雷霆と白兎 (獲堕魔眼)
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第0章 少年の始まり
プロローグ


処女作を完結させずに弐作目に手を付けてしまった(ガクガクガクガク)

暖かく見守ってもらえると嬉しいです。


『グォォォ!!』

 

とある田舎の森の奥で怪物(モンスター)の雄叫びが響いた。

 

「くっ.....」

 

怪物(モンスター)の前には数人の子供たちがいた。一人の少年が皆をその背に庇うように立っていた。

真っ白な髪と赤い目を持つ少年だった。

 

『ガァルル!』ザシュッ

 

 

「っあぁ!!」ドン!

 

 

怪物(モンスター)の爪が少年を捉える。少年は吹き飛ばされ近くの木に体を打ち付けられる。

 

「■■!!」

「「「■■■■!!!」」」

 

少年が庇っていた子たちから悲痛な声が上がる。その声に反応したのか怪物(モンスター)はゆっくりと子後もたち近づく。

 

―やめろ……

 

怪物はゆっくりと子供たちとの距離を詰めていく。まるで楽しむかのように、遊んでいるかのように。

 

―やめろ………

 

一番小さい子がぐずり始めた。ほかの子達も震えている。目の前に迫りくる恐怖に体が動かずただただ身を寄せ合うことしかできない。

 

―やめろ……………

 

怪物が口を開けた。ギラリと鋭い牙が見える。今にも飛び掛からんと脚に力を入れる。

 

「やめろ―――!!!!」

 

バチン!

 

その瞬間、少年の中で何かが弾け飛んだ。

 

『グァ!?』

 

怪物が振り返った。突然感じた強い気配を見れば先ほど吹き飛ばした獲物が血を流しながらも立っていた。全身から‘’緑色の雷’’を纏いながら。

 

『ガァルルァ!!!』

 

怪物が向きを変え少年に飛び掛かる。本能が危険だと判断したためだ。しかしその爪が振るわれることは無い

 

「フールミネ(貫け)!!!」ガガガガガガ

 

刹那、少年の突き出した両腕から無数の雷の角が打ち出される。

 

『ギャイン!?』

 

その角は瞬く間に怪物に突き刺さり息の根を止め、その姿を小さな魔石に変えた。

 

「はぁ...はぁ...はぁ...うぅぅ..」バタンッ

 

雷を放った少年は力尽いたように倒れた。よく見ればその両腕には無数の傷があり血も流れていた。

 

「「「「■■■■!!」」」」

 

少年に子供たちが駆け寄る。体の至る所から血を流しながらも自分たちを守ってくれた’英雄’の姿に皆泣きじゃくる。

 

「ベル!!ベル!!何処じゃ!!何処におる!!」

 

薄れゆく意識の中少年は祖父の声を聴いた。そして安心しその意識を落とした。

 

 

――とある老人

 

 

「ベル!!皆!!何処なんじゃ!!」

 

 儂は自分の孫と村の子供たちの帰りが遅いと心配し、村の男衆と共に森の中を探し回っていた。時折怪物の鳴き声らしきものが聞こえたため焦っていた。

 そしたらば少し先のほうから強い魔力を感じ、空のほうに何かが飛んでいくのが見えた。はっきりとは見えなかったがあれが雷であることは間違いないじゃろう。しかし儂が知っとる雷とは少し違うようにも感じた。

ともかく急ぎ現場に行ってみれば子供たちが泣いておった。血を流しぐったりとした孫に縋り付きながら。

 

「ベルッ!?おい!ベル!!しっかりせんか!!」

 

儂はなりふり構わず孫に駆け寄った。弱弱しいがしっかりと息をしているのを見て安堵した。ひとまず村に戻らねば。

 

 

――とある村

 

村の外れにある自宅に戻り、老人は孫をベットに寝かせ看病していた。

 

「まったく。無茶しおるわい..」

 

口では呆れているが老人の顔はとても誇らしげだった。あの後村に戻る道中子供たちから事の顛末を聞いた。

怪物に襲われたこと、ベルが自分達を庇い吹き飛ばされたこと、突然全身に雷を纏って立ち上がり怪物を倒したこと、子供たちはとても興奮気味に話し村に着くころには全員眠ってしまった。

 

そして皆が口をそろえて言うのだ「ベルは僕たちの”英雄(ヒーロー)”だ」と..

 

「英雄...か。」

 

そっと老人の手が少年の頭をなでる。あやすように、褒めるように。

 

「頑張ったの。ベルよ。」

 

老人の声が聞こえたのか少年が静かに目を開けた。

 

「...お爺ちゃん?」

 

「おおっ!ベルよ。目が覚めたか!?」

 

少年はまだ意識がはっきりしないのかぼんやりとした目で周りを見た。

 

「ここは..うち?..お爺ちゃん..みんなは?」

 

目が覚めての第一声が友の心配とは。老人は溜息を吐きつつ大丈夫だと伝えた。

 

「そっか。ねぇ、お爺ちゃん。」

 

「ん?なんじゃ?」

 

意識がしっかりしてきたのか少年は、ベルは祖父の顔をしっかりと見て言った。

 

「僕、強くなりたい。稽古..付けてよ。」

 

「....あい分かった。」

 

今までに見たことのないほどの力強い意志を感じ老人は静かに頷いた。

 

 

 

これはいずれ”英雄”と呼ばれる少年の英雄譚。その始まりの一ページ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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プロローグpart2

「パンパカパ~ン!!ようこそ!!あの世へ~♪」

 

「...は?」

 

真っ白な空間でいきなりテンションフルスロットルに飛ばす小柄な少女とそれに面食らってしまう青年がいた。

 

「いや~君の人生の書類に誤って飲み物かけちゃってね。慌てて拭こうとしたら破けて君死なせちゃった!ゴメンね~♪」

 

「殴っていい?」ブンッ!

 

「ぬをぉぉ!!聞きながら殴り掛からないでくれないかな!」サッ

 

申し訳なさの欠片も感じられない謝罪に思わず手が出た青年は悪くない。しかしとっさの出来事に慌てながらも余裕をもって躱すこの少女も只者ではない。

 

「(・д・)チッ」

 

「ちょっ!舌打ちしたよこの子!?」

 

「んで?これから俺はどーなるんですか?”神様”?」

 

腕を組み少し威圧するように質問をする青年

 

「...へぇー?意外と冷静なんだね?普通取り乱すと思うんだけど。」

 

事実今までがそうだった。むしろ「あなたは死にました」なんて言われて混乱しない方がはっきり言って”異常”だ。

 

「まぁ、その辺は騒いでもしょうがないって割り切ったから。」

 

「ふ~ん...まぁ、その方が手っ取り早いからいいや。はいっ、これから3本くじを引いておくれ。」ズイッ

 

いまいち納得していないようだったが気を取り直し大きな箱の中に何本もの棒が入ったくじを取り出した。どこから出したのかはこの際気にしない。してはいけない。

 

「これは?」

 

青年はこれの意図を聞いた。

 

「まぁこちらの不手際だし君を転生させるにあたって僕からのギフトってところかな?ちなみにくじなのは好き勝手のギフトを決められないようにするためだよ。」

 

「なるほど」と納得したのか青年はおもむろにくじの中に手を突っ込み漁りだす。そしてしばらくして一気に3本まとめて引き抜いた。

 

「さ~って、君のギフトは何かな~?」

 

神も一緒になってのぞき込む。そしてくじの先に現れたのは『忍』『守護者』『料理人』の文字、そしてその文字は一斉に別の文字へ変化した。『雷』の文字へと。

 

「...へー。君へのギフトは面白そうだね。

 

神が静かに呟く。そしておもむろに手をかざした。すると三文字の『雷』は一つになり青年の中に入り込んだ。

 

「よし。これで僕からのギフトは渡したよ。。そして、これは最後の質問だ。」

 

瞬間、少女..女神の雰囲気が変わる。それこそ神威を纏ってさえいる。これには青年も無言で答える。

 

「君は前世とは明らかに異なり、そして数段強い力を宿した。さぁ、君はその力で君は何をなす?」

 

女神からの神威付きの質問。いや、これはもはや選択だ。一歩間違えば死ぬと青年は冷や汗をかく。

 

「..俺は」

 

意を決したように青年が口を開く。

 

「俺は支えるものになりたい。前はなんだかんだと多くの人に支えられていた。なら、今度は俺が誰かの支えになりたい。」

 

「...それが君の道か。いいだろう、転生神である僕の名において君の転生を認める!」

 

青年の言葉を受け止めた女神の神言により青年を中心にいくつもの魔方陣が展開される。

 

「あっ、そうそう。能力のギフトはさっきのだけどそれに関連するアイテムもあげるよ。うまく活用してね♪」

 

突然神から伝えられるサプライズ。青年は面食らいつつも苦笑をこぼしただ一言「ありがとう、神様」と告げて消えてった。

 

「うふふ。さぁ、君の綴る物語。楽しく読ませてもらうからね。」

 

白い空間の中で女神は心底楽しそうに笑った。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

何処かよくわからない空間。その中に一つのテーブルを挟み青年は目の前の少年を迎えていた。

 

「まずはようこそ。と言うべきなのかな?お初にお目にかかるよ。マスター君?」

 

右も左もわからない空間に突然やって来た少年はおずおずと聞いた。

 

「あ、あなたは誰?それにここは..」

 

ビクビクとまるで兎のように怯える少年にふっとやさしく笑いかける。

 

「ここは君の心中、精神世界ってやつだね。君が俺の力の一端を解放したことによりパスが通ったんだ。」

 

そう言いつつ青年はその腕に”緑色”の雷を纏った。少年は思い出した、ここに来る前に無我夢中で放ったあの一撃を

 

「君のことはここから見ていた。生まれた時からな。そして、君はその勇気と覚悟を示し遂に資格を得た。この俺の力を使う資格をね。」

 

「??????」

 

頭の上に疑問符の花を咲かせながらもなんとか理解しようとする少年に青年はまた笑った。

 

 

「まあ、今は新しい家族ができたくらいに思っときなよ。”ベル”」ニコッ

 

「!?」パァァァァ

 

名前を呼ばれ、少年は嬉しそうに笑った。

 

「う、うん!これからよろしく!”お兄ちゃん”」

 

「あぁ、これからもよろしくな。ベル」

 

二人は互いに手を差し伸べしっかりと握り合った。その時、青年の手から少年へと緑色の光が流れ込んだ。

 

「わっ!?」

 

「くくく。さぁ、まずは起きて爺さん安心させてやりな。」

 

青年の言葉と合わせるように少年の意識はゆっくりと薄れた。

 

「忘れるな、俺はお前の半身だ。いつでも一緒だからな。」

 

その言葉に少年はにっこりと笑い今度こそ消えた。

 

「さて、これから忙しくなりそうだ。」

 

そんな青年の顔もまた笑顔だった。

 

 

これはいずれ”英雄”と呼ばれる少年と兄と慕う存在との出会い。その一ページ目。

 

 

 

 

 




なんか最後グダグダになったかも(笑)


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第1章 少年は冒険者となる
1頁目:神様との出会い


この作品を読んでくださった皆さん、あけましておめでとうございます。
……遅い。遅すぎる!
自分で言うのもなんですが掛かりすぎました。年末年始が忙しかったとはいえ
今度からは頑張って一定の間隔で書けるようにしたいです。


迷宮都市“オラリオ”

世界にたった一つの“ダンジョン”を中心とした都市であり、そのダンジョンに潜り日々そこに住まうモンスターを相手にする冒険者たちでにぎわう街。

 

ガヤガヤと賑わう大通り。正門から続く通りには今日も多くの人で溢れかえっていた。

 

「ふぅ~。やっと着いた。」

 

その中に真っ白なフード付きの外套を目深くにかぶった青年が荷物を背負いなおしながら呟いた。

 

「話には聞いていたけど流石は世界の中心って呼ばれるだけのことはあるね。」キョロキョロ

 

―あまり道の真ん中に突っ立ってるのは良くないぞ。あとキョロキョロしてっと田舎者臭いぞ、“ベル”―

 

突如青年の中から声が聞こえる。しかし周りに聞こえた様子はなくその声は青年―ベルに向けて告げられたものだった。

 

「わかってるよ。お兄ちゃん。」ボソッ

 

ベルは自分の半身の指摘にこたえながら被っていたフードを脱いだ。顕わになったのは純白の白髪に血よりも紅い瞳、そしてどこか中性的であどけなさを残しながらも整った顔立ち。外套に隠れて見えないが170後半の身長に程よく鍛えられた肢体は戦士のそれだ。

そんなベルを見た通りすがりの人々(主に女性)は自然と目で追ってしまっていた。

 

「さて、お爺ちゃんからの手紙によれば…」

 

そんな視線など気にせずにベルは懐から手紙を取り出した。そこには尊敬する祖父の字が綴られていた。

 

『ベルよ、元気にやっとるか?おぬしが儂のもとを巣立ってから早数年がたったがおぬしがさらに強くなっておると儂は信じとるぞ。さて、話は変わるがそれなりの実力を身に着けたのなら世界の中心と言われておるオラリオに向かってはどうかの?昔聞かせておった物語の舞台じゃ。数年前でもうまくやれたかもしれんがさらなる修練をと旅に出たおぬしなら己の力と多くの出会いのもとさらに成長できるじゃろう。あ!可愛い女子がおったらぜひ紹…』グシャ!

 

ベルは手紙を握りつぶした。読んでいて我慢できなくなったようだ。

 

祖父のもとを旅立って数年、時折手紙をもらっていたが必ずといっていいほど下世話な内容が含まれているのはあの爺の性格がうかがえる。

 

(はぁ、これがなければ尊敬できるんだけどな…)

 

そうであろうか?(by作者)

 

たしかにすごい神であることには違いないのだろうがいかんせん頭の中が煩悩全開のためになんとも締まらないのである。

 

―兄弟、気持ちはわかるがCOOLに行こうぜ。あーぁ、そんなんじゃ読めねーだろうに―

 

己の中の半身が呆れながらもフォローする。体の内側から熱い魔力が腕を伝い手紙に流れ込む。するとクシャクシャだった手紙が何事もなかったかのように綺麗になった。

 

「ありがとう。とりあえず関係なさそうなのは飛ばすとして...あぁ、ここからか。」

 

それは手紙の最後の方、後から付け加えられたような文だった。

 

『…頼むぞ。それと、オラリオでやっていくのなら儂の姉上を頼るとよい。とても純粋でおおらかな女神じゃからお主もすぐに馴染むじゃろう。名を“ヘスティア”。見た目は黒髪の幼子で胸が大きいからわかりやすいじゃろう。 同封しとった手紙に事情をしたためといたから渡しとくれい。ではベルよ、其方に善き出会いと加護があらんことを。―ゼウスより―』

 

…………

 

読み終えたベルは手紙をたたみ懐へしまった。さて、

 

(ねぇ、お兄ちゃん。僕目がおかしくなったのかな?)

 

―心配するなベル、俺にも見えてる。つまり見間違いでも白昼夢でも無いってことだ―

 

手紙を読みつつも人の流れに任せてゆっくりと歩いていたベルはだいぶ中心の方までやってきたのだが…

 

(どうみても、あの人(神?)なんだよね………)

 

そんなベルの目に映ったのは、

 

「いらっしゃいませ~!!」

 

可愛らしい女神さまがおそらく揚げ物屋であろう屋台で大きな声で売り子をしている光景だった。

 

 

―ヘスティア―

 

僕はこの日を一生忘れないだろう。

 

「いらっしゃいませ~!揚げたてのじゃが丸君はいかがですか~!」

 

神友のヘファイストスのところを追い出されてからというもののその日の生活を送るためにもアルバイトをするしかなく、親切なおばちゃんの屋台でこうして売り子をやっている。何だかんだで楽しいし、お客さんとも仲良くなれたし、案外悪くないね。

 

「すいません。一つ貰えませんか?」

 

「はーい。ありがとうございまーす!100ヴァリスです!」

 

昼時の波も過ぎ、だいぶ落ち着いたころに彼はやってきた。

透き通るような白髪に紅く綺麗な眼。真っ白な外套に隠れてるけどスラっとしながらも男の子らしい身体つきをした彼は人懐っこい笑顔を浮かべ注文をしてきた。僕は身に着けた接客スマイルのままじゃが丸君を渡す。

 

「ありがとうございます。失礼ながら、女神ヘスティア様ではございませんか?」

 

「へっ?あぁ、うん。その通り僕がヘスティアだよ。」

 

驚いた。自分で言うのもなんだけど僕の外見は子供にしか見えない。初見で僕のことを神だと見切れる子はそうはいない。

 

「おぉ、やはりそうでしたか。人伝に聞いた特徴しか知らなかったものですので。当たっていてよかったです。」

 

「へーそうだったのか。」

 

「はい、それで一つお願いがあるのですが…」

 

「?。僕にお願い?言っちゃなんだけど僕は叶えられることなんてほとんど無いぜ?」

 

自分で言っていて悲しいが眷属(ファミリア)の一人もいない神だ。できることなんてたかが知れている。

 

「僕を貴女の眷属にしていただけませんか?」

 

「………へっ?」

 

これが僕。慈愛と家庭の女神ヘスティアと最初の眷属にして未来の英雄、ベル・クラネルとの出会いのお話。

 




誤字脱字があったら教えていただけると嬉しいです。
次の話は今月中には何とかしたいです。


ヘスティア「僕の出番短過ぎやしないかい!?」


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2頁目:新生ファミリア

大遅刻ですんませんでした~~~~~~~~!!!!!!!
1月中とか言っといてもう二月も終わりかけてるし!!!
少しでも続きを気にしていただいていた方々申し訳ございませんでした!

何度もあーでもないこーでもないと書き直してました。




オラリオ西部:廃教会

 

オラリオの中心より伸びる8本のメインストリート。その中の西のメインストリートから脇へ入って数分の所に今にも崩れそうな廃教会がある

 

「…………」ペラッ

「…………」ズズッ

 

地下の生活スペースでテーブルをはさみ手紙を読むヘスティアとのんびりと茶を飲むベルの姿があった。

 

「……ふぅ。なるほどね、事情は大体わかったよ。」

 

手紙に目を通したヘスティアが顔を上げベルを見る。

バイト先で出会い眷属にしてほしいとお願いされてこのホームに招待してベルから事情が書かれているという愚弟からの手紙を読んだヘスティアはベルに質問した。

 

「ベル…君。君は僕の眷属になりたいってことでいいんだよね?」

 

「はい。」キッパリ

 

即答である。

 

「いや、べつに愚弟...君のお爺さんのいうとおりにしなくてもいいんだよ?」

 

「これでも長いこと旅していたのでヘスティア様が心優しい方ということはなんとなくわかりますし。」

 

「なんかこそばゆいんだけど...でも、この手紙に書かれてることやオラリオの外でやってきた実力があれば他の大手派閥でも…」

 

「大手ともなればいろいろと厄介事なんかもありそうですし。」

 

「でもうちは零細中の零細だよ?むしろ派閥でさえないんだからさ。」

 

自分で言っておいてドンヨリとなるヘスティア。そんな神様にベルは苦笑しながら言葉を続ける。

 

「こう言っては何ですが恩恵(ファルナ)はどの神から貰っても一緒なんですよね?だったら少しでも事情を理解してくれている神様のところがいいんですよ。」

 

言いたいことを言ってベルは茶を飲む。その言葉を聞いたヘスティアはほんのり顔を染めてそっぽを向いた。

 

「ベル君。君、頑固だろ?それもとびきりの。」

 

「えぇ、もちろん。」

 

「……苦労するよ?」

 

「もとより覚悟の上です。」

 

「ふぅ~」とヘスティアは息を吐いた。しつこく聞いても彼の意思は変わらない。ならばもう自分が折れるしかないのかもしれない。

ヘスティアは椅子から立ち上がり元気にベルに手を差し出す。

 

「じゃぁ、改めて。元オリュンポス十二神が一人、ヘスティアだよ。これからよろしくね!ベル君!」

 

ニパッと輝くような笑顔を受けてベルも笑顔で握り返す。

 

「オリュンポス十二神が一人、ゼウスの儀孫。ベル・クラネルです。こちらこそよろしくお願いします、神様!」

 

しっかりと握り合った固い握手を交わし、ヘスティアは楽しそうに言った。

 

「さぁ!ベル君!そうと決まればさっそく恩恵を刻むよ!恩恵は君の経験から導き出される。外でやってきた君なら魔法くらいは発現してるんじゃないかい!?」

 

「楽しみですね。」

 

こうしてここに新たなファミリアが生まれた

 

 

「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

数分後どこぞの女神さまの大声が近所に響き渡ったとかなんとか。

 

―――

 

「さぁ!ここがギルドだぜ!」

 

ところ変わって北西のメインストリート。通称「冒険者通り」と呼ばれるこの区画は最も冒険者の往来が多く、武器屋やアイテム屋などが軒を連ねている。そんなストリートの中に聳え立つ白亜の万神殿(パンテオン)。

『冒険者ギルド』ダンジョンの管理機関でありこのオラリオの行政をも担う。

 

そんな建物の前に二人の人影、ベルとヘスティアである。はれてベルを眷属に迎えたヘスティアはさっそくとばかりにベルを引き連れギルドにやってきた。ここギルドでは冒険者登録だけでなく新生ファミリアの登録も行われているからだ。

 

「へー、結構大きな建物ですね。」

 

「まぁ、このオラリオの行政なんかも担ってるからね。それなりに構えていないといけないんだろうさ。さっ、行くよ。」

 

「はい。神様。」

 

ベルを伴いヘスティアはギルドへ入る。中は夕方ということもあり市民や冒険者であふれていた。

 

「やっぱりこの時間だと多いな。仕方ない待つとするか……」

「神様。あそこの受付が空いたみたいですよ。」

 

ベルの指さす先には人がはけて無人の受付があった。受付の人は何か書いているのか下を向いている。

 

「おぉ、ラッキーじゃないか!行くよベル君。」

「はい。」

 

受付に着くと綺麗なハーフエルフの受付嬢が顔を上げた。

 

「あっ、ようこそギルドへ。本日はどのような御用でってヘスティア様ではないですか!?」

 

「んぉ?おーエイナ君じゃないか。」

 

「神様お知り合いの方ですか?」

 

「あぁ、前々から交流があってね。僕を外見で判断したりしない子だからいろいろお世話になっててね。」

 

「私が小さい頃は遊んでくれてましたよね。あの、こちらの方は?」

 

朗らかに笑顔を見せていた彼女はふとヘスティアの後ろに見慣れない子がいることに気づいた。

 

「あぁ、紹介するよエイナ君。僕の初めての眷属でベル・クラネルっていうんだ。今日は彼の冒険者登録とファミリアの申請にね。」

 

ヘスティアがちょっと自慢げに言うと彼女はとてもうれしそうに喜んだ。

 

「まぁ!それは良かったですねヘスティア様!」

 

「うん!あ、それとちょうどいいや。エイナ君防音仕様の部屋ってある?」

 

神様が尋ねるとエイナさんはきょとんとした顔をする。

 

「防音ですか?ございますがいったい……」

 

「まぁまぁ!それはキチンと話すから!さぁさぁ」グイグイ

 

訝しげに聞いてくるエイナの背をへスティアは強引に押していく。そんな様子にベルは「なんか姉妹みたいだな~」とあさってなことを考えていた。

 

―応接室(防音)―

 

カキカキカキカキ

 

「……よし!エイナ君、これで問題ないかな?」

 

エイナさんより渡された申請用紙を書き上げたヘスティアが用紙を渡す。

 

「はい、お預かりしますね。……はい、問題ありません。これでヘスティア・ファミリアは発足されます。」

 

エイナさんの言葉に神様はベルの手を取り大はしゃぎだ。

 

「やった!やったよベル君!これで僕らはファミリアだよ!!」

 

「か、神様!?わかってますから落ち着いてください!」

 

ぶんぶんと腕を振るヘスティアにベルは苦笑してしまう。まるで妹のようだ。

そんな姿をニコニコと眺めていたエイナさんは一つ咳払いをした。

「ではヘスティア様、そろそろ要件を話してくださいますか?ただ申請のためだけにこの部屋を借りたのではないでしょう?」

 

そこには優しい雰囲気ではなくギルド職員エイナ・チュールとしての真剣な顔があった。

そんな顔をしたエイナを見てヘスティアもまた姿勢を正し真面目な顔になる。

 

「あぁ、用ってのはベル君についてでね。まぁ、これを見てくれ。」

 

そう言ってヘスティアは一枚の紙を取り出しエイナに差し出した。読め。と解釈したエイナは受け取り目を通した。

 

「っ!?!?」

 

ベル・クラネル  男

Lv.1

 

力:H 195

耐久:I 68

器用:H 178

俊敏:G 235

魔力:F 300

 

エイナ・チュールがまず思った感情は“ありえない”である。

本来、ステータスは0からスタートする。彼、ベル君は昨日恩恵を刻んだばかりだということはこの数値は明らかに異常だ。と、ここでエイナはあることを思い出す。このような異常(イレギュラー)は“初めてではない”ということを。つまり彼以外にも前例がいるのだ。

 

『特異経験値(エクストラ・ボーナス)』

 

神々の間で名付けられたこの現象はいわば恩恵を刻む前に得た経験値の事である。無論めったに現れることのないレアな現象であることから生半可なことでは発現しない。それこそ一つの武術を極めただとか生まれ持った特別な才能などがなければ起こりえないことなのだ。

 

事実、世界の中心といわれるここオラリオでも発現したことが確認できたのは“二人だけ”である。

 

(でも……)

 

前例はある。しかし、それでも精々“一つ”のアビリティに対してのもの。全アビリティに対してのプラス補正なんて前代未聞だ。

 

「な、なるほど……確かにこれは安易に広めるわけにはいきませんね。」

「あぁ、これが他の神に知られればどうなることか……」

 

神々は娯楽好き。これは下界に住む住人たちにとってもはや当たり前の常識だ。中には自分が楽しければ他人への迷惑など何のそのと考える神もいるのだ。そんな者たちからすれば世界で類を見ないほどレアなベルは格好の獲物(暇つぶし)というわけである。

 

「エイナ君、この事は知っている人間が少ない方がいい。僕がよく知る君にベル君のアドバイザーをお願いしたいんだ。この通り!」バッ

「ちょっ!?神様?!」

 

エイナに向かいしっかりと頭を下げ頼むヘスティアにベルは驚き慌てた。下界の子供たちに神が頭を下げるというのは普通あり得ないからだ。

そんなヘスティアの姿に「この神(ひと)は変わってないんだな。」とエイナは安堵する。昔から明るくて、お節介焼きが好きで、その癖自分の事はズボラでいろいろやらかしたりもしたけど大人だろうと子供だろうと誰にだって慈愛に満ちた微笑みもって見守ってくれた神様。この神がここまでするのだならば今こそ恩を返す時だ。

 

「わかりました。このエイナ・チュール全力をもってベル君のサポートをやらせていただきます!」

 

真剣な眼差しで力強く宣言するエイナにヘスティアは目見涙を浮かべながら礼を言う。

 

「ありがとう、エイナ君。ほら、ベル君からも。」

「は、はい。ベル・クラネルです。いろいろご迷惑をかけるかもしれませんがよろしくお願いします!」

 

そのあとベルとヘスティアは冒険者としての説明やファミリアの規則などを鬼教官と化したエイナからたっぷりとされるのだがそれはまた別の話。

 

こうして新生ヘスティア・ファミリアが誕生したのである。




ベル「途中から僕、空気になってません?」

作者「すまん。気にしない方向で頼む。」


誤字脱字あったら教えていただけると助かります。
あと答えられるかは別としてリクエストとかあったら言っていただけると嬉しいです。
質問とかでもいいですよ。


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3頁目 冒険者1日目

ダンジョン4階層

 

薄い青色をした通路の中で人影が無数の異形と戦闘をしていた。

 

「ふっ!」バキッ「ギャン!?」

 

「はっ!」ボキッ「グペッ!?」

 

鋭い拳がコボルトの頭を砕いたかと思えば鞭のようにしなる蹴りがゴブリンの首を折る。

 

2体のモンスターが地に伏し、動かなくなるのを確認してから人影-ベルは静かに構えを解いた。

 

「ふぅ。こんなもんかな。」

 

長い間戦闘をしていたのだろう。彼の周りには無数の異形の死体が転がっていた。中にはゆっくりと灰になろうとしているのまであった。

 

ーお疲れだったな。ベルー

 

半身である兄貴分が声をかける。彼は基本的に手を出さず索敵と牽制などを主にしている為、転がっている死体は全てベルが屠ったのだ。その数、およそ50体以上いかに4階層といえどつい先日恩恵(ファルナ)を刻まれた者の戦果とは到底思えないモノだ。

 

「やっぱり恩恵って凄いね。あるのと無いのとじゃ全然違う。」

 

ーまぁ、仮にも神様からの祝福(ギフト)だからな…それがしょぼかったらオラリオはここまで発展してないだろー

 

ベルは自身の変化に戸惑いつつ感触を確かめ、兄は自身の考えを述べた。

 

先日、エイナによって開催された勉強会(デスマーチ)を何とかへスティアと乗り切りった翌朝、ダンジョンで肩慣らしをしに来たのだ。入口付近の受付にエイナがいたので挨拶したが微妙な顔をされた。恐らく「昨日の今日で」とでも思っているのだろう。しかしベルのステータスを知っているので4階層までと釘を刺してベルを送り出した。

 

ーベル。そろそろ時間だろ?ー

 

「うん。魔石をはぎ取って帰ろうか」

 

ベルは腰のポーチからナイフを取り出して魔石をはぎ取っいく。

 

このオラリオではダンジョンからとれる魔石を加工した魔石製品の輸出により莫大な利益を上げている。冒険者はダンジョンに潜り、討伐したモンスターの魔石をギルドで換金して収入にしている。

 

とはいえ…

 

ーゴブリンやコボルトの魔石程度じゃ大した額じゃねーなwwー

 

「言わないでよ。悲しくなってくるから」

 

上層に出現するモンスターの魔石は大きさや質といったものが総じて低いので大した金額にならない。

 

泣き言を言いながらも黙々と魔石をはぎ取ること数十回。途中ドロップアイテムの牙や爪なども回収しポーチに入れベルは立ち上がった。

 

「さて、急いで戻ろうか。」

 

ー最短で行けば数分だろうよー

 

バチッと何かが弾けたような音がした瞬間ベルの姿が消えていた。ベルの立っていた場所には僅かな砂埃が舞っているだけだった。

 

ーーーーー

 

「はい、査定が出たよ。締めて7000ヴァリスね。」

 

「まぁまぁですかね?」

 

白亜の摩天楼「バベル」3階換金所フロアにて換金済みのお金が入った袋をトレーに乗せたエリナの言葉にベルが軽口を叩く。

 

「十分異常(イレギュラー)よ。」

 

エリナの呆れを含んだ小言にベルは肩をすくませる。実際恩恵を貰ったばかりの新人は先輩などにつき経験を積むものだ。そしてソロで潜って稼げたとしてもせいぜい1~2階層程度で1000ヴァリスいけば良いほうだろう。それを約半日もかけずにこれだけ稼ぐベルは普通じゃないようだ。

 

「そういえば今日は随分早くに切り上げたね。君なら1日籠るかと思ってたけど。」

 

「神様から昼過ぎには帰ってこいって言われてたので。」

 

エイナのふとした疑問にベルはあっさりと返す。朝ホームを出る時に「ベル君ダンジョンに行くのはいいけどお昼ぐらいには帰ってくるんだよ。僕の神友達に君を紹介したいんだ。」との事らしい

 

「それじゃエイ『ふざけるな!!たったの16000ヴァリスだと!?』ナさん…?」

 

突然聞こえた怒声にベルとエイナは揃って声の主を見た。そこに居たのはいくつか先の受付で職員と揉めている男だった。

 

「ドロップアイテムだってあったんだぞ!?なぁっ!もう一度確認してくれよ!」

「ふざけるな!こちとら何年もこの仕事で食ってきてんだ。いい加減にしろ!!」

どうやら冒険者の男は職員の出した査定額が不服らしく異常なくらいに詰め寄っていた

 

「…鬼気迫る感じですね。」

 

「あぁ…多分ソーマファミリアね。」

 

ベルの呟きにエイナは溜息をつきながら答えた。

 

「ソーマって言うとあの神酒ですか?」

 

「よく知ってるわね。えぇ、ソーマファミリアは主神の名を冠するブランドのお酒を作る酒造ファミリアよ。なんでもそのお酒を作るのに莫大な費用がかかるとかであぁいう風に資金集めに躍起なのよ。貢献度の高い人にはそのお酒を1番早く飲めるらしいし。」

 

「ふ〜ん…」

 

話を聞きベルは先程の男を見る。職員が話にならないとばかりに立ち去ったせいか男は頭を抱えて何やらブツブツ呟いている。その姿はまるで…

 

ー薬物中毒みてーだなー

 

(やっぱりお兄ちゃんもそう思う?)

 

ーあぁ。あの目はもう狂気の類いだー

 

小刻みに震える体やハイライトの消えた目。うわ言のようにブツブツと言っている様はもはや末期症状だ。

暫くして男はフラフラと換金所を出ていった。

 

「ギルドはどう対応してるんですか?」

 

男を視線で見送った後ベルはエイナに訪ねた。エイナは少し考えた後顔を寄せてきた。大きな声では言えないらしい。

 

[正直ギルドとしては判断に困るところなのよ。基本的にギルドは中立って事になってるからなんか事件にでもならない限り手出しができないわね]

 

[なるほど…]

 

[それに彼らのやっていることは要はファミリア内での競走だからギルドとしてはオラリオに貢献しているとしか取れないのよ。ギルドが推奨している面もあるしね。]

 

事実競争心というものは人のやる気を引き出すにはもってこいなのは確かだ。ソーマファミリアが中堅ファミリアながら結構稼いでいるのもそういうのがあるからだろう。

 

ーていうかベル。そろそろ時間ヤバいぞ?ー

 

「あ…そ、それじゃぁエイナさん貴重なお話ありがとうございました!僕は帰りますね!」

 

「あ!ちょっとベル君!?」

 

兄からの忠告に慌てたベルは矢継ぎ早にエイナに礼を言い走り去って行った。

 

「……もう、そそっかしいんだから。」

 

どこか優しい笑顔を浮かべそんな独り言を呟くエイナを影から見ていた同僚は影で「エイナに春が来た!」と騒いだため後でエイナにたっぷり絞られたそうな

 

 




いくら亀更新とはいえ遅くなりました( ̄▽ ̄;)


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4頁目 冒険者二日目

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかIIを見て小説を書いていたことを思い出したアホンダラ野郎でほんとすいません
<(_ _)>
お気に入りに追加して頂いていた皆さん遅くなりました(泣き)

※ちょっと訂正しました 2.11.24


廃教会:隠し部屋

 

「んーー!終わったー!」

 

箒を片手に大きく伸びをするのはこの部屋の住人にして新生ファミリアの主神、女神ヘスティアその神である。

 

「さーてと、掃除も終わったしあとはベル君が帰ってくるのを待つだけだね。」

 

この女神、何処ぞの世界のグータラ女神とは違い家庭の神の名に恥じないくらい料理など家事全般が出来るのだ。もう一度言おう!グータラ女神とは違うのだ!

 

(ヘッキシッ!!)(か、神様?!大丈夫ですか!)(アア、大丈夫だよベル君。誰かが僕の噂でもしてるんだろうさ。)

 

……違うのだ…

 

「しっかし、まさかベル君がね…はぁ」

 

箒を片しソファにボスッと座り込むとテーブルの上にある羊皮紙を一瞥しため息を零した。

それにはベルのステイタスが記されていた。

 

ベル・クラネル  ヒューマン

男 Lv.1

 

力:H 195

耐久:I 68

器用:H 178

俊敏:G 235

魔力:F 300

 

魔法

 

▪️『挑戦者(チャレンジャー)』

・段位昇華(レベルブースト)

・効果は発動者限定

・発動後、一定の要間隔(インターバル)あり

 

詠唱式「遥かなる頂きにおわす偉大なる祖父よ。我はこれより試練に挑みし者。頂きへの道を歩み出す者。果てなき道、立ち塞がる壁、襲い来る悪意。心を蝕む絶望を前にして我が胸に宿るは希望の光。貴方に賜りし光を糧に今ここに歴史を刻まん-」

 

▪️『-雷-(フールミネ)』

・造形魔法

・雷属性

・形状、効果は詠唱により変動

 

始動式「雷よ(フールミネ)」

 

▪️

 

スキル

 

『頂を探し求める者(チェルカトーレ)』

・早熟する

・思い求める限り効果持続

・あらゆる行動に補正あり

 

『点鐘(てんしょう)』

・能動的行動(アクティブアクション)におけるチャージ実行権

・チャージ実行時、影響を受ける部分が発光しその箇所から発生する行動が飛躍的に上昇する

 

 

ちょっと待て!と言いたいのがヘスティアの素直な気持ちだった。

ヒューマンは可能性の塊だと神はいうがそもそも魔法が発現すること自体稀であるし、エルフなどの魔法種族(マジックユーザー)ならまだしもスロットが3つもあるのはおかしいのだ。しかも既に2つも発現しているし、段位昇華(レベルブースト)に造形魔法!?超希少と言われる強化魔法に過去に例を見ない新種の魔法まである。もうこの時点でヘスティアは頭がクラクラしてきている。

さらにスキルだ。早熟する、つまりは成長速度へのボーナスがあるであろうスキルもまた激レアである。

こんなレア物のオンパレードとかあるだろうか?

 

「こんなの獲物にしてくれって言ってるようなもんじゃないか。」

 

ヘスティアはソファに寝転がりながら1人愚痴る。

 

(それに…)

 

ファミリアを結成した日にベル君の口から聞いたベル君の秘密。僕の愚弟が絡んでるだけでも厄介なのに、彼の抱える秘密はどれもがデカすぎる。

 

"神々は娯楽好き"

 

刺激に飢え、天界から下界に力を封印してまで遊びに来た神々は刺激を求めて暴走することが多々ある。もし、このベル君の情報が漏れれば火に油どころかナパームでも放り込むような危険性を秘めている。間違いなくちょっかいを掛けてくるだろう。

 

(初めて出来た大切な家族(ファミリア)なんだ。何とかしないと…)

 

ソファの上でフンスッと握りこぶしを作るヘスティアだが見た目ゆえに可愛らしいという印象しかないのはご愛嬌である。

 

バン!「神様!ただ今帰りました!」

 

キキーと急ブレーキをかけるように部屋に滑り込んできたベルは大きな声でヘスティアに帰宅を告げた。約束の時間まではまだあるが彼の性格的に急いできたのだろう。

 

「お帰りベル君。遅れてないんだから大丈夫だよ。」

 

屈託のない笑顔でベルを迎えるヘスティア。その余りにも純粋無垢な輝きに思わず目を覆うベル。眩しいっ!

そんなベルは露知らず、ヘスティアはベルに近ずきペタペタと触り確認する。

 

「うん!ちゃんと言いつけ通り怪我せず帰ってきてくれたね。感心感心!」

 

「いくらダンジョンとはいえ上層で怪我してちゃ笑えませんよ…」

 

確かにベルのステイタスならば10階層辺りでも行けそうではあるが【ダンジョンに絶対はない】という格言があるくらいダンジョンはなんでもありなのでヘスティアが心配するのも無理はない

 

「さて、じゃぁベル君が帰ってきた事だし行こうか。早めに行動して悪いことはないしね。」

 

「はい、神様。」

 

ベルの無事を確認したヘスティアは早速とばかりにベルの手を引き歩き出した。




コメント、質問等ありましたら是非ください。

今回急ぎだったので短いです。
ベルのステイタスについてはツッコミは無しでお願いします


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5頁目:出会い

原作ブレイクというか色々弄っていきます。
また、今作のリリはオリジナル設定多めなのでツッコミは無しでお願いします。



 

バベル前広場

 

早朝にもかかわらず、オラリオの中心地であるバベルの入口には多くの冒険者達がつめかけていた。

 

(ふぁ〜…)

 

その人通りの中をあくびを噛み殺しながらベルが歩いていた。

 

ー眠そうだな。ベルー

(昨日は大騒ぎだっからね。)

 

昨日神様の神友であるミアハ様とタケミカヅチ様の2神とそのファミリアの方々と顔合わせ兼食事会があったが皆さんいい人(神)達だった。

 

ー ー ー ー

 

タケミカヅチファミリアのホームである長屋に一同が集まっていた。

 

「この度女神ヘスティア様のファミリアの一員となりました、ベル・クラネルです。よろしくお願いします。」ペコリ

 

その場にいる全員に向かいベルが挨拶する。

 

「うむ、私はミアハという。うちは小さな薬屋をやっていてな。なにか物入りになったなら訪ねるといい。そしてこの子が…」

 

「ミアハ様の眷属のナァーザ・エリスイスです。ミアハ様の元で調合師をしている。ぜひ買いに来てくれると嬉しい。」

 

美麗な顔立ちをした男神ミアハとどこか眠たげな印象を持った犬人(シアンスロープ)の女性ナァーザが挨拶する。

 

「俺はタケミカヅチだ。一応武神って名で通っている。君の所と同じ探索系のファミリアだからなんか聞きたいことがあれば聞くといい。で、こいつらがうちの…」

 

「タケミカヅチ様の眷属で団長を務めている桜花・カシマという。最近Lv2に昇格したばかりだが先達として答えられることには答えよう。」

 

男前な男神のタケミカヅチの自己紹介に続き益荒男といった風貌の団長桜花が挨拶をした。

 

「自分は命・ヤマトと言います。タケミカヅチ様の元で修行中の身ですが、ベル殿のお役に立てるように努めます!」

 

「えっ…と。千草・ヒタチ。です…。ああまりお役に立てないかもですけど…よ、よろしくお願いします。」アセアセ

 

綺麗な顔立ちをした礼儀正しい少女の命が挨拶したかと思えばオドオドした感じで目元が隠れた少女千草が挨拶する。

 

「彼らがボクが何かと世話になっている神友達とその子供たちだ。もう一神紹介したかったんだけどあの子はボク達と違って忙しいからね。」

 

タハハと苦笑いしながらヘスティアは締めくくった。こうしてベルは無事に皆との顔合わせを済ませたのだが…

 

ー ー ー ー

 

ーしかしカオスだったなー

(確かにね…)

 

大きなテーブルを囲んだ楽しい食事会だったがお酒が入りだしてからどんどん場の雰囲気がおかしくなってきた。

 

やれ主神のお節介行為で商品がタダで配られて商売上がったりだの、うちの団長は女心が分かってないだの。主に女性陣の愚痴が炸裂しだしてからさらにおかしくなってきた。その上何故かその話し相手がベルであり、ベルは逃げるのとも出来ずに変に目の据わったナァーザと命の相手をする羽目になった。

 

ちなみに件の主神と団長は居心地が悪そうにチビチビと酒を飲んでいたそうな。

 

ー結局夜中まで付き合ったもんなー

(僕の許容範囲内だったから良かったよ。)(--;)

 

その混沌の宴は夜中まで続き皆がみな酒を飲みまくった。そうなれば翌朝には屍の山が築かれるのは当然の理である。酒が苦手なためあまり呑んでおらず平気だった千草とさんざん付き合わされたにもかかわらずピンピンしているベルが2人がかりで介抱していた。

何事も無かったかのように平然とダンジョンへと向かうベルの背中を見送りながら「アイツヤベェ…!」と全員が思っていたのをベルは知らない。

 

ーとりあえず今日はどの辺まで潜るんだ?ー

(エイナさんからの許可もあるし6階層辺りまで行こうか。)

 

その頃ギルドの受付でハーフエルフの職員が頭を抱えていたそうな。

 

(…ん?)

ーどした?ー

 

ふっとベルは広場の片隅で言い合っている一団が目に付いた。数人の男の冒険者と小さな女の子が言い争っている。

暫くすると男達はさっさとダンジョンの中に入って行ってしまった。女の子は頭を抱えてベンチに座り込んでいる。

 

(…ねぇ、お兄ちゃん…)

ーお前の好きなようにすればいいんじゃないか?ー

 

ベルの問いかけに一瞬の迷いも見せずに兄が答える。まるで全てお見通しであるかのように。

 

(…うん、ありがとう。)

 

兄に背中を押され、ベルは少女に声をかける。

 

「ねぇ、お嬢さん。ちょっといいかな?」

 

これがとある主従の出会いだった。

 

 

ー少女ー

 

(はぁー…ついてないのです…)

 

少女は1人ベンチに座り込み重いため息を吐き出した。彼女は今日ギルドの募集にあった野良パーティーに入れてもらうはずだった。しかし集合場所に行けば自分が小人(パルゥム)の女だとわかると手のひらを返したように追い出された。「ちんちくりんの役立たずな小人は要らない」だそうだ。

 

(こんなんじゃあの目標まではとても…)

 

彼女のファミリアの団長から提示された脱退の条件。とても一個人が支払えるはずのないその金額に彼女は絶望感を覚えていた。しかし何もしないわけにはいかないとこうしてダンジョンに挑もうにもソロで稼げる額などたかが知れている。かといって野良パーティーは先程のように入れて貰えないか、入れても取り分の少ないサポーターとしてだ。

 

(このままじゃ…)

 

さらにファミリア内では弱いものは搾取されるのは当たり前。少しでもお金を稼いだと噂が立てば奪われることなどざらだ。その為少女は少しずつ貯めた貯金を複数に分けて保管しているほどだ。

 

(やっぱり正攻法だけじゃ…でも…)

 

実際ファミリア内の団員の中には非合法なことに首を突っ込んでいる者も少なくない。手を染めたくなどない。しかしこんなことではいつまで経っても闇の中だ。

 

少女の瞳に薄暗い影が差し込もうとしていた時、

 

「ねぇ、お嬢さん。ちょっといいかな?」

 

「は、はい!?」

 

急に声をかけれ下を向いていた頭を上げる。そこに写ったのは白だった。雪のような白髪にルビーのような目全身白を基調としたコートのような装備に身を包んだ同年代の少年がいた。見たことない顔だ、オラリオ生まれの自分が今まで見たことない特徴の少年だった。

 

「あの、お兄さん。私になにか御用ですか?」

 

ニコニコと人懐っこい笑顔をうかべた少年に問いかける。普通、こうして近ずいて来るのはろくな奴ではないのが普通だが何故か彼からはそんな雰囲気が感じられない。

 

「別に大したことじゃないよ。お嬢さんが良ければ…僕とパーティー組まない?」

 

「…ほぇ?」

 

何の気なしに掛けられた言葉に間抜けな返答を返してしまった私。

 

これが私、リリルカ・アーデと我が主、ベル様との出会いだった。

 

 




コメント、質問等ありましたら是非ください。

ベル強化と書きましたがリリも結構強化します。


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6頁目 小人の少女

前回の投稿が約半年前...

いや、忘れていた訳ではないのですがオリジナル話にしたせいでネタが...


ダンジョン 16階層

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ピキッ。バキバキバキ。

 

ダンジョン内に存在するモンスターは全て"ダンジョンの壁から生まれる"。これはダンジョンが自身を守る防衛能力によるものだと考えられている。そのためモンスターは産まれてすぐにでも戦えるように成体で誕生し、まるで刷り込まれているかのように全く違う種のモンスターと連携することもある。

 

「ヴゥ…ヴモッ…」

 

今生まれたのはミノタウロス。猛牛の頭を持つ屈強なモンスターであり適正レベルはLv2という強力なモンスターだ。

 

「ヴゥゥゥ…ヴ?」コツン

 

そんなミノタウロスの足に何かが触れた。紫紺色をした結晶、モンスターたちの核である魔石だ。どうやら何者かがここで争ったのだろう。

 

「ヴゥ?」ひょい

 

魔石を拾い上げしげしげと眺めていたミノタウロスは何を思ったのかそれを口に入れた。

 

「…!!?」ドクン!

 

その瞬間ミノタウロスの全身を何かが駆け巡った。己の力が僅かながらも上がったように感じる。

 

ニヤリと怪物は笑った。これはいいものだともっと無いかと怪物は歩み出した。

 

 

ダンジョン 5階層

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

グツグツグツグツ

 

(じーーーー…)クゥ

 

「そんなに見つめても早くは出来ないよ、アーデさん。」

「はわっ!ご、ゴメンなさいです!」

 

ベルの手元で湯気を立てる小鍋を食い入る様に見つめていたリリルカが慌てて顔を上げた。そんな様子をベルはクスクスと微笑ましそうにしているのを見てリリルカは顔を赤くし俯いた。

 

あの後臨時のパーティーを組んで潜ることになった2人はベルがルーキーであるのを加味しゆっくり(?)降りており5階層に到着したのち昼食を取っていた。

 

「しかし、クラネルさんは本当に新人(ルーキー)なのですか?」

 

リリルカは自身が気になったことを聞いてみた。普通ならファミリアに加入したばかりのルーキーはステイタスも貧弱であるために2、3階層あたりで戦闘経験を積むのが普通である。

ところがベルは出現するモンスターを片っ端から屠っていき、なんの躊躇もなくサクサクと下層へと降りていくものだからリリルカは面食らってしまった。

 

「本当だよ。まぁ普通かどうかは僕も自信が無いけどね。」

 

鍋をかき混ぜながらベルは苦笑する。

 

ベル自身、自分が特殊であることは重々承知しているが悲しいかな出来たてホヤホヤのヘスティアファミリアには団員はベルしかいないために比較対象が存在しないため曖昧なのである。

 

「でもやっぱりつパーティがいると違うね。索敵も楽だし、アーデさんがルートを把握しているから無駄足食わずに済むし。」

 

「そ、そんな!リリは全然…ほとんどの戦闘はクラネルさん任せですし何度もフォローして頂きましたし…」

 

リリルカは否定するがベルはそうは思わなかった。

 

ダンジョンには長年の攻略により「ルート」と呼ばれるものが存在する。それは次の階層への最短ルートだったりレアモンスターが出現しやすいポイントへのルートだったり様々だが当然ダンジョン攻略2日目のベルにそんな知識があるはずもなく何度もルートを間違えリリルカに止められていた。

 

(なんというか自分に自信が無さすぎる様な気がするな)

 

目の前で縮こまってしまった少女にベルは手元の鍋の中身を器に移し差し出した。

 

「ま、その話はいいとして出来たよ。」

「あ、ありがとうございます。」

 

器にたっぷりと入ったスープを零さないように受け取り2人は食べ始めた。

 

「「いただきます」」

 

野菜たっぷりのスープは食べ応えもあり二人のお腹を十分に満たしていく。

 

リリルカは思った、こんな温かい食事を誰かと一緒にとったのはいつ以来だろうかと。

 

両親はとうになく、ファミリアでの扱いは最底辺。ホームには居場所が無いため安宿を拠点とするしかなかった。

 

気づけばつーっと涙が溢れていた。涙を拭きながらリリルカはスープを飲み干す。そんな様子をベルは何も言わずにスープを飲んでいた。

 

「「ごちそうさまでした」」

 

互いにスープを飲み終わり一息ついたが二人の間には少し気まずい空気が流れた。

 

ー構えろベル、何か来るぞ!-

 

「!!!」

 

「?」

 

静かに周囲を警戒していた半身の警告にベルは咄嗟に武器を構え、リリルカは急に構えたベルに戸惑いながらも武器に手を伸ばす。

 

 

ビキッ

 

「「!?」」バッ

 

不意に聞こえた何かがヒビ割れるような音。2人の視線の先、ダンジョンの壁に無数の亀裂がはいりビキビキと徐々に広がっていく。そしてその壁を突き破り無数の人影が姿を現す。

 

現れたのは子供ほどの体躯に緑色の肌したゴブリンだった。

 

その醜い顔をニタリと歪ませ2人を見定めるゴブリンの数は6匹。ベルとリリルカはすぐさま行動に移る。

 

「アーデさんは左のヤツからお願い。僕は右のヤツから殺る。」

 

リリルカへと指示を飛ばしつつベルはゴブリンへと斬り掛かる。

 

「分かりました!」

 

指示を受けたリリルカも愛用の手斧を手にゴブリンへと斬り掛かる。

 

「「「「「「グルアァァ!」」」」」」

 

ーーーーーーーー

 

「いや〜。意外と稼げたね。」

「ですね。」

 

ベルとリリルカは換金を済ませバベル内のベンチに腰掛けていた。

あの後特に問題なくゴブリンを片付けて探索を再開した2人は夕方くらいに探索を切りあげ地上へと帰還した。

換金所にいたエイナに今日の収穫をジト目で見られたが気にしない。「昨日の今日で…」という呟き声が聞こえたが気にしない。

 

「さて、じゃぁこれ。今日の分け前ね。」

 

「はい。ありがとうございます…?」

 

ジャラッと金属音をならしながらリリルカの手に置かれた皮袋。しかしそのずっしりとくる重さに疑問を持ったリリルカは封をといて中を見るとそこには今日の収穫の半分ほどの貨幣が入っていた。

 

「ちょっ!?クラネルさん!こ、これは多すぎます!!」

 

「ん?そうかな?」

 

今日の探索の成果は25000ヴァリス。戦闘では大して働いてなくサポートメインだったリリルカとしては5000ヴァリスも貰えたらいいなくらいに思っていたのだ。

 

「僕はオラリオに来る前は外で傭兵をしてたけどあっちは頭割りが普通だし今日の探索はアーデさんの知識を貸してもらったりもしたしね。ま、情報料とでも思っといて。」

 

「し、しかし...」

 

戸惑いを抑えられない様子にベルはんーと頭をひねる。

 

ー前金ってことでいいんじゃないか?ー

 

(!いいね。それでいこう。)

 

ぼそりと呟くように言われた半身のアドバイスにならいベルはリリルカに提案した。

 

「じゃぁさ、前金ってことでどうかな?」

 

「...前金ですか?」

 

「そう。僕としてはアーデさんが良ければ明日も組んでほしいからその前金。」

 

困ったような表情を浮かべるベルの言葉にリリルカは言葉に詰まる。

 

「じゃ、そうゆうことで明日の9時にバベル前の広場に集合ってことでよろしくね。」

 

「あっ...」

 

いうや否やベルは立ち上がりそそくさとその場を後にしてしまった。リリルカは引き止めようと手を伸ばすが空を掴んでしまった。

 

「...」

 

リリルカは無言で手元の革袋を眺めていたがしばらくしてそれを懐に仕舞立ち上がった。

 

「...へんなの。」

 

そんな呟きを残しリリルカもその場を後にした。

 

 

 

 

 

 




もう早く少し更新できるように頑張ります



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