ダンジョンに穢れ持ち種族が潜るのは間違っているのだろうか? (どらむすいいよね)
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序章 始まりは突然に?

 目を開けるとそこは、のどかな平原だった。

 

 何を言ってるか全くわからない? ああ、安心してくれ、俺もだ。

 

 ぼけっと本を読み、就寝時間を少し過ぎてしまったが、普通にベットに入って寝たはずの俺がなぜこんな平原にいるのか、甚だ疑問でならない。

 

 あ、俺の名前は桐生銀次である。 若干ソプラノ気味の声音をもつ意外は、まぁどこにでもいるような男だ。 頬を抓った、痛い。 夢なら覚めて欲しいと思いつつも、なぜか分からないが肩がこる。 目が覚めて訳のわからない状態に悩みつつ人を探して行動しようとしたその時。

 

 背中に違和感を覚えた。 感覚があるのだ、未知の。

 

 恐る恐る背を見ると──翼が生えていた。 コウモリっぽい飛膜の翼で、鈍色に輝くモノが。 俺の意思に反応したのか、パタパタと動いた。

 

 目を丸くして、触ってみると、こう、なんとも言えない感覚で、敏感なのかすごくこそばゆい。 というか、びっくりした。

 

「ひゃん! ……ってアレ?」

 

 その声は俺の出した声、なのか? 俺のソプラノヴォイス(笑)がシルクのように柔らかな高音域な少女っぽい声音に変わってるんですが。──まさか! 

 

 パッと下を見る。 そこには何やら非金属の胸当ての下、黒いドレスっぽい服の上に下に大質量のそれを提げている。

 

 おっ◯いが付いていた。

 

 髪をみる。 背中あたりまで伸ばし放題な銀髪だ。 鏡は持っていないので顔までは確認できない。 そして頭には角が生えているようだ。

 

「いつのまにワシは女子(おなご)になっておるのじゃ」

 

 普通に喋ろうとしたらフィルターがかかってしまうみたいだなぁ! のじゃ少女のようですね……なんで俺こんなに冷静なんだろうか? 

 

 悲しくなりつつ、人は順応力が高いずば抜けて高い生き物だ。 俺はそれをよく知っている。

 

「大方、過労死したんじゃろうな、前のワシ。 まぁ完徹3週間は流石に無理だったのじゃろうて」

 

 家賃やらなんやらのためにバイトやらをして働き回っていたから無理もない。

 死んだなら死んだで諦めて、俺はまぁ今生きてるし……と歯切れが悪いが、割り切った。

 

「人里を探さないとまずいかのう……いや待て、ワシの種族はなんじゃろか? 」

 

 思いついた言葉が自然と口から出る。 翼持ちで角持ちの種族。 思いつくのは、とあるTRPGに存在している1つの種族。

 

「《ドレイク》。 この剣との繋がりを感じるということは、《ドレイク/ナイト》の魔剣かの」

 

 穢れ4点の種族かぁ……守りの剣があったら近づけないし、何より敵対ムーブされる恐れも……。

 まぁ、ここがテラスティア大陸と決まったわけじゃない。

 

 とりあえず、探索判定と危機感地判定を怠らないようにしないと……いや、まぁ、野外だし、《レンジャー技能》は有効だよね! 

 

 とまぁ、軽く解説すると、まず、テラスティア大陸とはテーブルロールプレイングゲームの《ソード・ワールド2.0》の舞台となる世界である。

 テーブルロールプレイングゲームとは、サイコロなどの道具を使い判定とかの行動をプレイヤーキャラ《PC》にやらせて話を進めていく……会話型RPGというやつだ。

 

 どんな遊びだって言われて説明しだすと日が暮れるから、興味があるならルールブックを見てくれってことで。

 

 そんなテラスティア大陸には人間の勢力である人族と、その敵対勢力である蛮族が存在する。

 

 まぁ、敵同士だし、仲良くすることはない……と思うかもしれないが、時折。 蛮族サイドに疲れたとか、飽きたやらの理由で人族側につく蛮族がいる。 そういったキャラクターは人族のPCと協力し合って戦うこともある……という蛮族PCという存在がいるのだ。

 

 ……銀の髪か……心当たりはアリアリなんで、ドレイク/ナイトならと、俺は──ばさっと翼を開き、宙を舞う。 うん、やっぱ飛行できる……! 

 

「うんうん、良好じゃの。 まぁ……見通せば……ん? あれは《神のきざはし》かの……にしてはやけに人工物じみておるが……いや、麓にあるのは、街かの……?」

 

 おかしい。 神のきざはし付近は手つかずの森だったはずだし城下町みたいなのがあるはずがない……となると……ここはテラスティアではない……? 

 

「ともかく、人里に行ってみるかの。 そこからじゃな、色々」

 

 視界に映った綺麗な川を見て俺は一度そこに降りることにした。

 

 顔を洗ってすっきりしたいし、喉も乾いたからな……空っぽの《水袋》ほど役に立たないものはないから、な。

 

 ☆

 

 銀次(仮)は川の近くに着地して水袋に水を汲もうと川の水面を見た。

 

 水面には空が映っており、その水質はまったくもって問題ないものと判断できた。

 

「キレイな水じゃのう。にしても、ワシはえらい別嬪じゃな……」

 

 水面に映る自身の顔を見て思わずそう零す。

 

 吸い込まれるような深みのある、黄金の瞳が収まる少し垂れ気味な目尻。 鼻梁はスッと通り、唇は鮮やかな薔薇色か。 気色の良い肌は瑞々しく、女性であれば誰もが羨むであろう肌質なのは一目瞭然か。

 

 水袋の水を呷り、喉を鳴らしつつごきゅごきゅと飲み干した。 銀次(仮)行儀が悪いが、手で口元を拭い水袋にまた水を汲む。

 ふと思い出したかのように、パチャリと水をすくい上げて顔に当てた。

 

「ちべたっ! でも、スッキリするのぅ」

 

 冷たい水で顔を軽くすすぎ、持っていたタオルで顔を拭くと息をつく。

 

「黄金の瞳に長い長い銀髪、別嬪で白金色の角。 黒いドレスにディヴァインスキンを身に付けてその翼は透き通るような白銀の翼。ワシはシルヴァリア・ルーカスかの」

 

 キャラシートに記入されていた、情報を思い出す。 フェンサー技能をメインに伸ばしていた敏捷度、生命力抵抗、精神力抵抗を重点的に伸ばしていた回避型フェンサーだったことを思い出した。

 そして、自身がどういう存在かも思い出す。

 

「――超越者だったの、ワシ」

 

 超越者―神になることが内定した存在とも言うべき存在である―で、フェンサー技能Lv17。このLvにもなると小さな神となら殴り合いができるクラスとも言える。

 

 冒険者Lv17

 フェンサー技能17

 ソーサラー技能15

 コンジャラー技能11

 スカウト技能9

 レンジャー技能15

 エンハンサー技能8

 アルケミスト技能6

 

 と言った具合のビルドだったことを思い出す。

 

「テラスティアでなければ、大して意味もないのぅ……マテリアルカードとかあるのじゃろうか? まぁ、なければこれで作れば良いがな」

 

 むむむと難しいことを考えてもわからないと割り切って、水袋をカバンに仕舞いつつ、ベルトに固定している《アルケミーキット》を撫でた銀次(仮)が再び飛ぼうと翼を広げようとした時に、ガサゴソと茂みが揺れる。

 

「む、誰じゃ!」

 

 しゅらんと、涼しい音と共に多機能ブラックベルトに鞘を佩かせた剣を抜く。 いやに手になじむ感覚に内心驚きつつ、蒼銀の剣身は陽の光を反射する。

 

 剣を構えながら、茂みに寄っていく。 無論、翼を折りたたんでフード付きに改造した野伏のドミネイターマントで角と翼をその内に隠すのは忘れない。

 

「ままままままま、待ってください! ごめんなさい!」

「……」

 

 剣を突きつけられて腰を抜かしたのか、立てなくなっている……そこにいたのは、白髪に赤目という、ウサギのような少年だった。

 

「どうやら無害な少年に(ツルギ)を向けてしまったようじゃの……すまぬ」

「え、え?」

 

 剣を鞘に収めて頭を下げる彼女に驚いてか、少年は慌てふためいた。

 

「こ、こちらこそごめんなさい! 脅かしてしまって……えっと……」

「うむ? ああ先に名乗れと、な? 淑女(レディ)に、先に名乗らせるのかの? お主は、ん?」

 

 少々いたずらごころが芽生えた彼女は、少年に少しだけ意地悪がしたくなったようで。

 

「いいいい、いえ! ごめんなさい! 僕はベル・クラネルです!」

「フフ、すまぬ。 少々イタズラが過ぎたのじゃ。 ベル・クラネル……うむ、あい分かった。 ワシは――シルヴァリア・ルーカスじゃ。 ルーカスさんと呼ぶが良い。 それで良いか、クラネルの?」

 

 シャイな少年を弄んだ罪悪感か、すぐに謝罪して自らの名を呼ぶことを提案した。

 

「はい! 大丈夫です!」

 

 そして、彼女は。 自らの名をシルヴァリア・ルーカスと名乗ることにした。

 

 名無しのドレイクでは格好もつかない……そう感じながら自らの名を、今一度長い期間演じていた少女の名を借りる。

 

「(しかし、ベル・クラネルという事は……ここはオラリオの、ダンまちの世界じゃったか)」

 

 侘びにと自らの境遇(いいところのお嬢様で、お転婆が過ぎて家出中)と言う嘘をベルに付きつつ。

 

 その話を聞いたベルは軽く頬を引きつらせていたが、他愛のないことであるとシルヴァリアは無視した。

 

「……という具合だの。 で、オラリオとやらに向かう道すがらこの川で水袋に水を汲んでおったのじゃ」

「なるほど、そうだったんですか。 じゃあ、一緒に行きませんか? 」

「むー……きっちりとワシをエスコートはできるのかの? クラネルのは」

「……が、頑張ります!」

「お、おう。 ならば頼むのじゃ(一体その自信はどこから来るのじゃお主……とは言わないでおくかの)」

 

 内心、辛辣な評価を下しかける自身を御して、シルヴァリアは息巻くベルの導きを受けて街道を進むのであった。

 

 ☆

 

「ふむぅ……ファミリア探しも楽ではないのう」

 

 俺とベルはベルを迎え入れてくれるファミリアを探し、歩き回っていた。 あの出会いから数日共に歩いてわかったことが有り、どうにもベルは放っておくことが出来ない……同情ではないが、そう感じている。

 

「ベルよ。 お主、路銀は後いくらほど持っておる」

「えっとですね……あと3日程滞在できる金額かなぁって」

「切り詰めてそれかの。ううむ……」

 

 顳かみを揉み、思案する。 零細ファミリアを探すしかないか……かの竈の女神のもとに行きたいが、流石に場所は分からない。

 

「どうするかのう……」

「どこか、僕が入れるファミリアがあれば……」

 

 項垂れるベルの背中をさすってやりながら、どうするかを考える。 俺はファミリアに入る気はない……いや、入れるのか、受け入れてくれるのかすら怪しい。

 ベルがあの女神と出会う機会を俺が潰してるのだろうか……だったら早めにこいつと別れてやるべきなのだろうか? 

 そんなことを真面目に考えていると……

 

「そこの君達! 悩み事ならボクが聞こう!」

 

 裏路地で少し休憩していた俺たちにはその声が嫌に響いた。 透き通る愛らしい声と評するべきか。

 

「え」とベルが顔を上げる。 俺はチラリとその声の主を認識する。

 

 艶やかな黒い髪をツインテールに結っており、青みがかったその瞳。 若干丸みのある幼い顔立ちに低い身長……それに似つかわしくないその大質量のお胸様を持つ、男の願望を詰め込んだ属性。 通称《ロリ巨乳》の(ヒト)がいた。

 

「ボクはヘスティア。 君たちが良ければボクのところに、《ヘスティア・ファミリア》に来ないかい?」

「それは──願ってもない申し出だの。 いや、不遜な物言い失礼するのじゃ」

「シルヴァさん……!?」

「ヘスティア神よ……この異形でもそなたは、受け入れてくれるのかの……?」

「……だとしても、だ。 これは団員になってくれそうな人を探してるボクの都合でもあるし、ね」

 

 俺はフードを外して角を現わにする。 ついでに翼も。 だが彼女は受け入れるといった。

 

「ベルの。 ある意味、これはチャンスなのじゃ……ワシらを拾ってくださるというのであれば、迷わずその手を取るべきだの」

 

 と俺はベルを焚きつける。

 

「シルヴァさんがそう言うなら……」

 

 とベルは言いながらヘスティアに向き直り、「ベル・クラネルです、ヘスティア様。 よろしくお願いします!」と物怖じせず言えていた。 うむ、よかったよかった。

 

 ☆

 

 神々はその異形を見て戸惑った。 濁りきった魂の色に。 穢れを内包しているその魂の色は曇天のごとくな銀色だった。 しかし、その魂を見て興味を持つ者もいたが、今は関係のないことなので割愛しよう。

 

 だが、どんな爆弾かもわからない彼女を自らの手元に置くのはどうなのか……と神々は興味はあるが好奇心よりもリスクが勝るその状況を良しとせず、受け入れることはできなかった。

 

 だが、ヘスティアは困りきっている彼女らを見て、本心からその手を差し伸べた。

 

「それは──願ってもない申し出だの。 いや、不遜な物言い失礼するのじゃ」

 

 そう言った女性を見ても彼女はもう止まらなかった。

 

 彼女の手で晒された白金の色をした角も、白銀の翼を見ても、ヘスティアは揺れなかった。 「まるでそれがどうした」と言わんばかりに。

 

「(誰も手を差し伸べないなんて間違ってる……! だったらボクが!)」

 

 その内心の決意を知ってか知らずか、彼女が連れていた少年が名乗る。 そして、彼女の名を聞いた

 

「ワシはシルヴァリア・ルーカス……世話になるぞ、ヘスティア様」

 

 その日。 不敵に笑う龍のような少女をヘスティアは眷属に迎え入れた。

 

 これは後に‘銀龍姫(ジルバ・レーネ)’と呼ばれる龍の少女と、最速の英雄と女神が記し紡ぐ【眷属の物語(ファミリア・ミィス)

 

 



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ステイタスと冒険者登録と

 ヘスティアのホームである廃教会の地下にある空間で、ヘスティアとベルは一室にて契約を結んでいた。

 

「よし、ベル君。 終わったよ」

「ありがとうございます、神様」

 

 ベルは自身に満ちていく力を感じる。 神の血(イコル)が自身を組み替えるというべき感覚に少し戸惑いつつ。 そのステイタスが記された紙を受け取った。

 

 共通語(コイネー)で書かかれたステイタスは以下の通りだった。

 

 ――――――

 

 ベル・クラネル

 

 Lv1

  力I:0

 耐久I:0

 器用I:0

 敏捷I:0

 魔力I:0

 

≪魔法≫

【】

 

≪スキル≫

【】

 

 ――――――

 

 想像の通りのまっさらなステイタスとアビリティ。

 

 それをみて、ベルは冒険者となったと実感する。

 

「次はシルヴァ君。 こっちに来てくれ」

「ん、諒解なのじゃ」

 

 愛称で呼ばれたシルヴァリアは素直にヘスティアの部屋へ入る。 シルヴァリアの精神構造そのものは男故に色々気にしないが、流石にヘスティアがそうはいかないと彼女を自室に呼んでステイタスを刻む。

 

「ふぁ?」

「ん? どうかしたかの、主様?」

「…はっ。 いや、なんでもないよ」

 

「そうかの?」とドレスを着直すシルヴァリアにヘスティアは震える手で記した紙を彼女に渡す。

 

 ――――――

 

 シルヴァリア・ルーカス

 

 Lv1

  力I:10

 耐久I:20

 器用I:20

 敏捷I:40

 魔力I:50

 

≪魔法≫

 

【テレポート】

 ・五節詠唱魔法

 ・自身を含めた任意の人物を連れ、任意の場所への瞬間移動。

 ・一度に5人まで帰還可能。

 詠唱式『外界の理。 次元分かち、天に飛べ。 掴みし道、望むはかの故郷への道。 裂け、()け、()け。 其は外界の理、一三位の法』

 

【ディメンション・ソード】

 ・速攻魔法

 ・魔力で構築した次元の刃を敵一直線に振り下ろす。

 ・魔力に3倍の補正がかかった威力となる。

 

【】

 

【】

 

≪スキル≫

二剣無双(ダブル・サーガ)

 ・二刀流の時、高いアビリティ補正を得る。

 ・剣の装備時、剣に魔力分の威力上乗せ。

 ・剣の装備時、高い敏捷のアビリティ補正を得る。

 

神速の翼(ジルバリオ・エール)

 ・飛行中、移動速度倍加。

 ・飛行中、敏捷のアビリティに補正を得る。

 ・自在に、翼の体積を伸縮可能。

 

龍の乙女(ドラグ・メイデン)

 ・物理・魔法攻撃に耐性。

 ・ポーションの効率を高める。

 ・宝物探知能力(レアドロップ)の向上

 

 ――――――

 

「主様…これは」

「正真正銘、君のステイタスさ。 ここまでとは予測できなかった」

 

 唖然とするシルヴァリア、頭を抱えるヘスティア。

 

「シルヴァ君。 君のそのスキルは強力なレアスキルだよね…どう考えても」

「そもそも、飛行できる種族は…他におるのかの?」

「いないね。 魔法で擬似的な飛行をする子もたまにいるけど」

「やぁれ…あい分かった。 人に明かす愚行は慎む方針で行こうかの…主様もそれで良いか?」

「うん、そうしてくれると助かるよ。 最悪、ほかの神たちのおもちゃにされるし…通常3つの魔法のスロットが4つでしかも習得済みなのが次元移動と次元斬とか…」

 

 頭を抱えるヘスティアの呟き。 それを聞いたシルヴァリアは神妙な顔で頷きつつ。 ヘスティアの部屋を退室した。

 

「あ、シルヴァさん。 終わったんですか?」

「うむ。 ステイタスは、まぁまぁだったの」

「まぁまぁ…ですか」

「まぁ、こんな感じじゃの」

 

 シルヴァリアはそう言いながら、自らのステイタスの記された紙をベルに見せる。

 

「す、すごい…魔法、4つも覚えれるんですか」

「そうみたいじゃの…しかし、4つか。 何か関係があるのかの」

「どうしたんですか?」

「構うでない、独り言なのじゃ。 で、まぁ。 ベルの、ワシのスキル等は内密に、の?」

「…そうですね。 わかりました」

 

 そう言いながら、シルヴァリアは考査する。 自らの戦闘特技と種族特徴、技能がスキルに関係していると、この世界の法則に落とし込まれたものと分析した。

 

 二剣無双(ダブル・サーガ)は二刀流+強化魔力撃+心眼と言うなんとも言い難いチートスキルらしい。

 

 神速の翼(ジルバリオ・エール)はドレイクのLv13時の種族特徴を再現したものだろうか。

 

 龍の乙女(ドラグ・メイデン)はスカウト技能+レンジャー技能が…耐性については一切が不明であるが。

 

 魔法はソーサラーの魔法。 魔法拡大/数がテレポートに組み込まれ、ディメンション・ソードにマルチアクションが組み込まれた形だろうか?

 

「まぁ、多くを考え込んでも仕方ないのじゃ。 して、ベル。 明日バベルへ向かう故に、朝早めに行動する…良いかの?」

「早速ダンジョンに潜るんですか?」

「戯け。 用意なく、ダンジョンに潜るバカがどこにおる? ステイタスを得たとはいえワシらは…いや、お主はひよっこじゃろう」

 

 シルヴァリアは冷たい視線を浴びせてベルを牽制する。

 

「ワシはいろんなところを回っておってな。 危険をよく知っておる。 危険を回避するためには、きっちりとした事前準備や知識を持つことが大事なのじゃ」

「は、はい! わかりました!」

 

 シルヴァリアの言葉に、ベルは反論の余地はないと、降伏宣言とも言える返事をかえす。 そんな状況にはやくも、ファミリアの中で力関係の構図が浮かび上がっている事実に引きつった笑みを浮かべるベル。

 

「(おじいちゃん…ハーレムって目標、最初から頓挫しそうです)」

 

 なお、余談ではあるが、その日シルヴァリアはベルをソファで寝かせて、自らは床に座って眠っていたと言う…まるで武士のように背中を壁に任せながら。

 

 

 ☆

 

 

 ヘスティア・ファミリアに入団した翌日。 俺はベルを連れ立ってバベルにやってきていた。 まずは冒険者ギルドに顔を出して、冒険者の登録をする事とベルの装備をどうにかする事を目的にしている。

 

 ベルの武器は粗末な食材用のナイフだと言う。 武器としての性能なんて、お察し故に《ヘスティア・ナイフ》の入手までの繋ぎになる武器を見繕うつもりだ。

 

「しかし。 機能美はともかく、ゴテゴテとしてあるの」

「はえー、大きいですね…これがバベル」

 

 俺とベルの感想はそんなもん。 冒険者ギルドに向かい、窓口に声をかけて、一瞬俺を見て驚きかけるもギルドの職員は俺たちに指示をくれる。 個別の窓口に行くのかと思ったら、ベルと俺は一緒に通された。

 

「あなたたち、ヘスティア・ファミリアの担当になったアドバイザーのエイナ・チュールです。 よろしくお願いします」

「シルヴァリア・ルーカスじゃ。 うむ、こちらこそ宜しく頼むぞ、チュール殿」

「ベル・クラネルです。 エイナさん、宜しくお願いします!」

「こらベル。 いきなり人の名前を呼ぶでない」

「あ、ごめんなさい!」

 

 いきなりチュールさんの名前を呼ぶベルを注意する。 しかし彼女は「エイナさんでも構わないわ」と言葉をくれたことに内心ホッとした。

 

「親しき仲にも礼儀あり。 なのじゃが、チュール殿…いや、エイナ殿が良いのであればワシはなにも言えまい」

 

 そう言うことで、俺とベルはエイナの指導の元、冒険者の登録の手続きを済ませた。

 

「二人はすぐにダンジョンに潜るの?」

「いや、それはないの。 まずは備えをせねばならん…して、エイナ殿。 この近辺に換金所はあるかの?」

「換金所? ああ、ならここから出てすぐのところにあるけれど…何かを売るの?」

「うむ。 今の手持ちではベルの装備をどうにかできそうにない故にの。 これを換金してもらうつもりじゃ」

 

 俺は魔法のかかったカバンの魔剣からずるずると《魔晶石 20点》を取り出す。 聞いた話が確かなら、魔晶石は魔石としても使えるはずだ。

 

「な、そんな大きな魔石があるなんて…それは?」

「うむ。 遠いワシの故郷にて使われてあったアイテムじゃ。 まぁ、神の恩恵(ファルナ)なんてものはなかったがの」

 

 エイナの案内に従って、ギルドの換金所に魔晶石を押し付けると、1つが10万ヴァリスになった…なん…だと…?

 

「これなら申し分のない武器を買えそうだの」

「こ、こんな大金…見たことありません」

「ほかの大規模なファミリアでならこれくらい1日で稼ぎよるわ。 では行くぞ」

 

 ヘファイストスファミリアにて、ベルの防具と武器を買う。 防具は軽鎧、武器はナイフ。 フェンサーを彷彿とさせるものだった。

 

「すんなり決まったの…時間も余ってあるし、少しダンジョンの空気に触れるか? ワシも興味があるしのぅ」

「ヤッター! ならいきましょう、シルヴァさん!」

「こ、こら、引っ張るでない…全く、仕方ないのぅ」

 

 エイナの元に戻り、事情を説明しながら俺は1階層から5階層までの魔物のデータが記されたパンフレットを受け取って、ダンジョンに行く。

 

 降りるとしても、上層の1〜3階層にしか行かないつもりだ。

 

 はじめてのダンジョンに胸を高鳴らすベルに苦笑しつつ、その後を追う。

 

 まぁ、まずは初戦…無様を晒すつもりはないが、気を引き締めていこう。




次回、初戦闘


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剣の龍姫

 バベルの薬品売り場でポーション等を買い。 準備した俺とベルは、始まりの道を抜けて上層。 1層目のダンジョンに足を踏み入れた。

 

「松明がいらぬのはどういうことかと思っておったが、こういうことだったのじゃな」

 

 魔剣の迷宮攻略(ダンジョン・アタック)は基本的に松明を常備する必要がある。 だが、この世界じゃその常識は通用しないようだ。

 

 この先、自身の知識との擦り合わせが大事になりそうだな。

 

「そうですね。まるで陽の光の下に居るみたいだ」

「さて、ベルよ。 この先はゴブリンとコボルドというメジャー級な雑魚魔物の住処……しかし、気を抜くでないぞ?」

「は、はい!」

 

 ベルの返事を聞き、俺も気を引き締める。 と、ベルが茂み側に行くのを手を引いて止める。 いきなりで悪いかもしれないが、ぎゅっと手を握った。

 ビクッとするベル、なんだか顔が赤いような……? 

 

「茂み付近にはあまり近寄るでない。 頭は良くないが、待ち伏せが有効なのは奴らもよく知っておるだろう」

「──っ、なるほど。でもそれってこっちも利用できるわけですよね?」

 

 ベルの言い分もわかるが、ここは時間というものを気にすることにする。

 

「それもそうだが、おらぬ敵を相手に待ち伏せは滑稽じゃ。 ほれ、行くぞ」

 

 握っていた手を離すと、ベルは少し寂しそうな顔を。ぐ、仕方ないなぁ……また手を取り、先導してやることにした。

 

「全く、エスコートぐらいせんか」

「え、あ。ご、ごめんn「平時から、容易く謝るでないわ戯け」──は、はい」

「本当に悪いことをした時に、謝れば良い。 ワシに悪いことなどしておらぬだろう、今のお主は」

 

 そうそう頭を下げるなと、ぴしゃりとベルに言い聞かせる。 謙虚すぎても、一周回れば謙虚も卑屈になるから印象もあまり良くない。

 

 と、周囲を警戒する……レンジャー技能が反応するのか、気配を感じるのだ。 判定も何もなしで気配を感じるだけで警戒できるのか? まぁ、2dを振るわけじゃないから当然といえば当然だが。

 

 小声でベルに注意を促して軽く後悔した。

 

「ベルよ、武器を構えよ。 近くにおるぞ」

「は、はい!」

「戯け!? 大きな声を……あ」

 

 ベル、ここで痛恨のミス。 大きな声を出して返事したので……

 

「GOBUUU!!」

「グルゥオゥ!!」

「ガルルル!」

 

 ベルの声に気がついてやってきた、ゴブリンとコボルドが合計3体現れた。

 

「やぁれ、不意打ちを教えようと思ったのに……まぁその機会はまだあるか」

「ご、ごめんなさい!」

「良い、許す。 寛大を心がけねばな」

 

 言いながら俺は腰に佩く魔剣、《號雷剣・彩雨(アヤメ)》を抜く。 さらに、もう片方の魔剣、《疾風剣・(アマツ)》も。

 

「起きよ、双牙天剣(アヤメアマツ)

 

 二振りの魔剣は、前身のCPで使っていたシルヴァリアの魔剣だ。 1Rの間、「全力移動力」した時限定だが「全力移動力/50」の追加ダメージを得ることができる疑似的な《騎芸:チャージ》に近い効果を持つ魔剣。 だからこそ、シルヴァリアのレンジャー技能が15(《縮地》の会得レベル)になっていたわけだ。

 

 そして《ドレイク/ナイト》は自身の種族特徴で敏捷度の2倍の移動力を持つ……つまり、全力移動力は通常移動の《6倍》だ。

 

 そして、二剣無双の条件が満たされたことにより……俺のステイタスに補正がかかる。 さらに翼を広げて、神速の翼が有効化される。

 

 ちなみに、アヤメアマツのランク効果はSSランク。 しかし、武器が所有者を選ぶ「意思ある剣」の非ランク効果によって《武器の達人》がなくとも装備できるかなり強力な魔剣だ。 そのかわり装備できる条件が、Bテーブル2つ、Aテーブル1つの技能Lv13以上ってそこそこキッツイ条件があるけどな。

 

 さて、常に俺は全力移動で戦場を駆け回ることができるので……

 

「ベルよ、良く見ておくがいい。 技巧派の剣士(フェンサー)の剣舞を」

 

 そう、ベルに言うと俺はゴブリンとコボルドを狙って動く。 まぁ、ステータス的には問題ないが……果たして。

 

 双撃は習得していなかったはずなので、まずは……コボルドA(仮称)を仕留めるか。

 

「まずはお前から……っととと?」

「な、シルヴァさん!?」

「キシャァァ!」

 

 つんのめってコケそうになり、直後にベルの悲鳴か。 しかしこれは……わざと隙を晒して、攻撃を誘う。 スローモーションの世界で俺は……コボルドの爪を掻い潜るように一気に加速して、攻撃の線状からすり抜ける。

 

「グルォ!?」

「狙いが甘い。 10点くれてやるわ」

 

 すり抜けてステップ。 一旦距離を取りつつの回避の直後に踏み込んで二閃。 アヤメアマツの二刀流で袈裟斬りに浅く斬って、のけぞらせながら、その次の一撃で頭を切り裂いて仕留めた。

 

 続いていくぞ……っと。 後ろから来ていたゴブリンの攻撃に対しては翼を一気に羽ばたかせて瞬間的に離脱。 そして、その横からきたコボルドの腕を切り飛ばし、次の一閃で首を刎ねた。 ……感覚的に回った(クリティカル)か。

 

「んー、軽い軽い。 軽すぎる」

 

 返り血をバックステップで避けて、ゴブリンに向き直るがゴブリンは後ずさる。 まぁ、アヤメアマツ……C値(クリティカル)8だもんな。

 

「さぁて、首、置いていけ!」

「GOBUU!?」

 

 逃げ出したゴブリンの背中を飛翔して追う。 ジグザグにステップを刻んで、回り込み、蹴っ飛ばす。

 吹っ飛んだ先で剣を振る。 すると、くるりとまたもや回転。 ゴブリンの胴体と下半身が泣き別れた。首狙ったのに、ジーザス。

 

「ふん、こんなものか……」

「す、すごい……」

「ふふん、当然じゃ。 なにせ、ワシなのじゃからな!」

 

 出たよこの自画自賛。シルヴァリアは昂ぶると自画自賛するのだ……相当戦いが気持ちよかったか? ん? なんか妙な感じだな。

 

 心当たりに思い当たる。このキャラの性格に俺が引っ張り出されてるんだろう。

 

 やべー……俺が消えるかもしれんな。

 

 そんな軽い問題……いや、重大な問題を抱えながらも、ベルに軽い戦いの手ほどきを3時間ほど施しながら、3層に到達した後。 《テレポート》でダンジョンから脱出するのだった。




このくらいの軽さで更新できたらなぁ


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表の数値と裏の数値

すみません、主人公とベル君がダンジョンに潜った日数は数日出なくて2週間でした。


 ダンジョンの初探索から2週間の時が経った。 その間にゴブリン、コボルド狩りを行なって俺とベルのステイタスは上昇した。 とはいえ、ベルの方はあまり上がっていないが…

 

 ――――――

 

 シルヴァリア・ルーカス

 

 Lv1

  力I:10→62

 耐久I:20→81

 器用H:20→132

 敏捷G:40→200

 魔力H:50→170

 

≪魔法≫

 

【テレポート】

 ・五節詠唱魔法

 ・自身を含めた任意の人物を連れ、任意の場所への瞬間移動。

 ・一度に5人まで帰還可能。

 詠唱式『外界の理。 次元分かち、天に飛べ。 掴みし道、望むはかの故郷への道。 裂け、()け、()け。 其は外界の理、一三位の法』

 

【ディメンション・ソード】

 ・速攻魔法

 ・魔力で構築した次元の刃を敵一直線に振り下ろす。

 ・魔力に3倍の補正がかかった威力となる。

 

【】

 

【】

 

≪スキル≫

二剣無双(ダブル・サーガ)

 ・二刀流の時、高いアビリティ補正を得る。

 ・剣の装備時、剣に魔力分の威力上乗せ。

 ・剣の装備時、高い敏捷のアビリティ補正を得る。

 

神速の翼(ジルバリオ・エール)

 ・飛行中、移動速度倍加。

 ・飛行中、敏捷のアビリティに補正を得る。

 ・自在に、翼の体積を伸縮可能。

 

龍の乙女(ドラグ・メイデン)

 ・物理・魔法攻撃に耐性。

 ・ポーションの効率を高める。

 ・宝物探知能力(レアドロップ)の向上

 

 ――――――

 

 俺もあまり人のことが言えない惨状だがな。

 

 狩りの時はディメンション・ソードの魔法使って敵を殲滅しながら、「精神疲弊(マインド・ダウン)」を起こすギリギリまで使い続けたら、魔力が30も伸びた。

 

 俺の二剣無双のスキルは魔力の分攻撃力が上がる…つまり、魔力を高めれば高めるほど強くなれるわけだしな。

 

 はっきり言って強くね?

 

 とまぁステイタスについてはこんなもんだろ…というのも、俺にはどうやら裏のステータスがあるようなのだ。

 

 心当たりはある。 がまぁ…とりあえず。

 

「ベルよ、今日からワシはお主と別行動にするぞ」

「え”」

「阿呆。 基礎はこの数日で叩き込んでやったじゃろうが。 いつまでもワシにおんぶに抱っこは(おのこ)としては少々情けないのじゃ」

「フグッ!? そ、それは…」

「カカカッ! ならば強くなるのじゃ。 ワシをグンと追い抜く程に、な」

 

 快活に、激励の笑顔でベルの頭を撫でる。 一所懸命に俺に立ち向かってきたからな、訓練の時は。 まるでスポンジのようにこっちの教えることを吸収して、それを応用できる…典型的な努力型の天才だ。

 

 そんなベルに俺から教えれることはなくなってしまったからなぁ…少々寂しいものだ。

 

 ――――――

 

 ベル・クラネル

 

 Lv1

  力I:0→79

 耐久I:0→25

 器用I:0→95

 敏捷H:0→180

 魔力I:0

 

≪魔法≫

【】

 

≪スキル≫

龍騎の誓い(ドラグ・サイファー)

 ・一定確率で習得経験値(エクセリア)上昇。

 ・一定確率で致命打発動。

 ・敏捷に高いアビリティ補正を得る。

 

 ――――――

 

 あと、ベルにスキルが発現した。 なんか強そうな。

 

「ベルよ…これは?」

「えへへ…シルヴァさんに認めてもらいたいって思ったらなんか発現したのかもしれませんね」

「ちっきしょー! なんでボクが影響で、じゃないのさ!」

「主様、ステイ。 ワシに言われても困るのじゃ」

 

 ヘスティアを宥めながら、ベルを見る。 そのはにかむ笑顔にクラっとした…なにこの可愛いい生物。 年下の少年のあどけない笑顔になぜかホッとしてしまう。

 

「ボクのベル君だぞぉ! メスの顔してるぞシルヴァ君!」

「フォア!? メスの顔などしとらんわ戯けぇ! 守りたい笑顔がそこにある的な顔じゃぁぁぁ!!」

 

 とヘスティア様とじゃれつくことも増えてきたなぁ…このシルヴァリアは努力する男が好きだからな…ベルに惚れてはいないが、認めつつあるのは確かだろう。

 

 ダンまち本編についてはあまり覚えていないからなんとも言えない状況である。

 

 その翌日。 ベルと共にバベルに向かい、そして別れて行動した。

 

 さて、ここからは研究である。

 

 まず俺にはどうやら「裏ステータス」なるものがある。

 

 ダンジョンの安全地帯で瞑想して自身の情報を引き出す。

 

 ――――――

 

 シルヴァリア・ルーカス

 

 Lv1

  力I:62

 耐久I:81

 器用H:132

 敏捷G:200

 魔力H:170

 

 ――――――

 

 ここまで引き出せた。 スキルなどは割愛だ。 重要なのはこれ以外。

 

 ……

 

 種族:ドレイク/ナイト 生まれ:剣士

 

 枠外ステータス

 

 器用度:18 敏捷度:20 筋力:18

 生命力:16 知力:21 精神力:16

 

 冒険者(ラクシア基準)Lv3

 《フェンサー》3

 《レンジャー》1

 

 習得特技

 1 両手利き

 3 防具習熟/非金属 A

 

 現在残り経験点:15000

 

 ……

 

 お分りいただけるだろうか? なんで技能が点灯してんだよ。 枠外ステータスってなんだよ。 フェンサー技能有効ならC値8になるの納得だよ。

 

 初期作成のキャラシなんだよなぁ…これ。

 

 経験点があるってことは、それに応じて成長もできるはずだ。 しかし成長ダイスなんてないぞ?

 と思っていたら、なんかダイスが出た。 頭の中に…えぇ…

 

 ダイスは5つ。 おそらく、経験点3000につき1回の成長…か? そもそもどう言う基準で経験点が出てるんだ…?

 

 …分からん。 まぁ…とりあえず成長は振るけどさ…

 

 コロコロと2dを振ってっと…

 

 敏捷度、器用度、生命力、精神力、筋力の成長を行った。

 

 ……

 

 種族:ドレイク/ナイト 生まれ:剣士

 

 枠外ステータス

 

 器用度:19 敏捷度:21 筋力:19

 生命力:17 知力:21 精神力:17

 

 冒険者(ラクシア基準)Lv5

 《フェンサー》5

 《ソーサラー》4

 《コンジャラー》2

 《レンジャー》4

 《エンハンサー》2

 ・キャッツアイ

 ・メディテーション

 

 習得特技

 1 両手利き

 3 防具習熟/非金属 A

 5 二刀流

 

 現在残り経験点:0

 

 ……

 

 まぁこんな感じか。 しかし…あれか、神の恩恵の元となる経験値と経験点は別物みたいだな…となると、神の恩恵は元々の超越者だった頃の俺の経験値が反映された…? いや、分からん。

 この辺も詳しく調べる必要があるな…まぁ自己的な研究になるが。

 

 とりあえず、ここらで切り上げてダンジョンでの経験値稼ぎを頑張るか。 あとは、魔石稼ぎも、な。

 

 動こうとした時に、なんだか嫌な予感を覚えた。

 

『うわぁぁぁぁぁ!!? 助けてシルヴァさーん!!!!』

 

 そんな声が聞こえた気がする…

 

 俺はこの声がベルのものと判断して、下の層に降りることにした。 勝手に3層よりも下に行ったであろうあのバカに万が一がないように!




ステイタスとキャラシートの関係の謎。 いつか明かしますね。 それまでは皆さんで考察してみてください


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敗北のち剣姫

「ヴモオォォォォォ!!」

「うわぁぁぁぁぁ! 助けて、シルヴァさぁぁぁぁぁん!!」

 

 剛毛に包まれた筋骨隆々な男の体に血走った真っ赤な目を持つ牛(がしら)の存在に追われる白兎はその名を呼ぶ。 死のデットヒート、探究心と大いなる好奇(ぼうけん)心から5層に降りたベルを襲った災厄。

 

 追いつかれたら殺される、そのため、彼はひたすらに迷宮を走る。 「こんなところで終わりたくない!」 ベルは足掻いた。

 

 しかし無情にも、その終点が見えた。 必死に走り回ってその結果である。

 

「ほわぁぁぁぁ!!?」

「ヴォォォォォ!」

 

 振り上げられた腕に思わず目を瞑り、無駄だとわかっていても頭を腕で守る。 しかし、死は来ない。 直後に轟音。

 

 その魔物はダンジョンの壁を壊そうと殴りつける。 というのも、実はベルのことは眼中になかったりするのかもしれない。 そこへ

 

「ベル、生きておるかぁぁぁ!!」

「!」

 

 その凛とした声が響く。 翼を広げ、超低空飛行で飛翔しながら猛スピードで突っ込んでくる者がいた。 シルヴァリアである。

 

「起きよ、アヤメアマツ!」

 

 二剣を抜剣して、魔物の背中を切りつける。 しかし、鈍い感覚がシルヴァリアの手に伝わる。

 

「ヴモッ?」

「んな、かすり傷じゃと!?」

 

 斬った、たしかに斬った。 しかし振り向いた牛頭は「何かした?」と言わんばかりの間抜けな声を出す。

 

「ッ! なんで5層にミノタウロスがおるのじゃ!?」

「ヴモォォォォ!」

 

 攻撃したことにより、敵と判断されたシルヴァリアに振り下ろされる腕を、バックステップや敵の懐に潜り込んでかわしながら、彼女はミノタウロスを自分に引きつけて誘導する。

 

「いつまで腰を抜かしておるつもりじゃベルゥッ! ワシが引きつけておる間に、はよ逃げんかっ! 」

「あわわわ…!」

「ダメじゃ、パニックに陥っておる――ッ!」

 

 ベルに意識を向けて、回避が疎かになる。 自身に迫るミノタウロスの拳を、シルヴァリアは咄嗟に翼を広げ、自身の盾の代わりにした…が。

 

 ヘギッと言う音と共に10mの距離は吹っ飛ばされる。 加えて、ダンジョンの壁に叩きつけられ、肺の中の空気を全て吐き出す感覚に見舞われる。

 隣にはベルがいる。 どうやら気を利かせてそちらに飛ばしてくれたようだ。

 

「がっは…ッ?!?」

「し、シルヴァさん…?」

 

 シルヴァリアの翼は縮小し、その場にうつ伏せに崩れる たったの一撃でその威力、一撃で戦闘不能となった。

 

「ヴォモッ…」

 

 嗤った。 ミノタウロスが嗤う。 重音の足音を響かせながら自分に近づいてくるのがわかる。 さぞかし楽しいことだろう。 弱者を潰すその感覚は、しかしタダでシルヴァリアがやられるわけがない

 

「油断大敵じゃぞ、クソ牛…《ディメンション・ソード》…!」

 

 ぎらりと目を見開き、シルヴァリアの速攻魔法が隙だらけのミノタウロスに炸裂する。

 

 その剣、[疾風剣・天]から伸びた魔力の剣はたしかにミノタウロスの体を…抉った。

 

「ヴォモォォォォ!?」

「勝ったと思って油断したのが運の尽きじゃぁ!」

 

 魔力の剣を突き刺され、驚嘆で一瞬動けなくなっていたミノタウロス。 その隙にシルヴァリアは畳み掛ける。

 

「――ディメンション・ソード! ――ディメンション・ソード! ――ディメンション・ソード! ――ディメンション・ソードッッッ!!!」

 

 精神力の持つ限り乱発する、アマツから次々と魔法が飛ぶ。 手応えはある、手応え、は。 しかし、相手は健在。 皮を確かに裂いた、肉を抉った、角を削った。 しかし相手は健在。 驚異的な耐久(アビリティ)でシルヴァリアの魔法を物ともせずに動いているのだ。

 

「くぅ、この化け物め…! これならどうじゃ! ――ディメンション・ソード!」

 

 何度めか、放たれた魔法は、ミノタウロスの目を狙った。 ミノタウロスは侮った、侮ってしまった。 直後に激痛がミノタウロスに走った。 魔法の次弾がはじき出され、それをかろうじて拳で殴り、破壊する。

 

「ヴモォォォォォッッ!!」

 

 怒りの雄叫びをあげるミノタウロス。 その声はベルと――気丈にも攻勢を取っていたシルヴァリアの心を圧し折った。

 

「ディメンション…(格が違いすぎじゃろうが…!)」

 

 理不尽極まりない、そのステイタス差。 中層はこれほどなのか、しかし、構うものか! とシルヴァリアは自身の諦めかけの心を叱咤して再び魔法を準備する。

 

 しかし…その前に。

 

「ごめんなさい、シルヴァさん…」

 

 少年は、立ち上がった。

 

 ☆

 

「お主は何も悪くなかろう、ベルよ」

「このまま、シルヴァさんに庇われ続けるのは嫌なんです…僕は、僕は…男なんです! 泣きそうな顔してる女の子を守りたいって思うのはおかしいですか!?」

 

 言われて気がついた。 俺の頬を雫が伝っている…ああ、そうか。 やっぱり…怖いんだな、俺も…

 

「…わかった。 男を立てるのも女であるワシの役目よな…無茶はするでないぞ、ベル」

「はい!」

 

 痛みも引いた。 ポーションを呷り、体を癒し俺も立ち上がる。 ミノタウロスは、地を蹴って力を溜めている…突進か…

 

 ソードワールドでもあの突進は食らうとキツかった。 最初期のシルヴァリアが何度か事故死しかけた事もあったから、気を抜けない相手なんだ…どこの世界でも、中ボスクラスの魔物は。

 

 理不尽なステータス差を今あるものを最大限に引き出し、生き残る最善手を打つ…コイツは、どこの世界でも変わらない。 さて、翼は…ダメだ、ダメージの蓄積がひどいが、

 脚は折れてないから動ける。 体はガタつくが、いける。

 

「あやつの突進…避けれるか、ベルよ」

「避けてみせます! そのあとはシルヴァさん、魔法はあと何回撃てますか?」

「二回かの…正直立ってるのも辛いのじゃ」

「なら、一発だけミノタウロスが反転した時に顔を狙って撃ってください。 そのあとは僕がカバーします!」

「一か八かの勝負…やらずに死ぬくらいなら、派手にぶちかますかな!」

 

 ベルの案に乗る。 その直後、ミノタウロスが突っ込んできた。 直線的な突進…タイミングは…

 

「――今じゃ!」

 

 2人してその場から飛び退いた直後に炸裂音。 壁に突っ込んできたミノタウロスは壁を吹っ飛ばした。 穴までは出来ていないが、それでも大きなクレーターが…凄まじいなおい。

 

「シルヴァさん!」

「任せよ!」

 

 振り向いたミノタウロス。 そのもう片方の目を狙い

 

「《ディメンション・ソード》ッッ! …!」

 

 魔法を放つ。

 

 ミノタウロスは両手をクロスさせて、魔法を弾く。 そして再びこちらに突進しようとモーションをかけた瞬間。

 失った左目の視界外。 その目の前にはベルがいた。

 

「うあぁぁぁぁぁっ!」

 

 情けない、でも力強いその雄叫びを上げて。 手にしたナイフを健在の、残っていたミノタウロスの目に突き込んだ。

 

「ヴォモォォォォ!!?」

「ぐ、うわ!」

「ベル!?」

 

 ナイフから手を離し、すぐに距離をとったベルだったが、暴れ出したミノタウロスの攻撃を避けて、砕かれた地面から飛んだかけらがベルを襲う。

 

 剣を手に。 そのかけらを打ち落として。 すぐに逃走の準備をする…と金色の風が吹いた。

 

「よく、頑張ったね」

 

 そう言いながら、その風は煌めく剣を片手に…暴れまわるミノタウロスに向かっていく。

 

 その剣舞は、美しかった。

 

 流れるように、ミノタウロスの拳をひらりひらりとかわして、大ぶりな攻撃を避けながらその背中を切りつける。 仰け反ったミノタウロスが。そこかと言わんばかりに振り下ろした拳に剣を突き立てて。 そのまま骨と腕と肉を切り裂いていく。 そして、心臓部分を切り抜けて、肩から剣が抜けていく。

 

 ミノタウロスの上半身は斜めにずり落ちて…血桜を咲かせて灰に変わり、崩壊していった。

 

 コロリとその場に魔石が落ちて…静寂が訪れる。

 

「…あの、大丈夫ですか…?」

「…えっと…」

 

 その日。 俺というか、ベルは運命の出会いを、果たす。

 

 “剣姫”の二つ名を持つオラリオでその名を知らぬ者はいない、第一線級の冒険者。 “Lv5”のアイズ・ヴァレンシュタインとの出会いだった。



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「あの、大丈夫ですか?」

「…えっと…」

 

 俺は戸惑っていた。 目の前にいるのは、アイズ・ヴァレンシュタイン。 なぜこんな上層にこの人が居るんだ? と、疑問で頭がいっぱいになった。

 

 あ、そうか。 ロキ・ファミリアがここよりももっと深い層に遠征を行なっていると聞いたのはごく最近。 そして帰還してきたのだろう。

 

「うむ、助かった。 まずは、礼を言わせて欲しいのじゃ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 俺につられてベルもお礼を言う。 あれ? 原作じゃ…ここで叫びながら逃げ出すんじゃなかったか?

 

 …あー、トマトくんになってない。

 

「おい、アイズ! 殺ったのか…んだよ、そこの雑魚は」

「ベート、うん。 …ミノタウロスと戦闘状態になってた。 多分、駆け出しの人?」

「…あ? 生きてたってのか?」

 

 ヴァレンシュタイン氏はこくりと頷く。 灰髪のアレはケモ耳…狼人(ウェアウルフ)か。 えっと、こいつは“凶狼(ヴァルガナンド)”の“ベート・ローガ”だっけ?

 

「まぁ、駆け出しだの…くっ…」

「大丈夫ですか…シルヴァさん…?」

 

 頭が痛い…あれか、精神力(マインド)を使いすぎたか…。 気だるさと戦いつつ、相手を見据えて礼を言おうとして…俺は次の瞬間、天井を見ていた。 なんでだ?

 

 意識が遠のく…ベルが俺を呼んでる…のか? でも、声が聞こえな…い…

 

 ☆

 

 くらりと揺れる。 ばたりと音がした。 え…?

 

「シルヴァさん!?」

「おいおい…勘弁しろよ」

 

 狼人の人が倒れたシルヴァさんを見てため息を吐いた。 こっちは必死だったのに…!

 

「おい、ガキ。 コイツはテメェの仲間だろ」

「…え?」

「そいつを背負え。 あと、俺とアイズに着いて来い」

 

 そう言ってスタスタと行ってしまう…って!

 

「待ってください! いきなりどう言う「うっせぇなあ…。 こっちにゃロキ・ファミリアの顔ってもんがあんだよ。 詫び入れずに、放置できるわけねぇだろうが。 黙ってついて来やがれ」…わかりました。 ――え、ロキ・ファミリア…!?」

 

 被せるように放たれた言葉の最後に…オラリオの中でも最大規模派閥の一つ、その名前が出て僕はギョッとする。 あ、でも、アイズさんは…ロキ・ファミリアの幹部だったっけ?

 

「ついて来て。 えっと…」

「! 僕はベル・クラネルです!」

「そう、私はアイズ・ヴァレンシュタイン。 じゃあ、ベル。 ついて来て」

 

 僕はシルヴァさんを背負い彼女たちについて行く。 ついて行った先には…緑髪のエルフの魔法使いとドワーフの戦士、パルゥムの槍使いが…! Lv6の冒険者だ…“ 九魔姫(ナインヘル)”の二つ名を持つ“リヴェリア・リヨス・アールブ”、“重傑(エルガレム)”の二つ名の“ガレス・ランドロック”。 そして…“勇者(ブレイバー)”の…

 

「お帰り。 アイズ、ベート」

「ああ、掃討は終わったぜ、“団長”殿」

「お疲れ様。 …彼らは?」

「アイズが追っていたミノタウロスと交戦してたらしいぜ。 そこまではしらねぇ」

「ミノタウロスと交戦!? って、名前も聞かずに連れて来たのかい? …すまない、僕はフィン・ディムナ。 ロキ・ファミリアの団長を務めている。 君たちの名前を…そちらの彼女のことも教えてくれるとありがたい」

「あ、はい。 僕はベル・クラネル。 今寝てしまってますから、代わりに。 彼女は僕の仲間で、シルヴァリア・ルーカスです」

 

 ロキ・ファミリアの団長である、“フィン・ディムナ”さんか…ロキ・ファミリアの幹部が勢揃いで気圧される、正直に言うと、とっても逃げたい。

 

「ベル君か。 立ち話も申し訳ないので、僕たちの拠点(ホーム)に来て欲しい」

 

 フィンさんの提案。 なぜこの層にミノタウロスがいたのかの説明をしてくれるらしい。 こういう時、シルヴァさんなら…

 

「わかりました。 僕も事情もわからないままは嫌ですし…そちらにお任せします」

「了解した。 では行こうか」

 

 僕はシルヴァさんを背負いながら、ダンジョンを脱出した。 天国のおじいちゃん、女の人って柔らかいんだね…どこがとかは不可抗力だったし、シルヴァさんも赦してくれる…ハズだよね?

 

 ☆

 

 俺はどうなった? 精神疲弊でぶっ倒れたんだっけ?

 

「…見知らぬ天井なのじゃ」

 

 客室と思われる部屋、その、ふかふかなベットの上で目を覚ます。 窓からは夕暮れの光が差す。 黄昏刻だろうか?

 

「一体どうなったのじゃ。 あの後」

 

 とりあえず立ち上がり、自身の姿を見てギョッとする。 服が白いロングワンピースになっていた。 まて、綿製黒のバトルドレスと皮鎧とかはどこに行った。

 多機能ブラックベルトはサイドテーブルに置かれていて、魔剣が3本、壁に立てかけられている。

 

 ドレイクの魔剣、疾風剣・天、號雷剣・彩雨。 うん、全部あるな。 とりあえず、ベルトを腰に巻いて、鞘を固定する。

 

「しかし、ほんとにどこなのじゃ、ここは」

 

 方角的にバベルが南に見えるから…北のほうか? 万神殿(パンテオン)の医務室でもない。 あっちはもっと施設が簡素だからな。 と、足音が聞こえて、この部屋のドアの前で止まり、ノックが2回なる。

 

「どうぞ」

「目覚めていたか。 気分はどうだ?」

「良好じゃ。 何やら世話になってしもうたようだの…あ、尊大な物言い、ご容赦願いたいのじゃ。 どうも普通に喋れなくての」

「構わん。 其方の事は連れのベルより聞いてある」

 

 入ってきたのは緑髪のエルフ…リヴェリア・リヨス・アールブだな、間違いなく。 となると…

 

「なるほど、の。 ワシとベルはロキ・ファミリアの本拠地、《黄昏の館》に来賓として通されたようじゃな」

「説明が省けて助かる。 目が覚めたのであれば…ああ、そうだ。 着衣は汚れていたのでこちらで洗濯しておいた。 帰りには返そう」

「む、なんだかすまぬな」

「こちらが勝手にしたことだ。 気にしなくても良い」

 

 そう言う彼女に俺はわかっていると言い。

 

「それと、ワシに用件があるのだろう? この角と翼のことか? それともあのミノタウロスの件について、かの?」

「…話は皆を交えて行おう。 ついて来て欲しい」

「流石によその本拠地で迷子になるのも嫌じゃしな。 冒険するのはダンジョンでのみで十分じゃよ」

 

 そう言いながら、俺はリヴェリア氏についていく。 勝手にウロつくなんて喧嘩ある真似はしないよな。 しばらく歩き、通されたのは応接間だろうか…高そうな調度品に混じって笑う道化のエンブレム。 間違いなくロキ・ファミリアのエンブレムだ。

 

 で、赤い髪に細目…中性的な顔に、絶壁。 間違いない、原作の通りなら…

 

「なーんか失礼な視線を感じるけど、まぁええわ。 よかったなぁ、ベル坊」

「はい! シルヴァさん! 不調はないですか?」

「うむ、一眠りしたら気分も良くなった。 世話になってしまったのじゃ、ありがとう。 ロキ様」

「む、ウチのこと知っとんのか?」

「最大規模の派閥。 知識にないと失礼にあたるであろう? なので知っておるとも」

 

 と、適当に理由をつける。

 

 そして、ロキ・ファミリアの幹部と団長のフィン・ディムナから話を聞くと… 軽くまとめると、17層で出会った発生したミノタウロスの群れを低レベルの冒険者たちに狩らせようとしたら。 ミノタウロスたちが逃げ出したとのこと。

 

 その異常事態に幹部たちも総出で収束を図ろうとしたが、怪物の宴(モンスター・パーティ)やらのトラップに引っかかったりと妨害などに見舞われ…ミノタウロスたちがなんと上層に向かって逃走していったというのだ。

 そして、あれよあれよと5体ほどのミノタウロスが上層に入ってしまい…そのうちの1体が俺とベルの交戦した個体だったそうだ。

 

「其方の理由はあい分かった。 ワシとベルは糾弾する気もないと先に明言しておくのじゃ」

「何故だい? 君たちは不利益を被って、最悪命を落としていたというのに」

 

 フィン氏の言い分は最もだが、俺は

 

「何故とな? ワシらは現にこうして生きておるし、ヴァレンシュタイン殿に命を繋いでもらった身。 糾弾などお門違いじゃよ」

「なるほど。 あくまでも恩義しかない…美徳か」

 

 と、フィン氏に正論を叩きつけておく。 間違っても謝礼金なんて受け取る気はない。 出されたら受け取るが…カネで終わらせるのは少々勿体無いからな。

 

「なるほどなぁ。 つまり、こっちからの謝罪だけでええっちゅうねんな?」

「うむ、そういうことになるの。 お金を握らされ、それで解決とは足元を見られている気分になってしまってのぅ…申し訳なし、他の冒険者に目を付けられるなのも堪らん」

「かまへんよ。 ただ、何もせんのはウチらとしても望むところやない。 これはウチらの、ロキ・ファミリアの面子の問題やからな」

 

 やっぱりそうなるよな…なら、折半案だ。

 

「なれば。 ロキ様…ワシらの派閥と縁を繋いでもらっても良いか?なにせ、零細ファミリアとして旗揚げをしたばかりでの」

「うん? …あ、ベル坊とシルヴァたんの所属ファミリアのこと聞いてなかったなぁ。 何処に所属してるん?」

「ヘスティア・ファミリアじゃ」

「ヘスティア…ああ、ドチビんとこの子か。 最近旗揚げしたっちゅうのは聞いたから、そういうことかぁ…竜人の希少種族を眷属にしたって他の奴らが騒いでたからなぁ」

 

 …ん? 竜人…?

 

「最初はヴィーブルかと思ったんやけど、魔石の気配もないし、何より(ウチ)に危害を加える様子もまったくない。 何より、ウラノスのジジイが何も言わんからそういうことやってな」

「…どういうことじゃ?」

「無自覚やろうなぁ。 シルヴァたん、アンタは密かに監視されてたんやで?」

「…は?」

 

 何言ってんだこの神様…いや、心当たりはあるか

 

「あー…言われてみればそうやもしれんな。 ワシの行くところによく、仮面をつけた者たちがいたが、そうか。 ガネーシャ・ファミリアの…」

「ご明察、1を教えたら10を知る。 美少女で希少種族で、頭も切れるみたいやなぁ…ウチに欲しいわ」

「すまぬが、主様に恩を返せてないので改宗するつもりはないのじゃ」

 

 まだ、ヘスティア様に恩を返してすらいないからな。

 

「ちぇー、真面目やなぁ。 で、縁を繋ぐっていうのは?」

「なに、派閥間での交流…例えば定期的に模擬戦や修練の付き合いなどをしてもらえればこっちは満足じゃ」

「つまり、ロキ・ファミリアの強者との交流を持ちたい…と?」

「ワシらはまだまだ経験が足らぬのじゃ。 故に強者がどのようなものかを知りたいのじゃ…最大派閥の一つ、ロキ・ファミリアの強者との縁…お金より、物よりも得難い価値のあるものであろう?」

 

 筋を通す。 甘い見立てかもしれないが…この提案なら

 

「…分かった、かまへんよ。 ほんまにそれでいいなら」

「感謝する、ロキ様」

 

 すんなり通ったわけだ。

 

「そのかわり、遠征の時とかもちょいちょい協力はしてもらうで? ウチらも人材に余裕があるわけやないから」

「無論じゃ。 《ギブアンドテイク》の帳尻は合わせねばならぬ」

 

 ロキ様と握手して、応接間を後にする。 なお、ベルはアイズ氏の方をチラチラと見ていたので、多分そういうことなのだろう。

 

 そのあと、色々と取り決めの話はヘスティア様を交えて話すこととなり、今日は帰還することにした。

 

「んじゃぁ、また…な!」

「ひぁん!? ど、何処を触っておる!? 許可なく尻と胸を揉むなぁ!」

「やっぱ、肉付きええわ…ぶへら!?」

 

 帰り際に尻と胸を揉まれて反射的に、ロキ様にビンタをかましてしまった。

 

「他の派閥の女にまでセクハラをするか、ロキ」

「…気にしないで、今のはロキが悪いから」

 

 とリヴェリア氏、アイズ氏は若干遠い目をしていた。 セクハラの被害にあってるんだねと、同情の視線を送ってしまうのは無理もないだろう?

 

 ☆

 

「フィン、どない思う?」

「シルヴァリア氏のことかい?」

「それ以外あると思うんか、アンタは」

「…希少種族。 ダンジョンを飛び回ることができる翼と頭に頂いた角。 シルヴァリア氏もかなりまともだし、僕は彼らに投資をしてもいいと思うよ?」

「せやな。 なら…アイズとリヴェリアに今度あの子らのホームを訪ねてもらおか」

 

 ☆

 

「神様ー、戻りました!」

「帰ったぞ、主様」

 

 万神殿に立ち寄り、今日獲得した魔石などを換金してからホームに戻った。 2人揃ってエイナの説教を受けてしまったが。

 

「お帰りー。 ベル君、シルヴァ君!」

 

 出迎えてくれたヘスティア様に今日あったことの報告をする。 そしてまぁ、驚いた顔されてロキ・ファミリアとの縁に関しては難しい顔しながらも了承してくれた。

 

「ロキの手を借りたくないけど、君たちが強くなりたいなら仕方ない」

 

 と、なんだか申し訳ない気分になった。

 

「それはそうと! 眷属が増えたよ、ベル君!」

「…へ?」

「え、本当ですか!?」

「ルーイ君、入っておいで!」

「はい、ヘスティア様」

 

 入ってきたのは艶やかな桃色の髪に若干つり目の目じりの美少女で…ってぇ!?

 

「る、るるるるるるるルイーズ!? どうしてお主がここに!?」

「え? どうして私の名前を…――シルヴァ姉様ぁぁぁ!!」

「こっちのせりぐっふぁ!?」

「「シルヴァ君(さん)!?」」

 

 低空ショルダータックルを腹に食らった俺はあっけなく意識を刈り取られるのだった。



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シルヴァの追憶

んー…ん? 俺は確か意識を失って…

 

見慣れたはずのヘスティア・ファミリアの拠点じゃない…ここは何処だ?

 

俺は今、真っ白な空間にいる。 まっさらな世界に…

 

「目が覚めたかの?」

『! …君は…シルヴァリア?』

「うむ。 こうして話すのは初めてじゃの。 銀次殿」

 

俺の目の前には、伯爵級の実力を持つドレイクがいた。 見惚れるような銀髪に頭に頂いた白金色の角、金の瞳。

 

「銀次殿はここが何処か心当たりはあるかの?」

『いや、心当たりがない。 しかし、なんでそんなに普通なの? 俺に忌避感とかないの?』

「? どうしてじゃ?」

『君の体を俺が俺の意思で動かしてるんだぜ? ドレイクなら普通(・・)は嫌だろ』

 

この空間に関してが優先的に考えないとダメなのに、シルヴァリアに対しての疑問をぶつけてしまう。

 

「なんじゃ、そんなことか。 銀次殿、一つ思い出すがいい。 ワシの旅路を貴兄は踏みにじっていると感じておるのじゃろうが…実際の判断は全てワシが行なっておる」

『…へ?』

「なぜワシがラクシアに居ないのか、このオラリオに存在しておるのか…最初のうちは確かにお主の判断で動いておったが、の」

『すまない、君が納得できても俺は今、(ぜつ)混乱してる』

 

…まじでどういうこった?

 

「ふむ。 では、順を追って説明するかの…まずはワシのことを思い出してもらおう」

 

 

ドレイクの家柄、公爵の位を持つルーカス家に生まれた魔剣持ちのドレイクことシルヴァリア。 彼女の人生はなかなか刺激的なものだった。

 

まず、経歴。

 

人肉が食べられない。

優しさに目覚めた。

人族と蛮族の争いを止めようとしている。

 

これである。

 

ドレイクなのに人肉が食べれない…目の前切り落とされた、人族の腕を見て卒倒したのだろう。 それをやけにうまそうに食べる親を見て絶望したとかな。

そういった蛮族の残虐性に徐々に嫌気が出てきたのが影響したのか、人族のメンタルに近い…「優しさ」という感情を芽生えさせた。

そんな中で、優しさに目覚めて人族と蛮族の違い…‘穢れ’を持つか持たないかの違いで起こる争いを止めたいと感じ出している。

 

こんな感じの基礎設定だった。 この経歴を見た当時のGMの好意で公爵家のルーカスという物を作ってくれたのは非常にありがたかった。 故に家柄はいいとこのお嬢様。 だから「のじゃ少女」な訳で。 …いやまぁ、これは「桐生銀次」って俺の偏見だけどさ。

 

で、シルヴァはある日、親との決別を誓って旅に出る。 その時の年齢は13歳で、まだ成人前だな。 決別の理由は価値観のズレ…人族の奴隷に対する扱いが気に食わないと親に嫌われて勘当されたのがきっかけで、幽閉されたんだった。

 

その状況を良しとしなかった、シルヴァの可愛がっていた人族の奴隷が恩を返したいと差し出した、ガメルをその手に握り、奴隷の手引きで己の魔剣一つを手に屋敷を抜け出した…というのが導入だったな。

 

そのあと、ボロ布で角と翼を隠して、フェイダン地方の守りの剣すらない人族の開拓村《アスナイ》に入ろうかどうかとウロウロしてた時に、ルイーズと出会った。

 

ルイーズはマギテック/シューターの魔動機術使いのエルフ(?)だった。 いや、まぁPLはその正体を知ってるけど、PCが知ってるとは限らんだろう?

 

で、冒険者の店に入り…ワケありの人族と偽って過ごした。 ルイーズと一緒にゴブリンを退治したりボガードを蹴散らして生計をたてて、他の仲間たちとの出会いがあった。 流石に仲間たちには自分がドレイクであると打ち明けて、それを彼らが受け入れてくれた…というのも、シルヴァにとって大切な思い出だ。

 

一行でメインプリースト、グレンダール信仰ドワーフのオヤジこと“ランドルフ・ラーズグルム”、重厚な防護点で全てを守るメインタンクで人間の“ガドライト・ヴリタニア”、超越ウィザードのタビット“ルクス・フリード”…そして“シルヴァリア・ルーカス”、“ルイーズ・シュトロゼック”のこの5人で、仲間と共に数々の困難を乗り越え、冒険して。

 

初期の頃は冒険者レベルが平均3だったのに、サンダーバードが2体(剣のかけら入り)が出てくるとかもあったか…何人か死にかけたからヤバかった。

まぁでも、倒せない敵はいないってやつだ。 うん。

そんな困難もシルヴァの人生を彩っていった。

 

卓内時間も現実とリンクしてるから色々と武器の加工がしにくかったがまぁ…GMが出してくれた魔剣を使っていたな…遺跡を攻略して手に入れた《4次元バケット》とか、《祝福のガントレット》とか、な。

 

1年、2年…気がつけば5年間、同じメンバーでいつものところに集まり、サイコロを転がす日常もあった。

 

苦楽を共にした仲間、そしてPCのシルヴァリア。 俺はいつしか、彼女は自分をどう思っているのだろうか、と考えたりもしたか。

 

まぁ机上の空論なのですぐにその想いは蹴散らして、卓にのめり込んだな…そしてフォルトナコードというサプリの登場。 超越者への道が開かれたのだ。

 

数々の冒険をこなして超越していく仲間たちに遅れて最後に超越したのがシルヴァだった。 見返りもなく、ただ人族と蛮族の間を取り持とうと奔走する彼女をライフォス神が認めて、彼女に祭器を贈った。

 

それが今の愛剣、《號雷剣・彩雨》《疾風剣・天》。 《双牙天剣》のふた振りだ。

 

徐々に蛮族にも人族と調和の兆しが見え始め、遂にその願いは成し遂げられようとした。 その矢先に…父親である“ジル・ルーカス”。 儀式を経て《ドレイク・キング・アブソリュート》…つまりは蛮王となったシルヴァの父親が立ちはだかったのだ。

 

血戦。 大規模戦闘ルールで行われた戦いは蛮族・人族連合と蛮王軍との戦いで、多くの犠牲を出しつつも最後は蛮王の本陣にたどり着き…シルヴァは、彼女はかつての決別した父親に、「産んでくれてありがとう」と感謝を述べつつトドメを刺した。

 

結果的に、蛮族と人族は蟠りはあったが、手を取り合い戦い、認め合えた。

 

1人、親を殺したシルヴァ。 そんな彼女に寄り添ってくれたのは仲間たちだった。 親の命を背負い、救世の一行はたちまちラクシアの英雄として祭り上げられた…彼らの意思とは裏腹に。

 

そして、その5年間の軌跡、その最後は…“救世の銀龍姫(シルヴァリア)”はラクシアから消えることとなる。

 

 

「大半を思い出してくれたようだの」

『ああ、思い出した。PLに覚えがないわけもない』

「さて…本題じゃな。 どうしてワシがここに在るのか」

『最後の決戦だったな。 キャンペーンの最終章』

 

 

蛮王に勝利して凱旋したシルヴァはかつての開拓村《アスナイ》の郊外に、守りの剣の範囲外に屋敷を構えて過ごすようになっていた。

 

穏やかな暮らしの中で、鍛錬は怠らず、村のためにと施設投資もしたりしていつしかアスナイの村長の座を任されてしまうようになっていた。

 

それからしばらくたち、またもや世界に異変が訪れる。 「マナ消失」と言う事象が起こりだし、世界からマナが消えだしたのだ。 マナが失われると世界の自然律(ロウ)が乱れ、マナ災害が起こるのだ。

 

その原因は色々調べてエアギア地方で何かしらの事が起こったとされ、マナ災害に対応しつつシルヴァたち超越者はラクシアを走り回った。

 

そんな中で、シルヴァに恋をした者もいる。 新規に参加したPCの虎のライカンスロープで妖精使いで、2Hメイスファイターの“ゲイル・ライカ”だった。 シルヴァをGMの用意したハプニングで押し倒して引っ叩かれるという事が始まりの事象。

 

紅葉の跡形を頬に作った下手人の赤面したその有様に惹かれたとか…まぁ、恋っていうのはよくわからないからな! そんなところからスイッチが入ってアプローチされて。 シルヴァは最終的に、必死に食い下がってくるゲイルに対してオーケーのサインを出していた。

 

はじめての恋愛RPには緊張しつつもまぁ…いいかなってシルヴァが思ったのだろう。

 

そして、明かされるその原因は、始まりの剣“カルディア”の再生体…ただの超高密度マナ結晶体に成り果てた膨大なマナの塊だった。

 

それを生み出したのはヨーウィという魔物たちだった。 カルディアを再構築しようとした結果できたのは模造品にも劣るマナの塊。

 

だが、人族と蛮族…かつてのルミエルとイグニスの陣営の争いに巻き込まれるのを是とはしなかったカルディアが自ら砕けた伝説。 ヨーウィはカルディアを信奉する魔物たちであり、カルディアの砕ける要因となった人族と蛮族を滅ぼしたいと憎んでいる。 彼らは、偽物のカルディアをラクシアに落とす事で人族と蛮族を滅ぼそうと、利用することにしたのだ。

 

それの落下阻止のために、マナ災害で疲弊した各地方を守るために、シルヴァをはじめとした超越者たちは戦った。 妖精たちの力を借りて足場を組み上げ、マナの塊を砕いた。

 

砕ききった。 が、その時に起きた次元の歪みで異界のデーモンロードとまでも顕れる事態に発展。 これを全力で撃滅し、世界は守られたかに思われた。 しかし…

 

「…生きよ、ゲイル。 生きて未来を切り開くのじゃ」

 

シルヴァはそう言い残してラクシアから消える。 理由はとてもシンプルだ。

 

マナ災害で、次元の割れ目が生まれてしまい…シルヴァは逃げ切る事ができず、その割れ目に飲まれたのだ。

 

危機感知に自動失敗してしまい、その状況に見舞われた。

 

ゲイルが助けに走ってくれたが、目標基準値は45。 超越判定2回で成功する達成値。 1回目で10を出して超越。 2回目で…3だった。

 

つまらり、救助失敗。

 

俺も抗おうと二回の生命抵抗チャンスをもらったが、1回目が7で出目が足りず、2回目は超越。 しかし次の出目が5と奮わず。

 

結末としてバッドエンドだった。

 

だけど、シルヴァは満足だったようだ…たとえ自身がいなくとも、ラクシアは守られたのだから――と。

 

キャンペーンの最期、各々の辿った軌跡がエピローグとして挙げられた。

 

ガドライト・ヴリタニア…実は小国の王子だった過去があり、前王の跡を継いで王となった。 救国の英雄として彼の治める国は繁栄したそうだ。

 

ランドルフ・ラーズグルム…グレンダールの最高法王として君臨したとある。 暑苦しい彼なりに世界を良い方向に向かわせた。

 

ルクス・フリード…ゲイルとつるんで晩年まで次元の壁を突破する方法を研究した。 晩年に至り、その方法を探し出し、ゲイルに伝えたと言う。

 

ルイーズ・シュトロゼック…シルヴァの足取りを千年もかけて探す。 ルクスとゲイルとはつるまずにその方法を体得して、シルヴァを見つけ出して合流したとある。 まさに執念。

 

ゲイル・ライカ…シルヴァの頼み、生きて未来を切り開こうと、アスナイに彼女の事を伝える。 そしてその代理として働く傍に、ルクスを村に呼び寄せて彼の研究を手伝った。 晩年は終ぞ行けなかった別次元の世界を夢見て果てた。

 

そして

 

シルヴァリア・ルーカス…異界に飛ばされた彼女は明日を見据えて今日を生きる。 かつての場所に似た平原から、始まる。

 

と、異世界で生きている扱いにされていたが…まさか、まさか…!

 

 

「我ながら、壮大な人生だの」

『まぁ、GMの趣味もあったし?』

「ワシがこうなって生きておるのはお主が居たからでもある。 お主がいないと、この世界にすらワシはおらんかったのだ」

『まぁ、そうだけど…ていうか俺の現状ってほんとどうなってるんだ?』

「“レイス”の状態だの。 まぁどこぞの神か何かがお主の机上の空論を超絶なお節介で《叶えた》状態が今なのじゃろうよ」

『なるほどな。 わかりやすい例えをどうも』

 

冷静になり、銀次は立ち直る。 そして、改めて思った。

 

『この先、シルヴァはどうするんだ? ラクシアに帰還する方法は探さないのか?』

「戯け。 ワシのことを知っておろう? 過去を引き摺るのはワシの質に合わん…ゲイルのことは残念だったが、それを嘆くのも彼奴に失礼じゃ」

 

力強く、シルヴァは応えた。 未練もなく、ラクシアに帰る気はない、と。

 

『わかった。 なら、この世界で…生きていくんだな』

「それはお主も同じじゃ、銀次殿。 そして、ワシのことを弄んだと思うておるなら、埋め合わせをしてくれれば手を打つ。 そうだの…ワシの描く物語を見届けよ。 それがお主のできる贖罪じゃ」

『…なら、その物語を…特等席で見させてもらうとするよ。 俺は観客。 君の物語を読み、綴ることもできる』

 

その提案を俺は呑んだ。 あるかはわからないが、手を差し出して彼女はその手を握った。

 

「ワシのための物語…お主に描いてもらう。 では、また会う事があればその時は…よろしくの?」

 

その言葉とともに、俺の意識は途絶えた




という事で、形は違えど憑依転生であることに違いはないでしょう。
主人公のテンションが妙に軽いのは無自覚な他人事だったからこそ。 そして彼女の持つ魔剣はドレイクの魔剣+シルヴァを超越させるきっかけとなった魔剣だったわけですね。

では、次回から真の意味でシルヴァの冒険が始まりますのでよろしくお願いします!


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団長

 俺は銀次。 ついこの前、この世界にTS憑依転生をしたと思っていたら実はなんかそうではない転生をした者である。

 現在、俺は銀毛猫の姿になっている…どうしてこうなった。

 

『シルヴァリア。 南方から魔物の気配が来る…二人に任せるべきじゃないか?』

「本当かの、ギン? ベル、ルーイ。 そっちに行ったのじゃ!」

「は、はい! 任せてください、シルヴァさん!」

「お任せくださいませ、姉様!」

 

 現れたコボルドとゴブリンの混成した一団をベルとルーイは迎え撃つ。 まぁ、俺は獣性から探知能力のある存在…というか、この世界ではそういう能力になっているようで…使い魔(ファミリア)と呼ばれる物なのだ。

 

 そんなことをぼんやりと考えながら主人の肩にしがみつき、その戦いの行く末を見守る。 ナイフが閃き、魔物の首や腕を斬りとばす。 銃のマズルフラッシュの直後にゴブリンの頭が消えた。 豊かな双丘を蠱惑的に揺らしながらも有翼の龍人は華麗に舞うが如く。 敵の命を刈り取っていく。 返り血は彼女の頬を濡らし、高揚を生む。

 

「あはははッ! 楽しいのぅ!」

『おい、コラ。 周りを見ろよ、シルヴァリア! ――エネルギーボルト!』

 

 俺は詠唱。 猫の手を前にかざして、そこから放たれた魔法は飛びかかってきたゴブリンの目玉を撃ち抜き、その奥にある脳を焼き切り、頭蓋をぶち抜いて脳髄をブチまける。 おう、《クリティカルキャスト》は使ってないのに…回ったのか?

 

「露払いは任せるぞよ、ギン!」

『俺は使い魔だっつーの! 精神力(マインド)はお前と共有だ! せいぜい倒れんなよ!』

 

 乱戦エリアが形成されている状態だがまぁ…こいつらを心配する必要はない…か。 そんなことを考えていると戦闘が終わった。

 

 はぁ、疲れる。 使い魔になってから俺は…

 

 ☆

 

 あの日、ミノタウロスとのデッドレースから生き残り、ロキファミリアと同盟関係となったヘスティアファミリアでは。 今後の身の振り方を考えるべく主神のヘスティアとシルヴァリアは話し合っていた。

 

「ベルに発現したスキルは伏せるべきだの…そしてワシにも発現したアレは…」

「うん、その通りだね。 しかし全く! ボクと言う存在がありながらベル君はひどいよ!」

「ヤキモチはわかるがの、主様…ベルも(おのこ)よ。 誰かに惚れるのは通りなのじゃ」

 

 シルヴァリアが嗜めるその姿を銀次は見守っている…と

 

「で、そこの彼は何者なんだい?」

「? 主様?」

『はぁ、やっぱ神様なら見えるのか?』

「うん。 ボク達は多くの能力を失っても嘘を見抜けるし、魂の色を見ることもできる。 前々から、シルヴァ君の魂も二色が混ざりあっていたけど…それが分離した感じがするからね」

 

 と、言うヘスティアの言葉を聞き、銀次は…

 

『そうかい。 俺は神って存在に慣れちゃいねぇが…自己紹介くらいはしとくか。 俺の名前は桐生銀次。 まぁしがない異世界の哀れな子羊さ…このシルヴァリアの元々の主人でもある――のか?』

「…嘘は言ってないね。 うん、続けて」

『そうだな、話すと少し長くなるが…』

 

 銀次は嘘もなく、ヘスティアに自身のことを話した。 生まれは日本というこの世界にはない便利で豊かな平和な国。

 そんな世界で一所懸命に働きながら、ゲームに興じてそこでシルヴァリアというキャラを創造したことも。

 

『簡単にまとめればそんな感じだ。 つまるところ、シルヴァリアも俺も、本来はこの世界の住人じゃない』

「お、おい銀次!? いきなり何を!?」

「そうか。 やっぱりシルヴァ君も…なら、銀次君。 君は…いや、君たちは何者かの気まぐれでこの世界に居つくことができた…というのかい?」

「主様もそれで、納得するのかの!?」

『法則を超えて何もかもを無視する存在の考えることなんざ俺にわかるはずもねぇよ。 まぁ…シルヴァリアに手を差し伸べてくれたのがヘスティア様で本当に良かったよ』

 

 頬を掻き、照れ臭そうに目線を彷徨わせる魂だけの存在となっている銀次。 自身の存在をどうすればいいのかも実は自身が一番何もわかってはいない。

 

『なぁ、ヘスティアさんよ。 俺はこの先どうなる? 魂だけって不安定な存在はいずれ消えっちまうんじゃないか?』

「それは、ボクにもわからないよ…何か方法はないのかな…?」

『俺に聞くなよ…シルヴァリアはなんか思いつくか?』

「うーむ、使い魔を作ってみるかの?」

 

 ならばと、その提案に銀次は掛けてみた。 シルヴァリアが魔法式を構築してラクシアの魔法を使う。 法則は外界のもの。 この世界で通用するのか…と銀次は思うも、それは杞憂だった。

 

『…俺の魂をベースにしたらこうなったのか?』

「猫だの…」

「猫だね…」

 

 困惑する銀次だったが…その姿は銀色の毛並みを持つ猫だった。

 

『よぉし、オーライ。 俺は今から‘ギン’とでも名乗るよ。 よろしくな、シルヴァリア、ヘスティア様よ』

 

 こうして、銀次を改めて、使い魔のギンとして彼は生きることと相成ったのである。

 

 ☆

 

「じゃあ今回のみんなのステイタス…経験値(エクセリア)の確認と更新をするよ。 順番にしていくね」

 

 三人のステイタスを溜まった分更新するヘスティアは少し疲れそうだがまぁ仕方ないだろう。 大規模なファミリアだともっと疲弊するわけだし。 さて、どんな成鳥になることやら…くぁりと欠伸をしながら俺ことギンはみんなのことを見守る。

 

 あの騒ぎから実に5日が経っていたしなぁ…どうなるか楽しみだ。

 

 ――――――

 

 シルヴァリア・ルーカス

 

 Lv1

  力H:104→196

 耐久H:120→160

 器用G:210→250

 敏捷F:350→390

 魔力G:270→F:300

 

≪魔法≫

 

【テレポート】

 ・五節詠唱魔法

 ・自身を含めた任意の人物を連れ、任意の場所への瞬間移動。

 ・一度に5人まで帰還可能。

 詠唱式『外界の理。 次元分かち、天に飛べ。 掴みし道、望むはかの故郷への道。 裂け、()け、()け。 其は外界の理、一三位の法』

 

【ディメンション・ソード】

 ・速攻魔法

 ・魔力で構築した次元の刃を敵一直線に振り下ろす。

 ・魔力に3倍の補正がかかった威力となる。

 

【ファミリアⅡ】

 ・召喚魔法

 ・意思を持つ使い魔を作り出せる。

 ・契約に応じて、索敵・見識・独自魔法によるカウンターが可能。

 

【】

 

≪スキル≫

二剣無双(ダブル・サーガ)

 ・二刀流の時、高いアビリティ補正を得る。

 ・剣の装備時、剣に魔力分の威力上乗せ。

 ・剣の装備時、高い敏捷のアビリティ補正を得る。

 

神速の翼(ジルバリオ・エール)

 ・飛行中、移動速度倍加。

 ・飛行中、敏捷のアビリティに補正を得る。

 ・自在に、翼の体積を伸縮可能。

 

龍の乙女(ドラグ・メイデン)

 ・物理・魔法攻撃に耐性。

 ・ポーションの効率を高める。

 ・宝物探知能力(レアドロップ)の向上

 

蛮王の血筋(バルバロス・ブラッド)

 ・早熟する。

 ・超えたい壁が高いほど効果上昇。

 ・ありとあらゆる限界(リミット)を超える。

 

 ――――――

 

『流石のシルヴァさん。凄まじい成長速度でござんすな』

「ハッハッハッ! ワシならばこのくらい当たり前ぞよ!」

「お姉様、素敵ですわ!!」

「流石です! 団長!」

「…団長? ベルよ、今なんと?」

 

 団長…か…ヘスティア様をちらりと見ると、ニッコリとしている。 いや、満更でもない顔だな。

 

「はい! 僕とルーイさん、神様も文句なしでシルヴァさんを団長にしたいって!」

「…なんと、それは初耳じゃが…良いのか、主様よ」

「うん! ボクも異議なしさ。 強い子が団長を務めるのは義務みたいなものだしさ」

「そうですわ。 ワタクシでは役不足ですし、ベルでは威厳尊厳が足りないですもの。 愛らしいウサギに団長の座は…ねぇ、ベル?」

「は、はい…精進します…」

『まぁがんばんな。 ベル坊』

 

 落ち込むベルの肩に乗ってやり、頭をポンと肉球で軽く押す。 猫の激励つーのも締まらないだろうが…仕方ねえ。

 

「ギンさん…ありがとうございます!」

 

 ――――――

 

 ベル・クラネル

 

 Lv1

  力I:79→I:96

 耐久I:25→I:85

 器用I:95→H:120

 敏捷H:180→G:260

 魔力I:0

 

≪魔法≫

【】

 

≪スキル≫

龍騎の誓い(ドラグ・サイファー)

 ・一定確率で習得経験値(エクセリア)上昇。

 ・一定確率で致命打発動。

 ・敏捷に高いアビリティ補正を得る。

 

 ―――

 

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

 ・早熟する

 ・懸想(おもい)が続く限り効果持続

 ・懸想の丈により効果向上

 

 ―――

 

 ――――――

 

 紙からは消されているがここにもう一つ、レアスキルが乗る。 だからこの成長速度なんだよな…ベルの方も。 シルヴァはドレイクの力を遺憾なく発揮できるようになってきてるけどな。

 

 さて、次は…ルイーズだな。

 

 ――――――

 

 ルイーズ・シュトロゼック

 

 Lv1

  力H:120→140

 耐久H:105→125

 器用H:250→269

 敏捷F:300→320

 魔力H:240→260

 

≪魔法≫

【クリエイト・バレット】

 ・派生効果魔法。

 ・威力が魔力依存で、任意の弾丸を作り出す(ストック可能弾数は魔力依存)。

 ・追加詠唱によって必中への変化あり。

 詠唱式『弾け、貫け、飛ばせ。 その銃身を通り飛翔せよ。 其の選ぶ弾丸は《〇〇》』

 追加詠唱式『索敵せよ、砕けちれ(サーチアンド・デストロイ)

 

 ―――

 

 ・単発系バレット

 《ソリッド・バレット》…通常装弾

 《クリティカル・バレット》…ライフル装弾

 《ヒーリング・バレット》…治癒装弾

 ・範囲系バレット

 《ショットガン・バレット》…近距離殲滅装弾

 ・炸裂系バレット

 《グレネード・バレット》…火炎榴弾

 

 ―――

 

【】

 

【】

 

≪スキル≫

絶対一途(ケイオス・フレーゼ)

 ・特定の存在ある時、習得経験値(エクセリア)上昇。

 ・特定の存在ある時、常に高いアビリティ補正を得る。

 ・器用に高いアビリティ補正を得る。

 

魔動使い(マギテック・ランチャー)

 ・武器《ガン》を創造できる。

 ・精神(マインド)を弾丸にできる。

 ・二挺拳銃時、《ガン=カタ》の有効化

 

疾風迅雷(クイック・アクセル)

 ・弾丸装填の速度を上昇させる。

 ・障害物の有無に関係なく、任意対象を撃ち抜く。

 ・敏捷に高いアビリティ補正を得る。

 

 ――――――

 

「ふぅ…終わったよー…」

『お疲れさん、ヘスティア様』

 

 俺はヘタリ込むヘスティア様の背中に肉球でタッチ、《アースヒール》を使う。

 

「地脈の癒しかい、これは」

『まぁそんなところさ…で、シルヴァリア。 ロキファミリアの打ち上げに誘われて、《豊穣の女主人》に行くんじゃないのか?』

 

 俺は若干興奮気味のシルヴァに声をかけて我に返す。

 

「…そうだったのじゃ。 では、あやつらの奢りゆえに行くぞ、皆の者!」

「「「おー!」」」

 

 やれやれ。 しかし、あのベート・ローガがまともに見えたのは気のせいか? まぁ、酒宴の席にて見定めるか。

 

 ヘスティア・ファミリアとロキ・ファミリアの同盟の調停と、彼らの歓迎と交流を兼ねた酒宴…さて吉か凶か…どうなるかなぁ。



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方針と蠢く影

「ちゅーわけで、遠征から無事に戻ってきたのと、どチビんとことの連携決定祝いで…乾杯やでぇ!!」

[かんぱーい!!]

 

 ロキファミリアの誘いを受けたヘスティアファミリアの面々。 特に主神のヘスティアは《豊穣の女主人》の料理の値段やらに圧倒されつつも。 大人ぶってエールを頼んだことを若干後悔していた。 ベルは果実水の値段200ヴァリスに引いており、金銭感覚の差をひしひしと感じていた。

 

 零細ファミリアの割には団長、シルヴァリアの存在…高い戦闘力と稀有なスキルによるレアドロップの数々で収入が安定しているがその殆どを貯蓄に回すことにしているファミリアの方針故に質素な食事。 じゃが丸くんとシルヴァリアの作る料理で済ませていたりする普段の食生活から見たら豪勢な食事を見れば嫌でも圧倒されるものであろうか。

 

 その一方、持ち込みのワイン(どこから持ってきたのか見るからに高そうな白ワイン)を愉しみながら。 カリッと揚げられた白魚の唐揚げにたっぷりと融かしたチーズ主体のソースをかけた見るからにお上品なこの店の料理に舌鼓を打つシルヴァリアとルイーズは対面の席に座る主神と黒一点の団員の様子を見て小鳥のごとく小首を傾げていた。

 

「主様、ベル。 口に合わぬのか?」

「やや、そんなことはないよ!」

「はい! 圧倒されてるだけです!」

 

「圧倒とな?」と腕を組み真剣な眼差しで、こちらを見るシルヴァリアに愛想笑いしかできないベルとヘスティアをよそに。 こちらに戻ってきたのは白銀の毛並みを持つ猫。 シルヴァリアの使い魔、ギンだ。

 

『ただいまっと…ああ、ルーイに言伝だ。後でリヴァリアさんが聞きたいことがあるって言ってたぞ』

「分かりました。 言伝に感謝致しますわ」

 

 ルイーズに話を通したギン。 彼は念話という独特の特殊能力を持っている。 しかし、一方通行の念話でしかないため聞いた者の応答は独り言に見えてしまうことだろうか?

 

「団長様、そういうわけでして少し席を外しますわ」

「うむ。 あい分かった。 リヴェリア殿の要件、恐らくは…」

「種族的な柵に世界は関係ないのでしょう…高貴なる森の民(ハイ・エルフ)始祖なる神の民(ノーブル・エルフ)の歴史的な邂逅ですわ」

 

 そう言い残し、ルイーズは席を立っていく。 となりの席が空いたがそこへ。シルヴァリアの視界に燃えるように鮮やかな赤い髪が見えた。

 

「ほほー…年号はさっぱりわからへんけど、ええもん飲んでるやんか、シルヴァたん」

「し、シルヴァたん…? ま、ぁいいかの。 ロキ様も一杯どうじゃ?」

「ええんか? いやー、太っ腹やなぁ! でも、あんたホントに零細ファミリアの団長なん?」

「コレはワシの故郷から持ってきた葡萄酒じゃよ。 オラリオの共通語(コイネー)と違った字なのは気にしたら負けなのじゃ」

 

 話す(ヒト)から少し意地悪な視線を感じたシルヴァリアは不機嫌からか少し唇を尖らせる。 その様子に何やら悶えるような雰囲気を見せるロキ神に彼女の頭に乗っているギンはジト目を寄越す。

 

『あんま俺の主人を困らせないでやってくれないか?』

「うお、堪忍やで。 えっと、この声はギンきゅんの声でええん?」

『おい、俺はショタ扱いされたくないぞ。 いやまぁ、生まれて数日だし間違いじゃない気もするが…』

 

 器用に眉あたりに皺を作る猫に吹き出しかけるロキだったが、女神の矜持が勝ったのかグッと堪える。

 

「しゃーけど、面白いなぁ。 間接的に言葉をしゃべる猫とか、神話の時代のエルフの生き残りとか…あのルーイたん…不老やろ?」

『…それは他言無用で頼むぞ、ロキ神。 聞かれるとヤベー事もある…特に闇派閥(イヴィルス)やらとかには、な』

「わーっとる。 ウチは口だけは硬いからな」

『…イマイチ信用できねー。 まぁ、角は取れたって聞いてっけどな…‘悪神ロキ’様?』

「昔の名前で弄るのはナシやで…ギンきゅん?」

 

 朱の瞳に睨まれたギンは『くわばらくわばら』と彼女から視線を逸らして、シルヴァリアの長い髪の中に逃げ込んでいった。

 

「ロキ様…呑まれるか? どうなのじゃ?」

「ん、じゃぁもらうわ。 なんて書いてるん、ほんまそれ」

「そうだの…フェイダン地方のアイヤールが辺境の村、アスナイが誇る白鈴ワインじゃ。 まぁ、もう手に入らんだろうが」

「フェイダン? 聞いたことないないけど、そこの出身なん?」

「…あー…まぁそうじゃ」

 

 チリっと一瞬だけロキの気配が変わり、シルヴァリアはひやりとした感覚に見舞われる。 しかし、その気配は何事もなかったように霧散した。

 

「ほーん、なるほどなぁ…なんじゃこりゃあっ!?」

 

 グラスに注がれたワインの香りを愉しみながらロキは黄金色のそれを口に流す。 クドくない甘味と爽やかな口当たりのワインにロキは思わず目を見開いた。

 

「オヤジさんが傑作とうるさくて買ったワインでの。 まぁ気に入ってもらえたのであれば幸いなのじゃ」

 

 シルヴァリアはそう言うとロキに微笑みかけた。 穏やかなその笑顔は遠くの故郷を思い出すかのように懐かしさを感じるものだった。

 

 ☆

 

「なるほど…やはり、エルフの祖先に当たる種族でいらしたか、ルイーズ様は」

「様づけはやめてくださいませ、リヴェリアさん。 そうですわね…確かにワタクシはこの世界から魔法という奇跡が、ステイタスという枠組みに…窮屈に収められる前の時代に生まれた事は事実ですわ」

「ステイタスという枠組み…?」

「まぁ、あまり知らないほうがいいことはありますわよ? それに、ワタクシは確かにエルフの先祖にあたる種族ですが、結局はハイ・エルフとも言えぬ全く別存在ですし」

「…それは、シルヴァリア殿も同じということで?」

「そのへんは、黙秘致しますわ。 どうしても聞きたいならもう少し盃を酌み交わした後ですわ」

 

 ☆

 

 隣の席に腰を下ろすベートにおずおずといった様子でベルは話しかけていた。 アイズに近い男を知っておこうと思い立ったのである。

 

「ベートさんって実は優しいんですか?」

「あ゛あ゛ん? 何言ってんだ、ベル?」

「い、いえ…あの時僕たちを先導してくれたのもベートさんでしたし」

「疲弊した状態のテメエらをあのまま迷宮に放置するなんて選択を取れんのか、お前は? アイズが先導できるわけもねぇしな…消去法で俺がやるしかなかったってわけだけだよ」

「そうだったんですか…」

 

 雑魚は雑魚らしく。 そう宣う事を常としているベートだったが、あの時はそれを言ってる暇もなかったと言う。 要は先輩冒険者として「先導するしかなかった」だけの事だということなのだろうかと、ベルは内心でヘコむ。

 

「…歯が立たなくて悔しかったのか?」

「え?」

 

 エールを呷りながら不意にベートがベルに横目を寄越しながら口を開く。

 

「…クソ牛に歯が立たなくて悔しかったのかって聞いてんだよ」

「…それは…」

 

 果実酒の入ったグラスを手に一気に中身を飲み干すと、ベルはベートに向き直りその内心を話す。

 

「…とっても悔しかった…です。 シルヴァさんに頼りっぱなしで、彼女に無理をさせてしまった僕自身がが不甲斐なくて…悔しかったです…! ベートさん…僕はどうすれば今以上に強くなれますか?」

「おい、クソガキ…焦んな。 まぁ一つは訓練を積むこったな。 あとは実戦での経験値…修羅場を越えりゃ嫌でも強くなれる」

「修羅場ですか…」

「はぁ、仕方ねぇなぁ…今度オラリオの城壁に来い―――模擬戦の相手してやるよ」

 

 その申し出にベルは一瞬呆けた顔をする。 今何といったのだろうかこの人は…と

 

「手ほどきしてやるって言ってんだよ。 二度も言わせんな」

「は、はい!」

「お前も俺に似て蹴りを使えるようになれば確実に強くなれる。 ナイフに加えて脚も手数に入れれるようになれば…(・・)が増える」

「札ですか…」

「戦いにおいての手札は防御にも使えるンだよ。 蹴撃で相手の爪を蹴飛ばして方向転換や攻撃の受け流しもできる盾みたいなもんだ…それができりゃお前も確実に強くなれる…お前んとこの団長も剣ばっかり振り回して戦ってねぇだろ? それと一緒だ」

 

 お前にそれができるかどうかは別とするけどなと付け加えてベートは口を閉じる。 言うべきことは終わったと言わんばかりに。

 

「分かりました。 よろしくお願いします、ベートさん!」

 

 ☆

 

 ロキファミリアとヘスティアファミリアの懇親会も兼ねた宴会は成功というべき形でお開きとなった。 そんな彼らを…否。 その中心にいたであろうひとりの少年をその瞳は捉えて離さなかった。

 

「ねぇ、オッタル…彼らは強くなれるかしら?」

 

 私、その手助けがしたいわぁ…薄暗いその部屋に響いたその声は…その男の耳に届く。

 

「御意に、我が主人」

 

 その男は動き出す。 まだ無名の龍姫に降りかかるのは災いか、それとも祝福か…



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