闇のポケモンとシントの少年 (アドゥラ)
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スタートダッシュ編
プロローグ・誕生
ポケットモンスター、縮めてポケモン。
この星の、不思議な不思議な生き物、海に森に町に、その種類は、100、200、300……いや、それ以上かもしれない。
ジョウト地方の北部に存在するシント遺跡。
そこで、ある少年の物語が今、始まろうとしていた。
***
「機材を運び込めぇ! 吹雪が来るぞぉ!!」
鍛えられた体を持つ男達が、ポケモン――ゴーリキーやカイリキー達――と共に遺跡を発掘するための機材らしきものを小屋に運んでいた。
「精が出るわね隊長さん。何か手伝うことはあるかしら?」
「でも譲ちゃんの細腕じゃ……」
「あら、じゃあこの子に手伝ってもらいましょう」
そういうと、金色の長い髪の女性は腰からモンスターボールを取り出し、中からポケモンを出す。
「ガァアア!!」
「ガブリアス、おじさんたちを手伝ってあげて」
「ガブ」
ドラゴンタイプのポケモン、ガブリアス。ジョウトより北の方に位置するシンオウ地方のポケモンである。
ガブリアスは声と共に頷き、女性の言葉に従い、荷物を運び始める。
「譲ちゃん、学者じゃなくてトレーナーだったのか?」
「いいえ、ちゃんと学者も兼任していますよ。まあ普段はトレーナーをやっているほうが多いですが……それより、吹雪が強くなってきましたね」
「ああ……何もなけりゃいいんだが」
「遺跡の内部は大丈夫でしょうか?」
「さぁな。しっかりしたつくりだから大丈夫だとは思うんだが……」
そう男が言ったとき、突如として辺りがゆれ始めた。
グラグラと揺れるというより、まるで何かが爆発したかのような強い衝撃だった。
「なんだ!?」
「地震っ、いえコレは!?」
女性が見る方向、遺跡の内部から強大な光が漏れ出していた。
不思議と、ゆれの原因はアレであると直感した女性。
「見てきます!」
「お、おいアブねえぞオイ!? シロナさん!!」
男にシロナと呼ばれた女性は走り出した。
ただ一直線に遺跡への入り口へと。
***
シロナは我が目を疑っていた。
遺跡内部で、通常では考えられない事態に陥っていた。少し、思考回路がおかしいのではないかと自分を疑いたくもなった。だが、これは現実だ。
目の前には大量の文字のようなポケモン、アンノーン。
そして、その中心には……
「あ、ある……せうす」
アルセウス。宇宙の全てを想像したといわれるポケモンである。
歴史からは風化しており、その存在を詳しく知る人はほとんど居ない。
伝説によると、宇宙が生まれるの混沌から生まれたタマゴより誕生し、この世界を創ったとも言われる神様である。
特にシンオウ地方の伝説のポケモン、ディアルガ、パルキア、今は伝説からは風化しているギラティナの三体はアルセウスの分身であり、アルセウスが生み出したとまで言われるポケモンである。
シロナも極わずかな資料でしか見た事が無い神話の中だけに伝えられる命を生み出すことの出来るポケモン。
「――」
アルセウスから音楽のようなものが響き始める。
それに合わせてアンノーンが飛び回り始める。
まるでダンスを踊るかのごとく、原始的な音楽と踊り、それに合わせて舞台が輝き始める。
「これは……?」
舞台から光が溢れる。アルセウスの体からも大きなプレートのような物体が飛び出す。
アンノーンの動きも活発になっていく。
「――――!!」
辺りが真っ白になった。
そして、シロナの頭の中にイメージが伝わる。
「ううっ!?」
宇宙、銀河、太陽、惑星、空、山、川、ポケモン、人、分岐、文明の発達、多種多様なポケモンたち、トレーナー達、タマゴ、誕生、様々な終わりと始まりが頭の中を駆け巡る。
そして、気がつくと目の前には光り輝くタマゴが浮いていた。
辺りにはアルセウスもアンノーンも消えていた。
そして、タマゴの光が消えていく。
いや、タマゴの形をした光とでも言えばいいのだろうか。
『中身』のみをだして殻は残ろうとしていない。
シロナは思わず『中身』を抱きとめる。
「……赤ん坊?」
そう、人間の赤ん坊――どうやら男の子のようだ――がそこに居た。
すやすやと気持ち良さそうに眠っていたのだった。
「…………これからどうしましょうか」
まずは発掘隊の人たちとかにどう説明したらいいかしら?
そんなことを考えるシロナであった。
***
こうして少年は生まれた。
そして舞台は7年後、少年が生涯の相棒と出会うまで進む。
プロローグなので短いです。
アンチなどは基本的に含みません。
設定はなるべく新しいものを参考にするので、モンスターボールに洗脳設定なんかありません。
BWでシャガがその気になれば、ポケモンは自分でトレーナーの元を去ることが出来るとか言っていましたし。
あと、ポケモン世界って何を食べているのか色々説があったので、この話では菜食文化説で行きます。
いくつかのポケモンは食べれるけど、食べる人はほとんどいないって感覚で。ごく一部の民族だけは肉食的な感じで行きます。(出ませんけど)
オリジンが放送されたので、そちらに設定を合わせるために色々と編集します。
設定も少し変えようかと。
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第1話・氷の天使
ここはジョウト地方の北部、シント遺跡。
ジョウトのアルフの遺跡と遠くはシンオウのやりのはしらの特徴を合わせ持った遺跡である。
この遺跡の発掘隊の宿舎に一人の少年が住んでいた。
「ううー寒い」
名をアルといい、シンオウポケモンリーグチャンピオン、シロナに拾われた経歴を持つ。
今年で7歳になったばかりであり、夢は世界を見てまわること。
雪に覆われたシント遺跡で育ったため、当然かも知れないが。
「たいちょーさんもなんで風邪引くかなー……薪になりそうな枝が全然ない…………」
早くしないとなぁ。と呟きながら使えそうな枝などを集めていく。
シロナに連れられて遠くはイッシュの海に遊びに行った事などもあるが、同年代の子供と会話したこともあまり無いため、自分が持っている枝の量がおかしいことにも気がついていない。
「もうすぐ、シロナさんが来るのに……コレだけでいいから早く持ってかえろ」
雪の中を速いペースで歩くアル。
白い髪は太陽に反射し、うすく輝いていた。
***
アルが宿舎に戻ると、件の発掘隊の隊長が起き上がっていた。
「たいちょーさん、まだ寝てなきゃダメだよ」
「……アル坊か、だが嬢ちゃんもそろそろ来ることだし準備ぐらいしておかんと」
「ダメったらダメ!」
そういうと、アルは隊長のひざの裏をつつきベッドに座らせる。
「おおっと」
「風邪にきく薬草さがしてくるから待ってて!」
「お、おい!!」
話を聞かず、アルは飛び出していく。
「急いで連れ戻さんと大変だが……」
目の前がゆれる。どうやら大分きついらしい。この分だと本当に危ない。こんな時に限って留守番している自分達以外は食料の調達で出払っている。
「せめて誰か来てくれれば……」
そのとき、ドアが開いた。
少し、外から入ってきた光で目がくらんだ。そこに立っている人物がよく見えない。
「アル……にしてはデカイな」
目が慣れてきて、認識したのは色は金と黒。長身で女性のような姿だ。
「あら、隊長さん顔色が悪いけどどうかしたのですか?」
「その声は嬢ちゃんか? すまんなちーっとヤバ目の風邪引いちまって。アル坊が今さっき薬草を取りに行くって飛び出しちまって」
「なんですって!?」
「俺のことはいいから早く追いかけてやってくれ」
「ですが……」
「今日は吹雪くかもしれん、俺が元気ならすぐに追いかけるんだが……」
「分かりました。隊長さんはゆっくり休んでいてください。どうせ無理に私が来るからと言って料理でもしようとしてアルに心配かけさせたんでしょう?」
「うぐっ……」
「アルは必ずつれてきますから」
「……スマン」
***
「薬草、やくそう……たしかこの辺に…………あ、あった!」
アルは水辺――夏の間だけは凍っていない為そう呼んでいる氷の広場――の付近に風邪にきく薬草を見つけた。アルは知らないが分類的には復活草に近いものらしい。
「はやくおじさんのところに……」
そう呟いたまさにそのとき。
アルの立っていた場所に雪玉がいくつも降ってきた。
「う、うわぁ!?」
雪の中に何か――おそらくは氷タイプのポケモン――がいるのが見える。
さっきのはたぶん、こおりのつぶて。ニューラというポケモンが使っているのを前に何度か見たことがある。
「だ、だれなの?」
「レー……グレェェェ!!」
「うわああ!?」
再びこおりのつぶて。威力は低いが速度が速く、大抵の場合先制攻撃を決めることが出来るワザである。
「うう…………いてて」
アルは起き上がり、ポケモンに近づいていく。鳴き声でポケモンの正体も分かった。
「グレイシア、恐くないよ。ボクは何もしないから」
「グレイ……グ」
グレイシアは依然として威嚇を続けている。見ると、所々怪我をしているように見える。
「大丈夫、大丈夫だから」
「……」
「大丈夫だよ、ちゃんと手当てすれば平気だから」
アルはグレイシアに手を伸ばす。安心させるように優しい手つきで。だけども、そのときに遠くから声が聞こえてきた。
『アルー! 何処にいるのー』
「グレッ」
「暴れちゃだめだよっ、て、うわっ!?」
グレイシアは遠くから聞こえたシロナの声に反応して再び暴れだした。吹雪が降り始める前はこの付近の氷タイプでも住処に戻るため、ポケモンは居ないと判断したのが裏目に出たようだ。
グレイシア自体野生で見ることは稀であり、怪我をしている個体が近くにいるなど予測は出来るはずもなく、グレイシアは再び暴れだす。
「落ち着いて、大丈夫。あの人は大丈夫だから」
***
シロナはアルをようやく見つけた。だがしかし、近くには傷を負ったグレイシア。今にもアルに飛び掛ろうとしえいるように見える。
「ガブリアス……いえ、ガブリアスじゃ危ないわね」
自分のグレイシアはポケモンリーグでの戦いの疲れを癒すために故郷に置いてきたし、この状況はどうすればいいか。
シロナは思案していたが、何故かグレイシアの様子がおかしい。
「体力がなくなってきた……でもそれにしては…………」
まるで、リラックスし始めているかのようだ。傷だらけだが、徐々に落ち着いてきているように見える。この様子なら近づいても刺激は少ないかも知れない。
「……アル、大丈夫?」
「あ、シロナさん。それよりも子のこの手当てを。あと、薬草も見つけました」
どうやら目立った外傷は無いようだ。だがしかし、アルは気がついていないようだが……
(アルの体がうすく発光している)
どうやら、この光がグレイシアを癒しているようだ。少しずつであるがグレイシアの傷も癒えている。
生まれからして人とは違う。その体は百パーセント人間のものではあるが、どこか違う雰囲気がある。一説には元々ポケモンと人はおなじ存在であったという。シロナはこの子はポケモンと人が別れたばかりの状態、古代人に近しい存在ではと考えている。
もっとも、仮説を立てるだけの根拠もないのだけれど。
一つはっきりしているのはこの子の出自を誰にも知られてはいけないこと。
カントーやジョウトを騒がせたロケット団や、自分が関わったギンガ団みたいな組織に知られでもしたら大変なことになる。
いつの間にか光は収まっており、グレイシアは疲れているのか眠りそうだった。宿舎で手当てをしてあげた方がいいだろう。
「さ、アル急いで戻りましょう。もうすぐ吹雪が来るかも知れないわ」
「はーい」
***
暖炉に薪をくべ、部屋を暖める。
「隊長さんはどうして風邪なんか引いたんですか?」
「どうやら、乾布摩擦が悪かったらしい……冗談だ、おそらく一番近い集落ではやっていた風邪を貰ってきたんだろう。前に食料調達に行った時にちょうどはやっていた」
「はぁ……変な冗談はやめてください」
シロナがそう言ったあと、二人はグレイシアと一緒に眠るアルを見ていた。手当てが終わったと、グレイシアはアルを離さず、アルは撫でてあげていたのだがそのまま寝てしまったようだ。
「まったく、隊長さんみたいに風邪引くわよ」
「……嬢ちゃんも言うようになったなぁ」
「元からですよ」
「…………確かにそうだな」
シロナは毛布をかけてあげ、再び椅子に座る。
「最初はビックリしたが、今じゃ家族みたいになって……この7年色々あったな」
「スイマセン……本当は私が引き取れればよかったのですが」
「嬢ちゃんはチャンピオンなんだし、いいって事よ。若い衆や、俺のカミさんたちも可愛がっていたし、ホントいい子に育ったよ。出来れば友達を作ってやりたいところだったが……」
「……」
「何か事情があんだろ?」
「ええ、せめてこの子が自分で自分のみを守れるくらい大きくならないと……」
「あと3年したら旅に出るつもりだろうしな……寂しくなるなぁ」
「……いえ、あと5、6年は後にするつもりです」
「それまたどうして?」
「ダークポケモンをご存知ですか?」
「デルビルやヘルガーのことか? たしか分類がそうだったが」
「いえ、そうではなく……オーレ地方で確認された強制的に戦闘マシーンに変えられたポケモンのことです」
「……キナ臭い話だな。それで、それがどうかしたのか?」
「事件自体は解決したらしいですが……技術が他の地方に流れたそうで…………各地方のチャンピオンは警戒しているんです」
「なるほど、ソイツを使う組織にアル坊が関わるとマズイかもしれないんだな」
「ええ……特にシンオウにはおいて置けませんし、シンオウとは関わりの少ないホウエンか、遠いですが、私の知り合いが多いイッシュ地方を進めようと思います。イッシュは旅に出る子供の平均年齢が高いですし」
「そうか……まあ、あと数年はここの生活が続くんだ。旅に出るかはアル坊がその時に決めることだ」
「そうですね。願わくば、危険なことはしないでほしいです」
***
翌日、グレイシアの怪我も良くなっているので森に帰そうとしたのだが……
「グレー」
「えっと、なんでくっつくの?」
どうやらアルに懐いた様で、離れようとしないのだ。
「シアー」
「し、シロナさーん」
「あらあら、懐かれたわね」
「笑ってないで何とかしてくださいよぉ」
「折角だし、アルがゲットしたらいいじゃないの」
「それでいいんですか?」
「グレイシアに聞いてごらんなさい」
アルは腰を落とし、グレイシアと目を合わせる。
「おまえ、ボクと一緒に暮らすか?」
「シーアッ!」
グレイシアは一声鳴くと、アルに飛びついた。
「ふふふ、ならコレを使いなさい」
「これって、モンスターボール?」
「本当は何年か後に渡すつもりだったけど、せっかくの機会だしね」
6個のモンスターボール。今日を除いて使うことは当分先だろうけど、なにか胸にこみ上げてくるものがある。
「モンスターボールは決してポケモンを縛り付けるための道具じゃない。たとえ捕まえたとしてもポケモンは自分の意思でトレーナーの元から去ることだってある。だからこそ、コレはトレーナーとポケモンの信頼の証。それを覚えておいてね」
「……うん」
そして、アルはグレイシアに向き合う。
「おいで、グレイシア」
「グレイ!!」
モンスターボールが一度、二度、三度とゆれてカチッと音が鳴る。
「グレイシア……GET」
「……」
その様子をみて、シロナは何か考えているようだった。
***
数ヶ月が立ち、グレイシアを加えた生活は順調であった。グレイシアも以前より懐いている。というより、まだなつき度が上がるのかという感じだった。
「いくよ、ツララ」
「レイッ!」
アルが捕まえたグレイシアはメスであり、ツララとニックネームをつけている。
現在、日課の薪拾いの最中である。
「あれ? シロナさん?」
見たことない大型の鳥ポケモンにのり、シロナが降りてきた。何か用だろうか?
「おお、アル坊も戻ったな。ほれお前の荷物だ」
「えっと、ボクの荷物って?」
「ほーら、急いで急いで」
「オバサンたちもどうしたの?」
見ると、宿舎の全員がそこにいた。
「アルは色々な場所を旅したいって言っていたわね」
「う、うん……」
「まずは私と一緒に見てみない?」
何の話だろう? アルは状況を飲み込めなかった。
「ちょっと用事でイッシュ地方をしばらく見てまわるの。それでアルも一緒に連れて行こうって思って」
「い、いいの?」
「もちろん」
やったー! アルは飛び上がって喜んでいた。グレイシアもそれに合わせて鳴いている。
シロナは考えていたのだ、いずれアルがシント遺跡から出て広い世界を見てまわる日が必ず来る。その時の為にも少しは経験をつんでいた方がいいと。
まずはイッシュの内陸ではなく、西部分の場所。ジムもなかったはずなので今はそれほどトレーナーで溢れているほどではないだろう。ついでにポケウッドも見ておきたい。今は建設中かもしれないが、前評判は良いし、気になる。
「ふふふ、キミはこれからどんな出会いをするのかな?」
そういうシロナの目には優しい光が浮かんでいた。
今作ではシロナさんは博士的なポジションです。
時代設定的には今現在、BWの数年前って所です。
主人公の冒険が本格化するのはBW2の一年後ぐらい。
具体的に何と戦うのかは、まあ分かりやすいですね。
ちなみに手持ちは最終的に6体固定にする予定。
既にメンバーは決まっています。
食費とかあるだろうし、廃人的なのは無理でしょう。
あと、レベルをはっきり表記するつもりもないです。
おおよその範囲はありますが。
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第2話・毒の街
なお、鳴き声も判別がつくようにアニポケを参考にしております。
シロナに連れられてアル達が来たのはタチワキシティ。映画撮影所が多いため関係者からは聖地と呼ばれている街である。
港があるためそれなりに人も多く、アルは大勢の人を見て目を回していた。
「ひゃー……人が多い」
「はぐれないようにしっかり付いて来てね」
「は、はい!」
シロナに手を引かれアルは歩き出す。頭にはグレイシアのツララを乗っけており、時折人が見返している。もっとも、この程度なら割と珍しくも無いのですぐに目線は外れるが。
ランランと目を輝かせているシロナ。どうやら彼女は映画の撮影を見に行きたいらしく、キョロキョロと入り口を探している。一般開放されている場合、入場券を販売しているのだが……
「や、休み……ッ」
「あのぅ……シロナさん?」
「うう、楽しみにしていたのに…………」
なんというか、不憫だった。
とりあず、この黒いオーラを纏ったシロナを何とかしたいけど、そう考えアルは辺りをキョロキョロと見回す。
といっても、コンビナートぐらいしかないため見てまわるようなものもない。シロナから離れるわけにもいかず、立ち往生するしかないかなと、考えていたそのときだった。
「シロナさん、こんなところで何しているんですか?」
「……シキミ?」
彼女はイッシュ四天王のシキミ。親交があり、プライベートでも時々シロナと会うことのある人物である。本来なら挑戦者を待つためにポケモンリーグにいるのであろうが……
「貴女、仕事は?」
「してますよ、取材旅行」
「小説家の方じゃなくて四天王の仕事よ。先日の事件で壊れたリーグは立て直したのよね」
シロナが言っているのは少し前にイッシュでおきたプラズマ団による事件のことだ。
シンオウリーグが壊されたり、ゼクロムとレシラムが現れたり、去っていったり大変だったらしい。
「まあ、それは大丈夫なんですけど……シャガさんに子供というか、孫が出来たのは知っていますか?」
「たしか、アイリスだっけ? 引き取ったっていうのは聞いているけど」
「竜の里出身で、かなりの才能の持ち主だとシャガさんが言っていましたね」
「それが貴女がここにいる理由と何か関係があるの?」
「…………シャガさんがアイリスちゃんにいいところを見せようとして張り切りすぎちゃってバッジを入手できた人が……」
「………………居なかったのね」
「そうなんですよ。アイリスちゃん自体は武者修行中で、シャガさんはソレまで無敵状態を貫くんじゃないですか? それで、しばらくは取材をと……聞くところによると、シロナさん」
「えっと、何?」
「シンオウでは神話のポケモンと遭遇したとかカトレアさんから聞きました」
「え、ええ……私というより、殿堂入りした彼女が戦っていて、私も立ち会ったというか……」
「いえ、出会ったのなら話は聞きたい。というか問答無用!」
「あ、ちょ――ひとさらいー!?」
哀れ、首根っこをつかまれたままシロナは何処かに引きづられていくのだった。
どこからか、ドナドナという音楽が聞こえてくる。
「……どうする?」
「グレ?」
***
することもなし、暇になった二人はシロナを追いかけていたが、すぐに見失ってしまい後を追いかけられなくなってしまった。元の場所に戻ろうにも道が分からない。
とりあえずはあの目立つ場所、コンビナートに行ってみることにしたのだった。
「……なんか、変な感じ…………」
「――グレッ」
「どうかしたの?」
ツララが何かに反応した。目線を追うと、同じくらいの年か少し年上の女の子がポケモンに囲まれていた。近くにはフシデというポケモンが倒れており、早く手当てをしないとマズイかもしれない。
「ええっと、とにかく助けるよツララ!」
「グレイッ!!」
どうやら、鋼タイプのコイルたちが取り囲んでいるようで、毒と虫タイプのフシデでは分が悪かったようだ。
「早く逃げて!」
「……ッ」
そばかすが特徴的な女の子は突然のことで戸惑っているようだった。
「ここは何とかするから早く手当てしてあげて!」
「――あ、ありがとうっ」
それだけ言うと、フシデを抱えて女の子は走り出した。
コイルたちは不自然なほどに怒り狂っていた。
「……?」
目がおかしいのか? そう思いながらアルは目をこする。何故かコイルたちに黒い靄のようなものがかかっていると思ったのだが、今度は見えない。
「ツララ、バリアー!」
「グレッ!」
半球状にバリアーを張り、防御力を高める。コイルたちはそれに合わせるかのように充電を始めた。
「一気にけりつけるよ、めざめるパワー!!」
シロナがイッシュにつれてくるまでの数ヶ月、アルはグレイシアが使える技を調べていたり、バトルの基本などを軽く勉強していた。
鋼タイプのワザを使われた場合、グレイシアは不利である。こちらの氷タイプの技も効きにくい。いわくだきが使えたら良かったのだが、あいにく技マシンを持っていないためポケモンごとにタイプなどが変化するめざめたパワーを使っている。ツララの放つめざめるパワーは炎。鋼タイプを持つコイルたちには効果抜群である。
「グレェエエ!!」
充電がキャンセルされ、コイルたちはひるんだ……だが、様子がおかしい。
「な、なんで効いていないの!?」
そう、あまり効いた様子が無いのである。おかしい。それに、この嫌な感じは一体なんなんだと、アルは後ずさりを始めた。
「グレッ!」
「つ、ツララ?」
「シーア、シアグレイ!!」
ツララは自分を激励するかのように声を出す。諦めるなと、自分がついているから、絶対に大丈夫だというかのように。
「……うん、大丈夫。ボクは逃げないよ」
「――グレ……」
あと、ツララが使える技はあられだけだ。ゆきがくれの特性があるから攻撃が当たりにくくはなる。囲まれている中、あられを使うことで出来た隙は危険だ。
シント遺跡周辺のポケモンとバトルもどきのようなことはしたことがある。あられは隙が大きい技である。持続時間もそれほどない。逃げるか、戦うか……
「ツララ、もう一度バリアー!」
「グレッ」
今度は放電をしてきたコイルたち。バリアーで弾かれたため一瞬の隙が出来た。
「次はあられ!」
「グゥゥ……レイ!!」
口に溜めたエネルギーを上に向けて発射。この隙にコイルたちも攻撃を加えてくるが、アルはここで新たな選択肢を見つけ出していた。
「こおりのつぶて!」
あえて効果が少ないこおりのつぶて。ただしその攻撃速度で、コイルたちの攻撃よりも早く動けるのだ。ゆきがくれの特性が働いている上に途中で攻撃を喰らったからか、コイルたちの攻撃はあらぬ方向に飛んでいく。
「今だっ! めざめるパワー!!」
コイルたちにめざめるパワーがヒットする。あられのダメージも加わっており、コイルたちは全部落ちてきた。
「……ふぅ。大丈夫、ツララ?」
「グレッ」
体力は減っているが攻撃は全て弾き返したため外傷は無く、元気な様子だった。
「よかった……お疲れ様」
「グレィ~」
頭を撫でられて気持ち良さそうな声で鳴いている。とりあえず、このコイルたちはどうしようかと……そう思ったとき、再びコイルたちが動き出した。
「!?」
だが、先ほどまでの怒りようがウソみたいにおとなしい。コイルたちはそのまま何処かへ飛んでいってしまった。
「なんだったんだろう?」
「グー?」
***
近くの保育所の前にあったベンチに腰掛けていると、フラフラのシロナがやってきた。シキミも一緒についてきており、何故かツヤツヤしている。
「うふふ、面白い話が沢山聞けました」
「もうこりごりよこっちは……」
「それで、その子がシロナさんが引き取ったっていう子ですか?」
シント遺跡の発掘隊に預けられてはいたが、書類上はそうなっている。
「ええ……貴女のせいではぐれていたけどね」
シロナの言葉にとげがある。いろいろ大変だったようだ。
「それより泥だらけですけど……」
「アル、何かあったの!?」
「……うーん、よくわかんない」
一度に色々ありすぎて本当によく分からない一日だった。アルの頭にはそれしか浮かんでいない。ツララは疲れたからかアルの膝の上で眠っている。
「まあ、怪我も無いみたいだし……そうそう、明日はシキミの奢りでサンギ牧場にミルク飲みにいくわよ」
「えっ……もしかしてあのお高いミルクですか!?」
「ええ、そうよ。取材費分キッチリ払ってもらうから」
「そ、そんなー!?」
大人って大変だなーぐらいしにしか考えていなかったが、アルから見た二人は楽しそうにも見えて、アルは首をかしげていた。
今作品では天候変化技は隙がでかいことになっています。
こおりのつぶてはしばらく有効な手として使うかも。
めざめるパワーはポケモンごとに細かくいこうと思う。
ゲームだとどうしてもパターン的に表現するしかないからそういうところはちゃんと考えていきたい。
バリアーは薄いけど少し大きい防御フィールドを張るイメージです。
あと今回出てきたあの子、多分次に出るのは凄く後になると思います。いや、もしかしたら一回だけ出せるかな?
次回はサンギ牧場です。
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第3話・波紋と雷
そして、シキミさんは隠れた苦労ポジションになりそう。
あと、シロナさんごめんなさい。
ちなみに、DPtの物語は主人公女(ヒカリ)で、殿堂入り後はホウエン地方のコンテストを制覇しに行った。
あとは何故かフィオレ地方(ポケモンレンジャーの舞台)に行ったりしており、出るとしたらしばらく先。
他の主人公についても決めてあります。
サンギ牧場。イッシュの西部にあり、サンギタウンとタチワキシティの間に位置している。主にメリープが放牧されており、ミルクや羊毛が生産されている。ちなみに、メリープの毛は夏になると全て抜け落ちる上に、一週間で元に戻る。生えている時に触ると感電する恐れがあるので、抜け落ちるのを待つとか待たないとか。
牧場の裏手にある森には野生のメリープや珍しいポケモンも生息している。
「ま、まだ買うんですか……」
「当然よ。この際だから実家にも送ろうかしら」
「そんなぁ~」
現在、シロナはシキミから受けた精神的ダメージの仕返しとばかりに色々買い込んでいた。そのためアルは暇になったのかメリープに埋もれていた。
「……」
至福の表情である。無言であるが、至福の表情。普通せいでんきの特性もあるため体が痺れるはずなのだが、筋肉がほぐれて気持ちいのだろうか。
「グゥレ……」
もっとも、それを面白く無さそうに見つめているのはツララであるが。自分を撫でている時にはしなかったその表情が癇に障るらしい。
その表情に怯えたのか、メリープたちは食事の時間だと言い訳するかのように牧草に群がり始めた。今にもこおりのつぶて……いや、ぜったいれいどを使いそうだった。いや、グレイシアは使えないのだが、何故かそんなイメージを周囲に与えたのだ。
「えっと、ツララ?」
「……レー」
「静かにこおりのつぶて撃つのやめてッ」
***
「酷い目にあった……」
ツララもふてくされてボールに戻ってしまっている。向こうを見ると、いまだにシロナがシキミに絡んでいる。というか、酔っ払っている……
そういえばお酒つくってたなー。そんなことを何処か遠いところを見るかのように感じながら、アルは酔いが冷めるまでは近づかないようにしようと森のほうに進んだ。一応、危ないからと無闇に近づかないように言われているのだが、あの状態のシロナに絡んだ方が危険である。シキミが涙目でこっちを見た気がしたが、気のせいなのである。
「探検かいしー」
それにアルはまだ7才、色々なことに興味が湧く年頃である。最近はシロナの影響で考古学にも手を出し始めている辺り、色々仕込まれているようだが。
「私の酒がのめないんかー!」
「あーっもう! 誰か助けてください!」
森に入る前に聞こえた叫び声には気がつかないフリをするアル。牧場主さんたちも困っているが、下手に関わらずにいたほうが身のためである。
まえに発掘隊の隊長さんたちが止めようとしてどんな目にあったか……思い出すだけで恐ろしい。
***
Rとでかく書かれた服を着たオッサンがいた。Rとでかくかかれた服を着たオッサンがいた……何を考えているか自分でも分からない。思わず二回言ってしまう辺り、さいみんじゅつをかけられたかの様な混乱をしているアルであった。
オッサンは野生と思われるリオル――シロナが進化後のルカリオを持っているため、進化前のことを教えられたことがある――を数匹のポケモンで攻撃していた。ポケモントレーナーなら、よほどのことが無い限りこんな弱いものいじめみたいな戦い方はしない。ボールの中にも嫌な感じは伝わったのか、ツララが入っているボールが激しく揺れている。
ツララを出そうとすると、捕獲しようとしたのかオッサンが見たこともない黒い、とても嫌な感じのするモンスターボールをリオルに投げつけた。
「危ない!」
アルは思わず前に飛び出して、そのボールを弾く。オッサンはアルに気がついていなかったのか驚いていた。
「んな!? 何してんだこのガキ!!」
「……それはこっちのセリフだよオッサン」
「んだとぉ?! コレでも俺は18だ!!」
あ、ありえない……思わずそうつぶやいてしまうアルだった。だって、え、え…………
「ええい、やっちまえお前ら!!」
「応戦してくれツララ!」
相手はグラエナが一匹にポチエナが二匹。ツララだけじゃキツイ……シロナさんを呼びたいけども…………
アルの頭の中には酔っ払いと絡まれるメガネが浮かんでいた。うん、無理だ。
「バリアー!」
「グレッ」
まずは相手をよく観察すること……落ち着いて対処できなければ待っているのは敗北のみ。グラエナたちはツララを取り囲むように配置している。リーダー格のグラエナ。その動きを補助するかのように位置取っているポチエナ。おそらくメインとなる一体を強化するタイプの戦術、もしくはポチエナ達がでんこうせっか等の技でコチラをかく乱した上でグラエナが強力な技をあてに来るタイプ。セオリーどうりならこの辺りが来る……
アルの考えはほとんど当たっていた。男は相手が子供だからと舐めてかかっているのだ。この状況下、セオリー通りではないほうが勝率が低いので間違いではない。だが、セオリーだからこそ予測された場合、簡単に対策を練られる。アルはシンオウチャンピオンであるシロナに基礎を叩き込まれている。彼女の経験上、一対多のやり方も必要な時があると、立ち回り方を少しだけだが教えていた。
「めざめるパワーを上空に!」
まずは下準備。バリアーで防御を強化している間にリオルも回収しないといけない。特に、次の攻撃は巻き込みかねない。傷だらけのリオルじゃ危ない。アルは走ってリオルを抱えに行く。
一瞬、目を向けていた男とポケモンたち。すぐにコチラを向いたため次の指示をツララに出す。
「打ち上げたアレにあられ!」
ポチエナたちはさせまいと、でんこうせっかを使うがバリアーに阻まれて届かない。グラエナも突進の体勢に入っている。だが、あられを発生させるエネルギー弾は発射された。先に打ち上げためざめるパワーの火炎球。あられのエネルギーが加わり辺りが霧に包まれる。
「おわっ!? な、なんだ!?」
「今のうちに……」
***
アルがやったは単純明快。単なる目くらまし技である。あの状況では勝てる可能性は低い。対策はあるが、必ず勝てるわけではないのだ。
とにかく、今は逃げるしかない。
「……シロナさんに連絡」
をとろうにも、酔ってるし……
さすがにどうしようとアルは悩んでいた。今現在彼らは大きな木の洞の中にいた。ポケモン用の傷薬は少ししか持ってきていないためリオルも応急処置しかできていない。
「リオ……」
「大丈夫、絶対助けるから」
安心させるようにリオルの頭を撫でる。とりあえず、ちょうどいいベッドがあったから寝かせて…………ベッド?
「メー」
「め、メリープ!?」
首輪がついていないところを見ると、野生のようだ。何故かは知らないがメリープもたまたま洞の中にいたらしい。というか、のんきに草を食べている。
思いのほか慌てていたからメリープの毛をベッドにしてしまったが、痺れたりは……していない。メリープも電気を出す気配がなく、のんきなものだ。まあ、さすがに乗せたままはかわいそうだからすぐにリオルをおろしたが……メリープは何処からか取り出したオレンの実をリオルに食べさせようとしている。いや、のんきというか大物?
「メリッ」
「グレ?」
「えっと、私の差し出したものが食べれないって言うの?」
「メリ、メリメリップ」
「いや……コイツ怪我しているだけだから」
「メリー」
「……ああうん、キミがマイペースなのは分かったから」
別にポケモンと会話できるわけではないが、このメリープのマイペースっぷりになんとなく何を言いたいのか分かってしまったのである。
というか本当にとくせいがせいでんきではなくマイペースではないのだろうか? いや、メリープにそんなとくせいの個体はいないが。
「とにかく、リオルの治療をしないと……」
食べやすいようにオレンの実を小さく千切って口に運ぶ。ゆっくりと咀嚼を手伝い、体の中に入れる。何度か繰り返すうちに呼吸も楽になったようだ。
「大丈夫だよ、僕達がついているから」
いつまでもここにいるわけにはいかないし、早く牧場に戻らないと。そう考えていた矢先、黒い影が洞の外にいた。
「エナッ!」
「ッ、見つかった!?」
ポチエナが探しにきていたのだ。うかつだった。嗅覚が優れているのを忘れていた。アルがいくらバトルの基本を実践できたとしてもまだ7才。ポケモン固有の能力や優れた部分など、幅広い知識は身についていない。汎用性の高い戦術ぐらいしか使えないのだ。むしろ今まで見つからなかったのは運がよかったとしか言いようが無い。
「とにかく逃げるよ!」
「おおっと、そうはいかねえぜ」
男が目の前に立ちはだかる。グラエナたちも勢ぞろいだ。
「なかなか運がいい奴だなラッキーボーイ。だが、お遊びはここまでだ……おとなしくそのリオルを渡してもらおう」
「嫌だッ!」
「なら、力ずくだぁッ!」
「たのむツララ!!」
「グレッ!」
前に出るツララ、だがそれと同時にメリープも前に出る。
「……メェェ」
静かに怒るメリープ。メリープとリオル、種族は違えど同郷の者を傷つけられて怒っているのかもしれない。メリープはアルを一度見ると前を向く。ツララの横に立ち体には電気を纏い始めた。いや、これは充電していると言ってもいいだろう。
「一緒に戦ってくれるの?」
「メー!」
「うん、分かったよ……いくよツララ、メリープ!!」
グラエナたちが飛び出す。でんこうせっか、さすがに三体同時に仕掛けてきた。だが、こんどはメリープがいる。マイペースで何処かつかみどころがない気がするが、リオルにオレンの実を食べさせようとしたり優しい子だ。その後姿をみてアルは必ず勝つと意気込む。
「ツララ、こおりのつぶて」
速度の速いこおりのつぶて。キャンセルとまでいかなくても一瞬だけグラエナたちはひるんだ。
「メリープ、お願い!」
「メリメリメリメリ!!」
電気を体から大量に放出する。先ほどの充電された分を引いてもコレは……
「まさか、10まんボルト!?」
「メリープの段階でこんな技を!?」
体力の低いポチエナたちはこの技でノックダウン、グラエナもかなりのダメージを負ったかに見えたが……
「グルゥウウウウ」
「エナァ」
「ナァアア」
傷付いても、三匹は立ち上がる。どうしてそんなになっても……アルは何故か悲しくなってきた。モンスターボールは絆の証。シロナはそう教えてくれた。なのにあの黒いボールからはそれを感じられない。まるで、無理やりにポケモンを戦いの道具にしているかのようだった。
「酷いよ……ポケモンをなんだと思っているんだ!!」
「そんなの、人間の道具に決まっているだろうが」
「違う……そんなのは絶対に間違っている!!」
「なんとでも言え……グラエナ、“ダークブレイク”」
「――え」
一瞬、何が起こったのかわからなかった。黒い霧みたいのがグラエナの体に見えたと思ったら一気に力が増し、メリープに向かって強力な突撃をかました。地面タイプでもないのに、メリープにはその攻撃が効果抜群だったようだ、攻撃を喰らっていなかったのに一撃でノックアウトさせられた。
「なんだよ……なんだよそのポケモンたち…………その黒いのはなんだよ」
「お前、見えるのか? そういや、たまーに見える人間がいるって聞いたことがあるな。コイツはな、ダークポケモン。つっても開発されたデータを基に、ウチの組織が改良をしたものだ。ちょうど似たような研究もやっていたからな」
「……」
「このダークボールで捕まえたポケモンは例外なく戦闘マシーンに変貌する。まだ試作段階だからオーラを見ることができるというルカリオ、もしくはリオルの強力な個体を探してきてみれば邪魔しやがって……いつになく熱くなっちまったし、余計なことを言っちまったな。とにかくここで消えてくれや」
アルは男の声よりも、目の前のポケモンたちを見ていた。黒い霧――いや、黒いオーラ。この前のコイルたちもコレと同じような……
「タチワキシティのコイルたちもお前等が……」
「ってことは、実験を邪魔したのは坊主か。まったく、邪魔ばっかりしやが――」
「ツララ、めざめるパワー」
「グレッ」
男の顔のすぐ横を火炎球が通り抜ける。
アルもツララも、ただ静かに佇むだけだった。ただ、その目はまっすぐに男を見ていた。
「……何の真似だ」
「ゆるせない。お前みたいな奴は許せない。ポケモンは道具じゃない。絶対に、許さない。んでもって、そのグラエナたちも助け出す!!」
「どうやるってんだ?」
アルはうつむく……考えろ。状況は悪い。作戦は…………
「グレッ」
「ああ……分かってるよツララ。信じている。いや、一緒に戦おう」
アルから白い光が溢れてくる。その光がモンスターボールに伝わり、グレイシアへと伝わっていく。
「な、その光はまさか……資料にあったリライブ!?」
「僕達は絶対にお前を許さない!!」
霧を発生させた方法はあまりつっこまないでください。
ダークボールは劇場版セレビィの方を参考にしています。
なので、ゲームに出ていた方は出てきません。
そして、次回に続く。
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第4話・リライブ
というわけで第4話。
アルから伸びた力。白い光のようなそれはモンスターボールを通してツララに流れ込む。ツララの体は光を取り込み薄く発光を始めていた。
「なんで、ただの人間にそんなことが……」
「分からないよ。何が起こっているとかそんなの全然。でも、グラエナたちをオッサンから助けられるなら僕達は戦うだけだ!」
ツララが前に飛び出す。先ほどよりもずっと早い。
「応戦しろ、ダークアタックだ!!」
ダークと名の付く技は負担が大きいのか、グラエナだけは息を切らしていた。そのため、ポチエナ達が突撃してくる。
「ツララ、尻尾で横から叩け!」
「グレッ!」
「エナッ」
「ナエッ」
横から叩かれ、二匹のポチエナは落ちる。その隙を逃さず、ツララは次の技の体勢に入っていた。
「こおりのつぶて!」
「シーアアアア!!」
さらに吹き飛ばされ、グラエナも巻き込まれ一固まり倒れてしまう。
「お、おい!」
「……いま、楽にしてあげるから…………お願いツララ」
男は一瞬、めざめるパワーかと思ったが……違う。白い光の球体が形成されている。暖かであり、男の持っているダークボールがそれに拒絶を示している。バチバチと回路がショートしている。
仕方が無い。アルがグラエナたちに気を取られている隙に男は逃げ出した。その後、逃げる途中でシンオウチャンプのシロナがいたことを知り、男の仲間たちはチャンピオンと事構えるのはマズイと思い一時的にイッシュでの活動をやめることになった。
そのことには気がつかず、アルはツララが生み出した光球をグラエナたちにぶつけた、ダメージは無く、黒いオーラだけが弾き飛ばされる。この瞬間と同時に男がグラエナたちを捕まえるのに使ったダークボールが壊れたのだった。
***
疲れてその後はフラフラと牧場に帰った。よく覚えていないが、リオルとメリープも一緒についてきたらしい。シロナに説教されそうになったが、酔っ払っていて記憶が曖昧らしい。シキミさんが号泣していた。とりあえず、なだめるためにうやむやになった。一つハッキリと覚えているのは、グラエナたちが頭を下げた後何処かに走り去っていったことだった。
とりあえず日課として今日あったことをノートに書いている。
「……レポートを書き上げました…………」
「グレー」
ツララもだれていた。内容の濃い一日だった。サンギタウンの宿でアルはもう動けないとばかりに寝転ぶ。ちょうどいい感じの枕もあることだし。この綿毛が何とも……って、おい。
「またメリープなの?」
「メー」
メリープはとことこ歩くと、おいてあった空きのモンスターボールをつつく。そして、あろうことか自分からゲットされた。
「……」
「……」
「リオッ」
それに続き、何処からか現れたリオルが同じように自らゲットされた。
「あー……えっと、メリープアンドリオルGET」
「グ、グレイ?」
アルはこの後一時間ほどいいんだろうかと、少し悩んでいたという。
***
翌日、よく寝たとばかりにシロナさんはハイテンションだった。シキミは逆にローテンション。いい加減四天王の仕事も空けておくのはまずいので一旦戻ることにしたためシキミは帰って行った。
「さて、用事を済ませましょうかしらね」
「ありましたね、そんなのが……」
てっきりお酒を飲みに来たのだと思っていたのは秘密である。
「何か言いたそうね。その顔は」
「なんでもないですっ」
「釈然と……あら、ポケモン増えたの?」
「あ、はい……」
その言葉にメリープとリオルを出す。
「あら昨日の子達ね。そうえば野生のメリープがいたわね。リオルもいるってのは驚いたけど。何かあったの?」
「えっと……」
正直、色々ありすぎて何から話していいか分からない。第一、普通信じられない内容だったから話したくない。
「色々、かな?」
そうやって誤魔化すしかないアルだった。当然、色々お小言を言われた。危ないことをしていたのは流石に誤魔化しきれなかったのだ。
「まったくもう……それじゃあ、行くわよ」
「どこに?」
「シンオウと繋がっているといわれる、心の空洞よ」
***
「うーん、ユクシー、エムリット、アグノムがいた場所に似てはいるんだけど……」
アルには何を言っているかわからないが、ここが何処と無く不思議な感じのする場所なのは分かる。それと、何故だかわからないが……
「なんだろう、懐かしい…………シント遺跡の中みたいな感じがする」
「……そう」
それっきりシロナは口を開かなかった。何かを考えているかのようだったが、中を調べている間は終始無言でアルのほうを見ていなかった。何処か思いつめた表情をしていて、何かを呟いている。
アルも今のシロナは何処か話しかけづらい雰囲気だったため、サンギタウンに戻るまで喋らなかった。
「グレ……」
ただ、心配するかのようにツララが一声鳴いただけだった。
***
翌日、何事も無かったかのようにシロナは接してきた。アルも気にしないでおこうと普通にしておくことにした。
「シロナさん、今日はどうするんですか?」
「サザナミに行ってカトレアの様子でも見ようとおもってね、四天王の仕事が少ないってシキミも言っていたから別荘にいるかもしれないし」
そう言うと、ボールから大きな鳥ポケモン――イッシュのポケモンで名をウォーグルという――を出した。アルを抱えるとその背中に乗せ、自分はウォーグルの足を掴む。
「さあ、そらをとぶよウォーグル!」
「やっぱりこういう移動方ぉぉぉぉ?!」
早い、早すぎるというか助けてください。イッシュの中央、なんかモンスターボールみたいな形の場所を通り過ぎ、シンオウのハードマウンテンみたいな場所を通り過ぎ、静かなビーチ、サザナミタウンに到着した。
「あ……グラデシアの花畑が見えるよ」
「ごめんなさい。やりすぎたわ」
グラデシアの花畑。この世のものとは思えない美しさの例えとして使われることがあるが、転じてあの世の風景の代名詞として使われる場合もある。
「死ぬかと思った……」
「でも風を感じたいじゃないの」
「メリープ改めウール、10まんボルト」
いつの間にかニックネームは考えてあったという。そして、痺れ状態なシロナをウールの背に乗せ歩き出す。
正直、やりすぎた気もするが本当に死ぬかと思った。それに、あの程度ならしばらく痺れるだけだろう。
もう一つ気になることがある。イッシュの中央。ハッキリとは見えなかったが、広場のようなものがあった。薄い膜のようなものに覆われていて近づけそうに無かったが。蜃気楼のように揺らぐこともあったので幻かともおもってしまう。というか、その後耐え切れなくなって意識が飛びそうになった。
「もう一度、撃っていいよね」
「リオ……」
流石にメリープだけじゃ足を引きずるのでリオルを出していたアル。ニックネームはジョーカー。そのぐらい強く勇敢な男になってほしいという意味がこめられているが、現在の状況で少し弱虫なところがあるので、今後の成長次第だ。
ちなみにメリープのウールはメス。
「えっと、たしかこの辺……」
おぼろげな記憶を頼りにカトレアの別荘を目指す。最近、四天王になったばかりで忙しいらしいと最近シロナから聞いたが、シキミから聞いた話ではいるかもしれない。
そういえば、執事っぽい人がいたようないなかったような……
「そこにいるのはもしやシロナ様?」
突然声が聞こえた。振り向くと、件のカトレアさんだった。何故か枕を持ってるのが気になる。
「それに、アルさんもいらしたのですか?」
「ええっと、お久しぶりです」
「はい。それでシロナ様は……」
「スイマセン、色々と事情が」
「大丈夫です、どうせまた無茶をなさったのでしょう。もしくは人の話を聞いていなかったのか、ちょっとやりすぎたとかその辺でしょうから」
「……流石です」
カトレアさんに案内されてシロナを運ぶアル。とりあえず、途中でシロナの意識は戻って文句を言いはじめるのだが、子供をそんな無茶な方法で運ぶなと逆に起こられるのだった。
「それよりも、よく懐いていますねアルさんのポケモンたちは」
「まだ捕まえて日が浅いって言うか、この二匹は捕まえたばかりですけど」
「それでもコレだけ懐いているのは理由があるんでしょう。シロナ様も部屋の隅でいじけていないでコチラにいらしてはいかがです? 美味しい紅茶とお菓子がありますわよ」
「いらない……あと様付けやめて」
「……そうですか、大好物の品々を――」
「食べます」
「はじめからそういえば言いのです」
アルは驚愕の顔をしていた。あの、シロナさんをコントロールできる人がいることに。
もっとも、その後は結局ふて寝を始めるシロナだった。
「幼児退行までして……アルコールを飲ませすぎたのかしら?」
「え、飲ませました?」
「手っ取り早く紅茶に混ぜました。早く立ち直らせるのには有効ですから。安心してください。アルさんのには入れていません。もちろんコチラにも」
そう言って自分の紅茶を指差す。
「……あの、一つ聞きたい事があるんですけどいいですか」
「なんでしょうか?」
「ダークポケモンって聞いたことがありますか?」
「ヘルガーやデルビルのことですか?」
「そうじゃなくて、ええと……」
「あなたが何を聞きたいのか分かりました。ですが、シロナに聞いてみたほうが早いのでは?」
「いえ、たぶんですけど教えてくれません」
思い出すのは心の空洞でのシロナの顔。時々、シロナは過保護になる。というより、何かに関わらせたくないという感覚がする。
「少なくとも、僕が旅に出るくらいまでには……ううん、もっと後になると思う」
「もうすこし、自分が育てた子を信じてもいいものを……忙しい人ですから、あまり関われていないとでも思っているのかもしれませんね。まずダークポケモンですが既にいないはずです。あなたがそれを知っているということは何かあったのですね」
「うん……」
「ポケモンリーグの方でも呼びかけておきます。詳しいことは知らないので教えてあげられませんが、他には?」
「リライブって何か知っていますか?」
「ダークポケモンを元に戻すこと、だと思います。現在研究が進んでいるとか」
「それじゃあ、コレは?」
アルは立ち上がると、目を閉じて神経を集中させる。感覚をたどり、ツララに力を送り込んだあのときのように……
「なるほど、他人の気がしなかったのはこれですね」
カトレアはサイキッカーの類。通常の人とは違う力をもつ。その点で言えばアルの同類という見方もある。
「……なるほど、リライブの力。セレビィというポケモンが持っていると聞きましたが人の身で……いえ、世界は広いですからもっと奇特な力を持つ人もいますが」
「やっぱりコレがそうなんですね」
「怖いですか?」
「……少し」
「私も、自分の力が怖かった時期がありますが、あなたはまだ小さい。コレからゆっくりとその力に向き合えばいいんですよ」
「はい……それで、できれば」
「分かっていますよ。彼女には言わないでおきます。不器用な人ですからね」
***
夜、アルはポケモンたちと一緒に外に出ていた。
「なあみんな……これから、ボクは何をすればいいのかな」
不思議な力がある。本当の両親もいない。ホント、自分がなんなのかわからない。少なくとも一般的な7才とはかけ離れている。
「グレ!」
「ツララ……」
頭に乗ってきて、大丈夫だからと励ますように声を出すツララ。
「メー」
「リオッ」
マイペースだが、優しい子のウール。少し気弱だけど、ジョーカーだって頑張れる子だ。怪我が直ったあと、ツララ達と一緒にトレーニングをしていた時は一番頑張っていた。
「うん、分からないけど分からないなりに……頑張ってみようと思う」
空に浮かぶ星を眺めながら、アルは未来に思いをはせていた。
ポケモンコロシアムXDは7才編と大体同時期ぐらいのつもりです。
話にはあまり絡んでこないかもですが。
ポケモンはしばらくこの3匹になるので次回から一気に時間が飛ぶかもです。
あーヒロイン兼ライバルポジションの人も考えてあるんですが、いつになったら出せることやら。
ちなみに、リライブ方法はリライブ専用技でひんしにするみたいなイメージです。それ以外だと、HP0になったら1に戻って復活みたいなゾンビ的演出。
オリ技になってしまいますが、リライブ以外では使わないので。
名前のイメージは「リライブボール」まんまですね。
タグを追加した方がいい場合、感想でコメントください。
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第5話・出会いと新天地
またしばらくかけませんが。
やっと、物語のキーキャラを出せた……
カトレアの別荘で数日を過ごしていたアル達だったが、シロナに急な仕事が入りライモンシティに行くこととなった。
「うう……海底遺跡が」
「折角、装備とか整えましたからねー無駄になって残念です」
サザナミにある海底遺跡を嬉々として調べようとしていたシロナだが、遊んでいるのなら仕事しろと協会のほうから連絡があり、泣く泣くライモンへ文字通り飛んできたのだ。
アルとしては、シキミ辺りが絡み酒にあった腹いせに報告したのではないかと思っている。ちなみに、本当はシンオウでチャンピオン業務代理のヒカリがカトレアと連絡を取り合った際に、シロナが飲酒でハメを外しすぎたのを知ってしまったからである。シンオウの殿堂入りトレーナーで暇だったのが自分だけだったからという不運な結果である。
「仕方が無いわね……ミュージカル頑張るわよ」
「あ、ボクはその間観覧車にでも乗っているので――」
「残念ね、ライモンの大観覧車は二人乗り専用よ」
「食い気味に言わないでください!」
なんでそんな決まりがあるんですか! 思わず咲けばずにはいられないアルだった。
実は最初からアルの頭にのっていたツララも最近のダメナさんっぷりに白い目だった。
「ちゃんとゲストとしての仕事はするわよ」
「その後ハメを外しすぎないか心配なんですよ」
***
結果的に言うと、トゲキッスを使う辺り本気の演技だった。久しぶりな感じのする真面目なシロナさんにアルとツララはホッとするのだった。ホッとするのは良かったのだが、ライモンのポケモンミュージカルはポケモン主体なのに、何故シロナさんまでドレスを本気で着ているんだろうか……その答えはシロナさん本人にしか分かりえない。
演技の方はトゲキッスが派手かつ、観客へのサービス精神旺盛。まあ、シンオウのコンテストを参考に動いていたので、そうなるのか。
バックで演奏していた人たちやコロトックらもかなり力が入っていた。
そろそろシロナさんも出てくるころかな、そう思ってアルは控え室に向かおうとするが……眼の前には肉の壁がある。
どうやら、サインを貰おうと人が詰め掛けてしまったようだ。後ろからも続々ときそうで、ここにいるとつぶれるかも知れない。
「ツララ、出るぞ」
「グレ」
***
「なんとか助かったな」
「グレェ……」
まるで、カビゴンの群れのようだった。出てくる感想がそれだけだったことに恐怖を感じてほしい。そう呟きながらゆらゆらと歩いてきたのはサブウェイ。
「地下鉄……だよね」
「グレ」
ライモンシティだけでなく、イッシュの各地に延びているらしい地下鉄。ポケモンリーグなどにも通じているらしい。イッシュもそれなりに広いから料金は高そうだが。
「おや、どうかなされましたか?」
路線図をみて固まっているアルに声がかかった。誰だろうと振り向いてみると、黒い服を着た長身の男性だった。服の感じからすると駅の職員のようだ。
「迷子にでもなられましたか?」
「い、いえ保護者の人が用事で動けないので目立つ場所にいようかと」
「おや、そうでしたか。まだ小さいのにしっかりした考えをお持ちで」
職業柄なのか、やけに丁寧な喋り方だった。あと、なんか目つきが怖いとアルは少し後ずさっている。
というか、表情筋が固まっているのではないだろうかと思う。
「またいずれ会うこともあるでしょう。それでは」
「さ、さようなら」
できればもう会いたくない雰囲気をお持ちなんですけど、そう呟きたかったアルであった。
なんというか、シロナレベルのキャラクターの濃さを持っていたのだ。絶対にトレーナーを兼任している。コンテスト専門のコーディネーターはイッシュにはいないから間違いない。
ポケモンソムリエとかいうのはいるらしいが、アレは違うだろうなぁと、どこか遠いところで思考していた。
***
「こないなぁ」
「グレー」
そろそろツララも融けるんじゃないかと思ってしまう。いや、融けないけど。
「ふむ、全国図鑑ナンバー471番のグレイシアか。いい毛並みだ」
「おわっ!?」
「ぐ、グレッ!?」
いつのまにか、白衣を着た同い年くらいの女の子が後ろにいた。というか、誰だろうとアルは目を白黒させていた。
「別に驚くことではないじゃないか」
「驚くよ! ポッポ肌になるよ!!」
「本当にブツブツだな」
一体なんなんだこの子は……思わず脱力するアルであった。
ポッポ肌という発言に、肌を触るのもどうかと思う。というか、撫でないでほしい。
と、そこで少女の横にいたポケモンへ目が向いた。
「ゴビィ」
「ゴビット?」
「私のゴビット……ゴレムだ」
人型のゴーストタイプのポケモン、ゴビット。イッシュに生息しているが、本当にゴーストかよと言いたくなる見た目だ。
「袖を引っ張るな……ああ、すまんなゴレム、急がねばいけなかったな。それじゃあまたいつか会うこともあるだろう。またな」
「いや……それ流行っているのか?」
***
おかしな外見や喋り方の少女が何処かに行ってしまい、再び路線図の前で待つ。そろそろ自分から戻ってもいいかもしれないが、肉の壁が怖い。
悩んでいても仕方が無いし、早速戻ろうかとおもったのだが……なんか視線を感じる。
「えっと、何か用ですか?」
「…………グレイシア、はじめてみた」
「あ、うん」
また変な女の子が現れたっていうか、さっきの子じゃないですか。
「さっきも会ったよね?」
「……?」
「いや、首を傾げられても」
隣にはゴレムとか呼ばれていたゴビットもいる。こっちは普通に自分のことを覚えているらしく、律儀にお辞儀をした。出来たやつだ。
「…………あっちの子が出ていたのね」
「えっと?」
「……気にしないで。こっちのこと。それよりもいい毛並みのグレイシア」
ツッコミたい。さっきもそれ言ったよねってツッコミたい。というか別人名キャラにしたいならその白衣を脱げ。
「……残念だけど、帰らなくちゃ。ゴレム、肩車」
「ゴビッ」
子供なら普通に乗れるだろうが、それでいいのだろうかと少し疑問に思ったがアルは少女は去っていくのをみてホッとしたのだった。
「ああ、またいつか会いましょう」
「だから流行っているのかそれ!?」
***
変な人が多い日だ……本当に、疲れたとアルは遠い目をしていた。もう、ゴールしてもいいよね……ジラーチ様にお願いすれば願い事はかなうよね。現実逃避も始まったようだ。
それほどまでにキャラが濃かった少女。相手をする時間は短かったが疲れた。ツララもこれ以上変なのに関わりたくないのかボールにこもってしまった。
「あー……デオキシスでも降って来ないかな」
「もれなくレックウザも降って来るけどそれでもいいのかしら」
「……シロナさん、遅かったですね」
「山男がね、肉の壁を作っているのよ」
「…………帰りたい」
「そうね」
二人はそろそろ沈み始めた夕日をどこか遠い目で見つめ続けるのだった。
長いようで短かったイッシュ滞在はこうして幕を閉じるのであった。
***
シロナたちが遠い目をしている頃、イッシュの何処かにある研究所。そこにアルがであった少女がいた。
「おお、リリーよ、帰っておったのか」
「……お爺様、ですか」
「いい素体は見つかったのか?」
「…………はい。ですが、少々厄介かと――なにせ、チャンピオンシロナの保護下にありますから」
「む、切り替わったようじゃな」
「あなたがそうしたのでしょう? リリーに植えつけたダークオーラ。お忘れじゃないでしょうに」
「……まあいい、それでその話は本当かね」
「ええ、今日一日観察していましたが間違いないようです。ロケット団の残党の証言からするに、彼がリライブを行った存在でもありますゆえ、手を打たねばなりませんが」
「チャンピオンめ……しばらくは様子を見よう。もし我らの邪魔をするときは容赦なく潰す」
老人と少女が一人ずつ。ゴビットのゴレムは少女を心配そうに見つめるだけであった。
***
「もうすぐアルの誕生日ね」
「あ、そういえばそうでしたね……」
帰りの飛行機のなか、シロナとの会話で自分の誕生日を思い出したようだった。
「ヒカリに悪いことしちゃったし、今年はシンオウでパーティー開こうかしら」
「でも隊長さんたちは?」
「発掘も一段落つきそうだし、一旦引き上げるとは聞いていたんだけど……一度連絡を取ってみましょう。それから考えるわ」
「……結局先送り」
「なにか言った?」
「いえ、何も」
空港に到着した後、連絡を取ってみるとみんそれぞれ故郷に帰る予定だそうだ。隊長の家族も心配しているだろうし、久々に家族サービスに専念したいとのことで、今年はシンオウで誕生日を迎えることになりそうだとアルは思っていた。
「そういえば、ヒカリさんって1、2年ぐらい前に殿堂入りした人ですよね?」
「ええ、ホウエンやジョウト……フィオレ地方とかを旅していてね、たまに連絡も取り合っているのよ。最近はコンテストキャラバンを任せられていることもあるって聞くわね」
「コンテストが広まっていない地方とかで公演を行うサーカスみたいな人たちのことでしたっけ?」
「ええ、地方によってはトレーナーがいなかったりするところもあるから交流ということでそういう団体が結成されていることも多いのよ。最近はジョウトのアルトマーレに行ったって聞いたわね」
「で、チャンピオン業務を押し付けてしまったと」
「……ああ、それで協会にばれたのね」
「お酒はほどほどにしてくださいね」
今頃、そのヒカリさんは怒っているんだろうなぁ……少し会いたくなくなったアルであった。
キャラバンの話は聞き流してください。
自分のオリ設定みたいなものです。
アニメで似たようなことはあったので大丈夫かなと。
……デントさんの正確はアニメ版かゲーム版どっちの方が面白いだろうか? 出すとしたらかなり先ですが。
ちなみに、今までのゲーム主人公は一応、トレーナー以外の職業にも就いている設定です。
知りたい人がいたら次回のあとがきにでも書きます。
出せるか分からない人が多いので……
一応、誰が主人公だったのかというのだけは書いておきます。
FRLG レッド (女主人公、通称リーフも一応いる)
RSE ユウキ
DPt ヒカリ
HGSS ヒビキ
BW トウコ
BW2 キョウヘイ
なお、今書いている話だとBWは始まる前です。
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バースデー編
第6話・若葉な人
バトルに重点を置いてみましたが、いかがでしょうか。
感想をいただけますとうれしいです。
空港に到着したアルたち。シロナが手続きをしている最中、暇だなぁと呟きながらロビーでアルとツララは天井を眺めていた。天井の両端が開いており、鳥ポケモンが時折飛んできてそれなりに眺め続けられる光景だった。
「あ、色違い……違うか」
珍しいという色違いのポケモン――飛んでいたのはムックル――を見たかと思ったら、光の当たり加減でそう見えただけだった。時刻は午後5時、夕日のせいだったようである。
「……シロナさん遅いなぁ」
「グゥレ……」
ツララも眠くなってきたのかウトウトし始めている。
「ボールに戻る?」
「グウレ」
戻って休んでもらおうとアルはウォレットチェーンに縮小してつけていたボールを取り出すが、ツララは首を振って断った。
「なら、もうちょっと待とうか」
「グレ」
手続きに手間取っているのか時間が過ぎていく。ちょっと遅すぎるかな。と、アルがそう思い探しに行こうと席を立ったが何故か妙な視線を感じて後ろを振り向いた。
視線を向けていたのは10代後半と思われる女性だった。薄茶色のロングヘアで白い帽子をかぶっている。手に持っているのは旧型のポケモン図鑑だった。
「んー……」
「えっと、何か用ですか?」
「……さぁ?」
なんというか、怪しい。怪しすぎる。というかなんでポケモン図鑑を自分に向けるのだろうとアルは困惑していた。
「あのぉそのポケモン図鑑を向けるのやめてくれますか?」
「ふふふ、これはポケモン図鑑じゃないよ」
「えー?」
どうみても旧型だがポケモン図鑑である。
「これはね、私がポケモン図鑑を改造して作ったミュウ探知機だよ!! 科学の力ってスゲー!!」
「……」
アルの中では怪しい人物認定決定。どれくらい怪しいかというと、噂に聞く『きんのたまおじさん』ぐらいに。
というより自分で言うなと指摘したい衝動を抑えることに専念しよう。なんか不毛な気がする。
「説明しよう!」
いや、聞きたく無いですと拒否しようにも聞いてくれない。アルは少し涙目だった。
「この探知機は様々なポケモンの遺伝子データを組み込むことによりミュウを探知するという機能を擬似的にだが可能にしているの! 全てのポケモンの遺伝子を持つといわれているミュウだからこそこの方法で探知できると私は推測しているわ! もっとも、現在の機能では限界もあるし、そもそも全ての遺伝子というより全てのポケモンに通じる遺伝子を持っているんじゃないかというのが学会の意見なんだよね。アルセウスっていう神様みたいなポケモンがいるって言う意見もあるぐらいだし、ポケモンの祖先の研究はまだ解明されていないことだらけ。そのくせ化石ポケモンの研究ははかどっているし……おおっと、話がずれたわね。まあ現在300種類ぐらいの遺伝子情報が組み込まれていて、その共通点などをうまく絞ってミュウを探知していたんだけど……なんであなたに反応しているのかしらね?」
「人に反応している時点でポンコツだと思うんですけど」
「…………ふふふ、私を怒らせると怖いわよ」
「え、ちょ……人さらいー!?」
「あら、アルたちは?」
アルが何処かへ引きずられた数分後、シロナたちはあるのいた場所に来たのだが……タイミングが悪いとしか言いようがなかった。
***
「勝負は一対一。どちらかが戦闘不能になった時点で決着よ」
どうしてこうなったと頭を抱えたい気分のアル。『私の発明を馬鹿にしたなぁ!』と怒る女性を何とかなだめようとするも、結局バトルで決着をつけるという謎の展開に頭をか硬い気分になったのだ。大事というか、二回言いたい気分なので二回言った。
「さあ、行きなさいトロピウス!!」
「いってツララ……ボクがグレイシアを持っているのは分かっているのにトロピウスですか?」
「ふふふ、子供相手ならこの程度のハンデで十分よ」
お、大人気ない……
アルは素直にそう思ったが口には出さなかった。
「トロピウス、かげぶんしん!」
「ツララ、バリアーを張れ!!」
女性の指示を受け、トロピウスがツララを囲むようにかげぶんしんをする。
「エアスラッシュ!」
周りのトロピウスが羽をたたみ、攻撃の姿勢に入る。本体は一つだが、かなり完成度の高いかげぶんしんだった。アルにもツララにも本体を見分ける術がない。
「あられを撃ってくれ!」
「グレッ」
指示により、エネルギーの球を上に撃ち出すツララ。一旦、自分の戦いやすいフィールドにしてからの方がやりやすい。あられ状態になったフィールド。ゆきがくれのとくせいもあり、なんとかツララは攻撃を回避していた。
(……エアスラッシュになんであんなに時間がかかるんだろう?)
普通、エアスラッシュは出すまでが速い技だ。あられを使うことのできる暇があるのはおかしい。
「かげ……かげぶんしんなのに影がある?」
「あら、鋭いわね」
そう、通常は本体を除いて影が見えなくなるかげぶんしん。完成度が高いとは思っていたが……
「チャンピオンクラスのトレーナー?」
「これでも、カントーとオレンジ諸島では殿堂入りした事もあるんだよね。だからトロピウスぐらいでこっちはちょうどいいの」
「……」
アルはうつむき始めた。女性にはそれが諦めたようにも見えたのだが……
「…………なら、型にはまっていちゃだめだよね」
「へ?」
アルは一言、女性には理解できない何かを言った。
「ツララ、もう一度バリアー!」
「グレッ」
再びバリアーの重ねがけ。そして、普通は考えられないような方法に出た。
「れいとうビームを地面に向かって撃て!!」
その指示通り、地面に向かってれいとうビームを放ったツララ。その威力で一気に上へと飛んだ。ちなみに、シキミの別荘で彼女からアドバイスを貰い、こおりのつぶては忘れさせてれいとうビームを覚えさせている。技マシンを借りていたのだ。
「ええ!?」
「めざめるパワー・散弾!!」
複数個放つことも可能なめざめるパワー。一つ辺りの威力を小さくすることで散弾のように発射する技能。コツを掴めば簡単だが、普通の子供はその発想にたどり着かないと女性は目を白黒させていた。
「……分身が全部消えちゃったみたいだね。おまけに炎タイプ……厄介な戦法を取るね」
女性は何かを考えるしぐさをとり、真っ直ぐアルの方を向いた。
「なら、ちょっと本気出すよ……にほんばれ!!」
「ロッ!!」
トロピウスが咆哮を上げる。それに答えるかのごとくあたりに強い日差しが降り注ぎ始めた。
「あられが消された!?」
「まだまだ!! かげぶんしん」
先ほどの倍以上。円形に取り囲むのではなく、周囲にドーム状の配置でツララを取り囲む。
「回転しながらめざめるパワー!!」
「グレッ」
体を回転させめざめるパワーを打ち出す。だが、一つの分身に当たる度にその分身が二つに分かれ、二つの分身となって現れる。
「ま、まだふえるのか!? なら、もう一度あられ!」
「グゥレェ!!」
力をこめて再びあられを使おうとするも、効果は現れない。
「な、なんで!?」
「ああ、それはね……こういうことよ」
トロピウスの動きが少しだけ遅くなる。すると、エアスラッシュによりあられの発動前の球が滅多切りにされていた。
「さーて、そろそろ終わらせるわよ。なんせ私のトロピウスのとくせいはサンパワー。時間かけすぎると体力が減るからね。いきなさい、ソーラービーム」
トロピウスの口に光が集まっていく。この状況、一瞬でも判断が遅れれば終わる。アルは何か対策はないか考える。状況を打破する一手、めざめるパワー……火力不足。バリアー……物理技以外には効果が期待できない。あられ……いや、ゆきがくれに期待するのは博打過ぎる。なにより、速度が足りない。なら、どうすればいい?
まけたくない。チャンピオンクラス。勝てないのが当然だ、でも諦めたくないのだ。勝ちたいのだ。なら、方法は一つ。この状況で逆転の一手を見つけ出せ。急げ、時間がない。
残った技はれいとうビームだ。普通に撃ち合っても負ける。なら、どうすればいい。今、もっとも欲しいのは、ソーラービームを防げる盾だ……ああ、ならできるじゃないか。そうだ。方法があった。
アルの目線の先には先ほど、れいとうビームを地面に撃った時にできていた氷塊があった。それは光を反射して輝いているのだった。
***
アルが作戦を考えている時間、それは数秒あるかないか程度だった。だが、その時間で今できる範囲で一番先頭続行できる可能性の高い方法、それは……
「ツララ! れいとうビームを斜め下に撃て!!」
「グレッ」
「無駄よ、ソーラービーム発射!!」
「トロォォォ!!」
光がトロピウスの口からあふれ出る。サンパワーの力も加わり、とてつもない威力でソーラービームは発射された。そして、ツララに直撃する……かと思われた。
「ウソでしょ?」
ツララの立っていたハズの少し前、そこで光を受けた何かが爆発した。いや、ソーラービームをいくつもの光の筋に分断させたというべきか。
そこにあったのは氷。瞬時に作られた氷の盾だ。この内部でソーラービームが色々な角度に反射されたのだろう。もっとも、すぐに融けてしまったようだが。
これこそ、アルの立てた作戦。氷の盾を作ることで、ソーラービームの威力を弱めようと考えたのだ。うまく成功し、ツララ自身も反動を使い後ろに退避。
「凄いわね……でも、大分体力は少なくなったみたいね」
女性の言うとおり、ツララは既にバテている。アルも集中力が切れ始めていた。無理もない。一時的に体感時間を引き延ばすという荒業を無意識にだが小さいその身で行ってしまっているのだ。
「まだ、日差しは強いまま……これでとどめ――」
「させると思う?」
「――え?」
何故か女性の後ろにシロナが立っていた。
***
「まったく貴女はどうしてそういつもいつも暴走するのよ」
「す、スイマセン……」
「オーキド博士には連絡しておきますからね。ちょうどシンオウにいらっしゃると聞いていますし」
「あああ!? やめてくださいシロナさん!!」
「リーフ、いい加減にしないとナナカマド博士も呼びますよ」
「や、やめて下さい!!」
「……ええ、分かったわ。呼ぶのはやめます」
「あ、ありがとうございます」
「既にあなたの後ろにいるんですもの」
「リーフ君、話は後で聞かせてもらおう」
「若いのはいい事なのじゃが……流石に7才の少年相手に大人気なさすぎじゃのう」
「お、お許しをぉぉぉぉ」
実は、シロナは手続きの最中に博士達と出くわし、折角だからと一緒に行動をし始めたのだが、有名人が集まっていたせいか、色々と時間がかかってしまった。
アルを探しているうちに、近くのバトル場でバトルをしている人たちがいると聞き、もしかしてと思いやってきた次第だ。
ちなみに、疲れたのかアルは既にまぶたが落ちようとしていた。
「…………次は勝つ」
結局一歩届かなかったとか、シロナの知り合いだったのかとか色々言いたいことはあるが、最終的に眠気に負けるのだった。
「メー」
ツララは既にボールに戻っていたが、ウールが自分からボールを飛び出し、アルを上に乗せた。
「……メー」
ボールの中から感じたバトルの光景。ウール自身の目には炎が燃えていた。ツララだけじゃなく、自分も戦いたいと。
熱血系女子、メリープのウールが活躍する日も近いかも知れない。
「お仕置きはやめてェェェッ」
リーフの叫び声がなければ感動的だったかもしれない光景である。
というわけで、FRLG女主人公のリーフでした。
ゲーム上でも仮にですが、この名前がデフォっぽいようです。
今現在、高校生ぐらいという設定です。レッドも同様。
レッドの数年後に殿堂入りし、紆余曲折あった後オーキド博士の助手として働いているという設定。
ミュウを追いかけており、暴走すると本文のように周りを巻き込む人というイメージで書いています。
詳しい設定はまた本編での活躍次第で明かすと思います。
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第7話・ナナカマド研究所
ようやく完成しました。
いえ、学校でテストがあったり検定があったり……入試があったり。
内定は貰っているのでちょくちょく更新できるかも……この時期忙しいですが。
予約投稿したら何故か二重に投稿されてしまったので修正。
アルとリーフの戦いのあと、一行はナナカマド博士の研究所へと向かっていた。道中は車に揺られていたわけだが、アルは体力が切れて眠ったままだった。なお、リーフは……
「スイマセンスイマセンスイマセンスイマセン」
このように、怒られることに恐がっていた。オーキド博士以上に怒ると怖いナナカマド博士に色々言われたのが答えたようだ。
研究所にあるマサゴタウンに到着する頃になってようやくあるの目が開き始めた。
「……ここ、どこ?」
「ナナカマド博士の研究所。それにしても全然起きないから心配しちゃったわ」
「相手のレベルが高すぎて……なんか頭痛い」
「まあ、無理しないでね。彼女にもきつく言っておくから」
「かのじょ……ああ、あの人…………なんで顔青いんだろう?」
アルはリーフの顔を見つけたので、思わず見てしまったのだが……病的に真っ青だった。
「博士達に色々と言われたみたいね」
「なんか、死にそうだけど……」
「平気よ。吹雪の中をミニスカノースリーブでマラソンできるくらいですから」
「でたらめってあるんだなぁ」
そんなことをしでかす人を死に掛けの顔にするとは……博士達は一体何を……そう考えられずにはいられないアルだった。
「まあ自業自得だし、しょうがないわよ。さてと、それじゃあ行きましょうか」
「その前にシロナさん、何か忘れていませんか?」
「忘れていること? なんだったかしらヒカリ……ヒカリ?」
いつの間にか、後ろに見知らぬ女性が立っていた。人によってはまだ学生として生活していてもおかしくないくらいの年齢の人。まあ、名前で思い出したがシロナさんを打ち破ったこともある殿堂入りトレーナー、ヒカリさん。そういえば、チャンピオン代行を押し付けられていたっけ……
「ひ、ヒカリさん……」
「百歩譲ってお土産を用意していますよね?」
「……あ」
「あれ、前に買いませんでしたっけ?」
牧場で買っていたはずですよね?
アルの記憶では、確かに牧場で大量購入のお土産があった。
「実家に全部送っちゃった……てへぺ「言わせません。ギラちゃん、シャドーダイブ」キャ――!?」
突然、シロナが影に飲み込まれたかと思うと、悲鳴を残して消えていた。
何が起こったのかわからなかった。だが、あえて言うなら超スピードとか瞬間移動とかそんなチャチなものじゃなかった。もっと恐ろしいものを見た気がするアルであった。
というかなんか伝説のポケモンっぽい影が見えたのだが、気のせいだろうか?
「さて、しばらくシロナさんには反省してもらうとして、始めましてかな? アル君」
「は、はい……はじめまして」
「そんなに緊張しなくてもいいのに」
いえ、あのドデカイドラゴンみたいな影を警戒しているんです。とは言えないアルであった。
たぶん、前に資料で見たあれだよなぁとかは思っていない。決して。
「久しぶりだのうヒカリ君。息災であったか?」
「ナナカマド博士。お久しぶりです。オーキド博士もいらっしゃったのですか?」
「アルトマーレでついこの間顔を合わせたばかりじゃけどな」
「と、ところで……コウキは」
「それなんだがのう……コウキは今、オーレ地方に行っておって連絡が取れんのだ」
「そうなんですか…………ハァ」
ヒカリさんは目に見えて落ち込んでいた。話に出てきているコウキという人が気になり、ついナナカマド博士にどういう人なんですか? と、聞いてしまった。
「ワシの助手でな。普段は研究室におるのだが……最近、オーレ地方がキナ臭くなっていての、協会からの依頼で調査に向かっておるのだよ」
後で聞いた話だけど、トレーナーとしての実力も殿堂入りクラス(本人は研究職の方が性にあっているため、ジム戦には挑戦していない)らしい。
そういえば、実力のあるトレーナーはポケモン協会から依頼を受けて活動することもあるって聞いたことがあるような……
「あれ? でもなんでそれでヒカリさんが落ち込んで……」
「こ、子供には関係ないの!!」
怒鳴られたけど、ヒカリさんは顔が真っ赤だった。というか、実際5歳前後ぐらいしか歳は離れていないような……アレ? 結構離れているの? どっち?
「このように、同年代とあまり関わっていないせいなのか少しズレておっての」
「シロナさんに育てられただけのことはありますね……」
なんか、失礼なことを言われたような?
「ところで、ジュンは近くまできているようだが?」
「絶対に呼ばないでください。うるさいので」
なんだ? ものすごい怒気が……
「これこれ、アル君が怯えておる」
「やだっわたしったら」
なにか、見てはいけないものを見てしまった気がする今日この頃。
◇◇◇
研究所の裏、牧場のような場所に沢山のポケモンたちがいた。
「す、凄い……」
「ここの一部のポケモンたちはヒカリ君、コウキ君、ジュン君が捕まえてきた。ポケモンはまだまだ謎の多い生き物。研究に協力してもらっているという考えの下、野生に近い環境を作ってある。これはオーキド君の研究所も同じだったハズだ」
「その通りじゃ。もっとも、あの三人は少々個性的過ぎるからの……預けられているポケモンも個性的で…………たまにマルマインが自爆したり大爆発したり……ベトベトンが飛び掛ってきたり」
「大変だが、やりがいはある」
スルーした!? ところで、あの三人ってどなた?
「うむ、ワシの孫のグリーンを始め、君と戦ったリーフ君、そしてあの有名なレッド君の三人じゃ。三人ともワシのところからポケモンを貰って旅立ったからの」
レッド、その名前は聞いたことがある。チャンピオン達の中でもポケモンマスターにもっとも近い人物といわれている人だ。旅が好きで滅多に会える人じゃないとかなんとか。
吹雪の中を半袖で佇んでいるとか、実は幽霊とか半ば都市伝説化している。
「そういえば、最近連絡があって……たしか今は…………ランセ地方じゃっけ?」
「オーキド君、私に聞かれても困るのだが」
とりあえず、生きてはいるのか……というか、ランセ地方ってどこ?
「話を戻すがの、とにかくこの三人はトレーナーとして優秀なのじゃが……知っての通り、リーフ君はあのように暴走する上、捕まえるポケモンは基本的にタフな奴らばかりでの……トレーナーに似たのか一直線なのじゃよ」
うわぁ……ケンタロスとか大量に捕まえていませんよね? 暴走癖とか大変だなぁ。
「グリーンは最近はまともになったが……トレーナーとして旅をしていた頃はそれはそれはナルシストな奴での」
「自分の孫をナルシスト呼ばわりですか」
「それだけ、痛々しかったということかの」
身内にまでこんなこと言われるなんて……
「今でこそ、ジムリーダとして頑張っておるのじゃが……本人は育成の腕がいいからレベルが高くて……」
「まあ、ポケモンたちのパワーバランスの調整が難しいというところかな。ウチも似たような部分がある。もっとも、三人のポケモンのレベルはそれほど違いは無いからオーキド君のところよりはマシだろう」
いったい、どんなカオスな状況なのだろうかオーキド研究所。というか、オーキド博士がポケモン川柳とかの仕事の方が目立つのは帰りたくないからなの?
「で、最後にレッド君…………正直、規格外なのが多いのじゃ」
曰く、特異個体と呼んだほうがいいのではないかという異常っぷり。戦闘中に急に力を増すなんて日常茶飯事。複数のワザを合成させたりもお手の物。
トレーナーが育てたりすることで、その手の技能は身に付けることは出来るが、覚えられない技を覚えている謎個体まで見つける始末。
類は友を呼ぶとはこのことかとは、レッドさんが殿堂入りしたときにオーキド博士がリーグに駆けつけたときの感想である。
もっとも、それは今思い返せば片鱗はあったぐらいの話で、殿堂入りのときはそこまでではなかったというのが恐ろしいところ。今はどんな感じなのか非常に気になる。
「昔はあんなに素直な子じゃった……何処で何に影響されたのやら…………」
ものすごく、遠い目をした博士がなんか悲しかった。
ちなみに、後でレッドと同郷のリーフさんにどんな人か聞いてみたけど、「いや、会った事無いんだよね……何故かニアミスし続けるんだよ」って言っていた。
ますますレッドさんが謎になった。
◇◇◇
「さーて、使用ポケモンは2体まで。準備はいい?」
「はい。よろしくお願いします」
その日の夕方。ヒカリさんにお願いしてポケモン勝負の相手をして貰う事になった。
「いくよ、ジョーカー!」
「いってズガイドス!」
リオルのジョーカーを繰り出すボク。
対するヒカリさんはズガイドス。
まあ、子供相手だから手加減してくれている……リーフさんが大人気ないのが良く分かる。
今回、ツララは出さない。ちゃんとしたバトルをさせていない二体で何処まで戦えるのか試したい。
そこでヒカリさんがバトルの相手をしてくれることになったのだ。
「ズガイドス、とっしん!」
「ジョーカー! カウンター!!」
かなり素早い動きをしていたズガイドス、とっしんはそのまま決まるがジョーカーは吹き飛ばされる前に、足を蹴り上げ、とっしんのパワーを加えた蹴りを放つ。
「ズガッ!?」
「――リッ……り、リオ」
あのズガイドス、かなり硬い……物理ワザのとっしんの二倍のダメージ、いや効果抜群だから4倍くらいにはなっているし、とっしんの反動だってあるはずなのに……
「ジョーカー! つるぎのまい!」
威力を上げて一気に叩く!
「リオッ!」
攻撃力を格段に高めてくれるつるぎのまい。残りの使えるワザは『はっけい』と『でんこうせっか』……ここは、いまひとつなでんこうせっかよりはっけいで効果抜群の威力を狙う。
「はっけい!」
「リ――」
「ズガイドス……しねんのずつき」
「ズガッ!!」
辺り空気が変わった。ズガイドスは能力強化のワザを使っていないのに、纏う力が大きくなっているような……
「私ならそこはでんこうせっかを使うよ……威力が低くても、先制攻撃できる利点は大きい。まあ、勝ち急ぐのもまだ子供の証拠。とりあえず一勝貰うね」
「――え」
気がつかなかった。はっけいを撃とうとしていたジョーカーがいつの間にか倒れていた。
「じょ、ジョーカー!?」
後で聞いた話になるが、ヒカリさんもレッドさんと同じく戦闘中に能力が変動するタイプのポケモンの使い手。彼とは違い、育てていく上でそうなったらしいが。
シロナさんも急激に能力変動するヒカリさんのポケモンには苦しめられたらしい。
「さて、次のポケモンをどうぞ」
「行ってくれウール!」
「メリィィィ!!」
メリープのウール対ズガイドス、本番はここからだった。
次回に続く的状況。
リーフとレッドは何故か顔を会わせない。電話でもダメ。電波が急に悪くなる。
そんなネタでした。
一旦、ISかリリなのの二次を書いていようかと思っている次第。
ISの場合非転生(のほほんさんヒロイン)
リリなのだと転生者複数系(ユーノ君大活躍)
試し書きだけしとくか……
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第8話・決意の夜
具体的には、文章力が足りなくてバトル描写が……今後も、前に投稿した部分を直すときがあると思います。
時系列を整理したので、少し修正を加えた話がありますが、基本的には流れ変わっていないです。
再びシロナファンの方、スイマセン。
リオルのジョーカーがズガイドスのしねんのずつきに倒れ、僕はメリープのウールを繰り出した。
ズガイドスは岩タイプ。電気技は効くけど、地面タイプの技を持っているかもしれない。
「メリープか、ズガイドスは岩タイプだけだし電気技防げないのよねぇ……まあ、それでも力でねじ伏せるのみ!」
「ズガァアアアアアア!!」
チャンピオンクラスのトレーナー、ヒカリさんの一言でズガイドスは咆哮する。いや、それだけじゃない。さっきよりも力を上げている。
ズガイドスって基礎能力を上げる技はあまり覚えないはずなんだけど……これってどういうこと? いや、技マシンの可能性もある。
アルは今までみたポケモンの覚える技を必死に思い出している。
自分よりも格上の相手と戦う上で一番大事なのは情報。用いてくる技を予測して、一手二手先を予測しなければいけない。
「ウール、じゅうでん!!」
「メリメリィ!!」
どんな強化をしたか分からないが、自分も強化をする。ウールの使える技は10まんボルト、たいあたり、じゅうでん、そしてコットンガード。
まともにダメージを与えられるのは10まんボルトのみ。たいあたりは効果が低い。
コットンガードで先に防御を上げるべきであったかもしれないが、おそらくズガイドスの次の攻撃は……
「ズガイドス、とっしんよ!」
隙が出来たところに素早い一撃! そして、でんこうせっか系の先制攻撃技をズガイドスは覚えない。ならば、攻撃までの動作が速いとっしんが来る可能性が高かった。
少し、賭けだったがコレならいける。
「ウール、拡散10まんボルト!!」
「メェリィ!!」
通常、10まんボルトはビームのように一筋の線を描いて放たれる技である。
しかし、このときに放たれたソレはウールを中心に半球状に放たれた。
「ズ、ズガァ!?」
「え、え、どういうこと!?」
いわば、暴発に近い10まんボルトということだ。
特定の方向へ放つ技ではなく、あくまで防御のために用意した攻撃ということ。
とっしんはその特性上、真っ直ぐにしか進めない。こういった、全方位系の攻撃を攻撃行動中に避けるのは難しい。
「コットンガード!」
「メリー」
技に時間がかかるけど、コットンガードは防御力を一気に上げる。
物理に秀でたズガイドス相手なら効果は高い。
「ズガイドス、アイアンヘッドでぶっ飛ばしなさい!」
「ズガァ!」
「メリィ!?」
4つ目の技はアイアンヘッドか……ひるんじゃったけど、防御力も上がっているし、威力はそれほど――
「ウール!?」
「め、メリィ……」
「残念ね、さっきのはきあいだめよ!」
きあいだめ、自分の攻撃による急所へ当たる確立を引き上げる技。
先ほどの咆哮はまさに、気合をいれているかのようだった。
「3つ目はきあいだめだったのか……急所に当たったとか運が悪いよ」
「さあ、ドンドン行くわよ」
「ホント、運が悪いよ…………僕もヒカリさんもね」
「え?」
相手の特性位は覚えていていてほしいが、ヒカリのような普段は冷静でも、バトルになると熱中するタイプは時々、頭から知識が抜け落ちる。
予想外に面白い勝負だったからか、電気タイプのある特性を忘れていた。
「せいでんき。メリープの特性だよ。忘れてたの?」
「え、ああ!? ズガイドス!?」
「ガァァ……」
ズガイドスの体からは小さな電気が迸っており、それがズガイドスの身体を苦しめていた。
動こうとすれば動きを疎外する、状態異常――
「マヒ状態。攻撃は時々失敗するし、すばやさもさがるよね」
「ぬかったか……でも、それはそっちも一緒よ!」
「残念、じゅうでん」
「メリィィィィ!!」
「ズガイドス! しねんのずつき!!」
「ガアアアァァ……ッ!?」
「マヒった!?」
「いっけェェ!! 10まんボルトだ!!」
ウールがチャージした電力、コットンガードの状態でもあるからその毛はいつもより大きくなっている。なおかつ、充電したのでいつもより何倍も輝いている。
その姿、巨大な電気の塊のようだった。
そこから放たれる電撃は、いつもの数倍もの威力を秘めた渾身の一撃。
「スガァアアアアアア!?」
「ああ!?」
「さっきまでの分も合わせて、これで――」
たしかに、強力な一撃、相手の分析、技の繰り出す順番、状況を見極め、最良の一手を導き出すその手腕。その歳にしてはトレーナーとしての実力は高かった。
だが、圧倒的に経験が足りなかった。
「――うそ、だろ?」
「きあいのハチマキ。いい観察眼だけど、まだ小さいから道具とかは見たことないのかな?」
「あ――」
野生のポケモンはきのみを持っていることはあるけれど、こういった道具はあまり使わないから忘れていた。
それに、チャンピオンリーグなどの大会では道具使用禁止ルールが殆どで、アル自身はそういう戦い方をあまり見たことが無いのだ。
ソレゆえの敗北。
ズガイドスは持っている道具を悟られないように、巧妙に隠された場所にハチマキをつけていた。
相手に道具を知られないようにするのもまた、トレーナーの一つの腕。
四天王とチャンピオンという5連続の戦いを制したトレーナーはやはり実力が抜きでている。力だけでなく、経験も。
「さあ、きめちゃって! アイアンヘッド!!」
「ズガァアア!!」
そうして、アルはめのまえが まっくらに なった
◇◇◇
「……」
「さてと、ヒカリ……なにか言い残すことはあるかしら」
「シロナさんって過保護ですね」
「さてと、ルカリオとミカルゲとシビルドンとトゲキッスとグレイシア、そしてガブリアスのメンバーでこれからあなたにフルバトルを挑むわ」
「それガチのときのメンバーじゃないですか!? 前にワタルさんが暴走したときのメンバーですよね!? しかも一度もひんし状態にならなかったメンバーだし!!」
「あら、子供相手に大人気ないバトルしたの誰だったかしら?」
シロナ含め、一部の人しか知らないがアルの出生はかなり特殊である。
そのためなのか、同い年の子供より頭がいい。
だが、そんな彼もまだ7歳――もうすぐ8歳だが――なのである。
まだまだ幼い彼にとって、こうも連続で敗北するのはかなり堪えたようで(といってもその相手は二人ともチャンピオンクラスのトレーナーだが)、今は部屋で寝ている。
「だって、だって……コウキのバカァ!!」
「完全な八つ当たりじゃないのよ!!」
「わぁああああああん!! デートの約束すっぽかされたぁ!!」
「ええい! 私なんて彼氏いないのよ、神様(アルセウス)は私になんの恨みがあるっていうのよ!!」
もっとも、ヒカリはまだ12歳程度。女の子はそういう方面は早熟だが、男はいつまでも少年の心を持つといわれるぐらい遅い。
しかも、ヒカリの意中の相手のコウキは無自覚フラグ魔だからタチが悪い。
シロナも男運の無さはすごい。親しい男性といえば、同じチャンピオンのワタルやミクリ、元チャンピオンのダイゴぐらいだ。それぞれ個性が強すぎる上に、一番まともなダイゴも石マニア。自分の世界に入ると怪獣マニアとかといい勝負である。
そうなるとミクリが次点なのだが、アレと一緒にいるのはつかれる。
ワタルは論外。ファッションセンスが。
「はぁ、デンジは引きこもりだし、オーバはアフロ……どうしてこう、周りの男にまともなのがいないのか」
「シロナさん、アル君で逆光源氏計画しないでくださいよ」
「しないわよ!!」
流石にそれは無い。ただ、自分より先に恋人が出来たら許さないが。
「でも話題の合う人がねぇ……」
「歴女ですからねシロナさん。おまけにチャンピオン……高嶺過ぎるんですよ」
「…………あ、一人話の合う人がいたわ」
「マジですか!?」
「うん。ホウエン地方のフロンティアブレーンのジンダイさん」
「あぁ……あの冒険好きの。そういえば歴史にも詳しいですよねあの人。でも、シロナさん…………歳の差ありますね。っていうか、あの人って独身でしたっけ?」
「そうなのよねぇ……歳の差がそこまで離れていなかったらなぁ。結婚はしていないと思うんだけどね」
「バトルも強いし、申し分ないのになぁ……いかんせん歳の差か…………あれ、でもシロナさんの年齢を考えるとそこまで気にする必要は――」
「れいとうビームって、人に撃っても凍るだけで死にはしないわよ」
「すいません」
ガールズトークの夜は続く。具体的には徹夜の勢いで。
◇◇◇
そのガールズトークの真っ最中。
アルは部屋から出て外にいた。傍にはポケモンたちもいる。
「メリィ……」
「リオ……」
「ごめんな、俺が弱いばっかりに、お前達に痛い思いさせて」
「メリメリ!」
「リオ、リオリオ」
アレは、自分達が弱かったから。
アルはちゃんと指示してくれた。
まるでそう言っているかのように、二匹は声を上げる。
「グレイ! シア、シーア!!」
大丈夫、次に頑張ればそれでいいんだ。
この心配を生かせばいい。アルなら出来る。
もう1年以上一緒にいる相棒が何を言いたいのか、アルにはそれが分かった。
「ツララ……ああ、そうだよな。ウジウジしていちゃだめだよな!」
パンパン! と、頬を叩く。
気合十分、やることは決まった。
「よし、特訓するぞ。折角の誕生日までにこの黒星を挽回するんだ!」
「シーア!」
「メリィ!」
「リオッ!」
この負けを受け入れて次に生かす。
リーフのトロピウス戦では途中でシロナに止められたが、あのまま続けていたら確実に負けていた。
能力が足りなかったのもそうだが、あの戦いでは悪手の場合が多かった。それに、動揺してツララの能力を引き出しきれていなかった。
チャンスは沢山あったのだ。動揺しないで冷静に対処さえ出来ていれば。
ヒカリとの戦いでは冷静に対処できていた。
だけども能力が劣っていた。ただ一重に、力不足。
自分がきあいだめを忘れていたのも大きい。
いい勝負が出来たのだって、ジョーカーが体力を削り、ウールのせいでんきの特性があったからだ。次に戦えば負ける。今のままならば。
「ツララは今のままでも十分強いけど、技の連携をもっと考えた方がいい。ジョーカーはもっと威力を上げないとダメだ。ウールも強いけど、技のバリエーションが乏しい。たいあたりじゃなくて、別の技がいいな……そうだ、パワージェムならどうだろう」
「メリ?」
「岩タイプの特殊技……ウールなら、たしかレベルを上げれば覚えられるはずだよ」
「メリィ!」
「よし、ツララはジューカーと軽く戦いながら鍛えることにして、ウールは僕といっしょに技の練習だ!」
声を一つに、目標へと頑張る。
シロナたちには内緒での特訓、ジョーカーは初めて悔しさを感じた。強くなりたかった。だからこそ、その拳を鍛えた。
ウールは自分を恥じた。野生の頃から10まんボルトを使えて、自分は特別だと思った。だけど、それは慢心だった。だからこそ、ズガイドスに負けたのだ。
ツララは何よりも悲しんだ。弱い自分は要らないのではないかと。アルがそんなことを思うわけはないと分かっていてもだ。だからこそ、そんなことを考えた自分が悲しかったし、許せなかった。
アルは自分が子供だからと言い訳するつもりは無い。シロナはアルが14ぐらいになるまで旅を許さないつもりだろう。だけど、この敗北で感じたんだ。
もっと、もっと強くなりたい。自分に言い訳しないで、もっと真っ直ぐに、みんなと一緒に進みたいんだ。
◇◇◇
「はぁ、はぁ……もうすぐ日が明けるな」
「メリィ……」
「リオッ」
「シーア!」
「大丈夫、いけるよ。君なら絶対に」
「メリィ……メェェ!!」
大きい声を上げる。ウールはこの特訓の成果を一点に集中させる。
力を高め、今までの電気の力とは違う、別の力。
「パワージェム!!」
「メェェェェ!!」
ウールの周囲の地面から小石が次々と飛び出し、光り輝き始める。
そして、一際大きく輝いた次の瞬間、それらは前へと射出された。
「……やった、やったよウール!!」
「メリ、メリィイイ!! ……り、リ?」
「ウール?」
「シア?」
突然だった。ウールの様子がおかしくなり、少しずつ輝き始めた。
まるで、体内の電気が一気に放出されるかのように。
「メリメリメリ!?」
「う、うわぁあああ!? ちょ、ウール止められないの!?」
「メリ!?」
バリバリ放電し、爆発するかと思った。だが、必死に止まれ止まれと願ったからか、少しずつおさまってきた。
「な、なんだったんだ今の?」
「メリィ?」
結局、成果は出たので部屋に戻るアルだったが、そのときに見たのは未だにガールズトークを繰り広げる女二人だった。
ちょうど、話題はレッドさんについてだった。なんか多くの女性に好意をもたれた挙句に最後には旅に出ていろいろヤキモキさせているとかなんとか。
結局あの野郎はどうすんだとか色々恐ろしい発言が飛び交っていたが僕は知らない。ヒカリさんは誰かを思い出したのか、時々怖い顔をしていた。あの人はポケモンなのだろうか。自分の能力値が下がった気がする。
そういうことで、二人が恐くてアルはポケモンたちとともに布団を被ってブルブル震えながら眠りにつくことになった。
起きた時に世界地図を描いていなかったのは一重に彼の精神力は同年代を上回っていたからであろう。
結局負けてしまったアル君でした。
チャンピオンヒカリさんには勝てなかった。
不穏な感じを残しつつ次回に続く。
次回いつになるか分かりませんが。
XYがでたら、最終決戦後に普通に旅するだけの話を書くかもしれない。新地方で。
ちょっと変更してレッドさん関連のフラグは未回収ということに。
だってオリジン面白かったし、なんか女の子と絡んでいたし、そっちに合わせようかと。
もっとも、ダブルタイプとかに対応しているとは思えなかったので色々と自分で変えていますが。
現時点のレッドさんは15か16ぐらいです。
ちなみにエーフィ死亡説は無いです。
雪山の洞窟内で焚火の番してたり、食糧捜したりしている。
時々下山したり、エリカさんに追いかけられたり、カスミさんに勝負を挑まれたり、グリーンに怒られたり、ナツメさんにテレパシーで追跡されたりと色々ありまました。
たぶんシオンタウンに結構出没する。
ただし、リーフとは何故か出会わない。
今は最もポケモンマスターに近いトレーナーとして、活動中。ほとんどサバイバル生活だったり、トレーナー活動と、危険区域のポケモン調査だけで生計を立てられる凄い人。
現在の時間ではアルトマーレ観光中。その際にポケモンハンターからラティオスとラティアスを守るために戦うというハプニングもいつものこと。
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第9話・勝利を目指して
「戦うのはいいけど……ホントにダイジョーブ?」
「はい。立ち止まるのは嫌ですから!」
◇◇◇
アル達が起きたのは昼過ぎだった。昼食を食べ、これからどうするかとシロナとヒカリが放しているところへ、アルが再戦の申し込みをしたのだ。
最初は渋っていた二人だったが、アルとポケモンたちの目を見て考えを変えた。
「まさか、この歳であんな目をできるようになっているとはねぇ……子供が大きくなるのは早いわ」
「そういうものだと思いますよ。まあ、それだけシロナさんも歳と――イタァ!?」
容赦の無いからてチョップだった。シロナは格闘タイプなのかと、冗談半分にヒカリは考える。
というか、こぶが出来ているかも。
「あのねぇ……まあ、昨日の敗北がいい方向へ向かってくれてよかったけど、本当に大丈夫なのかしら」
「トレーナーとして大成するなら、ここで負けたまま立ち止まっちゃだめです。第一関門は突破しましたけど、敗北から学んで強くならなきゃ」
「昔のあなたや、私みたいにね」
誰だって負ける時はある。勝ち続けるのは容易なことではない。
どんな人にも、失敗や挫折は待ち構えている。経験したことが無いというのならば、それは一つの弱点だ。誰にだってその可能性はあるのだから。
失敗や挫折を経験しないで大人になったのなら、いざ躓くとそれを信じられない。
そういう意味ではアルにとって、一つ成長したということだ。
だけども、同じ失敗を繰り返すのならば意味がない。自分の失敗から学び、次に生かさねかればダメなのだ。
ヒカリが繰り出したポケモンはズガイドス。対して、アルが繰り出したのは……
「いけ、ジョーカー!」
「リオゥ!!」
「またリオル!?」
「ズガぁ?」
一度は負けたはずのリオルだ。だが、リオルの攻撃は通用しなかったのを忘れたのか?
いくらなんでも昨日の今日でなんとかなるとは思えない。これは、見込み違いだったのだろうか……ヒカリがそんな考えに囚われたと同時に、審判をつとめているシロナから合図が下る。
「両者、はじめ!」
途端に後ろへ飛ぶリオル――ジョーカー。あの動きは昨日と同じ、つるぎのまい。
「させない! ズガイドスとっしんよ!!」
「ガァアア!!」
気合も十分、ズガイドスは昨日よりもはやくリオルへと迫る。
だが、昨日とは明らかに違うモノがあった。
「舞いのスピードが速い!?」
「隙がでかいと話になりませんからね。一晩で効率のいい動きを模索していたんです!」
そう、拳の威力、つまり攻撃力を上げることこそが今のジョーカーに必要なこと。
ならばつるぎのまいの錬度を上げるのも当然だ。
「だけど私のズガイドスのとっしんが当たるよ」
「それは――どうかな?」
舞いを終えて、ジョーカーは再びズガイドスへと向き直る。すでに眼前へと迫ってきたのだが、一切取り乱す様子はない。それどころか次の攻撃へ転じようとしていた。
ありえない。とっしんを喰らってキャンセルされるのに何故。ヒカリは少々アルのことを甘く見ていた。
それこそ赤ん坊の頃からシロナというトップクラスのトレーナーの姿を見てきた。テレビ放映が多かったが、シロナの戦いは殆ど見てきた。
それだけでなく、シロナが普段ポケモンたちとどういったトレーニングをしているかも知っていたのだ。
そして、シロナのポケモンにはルカリオがいる。その進化前であるリオル。つまり――
「でんこうせっか!!」
「そうかッ、攻撃じゃなくて回避だったのね!?」
――力だけでなく、スピードを生かした戦い方をする。それがジョーカーの力を最大限に引き出す戦い方。そのトレーニング、何をすればいいのか分かったのだ。
今はまだ、はどうだんを覚えていないからこそ接近しながらも相手の攻撃を喰らわないように、高速で離脱できる技で距離をとる。
本来は攻撃用の技だが、すばやさに関係なく高速で動けるこの技だからこそ、とっしんをかわせたのだ。
「もう一度でんこうせっかで近づいてからのはっけい!!」
「リ、オオオオオ!!」
「ガァア!?」
「ズガイドス!? クッ……昨日とはまるで違う。動きも、気迫も、全部」
「負けたくないんだ。勝ちたい、みんなと一緒に勝ちたいから、僕はみんなが一番戦いやすい戦い方を考えるんだ。いくよ、もう一度つるぎのまい!」
「リオッ」
「させない。しねんのずつきよ!」
「ズガッ――ガ!?」
ジョーカーは再びつるぎのまいを使い、攻撃力を高めていく。だが、ズガイドスは攻撃が出来なかった。
からだが痺れるように、動かないのだ。
その様子を見てヒカリは驚愕した。まるで天運すらも彼に味方しているようだと。
「まひ……まさか、たった一度のはっけいで状態異常になるなんて」
「バトルに絶対は無い。だからこそ、今の自分に出来る一番いい方法を導き出すんです」
「うん、その通り。ズガイドス、ごめんね……今回はトレーナーは道具でサポートできないし、交代も禁止……でしたよね、シロナさん」
「ジムに準じたルールだから貴女は、ね。なんかまひ状態もひどいみたいだし、あなたは信じることしか出来ないわ」
「……それもた、トレーナーの役目ですよ。ズガイドス! まだ負けていないんだから全力で受け止めなさい!」
「ず、ズガぁ!」
たとえ、思うように動かなくても、背中は向けない、ズガイドスは真正面からジョーカーの攻撃を受け止めようと、その両足でしっかりとふんばる。
あと一撃で決まる。だけども……最後まで戦い抜く。
「ジョーカー、もう一度、はっけいだ!」
「リオオオオオオ!!」
ジョーカーがズガイドスへと迫り、そして――片方が倒れた。
「ズガイドス、戦闘不能!」
◇◇◇
ヒカリはボールへとズガイドスを戻し、次のボールへ手を伸ばす。
もちろん、ズガイドスにお疲れ様と言ってから。
「じゃあ、どうする? まだその子で戦うの?」
「いえ、次は――コイツです!」
アルはジョーカーを戻し、次のボールを投げる。
そこからでてきたのは当然、ウールだ。
「メリィ!」
「やる気十分、気合十分! 行くぞウール!」
「なら、私たちもいくわよ! エネコロロ!」
「エーネ」
エネコロロ……アルの記憶の中では、エネコロロの持つ特性はメロメロボディもしくはノーマルスキン。ミラクルスキンなんてものも存在するとか聞いた事はあるが、見たことはない。
「さぁ、いってねこだまし!」
「エネッ!」
「メッ!?」
「落ち着け、次の攻撃が来るぞ!!」
今度はせいでんきの特性は発動しなかった。
やはり、そう何度も都合よくは行かないようだ。
エネコロロがもしオスで、特性がメロメロボディだとしても、ウールは物理技を覚えていない。ならば、その特性は無視してもいい。
ノーマルスキンだとしても、地面技がノーマルタイプになれば弱点は突かれない。むしろコチラにメリットがある。
ミラクルスキンだとするならば厄介だ。なにせせいでんきの特性が効き難いからだ。たしか、状態異常に対する回避率も上がるはずだ。
「結局は、相手の攻撃を先読みするしかない。エネコロロならノーマルタイプの攻撃、一番強力なのは……とっておき!」
「さあ、でんじは!」
「メリィィ!?」
ひるんで動けないところにでんじは。当たれば必ずまひ状態になる技だ。アルもくちびるを噛むが、考えることを止めてはダメだ。
この場合、ウールにまひ状態の悪影響が一気に出ないことを祈るしかないのだ。
ならば、自分達が勝てる方法を模索するべきだ。
「ウール! じゅうでんだ!」
「め、メリィィ……イイ!!」
「エネコロロ、ふいうちよ!」
「な!?」
ふいうち、専制攻撃技。
エネコロロはウールの後ろに回りこむように入り、前足で一気に殴り飛ばした。
「メリッ!?」
「さあ、準備完了。エネコロロはシルクのスカーフを持っているからね……特性の正解はノーマルスキン。今までの技は全部威力が上がっているのよ。さすがに、この技を受けてもたっていられるかしら?」
今度もまひにはならなかったエネコロロ、出した技は3つ。
なんだよ……結局、僕は、僕には何も…………
「メリッ!」
「ウール……そっか、まだ、諦めてないのか」
「メリ、メリメリ!」
「ああ……大丈夫だ。信じてくれるなら、僕も諦めない。ウール! コットンガード!!」
「メェエエエエエ!!」
膨れ上がる毛、防御を一気に上げるこの技なら、一縷の望みをかけた勝負だ。
まひで動きが鈍い。次に来る攻撃はかわせない。なら、信じるだけだ。ウールを。昨夜の特訓を。
「いっけぇ! とっておきよ!!」
「コ、ロロロロロロロ!!」
強力なオーラをまとっての一撃。ノーマルタイプの中でも屈指の威力を誇る技、とっておき。他に覚えている技を出し切ったでないと使えない特殊な技。
だからこそ、その威力であるのに他のデメリットを持たない。
少し溜めに時間がかかるが、十分に凶悪だ。
「メリィ!?」
「耐えろ、まだ負けていない。勝つんだ。だから、体の電気、全部、全部、ぶちまけろォォォォォォ!!」
「メ――リィィィィィィ!!」
そのとき、特訓を終えたときのようにウールの体が極度に輝き始めた。
まるで、大きな電気の塊のように。
暴走しているかのように見えるが、今なら分かる。このまま、もっと電力を上げるんだ。もっと、もっと、もっと力を上げろ。
「もっと、もっとだぁあああ!」
「こ、これ以上は危険――いえ、コレは!?」
そして、エネコロロのとっておきと、ウールの放つ電力、二つの力がお互いにぶつかり合い続けて、爆発した。
◇◇◇
「けほぅけほっ……ダイジョーブ?」
「エネェ」
「まったく、あの子も無茶するわね……」
流石に、やりすぎたかとヒカリは考える。
まだ小さい子だし、目を回して倒れていないか心配して歩み寄ろうとするが、シロナに制される。
「なんですか、もう決着は――」
「ついてないわよ。いくらなんでも油断しすぎ」
「――へ?」
そして、煙が晴れた。そこにいたのは光り輝くウールだった。
いや、今までの姿から、少しずつ変化している。
毛は少なくなり、皮膚が見え始め、四足歩行から二足歩行へ。
体の色もピンク色へと変わっていく。
「メ――モコォ!!」
「も、モココ!?」
メリープの進化系、モココ。
アルたちとの特訓の最後で見せた暴走に近い電力は、進化の兆し。
モココの皮膚に一部毛がまったく生えないのは膨大な電力を溜めたからである。
「流石の私もコレはビックリだけど……それでも体力が回復したわけじゃない。エネコロロ、もういちどとっておきよ!」
「エネッ!」
「モコ!」
「ああ、分かったよモココ。やりたいようにレッツゴー!」
進化したことで技に何か変化があったのかもしれない。ウールはそのことを伝えるかのようにアルのほうを見て一声鳴いた。
ソレを感じ取り、アルはウールの判断に任せた。時には、ポケモンたちのしたい行動をとらせるのもまた必要。今はそのときだった。
「モコォ!」
光らせるのは尻尾。怪しく点滅する光はまるで見るもの全てを惑わせるようだった。
「あ、エネコロロ見ちゃダメ!」
「エネ? エ、エネ?」
「これは、混乱状態ね……」
「だけど、それが最後の技。四つ目があやしいひかりなら攻撃技は10まんボルトだけ」
ヒカリがそういったとき、アルとウールは視線を合わせる。
最大火力の10まんボルトも忘れるわけが無い。
そうだ、あやしいひかりは今まで覚えていなかった。ならば、何かしらの技を忘れているはずだ。
アレだけ苦労したパワージェムは忘れるなんて無い。
コットンガードは必要だ。エネコロロは物理技しか使ってこなかったから有効なのも分かっている。
なら、残る選択肢は一つだ。
「ウール! コットンガード!」
「モコッ!」
「ええい、ねこだましで邪魔して!」
「エネッ!?」
「ああぁ?! 混乱状態で最悪!」
エネコロロは自分を攻撃してしまい、フラフラと足取りもおかしい。
混乱状態はとてつもなく厄介な代物だ。ボールに戻せばすぐに治るが、交代は禁止であるし、そもそも交代できるポケモンがいない。
「10まんボルト!」
「モコォォォ!!」
「エ、エネ!?」
「ああ、ダイジョーブ!?」
「……エネッ!」
「よし、混乱とけた! ふいうち!」
「エネネ!」
再び回り込むように接近するエネコロロ、防御が上がっている今、コレだけではやられはしないが、次の技への連携が怖い。
ならば、自分達が取るべき作戦は……
「ウール、残った技を準備だ!」
「モコォ!」
「じゅうでんなんて、意味無いんだから!」
この時、ヒカリには残っている技はじゅうでんだという先入観があった。
シロナはこの言葉の違和感を感じていたが、誰もパワージェムという技をモココが覚えているとは知らないのだ。
先ほど不発に終わったじゅうでんが残っている技だと信じていた。ゆえに――
「モコッ!?」
「ふいうちからの、ねこだま――」
――モココの周囲を浮いていた光る石に気がつかなかったのだ。
「え?」
「パワージェム、発射!!」
「モコォ!!」
「ロロォ!?」
「な、なんで!?」
「どうやら、相手の作戦にはまったようね……進化したことで技が変わっていた。あやしいひかりなんて便利な技があったら昨日のうちに使っているはずだもの。パワージェムの精度をみると、特訓していたのはあの技だったのね」
そう、みっちり鍛えたパワージェムは進化したことも合わさり、エネコロロを吹き飛ばすほどの威力を発揮したのだ。
岩タイプの技だからか、効果は抜群とはいかないが、相手に大きな隙を生み出すことには成功した。
「10まんボルト!」
「モコォ!!」
「エネコロロ戦闘不能! よって勝者、アル!」
「よっしゃぁぁあ!!」
「モコォ!!」
力を合わせての勝利、コレがアルとポケモンたちの戦いと冒険の記録の第一歩だった。
そろそろバースデーに入らないとまずいな。
前回の話でアル君が止まれ止まれやったのは、無意識的に進化キャンセルをやっていたということです。
キャンセルされたのが、今になって再度発動という感じで。
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第10話・ハッピーカオスバースデー
本当に久しぶりの投稿ですし、読んでいる人もいないと思いますが、楽しみに待っていた人、どうぞお楽しみください。
アル達がヒカリに勝利し、それから幾日か過ぎた。
その間にも、特訓や技の練習。なんどかバトルもあったのだがそれは割愛しよう。
今から始まるのはアルの8歳の誕生日。その一日の出来事。
◇◇◇
朝日がのぼった。ベッドで静かに寝ていたアルは、窓から入ってくる太陽の光に当てられて目を覚ました。薄ぼんやりと部屋の風景が目に入る。傍らにはツララが丸くなっており、ジョーカーとウールもソファーの上で眠っている。
外では鳥ポケモンたちが鳴いており、それが刺激となって覚醒を促す。
「そっか、今日から8歳なんだ」
背伸びをし、ベッドから降りる。まだ誰も起きていないようだが、アルの眠気は既になくなっているので、そのまま着替え始めた。
「グレェ?」
「あ、起こしちゃったか……」
アルが着替える音がうるさかったのか、ツララは寝ぼけ眼で起き上がってきた。声が少々苛立っているあたりもう少し寝たかったらしい。
「グレェ……グゥ」
「ちょ、何故に顔を舐める!?」
ペロペロとアルの顔を舐め回すツララ。さて、グレイシアは氷タイプのポケモンである。そのグレイシアであるツララがペロペロとアルの顔を舐め回すとどうなるか、その答えは至極単純であり、明確に出てくるのだ。すなわち、このようになる。
「だ、唾液が凍って顔ががががが!?」
下手すると、凍傷寸前だった。
ツララがこの後舐め終わった後に呟いたアルの言葉だった。
さて、着替えも終わり、アルとツララたち三匹も支度を済ませ部屋を出た。ジョーカーとウールはアルの叫び声で目が覚めてしまい、そのまま起きたのだ。
リビングルームに出てみたが誰もおらず、首をかしげる。なんとなく、外に出て探す気にもなれず、アル達はソファーに座りテレビの電源を入れた。
少し時間が早いからか天気予報とニュースぐらいしかやっていないが、ニュースにいくつか気になるものがあり、それが目にはいる。
オーレ地方、凶暴化したポケモン。ダークポケモン再びか? そんなニュースが目に留まったのだ。
映像ではオーラは見えないが、その雰囲気は確かに感じたことのあるものである。映されているのは数年前の映像であり、その事件は解決したことが語られていたが、現在は当時の凶暴化したポケモンに似た事例が起きているというのである。
黒いルギアのような影も目撃されているなど、色々と報道されている。
「うーん、気になるけど……」
絶対に止められる。シロナさんが本気で怒る姿が目に浮かぶ。
自分がオーレ地方へ行きたいなどといえば、彼女は必ず怒るとアルは理解している。それが自分を心配してのことだというのも知っている。だが、それで納得できるかといえば、そうではないのだ。
それでも、自分一人で行けるかというと話は違うのであきらめるしかないが。
「まあ、今日はおとなしくしたほうがいいよね」
せっかくの、誕生日……今日から8歳なのだ。今日一日は楽しもう。
◇◇◇
『ハッピーバースデー!』
そんなみんなの一言から始まった誕生会。
みんなで騒ぎ、シロナが酒乱って、シキミが腐り、ヒカリは胃痛と戦う。オーキド、ナナマカドの二人は学会でやれと言いたくなる会話をしていて、リーフは沈んでいる。そしてグリーンがワタルに酒を飲まされ、ダイゴは石を掘る。それをアスナが温泉を掘っているものと勘違いしてヒョウタとともに掘り進める。
そんななか、デンジは相変わらず無気力で、オーバは隣でブレイクダンス。そしてカンナが腐り、カスミとナツメとエリカは某赤さんの愚痴をこぼす。
スイクン叫ぶ人や、ハゲ散らかっている人、ミロカロス叫ぶ人や、プロレスやっているオッサンと少女。その少女を見て鼻血を噴射する少女など。
「なんかカオス過ぎるんだけど!?」
どういうわけかあったことのない人が大量にいた。
いつの間にか、各地方のジムリーダーや四天王などが集まって騒いでいる、というよりそっちがメインだった。
たまにはジムリーダーだって騒ぎたい。副業とか忙しいし、そもそもジムリーダーの仕事も最近は多くて大変なのだ。
そういうわけでどこからか聞きつけた人たちがこうして集まってしまったというわけである。
「なんか、納得いかないんだけど……」
目の前にいるのは、名高いトレーナーたち。ポケモントレーナー見習いとして、いろいろ話を聞きたいが、目の前の彼らはどんちゃん騒ぎの真っただ中。はっきり言って、近づきたくない。
これ、もともと自分の誕生日を祝うためにシロナさんとかが企画した催しだよね? なんであの人が一番浴びるように酒をのんでいるの?
「……これが、やるせない気持ちってやつか」
そもそも、今この場において本来は自分の誕生日会だということを覚えているのは何人いるんだろうか。
答え、聞くまでもないだろう。主催者からして泥酔している。
「お前ら全員足の小指骨折しろぉぉぉ!」
◇◇◇
それから数時間が過ぎて、シロナは酔い醒ましに水を飲んでいた。数々の挫折(嘔吐)や苦悩(二日酔い)を乗り越えた彼女には怖いものなどないのである。
そんなダメな感じに進化している彼女だが、ここでようやくアルが居ないことに気がついた。
キョロキョロと辺りを見回してみても、姿は見えず。
仕方なく、近くにいた引きこもりとアフロの近くで聞き込みをした。そんなときに、引きこもりは無駄に社交性を発揮してしまうのである。
「ねぇ、誰かアルがどこにいったか知らない?」
「あれ? シロナさん、酔っているんでしょう。今日は酒盛りだからいるはずないと思いますけど」
「は?」
「え? なんでそんなに怖い顔をぉっぉぉぉ!?」
哀れデンジ、ガブリアスのジェットコースターで無限の彼方へ旅立ってしまった。
そして周囲の人間でなだめてなんとか事情を聞き出した。
「だって、今日はアルの誕生日会なのよ!?」
『それを先に言えぇぇぇ!!』
こうして、ジムリーダー、チャンピオン、四天王その他もろもろによる大捜索が始まったのだ。
阿鼻叫喚の渦が今、更なる混沌を呼ぶ。
◇◇◇
そして、当のアルはというと……
「つまり、山男にとっての運命というのね」
「すいません、聞いていないんで帰っていいですか?」
ナツミという名の山男に捕まっていた。しっかり、右手を掴まれている。二つの字が混在する状況。正にカオスだ。
思わず会場を脱走して走り出したのが運の尽きだったのだろうか?
「ハァハァ、そんなこと言わずに一緒に観覧車に乗ろうよぉ」
「ヤバい、なんだかよくわからないけどマジヤバい。助けてシロナさん……のガブリアス!」
本人は酔っぱらいだから除外。華麗にスルーである。
というか、こんな人物に捕まったら最後、捕食されそうな気がする。
もしここにシキミがいれば、鼻血を垂らしながら創作意欲がわくのだろう。カンナあたりも同様に、ソリッドブックが厚くなるとか叫びそうだ。アルはその意味を知らないが。普段のシロナはちゃんとしているおかげである。今は役に立たない酔っ払いという悲しさ。
「イーヤー!?」
そして、助けは――やってきた。
◇◇◇
「まったく、なんでこういう輩が湧くんだろうな。久しぶりに旅に出たけど、何が起こるかわからないな」
「……すげぇ」
その人物は、さっそうと現れて山男にポケモン勝負を挑んだ。結果は、瞬殺。
圧倒的な強さはまさにポケモンマスターと呼ぶにふさわしいほどだ。相手の実力を完全に引き出したうえでの、勝利。伝説のポケモン、サンダーやライコウに匹敵するほどの電撃を繰り出したピカチュウ。どんな攻撃をもはじき返したカメックス。近づくことさえ許さないフシギバナ。
その赤い帽子をかぶった人物は、アルの方を向き、手を伸ばした。
「大丈夫か、坊主」
「は、はい」
「そっか。じゃあ、俺はもう行くけど、大丈夫か?」
「近くにポケモンセンターもありますし、とりあえずそっちへ逃げます」
山男が立ち上がる可能性もあるし、駆け込み寺みたいな理由である。
「まあ、しばらくは立ち上がれないと思うが、大丈夫か? むしろアイツも利用すると思うが」
「……と、とりあえず隣町まで送ってほしいんですけど」
「まあ、方角によるな。どっちの方向だ?」
「えっと、向こう側の――」
アルはとりあえず、酒盛りしていた会場の方角を指さす。
それを見て、男は破顔した。
「なんだ、俺もあっちに用事があるし、大丈夫だな。じゃあ、行こうか」
「重ね重ねすいません」
「いいって、気にすんな。それで、坊主、名前は?」
「アルって言います。お兄さんは?」
「ああ、俺か……俺の名前は――――」
◇◇◇
「アルー! もう無視しないから出てきて―!!」
「シロナさん、いいから探しに行きましょうよ、まだ近くにいるはずですからみんなで探せば――」
「ならリーフはあの山の方を探してきなさい。私はここで待っているから。大丈夫、あの子は自分で帰ってくる。なら帰る場所を守るのが私の役目よ」
「どんな理由ですか!?」
「いいから探してきなさい!!」
酒盛り会場は、軒並みカオスである。
すでに各ジムリーダーによる捜索部隊を編成して、大規模な捜索になっていた。
これには近くを巡回していた警察が仰天し、さらなる混沌を生み出す寸前だった。
何人かは泥酔状態の上に、まさか子供の誕生日祝いだったのにいつのまにかストレス発散に酒盛りを初めてしまい、子供の夢を壊すという失態をしてしまい(何割かは連絡忘れたシロナが原因)、自虐モードになっている者もいる。
真面目に探しているのは未成年で酒を飲んでいない人ぐらいだろう。
そのため効率が恐ろしく悪く、迷走を始めていた。
また、酔いつぶれて動けないものや、シロナみたいに動かない人もいる時点でお察しである。
◇◇◇
「――――レッド。ポケモントレーナーのレッドだ」
こうして、少年は、かつてのチャンピオンと出会った。
これが彼の人生にどう影響するかは、まだ誰も知らない。
というわけで、超カオス回。
アンド、レッドさん登場です。
他にも初登場のキャラを大勢だしました。
次回も予定は未定です。
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