼンが、今抱えている懸念事項のひとつだった。

 

何も上層部が未来を担う忍びの成長を、特別拒んでいるわけではない。むしろ里を守れるほどの忍びになって欲しいというのが、里を維持している者たちの本音である。

 

「2人が下忍になったとしても、同じチームとして任務に当たる可能性は低い。だがこれは可能性であって確定事項じゃない。可能な限り2人が同じチームになるように俺も努力する。ナルトのお家事情はそれなりに理解している。義兄弟として今日まで過ごしてきたお前たちを、無理矢理引き剥がすというのは俺にもはばかれる」

「イルカ先生がそこまで心配しなくていいってばよ。オレたちが離れても特に問題はないってことみせるってばよ」

「ふん、俺はナルトと離れることが寂しいわけじゃない。コンビで敵を倒せないのが憂鬱なだけだ。だがまぁ、イルカ先生が深く考える必要は無い。あくまでそれは予定であって現実かどうかはまだわからないからな」

 

サスケの大人びた口調と澄まし顔に、イルカは軽く笑いをこぼしてしまった。

 

「すまないサスケ。今の言い方がイタチくんのような雰囲気だったものでな」

「それは褒め言葉だぜ」

「ああ、そうだったな。お前にとって兄と比べられるのは、気分の悪い事ではなく誉ある胸を張るべきことだもんな。少しばかり時間が長くなったが話はこれだけだ。気をつけて帰るんだぞ。最近は暗くなるのが早いからな」

 

2人が教室から出たのを確認してから、イルカはさきほどの2人の発言を三人一組(スリーマンセル)に分ける立場の教師に伝えに行った。

 

 

 

イルカとの面談を終えた2人は、夕暮れに染まる空の下で河川敷を右にして歩いていた。2人にとってイルカの不安はすでに周知の事実だった。いつかはバラバラになって任務に当たると、なんとなくではあったもののうっすらであるが感じていた。

 

そこに悲しさや寂しさはもちろんある。生まれてから隣を見れば必ずと言っていいほどいつもいた。苦しみも悲しみも喜びも共に分かちあった。互いが互いを認め合い高め合うことで、その絆は固く誰にも外せない強固なものになった。

 

「なんとなくは予想してたな」

「なんとも言えないってばよ。サスケがいるからオレは頑張れたけど、いなくなったら競う相手がいないから難しいってばよ」

「互いに見えないところで、修行する方が面白いと思うけどな。次に手合わせしたときの楽しみが増えるじゃないか」

 

前向きなサスケの言葉にナルトは笑みを浮かべる。だがそれは決して納得した笑みではない。言いたいことは理解したが、納得まではできていない。だが全てが間違っているわけではないという、微妙な心境を表したものだった。

 

理解と納得はニュアンスは似ているが同じ意味ではない。勉学と同じように、公式を理解して問題が解けたとしてもそれは本当の意味での「納得」にはならない。応用が解けて初めてその公式を「理解」して、問題の意味が「納得」できるのだから。

 

ナルトの笑みの意味合いを知らないサスケは、ナルトと歩みを揃えることに集中していたせいか。背後から近づいてくる影に気づかなかった。その影はナルトの後ろから抱きついて羽交い締めにした。

 

「よぉナルト」

「げ、ヒナタ!?なんだってばよ」

「ふん、将来の婿になる奴に用がなかったらダメなのか?」

「い、いや、そういうことじゃねえってばよ」

 

何故かヒナタが既に暴力系恋愛ヒナタとなっていることに、ナルトは冷や汗をかいていた。普段は余程のことがない限りこの姿にはならない。あるとすれば気分の高揚。あるいは...ネジによるストレスの貯蓄である。

 

「まぁ、その程度で怒っていれば夫婦円満にはなれん。その驚き顔は見なかったことにしておこう。ということでナルトを借りてくぞサスケ」

「何も説明になっていないぞ」

「うっせぇよ、取り敢えずナルトを貸せ」

 

今にも〈白眼〉をだしそうな剣幕に、サスケはあっさりとナルトを手放した。戦いになればそれ相応の体力を失うことになりかねないからだ。

 

入学成績首席と次席とはいえ、その差は僅かでしかない。幻術を少しだけ扱えるサスケの技量が、成績に加算されたことで首席になっている。純粋な体術勝負になると、サスケはヒナタに一歩ほど遅れを取ってしまう。

 

その技量に差があるのは一族の戦闘方法が異なるからだ。〈写輪眼〉を用いた忍術と体術で戦ううちは一族と違って、〈白眼〉を用いた相手の急所を的確に狙う体術が主な日向一族。修行期間が3年程度であろうと、親の才能を継ぎ次期当主の座を得られる腕の持ち主に、互角の勝負を挑めるサスケの体術が驚異的と言えよう。

 

少しは抵抗を見せると思い込んでいたナルトは、呆気なく裏切ったサスケへ恨みのこもった視線を向ける。ヒナタがナルトのその眼を見ればキレただろうが、生憎今ヒナタの意識はサスケに向いている。

 

「だそうだナルト。頑張れよ」

「おい!」

義兄(・・)の許可が下りたんだ。行くぞ」

「ザズゲぇぇぇぇ!」

 

ヒナタにうなじの襟首を握られながら引きづられていくナルトは、哀れにもサスケへ恨みを吐き散らそうとする。だがそれを余所見することで軽く流したサスケには、まったく効果はなくナルトの精神HPを削るだけとなった。

 

 

 

 

 

「ほう、ついに覚悟を決めたのだなナルトくん!」

「いや、まだなんにも言ってないんすけど。てか何の話なんですか?」

 

有無を言わさない動きでナルトを連行したヒナタは、日向一族が暮らす里の一角へと移動していた。ナルトも頑張れば、ヒナタの手を引き剥がすことは可能だ。だが後が怖いので何も出来ずされるがままとなって今に至る。

 

ある一室に通されたナルトは、ヒアシを連れたヒナタの真面目な表情にソワソワしていた気分を改めた。暴力系恋愛ヒナタ状態の彼女が、至って真面目な顔をするのは見たことがない。ナルト自身その変化に違和感を抱いていたのだが。

 

...ヒアシの満面の笑みと圧力にげんなりしながら、詳細を聞き出すことにしたのだった。

 

「おやおやおやおや、またまたすっとぼけたことを仰る。何の話かなんて決まっているじゃないか。ヒナタとの婚姻のことだよ」

「...え?」

「ふむ、その様子だと何も聞いていないようだね。ヒナタ、何も言わず連れてきたのか?」

「仕方ねぇだろ。そんなこと言ったらぜってぇにナルトはこなかった」

 

それもそうだなとばかりに頷くヒアシに、ナルトは早すぎないか?と思わずにはいられなかった。未だこの世に生を受けて10年も経っていない。それなのにもう結婚相手だと言われるのは実感がわかなかった。

 

「娘が何も言わなくて済まなかったな。今のやり取りがあるように、ヒナタは君のことを好いている。私はヒナタの想いを尊重したいと考えている」

「それは対象者であるオレの意志を無視してでもってことですか?」

「...まあそういうことになるかな」

 

ナルトの無機質的な声音に、さしものヒアシも視線を外さざるおえない。それだけナルトの声が冷たかったのだろう。だがナルトも決してヒナタとヒアシのことが嫌いで、そのようなことを言ったのではない。

 

どちらかと言えば2人のことは人間的に好きだ。里内の住人から疎まれてきた自分を、優しく世話をしてくれたのだから嫌いにはなれない。だが先程の自分勝手な発言には我慢ならなかった。

 

生を受けたならば自分の意思で生きたい。誰かに左右されるのはまだ構わない。だが誰かに決められた運命を歩むのだけは避けたかった。忍びとして生きながら人としての生活を送る。そんな当たり前のことを制限されるのは、ナルトにとって尾獣と同じように見られているようで不快だった。

 

「いささか早すぎる気がしますが」

「君にはそうだろうが歴史ある名家では普通なのでな。むしろそれが望まれているというのもある」

「自分は名家の生まれではないのでわかりません。しかしそれはかつての話であって今ではないはずです」

「伝統というものは絶えず残していかなければならない。今の世界と相容れないものであっても、決して終わらしてはならないのだ。言葉や文字で語り継がれるのではなく、行いとして繋がるものこそ求められるものだと私たちは考えている」

「過去から学ぶことは多々あります。しかしオレにはまだ早すぎます」

 

ナルトとの会話が平行線を辿ることは、ヒアシも予測していなかったのだろうか。思った以上に重い表情をしていた。

 

「ナルトくんはヒナタのことが嫌いかね?」

 

ヒアシの言葉にヒナタが背筋を正す。ヒナタが今いる位置は、向かい合うナルトとヒアシの間だ。その視線はナルトへと向けられている。だが決してナルトを恐喝させるようなものではない。純粋な気持ちを表した普段のお淑やかなヒナタそのものの視線だった。

 

「好きですよもちろん」

「それは友人としてかな?それとも異性としてかな?」

「両方です。友人としては、頼り甲斐があって目標にしています。異性としては、可愛くて優しい他人想いな人で好ましく思っています。しかし将来を共にできるかと聞かれれば、それにはまだ『はい』と素直に言える気はしません」

 

ナルトの暖かな想いが詰まった言葉に、ヒナタは泣き崩れる寸前だった。

 

「期待はしていいということかな?」

「それもわかりません。いつ自分が裏切るなどと誰が言えるでしょうか」

 

あまりにも礼儀正しいナルトの態度に、ヒアシは白旗を上げざるおえない。今のナルトの心は決して婚姻に対して前向きではない。むしろ逆ベクトルにあると考えていた。

 

「君は...「ナルト兄さん!」ハナビ!?」

 

突如襖を突き破って、ヒナタの妹であるハナビがナルトに飛びかかってきた。

 

「ナルト兄さん!」

「ごらぁハナビぃぃ!なにさらしとんじゃわれぇ!」

「ナルト兄さん!」

「こっち向けや、あぁ!?」

「べーだ。殴ったり叩いたりしかできないお姉ちゃんの言うことなんか聞かないもん!」

「おっし、ぶっ殺す!跡形もなくな!」

「ふんだ。お姉ちゃんなんか大っ嫌い!」

 

修羅場と化した一室は手のつけようがなかった。

 

「ハナビ、ヒナタ落ち着いて」

「「五月蝿い!」」

「ほげぇ!」

 

いさめようとしたヒアシに対して、〈白眼〉を発動させた2人が点穴を的確に突いた。泡を吹いて白目をむいた(普段から日向一族は白目だが)ヒアシを置き去りにして、2人は決闘を始める。

 

「妹に対して本気になるなんて最低!」「うっせぇ!誰の男に抱きついてんだてめぇは!」「まだお姉ちゃんのじゃないでしょ!」「誰のものでもなくてオレのもんだ!」「決まってないでしょ!」

 

傍から見れば空恐ろしいやり取りではあるが、一族からすれば「今日もまた仲良く戯れておられる。次世代も安泰であるな」とばかりに顔を綻ばせている。いや、もう一族自体が手遅れなのかもしれない。

 

決闘の地が庭になったことをいい事に、ナルトは抜き足差し足忍び足で日向邸を脱出したのだった。

 

 

 

 

 

どうにか日向一族の追っ手から逃げおおせたナルトだったが、またしてもナルトは思いがけない人間に捕まってしまった。

 

「あれ、ナルトなんであんたがこんなところにいるの?やけに息が荒いけど」

 

現れたのはナルトに想いを寄せているいのだった。ナルトが隠れていた場所とは、山中一族の長である山中いのいちの住宅の裏だったのだ。いのいちの妻は花屋を開いているため、家の裏口には、売れ残り枯れてしまった花を捨てるための保管庫が幾つか置かれている。

 

上からは確認しづらく、通りからは何度か路地を曲がらなければたどり着くことの出来ない場所にある。だからこそナルトはこの辺りに身を隠していたのだが、偶然にも運悪く(いのからすれば幸運)見つかってしまった。

 

嘘をつける相手でもなければつく必要も無い。ナルトの性格上どうしても嘘が付けないことが今回は仇となる。

 

「いや、日向一族の追っ手をまくために隠れてた」

「なんでそこに日向一族が出てくんのよ」

「婚約してくれって言われて断って逃げたらこうなった」

「ここここ、婚約ぅぅぅぅ!?」

「バ、バカ声が大きいってばよ!」

「はっ、ごめん」

 

かなり大きな声ではあったが、驚いても仕方ないとナルトはいのを攻めなかった。この歳で婚約なんぞ早すぎると思うのは当然だ。10代半ばでも早いと思うのだから、その半分しか生きていないならば当然だ。

 

「...そう、ヒナタが婚約をね」

「もちろん断ったってばよ。まだ考えられねぇし、そもそもヒナタを本気で好きなのかもわかんねえんだ。返事なんてできるわけねえってばよ」

「そりゃそうよね。好きじゃないと50年以上一緒に生きられる気がしないもん」

「同感だってばよ」

 

互いに苦笑しながら語り合う。名家とはいえ、無理矢理の婚約は信頼を失うことに繋がる。外聞を気にするのは人間の性ではあるが、それだけで生きていけるほど甘くはない。

 

「明後日ヒナタに会うのは避けるべきかもね」

「同じクラスだから無理だってばよ」

「可能な限り眼を合わせたり、会話をしなければいいのよ」

「向こうから話しかけてきたら?」

「それはそれ。普段通りに動いとけば向こうも何も出来ないでしょ」

「なるほどだってばよ」

 

こうして会話をしていれば、普通の仲がいい男女でほのぼのとした様子だ。この歳頃であれば、仲良くしていても冷やかしを受けたりはしない。ちょっと前に誘拐未遂などがあったと誰が思うだろうか。幼馴染と思うのが関の山だろう。

 

いのにとって初恋の相手であっても今は友人としての立場で話を聞こうと思うのだった。それは何故か。実際ヒナタがそういう話をしているのを何度も耳にしている。まさか行動を起こすことはないだろうと思っていたのだが、よもや既に動いているとは予想外だった。

 

今動かなければ負ける。ナルトを取られてしまうかもしれないと思ったが、ナルトが婚約を断った上にヒナタの事が好きなのかどうか分からないと言ったことが、いのの直接的な行動に歯止めを効かせた。

 

それはナルトに好印象を与える(ナルトは気付いていない)上に、いの自身への決意にもなる。決してヒナタには負けないという確固たる決意が、今いのの心に刻み込まれた。

 

「そろそろ太陽沈むわね。早く帰った方がいいと思う。お父さんがここ最近里の空気が張り詰めてるって言ってるし」

「里の空気かぁ、何かの前兆なのかな」

「何かって?」

「オレにもわからないってばよ。でも嫌な予感がするんだ。オレやサスケだけじゃなくて、里にも悪い影響が出るような」

 

火影邸のある方角へ視線を向けるナルトの顔は、決して巫山戯たものでは無い。その視線を辿るようにいのも顔を向ける。火影邸の後ろに彫られた歴代の顔は、いついかなる時でも里を見守っていると伝えられている。

 

そこにある左から四番目の顔岩。かつて里を未曾有の大災害から守った英雄、そしてナルトの実父である波風ミナトをナルトは見ている。

 

自分は何になりたいのか。何を目指すのか。里の住人に疎まれながらも生きた6年間。その間にも多くを培って、世界がどんなものなのかを知った。残酷でありながら美しくもあることがどれほどの意味を持つのか。

 

まだ幼いナルトには理解も納得もできていない。

 

「あ〜、やめやめ。暗い話はもうお終いにして明るく行きましょ」

「と言ってもオレはもう帰るんだけど」

「そこは潔くのりなさいよ」

「面倒だってばよ」

「...あんた最近シカマルに似てきてない?」

「いつも一緒にいるから仕方ないってばよ」

「仕方ないで済まないの」

「いててててて」

 

若干母のような口を効くいのに、ナルトは少しばかりタジタジとなっていた。

 

「じゃ、帰るってばよ」

「気をつけてね」

 

ナルトを抓った左手を右手で包みながら、いのは穏やかに微笑んでナルトを見送った。




ナルトやサスケ、いのがやたら大人びていますがこれは誘拐未遂事件によるもので、思考はイタチに似た感じにしています。もちろんシカマルやチョウジも、年齢や原作以上に大人びた性格にする予定です。

ハナビの年齢はナルト達の2つ下に設定しています。そうしたら面白くなるかなと思いました。あ、ちなみに作者のNARUTOの推しキャラは日向ハナビなので、そこんところよろしくお願いしまぁす。

ではまた次話でお会いしましょう。


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12

はい、シリーズ史上もっとも文字数が多い話となりました。文字が多いと思われると思いますが、これを途中で切ってはならないと思い、このようになった次第です。

それではどうぞ!




ナルトがいのとほのぼのとした空気にいる中、サスケは帰路の終盤に達していた。ナルトと帰る予定が狂ったことで、少しばかり修行をしていたのだが、集中しすぎて予定外に遅くなってしまった。それなりに時間をかけて家に向かって駆けている最中だ。

 

うちは一族の住居は、里の隅のこじんまりとした場所に佇んでいる。里の中枢を成すうちは一族が、何故このような辺境の場所に住居を構えているのか。幼いサスケはずっと疑問に思っていた。うちは一族以外にも里を支える一族は中心部に暮らしているというのに、うちは一族だけが外れにいるのか。

 

謎が謎を呼ぶとは言わないが、サスケにとってそれらは可笑しなことだとしか思えない。つい先日、サスケはふいにそのことを父に聞いてみた。それを聞いたフガクは穏やかな父親の顔から、一族の長としての険しい顔つきに変貌させサスケに言った。

 

『お前は幼すぎる。知るには早い。そして二度とその事を口にするな』

 

そして視線を木の葉新聞に落とすのだった。視線は新聞の文字に向いているものの、文字を読んでいる気配はない。まるで空気を視ている(・・・・)ようでもある。

 

聞いたことに答えない父に不満を感じたサスケは、イタチに同じようなことを聞いた。

 

『俺はこれから任務に行く。悪いがまた今度だサスケ』

 

いつもと同じような額を中指と人差し指で突いて、少しばかり急ぐように家を出ていく。それは普段と変わりない何気ない朝ではあったものの、サスケには兄が何かを隠しているように思えた。

 

何か重大な。それも良くないことだと直感的に感じた。

 

だがそれは杞憂であると思えなくもなかった。それからは普段と変わらないナルトがいて、家の中がうるさい当たり前の生活が過ぎていったから。忘れていたと言うのがもしかしたら正しいのかもしれない。

 

だがそれはサスケが悪いのではなく、子供として気付けない大人の世界の話だからだ。サスケが知ろうとしても、誰もが相手にせず聞かせてくれない。6歳の子供が紛れるにはあまりにも難しい問題だった。

 

住居に入るには、1つしかない入口へと回らなければならない。壁をよじ登って中に入ることは誰にでもできることだが、歴史ある由緒ある名家の一つであるうちは一族が、そのようならしくないことをするのははばかれる。

 

サスケにとってそれは面倒くさいことに他ならないのだが、父や母を落胆させたくないから大人しく従っていた。

 

「っな、んだよこれ!」

 

唯一つの入口に向かって走っていると、門の前でいつも迎えてくれていた、駄菓子屋を営んでいる老夫婦がいない。あるのはその死体。身体は血に濡れているが一部分にしか見られない。正確に言うなれば、背中から腹部にかけて貫かれた1つの傷口の周辺のみ。

 

背後から一刺しだと思われる傷跡は細い。それが死人であるのは間違いないが、顔に浮かんでいる表情は、決して苦しんで苦しんで事切れたものではない。むしろ死が訪れたのが当然あるかのように、不自然に普通すぎた。

 

「...静かすぎる」

 

周囲の空気を感じて口にしてしまった。そう、あまりにもここら一帯が静かすぎる。普段ならば夕食の準備や、任務帰りの大人たちで和気あいあいとしているというのに。老夫婦が死んでいることを含まなくても、サスケからすれば異常なことだと理解できた。

 

門をくぐって中に入るが人影は一切ない。老夫婦のように道端に倒れている人もいない。家族が無事なのか心配になったサスケは、全速力で自宅へと走った。心配で心配でたまらなかった。

 

幾つもの家を過ぎ去って、何人もの死体を飛び越えて走った。家がある中心部へ向かえば向かうほど、死体の数が増えていく。どれも老夫婦のように背中を一突きのようだ。

 

「父さん!母さん!」

「来るなサスケ!入ってはならん!」

「来てはダメよサスケ!」

 

自宅の玄関を彼らしくない乱暴な手つきで開け放ち、家の至る所を探した。だが何処にもおらず、父がよく瞑想していた稽古場に向かって叫んだ。サスケに届いたのは、彼を拒む声量と緊迫した空気だった。

 

サスケにとってそれは理解できない事だった。一族の多くが殺されているというのに、その解明を行おうとしないどころか部屋に閉じこもっている。そしてサスケが入るのを静止させた。それらは明らかに今の事態を無視しているという異常なものだった。

 

サスケが戸を引こうとした瞬間、ドサッという物音が稽古場の中から聞こえた。

 

「父さん!母さん!」

 

両親の静止を無視して中に入ったサスケは、眼に入ったものをすぐに理解できなかった。折り重なるように倒れているフガクとミコト。床は2人の倒れている部分に、血が少しばかり溜まっている。

 

「誰だ!」

 

その次にサスケが見たものは、月明かりが格子の隙間から差し込む角度から逃れるように、立ち尽くしている人物だった。闇に潜む紅い(まなこ)が2つ、静かに叫んだサスケへ向けられていた。

 

その眼は冷徹で非情になった人間を思わせる。音もなく2人をまたいで素顔をさらした人物に、サスケは息を飲んだ。誰より信頼していた忍びが、このようなことを起こすなど到底受け入れられなかった。

 

「な、んで...」

「単純な事だ。今のうちは一族は問題を抱えすぎている。このまま野放しにすることは、俺の心が許せない」

兄さん(・・・)...」

 

感情もなくサスケを見下ろす影。それはサスケが目標にしていた誰よりも強く、誰よりも優しく、誰よりも憧れた自身の兄うちはイタチだった。

 

「サスケ、これで最後だ。俺は俺のやり方で終わらせる。すべてをこの世界を。邪魔をするものは誰であろうと俺は斬り捨てる。それが友であろうと、肉親であろうと、ナルトくんだろうと、お前であろうとだ」

「それほどまでにやらなきゃダメなことって、なんなんだよ!父さんと母さんを殺してまで、一族のみんなを殺してまでやらなきゃダメなことってなんだよ!」

「お前が知るには早すぎる。お前はまだ幼い」

「待て!」

 

全ての質問に答えないまま姿を消したイタチを追って、サスケは玄関から気配を探った。闇夜に紛れるように逃走する兄を見つけるのは、サスケにとって簡単なことではなかった。

 

サスケが子供だからという理由も無くはないが、この場合は夜を味方につけたイタチが賢いということになる。如何に上忍であろうと、音もなく移動する人影を見つけるのは楽なことではない。

 

というはずなのだが、サスケは即座にその姿を捉えていた。何処に向かって家々の上を移動しているのかが、流れ込んでくる。《()》が見える。兄の性格を表したように、暖かい黄色に近いチャクラの足跡が。

 

「逃がすかよ!」

 

イタチを追って全速力で家々を飛び交う。胸元へ右手を突っ込んだかと思うと、抜き出した手には4本のクナイが握られていた。それらを両手に2本ずつ挟む。首元で交差させた両手を、背中を大きく逸らした勢いで、少しずつタイミングをずらして遠くへ投げ込んだ。

 

放物線を描くものや、直線を描くもの、弧を描くものなど様々な角度で視界に捉えていた影に向かっていく。このような投げ方をできるのはサスケの技量、紅い瞳孔とその周りに浮いた勾玉模様(・・・・・・・・・・・・・・)のある瞳をしているからだ。

 

いくらイタチといえど、このように様々な角度から攻撃を加えられれば、少なからず隙が発生すると思った。だがイタチはそれらを難なく避けてしまう。全てを避けたことで余裕が出来たのか。振り返ってサスケへ手裏剣を投げ込む。

 

黒色の手裏剣やクナイは夜にこそ力を発揮する。光の反射を抑える製法で作られた特注のものは、視認することが難しい。〈暗部〉にだけこの特注品が配布されているため、サスケは普通と違うものを初めて眼にした。

 

その手裏剣は容易くサスケの腹部へと刺さってしまう。弟がこれ以上追って来れないことを確認し、前かがみで倒れる弟に寂しげな視線を向けるイタチは、両親や一族を殺したとは思えないほど儚げに見えた。

 

「ここだぁ!」

「何!?」

 

予想外の事態に、彼らしくもなくイタチは驚愕の表情を浮かべる。上空から投げつけられたクナイを顔を背けることでどうにか避ける。

 

「そんなもんで終わるかよ!〈爆〉!」

「これは!?」

 

サスケが左手を思い切り引っ張った。するとクナイの裏側に仕込まれていた〈起爆札〉が露わになる。そのまま大きな爆発音をあげて、イタチとサスケは煙に巻き込まれる。

 

煙を少しばかり吸い込んだサスケは、むせながらもイタチからの攻撃を避けるために、大きく距離をとった。煙が晴れた場所にイタチはいない。《色》を頼りに視線を動かすと、電柱の上から自分を見下ろしている視線とぶつかった。

 

「...ここまで腕を上げていたとは。成長したなサスケ」

「あんたが家を気にしなくなってからも、ずっと練習を続けてきたんだ!」

「お前のことを見ていなかった俺のミスだな」

 

サスケは最初からこの作戦を思いついていたわけでは無い。真っ向勝負で勝てないことは、誰にだってわかる事だった。だからどうにかして勝つためには、卑怯な手を使わなければならなかった。少しでも気が引けるのは何か。

 

そこで考えついたのがクナイによる陽動で自身に隙を作り、攻撃されることで倒したと油断させる。その直後に〈起爆札〉を仕込んだクナイを投げつけるという作戦だった。

 

「っ、身体が...」

 

激痛が全身に走りその痛みに耐えられず、膝をついてしまう。

 

俺の眼(・・・)を誤魔化すほどの〈分身〉。それを生み出すためには大量のチャクラを必要とする。今のお前では1体出すのが限界だろう。いや、出せること自体が運に左右され、その後に動けるなど奇跡としか言えないか」

 

いくら同年代と比べてチャクラの多いサスケとはいえ、正式な忍びとなり任務にあたる大人と比べれば、それは微々たるものだ。それを自覚した上でサスケは全てをそれにかけたのだった。

 

「俺が憎いか?ならば俺を殺しに来い。その恨みを晴らすために、俺と同じ眼(・・・・・)を持って俺の前に立て」

 

それだけを言い放ち、チャクラ切れで意識を保つことが出来ないサスケを置いて去って行く。イタチが姿を消す瞬間、自分を見る瞳に涙が浮かんでいるのを、サスケは薄れゆく意識の中で見落とさなかった。

 

 

 

 

「...ケ!...スケ!...サスケ!起きろよ!」

「う、...ナルトか?」

「そうだってばよ!何があったんだ!?」

 

声をかけられ眼を開けると、慣れ親しんだナルトが自分を起こしているのがわかった。あれからどれほど時間が経ったのか。気絶していたことで時間感覚も朧気で確信が持てない。

 

「ナルト、イタチを追え!今すぐに!」

「イタチさんを?」

「一族を殺し、父さんと母さんを殺したあいつを追ってくれ!」

「なっ!」

 

無理もない。その現場を目にしていないナルトにとって、それは信じ難い事柄だったからだ。サスケの言葉が嘘だと言いたいわけでは無い。ただ信じられないだけだ。あれほど優しかったイタチが誰かを殺すなど、少しも考えられない事だったから。

 

『...ふむ、サスケが言っているのはどうやら本当のようだぞナルト』

「どういうことだってばよ」

『自宅付近から生命感をまったく感じん。...死んだのだろうな一族諸共』

「...わかった、イタチさんを追うってばよ」

 

サスケの起こしていた上半身をゆっくりと寝かせてから、ナルトは朱い衣を纏って空を駆けた。九尾が一族の死を知ることが出来たのは、〈仙術〉を使って自然エネルギーの流れを感知したからである。自然エネルギーは、生きている生き物すべてから感じ取れるものだ。

 

意識しても感じないチャクラのようなもので、忍者だろうと一般人だろうと体内から体外へ自然と流れ出ていく。だが死んでしまうと、その流れは消えてなくなってしまう。その観点から九尾は人の死を感じ取ることが出来る。

 

「ぜってぇ許さねぇ!」

 

サスケの場所にいた頃は、尾が1本だったのだが今は3本に増えている。九尾の衣は怒りの度合いによって、圧力と質量を増やしていく。今のナルトの怒りは、完全な尾獣状態の3割ほどだと考えられる。

 

本来、九尾の衣はナルトの怒りによって歪んだ術式の隙間から、意図的に流れ出るものだ。だが今はナルトの意志(・・・・・・)によって動いている。つまり九尾はチャクラをナルトに貸しているわけでも、自信が意図的に外へ送り出しているわけでは無いのだ。

 

むしろナルトの怒りを抑えようとしているのだが、刺激を与えるべきではないと考えていた。中途半端な仲介は怒りを助長させる可能性がある。長い時を生きた九尾だからこそ、ナルトを無下に扱わないように気づかっている節がある。

 

「見つけた!」

「ナルトくんか。...その姿は九尾の力を使っているのか?」

「許さねぇ!ぜってぇに許さねぇ!」

 

もうナルトはイタチの言葉を聞こうとしない。怒りによって脳は麻痺し、正常な判断などできるはずもなく。里から少し離れた木々を飛び交って、ナルトとイタチは交戦を開始した。

 

クナイによる投擲をナルトは威圧だけで弾き飛ばす。忍術さえその衣に阻まれナルト自身には届かない。

 

「〈火遁 豪火球の術〉!」

「許さねぇ!許さねぇ!」

 

最大火力でも容易にその衣は防いでしまう。

 

「がぁっ!」

 

ナルトが右手を大きく振りかぶり、前に投げ込むと衣だけが飛んでいく。はるか遠くの木の幹を掴み、それを支えにして大きく跳躍する。

 

一瞬にして肉薄したナルトの左手による引っ掻きで、イタチの上半身が袈裟懸け状に引き裂かれた。大量の血を吹き出させながら、イタチは地面へと落下していく。それを追いかけて地面に叩きつけられたイタチに、馬乗りになって殴り続ける。

 

何発も何十発も。イタチの顔が人の原型をとどめなくなっても殴り続けた。憎しみを恨みを晴らすかのように殴り続けた。

 

殴り続けて息が切れたナルトが殴るのを辞めた途端。イタチは煙をはいて、切断された木の幹のような姿になる。〈変わり身の術〉は敵を油断させたり、自分の身を隠すまたは逃走する手段を稼ぐ為に使われる。

 

もちろん遊びなどでも使われる基本的な忍術のひとつだ。これが出来なければ一人前の忍びにはなれない。基本的な忍術だからこそ騙されやすいことも多々あることは、これまでの忍びの世界を見ていればよくわかる。

 

〈がぁぁぁぁぁぁぁ!〉

 

本体ではなかったことで、さらなる怒りを撒き散らすナルトの咆哮はもはや人ではない。血に飢えた獣そのものへと変貌している。尾は6本を越え、肉体に大きな変化が見られていく。身体の至る所に骨が形成され、それがさらなる鎧と化しているのは一目瞭然。

 

『怒れ怒るのだナルト。その想いは決して間違いなどではない。知るのだ怒りがどれほどの力となるか、どれほどの驚異となるのかを』

 

ナルトを洗脳するかのように繰り返される九尾の言葉。それはナルトへと浸透していく。怒りが心地いい。物を壊したい。形あるのものを消し去りたい。

 

『さあ、ナルト解き放て。その怒りをイタチにみせてやれ!』

〈うがぁぁぁぁぁぁ!〉

 

ナルトが感情に飲み込まれそうになる瞬間。何処からか穏やかで暖かな声が2つ(・・)聞こえてきた。まるで閉ざした心の氷を溶かすように。急激に温度を高めて溶かすのではなく、じわじわと時間をかけるように溶かすのだ。

 

【聞き入ってはダメよ】

【まさかこんな形で再会することになるとはね】

 

その声にナルトは意識を取り戻す。だがそれは精神での話であって、肉体ではないため完成体へと近づいている現実世界では何も変わっていない。あるとすれば変化が止まっているということだけ。

 

【ここにいていいんだよナルト】

【あなたは生きるべき人間なの】

 

怒りによる震えを抑えようとしていた両手を離し、視線を上へと向けてみる。そこには微笑みながら自分を見下ろす男性と女性がいた。黄色の髪に切れ長でありながら優しさを思わせる顔つき。特徴的な赤い長髪と温和な微笑み。

 

それは初めて見るナルトでも、不思議と安心できる温かさだった。ナルトが知らないのは当然で、事態を呑み込めなくなるのは仕方がない。何もかもを撒き散らそうとした途端に、誰かから呼び止められたのだから。

 

2人の声が聞こえたことで、九尾は満足そうな笑みを浮かべる。どうやらナルトを煽っていたのは、このための布石だったようだ。

 

「誰?」

『久しいなミナトにクシナ』

 

自分の後ろから声を投げかける九尾を振り返ってみた。九尾は真剣な顔付きで2人を見つめている。

 

【...九尾、丸くなったか?】

『さあ、どうだろうな。お前がそう思うならそうなのだろうし、そうでないと思うならそうではないのだろう』

【...な、なんだか九尾が記憶と違って困るってばね】

『褒め言葉だろうなそれは』

【ど、どっちとも言えるってぱね。私の時は暴れることしか考えてなくて、話を聞いてくれなかった。でも今は話しかけてきてるってことに、理解が追いついていないってばね】

 

2人の挙動不審な行動に九尾は笑みを浮かべる。その様子にさらに2人が眼を丸くするという、サイクルが少しばかり続いた頃。ようやく現状を理解した男性が言葉を発した。

 

【久しぶりと言いたいところだけど、顔を合わせるのはこれが初めてだね。ナルト】

【見た目はミナトそっくりね。ミナトの顔を幼くして少しだけ悪戯っぽくした感じ】

『ボケっとすんなナルト。こいつらはお前の父と母だぞ』

「えぇ!」

 

ナルトの驚きように2人が微笑みをうかべる。

 

【オレは4代目火影波風ミナト。お前に九尾を封印した張本人であり、九尾の言う通りお前の父親だ。会いたかったよナルト】

 

ナルトの視線にしゃがみこんで両手を大きく広げる。どういうことかわからないナルトだったが、どうしようもなく駆け出したくなる衝動に突き動かされる。迷った末、眼に涙を浮かべながらミナトの広げた腕の中へ飛び込んだ。

 

「父ちゃん!父ちゃん!」

【大きくなったなナルト。お前が産まれて6年、傍に居たのに何も出来なくてすまなかった】

 

胸にすがりつく息子を慈しむように抱きしめるミナトの頬にも、ナルトと同じように涙が浮かんでいた。産まれて数時間も立たぬ間に引き裂かれ、共に生きることを許されなかったことを悔やむ。

 

さらには九尾を封印するという、必ず生きることの枷になるとわかっていながら施すことが苦しかった。だがそれしか里を守る方法はなかった。

 

里と自身の子供を守ることを比較すれば、普通なら子供を優先するはずだ。だがミナトは里を守る長としての責任もあった。だから個人的な感情だけを、優先させるわけにはいかなかった。

 

里を守りながら息子の危険も守る方法と言われれば、九尾を息子に封印するしかなかった。死に行くクシナに封印して、束の間の安泰を得るという手段もあった。だがそれは少しばかりの間復活を伸ばすだけで、里や息子を救うという根本的解決にはならない。

 

悩みに悩んだ上で、九尾をナルトに封印して後を託したのだ。いつか九尾を使いこなすことを夢見て。里を守る忍びになれるように。

 

【今までよく頑張ったわね。生きてくれてありがとう】

「母ちゃん!母ちゃん!ずっとずっと会いたかったってばよ!」

【ってばよ...か。本当に私の息子なのね】

 

ミナトの腕から離れてクシナへと抱きつく。息子の成長を喜び、自分の手で抱きしめられる喜びを直に感じる。子供の温かさがクシナを癒していく。九尾の人柱力の前任者として、ナルトの苦労をかなり理解していると思っている。どれほどの憎しみを受けてきたのか、わかっているつもりだった。

 

【辛いのによく頑張ったね】

「...別に辛くはなかったってばよ。むしろ毎日が楽しくて詰まらない日はなかった」

【それは本当かい?人柱力は疎まれやすいはずだ】

『ナルトが嘘をつくと思うか?6年間会うことも出来なかった親に嘘を言えるかっつうの。子供を育てていないお前はからしたら仕方ないかもしれんが、ナルトは1度たりとも不満を言ったことは無いぞ。これまでもこれからもな』

 

いつの間にか寝そべって、不満そうにしている九尾が構ってくれと言わんばかりに告げる。左手で床をつつきながら、文句を言う様子は幼い子供がぐずっている様にそっくりだ。

 

【いや九尾、君はいつからそんなにガキっぽくなったんだい?】

『馬鹿にしてんのかミナト!ワシは九尾ぞ、そんなことで幼児退行するかっての!』

【その言い訳がガキっぽいってばね】

『クシナ、てめぇ!てかナルトから離れろ。ナルトはワシの近くにいるべきだ!』

 

駄々を捏ね始める九尾に2人は笑いを必死に堪えている。ナルトを2人から引き剥がし、自分の胸元まで引き寄せ毛でナルトを覆う。まるで親狐が小狐を守るような仕草に、驚きより喜びを感じるように互いに見つめ合うミナトとクシナ。

 

夢見ていた光景が、目の前で行われていることで2人は心から安心していた。

 

【なんだか嘘みたいに九尾が静かすぎて、調子が狂っちゃう】

【いい事だから受け入れるべきじゃないかな。ボクたちを殺したあいつが、ナルトをあそこまで守ってくれるなんて思いもしなかったけどね】

『ミナトあまり言うな。今のワシはあの頃のワシではない』

 

自身にとって後悔でしかない出来事を蒸し返され、少しばかり機嫌を損ねた九尾だった。その様子は心の底から悔やんでいるのだと、被害者であるミナトやクシナにもわかった。

 

【わかってるよ九尾。さてナルト、話しておかなければならないことが山ほどあるけど、手短に話しておくよ。ボクたちのチャクラは死に間際に、九尾を封印するのと同時に組み込んだものだからそこまで多くない。だからお前といられる時間はとても少ない。基本、霊体であるこの身体は形を保つのに大量のチャクラを必要とするからね】

『あ〜、そのことなんだが気にしなくてもいいぞミナト』

【どういうことだってばね九尾】

『今のお前らは霊体というものなのだろう?チャクラの供給さえあれば存在できる。そうだな?』

 

頭の上に?を浮かべながら九尾の話に耳を傾ける2人。その様子をまったく理解できない状態のナルトが、2人と1体を見上げている。

 

『存在できるだけのチャクラを、ワシが供給すればいいだけの話だ。チャクラの受け渡しなどお茶の子さいさい、赤子の手をひねるようなもんだ』

【軽く幼児虐待だってばね】

【いや、クシナ今突っ込むのそこじゃないから】

【ミ〜ナ〜ト?】

【ハハハハハハハハ...】

 

九尾の冗談を真に受けるクシナに、茶々を入れたミナトが乾いた笑いをあげる。仲睦まじい様子は本当に互いを愛し合い、大切なものを見つけ出せたという結果なのだろう。

 

フガクとミコトの夫婦関係が悪くないのを見ているナルトでも、自身の親の仲の良さには恥ずかしいものがあるのだろう。顔を少しばかり紅くさせて、視線を下に向けている。その様子に九尾は口角を上げて眺めていた。

 

『冗談はさておき。お前らを〈この中だけ〉という限定ではあるが、ナルトと離れないようにすることは可能だ。どうしたい?』

【ありがたい申し出だけど、そんなことが本当に可能なのか?】

『可能だから言っとるのだ。まあいい、チャクラ自体は身体エネルギーと精神エネルギーから生み出される。これはさすがに知っているだろう?』

 

講師同然の真面目な顔つきで、九尾が説明を始めた。ミナトが頷いたのを確認してから九尾は続ける。

 

『霊体というものはチャクラというより、精神エネルギーを消費しているのが実際だ。今お前らは存在するために、封印術式と共に組み込んだチャクラで動いているにすぎん。だから精神エネルギーさえあればお前らは消えることはない。その精神エネルギーをワシが負担しようと言っているわけだ』

【乗らないわけないってばね。ナルトと一緒にいれるなら、危険なことでもやってみるものよ】

『相変わらずだなクシナ。お前が〈器〉のときに、それぐらい優しくあってほしかったものだ』

 

今のクシナがあるのはミナトと出会い、ナルトを儲けてからの変化であるため九尾の言葉はどうしようもない。もちろんそれをわかって九尾は言っているので、クシナを追い詰めようとしたわけではない。

 

『精神エネルギーの譲渡はチャクラと同じ要領だ。パスを繋げばそれで終わる』

【パス?どうやって作るんだ?】

『もうすでにできてある』

【な、なんだって!?】

『ナルトを介してお前らに送るわけだ。お前らはナルトと血縁関係がある。つまりそれをパスとして送ることが出来る。まあ、2人とナルトに血縁関係がなかろうと送れるのだがな』

 

意味深な九尾の呟きを、2人は無視することなどできなかった。血縁関係をパスとして利用するならば、それがなければ不可能なはずだ。だが九尾は自分たちならば、その必要は無いと言い切っている。

 

『クシナ、お前はワシの〈器〉の前任者だ。つまりそこには、ワシと切っても切れぬ関係が成り立っている。普通なら不愉快極まりないものなのだがな。そしてミナト、お前にはクシナ以上に繋がりやすい理由がある。それがわかるか?』

【...もしかして半身(・・)のことか?】

『ああ。それはワシと同じ存在だから、抜けた〈器〉のクシナより繋がりやすい』

【けどあれは肉体に封印されている】

 

その通り、九尾の半身は肉体のミナトであって霊体のミナト(・・・・・・・・・・・・・・)に封印されているわけでは無い。なのにそれが関係あるかのように言う九尾に、ミナトは理解が追いついていなかった。

 

『お前は死ぬ前に半身を己の身体に封印した。その時点で肉体と精神に、ワシのチャクラが統合されたことになる。その後お前はチャクラを封印術式に組み込んだのだから、繋がりが形成されるのは当然だろうが』

【...いやはや。かなりの知識を持って、火影として里を守ってきたつもりだったけど。まだまだ勉強不足だったかぁ】

【この世界に忍術や色んなものを、完璧に理解している忍びなんていないってばね。いるとしたら伝説の六道仙人ぐらいだってばね】

 

六道仙人と聞いて少しばかり九尾の身体が揺れたが、それを気付いたのは誰1人いなかった。

 

 

 

その後は2人に十分な精神エネルギーを渡すため、少しばかり時間をとった。それなりにたまると、2人は九尾の指示に従って〈ナルトの記憶〉を見る旅に出た。6年分ともなれば、それほど早くに戻ることは出来ない。

 

『さて、ナルト。今のお前の心はどうだ?』

「不思議だってばよ。あれだけイタチさんを憎んでたはずなのに、今はなんでかわかる気がするんだ。何かそうしなきゃならない理由があって、すべてを自分が背負うために終わらせたんじゃないかなって」

『...真実はいつも闇の中というやつだな。ならお前がすべきことがなんなのかわかっているな?』

「ああ」

 

その言葉を最後にナルトは意識を浮上させた。

 

 

 

ナルトが意識を覚醒させたのは、完全体へとなりかけていた身体が元通りになった瞬間だった。遠くでかなりの重傷を負っているイタチを、ナルトは哀しむように見つめた。

 

「九尾が消えた...か。一体何があったナルトくん」

「ちょっとの間だけ、1番会いたかった人たちに会ってきたんだってばよ。イタチさん、早く逃げてくれ。今ならオレにとって(・・・・・)の英雄として見送れる」

「俺を殺さないのか?憎いはずだ。君の育ての親である俺の父と母を殺した裏切り者なのだから」

 

自分を見るイタチの眼は紅く、瞳孔周辺に勾玉模様が3つ(・・・・・・・・・・)浮かんでいる。その眼を見れば、普通は恐れおののくはずだ。だがナルトはそれを無感情に見つめ返す。同情でも共感でもない。ただただ眼を見るという行動しかしていない。

 

「イタチさんが何を思ってこんなことをしたのか、オレにはわからない。でもそうしなきゃダメな理由があったはずだ。だからオレはそれを理解するまで、イタチさんを殺さない。疑わない。オレは何も見ていない(・・・・・・・・・・)

「...聡明なのか馬鹿なのかわからないな君は。オレはこれから闇で生きる。闇から光という別角度からこの世界を見ることにするよ。...サスケを頼む。俺と違ってあいつは、生真面目に突破しようとする奴だからな。君になら任せて行ける。...ありがとうナルト(・・・)。君は紛れもない俺の家族(・・・・)だった」

 

イタチはそう告げると、闇夜に紛れて姿を消す。姿を消す瞬間、突風が吹き荒れナルトを襲った。顔をかばうために両手を持ち上げる。風が収まり両手を下ろすと、足下の樹の枝にクナイが2本刺さっていた。

 

それは月明かりを反射せず光沢が一切ない、〈暗部〉特注クナイ(・・・・・・・)だった。

 

 

 

 

イタチとの停戦を終えたナルトは、他人の家の屋上に寝かしていたサスケを背負って自宅へと帰った。

 

『『ただいま』』

『お帰りなさいナルト、サスケ』

『今日も仲良く帰宅か。相変わらずだな2人とも』

 

玄関を開ければ、そんなふうに自分たちを迎えてくれた。だがその2人はもういない。二度とあの料理も時間も戻ってこない。それを思うと鼻の奥がつんと痛くなり、涙が溢れそうになるのをどうにか堪える。

 

『サスケはナルトくんのことを、好きなのか嫌いなのか俺にはわからないよ』

 

苦笑しながら楽しそうにしているイタチを見ることも、サスケと共に教えてもらうこともできない。過去の思い出は二度と現実に起こることは無い。それは生きる希望を失うにも近かった。

 

「う...」

 

朝日が昇り襖の隙間から差し込む日光に、瞼をあぶられて眼を覚ましたサスケの横で、ナルトは顔を填めて膝を抱えて座っていた。

 

何故自分は布団の上で寝ているのか。何故太陽が昇っているのか。理解するには秒針が半分ほど進まなければならなかった。右を見れば普段とは違うナルトがいる。空気は重く、何かに耐えているそんな風に思わせた。

 

「...はっ、父さん!母さん!」

 

起き上がり部屋の外へと駆け出していくサスケの声を聞いて、ナルトの身体がビクリと震える。見たものが嘘であると。いつの間にか幻術にはめられていたのだと、信じて疑わないサスケの行動はナルトを酷く落ち込ませた。

 

「ナルト!あれは夢だよな!?何も起こってないよな!?」

「...見ればわかるだろ」

「っ!イタチはどうした!」

 

伏せていた顔を持ち上げて、ナルトはすすり泣くような声で口にする。

 

「...逃げられた」

「なっ!九尾の人柱力が止められなくてどうすんだよ!何のためにその力はお前にあんだよ!それを使わなくていつ使うんだよ!」

「わかってるってばよ」

「わかってねぇ!わかってねぇから止められてねぇんだろ!」

 

ナルトの襟首を強く握り大声で隣り散らす。そうでもしなければ、自宅の物を破壊してしまいそうだった。怒鳴っても怒鳴ってもサスケの怒りは収まらない。口にすればするほど、怒りは際限なく高まっていく。

 

「お前の気持ちはわかるよ。だから落ち着いてくれってばよ」

「お前に何がわかるってんだ!?自分の親が兄に殺されて、一族もみんな殺されたんだぞ!血の繋がりがある存在が殺されて、何も思わないと思うか!?」

「俺だって失ってる。たとえ義理だとしても俺の親だ。でも受け入れなきゃ始まんねぇ」

「お前に理解できるかよ!この気持ちがよ!血の繋がりがないお前に、本当の愛なんてわからねぇんだよ!この余所者(・・・)が!」

「っ!」

 

その言葉はナイフのようにナルトを切り裂いた。ナルトだって理解していたはずだ。どれだけ愛情を注いでもらおうと、自分は所詮余所者。フガクとミコトの子供として暮らす毎日は、幸せで何者にも変えがたかった。

 

みんなが自分を除け者にしなかったから、蚊帳の外のような感じにはならなかった。だが、少しばかり第三者からの視点で見ると、やはり自分ははみ出ていると思えてならなかった。

 

4人が楽しそうにしているのを、自分からではなく第三者視点から見ても心がほこほこした。そこに自分も混ざっていると思うと、邪魔しているのではないかと疑問に思うことがあった。

 

だがそれを霧散させてくれるくらいにフガクとミコト、イタチは自分を受け入れてくれた。同い年のサスケは口では愚痴りながらも、実の所嬉しそうだったのを目にしている。

 

だからなのだろう。自分がこうして守ってきてくれた人物がいなくなって、自分の存在がどれほど歪なものだったのかを。自分がいることで誰かが笑顔になれると思っていた。でも違った。自分は確かに他人を笑顔にすることが好きだったが、実際にそうしていたのは他でもないイタチだった。

 

そんなイタチが全てを裏切り、闇に葬りさろうとしたことがありえないと思ったほどだ。怒りによる本能で九尾完全体になろうとした自分を、霊体となって自分の中にいた両親は認めてくれた。

 

自分はここにいていいのだと。生きていいのだと。九尾も不器用ながらも、いつも背中を押して支えてくれた。それを無下にはしない。してはならない。恩を恩で返すのは口ではなく、行動で示さなければならない。

 

つまり今ここで生きる希望を捨てるのではなく、生きる希望を見つける(・・・・・・・・・・)のだと決心した。

 

「サスケの言う通り、オレはうちは一族の血を微塵も受け継いでいないってばよ。でも血が全てなのか?気持ちでうちは一族だと思うのはダメなのか?」

「お前に何がわかる!すべてを失った俺をどうできるんだ!」

「すべてじゃねぇ。お前が、オレがまだ生きてる!お前の親が残した夢をオレたちで叶えるんだ!」

「お前は一体なんなんだ!どうしてそこまで俺たち(一族)にこだわる!?」

「《家族(・・)》だからだ!」

「...そういやお前は2回目(・・・)だったな。家族を失うってのを。あぁ、わかったよ。生きてやるよ。惨めに足掻いて生き続けてやるよ。父さんと母さんを裏切らないために」

 

2人の頭にはフガクが穏やかに微笑んで、頭を撫でながら言ってくれた言葉が流れた。

 

『さすが俺の子だ』

 

血が繋がっていなくとも、自分のことを我が子のように見てくれたことに深く感謝してナルトは前を向く。

 

「...なぁ、ナルト。イタチは、兄さんはどうしてこんなことをしたんだろうな」

「オレにもわからないってばよ。でも何かしらの理由があった、そうじゃなきゃオレたち以外を皆殺しにしないってばよ」

 

開け放たれた襖から空を見上げ、2人は6年間の想いが詰まった家を捨てる決心をしたのだった。




今回の話がこの作品の中で書きたかった回でもあります。次話もその一つとなる予定です。よろしくお願いします。


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13

半年以上ぶりですねいかがお過ごしでしょうか。前話を投稿してからというもの勉学と就職活動の板挟みで執筆の時間がとれませんでした。就職先が決まって一段落というわけではありませんが、少しずつ投稿を再開して行ければなと思っております。

久しぶりの執筆で文章がずれているかもしれません。どうぞよろしくお願いします。


うちは一族滅亡の情報は瞬く間に里内へと広がった。サスケの存在が判明したときは、多くの忍びが安堵の息を漏らしたものだ。里内には留まらず、他国にまでその名を知られる一族の滅亡が、1人とはいえ生き残っていたのだから当然だろう。

 

そしてその滅亡理由は、うちはイタチによるものだと上層部には伝えられた。里内の住民や一般の忍びは、一族内のごたごただとしてそれほど問題だとは思わなかった。そうなってしまった背景は、九尾襲来事件にうちは一族が関わっているという噂が、まことしやかに語られていたせいでもある。

 

両親と一族を失ったサスケとまたしても家族を失ったナルトは、ヒルゼンに引き取られることになり、普段は火影室で生活しているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「勉強ばっかでつまんねぇってばよぉ」

「くそ、俺は忍術の修行がしたいってのに」

 

火影椅子の横に設けられた勉強机でナルトとサスケが文句を言っている。その様子を微笑ましそうにしながら事務処理をしているヒルゼンは、どことなく嬉しそうで穏やかである。それもそうだろう自分にとって里の住民は、全員が家族であるのだから。

 

そのうえナルトは自身の後任であった火影の息子、サスケは密約を交わした相手(・・・・・・・・)が残した〈木の葉最強一族〉の生き残り。ナルトを家族として迎えてくれたサスケを、ヒルゼンは放っておくことなどできない。

 

そんな2人が至近距離にいる。それだけでヒルゼンの心は暖かみで溢れていた。普段の事務処理ならばストレスとその量でピリピリしているヒルゼンだが、今は2人がいることでピリピリせずにほくほく顔で作業を進めている。

 

ナルトとサスケの愚痴も何のその。BGM感覚で聞き流して効率よく仕事を減らしていく。いや、むしろその愚痴がヒルゼンの作業速度を上げているのかもしれない。

 

「忍びは忍術だけで生きていけぬよ」

「うるさい3代目。脳がなかろうが忍術で勝てばいいだけの話だ」

「ぬふふふふふ。その程度のことで音を上げているとナルトに置いてかれるぞ」

「ああ?ってナルト、何でそんなに進んでやがんだ!」

 

サスケが愚痴を吐きながらだれている間にも、ナルトはこつこつと夏休みの課題を進めている。ナルト自身も愚痴を吐いてはいるが、動かす手を止めていない。その差が宿題の消費量に表れているのだ。

 

「オレってば効率悪いから早めに終わらせたいんだ。終わらせれば、あとは忍術の修行に全部時間を割けるから」

「適度に終わらせて修行すればいいと思うのはオレだけか?」

「中途半端にどっちも終わらせたくないってばよ」

 

ナルトの言葉にサスケは溜息を吐く。その溜息はナルトの考えに納得できないから出たものではなく、その言葉に自身の決心が含まれているのを察知したからである。サスケ自身も自分の考えが浅はかなものであるとわかっている。

 

それでも〈木の葉最強の一族〉と謳われたうちは一族の生き残りとして、忍術を疎かにしたくないという気持ちがある。知識より忍術面での優位を得ることこそが、〈木の葉最強一族〉の本質であるべきではないのか。

 

《火》の性質変化を用いて敵を焼き尽くす。《雷》の性質変化を用いて敵を塵に還す。

 

そんなことを夢見ていた自分の愚かさを、未だ真正面から受け止められない。兄によって家族とその一族を殺されたサスケにとってイタチは復讐するべき敵だ。敵を取ることこそが生き甲斐になるはずだった。

 

だが今はどうだ。

 

アカデミーから課された課題を終えることに一生懸命になっている自分がいる。半強制的に強いられているとはいえ、本当に嫌ならば拒絶すればいいだけの話だ。だが、サスケは課題をやめようとはしない。手を動かさないだけでノートを開いて筆記用具を卓上に置いている。

 

優柔不断であるとも言えるが、ヒルゼンの言葉がある意味正しいことを理解しているが故にやめない。いや、ナルトが横で愚痴を吐きながらも手を動かしていることが影響しているのだろう。義理ではあるが家族として受け入れた存在が、やめることなく終わらせようとしている。

 

自分より幼く家族を亡くした存在が一心不乱に取り組んでいる。3ヶ月前に家族を失った自分を、対価を要求せずに支えてくれた存在より先に諦めてどうするのか。

 

見ているとサスケはナルトがいなければ何もできないように見える。だがそれはナルトも同じだ。サスケという自分を受け入れてくれた存在がいるからこそ頑張れる。互いが互いを刺激し合うことで頑張れる。今は互いがいなければできなくとも、アカデミーを卒業するまでに克服すればいいだけの話だ。

 

10歳にも満たない少年が親の支えなしで生きていくのは無理がある。ナルトとサスケは互いを生きる理由にしながら、ライバルとして認識しながら生きる理由を模索する。たとえどちらかが命を落としたとしても、どちらかがその目的を果たす。

 

2人は互いが口にしない場所で、自分自身が認識しない心層の奥深くで同じ理想を抱いていた。

 

「そろそろ今日のノルマを終えてくれないか?サスケ」

「うるさいぞシカマル(・・・・)

 

2人の背後には、欠伸をかみ殺そうともせずに面倒くさそうに立っているシカマルがいた。片手に将棋の攻略本を持ってはいるが、まったく読む気がないらしく全ページの4分の1程度しか進んでいない。そもそもシカマルも読むつもりで持参したのではなく、死ぬほど暇になれば読もうかと思っていただけである。

 

「こっちもそろそろ限界なんだよ。チャクラが切れそうだってのに」

「じゃあこのまま切れるのを待てばいいだけの話だ」

 

奈良一族秘伝の影忍術である《影縫の術》によってはり付けられていたサスケは、どうやら術が切れる瞬間を狙っているらしい。10歳に満たない子供のチャクラ量などたかがしれている。チャクラを練ることで補給することはできても消費量と比べれば微々たるもの。減少させる勢いを少しだけ緩めるのが精一杯だ。

 

サスケは術が切れれば勉強から解放されると思っているようだが、しかし現実はそれほど甘くなかった。ある程度それを予測していたヒルゼンは、何かが詰まった袋をシカマルに投げ渡した。

 

「これって」

「兵糧丸じゃ。一時的じゃがそれで凌いでくれんかの?」

 

兵糧丸は一時的なチャクラの増幅剤だ。味は作る店や人間によって変わり、非常用として長期任務に趣く忍びが携行する代物である。一時的にとはいえ、チャクラを増幅させるのだから大量に製造はされない。希少だからこそ価値があるのだし、これにばかり頼っていては忍びらしくない。

 

火影や里の上層部によって製造は管理されているので、里中に溢れるほど出回ることがない。戦争中であれば大量に製造されただろうが、今は戦争など五大国の間ではそれほど起こってはいない。例外的に岩隠れの里と砂隠れの里は抗争状態だが。そもそも兵糧丸を製造するための薬草が貴重なため大量生産はできない。

 

医療忍者による兵糧丸の大量摂取の危険性・上層部による厳格な製造監視・原料の貴重性の3つの観点から、兵糧丸は少量しか出回らなくなっている。だがこれだけ厳しく規制していても金儲けのために、手に入れようとする住民や抜け忍などがいる。

 

それらを処罰したり捕縛する役目を暗部が担っている。イタチもかつてはこの任務をこなしており、検挙数は圧倒的だったとか。

 

閑話休題

 

「面倒くせぇ。けど、火影様のお願いじゃしょうがないか。サスケ、さっさと終わらせねぇといつまで経っても解かねぇぞ」

「ああ、くそ!やればいいんだろ?やればさ!」

 

兵糧丸の詰まった袋を見たサスケが白旗を揚げた。ちなみにシカマルはこの役目を与えられる前に課題を全て終わらせていた。ついでに言えばこの役目を拒否しなかったのは、修行の一環になると思ったのもあったが、一番の理由はナルトとサスケと一緒にいれることだった。

 

 

 

1時間後、1日のノルマを終えたサスケは短時間集中によって疲労困憊していた。

 

 

 

 

 

「ナルト、少しいいかの?」

 

猿飛家に帰ろうとしたナルトをヒルゼンは引き留めた。ちなみにナルトとサスケは猿飛家に住まう許可を得る対価として、庭掃除などを言い渡されている。今日はサスケの日で、1日の課題ノルマ終了と共に庭掃除を思い出して撃沈していた。

 

「どうしたんだってばよ」

「3日後に砂隠れの里に用事があっての。一緒に来るか?」

「里の外に出て大丈夫かな」

 

ナルトの危惧はもっともだろう。五大国はそれぞれが尾獣を保有している。火の国・木の葉の里から人柱力である自分自身が、外出してもよそに迷惑はかからないのかと思っているのだ。休戦しているとはいえ、完全に同盟を結べているわけでもない。

 

確実に安全と言える里は何処にもない。ナルトにとっての安全区域は木の葉の里だが、全域が安全地帯というわけでもない。ナルトの存在を良く思わない存在が大半である今、ナルトにとって本当の意味での安全地帯は友人たちがいる場所だけだ。

 

敵地とも言える場所に向かって不安がないはずがない。九尾と和解しているナルトだが、そのことを知っているのはサスケだけだ。シカマルたちもましてやヒルゼンさえ知らないことを、砂隠れの里の住民が知っているはずがない。

 

もし知っていたならばそれは戦争案件である。何者かが砂隠れの里からスパイとして潜入している可能性、または里内の上層部の誰かが情報を流しているということになるのだから。

 

「安心せい。里長が他里に行くのじゃから、最大限の安全性をかねて腕利きの忍びがついてくるわい」

「オレってばその人たちにいつもの眼で見られたくないってばよ」

 

ナルトが成長しているといっても、アカデミーに入学してまだ半年だ。いろいろあったがそれだけで心が大人になれるわけがない。むしろシカマルたちがいることで周囲の視線に敏感になっている。心の拠り所があるが故に周囲の環境に対して敏感になってしまう。

 

自分の今いる場所との違いが明確にわかってしまうからだ。だがそのことを気にすることはなかった。その不安をサスケやシカマル・チョウジ・いの・サクラが払拭してくれるのだから。何もなかったと思えるほどに支えてくれる。

 

だがこうして周囲に誰もいなくなると不安が一気に押し寄せてくる。押し潰されそうになるほどの圧力がのしかかっているようで。

 

「そこもぬかりなしじゃ。儂が信用している忍びを中心に結成しとる」

「余計な労力をさせちゃってる気がするってばよ」

「自己満足じゃから気にせんでいいぞ」

「わかったってばよ」

 

俯かせていた顔を上げたナルトの表情は、先程とは違ってとても明るい。雲が流れて日光が差し始めたような明るさだ。

 

「そういえば何でサスケは呼ばなかったんだってばよ」

「3日後は1週間ぶりのサスケが待ち望んどる1日修行日じゃ。そんな日を邪魔させたくないじゃろ?」

「サスケには黙っとくってばよ。じゃまた後でじっちゃん」

 

笑顔で火影室を出て行ったナルトを笑顔で見送った後、ヒルゼンは厳しく表情を改めた。

 

「…聞いていたじゃろうな?」

「もちろんです」

 

ヒルゼンの横に現れた何者かが片膝で頭を垂れている。

 

「3日後に何があるかわからぬ。里内で儂とナルトを陥れるのか。はたまた道中なのか砂隠れの里内部でなのか。何が起きても問題ないように手を打っておくのじゃ」

「御意」

 

話し相手が去った後、ヒルゼンは夕焼けが沈み始め夕闇が迫っている里を見下ろす。その瞳に映るのは6年前の惨劇が起きて壊滅した里か。はたまた何も起こらず幸せそうに里内を歩いているナルト親子か。戻ることのない過去と今の里を見比べることで自問自答をする。

 

今の自分がしていることはナルトを苦しめていないだろうか。ナルトの意に沿った行動ではないのではないだろうか。ナルトを見ている限りではそうではない。だが6年間の誹謗中傷で、本心を仮面の下に隠す術を知っているのではないのだろうか。

 

「出ぬ答えをいくら考えても仕方ないか。…砂隠れの里の人柱力、ナルトと気が合えばいいのじゃが」

 

誰にも聞こえない独り言を聞いた者はいなかった。

 

ヒルゼンの元に現れた暗部は、銀髪であるとしかここには記せない。



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