短編及び中編集 (ADONIS+)
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トリッパーの制服

シドゥリ暦628年

 

 三千世界監察軍立ち上げ間近のこの時期、シドゥリ、シリウス、アルトリアの三人は近々設立される監察軍の拠点となるスペースコロニー内で様々な議論を交わしていた。ここでスペースコロニーといえばガンダムとかでよく登場する宇宙居住区であるが、これにはいくつかのタイプがある。

 

 まず、1974年にジェラルド・オニールにより提案されたシリンダー型、1975年にスタンフォード大学にて設計されたトーラス型(ドーナツ型)、1996年の大林組の季刊誌に掲載されたアポロチョコを底面で二つ結合したような双円錐状の形をしているスペース・ナッツII型、1929年にJ・D・ベルナールが提案したベルナール球、構造物を一から建造するのではなく小惑星や小型衛星などの天然天体の内部をくり貫き内側を居住区域とする小惑星型などがある。

 

 ちなみにシリンダー型は言うまでもなく『機動戦士ガンダム』で登場するタイプで、トーラス型は『新機動戦記ガンダムW』で登場しているタイプ、スペース・ナッツII型は『機動戦士ガンダムSEED』で登場しているタイプである。

 

 これらのスペースコロニーの中で監察軍が採用したのはシリンダー型であった。その理由はやはり使用できるスペースが広かったからだ。スペース・ナッツII型は底辺の面積しか使用できず、スペースコロニーの規模に対してあまりにも効率が悪く、トーラス型もスペース・ナッツII型よりはマシであるが、それでもシリンダー型に比べると使用できるスペースが狭かった。

 

 別にスペースが広ければいいというわけではないが、狭いというのは困る。特に水の確保などの問題もあって、コロニー内に湖を用意しなければならない関係上、余計にスペースが広いほうが望ましかったのだ。

 

 こうした事情からシリンダー型スペースコロニーが採用された。将来的にはプラント(機動戦士ガンダムSEED)のようにコロニー1基を1区、10区で1市とカウントして、12の市を構成する為に120基以上のコロニーが立ち並ぶ予定であるが、現時点ではスペースコロニーは僅か10基だけであった。

 

 まあ、監察軍は設立してからおいおい規模を拡大する予定なので現時点ではこれで十分。というかこれでも余りまくっている状態であった。

 

 

 

「それで監察軍の制服だけどどうするの?」

「そうね。基本的には色で大体の役職が分かるようにしておくべきだね」

 

 監察軍はその名の通り軍事組織の側面を持っている為に当初は軍の階級を採用することを検討していたが、トリッパーの多くが硬すぎる軍組織の体制や、トリッパー間の上下関係が露骨になるのを嫌っていたので問題になっていた。

 

 そこで、プラントの義勇軍であるザフト(機動戦士ガンダムSEED)のやり方を導入することにしたのだ。ザフトには「下士官、士官(尉官、佐官、将官)」といった階級制は存在しない。肩書きは配属された兵科、職種及びその戦術単位の責任者名、管理職名で呼ばれる。

 

 元々、トリッパー支援組織でトリッパー達の義勇軍的な存在であるために、これは親和性が高くこれなら上手くいくだろうと思われた。

 

 しかし、階級がないとなると当然ながら階級章がないため相手の立場が分かりずらいという欠点があり、そこはザフトと同じように兵科によって制服の色を決めることにしたが、ここでついでにトリッパーの色も決めておこうとアルトリアが主張した。

 

 監察軍はトリッパーが主導する組織とはいえ、やはりトリッパーだけでは運営できない。特に経費削減の為に人間そっくりのアンドロイドまで導入するからトリッパーと非トリッパーの見極めができない。これではトリッパーではない者に教えるべきでない事(上位世界や下位世界の秘密など)を秘匿しずらいという問題があるが、制服の色が違えば一目で分かる為に何かとやりやすかった。

 

山吹…人間と見分けが付きづらいアンドロイド。

緑…一般的な非トリッパー。

赤…トリッパー。

黒…副長。

白…隊長。

青…部長、副部長。

紫…総司令官、副司令官。

 

 そんなわけで、こんな風に大雑把に決められることになった。ここでアンドロイドまで色分けするのは、人間に似せすぎているので人間と見分けが付きずらいという問題があったからだ。

 

 更に監察軍の制服は、男性は色に合わせた上着とズボンとなっているが、女性の場合は上着とロングスカートorミニスカートといった感じで、スカートの種類に関しては色さえ合っていれば自由に選ぶことができ、ミニスカートにしても女子高生風スカートやOL風スカートもあり、パンティストッキングやニーソックス、靴下などの選択は自由となっている。

 

 

 

「でもさ。階級がないって色々と不味くない」

 

 一応妥協できたもののシドゥリは階級制がないことに不安を感じていた。帝政国家の皇帝というある意味階級制度の頂点に君臨しているだけあって、階級がない軍組織に不安を感じずにはいられなかった。

 

「まあ、監察軍はあくまで諜報活動と技術開発を行うのが主な仕事で国家間の戦争の様な大規模な戦いはまずしないだろうから問題ないと思うよ。厄介なことになりそうなら撤退すればいいだけだしね」

 

 シリウスの言う通り、監察軍は異世界で活動する組織である為、現地の勢力と衝突する可能性はあるだろうが、そういう面倒なことになったら引き上げれば済む。なにも一々真正面から相手をしてやる必要などどこにもない。それなら組織体制に多少の不備があってもどうにかなる筈だ。

 

「仕方ないですね。それでいいでしょう」

 

 こうして、階級がないという問題をはらみつつも監察軍は設立されることになったが、やはり階級がない事はその後いろいろと問題となった為に、第一次ベヅァー大戦後に監察軍を再建したトレーズ・クシュリナーダが監察軍に階級制を導入することになるのであった。

 

 その結果、階級章で上下関係を形作ることができるようになり、兵科によって制服の色分けをしなくてよくなった為に、黒、白、青、紫の色が廃止された。とはいえ、それでもトリッパー、非トリッパー、アンドロイドの区別を付けられないのは不便であった為にそれらの色は残り、階級制導入後も監察軍では山吹、緑、赤の制服が入り混じることになるのであった。




あとがき

 時期的には監察軍創設前の準備期間の出来事です。監察軍のコロニー群の編成や制服などにSEEDネタを織り込んでいます。とはいえ階級がないのは問題だらけなので、後にトレーズが改革しているわけですが、それでもトリッパー達の義勇軍的な空気があるので普通の正規軍よりは上下関係が緩いですね。


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技術収集

シドゥリ暦632年

 

 三千世界監察軍が結成されて2年が過ぎたこの時期、監察軍に技術者たちは積極的に異世界の技術収集を行っており、その一環として『機動戦艦ナデシコ』の木星プラントと火星極冠遺跡を大々的に調査していた。といっても原作の2196年ではなく、それから五千年近く前の紀元前2800頃であった為に監察軍の調査活動を阻む者は存在しなかった。

 

 それとは別に監察軍はサードインパクトで人類が絶滅した『新世紀エヴァンゲリオン(旧劇場版)』の世界でもエヴァンゲリオン関係の技術を調査していたが、邪魔な現地人がいない為こちらの調査も順調だった。

 

 監察軍の目的は各地の下位世界に存在するトリッパー達の支援だけでなく、各世界の知識、技術、情報を収集する事であった為に比較的容易に調査できるこれらの世界が対象になっていたのだ。

 

 さて、監察軍はナデシコ世界の遺跡からボソンジャンプ、ウィンドウ通信、重力波ビームの送受信、相転移エンジンなどの技術を得ていたが、特に木星プラントから超高効率原子変換による生産技術の入手が大きかった。

 

 この超高効率原子変換技術は所謂科学的に錬金術を再現する代物で、非金属を金にするだけでなく様々な資源を生成することが出来た。その上、食料品から工業製品まで作れるのだ。原作で木蓮があれだけの大艦隊を用意することができたのも木星プラントの生産力チートのおかげです。

 

 ブリタニア帝国は元々宇宙開発を行う事で資源調達を行っていたが、必要とする資源すらも自力で生成できるようになり、資源価格の低価格化と安定化がもたらされることなった。

 

 更に工業プラントによる資源調達と工業製品製造だけでなく、軍事プラントが大型艦艇に搭載されるようになり、ミサイルなどの武器弾薬を艦隊が自力調達できるようになり、補給面で劇的な向上することになるのであった。

 

 

 

シリウスside

 

「そうか、順調なのはいい事だ。引き続き頑張ってくれ」

「ええ、わかっています」

 

 三千世界監察軍本部にて、総司令官シリウスは技術者の男性から最新の報告を訊いていた。シリウスにとって二つの世界に派遣した技術者たちの報告は満足できるものだった。現地の状況から技術者たちが結果を出すのは当たり前のことであるが、それでも良い報告を訊けたのはシリウスにとってありがたかったのだ。

 

 シリウスが総司令官として監察軍が創設されて、各地の下位世界でトリッパー捜索が行われているものの、それにかまけてばかりはいられない。まずは監察軍がブリタニア帝国に対して成果を示す必要があった。その為、下位世界で有益な技術を調査解析してそれをブリタニア帝国に提供することで実績作りをすることにしたのだ。

 

 そこで、現地勢力に抵抗されて調査が躓いたら目も当てられないので、有益な技術を得ることができ、なおかつ抵抗勢力が存在せず楽に調査できる無難な下位世界を標的にしたのだ。

 

 その結果として、監察軍はエヴァンゲリオン世界ではエヴァンゲリオン関係の技術を得ることができ、ナデシコ世界でも有益な技術を手に入れる事ができた。さすがにナデシコの世界のボソンジャンプのブラックボックス(演算ユニット)は解析が未だ終えていないが、我々の技術力を持ってすれば解析が終わるのも時間の問題だ。

 

 監察軍はブリタニアにおいて絶対権力を有する皇帝の後ろ盾を得ている以上、かなりの予算と権限を与えられていたが、それだけに監察軍を疑問視するブリタニア貴族も多い。それを払拭する為にも結果を出さなければいけない。シドゥリの後ろ盾に甘えてばかりでは大きな反発を受けて後で大きな痛手を負う事になるのは分かりきっているからだ。

 

 しかし、今回の成果で時間を稼ぐことができた。これだけの成果があれば当面は何とかなる。その時間を利用して各地に散らばるトリッパー達を探しつつ彼らの協力を得て各地の下位世界の知識、技術、情報などを集めていけば更に実績を積むことができ、そうなれば監察軍の立場は安定するだろう。

 

 はたから見れば帝政国家ブリタニア帝国皇帝の支持をうけて我が世の春なシリウスであったが、彼は下位世界の安定と多くのトリッパー仲間の為に監察軍の組織運営に必死だった。




解説

■火星極冠遺跡&木星プラント
『機動戦艦ナデシコ』の世界で謎の地球外知的生命体が作り上げた施設。原作では木蓮やネルガルが管理していたが、紀元前2800年代ならば地球人が宇宙進出するどころかまともな近代文明すら存在しない為に誰にも邪魔されずに調査できた。

■エヴァンゲリオン関係の技術
『新世紀エヴァンゲリオン』の世界には使徒やエヴァの技術はマギシステム、S2機関、A.T.フィールド、ロンギヌスの槍などブリタニア帝国にとっても興味深い物が多かった。ついでにN2兵器の調査している。

■シリウス
 ここのSS『トリッパー列伝 シリウス』で登場した憑依型トリッパー。『ヴァンパイア十字界』出身の純血のヴァンパイアでストラトスよりも百年ほど若い。ヴァンパイアでありながら太陽を克服してストラトスに匹敵する能力を持っている。実はシドゥリが異世界間転移技術(ユグドラシル・システム)の試験運用中に最初にであったトリッパーで、それが縁でシドゥリに監察軍総司令官に推薦された。



あとがき

 三千世界監察軍創設初期はシリウスも組織の実績作りに奔走していたという裏話です。さすがに異世界人がトップで、かなりの予算と権限が与えられている組織となれば、ブリタニア貴族としては面白くないわけです。その為、トリッパーの支援ばかりやってろくに貢献していなければかなり拙いです。まあ、ぶっちゃけると実際にやっていることは墓荒らしと、遺跡荒らしにすぎませんが(笑)。


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トロニウム・エンジンの改良

シドゥリ暦1502年

 

 監察軍がこの数十年で上げた一番大きな功績はトロニウムの精製法の確立に成功した事だろう。トロニウムは『スーパーロボット大戦α』及び『スーパーロボット大戦OG』に登場するエネルギー鉱石で、米粒ほどの大きさながら膨大なエネルギーを引き出すことが可能になるという極めて有益なエネルギー資源だ。この鉱石を用いた動力機関がトロニウム・エンジンだった。

 

 実のところ、スーパーロボット大戦の科学者たちでもトロニウム・エンジンの開発はできてもトロニウム自体の精製はできていなかった。現在は失われた惑星トロンでしか採掘できなかった資源で、惑星トロン消滅後は全宇宙的にごく限られた数にしか残っていない超レアメタルだ。

 

 それだけにトロニュウム・エンジンを開発できても肝心のトロニウムがないと言う状態が長く続いていたが、知識チートのトリッパーがトロニウムの精製法を確立した事によってようやくトロニウム・エンジンの実用化に成功したのだった。

 

 監察軍がそれほどまでにトロニウム・エンジンにこだわった理由は可変戦闘機の動力機関として極めて有力だったからである。当時の可変戦闘機メサイアは開発当初から幾度となく改修されていたが、心臓部となる動力機関は時代遅れと言ってもいい小型核融合炉を改良しながら騙しだましに運用しているにすぎなかった。

 

 その理由は可変戦闘機に核融合炉よりも高出力のエンジンを搭載できなかったからだ。というのも可変戦闘機自体がそこまで大きくないのもあるが、最大の特徴である複雑な可変機能がエンジンの搭載スペースを圧迫していたからだ。この結果エネルギー不足から可変戦闘機の性能向上も頭打ちになってしまっていた。この状況を覆すには核融合炉よりも遥かに高出力で、可変戦闘機でも搭載可能なエンジンが必要なのは言うまでもないが、それはトロニウム・エンジンしかなかった。

 

 こうしてエネルギーを大食いする装備を満足に運用できるようになれた可変戦闘機は飛躍的に性能を向上させてシドゥリ暦1500年にはブリタニア帝国の機動戦力を大幅に強化することに成功していた。

 

 ここまでは問題なかったが、ブリタニア軍がトロニウム・エンジンを量産して大規模に運用するようになると、その制御の難しさが問題になってしまった。一応トロニウム・エンジンはT-LINKシステムとのリンクレベルが高い場合はその出力が安定するという特性を有していたが、そもそもT-LINKシステムを使える念動能力者などブリタニア軍どころか監察軍でさえほどんど存在しない。何よりそんな極めて希少な個人の資質だよりの特性など量産機のエンジンの利点とはならなかった。

 

 更にトロニウム・エンジンは万が一暴走した場合は、半径50kmほどが爆発に巻き込まれ消滅すると言われている事も相まってブリタニア軍から改良の要請が来ていた。といっても、原作ではトロニウム・エンジンを破壊された程度では暴走爆発しないように安全装置が働いているようで、原作で機体を破壊されトロニウムを奪取される事態があったが大規模な爆発は起こっていないから、危なそうであるが意外に安全なエンジンでもあった。

 

 それは兎も角、この改良要請には監察軍も頭を悩ませた。というのもトロニウム・エンジンはすでに完成されており、一体どこから改良するか非常に悩ましい問題だったからだ。そもそも原作ではトロニウム・エンジンは極限られた数しか運用されていなかった上にT-LINKシステムだよりで運用されていたこともあって、あまり安定性を考慮する必要がなかったからだ。

 

 しかし、ブリタニア軍から改良要請がでている以上なんとかしないといけない。下手に断ってブリタニア軍から「やっぱり可変戦闘機の動力源は核融合炉でいいや」などと言われたりしたら、トロニウム・エンジンを実用化して可変戦闘機の改良した監察軍の面子が丸つぶれになってしまう。

 

 結局、あるトリッパーがガリルナガンに搭載されているバルマー製トロニウム・エンジンことトロニウム・レヴの存在を思い出して、そのトロニウム・レヴのデータを元に改良することにした。トロニウム・レヴは地球産のトロニウム・エンジンに比べ極めて高い安定性を誇るのが特徴で、念動能力者という個人の資質に頼ることなく一般兵でも安定して使用できる長所があった。

 

 こうしてトロニウム・レヴを参考しただけあって改良されたトロニウム・エンジンは安定性がかなり高まり、その後も細かい改良を重ねながらブリタニア軍の可変戦闘機のエンジンとして大いに活躍することになるのであった。




解説

■トロニウム・エンジン
『スーパーロボット大戦α』及び『スーパーロボット大戦OG』に登場。トロニウムを用いる動力機関で宇宙戦艦30隻分とも言われている莫大な出力を誇るが、発生するエネルギーにエンジンの構成素材が耐えられず、また、制御が極めて難しく暴走状態で爆発すると半径50キロの範囲が消滅するといわれている。最大出力での稼動限界時間は3分間が限度とされているため、普段はリミッターが設けられ半分以下の出力で使用される。監察軍では戦闘機や攻撃機などに使用されている。

■ガリルナガン
『第2次スーパーロボット大戦OG』に登場。動力源のトロニウム・レヴは地球のトロニウム・エンジンの上位互換または原典にあたる存在で、地球圏に現存するトロニウム製動力機関とは比較にならない安定性を誇る。


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監察軍の三賢者

シドゥリ暦2010年

 

 涼宮ハルヒ、アズライト・ジュエル、佐天令子。この三名は監察軍でも極めて珍しい人間の科学者であった。

 

 監察軍やブリタニア帝国では科学者という存在は絶滅寸前に陥っていた。それは技術の発達が人間の能力を超えてしまったからだ。確かに科学には限界はないが、人間の知性には限界があった。

 

 ブリタニアでも黎明期には科学は大いに研究されていた。多くの人間が科学者となりベルカに追いつけ追い越せをモットーに日夜頑張っており、ブリタニアの文明を大きく向上された。この時期は科学者の全盛期ともいえただろう。

 

 しかし、三千世界監察軍が発足して、異世界の知識を収集して科学が恐竜的進化を遂げる過程で多くの科学者が振り落とされていった。

 

 あまりにも発達しすぎた科学は、科学者の能力ではそれを理解するだけで人生の大半を使い果たしてしまう。その為、科学技術における新たなる発見はなくなり、役に立たなくなった。

 

 新しい発見ができない科学者など存在価値はない。変わりに台頭してきたのがスーパーコンピュータなどの人工知性体であった。それらは人間などもろともしない能力で成果を出して、人間である科学者の地位を奪っていった。

 

 皮肉にも彼らブリタニア人科学者たちが必死に発展させた科学によって、ブリタニア人科学者が技術開発から追いやられる羽目になった。

 

 このような状況で科学者としてやっていくには一流程度では問題外で、チートな能力がなければいけなかった。具体的には知識・開発系のチート能力を持つトリッパーしか科学者になれないわけである。

 

 しかし、そこは数多の下位世界からトリッパーが終結している監察軍。かつてはそれなりの数の科学者が存在しており、技術部で活躍していた。

 

 しかし、シドゥリ暦2000年に発生した第一次ベヅァー戦争で監察軍は科学者の大半を失い、現在では彼女たち三人しか科学者は現存していない。そして何時しか彼女たちは監察軍の三賢者と呼ばれるようになった。

 

 そんな彼女たちは、技術部の議題を話し合っていた。

 

 

「やはりメサイアはもう使えないよ。いい加減可変戦闘機の新型を開発しようよ」

「確かにそうだね」

 アズライトのぼやきにハルヒは頷く。

 議題となった可変戦闘機メサイアは、1500年近く前に開発されたブリタニア帝国の機動兵器だった。といっても初期のVF-01Aは、時代相応の物であり、現在からみればそれほどたいしたものではなかったが、なまじ基礎性能が優れていたために技術革新が進んだにも関わらず、改装につぐ改装でこれまでやりくりしていた。

 初期のVF-01Aは管理局戦争時に登場した機体で、小型常温核融合炉を搭載してディストーション・フィールドというバリアを備えるなどそれなりの性能を持っていたが、常温核融合炉の出力が足らず、フィールドと機動性を確保するために紙装甲にするなど涙ぐましい機体だった。

 

 しかし、監察軍が発足して異世界の技術が流入すると、それに合わせてメサイアも改装されていった。

 

『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』の世界からネオ・チタニュウム合金を入手したため、装甲の強度向上と軽量化に成功し、装甲を厚くする事が可能になり、『マクロスF』の世界からはエネルギー転換装甲、ピンポイントバリア、アクティブステルス、チャフ・フレアー・スモークディスチャージャー、スーパーフォールドブースター、EX-ギア(エクスギア)などの技術を入手していた。

 

 更に人工トロニュウムの精製技術が確立したことで、トロニュウムエンジンが採用されて、出力が大幅な向上というよりも使い切れないほどの膨大なエネルギーを確保できた。

 

 これによりエネルギーをバカ食いする装置を制限なく使えるようになり、メサイアの性能は飛躍的に向上した。

 

 ちなみの人工トロニュウムの精製技術は下位世界から入手したわけではなく、知識チートを持っていたトリッパーが開発した物で、監察軍では下位世界から収集した技術の他に、トリッパーが自力で開発した技術も多く存在していた。

 このように現在のVF-01Zになっていったが、未だに新型機は開発されていない。これは仮想敵である時空管理局が崩壊してしまい、これといった外敵が存在しないという軍に力を入れる要因がなかったので、軍縮状態が千年数百年も続いた影響が大きかった。

 

 しかし、昨今の軍拡によって新時代に相応しい新型可変戦闘機を求める声が軍部で大きく、監察軍もこれに併せて新型可変戦闘機開発計画を立ち上げる事になった。

「でも今のVF-01Zでも、十分な性能を持っているからね。これを超えるとなると原型機を何にするかが問題だよ」

 と、令子が突っ込む。

 

 そう、メサイアが改良されて使用されてきたのは、その設計が優れていたからだ。これを上回る機動兵器となると探すのが面倒だ。

「なら、VF-27ルシファー(マクロスF)を使おうと思うわ」

「ルシファーですか。確かにあれなら問題なさそうだけど、アレって確かサイボーグ専用機じゃなかったかしら?」

「そうだね。サイボーグにならないといけないとなると、パイロットが確保できないよ」

 

 ブリタニア帝国では倫理的な理由からサイボーグは禁止されている。

 

「別に兵士をサイボーグにしなくても『IS 〈インフィニット・ストラトス〉』の技術を採用すれば問題なくなるわ」

「ISですか?」

 

 ハルヒの提案にアズライトは予想外という顔をしていた。そりゃそうである。ISは飛行パワードスーツであり、機動兵器というイメージではなかったからだ。

「そうか! ISのシールドバリアーがEX-ギア(エクスギア)にあれば、パイロットの能力が向上するというわけね!」

「そうよ。更にハイパーセンサーを入れとくと便利だし」

 

 令子が盲点だったと驚く。確かにエクスギアがシールドバリアーを展開してパイロットを守れば従来の可変戦闘機では不可能な機動も可能になる。

「ルシファー本体にはデータ領域を採用すれば武装を粒子化して自由に持ち替えもできるし、スーパーフォールドブースターを換装装備にできる」

「確かにそれは便利だね」

「ついでにデータ領域を応用して内蔵型マイクロミサイルを粒子化しておこうと思うわ。そうすれば軽量化や被弾時のダメージコントロールになる」

 可変戦闘機はマイクロミサイルを内蔵している。これは火力として重宝されているが、その分重くなる。

 

 しかし、使うときだけ実体化すれば機体の軽量化になるし、被弾してもマイクロミサイルが誘爆する危険がなくなる。それに粒子化しておけば使用後にまた実体化すればいいのだから事前にデータ領域に入れておきさえすればマイクロミサイルを何回でも使える。

 

 勿論、データ領域にも限界はあるから際限なくとはいかないが、それでもこれまでよりは格段に良くなる。スーパーパックなどの重い装備をしてミサイルの搭載量を増やさなくても、十分なミサイルを使用できるようになるだろう。

「確かにそうなると使い勝手はよくなる。あと必殺技が欲しいね」

「じゃあ、折角トロニウムエンジンを使っているから、SRX(スーバーロボット大戦α)のハイパー・トロニウム・バスターキャノンを小型化して使用したらどうかな? データ領域に入れておけばすぐに使えるわ」

「そうだね。最初から無駄な変形機能など省いて純粋に武器として開発したらそれなりの物ができるし」

 

「それと装甲材質をネオ・チタニュウム合金から超合金ニューZα(マジンカイザー)に変更した方がいいよ」

「超合金ニューZαって、スーパーロボット系の技術だね。確かにこれまでリアルロボット系の技術ばかり使っていたからスーパーロボット系の技術を使ってみるのも面白そうだね」

「たしかに超合金ニューZαなら間違いなく強度が上がるだろうから、可変戦闘機だけじゃなくて艦艇とかにも試してみる価値はあるよ」

「こうしてみると、結構意見があるわね。でも機体だけじゃなくてパイロット自体の戦闘能力も向上させたいから『新機動戦記ガンダムW』のゼロシステムを搭載してみようか?」

「ゼロシステムはまずいでしょ(笑)」

 

 ハルヒのぶっとんだ意見に令子が突っ込む。ゼロシステムは確かに強力だがパイロットが暴走してしまう。

 

「『新機動戦記ガンダムW~ティエルの衝動~』の一般兵士が扱えるよう改良が施されたゼロシステム、通称〝ゼロシステムVer.2.5″を改良すればそれなりの物ができるわ」

「確かにそれなら使えるか……」

 

 こうして三人は相談しながらルシファーの機能を決めていった。

「さて、ルシファーは良いとして、次は何があったかしら?」

「確かシドゥリから皇帝専用艦の開発依頼が来ているわ。急ぎじゃないから後回しでもかまわないそうだけどね」

「皇帝専用艦というと、聖王のゆりかご系列のアレですか?」

「そう、それよ。カイザー・シドゥリが退役して久しいからね」

 

 かつては聖王のゆりかごの後継艦として実戦投入されたカイザー・シドゥリも五百年前には解体されていた。まあ、千年近くも現役だったから十分役に立っているけどね。

「それって役に立つの。『魔法少女リリカルなのは』の世界じゃないとフルに使えないじゃない?」

「そうなのだけど、この世界で使えればそれでいいって話だよ」

「ふうん。で、どうしようかな。何か良いアイデアある?」

「それならレッドノア(不思議の海のナディア)なんかどう?」

「確かにあれなら威圧感があるね」

「原作よりも二周りほど大きくすれば要塞砲や要塞級の多重ディストーション・フィールドも装備可能でしょ?」

「じゃ、バベルの光の変わりに次元跳躍砲として要塞級のグラビティブラストを装備させたらいいじゃない?」

「でも何か特別な機能を追加しておいた方が受けがいいし、いっそのことクロスゲート・バラダイム・システム(スーパーロボット大戦α)でも搭載すればどうかな? どうせベヅァー対策には使えないからね」

 

 彼女たちは戦後ベヅァー対策としてクロスゲート・バラダイム・システムを開発したが、結局ベヅァーに通用しない事が判明したため、監察軍を大きく落胆させていた。

 

「それなら有効利用になるわ」

 

 どう考えてもとんでもない化け物戦艦が作られるのだが、三人のやり取りは軽かった。




あとがき

 今回はひたすら兵器開発の裏話でした。後に誕生したレッドノアがIF世界で活躍します(砲艦外交で)。


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大天災がいない世界(IS 〈インフィニット・ストラトス〉)

「これは豪勢ね。一体いくら使っているのやら」

 

 涼宮ハルヒは迫り来る三千近くものミサイルを見ながら呆れる。いうまでもないがミサイルはただの爆弾や砲弾よりも格段に高い。それを大量に使ってしまっているのだから、その損失は計り知れないだろう。

 

「でも、このエクスギアには無意味だよ」

 

 ISエクスギアを展開したハルヒにこの世界にミサイルでは物の役に立たない。

 IS・・・正式名称〝インフィニット・ストラトス″。宇宙空間の活動を想定して作られたマルチフォーム・スーツだが、これはハルヒが原作とは異なる目的の元で開発したEX-ギアの発展機だ。

 

 元々は新型可変戦闘機開発のネックとなっていたパイロットの身体保護機能の発展を目的として、ISエクスギアを開発しており、これによって試作可変戦闘機プロトルシファーは完成して現在試験運用されていた。とはいえ、ここで満足していなかったハルヒは、そのデータを元に原作のように無人ISの開発計画を立ち上げた。

 

 実は監察軍では、その世界に存在しない技術を流出させることは禁止されている。例えば核融合炉がない世界で、核融合炉を流出させるのはダメだ。

 

 しかし、IS世界ならば、原作でISは既存の物として存在しているから、ISを少し改良した程度の品をばらまく程度なら許容範囲内となる。だからハルヒは大天災が存在しない並行世界を見繕い干渉していたし、念の為にいろいろと仕掛けていた。

 ISコアはコアネットワークで繋がっており、それぞれのコアが手に入れた情報や経験がネットワークを通して入手できる。となると原作みたいに467個などという中途半端な数ではなく、もっと沢山のISコアをばらまいてコアネットワークを充実させた方が利益になる。後はそれを利用して有人機を超えた無人機を作り出せるが、ここで一つ問題がある。

 

 今の監察軍の総司令官はトレーズ・クシュリナーダだ。あの男は無人機を毛嫌いしている。帝国軍が無人艦船や無人戦闘機などの無人戦力を活用しているのも反発しているほどだ。

 

 具体的には彼は監察軍のトップになり、その圧倒的なカリスマで組織を再編成させたが、その後にブリタニア帝国軍の無人兵器を自ら破っていた。

 

 当時の帝国軍では可変戦闘機の半数が無人機で、艦艇もほとんど無人艦という状態だった。これらの無人兵器は確かに優秀であるが、無人であるか故にプログラムされたことであれば明らかにおかしい事でも愚直なまでに実行するという人間にはない欠点があった。結果として演習でハッキングを受けた無人機がトレーズに一方的に叩きのめされるという大失態を犯した。

 

 これを受けて帝国軍で無人機が再考され、現在では有人戦力が主体となっている。

 そんなトレーズがいくら利益になるといっても無人機を作り出せるシステムを作り出す事を快く思うわけがない。そのあたりは伏せておくか。

 

 あの一件でハルヒと帝国軍のツバロフ准将が共同で進めていた無人戦闘機ゴーストの導入は足踏みする結果となった為に、ハルヒはトレーズに反発していた。監察軍も人の集まりだから派閥というのは勿論存在するので、必然的に対立なども起こる。

 

 しかし、総司令官トレーズは当然最大派閥を束ねているが、ハルヒの方は少数派閥の長に過ぎない。これを例えるなら、議席の大半を占める与党と弱小野党みたいな感じだ。この力関係の差は大きいから下手な事はできないので、ハルヒは慎重に行動していた。

 ブリタニア帝国並びに監察軍では様々な下位世界から知識、技術、情報を収集しているし、帝国内でそれを更に改良発展させている。だから多くの分野が他の下位世界の追随を許さないほどに優れているものの無人兵器に関してはトレーズの所為で衰退している。

 

 ハルヒとしては、そろそろ梃子入れして技術の向上を図りたい。というわけで、ハルヒは無人IS開発の為に複数の計画を立ち上げた。

 

 ISは自己進化機能があって、しかも個々のISコアはコアネットワークで繋がっているので、個々のISコアが経験を積んでいくごとにネットワークに情報が蓄積してコアネットワークに繋がっているISコア全てが進化していく。そうすることで無人ISを実用化させることができる。

 

 実はこの手の機械が自己進化するという代物は、ブリタニア帝国と監察軍では結構警戒されている。

 

 それは下位世界の中にはスカイネット(ターミネイター)の様に機械が高度な学習を行ったあげくに人間に牙をむくという事態が発生していたからだ。その為、規制が厳しいし、あまり研究が進んでいない。

 

 しかし、ブリタニア本国ではなく、別の下位世界で実験を行うなら、最悪の場合でも異世界が被害を受けるだけなので問題ないし、自己進化に必要な作業も彼等に押しつければいい。その為にIS世界で白騎士事件を起こして、IS関係の技術とISコアを流出させればいい。

 

 流出する技術は原作と同じレベルにすれば原作と同じ流れになるだろう。精々、IS開発者の名前が変わるだけですむ筈だ。その為にハッキング能力に長けたアズライトが、ミサイル発射を行っていた。

「今日のあたしはハイだよ」

 

 ハルヒはテンションを上げてミサイルを落としていく。粒子変換技術を用いて様々な銃器や近接武器を持ち替えつつ、ミサイル迎撃をするハルヒ。このエクスギアは公開版ISとは異なり、監察軍の技術がふんだんに使われている為、その性能は途轍もないものだった。

 これらの映像は地球全土の配信されていた。ハルヒはあえて素性を隠すことをしていなかったので、素性はすぐに知られるだろう。最もそれはハルヒがこの世界で用意した偽の戸籍と経歴であるが。

 この新たなる力に各国は鈍感ではなかった。急遽日本領海に戦力を送り込んだ。そこに他国の領海であるという遠慮はなく、彼らはエクスギアを撃破あるいは捕獲しようとした。

 

 しかし、相手が悪かった。この世界の軍隊は弱い。原作において白騎士にも勝てなかった程だ。まして相手は白騎士よりも格段に強力なエクスギアだ。エクスギアによって各国の軍が壊滅したのはこの後すぐの事であった。

 これが、この世界で、エクスギア事件と呼ばれることになる大事件の経緯であった。各国はISの力に怯え、これを必死に調べた。その結果、IS開発者の情報が手に入った。これはハルヒがわざとネット上に情報をばら撒いていたからだ。

 

 早速、家宅捜索が行われて、ISアーマーに関する技術資料(原作レベル)と二万個のISコアを確保したが、肝心のISコアはまったくのブラックボックスで解析できず、ハルヒ本人も姿を消していたので、何もわからずじまいだった。

日本side

 あの悪夢のエクスギア事件から数年。あれから日本はさんざんだった。いきなり各国から大量のミサイルを打ち込まれて、国中がパニックになるわ。ISの脅威に反応した各国の軍が領海侵犯を無視して乗り込んで派手に戦争をするなど大騒ぎ。

 

 やっと騒ぎが収まったと思ったら、日本人が開発したISによって世界のミリタリーバランスが崩壊した事で、アメリカから技術と人材育成のための施設建設(費用は日本政府もち)を要求されたことを筆頭に、各国から突き上げをくらう。

 当然ながら、日本政府はこんな大問題を引き起こした涼宮ハルヒの自宅マンションを捜索したが、肝心の涼宮ハルヒを発見することはできなかった(その際に事件に使われたと思われる兵器の部品や資料、それにISコアが大量に発見された)。

 

 この時、日本はISを独占して優位に立つチャンスを掴んだが、それは長続きしなかった。ザルな情報管理により各国にそれが知られ、国際社会から圧力をかけられまくった結果、ISコアと技術は世界上に拡散して日本は優位性を失った。

 さらにハルヒが戸籍を偽造していたことが発覚した。つまり公文書偽造で、彼女は「涼宮ハルヒ」という日本人という立場を手に入れていたに過ぎなかった。彼女が本名を名乗っていたとは思えず、更にいえば日本人かも疑わしかった。

 

 ちなみにハルヒはこの偽装はかなり簡単に済ませていたので、データ上は中卒ニートとなっていたが、データに記載された中学校を調べたら嘘であることが一発でばれた。

 この結果、日本政府はこの自称涼宮ハルヒ(本名不明)を公文書偽造と密入国の容疑で指名手配した。こうすることで日本政府はアメリカの日本への突き上げをごまかそうとしたが、上手くいかずIS学園を設立させる羽目になった。

 

 こうして日本は金を浪費させられ技術を吸い上げられるという状況に陥った。

 更にハルヒは原作とは異なりISの使用言語を英語に設定していたため英語の国際的地位はますます高まり相対的に英語が苦手な日本人の地位は低下した。このように頭が痛い状況が続いていた。



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大天災がいない世界 その二

 その日、人類はとある小惑星を観測した。そして驚くべき結果を知る。何と、直径400kmもの小惑星が地球に落下コースをとっていたのだ。では、それだけの物体が地球に落ちたらどうなるか?

 

 まず、小惑星が地表に墜落すると、深さ10kmほどの地殻を粉砕して、その衝撃で1kmほどの岩塊が大気圏を超えて上昇し、その後岩塊が地球の重力に引かれて地球全域に隕石として襲い掛かる。

 

 また地殻の方も周囲の地殻をめくり上げながらも広がる地殻津波が起こり、直径4000kmほどの巨大なクレーターが出来上がり、そのクレーターから岩石蒸気が湧き出る。

 

 岩石蒸気は1500℃以上の高温を発し、大気圏外まで膨れ上がり、地球中に広がる。こうして地球は約一日で岩石蒸気に覆われて火の玉となる。

 

 地球を覆った岩石蒸気は、地球中の海をわずか一ヶ月ほどで蒸発させて、水素と酸素が燃え尽きるまでの数年間、地球を燃やし続ける。その後、温度が低下してくると数千年間ほど雨が振り続けることになる。

 

 さて、そうなったら人類は生き残れるでしょうか? 答えは無理。

 

 だから迎撃しなければならないが、ここで直径400kmもの小惑星を迎撃できる手段が存在しないという問題に直面する。

 

 核ミサイル? 残念ながら核兵器は大気圏内でこそ威力が高いが、宇宙空間では実はそれほど威力はでない。小惑星を撃破どころか軌道をずらすことさえできない。そうなるともっと強力な大量破壊兵器が必要なのだが、困ったことにそれが存在していなかった。

 

 それは、この世界の抑止は核戦力からISに切り替わっていた為、大量破壊兵器開発は停滞していたからだ。

 

 ちなみにISは機動性こそ優れているが、破壊力という点では大したことはできない。ISで軍事的優位に立ってもこの状況では何の意味もないのだ。ぶっちゃけるとISなんかに予算をつぎ込むよりも、その手の大量破壊兵器を開発していれば状況は違ったのだろうが、最早手遅れであった。

 

 それでも悪あがきで主要国が共同で核ミサイルによる迎撃を行ったが、状況を覆すことはかなわず、地球に小惑星が衝突した。

 

 

 

 その大規模な天体ショー(当事者にとってはまさに終末)をハルヒたちは地球から遠く離れた宇宙空間に存在するレッドノアで観賞していた。

 

「オーーホホホッ! ほーら、ほら。ハルヒさんアズライトさん御覧なさい。こんなに綺麗な花火ですよ! ホーホホホッ!」

「あなたはどこの宇宙の帝王よ?」

「ネタに走りすぎ」

 

 世紀のショーでテンションが上がりまくりなシドゥリに、ハルヒとアズライトが突っ込みを入れた。ハルヒはめったにみられないショーがみれるとシドゥリやアズライトを誘っていたが、シドゥリのハイぶりはハルヒの予想以上だった。

 

 今回シドゥリがついでとばかりにレッドノアを動かしていて、ハルヒとアズライトは同乗を許されていた。

 

「しかし、あの世界を利用するだけ利用して用済みになれば見殺しとは、ハルヒさんそちも悪よのう」

 

 シドゥリは皮肉げに言う。

 

「……あの世界を助けても利益にならないし、それにこれで機密保持の手間が省けるわ」

 

 そんなシドゥリにハルヒは冷淡な言葉を吐いた。

 

 IS世界では迎撃不可能な小惑星であるが、監察軍ならあれぐらいどうとでもなる。グラビティブラストを打ち込むなり、相転移砲を打ち込むなり、いくらでも方法はあるのだが、それをしなかったのは、あの世界が滅亡したほうが都合がいいからだ。

 

 ハルヒにとっては無人ISが開発できるだけのデータを手に入れた後は、あの世界からISとそれらの技術がなくなったほうが都合がよかった。だから、ハルヒはISを広める世界を選ぶ際に、IS世界で大天災がおらず、近い将来に滅亡する並行世界を条件に選んだ。その為、この世界の地球が小惑星で滅亡するのは予定通りだった。

 

「どうせ滅亡する世界だもの。ならあたしたちの役にたって滅びればいい」

「怖っ!」

 

 その言葉にシドゥリがドン引きする。とはいえ彼女も為政者だ。わかっていて悪ふざけをしているのだ。

 

 

 

 ISが広まって十年。あの世界は、おおよそ原作と同じような世界となった。ISコアを二万個も自宅に置いていたため、世界中に存在するISの数は桁違いとなっているが、男尊女卑ならぬ女尊男卑の社会になっていることには変わりはなかった。

 

 しかし、原作でも思ったけど、なんでこうまで偏った世界になるんだ? 女性はISを使える→女は偉いになる根拠がわからない。ましてや、この世界に地球に現存するISコアはあたしの私物を盗み出した物に過ぎない。そんな盗品が使えるからと威張るのはどうなのよ?

 

 まあ、いいでしょう。どうせ滅亡した世界ですから最早どうでもいい。そんなことよりも原作よりも多くのISが存在するおかげでコアネットワークの成長も順調でIS無人機の開発に成功した。やっぱ物量はすごいね。これだけのデータを集める為に各国政府やパイロットたちの苦労が忍ばれます(笑)。

 

 この十年で、可変戦闘機ルシファーはテストが完了。現在では量産されてブリタニア帝国軍に正式に配備されています。更に無人ISゴーレムも完成した。これって戦闘能力自体はそれほどないけど小型だからいろいろと使えるので、現在ではレッドノア内部の護衛戦力として配備を進めている。

 

 こうして、あのIS世界は用済みとなりました。この天体ショーの数日後にはハルヒは、IS世界に拡散していた二万個のISコアがすべて壊れたのを確認したのであった。




あとがき

 IS世界はこうして滅亡しました(汗)。ちなみにこのIS世界にはトリッパーはいません。さすがのハルヒもトリッパーのいる世界にはそんなことしません。


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少数派閥

シドゥリ暦2022年

 

 三千世界監察軍本部のある一室にはテレサ、ランカ・リー、涼宮ハルヒ、ホシノ・ルリの四人が集まっていた。彼女たちは監察軍の少数派閥〈虚無の使い魔〉のメンバーであった。人が集まれば自然と派閥ができる為、三千世界監察軍のような大規模な組織ともなれば、派閥が発生するのは当然であった。

 

 現在の三千世界監察軍本部の派閥は総司令官トレーズを筆頭としたトレーズ派が主流となっているが、彼女たちの様な少数派閥も存在している。といっても我の強いトリッパーが多い監察軍本部だけに派閥に入って群れる事を嫌い、無派閥で活動しているトリッパーが大半であるが、それでもトレーズ派が監察軍本部の最大派閥で大きな影響力を持っているのは間違いなかった。

 

 彼女たちの場合は、『ゼロの使い魔』関係の特典を有していることが縁でハルヒを中心に派閥を作ることになったが、別に監察軍本部でいたずらに派閥争いをやって仲間内でいがみ合いたいわけではない。

 

 監察軍本部があまりにもトレーズ派に偏り過ぎていることから別の派閥として意見を主張することで、バランスを取りたかったのだ。要するにトレーズ派を与党とするならば、ハルヒたちは弱小野党という事になる。

 

 野党なき与党は腐敗するというだけに、トレーズ派を監視すると共に自浄作用として機能するというのが彼女たちの目的だった。それだけにトレーズ派とは別の意見を言う等して別の立場からの発言をよく行っていた。

 

 これは監察軍の腐敗や暴走を警戒していたシドゥリも賛同しており、そうした事もあってハルヒたちのような少数派閥が監察軍本部で存在していたのだ。そんな彼女たちが今回集まったのは以前開発していた無人ISのことがトレーズにばれたからだ。その所為でハルヒは予算と施設の不正使用を問われていた。

 

「隠蔽工作にはそれなりに気を使っていたんだけどね」

 と、ハルヒが疲れたように言う。

 

 正直な所、彼女たちはトレーズの無人機嫌いには懸念を示しており、その点では激しく対立していたのだ。とはいえ、そこは少数派閥の力の弱さからトレーズに押し切られてしまった為に、監察軍では無人機開発が許可されなくなり、表立って無人機開発ができなくなったのだ。

 

 それなら開発を諦めればいいじゃないかと思う人もいるかもしれないが、無人機の効率は非常に魅力的であった。その為、無人機開発を一切やらないというのは非効率的な行動で、合理主義のハルヒにとって到底納得できることではなかった。だからこそ、下位世界の人間を利用してまで秘密裏に無人機開発を進めていたわけである。

 

 幸いなのが、件の無人ISは既にロールアウトしてレッドノアに配備されており、そのデータのみならず製造ラインすらもブリタニア帝国本国に移設済みであった為にトレーズがこれを潰すことはできないことだろう。

 

 トレーズは監察軍では強力な権力を持つが、ブリタニア帝国にはあまり影響力をもっていないから、ブリタニア帝国が採用した無人機を廃棄させるような政治力など有していないのだ。

 

「それで、これからどうするの?」 

「シドゥリがこの件で便宜を図ってくれたわ。彼女も無人ISの有効性は理解してくれたもの」

 

 少々、不安そうに訊いてきたランカにハルヒが気にしなくていいとばかりに朗報を伝えた。実際、今回の無人ISはシドゥリも一枚かんでおり、開発された無人ISはレッドノア内部で順調に活動していた為にシドゥリの評価は上々であった。

 

 シドゥリからすれば無人ISの開発に使われた資金に見合うだけの成果だったことから、今回の件ではそれとなく弁護していた。

 

「でも、レディ・アンがうるさくて困るわ」

 

 トレーズ自身は無人機に頼りたがるハルヒたちに対する牽制程度に思っているようでハルヒたちを叩き潰そうとまではしていないかったが、レディ・アンはここぞのばかりに積極的にハルヒを叩いていたのだ。

 

「大丈夫なの?」

「やった事は大したことはないし、何とかなるわ」

 

 レディ・アンはトレーズの副官とはいえ所詮はトリッパーではない下位世界人にすぎない。その彼女がトリッパーが優遇される監察軍においてトリッパーであるハルヒを排除することは余程のことがないと無理なのだ。そして今回の事は許容範囲内のことであり、いくらでも切り抜けることができるだろう。

 

 ハルヒの予想通りに、その後の後始末でもハルヒにある程度の厳重注意が加わったのみで処分されることはなかったのであった。




あとがき

 今回は、以前書いた『大天災がいない世界』で登場した無人ISが話の焦点になっています。ハルヒは秘密裏に開発を進めていましたが、さすがにいつまでも隠し続けることは不可能でしょう。


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ハーガン

シドゥリ暦2025年

 

 ブリタニア帝国では治安維持のための機動隊の再編成が検討されていた。機動隊といえば集団でゴツイ装備に警棒に盾を装備して治安維持や暴動などに対処する警備警察の部隊である。

 

 一応、ブリタニア帝国では治安維持のために現代日本のように一般人が武器や爆発物などの危険物を所持することが禁止されており、軍、警察、貴族が光線銃などの武器を所持できる事になっている。

 

 しかし、次元漂流者や魔法資格者による魔法犯罪にも対応する必要がある為、そのような装備では不十分なのは明白であったことから新装備が開発されることになるが、そこで要求されたスペックは空戦S+ランクの魔導師ならびに騎士に対抗しうる性能だった。

 

 これはブリタニアの魔法資格者が総じて高ランクの魔力資質を有していた事から高ランク魔導師に対抗できない装備など必要とされなかったからだ。

 

 ここで実際の戦闘を想定すると、まず都市部での地上戦と空中戦が行われることが予想される。これは騎士や魔導師は空で戦闘できるが人間である事から地上でも戦えるからだ。その為、彼らと同じように地上と空中で戦える兵器が求められた。

 

 単純に空陸で戦える兵器ならば可変戦闘機を使えばいいと思うかもしれないが、あれは恒星間戦争用の機動兵器として開発しただけに対人戦にはあまりにもオーパースペック過ぎる上に、そのサイズが大きすぎて小回りが利かず、都市部などの複雑な地形では戦いにくいのだ。

 

 そこで参考モデルは『メガゾーン23』で登場する小型ロボットのハーガンが選ばれた。ハーガンはガーランドのように4m以下でありながらも変形までできるが、この可変機能は明らかに無駄なのでオフミットして、生産性と整備性を向上させた。

 

 また、更なる生産性と整備性の為に動力はパワーエクステンダー(バッテリー)と、重力波ビーム受信機(無線エネルギー受信)を採用した。この組み合わせはブリタニア帝国と監察軍では自動車などの車両全般に使用されており、それらのインフラを流用するだけですむから低コストなのだ。ついでにハーガンが重力波ビーム送信の範囲内でしか使えない為に、重力波ビーム送信器を取り付けた空中要塞スサノオ(見た目は『マブラブ』のXG-70)を同時に製作しておいた。

 

 攻撃兵装は魔導師のバリアジャケットやシールドを破る為にビームライフル、ビームサーベル、レーザーライフルなどでまとめられている。というのも、魔導師のバリアジャケットはそれなりの防御力があるので小銃の実体弾程度では突破できず、シールドともなれば12.7mm弾でも破れないからだ。その為、実体弾ではなく桁違いの貫通力をもつビーム兵器を採用している。また、レーザーライフルは殺傷モードと非殺傷モードに切り替えが出来る為に治安維持活動では使い勝手がいいので採用していた。

 

 防御兵装は装甲に超合金ニューZαを用いて、更にAMF(アンチマギリンクフィールド)、シールドバリアー、絶対防御によって守りを固めている。といっても、この程度ではブリタニア帝国軍では心もとないが、生身の人間に過ぎない騎士や魔術師の攻撃ならばこのハーガンを破壊することはまず不可能だろう。

 

 こうして試作されたハーガンは生産性、整備性、操作性に長ける名機となった。言うまでもないがいい兵器の条件という物はどの世界でも変わらない。ガンダムのように一点物のカスタム機など軍や警察ではゲテモノでしかないのだ。

 

 後にハーガンは騎士として破格の強さを誇るブリタニア貴族との模擬戦でかなりの戦闘能力を発揮して高評価を得た為に正式にブリタニア帝国の機動隊に採用され、魔法犯罪を行った魔法資格者たちの討伐に猛威を振るう事になる。




解説

■ガーランド
『メガゾーン23』で登場した主役級メカ。4mにも満たないサイズでありながらもバイクから人型に変形する驚異のメカニズムであるが、実用面で考えると無駄な機能だと言える。

■ハーガン
『メガゾーン23』で登場した敵メカ。ガーランドと同じく可変機能があるが、その機能の有効性には大いに疑問がある。パートⅡでは可変機能をオフミットした宇宙戦闘用スペースハーガンが、パートⅢではマシンソルジャーという名称で登場している。ブリタニア帝国のハーガンはこのパートⅢのハーガン(マシンソルジャー)を参考にしている。

■パワーエクステンダー
『機動戦士ガンダムSEED』の世界でモルゲンレーテ社が開発したMS用大容量バッテリー。この世界のバッテリー技術はかなり優れており、ブリタニア帝国では民生品として広く使われている。

■重力波ビーム受信機
『機動戦艦ナデシコ』の世界で人型戦闘機エステバリスに採用された動力源。エステバリスはエンジンを搭載せずに外部から重力波ビームを受信することでエネルギーを確保することで小型軽量化に高出力化という矛盾した性能を両立させる事に成功している。ブリタニア帝国では民生技術として自動車などに採用されている。

■空中要塞スサノオ
 監察軍が重力波ビーム送信インフラ内でしか使えないハーガンの欠点を埋める為に開発した空中要塞。最初は『機動戦艦ナデシコ』のジンタイプをモデルに作ろうとしたが、「無理に人型にする必要なんてないよね」という真っ当な意見から『マブラヴ』のXG-70をモデルにした空中要塞となった。

■超合金ニューZα
『マジンカイザー』の世界でマジンカイザーに用いられている装甲材。マグマの熱に耐え衛星軌道上からの落下の衝撃にも無傷と言う破格の防御力を有する。といっても、ハーガンのサイズから装甲はどうしても薄くなるので防御力は心もとない。

■AMF(アンチマギリンクフィールド)
『魔法少女リリカルなのはStrikerS』でガジェットに用いられている防御手段。本来は魔力結合を阻害するAAAランクの高位防御魔法であるが、それを機械的に再現している。当然ながらハーガンやそのパイロットは魔力を用いないのでAMFの悪影響を受けない。

■シールドバリアー
『IS 〈インフィニット・ストラトス』でISに用いられている防除手段。操縦者を守るためにISの周囲に張り巡らされている不可視のシールド。攻撃を受けるたびにシールドエネルギーを消耗するが、ハーガンの場合は重力波ビームによってエネルギーをチャージされるためにエネルギー切れになることはない。

■絶対防御
『IS 〈インフィニット・ストラトス』でISに用いられている防除手段。シールドバリアーが破壊されて機体に攻撃が通ることになってもこの機能によって攻撃を受け止めてくれる。これを使用するとシールドエネルギーが極端に消耗するが、ハーガンの場合は重力波ビームによってエネルギーをチャージされるためにエネルギー切れになることはない。


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俺のセフレは変身ヒロイン(超昂天使エスカレイヤー)

 ピピピピピピピピィーーー!

 

 目覚まし時計のうるさいチャイム音に、ベットから身を起こした俺はそれを止めてベットから上半身を起こした。そんな俺の隣では金髪碧眼の白人美少女が眠たそうにしながらも身を起こしていた。

 

 ちなみに言うまでもないが、俺とこの少女は一糸まとわぬ全裸で同じベットの中で眠っていたのだ。俺はここ最近は彼女と一緒に寝ることが多く、昨夜も激しいプレイの末にそのまま眠ったのだった。

 

「おはよう、一郎くん」

「ああ、おはよう、ヴィヴィアン。今日もいい朝だな」

 と、俺は彼女に出来るだけ爽やかに挨拶した。

 

 俺の名は、田中一郎(たなか いちろう)。日本の地方都市の一つである閂市在住で、同じ閂市にある一条学園に通う高校二年生だ。俺はマンガやアニメが大好きで二次元にハマったオタクで、普通よりも肥満体なのもあって、クラスの女子からはキモイとか言われている所謂モテナイ男だった。そんな俺が外国人の美少女とベッドを共にする事になったのはそれなりにわけがあった。

 

 彼女の名はヴィヴィアン・グラーフ。去年一条学園にドイツからの留学生として入学してきた少女。色彩が美しく王冠のように輝いていて見える長い金髪に、黒子どころかシミ一つない美しい白い肌、そして類まれな美貌。そうヴィヴィアンは美少女、それもクラスの女子がかすんで見える程の超絶美少女であると断言してもいいほどの類まれな美貌の持ち主だ。

 

 そんな彼女は俺のセフレ(セックスフレンドの略)になっていた。そこで「お前どんな汚い手を使って彼女をものにしたんだ?」とか思った人もいるだろうが、俺は別に無理強いとかはしていないぞ。そもそも彼女の方からセフレにして欲しいと頼まれたんだしな。

 

 どこのラノベだと突っ込まれそうですが、これは地球の平和の為なのだ。ここでトンデモない大風呂敷を広げていると思われるかもしれないが、これは本当の事だったりする。

 

 事の始まりは宇宙からダイラストと名乗る侵略者が日本の閂市で侵略行為を始めた事だった。「何故、日本なのか?」「どうして首都東京ではなく、地方都市にすぎない閂市を狙っているのか?」と突っ込み処は満載であるが、やってくるものは仕方ない。

 

 勿論、警察や自衛隊もこのダイラストに対処しようとしたが、ダイラストの戦闘員たちは異様に強く後手に回っているのが現状だった。

 

 ここで閂市の市民たちがパニックになっていなかったのはダイラストの侵略行為で大量の死者が出た事もないし、建設物に甚大な被害が出たとかいう事もなかったからだ。ぶっちゃけるとダイラストの行動は組織的な迷惑行為に終始していた。とはいえ市民としては迷惑極まりなく、またダイラストを恐れて閂市及びその周辺から疎開する者も後を絶たない。実際、俺の両親もその疎開組だったりする。

 

 そんなダイラストの傍若無人な振る舞いに「誰かあいつらを何とかしてくれ!」と市民たちが思っている状況の中で、ダイラストに戦いを挑む正義の味方が現れた。その名はエスカレイヤー。明らかに十代のか弱い少女にしか見えないその容姿とは裏腹に、エスカレイヤーはダイラストの戦闘員を圧倒的な戦闘能力で撃破したのだった。

 

 特撮ヒーローじゃあるまいし、謎の怪人が侵略してきたからといって都合よく正義の味方が現れるとは思わなかったが、現れてしまったものは仕方ない。というか、そのエスカレイヤーの正体こそがヴィヴィアンだったりする。

 

 何でもヴィヴィアンは本当は異世界に存在するブリタニア帝国の人間で、ダイラストの地球侵攻を察知したブリタニア帝国がこの地球を保護する為に彼女が派遣されたらしい。何とも非常識な話であったが、実際にダイラストの侵略があったために彼女の言う事を信じるしかないだろう。

 

 最もここで「地球とは何の関係もない異世界の国が地球を救う為に動いてくれるなんてブリタニア帝国は良い国だ」と能天気に思う俺ではない。ブリタニア帝国とて国家であるからには何らかの思惑があってダイラストの妨害をしている筈だ。それが分からないのは一抹どころかかなり不安であるが、信用できないから地球から出て行けと言える立場ではない。それだけ地球は危機的状況なのだ。

 

 やむえず、俺はヴィヴィアンに協力することにしたが、その一環として彼女をセフレにしたのだった。というのも実はヴィヴィアンは生身の肉体ではなく、エスカレイヤーという戦闘用バイオボディを使っており、このエスカレイヤーには永久エネルギー炉と昂エネルギー発生装置『ドキドキダイナモ』略してDDDが埋め込まれているのだ。

 

 エスカレイヤーには永久エネルギー炉によって半永久的にエネルギーが尽きる事がないが、エスカレイヤーの強化にはDDDによって発生するD2エナジーが必要だった。

 

 このDDDはいかなる精神の興奮状態でもエネルギーを発生できるが、ヴィヴィアンは性的興奮が一番手っ取り早いという結論から自分とセックスして興奮させてくれるパートナーを探していたらしく、俺が選ばれたのはヴィヴィアンとの相性が良かったことと人一倍スケベだったかららしい。まあ、高校生なのにエロゲーをやりこんでいたからな。その所為でクラスの女子からの評判は悪かったが、ヴィヴィアンにとっては都合が良かったらしい。

 

 結果として、地球を守るために俺が腰を振る羽目になったのだった。すごくおいしい思いができて役得なのは認めるが、ちょっとアレだな。彼女がいないやつが聞けば「リア充がわがまま言ってるんじゃねえ!」と怒鳴られそうな事を思いながら、俺はヴィヴィアンと一緒にベッドから降りてリビングに向かうのだった。

 

 

 

「おはようございます。一郎さん、ヴィヴィアンさん」

「ああ、おはようフィーネ」

「おはよう、フィーネ」

 

 俺たちがリビングに行くとそこには一人の少女がいた。彼女はフィーネ・グラーフ。ヴィヴィアンたちが偽造した戸籍上ではヴィヴィアンの妹となっているが、彼女も勿論地球人ではない。というか生物ですらなく人間の少女に似せて作られたアンドロイドだ。

 

 このフィーネはエスカレイヤー専用のサポートロイドらしく、エスカレイヤー関係の整備や調整などを一手に引き受けていた。何気に万能アンドロイドなのだ。

 

『昨日の午後四時頃、閂市で出現したダイラストの戦闘員をエスカレイヤーと名乗る人物が倒しました。少女のような外見を持つこの謎の人物が何者なのか、現在でも分かっておりませんが、政府関係者は全力で調査を開始したという情報が……』

 

 リビングではエスカレイヤーに関するニュースが流れていた。

 

「政府が調査か。そういえばお前たちは日本政府とは協力してないんだな」

 

 ふと思った疑問だ。

 

「そうですね。一個人ならともかく国家と接触は好ましくないですよ。何しろ未開文明に余計な技術を持ち込むのは健全な発展を阻害していますから」

 と、フィーネの言葉に俺はなるほどと思った。

 

 ブリタニア帝国が地球の救援の為に正式に接触するというのならばともかく、極秘裏にたった二人の戦闘員を派遣している事からもブリタニアが地球と公に接触するつもりがない事は伺える。本来ならばこの二人を派遣することすらやりたくなかったのかもしれない。それだけに政府と接触と言う選択肢はないのだろう。

 

 俺が思うに地球の健全な発展の為というものあるかもしれないが、ブリタニアは自分たちの技術が外部に流出するのを嫌っている可能性は大きいだろう。とはいえそんな事は一介の高校生に過ぎない俺には関係ない事だ。

 

 ここで彼女たちの情報を政府に売るのもありかもしれないが、さすがにそれは不義理だろう。彼女たちは曲がりなりにも地球の為にダイラストと戦ってくれているのだ。その彼女たちを裏切るような行為をすれば男が廃るというものだ。

 

 ならば俺がするべきことは彼女たちの秘密を守りつつヴィヴィアンをサポートするということだろうな。俺はフィーネが用意してくれた朝食を食べながらそんな事を考えていた。



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俺のセフレは変身ヒロイン その二

ヴィヴィアンside

 

「エスカレイヤーですか?」

「そう、嫌なら断っても構わないわ。候補者は他にもいるから」

 と、17歳ほどの美少女が私にそういった。

 

 その少女は見た目こそうら若い美少女にしか見えないが、私は少女が不老長寿のブリタニア貴族であり、その実年齢は相当なものであることを知っていた。

 

 私の名はヴィヴィアン・グラーフ、ブリタニア帝国に住む平民の青年だ。といっても私は性同一性障害を患っているので、悪い意味で普通ではない。

 

 この性同一性障害というのは、『生物学的性別(sex)と性の自己意識(gender identity、性自認)とが一致しないために、自らの生物学的性別に持続的な違和感を持ち、自己意識に一致する性を求め、時には生物学的性別を己れの性の自己意識に近づけるために性の適合を望むことさえある状態』をいう医学的な疾患名で、やや簡潔に言えば『性の自己意識(心の性)と生物学的性別(身体の性、解剖学的性別)が一致しない状態』とも説明されるものだ。

 

 つまり私は身体は間違いなく成人男性であるのに心理的には女性だった。当然ながら男でありながら男を好きになったり化粧や女装を好んだりして家族を含めた周囲との摩擦が大きく、正直な話、私としては性転換手術を受けて女性になりたかったが、世間体を気にする家族はそれに猛反対した。

 

 特に父は古風な人間で、そんな私を叩き直すとして格闘技を習わせたりしたが、一向に状況が改善することがなかった。

 

 そんな私であるが、総合技術大臣アスマン侯爵と合う事になった。余談であるが、ブリタニア帝国の政府要人は法衣貴族(宮廷貴族ともいう)が勤めており、宰相が公爵で、省の大臣が侯爵、庁の長官が伯爵、局の局長が子爵がなっていた。

 

 

 

 アスマン侯爵の話をまとめてみると、どうもブリタニア帝国はエスカレイヤー計画という戦闘用バイオボディを開発する計画を進めているらしい。その最大の特徴は戦闘用バイオボディへの意識転送で、ただの一般人が超人的な戦闘能力を持つ肉体を使う事ができる事だ。具体的には魂をバイオボディに移してバイオボディを己の肉体として使用するという仕組みらしい。

 

 この利点は必要な時にバイオボディに魂を移して使用して、必要がなくなったら生命維持装置で保存しておいた本来の肉体に魂を戻せば元通りになる事だ。何でも前から人間を改造して超人的な強さを持つ人造人間を作る技術はあったが、一端改造してしまったらもう普通の人間に戻す事はできなかったらしい。まあ、それ以前に人体改造という人道的な問題をはらんでいた為に研究自体あまりされていなかったとの事です。

 

 私はこのエスカレイヤーのテスターとしてスカウトされていたわけで、正直言って最初は乗り気ではなかったが、エスカレイヤーの容姿を見て考えを改めました。戦闘用バイオボディと聞いていたので、どんな厳つい容姿かと思っていたのですが、厳ついどころか金髪碧眼のとんでもない美少女でした。

 

 実はブリタニアでは性転換手術は可能ですが、私は男性として育っていた為に予想図として知らされた将来的な顔や体つきがあまりにも男性的でした。まぁ性転換手術といっても性別を変えるだけですから元々女と間違われるほどの中世的な男ならともかく普通はそうなるのは当たり前です。

 

 整形手術でもすれば話は別ですが、ブリタニアでは犯罪対策としてその手の顔や容姿を変える事は厳しく規制されています。まあ、犯罪者が姿を変えて逃亡すると面倒だから規制されるのは仕方ありませんが、私の様な人間には不便な話です。

 

 そうした事情もあり、合法的に美少女になれるというのは私にとってとても魅力的な事で、その話を受ける事にしました。

 

 こうしてエスカレイヤーとなった私はアスマン侯爵からフィーネという少女を紹介されました。フィーネは人間ではなくエスカレイヤー専用サポートロイドで、私のサポートの為に製作されたアンドロイドです。

 

 それでテスターとして私が受けた任務は、異世界の地球に行って現地世界の地球を侵略しようとするダイラストという勢力と戦う事でした。つまりダイラストの侵略に立ち向かう正義の味方という役割をやればいいらしいです。

 

 ここで重要なのが、あくまでデータ収集が目的なので無理に地球を守る必要はなく、必要とあればその世界の地球を見捨てても構わない事。肝心なのはブリタニアの技術を地球人ダイラストに関わらずその世界の者たちに流出させない事です。

 

 

 

 そんなこんなで私たちが地球に来て早一年が過ぎました。私は戸籍の偽造などでドイツから日本に留学してきた少女として一条学園に入学することになり、晴れて女子高生として生活しています。ここでは男であった以前の私を知る者はおらず、気兼ねすることなく人生を楽しめています。

 

 しかし、肝心のエスカレイヤーの強化が思ったよりも進んでいないという問題があります。エスカレイヤーは以前の人造人間と違ってDDDから発生するDエナジーを用いて強化されるという特性があり、ブリタニア帝国政府はこの強化機能のデータを欲しているのですが、未だ十分な成果を出せていません。

 

 私もこの一年間何もしていなかったわけではありません。DDDからDエナジーを得る為に興奮状態になる為にいろいろとやりました。といっても薬物とかを使って興奮状態になるなんて事はしていません。さすがにそれはアスマン侯爵から禁止されていますし、私もそんなトンデモない事をするつもりはない。

 

 では、何をしていたかというと、自慰とフィーネとのレズ行為です。これは最初はそれなりのエネルギーを得ることができましたが、すぐにマンネリ化して得られるエネルギーが低下してしまい効率が悪くなりました。その為、フィーネから男性と性行為をしてより効率的にエネルギーを確保するように言われています。

 

 これは要するに男性と肉体だけの関係を結ぶようにという事です。といっても、そもそも私が一条学園に入学したのはその相手を探す為なので、当然その相手はすでに決めています。その人は同じクラスの田中一郎さんです。

 

 彼は肥満気味のオタクで、高校生にも関わらずエロゲーをやるような猛者であった。当然ながらクラスの女子からはキモオタ扱いされているモテナイくんであるが、私はあえて彼を選んだ。というのもエスカレイヤーのセックスフレンドは毎日のように私とセックスしなければならないので人一倍エッチでなければならず、更に私が飽きないように様々な趣向をこらさないといけない。おまけに下手に女にもてると私に構ってくれなくなるから競争率の低い方が望ましいという点もあり、それらの条件を考えると彼は優良物件だった。

 

 勿論、なりふり構わず複数の男性と肉体関係を持つというやり方であればマンネリを防げ効率よくエネルギーを得られるでしょうが、流石にそれはビッチすぎるのでセックスフレンドは彼一人だけにするつもりです。

 

 この時の私は知る由もありませんでしたが、エスカレイヤーの原型である高円寺沙由香がこの問題から複数の男性と積極的に性行為をする並行世界があったらしいので、マンネリ化はかなり深刻な問題です。

 

 一郎に目を付けた私は一郎に積極的に話しかけたりしていろいろとアプローチをしています。彼をセックスフレンドに選ぶにしても手順というものがあります。親しくもない女の子がいきなり抱いて欲しいなんて頼んでも相手は引くだけですから、まずは彼と仲良くならないといけません。




あとがき

 ヴィヴィアンと田中、そしてブリタニア貴族のアスマン侯爵はいずれもトリッパーではありません。フィーネにいたってはアンドロイドだから論外ですね(笑)。さてヴィヴィアンはエスカレイヤーの都合で田中のセフレになりましたが、実はヴィヴィアンは気付いていませんが、田中は微妙にヴィヴィアンの好みだったりします。こうして始まった田中とヴィヴィアンのイチャイチャ生活ですが、次第に二人の思いが変化して行く事になります。


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俺のセフレは変身ヒロイン その三

「フラックスプロージョン・ビートチェンジ!」

 

 ヴィヴィアンの台詞と共に、通常は省エネモードになっていた永久エネルギー炉が通常起動を初め、ヴィヴィアンの着衣が破れて全身が光に包まれる。その光が、体に密着した青と白を基調とするレオタードのようなコスチュームへ変化すると、髪や体毛の色が青に変化して変身が完了した。

 

 変身着後に背中から余剰エネルギーが天使の翼のような形状で放出されるが、その姿に俺は彼女が本当の天使のような印象すら受けた。

 

「青い地球を守るため、胸の鼓動が天を衝(つ)く! エスカレイヤー、悪の現場に只今参上!」

 

 ダイラストのフラストモンスターが現れたという知らせを受けてヴィヴィアンはエスカレイヤーに変身して決め台詞と共に登場した。

 

「お前はエスカレイヤー! ギャアアアッーーー!」

 

 フラストモンスターがエスカレイヤーが現れたことに気づくが、エスカレイヤーは一々敵と話をするつもりはないからか問答無用でビーム状の光剣でぶった切った。

 

 まさに瞬殺で、呆気なくケリがついた。というか最近思うのだがエスカレイヤーはダイラストの戦闘員を相手にするには強すぎるような気がする。ダイラストの将軍(確かミストレーヌだったかな?)やFM77というダイラストが作り出したエスカレイヤーのクローンも瞬殺している。

 

 ダイラストと戦うわけだから強いに越したことはないのだが次元が違う。ブリタニア帝国はエスカレイヤーをダイラストの侵略から地球を守る為に派遣したといっていたが、エスカレイヤーはそもそもダイラストなんか比べ物にならないとんでもない化け物を倒すために開発された人造人間と考えた方がしっくりくるほどだ。

 

 正直言って俺がエスカレイヤーの強化に協力するまでもないと思える程であるが、そのことをヴィヴィアンに問い詰めたら彼女との関係が破綻するような気がして訊くに訊けない状況だった。

 

 

 

 そしてダイラストの本拠地を突き止めたヴィヴィアンたちがダイラストとの戦いの果てのダイラスト地球侵攻軍を壊滅させた事で状況が変わった。

 

 ダイラストに捕らえられた科学者たちが解放されて、ダイラストが地球から手を引いたことに多くの日本人(特に閂市の住民)は喜んだが、それに反して俺の心は落ち込んでしまった。

 

 ダイラストの侵略を防いだ以上、ヴィヴィアンたちが地球に留まることはないだろう。俺はヴィヴィアンと分かれることが嫌でたまらなかったのだ。

 

 最初は地球を守る為と可愛い女の子を好きにできるから役得だと思っていたが、俺は次第に本気でヴィヴィアンを愛するようになった。だから俺はヴィヴィアンに告白して一緒にいてくれと頼んだ。

 

 ヴィヴィアンはそれに即答してくれなかった。彼女自身も俺の事を好きになっていたらしいが、ヴィヴィアンには特殊な事情があった。実はヴィヴィアンは性同一性障害だった男性で、エスカレイヤーという借り物の身体で女性になっていたにすぎなかったのだ。

 

 更にこの体の所有権は自分にはなく、いずれはブリタニア帝国に返して本来の身体に戻らないといけないので、俺と付き合えないと。そしてこのことを黙っていて御免と泣きながら謝られた。

 

 ヴィヴィアンが元は男だったとは知らなかった俺は驚いたが、それでも俺はヴィヴィアンを諦められなかった。ヴィヴィアンが元男だろうが関係なかった。ヴィヴィアンと一緒にいたかったのだ。ヴィヴィアンはそんな俺の言葉に驚いたが、結局彼女は本国に一時帰還して帝国上層部に伺いを立てに行く事にしたらしい。

 

 

 

 それから数日後。俺はヴィヴィアンにもう会えないのではないかと不安な日々を送っていたが、玄関のチャイムの音にドアを開けるとそこにはヴィヴィアンとフィーネがいた。

 

「ヴィヴィアン!」

 

 俺は思わずヴィヴィアンに抱き付いた。彼女もそんな俺に微笑んでいた。

 

「それでどうなったんだ?」

「はい、問題ありませんでした」

「本当か! それはよかった」

 

 正直あまりにも見込みがない話だと思っていたが、上手くいくとは思わなかった。とりあえずヴィヴィアンとフィーネの話を聞いてみることにした。

 

 俺の告白を受け入れたヴィヴィアンは地球滞在とエスカレイヤーの身体を引き続き使用する許可をブリタニア帝国上層部に願い出たらしい。そんなヴィヴィアンは何とブリタニア帝国皇帝と直接謁見していくつかの条件付きで俺と死別するまで許可を貰ったらしい。

 

 その条件と言うのが、サポート及びお目付け役としてフィーネを同行させる事、定期的にエスカレイヤーの各種データを本国に提供する事、エスカレイヤー関係を含めたブリタニア帝国の技術をこの世界の者たちに一切漏らさない事、この世界の者(俺を除く)に素性がばれないように正体を隠す事、皇帝が帰還命令を出したら本国に帰還する事だった。

 

 ちなみに最後の帰還命令は本国でエスカレイヤーの力が必要な事態になったら出されるとの事で余程の緊急時でないと発令されないらしい。

 

「というわけで、一郎さんこれからもよろしくお願いします」

「ああ、俺こそよろしく」

 

 異世界人であるヴィヴィアンとの生活は何かと大変かもしれない。だが好きな人と一緒にいられる幸福には代えられない。それは例え神様だって与えることはできないこれ以上ない幸せなのだから。



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俺のセフレは変身ヒロイン その四

シドゥリside

 

 エスカレイヤー計画。それは三千世界監察軍およびブリタニア帝国総合技術省で推進されている対ベヅァー兵器開発計画の一つだった。

 

 元より監察軍とブリタニア帝国はベヅァー対策に力を入れていたが、それはあくまでベヅァーの力を中和することに終始しており、出現したベヅァーを倒すほどの存在を作り出せてはいなかった。

 

 勿論、彼らも何もしなかったわけではない。『ドラゴンボール』の人造人間16号(全人工製)をベースに監察軍とブリタニアの技術で魔改造した超16号というブリタニア帝国そのものすら滅ぼしかねない最終兵器を複数作り上げることすらしていたから一応対策は講じていたのだ。

 

 しかし、実際にベヅァーが出現して第一次ベヅァー戦争(シドゥリ暦2000年)が勃発した際に超16号がベヅァーに対してまるで歯が立たなかった。

 

 これには監察軍およびブリタニア帝国上層部に衝撃が走った。彼らは激減したトリッパーの人数を回復させるために監察軍を再建してトリッパー増員計画を推進する一方で、万が一にもベヅァーが出現した時に備えて対ベヅァー兵器の開発を進めて、スーパーロボット計画やエスカレイヤー計画を立ち上げた。

 

 さて、このエスカレイヤー計画の参考になったのは、『ドラゴンボール』の人造人間17号と18号で、これらは人間をベースに肉体のほとんどを有機物で改造するというもので、更にセルのデータを元にバイオテクノロジーすらも積極的に取り入れられていた。

 

 実のところブリタニア帝国としては既に全人工製の人造人間をつくる技術は確立しており超16号まで完成させていたが、それではベヅァーに対抗できなかったために全人工製ではなく別のアプローチで人造人間を開発することにしたのだ。

 

 しかし、ここで問題となるのが、人造人間が叛逆することだ。実際、『ドラゴンボール』では人造人間17号と18号が生みの親であるドクター・ゲロに反逆殺害している。17号と18号に関してはドクター・ゲロが勝手に人造人間に改造して恨まれていたという理由があったが、それを踏まえて安全対策を考えるのは当然の事だった。

 

 対策として、最初に洗脳が考えられたが、これは何らかの理由が洗脳が解除される可能性も否定できず、その場合叛逆する可能性が極めて高く危険なので見送られた。

 

 ここでどうすれば問題にならないかと検討されて、自らの身体を人造人間に改造するのではなくバイオテクノロジーを駆使して一から素体を作りそれを改造して作り上げた人造人間に魂を移して使用するというものだった。

 

 これは自らの肉体を直接改造した場合は、例え納得済みで人造人間になったとしても後で人間に戻りたくなってもそれは不可能だからだ。この場合、逆恨みで叛逆する恐れがあり、それを防ぐには嫌になったらいつでも元の戻れる仕組みが望ましかった。

 

 このアイデアはエスカレイヤーから得られたもので、ついでにエスカレイヤーのDDDを用いてボディを強化して強くなるという利点も取り込むことになり、新型の人造人間開発はエスカレイヤー計画として進むことになった。

 

 このエスカレイヤーは原作と違い、超16号の動力であるドラゴンボール世界の永久エネルギー炉の改良型が採用されており、変身や戦闘に必要とするエネルギーはすべてこれで賄っている。

 

 ちなみにエスカレイヤーの原作において唯でさえDDDは未完成で効率が悪かったのにエスカレイヤーの変身と戦闘だけでなく強化にも使われており、その分より多くのDエナジーが必要になってエネルギー不足に常に悩まされていた。

 

 そこで監察軍とブリタニア帝国はDDDを魔改造するだけでなく、DDDをエスカレイヤーの強化だけに使用することでより効率よくエスカレイヤーを強化できるようにした。

 

 また超16号は強すぎることから日常生活を送る事ができなかったという欠点を解消することにした。

 

 これは18号がパンチングマシーンを微妙に手加減して殴るのができなかった事や、強くなりすぎた孫悟空が手加減を誤ってチチを大怪我させてしまった事からも分かるように、実は戦闘力は高くなれば高くなるほどパワーコントロールが難しくなる。ましてや超16号のような対ベヅァー兵器として凄まじい強さともなれば、うっかり人を殺してしまったり、物を破壊してしまったりしてしまいかねないので日常生活を送るのができなかったのだ。

 

 超16号の場合はベヅァーが復活した時だけ起動させて、後は停止させるという運用をしていたために特に問題にならなかったが、エスカレイヤーはDDDによるエネルギーチャージの関係からどうしても日常生活を送れるようにする必要があった事から変身システムを利用して通常時は本来の100兆分の一の力しか発揮できないようにした。

 

 エスカレイヤーはその強さをドラゴンボール世界の戦闘力で換算すると初期段階で超16号と同じ戦闘力10京にもなるが、変身していない場合は戦闘力1000にまで抑えることができて、ここまで戦闘力を抑えればある程度の訓練で日常生活を送れるようになる。とはいえ、このままでもダイラストの戦闘員風情なら負けることはないだろう。

 

 こうしてエスカレイヤーが製作されたが、ここで誰がエスカレイヤーになるかで問題になった。というのも実はトリッパーはエスカレイヤーになれないからだ。トリッパーの魂は上位世界人のものであり、下位世界に属するありとあらゆる存在は一切干渉できないという特性から魂をバイオボディに移す事が不可能だったのだ。

 

 そこでシドゥリはブリタニア人から人選を選び、その結果性同一性障害のブリタニア人男性に使わせる事にした。ここで性同一性障害の者を選んだのは普通の人間は本来の肉体に愛着を持ちバイオボディになるのを嫌がるからだ。その点、性同一性障害者であればエスカレイヤーの肉体に愛着を持ち、それを与えてくれたブリタニア帝国に感謝するだろう。

 

 先述したようにエスカレイヤーは強大な力を持ち万が一にもそれが叛逆を起こせばブリタニア帝国そのものが滅亡してしまう恐れがあったし、下手に洗脳するわけにもいかなかったから、テスターの反発を買わないように恩を売る形が望ましかったのだ。

 

 後は、データ収集として原作繋がりで『超昂天使エスカレイヤー』の世界、それも高円寺博士が存在しない並行世界の地球に送り込むことにした。現地は高円寺博士がいない世界なので当然ながらエスカレイヤーが存在せず本来ならばダイラストに征服される並行世界だが、今回はヴィヴィアンが原作のエスカレイヤーのかわりにダイラストと戦い地球を救う事になる。

 

 わざわざそんな世界を選んだのは、エスカレイヤーの戦闘データを取る必要があるが、ブリタニア帝国本土が存在する世界でそれは行いたくなかったし、あの世界はダイラストという手ごろな敵がいるからだ。

 

 勿論、ダイラスト風情ではエスカレイヤーの相手にならないが、それでも地球を守る為という目的があればやりがいもあるだろうし、現地の人間の手助けも得られるだろう。実際に、ヴィヴィアンは地球を守る為と言う口実で地球人の青少年をセフレにすることに成功していた。

 

 そのヴィヴィアンはダイラストとの戦いを終えて報告に来たわけであるが、彼女はある要望を出していた。

 

 

 

「そう、予想通りね。まあ条件付きで許可しましょう」

「皇帝陛下それでよろしいのですか?」

 

 今回のエスカレイヤー計画を担当していたアスマン侯爵は予の対応に思う所があるようだ。まあ、平民風情がこんな要望を出したら不快に思うのは当然だろう。

 

「確かに好ましくないが、不都合なわけでもないからね。それに彼女が下手に暴走したらそれはそれで面倒よ」

「確かに」

 

 ヴィヴィアンがエスカレイヤーの身体を返すのを拒絶して抵抗すれば問題が大きくなる。というか下手をすればブリタニア帝国とてただでは済まないだろう。

 

「でも折角のエスカレイヤーだったけど、これは使えないわね」

「はい。残念ながらこの強化効率ではベヅァーには対応できません」

 

 エスカレイヤーの初期能力は超16号と同じなのでベヅァーには全く歯が立たない。では何故エスカレイヤーが対ベヅァー兵器として開発されたかというと、後から強化できるという特性に理由があった。

 

 原作のエスカレイヤーは強化バイオボディでありながらもDDDを用いて大幅に戦闘能力を強化していた。ではDDDを改良したエスカレイヤーならばベヅァーに対抗しうるほどの成長を見せてくれるのではないかという期待があったが、ヴィヴィアンが一年以上かけて強化しても戦闘力3万程度しか上がっておらず大して強化されていなかった。

 

 このペースだと戦闘力を倍の20京にするのに年月がかかりすぎてしまうし、例え20京になったとしてもその程度ではベヅァーの相手にはならない癖に、なまじ強いから暴走したらブリタニア帝国そのものを滅ぼしかねないという厄介者でしかない。それならば適当な理由を付けて異世界に置いていても惜しくない。

 

 はっきりいうと、エスカレイヤー関係で得た成果といえば、バイオテクノロジーで一から作った肉体を素体に改造した肉体に憑依する形で自在に使用できるようになった事だけだろう。

 

「やはり人造人間という方向では無理があるわね。でもスーパーロボット計画も技術的に行き詰っているらしいし、最悪ミズナに頼るしかないわね」

 

 この時期、エスカレイヤー計画と並行して監察軍がスーパーロボット計画を進めていたが、これも上手くいってはいなかった。その為、下位世界でもとびぬけて優れて文明を誇るブリタニア帝国が生身の戦士(サイヤ人)という文明も何もあったものではない存在に頼るしかないという状況になっていたのは皮肉以外の何物でもないだろう。

 

 

 

「それにしてもセフレから始まった愛か」

「元男だというのに田中とかいう地球人も物好きな物です」

 

 シドゥリが話題を変えると、アスマン侯爵は件の地球人を軽く冷笑した。恐らくヴィヴィアンに懸想している田中に呆れているのだろう。最も転生という形で性転換しているシドゥリ(元男)としてはあまり強く言えない話題である。

 

「まあ、肉体を入れ替えてしまえば元の性別なんてあまり意味がないし、エスカレイヤーの肉体にハマってその辺りの事がどうでもよくなっているかもしれないな」

 

 エスカレイヤーは戦闘用バイオボディであるが、セックスにも長けている。その為、その分野では現実の女性よりも優れている。

 

 十人見かければ九人が見惚れる程の整った容姿に、メリハリのついたモデル顔負けな抜群のスタイル。その肌は黒子どころかしみ一つなく、触り心地も抜群。止めに人間以上に具合のいい名器。そんな女性が十代の美少女のまま老いることがないのだ。正直言ってこんな女性は普通は存在しないから田中がヴィヴィアンに夢中になったのも当然だろう。

 

「それにセフレといっても体を重ねていれば少なからず情も沸くもの。二人の間に愛が産まれても可笑しくないでしょう」

「それもそうですね」

 

 シドゥリは田中とヴィヴィアンの話題をそれで切り上げて、アスマン侯爵と次の案件を処理することにした。




解説

<トリッパーシリーズにおけるオリジナルの戦闘力情報>
超16号 戦闘力10京
ヴィヴィアン(通常)戦闘力1000
ヴィヴィアン(エスカレイヤー)戦闘力10京



あとがき

『俺のセフレは変身ヒロイン』はこれで終わりです。シドゥリは対ベヅァー兵器としてエスカレイヤー計画を立ち上げましたが、DDDによる強化が低すぎて失敗に終わりました。原作ではエスカレイヤーが劇的に強くなっているから分かりにくいですが、ベヅァーのような規格外な存在に対応できるものではありません。それでもデータ収集はそれなりにブリタニア帝国に貢献しています。


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原作知識

シドゥリ暦2105年

 

 トリッパーの優位とは何だろうか? それを聞かれれば、ある者は前世の記憶と言い、ある者は転生特典と答えるだろう。だが、原作知識というのも欠かせない要素であった。

 

 そもそも下位世界というのはすべからく原作を元に世界が創造されている。勿論、大きく分岐した並行世界では原作知識が役に立たない場合もあるが、大概はその知識が大きな優位となるのだ。その為、原作知識を利用して跳梁跋扈するトリッパーも多い。

 

 最もここで問題となるのが、原作知識というのが彼らの記憶という極めてあいまいな物しかない事だった。当然ながら記憶というのは時と共に忘れてしまう。

 

 これに対して監察軍ではトリッパー達から情報を集めて様々な原作知識をまとめて記録するという手段で何とかしていたが、やはりそれも今一正確さに欠けていたのだ。

 

 しかし、『すべての原作とその関連商品のコピー』という特典を持ったトリッパーが現れた事でその状況が劇的に改善していった。その能力は上位世界で実際に市販された物の完全なるコピーを制限なく出せる物だったからだ。

 

 言うまでもなく原作知識としてこれほど優れた物はない。漫画、ライトノベル、アニメ、映画(ビデオテープ、DVD、ブルーレイなど)、家庭用ゲームソフト、パソコンゲームなどそれらは大量に用意された。そのトリッパーはコピー可能な物を10個ずつコピーしたので、その整理は大変だった程だ。

 

 結果として、漫画とライトノベルなどは特別図書館に、アニメと映画は特別レンタルビデオ店に、家庭用ゲームソフトとパソコンゲームやそれらのハードと攻略本は特別レンタルゲーム店に、それぞれ移された。

 

 この特別というのはトリッパー専用施設という意味で、これらの原作資料を収納する為に建設されている。会員制でトリッパーだけが利用できるようにしていた(つまりトリッパーであれば漫画とかだけでなく、DVDやゲームソフトなどが無料で借りる事ができる)。

 

 これは下位世界人に原作知識をむやみに知られないようする為の当然の処置であるが、非トリッパーからすればトリッパー専用の娯楽品を扱っている施設にしか見えないだろう。

 

 ちなみにこれらの施設の管理は完全にアンドロイド任せになっている。下手に下位世界人に見せられない以上、必然的にそうなるのだ(コスト削減の意味もあり)。

 

 こんな施設が役に立つのか、と疑問に思う人もいるだろう。

 

 しかし、例を言うとあるトリッパーがドラゴンクエストⅢの世界に行くとすれば、そのゲームソフトと攻略本をレンタルしてプレイしておけばその世界の事がよく知る事ができるだろう。更に念を押すならばドラゴンクエストに関係する漫画や小説などにも目を通しておくとなおいい。

 

 最もそんな事をしている暇はないという人でも最低でも攻略本ぐらいは目を通すべきだ。知ると知らないのでは大きな違いがあるのだから。実際に下位世界で活動するトリッパーにとってはこれらの施設は本当にありがたいのだ。

 

 例えばトリップした下位世界の原作知識が不十分でもこの施設を利用することで原作知識を得ることができるのだ。勿論、原作知識を得るという理由だけでなく懐かしい故郷の娯楽品を堪能したいという目的でも利用できるだけに、トリッパー限定でありながらも施設の利用者は多かった。

 

 しかし、監察軍でも家庭用ゲームソフトとパソコンゲームに関しては少々面倒だったらしい。

 

 何しろ家庭用ゲーム機のハードといえばファミコンから始まってプレイステーション3と幅広く、一々揃えなくてはいけなかった。このハードに関しては需要が小さすぎる事もあって監察軍で生産されることなく、上位世界の21世紀に極めてよく似たある下位世界で調達されたらしい。

 

 次のパソコンゲームも厄介で、WindowsシリーズにしてもWindows98でプレイできたパソコンゲームがWindowsXPではプレイできなかったなどという話はザラにある。この為、様々なOSに合わせた自作パソコンを用意してレンタルして対応しているらしい。

 

 正直言って監察軍ではWindowsなんか時代遅れの代物なのだが、ゲームソフトがそれに対応している以上面倒であるがそれを使わざるを得なかったのだ。

 

 

 

 ここでトリッパーの施設の利用の例としてアルトリアの場合を上げてみよう。

 

「アルトリアさんご返却ですか?」

「ええ、これは十分に役に立ちましたから」

 と、アルトリアは特別ゲームレンタル店で、スーパーファミコンと『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』とその攻略本を返却した。

 

 アルトリアはドラゴンクエストⅢの世界に行く前に原作知識を得る為にそれらをレンタルしてプレイしていたのだ。

 

 アルトリアは自らの能力を向上させるためにRPGのレベルアップによるステータスの上昇という法則に目を付けて、原作知識を得たRPGの世界でレベルアップに励む事が多かった。今回はドラゴンクエストⅢの世界にしたのだ。

 

 その後、勢い余ってつい魔王バラモスを討伐して原作ブレイクをやってしまったアルトリアであった。

 

 

 

 ジローの場合。娯楽に餓えた彼は特別図書館で原作知識うんぬんは関係なく漫画を読みふけっていた。

 

 と、こういう風にこれらの施設はトリッパー達の娯楽や原作知識取得に大いに貢献していた。



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TA-ユニット

シドゥリ暦2120年

 

 ブリタニア帝国軍の歩兵は、軍服を着てレーザーライフルなどで武装してるだけという者が大半である。というのもブリタニア帝国は宇宙艦隊や機動兵器に関してはかなり力を入れていたが、地上兵力、特に歩兵は軽視していたからだ。

 

 まあ、それもしかたないだろう。ブリタニア帝国では普通に考えれば歩兵による陸戦など考えられないからだ。そもそも陸戦ならば自走砲、戦車、更には航空機ヘリなどの攻撃で事足りる為に歩兵を強化する必要が薄かった。これには監察軍設立以降にブリタニア軍のドクトリンが変更された事が大きく影響していた。

 

 以前は戦争が起こった場合、艦隊戦で敵艦隊を殲滅、そして艦隊や航空戦力等で敵地上戦力を叩いてから地上軍を送り歩兵で敵地を占領するというドクトリンだったが、ブリタニア軍はこれを改めて初っ端から敵勢力の母星もしくは星域を大量破壊兵器で一気に殲滅するという有無を言わさぬ問答無用な方針になったのだ。

 

 つまり、宣戦布告(宣戦布告を受ける)→敵戦力を殲滅する→占領して降伏させる、というプロセスを短縮して敵だと認識したら問答無用で大量破壊兵器で殲滅という形になったのだ。

 

 こうなった理由は、そもそもブリタニア帝国は建国してからというもの鎖国体制をとっており、唯一国交をもっていた地球にしても散々支援してきたにもかかわらず、時空管理局崩壊後は掌を返して反ブリタニア勢力になったので、ブリタニア人からすれば地球人に散々支援してやったのに恩を仇で返された形になってしまったからだ。

 

 この結果、再び鎖国体制に入ったブリタニア帝国は異世界人に対して根強い不信感を持つようになり、彼らに対して無関心というか容赦のなさが発揮されて異世界人を軽視するようになった。異世界人が何億人死のうがブリタニア人一人の命が助かるならば安い物と思うようになり、それがブリタニア帝国軍のドクトリン変更に繋がる事になった。

 

 また、ロストロギアのように宇宙そのものを滅ぼしかねない代物が現存していることもあり、先手を打って対処しないとブリタニアが滅ぼされかねないという危機感と、わざわざ敵を降伏占領させる意味がないということも大きかった。要は先手必勝、やられる前にやれというわけである。

 

 言うまでもないが、ブリタニア帝国は宇宙開発が進んでいるので領土と資源が豊富にあり、市場も一国で十分なので異世界の市場などいらず、奴隷などの労働力に至ってはロボットがあるから尚更いらない。こうなると戦争して征服しても得られる利益など二束三文にもならない。

 

 通常、戦争する際には領土、資源、市場などを求める物であるが、何もいらないとなると占領する価値もなくなる。更に地球のように人道主義はないのでブリタニアの国防と国益の為なら異世界人がどれだけ死のうが知った事ではないので、恐ろしい事に無差別攻撃は当たり前だったりする。

 

 そんなブリタニア帝国軍だけに、通常ならば他国が戦争になった際に敵国がゲリラ戦などの不正規戦を仕掛けた際にどう対処するかと対応に苦慮する場合でも、そもそも問答無用で殲滅するからゲリラ戦自体発生しないのだ(勿論、ゲリラ、便衣兵、レジスタンスなどに対する対応も含めての殲滅であった)。

 

 こう書くとまるでブリタニア軍がゼントラーディみたいな文明の破壊者みたいに見えるが、上記の通りブリタニア帝国によっては利益を求めて戦争したりしないので、相手国が問題を起こさない限り問題にならないのだ。ようするに触らぬ神に祟りなしと関わらなければ問題ないが、下手に喧嘩を売るととんでもない事になるのがブリタニア帝国なのだ。

 

 こうなるとブリタニア帝国では歩兵の価値が低くなるのは当然で、機動隊ですらロボット兵器に乗っているというのに、軍の歩兵はお寒い装備で基地の警備と災害救助が主な仕事だったりする。つまりどう贔屓目に見ても戦いの花形ではなく日陰者で、そういう背景からこの時代にいたるまで歩兵の装備がチャチだった。

 

 そんな歩兵に愛の手をというわけではないが、監察軍ではこれまで冷遇されていた歩兵の装備見直しを開始した。といっても、監察軍にとってはただの実績作りにすぎず、別に歩兵に同情したわけではないのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 それはともかく、監察軍の技術者たちが歩兵用の装備として候補に選んだのがISとCR-ユニットだった。これらはいずれもただの人間を驚異的な力を発揮させる人間大のパワードスーツのような代物だ。

 

 そもそも、歩兵と言うのはどうしても人間のスペックがもろに出る為に、鳥よりも早く空を飛ぶ、チーター以上のスピードで走る、ゴリラ以上の力を発揮する、などという人間の限界を超えることはできない。それならば機械で歩兵の力を引き上げて超人にしてしまえばいいという発想である。

 

 勿論、ISやCR-ユニットにしても欠点があるが、それは監察軍の技術で改良すればいいのだ。まず、ISの女性しか乗れないという点は涼宮ハルヒが独自開発したISのデータを流用すれば問題なく解決できる(ハルヒ製のISを男性が使えないのは欠陥ではなく、男性が乗れないように意図的にリミッターがかけられていただけであったから、それをオミットすれば問題なかった)。

 

 次にCR-ユニットは使用適性を持つ者はごく少数で、かつユニット使用のためには頭部に脳波を増幅させるための機械を埋め込まないといけない。これは【機動戦艦ナデシコ】のように人体に打ち込んだ専用ナノマシンで補助脳を形成することで、適性の壁を緩和しつつ(余程才能がない限り誰でも使用できる)、この補助脳で脳波を増幅させればよかった。

 

 こうして開発したTA-ユニット(タクティカル・アーマー・ユニット)はようするにISとCR-ユニットの良いとこ取りをして更に改良発展させた歩兵用装備だ。このTA-ユニットは通常は待機形態であるが、必要時に瞬時に展開されるという代物となっていた。

 

 このTA-ユニットは性能は凄まじく、これを装備した歩兵は高ランクの魔導師ですら圧倒出来た。というのも随意領域(テリトリー)とシールドバリアーによってバインドどころか砲撃魔法すら通用せず、おまけに超音速で格闘戦ができるという驚異的な機動性と運動性を誇っていたからだ(魔導師の場合、高速移動魔法を使用しても音速は超えられないし、ましてや超音速の格闘戦など論外であった)。

 

 それだけではなく、人を選ばず、場所を選ばず、時を選ばずといういい兵器の条件を揃えた代物であった為に重宝されることになり、この装備の登場にブリタニア帝国の歩兵が大喜びした。

 

 しかし、待機形態になる機能がある事から、もし流出した場合はテロなどに利用される恐れがあり、その危険性はそこいらの銃器とは比較にならず、他の通常兵器よりも厳しく管理されるのであった。




解説

■ロストロギア
『魔法少女リリカルなのは』の世界で登場する次元世界でかつて存在した文明が残した遺産。ジュエルシードや闇の書のように世界そのもの滅ぼしかねない危険な代物も存在している。

■IS
『IS 〈インフィニット・ストラトス〉』で登場する飛行パワードスーツ。本来ならば宇宙空用作業機械だったが、軍事転用されて各国の主力となっている。

■CR-ユニット
『デート・ア・ライブ』で現代の魔術師(ウィザード)が扱う装備。戦術顕現装置搭載ユニット(コンバット・リアライザユニット)の略。顕現装置を戦術的に運用するための装備の総称。

■涼宮ハルヒ
『トリッパー列伝 涼宮ハルヒ』に登場したトリッパー。『短編及び中編集 大天災がいない世界』ではオリジナルのISを開発して地球各国にばら撒いている。



あとがき

 ブリタニア帝国軍のドクトリンが恐ろしい事になっていますが、『ブリタニア帝国記 If編 ゲート・オブ・ブリタニア』でも、こうした事情もあってブリタニア帝国は過激な行動をしています。まあ、異世界人の命などどうでもいい上に征服略奪する価値すらないと容赦なくなりますよね(汗)。


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美食計画

シドゥリ暦2300年

 

 美食とは、おいしい物ばかりを食べること、また贅沢(ぜいたく)な食べ物であるが、ブリタニア帝国では更なる追及が行われていた。

 

 それは美食の食材となる動植物を、グルメ細胞を地殻に埋め込むなどの特殊なテラフォーミングを終えた惑星で繁殖させて独自の生態系を確立させる事で、『エデンの檻』のライカ島のように動植物のDNAを収集して製造工場にて動植物を作り上げるというものであった。

 

 これらの計画は監察軍が主導しており、本部と二つの支部、つまり『魔法少女リリカルなのは』のブリタニア帝国、『新世紀エヴァンゲリオン』のアトランティス帝国、『∀ガンダム』の大日本帝国の三ヵ国で進められていた。

 

 まあ、ブリタニア帝国はともかく、アトランティス帝国と大日本帝国は本格的な宇宙開発をしていなかったので正確には領土内ではなく将来的に領土となるだろう惑星でこの事業計画を推進している状態だったが、三ヵ国で随時遂行されていたのだった。

 

 この計画は『トリコ』の世界に転生したトリッパーがそのグルメ食材に興味を持ち、監察軍がIGO(国際グルメ機構)がやっているビオトープ兼超巨大養殖場兼実験場を惑星規模で実現する事を提案した事が切っ掛けとなっていた。

 

 そのトリッパーは個人的に偽ダイオラマ魔法球(監察軍がネギま世界のダイオラマ魔法球を科学技術で再現したアイテム)をビオトープ兼超巨大養殖場兼実験場にしようとしたが、単独で実現するにはあまりの困難であった事から彼女は監察軍を巻き込むことにしたのだ。

 

 まあ、彼女はこの計画に便乗して自分の保有する偽ダイオラマ魔法球をビオトープ兼超巨大養殖場兼実験場にすることに成功して、グルメ食材の確保に成功していたが、それは余談であろう。

 

 

 

 監察軍がこの計画に乗ったのはやはり下位世界の技術収集に陰りが見えていたからだ。かつては様々な下位世界から知識や技術を収集してそれの解析応用によってブリタニア帝国に多大な成果を還元していたが、この時期になると得る物がほどんどなくなっていた。

 

 それだけブリタニア帝国が発展しすぎたといえるのだろうが、組織としてはまともな成果がないのは好ましくないので、監察軍は最近では文化的な調査活動を重視していたのだったが、今回の下位世界でも屈指の飽食を誇るトリコ世界の食文化に目を付けた。それは彼らにしても久々の大きな成果になると判断されたのだ。

 

 こうして件のトリッパーがもたらしたトリコ世界の情報(動植物の飼育、捕獲、調理などのノウハウ)と、捕獲した動植物のDNAサンプルによって計画が開始されて、ブリタニア帝国では惑星ウィーンがビオトープ兼超巨大養殖場兼実験場となり、後にアトランティスと日本にも同様の惑星を用意することになった。

 

 これらの惑星ではトリコ世界のグルメ食材を中心として生態系が形勢されているが、それだけでは生態系のバランスが悪いためにその穴埋めには当たり障りのない動植物を養殖している。

 

 勿論、トリコ世界の動植物でもトロルコングのようなグルメ食材として使い物にならないのに捕獲レベルが高い動物は養殖されていない。あくまでグルメ食材の確保が目的なのだから食材にならない猛獣など不要なのだ。

 

 こうして誕生した美食の惑星ウィーン産のグルメ食材は、ブリタニア帝国貴族の間で大流行することになり、貴族社会の食文化に多大な影響を与えていくようになる。

 

 また、これらのグルメ食材は高級食品として後に三ヵ国に広く流通することになるが、こうしたグルメ食材が高値で流通するようになると、惑星ウィーンでは密猟者が徘徊するようになり、ブリタニア帝国はその取り締まりに苦労することになるのであった。




解説

■ウィーン
 元ネタはオーストリアの首都。ドイツ語圏の中では美食の街と知られ、特にザッハートルテに代表する様なスイーツのレベルの高さは世界屈指とも言える。


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新任士官と銀河天使 その一

(注)この話は『トリッパー列伝 風間ちとせ』の後日談的な話なので、先のそちらを読んだ方がわかりやすいです。


 ヴァーブル朝ブリタニア帝国。『魔法少女リリカルなのは』の世界に転生したトリッパーによって建国されたその帝国は凄まじい勢いで発展を続けていた。それは帝都が存在する惑星全土を支配するだけではなく、その銀河に進出しつつ支配下において、更に53個の系外銀河にまで進出するほどだった。

 

 しかし、シドゥリ暦2100年代にはそのブリタニア帝国の勢力拡大も陰りが見えていた。その理由の一つはあまりにも拡大しすぎた国土に帝国政府の統治能力が対応できなかったからである。当時のブリタニアには帝都が存在する銀河系の開発だけで事足りており、系外銀河進出は時期尚早であったのだ。

 

 これはいいだろうが、もう一つの原因である宇宙海賊の跳梁跋扈はブリタニア帝国にとって非常に頭の痛い問題だった。

 

 そもそもブリタニア帝国は宇宙開発を推進して勢力拡大をしている。つまりテラフォーミング、開拓、移民という流れになるが、それには莫大な人、金、物が動くのは当然であり、それらを運搬している輸送船が必要なのは道理である。だが、それを襲撃して船や積み荷を奪う者たちが現れるようになった。これが宇宙海賊の始まりで、それ以降この手の犯罪者によってブリタニアの宇宙開発が大いに妨げられることになった。

 

 言うまでもないが、宇宙海賊の被害にあう危険が大きいとなると、物資などが滞り宇宙開発計画が遅延だけでなく船や積み荷にかかる保険金の高騰などによる輸送コストの高騰という問題が出てくる為に、宇宙開発の採算が合わなくなるのだ。

 

 勿論、ブリタニア帝国もこの目障り極まりない宇宙海賊たちを放置していたわけではなく、帝国軍を動員して宇宙海賊撲滅を推進していた。だが、この手の犯罪者は絶えることはなく、まるでモグラ叩きのように宇宙海賊を討伐しても、すぐに新しい宇宙海賊が出てくる有様であった。

 

 この結果、帝都を中心とした銀河ではある程度の治安維持ができていたものの、帝国軍の手が届きにくい系外銀河では宇宙海賊の活動を抑えきれずに開拓に大きな足かせとなっていた。

 

 

 

 そして、シドゥリ暦2405年

 

 とある辺境宙域で民間の輸送船が10隻もの海賊船の襲撃を受けていた。輸送船は必死にディストーション・フィールドを張りながら逃げているが、海賊船が撃ってくるビーム砲やレールカノンによって無視できない被害がでていた。

 

「くそっ、なんだってこんな宙域で宇宙海賊が出てくる!」

 

 ブリタニア帝国の士官学校を卒業したばかりのケイン・フィッシャーは非武装の民間船に乗り合わせている時に宇宙海賊に襲撃されるという不運に見舞われて怒鳴りつけていた。

 

「気持ちはわかるが、俺たちがうろたえてもどうにもならないだろうケイン」

 

 そのケインの友人にして同じく士官学校を卒業したばかりのブルーノ・ブレイズはケインをなだめる。彼らはブリタニア軍の新任士官であったが、この民間船には非武装で乗り込んでいた。というのもブリタニアではスペースジャック対策の為に武器を持ち込む事を禁じられていたからだが、今回はそれがあだとなってしまった。

 

 ケインとブルーノは帝国軍人ということもあって、この非常事態の解決の為にこの船のクルーに協力していたが、このないない尽くしの状態ではまともな対応すら不可能だったのだ。

 

「確かにそうだが、ブルーノお前は落ち着き過ぎだぞ」

「いや、もうこうなったら運に身を任せるしかないって」

「ブルーノ、お前運任せって、そんな適当な……」

 

 ケインがあんまりな言葉に文句を言おうとしたその時、突然一隻の海賊船が爆発した。

 

「なんだ。帝国軍の救援か!」

 

 非武装の民間船が海賊船を撃沈できたとは考えにくい為にケインはそう判断したが…

 

「いや、あれは帝国軍じゃない。監察軍だ」

 

 そんなケインの判断をブルーノが否定した。

 

 ブルーノが見ていたモニターに映っていたのは帝国軍が使用している可変戦闘機や対艦攻撃機とは明らかに異なる見たこともない美しい白い翼を生やした六機の大型戦闘機だった。そのような機体を運用している勢力は監察軍しかないし、この辺境宙域に監察軍本部があることもその考えを補強していた。

 

『こちらは、三千世界監察軍本部第22防衛隊です。そちらの救援にまいりました。これより宇宙海賊を撃破します』

 

 それに答えるように大型戦闘機から通信が入った。

 

「おおーー!!」

「やったー! 助かったぞ!」

 

 民間船のクルーたちは救援が来て助かったことで大喜びして、ブルーノとケインも喜んだ。

 

 翼を出現させている六機の大型戦闘機はまるで物語の天使のように宇宙を駆けながら海賊船を次々に撃破していく。海賊船もディストーション・フィールドぐらいは展開しているが、大型戦闘機の攻撃はそれを容易く貫き、艦船の装甲も紙のようにぶち抜いていく。

 

「おお、一撃か。すごい攻撃力だな」

 

 いくら海賊船が正規の軍用艦に大きく劣るとはいえ、戦闘機が艦船を一撃で沈めるなどそう簡単にできることではない。それができるということは、あの戦闘機の性能がそれだけずば抜けていることに他ならなかった。

 

「あれ、帝国軍の可変戦闘機ルシファーを上回っているんじゃない?」

「ああ、確かにな」

 

 ブルーノの言葉にケインが頷く。彼も監察軍の大型戦闘機の戦闘力の高さが際立っている事を理解できた。というか、10隻もの海賊船が僅か三分もせずに全滅した光景を見れば誰が見ても一目瞭然だろう。

 

『こちら三千世界監察軍本部第22防衛隊隊長、風間ちとせ大尉です。宇宙海賊の撃破を確認いたしましたので、これより貴船を監察軍本部に誘導いたします』

「ああ、よろしく頼む。いやあ、こんな美人に助けてもらえるなんて嬉しいね」

 

 ブルーノはモニター越しに風間ちとせに軽口のようにいうが、実際モニターに映るちとせは長い黒髪の美しい少女で、その美しさはお世辞抜きでブルーノが思わず見惚れる程であった。

 

 

 

クルガンside

 

「失敗しただとーー!! てめぇふざけているのか!」

 

 宇宙海賊クルガン一家の首領であるクルガンは失敗の報告をした部下を怒鳴りつけたが、それも無理もなかった。10隻もの艦船を失ったというのだから誰だって怒るだろう。

 

「しかし、監察軍の防衛隊が相手では、うちらの装備じゃ手に負えませんよ」

 

 怒鳴りつけられた部下も反論する。そもそもブリタニアでは兵器の管理がとても厳しい。特にテロや反乱防止の為に宇宙船にもなると、軍艦と民間船では使用されている技術そのものが違う。

 

 勿論、監察軍や帝国軍でなければ軍艦を使用することなどできないので、宇宙海賊が使用している海賊船はどうしても民間船を改造して武装を搭載したちゃちな代物になってしまう。

 

 そんなブリタニアの海賊船は帝国軍艦艇が採用している縮退炉ではなく相転移エンジンを使用しているために機関出力が低い。その結果、ディストーション・フィールドの出力はブリタニア各地に点在しているボソンジャンプを利用したゲートを安全に使用できる程度の低出力になり、装甲材質もコストパフォーマンスを優先した質の悪い物であった。

 

 それでも民間船ならばこれで十分であるが、これでは帝国軍艦艇の攻撃を到底防げるものではない。

 

 それなら軍用艦艇を作ればいいだろうと言いたいだろうが、その手の軍事技術は帝国が厳しく管理しており民間人では到底入手することはできなかった。

 

 このような対策の結果、宇宙海賊は劣悪な装備を用いる羽目になり、これこそが帝国軍が何とか宇宙海賊を討伐できていた大きな理由だった。

 

「だが、これじゃ計画が台無しだぜ」

 

 クルガンはブリタニアでも有数の宇宙海賊だ。そんな彼があの民間船を狙ったのは監察軍が秘匿している不老長寿の技術を欲したからだ。

 

 ブリタニアでは不老長寿は皇族と貴族の特権となっていて、平民が不老長寿を得ることを禁じられていたし、その手の技術を帝国政府の許可なしに研究するだけで重罪となってしまう。というのも技術の発展で覚醒者の優位性が揺らいでしまった為だ。

 

 以前は不老長寿を得ようとするなら覚醒の法で覚醒者(吸血鬼)になるしかなかったから、定期的に血液を補充しないといけない事や紫外線に弱いというデメリットが受け入れられていた。

 

 しかし、監察軍がゴッド・ブレスのようにデメリットなしに不老長寿を実現させてしまう技術の確立してしまったことで、相対的に覚醒者の価値が暴落してしまったのだ。

 

 勿論、覚醒者には常人を超越した身体能力や特殊能力という利点もあるが、それもデメリットによってかすんでしまっていた。

 

 これは貴族たちのアイデンティティにも関わる微妙な問題であったためにブリタニアでは覚醒者になる以外での不老長寿の実現はタブーとなり、その手の技術は監察軍が門外不出の技術として隠匿する事になった。

 

 そんな曰く付きのものであるが、監察軍に所属する異世界人はブリタニア人ではないからその規制から外れた存在である為にトリッパーたちは不老長寿を手にしていた。

 

 こうして、不老長寿を得ることを禁止されたブリタニアの平民を尻目に不老長寿を手にした監察軍の異世界人がいるという構造になってくると、それを不満に思う者は当然出てくる。

 

 たとえ禁止されていても密かに不老長寿を手に入れたいと願う平民の富裕層など腐るほどいる。その為、クルガンは監察軍から不老長寿の技術を奪って彼らに高く売りつけることを企んでいたのだ。

 

 これは成功すれば、ちゃちな物資強奪よりもよほど旨みがある為に本腰を入れていたのであるが、監察軍本部は防衛戦力が極めて高く直接侵攻するのは自殺行為であった。そこでクルガンは監察軍に出入りしている民間船を襲撃して情報を得ようとしたが、これがものの見事に失敗してしまったのだ。

 

「くそ、何とかしないといけねぇな」

 

 手ひどい失敗をしたクルガンであるが、彼はそれで諦めることはなく、次の策を練ることにした。




解説

■風間ちとせ(かざま ちとせ)
『トリッパー列伝 風間ちとせ』に登場した転生型トリッパー。紋章機のテストパイロットから紋章機を運用する部隊の隊長になったことで階級が大尉に上がっている。外見はギャラクシーエンジェルの烏丸ちとせであるが、本人ではなく転生特典で彼女の外見と能力を得ているだけである。

■覚醒の法
『ブリタニア帝国記』でシドゥリが編み出した吸血鬼化の古代ベルカ式魔法。これによってデメリットはあるものの不老長寿と超人的な身体能力を得られるようになった。ブリタニアではこの魔法を施された者を覚醒者と呼び皇族や貴族として遇しているが、ゴッド・ブレスなどの技術によりその優位性が大きく揺らいでいる。

■ゴッド・ブレス
 元々は『BLACK CAT』の世界で開発された不死のナノマシン。これを投与された人間は老化が停止して手足が千切れるような怪我でも即座に再生する凄まじい自己修復能力を得る事ができる。ただし脳を損傷すると再生できないという欠陥もあり、本当に不死身というワケではないが、比較的容易に不老長寿を得られることから三千世界監察軍に所属するトリッパーはこれを投与する者が多い。


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新任士官と銀河天使 その二

「……というわけで、エンジェル隊の概要は分かったかね」

 

 俺とケインは監察軍総司令官トレーズ・クシュリナーダ中将とエンジェル隊の隊長を務めている風間ちとせ大尉の説明を受けていた。

 

 そうそう、言い忘れていたけど俺の名はブルーノ・ブレイズ。ごく普通のブリタニア人家庭で生まれ何となく軍人を目指してブリタニア帝国軍士官学校を卒業したばかりの新任士官だ。そして、もう一人がケイン・フィッシャー。士官学校からの腐れ縁で俺の友人だ。

 

 俺たち二人は士官学校卒業直前に監察軍からスカウトされた。俺は少佐として監察軍の新型空母エルシオールの艦長に、ケインは大尉としてその副長になるという話だった。

 

 ブリタニア帝国は長らく戦争がない。その為、帝国軍が戦う相手は宇宙海賊ぐらいなもので武勲を上げる機会が乏しく出世が遅い。それを考えると、このスカウトを受けるだけで少佐として空母の艦長に出世できるという話は魅力的だった。

 

 勿論、監察軍も俺たちの能力を買ってのことだから能力不足とみなされたらその地位を奪われるだろうが、ようは失態さえしなければいいのだ。その程度の能力は俺とケインにはある。

 

 そう思っていたが、少々問題がある。今回俺が所属する監察軍本部第22防衛隊は六機の紋章機による通称エンジェル隊と、その母艦となる新型空母エルシオールからなる部隊であるが、俺にはエルシオールの艦長としての能力だけでなく、エンジェル隊のテンション管理まで任されているのだ。

 

 というか、この部隊が運用している紋章機は特別な才能がないと乗れないし、パイロットのテンションに著しく影響を受けてしまう兵器として欠陥品としか言いようがない代物だった。

 

 しかし、ちとせ大尉から彼女を含めたエンジェル隊の全員のデータを渡されて考えを改めた。ちとせ大尉だけでなく他のメンバーも美少女ばかりだ。これなら是非とも仲良くなりたいものである。

 

「ええ、わかりました。やってみましょう!」

「うむ、頼んだよ」

 

 どうせここまで来たらやるしかない。ダメならダメでその時に考えればいい。とにかく今はやってみるだけだ。

 

 そう考えていると監察軍の緑の制服を着た五人の少女が入室してきた。その五人はデータにあったエンジェル隊のミルフィーユ・桜木、蘭花(ランファ)・フランソワーズ、ミント・ブラマンテ、フォルテ・シュターデン、ヴァニラ・アーシュだった。データでも見たけど五人とも美少女だな。

 

「お二人はこちらの事がよくわからないでしょうから案内人を用意しておきました」

 

 ちとせ大尉はそう言うと彼女たちに指示を出した。

 

「皆さん、こちらはエルシオールの艦長になるブルーノ・ブレイズ少佐と副長のケイン・フィッシャー大尉よ。二人は帝国軍から派遣されてきたばかりで、まだ監察軍やエルシオールの事をご存知ないので貴女たちが案内してあげてね」

 

「はい、わかりました。ちとせさん」

「了解です」

 

 エンジェル隊のメンバーに案内させるというのは、俺たちと彼女たちを少しでも仲良くさせたいという彼女の意図があるのだろうが、それは別に不都合ではないので、ありがたく彼女たちと仲良くなるとしよう。

 

 こうして、俺とケインは五人の女の子たちに連れられて監察軍本部を歩く事にした。

 

 

 

「それでは、皆はブリタニアじゃなくて異世界出身なんだね」

「はい、そうなんですよ。ただ私たち五人は少し特殊で、元々赤ん坊のころに捨てられた孤児だったんですが、そんな私たちをちとせさんが拾って監察軍本部で面倒を見て貰ってたんです」

「ちとせさんが赤ん坊の君たちを拾ったって、彼女は君たちと同じぐらいに見えるけど?」

 

 俺は監察軍本部やエルシオールを案内されながら彼女たちと話をしていた。

 

「ちとせさんは不老長寿の延命処置をうけていますから若い姿を保っているんです。ちとせさんの実年齢は60歳を超えていますよ」

「えっ!」

「マジかよ!」

 

 あの外見で60代かよ。いや、そういえば監察軍にはブリタニア貴族でもないのに不老長寿の人間がいるという噂は聞いたことがある。あの噂は本当だったのか。

 

「監察軍では不老長寿の隊員はそれなりにいますから珍しくありませんよ。実際私たちもその延命処置を受けていますから。それにブリタニア帝国でも皇族と貴族はみんな不老長寿ですから別に驚くことではないでしょう」

 

 確かにそうだが、ブリタニアでは皇族や貴族以外が不老長寿になることは禁じられているのに、監察軍では当たり前に不老長寿になっているのは驚きを隠せない。いや、監察軍はブリタニア人ではなく異世界人の集まりだから規制の対象外なんだろうな、と思い直した。

 

 

 

ちとせside

 

「それで彼は使い物になるのかね?」

 

 ブルーノ達が退室して、トレーズが私にそう聞いてきた。

 

「それは分かりませんが、ブリタニア帝国軍の分析では適任とでているのでしばらく様子をみるつもりです」

「そうか。エンジェル隊の指揮官はやはり人選に気を付けないといけないからね」

 

 そう、エンジェル隊は隊員たちのテンションが大きな問題となっています。通常の軍人ではうら若い少女たちのテンション管理どころかガチガチの上司と部下の関係しか築けない。最も軍人ならばそれは当然で、軍隊で上司と部下が友人のように気安い関係の方がよほど問題でしょう。

 

 しかし、エンジェル隊の場合はそうはいきません。通常とは異なる人間関係が必要となる為に人選にも気を付けなければならず、監察軍でも指揮官として有能でそのような人材を用意するのは面倒だったので、ブリタニア軍から選ぶことにした。その際、原作知識からギャラクシーエンジェルのタクトとレスターみたいな軍人ならいいのではないかと考えたわけです。

 

 原作でも一見不真面目で軽いタクトとそれを補うかのような真面目なレスターの関係は比較的上手く行っていたので、似たような性格の人材をスカウトすればいい。

 

 こうして選ばれたブルーノとケインは、性格がかなり違うにも関わらず士官学校から仲の良い友人関係である為、彼らならお互いを上手く補い合ってやっていけることが期待できた。

 

「それにしてもここまで苦労するなんて、本当にエンジェル隊は人事泣かせです」

「そうだね。そういえば君もメンバーを探すのに苦労して一から用意する羽目になったね」

 

 ちとせは仮初の故郷(マブラヴ世界)を切り捨ててから各地の下位世界からエンジェル候補をスカウトしようとしたが、これが大いに難航した。それはそうだろう。そもそもエンジェルの才能は極めて希少。更に信用のおける人間で、ちとせのスカウトを受けてくれる人材を探さねばならなかったからだ。

 

 結局、あまりに上手く行かなかった為に、ギャラクシーエンジェル世界のミルフィーユたちの遺伝子を入手してそれを元にクローンを作って育てるという最終手段にでた。

 

 こうして人工的に作り出された彼女たちはオリジナルと同じエンジェルの能力を得ていた。とはいえ、完全にオリジナルの能力を得ていたわけではない。ミルフィーはオリジナルの強運と凶運を持っていないし、ミントは寄生生物を持っていないのでオリジナルの読心能力を持っていない。まあ、ミルフィーユの凶運は周囲が迷惑するからない方がいいし、ミントの読心能力は機密保持の関係上邪魔だったので、監察軍としてはそれは好都合でした。

 

 当然、クローン人間の製造はあまり褒められた事ではないので、監察軍でも極秘として処理され、表向き彼女たちは異世界で捨てられた孤児で、私が彼女たちを引き取ったという話にしている。

 

 ミルフィーたちも自分たちが紋章機のテストの為だけに作られた存在だと知ったらショックを受けるだろうからそれも当然です。最も彼女たちは監察軍生まれで監察軍育ちの、ある意味監察軍しか知らない隊員です。例えそれがばれても他に居場所はないから問題ないでしょうが、余計な波風を立てないに越したことはありません。




解説

■ブルーノ・ブレイズ
 この『新任士官と銀河天使』の主人公。ブリタニア帝国軍士官学校を卒業したばかりの新任士官であるが、監察軍のスカウトを受けたことで階級が少佐になり空母の艦長に出世した。容姿は並よりはいい程度でイケメンではない。タクトのように指揮能力に優れているが、可愛い女の子が大好きでミルフィーユたちに積極的にアプローチをかけている。

■ケイン・フィッシャー
 ブルーノの友人で士官学校からの腐れ縁。ブルーノと共に監察軍のスカウトを受けたことで階級が大尉になり空母の副長に出世した。容姿はかなりよくいわゆるイケメンであるが、ブルーノとは違ってまじめな軍人である為エンジェル隊のテンションを高めるのに向いていない。しかし、指揮官として優秀なのでブルーノを上手くサポートしてブルーノの欠点を上手く補っている名コンビの相方である。

■トレーズ・クシュリナーダ
『トリッパー列伝 トレーズ・クシュリナーダ』で登場した転生型トリッパー。監察軍本部総司令官を務めており、そのカリスマで曲者ぞろいのトリッパーたちをまとめ上げている。

■ミルフィーユ・桜木(ミルフィーユ・さくらぎ)
 ミルフィーユ・桜葉の遺伝子を元に作られたクローン。オリジナルと同じエンジェルの才能をもっているが強運と凶運の才能はない為その手のトラブルはなく、何気に人間関係は良好である。最近17歳になりゴッド・ブレスを投与されている。身長:156cm、搭乗紋章機:GA-001 ラッキースター(万能型紋章機)、階級:少尉。

■蘭花・フランソワーズ(ランファ・フランソワーズ)
 蘭花・フランボワーズの遺伝子を元に作られたクローン。オリジナルと同じエンジェルの才能をもっていて、格闘技でも訓練を積んでいる為オリジナル以上の格闘能力を持つ。最近17歳になりゴッド・ブレスを投与されている。身長:161cm、搭乗紋章機:GA-002 カンフーファイター(近接用格闘型紋章機)、階級:少尉。

■ミント・ブラマンテ
 ミント・ブラマンシュの遺伝子を元に作られたクローン。オリジナルと同じエンジェルの才能をもっているが、寄生生物はないので白い耳はないので他者の心を読む能力は有していない。またオリジナルが成長しないためか17歳になっても子供の姿のままなので、その容姿でゴッド・ブレスを投与されている。身長:123cm、搭乗紋章機:GA-003 トリックマスター(長距離用戦略型紋章機)、階級:少尉。

■フォルテ・シュターデン
 フォルテ・シュトーレンの遺伝子を元に作られたクローン。オリジナルと同じエンジェルの才能をもっていて射撃の腕も中々のものである。オリジナルと異なり17歳でゴッド・ブレスを投与した為にオリジナルよりも容姿が若く身長も若干低くなっている。身長:172cm、搭乗紋章機:GA-004 ハッピートリガー(中距離用多武装型紋章機)、階級:少尉。

■ヴァニラ・アーシュ
 ヴァニラ・H(ヴァニラ・アッシュ)の遺伝子を元に作られたクローン。オリジナルと同じエンジェルの才能をもっていて、ナノマシンを使用したケガの治療を得意としている。17歳でゴッド・ブレスを投与した為に容姿はGAⅡ版のものになっている。身長:156cm、搭乗紋章機:GA-005 ハーベスター(補給修理用支援型紋章機)、階級:少尉。



あとがき

 ちとせはエンジェル隊のメンバー集めに手間取った挙句、原作ヒロインたちのクローンを作り上げるという強硬手段に出ています。当然、大っぴらには言えないので、この事は監察軍でもごく一部しか知りません。監察軍のミルフィーたちは幼少期からちとせの英才教育を受けており、エンジェルとしての能力は原作開始時のオリジナルを超えています。


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新任士官と銀河天使 その三

 俺とケインはミルフィーたちと共に監察軍本部を見て回った後で、俺が艦長を務めることになる空母エルシオールを案内してもらった。このエルシオールは846mの大型空母でありながら僅か六機の戦闘機しか運用できないという欠陥品にしかみえないが、これは紋章機がブリタニア軍が使用している通常の可変戦闘機よりも大きい紋章機を使用しているからだ。

 

 また紋章機の整備運用に長けた専用空母として機能しているが、空母でありながらレールガン×4門、対空ミサイル、対空レーザー砲×16門を搭載しているなど火力もそれなりにある為、ある程度の単艦での行動も可能になっている。というか艦隊行動が基本の帝国軍艦艇と違って、監察軍艦艇は単独もしくは数隻で行動することをコンセプトに建造されている。

 

 また、有人艦には民間船にもある居室、食堂、スポーツ室、医務室などの他に、連絡艇(シャトル)、タンク・ベッドが備わっている。といってもブリタニア軍が相手にしているのは小規模な宇宙海賊だけで帝国軍とまともに艦隊決戦ができる敵など存在しない為に、連絡艇やタンク・ベッドはあまり役に立っていないのが実情だったりする。

 

 ちなみにブリタニアで使用されている軍艦の分類では艦載機を運用するために軍艦は空母とされており、物資などを輸送する艦艇は輸送艦となっている。それ以外にも戦艦、巡洋艦、駆逐艦、ミサイル艦がある。

 

 駆逐艦は全長200m未満で、艦隊の防空を担当しており、レーザー砲やガトリングレールガンなどでミサイルや敵機の迎撃を任されている。その為、攻撃と防御を同時に行う必要からディストーション・フィールドではなく陽電子フィールドを使用している。

 

 巡洋艦は全長200m以上500m未満で、優れた航行能力とグラビティブラスト(重力波砲)を艦首に備えており、攻撃力・防御力・機動力などのバランスが良い艦種である。

 

 戦艦は全長500m以上で、グラビティブラストなどの強力な火力を搭載している。その強大な火力は正に大鑑巨砲主義の権化と言えるだろう。

 

 ミサイル艦はその多くが戦艦並に大きい艦が多く、リニアキャノンや対艦ミサイルなどで大量に武装している。というか、ミサイルや砲弾などは誘爆の危険も多い為に、ダメージコントロールの点から各艦に配備せずに専門の艦艇に集中配備していた。

 

 

 

「まあ、悪くないな」

 

 このエルシオールは帝国軍艦艇と違ってどうも器用貧乏の印象を受けなくもないが、艦隊行動ではなく単独行動を基本とする以上それも致し方ないだろう。それを考慮すれば性能、居住性なども含めて問題ない艦だ。

 

「なにより、可愛い女の子たちが配備されているのがいいね」

「といっても、エンジェル隊のメンバー以外はアンドロイドだぞ。ブルーノ」

「まあ、見目がいいから見るだけなら目の保養になるさ」

 

 女好きであることを自覚している俺でもアンドロイドを口説く気にはならないが、鑑賞するだけならありだと思う。それに口説くのならエンジェルたちの女の子たちがいるのだからまったく問題ない。

 

 現在このエルシオールに配備されている人員は俺とケインとエンジェル隊の女の子たちを除けば全員アンドロイドだった。

 

 監察軍では人間そっくりのアンドロイドを採用して人員を確保しているが、それだと人間とアンドロイドの区別が付かないため制服を色分けすることで一目でわかるようにしていた。

 

 アンドロイドの制服が山吹色、一般兵の制服が緑色、特殊な資格を持ち監察軍でも特別な扱いを受ける兵の制服が赤色となっている。現在のエルシオールの人員は赤が一人、緑が七人、他は山吹色という構成になっていた。

 

「実験艦と聞いていたが機関とかは標準の物を使用しているようだね」

「まあ、そうだろうな。艦載兵装はこれまで実験を繰り返しつくして最適の物を得られているんだ。早々新規格の兵装がでてくるわけもあるまい」

 

 エルシオールはかなり広いが、兵員自体はアンドロイドを含めてもかなり少ない。これは機械化が進んだ監察軍では兵員をさほど必要としないからだ。その為、居住区は割と狭く、その分格納庫や兵装などにスペースを多く取られていた。その関係もあって、俺たちは何とか勤務時間内にこのエルシオール内をすべてまわることができた。

 

「あの、まだとっておきの場所があるんです」

「とっておきか。そんなのがあるんだ?」

「ええ、凄いんですよ!」

 

 もう勤務時間を過ぎてしまうが、案内係のミルフィーが言うとっておきとは何なのか気になるので行ってみる事にした。そして着いたのはかなり広いにも関わらず中央に球状のガラス瓶のようなミニチュア模型があるだけの殺風景な部屋だった。

 

「何もない部屋だけど、ここがとっておきなのかい?」

 

「これはダイオラマ魔法球なんです」

「ダイオラマ魔法球?」

 

 このミニチュア模型の名前だろう。模型自体は島を意識しているようで周囲を海に囲まれて森、平原などがあり、また和風の屋敷などがある。確かに精巧な模型だと思うが。とても魔法球という仰々しい名称が似合うような代物には見えなかった。

 

「そういえばこれは一般には知られていない物でしたね。このダイオラマ魔法球は空間を圧縮したものでこの中に入ることができるんです」

 

 ミルフィーたちの案内に従って魔法球の前の魔法陣に立つと、光があふれ俺たちを包み込んだ。俺たちが目を開けるとそこは広大な海が広がる浜辺になっていた。

 

「これは本物の海なのか?」

「そうよ。このダイオラマ魔法球は直径10kmほどの島とその周囲の海を取り込んでいるんだから、海水浴場としても使えるわ」

 

 蘭花の言う通り辺り一面に広がる海、青空、太陽とどう見ても海にしかみえない。まさかあのミニチュア模型にこんな機能があるとは思わなかった。なるほど魔法球と言うだけはあるな。

 

「どうですかブルーノさん。これはちとせさんの別荘なんですが、エルシオールのクルーには使用許可が出ているんですよ。丁度そこに海の家があって水着とかも用意できますからみんなで泳いでみませんか?」

 

 ここの海の家では食事や休憩だけでなく更衣室あり、水着などの販売などもやっているらしい。なら泳いでみるのも一興だろう。

 

「そうだな。じゃあ泳いでみるか」

「おい、ブルーノ。いいのかよ」

「いいじゃないか。どうせ勤務時間はもう終わっているしな」

 

 俺たちの勤務時間は既に過ぎている。ならば遊んだところで問題はないだろう。

 

 

 

ちとせside

 

 ちとせにとってダイオラマ魔法球は別荘というよりも本宅であった。というのも監察軍で艦船勤務をしている彼女にとって純和風な屋敷や弓道場など中々用意できるものではないという理由があった。

 

 元々、ちとせの前世は理想の大和撫子を追及しており、転生後はギャラクシーエンジェルの烏丸ちとせの真似事をやるようになり、和風の屋敷に住んで、弓道を嗜むようになったわけである。

 

 しかし、監察軍のスペースコロニーはともかく巡洋艦でそれらを揃えるのが無理であったことから、その手の制限を取り除くためにダイオラマ魔法球を得ていたのだ。

 

 その後、紋章機専用空母エルシオールが完成すると、ダイオラマ魔法球をエルシオールの一室に移したのだ。

 

 もちろん、エルシオールにもちとせの個室はあるが、別荘の規模には勝てないし、エルシオール内に広大な屋敷があるのに、わざわざ狭苦しい個室を利用する意味がなかったこともあり、これまで利用することはなかった。

 

 この魔法球は内部時間を加速させる事が可能で、1から72倍まで調整できるが、緊急時の対処能力を確保する為にあえて時間加速は行われていないから、原作の魔法球と異なりいつでも出入りできるし、外部との通信もリアルタイムで問題なく行えるようになっていた。

 

 そんなちとせはブルーノがミルフィーたちと混ざって海で遊んでいるのを眺めていた。ブルーノの役割上とにかくミルフィーユたちと打ち解けないと始まらないから、彼が早速上手くやっているのは都合がよかった。

 

 折角だから私も海で遊ぶとしましょう。テンション管理のためにはミルフィーたちだけでなく私もブルーノたちと打ち解けた方がいいですからね。




解説

■エルシオール
 監察軍本部第22防衛隊に所属する空母。元ネタは『ギャラクシーエンジェル』のエルシオール。原作のように儀礼艦として過剰なまでの設備はオミットされており、代わりに性能向上に重点を置いている。また効率などの悪さからクロノストロングエンジンとクロノブレイクキャノンは採用していない。

■連絡艇(シャトル)
 有人艦に搭載されている小型艇で、通信妨害などによる劣悪な通信環境下もしくは無線封鎖時における伝令や人員の緊急脱出などに使われる他、作戦会議を開く際に分艦隊司令官や艦隊司令官を旗艦に集める移動手段としても用いられる。といっても、ブリタニア軍の艦艇を撃沈したり通信妨害できる敵や、司令官を集めて作戦会議を開かなければならないほどの敵がいないため実際には使用されることは少ない。元は『銀河英雄伝説』を参考に監察軍が開発してブリタニア軍に正規採用された装備である。

■タンク・ベッド
 一時間の睡眠で八時間分の睡眠効果が得られるようになっており、短時間で人員の交代を行わなければならない戦時において非常に重要な役割を果たしている。早急な疲労回復の他にも冷凍睡眠モードもあり人員が冷凍睡眠に入ることも可能になっている。また、民間でもカプセルホテルに採用されている他、物好きな富裕層などが仮眠用に購入している。元は『銀河英雄伝説』を参考に監察軍が開発してブリタニア軍に正規採用された装備であるが、ブリタニアでは軍民問わず幅広く使われている。

■ディストーション・フィールド
 ブリタニア帝国軍艦艇に使用されているバリアシステム。ブリタニア軍艦艇の惑星規模の物質すら破壊可能なグラビティブラストを防ぐことができる防御手段の一つ。しかし、展開中は内部から攻撃できないという欠点がある為に防空には不向きとなっている。

■陽電子フィールド
 ブリタニア帝国軍の駆逐艦に使用されているバリアシステム。質量兵器に対する防御力はディストーション・フィールドに勝るもののグラビティブラストを防ぐことはできないために防御力に難がある。それでも内部から攻撃できるという特性から防空を担当する駆逐艦に採用されている。陽電子リフレクター(機動戦士ガンダムSEED DESTINY)を軍艦全体を覆うフィールドにして更に目立たないように無色に改良したもの。透明となっているため展開しても目立たないし視界を遮らないようにされている。ちなみに陽電子リフレクターが内側から攻撃できるのはハイペリオン(機動戦士ガンダムSEED X ASTRAY)に搭載されていたモノフェーズ光波防御シールド「アルミューレ・リュミエール」の改良型だからである。

■ダイオラマ魔法球
 監察軍が採用している広大な空間を魔法球内部に圧縮しているマジックアイテム。内部の時間を加速することができる。元は『魔法先生ネギま!』のマジックアイテムで『魔法少女リリカルなのは』の世界でも使用可能なために監察軍がそれをそのまま生産している。今回登場した魔法球はちとせが個人的にコレクションにしている別荘で海水浴場としても使えるが、ちとせ好みの和風な屋敷などがある。また、外部と通信も可能で緊急時であっても即座に対応できるようにしている。


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新任士官と銀河天使 その四

 俺とケインが三千世界監察軍本部第22防衛隊所属のエルシオールに配属されてから一か月が過ぎた。その間、エンジェル隊の女の子たちとも仲良くなった。

 

 これはちとせさんが親身に手助けしてくれたのが大きかった。まあ、彼女としてはエンジェル隊のテンションを高めておく為、俺とミルフィーたちが仲良くできていないと困るのだからそれも当然だろう。

 

 そんなエルシオールはパトロール中に救難信号をキャッチした。帝国軍は無論のことだが、監察軍でも救難信号をキャッチしたらちゃんと対応しなければならない。勿論、戦時や緊急時などで対応できない場合もあるが、今は戦時でも緊急時でもない為、エルシオールは救難信号が発信地点に向かった。

 

 そして、そこでは宇宙海賊に襲撃されて破損したと一目でわかる民間船を発見した。救難信号はその民間船から発せられていたが、あの民間船の船籍をチェックしてみてもこの宙域に来る予定はなかった。実は監察軍は民間船がくることがあるが、警備上の理由から船籍とスケジュールなどがデータに入っており、調べればその辺りの確認が取れるのだ。

 

 単にたまたまこの辺りに来た民間船が宇宙海賊に襲撃されて救難信号を発した可能性もあるが、やはり引っかかる。どうも嫌な予感がするのだ。

 

「さてと、どうしたものか」

「確かにお前の言う通り不自然だが。無視はできんぞ」

 

 いくら不自然だからといって救難信号を無視したら問題になるので、ケインの意見は最もだ。

 

「そうだな。」

 

 取り越し苦労かもしれないが、念の為に手を打っておこう。そう思い、俺は民間船を捜索するメンバーにある命令を出しておいた。

 

 

 

「やはり罠だったな」

「そうだな」

 

 件の民間船に捜索隊を送り込んでしばらくして、民間船がいきなりディストーション・フィールドを展開して、同時に周囲から謎の艦隊の反応をキャッチしたのだ。どっからどうみても罠である。

 

『監察軍に告げる。俺たちはお前たちの仲間を捕えた。仲間を開放してほしいのなら、不老長寿の技術をよこせ』

 

 そこに宇宙海賊クルガン一家とやらが、そう要求してきた。通信には民間船の捜索隊に参加して宇宙海賊に捕えられた赤い制服をきたエルシオールクルーの姿が映っていた。

 

「折角だけどその要求は受け入れられない。エンジェル隊出撃せよ!」

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 エンジェル隊は俺の命令にしたがって出撃した。

 

『貴様、仲間がどうなってもいいというのか!』

 

 出撃したエンジェル隊が敵の迎撃をしている。宇宙海賊は例の民間船を含めても民間船を改造した武装船が30隻程度しかなく、エンジェル隊とまともに戦える戦力ではなかった。といっても相手が海賊一家にすぎないことを考えればそれも仕方がないだろう。

 

 エンジェル隊の猛攻撃の前に次々に海賊船が撃墜されていく中で人質に銃口を突き付けたままの宇宙海賊が怒鳴り込んでいたが、それを相手にする必要などなかった。

 

「残念だがアンドロイドを人質にしても意味はないよ」

『アンドロイドだと、バカなこいつらは赤い制服を着ているんだぞ。監察軍のエリートだろうが!』

 

 海賊の言う通り監察軍で赤い制服を着ている者はエリート(トリッパー)だけだが…。

 

「そうだね。俺が赤い制服を着せておいただけのアンドロイドだよ」

『き、貴様はかったな!』

 

 そもそもエルシオールのクルーは俺とケイン、そしてエンジェル隊の六人を除けば全員アンドロイドだ。監察軍のアンドロイドは人間そっくりで見分けがつかないために山吹色の制服を着ているが、逆を言えば制服の色以外では見分けがつきにくいのだ。そうなれば、制服を偽装するだけで相手を騙すことも不可能ではない。

 

 そこで、俺は念のために捜索隊に参加したアンドロイドたちに本来ならば監察軍のエリート(トリッパー)が着る赤い制服を着せて偽装させておいたのだ。案の定、敵はまんまと騙されてアンドロイドを人質に取って尻尾を出してしまったわけであった。

 

 言うまでもないが、監察軍ではアンドロイドなど消耗品扱いでしかない。といっても意味もなくアンドロイドを破壊すれば始末書ものであるが、今回のように敵を倒すためならば敵ごと始末しても何ら問題なかった。

 

『畜生ーー!』

 

 エンジェル隊の放った攻撃で例の民間船、というよりも民間船に偽装していた海賊船はアンドロイドごと撃沈されるのであった。

 

 

 

シドゥリside

 

「ふむ、宇宙海賊が不老長寿の技術欲しさに監察軍を襲うとはな」

 

 エンジェル隊が宇宙海賊クルガン一家を壊滅させた一件で、ブリタニア帝国皇帝シドゥリ・エルデルト・フォン・ヴァーブルは監察軍総司令官トレーズ・クシュリナーダから報告を受けていた。今回の事だけでなく近年では、この不老長寿の技術は何かと問題になっていた。

 

 ブリタニアでは貴族以外の平民たちが不老長寿を求めていたが、シドゥリとしては貴族たちの兼ね合いもあって安易にそれに応じられずに禁止したままで放置していた。とはいえ、さすがに無視できなくなった。

 

「トレーズ、あなたはどう思う?」

『そうですね。やはり不老長寿の規制緩和と技術開放しかないでしょう』

「やはり、そうなるか。貴族たちの説得が面倒だがやるしかないか」

 

 トレーズの言葉にシドゥリが面倒そうに言う。実のところシドゥリは政務の殆どを宰相や重臣たちに任せきりにしていたが、今回の問題は貴族の権益に抵触するかなりデリケートな問題なだけに彼らには荷が重い。故にシドゥリ自身が貴族たちを説得しなければならないのだ。

 

 しかし、平民たちの間でこうした不満があるのは貴族たちも当然理解しているから私が説得すれば受け入れるだろう。彼らだって平民たちの不平不満を爆発させたいわけではない。私にとっても平民たちにこうした不満があるということを口実にすれば規制緩和に乗り出しやすいし、貴族としても私が説得するならば面子を潰すことなくそれを了承することができる筈だ。

 

 勿論、規制緩和は限定的なものにする。求める技術が不老長寿なのだから若返りと後天的な遺伝子操作による老化抑制技術程度で十分だろう。監察軍のように強力な再生能力や生体強化による身体能力の向上などは必要ない。というか、そこまでやると本当に貴族(覚醒者)の立場がなくなるからできない。

 

 その後、シドゥリは貴族たちの説得して規制緩和を行った。その結果、ブリタニアの民は希望すれば誰でも若返りと後天的な遺伝子操作による老化抑制の恩恵を受けることができるようになり、平民たちの不老長寿に関する不満はなくなるのであった。




あとがき

 不老長寿というのは割と問題になると思います(特に女性には)。昔はその手の技術が発達していなかった為に問題にならなかったが、技術の発達により簡単に不老長寿が実現できるようになったのでブリタニア帝国も規制緩和しなくてはならなくなったという話です。これ以降、ブリタニア帝国は貴族だけでなく平民も不老長寿の長寿大国になります。


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新任士官と銀河天使 その五

 宇宙海賊を撃破してから数ヶ月がすぎた。あれからブリタニアは大きく変わっていた。その理由は若返りと不老長寿の規制緩和がなされたことだった。この規制緩和によりこれまで貴族の特権だった不老長寿が平民にももたらされることになり、人々は自分の希望する外見年齢のまま不老長寿となることができるようになった。

 

 ちなみに若返りまでできるのは、すでに年老いてしまった人やまだ若いがもう少し若い外見年齢がいいと望む人々に対する救済処置らしい。確かにまだ子供と呼ばれるものならば、希望する外見年齢になってから不老長寿になればいいが、そうでない人々は不平不満がでるだろうから、それを避けるためには必要な処置だろう。

 

 そして、俺とケインもその処置を受けることになった。といっても俺たちは士官学校を出たばかりなのでまだ20歳と非常に若いからわざわざ若返らせる必要はない。このままの外見年齢で不老長寿になればいいだろう。というか、仮にも軍の士官ともなれば外見年齢が若すぎるのは好ましくない。

 

 世の中は外見と能力は関係ないといいながらも外見が他者に与える影響は大きいのだ。例えばブリタニアの法衣貴族(宮廷貴族)たちはブリタニアの政治を担う重臣であるが、外見年齢は17歳ほどの少女に過ぎない為、他国の年配の男性などはどうしても彼女たちを甘く見る傾向がある。

 

 勿論、ブリタニア人はブリタニア貴族という者がどういう存在か熟知しているためそんなことはないが、他国の人間はそうではないのだ。そういった意味では不必要に歳をとっておらず若すぎない今の年齢は丁度いいだろう。

 

 

 

 それはさておき、俺はエンジェル隊のテンション管理の一環として彼女たちと深く関わるようになり仲良くなっていた。というよりも恋愛シミュレーションゲームの主人公のように彼女たちを攻略していた。

 

 いや、この場合は攻略してしまったというべきだろう。ちとせを含めた六人全員とキスしているからな。そんなわけで、俺はちとせたちエンジェル隊の皆に「誰が好きなのか?」と質問される羽目になった。勿論俺の答えは決まっている。

 

「ミルフィーは可愛くて好きだし、蘭花は綺麗で好きだなぁ。フォルテは頼れる感じで好きだし、ミントは礼儀正しい感じで好きだなぁ。ヴァニラは大人しい所が好きだし、ちとせは大和撫子な雰囲気が好きだ」

 

 そう、みんな良い所がって素晴らしいのだ。

 

「俺は、女の子はみんな大好きだあああ!!」

 と、皆に言っておいた。

 

「さ、サイッテー!!」

 

 しかし、蘭花は俺の言葉に怒って出て行ってしまった。

 

「ブルーノさん、あれはないですよ」

 

 ちとせにも柔らかく苦情を言われてしまう。

 

「いやー、ウソは言っていないけどね…」

「まあ、蘭花さんも本気で怒っているわけじゃないから私からも言っておきます。ですが、ウソではないと言いましたが、それは私たち皆が好きだという事ですか?」

「ああ、そうだよ」

 

 俺は嘘は言っていない。彼女たちは皆好きで、全員恋人にしたいぐらいだ。

 

「でも、皆というのはどうでしょう。誰か一人ならともかく六人となると、六人全員を愛して満足させる必要があるので、ブルーノさん一人ではかなり難しいと思いますが?」

 

 確かにちとせの言う通りだ。ハーレムというのは男の夢だが、その困難は相当なものであろう。例えば夜の生活にしても一人ならばその相手だけを満足させればいいが、六人となると単純計算で六倍の負担になる。俺は人一倍女好きであるが、それでも六人全員を満足させられる自信はない。

 

「その困難を乗り越えてでも皆を愛したいというのであれば、いい方法があります」

「いい方法?」

 

 そんな俺はちとせの言葉に興味を持つのであった。

 

 

 

ちとせside

 

 ブルーノ艦長が私を含めたエンジェル隊メンバーたちと仲良くなっていた。これはエンジェル隊のテンション管理の面では都合がいいですが、問題なのは艦長が私たち全員と仲良くなってしまったことです。これでは艦長が好きなのは誰なのか揉めてしまいます。

 

 案の定、その件で揉めてしまったので、艦長にそのことを訊ねてみたら「みんな好きだー」というハーレム発言されてしまいました。テンション管理でいうならそれはそれでいいでしょうが、問題なのはそれを私たちが受け入れられるかという事です。

 

 いえ、監察軍に所属する私たちはそこまで生活に困っていないので、一般人のように相手の職業や年収などに拘る必要はありません。ですから、よほどの問題人物でない限り純粋に好き嫌いで恋人を選んで恋愛を楽しむことができます。

 

 その点、艦長はいい人ですし、そもそもブリタニアでは一夫多妻制なので、私たち全員が艦長に嫁ぐというのも可能です。勿論、妻が複数いるとなると人間関係が問題になりますが、元々私たちは家族同然に暮らしていたわけですから、そんなことは今更問題になりません。

 

 それを考慮すれば悪くはないかもしれません。そう思った私はその事をミルフィーたちに伝えました。蘭花も艦長にそれほど怒っていないようで改めて考えなおすと悪くないと思ったようです。

 

「でも、ブルーノさんは皆を平等に愛せるんですか?」

 

 一人の男性が六人の女性を愛して、その夜の生活でも満足させるのは大変な事です。そういった意味では一夫多妻は大変ですが、その点は抜かりはありません。

 

「それは大丈夫です。良い代物があるので艦長が私たち全員を相手にしても大丈夫でしょう」



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新任士官と銀河天使 その六

シドゥリ暦2407年

 

 とある朝、ダイオラマ魔法球にある和風の屋敷でエンジェル隊の六人と一緒に寝ていた俺は、ふと目を覚まし起き上がった。周りを見ると彼女たちはまだ寝ていた。というより、全員裸で情事の跡を露骨に残していた。ここで昨晩何が行われていたかはわざわざ言うまでもないだろう。

 

 俺としてはこの六人の新妻たちとの新婚生活に大満足している。勿論、俺一人に六人の妻という状態で何かと大変であるが、ちとせたちのような美少女を自分のものにしたという満足感はたまらないものである。

 

 そんな俺はこれまでの事を思い出していた。

 

 

 

 あれから一年あまりの月日が流れた。エンジェル隊の皆を愛そうとした俺は、ちとせの提案を受け入れて『人類強化剤29号』を投与することにした。

 

 この人類強化剤29号はぶっちゃけると男性の生殖能力を高める代物で、その結果で俺の精液が催淫作用がでるようになり精力絶倫になった。その上、俺の相棒がたくましくなり持続力も大幅に伸びていたので、女性に対して無敵になったと言えるだろう。

 

 こうして正に夜の帝王となった俺はまずちとせに手を付けた。ちとせも俺を受け入れていたし人類強化剤29号の威力には興味があったのだろう。まあ、効果があり過ぎて深みにはまってしまったがそれはいい。

 

 これで自信をつけた俺はミルフィー、蘭花、フォルテ、ミント、ヴァニラをつぎつぎに落としていきハーレムを構築した。ミントに至ってはロリすきて背徳感がすごかったけどそれもいいスパイスだな。

 

 以前は六人を満足させられるのか不安があったが、人類強化剤29号のおかげで問題なく彼女たちの相手をできるので俺としては好都合だった。

 

 ただ、ここまでやった以上は責任を取る必要があり、俺はちとせたちと結婚することにした。ブリタニアでは一夫多妻制なので、同時に六人の妻を娶るというのは一般的ではないものの何ら問題はなかったが、彼女たちがブリタニア人ではなく監察軍所属の人間であったのが問題となった。

 

 監察軍が皇帝直轄機関で、ブリタニアに本部を構えて活動している事から忘れがちであるが、監察軍の者たちの多くはブリタニア人ではなく異世界人なのだ。

 

 ブリタニアでは異世界人とブリタニア人の結婚は極めて珍しい。とはいえ、過去にはブリタニアに帰化した元異世界人とブリタニア人との結婚や、ブリタニア人と監察軍に所属している異世界人との結婚も少数ながらあった。

 

 しかし、ブリタニア人と監察軍所属の異世界人との六人同時一夫多妻での結婚というのは前例がなかった。やはり複数の妻を娶ることが許されているブリタニアでも一夫一妻が一般的なのだ。

 

 結局は前例がないだけで法制度的には問題なかったこともあり、俺たちの結婚は認められたが、その件で身内とはかなり揉めてしまった。まあ、エンジェルたちを俺のものにできたのだからその程度の苦労は仕方がないだろう。

 

 

 

ちとせside

 

 ブルーノ艦長に私たち全員の面倒を見て貰うために人類強化剤29号を投与を進めましたが、その効果は予想以上だったと言えるでしょう。

 

 この人類強化剤29号は監察軍の頭脳チートトリッパーがとある下位世界で登場した人類強化剤28号を改良したものですが、その効果からハーレム願望があるトリッパーたち愛用の一品なのです。

 

 物は試しと、艦長に抱かれてみましたが初めてだというのに乱れてしまい、その後も回数を重ねるごとに快楽にはまってしまいました。まあ、深みにはまってしまったのは私だけでなくミルフィーたちもそうで、彼女たちは艦長の虜になってしまいあっという間にハーレムができてしまいました。

 

 ここで「60をすぎているのにまだ処女だったのか?」と思う人もいるかもしれませんが、大和撫子を目指している私としてはこれはという方以外と肉体関係を持つわけにはいきませんし、紋章機の開発やエンジェル隊結成の準備に忙しく恋愛に構っていられなかったのです。

 

 通常ならばただの行き遅れの女にすぎないわけですが、不老長寿である以上、婚期に焦る必要などまったくなくじっくりできるという利点が私にはあります。

 

 また、私の能力の特性上エンジェル隊のテンションを高めてくれる人をパートナーにするのが望ましく、そんなこともあり艦長に目を付けたわけです。

 

 艦長は女好きなのが玉に瑕ですが、想像以上に優秀だったのは都合がよかった。女好きなところも私たち全員の面倒を見て貰うならば好都合なので、私たち全員が艦長に嫁ぐという方向に艦長やミルフィーたちを誘導しました。

 

 その結果、艦長によるエンジェル隊ハーレムが結成されてしまったわけですが、これはテンションを高める上でかなり効率的で、私たちはかなりの運用データを出すことに成功しました。このデータは監察軍でも高く評価されており、今後の技術開発に大いに役に立つでしょう。

 

 一夫多妻というのはまったく思うところがないとは言えませんが、それでも今の世界活は充実しており、それなりに満足できるもので幸せと言えますね。ですから、こういうのもありでしょう。




解説

■人類強化剤29号
『どっぷり中出し学園戦争』で登場した人類強化剤27号の完全版である人類強化剤28号を監察軍が更に改良したもの。この改良の結果、薬によって性格が変更してしまうという悪影響がなくなった。

■どっぷり中出し学園戦争
 2008年に株式会社テックアーツのブランド・SQUEEZより発売されたアダルトゲーム。



あとがき

 これで『新任士官と銀河天使』は終わりです。ちとせは能力を活かすためにテンションを高めてくれるパートナーを求めて、その結果エンジェル隊メンバーまるごとハーレムという形になりましたが、本人たちはそれなりに満足しているという話です。


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鬼械神パールヴァティー

シドゥリ暦3490年 ブリタニア帝国 帝都ヒルデガルド スーパーロボット博物館

 

 三千世界監察軍による対ベヅァー兵器として開発された数多のスーパーロボットたち。それらはいずれもベヅァーに対抗しうる能力を得ることなく失敗作の烙印を押された。その為、エンジンや電子機器などを取り外された張りぼてだけの姿でモスボールされて博物館に展示されることになった。

 

 さて、そんなえらく偏った博物館であるが展示品はすごいの一言だろう。何しろスーパーロボット計画によって対ベヅァー用に多くのトリッパー達が自重せずにぼくのかんがえたさいきょうのスーパーロボットを作り上げていただけにゲッターロボ、イデオン、ライディーンなど豪華な機体が目白押しであったのだ。

 

 それはまるでスーパーロボット大戦の世界にきてしまったような錯覚すら覚えるほどで、それだけにブリタニア人の子供たちにも大人気で子供連れの家族がここに訪れる事が多かった。

 

 そんな展示品(スーパーロボット)の中にあって一際異彩を放っている機体があった。鬼械神パールヴァティー。それが、金色に輝くその機体の名であった。

 

 その名の通り、それは『斬魔大聖デモンベイン』の鬼械神をベースにしており、エリーゼ・ペルティーニとアイシャ・ペルティーニが作り上げたチートなスーパーロボットだ。これは条件付きながらも破壊神ベヅァーを倒せるだけの性能を持つ成功作だ。

 

 ここで、成功作なのに何で博物館行きなのかと思うかもしれないが、それはパールヴァティーがエリーゼとアイシャが使う専用機の試作機にすぎなかったからだ。

 

 そもそもこの二人は様々な世界で技術を収集していたが、鬼械神を作った事がなかった。その為、ぶっつけ本番で専用機を作る事などせず、まずは試作機を作りデータ収集をしてから作ろうとしたのは当然の事であった。

 

 その試作機であるパールヴァティーは幾多の改良を受けながらも各データにおいて優秀な数値を出し、これならばベヅァーにも対抗できうると判断されたわけであるが、そこで試作機にすぎなかったパールヴァティーの役目も終えてしまった。エリーゼは用済みとなったパールヴァティーを廃棄処分するかのようにエンジンと電子機器を取り除いて博物館行きにしたのだった。

 

 ここで監察軍内部でパールヴァティーの退役を惜しむ声が出なかったのは、パールヴァティーが乗り手を選び過ぎる事が原因だった。パールヴァティーは対ベヅァー用に作られただけあってやたらとピーキーで、監察軍でもエリーゼとアイシャしか使える人間がいなかったが、その二人が別に専用機を作る以上パイロットがいない機体になってしまったのだ。

 

 こうして、スーパーロボット計画の成功作でありながらも失敗作と一緒に展示されるという不遇な機体となったわけであるが、それが纏う雰囲気は他を隔絶していた。

 

 

 

「これが、パールヴァティーね。とても用済みになった機体には見えないわね」

 

 博物館に展示された金色に塗装されている異様な鬼械神の姿に涼宮ハルヒは感心する。動力源たるディス・レヴを取り除いたとはいえその影響を受けていた為か超常的な力を感じずにはいられない。

 

 そもそも鬼械神そのものがハルヒにとって手の届かないものであった。ハルヒは『下位世界に存在する人類が手に入れる可能性のあるすべての知識』という転生特典を持っている。これは当然ながら膨大な知識をハルヒにもたらしているが、彼女はそのすべてを使えているわけではなかった。というのも、知識の中には知るだけで害になるという厄介な代物があるからだ。

 

 それは、例えば『とある魔術の禁書目録』の魔術や『斬魔大聖デモンベイン』の魔術などだ。これらは知るだけで命や精神を削るというトンデモない代物であった。それだけにハルヒが保有するそういった知識は死神によって厳重に封印されていた。

 

 勿論、その気になればその封印を解いてそれらの知識を知る事はできるが、そんな事をすれば破滅することは分かりきっている。ハルヒは知識を得ることができるチート能力を持っていてもエリーゼたちのように知識に耐えきれるわけではないのだ。

 

 エリーゼたちにあってハルヒにはない能力と知識、その象徴とも言える鬼械神にハルヒは思う所が全くないと言えば嘘になるが、それでもそれを妬むほど心が狭いわけではない。自分ができなくてもできる奴にやらせればいいと割り切れるだけの器量は持っていた。

 

「これほどの物を作り上げることができた事を考えればスーパーロボット計画は成功したと考えていいだろうけど……」

 

 確かにこの機体をベースに製作されたエリーゼたちの専用機は凄まじい戦闘能力を誇っていた。それは第一次ベヅァー戦争時のベヅァーすら上回る程だ。それを考えれば自信満々なエリーゼたちの言うように問題ないはずだが、こちらの想定の斜め上を行きかねない敵だけにハルヒは安心できずにいた。

 

 このハルヒの予想は的中して、後の第二次ベヅァー戦争にて想定外の強さとなったベヅァーにエリーゼたちは思わぬ苦戦をする羽目になるのであった。




解説

■鬼械神
『斬魔大聖デモンベイン』に登場するスーパーロボットの総称。通常は魔術によって構成される代物で、デモンベインやパールヴァティーは正確に言えば鬼械神を模した機械人形である。

■エリーゼ・ペルティーニ
 このサイトのSS『二人の魔女』の主人公。転生型トリッパーで魔術のエキスパート。

■アイシャ・ペルティーニ
 このサイトのSS『二人の魔女』に登場する転生型トリッパー。エリーゼと同じく魔術のエキスパート。

■涼宮ハルヒ
 このサイトのSS『トリッパー列伝 涼宮ハルヒ』の主人公。転生型トリッパーで知識チートな転生特典を活かして監察軍の技術部部長を務めている。

■ディス・レヴ
『第3次スーパーロボット大戦α』で登場する悪霊や怨霊、死霊などの集合体「負の無限力」を吸収し、その力を糧とする動力機関。



あとがき

 エリーゼとアイシャはいきなりカーリーとドゥルガーを製作するほど無謀ではなく、まず試作機を作りデータを集めてから専用の鬼械神を造ったという話です。その為、このパールヴァティーは踏み台的な扱いを受けている悲しい機体です。後、いくら知識チートでもデモンベイン系の知識はやばいのでハルヒはその手の知識は使えません。


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レプリケーター革命

 ブリタニア帝国では監察軍創設前は宇宙開発を積極的に行い各地で資源採掘をして必要とする資源を確保していたわけであるが、監察軍が『機動戦艦ナデシコ』の木星プラントを解析して超高効率原子変換技術を入手したことで状況が変わった。

 

 この技術はまさに原子変換という名の錬金術であり、欲しい資源を探していちいち採掘しなくても、原子変換によっていくらでも資源や工業製品を調達できるのだ。この超高効率原子変換プラントは大量のエネルギーと大がかりの施設が必要という問題があったが、エネルギーは縮退炉の膨大な出力で解消したし、施設にしても特に問題にならなかった。

 

『機動戦艦ナデシコ』で、月の独立派の残党という弱小極まりない集団が、木星圏で国家を構築して生き残れたり地球連合を圧倒するほどの軍事力を手に入れただけあってその生産能力は半端ではない。

 

 ちなみにブリタニア帝国軍ではこの超高効率原子変換プラントは弾薬製造プラントとして軍艦にも採用されたが、大がかりの装置が必要だったために1km以上の大型艦でなければ搭載できなかったりする。

 

 

 

 しかし、シドゥリ暦2400年代になると、監察軍は『スタートレック』の世界からレプリケーターという分子を材料に実物とほとんど変わらないコピーを作り出す極めて便利な装置を手に入れた。

 

 このレプリケーターを用いればデータ登録した物品の正確な複製物を製作したり、それの縮尺を変更してミニチュア化ないしは拡大コピーしたり、指定された物品の複製に様々な条件付けを行う事で、全くオリジナルな物を製作する事もできた。

 

 

 

 また、シドゥリ暦2500年代になると、第二世代レプリケーターが登場した。これは原典のレプリケーターを忠実に再現した第一世代レプリケーターを改良したものだ。第一世代ではオリジナルとコピーとの間にわずかながら差があった為に、食料品や精巧な工芸品は劣化コピーになっていたが、第二世代ではわずかな例外を除いて完璧にコピーできるようになった。

 

 この例外と言うのが、『トリコ』世界の料理及び食材だった。第二世代レプリケーターは他の食材なら高級食材であっても完璧にコピーできるにも関わらず、どういうわけかこれだけは上手くいかなかったのだ。とはいえ、別にトリコ世界の食材が必要というワケでもないので、これまで通りトリコ世界の食材が高級食材、その他の食材が通常の食材として扱われることになった。

 

 この第二世代レプリケーターの登場にとってレプリケーターの技術はほぼ完成して、これによって人々に大きく貢献できる筈であったが、それでもこの技術が普及することはなかった。というのも第二世代レプリケーターがあまりにも万能すぎたのだ。

 

 第二世代レプリケーターは超高効率原子変換プラントのように膨大なエネルギーや大がかりな施設を必要とせず、一般家庭でも普通に使えるほど利便性が高かったが、重火器どころか大量破壊兵器や宇宙艦隊まで作れてしまうのだ。

 

 考えても見て欲しい。一般人が気軽に大量破壊兵器や宇宙艦隊を保有することができるような世界でまともな治安維持ができるであろうか? 言うまでもなく不可能だ。

 

 勿論、安全性を考慮して、危険な毒物・武器・爆発物等の製造には安全プログラムによるリミッターが組み込まれていて製造できないようになっているが、その手の技術があれば安全プログラムなど解除できてしまうのだ。その為、レプリケーターはあまりにも危険すぎてブリタニアの一般人はおろか帝国軍ですら採用されておらず、監察軍が独占管理していた(流出を恐れたシドゥリの意向)。

 

 

 

 そして、シドゥリ暦3502年

 

 エリーゼ・ペルティーニとアイシャ・ペルティーニの二人が、第三世代レプリケーターを完成させた。第三世代は第二世代を改良したものであるが、最大の特徴はエリーゼたちの極めて高度な魔術理論を用いたリミッターであった。この第三世代レプリケーターは主に一般用・工業用・軍事用の三種類に大別できるが、それぞれ異なるリミッターがかけられていた。

 

 このリミッターがあまりにも強力で、エリーゼたちに匹敵する魔導知識がなければ解除不可能という強烈極まりない代物であった。勿論、数多の世界の魔術理論は応用発展させたそれは科学者や並の魔術師で解除できるわけがなく、事実上この二人かチート能力を持つトリッパーでもなければ解除できない代物であった。この第三世代の登場によってようやくレプリケーターが一般に広まることになった。

 

 その結果、この時期のブリタニア帝国はレプリケーターによって社会的大変革が発生して、産業、雇用、福祉などなど様々な分野で人々の生活が激変していた。ブリタニア帝国ではこの大きな変化を産業革命になぞらえてレプリケーター革命と呼ばれることになる。

 

 ここで、一番変化が出たのは人々の労働であろう。従来は生活の糧を得る為の労働を必要としていて、無職のニートでは生きていけない社会だったのだ。勿論、ロボットなどを最大限に使えば人間など雇用する必要などなかったが、それでは極一部の富裕層とその他の貧乏な失業者という極端な貧富の差を生み出すことになる為、非効率的であってもブリタニア帝国は臣民の雇用を守っていたのだ。

 

 そうした状況もレプリケーターが一変させた。まず政府からレプリケーターを使用する為のエネルギー使用権が与えられ人々は、レプリケーターを使って衣食住を満たすようになった。ぶっちゃけると別に生活するだけならわざわざ働かなくてもレプリケーターを使えばそれで済むようになる。それだけに貨幣経済はかなり衰退して、帝国政府も国民から税を徴収することはなくなった。というか税収入自体が無きに等しくなった。

 

 こうなると極端な話ブリタニア帝国臣民の9割が家に引きこもっているニートでも問題なくなるが、さすがにそこまで怠け者ばかりではなく、軍人になったり、文化・スポーツ・武術などの自分の趣味ややりたいことに没頭する者が多くなった。このようにブリタニアの人々は自分のやりたいように暮らすようになる。

 

 また、このレプリケーター革命は監察軍の支部がある大日本帝国とアトランティス帝国にも普及していく、このレプリケーター革命によって両国では暇を持て余した人々による同人誌や同人ゲームなどの同人活動が活発になるのであった。




解説

■エリーゼ・ペルティーニ&アイシャ・ペルティーニ
 ここの『二人の魔女』に登場する転生型トリッパー。魔法や魔術などのオカルト分野では監察軍でもトップクラスの実力者で、おまけにオカルト一辺倒ではなく、オリジナルの鬼械神を開発したことから分かるように魔術と科学の併用にも非常に優れている。

■一般用レプリケーター
 第三世代レプリケーターの中で軍民問わず広く普及しているレプリケーター。衣食住をすべて賄う事ができ、更に全く同じ一般用レプリケーターすらもコピーできるが、毒物・武器・爆発物等などの危険物はリミッターによって製造できない。食事を出すだけでなく食べ残しや食器なども分子として取り込む事が出来る為に食中毒の心配はいらず、ごみや排泄物の処理も簡単にできる為にスペースコロニーや艦艇などの限られた空間で生活しなければいけない状況では特に便利である。

■工業用レプリケーター
 第三世代レプリケーターの中で軍民問わず広く普及しているレプリケーター。工業用というだけあって大小様々な工業製品を製造できる。民間用の宇宙船(テロに使われるととても危険なので縮退炉を搭載した宇宙船は製造不能)や軌道エレベータまで製造可能であるが、リミッターがかけられているため毒物・武器・爆発物等などの危険物は製造できない。

■軍事用レプリケーター
 第三世代レプリケーターの中で帝国軍と監察軍だけが使用しているレプリケーター。民生品だけでなく軍艦や大量破壊兵器などのありとあらゆる代物を製造できるが、万が一にも流出した場合の保険として同じ軍事用レプリケーターだけはリミッターによって製造できないようになっている。また、この軍事用レプリケーターだけはレプリケーターではなく監察軍が厳重に管理しているプラントにて直接製造されている。



解説

 あちこちの世界から技術を収集している監察軍がレプリケーターを手に入れないとかえって不自然なので、今回はレプリケーターの話をしました。第三世代レプリケーターはかなり万能な装置ですが、あくまで分子構造をコピーしているだけなので、神秘や概念とかはコピーできません。その為、『Fateシリーズ』の宝具とかをコピーしても分子構造が同じだけの張りぼてしか作れません。しかし、それでもレプリケーターは社会に与える影響が本当に大きいです。働かずにのんびり生活できるなんて羨ましい限りです(笑)。


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