三度目の歌 (ADONIS+)
しおりを挟む

1.ルカの事情

 私、水蓮寺ルカ(すいれんじるか)は転生者です。いきなりそう言っても頭がおかしくなったのかと思われるかもしれませんが事実です。

 

 しかも転生したのはこれが初めてではありません。今回で三度目です。それはどういう事かは、これから簡単に説明します。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 私の最初の名前は木村ルカ。現代日本の平凡な社会人の女性でした。目立った特徴といえば男運が悪いという有難くない物ぐらい。というのもうっかりヒモ男に引っかかってしまったからです。

 

 元々一人娘という環境で男に免疫ができ難い家庭環境だったのに、女子高や女子大学に通っていたので余計に男に免疫がなかったのが悪かったのでしょう。社会人になってちょっと外見が良くて口が上手い男に落されてしまいました。

 

 交際して妊娠してしまい出来ちゃった結婚をする羽目になって、初めて交際相手が所謂ニートである事を知ったときにはもう手遅れ。結婚後は働きもせずにニート生活を送る夫を養う為に働く日々。当然私は夫に働くように説得するのですが相手にされません。

 

 何が「働いたら負けかな」ですか! 男なら働くのが筋でしょうが(怒)!

 いい加減夫の無責任さと自覚のない大言壮言にウンザリした私は離婚を決意しましたが、夫はそれを嫌がり、私の全財産を渡すことでやっと別れることができるようになった。

 

 こうして残されたのは離婚歴ありで子供までいる女一人という眼も当てられない現状でした。当然ながらこんな私では再婚は絶望的です。仕方なくシングルマザーになるという苦労を背負うことになった。

 

 そんな疲れきった私を癒してくれたのがアイドルたちでした。私は煌びやかなステージで歌い踊る彼女たちに憧れて好きなアイドルのライブに行くほどでした。その日もライブで盛り上がった帰り道だったと思う。そこにいきなりトラックが突っ込んできて……。

 

 そうして気が付いたら、この真っ白なだけで何もない空間にいた。どういうことでしょう? ここはどうみても普通の場所ではありません。というか状況から見てトラックに轢かれた筈なのにこんな場所にいた。病院ならばともかく、こんな意味不明な場所にいるとなると……。

 

「これって、もしかしてネット小説とかでよくある神様転生物ですか?」

 

『その通りだ』

 

 私の呟きに答えたのは黒い布で体を覆い、手には大鎌を持つ髑髏姿の者。はい、どう見ても死神です。

 

「まさか私を間違って殺してしまったという落ちですか?」

 

『いや、間違いではない。ただ君はあのトラックに轢かれたからね』

 

 私はその言葉に引っかかる。これってまさか典型的なアレ?

 

「まさか、あのトラックはテンプレな転生トラックですか!?」

 

『そうだよ。だから君は転生する事が決定したんだよ』

 

「……まさか転生トラックなんてものが本当にあるなんて」

 

 驚きというべきでしょうね。事実は小説より奇なりという所ですか。

 

『いや、あの転生トラックは私が用意したものだよ』

 

「どういうことです」

 

 これは聞き捨てならないですよ。あのトラックの所為で私は死んでいますから。

 

『実は君達の世界の住民達は、創作物を元に様々な世界を無意識の内に作り出しているんだよ。だから君達が知っているアニメとかゲームとかの世界が本当に存在するんだ』

 

「創作物の世界ですか?」

 

『そうだよ。でもそうして作られた世界は反作用というものがあってね。それの所為で創作物を元に構成された下位世界が崩壊してしまうのだよ。それを防ぐ為には君達の世界の住民をたくさん下位世界にトリップさせるしかないわけだね。それでその人選の為に用意したのが転生トラックだよ』

 

「だから私を転生させるというわけですか?」

 

『そうだよ。これは君にとっても悪くない話だよ。そもそも転生トラックは人生をやり直したいと強く思っている人間を選ぶように設定しているから、君だってやり直しを望んでいるだろう?』

 

 図星だった。そう私は出来ることなら人生をやり直したいと思っていた。でも私には子供もいる。あの子を放置するわけには……。

 

『ああ、言っとくけどそれは無理だよ。君はもう死んだんだよ。ここで下位世界に転生するのを拒否しても輪廻転生の輪に取り込まれるだけだよ。そうなると記憶を失って別人として転生する事になるからね』

 

 選択の余地はなしですか。これもテンプレですね。

 

『そういわずに。今なら君の好きな下位世界で、君の望む人物に転生できるし、転生特典も3つあげるよ』

 

 私はこの言葉に心が動かされた。このままではどうしようもない。ならば記憶を持ったままで転生する方がいいでしょう。でも、どの世界の誰に転生するべきか……。

 

 そこで私はアイドルに憧れていてできれば彼女達のようになりたいと思っていたことを思い出した。そうだ。どうせ人生をやり直すならアイドルになろう。

 

「では『ハヤテのごとく!』の水蓮寺ルカに転生できますか?」

 

『うん、いいよ』と死神は軽く答える。

 

 ハヤテのごとく!は私が最近読んでいた漫画で、その中でも水蓮寺ルカは私と同じ名前で人気アイドルという設定から気に入っていたキャラクターだった。まあ、創作物のアイドルと思い浮かべて真っ先に名前が出たからだが……。

 

 次に転生特典だけど、これは水蓮寺ルカの長所を伸ばす事と欠点を補う事に使うべきですね。そう考えて次の三つにした。

 

1.アニマスピリチア(マクロス7)

2.不幸体質の改善

3.無限転生

 

 まず、『アニマスピリチア』というのは熱気バサラ(マクロス7)の特殊な資質で、常人離れした歌エネルギーを保有できるスキルだ。実はマクロス7は好きだったんですよね。これなら水蓮寺ルカの歌がより魅力的になると思う。

 

 次に、『不幸体質の改善』は、水蓮寺ルカはどうも日常的に不幸に合いやすいみたいだからそれを避ける為に選びました。不幸体質というのは漫画として見るならキャラが立っていいかもしれませんが、当事者としてはとっても迷惑ですから。

 

 これで長所と短所はいいでしょう。となると最後の特典はどうしようかと悩みました。そこに死神からは二つとも微妙な特典だから、三つ目はそれなりにチートな能力を上げられるよと、いわれて無限転生を選びました。

 

 この『無限転生』ですが、通常のトリッパーは一度だけの転生で死後は記憶を失い上位世界の輪廻転生の輪に帰還します。しかし、この特典によって例え死亡しても前世までの記憶と転生特典を引き継いだまま下位世界で無限に転生できるスキルです。しかし、その場合転生する下位世界はランダムでどの下位世界に転生するから分からないそうですね。また人生をやり直したくなったときに備えてこの特典を選びました。ちなみに転生に飽きて嫌になったら死神に言えば、この特典を解除してくれるそうです。アフターサービスもばっちりですね。

 

『では転生させますよ。いいですね』

 

「はい」と私が頷くと、いきなり床が割れて私は下に落下した。

 

「ここまでテンプレですかーーーーー!!」

 

 私はどこまでもテンプレな行動をしてくれる死神に文句を言いながら意識を失った。こうして私は死神によって転生者になる事になりました。




解説

■木村ルカ
 水蓮寺ルカがトリップする前の最初の名前。ルカ繋がりで水蓮寺ルカ(ハヤテのごとく!)がお気に入りのキャラだった。

■死神
 ブリタニア帝国記やトリッパー列伝などで、現実世界(上位世界)の人間をトリッパーにして下位世界に送り込んでいる存在。単独ではなく複数存在しており、個々に性格なども異なる。

■輪廻転生の輪
 現実世界(上位世界)のあらゆる生物の魂は死後に同じ世界に転生するという魂の循環が形成されている。トリッパーの場合は例外的に魂が下位世界に送られるが、死後は上位世界の魂の循環に戻るようになっている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2.一度目と二度目

 そんなわけで私は転生を繰り返すことになりました。転生一度目は望み通り『ハヤテのごとく!』の水蓮寺ルカに転生した。

 

 私の両親は原作通りで、父は一発屋のロック歌手で、母はB級アイドルだった。その両親は夢破れた自分達の代わりに私に夢をかなえて貰おうと芸能事務所『フライ・ドルフィン』を設立して、私が幼少の時から徹底的にアイドルとしての教育を施して、実力を身につけさせていました。

 

 この時期の私は相当苦労しました。休みなどなく、年末年始も歌やダンスのレッスンに励む日々。しかし、いくら私が努力しても中々アイドルになれなかった。

 

 それもその筈です。アイドル志望の人間なんか掃いて捨てるほど存在します。それなのに両親が経営している弱小事務所では芽が出る訳がありません。

 

 実際、私よりも遥かに実力が劣る娘でも大手芸能事務所のバックアップを受ければ容易くアイドルになれたのに、私はいつまでたっても無理でした。ここまで来ると私も嫌でも理解できました。原作のルカの行動は正解だったと。

 

 原作では水蓮寺ルカは両親に秘密で超大手芸能事務所のオーディションを受けて、その圧倒的な実力で合格。そしてアイドルになったわけですが、両親は自分達の手でルカをアイドルに出来なかったことを苦に、クリスマスイブに1億5028万1000円の借金を残して蒸発してしまいます。

 

 この事はルカの心に深い傷を残していましたが、それでもルカは人気アイドルに成れています。

 

 でも、この時に私はある意味で悪い意地を張っていました。今のままでは駄目だと分かっていてもそれでもと、必死にやっていたんです。

 

 これはその時の両親の希望をかなえてあげたいという親孝行の思いもありましたが、私が本当の水蓮寺ルカが送るはずだった人生を奪っている存在である為に、両親に対する後ろめたさを隠したいという気持ちがあったのかもしれません。

 

 結果を言えばその努力は報われませんでした。確かに成功した人の大半は努力しています。でもひたむきに努力すれば必ず報われるという訳でもないのです。一向に芽が出ず借金だけが膨れ上がり月日だけが過ぎていきました。

 

 当然ながらそんな生活がいつまでも続くわけがありません。破綻が来るのは当然でした。私が高校を卒業する頃にはどうにもならなくなり、両親は借金を苦に私を巻き添えにして無理心中を行いました。享年18歳。

 

 こうして一度目の転生は無残な結果になりました。

 

 後から考えてみると、原作よりも酷くなっていました。結論からいえばアイドルとしてデビューしたいなら大手の芸能事務所のような大きな後ろ盾がないとどうしようもないと判明しましたね。

 

 不幸体質の改善という特典のおかげで日常的に無闇に不幸になることはありませんでしたが、それでも不幸がなくなるわけではなかった。まあ、選択を間違えれば運勢が並みの人でも不幸になるので、私がこうなったのは無理もありませんけど。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 二度目の転生は私の良く分からない世界でした。というのも明らかに私の知っている世界ではなかったからです。

 

 その世界は約30年前にユーラシア大陸の中央(当時のソ連、中国、モンゴルを含む一体)がいきなり消失して一億五千万人の死傷者が出た災害が発生しています。(これはユーラシア大空災と呼ばれている)これを切欠に世界各地で小規模ながらも謎の大災害・空間震が発生するようになっています。

 

 世界の舞台そのものは現代日本に似ているのですが世界観が明らかに違いますし、私の知識にない物でした。

 

 確かに転生先はランダムなので私の知らない下位世界に転生する可能性は十分にありましたね。まあ、それでも現代日本に近いので何とかなるでしょう。

 

 ちなみに今回も何故か水蓮寺ルカとして転生しました。といっても両親は全くの別人ですし、たまたま親の苗字が水蓮寺で、名前がルカと名付けられただけなんですが、私の容姿も水蓮寺ルカそのままなので、無限転生の特典で何らかの影響を受けている可能性も否定できません。

 

 私にとって有難いのは今回の両親は芸能界にそこまで興味はないので前回みたいに芸能地味所を設立したりしていないことです。あれは悲惨でしたから、もう勘弁して欲しいです。

 

 それで、前回の反省を踏まえて今回は大手の芸能事務所に入るつもりです。それに備えて自己練習をやりました。こういう自己練習は素人がやるのは効果が今一でしょうが、そこは水蓮寺ルカ。前回散々苦労した努力は無駄ではありません。

 

 こうした努力が実を結び、中学生になる頃には大手の芸能事務所のオーディションに合格して、念願のアイドルになりました。

 

 憧れ続けた舞台に立てるという喜び。自分の歌を大勢の人に聞いてもらえるという喜び。それは私を幸せの絶頂に導いてくれました。

 

 私の実力は並外れており、あっという間にトップアイドルに上り詰め、ライブでもコンサート会場を満員にできるようになった。

 

 勿論、トップアイドルになったために仕事はすごく忙しくなり大変な思いをしたが、私は原作のルカのように漫画を書いたりしていなかったので、何とか問題なくこなせた。つまり仕事も順調で本当に充実した日々でした。

 

 そう、この時が私の絶頂期でした。

 

 でも夢の終わりは唐突に来るもの。あれはデビューして二年ほどが過ぎた時。事務所のマネージャーから某局のプロデューサーが君を気に入っていると、いう話を聞かされた。そして仲良くすればいい仕事がとれるとか、などなど。明確に言われなかったが、要するに枕営業をしろということです。

 

 当然ながら私はそれを丁重に断った。私は人々に歌を聞いてもらうのが好きなのであって、そんな無茶をしてまで仕事を取るつもりはなかった。大体女を抱きたいのなら風俗店にでもいけばいいのです。それに今の私は中学生ですよ。そのプロデューサーはロリコンですか?と内心では思ったものでした。

 

 しかし、その後すぐに根も葉もないスキャンダルが写真週刊誌に掲載された。その内容は私の過去の男性関係とか、堕胎経験とか、ドラックパーティに入り浸っているとか、思わず眉をひそめる内容だった。

 

 後でわかったことだが、これはルカが自分の物にならなかったことに腹を立てたプロデューサーの嫌がらせだった。彼は私が所属する事務所の社長とも懇意だったらしく、私はいとも容易く事務所での居場所を失った。

 

 一番こたえたのがこれまでファンだと思っていた人たちが手の平を返したことだ。握手会などでは心無い言葉を言われ、プログでは誹謗中傷が書き込まれていた。これらの出来事で私は精神的に追い詰められて、結局アイドル引退にまで追い詰められた。

 

 精神を病み何もかもが嫌になった私は衝動的に建物の屋上から飛び降りた。こうして、私の二度目の転生は終わりを告げた。享年15歳。




解説

■無理心中
 ルカの両親は借金を苦に無理やり心中をしてルカと一緒に死亡(自殺)しています。

■二度目の転生先
 ライトノベル『デート・ア・ライブ』の世界です。

■空間震
『デート・ア・ライブ』の世界特有の災害。実際は精霊がこの世界に出現する際に発生する副作用。

■某局のプロデューサー
 気に入ったアイドルに手を出そうとするロリコン。ルカを自分の物にしようとしたが断られたので、陰湿な嫌がらせをしてルカを破滅させており、原作キャラの誘宵 美九(デート・ア・ライブ)も同時期に同じような理由と手段で陥れている。
 これが見せしめになって以後は他のアイドルがプロデューサーのいいなりになり我が世の春を謳歌していたが、後に美九の報復(洗脳)を受けてマスコミに自分がやらかしたことを暴露してしまい盛大に自爆した。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3.地球滅亡の危機

 話は長くなりましたが、今は三度目の転生です。ちなみにまた水蓮寺ルカとして転生しました。二度目と同じで両親はまた別人でしたが、私の名前と容姿は同じです。ここまで来ると無限転生の影響と判断するしかないでしょうね。

 

 はあ、こうして振り返ると本当に憂鬱ですね。不幸体質の改善という特典があまり役に立っていないように感じられますよ。まあ、いいですけど。

 

 結論をいえば弱小の芸能事務所では芽はでない。しかし、大手でアイドルになったからといって安泰と言うわけではない。不都合があればあっさりと切り捨てられる訳です。実際に切り捨てられて嫌になるほどそれが身にしみました。

 

 正直一度目と二度目で散々な眼にあいましたからもう芸能界に関わらずに普通に生活しようかと思った私でしたが、その考えはすぐに放棄する事になりました。

 

 それは何故かというと、この世界が『超時空要塞マクロス』の世界だからですよ(汗)。

 

 五年前の西暦1999年に、突如として宇宙から太平洋上の南アタリア等に全長1200mもの宇宙戦艦が墜落した。これで異星人の実在を知った地球人は異星人との戦争に備えて地球統合政府を樹立して墜落艦を回収してマクロスと命名するわけですが、現在は地球統合政府が樹立した為に統合に反発する諸勢力との世界規模の紛争(統合戦争)をやっています。

 

 つまり、第一次星間大戦が勃発するマクロス進宙式まで後五年しかありません。それに対して10歳(西暦2004年時)の少女でしかない私にできることなど何もありません。

 

 マクロス世界では地球上の生物の99%以上の生命が死滅して地球が壊滅しています。当然ですが、このままでは私も私の家族もおしまいです。

 

 まあ、私の場合は無限転生の特典がありますから開き直って今回の人生を捨てるという選択もありますが、その場合は家族やこの世界に人々を見殺しにするという事です。それはさすがに後味が悪すぎます。

 

 それに一度目と二度目では結局親孝行が出来ませんでしたから、今回ぐらいはちゃんと親孝行しておかないといけません。となるとどうすればいいでしょうか? ここであれこれ考えて結論を出しました。

 

 そう、歌で戦争を止めればいいのです! いえ、冗談ではないですよ(汗)。

 

 マクロス世界では本当にそうするしかないのです。大体、ボドル基幹艦隊総数480万隻というキチガイな大艦隊に軍事力で真っ向勝負をしようなんて出来るわけがないでしょう。と言うと大真面目に異星人の侵攻に備えようとしている統合軍をバカにしているように聞こえるかもしれませんが、これは仕方がないのです。

 

「戦争は数だよ、兄貴!」という某アニメの有名なセリフが示すように、ここまで戦力差があるとどうしようもありません。多少兵器性能を向上させようが、戦術を工夫しようが、呆気なく踏み潰されるのは目に見えています。(ゼントラーディ軍の基幹艦隊はそれ以外にも銀河系に1000個以上存在する)

 

 そういえば原作では統合軍はゼントラーディ軍との戦力差も認識できずに無謀な戦いをやっていましたね。実際彼らの楽観論と石頭振りにはイライラした視聴者もいたかもしれません。

 

 まあ、彼らの場合現実があまりにも深刻すぎて信じられなかったのでしょう。ゼントラーディ軍第118基幹艦隊が地球に展開されてやっと事態の深刻さを理解したぐらいですから。

 

 当然ながら原作知識を持つ私としては基幹艦隊と正々堂々と戦うなどという無理ゲーなんかやりませんよ。

 

 そうなると、私自身の歌手としての能力を磨くしかない訳で、二度目と同じく歌やダンスの自己練習に励む日々を過ごしていました。といっても肝心のゼントラーディに歌を聞かせる手段がない。私も熱気バサラ(マクロス7)みたいにバルキリーに乗って「俺の歌を聞けぇぇーーーー!」とかできればいいのですが、バルキリーを民間人が入手できるわけがないしね。本当にどうしようもないよ。(この時代では可変戦闘機はまだ開発中で統合軍ですら保有していない)

 

 

 

「ねえ、君」

 

 そんな訳で、役に立つのか良く分からないけど、他にできることはないので、一人でレッスンをしていた私に女性が声をかけて来ました。はて誰だろうと思って、その人を見て私は驚いた。

 

「ラ、ランカ・リー!?」

 

 そう、そこにいたのは『マクロスF』の歌姫ランカ・リーだった。そんなバカな。ありえない。だって『マクロスF』は『超時空要塞マクロス』の50年後の物語のはず、当然ながらヒロインであるランカがこの時代にいるわけがない。

 

「やっぱりあたしを知っているんだね」

 

 ランカは私の言葉に笑みを浮かべた。どういうことでしょう。

 

「あたしは貴女と同じトリッパーなんです」

 

 トリッパーその言葉に私は得心した。そうかこの人は……。

 

「なるほど三千世界監察軍の方ですか。貴方達の事は死神から聞いています」

 

 実際、死神から三千世界監察軍についてはいろいろと聞いているが、接触するのは今回が初めてです。

 

「そう、知っているなら話は早くていいね。じゃあ、ちょっといいかな?」

 

「ええ、かまいませんよ」

 

 こうして、私は三度目の転生で私と同じトリッパーたちと接触する事になった。




解説

■無限転生の影響
 無限転生という特典によって転生特典を持ったままで様々な世界に転生を繰り返すことになるが、ついでに水蓮寺ルカ(ハヤテのごとく!)の名前、容姿、才能を継承して転生をするようになった。

■ランカ・リー
 オリジナルではなく『トリッパー列伝 ランカ・リー』で登場する転生型トリッパー。原作とは違ってオズマ・リーに引き取られなかったので本当は名字が違うが、分かりにくいので監察軍ではランカ・リーで通している。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4.三千世界監察軍

 三千世界監察軍。それは数多の下位世界の技術が終結する地。私はそこの技術力に驚愕した。

 

「SF小説なんて目じゃないですね」

 

「そうだね。驚いた?」

 

 私を案内していたランカは愉快そうに笑っていた。多分多くのトリッパーが監察軍の技術力に驚いていたのだろう。

 

「いろんな創作物の良い所取りをしているみたいですね」

 

 軍事分野はいうに及ばず、ホイポイカプセル(ドラゴンボール)とか、重力波ビーム受信型(機動戦艦ナデシコ)の電気自動車など民生分野でもいろいろな下位世界の技術の影響が見られる。

 

「それがうちの長所だよ。良いものなら貪欲に取り入れる。これはブリタニア帝国もそうだよ」

 

「そうですか」

 

 元々、監察軍の後ろ盾であるブリタニア帝国は監察軍を通して下位世界の知識や技術を収集改良していくことで文明を大幅に向上させているそうです。これは異世界間転移技術を保有している強みですね。

 

 私も監察軍の実情に驚きましたが、ある意味好都合かもしれません。後ろ盾が強力であればあるほどにいい。トリッパー支援組織があっても組織が弱小では出来ることはたかが知れていますし。

 

「一通り施設の案内も終わったし、そろそろ総司令官の所に行くけど、いいかな?」

 

「ええ、かまいません」

 

 聞いたところによると監察軍の総司令官はトレーズ・クシュリナーダ(新機動戦記ガンダムW)らしいのですが、この人もトリッパーみたいなので私と同じで元になった人物とは違うでしょうね。とこの時は思っていました。

 

 

 

「やあ、君が水蓮寺ルカ君だね」と、話しかけてきたトレーズを見た瞬間、私は自分の間違いを悟った。

 

 何この人。どう見ても常人離れした空気。それに全身から高貴さが漲っています。

 

 ハッキリ言って、この人本当にトリッパーなの?と聞きたくなるほどです。原作通りのエレガントな方ですよこの人。

 

「あの、すみませんが貴方は本当にトリッパーですか。何かトリッパーらしさというのが感じられないのですが…」

 

 トリッパーは元のキャラクターとは別人なので、当然ながら別人になるはずです。勿論、トリッパーが本人らしく振舞う事はできるかもしれませんが、トレーズのような常人離れしたキャラクターとなると、そっくりになるはずがありません。

 

「ああ、私は少々特殊な転生者なのだよ」

 

「そうですか」

 

 この言い方から察するに、トレーズさんには何か込み入った事情があるのかもしれませんね。なら無闇に首を突っ込む必要はないでしょう。元々関係ない話ですから。

 

「さて、君は監察軍の概要については聞いていると思うが、私達はトリッパーを支援する組織だ。だから君が我々に支援を求める場合はある程度ならば便宜を図る事ができる。勿論限度はあるがね」

 

 支援はするが、それは一定の範囲内でということだろう。つまり彼らにとってそこまで負担にならない事ならいいが、それを逸脱するような事は却下されると言うことだ。

 

 まあ、それは当然でしょうね。組織である以上何でもかんでも要望を聞くわけにはいきませんから。

 

「その事なのですが……」

 

 私はトレーズに自分の事情を説明することにした。

 

~中略~

 

「……なるほどゼントラーディ軍か。確かにそれは厄介だね」

 

「ええ、流石に地球壊滅の危機を放置するのはどうかと思いますし、なりよりあの世界には両親がいますから見殺しにはしたくありません」

 

「それで、どうするつもりだね?」

 

 トレーズは端整という表現が陳腐に聞こえるほどに整った顔を私に向けながら質問してきた。普通ならば「すごいイケメンだよ、この人」と思うでしょう。しかし、今は真面目な話をしているので、そういった余計な考えは置いておきます。

 

「このままでは間違いなく第一次星間大戦が発生してしまいます。だから私は熱気バサラのように可変戦闘機に乗って歌で戦争を止めようと思います。だからその為の機体を提供してください」

 

「そうか。機体の提供はかまわないが、君はゼントラーディ軍を歌で説得するつもりかね。それは危険を覚悟しているのかい?」

 

 歌で戦争を止めると言うのは容易いが、それはゼントラーディ軍の攻撃を受ける危険性が極めて大きい。熱気バサラのように卓越した操縦技術がないとあっという間に打ち落とされる可能性は否定できない。

 

「はい。覚悟の上です」

 

 それでもトレーズの質問に私は迷いもなく答えた。既に命を賭ける覚悟は出来ています。

 

「……わかった。しかし操縦技術に関しては一から習得していくしかないよ」

 

「そうですね。ですから私はここに残って五年間でみっちりやります」

 

「あの世界に帰らないのか? 御両親が心配すると思うが…」

 

「その通りですが、マクロス世界でバルキリーの訓練はできませんし、第一あちらの生活を送りながら準備をするのは無理です。でも、だからといって両親に本当の事を話すのも機密保持の関係で好ましくないでしょう?」

 

 まあ、本当に事を話しても信じてもらえるとは思えないという問題もあります。下手の事をして精神病患者扱いされてしまうのは嫌ですよ。

 

「確かにそうだね」

 

「ええ、ですからマクロス世界には私の身代わりのコピーロボットを配置しておく位しか方法がありませんが、こちらにはコピーロボットはありますか?」

 

「ああ、コピーロボットならこちらにもあるよ。必要ならば手配しておこう」

 

「ありがとうございます。ですが、それは問題点とかは大丈夫でしょうか?」

 

 コピーロボット(パーマン)とは、鼻を押すことで押した人間や動物そっくりのコピーになり、記憶も引き継がれる道具で、コピーロボットの記憶は、元に戻る前に本人とおでこをくっつけることで本人に引き継ぐことが可能という優れものだ。

 

 しかし、コピーロボットは鼻がスイッチになっているからアクシデントで鼻が押されて人形に戻ってしまったり全くの別人になってしまったりとトラブルが付きまとっていた。後にそれらが改良されたらしいが、監察軍にあるコピーロボットはどうなのだろう?

 

「それは心配しなくていい。トリッパーにはあれを重宝する者もいるので改良が進められており、現在では実用に支障は出ないようになっている」

 

「そうですか。それは有難いですね」

 

 これで懸念材料はありませんね。

 

「では、君はここに残って生活するという事でいいのかな?」

 

「はい。これからよろしくお願いします」

 

 私はこれから上司となるトレーズに頭を下げた。ここは礼儀正しく挨拶しておきましょう。そうすれば印象がいい筈です。 

 

 こうして私は監察軍に留まることになり、マクロス世界ではコピーロボットが水蓮寺ルカとして生活する事になった。




解説

■トレーズ・クシュリナーダ
 監察軍の総司令官。『トリッパー列伝 トレーズ・クシュリナーダ』で登場した転生型トリッパー。
 諸事情によりトリッパーという感じではなく、原作そのまんまのエレガントな方になっている。

■コピーロボット
 監察軍のかかわるトリッパーたちが割と愛用している一品。それだけに色々と改良されている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5.覚醒

「ライブコンサートですか?」

 

「うん、今日は私のライブなんだよね。よかったら見に来てよ」

 

 原作開始の四年前。監察軍に関わるようになって一年が過ぎた頃、私は最近歌手仲間として仲良くしているランカにそう誘われていた。と言っても私は現世ではまだ歌手としてデビューしていませんよ。あくまでその手の自己練習をしているだけです。

 

 まあ、連日エクスギア(可変戦闘機を操縦する為のパワードスーツ兼脱出装置)や可変戦闘機の操縦訓練に明け暮れつつも、その合間に歌やダンスのレッスンをしている現状ですから、歌手として活動する暇がないのです。

 

「そうだね。じゃあ見に行くわ」

 

 これまでは時間に余裕がないためランカのライブを見に行った事はありませんでしたが、誘われた以上は行かないとね。それに一度位はランカのライブを見ておきたかった。何か参考になるかもしれないしね。

 

 そう考えた私はその日、ライブを見に行くことにした。

 

 ちなみに監察軍本部にはコンサート会場もあります。普通に考えれば必要ないと思うのですが、監察軍の場合は、娯楽が物足りないという切実な問題があります。これは監察軍の後ろ盾となっているブリタニア帝国では漫画やアニメなどサブカルチャー発展していないのが原因です。

 

 この娯楽不足はなまじトリッパーたちが現代日本を知っている者ばかりで目が肥えている災いして、トリッパー達が自分達で作った同人誌を見せ合う程度では満足できません。そこで、ランカが監察軍で娯楽の一環として、監察軍のコンサート会場でライブを頻繁にやっているわけです。

 

 総司令官トレーズもトリッパー達のガス抜きとしてランカを積極的にサポートしています。そうでもしないとトリッパーの不満がたまってバカな事をしかねないと懸念しているわけです。これは考えすぎではなく実際バカな行動をしでかしたトリッパーがいて、問題になっているから笑えない話なんですよ。

 

 この為、私もトレーズからそのうち歌手デビューしてライブをやって欲しいといわれています。まあ、余裕がないので今はできませんが、歌手として必要とされているというのは悪い気はしませんし、得点稼ぎにもなるでしょうから検討には値しますね。

 

 余談ですが、ランカはブリタニア帝国でも歌手として活動をしており、ブリタニア人の中にも彼女のファンが大勢います。これを聞いた時は、ブリタニア帝国は外国人にも門を開いていたのかと思ったのですが、これには黒い大人の事情というものがあります。

 

 実はブリタニア帝国は帝政国家なので、臣民が政治に関心を持って政府にあれこれと要求してくるのは甚だ都合が悪い。そもそも民主主義国家とは根本的に違うので、ブリタニアでは政治は選ばれた優秀な人材でやる事なのです。だからファンタジー、恋愛、芸能、スポーツなどに臣民の関心を向けさせるわけです。

 

 その為にマスメディアを使っての宣伝工作は当然しています。ちなみにブリタニアには報道の自由なんて物はありませんから政府の許可も無しにマスコミが政策を批評することはできません。(もし、そんな事をすれば物理的に首が飛びます)

 

 そういうわけで、その手の工作の一環としてランカは外国人歌手としてブリタニアの芸能界で活躍していますよ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

『みんな抱きしめて! 銀河の果てまで!』

 

 ランカの言葉とともにイントロが流れていく。

 

 監察軍本部に存在するコンサート会場でランカ・リーのライブが開催されていた。今、流れているのはランカの持ち歌の一つ”星間飛行”です。

 

 星間飛行を歌っているランカが全身に緑色の光を纏っている。これは歌エネルギー理論を利用した歌エネルギー変換システム(専用マイク)を使っているからです。

 

 えっ、歌エネルギー変換システムは専用ジャケットではないのかって? 確かに『マクロス7』でバサラ達が使っていたのはそうですよ。でもそれじゃ見た目が良くないじゃないですか。だから監察軍ではそれを改良しています。

 

 ぶっちゃけるとランカがそう要望しただけですけどね。

 

 しかし、これは本当にすごいよ。ライブで目立つという見た目だけではありません。スピーカーから発せられている音がよりリアルで、臨場感が著しく向上しています。

 

 これが歌エネルギー理論ですか。これは使えます。

 

 実は私の転生特典はアニマスピリチアです。つまりバサラと同じ能力がある。

 

 だから私もバサラと同じことができる訳です。サウンドビームとか出してみたいよね。マクロスの醍醐味だよ。

 

 ランカが「キラッ!」と言うと観衆にも受けていますよ。流石はランカです。才能もありますが努力もしてないとここまでできません。

 

 まあ、努力なら私も負けず劣らずやっていますよ。

 

 本当に楽しそうな歌声です。その歌声を聞いていると私も嬉しくなる。なにか心にビンビンと来ます。そう、私が転生前に感じたアイドル達に対する憧れの気持ちを思い出しました。

 

 私は一度目や二度目の不幸で大切な思いを忘れてしまっていたのかもしれませんね。

 

 今までの私はアイドルを諦めてしまったけど、地球の危機を救う為に仕方なく歌手として活動しようとしていました。でも、それじゃ駄目なんです。私の歌を私の心をゼントラーディの人たちに伝えていかなければならない。本当に目から鱗が出る思いです。

 

 考えてみればゼントラーディも哀れなものです。プロトカルチャーに戦闘マシーンとして製造されて思考制御されているから正常な行動が出来ずにただ戦い続けるだけの存在ですから。

 

 そもそも彼らが戦っているのは元を質せばプロトカルチャーの代理戦争の為でしかなく、そのプロトカルチャーが滅びた以上戦う理由も必要もない。それにも関わらず彼らはプロトカルチャーに強化された闘争本能に振り回されて暴走しているだけです。

 

 その様な不毛な生活など終わらせるべきでしょうね。いえ、私の歌で終わらせてあげる。

 

 だから、私の歌を聞けぇぇぇーーー!




解説

■エクスギア
 EX-ギア(マクロスF)を参考に、IS世界の技術を取り入れてISとして魔改造された代物。
 可変戦闘機を操縦するためにインターフェース兼脱出用の飛行パワードスーツであることには違いはないが、性能が桁違いに向上している。

■ランカ・リー
 監察軍に所属するトリッパー。ルカが歌に特化しているのに対してランカはチートな転生特典をいくつも保有していて何気に超人染みたアイドル。

■歌エネルギー理論
 ドクター千葉(マクロス7)が研究していた理論で、大雑把に言うと歌の持つ力を最大限に引き出して活用する理論。洗脳の解除や植物の生長促進などの効果がある。

■専用マイク
 ランカが使っている歌エネルギー変換システムを搭載した特殊マイク。これによって服装の制限がなくなっている。

■アニマスピリチア
 熱気バサラ(マクロス7)が持っている特殊なスピリチア。これの保有者は常人離れした歌エネルギーを持つようになる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6.引越し

 原作開始三年前。西暦2006年に水蓮寺一家が南アタリア島に引っ越しする事になりました。

 

 この南アタリア島とは小笠原諸島の南端に位置する島で、1999年7月に外宇宙から飛来した異星人の巨大宇宙船が落下した島です。

 

 宇宙船落下後に、この南アタリア島はマクロス修復の為に労働者や軍関係者が生活する市街地が作られた。更にそれらの人々を対象としてサービス業の民間人が入植しました。ちなみにうちの両親はこのサービス業をやっています。

 

 こうして私を含めた家族はめでたく原作が始まる南アタリア島の島民になりました。といっても南アタリア島に実際に住むことになる水蓮寺ルカは私ではなくて、コピーロボットだけどね。

 

 なんでこうなったのでしょう? いくらなんでもマクロス進宙式がある島に入植する事はないでしょう。

 

 これは死亡フラグというやつですか。それともご都合主義という事でしょうか。本当にどうなっているんでしょう。

 

 いや両親が商売の機会を求めて入植したのはわかりますよ。その商魂のたくましさは結構ですが、なにも南アタリア島はないでしょうに。

 

 いや、待て待て。逆に考えてみましょう。確か原作では地球人は100万人しか生き残っていません。その内枠を考えてみるとマクロスにいた軍人と民間人合わせて10万人と、地球にいた90万人です。確か当時の地球には約100億人いた筈なので、その中の僅か90万人しか生き残っていないという結果でした。

 

 こうして考えてみると、南アタリア島民の生存確率は悪くない。いや地球上にいるよりは遥かにマシかもしれません。

 

 勿論、私の原作介入がちゃんと成功するなら他の場所の方がいいでしょう。しかし、成功確立は高いとはいえない今では、反対するべきか悩む所ですね。

 

 第一反対するとしてもその理由は言えない。まさか「あの島に異星人が攻めてくるから危ない」なんて言うわけにはいきません。私は精神病院にぶち込まれたくありませんよ。

 

 仕方ありませんね。ここは運に期待するとしましょう。こういう場当たり的に対応は好きではないけどね。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 こうした地球のトラブルもありましたが、監察軍では割と順調に進んでいました。

 

 歌エネルギー変換システムを使った当初は一万チバソングもありました。(熱気バサラでも最初は三千チバソング)

 

 目標は原作開始までに二十万チバソング超になることです。熱気バサラもできたことなので私も不可能ではありません。私だってアニマスピリチアを持っているのです。

 

 そうそう、バサラは銀河に向かって歌を歌っていましたが、トリッパーである私は三千世界に向かって歌を歌ってみましょう。

 

「無限の世界よ。私の歌を聞けぇぇぇーーー」って、いいと思いますね。うん、燃えて来たよ!

 

 

 

 現在は可変戦闘機を操縦する為にエクスギアを参考に特殊な飛行パワードスーツを製作しています。何でエクスギアを使わずにわざわざ新しく作るのかですか? それはぶっちゃけると見た目が良くないからです。

 

 あれって、IS(インフィニット・ストラトス)の一種なんですが、宇宙服に装甲を付けたゴテゴテした外見なんですよ。それだけにライブに使うのはちょっとね(汗)。

 

 まあ、ISだから別に宇宙服みたいな感じでなくてもシールドエネルギーさえあれば宇宙空間でも生存可能です。

 

 だから宇宙服みたいな気密性の高い格好である必要はなく、アイドルが使うステージ衣装のような外見のISでも宇宙空間で活動可能です。元々ISはそういう物ですから。

 

 最もその場合、シールドエネルギーがなくなると死亡してしまうから、いざという時の生存率は下がりますね(汗)。

 

 それと私が使う機体ですが、可変戦闘機ルシファーに決定しました。このルシファーというのはVF-27(マクロスF)を原型としているブリタニア帝国の機動兵器です。

 

 私としては旧式のメサイアでも良かったのですが、機種変更が進んでいたので、メサイアは生産が打ち切りになっています。だから選択の余地がなかった。

 

 最もブリタニア軍はあくまで兵器として扱うのに対して、私はライブの小道具という扱いなので、ブリタニア軍と私ではルシファーの使い道が違いすぎる。だから専用の改造はしました。

 

 具体的には肩部のミサイルランチャーを廃止して、小型のフォールドスピーカー(マクロスF)を搭載している。

 

 次にビームマシンガンなどの武装の代わりにスピーカーポッド(弾体に内蔵されたスピーカー)を撃ち込むランチャーポッドを装備しているが、これは空気が無い宇宙空間で周囲の機体や構造物などの中に音を伝達するための装備だ。

 

 また、サウンドブースターを換装装備としており、量子変換によって切り替えが瞬時に可能となっている。というふうに本当に色々やっていますね。

 

 ここまで記載すれば一目瞭然ですが、このルシファー・ルカカスタムは熱気バサラのファイアーバルキリーを参考にしています。というよりも殆どそれのパクリですね。

 

 それだけにブリタニア帝国軍のパイロット達からはゲテモノ扱いされていますよ。これはライブ機能と見た目重視で生存率の低いISも同様です。

 

 これはルシファーからトロニウム・バスターキャノンやレールガンなどの武装もオフミットした所為でもありますが、軍用機ではないので別にいいですよ。




解説

■シールドエネルギー
 エクスギアに採用されているIS世界の技術で、宇宙空間でもパイロットの生命活動を守る機能があり、強力なGも防いでくれる。シールドバリアーを展開しており、それが破られパイロットの生存が脅かされる攻撃を受けると絶対防御が展開されてパイロットを守る機能があるがその防御にも勿論限度があり、それを上回る攻撃を受けるとパイロットは死亡してしまう。

■メサイア
 元ネタはVF-25(マクロスF)で、ブリタニア帝国で千数百年もの間使われていた可変戦闘機。元々の設計が優れていたので改良に改良を重ねて長きに渡って使われていたが、現役引退となり、現在では旧式機として使われる機会が少なくなっている。

■ルシファー
 元ネタはVF-27(マクロスF)で、ブリタニア帝国で使われている主力可変戦闘機。ISやガンダムWなどの様々な世界の技術を取り入れており、一般兵が扱う量産機でありながらチートスペックを誇る。

■換装装備
 ルシファーに使われているIS世界の技術で、オプションパーツを量子変換してデータ領域に格納しており、装備の出し入れや切り替えなどが瞬時に可能になっている。

■ミサイルランチャー
 ルシファーの肩部や足部に搭載された火器。従来はミサイルを装備すれば火力が上がるものの、その分機体の重量が増加してしまい、被弾時にはミサイルが誘爆してしまうリスクも伴っていた。しかし、ルシファーはデータ領域を応用してミサイルを使用するときのみデータ領域からミサイルを実体化させて使用するという手段を取ることで機体の軽量化とダメージコントロールの改善に成功している。また、データ領域にミサイルを事前に入れておけば一度の出撃でミサイルを何回でも使えるという利点もあって火力も大幅に向上している。

■トロニウム・バスターキャノン
 バンプレイオス(第三次スーパーロボット大戦α)のハイパー・トロニウム・バスターキャノン(天上天下一撃必殺砲・改)を監察軍で改良したトロニウム・エンジンのトロニウムエネルギーを加えて発射するルシファー最強武器。ブリタニア帝国軍ではこのトロニウム・バスターキャノンは火力こそ大きいものの武器が大きすぎて本体の機動性を損ねてしまう為通常は装備せずに、ここぞというときにデータ領域から呼び出して使うという、まさに必殺技としての運用がなされている。

■レールガン
 砲弾を電磁加速して放出する武器。ディストーション・フィールドを展開するルシファーには並大抵のビーム兵器では有効ではないためどうしてもレールガンやミサイルのような質量攻撃が必要になってしまう。その為、ルシファーの標準装備としてデータ領域に入れる事になっている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7.マクロス進宙式

 西暦2009年2月。とうとうマクロスの進宙式の日が来ました。

 

 長かった。本当に長かったよ。この五年間本当に苦労しました。

 

 今の私は花も恥らう十五歳の美少女です。「三回も転生しているから十分にオバサンだろ」という意見もあるかもしれませんが、少なくともそういうのは私達の間ではタブーですよ。なにしろブリタニア帝国だって、上層部では見た目は美少女でも実は高齢者という人ばかりですし、監察軍のトリッパーたちだって前世の分だけ精神年齢は高い。

 

 だからみんなそういうことは言いません。それがマナーです。

 

 ちなみに私は十五歳の誕生日にゴッド・ブレス(BLACK CAT)という特殊なナノマシンを打ち込んでいます。それの効果によって私は老化しませんし、脳に損傷を受けない限りは致命傷でも即座に修復されます。

 

 これからはまさに命がけですから、怪我ぐらいはなんとかしないといけません。ちょっとした負傷で死亡するなんて事になったら私も困ります。

 

 まあ、ついでにいえば歌手として全盛期の肉体を保ち続けたいという思いはありますよ。いくら無限転生で、不滅の存在になっていても老化するなんて嫌です。老いる事のない永遠の美少女。これはアイドルの偶像にぴったりです。

 

 

 

 さて、私は現在最後の仕上げの為に南アタリア島にいます。今日はこの島はお祭り騒ぎで、観光客もたくさん来ています。

 

 そんな島で私は人目を避けつつ人形と接触した。私の目の前にいる人物は、私そっくりです。いうまでもなくこれは私を模倣したコピーロボットです。

 

「じゃあ、記憶を回収するわ」

 

「はい」

 

 私の命令にコピーロボットは従い、私はコピーロボットとおでこをくっつけた。それでコピーロボットが取得したこの数ヶ月分の記憶が私に流れ込んできた。

 

 何度やってもこれには違和感がありますね。でもこれをしないと記憶がない事で不備が発生しかねない。だからそれを怠るわけにはいきません。

 

 こうして回収した記憶を確認するが、これといった問題はないようですね。ごくごく平凡な生活をしていただけみたいです。

 

「これまでご苦労様。じゃ解除するわ」

 

 そういって私がコピーロボットの鼻を押すと、それは小さなのっぺらぼうの人形に戻った。

 

 ちなみにこのコピーロボットは改良が行われており、使用者専用の調整されている。つまり予め設定した人物以外は鼻を押せないようにロックがかかっており、不足の事態に対応していた。また自我はちゃんと存在するものの主人には絶対服従するようになっており、主人に逆らうなどという面倒は発生しないようになっていた。つまり本当の意味で人形だった。

 

「これでコピーロボットも必要ないね」

 

 私は小さな人形に戻ったコピーロボットを小脇に抱えた。

 

 実はこのコピーロボットには欠点がある。主人の模倣であるから主人の能力をある程度使用できるが、人外な能力は無理で、あくまで一般人の範疇に納まる範囲なのだ。

 

 当然ながら、トリッパーの転生特典などは複製できない。だからこのコピーロボットは歌ではアニマスピリチアの能力を持つ私に劣るわけです。それでも私の素の才能と経験を持っているから、並みの歌手など相手にならないけどね。

 

 私はコピーロボットをこれ以降も使用するか検討しましたが、良く考えるとこれ以上は使えません。

 

 私はこれからゼントラーディ軍、より詳しく言えばボドル基幹艦隊の人たちを説得しなければならない。となると私が地球にいたりマクロスにいたりすると、水蓮寺ルカが二人いると思われてしまいます。

 

 コピーロボットはアリバイ作りのための物ですが、この場合はアリバイがある事自体が不味いです。下手をするとコピーロボットの事がばれるかも知れません。

 

 だから両親にいらぬ心配をさせてしまう事が分かっていてもこうするしかありません。まったく、ままならぬものですね。

 

 

 

 そう考えている内にマクロスが勝手に動き出した。エネルギーを蓄積して、宇宙に向けて主砲を発射しました。多分、いえ確実にゼントラーディ艦隊の接近を感知して自動防衛システムが勝手にゼントラーディ艦隊に主砲を発射したわけです。

 

 やはりこうなりましたね。本当は歴史が変わることを期待していたんですが。これで第一次星間大戦が勃発しました。

 

 それにしても統合軍も迂闊ですね。拾い物を安易に使った挙句にこれですから。

 

 そういえば、いくらブービートラップに引っかかったとしても統合軍の軍艦であるマクロスがゼントラーディに先制攻撃を仕掛けて異星人と戦争になったという事態は極めて不味いでしょう。

 

 原作では事実が発覚して地球統合政府や統合軍に対する責任追及がされる前に、政府や軍が文句言う民間人諸共消滅してしまったので、うやむやになったみたいですが、そうならなかったら首が一つ二つ飛んだぐらいではすみませんよ。その場合マクロス艦長ブルーノ・J・グローバル准将は真っ先に槍玉に挙げられていたのは間違いない。

 

 案外、異星人と戦争状態になったことを隠蔽したのはパニックを恐れてではなく、上層部が責任追及されるのを恐れたからじゃないのか?と邪推したほどですね。うむ、ありえそうで怖いね。

 

 もし、その通りならとばっちりで死亡扱いされたマクロス市民は本当に哀れですね。まあ、原作では彼らの大半が生き残っているので生きていられただけマシかもしれませんが。

 

「では、そろそろ行きますか」

 

 その言葉と共に水蓮寺ルカはその場から転移した。




解説

■水蓮寺ルカ(すいれんじるか)
 身長149cm。外見は水色の髪の十五歳の美少女。三度も転生しているが、いずれも水蓮寺ルカとして転生している。これは無限転生という特典の影響でそうなっている。特典や能力は歌に特化しており、アイドル歌手としての能力は超一流。また歌や踊りだけでなく、演技力、作詞作曲、社交術などアイドルとして要求されるであろう事はきわめて高い能力を持っている。これは一度目の転生の際に受けた英才教育とその後の自己練習の積み重ねで得た努力の成果。このように彼女は転生特典を持つ転生者には珍しく、血がにじむような努力を惜しまない人物である。

 転生特典
 1.アニマスピリチア(マクロス7)
 2.不幸体質の改善
 3.無限転生

■見た目は美少女でも実は高齢者
 ブリタニア帝国の貴族は吸血鬼で、不老長寿なので見た目と実年齢が一致しない。

■ゴッド・ブレス
 クリード(BLACK CAT)が使用した不死のナノマシン。宿主の老化を止めるだけでなく明らかに致命傷の傷だろうが手足がなくなろうがすぐに再生するというチートな代物。しかし、脳の再生だけはできないので、脳を破壊されたら死んでしまう。手っ取り早く不老長寿になれるのでルカだけでなく他のトリッパーたちも使用する者が多い。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8.戦場ライブ

 ブリタイ艦隊と交戦する事になったマクロスは、地表付近でフォールド行い南アタリア島にいる人々を巻き添えにして、冥王星付近にまでフォールドしてしまう。しかし、こうして見ると本当に無茶な事をしますね。

 

 ブリタニア帝国の技術ならばともかく信頼性が欠片もない拾い物でそんな出鱈目な行動をするなんて自殺行為ですよ。

 

 ホシノ・ルリから両親の生態パターンがマクロス艦内で確認されたと連絡が来ました。やはりシェルターに避難してフォールドに巻き込まれた所をマクロスに回収してもらいましたか。とりあえず一安心です。

 

「ではルリさん。手筈通りにお願いします」

 

『わかったわ』

 

 私はナデシコCに乗っているルリと通信を行い最終的な打ち合わせをしていた。

 

 本当は単独でやるつもりでしたが、いくら全周波通信で歌を流してもブリタイ艦隊全員に歌が聞こえるわけではありません。空気がない宇宙空間だからフォールドスピーカーで広範囲に歌を届かせるという手段が使えないのが痛いですね。これが大気圏内だったら楽でしたよ(溜息)。

 

 折角、私のマクロス世界での初ライブです。(監察軍ではライブはすでにやっている)

 

 だから聞いていない人がいると困ります。何としてもブリタイ艦隊の人たちには全員聞いて貰います。その為にルリのナデシコCが事前に冥王星近郊に待機していた。

 

 さてと、ブリタイ艦隊の座標は確認しています。すでにデータ領域から換装装備のスーパーフォールドブースターを呼び出して装着しているのでこれからフォールドします。

 

 

 

 こうしてデフォールドした地点はブリタイ艦隊の上方です。デフォールドしたので用済みになったスーパーフォールドブースターを瞬時にデータ領域に戻します。

 

 いきなりフォールドしてきたルシファーにブリタイ艦隊は慌てて迎撃に入った。

 

 ゼントラーディ艦隊の誘導収束ビーム砲や迎撃に回ったリガードの中口径荷電粒子ビーム砲や小口径レーザー対空機銃が発射されたが私はそれを軽々とかわした。

 

 このルシファーはシールドエネルギーによって強力なGからパイロットを守れる強みを活かして、機械的限界までポテンシャルを追求した急激な機動性を誇る。またルカはイメージ・インターフェイス(IS 〈インフィニット・ストラトス〉)で思考をダイレクトに機体に伝えて操縦することが出来る上に、ハイパーセンサー(IS 〈インフィニット・ストラトス〉)によって機械よりも早く判断でき、ゼロシステム(新機動戦記ガンダムW)による未来予測などを駆使して異様なまでの回避能力を発揮させていた。

 

 それにルシファーは防御力でも優れており、例え攻撃が命中したとしても荷電粒子ビーム砲やレーザー砲では、ルシファーが展開しているディストーション・フィールド(機動戦艦ナデシコ)を破る事はできない。おまけにエネルギー転換装甲(マクロスF)で強化された超合金ニューZα(マジンカイザー)という化け物じみた装甲を採用しているので、フィールドを突破できたとしてもルシファーを撃破するのは難しいだろう。

 

 暫く回避していると、いきなり敵艦隊の動きが止まった。それはルリがブリタイ艦隊のシステム掌握を行ったからだ。手順どおりに私は全周波通信を開く。

 

「さあ、ゼントラーディのみなさん、私の歌を聞いて下さい!」

 

 私はゼントラン語でブリタイ艦隊の人たちにそう言う。事前にゼントラン語を学習装置で頭に入れておいたので会話は問題ありませんよ。歌う曲名は<僕ら、駆け行く空へ>。この曲は映画『ハヤテのごとく!』でのルカの持ち歌で、いい曲なので本当に好きですよ。

 

 ちなみに私の歌はブリタイ艦隊に存在する全ての艦艇と戦闘ポッドの通信機から流れている。更に艦艇の各部に存在するスピーカーから全艦艇のあらゆる場所に歌が聞こえるようにしています。

 

 さあ、ライブスタート!

 

 

 

ブリタイside

 

 先ほど攻撃した艦がこれまで相手にしていた敵とは全く違うことに気付いた事から殲滅せずに様子を見ることにしていたが、いきなり艦隊の近くにデフォールドしてきた機体に驚いた。

 

 細かい形状は異なる物の、それは先ほど戦ったマイクローン達の機体と共通点があった。しかし、それは戦闘ポッドほどの大きさにも関わらず単独でフォールドしてきたのだ。その機体は迎撃に出たリガードの攻撃を容易く回避し続けていた。

 

 そうしていると、いきなり艦が制御不能になった。

 

「司令! 駄目です。動きません!」

 

「どういうことだ!」

 

「艦艇だけでなく、戦闘ポットも制御不能になっています!」

 

 ノプティ・バガニス5631は現在大混乱になっていた。それもそうだろう。いきなり全艦隊が制御不能になったのだから。

 

「どういうことだ?」

 

「敵の攻撃と見るべきでしょう」

 

 ブリタイの呟きにエキセドル記録参謀は冷静に答えた。確かにそうとしか考えられない。

 

「敵機から通信が来ています」

 

「なに?」

 

 それは強制的に開かれた通信には敵機のパイロットと思われる少女が映っていた。

 

『さあ、ゼントラーディのみなさん、私の歌を聞いて下さい!』

 

 そうして流れ出した声を聞いていると、今まで感じたことのない不思議な気持ちになる。なんだ、これは?

 

「う、うおおおっーーー!?」

 

「ヤック・デカルチャー!」

 

「ヤック・デカルチャー!」

 

 気が付けば回りの兵士達は異様に興奮していた。こ、これは一体どうなっているのだ?

 

 ブリタイは混乱するなか、ブリタイ艦隊は熱狂の渦に包まれていった。

 

 

 

ルカside

 

 私は<僕ら、駆け行く空へ>を歌い終えましたが、まだまだ続きますよ。

 

「さあ、みんな。まだまだいくよーーー!」

 

 次は<Forever Star>です。私が歌いそれがブリタイ艦隊全体に伝わっていきます。

 

 私の歌がブリタイ艦隊の人たちにカルチャーショックを与えているのは分かっています。何しろ、私は歌エネルギー変換システムを使っているので彼らのスピーカーから流れる歌はよりリアルで臨場感が溢れるものでしょうからね。

 

 観客には最高の歌を聴かせて上げるのも歌手の務めですね。こうして私はノリノリで歌い続けた。

 

 

 

 後年において、この敵艦隊にバルキリーで突撃して歌を歌うという常識外れな行動は、『水蓮寺ルカ物語』においても語られることになり、後の熱気バサラの戦場ライブも水蓮寺ルカが原型になっているといわれるようになった。

 

 まあ、実際はバサラが戦場ライブの本家本元であったが、それは誰にも知られることはなかった。




解説

■ホシノ・ルリ
 機動戦艦ナデシコの世界に転生したトリッパー。(トリッパー列伝 ホシノ・ルリ参照)監察軍に所属しているトリッパーの中でもハッキング能力に長けており、特に艦隊戦闘などの集団戦闘では破格の能力を持っている。

■ナデシコC
 劇場版機動戦艦ナデシコに登場した戦艦を元ネタに監察軍で魔改造された三千世界航行艦。バイドの旗艦として使うことを前提にしているので色々と汚染させている。

■フォールドスピーカー
 フォールド波を利用して広範囲に音を伝えるスピーカー。ルカの機体に搭載している特殊装備で、原作ではVF-25(マクロスF)で使用されたことがある。

■データ領域
 IS世界の技術で武器やオプションパーツを量子変換して格納する事ができる。これを利用することで武装やオプションパーツを瞬時に切り替えられる。

■スーパーフォールドブースター
 マクロスFで登場したフォールド断層をダイレクトに越えるだけでなく、タイムラグなしでフォールドできるというチートな装備。ルカのルシファーのオプションパーツとして使われている。

■リガード
 ゼントラーディ軍が使用している標準的な戦闘ポード。ボールに二本の足がくっついたような極めてシンプルな形状をしており、武装はレーザーやビームが主体。

■ゼロシステム
 ウイングガンダムゼロ(新機動戦記ガンダムW)に搭載されていたコクピットシステム。原作のゼロシステムは危険すぎるので、一般兵士が扱えるように改良が施されたゼロシステムVer.2.5(新機動戦記ガンダムW~ティエルの衝動~)をベースに改良しているゼロシステムを採用している。

■ディストーション・フィールド
 エステバリス(機動戦艦ナデシコ)に使われているバリア。レールガンやミサイルなどの質量攻撃には弱いがレーザーやビームなどにはかなり効果的。

■超合金ニューZα
 マジンカイザーの装甲に使用されている超合金。『スーパーロボット大戦F完結編』で初出し、後に『マジンカイザー』というアニメでも登場した。マグマの熱にも耐え、衛星軌道上からの落下の衝撃にも無傷と言う破格の防御力をマジンカイザーに与えていた。作中でもボディに傷一つ付いてないことから、超合金Zや超合金ニューZをさらに上回る桁違いの防御力を誇る。

■エネルギー転換装甲
 エネルギーを流すことで、強度が上昇する装甲で、超合金ニューZαの強度を高めるのに使用されている。これによってルシファーの装甲とメインフレームの強度が上がっている。

■学習装置(テスタメント)
 とある魔術の禁書目録の世界で使われている脳に直接知識を書き込む装置。

■僕ら、駆け行く空へ
 水蓮寺ルカが歌った劇場版ハヤテのごとく!のオープニング曲。

■Forever Star
 劇場版ハヤテのごとく!の挿入歌。

■水蓮寺ルカ物語
 戦後に放送されたドラマ。これによってルカの不信点が山ほど出てきた(汗)。それに対してルカは「女の子は秘密が多いほうが魅力的ですよ」とコメントしている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9.謀略

 マクロスで登場するブリタイ・クリダニクは、ゼントラーディ軍第118基幹艦隊(ボドル基幹艦隊)所属の第67グリマル級分岐艦隊司令で、エキセドル・フォルモはゼントラーディ軍のゼム一級記録参謀でブリタイ・クリダニクの補佐官的存在。この二人に共通している事はTV版と映画版では外見が大きく違うことである。

 

 この二人にあってみると映画版のグロテスクの外見でした。そもそも原作でもゼントラーディの設定変更があったからこうなったのでしょうね。話を聞く限りではボドル基幹艦隊総旗艦も劇場版で登場したボドル機動要塞みたいです。まったくマクロスみたいに設定変更が行われたりすると、私みたいなトリッパーは原作知識があやふやになってしまって大変なんですよ。

 

 まあ、それはいいですけど、原作でこの二人がいたブリタイ艦隊はマクロスに度々戦いを仕掛けて苦しめていたが、未だにマクロスには何もしていなかった。それ所ではなくなったからだ。

 

 

 

「みんな、今日も私のライブに来てくれてありがとうー」

 

「うおー!」

 

「ルカちゃんー!」

 

「じゃあ、今日の最初の曲は<善き少女のためのパヴァーヌ>です」

 

 前奏が開始されて私は歌を歌いだした。

 

 あの熱狂の戦場ライブから三日。あのライブでは10曲も歌って、熱狂の中で終わりましたよ。

 

 それとライブ終了後はルリにシステム掌握を解除してもらいました。元々ライブを聞かせるためにシステム掌握しただけなので、もう十分だったのです。

 

 その後、私はブリタイ艦隊旗艦ノプティ・バガニス5631に乗り込んで、ゼントラーディの方々と交流を持つようになりました。これは危険な賭けでしたが、ライブで私のファンになったという方が多かったので、問題なくいけましたね。

 

 こうして、ノプティ・バガニス5631でライブをやっていますよ。私のライブはゼントラーディの方々からすごく好評で、これだけ喜ばれると歌手として歌いがいがありますね。

 

 ちなみに私の衣装のデザインは『劇場版ハヤテのごとく!』の水蓮寺ルカの衣装と同じです。どうみてもアイドルのステージ衣装にしか見えませんが、これが私のISです。

 

 これを着用することでルシファーの遠隔操作(といってもある程度の範囲)が可能となる。この機能を使ってルシファーのフォールド・スピーカーから歌のカラオケを流して、更に私のマイク(歌エネルギー変換システム)から伝わった歌声を周囲に聞こえさせています。

 

 今の私は全身に水色の光を纏っているが、これは歌エネルギー変換システムの効果です。さて、じゃんじゃん歌うよ。

 

 

 

ブリタイside

 

 ブリタイ・クリダニクは水蓮寺ルカのライブ(何でも歌手が生で歌を人に聞かせるのをそういうらしい)とやらに参加している部下達が歌に熱中している様子を見ていた。

 

「エキセドル、お前はどう思う?」

 

「そうですな。幻の反応兵器に、地球人とかいうマイクローンが住む惑星。これは最早我らだけで何とかできる状況ではないでしょう」

 

「そうか、やはりボドルザー閣下の指示を聞く必要があるな」

 

「その通りですな。しかし、ボドルザー閣下は慎重なお方です。通信だけで済ませるよりも直接行ってはどうでしょうか?」

 

「うむ、確かにあの艦を使っているのが敵ではなく地球人ならば判断が難しいな」

 

 ブリタイは敵艦があの星に降下したことを突き止めたために、あの星に敵が潜伏していると判断していたのだ。しかし、ルカが言うには実際にはあの艦は無人で落下しており、その後地球人がそれを修復して使っていたらしいが、敵があの艦に仕掛けていた自動防衛システムの所為であの艦が勝手に動いて我が艦隊に主砲を撃ってきたらしい。

 

 ちなみに二人はノプティ・バガニス5631に乗り込んで来たマイクローン”水蓮寺ルカ”に当然ながら様々な尋問をしたが、帰ってきた答えは「戦争をしない民間人」とか「歌手」とか訳の分からない事ばかりだった。詳しく聞こうにも「貴方達ゼントラーディと私達地球人では価値観や考え方がまるで違うから理解できるように説明するのが難しい」と言われた。

 

 かろうじて理解できたのが、戦わない民間人とやらの中には歌を歌う歌手という仕事をしている者がいて、ルカがその歌手をしているという事ぐらいだろう。

 

 何でそれが理解できたかというと、ルカがこの三日間というものブリタイ艦隊あちこちでライブをやっていたからだ。ルカはノプティ・バガニス5631だけでなく他の艦にも乗り込んでライブをやっていた。

 

「しかし、あのマイクローンは何を考えているのでしょうか?」

 

「さっぱりわからん。そもそも歌手という民間人は戦艦に乗り込んでいくものなのか?」(違います)

 

「そうですな。艦隊の制御を乗っ取って強制的に歌を流していましたから、歌手というのはそこまでやるのですかな?」(違います)

 

 二人は色々と誤解をしながら、頭を悩ませていた。

 

 

 

ルカside

 

「今日のライブも盛り上がったね」

 

 ライブを無事に終えて私は大満足です。今は少々疲れた体を休ませています。

 

「そうだね。ルカちゃん」

 

「そう、そう」

 

「今日のライブも最高だったよ」

 

 そんな、私に三人のゼントラーディ人が話しかけてきた。ワレラ・ナンテス、ロリー・ドセル、コンダ・ブロムコ、この三人は原作ではマイクローンスパイになってマクロスに進入した者たちです。原作ではリン・ミンメイのファンだったのですが、この世界では私のファンになっています。原作でも思ったけど、この三人は地球の文化にちゃんと馴染んでいたから順応性は高いようです。

 

「ところで先ほどボドル基幹艦隊と合流すると聞きましたが?」

 

「うん、急な話だけどそうなったみたいだね」

 

 やはり、そうなりましたか。ブリタイやエキセドルの性格からして対処不可能な事態になるとボドルザーの指示を仰ぐ事は原作からも予想されました。しかし、そうなると私も動きづらくなる。ここは先手を打っておくべきでしょう。

 

「そういえば、ライブの記録は取れましたか?」

 

「うん、ばっちりだよ!」

 

「そうですか。ありがとうございます。ではボドル基幹艦隊と合流した後でその記録を複製して他の艦隊の人たちにも広めて下さい」

 

「それはかまわないけど、何故だい?」

 

「だって私の歌を知らないなんてもったいないじゃないですか。他のみんなにも教えて差し上げたいのです」

 

「うん、わかったよ。ルカちゃんの頼みならやってみる」

 

 私の表向きは他のみんなを思う言葉に三人は力強く頷いた。彼らはそれが何を意味するのかまるでわかっていないのだろう。

 

 私は事前にこの三人に私のライブ映像を記録して欲しいと頼んでいた。恐らくボドル基幹艦隊と合流すればボドルザーは私を捕虜として尋問して閉じ込めておくだろう。そうなると当然ながら他の艦隊でライブなどできない筈だ。

 

 しかし、この三人がライブ映像を他の艦隊にばら撒きまくれば、あっという間にボドル基幹艦隊全体に私の歌が広がり、多くのゼントラーディ人が文化に目覚めるというわけです。

 

 原作のように一部の限られた者だけが文化の影響を受けるという状況ではなく、一気にボドル基幹艦隊全体にカルチャーショックを与える。それが一番いい方法です。




解説

■善き少女のためのパヴァーヌ
 第三期アニメ版『ハヤテのごとく!』のエンディング曲。

■戦争をしない民間人
 ゼントラーディは戦うことがすべてなので戦わない者など存在しない。そのため彼らには民間人という概念自体が存在しなかった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10.プロトカルチャー

 ゼントラーディ軍第118基幹艦隊、通称ボドル基幹艦隊。原作ではこの基幹艦隊にブリタイ・クリダニク率いる第67グリマル級分岐艦隊やラプラミズ率いる基幹艦隊直衛艦隊などを含めて、総勢約480万隻の艦が所属していた。

 

 このボドル基幹艦隊に第67グリマル級分岐艦隊は任務を切り上げて帰還していた。当初彼らは地球に落下した敵艦の調査に為に活動していたが、その艦を使っているのが敵ではなく地球人だというのだからどうすればいいのか判断に迷ったのだ。

 

 おまけにそれが幻の反応兵器を有しているとなると、単純に殲滅すればいいと安易に判断すればいいわけではない。そう考える辺りブリタイの慎重さがうかがえる。

 

 これが常に好戦的に頭に血が上っているカムジン・クラヴシェラならば深く考えずに殲滅していただろう。そう考えると交戦したのがブリタイであったのはマクロスにとって幸運だったと言えた。

 

 このボドル基幹艦隊総旗艦、ボドル機動要塞はゴル・ボドルザー『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』と同じでブーメラン型の板状艦体へ、サボテン型の球形司令区画を乗せた全幅600kmの巨大要塞だった。主砲「ゴルグ・ガンツ砲」はとんでもない威力を持っていて連射も可能。各所に麾下の艦艇を補給するドック機能を備えており、ある程度の自動修復機能も持つというまさに要塞であった。まあ、これは原作知識から得ているものであるが、今一確信がないので多分と言うべきでしょうね。

 

 そういえば、ブリタイ本人は気付いていないかもしれませんが、彼は私を捕虜として扱っていません。私を拘束しないどころか、私がブリタイ艦隊のあちこちで好き勝手にライブをしても妨害していない。

 

 まあ、民間人と軍人の違いを辛抱強く説明したのもあったかもしれませんが、ゼントラーディなだけにきちんと理解できたとは思えない。となるとやはり私の影響を受けているのでしょうね。まあ、何日も私の歌を聞いているわけですから影響を受けないほうがおかしいですが。

 

 さて、ブリタイからボドルザー司令長官が直接このノプティ・バガニス5631に来ると伝えられた。やはり異星のマイクローンを要塞に直接乗り込ませるのは嫌がったようだ。

 

 それでボドルザーですがTV版のハゲ親父でした。てっきり劇場版かなと思ったけど、そうじゃなかったですね。どうでもいいですが。

 

 今回尋問に参加するにはボドルザー、ブリタイ、エキセドルの三人だけで、原作のように三人トリオはいない。これだとマイクローンスパイイベントはどうなるのかな?

 

「お前が地球とかいう星に住んでいるマイクローンか。お前達の惑星には戦わない人間が本当にいるのか?」

 

「その通りです。地球では戦うのは軍人ぐらいで民間人は戦いません」

 

「信じられん。宇宙は戦いに満ちており、戦いある場所に命があるはずだ」

 

「それは貴方達の理屈でしょう? 実際私は歌手なので戦いませんよ」

 

「歌手? 歌手とは何だ?」

 

 私の言葉にボドルザーが引っ掛かった。チョロイね。

 

「歌を歌う仕事をしている人の事です」

 

「では、歌とはなんだ?」

 

「それは説明するよりも、直接歌を聞いたほうがいいです。では一曲歌います」

 

 こんなこともあろうかと、ここにはルシファーを配置しているので道具も問題ない。というよりも最初からボドルザーを歌で説得する為に用意しておいたわけだけどね。

 

 ここで聞かせる歌は<愛・おぼえていますか>です。私は他人の持ち歌を歌うのは好きではないのですが、マクロスを象徴する歌はやっぱりこれでしょう。というよりこの歌を使わないと原作ブレイクはすごいし(汗)。

 

 さあ、思いを込めて歌うよ。

 

「おおっ、プ、プロトカルチャー!」

 

「「プロトカルチャー?」」

 

 私が歌い終えるとボドルザーがそう言い、それを疑問に思ったブリタイとエキセドルはそれを聞き返した。

 

「くううっ! だ、誰かその娘をここから連れ出せ!!」

 

 動揺したボドルザーの命令で私は部屋からつまみ出されて別の部屋に送られました。ボドルザーに直接歌を聞かせる事で理解しあおうと思ったんですがそう簡単にはいきませんね。私もまだまだ精進が足りません。

 

 面倒ですが、次の機会を待ちますか。いえ例の仕込みがどうなるかで次の動きを決めた方がいいでしょう。

 

 

 

ボドルザーside

 

 あの娘はプロトカルチャーか? あの歌とやらを聞いた時の心の震えは一体何だ? まさかこれが失われた文化というものか?

 

 だが、それが決して不快ではない。むしろ心地よいものであった。この気持ちは何だろうか?

 

 あの娘を追い出したのは、あれ以上あの娘の歌を聞いていると取り返しがつかない気がしたからだ。だからあの娘を追い出したが、それを勿体ないと思う自分がいるのに驚いた。私は一体どうなったのだろうか?

 

「あの、ボドルザー閣下。先程おっしゃったプロトカルチャーの事ですが、あの娘、水蓮寺ルカが興味深い話をしていました」

 

「何だと! どういう話だ?」

 

 聞き捨てならないエキセドルの言葉に私は反応した。

 

「はい。50万周期前にプロトカルチャーという種族がこの銀河に巨大な星間文明を築いていて、そのプロトカルチャーの調査船があの地球とかいう星に来た際に、彼らが現住生物の遺伝子を改造して作り出した人工種族が地球人なのだと言っていました」

 

「プロトカルチャーに作られた人工種族だと? ふむ、それであの地球人とかいうサンプルは調査したのか?」

 

「はい。勿論しております。調査の結果、あの娘は我々のマイクローンと骨格、細胞、遺伝子ともにほとんど同じでした」

 

「そうか、そういうことか。ではプロトカルチャーではないというのだな」

 

 ボドルザーはあの娘がプロトカルチャーではないと知り安心した。もしプロトカルチャーだとすれば、とんでもない事態になっていただろう。

 

 実はルカは、ボドルザーが地球人をプロトカルチャーと認識してしまうと、地球人の即時抹殺を実行する可能が高く極めて危険だと分かっていた。だから、地球人がプロトカルチャーに作られた人工種族であるという情報を意図的にリークしていた。勿論、後々「何でそんな事を知っていたのだ?」と突っ込まれる危険が大きいのはルカにも分かっていたが、背に腹は変えられなかった。

 

「総司令官はそのプロトカルチャーについて何かご存知なのですか?」

 

「……これから話すことは他言無用だ。破った場合は消去刑に処す。いいな?」

 

「「はい」」

 

「うむ、プロトカルチャーとは我々の遠い祖先の事だ。プロトカルチャーの時代は全ての人間はマイクローンの大きさでしかなく、男と女が一緒に生活して文化というものがあったという。しかし、プロトカルチャーの記録が失われた現在ではそれがどんなものであったかは、何もわからないのだ」

 

「では、あの娘が言っていた50万周期前というのは、プロトカルチャーの時代なのですか?」

 

「恐らくそうだろうな。それにそれなら我々のマイクローンと地球人が同じなのも納得がいく」

 

「確かに双方共プロトカルチャーを起源にしているとなるとそうでしょうな」

 

「そうだな」

 

 そこでボドルザーは考え込んだ。件の地球人と言う種族は幻の反応兵器を有している。その製造ノウハウを入手できれば敵との戦いでもかなり有利になるだろう。

 

 しかし、あの娘の歌とやらは気になる。地球人はプロトカルチャーではないらしいが、もしかしたら文化を有しているのではないのか? ここは暫く様子を見てあの娘をじっくり調べた方が得策だろう。そうボドルザーは考えていた。

 

 しかし、この後思わぬ事態が発生してボドル基幹艦隊を混乱の坩堝に叩き込むことになる。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11.文化

 ルカがボドルザーの説得に失敗していた頃、ワレラ・ナンテス、ロリー・ドセル、コンダ・ブロムコの三人はブリタイ艦隊から他の艦隊に乗り込んでいた。

 

 ゼントラーディ軍は軍規により男と女が同じ艦にいる事が禁じられている。基幹艦隊を構成する分岐艦隊などでさえ、男だけの艦隊と女だけの艦隊で構成されていて男と女が一緒ではない。だから男である三人は女たちの艦隊に乗り込むことはできないし、逆に女が男の艦隊に乗り込むことも出来ない。

 

 しかし、基幹艦隊の制限と言うのは実はこれだけで彼らが男の艦隊に乗り込むだけなら自由だったのだ。これを利用して彼らは水蓮寺ルカのライブ映像を他の艦隊の下級兵士たちに見せていた。

 

「これが歌と言うものか、何かいい気持ちになるな」

 

「ああ、そうだな」

 

「いや、実際に見るともっとすごいぞ」

 

「そうなのか?」

 

 下級兵士たちにロリーたちがあれこれ教えていた。

 

「ああ、こんな風に歌に合わせて踊りもしているのがライブっていうらしいが、これが生で見ると本当に気持ちよくなるぞ!」

 

「そうか、俺も見てみたいよな」

 

「俺も、俺も」

 

「それにしても、ルカちゃんかわいいな~」

 

「そうだな。俺、彼女と会ってみたいよ」

 

 兵士達は映像に映っているルカに魅力されていた。

 

「ルカちゃんは、ブリタイ艦隊のノプティ・バガニス5631にいるから彼女のライブを見に行こうぜ」

 

「おお、そうだな。ちょうど暇だしな」

 

「俺も行くぜ」

 

 彼らゼントラーディは戦闘しかしない。逆を言うと戦闘をしないときは訓練ぐらいしかやることはなかった。だから任務がない時はただ暇を持て余している状態だった。これは文化を一切持たない為に趣味を持つ事もなかったからだ。だから暇な彼らはノプティ・バガニス5631に向かっていった。ロリーたちは水蓮寺ルカのライブ映像のコピーを多くの艦隊に配布していき、それを見た兵士達はルカに魅力されていった。

 

 こうしてボドルザーの知らぬうちにボドル基幹艦隊に文化が広まっていった。

 

 

 

ルカside

 

「みんなー。今日は私のライブに来てくれてどうもありがとう!」

 

「うおぉー!」

 

「ルカちゃん!」

 

 あの三人は上手いことやっているようで、今やブリタイ艦隊だけでなく他の艦隊からも観客が大勢来るようになった。おかげで連日満員御礼状態です。ノプティ・バガニス5631でもかなり広い場所を見繕って臨時のステージを作っているが、客がゼントラーディだけに人が集まるとやたらとスペースが必要になった。

 

 このステージ作りとかはリチャード・ビルラーというゼントラーディがやってくれた。彼はブリタイ艦隊所属巡洋艦の艦長で、例の戦場ライブで私のファンになった人です。彼は地球の文化に興味津々で私に色々と聞いてきますね。

 

 そういえば私が持ち込んだ文化は歌だけですね。文化と一言でいっても実はそれは多彩なんです。地球の文化は色々あるけど、大まかにハイカルチャーとサブカルチャーの二つが主流だと私は考えている。

 

 ハイカルチャーは、学問、文学、美術、音楽、演劇など人類が生んだ文化の中でも、その社会において高い達成度を持つ。かつては貴族やブルジョア階級などの知識や教養がある少数の享受する文化であったが、現代では一般にも広まっている。

 

 サブカルチャーは、特撮、フィギィア、漫画、アニメ、ゲーム、アイドルなどのオタク系趣味を指す場合が多い。この為、私の歌もどちらかというとサブカルチャーの分類なのです。

 

 まあ、私の歌は演歌みたいなジャンルではないから、そういわれても仕方ないですね。それに水蓮寺ルカそのものが漫画の登場人物ですし、私の持ち歌もアニメで水蓮寺ルカが歌っていた物が多いですから。

 

 こうして考えてみると、お菓子とかジュースとかを持ち込むのもありだったかもしれませんね。原作ではロリーたちが持ち込んだお菓子が好評だったし、劇場版でもロリーたちは地球の飲食物に喜々としていたから、ゼントラーディは飲食物もとても貧しいのではないだろうか?

 

 いや、私個人が持ち込める量ではゼントラーディのような巨人の腹を満たすには到底足りないからどの道あまり意味がないかな。

 

 そういえば食文化というように、食事も文化の一種です。それを考えると、いい食べ物を作ろうとか、いい飲み物を作ろうという考えが、ゼントラーディになかったのは無理もないかもしれない。というかゼントラーディは戦争しかしなくて、その戦争に使う兵器でも全自動生産型のプラントで生産されていた物を使っていただけだった。

 

 これなら戦争に直結しない飲食物などは体調を保つ為に必要な栄養補給以外の何物でもなく、カロリーメイトのような味気ないものと水だけという状況なのは容易に想像できる。何というか、昔の英国よりも酷い食事事情を想像してしまいますね。

 

 えっ? じゃあ今のお前の食事はどうしているのかですか? それは事前に栄養剤を持ち込んで、それを水で飲んでいるんですよ。「それじゃゼントラーディと大して変わらないじゃないか」という突っ込みはなしです。私だって好きでそんな食生活やっているわけではありません。ゼントラーディは巨人サイズなのでマイクローン用の食事なんてないんですよ。まあ、あったとしても不味いでしょうから別にいりませんよ。

 

 勿論、ただ単にカルチャーショックを与えたいだけなら、原作でミンメイとカイフンがやったようにキスとかするのもカルチャーショックを与えるのにはちょうどいいですが、あれはアイドルとしては極めて不味い。そもそもスキャンダルでしょう? どの道やる相手もいないしやる気もないからどうでもいいか。

 

 まあ、それはいいでしょう。大体私は歌手ですから、歌で勝負するというやり方が一番です。

 

 それはそうと、こうしてリチャード・ビルラーと文化について色々と話していますが、確かこの人って『マクロスF』の登場人物だったような気がしますね。リチャードがミンメイではなく私の熱烈なファンになってしまったのは原作ブレイクじゃね?と、今更ながら思いますが、良く考えたらどうでもいいか。特に害はないでしょうし、味方は一人でも多いほうがいいですから。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12.陥落

ボドルザーside

 

「どういうことだ!」

 

 ボドルザーがあまりの事態に叫んだ。今やボドル基幹艦隊は大混乱に陥っていたのだ。

 

 切欠は彼が管理していたボドル基幹艦隊で急速に歌が広まり、地球に興味を示す者が続出した事だ。

 

 そもそもあの水蓮寺ルカとかいう地球人はブリタイ艦隊で捕虜として扱われている筈なのに今やあちこちの分岐艦隊に自由気ままに赴いてあの歌とやらを兵士達に聞かせていた。兵士達はこの歌にハマってしまい、ルカは一気にボドル基幹艦隊の人気者になってしまった。

 

 ルカは、最初はブリタイ艦隊で活動していたが、他の艦隊の人間がノプティ・バガニス5631におしよせてしまい、元々の乗組員が迷惑することになってしまったので、ルカが直接あちこちの艦隊に赴いてライブをするようになった。

 

 本来ならばこんなことはありえない。軍規を考えればルカは捕虜(ゼントラーディには民間人という概念がないので交戦状態になった地球人は全員軍人扱いになる)として扱われる。つまり監禁しておくのが当たり前なのだ。間違ってもあちこちの艦隊に行き来して好きに行動するなどありえない筈だった。

 

 これはブリタイをはじめとして多くのゼントラーディ人がルカの影響を大いに受けていたのが大きかった。それにルカは別に逃亡を図ったり敵対行動をしたりしていたわけではなかった。もし、ルカがそのような行動に出ていれば彼らもそれ相応の対処をしただろう。しかし、ルカはライブをやって兵士達に歌を聞かせていただけなのだ。これではルカの邪魔をしようとするものがでないのも無理はなかった。

 

 ゼントラーディのボドルザーは文化を知らない。それゆえ文化に対する対処方法などわきまえていなかった。それが祟り、彼が気付いたときにはかなり不味い状況になっていた。

 

 この事態を知ったボドルザーは慌ててルカの抹殺を命令したが、これが兵士達の反発を招きボドル基幹艦隊内部で暴動が起きてしまった。

 

「なんということだ。これがあの娘の本当の力なのか?」

 

 ボドルザーは頭を抱えた。このままでは基幹艦隊が内戦をやる羽目になってしまう。それほどまでに反発する兵士の数が多すぎたのだ。

 

「ボドルザー閣下、大変です!」

 

 そこの兵士が報告に飛び込んできた。また悪い報告か。

 

「全艦隊のすべての軍用回線から水蓮寺ルカの歌が流れています」

 

「なんだと、止めさせろ!」

 

 ボドルザーは慌てる。どう考えてもこの騒ぎはルカの歌とやらが原因としか思えない。そしてそんな歌が基幹艦隊全艦隊に放送されているということは……。

 

 ボドルザーは最悪の状況に顔を青ざめた。

 

 そんな状況でルカの乗るルシファーが、ボドル機動要塞のゲート部分から大型ランチャーを打ち込んだ。

 

「く、奇襲か。被害を報告せよ!」

 

「打ち込まれた大型ランチャーは起爆していません」

 

「何、不発弾か?」

 

 そんなボドルザーの疑問を他所に大型ランチャーからボドル機動要塞の隅々までルカの声が響き渡った。

 

 ルカが打ち込んだ大型ランチャーはガンポットΓ(マクロス7)だ。これは熱気バサラが使った巨大スピーカーを内蔵した対艦装備で、ルカはこれにフォールドスピーカーを内蔵させることで広大なボドル機動要塞に一気に歌を聞こえさせていた。

 

「おおっ!!」

 

「こ、これは…」

 

 ボドルザーはスピーカーから聞こえてくるルカの歌に衝撃を受けた。体の震えが止まらない。

 

「う、ううう、がぁぁーーー!」

 

 ボドルザーは潜在意識が呼び覚まされている感覚に心が震えていた。歌と言うものはこんなにも素晴らしい物なのかと彼は思い知った。

 

「ルカー! デカルチャー!!」

 

 ボドルザーはルカの歌に感激して絶叫した!

 

「うおおおーーー!」

「ルカちゃん!」

 

 ボドルザーの周りの兵士達もルカの歌に激しいカルチャーショックを受けて叫んでいた。

 

 このライブ放送でボドル機動要塞を含めたボドル基幹艦隊全艦隊が一気にルカの歌に魅力されることになった。

 

 

 

ルカside

 

「ルカさん、最高のステージでしたよ」

 

「ええ、リチャードさん、ありがとうございます」

 

 リチャード・ビルラーは、ブリタイ艦隊所属の巡洋艦艦長だ。彼は私の歌をボドル基幹艦隊が使用する全軍用回線でルカの歌を放送してくれたのだ。おかげでボドル基幹艦隊全体に私の歌が広まりカルチャーショックを起していた。

 

 あの三人のおかげでボドル基幹艦隊に私の歌が広まったのは良かったのですが、それに気づいたボドルザーが私を抹殺しようとしたのには慌てましたよ。でも、仲良くなったゼントラーディの方々がそれに反対してくれたおかげで時間稼ぎができました。

 

 しかし、このままでは内戦になりかねないので、ここで一気にやることにしました。諍いなんか起してないで、私の歌を聞けぇー、ってワケです。

 

「僕もみんなに貴女の歌を知ってもらいたかったので協力したのです。お礼には及びません」

 

「そうですか。これで、和平への道が開けますね」

 

 私の歌はボドルザーに届きました。歌で分かり合えるようになったのです。

 

 原作ではミンメイですらボドルザーをミンメイアタックで抹殺する事で戦争終結に導きましたが、私は純粋に歌で戦争を止めてみたかったのです。だからボドルザーを殺すのではなく、歌で彼と分かりあって、彼に地球の文化の素晴らしさと重要性を知って貰いたかった。

 

 どこぞの自由なニートではありませんが、殺さずという奴です。(最も彼は十分殺していたでしょうが)

 

 後は、地球の文化の素晴らしさを説明して和平を結んで地球と交流を持つように説得するだけですね。原作でもゼントラーディと地球人の交流はできていました。原作とは違い大規模な被害が出ていないだけに交流は原作に比べてそれほど難しくないでしょう。

 

 原作では地球人とゼントラーディの確執は、ゼントラーディが統合政府に反発したとか地球の文化に馴染めなかったからと言われていますが、地球人もゼントラーディに反発していたはずです。総人口約100億人を誇っていた地球人が戦後にはたったの約100万人しか生きていなかった訳で、地球が壊滅した挙句に家族、親戚、知人を失った地球人たちがゼントラーディを恨むのは当然です。

 

 原作では描かれていませんでしたが、この辺りの確執は本当に根深かったでしょう。そうでなかったらあれほど長く混乱が続くわけがありませんからね。

 

 それだけに今回は共存共栄のハードルは大きく低下しています。だからこれ以上戦火を広げることなく和平に持ち込まないといけません。

 

 でも、地球統合政府はゼントラーディと戦争状態になったことを隠しています。これでは和平交渉などやりにくいでしょう。

 

 第一マクロスにいる両親も厄介者扱いされている状況は困ります。下手をすれば口封じの為にマクロスの民間人たちは抹殺される恐れすらあります。何しろ今でも死人扱いですからね。

 

 これは計画通りに仲間に手を貸して貰うしかありませんね。ルリに事実を暴露させて世論を和平に傾ける。そうすれば当然ながら地球は混乱するでしょうが、和平を結ぶには仕方がない事です。

 

 まったく地球統合政府が事実を隠蔽なんかするから話がややこしくなるのです。彼らにはその責任はきちんと取ってもらいましょう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13.会談

マクロスside

 

 SDF-1マクロス。それは地球統合軍の象徴として扱われていた艦であった。

 

 しかし、マクロスには異星人のブービートラップが仕掛けられており、ゼントラーディとの戦争を発生させる直接的な原因となった時にマクロスの評価は一変したのだろう。更にゼントラーディ軍がマクロスのみを執拗に狙うようになるにつれて、地球統合政府はマクロスを時間稼ぎに使うようになった。

 

 このように原作では不遇を囲っていたわけであるが、この世界では冥王星近郊にデフォールドして以降は、何故か敵の襲撃などはなく順調に地球に進路を進めていた。その日までは…。

 

「艦長! フォールド反応多数感知しました!」

 

「なに敵か!」

 

 マクロス艦長のグローバル准将は、即座に警戒態勢に入った。

 

「敵数は……、嘘っ! 何これっ!」

 

 マクロスのブリッジオペレーターの一人で、主に通信・レーダーを担当していたヴァネッサ・レイアードは悲鳴を上げた。

 

「どうした! 報告しろ!」

 

「フォールド反応総数不明です。フォールド反応の計測限界を超えました!」

 

「な、何だと!?」

 

 グローバルは驚愕した。計測限界を突破した。それはフォールドしてきた敵艦の数が多すぎて計測できない状況であるということだ。

 

 ちなみに計測限界を超えるということは十万や二十万では不可能であり、敵の総数は最低でも数十万以上となる。あまりの現実にグローバルたちマクロスクルーが慌てふためく内にも艦隊は次々にデフォールドしていく。

 

「敵艦の総数が四百万隻を突破しました…」

 

「……」

 

 ヴァネッサの擦れた声が伝わると、グローバルを含めたマクロスのブリッジクルーが沈黙した。本来ならば戦闘準備するべきであるが、彼らの頭には「何に?」という疑問があったが、勿論それはマクロスを包囲する形でフォールドしてきた敵艦隊とであった。勿論、彼らに勝算などない。戦った所で圧倒的な数の敵に包囲殲滅されるのは目に見えていた。

 

「こ、これは…。艦長、敵艦隊より通信が来ています」

 

「敵はなんと言ってきているのかね?」

 

「それが、停戦を申し込んで来ています。また使者をマクロスに送ると言っています」

 

「停戦だと! この状況でか? 一体どういうことだ?」

 

 グローバルは敵の申し出に考え込んだ。ここで一気に叩き潰されると思っていたのに、この対応は一体何だ? 相手の思惑が分からない。

 

「艦長いかがいたしましょうか?」

 

「敵が何を考えているのかはわからないが、ここは受け入れるしかないだろう。この状況で断れば袋叩きにあうぞ」

 

「…わかりました」

 

 こちらが彼らに了承すると、戦闘ボッド(リガード)が一機この艦にやってきたので、それを格納庫に誘導した。

 

 

 

「大きいな」

 

「ああ」

 

 敵の戦闘ボッドから降りてきた巨人を見て、マクロスの軍人達が感想を言っていた。彼らゼントラーディと呼ばれる巨人は我々地球人のおよそ五倍もの大きさを持っていた。そんな巨人との交渉の為にグローバル艦長を初め多くの者がこの場に来ていた。

 

 ちなみに会談の場所をそれなりの所にしないのは使者が巨人の姿であったために運送に手間がかかってしまうからだ。ならば自分達が出向けばいいと判断したのだ。

 

「おい、彼女は地球人じゃないのか? なんで敵の戦闘ポッドから出てきたんだ?」

 

「俺に聞くなよ。分かるワケないだろう」

 

 マクロスの兵士たちは敵機から降りてきた地球人と思わしい少女に驚いた。

 

「私がこのマクロスの艦長グローバル准将です」

 

「それはどうも、僕はゼントラーディ軍第118基幹艦隊を代表して来たリチャード・ビルラーだよ」

 

「私は水蓮寺ルカと申します。一応、念の為に言っておきますが私は地球人ですよ」

 

「やはり地球人ですか。では、なぜここに?」

 

 グローバルはルカに質問する。彼女がこの場に来ていることは明らかにおかしいからだ。

 

「私は南アタリア島に住んでいた民間人だったのですが、あの後で彼らゼントラーディと接触して彼らと交流を持つようになったのです」

 

 つまり、あの武力衝突の時に敵に連れ去られた民間人なのかと、グローバルは常識的な判断からそう結論付けた。

 

 そう、常識的に考えるとそういう結論になる。まさか民間人の少女が敵艦隊にバルキリーで突っ込んで、そのまま居座っていたなどという非常識極まる正解が出るわけがない。

 

 勿論、ルカは意図的にそう誤解されるような言い方をしていた。

 

「今回は停戦の申し込みとお聞きしましたが、それはどういうことでしょうか?」

 

「それなのだけどね。実は僕たちが所属する第118基幹艦隊の司令長官ボドルザー閣下が彼女の説得を受け入れて君達地球人と和平を結ぶ事を決定されたので、その事前会談だよ」

 

 リチャードがルカという少女に視線を向けながら、そういった。

 

 

 和平という言葉が彼らの口から出たことで周囲は安堵した。あれだけの大艦隊を有するゼントラーディと称する異星人とこれ以上戦えばあっという間に地球が滅亡してしまうだろう。だからそれは渡り舟だ。

 

 しかし、この少女が彼らのトップを説得したという話だが、それはどういうことだろうか?

 

「水蓮寺ルカさんでしたかな?」

 

「ええ、そうですよ」

 

「聞くところによると貴女が異星人たちを説得したという話ですが、それは本当ですかな?」

 

「その通りですよ。戦争なんてやるものではありません。だから彼らといろいろとお話して和平をお勧めしました」

 

 と、実に微笑んでいっていた。彼女の言ういろいろという言葉は非常に気になるが、ここは深く聞くべきではないな。グローバルはそう考えた。

 

「和平とのことですが、それは私達の独断では決めることはできません。マクロスは地球統合軍に所属する軍艦にすぎませんから」

 

「そうですね。もっともな事です。でも、あまり時間をかけすぎると不味い事になるかもしれません」

 

「不味い事ですか?」

 

 グローバルはルカの言葉が引っ掛かった。

 

「ゼントラーディの血気盛んな方々の中には随分と過激な事を言う人もいます」

 

 そこでルカが言葉を切ったが、グローバルは彼女の過激という言葉を聞いて猛烈に嫌な予感がした。

 

「それは、どのような事ですかな?」

 

 その言葉が気になったのでグローバルは思わず質問してしまった。

 

「彼らは地球に小惑星を落とせと言っています」

 

「なんですと!」

 

 ルカの言葉にグローバルは驚愕した。地球に小惑星を落下させる。そんな事をすれば地球は…。

 

「直径1000kmほどの小惑星にフォールドシステムを取り付けて地球の重力圏にフォールドさせれば、後は地球に落下して一掃できるというわけです。何とも過激な主張だと思いませんか?」

 

 そう言ってルカは和やかに笑っていたが、とてもじゃないが笑える話ではない。和平を断るようなことをすれば敵艦隊が襲来する以前に、小惑星の落下で地球が壊滅する事態もありえるということなのだ。

 

「まあ、いずれにしても地球統合政府に連絡しておいた方がいいですよ。私としては彼らが速やかに対処することを願っています」

 

 ルカのその言葉にグローバルは頷いた。ゼントラーディからの和平の申し込み。これは当然ながらマクロスが独断で進めることはできない。やはり速やかに統合軍と統合政府に連絡して、その指示を受けるべきだろう。何しろ地球の未来がかかっているのだ。

 

 

 

ルカside

 

 会談は思いのほか上手くいった。ボドル基幹艦隊総出で来た甲斐があるというものだった。

 

 さすがに中途半端な戦力では和平が進まない可能性が大きいと考えていたので、一気にやることにしたのだ。

 

 確か原作では地球統合政府は、グランドキャノンの完成するまで時間稼ぎをするつもりだったようで、マクロスはその煽りをくらっていたが、この世界ではグランドキャノンはまだ完成していない。

 

 しかし、原作では地球統合政府が時間稼ぎを行い、完成したグランドキャノンでゼントラーディ軍に大打撃を与えて和平を有利に進めようとしていた。多分彼らは戦勝という形で戦争を終わらせる事を求めていたのではないかと推測できるが、ルカとしては彼らの都合に合わせてやる必要はない。

 

 だからダメ押しとして直径1000kmの小惑星を落とすという見せ札を出したが、あれはルカのハッタリだった。実際には誰もあんな過激な事を言っていない。

 

 確かにあれは一見出来そうに思えるでしょう。しかし、ルカから見れば破壊しか能がないゼントラーディがそんな大規模な工作活動ができるとは思えない。その実情を知る者がいれば突っ込みどころ満載でしょう。

 

 でも何も知らない地球統合政府は慌てる筈です。グランドキャノンは対艦隊用の装備だ。敵艦隊の撃滅には使えても巨大な小惑星の迎撃には向いていない。だから尚更脅しには都合がいい。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14.両親

 ルカは会談の後で監視付きでマクロスを散策していた。グローバル艦長にはマクロスには両親がいるはずなので会いに行きたいと申し出ると快く了承された。

 

 最も案内人と称して軍人を監視に付けているのは当然の事なので、私も同行するのは女性にすることを条件にそれを了承していた。女性を条件につけたのは男性に付きまとわれるアイドルというのはイメージ的によくないからです。

 

 まあ、アイドルというのはイメージが命ですから、身辺を綺麗にしておくように普段から気をつけておくもので、こうした事は一度目の人生でみっちり仕込まれましたよ。

 

 それで監視役になったのが早瀬未沙中尉です。まさか原作キャラが選ばれるとは思わなかったですね。この時期の彼女はどうも軍人として型にはまりすぎて硬いですね。まあ、ロイ・フォッカーみたいに柔らか過ぎるのも困りますけど。

 

 さて、このマクロスは南アタリア島の町をそのまま取り込んでいます。しかも私の介入の結果、一度もトランスフォーメーションをしていないので、町が破壊されることもありませんでしたし、区画整理も行われていません。だから探しやすい筈。

 

 そういえば、アニメを見ていたときにトランスフォーメーションで町が破壊されていくのには呆れたり、一々変形しないと主砲が撃てないなんてそれなんて欠陥品と思ったりしました。

 

「ルカ!」

 

 こうして自宅にたどり着いた私に駆け寄る中年の女性。彼女はルカの現世での母親だ。その母は私に抱きついた。

 

「無事だったのね。今までどれだけ心配したことか!」

 

「お母さん、心配させてごめんなさい」

 

 両親には本当に悪いことをしてしまった。計画上仕方ないとはいえ生き別れになり心配をさせてしまった。いえ、そもそも貴方達の本当の子供と入れ替わりその立場を奪ったことは、貴方達の本当の子供を抹消したという事だ。

 

 所詮、私に出来るのはまやかしの親子ごっこにすぎない。だけどできるだけ娘として演じてみせます。それしか私にはできないから。

 

「あなた、ルカが、ルカが帰ってきたわ!」

 

「なっ、何だと!」

 

 母に言われて父が飛び出してきた。

 

「ルカ! この親不孝者が! 今までどこに行ってた!」

 

 父は動転しているのか、妙にずれた事を言っている。まさか私が今まで家に帰らずにマクロスの中に潜んでいたのかとでも思っているのでしょうか? それともお決まりの家出娘を叱り飛ばす言葉をいったわけかな? でも、ここは地球じゃなくて宇宙戦艦の中にすぎないという異常事態ですからもっと柔軟に対処して欲しいですね。

 

「落ち着いて父さん。別に私は家出をしたわけではありませんわ。大体父さんたちこそ町ごと宇宙に行っちゃったんじゃない」

 

「どういうことだ?」

 

 父は私の言葉にわけがわからないという顔だ。

 

「私は今日このマクロスに乗り込んだわけです」

 

「なにっ、まだ地球についていないのにか?」

 

 そうか。地球に到着していなかったので、今日乗り込んで来たという可能性を考えなかったわけですか。まあ、別にいいですけどね。

 

「そのことで、お話があります」と早瀬未沙が話しかけてきた。

 

 さて、どうなることか。両親にはいろいろと話さなければいけませんね。

 

 

 

「そんなことは許さん!」

 

「そうですよ。あまりに危険すぎます!」

 

 これまでの経緯と、これから私がゼントラーディと地球の和平を行うために活動することを両親に話していたが、やはりというべきか父は反対した。

 

「でも、彼らとの相互理解を行い、速やかに和平を結ばないと本当に不味いのよ」

 

「そんな事は政府や軍がすることだ! お前がすることじゃない!」

 

「そうよ。ルカがそんな事をしなくても政府や軍に人がやってくれるわ!」

 

 政府と軍に任せればいいですか。そんな言葉が出るなんて笑えますね。

 

「政府と軍はあてになりませんわ」

 

「それは、どういうことかしら?」

 

 私の統合軍批判と受け取れる発言に早瀬中尉が不機嫌そうだ。なるほど彼女は統合政府と統合軍がやった事を知らないのか。まあ、マクロスの軍人達がそれを知るのは原作でも地球到着後だったから、知らないのも無理はありませんね。

 

「早瀬中尉、貴女は統合軍の象徴たるマクロスが異星人の艦隊に先制攻撃をしたために異星人との戦争が勃発したのは当然知っていますよね」

 

「ええ」

 

 そう、これは軍人なら知っていて当たり前の事だ。

 

「では統合政府と統合軍はそれを隠蔽して、マクロスは試験航海に出ており、南アタリア島は反統合勢力のゲリラ活動により全滅したという偽りの公式発表をしたのはご存知ですか?」

 

「な、何ですって!」

 

 早瀬中尉が驚愕した。そんな事態になっていたとは想像もしていなかったのだろう。

 

「そ、それはどういうことなのだ!」

 

 父が顔色を変えています。

 

「つまり政府や軍によってマクロスの民間人は死人にされたんですよ。今や政府や軍にとってマクロスにいる民間人なんて邪魔者でしかないわ。それなのに、まだ政府や軍に任せればいいなんて言えますか?」

 

 あまりの事態に両親が絶句した。

 

「だから私は自分のやるべき事をします。親不孝な娘を許してください」

 

 そう言って、私は家を飛び出した。

 

「ルカ!」

 

「ルカ待ちなさい!」

 

 両親が引き止めようとするが私は構わずその場を後にした。計画の為にも、これ以上引き止められてはいけない。

 

 本来ならば私はここで両親に会うべきではなかった。両親が私のやろうとしていることに理解してくれるとは到底思えない以上、会わないほうがよかったのだ。

 

 しかし、心配をさせ続けるのも良くないと思って会う事にしたが、結果としては余計悪くなってしまったと思う。本当に世の中はままならないよ。

 

 

 

地球side

 

 地球統合政府。それは異星人の戦艦が落下したことで異星人の存在とその異星人が大規模な戦争をやっている事が確認した地球各国が地球を一つに統合することで異星人に対抗しようとしたことから設立された。

 

 とはいえ、彼らが異星人に無闇に敵対していたわけではない事は、例え異星人と遭遇しても決してこちらから攻撃しないようにと決定した事からもうかがえた。

 

 しかし、開戦後の統合軍は危機感に欠けていた。大規模な星間戦争を行っている異星人と戦争状態になったという事の本当の意味をきちんと理解できていたのかあやしいものであった。

 

 そんな地球では、一週間前からネットワークを介して秘匿していた情報が暴露されていた。

 

 統合軍の象徴であるマクロスが異星人の艦隊に先制攻撃を行い、異星人と交戦状態になった事。南アタリア島にいた民間人は異星人の攻撃で被害を受けているが、多くがマクロスに救助されている事。しかし、統合政府はこの事実を隠蔽してマクロスにいる民間人を不当に死亡者扱いにしている事。

 

 それらが映像付きで地球全土に一気に広まってしまった。

 

 当然ながら、それを知った民衆はパニック状態になり、多くの者が政府に猛抗議をおこなった。政治家たちの支持率は急落して政界も軍部も大騒ぎとなっていた。

 

 そんな混乱の最中にマクロスからとんでもない話が飛び込んできた。

 

 それはゼントラーディと称する異星人が地球と和平を申し込んできたという情報だった。だが、同時に彼らが圧倒的というべき大艦隊を有している事や、彼らの強硬派が地球に小惑星を落とすことを検討している事も知る事となった。

 

 これには誰もが頭を抱えた。直径1000kmの小惑星の迎撃など反応弾はもとよりグランドキャノンでも不可能だ。第一グランドキャノンはまだ完成していない。

 

 例え小惑星が落ちてこなくても、500万隻もの大艦隊が攻め寄せれば地球などあっという間に壊滅してしまうだろう。

 

 最早勝算などありはしない。地球と人類の滅亡という最悪の事態を避ける為に降伏もやむなしという状況だった。

 

 だから、この和平の提案に乗るしかなかった。例えそれが和平とは名ばかりの事実上の降伏であったとしても地球が生き残るにはそれしかないのだ。




解説

■情報の暴露
 ホシノ・ルリが地球統合政府が隠蔽していた情報をネットワークを使って盛大に暴露していた。彼女にとってこの程度の工作は朝飯前であった。

■グランドキャノン
 異星人との戦争に備えて、広域迎撃兵器として建造された超大口径エネルギー砲。地球各地と月面で建造に着手していて予定の五号機まで完成すれば地球圏全域をカバーでき月軌道内の防衛力は大幅に上昇する予定だったが、建設規模の巨大さと反統合同盟勢力の妨害工作によって原作で完成したのはアラスカ統合軍総司令部に存在する一号機だけであった。ちなみに、このグランドキャノン一号機は2009年11月頃に完成している。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15.和平

地球side

 

 2009年5月。地球統合政府とゼントラーディ軍第118基幹艦隊との間で和平が成立した。

 

 開戦から僅か三カ月という短期間での終戦であったが、地球にとっては異星人との初めてに戦争であり、この戦争は『第一次星間大戦』と呼称されることになった。

 

 だが、実際の和平内容は地球統合政府の予想を大きく異なっていた。彼らゼントラーディは不平等条約を押し付けるなどといった行動は一切せずに、ほぼ対等の条件だった。

 

 これは無条件降伏もやむなしと思っていた統合政府にとって渡り船であったが、彼らの意図が掴めず困惑した。

 

 彼らには理解できない状況であったが断る理由もなかった。というよりもここで断るとどんな結果を招くか分からないほど彼らは無能ではなかった。

 

 こうして和平終結後に当然ながら彼らはこの不可解な出来事の詳しい事情を知ろうと必死になったが、それを知った時、彼らは愕然とした。

 

 彼らゼントラーディは水蓮寺ルカという少女の歌に感激して、彼女の説得に応じて和平を結ぶことになったのだ。それはたった一人の少女の歌が異星人との星間戦争を終結に導いたという信じられない事実だった。

 

 その事実を知ったとき、彼らは頭を抱えた。そもそも地球統合政府というのは異星人との戦争に備えて、統合戦争という世界規模の戦争を行うという大きな代償を払って設立されたものなのだ。

 

 だが、蓋を開けてみれば地球を守る盾にして剣である筈の統合軍など異星人には対抗できない弱小勢力にすぎず、その統合軍の不始末で勃発した異星人との戦争を終結させたのはたった一人の民間人の少女だった。これでは統合政府と統合軍の面子は丸つぶれだった。

 

 更に大きすぎる不祥事の数々、これらに対する世論の突き上げに苦慮した統合政府では政変が起こり、統合軍では大規模な人事異動が発生していた。つまり、政府と軍の上層部が揃って責任を取って辞任する事態になったのだった。

 

 こうして棚から牡丹餅とばかりに新たに政府や軍の要職に就いた者たちも、出世できたと無邪気に喜んでいられなかった。民衆の統合政府や統合軍に対する不信感はシャレにならないもので、彼らはこんな事態を招いた前任者たちに対する恨み言を心の中で言いつつも必死に事態の収拾を図った。

 

 そんな彼らが思いついた方法が英雄を作り上げるというものだった。

 

 民衆の不満を抑えるために作られた英雄を使って国民の不満を逸らすというのはいわば常套手段とも言えるものであったが、有効な策だからよく使われて陳腐化している物だった。

 

 しかし、すぐに彼らは誰を英雄にするのか? という根本的な問題に突き当たってしまった。そう英雄に祭り上げる人材(材料)がいなかったのだ。

 

 軍人から選ぼうにも誰もいない。マクロスの艦長? 彼は戦争を引き起こしたマクロスの責任者という汚名を背負った立場なので英雄になどできないし、第一既に辞職させている。

 

 では政治家はどうか? と思っても当時の政治家たちは不祥事の数々で民衆の怒りを買って辞職に追い込まれている。そんな人材を担ぎ上げようがない。

 

 この為、議論がいきづまってしまったが、ここで水蓮寺ルカを英雄に仕立てようというとんでもない意見が飛び出した。

 

 政治家でも軍人でもない未成年の少女を英雄に担ぎ上げるというトンデモな意見に周囲が固まったが、よくよく考えれば悪くない人選だった。

 

 水蓮寺ルカはゼントラーディを歌で説得して戦争終結に導いている。その功績は比類なきものであり、担ぎ上げるのに何の問題もなかった。

 

 ただ民間人の少女を英雄と称するにはいささか問題があるので、歌で戦争を終わらせた平和の歌姫として担ぐ事にした。話が決まれば後は実行するだけだった。

 

 こうして地球圏では平和の歌姫として水蓮寺ルカが担ぎ上げられるようになった。

 

 

 

ルカside

 

 ルカです。なんか気が付いたら平和の歌姫にされていました。

 

 ルカです。マスコミが大騒ぎして大変です。何かマスコミに付きまとわれて困っています。

 

 ルカです。ルカです……。

 

 はあ、地球統合政府にも困ったものです。彼らの盛大なプロバカンタによって今では歌で異星人の心を動かして戦争を終結させた伝説のアイドル扱いです。

 

 彼らの考えは分かっています。確かに苦しい立場でしょう。それは分かりますけど、こちらの許可も取らないで人を勝手に利用しないで下さい。

 

 まあ、上層部の人間がこういう勝手な行動を取るのはある意味仕方ありませんね。正直言うと業腹物ですが、私の名声が高まるのは例の計画の事を考えれば好都合なので文句は言いませんよ。私は転んでもただでは起きませんから。

 

 さて、話がとんでしまいましたね。私はこの間マクロスに行って和平の足掛かりを作って置いたわけです。

 

 そこで「和平の足掛かりじゃなくて恐喝の間違いだろうが!」と突っ込まれそうですが、あれぐらいはいいんです。別に誰も死んでいませんし、むしろさっさと和平を結べたので文句を言われる筋合いはありません。 

 

 そうした下準備のおかげで統合政府との和平もスムーズに進みました。リチャードさんの事前会談もその後のボドルザー司令長官との交渉も上手く行きました。まあ、統合政府の選択肢なんて一択しかないので上手くいって当然ですが、それでも成果が出たのは嬉しいわけです。

 

 それで、和平が成立した当たりでちょうどマクロスが地球に帰還したワケです。

 

 地球に帰還して事態を知った両親は、私が本当に和平を成立させたのに驚いていましたね。普通に考えれば確かにそうでしょうが、これは私だからできた事なんですよ。ゼントラーディ相手にそこいらの政治家が出張っても和平が取り付けられるワケがありません。

 

 両親を含めて多くの民間人がマクロスから降りたわけで、私は両親ともう一度話し合うために両親の元に行ったわけですが、そこでこの騒ぎに巻き込まれました。やれやれですね。

 

 そういえばマクロスには原作通りリン・ミンメイとかいうアイドルがいましたが空気でしたね(汗)。




解説

■大きすぎる不祥事の数々
 民衆の中でも統合政府の都合で勝手に死亡者扱いにされてしまったマクロスの民間人の怒りは一際大きかった。

■統合軍の不始末
 マクロスに仕掛けられたブービートラップに気付かずに戦争のきっかけを作ってしまったとして統合軍は世論から突き上げをくらった。

■大規模な人事異動
 この際、マクロス艦長グローバル准将も責任を取って軍を辞職している。別に彼が悪いというわけではないが、第一次星間大戦を引き起こしたマクロスの艦長という貧乏くじを引いてしまったのが運の尽きだった。

■平和の歌姫
 この呼称は統合政府のプロバカンタによって使われ始めたものであったが、水蓮寺ルカの功績はそう称しても何ら問題ないほどの物であった為に後世においてルカの代名詞となる。某種のピンク姫もそう呼称されているが、まさに月とスッポンである(笑)。

■伝説のアイドル
 統合政府のプロバカンタによってルカはそう扱われているが、三度目のルカはまだアイドルデビューしていないので、これは間違いである。

■リン・ミンメイ
 本来ならば歴史に名を残すほどのアイドルになる少女だったが、この世界ではルカが活躍したのでそこまで有名ではない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16.エデン計画

「みんなエデンでの初ライブに来てくれてありがとうー!」

 

「うおおーっ。ルカちゃん!」

 

「ルカちゃん。愛してるよー!」

 

 惑星エデンに用意した簡易的なライブ会場は満員です。巨人サイズのゼントラーディやマイクローンになったゼントラーディだけでなく、エデンに移民した地球人もライブに来てくれています。ゼントラーディと地球人が分け隔てなく問題なく共存できている状況は感涙ものですよ。本当に苦労したかいがありました。

 

「じゃあ、まずは<善き少女のためのパヴァーヌ>です」

 

 メロディーに合わせて私は最初の曲をノリノリで歌います。ゼントラーディも地球人も関係なくみんな私の歌に聞き惚れるがいい。

 

 

 

 この惑星エデンは、後のマクロスプラスの舞台となる地球から10.4光年先のグルームブリッジ恒星系に存在する居住可能な惑星。そこは原作で新統合政府の宇宙移民計画で最初に入植した惑星であった。

 

 地球人とゼントラーディ人との共存の場として、ルカはその惑星に目を付けていた。ルカは当初原作のように地球で地球人とゼントラーディの共同生活を送らせようと思っていたが、よくよく考えると問題が多いのでエデンに変更したのだ。ここで何が問題かわからないという人の為に軽く記載しておきます。

 

1.地球の人口密度

 この当時、地球には100億人近くの人口がいて、既に人口過密状態だ。その為、新たに大勢の移民者を受け入れる余地がない。

 原作ではゼントラーディ軍によって地球人が100万人にまで激減したので皮肉にもゼントラーディ人が地球に移民できるようになった。

 

2.地球人との確執

 言うまでもないが地球人にとって地球は特別な惑星であるし、自分たちの領域と強く認識している惑星だ。そんな地球に異星人、それもつい最近まで地球と戦争をやっていた者たちを快く受け入れてくれるとは考えにくい。

 実行した場合、先住民の地球人と移民のゼントラーディとの間で厄介な問題が発生する恐れがある。

 

3.新統合政府の不成立

 原作では統合政府も統合軍も崩壊してゼントラーディと地球人が共同で新統合政府を樹立したことで双方の共存が進められていたが、この世界では統合政府も統合軍も健在であるため、新統合政府が樹立されることはない。この為、共存が余計にやりにくいと判断される。

 

 というわけで原作を変えすぎた影響で地球移民は避けたほうがいいという結論になりました。まさに自業自得ですね(汗)。

 

 そこで、次善策として惑星エデンに地球人の移民を集い、またゼントラーディからもエデンで地球人と共存することを希望する者限定でエデンに入植させるという計画を立ち上げた。ルカにとって何も地球に拘る必要はないし、エデンなら余計なしがらみがないから文字通り一から好きなように弄れるというのも魅力的です。

 

 地球人の移民者が来れば彼らが勝手に文化を持ち込んでいく、そうすれば地球人と一緒に暮らすうちにゼントラーディ人も地球の文化に触れていくというわけですね。

 

 この為、まずボドル基幹艦隊の者から地球人と共存を望む者を惑星エデンに送り込んで実際に地球の文化に触れさせる。それに馴染める者はそのまま生活させて、合わない者は基幹艦隊に戻すことにした。

 

 ルカは、ゼントラーディ人たちに強制的に地球の文化に慣れろと言うつもりはない。何しろ彼らゼントラーディはこれまで破壊しかしてこなかったのだ。これでいきなり地球人の社会生活をやるように言ってもかなりキツイことは分かりきっている。

 

 それは原作でも地球の文化に馴染めなかったゼントラーディが暴動を起こしたりしていたことが証明していた。

 

 だから地球の文化に馴染める者だけエデンに居住させて、それ以外はボドル基幹艦隊に所属させることで平和的に住み分け行う事にした。

 

 ある意味隔離政策紛いに見えますが、一応本人の自由意思で選択できるようにしているので問題はないでしょう。エデンで内部対立をさせるよりは遥かにマシですから。

 

 勿論、これは和平のときに統合政府とも合意済みです。彼らからすれば異星人が地球に大挙して乗り込んできて地球を乗っ取られるという恐れがないし、増えすぎた人口を捌く為に移民先があるのは好都合だったので、エデン計画は問題なく進むこととなった。

 

 このエデン移住に関しては提案者である私は勿論参加していますが、驚いたことで両親を初めとした旧マクロス市民もそれなりに参加していました。よく考えてみれば地球に帰還できただけでなく統合政府の捏造が公になって和平も成立したから彼らが軍艦であるマクロスにいる必要はありません。というよりも軍にとってもマクロスに居座られたら迷惑なので積極的に外部に送り出したのでしょう。

 

 しかし、元々住んでいた南アタリア島はマクロスのフォールドに巻き込まれて消滅しています。こうなると土地も住む場所もないという状況だったので、ある者は親類縁者を頼り各地に散り、ある者はエデン移民に活路を見出して参加するようになったわけです。

 

 

 

 こうして、歴史が変化していく中でリン・ミンメイはその煽りを受けています。原作の彼女はゼントラーディのファンが大勢いましたが、この世界ではゼントラーディは私のファンになっています。

 

 そういえば原作では第一次星間大戦後には何百万人というゼントラーディがミンメイのファンになっていたようですが、この世界ではボドル基幹艦隊全てにカルチャーショックを起こさせた私は何億人というゼントラーディのファンができました。まさに桁違いですが、この結果としてミンメイはファンが大幅に減っています。

 

 そんな彼女ですが、原作通り従兄のリン・カイフンと合流して、カイフンがミンメイの婚約者兼マネージャーになっているようです。しかし、原作でも思ったけど、いくら従兄とはいえアイドルが男を近づけるのはいかがなものでしょう?

 

 アイドルというのはイメージが命です。特に日本ではアイドルファンは「処女性を前提とした疑似恋愛の対象としてのアイドル」を求める気持ちがあります。日本のアイドルは、擬似恋愛の対象として成立してきました。

 

 この為、カイフンがミンメイに近づいて婚約者になったのは明らかに拙かった。原作でもミンメイのファンだったワレラ・ナンテス、ロリー・ドセル、コンダ・ブロムコの三人はミンメイの婚約に大ショックを受けています。ファンの夢に配慮するのもアイドルの仕事なんですよ。

 

 私? 私は勿論注意していますよ。前回は某プロデューサーの所為で酷い目にあったので不必要に男を近づけていません。

 

 ミンメイの人気が凋落したのはこれがあったからでしょうし、それにカイフンはトラブルメーカーだから問題を起こすのは目に見えています。まぁ私には関係ないから別にいいですけどね。




解説

■善き少女のためのパヴァーヌ
 アニメ第三期『ハヤテのごとく!』のエンディング曲。

■増えすぎた人口
 当時の地球人は100億人もおり、一惑星が抱える人口としては多すぎていたので、移民させて人口を減らすのは統合政府にとっても魅力的だった。

■リン・カイフン
 作者がマクロスシリーズで一番嫌いなキャラ。ぶっちゃけると原作でミンメイの人気が落ちた原因はこいつじゃないの?と思っています。

■アイドルのイメージ
 よく考えるとミンメイはカイフンと大っぴらにキスをしていたり、カイフンという婚約者がありながら一条輝に対する恋心を捨てきれなかったりしたところが、はたから見ると爛れている様に見えていた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17.疑問

地球side

 

『みんな、まだまだいくよー』

 

「ルカちゃん可愛いな~」

 

「ごほん、そうじゃないだろう。真面目な話なんだからな」

 

「そうですね。すみません」

 

 同僚に突っ込まれて男は謝る。最も同僚の男も、数億人もの異星人を熱狂させる”スーパーアイドル水蓮寺ルカ”を内心では可愛いなと思っていたのは実に男らしいと言えるだろう。

 

 2011年。戦争終結から二年が過ぎたこの時期、アラスカ統合軍総司令部では水蓮寺ルカのライブ映像が流れていた。

 

 仮にも軍の総司令部でこのような映像が流れて、ただの民間人にすぎないルカについて話し合いがもたれているのは、彼女にはあまりにも不審な点が多かったからだ。

 

 事の始まりは、戦後になって『水蓮寺ルカ物語』というテレビドラマが放送された事だろう。それ自体はそれなりに好評であったが、番組制作スタッフの意向で可能な限り事実を放送しようとした為、彼らはゼントラーディに取材したり、第一次星間大戦時の映像データなども調べたりしてドラマを制作した。

 

 その結果ルカの戦場ライブや、ルカが見たこともないバルキリーに乗りながら歌でゼントラーディにカルチャーショックを与える所など、大いに盛り上げるアクションシーンもあったが視聴者から疑問の声が上がった。

 

 それは、そうであろう。明らかに不自然すぎたのだ。ドラマで描かれている不審点をこのように挙げてみる。

 

1.どうやってあんな高性能なバルキリーを用意したのか?

 映像を見るとバルキリー単体でフォールドしているし、機体の装備を量子変換して格納している。さらに出鱈目な機動性に空間歪曲を利用したと思わしきバリアまで装備していた。

 こんなバルキリーは当然ながら統合軍もゼントラーディも保有していない。

 

2.どうやってバルキリーの操縦を覚えたのか?

 当時バルキリーの訓練は統合軍とかつての反統合勢力でしか行われておらず、ルカがバルキリーの操縦訓練を受けたという記録はなく、彼女が操縦できるのは明らかにおかしい。

 

3.どうやってブリタイ艦隊の制御を掌握したのか?

 状況から見てルカがブリタイ艦隊をハッキングして制御を奪っているようだが、そんなことは普通ならできない。

 

4.明らかに事前にゼントラーディの情報を知っていたとしか思えない。

 開戦直後ルカがブリタイ艦隊に歌でカルチャーショックを与えていたが、当時はゼントラーディが文化を持たず歌でカルチャーショックを与えることができるなど統合軍でも知らなかった。

 

5.歌や踊りが上手すぎる。

 ルカはその手の専門教育を一切受けていないにも関わらず、凄まじい実力を持っていた。専門家(アイドル業界の人間)に尋ねた所、すぐにでもトップアイドルになれる実力と保障されている。

 

 ここまで来ると、統合政府としても所詮は民間人の少女と笑っていられない。本音であればルカを強制連行して徹底的に取り調べしたい所であるが、彼女は平和の歌姫としてエデンだけでなく地球でも絶大な人気を誇る有名人であったのでそれが躊躇われた。下手をすると世論から叩かれたり、ゼントラーディとの関係が悪化したりする恐れもあった。

 

 だから穏便に聞こうにも、「女の子は秘密が多いほうが魅力的ですよ」と笑って誤魔化すだけであった。かといって証拠品のバルキリーは既にどこにもなく。それを回収することもできない。

 

「それで、どうするのだ?」

 

「そうだな、確かに聞きたいことは山ほどあるが、それをするにはリスクとリターンが釣り合わないな」

 

 疑問を解消するためだけにしてはリスクが高すぎる。とてもじゃないがやれたものではない。

 

「では、放置するという事でいいのか?」

 

「まあ、それがベターだろう。彼女は別に我々に不利益を与えているわけではないし、むしろ戦争を終結させた英雄様だしな」

 

 ルカの存在による利益不利益を考えると明らかに利益になるだろう。彼女の存在によって地球滅亡の危機は救われたのだ。それを考えると多少のことは目をつぶるべきだろう。

 

「アイドルと言えば、確かリン・ミンメイとかいうアイドルが反軍活動をしているらしいな」

 

 軍幹部の一人が思い出したように言った。

 

「それはミンメイというよりもカイフンとかいうマネージャーの男が民衆を扇動して我々統合軍への反感を煽っているようだ。まあ、どちらにせよ邪魔だよ」

 

「そうか、面倒だな」

 

 反軍活動をやるだけでなく、そのために民衆を煽るなど彼らにとって邪魔以外の何物でもない。

 

「心配はいらん。既に手を打っている」

 

「ほう、手回しがいいな」

 

「当たり前だ。唯でさえ厳しい状況を乗り越えたばかりだというのに、馬鹿な芸能人に反軍活動などされたら困るからな」

 

 彼ら統合政府や統合軍は二年間もかけて体制を整えてきた。そんな彼らにとってカイフンとそれに利用されているミンメイは放置できない存在だった。

 

 こうして地球統合政府と統合軍の方針が決まった。

 

 

 

ルカside

 

 戦後二年がたった現在、私の介入で登場キャラの人生が変わっています。

 

 まず、死ななかったキャラですが、ロイ・フォッカーはクローディアと結婚して幸せな結婚生活を送っていて、柿崎速雄は軍に所属したままで今もパイロットをやっています。

 

 主人公の一条輝は軍のパイロットになっていましたが、一度も戦闘することなく終戦を迎え、その後は退役してアクロバット飛行機パイロットに戻っています。

 

 早瀬未沙は原作ではそんな輝に好意を抱いていましたが、改変の結果彼女は輝に好意を持つ事もなく普通に軍人をやっていました。

 

 まあ、彼女の場合は父親の早瀬提督が辞職に追い込まれているものの問題なく軍人生活を送れているようです。

 

 そしてマックスことマクシミリアン・ジーナスですが、正直彼がミリアと結ばれるイベントを潰してしまったので、「これではミレーヌが誕生しないぞ。マクロス7はどうなるの?」などと内心では狼狽えてしまいました。

 

 これをカバーするためにミリアにマックスの事を「凄腕のパイロットだ」と教えて、「彼と模擬戦をやって腕試ししてみるといいよ」などと吹き込んで上げました。結果としてプライドを刺激されたミリアはマックスに模擬戦を挑み原作通り敗北してしまい、マックスがミリアに惚れて求婚するという流れになりました。こうして二人は無事に結婚して現在では長女も誕生しています。

 

 正直言ってもう駄目じゃないかと思っていましたが、案外上手く行きました。もしかしたら修正力というものか、それともご都合主義と言えるものが上手く働いたのかもしれませんね。

 

 ちなみに当の私は正式にアイドルになってエデンで活躍していた。まあ、元々アイドルとして活動していたけど地球から移民してきた地球人が私をサポートする為に弱小ながらも芸能事務所を立ち上げてくれたんですよ。なんだかミンメイみたいですね。

 

 事務所があまりにも弱小だったので昔の嫌な事を思い出してしまいそうですが、意外な事に割と上手くいき、当時弱小だった事務所は業績を上げてそれなりに成長しています。

 

 よくよく考えてみると、エデンはアイドルが掃いて捨てるほどいる地球とは違ってアイドルは極めて少ない。エデンの住民の大半が文化を持たなかったゼントラーディで、元はと言えばアイドルどころか文化のぶの字も知らない人たちです。残りは少数の地球人の移民で、彼らの開拓魂は豊富であるが、アイドルをやろうとする者はいなかった。

 

 こうして考えると、エデンはライバルが存在しない良い市場です。これなら暫くの間はトップアイドルの座は揺るぎないものになるでしょう。

 

 まあ、それも時間が経てば他のアイドルもそれなりに出てくるでしょうが、それまでに地位を固めておけば私の優位は確保できるから問題ない。というか何もそこまでアイドルの座に拘る必要もない。ある程度芸能活動をやって地球人とゼントラーディの共存共栄が軌道に乗れば引退してこの世界から撤退しても問題ないでしょう。

 

 それに最近は『水蓮寺ルカ物語』というドラマの所為で色々と突っ込まれて困っています。まあ、秘密で押し通しましたけど本当に苦しかったです。功績を上げて絶大な影響力を持っていたのでなんとか切り抜けられましたけど、本当にストレスがたまりますね。

 

 それも含めて考えると適当な所で切り上げるのもいいかもしれません。




解説

■ルカの戦場ライブ
 これはブリタイ艦隊の実際の映像を流用したので迫力満点だった。

■高性能なバルキリー
 戦後に記録映像を分析した統合軍はルシファーの出鱈目なスペックに驚愕した。

■バルキリーの操縦
 ルカの操縦テクニックは人間離れしたもので、それを知った統合軍は驚いたが、実際にはルシファーのパイロットの能力を向上させる各種システムのおかげである。

■空間歪曲
 ルシファーに使われているディストーション・フィールドはこの空間歪曲を利用したもの。

■歌や踊り
 ルカは一度目と二度目の転生で十分な実力をつけており、現世では自己練習でやっていた。

■ゼントラーディとの関係
 ルカはゼントラーディから絶大な人気を誇っているアイドルであり、もし彼女を政府が叩くと彼らから悪印象を受ける可能性が高かった。

■バルキリーの回収
 ルカはオーバーテクノロジーの塊であるルシファーをいつまでも手元に置くほどおバカではなく、和平成立後すぐに監察軍に戻している。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18.凋落

ミンメイside

 

「今日もだめかよ! あいつらふざけやがって!」

 

 従兄のカイフン兄さんが怒りながら物を蹴り飛ばした。そして彼は酒を飲んで苛立ちをまき散らしている。

 

「仕方ないわ。アイドル業界では私たちは問題児扱いされているんですもの」

 

 ミンメイは元々戦争に巻き込まれて軍艦のマクロスに住むことを余儀なくされた民間人の一人だった。しかし、戦後になりミンメイたちマクロスの民間人はマクロスから降りる事ができるようになった。

 

 しかし、既に南アタリア島はなく、親類縁者を頼って各地に散る者、新天地を求めてゼントラーディの主催するエデン移民計画に参加する者など様々であったが、問題だったのはミンメイのファンであった彼らが分散してしまったことだ。それに伴いミンメイの所属する芸能事務所も自然解散して、ミンメイのアイドル活動は中ぶらりん状態になった。

 

 そもそもマクロスでアイドルが誕生したのは地球から離れた場所で戦時下の軍艦にいる羽目になり何もやることがなくなった彼らの気晴らしと娯楽のためというのが主目的だった。だから戦後には事務所が解散して皆それぞれの生活を送ろうとしたのは当然だった。

 

 そこで、ミンメイとカイフンは地球の芸能事務所に入りアイドルになることにした。これは上手くいってミンメイはアイドルにカイフンはそのマネージャーになった。しかし、ここで問題が発生した。ミンメイの芸能活動を利用してカイフンが反統合政府及び反統合軍活動をやりだしたのだ。

 

 当時、統合政府と統合軍は不祥事の責任を取るために人事を一新して体制の立て直しをしていた。そしてマスコミ業界やアイドル業界などはそんな政府と軍に可能な限り配慮していた。

 

 確かに例の情報流出で政府と軍の不祥事が明らかになった時にはマスコミも責任者を追及した。しかし、政府と軍が責任を取ってからは態度を変えて不必要に政府や軍にダメージを与えないようしたのだ。

 

 それは政府や軍を叩きすぎると彼らが困るからだ。例えるなら現代日本で警察が重大な不祥事を起こしたとしても、その当事者と責任者が世論から叩かれて責任追及されるが、何も警察そのものを潰そうとはしない。それは国民にとって警察は必要な存在であり、それなりにお世話になっているからだ。

 

 それと同じように地球の民衆にとって統合政府と統合軍は必要な存在だった。もし彼らが崩壊した場合、地球は大混乱になり無政府状態になりかねない。かつての民族問題、宗教問題などが噴出して地球全土で紛争が起こるだろう。かつての統合戦争の記憶も新しい人々にとってそれは恐怖以外の何物でもなかった。

 

 そう統合政府と統合軍があるからこそ地球は仮初であっても一つにまとまり、平和を構築できている。それが地球の現実だった。

 

 カイフンはそうした事情に配慮しようとはしない。ただ気に食わない政府と軍を叩く。それだけだった。

 

 これは当然ながら大問題となった。不必要に政府と軍の威信を潰さないように配慮するのが業界全体の決定であるのに彼らの行動はそれを台無しにする事だった。

 

 勿論、芸能事務所の社長はカイフンとミンメイに幾度となく厳重注意をしたが、カイフンは政府と軍の肩を持つ(カイフン視点)社長たちに反発して注意を無視して問題行動を繰り返した。

 

 そんな姿勢の彼らに激怒した事務所の社長が、ミンメイとカイフンを解雇したのは当たり前であった。このまま彼らを雇っていたら業界で孤立してしまうし、政府と軍に睨まれて潰されてしまうだろう。既に政府と軍から圧力がかかっていて、もはや事務所としても猶予がなかった。

 

 事務所の社長にだって養うべき家族がいるし、社員たちだっているのだ。たった一人のかけだしのアイドルとそのマネージャーの為にすべてを台無しにするわけにはいかなかった。

 

 こうしてミンメイとカイフンは所属する芸能事務所から叩きだされてしまう。それでも他の事務所に所属しようとしたが、こんな問題を起こした者を雇う酔狂な人間はおらず、どこの事務所に行っても不採用だった。

 

 ならば個人で芸能活動をしようとしても、マクロスならばともかく地球でそれができるわけがなかった。そもそも地球にはアイドルが掃いて捨てるほどいる。何の後ろ盾もないどころか政府や軍に睨まれてブラックリストに載っているような人物が売れるわけがない。

 

「これも政府と軍の所為だ! あいつら俺たちを潰しにかかりやがって!」

 

 カイフンは現状の不満を政府と軍にぶつける。そんなカイフンをミンメイは冷めた目でみていた。

 

 そもそもミンメイは別に政府や軍を嫌っているわけではなかった。カイフンの行動の巻き添えをくらった形なので、カイフンが疫病神にしか見えなかった。カイフンが来る前のマクロス時代はアイドルとして上手く行っていただけに、その後の凋落で尚更そう思った。

 

 こんな男を兄のように慕い婚約者にまでなった自分はつくづく人を見る目がなかった。ミンメイはどうしようもないほど落ち目になって初めて自分の愚かさに後悔した。

 

 そこまで考えてミンメイは嫌気が指して気晴らしにテレビでも見ようとテレビの電源を入れた。

 

『いや~、今日も平和の歌姫水蓮寺ルカさんのライブは大盛り上がりだったようですね』

 

『ええ、相変わらずルカさんはすごい人気ですね。十億人ものファンがいる史上最高のスーパーアイドルは伊達じゃありませんよ』

 

 それは水蓮寺ルカの特集番組だった。水蓮寺ルカは地球いえエデンやゼントラーディを含めて最高の人気を誇るトップアイドル。最近では彼女の特集番組も多かった。

 

 彼女と私は共通点が多い。同じ年齢である事、南アタリア島に縁がある事、戦争を契機にアイドルになった事など。

 

 しかし、彼女は政府や軍から持ち上げられて平和の歌姫と称賛されている一方で私はどん底にいる。それを考えると彼女と自分との落差が嫌になる。

 

 いや人気だけでなく実力の差も圧倒的だった。彼女の歌と踊りも凄い。私など足元にも及ばない。同じアイドルであってもここまで実力に差があるとは思わなかった。

 

 風の便りによると、かつてマクロスにいた人々の間でもルカが地元出身という事もあって彼女の人気が上昇しており彼女のファンになった者も多いらしい。かつてのファンにも忘れられて落ちぶれていく、それが私の現実だった。

 

 もう何もかもが嫌になった。アイドルなんて諦めて横浜の実家に帰って店を継ごう。

 

 その後、ミンメイはカイフンに別れを告げて、実家に帰った。

 

 

 

ルカside

 

 リン・ミンメイがアイドルを辞めて横浜の中華料理店の看板娘になったという話を知って私は耳を疑ったが、その経緯を知って納得した。

 

 実のところ、ルカの介入によってミンメイは原作よりも更に酷い状況になっているが、カイフンと関わらなければミンメイにもアイドルとして売れる可能性は十分にあった。

 

 まあ、地球ではアイドル(ライバル)は沢山いるから売れるには相当の努力が必要だろうが、それでも何とかできたでしょう。でもカイフンはその可能性を完全に潰してしまった。

 

 原作とは違い、統合政府も統合軍も健在なのに反政府、反軍活動なんかやれば潰されるのは分かりきっているでしょうに、それにミンメイは政府や軍から圧力を受けて潰されてしまったようですが、反政府及び反軍活動なんかすればどうなるかわからなかったのか?

 

 やっていたのはカイフンで自分はやっていないと他人事だったのかもしれませんが、カイフンがミンメイのマネージャーで、彼女の活動を利用してそんな事をしていたのは分かっていた筈です。止めようと思えば止められたでしょうし、そもそもマネージャーを変えれば問題なかった。

 

 前回の私は一個人に過ぎない某プロデューサーの枕営業を断っただけなのに嫌がらせを受けて潰されています。それを考えれば政府や軍という大きな組織を敵に回すような行動をすればこうなるのは当たり前です。むしろ呆れて何も言えません。

 

 原作でも思ったけどカイフンは何を考えているのだろうか? そもそも弱小芸能事務所という小さな後ろ盾しかなかったミンメイがマクロスで売れていたのは軍の支援があったからだ。

 

 まあ、軍としても戦時下で地球から遠く離れた孤立した中で、五万人もの民間人を抱えてしまうという目も当てられない状況になったから、民間人の不満を抑えるためにアイドルを作ることを考えて支援していたのでしょう。つまりミンメイにとって軍は重要な支援団体だったワケで、決して蔑ろにしていい存在ではなかったわけだ。

 

 しかし、カイフンはマスコミを利用して戦時下で反戦を訴えるなどの問題行動をやたらと起こしていた。これにはグローバルを初めとしたマクロス上層部は相当頭にきていた筈だ。それでも軍がミンメイに圧力をかけていなかったのはグローバルの器の広さの賜物だったと思う。

 

 最も戦後になるとさすがに軍も彼らに嫌気が指して支援をしなくなったようだ。それなら戦後にあれだけミンメイの人気が凋落したのも頷ける。

 

 何のことはない。カイフンが問題を起こしても「彼は軍が嫌いなのよ」と言って軽く流していた彼女は、そのせいで自分の支援団体を失っただけなのだ。

 

 こうして時代が下り、2031年に映画がヒットしたことで、彼女は過剰なまでに偉人として祭り上げられるが、それは彼女が行方不明(事実上死亡と同じ状態)になったために彼女を英雄として祭り上げても問題なかったからだろう。死んでしまえばカイフンの反政府及び反軍活動に頭を痛める必要もない。

 

 こうして考えると本当にリン・ミンメイは作られた英雄ですね。まぁ私も人の事は言えませんが。

 

 相変わらずの原作ブレイクですが、まぁいいでしょう。今更ミンメイが偉人になる必要はない。というよりもその役割は私が果たしたことになります。

 

 その結果ミンメイが悲惨な結果になっているようですが、よく考えると原作では地球壊滅に伴い彼女の実家は消滅して両親も死んでいますが、この世界では実家も両親も無事です。帰る場所があるだけ原作よりはマシでしょうね。

 

 そう結論を出すと、私はミンメイの事を考えるのを止めた。今の私はアイドルの仕事でとても忙しく、最早どうでも良くなった人の事を考えている余裕はなかった。




解説

■実力の差
 水蓮寺ルカとリン・ミンメイでは才能だけでなく努力の積み重ねが違う。それによってもたらされる実力差は圧倒的だった。

■ブラックリスト
 この世界ではアイドル業界でも危険人物はブラックリストに載せて対処しているという設定です。その為、ミンメイとカイフンはアイドル業界では相手にされなくなった。

■横浜の実家
 リン・ミンメイの両親は横浜で中華料理店を経営しており、ミンメイには店の後を継いでもらうことを希望していた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19.引退

 2020年。ルカがアイドルになって10年もの歳月が流れたこの年、ルカは周囲から惜しまれつつもアイドルを引退した。この時にはルカは26歳になっていて、アイドルをやるには年齢的にきつくなっていた。最も外見は15歳の時からまったく変わっておらず、その美貌には一切の衰えは無かったが、実年齢というのはこの世界では重かったし、これ以上不老の体を晒すのは限界だった。

 

 それにエデンでもそれなりにアイドルが育ちつつあり、いつまでもルカがトップアイドルをやり続けてしまうと後進が育たないだろう。

 

 私の代わりとなる人材(アイドル)がいれば、これからも何とかなると思う。その道を私が切り開いたわけですから。

 

 この時期になると、エデンだけでなく地球でも地球人とゼントラーディとの共存共栄は定着していた。最も地球にいるゼントラーディは極少数に過ぎず、大半はエデンや他の植民惑星にいた。

 

 また原作通りに宇宙進出が進んでいて、移住可能な惑星を求めてエデンから移民船団が送り出されていた。これは銀河では未だに巨人族による戦争が続けられており、エデンや地球がそれに巻き込まれて文化が消失してしまう危険があったからだ。

 

 これはメガロード計画と呼ばれて実行されている。

 

 ちなみにこの世界ではマクロスという名が移民船団に使われることはないだろう。

 

 原作ではいろいろあって地球文化の守護像という扱いになっているが、この世界では統合戦争と第一次星間大戦を引き起こした災厄の艦という扱いで忌み嫌われていた。

 

 そうなると、マクロス7とかに出ていた新マクロス級移民船団とかの名前も原作とは違う事になるし、一体どういう名称になるか興味深いですね。

 

 さて、もう用はないので早速撤退しましょう。一応この世界の人々の為にもバロータ惑星第四惑星にはプロトデビルンが封印されているので、決して近寄らないように置手紙に書いておきましょう。

 

 原作では調査隊があの惑星で調査活動をしたがために肉体を乗っ取られて封印が解放されるきっかけになっています。無駄かも知れませんが警告だけはしておきましょう。後はこの世界に人々が解決すべき問題です。

 

 しかし、こんな置手紙を残していると、また疑惑として騒がれそうですね。まぁこの世界から撤回するから構わないでしょう。

 

 こうして私はこの世界から撤退して、三千世界監察軍に帰還した。

 

 

 

「ふむ、ご苦労だったね」

 

 帰還した私にトレーズはそうねぎらいの言葉をかけてくれた。

 

「いえ、それよりも本当にお世話になりました」

 

 監察軍はトリッパーを支援する組織であるとはいえ、今回の干渉では監察軍からかなりの支援を受けていたので、礼をするのが当然であった。

 

「何、それほど負担になっていないからかまわないよ。君もそれは弁えてくれたようだからな」

 

 そう、確かにルカは多くの支援を監察軍から受けていたが、それはそれほど多大なものではなかった。あくまで目的を果たすために必要最低限度すれすれの支援だったのだ。それはルカが支援の内容を吟味しておいたからだ。

 

 中には度が過ぎた要請をして注意されるトリッパーもいる中で、ルカはそれなりに上手くやったと言える。

 

「それで、これからの都合ですが……」

 

「うむ、君も少し疲れただろうから、まずは休暇を取って十分に休んでからアイドルデビューという形になるだろうな。その辺りは君がその気になってからやっておくとしよう」

 

「そうですね。私もその方がいいですね。よろしくお願いします」

 

 私はトレーズに頼んでおいた。

 

「では、ゆっくりと休みたまえ」

 

「ええ、そうさせていただきます」

 

 私は一礼して司令室から退出した。

 

 

 

「あれルカさん、帰還していたんですね。久しぶりです」

 

「ランカさん、久しぶりです」

 

 司令室を出て暫く歩いているとランカさんに会った。ここ十年ほど監察軍に戻っていなかったので、本当に久しぶりです。

 

「ルカさんが戻ってきたということはもう終わったわけですか?」

 

「ええ、やるべきことは終わりました」

 

 そう、あの世界でやる事は終わりました。思えば大変な日々でしたが、終わってみればかけがえのない日々でしたね。

 

「そうですか。お疲れ様です。あたしは用事があるから、これで失礼しますね」

 

「ええ」

 

 そういうとランカが離れていった。その後ろ姿を見ながらルカはこれからに思いをはせた。あの世界でのアイドル生活を終わってしまいましたけど、これからは仲間(トリッパーたち)とブリタニア帝国の大観衆が待っている。

 

 だから、私の三度目の歌はまだまだ終わりません。




解説

■不老の体
ルカは特殊なナノマシンの効果で、十五歳の時から変化しておらず、アイドルを引退する二十六歳の時には周囲を誤魔化すのは限界だった。



あとがき

 どうもADONISです。これで、三度目の歌は終わりです。少々変わり者の主人公であったので、ちゃんと書けるのか心配でしたが、何とか最後まで書き上げる事ができました。今回のSSはこれまでの反則的な能力を持つチートオリ主というパターンから外れて、戦いではなく歌で物事を解決しようとする異色のトリッパーだったので、斬新でよかったと思います。(実際、ルカみたいなトリッパーはそういないと思いますし)それでは、また別のお話でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20.後世の評価

 水蓮寺ルカ(すいれんじるか。西暦1994~2020年? この年に失踪して行方不明になった為に詳細不明)は、伝説的な地球人のアイドル歌手。

 

1.概要

 水蓮寺ルカは、第一次星間大戦(西暦2009年)において地球人と交戦状態となったゼントラーディ軍第118基幹艦隊を歌でカルチャーショックを与えて戦争終結に導いた伝説の歌姫である。

 また、彼女は地球人とゼントラーディの共存共栄の為にエデン計画を提案推進するなど今日の我々の生活の礎を築いている。

 彼女の代名詞として『平和の歌姫』や『エデンの光』などがある。

 

2.戦前

 ルカは元々ごく普通の少女であり、第一次星間大戦の切っ掛けとなったマクロスが存在していた南アタリア島の住民であった。

 当時この南アタリア島はマクロス修復のために巨大プロジェクトが組まれていて、この一連の事業に商機を見出した多くの民間人が南アタリア島に移住しており、ルカの両親もそんな民間人だった。

 

3.第一次星間大戦

 戦争のきっかけとなったゼントラーディ軍に対するマクロスの先制攻撃(実はマクロスに仕掛けられたブービートラップ)で南アタリア島が戦場になるが、マクロスのフォールドに巻き込まれて南アタリア島自体が冥王星近郊にフォールドしてしまう。

 その際に、マクロスはシェルターにいた民間人を艦内に保護しているが、その中にルカの姿はなく、状況から見て死亡したものと思われていた。

 しかし、何故か生存していただけでなく、ブリタイ艦隊にバルキリーで突撃して同艦隊の集中攻撃を掻い潜って歌を聞かせてブリタイ艦隊にカルチャーショックを与え、その後ブリタイ艦隊で連日ライブを行い、自らのファンを作り上げた。

 ボドル基幹艦隊合流後は、彼女のライブ映像の流出と彼女の生ライブで、ボドル基幹艦隊に所属する多くの艦隊を文化に目覚めさせ、この影響を恐れてルカを抹殺しようとしたボドルザー司令長官すら歌で説得して、最終的にはボドル基幹艦隊すべてにカルチャーショックを与えて和平に持ち込む事に成功した。

 

4.戦後

 戦後はゼントラーディと地球人の共存のために、地球人とゼントラーディを惑星エデンに移住させて共同生活をさせるエデン計画を提案して実行させている。

 また、ルカ自身もエデンに移住してアイドル歌手として活動した。 

 2020年に26歳で周囲から惜しまれつつも引退して、その後行方不明となった。

 

5.行方不明後

 ルカの失踪から暫くすると彼女の人気は大きく低迷していたが、2031年にエデン政府が映画『水蓮寺ルカ物語~僕ら、駆け行く空へ~』を発表して、大ヒットすることになる。

 これによって、ルカブームが再燃して水蓮寺ルカの持ち歌は名曲して扱われるようになり、水蓮寺ルカは歴史上の偉人としての不動の地位を築き上げることになった。

 

6.映画

 2031年において、エデン及び各地の植民惑星では地球人とゼントラーディとの諍いが問題になっていた。

 この為、エデン政府は地球人とゼントラーディの共存の象徴として、水蓮寺ルカを持ち上げる映画を作成するプロバカンタ政策を取り、これによって共存共栄の素晴らしさを認識させて問題を下火にすることに成功した。

 この映画はプロバカンタという理由もあって史実を元にした創作物という形になり、設定などを大きく書き換えられていた。

 最大の変化はルカが最初からアイドル歌手で、南アタリア島でゼントラーディと接触して誘拐されてしまうという形を取り、その後ルカが地球人とゼントラーディとの価値観の違いに苦労しながらも、ゼントラーディたちを歌で感動させて戦争終結に導いたという内容になっていた。

 この様な内容になったのは、史実であるとルカの疑惑が多すぎるので設定を変更して不自然さをなくして物語として成立させる為であった。

 

7.評価

 第一次星間大戦時の地球とゼントラーディの戦力差やゼントラーディの構造などを詳しく調べていくにつれて、当時の地球が極めて危険な状況であったことが分かった。

 ルカがボドル基幹艦隊を説得できていなければ地球が壊滅していた危険性が極めて大きく、その場合地球文化は失われていただろうと言われている。

 一方で、ルカには数多くの疑惑があり、近代史の大きな謎とよばれて歴史学者を大いに悩ませている。

 あまりの不自然さから水蓮寺ルカ宇宙人説、未来人説などというトンデモな学説まで飛び出て学会で冷笑されている。

 しかし、一般では映画の影響でこの手の疑惑はあまり考慮されず、平和の歌姫として称賛される存在となっている。

 

8.後日談

 水蓮寺ルカは熱狂的なファンを多く抱えており、某企業の御曹司(ルカ・アンジェローニ)の親は自分の息子にルカと名づけており、その事で某少年がぼやくことになった。

 まぁ男なのにこの世界では歌姫の代名詞ともいえる名前をつけられてしまったので、彼が不満に思うのは無理もないだろう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。