家庭教師ヒットマンリボーン[二度目の人生] (ツナさん)
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第0話『後悔と二度目の人生』

間違いがあれば御指摘お願いしますm(__)m


草木も眠る丑の刻。嫌な予感を直感して目を覚ますと部屋の扉が荒々しく開かれる。

 

「10代目!!大変です!」 

 

獄寺君は、血相を変えて部屋に入ってくる。直感が鳴り響いている。いまだかつてないほどの嫌な予感が勘違いであってくれと思うが、こういうときの直感は外れたことがない。

 

「前日うちと揉めたカリーヌファミリーが笹川を人質にっ!」

 

獄寺君のその言葉で額に揺らめくように灯るのはオレンジ色の炎。瞳の色もオレンジ色に変わり、風圧で窓ガラスが割れる。

 

「...京子は何処に?」

 

「い、以前戦った場所で待つと。10代目一人で来いと」

 

「そうか...」

 

それだけ聞いて右手の剛の炎を使い部屋を飛び出す。カリーヌファミリーと言えば、ボンゴレ総動員して殲滅した筈の相手だった。それがどうして京子を人質に?

 

「クフフ...このような草木眠るような時間に何処に行こうと言うのですか?沢田綱吉」

 

「骸か」

 

沢田綱吉の超高速の移動に着いて来られるのは、守護者の中でも少ない。そのうちの一人が霧の守護者である、六道骸だった。

 

「そのように殺意を向けるのも珍しいですね。笹川京子を助けに行くのですか?」

 

「お前は着いてくるな。俺一人を呼んでるんだ」

 

一人で来いと言った以上誰も連れていくわけにはいかない。それが例え幻術の得意な骸だとしてもだ。敵にも幻術のスペシャリストが一人いた。戦えば骸が勝つだろうが存在を見つけることは出来るだろう。

 

「クフフ。相手はカリーヌファミリー。一度潰したとしても、貴方一人では勝てませんよ?敵の数は1万を越えています。私達ボンゴレを潰したいマフィアは多いですからね」

 

「...それは骸も同じじゃないのか?」

 

「マフィアごときと一緒にしないで欲しいですね。私はあくまでも沢田綱吉、貴方の体が目的ですから」

 

「ははは、変わらないな。骸」

 

俺の体を乗っ取りマフィアに復讐をする。それが骸の目的。だが今まで一緒に戦ってきて、骸ほど幻術に関して背中を任せられる相手はいない。それに、乗っ取ろうと思えば何度もチャンスはあったはずだ。それでも骸は、乗っ取ろうとしたことはなかった。

 

「ですから、私が貴方を乗っ取るまで死んでもらっては困るのです」

 

「死なないさ。俺は...後ろから着いてきてる雲雀さんと山本の足止めをお願いできるか?」

 

「何故そのようなことをしなければいかないのでしょうか?」

 

「ボスからの命令だ。それに薄々気付いてる。京子が狙われた原因は俺のせいだ」

 

ボスの継承式が行われ9代目から、10代目が正式に言い渡された日。本来なら京子に告白するはずだった。ハルに告白されて断った俺は、京子に告白する事に迷いなんて無いと思っていた。仕事の合間に京子に会ったりお兄さんと一緒に来てくれた時も会った。でも予想以上のマフィアの重圧に圧され告白を躊躇ってしまった。そして引きずるように京子との出会いを繰り返していた。そんな俺の弱点だとカリーヌファミリーは思ったに違いない。

 

「クフフ、ボスの命令ですか。良いでしょう。その代わり約束は守ってもらいます」

 

「ああ」

 

骸は立ち止まり俺は更にスピードを上げる。死ぬ気の炎は、覚悟の証。

 

「俺は絶対に京子を死なせない!」

 

 

 

 

-----------------------------------------------------------------------

 

「出てきてもらいましょうか?」

 

「今は君と遊んでる暇はないんだけど?退いてくれない?」

 

「わりーな。ツナを追いかけなきゃいけないんだわ。だから退いてくれねーか?」

 

クフフ、この二人を相手にするのは厳しいですがやれるところまでやるしかないですね。ポケットからヘルリングを取りだし指につける。これで少しは時間稼ぎくらいは出来るでしょう。

 

「マフィアのような言葉は言いたくありませんが。....最後のボスからの命令ですから」

 

「....咬み殺す」

 

「やるしかねーよーだな。わりいけど、ツナが死ぬのはもう見たくねーんだ」

 

三人の死ぬ気の炎の炎圧が上がっていく。

 

「クフフ...迷えそして廻れ」

 

 

 

 

 

----------------------------------------------------------------------------

 

骸のお陰で誰も追いかけてきてないことを理解しXバーナーを放ち前衛隊を全滅させる。沢田綱吉の相手になるのは、カリーヌファミリーのボスと幹部と言われてる二人だけだろう。その前の相手は沢田綱吉を疲弊させるだけの傭兵に他ならない。

 

「速く、もっと速く!」

 

「はははははは、速かったな。ボンゴレ10代目。沢田綱吉」

 

「...カリーヌ。京子はどこだ?」

 

「ここだ。おい」

 

その言葉で現れた京子は、見るに耐えない程に痛々しく殴られた跡があり、出血の量からも直ぐに手当てが必要だった。

 

「ツっ君...来ちゃ駄目だよ」

 

掠れたような言葉に拳を握る綱吉。

 

「カリーヌ!!絶対お前を許さない!」

 

「ははは、これは傑作だな。やはりこの女は使えるようだ」

 

「黙れ!!」

 

罠だと分かっていても、沢田綱吉は止まらない。止まることは出来なかった。拳を握りカリーヌの顔面を捉える寸前。雷の炎を纏った矢が数百本沢田綱吉を襲った。咄嗟の事態に超直感は避ける選択肢をしたのか体が反射的に避けようとするがそれを唇を噛み締めることで拳を止めない。カリーヌの驚愕の表情と共に綱吉の拳はカリーヌに突き刺さる。降り注ぐ矢は、沢田綱吉の体に突き刺さり膝をつく。

 

「ツっ君!...どうして」

 

「京子を巻き込みたくなかった...なのに巻き込んでしまった...ごめん」

 

血を流しすぎたのか意識が朦朧としている。このままでは、京子も沢田綱吉も時間の問題だろう。

 

「沢田ー!!」

 

「10代目!!」

 

「ボス...」

 

お兄さんと獄寺君とクロームの声が聞こえる。皆来ちゃったんだ...。

 

「ボンゴレ....サンダーセット!!クローム手伝ってください!」

 

「はい!」

 

爆発音の鳴り響くなかお兄さんが近付いてくる。

 

「すいません。お兄さん...京子を巻き込んでしまって」

 

「今は何も喋るな沢田!くっ...この傷では...」

 

「おいなんとかならないのか!」

 

傷の深さから助からないのは分かっていた。それでも晴れの活性の炎を京子と共にかけてくれるお兄さんと必死に声をかけてくれる獄寺君。それに、怒って戦ってくれているランボとクローム。俺の我儘に従ってくれた骸。追いかけてくれた、雲雀さんと山本。俺は本当に良い仲間を持ったよ、リボーン。

 

「お兄さん...二人の治療はいくらお兄さんでも無理です。京子の治療をしてください。俺の傷ではもう無理ですから」

 

「10代目!!貴方がいなくなっては!」

 

「そうだぞ沢田!!京子だってお前も生きていて欲しいと思っているはずだ!」

 

“生きろ”その声が走馬灯のように聞こえてくる。瞼は重くなり体が冷たくなっていく。

 

------------10代目!!

------------沢田!!

------------ボンゴレ!!

------------ボス!!

------------小動物....

------------ツナ!!

-----------約束を破るのですか?ボンゴレ10代目。沢田綱吉

 

皆....。

 

-----------ツっ君!

-----------ツナさん!

 

京子にハル...。

 

俺は....。

 

-----------ツナ。

 

リボーン...。

 

俺は...俺は....死にたくない。

 

もっと皆と一緒にいたかった。

 

 

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

ジリリリリリ。

 

ん?何の音だ?酷い夢を見ていたようなそんな感じがする。

 

「生きてる...?」

 

窓から見える景色はイタリア本土にあるボンゴレのアジトではなく。日本にある実家から見える景色だった。

 

「ツっ君ー!そろそろ起きないと学校に遅刻するわよー?」

 

学校?さっきまで俺は...そう考えて手を見ると明らかに若かった。30後半が年老いてるとは言わないが、戦闘のせいで裂傷なんかは日常茶飯事ありもう少しゴツゴツしてたけど今は、どちらかというとひょろいという言葉が似合いそうだった。慌てて携帯を見ようと携帯を探すと中学の時に使っていたガラケーが目に入った。色も同じである。日付を確認すると忘れもしない日にちだった。

 

「中学1年で、この日付....リボーンがうちに来た日だ」

 

それはリボーンとの出会いの日であり。沢田綱吉が忘れられない日でもあった。

 

「ちょっとツっ君!!」

 

二度目の呼び掛けに慌てて一階に降りる。そこには、まだ若かった母さんがいた。自分が30歳後半まで生きていたからだろうが、母さんが可愛く見えるのは。顔は整っている方だとは思っていた。でも、この時なんて母さんが可愛いなんて勿論思ったことも無かった。現状理解できない状況だが、あるとすれば未来に行った時みたいに、この時の俺が10年バズーカを二度撃たれた。だがその可能性は限りなく低いだろう。10年バズーカの効力は十分だし。何よりもこの時はランボと関わりが無い筈だ。それに20年後から来たとしても体が20年前のままではおかしい。

 

「どうしたの?ツっ君。今日は二回目で起きてこられたと思ったら固まっちゃって」

 

考え事をしていると不信に思われたのか心配してくれた。今思えば、こんなどうしようもない子供の面倒を見てくれる母さんは凄いと思う。

 

「ううん別に。母さんは今日も可愛いなって思っただけだよ。朝御飯食べてくるね」

 

「可愛いだなんて。ツっ君、いつの間にそんな事覚えたのかしら?あ、そうだわ。ツっ君」

 

「どうしたの?母さん」

 

「今日からね、家庭教師が来てくれるんですって」

 

リボーン...。

懐かしいな、久し振りにリボーンに会えるのか。

 

「ちゃおっス」

 

「リボーン」

 

久し振りに会ったリボーンは最後に会った時よりも縮んでいた。というより懐かしい姿。赤ん坊の姿になっていた。懐かしさからだろう。リボーン相手に隙を見せてはいけなかった。

 

「...初対面の筈だが。どっかで会ったことあったか?」

 

疑問の眼差しで見てくるリボーンに対して、ついうっかり、リボーンの名前を言ってしまっていた。それ事態は母さんから聞いたとでも誤魔化せば良いだろうが。信頼という眼差しは、初対面で向けられると疑惑に変わってしまう。何も知らない相手から信頼されてても、此方は信頼出来ないのと同じである。しかも相手は一流の殺し屋であるリボーンだ。その疑惑も大きいだろう。何故こんな事態になっているのか気になるところではあるが、仮に中学生からやり直すのなら、死ぬときに感じた後悔をやり直すチャンスでもある。それならもう一度、こうしてリボーンと歩いていくのも良いかもしれない。勿論起こり得るであろう未来を変えるためにも。

 



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第1話『持田先輩との剣道勝負』

リボーンに疑惑を持たれた状態で学校に遅刻する訳にもいかず、朝御飯を急いで食べて仕度をして家を出る。塀を走り並走するのは言わずもながリボーン。この時の俺ってこんなにも体力無かったのか、とかなりゆっくり走っている。呼吸法を工夫して走ってるからなんとか走ってるけどそれでもかなり遅いだろう。

 

「俺の本職はヒットマンだぞ」

 

そんなリボーンの懐かしい言葉にあの頃と同じように立ち止まり慌てたような態度をとる。リボーンに相談しても良いけど、これからの事を考えればそれは避けたい。なんだかんだ言ってリボーンと久し振りに会って一緒にいたいだけかもしれない。

 

「グルルル」

 

そんなときに、あの日と同じようにチワワの尻尾を踏んでしまう。勿論柵は開いており紐も何故か結ばれていない。今思えばリボーンの仕業なのかもしれない。

 

「ごめんな。尻尾踏んじゃって...痛かったよな」

 

チワワの頭を撫でる綱吉。優しげな瞳で優しく撫でるその光景は、全てを包み込む大空のようにリボーンには見えただろう。懐いたチワワを撫でていると後ろから声をかけられる。その声は懐かしくも少し幼くなった声。

 

「可愛い♪おはよう沢田くん」

 

「京子..ちゃん。おはよう」

 

危なく呼び捨てで呼ぶとこだったけど緊張してるってリボーンは思ってくれたかな?

 

「ちゃおっス」

 

「わーこの子。沢田くんの弟君?」

 

その時京子の後ろからもう一人。懐かしい人物が歩いてきた。

 

「この子弟さんですか?」

 

「ううん。弟じゃないよ」

 

懐かしい。そんな気分に胸を踊ろせながらリボーンとの会話を聞いている。

 

「僕。どうしてスーツなんて着てるの?」

 

「マフィアだからな」

 

こんなに堂々としててもマフィアなんて思う人はいないだろう。分かる人は完全にそっち系の人だけだ。見た目が赤ん坊って時点で普通は冗談だと思うだろう。

 

「わー格好いい♪じゃあ学校遅れちゃうから。またね僕」

 

「ちゃおちゃお」

 

「私も遅刻です!また今度!」

 

そう言って二人とも離れていく。寂しさもあるけど二人が楽しそうな所を見るのは、やっぱり嬉しいな。

 

「ツナ、どっちの女に惚れてんだ?笹川京子とは面識あると思うが、もう一人は無いよな?そのわりには、もう一人を見るお前の目はおかしかったぞ?」

 

「...そんなことないよ。俺も遅れるから急ぐぞ」

 

リボーンは、俺が嘘を付いたことに気付いただろう。でもそれでも構わない。俺から言わない限り追及はしてこない、それがリボーンだ。勝手に調べるかもしれないけど分かるはずもない。

 

「それよりもツナ。笹川京子に告白しないのか?」

 

「あー。まだ、な」

 

「そうか。...一辺死ね。死ねば分かることもある」

 

リボーンのその言葉と共に俺の超直感が反応し体を反らすが今の反射神経でリボーンの速打ちを避けられる筈もなく。

 

「リッボーン!!死ぬ気で告白する!そして絶対に京子を守る!!」

 

額に炎を灯し、あの日の後悔が溢れでる。

 

「守る、か。ツナ。お前は何を隠しているんだ?」

 

町中を駆け巡り持田先輩を吹き飛ばし告白する。その後は、あの日と同じだった。京子に逃げられ教室で笑われ持田先輩に勝負を挑まれて放課後。死ぬ気をコントロールした今の俺なら勝てるだろう。リボーンの死ぬ気弾が無くても死ぬ気になれる。死ぬ気にならなくても簡単な柔術くらいなら使えるし、持田先輩相手にビビる事なんて有り得ないだろう。

 

だが問題はリボーンだ。死ぬ気弾無しで死ぬ気になったとしたらリボーンがどんな行動をしてくるのか予想がつかない。

 

確か持田先輩との勝負は剣道だった筈。胴着が重すぎて使い物にならないから頼みなのは超直感のみ。

 

 

そして放課後。

 

「良く逃げずに来たな。沢田!」

 

「まあ。来ない選択肢は無かったですから」

 

京子を見ると少し不安そうな顔をしている。来たことが以外という声と良く言った!という声が聞こえてくる。

 

「貴様は剣道初心者だったな?そこでこの勝負10分間に一本でも俺から取れれば貴様の勝ち。出来なければ俺の勝ちとする。賞品は勿論!笹川京子だ」

 

「賞品!?」

 

「持田先輩、一つ良いですか?」

 

この場にリボーンがいるのは何となく分かってる。視線を感じるし、でもこれだけは言わなければいけない。

 

「京子ちゃんは賞品じゃありません。その言い方は京子ちゃんに失礼です。謝ってください」

 

「なっ!」

 

俺の言葉に盛り上がる周りと取り乱す持田先輩。

 

「う、うるさい!そういう言葉は俺に勝ってからにしろ!!」

 

持田先輩から仕掛けてきて竹刀を降り下ろしてくる。胴着も竹刀も着用してないが周りを見えていないのか荒々しく振り回してくる竹刀は型も何もあったものじゃない。超直感に身を任せて真っ直ぐに降り下ろされた竹刀を左に重心を向け体を横にすることで交わし、竹刀を握り左手で持田先輩の手首の腱に一瞬死ぬ気になり鋭い手套を叩き込む。手套版の鮫衝撃と言ったら分かりやすいか持田先輩の右手は痺れて暫く使い物にならないだろう。手が弛んだ隙に竹刀を奪い面に軽く降り下ろす。静かな空間に響き渡る竹刀と胴着の当たる音。完璧なまでの一本。

 

周りが溢れんばかりの声で叫ぶ。

 

だが終了のコールはならない。審判が一本の旗を上げない。誰の目から見ても仕組まれていることは明白だった。持田先輩は右腕に力が入らないことに驚いているが足は動くようで距離を取る。

 

「い、今のは始めと言っていなかったからやり直しだ!」

 

回りからのブーイングをものともせずに良い放つ持田先輩。ある意味すごい人だ。

 

「分かりましたやり直しましょう。でも持田先輩。その腕で続けられますか?」

 

その質問に苦い顔を浮かべる持田先輩。持田先輩は、胴着を脱ぎ捨てると後輩に竹刀を持ってくるように伝えた。利き腕とは異なる左腕で構えた持田先輩は一番良い顔をしているかもしれない。油断も怠慢もない。真剣勝負。

 

勝ちが決まっていると先程までの油断は一切感じられない。緊迫した空気。これが本来の県大会を優勝で飾った持田先輩なのだろう。

 

「笹川京子。すまなかった。賞品などと言ってしまって。ここからは男と男の勝負だ」

 

持田先輩は、京子に謝り左腕に持っている竹刀をこちらに向けてくる。

 

「かけるものなどない!真剣勝負だ!」

 

自然と笑みを溢してしまう。誤解していた。

この場の雰囲気が先程とはまるで変わっていた。互いにぶつかる竹刀の音は放課後に鳴り響いた。

 

 

 

 

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持田先輩との勝負を終えた俺は教室の机に座って夕陽を眺めていた。結果から言えば持田先輩に負けてしまった。死ぬ気になれば勝てただろう。でも俺は死ぬ気にならずに正真正銘真剣に勝負をした。結果は持田先輩の一本勝ち。

 

敗者である俺に、持田先輩は何故負けた?という視線に目をそらし教室に逃げてきた。逃げる根性の無さは、昔と変わってないのかもしれない。

 

「沢田くん」

 

「京子ちゃん」

 

教室に入ってきたのは京子だった。今日一番の被害者だろう。ぱんつ一枚の男に告白されて、賞品扱いされて。

 

「お疲れ様。今朝はごめんね。私友達から良く笑うところ分かってないって言われるの」

 

「あはは、気にしないで。あれは俺がいけなかっただけだから。ほんとごめんね」

 

「沢田くんって凄いんだね!只者じゃないって感じ!それにあの時、賞品じゃないって言ってくれてありがとう。私嬉しかった」

 

「京子ちゃん...。でもあれは持田先輩が油断してたからだよ」

 

「ううん。それだけじゃないって感じがするの。ねえ、沢田くんのことツナくんって呼んでも良いかな?」

 

あの日と変わらない出来事と変えてしまった結果。でも後悔はしてない。俺がやろうとしてやったことだから。

 

「ツナくん?」

 

「うん!勿論だよ!よろしくね、京子ちゃん!」

 

 



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第2話『ジ・エンド・オブ』

お気に入りに感想ありがとうございます!読んでもらえて凄く嬉しいです!


目が覚めたのは朝の5時だった。10代目を継いでからこの時間に起きるようになったのは記憶に新しい。体が覚えているはずも無いので記憶が覚えているのだろう。隣では、リボーンがまだ寝ていた。起きるには早い時間だが昨日の反省もあり、これからのことを考えると体力作りを始めるのは良いかもしれない。

 

それに今日は、球技大会に獄寺君が並盛中学に転校してくる日だ。服を着替えて家を出る。超直感でリボーンがいない事を確認して額に炎を灯す。覚悟を炎に。この体でも出来るが炎圧が上がらないので高速移動をしてみるが遅い。現在は柔の炎を出すのがやっとみたいだ。Xグローブが無いからだろうか?炎のコントロールは上手く出来ているので、柔の炎を利用して人気の無い修行の場所に向かう。

 

XANXUSと戦う前に修行した崖の前に来ていた。これを死ぬ気の状態で登り10分休む。これを毎朝3セット。残りの時間は死ぬ気のゼロ地点突破の修行の時間に当てれば良いだろう。

 

あの時は、崖の上まで登りきるまでに死ぬ気が解けてしまっていた。それは死ぬ気のコントロールが出来ておらず常に全力を出していたからだ。自分で死ぬ気になれば感情のコントロールも上手くいく。死ぬ気弾の時は後悔している事があるとそれしか見えなくなるので感情のコントロールが出来なくなるが。

 

兎も角登ってみると一度で登りきることが出来た。死ぬ気を解くと身体中が悲鳴を上げて立てなくなったので死ぬ気になり10分間休憩し、死ぬ気のまま登り始める。最初の一日目なのか3セット終えたところで帰らないと間に合わない時間になっていた。

 

「こんなに体力無かったなんて..」

 

筋肉痛により悲鳴を上げてる体に鞭を打ち、家に向かい帰り始める。

 

「駄目ツナ。朝から何処行ってたんだ?」

 

家に帰ると起きていたのかリボーンに聞かれる。別に隠す事もないがリボーンに教えると修行の効率が落ちるし何より、ゼロ地点突破の修行が出来なくなってしまっては修行の半分は達成できなくなってしまう。嘘をついたらバレるので本当の中に嘘を紛らせる事にした。

 

「昨日持田先輩と剣道勝負をしただろ?あの時も思ったんだけどさ、体力無いのは厳しいかなって。少しは走ろうかなってね」

 

続くかは分からないけどね。と笑いながら誤魔化すとリボーンは追及してこなかった。その代わりなのか、手帳を此方に見せて今日の予定を発表始めた。

 

「今日は転校生が来るぞ」

 

「へえ。どんな人なの?」

 

「それは来てからのお楽しみだぞ。それと球技大会があるからな」

 

本来球技大会に選ばれていない俺には縁がない事だろう。でもそこはリボーンだ。前回もそうだったが今回もピザで補欠の補欠まで倒れさせたに違いない。倒れた人に申し訳なく思うがリボーンに目をつけられた時点で諦めてくれ、としか沢田綱吉は言えなかった。

 

「どうせ、何故か出場する選手が出られなくなり俺が出ることになるんだろ?」

 

「察しが良いじゃねーか。倒れた生徒は皆一様にピザを注文したらしいぞ」

 

球技大会に出場したくないわけじゃない。球技大会には、山本も参加してるしなんだかんだ言って、山本には仲間になってほしい。

 

 

 

 

 

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目の前には自己紹介を終えた銀髪の若かりし頃の獄寺君が俺を睨んでいる。右腕だと自称する彼が俺を睨むことは、高校に上がる頃から全くしなくなった。人当たりが良く、いつも補佐をしてくれる獄寺君は本当に頼りになっていた。

 

でもこうやって敵意をぶつけられるのも懐かしく、若い故のギラギラしたこの敵意が心地よくもあった。机を蹴りながら移動する獄寺君は不良という言葉がしっくりくる。煙草吸ってる時点でそう見えるけど。机蹴飛ばされても、獄寺君を怖がって席は、とか言ってる先生は他に言うことがあるだろって思ったりするけど、何事も無かったように机を戻して椅子に座る。

 

「ツナの知り合いか?」

 

クラスの友達に話しかけられる。どう言えば良いだろうか?ファミリーの仲間とは言えない。でも知らない人とは言いたくなかった。

 

「うん、まあね」

 

「ヘえ、あれって不良ってやつだろ?」

 

「きっとイタリアから日本に来て戸惑ってるんだよ。根は良いやつだと思うよ」

 

俺の言葉に意外そうな表情をした二人。

 

「なんかツナ変わったな」

 

「なんか大人っぽくなったってゆーか」

 

「そんなことないよ。それに同い年だろ?」

 

「はは、違いない」

 

そんな会話も終わり、球技大会の時間になっていた。

 

「今日は頼んだぜ、ツナ。最近のお前凄いだろ?だから注目してるんだ」

 

この時からだったな...山本が俺に話しかけてくれるようになったのは何年経っても山本に頼られるのって嬉しいよな。

 

「うん。練習出来てないけど、精一杯頑張るよ!」

 

「期待してるぜ」

 

「ツナくん、球技大会出るの?」

 

「うん、メンバーが足りなくなったみたいで。本当は練習をしっかりしてた人がでた方が良いんだけどね」

 

リボーンの仕業だと分かってるから罪悪感も酷いんだよ、前回もそうだったけど俺以外には基本なにもしないリボーンが直接辞退させるのは、初めてだよなー。あんまり関係者以外を巻き込むのはリボーンだって嫌な筈だし。

 

「でも、あの時のツナくんカッコ良かったよ」

 

「あれ以来、みんな駄目ツナって呼ばなくなったものね」

 

「頑張ってね。私応援してるから」

 

「うん、精一杯頑張るよ」

 

その後、獄寺君も球技大会に参加することになりバレーの試合が始まる。

 

 

 

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「見せてもらうぞツナ。あの時一瞬だが死ぬ気になったような気がしたのが気のせいなのかどうか」

 

死ぬ気弾無しで死ぬ気をコントロール出来る人間なんているわけねえ。と言いたいところだが

ブラッド・オブ・ボンゴレを持つツナなら不可能じゃねえ。それに9代目は強すぎるツナの超直感を封じたと言っていた。まだツナが幼いときだが、俺が死ぬ気弾を撃つとき明らかにツナは避けようとした。

 

それは超直感が働いたからじゃないのか?と思うのが自然か?9代目に確認することが増えちまったな。

 

 

 

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沢田綱吉にとって球技大会はそこまで意味のあるものではない。だが山本と獄寺と協力して出来る安全なスポーツなんて楽しみで仕方がなかった。

 

相手のアタックから始まりツナに向かって弛い弧を描きながらボールが向かってくる。目を瞑らなければ上に上げることくらい余裕なボールをレシーブして獄寺君が上手くトスして山本のスマッシュでポイント先制。流れるような動きに会場が沸き上がりクラスの応援も盛り上がっている。楽しい。素直にこう思ったのはいつ以来だろう。

 

失うものがなく単純にスポーツを楽しむなんてもう出来ないと思っていた。

 

「山本ナイスアタック!獄寺君もアシストありがとう」

 

「おう。ツナと獄寺が流れるように打たせてくれたおかげだぜ!ドンドン取っていこうぜ!」

 

「今の感覚は...」

 

「獄寺君?」

 

「いえ、何でも...」

 

獄寺は、まだ気付いていないがリボーンは気付いていた。練習もろくにしていなかった三人が流れるようにスマッシュまで持っていくのは難しいことだ。息が合ってなければ出来ない。獄寺の位置と山本の位置を把握しており信頼しているからこその獄寺にアシストを任せてそれに答えた獄寺。その日の球技大会はツナ達のクラスが優勝を飾った。

 

 

 

 

 

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球技大会も終わり教室に戻っていく生徒達の賑やかとはうってかわり、静寂に包まれる校舎の中庭に影が二つ。

 

 

「獄寺。本当に試すのか?」

 

 

「当たり前です、リポーンさん。10代目候補の沢田綱吉を倒せば俺がボンゴレ10代目になれるという話は本当ですよね?」

 

「ああ。本当だぞ」

 

リボーンの目的はツナがどれ程の実力なのか計りかねていたので獄寺をツナと戦わせて計ろうとしていた。だが先程の球技大会で既に獄寺は知らずのうちにツナを認めてしまっていた。それが無意識なのか本人は気付いていないが。

 

「でもお前、球技大会の途中でツナに敬語使ってたぞ?」

 

「なっ!そ、それは。ボスとしての資質を認めただけです。ですが実力は認めていません。俺より弱いやつがボンゴレ10代目なんて俺は認めません」

 

 

 

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球技大会も終わり俺は現在獄寺君に呼び出されて校舎裏に来ていた。あの日と違うのは嫌々来ているのではなく、少し楽しみにしているくらいだろうか。獄寺君との真剣勝負なんて、これが最初で最後だ。あの時は、ダイナマイトの消火に死ぬ気になってたけど今は違う。獄寺君と戦いたいわけじゃないけど、死なない程度の全力の戦闘なら敵意を向けられている今しか経験できないことだ。

 

「来たな。ボンゴレ10代目沢田綱吉」

 

「どうして獄寺君がその事を知ってるの!?」

 

わざとらしく驚いて見せるがリボーンを騙せただろうか?獄寺君は騙せてるみたいだけど。

 

「どうやら何も知らないらしいな。リボーンさん、本当に沢田綱吉を倒せば俺をボンゴレ10代目にしてくれるんですね?」

 

「ああ。間違いないぞ」

 

今思えば滅茶苦茶な話だな。獄寺君は小さい頃からマフィアの世界で生きてきて武器であるダイナマイトを持っている。それに比べて最近まで平凡な暮らしをしていた中学生に武器無しで戦えだなんて。

 

「それなら....果てろ!!」

 

リボーンに確かめた後、獄寺君は躊躇いもなくダイナマイトに火を着けて投げてくる。リボーンの前で死ぬ気になるわけにも行かず、リボーンなら死ぬ気弾を撃ってくる。そう思って目を閉じる。

 

「っ!諦めたのか!」

 

「違うぞ。ツナ、気になることはあるが、望みの死ぬ気弾だ」

 

その言葉と銃撃の音が木霊し、額を撃ち抜かれる。その瞬間にダイナマイトは爆発し砂埃が舞い上がる。視界が悪くなるが砂埃が晴れていく中に立っている影が一つ。

 

「リッボーン!!死ぬ気で獄寺隼人を守る!!」

 

この言葉に驚いたのはリボーンだった。ダイナマイトを投げられて後悔することと考えれば誰しも相手を倒すか、変わり者でもダイナマイトが爆発しないように導火線の火を消すことだろう。だが獄寺は驚きよりも怒りの方が先立っていた。

 

「守る...だと?舐めんじゃねえ!!2倍ボム!!!」

 

両手で抱えられたダイナマイトをツナに向かって投げられる。防げなければ命が危なくなる量の爆発がツナに襲いかかる。だがツナが直感で選択した方法は逃げるではなく手套で導火線を全て切ることだった。導火線に火が着いていない爆弾は役に立たない。地面に転がっていく自慢のダイナマイトに一瞬狼狽えるが直ぐに気を取り直し完成していない未完成の技を使う。

 

「さ、3倍ボ...しまっ」

 

両手で持ちきれなくなったボムを一つ落とすと両手一杯に抱えられたダイナマイトが次々に落ちていく。短くなった導火線を見て逃げる時間も無いと悟った獄寺は諦めた。

 

「ジ・エンド・オブ俺...」

 

呟いたその言葉と共に目を閉じる。今から襲ってくるだろう痛みと爆風を考えたが何時まで経っても爆発しない。それに先程までは感じられなかった謎の冷気すら感じる。

 

「死ぬ気のゼロ地点突破ファーストエディション」

 

目を開けた獄寺が見たのは額の炎は消えているが手を地面につけて地面ごとダイナマイトを凍らしている沢田綱吉の姿だった。

 

 



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第3話『超直感』

今回の話は作者に取って納得しきれていないので後々修正を何回かいれると思います。それでも投稿したのは、このまま考えて進まないとエタると思ったからです。投稿スピードを優先しておりますが御理解頂けると嬉しいです。


感想とお気に入り。本当にありがとうございます!とても励みになっております!


目の前に拡がる光景に何も言えなくなる獄寺。獄寺を避けるように凍りついた地面とダイナマイト、その状況を造ったのは紛れもなく目の前の少年だった。同い年の少年がボンゴレ10代目と聞いて、半信半疑のまま日本に来てみればボスの資質を認めさせられ、実力で見ても目の前の少年に勝つことは不可能だ。そればかりか、自分の攻撃で自滅しそうなところを助けてもらっている始末だ。

 

「これが...ボンゴレ10代目」

 

額の炎が消えた状態で此方に近付いてくる沢田綱吉は拳を握る。右頬に痛みが走り、自分が殴られたことを理解する。

 

「何してるんだ!!後少しで死ぬところだったんだぞ!!」

 

目の前で涙を流す、ボンゴレ10代目。対して強く殴られなかった筈の頬は今までのどんな傷よりも痛いと感じ、そして暖かった。

 

「10代目...」

 

「俺が、ボンゴレ10代目になるなら獄寺君。君の力が必要なんだ。だから自分の命を軽く見ないでくれ。自分の命を軽く見る人は、誰も助けることは出来ないんだから」

 

腰が砕けたように立ち上がれず、言われた意味を理解するまでこの場から立ち去ろうとする沢田綱吉の背中しか見ていることが出来なかった。

 

「じゅ、10代目!!俺、最初同い年のボスなんて認めないって思ってました!でも貴方は違う!他の誰よりもボンゴレ10代目に相応しい御方です!!」

 

その言葉に苦笑いで返されて手を振って帰っていく10代目。あのお方の近くで、あのお方の役に立てればどれ程幸せだろうか。殺す気で向かっていった相手を助けるなんて、そんな人見たことがなかった。

 

でも、足りない。

 

「今の俺の力じゃ、10代目の邪魔にしかならねえ...お荷物でいるつもりはねえ!自分の命を軽く見る人は、誰も助けることは出来ない....」

 

獄寺隼人は、綱吉との勝負に負けた。だが決意は固まった。綱吉を守るために今自分に出来ること。

 

夜のネオン街が拡がる並盛町から少し離れた町。夜になっても建物の灯りや人々の盛り上がりから昼間のように明るい場所になっている。

 

「君可愛いね~。チューしよー」

 

「きゃあああ!」

 

そんなネオン街に変質者が一人。

 

「....久し振りだな。あんたに頼みがある」

 

「ああ?なんだ隼人じゃねーか。久し振りだなって!あーあ...逃げられちゃったじゃねーかよ。それでどうしたんだ?遂にビアンキちゃんを紹介してくれる気になったのか?」

 

この場所にそぐわない少年と変質者。

 

「...俺にもう一度戦い方を教えてくれ」

 

「あー?やだよ。お前はなーんにも見えちゃいねーからな。見えてないお前に教えることは何もない。帰りな」

 

「守りたい人が出来た。でも今の俺じゃその人の邪魔にしかならねえ...強く、強くなりてえんだ!!」

 

少年の目の奥底に無かった、覚悟を見て変質者は足を止める。

 

「守りたい人ね。なーんだ隼人、彼女でも出来たのか?」

 

「んなわけねーだろ!!本来なら俺が守りてえなんて烏滸がましいかもしれねえど...あの期待された目には答えてーんだ」

 

「ふーん。それじゃ問題を出してやる。俺の納得がいく答えを言えたら教えてやる。その代わり間違えたら一生お前には教えない。お前も教わりに来ない。それでどうだ?」

 

「...ああ」

 

「お前には見えてねーもんがある。それはなんだ?」

 

 

 

 

 

----------------------------------------------------------------------------

 

獄寺君と戦った後、まさか自滅をしそうになるなんて思わなかったから焦ってリボーンの前で死ぬ気のゼロ地点突破ファーストエディションを使ってしまった。意外だったのは、リボーンから何も聞かれなかった事だ。聞かれた事と言えば、獄寺はボスであるお前を殺そうとしたんだぞ?お前が望むなら獄寺を殺すことだって出来るけど良いのか?という事くらいだった。

 

リボーンは誤解しているようだけど、獄寺君は既に罰を受けてる。右頬殴っちゃったし...それに獄寺君は自分を犠牲にしてでも解決しようとしちゃうから、あの場で言っておきたかった。

 

 

 

 

翌日の朝、目が覚めると隣で寝てる筈のリボーンは既にいなかった。書き置きだけが残されていて、2日程留守にすると書かれており隣には教材の山が出来上がっていた。2日までに全て終わらせておけと言うことだろう。10代目になる前にリボーンから受けた知識は未だに残っているので中学生レベルの問題ならケアレスミスさえしなければ間違えることはないだろう。昨日から始めた修行を行うために服を着替えて家を出る。

 

今日は学校は休みだし、リボーンも家にいないなら長めに修行の時間を取っても問題ないだろう。崖を死ぬ気で登り死ぬ気で休む。一日目と殆ど変わらない時間になっていた。崖の上で深呼吸をして死ぬ気の炎を額に灯らせる。右手の手の平と左手の手の甲を前方に向けて組み合わせ、四角形を作る。

 

「ふう...死ぬ気のゼロ地点突破・改」

 

暫く構えていると疲労感が溜まり膝をついてしまう。戦闘で使うなら自由に使えなければ使い物にはならないだろう。現状の修行内容は、体力作りと精神面の強化から始めることが大切。何時もより長く修行した帰り道家の目の前にランボが立っていた。覗こうと中を見ようとしているのか、小さな身長では中は見えないだろう。

 

「何してるんだ?」

 

「え?えーと。リボーン君はいますか?」

 

冷や汗を流しながらリボーンを探してるランボ。そう言えば、今日はランボがイタリアからやって来る日だった事を思い出す。

 

「リボーンなら2日留守にするって今はいないぞ?」 

 

「リボーンいないのかー...アハハのハー。困ったな~ランボさんは、リボーンに会いに来たんだけどリボーンの奴が逃げたならしかたなぐぴゃっ!」

 

「あー...リボーン。どうしたんだよ、早かったな」

 

ランボの頭の上に空から降ってきたリボーンが綺麗に着地した。

 

「ツナに会いたいって言われてな。こっちにくる事になったんだ」

 

黒塗りのリムジンがリボーンの隣に止まり一人の老人が降りてくる。杖をつき白い髭を生やした老人は笑顔で微笑んでくる。

 

「綱吉君、久し振りだね」

 

「お久し振りです」

 

頭を下げながら言うと老人に頭を上げてくれと言われ素直に頭をあげる。昔、よくうちに来ていたお爺ちゃんという印象だったが。今は違う。

目の前に立っている老人は只の老人じゃない。ボンゴレというマフィアのボスである9代目だ。

優しそうな笑顔の裏に隠された全てを見通しそうな瞳から反射的に顔をそらしてしまう。

 

「リボーンから聞いているよ。君の大切な人も守りたい人もね。君と直接会って確かめたいことがあったのだが...その必要も無いようだ。リボーン。私は帰ることにするよ。聞きたいことも分かってしまった」

 

「そっか。気を付けて帰れよ」

 

「ああ、綱吉君。急にお邪魔して悪かったね」

 

微笑むとリムジンに乗り込む9代目。今のやり取りで9代目は分かったのだろう。沢田綱吉の超直感は封印から解かれた。顔をそらしてしまったのは超直感からくる回避行動。それは即ち、自分の立場を理解した上で力を隠そうとしたと言うこと。本来なら死ぬ気のゼロ地点突破を何故使えるのか、9代目は綱吉に聞く筈だった。だが、その問いは今は意味をなさない。昔と変わらない優しく光を放つその瞳に彼なら大丈夫だとある種言葉よりも安心出来たからである。

 

 

 

----------------------------------------------------------------------------

 

「さてツナ。次の問題だぞ」

 

「えー...まだやるのか?」

 

9代目が帰った後、ツナはボンゴレ式の勉強をしていた。懐かしくも苦い思い出になっている。正解を間違えると爆発する方法だ。かれこれ3時間ほど勉強をしてるが一問も問題を間違えないからかリボーンのイライラが伝わってくる。

 

「ツナが間違えないから折角のセットが無駄になるだろ?」

 

「そんな理不尽な理由があるかよ..。合ってるなら問題ないだろ?」

 

ツナの成績を調べたリボーンは、ツナが答えられないと思い張り切って準備したらしいボンゴレ式勉強法。だがリボーンの中で誤算だったのは、ツナがすんなりと問題を解いていくからである。ツナが中学から高校にかけてリボーンのこの教え方で身に付いた知識は伊達ではない。現在の綱吉の知識はリボーンのお陰だが、理由を知らないリボーンの機嫌は終始悪かった。

 

問題が解けてもこのままでは、爆発は免れない。そう直感したツナは話をそらすことにした。勿論問題を解きながらではあるが。

 

「そう言えば、リボーンに会いに来たって子供いただろ?あいつは放っておいて良いのか?」

 

「そんな奴いなかったぞ?それよりも次の問題の答えはなんだ?」

 

「3分の4」

 

「正解だぞ。次は数学から理科に移るぞ」

 

ランボに対しての扱いは相変わらずだなぁ...。分からなくもないけど。2階の部屋の窓から必死にリボーンに向かって叫んでいるランボ。髪の毛の中に入れておいたのか手榴弾を投げ込んでくるが超直感がまるで反応を示さない。手榴弾が投げ込まれているなか、笑っているランボに苦笑いを返すことしかツナには出来なかった。

 

「ぐぴゃっ!」

 

木の上で高笑いしていたランボにハエタタキに変身したレオンを使ってリボーンが手榴弾を弾き返したことでランボは爆発音と共に木から落ちていく。

 

チャイムの音が聞こえ暫くするとランボが部屋に入ってきた。

 

「がははは!リボーン!ボヴィーノファミリーのランボさんが態々会いに来てやったぞ!!」

 

「ツナ。次の問題だぞ」

 

不憫にしか思わないが10年後のランボは、少しウザさが残っているけど頼もしい仲間になってくれている。懐かしい5歳児のランボは、普通にリボーンと遊びたいだけなんじゃ、と思うけどリボーンがランボと遊ぶ筈ないし。

 

「ううう、が・ま・ん。しないもんね!!死ねー!!リボーン!」

 

ランボを見ないまま片手で壁に吹き飛ばすリボーン。こんな光景も懐かしいと感極まっているとランボが10年バズーカを取り出す。もくもくと、煙が晴れた場所に立っているのは5歳児のランボではなく、10年後の姿のランボだ。

 

「若きボンゴレ、お久し振りです。リボーンどうだ?子供の時にお前に泣かされていたランボだぞ」

 

「ツナ。次の問題だぞ」

 

大人になってもランボの扱いは変わらないリボーンに最初こそ話を聞いてあげたら?と言おうとしたが、リボーンから蹴られる事を直感して止めた。

 

その後は言わずもながだが、エレクトリックコルナーターをしてきたランボに対してリボーンが脛を蹴りあまりの痛さに泣きながら二階の窓から外に落ちていくランボ。少しスッキリしたのか先程までのイライラは感じられなかった。

 

「今日はこの辺で終わりだぞ。次の中間テストで1位を取らなかったら今日の3倍ねっちょりやるからな」

 

中間テストで一位を取るという事は100点を取れってリボーンは言ってるんだろうな....。獄寺君が中学生問題で落とすなんて考えにくいし。

 

「分かったよ」

 

 



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第4話『風紀委員長』

大幅に原作と違う箇所が出てきます!というか雲雀さんが...可笑しくなければ良いのですが。

御指摘何かあればお願いします。


お気に入りと感想ありがとうございます!とても嬉しいです!


ランボが当然のように食卓を囲み、住み始めた事を抜けば何もない一日だった。朝起きて修行をしてから家に戻ると朝御飯を食べてランボと遊び、リボーンと一緒に勉強を始める。勉強を始めるとランボが悪戯しにくるがリボーンが対応してくれるので勉強も集中できた。何もないけどこういうのが充実してるっていうのかな?

 

「...。はあ、この視線さえ感じなければなあ..」

 

 

 

-----------------------------------------------------------------------

 

月曜日だから憂鬱な気分なわけじゃないだろう。昨日から感じるようになったこの視線。誰のか分かっているだけに手が出せないのも質が悪かった。

 

修行を終えて学校に向けて走っていると目の前から自転車が見える。

 

「どうぞ」

 

知らなければ美人なお姉さんからジュースを貰えたって喜ぶところなのだろうが、知ってるものからすれば冗談じゃなかった。投げ渡されるジュースを掴み、開かないように神経を使いながら持ち、河川敷に降りて土を堀り埋めた。誰も掘り起こさないと祈りながら。

 

「よし」

 

 

-------------------------------------------------------------------------

 

教室に着いた俺は教室の扉を開けると、驚きにより固まってしまった。

 

「おはようございます!10代目!!」

 

元気よく挨拶してきたのは、全身に裂傷やら打撲を負った獄寺君だった。

 

「いや獄寺君。どうしてそんなにボロボロなの?」

 

少し怒りながら言う。昨日無理はしないで、という意味を込めて伝えた筈だったのにこんなに傷だらけになるなんて思わなかった。

 

「これは...ちょっと教えを受けてまして。ですが大丈夫です!自分の命だけは大切にしてますから!!」

 

そう答えた獄寺君は輝いていた。何かが決まったのか真っ直ぐ見ているその瞳は俺なんかが止めていい物じゃなかった。それに獄寺君が教えを自分から求める相手なんて一人しかいなかった。あの人がこんなにも早く日本に来てるなんて知らなかったけど、あの人に教えてもらってるなら安心だね。

 

「そっか。無理だけはしないでね?あ、後学校では10代目呼び止めてほしいんだけど」

 

「オッス。二人とも、マフィアごっこやってるのか?楽しそうだな、俺もそのファミリーに入れてくれよ?」

 

山本は高校を卒業と同時に野球を辞めて剣一本に絞っていた。この時のように野球をしている山本も好きだったので続けてほしかったけどマフィアになるならプロにはなれないって、高校二年の時から声かけられてたのに全部断ったと聞いたときには驚いたっけ。スクアーロは嬉しそうだったけど。それに、俺としても山本がずっと傍にいてくれたからこそ出来たこともあるし本当に感謝してる。この頃の山本は、才能があるからこそのイップスになってた筈。無理な練習をして怪我して一緒に屋上ダイブしたっけ、懐かしいな。山本の気晴らしになるならマフィアごっこも良いかもしれない。リボーンの事だし山本のバットを渡す日も遠くないだろうし。

 

「なっ!お前もしかして10代目の右腕を狙ってるな!10代目の右腕になるのはこの俺だ!」

 

「まあまあ獄寺君。山本も一緒にいても面白いと思うよ?」

 

「やりー!んじゃ遊ぶときは誘ってくれよな」

 

「遊びじゃねーって!」

 

この二人は、やっぱり相変わらずだね。獄寺君が一方的に嫌ってる感じがあるけど未来に行ったときからかな?獄寺君は納得しないと思うけど守護者の中では、山本を一番信頼してるんだよね。山本も獄寺君を一番信頼してるし。

 

「ちょっとあんたたち邪魔よ」

 

その声で教室の入口で話してたことを思い出す。

 

「ご、ごめん」

 

「ツナくん、おはよう」

 

登校してきた黒川と京子ちゃんがいた。黒川は、10年後お兄さんと結婚してマフィア関係者になっちゃうけど、一番女性関係で世話を焼いてくれたのは黒川かもしれない。京子ちゃんの事に関して、何度も言われたし。あの時の黒川は鬼気迫る感じで怖かったなぁ。優柔不断な俺がいけないんだけど。

 

「おはよう京子ちゃん。それに黒川」

 

「なんか沢田ってやっぱり変わったわよね。雰囲気が大人っぽくなったって言うか。まっ前よりは良いと思うわよ。ね?京子」

 

「うん、そうだね。変わったと言えば落ちついて見えるようになったところかな?」

 

「かもね。でもいくら大人っぽくなったからって子供連れてきちゃ不味いわよ」

 

いつのまにしがみついてたのか、ランボが足にいた。超直感を持ってして気付かないなんて、ひょっとしてランボって...そんな筈ないか。ただ危険は無いって事だろうし。

 

「ううう...ひぐっ」

 

「その子、ツナくんの弟?」

 

「ううん。知り合いの子でうちで預かってるんだよ。ランボどうしたんだ?」

 

「リボーン何処にもいなくて」

 

素直に遊びたいって言えば...いや無理だよな。優しくランボの頭を撫でてると廊下が騒がしくなってきた。

 

「おい、ツナ」

 

「あー、雲雀さん」

 

学生服に身を包んだ孤高にして並盛最強の風紀委員長。そして不良の頂点に君臨する男。好戦的な目を抜けば整った顔とスタイルの良さから女性にモテそうだが、彼に抱かれるのは恐怖とほんの一握りの憧れのみ。

 

「君。何してるの?風紀を乱すなら噛み殺すよ?」

 

「ツナ、こいつだけはやべーぜ」

 

「は?何言ってんだ。10代目がこんな奴に負ける筈ねーだろうが。むしろ10代目が出るまでもねえ!」

 

冷や汗を流しながら山本注意を促してくれるけど獄寺君が煽ってるから意味がない。山本は雲雀さんの危なさを知ってるからこその注意。獄寺君は知らないから、そして自分に対しての自信から態度に現れている。

 

「へえ。君転校生だったね。僕の前で群れると噛み殺すよ」

 

仕込みトンファーを出して威嚇する雲雀さん。今の動作で雲雀さんの実力の一部ではあるが垣間見た獄寺君は警戒している。

 

「雲雀さん、すいませんでした。知り合いの子なんですけど付いてきちゃったみたいで。一人で帰れとも言えないし今日だけ学校にいさせてもらえませんか?」

 

「駄目だよ。部外者が敷居に入る許可を出した覚えはないからね」

 

「それなら許可を取れば良いんですよね?見学者扱いに出来ませんか?そうすれば風紀が乱れる事もないと思います」

 

雲雀さんのトンファーが顔に当たる寸前で止められる。空を切ったその一撃はツナの髪を揺らす。当たっていればどれ程の威力になったのか想像したのだろう。周りで見ていた生徒の顔が一様に青くなる。

 

「へえ」

 

その声は雲雀さんから発せられたものだった。雲雀さんの一撃を寸前で止められたとはいえ、微動だにしなかったツナに対しての称賛の声かそれとも。

 

「て、てめえ!!10代目に何っ!10代目...」

 

雲雀さんに殴りかかろうとした獄寺君を手で制する。

 

「大丈夫だよ獄寺君」

 

「職員室に行きなよ。僕の名前を出せば問題ないから」

 

戻っていく雲雀さんは、途中で何かを思い付いたのか振り替えって言ってくる。

 

「そうだ。君、風紀委員に入る気ない?」

 

その言葉にざわめく廊下で、皆の視線は俺に向いていた。あまり気持ちの良い視線じゃなく、苦笑いで断る。

 

「そっ。気が変わったらいつでも来てよ。じゃあね」

 

雲雀さんが見えなくなった瞬間に廊下で皆が騒ぎ始める。これって風紀乱れてないのかな?

 

「ツナ凄いな!何時の間にあんな度胸付いたんだよ!」

 

「それも雲雀さん相手にだぜ?お前出来るか?」

 

「いや無理だろ!」

 

雲雀さんが当てる気が無かったのは超直感が反応しなかったからで、雲雀さんの一撃は20年以上後の雲雀さんの一撃と比べると天と地ほどの差があるから単純に遅いと感じただけだけど。それを素直に言うつもりはない。

 

「そんなことないよ。速すぎて何が起きたのか理解できなかっただけだから」

 

笑いながら誤魔化す俺の言葉に皆は納得して教室に入っていく。そろそろ時間なので急いでランボを連れて職員室に行こうとすると何故かランボがいなくなっていた。

 

「あれ?ランボは?」

 

「そう言えば、いませんね。10代目に御迷惑をかけておきながら勝手にいなくなるなんて」

 

「まーまー。落ち着けよ獄寺。それでツナどうすんだ?」

 

このままランボを放っておいても問題ない気はするけど。間違えて雲雀さんの所にでもいったら今度こそ戦いは免れないだろうしなぁ。

 

「ごめん。俺ちょっと探してくるよ。皆は授業始まるし先に教室に入ってて」

 

「それなら俺もお供しますよ!10代目」

 

「俺一人で大丈夫だよ。獄寺君は、俺が遅れてくるって先生に伝えてくれる?」

 

安易に着いてこないでと伝えたのだが10代目のお願い..しっかりと伝えておきます!と何故か張り切っていた。着いてこないなら良いかなと思いランボを探す。マフィアといってもまだ子供だ。多分。誤射してなければ。

 

そう遠くには行っていない筈。

 

階段を降りて外に出るとランボではなく、リボーンがいた。それもいつ仕掛けたのか壁が開き椅子の上に座っている。そう言えば学校の至るところに仕掛けてあるって言ってたような気がする。

 

「そろそろ授業が始まるぞ。早く教室に戻れ」

 

「変なところから出てくるなよ、リボーン。それよりもランボ見てないか?」

 

「ああ、見てないぞ」

 

「がははは、ツナを囮にしたら出てきたなリボーン!作戦通り!」

 

絶対行き当たりばったりだろ、とは言わない。言っても無駄なことは既に何度も経験してるからな。こんなときフータがいてくれたらなぁ。久し振りにフータにも会いたいな....。ボスになった後は殆ど会えなかったし。

 

「ツナ。遅刻したら帰ってからねっちょり勉強だからな」

 

「無視すんな!リボーン!!くらえ!!」

 

ミサイルランチャーを此方に向けるランボ。この状況に危険を感じないのは多生なりとも感性が狂ってしまってるんだろう。

 

「ランボ。学校でそんなもの撃ったらもう遊んであげないからな」

 

少しきつい言い方になるかもしれないけど、学校でミサイルランチャーなんて使われたら雲雀さんが来るに決まってるし、下手すれば獄寺君

も来ちゃうからランボの為にも使わせられない。

 

「う、うう...うわーん。やだー、ツナはーランボさんと遊ぶんだもんね!!」

 

結果泣き出してしまったランボ。リボーンはいつの間にかいなくなってるし、チャイムが鳴ったので遅刻は確定。家に帰ったらねっちょり勉強と考えると少し気が重い。

 

「撃たないなら遊ぶから。だから、な?そんな物置いておいで。ランボ」

 

「うん..ぐすっ....あっぐぴゃっ!」

 

何事もなく終わると思っていた拍子に、やっぱり何事も起こらないなんて有り得ないと思い返すことにした。何故かバナナの皮(多分仕掛けたのは、リボーンだろう)が置いてありそれを踏み滑って頭をぶつけ、更にランボは10年バズーカーを自分に誤射していた。

 

「会うのは2度目になりますね。若きボンゴレ」

 

「ランボ。ひさしぶ」

 

「ロメオー!!」

 

超直感を使わなくても分かる。この声は...。この頃視線を常に感じていた相手でもある。

 

「ビアンキ...。っ!ランボ急いで逃げて!!」

 

「へ?...え?」

 

「逃がさない!ポイズンクッキング!!」

 

毒々しい煙を立ち込めながらランボに皿に乗せられたケーキ?を投げ付ける。突然の事で避けられなかったランボはポイズンクッキングの餌食になり倒れてしまった。

 

「10年後の医療技術なら助かるかもな」

 

「リボーン。何処に行ってたんだよ」

 

「リボーン!!探したのよ。貴方にはこんな平凡な暮らしは似合わないわ。また私と一緒に仕事しよ?」

 

「俺はツナの家庭教師だから、それは無理だぞ」

 

「可哀想なリボーン。このボンゴレ10代目が不慮の事故か何かで死なない限り解放されないのね...」

 

この頃のビアンキって結構本気で俺を殺しに来てるんだよな...。殺し屋だから普通なのかもそれないけど。素人に殺気を隠そうともしないのはどうかと思うけど。それに思い出した。今日は女子が家庭科の授業でクッキーを作るんだ。このままビアンキがいたらポイズンクッキングを食べることになるのか。

 

「ビアンキ。ちょっと話があるんだけど」

 

「あら?死にたいの?だったら手伝うわよ?」

 

「違うって...」

 

ビアンキを一日校舎から離すにはどうすればいいか。それは長い付き合いだから分かっている。後で報復が怖いけど。京子ちゃんの手作りケーキは食べたい!

 

「-------------------」

 

ビアンキの耳元で話している声はリボーンには聞こえていない。ビアンキの反応から見ても上手くいきそうだ。

 

「.....今日は用事が出来たわ。リボーン。楽しみにしててね」

 

語尾にハートが付きそうな甘い声でリボーンに言った後ビアンキは学校を出ていった。

 

「ツナ...ビアンキに何言ったんだ?」

 

「ちょっとね。それより授業始まってるし俺は戻るよ」

 

きっと後で報復が待っている。でも、せめて帰るまでは楽しもうと。ツナは現実逃避を始めていた。

 



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第5話『調理実習』

更新が遅れてしまいすいませんm(__)m中々ビビッと来ませんで...なんとか書けました。


「今日は家庭科実習で作ったケーキを男子にくれてやるー!!」

 

家庭科実習で作るケーキよりも明らかに一線を越えているケーキを黒川の言葉と共に女子生徒が思い思いに男子に渡していく。男子から貰いに行くこともあるけど人気が高い、山本や獄寺君の周りには人だかりが出来ている。ボスになった後に貰ったケーキに比べれば見劣りするものばかりだけど、ケーキの中には毒も策略も入っていない。純粋に食べて欲しい!という気持ちだけが入っている。一つ一つが輝いて見えて羨ましく思えてしまう。

 

ま、俺にケーキを食べて欲しいなんて思ってくれる人なんていないと思うけどね。昔と同じなら京子はくれると思うけど。貰えなかった時の事を考えると少し落ち込むかも。

 

「さ、沢田君!良かったらケーキ食べてください!」

 

そんなことを考えていると後ろから何人かの声がする。5人くらいの女子生徒がケーキを差し出しながら頬を染めている。え?俺に!?

 

固まっている俺に声をかけてきたのは意外な人物だった。

 

「まっ。近頃のあんた見てたらおかしくないんじゃない?ね?京子」

 

「うん。ツナ君格好良かったもんね!」

 

黒川と京子だった。二人も此方に来てケーキを差し出してくれる。獄寺君が「流石10代目です!」とか言ってるけどスルーしよう。嬉しいけど正直戸惑っている。こんな状況今まで無かったから。それに囲まれて差し出されてるからどの子から最初に貰えば良いのかも分からなかった。

 

「たく、あんたは。はいはい。皆並んであげて。沢田は受け取らないんじゃなくて品定めしてるようでどの子から取れば良いのか分からないんだって」

 

その言葉と共に列が綺麗に出来る。ほんと黒川には感謝しないとな。それから暫く幸せな時間が過ぎたと思う。普段中々話さないクラスの女の子との会話。中学時代の俺には有り得なかった。

 

「ほら。同い年なんて皆子供で興味ないけどあんたなら少しはマシよ。有り難く頂きなさい」

 

「ははは、ありがとね黒川。色んな意味で」 

 

「あんた、ほんとに変わったね。京子がいなかったら...いやそんな例えは意味無いか。頑張んな」

 

ケーキを食べながら黒川はそれだけ言って自分の席に戻っていった。

 

「ツナ君。私が作ったケーキも食べてくれるかな?」

 

一番最後に並んでいた京子がケーキも差し出しながら言ってくる。ビアンキもいない状態で断る理由は無かった。

 

「勿論だよ、京子ちゃん!」

 

この時の俺は忘れてたんだ。幸せの時間を過ごす代わりにしていたことを。

 

 

---------------------------------------------------------------------------

 

「ただい.....」

 

家の扉を開けた筈だった。なのに超直感が警鈴を鳴らしている。そこから迷いは無かった。家の扉をゆっくりと閉めて走り出した。目的地なんてない。ただひたすらリボーンの怒りが治まるまで。

 

「ツナ」

 

全速力で走っている中誰かが並走しながら呼んでくる。勿論誰が呼んでるのか分かっている。

 

「...やあリボーン」

 

「ビアンキの事知ってたな?」

 

ん?何やら怒っているようには見えない。それに感じない。走るのを止めてその場に止まる。

 

「うん知ってたよ。朝毒物を渡されたからね。俺に恨みがあるみたいだから今日仕掛けてきそうだったし」

 

嘘ではない。毒物は開けてないから普通は分からない。そのまま埋めたのだから。俺に恨みがあるのは殺気で何となくわかる。隠す気無さそうだったし。

 

「そうか。俺とビアンキの関係も知ってたのか?」

 

狙い通り進んだのだろう。あの時ビアンキに言ったのは。

 

『リボーンが久し振りにビアンキに会えて、美味しいご飯でも作って欲しいって言ってたよ』

 

これだけだ。ビアンキは予想通り動いてくれたのだろう。リボーンが無事ということは何とかしたんだろうけど。

 

「小耳に挟んでね。リボーンが俺の事を調べてるように俺もリボーンの事を少しは調べてるんだよ。それよりビアンキからはどうやって逃げたんだ?」

 

「そうか。別に逃げたわけじゃないぞ。今から晩御飯だ」

 

「え?....」

 

リボーンの言葉に嫌な予感増していく。

 

「心配しなくてもママんは福引きの懸賞でボンゴレ御用達の三ツ星ホテルに一泊二日で旅行だぞ」

 

どうやら母さんは避難させたようだ。何気にそのホテルに父さんと行ってそうだけど、母さんが楽しいのならそれで良い気がする。

 

「それじゃあ、ミッションだぞ。これから待ち受けているターゲットl《ポイズンクッキング》を速やかに処理することだぞ」

 

簡単に言えばビアンキの作る晩御飯をどうにかしろって事だろ?自分で撒いた種だけに思考を巡らせるが良い案が思い付かない。ランボの顔がちらつくが毎回大人ランボにビアンキの相手を頼むのは気が引けるし...。実力行使でビアンキを追い出すのも違う気がする。獄寺君に頼むのも悪いし、そもそもビアンキの顔見たら倒れちゃうよな。記憶を辿れば確かにこのような状況はあった。

 

だが解決法方は最良とは言えない。爆発オチか、大人ランボオチのどちらかだ。コロネロとラルが13回目の結婚式でようやく結婚した時にビアンキは普通に料理の腕を振るっていた。つまりビアンキが無意識にポイズンクッキングしてしまうのは、まだまだ自分の力がセーブ出来ず未熟だと言える。だがそれは優秀な殺し屋l《ヒットマン》でもある。

 

「このまま逃げたら駄目かな?」

 

「そんなことしたら狂喜に狂ったビアンキが何するか分からねーぞ」

 

夕焼け空を眺めながら考える。そして思い付くのは昔もした方法。ランボに10年バズーカで大人ランボになってもらい俺自身が大人ランボを抱えて死ぬ気で逃げることだ。昔の俺はギリギリだったけど今現在の体力なら10年バズーカの効力が切れる5分間だけ逃げるなんて難しくないと思う。ビアンキは体力的に見ると一般人から逸脱してるけど、足の速さだけをみれば陸上部のエース級だと思う。その程度なら死ぬ気になれば追い付かれることもないし逃げ切れる自信がある。

 

「分かったよ。リボーン、ランボの居場所って分かるか?」

 

「ここにいるぞ」

 

「ぐぴゃっ!」

 

小石を河川敷目掛けて投げたリボーン。流石と言うべきか、ランボの悲鳴が聞こえて河川敷で目を回していた。

 

「ランボを囮に使うのか?」

 

リボーンの問いにどう返そうか悩んだけど素直に話すことにした。

 

「大人ランボにね。ビアンキの元彼に似てるみたいだから。それに囮になっちゃうけどちゃんと逃がすから」

 

「そうか。それじゃ任せたぞツナ」

 

「ああ」

 

 

 

そして現在。俺は絶賛逃げていた。

リボーンが何故か死ぬ気弾を撃ってくれないせいで死ぬ気にもならずに、いや.....大人ランボを抱えて走るために最低限の死ぬ気にはなっているが。それでも全力じゃない。

 

「待てぇええええ!!ロメォオオオオオ!!!」

 

後ろから聞こえるビアンキの声が怖い。殺意と投げられるポイズンクッキング達。超直感を頼りに避けているから当たることはないけど、それでも怖い。

 

「若きボンゴレ。も、もう少しゆっくり」

 

抱えている大人ランボに自殺を志願されたが、心中するつもりはない。

 

「俺はまだ死にたくないからランボだけ降ろそうか?」

 

「このままで大丈夫です」

 

逃げてから三分が経過していたが思ったよりも状況は良くなく、このままではビアンキの目の前で大人ランボが子供のランボに戻ってしまう。これ以上死ぬ気になれば額に炎を灯してしまう。それはリボーンに一発で死ぬ気弾無しでも死ぬ気になれると言ってるようなものだ。現状バレてないかは五分と五分だけど。

 

「辛そうだな、ツナ」

 

心中穏やかじゃないまま走っていると隣をリボーンが並走していた。

 

「誰のせいなんだよ...」

 

「元々ビアンキに嘘をついたお前が原因だろ?それにいつでもあると思うな死ぬ気弾、だぞ」

 

俺が死ぬ気弾を待っているのは読まれているようだ。それでも死ぬ気弾を撃たないのは嫌がらせなのか、それとも。

 

「後...1分か」

 

俺は大人ランボを降ろしてビアンキに向き直る。

 

「わ、若きボンゴレ?」

 

「ランボ。俺が時間を稼ぐからその間に逃げてくれ」

 

「ロメォオオオオオ!!」

 

「ひぃ」

 

「早く逃げるんだ!」

 

「す、すいません!若きボンゴレ」

 

なんとか逃げてくれたランボ。そして俺の目の前には般若が一人。

 

「邪魔するなら貴方から殺すわよ?ポイズンクッキング!」

 

ビアンキはホールのケーキを此方に向けて突進してくる。あれが普通のケーキだったとしても正気の沙汰じゃない。そもそもビアンキの服装は基本的にラフである。薄着にジーパンという武器を隠したり食べ物を隠したり出来る服装ではない。何か持ってる様子もないので何処から料理を出しているのか不思議ではあるが今更でもある。

 

ビアンキがポイズンクッキングを当てる瞬間。甲高い銃声音が響き渡った。

 

「リッボーン!!死ぬ気でビアンキを止める!」

 

直進してくるビアンキに対して真正面から緊迫する。

 

「っ!速い!」

 

「うぉおおお!」

 

ホールのケーキが当たる瞬間に体制を低くしてかわし、ビアンキの右足を払って状態を崩す。

 

ビアンキは悲痛そうな顔をした後目を閉じるが痛みが中々襲ってこないので目を開ける。

 

「どうして止めをささないの?」

 

ビアンキの前には死ぬ気が既に解けたツナがパンツ一枚で立っていた。

 

「ビアンキは敵じゃないから。それに頼もしい仲間だって思ってるから」

 

「そう...。リボーンに伝えておいて、あの依頼受けるわって」

 

「分かったよ」

 

「それじゃあ、また会いましょう。ボンゴレ10代目」

 

 

 

 



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6話『課題』

少し短めです。


「今日はこの前のテストを返す」

 

え、テスト?開口一番言われた言葉に固まる俺。俺が中学に戻ってからテストをした記憶がない。というか返却の時に俺とばされてるんですけど...。

 

「あの先生。俺のテストだけ返ってきて無いんですが」

 

「当然じゃないか。君はその日授業をサボっていたんだから」

 

冷たく言い放たれたこの言葉で何時テストがあったのか分かった。ランボを追いかけていた時だ。あの後結局ランボをあやしていたら一時間過ぎてたんだよな...。というか誰も教えてくれなかったんですけど。

獄寺君に顔を向けると凄い勢いで頭を下げていた。元はと言えば自分のせいだし何も言えないけどね。

 

「今回赤点だった奴と沢田には課題をやってきてもらう。そして全部正解出来なかった生徒は落第だ」

 

その言葉とクラスの一部からの悲鳴により授業どころでは無くなった。

 

プリントを配られた俺は問題である問7を見ていた。中学生が解けるレベルじゃない証明問題を課題にするとかどうかと思うけど。そもそもこの問題は誰が作ってるんだ?ひょっとしたら雲雀さん?...そんな筈無いよね?ははは...。

 

「なあツナ。今回の課題一緒にやらね?二人でやった方が解けるかもしれねーしさ」

 

「勿論だよ!一緒にやろう山本!」

 

今の俺に解けないはずもなく、ただ山本の誘いが嬉しくて声高らかに返事をする。

 

「はは、よろしな!」

 

「あんた達二人で大丈夫なの?」

 

「黒川と京子ちゃん?」

 

心配してくれたのか二人とも今からうちに来て勉強を手伝ってくれるという。記憶では二人からそんな提案は無かったから少し驚いてしまう。

 

「私も京子も数学は得意だから教えてあげられるし、京子が言ってきたもんね」

 

「花!それは言わないでって」

 

「良いじゃない。心配だったんでしょ?」

 

やばい、凄く嬉しい。昔の俺だったら嬉しすぎて泣いてたかも。

 

「二人ともありがとう!ぜひお願いするよ!山本も良いよね?」

 

「ああ勿論だぜ。二人がいてくれれば心強いのな」

 

今日うちには、山本と京子と花が来ることになった。リボーンの事だから獄寺君も誘うと思うけど。やっぱり皆いた方が楽しいよね。

 

「ごめんねツナ君。いきなりで迷惑じゃなかった?」

 

京子は昔から気にし過ぎるところがある。そこが可愛いんだけど、そんな表情はしてほしくないな...。

 

「そんなことないよ!むしろ来てくれて助かるよ、俺と山本だけじゃ解けない問題もあるだろうし」

 

「そう?良かった♪」

 

途中まで皆で帰り、着替えてからうちに集合になった。ここにいる全員住んでる場所近いよね。山本が少し遠いくらいで京子と花の家なんて徒歩15分かからないところにあるし。

 

「ただいま」

 

「ツっ君。お帰り、リボーンちゃんが後で獄寺君が遊びに来るって言ってたわよ。ツナのお友達?」

 

「うん。とっても頼りになるんだ!」

 

「そう。良いお友達が出来たわね」

 

「うん、それと。獄寺君以外にも三人来るんだけど大丈夫?」

 

「大丈夫よ、ふふ。ツっ君が家にお友達を連れてくるなんてね」

 

そう言えばリボーンが来るまでは友達なんて呼べる人いなかったっけ。カオスだな...なんてね。

 

「ツナ帰ったな」

 

部屋に向かうと無駄に高そうな小さい椅子にリボーンが座っている。記憶なんて曖昧だけど記憶の中でもこういう椅子に座っていたような気がする。

 

「今回の課題を皆でやることに口を挟む気はねーぞ。ただし、この程度の問題解けなくちゃ困るからな。先に全部答やがれ」

 

レオンが変身したマシンガンを此方に向けながら言ってくるリボーン。俺がいう前にリボーンは分かっていたみたいだ。俺が皆の前で真面目に解かないことを。いきなり出来過ぎても皆疑問に思うはずだ。京子と山本だけならマグレが通じるけど今日は花もいる。出来る限り疑われることは避けたい。

 

「因みに解けなかったらお前の隠している事を全部話して貰うぞ」

 

一瞬背中に拳銃を押し付けられたような感触が襲う。一歩でも動けば死ぬ。そう直感させられるような殺気が俺を襲う。

 

「...解けなかったらな」

 

俺のその言葉で殺気は散り緊張もほぐれる。やっぱりリボーンに隠し事は無理みたいだ。でも本当の事を話すのは今じゃない。

 

「正解だぞ。それにちょうど全員来たみたいだぞ」

 

呼鈴を合図に獄寺君も入ってくる。ボスになってからは、守護者以外の人とは中々会えないから遊びに来てくれるなんて本当に久しぶりで、嬉しいな。

 

「10代目!問題なら俺に任せてください!」

 

「よおツナ。これ親父が皆で食べろってさ。後で食べようぜ!」

 

「ツナ君お邪魔します」

 

「獄寺も来るなんて聞いてなんだけど?」

 

「皆いらっしゃい!」

 

平穏な時間に幸せな時間。

今の俺は気付いていなかった。

俺が変えてしまった過去の影響で未来も少しずつ変わってきていることに。

 

 

 

 

 

「クフフフ...あれがボンゴレ10代目沢田綱吉ですか。聞いていた姿と少々異なりますが、僕の入る体としては合格ですね」

 

 

 

 

 

 



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第7話『骸』

大変遅くなってしまいすいませんでした!何も思いつかなくて何も書かないでズルズル引きずってしまっていました。


京子や花、それから獄寺君の教えもあってか問7まで順調に課題を埋めることが出来た。それにしても山本ってやっぱり要領良いよね。数分教えてもらっただけなのに公式理解しちゃうし俺だったら無理だよ。

 

「それにしても沢田。あんた意外と解けるじゃない」

 

京子と花に教えてもらいながら俺も答えを導き出していた。教えてもらってるのに答えをわざと間違えるのは教えてくれている人に失礼だと思った。それに...京子の前で情けない姿を見せたくは無い。

 

「たりめーだ!10代目にかかればこの程度の問題朝飯前なんだよ!」

 

「あはは、そんなことないよ獄寺君。京子ちゃんや黒川、それに獄寺君の教え方が上手かったから解けたんだよ。俺一人だったら一問も解けなかったよ」

 

「ほんと皆サンキューな。獄寺は随時教科書見ながらだったけど」

 

「うるせー野球馬鹿!答えは全部この中に書いてあるんだよ!」

 

懐かしいやり取りに少しだけ頬が緩んでいく。

 

「そうだ、京子。次のテストまで沢田の勉強見てあげれば?」

 

「ええ!?それは嬉しいけど...京子ちゃんに悪いよ」

 

「それは京子次第なんじゃない?」

 

そう言いながら視線を京子に向ける。気のせいか頬が赤くなっているような気がする。怒ってる?わけじゃないよね?

 

「私は...良いよ。ツナ君が迷惑じゃなければ」

 

「よ、よろしく!よろしくお願いします!」

 

京子からの上目遣いに視線を合わせられなくなり土下座してしまう。

 

「良かったわね沢田」

 

「うん!」

 

京子に勉強を見てもらえるなんて高校の入試勉強以来かもしれない。その時はハルも一緒だったけ...あれ?そう言えばそろそろハルが来てもおかしくないはずだけど。色々変わっちゃってるのかな?

 

「けどいくら考えても問7だけは分かんねーや」

 

「ははは!流石野球馬鹿だな!貸してみろ!!」

 

高校生問題で獄寺君の解けない問題はあり得ない。だけど問7に関しては違う。あきらかに大学生の、それも教授クラスの問題になっている。どう考えてもこんな問題が課題として出るわけがない。なんなら担任だって解けないはずだ。そんな問題を考えられるのは一人しかいない。

 

「わかんねえ...」

 

「まじかよ、参ったな。これが出来なきゃ退学だってーのに」

 

「なっ!?それを早く言いやがれ!野球馬鹿が!」

 

教科書を黙々と見ている獄寺君。その表情は真剣そのもので少しだけ罪悪感に心が痛くなる。

 

「確かに問7だけおかしいわよね」

 

「うん。花も分からない?」

 

「生憎ね。私の知ってる公式じゃ解けないわね。ていうかこんな問題。習ってないんだから学校に文句言えばなんとかなるんじゃない?他の問題は解いたんだから」

 

流石花だ。その発想は獄寺君に山本、勿論俺にも無かった。でもこの問題を作ったのが雲雀さんなら話は変わってくる。並森町に住んでいる限り雲雀さんの言葉は絶対だ。雲雀さんの考えを捻じ曲げるには雲雀さんに勝つしかない。

 

現在の雲雀さんに勝つことはそんなに難しい事じゃない。だけど顔を合わせるたびに勝負を仕掛けられるのは避けたい。それに雲雀さんを倒してしまったら風紀は間違いなく乱れるし、俺の印象もある。今まで何をやっても駄目な駄目ツナが皆の畏怖の対象でもあり憧れでもある雲雀さんを倒すことは絶対良くないことが起こる。雲雀さんあっての並森中学であり並森町なんだ。

 

そんな時だった。

 

ノックも無く開かれた部屋の扉。一瞬だけ姿が見えたビアンキ。

 

その扉を光のような速さで閉めた獄寺君。未来では気分が悪くなるくらいまでには慣れたのにね...。

 

 

「はあはあ...ど、どうして姉貴がここに」

 

「今誰かいたような?」

 

「獄寺何してんだ?」

 

そういえば獄寺君は、ビアンキがうちにいるって知らないんだっけ。

 

「あら隼人。姉を女として見てしまっては駄目よ。恥ずかしいのは分かるけどここを開けなさい」

 

「そうじゃねえ!!」

 

「姉?」

 

「全く。しょうがない子ね。ポイズンクッキング``溶解桜餅''」

 

あードアノブが...。母さん怒るかなぁ。

 

「あ、あね.....」

 

「うっわ。美人、沢田のお姉さん?」

 

「ううん。獄寺君のお姉さんなんだ」

 

「へー。で、獄寺はなんで倒れてんの?」

 

正直に話すか迷ってしまう。ビアンキの作るポイズンクッキングが原因なんだけど、そもそもポイズンクッキングを教えるわけにはいかないから、単純に獄寺君がお姉さんが苦手と伝わってしまうし...。

 

「それは分からないかな」

 

困った時は知らんぷりだよね。というかハルは来ないのにビアンキは記憶通りに来るのか。今回は課題を破られないようにしたいけど。

 

「それよりこの問題見てもらわない?もしかしたら分かるかもしれないわよ?」

 

「うん、そうだね!」

 

「だな!」

 

花の提案に京子も山本も乗ってくる。山本のプリントが破られるのを避けるとなると必然的に俺のを渡すしか無いんだよね。ため息を心で吐きながらビアンキにプリントを渡すと無情にもプリントは破られていく。

 

「ちょ!ちょっと!」

 

「こんなものどうでも良いことよ。大事なのは愛だわ」

 

ビアンキのよく分からない哲学に花は一瞬放心してたけど自分が聞こうと言い出したのが原因だと思ったのか立ち上がるのを手で制する。破られるのは分かっていた事だしビアンキに目を付けられたら嫌だしね。俺は気にしてないと花を宥めているとビアンキは部屋を出て行った。結局何しに来たんだ?

 

「ごめんね沢田。私のせいで」

 

「花だけのせいじゃないよ。ごめんねツナ君」

 

「悪いなツナ。あとで俺のコピーするから」

 

「黒川も京子ちゃんも山本も気にしないでよ。それに山本がコピーしてくれるって言うし、ありがとね山本」

 

そんな感じで日も暮れてきて夕方になってしまった。あれからいくら考えても答えは出てこない。記憶ではハルのお父さんが来てリボーンが間違いを指摘して終わったんだよね。ハルが来ないってことは...終わらないんじゃ?答えが分かっているだけに罪悪感が募っていく。皆そろそろ帰らないといけない時間になってしまうだろうし。リボーンに助けを求めようにも寝てるし。偶然を装って解けた事にしようかとも考えたけど偶然に解けるような問題じゃないし、今更実は解けましたなんて言えない。最悪雲雀さんに直談判して戦うしか...そう思っている時だった。

 

「答えは3よ。貴方達の頭は固すぎなのよ。計算式に入らないなら入るように書き換えれば良いだけ。有り得ない定理を出されているなら有り得る定理にすれば良いだけじゃない」

 

それだけ言っていつのまにか戻ってきたビアンキは何処かに行ってしまった。

 

「今のって?」

 

「獄寺君のお姉さんだよね?」

 

「なんだか分からないけど教えてくれたのな!」

 

ビアンキがどうして?そう思ったけど考えても何故ビアンキが答えを教えてくれたのか全然分からなかった。でも寝ている筈のリボーンの口が笑ったような気がした。

 

 

「皆、今日は本当にありがとう!お陰で退学にならずに済みそうだよ!」

 

「案外沢田と山本だけでもいけたかもね」

 

「うん!二人とも本当に頑張ってたもんね。それに最後の問題は獄寺君のお姉さんが教えてくれなかったら解けなかったよ」

 

「姉貴が?...何を企んでやがるんだ」

 

「ほんと助かったのな!プリントはコピーして明日ちゃんと持ってくからな!」

 

「よろしくね、山本。本当に助かるよ」

 

皆を玄関まで送ると母さんがエプロンを付けながら歩いてきた。

 

「あら?皆んなもう帰り?どうもう遅いし夜ご飯食べていかない?ツー君の勉強見てもらったみたいだし、お礼がしたいわ」

 

「母さん!皆んなの前でツー君は止めてって!」

 

あら?どうして?と笑う母さんには敵わない。

 

「でもこんな大人数じゃ迷惑じゃないですか?」

 

花の言葉に母さんは何もないように答える。母さんの巧みな話術?によって数分で皆で夜ご飯を囲む事になっていた。元々京子と花は帰りにご飯を食べに行く予定だったらしくご飯の用意はしてもらってなかったみたいで、山本は電話してみたら仲良くしてもらってるんだから有り難く好意には甘えさせてもらって来いと言われたらしい。なんだか山本のお父さんらしいな。獄寺君は10代目のお母様のご飯を!?と少し大袈裟に言いながらお礼を言っていた。

 

友達とこんな風に一緒に食事をするなんて思っても見なくて本当に楽しくて、母さんから語られる俺のエピソードが恥ずかしかったりで...本当に楽しかった。

 

ご飯を食べ終わり直ぐに帰ると思ったけど京子と花と母さんが意気投合してしまい俺のアルバムを引っ張ってきた所で恥ずかしさが限界になり山本と獄寺君と一緒に俺の部屋に戻ってきた。

 

「流石10代目のお母様!素晴らしい人でしたね!」

 

「ほんとにな!料理も美味しかったし」

 

「ごめんね、こんな時間まで」

 

「気にすんなって。うちに門限とかないからさ」

 

「俺は元々一人暮らしですから!」

 

そう言えば獄寺君はシャマルに修行つけてもらってるんだっけ?今日は行かなくて大丈夫だったのかな?

 

「あ、そうだ。二人とも少し待っててもらえる?ちょっとトイレに行ってくるから」

 

「ああ。ゆっくりで大丈夫だぜ」

 

「分かりました!」

 

先程から感じる微かな殺気と視線に皆が帰る前に確かめに行く事にした。靴を履いて玄関を出る。何故かリボーンまで付いてきてるけど隠しててもしょうがない。

 

「ツナ。どうしたんだ?」

 

「うん。ちょっと気になってね...骸いるんだろ?」

 

超直感が働き右手で何も無い空を掴む。ギリっという感触と共に懐かしい声が聞こえてくる。

 

「クフフ。よく分かりましたね、いくつか質問してもよろしいでしょうか?」

 

「ああ」

 

「何故僕のことを知っているのでしょうか?初めて会うと思うのですが」

 

「裏の世界では有名だからな」

 

「嘘ですね。有名なのは影武者の筈ですから」

 

ランチアさんは囚われのままなんだよな...。早く呪縛から解いてあげたいけど骸を倒して呪縛が解ける保証はないし。

 

「影武者がランチアなのも知ってる。悲惨な事件を起こさせた張本人がお前だってこともな」

 

「クフフ。これは嬉しい誤算ですね」

 

掴んでいた三叉の槍が霧のようになり、骸はバックステップで距離を取る。

 

「ツナ。どうしてお前がそんなこと知ってるのか気になるとこだがここで始める気か?」

 

「それはないかな。少し忠告しにきただけだしね」

 

「忠告?」

 

「骸。俺の知り合いに手を出すな、俺が目当てなら直接俺にこい」

 

「クフフ。成る程、残念ですがそれは約束出来ませんね。貴方の身近な人物を捕らえて貴方を誘き出したほうが面白そうですし効果がありそうだ」

 

「リボーン」

 

ズガァアアン。静かな夜に一発の銃弾の音が木霊して俺の額に炎が灯る。地面を強く踏み骸目掛けて駆ける。今の俺に出せる全力で骸に突っ込んでいく。骸の目は俺を捉えきれていない。見えていない。だが直線的な攻撃は威力を半減させてしまう。骸の目の前で右側に跳ぶ。先程まで俺がいた位置に三叉の槍が骸から突き出されている。経験から目で追えなくても行動した骸だが二度目は遅い。三叉の槍目掛けて拳を振るう。砕け散る三叉の槍に驚愕の表情を浮かべる骸の腹に拳をぶつける。

 

「ぐっ...かはっ」

 

アスファルトで出来ている塀が壊れ崩れている。確かあの家は正一君の家だったような。今の物音で外に出てくるかもしれないし場所を移した方がいいと思い気絶した骸を背負って走る。見られないように死ぬ気で走ったお陰か並森神社まで来ていた。

 

「っ...ここは」

 

「目が覚めたんだね」

 

「何故殺さなかったんですか?」

 

「殺す理由が無いし、殺したく無いから」

 

「クフフ。甘いですね、拳を振るう際に眉間にしわを寄せながら殴るのは貴方くらいですよ、手加減しましたね?」

 

「どうだろうね。それよりそのダメージなら暫くは襲ってこれないよね?」

 

「それはどうでしょうね」

 

「それと仲間に頼って俺を誘き寄せるのも無しでね。まっ憑依弾を使わなきゃ復讐者に捕まることも無いと思うし。暫く大人しくしててよ」

 

「...誰にも知られていない筈なんですがね。貴方は一体何者なんですか?」

 

「いつか、分かる時が来るかもね」

 

それだけ言って家に向かって走る。皆を待たせてるしトイレで一時間はちょっと無理がある。慌てる気持ちを落ち着かせながら急いで家に向かうのだった。

 

 

 

「完敗ですね...」

 

「骸さん、大丈夫ですか?」

 

「犬触らない方がいい。骸様大丈夫ですか?」

 

「犬と千草ですか。すみませんが肩を貸してもらえますか?」

 

「勿論です!ほら柿ピーも!」

 

「あれがボンゴレ10代目...骸様行ってきても良いですか?」

 

「よしなさい。今のままでは勝てませんよ。僕の幻術も見破られてしまいましたしね。困ったものです」

 

「「!?」」

 

「暫くは体を回復させるとしましょう。計画の練り直しですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に戻ると皆既に帰っていた。

どうやらリボーンが上手いこと誤魔化してくれたみたいだ。骸の視線には気づいていたからいずれこうなるとは思ってたけど、リボーンの前であれだけやっちゃうと疑われるよなぁ。それでも聞いてこないのは殺し屋としての意地なのか。ポリシーなのかは分からないけど隠し通せる気がしないから助かっている。それにしてもハルはどうして来なかったんだろう?リボーンと面識があるから来ると思ってたんだけど。マフィア言ってるか分からないから反感を買ってないのかもしれないけど。出来ればこの世界でもハルとは友達になりたい。そう思いながら寝た。

 

だから驚いた。

土曜日なので修行の為に外に出ると鎧武者のような格好をしたハルを見たときは。

 

 

「勝負です!」

 

 



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