暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~ (黒ハム)
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番外編などなど
キャラ紹介の時間


『夏祭りの時間』までのネタバレを含みます。


また、このページは話が進むごとに更新されていく予定です。
以上の点にご注意してお進みください。

後、挿絵追加しました。


名前 和光風人(わこうかぜと)

性別 男

身長 160cm

体重 50kg

血液型 AB型

出席番号 27番

誕生日 2月19日

好きな科目 国語、家庭科

嫌いな科目 社会

趣味・特技 ゲーム

得意なゲーム ストラテジーゲーム

好きな食べ物 甘いもの全般

嫌いな食べ物 苦いもの全般、納豆

所属部活(過去) 帰宅部

将来の夢 現在は未定 

宝物 不明→千影との思い出

弁当派or買い食い派 弁当派

選挙ポスター ごーいんぐまいうぇい

暗殺武器 手錠

 

 

作戦行動適正チャート(6段階評価)

 

戦略立案  6

指揮・統率 3

実行力   4

技術力   6

探査・諜報 2

政治・交渉 4

 

 

個別能力値(5点満点)

 

固有スキル 予測不能(5点)

体力    4.5点

機動力   4.5点

近接暗殺  4.5点

遠距離暗殺 3.5点

学力    5点

 

 

烏間先生の評価

 

身体能力の高さと常識外の一手を繰り出す完全なトリッキータイプの暗殺者。

ただ、本人の性格上協調性が乏し過ぎなため集団暗殺に向かないことが課題。

 

 

 

和光風人 概要とイメージ

 

 

超マイペースな自由人ゲーマーで話すペースも独特。(『~』が多用される)

容姿は中性的でカッコいいというより可愛い系。

ゲーム機を常に携帯。やってるゲームは気分によって変わるらしい。(ただし、登下校中と学校内ではゲームを禁止されてる)

余分なことを言う天才と言われるほどに一言も二言も余計。(本人は自覚アリだが治す気がないため尚性質(たち)が悪い)

子どもっぽいところもある。

口調や性格が変わる時があるが、多重人格ではないと思われる。

涼香と言う従兄弟がいる。

何かを抱えているようにも見える時があるが……?

女装すると性格、口調が変わる。

死に別れた幼なじみがいて、幼なじみを殺した相手を恨んでる。

手首にリストカットがあり、自殺を何度も試みていた。

夏祭りから神崎有希子と付き合い始めた。

 

 

 

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E組生徒から見た和光風人

 

カルマ→話が合うが制御不能。制御はご主人様に任せる

磯貝→将来が心配だな……

岡島→エロ話をしようものなら色んな人に殺されそう

岡野→マイペース過ぎ

奥田→カルマ君と仲がいい?

片岡→心が成長してほしい

茅野→甘党仲間

神崎→世話が焼けるけど一緒にいて楽しい

木村→自由だな……

倉橋→天然だ~

渚→神崎さん大変そう

菅谷→絵が意外と上手い

杉野→羨ましい……妬ましい……

竹林→二次元の話が通じる

千葉→考えが読めない

寺坂→子ども

中村→いじると反応がおかしい

狭間→ガキ

速水→……小動物?

原→放っとくとダメな子

不破→実は大きな秘密があるに違いない!

前原→子どもっぽい

三村→大丈夫か……?

村松→意外と喧嘩強い

矢田→かわいいのはいいけど……大丈夫?

吉田→世話が大変そうだな……

律→協調性を教えてくれた人

 

 

 

 

 

和光風人からみたE組

 

カルマ→話が合う~考えも合う~

磯貝→リーダ~

岡島→うーん…………手遅れかな~?

岡野→おさるさんみたい~

奥田→メガネ?

片岡→カッコいい~

茅野→裏がありそ~

神崎→鬼! いつも迷惑かけてます

木村→足速いね~

倉橋→天然だ~

渚→強そ~

菅谷→絵がうまいな~

杉野→野球~

竹林→メガネ?

千葉→目見えてるのかな~?

寺坂→ガキ大将~

中村→ギャルっぽい~

狭間→怖い~

速水→ツンデレかな~

原→よく食べる人だな~

不破→オタクかな~

前原→モテるんだね~

三村→影薄い~?

村松→取り巻きその一~

矢田→何か怖そ~

吉田→取り巻きその二~

律→よし!もっかい改造だ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前 岩月涼香 (いわつきすずか)

性別 女

身長 153cm

体重 45kg

血液型 B型

誕生日 9月2日

 

風人の従兄弟で、雷蔵の彼女。

着痩せするタイプでDカップ。

神崎のことをお姉ちゃんと慕い、初めて会った時に神崎の恋心を見抜いた。

 

 

 

 

名前 篠谷雷蔵 (しのたにらいぞう)

性別 男

身長 177cm

体重 62kg

血液型 A型

誕生日 8月17日

 

風人の親友であり、涼香の彼氏。

丁寧な口調が癖となっており、親しい相手にも敬語を使う。

風人の扱いは甘いらしい?

 

 

 

 

名前 和泉千影 (わいずみちかげ)

性別 女

身長 155cm

体重 45kg

血液型 AB型

誕生日 2月18日

 

風人と涼香の幼なじみで事故に巻き込まれてしまい現在故人。

全色盲で胸はAカップ。

風人のことが好きで風人のファーストキスの相手。

風人と同レベルの天才。

 

 

 

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ジャックおじさん

ホテルで風人と戦い敗れた。

ナイフとワイヤーを使うのが得意。

 



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一周年の時間

どうも作者です。

今回の話ですが本編には一切関係ありません。

見る見ないは好きにしてください。ただ、進路の時間までのネタバレを含む可能性があるので注意してください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って作者が長い前置きしていたね~」

「でも作者の言うとおり今日で初投稿してから丁度一周年なんだよ」

「そうそう。そんな記念すべき日なんだよ」

「「!??」」

「どうして千影がここに!?」

「あーうん。作者が今回の話は四人の会話形式にしようって」

「四人?」

 

私(作者)と風人と有鬼子と千影の四人だね。

 

「あ、いたのね。でも千影と有鬼子って話し方似ていて読者は区別つかないと思うんだけど」

 

今回は茶番だし特別にこうしよう。

 

千「あーなるほど。こうするんですね」

風「これなら分かりやすい~」

鬼「ねぇ?この表記は明らかに悪意があるよね?」

 

諦めてくれ。ここでは私がルールだ。

 

鬼「………………後でコロス」

風「わざわざこの表記の必要ないかもね~」

千「どうして?」

風「よく考えたら物騒な発言をするのが有鬼子ってすぐに分か……ふべっ!?」

鬼「さぁ。話を進めましょうか」

 

とりあえずこの一年を振り返ってみようか。何か質問ある?

 

千「あ、じゃあそもそも何でこの作品を書き始めたんですか?」

風「そうそう~」

 

うーん。どっかで話した気がするけどまぁいっか。私は実はもっと前からこういう二次創作を書いてるんだよ。

 

鬼「作者情報によると五年前くらいから書いてるそうですね」

風「作者情報って笑える~」

 

まぁ、一人くらい進行役つけないとただただ私の自分語りになるからね。

 

千「あれ?でも今表示されているやつってそんな前からのはなかったような……?」

 

うん。実は一番最初に書いたやつは既に消してあるんだ。

 

風「えぇ~?なんでさぁ?」

 

文章構成が下手(今も上手いとは思わない)でストーリー構成が雑(成長したかは知らない)でオリキャラが増えすぎて回らず、オリ主が何故かチート級になっていったから。

 

千「風人君も充分チート級な気がしますけど……」

 

まぁ、私が各作品の主人公は基本的には最強(色んな意味で)なんだけど、初代主人公に関しては人間やめたからねあれ。

 

風「ちなみにどんな能力だったの~?」

 

途中から何故か精神世界に正体不明の最強の存在が宿ってモードチェンジすると目が黒く染まって阿呆みたいに強くなる能力。

 

千「中二病ですね」

鬼「ゲームでありがちなチートキャラですね」

風「バトル系の作品?」

 

ちなみにバカテスという学園ものだよ。

 

「「「絶対必要ない能力でしょ」」」

 

後はインフレが加速して手に負えなくなった。

 

千「へぇ」

 

まぁ、この続きはおいといて、で、この作品を書き始めた理由だったね。

 

鬼「ええ。作者は現在大学一年生で、この作品を投稿した時は高校三年生と受験生だったはずなんですがね」

 

言葉に棘があるなぁ……いやね。ふと思ったわけだよ。

 

風「何を~?」

 

暗殺教室の神崎さんって可愛くね?って。

 

風「確かに」

鬼「…………その割に扱いが酷いような……」

 

私は基本的に?というか割とオリジナルヒロインを作ることが多いんだよ。

 

千「なぜですか?」

 

既存のキャラだと完結してないと動かしにくいし、オリジナルだと後付けも出来るしね。で、他の作者様の作品を見ていて思ったんだよ。

 

鬼「何をですか?」

 

有鬼子の一面が出ている作品ってあんまりなくね?って。

 

風「そりゃあそうでしょ~」

 

だったら面白そうだからやってみようと。

 

鬼「面白そうって……」

 

私は面白いことややりたいことはとことん興味ないことは一切のマイペース人間だからね。とあるアニメ……というか漫画?の言葉を借りるなら私はYDだから。

 

風「あーそれ分かる~……でもそのネタ通じる人多くは居ないような」

千「はぁ。でもだから風人君はこんな性格に……」

 

それはマイペースさで有鬼子の一面を引き出してもらおうと。後私が頭おかしいから頭おかしい人間を書くのは出来るしね。

 

鬼「頭がおかしくないなら受験生なのに書き始めないですよ……しかも冬なのに」

風「だよね~」

千「ゲームばっかりしてるのも問題だと思うけどね……あれ?じゃあ、何で私は出てきたんだろう?」

 

次回。何故千影、涼香、雷蔵の三人は登場したのか?その謎が明らかに。

 

風「次回って……」

 

まぁ、少なくとも今応える必要はないからね。やるとしても完結したときかな?

 

千「完結ですか……でも不定期更新って入ってますし、死神編終わった辺りですけど」

 

完結のメドは立ってません。

 

風「えぇ~?」

鬼「作者情報によると、プロットらしいプロットは作ってないんだって。ただ各作品で入れたい要素とか入れたい流れとか色々とメモして保管してはあるけど」

千「え?各作品?作品って三つじゃ……」

 

誰が三つだけって言った?

 

風「……何か触れちゃいけない気がする」

千「そう言えば最初匿名設定で投稿されてたような……」

風「ということは裏では……」

 

でも安心して匿名設定を切ってあるやつは途中で作品を消す可能性がゼロの作品だから。まぁ、その意味だと他にも匿名設定が切れる作品もあるけど。

 

鬼「コホン。でメドが立ってない理由は主に二つ。一つ目は作者はマイペース人間です。更新頻度がおかしいのは気分で筆を進めるからだそうです」

風「うわぁ…………なんとなく分かるから人のこといえない」

千「なるほど……それはマイペースだ」

 

イヤイヤ書いても適当なものしか出来ないからね。だったら乗ってるときに書こうと。

 

鬼「二つ目がバイトの多忙による執筆時間のとれなさ。現状週5でそこに大学の勉強を加えると」

風「一つ目は精神的なもので二つ目は物理的にかぁ」

鬼「作者はこうして執筆していることは家族にさえ言ってないそうです」

千「言っていたら止められてるでしょうね。特に去年」

 

ただ構想はどの作品もある程度先、この作品なら完結まで見えてるんだよね……誰か脳内のイメージをタイピングして文字に起こすアプリ開発してくれないかな?

 

風「それは執筆時間が少なくてすむから?」

 

それ以上にレポートに費やす時間が減るから。

 

鬼「はいはい。現実逃避はそこまでにして」

 

そうだね。でもまぁ、放置して逃げるつもりはないかな。

 

千「それはどうしてですか?」

 

私はこの作品が最高とも一番とも思わない。でもこんな作品でも読んでくれる人がいるならゆっくりでもいいから完結させたいって思うかな。

 

風「ほへぇ~」

 

まぁ、完結っていうか一区切りはつけさせたいよね。

 

鬼「というわけで、一周年の時間でした。何かある場合は遠慮なくどうぞ。応えられる範囲で応えます」

 

待っている方々にはすみません。そしてこんな作品でも読んでくれてありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

 

「「「応援お願いします」」」



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番外編:コンテストの時間

時系列としては、暗殺旅行の帰りの船での話です。ネタです。ただのネタです。
後今後の為に一応残酷な描写タグを付けておきました。まぁ、保険ですしあったとしても少ないですけど。


「さぁ、始まりました!第一回椚ヶ丘中学三年E組『女装コンテスト』!司会はこの私!不破優月がお送りします!」

 

 パチパチパチパチ

 

「解説は私、中村莉緒がやってくよ~よろしくね~」

 

 パチパチパチパチ

 

「前回で暗殺旅行終了?いえいえ今回で終了ですよ!」

「終わる終わる詐欺ってやつ?」

「さぁ?コホン。では、まず何でこんなことになってるのか?という疑問をお持ちの皆様にお答えします。これは、風人君の女装が人気のため、もう一回見たいと言う厚い要望と!」

「ぶっちゃけ、これをネタに男子をからかおうという私の願いが重なっただけの企画です」

「というわけで始めさせていただきます!エントリーNo,1番!その風貌はさながらガキ大将。まさか、この男が女装するとは……寺坂竜馬君です!」

 

 そうして現れたのは、

 

「俺にスカートが似合うわけねぇだろ!阿保か!」

 

 スカートを履き、ちょっとメイクをした寺坂。

 

「もっと女らしい口調で喋れねぇのかよ」

「そうだぞー似合ってるから安心しろー」

「村松!吉田!テメェら女装を免れたからって調子に乗りやがって!」

「さぁ、最初から人選がネタ全開ですが」

「ネタ言うな!女装したくてしてるわけじゃねぇんだよこっちは!」

「さぁ、狭間さん!感想を」

「ククッ。似合ってるよ……ククッ」

「笑いが堪えられてねぇぞ!」

「さて、笑いも取れたところで、次に行きましょうか」

「ちょっと待ちやがれ!俺に着替えをさせろ!」

「えーっと、コンテストという名を打っている以上、エントリーした男子全員が出て来るまでそのままです」

「ふざけんなよ!」

「寺坂は晒しといて、さ、次いこっか」

 

 寺坂の言及をさらっと受け流す中村。

 

「エントリーNo,2番!いつもはカメラを向けて撮る側!しかし、今回は撮られる側!変態大魔王岡島大河君です!」

 

 現れた岡島。ウィッグをつけ、ワンピースを着ている。……しかし、何処となく変態臭が漂ってくる。

 

「ひでぇ言われようだ!」

 

 パシャパシャパシャパシャ!

 

 すると、何処からかシャッター音が聞こえてくる。

 

「と、撮るな!」

「えぇー?いつも私らを撮ってるよね?お返し」

「ま、まさか……俺の女装写真を盾に脅して俺を(ピーーーーーー)するつもりじゃ……!」

 

(((発想が汚らわしい……!)))

 

「読者の皆様。音声が乱れてすみません」

「誰に話してるの?」

「それはそうと!さて汚らわしい塊が二つ続いたので」

「俺を岡島と同レベルにするなよ!」

「ひでぇ!俺も寺坂と一緒なんてごめんだ!」

「アンタら団栗の背比べって知ってる?」

「それか五十歩百歩」

「「知ってるわ!」」

「エントリーNo,3番!」

「やべぇ!俺らを無視しやがった!」

「狙った獲物は逃さない!寡黙なスナイパーその瞳は何を映している……千葉龍之介君です!」

「「俺たちより説明が丁寧だ!」」

 

 当然である。と、ここで千葉が出て来る。

 

「……何で俺まで……」

 

 さすがに、ネタ二人が続いたが、千葉の女装は割と普通に似合ってたりする。

 

「おっと、目が隠れてるのは相変わらずですが中々、いかがでしょう速水さん」

「何で私に聞くのよ」

「仕様ですから」

「ま、まぁ、似合ってなくはないんじゃない?」

「おっと!ツンデレがデレたか!?」

「デレてないし!ツンデレでもない!」

 

(((いや、ツンデレでしょ)))

 

「……早く戻らせてくれ……コイツらと居たくない」

「「ひでぇ!」」

「とのことなので、続いてエントリーNo,4番!」

「また無視か!」

「……被害者増やしてどうする……」

「女たらしここに極まる。落としてきた女は幾人か……前原陽斗君!」

 

 続いて現れたのは前原だ。

 

「あのさ……そこに見るに堪えがたいモザイクかかってそうな二人がいるんだけど……とても、女装とは思えない」

「さぁ、最初から辛辣な言葉を吐きました!さぁ、岡野さんどうでしょう?」

「ま、いいんじゃない」

「何もよくねぇよ!?てか何で俺まで女装させられてんの!?」

「ほ、ほら、女装して女子の気持ちが分かるんじゃない?」

「どういう理論だよ!」

 

 そういう理論だよ。

 

「これからは女装してナンパすればいいんじゃないですか?」

「意味不明だよ!」

「……こっちにおいで……」

「ど、どうした千葉!あの汚染物質どもにやられたか!」

「「誰が汚染物質だ!」」

「さて、真面目な二人が続いたので、そろそろネタを」

「「「終始ネタだろうがぁ!」」」

「エントリーNo,5番!不良問題児!赤髪の悪魔ここに降臨だぁ!さぁ、弄り倒そう!赤羽業君!」

 

 すると、現れたのは……

 

「「「プクッ……」」」

「今笑ったやつ……後で全員殺す」

 

 フリフリのドレスを着たカルマである。

 

「ハハハッ!いい気味だぜ!似合ってるよカルマちゃブゴアァァア!?」

 

 なお、大笑いした寺坂は一足早く沈んだ。

 

「さ、さぁ。気を取り直して……奥田さん。どうでしょう」

「は、はい!とっても似合ってると思います!」

「奥田さん……それ褒め言葉じゃないから」

「まぁ、カルマ君はピンクのエプロン姿を皆様に晒してますからねぇ。今さらですよね?女装なんて」

「普段から女装してるせんせーには言われたくねぇし……後で殺す」

「というか、私は不満です!」

 

 と、ここで、司会の不破が声を荒げる。

 

「おーお。どうした?」

「皆さん!女装すれば何でもいいって思ってませんか!口調も仕草も男っぽいままじゃない!もっと!もっと!女の子らしさを追及しましょうよ!」

「「「誰がするかぁ!」」」

「仕方ありません。次の方に期待です。というわけで、エントリーNo,6番。貧乏なのが玉に瑕。しかし、それを超越するほどのイケメンさは誰もが認める我らが学級委員!磯貝悠馬君!」

「えーっと、お願いします?」

 

 そういう女装した磯貝。しかし、

 

(((い、イケメンだ……女装してもイケメンだ!)))

 

 今までの五人とは比べものにならないくらいの高評価だ。ロングのウィッグに、私服を思わせる服装。

 

「こ、これは予想外。二人以外にもここまで似合う人がいるなんて……」

「ありがとう……って言えばいいのかな」

「さて、片岡さん。何か一言」

「可愛いよ。磯貝君。とても似合ってる」

「ありがとう。でも、片岡には勝てないよ」

 

 と、さらっと返したイケメン。その言葉に不意を付かれたもう一人のイケメンがいた。

 

「さぁ、ここまで半分くらいの人はネタ枠でしたが!」

「「誰がネタ枠だ!」」

 

(((自覚あったんだ……)))

 

「ここからは今大会優勝候補!まずはエントリーNo,7番!その可愛さはナンパされるほどとお墨付き!もはや女装してるだなんて誰が信じようか!潮田渚ちゃん!」

「何で僕だけちゃん付け!?」

 

 そう言って登場したのは渚。服装はあのホテルでのと同じような感じだが。

 

(((男子なのかって疑いたくなるレベルよね……)))

 

「うぅ……何でこんなことに」

「諦めなよ渚ちゃん」

「カルマ君…………あ、うん」

 

 カルマの方を見て何かを察した渚ちゃん。

 

「さぁ、渚ちゃん!スピーチタイムです!」

「スピーチタイム!?」

「何か一言どうぞ!」

「今までなかったよね!?そんなこと!?」

「なら、優勝に向けて一言どうぞー」

「中村さん!?僕優勝するつもりないんだけど!?」

「どうぞー」

「うぅ……えーっと、優勝目指して頑張ります」

「うーん。惜しいなぁ。文言がちょっと」

「さて、茅野さん!感想を!」

「バッチリだよ渚!」

「うぅ……泣けてくる……」

 

 渚はそのまま磯貝に背中をさすってもらいながら、ステージ脇へ。

 

「さぁ!最後の一人!エントリーNo,8番!最強のマイペースゲーマー!予測不能なことしかしない。その上、鬼を目覚めさせることに長けてる男!和光風人君!」

 

 そして現れた風人は……メイド服だった。

 

「エントリーNo,8番和光風人です♪今の私は風子ちゃんってお呼び下さい♪」

「「「風子ちゃーん!」」」

「はーい♪」

 

 最初からギャラリーの心を鷲掴みにする男。

 

「なぁ、アイツだけレベル違くね?」

「何かヤバいスイッチ入ったんじゃ……」

「やバッ。女装だと分かってる筈なのに鼻血が……」

 

 と、女装組も困惑中である。

 

「では、風子ちゃん!スピーチタイムです!どうぞ!」

「はーい。えーっと、何でもいいの?」

「はい。どうぞ」

「じゃあ……お帰りなさいませ。お嬢様♪」

 

(((な、何なんだこの威力……!)))

 

 スカートの端を持ち上げるなど、所作まで完璧。

 

「ふむ。メイド喫茶に居てもおかしくないね」

 

 しかも、竹林が認めるほどである。

 

「ほほう。これが噂の風子ちゃんですかぁ」

「はい♪莉緒お嬢様♪」

「……コレ本当にあの和光?中身が実は双子の妹とかそっくりさんとか並行世界の女版和光ってオチはないの?」

「ううん。紛れもない本人だよ。では、神崎さん。一言」

 

 不破に振られた神崎は、もじもじした感じで、

 

「えーっと、私も一回お嬢様って……呼んでほしい……なんて」

「ふふっ。何時見ても可愛いですよ。有希子お嬢様♪」

「…………もう……満……足……」

「神崎さん!?」

 

 あまりのことに昇天する神崎であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……ここは……?」

「気付いた~?有鬼子」

「あれ?風人君……あ、ごめん。重くなかった?」

「いいよ~このままで」

 

 頭を膝の上に乗せている。膝枕というやつだ。

 女装コンテストは、磯貝君の優勝だった。渚は不公平(何がかは知らない)だから除外。僕は女装コンテストの優勝にはさせたくない(曰く女装と信じたくないとのこと)という理由でこれまた実質の除外。結果、磯貝君の優勝。ちなみに、最下位は寺坂、岡島の二人だった。

 

「でも、意外だったな」

「ん?」

「風人君が女装であそこまで完璧に演じられるなんて。私より女の子らしいんじゃない?」

「そんなことないよ~有鬼子の方が綺麗だし、女子力高いし、かわいいし」

 

 とてもじゃないが、有鬼子には女の子らしさとかで勝てるわけがない。

 

「ありがと。あのさ……一つお願い」

「な~に?」

「頭……撫でてほしいな」

「うん~分かった」

 

 こうしている間にも、船は進み、また日常へと帰るのだった……




ネタ全開の番外編でした。理由としては次回からこの作品において本当に数少ないシリアスな話が続くからです。
ということで、女装にちなんだ短編を。(有鬼子がキャラ崩壊……あ、いつものことですね)

『男女逆転』

「ねぇ、風人君知ってる?」
「何を~?」
「何か、自分が異性だった時の身長が計算できるって話」
「あ~何か昔?によく聞いたよ~」
「それだとさ、私男だった時には、172cmくらいなんだって」
「ほへぇ~」
「風人君は149cmくらいかな」
「わ~逆だったら20cm以上離れていたんだね~」
「でも、風人君が女の子か……」


『なぁ、風子。何度言えば分かるんだ?』
『ご、ごめんなさい。反省していますから……』
『本当に分かってるのか』
『心の底から分かりましたから……』
『怪しいなぁ。二度とそんなこと言わせないように身体に教え込んでやろうかぁ』
『そんな!私はしっかり反省を……んん!?』
『じっくり教えてやるからな……覚悟しておけよ』


「おーい。有鬼子~どうしたの~」
「…………はっ、いや、ちょっと考えてた」
「それを妄想って言わないの~?」
「……いいでしょ?妄想くらい」
「うん~いいと思うよ~でも、叶うことはなさそうだけど~」
「……でも、近いことはできると思うよ」
「近いこと~?」
「ううん。何でもないよ。こっちの話」
「そうだ~今度男装してみたら?」
「うーん。じゃあ、風人君は女装ね。その状態でデートしよっか」
「……それ、色々とおかしくね?」


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ゲーム好き男子と暗殺教室×暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~コラボ後編1

というわけで、バトンを受け取った黒ハムです。
コラボ後編ということで、前編を見ていない方は水澄様の『ゲーム好き男子と暗殺教室』へGO!
準備はよろしいですか?ちなみにお察しですが前編に合わせ、後編も二部構成です。
では、後編のスタートです!


「到着~」

「そうだな」

 

 風人と東野は神崎に教えられたカフェに到着した。

 

「でも、有鬼子と奥田さんどうしたんだろうね~急に『ちょっと用事があるから先に行ってて』なんてね~」

「さぁな。ただ、深くは聞かない方がいいとは思うぞ」

「どうして~?」

「…………はぁ。こりゃあ神崎が苦労するわけだ」

 

 頭にクエッションマークを浮かべる風人に対し呆れる東野。しかし、内心では東野も似たようなことを考えていた。

 

(神崎は風人の奴がこう言うって分かっていてカフェの場所を調べておいたのだろう。ただ、神崎と愛美がまるで図ったかのように一緒に消えたのは少し謎……っていうのは考えすぎか。どうやら、俺もさっきの大会で疲れたんだろうな)

 

 少々の疑念が浮かんだがそれはないと首を振る東野。

 その様子を見たが特に何でもないと思い、カフェの扉を開ける風人。

 

「ごめんくだ――」

 

 ドアを開けた瞬間に固まる風人。

 

「おい風人。なに入らず入り口で固まって――」

 

 ――いるんだ。と言おうと思った東野。だが次の言葉は続かなかった。

 なぜなら……

 

「お待ちしておりました!」

 

 二人ともこんな場所で会うとは全く想定していなかった人物(?)と出会ってしまったからだ。

 風人と東野はお互いに顔を合わせてこくりと頷く。

 そして、何も見なかったことにして回れ右をして、一歩踏み出そうとする。だが、それを、

 

「ま、待ってください二人とも!」

 

 黄色い触手が二人を絡め取り身動きを封じた。

 

「何するんだよ~せんせー!」

「ちょっと待てよ!アンタ一応国家機密だろ!?何で堂々とカフェにいるんだよ!」

「まずは控室でお話を……!」

 

 と、殺せんせーに(無理矢理)連れて行かれる風人と東野。

 そして、控室で解放された。

 

「えーコホン。まずは何でここにいるかをお話ししましょう。そう。あれはある春の晴れた日のことで――」

「要点だけまとめて話せ。長々と話すつもりなら帰る」

 

 語ろうとした矢先に東野の厳しいお言葉。帰られては困るので殺せんせーも言われた通り要点だけ話す。

 

「ズバリ。今日だけでいいのでお二人にここで働いてほしいのです」

「えぇ~めんどー」

「いや、何も疑問に思わないのかよ」

 

 風人の返事に、東野は大事な過程がすっ飛ばされたことに何もないのかとツッコミを入れる。

 

「え~何か疑問をもつとこあった~?」

「いや、何でここにいるのかとか、何で俺たちにそんなこと頼むのかとかいろいろあるだろ……」

「どーせ、そんなの聞いても無駄だよ~聞いたところで時間の無駄無駄~」

 

 この風人の言葉に東野はなるほどと思う。

 確かにそうなのだ。殺せんせーが求めていることはさっき言った。そこに至るまでの過程を根掘り葉掘り聞こうがすっ飛ばそうが、結局殺せんせーの求めていることに変わりはない。なら、聞くだけ時間の無駄ではないかと。

 

(何も考えていないで発言したと思ったら、意外と考えているんだな……)

 

 と、東野が風人に対し関心する一方で。

 

(早く帰ってゲームしよ~)

 

 全く関係ないことを考えている風人だった。

 

「東野君まで来てくれるのは嬉しい誤算でしたが――」

「あれ~?僕は計算内だったの~?」

「はい。そうですよ?」

「なら、風人だけ働かせろ。俺は帰る」

「まぁまぁ、折角いらしたのですからご一緒に……」

 

 埒が明かないなぁと思った二人。するとここで風人があることに気付く。

 

「もしかして、有鬼子の仕業~?」

「…………ああ、そういうこと」

 

 そして同時に東野も気付く。

 

「アンタ。神崎とグルだったんだな」

「(ギクッ!)そ、そんなこと――」

「ないとは言わせないぞ」

 

(そもそも、このカフェに誰が行きたいと言い出したか?風人がだだをこねていたから。だがここを提案したのは神崎だ。そして今何故か、愛美と共に姿を消している。俺と風人は先に行っててと言われて来ている以上、カフェからは動けない。おそらく、携帯電話も繋がっても向こうは出ないだろう。それに出たとしても風人がいるから目を光らせていないとどこに行くか分からない。そうなればやっかいごとが起こるリスクがある。……つまり、状況としては完全に詰んでいる)

 

 しくじったと東野が思う中、

 

「えぇ!そうですよ!神崎さんに頼んでいましたよ!」

 

 せんせーは白状した。

 

「でも、風人君。君は断れないはずですよね?」

「どーして~?」

「君。神崎さんからクッキーを貰って全部食べましたよね?」

「それがどうかし――」

 

 その瞬間風人は気付いた。あれが神崎の罠であることに。

 

(し、しまった!あのクッキーはそういうことだったのか!なんで珍しくクッキーを作って持って来たかを深く考えていなかった!あの鬼の有鬼子が善意で持ってくるわけがない!(酷い偏見である)この瞬間に僕の退路を断つためだ!)

 

「気付いたようですね……」

「僕の負けだ……」

 

 項垂れる風人。その様子を見て二人はなんともいえない表情になる。

 

(本当によくこんな荒技が使えますね……流石の私でも恐怖を感じますよ……)

 

(普通、彼女が彼氏にやっていい手じゃねぇだろ……やばいな。まさか神崎があそこまで黒いとは想像もしていなかった)

 

(報酬を先に渡して僕が断れないようにするとは……!でも、僕もただじゃ起きないぞ!)

 

 三者三様の思いが交錯する中、風人が立ち上がった。

 

「分かったよ~やるよ」

「本当ですか!?」

「うん~でもさ……」

 

 風人は東野の肩に手を置く。

 

「佑斗~。僕らって戦友(とも)だよね~」

「まぁ、間違ってはいないな」

「佑斗は戦友(とも)を見捨てたりしないよね~?」

「いや、俺は帰るぞ。めんどいし」

「そんな!」

 

 風人が大袈裟に驚く。そしてうつむいて――

 

「ああ……奥田さんはこんな戦友(とも)を見捨てるような最低な人と付き合ってるのか……可哀想に……」

「そうですよ!東野君がそんな最低な人だと知ったら奥田さんがどれだけ悲しむと思っているんですか!」

 

 多少泣く演技をしながら言葉を残し、殺せんせーも風人の味方をする。

 

「あぁもう!やりゃいいんだろやりゃ!」

「さっすが佑斗~僕は信じてたよ~」

「後で覚えていろよ……!」

「ほへぇ~?」

 

 東野が怒りを含めて風人を見るが風人は特に何も思わずスルーする。

 

「さてと。話もまとまった事ですし」

 

 そう言いながらせんせーが出したのはよくあるウエイトレスの制服。

 

「ちょっとまて」「ちょっとまって~」

「「何これ?」」




後編は1時間後に投稿します。


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ゲーム好き男子と暗殺教室×暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~コラボ後編2

コラボ後編2です。
後編1を飛ばした方は前へお戻りください。


 ウエイトレスの制服を渡され、明らかにおかしいだろうと至極真っ当な意見が出たが、殺せんせー曰く『いいですか?二人はイケメンですが、磯谷君のような女性を惹きつけるイケメンではありません。ぶっちゃけ可愛い系のイケメンです。なら、君たちの魅力を真に発揮しつつ、客を呼び込むためには……』要するに女装した方が客を集められるから女装しろと言う話だ。

 ともかく、殺せんせーに押し切られて渋々着替えた東野と風人。

 

「ッチ。なんかスカート丈みじけぇし……!あのタコマジで殺す……!なぁ、お前もそう思わねぇか?風人」

 

 最終的には自分で着替えたとはいえ、こんな服を着せられていらつきを隠せない東野。そんな東野は自分と同じ立場にある風人に声をかける。

 

「風人?誰ですかそれは」

 

 が、風人から帰ってきた言葉は東野を裏切るような言葉だった。

 

「は?何言ってんだ……」

「今の私は風子ちゃんとお呼びください♪」

「…………え?」

「さぁ頑張りましょう!ね?佑さん♪」

 

(ちょ、ちょっと待て!はぁ!?これが風人だと!?丸っきり別人じゃねぇか!まさか、女装すると性格変わるとか!?いや、それにしたってこれは行き過ぎだろ!?)

 

 あまりの変わりように困惑する東野改め佑さん。だが、佑さんがそうなるのも無理はない。

 風人……いや、風子は今まで見てきた風人とはまとう空気から話し方から何から何まで違うのだ。

 

「さぁ、お二人とも。くれぐれも女装がばれることのないようにお願いしますね」

「はーい♪」

「分かってる……」

 

 恐ろしいまでに対照的な二人。もはや東野には風人という存在が理解不可能だと思い始めた。

 

「いらっしゃいませ♪四人ですね♪では、奥のテーブルへどうぞ♪」

「い、いらっしゃいませ……お一人ですか?か、カウンター席へどうぞ……」

 

 ノリノリで接客に勤しむ風子。対して佑さんは殺せんせーの前だといらつきがあったが、いざ客の前に立つと恥ずかしさがこみ上げているようだ。

 ちなみにせんせー裏で厨房の仕事をやっていて、客からは見えないようになっている。

 

「お会計は――――円ですね。では、丁度。はい、またのご来店をお待ちしています♪」

 

 客の反応も良好だ。ベテランのように動きつつ笑顔の絶えない風子と初々しさが残りどこかはかなげさを感じる佑さん。ある種対局と言ってもいい二人の姿。そういう目的の店ではないと頭では分かっているのにお客(特に男性の)は彼らに釘付けとなる。

 そんなお客の視線を感じ風子は俄然やる気に、佑さんは恥ずかしさと殺せんせーへの殺意を見せる。

 

「いらっしゃいま――げ」

「その反応はダメでしょ。東野」

「そうだぞーウチらは今はお客様なんだから」

 

 順調に思われたバイト。今のところ誰にも女装だとばれていなかったが、

 

(最悪だ……!よりによってこの二人に……!)

 

 クラス内での悪魔コンビ、カルマアンド中村に女装してバイトしていることを見られてしまったのだ。

 

「ほらほら、案内してよ」

「……お二人ですか?お客様」

「ううん。三人。もう一人呼んだよね?カルマ」

「もちろん」

「では、テーブル席へ……」

 

 あと一人って誰を呼んだんだ?という疑問を抱えつつ二人を律儀に席に案内する佑さん。

 

「ご注文がお決まりでしたらお呼びください」

「なら、佑さんの写真撮影で」

「……当店ではそのようなサービスは行っておりません」

「じゃあ、何か注文するからおまじないかけてよ。ほら、メイド喫茶であるじゃん」

「…………当店ではそのようなサービスは行っておりません」

 

 すると、ニヤついた(ムカつきのあまり殴り飛ばしたくなる)顔をしながら指先をある一点に向ける二人。その指先を見る佑さん。

 

『お願い風子ちゃん……!』

『えぇ……しょうがないですねぇ。もう!一回だけですからね♪おいしくなぁれ萌え萌えキュン♪』

『ごふっ……!』

 

 その指先では、風子がお客様の料理におまじないをかけていた。

 

(あの野郎……!)

 

 すかさず佑さんは風子を裏へ連れ出す。そして、

 

「テメェ何やってんだよ!あんなサービスがあると知ったら俺までやるハメになるじゃねぇか!」

 

 風子に向かって怒鳴る東野。

 東野は決して正統派喫茶店(?)でメイド喫茶のようなサービスをしていたことに怒っていたわけじゃない。自分があんなに黒歴史になりそうなことをやる可能性が出てきてしまったことに怒っているのだ。

 

「ご、ごめんなさい……よかれと思って……」

 

 若干涙目になる風子。東野は風子を泣かせてしまったことに少し罪悪感を感じたのか。

 

「な、泣くことはないだろ。……その……悪かった。強く言いすぎた」

「いいえ。私が間違ってたのです。謝らないでください佑さん」

「風子……」

「戻りますよ?お客様の対応をしましょう」

 

 戻っていく風子の後ろ姿を見て慌てて仕事に戻る佑さん。

 

(ちょ、ちょっと待て。あれは風人の女装だよな?え?風子さんっていう人と入れ替わったのか?いや、ちょっと待て一緒に着替えたはずだろ?だからアイツが男と言うことを……あれ?本当に男なのか?アイツは。そういえば初対面の時から女子にも見えると思ってはいたが……)

 

 と、考え事をしていると、

 

「プハハハハハハ!」

 

 聞き覚えのある笑い声がする。しかし、カルマと中村(悪魔コンビ)のものではない。

 

「笑いが止まらねぇ!」

 

 腹を抱えて笑う男。誰であろう。寺坂である。

 あの二人が言ってた三人目はまさかの寺坂だったのだ。

 

「お似合いだぜ!佑さごぶぅっ!?」

「……お客様?お静かになさらないと他のお客様に迷惑ですよ?」

「ごはぁ!?」

 

 最初に一発。忠告と共にもう一発入れ少し気が晴れる佑さん。

 

(まぁいい。風子についてはいったん放置で行こう)

 

 その後、寺坂が佑さんのいらつきを晴らすための軽いサンドバッグになっていたが、ここでは特に触れないでおく。

 そんな最悪の二人プラスαが帰り、カフェの客たちもいなくなって一息つく風子と佑さん。

 

「しっかり働いてるみたいだね。風子ちゃん」

「お疲れ様です。東野君」

 

 そこに現れたのは、言うまでもない。二人の彼女である神崎と奥田だ。

 

「いらっしゃいませ♪あ、お一人様プラス鬼でございますね♪」

「へぇ~風人君。そんなこと言っちゃうんだぁ~」

「ふふっ。風人君?今の私は風子ちゃんですよ♪間違いないでください有希子ちゃん♪」

「ふぅ~ん。そんなのどうでもいいけど」

「それと私はこう見えて怒ってるのですよ?理由は……お分かりですね?」

「さぁ?どうだろうね。でも、私には今の風子ちゃん。ノリノリに見えるんだけど?」

「「ふふふっ」」

 

 不敵に笑う風子ちゃんと神崎。普段の風人だと土下座コースだったはずだが風子は引き下がる気配がない。

 

「え、えーっと。これは止めた方がいいんじゃ……」

「やめておけ。多分止められない」

「そ、そんなぁ……」

「それにどう見てもこの二人の痴話喧嘩にしか見えないし。関わるだけ無駄だ」

「なるほど。つまり二人は仲の良さのあまり喧嘩しちゃってるっことですね」

「喧嘩するほど仲がいいって事だな。あいつらは放置して座ってくれよ」

「はいっ!」

 

 と、未だ喧嘩中の二人(バカップル)を放置して佑さんは奥田を案内する。

 

「注文は決まったか?」

 

 今この場にいる面子からして演技する必要がないと判断し、いつも通りに話す東野。

 

「え、えーっと……皆さんにやっていたみたいな接客を受けたいです……ダメですか?」

「ぐっ……」

 

 忘れてはいけない。東野はまだ女装したまま。ウエイトレスの格好だと言うことを。

 

「……ご、ご注文はお決まりでしょうか?」

 

 その事を思い出し恥ずかしさがこみ上げて顔を紅く染めていく。

 

「は、はい……えっと……これを」

「かしこまりました……」

 

 そして厨房へ注文を伝える。その道中で、

 

「そろそろ座らせたらどうだ?風子」

「むぅ」

 

 痴話喧嘩中のバカたちに声をかける東野。客はいないからと言って店のど真ん中で喧嘩されると迷惑なのだ。

 

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「うーん。じゃあ、タピオカを一つ」

「分かりました♪タピオカっぽいのを一つですね♪」

「ふふっ。もし、おかしなものを持ってきたら…………どうなるのか分かる?」

「さぁ?生憎私はドジなので、うっかり間違えてしまうかもしれませんけど?」

「いつからドジっ娘になったのかなぁ?」

「今からです♪」

 

(もう放置しよう)

 

 佑さんは風子と神崎の争いを放置して業務に戻るのだった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから無事二人のバイトは終わった(といっても終わりがけはそれぞれ彼女と雑談していただけだが)。お小遣い程度のバイト代を殺せんせーから受け取り(徴収し)、帰路についた四人。

 

「じゃあ、俺たちはこっちだから」

「うん~またね~佑斗~」

「じゃあな。風人」

 

 そして分かれ道でそれぞれ分かれる。

 

「面白かった?風人君」

「うん~楽しかったよ~」

「なら、よかった。またしたいね。デート」

 

 店の中で喧嘩していたのが嘘のような二人。ただ、彼ら彼女らにとってはこれが普通なのだ。

 

「デートだったの~?」

「少なくとも私はそのつもりだったよ」

 

 凄いおかしな感じになっちゃったけどねと、付け加えた神崎。

 

「そう~ならさ…………」

 

 すると、風人は神崎に抱きついて、自身の唇を神崎の唇に重ねた。

 

「今日はまだキスしてなかったからね~」

 

 そして、神崎を放す風人。

 

「…………!!もう!不意打ちはずるいよ」

 

 神崎も風人に抱きついたかと思うとそのままキスをする。ちなみに舌を入れる方のだ。

 そして、神崎が放し、今度は風人からと、堂々と公の場でイチャつくバカップル。

 そんな中で、風人はふと思った。

 

(佑斗か~。また会えるといいなぁ~)

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。東野と奥田はその風人と神崎のイチャつきを目撃していた。

 

「……たく。風人に聞き忘れたことがあったから聞こうと思ったが……」

「あれでは聞けませんよね……」

 

 思わず顔を紅くする東野と奥田。それも当然だ。つい何時間前かはあんな風だったのに今は周りを気にせずイチャついてる。

 

「帰るか……」

「……ですね」

 

 流石にあの空気の中に飛び込むことは不可能だと思った二人は、そっと見なかったことにして帰路につく。

 

「そういえば、何を聞きたかったんですか?」

「ああ。風人が殺せんせーのこと知ってたからな。ちょっと気になっただけだ」

 

(まぁ、一つだけ仮説は立ってるんだが……流石にな)

 

 あまりにも滑稽でぶっ飛んでると思い、その仮説を捨て去る東野。

 

「……いつか、私たちもあんな風になれるでしょうか」

 

 奥田の質問に東野は答える。

 

「無理だろ」

「…………ですよね」

「ああ。俺たちは風人と神崎のような彼氏彼女のような関係にはなれない。だから、俺たちは俺たちの関係を築いていけばいいんじゃないか?」

「…………!そうですね!私たちには私たちの関係がありますよね!」

 

 一瞬落ち込んだような表情を見せていた奥田だったが東野の言葉に花が咲いたかのような明るい表情を向ける。

 

「だから……さ。これからもよろしくな。愛美」

「はい!こちらこそよろしくお願いします。東野君!」

 

 二人は手を繋ぎ互いの家へと向かう。

 

(また会えるよな。風人……)

 

 心の中で親友(とも)に再会を願いながら……




はい。というわけで後半は女装カフェでした。
まさかの風子ちゃんと佑さんの登場です。
この二人の共演は楽しんでいただけましたか?

さて、今回は水澄様からコラボのお誘いを頂き、この企画が実現しました。
作者自身コラボするというのをやってみたいと思いつつ、その一歩が踏み出せませんでした。それを後押しって言うのかな?本当にお誘いいただき、ありがとうございます。
水澄様の『ゲーム好き男子と暗殺教室』。話が進むごとに成長を見せていく東野君(うちの風人君とは大違いですね)。今後の展開がどうなるのか。楽しみな作品であります。

今回のコラボはありがとうございました。
また機会があればやりましょう。その時はよろしくお願いしますね。
以上、水澄様の『ゲーム好き男子と暗殺教室』とのコラボでした。読んでいただき感謝です。


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結城 創真の暗殺教室×暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~ 前編その1

ではコラボ編です。どうぞ!


「千影!おい!返事をしろ!千影!」

 

 和光(わこう)風人(かぜと)は幼なじみの和泉(わいずみ)千影(ちかげ)に呼びかける。頭や全身から血を流し、腕や足が曲ってしまった彼女に。

 

「かぜ……と…………くん」

「ちょっと待ってろ!今救急車を呼ぶからな!」

 

 風人はすぐさま携帯電話を出す。

 

「……ごめん……ね」

 

 今にも消えてしまいそうな声で千影は呟く。

 

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!!」

 

 風人は叫んだ。今までに出したことのないような声で。

 

「さい……ごに…………」

「最後ってなんだよ!まだ生きるんだろ!」

 

 千影は最後の力を出し右手を風人の後頭部に持っていき、そのまま彼の唇を自身の唇に合わせた。

 

「ありがと……だいす……」

 

 最後まで言うことなく、彼女の眼は閉じてしまった。

 

「千影!おい!千影!!」

 

 何度呼びかけても、もう彼女が応えることはなかった。

 

「あぁぁぁ……あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 風人の悲痛な叫びが、雨の降る空に飲み込まれ、消えていった。その様子を黒い傘をさした黒いコートの少年が少し離れた場所から見つめていた。

 

「…………………………」

 

 彼は何も言わない。そうこうしてる内に、彼の外套から飛び出している黒獣が戻ってきた。黒獣の口には回収された青い火の玉=千影の魂が咥えられていた。彼はそれを受け取り、懐にしまう。そして黒い4対の羽を展開して静かに飛び立って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある世界に青年がいた。

 

 

とある世界に少年がいた。

 

 

かつて世界に少女がいた。

 

 

青年は銃とナイフを置き、7年の歳月の後に恩師の教えを胸に、自身の愛すべき街(横浜)を拠点に巨大な組織の企業の首領(ボス)となっていた。

 

 

少年はナイフと銃を手に取り、超生物狙う日々を送っていた。

 

 

少女は不幸な事故で命を落とし、現世から居場所を無くした。

 

 

青年には沢山の仲間や部下、そして大切な人ができた。

 

 

少年は心地よい居場所、同じく仲間。さらに同じく大切な人ができた。

 

 

少女は肉体も意識も、何もかもを失った……………筈だった。

 

 

そして青年は、1度この世を去った少女と出会い、仲間と共に彼女の願いを叶える為に奔走する。

 

 

そして少年は、かつての大切な幼馴染を殺した者の仇を取る為に、殺し合いを繰り広げる。

 

 

そして少女は、死してもなお大切な幼馴染を助けるために飛び出す。

 

 

これは、青年(創真)少年(風人)少女(千影)の3人を軸に描かれる、もう2度と起こる事のない奇跡の物語だ───────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー涼しー…………にしても、この漫画は相変わらず面白い。退屈させてくれないなー」

 

 少年ジ〇ャンプを読む青年がそう呟いた。彼の名は結城(ゆうき) 創真(そうま)。この物語の超天才な主人公の1人である。趣味は発明。暗殺教室の卒業生であり、今は父親から受け継いだ企業のCEO=首領(ボス)として職務を全うしている。

 

「いいぞ~これ」

 

 なんか危なそうな語録を呟く特徴的な羽のマフラーを巻く男の名はホリー。下記の1匹+1人と一緒に別の世界から創真に相棒として仕える為にやって来た、なーんと聖霊である。ついでに魔法使いも自称している。さらについでに可愛い女の子が好き。

 

「おい、ホリー!語録を使うな、その語録は!!」

 

 そうツッコミを入れるのは喋るコウモリことキバット。………………え?仮面ラ〇ダーキバに出てくるやつ?何のことだかさっぱりだ。こちらも可愛い女の子には目がない。

 

「少しは静かに涼ませろ…………」

 

 気だるそうに文句を言う全身黒いコーデで身を包む男はデュオ。死者の魂をあの世へ連れていく死神だった。過去形と言うことは、既にもう辞めていると言うことだ。上記のホリーとキバットと比べて真面目な性格であり、暴走しがちな彼等のストッパーのような存在でもある。

 

「それより、かき氷食べたーい!」

 

 唐突にそう言う女は月城(つきしろ) 碧海(あおみ)。創真LOVEである。創真には既にお相手がいるのだが、だからどうしたの精神で色々とアタックをめげずに仕掛けている。彼女もまた、暗殺教室の卒業生である。

 

「私はガリ〇リ君が良いですね」

 

 最近10円値上げすることが決まったガ〇ガリ君を所望する青年は氷室(ひむろ) (しょう)。創真の会社において副社長のポジションを務めている。かつては創真のお目付け役をやっていた。

 

 

 時は2021年7月のとある夏の日。創真、ホリー、キバット、デュオ、碧海、氷室の6人は王の間こと、現実世界から切り離された彼等しか入れない専用の空間へと避暑していた。と、言うのも朝方、横浜の送電所にてトラブルが発生した関係により、大規模停電が継続中。それの何が問題かと言うと、エアコンが使えないのだ。と、言うわけで自分の部下の健康面の事も考えて、今日は休み、と言うことに創真はしたのだ。そして、この6人は王の間のエアコンをフル動員して涼みながらぐーたら過ごしていた。

 

 

「いやーそれにしても便利ですね、この空間。電気代の事を気にせずにエアコンもフルパワーで使えて、Wi-Fiも通っていて。まさに楽園と言うべきですかね」

「氷室さんは大袈裟な…………まぁ、大袈裟でもないか。確かに何でも揃ってるし、楽園って言っても間違いじゃないね。私、毎日ここで暮らしたいなー」

 

 碧海がソファーにもたれながら呟く。創真はスマホで停電関連のネットニュースを見つけ、他の5人に向けて云う。

 

「復旧は今日の夜ごろらしいよー」

「やはりかなりの規模の事故だったようだな」

「明日まで長引いてくれれば明日も働かなくて良くなるのに…………いいぞ~これ」

「ホリー!お前はさっきから語録連発し過ぎだろ!!」

 

 本日二度目のキバットがツッコミが入った。同時に創真の携帯に着信も入った。相手は創真の親友でもあり、碧海の弟でもある月城 (はやと)だった。ちなみに彼はいじられキャラ。

 

『よぉ、創真。ネットニュースで流れてたけど、そっちの方で今大規模停電中なんだって?』

「と言うわけで、我々は休み♪」

『じゃあ今、暇なんだな。くそっ、羨ましいぜ』

「所で君。今仕事中じゃないの?」

『今はお昼休憩だぜ』

「あぁ、なるほどね。ずる休みか」

『何でそうなるんだよ!!お昼休憩って言っただろうが!!』

「ほんとかねぇ…………何か隼がお昼休憩って言うと、ずる休みにしか聞こえないね」

『いや、それどういう事だよ!?………………ったく、お前と話すと毎回無駄なエネルギー使ってる気がするぜ』

「それは良いことだ」

『良くはねぇんだが………………そんじゃ、俺はこの後仕事の準備があるから、じゃあな』

「まー仕事頑張れよー。あと、仕事中寝てたら怒られるぞー。よく寝てるんだろー?」

 

 寝てねぇよ!!と言う答えが聞こえたところで、通話は終わった。再び暇になり、創真は、はぁ、とため息をつく。

 

「いやー暇だ暇だ。何か面白いことないかなー…………と言いつつ、こう言うときに限って面白いことは起きな」

『おーい、おまんたち!』

 

 唐突に陽気な声が聞こえてきて、一同はガバッと起き上がった。

 

『今暇かー?』

「なに、この天の声的なの………………」

 

 碧海がポツリと呟く。誰もその声に聞き覚えがないと思われたが、その声の正体を知っている人物が1人だけいた。デュオだ。

 

「久しぶりですね、閻魔大王」

『おーデュオ!元気そうだなー!』

「え、この声の人が閻魔大王?マジかー…………」

「だとすれば、何かイメージと違いますね」

「何か浮気とかしそー」

『おい、そこの人間3人!全部聞こえてるぞ!特に女!浮気しそうってどういう事だよ!?』

 

 やけに自分の陰口に敏感な閻魔大王だ。

 

「それで、何か用ですか?もう、俺とは特に繋りはない筈ですが」

『おーそうだった。それを忘れるところだったぜ。実は、今回お前らにお願いがあってな』

 

 閻魔は急に真面目な口調となって語りだした。

 

『まずデュオ。お前、あの世に運ばれた魂ってその後どうなるか知ってるか?』

「運ばれた魂は一時的に特殊な魔術で凍結・保管され、1ヶ月に1回ある通称『審判の日』で、その魂が天国か地獄に行くか決定され、天国又は地獄に運ばれてから凍結を解除される。天国ではその後は自由ですが、地獄だと閻魔大王がその魂の犯した罪に応じて刑を下される………………ざっとこんな感じです」

『そゆことだ』

「………………何かトラブルでも起こったのですか?」

『あぁ。実は、ある魂だけ凍結の魔術を解除出来ないんだよ。その魂は天国行きだったんだけど、送った後で解除が出来ないって事で、連絡が来てな。天国と地獄の最高幹部全員で色々と議論したんだが、結局原因は分からなかった』

「それで、俺らにどうにか出来ないか、と」

『確か、そっちにどんな魔術でも無効化出来る奴がいただろ?そいつなら何とか出来るかも、って考えてその魂を送っといたから、そろそろ着く頃だ』

 

 ドスン、と言う音と伴に黒い段ボール箱が落ちてきた。解除の出来ない魂が入っているのだろう。創真が閻魔に答える。

 

「まー事情は理解したよ。丁度暇だったし、やってみるよ」

『………………あ、お前?俺はてっきりホリーとか言う奴が出来るのかと思ってたけど、お前なの?まーどっちでも良いや。解除できたら連絡してくれ。じゃーなー』

 

 そう言うと天の声は聞こえなくなった。

 

「………………じゃあ、早速解除と行きますか」

 

 創真は黒いダンボール箱を開け、凍結された魂を手に取る。そして、自身に異能の力を与えてくれる『文豪の世界』のカードを手に取り、異能力の名を唱える。

 

「異能力『人間失格』」

 

 そう呟くと、どんな魔術も強制的に無効化する人間失格が発動。青い文字羅列が魂を包み込み、あっという間に凍結の魔術が解除された。そして、宙を浮く魂が青く光始めた。

 

「まぶしっ!」

 

 ホリー、デュオ、キバットは目を瞑り、創真や碧海、氷室はサングラスを掛ける。そして、まばゆい光が部屋中を照らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十秒後、光が収まった。一同の先には、目を瞑ったまま浮いている少女がいた。だが─────────その状態が色々と不味かった。いち早く気付いた創真と氷室、遅れて碧海も後ろを向き、それに続いてデュオも後ろを向く。ホリーとキバットはじっくりと鑑賞しようとしたが、その暇もなくデュオの外套から飛び出した()()によって強制的に後ろを向かせられた。

 

「………………毎回ああいう感じなんだ。男にとっては嬉しいんだろうねぇ」

「誤解しないでくれ碧海さん。恐らくこれはバクみたいなものだ」

「あー、後少しで良いものを見れたのに」

「全くだぜ」

「このままぶっ潰すぞ…………」

 

 そんな会話をしてる間に、少女は目を覚ました。

 

「…………ここは………?」

 

 不思議そうな表情の少女────────千影に創真が話し掛ける。

 

「やぁ、目を覚ましたかい?」

「………………あなたは誰ですか?それにここは一体………………?あと、何で背を向けてるんですか?」

「そりゃあ………………ちょっと色々と不味い状況だからさ」

「…………不味い状況?何が不味いんですか?」

「…………服」

「へ?」

「自分の身体を見てみ」

 

 言われて千影は自分の身体を見た。そして、始めて自分が服を着ておらず、生まれたままの姿だと言うことに気付いた。その後、女の子らしい悲鳴をあげたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話し合うまでもなく取り敢えず服を、と言うことでデュオが何処からか黒いワンピースを調達してきた。今、創真らは着替えが終わるまで外で待っていた。そしてこのタイミングで氷室と碧海は用事が出来たと言って、離脱して行った。

 

「…………そう言えばデュオ」

「何だ?」

「彼女の名前って知ってる?」

「彼女は和泉 千影。ここの世界とは別の世界の人間だ。彼女は信号待ちの最中、何者かによって押し出され、そこに走ってきたトラックの轢き逃げが原因で亡くなった。恐らく当時は中学生位だった」

「なるほど。それにしても、中学生か………………僕にとってはもう7年か。卒業してから」

「もうそんなに経つんだな…………」

 

 創真とデュオが懐かしさに浸っていると、中から声がした。

 

「も、もう入っても良いですよ…………」

 

 創真らが王の間に入ると、まだ少し前に起きた件を引きずってるのか、ソファーの上で羞恥で顔をりんごの如く赤く染めている千影がいた。

 

「…………お。意外と似合ってる。デュオもまぁまぁ良いセンスしてるねー」

 

 何故か上から目線で賞賛するホリー。デュオはどうでも良さそうだが。

 

「………………そりゃどーも。俺は飲み物でも用意する」

 

 そう言ってデュオは飲み物の準備をする。

 数分後、珈琲が3人の前に出される。

 

「………あ、ありがとうございます。いただきます………」

 

 千影は出された珈琲を一口飲む。そして、その美味しさにホッとため息をつく。

 

「美味しい………………」

「それは良かった」

 

 デュオは微笑を浮かべ、自分も向かい側のソファーに座る。全員が席についたタイミングで、創真が話始めた。

 

「さて………………とりま、自己紹介からしますか。僕の名は結城 創真。何と言うか………………超天才!って感じな色々とヤバイ男」

「は、はぁ…………」

「それで、左からホリー、デュオ、キバット。キバットはさておき、2人は一見人に見えるけど人じゃないよ。聖霊と死神だ。あ、ほら魔法やら色々とやってるしね。キバットはただの変態で良いや」

「俺様だけ紹介が酷くね!?」

 

 キバットのツッコミを無視して創真は、これでこっちからは以上だ、と続けた。

 

「まぁ、知ってはいるけど一応そっちも自己紹介してくれる?」

「あ、はい。私は和泉 千影と言います………………あの、少し尋ねたいことがあるんですが…………」

「良いよ。多分、全部デュオが答えてくれるよ。あー、それとそんなに固くならないで良いからね」

「分かりました。それじゃあ………………私は交通事故で死んだはずなんですけど、何で私は生きてるんてすか…………?」

「生きてはいない。君は確かに交通事故で亡くなった。それは揺るぎのない事実だ。今の君は幽霊みたいなものだ。ちなみに、君が珈琲を飲むときに使ったティーカップは幽霊でも持てる特注品だ。まぁ、それだと分かりづらいだろうから、試しに何処でも良いから創真に触れてみてくれ」

「………………?わ、分かりました……」

 

 千影は創真の手を触ろうとするが、千影の手は創真の手をすり抜けてしまった。

 

「あっ………………触れないです」

「創真も触れない筈だ」

 

 創真も同じことをするが、結果は同じだった。

 

「………………何か、変な感じです」

 

 そう言うと千影は少し笑う。

 

「まぁ、そりゃそうだろうね。僕も同じことを思ったよ」

 

 創真も苦笑する。

 

「それで、これから私はどうなるんですか?」

「明日くらいに閻魔大王が直々に迎えが来て、君は正式に天国に送られると、さっき連絡した閻魔大王が言っていた」

「…………そうですか。それにしても、天国や地獄って本当に存在するんですね」

「僕も最初は無いと思ってたけど、ホリーらと会ってから、そう言うのも含めて色々と実在するんだって知ったよ」

 

 すると、さっきから黙っていたホリーが我慢の限界と言いたげな表情で口を開いた

 

「ねーねー創真。堅苦しい事はもう良いでしょー?それより千影ちゃん、暇だし遊ばない?」

「え?」

「いや、僕ら君と仲良くなりたいし、君の事とか何も知らないから色々と聞きたいな。デュオもキバットもそうでしょ?」

「まぁ…………仲良くなれるならそれに越したことはないな」

「俺様も仲良くなりたいぜ!にしても、お嬢ちゃんは美人だなー!亡くなったときは中学生だったんだろ?若くて良いぜ!ただ、胸がまな板なのはまぁ、しょうがないか」

「てんめぇ、キバット!!何てこと言いやがる!!まな板でもなぁ!!可愛けりゃ良いんだよ!!」

 

 本人の前でデリカシーの無い変な言い争いをするホリーとキバットに、デュオによる拳骨制裁が下された。

 

「お前ら、1回マジで死んだ方が良いんじゃないのか?」

「拳骨は効いた………………」

「やりますねぇ………………」

 

 すると、千影はプッと吹き出し、声を出して笑いだした。

 

「フフッ、ごめんなさい。コントみたいで面白くて…………」

「良かったなホリー。これで千影さんがぶちギレてたら、お前終わってたぞ色々と。まー遊ぶなら別の部屋でやってくれ。僕はちょっとやりたいことが出来たんでね」

「おっしゃあー!じゃあ、行こう!」

 

 ホリーは千影の手を引いて飛び出す。

 

「おいおい、待てよ!俺様を置いてくな!」

「やれやれ、元気なことで…………」

 

 キバットとデュオもついていく。そんな彼等を見送った後、創真はさて、と呟く。

 

「なーんか、ありそうなんだよね、彼女。見てて何か普通の人とは違うような感じが………………ちょっと推理してみますか」

 

 創真は緑に薄く発光する眼鏡を取り出し──────

 

「………………『超推理』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、遊んだ遊んだ。楽しかったー!」

 

 数時間後、ホリーらは千影とすっかり仲良くなっていた。ホリーが1番ご機嫌だ。

 

「まったく、すまないな千影さん。ホリーがマイペース過ぎて、色々と振り回されて大変だっただろ?」

「そ、そんなこと無いですよ!…………それに、ホリー君を見てたら、好きな幼なじみの事を思い出して、懐かしい気持ちになりました」

「ほう………………」

「その幼なじみも、ホリー君みたいに結構自由な人でした」

「それは苦労したんじゃないのか?」

「まぁ、苦労もしましたね」

 

 千影はそう言いながらでも、と続ける。

 

「それでも、すっごく頼れるんです。何でも出来て、一緒にいると心強いんです………………もし叶うなら、風人君にもう一度会いたいなぁ………………」

「…………………………」

 

 デュオは何も言わずに、王の間の扉を開ける。その瞬間

 

「出来た────────────!!」

 

 創真の歓喜の声が彼等の耳へと入ってきた。

 

「…………やけにテンションが高いな。何かあったのか?」

「何かあったから喜んでるに決まってるじゃないか、デュオ!!見給え、このペンダントを!!」

 

 創真の手には、青い宝石が入り込まれているペンダントがあった。

 

「それがどうかしたのか?」

「それを言う前に、千影さんに聞いておきたい。千影さん、あなたは治療不可能な『全色盲』と言う、見る物全てが白黒や灰色に見える病気だっただろう?」

「!!」

「そして今もなお、世界が白黒や灰色に見えている。違うかい?」

「いえ、その通りです…………どうして分かったんですか?」

「ちょっと推理…………いや、『超推理』したら30秒で病気も含めて色々と分かったよ。そんでもって、これをあげる」

 

 創真は手に持っていたペンダントを千影にパスする。

 

「それをつけてみて」

 

 何の為にかはよく分からないが、ペンダントをつけてみる千影。つけた瞬間、青い文字羅列が千影を包み込んだ。それが消え去ると───────────

 

「あっ………………」

「これが、僕らが見ている色のある世界さ」

 

 ─────────千影の世界が色づいた。

 

「凄い………………これが色のある世界…………こんなにも美しいんだ………………」

 

 千影は感動しているようで、少し涙目になっていた。

 

「そのペンダントは『人間失格』を応用して作ったもので、『全色盲』を()()()してるに過ぎないから根本的な解決にはなってないんだけどね。ペンダントを外したら元に戻ってしまう。まぁ、それでもさ。青い空を。緑の山を。七色の虹を………………これで君は見れるね。と、言うわけで行きますか」

「え?」

「君の元いた世界にだよ。そこで、色づいた世界を見に行くついでに……………………君の願いを叶えに行かないかい?」

「!!」

 

 やはり、創真は何でもお見通しだった。

 

「……風人君に…………会えるんですか?」

「多分ね。デュオ、彼女が元いた世界って何処か分かる?」

「あぁ」

「なら、それをホリーに伝えてくれ。さぁこれで、条件はクリアだ。どっちにしろ、君は明日になったら迎えが来るからもう2度と会う機会はない……………………さて、どうする?決めるのは君だ、和泉 千影」

 

 千影の答えは──────────もう決まっていた。

 

「お願いします。風人君に会わせてください」

「分かった。その願「フッフッフ。その願い、このホリー達が叶えてあげるよ!じゃあ、行こうか!かつて君のいた世界に!」………………なーんか良いとこ取りされたし。まぁ良いや。じゃあ、ホリー。頼んだよ」

「オッケー!じゃあ、行くよ!場所だけでなく、世界すら移動する高位移動系魔術『ハイパーテレポート!』」

 

 そう唱えた瞬間、彼等の足元に巨大な魔方陣が現れたと思えば、彼等の姿は一瞬にして消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に彼等が目を開けると、そこは東京のある街の路地裏だった。

 

「………………着いた。ここが千影さんのいた世界か」

「創真さん達のいる世界と私の住んでた世界って別々なんてすよね?」

「ここをA世界とすれば、僕のはB世界って感じ。とは言え…………」

 

 創真らは路地裏を出る。キバットのみ透明化する。千影は一見すれば人間なので、透明化しなくても特に問題ない。ただ、人と物理的に接触しないように気を付ければ良いだけだ。彼等の視線の先には、沢山のビルや建築物の光景が広がっていた。

 

「あんまり変わらないなぁ…………ここは新宿だ」

「ほんとだねー。創真の世界の新宿とほぼ一緒だ」

 

 ホリーも辺りを見回しながら呟く。千影は空を見上げる。そこには青い空が広がっていた。

 

「あれが空…………青いってこう言うことなんだ…………」

「どう?初めて青い空を見た感想は?」

「何か、凄く感動してます」

「そっか。じゃーぼちぼち風人君の所に行こうか。とは言え、彼は何処に住んでいるんだろ?あ、でも千影さんなら知ってるかな?知ってるなら是非案内を」

「ちょーっと待った!!」

 

 突然、ホリーが待ったをかけた。

 

「せっかく幼なじみに会うんだからさ、少しおしゃれしてから行かない?綺麗な姿で現れてびっくりさせちゃおうよ!」

「あー、なるほど。それは面白いかもね」

「だが、彼女は幽霊だ。この世界で服を買っても着せられ無いだろ?言っておくが、王の間に女子用で幽霊にも着せられる特殊な服はこれしか無かったからな」

 

 デュオの指摘に、そっかー…………、とホリーは肩を落とす。所がどっこい、こんなことも天才(創真)は想定していた。

 

「それは何とかなるよ」

「え?何とか出来るの、創真が?」

「うん。この『文豪の世界』をペンダントに入れれば…………」

 

 創真が千影のペンダントに向けて『文豪の世界』のカードを投げると、カードは粒子となって吸収される。すると、千影の体がほんの僅かに一瞬緑に光った。

 

「これで今は人間と同じ感じ。ほら」

 

 創真は千影の肩をポンポンと叩く。今度は触れた。

 

「要するに、そのカードの力で今の私は人間になったって事ですか?」

「ざっくり言えばそう言う解釈で構わないよ。正確に言えば、『文豪の世界』の魔術の1つ、『独歩吟客(どっぽぎんかく)』の異能を上手く利用して幽霊から人間へと実体化と言うか具現化と言うか…………まぁ、とりあえず普通の人間と同じ感じになったって事で。これで普通に服とか着れるよ」

「よーし!なら、ファッションデザイナーのホリーがアドバイスするよ!ファッション雑誌とか仕事中によく読んだりしてるから詳しいんだ!」

 

 自信満々に云うホリー。対して創真はほほう、と呟く。

 

「そうかそうかー。仕事中にファッション雑誌とか読んでたんだー。へぇー…………」

「…………あっ。や、やべ…………じ、じゃあ3人は何処かで待っててね!終わったら連絡するから!じゃ、じゃあまた後でね!」

 

 逃げるようにホリーは千影の手を引いて行った。そんなホリーを見つめながら創真はポツリと云う。

 

「来月は減給かな…………」

 

 来月、ホリーが給料の少なさに男泣きするのはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやーゲーム楽しかったね。やっぱ有鬼子は強いや~」

 

 のほほんとした口調で喋るのは和光 風人。かーなり変わった性格で、この物語のもう1人の主人公であり、暗殺教室の生徒でもある。そしてゲーム好き。

 

「そんなことないよ。風人君も沢山勝ってたじゃん」

 

 隣を歩くのは神崎 有希子。2人は恋人として付き合っており、今日も午前中から作者(音速のノッブ)曰く、ゲーセンデートと言うのをしていたのだ。

 

「それにしても、今日は良い天気だね」

「そうかな~?別に昨日とそんな変わらないと思うけど~?」

「そう?」

「うーん、でも有鬼子に言われてみれば今日は丁度良い気温かもね~。今日は外出にはぴったりの日だ~」

 

 空を見上げながら、風人はのほほんとした表情で云う。

 

「ねぇ、風人君。そこに公園あるから寄ってかない?」

「何で~?」

「も、もう少し一緒にいたいから…………じゃ、ダメかな?」

「うーん。よくそんなに恥ずかしい台詞言えるね~。しかもテンプレ………………あ、嘘ですやめてください有鬼子さん、冗談ですからその手を引っ込めてくれませんか、ほんとに」

 

 危険を察知して慌てる風人。そんな様子が面白くて、神崎はクスッと笑った。

 

「ま、まぁこれから特に予定はないし寄っていこうか~」

「ありがと。じゃあ、行こ」

 

 神崎は風人の手を引き、公園への道を進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 公園には珍しく人はほとんど居なかった。

 

「あんまり人が少ないね~」

「もうお昼時だからかな?」

「いるのは、あそこでゴミ拾いしている白と黒の2人の男の人だけだ~」

 

 彼等の視線の先には、トングを使って恐るべき早さで落ちているゴミを拾っていく2人の男の姿があった。

 

「暇なのかな~」

「こらこら、そんなこと言わないの」

「はーい」

 

 そんな会話をしながら2人は近くのベンチに腰を掛ける。

 

「ねー有鬼子~」

「なぁに?」

「殺せんせーからの数学の宿題終わった~?」

「うん。昨日のうちにやったよ」

「じゃあ、見せて~」

「ダメだよ。自分の手で解かなくちゃ」

「うー。有鬼子のケチ~。見せてくれれば、宿題やる時間が無くなって、その分ゲームできる時間が増えるのに~」

「我が儘言わずにやるの」

「え~」

 

 全く以て平和な会話を繰り広げるカップル。

 さて、次は焦点をゴミ拾いを終えた白と黒の男2人改め、創真とデュオは2人の近くのベンチに座る。

 

「よーし、終わった」

「……………………なぁ、創真。何で唐突にゴミ拾いをしようと思った?」

「え?いや、よくY〇uTubeとかでゴミ拾いとかしてる人とかいるのよ。その人、よくチンピラに絡まれて喧嘩とかするからそう言うの起きないかなーって思って」

「理由が変すぎるぞ………………」

「まー良いじゃない………………ん?ホリーからL〇NEだ………………どっちの服装の方が似合ってるか、ねぇ。デュオはどっちの方が似合ってると思う?」

「1番目のだな」

「奇遇だね、僕もそう思う。じゃ、そう返信して………………デュオ、何か暇じゃない?」

「暇だな」

「ゲームしない?」

「するか」

「スマ〇ラSPかマ〇カ8DX、どっちにする?」

「スマ〇ラだな」

「………………何か、会話のテンポが早くね?いや、デュオの返事が早すぎじゃね?ちゃんと考えてる?」

「考えてるぞ?」

「あぁそう………………まぁ、良いや。ほい、デュオのス〇ッチ」

「サンキュー。にしても、最近のゲーム機は便利だな。持ち運びが出来て外でも遊べるとは」

「全くだ。世の中便利になったもんだねー」

 

 再び、会話の焦点を風人と神崎に戻す。

 

「…………ねぇ、有鬼子~。マ〇カ8DXってあったっけ?」

「うんん。無いけど?」

「…………ス〇ブラSPってあったっけ~?」

「…………無いよ?何でそんなこと聞くの?」

「隣のベンチに座ってる、さっきまで掃除してた人の会話を聞いてたらさー。何か、ス〇ブラSPとかマ〇カ8DXとか知らないゲームの名前が出てたから気になったんだよ~。それに、あの人たちの持ってるゲーム機……………あんなの見たことないな~」「……………………確かに」

 

 まぁ、年号的には創真の世界の方が進んでる影響で、彼等がス〇ッチ等をまだ知らないのはご理解頂けるだろう。そして風人は良くも悪くも子どもっぽいところがあるので────

 

「ちょっと聞いてくる~」

 

 当然聞いたことも見たこともないゲームに惹かれてしまうのも無理はなく、聞きに行こうとしている。普通であればそんなこと躊躇し出来そうにないのだが、先程言った通りこの男は少し…………いや、かーなり変わっているのだ。

 

「……やっぱりね。私も行くよ。風人君が失礼な事言わないか見ておかなくちゃ」

「え~?」

 

 2人は立ち上がり、創真らに近づいていく。そして─────

 

「そう言えばさー」

「何だ?」

「デュオはかなり千影さんについて色々と知ってたね。死因とか、大体の年齢とか」

「あぁ、それは当たり前だ。言ってなかったか?和泉 千影さんの魂は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺があの世へと連れて行ったからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、なるほどね。そりゃ知ってるわけだ」

「……………………は?」

「え……………………?」

 

 

─────────次回、激突。




というわけで、コラボ前編その1でした。
コラボ相手である音速飛行様からメッセージがありますのでどうぞ。











お久しぶりの人はお久しぶりです。はじめましての人ははじめまして。音速のノッブと申します。今回のコラボ編はかなり気合いを込めました。文字数も今までの中で1番えぐいです(笑)さて、本題に入ると…………僕の書く作品は暗殺教室の色んな小説のなかではかなり異色だと思っています。異世界があると言う設定があったり、登場人物の中に聖霊や死神や喋るコウモリがいたり、とんでもない発明品が出たり、挙げ句には主人公が空を飛んだり異能を使っちゃったり …………正直、この小説を気にいってくれる人はそんなにいないだろうなぁと思っていたんですが、意外にもお気にいり登録、面白いと感想をしてくれる人がたくさん(?)いて結構嬉しかったります。200人超えたときはまじで発狂しました。さて、story面の話をしましょう。どんな話にしようかなー、と悩んでいました。今までコラボも何回かやってきましたが、コラボにおいて僕が大切にしているのは双方の作品の特色を可能な限り全て出すと言うことです。例えば、前回のコラボの相手の作品を例にして言うと、最新話までに出てきた必殺技は出来るだけ全て出す、出ているオリジナルキャラは全て出す、等々……………なので、今回もスタンスは変わりません。僕の作品の大きな特色は、世界観ゆえに何でもアリと言う所でしょうか。魔法とかも存在するものですから、大概のことは実現できますしね。黒ハムさんの作品の大きな特色は、風人君の存在そのものだと個人的には思っています。彼の性格、行動が黒ハムさんの描く暗殺教室を面白くしている、と僕は思います。他には、性格がかなり原作と変わっている神崎さんでしょうか (笑)
勿論、このコラボでも風人君の奇行(?)も、神崎さんの性格改変要素もかなり詰まっております。これが、コラボにおいて注ぎ込んだ黒ハムさんの暗殺教室の主な特色です。 さて、これらの特色をいかしてどんなstoryにするか、と考えていた時に、ネタ探しの為に黒ハムさんの暗殺教室を読んでいたときに過去の話を見て閃いたのです。『千影を復活させて出すか』、と。復活させるのも、自分の作品の世界観でなら特に違和感なく出せるんでは?と考えて話をどんどん構成していって気が付けばもう引き返せないところまで出来てしまった、って感じです。僕の作品みたいな世界観でなければ一度死んだ千影さんを復活させて出す、と言うのは不可能だったんではないかなーと思います………………多分。何はともあれ、コラボを承諾してくれた黒ハムさんにはとても感謝しています!本当にありがとうございます!さて、次回は創真と風人が戦います。先に言っておくと、どちらかが勝ち、どちらかが負けます。千影による介入でバトルが中途半端に終わると言う展開はありません。勝敗がしっかりつきます。果たして人生経験豊富な元暗殺者の創真か、それとも現役暗殺者の風人か…………明日をお楽しみに。それでは!


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結城 創真の暗殺教室×暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~ 前編その2

 風人side

 

「和泉千影さんの魂は俺があの世へと連れて行ったからな」

 

 ハッキリとそう聞こえた。

 

「…………………………は?」

 

 あの世へと連れて行ったからな?どういう意味だ?いや、意味なんてすぐ分かる。あの世へと連れて行った……………………即ち、()()()と言うことだ。脳裏にあの時の光景が甦る。誰かに押されてトラックに跳ねられ、全身から血を流した千影。彼女が最後にキスした後──────────

 

『ありがと……だいす……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テメェだけは……………………許さねぇ!!」

 

 ()()はそう言って飛び出した。

 

「風人君!」

 

 後ろから声が聞こえたが、そんなのどうでも良かった。ただ、目の前にいる千影の命を奪った奴を殺す事しか頭になかった。何故かベンチから立ち上がって、公園を去ろうとしていた黒い奴に向けて駆け出す。奴はオレが近づいてくるのを感じ取ってか、オレの方を振り向く。その瞬間には、オレの拳が奴の顔面に当たる直前。回避は不可能───────────

 

「!?」

 

 ──────────そう思っていた。だが、オレの腕を誰かが掴んだ。掴んだのは、奴の隣に座っていて、同じく公園から去ろうとしていた白いコートを袖を通さず羽織っている男だった。

 

「ッ………………なんつー力だよ…………!!」

 

 白い奴の力は凄まじく、ピクリとも腕を動かせなかった。

 

「……………………一体、どういうつもりだい?急に殴りかかってくるとは。君は馬鹿か?いや、馬鹿だな」

「うるせぇよ。邪魔するなら誰だろうと容赦しねぇ」

 

 空いている左手でそいつも殴ろうとするが、当たる直前にそいつは手を離して後ろへ大きくジャンプした。

 

「まったく、ゲームする前にジュースでも買いに行こうかと思ったら急に殴られかけるとはデュオも災難だね」

「………………デュオ、って言うのか。本名じゃなくてコードネームか?まぁいい。お前、今言ったよな。和泉千影さんの魂は俺があの世へと連れて行ったからな、って。乃ち、お前が千影を押して、トラックに轢かせて殺した犯人ってことだよな」

「………………は?いや、俺が言ったのは」

「やめときな、デュオ。考えてみ。言ったところで無駄だよ。言っても彼が信じるわけがない」

「…………」

 

(確かに、な。俺がやったのは何者かによって殺された千影さんの魂の回収。彼女を殺しはしていないんだが、彼は俺が千影さんを殺したと解釈した………………いや、普通ならそう解釈するか。俺が千影さんを殺したと分かって襲い掛かってくる辺り、彼女の友達の類いか…………不本意だが、厄介な事を引き起こしてしまったな…………)

 

 何か言おうとしたデュオを、白い男が止めた。

 

「………………で?デュオが千影さんを殺していたとして、君はどうするの?」「…………………………」

 

 そんなの決まってる。殺す。

 

「………………凄い殺気だねぇ。ただし憎悪まみれの………………ん?」

 

 白い奴は有鬼子がいるのに気付いたようで、数秒の間見つめていた。そして、何かを察したように、なるほどね、と呟いた。

 

「この世界に神崎さんがいると言うことは………………もしかして、君は椚ヶ丘中学3年E組の…………暗殺教室の生徒かい?担任はタコの殺せんせーだったりして………………」

「!!……………………国家機密の殺せんせーを知ってるとなると、お前ら暗殺者か?それに、何で有鬼子の事知ってやがる」

「1つずつ答えると、僕は元暗殺者。で、何で神崎さんを知ってるか?言っても良いんだけど、どうせ信じないだろうから言わなーい」

「あっそ。まぁ、そんなことはどうでも良い」

「そうかい………………所で、君。デュオを殺したいと思ってるんじゃないの?」

「さーな。別に殺したいとまでは思わないが、素直に警察に自首して罪を償ってもらいたけどな」

 

 口先ではそう言ってるが、勿論殺したいに決まっている。ただ、有鬼子の前では復讐心は見せたくなかったから誤魔化しただけだ。だが…………そんな僕の心の内も見透かしてるように、白い奴は笑う。

 

「そっかそっか………………じゃあ、場所を変えようか。でも、その前に」

 

 白い奴は懐から銃を取り出して間も無く、弾丸が放たれる。弾丸はオレの顔面すれすれを通過し、パンと言う音がした。そして、誰かが倒れる音がした。後ろを振り向くと───────

 

「有鬼子!!」

 

 倒れていたのは有鬼子だった。

 

「おい!しっかりしろ!………………何をしやがった、テメェッ!!」

「なーに、この銃に入っているのは即効性の催眠ガス入りの弾丸だよ。破裂するタイミングも設定できる便利な代物だが、これが中々作るのがめんどいんだよね」

「それを何で有鬼子に撃つ必要があった?」

「それは、彼女がいない方が事が楽に進むからさ…………君にとってね」

 

(こいつ…………………やっぱり見透かされてるな)

 

 白い奴は銃をしまって言う。

 

「さぁて、行こうか。あぁ、彼女はそこのベンチに寝かしておきな」

 

 そう言うと、白い奴は歩き始めた。それに続いてデュオも歩き出す。無論、オレも有鬼子をベンチに寝かせてから彼等を追い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5分ほど歩いて、着いたのは街の郊外の路地裏だった。

 

「さて、ここなら誰も来ないだろうね。例え、()()()をしたとしても、見つかるには相当の日数が掛かるような所だろうね、ここは」

「…………………………」

 

 確かに人気がない場所だ。

 

「……………………で、わざわざここに連れてきた理由はなんだ?」

「君に1つ真相を教えてあげようと思ってね」

「………………何?」

 

 真相、だと?

 

「千影さんを殺したのは、デュオじゃない」

「じゃあ、さっきデュオが言ってたのはどういう事だ」

「さーね。そんなどうでも良いことよりさぁ、君………………もし僕が()()()を知ってるって言ったらどうする?」

「!?………………デュオが犯人じゃなくて、千影を殺した本当の犯人がいて、お前がそれを知ってるってるって事か?」

「あぁ、知ってるとも。何故なら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺したのは僕だからさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 創真side

 

「へぇ……………………そうかよ」

 

 誰の目から見ても明らかに、彼の纏う殺意がさらに増幅された。無論、殺意の対象は完全に僕。

 

「なら………………次にオレがしたいことは分かるよな?」

「殺しに来るかい?まっ、君程度じゃ僕を殺すのは無理だね。千影さんと同じくあの世に送られるのがオチだろうね~」

 

 挑発と分かっていても、彼は乗らずにはもういられなかったのだろう。

 

「………………殺す!!」

 

 そう宣言して彼は僕に向けて駆け出した。

 

「創真!!何であんな」

「デュオ。僕が必要とするまでそこで待機。良いね」

「……………………チッ。何がしたいのか分からんが、どうなっても知らないからな」

「ご心配どーも」

 

 そう返事すると伴に彼の拳を避ける。その後の第2、第3撃は捌く。

 

「中々良い筋をしているねぇ」

「呑気に感想述べる暇があるってことは、まだ余裕なんだな」

「当然さ。君とは年季が違う」

「……………………なら、オレの本気で届くかどうか試してやる!!」

 

 そう宣言すると、彼の攻撃速度が格段に上がった。中々速いな………………油断してたら当たりそうだ。

 

「……………………だが、足りないね。僕を殺すには」

「そうかい………………なら」

 

 彼はそう言いながら懐に手を入れる。武器を取り出すのだろうか………………対先生用ナイフは人間に傷1つ与えれない。なら、可能性としては銃か?だがその予想は外れた。彼が取り出したのは───────

 

「手錠……………………だと?」

「予想外だったろ?これを武器にするなんてオレくらいしかいねぇだろうし」

「そうだね………………」

 

 少し警戒した方が良さそうだ…………。

 

「で、それをどう使う?」

「こう使うんだよ!」

 

 彼は複数の手錠を僕に向けて投げる。だが、僕なら余裕で避けれる。

 

「なーんだ、投げるだけか。ちょっと期待外れと言うか………………」

 

 そう呟きながら彼の方に視線を戻すと、彼は投げていない手錠をメリケンサックのようにして左手に嵌めた後、右手から何かを取り出してそのまま自身の右側に放る。そして彼自身、それに注目している………?

 

「なんだ?」

 

 思わずそれに目が行ってしまった。何を落とした────────スマホ?

 

「律!」

『フラッシュ機能、ON!』

 

 スマホのライトが輝きだした。

 

「まぶっ!!」

 

 これは────────流石に侮り過ぎてたか?

 

「貰った」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風人side

 

 完璧だ。夏休みのジャックおじさんの時と同じように完璧にこっちの策にはまってくれた。これで、もう勝ったようなもんだ。オレは一瞬で距離を詰める。後は勢いに任せて全力で殴り飛ばし、意識を奪った後───────

 

「貰った」

 

 左手によるストレートのパンチ。この距離なら回避も間に合わない筈。これで終わりに

 

「………………なーんてね」

 

 渾身のパンチは空を切った。奴の姿は四方八方見回しても何処にもいなかった。

 

「クソッ、どこ行きやがった!?」

「上を見忘れてるよ」

 

 声につられて上を見ると、何と奴は浮いていた。右手には見たこともないような銃。だが、先端からワイヤーアンカーが出ていて、それが路地裏に隣接している建築途中のビルの屋上の手すりに引っ掛かっていた。

 

「ワイヤー銃って所か」

「そゆこと。咄嗟の危機対処能力は暗殺者にとっては必須だろ?」

「確かにな。やっぱ一筋縄ではいかねぇようだ……………………そういや、お前の名前を聞いてなかったな」

「結城 創真。君は?」

「和光 風人だ。覚えなくて良い」

 

(風人…………あぁ、彼が千影さんの会いたがってる人物か……そう言えば、公園でも神崎さんが彼の名を呼んでいたような気がするな)

 

「おや、覚えなくて良いのかい?」

「どうせ、お前は死ぬからな」

「ほー………………そりゃ楽しみだ。さて、いい加減狭い路地裏も飽きたので、フィールドチェンジだ」

 

 そう言うと、創真はワイヤー銃でスルスルと上がっていく。オレは建築途中のビルの柵を余裕で飛び越え、入ってすぐ左にあった階段を三段飛ばしで駆け上がって行く─────────!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…………ハァ…………」

 

 屋上に到着。だが───────

 

「あいつの姿が無い…………」

 

 回りに遮蔽物はなく、隠れる場所はない。まだぶら下がってるのか?そう考えて下を覗いてみるが、やはり姿は無かった。

 

「何処に行きやがった…………」

 

 すると、何処からか蹴鞠(けまり)が転がってきた。何でこんなところに蹴鞠が──────────不思議に思って蹴鞠を手に取ってみる。見た目は何の仕掛けもないただの蹴鞠だが。

 

 その時、蹴鞠からピーと言う電子音が聞こえた。無意識に何か嫌な予感がし、蹴鞠を空へと放り出す。数秒後、蹴鞠が大きな爆発をした。

 

「中々良い直感と反射神経だ」

 

 後ろから声が聞こえたときには、振り向くと同時に回し蹴りをしたが、受け止められた。

 

「あと1秒遅ければ君は重傷を負ってたけどねぇ」

 

 いつの間にか後ろにいた創真がニヤリと笑いながら言った。

 

「やっと仕掛けてきたか」

「いい加減守ってばかりも飽きたんでね」

 

 創真は蹴りを放つが、オレは後ろにジャンプして避ける。間髪いれず、創真は銃による速射を繰り出すが、オレは放たれた弾丸を手錠で弾く。弾いた弾丸は数秒後に小さい爆発を起こした。

 

「時限式の炸裂弾って言った所かな?」

「…………随分と多彩な武器を使うな」

「僕の趣味は発明なんでね」

「へぇ。にしては、さっきの炸裂弾は威力が思ってたより大したこと無かったな。お前の発明品ではあの程度の爆発しか起こせねぇのか?竹林の作る爆弾の方がお前のポンコツ品よりまだ優秀だぜ?」

「…………………………あ?」

 

 ここで初めて、創真の声に殺気が入った。

 

「ポンコツとは言ってくれるじゃないか………………そんなに不満なら、さっきの奴の最大威力バージョンの見せてやろうか」

 

 ──────────引っ掛かった。

 

 内心ニヤリとほくそ笑む間に、創真は懐から出した弾倉に交換する。

 

「ちなみに、その炸裂弾の威力はどんくらいだ?」

「ワンチャン死ぬレベルだ」

「おーすげ。なら、その威力見てみてぇもんだな」

「なら、その目でよーく見ておけ」

 

 創真は引き金を引き、銃口から弾丸が2発発射される。その瞬間にオレは走り出す。

 

(奴の弾丸は恐らくさっきと同じ時限式。爆発までの時間はおおよそ5秒だった。なら………………)

 

 心の中で秒数を数える。

 

 

 残り4秒。手錠を構える。

 

 

 残り3秒。急ブレーキを掛けて止まる。

 

 

 残り2秒。手錠に弾丸を上手く当て、創真の方に2つとも強く跳ね返す。

 

 

 残り1秒。自分の撃った弾丸が跳ね返ってきた創真の驚いた顔が視界に映った。

 

 

「…………0」

 

 その瞬間、創真を大きな爆発が包んだ。オレも爆発の衝撃で吹き飛ばされるが、受け身を取って止まる。創真がさっきまで立っていた場所は黒い煙で何も見えないが、死んだのは明確だ。この威力で暗殺者と言えども普通の人間が生きている筈がない。

 

「殺った…………敵は討ったぞ………………千影」

 

 独り言のようにオレは呟いた。そんなオレの耳に、遠くから消防車のサイレンの音がしてきた。どうやら、今の爆発を見ていた奴が通報したのだろう。恐らく5分以内には着くな。早めに退散した方が良さそうだ。ここはビルの屋上だが、フリーランニングの技術を使えば容易に下に降りれる。そう判断した────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

「……………………なるほどね。さっきの発言は、僕にこの弾丸を使わせるための罠だった訳か」

「なっ……………………」

 

 嘘だろ、と思わず口から出そうになった。大きな風が吹いたと思えば黒煙を吹き飛ばし、そこには傷1つ無く平然と立っている創真の姿があった。

 

「何で………………生きてやがる」

 

 創真はそれはね、と呟きながら地面に落ちている白い布きれを拾う。

 

「僕が先程まで羽織っていた白いロングコートを爆発する直前に剥いで盾代りにしたのさ。あの白いコートも僕の発明品でね。特殊な繊維によって、防御力が凄まじい。一般的な手榴弾位なら500回以上爆発を喰らっても傷1つ付かないよ。ただ僕の炸裂弾だと防げるのは1回が限界だったようだけどね………………さて」

 

 創真は初めて笑みをフッと消す。その瞬間、強大で冷たい殺気が辺りを支配する。

 

「君のアイデアは中々良かった。あの挑発も僕に殺せるレベルの炸裂弾丸を使わせることだったんだね。そして、それをまんまと使って僕を殺そうとした…………ポンコツ呼ばわりしたから少しキレかけて、君の罠に全く気付かなかったよ。全力で考え出した君の創意工夫には賞賛に値する……………………よって」

 

 創真は指をパチンと鳴らす。その瞬間、再び大きな風が吹いたと思えば、何処からか黒いロングコートが飛んできて、袖を通さずに創真に羽織った。それと同時に創真の白いズボンも黒く変色していく。そして最後に、飛んできた包帯が勝手に右目に巻かれた。

 

「その全力に応え、僕も本気モードで行こう」

「今度は全身黒か。いかにも暗殺者らしいね」

「黒の時代の再現………………と言っても君には分かるまい」

 

 そう宣言すると創真は先程とは比べ物にならない速さで距離を一瞬で詰めてきた。そのままストレートのパンチを放つ。単純なパンチだが、その速度が異常と思えるくらい速い。避ける暇もなく、腕でガードする。その衝撃で後ろに吹き飛び、倒れそうになるのを何とか踏ん張る。

 

「なんつー威力だよ…………」

「まだ序の口だよ」

 

 創真は羽織っているコートのポケットからナイフを何本か取り出して投げ付ける。横に走りながら、避けきれないのは手錠で弾く。弾きつつ、オレはポケットから丸い球体を取り出して投げる。創真は袖に仕込んであった銃でそれを撃つ。撃たれた瞬間、球から煙が放出される。煙幕弾だ。オレは殺気を完全にと言っていいほど消し、ナンバの歩き方で創真の後ろに回る。あいつの位置は大体分かってるので、難なく回り込めた。偶然落ちていたあいつのナイフを拾い、背後から音もなく襲いかかる。漸く創真は俺の接近に気付いたのか、素早く後ろを振り向く。だが、もう遅い。

 

「次こそ終わりだ」

 

 そう呟きつつ、オレはナイフを奴の心臓部に突き刺し─────────

 

「はい、残念」

「…………これは!?」

 

 ナイフが創真の身体に触れた瞬間、刃が引っ込んだ。

 

「もう分かったとは思うけど、これ本物じゃなくてドッキリ用に使ったりする、刃が引っ込むナイフのおもちゃ。フッフッフ…………僕の読み通りに動いてくれた、ね!」

 

 そのまま創真はアッパーカットを喰らわす。空中に浮かんだオレをさらに回し蹴りで吹き飛ばす。地面を何度かバウンドし、鉄柵にぶつかって止まった。

 

「諦めたまえ。僕には勝てないよ。いい加減僕と君の格差は思い知ったとは思うけど」

「へっ…………………生憎、オレは諦めが悪い性分でね」

「……良い根性をしている。だが………………そろそろケリをつけよう」

 

 すると黒いコートの袖口からどういう手品かは知らないが、丸くて小さい球体が沢山落ちてくる。そしてあっという間に足の踏み場も無い位の量の球体が床を埋め尽くした。

 

「鉄の球体………………?」

 

 拾ってみて、一瞬眺めた後に創真の方に視線を戻すと、いつの間にか創真はオレが今いるビルのさらに一個先のビルの屋上の鉄柵の上に立っていた。そして、スマホを取り出して何回かスマホをタップしたあと、オレを見てニヤリと笑った。その瞬間、オレは何かを察して走り出す。創真がスマホをもう一回タップするのと、オレが創真のいるビルへとジャンプするのはほぼ同時だった。ビルからビルへとジャンプしたオレを後ろから爆風が襲った。だが、それのお陰もあって転びつつも余裕でビルの屋上に着地できた。後ろを振り返ると、さっきまでいたビルが大きな音を立てて崩壊しているまっ最中だった。

 

「あのビルに人はいなかったから、誰も死んでないよ。もっとも、死人は1人だけ出る可能性もあったけどね。にしても、派手にやり過ぎた…………後でどうにかしておこっと」

 

 そう言うと創真は背を向けて再び、今度は別の低いビルへとジャンプし、そしてまたさらに別のビルへとジャンプして行く。この場に及んで逃げるつもりか?勿論─────

 

「逃がすわけねぇだろうが」

 

 オレはそこのビルに落ちていたロープを拾った後に、ビルからビルへと飛び移り、創真を追い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

====================

 

 

 ある意味特殊な鬼ごっこが始まってから数十分が経った。互いにスピードを落とすこと無く、息をあげることも無かった。一定の距離を保ったまま、創真は逃げ、風人は追っていた。

 

(チッ、全然距離が縮まらねぇ。このままじゃ何時まで経っても埒が空かねぇな…………奴の動きを止めるには…………)

 

 風人は手に持っているロープを見る。風人の考えている事はこうだ。このロープを手錠に結んでつけ、それを創真に向けて投擲して足や手に手錠を掛け、動きを止めると言うことだ。だが、そんな芸当を風人はやったことは無い。先程ロープが落ちてたのを見て偶々思い付いたのだ。それに加え、創真に同じ技は2度は通用しないだろうと、風人は短いながらも創真との戦闘で確信していた。即ち、やるからには失敗は許されない。やった事があろうと、無かろうと失敗は失敗となる。

 

 ───────────それでも

 

「一か八か殺ってやろうじゃねぇか」

 

 風人は走りながら呟く。ここで千影を殺した創真を逃がせば、もう2度と遭遇しないかもしれない。だからこそ、ここで全てにケリをつける。風人は覚悟を決め、懐から手錠を取り出し─────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………!?」

 

 

 ─────────取り出せなかった。いや、正確にはこうだ。()()()()手錠が無かったのだ。

 

「あと1つ残っていた筈………………」

「探し物はこれかい?」

 

 何と創真の手に手錠があった。

 

「いつの間に盗んだ、って顔をしてるね?いつ盗ったかって言うとね、僕が君にアッパーカットをしたついでにこっそりと盗んだのさ。気付かなかっただろ?」

「………………クソッ!!」

「そして、君はこんなことでもしようと思ってたんじゃないの………………かい!」

 

 創真は何故か持っていたロープを付けて手錠を投げる。手錠は回転しながら飛んでいくが、風人から大きく方向がずれていた。

 

「残念だったな。走りながら投げるから大きく外したな」

「………………いーや、大当たりだよ」

 

 ご存じの通り、手錠は金属。そして、金属は光を反射する。彼等が戦っている間にも空で延々と光続けていた存在──────────太陽からの光が丁度手錠の金属部に入射。そして反射した光が風人の目に入る。

 

「ッ!」

 

 眩しくて目を一瞬細めてしまう風人。それが命取りと為った。その瞬間を創真は見逃さず、ワイヤー銃を発射する。咄嗟に避けることが出来ず、ワイヤーが風人の身体に巻き付き、一切の動きを封じた。

 

「さぁ、チェックメイトだ」

 

 ワイヤー銃がワイヤーを巻き出す。風人はどうにか踏ん張ろうとするが、ワイヤー銃の巻く力は尋常じゃなかった。

 

「よっ!」

 

 さらにダメ押しとばかりに創真は力を入れて引っ張ると、ついに風人の身体は中に浮く。それで終わらず、ワイヤー銃に巻かれ、風人は創真の方に引っ張られていく。創真は腰を深く落として構える。

 

「……………………ハァッ!!」

 

 創真は中国の武術『発勁』を完璧な形で風人に決めた。

 

「…………僕の勝ちだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風人side

 

 敵わなかった。僕の敗北だ。不思議と痛みは感じなかった。ただ、自分の身体が地面へと落ちていってるのは分かった。

 ……………………あぁ、死ぬんだ、僕。

 

 

 短い人生だったなぁ。親孝行もそんなに出来なかったし、逆に迷惑ばかり掛けた…………涼香(すずか)雷蔵(らいぞう)にもだ。死ぬ前にお礼を言っておきたかったが、今となってはそれも叶わない。後はクラスの皆と色んな暗殺したり勉強したり、もっともっと色んな事をしてみたかったなぁ……………………。

 

 

 有鬼子は僕が死んだら泣いちゃいそう。有鬼子が泣いてるのも見てみたい気もするけどなぁ………………でも、僕が居なくても頑張ってください生きてほしい。それだけが僕の望みだ。あぁ、もうすぐ地面に叩きつけられるんだろうな。後は何かあるかな…………あぁ、1つあった。

 

 

「有希子、こんな僕と付き合ってくれてありがとう………………さよなら」

 

 

 僕は静かに目を瞑った。そして、意識も失う───────────直前に、懐かしい()()()の声がしたような気がしたが、気のせいだったのかな………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10分前。

 

「可愛い………………マジで可愛いわ~!!」

「ホリー君、ニヤニヤしすぎだよ?」

「だって、こーんな可愛い女の子を見たらニヤニヤしてまうわー!」

 

 千影は照れ臭そうに笑う。彼女は新品の可愛らしい服や装飾品身につけ、実に華やかな格好をしていた。

 

「いやーにしても良かったー。この世界のお金が諭吉さんとかで。違ってたらどうしようかと思ってたけど」

「世界事にお金は違うんですか?」

「基本はね。さーて、創真を呼ぶか」

 

 ホリーは創真に電話を掛ける。が、

 

『お留守番サービスに接続しました。ピーっと鳴りましたらご用件を………………』

「あれ?留守番?」

「どうかしたんですか?」

「いや、何か創真が電話に出なくてさ………………何してるんだろう?」

「どうしたんでしょ『早く行くんだ』……………………えっ?」

 

 突然、千影は辺りを見回すがホリー以外に誰もいない。ただ、創真があげたペンダントが緑色に光っていた。

 

「どうかしたの?」

「何か、早く行くんだって声がして………………あっ、また聞こえてきました………………えぇっ!?創真さんと風人君が戦ってる!?」

「なにぃ!?…………てか、風人君って誰だっけ?」

「…………私が探してる幼馴染です。何で風人君と創真さんが………………」

『ほら、君!場所は僕が誘導するから足を動かせ!』

「えっ、ええっと…………そもそもあなたは?」

『そんなのどうだっていいでしょ。強いて言うなら、世界最高の名探偵だ!早くしないと幼馴染が危険な目に遭うよ?僕の()()()によると彼、最悪死ぬよ』

「!!………………分かりました。場所の案内をお願いします!」

『素直でよろしい。先ずは、そこの信号を渡って………………』

 

 千影は謎の声の誘導に従って走り始める。

 

「あ、待ってよ!僕も行くから!」

 

 ホリーも慌てて後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………よし。ここだ』

 

 謎の声に案内されて着いた場所はとある河川敷だ。

 

『30秒後、斜めに飛び出すんだ。それじゃ、後はがんばってね~』

 

 そして、謎の声は聞こえなくなった。

 

「………………ここに風人君が?それに、30秒後に斜めに飛び出せって…………どう言うことでしょうか?」

「さぁ………………ちょっと河川敷に降りて見てみるよ。川に流されてたりして」

 

 そう言うとホリーは河川敷を駆け降りる。千影も一緒に行こうとしたその時───────丁度30秒経とうとしていた。

 すると千影の後ろから、風に運ばれてパァンと言う音が聞こえてきた。振り向くと、丁度人が弧を描いて吹き飛ばされている所だった。そして、その人物を千影は知っていた。

 

「風人君!?」

 

 何故吹き飛ばされて──────いや、今はそれどころではない。どうも意識を失っているのかピクリとも動かない。このままでは、地面に叩きつけられて最悪死んでしまう。

 

 ────────私が助けるんだ!!

 

 千影の思いに答えるかのように、ペンダントが赤く光り始めた。そして、それに呼応するかのように千影の身体も赤く光りだす。そして千影は言われた通り斜めに凄まじい速度で飛び出し、()()を無視したかのように滑空していく。

 

「風人君!!」

 

 滑空しながら千影は風人に向けて手を伸ばす。間一髪で千影の手が風人の手首をしっかり掴んだ。ホッとした瞬間、赤い発光が消えた。すると、下向きの重力によって千影の身体も落下を始める。風人君だけでも守らなきゃ、と千影は風人を抱き抱え、自分を下にして落ちていく。

 千影は思わず目を瞑って衝撃が来るのを待った────────しかし。何時まで経っても衝撃は来なかった。目を開けて見ると、自分たちを受け止めた黒い布の存在に気が付いた。

 

「ふぅ………………危機一髪だった」

「デュオ君!」

 

 デュオは地面に2人をゆっくり降ろすと、布はコートの中に戻っていった。

 

「やはり、後をつけていたようだね」

 

 遅れてやって来た創真がデュオを見て云う。

 

「ふん。どうせ気付いていただろうが。俺がつけていた事も折り込み済みで、そしてこんな感じで俺に助けさせようとしたんだろ」

「さーね…………とは言え、千影さんが居たのは想定外だったね。どうやってここに?」

「何か…………よく分からないんですけど、世界最高の名探偵って名乗る人物の声がして…………その声の言う通りに来たら、ここに辿り着いて………………」

 

 それを聞くと創真は首をかしげる。

 

「世界最高の名探偵………………もしや、文豪の世界の超推理が作用したのか?千影さんを導いたのは超推理の魔術に組み込まれた乱歩さんのデータ…………?」

「もー創真!そんな分析は後で良いでしょ!」

 

 自分の世界に入り掛けた創真をホリーが引き戻した。

 

「あの声は、創真さんと風人君が戦ってるって言うことも言ってました………………どうして戦う羽目になったんですか?」

「それはねー…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど…………そう言う事だったんですか…………」

 

 自分の膝を枕がわりにして寝かせている風人を見つめながら千影は呟いた。

 

「彼に誤解させてしまったのは俺の責任だ。すまなかった………………で、創真。お前、何であんなことした?」

 

 デュオが水きりをしている創真に尋ねた。ちなみに結構跳ねた。

 

「あんなことって、何で僕が千影さんを殺した犯人って言ったかって事?あーそりゃ単純にこの世界の暗殺教室のアサシンと本気でお手合わせしてみたかったからね」

「…………………………やれやれ」

 

(……暗殺教室の……アサシン?)

 

「それもあるが、あの状態では何を言っても鎮静化しなかっただろうしね。ここは一端無力化するのが最適解だと思ったのも事実だよ」

「ったく、お前って奴は………………」

「フフッ…………」

 

 創真はニヤリと笑う。

 

「うっ…………………………」

「お目覚めのようだね」

 

 風人はゆっくりと目を開けた。

 

「ここは………………あぁ、死んだのか…………」

「残念ながら君はしっかりと生きているよ、風人君」

 

 創真が顔を覗き込むと、風人はすぐさま立ち上がろうとするが、

 

「ウッ!!」

「やめておきな。君の身体は大分ダメージを受けている」

「………………千影を殺した奴に心配なんてされたくねぇ」

「じゃ、僕が殺したかどうかを本人に聞いてみ」

「………………は?」

「風人君」

 

 懐かしい声に風人はビクッと身体を震わせる。おそるおそる、といった様子で上を見る。そこには、自分を笑顔で覗き込んでいる幼馴染=千影がいた。

 

「えっ……………………千影?いや、何で………………だって、あの時…………夢?」

 

 すると、千影は風人の頬をつねる。

 

「痛っ………………夢じゃないの………………?」

「夢じゃないよ、風人君。千影だよ………………久しぶり。元気だった?」

「あ………………あぁ…………うん………………元気…………だったよ……千影………………千影ッ!!」

 

 身体の痛みも忘れ、千影に抱きつく風人。そして、子供のように大声で泣き始めた。千影も涙がポロポロと流れて止まらなかった。そんな絶対にあり得ない筈だった奇跡の感動の再会を、創真らは離れた所から微笑ましく見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、千影は諸々の事情を説明した。死んだ後、創真らと会い、風人にもう一度会いたい、と言う自分の願いを叶えてくれたこと。当の創真らは別の世界から来た人間だったり人外だったりで、自分の死には何の関係もないこと等を。

 最初の内は半信半疑だった風人だが、『千影がそう言うんだったら信じる』と言うことで何とか信じてくれ、そして創真とも和解に至った。風人はホリーによって怪我が一瞬で治された。

 

「いやーにしても強かったね、創真は~」

「年上にはさん付けしろよ…………」

「え~良いじゃん別に~。ほら、本気で殺りあった仲なんだしさ~」

 

(……こいつ、素はめんどくさそう…………これに毎日のように付き合ってる神崎さんはご苦労様だ…………)

 

「そう言えばさー、創真は別の世界の暗殺教室出身者なんでしょ~?」

「まぁね」

「そっちの世界にも有鬼子はいる~?」

「まぁ………………いるけど。普通にいい人だよ」

「良いなー。こっちの有鬼子はもう鬼だよ~。よく追い掛けられて大変な思いをしてるよ~。いやーほんとそっちの世界の有鬼子と交換して欲しいよ~」

「そんなに?」

「してほしい~。そっちの方が安全に過ごせそう~」

「ふーん。だってさ、神崎さん」

「え」

 

 風人が後ろを振り向くと、そこにはいつの間にか有鬼子がいた。

 

「いっ、いつからそこに…………と言うか、何でここに…………」

「キバット君が連れてきてくれたの。そしたら、面白い話が聞けて良かったよー」

 

 神崎のバックにぶら下がってるキバットに向けて風人は怒り出す。

 

「このクソ蝙蝠!蝙蝠の分際で余計な事をしやがって!」

「知るかよ、バーカ バーカ!気付かないお前が悪いんだよ!自業自得だ、この間抜け!」

「んだと!?テメェ、天ぷらにしてやろうか!!」

「やれるもんならやってみろや、三流!」

 

 風人はキバットを捕まえようと手を伸ばすが、キバットはその手に噛みつく。

 

「いたッ!」

「手加減してやるだけ感謝しな!本気なら、今頃お前の手は粉々だぜ!じゃーな!」

 

 そう言うとキバットは何処かに飛んでいった。

 

「あっ、待てやこのこうも」

 

 追おうとする風人の肩を誰かが掴んだ。

 

「何処に行くの風人君?まだ話は終わってないよ?」

「あ、いや…………ちょ、ちょっと用事が…………あと手の力が強いんですけど………………一応怪我人だったし………………それと、喋る蝙蝠見て何とも思わなかったの………………?」

「別に喋るタコもいるんだからそんなに驚かなかったよ」

「そ、そっか~。じ、じゃあこの手もついでに離してくれる?」

「…………………………」

 

 無言の圧力。

 

「ここの世界の神崎さん…………こわスギィ!」

「性格改変されてるな、大分…………あと、語尾に余計なのをくっつけるな」

 

 ホリーとデュオが呟く。そんな彼等の目の前で色んな事があったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風人君、治してもらって5分もしない内に新しい怪我が出来たね」

「うぅ……死ぬほど効いたよ……………………」

 

 拳骨を落とされた部分を押さえる風人。

 

「いやー…………にしても疲れた…………僕も最初から本気モードで行けば良かった。あんな長時間戦ったら疲れるわ」

「うわ~本気だったら直ぐ終わってる発言来た~」

「だって、本当だし」

「えー?本当に?」

「論より証拠って事で、僕の本気見せてあげようか?」

「じゃあ、見せてよ~。あ、そうだ。それでもし驚かせれたら何か奢ってあげるよ~」

 

 風人の言葉に創真はニヤリと笑う。

 

「言ったね?その言葉、忘れるなよ」

「良いよ~。まぁ、創真が凄いのはもう色々と分かったし、よっぽどのじゃなきゃ驚かないよ~?」

「なら、よー見とけよ…………千影さん、少し返して貰うよ」

 

 創真が指を鳴らすと、文豪の世界のカードがペンダントから飛び出して創真の手に収まる。収まったカードは赤く光り、『汚れっちまった悲しみに』、と文字が出る。創真は辺りに人がいないのを確認し、声をかける。

 

「じゃ、行きまーす」

「どうぞ~」

「せーの」

 

 創真はその場で地面に踵落としをした瞬間、河川敷にクレーターが出来た。深さ50メートル程の。

 

「「「……………………」」」

 

 風人、千影、神崎は言葉を発する事が出来なかった。創真はクレーターからすっと出てくる。なお、巨大なクレーターはホリーによって一瞬で元の状態になった。

 

「風人君さー。僕が本気出してたら直ぐ終わってたって言ってたのあんま信じてなかったぽかったけど、もう一回戦ってみる?」

「い、いやぁ…………遠慮しとくよ~」

 

(これ絶対、瞬殺されて終わるパターンじゃん!)

 

「そう?まぁ、驚いてたのは一目了然だったし、後で何か奢ってねー」

「は、はーい…………」

 

 やっぱりさっきのなし!とか言ったらヤバそうだったので風人は素直に従う。

 創真はふと、時計を見る。

 

「あー千影さん。残り時間は後20時間位だけど、何かしたいことあるー?」

「え、えっと……………………か、風人君と…………で、デートをしたい!!…………かな」

「で、デート!?あー…………千影。でも、有鬼子がそれを許してくれ」

「別に構わないよ。だって、千影さんはもう時間が来たら2度と会えないんでしょ?だったら、好きな事は全部やった方が良いと思うよ」

 

 神崎の許可が降りた。

 

「おぉ!鬼にも優しい心があったのか!」

「今何て言った風人君?」

「あ…………えっと……………………先に失礼しまーすε=ε=┏(・_・)┛」

 

 風人は逃走を開始。神崎は追跡を開始。それを見て創真らはため息をつく。

 

「風人君、あの頃から全然変わってない………………あぁ、もう…………」

 

 千影は頭を抱える。

 

「生れた頃から隼と同じくらい馬鹿だったんだろうね………………やれやれ。だが、面白い奴だねぇ」

 

 創真は少し面白そうに云った。一方ホリーらは、

 

「そういやホリー。お前、千影ちゃんを可愛くコーデしたなー」

「でしょー!このホリーに不可能はない!ねっ、デュオ?って、新聞読んでるの?」

「『世界的に有名なテロ組織が日本に潜伏の噂!?空港等では警戒体制』、か…………どの世界も物騒な事だらけだ」

「まーそんなの僕らが心配してもしょうがないでしょ………………所でデュオ。見なよ、千影さんを。可愛くて、デュオも思わず襲い掛かりたくなっただろ?」

「ならんわ!ったく………………おい創真。早めに神崎さんを止めておいた方が良いんじゃないか?」

「そーね。無いとは思うけど、風人君殺されそうだし(笑)」

 

 そう言って創真は歩きだす。一行もそれに続く。歩きながら創真は空を見あげる。すると、黒いヘリコプターが何台も上空を通過していくのが見えた。

 

「……………………」

 

 

to be continue…………




これにて前編終了です。
後編は音速のノッブ様の『結城 創真の暗殺教室』ですのでお楽しみください。では、

THE NEXT story 8/24 18:00


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風人の時間 IFルート 前編

前回告知したように完全に本編とは関係ない並行世界でのお話です。
読まなくても本編には一切支障がありません。
下手しなくても過去編以上に重いと思います。
お読みになるときは『風人の時間 過去 中』を読んだ前提で、『三者面談の時間』までのネタバレを覚悟でお願いします。
では心の準備が出来た方からどうぞ。


 パラレルワールドを知っているだろうか。

 この世界とは違う世界。並行世界とも呼ばれるものである。

 もしもあの時の結果が違ったら?もしもあの時、別のことが起きていたら?その物語は変わっていたかもしれない。

 本編、和光風人の人生において大きな転換点となったあの出来事。

 その出来事がもし違う形を迎えていたら彼は、彼の周りの運命はどうなっていただろうか?

 これはもう一つの物語。 

 あの日別のルートを辿った彼らの物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日一日風人君に避けられていた。

 

「はぁ……」

 

 ため息をつきながら一人帰る。謝まりたいのに風人君の方から避けてくる。やっぱり、単純じゃないよね……でも、早く謝りたいなぁ。

 

「風人君の家に行こうかな」

 

 そこで彼を待って誠心誠意謝ろう。…………たとえ許されなかったとしても。

 私は横断歩道のところで立ち止まる。今は赤信号だ。

 私の気持ちはこの雲のように淀んでいる。あー私ってバカだなぁ。大バカだ。何が天才だ。いくら色んなことが出来ても人一人にすら謝れない大バカだ。

 

「千影~!」

 

 降りしきる雨の中。風人君の声が聞こえた気がした。私は気のせいかもしれないと思いながらも振り向く。

 すると、振り向いた先には走ってくる風人君の姿が。

 

「風人く――」

 

 

 風人君の名を呼ぼうとした瞬間だった。

 

 

 私の身体は押し出され道路へと出る。

 

 

 思わず倒れてしまい、左右を見る。

 

 

 迫り来るトラックが1台。

 

 

 衝突は免れない。

 

 

 私は恐怖で目を閉じる。

 

 

 

 次の瞬間。

 

 

 

 

 わずかな浮遊感と共に私の身体は地面へと打ち付けられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……」

 

 気が付くとアスファルトの上で横たわっていた……。

 降りしきる雨の中、私は雨に打たれ、雨水の中にいた。

 

「……っ!」

 

 全身がずぶ濡れでそれでいて身体が痛い……ってあれ?

 

「私……撥ねられたんじゃ……?」

 

 轢かれたことがあるわけではないが……それにしては衝撃が小さすぎる。あれ?でも確かに撥ねられたはずじゃ……。

 

「おい!大丈夫か!しっかりしろ!」

 

 すると近くで切迫した声が聞こえる。土砂降りの雨の中、雨や遠くで鳴る雷の音に負けないくらいの声でその人は叫んでいた。

 

「救急車は呼んだ!頑張って耐えろ!」

 

 私は少し痛む身体に鞭を打ち、ふらつきながらその声の元へと向かった。向かわなくてはならない気がしたからだ。

 

「お、おい!アンタ、そんなずぶ濡れでどうし――」

 

 ピカッと空が光った。眩しさの余り目を閉じてしまう。

 そして目を開けた次の瞬間、

 

「…………え?」

 

 私の目に飛び込んできたのはの倒れ込んでいる一人の少年……。

 

「嘘でしょ……?」

 

 ドーン!

 

 遠くで落雷の音がする。

 私はあまりの光景に立っていられない。思わず膝を突きそのまま彼の前に倒れ込む。辛うじて右手を付くことが出来た……が。

 

「これは……!」

 

 道路に付いた右の掌を見てみる。そこには黒い色が……。

 これは何だ?この黒い色のものはなんだ?その少年を中心に拡がるこれは……まさか、血?じゃあこの血は少年……風人君のもの?

 

「まさかさっきの……大丈夫かアンタ」

 

 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!

 風人君が血を流して倒れている?

 そんなことあるわけがない!あっていいはずがない!

 

「……ね、ねぇ風人君……悪い夢かな……これって……」

 

 私は震えが止まらない手を彼に向けて伸ばす。

 

「あは、あはは……お願いだから……夢なら醒めてよ……縁起でもないよ……」

 

 その手が彼に触れる。だが今までで感じたことのない冷たさだった。

 

「ほ、ほら……身体が冷えて……温かくしないとダメじゃない」

 

 頭が回らない。身体が動かない。そして、そのまま……

 

「お、おい!しっかりしろ!」

 

 そのまま暗闇が私に訪れた。

 それは土砂降りの雨、雷の音が鳴り響く、ある日の夕方の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ……!」

 

 目を開けるとそこは天井……

 

「千影……!よかった!」

 

 身体を起こすと目の前にはお母さんが……

 

「ここは……?」

「病院よ」

 

 病院?ああ、よく見ると左手に点滴が……点滴?なんで?え?この格好……私……入院中?

 

「あなたは二日間目を覚まさなかったのよ」

 

 二日間も寝ていた?…………え?

 

「何で?」

「……っ!」

 

 何で?と率直に思ったことを聞くとお母さんは顔をしかめた。

 

「そう言えば風人君は……?」

 

 自分で口に出してからハッとする。あれ?何で今、風人君の名前が……?

 

「…………っ!!お母さん!風人君は!?風人君は何処!?」

 

 脳裏によぎるのは地面に血を流して倒れていた風人君の姿。

 私は逸る気持ちを抑えられずにお母さんに問いただす。

 

 コンコンコン

 

「……失礼するよ。目を覚ましたそうだね」

 

 現れたのは白衣を着た人。

 

「風人君は何処!?」

 

 私はそのまま質問をする。この人が何者かとかどうでもいい。今は風人君に会いたい。いや、会わなくちゃいけないと。さっきからずっと、私の中で警鐘が鳴り響いている。

 

「……残念だが君が会うことは叶わない」

 

 顔を伏せながら答えてくる。

 

「どうして!?」

 

 身を乗り出して問い掛ける。あやうくベットから落ちかけそうになるがお母さんや白衣の人に続いてやってきた女の人たちによって押さえられる。

 

「彼とは会うことができない……」

「なんでなの!?」

「落ち着いて千影ちゃん」

 

 すると、風人君のお母さんが扉を開けて入ってきた。

 

「おばさん……!風人君は?風人君は……?」

「あの子はね……目を覚ましてないの」

「…………え?」

 

 思考が停止する。頭が回らない。上手く口が動かない。いいや口だけじゃない。身体も動いていない。動かない。動けない。

 

「話によるとね……あの子は千影ちゃんを庇ってトラックに轢かれたらしいの。意識不明の重体。今も死の淵を彷徨っている状態らしいの」

 

 そんな私に対して続けられた言葉……トラックに轢かれた?意識不明の重体?死の淵を彷徨ってる?何を言っているの?

 

「嘘……でしょ?おばさん……!ねぇ……嘘…………」

 

 ドクン

 

 思い出されるのは彼に触れたときの温度……今まで感じたことのない冷たさ……。

 

 ドクンドクン

 

 私は右手を開いてみる……ああ、そうだ。あの時確かに……ここに彼の血が……!

 

 ドクンドクンドクン

 

 私を庇って?私のせいで?私なんかを助けるために?私が居たから風人君は……

 

「ああっ……!」

「千影……?」

「ああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!」

 

 そこからの記憶はない。

 後に聞くとこの時私は発狂しながら暴れ回っていたそうだ。

 辛うじて周りにいた看護師たちによって取り押さえられ、そのまま気絶したそうで大事には至らなかったらしいが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その報せを聞いたのは私が目覚めて三日後。

 風人君が山場を脱して状態が安定してきたそうだ。後は目覚めればよかった。

 その頃には私も起きている間に暴れ回ることはほとんどなくなったそうだ。しかし、私自身も多少の怪我を負っていたことや精神的に色々と問題を抱えていたこと。また、食欲不振が続き食事が満足にとれないため、点滴生活を余儀なくされること。

 このような要因の結果、入院生活続行。このままでは生活に戻すことは不可能で私も危険だと判断されたそうだ。

 状態が安定して二日が経つ頃には面会も解禁された。解禁されてから私は、時間の許す限りずっと彼の横に居続けた。あの日から久しく会う彼は全身に包帯やらギプスやらが付けられていた。生きているだけで奇跡……と医者の人は言ったらしい。

 休日なんかは涼香ちゃんも私たちのお見舞いに来てくれたりして、私が目を覚まして本当によかったと抱きしめながら泣いていたのをよく覚えている。

 そしてかれこれ事故から二週間が経ったある朝。

 

「うっ……」

 

 長く閉じられていたその目はついに開かれた。

 

「風人君!」

「…………」

 

 久し振りに彼と目が合う。よかったぁ……これでもう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、現実は非情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと……」

「何かな?風人君」

「…………君は……誰?」



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風人の時間 IFルート 後編

 …………………………え?今、なんて言った?

 聞き間違いじゃなければ私に向かって誰?って聞いた?

 

「あ、あはは……もう風人君ってば。起きて最初に冗談を挟むなんて……」

「すみません。先程から言っている風人君と言うのは僕のことですか?」

「あはは……ね、ねぇ……お願いだから……冗談って言ってよ……」

「わっ!?ご、ごめんなさい!何か泣かせるようなことを言ってしまいました?」

 

 おかしいな……なんだか視界がぼやけて上手く風人君のことが見えないや。

 膝から力が抜けて地面に座り込んでしまう。

 すると手の甲に冷たい液体が落ちてきた……あれ?もしかして私泣いてるのかな?

 

「千影ちゃん居る?そろそろ点滴の時間らしいけど……え?」

 

 入ってきたのは声からして風人君のお母さん。よく見えないけどこの状況に少なからず驚いているみたいだ。

 

「あの、すみません。何だか状況がつかめないのですが……」

 

 ダメだ。これ以上聞きたくない。もう何も聞きたくない。

 あの風人君がこんな真面目な口調で、ふざけた様子も嘘偽りもない様子で……

 

「…………僕は誰ですか?」

 

 ……そんな最悪の現実を突きつけないで…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「和光風人。それが僕の名前ですか」

 

 あれから落ち着くことが出来たのはその日の夜だった。風人君のお母さんに私のお母さんを呼んでもらって、なんとか落ち着くことが出来た。

 落ち着いている間に目を覚ました風人君にお医者さんたちが検査などを行ったらしい。

 細かいことは分からないが今の所、脳などに大きな異常は見受けられない。だから、脳の異常というより頭部への直接的なダメージの影響で記憶を失っているとの見解だった。

 

「で、そちらの方が和泉千影さん。僕の幼馴染みですか」

 

 先程、必要最低限なことだけ教え、そのことを反芻する風人君。

 一パーセントくらい冗談を続けていると信じたかったが既にその可能性がゼロだというのは証明されてしまった。

 言い方は悪いけど風人君は正真正銘の記憶喪失なのだ。

 

「僕は交通事故に遭いこのような姿に変わり果てたと……なるほど」

 

 変わり果てた……と表現するのも無理はない。両腕、両足にはギプスが付いており満足に身体を動かせない。その上、首にもギプスが付いているおかげで顔も動かせない。頭はもちろん、入院着の下も包帯でぐるぐる巻き。今の彼は何も自分で出来ない存在になってしまった。

 それでも彼が落ち着いて見えるのは要因は二つだと思う。一つは彼が天才であること。記憶は失っても才能だったり習慣が失われていないようで、あのマイペースな性格が消し去られ頭を使って現状を冷静に分析している。もう一つは彼以上に私が取り乱した姿を見せたためだろう。自分より慌てている人間を見ると落ち着くことが出来る感覚だ。

 

「ごめんなさい。事故のことも勿論ですが自分や和泉千影さんのことを含め、何も思い出せないですね」

 

 その言葉に……いや、これまで彼が話してきた言葉の全てに嘘はない。

 

「気にしなくていいのよ。きっと思い出せるわ」

「ありがとうございますね」

「そろそろ面会時間も終わる。何かあったら声を出してくれ。そうすれば対応する」

「はい。ありがとうございます」

 

 そして部屋から出て行く私たち。

 

「大丈夫?千影」

「…………うん」

「無理しなくていいのよ。今日はゆっくり休みなさい」

「…………うん」

 

 そのまま私は自分の病室に戻り、ベッドで横になる。

 

「…………私のせいだ」

 

 風人君は私なんかを助けるために全てを失った。

 

「…………私のせいだ……!」

 

 手を強く握り締める。

 砕けるくらい強く歯を噛み締める。

 私のせいだ。全部私のせいだ。私が喧嘩なんかするから。私がワガママなんて言うから。私が悪い。全て私が悪い。なんでなんでなんで?神様は私を苦しめて。それ以上に私を苦しめて。ねぇなんで?なんで?

 結局睡魔が訪れたのは横になってから数時間後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ私は知らなかった。

 その事実は更なる絶望へと私を突き落とすことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風人君が目覚めて何日かした。あれからも毎日面会に行った。

 私は風人君が目覚めてから今まで以上に一人で居るのが怖くなった。だから風人君の隣に居続けた。時には面会時間を過ぎてもいようとして……その時の記憶はない。

 いつしか私たちは同じ病室で入院することになった。

 担当医曰く、私を治すためには風人君と同じ病室にする必要があるとのこと。何を言っているのかさっぱり分からなかったが、一緒にいられるならそれでいいと思った。気付けば週二日程だったメンタルケアとかそういうのも週五日に増えていたけどどうでもよかった。

 そして悲劇は起こった。

 

「すみません……僕は……誰ですか?」

 

 風人君が目覚めてから一ヶ月と少しが経った頃だろうか。目が覚めた風人君は私に向かってそう聞いてきた。

 

「あと君は……誰?」

 

 もう二度と聞きたくなかったその言葉を。

 風人君は再び記憶喪失になったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから月日は経ち、事故から一年が経過した頃だろうか。

 

「ごめんね。いつも押してもらって」

「ううん。気にしないで風人君」

 

 車椅子に乗る風人君を押して中庭の散歩をするのが最近の日課だ。 

 いつしかの全身包帯ぐるぐる巻きから大分回復した風人君。もう少しすれば()()は完全に治り、運動とかしても大丈夫だそうだ。所々傷跡は消えないそうだが()()には目立った後遺症はないそう。少しずつリハビリもして、彼もまた元の生活に戻るために頑張っている。ただ最初の何週間かの完全に寝たきり生活とか諸々のせいで事故前よりも筋力や体力などはどうしても落ちている。まだまだ普通の生活を送るにはどうしても時間が必要だ。

 そして風人君はただの記憶喪失ではなかった。彼は周期的に記憶がリセットされてしまう。事故が起きる前の記憶をすべて失い、目覚めてからも大体一ヶ月ごとに記憶がすべてなくなる。いつ記憶が戻るのか。このリセットがなくなるのか。誰にも分からないし、永遠に戻らない、なくならない可能性もあるそうだ。

 私は私で入院生活を続けている。と言っても実はかなり前に退院許可が降りて退院したのだが……その日の夜、私は恐怖などで発狂し、暴れ回ってしまう。何とかお父さんが力尽くで押さえてくれていたけど、あの時の私は理性の残ってない半狂乱の獣みたいだったそうだ。まぁ、獣って言うのは自分でつけたものだし、私にはその程度がふさわしい。それから頃合いを見て何度か退院したが……結果は察しの通りだ。

 私が治る目処が立たない理由はいろいろあるらしいが、一つは元々凄いストレスがかかる状態でいたこと。全色盲によって私の心には負荷がかかっており、そこに風人君が目の前で自分のせいで死にかけるとか諸々あったがために、今の私の精神状態は常に導火線に火の付いた爆弾。些細なきっかけですぐに爆発する状態になっている。

 だから通常の学校復帰とかは現状からすると絶望的。今では風人君と院内学級みたいな感じのところのお世話になっている。まぁ、そんなことどうでもいいんだけど。

 

「また忘れてしまうんだね……僕は」

 

 事故が起きてから多くのことが変わった。

 風人君は日記を付けている。毎日毎日……いつリセットされてもいいように付けている。日記の最初のページには彼自身のプロフィールなり、私や涼香ちゃんのこと、後は家族のことが書かれている。記憶を失った彼が最初に見て必要なものを頭に入れるためだ。もちろん彼自身が記憶喪失になってしまうことも知っている。…………どんな気持ちなのか私には推し量ることができない。今見ている全てを、感じている全てを忘れると知っている。彼は何度も死んでいるのだ。何度も死んで何度も最初からスタートしている。今目の前にいる彼はもうすぐ消え、また新しい彼が生まれる。……残酷な話だ。

 私の方を話すなら日記をつけてはいるが……毎日はつけなくなってしまった。几帳面とは程遠い存在となった気がする。後は雨や雷が苦手になったかな。雨が強く降る程ネガティブになっていくし、雷が落ちるとあの事故がフラッシュバックされてしまう。フラッシュバックが起きると私は一言で言えばダメになる。事故を受けた本人は雨が降っても雷が鳴っても記憶が戻るようなことはなく、ダメになった私のそばにいてくれる。記憶のリセットがいつ起きたとかでその時々の対応が変わるが……総じて彼が離れたことは一度もない。きっと私もあの日に一度死んだのだろう。そう思わずには居られなかった。

 

「大丈夫だよ。私が付いてるから」

「ありがとね」

 

 嘘だ。

 彼は記憶を失ったタイミングで日記を取り上げ、私がいなくなれば彼の中に私という存在は消えてなくなる。皮肉めいた言い方をすれば私という存在は今の彼に取ってはその程度なのだ。居なくても気付かれない。存在が消えたとしても何にも思われることがない。

 多くの人は私のことを、記憶喪失となった彼を支える少女みたいな感じで思ってるだろうか。

 だが事実は違う。彼が居なければ私は存在できない。そこまで堕ちたのだ……私という人間は。

 

 

 

 

 

 私は救われない。彼はもう生きていない。

 

 和泉千影はもう居ない。今の私は少女ですらない何かだろう。

 

 和光風人は消え去った。今の彼は昔の彼ではない別人だろう。

 

 

 全てを失った二人の物語。

 

 

 和泉千影は心を失った。 

 

 

 和光風人は記憶を失った。

 

 

 

 絶望しかない現実。

 

 

 

 今の私は……何者なんだ?いや、もう何者とかどうでもいい。心なんていらない。

 

 

 

 

 誰か…………

 

 

 

 

 

「…………助けて」

 

 

 

 

 

 その心の叫びは届かない。

 

 

 

 

 

「いつか救われるよ」

 

 

 

 

 

 

 ああ、応えてくれた彼もまた消えてしまう……やっぱり…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 救いなんてこの世界にはないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これはIFルート。
あったかもしれない物語。
絶望の中、最後に幸福に至るために藻掻く物語。



というわけでIFルートでの暗殺教室の過去編。
本編では風人が一人で苦しんで壊れてしまった。
IFでは二人は生きているものの二人ともが壊れてしまっている。
本編以上に絶望的な始まり、本編以上に救われる可能性がある物語。



一応の補足。
風人に声をかけていた男の人はトラックのドライバーです。
本編では千影を轢いた人はそのまま逃げましたが、IFルートではそのまま風人と千影の元に残っています。
またこの人は本編の人よりも速度をそこまで出さず、千影の飛び出しにいち早く気付きブレーキを踏んで減速を試みたため、結果風人は追いつくことが出来てそのまま轢かれてギリギリ死ぬことはなかった。
些細なことで運命は変わる。
本編のルートとこのIFルートの分岐はこのトラックのドライバーの誰かと言うことです。



うーん。この続きが気になりますかね?
この時点で本編とは全く違う暗殺教室になりそうですが……まぁ、やるとして本編完結後ですね。
アンケートを設置しておきますので興味があれば答えてください。期間は……まぁ本編完結まで放置でいいかな?お気楽にどうぞ(なお、やるとなっても本編の更新速度は遅くならないので悪しからず。後想像に難くないと思いますがこのルートは有鬼子様はヒロインではないので)


もちろん次回からは通常の投稿に戻ります。


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短編の時間

これは駄作者が適当な漫画を読んで面白かったのでネタにしたものです(なお駄作者は文才皆無のためこれが面白いかは人による)。
最低3本(増えるかは知らん)で、本当なら三本まとめて1話で投稿するつもりが普通に長くなった(というか一つで5,000文字近くとか……)ので分けました。
すなわちノリでやっていて本編と一切関係ないです。
あとがきにやるつもりがぁ……どうしてこうなった……。ちなみにあとがきにやる予定だったのいつも以上に色んな意味で暴走しています。ちなみにこれを書いたときの駄作者の頭は普段以上にイカレていた。
下は3話分の設定です。

~3話共通設定~
キャラ崩壊アリ(要するにいつも通り)
大学生(尚付き合いは継続中、ただし別の大学)
二人とも一人暮らし(どの二人かは言わなくても分かるよね?)
住んでるところはお互いに近い(なお主人公の住んでるとこが少し豪華だけど気にしないで)
本編の続編かは明記しない(まぁネタなので。分岐ルートだと思ってください)
一応この三本だけは繋がっている(時系列順にしてます)
普段よりR-15に近い?(むしろ少し超えた?)
生温かい目で見てください(ネタなので)



第一弾ショタ化。苦手な方はブラウザバックを。


《幼児化~風人の場合~》

 

 朝目が覚めると、身体が縮んでいた。

 

「ふむ……」

 

 鏡を見る僕。なるほど。不破さんが飛んできそうな展開だ。見た目は子供頭脳は大人。

 大体5歳とか6歳くらいかな?幼児退行というか身体が縮んでいたみたいで傷とかはそのまま残っている……まぁいいや。身体が過去に戻った!とかの方が大騒ぎだろうし。いや、これでも充分大騒ぎか。

 

「有鬼子に連絡連絡と~」

 

 というわけでメッセージアプリで彼女に連絡する。よかった。今日は休日でお互いフリーだから。……もし、用事が入っていたら面倒だっただろう。

 

『緊急事態発生( ̄^ ̄)ゞ

 至急家に来てください(。>人<。)』

 

 よし。送ったしきっと……

 

『すぐ行くね』

 

 ほら秒で帰ってきた。僕も有鬼子も律のおかげでこういうやりとりが早い。

 で十分後。

 

「風人君。緊急事態って――」

 

 平然と合鍵を使って家に入ってきた彼女。そのまま僕のいる部屋に来る。中学生の時より大人びいた彼女は、

 

「あ、有鬼子~」

「その喋り方は風人君!?可愛いっ!凄く可愛いっ!」

 

 僕の姿を見るなり抱きしめてくる。喋り方で一瞬でバレるなんて……もっと悪役っぽくやれば良かったかな。

 というか苦しい。抱きしめる力はいつも通りだろうけど僕の防御力が下がったせいで苦しい。

 

「ゆ、有鬼子……」

 

 ポンポンと叩いて放すようにしてもらう。

 

「あ、ごめん……つい可愛くて」

 

 僕を放して自身も離れる有鬼子。

 

「よし。ていく2だよ」

「うん。分かった」

 

 そう言うと一旦部屋を出る有鬼子………………うぇ?いつもよりノリがいいぞ?何でだ?いつもなら冷めた目で見るか渋々って感じなのに……ま、まぁいいか。

 

「風人君。緊急事態って――」

「ふはははは!和光風人は僕が消し去――」

「――やっぱり可愛いっ!」

「――ぐへっ」

 

 な、なるほど……テイク2でもこうなるのかぁ……頼むからぁ……息ができないからぁ……。

 で、そんなこんなで十数分後。ようやく有鬼子が満足したのか離れてくれた。

 

「こほん。とりあえずだね……」

 

 僕は自分の椅子に座る。何だろう。目の前にいる有鬼子が目を輝かせているように思えるのだけど?

 

「僕この服だと割ときついんだけど」

 

 今の僕はジャージのズボンを何重にも折り曲げ、ジャージの袖も凄い折っている状態。明らかにサイズが何回りも違うのだ。

 

「でも何でそんな幼稚園児っぽくなっちゃったの?」

「知ってたら苦労してないよ……」

 

 あと、その疑問は僕に抱きつく云々が始まる前に思うべきだと思うんだ。ね?ね?

 

「うーん。でもいつ戻るか分からないのはきついよね。外にも行けないだろうし」

「うんうん」

「でもその格好でも充分可愛いよ?ダメ?」

「ダメだよ!?」

「えー外に行くつもりないじゃん……はっ……ショタゼト君とデート……?」

「待って待って。今デートの場所どこ想像した?」

「そんなのキッズコーナーとか?」

「中身は大学生だよ!」

「えーっ?ほんとに?実は中身も退化したんじゃないの?」

「してないよ!?」

「じゃあ、ひとまず服買って来るね」

「あ、金は僕が出すから……これで足りるよね」

「充分だよ。じゃ、ちょっと待ってて」

 

 そういうと小走りで出て行く。……あれ?

 

「律。頼んどいてあれだけど有鬼子って僕の今のサイズの服を買うよね?サイズ分かるのかなぁ?」

『ちょっと待っててください…………はい。さっき抱きしめたときに測ったから分かるそうです』

 

 ……時々僕の想像を超えてくるからなぁ。不安だ。

 そして1時間ぐらいしたころだろうか。

 

「ただいま。はい、風人君。お着替えしましょうね~」

「自分でできるっての!」

「はーい。じゃあお手々上げてね~」

「だーかーらー!」

 

 服を着せられ鏡で見る。サイズはぴったりで逆に引いたがそこはいい。子供服だから可愛いと言ったらあれだけど子供っぽいのもいい。問題は下だ。

 

「何でスカート!?」

「きゃっ!可愛いっ!凄く可愛いっ!」

 

 そして連写する有鬼子。

 

「待て待て待て!僕男だよ!?何でスカート!?ねぇ何で!?」

「もうこうしてると女の子にしか見えないよ!」

「違うよね!?話聞いてる!?」

「きゃーこっちに笑顔向けて!」

 

 もしかして……親バカになる素質大ありか?まさかショタコンか……嘘だろおい?

 で、そんな感じのテンション。普段の彼女からはあり得ないわけで……

 

「はぁ……はぁ……」

「バカでしょ……」

 

 僕のベッドの所でダウンする有鬼子。はっきり言おう。バカだと。

 

 ピンポーン

 

 するとインターフォンが鳴る。ん?誰か来る予定だったっけ……?

 

「風人ー居る?」

 

 この声は……あ、涼香だ。やっべ。何か大学の課題手伝ってほしいとか何とか……

 

「はぁーい」

 

 すると息を切らしていたはずの有鬼子が玄関を開けに行く。いや、待って!?今この状態を見られるのは非常にマズ――

 

「あ、有希子ちゃん!どうもです!風人は居る?」

「うん。居る――」

 

 いやいやいや!居るって応えたらダメだよ!?分かってるこの状況!?

 陰から僕は必死に首を横に振る。

 

「――と言いたいけどごめん。旅に出るって」

 

 え?何その苦しい言い訳。

 

「そっかぁ。まぁ風人だもんね」

 

 え?なんでそれで通じるの?

 

「――んん?そこにいる子は……?」

 

 え?ばれた?

 

「きゃーっ!何この子凄く可愛いっ!」

 

 靴を脱ぎ捨て僕に抱きついてくる涼香。お前も同じ反応かよ!というか、ま、待って……!胸で……胸で窒息する……!

 

「涼香ちゃん。窒息しちゃうよ」

「……はっ!完全に我を忘れていた……!」

 

 し、死ぬかと思った……今日は命日か?僕の命日か?

 

「???よく見るとこの子、小さい頃の風人に似てるね」

 

 でしょうね!?本人だもん!

 

「そ、そうかな?私の親戚の女の子だよ」

 

 違うよね!?男だよね!?

 

「むむ?でも私のセンサーではこの子は風人っぽいと反応が」

 

 何なんだよお前のセンサー!えぇい!こうなりゃヤケだ!

 

「おねーさん。かぜとってだぁれ?」

 

((か、可愛いぃぃっ!))

 

「あ、風人って言うのはね。手のかかる私の従兄弟の男の子で」

 

 手の掛かる男で悪かったなぁ……!

 

「むぅ……わたしおんなのこだもん」

 

(きゃぁぁああああ!むくれている風人君凄い可愛いっ!)

(な、何この子……!私を殺す気なの!?)

 

「ごめん!風人も凄い女っぽかったから!」

 

 よくねぇよ!それでいいと思ってるのか!?

 

「ふふっ。あ、上がってく?多分大学の課題を手伝ってって感じだと思うけど……」

「そうそう!雷蔵君は今日バイトだから風人に……あ、有希子ちゃんでいっか」

「旅に出た不甲斐ない彼氏の代わりに頑張りますか」

 

 不甲斐ない彼氏で悪かったなぁ……!

 

「じゃあ、一緒にお勉強しようか?」

「わ、わたしがいっしょだとめいわくになっちゃうから……」

「そんなことないよ!」

 

 そんなこんなでグイグイ引っ張られ、しょうがなく勉強することに。

 ちなみにばれないようにするために、小学一年生レベルのことを時々間違えたりした時の悶える有鬼子に少しいらつきを覚えた僕は悪くない。

 そして数時間後、涼香はバイトがぁ!と言い残し帰宅。ほとんど課題は進んでいなかったが知らない。

 

「むぅ……いつまで子供扱いすれば気が済むのさ」

「えへへ……」

 

 ゲームを一緒にしている……が、手の感覚がいつも違うせいで上手くコントロールできない。くっ……しかもそれを分かっても手を緩めないし……あと表情筋が緩みきっている。というか自分の身体の前に座らせてもこれとは……僕を舐めるのもいい加減に……

 

「あ、そろそろ夜ご飯作らないと」

 

 ゲーム全敗。嘘だろ?鬼だろ?容赦ないだろ?

 

「……そうだね~。何作る?」

 

 僕はキッチンの方に向かって歩くが、

 

「と、届かない……だと!」

 

 上の方の戸棚が届かない……!はっ……!中三から背が伸びて今大体170cmないくらい。だけど今の僕は100cmちょっと……なるほど。そりゃ届かない……って舐めるなぁ!絶対に届くはずなんだ!届け僕のこの右手!

 

(きゃあああああ!背伸びして必死に物取ろうとしている風人君超可愛い!)

 

 後ろでシャッター音がパシパシなってるが気にしない!連写されてる気がするが気にしない!うぉおおおおお!

 

 

 

 

 

 しばらくお待ちください。

 

 

 

 

 

「じゃあ、私が作るって事で」

「…………はーい」

 

 僕はしょんぼりとしながらゲームをする。あの後頑張ったんだよ?頑張ったんだけど届かなくて、涙目で有鬼子にお願いしたら頑張ったね!って抱きしめながらよしよしをされ……絶対有鬼子って親バカになるよ。何なの今日?厄日なの?少なくとも僕は厄日だよ?

 しょぼんとしたまま夕食。そして後片付けをしようとすると危ないからダメだよってやんわり断られた……うぅ……僕の沽券が……!ただえさえ女装させられてるのに……!

 もう今日はさっさと寝よう。うん。そうしよう。そう思って浴槽に湯を張る。

 

「じゃあ、お風呂入ってくる……」

「うん。いいよ」

 

 そう言って僕は脱衣所で服を脱ぎ始める。すると後ろでも有鬼子が脱ぎ始める。……?

 

「有鬼子さん?何で平然と脱いでるの?」

「え?一緒に入るためだよ」

 

 平然と言ってくる。大体、僕から一緒に入ろうと誘う時が多いが恥ずかしがって中々入らないくせに今日ばかりは何でだ?

 

「ほら……風人君がしっかり身体洗えるか心配だし……」

「だから中身は変わってないってば!」

「しっかりと髪とか身体を洗ってあげるからね!」

「僕は子供か!」

 

 にらみつけるように頑張ってみる……ぐぬぬ……!いつも見下ろす感じなのに見上げてしかいない……!

 

(な、何なのこの可愛い小動物は……!)

 

 どうやら効果はないようで抱きしめられました。はい。

 

「ふふふ~ん」

「ううっ……屈辱……!」

 

 そして僕は頭をはじめとし身体も洗われる……。

 

「シャワーで流すから目閉じててね」

「一人で出来るよ!」

 

 もう我慢の限界だ!

 僕は立ち上がって後ろを向く。すると、しゃがんでいる彼女と目が合う。そして彼女の視線はそのまま下へ行って。

 

「こっちも可愛いらしくなってるね。いつも見るときはもっとデカくて凶悪そうなのに」

「セクハラだよ!?」

 

 慌てて隠して有鬼子を睨む。するとシャワーのお湯が掛けられた。

 

「わっぷ」

「もう今日の風人君はいつも以上に反応が可愛いんだからぁ~」

 

 そんなこんなで湯船に浸かり、出て僕の部屋に戻った。ちなみに服はジャージ姿に戻った。

 あの後も湯船で後ろから抱きしめてくるわ、風呂から出ても僕の身体を拭いて来ようとするわ、ドライヤーで髪を乾かそうとするわ、着替えさせようとするわ。……完全に扱いが子供だぁ……!いやそれ以下だろ……。

 

「で?今日泊まるの?」

「うん。明日もお休みで暇だったし。それに今の風人君を放っておけないよ」

「……そう」

「どうしたの?元気ないけど……もう疲れた?寝る?」

「違うよ!というか誰のせいで元気がないと……!」

 

 はぁ、とため息をつく僕。

 

「…………ねぇ有希子。僕このままは嫌だよ……」

「……ごめんね。ちょっと暴走してたかも」

「…………戻りたいなぁ」

「……あ、キスしたら戻るかも。ほら、呪いを解くにはキスが定番だし」

 

 疑いの眼差しを向けるが、かといって僕に打つ手はない。

 

「分かった。しよっか」

 

 そして僕は目を閉じる。

 

(……え?私からするの?いや、いつもならいいんだけど……)

 

 しかし、中々来ない。

 

(どう考えても犯罪臭しかしない……!)

 

「わ、私が目を閉じるから風人君からお願い!」

「???分かったよ」

 

 キスをする。すると何だか不思議な感覚に襲われる。思わず目を閉じる僕。

 そしてその感覚がなくなり、目を開けると……

 

「戻った」

 

 手を見ても……間違いない。僕の身体だ。元に戻った。

 

「戻ったよ有希子!」

 

 僕は彼女に抱きつく。

 

「よかったね風人君。じゃあ、私は今日はこの辺で……」

 

 そそくさと離れようとする有希子。だが()()()()()()()()

 

「ちょ、ちょっと急用を思い出しちゃって……」

「有希子?(ニッコリ)」

「えと、ちょっと忙しくて……」

「明日もお休みで暇なんだよね?(ニッコリ)」

 

 僕は抵抗する彼女を持ち上げて、ベッドの上に押し倒す。

 

「いやー有希子のお陰で今日一日助かったよ。本当にありがとうね(ニッコリ)」

「あ、いや、どういたしまして……じゃあ私はこれで――」

 

 今もなお抵抗している有希子の唇を強引にふさぎ、片手で彼女を抑え、片手で彼女の服のボタンを一つずつ取って行く。

 

「だから感謝の意味を込めて身体で返そうかなって」

「そ、そんなことしなくても……ひゃう!」

「――今日は寝かせねぇよ?覚悟してね♪」

 

 翌日。そこには笑顔の風人と諸々の事情でベッドから中々出られない有希子が居たとか。



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短編の時間 二時間目

もはや本編の1話分より下手すれば文字数が多い短編の時間第二弾。はーじまるよー

テーマ?はロリ化。苦手な方はブラウザバックを。


《幼児化~有希子の場合~》

 

 朝目が覚めると……

 

「…………すぅ……」

 

 隣で裸の幼女が寝ていた。

 

「…………」

 

 きっと夢だな。うん。きっとそうだ。

 そう思い僕は頬をつねることにした

 

「…………」

 

 痛かった。つまり現実だ。

 目を覚ますと隣に裸の幼女……事案かな?警察案件かな?何明日のニュースで『昨日朝、二十代男性の学生が○歳の女の子を誘拐。犯人は自首したもののよく覚えていないと供述。警察は女児の身柄を保護するとともに経緯を詳しく調査する模様』って?え?マジでしゃれになってないよ?

 

「いや待て。昨日の寝るころから思い出せ……」

 

 昨日……今日が土曜日で休日だったって理由で確か……

 

「あ、有希子が泊まりに来て一緒に寝たんだった……?」

 

 ん……?じゃあ鬼の血を引く(わけではないが)有鬼子は何処へ?……目の前には黒髪の純粋無垢な幼女……まさかね。

 

「はっはっはっ~……」

「…………んーあ、風人君早いね……おはよ」

「おはよう有希子。いい朝だね~鏡見てきたら?」

「うん」

 

 てくてくと歩いてくいくロリ崎さん。そして数秒後、悲鳴が響いたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 先週の休みは僕がショタ化するという事件が発生した。なんやかんやで有希子とキスしたら呪いが解けたというか、元に戻った。

 で、今度は有希子がロリ化する事件が発生した。なるほど。

 

「風人君!キスしよう!」

 

 目の前のロリが何か言ってくる……が。

 

「いや、今の有希子とするのはちょっと……」

 

 僕、多分逮捕されちゃうと思う。

 

「早く呪いを解くためにも!さぁ!」

「まぁまぁ。今日と明日も暇だぁって言ってたじゃん」

「ま、まさか……」

「先週たっぷり可愛いがってもらったからね~今度は僕の番だよ!」

「ちょ、ちょっと待って風人君?え?あの後ベッドの中で一晩中やられたはずなんだけど……」

「それとこれとは話が別~」

「うぅ……風人君のいじわる……」

 

 な、なんだこの可愛い生き物……!僕はロリコンじゃないはずなのに……!

 

「服は前、僕が着たやつでいいよね?」

「それより早く戻してよ」

「えぇ~後でいいじゃん。ほら、裸だと風邪引くから服を着ようね~」

「かーぜーと君?(ニッコリ)」

 

 いつもの鬼スマイル。だが、幼すぎるあまりかわいらしさしか感じない。

 あぁ……そういうことか。ロリになった有鬼子は溢れ出る鬼の気をその純粋な可愛さで帳消しにしているのか……何が言いたいかと言うと全く怖くない。

 

「ほーら。ワガママ言うと朝食抜きだよ~」

 

 そう言いながら僕は朝食を作り始める。えーっと無難な感じでいいかな……

 

「むぅ……」

 

 朝食を作っていると後ろから如何にも不機嫌ですってオーラを感じる。振り返るとむくれていたので笑顔で手を振っておく。ふっふっふっ。その程度で屈する僕じゃないぞ。

 

「……先週はたっぷりやられたからなぁ……しっかりお返ししないと」

 

 これは有希子のためなんだ。決して先週幼児扱いされたお返しができるからしようと考えている訳じゃないのだ。

 

「……ん?でも今日何か忘れている気が…………まぁいいか。ほーら出来たよー」

 

 彼女の前と僕自身の前に朝食を並べていく。服をしっかりと着た彼女。うん。

 

「はい。あーん」

「自分で食べれるもん」

「あーん」

「自分で」

「あーん」

「……あーん」

 

 何だろう。さっきから如何にも、私この扱いは納得できないって感じを出しているけど、それすら可愛く思える。あれぇ?僕も実は子煩悩になる素質あり?

 とまぁ、全部食べさせてから後片付けをする。そして、

 

「で?これから何する~?」

「私とキスする」

「うん。却下」

「私と口づけを……」

「しないよ」

「私と接吻……」

「一緒にゲームしようか」

 

 というわけでゲーム機をセットする。ふっふっふっ。先週は惨敗したからなぁ……

 

「今日は徹底的に叩き潰す」

 

 そう思いゲームにいそしむのであった。彼女も渋々って感じで乗ってきてくれてる。ふっふっふっ。そろそろ分かってきたようだね。先週の僕の気持ちが。でもまだまだだよ?

 

 

 

 

 お昼を挟みつつ数時間後。

 

 

 

 

「う、嘘でしょ……?」

「ふふん。まだまだだね風人君」

 

 僕の10連敗……最初こそ僕が気持ちよく勝利を積み重ねていたのに途中から感覚を掴んだ有希子と拮抗し始め現在に至る。

 ちなみに膝を突く僕を前にえっへんって感じで胸を張る有希子。残念ながら大学生となり多少成長してた彼女の胸も比喩表現を使うなら中学生のししょー並みになっていた。

 

「要するに張る胸がないのである」

「わざわざ口に出して言わないでよ!」

 

 ピンポーン

 

「ん?宅配便かな?はいはーい」

 

 でも何か頼んでいたっけ?そう思いながら玄関を開けると……

 

 ガチャ

 

「あ、こんにちは。風人お兄さん」

 

 ガチャ

 

 すぐに閉じた。…………え?何であおいちゃんがここにいるの?

 

「お兄さん!?何で一回開けて閉じたんですか!?昨日勉強教えてくれるって言ってたじゃないですか!」

「……………………」

 

 そーいえばそんなこと言ってたなぁ……うん。

 僕は後ろにいる有希子にアイコンタクトで僕の部屋に隠れるように伝える。

 すると満面の笑みを浮かべて……

 

「い・や・だ♥」

 

 なるほど。これが有希子でなかったらぶっ飛ばしていただろう。

 

「…………なるほど。お兄さんが開けてくれないなら大声で叫びますよ?」

 

 おっと、後ろのロリの対処ができてないのに前のJKがなんか言い出したぞ?これは絶体絶命のピンチじゃないか?くっ……さすがあおいちゃんだ……!そんな残酷な対処法を思いつくなんて……!

 

「……くっ」

 

 僕は断腸の思いで扉を開ける。そして、

 

「あ、お兄さん。どうもで――――」

 

 あおいちゃんの目が僕の後ろにいる幼女を捕らえた。そして僕に微笑みかけるあおいちゃん。そして、スマホを取り出して何かを操作した後……

 

「もしもし警察ですか?誘拐事件です」

「洒落にならないからストーップ!」

 

 僕は流れるような身のこなしで彼女のスマホを取り上げ玄関に置き、彼女の口元を抑え中に引き込んだ後ドアを閉めた。そして逃さないよう玄関に鍵をかけチェーンもかける。

 

「お兄さん。今の一連の流れは確実にOUTだと思います」

「誰のせいだと!?」

 

 よく見ると取り上げたスマホはどことも繋がってなかった。なるほど。騙されたわけか。

 

「私はお兄さんが訳もなく幼女を誘拐するとは思えません。訳を話してくれますか?」

「……なんで僕が誘拐したことが前提なの!?信用がなさすぎるよ!」

 

 悲しい。悲しいよ……僕は何でこんなぁ……

 

「…………もしかして」

 

 一方のあおいちゃんはじっくりとロリ化した有鬼子を見ていた。そして、

 

「お兄さん。いつものキスはどうしたのですか?ほらいつもの濃厚なやつ」

 

 巨大な爆弾を落としてきた。

 

「か、風人君!?まさかあおいちゃんと浮気をしていたの!?」

「違うよ!?そんなこと一度だって……」

「ああ、やっぱり有希子お姉さんですね。お久しぶりです」

 

 一瞬で正体を看破した。

 

「その反応をするのは間違いなく有希子お姉さんしかないですから」

 

 そりゃ……そうだけどさぁ……

 

「ああ、ご心配なく。風人お兄さんとはそんなことしていませんので」

「え?あ、うん……」

「もっとも、風人お兄さんが望めば私はしてもいいですけど」

「「え?」」

 

 口元に手をやる彼女。

 あおいちゃん。僕が中学三年生のときに会い、なんだかんだで縁が切れていない少女。あれから可愛く成長し、現在は高校生。出会った頃の小学生の時のような真面目な性格を残しつつ、僕とか一部の人間に対して遠慮がない。

 

「だからお兄さん。万が一お姉さんと別れるようなことがあれば声かけてくださいね」

 

 後、こんなことを中学二年とか三年あたりから言い始めた。いや、もっと前からだったかもしれない。

 

「全く……諦めた方がいいよ?」

「えぇ分かってます。でも、二人が結婚するまでは諦めないつもりです。だから結婚式には呼んでくださいね」

「……はは、何言ってんだか。まぁしっかり招待状送ってやるからね」

「お待ちしてますよ」

 

 まぁ、彼女の中に複雑な思いがあることを僕は知っている。だから止めはしないが……

 

「え?えぇ?そんな関係だったの?え?」

「ご心配なく。愛人とか不倫相手とかは嫌ですので。お姉さんがお兄さんと結婚すれば私はお二人を祝福、全力でサポートするだけですから」

 

 任せてくださいと言って笑顔で有希子に向ける彼女。な、なんてまぶしいんだ……あまりの眩しさに直視できない。

 

「お兄さん」

「何でしょう」

「勉強を始める前にお姉さんを借りていいですか?」

「???いいよ」

「それでは……」

 

 鞄をその辺に置き去るとあおいちゃんは勢いよく有希子に抱きついた。

 

「可愛いっ!お兄さん!お姉さんを私に下さい!」

「うん。却下」

 

 何だろう。僕の周りの女子は可愛いものに抱きつかないと気が済まないのかな?

 で、しばらくした後……

 

「では始めましょうか」

「はいはい」

 

 有希子から離れて勉強を始めた。と言ってもあおいちゃんは普通に賢いので僕が教えることはあんまりないのが本音。彼女曰く、自分の家とかよりここが一番落ち着いて集中できるとのこと。

 まぁ、変な噂を立てられてないからいいけどさ。何かあっても義理の妹ってことで手を打つと決めているらしい。

 とりあえず彼女が自分の勉強を始めると並行して僕も自分の勉強なり課題を進める。さすがに彼女の横でゲーム三昧をする勇気はない。ちなみにロリ化した有希子も僕の隣で勉強を進める……何だろうこの違和感。見た目5歳の子が大学の勉強をしている……ああ、小学生の範囲をやらせたい理由が納得した。だって違和感しかないもん。

 

「お兄さん」

「何でしょう」

「何でお姉さんがロリになったんですか?」

「分かってたら苦労しない」

「後もう一回抱いていいですか?」

「どうぞ」

「いやいやいや!?どうぞじゃないよね!?なんで人の許可なしに――」

「はぁぁああ。可愛い」

「――わぷっ」

 

 顔が綻ぶあおいちゃん。その姿を見て僕も思わず頬が緩んでしまう。

 そんな平和な時間も過ぎて行き……

 

「そろそろお暇しますね」

「ご飯は食べていかないの?」

「いえいえ。私だって、お二人の時間を邪魔するのは忍びないので今日はこの辺で」

「そう」

 

 そのまま玄関から出て近くまで見送りに行く……ロリになった有希子と一緒に。

 

「じゃあ、お二人とも。また今度会いましょう」

「またね」

「うん。じゃあね」

「ああそうだ。お兄さん。お姉さん。お二人の子どもが出来たら今日みたいに抱かせてくださいね」

 

 約束ですよと言って彼女は去って行った。

 

「ねぇ風人君」

 

 手を繋いで帰路につく……と言っても本当に少しだが。彼女が僕の手を少し強く握る。

 

「有希子」

 

 僕も少しだけ握り返す。大丈夫。言葉にしなくても伝わってるよ。

 

「でも、さすがに今の状態で子作りとか犯罪だと思うからやらないよ?」

「全然伝わってないんだけど!?」

 

 僕は彼女を抱っこして家に戻る。勿論、キスされないように上手く躱しながら。

 で、家に着くとさっそく夕飯の準備をする。有希子?その辺でゲームしてるよ。

 夜ご飯も安定して僕が全部食べさせ(尚有希子は不満そうであった)洗い物をして湯を張る。

 

「じゃあお風呂入ろっか」

「……分かったよ」

 

 なるほど。もう諦めたみたい。なら楽でいいや。

 

「ねぇ風人君」

「なにかな?」

「……そんなに先週のこと怒ってるの?」

 

 身体を洗い(流石に僕がやるのはどうかと思ったので本人に任せた)一緒に入る。

 すると彼女は僕に背を向けながらそう呟いた。

 

「……はぁあああああああ」

 

 僕はそんな彼女の言葉に深い溜息をつくとともに彼女を強引に僕の方を向かせて抱きしめる。

 

「違うよ」

「……え?」

「怒ってたらさ、こんな風に一緒にいないよ」

 

 怒ってたからこんなことをしているわけじゃない。怒って本気でやり返すならこんな回りくどくしてない。

 

「キスしよっか」

「……うん」

 

 彼女が僕にキスをする。すると呪いは解けて元の彼女に戻った。

 

「……戻ったね」

「戻ったよ」

「「…………」」

 

 ただまぁ、風呂で戻ったせいで色々と気まずい感じがしているが。

 で、あの後、そのまま一緒に風呂を出て、着替えて寝ることにした。

 

「へぇ。やり返さないの?」

「……また今度にするよ。私も疲れちゃった」

「そう」

 

 ベッドの中で彼女と向き合う。

 

「ねぇ風人君。風人君ってさ。私でよかったの?」

「何が?」

「いや、あおいちゃんもいい子に育ってきてさ……他にも私より相応しい人は多いなぁって」

「だから何?有希子がいいから僕は傍にいる。そんだけでいいじゃん。なんか必要?」

「……ううん。必要ないよ」

「ならいいじゃん♪」

 

 僕は彼女を引き寄せ頭をなでる。

 

「さてと、子どもは何人作ろっか?」

「…………っ!そ、それはまだ早いの!」

「えぇーあんだけ沢山ヤってるのにまだぁ~?」

「お互い大学卒業するまではダメです!」

「違うでしょ?」

 

 僕はそのまま彼女の耳元で囁く。

 

「卒業して結婚するまで……でしょ?」

 

 すると彼女の耳が面白いほど紅く染まっていく。

 

「じゃ、おやすみー!」

 

 そんな彼女を尻目に僕は寝ることにする。

 いやー今日も疲れたな。うん。疲れたね!

 

(ってこんな状態で寝れるわけないじゃないの!バカァ……ッ!)

 

 その後、ガチで寝ている僕に対し彼女は何をしたのか知らない。 



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短編の時間 三時間目

とりあえず最終段(の予定)はじまるよー

TSが苦手な人はブラウザバックを!
※予定外の時間におかしな場所に投稿されていたので消して投稿し直しました。

ちなみに作者はTSが割と苦手な方です(ならなんで書いた)


《風人TS編》

 

 朝。小鳥のさえずりと共に目を覚ます。

 

「んん~!」

 

 今日も清々しい朝だ。腕を目一杯上に伸ばす……?あれ?いつもより声が高いような……

 

「まぁいいか~」

 

 そう思いながら僕はベッドから起き上がり洗面台へ。心なしか胸が重いような……まぁいいか。きっと、疲労が肩にたまってそのまま胸に行ったのだろう。そうだな。そうに違いない。

 洗面台の鏡の前に立つ僕。何か妙に胸の部分が膨らんでいる……?

 

 モミモミ

 

 …………?

 

 モミモミ

 

「む、胸があるんですけどぉっ!?」

 

 な、何だこの弾力……!はっ!

 

「な、ない!?僕の息子がいない!?」

 

 慌てて下半身を確認すると僕の息子が消えていた……う、嘘だろ!?今度は女性の身体になった!?声は高いし胸はあるし、というか……

 

「僕ってこんな顔だっけ?」

 

 ぺたぺたと触って確認する。前々から中性的な見た目とは言われるが、心なしか少し女の人っぽくなってる。なるほど顔も女性に近くなったと……って違う!

 

「くそぉ……!とりあえず有鬼子召喚だぁ!」

 

 幼児化したときもそうだがこういうときは誰かが近くにいないと何か別の問題が起きる可能性がある!知らんけど!

 

『再び緊急事態発生です(ーー;)』

 

 メッセージを飛ばす僕。そして、

 

『ごめん。今日用事あるから夕方まで行けない』

「(・ー・) オワッタナ」

 

 僕は遠い目をする。あ、終わった……

 

「いや頼れるのは有鬼子だけじゃない!」

 

 そうだ!僕にはまだ頼れる親友たちがいるんだ!頼む!応えてくれ我が友たちよ!

 雷蔵……バイト!涼香……バイト!あおいちゃん……模試!渚……用事!カルマ……論外!

 

「……終わったぁ…………っ!」

 

 頭を抱えて地に頭をつける僕。

 その後何人かの候補を考えたが全滅した。

 

「もうダメだ……!僕に救いは……救いはないのかぁ…………!」

『えーっと風人さん。茅野さんからメッセージが来ました』

「ししょーから?どうしたんだろう?」

 

 ししょーは役者業が忙しいからあんまり当てにしていない。まぁ、ちょくちょく会ってはいるけど……。

 

『風人君ヒマー?渚が何か用事らしくてさーそれ終わるまでの時間つぶしに付き合ってくれない?』

「ナイスタイミングししょー!」

 

 あなたは女神ですか?もうこうしちゃいられない!

 

『ししょー!僕を助けてください!<(_ _)>』

『また有希子ちゃんを怒らせたの?┐(´~`)┌』

『二言目にそれですか!?違いますよ会って直接話しますが……!』

『じゃあ、いつものとこねー時間は……まぁ、三十分後で』

『了━d(*´ェ`*)━解☆』

 

 僕は颯爽と着替えることにする……うぅ。胸が苦しい感じがする……ああ、ブラは……有鬼子のないし、合ってもどうせサイズ合わないから適当になんか巻いとこ。サラシ的なの……ないからタオルでいっか。しょうがない。こんな自体想定して女物の下着とか買ってない。

 そんな感じで準備を済ませて慌てて出掛ける。チャリで爆走し、ししょーとよく駄弁る何時ものカフェへ。

 

「お待たせしました!ししょー!」

「あーうん。私も今来たと…………えぇぇえええっ!?」

 

 僕の方を見るや否や驚きの声をあげる。いやーうん。それは知ってた。

 

「風人君!いつの間に性転換手術受けたの!?」

「受けてないですよ!?朝起きたらこうなってたんです!」

「あれ?少し……というか10cmくらい縮んだ?今私と目線変わらないんだけど……」

「あー衝撃的なことが多すぎて気付かなかった……ってそれどころじゃないんですよ!」

「と、とりあえず店入ろ?変装しているとはいえ流石に目立っちゃうから」

「それもそうですね……」

 

 ししょーはあれから役者業に復帰して、人気になりつつある。いわゆる有名人ってやつだ。だから変な噂が立たないよう会うときは簡単ではあるが変装している。

 そして事情を説明する。無論今日だけじゃなく今までのことも軽く。

 

「……なるほど。朝起きたら美女になっていたと」

「そうです……ん?美女?」

「いや、今の風人君普通に美女だよ」

「そうなのか……」

「前は子供になったこともあると」

「その通りです」

「……まぁ、今の風人君見て信じないわけにはいかないよね……」

「恩に切ります!」

 

 うんうん。持つべきものは話の分かるししょーだね。

 

「それはいいんだけど……」

 

 するとししょーの目が僕のある一点に集中する。

 

「ムカー!その胸は私への当てつけか!」

「ふふん。起きたらまさかの巨乳に」

「くぅ……!羨ましい!妬ましい!」

「でもししょー。おっぱいって結構重いんですね。肩がこりそうですよ……」

「ムカァ!まさか男の人にそんなこと言われる日が来るとは思わなかったよ!」

「僕もまさかこんなこと言う日が来るとは思わなかったよ!」

「…………ちょっと触らせて」

 

 すると立って僕の方へと来たししょー。その目は怪しく光らせていて恐怖さえ感じる。

 

 ぽよんぽよん

 

 そして、自分の方へと手を持ってきて、

 

 ぺたぺた

 

「し、ししょー……?」

「巨乳は皆敵だぁ……!」

「うわぁ……ガチ泣きしてる。…………な、何かおごりますから……ね?」

 

 涙を流すししょー。……何だろう。実は僕、相談する相手を間違えたかもしれない。

 

「うぅぅ……!」

「ごめんししょー。泣きたいの僕の方なんだけど……」

「でも私だって成長したもん!ゼロじゃないもん!」

「それでいいじゃん!渚は胸で人を判断しないでしょ!」

「そういうことじゃないんだよ……!」

 

 ガンっ!と拳をテーブルに当てている。どうしよう。本当に収集が付かなくなっちゃった。誰か助けて。

 とりあえず、おそるおそるやって来た店員が運んでくれたプリンを献上する。

 

「……私をプリン1個で釣られるような安い女だと思ってる?(¬_¬)ジトー」

「あはは~……(;・3・)~♪」

 

 思ってます。超思ってます。…………完全にすねてるなこりゃ。渚。マジで助けて。

 

「……そういや最近の役者業は順調なの?」

「露骨に話題を変えようとしているよね?」

 

 ダンっ!

 

「えぇそうですよ!だからいい加減その怨嗟を込めた眼で僕の胸を見ないでください!」

 

 ダンっ!

 

「見たくなくても視界に入るんだよ!当てつけかぁ!私への当てつけかあぁっ!」

「当てつけなわけがないでしょう!起きたら巨乳ですよ!?」

「それを当てつけと言わずに何と言うのさ!いいじゃん!少しくらい分けてよ!」

「分けるどころか全部あげたいよ!僕には不要だよ!」

 

 その後も話題を変えようとする→胸の話になる→口論。こんなサイクルができ、そろそろ僕らのお互いのメンタルが傷つきまくったころ。

 

「か、茅野!?急いで来て、助けてって言うから急いできたんだけど……」

 

 救世主が現れた。

 

「えーっと……どういう状況?」

 

 しかも二人だ。二人いる。

 

「渚ぁ……有希子ちゃん……風人君が……風人君が苛めてくるの……」

「泣きたいのはこっちですよししょー……」

「茅野のことをししょーって……まさか風人君!?」

「えーっと……あぁ、そういうことかぁ……」

 

 驚く渚。何かを察する有希子。

 とりあえず二人を座らせ、ドリンクを注文する。そして僕の事情(ってほどでもない)を軽く説明して……

 

「「ところで何で一緒にいたの?」」

 

 僕とししょーの疑問が重なる。そりゃそうだろう。二人とも用事って事で余り物の僕らが一緒にいたのだから。

 

「うーん、ちょっと秘密かな」

「そうだね」

 

 はぐらかす二人。

 

「ししょー。これってあれですか(ヒソヒソ)」

「えぇ。間違いなくあれですよ風人君(ヒソヒソ)」

「なるほど……これが浮気現場ってやつですか(ヒソヒソ)」

「その通りだよ……まぁ、私は付き合っていないけど(ヒソヒソ)」

「こういう時って僕はどう反応すればいいと思う?(ヒソヒソ)」

「え?うーん……」

 

 二人で頭を使って考える。

 

「何か誤解しているようだけど……」

「はぁ。私からすれば二人の方が浮気現場に近いと思うのだけど?」

「「え?どうして?」」

「僕はししょーのことししょーとしか思ってないよ?」

「私も風人君のことは恋愛対象としては見れないかなー」

「僕らは清く正しい関係だよ~」

「親友以上恋人未満かな」

「「ねー」」

「「そういうところだよ」」

 

 僕とししょーの言葉に二人が何処か怪訝そうな眼で見てくる。嫌だなぁ。僕らにそんな気持ち微塵もないのに。

 と疑いの目はあるも、大体僕は事前に有鬼子に言ってる場合多いし、渚は……うん。疑うならはよ付き合えって感じだし。何年ししょーが片思いしてその不満というかのろけというかのはけ口になってると思ってるのさ。

 

「……こうして見るとさ。何だか女子会みたいだよね」

「あ、それは分かるかも」

「「僕、男だけど!?」」

「いや、今の風人君は女の子でしょ」

「それに渚だって女子でもいける!」

「まぁ、渚はしょうがない。でも僕は本来男だからなぁー」

「僕はしょうがないってどういうこと!?」

「あ、風人君。風子ちゃんになればいいんじゃない?そうすれば違和感ないよ」

「えぇーいや、あれは女装したときにしかなれないから……」

 

 何か女装すると気分が変わるというか人が変わるというか……ん?今の僕って何なんだ?心は男、身体は今は女、服装は男……ふむ。どちらかと言うと男装?

 とそんな感じで女子会(尚参加者の半数は男とする)は進み時間もいい感じに経った頃。

 

「じゃあ。後、風人君の面倒は私が見るから、お開きにしましょうか」

「だねー……そろそろ私のメンタルが持たない。渚ぁ慰めて」

「あはは……分かったよ」

「じゃあ、僕は会計に行ってきまーす」

 

 全員分のお支払い(尚僕のおごりだったりする)を済ませ店を出た4人。ししょーと渚は2人で出かけていった。さっさと付き合えばいいのに。いつまで焦らすんだろうか。

 で、僕は自転車を引きながら有鬼子と帰路につく。

 

「風人君は私が渚君と会っていたことについて聞かないんだね」

「そうだね~……」

 

 別に僕らに会う前に何をしていたか気にならない訳でもないけど、特に問いただす気もない。

 

「別にいいんじゃない?言いたくないのに無理に言わせるのは違うよ~」

「そう」

「疾しい気持ちはないんでしょ?」

「全く。だってあの頃から風人君一筋だもん」

 

 こういうことはごく自然と言ってくるよなぁ……まぁいっか。

 

「僕もだよ」

 

 とそんな会話している間に家に着いた。

 

「はぁー」

 

 とりあえず服を脱ぎ捨てジャージ姿に、いやーとっさとは言えタオルじゃダメだったかぁー。

 

「…………」

 

 すると有希子が笑顔のまま固まっている。そして、

 

「……私も少しは大きくなったんだけどなぁ…………」

 

 自分の胸に手を当ててししょーと同じ事を言っている。あら何でしょう?嫌な予感がしますわ。

 

「揉んでいい?」

「ドストレートだね~。嫌だよ」

「いつも私の揉んでいるでしょ?」

「…………それ言われると反論できないじゃん……!」

 

 仕方なく揉まれることに……というかちょっと激しく――

 

「――んんっ!」

 

 ――手を口に当て抑える。ちょ、思わず変な声が出ちゃったんだけど!?

 

「…………っ!」

 

 その反応に対して顔を紅くする有希子。すると……

 

「どうしよう風人君……今凄くしたくなってきた」

「…………あ、僕の部屋貸すからお一人でどう――」

 

 ガシッ

 

「ねぇ風人君」

「……あはは~…………そんな目で見ないでくださいよ……」

「普段断らないくせに、どうして今日だけ断るのかな?」

「断るでしょ!?…………はっ!キスすれば元に戻る!」

 

 僕は彼女の意識を一瞬逸らしてキスをする。しかし……

 

「も、戻らない……だと!」

 

 一向に戻る気配がない。二度あることは三度あるじゃないのか?え?三度目の正直?ふざけんなよおい。

 対して有希子は……

 

「ふふっ……よかったぁ……風人君も乗り気なんだね……」

「い、いや……今のは違――」

 

 キスして強引に唇を塞いでくる彼女。そして抵抗して逃げようとする僕を捕らえベットに押し倒す。

 

「ふふっ……そう言えば少し前。私がこれ以上はやめてって言ってもずーっと続けていたよね?」

「いや……あの時はその……ね?…………マジですみませんでしたぁ……!」

「謝らなくていいよ?私も気持ちよかったし……だから――」

 

 差し込む夕陽が僕らを照らす。

 

「――たっぷりとお返ししてあげる♥」

 

 あぁ……その顔の時の有希子はやばいやつだ……。

 この日僕は開いてはいけない扉を開きかけた。



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ラジオの時間

前言ってたアレ。
『道の時間』までのネタバレ含。







「さぁさ始まりましたマイペースラジオ!今回お送りするのは本作主人公、和光風人と」

「ラジオの名前ダサいと思っているメインヒロイン、神崎有希子と」

「呼ばれて飛び出て和泉千影です」

「以上三名でお送りします~」

 

 

 

 

 

「え?最近、失踪気味の駄作者はって?隣の部屋で多分転がってるよ~」

「今は、この部屋に三人しか居ないって設定だからね。駄作者は存在しないものとして扱う」

「あはは……この空間は大丈夫かな?」

「ちなみにそーしゃるでぃすたんすを意識して僕らの間には透明なアクリル板があるよ!やったね!お陰で何言っても拳が飛んでこないよ!」

「うん。このラジオ終わったらね」

「これだけだと囚人、風人君に面会に来たって感じが……まぁいいかな」

「酷い!何で僕が囚人なのさ!多分アンケートしたら、絶対有鬼子が囚人ランキングトップだよ!」

「大丈夫。リスナーさんは分かってるから……ね?」

「……壁越しの圧が凄い……どうしよう。私、なんでここに居るんだろう?」

「えーっと、進行役にまともな人が必要だったから、だって~」

「……駄作者。後で締める」

「…………どうしよう。私じゃこの二人を同時に制御できない……」

「さてと、おーぷにんぐとーくはこんなもんでいいかな?」

「まぁ、いつもの後書きと同じ感じだね。オチがない。脈絡もない」

「いいかい有鬼子。オチなんていらないんだよ~」

「うん。風人君は存在からオチだもんね」

「え?あれ?それは酷くない?」

「と、とにかく次行こう?ね?」

「そうですね。駄作者のこんな茶番に付き合ってくれたリスナーさんや、質問が予想より多かったから巻きで行きましょうか」

「ねぇね。僕ってそんなにオチなのかな?ねぇ誰か……」

 

 

 

 

 

「じゃあ一つ目行きましょうか。ラジオネーム『風人のマイペースさに辟易しています』さんから」

「え?僕ってそんなにマイペース?」

「風人君。シャラップ」

「……『毎度更新の度に楽しく読ませていただいています。読んでると風人のマイペースなのは作者がマイペースだからという理由(一周年の時間)に納得です』……すみませんね。ウチの駄作者、マジでマイペースなんです。気分でしか動けないんです」

「ふっ。勝ったな」

「『千影さんに質問 もし自分があの事故で死んでなかったら風人に告白しますか?

有o…希子さん、もし自分で彼氏である風人をひとつだけ変えられるとしたら何を調k…教育しますか…じゃなくて変えますか?

風人くん、ぶっちゃけ今君が1番欲しいものは?』おぉ。私たち三人に質問だね」

「誰から答える?」

「じゃあ、私から。うーん。死んでなかったらかぁ……多分告白していないかも……」

「へぇ~なんで~?」

「嫌な話、あの時完全に私しか居なかったから……ライバルって言う存在もいなかったし……何だろう。あの時代の風人君に告白してもまともな恋愛が出来た気がしない」

「「確かに」」

「やっぱり認めるんだね……だから、多分告白していない。もっと時間をかけて、風人君が恋愛を意識し始めてからかな。まぁ……隣にいるのが当たり前すぎて多分告白しないままズルズルと行っていたかもしれないけど」

「そう思うと残酷だよ。ありがちと言ったらありがちだけど、失って初めて気付くって」

「うぅ……」

「つ、次行こう次。有希子さんは?何か質問の修正の跡がいろいろあったけど……」

「……本人のところに殴り込……押しかけようかな」

「逃げて!この人マジでやるから今すぐ逃げて!」

「冗談だよ冗談」

「……その冗談、日本中に発信していますが……」

「たった一つか……うーん。強いて言えば真面目な話とかをぶった切る癖かな……」

「あれ~?てっきり全部!とかそう言われると思っていた。意外~」

「だって、このマイペースなところ直したら風人君じゃなくなるじゃん」

「あー……言われてみれば。マイペースなのが風人君だよね」

「度胸があって行動力があって頭が良くて空気が読まなくて。確かに直してほしいところは多いけど、全部直したらそれって風人君じゃなくなるって思うの」

「風人君は欠点も多いけど、美点も多いから。寧ろ欠点があるから輝いているというか……」

「そうそう。だって欠点も含めてそんな風人君を好きになったんだから」

「それは分かります」

「……褒められてる?」

「まぁ、風人君がそう思うならそういうことで」

「で、風人君に来ていた質問の答えは?」

「うーん。悩みどこだよね~いや、死神編の前だったら千影と答えていたよ?だけど今かぁ……二択……どっちだぁ……」

「二択ともあげてみたら?」

「いやね?まずは3年E組として過ごす時間。もう二月だし……限られているけどもう少し長くいたいなーって。もちろん、殺せんせーも含めてね。で、次は有希子との時間。こっちは二人きりの時間かな?普段も一緒に居る時間長いけど……この……もっと二人きりの、何も追われていない平和な時間が欲しいよね」

「……風人君ってそういうの平然と言うよね」

「そう?だって思ってることだもん」

「あはは……ゲームとか言い出さないのは成長したんだね」

「いや、ゲームとは比べられないよ」

「なるほど。じゃあ、質問はこの辺で……あ、まだ最後に書いてあった。『最後に、作者さんに質問 ぶっちゃけ調子に乗って有希子を鬼化し過ぎた?』」

「…………これは気になるね」

「あ、作者がカンペ出してる~『はっきり言おう。ここまでヤバい鬼が誕生すると思ってなかった(笑)』」

「駄作者、後で、二回、締める」

「つ、次行きましょう!次!」

 

 

 

 

 

 

「続いてラジオネーム……がないけどどうしよう」

「じゃあ『まけんし』さんで~」

「えー質問の方は『有希子さんはもし風人君が浮気したら風人君にどんなことをしますか?』……有希子さんどうでしょう?」

「そうですね……多分私が病みます」

「……うわぁ……この先を聞きたくない……」

「まずは手料理を用意します。その中に睡眠薬を入れて眠らせた後、手錠を四つ用意し、四肢をベッドなどにくくりつけ、身動きを完全に封じます。そこからは監禁生活ですね。彼のそういう考えが持てなくなるよう、少しずつ分からせていきます。もう私しか見れない、他のオンナなど目に入らないくらい、身体に、脳に徹底的に刻み込んでいきます。浮気した女側への報復?ははっ。風人君に手を出そうとした雌ブタはそうですね。金輪際風人君に近づけさせないようにします。物理的に殺す?そんなことしたら私が捕まるので、もっと精神的に殺しますよ」

「…………目のハイライトがお亡くなりに……誰かたふけて」

「え、えーっと!これ以上は放送禁止用語のオンパレードになるのでこの辺で!」

「ふふふっ。浮気する旦那さんなんて容赦なく調教して……」

「ゆ、有希子さん!?次行くので戻ってきてください!」

「い、一旦CM入ります~!」

「いや、これテレビじゃないよ!?あ、でも何か入れようそうしよう!」

 

 

 

 

 

「よ、ようやく有希子さんが戻ってきた……じゃあ、次の質問行きましょうか」

「そうですね。ラジオネーム『閃の軌跡ⅣのSwitch版が日本語でもちゃんと対応して発売して欲しい人』より『毎回楽しく読ませて頂いてます。物語の方も終盤に近づいてきてるので楽しみな気持ちと悲しい気持ちが混ざってるのが現状です、、、』……確かに。もうすぐ終わりですからね……」

「始まりがあれば終わりがある……仕方ないことですよ」

「なお、駄作者はいつ終わるか分かんないと言っております~」

「早く書けってやつですね」

「あはは……『風人に質問です。有希子さんが見た目はそのままで中身が猫になったらどうしますか?ついでにその逆、風人が猫になった時の有希子さんもお願いします』まずはこの二つかな。どう?二人とも」

「……有希子……猫…………可愛い」

「えーっと、感想じゃなくて……」

「あ、そうだね。うーん……外に出さないようにするかな?いや、外に出してしまうと多分面倒なことが起きそうだし。だから外に出さないように部屋の中に入れておこう!」

「へぇ……有希子さんは?」

「今と変わんない気がするのは私だけ?」

「……確かにマイペースだけど……!」

「とりあえずネコ耳と首輪をつけさせるかな?多分猫の風人君は目を放すとどっかに消えちゃいそうだから」

「……首輪は分かったけど、ネコ耳は?」

「私の趣味です」

「……わぁ」

「首輪をつけさせる辺りバイオレンスな香り……」

「なんか言った?」

「……で、まずはって言ってたけど……」

「あ、うん。後二つあるんだ。えっとね。『次は有希子さんに質問です。現在の家族仲はどうですか?』……だって?」

「極めて良好とは言えないけど昔に比べたらいいほうかな。前に比べて全然。ただまぁ……お父さんが時々私を見て怯えるようになっちゃったんだけどね……あはは」

「「…………」」

「全く。娘を見て怯えるお父さんに、それを端から見て笑うお母さんって……」

「あれ?確か有希子さんってお兄さんが居るんじゃ?この作品では存在感ゼロだけど」

「あー……兄は……うん。お父さんと同じで私を怒らせてはいけないってちょっと……ね。特に風人君とは遭遇したくないって。あの有希子と付き合える彼氏とか……ってボソッと言っていたらしいからちょっとオハナシしておいたよ♪」

「結論。家族仲は前よりマシ!ただし、有鬼子によって男性陣が逆らえなくなっちゃった!」

「よし。次行こう次」

「え?今の結論はちょっと納得いかないような……」

「次は『最後に黒ハムさんに質問です。一つ目は風人と有希子さんに「ぴえん」と「英雄伝説 閃の軌跡シリーズ」をプレイさせたらどんな感じになりますか?(二つ目はやり込み要素もあるので。あと完全に私の趣味です)

二つ目は、冬休み中の殺せんせーは原作と変わった事はしてましたか?』とのこと。作者がカンペを書いていますのでしばしお待ちを」

「えーっと、ぴえんはジャンルはホラーゲー、英雄伝説はRPG。両方とも作者が詳しくないから多くは語れないですね……」

「と、作者がカンペを書き上げました。早いね~えっと?『「ぴえん」の方は、風人君が終始笑いながらプレイして、有希子が何とか怖いふりして腕とかにくっつこうとしますね』……なるほど」

「確かに。ホラーゲームが苦手ってわけじゃないから……やりそう。怖いふりしてイチャつくこと考えて居ると思う」

「ストレートだね……」

「嘘じゃないもん」

「『「英雄伝説」の方は、風人君は最初から何とか縛り!って題してやりますね。一方の有希子様はそんな風人君を尻目にやりこみ要素をコンプすべく奔走します。また、風人君はRTA始めるかもしれません』……うわぁ……やりそう。RTAはやるとして二周目だね」

「……否定できない……色々と」

「二人とも……お願いですから廃人にだけはならないで下さいね」

「『最後の殺せんせーに関しては動きは変わっていません。生徒に風人君が増えたけで、冬休みは原作通りです』とのこと~」

「まぁ、風人君を待っていたと言っていても来ないって分かってただろうしね」

「初期の風人君はともかく、今の風人君は行かないよ。流石にね」

「ということで、じゃあ、次が最後だね~いってみよー!」

 

 

 

 

 

「ラジオネーム『並行世界のyouと会った男』……何か凄そうな人が来た……えっと?『やぁ、初めましてこの世界の風人君達!いやぁ、君達もついにここまで来たか。君達の行く末は僕には目に見えているけど、ここでは内緒だよ。暇な時間があったらそっちに行くかもネ!(意味深)』……どっちだろうこの人。イタい人か凄い人か」

「きっとイタい人だよ~」

「だね。まぁ、そんな未来が見えているみたいに言われてもしっくりこないよね」

「じゃあ、続き読むね?『じゃあ、風人君に質問だ。君の学園生活で一番楽しかった行事は?逆に辛かった事は?』」

「辛かったなんて有鬼子にボコられることに決まってるじゃないか!」

「『………………あ、神埼さんにボコられたとかは日常茶飯事だし除外ね。』……つまり、今の風人君の答えは除外だって」

「……嘘でしょ?今の僕の回答を読まれていたの?」

「大丈夫だよ。今の回答は予測できていたことだから……後で覚えていてね」

「ひぃっ」

「あはは……それで回答は?」

「うーん、楽しかった行事はサバゲーかな」

「あれって行事?」

「暗殺教室行事ってことで。うん。あれは面白かった。もう何回かやりたい」

「じゃあ、逆に辛かった事は」

「うーん……ジョーカーとのアレかな。全てが明らかになったのはいいんだけど……真実が……ねぇ」

「私も、あそこまで救いようがない人に殺されていたとは……」

「く、暗くなっちゃうし、次行きましょう」

「そ、そうですね。『神崎さんへは…………………うーん、質問は特にないんで一言。暴力は風人君が死なない程度にしときなよー』らしいですよ」

「そーだそーだ!」

「でも、死ななきゃいいんでしょ?」

「『………え?逆に死ななきゃOKって事かって?うん、まぁいいんじゃない(適当)』だって」

「嘘……私の考えが読まれたと言うの?」

「嫌ダメだよ?ねぇダメだよ?死ななきゃOKじゃないんだよ?」

「まさか本当に未来が見えている……!」

「千影次行って次!これ以上は僕がボコられる未来しか見えない!」

「う、うん!『千影さんへの質問は…………もし今も生きていたら、とすると自分はどんな人生を送っていたと思うかい?』」

「へぇ~何か最初の方に近いけどどう?」

「うーん……多分、風人君の隣に居て。一緒に笑って泣いて、そしてそのまま……って感じかな?付き合うとか結婚とかは分からないけど、きっとあの距離が離れることはなかったと思うよ」

「今も離れていないよ。僕らは心で繋がっている」

「風人君……そんな事を言えるように成長したんだね」

「いや、そこじゃないよね?」

「ふふっ。まぁ、時々喧嘩するかもね」

「喧嘩か……結局、仲直りできていないもんね」

「でも今は仲いいから」

「だね」

 

「あ、作者にもきているね。えっと、『黒ハムさんへの質問は僕からは特に無いんだけど、伝言を預かっててね。『あのー、またコラボしたいとか言ったらどう思います?あなたの作品で出てきたあのヴィランをもっとぶちのめしたいらしくて、若干の構成も早くも妄想してるので、返事はメッセージでもコーナー内でもどちらでも良いので、ご検討よろしくお願いします。あなたの大ファンの作者より』………………だとさ。』……なるほど」

「で、駄作者の返答は?」

「『よし。やろう』だって~」

「ということで、コラボ決定……なのかな?」

「詳細は後日明らかに!」

「『取り敢えず最後に1つ。観測者である僕を最後まで楽しませてくれる君達が紡ぐ最高に面白くてハッピーエンドな物語を期待してるよ。』だって」

「うーん。とりあえず私が風人君を調教できたらハッピーエンドかな?」

「待って。それ誰も望んでない」

「じゃ、じゃあ……私と風人君が結ばれたら?」

「…………質問は終わりだね。よし、締めの挨拶に行こう」

「いや、風人君。今の有希子さんのをスルーするのはよくないと……」

 

 

 

 

 

「ということで、名残惜しいですが本日はここまで。どうでしたお二人とも」

「とりあえず、この収録が終わったら、風人君と駄作者ととあるリスナーさんを締めます」

「とりあえず、全速力で逃げます。駄作者も『じゃ、おつかれー!』ってまだ終わってないのに逃げているみたいです」

「あ、あはは……ちなみに次回は未定。気が向いたり、また質問があったらするかも。ただ、やるとしても完結後を予定だって」

「うん。これ気分次第でやるやつだ」

「だよねー」

「というわけで、今回のマイペースラジオはここまで!ではまたお会いできることを祈って。皆様お元気で!」

「ばいばーい」

「さようなら」

 

 

 

 

 

 こうして放送されたラジオ。

 なお、駄作者たちがどうなったか……その結末は神のみぞ知る。




というわけで、コラボしましょう!
読者諸君!続報を待て!


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ヤンデレの時間

これは駄作者が最近ヤンデレヒロインの二次創作を見た結果、書きたくなっただけです。
普段より有鬼子様が…………はい。ヤバさ全開で行きます。
ヤンデレ有鬼子様VS超自由人風人をお楽しみください。
苦手な方はブラウザバックを。
時系列は中三で、死神編が終わったあたりを想像してください。


 僕は最近疑問に思っていた。

 

「ねぇ。風人君」

「なんでしょ~?」

 

 最近有鬼子の僕を見る目が段々と変わっているなぁーって。いやまぁ、前からかもしれないけど……何というか……こう。怖い訳じゃないけど……うーん。あ、ヤンデレだ。何か最近ヤンデレヒロイン化している気がする。

 

「明日明後日休みだよね?」

「土日だからね~」

「今日から三日間、家族が家にいないんだ」

「ほへぇ~あ、僕家こっちだから~」

 

 いつもの分岐点。だが、彼女の腕は僕を放そうとしなかった。…………ふむ。何でだろう。

 

「風人君。暇だよね?」

「え?僕はアレがこうで……」

「ヒマダヨネ?」

「…………」

 

 おかしい。何故ばれたんだろうか。

 

「まさか……ワタシヨリダイジナヨウジガアルワケガナイヨネ?」

「……ふっ。ばれたらしょうがない。僕は暇人ですけど~何?ゲーム?デート?」

「お泊まり会♪」

「ほへ?」

「私の家でお泊まり会♪」

「うーん……僕の母親が許可して――」

「あ、もう許可は取ったよ?」

「――早い!?早過ぎるよ!?」

 

 何だろう……あの母親のことだから、僕がいない平和な休日を過ごすために僕を売ったとしか思えない……はぁ。

 

「分かったよ~じゃあ、家に荷物取りに行って来るね~」

「うん」

 

 テクテクと家に向かって歩く僕。僕の腕にしがみつきながら歩く有鬼子……?

 

「???」

 

 まぁ、いつものことだしいっか。

 

「それよりも有鬼子~胸当たってるけど?」

「ふふっ。当たってる、じゃなくて当ててるの♥」

「ほへ~じゃあいっか~」

 

 よかった~。これが当たってるだったら「風人君の変態!バカ!」って言われて山に埋められてるとこだった。

 だって当ててるって事は向こうが故意にやってるって事だもんね!つまり僕は悪くない!

 とそんなこんなで家に着く(尚道中の周りの目は無視するものとする)。

 

「全く……前々から分かってるんだったら昨日か今朝くらいに荷物をまとめて置いたのに~」

「ごめんごめん。急に決まったことだから……」

 

 僕の部屋まで付いてきているけど特に気にしない。何というか……家の前で待たせてもかわいそうだし。…………ん?

 

「そこ!」

 

 僕は咄嗟に持っていた手錠を投げる。勢いよく飛んでいったそれはコンセントに当たる……おかしいな。あそこから何か感じたけど……というか、

 

「あれ?こんなコンセント買ってたっけ?」

 

 それを取り外して見る……ふむ。最近頻発してる……わけでもないけど時々あるんだよなぁ~身に覚えのないコンセントが勝手に部屋に設置されてること。もしかして、最近の流行?

 

「まぁいいや~」

 

 外してぽ-いってしておく。まぁいいや。きっと未来の僕が処分なり分解なりして遊ぶだろう。

 

「そこだぁ!」

 

 そして振り向きざまにもう1個手錠を投げる。すると、ぬいぐるみを持って見ていた有鬼子の目の前を通過して壁に……あ、やっべ。これ怒られるやつだぁ……!

 

「ご、ごめん!何かそこから違和感があった気がしたから……!」

「う、ううん。平気だからいいよ……」

 

 あり?怒られない?『いきなり手錠を投げたら危ないでしょ!』とか言われると思ったのに……ま、いっか。怒られないに越したことはない!

 

(…………何なのこの凄まじい直感……まさか盗聴器を仕掛けようとしたのにバレた?前までも苦労して設置したその日の夜には全部無力化されてたけど……嘘でしょ?)

 

 でも最近多いよなぁー何だろう?多いときは部屋に入った瞬間10個くらい同時に手錠を投げてる気がする。うーん?まぁ、そういうお年頃なんだろう~ってことでいっか!

 そんなこんなで準備をして家を出る……ふむ。相変わらず抱きついてくるけど、まぁいいや。当ててるなら問題ない!だって僕は悪くないもん!ちなみに家を出るときあの母親から「これを持って行きなさい」と袋に入った何かを手渡された。何だろう?まぁいっか。あの母親だし。

 

「お邪魔しまーす」

「おかえり。あなた」

「……?ただいま?」

 

 何だろう…………ネタ?遊びかな?有鬼子もこういうことするんだね~

 

「じゃあ、すぐに夕飯作るね」

「あ、一緒にやるよ~二人の方が早いでしょ~?」

「そうだね。私と風人君、夫婦の共同作業ね」

 

 ……ふーふ?いつからふーふになったんだろう……あ、多分遊びの延長だ!うん。きっとそうだね!全く……僕じゃなかったら気付かなかったよ~

 

「じゃあ、主菜の方は任せて~」

「うん。味噌汁とかそういうのはやっておくね」

 

 さっすが有鬼子だね~言わなくても通じてる。うんうん。

 そう思いながら僕は主菜……特に思いつかなかったので冷蔵庫のお肉とか野菜を使って軽く作ることにした。

 

「そこ!」

 

 肉を切っている最中。何かを感じた僕は懐に偲ばせておいた手錠を投げる。するとそこには有鬼子が……?あり?またやっちゃった?

 

「つい手が滑っちゃった~」

「…………今思い切り『そこ!』って聞こえたんだけど……」

「き、気のせい気のせい……あれ?」

 

 すると手錠と共に瓶のようなものが落ちていた。よく割れなかったなぁ……まぁいいか。きっと当たって落ちたのだろう……でも、どこに返せばいいか分かんない。持っておけばいいかな?何となくだけど、この瓶から危険な香りがするし。

 そんな感じで作ろうと戻ったタイミングで……

 

「やぁ!」

 

 また何か感じた僕は手錠を投げる。すると今度は有鬼子様の手に当たって……やらかした?やらかし案件?

 

「かーぜーと君?」

「ご、ごめんなさい!何か僕の第六感が……」

 

 と、僕は手錠の当たった彼女の手を見る。よく見ると人差し指の指先あたりが切れてるような……

 

「って有鬼子!血が出てるじゃん!包丁で切ったの!?」

「え?あ、こ、これは……」

「全く!それなら早く言わないと!」

 

 僕は彼女の手を強引に握って水道水でけがした部分を洗い流す。

 

「これでよしっと」

 

 そして絆創膏を付ける。

 

「後はそのままゆっくりしていてよ。僕が全部やるからさ!」

 

 僕はキッチンに戻る……あれ?でもいつ切ったんだろう?……うーん…………気にしたら負けだよね!きっとそうだ!

 

(……今……私のことを心配してくれた……。あぁその優しさ……私だけに向けてほしい。風人君の全てを私だけに……)

 

 まぁ、僕一人でも料理は全然できるわけで……うんうん。いい感じだ。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで夕食も終わり少し勉強した後、風呂に入ることになる。

 

「ふむ……」

 

 最近感じるこの違和感。何だろう……うん。分からん!誰か知らない?

 

「何故僕はこんなにも手錠を投げているのだろうか……?」

 

 いやね?最近こう……ビビッ!と来たときに口で何か言ってるのと同時に僕の手は手錠に伸びて投げている。抑えろって?いやね?何というか……脊髄反射的な?もうビビッ!って頭に来たときには既に手錠を投げるモーションに入ってる。それが一つや複数同時の時もあるけど……

 

「…………新手の病気か?」

 

 うーん。何が原因なんだ……!全然わかんないぞぉ……!僕の家だけの話かと思ったらここでもあったし…………はっ。実は殺せんせー?いやでも今は何も感じないし……殺せんせーがこんなスクープのネタ()、知ってたら密着取材とかいって近くに居るだろう。でも気配を感じないしなぁ……

 

「まぁいいや!」

 

 とりあえずお風呂から出る!分かんないものは分かんない!それでいいや!

 

「…………???」

 

 風呂から出ると、着替えは置いてある。当然だ。しっかりと持ってきたから……あれ?脱いだ服……?何か違和感を感じるけど……まぁ、洗濯機にしっかり入ってるしどうでもいっか。

 とりあえず服を着て~っと、そういやあの母親。一体何を渡して……

 

「…………」

 

 なるほど。アレをするときに使うやつだ。いや、普通渡す?まぁ、そんな展開にはならないだろうから無視しよ。

 

「お風呂出たよ~」

「うん」

 

 有鬼子の部屋に行く。すると何故か彼女は窓際に立っている……?何だろう。絵になるというか……何かが不思議というか。

 

「寒くないの~?」

「ちょっと風に当たりたかったの?」

「へぇ~そうなん…………っ!」

 

 な、なんだこれ……!急に眠気が……

 

 ドサッ

 

「……ふふっ。おやすみ。風人君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風人君が無事倒れたことを確認して私は瓶に蓋をし、充満しているであろうガスを取り込まないよう口元を押さえながら換気をする。

 奥田さんの話によると、これはスモッグさんという方と、その人が夏のホテルの件で使っていた室内用麻酔ガスを改良したものらしい。

 無色無臭。吸い込むと徐々に睡魔が襲い10秒以上吸い込めば立っていられなくなる。効果は30分から1時間程で短めだが、その間は何をしても目を覚ますことがないそうだ。

 

「ふふふっ…………」

 

 まさかあそこまで油断も隙もないとは思わなかった。でもいいよね?眠らせてしまえば私のモノだから。

 喚起もそろそろいいだろうし窓やカーテンを閉めておく。ないとは思うが万が一殺せんせーに入られるとマズいからね。

 そうしてからまずは彼をベットに押し倒そう。その後は手錠で彼の両手両足を拘束し封じてしまおう。

 後は目を覚ました彼の中に私を刻んでいく。徹底的に刻んで刻んで……ああ、想像しただけでもう……!

 倒れた彼をベッドの上まで運ぶ。そして彼から手錠を取り上げ、彼の腕に……

 

「そこまでだよ~おふざけは」

 

 付けようとしたとき、私の腕は彼によって掴まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして……!」

 

 彼女の言うどうしてというのは、どうして僕が動けるということだろうか?まぁ、その答えは単純だね。

 

「ダメだよ~最後まで確認しなきゃ♪」

 

 確かに今も眠い。だけど、堕ちる程吸い込んではいない。いやぁギリギリだったけど。実を言うと結構危なかったけど。

 

「でさぁ……ここまでのことをしたんだ。悪いけど僕は聖人君子じゃない。理由を吐いてもらおうか」

 

 怒ってるわけではない。彼女が僕を殺そうとした……ならまぁ怒るかもしれないけど、こんな教室で育った僕らだ。まぁ、殺すときに自分のベッドの上なんていう証拠が残りやすい場所では殺らないだろう。それに悪寒はするけど殺気は感じないし。

 そっと手を放し、少し震える彼女。悪いけど少し追い討ちをかけさせてもらおう。

 

「早く答えてよ♪…………僕がちょっと手の込んだゲームだって思ってるうちにさ?」

「…………23回」

 

 23?何の数字だろう。

 

「……今日、私以外のオンナと話した回数だよ」

「……………………」

 

 あまりのことに、言葉を失った。

 

「茅野さんと6回、ビッチ先生と4回、片岡さん、奥田さんと3回、中村さんと2回……」

「…………」

 

 ヤバい。想像の斜め上を行ってる……ウチの母親がカウントされてないのは置いといても……待って?何でそんな詳細に分かるの?

 

「昨日は19回、一昨日は27回、その前は……」

 

 呪詛を吐くように紡いでいく…………知らぬが仏……だったか。

 

「……え、えーと……その回数がどうしたの?」

 

 ダンッ!

 

 彼女から振り下ろされた拳が僕の頬を掠める。

 

ドウシタノ?今、それがドウシタノ?って言った?」

「…………言いました」

 

 ダンッ!

 

 再び僕の顔を掠める拳。

 

「ネェ、今日ワタシがアナタト学校でハナシタ回数はワカル?」

 

 すみません。所々カタコトで恐怖しかありません。

 

「…………10回くらいでしょうか?」

「4回よ!何で茅野さんの方が多いのよ!」

 

 いやーその分学校の外で話してるから……あ、ダメそうですね。そうでしたか。

 

「ワタシはね?カゼトクン。アナタにワタシ以外のオンナと関わるなとは言わない。話すなとも言わない。でもね……ワタシが一番じゃなきゃ嫌なのよ」

 

 …………あれぇ?もしかしてヤンデレ末期?

 

 ダンッ!

 

キ・イ・テ・ル・ノ?

「聞いてます……」

「反省は?」

「……していません」

 

 ダンッ!

 

 再び振り下ろされる拳。全て当たらないギリギリを攻められたものだが……うーん。何だろうね。いや、普段からも説教とかでたまーに暴力もあるけど……あれはその全面的に僕が悪いケースが多いから甘んじて受けている感じがする……。でも、何というか……今回ばかりは理不尽が過ぎると言うか…………うーん?

 

「そのカラダに刻まないとダメなようね」

「あぐっ……!」

 

 有希子が首筋に噛みついくる。そのせいで中断される思考。

 甘噛み?違うそんなもんじゃない。純粋に噛んできている……!

 その痛みで目が覚める。後、いい加減僕も頭にきた。彼女は自分が優位に立っているとでも思っているのだろうか?…………舐めるのも大概にしてほしい。

 その痛みは長く続いたように感じられた。彼女が口を放す……きっと跡になってるだろう。下手すれば傷になっているだろう。だが、そんなのどうでもいい。

 

「これで分かった?」

「…………ああ、そうだね」

 

 ヤンデレヒロインの方が強いのはよくあることだろう。だがな。僕はタダで負けてやれるような純粋な主人公じゃねぇんだよ。

 

「…………目、醒めたわ」

 

 彼女が支えとしている腕を振り払う。

 一瞬バランスを崩す有鬼子。その隙に上半身を起こし、彼女の身体を抱き留める。そして足の力と腹筋とかを使い反転。彼女の背中からベッドに向かって押し倒す。

 

「…………いつから僕が弱いと錯覚してた?いつから一方的に虐げることが出来ると錯覚してた?…………勘違いも大概にしろよ」

「…………っ!」

 

 震えている理由は僕への恐怖かそれとも嫌われる事への恐怖か。…………はぁ。

 僕は彼女の顔に近づき、その唇に自分の唇を重ねる。

 

「ん……」

 

 五回重ねて、その後はわずかばかりに開いた彼女の口の中に自分の舌をねじ込んで蹂躙していく。

 

「んん……」

 

 お互い酸素を求めるために一瞬だけ唇を放すがそれでも僕は何度もキスをし続ける。次第に彼女の抵抗も弱くなっているが気にせずに続ける。

 そしてキスをし終える……当然ながらこれだけ激しくキスをしていたんだ。漏れる吐息、その跡と言わんばかりに、僕と有希子の間にわずかに光る橋のように線が結ばれる。

 

「はぁ……はぁ…………」

 

 顔を真っ赤にして酸素を求めるために息をする彼女。

 

「……23回」

「はぁ………はぁ………え?」

「……今僕が有希子とキスした回数だよ」

 

 連続23回分のキス。しかも深い方を途中からやってたから、僕自身も割と酸欠気味だ。

 

「僕は有希子。君のことが好きだよ」

 

 多分僕自身も割と末期だと思う。だって彼女のこんな一面を見てもなお、この気持ちは変わらないのだから。

 ただ、僕は尻に惹かれるのは好きじゃない。一方的に優位をとられるのも好きじゃない。

 

「でも、君が僕の気持ちに不安を抱くなら…………身体で分からせてあげるよ」

 

 ヤンデレヒロインの特徴、ゲームとか二次元のことを見る限り、いろいろなケースがある。

 彼女の場合は圧倒的な不安だと思う。酷い話だが付き合い始めて二ヶ月くらいは僕から『好き』なんて言ったことない。身近に可愛い女子も多く、そのせいでいつか捨てられると思ったのだろう。それが溜まりに溜まって彼女を壊してしまった。多分僕の責任だ。なら、僕が責任を取らないとね。

 

「昨日は19回だったよね……じゃあ、次は昨日の分だよ」

「ちょ、ちょっと待……んんっ!」

 

 遮ろうとする彼女を無視してキスをする。徹底的に蹂躙していく。

 

 

 

 

 

 君が不安にならないよう、その身体に、骨の髄まで刻み込んであげるから。




この後はご想像にお任せします。
怖いのはヤンデレ有鬼子か、それとも風人か……。


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基礎の一学期
転校の時間


「急な話だが転勤することになった」

「……は?」

 

 思い返すと親のこの一言がきっかけだった。

 

「と言ってもそこまで遠くじゃない。だが、引っ越すつもりだからお前は転校することになる」

 

 三年生も始まったばかりの4月終わり。クラスのメンバーを覚えようかと思った矢先のことだったね。

 

「まぁ、何でもいいけど~。それより転校先は~?」

「椚ヶ丘中学だ」

 

 最初はこう思っていた。『椚ヶ丘中学?あそこって進学校じゃなかったっけ?中高一貫の』と。まぁ、そこから手続きやら転入試験やら色々済ませた。しかし、僕が配属されたクラスの教室の立地的に何かがおかしいと悟った。

 

「はぁ……朝から山登りかよ……とほほ~」

 

 僕は運動部じゃないので朝から山登りする趣味はない。

 

「おはようございます!君が今日から転校してくる和光(わこう)風人(かぜと)君ですね?」

 

 ゲームをしながら山を登ってると目の前に黄色いタコが現れた。もう一度言う。黄色いタコが現れた。

 

「…………」

 

 椚ヶ丘中学、三年E組に配属が決まってすぐのことだった。僕は防衛省の人に呼ばれ、今、この三年E組が何をやっているのかを聞かされた。

 要するにこの黄色いタコ、殺せんせーの暗殺である。

 賞金は100億。日々、僕の新たなクラスメートたちは暗殺に勤しんでいるようだ。

 じゃあ、そもそも何故このタコに100億もの賞金が掛けられているのか。春休みに起きた世界を震撼させるような事件。月爆発事件の犯人だからだ。まぁ、月爆発と言っても月の七割方が蒸発して、三日月になっただけなんだけどね~いや、その時点で凄いか。てか、ヤバい。

 

「ありゃ、驚かせてしまいましたかね」

 

 さぁ、どうする。

 

 ▶戦う

  逃げる

  会話

  アイテム

 

 よし。

 

「おはよ~コロセンセーだよね~。本当に速いんだね~。マッハ20……だっけ?」

 

 戦っても勝てないし、逃げるのは不可能。よし、会話だね。

 で問題はなぜ賞金首のタコがここの教師をやっているか。

 このタコは来年の三月に地球を爆破すると予告。これは各国の首脳たちや本当に国のトップしか知らないトップシークレット。まぁ、それを実行される前に打った手がこのタコの暗殺。しかしこのタコは速い。今まで何人もの暗殺者を送り込んだが全員手入れされて帰って来たそうである。

 そんな最強で殺すとかムリゲーなタコは三月まで逃げれば勝ち確定なのに何故か椚ヶ丘中学3年E組の担任を引き受けたいと申し出たそう。政府は生徒に危害を加えないことを条件に承諾。理由としては、教師として毎日教室に来てくれるのなら監視可能だし、毎日近くで三十人近くの人間がタコの命を狙える点。

 で、これから通う僕のクラスメートは毎日のように暗殺を仕掛けながら授業を受けているそうだ。

 

「はいそうですよ和光君。それと、歩きながらゲームはダメです。というかそもそも学校にゲーム機を持ってきてはいけません。没収します」

 

 なるほど。普通の教師みたいなことを言うんだ。

 

「あーセーブしたらね~」

 

 まぁ、ちょうどキリが付いたし、セーブっと。

 

「は~い。あ、放課後には返してね~。これからよろしく~」

「やれやれ。君も中々扱いにくそうな……」

 

 グチャ コトッ

 

 ゲーム機を持った瞬間、持った部分の殺せんせーの腕は溶けた。

 

「ふむふむ~。本当にこの武器殺せんせーに効くんだね~」

 

 ゲーム機に対殺せんせー用のナイフとか対殺せんせー用のBB弾を細かくしたやつを張り付けてみたけど普通に効いた。

 

「どこまで離れてるの~?僕は()()何もしないよ~?警戒しすぎだよ~」

 

 今は特に暗殺する気はない。まずはクラスメートに馴染むことが大切だからね!

 

「あ、ゲーム機に付いてる武器とか外してキレイにしてから返してね~」

 

 さぁ、今日から頑張りますか!おー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君は和光風人君だね。俺は烏間だ。改めてよろしく」

「えーっと、ここでは烏間先生でいいのかな~?よろしくお願いします~」

 

 現在職員室。朝のHRで僕は紹介されるらしいから、それまでここで待機だ。

 

「早速だが朝のアレは見せてもらった。君で二人目だ」

「それってダメージを与えたのがですか~?」

 

 最初の人は誰だろう?ちょっと気になる。

 

「さて、事情は分かってるな」

「えぇ、最初聞いた時は驚きましたよ~」

 

 転校が決まって、E組配属と分かってすぐのこと。何か理事長室に呼びだされたら、防衛省の人が来て色々説明してくれた。まぁ、月爆散事件の犯人が黄色いタコとは誰も思うまい。

 

「というか、何で殺せんせーなんですか?イエロータコじゃダメなんですか?」

「生徒の一人が『殺せない先生』ということで『殺せんせー』にしたそうだ」

 

 そっちの方がイエロータコより呼びやすいか。親しみやすそうだし。

 

「君にも武器は支給してあると思う。他にも欲しいものがあったら可能な限り手配しよう」

「はーい。というかこの武器本当に効くんですね~」

 

 そう言って、手の所でくるくると回していたナイフを自分の胸に刺す。

 

「人間には全くの無害。ただのゴムナイフにしか見えないのにね~。どういう構造だろ~?」

「そこは企業秘密だ」

「ほーい」

 

 にしても暇だなぁ……

 

「そう言えばここの教師は烏間先生と殺せんせーしかいないの~?」

 

 どうやらE組というのは本校舎から隔離されていて、教師すら別枠だそうだ。まぁ、暗殺のことがバレにくいと言う点ではいいかもね。

 

「今はな。国からもうすぐ一人くるとのことだが詳しくは聞いていない」

「ふーん」

 

 とりあえず、名簿でも見せてもらおう。だって、普段のクラスメートより早く名前を覚えておかないと色々支障が出るだろうし…………ん?

 

「この名前……」

「どうかしたか?」

「いえ、何でもありません~」

 

 うーん。知り合いは居ないと思ったんだけどなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日のE組はいつもよりソワソワしていた。

 

「ねぇね。転校生ってどう思う?」

「烏間先生に聞いたんだけど男子ってことしか分からなかったよ」

「えーイケメンかなぁ……顔写真とかなかったの?」

「ううん。でも、この時期に転校ってさ」

「やっぱり暗殺者。国から送り込まれた刺客ってところかな」

 

 至るところで転校生(和光)の話題で持ちきりだ。

 

「うーん。カルマ君はどう思う?」

「別に俺としては面白い奴だと嬉しいな。これからお隣さんだし」

 

 そう言ってカルマは自分の左隣の空席を指す。

 

「あはは……」

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 そんな期待や思いが入り混ざる中、始業のベルは鳴り殺せんせーが入ってくる。

 

「おはようございます」

 

 一通りの出欠確認を終えた後、

 

「では今日から皆さんの新たな仲間を紹介します。これから一年。よく遊びよく殺しましょう」

 

 そう言って開けられるドア。しかし、誰も入ってこない。

 

「あれ?入ってきて下さーい」

 

 殺せんせーが声をかける。しかし、反応は一切ない。

 思わず殺せんせーが廊下に出ると、

 

「にゅや!?立ったまま寝てるぅ!?」

 

 聞こえてくる殺せんせーの声。

 

「起きて下さい!自己紹介ですよ!」

 

 この時E組生徒は思った。

 

(((だ、大丈夫かそいつ……)))

 

「ふぁぁああああ。あ、皆おはよ~」

 

 そしてその転校生……和光風人は欠伸をしながら軽く入ってきた。

 

「僕は和光風人です~。前の中学は……まぁ、隣町のどっかだね~。親の転勤っていう素晴らしい理由でここに来ました~よろしく~」

 

 のんびりとした調子で自己紹介をする。そして彼はクラスメートの顔を見渡して、

 

「あ、有鬼子。おひさ~」

「う、うん。久し振り風人君」

 

(((え?あの人神崎さんの知り合い?)))

 

「にゅや。和光君と神崎さんは知り合いでしたか」

「うん~実は――」

「風人君。ちょっと……」

 

 神崎さんに手招きされ寄っていく和光。一言二言話を終えると。

 

「せんせ~僕の席あそこ~?」

「はいそうですよ」

 

 殺せんせーに自分の席を確認してそこに座る。

 

「ヌルフフフ。さぁ、今日から和光君も三年E組の一員です。ちなみに朝、彼に触手を一本やられましたよ。これからが楽しみですね~では、号令を」

 

 こうして和光風人の暗殺教室は始まったのだった。



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交流の時間

 朝のHRが終わって休み時間。とりあえず昼寝をしようと思ったら、なんか僕の周りに集まってきた。色んな質問をされ、答えるという作業を4回繰り返し、授業を4時間受けて、現在昼休み。

 

「和光君」

「えーっと、君は潮田君だね~。何か用かな~?」

 

 僕より少し背が低い、中性的な外見をしている子が話しかけてきた。

 

「お昼一緒に食べない?」

「うん~いいよ~」

「なら、俺も混ぜてくれない?」

「赤羽君か~いいよ~」

「ありがと。後、俺のことはカルマでいいよ。そっちの方が呼ばれ慣れてるから」

「じゃあ、僕も渚で」

「カルマに渚ね~。僕も風人でいいよ~」

 

 そんな感じでお互いに昼食を準備し、三人近くで食べ始める。

 

「そういやカルマ~。君でしょ?一番最初に殺せんせーにダメージ与えたの~」

「へぇ~誰から聞いたの?」

「ううん~。授業とか見ていたら何となくカルマじゃないかな~って、違った~?」

「合ってるよ」

 

 一番後ろの席でこのクラスを眺めると、おそらくカルマが一番頭がキレる。……というか、殺せんせーの授業分かりやすいなぁ……まぁ、数学とか中学の範囲外で追いつくの大変そうだなぁ。

 

「そう言えば風人君もダメージ与えたんでしょ?どうやったの?」

「ゲーム機に武器を細かくしたのを貼り付けて~後は没収される時に勝手に触手が溶けたって感じかな~」

「げ、ゲーム機持ってきたの?」

「うん~そうだよ渚~。どうも前の学校の癖が抜けなくてね~」

 

 前も登下校平然とゲームをやっていたが……山の中は一応ここE組のテリトリーだし、まずかったかな?

 

「カルマはどうやってダメージ与えたの~?」

「ん?手に殺せんせー用のナイフを刻んで貼り付けて握手した。風人とほとんど同じだよ」

 

 ふむふむ。その手もあったか。

 

「面白いこと考えるな~というか、次体育だけど何するの~?サッカー?バスケ?バレー?」

「戦闘訓練」

「何それ~凄い楽しそう~」

 

 こういうの憧れるよね~

 

「そういや、風人君。神崎さんとは知り合いなの?」

「うん~小学校が一緒だった~」

「へぇ、じゃあ何でここに進学しないで隣町の方に行ってたの?ここの方が近いだろうし何かと便利じゃん」

「親の転勤でね~まぁ、また転勤して戻ってきたんだけど~」

「そういえば、神崎さんの名前を呼んでる時イントネーション。微妙に違った気がするけど……」

「気のせいだよ~それか僕が独特なだけだよ~」

 

 まぁ、こういう風に言っておけばいいかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして五限。体育、戦闘訓練の時間である。

 

「では、ナイフの素振り始め!」

『イチ、ニ、サン、シ』

 

 準備運動がこれだからな……普通の体育とはかけ離れているよね!

 

「ではいつも通り。模擬暗殺を始める。和光君は最後にやるから見ておいてくれ」

「はーい」

 

 すると、烏間先生相手に模擬暗殺?が始まる。

 各々に対殺せんせーナイフが渡され、ペア、あるいは個人で烏間先生にナイフを当てようとする……が、掠りすらしない。え?あの人やっぱヤバくね?

 

「じゃあ、最後和光君。君の現時点での実力が見てみたい。そのナイフを一回でいい。俺に当ててみろ」

「へーい」

 

 皆が座ってこっちを見ている。何だろう。体育のテストと思えばいいのかな?というか先生。一回でいいって、さっき皆当てられてなかったですよね?

 

「烏間先生~ナイフって一人何本まで?」

「何本でも構わないが……」

「まぁ、二本でいいかな~」

 

 ということで、一本借りて二刀流。いや、ナイフだから二ナイフ流だね~

 

「じゃあ、ひとまず~」

 

 ナイフを二本とも投げつける。が、当然のように叩き落とされる。

 

「そう来なくっちゃ!」

 

 投げると同時に距離を詰める。こんな強い人と戦えるなんて普段じゃ味わえない。

 

「へぇーやっぱ、自衛官というのは凄いんですね~」

 

 攻撃を仕掛けるも、全て躱されるか、受け流されている。だが、生徒相手。しかも体育の授業ってことを考えると今出してる力は一割にも満たないはず。さぁ、どうしよう。というか、僕ってどうなったら負けなんだろう?

 

「まぁいいか!」

 

 落ちている二本のナイフのうち片方を上に投げ飛ばし、そのまま足を振り抜きもう片方を烏間先生の元へ。当然砂とかも多少は巻き上がるが気にしない。さぁ、接近戦第二ラウン――

 

「そこまでだ」

 

 ――ドと行こうとした時、僕の首元にさっき蹴り飛ばしたナイフが添えられていた。

 

「なるほど~」

 

 腕を掴んで動かそうと試みるもまるで石像のように動かない。

 

「これは僕の――」

 

 すると、烏間先生の肩に何かが落ちてきて当たる。

 

「「「え?」」」

「――引き分けでいいですかね」

「そうだな」

 

 そう言われると目の前の腕が消える。

 

「なるほど。完全に君が投げたナイフを意識から外してしまった。俺もまだまだってわけか」

「そんなことないですよ~。偶然です」

 

 たまたま投げたナイフがたまたま意識から外されてたまたま当たった。それだけのこと。別にこんなの勝ちにも入らない。

 

「へぇーやるじゃん風人」

「まぁ当てればよかったからね~僕、近接戦よりこういうのの方が得意だから~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 六限は社会のテストだった。特に何の苦なく埋め、隣のカルマと話してたら怒られた。いいじゃん小声なんだから。

 とまぁ、放課後。ゲームも無事キレイにして返され、後は下校。

 

「ふぁぁああ。今日も疲れた~」

「お疲れさま」

 

 ただいま有鬼子と帰っている。

 何で?と言われたら、まぁ回想するほどでもないけど、『一緒に帰りませんか?』と言われて『いーよー』と返しただけである。尚、杉野君筆頭に何か怨めしいような、羨ましいような感じで見てきたけど気にしてない!

 

「風人君って、普段からあんな感じなんだね」

「そういうあなたはまるで別人だね~」

 

 有鬼子とは小学校が一緒だったわけではない。あれは嘘。ただの虚言。

 

「ねぇ、風人君」

「……ほへ?」

 

 急に肩を掴まれたように思えると、背後の壁に追いやられ、首の両隣に手が、股下のところに足が添えられ、向こうの膝が壁に付いている。

 

「……ふむふむ。これが壁ドンってやつか~」

 

 まさか、リアルで経験することになるとは。しかも同じクラスの少女から。

 

「で~僕を逃がさないようにしてどうするつもり~?」

「……言わないで」

「何を~?」

「……私と風人君の本当の出会った時のことを……お願いだから言わないで」

「……なるほどねぇ」

 

 彼女との初めての出会いは中学二年生の夏。ゲーセンで会ってる。そこからまぁ意気投合ってわけじゃないが、色々あって、一緒に居たが、夏休みが過ぎてからは今日まで連絡も取ってなければ会ってすらいない。

 そう。本来ならあそこで僕と有鬼子の関係は切れるはずだった。

 

「言わないよ。約束する。誰にだってそういう時期ぐらいあるでしょ?自分を変えて、親とかからの圧力を逃れたい時期が」

「……本当に?」

「破ったら何でもするよ。煮るなり焼くなり好きにしたら?」

「……分かった」

 

 そういうと納得してくれたのか手を――

 

「……あれ~?手を放してくれると助かるんですけど~。というか足も」

 

 どうやらまだ終わらないらしい。

 

「あと、呼び方変えて欲しいな」

 

 すると笑顔で言ってくる。大抵の男ならこのシチュエーションですぐ落ちるだろう。

 壁ドンに美少女の笑顔。うんうん。本当に――

 

「え?やだ~」

 

 ――普通の人ならコロッといきそうだけど。まぁ、僕には関係ないかな~。

 

「呼び方変えて欲しいな」

「断る!」

「変えて欲しいな」

「有鬼子怖い怖い。笑顔が怖い。というか、顔近くない?」

 

 そりゃあ、互いの息が当たる距離だもん。下手すればゼロ距離。すると、それに気付いたのか少し離れた。

 

「分かったよ~」

「そう?ならよかっ――」

「じゃあ、ビッチで」

「かーぜーとー君?」

「…………ごめんなさい。マジで心の底からごめんなさい」

 

 こ、この僕が恐怖で震えてるだと!え、笑顔であんな恐怖を与えられるのか!?

 

「……はぁ。分かった。じゃあ、変えなくていいよ。呼び方」

「え?本当?」

「うん。だって、これ以上おかしな路線に行くと収集つかなくなりそうだもん」

 

なんか酷い。

 

「というか、前見たとき思ったこと言っていい~?」

「……どうぞ」

「私服のセンスなくね?」

「…………え?そこ?」

「うん。そこ~」

 

 まぁ、髪の先端だけ色が変わってるとかは染めたんだろうしどうでもいいけどさ。

 

「あれはバレないようにするためだからね。普段はもっと違う服を着ているよ」

「と供述しており、実は私服のセンスがないことを隠しているのだった~」

「風人君?調子に乗りすぎじゃない?」

「…………」

 

 いやねぇ。本当にあの時はツッコミを入れなかったと思うけど、あの服のセンスはないと僕は思うんだよ。うん。ましてやクラスで清楚系美少女として通しているなら尚更。

 

「なら、今度の休日一緒に出掛けましょう。私がここを案内するね」

「あ、間に合ってるので~。後、僕の休日は忙しいから~」

 

 一にゲーム二にゲーム。三、四にゲームで五もゲーム。忙しいな~本当に。

 

「じゃあ、駅前に朝の九時ね」

「あれ~?僕忙しいって言わなかったっけ~?」

「携帯の電話番号とか諸々も交換とかやっておいたから」

「おかしいな~。何でこうなってるんだろう」

「じゃあ、よろしくね」

「拒否権は~?」

「え?あると思ってるの?」

 

 この日。僕は学習しました。有鬼子は怖いと。学校の中ではザ・優等生。優等生を演じるって大変そうだなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヌルフフフ。この二人が今後。どう進展していくか楽しみですね~。それにしてももう少し早くから来るべきでしたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時の僕は気付かなかった。タコがこの光景を見ていたことに。



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休日の時間

 あれから僕も学校?というか異様な光景に慣れ始めて、そしてやってきました休日。土曜日はゲーム三昧で過ごしたけど……

 

「ふぁぁあああ。……ゲーム~」

 

 現在8時50分。場所、駅前。うん。前言ってたお出掛けだね。

 あれから、体育では何か割と上位グループに認定されたり、勉学も殺せんせー曰く『この分なら、テストまでに全教科追いつくことも不可能じゃないですね~ヌルフフフ』とか言われた。え?僕、人の倍以上やらないといけないじゃん。嫌だよ。面倒だし。

 後は、渚とカルマとよく話してる感じだし、有鬼子とは放課後は毎日のように一緒に帰ってる。というか、割と家が近いことが発覚した。じゃあ、何で駅前集合なんだろう。まぁ、いいけど。あぁ、一緒に帰ってる理由だけど、彼女曰く『色んな意味で危なっかしい』そうだ。失敬な。ゲームしながら歩いて電柱に頭をぶつけるくらいしかやってないのに。

 

「ごめん風人君。待った?」

 

 時刻は9時ジャスト。ふむ。約束の時間通りか……よし、ここは男らしく。

 

「うん。10分待ったかな~」

 

 誰が『ううん。待ってないよ』とか言うと思った?砂糖より甘い考えだよ!

 

「……そこは『全然待ってないよ』とか『今来たところだよ』とか、そういう嘘でもね」

「甘いね~。それがあるのは二次元だけだよ~」

 

 僕がそんなこと言うわけないじゃないか。

 

「で?何処行くの?ゲーセン?ゲームショップ?アニメート?」

「待って風人君。今日の目的忘れてない?」

「目的~?ゲーセンで遊ぶ!」

「違うでしょ?」

「えー違うの~?」

「いい?まず、今日はこの前風人君が私の私服のセンスが悪いという話から始まりました」

「あー」

 

 そーいえば。そーだったね。

 

「なら言うことがあるでしょ?」

 

 そう言って僕の正面に立つ有鬼子。ふむ。言うことか。

 

「時間ピッタリに来るなんて律儀だね!」

「そうじゃないでしょ?」

「え~?」

「え?じゃないの」

「……あ、今日もいい天気ですね~?」

「誰が天気の話をしてって言ったかな?」

「……うーん。今日も可愛いね?」

「……疑問形じゃなかったらもっと嬉しかったんだけどなぁ……って違う違う」

 

 ふむ。性格を褒めても天気を褒めても容姿を褒めてもダメか。一体彼女は何を求めてるんだろう?

 

「逆転の発想か……」

「え?」

「この雌豚が主人に逆らうんじゃない!」

「(ピキッ)カーゼート君?」

「……あ、ごめんなさい。マジで本当にごめんなさい。褒めて駄目なら貶せばいいと思ったんです。あ、いたた。頬をつねらないで下さい」

「……はぁ。じゃあ、風人君。私の服装見てどう思う?」

 

 服装?

 

「うん。凄い似合ってるよ。清楚な感じが出て……うん。前見た時より可愛いさとか綺麗さが出てるよ。やれば出来るじゃん♪」

「ありがとうね。でも、それを最初に言ってほしかったんだけどなぁ」

「あーそういうこと~」

 

 ふむ。やはり三次元(リアル)は難しい。

 

「じゃあ、行こうか」

「はーい」

 

 歩き出す僕と有鬼子。どこ行くかは全てお任せすることにしよう。確か案内するとか言っていたし。

 

「でも意外だね」

「何が~?」

「風人君の普段のマイペースさだと、三十分くらい遅れて来るんじゃないかなって思ってたんだけど、しっかり時間前に来れたんだね」

「失敬な。僕はその辺はしっかり出来ているよ~」

「後は、服装がジャージとかいかにもニートなゲーマーって感じの服装とかで来ると思ったんだけど、服も髪も整えられているね」

「まぁね~」

 

 ふっ。さすがに僕にそんな格好で女子と出掛けられる度胸はない!……ってのは冗談だけど。

 

「去年会った時も服はしっかり整えられていたでしょ~?」

「そうだったね……去年から余計な一言を言う癖は治ってないようだけど」

「それは~仕方なし~」

「ところで、何で去年あのゲーセンにいたの?隣町に住んでいたんでしょ?ここから電車に乗っていくところだし……あそこは風人君の家からもそこそこ遠いと思うんだけど……」

「えーっと……道に迷った?」

「ふふっ。どこに向かったら遠くのゲーセンにつくの?」

「うん~。最初はゲームショップを求めて走り回っていたんだけどね~。途中から自分の場所が分からなくて気付いたらあのゲーセンで遊んでた~」

「走り回っていたって……あれ?あの時自転車なかったよね?」

「え?文字通り自分の足で走り回っていたんだよ~」

「意外と活動系?」

 

 うーん。休日はゴロゴロしてるし~そういうことはないはずなんだよね~

 

「じゃあ、久し振りにゲームで勝負しようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、すげぇ。この二人ハイレベルだぞ」

「何がどうなってるんだ……!」

「女の方も男の方もどちらも譲らねぇ……!」

 

 僕らがやってるのはよくある格ゲーだ。筐体を挟んで僕と有鬼子は向かい合わせになっている。

 

「「…………」」

 

 周りに集まってきたギャラリーはうるさいが、僕らは無言。一言も話さない。

 そういや、有鬼子との出会いってこんな感じだったけ?

 

「他事考えていたでしょ」

「な……!クソ」

 

 台越しに話しかけてくる有鬼子。

 出会った時のことを思い出そうとした瞬間、僕の操作するキャラが有鬼子の操作するキャラからかなりのダメージを貰ってしまう。お陰で均衡していた体力というかそういうものが一気に傾く。

 

「……ふぅ。私の勝ち」

「あぁ……また負けた~」

 

 結局、あそこから有鬼子が何かミスしたりすることもなく、普通に体力を0にされ、負けた。そういや、出会った時も負けたっけ?

 

 パチパチパチ

 

 すると、気付いたら周りにいた人たちに拍手されてる。あれ?こんなこと普通なくね?

 

「あはは……行こうか~」

「う、うん」

 

 あまりにも恥ずかしいというか、何というか。何とも言えない気持ちになったので有鬼子の手を引いて台から去っていく。

 

「……手」

「あ、ごめん。嫌だった~?」

 

 思わず手を引くために握ってしまったけど、ちょっと軽率過ぎたかな。

 

「ううん。このままでいいよ。温かいね。風人君の手」

「ありがと~」

「でも、温かいってことは心は冷たいってことかな?」

「うわぁ~。二言目が酷いなぁ~。そういう有鬼子の手も温かいよ~」

「ふふ。私は手も心も温かいでしょ?」

「心……温かい?」

 

 それはネタで言ってるのだろうか?

 

「温かいでしょ?」

 

 凄い力を込めて握られる……が。

 

「力を込めても全然痛くないね」

 

 これっぽっちも痛くない。

 

「でも、相変わらず風人君強いね」

「勝った人に言われてもね~」

「私が本気でやって、拮抗する人なんてあんまり居なかったんだよね」

「だって異常に強いじゃん~。張り合う人が沢山いたら泣けてくるよ~」

 

 本当に、有鬼子にはあんまり勝てない。勝ったことは一応はあるけど。

 

「あ、コレやろ~コレなら絶対に勝てるよ~」

「えぇー……いいけど」

 

 そう言って、僕らは一つのゲーム台の前に立つ。

 そのゲームからはボクシンググローブのようなものがあり、それを殴ってその威力とかで点数が出るものだ。まぁ、殴る方もボクシンググローブを付けるんだけど。

 とりあえず、お金を入れてグローブを嵌める。

 

「じゃあ、僕からね……やぁ!」

 

 出た点数は92点。100点満点で出るらしいから結構高めに出た。

 

「はい。次有鬼子ね~」

「うーん。風人君のそういうところ子どもっぽいよね。力で勝てないよ」

「ふふん。さっき負けたお返し~」

 

 何だかんだ言いながらもグローブを嵌め始めている。

 

「そういえば、去年より背伸びた?去年私より小さかったから」

「うーん。多分~」

「まぁ、男の子だもんね。成長期だろうし」

 

 そして、お金を入れる。

 

「有鬼子も大きくなったんじゃないの~?」

「私?私はそんなに変わってないはずだよ」

「胸が」

 

 ドゴッ

 

 出た数値は何と驚異の100点。ふむ、胸囲だけに驚異の点数……

 

「風人君?正座」

「え?あ、ごめん――」

「正座」

「その――」

「正座」

「……はい」

 

 黙って正座をする。見上げると有鬼子がまるでゴミを見るような目で見下してきた。

 

「いい風人君?」

 

 この時ゲーセンに来ていた人々は思った。

 

(((あの子笑顔なのに凄く怖い……)))

 

 何と有鬼子の怒りは周囲の人すら怖がらせてしまうらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お腹すいたね」

「はい。そうでございますね。有鬼子様」

 

 あの後、ゲーセンで正座+説教というダブルパンチを喰らった。なお、途中で『僕は貧乳も好きだよ』と恐る恐る言ったところ、説教が延長し、気付けばお昼時である。

 後はあのマシーンが故障じゃないかという話になっていた。曰く『普通の人では100点出ないはずなんだけどなぁ』とのこと。僕個人としてはマジで故障であってほしい。

 まぁ、そんなこんなで近くのカフェで食事をすることになった。

 

「誰かさんを怒ったせいでね」

「誠に申し訳ございません」

「いいよ。普段のストレスもついでに発散出来たから」

 

 え?それって酷くね?

 

「ご注文の商品です。こちらで以上ですね?」

「はい」

「それではごゆっくり」

 

 僕らが頼んだのはサンドイッチセット。というわけで、一つ食べる。

 

「おいしいね~」

「そうだね」

「ここからどうするの~?」

「うーん。どこに行きたい?」

「ゲーム」

「……分かった。ゲームショップに行こうか」

 

 そして、食べ終わってゲームショップに行ったり、どっかの公園に行ったり、まぁ色んな場所をめぐって、

 

「じゃあ、また明日」

 

 長いようで短い一日が終わっていった。




一応言っておきますと主人公はMではありません。
まぁ、主人公がどうあがいても尻に敷かれそうな気はしますが……


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大人の時間

 転校して来て、ここの生活にも慣れたと思った時、椚ヶ丘中学3年E組に新しい教師が赴任してきた。

 

「イリーナ・イェラビッチと申します。皆さんよろしく!」

 

 なるほどね~。烏間先生が言っていたのはこの人かぁ~。えーっと……

 

「カルマ~。あの人なんて名前だっけ?」

「ん?イリーナ・イエラビッチだよ」

「ほう」

 

 イリーナ・イエラビッチって言うのか……略してビッチだね!で、そのビッチは 殺せんせーの触手に胸を当てていた。ふむ。名前だけでなく普通にビッチか。

 あれはいわゆる色仕掛け。ハニートラップと言うやつだね!しかも殺せんせーは普通にデレデレしている。なるほどなるほど。僕ら男ではあんなこと出来ないや。

 

「本格的な英語に触れさせたいとの、学校側の意向だ。英語の半分は彼女の受け持ちになるが文句は無いよな?」

 

 烏間先生はそう言う。でも、僕らはそれを鵜呑みにするほど馬鹿じゃないよ。あの先生の正体、それはプロの暗殺者だね~。おそらく、色仕掛け専門の。

 

「仕方ありませんねぇ~」

 

 なお、殺せんせーというタコは、ビッチの巨乳、あの角度から見えるであろう谷間を見て、顔色を文字通りピンクに染め、普通にデレデレだった。あ、殺せんせーってよく顔色が文字通り変わるらしいって渚が言ってたよ。

 後、タコをベタ褒めするビッチを見て、僕らは心の中でツッコミのオンパレードだったことも記す。いや色々とあり得ないからね。うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み。

 

「へいパス!」

「へい暗殺!」

 

 僕らはサッカーをしながら暗殺していた。ボールを誰かに渡したら暗殺を仕掛ける。銃でもナイフでも可。これが割と楽しい。

 

「へいパス!」

「へい暗殺~」

 

 とまぁ遊んでいると、

 

「殺せんせ~」

 

 ビッチがやってきた。

 ビッチによると、『おら、ベトナムの本場のコーヒー飲みてぇから買ってこいや』とのこと。え?主観入りすぎだって?まぁ、伝わればいいでしょ伝われば。

 で、殺せんせーは顔色をピンクにして、ベトナムに飛んでった。グッバイせんせー。

 

「で、えーっとイリーナ先生?授業始まりますし、教室戻ります?」

 

 ちなみに、次は英語の授業だ。磯貝君がビッチに言うと、ビッチは人が変わったように言う。

 

「はっ、授業?各自適当に自習でもしてなさい」

「……え?」

 

 すると、タバコを一服。そして、

 

「それとファーストネームね気安く呼ぶのやめてくれる?あのタコの前以外で教師演じるつもりないし……『イェラビッチお姉様』と呼びなさい」

 

 なるほど~。

 

「……で、どうすんの?ビッチねえさん」

「そうだよ~。ビッチねーさん」

「略すな!!」

 

 え?呼びやすくない?ちなみに最初に言ったのはカルマで、僕は二番目だ。

 

「ビッチねえさん。アンタ殺し屋なんでしょ?クラス総がかりで殺せないモンスター。どうやって殺すつもり?」

「そうだよビッチねーさん。見たとこアンタは色香で惑わして隙をついて殺すタイプ。相性は良くないんじゃないの~?」

「ガキ共が。大人には大人のやり方があるのよ。潮田渚ってのはあんたよね?」

 

 そう言って、ビッチねーさんは渚に普通に近づいてそのまま唇を奪った。

 

「なぁーーーーーー!」

「「へぇー」」

「ん!?んん!?!ん!?」

 

 叫ぶ茅野さん。観戦する僕とカルマ。被害者渚。容疑者ビッチ。

 

「後で教員室にいらっしゃい。アンタの調べた情報を聞いてみたいわ」

 

 そして、地面に尻をつく渚。

 

「他にも有力な情報を持ってる子は話に来なさい。いいことしてあげるわよ。女子には男を貸してあげるし、技術も人脈も全てあるのがプロの仕事よ」

 

 そういうと、武器を携えた男三人がビッチねーさんの傍に立つ。

 

「後、少しでも暗殺の邪魔をしたら…………殺すわよ」

 

 わーこわー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、教室。ビッチねーさんは自習と書いて、後はタブレットを見るだけ。ん?僕はって?

 

「すやー」

 

 のんびりしている。とりあえず、渚に情報を聞いたらしく、もうあの人の頭の中では殺せんせーを殺すことしかないな~。

 

「なぁービッチ姉さん。授業してくれよー」

「そうだよビッチ姉さん」

「一応ここじゃ先生なんだろ。ビッチ姉さん」

 

 後、ビッチねーさんって呼び方がこのクラスで統一された気がする。誰だよ、最初に先生のこと、ビッチねーさんとか呼んだやつ。……あ、僕らか。

 

「ああもう!ビッチビッチうるさいわね!まず正確な発音が違う!アンタら日本人はBとVの区別も付かないのね!」

 

 区別したうえでそう呼んでるんだけどねぇ~少なくとも僕らは~。

 

「正しいVの発音を教えて上げるわ!まず歯で軽く下唇を噛む!ほら!」

 

 そう言われ、実践する僕ら。

 

「そうそう。そのまま一時間過ごしていれば静かでいいわ」

 

 へぇ~本当に静かになるものだと思ってるんだ。

 以下下唇を噛んだままの会話を訳したものです。

 

『ねぇ、カルマ~。これで本当に静かになると思ってるのかな?』

『さぁね。ビッチねえさんは静かになると思ってるんじゃない?』

 

「そこ!下唇は噛んだままって言ったで……しょ?」

 

『あははは~僕らは下唇噛んだまま会話してるだけなのにね~』

『そんなことより、見てみろよ皆の顔。凄い面白いよ』

 

 こちらを見てくる皆。顔を見ると――ププッ。

 

『本当だ。皆顔芸してる~』

 

 特に有鬼子のは滑稽だ。

 

『まぁ、アイツらから見たら俺たちが顔芸しているように見えるだろうね』

『『アハハハハハ』』

 

「あぁもう!モゴモゴとうるさいのよ!言いたいことがあるならさっさと言いなさい!」

 

『もう十分楽しんだから~はやくこの状態を解いて欲しいなぁ~って』

『そろそろ飽きたからやめていい?』

 

「全然伝わってないわよ!そこの二人!赤羽業と和光風人ね!二人だけ下唇噛むのやめていいから言いたいことがあるなら言いなさい!」

 

 お、やめていいんだ。

 

「「じゃあ、おやすみ~」」

 

 さぁ、昼寝をしよう。

 なお、この時残りのE組全員は思った。

 

(((何なんだこの授業……!後、あの二人いつか覚えてろよ……!)))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺せんせーが帰ってきて六時間目。今は体育の授業。烏間先生の授業で暗殺訓練。今日は銃を使っている。

 

「おいおいマジか。二人で倉庫にしけこんでいくぜ」

 

 三村君の言うとおり、殺せんせーはビッチねーさんと一緒になにやら倉庫に入っていった。

 

「な~んかがっかりだよな。殺せんせー。あんな見え見えの女に引っかかって」

「烏間先生。私たち。あの人のこと好きになれません」

 

 女子学級委員の片岡さんが僕らの思ってることを代表し告げる。

 

「すまない。国の指示でプロの彼女に一任しろとのことでな」

 

 なるほどねぇ~

 

「だが、僅か一日で全ての準備を整える手際。彼女が一流の殺し屋であることは確かだろう」

 

 それもそうか~。すると、銃声が聞こえ始めた。

 

「…………この音」

「どうしたの風人君?」

「ねぇ、烏間先生~。ビッチねーさんって……まさか、実弾使ってる?」

「分からんが、もしかしたらそうかもな」

 

 明らかにマシンガンの音。それも僕らが普段使うハンドガンじゃないだろう。おまけにわざわざマシンガンの弾丸を全て対殺せんせー用にしたとは考えにくい。……じゃあ、この暗殺は失敗だね~

 そして殺せんせーとビッチねーさんが入って数分後……

 

『いやぁぁぁあああああああああああっ!?』

 

 倉庫からそんな声が聞こえてくる。間違いなくビッチねーさんの声だ。

 

「な、なに?」

「銃声の次は悲鳴とヌルヌルが……」

 

 そして、その声は段々と小さくなっていく。……アンタ何やってんの?

 

「めっちゃヌルヌルされてる」

「行ってみようぜ!」

 

 前原君筆頭に、僕らは倉庫に向かう。すると、中から殺せんせーが出てきた。

 

「いやーもう少し楽しみたかったですが……皆さんの方が大切ですから」

 

 いや、先生。一体なにをしたの?遅れて出てきたビッチねーさんは体操着にブルマーというまぁ、健康的でレトロな格好で出てきた。

 

「あれ~?何も見えなくなった」

「風人君には刺激が強いからダメ」

 

 と、有鬼子の手によって僕の視界が塞がれた。言うほど刺激強いのだろうか?

 あと、聞くところによると、ビッチねーさんは僅か一分足らずで体のあちこちをマッサージさせられ、この格好にされてしまったらしい。つまり、予想通り暗殺失敗。

 

「さぁ、授業に戻りますよ」

「「「はぁーい」」」

 

 グラウンドに戻る僕ら。

 

「許さない……!この屈辱は必ず返す……!」

 

 なお、ビッチねーさんはこれであきらめるほど柔ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰り道、山を下る途中である。

 

「で、風人君。何で五時間目は自分たちだけ呑気に過ごしていたのかな?」

 

 いつも通り有鬼子と二人で帰っている。どうやら、五時間目の英語のことを言っているようだ。

 

「自習だから~どう過ごすのも個人の勝手だよ~」

「そうじゃなくて、発音の件。自分たちだけ解放されて……ねぇ。私たちはあのまま一時間過ごしたのに」

「へぇ~僕らと同じ方法取ればよかったのに~」

「二度も同じ手は通じなさそうだったよ」

 

 あービッチねーさん実弾の銃持ってたもんな~喋ったら殺されると捉えてもしょうがないか~。

 

「でも一時間あの顔で過ごしたのか~ププッ。大変だったね~プププ」

「風人君?ちょっと口開いてくれる?銃で撃つから」

「酷いよ有鬼子!自分のそんな滑稽な変顔を見て笑われたからって、怒るのは!」

「へぇ~滑稽で変顔……ねぇ」

 

 フフッと顔を下に向けて笑い始める有鬼子。いやねぇ。そりゃあ、Vの発音の状態で見たら誰だって変顔してると思うでしょ!それか頭おかしいか!

 

「風人君?……覚悟はいい」

 

 あ、殺気だだ漏れだ。そして、銃とナイフを取り出す。も、もちろん対殺せんせー用ね。

 

「逃げるが勝ち!」

「逃がさないよ?」

 

 こうして、山の中で僕らの鬼ごっこが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゅや。風人君。君は何をしてるんですか」

「ちょっと静かにしてせんせー。……死にたくなかったら」

 

 現在、教員室に隠れる僕。よく分からない目で見る殺せんせー。自分の仕事を淡々と進める烏間先生。既にこの場にはいないビッチねーさん。

 

 ガラッ

 

「失礼します」

「神崎さんですか。どうかしました?」

「はい。風人君ここにいませんか?」

「風人君ですか?」

 

 そういうと、殺せんせーはこちらを一瞥する。僕は首を横に思い切り振って、居ないことにして欲しいと目に訴えかける。

 

「ここには、来ていませんよ?」

「そうですか…………そこに居るんですね」

「にゅや!?何でバれたんですか!?……あ」

「……あ。じゃねぇよバカタコ!思い切りバれてんじゃねぇか!」

「殺せんせー。そこで風人君抑えていて下さいね。……今から殺しますから。先生ごと」

「逃げるぞエロダコ!アレはマジでやべぇ!」

「やれやれ。君はどうしたら神崎さんをあそこまで怒らせることが出来るんです……」

 

 パンッ

 

「あれ?少し外したかな?次は当てるね風人君」

「おー触手が撃たれた……って、感心してる場合じゃねぇ!殺せんせーガード!」

「にゅやあああ!?風人君!?君のせいですから何とかして下さいよ!」

「フフッ。まとめて葬ってあげる」

 

 この後、僕らの地獄の鬼ごっこはやはり続き、何とか許しを得た。

 ついでに、何故バレたと聞いたら、殺せんせーが一瞬視線をこちらに向けたそうだ。……怒ると怖いなぁ。今後は怒らせないようにしよう。

 

「というか、ビッチねーさんって胸デカいね~」

「色仕掛けで殺そうとする人だからじゃないの?」

「まぁ、色仕掛けとか有鬼子には無理だね~色気ゼロだもん~」

「風人君?正座」

「あ、やべ」

 

 なお、地獄の鬼ごっこ第二ラウンドがすぐに行われたのは言うまでもない。




言わなくてもいいことを言ってしまう主人公……こいつ大丈夫か?


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大人の時間 二時間目

 翌日の朝……

 

「ふぁぁあああ。いってきまーす」

「いってらっしゃい」

 

 いつも通りゲーム機を片手に持ちながら家を出る。

 

 ガチャ

 

「おはよう。風人君」

「…………」

 

 バタン

 

 ……幻覚?

 

 ガチャ

 

「どうしたの?行かないの?学校」

「…………」

 

 バタン

 

 どうやら、本物のようだ。

 

「母さん~頭痛くて幻覚見え始めて幻聴が聞こえ始めたから学校休むね~」

「……何をバカなことを言ってるのよ」

 

 あからさまに呆れている母さん。すると、

 

 ピンポーン

 

 インターホンが鳴った。

 

「はーい。って、風人。アンタ邪魔よ」

「じゃあ部屋で寝てるね~」

 

 そう言って二階に上がろうとする。すると、

 

「風人。こっちに来なさい。アンタにお客さんよ」

 

 ……ですよねー

 

「……へーい」

 

 180度方向転換をし、玄関に向かう。すると、

 

「アンタ。こんな美人さんが迎えに来たのに、学校をサボろうとするとは最低ね」

 

 そいつは見た目は美人でも中身が鬼と変わんねぇんだよ。という言葉を僕は口に出そうとしてやめた。今ダブルで怒られるのは面倒~。危ない危ない~。

 

「そんな美人だなんて……」

 

 と言いつつどこか嬉しそうなご様子。

 

「ごめんね。このバカ。超マイペースでゲームばっかやって、一言も二言も余計なことを平然と言ってると思うけど……迷惑かけてない?」

 

 おそらく、迷惑しかかけていないですね~。はい。

 

「いえ、そんな」

「そう。……っと、ゆっくり話したい気持ちもあるけど、学校遅刻されたらマズいでしょ。とりあえず、コレを学校までよろしくね。あなた名前は――」

「神崎有希子です」

「そう。有希子ちゃん。コレをよろしくね」

「はい!任せて下さい」

 

 最近母親の僕に対する扱いが酷い気がするな~。

 

(有希子ちゃんか。……あの子によく似ていた……まぁ、関係ないか)

 

 え?父さんはって?もう仕事行ったけど?

 

「ぶーぶー。何でわざわざ迎えに来たのさーぶーぶー」

「ぶーぶー言わないの。殺せんせーからのお願いでもあるからね」

「殺せんせー?」

「『風人君の登校の様子を見ると危なっかしいです。神崎さん。お願いですが彼と一緒に登校してもらえませんか?』ってね」

 

 わざわざそんなこと言われたんだ~

 

「中学三年生が一人で登校させると危険だから送っていってって、どんな風に登校してるの?」

「普通だよ~。普通に5回ほど電柱にぶつかって、3回ほど車と事故を起こしかけて、10回ほど平坦な道で転んで……ね?普通でしょ~?」

「……はぁ」

 

 あまりのことに頭を押さえため息をついてる。

 

「何でそうなっちゃうのかな~ねぇ~風人君~」

「いひゃいれすゆひこしゃん」

「…………はぁ。昨日私から逃げる時にそんな転んだりしてなかったよね?山道とかでも」

「だから~普段、ぼーっとゲームしてるか、ぼーっと空を見上げて雲を眺めながら歩いていたらね~。あ、この前なんて空見上げて歩いていたら一個山を間違えちゃった~」

「……遅刻の理由がそれなの……?」

「いやぁ~そういうことない?山一個間違えるとか~」

「……これは殺せんせーの心配も凄い分かる」

「ほへぇ?」

 

 そういうと、まるで可哀想な子を見るような、凄い温かい目になって、

 

「これからは私が一緒に登下校するからね」

「……はぁ」

 

 何だこれ。まぁいいや、

 

「今日はスマホでゲーム……」

「ダメです。ゲームは登下校中禁止」

「えー」

「えーじゃなくて、はいでしょ?」

「ほーい」

 

 というか、昨日までも下校一緒だったよね?という野暮なツッコミはなしで行こう。うーん。有鬼子の態度というか接し方が子どもを接する時の母親そのものだ。全く、僕は子供じゃない――

 

 ゴンッ

 

「ふぎゃ」

「もう!何で言ってるそばから電柱に当たるの?」

「め、面目ないです……」

「元から風人君に面目なんて存在しないでしょ?」

「うわぁあああああ。そんな酷いこと言うなんて有鬼子なんて嫌いだぁあああああ。うわぁああ」

「え?ちょっと風人君!?」

 

 僕の心は凄い傷つきました。ということで、校舎までダッシュしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、今日の英語の授業。まぁ、ビッチねーさんの担当なんだけど、黒板に書かれている文字は自習。ビッチねーさんはタブレットを操作し、次の暗殺の計画を立てているご様子だ。

 

「ああもう!なんでWi-Fi入んないのよこのボロ校舎!」

 

 あ、それ分かる~。

 

「必死だね~ビッチねーさん~」

「あんなことされたらプライドズタズタだろうね」

 

 こちらを睨んでくるビッチねーさん。しかし、何も言い返せない。

 

「先生」

「何よ」

 

 話かけたのは男子学級委員磯貝君。

 

「授業してくれないなら殺せんせーに交代してくれませんか?俺ら今年受験なんで」

 

 皆を代表し、磯貝君が言う。が、ビッチねーさんは僕らをバカにした表情で言う。

 

「は、あの凶悪生物に教わりたいの?地球の危機と受験を比べられるなんて。ガキは平和でいいわね~それに、聞いたんだけど、アンタたちE組ってこの学校の落ちこぼれらしいじゃない。勉強なんて今更しても意味ないでしょ?」

 

 ビッチねーさん。地雷を踏むの巻き。

 何でそんな見え見えの地雷を踏んじゃうんだろうね~ところで、E組って落ちこぼれクラスだったの?確かに、規則で本校舎に必要な時以外立ち入り禁止とは言ってたけど……今度聞いてみよ~っと。

 

「そうだこうしましょ?私が暗殺に成功したら一人頭500万円あげる。無駄な勉強するよりマシでしょ?だから私に協力――」

 

 コンッ

 

 黒板に消しゴムの当たる音がする。

 

「出てけよ」

 

 物凄い低い声。皆から恐ろしいほどの殺気が放たれる。そして、

 

「でてけよクソビッチ!」

「殺せんせーと変わってよ!」

 

 一斉に投げられる色んな物。

 

「な、なによ!殺すわよ!」

「上等だ!」

「そうよ!巨乳なんていらない!」

 

 あれ?今の人何か間違ってない?

 

「あーあ。荒れてるね~」

「うるさいから外行こうよ。風人」

「いいね~カルマ」

 

 と、荒れる教室から僕ら二人は脱出した。これが学級崩壊かな?

 

「さてと、今日一日ここで過ごしますか」

「五限までね~六限は水曜だからテストだよ~」

「あぁ、あの個人に合わせたテストか」

「本当に凄いよね~一人一人に合わせてるって」

「まぁ、タコの意図が分かってない奴らも居そうだけど」

「そーだね~。でも、いつか分かるでしょ~。それか殺せんせーが教えるか」

 

 この後、本当に六時間目までサボったら、帰り道有鬼子に説教されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、ビッチねーさんの授業。教室に来てチョークを取り、自習と書くかと思いきや英文を書き始めた。あれ?何だっけ?この英文の意味。

 ビッチねーさん曰く、アメリカのとあるVIP様の暗殺をした時に、そいつのボディーガードに言われた言葉だそうだ。

 

「意味は『ベッドでの君は凄いよ』」

 

 ……やっぱコイツダメかも。中学生だよ?僕ら。

 

「外国語を短期間で身につけるにはその国の恋人を作るのが早いと言われているわ。相手の気持ちを知りたいから。必死で言葉を理解しようとするのね。だから私は必要に応じて各国に恋人を作った。だから、私は恋人の口説き方を教える。プロの教える直伝の会話術。外国人と会った時にきっと役に立つわ」

 

 ほへぇ~

 

「受験に必要な知識なんてあのタコに教わりなさい。私が教えて上げられるのは実践的な会話術だけ。もし、それでアンタたちが私を先生と認めないのなら、私は暗殺を諦めて出ていくわ。そ、それなら文句ないでしょ?……あ、あと、悪かったわよ。色々と」

 

 あまりのことに固まるが、すぐに、

 

「「「あはははは」」」

 

 教室が笑いで埋め尽くされる。

 

「全く~昨日まで殺すとか言ってたのに~」

「何びくびくしてんのさ」

「何か、本当の先生になっちまったな」

「もうビッチ姉さんって呼べないね」

「あ、アンタたち……分かってくれたのね」

「考えてみれば先生に向かって失礼な呼び方だったよね」

「うん。呼び方変えないとね」

 

 感動の涙を流すビッチねーさん。新しい呼び方?そんなの決まってるよ~

 

「「じゃあ、ビッチ先生で」」

 

 これにはクラスの皆も納得。唯一ビッチ先生だけが反対したが、何がともあれビッチ先生もこのクラスに馴染んだようである。めでたしめでたし。



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集会の時間

 ビッチ先生がE組に来て何日か。あれから奥田さんが毒を渡したり、色々あったけど、今日も平和に暗殺しています。……平和に暗殺ってなんだろう?

 そして僕らは今、

 

「……サボりたい~」

 

 山を下りています。今日は月に一度の全校集会の日であるそう。全校集会は本校舎の体育館で。しかも遅れたり、サボれば罰則付き。面倒だな~。

 

「ダメだよ。それでも行かなきゃいけないルールなんだから」

「はーい……あ、あっちに面白そうな香りが~」

「寄り道している暇はないよ」

「あー面白そうだったのに……」

 

 現在、僕、有鬼子、渚、杉野君、菅谷君、茅野さん、奥田さんの七人で一緒に下りてる。あれ?カルマが居ないようだけど……まぁいいか~。

 

「何だろう。神崎さんが風人君の保護者に見えてきた」

「あーそれ分かる」

 

 と、失礼なことを言われてる。

 

「あ、蜂の巣だ。えーい」

 

 とりあえず石を投げてみる。

 

 コンッ

 

 当たってみる。

 

 ブーン

 

 蜂怒る。

 

「あ、蜂が怒ってこっちやってきた~」

「きゃああああ!?」

「に、逃げろぉ!?」

「和光のバカ野郎!何やってんだよ!」

 

 すると、割って入る救世主が現れた。

 

「「「お、岡島ーー!」」」

 

 その救世主の名は岡島。すでに全身ずぶ濡れで身体中に蛇を付けていた彼は大量の蜂を引きつけてくれた。

 

「でも、まだ残ってるよ~何でだろう?」

「「「お前のせいだよ!」」」

 

 蜂との鬼ごっこの数分後。僕らは何とか撒けた。

 

「はぁはぁ」

「は、蜂とかもう勘弁して……」

「岡島が大半を受け持ってくれたな」

 

 皆お疲れの様子だ。

 

「あー面白かった。もっかいやろ!」

「「「やらねぇよ!」」」

「えー面白かったでしょ~?」

「「「面白くねぇよバカ!」」」

 

 うーん。何でこの面白さが分かんないかな~

 

「大丈夫か?」

「烏間先生」

「焦らなくていい。今のペースなら十分間に合う」

「ちょっとぉ!」

 

 すると、ビッチ先生の声が遠くから聞こえた。

 

「あ、ビッチ先生」

「あ、あんたたち。休憩時間から移動だなんて聞いてないわよ……」

 

 すでに倒れそうなビッチがそこにはいた。

 

「だらしねぇなぁビッチ先生は」

「ヒールで走ると倍疲れるのよ」

「やれやれ、そういう君たちもさっきまで倒れてたじゃないか~」

「誰かさんのせいでな」

 

 少なくとも僕のせいではないな!

 

「烏間先生。殺せんせーは?」

「一般生徒達の前に晒すわけにはいかないんでな。旧校舎にて待機させている」

 

 つまり、ぼっちか!ぼっちせんせーだ!

 

「本校舎までもう少しだ!行くぞ!」

「せんせー!その前にそこら辺にいる面白そうな獣とかを探しに行っていいですか!」

「先生!和光を止めて下さい!こいつマジでヤバいです!」

「お願いです!」

「いえ、先生のお手を煩わせる必要はありません」

 

 そういうと、気付けば僕の首根っこが捕まれていた。

 

「私が連れていきます」

「ありゃ?」

 

 ズルズルズル

 

「誰かーここに人を人とも思わない人がいるんだけど~助けて~」

 

 

(((神崎さんが居て本当によかった……!)))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、色々あって本校舎に到着。

 

「着いたよ~有鬼子~」

 

 と、僕の背中の上にいる有鬼子に声をかける。

 

「げ、元気だね……風人君」

「そう?皆がだらしないだけだよ~」

 

 さすがに、僕一人を引きずりながら降りることは体力的に持たず、まぁ、仕方ないのでおんぶしてきた。お姫様抱っこでもしようか?と聞いたら断られた。ちなみに、僕は体力にはちょっと自信がある。マイペースゲーマーを舐めないでほしい。

 とりあえずおろすか。

 

「何とか間に合ったな」

「さぁ、皆。急いで整列しよう」

「「「はーい」」」

 

 さてと、あ、僕出席番号最後だ。最後尾だね~

 

「風人君。集会中寝てていいからね」

「…………え?」

 

 有鬼子の額に手を当てる。ふむ。熱はない。

 

「どうしちゃったの有鬼子!?らしくないよ!?」

 

 僕は有鬼子の両肩を掴む。

 学校では寝ちゃダメとか、登下校中も居眠り禁止とか、この集会にもゲームを持っていこうとして止められたのに寝るのはいい。きっと山を降りる最中で何か面白そ――悪いものを食べたんだ!僕に内緒で!僕に内緒で!(重要だから二回言いました)

 

「……まだE組の扱いを知らない風人君は寝ていた方が今後も楽だと思う」

 

 そういうと、僕の手を払って皆に付いていく。……E組の扱い?

 

「……ただの成績不振だったり素行不良な生徒を集めただけじゃないの?」

 

 僕の疑問に誰も答える人は居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 集会はいつも通り終わった。校長先生の私たちを差別するような発言の数々やそれを聞き、私たちを嘲笑うような声。生徒会からのプリントも忘れられといつも通りだった。ただ、違ったのは生徒会のプリントを殺せんせーが手書きで全員分用意してくれたから、生徒会のところで笑いどころが潰れたところ。後は、烏間先生やビッチ先生を見ていると、私たちは何となくだけど安心して前を向けた。

 そして、集会からの帰り道。

 

「ねぇ、神崎さん」

「何かな?茅野さん」

「和光くんは?集会終わってから姿が見えないんだけど」

 

 風人君?それなら、しっかりと――

 

「……あ、連れてくるの忘れてた」

 

 ――いない。あ、どうしよう。どこかで迷子になってるかも……。

 

「確か飲み物買いに渚と杉野くんが残ってるはずだから、大丈夫だよ。最悪殺せんせーが回収してくるよ」

「それもそうだね」

 

 どうしよう。何も問題を起こしてないといいけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃……

 

「久しぶりだね。和光風人君。この学校にはなれたかい?」

「ええ。慣れましたよ。浅野學峯理事長」

 

 ()は理事長室にいた。別に呼びだされたわけではない。自らの意思でやってきた。

 

「で?何か言いに来たのかな?」

「そうですね。単刀直入に言いますと、私はこのE組って制度は別に間違っていないと思います」

「ほう」

「確かに今日の集会。E組を差別するような教師、生徒の発言の数々。やり過ぎって面はありますが実に効果的です。同じ学年の他クラスの人や下級生の眼から見ればああはなりたくないと思わせ、一層の努力をする。別にしないものは落とせばいいのですから」

 

 あそこまで来ると私たちからすれば屈辱しかない。

 

「おまけに、あそこまで差別すればE組は弱者の集まり。それ以外は強者という構図も出来ますし、救済措置も設けられてますよね?それによって、E組からも有能なものを上にあげる。結果、かなりの割合の人間が高い能力を有するようになる」

 

 屈辱を味わいたくないから勉強する。強者になりたいからE組に落ちないようにする。単純だが単純故に強い。

 

「働きアリでさえ、全体の二割はサボるそうです。それを学園長は全体の一割……いや、もっと少ないでしょうか。限りなく減らし残りを全て有能な働きアリに変える。面白いと思いますよ」

「で、君は何が言いたいのかな?悪いけど君はまだE組から抜ける権利を手に入れてない。ただの負け惜しみともとれるよ?」

「負け惜しみではないですよ。ただ、外部からやってきてこの制度を通して思ったことを言っただけです」

「そうか」

「ただ、私は一つだけあなたに言いたい。今日の集会を通して思ったことが一つだけあります」

「それは何かな?」

 

 私は一呼吸ついて告げる。

 

「私をE組に落としてくれてありがとうございます」

 

 紛れもない僕の思いだ。虚勢でも偽りでもない。こんな強者(ゴミ共)しかいないなら私は弱者(E組)でいい。それだけだ。

 

「そうか。なら、私からも君に言っておこう」

「何でしょうか」

「君は実に面白い生徒だね。でも……」

 

 理事長は立ち上がると私の方までやってくる。

 

「君はE組を出る。出たいと私に懇願する。今は弱者でいいなんて甘く考えているようだけどね」

「面白い言い方ですね。私をE組に落とした張本人が何を言ってるのでしょう」

「実績さえあれば私の口添え一つで君はどこのクラスにも配属できる。それだけのことだよ」

 

 本当にここは面白い。前までいた学校とは全然違う。

 

「では、これで」

「ちょっと待ちなさい。ついでだ。一つ聞いておこう。なぁに、簡単な質問だよ」

 

 そう言って投げ渡されるルービックキューブ。当然色は揃ってない。

 

「このルービックキューブを揃えたい。君ならどうする?」

 

 なるほど。がむしゃらにやる、って答えもなくはないが、それはこの人の求めている答えとは違う。

 

「分解して再構築する。これで文句ないですか」

 

 そう言ってルービックキューブを投げ返す。

 

「正解だ」

「では、失礼しました」

 

 私は理事長室を出る。

 本校舎を出たところで殺せんせーに捕まって、E組校舎まで運ばれた。ふむふむ。行きも運んでくれてたら楽だったのになぁ~あと、やっぱり真面目に話すのは疲れるね~

 

 

 

 

 

 

 

「今年のE組はよろしくない。少し改善する必要がある」

 

 

 

 

 

 

 僕が出ていった理事長室で、監視カメラの映像を見ていた理事長が呟く。

 その画面には本校舎生徒を押しのけ進む渚がいた。



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テストの時間

 集会も終わって何日か。僕にとってこの学校で受ける、初めての中間テストの季節がやってきました。いや~そろそろテストとは。頑張らないとね~。

 

「さて、皆さん。始めましょうか」

 

 教卓に立っている殺せんせーは何か分身で増えている。

 殺せんせー曰く、この時間はテスト勉強。殺せんせーの分身を使って、マンツーマンでやるそうだ。……こんな荒業このせんせーにしかできないだろうね~

 

「くだらね。ご丁寧に教科別に鉢巻とか」

 

 そう。殺せんせーの分身はご丁寧に教科別の鉢巻を付けている。

 

「つか!何で俺はNARUTOなんだよ!」

「あはは~寺坂君面白いね~」

「そういうテメェこそNARUTOじゃねぇか!」

「えぇっ!?うそぉー!?」

 

 目の前の分身も木の葉の額当てを付けている。

 うちのクラスの鉢巻の割り振りは、国語六人、数学八人、社会三人、理科四人、英語四人、NARUTO二人である。あ、ちなみに一体休憩ね。

 すると、目の前の分身が急に変形する。

 

「急に暗殺しないで下さいカルマ君に風人君!それらを避けると残像が全部乱れるんです!」

 

 僕知らな~い。だって、僕が寺坂君と同レベルとか~納得いかないも~ん。

 

「ぶーぶー何で僕もNARUTOなのさー」

「君はまだ皆の範囲に追いついていません。このままではテストも録に取れませんよ」

「……ちぇーっ……ん?せんせー追いつけばいいの?追い越す必要はー?」

「おや、強気ですね~キミにできますか?」

 

 上等だ~やるぞ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

「おはようございます。皆さん」

 

 殺せんせーが昨日の三倍くらいに増えた。そのせいか、分身が適当過ぎる。ところどころ変なのが混ざってるよ。

 

「何か昨日の放課後あったの~?」

「いえ、何もありませんよ」

「そう~」

 

 でもまぁ、適当だろうがなんだろうが。あの理事長を見返すためだ。頑張ろ~おー!

 チャイムがなって授業終了。殺せんせーは教卓にもたれかかって団扇であおいでいる。おつ。

 

「すべては君たちのテストの点数をあげるためです」

 

 お、もっともなこと言ってるね~

 

「そうすれば生徒たちが私を尊敬の眼差しで見つめ、評判を聞いた美人巨乳大学生の皆さんが……ヌルフフフ。私は殺される危険がなくなり、先生にはいいことずくめ」

 

 前言撤回。このピンクの煩悩ダコダメだわ。やっぱ。

 

「いや、勉強はそれなりでいいよな~」

「なんたって暗殺すれば賞金百億だし」

「百億あれば成績悪くてもその後の人生バラ色だしね~」

 

 ……はぁ?コイツら。何寝ぼけたこと言ってんの?

 

「だって俺たちエンドのE組だぜ?」

「テストなんかより暗殺の方がよっぽど身近なチャンスなんだよ」

 

 ……ふざけてんの?

 

「なるほど。よくわかりました。今の君たちには暗殺者の資格がありませんねぇ。全員校庭に出なさい」

 

 殺せんせーの顔は紫色だった。

 そして僕たちは烏間先生、ビッチ先生も含め全員外へ。

 

「……何となくわかった」

「何が分かったの?風人君」

「これから殺せんせーがしそうなこと~」

 

 一言で言えば教育だろう。

 

「イリーナ先生、プロの殺し屋として伺いますが。あなたはいつも仕事をする時、用意するプランは一つですか?」

「……いいえ本命のプランなんて思った通り行くことの方が少ないわ。不測の事態に備えて予備のプランを綿密に作っておくのが暗殺の基本よ」

「では次に、烏間先生。ナイフ術を生徒に教える時、重要なのは第一撃だけですか?」

「……第一撃はもちろん最重要だが次の動きも大切だ。強敵相手では第一撃は高確率でかわされるからその後の第二、第三撃をいかに高精度で繰り出すかが勝敗の分かれ目となる」

 

 まぁ、予想通りだね~すると、校庭の真ん中で回り始める殺せんせー。

 

「先生方のおっしゃるように自信を持てる次の手があるから自信に満ちた暗殺者になれる。対して君たちはどうでしょう?『俺たちには暗殺があるからそれでいいや』と考えて勉強の目標を低くしている。それは劣等感の原因から目を背けているだけです!」

 

 殺せんせーはさらに回転の速度を上げて言う。あたりには強い風が吹き始めた。

 

「もし先生がこの教室から逃げ去ったら? もし他の殺し屋に先に先生を殺したら?暗殺という拠り所を失った君たちにはE組の劣等感しか残らない。そんな危うい君たちに先生からのアドバイスです」

 

 そして、殺せんせーは竜巻を起こしながら言い放った。

 

「第二の刃を持たざるものは……暗殺者を名乗る資格なし!!」

 

 砂埃が開けた後、そこには綺麗なグラウンドが。殺せんせーは校庭を手入れして、僕らに言い放つ。先生曰く、自信の持てる刃を示さなければ、このグラウンド同様、校舎を平らにして出ていくそうだ。

 

「第二の刃……いつまでに?」

「決まっています。明日です」

「「「え?」」」

「明日の中間テスト、クラス全員50位以内を取りなさい。君たちの第二の刃は先生が既に育てています。自信をもってその刃を振るいなさい」

 

 皆の顔が真剣になる。……と、ふとここで思った。

 

「ちょっと待って殺せんせー」

「はい何でしょう。風人君」

 

 僕はその一言を告げる。

 

「……テストって明日なの?」

「……知らなかったの?」

「うん」

「「「…………」」」

 

(((こいつ大丈夫か……!)))

 

 すると、先ほどまでからの表情から一転。殺せんせーまでもがこいつ大丈夫か?と言う眼をしてきた。あれぇ?もしかしなくともヤバい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。テスト中。

 

 コツ、コツ、コツ……

 

 一定のリズムで教卓の叩かれる音が聞こえる。

 E組はテストを本校舎で受ける決まりだ。そのため、試験監督はもちろん本校舎の先生。僕らの阻害を精神的にやってくるが、まぁ、関係ないかな。

 僕らが戦っているのはテストの問題。通称問スターだ。あ、問4。こいつも倒せたかな。

 僕が思い出すのは昨日の殺せんせーとの会話。

 

『ヌルフフフ。風人君はゲームが好きでしたよね』

『もちろんですよー』

『なら、テスト問題を敵、問スターと思いましょう。テストはそいつらを狩るゲームです』

『おぉぉ!武器は!?』

『武器は君の知識という名の刃です』

『楽しそうだね!よし!やるぞ~!』

 

 僕以外の生徒も何らかの方法でやる気が上がったりしている。昨日まで真面目に受けたE組生徒たちはいつにないペースで順調に問スターを狩っていた……が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間。E組生徒たちは見えない問スターによって殺された……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら、今回のテスト。テスト二日前にテスト範囲を大幅にしかも全教科を変更したらしい。学校側の言い分は、進学校なんだから直前の詰め込みにも付いていけるか試したそうだ。

 

「先生の責任です。この学校の仕組みを甘く見ていたようです」

 

 黒板の方に向いて、落ち込むような声で呟く。あれ?もしかして殺すチャンス到来?

 

「君たちに顔向けできません」

 

 じゃあ、顔向けしなくていいから~。

 

「にゅや!」

 

 黒板に当たる二本のナイフ。

 

「いいの~?顔向け出来なかったら俺たちが殺しに来ることも見えないよ?」

「というか何気に避けたよね~どんだけ勘が凄いの~?」

 

 投げたのはE組問題児筆頭格のカルマと僕である。

 

「カルマ君!風人君!先生は今落ち込んで……」

 

 僕とカルマは赤く顔を染める殺せんせーを無視して合計10枚の答案を教卓に放る。

 

「俺ら、問題変わっても関係ないし」

「そうそう~」

 

 

 赤羽業  合計494点 学年4位

 

 和光風人 合計493点 学年5位

 

 

「すげぇ……カルマ数学100点かよ」

「和光君も国語と英語が満点……」

 

 どやぁ。

 

「俺の成績に合わせてさ。アンタが余計な範囲まで教えたからだよ。だから出題範囲が変更されても対処できた。だけど、俺はこのクラス出る気ないよ。前のクラス戻るより暗殺の方が全然楽しいし」

「だよね~。あ、僕も出る気ないよ~。というか、元のクラスが本校舎に存在しないし~」

「で?どーすんのそっちは?全員五十位以内に入れなかったからって尻尾撒いて逃げるの?」

「それってさ~結局僕らに殺されるのが怖いだけだよね~プクク」

 

 すると、周りの皆も先ほどまでとは違って少しは笑顔になった。そして思い思いのことを口にする。

 

「にゅやぁああ!逃げるわけではありません!」

「「じゃあどうすんの?」」

「期末テストでアイツらにリベンジです!」

「「「あはははは」」」

 

 あまりにも殺せんせーが面白く見える。

 

「ところで風人君。君はテストの日すら知らなかったのに、よくまだ習ってない範囲の問題が解けましたね」

「あ、それ俺も気になってたんだ~どうしたの風人」

 

 ふっ。これだから凡人は。

 

「僕がもともとのテスト範囲を知っていたとでも思うのかい?」

「「「……え?」」」

 

 皆が唖然とし固まる。

 

「だから、テストの日すら認識してない僕がテスト範囲なんて分かるわけないじゃん~」

「「「…………」」」

「じゃ、じゃあ、何でこんな点数を?」

「決まってるじゃん~テスト範囲が分からなければとりあえず全部やればいいんじゃね?というわけで、カルマの教わってた範囲まで全てやってた~まぁ、さすがに完璧には無理だったけど~」

 

 この時E組生徒は思った。

 

(((こいつは頭がいいのかバカなのかが分からない……)))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風人君」

「ほへ?どうしたの改め……いひゃいです。頬を抓らないでくだしゃい~」

「テストの日程だけでなく範囲すら知らないって……しかもそれで学年一桁って……」

「だからと言って頬を抓っていい理由にはならな……いたた」

「……風人君が頑張ったのは分かってる。でも、ちょっとごめんね」

「にゃるほど~。つまり、嫉妬ですね」

「分かってるなら言わないの」

「ふむふむ~」

「今度の期末テストは風人君に勝ってみせるから」

「全教科~?」

「一教科でも勝ったら何か私のお願いを聞いてね」

「えぇー明らかに僕不利だよ……」

「じゃあ、全教科負けたら私が風人君の言う事聞いてあげる」

「ふぁああああい。頑張ってね……」

「余裕かましてていいのかな?」

「安心してよ有鬼子。次はしっかりテストの日程と範囲を知ったうえでやるからさ」

 

(カッコよく言ったつもりだろうけど…………それが普通なはずなんだけどなぁ……)




一応主人公のテストの結果は

国語 100点
数学 99点
英語 100点
理科 98点
社会 96点

次のあとがきに、簡単なプロフィールを書きます。


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修学旅行の時間

タイトルを変えました。
『暗殺教室 in ゲーマー』から『暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~』です。
理由としては感想でタイトルについて言われて、「あ、確かにこのタイトル何かおかしくね?」と作者自身も思ったためです。ご指摘本当に感謝します。
こんな作者が書く作品ですがこの先もよろしくお願いいます。


 修学旅行。それは……

 

「なんだろう?」

 

 まぁ、何でもいいや~。

 

「風人君。カルマ君。同じ班にならない?」

「いーよ~」

「オッケー」

 

 やったね。渚の班で決まった。余り物回避だ!

 

「えぇー大丈夫かよ。特にカルマ。旅先で喧嘩売って問題にならねぇよな?」

「へーきへーき。旅先での喧嘩はちゃんと目撃者の口も封じるし、表沙汰にはならないよ」

「おぉ~賢い~」

「感心してる場合かよ!……というかやっぱあいつ誘うのやめようぜ」

「でも気心知れてるし……」

「で、面子は?渚君に杉野に風人に茅野ちゃん……」

「あ、奥田さんも誘った」

「七人班だからあと一人女子いるんじゃね?」

 

 あ、そういえば。

 

「大丈夫だよ。あと一人はもう決まってるよ」

 

 すると五人とも僕の方を見る。え?何か顔についてる?

 

「あぁ。風人の保護者か」

「和光君の御目付け役ですね」

「なら安心だね」

「うん。異議なし!」

「本人には確認とった?というか、コイツの監視役はあの人しかできないと思うんだけど」

「お前が言うなって。本人も『風人君と一緒の班じゃないと問題があるかな』って言ってたからオッケーだ」

「なら、いっか」

 

 あれ?話についていけないの僕だけ?

 

「で?あと一人の女子って結局誰なの~?」

「え?風人君。本気で分からないの?」

「うん~」

「私だよ。風人君」

 

 振り返ると有鬼子が立っていた……………………えっ?マジで?

 

「というわけで残りの一人はクラスのマドンナ。神崎さんで」

「「「異議なし」」」

 

(神崎さんはそこまで目立たないけどクラスの皆に人気がある。彼女と同じ班で嫌な人なんていな――)

 

 なわけあるかぁー!

 

「異議あり!ここに僕の気ままで自由な修学旅行を阻止しようとする人がいます!」

 

(――どうやら風人君は別らしいね。ただ、嫌悪とかそう言うのではなさそうだけど……)

 

「じゃあ、風人君。聞くけど、いつ修学旅行に行くか知ってる?」

「知らない」

「……旅行先は?」

「北海道から沖縄までのどっか」

「…………班員とはぐれる可能性は?」

「99.9%!」

「「「よし、この七人班で決定だね!」」」

「えぇぇっ!?今の会話でなんでそうなるの!?」

「いや……どう考えても風人君。君は神崎さんの力が必要だと思うよ」

「この前の全校集会へ行く山の中でさえアレだったもんね」

 

 苦笑する四人と、渚に何があったのか聞いてるカルマ。そして、

 

「あはは。風人そんなことしたんだ。これは神崎さんにはしっかりと見てもらわないと。てか、一層のこと首輪とリードでもつけたら?」

「それはさすがに私が恥ずかしいかな」

 

 え?僕の心配は?

 

「ふっ。ガキねぇ。世界中を回った私には旅行なんて今さらだわ」

「じゃあ留守番しといてよビッチ先生」

「花壇に水やっといてー」

「ついでに雑草とかもよろしくー」

「あぁもう!私抜きでそんな楽しそうな話しないでよ!」

 

 一方のビッチ先生。あの人はあの人で平常運転らしいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体育の時間。いつも通りの授業の後、烏間先生から僕らに話があるそうだ。

 

「さて、来週から二泊三日の京都修学旅行だ。君らの楽しみを極力邪魔したくはないがこれも任務だ」

 

 なるほど~向こうでも暗殺だね。

 

「京都の街は、こことは段違いに広く複雑。しかも君たちは廻るコースを班ごとに決め奴はそれに付きあう予定だ」

 

 あ、そういう予定なのね。

 

「スナイパーを配置するには絶好のロケーション。既に国は優秀なスナイパーを雇っている。成功した場合。貢献度に応じて百億円の中から分配される。暗殺向けのコース選びをよろしく頼む」

「「「はーい」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして再び教室。決まった班ごとにどんなルートで回るか相談している。

 

「決まったら教えて~あ、甘いもの食べた~い」

「ダーメ。風人君もしっかり話を聞いてメモを取っておくの。分かった?」

「……ちぇー」

 

 やれやれ。仕方ない。ゲームの作戦行動表っぽく書くか~。

 

 ガラッ

 

 殺せんせーが入ってくる。……何だろうあれ?辞書?

 

「一人一冊です」

「何ですかそれ?」

「修学旅行のしおりです」

 

 次の瞬間、僕の手には分厚い修学旅行のしおりが一冊。あれ?見た目通り重くない?

 

「辞書だろコレ!」

「イラスト解説の全観光スポット、お土産人気トップ100、旅の護身術入門から応用まで、昨日徹夜で作りました。初回特典は組み立て紙工作金閣寺です」

「おぉー!!組み立て紙工作金閣寺!ねぇね。今作り始めてもいい?いい?」

 

(((な、なんか一人、物凄い喰いついてる……)))

 

「ダーメ。そういうのはお家に帰ってからしてね。今は話し合うの」

「……はーい」

 

(((そしてやっぱり神崎さんが保護者にしか見えねぇ……)))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修学旅行前日の夜。

 

「はい。もしもし~」

『もしもし風人君?私だけど……』

「私私詐欺?ごめんなさい~。お金は持ってないです~」

 

 オレオレ詐欺の親戚だろうか。全く、怖い世の中だ。

 

『……神崎です。風人君』

 

 あ、有鬼子か。それならそうと名乗ってほしい……って、スマホだから着信の相手見ればよかったじゃん~。うっかり~。

 

「それで~何の用ですか~言われた通り荷造りは済ませましたよ~」

 

 ついでに家出の準備も万全だ!いつでも家を出られるね!

 

『それはよかった。明日の集合場所覚えてる?』

「現地集合でしょ?もちろん覚えているに決まってるじゃないか~」

『……はぁ。東京駅のホームだよ』

「……惜しかった」

『惜しくないからね?京都駅と東京駅だとかなりの違いだからね?』

 

 惜しかった。『京』と『駅』の漢字二文字が合ってただけ進歩だ。あと文字数も合っていた。実に惜しい。これがテストなら△はもらえる解答だろう。

 

『そうそう。明日も迎えに行くからそのつもりでね』

「はーい。あ、組み立て式金閣寺は持ってく~?」

『組み立て式金閣寺?……しおりの特典のこと?持ってかないよ』

「じゃあ、飾っとこうっと~」

 

 僕のまとめたしおりもあるけど、まぁ、殺せんせーのも持っていこうかな~。可哀そうだし~

 

『ねぇ、風人君』

「どうしたの~?」

『私って……』

「私って?」

『…………ごめん。やっぱりなんでもない』

「そう?」

『じゃあ、また明日ね。あ、しっかりと寝るんだよ?楽しみすぎて寝れませんはダメだからね』

「うん~また明日~」

 

 そう言って電話を切る。うーん。何を言いたかったんだろう~?まぁいいか~

 よし、寝よう。おやすみ~




オリ主プロフィール

名前 和光風人(わこうかぜと)
性別 男
身長 160cm
体重 50kg
出席番号 27番
誕生日 2月19日
好きな科目 数学
嫌いな科目 社会
趣味・特技 ゲーム
性格 超マイペース
将来の夢 未定 




簡単にはこんな感じですね。もう少し詳しいのは話が進んでから出したいと思います。


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修学旅行の時間 二時間目

 修学旅行当日。東京駅で僕らは新幹線へと乗り込むためにホームで集まっていた。

 

「人多いね~」

 

 学校行事なので本校舎の先生や生徒たちもいる。まぁ、ほとんど誰かわかんないけど~。彼らは僕らE組とは離れ、前の方の車両へと各自乗り込んでいる。

 

「うわ、A組からD組まではグリーン車だぜ」

「E組うちらだけ普通車……いつもの感じね」

 

 椚ヶ丘中学校ではもはや慣れたE組差別。学費の使用すらも本校舎の生徒たちを優遇しているそうだ。入学式で説明されらしいがはっきり言わせてもらおう。僕はそんなこと知らない、と。

 

「ごめんあそばせ。――――ご機嫌よう、生徒たち」

 

 そんな僕らの集合している所へと優雅に歩いてきたのはビッチ先生。ところで、なんでこの先生は修学旅行にどっかのハリウッドセレブみたいな格好で来ているのだろう。アンタ、今は一引率の教師だよ?

 

「フッフッフッ、女を駆使する暗殺者としては当然の心得よ。良い女は旅ファッションにこそ気を遣わないと」

「良い女?どこにいるの~?」

「私よ私!」

「ほへぇ~…………自分で言っちゃったよ~」

「アンタ聞こえたわよ!だいたいねぇアンタは一言二言多い」

 

 と、僕に説教?をしようとするビッチ先生の元へと烏間先生が歩み寄ってくる。

 

「目立ち過ぎだ。着替えろ。どう見ても引率の先生の格好じゃない」

 

 烏間先生。まさしくその通りだと思います。

 

「堅いこと言ってんじゃないわよカラスマ。ガキ共に大人の旅の――」

「脱げ、着替えろ」

 

 あ、烏間先生怒ってる。大丈夫?殺気漏れてない?

 ビッチ先生も反論できないと感じ取ったようで、テンションを落とすと押し黙ったままトボトボと新幹線のトイレへと消えていった。

 次にビッチ先生が姿を現した時、ハリウッドセレブから一転。上下ジャージという一般庶民にランクダウンしていたのだった。きっと、金持ちばっかり殺して感覚がずれてるのだろう。そういう日もあるさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、気付けば新幹線が出発する時間となり、動き出す新幹線。

 京都に着くまで大体2、3時間かな?せっかくの旅行なんだ。のんびりいこ~。

 

「おーい。和光。聞いてるか?」

「聞いてるよ~」

 

 通路を挟んで杉野が話かけてくる。僕らは七人班なので通路を挟んで計十席使える。四人で纏まってる席と六人で纏まってる席。僕は四人の方で正面には有鬼子が。通路挟んで隣に渚がいる感じだ。

 というか、話してる内容は殺せんせー暗殺の最終確認だけど……物騒な話だねぇ。他の班も殺せんせーが居ない間に最終確認。その後は各々の班で遊ぶ。…………ん?殺せんせーが……居ない間?

 

「ねぇ杉野~殺せんせーは~?」

「……あれ?確かに、電車出発したけど、殺せんせーは?」

 

 周りを見回しているけど、殺せんせー(ターゲット)の姿が見当たらない。あれ?殺せんせー(暗殺対象)が居なかったら今回普通に旅行できるんじゃね?だけど、この旅行を楽しみにしていた張本人がいったい何処へ行ったのだろうか?

 

「うわっ!?」

「どーかした~……うわぁ~」

 

 渚の短い悲鳴。声に釣られ見てみると新幹線の窓に殺せんせーが貼り付いていた。ぺたーって。

 

「何で窓に貼り付いてんだよ殺せんせー!」

「いやぁ、駅中スウィーツを買ってたら乗り遅れまして……次の駅までこの状態で一緒に行きます」

「せんせーだけ先次の駅に行ってたら~?」

「それはダメです。修学旅行は既に始まってます。移動も楽しんでこそでしょう?」

 

 ……はぁ。道理でこのせんせーだけ現地集合じゃないわけだ。

 

「ああ、ご心配なく身体を保護色にしているので服と荷物が貼り付いて見えるだけです」

「誰も心配していないよ~」

「それはそれで不自然だよ!」

 

 渚のツッコミは今日もキまってるねぇ~

 とまぁ、何とか次の駅までその状態でやり過ごした殺せんせー。下手な変装で新幹線に乗り込んできた。

 

「変装下手くそだね~」

「いいじゃん。アレでバれてないつもり何だからさ」

「どーしよーもないね~」

「前からだろ?」

 

 と、僕ら七人はトランプをしながら雑談中。

 

「あ、私皆の分の飲み物も買ってくるけど何飲みたい?」

「私も行きたい」

「私も~」

 

 飲み物か~

 

「じゃあ俺は烏龍茶で」

「僕は緑茶かな」

「ジュース~味は何でもいいや~」

「ジュースとかチョイスがおこちゃまだね風人。あ、俺イチゴオレで」

「うるさいな~そーいうカルマもじゃん」

「あはは……」

「分かった」

 

 と、歩き出す有鬼子、茅野さん、奥田さんの三人。

 

「やっぱ、神崎さんって気が利くよな~」

「そーなの?」

「うんうん。美人だし優しいし」

 

 優しい?ふっ。笑えるね。

 

「で?毎日送り迎えされてる風人的にはどうなの?」

「ま、毎日だと!?」

「う~ん。ゲームは禁止してくるし~ぽけーってしてたり寝てると起こしてくるし~酷い?」

 

(((いや、絶対感謝するべきだろお前……)))

 

「でも感謝はしてるよ~心の奥の片隅の方で~」

 

(((それは言っちゃダメな奴)))

 

 

 

 

 

 

 新幹線とバスを乗り継いでほぼ一日を費やした後、僕らが今日から泊まる旅館へと辿り着いた。

 ちなみに本校舎の人たちとは別の宿泊施設だ。E組……つまり僕らは古ぼけた旅館の大部屋二部屋を借りて男女に分かれているだけ。E組以外は高級ホテルの個室だって話だ。でもこう言うのって個室よりも皆で和気あいあいと楽しむもんじゃないの?

 

「…………」

「新幹線とバスで酔ってグロッキーとは……」

 

 そんな中、殺せんせーは一人。旅館のソファーに顔色を悪くしながらぐったりともたれ込んでいた。どうやら乗り物が弱点らしい。でもそんな中でも、岡野さんとかがナイフを振り下ろしたけどすべて躱してる辺り何かな~

 

「せんせー寝室で休んだら?」

「ご心配なく。せんせー一度東京に戻ります」

「忘れ物~?」

「えぇ。枕を忘れまして」

「あんだけ荷物があって忘れ物かよ!」

 

 それね。

 

「……どう?神崎さん。日程表見つかった?」

 

 隣では有鬼子がガサゴソとカバンの中を探しもの中。

 

「……ううん」

「というか有鬼子~日程表、カバンじゃなくてポケットに入れてなかった~?」

 

 朝、『メモした日程表持った?』と聞かれ、『何それ~?』って答えたら『コレだよ』って見せてもらった覚えがある。その後、ポケットに入れてたはずだ。ふっ。こう見えても記憶力だけはいいからね。……集合場所を間違えたのはたまたまということにしてほしい。

 

「ポケットも探したけど入ってなかったの」

「へー」

「神崎さんは真面目ですからねえ」

 

 どこがだろう?

 

「独自に日程を纏めていたとは感心です」

「あ、僕も纏め(させられ)ていたよ~」

「でもご安心を。先生の手作りしおりを持てば万事解決」

 

 いや、あれは持ち歩きたくないよね?と思いながらちゃっかり持ってきてるけど。

 

「何処かで落としちゃったのかなぁ……」

「ほら。有鬼子。僕の分渡しとくよ~」

「でも、それだと」

「いいよいいよ。僕みたいな人間がこういうのがあるより有鬼子が持ってた方がいいでしょ?」

 

 どうせ持っていても見ないし。というのが本音だ。いやぁ。こういうのって作るの頑張るけど、結局使わないよね?

 

「そう?じゃあ貰っておくね」

「うんうん」

「しっかりと男子部屋では渚君やカルマ君、磯貝君の言う事聞くんだよ?」

 

 キミは何歳の子に話しかけているのかな?

 

「へぇ~風人。俺の言う事聞いてくれるんだ~じゃあ、ジュース買ってきて」

「いやだよ~」

「お前のご主人様の神崎さんの命令だよ?聞けないの?」

「有鬼子は僕のご主人様じゃないです~」

「じゃあ何なの?」

 

 ゲーム仲間……と言いたいところだけどゲームやってるとバレたくないらしいからな~

 

「うーん。…………宿敵?」

「敵なのね……そこ」

 

 うん。ゲームで倒すべき最終相手だね~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここなら暗殺にピッタリじゃないか?」

 

 二日目になりました。班ごとに分かれて散策中です。

 

「スナイパーの人から見えるかな?」

「変な修学旅行になったね」

「殺せんせーがいるからね~あ、おいしそうな香りが……」

「はいはい勝手にどこか行こうとしないの」

「ああ!折角京都に来たんだから抹茶わらびもち食べたーい!」

「僕も食べたーい!」

 

 駄々をこねる甘党二人。苦笑する五人。

 

「では、それに毒を入れるのはどうでしょう?」

「「何で!?」」

「殺せんせー甘いものに目がないですから」

「いいねぇ。名物で毒殺」

「勿体ないよ!抹茶わらびが!」

「殺せんせーに効く毒があればいいんだけど」

「だったら毒殺じゃなくて爆殺にしよ~『抹茶わらび爆殺作戦!』」

「和光くんまで!?和光くんは味方じゃないの!?」

 

 ふっ。いつから味方だと錯覚した。

 

「でもさぁ。修学旅行の時くらい暗殺のこと忘れたかったよな~」

 

 杉野が暗殺とは縁のない場所だしな~と言うと渚がここは暗殺の聖地と言って、僕らを案内した。いや、暗殺の聖地って……

 

「なるほどなぁー。言われてみればこれは立派な暗殺旅行だ」

 

 確かに、渚も言ってたけど、坂本龍馬や織田信長とか、割と有名な人が暗殺されてるんだね~ここらへんで。

 

「へぇ~祇園って奥に入るとこんなに人気ないんだ~」

 

 あれから色んな所に行き、祇園に到着。本当に人気がないな~

 

「一見さんはお断りの店ばかりだかあ、ふらっと人が来るところじゃないし。見通しがいい必要がない。だから、私の希望コースにしてみたの。暗殺にぴったりなんじゃないかって」

 

 ほへぇ~よく考えられているなぁ~

 

「さっすが神崎さん!下調べカンペキ!じゃあここで決行に決めよっか!」

「マジカンペキー」

 

 すると先頭を歩く僕とカルマの前に何人かの男子高校生がぞろぞろと現れた。

 

「なーんでこんな拉致り易い所に来るのかねぇ………」

 

 うん。こいつら不良だね~

 

「何?お兄さんたち、目的が観光に見えないんだけど?」

「そ~だよ?観光ならもっと有名な場所に行ったら~?」

 

 と、ここにいる僕らが言えたことではないが。

 

「男に用はねー」

「そうそう女置いてとっととお家帰んな」

 

 ガシッ ドガッ

 

 隣のカルマが、顔面を鷲掴みにし、電柱に叩きつける。僕は僕で、相手の一人に脚払いをしかけ、踏みつける。

 

「ほらね渚君。目撃者のいないところなら喧嘩しても問題ないでしょ?」

「ふふふ。甘いね!僕が目撃者だよ!」

「……いや、風人も一人倒したし同罪だよ」

「それは盲点だった……」

 

 畜生。どうにかしてカルマに全責任を取らせなければ……!

 

「テメェら刺すぞ!」

 

 と、カッターナイフで刺そうと突撃する二人。が、

 

「刺す?そんなつもりもないのに?」

「見かけ倒しじゃ、僕らは倒せないよ~」

 

 まぁ、二人には地面とキスしてもらった。

 

「いや!何!」

「放して!」

 

 振り返る僕とカルマ。そこには捕まってる有鬼子と茅野さんが!くっ!何とかして助け出さないと!

 

「分かってんじゃんか!」

 

 ドガッ

 

 そして後頭部に伝わる衝撃。こいつどこから……!思わず倒れ込んでしまい、何発も蹴られてしまう。

 

「おい、連れてけ」

 

 最後に見たのは二人が連れてかれる光景だった。



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修学旅行の時間 三時間目

「これさ、オメェだろ。去年の夏頃、東京のゲーセン」

 

 私たちは車に乗せられ、そのまま手と足をしばられて連れてこられました。

 そこでリーダーと思われる男の人に見せられたのは一枚の写真。

 

「目ぼしい女は目をつけ、報告するよう言ってあってな」

 

 紛れもない。去年風人君と会った時の私だ。

 

「八月の終わりがけにさらおうとしたんだが、あの男に邪魔されてな。で、気付けば見失っちまってたってわけ」

「あの男ですか……?」

「ほらオメェがゲーセンで一緒にいたあのチビだよ。まぁ、そいつにも復讐してやりてぇが、この場にいるわけでもねぇから今はどうでもいいけどな」

 

 一緒にいたチビ?それって……風人君のこと?でも、そんな素振りは見せなかった……あっ。

 

「まさか、あの名門椚ヶ丘中学の生徒だったとはな。でも俺には分かるぜ。毛並みが良いやつほどどっかで台無しになりたがってるんだ。これから夜まで台無しの先生が何から何まで教えてやるよ」

 

 私にはこの言葉の意味が分かりました。だけど、今の私たちには何もできないです。逃げることも抵抗することも何も出来ない……

 

「さっきの写真……真面目な神崎さんもああいう時期があったんだね。ちょっと意外」

 

 不良の人たちが撮影班を待つとかで向こうで大声で話す間、茅野さんが話かけてくる。

 

「……うん。うちは父親が厳しくてね、良い肩書きばかり求めてくるの。そんな肩書き生活から離れたくて、名門の肩書きを脱ぎたくて、知ってる人がいない場所で格好も変えて遊んでたの」

 

 そして、その時に風人君と出会った。あの時はまさか三年生で転校して来て同じクラスになるなんて思いもしなかった。

 

「……馬鹿だよね。遊んだ結果得た肩書はエンドのE組。もう自分の居場所が分からないよ……」

 

 家にも学校にも私の居場所なんてどこにない。風人君の隣にいても、彼にとっては私はただの邪魔者。あの頃と違って、今の彼にとっては私は迷惑な存在。だって、あんなに修学旅行の班一緒になるの嫌がってたし。毎日のように私が怒ってばっかりだし。嫌がるのも無理はない。……それに嫌いって言われたし。

 

「俺らの仲間になればいいんだよ。俺らもな、肩書きとか死ね!って主義でさ。エリートぶってる奴らを台無しにしてよ。なんつーか。ありのまま、自然に戻してやる?みたいな。そういうアソビを俺ら沢山して来たからよ」

 

 あまりのことにも最低な言葉。でも私は……

 

「……サイッテー」

 

 茅野さんが一言そう言う。

 

「何エリート気取りで見下してンだ!?お前もすぐに同じレベルまで堕としてやンよ!」

 

 近くのソファーに投げられ咳ごむ茅野さん。

 

「いいか?宿舎に戻ったら涼しい顔でこう言え。『楽しくカラオケしてただけです』ってな。そうすりゃだ~れも傷つかねぇ。東京に戻ったらまた皆であそぼーぜ?楽しい修学旅行の記念写真でも見ながらなぁ……」

 

 私は……一体どうしたら……

 

 ギィィィ

 

「お、来た来た。うちの撮影スタッフがご到着だぜ」

 

 そう言って入って来たのは既にボロボロで気絶している二人の彼らの仲間と思われる人物。

 

「――修学旅行のしおり1243ページ、班員が何者かに拉致られた時の対処法。犯人の手掛かりがない場合、まずは会話の内容や訛りなどから地元の者かそうでないかを判断しましょう」

 

 その人物は後ろに立っていた人たちに襟首を手放されその場で捨てられます。

 

「地元民ではなく更に学生服を着ていた場合、1344ページ。……考えられるのは相手も修学旅行生で、旅先でオイタをする輩です」

 

 そして入って来たのは残りの四班の五人。

 

「みんな!」

「テメェら!何でここが分かった!」

「土地勘のないその手の輩は、拉致した後、遠くへとは逃げず、近場で人目に付かない場所へと向かうでしょう」

 

 その後は付録の134ページに先生がマッハ20で下見した拉致実行犯潜伏マップが役立つとのことですが……

 

「凄いなそのしおり!カンペキな拉致対策だ」

「いやー修学旅行のしおりは持っとくべきだね」

「ふふ~ん。僕も持ってきてたりするのだ~」

「「「ねぇよ!そんなしおり」」」

 

 ……普通はありませんよね。確かに。

 

「……で、どーすんの?お兄さんら。……こんだけの事してくれたんだ。あんたらの修学旅行、この後の予定は全部入院だよ」

「でも、安心していいよお兄さんたち。……たっぷり絶望を味わって目が覚めたらベッドの上で寝かされてるだけだからさ」

 

 完全にキレてるカルマ君と風人君。風人君のあんな表情……今まで見たことない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、ここで時は遡り、拉致されてから少し経ったころ、

 

「あれ?奥田さんは無事だった?」

 

 気がつくと残っていたのは、僕、渚、カルマ、杉野、奥田さんの五人。

 

「はい。思い切り隠れていました……」

「いや、それが正しいよ。というか、あいつら、直接俺の手で処刑させて欲しいんだけど」

「はっ。お前一人にはやんねぇーよ。オレにも処刑させろ。連れて行ったことを後悔させる」

 

 キレてるのはこっちも同じだクソ野郎が。有鬼子に妙なことしてみろ。ぜってぇコロス。

 

「んじゃ行こうか。風人」

「そうだな。カルマ」

「待って二人とも」

 

 敵陣に乗り込もうとすると渚が止めてくる。

 

「まずは殺せんせーと烏間先生に連絡するのが先だよ」

 

 まぁ、確かにこの状況、警察より殺せんせーの方が使えるな。あの高校生共。見た感じ手慣れていやがるし。……というか、ビッチ先生にはいいのね。

 

「んじゃ、その間にしおりでも見ておくか」

「そうだね。多分、このしおりに……あった。班員が拉致られた時の対処法」

「どこまで想定してんだよ!」

「おそろしくマメだね~で、どうすんの?」

 

 と、会話してる時に殺せんせーが現れ、オレらはここを。殺せんせーはそれ以外をしらみつぶしに回っている。

 で、現在に至るわけだ。

 

「……フン、チューボーが粋がんな」

 

 背後から聞こえる足音のようなもの。

 

「呼んどいたツレどもだ。おめぇらみたいないい子ちゃんはな見たこともない不良ども……」

 

 そして現れたツレとやらは確かに見たこともない不良どもだった。

 いやねぇ。丸坊主に丸眼鏡の不良って……笑いが止まらないよ?

 

「ふりょ……えぇぇ!?」

「不良なんていませんねぇ。全員せんせーが手入れしてしまったので」

「って、そいつらさっき俺と風人が倒して捨てておいた奴らじゃん」

「あーほんとだー。何自分がかっこよくやりましたみたいに言ってんの?」

「だ、黙ってなさい!」

「「へーい」」

 

 全く。いいとこどりとはずるいなぁー

 

「遅くなってすみませんねぇ」

「それはいいんだけど……何?その顔隠しは?」

 

 殺せんせーは黒子のようなかんじの帽子を被っていたが……顔が大きすぎてはみ出ている。

 

「暴力沙汰ですので。この顔が暴力教師と覚えられるのが怖いのです」

 

 ……はぁ。

 

「渚君と風人君がしおりを持っていてくれたから迅速に連絡が出来たのです」

 

 そういうと、カルマ、杉野、奥田さんの手にしおりが。……あれ予備かな?

 

「先公だと?ふざけんな!」

 

 武器を持って突撃してくる不良たち。僕とカルマが応戦しようと拳を握ると、

 

「ふざけるな?」

 

 一瞬で不良たちに殺せんせーが平手(触手?)打ちを喰らわせた。

 

「それは先生のセリフです」

 

 すると、殺せんせーの顔はどす黒く、怒っていた。

 

「ハエが止まるようなスピードと汚い手でうちの生徒に触るなど……ふざけるんじゃない!」

「てめぇもエリートだから、俺らをバカ高校だと見下すのかよ!」

 

 そういうと、一斉に構えるナイフ。よし、こっちも新武器を……

 

「エリートではありません」

 

 出す前にせんせーが殴り始めた。しかたない。別のことしよう。

 

「確かに、彼らはエリート校の生徒ですが、学校ないでは落ちこぼれ呼ばわりされ、他クラスの生徒からは差別の対象とされています。ですが、そんな中であっても、彼らは多くのことに前向きに取り組み、前へと進んでいます」

 

 まぁ、そのうちの大半が暗殺なんだよな……

 

「君たちのように。他人を水の底に引っ張るような真似はしません。学校や肩書など関係ない。清流に住もうが、ドブ川に住もうが前へと泳ぎ進めば、魚は美しく綺麗に育つのです」

「そして美味しく食べられるのです」

「風人君!今は先生の決め台詞の最中だから口を挟まないで下さい!」

「ほーい」

 

 いや、美(味)しく育ったら食べるのが普通じゃない?あ、音消して移動しよっと。

 

「コホン。さて私の生徒たちよ。彼らを手入れして差し上げましょう。修学旅行の基礎知識を身体に染み込ませてあげましょう」

 

 ゴンッ!

 

 僕らは持っていた修学旅行のしおりという名の鈍器を思い切り振りかぶる。

 不良も気絶。これにて一件落着。

 

「杉野ー二人の拘束を解いてあげてー」

「分かってるよカルマ」

「ん?あ、コレ」

 

 何となく床に転がっていた携帯を開けると、そこには去年会ったころの有鬼子の写真が……

 

「プフッ。久しぶりに見たけど似合ってない~ププッ」

 

 とりあえず、写真を撮って~

 

 バキッ

 

「殺せんせー口開けて~」

「こうですか?」

「はい餌だよ~」

「ムシャムシャ。これは携帯の味ですね。レアメタルの味がします」

 

 よし。証拠隠滅。

 

「風人君……」

「あ、無事だった?何かされてない?されてたら殺せんせーにのこぎりかチェーンソー持ってきてもらって奴らのアソコを一人ずつ斬り落とすけど」

 

 慈悲は無い。殺さないだけマシだと思え。

 

「そんなことされてないから大丈夫だよ」

「よかった~怖い思いさせてごめんね~」

 

 僕は有鬼子の頭を撫でる。

 

「大丈夫だよ。それより、風人君。口元に血の跡が」

「あ、切ったのかな?気にすることないよ~」

 

 自分では気づかないもんだ~。うんうん。

 

「他にも怪我してない?」

「うん~。多分してないと思うけど~……」

「あれ?この左手首の傷は?」

「……昔のだから気にしなくていいよ~」

「そう……でも、ありがと。助けてくれて」

「いいっていいって~」

「ふふっ」

 

 あれ?何か変わった?まぁ、気のせいか~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~一時はどうなること思ったよ~」

 

 そして外に出る。既に夕日は傾いている。

 

「うーん。俺一人なら何とかなったと思うんだけどね~」

「そうだよ~僕一人でも何とかなったと思うよ~」

「怖いこと言うなよ」

「でも二人ともさらに厄介な問題を起こしそうだけど」

「「こいつと一緒にしないでよ」」

「「「はははっ」」」

 

 全く、失礼だな~

 

「でもよかった~大丈夫?神崎さん」

「ええっ。大丈夫」

「何かありましたか?神崎さん。こんなことがあったのに迷いが吹っ切れたような顔をしてますから」

「……特に何も。殺せんせー。ありがとうございました」

「いえいえ。それでは修学旅行を続けますかねぇ」

 

 と、いいつつも今日はこれで終わり。後は宿に戻るだけだ。

 

「そういやウチの班。暗殺できなかったなぁ」

「それどころじゃなかったですから……」

「いいよ。今殺せば」

「そーだねー」

「あ、風人。殺せんせー殺した方勝ちにしない?」

「あーあの不良の倒した数の勝負のこと~?」

「そそ。今6対6で互角でしょ?」

「うん。いいよ~」

「君たち。あの状況でそんなことやってたんですか……」

「お前らなぁ……」

 

 いやねぇ。そっちの方が良かれと思って。

 ちなみに全部避けられて引き分けだったことを記す。



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修学旅行の時間 四時間目

「恥ずかしいなぁ。何か」

「って言いながらいつも通りじゃないか~」

「ふふっ。風人君には負ける気ないよ」

「何を~」

 

 僕らは今旅館にあるシューティングゲームでスコアを競っている。

 

「すげぇ、二人ともどうやって避けてるのかまるで分からん」

「凄い。和光君はともかく神崎さんがこんなにゲーム上手いだなんて意外です」

「黙ってたの。遊びができてもウチじゃ白い目で見られるだけだし」

 

 うんうん。分かる分かる。

 

「服も趣味も肩書も流されたりして身に付けていたものだったから。自信がなかったの」

 

 ほうほう。

 

「でも殺せんせーに言われて気付いたの。大切なのは中身の自分が前を向いていることだって」

「ほへぇ~……あぁ!ミスった!」

「ふふっ。じゃあ、私の勝ちだね。どこまでスコアを伸ばせるかな」

 

 くそー話を聞きながらやるもんじゃねぇ~まぁいいけど。

 

「はははっ。上手いね風人君」

「そりゃどーも。まぁ、僕以上の化け物がそこに居るからね~」

「ははっ。でも、神崎さんが言ってたよ?風人君も上手いって。初めて会った時からそうだって」

 

 そう。有鬼子は、僕との関係を小学校ということにしていた。ただ、今日の一件があってか、そのことを撤回。四班のメンバーには前から騙して言っていたので、撤回すると共に真実を告げた。まぁ、真実って程のものでもないけど。

 

「あーやられた」

「ふふっ。残念」

 

 ほんと、あの時、隠そうと必死になっていたのが嘘みたい。自分の殻が破れたのかな?

 

「次はあれで勝負しよ~」

「いいよ。風人君の連敗記録が更新できるんでしょ?」

「僕が負けること前提!?」

 

 と、ゲームを何戦かやった後、お互いに部屋に戻ることにした。結果?聞かないでくれ。いやねぇ。あれだようん。勝つことは出来たよ?うん。ただ、

 

「浴衣姿が可愛くて集中できなかった……」

「へぇ~誰の浴衣姿が可愛かったの?」

「有鬼子のだよ。全く。普段よりも可愛くて僕の集中を乱すとは卑劣な策略だよ~」

「あはは。乱される風人が悪いだけじゃないの?」

「そんなことないよ~で、カルマは何してたの?」

「俺はジュースを買いにね。もう部屋戻るけど」

「じゃあ、僕も~」

 

 と、男子部屋に入ると何やら楽しそうなことしていた。

 

「お、面白そうなことしてんじゃん」

「僕らも混ぜてよ~」

「カルマに風人。いいところに来た。お前ら気になる女子()いる?」

「うーん。俺は奥田さんかな」

「うーん。僕は有鬼子かな」

 

 まぁ、何だかんだ同じクラスになってから一番話すし。

 

「言うのかよ」

「え?普通言わないの?」

「普通は知られたくないんだよ」

 

 ほへぇ。そうなんだ。

 

「風人はともかくカルマは意外だな。何でだ?」

「だって彼女。怪しげな薬とかクロロホルムとか作れそうだし。俺のいたずらの幅が広がるじゃん」

「絶対くっつかせたくない二人だな」

 

 それある~。

 

「一応聞いとくと風人の方は?顔か?性格か?」

「うーん。僕の場合は、まぁ気楽だからかな~のんびりマイペースに過ごしていても問題ないし~一緒にいると楽しいし~」

 

 ただし、よく説教はされるけど。それはおいといて。

 

「皆。この投票結果は男子の秘密な。知られたくねぇ奴が大半だろーし」

 

 ふむふむ。秘密秘密。

 

「女子や先生には絶対にな」

「ほーい。でも、あのタコはどうするの?」

 

 障子を僅かに開けていた殺せんせーが、

 

「なるほどなるほど」

 

 サー

 

 障子を閉め、投票結果をメモして逃げる。

 

「メモって逃げやがった!殺せ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方の女子部屋。男子と同様のことをしていた。

 

「好きな人?」

「そうそう。こういう時の定番でしょ?クラスの男子でね。烏間先生は除外で」

「えぇー何で?」

「だって皆そうでしょ?面白くないじゃない」

「えぇー」

「うちのクラスでマシなのは磯貝と前原くらい?」

「そうかな?」

「そうだよ。まぁ、前原はタラシだから残念だとして、学級委員の磯貝は優良物件じゃない?」

「あ、顔だけならカルマ君と和光君もカッコいいよね」

「あー素行と性格さえ良ければね……」

「「「そうだね……」」」

 

 カルマは素行不良。風人は超自由人と、顔の良さを帳消しどころかマイナスにする勢いで中身が最悪なのである。

 

「じゃあ、その二大問題児が一緒だった四班。どうだった?」

「でも、カルマ君は意外と怖くないし、和光君も班を乱すほどマイペースではなかったですよ」

「そうそう。普段は二人とも大人しいし」

「野生動物か」

 

 と、女子の方で散々な言われようのカルマと風人である。

 

「神崎さんは?」

「えぇ!?わ、私は好きな人なんてい、いないよ……?」

 

(((あ、コレ絶対居るパターンだ)))

 

「ほうほう。これは気になりますねぇ。大方、四班の男子の誰かか」

「四班の男子だと、渚君に杉野君。後、二大問題児(カルマ君と和光君)だね」

「じゃあ、和光君で決定だね」

「そうだね。和光以外に考えられない」

「ま、待って!何で風人君だって分かったの!?…………あ」

 

 口に手を当てる神崎。しかし、時すでに遅し。

 

「いやーどう考えてもねぇ」

「悩む間もない」

「いっそのことコクっちゃえば?絶対オッケー貰えるでしょ」

「「「うんうん」」」

「それは無理だよ……だって、嫌いって言われたことあるし……」

 

 頬を紅く染めながら答える神崎。

 

「ふーん。四班の二人から見て和光はどうだった?」

「うーん。あ、大人しいと思ったらカルマくんと一緒に真っ先に不良に喧嘩売ってたよ」

「え、マジで?」

「はい。その後も怖そうな人たちを片っ端からボコボコにしていました」

「予想以上に男らしいんだね~何と言うか真っ先に逃げるタイプか我関せずタイプだと思ってた」

「あ、でも神崎さんが連れてかれたことで和光君かなり怒ってましたよ?」

「風人君……」

 

 ガラッと、障子が開きビッチ先生が入って来た。

 

「ガキ共ー一応就寝時間だってことを言いに来たわよー」

「一応って」

「どうせ夜通しお喋りするんでしょーあんまり騒ぐんじゃないわよー」

「そ、そうだ皆。ビッチ先生の話でも聞いてみない?」

「うん。そうだね。神崎ちゃんの話は後でいくらでも聞けるし」

「ビッチ先生の話聞いてみたい~」

 

 と、流れに身を任せ、話すことになったビッチ先生。

 

「「「えぇー!?まだ二十歳!?」」」

「経験豊富だからもっと上かと思ってた」

「ねー毒蛾みたいなキャラの癖に」

「それはね濃い人生が作る毒蛾のような色気が――誰だ今毒蛾つったの!」

 

 ツッコミが遅い毒蛾ビッチ先生である。

 

「女の賞味期限は短いの。あんたたちは私と違って危険とは縁遠いところに生まれたの。感謝して全力で女を磨きなさい」

「ビッチ先生がなんかまともなこと言ってるー」

「なんか生意気ー」

「なめくさりおってガキ共!」

「じゃあさじゃあさ。ビッチ先生がオとしてきた男の話きかせてよ」

「私も興味ある~」

「せんせーも~」

「ふふっ。いいわよ子供には刺激が強いから覚悟なさい」

 

 と、ここでビッチ先生は気付く。女子だけのスペースだった場所に何か異物が紛れ込んでいることに。

 

「っておいそこ!さりげなく紛れ込むな女の園に!」

「いいじゃないですか~私もその色恋のハナシ聞きたいですよ」

「そーゆー殺せんせーはどーなのよ。自分のプライベートはちっとも見せない癖に」

「そーだよ。人のばっかずるい」

「先生は恋バナとかないわけ?」

「巨乳好きだし片思いくらい絶対あるでしょ!」

 

 女子に詰め寄られる殺せんせー。そこで殺せんせーが取った行動は……!

 

「逃げやがった!」

 

 逃走である。

 

「捕らえて吐かせて殺すのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ。結局は暗殺だね~」

「そうだね」

「どうしたの~?お疲れ~?」

「うん。色々あったからね」

 

 月を見ながら肩を並べて語る僕ら二人。

 

「ねぇ、風人君。あの時の約束。守れなかったのには理由があったんだね」

「……あー。去年の夏のか」

「そう。ごめんね。今まで誤解していたけど、あの時も見えないところで助けてくれてたんだね」

「さぁね~僕は助けたつもりなんてないよ~」

「でも、これだけは言わせて。ありがとう。風人君」

「どういたしまして。というか顔紅いよ~?大丈夫~?」

 

 熱でもあるのかな?

 

「う、うん。大丈夫。ちょっと気付いちゃっただけだから」

「気付いた?何に~」

「内緒。今は秘密だよ」

「えぇー」

 

 口に人差し指を当て、片目を閉じる。

 

「いつか、教えて上げるから」

「できれば地球が破壊される前にね~」

「ふふっ。そうだ風人君」

 

 そういうと抱き着いてくる有鬼子。

 

「私のために怒ってくれてありがと。でも、風人君が傷付くのはもう見たくないかな」

「分かった~でもさ。もし、僕が傷付いて、有鬼子を守れるのなら。僕はいくらでも傷付くよ。君を守るためにね」

 

 …………これが僕の贖罪だから……

 

 すると、耳まで紅く染める。あ、やべ。怒らせたか?

 

「じゃ、じゃあね風人君。おやすみなさい」

「うん。おやすみ~」

 

 離れて部屋の方まで小走りで戻る。

 

「何かあったのかな?」

 

 まぁ、何でもいっか~。



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有希子と風人の時間 出会い

 波乱の修学旅行は終わった。皆旅行の疲れが溜まり、帰りの新幹線でほとんどの人が眠っている。

 

「むにゃ~もう食べられないよ~」

 

 私の膝を枕にして、夢を見る風人君。

 膝枕している理由は私が風人君に私の膝に枕を乗せるよう言ったからだ。膝というか太ももというか。

 

「よく寝てるね」

「ふふっ。本当にね」

 

 凄く可愛い寝顔だ。夢の中で何か食べてるのかな?でも、本当に、

 

「好きなことを自覚しちゃったからかな」

 

 今までより、とても彼が愛おしく思えてしまうのは。

 

「でも神崎さん。いつから気になってたの?」

「分かんないけど、もしかしたら最初からかも」

「へぇーゲーセンで会ったんだっけ?どんな出会いだったの?」

「うん。あれはね……」

 

 あれは去年の夏休みのこと。風人君との出会いは夏休みが始まって間もなくだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はその頃。家の呪縛が嫌で髪を染め、服も普段着るような感じじゃなくて何と言うかサバサバしたような服を着ていた。アクセサリーも付け、慣れない化粧もして。自分では無い、自分とは全く別の……もう一人の自分を作り出していた。

 

「チャレンジャー?」

 

 私がやっていたのは格闘ゲーム。もちろん一人でも遊べるが向かい側の機体に居る人と対戦ができる。チャレンジャーということは向こう側に座る人が対戦を申し込んできたということだ。

 当然拒否する選択もある……が。わざわざ挑んでくれたんだ。受けてあげるのも一興だろう。

 

「Ready……Fight!」

 

 画面では試合が始まる。私の操作するキャラは謂わばスタンダード。全ての能力が平均的で初心者が使いやすいキャラ。当然、私は初心者ではないが、割とこういうキャラは強い。なぜなら、バランスが取れているから。対して相手の使うキャラは性能がピーキー。いかにも上級者が好みそうなキャラ。

 このキャラはスピードと手数が重視な反面、その小ささゆえに軽く、ダメージを受けた時に大ダメージを貰ったり、後、一撃一撃がそこまで重くない。強いかと聞かれたら本当に使う人によるって感じだ。だから、使い手の腕がはっきり分かれる。

 でも、残念。例え上手かったとしてもこのキャラの動きは分かってる。セオリー通りなら、最初からガンガンスピードを生かした攻めを――

 

「……動かない?」

 

 攻めてくる素振りを一切見せない。なら、私から……

 

「へぇー……面白い」

 

 あのキャラはカウンターを使うには向いていないはず。理由としてはカウンターで失敗した時のリスクが他のキャラに比べ圧倒的にデカいからだ。それにも関わらず初手からカウンター戦術とは、これはこのキャラをよく知らない人が操作しているのか、それとも……

 

 

 

 

 

 

 

 

「You Win!!」

 

 結果は私の勝ち。でも圧勝とはいかずに僅差での勝利。一回でも操作をミスしていれば負けていた。今まで……というか昔から私はゲームが強かった。相手に圧勝することがほとんどで負けたことなんてそのゲームをやりたてだった時くらい。でも、私はこのゲームはそこそこやっていた。普通の人にはこんな僅差でなんてことはないはず。

 私は興味本位だった。どんな人だったんだろうっていう純粋な興味。上からな言い方になるかもしれないけど、こんなにもゲームで私を熱く、楽しませてくれた人だ。一目見るだけなら罰は当たるまい。

 

「……キミ、小学生?」

 

 と、見たところ相手は小学生の高学年くらいの子だ。

 

「違います~僕は中学二年生です~」

 

 そういうと、その子は胸を張り、立ち上がる。背は私より小さいかな。150cmくらい?

 

「えーっと……」

 

 あ、どうしよう。会話が続かない。というか、私の驚きに向こうが返したって感じだから……次なに言えばいいんだろう。

 

「そういう()()()()は何歳なの~?」

「…………(ピキッ)」

 

 私はかつてないほどの殺気を覚え、目の前の男の子の顔を鷲掴みにします。

 

「おばさんじゃないです……中学二年生です……!」

「いひゃいれしゅ……はにゃしてくだしゃい……」

 

 と、痛そうにするこの子を見て手を放します。どうしましょう。思わず手が出てしまいましたが、これは怒らせてしまった……?

 

「うぅ……でもさ~。そんな化粧して、髪染めている人。僕と同い年とは思えないな~」

「こ、これは……」

「まぁいいや~お姉さん。強いね~見た目バカそうで軽そうなのに~」

 

 この子どうしてくれよう。

 

「お姉さん~名前はなんて言うの~?あ、僕は和光風人~よろしくね」

 

 私は迷った。ここで自分の名前を告げていいのかと。もし、椚ヶ丘中学の人なら後々に厄介なことになる。

 

「和光君は……」

「風人でいいよ~」

「じゃあ、風人君はどこの中学に通ってるの?」

「○○中学ってところ~」

 

 聞いたことがない。ということは少なくとも椚ヶ丘中学の付近ではなさそうだ。

 

「私は神崎有希子」

「ほへぇ~神崎さんかぁ~見た目と違って話し方が丁寧だね~」

 

 どうしてこの子は一言も二言も余計なのだろうか。

 

「ねぇ神崎さん~次は別のゲームで遊ぼ~」

「……はぁ。いいよ。どうせ暇だし」

 

 もし、この時に断っていたら未来は大きく変わっていただろう。まぁ、当時の私の知るところではないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神崎さん強いね~」

「そういう風人君もかなり強かったよ」

 

 あの後、シューティングゲーム、ダンスゲーム、落ちゲー、リズムゲーム、レースゲームなどあらゆるゲームで対戦した。感想としては、彼は強い。強いうえにトリッキーな動きをしてくるから動きが読めない。動きどころか考えも読めない。

 ただ一つ言えるのは彼とゲームすることは楽しかった。本当に楽しい。半ば自棄になってここにきた感じだけどこんなに楽しいとは思わなかった。

 

「ねぇ。風人君って、今夏休み?」

「いえ~す」

「じゃあさ、また一緒に遊ばない?」

 

 あれ?今私なんて?

 

「うん~いいよ~」

 

 快諾してくれる風人君。でも私は驚きました。今日知り合った赤の他人からの誘いを何の迷いもなく受ける風人君に対しても、その赤の他人。しかも異性である彼に次の約束を取り付けた私に対しても。

 

「次いつ来る~いつでもいいよ~」

「夏休みの宿題あるから……毎日は無理でも週に二日か三日くらいならいいかな」

「夏休みの~宿題?」

 

 目の前の彼は首をかしげてまるで『何それ?』って顔をしています。

 

「あーもう終わってるからいいや~」

 

 ……おかしいなぁ。まだ七月下旬。夏休みに入ったばっかなのに何でもう終わらせているのだろう。あぁ、きっと宿題が少ないんだね。

 

「じゃあ、今度の土曜日にまたここでね。じゃあね。風人君」

「うん。またね~」

 

 私は駅に、彼は多分家の方に歩いて向かいます。家、このへんなのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼とは週に二日か三日のペースで一緒にゲーセンで遊んでいました。まぁ、時にはゲームショップに行ったりもしたけれど、本当に楽しい時間でした。

 しかし、私には分かっています。もうこの時間も終わりだということを。

 私と彼はゲーセンで会ったゲーム仲間。お互いの家も知らないし、連絡先も知らない。私は学校が始まってしまえば、ここに来ることは出来ない。文字通りの最後です。

 だから、私は彼と会う最後の日、彼とは決別をする気でいました。しかし、

 

「……遅いなぁ」

 

 いつまで経ってもいません。いつもならゲームの台の前にいたりするのに今日に限って何処にもいません。

 

「……約束したのに」

 

 彼と約束したのに、守られない。

 ……あーでもそれが普通かな。こんな約束、別に破っても咎めようがないし、そもそも今まで付き合ってくれたのだ。文句言える立場じゃないか。

 

「……しっかりとお別れとお礼。言いたかったのに」

 

 この先出会う確率はゼロとは言わないけど限りなくゼロに近い。しかも私は彼に文字通りの素顔を晒していない。つまり、会っても向こうが気付かない可能性だって十分にある。

 彼のような人ともっと早くで会えていれば変われたのかな。もし、彼が一緒に、この先もずっと居れたら良かったかも…………でも、そんな希望が叶うことはもうないんだ。

 

「……時間だね」

 

 私は彼に対する想いを全て心の中に仕舞い込む。二度と開くことのないであろう心の奥底に。

 

「じゃあね。風人君。今までありがとう」

 

 私は一言告げ、立ち去っていく。もう二度と会うことのない彼に向かって……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁー和光くん。約束破っちゃったの?」

 

 時は現在。帰りの新幹線の中に戻る。話を聞いた茅野さんが真っ先に口にした。

 

「うん。あの時は内心モヤモヤしていたの。急に現れたと思ったら煙のように消えて、でこのE組に入って殺せんせーが来たと思ったらふらっとまた現れたの」

 

 あの時最後に言いたいことはたくさんあった。でも、今の彼には言えなかった。

 

「どうしても聞けなかったの。風人君に『あの時なんで約束を破ったの?』ってね」

「なんで?」

「風人君のことだから忘れていたかもしれないし、ゲームのし過ぎとか下らない理由だったかもしれない。でも、もしかしたら私が嫌になって約束を破ったかもしれないって思うと聞くのが怖かった」

 

 そう思うと今の関係を保てなくなってしまうから。

 

「でも、修学旅行を通して真実を知れたの」

 

 その真実は私がまるで想定していなかった真実であり、風人君が言っただけなら絶対に信じなかったようなものだった。誰だってそうだろう。まさか、自分が攫われるような計画をされていて、それから影で救っていただなんて。

 

「風人君の優しさにもね」

 

 それに風人君はこの事を私に告げなかった。私は彼に感謝するだけの理由がある。いや、感謝どころの話じゃないかもしれない。もし、風人君が救ってくれなかったら、私はここに居なかったかもしれない。あの人たちと同様のところまで堕ちて遊び道具として扱われていたかもしれない。

 風人君は私の恩人だ。この事を彼が引き合いに出して私にあの手この手の事を言ったりやったりすればいいのに彼はその手のことを一切考えない。まるで、助けるのが当たり前なようだ。

 

「ふむふむ。それで風人君といつくっつくのでしょう」

「ちゃっかり話に加わってこないで下さい。殺せんせー」

「えぇーだって、二人のいちゃつきシーンをもっと見たいですよ」

「くっついたとしても見せませんよ」

 

 そういいながら私は彼の頭に手を置いてゆっくり撫でる。ふふっ。本当に可愛いなぁ。

 

「……むにゃ。有鬼子の鬼~バカ~」

 

 そしてグーを作って思い切り振り下ろす。

 

「……むにゃ~?朝~?」

「おはよ風人君」

「うぅ~なんか頭に痛みが……」

「気のせいじゃない?ほらまだ着くのは当分先だよ?」

「はーい」

 

 再び私の膝に頭を乗せて、寝始める風人君。私は風人君のことが好きです。ですが、それとこれとは話が違いますよ。

 こうして私たちの修学旅行は幕を閉じます。

 あと、この時、殺せんせーと茅野さんが目を見開いていましたがスルーしておきます。




ところで、この時期の神崎さんの口調とかってこんなんだったのだろうか?


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転校生の時間

 修学旅行も終わり、今日から平常授業。というわけで、

 

「僕も平常運転~」

 

 ガンッ

 

「うぅ……いたい」

「何で電柱にぶつかるの……」

 

 仕方ないことだ。久しぶりにこの道を歩くから感覚が掴めてなかっただけだ。

 

「そういえば風人君。昨日の烏間先生からのメール見た?」

「めーる?」

 

 そんなの来てたような~来てなかったような~

 

「転校生が来るって話……知ってる?」

「えぇっ!?転校生が来るの!?」

「はぁ。メールを見たら?」

 

 そう言われてメールを開くと、

 

 

『明日から転校生が1人加わる。多少外見で驚くとは思うがあまり騒がずに接してあげて欲しい。

烏間』

 

 

「ほへぇ~でもこの時期に転校っておかしくない?」

「……それ風人君が言っちゃう?」

「でも外見で驚かないでってどんなのだろう~」

 

 明らかに中学生に見えないボディービルダー的なのが来るのかな~それとも、無茶苦茶体のバランスおかしいのかな~

 

「気になるし早くいこ~」

 

 ドンッ

 

「いてて……躓いた……」

「何で気を抜くとすぐにコケるの……」

 

 うぅーでも仕方ない……

 と、この後、何度も躓きかけながら教室にたどり着くと、教室の片隅に直方体の黒い物体が置かれていた。

 

 

『おはようございます。転校してきた自律思考固定砲台と申します。今日からよろしくお願いします』

「「…………」」

 

 あまりのことに固まる僕ら。すると何を思ったのか有鬼子が僕の頬を抓る。

 

「いひゃいです!いきなり何するの!?」

「夢……じゃないのね」

「普通自分の頬を抓って確認するでしょ!?」

「風人君ならいいと思って」

「そこおかしいからね!?」

 

 とはいえ僕もこれは予想外。もはや人間の括りを超えてくるとは思いもしなかった。これぞ人知を超えた存在ってやつだね!

 

「あれ?固定砲台なのに……砲台がない?」

 

 ふむふむ。まぁ、そういう日もあるさ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝のHR。烏間先生がチョークを手に取り、『自律思考固定砲台』と書く。

 

「ノルウェーから来た自律思考固定砲台さんだ」

『みなさまよろしくお願いします』

 

(烏間先生、大変だなぁ……)

(俺だったら突っ込みきれずにおかしくなるわ……)

 

「おぉー!外国人さんなんだね!」

「「「いや、まず人じゃないからね!」」」

 

 あれ?外国人転校生とか二次元のテンプレ……あ、人じゃない。……がーん。

 

「プークスクス」

「お前が笑うな!」

「そーだそーだ!同じイロモノ枠のくせに~!……って、烏間せんせー。この自律思考固定砲台さんって、僕らと同じ生徒なの~?」

「ああ。彼女はれっきとした生徒として登録されている」

 

 生徒って人外でもなれるんだ。

 

「つまり、お前はこの子には手を出せない。生徒には手を出すことを許さない。そういう契約だからな」

「契約を逆手に取ってきましたか……ええ、いいでしょう。私は自律思考固定砲台さん。あなたをE組として歓迎します」

『よろしくお願いします。殺せんせー』

 

 チャイムが鳴り、休み時間……だがまぁ、特に何もすることなく授業開始。一時間目は殺せんせーの国語だ。授業が開始して数分。突如、隣の席の人(?)が突然機械音を立てて動き出す。

 そしてサイドから銃火器が展開された!

 

「やっぱり!」

「かっけぇ!」

「おぉーーーー!」

 

 展開されたのはショットガン二門。機関銃二門。展開されたと同時に発射される弾丸の数々。黒板に当たって跳ね返った分が全て僕らに来ている。……まあ。僕一番後ろの列の席だから~一切の被害がないですけど~

 

「濃密な射撃ですが、ここの生徒も毎日やっていますよ……それと、授業中の発砲は禁止です」

 

 すると、銃をしまう自律思考固定砲台さん。 

 

『……気をつけます』

 

 おぉー分かってくれたみたい。

 

『続けて攻撃準備に入ります』

 

 あれ?分かって……くれた?

 

「ねぇカルマ。これ授業になると思う?」

「ならないだろうね~」

 

 隣で色々と言っている自律思考固定砲台さん。そして再び銃を展開!

 さっきと全く同じように見える弾丸。全く同じように避けている殺せんせー。……あれ?今発射された弾。さっきの時にあったかな?

 

「へぇー」

 

 そう思うと、何と殺せんせーの指が一本弾き飛ばされていた。

 

「なかなかやるねぇ~」

「風人。まさか、今の見えてたの?」

「見えてたっていうか、今のは隠し弾だね。殺せんせーが一回目にチョークで弾いた弾丸の真後ろにもう一発忍ばせていた。殺せんせーにとって死角になってただろうしね~」

「お前、どんだけ目がいいの?」

 

 目がいいっていうか、動体視力がある程度あるっていうか。

 

『左指先破壊。副砲効果確認。次の射撃で殺せる確率0.001%未満』

 

 わーお。

 

『卒業までに殺せる確率90%以上』

 

 確かにこれを卒業まで何千何万とやれば殺せそうだね。

 

『それでは次の攻撃に移ります』

 

 その後、一時間目は自律思考固定砲台さんの攻撃により、授業にならなかった。

 一時間目終了後。

 

「え、俺らが片付けんのか?」

 

 辺りに散らかってる無数のBB弾。え?ウソでしょ?

 

「お掃除機能とかついていないのかよ」

 

 と、聞いている人もいたが自律思考固定砲台さんはだんまりである。

 二時間数学三時間目社会と、銃による射撃の雨はやまない。まぁ、そんな中で教科書を朗読できる殺せんせーは凄いな~

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

『これでは銃を展開できません。殺せんせー。拘束を解いてください』

 

 自律思考固定砲台さんはガムテープによってぐるぐる巻きにされていた。ぐるぐる~。

 

『……これは明らかに契約違反ですが?』

「ちげーよ……俺がやったんだよ。どう考えても邪魔だろ……常識ぐらい身につけてから殺しにこいよ。ポンコツ」

「え?寺坂君が常識とか言っちゃう?」

「テメェに言われたくねぇよ和光」

 

 ひどいな~

 

「ま、機械には常識なんてわからねえよな」

「授業終わったら開放するからね」

 

 菅谷君と原さんの2人にそう言われるがはてさて。

 

 

 

 

 

 

 

 そして夜。僕はあることを思いついて学校に侵入。もとい来ていた。

 

『自律思考固定砲台よりマスターへ。不測の事態発生。自身で解決できる確率0%。対策を求めます』

「ダメだよ~(開発者)に頼ったら」

「そうですよ。あなたの親御さんの考える戦術とこの教室の現状は合っていない」

 

 そう。今のままでは僕らにとっては邪魔でしかない。

 

「あなたはここ三年E組に転校してきた私の生徒です。まずは皆さんと協調しなくては」

『協調?』

「そーだね~何で僕らが君の暗殺の邪魔したか、邪魔しても誰も反論しなかったか。分かる~?」

『理由……ですか』

「簡単に言えば自律思考固定砲台さんの存在は僕らにとって何の利をもたらさない。君が暗殺を成功しても100億は君の開発者へ。そうでなくても、僕らは授業を邪魔される」

「そう。生徒たちからすれば、デメリットのほうが大きい」

『そう言われて理解しました。和光風人さん。殺せんせー』

 

 おぉ!理解してくれた!

 

『クラスメイトの利害までは考慮してませんでした』

「そこでコレをあなたに作ってみました」

 

 そういって出したのは……

 

「もしかして、アプリケーションとか追加のメモリー?」

「正解です風人君。ああご心配なく、ウイルスなどは入っていませんので受け取ってください」

『……分かりました』

 

 というわけで、それを自律思考固定砲台さんにさしてあげる。

 

「クラスメイトと強調して射撃した場合。暗殺の成功率が飛躍的に上がったでしょう?」

『異論ありません』

「協調は大切だよね~」

『でも、私には皆と仲良くなる方法が分かりません』

「ヌルフフフ。この通り準備は万端です」

 

 そういって出したのは工具一式と、なぜかフランスパンとか剣とかいろいろ。

 

『これは?』

「協調に必要なアプリケーション一式です」

 

 え?こんなに沢山?

 

「危害を加えることは禁止されてますが性能アップは禁止されてませんからねぇ」

 

 わーぼーろんだー

 

「風人君。手伝ってくれますね?」

「まぁ、本来は自律思考固定砲台さんとお話しようと思ってきたけどね……いいよ。僕。その手のこと得意だから~」

 

 というわけでセッティング完了。

 

「おはようございます」

 

 ごくり……機械とはいえ女子の身体の中を見るのだ。何だろうこの高まる緊張感は……

 

「あー中身を見たら収まったわ~」

 

 うん。機械の中身見て興奮する奴はいないよね~。

 

『何故こんなことをするのですか?貴方の命を縮めるような行為ですよ』

「ターゲットである前に先生ですから。君には多くの才能がある。それを伸ばすのが君を預かる教師としての役目ですから。君は協調性を学び。どんどん才能を伸ばして下さい」

「わー君にはってことは僕にはないの~?」

「風人君。君にも君の才能があります。人それぞれ違う才能がある。それでいいんですよ」

 

 皆違って皆いいってやつか。

 

「分かったよ~。僕のこの『余計な一言を言わずにはいられない才能』を頑張って伸ばすことするよ~」

「それは伸ばさなくていいです!」

 

 えー

 

『殺せんせー。この世界スイーツ店ナビ機能は協調に必要ですか?』

「おいこのタコ。何私利私欲に塗れたアプリをインストールさせてるんだよ」

『和光風人さん』

「風人でいいよ。どうしたの?」

『では、風人さん。このゲーム製造機能は協調に必要ですか?』

 

 さっ。っと横を見て空を見る。今日も三日月だな~

 

「風人君!そんな私利私欲に塗れたアプリをインストールさせないでください!」

「お前に言われたくねぇよ殺せんせー!」

「……あの~是非。私にも遊ばせてくださいね」

「最低だ~!教師としてあるまじき発言!」

「そうだ風人君。こんなアプリを開発するのはどうでしょう?」

「はぁ~そんなのよりこっちの方が実用的だよ~」

 

 と、下らないやりとりをしながら作業すること気付けば数時間。僕は殺せんせーに運ばれて帰宅した。疲れた。寝る。



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自律の時間

 翌朝……

 

「ふぁあああああ~」

「いつになく大きなあくびだね」

「うん~今日全然寝てないんだ……ふぁああああ」

 

 徹夜である。家に帰って、シャワー浴び直したりしたら時間がなかった。もうダメ。眠い。

 

「徹夜でゲーム?」

「ゲームと言えばゲームだし~違うと言えば違うかな~」

「……何をやってたの?」

 

 リアル転校生改造ゲーム。と、言っても信じないだろう。ふぁああああ。

 

「あ、有鬼子~。運んで~。寝る~」

「嫌です」

「えぇー」

「ほら、行くよ」

 

 有鬼子に手を引かれ歩いていく。あー手があったかいな~

 

「あ、神社に寄っていい~?」

「何するの?」

「お賽銭」

 

 と、神社に寄ってその後は山登り。

 そして、教室につく。みんなもある程度集まる中、そこにいたのは体積が増えた自律思考固定砲台さんだ。

 

『あ、おはようございます!神崎さん!風人さん!』

「うん~おはよ~自律思考固定砲台さん~」

『はい!』

「ちょ、ちょっと風人君!?驚かないの!?」

 

 珍しく凄い驚き慌てる有鬼子。あーかわいい~

 

「自律思考固定砲台さんが一晩で体積が二倍。表情豊かになって全身液晶になってるんだよ!?」

「まぁ~そ~いうこともあるさ~」

 

 でも、昨日の時点で知ってたからな~いや、あれは今朝か。

 

「ヌルフフフ。昨夜から今朝にかけて、風人君と自律思考固定砲台さんをいじったら、先生の財布の残高がなんと……………5円!」

「0円の間違いでしょ~」

「え?しっかりとここに5円玉が……な、ないぃっ!?」

「昨日帰り際にくすねて、今朝神社にお賽銭として投げちゃった。てへっ♪」

「にゅやぁああああ!この最低マイペース!鬼畜野郎!」

「ふははは!何とでも言うが良い!」

 

(あ、あの時の5円って殺せんせーのだったんだ……)

 

「一晩でえらくキュートになっちゃって」

「アレ、一応固定砲台だよな」

 

 クラスメイトからの評判は上場。まぁ、昨日までが酷かったからなぁ。

 

「なに騙されてんだよ、お前ら。全部あのタコと和光が作ったプログラムだろ」

 

 まぁ、そうだけど。

 

「愛想良くても機械は機械。どーせまた空気読まずに射撃すんだろ、あのポンコツ」

「寺坂君~それはないはずだよ~」

『……いえ、庇わなくて大丈夫です。寺坂さんの仰る気持ちはよく分かりますから。昨日までの私はそうでした。ポンコツ……そう言われても返す言葉がありません』

 

 泣き出す自律思考固定砲台さん。背景も大雨が降っている。そんな様子を見ていた片岡さんと、原さんが寺坂君を責めるような眼差しを向けていた。

 

「あーあ、泣かせた」 

「寺坂君が二次元の女の子泣かせちゃった」

「なんか誤解される言い方やめろ!!」

 

 だって事実だも~ん。

 

「素敵じゃないか、二次元……Dを一つ失う所から女は始まる」

「竹林、それお前の初台詞だぞ!?」

「いいのか!?」

「問題そこじゃないよね!?」

『でも皆さんご安心を。私は協調の大切さを二人から学びました。私の事を好きになって頂けるよう努力し、合意が得られるまで単独での暗殺は控えることにいたしました』

「そういうわけで仲良くしてあげて下さい。もちろん先生と風人君は彼女に様々な改良を施しましたが、彼女の殺意には一切手を付けていません」

『はい!』

「先生を殺したいならきっと心強い仲間になるはずですよ」

 

 うんうんいい感じだ。

 

「ところでせんせー」

「何でしょうカルマ君」

「風人と改良したっていったけど二人は結局何をしたの?」

「ふっ。そんな野暮なこと聞かないで下さい」

「すやー(寝たふり)」

 

 いや~答える必要なさそうだし。

 

「ふーん。ねぇ、自律思考固定砲台さん。昨日の夜何されたのあの二人に」

『はい。あの二人に私の身体の隅々まで覗かれ、一つ一つ自分たちの思うように改造をほどかされ、こんな風に改良されてしまったのです……きゃっ♪』

「ふーん。つまり、人間で言うなら深夜の校舎で裸にひん剥かれ自分の欲望のために身体の隅々まで改造されたと」

『はい!そんな感じです!』

「「全然違う(違います)よね!?」」

 

 それだとまるで僕らが自律思考固定砲台さんにエロいことをしたような感じに聞こえ……はっ!

 

「カーゼートー君?」

「ゆ、有鬼子……」

 

 笑顔なのに殺気がだだ漏れだぁ!

 

「か、カルマー!た、助けてぇ!」

「うーん?何でぇ?面白そうじゃん」

 

 あ、悪い笑顔だ。コイツ狙って言いやがったな。

 

「正座」

「こ、今回は僕悪くないよね!?」

 

 おかしい。今回は特に何も…………はっ!分かったぞ!

 

「殺せんせー!自律思考固定砲台さんの胸のサイズを大きくしたから有鬼子が怒ってるじゃないか!」

「にゅやぁ!?君は本当に余分なことを言う天才ですね!?胸のサイズは平均にしておきましたよ!」

「じゃあ、可愛さにあざとさをプラスしたからか!有鬼子にはないものを入れたから怒ってるんだよ!」

「そんなのよりも全身タッチパネルにしたからでしょ!君の意向と趣味によって彼女の容姿は決めたんですから!」

「何を白々しい!全部プログラムを作ったのアンタだろ!僕はそれを挿れただけだ!」

 

 と、ここで肩に置かれる手。おかしい。置かれたところからだんだんと凍てつくように動かなくなる。

 

「カーゼートー君?(ピキッピキッ)」

 

(((あ、コイツ死んだわ)))

 

 その後、僕の意識はお空の彼方へ消えていったとかいないとか。真相を知るもの曰く、

 

「……俺は何も見ていなかった。そういうことにしといてくれ」

 

 とのこと。ただ、女性陣からは何と言うか仕方ないって感じの目で見られた。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カルマのせいだ……」

「あはは。……ごめん。あそこまで怖いとは思わなかった」

 

 休み時間。恨むような目でカルマを見ると、何とあの最低クズ悪魔が謝ってきた!?

 

「でもさ風人。それだけ愛されてるってことだよー」

「愛されてる?こんな余分なことしか言わず、超自由人のマイペースである僕が?ないないー」

「何と言う客観的分析力」

 

 ふふん。どやぁ。

 

「まぁ、これはこれで面白そうだね~今度から風人に何かする時は神崎さんを焚きつけよう」

「おい。反省してないのか君は」

「うん。してなーい」

 

 はぁ。今度から頑張って怒らせないようにしよ。

 

「でもさー風人。真面目な話……このまま行くと思う?」

 

 自律思考固定砲台さん。不破さんの案から律と呼ばれるようになった彼女は、皆と将棋したり、体内で生成されるプラスチックの造形をしたりとまぁ。人気だね~。ちなみに殺せんせーが『人の顔を私も表示できます』といったがあんまりにもキモかった。

 

「さぁね~。()()()()()()まだ彼女は僕らのプログラム通り動くただの機械。後のことは律を作った奴が決めることだよ~」

「へぇ。分かってんじゃん。分かってて改良に手を貸したの?」

「まぁね~おかげで寝不足。ふぁあああ……」

「眠いのなら保健室に連れて行こうか?」

「うん。よろし――有鬼子!?」

 

 や、やべぇ!今保健室に連れ込まれたら…………確実に()られる!

 

「だ、大丈夫だよ~しっかり寝ないから」

「そう?どうしても眠かったら言ってね……寝せてあげるから」

 

 それは最後に『永遠に』とか付くやつでは!?や、やべぇ……ガチで殺す気だ!

 この日、僕は頑張って授業全てを起き続け、何とか生き延びることに成功した。僕は勝ったんだ……!

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。つまり、律が転校してきてからかれこれ四日目、木曜日の朝。

 僕らに改造された律の身体が元通りに戻されていた。

 

『おはようございます。皆さん』

 

 一言で言えば、転校したての頃に戻っている。

 

「『生徒に危害を加えない』という契約だが、『今後は改良行為も危害と見なす』と言ってきた」

 

 あれ?あの改造、改良だと思われていたんだね。向こうの方々からも。

 

「君らもだ。彼女を縛ったり、改造したりして壊れたら賠償を請求するそうだ」

 

 と、主に僕と寺坂君を見る烏間先生。何か悪いことしたかなぁ?

 

「持ち主の意向だ。従うしかない」

「持ち主とはこれまた厄介で……親よりも生徒の気持ちを優先させたいんですがねぇ」

 

 烏間先生も口ではこう言っているが、困った感じを隠せない。やれやれ、誰も望まぬダウングレードとはやってくれたね……。

 そして授業開始。初日の律に戻ったということは授業中の発砲が始まるということ。クラスの雰囲気はいつになく張り詰めていた。いつ射撃が始まってもいいようにするためだ。

 律が起動する。そして機械の側面から武装が展開――

 

『……花を作る約束をしていました』

 

 出てきたのは銃ではなく花。彼女はプラスチックの花束を出した。あまりのことに誰もが呆然とする。

 

『……殺せんせーと風人さんは私に多くの改良を施しました。が、その改良のほとんどはマスターにより「暗殺に不要」と判断されて削除、撤去、初期化してしまいました。しかし、私個人は協調能力が暗殺に不可欠と判断。消される前に関連ソフトをメモリの隅に隠しました』

「素晴らしい!つまり律さん、貴女は……」

『はい!私の意志で産みの親であるマスターに逆らいました!』

 

 どうやら、予想よりも良い展開になったようだね~

 

「やるね~」

「凄いや~」

 

 意志の持った機械が開発者に逆らって自分の意思で物事を決定。凄いな~本当。

 

『殺せんせー、こういった行動を「反抗期」と言うのですよね。律はいけない子でしょうか?』

「とんでもない。中学三年生らしくて大いに結構です」

 

 こうしてE組に真の意味で一人の仲間が加わることとなったのだった。

 

「ねぇー風人」

「何?カルマ?」

「風人も転校生暗殺者でしょ?の割にはさ。個人での暗殺しかけてなくね?」

「「「あ……そういえば」」」

 

 このカルマの一言で僕の暗殺は行われることになったのだ。



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風人と有希子の時間 暗殺

「いや~そもそも僕は転校生暗殺者じゃないよ~?」

 

 カルマの言葉に返す僕。そう、僕はただの時期外れの転校生であって、律みたく暗殺するために転校してきたわけじゃない。

 

「違うよ~転校してきた奴は全員転校生暗殺者だよ。暗殺のために転校してこなかったとしてもね」

 

 酷い話だ。

 

「ヌルフフフ。風人君の暗殺ですか……興味ありますね」

 

 いや、何で興味持ってんだよ殺せんせー(暗殺対象)。……はぁ。

 

「分かったよ~。やればいいんでしょ?」

 

 このクラス全員で暗殺を仕掛ける事はまぁ、毎朝の銃乱射くらい。ただ個人や小グループで暗殺も大なり小なりで考えれば割とほぼ全員がやっていること。僕はまだ単独でもグループでも修学旅行以外で仕掛けたことがあんまりない。

 聞くところによると。カルマは僕が転校してくる少し前、単独で暗殺を仕掛けるも屈辱的な仕返しを受けたらしい。ピンクのエプロン姿のカルマとか見てみたかったな~

 

「じゃあ、せんせー。明日の放課後殺すから予定開けといてね~」

「おやおや予想より急ですね」

「別に~いつでもいいでしょ~?」

「分かりました。では、この辺で話を終わらせて授業に戻りますか」

 

 さてと、僕個人で仕掛けても精々触手一本破壊できれば御の字。殺すと考えたら協力者が必要。まぁ、僕メインで行けば誰も文句は無いでしょ~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風人君が暗殺の準備があるから先に帰ってくれと言われました。『手伝おうか?』と聞いたけど『大丈夫~』と言われたので、これ以上しつこいとダメだと思うので、すんなり帰宅します。

 

「あれ?神崎さんが一人で帰るのは珍しいね」

「本当だ。風人君は?」

 

 茅野さんと渚君の二人と山の途中で会いました。

 

「うん。明日の準備があるって」

「うーん風人君の暗殺かぁ……想像つかないなぁ……」

「そうだよね。彼、私たちの予想外のことしかしないもんね」

 

 そう。風人君の最大の長所であり短所は何をするか予測不可能な点。これは烏間先生も言ってたんだけど、本当に風人君は何をするか読みにくいらしい。まぁ、そのせいで協調性は皆無かもしれない。……律に協調性云々を教えた張本人が協調性皆無でどうするの?

 

「はぁ……昨日怒りすぎたかなぁ」

「昨日……あーあれね」

 

 顔を引きつらせる渚君。どうやら昨日のアレを思い出したようだ。

 

「うん。私も風人君に悪気はないのは分かってるんだけど……何だろう。律は機械と言え、女の子。なんか風人君が他の女の子のために睡眠時間を削ってまで頑張ってるって聞くと……」

 

 心がモヤモヤする。でも、このモヤモヤの正体は分かってる。

 

 

 嫉妬だ。

 

 

 機械相手にバカなって思うかもしれないけど断言する。これは嫉妬だ。

 

「……後は身体の隅々まで見たと聞くとね」

「と言っても中は電子回路とかばっかだと思うけど」

 

 だとしても、女子の身体を覗くだなんて……はぁ。昨日は理不尽に怒ってしまったお詫びも兼ねて、せっかく、風人君を保健室で寝せてあげようとしたのに、断られてしまった。

 

「風人君って、私のこと嫌いだよね……やっぱり」

 

((それは絶対ないと思う!))

 

 こんないつも風人君に余分なことすると怒ってばっかで……そんな人好かれるわけないよね。でも、怒らないと風人君は暴走しちゃうし……はぁ。ジレンマってやつかな。

 

「そういえば渚ー。男子は修学旅行の夜、恋バナとかしなかったの?」

「何でそう思うの?」

「いや、男子は何であの時殺せんせーを追いかけていたのかな~って」

 

 そういえば何でだろう。私たちの場合は女子部屋に性別男(?)の殺せんせーが入って話を聞こうとしたからだ。じゃあ、男子は何で追いかけていたのだろう?

 

「あはは……お察しの通り恋バナかな?まぁ、正確には気になる女子が誰かランキングにしただけなんだけど」

 

 その集計結果の紙を殺せんせーに盗み見られ、メモされ、逃げたから追いかけていった。とのことだった。

 やってること変わらないなぁ……。

 

「へぇーということは男子皆の気になる女子がお互いに分かってるということ?」

「うーん。匿名というか何と言うか、ほとんどの男子が誰に入れたかは分かんないだけど、カルマ君と風人君は堂々と言ってたんだよなぁ」

「その二人が堂々と言っちゃうの!?何か意外……じゃあ、和光くんは誰って言ってたの?」

「か、茅野さん!?それを聞いたら――」

 

 私の精神が持たなくなると言おうとした。だって、その人に負けているという事実が分かってしまうのだから。

 しかし、私が制止よりも早く渚君は答えを言った。

 

「神崎さんって言ってたよ」

「……え?」

 

 あまりのことに固まってしまう。え?風人君の気になる女子は……私?

 

「いや、風人君のことだから。きっと気になる女子っていういう意味を理解出来ていなかっただけだ。うん。そうだ。だから両想いとかそう言うのじゃない。うん。そうだ」

 

 だから舞い上がってはいけない。彼のことだ。可能性があるだなんて思ってはいけない。

 

「ねぇ、渚。ここまで両想いを否定するのも珍しいと思わない?」

「あはは……風人君が相手だしなぁ。でも割とあるかもよ」

「で、どんなところがいいって言ってたの?」

「どんなところと言うか、一緒にいて気楽とか楽しいって言ってたよ」

 

 私といて……気楽?楽しい?本当なのかな……。

 

「あ、じゃあ、僕こっちだから」

「私も。じゃあね。神崎さん」

「あ、うん。またね。二人とも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の放課後。帰りのHRが終わった時、

 

「んじゃ、せんせー。教室で暗殺を行うから~。あ、悪いけど皆は教室の外にいてくれる?多分危ないから」

「分かった。じゃあ、外から見てるよ」

 

 机とか椅子を外に出し教室には不必要なものが除かれた。……というか、ほとんどの人が外から見てるんだけど……そんなに気になる?僕の暗殺。

 

「ヌルフフフ。君の暗殺ですか。楽しみですね」

 

 僕は教室を一周壁伝いにのんびり歩く。

 

「あ、せんせー。別にこの教室に出るなとか言わないので好きに逃げて下さい~」

「その必要があるといいですねぇ」

 

 顔は緑色のしましま模様。舐め切ってる顔だ。

 

「おや。君の武器はそれですか」

「そうだよせんせー。烏間先生に頼んで、作ってもらったんだ~。本当は修学旅行でお披露目したかったんだけど、どっかの誰かが出番を取っていったからね~」

 

 僕は自分の武器を右手の指でくるくる回し始める。

 

「じゃあ、一発撃ったら始めますね」

 

 そう言って、左手にハンドガンを持つ。

 

「では……スタート!」

 

 バンッ!と撃つのと同時に律が起動し、左右から銃が出てくる。

 

『では射撃を開始します』

 

 前までより少し大きめの右側の銃の銃口から球を発射する。

 

「ヌルフフフ。律さんとの連携ですか」

「僕()単独で殺るとは言ってないからね!」

 

 僕は左手に持ってたハンドガンをポケットにしまい武器を取りだし、投げる。

 

「君の武器は手錠。中々ユニークですがそれだけですねぇ」

 

 律の撃った球を避ける殺せんせー。

 

「あ、殺せんせー。その球普通のBB弾じゃないんで!」

 

 黒板に当たり跳ね返ってきたそれを思い切り手錠で跳ね返す。

 

「にゅや!?」

 

 普通のBB弾なら弾き返してもたかが知れてる。でもねぇ、

 

「まさかスーパーボールですか!」

「正解!」

 

 既に律から何発もの対殺せんせー用スーパーボールは発射されている。

 

「さぁ、アンタはどこまで計算できるかな!」

 

 せんせーは、普段の弾幕を避ける時完璧に避けている。それは避けた球に二度と当たらない確証があるから。じゃあ、その球が避けても跳ね返ったとしたら?せんせーの処理する量はかなり増える。処理が追いつかなければ当たる。実にシンプルだ。

 

(まさか、こう来るとは……しかも、風人君に当たっても軌道が変わる為、そこまで考慮して完璧に避ける事は不可能に近い。さらに風人君はまだ手錠を隠し持ってる。彼の戦法は面白い。だけどね……)

 

「ヌルフフフ。やってくれますねぇ!でも、逃げることは出来るのですよ!」

 

 そう言って予想通り戸に向かう殺せんせー。僕はその周りに向かっていくつか手錠を投げる。そして、戸に手(触手?)をかけて開けようとするが……

 

「開かない!?」

「ワンヒット」

 

 殺せんせーが手をかけ力を込めた瞬間。一本の触手に手錠が当たり、触手が溶ける。

 

「ツーヒット」

 

 すぐさま反対側の戸に走ろうとする殺せんせー。だけど、それぐらい読めたわけであって、先読みして投げておいた手錠に触手が当たりツーヒット。

 

「スリーヒット」

 

 そして立て続けに二本の触手にダメージが与えられたことで動揺して一瞬動きが止まる。……そこに対殺せんせー用のスーパーボールが当たりスリーヒット。

 

「少々取り乱し過ぎました」

 

 が、一瞬で僕の背後に回る殺せんせー。どうやら、少し落ち着いたらしいね。まぁ、想定通りだけど。

 

「ですが、この特製のスーパーボール。私の服に当たると意味を無くしますねぇ」

 

 そう。殺せんせーは柔らかく変幻自在。故にボールを服に当てて意図的に跳ねさせないことが可能なのだ。でも、

 

「だから?」

 

 僕は落ちているスーパーボールを蹴りつける。と、同時に手錠を一個上に投げつけ、一個を殺せんせーに。

 

「戸が駄目なら窓から逃げるまでです!」

「でしょうね!」

 

 僕は窓の前に移動し、右足で蹴る体勢に。その間に殺せんせーは窓の鍵を開ける。

 

「律!」

『はい!』

 

 律の左側の銃から球が発射される。カギを開けた殺せんせーが窓枠に手をかける。そして、

 

「ここもですか!」

 

 やはり開かない。殺せんせーが声を出したその瞬間。律の発射した球が僕の右足の踵に当たり、蹴りのスピードが急激に加速する。僕の爪先部分が何本かの触手に当たり切り落とすことに成功した……が。

 

 ドンッ!

 

「いった~!」

 

 バランスが取れずに床に直撃。凄い痛い。

 その間に殺せんせーは窓を開けて外へ脱出。あー失敗かぁ。やっぱ、ぶっつけ本番はダメだね~。

 

「降参だよ~戻って来たら~」

「まさか、ここまでやられるとは思いませんでした」

 

 すると、戻ってくる殺せんせー。

 

「す、すげぇ!」

「何だよ今の……」

「息するの忘れてた……」

「アクション映画みたい……」

 

 皆の評価はこんな感じ。この暗殺そのものは一分かかってないだろう。そんな短い時間のやりとりだ。

 

「まさか、これを窓枠に貼っていたとは」

 

 見せてきたのはセロテープ。そう。殺せんせーが戸や窓を開けられなかったのは僕がテープで固定していたから。でもテープの固定なんて強度は知れている。だから僕は暗示をかけた。教室は簡単に出られる。って言うね。

 そりゃあ皆がその戸から普通に出ていって時間がそう経ってない。誰も戸に細工したとは思わないだろう。それに、殺せんせーは戸を全力で開け放つわけにはいかない。いや、開け放つ必要がない。だって、力をそう込めなくてもいつも開けられるからね。それに強引に開ければ教室が破壊されかねない。だから、いつもの感覚で開けようとして、テープによるストップが掛けられた。それに焦り思考能力の低下。その戸に何らかの仕掛けがしてあって開かないと思い込み、別のところに向かう。

 

「まぁ、違和感に気付いてすぐに別の場所に行こうとするあたり流石だね~。それも読んでたけど」

「ヌルフフフ。ですが、失敗ですねぇ。あそこで転ばなければもっと良い線行っていたかもしれませんよ」

 

 良い線行っただけで殺せはしないだろう。まだ脱皮や液状化というの奥の手を出してないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰り道……

 

「疲れたぁ~」

 

 あの後、外に出した机を元に戻したり、仕掛けておいた残りを外したり、スーパーボールと手錠を回収したり割とやることがあった。殺せんせー曰く『準備から片付けまでが暗殺です』とのこと。いや、何かのパクリ?

 

「ありがとね~手伝ってくれて」

「いいよ。風人君だけだと大変でしょ?」

 

 おぉー。有鬼子の優しさに触れた気がする。

 

「最後のアレ。靴に対せんせーナイフを仕込んでおいたの?」

「まぁね~でも、もうやらないと思うけど」

 

 そう。靴から殺せんせー用のナイフの先端が飛びだし、不意打ちで何本かって感じかな。

 ちなみに、どこかで『あれ、真似しようかな……』と言っていたけど、まぁいっか。

 

「でも、風人君。たった一日であれだけの準備を?」

「ううん~。靴にナイフ仕込んでたのは割と前からだし~手錠なら修学旅行にも持ってたし~昨日やったのは律に交渉ぐらいだよ~」

「ふーん。でも、手錠って、手錠の形をしただけで、対殺せんせー用のものなんでしょ?」

「ううん」

 

 そう言って、有鬼子の両手に手錠を嵌める。

 

「烏間先生に頼んで作ってもらったの~元々の警察とかが使うような手錠に対殺せんせー用の武器とかを細かくして満遍なく拭きつけた感じ~。だからこうやって普通に使えるよ~」

「へぇ。……あれ?これ外せないんだけど……どうやって外すの?」

「え?本物の手錠がベースで作ってもらったんだから鍵がないと外せないよ~」

 

 当たり前だ。カチャカチャやって外せるなら手錠の存在意義を感じない。

 

「じゃあ、外して」

「いやだ」

「外して」

「いやだ」

 

 だって、今外したら面白くないじゃん。

 

「はぁ。どうしたら外してくれるの?」

 

 うーん。特に考えていなかったや。

 

「じゃあ外そ~」

 

 というわけで、怒られる前に外そう。

 そんな感じで僕の暗殺は終わりました……。



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仕返しの時間

 6月になりました。梅雨です。雨です。憂鬱です。

 何が憂鬱かと言われれば一番は登下校中に満足にゲームができないことです。……まぁ、有鬼子(監視役)のせいで元々ゲームはできないけど。

 で、朝のHRだけど……。

 

「では、皆さん。席に着いて下さい」

 

(((なんか大きいぞ……!)))

 

『殺せんせー。その巨大化した顔についてご説明を』

 

 皆気になってるのは殺せんせーの顔というか頭というか。明らかにデカくなっていた。要するに頭でっかちだ。

 

「水分を吸ってデカくなりました……湿度が高いので……!」

 

 何でもありだな殺せんせー。

 そして顔を雑巾絞りすると、バケツ一杯分の水が……あれ?

 

「先生。帽子どうしたの?少し浮いてるよ?」

「ちょうのーりょく?」

「よくぞ聞いてくれました。実は先生。遂に生えたんです」

 

 生えた?

 

「髪が」

「「「キノコだよ!!」」」

 

 え?キノコが生えるせんせーって……斬新?というか生えたキノコ自分で取って食べてるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。雨はやっぱり憂鬱です。

 

「……ゲーム……」

「ダメです。ほら、傘しっかりささないと意味ないよ?」

「はーい」

 

 相変わらず隣には有鬼子が。やれやれ、

 

「何でもいっか~」

 

 そう言いながら僕はスマホでニュースを眺める。

 

「ほうほう」

「歩きながらはダメです。没収」

「あ~この鬼~」

「何とでも言って」

 

 え?マジで?

 

「…………あれ?このゲーム。実写映画化するんだ」

「あれ~?知ってるの~?」

「有名な恋愛ゲームだからね」

「有鬼子って、対戦ゲーム専門じゃないの~?」

「前まではそっち系しかやらなかったけど、最近はやり始めたよ」

「……あーそーいうこと」

 

 ふむふむ。何故有鬼子が恋愛ゲームをやり始めたかがよく分かった。

 

「好きな人でも出来たの~?」

「ふぇ!?」

 

 すると、おかしな声を出して、顔を真っ赤にする。やった。当たりだね!

 

(えぇっ!?たったそれだけのことで私が風人君が好きなことがバレ――)

 

「しかも、相手は女子。だから、恋愛ゲームで予習じゃないけど、予行演習?的な感じでやってるんだね~」

 

 うんうん。と、頷いていると、額に手を当てため息をつく。

 

(――るわけないか。風人君だもんね……しかも話をややこしくしそうだし……)

 

「でも海外かぁ」

 

 日本だったらよかったのに……アメリカでの上映かぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。僕は殺せんせーから召集がかかった。

 

『神崎さんに内緒でここに来てください』

 

 と言われたので、有鬼子に内緒で指定された場所に向かう。

 

「で~?これから何するの~?」

「奴らに仕返しです」

「はい~?」

 

 話によると昨日の放課後。前原君がターゲットの片方の女子と一緒に帰っていたところ、ターゲットのもう片方の男子に色々言われ暴行を受けたり、まぁ、屈辱的なことをされたそうだ。ちなみに女子の方からも前原君がE組だから悪いって感じに言われたそう。

 

「でも、皆役割既にあるんでしょ~僕の役割は~?」

 

 役割は、

 

 見張り・連絡担当 杉野友人

 偽装担当 菅谷創介

 交渉担当 矢田桃花、倉橋陽菜乃

 化学担当 奥田愛美

 錯乱担当 潮田渚、茅野カエデ

 射撃担当 千葉龍之介、速水凛香

 枝切り落とし担当 前原陽斗、磯貝悠馬、岡野ひなた

 

 

 こんな感じ。

 

「射撃~?枝切り落とし~?」

「いいえ。報復担当です」

「はい?」

 

 報復担当 和光風人

 

「実はあの二人以外にもう二人男子がいましてね。そいつらに対する報復担当です」

「はぁ、でもあそこにはその二人いないよ?」

「そこは律さんに頼んで既に居場所は特定済みです!」

『はい!もう特定されています!』

「個人情報!?」

 

 情報担当 自律思考固定砲台

 

「ヌルフフフ。君に奥田さん特製『ビクトリア・フォール』を渡しておきます」

 

 そう言って渡されるBB弾のようなもの。

 

「これの効果は?」

「特製強力下剤です」

「わーお」

 

 そりゃあ強そうだなぁ。

 

「まぁ、あの二人程の仕返しはしなくてもいいでしょう。なるべく早くお願いしますね」

「あいよー」

 

 というわけで、単独行動開始~。まぁ、律もいるけど。ん?

 

「何で律が僕のスマホに~?」

『E組皆さんとの円滑な連絡並びにサポートするためにインストールさせました。モバイル律とお呼び下さい♪』

「あれ~?それってハッキン」

『インストールです♪』

「ハッ」

『インストールです♪』

 

 ……マジかぁ。

 

「で~?何処にいるのさ、そいつら」

『ここから数百メートル先を左に行ったところの大手予備校です』

「ふーん」

 

 というか、報復って何しよう。ビクトリア・フォールの出番かもしれないけど……

 

「その予備校って映像式~?それとも対面式~?」

『あそこは映像形式ですね』

「そう~」

 

 なら、とりあえず……

 

「律。その二人はゲームをインストールしているね?」

『はい』

「とりあえず、起動させて、ゲームの通知音でも鳴らしといて」

『分かりました』

 

 今が受講中でも、自習中でも目立つだろうし、本人たちも気付くはず。後は……

 

「律。二人に対し、適当な番号から鳴らしておいて~。もちろん呼び出しの音量最大で~」

『分かりました。その後は?』

「適当なこと言って外に出させて~。コイツを食わせるよ~」

『了解です』

 

 一回にいくつだろう……二つくらいでいいか。

 

『急にゲームが起動したと思えば今度は電話かよ……』

『というか用事があるだなんて何だろうな』

 

 呑気に出てくる二人の男子。

 

『あれがターゲットの二人です』

「そう。律。あいつらに気付かれずに殺るね。今から十秒後。もう一度電話をかけて~」

『了解です。ご武運を』

 

 いかにも受講生ですって感じで近寄り始める。と言っても怪しまれないようにしながらだけど。よし、距離残り五メートル。時間は残り五秒。四、三、二、一……

 

 prrrr!

 

『お、また電話か』

『あ、俺もだわ』

 

 二人の注意がスマホに向き、声を発するその刹那。

 

『な、何だ……!』

『お、お腹がぁ……!』

 

 口を開いたタイミングで、その口の中に優しくビクトリア・フォールを放り込む。どうやら即効性なのかな?二人は急にお腹を抑えて、予備校に入っていく。

 

「こんなんでいいのかな~?」

『はい。あ、向こうも仕返しが出来たそうです。戻りましょう』

 

 戻る提案を受け、歩き出す僕ら。

 

「…………ねぇ。律。調べてほしいことがある」

『何でしょうか?』

「皆には秘密でね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕らが戻ると、今回の作戦に参加したメンバーが集まっていた。

 

「えーと、なんつーか……ありがとな。ここまで話を大きくしてくれて」

 

 お礼を言う前原君。

 

「どうですか、前原君?まだ自分が弱い者を平気で虐める人間だと思いますか?」

 

 殺せんせーの問い掛けを受けた前原君は、少し考え込む様子を見せると答えを出す。

 

「……いや、今の皆を見てたらそんなこと出来ないや。一見するとお前らも強そうに見えない。けどさ、皆どこかに頼れる武器を隠し持ってる」

 

 確かに、凄いよねぇ皆。 

 

「そういうことです。それをE組で暗殺を通して学んだ君は、これからも弱者を簡単に蔑むことはないでしょう」

「……うん。俺もそう思うよ、殺せんせー」

 

 どうやら、僕らは殺せんせーの授業の為に動かさせられたらしいね。全く、やることが大掛かりって言うか何と言うか。

 気のせいか雨も上がり空からは日の光が差し込み始める。

 

「あ、やばっ!俺これから他校の女子と飯食いに行かねーと……じゃあ皆、ありがとな。また明日!」

 

 爽やかに別れを告げる前原君。

 

「一件落着~」

 

 なんかすっきりしたなぁ~そうまるで、この日差しのように……

 

 翌日。このことが烏間先生にバれ、暗殺技術の私的利用や、国家機密の行動に関し、今回の関係者には全員に雷が落ちました。

 なお、有鬼子にも僕は雷を落とされましたとさ。まる。



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風人と有希子の時間 映画

 雨の日の復讐劇から幾日か。

 途中、ビッチ先生の師匠のロブロさんがやってきて、ビッチ先生とビッチ先生の先生存続をかけた『烏間先生暗殺戦』をやった。最終的な結果はビッチ先生の勝ち。ビッチ先生は先生として続けることが決まった。

 うーん。僕的には授業はアレだけど為になることもあるしな~あ、でも間違えたら公開ディープキスの刑。正解しても公開ディープキスの刑はちょっとね。既に全員一回は被害にあってる。ちなみに僕が被害にあった時有鬼子の方から殺気?みたいなちょっと違うようなものを感じたけど……気のせいだよね。うん。

 

「殺せんせー。お願い~」

「はい。何でしょう」

 

 放課後。僕は教室に残ってたせんせーと会話中。

 

「今日からアメリカの方でさ~映画があるんだけど連れてってくれない~?」

「ダメです。そう言うのは自分の足で行くものです」

「この映画何だけどさぁ~」

「ヌルフフフ。恋愛ものですか。これは私の書くノンフィクション小説の参考になりそうですねぇ」

「のんふぃくしょんしょうせつ~?」

「いえいえ。こちらの話です」

 

(第一章は杉野君の報われぬ思いか、風人君の気付かぬ思い。どちらにしますかねぇ)

 

「えぇーせんせー連れてってよ~そうしないと――」

「ダメです。どんな脅しもせんせーには効きま」

「――教員室の机の引き出しにあるエロ本。全部岡島に渡すか燃やすよ~?」

「にゅやあああ!そ、それはやめてください!」

「じゃあ連れてって~」

「はぁ。分かりましたよ。なら、神崎さんも連れて行ってください」

「有鬼子?何で~?」

「君の相手はせんせー一人じゃ荷が重いですから……」

「はーい。あ、有鬼子~」

 

 ちょうどトイレ?から戻ってきた有鬼子の声をかける。

 

「どうしたの?風人君」

「これからハワイまで殺せんせーと映画見に行こ~殺せんせーの奢りで」

「いいけど……何の映画?」

「ほら~この前言ってたやつ~」

「あーうん。分かった」

「神崎さん……ちょっと」

「あ、はい」

 

 殺せんせーが触手でちょいちょいと有鬼子を呼ぶ。

 

「すいませんね神崎さん。彼一人だと私の身が持たないので」

「あはは……大丈夫ですよ」

「まぁ、私の存在など無視して映画館デートを楽しんでください」

「で、デートなんてそんな……」

 

 よく聞こえないなぁ。

 

『風人さん!』

 

 すると、どこからか僕の呼ぶ声……って、あー律か。

 

「な~に?」

 

 僕は律の前まで行く。

 

『私も連れて行ってください』

「いや、無理じゃね?」

 

 どう考えてもそれをアメリカまで運ぶのは無理だろう。少なくとも殺せんせーが死ぬ。

 

『じゃあ、風人さんのケータイから』

「あーモバイル律だっけ~?それならいいと思うけど~」

『分かりました!というわけでお邪魔します!』

 

 そう答えたのは、僕のケータイから。……殺せんせーって大概何でもアリだけど、律も大概何でもアリだよなぁ~

 

「なら、行きますよ風人君。アメリカ……ハワイでいいですよね」

「はぁ~い。あ、律もついてくるけどいい~?」

「……え?アレを運ぶのですか?」

 

 一瞬で顔が固まる殺せんせー。

 

「違う違う~。僕のケータイにいるから大丈夫だよ~」

「な、ならよかったです。では二人共外に行きましょう」

 

 そして、外に出る僕ら。

 

「服の中へ」

 

 そう言われたので、服の中に入り、顔と後、僕のスマホ(モバイル律)を出す僕ら。

 

「あ、ねぇ有鬼子~」

「どうしたの?」

「……僕らってマッハの風圧耐えられなくね」

「…………」

 

 あ、自分の身の安全まで考えていなかった。あまりのことに震え、顔を青ざめる有鬼子。

 僕はそんな彼女の手を服の中で握って、

 

「死ぬときは一緒だよ。殺せんせーも道連れにしよう」

 

 最大限の笑顔で言った。遺書は律に渡そう。そうすれば皆にも行くはずさ。

 

「ご心配なく。君たちに負担がかからないようゆっくり加速しますから!」

 

 そして飛び立つ殺せんせー。

 

「きゃあああああああ!?」

「あははははは。楽しい~」

 

 何か最初はジェットコースターに乗ってる気分だ。なにこれ楽しい~

 

「は、速い……」

 

 ちょっと圧がかかったのは最初だけで後は割と普通。まぁ、普通に空を飛んで……あ、海岸線が見えてきた~

 命の危険を感じなくなったので手を放す……が、向こうが強く握って放そうとしない。やれやれだね~

 

「そうですね。風人君に神崎さん。それに律さんも今暇でしょ」

「いえ全然」

「分かりました。なら、授業をしましょう。なーに簡単な授業ですよ」

 

 と、殺せんせーによる割とマジな授業が始まった。

 

『殺さないのですか?風人さん』

 

 授業中、律が僕に聞いてくるけど……

 

「無理無理~。今やれても海に落ちて僕らは死ぬよ~。仮にギリギリ生き残ってもこんなところじゃ結局助からないね~」

 

 どこまで行けば陸地に着くのか。陸地に着いてもどうしようもないこともある。

 ……まぁ、僕一人なら、平然と殺していたかもしれない。でも、今は隣に有鬼子がいる。彼女の命を危険にさらすわけにはいかない。…………って、なんでそんなこと思ってるんだろう?不思議ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、分かりましたか?風人君。神崎さん」

 

 ハワイ到着。いぇい。

 

「おっけ~」

「はい」

 

 いや~授業を本当にやるとはねぇ~

 

「では、行きましょうか。映画館はこの下ですよ」

 

 殺せんせー恒例の下手な変装。……よくこれでバれないなぁ……。

 

「寒いです……」

「ねぇ~」

 

 映画館の中に入り、諸々のことをやった後入ったがはっきり言おう。寒いと。

 

「ハワイの室内はとにかく冷房が効いています。皆さんちゃんと防寒の準備をして下さい。はい」

 

 そう言って座ってる僕らに大きなブランケット?が掛けられる。

 

「ヌルフフフ。君たちなら二人で一つで大丈夫ですよね」

「問題なし~」

 

 特に何も問題はない。

 

「でも殺せんせー。アメリカですから日本語字幕ないんですよね?話についていけるかな……」

「ご心配なく。神崎さんの英語の成績は上々。風人君も性格によらず成績は優秀。加えてイリーナ先生にも鍛えられてるでしょう?」

 

 見かけによらずは知ってるけど性格によらずは知らない。

 

「それと、先生の触手を耳に。習ってない単語が出たら解説します」

 

 おぉー便利。

 

「後は頑張って楽しみながら聞きましょう。はい。コーラとポップコーン」

 

 すると映画館が暗くなる。お、始まるねぇ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 原作となったゲームでは転校してきた主人公の男の子が多くの女子に好意を持たれるといういわば使い古されたようなベタなストーリー。その女子たちと言うのは、例えば幼馴染だったり、世話焼きの女子だったり、活発系や、クラス委員、風紀委員などヒロインも割とべタな設定です。

 さすがに、映画一本にそんだけのヒロインが登場すると話が薄くなりやすいのか、この映画では主人公が転校していったために別れて再会した幼馴染と何かと世話焼きで主人公のフォローをしてくれる隣の席の女子の二人が主です。まぁ、二人のルートもしっかりと攻略した私は大筋は分かっていますが、英語であることや実写化であることなど様々な要因から見ていて楽しいです。

 そんな中、ふと横目で隣の風人君を見ると、

 

「…………」

 

 その奥で『F……いやGですね』と、顔をピンクにしながら役者さんの胸のサイズを言っている殺せんせーに呆れますが、風人君の表情は至って真剣。でも、なんだろう風人君の目。どこか、寂しそうな哀愁を漂わせている。そんな気がしました。

 ちなみに律は風人君のスマホから目を輝かせて見ていました。

 そして、映画も終了し、私たちはハワイから日本に帰国します。

 

「面白かった~実写映画も今回のは悪くないね~」

 

 すると、風人君が面白かったと感想を。

 

「私も、あの二人が恋に自覚して接する態度が少しずつ変わって行くとこなんかも上手く演出されてて面白かったです」

『恋愛って凄いんですね!』

「私も今度この元のゲームをしたくなりましたよ」

 

 と、私たちはひとしきり感想を言い終えた後。

 

「じゃあ、今日はありがとうね~殺せんせー」

「ありがとうございます。また明日」

「はい。さようなら。夜道ですので気をつけてくださいね。特に神崎さん」

「え?私ですか?」

 

 風人君じゃなくて?

 

「風人君に夜道で襲われないように気をつけてくださいね」

 

 ……あぁー。そういうことですか。でも、風人君になら襲われてもいいかな……というか、

 

「襲う~?なんで~?」

 

 当の本人が言葉の意味を理解してないようなので、絶対にないですね。

 

「むしろ、僕が襲われそうだよ~」

 

 本当に襲ってしまおうか。

 

「では、明日までに映画の感想を英語で書いて提出しなさい」

「えぇー宿題でるの~?」

「タダでハワイまで行けて映画まで見れたのですから。安いものです」

 

 手を振って別れる私たちと殺せんせー。

 私たちは二人並んで帰ります。

 

「面白かったね。風人君」

「そうだね~」

 

 嘘。……どことなく、今の言葉は嘘な気がしました。ただ面白かったわけではない気がします。

 

「そういえば風人君。どうして映画の最中、哀しそうな眼をしていたの?」

 

 私は思い切って聞くことにします。長引かせてもいいことないですから。

 

「哀しそうな眼~?眠そうな眼の間違いじゃない~?」

 

 どうやら答えてくれる気はなさそうですね。

 そんな感じで他愛もない会話を続けて、いつも別れるところ。

 

「じゃあね」

「ううん~。家まで送ってくよ~すぐそこでも夜道を一人で歩かせるのは危険だからね~」

「そう?」

「うん~。日頃お世話になってるしね~よく手を焼かせています~」

 

 あぁ、そういえば、映画でもゲームでも世話焼きの子は報われませんでしたね。彼女は自身のルートでさえ、他者を優先させる優しさがありすぎたばかりに自分の想いを伝えられずに周りを応援している。でも、そのゲームの子と私は違います。だって……

 

「私にはそんな優しさないから……」

「有鬼子が優しくないのは前からだよ~」

 

 この後、思い切り風人君の耳を引っ張りました。



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転校生の時間 二時間目

 6月15日。僕を含めると三人目の転校生がやってくる。

 そして彼こそ「本命」だそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝から雨が降っている。憂鬱な日。僕らが映画に行った後、渚とカルマも映画を見にハワイまで連れて行ってもらったらしい。やるねぇ。殺せんせー。

 

「烏間先生から聞いていますね。今日は新しい転校生が来る日です」

「まぁ、ぶっちゃ暗殺者だろうね」

 

 朝、殺せんせーがそう言うと、皆がざわつき始める。え?マジで?転校生来るの?

 

「律さんの時は甘く見て痛い目をみましたからね。先生も今回は油断しませんよ」

 

 油断ねぇ……

 

「ねぇ、律~。同じ転校生暗殺者だとしたら何か聞いてないの~?」

 

 ここまで盛り上げておいてただの転校生だったら笑い物だ。

 

『はい、少しだけ。当初、私と「彼」の2人の同時投入で私が遠距離、「彼」が肉薄攻撃で殺せんせーを殺す、と言うものでした』

 

 ……はい?殺せんせーに……肉薄攻撃?

 

『ですが、二つの理由でこの命令はキャンセル。一つ目は「彼」の調整に遅れたから。もう一つは、私では「彼」のサポートに力不足だから。……私が「彼」よりも暗殺者として()()()に劣っていたから』

 

 ……嘘でしょ?あの律より圧倒的に優れた暗殺者がいる……人間なのかそいつは?

 そんな疑問をクラスの皆が持つ中、戸は開く。入ってきたのは一人の男。全身白づくめの男だ。

 

「え?転校生が中学生じゃない?」

 

 思わず声に出してしまう。すると、入って来た人は手を殺せんせーの方に向け、

 

「驚かせてしまったね」

 

 そう言いながら白いハトを出す。

 

「ああ、私は転校生じゃないよ?私は保護者、シロ……とでも呼んでください」

 

 なお、この一連の流れで殺せんせーはあまりにもビビり、脱皮とは別の、液化という奥の手まで出し、教室の天井の隅の方にいた。……いや。本当にビビりすぎだろ。

 

「………はじめまして、シロさん。それで肝心の転校生は……?」

「まさか!さっきの手品のハトか!やっぱり中学生じゃないね!」

「ははは。面白い子がいるようだ。皆いい子そうだし、あの子も馴染みやすそうだ」

 

 面白い子?どこにいるの?

 

「おーい!イトナ!入っておいで!」

 

 シロさんも含めた全員が、ドアを見る……が。

 

 ガシャ!

 

 イトナと呼ばれた生徒が後ろの壁を突き破って入って来た。

 なんだこのクレイジーは。

 そしてそのままカルマと寺坂君の間の席に座る。

 

「俺は勝った……。この教室の壁より強いことが証明された」

「「「いや!ドアから入れよ!」」」

「そうだよ!壁から入ると痛いでしょ!」

「「「ツッコむとこそこじゃねぇよ!」」」

 

 え?壁から入ろうとしたら痛くない?

 

「それだけでいい………それだけでいい」

「全く~どうして此処に来た転校生って皆頭おかしいの~?」

 

(((お前も頭のおかしな転校生の一人だろうが……!)))

 

 皆困った感じだが、それは殺せんせーも同じこと。

 なんか、顔が中途半端だ。笑顔と真顔の境目って感じ?

 

「堀部イトナだ。名前で呼んであげて下さい」

 

 ここで、カルマと僕はあることに気付く。

 

「ねぇ、イトナ君。ちょっと気になったんだけど……なんで濡れてないの……?」

「そ~だよ。傘も何も持ってないのにこの土砂降りの中、どうやってきたの~?」

 

 すると、イトナ君は立ち上がり、周りをキョロキョロとみる。

 そして、カルマの席のところに近寄り、僕らに話かける。

 

「お前はこのクラスで一番強い。その奥のは二番目に強い。けど安心しろ。俺より弱いからお前らは殺さない」

「いや、殺されても困るんだけど」

 

 僕らは暗殺者であって標的(ターゲット)じゃない。殺されても困る。というか、僕よりカルマが強いって言われるのは釈然としない。

 

「俺が殺したいのは、俺より強いかもしれないやつだけ」

 

 と言って、殺せんせーの前まで行く、

 

「この教室で俺より強いのは、殺せんせー。アンタだけだ」

「強い弱いは喧嘩のことですか?力比べでもするのでしたら、私と君では次元が違いますよ?同じ土俵にすら立てません」

 

 まぁ、無理だね。 

 

「立てるさ……………だって、俺たちは血を分けた兄弟なのだから」

「「「きょ、兄弟!?」」」

「せんせー!兄弟が同じクラスって普通はあり得ないですよね~?裏金ですか~?」

「「「だからお前は驚くところがズレてる!」」」

 

 え?普通そこ気にならない?あ、あの2人はどうせ兄弟じゃないから関係ないか~。

 

「負けたほうが死刑な兄さん。今日の放課後。この教室で勝負だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後になりました。僕らはせっせと机を囲み教室にリングを作りました。

 昼休みは殺せんせーとイトナ君が兄弟かどうかという話で持ちきりだった。甘党好き、表情読みずらいなど類似点は多い。……まぁ、人とタコという決定的な違いはあるが。

 不破さん曰く生き別れた兄弟説。岡島曰く巨乳好きは皆兄弟説。

 なら、僕の考えはと聞かれたら大きく三つ。

 一つ、ただの作り話。二つ、造られたのがイトナ君の方が後。三つ、殺せんせーが人間だった時の兄弟。

 

「ただの暗殺は飽きてるでしょ。殺せんせー。ここは一つルールを決めないかい?リングの外に足がついたら死刑。どうかな?」

 

 なるほど上手い。殺せんせーはこのルールを破れば先生としての信用が落ちる。この手の縛りは意外と効く。

 

「いいでしょう。ただし、観客に危害を加えた場合も負けですよ」

 

 頷くイトナ君。

 

「では合図で開始しようか。暗殺……開始」

 

 シロさんの開始宣言と同時に吹き飛ぶ殺せんせーの触手。しかし、そこはほとんど注目されない。

 皆の目はある一点……

 

「触手!?」

 

 イトナ君の触手に釘付けだった。

 

「なるほどねぇ~こりゃ、雨に濡れないね」

「全部触手で弾いた……ということ?」

「正解だよ有鬼子」

 

 そんな中、殺せんせーが怒っている。

 

「何処だ……何処でそれを手に入れた!その触手を……!」

 

 殺せんせーが真っ黒だ。完全に怒ってる。

 ……何者なんだ……アイツは。

 

「どうやらあなたにも話を聞かないといけないようだ……!」

「聞けないよ。死ぬからね」

 

 そういうとシロさんの左袖から殺せんせーに光が放たれる。

 

「この圧力光線を至近距離から浴びると君の細胞は一瞬硬化する」

 

 なんだよそのチートは。その固まってる間に殺せんせーに触手で攻撃するイトナ君。

 

「脱皮か」

 

 月一の技を使わざるを得ない殺せんせー。

 しかし、シロさんは脱皮の弱点を語る。どうやら脱皮直後はエネルギーを使ったためにスピードが落ちるらしい。後は、腕を再生させたりするのも実は体力を使うらしい。

 しかも、触手の扱いは精神状態に左右される……なるほど。シロさんはクロだ。こいつは何かを知っている。いや、知ってるで済めば可愛いものだ。下手するとコイツは殺せんせー誕生と月の蒸発。二つに大きく絡んでる。

 試合はイトナ君の猛ラッシュを頑張って殺せんせーが避けてる感じ。

 

「この時点でどちらが優勢なのかは生徒諸君の目にも一目瞭然だろう。さらには献身的な保護者のサポート」

 

 バキッ

 

 その音はシロさんの左腕から聞こえた。

 

「何の真似だい?和光風人君」

「悪いけどさ。オレらにはアンタらが殺せんせーを殺してもメリットがねぇんだわ」

「メリット?ははっ。地球が救われるという重大なメリットがあるじゃないか」

「はっ。言ってろシロクロ野郎。殺せんせーの言葉で分かったよ。あのタコにもアンタにも聞くことは山ほどある。今殺されては困るんだわ」

「そうかい」

「まぁ……卑怯だなんて言わないですよね~シロさんも外野からの援護しましたし~僕はその援護を止めただけでイトナ君には直接攻撃してないですし~」

 

 あのリングに乗り込んでもいいけど、どうせイトナ君じゃ、殺せんせーを殺れない。まぁ、殺されたらその程度の存在ってだけだ。僕らのせんせーは。

 

「確かにこの形式での暗殺というのはよく計算されている。おまけに試合に勝たねば貴方たちはなにも話しそうにありませんからね」

「まだ勝つ気でいるのかい?」

「シロさん。二つ計算に入れ忘れていますよ」

「確かに和光風人君の乱入は計算外だった。でもそれがどうした?その程度で狂うほど私の計画は作られてない。やれ。イトナ」

 

 そして、イトナ君の攻撃が殺せんせーに刺さる。

 

「な……っ!」

 

 ……が。ダメージを受け溶けたのはイトナ君の触手の方だった。

 

「おや~?落とし物を踏んづけてしまったようですね~」

「本当だね~僕らのナイフ。いつの間にか落としちゃったみたい~」

 

(((い、いつの間に……!)))

 

 皆『いつの間に!?』とか思ってるだろうね~。まぁ、僕がシロさんのところ行くまでに何人かのをスッておいて、それをハンカチにくるんで一瞬で殺せんせーに渡してって、感じかな?

 そして脱皮した皮を被せられるイトナ君。触手を失って動揺していたようだ。

 そのまま抵抗するも抜け出せず、脱皮された皮に包まれて窓をぶち破り外に投げられる。

 

「先生の抜け殻で包んだからダメージは無いはずです……が、君の足はリングの外に着いている。せんせーの勝ちですねぇ~」

 

 せんせーは顔色を緑の縞々に変化させてニヤニヤと笑っている。うわぁ~ムカつく~。

 

「ルールに照らせば君は死刑。もう二度と先生を殺れませんねぇ。生き返りたいのならこのクラスで皆と一緒に学びなさい。君と私の勝敗を分けたのは経験の差です。君より少しだけ長く生き、少しだけ知識が多い。この教室で先生の経験を盗まなければ君は私に勝てませんよ」

「勝てない……俺が、弱い……?」

 

 殺せんせーの話の聞いて、イトナ君の反応は……

 

「黒い触手!?」

「やべぇ、キレてんぞあいつ!」

 

 完全にキレている。

 イトナ君は血走った目で外から一気に跳躍し、壊された窓縁に降り立ち、再び跳躍。狙うは殺せんせー。

 

「俺は、強い。この触手で、誰よりも強くなった。誰よりも…………ガァッ!!」

 

 怒り任せに雄叫びを上げて突っ込んでくるイトナ君。しかし、殺せんせーのところに行きつくことは無かった。

 隣から聞こえたピシュッ!という音。その音の直後イトナ君は崩れ落ちてしまう。

 

「……すいませんね、殺せんせー。どうもこの子はまだ登校できる精神状態じゃなかったようだ。暫く休学させてもらいますよ」

 

 殺せんせーがイトナ君を連れてこうとするシロさんの服を掴み止めようとするが、せんせーの触手が溶けてしまう。そしてそのまま去っていくシロさん。僕らは誰も止められなかった。ただ眺めることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イトナ君の暗殺終了後。僕らは後片付けをしていた中、殺せんせーは一人、教卓の前で顔に手をやり恥ずかしいと連呼していた。

 

「シリアスな展開に加担してしまったのが恥ずかしいのです。先生、どっちかと言うとギャグキャラなのに」

「自覚あるんだ」

「それに真面目な話しようとしても風人君がいつも壊してくれたからよかったのに、今日はそれもなかったですし」

「酷いよせんせー!僕のことそんな風に思ってたの!?」

 

 酷い!この言葉は僕が夜枕を濡らして寝ることを決定させたよ!

 

「……でも驚いたわ。あのイトナって子、まさか触手を出すなんてね」

 

 ビッチ先生が真面目なことを言って、空気は変わる。この言葉を切っ掛けに殺せんせーの恥じらいは収まり、片付けをしていた皆の手も止また。クラス全員の視線が殺せんせーへと自然と集まる。

 

「……ねぇ殺せんせー」

「説明してよ。あの二人との関係を」

「先生の正体、いつも適当にはぐらかされてきたけど……」

「あんなの見たら聞かずにいられない」

 

 殺せんせーの正体。おそらく開けてはならないパンドラの箱。ブラックボックスだ。皆が意識的に、また無意識に逸らしていたその箱の前に立つ僕ら。

 皆に詰め寄られた殺せんせーは、観念した様子で語り始める。

 

「…………仕方ない。真実を話さなくてはなりませんねぇ。実は先生…………人工的に造り出された生物なんですよ」

 

 ……半分……か。

 

「…………だよね。で?」

「にゅやッ、反応薄っ!これ結構な衝撃告白じゃないですか!?」

 

 皆の反応は薄かった。

 

「……つってもなぁ。自然界にマッハ二十のタコとかいないだろ」

「宇宙人でもないのならそん位しか考えられない」

「で、あのイトナ君は弟だと言っていたから先生の後に造られたと想像がつく」

 

 すると渚が語り始める。

 

「知りたいのはその先だよ、殺せんせー。どうしてさっき怒ったの?イトナ君の触手を見て。殺せんせーはどういう理由で生まれてきて、何を思ってE組(この場所)に来たの?」

 

 殺せんせーの核心に迫る疑問をぶつける渚。

 

「…………残念ですが、今それを話したところで無意味です。先生が地球を爆破すれば、皆さんが何を知ろうが全て塵になりますからねぇ」

 

 殺せんせーは笑みを浮かべる。笑顔じゃない。どちらかというと獰猛な笑みだ。

 そりゃそうだ。真実を知ってもどうにもならない。だって、地球が爆破されれば変わんないもん

 

「逆にもし君たちが地球を救えば、君たちは後でいくらでも真実を知る機会を得る。もう分かるでしょう。知りたいならば行動は一つ……」

 

 せんせーは表情を戻し、言った。

 

「殺してみなさい。暗殺者(アサシン)暗殺対象(ターゲット)。それが先生と君たちを結びつけた絆のはずです。先生の中の大事な答えを探すなら、君たちは暗殺で聞くしかないのです。質問がないなら今日はここまで」

 

 そう言って教室から出て行ってしまった。あ、

 

「せんせー!日誌まだ提出してない!あ、待って~!」

 

(((平常運転に戻ったな……)))



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球技大会の時間

「で?何か聞きたいことでもあるのですか?風人君」

 

 教員室に入る僕。日誌を出すというのはせんせーに近づくための一つの理由でしかない。

 

「話を変えましょうよ~。ここでは誰かに聞かれるかもしれませんよ?あ、スマホ置いておくので~」

 

 この先の話は律にもあまり聞かれたくない。

 

「ここならいいですね」

 

 校舎の屋根の上。グラウンドではクラスのほとんどの人が烏間先生に鍛えてもらうよう頼んでいる。

 

「で?君は何を聞きたいのですか?」

「私は殺せんせーに聞きたいじゃない。確認したい」

「確認ですか?」

 

 私はあまりこうやって真面目に話すのが好きじゃない。自由奔放で気ままに生きたい。でも、こういう時くらいは真面目にいく。

 

「うん。一つは確認。一つは質問。確認から言うと……先生は『雪村あぐり』と接点がある。違いますか?」

「雪村あぐりさんですか……」

「今のE組の面子が集まった去年の三月だけ担任していた人。要は殺せんせーの前任者だよ」

 

 これは私が調べた情報だ。渚とかにもそれとなく聞いておいた。間違いない。

 

「それなら、一身上の都合で退職なされたと聞きましたが?」

 

 知ってるよ。そうとしか答えは見つからなかった。でもね、

 

「……胡散臭いなぁ。明らかに出来すぎてる。そうは思いません?」

「……キミは何が言いたいのですか?」

「殺せんせーはここの担任をしたいと政府に言った。ここの担任は丁度不在。政府が担任交代を理事長様に打診したのなら、別に退職させる必要はない。でも退職した」

「何かしらの事情があったんでしょうねぇ」

「そうですか。なら、ストレートに言いましょうか」

 

 私は殺せんせーに向け言い放つ。

 

「雪村あぐりは既にこの世にいない。そこに殺せんせーが一枚噛んでる。違いますか?」

「……中々の思考の飛躍ですね」

「まぁいいでしょう。私はその雪村先生とは面識ないし。真実を確かめようにも殺せんせーが話す気がないならそれでいいです」

 

 そう。ここは()()どちらでもいい。

 

「それで、質問って言ってましたね?何でしょう」

「そうですね……殺せんせーはどちらですか?」

「どちらとは?」

「殺せんせーは元は人間。でしょ?」

 

 それは今までの様子から見て取れる。明らかにこのせんせーは人間臭い。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()か。どっち?」

「ヌルフフフ。なるほど。和光風人君。もし私が後者ならキミはこの暗殺から降りるつもりでしょう。……知っていますよ。キミという暗殺者(生徒)の情報くらい標的(先生)として集めるのは造作もない」

「…………っ!」

「ご心配なく。私は()()()()()()()()()()()()()()。殺したところで大丈夫ですよ」

「……そうかよ」

「そうだ。このことは内緒にして下さいね。先生との約束ですよ?」

「分かってる。でもさせんせー」

 

 僕は普段の表情に戻って言う。

 

「卒業まで隠すことは無理だと思うよ~いつか絶対話す時が来るよ~」

 

 職員室に入り、置いてきたモノを回収した後、僕は烏間先生のところに混ざりに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある梅雨明けの日の帰り道、珍しく、僕、渚、カルマ、杉野という4人で帰ってい

る。

 

「そういや風人。お前、今日は保護者はいいの?」

「うん~何か女子たちで話すことがあるんだって~」

「まぁ、神崎さんも風人君に付きっ切りっていうわけにはいかないよね」

「でも、ほぼ毎日、ずっと一緒に居るんだろ?羨ましなぁ」

「えぇーそう?」

 

 ここ最近思うこと。僕の隣に有鬼子が居ない方が珍しい。

 いや、皆からすれば逆か。有鬼子が僕の面倒を見てない方が珍しいか。

 

「にしても、アウトドアな季節ですなぁ。何か外で遊ばね?」

「ゲーム!」

「はいはい。カルマ君は何かある?」

「じゃあ、釣りとかどう?」

 

 釣り×カルマ=似合わねぇ~

 

「いいね。今だと何が釣れるの?」

「夏はヤンキーが旬なんだ~渚君で釣って逆にお金を巻き上げよう」

「いいね~やろやろ」

「餌になる方の気持ちを考えて!」

 

 え?やだ。

 と、こんな感じで歩いていると、本校舎の野球部が野球の練習をしているのが見える。

 

「お、なんだ杉野じゃないか!久々だな」

 

 声を掛けられるが、浮かない顔の杉野。 

 

「お、おう」

 

 杉野は元野球部。E組は部活に参加できないから、気まずいのかな?途中で退部させられて。

 

「来週の球技大会投げんだろ?」

 

 球技大会?

 

「そーいや、決まってないけど投げたいかな」

 

 投げる?人を?

 

「楽しみにしてるぜ!」

 

 え?会話についていけないんだけど……

 

「おう、ありがとな」

 

 と、いい雰囲気だと思ったら、杉野がE組ってことで言われ始めた。

 

「よせって、進学校での部活との両立。選ばれてない人間はやらなくていいことなんだ」

「へぇ~すごいね~きみ」

「まるで自分が選ばれた人間みたいな言い方だね」

「そうだよ」

 

 認めちゃったよ~ナルシストってやつ?

 

「気に入らないか?なら教えてやるよ。上に立つ選ばれた人間とそうでない人間。この歳で開いてしまった。大きな差をな」

「あ、教えてもらわなくて結構です。御引取下さい~」

「ダメでしょ風人。せっかく()()選ばれた人たちがカッコよく決めてるんだから邪魔しちゃ」

「はーい。まぁ、この歳で開いた差とか大人になったら埋まりそうだよね~」

 

 この後、僕とカルマに怒りマークを浮かべる野球部たちがいたことは想像に難くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それで、翌日~

 

「クラス対抗球技大会……ですか。健康な心身をスポーツで養う。大いに結構!……ただ、トーナメント表にE組が無いのはどうしてです?」

 

 トーナメント表を見て戸惑いながら訊いてくる殺せんせー。あれ?僕らって野球部に宣戦布告されなかったっけ?というか、

 

「E組は本戦にはエントリーされないんだ。一チーム余るって素敵な理由で」

「じゃあ、なんでエントリーされていないのに選出メンバー選んでるの~?」

 

 殺せんせーの疑問には三村君が答えてくれたが、僕の疑問は尽きない。

 

「まぁ聞けって和光。その代わり大会の締めにあるエキシビション。そこにでなくちゃならない」

 

 ふむふむ。エキシビションという名目でE組の男子は野球部、E組の女子は女子バスケ部のそれぞれ選抜メンバーと戦わなければならないらしい。

 

「……なるほど、いつものやつですか」

「なんというか~いい加減慣れた~」

 

 本当にとことんやるなぁ~。晒しものって言葉が似合うと思うよ~。

 

「俺らは晒し者とか勘弁だわ。お前らで適当にやっといてくれや」

「ちょっ!寺坂!」

 

 そういうと、寺坂君を筆頭に村松君と吉田君が去る。

 

「え?もう帰っていいの~?自由解散~?」

「風人君はそこで大人しく座ってて」

「はーい」

 

 え?帰らないのかって?いや、怒らせると怖いじゃん。

 

「野球となりゃ頼れんのは杉野だな。なんか勝つ秘策ねーの?」

 

 前原君が杉野に意見を求める。が、それを遮る。

 

「ふっふっふっ!僕に作戦があるよ~!」

「へぇ~どんな」

「相手チーム全員の飲み物に『ビクトリア・フォール』を混ぜればいいのさ!」

「「「却下」」」

「えぇ~」

 

 そうすればE組にサレンダーする野球部っていう構図ができたのに……

 

「和光のは置いといて。何かある?」

 

 意見を求められた杉野は表情を暗くしたまま首を横に振る。

 

「……無理だよ。うちの野球部かなり強いんだ」

 

 チームとして強い上に、特に相手の主将は名門高校からも注目されるほどらしい。ほへぇ~すごいんだね。

 

「……だけどさ、殺せんせー。それでも勝ちたいって思うんだ。善戦じゃなくて勝ちたい。好きな野球で負けたくないんだ。野球部追い出されE組に来てその思いが強くなった」

 

 好きなもので負けたくない。その思いはよく分かる。僕も有鬼子とか有鬼子とか有鬼子とかにゲームで負けたくない。勝ちたいという思いはある。いや、絶対勝つんだ!

 あれ?今野球の話だっけ?

 

「こいつらとチーム組んで勝ちた」

「わくわくわくわく」

 

 おっと、殺せんせーの方がノリノリだ。

 野球のユニフォームのようなものを着ているだけでなく、顔も野球ボールのような感じになっている。変装?

 

「ヌルフフフフ。先生一度、スポ根モノの熱血コーチをやりたかったんです。殴ったりはできないので卓袱台返しで代用します」

「用意良すぎだろ!」

「卓袱台返し!?せんせー!僕も卓袱台返ししてみたい!」

「私の後でならいいですよ」

「やった~!」

 

 卓袱台返し~楽しみ~

 

「最近の君たちは目的意識をはっきりと口にするようになりました。どんな困難にも揺るがずに。その心意気に応えて、殺監督が勝てる作戦とトレーニングを授けましょう!」

 

 ……ところで、殺監督って、野球を教えられるの?皆に聞いた話だと殺せんせー。体育教えるのが無茶苦茶下手らしいけど。



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球技大会の時間 二時間目

 そして球技大会当日となりました。

 

『それでは最後に、E組対野球部選抜の余興試合エキシビションマッチを行います』

 

 放送を受けて僕らE組と野球部がそれぞれグラウンドに入っていく。僕らジャージなのに向こうユニフォームって。気合入ってるなぁ~

 準備を終え整列。先頭に並んでいた相手主将が杉野に話しかけている。

 

「学力と体力を兼ね備えたエリートだけが選ばれた者として人の上に立てる。お前はどちらも無かった選ばれざる者だ」

 

 学力いるけど、体力っているの?

 とりあえず、挨拶を終えたのでベンチに戻ってきた。すると、辺りを見回した菅谷君が疑問を口にする。

 

「そーいや、殺監督どこだ?指揮すんじゃねーのかよ」

「あそこだよ。烏間先生に目立つなって言われてるから。遠近法でボールに紛れてる」

 

 え、遠近法……。ちなみに指示の出し方は顔色らしい。いや。顔色変化させたらバれるでしょ。あ、殺監督の色が変わった。 

 

「何て?」

「やっほ~せんせー」

「元気かい~?」

 

 僕らが手を振ると地面に隠れる殺せんせー。恥ずかしがり屋?

 

「えーと、あれは『殺す気で勝て』ってさ」

 

 え?そんな指示まであったの?どんだけ作ったの。

 でも、この言葉ほど僕らを殺る気にさせてくれる言葉はない。

 

「よっしゃ、殺るか!」

「「「おー!」」」

 

 とりあえずE組の先攻。僕はベンチでのんびり観戦だ~。

 

「やだやだ、ドアウェイで学校のスター相手に先頭打者かよ」

 

 ちなみに愚痴りながら打席に向かう一番打者は木村君だ。

 そして一球目。評判通りの豪速球に木村君はバットを振らず見送る。しかし、二球目。殺監督の指示通り難なくバントを成功させ、持ち前の俊足によって一塁へと出塁。このことに野球部の面々からは苦々しい表情が漏れる。

 続いてE組の二番打者は渚。プッシュバントで捕球しにきた相手の脇を転がして出塁。第三打者である磯貝君もバントを決め、ノーアウト満塁と流れは僕らに来ている。

 これには野球部だけでなく。観客からもザワつきが聞こえ始めた。

 

「作戦通りだね~」

「そ~だね~あ、そっちいったよ」

「おっけー」

 

 ちなみに僕とカルマは協力して大型モンスターを狩っている。

 何故、彼らがあそこまでバントが狙い通りできるか。単純。僕らは時速300kmの球を投げられる化け物相手に練習させられたからだ。

 ノーアウト満塁。この状況でE組が迎える四番打者は野球経験者の杉野。そして杉野は最初からバントの構えを取る。それにより、野球部からは動揺が伝わってくる。まぁ、そりゃぁここまでバントしかやってないしね。当然かな。

 相手のピッチャーが投げると、バントの構えを取っていた杉野だったが、投球されたと同時に打撃へとチェンジ。狙いすました一撃を思い切り叩き込み、ボールは深々と外野まで突き抜けた。ボールが戻って来る頃には杉野は三塁まで出塁、残りの三人はホームに帰ってきていてE組の三点先制。

 

「あーあ。これは僕らの出番あるかな~」

「どうやらあるみたいだよ」

 

 そう言って、向こうのベンチを指さすカルマ。

 そこには泡を吹いて倒れた野球部顧問。医務室にグッバイ。そして代わりに理事長先生の姿が……え?

 

「もうラスボス戦~?」

 

 まだ一回の表、四人しか回ってないよ~?はやいはやい~

 

『え、えー今入った情報によりますと野球部顧問の寺井先生は試合前から重病で』

 

 いや、たかだかエキシビションの為になんで重病人が監督してんだよ。

 

『生徒たちも先生が心配で試合どころでは無かったとのこと』

 

 じゃあ、最初から棄権しとけよ。

 

『それを見かねた理事長先生が急遽指揮を取られるそうです』

 

 おっと。こりゃあ、マズイ。

 五番の前原君がバッター席に立つ……すると、普段の野球ではまず見ることのない光景がそこにはあった。

 

『こ、これはなんだ!全員内野守備!』

 

 あーあ。

 

「バントしかないって見抜かれてるなぁ」

「つってもダメだろ!?あんな至近距離で!」

「ルール上ではフェアゾーンどこを守っても自由だね」

「まぁ~審判が絶対だからダメって言えば終わりだけど……どうせ審判向こう側でしょ~」

 

 五番前原君はバントを試みるも打ちあげてしまいワンアウト。

 六番岡島は殺せんせーに策を求めるも、ワンツーと同じ顔でスリーで打つ手なしと言わんばかりの表情だ。そのまま三振でツーアウト。

 七番千葉君も何もできずにそのままスリーアウト。一瞬で流れが向こうに行った。

 

「さぁ~守備だ~」

 

 と思うも一回裏。杉野が三者奪三振?で、何もせずに交代となった。

 二回表、八番カルマから打つのだが……

 

「どうした?早く打席に入りなさい」

 

 打席に立ってない。何してんの~?

 

「ねぇーこれズルくない?理事長センセー。こんなに邪魔な位置で守ってんのにさぁ。審判の先生も何も注意しないの」

 

 カルマ抗議する。

 

「お前らも何にも思わないの?ははっ。そうか。お前らバカだから守備位置とか理解してないんだね」

 

 カルマ観客を怒らせる。『小さいことでガタガタ言ってんじゃねぇよ!』とか『エキシビションの癖に守備にクレーム付けてんじゃねぇよ!』とか言われている。うわぁ。やっちゃったねぇ。

 その姿勢に殺監督は丸サインを出している。アンタの策かい。

 で、カルマが三振でアウトになり続く九番。

 

「やっと僕の出番かぁ~」

 

 バットを持ってバッターボックスへと向かう……が。

 

 ズコッ

 

「あぅ……!」

 

 思い切り躓いてこけてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、次は神崎ちゃんのペットが出るみたいだね」

「ペットじゃないから!」

 

 はぁ……ペット扱いって、風人君の評価というか価値がドンドン下がってるような……

 ちなみに女子の方は負けて、男子の応援に全員で来ている。

 

 ズコッ

 

「あぅ……!」

 

 と、いつも通り何もないところで転ぶ風人君。あーやっちゃった……

 

(((あ、コイツダメだ……)))

 

 と、E組女子の心が一致した。

 

「アイツって運動神経悪くないんじゃないの?カラスマ」

「あぁ。悪くはないはずなんだが……」

 

 むしろ私的にはさっき守備に行く時に転ばなかっただけ褒めてあげたいです。って、ここまで来るともう重症な気がし始めました。手遅れかな?

 

『ストライク!』

 

 一球目。全く動かずに見送る。

 

「あーやっぱアレでは無理か」

「だね。殺せんせーの作戦も見破られてるし」

 

 と、思い思いに言ってるが私だけは何か違和感を感じていた。

 

『ストライクツー!』

 

 ……やっぱり。

 

「風人君……何か言ってる?」

「え?」

「何か口元が動いているから……」

 

 さすがに、大声じゃないけどあの人が最初に投げた時からずーっと、何か言ってる。

 

『ファール!』

 

 三球目。二球目までと違いバットを振る風人君。ボールには当たったもののボールはあらぬ方向へと飛んでいく。

 そして四球目。風人君はバットを振るい、

 

 カキーンッ

 

 ボールが当たった音がする。打球はそのまま遠くまで飛んで行き……

 

『ほ、ホームラン!』

 

 ホームランです。

 普段の感じというか、別に喜ぶわけでもなくのんびりと一周回って……

 

 ズコッ

 

「ふぎゃっ!?」

 

 ホームベースを前にこけていました。

 

「へぇ~こりゃあたまげたわ~」

「だね~皆打てなかったのに」

「打った上にホームラン」

「中々やるじゃない」

 

(((最後に転ばなければカッコよく終わったのに……)))

 

 あれは、完全に狙っていた。まぐれじゃない。

 

(ヌルフフフ。風人君の強みは動体視力の良さと分析力にありますからねぇ。彼には打てる力もありましたし、球種がストレートだけに限られた以上、彼が点を取れるのは必然でした。流石ですね~まぁ、最後にコケるなど締まらないのも御愛嬌ということで)

 

 その後は二人が三振。結局打てたのは風人君だけ。

 二回表も終わり現在は4対0でE組優勢。しかし、この後、野球部からの反撃に苦しめられることになるのでした。



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球技大会の時間 三時間目

 時は少し戻り、球技大会の三日前。

 

「風人君」

「な~に?」

 

 僕はバットで素振りをしている。

 

「君はやはり動体視力が中々に高いですねぇ」

「まぁね~」

 

 ゲームやってたら自然に身についた。

 

「ホームラン打ちたくないですか?」

「どっちでもいいよ~」

「にゅや!ここは打ちたいと言いましょうよ!」

 

 えぇーなんでもいいんだけどなぁ~。

 

「というか、僕らバントの練習しかしてないじゃん~」

「ヌルフフフ。大丈夫ですよ。君に教えるのはどう打ったらホームランになるのか。それを掴んでもらうだけです」

「それが掴めたら苦労しなくない~?」

「ヌルフフフ。ですから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在。二回裏。

 

「風人凄いね~あんなの打てるんだ」

「まぁ、彼が球種を絞り、速度も同じだったからねぇ~。ここ三日くらい。同じ球しか練習してないもん~」

 

 流石に最初の一回二回は様子見と変更点の洗い出し、速度が少し上がってたのは想定外だったけど別に対応できたので問題なし。三回目で振ってみて感覚を掴んで四回目にズドーン。まぁ、このエキシビションの野球は三イニングだからもう僕の打席まで回ってこないだろうし、回ってきたとしてもあの理事長先生なら何かしらの策を講ずるだろう。

 要するに一回限りの不意打ち奇襲作戦である。

 

「どうりでバントの練習してないわけだ」

「そういうこと~」

 

 と、呑気に話を終え、ポジションに戻ると守備のぼろが露呈しまくり、徐々に追い詰められる。おまけに僕の方にあまり飛んでこないああたりさっきので僕の身体能力の高さを分かったようだ。暇だな~

 

「で、二点取られて三回の表になったね」

「というか、彼。風人にホームラン打たれたのに動揺してないね」

 

 ほんとそれね~動揺すると思ったのにむしろ球速上がってね?理事長先生の教育(洗脳)に賜物かな~。

 

『ストライクスリー!バッターアウト!』

 

 やばっ。あの杉野が掠りすらしなかったよ。

 

「ヤバい。さっきまでとまるで別人だ」

「だね~僕のホームランに動揺してくれればよかったものの」

 

 殺監督も僕がホームランを打つことで相手のピッチャーに精神的な揺さぶりをかけるのも一つの狙いだったのに、うまいこと理事長先生にやられた。あの人やべぇーなぁ。

 

「あーやっぱ打てないか」

 

 打席に立つ前原君。しかし、バットを振るだけで掠りすらしない。と言うか、あれ、バットに当たってもバットが折れるんじゃね?まぁ、殺せんせーの球じゃあるまいし、それはないか。

 

『ストライクスリー!バッターアウト!チェンジ!』

 

 そして、三回の裏。僕らの守備。ここを守り切れば勝てる……が。

 

「橋本君。手本を見せてあげなさい」

 

 手本?何かするの?

 そして打席に立つ。すると杉野が投げた球を……。

 

『あーっと!セーフティバント!今度はE組が地獄を見る番だ!』

 

 バントで返される。普通なら素人相手に大人げない!と野球部側が叩かれるだろう。

 だけど、僕らが一回の表でバントをしていることによって『手本を見せる為』という大義名分が出来る。あの理事長先生、僕らの策ですら自分の有利な方へと持っていく……やっぱり強いな。

 

『さぁ、ノーアウト満塁!ここで迎えるバッターは我が校が誇るスーパースター!進藤君だ!』

「絶対ドーピングしてるよね!?」

「踏みつぶしてやる……杉野ォォオオオ!」

 

 思わずツッコんでしまう。いや、あの溢れるオーラ。ヤバそうな目。怪物のような唸り声。間違いない。ドーピングでなければ何かヤバい薬を使ってるよ!

 

「風人~ちょいちょい」

 

 カルマに呼ばれてトコトコと僕は杉野のところに行く。

 

「殺監督からの指令~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、試合再開……ですが』

 

 あまりのことに観客がざわつき、実況も止まる。

 

『こ、この前進守備は……!』

 

 理由は簡単。僕とカルマが前進守備をしているからだ。

 

「俺らは明らかにバッターの集中を乱す位置に守っている。でも、さっきそっちがやった時、審判は何も言わなかった」

「それに観客も『小さいことでガタガタ抜かすな』とか『エキシビション如きで守備位置にクレーム付けるな』とか言ってたよね~だからさ」

「「文句ないよね?理事長(先生)?」」

 

 まぁ、文句は言えないはずだ。

 

「ご自由に。選ばれた者は守備位置ぐらいで心を乱さない」

「へぇ~言ったね」

「じゃあ、遠慮なく~」

 

 僕らは理事長先生にも許可を貰ったのでさらに前進。

 

『ち、近い!前進どころかゼロ距離守備!振ればバットが当たる距離だ!』

 

 あまりのことに目を丸くするバッター(進藤君)

 

「僕らのことは気にしないで打っていいよ~すーぱーすたーさん?」

「そうそう。ピッチャーの球は邪魔しないからさ」

 

 これでカルマの後頭部とかお尻にボールが当たったらマジで笑える。(僕の)笑いを誘うためにやるんだ杉野!

 

「くだらないハッタリだ。構わず振りなさい。進藤君。骨を砕いても打撃妨害を受けるのはE組だ」

 

 ニコニコ。さぁ、こんな状態でバットを振れるかな~?

 杉野がボールを投げ、進藤君(スーパースター)がバットを振るう。僕とカルマはそれをほとんど動かずギリギリで避ける。

 

『ストライク!』

 

(カルマ君の動体視力もE組ではトップクラス。また二人とも度胸もトップクラスですからねぇ。バットを躱すぐらい朝飯前ですねぇ)

 

「ダメダメ~そんなに遅いスイングじゃあ当たらないよ~」

「そうそう。だからさ……俺らを殺すつもりで振ってごらん?」

 

 もうこの時点で進藤君は理事長先生の戦略についていけなくなっただろう。恐怖している様子が手に取るように分かる。そんな彼に対し、僕らは――

 

「「…………(☻)」」

 

 ――笑いかける。まぁ、本人に僕らの事を見る余裕なんてなさそうだけど。

 杉野の二球目。それを悲鳴を上げながら振るう。バットにボールは当たったがその場でボールはワンバン。飛んだところをカルマが素手でキャッチ。

 

「渚君!」

 

 そのまま渚に投げ渡して、渚はホームベースをタッチし、ワンアウト。

 

「次、三塁~」

 

 三塁への送球。相手ランナーが来るより早くボールは行きツーアウト。

 

「木村。次、一塁。ランナー走ってないから焦らなくていいぞ」

「了解」

 

 木村君が一塁へ送球。危なげなくスリーアウト。

 

『と、トリプルプレイ。ゲームセット。なんと、な、なんと……E組が野球部に勝ってしまった……』

 

 いぇーい。

 

「ナイス挑発、カルマ~」

「ナイス煽り、風人」

 

 パンッ

 

 とハイタッチするも、カルマの方がかなり高いので僕はわざわざジャンプすることになる。

 

「渚もお疲れ~」

「お疲れ二人とも。本当にあんな近距離でやるとは思わなかったけど……」

 

 だって、そうしないと威圧できないじゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして帰り道。

 

「疲れたぁ~」

「お疲れ風人君」

「うん~」

「カッコよかったよ」

「ありがと~」

「でも、最後のは危険じゃないかなぁ?」

 

 それは否定しない。普通の人ならあんなことしないだろう。

 

「……全く。女子の方でも皆『大丈夫かな』って心配していたよ?…………最初は

 

 最初は?

 

(まぁ、その後は『あの二人だし大丈夫か』とか『むしろあのバッターが可哀想』とかついには『バットが当たれば性格とか治るんじゃね?』で『それだ!』ってなっていたけど)

 

「大丈夫大丈夫~なんたって僕らだからね!」

「はぁ……私としては凄い風人君が心配だったんだよ?」

 

 どこか心配される要素あったっけ?

 

(一回目振った時とか直視できなかった。あまりにも心配過ぎて後少しでどうかなりそうだった)

 

「もう危険な真似はしない。いい?」

「えぇー人生スリルも大切だよ?」

 

 スリルあり。笑いあり。楽しめる時に楽しまなきゃ勿体無い。

 

「次危険な真似したらお仕置きだからね」

 

 お仕置きとお説教は何が違うのか。ちょっと疑問に思った。

 

「えぇー」

 

 というか、そんなに危険な真似はしないと思うんだけど……ねぇ。あれ?これもしやフラグ?



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新任の時間

 七月になりました。

 

「視線を切らすな!次にターゲットがどう動くかを予測しろ!全員が予測すればそれだけ奴の逃げ道を塞ぐことになる!」

 

 今日も太陽の下暗殺訓練です。現在はカルマとペアになってナイフを振るう。

 

「というか烏間先生が前より手加減してくれなくなったんだけど~」

「あの人は丁度いい手加減をしてくれてるよ。そりゃあ当てられなくなるのも分かるよ」

 

 烏間先生に当てる時はペアか単独のどちらかを選べるが、僕とカルマは基本単独。理由としては単純。相手に合わせるのが難しいから。僕らみたいなトリッキーなタイプの人間は即興で何かとやることも多いから合わせる方が負担かかりまくりである。

 まぁ、問題児は問題児らしく問題児と仲良くやっていますよ~っと。

 

「へぇ~当てさせてくれないね」

「風人こそ。割と本気出してんのに」

 

 お互い。あの手この手でナイフを当てようとするが、一向に当たらない。すると、

 

「ケホッ……」

 

 渚が烏間先生の防御で吹き飛ばされた。

 

「……いった……」

「すまん、ちょっと強く防ぎすぎた。立てるか?」

「へーきです」

 

 烏間先生が駆け寄りながら心配してる。手加減でもミスったのか?渚も笑いながら上体を起こして立ち上がれてるから大事には至らないだろうけど……。うーん。あの人がそんな些細なことでミスしたのか、それとも……

 

「他事考えてる余裕ある?」

「ないね~」

 

 まぁ、今はいいや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 体育の授業の終わりを告げる鐘が鳴る。

 

「いやーしかし当たらん」

「隙なさすぎだぜ」

 

 今日もいつも通りトリッキーに攻めたけど当たらなくなってきた。うーん。ナイフ五本使えば動揺するかなぁ?

 

「せんせー。放課後皆でお茶しようよー」

 

 倉橋さんが烏間先生にお誘いをかける。が、

 

「誘いは嬉しいが、まだ仕事が残っていてな」

 

 と、断られてしまう。

 

「私生活も隙がねぇな」

 

 ほんとね。

 

「ていうか、私たちとの間に壁っていうか……距離を保ってるような」

「私たちのこと大切にしてくれてるっていうのは分かるけど、でもそれって、ただ任務だからなのかな」

 

 烏間先生に対する気持ちを口々に漏らす。

 そんな中、烏間先生の前に、何か大量の荷物を持った男の人が現れた。

 

「よぉ、烏間!」

 

 うーん。知り合い?

 

「今日から烏間を補佐して働くことになった鷹岡明だ。よろしくな。E組のみんな」

 

 ふーん。

 そして、グラウンドまで降りてきてご丁寧にビニールシートを引いた後、その荷物の中身を並べる。見るとそれは高級なスイーツばっかりだ。

 …………ふーん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君はいいのか?」

「別に~。僕、あの人のこと胡散臭すぎると思うので~」

「そうか」

「明日の体育からあの人が担当ですか~?」

「そのようだが……」

 

 窓から見ると、グラウンドではみんなでスイーツを仲良く食べている。……カルマもどっか行ったし、僕は教員室の方で烏間先生と話している。

 

「まぁ、僕は甘いもので釣られて気を許す程、甘くはないですよ?」

 

 このクラスは気を許せる人が多い。でも、あの人はダメだ。

 貼り付けたような笑顔。心の奥に燻ぶる野心。どうやってもあの人は取りつくろってるようにしか見えない。

 

「先生~。僕、帰りますね~ばいばーい」

 

 さっさと着替えて教室から出る。

 

「あれー?風人も今帰り?」

「ん~?カルマ~そうだよ~」

 

 すると山の中腹で、カルマと出会う。あ、そうだ。

 

「律。有鬼子に『カルマと帰ったから~』って送っておいて~」

『分かりました!』

 

 うんうん。やっぱり便利だね、モバイル律。

 

「えぇー俺がお前の保護者やるの?」

「やらなくていいよ~」

「じゃあ、ジュース買ってきて」

「君は保護者の意味を履き違えていないかい?」

「保護者は保護者でしょ?ほら、世話してやってんだからさっさと働けって言える立場の」

「それ何か違くない!?」

「ははは。でも風人の場合、神崎さんには逆らえないでしょ。お前の保護者なんだから」

「別に~逆らえるし~」

 

 何かこのやり取り修学旅行の時にもやったような……。

 

「で、風人は何で行かなかったの?甘党でしょ?」

「そうだよ~。そういうカルマは何で~?」

「うーん。気分が乗らなかったから?」

「じゃあ、僕も今日はそういう気分じゃなかったってことで~」

「オッケー」

 

 なるほど。多分同じ考え……とまでは行かなくても割と近いだろう。

 

「でも、明日の体育からあの人が担当だって~」

「えぇー。……サボろ」

「へぇーカルマもサボるつもりなんだ~」

「風人もか。まぁ、俺はあの人より烏間先生の方が良さそうだしね」

「それ同感~」

 

 どういうスタンスでいくかは知らない。でも、そんなのどうでもいい。

 嫌いな先生の授業をサボる。

 ここが暗殺教室であれ、たったこの一言で済む。他に理由はいらないし、運がいいことにあの人は烏間先生の補佐。教えるのは体育くらいだろう。別に体育(訓練)だったら放課後とか早朝に烏間先生に頼めば稽古くらいしてくれるだろうし、技術も教えてくれるだろう。あの人に教えてもらう必要がない。

 

「あの人って防衛省の人だよね~?」

「多分ね。烏間先生が知っているっぽい感じだったから」

「……じゃあ調べれば出て来るか」

 

 と、こんな感じで話をしながら帰ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の体育の時間です。今日から烏間先生に代わり鷹岡先生が教えるそうですが、風人君が学校を初めてサボりました。

 朝、いつもの時間に風人君の迎えにいったけど一向に出て来る気配がないので、風人君のお母さんに聞いたところ、『あれ?あの子はもう出かけたよ?』と言われた。それで学校に来ているものだと思ったけど、居なかった。どこかで迷子になってるかと心配して、とりあえず律に聞いてみたところ『今日はサボる~』とのことらしい。

 なるほど、今回はしてやられた。今度から律に風人君が家を出る時間でも教えてもらおう。……って、これだけ聞くと私って風人君のストーカー?それは違うと思うけど……

 

「よーし。今日からはちょっと厳しくなるかもだが、終わったらウマいもん食わせてやるからな」

 

 よく見るとカルマ君も居ない。……まぁ、あの二人は何か似たようで互いに違う存在だからなぁ。もしかして、一緒にサボってる?……ってそれはないか。カルマ君は学校には来ていたし。

 

「さて、訓練内容の一新に当たって、新たな時間割を組んだ」

 

 配られる新たな時間割。それを見ると、月曜から土曜まで、しかもどの日も最低でも4限から10限までは訓練で埋め尽くされている。一言で言うなら異常な時間割。

 

「うそ……だろ」

「10時間目……?」

「夜九時まで訓練……?」

 

 何を言ってるのこの人は……?このカリキュラムに付いて来られれば能力は上がると言っているがそういうことじゃない。私たちの本分は勉強。暗殺者である前に中学三年生。こんなのおかしい。

 

「では早速」

「ちょ、待ってくれよ!無理だぜこんなの」

 

 前原君から声があがる。

 

「これだけじゃ勉強の成績落ちるよ!」

 

 そして鷹岡先生の前で抗議する。

 せっかく、殺せんせーが私たちに勉強させるような環境を整え、やる気を出してくれているのに、こんなのじゃ……

 

「遊ぶ時間もねぇし、こんなの」

 

 次の瞬間。鷹岡先生は前原君の頭を掴み、腹に膝蹴りを叩き込んだ。

 

「カハッ!」

「出来ないじゃない。やるんだよ」

 

 地面に倒れ込む前原君。……なに、この人。

 

「言っただろ?俺たちは家族で俺は父親だ。世の中に父親の命令を聞けない家族がどこにいる?」

 

 恐ろしく高圧的。しかも、抜けたい人は抜けてもいい……その代わり新たな生徒を補充する。こんなの私たちを潰す気じゃ……

 すると、鷹岡先生は私たちのところに来る。

 

「家族みんなで地球を救おうぜ!なっ!」

 

 鷹岡先生の腕に捕まれる。……とても怖い。

 

「な、お前は父ちゃんについて来てくれるよな?」

 

 私に聞かれた。

 

「は、はい……」

 

 恐怖で今にも震えそうだ。でも、立ち上がって、鷹岡先生の方に向く。

 

「私は……」

 

 でも、私は嫌だ。この人の授業は受けたくない。だから、

 

「私は嫌です」

 

 私は正直に言う。嘘を付いてまでこの人の授業の方がいいだなんて言いたくない。

 

「烏間先生の授業を希望します」

 

 瞬間、手を挙げる鷹岡先生。私は迫りくる恐怖と痛みを耐える為に目を閉じる。

 

 

 パンッ!

 

 

 少し、背中に引っ張られた違和感を感じた直後、音が響き渡る。でも、不思議と痛みはなかった。

 

「おい、クソデブ。テメェ今有鬼子に何をしようとした」

 

 目を開けると私を庇うようにして立つ……

 

「答えやがれ……このクソ野郎」

 

 風人君がいた。声だけでわかる。今の風人君は……完全にキレてる。



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才能の時間

 頬に痛みが走る。凄い痛いがどうでもいい。

 

「何しようとしたって教育だよ」

「あぁっ?この威力、女子にふるっていいもんじゃねぇだろ?」

「ちゃんと手加減したさ」

 

 オレだからどうとは言わねぇが、この威力で振るうのは普通あり得ない。たとえ、手加減したと言われてもな。

 

「文句があるなら拳と拳で語り合おうか?そっちのほうが父ちゃん得意だぞ」

「そうかよ。それはよかった」

 

 オレは奴の目を見て告げる。

 

「それはオレも得意分野だ」

 

 瞬間、拳を振るう……が、そのまま拳を受け止められると同時にカウンター。

 それを避けるも脚払いで体制を崩され、そのまま蹴り飛ばされ地面を転がる。

 

「おいおいこの程度か?父ちゃんがっかりだよ」

 

 土の味がする。だが、知ったこっちゃない。

 

「生憎なぁ……オレの父さんは一人しかいねぇんだわ。そしてアンタみてぇなクソヤロウじゃねぇ」

 

 間合いを詰め、パンチと見せかけ蹴りを喰らわせる。

 

「バレバレだぜ?」

 

 再び受け止められる。が、今度は受け止められた足を支点にして逆足で蹴りを喰らわせようとするが、支点にしていた足を離され、地面に倒れ込む。そこを踵落としを喰らわせようとするが、転がって避け、背後に回る。そこから、脚払いを仕掛けるも、

 

「なっ!」

 

 見た目のわりにスムーズに動きやがる。まさか、跳ぶとはな……!そのまま膝が飛んで来ようとするがそれを避け体制を立て直す。

 

「まだまだガキだなぁ」

「言ってろ。バイオレンスファザーモンスター」

 

 コイツは律と朝から調べた情報だと、烏間先生の同期で優秀な兵を育て上げている。烏間先生以上の手腕だと見えるが、実態は暴力による恐怖での支配。だからコイツは、自分が教える奴に暴力を振るうことを厭わない。それが例え、中学生であろうと。

 

「口のわりに弱い」

「そうかよ。っていうかさ。アンタ……」

 

 オレは奴にとって致命的となるであろう一言を()()()言う。

 

「――烏間先生より弱いな」

 

 瞬間、顔めがけて拳が飛んでくる。それを避け、手を奴の喉元目掛け突き刺そうとするが、手首をつかまれそのまま引き寄せられ、

 

「ガハッ!」

 

 鳩尾に膝蹴りが入り、そのまま顎を蹴り上げられる。その瞬間、蹴りを放った足に当てるものの、そのまま飛んでいく。そして、追撃のために向こうが拳を構えたところで、

 

「そこまでだ。暴れたいなら俺が相手を務めてやる」

「烏間先生……」

「大丈夫か?和光君。それに前原君も」

「……オッケーです」

「へ、へーきです」

 

 身体を起こしてみるが、流石に今のは効いた。クソいてぇんだが。骨は折れてなさそうだな。

 

「そろそろ横やりを入れてくるころだと思ったよ」

「これは暴力じゃない教育さ」

「何が教育ですか……!」

 

 そう言いながらやってきたのは真っ赤にした殺せんせー。

 

「おいおいモンスター。俺には俺の教育方針がある。今のも立派な教育さ。暴力でお前や烏間とやりあう気はない」

 

 ……教育方針って、こんなに便利な言葉だっけ?

 

「やるならあくまで教師としてだ。どちらの教育が上か証明しよう」

 

 そう言うと、自身の荷物に向かっていく。

 

「お前の育てた生徒からイチオシを一人選べ。その生徒が俺と闘い、一度でもナイフを当てられたのであれば、お前の教育のほうが上だったと認め、俺は出ていく。ただし、使うのは……!」

 

 そういうと殺せんせー用のナイフを地面に置き、それを本物のナイフで突き刺す。

 

「本物の刃物だ。殺す相手は俺だからなぁ……!」

 

 一言で言えば狂気。だけど不思議と怖さはない。

 

「安心しな。寸止めでも当たったことにしてやるよ」

 

 なるほど。これが例のヤツか。奴はこうやって最初の訓練で新兵のうち一人にナイフを持たせ、今のように言った。そこを奴が素手でボコボコにし格の違いを思い知らせるというもの。そして恐怖を植え付け逆らえないようにする。

 

「さぁ、烏間。一人選べよ。嫌なら俺に服従だ」

 

 ナイフを投げ渡される烏間先生。そのまま先生は少しの間考えて、

 

「……渚君。出来るか?」

 

 僕の予想通り渚を選んだ。しかし、皆はその決定に驚く。

 

「俺は地球を救う暗殺任務を依頼した側として、君たちとはプロ同士だと思っている。プロとして君たちに払うべき最低限の報酬は当たり前の中学生活を保障することと思う。だから、このナイフを無理に受け取る必要はない。その時は俺が鷹岡に頼んで報酬を維持してもらえるように努力する」

 

 烏間先生はまっすぐ渚の目を見て話す。

 

「……やります」

 

 この条件であいつに勝てるのはお前だけだよ、渚。……というか律使えば解決じゃね?反則スレスレだけど。それかイトナ君。

 

「お前の目も曇ったなぁ、烏間。よりによってそんなチビを選ぶとは」

 

 阿呆が。曇ってるのはテメェの目だよ。

 

「同じチビでもさっきのやつの方がいいんじゃねぇのか?そう思わないか?」

 

 ん?僕に向かって話しかけてる?えぇ?それで代われとでも言うと思った?

 

「んーもしも渚が負けたらね~と言うわけで渚。気楽にやっちゃっていいよ~」

 

 僕はのんびり座る。アイツはまだ気付いていない。アイツは少なくとも今のままじゃ勝ち目がゼロだということに。

 

「大丈夫かな……渚君」

「大丈夫さ~。まぁ、見てなって~」

 

 どうやら渚も気付いたようだね。渚は僕みたく闘う必要はない。

 

 渚はアイツを殺せば勝ちなんだ。

 

 すると渚は笑顔で自然に歩いて近づく。鷹岡はそんな渚とぶつかる距離まで、構えたまま動かない。

 そして、渚はナイフを振るう。狙いは頸動脈……だが、鷹岡はすんでのところで避けた。まぁ、ギョッとし体制を崩したんだけど。その体勢を崩した時に服を引っ張り、背後に。鷹岡の目元に手を当てつつナイフは首に添えた。

 

「捕まえた」

 

 戦闘の才能なら、僕やカルマはこのクラスの誰にも負けないだろう。でも暗殺の才能では確実に渚に劣る。僕は比較的騙し打ちが得意だけど、もし渚がこの才能を伸ばしたとしたら僕は彼には暗殺で勝てない。

 

「あれ?峰打ちじゃダメでしたっけ?」

「そこまで。勝負ありですね、烏間先生」

 

 ナイフを取り上げる殺せんせー。

 

「まったく……本物のナイフで勝負をするなんて正気の沙汰ではありません。怪我でもしたらどうするんですか」

 

 そしてバリボリと食べる。ナイフを食べるとか正気の沙汰じゃないよ。 

 さてと、僕も皆のところで渚を祝おう~

 

「このガキ……父親も同然の俺に歯向かって、まぐれの勝ちがそんなに嬉しいか!?」

 

 血管を浮かび上がらせ立ち上がる鷹岡。いや、まぐれだろうと勝ちは勝ちじゃん?

 

「もう一回だ!心も身体も全部残らずへし折ってやる!」

 

 今にも襲いかからん勢いだなぁ~

 

「……確かに、次やったら絶対に僕が負けます。でも今回のではっきりしました。僕らの担任は殺せんせーで、僕らの教官は烏間先生です。これは絶対に譲れません」

 

 あれ?ビッチ先生は?

 

「……本気で僕らを強くしようとしてくれてたのは感謝します。でもごめんなさい。出ていって下さい」

 

 おーさすが渚。言うね~

 

「黙っ……て聞いてりゃ、ガキの分際で……大人になんて口を……」

 

 完全に我を忘れ、襲いかかる鷹岡。しかし、渚の元に鷹岡が来ることは無かった。

 

「あ、さっきまでの分やり返したから、これで満足だよ?」

 

 襲いかかる鷹岡の脚を引っかけ顔を鷲掴みにして地面に叩きつける。

 

「ごめんね烏間先生~。僕もやり返しておかないと性分に合わないから~」

 

 僕らを庇うように前に出ていた烏間先生に謝る。

 

「……こちらこそ。俺の身内が迷惑を掛けてすまなかった。後の事は心配するな。俺一人で君たちの教官を務められるように上と交渉する。いざとなれば銃で脅してでも許可をもらうさ」

「「「烏間先生!」」」

 

 やっぱカッコイイなぁ~烏間先生は。

 

「くっ……やらせるか、そんなこと。俺が先に掛け合って……」

 

 起き上がろうとする鷹岡。

 

「交渉の必要はありません」

 

 そんな中響いた声。

 

「新任の先生の手腕に興味があったので、拝見させていただきました」

 

 いつから見てたんだろう?最初からだと……どういう評価になるんだろう?

 

「鷹岡先生、あなたの授業はつまらなかった。教育に恐怖は必要です……が、暴力でしか恐怖を与えることができないのならその教師は三流以下だ」

 

 アンタの方がこえぇよ理事長先生。あと、何の紙を咥えさせた?

 

「解雇通知です」

 

 わーお。

 

「此処の教師の任命権は貴方方にはありません。全て私の支配下だということをお忘れなく」

 

 荷物を持って帰る鷹岡。鷹岡正式にクビということに喜び合う僕らE組。

 

「はぁ……疲れたぁ」

 

 いたた。今まで何だかんだで忘れてたけど、色んな箇所にダメージ喰らってたの忘れてた。ついでに制服だし……あ、思い出したら凄い痛い。あ、ヤバい。

 

「ところで烏間先生?生徒の努力で体育教師に返り咲けたわけだし、なんか臨時報酬あってもいいんじゃない?」

「そーそー。鷹岡先生、そういうのだけは充実してたよねー」

 

 うわぁ。ちゃっかりしてるなぁ。

 

「……ふん。甘いモノなど俺は知らん。これで食いたいものを」

 

 烏間先生が財布を取り出した瞬間。それをスるビッチ先生。

 

「甘いもの~甘いもの~」

 

 殺せんせーが土下座しながら着いてきてるけど知らない~痛み?甘いもので忘れたよ~

 

「風人君、ちょっと」

「ありゃ?」

 

 と、思ったら襟元を引きずられて行く。

 

「誰かぁ……助けてぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、現在。なぜか僕は保健室のベッドの上で座らされています。ついでに言えば有鬼子に脱がされ上裸です。殺せんせーに頼んで僕らは後から合流すると有鬼子が言っていました。後、新品の制服を用意してもらうよう烏間先生にも頼んでいました。……行動早いなぁ。

 よく思い出せばあんだけ、蹴り飛ばされたり転がったりして、制服……もといカッターシャツが無事なわけなかった。切れて汚れておまけに血がにじんでいる。

 

「これでよし」

「ありがとね~」

 

 と言っても、自分ではこんなに傷だらけとは思わなかった。まぁ、些細なものが多いけど、それにしてもである。

 

「さて、皆のところにいこうか」

 

 殺せんせーに予備をとって来てもらったのでそれに着替えようと立ち上がろうとするが、

 

「風人君」

 

 何故か有鬼子に押し倒されました。そしてそのまま床ドン。いや、ベッドの上だからベッドドン?略してべッドン?え?でも、本当に何で?

 

「……言ったよね?」

 

 何を?

 

「風人君が傷付くのは見たくないって」

 

 あー修学旅行でですね、はい。

 

「あの時、風人君が居なかったら私は打たれていた。でも、だからって……」

「それでいいじゃん~。有鬼子に怪我がなかっただけで、僕はいいよ~」

「私がよくない!」

「…………」

「風人君。私は嘘までついてあの人の方がいいって言いたくなかった。暴力を振るわれることを分かったうえで言ったの。だから……」

「だから何?僕はあの人のこと最初に見た時から嫌いだった。別に、僕がその後戦ったのは結局自分のためだよ。だから、気に病む必要はない。たまたま有鬼子との間に割り込んでそのために僕が打たれた。それだけだよ」

 

 僕は、例えあの人が有鬼子に暴力を振るわなかったとしてもあの人のことは嫌いだった。たまたまなんだ。たまたまの産物でキレてボコられただけなんだ。だから、有鬼子が気に病む必要はどこにも無い。

 

「…………分かったよ。もうこの話はおしまい」

 

 そう言うと、納得してくれたのか、手を――

 

「えーっと、まだ何か御用でしょうか……」

 

 ――放してくれない。何か前にもあったっけ?こんなこと。

 

「お仕置き」

「へ?」

「次、危険な真似したらお仕置きって言った」

「…………あ」

 

 落ち着こう。落ち着くんだ僕。よし、ここは、

 

「今回のは危険な真似に入らない。だからノーカンだ!」

「入らないと本気で思ってるの?」

「うん!だって、防衛省のヤバい人に向かって近接戦闘を仕掛けて……」

 

 ……あれ?この時点でかなり危険じゃね?例えるなら素手でライオンとかに戦いを挑むものだ。

 

「……早く皆のところに……ね?お仕置きなんて……ね?ほ、ほらしても良いことないよ~?」

「……今から私がすることに抵抗しないでね」

「ちょ、ちょっと落ち着こう。話せばわかるよ~。ね?ね?」

「目を閉じて」

「い、いやー視界が塞がれると恐怖が……あ」

 

 手で覆い隠される僕の視界。あ、やべぇ。これかなりの恐怖だ。暗殺された時の鷹岡の恐怖が分かる。

 すると、頬に何かが当たる感触。そうそれは、何か柔らかい……

 

「ありがとうね。守ってくれて」

 

 耳元で囁かれる感じがする。彼女の吐く息が耳に当たってる感じがする。

 そして、手を放してくれ、視界が開ける。見ると目の前には顔をほんのりと赤らめた有鬼子が立っていた。

 

「じゃあ、着替えてくるから待っててね」

 

 そういうとささっと出ていく有鬼子。

 

「まさか……」

 

 僕は何かが触れたであろう場所を手で触る。まさか……ね。

 

「キスされた……?」

 

 僕は少々の間、放心状態に陥っていた。



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プールの時間

 鷹岡とのあの一件を終えてから数日が経過した。特に何かが起きるわけでもなく皆平和に過ごしています。

 しかし、現在。僕らはある問題に直面しています。

 

「暑い……溶ける……」

 

 このE組に冷房という高価なものは存在しません。暑いです。…………はっ!

 

「律~団扇だして~」

『分かりました』

 

 そう言って団扇が出てくる。はぁ、涼しい。…………ん?よく考えると団扇って仰ぐの疲れね?

 すると、授業中でも暑さにだれている僕らを見て殺せんせーから注意が入る。

 

「だらしない……夏の暑さは当然のことです!」

 

 まぁ、夏が寒いって言ったら異常気象?

 

「ちなみに先生は放課後には寒帯に逃げます」

「「「ずりぃ!!」」」

 

 ちなみに殺せんせーもだれている。本当にずるいというか説得力ないな~。

 

「でも今日プール開きだよね?体育の時間が待ち遠しいなぁ~」

「……いや、そのプールが俺らにとっちゃ地獄なんだよ」

 

 倉橋さんの意見は木村君によって否定されてしまう。

 

「え~?どうして~?」

「プールは本校舎にしかないんだよ。炎天下の山道をわざわざ降りて入るんだよ」

「その上で授業終了後は疲れた身体で炎天下の山道を上る。ね?地獄でしょ」

 

 何このシステム。プール=地獄じゃん。

 

「うー……本校舎まで運んでくれよ、殺せんせー」

「そーだよ~」

「先生のスピードを当てにするんじゃありません!いくらマッハ二十でも出来ないことはあるんです!」

 

 まぁ、いくらでもあるだろう。スピードだけじゃ解決しない問題なんてね。 

 

「……でもまぁこの暑さは分かります。仕方ありません。全員、水着に着替えて着いてきなさい。そばの裏山に小さな沢があったでしょう。そこに涼みに行きましょう」

 

 僕らは殺せんせーの提案に従い、言われた通り水着に着替え、上からジャージを着て裏山に入っていく殺せんせーの後を着いていくことにする。

 

「裏山に沢なんてあったんだ」

 

 確か足首まで浸かればいい方じゃなかったっけ?足湯ならぬ足水?

 

「さて皆さん。さっき先生は言いましたね?マッハ二十でも出来ないことがあると。その一つが君たちをプールに連れていくことです。残念ながらそれには一日掛かります」

 

 何を言ってるの?

 

「一日って大袈裟な……本校舎のプールなんて歩いて二十分――」

「おや、誰が本校舎に行くと?」

 

 磯貝君の指摘を遮る殺せんせー。そして聞こえてくるのは水の流れる音……?

 あれ?こんな音……前からしたっけ?

 そう思いながら音の方へと向かう。草木の間を抜けたそこには小さな沢など見当たない。代わりに、ある程度の深さと泳げるような幅のある岩場に囲まれた水場があった。端の方にはご丁寧にコースロープで水泳用のレーンが二つほど作られている。自然の中にプールが作られていた。

 

「なにせ小さな沢を塞き止めたので、水が溜まるまで二十時間!バッチリ二十五メートルコースの幅も確保。シーズンオフには水を抜けば元通り。水位を調節すれば魚も飼って観察できます」

 

 確かにこれはマッハ二十の殺せんせーでも一瞬では作れない。

 

「制作に一日。移動に一分。あとは一秒あれば飛び込めますよ」

 

 先生の言葉によって僕らは羽織っていたジャージを脱ぎ捨て、勢いよくプールへと飛び込んだ。

 殺せんせー浮き輪やビート板、ビーチボールなど諸々を一式用意してくれている。やったね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「和光……アンタ」

 

 有鬼子とのんびりプールの中で涼んでると、中村さんが渚の方からやってきた。

 

「どうしたの~?」

「アンタも男なのね!」

「え?今さら?」

「まぁ、アンタ。見た目が渚程でないにしろ中性だからね。髪伸ばせば女子に見えるでしょ。今でも女子って言われれば通じそうだし」

「うわぁーん。ユキえもん!なかむらイアンが虐めてくるよ~」

 

 有鬼子に抱き着く僕。そんなの言われたの初めてだ。

 

「神崎ちゃんもそう思うでしょ?」

「う、うん。風人君。カッコイイというより、可愛い方が強いから」

「酷いっ!」

「だよね~これで性格がまともなら女受けも男受けもよかっただろうに」

「男受けはいらないよね!?」

「でも、怒ってる時の風人君はカッコイイよ?」

「怒ってる時限定!?」

 

 うぅ。何故か二人に虐められてるよぉ~

 

「もういいもん。僕はのんびり寝てるもん」

「拗ねなないの」

「ふーんだ」

 

 ビート版の上で寝る。すやぁー

 

「でも残念だよね~。服脱がすと割と引き締まってるから……。で、神崎ちゃんはそのギャップが溜まらないと」

「中村さん!」

「あはは~じゃあ私は向こうで遊んでくるから二人で仲良くね~」

 

 去っていった中村さん。僕はのんびり空を見ている。あーこののんびりした時間がいいよね~

 

「もう!あ、そうだ。風人君」

「な~に~?」

「風人君は泳がないの?」

「二十五メートルコースで?遠慮しておくよ~泳ぐの面倒だし~」

「もしかして、泳げないの?」

「いや、泳げるよ。うん。多分。きっと」

 

 去年の体育の水泳ほとんどサボってたしなぁ~まぁ、それ以前に僕は疲れることはしたくない。この自然の音を楽しみながらゆったりと、

 

 ピピ—ッ!

 

 しているところに響くホイッスルの音。

 

「木村君!プールサイドを走っちゃいけません!転んだら危ないですよ!」

 

 発生源は監視台?の上に座る殺せんせー。まぁ、うるさいけど正論だなぁ。

 

「原さんに中村さん!潜水遊びは程々に!長く潜ると溺れたかと心配します!」

 

 アンタは心配性か。

 

「岡島君のカメラも没収!狭間さんも本ばかり読んでないで泳ぎなさい!菅谷君!ボディアートは普通のプールなら入場禁止ですよ!風人君!プールの上で寝ないで下さい!溺れたらどうするんですか!」

 

 ……うるさいなぁ。

 

「プールの上で寝て溺れるわけないじゃん」

 

(((いや、プールの上で寝ること自体が問題だろ……)))

 

「ヌルフフフフ。景観選びから間取りまで自然を活かした緻密な設計。皆さんには整然と遊んでもらわなくては」

 

 うわぁ。面倒だな~

 すると、倉橋さんが何を思ったのか。殺せんせーに水をかけた。

 

「きゃん!」

 

 …………え?

 それを見たカルマは台を揺らして、殺せんせーをプールの中へ落とそうとした。

 

「揺らさないで水に落ちる!」

 

 あれ?殺せんせーって、まさか。

 

「泳げない?」

「べ、別に、水に入ると触手がふやけて動けなくなるとかないし!?」

 

 僕らは、この時。殺せんせーの最大級とも言える弱点を知ってしまった。

 うーん。でも、どうやってこのプールというか水を暗殺に使おう……プール爆発?まぁさすがにないない。じゃあ、どうしよう。

 と思考を張り巡らしていると、

 

「あ、やばっ!バランスが――――うわっぷ!?」

 

 慌てたような声とともに水飛沫の上がる音が聞こえてくる。音のする方を見ると、そこには浮き輪で漂っていた茅野さんがひっくり返っている姿が。そして彼女は水面から顔を出すと手足をばたつかせて――

 

「有鬼子。これ頼んだ」

「え?あ、風人君」

 

 有鬼子にビート板を渡し、最大速度で泳ぐ。完全に溺れてんじゃねぇか!

 

「茅野さん!」

 

 さて、辿り着いたが……よし。

 

「片岡さんパス」

「任せて」

 

 茅野さんをこちらに泳いできた片岡さんに渡し、僕は浮き輪を回収。そしてそのまま戻っていく。

 特に何も起きずに終わったけど、泳げないって本当だったんだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の放課後、僕らは片岡さんからこの夏のどこかで殺せんせーを水中に引きずり込んで殺すという話を受けた。

 

「和光くん。ちょっといい?」

「なーに?」

「和光くん泳ぐの早いよね?ちょっとこの後、練習に付き合ってくれない?」

「いいよ~」

「ありがと」

「じゃあ、着替えてくるね~」

 

 とりあえず、着替えておかないと、泳げないよね~

 

「あ、風人君。もう帰る?」

「ううん~ちょっとね」

「ちょっと?」

「うん~付き合うことにしたんだ」

「……え?」

 

 持っていた鞄を落とす有鬼子。どうしたんだろう?

 

「い、今なんて?」

「え?付き合うことにしたって」

「……だ、誰と?」

「片岡さん~」

「……そ、そう……なんだ…………」

 

 すると、何故か落ち込んだ様子で去っていく。

 

「風人君。今神崎さんが凄い落ち込んでいたんだけど、何か言った?」

「そうだよ。何かこの世の絶望を味わった感じが出ていたよ」

 

 代わりにやってきて、話かけてくる渚と茅野さん。

 

「え~?僕はただ片岡さんに付き合うことにしたって言っただけだよ~?」

「「本当にそれだけ?」」

「うん~。『付き合うことにした』って言って『誰と?』って聞かれたから『片岡さん』って答え――どーしたの?二人とも?」

「ねぇ、風人君。片岡さんとどういう理由で付き合ってくれと言われたの?」

「え?これから泳ぎの練習するから付き合ってくれと~」

「待って神崎さん!和光くんの言い方が悪かっただけだから誤解しないで!話を聞いてぇ!」

 

 聞くや否や教室を飛び出して大声を出す茅野さん。

 

「まぁ、なんでもいいや~あ、渚も来る?」

「う、うん。見学だけでいいならね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「律、タイムは?」

『はい。風人さんは24秒83。片岡さんは26秒07です。風人さんは分かりませんが片岡さんの50m自己最高記録には0.7秒届いてません』

「ブランクあるなぁ。任せてと言った以上は仕上げておかないとね」

 

 反省する片岡さん。観客として見ている渚、茅野さん、有鬼子。後、殺せんせー。

 

「というか和光くん。予想より速くて驚いた。前の学校で水泳部だった?」

「ううん~帰宅部~」

 

 ぷかぷかと浮いている僕。別に泳ぐのは好きでも嫌いでもない。ただ、本気で泳ぐと疲れる~

 

「でも丁度良かった。身近にこんなに泳げる人がいると練習のしがいがある」

 

 そう言って泳ぎ始めた。熱心だな~

 すると、律が片岡さんに心菜さんと言う人からメールが来て読み上げる。内容を要約すると『勉強教えてほしいんだ~とりあえずファミレスしゅ~ご~いぇ~』って感じ。え?主観入り過ぎ?いやいや、

 

『知能指数がやや劣る方と推察されます』

 

 律もこんな感じで言ってるし~実際のはもっとアレだ。もっと…………酷い。

 そしてプールを上がって、

 

「じゃあね、皆。私ちょっと用事が出来ちゃったから帰るね」

 

 うーん。友達と会うって言う割には暗かったような……

 

「まぁ、気にせずに泳ぐか~」

 

 その後、渚、茅野さん、殺せんせーは片岡さんを追いかけた。有鬼子は僕が心配で残ってくれたそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「風人君。本当に泳げたんだね」

「まぁね~」

「野球もできてたし、風人君って本当に運動神経いいよね」

「どやぁ~」

「なら、何で平坦な道でコケるんだろう……」

「さぁ~?」



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ビジョンの時間

 あの後、尾行した二人+殺せんせーは夜中に片岡さんと一緒に心菜さん?とか言う人に泳ぎを教えたらしい。で、泳げるようになったから片岡さんは心菜さん?とか言う人の呪縛から解き放たれたらしい。

 

「おい皆!プールがとんでもないことになってるぞ!」

 

 岡島が教室に飛び込んでくるなり、慌てた様子で言う。

 

「へぇ~興味ないや~」

「ほら行くよ風人君」

「ふぎゃ」

 

 僕は有鬼子に首根っこを掴まれ、皆と走ってプールまで行った。

 プールにつくとプールは確かにとんでもないことになっていた。

 ゴミが散乱していて、先生の持ってきた椅子などが壊れている。明らかに人為的な被害。自然にそうなったとかは誰も思わないだろう。

 

「あーあー、こりゃ大変だ」

「ま、いーんじゃね?プールとかめんどいし」 

 

 皆が酷い有様を見てる中、軽い感じの声が聞こえる。

 村松君、吉田君、寺坂君の、僕やカルマと別ベクトルの問題児三人組。問題児というか悪ガキ三人組?でもまぁ、明らかにこの破壊はこの三人の仕業だね~。分かりやすいと言うか隠す気がないと言うか~

 

「ンだよ渚、何見てんだよ。まさか俺らが犯人とか疑ってんのか?くだらねーぞ、その考え」

 

 すると、渚の胸倉を掴む寺坂君。

 

「まったくです。犯人探しなどくだらないからやらなくていい」

 

 が、突如現れた殺せんせーに驚いてその手を離してしまっていた。あれ?意外と弱い?

 そして次の瞬間にはごみは取り除かれ、壊れた椅子などは修復された。まぁ、マッハ20の先生にかかればこんなものか~

 

「はい、これで元通り!いつも通り遊んで下さい」

 

 元通りとなったプールを見て殺せんせーは帰っていった。続いて寺坂君もまるで面白くなさそうにプールから立ち去っていく。

 うーん。どうも寺坂君は浮いているというか、馴染めていないというか……まぁ、僕の言えたことじゃないけどね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休みになりました。僕らはのんびりとした一時を過ごす中、殺せんせーが何か取りだした。なにあれ、木製のバイク?

 

「うぉ、マジかよ殺せんせー!?」

 

 そんな中、一人だけテンションが物凄い上がっている人がいた。吉田君である。殺せんせーが言うには廃材で作ったそう。廃材のバイク? 

 

「すげー!まるで本物のバイクじゃねーか!」

 

 服まで来て乗っている殺せんせー。そんな中現れたのは……!

 

「……何してんだよ、吉田」

 

 寺坂君である。寺坂君は吉田君を見て表情を引き攣らせながら問い掛けてきた。

 

「寺坂……い、いやぁ……この前、こいつとバイクの話で盛り上がっちまってよ。うちの学校、こういうの興味ある奴いねーから」

 

 うん。僕もバイクきょーみない~ 

 

「ヌルフフフフ。先生は大人な上に漢字の漢とかいて漢の中の漢、この手の趣味も一通り齧ってます」

 

 え?殺せんせーって、大人?漢?

 と、ここで 殺せんせーと吉田君が盛り上がるのを見て何を思ったのか、寺坂君はバイクの方へ歩み寄ると殺せんせー作のバイクを蹴り倒した。倒れた衝撃で廃材バイクは壊れてしまう。殺せんせーの顔も真っ青だ。

 

「なんてことすんだよ、寺坂!」

「謝ってやんなよ!大人な上に漢字の漢とかいて漢の中の漢の殺せんせー、泣いてるよ!」

「「「そうだそうだ」」」 

 

 どーしよう。漢の中の漢なら壊れた木製のバイクを見ても、あんなマジで泣きはしないと思う。

 寺坂君は皆の批判の声を無視し、自分の席の椅子を引いて座らずに机の中へと手を突っ込む。

 

「てめーら、ブンブンうるせーな虫みたいに……駆除してやるよ」

 

 そう言って机から取り出したものを床に叩きつけると、教室中が噴き出した白い煙によって覆われてた。

 

「目を閉じてて~」

「風人君?」

 

 隣にいた有鬼子の目をすぐさま僕の手で覆い隠す。これで口元も手で抑えたら誘拐犯が誘拐する構図だね!

 と、冗談は置いといて、言い方と見た目から寺坂君が床に叩きつけたのは殺虫剤のスプレー缶。おそらく、中身が溢れ出たと思うが……というか、そもそもの疑問。何で寺坂君の机の中に殺虫剤が入ってるの?

 

「寺坂君!ヤンチャするにも限度ってものが……」

 

 やり過ぎた寺坂君を咎めるため泣き止んだ殺せんせーが彼の肩を掴むも、その手は寺坂君によって弾かれてしまう。

 

「触んじゃねーよ、モンスター。気持ちわりーんだよ。テメェも、モンスターに操られて仲良しこよしのテメェらも」

 

 その言葉に教室内が静まり返る。……何だろう、この違和感。

 誰もが口を閉じ、何も言えなくなっている中、壁に寄り掛かっていたカルマが口を開く。

 

「何がそんなに嫌なのかねぇ……気に入らないなら殺せばいいじゃん。せっかくそれが許可されてる教室なのに」

 

 まぁ、そうだよね~でも、そんなカルマの物言いがムカついたのか、寺坂君はカルマに敵意を向ける。

 

「なんだよカルマ。テメェ、俺に喧嘩売ってんのか?上等だよ。大体テメェは最初から――」

 

 次の瞬間、寺坂君の顔はカルマに鷲掴みにされ、寺坂君は強制的に黙らされた。

 

「駄目だってば、寺坂。喧嘩するなら口より先に手ぇ出さなきゃ」

 

 ほうほう。口より先に手をねぇ。

 

「やぁー」

 

 僕のドロップキックがカルマの背中に直撃する。

 

(((何やってんだあいつ!?)))

 

「……ねぇ風人。何のつもりかなぁ?」

 

 いかにも怒ってます、って顔でこちらを見るカルマ。

 

「え?口より先に手を出すんでしょ?寺坂君に代わり実践してみた~」

「へぇ~」

 

 寺坂君を放すと同時に殴りかかってくる。

 

「ねぇ風人。君とは一度喧嘩してみたかったんだよね」

「それは同感だね~ここだと狭いし外いこうか~」

「そうだね!」

 

 蹴りを後ろに回避しつつ、窓を開けて外に出る。続いてカルマも飛び出してくる。

 

「「どっちが強いかシロクロつけようかぁ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の昼休み。寺坂君は来てなくて、殺せんせーが教卓で涙を流す。

 昨日の喧嘩は五時間目が始まる直前に殺せんせーが止めに入り引き分け。その後僕は有鬼子に怒られました。理不尽です。まる。

 

「何よ、さっきから意味もなく涙流して」

 

 ビッチ先生が殺せんせーに泣いている理由を問い掛けていた。

 

「いえ、鼻なので涙じゃなくて鼻水です。目はこっち」

「紛らわしい!」

 

 確かにね。と言うか、

 

「せんせー。風邪ひいてるんだったらマスクして下さいよ~」

「その気持ちはあるんですが……私にあったマスクがなくてですねぇ」

「売り切れてたの~?」

「いえ、どこの薬局にも売ってなくてですね……」

 

(((ねぇよ普通!)))

 

「昨日から身体の調子が変なのです」

 

 昨日から?うーん。昨日といえば寺坂君の妙なスプレー炸裂事件があったっけ?もしかして、それが原因? 

 

 ガラッ

 

 そう思ってるとドアが開く音がした。

 

「おお!寺坂君!今日は登校しないのかと心配しました!」

 

 駆け寄る殺せんせー。粘液まみれになる寺坂君の顔。……ごしゅーしょーさまーです~。

 

「おいタコ、そろそろ本気でブッ殺してやンよ。放課後にプールへ来い。弱点なんだってなぁ、水が」

 

 ビシッ!と殺せんせーを指差す寺坂君。

 

「テメェらも全員手伝え!俺がコイツを水ン中に叩き落としてやッからよ!」

「だが断る!」

「別に断ってもいいんだぜ。そン時は100億は独り占めだ!」

 

 ガラッ

 

 寺坂君はドアを閉めて、どこかへ行ってしまった。

 あれ?断ると言ったところはスルー?まぁ、断っていいって言ってたし断ろう。

 

「私も行かなーい」

「同じく」

 

 倉橋さんや岡野さんも行く気はなさそうである。

 

「皆、行きましょうよぉ」

 

 しかし、殺せんせー(ターゲット)は行こうと提案する。

 

「うわっ!粘液で固められて逃げられねぇ!」

 

 殺せんせーの出す粘液はついに床一面に広がり、皆の足とかを徐々に固めていった。

 僕は天井の引っかけるところに手錠をはめて、それに捕まり何とかセーフ。

 

「せっかく寺坂君が私を殺る気になったんです。皆で一緒に暗殺して気持ち良く仲直りです」

「まずアンタが気持ち悪い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で~カルマもサボり?」

「まぁね~あの程度の策で折れるほど柔じゃないし」

 

 皆は殺せんせーの気持ち悪い粘液地獄によって折れるような形で暗殺に参加する羽目になったが、面倒くさくて折れていないカルマと粘液地獄を回避した僕は暗殺不参加。

 昨日は喧嘩したけど今日はいつも通り。ほら、昨日の敵は今日の友というじゃない~アレだよアレ。

 

「でも怪しいと思わない~?」

「それね。昨日とは大違いすぎる」

 

 僕らは中学生。精神的に不安定な時期というのはどうしても存在するだろう。でも、寺坂君の場合は不安定過ぎる。

 

「誰かに操られてる~?」

「分かんないけど。操るとしたら、アイツはさぞやりやすいだろうね」

 

 確かに。操る側は僕みたいな考えが読めない人間やカルマみたいに頭がキレる人間より寺坂君みたいな純粋なバカの方が操りやすい。

 

「風人は気になる?寺坂の暗殺」

「まぁね~観覧NGじゃないし~行けるならいってもいいかな~」

 

 ま、ここでのんびり過ごすのもいいかもしれないけど。

 

「じゃ、行こうか。といってももう終わってるかもしれないけど」

「それはさすがにないな――」

 

 ドォンッ!

 

 次の瞬間爆発音が聞こえた。

 

「カルマ!」

「プールの方から聞こえたね!」

「嫌な予感がする!行くよ!」

「分かってる!」

 

 僕らはプールに向かって走り出す。何もないといいけど……!



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ビジョンの時間 二時間目

 プールのところについた僕らは驚く。

 

「何これ?」

「どうなってんの~?」

 

 プールだった場所からは水が消え、堰止めていたであろうダムが跡形もなく崩壊していた。

 

「俺は……何もしてねぇ」

 

 隣にはこの光景に驚き固まってる寺坂君がいた。

 

「話がちげぇーよ。イトナを呼んで突き落とすって聞いてたのに」

「なるほどねぇ。自分で立てた計画じゃなくてまんまと操られてたってわけ」

 

 恐ろしいほどに僕らの予想通りだ。

 

「言っとくが俺のせいじゃねぇぞ」

 

 カルマと僕の方を見る寺坂君。その目は必死に訴えかけていた。自分は悪くないって……舐めてんの?

 

「こんな計画やらす方がわりぃんだ。皆が流されてったのだって奴らのせ――」

 

 ドゴッ

 

 言葉は続かなかった。いや続けさせなかった。なぜなら、カルマが寺坂の左頬を、僕が寺坂の右頬を同時に殴り飛ばしたからだ。

 倒れ込む寺坂。

 

「流されたのは皆じゃなくて自分じゃん」

「なに、自分は被害者ですって面してんの?」

「人のせいにする暇があったら自分で何したいか考えたら?」

「行くよカルマ。下の様子を確かめないと」

 

 僕らは寺坂を放置して走り出す。

 おそらく皆は殺せんせーが助けるはず。だが、問題はイトナ君とシロさんがどう動くか。こればかりは読めない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 到着すると、そこには助けられた皆と、猛ラッシュを仕掛けるイトナ君。それを防ごうとする殺せんせーだが……誰の目にも明らかに形勢は不利。遠く離れた安全地帯にシロさんもいる。……っち、ここまで計算通りってわけか。

 向こうは、イトナ君の触手の数を減らしてパワーとスピードを集中させたとシロさんは言うが、それだけがこの形勢を作ってる要因じゃない。

 

「マジかよ」

「あの程度の水のハンデはなんとかなるんじゃ……?」

 

 確かに水だけがハンデならここまで形勢は傾かないだろう。

 

「水のせいだけじゃねぇ」

「寺坂」

 

 と、ここに寺坂が遅れてやってきた。

 両頰が腫れているなぁ……誰だよ。寺坂の顔をアンパンマンみたいにした人は。あ、僕らか。

 

「力を発揮できねぇのはお前らを助けたからだよ。見ろ、タコの頭上」

 

 そう言って寺坂が指差す方向に視線を向けると、上の方に吉田君、村松君、原さんがいた。殺せんせーに助け上げられたのかな。

 

「あー!ぽっちゃりが売りの原さんが今にも落ちそうだ!」

 

 現状の安全は確認できた。だが、彼らの場所はイトナ君の触手の射程圏内。と言うかそもそも原さんがしがみついている木の枝が今にも折れて落ちそう。

 

「殺せんせー。原さんを守るために」

「アイツ、ヘビーで太ましいからあぶねぇぞ」

 

 あ、コイツ後で原さんに殺されるな。

 

「お前ひょっとして。今回のこと全部奴らに操られていたのか」

 

 磯貝君が気付き寺坂に問いかける。

 

「あーそうだよ。目標もビジョンもねぇ短絡的な奴は頭の良い奴に操られる運命なんだよ。……だがよ、操られる相手ぐらいは選びてぇ」

 

 問いかけられた寺坂は最初自嘲気味な表情だったが、最後には表情を真剣なものに変え。決意を秘めた瞳でカルマと僕を見る。

 

「おいカルマ!風人!テメェらが俺を操ってみろや。そのテメェらの狡猾なオツムで俺に作戦を与えてみろ!完璧に実行してあそこにいるのを助けてやらぁ!」

 

 その声にはさっきまでのような危なっかしさは微塵も含まれていない。自分の意思で決めたか。

 それを受けて、僕とカルマは不敵な笑みを浮かべる。

 

「良いけど……実行できんの?俺らの作戦……死ぬかもよ?」

「寺坂の命は保証できねぇーけど……殺る気ある?」

「やってやんよ。こちとら実績持ちの実行犯だぜ」

 

 それに対して寺坂も強気な笑みで返す。

 

「カルマ。配置の陣形は任せて~」

「オッケー。俺は指示でも出すよ」

「で、とりあえず何するんだよお前ら」

「そうだよ。原さんは助けなくていいの?」

 

 あまりにも短すぎ省略しすぎの作戦会議に疑問を持つクラスメート。

 

「「とりあえず、原さんは助けずに放っておこう」」

 

 この発言に全員がげんなりした。なんでだろう?

 

「まぁまぁ、皆は僕の指示に従って~。シロさんに気づかれないようにね~」

「寺坂には俺が指示を出す。言ったんだからやってよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!」

 

 寺坂が川に降り立ち、声を荒げる。

 

「よくも俺を騙して利用してくれたな!」

「まぁそう怒るなよ。ちょっとクラスメートを巻き込んじゃっただけじゃないか。クラスで浮いていたようだし」

「うるせぇ!」

 

 シロさんの言葉を遮る寺坂。

 

「おいイトナ!テメェ俺とタイマンはれや!」

 

 寺坂は脱いでいたシャツを前に出しまるで盾のようにする。

 

「健気だねぇ先生のために……か。黙らせろイトナ」

 

 攻撃態勢に入るイトナ君。

 

「カルマ~寺坂には言っておいた~?」

「もちろん。気絶する程度の触手は喰らうだろうけど」

 

 触手で撃たれる寺坂。必死に喰らいついている。

 

「所詮パワーもスピードもその程度。だから死ぬ気で喰らいつけって」

 

 そう。前提としてシロさんは寺坂を始め、僕らE組の生徒を殺す気はない。なぜなら、生きているからこそ殺せんせーの阻害ができるのであり、殺せば殺せんせーがどう暴走するかは分かったもんじゃないからである。

 

「よく耐えたねぇ。ではイトナ。もう一発あげなさい」

 

 回収される触手とついでに寺坂のシャツ。と、ここで異変は起きる。

 

「へっくしゅ」

 

 イトナ君がくしゃみをする。

 僕とカルマは気付いていた。寺坂が昨日と同じシャツを着ていたことに。変なスプレーを浴びたのはせんせーだけじゃない。僕らもだし、それをぶちまけた本人ならなおさら。つまり、そんな至近距離でぶちまけたスプレーをたっぷりしみ込んだシャツをイトナ君の触手が触れば、一たまりもないだろう。

 で、それにイトナ君が反応して隙ができる。一瞬の隙さえあれば原さんはせんせーが助けてくれるし、

 

「吉田!村松!デケェの頼むぜ!」

 

 寺坂が水を叩きながら二人に言う。そう、イトナ君が動かなければ、あの二人ならあの程度の高さ、水に飛び込むことができる。幸い、ここは多少は深さがあるしね。で、

 

「殺せんせーと弱点一緒なんだよね?」

「じゃあ、僕らもやり返させてもらうよ~」

 

 僕は皆に飛び降りるよう合図をする。この合図一つで平然と飛び降りれるあたりうちのクラスは凄いなぁ。ま、分かってやってんだけど。

 で、僕らも下の岩場に飛び降りる。

 

「だいぶ吸っちゃったねぇ」

 

 イトナ君の触手は皆が水をかけまくってだいぶ膨らんでいた。

 

「これでハンデが少なくなったね~」

 

 これでほぼイーブンだろう。

 

「で、どーすんの?俺らも賞金持ってかれるの嫌だし」

「皆、今回の作戦で死にかけてるし~」

「「()()()()寺坂もボコられてるし」」

「おい!」

 

 何か反応されたけど無視無視~

 

「まだ続けるんならこっちも全力で水遊びさせてもらうよ?」

「そうそう。皆イトナ君と遊ぶ準備万端だよ~」

 

 どこから拾ったのかバケツやらビニール袋やらに水を入れている。水かける気満々だね~

 

「……してやられたな。……ここは引こう。この子らを皆殺しにでもしようものなら反物質臓がどう暴走するか分からん。……帰るよ、イトナ」

 

 ただ、イトナ君の殺意は僕らに向いたままだ。

 

「どうです?皆で楽しそうな学級でしょう。そろそろ、ちゃんとクラスに来ませんか?」

 

 顔をデカくした殺せんせーがなんか正論を言ってる。 

 しかし、その問い掛けにイトナ君は応えることなくシロさんとともに帰っていった。

 

「ふぃーっ、なんとか追っ払えたな」

「良かったねー、殺せんせー。私たちのお陰で命拾いして」

「ヌルフフフフ、もちろん感謝してます。まだまだ奥の手はありましたがねぇ」

 

 まぁ、あるだろうねー。

 

「とりあえずカルマ~」

「ああ、風人」

 

 僕らは手を高く上げハイタッチをする。

 

「「お疲れ!」」

「じゃあ、帰ろっか~皆はまだ遊んで行っていいいよ」

「そうだね~。あ~何か僕ら疲れたね、カルマ」

「この後なんか食いに行く?」

「いいね~いこいこ~」

 

(((…………カチンッ)))

 

 振り返り歩こうとする僕ら。そこに忍び寄る寺坂の手。僕は一早くそれに気づき!

 

「カルマガード!」

 

 バシャン!

 

 カルマは寺坂に掴まれて落とされた。プクク~ザマァ。

 

「ん?あれ?有鬼子さんや?この手は何でしょう?」

 

 と、油断した隙に、僕の手は有鬼子に掴まれて、

 

 バシャン!

 

 投げ飛ばされていた。

 

「何すんだよ!上司に向かって!」

「そーだそーだ!僕ら濡れちゃったじゃないか!」

 

 こっちは制服なんだぞ!君たちみたいに水着じゃないんだ!

 

「誰が上司だこのイカレドS野郎ども!大体テメェらサボり魔な癖においしい場面は持っていきやがって!」

 

 さーっと、目をそらす僕ら。確かに身に覚えが有りすぎて困る。

 

「そもそもテメェら何自分たちの手柄で勝った感じでハイタッチまでして挙句祝勝会あげようとしてんだよ!舐めてんのか!」

「それ私も思ってた」

「この機会に泥水もたっぷり飲ませようか」

 

 あ、皆の眼が完全に殺る眼に変わった。

 

「ねぇ……カルマ。これヤバくない?」

「あはは……マジでどうしよう」

 

 あ、カルマが寺坂に捕まった。僕?そんなの決まってるじゃないか。言わせないでください。

 

「ゆ、有鬼子さんは優しい人だからそんな非道な真似しないよね~?」

 

 とりあえず、手から肩を掴む場所に変えたが肩を掴んで一向に放そうとしない有鬼子に問いかける。

 

「…………(ニコッ)」

 

 あ、この笑顔はダメだ。

 

「み、皆助けて!この笑顔はダメなやつ!殺気が溢れで」

 

 次の瞬間、僕は地面に倒された。背中は思い切り地面に漬かってます。え?皆?僕のほうなんて見向きもしないでカルマのほうに行ってるよ?なんというか、こっちは見ちゃダメだと本能的に思ってるらしい。

 

「風人君?」

「マジで怖いです!誰か助けてください!いや本当にお願いします!」

 

 虚しくも僕の叫びは誰にも届かない。

 仕方ないので、僕は向き直る。馬乗りになって僕のお腹の所に座る有鬼子に。

 そして有鬼子は僕の耳元で囁くように言った。

 

「たっぷり悲鳴を聞かせてね♪」

 

 恍惚な表情を浮かべる有鬼子。その瞬間僕は察した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 捕食される……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……出来れば明日の朝日が拝めんことを。




ここ最近思ったこと。
うちの神崎さんって何デレだろう?どこに向かって彼女は進んでるのか。
ツンデレではないことは確かだけど……何デレでしょう。


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期末の時間

 無事(?)寺坂の一件から生き延びた(?)僕とカルマ。

 あれから少し経ち、

 

「ヌルフフフフ、皆さん一学期の間に基礎がガッチリ出来てきました。この分なら期末の成績はジャンプアップが期待できます」

 

 期末テストが近づいてきました。高速強化テスト勉強として、殺せんせーの分身が個別に勉強を教えてくれている。まぁあとは、場所を教室ではなく外にして勉強中だ。いやー自然を感じながらの勉強もいいよね~。

 

「殺せんせー。また今回も全員五十位以内を目標にするの?」

 

 渚が今回の目標について殺せんせーに問い掛ける。中間テストの時はこの目標を達成できずに苦い思いをした人が多かったけどそこのところどうなんだろ?

 

「いいえ、先生はあの時、総合点ばかり気にしていました。ですが、生徒それぞれに見合った目標を立てるべきだと思い当たりました。そこで今回はこの暗殺教室にピッタリの目標を設定しました」

 

 暗殺教室にピッタリの……目標?目標ねぇ……

 

「だ、大丈夫です!寺坂君にもチャンスのある目標ですから」

 

 あーあ。怒らせた~。というか、寺坂はまたNARUTOの鉢巻をした殺せんせーに教わってるよ。ぷくく。………………まぁ、何故か僕もだけど。 

 

「さて。前にシロさんが言った通り、先生は触手を失うと動きが落ちます」

 

 ほうほう。

 

「色々と試してみた結果、触手一本につき先生が失う運動能力は約10%」

 

 あ、蝶々だ~

 

「話を聞いてるの」

「……はい」

 

 追いかけようとした矢先。首根っこを掴まれて座らされる。

 

「そこで本題です。今回は総合だけでなく、教科ごとに学年一位を取った者にも、触手を一本破壊する権利をあげましょう」

 

 殺せんせーから提示された報酬によって皆の眼の色が変わる。

 

「えーっと五教科でだよね?」

「はい。総合と五教科で誰かが一位をとれば合計六本の触手を破壊できますねぇ」

 

 いや、違うね。一つの教科で一位が取れるのは一人じゃない。

 

「これが暗殺教室の期末テストです。賞金百億に近付けるかは皆さんの成績次第なのです」

 

 このせんせーは生徒のやる気を引き出すのが上手いと思う。僕もやる気出たし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、僕ら修学旅行元四班マイナスカルマの六人は杉野の机付近に集まっていた。

 

「教科一位で触手一本かぁ」

「えぇっ。頑張りましょう」

「へぇー珍しく気合入ってんじゃん。奥田さん」

 

 と、ここでカルマが話に加わってきた。

 

「はい。理科だけなら、私の大得意だから。やっと皆の役に立てるかも」

 

 ほへぇ~

 

「うちにも上位ランカー結構いるから。一教科だけならトップも夢じゃないかも」

 

 茅野さんが意気込む中、杉野の携帯に着信が。

 

「進藤?」

「誰?その人」

「野球部の主将だよ」

「…………あーあのすーぱーすたー君か」

「絶対忘れてたでしょ。風人君」

「うん!」

「即答だね……」

 

 すると、一言二言話したかと思うと杉野はスピーカーモードにして僕らにも聞こえるようにした。

 進藤君曰く、A組が自主勉強会を開いたそう。音頭を取るのは五英傑と呼ばれる天才集団らしい。…………天才……ねぇ。でも、

 

「ごえーけつ?」

 

 僕とカルマの上三人しかいなかったと思うんだけど?

 で、とりあえず分かったのは、

 

 全校集会で笑いどころを潰されていた中間テスト総合二位の荒木鉄平君。

 なんちゃら文学コンクールを総なめした中間テスト総合三位の榊原蓮君。

 カルマや僕に中間テストの成績で負けた中間テスト総合六位の小山夏彦君。

 『ビクトリア・フォール』の犠牲となった中間テスト総合七位の瀬尾智也君。

 

 ……あれ?何か弱そう。

 

『そして、その頂点に君臨するのが、中間テスト総合一位!全国模試総合一位!全教科パーフェクト!支配者の遺伝子・浅野学秀!』

「あの理事長の一人息子」

 

 浅野学秀……浅野……

 

「あーその子も一位だったんだ」

「……え?」

 

 まぁ、一位なんて沢山いるか~

 

『全教科パーフェクトな浅野と各教科のスペシャリストたち。五人を合わせて五英傑』

「ちょっと待って!今の話聞くと、五英傑の四人って、浅野君の金魚の糞じゃないの?」

 

(((何か言っちゃったよコイツ!)))

 

「風人君。ちょっとお口を閉じようか」

 

 あれ?言っちゃまずかった?

 

『……コホン。奴らはお前らE組を本校舎に復帰させないつもりだ。このままじゃ……』

「ありがと、進藤。心配してくれて。でも大丈夫。今の俺らはE組を出ることが目標じゃない」

 

 杉野の言う通り、僕らの目標はE組脱出にあらず。殺せんせーの暗殺だ。

 

「けど目標のためにはA組に負けないくらいの点数を取らなきゃならない。見ててくれ、頑張るから」

『……勝手にしろ。E組の頑張りなんて知ったことか』

 

 最後に悪態を吐いて電話を切った進藤君。でも前に話した時より、どこか、僕らを認めていた様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にしても、学年一位か~」

 

 要は満点取れってことでしょ。ふぁあああ。

 

「私も国語なら何とかなりそうだから頑張らないと」

「そうだね~ファイト~」

「というわけで今から教えて。あと他の教科も」

「うん。いーよー」

「……え?本当に?」

「うん~。でもどしたの?」

「いや、風人君だから『めんどー』とか言うと思ったんだけど……」

 

 失敬な。

 

「おーい。和光、神崎」

 

 すると、こっちに走ってくるのは磯貝君。

 

「どーしたの?」

「二人ともさ。明日の放課後だけど、本校舎の図書室で勉強しないか?」

「え?本校舎に図書室あるの?」

「あるからね」

 

 へぇー知らなかった。

 

「いいけど~」

「でも、磯貝君。確か席の予約が必要じゃないの?」

「それも大丈夫だ。このタイミングを狙って前もって予約しておいた」

「ほへぇ~面子は?」

「後は、渚、茅野、中村、奥田ってとこかな」

 

 中々に面白い面子だ。

 

「分かった。ありがとうね。誘ってくれて」

「ありがと~」

「いいって。じゃあな。二人とも」

 

 そういうと片手を挙げ、去っていく磯貝君。

 

「図書館か……どんな本があるんだろ~」

 

 わくわく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の放課後になりました。昨日、磯貝君の言っていた七人で勉強をしています。

 

「おや、E組の皆さんじゃないか!勿体ない。君たちにこの図書室は豚に真珠じゃないのかな?」

 

 すると、声をかけてくる人たち……五英傑の浅野君以外の四人。風人君言うところの金魚の糞たちです。

 

「退けよ雑魚ども。そこは俺らの席だからとっとと帰れ」

 

 とても高圧的な態度を取ってきます。金魚の糞の癖に。

 

「なっ、何よ!勉強の邪魔しないで!」

「そうだよ~僕らは勉強してるんだぞ~!」

 

 ここで、茅野さんと風人君が反論する。……が茅野さんが読んでるのは教科書じゃなくてプリンの本。風人君が読んでいるのは世界のスイーツ大百科。……せめて、教科書で覆える大きさにしよ?ね?

 

「ここは俺たちがちゃんと予約を取った席だぞ」

「そーそー。クーラーの中で勉強するなんて久々でチョー天国〜」

 

 茅野さんと風人君の説得力の無い反論はともかく、磯貝君の言い分はもっともだ。予約を取ったうえで使っている。A組も含めてだが誰かにとやかく言われる筋合いはないはずだ。……まぁ、中村さんの意見は風人君たちと同じくらいあれだけど。

 

「忘れたのかぁ?この学校じゃ成績の悪いE組はA組に逆らえないこと」

「さっ、逆らえます」

 

 ここで声を上げたのは意外にも奥田さんだ。

 

「何?」

「私たち、次のテストで各教科一位狙ってます。そうなったら、大きな顔させませんから」

 

 彼の言い分だと、成績さえ良ければA組にも逆らえるというもの。……まぁ、そんなの関係なしに逆らいそうな人がすぐそこにいるけど。

 と、ここで何か一人私に近付いてきた。

 

「くさすばかりでは見逃してしまうよ。ご覧、どんな掃きだめにも鶴がいる」

 

 私の髪を触ろうとしたその手は別の手にはじかれる。

 

「触ろうとすんじゃねぇよ。サイドハゲ」

「な、サイドハゲ……」

 

 風人君?ハゲてるのはサイドだけじゃないよ?と言おうとしたけどやめた。風人君の眼は割と……

 

「こっちは眠いから静かにしろよ」

 

 ……割と眠そうだ。……はぁ。これで怒るまではいかなくてももっとキリッとしてたらカッコよかったのに……はぁ。まぁでも、牽制してくれてるだけマシかな。

 

「いや待てよ。確かこいつら中間テストでは、神崎有希子、国語23位。中村莉桜、英語11位。磯貝悠馬、社会14位。奥田愛美、理科17位。そして……」

 

 何であのメガネの人。私たちの自分でも忘れていそうなことを覚えているのだろう?

 

「和光風人、総合5位。俺から4位の座を奪った、赤羽同様憎き敵」

「えーっと、僕に負けたほうのメガネ君?何で僕の名前知ってるの?え?ストーカー?ストーカーなの?ごめんなさい。僕、そんな変質者にストーキングされる趣味はないので。あ、いや可愛ければいいって訳じゃないから女装もしないでね?うん、女装ストーカーなんて最悪×厄災だと思うからやめてね?絶対だよ?」

 

 本気で頭まで下げて謝ってる風人君。多分その人もそんな趣味はないと思うよ?…………多分。

 

「そんな趣味ねぇよ!」

 

 でしょうね。…………してそうな顔だけど。

 

「……じゃあこういうのはどうだろう?俺らA組と君らE組。五教科でより多く学年トップを取ったクラスが負けたクラスにどんなことでも命令できる……てのは?」

「あ、全校集会で笑いどころを潰された方のメガネがなんか言ってる~笑える~」

「君の人の識別の基準はメガネなのか!?」

「そうだよ~メガネ君!よくわかったね~君は偉いメガネだ!」

 

 悲報。風人君はメガネで他人を判断していた。

 

「どうした?臆したか?所詮雑魚は口だけか」

「あれれ~?君も僕に中間テスト負けてなかったっけ~?」

「今回は勝ってやる和光風人。賭けでも、お前にもな」

「……ふっ。僕こそ勝つよ。腹下しコンビニトイレ駆け込み糞メガネなし野郎」

「なげぇよ!そしてやっぱりメガネか!」

 

 風人君。絶賛大暴走中。そろそろ止めた方がいいかな?

 

「まぁ、お前らと違って俺たちは、()()()()()()()()()()()()?」

 

 次の瞬間。渚君は瀬尾君、中村さんは小山君、磯貝君は荒木君、私は榊原君と何となく風人君の喉元に指やシャーペンを添えた。

 

「……命は簡単に賭けない方がいいと思うよ?」

 

 急所を狙われ、風人君以外の四人は臆する。風人君は『何で僕も狙われたの?』って顔をしている……が、おそらく刺そうとしても刺さらないだろう。まぁ、風人君に対しては何となくだし。

 

「じょ、上等だよ!受けるんだな、この勝負!」

「死ぬよりキツい命令出してやる!」

「逃げるんじゃないぞ!」

「後悔するぞ!」

「わー!」

 

 退散する五人。この騒ぎを起こした人たちは帰って行った。

 

「……どうする?勉強続けるか?」

 

 周りにいた生徒たちがこっちを見て注目する。私は他の五人と目を合わせ…………あれ?

 

「ねぇ、一人足りなくない?」

 

 茅野さんが言う。

 

「そんなわけ…………あれ?六人しかいない。……って……あ!和光がいない!?」

「え!?風人君がいない!?」

 

 え、この一瞬で消えた?でも、一体……

 

「和光君なら五英傑の人たちに付いていきましたよ」

 

(((何やってんだアイツは……!)))

 

 私たちの思考が一致した瞬間でした。



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期末の時間 二時間目

「わ、悪い浅野」

「下らん賭けだとは思ったんだが」

「E組が生意気にも突っかかってきてよ」

「そーだよ。浅野君」

「ま、いいんじゃないか?……で、君はなぜここにいる。和光風人君?」

「「「えぇぇぇっ!?」」」

 

 現在、僕はAクラスに来ています。なぜかって聞かれたら、

 

「あれ~僕もごえーけつの仲間入りしてたからりーだーにご挨拶をと~」

 

 僕も充分ごえーけつの条件を満たしていたはず。故に僕も真のごえーけつの一員だ。

 

「まぁ、君がいるならちょうどいい。ルールを明確にしておこう。後でごねられても面倒だしね」

「そうだね~A組の皆さんが後でごねるのも面倒だし~」

 

 おーこわいこわいー。みんなが睨んでくるよーでも、怒った有鬼子の方が断然怖いね!…………いや、割とガチな方で。うん。

 

「勝った方が下せる命令は一つだけ。内容はテスト後に発表。これでどうだろう?」

「勝ち負けの基準は各教科の点数。同点の場合は引き分け。最終的に五教科で勝ち数が多いクラスの勝利……まぁ、いいんじゃない~?このルールなら~」

「よかったなぁE組。一つだけしか命令されないらしいぞ」

「何言ってるのさ、僕に負けたほうのメガネ君。()()浅野君が軽い命令を出すわけないじゃないか~」

「何?」

 

 やれやれ~本当に彼以外は金魚の糞だね。

 

「どーせ、何かの協定、もしくは契約にサインするとかそんな感じの命令……でしょ~?」

「よくわかったね……」

 

 近くのノートパソコンを立ち上げ、文字を打ち、

 

「正解だよ。ご褒美に君にも見せてあげよう。君らが負けた時の罰をさ」

 

 そう言って見せてくる全50項の協定内容。なるほど。実に不愉快な命令ばかりだ。でも、君の狙いは見え見え。

 

「この内容を一瞬で思いついたのか?」

「恐ろしいやつだ」

「恐ろしい?とんでもない。私的自治に納まったただの遊びさ」

「だろうね~。この内容は一切教師とかが関与してない。おまけに、民法とかも考慮していて、まだ()()()僕らの人権を剥奪していない。それに、他者には何にも被害はないね~」

「そうだよ。その気になれば君らを壊す協定もできるが、たかが期末テストだけではそれは釣り合わないだろうしね」

 

 まぁね。

 

「あー君には聞きたいことがある。ちょっと外に行っててくれないか?」

「ん?別に~いーよー」

 

 ふぁああ。早く帰りたいな~ついてくるんじゃなかった。

 

「律。有鬼子に一人で帰るから心配しないでって送っといて~」

『分かりました』

 

 これでよしっと。

 

「で~?話はなに~?浅野君」

「中学一年の全国模試、総合一位だったのは三人いる」

 

 ほうほう。

 

「一人は僕。一人は君。もう一人は君の元の中学にいた女子の三人」

「はぁ……で?」

「中学二年の全国模試、総合一位だったのは僕一人」

「すごいね~……自慢?」

「そんなことはしないさ。でも、妙なんだよ」

「何が?」

「中学二年時。君とその子は一切模試を受けていない。なぜだい?」

「気が乗らなかったから。で、いい?浅野君」

 

 そもそも、どうやって調べたんだか。

 

「ふっ。今はそうしておこう。だが、期末テストが終わったら君らE組はA組に隠し事はできない。まぁ、興味本位で聞いてあげるよ」

「そうだね~。もし、E組が負けたら協定に則って教えてあげるよ~」

 

 僕は立ち去る。

 浅野君の狙いは、全五十項目の過激な内容じゃない。その中の最も地味ともいえる命令。『E組の隠し事を禁ずる』ただ一つ。後は、他のA組生徒を納得させるためのもの。

 おそらく、彼はうっすら気づき始めてる。E組が何かをしていることに。その秘密を確かめたい……なんて生優しくはないだろう。まぁ、どこに狙いがあるのかまでは知らないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、期末テスト当日。A組とE組、両組が出す命令を知っている身としては、僕らの命令軽すぎ?と思ってしまうがまぁ、気にせずいこ~。別にあんな奴らに首輪つけても面白くないもん~

 

「ふぁぁああああ」

「眠そうだけど……大丈夫?」

 

 首輪つけるならこっちの方が面白そ~

 

「問題な……ふぁあああああ……し」

「……本当に大丈夫かな」

「ちょっと朝早く起きただけ」

 

 いつもより、二時間早く起きて最終チェックをしてたらこんなに眠いとは。恐るべし睡魔。

 

「ところで風人君。覚えてる?」

「今日のテストの教科?」

「ううん。私たちの賭け」

「…………も、もちろん」

 

 忘れてた。

 

「一教科でも私が風人君に勝ったら風人君に何でも命令できる」

「…………」

 

 あ、あっれぇ~?そんな不利な賭けだっけ?これはまずい。マジで頑張ろう。

 

「お、神崎ちゃんに和光も早いねぇ……どしたの和光?朝から絶望的な表情だけど」

「思い出したくないことを思い出してしまった……」

「あはは……何言ったの?神崎さん」

「私は特に何も言ってないよ?」

「まぁ、いっか~和光が頭おかしいのはいつものことだし」

 

 えぇー酷くない?

 

「さて私ら一番乗り~!」

 

 中村さんがドアを開けるとそこには、

 

「「「誰!?」」」

「何言ってるの~律でしょ?」

 

 律が座っていた。でも、おかしいな?明らかに人に見えるけど……あ、二次元から三次元に進化したんだ~納得納得。

 

「律役だ。流石に理事長から人工知能の参加は認められなくてな。律が教えた替え玉で決着した」

「え?律本人じゃないの?」

「「「どう見ても違うでしょ!」」」

 

 あ、人工知能が参加したら100点なんて余裕か。

 

「交渉の時、理事長に『大変だなぁ、コイツも』……という哀れみの目を向けられた俺の気持ちが君らに分かるか」

「「「頭が下がります!」」」

「ドンマイ烏間先生☆」

 

 頭を下げる中村さん、渚、有鬼子の三人。サムズアップする僕。すると、有鬼子が僕の後頭部を掴んで頭を下げさせた。

 

「……律と合わせて俺からも。頑張れよ」

「はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして期末テストは開始した。

 僕らの闘いが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 英語

 

(おっと。中間よりもコイツら強いな~)

 

 明らかにパワーが違う。でもまぁ、これぐらいなら想定内!

 

(あ、自称帰国子女君がラスト問題ミスった~)

 

 プクク。『これぐらい超余裕~』とか思ってんだろうなぁ~ダサい~

 

(中村さんと渚は満点回答か~じゃ、僕も~)

 

 瞬殺~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 理科

 

(あー難しいなぁ~ってあんな装甲の敵に何で杖の魔法攻撃なんだよ~)

 

 おかしい、何で魔法なんだ?あ、メガネ死んだ。

 

(って、奥田さんの相手してるモンスター。装甲自分から脱いでどっか走って行ったんだけど)

 

 ふむふむ。何でもありか……じゃあ!

 

(((何だアイツ!杖の使い方間違ってねぇか!?)))

 

 装甲が砕けるまで殴り続ける!

 

 

 

 

 

 

 

 

 社会

 

(次は砲台かよ~ま、いいけど)

 

 というか、遠距離攻撃相手に何で剣なんだろう?あ、もう一人のメガネ死す。

 

(アフリカ開発会議の会談の回数?あーそれなら)

 

 一応覚えていたな~ん?待てよ?

 

(((アイツやっぱ戦い方違くね!?)))

 

 剣も投げれば遠距離武器。まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国語

 

(何というか……ネタ切れ?)

 

 武器は薙刀敵は刀と鎧。もうネタ切れたかな?

 

(ゲームして 昼寝したいね やっぱり ……あ、和歌どころか川柳にもならないや)

 

 どうしよう。字足らずだし……後、どうやって下の句を埋めよう。

 

(風人君?ふざけてる暇あるの?)

(ぎゃああああああああ)

(((何でアイツ!味方にやられてるんだ!?)))

 

 和光風人。背後から斬られて死す。完。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 波乱の期末テストは幕を閉じ、何日か経った。と言っても三日くらいかな?じゃあそこまで経ってないや~

 

「さて皆さん、全教科の採点が届きました」

 

 殺せんせーの手には封筒の束。そして、そこから一つを開けて中身を取り出す。

 

「では発表します。まずは英語から……」

 

 殺せんせーの言葉に全員が緊張した面持ちで耳を傾けている。この成績は僕らの未来を決めるといっても過言ではないからだ。

 そんな空気の中、殺せんせーからテストの結果が告げられる。

 

「E組の一位……そして学年でも一位!中村莉桜!完璧です。君のやる気はムラっ気があるので心配でしたが」

「ふふーん。なんせ賞金百億が掛かってっからね。触手一本、忘れないでよ殺せんせー?」

 

 幸先は良いみたい。E組からは歓声が上がり、中村さんもドヤ顔で答案用紙を受け取っていた。しかし盛り上がる僕らに殺せんせーは嬉しそうながらも現状を見ている。

 

「だがしかし、一教科トップを取ったところで潰せる触手は一本。喜ぶことが出来るかは全教科返した後ですよ」

 

 それにA組との勝負もか。一勝四敗で負けましたってのも有りうるからね。皆の表情も自然と引き締まっていった。

 教室が落ち着きを取り戻し、静かになったところで殺せんせーは二つ目の封筒を開けて中身を取り出す。

 

「続いて国語、E組一位は……和光風人!……しかし学年の方は浅野学秀と同率一位!」

「ちぇ~単独トップ狙ってたのに~」

「まぁ、彼も君も満点なのです。そこは仕方ないでしょう」

 

(((よく味方に斬られておいて満点取れたなアイツ……)))

 

「神崎さんもあと一点で満点と大健闘でしたよ」

 

 これで一勝一分。後一人勝っていれば負けることはないだろう。

 

「やっぱ点取るなぁ、浅野は。英語だって中村と一点差だし」

「まぁ、五英傑って、やっぱり残りの四人って浅野君の金魚の糞だね~」

 

(((言っちゃったけど何も言えない……!)))

 

 でも二教科の成績を見て僕らは浅野君を倒さなければ学年トップは無理だと改めて認識する。

 

「……では続けて返します。社会、E組一位は磯貝悠馬!そして学年では……」

 

 ここまで一勝一分。この社会を取れれば大きく優位に立てる。

 

「おめでとう!を抑えての学年一位!マニアックな問題が多かった社会でよくぞこれだけ取りました!」

 

 殺せんせーの称賛に磯貝君は珍しく興奮した様子でガッツポーズを決めていた。これで二勝一分。もう、E組に敗北はなく、勝利に王手を掛けた。

 

「次は理科、E組一位は奥田愛美!そして……」

 

 いよいよ決着がつく可能性の高い四教科目。奥田さんも両手を胸の前で組み、固唾を呑んで先生の発表を待っている。

 

「素晴らしい!学年一位も奥田愛美!三勝一分!数学の結果を待たずしてE組がA組に勝ち越しを決めました!」

 

 ……ふーん。

 

「……てことは賭けの賞品のアレも頂きだな」

「楽しみ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここにいましたか風人君」

「何だよせんせー。カルマの相手は終わったの~?」

「はい。終わりましたよ。君は教室に居なくていいのですか?」

「別に~勝った雰囲気に居たくないだけだし~」

 

 僕は屋根のところで寝そべって空を見ている。

 

「数学99点。浅野君は100点で惜敗。総合でも一位は浅野君の491点。風人君は490点で二位。君はこの一点差をどう捉えていますか?」

「……どうって何さ」

「A組……いや、全国トップレベルの秀才相手に一点差まで詰められて満足か、それとも一点差とはいえ負けて悔しいのか。まぁ、前者なら堂々と教室にいるでしょうね~」

「……なら、聞かないでよ」

 

 分かって聞いてるから鬱陶しい。

 

「国語の一位。権利はあるんでしょ?」

「はい。同率でも一位に変わりはありませんからね」

「アレ剥奪しといて。要らないよ、そんな権利」

「そうですか……君の意向なら何も言いません」

「……久々に感じたよ。殺せんせー。学校内のたかがテスト。でもさ負けるのは凄い悔しい。いつ以来だろうね~」

 

 どこかに忘れてしまったこの感覚は。ゲームで有鬼子に負けるのとはまた訳が違う。最悪の感覚だ。いや、有鬼子に負けるのがいいとかそういうわけでもないけど。

 そのまま降りて教室に戻る。

 

(風人君。彼も多くの才能に恵まれている。彼は忘れていた何かを今回のテストで思い出せた。それでいい。君はまだ過去を乗り越えられていない。でも君なら大丈夫。いつかその壁に当たっても乗り越えることが出来るはずです。大切なことを学べてさえいれば)




風人君のテスト結果。

国語 100点
数学 99点
英語 99点
理科 96点
社会 96点

後は風人君のお陰(?)で神崎さんが原作より強化されてます…………色んな意味で。



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終業の時間 一学期

「さて皆さん。素晴らしい成績でした。五教科の中で皆さんが取れたトップは四つです……が、風人君が触手破壊の権利を放棄したので破壊出来る触手は三本」

 

 もうすでに、皆には言った。もったいないと言われたけど本人がそう言ってるなら無理する必要はないと皆が納得してくれた。

 

「早速暗殺の方を始めましょうか。権利を持ってる三人はどうぞ触手三本をご自由に」

「おい待てよ、タコ。破壊の権利を持ってる五教科トップは三人じゃねーぞ」

 

 そういうと寺坂筆頭に村松君、吉田君、狭間さんの四人が教卓の前に立つ。

 

「……?三人ですよ寺坂君。国・英・社・理・数、全て合わせて……」

「はぁ?アホ抜かせ。五教科っつったら国・英・社・理……あと()だろ」

 

 そういって、教卓に放る四枚の家庭科のテスト。全て100点だそう。わーお。

 

「か、家庭科!?」

「だーれもどの五教科とは言ってねぇよな?」

「ちょ、ちょっと待って!」

「そーだよ、寺坂。ダメでしょ~?」

「よ、よかった。風人君は味方してくれるんですね?」

「僕の存在を忘れちゃさ!」

 

 そう言って叩きつける100点の答案。もちろん、国語じゃない。

 

「風人君!?キミもですかぁ!?」

「ふはは!油断したね殺せんせー!」

「君たち!か、家庭科なんて……!」

「なんてってさ」

 

 ここで今まで黙っていた男が動く。

 

「失礼じゃね?五教科最強の家庭科サンにさ」

 

 カルマである。

 

「約束守れよ!殺せんせー!」

「一番重要な家庭科サンで五人がトップ!」

「合計触手八ほーん」

 

 皆からの援護射撃も入る。これには殺せんせーも従わざるを得ないだろう。

 ククッ。まぁ、寺坂たちは想定外だったけど、これで触手は想定以上に破壊する権利がもらえた。

 

「それと、これはみんなで相談したのですが、賭けはA組との戦利品の時に使わせてもらいます」

「……What?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~あの時のせんせーの顔は傑作だった~」

 

 帰り道。いつも通り有鬼子と帰っている。

 

「そうだね。でも家庭科のテストでよく満点取れたね」

「ん?僕の得意科目は家庭科だよ~」

「……え?」

「うん~実は家庭科が一番得意だったり~」

 

 別に他にも得意な科目はあるけど一番は?と聞かれれば家庭科さんだね~

 

「いや~A組との賭けにも勝って万々歳~」

 

 あんなえげつない命令出されるところだったからね~危ない危ない。

 

「そういえばさ、風人君」

「な~に?」

「保健体育はどうだった?」

「53点~平均きった~あはは~」

「そう……」

 

 そう言って有鬼子は自身の保健体育のテストを見せてくる。得点はなんと81点。

 

「おぉ~凄いね」

 

 素直に凄いと思う。家庭科もだけど、サブ教科というのはテスト問題を作る先生の癖が出やすいし、強い癖が出ても大目に見られる教科。

 おまけに保健体育。ここE組は保健は普通(ビッチ先生が入ったら怪しいけど)だが、体育に関しては暗殺訓練とかプールで遊ぶとかまともなことをやっていない。つまり、その分E組が不利だけど……これは凄い。

 

「ということで、賭けは私の勝ちだね」

「…………Pardon?」

「なぜに英語?まぁ、もう一回言おうか?風人君との賭けは私の勝ちだね」

「…………Why?」

「風人君との勝負は()()()。家庭科や保健体育も含めた()()()だよ?」

「…………」

「そうだね。普通は五教科だけって思うかもしれないけど、風人君も賛同した寺坂君たちの言い分を借りるなら『誰も保健体育が勝負の対象科目じゃない』とは言ってないよね?」

 

 背中に嫌な汗が流れる。ヤバイ。マジでヤバイ。

 

「ま、まさか有鬼子!それを狙って保健体育を集中的に勉強してたのか!」

「ううん。私が勉強してたのは国語を筆頭に主要五教科。で、結果を聞いて一教科も勝ってなくて諦めていたんだけど、寺坂君たちのを聞いて思ったの。もしかしたら保健体育なら勝ってるかもって」

 

 マズいマズいマズいマズい。

 

「まぁ、運よく勝っていたみたいだし」

「じ、実は90点だったり」

「じゃあ見せて?その点数を」

 

 笑顔で催促してくる。あ、これ、最初に言った点数が本当のって確信してる顔だ。

 

「…………僕の負けです」

 

 潔く負けを認めよう。何だろうこの気持ち。総合では浅野君に負け、殺せんせーは出し抜いたのに、有鬼子に出し抜かれた。何だろう。この悔しさ。

 

「……よしよし」

 

 そう思ってると有鬼子が僕の頭を有鬼子の胸のところに持ってきて、頭を撫で始めた。

 

「悔しいんでしょ?私の胸で泣いてもいいんだよ」

「うっさいな~泣かせた本人が何言ってるのさ」

「違うでしょ。本当は総合で一位取れなくて負けたことが泣くほど悔しかったんでしょ?」

「………………何で分かったのさ」

「分かるよ。隠してるようだけど、伊達に風人君を見ていないよ」

「……とどめ刺したの有鬼子だけどね~」

「うん。そうだよ」

「自覚してるんだ~」

「……でも、私も風人君に負けた。今回は運が良かっただけ。次はもっと善戦して……勝つよ」

「出来るといいね~まぁ、無理無理~」

「ふふっ。私に負け、今泣いてる子に言われたくないな~」

「泣いてないし~」

「いじけてるところも可愛いよ」

「フンだ」

 

 テストは勝者と敗者が明確に分かれる一種の戦い。

 今回、僕はある意味では勝者だった。

 でも、それ以上の敗北を味わった。だから、僕はこれを糧に一歩進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貸す胸が霞む胸なのに……ひんにゅー」

「…………(ビキッ)」

 

 ちなみに、負け惜しみで言った一言で地獄を見たのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終業式は特に何もなく終わった。

 A組とバチバチの戦いに勝利したおかげか、集会恒例のE組いじりはいつもより白けたらしいし……あ、変わったことはカルマが参加したことかな~?集会はさぼるのに今回は来たよ。どうやら逃げたと思われるのが嫌らしい。後はテストのとき見た偽律さんがきていたくらい?

 そして終業式も終え、E組に帰ると、殺せんせーは椚ヶ丘中学のパンフレットを開き、こう言った。

 

「一人一冊です」

 

 そう言って殺せんせーが渡してきたのは……

 

「出たよ……恒例の過剰しおり」

「アコーディオンみてぇだな……」

 

 うん。まぁ、凄いデカいというか分厚いというか……これどうやって持ち帰るの?

 

「これでも足りないくらいです。夏の誘惑は枚挙に暇がありませんから」

 

 うーん。この夏休みのしおりを読み込んだ頃に夏休みが終わってそうだ。

 

「せんせー。特典は~?」

「しおりには付いていません」

「えぇ~」

「が、これより入る夏休み…………皆さんにはメインイベントがありますねぇ」

「あぁ、賭けで奪ったこれのことね」

 

 先生の問い掛けに中村さんが椚ヶ丘学園のパンフレットを取り出して見せた。

 僕らE組は本来、成績優秀クラスであるA組に与えられるはずだった特典を賭けに勝って手に入れた。まぁ、今回の期末テストはトップ五十をほとんどA組とE組で独占してるし、トップ十にも、僕以外に片岡さんと竹林君も入ってたし、僕らにだってこの特典をもらう資格はあるだろう。

 

「夏休み『椚ヶ丘中学校特別夏期講習。沖縄離島リゾート二泊三日』!」

 

 A組から勝ち取った特典は夏期講習という名の国内旅行。また、僕らにとって修学旅行ぶりに行われる暗殺旅行である。……やっぱり、今回も暗殺旅行なのだ。

 

「君たちの希望だと……」

「はい。触手を破壊する権利はこの合宿中に使います」

 

 触手をただ八本破壊して殺せるせんせーなら僕らも苦労はしない。万全の体勢で挑まなければこのせんせーは殺せない。

 

「触手八本という大ハンデでも満足せず、四方を先生の苦手な水で囲まれたこの島も使い、万全に貪欲に命を狙う。……正直に認めましょう。君たちは侮れない生徒になった」

 

 つまり、今までは舐めていたと。

 

「親御さんへ見せる通知表は先程渡しました。これは先生(ターゲット)からあなたたち(暗殺者)へ送る通知表です」

 

 今年の四月から始まったこの暗殺教室。まぁ、僕を含め一部はそれより短いけど、その間の暗殺者としての通知表は教室いっぱいにばら撒かれた二重丸。

 

「一学期で培った基礎を充分に活かし、夏休みも沢山遊び、沢山学び、そして沢山殺しましょう。椚ヶ丘中学三年E組暗殺教室。基礎の一学期……これにて終業!」

 

 殺せんせーの号令で、一学期最後の授業が終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、せんせー。夏休みのしおり家まで運んどいて~」

「にゅや!?自分で持ち帰ってくださいよ」

「ふーん。まぁ、自分で苦労して作ったものが教室にずっと放置されたら、精神的に来るんじゃないの~?」

「ぐぬぬ……仕方ありませんねぇ……」

「あ、じゃあせんせー。俺のもよろしく~」

「ついでに私のもね」

「じゃあ、俺のも」

「み、皆さん!?」




一学期編終了!

無事一章が終われたのも皆様、読者様方のお陰です。
この話を投稿する前までに、UA20,000越え。お気に入り数200件突破。
また、評価していただいた方、感想を送っていただいた方、本当にありがとうございます。

ということで(どういうことで?)、次章予告をやります(何となくです)。
飛ばしたい方は飛ばして下さい。

















~次章予告~

 夏休みに入った三年E組。

「今の問題はあの二人の関係性。とてもただの友人には見えない」

 風人に有鬼子とは別の女の影が……?




「いぇーい!」
「ひゃっほーう!」

 賭けに勝利し、沖縄リゾート二泊三日へ。楽しむ風人たち三年E組だったが、

「本当にお前大丈夫か?」

 突如倒れるクラスメートたち。

「動ける生徒全員で此処から侵入。最上階を奇襲して治療薬を奪い取る!」

 治療薬求め、風人たちはホテルへ潜入する。潜入ミッションの行方は……

「撤収だぬ~」

 ……大丈夫か?そして、





「風人とは付き合わない方がいいですよ」





 一体どういうことなのか。風人の過去が明かされ二人の恋が進展(?)…………する?
 次章『波乱の夏休み編』













「殺すよ?風人君」













 ……まさかの風人終了のお知らせ?
 
※都合上予告とは違う展開になる場合がございます。ご了承ください。


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波乱の夏休み
尾行の時間


二章、夏休み編開始です。
そういえば、今日は節分ですね。
節分といえば豆まき。豆まきといえば鬼。鬼といえば有鬼子。
つまり、有鬼子の日ですね。というわけで、本編の前に短編をどうぞ。


『節分』

「鬼はそと~福はうち~」
「何してるの?風人君」
「豆まき~今日は節分だよ~」
「???今夏休みだよ?」
「リアルではそうなの~」
「何言ってるんだろう……この子」
「鬼はそと~福はうち~」
「ところで、何で『鬼はそと~』って言いながら私に豆をぶつけてるの?」
「え?有鬼子って、鬼じゃん」
「ふーん。そういうこと……」
「あ、あれぇ?錯覚かなぁ……何か角が生えてるように見えるんだけど……あれぇ?そしてどこからか金棒が出てきたように見えるんだけど……」
「覚悟してね?風人君♪」
「これぞ鬼に金棒ならぬ有鬼子に金棒……ぎゃあああああああああ!」


 夏休みになった。

 夏休みにも勉強と並行し、暗殺訓練をするE組の面々。

 これは、夏休みに入ってすぐのある日の朝のこと。

 それはカルマによる一枚の写真とメッセージから始まった。

 

『これって、風人だよね?』

 

 その写真には二人の人物が写っていた。

 

『おっ。これ、いつ撮ったの?』

 

 反応したのは中村。片方は風人。もう一人は知らない女子。少なくともE組ではない。

 

『今撮ったばっか。場所はすぐそこの駅前』

『ほほう。でも、クラスの方で話かけたら和光にバれない?』

『心配無用。律に頼んで風人のところには行かないようにしている』

『ご心配には及びません!』

『なるほどねぇ。というわけで、既読している人たち出てきたら?』

 

 律の力を悪用している男がそこにはいた。

 

『うーん。この子見たことないから、うちの学校じゃないな』

『確かに、こんな美少女うちの学校に居たら俺が覚えてるはずだ』

 

 最初に答えたのは前原と岡島。E組どころか椚ヶ丘中学の人間ですらないらしい。

 

『二人が言うなら確かなんだろうね……』

『じゃあ誰なんだろー?』

 

 続いて渚と茅野。朝から暇人ばかりである。

 

『全く、人のプライベートなんだから侵害するのはよくないよ』

 

 と、学級委員の片岡がここで正論を繰り出す。

 

『そうお堅いこと言いなさんなって。あの和光と一緒に居る女子だよ?気にならない?』

 

 この時、この会話を見ていた人は全員思った。確かに、と。

 

『特に神崎ちゃん』

『わ、私?』

 

 急に指名されて出てきた神崎。神崎もカルマが写真を投下した時から見始めていたのだ。

 

『ふっ。新キャラって事は恋敵の登場ね!』

 

 そう言ったのは不破だ。

 

『畜生!何で俺はモテないんだ!』

『変態だからでしょ』

『酷いっ!』

『そんな岡島のモテるモテないは置いといて』

『置いとかないでくれよ……』

『やっぱ、和光とどういう関係か気になるよな~』

 

 前原は皆の思うことを代弁する。どうやら気になるようだ。

 

『風人。あの子と結構仲いいっぽいよ』

『何で分かるの?カルマ君』

『え?尾行して話を盗み聞いてるからに決まってんじゃん』

『おい!』

『それはダメでしょ!』

『さすがにやめたら?』

 

 平然と尾行していると告げたカルマを非難する一同。

 

『うーん。俺はやめてもいいけど……気にならない?特に神崎さん?』

『確かに神崎ちゃんにとって恋敵になる存在かもしれないよね』

『私は……気にならないと言われたら嘘になるけど……』

『よし。風人尾行隊結成だね』

『隊長。どこに向かえばよろしいでしょうか』

『場所は〇〇デパート。そこからは律に案内してもらえばいい』

『了解です』

 

 カルマは引き続き尾行を続行。中村もカルマに合流し、風人の尾行をしようとする。

 

『ちょっと二人とも!?』

 

 片岡が送る…………が反応なし。

 

『あぁもう!あの二人を止めに行くよ!』

『じゃあ、私も!』

『僕も行こうかな……』

『私も参加希望』

『んじゃ俺も』

『けっ。モテる奴のデートとか見て何が楽しいんだが』

 

 と、岡島の言葉を最後に会話が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむふむ。カルマ隊長。和光(ターゲット)は今あの店の中だね」

 

 私は考えた結果。気になってしまって来てしまいました。……ごめんなさい風人君。

 現在、風人君を尾行しているのは、カルマ君。中村さん。渚君。前原君。片岡さん。不破さん。茅野さん。それに私の八人。……後律も私たちに手を貸している。それに、

 

「ヌルフフフ。生徒のスキャンダル。これは調査しなくては……!」

 

 殺せんせーも、下手な変装で参加している。風人君の尾行の為にこんなに集まっている。……バれないかな?そもそも傍から見たら相当私たち怪しいような……

 

「しっ。出てきた」

 

 出てくる二人。何かを話しているようだがここからじゃ聞こえない。

 

「律。あの二人の会話を盗聴して」

「ちょっと待って。それはダメでしょ」

「殺せんせーが全責任を負うから」

「にゅや!?何故私!?」

「シッ。声が大きい」

 

 見ると風人君が辺りを見渡す気付かれた?

 

『どうしたの?風人』

『いいや。今担任の声が聞こえた気がしたんだけど……気のせいみたい』

『そう?まぁ、何でもいいけど、じゃあ次服屋ね』

『はいはい。分かってますよ』

 

 カルマ君の携帯から聞こえてくる声。よかったバレてな……

 

「いやダメでしょ!?」

「いいじゃん。このお陰で気付かれたかが分かるんだし」

「んなことより服屋だ。さっさと行こうぜ」

 

 前原君が促したので私たちはなるべく気配を消して歩く。

 

「これって、普段の訓練の成果だよね?」

「うん。多分……」

「でも、尾行で気配を消すのは普通じゃない?」

「こんなところで暗殺技術が使われるのか……」

 

 と、談笑をしている。風人君と女子も話しているようだけど、流石に道の真ん中で集まっていたりしたら怪しまれるのでやめておこう。

 そして服屋の前。カルマ君の提案で二手に別れた。片方は店内へ。片方は外で待機。こうしたほうが、ばれにくく、ターゲットを見失いにくいそうだ。まぁ、律が居る時点で見失っても場所の把握は容易だけど。

 

『ねぇー風人。この服似合うかな?』

『大概何でも似合うと思うよ』

『そう?なら、試着してくるね』

 

 そう言って、試着室に入っていく女の子。その前でスマホで何かしている風人君。

 

「ほほう。これは脈ありですかね~」

「なるほどね。自分の服を相手に選ばせるとか……デートだね。完全に」

「というか和光君ってあんな真面目なキャラだっけ?」

 

 上から中村さん。カルマ君。不破さんだ。

 確かに、風人君があんなに真面目……というか普通に話している。私の前ではのんびりとしていた口調なのにだ。……相手の印象をよくするため……なのかな?

 

『じゃーん。似合う?風人』

『ふーん。八点』

『それは十点満点?』

『正解』

『ありがと。じゃあ、他のも着るね』

 

 ………………。

 

「か、神崎ちゃん!ステイステイ!」

「嫉妬と殺意が溢れ出てるよ?」

 

 ……はっ。私は今なんてことを。

 

「というか、率直なこと聞いていい?」

「何でしょう」

「風人と付き合ってないんでしょ?だったら他の女子と居ても問題に入らなくない?」

「うっ……」

 

 確かにそうだ。私は風人君と付き合ってるわけじゃない。だから、風人君が誰といても私には理由を問いただしたりそういう権利はない。

 

「よしこの夏休み中に告白しよう」

「いいねぇ。いい加減くっついちゃえ」

「これは恋愛フラグだね」

「えぇっ!?ちょ、ちょっと待って。急すぎない?」

「よく考えてみよう。あの男から告白する可能性は限りなくゼロ」

「このままうだうだとした関係を続けるよりバン!とくっついちゃえ」

「まぁ、そろそろくっつかせたいよね。話の展開的にも」

 

 三人の意見。不破さんだけ何かメタい?

 

「でも……」

「まぁ、いつか迎える壁なんだ。早いにこしたことはないでしょ」

「今の問題はあの二人の関係性。とてもただの友人には見えない」

「ぶっちゃけ兄弟ってオチじゃないの?」

「いや、風人君は一人っ子なはず」

 

 と、話していると会計のほうに向かう。そして、購入して外に出た。

 

『次はどこ行くの?』

『下着屋』

 

 え?

 

『ふーん。分かった』

 

 ……え?

 

『じゃあ、早速行こっか』

 

 …………え?

 

 

「……これは一回集合したほうがいいっぽいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけで、一旦集合。風人君の位置は女性用の下着屋のところで動いていない。会話も流しつつ、私たちは会議を行っていた。

 

「はっきり言おう。あの二人は肉体関係を持っていると思う」

「ドストレートだね~前原」

「何だろう。ビッチ先生のせいで、あんまりそういうこと聞いても動揺しなくなった」

「だね。英語でそういう大人なことをちょくちょく言ってくるもんね」

「あはは……慣れちゃいけない気がする」

 

 風人君……肉体関係……夜の関係……

 

「だって、そうだろ?俺ですらまだ女子の下着なんて選んだことねぇぞ?」

「そこ自分基準なんだ……」

「ねぇ、あの二人って兄弟か双子じゃないの?」

「いや、神崎ちゃんによると和光は一人っ子らしい。だよね?神崎ちゃ……」

 

 じゃあ……私は……

 

「……これは重症だ。暗いって次元を通り越している」

「ふむ。風人君にこんな一面もあったとは……」

「もしかして、和光って女たらしのクズ野郎じゃないのか?」

「それ前原が言っちゃう?」

「天然でマイペースを装い、面倒見が良さそうな美人の母性本能をくすぐり、そのまま遊びの関係に」

 

 遊び……ああ、そっか遊びなんだ。私とは遊び……。

 

「そうかな……?」

「どうしたの渚?」

「いや、風人君って普段僕らといる方が素だと思うんだ。なんというかそういう打診を感じないというか……」

「なるほど。神崎さんに近付いたのは打診とか関係ないってことか」

「うーん。でも、見てよ」

 

 そう言われて私たちは下着屋の方を見ます。そこから出てくる男女。入っていく時より一つ袋が増えています。どういうことかはお分かりだ。

 

「なら、アレはどう説明するの?」

「そ、それは……」

「皆さん。答えが知りたいのなら尾行しましょう。ターゲットの情報収集も重要です」

 

 ところどころおかしい気がしますが殺せんせーが真面目に――

 

「せんせー。それを顔をピンクにして言っちゃダメだよ」

 

 ――ダメです。完全に私利私欲に塗れてます。

 

『おなかすいたね』

『昼時か……なら、近くのカフェでいいんじゃない?』

『オッケー。じゃ、行こうか』

 

 そういえばと、時計を見ます。今はお昼時……何でしょうずっと尾行している気がします。

 

「さてと、行こうか」

 

 私以外全員うなずきます。

 

「私は……遠慮しておく」

「どうして?」

 

 カルマ君と中村さんを止めに来たはずの片岡さんが聞いてくる。

 

「だって、風人君。楽しそうというか……何かこれ以上見ていると」

 

 嫉妬でどうにかなりそう。

 ただえさえ、私との関係が遊びと思うと恐怖しかないけど、それでもやっぱり嫉妬が一番ある。

 

「まぁ、こんな嫉妬ばっかする女。好きになれないよね?ははは……」

 

 もう笑うしかない。

 

「ど、どうしよう!神崎さんが壊れた!」

「恋は人を変えるんだね……」

「まぁまぁ、とりあえず最後まで尾行してみよう。そして和光が悪かったら私たちが陥れてやるからさ」

「中村さん……」

「そん時は俺も全力でやるさ」

「クラス皆も協力してもらうよ」

「カルマ君。片岡さんに……」

「ヌルフフフ。もしそうなら人格矯正が必要ですかねぇ」

「殺せんせー……」

「行こう。真実を知るために」

「ああ。和光の実態を暴くんだ」

 

 何だろう。私たちって……

 

「ぶっちゃけストーキングしているだけだよね?」

 

 不破さんの言葉にさっとどこかに顔を向ける皆。そして、何事もなかったように歩いていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてカフェを見張る私たち八人と国家機密(殺せんせー)人工知能()対象(ターゲット)は風人君。テラス席に座っている。

 

『転校してからどう?』

『前の学校より面白いよ』

『そう』

 

 転校した後?

 

「つまり、あの子は風人の前の学校の子か」

「ようやく確定情報が出てきたね。そりゃ見たことないわ」

 

 なるほど。でも、凄い親しそうだ。

 

『クラスには馴染めたの?』

『まぁね』

『へぇ。友達はできたの?』

『出来たよ』

 

 ここまでは普通の会話だ。

 

『じゃあ、女子は?』

 

 ここからは重要な会話だ。

 

『いるよ』

『へぇ~写真はないの?』

『写真か……あ、あったよ』

 

 女の子に写真を見せる風人君。が、

 

『……えっ?だ、大丈夫なの……?』

『まぁ大丈夫だよ』

 

 誰の写真を見せたんだろう?そもそも写真なんて持っていたの?

 

『じゃあ、風人に好意を持ってる人は?』

『なんでそんなことを?』

『だって、もしいたらさ。その子がこの光景見たら絶対――』

 

「か、神崎さん!?」

 

 私は制止を無視してその二人の元へ向かいます。もう聞いていられません。そして怒気と殺気を纏ったまま風人君の所に行きます。

 

「風人君?」

 

 私は風人君に話しかけます。

 

「どうしよう。これ修羅場だよ!」

「修羅場を間近で見られるとは」

「これはスクープしなくては!」

「風人死んだね」

「終わったな。アイツ」

「誰一人風人君の心配をしていない!?」

 

 向こうでガヤガヤやってますが無視です。

 風人君は私を見て一瞬驚く。そして、

 

「あ、有鬼子。やっほ~」

 

 普段通り声をかけてきます。どうやら、言い逃れできると思っているそうですね。

 その仮面はいつまでもつかな?風人君。あなたと一緒にいた女性なんてどうしようという感じで狼狽えて――

 

「おぉっ!風人。この子が風人の友達?」

 

 ――あれ?狼狽えていない……どころか寧ろ私に向け目を輝かせて見てます。

 

「そうだよ」

「何だ、風人。写真で騙すとか酷いじゃん」

「騙してないよ。アレは有鬼子の去年の写真」

 

 あれ?話についていけない。今って、言わば『浮気した男性が妻に浮気相手と食事をしているところを見つかって乗り込まれた』っていうもっとギスギスするもんじゃないの?

 

「あ、挨拶しないと。どうもお兄ちゃんがお世話になっています」

「外でお兄ちゃん呼びはやめてって言ったよね?涼香」

「はっ。風人の従兄弟の岩月(いわつき)涼香(すずか)です。よろしくお願いします」

 

 え?従兄弟……?

 

「彼女は神崎有希子。私のクラスメートだよ」

「有希子ちゃんですね」

「ちょ、ちょっと待って。え?二人は従兄弟で……」

「あー従兄弟で、前まで学校は同じ。家も隣だった。今日は涼香に買い物付き合わされた」

「でも普段としゃべり方違うよね?風人君」

「あーそれ私のせいです。ほら、お兄ちゃんって独特な喋り方……と言うよりズレててゆっくりじゃないですか。私、お兄ちゃんに会話のテンポとかを外で合わせるの面倒なので真面目に話してもらってます」

「ねぇ。涼香のその呼び方も外で誤解されるからやめろって言ったよね?」

 

 何だろう。膝から力が抜けて、

 

「大丈夫?座ったら」

「ありがと」

 

 風人君が受け止めて、そのまま座らせてくれました。

 

「うちのお兄ちゃんがいつも迷惑をかけています」

「ちょっと待って。私が迷惑かけてる前提?」

「大丈夫だよ岩月さん」

「涼香でいいですよ。お姉ちゃん」

「お、お姉ちゃん!?」

「涼香。冗談はそこまでにしといてね」

「はーい」

 

 そして私をじっくり見て、

 

「……有希子ちゃんなら私のお姉ちゃんになってもいいかな」

 

 何というか、この二人。まるで兄妹みたい。

 

「何か食べる?有鬼子、奢るよ」

 

 そして、こっちの風人君に全く慣れない。ん?

 

『尾行部隊は撤退したよ!後は三人で仲良くね』

 

 茅野さんからだ。振り返っても彼らはいない。本当に撤退したようだ。

 

「じゃあ、これを」

「分かった」

 

 店員に颯爽と注文を取る。……何かこういうところを見るとますます好きになりそう。

 

「で、二人はキスしたの?」

「……ケホッケホッ」

「大丈夫?気管に入った?」

「だ、大丈夫……」

「で?どうなんですか?」

「そ、それは……」

「うーん。されたような……されてないような……」

「風人君!?」

 

 なお、涼香ちゃんに答えにくいような質問攻めをされたことを記す。




最後の一言を風人君に言わせたいがために最初の短編を書いた気持ちはあります。
豆まきは相手の了承を得てから相手にぶつけましょう。


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ダブルデートの時間 前日

 『風人君ストーキング大作戦』も終え、それは普通の日の夜でした。

 

『神崎さん。風人さんからメッセージです』

「教えてくれてありがと。律」

 

 風人君からメッセージが届きました。何だろう?もうすぐ暗殺旅行だから日程の確認かな?それとも、荷物の確認?どっちだろう。

 

『明後日空いてる~?プール行かない~?』

 

 どっちでもありませんでした。

 え!?あの風人君からお誘い!?いや、落ち着くんだ私。どうせ、風人君のことだ。そう、カルマ君とか渚君とかその辺りが提案して、きっと修学旅行の四班とかそんな感じのメンバーで行こうって話になったに違いない。ここは早とちりをしないで……。

 

『うん。いいよ。他には誰が来るの?』

 

 他に誰が来るかを確認しておこう。まぁ、大体分かってるような感じがするけど、

 

『あと二人いるよ~』

 

 二人……最悪なのは中村さんカルマ君の二人。あの二人は裏が有りすぎる。可能性としてありそうなのは渚君と茅野さんで、次点で片岡さんと磯貝君って感じかな。

 

『片方は涼香だね~。もう一人は知らないと思う~』

 

 涼香さん……この前の浮気疑惑事件で発覚した風人君の従兄弟。あれ?予想と違った?

 

『そのもう一人って女子?』

 

 あ、送っちゃった。女子だと何か嫌だというか、また風人君との関係の洗い出しをしたり、やること多くなるなぁと、思う。

 

『ううん~片方は男だよ~』

 

 男子か。ならいいかな。

 

『涼香がダブルデートするって言ってた~』

 

 だ、ダブルデート!?プールで!?

 

『えーっと、集合時間と集合場所と行く場所は……』

 

 風人君から送られてくる情報。いや、そんなことより、

 

「どうしよう。何着ていこう。あ、それ以前に水着買ってこないと」

 

 でも、水着かぁ……風人君ってどういうのが好みなんだろう?うーん。どうせ買ってこないといけないし……よし。

 

『ねぇ、風人君。明日暇?』

『暇だよ~』

 

 よし。

 

『明日買い物したいから付き合ってくれない?』

『うん~分かった~』

『じゃあ、明日の朝九時に……』

 

 こうして、私は二日間デートすることが決まりました。まぁ、明日は風人君。デートって思ってないだろうなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日~僕は集合場所にいつも通り五分前には到着。

 

「わ、視界が急に塞がれた~」

「だ~れだ」

「鬼」

「風人君?」

「……ごめんなさい。反射でつい……」

「それも問題だよ」

 

 と、こんな軽い?やり取りを済ませて……

 

「で、どこ行くの~?」

「うーん。着いて来れば分かるよ」

「はーい」

 

 と、僕らは横並びで歩き出す。

 

「でも、急に風人君がプールって言って驚いたよ」

「まぁね~」

「どういう経緯で?」

「うん。あれはね……」

 

 僕は思い返す。有鬼子にメッセージを送った少し前のことを……

 

 

 

 

 

 

『風人さん。涼香さんから着信です』

「拒否しておいて~」

 

 やっぱり、モバイル律って便利だね~

 

『はい。……あ、涼香さんからまた着信です』

「……はぁ。出るよ~」

『あ、お兄ちゃん?折れるの早いね』

 

 第一声がこれである。分かってたよ。彼女は僕が出るまでエンドレスにかけてくると言うことぐらい。そしてダメだったら家にかけてくることくらい。

 

『とりあえず、真面目な口調になって~』

「はいはい。私に何か御用でしょうか?」

『明後日プール行くんだけどさ』

 

 いってらっしゃい。

 

『一緒に行かない?』

「丁重にお断りさせていただきます」

『えぇー行こうよ~』

「ゲームしたいです」

 

 全く。私の夏休みが一にゲーム、二にゲーム。三くらいに旅行と言うことを知らないのかな?だからプールなんて行くわけ――

 

『うーん。じゃあゲーム買ってあげるから』

「是非行かせて頂きます」

『即答!?モノで釣られたよこの人!?』

 

 ――あるよね。偶にはいいよね、プールも。

 

「で?どうしたの?」

『うん。冗談はおいといて』

 

 え?ゲームの話冗談なの?

 

『ダブルデートしたいなぁ~って』

「はぁ。…………え?そんだけ?」

『うん。それだけ』

 

 恐ろしい子だ。

 

『だからさ、お姉ちゃん誘っといて』

「あー有鬼子ね。誘ってオッケーするかな?」

『するよ!絶対に!』

「そう?」

『うんうん』

 

 何でこの前一度会っただけでこんなに断言できるのだろうか。不思議だ。

 

「で、お前の方は……あぁ、アレか」

『いや、友達をアレ扱いは酷いでしょ』

「アレ扱いで充分でしょ」

『まぁいいけど』

「いや、いいのかよ。お前の彼氏だろ」

『だから?』

 

 うわっ。酷っ。

 

『まぁ、お兄ちゃんとは言え馬鹿にしようものなら沈めるからね』

 

 うわっ。怖っ。

 

「はいはい……あれ?でも私、有鬼子と付き合ってないよ?」

『知ってるよ?何言ってるの?』

「いや、それだとダブルデートって言わなくない?」

『大丈夫だよ』

 

 何が?

 

『お兄ちゃんにとってはダブルデートでなくてもお姉ちゃんにとってはダブルデートだからね』

「……はぁ?」

『まぁ、好きな人と出掛けられるからお姉ちゃんにとってはデートってこと』

 

 涼香が話しているのは日本語?Oh(オゥ)……Japanese(じゃぱにーず) is(いず) very(べりー) difficult(でぃふぃかると).

 

『じゃ、話を続けると……』

 

 

 

 

 

 

 

「というわけなのです~」

 

 一通り話し終えると頭に手をやる有鬼子。

 

(絶対涼香ちゃん私の好意に気付いているよ……この前初めて会った時もそうじゃないかと思う会話はあったけどさぁ……)

 

「どうしたの~?暑さで頭逝かれた~?」

「大丈夫だよ。風人君ほどイかれてないから」

「はーい」

 

 ……あれ?何気に酷くない?

 

「さ、行こう?」

 

 そう言うと僕の手を握る。

 

「別に手を繋がなくても迷子にならないよ~?」

 

 だって、迷子になったらモバイル律が何とかしてくれるから。あれ?それって、迷子にならないというより迷子になっても大丈夫って言ってるのと同じ?どっちでもいっか~

 

「……そういう意味じゃないんだけどなぁ…………」

「何か言った~?」

「ううん。何も」

「そう?うーん。どういう意味だろ~?」

「って聞こえてたの!?」

「うん~僕耳いいから~」

 

 でもどういう意味だろ?……うーん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と言うわけで、水着を買うことにします。ついでに、服も買おうかなと風人君に言ったら『いいと思うよ~』と言ってくれたので後で私服の方にも見に行きます。下着は……さすがに風人君の前で買ったり、試着するようなそんな勇気はまだありません。

 

「……どう……かな?」

 

 試着室を開けて、風人君に見てもらう。

 何か恥ずかしいなぁ……よく考えたら男の子と服を買うこと自体したことないのに最初が水着はハードルが高すぎたかな……。

 

「……似合う?」

 

 いつになく真剣な表情で考え込んでる様子の風人君。

 風人君の意見を参考にして、ワンピースタイプを選んでみたけど……

 

「うん~。凄い可愛いよ」

「か、可愛い……」

 

 どうしてこうも平然と風人君は言えるのだろう。聞いてるこっちが恥ずかしくなる……

 

「顔赤いよ~?大丈夫?」

「う、うん。着替えるから待っててね」

「はーい」

 

 可愛い……かぁ。……嬉しいな。やっぱり風人君(好きな人)に言われると嬉しい。

 私は服を着て、水着を購入する。

 

「あれ?風人君も水着買ったの?」

 

 すると、先に店を出ていた風人君の手に袋があることに気付きます。

 

「うん~よく考えたら僕も持ってる水着サイズ合わないな~って」

 

 あーそっか。風人君。去年会った時から少なくとも10cmくらいは伸びてるし、前の水着をいつ買ったかは知らないけど合わなくなっていても不思議じゃないか。

 

「お金はあったの?」

「まぁね~備えあれば患いなしってやつだよ~」

 

 なら、いいかな。

 

「じゃあ、次は服屋さんだね。行こう?風人君」

「うん~」

 

 私は風人君の手を引いて歩き出す。風人君が迷子になるといけないというのはただの建前で本当は風人君に触れていたい。風人君の温かさを感じていたいから。まだ彼に気づかれてはいない私の思い。

 

「ねぇ風人君。修学旅行の時に私たちが拉致された時、殺せんせーが言ってたの覚えてる?」

「え~っと……」

 

 考え始める風人君。多分、的外れもいいとこなこと言うんだろうな……

 

「あ~『これは携帯の味ですね。レアメタルの味がします』って、言ってたっけ。レアメタルの味って何だろね~」

 

 うん。予想通りだ。

 

「違うよ。ほら、どんな川にいても前へと進めば魚は美しく育つって言ってたの」

「あ~そっちか~惜しかったな~」

 

 惜しくはないと思う。

 

「で、その後風人君言ってたよね。『そして美味しく食べられるのです』って。だからさ――」

 

 私は風人君の顔を見て言う。

 

「私という魚が美しく育ったら、風人君は私のこと……食べてくれる?」

「ほへぇ?」

 

 その声と眼で良く分かった。風人君これ分かってない奴だ。

 まぁ、婉曲に表現したというか魚が食べられることによって真の意味でその食べた人のモノになるから、私を風人君のモノにして欲しいって感じに伝えたつもりだけど……やっぱり遠回しじゃダメかぁ……あ、でもこの表現だと……

 

「有鬼子は今でも充分美しいでしょ?」

「…………っ!」

 

 こういうのが急に飛んでくるからなぁ……無自覚に。私が無防備な時に。

 

「でも、有鬼子を食べるのか~………………ベッドの上で?」

「あぁぁ!今のは忘れて!」

「ビッチ先生に毒された~?(ニヤニヤ)」

 

 確かに半分くらいはそういう意味も含まれてもおかしくないことに言った気付いたけど!気付いたけど!あぁぁ!そのニヤけ顔はやめてぇ!

 

「……ダメだよ、有鬼子。そういうことを簡単に言ったらさ」

「…………え?」

 

 ……あれ?いつもの風人君なら、あのままニヤけながら失礼なことを言いそうなのに、いつになく真剣な顔だ。

 

「……少なくとも今の僕にそんなことは出来ないよ」

 

 何故だろう。風人君の眼が一瞬……

 

「あ~着いたよ~ほら、入ろうよ~」

 

 手を引いて服屋に入る風人君。

 私は風人君を知っているようで何も知らない。

 今までも時々思ってたけど……君は何を隠してるの?君に何があったの?君は……何を考えてるの?



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ダブルデートの時間 当日 午前

 昨日はあれから、服屋で有鬼子のファッションショーとゲーセンで軽く遊んだ。

 そして、当日になりました~

 

「風人君?忘れ物ない?」

「もちろん~」

 

 二人とは現地集合となっている。理由としては丁度いい集合場所がなかったからという単純な理由。まぁ、こればかりは仕方ない。

 それで、電車を使い、駅で降りて少し歩いた先に目的地がある。

 

「あ、風人~有希子ちゃん~こっちこっち」

 

 プールのところに入る手前で、手を振る人影が二つ。決して知らない人じゃない。

 

「涼香~……っと、懐かしの雷蔵~」

「久し振りですね。風人」

「おひさ~」

 

 うーん。やっぱり雷蔵は背が高いなぁ。カルマと同じかそれ以上?

 

「じゃあ、四人揃ったし自己紹介しよっか」

「えぇ~めんどー」

「風人はしなくていいですよ。全員の共通認識でしょうから」

 

 あ、そっか。というか、自己紹介という名の有鬼子と二人の挨拶だね~

 

「では僕から。僕は篠谷(しのたに)雷蔵(らいぞう)。風人の前の学校の親友というポジションです」

「自分で言っちゃうんだ~。それ」

「はい。あ、今は涼香さんとお付き合いさせていただいてます。どうぞよろしく」

「私は岩月涼香。改めてよろしくね。有希子ちゃん」

「わ、私は神崎有希子です。今日は誘ってくれてありがとうございます」

 

 うーん。少し緊張してるのかな~ま、いつか慣れるでしょ。

 

「というわけでさっそく乗り込むよ!」

「おぉ~!」

「走ってこけないで下さいよ。特に風人」

「あはは……」

 

 色々と手続きじゃないけど済ませて、更衣室へ。僕と雷蔵はのんびり着替える。理由としてはどうせ女性陣は着替えとか諸々やることが多いからどうせ時間かかるということ。

 

「クスッ」

「どうしたの~雷蔵」

「いえ。神崎さんが風人の今の学校の御目付け役ですか」

 

 何で皆有鬼子のこと御目付け役とか言うのだろう?僕は何も悪いことしてないのに。

 

「彼女はだいぶ風人の扱いに慣れてるね」

 

 僕は扱うのが難しいモノだろうか?

 

「僕なんか。風人の扱いなんてイマイチなのに」

「それは~雷蔵が甘いからだよ~」

「そうですね」

 

 雷蔵はだいぶ甘いと思う。

 

「そうそう~僕が余分なこと言っても説教されないし」

「説教……ですか?」

「そーだよ~聞いてよ。有鬼子さぁ!僕が余分なことを言うと説教してくるんだよ!」

「ほぅ。そのような存在が彼女の他にもいましたか」

「やれやれだよね~僕はこんなに真面目に生きてるのに~」

「真面目ならサボることなんてありませんよ」

「じゃあ、『サボり系真面目男子』として」

「サボりと真面目は両立するとは僕には考えられませんが?」

 

 うーん。言われてみれば確かに。

 

「まぁ、君という存在は僕には扱い切れない。故に僕は君の御目付け役にはなれません」

「またまた~僕らはそんな関係じゃないでしょ~」

「はい。友人……いえ、親友ですからね。さ、行きますよ風人。涼香を怒らせるのは厄介ですから」

「……彼氏がそれ言っちゃう?」

「もちろん。言いますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方の女子更衣室。

 

「今日はありがとねー。わがままに付き合ってもらってさ」

「いいですよ涼香さん。風人君と出掛ける口実が作れましたので」

 

 さすがに、普段の買い物はともかく、こういうプールとかに誘う勇気までは出なかった。渡りに船というかまぁ、運が良かった。

 

「あー雷蔵君は気にしなくていいよ。彼、見たまんまの子だから」

「見たまんま……」

「そそ。紳士というか、まぁ敬語使ってるけど癖だから距離とかを感じなくても大丈夫だよ」

 

 確かに、篠谷君、燕尾服とか似合いそう。うちのクラスでいうと磯貝君が近いかな?

 …………というか。

 

「んー?どうしたの?有希子ちゃん」

 

 …………涼香さん。胸大きいなぁ……着痩せするタイプだったんだ。

 

「有希子ちゃん。心配しないで。風人。胸の大きさなんて気にしてないし、それこそ貧乳の方がタイプだから!」

 

 親指を立ててグーって感じでやってくる。

 

「……あーそう言えばそんなこと言ってたなぁ」

「へぇ。風人言ってたんだ」

「うん。…………私が説教中に」

「あはは……。風人らしい」

 

 本当に最初は説教中にそんなこと言うとかどういう神経してるんだろうとか思ったけど、今となっては風人君だしなぁって思い始めた。もう半分諦めの域だ。

 

「そう言えば篠谷君と風人君は友達なの?」

「うん。そうだよ。まぁ、あの二人はちょっと拗れてる部分あるけど歴とした友人だね」

「拗れてる部分?」

「まぁ、二人の性格の問題だから。気にしなくていいよ~さ、行こうか。風人の相手を雷蔵君に任せっきりも忍びないしね」

 

 従兄弟とは思えない発言……いや、従兄弟だからこその発言かな。

 とりあえず、涼香さんに付いていかないと。

 

「後、あの二人を長く放置しておくと厄介なことになるよ」

「……え?それはどういう――」

 

 ――こと。と続きが出てきませんでした。なぜなら。

 

『ねぇ君たち暇?』

『私らと遊ばない?』

『ねぇーいいでしょ?』

 

 風人君と篠谷君は数人の女の人に話かけられていました。

 

「はぁ。やっぱり。あの二人タイプが違うから色んな女性から狙われるんだよね……」

「……どういうことですか?」

「うん。まぁ、私が言うのもアレだけど。雷蔵君は高身長のクール系イケメン、風人は見た目()()なら中性的で割と小柄な可愛い系。だから、二人の容姿はある意味で二極。どっちかがタイプって女性は結構多い。しかも雷蔵君のお陰でパッと見高校生にも見えるってわけ。高校生なら狙ってもいいっていう話かな」

 

 まぁ、それに風人は性格見ても最初だけなら寛容出来るだろうしね、と続けたらしいが私の耳に入ってはこなかった。

 

 風人君……逆ナン……女性……

 

「ゆ、有鬼子……」

「お待たせ風人君。すみませんねお姉さん方。彼らは私たちのツレなので」

 

 お引き取り願いますか?という意味を込めて、笑顔を向ける。

 女性陣は一瞬硬直し、早歩きでその場を去っていく。

 

「なるほど。笑顔で威圧して避けるとは涼香さんには出来ない芸当ですね」

「有希子ちゃん凄いね。何も言わせず立ち去らせるとは」

「そう……かな?そうでもないと思うけど……」

「有鬼子。殺気が駄々漏れだったよ~」

 

 まただ。最近クラスの子はともかく、見知らぬ女性と風人君が話している(一方的でも)のを見るとどうにも抑えられないこの気持ち。やっぱり、嫉妬かなぁ……

 

「でもまぁ、あんなおばさんより有鬼子の方が可愛いから~」

「可愛い……」

「風人。あの人たちはおそらく大学生くらいですよ」

「え?おばさんじゃん」

「はぁ。君って人の感覚は……いいですか?とりあえず自分より年上の人に誰でもおばさんと言うのはやめましょう」

「安心してよ雷蔵。年上に見える人にしかおばさんって言ってないからさ」

「ダメです。それで同い年か年下だったらどうするんですか?」

「まぁ、年上に見えた方が悪いと言うことで、ここは一つ」

 

 風人君の価値観。自分より年上は皆おばさん。いや、正確には自分より年上に見えたら全員おばさん。

 ……あーだから初対面の時におばさんねぇ……。おばさん……。おばさん…………。

 

「ふにゃ。なにするのさ~」

「ごめんね。ちょっと思い出しただけだから……!」

「何を思い出したか知らないですけど顔を鷲掴みにするんじゃないです~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とまぁ、理不尽な制裁を喰らった僕である。

 やれやれ。僕が有鬼子をおばさん扱いしたことなんて一度もない……?あれ?ないよね?うん。ないはずだ。(※真面目な方で忘れてます。ネタではありません)

 

「ところで男性陣さぁ」

 

 僕らは四人で軽く体操してから移動中である。そんな中、涼香が話を切り出す。

 

「私たちの水着の感想とかないの?」

 

 あーなるほど。

 

「雷蔵。任せた~」

「風人が言うんです」

「えぇー」

 

 昨日言ったんだけど……また言うの?

 

「よし、じゃんけんしようか~」

「風人が負けたら言ってくださいね」

「僕が勝ったら雷蔵が言ってね」

「「最初はグー。じゃんけん。ぽん」」

 

 出されたのは僕と雷蔵がチョキ。誰かの手がグー。つまり、僕と雷蔵の負けだ。…………ん?二人でじゃんけんしたはずなのに……何故に手が三本?一本多くない?

 

「雷蔵。手二本使うとかずるいよ~」

「僕がそんなことするとでも?僕じゃありませんよ」

「え?」

 

 じゃあ、あと一本の手は一体……

 

「風人?雷蔵君?」

「涼香さんの勝ちで二人の負けだね」

 

 有無を言わせない空気。まるで、文句を言ったらグーが飛んでくる感じだ。あ、はい。

 

「とてもお似合いですよ。涼香」

「ありがと。雷蔵君も似合ってるよ」

「恐縮です」

 

 と、先にカップル同士のやり取りが行われる。なるほど~

 

「とても鬼合いだよ~有鬼子」

「風人君?私のこと鬼だと言いたいのかな?」

「はい」

 

 そんな滅相もないですよ~

 

「本音と建前が逆だよ?」

「あ、やべっ」

 

 この後、プールに投げ飛ばされました。幸い監視員の人は見てませんでした。よかったです。まる。

 

「って、何もよくない!」

「そう?あ、風人君も似合ってるよ」

「ありがと~有鬼子も入ったら?」

「分かった」

 

 そうして入る有鬼子。大体深さは1mくらいかな?

 

「冷たいね」

「そうだね~」

 

 バシャリと水を掛ける。

 

「きゃっ。やったね」

 

 バシャリと向こうも水をかけようとするが。

 

「ふぅ。避けるのは造作ないね」

 

 横に身体を移動して避ける。

 

((あーあ。やっちゃったよこの空気読めないマイペース野郎))

 

「あれ?今、水の掛け合いをしようとしたんじゃ……」

「僕が一方的にかけて楽しむもん~かけられる必要はないね~」

「へぇ……そう」

 

 再び水をかけようとするが、それを回避。

 

「何で避けられるの!?」

「ふっ。有鬼子の手の動き、掬われる水の量、パワー、スピード、風向きと風の強さ、僕の動くスピードなどなど全て計算に入れたら造作もないね」

 

((これを人は才能の無駄遣いと言う))

 

「なら」

 

 両手ではなく左手だけで振るう。なるほど、これを避けようと動いた時に動いた方向に右手のを振るうつもりかな。でもね、

 

「これで相殺~!」

 

 バシャリと両手で掬った水を当て相殺。それが一瞬の壁となる間に右手だけで掬う。向こうも壁が消えた瞬間に右手で溜めていたのを振るい当てようとする。が、これも相殺する。

 

「……絶対当てる」

「……絶対避ける」

 

 僕らの戦いの火蓋が切って落とされた。

 

((……何だコレ))






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ダブルデートの時間 当日 午後

 僕らの戦いは熾烈を極めた。お互いが本気でやるという普通のカップルの水かけや二次元のイメージするウフフキャハハ的なこととは程遠いことをやり、ちょっと泳いでからお昼にしている。

 

「もう~二人ともどこ行ってたのさ~」

「風人たちと一緒に来たって思われたくなかったので泳いでいました」

「え~?何で~?」

「まぁまぁ、二人ともイチャつけたようで」

「……あれをイチャついていたというのかな?」

 

 うーん。お互いが本気で……何か違くね?多分だけど、

 

「と、ここで今回の最大の目的地へ向かうとしましょう!」

 

 突然涼香が声を上げる。……最大の目的地?

 

「雷蔵。何か聞いてる~?」

「いいえ。初耳です」

「有鬼子は~?」

「ううん」

 

 ……ふむ。四人中三人が最大の目的地を知らないのですが。

 

「もう。ノリが悪いなぁ~」

「いや、何処に向かうかわかんなさ過ぎて乗れないというか……」

「大丈夫。風人の空気の読めなさは知ってるから」

「酷いっ!」

「私はお二人に言ってるから。ね?雷蔵君。有希子ちゃん」

「はぁ。まぁ、涼香が何か企んでるようですし付き合うとしますか」

 

 渋々といった感じだ。どうやら本当に知らないらしい。

 

「まぁ、涼香さんがこのデートの発案人ですからついていきますけど……」

 

 ふむふむ。今回は知らないの僕だけパターンはないようだね!

 

「じゃあ、皆付いて来てね……特に風人」

「はぁーい……あ、あっちからおいしそうな……」

「有希子ちゃん手を繋いであげて。デートでしょ?」

「えぇ!?あ、う、うん……」

 

 と、何かいつも通りな気がするけど。あ、いつもは首根っこ掴まれてズルズル引きずられるか。じゃあ違うね!

 

「で、これなに~?スライダー?」

「ふっふっふっ。よくわかったね風人」

 

 いや、誰がどう見てもスライダーじゃん~プール定番の。

 

「でもここのスライダーちょっと普通とは違うんだな~」

 

 普通とは……違う?

 

「えーっと涼香さん。何が違うの?」

「やれやれ、周りを見ても何も気付かないとは」

 

 周り?うーん。よく見ると並んでる人皆男女一組のような……後、何か露骨にハートマークがついてるようなぁ。

 

「雷蔵君答えを」

「ズバリ。カップル専用スライダーですね」

「正解~」

「か、カップル専用スライダー!?」

「ほへぇ~」

 

 なるほど、有鬼子は動揺しているようだけど、何というか……そのまんま過ぎて拍子抜け?

 

「じゃあ、いってらっしゃい~」

「え?風人も行くんだよ」

「え?」

「風人と有希子ちゃんで乗れば解決~」

「あ、そっか~なら解決だね」

 

 確かに。それなら解決だね。

 

「涼香頭いい~」

「褒めないでよ風人。ほら、有希子ちゃんと先乗っていいよ」

「わーい。優しい~」

 

(……あ、涼香さんに逃げ道潰された。しかも風人君一切気付いていない)

 

「なるほど。急にプール行きたいって言ってた目的はこれですか」

「ほうほう。そうだったんだ~」

「まぁ、風人も楽しんでください」

「言われなくとも!」

 

 楽しむに決まってるじゃん~

 

「涼香さん!?こんなこと聞いてないですよ!?」

「え?だって言ってないもん」

「そ、そんなカップル専用のスライダーなんて心の準備が……」

「大丈夫!男性陣がどう思ってるか分かんないけど私も凄い恥ずかしいから!」

「何も大丈夫じゃないですよね!?」

「そういう日もあるよ」

 

 何か女性陣がコソコソ話してるけど、周りの声も合わさって上手く聞きとれないなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あああああぁぁぁぁぁ。凄い恥ずかしかった。穴があったら入りたい……

 

「あー面白かった~」

「そ、そうだね……」

「顔紅いけど焼けた?」

「この短時間で焼けないよ……」

 

 いざ乗ると思ってたのより風人君が更に近くで、しかも長い!コースが長いから楽しむことと色々合わさって……あぁ。でもまぁ、楽しかったのは事実だ。

 

「あ、雷蔵~涼香~終わった?」

「はい。たった今」

「楽しかったよ~……ふーん。そっちも楽しかったようで」

 

 涼香さんが私を見ながらニヤニヤした様子で言ってくる。もう!

 

「そういう涼香さんも楽しかったんでしょ?」

「まぁね」

 

 言われたからこっちもお返し。そういう涼香さんも乗る前より顔が紅くなってるのは私にはバレバレだ。

 

「で、次はどこ行くのですか?涼香さん」

「うーん。特に決めてなかったんだよね……雷蔵君はどこ行きたい?」

「そうですね……風人が何か行きたい場所があるって言ってましたけど」

「うん~そこに行こうよ~」

 

 風人君が行きたい場所かぁ……おそらく普通の流れるプールとかでないのは自明だろう。

 

「ここだよ~」

「え?」

 

 そう言ってやって来たのは飛び込み台。1m、3m、10mの三つが用意されている。何で3の次が10なんだろう?

 

「じゃあ行ってくるね~」

「い、いってらっしゃい」

 

 風人君が小走りで楽しそうに向かったのは10mの飛び込み台。

 

「まぁ、あそこ以外行かないよね……予想通りというか何というか」

「あはは……あ、雷蔵君は行かないの?」

「僕は風人とは違うのでね。ほら見てくださいよ」

 

 指さす先には風人君が並んでいるところ。1mと3mにはある程度の人が並んでいるのに対して10mは数人だ。しかも、

 

「上に行ってから長いよね」

 

 その人たちも上に行ってすぐ飛び込むなんてことはしない。おまけに戻ってくる人までいる始末。

 

「それはそうですよ。10mというと三階建ての建物とかマンションの三、四階が相当します。しかも、人の目線の高さを考えるとざっと11.50mの高さに見えるはずです」

 

 そっか、外から見たら10mでもその上に立つ人にとっては僅かとはいえ自分の目線の高さ分足されているんだ。恐怖はあそこに立った人しか分からないだろうけど怖いに違いない。

 

「まぁ、でも」

 

 そんなこんな言ってると風人君が上がっていった。大丈夫かな……?

 

「風人というバカは躊躇なんてしないでしょうね」

「だよね~」

 

 風人君は説明を聞いてたのか知らないけどちょっとしたら台のところに立ってそのまま……

 

 パチパチパチパチパチパチ

 

 何か、空中で前転みたく何回転かしたりして、着水まで完璧にこなしていた。さっきまでの人たちとは大違いだ。そのせいか見た人は思わず拍手する結果に。

 

「あー面白かった~!もう一回やろ~」

 

 と、走ってもう一回行く風人君。

 

「……ねぇ、篠谷君。涼香さん。風人君って別に飛び込みの選手じゃないですよね?」

「もちろん。それどころか飛び込みをすること自体今回が初めてですよ。恐らく」

 

 ……何だろう。純粋な泳ぎは片岡さんより速いわ野球もホームラン打ったりするわ飛び込みでさながら演技しているように飛ぶわ本当に何者なんだろう?

 

「おー次は後ろ向きに飛ぶみたい」

「えぇっ!?」

 

 さ、さすがにそれは危険じゃ……と思ったら、何か後ろ向きに二回転半して、さらにひねりで回転を加え綺麗に着水。

 

「さすが天才という名の化け物」

 

 風人君曰く、何か前にテレビでやってたのを見て真似したとのこと。いや、真似したでアレが出来るなんて……何というか恐ろしい。まぁ、カッコよくはあったんだけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~楽しかったね。有希子ちゃん」

「そ、そうですね……」

 

 あの後風人君は飛び込みの選手か?と聞かれていたり何かもう大変だった。後、私と涼香さんがトイレ行って戻ってくると朝以上に女性陣が集まっていたり本当に手のかかる。

 

「やっぱ風人は変わってないね。そーいうとこ」

「あはは……」

 

 あれ昔からだったんだ。

 

「でも、有希子ちゃんみたいな人でよかった。風人の御目付け役が。というか、風人が見せた写真と有希子ちゃん。全然違って驚いたよ」

「写真?」

 

 そういえば尾行した時言ってたなぁ。それは去年のしゃし……ん?………………ん?去年の?

 

「そうそう。サバサバした服に化粧に髪まで染めて。ちょっとした不良かと思ったよ」

「あはは……」

「でも、性格は優しそうだし、ちょっとくらい黒い部分がないとやってけないよね~」

 

 そもそもいつ撮ったんだろその写真。今度問い詰めて吐かせようか。いや、一層のこと拷問でもしようか。

 

「ねぇ、有希子ちゃん。風人にいつ告白するの」

「ふえっ!?い、いや、夏休み中に告白できたらいいなぁ~とは思ってるけど……」

 

 この前の尾行の時も言われたけど、確かにこのまま待つだけじゃダメだな~って。

 

「そうだね……来週とか空いてる?」

「来週ですか?最初はクラスで学校の旅行というか合宿があるので無理ですがその後なら」

「じゃあ、その時にお茶しない?それに、ちょっと大事な話があるから」

「大事な話……ですか?」

「うん。あぁ、そこまで気にしなくていいよ。それと、こっちは雷蔵君は誘うけど風人は絶対誘わないでね」

「は、はぁ……」

 

 風人君は誘っちゃダメ?うーん。どういうことだろう。

 と、着替えも終え私たちはプールが出ます。そこから家に帰って一日は終わりましたが……うーん。涼香さんの話が気になる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも、この合宿というか旅行。私たちの誰もが想定しえない事態が起こり、私の頭からこの疑問はどこかへ消えてしまうのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日……

 

「あの~有鬼子さんや。何故僕はまた正座させられているのでしょうか?後、手足も縛られてるのですが……」

「何でだと思う?」

「うーん。あ、有鬼子の趣味」

「一枚(ニッコリ)」

「ぎゃあああ!?重石が膝の上に!?」

「ヒント。写真」

「写真…………?あ、涼香に見せた写真かな~」

「良くわかったね」

「えっへん。というわけで重石をどかしてくれると嬉しいです。いえ、どかしてください。お願いします」

「で?その私の去年の写真……いつ撮ったのかな?」

「うーん……ひ・み・つ♪」

「二枚(#^ω^)」

「ぎゃああああ!?この鬼ぃ!」

「三枚(^_^メ)」

「ぎゃあああああ!?ゆ、有鬼子!今ならこの悪戯も許してあげるのでマジでこの重石をどけてください!いや、本当にお願いします」

「悪戯?何言ってるの?……ただの本気だよ」

「あ……」

 

 その後、僕がどうなったのか……名誉の為に伏せておこう。

 ちなみに、最後は写真を消されました。存在を消されなかっただけまだマシです。



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島の時間

今日はバレンタインデーと呼ばれる奴ですね。
まぁ、暗殺教室本編でバレンタインデーの話はやりますので……いつになるか分からないけど。
というわけで、短編を。

『チョコ』

「風人君。はい」
「コレ何~?」
「甘いもの好きでしょ?だからチョコレート」
「わーい。ありがと~」
「どういたしまして。ちなみに手作りだよ」
「て、手作り……?」

(まさか、毒か何か入ってるのか?市販じゃなくて手作りってまさか、本気で僕を殺しに来たのか。ヤバいヤバい。何が入ってるんだ?)

「ちょっと凝って作ったから味わって食べてね」

(凝って作った?それは毒を?それともチョコを?一体何を凝って作ったんだ!?)

「は、はーい。そういえば、誰かと作ったりしたの~?」
「あー奥田さんも一緒に居たよ?後、中村さん」

(その二人はダメな組み合わせだーーーーーー!)










 結局、毒とかそういう系は一切入ってなくて普通に美味しかったです。まる。


 今日は待ちに待った旅行。南の島での暗殺の日。今は僕らは暗殺の舞台となる沖縄の離島に向けて船で移動している最中である。

 

「にゅやァ……船はヤバい、船はマジでヤバい。先生、頭の中身が全部まとめて飛び出そうです」

 

 殺せんせーだらしないなぁ。一人デッキにもたれかかっている。あぁでも殺せんせーが乗り物に弱いのはいつものことだ。

 

「あ、起きて起きて、殺せんせー!見えてきたよ!」

 

 水平線を眺めていた倉橋さんが振り向き、ナイフを横薙ぎしつつ殺せんせーを呼んでいる。僕も船の前の方でのんびり海を眺めている。

 

「東京から六時間!」

「殺せんせーを殺す場所だぜ!」

「「「島だぁ!」」」

 

 本当に島があるんだなぁ。さっきから水平線しか見えてなかったけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、島、正式名称普久間島と呼ばれているこの島についた僕らは、サービスのトロピカルジュースを一人ずつホテルのスタッフのおっちゃんに配られ、その後は班ごとに分かれて殺せんせーと遊ぶ……のと同時に暗殺の下準備をしていた。下準備というか、下見というか。

 

「何ですか先生。その模様は」

「日焼けしました。グライダーの先端部分だけ影になっていて」

 

 さっき、磯貝君率いる一班がグライダーに乗って遊んでたっけ?……まさか、一機だけ性能違ったと思ってたけど殺せんせーが操っていたのか。納得納得。

 

「さて、君たち四班はイルカを見るそうですね」

「はい」

 

 僕らの班の面子は、僕、有鬼子、奥田さん、原さん、不破さんだ。修学旅行の時とは変わっている。まぁ、下準備も兼ねているから人数を減らして班数増やした方が賢明だよね?

 ちなみにこの班の役目は主に下見と僕の監視だそうだ。曰く、今回の暗殺は綿密なプランに基づいているから、準備段階で僕に何か面倒事をされては困るとのこと。酷いなぁ。僕でもそんなことしないのに……多分。きっと。おそらく。

 

「でも、船だけど大丈夫ですか?」

「問題ありません」

 

 すると、着替えたのか魚のような服装に……

 

「私は泳いでいくので」

「せんせー!面白そうだから上に乗っていい?」

「ヌルフフフ。いいですよ。落とされないよう気を付けて下さいね」

 

 わーい。

 

「いぇーい!」

「ひゃっほーう!」

 

 と、僕らはイルカと並んで一緒に泳いでる(正確には泳いでるのはせんせーだけ)いやぁ~楽しいね。皆もやればいいのに。

 

「ねぇ、神崎さん。アレは放っておいていいの?」

「う、うん……あそこまでいくと手に負えないからね」

「で、でもお陰で他の班に注意は絶対に向かないと思いますよ!」

「それ、いいように解釈してるだけだよね?」

「それにしても、運動神経高いねぇ。殺せんせーの上で器用にバランス取って」

「あはは……時々人間か怪しくなるよね」

「というか、最初から水着着ていたようだけど殺せんせーに乗る気満々だったの?」

「でも、殺せんせーが泳ぐとは考えてなかったと思うけど……」

「いえ。もしかしたらですけど……イルカを捕まえるつもりだったのでは?」

「「「ありえそうで怖い……」」」

 

 尚、女性陣はこの光景をもうどうしようもないって感じで見ていたことを記す。酷いなぁ。最初はイルカに乗って泳ごうと思ったけどそれが殺せんせーに変わっただけなのに。

 と、遊び終え、陸に到着。殺せんせーは次の班に向かった。

 

「いやぁ~楽しかった~殺せんせーに乗って泳ぐの」

 

((((あれ?イルカ鑑賞が目的じゃなかったっけ?))))

 

「うーん。ちょっと、シャワー浴びてくるね~」

 

 と、僕は走ってシャワー室の方へ向かう。

 

「……確かに。殺せんせーに警戒は必要だけど和光君にも警戒が必要だね」

「そうだね。主に余分なことしないかと言う意味で」

「でも、その辺は弁えてると思いますよ?……多分」

「はぁ。着替え置いていってるし、持ってってあげないと」

 

 後ろで何言ってるかは知らない。けど、いいや~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして各々が殺せんせーにバレないように暗殺の全ての準備を終えた。気付けば日は沈み始めている。

 

「いやぁ、遊んだ遊んだ。おかげで真っ黒に焼けました」

 

 島を満喫した殺せんせーは身体の表面……どころか何故か歯とか目(耳?それとも鼻)まで文字通り真っ黒だった。おかしいな?歯って日焼けするっけ?というか、もうせんせーの表情が読み取れないんだけど。全身真っ黒過ぎだ。日焼けというより誰か火炙りしたんじゃない?

 

「じゃあ殺せんせー、飯の後に暗殺なんで」

「はぁい。まずは船上レストランへ行きましょう」

 

 磯貝君が先導する中、鼻歌交じりの気分浮き浮きな殺せんせーとともに浜辺を後にする。まぁ、これが最後の晩餐。最後の楽しみになる予定だからね。最後くらい楽しんでもらわないと。

 そのまま皆で移動した先は船。まぁ、船上レストランだし、当然だね。

 

「夕飯はこの貸し切り船上レストランで、夜の海を堪能しながらゆっくり食べましょう」

「……なるほどぉ。まずはたっぷりと船に酔わせて戦力を削ごうというわけですか」

「当然です。これも暗殺の基本の一つですから」

 

 まぁ、多少は船酔いさせれば色々と後が楽になる……はずだよね?ね?

 そんな僕らの暗殺に対するまっすぐで貪欲な姿勢に殺せんせーも多分だけど真面目な表情を作って返してくる。

 

「実に正しい。ですがそう上手く行くでしょうかぁ?暗殺を前に気合の乗った先生にとって船酔いなど恐れるに――――」

「「「だから黒いわ!」」」

 

 とうとう殺せんせーの日焼け(もう日焼けってレベルじゃない)に皆からツッコミが入った。もうどっちが顔でどっちが後頭部かも分からない。ダメだこりゃ。

 

「そ、そんなに黒いですか?」

「表情どころか前も後ろも分かんないわ」

「ややこしいからなんとかしてよ」

 

 中村さんと片岡さんの言い分も分かる。普段から全身単一色だけど、せんせーの目と口は何処にあるか把握出来たから顔が分かった。ただ、日焼けでそれらまで黒く塗りつぶされたんだ。よし、色ペンで目と口を書こう。

 

「せんせー。色ペンかして~歯と目と塗るから」

「無理だろ。そもそも殺せんせーに塗っても黒すぎて分かんなくなるだろ」

「えーじゃあ、せんせー文字通り一肌脱いだら~?」

「ヌルフフフフ、それは名案ですね風人君。先生にはそう、脱皮があります。黒い皮を脱ぎ捨てれば……ホラ、元通りの黄色に!」

 

 一瞬にして脱皮した殺せんせー。元のせんせーへと早変わりした。

 

「あ、月一回の脱皮だ」

 

 殺せんせーは脱皮した皮を見せびらかすように掲げて言葉を紡ぐ。

 

「脱皮にはこんな使い方もあるんですよ。本来はヤバい時の奥の手ですが…………あっ」

 

 途中で言葉が途切れた殺せんせー。顔から汗が出始めた。その汗は冷や汗に相当するものだろう。

 

「あああぁぁっ!?」

「あーあ。これでキーカードを一個失ったね……まぬけでしょ~」

 

 殺せんせーは顔を触手で覆って項垂れてしまう。

 うーん。何でこんなドジを僕ら殺せてないんだろう?

 

「というか~よく食うね~せんせー」

 

 エビとかって殻は食べないんだよ?知ってた?でも、殺せんせーには満腹になってもらわないと。満腹になれば警戒も薄れるでしょう。

 

「風人君。分かってるよね?」

「分かってるよ~」

 

 ちなみに、僕は満腹まで食べる気はない。満腹になるとこの後の暗殺に支障が出てしまうからね。

 僕らの最大規模の暗殺。クラス全員でやる総がかりな暗殺ははじめてかな?結果は神のみぞ知る的な……?



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暗殺決行の時間

 食事を終えた僕らは、ホテルの離れにある水上チャペルに移動していた。

 

「さぁて殺せんせー、メシの後はいよいよだ」

「会場はこちらですぜ」

 

 四方は海。中に入っても壁とかがあり、逃げ場はないだろう。逃げるにはリスクがつきものだろうし。

 

「さぁ席につけよ、殺せんせー」

「楽しい暗殺、まずは映画鑑賞から始めようぜ」

 

 中に入るとテレビの横に立つ三村君と岡島君。

 殺せんせーは逃げ場がないことを分かってもまだ余裕そうだ。

 

「まずは三村が編集した動画を見え貰って、その後に触手の破壊権利を持った八人がせんせーの触手を破壊。それを合図にクラス全員で暗殺開始。これでいいですよね?殺せんせー」

「ヌルフフフ。上等です」

 

 ちなみに三村君と岡島はみんながご飯食べてる時も編集作業をしていた。お疲れ様です。

 そんな中、渚が殺せんせーに近づく。

 

「殺せんせー、まずはボディチェックを。幾ら周囲が水とはいえ、あの水着を隠し持っていたら逃げられるしね」

「入念ですねぇ。そんな野暮はしませんよ」

 

 あの水着というのは昼間に使ってたあの水着だ。完全防水かつたとえマッハで泳いでも耐えられる優れものだそうだ。

 

「さて、準備はいいですか?……遠慮は無用。ドンと来なさい」

 

 皆の表情が引き締まる。

 

「始めるぜ。殺せんせー」

 

 岡島が電気を消した。暗殺は既に開始している。

 僕は触手を破壊する権利を持ってる故、クラスの暗殺のトリガーとなる一人。殺せんせーや他の七人と共に動画を見ている。他の人たちは人数を把握させないようチャペルを出入りしている。……多分、千葉君と速水さんがここにいないことはバレバレだろうけどそれぐらいだったら支障はない。

 にしても、選曲といいナレーターといい三村君凄いなぁ。ついつい僕もこの画面に引き込まれ、

 

『…………買収は……失敗した』

 

 ……今写ってる画面は、トンボに擬態?している殺せんせーが顔をピンクにしながらエロ本の山の上でエロ本を読んでいる映像である。

 

「失敗したぁぁああっ!?」

 

 いや、何で買収したんだよアンタは。 

 その後も、女性限定のケーキバイキングに並んで連行されたり(アンタ何やってんの?)、無料のポケットティッシュを大量に貰って揚げて食ってたり(絶対美味しくないよね?それ)と、先生として……いや、生物としての尊厳がなくなるような動画を一時間見続けた……結果。

 

「せ、せんせー死にました……」

 

 精神的にだいぶやられたようだ。

 

『――――さて、極秘映像にお付き合い頂いたが』

 

 何だろう。二学期の終わりとかにバージョン2とか出来てそう。

 

『何かお気付きでないだろうか?殺せんせー』

 

 その言葉と同時に気付いたようだ。……床が既に水面下にあることに。誰も水を流す気配がしなかったのと映像のせいで分からなかっただろう。

 

「誰かが小屋の支柱を短くでもしたんだろ」

「船に酔って恥ずかしい思いして海水吸って……だいぶ動きが鈍ってきたよねぇ」

 

 席を立った僕ら八人は一斉に銃を構えて殺せんせーと向き合う。

 

「さぁ本番だ。約束だ、避けんなよ」

 

 寺坂の言葉。そして、

 

「開始!」

 

 磯貝君の合図で僕らは一斉射撃。そして、五秒後にはチャペルの壁が取り払われる。

 

「にゅや!」

「驚いてる暇はないよ~殺せんせー!」

 

 すかさず間合いを詰めて対せんせーナイフで攻撃を仕掛ける。殺せんせーが逃げようと周りを見渡した時、何人かのE組の面子が、水中から飛び出てきた。

 チャペルからフライボードによる水圧のオリへと環境を一瞬で変化させる。これにより触手の反応はさらに落ちる。

 しかも、上はみんなが肩を組んで一定の高さを保つために逃げられず、横は既に水の勢いが強く逃げだせない。無論、下は論外。

 

「ほらほら!いつもより遅すぎるよ!」

 

 これぐらいの速度なら見える。

 そんな中、触手破壊組の残りの七人はオリの外に。代わりに出てきたのは、

 

『射撃を開始します。照準・殺せんせーと風人さんの周囲1m』

 

 律である。律と外に出た七人が僕らの周りを囲むように射撃を行う。

 せんせーは当たる攻撃には敏感だ。だから、僕は囮でありとどめだ。僕一人がクラスの中で殺せんせーを殺そうと攻撃している。だから、僕に注意を多く向けさせ思考時間を作らせない。皆が張った弾幕に当たっても問題はないしね。

 

「ははっ。遅いよ~!」

 

 ナイフを軽く上に投げ、上を向いた一瞬の隙にしゃがんで足に貼り付けたナイフで攻撃。そのままバク転の要領で起き上がり落ちてきたナイフを蹴り飛ばして当てようとする。

 

(やはり、彼の動きは読めない。だが、彼は囮。最後のトドメを行うであろうスナイパー二人に意識を向けないための役回りだ。だから、そこを警戒していれば……)

 

『……ゲームオーバーです』

 

 来た。僕は床に落ちてるナイフを拾うためにしゃがむ。極自然に、そして素早く。これなら、殺せんせーに銃弾が……

 

 次の瞬間。

 

 殺せんせーの身体が激しい閃光と共に弾け飛んだ。

 

「うわぁ!?」

 

 そんなの予期してなかった僕は。思い切り吹き飛んで海に落ちた。皆も衝撃で吹き飛ばされている。

 でも、これは……

 

「大丈夫?風人」

 

 カルマがやって来る。

 

「うん~でも、これは……」

 

 今までとは違う。本当にやれたか?

 

「油断するな!奴には再生能力もある!磯貝君、片岡さんが中心になって水面を見張れ!」

「「は、はい!」」

 

 烏間先生からの指示が飛ぶ。とは言え、あそこから避けれたとは考えにくい。間近で見てたがあれは避けられないはずだ。

 

「あ、あれ!」

 

 茅野さんが指を指す。海面に気泡が出てきてその数は徐々に増え……

 

「ふぅ~」

 

 ……何か現れた。殺せんせーの顔が小さくなって現れた。

 

「これぞ先生の奥の手中の奥の手、完全防御形態です」

 

(((完・全・防・御・形・態?)))

 

 もうわけわからん。

 

「外側の部分は、高密度に凝縮されたエネルギーの結晶体です。肉体を思い切り小さく縮め、その分だけ余分になったエネルギーで肉体の周囲をガッチリ固める。この形態になった先生はまさに無敵」

 

 何そのチート。火山にぶち込んだら変わるかな?

 

「そんな……じゃ、ずっとその形態でいたら殺せないじゃん」

 

 まさしくその通りだ。

 

「ところがそう上手くは行きません。このエネルギー結晶は約一日ほどで自然崩壊します。その瞬間に先生は肉体を膨らませ、エネルギーを吸収して元の身体に戻るわけです。裏を返せば結晶が崩壊するまでの約一日、先生は全く身動きが取れません」

 

 つまり、自力で解除できないのかその形態は。……そりゃあ奥の手中の奥の手か。

 

「これは様々なリスクを伴います。最も恐れるのは、その間に高速ロケットに詰め込まれて、遥か遠くの宇宙空間に捨てられることですが……」

 

 そっか。確かにそれは凄いなぁ。

 

「その点は抜かりなく調べ済みです。二十四時間以内にそれが可能なロケットは今世界の何処にもない」

 

 これは完敗だ。どうすることもできないね。

 

「チッ、何が無敵だよ。何とかすりゃ壊せんだろ、こんなもん」

 

 寺坂が殺せんせーをレンチで叩く。……何で持ってたの?そんなもの。

 

「ヌルフフフフ、無駄ですねぇ。核爆弾でも傷一つ付きませんよ」

 

 あぁ、なんて残念だ。殺せんせーは僕らの様子を見て余裕そうにしているけど……あぁ、残念。

 

「そっか~弱点ないんじゃ打つ手ないね」

「だよね~あー本当にずるいよね~」

 

 陸に上がった僕ら二人。とりあえず、寺坂に殺せんせーを投げ渡すように要求する。

 受け取ったカルマは自身のスマホを殺せんせーの前に見せて、

 

「にゅやぁぁああ!手がないから顔が覆えないんです!」

 

 さっきのビデオを見せていた。

 

「ごめんごめん。じゃ、取り敢えず……そこで拾ったウミウシもくっつけといて」

「じゃあ、僕の拾ったウミウシもつけておくよ~」

「あと誰か不潔なオッサン見つけてきてー。これパンツの中に捩じ込むから」

「ついでにウミウシも~あー他の生き物でもいいよ~」

 

 さっき以上に楽しむ僕ら。しかし、あまりのことにクラスの皆もノリが悪い。

 そんな中、烏間先生が僕らから完全防御形態の殺せんせー(無抵抗弄り放題のおもちゃ)を取り上げる。

 

「……取り敢えず皆は解散だ。上層部とコイツの処分法を検討する」

「ヌルフフフフ、対先生物質のプールの中にでも封じ込めますか?無駄ですよ。その場合はエネルギーの一部を爆散させて、さっきのように爆風で周囲を吹き飛ばしてしまいますから」

 

 烏間先生が苦虫を噛み潰した顔をする。当然だ。殺せないし、打つ手がないのだから。

 

「ですが皆さんは誇って良い。世界中の軍隊でも先生をここまで追い込めなかった。偏に皆さんの計画の素晴らしさです」

 

 せんせーは僕らの暗殺を褒めてくれた。でも、誰一人その言葉で浮かれたり達成感を感じる人はいなかった。

 僕らは異常な疲労感と共にホテルに戻った。



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作戦の時間

 殺せんせーの暗殺に失敗した僕らは、各々着替えをしたりして、ホテルのデッキに集まっていた……が。全員が沈んで、体力も使ってまぁ、疲れた感じがする。

 僕もなんだかんだ言って、足元は水が張っていて不安定なところであんなに動いたからなぁ。

 

「大丈夫~有鬼子~?」

「大丈夫だよ。ちょっと疲れただけ」

 

 平然を装ってるが明らかに疲れた様子だ。まぁ、無理もないかぁ。

 というか欲を言えば僕もフライボードに乗りたかった。いや、訓練中に乗ったことあるけど、もっかい乗りたかったなぁ。

 

「しっかし疲れたわ~……」

「自室帰って休もうか……もう何もする気力ねぇ」

「んだよてめぇら、一回外したくらいでダレやがって。殺ること殺ったんだから、明日一日遊べんだろーが」

 

 確かに寺坂の言う通りだが……何かおかしくない?これ。

 

「ねぇ~有鬼子。本当に大丈夫~?」

 

 ついに返事をする気力がないのか?……って、ちょっと待って。有鬼子だけじゃない。明らかに異常をきたしてるのは何人かいる。それも一人や二人じゃない。

 

「……っ!?おい、ひどい熱だよ!」

 

 倒れ込もうとした有鬼子を支える。まさかと思い、周りを見ると、中村さんは渚の前で倒れたし、岡島は妄想だけでヤバい出血量(鼻から)、他にも何人か倒れている。

 それを見た烏間先生がフロントの人に尋ねるも、この島は何分小さいから小さな診療所はあっても病院はない。ッチ。打つ手なしかよ!

 

 prrrrprrrr

 

 そんな中、烏間先生にかかってくる一本の電話。

 

「何者だ?」

 

 烏間先生の顔が渋った。まさか、仕掛けた奴からか。

 

「律!烏間先生の電話を傍受及び通話者の逆探知!流して!」

『はい!』

 

 向こうでも茅野さんが同じようなことをしているが、くっ。何だよ一体。

 

「まさか、お前の仕業か」

『察しがいいな』

 

 聞こえてきたのは明らかに変声機を通したであろう声。

 

『人工的に作り出したウイルスだ』

 

 有鬼子を支えながら床に座らせ、奥田さんと共に近くで倒れてる倉橋さんとの二人の様子を見る。

 人工的に作り出されたウイルス……効果は個人差アリだが潜伏期間は一週間くらい。最後は全身の細胞がグズグズになり死を迎えるそうだ。

 こんな話聞いたことない。予想はしていたが治療薬は一種で犯人の持つオリジナルのみ。

 

「渚、これを先生に。電話の相手の場所だよ」

「うん」

 

 犯人は島にいる。だが、どっちが目的だ?せんせーを殺すことか?それとも僕らを殺すこと?どちらにせよ腑に落ちない点がいくつかある。まず、いつ感染した?三村君が感染者であることから、船上レストランではない。中村さんや寺坂組の半分が感染者であることから、今回の暗殺に置いての役目は関係ない。後は、最初の島での班別行動も、特定の班がかかってるってことはない。有鬼子は倒れたけど僕や奥田さんは感染してない。感染力はそこまで低い……なら、空気感染はないだろう。ということは残るは経口感染。………………なるほど。ウイルスにかかった場所はだいたい分かった。

 オリジナルの毒……となると相手は毒使いか?でもただの毒使いがこんな事するか?それにもしそうなら、相手は単独犯とは考えにくい。複数?いや、そもそもの問題、奴は何で全員を行動不能にしなかった?誰も自分が殺されることを警戒してない。だから、全員に毒を盛ろうとすれば出来たはずだ。一体、何が狙いだ。

 

「くっ……!」

 

 分からない。クソが、何を考えてるんだ一体……!

 通話を終えた烏間先生がテーブルに殺せんせーを抑えつけ怒りをあらわにしている。

 

「磯貝君、片岡さん。いずれにせよこのままの状況もよくない。倒れた生徒を寝かせられるよう布団を引いたり、手は打つべきだと思う」

「それもそうだな」

「分かった」

 

 奴の要求はこのクラスで一番背の低い男女。すなわち、渚と茅野さんに殺せんせーを持って山頂のホテルに来いというもの。

 

「意外に冷静なんだね。風人」

「こっちは有鬼子に手を出しやがった犯人への怒りでどうにかなりそうだよ、カルマ。でも、今回は怒りで解決できる問題じゃない」

 

 今必要なのは、暴力で解決することじゃない。今はこの溢れんばかりの怒りを胸の内に秘め、冷静に思考を張り巡らせることだ。

 

「どうするのがべストだと思う?」

「べストは分からないけど、最終目標は犠牲者ゼロ。無論殺せんせーも含めてだけど。それで終わらせること。最悪、殺せんせー以外が全員助かること。あのタコは僕らのうち誰か一人でも死ねば何が起きるか分からない」

「問題は相手は単独犯ではない。複数犯だ。何人いるかも不明な上に、一人倒しても意味がない」

「倒れたのは十人くらい。残った面子で戦おうにも相手が素人でない限り一人一殺はムリゲー」

「残った面子でいざ戦闘となった時に戦力になるのが俺、風人、寺坂。後は最強兵器の切り札として烏間先生」

「暗殺という意味では、渚にビッチ先生、射撃で千葉君に速水さん。指揮能力で磯貝君、片岡さんくらい。後は一般中学生より何かしらが強い程度」

 

 全員で束になって正面から戦うわけにはいかないしね。

 しかも、烏間先生曰く、あのホテルは裏取引やそういうものの場所に使われてるらしい。政府からの問いかけにもプライバシーの一点張りで答えようとしなくて、そういう裏の人たちを黙認している。いや、正確には政府のお偉いさんが絡んできて警察もうかつに手が出せない。伏魔島とはよく言ったものだ。

 

「そんなホテルが俺たちの味方をするわけがない」

「だね。彼らからすりゃ僕らなんてどうでもいい」

「どーすんスか!?このままじゃあいっぱい死んじまう!こっ、殺されるためにこの島に来たんじゃねーよ!」

「落ち着いて、吉田君。そんな簡単に死なない死なない。じっくり対策を考えてよ」

 

 動揺する吉田君を倒れている原さんが宥めて冷静さを取り戻させていた。でも、空元気だろう。それにタイムリミットが一時間しかない。じっくり対策を考えている時間もない。

 

「でも言うこと聞くのも危険すぎんぜ。一番チビの二人で来いだぁ?このちんちくりん共だぞ!?人質増やすようなモンだろ!」

 

 寺坂が渚と茅野さんの頭を叩く。言い方はあれだが、寺坂の言う通りだ。渚と茅野さんだけを向かわせるのにはリスクが伴う。いや、正確に言えば誰が行ってもリスクは伴う。相手の戦闘力が化け物……烏間先生以上となれば、僕とカルマが組んでも勝てるか怪しい。

 

「要求なんざ全シカトだ!今すぐ全員都会の病院に運んで――」

「……賛成しないな」

 

 怒りで荒れる寺坂に対して、落ち着いて反対意見を出したのは竹林君だった。

 

「もし本当に人工的に作った未知のウイルスなら、対応できる抗ウイルス薬はどんな大病院にも置いていない。運んだところで無駄足となれば患者のリスクを増やすだけだ」

 

 そう。問題は奴のオリジナルウイルスに対抗する薬なんて日本の……いや、世界のどんな病院にも置いてたりしない。それこそ運んでも打つ手なしの時間切れで終わり。何も残らない最悪な展開だ。

 

「対症療法で応急処置はしておくから、取引に行った方がいい」

 

 竹林君の言う通りだろう。でもこれにも問題がある。それは、取引に誰がいこうがそいつが無事に帰ってくる保証が無い。最悪なのは取り引きにいった奴らも捕まり、薬も渡されない。

 そうなったらもうゲームオーバーだ。クソ、何か手はないのか。

 

「良い方法がありますよ」

 

 思考を張り巡らせていたその時、殺せんせーが言葉をかける。律になにか下調べをしていたようだが……まぁいい。このせんせーの考える策は一番この状況を打破するのに適してるはずだ。

 

「元気な人は来てください。汚れてもいい格好でね」

 

 汚れてもいい?…………あーなんとなくその言葉で察しがついたよ。

 

「じゃあ、行ってくるね。有鬼子」

 

 僕は倒れている有鬼子のもとに行き、しゃがんで言葉を伝える。

 

「頑張ってね……」

 

 辛そうだけど最大限の笑顔を作って送りだそうとする。

 

「任せろ」

 

 だから僕も最大限の笑顔で応える。そして、有鬼子の頭を軽く撫でる。

 

「奥田さんは残るんだっけ?」

「は、はい。竹林君一人では大変でしょうから」

「そうか。任せたよ。有鬼子のこと……みんなのこと」

「はい」

「奥田さん……私から、一個お願い」

「何でしょう」

 

 僕は立ち上がり元気な人たちのところに向かう。…………絶対くたばるなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 車へと乗り込んだ僕らは山頂に立つ『普久間殿上ホテル』の裏側、断崖絶壁の下を通る公道まで来たところで車を降りた。

 

「…………高ぇ……」

「だね~」

 

 断崖絶壁を下から見上げてみる。うわぁ。高いなぁ~ 

 

『あのホテルのコンピュータに侵入して内部の図面と警備の配置図を入手しました』

 

 うわぁ。やっちゃったよ。

 

『正面玄関と敷地一帯には大量の警備が置かれています。フロントを通らずにホテルへ入るのはまず不可能……ですがただ一つ、こちら崖を登ったところに出口があります。まず侵入不可能な地形ゆえ、警備も配置されていないようです』

 

 なるほどねぇ。そりゃあ、ここに警備置くだけ無駄だろ。

 

「敵の意のままになりたくないなら手段は一つ。患者十人と看病に残した二人を除いて、動ける生徒全員で此処から侵入。最上階を奇襲して治療薬を奪い取る!」

 

 だよね~知ってた。

 

「……危険過ぎる。この手慣れた脅迫の手口、敵は明らかにプロの者だぞ」

「えぇ。大人しく私を渡した方が得策かもしれません。……どうしますか?全てあなた方次第です」

 

 殺せんせーは僕らに委ねている。何を選択するのかを。

 

「これは……ちょっと」

「難しいだろ」

「ホテルに辿り着く前に転落死よ」

 

 ビッチ先生からも無理と判断され、烏間先生も難しい顔をして悩む。

 

「……渚君、茅野さん。済まないが――」

 

 が、僕らはその結果を聞く前に、

 

「いやまぁ、崖だけなら楽勝だけどさ」

「いつもの訓練に比べたらね」

「視界が悪いくらいでよゆーよゆー」

「調子こいて落ちないでよ」 

 

 断崖絶壁を登り始めた。

 まぁ、課題なのはこの壁を登り終えた後である。律のナビがあってもホテルの最上階までこの人数。見つからずに辿り着くのは困難だ。

 

「でも未知のホテルで未知の敵と戦う訓練はしてないから……烏間先生、難しいけどしっかり指揮を頼みますよ」

「ふざけた真似した奴らにキッチリ落とし前つけてやる」

「だね~ファイト、先生!」

 

 僕らの覚悟は決まった。後は烏間先生、貴方の判断次第だ。貴方が無理だといえば僕らはどうにもできないだろう。

 そんな僕らの様子を見て殺せんせーが烏間先生の背中を後押ししてくれる。

 

「見ての通り、彼らはただの生徒ではない。貴方の元には十六人の特殊部隊がいるんですよ」

「特殊部隊~響きカッコいいなぁ~」

 

 いいよね~そういう響き~

 

「……さぁ?時間はないですよ?」

 

 決断を促された烏間先生。数秒だけ瞑目すると、心配していた様子から一転して決意尾固めた表情で目を見開く。

 

「全員注目!目標は、山頂ホテル最上階!隠密潜入から奇襲への連続ミッション!ハンドサインや連携については訓練のものをそのまま使う!いつもと違うのはターゲットのみ!三分でマップを叩き込め!十九時五十分!作戦開始!」

「「「おう!」」」

 

 皆の息が一つに揃う。

 

「……ところで、誰が風人の御守りするの?」

「「「…………あ」」」

 

 ……そろう?




ここから始まる伏魔島のホテル編。
神崎さん(ヒロイン)の出番なしと風人君(主人公)の暴走(?)という二点を含んでいる予定です。
風人君の制御は……できるのか?
え?前半の真面目な風人君のままホテル潜入?いえいえ、そんなことないですよ。


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毒使いの時間

今日は何の日でしょうか。
答えは風人君の誕生日です。
というわけで、短編を。

『風人の誕生日~星座~』

「そういえば風人君」
「なぁに~?有鬼子」
「風人君の誕生日って2月19日だよね?」
「そ~だよ~」
「でも、2月19日って星座がややこしいって噂で聞いたよ」
「そうなんだよ~魚座って時もあるし水瓶座って時もあるらしいからね~噂では」
「私は魚座で確定だけど、風人君は大変そうだね。見るものによって変わることがありそうで」
「ふふん!でも信じる方を変えればお得だよ~」
「どういうこと?」
「占いで水瓶座と魚座のいい方を信じる!」
「そもそも風人君が占いを信じることにびっくり」
「僕も信じるよ~気分次第で」
「ふーん。あ、誕生日おめでとう。風人君」
「えーっと、どういたしまして?」
「この世界では違うけど現実世界では君の誕生日だからね」
「ほへぇ~」


 崖登り。別にいつものようにやっているのでそれほど苦にはならない。

 うちのクラスだと岡野さんが身軽で速い。で、先生は普通に登れるはずなんだけど……

 

「腕疲れてきたわよ!」

 

 ビッチ先生をおぶって殺せんせーを持っているため速度はやや落ちてる。……何でついて来たんだろう?ビッチ先生。

 

「ふぅー到着っと」

 

 そこそこの速さで頂上へ。そのまま陰に隠れて身をひそめる。

 全員が揃ったところで侵入ルートの最終確認。エレベーターは使え無いから相当長い道のりになりそうだ。

 

『通用口解除』

 

 後、電子ロックとかなら簡単にハッキングして開けられる律はヤバいと思いました。

 烏間先生先導の元。僕らは侵入作戦を開始する。なるべく音を立てずにかつ素早く移動していく。

 しかし、侵入早々、僕らは壁にぶつかった。最初の階段を上がりたいが、その階段があるロビーにたくさんの警備員が。あ、もう詰んだ?この作戦?

 

「何よ、普通に通ればいいじゃない」

 

 と、思った時。ビッチ先生から凄い発言が聞こえた。

 

「状況判断も出来ないのかよビッチ先生」

「普通に通れたら苦労しないよ~?」

 

 と、聞いてみたもののビッチ先生の表情は真剣だった。ビッチ先生はロビーに視線を向けて、

 

「だから普通によ」

 

 そのまま正面切って堂々と歩いていった。

 いや、少し語弊があるか。おぼつかない足取り。まるで酔っ払いのように歩いていく。

 表面上は美人で巨乳の部類に入るであろうビッチ先生。警備員は先生の存在に気付いたが、まぁ、鼻の下を伸ばしているね。単純だなぁ。

 そんな中、一人の警備員にぶつかる。

 

「あっ、ごめんなさい。部屋のお酒で悪酔いしちゃって……来週そこでピアノを弾かせて頂く者よ。早入りして観光してたの」

 

 誰?この人。僕の知ってる人?

 すると、ビッチ先生(仮)はロビーの中央付近に置いてあるピアノに向かう。

 

「酔い覚ましついでにね、ピアノの調律をチェックしておきたいの。ちょっとだけ弾かせてもらっていいかしら?」

「えっと……じゃあフロントに確認を――――」

 

 確認にいこうとした警備員を強引に止めるビッチ先生(仮)。強引とは少し違うか。少なくとも、警備員が強引に止められたと思ってないからね。

 

「いいじゃない。貴方たちにも聞いて欲しいの……そして審査して。私のことよく審査して、駄目なとこがあったら叱って下さる?」

 

 そういうと、ピアノを弾き始めるビッチ先生(仮)。へぇーピアノ弾けたんだ。『幻想即興曲』かな?なるほど~。にしても上手いなぁ。演奏だけじゃない。身体の魅せ方もだ。音で聴覚を、魅力で視覚を、この場を完全に支配しようとしている。

 

「ねぇ、そんな遠くで見てないでもっと近くで確かめて」

 

 少し離れた警備員たちもビッチ先生(仮)の下へ。

 

『二十分稼いであげる。行きなさい』

 

 ハンドサインを送ってきた。なるほど、あれはビッチ先生(本物)のようだ。今のうち今のうちっと。

 

「全員無事に突破」

「……凄ぇや、ビッチ先生」

 

 ビッチ先生のお陰でこっちの戦力が減らずに済んだ。よかったよかった。

 

「あぁ、ピアノ弾けるなんて一言も……」

「普段の彼女から甘くみないことだ。優れた殺し屋ほど万に通じる。彼女レベルにもなれば潜入暗殺に役立つ技能くらい何でも身につけているさ。君らに会話術を教えているのは世界でも一・二を争うハニートラップの達人なのだ」

「何か、最後だけ聞くと頭のおかしな人に教わってるみたい~」

 

 あ、でも、実際頭おかしいか。あの人。

 

「ヌルフフフ、私が動けなくても全く心配ないですねぇ」

 

 まぁ、せんせーが動けてたらこんな苦労はなかったのになぁ。

 とは言え潜入ミッションはまだまだ序の口だ。こっからが本番だぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、烏間先生曰く、ここは悪い客も沢山使ってるから、別にここからは一般客の振りができるらしい。

 

「というわけで、君たちも世の中を舐めたような顔で歩きましょう」

 

 そう言われて皆各々が思っている感じにやる……プフッ。

 

「アハハハハアハハハハ!皆おもしろ……アハハ」

 

 大爆笑。

 

「おい、誰かこいつを制御しろよ」

「無理だって。俺らに扱えるタマじゃねぇ」

「諦められてる!?」

 

 渚が驚いてるけど……プクク。笑いが止まらない。

 

「いえ、これは風人君の立派な演技です。そう言うことにしておきましょう!」

「先生も諦めた!?」

「ですが、向こうも客の振りをして襲ってくるかもしれません。皆さん気は抜かないように」

「「「チーッス」」」

 

 と、まぁ、舐めてる顔を皆やめた。理由?する意義を感じなくなったからだ。だって、ここにいる中学生集団って時点で向こうは勝手にヤバい連中って思ってくれるからね。

 

「ねぇ、誰かさ~これ運ぶの変わって」

「これって……風人君のこと?」

「さっきからすれ違った人についていこうとしてるんだよ」

「面白そうな香りが~」

「ね?なんとかしてよ」

 

 しかし、カルマの呼び掛けには誰も答えてくれなかった。

 

「哀れなり。カルマ」

「お前のせいなんだけど。この役目は俺じゃないでしょ」

 

 それは知らない。

 

「でも、これなら最上階まですんなり行けそうだね」

「仮に何かあっても前衛の烏間先生が見つけてくれるよ」

 

 まぁ、烏間先生が先導して警戒してくれていることも僕らがこういう茶番を繰り広げるほど余裕を持てている理由の一つであろう。先生が油断するとは思えないし、多分何とかなるでしょ。

 

「へっ、楽勝じゃねーか。時間ねーんだからさっさと進もうぜ」

 

 しかしここまで潜入が何事もなさすぎたのか、三階の中広間に到達したところで寺坂と吉田君の二人が先を急いで烏間先生を追い抜かしていってしまう。

 そして向こうからは普通のホテルの客…………ん?客?

 

「下がれ!二人とも!」

「寺坂君!そいつ危ない!」

 

 声にいち早く反応したのは烏間先生。烏間先生が二人を後ろに下げる。しかし、向こうはこっちが声を出したのとほぼ同時くらいにガスを噴射させた。烏間先生は視界が悪い中、男の持つガスの噴射機?みたいなのを蹴り落とし二人は一旦距離を取る。

 

「……何故分かった?殺気を見せずすれ違い様に殺る。俺の十八番だったんだがな、おかっぱちゃんに……その……なんだ。何でか首根っこ掴まれて連れてこられてるそこの奴」

「誰~?そんな首根っこ掴まれて行動している人って~」

「「「お前だよ!」」」

 

 あ、僕か。

 

「和光君はおいといて、おじさん。ホテルで最初にサービスドリンクを配った人でしょ?」

 

 ……あ、言われてみればそんな気がしなくもない。

 

「だからどうした?そんなの俺以外にも毒を盛る機会はあったはずだぞ?証拠が弱いんじゃないか?」

「皆が感染したのは飲食物に入ったウイルスから、そう竹林君が言ってたの。クラス全員が同じものを口にしたのはあのドリンクと船上でのディナーだけ。だけどディナーを食べずに映像編集をしていた三村君、岡島君も感染したことから感染源は昼間のドリンクに限られる。従って犯人は貴方よ、おじさん君!」

 

 や、やべぇ。不破さんが凄い楽しそうだ。さすが漫画好き。こういう状況が楽しいんだろうね。

 

「そっちの頭おかしそうな坊主も同じ理由か?」

 

(((一瞬で見抜かれた……!?)))

 

「なわけないよ~」

 

(まさか、コイツ。俺から漏れていたであろう本当に僅かな殺気を感じ取ったというの――)

 

「僕は言ってみたかっただけだよ!何と言うかそう!楽しいことになりそうだったから!」

 

 ふふん。どや。

 

「………………は?」

「テメェ風人!人違いだったらどうするつもりだったんだよ!」

「え?ごめんなさーいって謝れば解決だよ~」

「しねぇよ!バカかオメェは!」

「そうだよ風人。バカの寺坂ですらそんなこと分かるのに」

「テメェはちゃっかりバカ扱いすんじゃねぇよカルマ!」

「そうだそうだ!寺坂と同レベルとか納得しないよ!」

「こっちも願い下げだわ!」

 

 向こうが唖然とし、こっちがぎゃーぎゃー騒ぐ中、烏間先生が膝をつく。

 

「ま、まぁ、俺の正体が知れたところで手遅れなんだがな」

「毒物使い、ですか。しかも実用性に優れている」

「俺特製の室内用麻酔ガスだ。一瞬でも吸えば象すらオとすし、外気に触れればすぐ分解して証拠も残らん」

「おぉー!画期的だね!おじさんおじさん!それいくらで売ってるの?」

「売ってねぇよ!」

「じゃあ100円あげるから……ね?ね?」

「ね?じゃねぇよ!誰があげるか!」

 

 ちぇーっ。あ、もしかして、このおじさんがあのウイルス作ったのかなぁ?

 

「はぁ。さて、お前たちに取り引きの意思がないことはよく分かった。交渉決裂。ボスに報告するとするか」

 

 引き返そうと振り向くと、そこには、数人のクラスメートが道を塞いでいた。

 

「ダメだよおじさん。話に気をとられ過ぎて数人しか注目してなかったでしょ?」

 

 ちなみに僕は烏間先生の近くから動いていない。この人が殺られると詰みだからね。

 

(ッチ。このガキ、まさかさっきまでの阿呆みたいな会話は全て別動隊を悟らせないためのフェイクか!)※全然違います

 

 烏間先生から言われたことをしっかり思い出して、行動に移す。大切だねやっぱり。

 

「敵と遭遇した場合、退路を即座に塞ぎ連絡を絶つ。既に指示は済ませてある。お前は我々を見た瞬間、攻撃せず報告に帰るべきだったな」

 

 そう言うと烏間先生が立ち上がる。あれ?象でも一瞬でなんとかって言ってなかったっけ?

 

「……フン、まだ喋れるとは驚きだ。だが所詮はガキの集まり……お前が死ねば統制が取れずに逃げ出すだろうさ」

 

 次の瞬間。烏間先生にトドメを刺そうと動いたおじさんの顔面に膝蹴りを喰らわす先生。これが、烏間先生の本気の蹴り……いや、ガス浴びてたから本調子じゃないだろうけど、それにしてもえげつない。

 しかし、自分は膝蹴りをした後、意識が保てないのか自分も倒れてしまう。

 

「烏間先生!」

 

 僕らはおじさんを倒した。しかし、代償に最強戦力である烏間先生がやられた……まだ先は長いのに。



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カルマ(と風人)の時間

 決着はついたようなので、僕らは、烏間先生を起こしつつおじさんを拘束する。そして中広間の調度品を使って、おじさんの身体を見つかりにくいように隠した。

 烏間先生は磯貝君の肩を借りてなんとか立ち上がって歩き始めたものの、今にも足元から崩れ落ちそうである。

 

「……駄目だ。普通に歩くフリをするだけで精一杯だ。戦闘が出来る状態まで、三十分で回復するかどうか……」

 

 あれ?なんで象すら一瞬で気絶するというキャッチフレーズの毒ガスを吸って動けるんだろう?

 烏間先生がいくら頼りになるとはいえ、完全に回復するまで待っていたら交渉の期限に間に合わなくなてしまう。殺せんせーは動けないまま、ビッチ先生は不在。つまりまだ先は長いが今までのようには先生たちの力を借りることは無理みたい。向こうの刺客は一人というわけがないだろう。未知の敵を相手に僕らの力が通用するか否か。そこが鍵か……

 

「いやぁ、いよいよ『夏休み』って感じですねぇ」

 

 あの僕でさえ不安を多少は隠せないでいる中、そんな僕らを他所に場違いな発言をする殺せんせー(バカ)がいた。何言ってんの?

 全員から白い目で見られブーイングが発生した。

 

「何をお気楽な!」

「一人だけ絶対安全な形態のくせに!」

「渚、振り回して酔わせろ!」

「にゅやーッ!?」

 

 言われた渚は持っていた袋詰めの殺せんせーを高速回転させ、せんせーは堪らず悲鳴を上げて苦しんでいた。で、たっぷり殺せんせーを振り回し終えた渚がせんせーに問い掛ける。

 

「殺せんせー、なんでこれが夏休み?」

 

 問い掛けに対して殺せんせーは高速回転のダウンから立ち直って真面目に答えを返す。

 

「先生と生徒は馴れ合いではありません。夏休みとは先生の保護が及ばないところで自立性を養う場でもあります。普段の体育で学んだことをしっかりやればそうそう恐れる敵はいない。君たちならクリア出来ます。この暗殺夏休みを」

 

 あぁ、なるほど。そういうこと。

 

「でも、自分が絶対の安全圏にいることは変わらないよね~」

「ヌルフフフ。そうですよ」

 

 うぜぇー。

 と、進む四階は何事もなくスルー。しかし、五階の展望回廊に差し掛かった時、僕らは足を止めた。

 

「めちゃくちゃ堂々と立ってやがる」

「……あの雰囲気」

「あぁ、いい加減見分けがつくようになったわ。どう見ても『殺る』側の人間だ」

 

 狭くて見通しがよく隠れる場所もない五階展望回廊。その通路の窓にもたれ掛かって静かに佇んでいるおじさんがいる。ただ、そのおじさんの纏う空気が明らかに一般人とは違っていた。なんていうかさっきのおじさんと違って殺気が漏れてる感じなんだよね。

 さぁて、このおじさんはまず間違いなく犯人側の刺客だろう。でも、ここを回避して進むルートなんてあったっけ?うーん……

 

 ビシッ!

 

 そう考えていると窓ガラスにヒビが走った。え?素手だよあのおじさん。というか、指圧で砕いた感じなんだけど。

 

「つまらぬ。足音を聞いた限り強いと思えるものが一人もおらぬ。精鋭部隊出身の引率の教師もいるはずなのぬ。どうやら……スモッグのガスにやられたようだぬ。半ば相討ちぬと言ったところか。でてこいぬ」

 

 あーこれヤバいわ。皆あのおじさんの前に立ったけどヤバいわ。

 

「「『ぬ』多くね、おじさん?」」

 

(((言った!よかったカルマと和光がいて!)))

 

 どうやら、カルマも同じことを考えていたみたい。うんうん。やっぱ気になるよね~ 

 

「『ぬ』を付けるとサムライっぽい口調になると小耳に挟んだぬ。格好良さそうだから試してみたぬ。間違っているならそれでもいいぬ。この場の全員を殺してから『ぬ』を取れば恥にもならぬ」

 

 何だろう。そうか、きっと日本の友人に騙された可哀想なおじさんぬなんだ。そうかそうか……。

 

「可哀想ぬ……」

 

(((コイツ明らかにバカにしているだろ!?)))

 

 ハンカチを目元に当てる。あぁ、なんて可哀想なおじさんぬ何だろうぬ。

 

「素手……それが貴方の暗殺道具ですか」

「こう見えて需要があるぬ。身体検査に引っ掛からぬ利点は大きいぬ。近づきざま頸椎をひとひねり、その気になれば頭蓋骨も握りつぶせるぬ」

 

 わーお。

 

「だが面白いものでぬ。人殺しのための力を鍛えるほどに暗殺以外にも試してみたくなるぬ。すなわち闘い……強い敵との殺し合いだぬ」

 

 おじさんぬはそう言って烏間先生を一瞥したものの、磯貝君に支えられて立っているのもやっとな姿を見て落胆を露わにする。

 

「だががっかりぬ。お目当てがこの様では試す気も失せたぬ。雑魚ばかり一人で殺るのも面倒だぬ」

「ちょっと待ってよ、おじさんぬ」

 

 今の言葉は頂けない。僕らが雑魚だって?

 

「渚ー殺せんせー借りるよ~」

「え?うん」

 

 僕は堂々とおじさんぬのところに向かう。そして、

 

 バリッ!

 

 殺せんせーを思い切り窓ガラスに叩きつける。

 

「おじさんぬが何を基準に雑魚とか言ってるか知らないけどさ~あまり舐めないでくれる~?」

「ほう。なら、貴様が戦ってみるかぬ。少年よ」

「ふっ。甘いねおじさんぬ。僕と戦いたいなら――」

 

 僕は殺せんせーを投げ渡す。

 

「――その自慢の握力でそいつを砕いてからにするんだね」

 

(((アホかアイツは!?)))

 

「分かったぬ」

 

(((分かっちゃったよ!?)))

 

「ぬぬぬぬぬ!」

 

 片手では無理だと判断したのか両手で力を込める……だが、やはり砕けない。

 

「ふっ。おじさんぬには無理だったかぬ。じゃあぬ。強くなってからまた会おうぬ」

 

 そして、僕はおじさんぬの横を通って先に進もうと……

 

「ぬ!通さぬぞぬ!」

 

 あ、バレた。

 

「撤収だぬ~」

 

 僕はおじさんぬが両手で持っていた殺せんせーを蹴り飛ばしてキャッチし、皆のところへ向かう。

 

「アホかお前は!」

「いやぁ~あの流れだったら通してくれるかな~って」

「全く、交代だよバカゼト」

「分かったよ~バカルマ」

 

 僕はカルマとハイタッチする。選手交代だ。

 

「やれやれぬ。こうやって一人一人相手するのも面倒だぬ」

 

(((いえ!本当に面倒なのはそこのバカだけです!)))

 

「ボスと仲間を呼んで皆殺しぬ」

 

 そう言いつつポケットから携帯を取り出して仲間を呼ぼうとする。

 次の瞬間、展望回廊に飾られていた観葉植物を振り抜いたバカルマの一撃が、おじさんぬの携帯を窓ガラスごと叩き割った。

 

「ねぇ、おじさんぬ。意外とプロっていうのも普通なんだね。ガラスとか頭蓋骨なら俺でもさっきのバカでも壊せるよ。……ていうか速攻仲間を呼んじゃう辺り、中坊とタイマン張るのも怖い人?」

 

 あー僕もタイマン勝負にすべきだったなぁ~

 

「止せ!無謀――」

「ストップです、烏間先生」

 

 危険と判断して止めに入ろうとした烏間先生。そんな先生に対して殺せんせーは制止の声が掛ける。

 

「顎がひけている」

 

 あ、本当だ。いつもは顎を突き出して相手を見下すような感じなのに。

 なるほど、いつもと違うようだ。カルマに任せるかぁ~致し方なし。

 

「ギブだったら言ってね~」

「誰がお前に託すかっての」

「……いいだろう。試してやるぬ」

 

 おじさんぬも自分と正面から対峙するカルマの様子を見てやる気にはなったらしい。上着を脱いで改めて構え直した。

 観葉植物を振り回して殴り掛かったカルマ。しかし、おじさんぬに難なく掌で受け止められて握り潰されてしまう。

 

「柔いぬ。もっと良い武器を探すべきだぬ」

「必要ないね」

 

 使い物にならなくなった観葉植物を投げ捨てたカルマ。仕掛けてきたおじさんぬと真正面から相対する。

 

「凄い……全部避けるか捌いてる」

「烏間先生の防御テクニックですねぇ」

 

 確か、殺し屋にとって防御技術は優先度が低い、っていう理由で烏間先生は授業で教えていなかったっけ。おそらく、カルマは烏間先生の動きを見て覚えたのだろう。だからおじさんぬの攻撃も全て避けるか捌ける。

 しばらく二人の攻防は途切れることなく続いていたが、ふとおじさんぬは攻撃の手を緩めて動きを止めた。

 

「……どうしたぬ?攻撃してこなくては永久にここを抜けられぬぞぬ」

「どうかな~。あんたを引きつけるだけ引きつけといて、その隙に皆がちょっとずつ抜けるってのもアリかと思って」

 

 そんなこと微塵も思ってないくせに。

 

「……安心しなよ。そんな狡いことはなしだ。今度は俺から行くからさ。あんたに合わせて()()()()、素手のタイマンで決着をつけるよ」

 

 え?カルマが……正々堂々?アイツ、毒にでも頭やられたのかな?

 

「……良い顔だぬ、少年選手よ。お前とならやれそうぬ。暗殺稼業では味わえないフェアな闘いが」

 

 カルマはおじさんぬの言葉が終わると同時に駆け出した。その勢いのまま飛び蹴りを繰り出し、おじさんぬに反撃させる隙を与えず攻め続ける。

 その甲斐あっておじさんぬの体勢を崩すことに成功した。その隙を逃さずカルマはすかさず追撃を仕掛け、

 

 

 おじさんの持ってた毒ガスがおじさんぬからカルマに向けて噴射された。

 

 

 そして倒れ込んでいくカルマの頭をおじさんぬが掴んで持ち上げる。

 

「一丁上がりぬ。少し長引きそうだったんで『スモッグ』の麻酔ガスを試してみることにしたぬ」

 

 なるほどねぇ。体勢を崩したのはわざとというわけか。カルマの隙を作るためにねぇ。

 

「き、汚ねぇ……そんなモン隠し持っといてどこがフェアだよ」

 

 毒ガスを持ち出したことに吉田君から非難の声が上がる。が、そんなのおじさんぬ(殺し屋)が受け付けるわけがない。

 

「俺は一度も素手だけとは言ってないぬ。拘ることに拘り過ぎない、それもまたこの仕事を長くやっていく秘訣だぬ。至近距離からのガス噴射、予期していなければ絶対に防げぬ」

 

 本当、()()()()()()()()()だけどね。

 

 

 次の瞬間。スモッグおじさんお手製のガスがカルマからおじさんぬに向けて噴射された。

 

 

「――――奇遇だね、二人とも同じこと考えてた」

 

 そう言ってカルマが憎たらしい笑みを浮かべている。やれやれ、甘すぎだよおじさんぬ。カルマに騙し打ちで挑もうなんてさ。しかも、今までから進化した警戒マックスのね。

 毒ガスを食らったおじさんぬは足腰を震わせながらもナイフを取り出した。

 

「ぬぬぬうううう!」

 

 そして、カルマに突き刺そうとするが、そんな身体の痺れた状態でカルマを捉えられるわけがない。切りかかる腕を掴まえられ関節を極められて床へと叩きつけられる。

 

「とーう」

 

 空いた方の手を封じ込める為に参戦する。別にタイマンって言ってたのカルマだけだしー。僕そんなの知らないしー。

 

「ほら寺坂も早く早く。ガムテと人数使わないとこんな化けモン勝てないって」

「へいへい、テメェが素手でタイマンの約束とかもっと無いわな」

 

 促された寺坂に続いて他の皆も駆け出し、倒れたおじさんぬの身体に男子全員でのし掛かった。まぁ、これだけの人数で抑え込んだらオッケーかな?

 色々あったけど、無事に縛り終えて芋虫状態にされたおじさんぬ。おじさんぬは悔しそうに呻いていた。

 

「毒使いのおっさんが未使用だったのくすねたんだよ。使い捨てなのが勿体ないくらい便利だねぇ」

「何故だぬ……俺の毒ガス攻撃、お前は読んでいたから吸わなかったぬ。俺は素手しか見せていないのに……何故だぬ」

 

 そんなおじさんぬの疑問にカルマは答えた。

 

「とーぜんっしょ。素手以外の全部を警戒してたよ」

 

 やっぱりかー。

 

「あんたが素手の闘いをしたかったのはホントだろうけど、俺らをここで止めるためにはどんな手段でも使うべきだ。俺でもそっちの立場ならそうしてる。……あんたのプロ意識を信じたんだよ。信じたから警戒してた」

 

 こう語るカルマの目には勝者が敗者に向けるようなものではない。どちらかというと真摯な眼差しだ。

 

「大きな敗北を知らなかったカルマ君は期末テストで敗者となって身をもって知ったでしょう。敗者だって自分と同じ、いろいろ考えて生きてる人間なんだと。それに気づいたものは必然的に勝負の場で相手を見くびらなくなる。敵に対し敬意を持って警戒できる人を戦場では『隙が無い』というのです」

 

 殺せんせーがカッコよくしめる。

 

「……大した奴だぬ。少年戦士よ。負けはしたが楽しい時間を過ごせたぬ」

 

 カルマの言葉を聞いたおじさんぬは満ち足りた様子で自身の敗北を認めた。でも、最後はおかしいよ?だって―― 

 

「え、何言ってんの?楽しいのはこれからじゃん」

「カルマ隊長~既に準備は整えております~」

 

 カルマは懐からわさびとからしのチューブを、僕はカルマの鞄から専用のクリップを取り出した。

 

「……なんだぬ?それは……」

「わさび&からし。おじさんぬの鼻の穴に捩じ込むの」

「隊長~ブートジョロキアの準備もできています~しょうがはいいですか?」

 

 そう言いながら僕らはおじさんぬの顔にカルマの持ってきた専用のクリップ等を付け終えて……

 

「「さぁおじさんぬ、今こそプロの意地を見せる時だぬ」」

 

 僕はわさびを。カルマはからしを、それぞれおじさんぬの鼻の中にぶち込んだ。




何だかんだでいいコンビなカルマと風人。


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女装の時間

 おじさんぬ討伐に成功した僕ら。しかし、続く六階には問題があった。

 まぁ、簡単に言えば店の中を通って、警備の堅いであろう裏口のカギを開けて、次の階段に進まないといけないんだけど……うん。この集団じゃ目立つよね。

 

「先生たちはここで待ってて!私たちが潜入して鍵を開けるから」

「そうそう、こういうところは女子だけの方が怪しまれないもんね」

 

 女子たちの提案に烏間先生は、

 

「女子だけでは危険だ…」

 

 だよね~

 

「じゃあ、男子も二人程お供につけよ~」

「だね、それに女装すれば解決。というわけで渚君、風人。スタンバイ」

「待った。戦力的に考えるならカルマと寺坂が女装するべき」

「はぁ?よく考えろよ。寺坂と俺が女装できると思ってるの」

「うんうん」

「……はぁ、仕方ないなぁ。中間の策で渚君と寺坂の女装ね」

「分かったよ~。それで我慢するよ~」

「ちょっと待て!」「ちょっと待って!」

 

 すると、女装組から声が上がる。どうしたんだろう?

 

「渚はともかく俺が女装できるわけねぇだろ!」

「僕はともかく!?」

「何言ってんの寺坂?ふりふりのドレスを着れば皆お姫様さ☆」

「そうだよ!髪を伸ばして、顔を優しめな感じにして筋肉そぎ落とせば君も立派な女の子さ☆」

「ふざけんなよドS悪魔コンビ!お前ら本気で言ってるのか!」

「「もちろん!」」

 

 当たり前じゃないか!決して寺坂の女装姿を見て笑い転げたいわけじゃない。

 

「ああもう!今名前の挙がった三人!じゃんけんして負けた人!いいね?」

「僕は!?」

「渚は強制女装」

「拒否権なし」

「酷くない!?」

「ま、待てよ片岡!この三人だったら明らかに風人だろ!?」

「怖気づいたのか寺坂ー」

「逃げる気か寺坂ー」

「お・ま・え・ら・なぁ!」

 

 やれやれ困ったものだ。

 

「はいいくよ!最初はグー!じゃんけん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 店内は賑やかを通り越してうるさかった。

 

「ほら、男でしょ?ちゃんと前に立って守らなきゃ。渚君」

「無理。前に立つとか絶対無理」

「諦めな。和光みたいに」

「ほら」

「どうして……僕が」

「ふふっ。お似合いですよ、渚さん」

「……風人君。キャラ変わり過ぎ……適応し過ぎだよ」

 

 結局、女装したのは風人と渚だった。じゃんけんで負けたのが風人だったか?答えは否である。実はじゃんけんに負けたのはカルマだったのだ。では、何故カルマではなく、風人が女装させられているのか?

 答えはカルマが負けた時に「そもそも俺に合うサイズの女子の服とか誰も持ってなさそうじゃん」と言って、カルマとついでに寺坂の分も新調するのは手間がかかりすぎるため、タイムリミットを考えた結果、渚と同じくらい小柄な風人が選ばれたのだ。カルマとしては自分にはじゃんけんに負けても逃げる一手が用意されていたからじゃんけんを受けたのだろう。

 

「男手も欲しいけど、こういうところは男にチェックが厳しいの」

「だからって」

「作戦なんだから」

「本当に?」

『えぇ。本当です』

「律まで」

「ふふっ。渚さん、男子には諦めも肝心ですよ?」

「風人君。君絶対楽しんでいるでしょ……」

「今の私は風子とお呼び下さい♪」

 

 こう見えて風人は割と真面目だ。真面目に女子の振りをしている…………はずだ。

 

「二人とも自然過ぎて新鮮味がない」

「そんな新鮮さいらないよ」

 

 風人も渚程ではないが見た目は中性。女子に見えても不思議ではない。ただし、中身はアレだが。

 

「そもそもこんな服何処にあったのさ」

「外のプールサイドに脱ぎ捨ててあった」

「まぁ、凛香さんたら。こういう服がお好きなのですか?」

「私は別に」

 

 と、脱ぎ捨ててあった服を身に纏ってる風人。ちなみに下着はもちろん男物だ。そこまで進化していない。

 

「やだやだ。こんな不潔な場所早く抜けたいわ」

「そうですわ。私にはこんな場所似合いませんもの」

「その割には楽しそうだね不破さん。風……子さん」

 

 ノリノリな二人。対称的な渚。

 しかし、列の最後尾を行く渚。そんな彼に話しかける男がいた。

 

「ねぇ、どっから来たの君ら。俺とそっちで飲まねぇ?」

 

 渚に話しかけた男子に向ける目は嫌悪だった。女子プラス風子は関わりたく無いと思い。

 

「はい。渚相手しておいて」

 

 渚に丸投げして置いた。

 

「渚さんに何と伝えたのですか?メグさん」

「男手(?)は足りてるから相手しておいてって」

「まぁ!私なんてかよわいレディーを男手にカウントなさらないで下さる?」

 

(((何なんだ今のコイツは……さっきから女子にしか見えない。中身はアレなのに!)))

 

 普段とのギャップに別の意味で頭を抱えそうになる女性陣。そんなこと露知らずの風子。

 

「えっと、上への階段は……こっちで間違いないわね」

 

 片岡率いる女性陣プラス風子の目の前に二人の男が現れた。

 

「よぉ。お嬢たち女だけ?」

「俺らとどうよ。今夜」

 

 二人の男が絡んでくる。片岡は呆れたように呟き言葉を発しようとする中、矢田が前に出る。

 

「お兄さんたち。カッコいいから遊びたいのだけど、生憎パパ同伴なの。私たち。うちのパパちょっと怖いから、やめとこ?」

「パパが怖くてナンパできっかよ……」

「じゃあ、パパに紹介する?」

 

 そう言って矢田が見せたのはヤクザのエンブレム。一瞬戦く男たちだが、

 

「お兄さんたち?」

 

 そんな男たちの背後に回っていた風子が男たちの首元に手を当てながら言葉を呟く。トドメを刺しに来た。男たちに考える隙を与えない。

 

「もし、桃花お嬢様を始めとしたこちらのお嬢様方に手を出した日には貴方たちの首……繋がってるといいですね?」

 

 最大限の殺気を込めた一言。笑顔で言った風子に対し、男たちは逃げるように帰っていった。

 

「お怪我はございませんか?桃花お嬢様。それに皆様も」

 

 演技をするなら徹底に。風子は周りで誰が見ていたとしてもごまかせるよう演技を続ける。

 

「う、うん。ありがとうね。和こ……風子ちゃん」

「ありがたき幸せ」

 

 と言っても、ここまでする必要があるかは分からないが。

 

「でも、意気地なしだね。アレで逃げてくなんて」

「矢田さんもだけど、和こ……風子ちゃんも凄い」

「ふふっ。お褒めに預かり光栄です。カエデお嬢様」

「まだそのキャラ続けるの!?」

「ふふっ。おかしなカエデお嬢様。これが私の素でございますよ?」

 

(((素なわけないでしょうが!)))

 

「さぁ、行きましょうメグお嬢様。時間は有限でございます」

「そ、そうね……風子ちゃん」

 

 と、お嬢様と呼ばれ、ちょっと嬉しくなりこういう風人ならいいかもと思い始めた片岡を先頭に置きながら歩みを進めるお嬢様たちプラス風子。

 矢田曰く、さっきのバッチはビッチ先生の持ってるバッチのうちの一つらしい。

 

「そう言えば矢田さんは一番熱心にビッチ先生の仕事の話を聞いてるよね」

「うん、色仕掛けがしたいわけじゃないけど……殺せんせーも言ってたじゃない?『第二の刃を持て』ってさ、接待術も交渉術も、社会に出た時最高の刃になりそうじゃない?」

「おぉー矢田さんはカッコいい大人になるねぇ」

「桃花お嬢様がそんなに深く考えていただなんて、私感激いたしました……!」

「巨乳なのに惚れざるを得ない……!」

 

 その矢田の姿は巨乳反対派の茅野の心を揺さぶるほどであった。

 

「大丈夫ですカエデお嬢様!私のこの絶壁のような胸に比べればカエデお嬢様はまだ大きい方ですよ!」

「そ、そうかな……」

 

(((あー確かに風子ちゃんの胸ってカエデちゃんより小さ……ってコイツ男だよ!)))

 

 徐々に風子ちゃんが本物の女にしか見えなくなり始めた女性陣である。ある種の洗脳だろうか?

 

「みんな、アレ」

 

 気付けば一行は店の奥まで来ていた。

 

「辿り着いたのはいいけど、ここからが難しそうだね」

「場合によっちゃ、男手が必要かも」

「そうでございますね優月お嬢様。ここからは私たち女子だけでは厳しいかもしれません」

「茅野さん。渚を呼んできて」

「うん」

 

 走っていく茅野。しかし、誰一人風子の発言のおかしな点に気付いていない。

 

「でもどうする?」

「倒したらダメかな」

「それは頂けません凛香お嬢様。倒してしまった場合。すぐにバれてしまわれるかと」

「そ、それもそうね……」

「ならば、こういう作戦はどうでしょう?」

 

 風子が作戦を伝える。そんな中、茅野と渚が帰還した。

 

「おかえりなさいませ。カエデお嬢様、渚お嬢様。ご無事で何よりです」

「こっちのガードもありがとうね。風子ちゃん」

「この程度のこと当然にございます」

 

 このとき渚は疑問に思った。風人君が引き返せないところまで行ってるのではないか、と。後、僕はお嬢様じゃない、と。

 

「待てって彼女ら」

 

 するとおまけがついて来た。

 

「俺の十八番のダンスを見せてやるよ」

 

 そう言って踊り始める。このとき風子は思った。うっわ下手くそ、と。ちょっと素の部分が出てしまうほどだった。

 

(((邪魔……)))

 

 ただ、残りの人は違うことを思っていたが。

 すると、おまけ君はすぐ近くのヤクザの人のコップに手が辺り、中の飲み物をかけてしまう。胸倉を掴まれるおまけ君。

 

「ひなたお嬢様。チャンスにございます」

「分かった」

「桃花お嬢様は警備員の近くへ。凛香お嬢様、メグお嬢様はひなたお嬢様の後について」

「「「了解」」」

 

 ヤクザの元に近づく岡野。そのまま顔面を蹴り飛ばした。そして、すかさず片岡と速水がヤクザの人を運び、

 

「すみませんー店の人。あの人急に倒れたみたいで」

「運びだして見てあげてはどうでしょう?このままでは何かとあるでしょう?」

「あ、はい。失礼します」

 

 出払う警備員。よし、チャンスと思ったE組潜入部隊は颯爽と出口へ向かう。

 渚がおまけ君と話を終え、全員出たことを確認してから風人も出口に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?渚。着替えるの早かったね」

 

 僕と渚も着替えが終わり、男子と女子が全員階段の前に揃う。いやぁ、全員無事にこれたね。

 

「あれ?風子ちゃんは?」

「さっきまで居たのになぁ……」

「何言ってるの?片岡さんまで。冗談言ってる余裕ないよ?」

「え?だって、風子ちゃんどこかに……」

「風子って風人のことでしょ」

「「「あああああぁぁぁっ!」」」

 

 女子全員が思わず叫んだ。

 

「和光くんと別人過ぎて忘れてた……」

「風子ちゃんはもういないのね……」

「ああ。あんな女の子が存在しないだなんて……」

「人類の損失……」

「もう一度お嬢様って呼んでほしかった……」

「もう会えないんだね……」

「「「さようなら風子ちゃん……」」」

 

 女性陣が全員例外なく目に涙を浮かべて、別れを告げている。…………何この茶番。

 

「ねぇ、カルマ~僕なんて言えばいいの~?」

「うーん。風人が何したか知らないけど、ずっと女装したまんまでいればよかったんじゃない?」

「えぇ~やだよ~」

 

 尚、カルマの手により、僕と渚の女装写真がクラスのメッセージに貼られる事件が起きるんだけど……また別の話。




「人の女装写真を無許可で貼るのはやめましょう。私との約束だよ♪」

以上風子ちゃんからでした。


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銃の時間

 7階に着くと、人がいなくなってきた。 

 ここからはVIPフロアとなり、ホテルの者だけに警備を任せず、客が個人で雇った人を見張りとして置いているらしい。

 

「こっから先の見張りたちを倒すには、寺坂君の持ってる武器が最適ですねぇ……ヌルフフフ」

 

 寺坂はカルマ専属の荷物持ちとなっている。え?そんな荷物持ちが武器持ってたの?

 

「クッ。透視能力でもあんのかよテメェは……おい木村、あいつらここまでおびき出してくれ」

「俺が?どうやってだよ」

「知らねぇよ」

 

 知らねぇのに指名したの? 

 

「じゃあこう言ってみ木村……」

 

 カルマの助言?を受けた木村君は指示通りに私兵の近くまで行き立ち止まる。

 そして、

 

「あっれぇ〜?脳みそ君がいないなぁ〜。こいつらは頭の中まで筋肉だし……。人の形してんじゃねぇよ、豚肉共が」

 

 と言いながら少しずつこちらに帰ってくる。うわぁ。

 そして無論、それを聞いた私兵は黙っているわけがない。ダッシュで木村君を追う。

 

「おい、待てコラ」

 

 そしてこちらに来た瞬間、

 寺坂と吉田君がスタンガンで気絶させた。あれ?スタンガンで……気絶?

 

「タコに電気試そうと思って買っといたんだよ。まさかこんな形でお披露目とは思わなかったけどな」

 

 お金は……まぁいっか。最悪防衛省につけとけば。

 

「いい武器です寺坂君。ですが、その2人の胸元を探ってください」

 

 寺坂が男の胸元を探る。……変態?

 

「膨らみから察するにもっと良い武器が手に入るはずですよ」

 

 そして、取り出したものは本物の拳銃だった。おぉー!

 

「せんせー!僕持ちたい!」

「ダメです。この銃は千葉君と速水さん。あなたたちが持ちなさい。まだ烏間先生は精密な射撃ができるまで回復していない。現時点で一番それを使えるのは、君たち二人です。ただし、先生は殺すことは許しません。君たちの腕なら、殺さずに倒す方法はいくらでもあるはずです」

 

 ぶーぶー。でも、まぁ、二人の方が射撃の腕いいからなぁ……仕方ない。適材適所って奴だ。

 

「さて、ホテルを見る限り、雇った殺し屋も多くて後一人か二人」

「おう。さっさと行ってぶち殺そうぜ」

「あれ~?殺すこと厳禁って言われてなかったっけ~」

「それぐらいの覚悟でって意味だよ!」

 

 あーそう。

 そして、8階のコンサートホールに到着。

 通り抜けようとするも1人の男がいる。僕らはそれぞれ座席の陰に隠れている。

 

「14……?いや、16匹か、呼吸も若い、ほとんどが10代。驚いたなぁ、動ける全員で乗り込んできたのかよ」

 

 敵は一発、撃ち放つ。背後に向けて。

 

「言っとくが、このホールは完全防音だ。お前ら全員撃ち殺すまでだーれも助けにこねぇってことさ。お前ら人殺しの準備なんてしてねぇだろ。大人しく頭下げて降参――――」

 

 敵は銃をクルクルしている。

 その瞬間、速水さんが敵の持っている銃に向けて一発撃つ。

 しかし、外れて背後にヒットした。

 

(外した。銃を狙ったのに)

 

 すると敵は、照明をつけた。

 

「意外と美味い仕事じゃねぇか!」

 

 僕らの位置からは、照明のせいで敵がよく見えない。分かるのは敵が銃を持ったおじさん……銃おじさんということくらいだ!

 

「ハハハハハハッ!」

 

 あと高笑いしているくらい。

 

「今日も元気だ銃がうめぇ!」

 

 パン!

 

 発砲音が聞こえた。銃弾は座席の間を通り抜け速水さんのところへ。スレスレのところだ。

 

「一度発砲した敵の位置は絶対に忘れねぇ。俺は軍人上がりだ。他の暗殺専門の仲間たちとはちげぇ。幾多の経験の中でこれ以上の1対多数の戦闘はイヤってほどやってんだよ。さぁて、お前らが奪った銃はあと一丁あるはずだが?」

「速水さんはそのまま待機!今撃たなかったのは賢明です千葉君!君はまだ位置を知られていない。先生が敵を見ながら指揮をするので、ここぞという時まで待つんです」

 

 どこからか聞こえる殺せんせーの声。

 

「どこからしゃべって……」

 

 探すおじさん。すると、一番前の席に殺せんせーはいるみたい。

 あー絶対舐め切ってるだろうなぁ。見なくても分かるよ。

 

「テメー何かぶりつきで見てやがんだ!」

 

 銃を撃ってるけど、

 

「ヌルフフフ、無駄ですねぇ、これこそが完全防御形態です!」

 

 全て弾かれてる。いや、普通の状態でも普通の銃弾効かないじゃん。

 

「熟練の銃主相手。これくらいの視覚ハンデはいいでしょう」

 

 まぁ、なんでもいいんじゃない?

 

「では木村君5列左へダッシュ!」

 

 指示通りに動く木村君。

 

「寺坂君と吉田君はそれぞれ左右に3列!」

 

 二人も動き、おじさんはキョロキョロし始める。

 

「死角ができた!このスキに茅野さんは2列前進!」

 

 え?前進とかってリスキーだね。 

 

「カルマ君と不破さんは同時に右8!礒貝君は左に5!風人君後ろに2!」

 

 はーい、移動しよーっと。

 そして、殺せんせーの指示通りにどんどんシャッフルしていく……けど。これって、あの銃のおじさんに僕らの名前を知らせてるんじゃ……

 

「出席番号12番!右に1で準備しつつそのまま待機!」

 

 あーあ。出席番号まではさすがに覚えられないというか、一致させられないでしょ。

 

「4番と5番はターゲットを撮影。律さんを通して敵の様子を千葉君に報告」

 

 ちゃっかり反撃の手の準備もし始めてるし、

 

「ポニーテールは左前列へ前進!バイク好きも左前に2列前進!」

 

 そして、生徒の特徴まで言い始めた。こりゃあ、ダメだ。

 

「最近竹林君オススメのメイド喫茶に興味本位でいったらちょっとハマリそうで怖かった人!錯乱のために大きな音を立てる!」

「うるせー!なんで行ったの知ってんだテメェ!」

 

 あはははは。大爆笑。笑いが止まらない。

 

「今笑い転げてる期末テスト返却日に神崎さんの胸を借りて泣いていた人!君も錯乱の為に大きな音を立てる!」

「なんでそんなこと知ってんだよ!殺すぞタコ!」

 

(((そんなことがあったんだ……)))

 

 あの僕が自身でも凄い恥ずかしいところを見られたと自覚してることを……!絶対あのタコ殺す!後で覚えてろよ……!

 

「…………さて、いよいよ狙撃です。千葉君。次の指示の後、君のタイミングで撃ちなさい。速水さんは千葉君のフォローです」

 

 音を立てて錯乱している。……ところでこれ意味あるのだろうか?僕の恥ずかしいことを暴露されただけだよね?ついでに寺坂も。

 

「ですがその前に、表情をあまり出すことのない二人に先生からアドバイスです。君たちは先生の狙撃を外したことで、自分たちの腕に迷いがありますね?言い訳や弱音を吐かない君たちは、勝手な信頼を押し付けられたこともあるでしょう。苦悩していても誰にも気付いてもらえない」

 

 ……そんなことが。

 

「ですが大丈夫です。君たちは一人でプレッシャーを抱える必要は無い。外した時の作戦もちゃんと用意しています。ここにいる全員が訓練と失敗を経験しているからこそ出来る戦術です。君たちは安心して引き金を引きなさい」

 

 殺せんせーのアドバイス。この間に準備は済んだようだ。こっちも向こうも。

 

「では行きますよ…………出席番号12番!立って狙撃!」

 

 立ち上がる人影。

 

「ビンゴォ!」

 

 銃弾は眉間にヒット。……しかし当たったのは千葉君ではなく、菅谷君がつくった人形だった。

 

『分析の結果、狙うならあの一点です』

「オーケー律」

 

 千葉君が放った弾丸。おじさんには当たらなかった。

 

「へ……へへ。外したな……。これで2人目の場所が……っ!?」

 

 おじさんに照明の台が襲う。

 千葉君はおじさんを狙ったのではない。吊り照明の金具を狙ったのだ。

 それでもおじさんはそんなつらい体勢の中でも銃を撃とうとする。

 そこに、もう一発。

 速水さんが撃った弾丸は、銃にヒットした。

 

「よし、簀巻きだ!」

「おー」

 

 すかさず僕らはステージへ。銃のおじさんをガムテープでぐるぐる巻きにする。

 にしても、凄い戦いだったなぁ。二人の銃の腕も。



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風人の時間

 コンサートホールを出て九階へ向かおうとする……が。

 

「なぁ、アレって……」

「アレも犯人の刺客だろうな」

 

 そこには何かおじさんぬのように堂々と……階段に座っているおじさんがいた。

 

「スモッグもグリップもガストロもやられたかぁ……出て来いよガキ共」

 

 と言うわけで、僕らは全員出ていく。

 

「はぁ。もしかして、あいつら誰も殺れてないんじゃねぇのか」

 

 ため息をついて、やれやれって感じで語る。歳はさっきまでのおじさんたちと変わらなさそうだけど……何か怠そうだなぁ。

 

「俺は平和主義者なんだよ」

 

(((暗殺者が平和主義者?)))

 

「無益な戦いも面倒だしな……降参だ。通りたければ勝手に通ってくれ」

 

 両手をあげ、降参アピールをするおじさん。

 え?いいの?

 

「わーい。ありがとーおじさん」

 

 みんながおじさんに疑惑の視線を向ける中、僕一人は堂々と正面を歩く。

 

「あー気にするな。面倒事は嫌いだからな」

「気が合いそうだね~」

 

 僕は手錠を取り出し……思い切り振り抜く。

 

「で~?おじさん。このワイヤーは何かな~?」

「「「え?」」」

 

 手錠を地面まで振り下ろすと壁際のものが落ちた。

 手錠の輪っかには細くて鋭利なワイヤーが何本も引っかかってる。さすがに手錠は切れなかったのかな?

 

「……ッチ。どこで気付いた坊主」

「最初から~ってのは冗談だけど。おじさんが手を挙げた時かな~何か動いた気がしてね~」

「……はぁ。気付かなければ楽に逝けただろうに」

「冗談やめてよ~」

「で?どうすんだ坊主。俺を倒すか?」

「もちろん♪いいよね、せんせー」

 

 僕は殺せんせーの方に同意を求める。まぁ、後ろを振り向いた瞬間に、

 

「へぇ、よく弾いたな」

 

 床に落ちるナイフ。手錠で下に叩きつけた。

 

「舐めないでよ~。……アンタ騙し打ちが得意そうな顔してるもん。警戒してるに決まってんじゃん」

「そうかい。だが、まぁ正解だ。どんな手使おうと卑怯なんて言うなよ?」

「言わないよ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風人君とワイヤーを使っていた男の人との戦いが始まろうとしていた。

 

「殺せんせー。風人君大丈夫なの?」

「彼はああ見えて今は相手を警戒出来ている。ただ、問題は相手の方だ。風人君と同じトリッキーなタイプでしょう。風人君が後手に回る可能性が高い」

 

 そっか。前もって対策しようとすれば確実に裏をかかれる。読み合い化かし合い。でも、それなら、風人君にも分がある筈だ。

 

「そうかよ」

 

 すると、向こうの人がテレビのリモコン?のようなものを取り出し、スイッチを押す。

 瞬間。風人君の横の壁から三本の矢が飛んできて風人君の左腕に刺さった。

 

「くっ……!」

「風人君!?」

「ワンヒットだ。悪いがお前が居るのは俺の領域(テリトリー)……死んで後悔しな」

 

 続けてボタンを押すと、今度は天井から大量のナイフが降り注ぐ。

 

「ッチ!」

 

 風人君は自身に刺さった矢を引き抜いて、弾き、避けている……が、ナイフの量があまりにも多すぎる。そのために、多少はかすり傷を負ってしまう。

 

「ほう。このナイフの雨を避けたか。でもな」

 

 ナイフを投げる男の人。そのナイフを避ける風人君。……だが、

 

「ツーヒット。悪いが今のナイフの雨はトラップじゃない。ただの俺の武器補給だ」

「え……?」

 

 避けたはずなのに風人君の頬に切り傷が出来ていた。

 

「これはマズいですね……」

「完全に不利だ」

 

 形勢は誰が見ても完全に不利だ。開始まだ数分経ってないくらいなのにもう風人君はボロボロだ。

 

「悪いが依頼を受けたその時から仕込みは万全。テメェらがここを通れる確率は……0だ」

 

 続けざまに大量のナイフを投げつける……が。ほとんど外している。

 

「は、ははっ。あんなに一斉に投げるからだ!ほとんど外してやがる!」

「違うよ寺坂。見なよ風人の周り」

「周りって……はぁ!?いつの間に!?」

 

 僕らは目を見開いた。外したように見えていたナイフ。しかし、カルマ君に言われて気付いた。あの人は狙い通りに投げていたんだ。

 

「さて、もう動けないだろお前。じっくりいたぶってから死にたいか、一瞬で死にたいか」

 

 風人君を囲うようにしてワイヤーが張り巡らされている。

 

「大量のナイフの中に囮と本命を混ぜ込み、かつ仕掛けていた罠でワイヤーを風人君を囲うようにして張り巡らせる……」

「あーアンタが殺せんせーか。まぁいいけど。それと、そこにいる観客の諸君。俺は動くなとは言わなねぇよ。動けるなら動けばいい。動けるならだが」

「ヌルフフフ。確かに凄いです。ですが、この程度で負けるほど柔な鍛え方を彼はしてませんよ」

 

 でも、風人君はワイヤーの中で動けない。動けば確実に切れる。

 

「そうか。じゃあ、死ね」

 

 投げられるナイフ。狙いは首元と心臓部。避ければ切れる。避けなければ刺さる。どうするつもりなんだ……

 

「はぁっ!?」

 

 風人君は、首元に来たナイフを歯で受け止め、胸の辺りにきた奴を右手で受け止めた。ただ、代償に右腕は切り傷だらけになりボロボロに。

 

「やっと終わった~?じゃあ、反撃行くよ~」

 

 風人君は受け止めたナイフを使って巧みに周りのワイヤーを取り除いてまとめる。

 

「……そろそろ。攻めようかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 両腕が痛い。でも、幸い浅い傷ばっか。まぁ、左腕には刺さってたけど、それでもこれくらいの痛みならまだ大丈夫。

 僕は反撃の一手を探る中、あることを思い出していた。それは島に来る一週間くらい前のこと。

 

 

 

 

 

 

 今日は暗殺訓練に少し前のビッチ先生の件で来ていたロブロさんがわざわざ来てくれた。曰く殺し屋の観点から僕らの作戦を見てくれるらしい。

 

「君は面白いことをやってるな」

「そうですか~?」

 

 僕がやってるのは、手錠を正確に放つ特訓。指でくるくる回して、狙った木の狙った場所に、手錠の狙った場所を当てる。成功率はまだ八割ほど。これを九割にしないと実践じゃ使えないだろう。

 

「ふむ、なかなか面白い目をしている。君、必殺技は欲しいか?」

「必殺技!?欲しいです!」

 

 即答だった。

 

「ふ、ふむ。さっきの子とは別の奴を授けよう」

 

 

 

 

 

 

 条件その一。警戒。敵が僕の打つ手の全てを警戒していること。

 まだ足りていないかぁ。だが、まずは一番厄介なものから排除しよう。

 

「喰らえ!」

 

 落ちてるナイフを数本同時に投げると同時に距離を詰めて、おじさんの手を狙う。

 

「これが狙いだろ!」

 

 そう言ってリモコンを隠そうとするが、

 

「遅い!」

 

 リモコンを持つ手にあるものをぶつける。そのせいで、リモコンは落ちて、

 

「やぁー!」

 

 踏み潰す。と同時に、後ろに下がって距離を取る。

 

「なっ……これはスモッグの噴射機だと!?」

「ふっ。何でもいいでしょ?でも、それ使い捨てだからね。おじさんの手からリモコンを落とすのに使って、そこに捨てたよ」

 

(((使い捨ての意味間違ってない!?というかお前もそれ持ってたのかよ!)))

 

(貴重な武器を捨てただと?スモッグの作った麻酔ガスは俺を倒すのにうってつけなはず。何故、捨てた?アイツは一個しかそれを持ってない。カメラ越しにしっかり見たはずだ。まさか、それ以上の武器を隠し持ってるとでも言うのか?)

 

 条件一はほぼオッケーだ。

 条件二、条件三もほぼ満たしているはずだ。

 

「さっきのお返しだよ!」

 

 僕は手錠を数個同時に投げつける。精度は上がってるんだ。腕が痛かろうが、当てるくらい造作もない。

 そして、そのまま接近。向こうからは僕が死角になっていて見えないはず。

 投げていない手錠をメリケンサックのようにして嵌め、左手でパンチを喰らわせようとする。が、

 

「そこだ!」

「ぐあああああ」

 

 左眼のところを持っていたであろうナイフで斬りつけられそのまま蹴り飛ばされ、皆のところまで転がる。

 

「渚、殺せんせー貸して!」

「いやいやそんなことより風人君!眼が!」

「早くして!」

 

 僕は渚から殺せんせーを奪い取る。

 

「片目潰したな。もう片目もやろうか」

「へっ!やられっかよ!」

「にゅやぁぁぁぁあ!?」

 

 そのまま殺せんせーを蹴りつける。

 

(芸のない奴だ。どうせコイツの死角となる部分から接近してくるんだろ?さっきから、投げてるモノが変わってるだけで攻撃パターンがまるで変わってねぇ)

 

 そして、弾かれる殺せんせー。

 

(予想通り!この一撃で決めてやる!)

 

 僕を刺そうとするナイフ。そんな中、僕はあるモノを右手から自身の右側に放る。

 

(あいつ、投げたモノを見ている?一体、何を投げやが……)

 

 僕の視線と、おじさんの視線は僕の投げたモノへと移る。そして、おじさんの視線がそのモノに集中した時、

 

『フラッシュ機能です!』

 

 僕の投げたモノは突如光り出す。

 

「ぐわああぁぁっ!クソッ!目が……!」

「トドメ!」

 

 目潰し成功。僕は一瞬の隙をついて、脚払いをし、体制を崩させ地に背を付けさせながら、流れるようにおじさんの口に噴射機を突っ込み噴射する。毒使いのおじさんの麻酔ガスだ。

 

「て、テメェ……何で二個目を……テメェは一個しか持ってなかったはずだ……」

「カメラ越しに見てたのかなぁ?まぁ、何でもいいけど、最初に投げた方はカルマの使い捨てだよ~。まぁ、要はあっちはただのゴミだね~」

 

 本命はこっちだよ。と付け加えて言っておいた。

 

「そう……かよ」

 

 気絶するおじさん。

 

「ぶい。僕の勝ちだね♪」



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黒幕の時間

 皆が、ガムテープでおじさんをぐるぐる巻きにする。

 

「風人君……その目」

 

 そして、皆が僕の左眼を見てくる。そんなに気になるかな?

 

「なぁに、気にしないでよ~」

 

 僕は目についてる血を拭きとって、目を開く。

 

「「「えぇぇっ!?」」」

 

 すると、皆驚く。え?どうしたの?何か奇妙なものでも見たの?

 

「お、お前!目斬られたんじゃないのか!?」

「まぁね~。だから、多分目の上下付近にうっすらと切り傷がついてるでしょ~?」

「本当だ……でも、あの出血は一体……?」

「明らかにその小さな傷から出る量じゃねぇだろ」

「あーケチャップだよ。切られると同時にキレイにおじさんのナイフにもつけといた~」

 

 いやぁ苦労したよ。適度な切られ方をしてなおかつバれないように細工を仕込むのは。

 

「なるほどね。だから、風人は急いでいたのか」

「どういうこと?」

「相手は殺し屋だよ?ケチャップと血の区別なんて余裕で付く。つまり、時間を与えると気付かれる。せっかく、大きなダメージを与えたと思わせたのにね。だから、そのほんの一瞬の手ごたえを感じている間に殺せんせーを蹴り飛ばし、ナイフの方を見る時間をなくした」

「そういうこと~」

 

 いやぁ、ロブロさんのお陰で勝てたわ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもどんな必殺技ですか~」

「そうだな」

 

 僕はロブロさんの正面に立って、眼を見て話している。と、ここでロブロさんが右ポケットから何かを捨てた。

 

「ってナイフ!?」

 

 一瞬見て驚いた。けどまぁ、すぐに向き直る。何もロブロさん言ってないし、

 

「ちょっと距離を放そう。君は特に動かなくていい」

 

 はぁ。そして、10mほど離れて少しずつ歩いてくるロブロさん。何してくるか分からないし、警戒しておこう。ゆっくり歩いてきて残り5mほど。そのタイミングで今度は左のポケットから何かを横に投げた。

 ロブロさんがその投げ捨てたものを見る。その視線に釣られて僕もそのものを見る。ナイフかな?と思ったソレはただの石ころだった。

 

「分かったかい」

 

 そして、正面を向こうとすると既に首元に手をやられていた。……はぁ?

 

「視線誘導。ミスディレクションと呼ばれる奴だ」

「は、はぁ」

 

 いつの間に……

 

「これはマジックによく使われるものだが、こうやって暗殺に組み込むことも可能だ。君は最初にナイフが出てきて警戒した。そして、捨てた時何が出て来るか警戒がそっちに行く。だが、正面の敵にも警戒は必要。注意が二分されたところで、ターゲットが視線を投げたものに移す。君は釣られてそれを見た。それだけだ」

 

 いや、それだけって次元じゃないでしょ。誘導されたって気付かせずに誘導してるんだから。

 

「下手な奴がやっても上手くいかないだろうし、実戦となれば相手は簡単に引っかかってくれないかもしれない。だが、使えるようになれば。目さえ見えれば誰にでも通用する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロブロさんの言ってた三つの条件。警戒、油断、象徴。最悪油断はなくていいらしいが、油断していれば引っかかりやすいとのこと。

 僕の打つ手すべてに警戒させる。でも、どんな手が来ても自分には通用しないだろうといった油断を誘う。そして、目立つものを投げそこに視線を誘導。一瞬で詰め寄りとどめを刺す。

 いい実験台だった。律のフラッシュのタイミングも完璧だったし。あ、携帯拾って来よう。

 

「さぁ~先へ進も~」

「待って和光くん」

 

 と、ここで片岡さんから呼び止められる。

 

「今、応急手当するから、矢田さん不破さん。ソレ抑えておいて」

「「はーい」」

 

 と、何故か正座させられています。何で僕は毎回正座しているのだろうか。これだと正座キャラとして確立しそうだよ。誰のせいだ全く。

 

「寺坂君。預けていたもの取り出して」

「あぁ、コレだろ」

 

 なんかの袋だ。何だあれ?

 

「まず、ラップにワセリンを塗って……」

 

 すると、ラップを両腕の切ったりした部分に貼ってくる。

 

「後は包帯を……あれ?」

「私がやるよ」

「ありがと、矢田さん」

 

 その上から包帯を巻いてくる。

 

「後、顔と頭と左目の付近も少しか」

「ついでに頭の中も処置しちゃおうよ」

「したいのは山々だね」

 

 そういうと、何か色々して包帯を巻いてくる。

 

「左目見えないんですけど」

「諦めなさい」

 

 何か包帯で隠された。片目だと何か違和感あるんですけど……

 

「でも、片岡さん。よくそんなの持ってきてたね」

 

 渚が片岡さんに聞く。

 

「私のじゃないよ。神崎さんから渡されてね。『風人君が怪我する可能性があるから』ってね。まさか、本当に使うとは思わなかったけど」

「さすが神崎さん。和光くんの性格分かってる~」

 

 ふっ。帰ったら感謝しておこう。……無事に終わればだけど。

 

「さて、行きましょうか」

「おー!」

 

 歩き始める僕ら。

 

「和光君!ちょっとさ、『オレの封印された左腕が疼く……』とか言ってみてよ!」

「本当に疼きそうだからやめてあげて?」

「じゃあ、『オレのこの腕の封印を解く時が来た……』とか」

 

 別の意味で不破さんが興奮してめんどーだった。

 余談だが、殺せんせーを持っていくのを忘れかけたことを記す。後は、殺せんせー。僕の蹴りを喰らって痛くはなかったけどぐるぐる回って軽く酔ったらしい。ざまぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふうぅ~……だいぶ体が動くようになってきた」

 

 烏間先生が見張りの首を絞めて落とす。

 

「まだ力半分ってところだがな」

 

 おかしいなぁ?これでまだ半分なの?

 

「力半分ですでに俺らの倍強ぇ……」

「あの人ひとりで侵入した方が良かったんじゃ……」

「本当だよ~」

 

 そうすれば僕も危険な戦いに巻き込まれずに済んだのに。

 と、僕らが進んでいると律から情報が入った。

 

『最上階部屋のパソコンカメラに侵入しました、上の様子が観察できます』

 

 律はそれぞれの携帯にその映像を送る……やっぱチートだよね?

 

『確認する限り残るのは……この男ただひとりだけです』

 

 どうやら、コイツを倒せば終わりか。にしても、ホテルで皆が寝ているところの監視カメラの映像を見ている。あーあ。…………本当に性格悪いクソヤロウだ。

 

「あのボスについて、分かってきたことがあります」

 

 ここで、殺せんせーが説明をはじめた。

 

「黒幕の彼は殺し屋ではない、殺し屋の使い方を間違えている」

 

 いや、殺し屋の使い方に合ってるも間違ってるもないでしょ。え?違うの?

 

「もともとは先生を殺すために雇った殺し屋、ですが先生はこんな姿になり……警戒の必要が薄れたので見張りと防衛に回したのでしょう。……ですがそれは殺し屋本来の仕事ではない、彼らの能力はフルに発揮すれば恐ろしいものです」

「……確かにあの銃撃戦も戦術で勝ったけど、あいつ……狙った的は1センチたりとも外さなかった」

「カルマ君や風人君もそう。敵が正面から現れず日常的に忍びよられたら、瞬殺されていたでしょう」

「……そりゃね」

「さすがにね~」

 

 いきなり背後とか無理無理。

 敵は殺し屋ではない。その情報に烏間先生は何か思う節があるのかな?

 

「烏間先生?」

「いや……。さぁ、時間が無い、こいつは我々がエレベーターで来ると思っているはずだが。交渉期限まで動きが無ければ流石に警戒を強めるだろう。個々に役割を……」

 

 烏間先生がこれからの作戦を指示する。あれ?何か寺坂の様子がおかしくね?

 

「寺坂くん、まさかウィルス……んっ!?」

「黙ってろ渚。それに風人もだ。俺は体力だけはあんだからよ。こんなもん放っときゃ治んだよ」

「そんな……無茶だよ」

「烏間の先公がガス浴びちまったのは……俺が下手に前に出たからだ。それ以前に俺のせいでクラスの奴らを殺しかけたこともある。こんなとこで脱落してこれ以上足引っ張れるわけねーだろ」

 

 あー、寺坂(爆)事件のことか。

 

「寺坂くん……」

 

 でも、潜入作戦もあと少し。大丈夫だと信じたいけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最上階の一室。九階で見張りが持っていたカードキーを手に侵入。

 部屋は少々スペースがある。焦らずかつ静かに。少しずつ黒幕との距離を詰めて行く。

 

「かゆい」

 

 黒幕の言葉に動きを止めざるを得ない僕ら。残り数メートルとはいえ、気配は全員消してたはず。ただの、独り言?

 

「思い出す度にかゆくなる。でもそのせいかな、いつも傷口が空気に触れるから……感覚が鋭敏になってるんだ」

 

 聞き覚えしかない声。いや、でも前聞いた時と声の調子が明らかに違う。

 バッと落とされる数個のリモコン。……偽物じゃねぇだろうな。全部本物だ。本物だからこそヤバい。リモコン……一個ボタンのある簡易な作りだ。だが、その中にも執念みたいなのを感じる。

 

「連絡がつかなくなったのは四人の殺し屋のほかにもう一人身内にもいた。防衛省の機密費と共に俺の同僚が姿を消した。どういうつもりだ……鷹岡ぁ!」

 

 最悪の敵だ。僕の考える中でかなり面倒な敵だ。……この男は僕たちを憎まないわけがない。

 

「悪い子達だ……恩師に会うのに裏口から来る。父ちゃんはそんな風に教えた覚えはないぞ……仕方ない、夏休みの補修をしてやろう……さあ、屋上へと来い」

 

 やべぇ。ツッコミだらけだ。恩師?お前が?裏口……まぁ、最初はね。父ちゃん?だからちげぇよ。補修?嫌だよ。

 状況が状況なだけに迂闊なこと言うと薬を爆発しかねない。スーツケースについてる爆弾。今爆破されれば薬を失うだけで済まない。確実に今無事な人間にも被害が出る。

 歩き出す鷹岡。こいつは………………本当に厄介な敵だ。



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渚の時間

 僕は屋上……に向かうことなく一人階段を降りていた。予想が正しければアイツの中で誰か一人欠けてもそれが渚でなければ気にしないはず。

 

『気でも違ったか鷹岡、防衛省から盗んだ金で殺し屋を雇い、生徒たちをウィルスで脅すこの凶行……!』

『おいおい烏間、俺は至極真っ当だぜ?お前らが大人しく要求通り、チビ二人にその賞金首を持ってこさせりゃ俺の暗殺計画はスムーズに仕上がったんだけどよ』

 

 律に誰かのケータイから流して貰ってる。どうやって、殺るつもりだったんだあの野郎は。

 

『計画ではな、茅野とかいったか?女の方を使う予定だったんだ。部屋のバスタブに対先生弾がたっぷり入れてある、そこに賞金首を抱いて入ってもらう。その上からセメントで生き埋めにする、対先生弾に触れずに元の姿に戻るには…生徒ごと爆裂しなきゃいけないって寸法だ。生徒思いの殺せんせーはそんな酷いことしないだろ?大人しく溶かされてくれると思ってな』

 

 やべぇ。想像の100倍ひでぇ。……ん?それだと、僕らって大人しく従ってたとしても薬返してもらえなくね?薄々予想はしていたけどさ。

 

『これでも人道的な方さ、お前らが俺にした……非人道的な仕打ちに比べればな』

 

 何が人道的だよクソ野郎。ッチ。

 

『屈辱の目線と騙し討ちで突きつけられたナイフが頭ん中チラつく度にかゆくなって、夜も眠れなくてよォ!落とした評価は結果で返す、受けた屈辱はそれ以上の屈辱で返す。特に潮田渚、俺の未来を汚したお前は絶対に許さん!』

 

 やっぱり。こいつの狙いは渚への復讐と殺せんせー暗殺。

 

『背の低い生徒を要求したのは……渚を狙ってたのか』

『カンペキな逆恨みじゃねーか!』

『へー、つまり渚くんはあんたの恨みを晴らすために呼ばれたってわけ。その体格差で本気で勝って嬉しいわけ?俺ならもーちょっと楽しませてやれるけど?』

『イカレやがって、テメーで作ったルールの中で渚に負けただけだろが。言っとくけどなあの時テメーが勝ってようが負けてようが俺らテメーの事大ッ嫌いだからよ』

 

 聞いた感じ向こうは戸惑いより怒りが強くなってるなぁ。これは急がないと。

 

『ジャリ共の意見なんて聞いてねぇ!俺の指先でジャリが半分減るってこと忘れんな!』

 

 忘れてねぇよ。でも、僕は知ってるよ……

 

『チビ、お前ひとりで登ってこい。この上のヘリポートまで』

『渚!いったらダメ』

『…………行きたくないけど……行くよ』

『早く来いオラァ!』

『あれだけ興奮してたら何するかわからない。話に合わせて冷静にさせて、治療薬を壊さないよう渡してもらうよ』

 

 一言で言えば不可能……か。

 八階の階段にいたおじさんは……まだ寝てるな。よし、持っていこう。コンサートホールの方は、

 

「やっぱ、復活してたか……おじさんたち」

 

 そこには三人のおじさんたちが。やっべ、このおじさんたち殺し屋なんだよなぁ。

 一方屋上は鷹岡が渚とのリターンマッチをしたいらしい。だが、一瞬で決着がついても晴れないから土下座しろって言ってるみたいだ。渚の性格上やるだろうなぁ。

 

「お前は……さっきのガキの一人か」

「その様子……一人だけでやってきたようだぬ」

「何の用だ?」

 

 やっべぇ。三人そろうとヤバい勘半端ねぇ。

 

「話がある。コイツは人質だ。僕としては、穏便に済ませたい。今ばかりは停戦しないか?そうすれば、コイツの拘束を解き解放する」

「ほう。俺たちだけでなく、ジャックまで倒していたか。見たとこ寝ているな。やっぱ、お前たちは甘ちゃんだな」

 

 ジャック……それがコイツの名か。いざとなったらコイツを武器(肉壁)にして戦いに繰り出すしか……

 

「いいだろう。話を聞いてやる。解放しな」

「……分かった」

 

 そして、解放しようとした時にスマホから響く爆音。……やりやがった。予想通り薬を爆破しやがった。

 

「今の音は何だぬ」

「アンタらのボス……雇い主が治療薬を爆破したんだよ。こっちの奴に土下座までさせといてな」

 

 鷹岡の笑い声がコンサートホールに響く。やべぇな。……だがな。

 

「だからさ、毒使いのおっさん。頼みがある――」

 

 だが、僕は一縷の望みにかける。ただで終わらせる気はねぇ。鷹岡への復讐?そんなことよりも重要なことがある。もう誰も失うわけにはいかないから。

 そして、屋上では渚が荒い呼吸で、『殺してやる』と言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上。そこには頭に血が上った渚がナイフを持って構えた。

 このままでは渚が鷹岡殺してしまう。止めようとする殺せんせーより前に、一本のスタンガンが渚の背中に投げつけられた。

 

「チョーシこいてんじゃねえぞ渚!!てめえ、クスリが爆発された時、俺の事を哀れむように見やがったな!いっちょ前に気遣ってんじゃねえよもやし野郎が!ウイルスなんざ、寝てりゃ治んだよぉ!」

 

 投げつけたのは寺坂だ。

 

「そんなクズでも息の根止めりゃ殺人罪だ。テメーはキレるに任せて百億のチャンス手放すのか?」

「寺坂君のいう通りです渚君。その男を殺しても何の価値もない。逆上しても不利になるだけです。そもそも彼に治療薬に関する知識などない。下にいた毒使いに聞きましょう。そんな男は気絶程度で充分です」

 

 寺坂と殺せんせーの言葉。それに反応したのは鷹岡だった。

 

「おいおい、水差してんじゃねえよ……こいつの本気の殺意を屈辱的に返り討ちにしてようやく俺の記憶は……」

「渚君、寺坂君のスタンガンを拾いなさい」

「……」

「その男の命と先生の命、その男の言葉と寺坂君の言葉。それぞれどちらに価値があるのか考えるんです」

 

 渚は黙ったまま話を殺せんせーの話を聞いている。

 倒れ込む寺坂。駆け寄る木村と吉田。

 

「やれ渚、死なねぇ範囲でブッ殺せ」

 

 その言葉が渚に響いたのか響かなかったのか。渚はスタンガンを拾いはしたがしまってしまう。

 渚、鷹岡共に上着を脱ぎ捨てる。煽る鷹岡に何も言わない渚。

 

「烏間先生。もし、渚君の生命に危機がきたら……迷わず撃ってください」

 

 殺せんせーがここまで言う。それほどまでに今の状況はヤバいのだ。

 

「あぐッ……ゲホッゲホッ」

「おらどうした?殺すんじゃなかったのか?」

 

 渚が暗殺に持ち込もうと歩き始める。が、鷹岡の蹴りが飛んでくる。

 今の鷹岡に前回のような油断はない。最初から完全に戦闘モードに入ってる。心が狂気で満たされた精鋭軍人。今の鷹岡にいかなる奇襲も通じないだろう。

 

「勝負にならない……」

「勝てるわけねーよあんな化物」

 

 顔が腫れはじめ、血を吐く渚。それに対し、一方的に攻める鷹岡。

 速水や菅谷の言うように勝負にならない。

 

「手足切り落として標本にしてる、手元に置いてずっと愛でてやるよ」

「烏間先生!もう撃ってください!渚死んじゃうよ!」

 

 ナイフを拾った鷹岡。一方的な状況に茅野は悲痛な叫びをあげる。

 

「手出しすんじゃねぇ」

「まだ放っておけって寺坂。俺もそろそろ参戦したいんだけど」

「訓練サボってたてめぇは知らねぇだろうな。渚の奴、風人と同じように隠し玉を持ってるようだぜ……」

 

 渚は思い出していた。ロブロさんに教えてもらったことを。

 

(ロブロさんの言ってた必殺技の条件は……)

 

 1つ、武器を2本持っていること。

 2つ、敵が手練であること。

 3つ、敵が殺される恐怖を知っていること。

 

(良かった……全部揃ってる。…………鷹岡先生、実験台になってください)

 

 歩み始める渚。先ほどとは違う雰囲気を纏っている。

 ロブロが渚に教えたのは必ず殺すための技。風人に教えられた技とは違い、こちらの方が渚向きだ。

 

「この……クソガキぃ」

 

 鷹岡は集中力を高めていく。以前のようにやられないように。渚の一挙一動を逃すまいと。

 

(タイミングは……ナイフの間合いの少し外。敵に接近すれば接近するほど、敵の意識はナイフに集まる。その意識ごとナイフを空中に置くように捨てそのまま……)

 

 鷹岡の意識は完全にナイフを向いていた。

 

 

 パンッ

 

 

 響き渡る音。傍から見れば多少大きい音程度だが、全神経を集中していた鷹岡に取っては音の爆弾のように感じただろう。

 反射的に仰け反る鷹岡。そのあからさまな隙を(暗殺者)が逃すわけがない。

 流れるような動きでスタンガン(二本目の刃)を抜き、鷹岡の脇に当て電気を流す。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 膝をつく鷹岡。予想以上の出来事に殺せんせーまでもが固まってしまう。

 

「トドメをさせ渚、首あたりにたっぷり流しゃ気絶する」

 

 寺坂の言葉を受けた渚は鷹岡の首にスタンガンを当て、顎をスタンガンで持ち上げる。

 

(殺意を教わった、抱いちゃいけない種類の殺意があるって事。その殺意から引き戻してくれる友達の大切さも。殴られる痛みを、実戦の恐怖を、この人から教わった。酷いことをした人だけど、それとは別に授業には感謝をしなきゃいけないと思った。感謝を伝えるなら――)

(やめろ……)

(――そういう顔をすべきだと思ったから)

(その顔で終わらせるのだけはやめてくれて……その顔が一生悪夢から離れなくなる)

 

 次の瞬間、渚は笑顔をつくり、

 

「鷹岡先生、ありがとうございました」

 

 電流に流した。鷹岡は気絶。

 

「よっしゃああ、ボス撃破!」

 

 喜ぶE組。

 そして、皆ヘリポートに上がる。

 

「よくやってくれました。無事でよかったです」

「うん。僕はよかったけど……皆の薬が」

 

 一まず烏間先生がヘリを呼び、毒使いのもとへ行こうとした時。

 

「フン、テメーらに薬なんざ必要ねぇ、ガキどもこのまま生きて帰れると思うなよ?」

 

 暗殺者たちが現れた。



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休む時間

3月1日……あー卒業式シーズンですね。というか、作者も卒業式があります。
高校も終わり大学へ……さぁ、どうなることやら。
あ、今日は前書きに短編はありません。代わりに後書きに少しあります。
後、アンケート機能がついたので使ってみました。気が向いたら答えて下さい。
期間制限はないそうですが、ここから三話分で設置して置いて4月1日の朝6時00分の時点で票が多かった方を採用。競っていたり、予想以上に負けていた方の票が多かったら番外編でやるかも。まぁ、こんなアンケートは義務でも強制でもないので誰も答えないかもですが。
あ、投票者ゼロの場合は本編通り進みます。

追記
沢山のアンケート協力ありがとうございます。
アンケートは締め切り、次話のみの表示とさせていただきます。



 現れたおじさんたちに警戒する皆。

 

「お前たちの雇い主は既に倒した。俺も充分に回復もしたし、生徒たちも強い……互いに被害が出る事はやめにしないか?」

「うん。いーよ」

「諦め悪……え?いいよ?」

「ボスの敵討ちなんぞ依頼にはねえし……というか、コイツがこっちに並んでいる時点で察しろ」

「おっとっと。いたいなぁ~おじさん。僕怪我人だよ~」

「んなこと言ったら俺らも全員怪我人だバカ」

 

(((何か凄い馴染んでる……)))

 

 あー、痛いなぁもう。

 

「って、あれ?いつから和光君っていなかったっけ?」

「確か屋上に来た時には……あれ?お前屋上に来たか?」

『風人さんは黒幕の部屋から出た瞬間から居なくなってましたよ』

「そういうこと~」

 

(((ぜ、全然気付かなかった……)))

 

「そもそも。言ったろ?薬なんぞ必要ねえって」

 

 くえっしょんまーくだらけの皆。

 

「こいつにも説明したんだが、お前らに盛ったのはこっちの食中毒菌を改良したもんだ。あと3時間くらいは猛威を振るうが、その後急速に活性を失って無毒となる。そんでこっちがボスに指示された方、こっちを使ってたらお前らマジでやばかったな」

 

 皆は暗殺者(おじさん)たちの言葉に驚いてるなぁ。

 

「そのウイルスを使う直前に四人で話し合ったぬ。ボスの交渉期限は1時間。だったらわざわざ殺すウィルスじゃなくても取引はできるぬ」

「全く。まぁ、スモッグは、交渉にあわせて多種多様な毒を持ってるからね。お前らが命の危機を感じるには充分だった。だろ?」

 

 本当、予想外の結果で最初聞いた時は驚いたよ。ジャックおじさんを武器にして三人と戦う覚悟はしていたのに。

 

「……でもそれって、アイツの命令に逆らったってことだよね?お金もらってるのにそんなことしていいの?」

「アホか、プロが何でも金で動くと思うなよ?もちろん雇い主(クライアント)の意に沿うように最善は尽くすが、このガキの見立て通り、ボスはハナから薬を渡すつもりは無いようだった。カタギの中学生を大量に殺した実行犯になるか、命令違反がバレてプロとしての評価を落とすか。どちらが俺らの今後にリスクが高いか冷静に秤にかけただけよ」

 

 バシバシと叩いてくるガストロおじさん。いたいいたい。

 

「ま、そんなわけでお前らは残念ながら誰も死なねぇ。その栄養剤を患者に飲ましてやんな。飲む前より元気になったって感謝の手紙が届くほど代物だ」

「「「アフターケアも万全だ!」」」

 

 すごいね。感謝の手紙が届くって。でも、何処宛に送ればおじさんたちのもとへ届くんだろう?

 

「信用するかは生徒たちが回復したのを見てからだ。事情も聞くししばらくは拘束させてもらうぞ」

「……まぁしゃーねーな、来週には次の仕事が入ってるからそれまでにな」

 

 ヘリが来て鷹岡と部下たちが拘束されて行く、

 

「引率の烏間って言ったか?殺せんせーもだが、このガキに首輪でも付けときな。殺し屋三人相手に殺し屋を人質に取って単身交渉に来るバカだぞ」

「バカって酷いなぁ~」

「事実だろ」

 

(((お前裏でそんなことしてたの!?)))

 

「ごめんなさい。彼の御目付け役が毒で倒れたうちの一人だったんです……」

「そのせいで制御が効かなくなったか……それは……何か悪いことしたな」

「何か……ごめんな。ガキ共」

 

(((殺し屋たちが謝ってる!?何したんだあのバカは!?)))

 

 酷いなぁ。僕は何もしてないのに。ただ交渉に行っただけなのに。

 

「ガキ共。本気で殺してきて欲しかったら偉くなれ。そんときゃプロの殺し屋のフルコースを教えてやるよ」

 

 殺し屋たちは去っていった。彼らなりのエールを残して。

 

「プクク。カルマ~最後グリップおじさんぬにやられてたねぇ~プクク~」

「風人こそ、殺し屋たちから謝られるほどのバカなことしたくせに」

「ふっふっふっ。知恵が回ると言ってほしいね~」

 

 僕らの大規模な潜入ミッションはホテル側の誰にも気付かせないまま幕を閉じた。

 帰りのヘリの中で、

 

「……寺坂くん。あの時声をかけてくれてありがとう、間違えるところだった」

「……ケッ、テメーのために言ったんじゃねぇ。一人かけたらタコ殺す難易度上がんだろーが」

「うん……ごめん」

 

 いい話だ。うんうん。

 

「というか、和光も何気に危なかったんじゃないのか?」

「だよね。まさか、殺し屋たちの下へ交渉に行ってるとは思わなかった」

「しかも風人が倒した殺し屋を人質にしてね」

「お前。よく生きてたな」

「あはは~まぁ、楽しかったからいいんじゃない?」

「「「楽しいわけあるかぁ!」」」

「そうだね~ってか、思えば僕と渚だけボロボロじゃん!ふこーへーだ!」

「何が不公平だバカゼト!」

「テメェのそれは自業自得だろうが!」

「傷口に塩塗り込んでやろうか」

「「「それだぁ!」」」

「誰も塩なんて持ってないでしょ!それくらいお見通しだよ!」

「そこに海あるじゃん」

「……あ」

 

 やっべ。どうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回のことで、E組の潜入組は身をもって実感したらしい。僕を野放しにするとヤバい……と。

 僕らは皆の待つホテルへと帰還した。もう大丈夫だということは伝えてある。

 僕は有鬼子のところへ行き、

 

「無事でよかったぁ~!」

 

 思い切り抱き着く。

 

「か、風人君!?いきなりはいいけど…………一人だけ明らかに重傷だよね?……大丈夫?」

「ふふん。これぐらい掠りき――」

 

 僕は離れ、立ち上がって、無事なように見せようとしたが……あ、やっべ。まだ完全ではないと言え無事な有鬼子を見て安心したら、眠すぎる……意識が……急に…………

 

 バタッ

 

「風人君!?」

「…………スー………………スー」

「あーあ。和光くん寝ちゃったかぁ……」

「無理もないよ。この怪我で、殺し屋たちと交渉にいったりバカなことしてたんだから」

「えーっと……何があったの?」

「神崎さんが居なくて大変だったんだよ!」

「ほんと、コレは私たちじゃ制御不可能だったよ」

「じっくり聞かせてもらうね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたのは夕方だったと思う……

 

「ここはどこ……僕はだ」

「あ、起きた?風人君?」

 

 ……最後まで言わせてほしかった。

 

「全く、無茶っばっかりしたみたいだね」

 

 起きるとすぐ横に有鬼子がいた。

 

「あはは……あれ?服が変わってる?」

 

 気付いたらジャージ姿になっていた。

 

「あまりにボロボロだったから着替えさせたよ」

 

 そっか……

 

「え?有鬼子が?」

「うん」

 

 さーっと、着布団を掴んで距離を取る。

 

「寝ている間に変なことしてないよね!?」

「……おかしいなぁ。立場が逆だと思うんだけど」

 

 そんなこと知らない。普通は女子が言うセリフだって?そんなの偏見だよ。

 

「ダメでしょ?皆に迷惑かけたら」

 

 さーっと、目を逸らし、さーっと、逃げようとする。

 

「じゃあ、風人君も起きたし行こうか」

 

 しかし、首根っこを掴まれる。僕はペットか。

 

「あれ?皆は~」

「起きて外にいるよ」

「はーい」

 

 やれやれ。どうやら僕が最後のようだ。って、外って外の何処にいるの?

 

「いこ?」

「はーい」

 

 僕は有鬼子に首根っこから手を掴まれ移動する。

 

「ありがとうね。私たちを助けるために」

「いいって~。言うて僕何もしてないしね~あはは~」

「嘘ばっか。殺し屋と戦ったり、女装して女子の警護したりしたんでしょ?後殺し屋さんたちに交渉に行ったりとか」

 

 うんうん。でも女装?それは身に覚えがございません。

 

「風子ちゃんだったかな」

「カゼコチャン?ダレソレボクノシラナイヒト?」

「カルマ君から聞いたよ?ほら、写真も」

 

 そこには、僕の女装した時の写真が。ふむふむ。

 

「ちょっと手放してくれる~?」

「うん。いいよ」

 

 解放された手。よし、

 

「カルマァ!死に晒せぇ!」

「おっと、最後の一人が元気よく目覚めたみたいだね」

「テメェ!人の女装姿晒して何が狙いだコラァ!」

「いいじゃん。風子ちゃん大人気だったよ」

「お前だけは許さねぇぞバカルマ!」

「はっ!かかってこいよバカゼト!」

 

 僕は拳を構え、カルマに殴りかかった。

 

「げ、元気だね……風人君」

「そうだね……」

「あはは……でも、茅野さんも渚君もいいよね。風人君にお嬢様って呼ばれて」

「僕は全然よくないよ!?」

「あの時の和光くんは別人だった。もうあの綺麗な風子ちゃんは見れないんだね」

「今度女装させようかな……私の服でもサイズ合いそうだし」

「神崎さんの思考がいけない方向に走り始めた!?」

「それ名案だね!よし、E組女子に声をかけよう!」

「片岡さんからも好評だったし……ね」

『私もその時の音声をしっかり記憶しました!カルマさんにはあげましたがどうしますか?』

「律まで!?もう風人君の味方はいないのか……」

 

 と言いながらも渚は自分より風人が女装枠として定着してくれれば自分に被害はこないのでは?と考えていたそうだ。




アンケート前におまけとして『島の時間』で没にしたドリンクのシーンをどうぞ。
興味の無い方はスルーを。(短いです。風人君視点です)











「サービスのトロピカルジュースでございます」

 運ばれてくるトロピカルジュース。

「うむ。大義であった」
「もう、違うでしょ?すいませんウェイターさん。失礼なことを」
「いえいえ。どうぞごゆっくり」

 下がっていく店員。ふむ。トロピカルジュースか。

「どれどれ味は……っと」

 一口飲んでみる……おぉ!

「甘酸っぱいね~」
「そうだね」

 そのまま何口か飲んでふと気付く。

「ところで有鬼子~」
「何かな?風人君」
「トロピカルジュースってミックスジュースみたいなものでしょ~?」

(みたいと言うか……なんと言うか……)

「だったら、果物とかの配分率が違ったら味って変わるのかな~?」
「普通はそうだね」
「おぉ!じゃあ、もしかして有鬼子のと僕のでは味違うのかな~」
「え?いや、味は変わらないと思うけど……」
「そんな!ジュースを見た目で判断しちゃいけないよ!」

(見た目も何も、わざわざ一人一人変える意味が分からないんだけど……)

「というわけで、一口飲ませて~こっちもあげるから~」
「うぇっ!?」

 おかしな声をあげる有鬼子。

「そうすれば減らないでしょ~?」
「た、確かに減らないけど……」
「じゃあ、いいよね~はい」

 というわけで、有鬼子に僕の飲んでた方のジュースを渡して有鬼子のを受け取る。そして飲む。

「…………?」

 あれ?何だこの違和感。まるで、フルーツ以外の何か別のものが入ってた気がする……

「どうしたの有鬼子~。飲まないの?それと、もう一口頂戴~」
「あ、ああ、うん!飲むよ。風人君も飲んでいいからね……」
「はーい」

(どどどどうしよう!これって絶対間接キスだよね!?だって、私が使ってたストローごと風人君に渡して今目の前にあるストローはさっきまで風人君が口をつけて飲んでいたもの……)

 ゴクリ、という感じの音が隣から聞こえたけど気にしない。ふむ。やっぱり、僕のと何か味が僅かながらに違う。本当に些細だが、何だろう?このフルーツ以外の味。

(で、でもストロー使わずに飲んだら頭おかしいって思われるし……ああ!というか、風人君全く気付いてないよ!どうしよう、でもここで変に勘づかれるのはマズい!)

 耳を紅くしている有鬼子は無視してこっちで考えを進める。異物混入……ってことはないだろう。異物だったら、こんな上手い感じにトロピカルジュースの味と調和しない。有鬼子の唾液?いや、そんな味でもないだろう。もっと違う何か別のモノ……。

(よ、よし!仮に気付かれても交換しようと言ったのは風人君なんだ!つまり無意識に間接キスしようとしているのは風人君なんだ!私はそれに乗るだけなんだ!)

 意を決した感じで飲む有鬼子をスルーして、考察を進める。ここまで味がマッチしてるとなるとまるで、ウェイターが僕らの一部の人間を動けなくするために仕組んだ毒……みたいな?

「…………それは推理ゲームのやり過ぎか……」
「お、おいしかったよ。風人君」
「そう~?あ、中身変わらないだろうからこのままにする~?それとも戻す~?」

(戻す……って言おうと思ったけど戻したらまた間接キスになるのでは!?で、でもこのまま飲んでも……ああ!私は一体どうすればいいの!?)

 ま、何でもいっか~












ぶっちゃけこの二人に(風人君は無自覚な)間接キスをさせたかっただけです。
没にした理由は単純に風人君が毒でぶっ倒れると今までの話がなくなってしまうからです。


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こわい時間

今日は何の日でしょう?
ズバリ我らがヒロイン神崎さんの誕生日です。
では、短編から。

『有鬼子の誕生日』

「有鬼子~」
「どうしたの?風人君」
「誕生日おめでと~」
「ふふっ。ありがと。覚えてくれてたんだね」
「まぁね~覚えやすいし」
「3月3日。ひな祭りだしね」
「何かして欲しいことある~?」
「うーん。じゃあ、たっぷり甘えさせて」
「いーよ~」
「ありがと……あー風人君の温もり……落ち着くなぁ」
「よしよし」
「あー……このまま私が独占したいなぁ……」
「うんうん」
「あー……風人君に私以外の人なんていらないよね……」
「……ん?」
「あー……このまま何処か静かなところに連れ込んでに閉じ込めて一生……」








この後風人に悪寒が走ったのは言うまでもない。
これは少し先の未来の話……こんな未来になるかどうかは二人次第……。
というわけで本編をどうぞ。


 烏間先生が不眠不休で殺せんせーを閉じ込めて暗殺しようとしたが失敗に終わった。まぁ、そういうこともあるさぁ~。え?カルマとの喧嘩?結果は聞かないでね♪

 

「皆さん。集まりましたねぇ」

 

 触手が復活した殺せんせーから洞窟の前に集合するよう言われた僕ら。何やるんだろう?

 

「で?何やんのさ。こんな場所で」

「夏の夜といえばそう!暗殺肝試しです!」

 

 うわぁ。絶対自分がやりたいだけだ。

 

「って、暗殺肝試し?」

「そう。お化け役は先生がやります。お化けを殺してオッケーです」

 

 あーそういうこと。

 

「場所はここです。出口まで男女ペアで抜けて下さい」

「せんせー。ペアってどうやって決めるの?」

「ヌルフフフ。それは皆さんにお任せします。では」

 

 そう言うと、洞窟に入ってく殺せんせー。

 

 

 

 

 

 

 僕らはこの時知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 せんせーの肝試しの真の目的を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、ペアってどうやって決める?」

 

 うちのクラスは律を含めても女子は13人。男子は15人とどこかで男子同士のペアが出来るはず。

 

「とりあえず、渚ちゃんか風子ちゃん加えれば男女一緒の数になるんじゃない?」

「「ならないよ!」」

 

 カルマめ。楽しんでやがるな。

 

「何にせよ。神崎ちゃんと和光のペアは決定だね」

「だね。後はどうする?」

「あれ~?何か一瞬で決まった~?」

「「「誰もアンタの御守りは出来ないから」」」

 

 酷い言われようだ。

 

(((…………というのもあるけど、ここで神崎さんと和光をくっつけよう)))

 

 僕は知らなかった。女子たちにゲスな考えがあることを。

 

「まぁいーや~よろしくね~有鬼子」

「うん。よろしく」

 

(何か皆の見る目がなぁ……)

 

 で、いろいろあってペアは決まったみたい。過程や詳細、結果も省くけど、まぁいいよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「有鬼子ってこういうの平気~?」

「多分大丈夫かな。ホラーゲームもある程度大丈夫だし……」

 

 そこホラーゲームで例える辺りゲーマーだね。うん。

 すると、三味線の音が聞こえてくる。そして現れる殺せんせー。

 

「ここは血塗られた悲劇の洞く――」

「やー」

「にゅや!?全部言わせてくださいよ風人君!」

 

 ッチ。ナイフ投げたのに当たらなかった。

 

「しょうがないなぁ~どうぞ」

「……コホン。ここは血塗られた悲劇の洞窟」

 

 ふぁああああ。長い。

 

「決して二人離れぬよう……一人になればさまよえる魂にとり殺されます」

 

 背後に急に現れ囁くように語る殺せんせー。

 

「きゃぁっ!」

「ふんっ」

 

 急に背後に現れてびっくりしたのか腕に抱きついてくる有鬼子。僕は抱き着かれてない方の手で背後にナイフで刺そうとする……っち。外した。

 

「意外に怖がり~?」

「ち、違うよ。ちょっと驚いただけで……」

「ふーん。じゃあ、行こうか~。先へ」

「うん。……あ、このまま進んでもいい?」

「いーよ」

「ありがと」

 

 少し進んで先にあるもので何となく思った。

 

「ねぇ、有鬼子。せんせー下らないこと考えてるって思うの僕だけかな~?」

「多分違うよ……」

 

 そこには琉球伝統のカップルベンチとかで、一分間座らないと開かないらしい。何だそりゃ。

 

「まぁいいか~」

 

 力づくでこじ開けてもいいけど、面倒だし。疲れるし。

 

「あ、そうだ~。有鬼子」

「何?風人君」

「ありがとね~。怪我すると思って手当用の道具持ってきてくれて~」

「いいよ。こんなことになるとは思わなかったけど、役に立てて良かった」

「ねぇ、有鬼子」

「何?風人君」

 

(ヌルフフフ。さすがうちのクラスのカップル候補の本命です。あの二人が一番色んな意味で進展していますからね、私が説明しなくても狙いが分かってくれてます。……どれ、ライトでも消して暗闇を演出してみるのも――)

 

 僕は有鬼子の耳の後ろから顎にかけて触り、

 

 

 

 

 

 

 

「キスしよっか」

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 僕はそのまま有鬼子に口づけしようと近づき――

 

(にゅやぁぁぁあ!き、来ましたよ!私の待ち望んでいた光景が!誰も見ていない洞窟で積極的になってくれましたよ!風人君から行くのは予想外でしたがそれでもアリです!さぁ、早く続きを……!)

 

 パンッ

 

「風人君!期待させといて銃で撃つとは酷すぎませんか!」

「ちぇー当たると思ったのに~」

「おっと、次のペアに行かないと。では失礼!」

 

 ヒューっと飛んでいくタコ。こういう系が好きなタコならそのまま殺せると思ったのになぁ。ばれないように撃ったはずなのに、残念。次の機会に殺ろうか。

 

「風人君?」

「あ、はい。何でしょう~」

「正座」

「はい?」

「正座」

「……はい」

 

 どうやらまた怒らせたようだ。耳まで真っ赤にしてる。そうだね。うん。急に顔を触ってきてキスしようとか言われたもんね。そりゃ怒るよね。

 

「ごめんなさい。作戦とは言え反省してます」

 

 最近僕は謝ることを覚えたと思う。だって、有鬼子に勝てないもん。

 

「はぁ……せっかく風人君が積極的になったと思って期待したのに」

 

 積極的?暗殺にってことかな?

 

「いい風人君?期待させて落とすのはダメだよ」

「は、はぁ……でも戦術的には」

「女子にはそういうことをしちゃダメだよ?分かった?」

 

 ふむ。戦術的にはそういうことをしちゃダメと。……でも、殺せんせーって男だよね?

 

「扉が開いたみたい。次のペアに見られる前に行こ?」

「はーい」

 

 ふむ。どうにも有鬼子の考えは読めないなぁ。

 

「そういえば、肝試しって言うのに全然怖くないね~」

「最初ぐらいだよね。怖いの」

「ほんとだよ~これなら怒った有鬼子の方が怖っ…………あ」

 

 振り返るとそこには……!

 

「風人君?正座」

「……いやぁ、その僕は」

「正座」

「……はい」

 

 おかしい。何故事実を言っただけで正座させられているのだろうか。あと、有鬼子。暗闇も相まって怖い怖い。ライトがいい感じに下から照らして凄い怖いです。

 

「にゅややあああああぁぁぁぁぁっ!化け物でたぁぁぁぁあああああ!」

「ゆ、有鬼子。ほら、殺せんせー(化け物)が化け物でたぁって行ってるよ?危ないし早くここから出ようよ」

「風人君?まだダーメ(ニコッ)」

 

 ひぃぃ。やっぱこえぇぇ。

 

「ひぇぇぇ目がないぃぃっ!?あぁぁぁ!何かヌルヌルに触れられたぁぁぁ!?」

「ほ、ほら、目が曖昧でヌルヌルな化け物が驚いてるよ?早く出よ?」

「………………」

 

 無言の圧力こえぇぇ!……というか、殺せんせーこっちに来てない?

 

「ぎゃぁぁぁ!ミイラ男ぉ!?と思ったら近くに鬼……じゃなくて日本人形!?」

 

 一瞬でどっか行った殺せんせー。

 

「プクク。鬼って言われてる……プクク」

 

 僕は腹を抱え、頭を地面に付け、地面に拳を叩きつけて大笑いしてる。ヤバい。ツボに入った。有鬼子が鬼……プクク。そのまんまだけど……プクク。

 

「殺すよ?風人君」

 

 真顔で言われて、その上、後頭部を踏みにじられています。痛いです。気付けば笑いも何処かに消えました。

 

「あ、あの、凄い痛いです……」

「そう?だから?」

「やめていただけると……」

「で?」

 

 後から来たペアが触らぬ神(崎さん)に祟りなしって感じでスルーする中、磯貝君と片岡さんの二人が有鬼子を何とか抑えて事なきを得ました。

 巷では僕のことをドSだというが、はっきり言って有鬼子も十分Sだと思う。だが、これは断言しよう。僕はMではない……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 洞窟の出口。E組生徒全員に囲まれているせんせーに前原が問いかけた。

 

「で……要するに怖がらせてつり橋効果を狙ってカップル成立を狙ってたと。せんせーは」

「はい……」

「結果を急ぎすぎなんだよせんせー。怖がらせる前にくっつかせようとするから狙いがバレバレ。それがダメだったんだよ」

 

 その辛辣な?言葉にせんせーは涙を流しながら叫んだ。

 

「仕方ないでしょう!だって、見たかったんですよ!手をつないで照れる2人を見てニヤニヤしたいじゃないですか!不純異性交遊はダメですとか言いたいじゃないですか!しかも、キスシーンを見られると思ったらただ先生を釣るための餌だったとか酷くないですか!」

「泣きギレ入った」

「ゲスい大人だ」

「というか、誰かキスシーンを見せようとしたんだね」

「暗殺のためとはいえよくやるなぁ」

 

(((まぁ、誰がやったかは大体想像つくが……ついでに結果も)))

 

 すると、ここで()()中村さんが真顔で答えた。

 

「そーいうのは突っつかない方がいいよせんせー。うちらくらいだとあんまり色恋沙汰につっつかれるのが嫌な子も多いんだからさ。皆が皆、ゲスいんじゃないからさ」

「一番ゲスそうな人がなんか言ってる~」

 

 僕が言った瞬間、確かにと頷く数名。

 

「よし、今和光の意見に確かにとか思ったやつ。一発ずつしばいてやるから前に出な」

「うう……分かりました」

「よし、まずは殺せんせーからだね」

「にゅや!?何の話ですか!?」

 

 と、ゲスの中村さんがしばこうとした時、洞窟の出口から最後の組が出てきた。

 

「何よ!肝試しって言うのに結局なにも出なかったじゃない!くっついて歩いて損したわ!」

「だから言ったろうが……徹夜明けにはいいお荷物だ」

「うるさいわよ!男でしょ!こんな美女といるのよ。しっかりエスコートしなさいよ!」

「ふう……」

 

 溜息を吐く烏間先生とそれに対して喚くビッチ先生がこっちを見る。すると、ビッチ先生はそそくさと烏間先生から離れていく。

 その姿を見て、岡島は呟いた。

 

「なあ……ビッチ先生ってさ」

「ああ」

「うん……」

「だよねぇ」

「どうする?明日の朝帰るまで時間あるし……」

「そりゃ決まってんじゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(((くっつけちゃいますか)))

 

 

 

 

 

 結局、皆ゲスかったと思うのは僕だけだろうか。







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くっつけようの時間

3月14日……あ、ホワイトデーですね。
というわけで短編をどうぞ。
そういやこの短編。平然とキャラ崩壊してる気がするなぁ……ま、いっか。




『お返し』

「ふっふっふっ」
「どうしたの?風人君」
「今日は何の日か知ってる?」
「現実ではホワイトデー。でも、夏休みだよ?」
「ホワイトデー。そう、お返しする日……お返し……仕返し……つまり復讐の日だね!」

(絶対そんな解釈する人は君だけだよ……)

「じゃあ、何をお返しするの?」
「普段の理不尽な説教、制裁に対する仕返し」
「あはは……じゃあ、いいよ。風人君がしたいこと、私に何でもしていいよ」
「へぇ~怒らない?」
「うん。約束するよ」
「じゃあ、目を閉じて」
「はーい。…………んんっ!?」

(目を閉じるとほぼ同時に何かを口の中に!?……あれ?何だかほんのり苦いけど甘い……)

「チョコレート?」
「べ、別に!この前のチョコのお返しじゃないんだからね!たまたまチョコを試作してみただけなんだから!か、勘違いしないでね!」
「…………ツンデレな風人君…………尊い……(カクッ)」

(ふっふっふっ。ギャルゲーのツンデレヒロインのセリフをほとんどパクったけど効果的面だね。あまりの事に顔を真っ赤にしている。冷静な判断、思考力を落とし、とりあえず、縛って身動きを封じたところで、さぁて……)





「…………何でもしていいらしいし……どんな仕返しをしようかな(ニタァ)」





意識を取り戻した有鬼子の反応や、風人君の仕返しは何だったか……ご想像にお任せします。


 ビッチ先生は烏間先生が自分のことをちっとも見ようともしない態度に悔しさが湧き上がってきていたのだろう。

 その時だった。チョンチョンと肩を叩いたのは。ビッチ先生が振り返るとそこに居たのはE組の生徒とせんせーだった。

 特に、岡島や中村さんなどは任せておけと言わんばかりの笑みを浮かべて立っている。

 そして場所はホテルロビー。

 

「ではこれより、烏間先生とイリーナ先生の恋愛会議を始めましょう」

 

 せんせーがメガネとスーツ姿で言う。そして、こういうことにおいてE組筆頭格の中村さんが口火を切る。

 

「まずビッチ先生さぁ~服装が悪いんだよね」

「そーそー露出しとけばいいじゃないって」

 

 さっそくダメ出しである。確かに、今もだけど、ビッチ先生の服装は全体的に露出の多い服を着ているときが多い。あれ。冬寒いんじゃないのかなぁ?

 

「やっぱり烏間先生みたいなお堅い日本人の好みじゃないよ」

「だから、露出を控えて清楚な感じがいいと思う」

「清楚と言ったら……神崎ちゃん……かな?」

 

 そうなの?

 

(なんか最近清楚とは違う気がするけど……まぁ、このクラスで言ったらあれか)

 

「昨日の服、乾いてたら貸してくれない?」

「あ、うん」

 

 そう言って、部屋から持ってきた白いワンピースをビッチ先生に。

 ただいま試着中……

 

「ほら、服一つで清楚に……」

 

 ……なってなくない?

 

(((ならない!何か逆にエロい!)))

 

「よしよし。アレはビッチ先生のサイズと有鬼子のサイズが合わなかっただけだからね。よしよし」

「風人君……私は……」 

「大丈夫大丈夫。言わなくてもいいよ」

 

 大切なのは中身だから。例えエロくなろうと僕は軽蔑したりしない。

 

「……もうちょっとこのままで居させて」

 

 僕は有鬼子を抱いて慰める……というか何と言うか。まぁ、いいや。

 

「神崎さんがアレを着てたと思うと」

「茅野さん。岡島。ボコって」

「了解」

 

 了解と同時にロビーに備え付けてある電話帳で岡島を叩きのめした。

 

「あのよく分からんカップルと叩きのめされた奴はおいといて、どうするよ?」

 

 よく分からんカップル?どこにいるの?

 

「あぁ、もう!ビッチ先生がエロいのは仕方ない!人間は乳よりも相性よ相性」

 

 コクコクと勢いよく首を縦に動かし、激しく同意する茅野さんに渚が苦笑する。首痛くないのかな?

 

「誰か、烏間先生の好みを知っている人」

 

 皆が思い出そうとしていると、矢田さんが思い出したかのようにTVを指差して叫んだ。

 

「思い出した!烏間先生、こういう人が俺の理想のタイプだって言ってたよ!」

 

 TVから流れる軽快な音楽。それと共に映し出される映像をすぐに皆は見る。

 そこに映っていたのは某あるそっくのCMで、映ってた女性はレスリングで優勝した女性選手だった。

 

「この人を見て言ってたよ。体つきも顔つきも理想的だ。おまけに3人もいるって」

「「「理想の戦力じゃねぇか!」」」

「そーいえば、この前、パソコンで女子のボディビル?を観戦していて、やはりこういう子たちが理想的だって言ってたよ~」

「「「だからそれは理想的な戦力の間違いだよ!」」」

 

 ほへぇ。違うんだね。

 

「だが、二人の話から察するに、烏間先生は強い女の人が好きかもしれない。だけど、それだとビッチ先生の筋力じゃ厳しいかもね」

「うぬぅ……」

 

 悲しいお知らせだ。

 

「あ、じゃあ2人で烏間先生の好物を一緒に食べるのはどうですか?手料理だったら尚更良いと思いますよ!」

 

 奥田さんの提案。なるほどそれはアリだね。

 

「料理なら僕作るよ~何作ればいいの~?」

「えーっと、だから烏間先生の好物だから……あの人何が好物なんだ?」

「じゃあ、とりあえず、烏間先生が普段食べてるものを整理しましょう」

「誰か烏間先生の食生活を知っている人」

 

 再び考え込む僕ら。でもさっきよりは比較的早く意見が出た。 

 

「確か……カップラーメン食べてるの見たぞ」

「俺はカップのうどんも食べてるのを見たぞ」

「後、カップのそばも……」

「ハンバーガー」

「あ、そういえばホットドッグも食べてたよ~」

 

 ふむふむ。…………あれ?

 

「カップの麺類とジャンクフードしかなくない~?」

「いや、甘いな和光。俺はもう一個知ってるぜ」

 

 復活した岡島(笑)がカッコよく(笑)言った。

 

「へえー知ってるなら言いなさいよ」

「ハンバーガーについてくるフライドポテト」

「ふざけんな!」

 

 そして片岡さんの手によって岡島は死んだ。……自業自得だね。がっしょー。

 

「というか、マジであの人堅物すぎるだろ……」

「なんか烏間先生のほうに問題がある気がしてきたぞ」

 

(打つ手が無くなって烏間先生がディスられてきた)

 

 駄目だこりゃ。すると、せんせーが眼鏡をしっかりと掛け直して皆に言う。 

 

「とにかく各自でディナーまでに準備をしましょう」

「「「はーい」」」

 

 さて、

 

「じゃあ、有鬼子。僕らも動こうか~」

「風人君は……私があんな風になったら軽蔑する?」

 

 離れる有鬼子。ただ、質問をしてくるけど……

 

「しないよ~だって、有鬼子は有鬼子だからね~

 

 可愛くて鬼で優しくて鬼で怖くて鬼で恐ろしくて鬼でグレてた時に会った有鬼子だもん。もうこれ以上軽蔑とかする余地はないだろう。今さらそういう方面に走られたところでね。

 でも、これは心に留めておこう。言うと怒られそうだし……」

「風人君?(ニコッ)」

 

 と、心の中で考えていたら目の前にはヤバい方の笑顔の有鬼子が。え?なんで?

 

「心の声……全部漏れてるよ(^_^メ)」

「…………(゚Д゚;)」

 

 滝のような汗。僕は方向を変え、

 

「…………ε≡≡ヘ(;゚Д゚)ノ」

 

 無言でダッシュで逃げるのだった。

 

(((アイツ、本当にどうしようもねぇな……)))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は流れ夕食が始まる時間になった。そんな時、烏間先生は大部屋へと入ってきた。

 

「なんだこれは……」

 

 驚く烏間先生。ただ、無理もないだろう。

 

「烏間先生の席はありませーん」

「先生方は邪魔なので、外の席で食べてくださーい」

 

 外に用意されてる席へと誘導するため、E組生徒が烏間先生とビッチ先生の席をなくしたからだ。

 そして、場面は外。先に座っていたビッチ先生に烏間先生は言った。

 

「なんで俺たちだけ追い出されたんだ?」

「……さぁ、わからないわ」

 

 今のビッチ先生の服装は黒いドレスにショールを身につけている。

 それを作ったのは、原さんだ。売店で買ってミシンで縫い合わせてインターネットで載ってるような感じにしたそうだ。

 舞台は万全。そんな皆が用意した舞台にビッチ先生は思った。

 

(こんなショール……普段行くようなトコじゃ使わないし、テーブルセッティングも素人仕事。ただ、料理は普通においしいわね。……でもまぁ、プライバシーもへったくれもない野次馬どももいるけど)

 

 そんな文句しか出ないような舞台……だがビッチ先生は笑みを浮かべていた。

 

「今、どうなってるの~?」

 

 そんな時、逃亡中の風人がノコノコと戻ってきた。

 

「おかえり。遅かった……なんだその服?」

「これ~?」

 

 今の風人の服装は白を基調とした服にコック帽と、明らかに一人場違いな服装をしている。

 

「えーっと、有鬼子を怒らせたみたいで~逃げてる時に厨房に逃げればよくね?と思って~そのまま厨房へ乗り込んで~シェフたちを見たら料理したくなって~色々とあってこんな感じ~」

 

(((何一つ理解出来ないんだけど!?)))

 

 風人は、皆がセッティングしている間、一人厨房に紛れ込んで料理をしていたそうだ。お陰で、有鬼子からの説教は免れたと思っているそうだが、

 

 チョンチョン

 

「はい~」

 

 肩を突っつかれて振り返る風人。そこには、

 

「…………(ニッコリ)」

 

 笑顔の鬼が立っていた。その後彼の身に何が起きたのかは……語るまでもないだろう。

 一方のビッチ先生は、自身の過去を話していた。初めて人を殺した時のことを。

 

「ねえ烏間……殺すってどういうことかホントに分かってる?」

 

 その言葉に烏間先生はただただ黙っていた。

 

「湿っぽい話をしちゃったわね……それとナプキン適当に付けすぎよ」

 

 そう言ってナプキンを直しつつ、そのナプキンにキスをしてその部分を烏間先生の口へと当てた。

 

「スキよ烏間。おやすみなさい」

 

 そう言って去っていくとビッチ先生は頭を抱えた。

 告白のつもりが殺白したビッチ先生である。

 そんなビッチ先生に中村さんたちが駆け出して、

 

「何いまの中途半端な間接キスは!」

「いつもみたいに舌入れろ舌!」

「馬鹿かアンタは!」

 

 ブーイングの嵐が起こった。

 これにて3年E組の暗殺旅行は幕を閉じる……。




注意。ホワイトデーが復讐の日と解釈しているのは風人君だけです。
作者はこの概念を強要、強制させる気はありませんのでご容赦ください。
後、多分三月中に夏休み編終わります。


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対話の時間

ここから、今までとはかなり違いちょっと重い話が続きます。
まぁ、暗殺教室とシリアスは切っても切れないのでご容赦を……


 夏休みも終盤。暗殺旅行も無事(?)終わり、疲れもとれたころ。

 

「で、話とは何ですか?涼香さん。篠谷君」

 

 涼香さんにこのカフェに来てほしいと言われたので昼食も兼ねて来ている。

 

「風人君を誘ってないそうですが……」

「うん。そうだよ」

 

 この場に居るのは三人。風人君はいない。あの、デートの時に言ってたやつかな?

 

「そうですね。雑談もいいですが時間は有限。単刀直入に言いましょう」

 

 篠谷君が最初に言葉を発する。

 

「風人とは付き合わない方がいいですよ」

「…………はい?」

 

 風人君と……付き合わない方がいい?

 

「それは風人君の性格がアレだからですか?それとも、私がダメだからということですか?」

 

 前者であればそれを受け入れるだけの覚悟はある。後者は……この人たちに駄目な理由を問いただす。たとえ本人が言ってたとしても、直してみせる。

 

「ああ、誤解なさらぬよう。僕も涼香も神崎さんに何かしらの落ち度があるとは言っておりませんし、思ってもいません」

「私にはない?なら、風人君のあのマイペースが問題ということですか?」

「そうとも言えるしそうとも言えないの」

 

 歯切れの悪い言葉。でも、一体どういうことなんだろう……

 

「もしかして、付き合うと言うのは恋愛関係ではなくそれ以前の友人としての付き合いもですか?」

 

 まぁ、風人君が私のことを友達と思ってるかは別だけど。

 

「いいえ。僕たちが言ってるのは恋愛関係の方です。決して風人と縁を切れなどとは言っておりません」

「そうそう。寧ろ風人の近くに……お兄ちゃんの近くには有希子ちゃん。お姉ちゃんが必要なの」

 

 この二人が何を言ってるのかがまるで理解できない。どういうこと?付き合うのはやめた方がいい。でも、風人君には私が必要。……やっぱりどういうこと?風人君に私が必要なのだとしたら何故恋人関係になろうとすることをこの人たちは止めようとするの?

 

「えーっと……本当にどういうことですか?」

「そうですね。これから話すことは風人には秘密でお願いします」

「は、はぁ……」

「まずは質問です。あなたには風人がどう見えますか?」

「……え?」

 

 ど、どうって……

 

「そ、それは……普段は抜けているけどやる時はやるし、人を守るために無茶して怪我して心配になるけど……何というかそう言う姿を見るとカッコいいなぁって思うし……」

「そうですか。なら、風人は自由奔放お気楽マイペース超人に見えますか?」

 

 篠谷君えげつないなぁ……うーん。自由奔放というところは合ってるし、お気楽そうだし、うーん……。

 

「まぁ、そう見える……かな」

「そうですか。もう一つ。風人の左手首の傷は知っていますか?」

 

 左手首の……傷?ああ、アレかな?

 

「……はい。確か、修学旅行の時に気付いて、それ以来は触れてないんですけど……」

 

 でも、あの傷。何かしらの刃物で切ったような……しかも何回も……まさかね。

 

「実は――」

「リストカット。と呼ばれるものではないのですか?」

「――その通りです」

「で、でも待って下さい。言い方は悪いですけどあの風人君ですよ?」

「有希子ちゃん。これが今日の本題でもあるの――」

 

 今日の……本題?

 

「――風人は自殺しようとしたことが何度もあるの」

「…………………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。一方の僕は――

 

「やぁ和光君。よく来てくれたね」

「何でしょう浅野理事長。私に御用とは」

 

 理事長室に居た。

 

「この前の旅行は大変だったそうだね」

「あはは……よくご存知で」

「えぇっ。我が校の生徒が危険に巻き込まれたという話を理事長である私が知らないわけにはいかないですからね」

 

 確かに。いくら差別されてても命を落とすようなことがあってはE組だからと無視は出来ないか。

 

「では、雑談もおいて。今日君を呼んだのは他でもない」

 

 一呼吸得て告げる。

 

「A組に入りませんか?」

「お断りします」

「ほう。即答ですか」

「はい。悩む間もありませんよ」

「ははは」

 

 すると笑い出す理事長先生。

 

「失礼。私には君がE組にいる理由が見当たらなくてね」

「理由?貴方が私をE組に配属したのでしょう?」

「あー少し訂正をしよう」

 

 訂正?

 

「君は中間テスト総合学年五位。期末テスト総合学年二位。学力は充分。授業の欠課も許容できる範囲まで激減している。本校舎復帰……君の場合は本校舎へ行くか。その権利をもうすでに持っている」

 

 まぁ、テストで総合五十位以内に入れば良いらしいからその点満たしているか。

 

「では君に問おう。君には殺せんせーを殺す理由があるのかい?」

「殺す理由……ですか」

「断言しよう。君に殺せんせーを殺す理由はない」

 

 理由が……ない?

 

「そんなこと……」

「賞金が欲しいから?違う。君は金など欲していない。地球を救うため?違う。君は私と同じで地球が爆破されようがどちらでもいいと思ってる。殺せんせーを怨んでいる?違う。君は怨みを殺せんせーには持っていない」

 

 ……あれ?じゃあ、何で私は……

 

「君自身には殺せんせーを殺す理由はない。理解したかな?」

「……たとえ」

「ん?」

「たとえそうだとしても。私はE組にいたい。それでいいはずです」

「ほう。そう来ましたか」

 

 たいして驚いた様子でもない。まるでこの答えが想定通りのようだ。

 

「今回の旅行。雇われてた暗殺者たちが使える頭があった。だから君たちは犠牲者ゼロで終えることが出来た。でも、もしその暗殺者たちが指示通りの毒を使っていたら?犠牲者ゼロで終えることはなかった」

「確かに……そうですね」

 

 あのおじさんたちが鷹岡の命令を聞かずに別の毒を使った。だから、彼らは助かった。

 

「でも、今後。殺せんせーを狙うために君たちの命が危険に晒されることもあるでしょう」

「それは否定しませんが……」

和泉(わいずみ)千影(ちかげ)さんの時のことが起こるかもしれませんよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「り、理由は何ですか……?」

「神崎さん。ああ見えて風人は心に深い哀しみを抱えています」

 

 深い……哀しみ?……あ、

 

「その顔は思い当たる節があるんだね」

「はい……」

 

 時々あった。風人君が哀しそうな眼をすることが。

 

「このことは、風人の……いえ、風人と涼香さんの幼馴染である和泉千影さん。この方が深く関わっています」

 

 和泉……千影さん。

 

「その人が……どう関わってるのですか?」

「まず始めに。彼女は既にこの世にはいません」

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何で理事長先生が知ってるんですか?」

「君が転校してくると知ったとき、君にはある程度の興味がありました。君はある時を境に欠課が増え、出席していても寝ているなど、先生方からの印象は最悪だったと聞きます。私は書類上の結果、君を素行不良と判断し、E組に落としました」

 

 そうか。E組に落とされた理由はあの時の素行不良さが原因か。

 

「ですが、不可解な点が一つ。優等生とは言わないが、君が何故いきなりそんな風に変わったのか。そして、その疑問はすぐに解決された」

「解決……ですか?」

「和泉千影さん。彼女の死です」

 

 ドクン、と心臓が大きく脈打つ音が聞こえた気がした。

 

「彼女は君と同等の天才であり、障がい者でもある」

 

 ドクン、何故……何故千影のことを知っている。何故…………!

 

「そして彼女はひき逃げによって殺された。その日は……雨の日だったかな」

「黙れ!」

「……ほう」

「はぁ……はぁ……」

「これが君のトラウマですか」

 

 僕は……あの時、彼女を守れなかった……!

 

「ですが、このままE組に残ると君は同じ悲劇を繰り返すことになる。また君は目の前で大切な人を失うことになる」

「また……繰り返す……そんなの」

「そんなの防いでみせる?無理なことを言わないほうが身のためですよ」

「……くっ」

「君は和泉さんの事で一度壊れた。辛うじて復活できたでしょう。ですが、また周りの大切な人が死んだら?暗殺なんかやってるために死んでしまったら君はこの先……生き抜く気はありますか?ただえさえ君は自身が生きようが死のうがどうでもいいと考えているのに」

「…………」

「私はね。君という才能は失うにはまだ惜しい。君という存在は現状の椚ヶ丘中学に居てくれたほうがありがたい。だから……」

「だから本校舎に行ってE組との交流を断ち、失ったとしても哀しみを軽減できるように……ですか」

「えぇ。君は赤の他人の生死に一々興味を抱かないでしょう。それと同じです」

「……考えさせてください」

「夏休み明けの始業式前。そこが期限です。いい返事を待っていますよ」

 

(和光風人君。これで私の駒となってくれればいいが、まぁいい。あの様子だと堕ちるのも時間の問題だろう。ただ、彼は予想外のことをする可能性がある。他の手も一応打っておくか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この世に……いない」

「うん……。そうなの」

「風人も涼香さんも深く傷ついた。僕は彼女と関わったことが二人に比べて断然少なかったのでそこまででしたが……」

「それで…………自殺を」

「はい。何度も手首を切ったり、首を吊ろうとしていました。その度に、止めるたびに聞いたんです。何で死のうとするのか?って、そしたらお兄ちゃん。こう言ったんです。『千影の居ない世界に価値はない。退屈な世界に生きる気はない』って」

「そんなことが……それはいつの話なんですか?」

「一昨年の秋なので、中学一年生の時です。風人の自殺未遂はそこから一年くらいは続きました……」

 

 というと、恐らく私と出会った時も……か。

 

「でも、中二の夏休み。あの時だけは自殺をしようとしてないんです」

「…………え?」

「その時なのでしょう。貴女と風人が出会ったのは」

「は、はい。そうですけど……」

「だからお願い。有希子ちゃん。風人を救って。風人はずっと苦しんでるの。でも私みたいに近くに苦しさを伝えられる人がいない。もうお兄ちゃんが壊れるのは見たくないの」

 

 風人君が……苦しんでる。

 

「最初に付き合わない方がいいと言いました……が、風人と付き合うには彼と千影さんのことを知る必要があります。もし、何も知らずに付き合えたとしても風人の中のモノは解決しない。それどころか悪化するでしょう」

「悪化……ですか?」

「はい。彼女に対しこのことを秘密にするという精神的負担。いえ、秘密にしなければならないと言う負担はいつか爆発する。可能性の一つに充分考えられるでしょう」

 

 そうか。それが今の私たちの状況か。私と話している時は胡麻化しもある。彼女に隠した分だけ風人君の心に負担がかかっていく。表面上には現れない奥深くで……そういうことか。

 

「で、でも私にそんなこと」

「貴女しか出来ないんです。方法は貴女に任せます。僕は風人の哀しみを苦しみを解決できるなんて思ってないです。ただ、風人を支えてほしい。もし、風人まで居なくなったら」

「……きっと私は耐えきれない。大切な人を。大切な幼馴染と従兄弟、二人も失うなんてきっと耐えられない」

 

 そうか。きっと風人君は……

 

「……分かりました。風人君のことは任せてください」

 

 二人の真剣な表情。おそらく、風人君のことだ。はぐらかしたり逃げようとするだろう。優しさかな。誰も自分の弱さを見せたくないし、闇も見せたくない。でも、今回は見せなきゃ始まらない。

 

「だって、私は風人君のことが好きですから」

 

 好きな人を支える。理由はこれで充分だ。

 

「……問題は話すタイミングだね。こういう話は有希子ちゃんと二人きりでないと絶対話さない。いや、話せない」

「夏休みはまだ少し残っています。どこかでタイミングが来ることを願いましょう」

 

 タイミングは……あ、

 

「……夏祭り」



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風人と有希子の時間 留守番

 夏休みも残すとこ二日となりました。皆様いかがお過ごしでしょうか。

 

「そうだ風人」

「なに~母さん」

「前から言ってたけど、今日明日とお父さんとお母さんいないから」

 

 へぇ~初めて聞いたなぁ…………ん?

 

「いってらっしゃい~!」

「安心しろ風人。手は打った」

「え~?安心~?何のこと~?」

「どうせお前のことだ。ゲーム三昧で過ごすつもりだったろ」

「そ、そんなことないよ~」

「眼を合わせて言いなさい」

 

 何でバレたのか。不思議でならない。

 

「だから、涼香ちゃんに頼んだわ。風人の面倒を見てくれるよう」

 

 僕はペットですか?旅行前に親戚に預けられるペットですか?

 

「でも、涼香ちゃん用事があるみたい」

 

 よし!僕の天下だね!

 

「だから涼香ちゃんが代わりの人に頼んでおいたって」

「う~ん。雷蔵かな~」

 

 雷蔵なら懐柔すれば問題なし。

 

「その人にあまり迷惑を掛けないようにね」

「は~い」

「そろそろ出発時間じゃないか?」

「そうね。じゃ、行ってくるからお留守頼んだわよ」

「いってらっしゃい~」

 

 さてと~どんなゲームからやろうかな~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピンポーン

 

 朝の九時ごろ。リビングにてゲーム中、インターフォンが鳴る。あ、雷蔵来たのかな~

 

 ガチャ

 

「雷蔵。いらっしゃ――」

 

 あれ~?雷蔵ってこんな背が小さかったけ?

 

「おはよう。風人君」

 

 ガチャ

 

 ……おかしいなぁ。僕もう疲れてるのかな?あ、ゲームのやりすぎかな?

 

 ピンポーン

 

 ガチャ

 

「どうしたの?入れてくれないの?」

 

 二度見て変わらない時はきっと実物だろう。よし、

 

 ガチ

 

「なに閉めようとしてるのかな?」

 

 閉めようとしたとき、足をドアのところに挟みそのままドアをこじ開けられる。

 

「あはは……」

 

 おかしいなぁ~。何でパワー負けしてるんだろう?

 

「いらっしゃい~有鬼子」

 

 もう諦めよう。

 

「お邪魔します」

 

 玄関での一騒動を終えて、リビングに通す。

 

「あれ~その大きな荷物はどうしたの~?」

「ゲームと勉強道具とお泊りセットだよ?」

 

 ゲームは大いに分かる。勉強道具は百歩譲って可。で、お泊りセットってナニ?ボクシラナイ。

 

「え?涼香さんとかご両親から聞いてない?」

 

 聞いてない。 

 ダッシュでスマホを取りに行き、メッセージアプリを開く。そこには……!

 

『私の代理は有希子ちゃんにお願いしたよ~あ、有希子ちゃん泊りがけだからよろしく~』

 

 数分前に入っていた。なるほどなるほど……

 

「とりあえずこの荷物どこにおいておけばいい?」

「有鬼子の家」

「うん。じゃあ、風人君の部屋ね」

「え~何でそうな――あ、はーい。分かりました~」

「案内してね」

「はーい」

 

 僕の名誉のためと誤解のないように言っておくが決して有鬼子に屈したわけでは無い。

 

「ここが風人君の部屋……」

「そうだよ~」

 

 そう言えば引っ越してからは誰も僕の部屋にあげたことはないな~ということは有鬼子が初めて?

 

「意外にキレイなんだね」

「ふふ~ん」

「で、私は何処に座ればいい?」

「うーん。ベッドの上かな」

 

(あ、どうしよう。ここまで成り行きに任せてたけど男の子の部屋に入るの初めて……というか男の子の家に入ること事態初めてかも……)

 

「じゃあ、ゲームしようか~」

「ダーメ。勉強も大切でしょ?」

「むぅ~」

「分かった。なら、こういうのは?風人君の指定したゲームで対戦する。私が勝ったら一時間勉強。風人君が勝ったら一時間ゲーム。これを繰り返す……でどうかな?」

 

 ほうほう。

 

「よし乗った~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、お昼時になりました。あれから三回やって私の二勝一敗で昼食です。風人君が作るそうなので陰から見ていますが……集中しているようで怪我とかはしてないです。というか、手際がいいなぁ……あ、そういえば風人君。自分で家庭科が一番得意だと自負していたね。もしかして本当だった?

 

「出来たよ~」

 

 お昼にチャーハンですか。まぁ、何かと便利ですからね。チャーハン。

 

「「いただきます」」

 

 一口食べる。

 

「おいしい……」

 

 お世辞抜きでおいしいです。あれ?もしかして風人君って私より料理できる?

 

「まぁ、料理はいつも作ってるからね~」

「え?いつも?」

「うん。ほら~この学校は弁当持参でしょ。いつも自分で作ってるよ~」

 

 あれ?もしかして風人君って意外に家庭的?あ、どうしよう。女子としてなにか負けた気が……。

 よく考えたら風人君って、勉強の教え方上手いんだよね……スイッチ入ってるときは。オフの時は『それがドーンでバーンで~』と意味不明な言葉を羅列するんだけど。……よし。

 

「そういえば風人君はさ」

「うん~」

「何か口調が変わる時あるんだけど……多重人格かな?」

 

 一人称が『僕』の時が平常運転の風人君。『オレ』の時がキレてたり怒ってる時の風人君。『私』の時が真面目キャラの風人君。え?女装の時は?…………さぁ?というかアレが一番変化が大きいと思う。

 

「うーん。多重人格じゃないよ~」

 

 涼香さんたち曰く、『私』と『オレ』という風に一人称が変わった時に雰囲気が変わるようになったのは千影さんの件があってかららしい。ちなみに、女装は知らなかったそうだ。…………でも、やっぱりそこか……。

 

「なんというか~気分的な?」

 

 嘘かな。まぁ、教えてもらうチャンスはまだ他にもあるか。焦らないことが大切だろう。

 

「さぁて、片付け片付け~」

「ありがと。お礼と言ったら何だけど、夜ご飯は私が作るね」

「…………え?作れるの?」

 

 カチーン。

 

 真顔で見てくる風人君。どうしてこう頭に来ちゃうような台詞を平然と言っちゃうのかな~この子は。とりあえず、後でゲームで風人君をボコボコにしよう。

 

「作れます」

「へぇ~…………意外

 

 ピキッピキッ。

 

 ダメだ抑えるんだ私。とりあえず、包丁に伸びそうになる手を止めるんだ。

 

「じゃあ、よろしくね~あ、片付けしてるからゲームの準備よろしく~」

「うん。分かった」

 

 風人君の料理に毒でもいれようかな?と割と本気で考え始めてしまった。あーゲームして忘れよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、あれから全勝。風人君から勉強を教えてもらう……ついでに家庭科も。

 そして夕食時。

 

「さてと、作ろうかな」

「ふぁいと~」

「風人君って嫌いなものある?」

「うーん。強いて言えば苦いモノだけど、特にはないよ~」

「そう?なら良かった」

 

 これならどんなメニューでもよさそうだね。無難に和食的な感じでいいかな。

 

「エプロン借りるね」

「ほ~い」

 

 風人君からエプロンを借りる。普段はあまり使わないけど何となくだ。

 

「ほへぇ~エプロン姿似合うね~」

「そう?」

 

 家庭科の調理実習で見ていると……あ、風人君と別の班だったし、風人君の班、何か毎回美味しいって軽い評判だったけど……まさかね。

 

「何というか――」

 

 新妻と言うつもりかな?まぁ、ベタといえばベタだけど。きっと言われたら嬉し

 

「――鬼嫁?」

 

 タンッ!

 

 包丁を振り下ろしまな板に当たる音が響く。

 

「風人君?どういうことかな~それは?」

 

 何で最初に鬼って付いてるんだろう?不思議だなぁ。

 

「ねぇ?かーぜーとーくん?」

「ひいぃぃ。ほ、包丁を持ったまま来ないで~」

「怒ってないから出ておいで」

「怒ってるよね!?絶対!」

 

 思い切り隠れる風人君。……何だろう。同級生を相手してるとはとても思えない。

 あれから静かに風人君がゲームしている間にご飯が出来た。

 

「出来たよ。風人君」

「はーい」

 

 メニューはご飯、みそ汁、焼き魚、おひたしにきんぴら。

 

「おいしそうだね。いただきまーす」

「いただきます」

 

 食べ始める風人君。

 

「うん。おいし~」

「そう?風人君には負けてると思うけど……」

「料理は勝ち負けじゃないよ~おいしければいい~」

 

 何というか意外だ。てっきり自慢すると思ったのに……あーでも風人君って子供っぽいけど、自分が頭いいこととか運動出来るところとか一切自慢しないなぁ。そういえば。

 

「そういや有鬼子~」

「何?風人君」

「親から許可取ったの~?」

「うん。大丈夫だよ。あ、おかわりする?」

「うん~」

 

 もしかしなくとも風人君に聞こうとしている……聞かなくちゃならないことって、風人君にとって触れてほしくないものなのかな?……いや、多分そうだ。私がこれからやろうとしていることは、

 

「片付けは任せてよ~ゲームでもしていて」

「ううん。一緒にやろ?」

「分かった~」

 

 ……風人君にとって触れてはならないブラックボックス。私がやろうとしていることは、そのブラックボックスを開けること。でも開けなくてはならない。開けなくちゃ、風人君は……私は……前に進めないだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風人君の家でお風呂に入る。……さ、さすがに混浴はしていないけど、他人の家でお風呂に入るって何か新鮮だなぁ。湯船に浸かりながらこれからどう持っていくのかを纏めておく。

 で、風人君の部屋。既に私の分の布団はひいてあってもう寝るばっかだ。

 

「もう寝る~?」

 

 私たちはベッドの上で隣同士で座っている。

 …………これから私は風人君にとって最低なことをする。

 

「ねぇ、風人君。期末テストの権利覚えてる?」

「…………え?まだ使われてなかったっけ?」

 

 ……あ、これは割と本気で分かってないやつだ。

 

「私のお願い……聞いてくれる?」

「……分かったよ~約束だもんね」

「風人君。和泉千影さんについて教えて」

 

 一瞬風人君が固まったと思った次の瞬間。私はベッドの上に押し倒された。あまりの速さに反応できなかった。

 

「なぁ、有鬼子。…………誰から聞いたその名を」

 

 怖い……風人君の放つ殺気は本物だ。既に手は抑えられ、仰向けになってる私のお腹の上に風人君が乗って動かないようにされている。もう逃れられない。でも、

 

「涼香さんだよ」

「…………忘れろ」

 

 威圧されてる……これが風人君の触れられたくない部分の重み……でも。私は引き返さない。

 

「私は知りたいの。風人君の心の闇を。苦しみを。……聞いたよ?涼香さんと篠谷君から」

「ふーん。で?」

 

 何で風人君はそんなどうでもいいって顔をしてるの?…………本当にどうでもいいなら私は押し倒されていないでしょうに……ああ、もう。こういうところが変に大人ぶって……!

 

「風人君が千影さんのことで一人で苦しんでるって!ずっと独りで苦しんでるって!」

「ふざけてんの?お前はそれを知って何が出来んの?」

「ふざけてないよ。風人君の苦しみの捌け口になれる。風人君の苦しみを少しでも和らげられる」

「そんなの必要ねぇ」

 

 ……必要…………ない?

 

「ふざけないでよ!何度も自殺しようとしていたくせに!苦しんでるくせに!」

「…………っ!もういい……黙らせる」

 

 右の拳を高く上げる。そして、そのまま振り下ろそうとする。

 私は怖かった。襲い来るであろう痛みが怖い。でも、私は風人君の眼を見続ける。怒りに染まった眼を。ただ、いつもの怒りとは違ったどこか不安定さを持つ眼を。

 

「……どうしたの?殴らないの?」

 

 右の拳が私の顔に当たる寸前で止まる。僅かにだが拳圧によって風を感じた。今のは寸止めを狙った?違う。完全に私を壊す気だった。でも、自身の左手で右の手首を思い切りつかんでいる。

 自分の中で葛藤が起きているというの?でも、それぐらいじゃないと、今のは説明がつかない。

 

「…………分かった。話すよ」

 

 数分だろうか。その膠着状態が続いた後、風人君による拘束が解ける。

 

「…………でも、この話はあんまりしたくない。いや、墓場まで持っていくつもりだった。だから」

「皆には秘密。分かってるよ」

「うん……これは――」

 

 ――これは僕と千影の過去(物語)。そう言って彼はポツポツと話始めた。



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風人の時間 過去 序

 私の世界は灰色だった。

 

 

 

 僕の世界は退屈だった。

 

 

 

 私は色を見たかった。

 

 

 

 僕は楽しみたかった。

 

 

 

 私の願いはいつの日か灰色以外の色を見ること。

 

 

 

 僕の願いは誰かがこの退屈を壊してくれること。

 

 

 

 私の願いは途絶えてしまった。

 

 

 

 僕の願いは叶えられた。

 

 

 

 これは私が死に。

 

 

 

 僕の中に『私』と『オレ』が生まれるまでの物語。

 

 

 

 彼が彼女と出会うまでの物語。

 

 

 

 これは灰色の少女と。

 

 

 

 これは空虚な少年の。

 

 

 

 結末の見えている。

 

 

 

 10000字程度の長さしかない。

 

 

 

 二人の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が自分の異常に気付いたのは、五歳頃でした。気付いたというより、自覚したのがでしょうか。この世界は本来青空が広がってるらしい。夕方になれば空はオレンジに染まるそうだ。でも、私はそれが分からなかった。だって、私の見る世界が普通だと思っていたから。

 

 

 

 

 

 

 僕の世界は退屈だった。それを齢五歳にして分かってしまった。僕は生まれながらの天才らしい。あらゆる面で才能があり、あらゆることをそつなく完璧にこなしてしまう。もうこの頃には、同い年に僕と並ぶものなんていない。だからこその退屈。並ぶ者がいないから。

 

 

 

 

 

 そんな時()彼女()の存在が身近にいることを知った。

 

 

 

 

 

 彼は一言で言えば、異常。彼は私と同じくらいの才能を持つ反面一人では生きて行けなさそうな人間でした。

 

 

 

 

 彼女は一言で言えば、孤独。彼女は僕と同じくらいの才能を持ちながら他人と自身の距離を離す人間だった。

 

 

 

 そして僕たち(私たち)は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風人君。ダメだよ。授業中に寝てたら」

「えぇー。だって~暇なんだもん~」

 

 小学校一年生の時。私と風人君は同じクラスで、席も隣でした。

 天才という存在は何かを代償に比類なき才能を持つ。私はそう捉えている。

 努力の天才や努力した天才は普通の人と大差ないだろうが、生まれながらの天才たちにはこれが当てはまると少なくとも私は思う。

 風人君も生まれながらの天才。ただ、その代わりに、性格……というより精神にかなり難がある。マイペース過ぎるのだ。未来の彼は知らないがこの時の彼は興味あることはとことん。興味の無い事は一切って感じ。どこか……というよりかなり抜けている。欠陥だらけの人間だ。

 

「だって~ひらがなとか今更じゃん~せめて、漢字をもっと教えてほしいよ~」

「ダメでしょ。それでも、授業でくらい他人に合わせなきゃ」

「……むぅ~千影こそ暇じゃないの~?」

「いい?風人君。合わせるという事は大人にとって大事になるの」

「じゃあ子どもでいいや~」

「よくないの。それだと自立できないでしょ?」

「じゃあ、自立もしない~千影がずっと傍にいてくれれば~」

「風人君。そういうことはもっと雰囲気を出して言ってね」

 

 別に風人君は私に依存していたわけではないです。風人君は学力や運動神経とかなら上の方ですがそれに見合った精神的な発達をしていない。その点は私が異常に大人過ぎている。

 私も風人君と同等の才能を持ち、小学校一年生にして精神的には高校生レベルはあると思います。だから、彼を子ども扱いする反面少しの恋心を抱き始めていました。

 

「私は風人君を支える。だから、風人君は私を支えてね」

「えぇ~」

「そこははいって言ってよ」

「はーい」

 

 帰り道。私と風人君。後は風人君の従兄弟の涼香ちゃんの三人でいつも帰ります。学校に行く時も同じですが。

 

「千影ちゃん。私ね。ひらがなが書けるようになったよ」

 

 涼香ちゃんだけはこの中で普通の子でした。私たちみたいな天才ではない。風人君みたく、誰かの支えがなければならないほど性格に欠陥があるわけでも、私みたく、障害を抱えているわけでもない。至って普通の女の子。

 

「よかったね涼香ちゃん」

「普通じゃないの~?」

「風人には分かんないよーだ。これでも私のクラスの中では私が一番なんだから!」

 

 胸を張る涼香ちゃん。私たちに影響されたのか涼香ちゃんも、多少は出来ることが多いです。

 まぁ、風人君のこの一言言っちゃうのは、もうすでにこの頃からだったりしますが。

 

「あ、二人とも!危ない!」

 

 突如呼び留められる私たち。

 

「赤信号は渡っちゃいけないんだよ?」

 

 私が風人君の御目付け役なら涼香ちゃんは私と風人君の保護役。万が一の時に彼女は助けてくれます。

 

「もう。千影ちゃんは目が悪いんだから、風人がしっかりしないと!」

「ふぁ~い」

 

 風人君には私の目について説明してあります。……まぁ、本人の性格上アレですが。

 涼香ちゃんには言っていません。私が色を識別できないことを。

 私は所謂『全色盲』すべての色が白黒、又は灰色に見える病気です。この世界には色んな色があるようですが私には見えません。全てが白黒テレビの画面や漫画の世界のように見えるそうです。だから、車の信号を見ても、今が皆が言う青なのか赤なのかがよく分からなくなってしまう。特に赤信号でも車が通ってない時はそうです。

 

「でも涼香がしっかりしてれば問題なし~」

「そうじゃないでしょ風人君?涼香ちゃんが居ない時はどうするの?」

「千影が何とかしてくれる~」

 

 私のこの眼は一生治らないと言われました。一生私は青い空を。緑の山を。七色の虹を。見ることは出来ないかもしれない。でも、風人君は違う。風人君の性格は矯正すればまだ治る。何不自由なく過ごせるようになる可能性がある。だから。

 

「ダメだよ。頼ってばっかじゃダメになるよ」

 

 私は風人君の性格を矯正する。これが今の私のやることだから。これが今の私に課せられた使命だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は千影のことを尊敬していた。あれは小学校五年生くらいかな。

 

「大丈夫~千影」

「あ、ありがと……」

 

 千影の色が見えないという事は思わぬ形でもないが、露呈してしまったのだ。その教科は今で言う美術。昔から千影は絵が上手かった。でも描くのは全て鉛筆のみの黒一色。それは、単に黒以外の色が見えなくて使えないから。

 人間という生き物は自分より上の生き物を見ると凄いと崇めるか、羨ましがるかのどっちかだと思う。反面自分より下の生き物に対しては自分が何してもいいと思ってる。強者が力を誇示するためだけのただの生贄。特に小学生中学生の精神年齢的にはそう思う。だからいじめが起きる。実にくだらない。

 

「帰ろっか~」

「うん……」

 

 千影はいじめにあっていた。いや、正確には未遂か。全て僕が潰していたから。ずっと前に彼女が言っていた。『私たちは支え合って生きる』って。

 この頃から僕は彼女に感謝するようになっていた。まぁ、言葉には出さないけど。

 

「酷いよね~些細なことでバカにして~」

 

 色が見えない。世間の人からすれば普通の人と重大すぎる違いだが、普通に扱われたい人間にとっては些細な違いだ。色が見えないだけでバカにされる。これはあってはならないだろう。

 人は醜い。千影を虐めようとしていた人たちは学力はもちろん、容姿でも運動神経でも性格でも何事においても彼女に劣る。だから、自分より勝ってる千影を妬み。自分より下のところを見つけるとそこしか言わない。…………あぁ、実にくだらねぇ。

 

「いい加減大人にならないかな~あの雌豚共」

「ダメだよ風人君。人のこと雌豚って言ったら。後、大人になるのは風人君もだよ」

「ふぁ~い」

 

 この頃には千影も自分の眼の扱いも、日常生活にほぼ支障はなくなったし、僅かな支障も僕や涼香が排除する。という関係が構築されていた。流石に五年六年一緒だったから。

 

「さてと、教師陣に報告と対応を求めようか」

「だね~」

 

 いじめが隠蔽される原因の一つは被害者が誰にも訴えないことにある。もしくは、証拠不足とかで訴えても裏で継続されるからだ。でも、僕らは違う。千影はいじめに遭いそうな時はさりげなく監視カメラの方とかまで誘導するし、大概僕か涼香が向かえる場所に誘導している。何より僕らには『誰にも言うなよ』という類のありふれた脅しは効かなかったし。

 

「風人君は強いよね」

「千影に比べたらね~」

 

 この時は僕らの関係がこのまま続くと思っていた。いや、続いていくのだろうと心のどこかで当たり前のように感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも、このささやかな当たり前は唐突に消え去ってしまった…………。



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風人の時間 過去 中

 中学生一年生のある日。それは雨の日だった。

 

「だから、何ふざけたこと言ってんの~?」

「それはこっちのセリフだよ」

 

 私たちは出会って初めて喧嘩をした。

 私たちは頭がいい。私も恐らく風人君も不毛なことをしたくない主義だ。だから喧嘩なんて面倒なことはやらない。体力の消耗だけな無駄な行いはしない。少なくとも私たちはそう思ってた。

 

「はぁ~?」

「何よ」

 

 風人君のマイペースな口調にも怒気が込められている。間延びした中にも彼なりの怒りを感じる。でもだからどうした。私も怒っているのだ。

 

「僕は医者になる。それで、千影の眼を治す。僕の自由でしょ~?」

「やめてよ。風人君に治されるくらいだったら自分で治すよ」

 

 きっかけは些細なことだった。

 

 将来の夢。

 

 将来の夢なんて小学校の時にいくらでも考える機会があっただろう。でも私たちは真剣に考えてこなかった。何故か?私たちは……いや、少なくとも私は心のどこかで思っていた。なろうと思えば基本どんな職業にでもなれるだけの能力は身につけているって。さすがに色を扱う仕事は無理だけど、だとしても不要だと判断し考えてこなかった。

 でも、今日の総合の時間。考えさせられた。私はそれとなく医者にでもしておいて、自分の眼を治そうかとか心理学者で風人君のような人の心理を突き止めるかと思った。……一言で言えば風人君と被った。

 私たちは普段支え合う関係。彼の性格を私が。私の障害を彼が。でも、根はお互いに負けたくない。最初はそんなことなかったけど、小学校六年生くらいからはそうお互いに思い始めた。身近に一番強く、理想的な相手が居たのだ。あらゆる面において自分が本気を出せる相手が。

 

「はぁ~?千影にできると思ってんの~?」

「はぁ?風人君には無理だよ」

「「…………!」」

 

 睨み合う私たち。背は私の方が大きいから私が見下す形になる。

 風人君には負けたくない。例えば彼がプールで50mを24秒台とかで泳げるのなら私も負けじと泳ぎたい。料理が上手いのなら私の方が上手くなりたい。学力が向こうが上なら私はそれに負けたくない。

 

 だから、風人君がこの病気を治す術を、能力を身につけたとしたら私はそれより早くその術を身につけたい。

 

 正直大人じゃないと思う。大人ならそんなことにはこだわる人は少ない。結局私の精神はまだ大人からすれば幼かった。でも、これだけは、譲れない。世界最高の何処ぞに名医に治されるならともかく、風人君だけは嫌だ。負けたようで絶対に。

 

「僕は千影を……」

「救いたいって、言いたいの?笑わせないでよ。本当にそう思ってるの?」

 

 そして、私はこの時虫の居所が悪かったのだろう。

 

「やめてよ。同情なんてさ。同情で人生を台無しにするつもり?」

 

 本当は風人君が私の病気を治そうと思ってくれてることが嬉しかった。でも、風人君の人生だ。私なんかのためじゃなくて自分で選んでほしい。

 でも、私はその言葉を正しく上手く伝えられなかった。風人君に負けたくないという気持ちが、今まで抱えてきたモノが、私の言葉を邪魔する。

 

「あーそれとも風人君。風人君も私のこと可哀想とか思ってたの?」

 

 今まで生きていて私は多くの不安や恐怖を抱えていた。私はそれを誰にも言ったことがない。見せたこともない。だって、言っても同情されて終わりだから。弱みを見せても意味ない。何にも解決しない。相手に同情されるくらいならこの眼を治してほしいから。

 でも今、これまで押し込んできた不安や恐怖が風人君への怒りと変わり、決壊したダムのように止めどなく流れていってしまう。

 

「ふざけないでよ。風人君にこの苦しみが分かんないのに」

 

 最初の怒りは些細なものだった。負けたくない気持ちから出たものだった。それが私なんかの為に自分の人生を賭ける愚かなことをしそうな風人君に対してに代わり、いつしか、私に同情している風人君への怒りに変わってしまっていた。……理不尽な怒りに変わってしまった。

 

「……ねぇ。さっきから黙ってるけどさ。何か言ったらどう?ねぇ。何にも言い返せないの?ほら、何かやり返してみてよ」

 

 私は強めに何度か彼の肩を押す。

 もう止まらない。一度私の中にある今までの不安とか諸々を抑えていたものが全て壊れた。

 

「へぇ。やり返さないの!」

 

 私はやり返さない彼に苛立った。まるで、自分が手を出したら勝てると言っているようで。

 …………本当はそんなことないのに。

 

 私は止まらなかった。抵抗しない彼に向かって何度も殴る蹴るの暴行を加え続けた。でも彼は何も言わない。ただ、私の眼をずっと見ているだけ。何を考えているのか分からない目で。

 

 私は一通り暴行を加えた後、その場から逃げるように走り出してしまった。

 

 家に帰り、ずぶ濡れの私を見て母は驚いた。私は風呂場に入ってシャワーを浴び、浴槽に浸かり、落ち着きを取り戻す。そして、

 

「ああああああぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 私は自分のしたことに深い憤りを覚えた。深い罪悪感を感じた。何であんなことをしてしまったのか。何でそんなことで手を出してしまったのか。風人君は何も悪くない。悪いのは私だ。全て私が悪い。

 罪悪感と自分に対する嫌悪感に押しつぶされそうになりながら、風呂から出た私は母の用意してくれた衣服に身を包みリビングへ。

 

「どうしたの?千影。何かあったの」

「…………喧嘩」

「そう。風人君と?」

「…………うん」

 

 でもアレは喧嘩じゃない。私が一方的で理不尽に風人君を殴って暴言を浴びせただけ。

 私はそのことを母に伝えた。

 

「初めてね。千影が誰かに苦しみを伝えたのは」

「…………え?」

 

 母は怒ると思った。でも、怒鳴る様子は一切ない。

 

「なら、仲直りしないとね」

「……でも」

 

 あんなことをして、風人君は仲直りしてくれるのか。謝ったくらいで許してくれるのか。

 

「許してくれるか分からない。いや、許してくれないかもしれない」

 

 全くその通りだ。

 

「でも、謝りなさい。まずは謝る。分かった?」

「…………うん」

 

 明日会ったら謝ろう。絶対に謝るんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日になった。昨日と同様の雨の日だった。

 昨日はボロボロになりながら家に帰った。家に帰ると母さんが驚いていたが気にせずにいた。今日は一人で学校に来た。何度も躓いたりしたけど、何とか来れた。

 そして、放課後。

 

「ここにいた」

「……涼香か~」

 

 図書室にいた僕に声をかけてきたのは涼香だ。

 

「千影ちゃんと喧嘩したの?」

「……別に~」

 

 昨日は涼香は用事とかで一緒に帰っていない。

 

「はぁ。千影ちゃんが謝りたいって言ってたよ。でも、露骨に避けるって言ってた」

「……避けてないし~」

「毎時間男子トイレに逃げてたの何処の誰?」

「……何で他クラスの涼香がそれを知ってるのさ~」

 

 そう。今日一日千影と話さないように逃げていた。今は何というか話す気分じゃない。

 

「あのね。風人。千影ちゃんは――」

「……僕でも分かってるよ~。千影が眼のことで苦しんでいたくらいは~」

 

 あの時からだ。小五のいじめの時。あの時から千影は自分の眼が完全でないことを気にし始めていた。いや、本当はもっと前からかもしれない。でも、明確に、本格的に意識してしまったのはその時だと少なくとも僕は思う。

 千影は弱い。弱いくせに全部心の中に閉じ込める。それが今回、僕からすれば些細なことで爆発した。それだけだ。

 

「千影は僕に負けたくなかった。僕も千影に負けたくなかった。その思いが思わぬところで衝突してしまった。それだけだよ~」

 

 僕は千影のおかげで今までこれている。きっとこれからもそうだ。

 

「お兄ちゃんは千影ちゃんと仲直りしたい?」

「……外でお兄ちゃん呼びはやめてって言ったよね~?」

「答えて」

 

 僕の質問を意に介さない様子だ。

 

「……したいよ~そりゃ~」

「なら、千影ちゃんと向き合って。今回だけはお兄ちゃんはほとんど悪くない。だから、しっかりと向き合ってあげて。千影ちゃんと」

「……はーい」

「なら、急がないとね。さっき教室から出ていくのが見えたからもう帰ってるかも」

「明日じゃダメ~?」

「ダメ。今行くの」

 

 ということで、僕は下駄箱に向かい。走って、千影を追いかけることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日一日風人君に避けられていた。

 

「はぁ……」

 

 ため息をつきながら一人帰る。謝まりたいのに風人君の方から避けてくる。やっぱり、単純じゃないよね……でも、早く謝りたいなぁ。

 

「風人君の家に行こうかな」

 

 そこで彼を待って誠心誠意謝ろう。…………たとえ許されなかったとしても。

 私は横断歩道のところで立ち止まる。今は赤信号だ。

 私の気持ちはこの雲のように淀んでいる。あー私ってバカだなぁ。大バカだ。何が天才だ。いくら色んなことが出来ても人一人にすら謝れない大バカだ。

 

「千影~!」

 

 降りしきる雨の中。風人君の声が聞こえた気がした。私は気のせいかもしれないと思いながらも振り向く。

 すると、振り向いた先には走ってくる風人君の姿が。

 

「風人く――」

 

 

 風人君の名を呼ぼうとした瞬間だった。

 

 

 私の身体は押し出され道路へと出る。

 

 

 思わず倒れてしまい、左右を見る。

 

 

 

 

 次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 私はトラックという巨大な金属の塊に。

 

 

 

 

 

 

 無情にも吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千影!」

 

 僕は傘を荷物を投げ出し一目散に千影の元へ行く。

 

「おい!返事をしろ!千影!」

 

 僕は千影に呼びかける。頭や全身から血を流し、腕や足が曲ってしまった彼女に。

 

「かぜ……と…………くん」

「ちょっと待ってろ!今救急車を呼ぶからな!」

 

 僕はすぐさま携帯電話を出す。

 

「……ごめん……ね」

 

 今にも消えてしまいそうな声で呟く。

 

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!!」

 

 僕は叫んだ。今までに出したことのないような声で。

 

「さい……ごに…………」

「最後ってなんだよ!まだ生きるんだろ!」

 

 そう彼女の正面を向いて呼びかける。

 

「…………」

 

 すると、千影は最後の力を出し、彼女の右手を僕の後頭部に持っていき、そのまま――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――僕の唇を自身の唇に合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがと……だいす……」

 

 そして、彼女の眼は閉じてしまった。

 

「千影!おい!千影!!」

 

 その目は二度と開くことは無かった。

 

 

 

 

 

 

「あぁぁぁ……あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はこの日初めて哀しみを知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めて声のあらん限り泣き叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めてのキスは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血と雨と涙と深い哀しみの味がした……。



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風人の時間 過去 結

 千影の葬式は静かに幕を閉じた。

 僕はあの日涙が枯れるまで泣いた。文字通り涙が枯れるまで……。

 

「……今日もサボってるの?」

「……うっさい」

 

 あれから二週間が経った。僕と涼香は幼馴染を。大切な人を失ったショックで一週間ほど学校には行かずに家に……自室に籠っていた。

 今週のはじめ。ようやく学校に来た僕ら。ただ、僕としてはクラスメートの反応が鬱陶しかったし教師もだ。お前らに同情されたくねぇ。同情するだけ目障りだって。

 

「最近さ。つまんないんだよ~」

 

 僕は屋上に来てのんびり寝ている。今は昼休み。だけど、今日はここに朝からいる。

 

「この学校に僕と張り合える奴がいない。ああ――」

 

 ――本当につまらない。退屈だ。

 

「何かさ~涼香。心の中にぽっかりとデカい穴が空いているんだよ~」

「……うん。私も……」

「つまらないだけじゃない。もうこの穴を埋めてくれるような存在はいない」

 

 あの日。僕の中に生まれた感情はいろいろとある。

 

「風人……変わったよね」

「そう?」

「うん。変わったよ」

 

 変わった……のか?

 

「まぁいいや~。帰るよ今日は」

「今度テストだよ?いいの?」

「興味ない」

 

 僕は鞄を持ちそのまま帰る。帰り道で、いつもとは違い裏道を通るが、

 

「おいおい。ここはお子様が通るところじゃねぇぜ?」

「かかっ。通りたければ金を出しな。通行料だ」

 

 はぁああ。

 

「テメェら如き下等生物共に払うものなんてねぇーよ」

「このクソガキ!」

 

 そう言って殴りかかってくる不良かヤンキーか。

 

「クソガキであるオレに負ける気分はどうだい?クソヤンキー?」

「て、テメェ!」

 

 数分後。

 

「あー金でも手に入ったし、ゲーセン行くかー」

 

 僕は千影が居なくなってから荒れた。哀しみを紛らわせるためにワザと不良とかヤンキーに絡みカツアゲして金を巻きあげる。巻きあげた金をゲームに費やす。

 もちろん絡むときは顔は隠している。だって、バれると面倒だし。

 

 あの日から僕の中に二つの人格みたいなものが出来上がった。

 

 

 一つは失った怒りを表す僕の凶暴性の塊のような存在である『オレ』

 もう一つは失った哀しみを表しそれを補おうとする存在である『私』

 

 

 二つとも前面に出すと疲れるが使い道がある。僕はそれを使って自由を謳歌する。そんな日々だった。

 でも、同時にどうしようもない空虚が押し寄せるようなそんな日々だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい」

「「お、お邪魔します……」」

 

 さらに月日は流れ、冬休み。僕と涼香は千影の家を訪れていた。

 去年までは僕ら三人は、年越しを共に過ごしていた。でも、今年は……いや、今年からそれが出来ない。

 

「あのひき逃げの犯人。捕まったんだってね」

 

 僕らは居間に通されコタツに入る。すると、千影のお母さんから話が出る。

 千影を引いた運転手は程なくして捕まった。ひき逃げという罪を犯したから。

 

「でも話によると、まだ罪の重さを分かってないらしいわ……」

 

 でも、そのひき逃げ犯が言うには千影が急に道路に飛びだしてきた。だから千影が悪いと言って、自分は悪くないと主張し続ける。まるで、子どものように。

 だが、それが真実だろうが虚偽だろうが、千影を轢き殺し、逃げたという事実だけは変わらない。

 

「でも未だ分からないことがあるの」

「分からないこと……?」

「それっておばさん。千影が道路に飛び出したことですか?」

「えぇ。いくら黒と白しか見えてないとはいえトラックの存在くらい気付いていたはずなの。だから――」

 

 ――何で千影が急に飛びだしたのか。何で轢かれたのかが不可解だ。

 

 そう続ける千影のお母さん。そう言えば……

 

「ごめんね。最初からしんみりさせるような話しちゃって」

「いえ……まだ誰の心の整理もついていないですから」

 

 記憶を呼び起こせ。あの千影がこっちに振り向いたとき、何かが変じゃなかったか……!

 

「さて、今日は手伝いに来てくれてありがとね」

 

 まさか……!

 

「……絶対見つけ出す……!」

「どうしたの?風人君」

「……千影が死んだのは事故じゃない……殺された」

「どういうことなの?」

「あの時。千影の近くに誰か立っていたんだ。そいつが押した可能性がある」

「で、でも……可能性じゃないの?」

「妙なんだ。なら何でそいつは千影を引き止めなかった?なら何でそいつはオレが行った時には消えていたんだ?」

 

 もし、ただの無関係な人なら千影を引き止めていてもおかしくない。もし、無理だったとしても現場から音もなく消えるのはおかしい。

 

「……きっと警察がその人と轢き逃げの関係性を白日の下に晒してくれるわ。日本の警察を信じましょう」

 

 僕は子どもだ。訴えるだけの力もない。捜査する力もない。なんて…………なんて僕は無力なんだ。天才?笑わせるな。大切な人を守れないなんて……そんな天才いらない。

 ただ、もし本当にそいつが殺したのなら…………絶対復讐してやる。

 

「話を戻しましょうか」

 

 今日の目的は大掃除と千影の部屋の片付け。

 千影のお母さんが言うには自分一人では千影の部屋は片付けられないとのこと。そこで白羽の矢が立ったのが僕ら二人。一人では受け止められなくても、三人ならまだ受け止められるかもしれないという期待のもとだ。

 

「何気に千影ちゃんの部屋入るの久々かも……」

「同感だね~」

 

 前に入ったのは……いつだろ。少なくとも中学入る前だね。

 

「あの時より女の子らしい部屋だな~」

 

 前よりぬいぐるみとかそういうものが増えた。そんな気がする。

 

「あ、このノート」

 

 そこには日記、中学一年生と書かれていた。

 

「……日記つけてたんだね。千影って~」

「うん。小学校一年生からつけてるって言ってたけど、知らなかった?」

 

 知らない。

 

「にしてもマメだね~」

 

 僕は適当に一冊とって読んでみるが一日足りとて抜けている日がない。まぁ、時々英語とか外国語で書かれている日はあるけど。気分転換?

 

「…………千影。凄いな……」

「どうしたの?」

「ん」

 

 そこに書いてあったのはこうだ。

 

『6月✕日

 今日は昨日までの雨が止んで空に虹がかかっていた。虹って七色に見えて、キレイらしいけど、本当にそうなのかな?私には灰色にしか見えないけど……あ、でも風人君がキレイって言ってたからきっとキレイなんだね!私もそんな虹が見れたらいいのになぁ~』

 

 まだ続いているが、これは小学校一年生の時の。漢字が使ってるとかじゃない。

 

「ネガティブに思ってない」

 

 自分の世界が灰色。隣の世界はカラフル。小学生とかなら、よくある他人が持つものを羨ましがるってのがない。

 

「あの子ね。一度も言わなかったのよ」

「何をですか?」

「『自分の目が異常なのはお母さんのせいだ』とか『この目のせいで』とかそういうことを今まで言ったことがないのよ」

 

 なるほど。表面上は折り合いをつけていたわけね。それを隠し続けていたんだ。……やっぱり。

 

「なるほどです~…………あ」

 

 中学一年生の最後のページ。つまり、死ぬ前日の日記だ。

 

『10月△日

 今日は風人君と喧嘩をしてしまった……いや、喧嘩じゃない。私が風人君の思いに理不尽に怒っただけだ。怒って暴力をふるって最低だ。明日は誠心誠意謝ろう。土下座でも何でもして許しを請おう。それでもし、許されなかったらどうしよう……私の大好きな人に嫌われたらどうしよう……。不安で一杯だ。書き始めたらキリがない。でも、私は自分の非を認め謝らないといけない。たとえ、許さなかったとしても。……許してくれると嬉しいなぁ……』

 

 …………。

 

「バカが……許すに決まってんだろ……なに不安になってんだよ…………何年一緒にいたと思ってんだよ……」

 

 目が潤い始めた気がする。でも、今涙を流すわけにはいかない。

 僕のせいだ。僕が避けたから。僕が避けなければ、彼女が死ぬことなんて無かった。

 

「大丈夫?」

「すみません~大丈夫です~続けましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから二年の夏休みになった。僕は基本授業とかをサボっていた。正確には授業は受けるから出席扱い。ただし、基本全部爆睡。でもテストの点は取るし、忘れ物もしない。提出物はしっかり出すし宿題もこなす。前に担任から授業態度が悪すぎると注意されたが、言葉巧みに黙らせた。単純だ。僕がやったのは授業中の睡眠。サボり。授業妨害とかは一切していない。

 ちなみに親も呼んでの三者面談でも言われたが僕はどこ吹く風。うちの学校には夏休みの初めに懇談があるが、その時に終わらせた夏休みの宿題を全部持っていったらやっぱり黙った。

 

 退屈だった。

 本当につまらなかった。

 もう僕を制御するような存在はいない。自由だが自由過ぎてもつまらない。

 僕は今は何にも捕らわれない自由の鳥。千影という大切な友であり、僕を籠の中で制御し共に過ごしていた存在。でも僕と言う鳥の前にもうその友はいない。鳥籠はない。壁もない。目的も目標も意味も価値も何もかもを失った。僕はただ、目的も当てもなく空を飛んでいるだけの存在。

 ああ……やっぱり、こんな世界からいなくなれば楽なのかなぁ。僕もアイツの世界に……

 

 

 

 

 

「……キミ、小学生?」

 

 

 

 

 

 そんな時、僕のこのつまらない日常をぶち壊し、運命を変えてくれるような人に出会った。この出会いが僕の中の止まっていた時を進めようとはこの時の僕はまだ知らない。



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風人と有希子の時間 進展

ちょっと重い話は一旦終了です。


「……これが僕の過去」

 

 風人君の過去とその前に私と涼香さんたちが何を話したかを互いに話した。

 

「話はしてないけど――」

 

 そう言うと自分の左手首を見せてくる。

 

「――涼香の言うとおりこの傷は全て自分でつけた」

 

 風人君の傷……これが心の傷……

 

「……ねぇ。風人君。風人君は千影さんのこと好きだったの?」

「分かんない……でも、多分そう」

 

 そう……か。

 でも、不思議と嫉妬はなかった。故人だから?たぶん違う。風人君と千影さんの関係の深さは私なんかじゃ遠く及ばない。急に現れた私が嫉妬できる立場にないんだ。

 それを分かったんじゃない。分かってしまったんだ。

 

「風人君……」

 

 私は彼の名前を呼ぶと同時に……彼の唇に自分の唇を合わせた。

 

「……有鬼子?」

 

 数秒間の後に彼の唇から自身の唇を離す。

 

「私は風人君のことが大好きだよ」

「……そう。でも……」

「分かってるよ」

 

 風人君が千影さんのことを今も想い続けているのは充分理解できた。

 

「私は風人君の彼女になりたい。風人君と付き合いたい」

 

 本当は明日の夏祭りに誘って花火の下でとか考えていたけどやめた。言うなら今しかない。

 

「風人君は私のこと……好き?」

「……分かんない。でも、嫌いじゃない。恐いとこあるけど、普通の人よりは一緒にいて楽しいし……」

「そう……か」

 

 曖昧で複雑。自身でもわかってないか。

 

「やっぱり、私は風人君のことが好きだよ」

「……え?」

「今だって私のことを好きとかそう言わずに自分の事を述べられている。過去の未練を引きずっているってのはあるかもしれないけど」

 

 事実は小説より奇なり。まさか、風人君の幼馴染と風人君があんな別れをしているとは思いもしなかった。事故によってとまでは聞いていたのだけど……。

 

「それでも風人君はえらいよ。今まで私たちにそれを押し隠していた。全て一人で抱え込んでいた」

 

 苦しみを誰とも共有するわけでもなく、抱え込んでいたんだ。たった独りで。

 

「でも今だけは……ううん。今からは私に、その苦しみを悲しみを隠さなくてもいいんだよ」

 

 私はそっと彼を抱きしめる。

 ……もう一人で抱え込まないで。私でも話を聞いたりすることぐらいは出来るんだよ。

 

「…………ごめんね……」

 

 すると涙を流しながら謝罪を口にする。

 

「……それと……最初。殴ろうとしたりして……ごめん……怖がらせて…………本当にごめん」

「いいよ。許してあげる。代わりにちょっとだけ愚痴を聞いてもらっていい?」

 

 私は愚痴を言った。厳しい父に対する不満を言ったり、ゲームするようになった時のこと。風人君みたく重い過去はないし、死別した好きな人がいるわけでもない。でも話した。いろんなことを。その中にはもちろん風人君を好きになった時のことも。

 

「千影さんが言ってたんだよね?『私たちは支えあって生きる』って」

「……うん」

「なら、私は風人君を支える。だから、私のことを風人君も支えてね」

「……はい」

「じゃあ、寝ようか。結構話したしね」

 

 よく見ると三時間くらい話していたのかな?

 

「おやすみ、有希子」

 

 ……あれ?今……

 

「うん。おやすみ風人君」

 

 そして明かりを消して私たちは寝るのでした。

 でもよかった。あの出会いは私にとってだけじゃなくて君にとっても大きな意味を持っていたんだね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

「有鬼子~朝だよ~起きて~(ユサユサ)」

「ん……おはよ風人君。早いね」

「そりゃね~」

 

 昨日の話でわかったのはこの話し方が普通ということ。まぁ、いつも通りの風人君に戻ったかな。

 

「朝ごはん出来てるよ~」

「うん。朝ごはんが…………え?今何時?」

「八時かな~?」

 

 ね、寝坊した!?

 

「全く~有鬼子を起こさないように出ていくの苦労したんだよ~?」

「え?何で?」

「ん」

 

 と風人君が指さすのは私の寝ている場所。…………あれ?風人君のベッドの上?昨日布団で寝なかったっけ?あれ?もしかして……

 

「朝起きたら有鬼子が抱き着いてきてるもんだから、暑苦――驚いたし~割と大変だったんだよ~起こさず抜け出すの~」

 

 私はそこまで寝相は悪くないはず。つまりだ。

 

「あぁぁ……!」

 

 昨日の寝る時点で私は風人君に抱き着いて寝ていたのだ。ちょ、ちょっと昨日の私、大胆すぎるんじゃないかな?

 

「それに~よく考えたら昨日、有鬼子にキスされてるしね~わ~大胆だね~」

 

 あぁぁぁぁ!昨日の私、大胆すぎ!?

 

「だから~お返し」

 

 そう言うと私の唇に唇を重ねてくる風人君。それだけじゃない。

 

「んんっ~~!?」

 

 私の口の中に強引に舌をねじ込みそのまま蹂躙してくる。私は抵抗する間もなく力が抜けはじめ、

 

「これでおあいこで~」

 

 5Hitくらいで解放してくれた。

 

「はぁ……でも風人君。今本気出さなかったでしょ?」

 

 ビッチ先生曰く風人君はキスに関しても天才的らしい。そんな世界中を回るビッチ先生に認められたキステクニックだったら、私はこんなに早く復活はしないはず。

 

「当たり前じゃん~これから朝食なんだから~加減しておかないと」

 

 有鬼子が堕ちちゃうから。と言葉を残して、階段を降りていく。

 

「……今度は勝つ…………!」

 

 このことは風人君がしてくれて嬉しいというのもあったけど、本気を出したらもっと凄いてきな発言はいただけない。そう今回は不意打ちだったからいろいろとやられただけなんだ。前もって知っていれば勝てる。私のゲーマー魂に火をつけたみたいだね風人君……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、有鬼子が息巻いていたようであるが、現状は……

 

「…………」

 

 ボーっとして虚ろな状態である。おそらく思考回路が正常に働いてないだろうか、きっと今なら何をしたとしても無抵抗だろう。まぁ、した後が恐いので何もやらないけど。

 あの後、朝食を取り歯を磨く等々済ませた後、有鬼子が最初はさっきの仕返し~とか言ってキスして舌まで入れてきたので今出せる本気を出したらこんな感じになったのだ。しばらく観察しておこう。

 と、観察中ふと気づく。そういえば、昨日の有鬼子からの告白。いろいろと有耶無耶になって返事してない気がする。というか、今の有鬼子との関係って何だろう?

 友達?なんかキスしたりでもうすでに超えている気がする。恋人?うーん僕が告白の返事してないから違うね。一方通行な関係?それだと僕からキスしたことに説明がつかない。うーん……

 

「まぁ、難しいことはいいや~」

 

 僕頭使うの嫌いだもん~あーでも何か昨日話したら少しすっきりした!……というか、

 

「……よく有鬼子はこんな僕のこと受け入れてくれるよね……」

 

 何度も自殺しようとする出来事があって、手首には痛々しい傷跡があって、性格は最悪で、余分なこと言って怒らせて。…………よく生きてるなぁ僕。まぁ、どっちでもいいんだけど。

 僕らの出会いは最悪とは言わない。でも、何と言うか会っていた時期が違ってたらもっと別な関係になっていたと思う。有鬼子が今のようなまじめな感じの時に会ってたら多分もっと静かな関係だっただろうし、千影が死ぬ前だったら僕は彼女のことをただのゲームが強い女子ってだけで、何か月も記憶に残ってるわけがない。

 だから最悪でも最高でもない。だけどちょっと特別だと僕は思う。

 

「……ありがとうね~。こんな僕を救おうとしてくれて」

 

 こんな僕を救おうとしてくれる有鬼子。一度彼女のことをどう思ってるか本気で考えてみよう。

 

「……こっちこそ。こんな私と一緒にいてくれて」

「あ、おかえり有鬼子~今の聞こえてた~?」

「ただいま風人君。今のだけね。いたずらとかしてない?」

「うん~だって、すると後で怒るでしょ~?」

「当然です」

 

 ほら。

 

「でもちょっと嬉しいかも……」

「よし、今度は額に鬼(笑)って書いておくよ~」

「訂正。そっち系の悪戯は望んでいません」

 

 ほらね。いたずらしようものなら僕の首より上の部分だけお空へ羽ばたくよ。パタパターって。

 

「じゃあ、勉強しよっか」

「え?さっきのゲーム有鬼子負けたじゃん」

「勉強しよっか」

「だからさっきの」

「勉強(にこっ)」

「……はい」

 

 これを漢字三文字で何と言うでしょうか。答え、理不尽。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぺたぺた

 

 お昼も終えのんびりとした午後。控えめなノック音(?)が聞こえてくる。どこからって?窓からですが。しかも僕の部屋の窓。ここ二階だよ?ねぇ、

 

不審者(殺せんせー)発見っと」

 

 鍵を閉めておく。

 

「にゅやあああああ。風人君の鬼ぃ!」

「間違えないでよ殺せんせ~。鬼はこっちだぐふぅっ!?」

「風人君?」

 

 あ……ああ。横っ腹に……拳がぁああ。

 

「全く。殺せんせーの話を聞いてあげようよ」

 

 と、鍵を開け窓も開ける有鬼子。

 

「おぉぉ神崎さんは優しいですねぇ。本題に入る前に何で風人君の部屋に居たかを一言」

「え?あー風人君の御守りです」

「なるほどなるほど」

 

 何かメモってるぞおい。

 

「で~?何の用~」

「夏祭りに行きませんか?」

 

 と、看板を見せてくる。要約すると『夏祭りに行きたい人は今日の夜七時、椚ヶ丘駅集合』だ、そうだ。で、裏には『夏休み最後の一日くらい何も考えずに遊びましょう!』と書いてある。ふむふむ。

 

「ほら有鬼子!殺せんせーも勉強なんか捨ててゲームしろって言ってるじゃないか!」

「誰もそんなこと言ってませんよ!?」

「ダメでしょ風人君!私たち結構遊びに行ってるんだからある程度は勉強しないと!」

「え?あ、その話を詳しく……」

「有鬼子の分からず屋!せんせーの意図が組めないの!?」

「風人君の分からず屋!私たちには勉強が必要でしょ!?」

「あの……結局夏祭りには行くんですか?」

「行く!」「行きます!」

「あ、はーい……お邪魔虫は退散しますね」

 

 窓を閉める殺せんせー。しかし、保護色で張り付いてこちらの様子を伺っている。

 

「「退散してないじゃん!」」

 

 と、僕の持つ手錠を構えたところどこかへ飛んでいった。

 

「さてと、じゃあ、時間まで勉強しようか」

「えぇーゲーム~」

 

 僕らはあくまで平常運転ですね。

 

 

 

 

 

 

 

(神崎さんも風人君も二人の間の空気が変わったような気がしますね……それが気のせいか真実か。まぁ、この先分かるでしょう。ヌルフフフ)



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夏祭りの時間

「どうも前話まで軽く自分を見失ってた風人です~よろしく~」
「もう風人君は。あ、神崎有希子です。今回短編という形ではないですが作者から重要な(?)報告を伝える為に来ました」
「まぁ~堅苦しい文より僕らの会話形式にした方が面白そう~って理由だけどね~あはは」
「では、本題を。今作者さんは『風人君のキャラ絵作り』に挑戦してます」
「あはは~作者絵心ないのにね~」
「だからイラストを描くのではなく、そういうキャラを作る系のサイトでやってるみたいだよ」
「おぉー!楽しそ~」
「作者さんは前のアンケート、短編、番外編、次章予告ですが、面白そうだと思ったことをすぐ実践する人ですからね。後先考えずに」
「それってバカだね~」
「風人君が上手く出来たら他の創作の小説のキャラやこの作品のオリキャラたちも作ってみるらしいよ。未定だけどね」
「もしかして僕が最初~?やったね!」
「うん。最初なのに、『渚君程ではないが中性っぽく、女装が似合いそうな外見で可愛い系』という、ある意味難しいラインから始めるんだけどね」
「作者ってアレだよね~僕に最初可愛いって設定なかったのにそういうの作るから難しくなるんだよ~」
「まぁ、無茶苦茶男っぽい人がそんな口調だとちょっと引いちゃうよね」
「うわっ!辛辣だぁ~」
「諦めて」
「でも何でこんなことを言ったの~?別に言わなくてどぉーん!って載せればいいのに~」
「そうだね。ぶっちゃけ、作者さん風人君のキャラデザ深く考えずに性格とか生い立ちとかを決めすぎたからね。ここまでの話で風人君の外見イメージって十人十色でしょ?」
「ふっふっふっ!読者の数だけ僕は存在するのだ!」
「全員の風人君を倒すのは大変そうだね……で、そんなわけだから作って載せるけど自分のイメージと違うのはごめんなさいって話」
「なるほど~気になる人は見て~どっちでもいい人や幻滅したくない人はスルーしてってことかぁ~」
「載せるのは次回か次々回の前後書きのどっちか。同時にキャラ紹介でも載せてみるらしいけど」
「けど?」
「挿絵を載せたことないからうまくいくか分かんないんだって」
「…………大丈夫なの?それ」
「前途多難だね……」
「「会話ばっかでうんざりしてると思うのでそろそろ本編をどうぞ!」」


「さてと~どこから回る~?」

 

 殺せんせーが来てから、時間は経ち夏祭り会場。僕は私服なのに対し有鬼子は浴衣を着ている。よく見ると集まった女子は全員浴衣を着ていたことから、もしかしたらそういう話になったかもしれない。まぁ、何でもいいけど。

 で、駅から会場までは一緒に来ていたがここからは別行動、一人あるいは二人とか少人数で回ってる。全員で回るなんてことはしてない。

 

「じゃあ、何かで勝負しようか」

「はーい」

 

 というわけで、

 

「じゃあ、100円な」

「はい」

「はーい」

 

 僕らはそれぞれ100円渡す。さぁ、金魚すくいだ~

 

「じゃあ、勝負ね」

「ふぁーい」

 

 と最初はやる気だったんだけど……

 

「これいつ終わるの~?」

「……何でそんなに掬えるの?」

 

 有鬼子が二十匹くらいでポイが破けたが、何か僕は凄い続いてる。屋台を切り盛りするおっちゃんも目を丸くする。

 

「うーん。僕繊細だから~」

「それは私ががさつって言いたいの?」

「うん~」

 

 いや、二十匹掬たらよくない?え?ダメ?

 

「ふーん」

「あ、頭を掴まないで下さい。まぁ、そろそろ辞めるよ~」

 

 と、僕はデカい奴を一匹掬って終了。全部で五十匹くらい?

 

「こうなったら第二回戦だよ。いいね?」

「あーい。別のところでね~」

「あ、これはどう?」

 

 そう言ったのは……射的?あれ?景品結構少ないなぁ……

 

「仕方ないね~」

 

 きっと前の人とか前までに来た人が落としに行ったかここが人気過ぎたか。まぁ、なんでもいいね~

 

「一回六発200円だ」

「はーい」

「はい」

 

 お金を渡す。さて、

 

「どっちが先~?」

「じゃあ私ね」

 

 わざわざ浴衣の袖をまくってる。わぁー本気だぁこの人~

 

 パン!

 

 景品が落ちる。

 

 パン!

 

 景品が落ち……

 

 パン!

 

 景品が……

 

 パン!

 

 景品……

 

 パン!

 

 景……

 

 パン!

 

 結論。六つの景品が落ちました。

 

「次、風人君ね」

「はぁーい」

 

 さてと、

 

「おっちゃーん。銃二つ使っていい~?」

「???まぁ、構わんが……弾の数は変わらんぞ」

「はーい」

 

 ふっ。この銃から放たれる弾丸(という名のコルク)の速度、軌道は見切った。勝つためには六つの弾丸で七つ以上の景品をとらなくてはならない。景品の配置から……

 

「そこ!」

 

 パン!パン!

 

 放ったコルク同士が空中で掠って角度に修正が入る。コルクの向かう先には大きな景品。そして、両脇には小さなぬいぐるみ的なもの。

 

「は……?」

 

 大きな景品の両サイドに本の少しタイミングがずれてコルクが当たり、跳ね返ったコルクが両脇の景品を落とす。ふっ。これぞ二つのコルクで三つ取る荒業だ。

 

「さぁ、行こうか」

 

 尚この後も似た感じのことを二回やったら、出禁喰らいました。まる。

 いやぁ。六つの弾で九個も景品落とされたら溜まったもんじゃないか。ちなみに『何で今日来る中学生はおかしなやつしかいねぇんだ』と言っていたけど気にしない気にしない~。

 

「お、風人に神崎さんじゃん~」

「あ、カルマ~」

 

 すると、向こうからゲーム機の入った箱を抱えたカルマがやって来た。

 

「くじの景品ですよね?」

 

 確か『糸くじ』って書いてあったお店の奴だ。

 

「そうだよ」

「おぉ~あの店って明らかに怪しかったけど特賞の景品に繋がる紐あったんだね~」

「……え?」

「いいや、なかったよ。というか、風人も気付いてたんだね」

「……え?」

「まぁね~で、どうやってそれ取ったの?まさか盗った?」

「いいや。五千円かけて四等以上の景品に紐が繋がってないことを証明して、警察に訴えないからその特賞くれって(お願い)した」

 

 まぁ、お願いしたならしょうがない。向こうも引き攣った(優しそうな)笑顔でゲーム機をくれただろう。今の話聞いて有鬼子も苦笑いしてるし。

 

「というか、二人も景品と金魚?いくら賭けたの?」

「300円ずつですね」

「お陰で出禁喰らった~あはは~」

「そういや、磯貝も金魚たくさん持って嬉しそうだったっけ。金魚いらないなら渡して来たら?」

「そうだね~」

 

 いいことを聞いた。これは磯貝君に渡そう。……いやねぇ。さすがに五十匹もいらないよ。せいぜい二、三匹で充分……というか二、三匹もいらないか。

 

「んじゃ、お邪魔虫は別の屋台荒らしに行きますか」

「荒らしに行くんだ……」

「デート楽しんでね。お二人さん」

「うん~行こ~有鬼子」

「う、うん。じゃあね。カルマ君」

 

 というわけでカルマと別れた。

 

(へぇ~風人にデートの自覚あったんだ。ま、どうせ男女二人で一緒にいたらとかそういう系だろうけど)

 

 にしても、射的のおっちゃんから紙袋とか貰えば良かった。如何せん景品が多い。

 

「あ、渚~茅野さん~」

「和光君に神崎さん。……どうしたの?その景品の数」

「射的で取った~出禁喰らった~」

「あはは……風人君たちもかぁ」

「風人君たちも?ということは、他にも出禁喰らった人がいるの?」

「千葉君と速水さんだよ」

 

 あーあの二人の方が僕より本職だからなぁ……スナイパー組。

 

「でも、二人も水風船?凄い数ですね」

「暗殺技術の繊細な部分が生かせてねたくさん取れたんだ。一つあげよっか?」

「いいの?じゃあ、私からも好きなの取っていって」

 

 と、茅野さんと有鬼子は交換をしている。

 

「渚~何かいる~?」

「じゃあ、これを。風人君にもあげるよ」

「ありがと~」

 

 尚二人は袋一杯に入った金魚たちには触れなかったことを記す。

 

「あ~磯貝君~ついでに前原君と片岡さん」

 

 次はイケメン三人衆である。全員が別ベクトルのイケメンだ。

 

「あぁ、和光に神崎か」

「俺らはついでかい」

「酷い言われようだね」

「まぁまぁ」

「和光も金魚凄い数だな」

「頑張った~磯貝君こそ凄い数だね~」

「おかしいな。金魚ってあんなに掬えたっけ?」

「普通は無理ね」

「あはは……」

 

 酷い言われようだ。

 

「そーだ。磯貝君。金魚いる?カルマがたくさん掬って嬉しそうって言ってたけど」

「いいのか和光!?」

 

 凄い喰いつきだなぁ。

 

「じゃあ、私も」

「ありがとうな二人とも!」

 

 いやぁ。感謝されるっていいね~

 

「これで食費が浮いたよ!助かった!」

 

 うんうん。食費が浮いたって喜んで……

 

(((え?食べるの?)))

 

 僕らの考えが一致した。珍しく僕の考えも一致している。

 

「じゃあね。二人とも。嵌めを外し過ぎないように」

「またね」

 

 マジか……今のことは心の片隅に置いておこう。

 少し歩くと、担任の姿が多く見えるが、

 

「にしても、殺せんせー。ちゃっかりしてるな~」

 

 僕らE組生徒のせいで早じまいしたスペースに自身の屋台を構えている。おっそろしいなぁ。

 

「まぁ、月末は金欠だからね。しょうがないよ」

 

 何が?

 

「ちょっと待っててね~有鬼子」

「うん。分かった」

 

 僕は殺せんせーの経営する屋台に行く。

 

「殺おっちゃん~。紙袋二つ~」

「ここは屋台ですよ?何か頼んでください」

「んじゃ、『ロシアンルーレットたこ焼き』一つ~」

「そんなメニューないですよ!?」

「なければ作ればいい(どやぁ)」

「どや顔で言わないで下さい!」

「じゃあ、仕方ないや~。応募はがきで『触手水着という新ジャンルを開拓しましょう。触手なら私が貸しますから……』って送ったこと皆にバラすね~」

「にゅや!?何で君がそれを知ってるんですか!?」

 

 …………え?ガチでやったのアンタ?はったりなんだけど。

 

「分かりました!はい。これとこれ!」

「はいお金。あ、何をいくつ入れたは言わなくていいよ~代わりにペットボトルの水頂戴」

「どうぞ」

「ありがと~」

 

 よし、ゲット~

 

「はい、有鬼子~」

「ありがと。それは?」

「たこ焼き~。食べる?」

「うん。そこに座ろっか」

 

 椅子というかベンチというか。まぁ、座るところがあったので座らせてもらう。

 さてと、問題はこの六つのたこ焼き。外れは1個以上5個以下。有鬼子は無警戒だが僕は凄い警戒してる。

 

「まず、一個目」

 

 ふむふむ。

 

「おいしい~」

「じゃあ、私も貰うね」

 

 食べた瞬間、

 

「~~~~っ!??」

 

 鼻の辺りを抑えて悶絶する有鬼子。

 

「プクク。大丈夫~?……プクク」

「な、なにたべさせたの……?わさび?」

 

 涙目で訴えかけてくる有鬼子。どうやらわさびが入ってたようだ。あはは~

 

「ロシアンたこ焼き~殺せんせーに頼んで作ってもらった。後は普通のたこ焼きだよ~」

 

 殺せんせーが一個しか仕込まなかった場合は。って言うのは心の中に留めておこう。

 

「ほら、普通のでしょ?」

 

 もう一個食べる。うん。セーフだ。

 

「……食べる?」

「うん」

 

 そう言って一個を爪楊枝で刺すと……

 

「はい。あーん」

 

 おっと、これは疑われてるな。まぁ、

 

「あーん……うん。おいしい~」

 

 当たりのようだからいいけど。

 

「はい。あーん」

「あーん……うん。おいしいよ。最初が外れだっただけかな?」

 

 だとしたら有鬼子は運がないなぁ。

 

「じゃあ、もう一個。あーん」

「あーん…………っ!??」

 

 すると、有鬼子の様子がおかしい。これは進化するのか?

 

「か、かりゃい……」

 

 舌を出して目は涙目。

 

「う、うしょつき……」

 

 何というか、可愛い。うん凄い可愛い。

 

「はい水。いや~二つ入っててしかも両方とも引き当てるとは~良かったね!」

 

 水を飲む有鬼子。

 

「ぜんぜんよくない!」

「あはは~よく引き当てたね~凄い凄い」

 

 実に滑稽だ。

 

「ちなみに全て殺せんせーにお任せしていたから~僕は外れが何で何個入っていたかは知らないよ~」

「舌が……」

「大丈夫~?」

 

 この後、有鬼子が同じように殺せんせーに頼んだが結局やられたのは有鬼子だけだったことを記す。面白かったです。凄い面白かったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しかったね。夏休み」

「濃かったな~」

 

 僕らは屋台の方から離れて、花火を見るために移動している。辺りには人が居ない。

 

 ひゅ~~ドンッ!

 

 花火が上がった。一つ上がると次々と上がっていく。

 

「綺麗だね……」

「そうだね~……」

 

 花火……か。

 

「ねぇ有希子。昨日の告白なんだけどさ」

「…………うん」

「あれから考えたんだ。有希子のことどう思っているのか。友達として好きか嫌いかって聞かれたら多分好きって答えられると思う。でも、恋愛的にはって聞かれたら正直分からない」

 

 僕は嘘を言うつもりは無い。嘘をついてまで彼女は僕に好きと言われたくないだろうから。

 

「だけど、有希子と一緒に居るのは凄い楽しい。学校でもだし、他のところでも。だからさ――」

 

 一息吸って告げる。

 

 

 

「――こんな僕で良ければ付き合って下さい」

 

 

 

「全く、何がこんな僕ですか……」

 

 そういうと、キスをしてくる。

 

「そういう貴方だからいいんですよ」

 

 若干瞳を潤わせて告げる有希子。その表情は――

 

「これからも末永くよろしくね。風人君」

 

 ――とても綺麗な笑顔だった。

 

「有希子……」

「風人君……」

 

 僕らは向き合って――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ言ってて恥ずかしくないの~?」

「このタイミングで言うこと!?」

「うん!」

 

 え?キスすると思った?そんな安直な事はやらないよ!

 

「あぁもう!風人君は……!」

 

 いやねぇ。気になるじゃん。

 こうして僕らの夏休みは終わった。新学期もきっと面白いことが起きるのだろう。まぁ、

 

「こういうね。ムードっていうのはもっと大切にした方が……」

 

 隣に彼女がいれば退屈はしないんだろうなぁ。




本編はまだ続きますよ?
というわけで夏休み編終了です!次回からは2学期編。
この話を投稿する前にUAは55,000を越えお気に入り者数も450は越えましたね。ありがとうございます。
後、先に言っておくと前書きの件はいろんな意味で期待しないでください。とだけ言っておきます。ネタではなくガチなほうで。
ということで、次章予告を。飛ばしたい方は飛ばして下さい。
















~次章予告~

 波乱の夏休みも終えた。二学期。そのスタートも波乱だった……

「三年A組和光風人です」

 まさかの風人A組入り!?

「風人君。どうして」

 彼女である神崎の声は届くのか。





「全て和光のせいなんです!」

 風人に擦り付けられる疑惑。

「え?僕~?」

 疑惑を払拭し、真実を暴けるか。そして……








「テメェだけは……!」






 怒れる風人。その怒りの理由とは……

 




 殺せんせーの過去。因縁が明かされ、物語は終幕へと向かい始める。
 次章『因縁の二学期編』












「しっかりしなさい!風人!」












 風人は一回り成長…………する?


※都合上予告とは違う展開になる場合がございます。ご了承ください。


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因縁の二学期
始業式の時間


新章開始です。
それと匿名表示をやめました。一応お伝えしておきます。
後、今日はエイプリルフールですね。
では、短編を(今までの中で一番狂気的な有鬼子が登場します。下手したら他作品様の有鬼子の中でもダントツでヤバいかもしれません。あ、それは前からでしたね。いえ、でも今回ばかりはヤバいです。嘘ではなくマジな方です。心の準備をして下さい)。




『嘘』

「今日は何の日か知ってる~?」
「エイプリルフールでしょ?それがどうしたの?」
「つまり人を騙しても怒られないし、許される日なのだ!」

(それは多分違うかな……)

「あ、風人君。あんなところにプリンが」
「え!?どこどこ!?」
「……嘘だよ」
「そんな!騙すなんて酷いよ有鬼子!」

(さっき騙してもどうのこうの言ってたの誰だっけ?)

「ぶーぶーそんな嘘つきな有鬼子なんて嫌いだーぶーぶー」
「……え?私のことが……嫌い?」
「うん~」
「そんな……私……嫌われた……」
「まぁもちろん嘘だけ…………有鬼子?」
「…………嫌われた……あはは…………」
「有鬼子さん?」

(どうしよう。何か狂ったように笑い出して凄い怖いんだけど。え?何?どうなってるの?何かブツブツ言ってるんだけど……)

「あはは……嫌われた……いや、嘘だ」
「うん。嘘だけど……」
「そうだ。こんな風人君は偽りだ」
「あれぇ?僕の存在全否定?」
「あはは。だったら私が本当の姿を取り戻せばいいんだ」
「……本当の姿?」
「あはは。まずは監禁してじっくり調教しよう。そして二度とそんな口開かせないようにしよう」

(あ、あれぇ……?凄い恐ろしいこと言ってね?震えが止まらないんだけど……)

「じゃ、じゃあ僕は先に――」
「ねぇ」
「ひぃぃっ!」
「……今、時間ある?あるよね?私より大切な用事なんてないよね?ねぇ――」



















「イマカラチョットツキアッテヨ」
















この後風人がどうなったのか……それは誰も知らない。ただ一人。




「フフフッ」





有鬼子を除いては……


 濃かった夏休みも終わり、今日からは二学期。

 殺せんせーの暗殺期限も近づきつつあるこの頃。今日は二学期の始業式ということで私たちは体育館に整列しています。出鼻から金魚の糞……金魚の糞たちは私たちを見て気色悪い笑みを浮かべていましたが何かあったのでしょうか?

 風人君とお付き合いすることになった私ですが、彼氏彼女の関係になったから急にベタベタしたりイチャついたりそういうのはありません。良くも悪くも前とそう変わらないです。千影さんの件も私から何か追及するとか過度な心配もかけない。あくまで私からは普通に、彼が何か言いたい時は言ってもらう。それでいいです。今までとほとんど変わらない。……まぁ、何か変わったかと言われたら、手を繋いで登校が出来たからそこは進歩でしょう。

 退屈な始業式も終盤。昨日は嬉しくて少し夜寝るのが遅かったので欠伸をこらえながら話を聞いています。

 

「では最後にお知らせがあります。今日から3年A組に新しい仲間が加わります」

 

 どうやら転入らしい。私には関係ないかな?

 

「昨日まで彼らはE組にいました。しかし、たゆまぬ努力の末に好成績を取り、本校舎に戻ることを許可されました……では彼らに喜びの言葉を聞いてみましょう」

 

 ……え?そして同時に壇上に現れる二人の男子生徒。私はその二人を見て驚きます。

 

「僕は4ヶ月余りをE組で過ごしました。その環境を一言で言うなら……地獄でした」

 

 竹林君は紙を見てスピーチしていますが、私の頭に入ってきません。

 

「やる気のない生徒……先生方にもサジを投げられ、怠けた自分の代償を思い知り、もう一度本校舎へと戻りたい一心で勉強しました。こうして戻ってこれた事を心底嬉しく思うとともに二度とE組に落ちる事のないように頑張ります。以上です」

 

 一礼をし、壇上から戻ろうとする竹林君。そして入れ替わるように出てきた彼は――

 

「どうも。本校舎の皆さん。新たに三年A組に転入する和光風人です」

 

 ――風人君でした。そんな……私には何も言わなかったのに……

 風人君は辺りを見渡して、

 

「本校舎の皆さん。どいつもこいつもモブ中のモブですね~。学園もののゲームの背景にいても不思議じゃないね!」

 

 ……さらっと爆弾を落とした。

 

「えーコホン。三年E組という環境は地獄でした。よく雷を落とされ、よく正座を強制され、よく説教をされました」

 

 すると、E組の皆が私の方を見てきます。……もしかしなくとも、全部私に関することではないかな……。

 

「ところで、本校舎のゴミど……皆さん僕に言いたい事がありそうな顔してますね~でも、掃き溜めのゴミさん。この学校では学力の上の人に下の人間は逆らえないそうですね?あのA組の五英傑さん(笑)たちが言ってたんですから間違いないでしょう?ねぇ?バカにされても口を開けないなんて惨めだね~」

 

 あはは……

 

「さて、僕が言いたいのは、僕らのことを格下と思ってる蒙昧諸君に告ぐ。僕らに何一つ勝ててねぇこと自覚したら?強者(笑)ども?以上です~」

「おい和光風人!今すぐ謝罪をしろ!さっきまでの発言を訂正しろ!」

 

 と、隣から浅野君が出てきて風人君に謝るように言う。いや、あの風人君が素直に謝るわけ、

 

「分かったよ。あやまればいいんでしょ~?あやまれば」

 

 え?

 

「ごめんなさい」

 

 頭を下げる風人君。そして、あからさまに見下すような目をして、

 

「そもそも君たちのような格上を格下と思い込んでしまう残念な脳みそを持つ君たちが、僕の使った言語を理解出来るわけないよね?ぷふっ。難しいこと言ってごめんなさーい」

 

 確かにあやまったね。…………ただ完全に……誤ったね。これは。

 

「お詫びに僕はE組に戻りますね~ではこれで~」

 

 その後、本校舎からのブーイングの嵐が吹き荒れたが、風人君は一度手を銃のように組みどこかに向けて狙いを決め撃ったかと思うと、どこ吹く風でE組に戻って来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、現在!

 

「風人君。どうして……」

 

 目の前にいる有鬼子が僕を見てきます。

 

「どうしてあんなことしたのかなぁ?(ニッコリ)」

 

 ただし、怖いです。脚を組み、机に肘をついて手に頬を乗せ……何だろう。ヤンキーに絡まれて金を請求されてみたいです。あ、でも笑顔ですよ?……眼以外は。

 僕は現在。お察しの通り正座させられています。僕の首からぶら下げさせられているプラカードには『僕はバカです。反省してます』と書かれています。酷いです。あ、それより怖いです。

 

「なんだよあいつ!100億のチャンスを捨ててまで抜けるなんて信じらんねえよ」

「しかもE組の事を地獄とかほざきやがった!そこのバカもだけど!」

「言わされたにしたってアレはないよね…………そこのバカもだけど」

 

 おかしいな。そんなにバカなことをしたかな?

 

「竹林君の成績が急上昇したのは事実だけど……それってこのクラスで殺せんせーに教えてもらっただからこそだと思う。それさえ忘れちゃったなら私は彼を軽蔑するな」

 

 ふむふむ。

 

「というか、そもそも竹林君が自分からE組を抜けたいって言ったのかな?」

「どういうことだ?」

「島に行った時にはそんなE組を抜ける素振りとか見せなかったなぁ……って」

「確かにね。そこの反省中のバカ。思い当たる節はないの?」

「思い当たる節~?うーん。あるにはあるよ~」

 

 どう考えてもあれしかないだろう。

 

「どんなの?」

「えー教えようかなどうしよう……あ、はい。教えるのでその手を納めて下さい」

 

 気が変わったのは決して有鬼子が笑顔でグーを作ったことに恐怖を感じたからではない。

 

「あれは~島から帰ってきて数日した頃にね~呼ばれてたの~」

「へぇ、誰に?」

「理事長先生~」

「……あの理事長が一枚噛んでたか」

「うん~なんか~A組に入らないかって聞かれた~」

「和光君はなんて答えたの?」

「色々話してその時は考えさせてくださいって言ったね~」

 

 そういうと、ひそひそと話し始めるクラスメート。

 

「あの和光が揺れる程の話術だと?」

「ということは、理事長が原因?」

「くそ、やられた」

 

 いや~僕も後少しでコロっと行くところだったよ~有鬼子があの時居なかったらどうなってたことやら。あはははは~まぁ、

 

「ふーん」

 

 まぁ、その助けてくれた人(ただし、本人は無自覚)は相変わらず怖いのですが。マジで誰か助けて下さいお願いします。ほら、代わりたい人いるでしょ?美少女中学生に正座を強制させられ蔑まれるなんてシチュエーションそんなにないよ?ねぇ、今なら代わってあげるよ。だから代わってください!この通りです!というか誰か助けてぇ!

 

「彼女がE組に居る中一人A組に行こうか考えていたんだぁ……相談一回もなかったよねぇ……へぇ~」

「あ、あの~その話が出たのは付き合う前だから……あ、何でもないです。揺らいだ僕の心が弱かっただけです。この通りです許して下さい」

「もっと誠意を見せてくれないとなぁ~」

「…………絶対楽しんでるよこの鬼

「何か言ったかなぁ?(ニッコリ)」

「あ、脚を踏みにじらないで……」

「そう?頭を踏まれたかった?」

「……それだとパンツ見えるんじゃ……あ、アイアンクローは反則れす……」

 

(((さっき凄い引っかかる言葉が聞こえたけど、問いただそうに問いただせる雰囲気じゃない……!)))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして放課後。本校舎前に僕らE組は居た。

 

「おい竹林」

 

 前原君の呼びかけに竹林君は立ち止まった。

 

「説明してくれ。何で一言も相談しなかったんだよ」

「きっと、何か事情があるんですよね?」

 

 磯貝君と奥田さんの2人の質問に竹林君は黙っていた。すると、カルマは少しだけ挑発気味に言った。

 

「賞金100億」

 

 てか、お前も来てたんだ。

 

「やりようによっちゃもっと上乗せされるらしいよ。分け前要らないんだ。無欲だねぇ竹林」

 

 その言葉を聞き、竹林君は眼鏡を上げつつ答えた。

 

「せいぜい10億……」

 

 ん?

 

「僕単独で100億は無理だ。だから、仮に集団での暗殺に成功した時の分配さ。僕の力で担える力なんてないからよくて10億。僕の家はね……病院を経営している。僕の上に兄が2人居る。2人とも揃って東大医学部。10億なんて額は、働いて稼げるんだよ」

「ふぁぁああ。で~?」

「出来て当たり前の家族なんだよ。うちはね。出来ない僕は家族として認められない。仮に10億貰ったとして僕が家族として認められることはないだろうね。……やっと親に成績を報告できたよ……トップクラスの成績取ってE組を抜けられることを。そしたら、父はこう言ったよ。『頑張ったじゃないか、これで首の皮一枚繋がったな』って一言。その一言をもらうだけにどれだけ血を吐く思いで勉強したか……」

「あーあ。つまんね」

 

 僕は思ったことを正直に言った。皆が何か敵意を込めたような酷いって感じで見てくるけど知らね。

 

「君には分からないさ、和光。君のような全ての才能に恵まれた君にはね。僕は、地球の終わりより100億より家族に認められることの方が大切なんだよ」

「まぁ、僕は才能とかどうでもいい。……こんな誰かを守ることのできなかった才能なんてクソくれぇだよ」

「風人君……」

「けどさ。竹林。お前は捕らわれすぎだ。呪いだろうが鎖だろうが知らんけどさ。そんなのに捕らわれていて……竹林孝太郎。お前という存在はどこにある。今のお前は一体何なんだ」

「……恩知らずといわれても仕方ないだろう。裏切りと言われてもそれだけのことをしている。君たちの暗殺がうまくいくことを祈ってるよ」

 

 去っていく竹林。

 

「待ってよ竹林君」

「やめろ渚。これはアイツ自身の問題だ。アイツ自身が決めなきゃならねぇんだ」

「風人君……」

「僕は帰るよ~じゃあね~」

「待ってよ風人君」

 

 僕もまた去っていく。さてさて、どうなることやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、風人君」

 

 帰り道、二人きりとなった時に有鬼子が声をかけてくる。

 

「さっきの話って、自分に向けて言ったことでもあるんでしょ?」

「……そうだね~」

 

 竹林に向かってあんな風に言ったが実際、和光風人という存在が何処にいるのか。僕自身分かっていない。そもそもいるのかすら分からない。この心はまだ捕らわれているのかそれとも……

 

「私は……神崎有希子はここにいるよ」

「……???何を当たり前なこと言ってるの~?」

 

 僕の正面に回って立ち止まり、言ってくる。急にどうしたんだろう?頭わいたのかな?

 

「神崎有希子は和光風人の隣にいるよ。ずっと君を支え、君に支えられながら存在するよ。だから大丈夫。安心していいよ。和光風人はしっかり存在しているよ。ここにね」

 

 その目は真剣だ。

 

「……面白いこと言うね~」

「面白いことって……」

「……ありがと」

「……へ?」

「ちょっと楽になったからありがとね~」

 

 僕は彼女の手を掴み歩き出す。きっと大丈夫。何だかそんな気がして来た。我ながら単純だ。うんうん。

 

「でも、今の台詞言ってて恥ずかしくないの~?

 

 いやぁ。まるでプロポーズみたいだったなぁ。よくあんな恥ずかしい台詞をスラスラと言えるよ。いやぁ、本当に凄いね。僕なんかじゃとてもできないよ。……でも、言うのやめとこ。何となく恥ずかしがる未来が見え……」

「か、風人君…………全部声に出してるからこれ以上はやめて……」

 

 …………あ。隣に恐ろしく顔を紅く染めた有鬼子が……あ。

 

「顔を紅くして林檎みたい~」

「うぅ……風人君のばかぁ……」

 

 何だろう。若干涙目プラス上目遣いでこっちを頬を紅くしながら見てくる有鬼子可愛い。超可愛い。これがギャップ萌えなのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方……

 

「なぁ、渚。さっきの和光って」

「うん。何か別人みたいだった……」

「神崎さんにボコられて説教されて洗脳されたんじゃないの?」

「まぁ、あっちの方がいいか。面倒事減るし」

「にしても似合わねぇくらい真面目なこと言ってたな」

「本当にそれね」

 

 僕らはこんな会話があったことを知らない。




本作品は風人君がシリアスにならないとシリアスになりません。
神崎さんがデレないとイチャつきません。
はっきりわかるんだね。
後、エイプリルフールだからと言って取り返しの付かないような嘘はやめましょう。
……ヤンデレタグ必要かな……いや短編だし……


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強者と弱者の時間

鬼ごっこの時のアンケート結果風人君は泥棒側として参加です。
下に風人君のイメージを貼っておきます。想像とは違うかもしれないですが。
上は風人君、下は……


【挿絵表示】



【挿絵表示】



 翌日。竹林は本当に来なかった。

 

「まぁ、そりゃそうか~」

 

 皆、竹林のフォローというか、アフターケアというかで、本校舎に向かっている。やれやれ。

 

「何で僕は引きずられてるんだろう~?」

 

(((いつも通りだ……本当にこの二人は……?)))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竹林は困惑していた。いや、軽く驚愕していたと言うべきか。

 A組の授業は非効率的でやたら早口。生徒の事情を一切考慮に入れない振るい落とすためだけの授業。放課後もすぐに塾など予定で埋まっており、五英傑くらいしか放課後にゆとりがない。E組とは大違いである。

 そんな彼が思い出すのはE組での日々。訓練や寺坂とのメイド喫茶などだった。

 

(殺せんせーは貪欲に生徒のことを知りたがる。寺坂もだ。アイツなりに僕のことを知ろうとしてくれていた)

 

 そんな中、竹林はふと窓の外を見た。そこには、

 

(何かいる……) 

 

 そこには、E組の面子が隠れていた。そんな彼らを見て竹林は思った。

 

(なんでまだ僕の事を知ろうとする……E組では暗殺の力にはなっていない。それは本校舎でいえば勉強が出来ないと同じだ。必要とする価値がないのと同じ。A組に戻った僕を見て何を学ぶ価値がある。……逆に僕は、何を学びにここへ戻ってきたんだっけ?)

 

 徐々に本校舎へと戻った意味が分からなくなる竹林。そこへ、

 

「どうだい?竹林君。クラスには馴染んだ?」

 

 生徒会長兼理事長の息子である浅野が声をかけた。

 

「突然だけど理事長が呼んでいるよ。逆境に勝ったヒーローの君を必要としているよ」

 

 そんな会話の中、風人は思った。

 

(あー……ゲーム~)

 

 耳にイヤホンを当て、それをスマホに繋いでいる。何かを聞いているようだが、E組の面々は静かにしているから放置でいっかと思い触れられていない。

 

「やぁ、よく来たね二人とも」

 

 一方の竹林は浅野に連れられて理事長室にやって来た。

 

「明日はね、私がこの学校の前身である私塾を開いた記念日なんだよ。その創立記念の日として、集会を開く。そこで、竹林君にはもう一度スピーチをしてもらいたい」

「……スピーチ……ですか?」

「そう、私の教育の大きな成果として君を推したい。もちろん、君のご家族も喜ぶ筈だよ」

 

 理事長は竹林にスピーチで読むための原稿を渡す。

 そこには………

 

(……僕はE組の腐敗してきた生活を目の前で沢山見てきました。不特定多数との不純異性交遊に夢中な生徒……。暴力生徒……。食べることだけにしか生きがいのない肥満生徒……。変態行為に手を染める生徒……。コミュニケーション能力に問題を抱える生徒……。問題行動を繰り返し、人の迷惑を考えない問題児たち……彼ら彼女らには本校舎に戻れるような能力はありませんが、同じ学校に通う生徒として、少しでも更生させてあげたいと思うのです。そこで皆さんにお願いがあります。僕が彼らを更生するために、『E組管理委員会』というものを立ち上げる賛同をください………)

 

 何とも恐ろしい内容だ。しかも、極僅かに当てはまるところがあるため一概に否定もできない。  

 

「それを全校集会で読みあげたなら、生徒会新役。管理委員会を設立しよう」

「同級生をクラスごと更生させた。このことは中学高校だけでなく、大学への推薦も見えてくるぞ」

「君はまだ弱者から完全に抜け切れてない。そう、これは強者になるための儀式だ。かつての友を君が支配するんだ…………君が強者として彼らの上に立てるように」

 

(強者……)

 

 竹林は少し間をおいて、

 

「やります…………」

 

 そう答えた。

 

(和光風人君。君は私の想定外の事をしてくれた……が、それも無意味と化すだろう。楽しみにしてるといい)

 

「なるほどねぇ~……」

 

(さすが理事長様。さてさて、君はどちらを選ぶ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。創立記念日での集会の時、壇上に竹林が再び上がった。

 

「また竹林がスピーチ?」

「胸騒ぎがする……何か大事なものを無茶苦茶に壊してしまうって感じの殺気が竹林から放たれてる……そんな気がする」

 

 さてさて、何を語るのかな?わくわく。

 

「僕のやりたいことを聞いてください。僕のいたE組は、弱い人たちの集まりです……学力といった強さがないため、本校舎の皆さんから差別を受ける存在です。だけど僕はそんなE組が…………メイド喫茶の次ぐらいに居心地が良いです」

 

 メイド喫茶の次なのね。

 

「僕は嘘をついていました。自分の心を押し殺していました。でも、E組の皆はこんな裏切った僕を何度も様子を見に来てくれた。先生は僕の様な要領が悪い生徒でも分かるように教えてくれた。家族や皆さんが認めてくれなかった僕をE組の皆は同じ目線で接してくれた。僕はもうしばらく弱者でいい。僕は弱いことを楽しみながら強い者の首を狙う様な生活に戻ります」

 

 その姿に僕の時のように浅野は怒りを表して詰め寄ろうとする。 

 しかし、竹林は皆に見えるようにガラスで出来た盾を手に取った。

 

「理事長室からくすねてきました。理事長は本当に強い人です、実に合理的だ……」

 

 そう言って竹林はレプリカのナイフでそれを叩き壊した。

 

「過去に理事長室でモノを壊した生徒がE組行きとなったとか……」

 

 へぇ~そーなんだ。 

 

「前例から考えればE組行きですね……僕も」

 

 そう言い捨てた竹林。浅野はすぐに彼を追いかけた。

 何か話してそうだけどとりあえず、

 

「おかえり~竹林~!」

 

 僕は叫ぶことにしました。まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数日後、グラウンドで烏間先生が僕らに話していた。

 

「二学期の暗殺に新たな要素を組み込むその一つが火薬だ。そのパワーは確かに魅力的だが、危険が多い」

 

 そういうと寺坂の方を一瞬見た気がする。あー何かあったんだっけ?僕が来る前に。

 

「そのため、火薬の安全な取り扱いを一名に完璧に覚えてもらう。俺の許可とその一名の監督が火薬を使う際の条件だ。さぁ誰か、覚えてくれる者はいないか?」

 

(分厚いな……)

(やだよ……あんな国家資格の勉強まで)

 

 皆が先生から目をそらす中、僕は……

 

「はいはーい!僕やりたいです~!」

 

 率先して手を挙げていた。

 

「…………すまないが風人君以外で誰か頼む」

「えぇ~!?何で!?」

 

 酷い!何で僕は駄目なのさ!ちょーっといたずらの幅が増えるなぁって思ってるのに!

 

(やべぇよ。アイツに覚えさせたらこの山が更地になってるかもしれねぇ)

(だけどあんなの覚えられねぇよ!)

(どうすればいいの……)

(もう私たちに希望は残ってないの……)

 

 すると、竹林が立ち上がって言った。

 

「まぁ、勉強の役に立ちませんでしょうけど、これも何かの役に立つかもしれませんからね……それに和光に任せると碌なことにならないでしょうし」

 

 酷い言われようだ。

 

「暗記できるかい?竹林君」

 

 烏間先生の問いに竹林は眼鏡をクイッとあげて答えた。

 

「えぇ。二期OPの替え歌にすればすぐですよ」

「よし……任せたぞ」

 

(((勇者竹林だ!竹林ありがとう!))) 

 

 ブーブー。何で僕じゃダメなのさー。まぁ、カルマとか寺坂とかカルマとかじゃないから許すけどさー



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尋問の時間

明日から元号が変わりますね。
『平成』から『令和』ですね。
というわけで平成最後の投稿です。どうぞ!

『平成最後』

「というわけで今日が平成最後だね~」
「だからと言って特別に何かあるわけじゃないけどね」
「世間の皆様ってこの日どうやって過ごすんだろうね~」
「うん。作者は車校だって」
「大変そ~」
「何か『平成』と『令和』の二つの元号を股にかけて免許とったら面白そうって理由らしいよ」
「意味わかんないね~」
「そのせいでゴールデンウィークほぼ全部潰れて実家に帰れないらしいよ。どうでもいいけど」
「なるほど~だから小説のペースが急激に落ちたのか~」
「ストックも全然ないらしいよ」
「うへぇ~」
「そういえば風人君はどうやって過ごすの?」
「僕は寝る~別に地球最後の日とかじゃないから深く考えない~」
「じゃあ、添い寝してあげるね」
「…………」
「ほら行くよ」
「え?マジ?」


 それはある昼休み。カルマとかいう奴の一言で始まった。

 

「ねぇ、風人」

「なぁに~?」

 

 僕はいつも通り有鬼子と一緒にお食事中。何だろう?カルマから話しかけてきたとなると、せんせーに対するいたずらとかの案かな?それなら大歓迎だけど。後、ゲームの話。

 

「一つ気になってたことあるんだけどさ。風人と神崎さんって付き合ってるの?」

「ほへぇ?」

「「「あ、そういえば……」」」

 

 すると、クラスの皆が何かを思い出した顔をする……竹林と有鬼子を除いて。

 

「始業式の日に言ってたじゃん」

「え?何を?」

 

 何を言ったんだろう?うーん。全校集会で言ったことしか覚えてないや。

 

「ほら神崎ちゃんが説教中に『()()がE組に居る中一人A組に行こうか考えていたんだぁ』って」

「そんで風人が『その話が出たのは()()()()()だから』って答えてたじゃん」

 

 よくそんなの中村さんもカルマも覚えてるなぁ~凄い凄い。今の今まで忘れていたよ。

 

「あ……!」

 

 すると、有鬼子が何かを思い出した感じを出す。

 

「でさぁ、和光さんよ。本当のところどうなのよ?」

「え?そんなの決まってるじゃん。付き合って――」

「風人君。あーん」

 

 すると、何か僕の弁当箱から箸でつまんで腕を伸ばしてくる有鬼子。

 

「あーん」

 

 もぐもぐもぐ。

 

「で?風人は結局神崎さんと付き合ってるの?」

「だから付き合って――」

「風人君。あーん」

 

 再び?まぁ、いいけど。

 

「あーん」

 

 もぐもぐもぐ。

 

(((どうしよう!神崎さんの隠したい気持ちは分かるけどバレバレだ!)))

 

「おいしい?」

「えーっと、これ僕が作ったんだけど――」

「ならよかった。もっと食べる?」

「だから、これ僕のお弁当――」

「しょうがないなぁ。はい。あーん」

「……あーん」

 

 もぐもぐもぐ。

 

(((どうしよう。凄い頑張ってるのが伝わってくる……健気だ)))

 

 一体どうしたんだろう?急に。

 

((こんな面白い反応が見られるとは……!これは何としても本人の口から言わせたい!))

 

 状況を整理しよう。

 目の前には若干耳をはじめとし、顔を紅らめる有鬼子。可愛いですね。はい。

 周りは何か目を離せないというか、何か健気な子を見ている感じ。

 そして、悪魔のような角を二本生やし、尻尾がついてそうな雰囲気の中村さんとカルマ。

 最後に全く状況の呑み込めない僕。……何だこれ。

 

「ねぇ~有鬼子。これって一体――」

「あ、喉乾いた?ほら、お茶だよ」

 

 ごくごくごく。

 

 強制的に飲まされてます。後、それ僕のです。はい。

 

(何としても風人君の口を塞がないと……!余計なことを喋らせてはいけない……!)

 

 すると、この様子を見ていた中村さんとカルマがひそひそと話し始める。

 

「ねぇカルマ。これって、塞ぐものなくなったら……」

「ああ。ワンチャンキスシーンが見られるかもしれない」

「しかもあの神崎ちゃんのからだよ」

「今の状況面白いほどに風人だけ置いてけぼり、これは……」

「ええ。これは……」

「「楽しいものが見られるぞ……!」」

 

 よく聞こえないなぁ。だけど、気味の悪い笑みを浮かべているのだけは分かる。あと、何か周りの目が急に生温かくなった。まるで――

 

(((あの二人に狙われるとか運がないなぁ……)))

 

 ――あの二人に狙われてついてないとか思ってるみたいだ。

 

「おやおや、弁当空だねぇ和光君」

「水筒の中身もかい?風人」

「まぁ、食べ(させられ)たり飲んだ(りさせられた)ら空になるでしょ~?」

「「なら、話の続きをしようか」」

「……まぁもう何でもいいけど~」

 

 正直、この人たちの思考が読めない。頭おかしいんじゃないの?

 

「で~?聞きたいことは~?」

「「お前と神崎さん(ちゃん)の関係性」」

 

 そんなに知りたいの?まぁ、教えても不利益がないからいいけどさぁ……

 

「だからそれは――」

「風人君」

「はい。今度はなんで――」

 

 この先の言葉は続かなかった。何故か?そんなの。

 

((よし!))

 

 有鬼子の唇で塞がれたからです。…………あーようやく理解出来たわ。いろいろと。

 

「――ということで、僕らの関係はこんな感じです~」

「…………あ……!」

 

 すると、顔をさらに紅く、真っ赤にする有鬼子。

 

「やれやれ~目的と手段が入れ替わるってこう言うことを言うんだね~」

「…………あぁ……!」

「僕らが付き合ってることを言わせないようにあの手この手で僕の口を塞いでいたようだけど~。気付けば僕の口を塞ぐことが第一優先の目的になって自分から僕らが付き合ってると分からせる行動に出るとはね~」

「…………あぁぁ……っ!」

「プクク。バッカじゃないの~?」

「…………あぁぁぁ……っっ!」

 

(((あ、和光君(彼氏)神崎さん(彼女)のトドメを刺した……)))

 

「か、風人君のバカぁっ!うわぁぁぁぁぁああああっ!」

 

 顔を真っ赤にして教室を出ていく有鬼子。

 

「いってらっしゃ~い。五時間目までには帰ってくるんだよ~」

「「「いや追い掛けろよバカゼト!」」」

「え?何で?」

 

 彼らは何を言ってるんだろう?不思議だ。

 

「何でお前はそんな眼ができるんだよ……」

「ほら、彼氏なんでしょ。追い掛けなさい」

「えぇ~でも、この後授業だし……」

「風人君ってサボり魔じゃん。カルマ君と同じで」

「……そんなの知らない」

 

 サボり魔?誰それ。カルマだけでしょ。

 と、ここでガラッと戸が開く音がした。入って来たのは、

 

「どうかしたんですか?神崎さんがもの凄いスピードでどっか行ったんですけど……」

 

 殺せんせーだ。

 

「気にしなくていいと思うよ~」

「「「気にしろよ!」」」

 

 うーん。何で付き合ってることがバレたくらいでこんなことになってるんだろう?うーん…………?

 

「とりあえず主人公(風人)ヒロイン(神崎さん)を迎えに行って来たら?」

「まぁしょうがないか~。じゃ、行ってくるね~」

 

 どうせ、行きそうな場所は分かるし。というわけで、出ていきます~。

 

「えーっと、皆さん。何があったんですか?痴話喧嘩ですか?風人君が余分なこと言って怒らせたんですか?」

「神崎ちゃんから和光にキスしていた」

「にゅやあああああ!大スクープじゃないですか!何で誰も私を呼んでくれなかったんですか!」

「うわぁ。泣いてるよ」

「最低だな」

「にゅや!杉野君!急にナイフを投げるとは……!」

「……殺す……殺せんせー……殺す」

「あーあ。神崎さんのことがショックで殺せんせーを殺そうとしてるよ」

「理由が酷すぎません!?って!今度は岡島君!?」

「アイツら……モテない俺への当てつけか……!」

「だから理由が酷……!」

「リア充なんて死ねばいい!」

「「「その通りだぁ岡島ぁっ!!」」」

「というわけで、羨ましいんだあの野郎!」

「ちょっと顔と頭と運動神経がいいからって!」

「ふざけるな!」

「だからって、何で私が狙われてるんですかぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、教室で『誰かさんに対する嫉妬による殺せんせー大暗殺大会』が開催されていることを全く知らない僕はあるところまで来ていた。やれやれ。男の嫉妬は醜いのにね。

 

「やっぱりここに居た~」

「……どうして分かったの?」

「何となく有鬼子はこの辺に行くと思ってたよ~」

 

 木陰で座ってる有鬼子。

 

「隣……」

「分かった~」

 

 ということで、隣に座ります。

 

「……あーあ。バレちゃったね。私たちが付き合ってるってこと」

「うーん。そんなにバレたくなかった~?」

「まぁ……隠しておきたいって気持ちはあったよ……」

 

 ほへぇ。そういうものなんだ。

 

「の割にはクラスメイトが見ている中で思い切りキスをして来たけどね~」

「……あの時は……その……気が動転していて……」

「まぁ、可愛かったからいいけど~」

「……察して欲しかったなぁ……」

「ふっふっふっ。普段の仕返しだよ~」

 

 いやまぁ、流石にキスされたら気付いたけど。でもここで、僕は思いました。普段公開処刑されてるから、偶には有鬼子を公開処刑しようかと。うんうん。

 だって、僕は有鬼子と付き合ってることがバレてもバれなくても何でもいいし。

 

「さて、行こうか~。五時間目始まっちゃうよ~」

「……もう少しだけ……一緒にいて」

 

 ありゃ?もしや、授業サボっていいってことですか?わぁーい。

 

「よし、行こうか」

「……え?早くない?」

 

 まだ10秒すら経ってないよ?

 

「言ったでしょ?もう少しって」

「い、いやぁ~……え?本当に少しだけ?」

「どうせ、『授業サボれる~』とでも考えてたんでしょ?」

「そ、そんなことないよ~」

「バレバレだよ」

 

 何故分かったのだろうか。

 

「ほら行くよ」

 

 ズルズルと引きずられています。あ、いつも通りだわコレ。

 クラスに戻ってもいつも通りかと思われたけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ、時は満ちたよ。弟子」

「えぇ、始めましょうか。師匠」




バイトに学問に車校にサークルに……大学生活が忙しいです……まぁ自業自得ですが。
今後更新が遅くなっても温かい目で見てください(まぁ、お察しの方はいると思いますが明日は投稿します)


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プリンの時間

さぁ、元号が変わりましたよ!ここからは『令和』です!
……ま、だからといって作者自身は特に何も変わらない気がするんですが。

『元号改正』

「皆様。本日からもよろしくお願いします」
「どうしたの?改まって」
「いや~新年の時とか何も言わなかったからね~なんて言うか挨拶?」
「うぅ……」
「どうしたの有鬼子!?ハンカチ取り出して泣いてるの!?」
「成長したんだね……風人君」
「まさかの感動の涙!?今のどこに泣く要素があったの!?」
「よしよし。いい子に成長したんだね」
「なんだろうその目~とてもじゃないけど子供扱いされてるみたい~」
「みたいじゃなくて事実そうだよ」
「酷くない!?僕はもう子供じゃないよ!」
「子供はみんなそう言うんだよ?」
「さも当然のように言わないでよ!」
「はぁ~愛おしい。ほらぎゅーって抱きしめさせて」
「まぁいいけどさ~」
「これからもよろしくね」
「うん~」


 プリン――そうそれは人類の英知の結晶。

 プリンは我々人類にとってはなくてはならないモノの一つ。

 プリンとはその魅惑で全世界の人々を魅了する素晴らしき存在。

 プリン……プリン……

 

「「というわけで、私(僕)たちは卵を救済する暗殺プランを考えました!」」

 

 時はシルバーウィーク。世間の中学生の皆さまは学校が休みの中、我々三年E組は学校に集まっていた。

 今、日本では廃棄卵が問題となっている。そこに、目を付けた僕らはその卵を救済、尚且つ殺せんせー暗殺という一石二鳥な暗殺方法を考えていたのだ。

 

「あぁ?どうせ、これを飯の中に混ぜるんだろ?そんなもんすぐに見破られて――」

「ふふん。師匠はもっと考えているのだよ~」

「うむ弟子の言う通りだよ。烏間先生にもお願いして、下準備もおっけー」

 

(((いつから師匠と弟子の関係になったんだ……?)))

 

「ああ。既に準備は校庭で――」

「「では皆さん!校庭へ!」」

 

 いつにも増してノリノリな僕ら。烏間先生の言葉をぶった切るほどだ。

 で、校庭に出た皆は驚くと同時に気付く。

 

「このフォルムで卵……まさか!」

「今から皆で巨大プリンを作りたいと思います」

「この計画……名付けて」

「「プリン爆殺計画!」」

 

 皆驚いている。まぁ、無理もないか。

 

「ふっふっふっ。私たちは重要な供述を得ているのだよ」

「そう。それはある日の放課後……」

 

 僕らは思い出す。そう、あれはとある日の放課後だった。僕、茅野さん、殺せんせーの三人でプリンをバクバク食べていた時、『いつか自分よりデカいプリンに飛び込んでみたいですねぇ』と言ってたことを。

 

「えぇ!叶えましょう!そのロマンを!」「あぁ!叶えてあげよう!その夢を!」

「「ぶっちゃけ私(僕)もやりたい!」」

 

 皆苦笑するばかりだ。

 で、作戦というのは至ってシンプル。プリンの底に爆弾及び対殺せんせー弾を敷き詰める。底の方まで進んだところで起爆。シンプルだがかなり良い線行きそうな計画。ちなみに、主に立てたのは茅野さんだ。

 そうそう殺せんせーがいないのはしっかり分かっている。

 

「では、これから巨大プリンづくりを始めます。主に私が指揮を和光くん(弟子)が全体のデータ統括を行います」

 

 僕は用意していた伊達眼鏡をかけてクイッとあげる。

 

「今回の作戦は中々大規模なものです。また我々のマンパワーというのは作戦の成功失敗に大きく関わってくるでしょう。茅野さん(師匠)が立てたプランを成功できるかどうか。貴方たちにかかっています」

 

(((誰だコイツは……!)))

 

「では弟子よ。役割分担を」

「はっ。師匠」

 

(((そして何なんだこの二人は……?)))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの二人もやるねぇ。神崎さん」

「そうだね。カルマ君」

「でもいいの?茅野ちゃんとあんなに意気投合しているけど」

 

 私は何時になく真面目で、何時になく楽しそうにしている風人君を眺めます。

 

「いいって何が?」

「分かってるでしょ?」

「嫉妬……でしょ?」

 

 私は、嫉妬していないと言ったら嘘になる。でも、

 

「いいの。私はあの時と違って今は余裕があるから」

 

 あの時、夏休みの初めの時のような嫉妬はない。あの時と違って私たちの関係は進んでいる。

 

「それに、制限ばかりかけたらダメでしょ?」

 

 誰にだって距離はある。彼女だからって彼氏に自分以外の女性と一切関わるな!というのは傲慢すぎると思う。私はあんまり男子と関わる機会は少ないけどこうしてカルマ君と話すこともあるように、風人君にも別の女子と話す機会はあってもそれは風人君の自由だと思う。

 

「ま、神崎さんがそれでいいならいいんじゃない」

「それに、私じゃあのレベルまでついていけないよ」

 

 風人君のゲームの話にはついていけるけどプリンとかにはあまりついていけない。まぁ、仕方ないかな。

 

「ただ、風人が鞍替えするかもしれないよ?」

「ふふっ。それは冗談かな?…………度が過ぎてるよ?カルマ君」

 

(あ、やっべ。これ傍から見ると面白いけど直で見るとマジでこえぇわ)

 

「冗談。あの風人がそんなのするわけないね」

「さてと、そろそろ私も休憩終わりかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてプリンは完成した!

 

「こ、これ全部せんせーが食べていいんですか?」

「え?あ、うん。廃棄卵を救いたかっただけだから」

「茅野ちゃんがメインで考えたんだよ」

「そうそう~」

「茅野さん……!」

 

 茅野さんの手を握って涙を流すころせんせー。

 そんな中、僕らはプリンの爆破を見守るべく廊下まで移動する。

 というか、凄いスピードだなぁ…………

 

「プリン…………爆破…………」

 

 僕はあの日のことを思い出していた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~本当にやるんだね~」

 

 パラパラと茅野さんがまとめたプリンについてのレポートを見る。

 

「うん!やると決めたら一直線なんだ!私!」

「面白そ~僕も一枚噛ませてよ~甘党仲間としてさ~」

「大歓迎だよ!一緒に巨大プリンを作ろー!」

「おー!」

 

 

 

 

 

 

 

 あの日から強度実験でどうすれば形を保つことが出来るかとか、色んなアイデアを出し合ったりしてようやく完成したプリン。それを……爆破……

 

「「ダメだぁぁああああっ!」」

「愛情を込めて作ったプリンを爆破なんてダメェェェエエエ!」

「プリンを爆破させるなんて間違ってる!血迷った考えは捨てるんだ!」

 

(((いや、お前らが爆発させるって考えてたからな!?)))

 

 茅野さんは窓枠に頭を打ち付け、僕は拳を床に打ち付ける。

 

「落ち着け茅野!和光!」

「プリンに感情移入してんじゃねぇ!吹っ飛ばすために作ったんだろうが!」

「とりあえず落ち着こうか……ね?」

「「嫌だぁぁぁぁぁああああああああああっ!」」

「ずっとこのままモニュメントとして飾るんだーい!」

「そして次世代の人にまで受け継ぐんだーい!」

「「「腐るわ!」」」

「「うわぁぁぁああああああああああ!」」

「ふぅ。ちょっと休憩」

 

 暴れ回る僕と茅野さん。それぞれ寺坂と有鬼子に抑えられる。すると殺せんせーが現れた。

 せんせーが手に持っていたのは爆弾、起爆装置も外されていた。どうやら臭いで気付いてカラメルソース→プリン→土と食べ進めて解除したらしい。

 

「そして、皆で作ったプリンは皆で食べるべきです」

「「やったぁ!」」

 

 僕らにも綺麗な部分を残してくれてたらしい!よかったね!

 

「よかったね風人君」

「うん!」

 

(あ、どうしよう。今の風人君凄い可愛い……)

 

「どうしたの~頭撫で始めて」

「えへへ~よかったね」

「あ、そうだ~有鬼子~一つ頼み事あるんだけど~」

「うん。何かな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 

「お疲れ師匠~」

「和光くんこそお疲れ。和光くんが居なかったら出来ていなかったかも」

「そんなことはないよ~茅野さんだけでも出来たよ」

「そうかな?でも、そんな話するためにこんなところに呼びだしたの?」

 

 呼びだしたのはプールがある場所。今はプールというより魚の住処だが……

 

「……茅野カエデ。君の正体を掴んだよ」

「……正体?」

「本名、雪村あかり。雪村あぐりさんの妹。後、磨瀬榛名という芸名で現在活動停止中の人気子役さん……違う?」

「誰それ…………って言って信じるとは思えないな。和光くんは」

「ああ。確信もあるし、証拠……って程じゃないが一応裏付けはあるよ」

「どうぞ。でも、殺せんせーは?聞かれたらマズイんじゃないの?」

「心配しないでいいよ。有鬼子が時間を稼いでくれる。無論、私が何するかは言ってないけど」

 

 まぁ、対価は払う()()だけど。予定だからなくなってもいいよね?

 

「話を戻そう。まず、君は私より前の転校生。三年生進学時点で転校してきた。これは何人かは最低でも知ってる事実」

 

 私はつい最近知ったんだけど。

 

「じゃあ、君が何故転入と同時にE組に落とされたのか?いいや。君は落とされたんじゃない。落ちてきたんだ。自らね」

「へぇ……」

 

 そもそも転校生がE組行き、しかも三年生の最初だと暗殺者を国から送り込むために理事長に話を付けてるわけではない。

 つまり、私のような前の学校で素行不良のため落とされたか、それとも……

 

「まぁ、雪村あかりっていう名前で転校したって条件に該当する人がいたんだよ」

「どうやって調べたの?……って律がいるか」

「ご名答」

 

 居ない名を探すより居る名を探したほうが早い。ちょっとプライバシーの問題とかで気が引けたがバレなきゃ安い。

 

「その生徒は優秀な部類に入ってた極々普通の女の子。……分かったでしょ?君は落ちてきたんだ。じゃあ?落ちる目的は?……答えは一つ」

「殺せんせーの暗殺……」

「君は0人目の転校生暗殺者ってわけ」

 

 すると茅野さんの纏う空気が変わった。

 

「ふふっ。中々な推理。でも、何で私が殺せんせーをわざわざ殺しにここに来たのか。それが説明できていないんじゃないかな」

「雪村あぐりの敵討ち……違う?」

「……あーあ。一体君はどこまで知ってるのかな」

「私は何も知らない。情報を集めて組み立ててるだけ。やってることは簡単なことだよ」

 

 私はパズルをやってるだけだ。ピースを集めて組み立ててるだけのね。

 

「……で?何がしたいの?」

「何が?」

「私の復讐を止めたいのか。私のことを皆にバラすぞって脅すか」

「…………」

 

 やっべ。特に何も考えてなかった。

 

「後者はやめた方がいいと思うよ」

「どうして~?」

「和光くんに脅されたとしたら神崎ちゃんに泣きつけば君は死ぬ」

「ま、そうだね~」

 

 脅迫というのは相手の弱みを一方的に握っておりそれを解決する術を相手が持ち合わせていない時のみに効果を発揮する。

 今回のケースだと、脅すという選択肢を取った瞬間に、ベスト――茅野さんが取る行動で――は自分の胸とかに僕の手を持ってきてさながら無理やりやられましたって感じの写真を撮る。後は、僕から強引にキス迫った感じでキスした瞬間をカメラに収めるというのもアリか。

 それを泣きそうな演技をしながら有鬼子に見せた日には確実に僕は死ぬだろう。いや、死より恐ろしい地獄が見れるかもしれない。見たくないけど。

 

「前者は……君は人のこと言えないよ」

「……その心は?」

「君は私と同じ。復讐のために生きている。それを隠している人間。…………違う?」

「ご名答」

 

 有鬼子は僕の苦しみを背負ってくれると言ってくれた。でも、この醜い心(殺意)だけは見せるわけにはいかない。それは彼女と共に背負うべきものではないから。

 

「へぇ。胡麻化すと思った」

「君は元子役……人の演技くらい容易く見抜ける、だろ?だったら無駄な事はしないさ」

「今の会話はなかったことにしよ?()()()()

「そうだね~そっちの方がお互いよさそーだね~()()()()()()()

「じゃあ戻ろっか……日常に」

「だね~」




茅野にとって今回の作戦はカモフラージュ。
風人にとっては彼女に近づくための理由。
どっちもどっちですね。
ちなみに風人君は深く考えているようで何も考えていない。何も考えていないようで深く考えている。そんな人間ですね。つまりマイペース。


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鬼ごっこの時間

あとがきで重大発表があります。


 体育の時間になった。いつもの様に烏間先生の下に集まる僕らに先生は新たな技術について語り始めた。

 

「二学期から教える応用暗殺訓練。火薬に続き、君たちにはフリーランニングを覚えてもらう」

「フリー……ランニング?」

 

 何それ面白そう!と思ってると先生は崖下に生える一本松を指差した。

 

「では三村君、あの一本松にたどり着くのにおよそでいいからどのくらいかかると思う?」

「崖をおりて、あの小川の狭いところを飛び越えて、岩場をよじ登るから……一分でいければ上出来ですかね?」

 

 その答えに数人の生徒は頷いたけど、そんなにかかるかな?

 

「では俺が行ってみよう。時間を計っておいてくれ」

 

 そう言うと、崖の前に立つ。そして言った。

 

「これは一学期でやったクライミングやアスレチックの応用。フリーランニングで養われるのは自身の身体能力の把握、受身の技術、目の前の足場の距離と危険さを測れる力……これが出来ればどんなところでも暗殺が可能なフィールドになる」

 

 するとヒュン!と崖を飛び降りた。地面に着地と同時にに小川を壁を伝って越え、岩場も壁と木を足場にして飛び上がり、一本杉の枝へと掴まった。

 

「タイムは?」

「じゅ……10秒です」

 

 三村君が震え声で呟くと烏間は服に付いた土埃をはらいつつ言った。おぉっ!面白そう!

 

「道なき道で行動する技術。熟練し、極めれば、ビルからビルへと忍者のように踏破することも可能だろう……しかし、これは火薬と同じく初心者がやるには危険な技術……」

「先生!僕も今のやりたいです!」

「……分かった。ただ、無理だと思うなら途中でやめても――」

「三村君タイムよろしく~」

 

 そう言いながら崖に向かって後ろ向きに身を投げる。えーっと、烏間先生と僕では体格が違うから全く同じルート、タイミングで行くと失敗する。かといってこの勢いを殺しすぎると遅くなる。だから……!

 

「こことここ~」

 

 自分にあった最適なルートを思い浮かべ後はそこを通っていくだけ。

 

「到着~タイムは~?」

「18秒……」

「ありゃ?遅すぎたかな」

 

(恐怖心も感じず一発で無駄のないルートと動き。やはり彼はこういうことに長けているな……)

 

「ただ、最初からは同じようにやるのは危険だ。ここの土は柔らかい。しっかり基礎からやるように。また、ここの裏山以外ではこの技術を使わないように」

 

 と、最後の方は僕を見ながら話す先生。やだなぁ~

 

「無事でよかった……」

 

 僕よりも僕の身を案じてる彼女の監視があるからね。悪用できないですよ~あはは~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とまぁ、こんな感じで数日後の朝。

 

「風人君」

 

 いつも通り教室に登校してきた僕と有鬼子。そしてなぜか警官のコスプレをしていた殺せんせー。いや、あんたはどっちかというと泥棒でしょ。

 

「な~に~せんせー」 

「手錠を貸してもらえませんかね。買うのを忘れてしまって」

「ほ~い」

 

 と、貸しておこう。

 

「いつも持ち歩いてるの?」

「まぁね~当たり前じゃないか」

 

 だって僕の主武器(メインウェポン)だもん。

 とまぁ、朝のHR的なのも終わったとき、

 

「はぁ……ジャンプがどこもかしこも売り切れで遅刻しちゃった……」

 

 不破さんがそんなこと言いながら教室に入ってくる。すると、不破さんの両手にいきなり手錠がはめられた。ちなみに僕の貸したやつね。

 

「遅刻ですねぇ……逮捕する」

「はい?」

 

 何罪だろう?遅刻罪? 

 

「というか。せんせー、朝っぱらからなんだよその悪徳警官みたいな格好は……」

「そーだよ。何その格好?似合ってないよ~」

 

 僕らの疑問にせんせーは手錠をクルクルと回しつつ答えた。あ、ちなみに触手が溶けないよう手袋越しに回している。

 

「ヌルフフフ。最近、体育の授業でフリーランニングを習ってるみたいですねぇ。そこで、その技術を使った遊びをしませんか?」

 

 遊び?と思ってると寺坂の頭に風呂敷を巻いたせんせー。

 

「そう!それはケイドロ!」

 

 ケイドロかぁ……懐かしい響きだなぁ。

 すると、せんせーは説明を始めた。

 

「皆さんは泥棒役になってもらい身につけた技術を使い逃げてもらいます。そして先生と烏間先生が警察役として追いかけます。1時間目を逃げ切れば君たちの勝ちとし、烏間先生の財布で皆さんに甘いものを買ってきます。ただし、もし全員が捕まったら宿題二倍です。さらに私はラスト一分まで校庭の牢屋スペースで動きません。これなら君たちにも勝つ見込みはあるでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、とりあえず始まった。僕はいつもの面子といる。

 うーん。一見するとこのルール。僕らが有利に思えるんだけど……

 

「どうしたの?風人君」

「いや、圧倒的に警官役有利だよね~」

「え?なんで?」

「だって、追いかけてくるのあの超人だよ?」

『岡島さん、速水さん、千葉さん、不破さん。アウトー』

 

 と、まだ向こうが追いかけ始めて一分経ってないはずなのに既に四人の逮捕宣言。

 

「こっちのいる場所が見つかればもう逃げられないよ~あはは~宿題二倍まっしぐら~」

「ってそんな軽いものなのか!?」

「そうだよ風人君!スイーツがかかってるんだよ!」

「はっ!さすがカエデししょー!スイーツがかかった以上負けられないね!」

 

(かかってるのはスイーツより宿題だと思うのだけど……)

 

『菅谷さん。アウトー』

 

 再びアウト宣言。ヤバいどんどん泥棒が減っているぞ。

 

「あ、誰か烏間先生抑えこみゃいけんじゃない~?」

「で、誰があの怪物先生を一時間抑えこめるんだ?」

「……あ」

「それにラスト一分で殺せんせーがやって来たらゲームオーバーだよ」

 

 ふむふむ……無りげーだ。

 

「いや、諦めるのは早いよ~。今回、何故かビッチ先生が泥棒側として参加している」

「あぁ、一人だけ仲間外れは嫌だとか言ってな」

「あの人ならきっと烏間先生の足止めを――」

『ビッチ先生。アウトー』

「ビッチ先生が、何だって?」

「そもそも烏間先生に色仕掛け効かないよ」

「……使えねぇ~」

 

 なんなんだあの人。

 

「というか、ヤバい!どんどんやられていく!」

「殺戮の裏山ですね」

「死んでないよ」

「あ、でもこれケイドロですよね?」

 

 まぁ、ケイドロだね。うん。

 

「だったら――」

「そっか!タッチすれば解放できる!」

 

 と牢屋に向かって走る杉野。

 

「馬鹿だねぇ杉野は」

「だよね~誰が見張りしてると思ってんだろぉ~」

「そうそう。あの音速タコの目を盗んでタッチできると思ってんの」

「出来るならとっくに殺し終えてるもんねぇ~」

 

 と思ってついて行くと。

 

「ヌルフフフ。悔しそうな囚人の顔ですねぇ」

 

 刑務作業という名の数学のドリルをやらされている牢屋組。それの監視をする悪徳警官ことせんせー。

 

「これムリゲーじゃね?」

 

 やっぱり?と思ってると、杉野が岡島にジェスチャーでせんせーをなんとかするように頼む。すると、岡島はこちらに気付いて何かをひらめき、

 

 スッ

 

 1枚の写真らしきものを殺せんせーに渡した。

 

 スッ

 

 それを警官の服の胸ポケットにそっと忍ばせるせんせー。そして一回だけ見逃してやる雰囲気に……おい。あの警官買収されたんだけど。やっぱ悪徳警官か。

 

『五名脱走……』

 

 スマホの律からの言葉。……脱走というか……何というか……

 

「これって、せんせー買収すれば勝ちじゃないの~?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、全員一回は最低でも烏間先生に捕まっていたが割と早く解放された。ただ、解放された時に烏間先生から逃げるためのアドバイスをもらった。なるほど。わざと取り逃がしているんだな。というか、それでも烏間先生やばくね?あの人一人で僕たち何回捕まえるつもりなんだろ?でも最初に比べたら捕まるペースは落ちた。それだけ僕らの逃走能力が短時間で向上したのだろう。

 で、殺せんせーはどう取り逃がしたのかと言うと例えば、矢田さんの嘘泣き演技で取り逃がしたり、騙されてどっか行ったり、賄賂を渡されたり、そば食いに行ったりとまぁ、世界中で取り逃がしブームが巻き起こりました。はい。いや、何してんだよ。

 現在。残り時間も少なくなってきた頃、僕は何しているかと聞かれますと、

 

「ほぅ……機動力に優れた五人か」

 

 木村君、前原君、片岡さん、岡野さんの四人とともに、烏間先生の目の前で仁王立ちし、

 

「ふふん!勝負だよ~先生」

 

 烏間先生と真っ向から向き合っていた。

 いやーみんなも挑発しようと頑張ってるがどこかぎこちない。まぁ、この人怖いもんね。本気の有鬼子よりはそこまでだけど……この人の本気見たことないからなぁ。

 

「左前方の崖には立ち入るな。そこ以外で勝負だ」

「「「「はい!」」」」 

「は~い」

 

 そう言って、打ち合わせ通りに分散する。ま、一カ所に固まったら一瞬で捕まるからね。

 

「おっと」

 

 と思ってたら気付けば僕以外の四人が捕まって一騎打ちに。会話で少し時間が稼げるとはいえもう少し引きつけておきたい。

 

「捕まらなければいいですからね~」

 

 木の上に立つと見せかけ木の幹を足場に飛んだり、急に横に回転回避してみたり、まるで意味の分からん動きで翻弄する。いや、僕も意味分からんけど……

 

「そこだ」

 

 と頑張ってやってもスピードでは勝てなかったので時間稼ぎはできても捕まってしまった。

 

「ふぅ……かなり翻弄され時間を使ってしまったな。……しかし、まもなくラスト1分だ。奴が動けば君らの負けが決まる」 

「ふははははは。それは違うよ~先生。今回は僕たちの勝ちだよ~」

「何を言ってる。やつのスピードに一分間も逃げ切れるはずが……」

「裏山のプールですよ~水中では殺せんせーは捕まえることができないよ~」

「……っ!」

「あの烏間先生をもってしても裏山のプールまでは1分でいけませんもんね~?あ~しかも会話で稼いでますからね~あはは~」

 

 これが作戦なのだ。僕らの作戦としては機動力の高い面子が烏間先生を時間ギリギリまで引きつけなるべくプールから遠ざける。残り一分の時に武器を持った三人。渚、カルマ、杉野が水中の底まで沈んでそれぞれの得物を構える。これで捕まえようとしても殺せるはずだ。さてと、後は戻りますか。

 

『タイムアップ!泥棒側の勝利です』

 

 律のコールが響いた。よし、作戦通りだね!で皆が喜ぶのを見て、烏間先生はやられたって感じで苦笑してた。

  

「なんか不思議ー。教える時だけは息がぴったりなんて~」

 

 倉橋さんの疑問に殺せんせーはいつものように笑って答える。

 

「当然です。目の前に生徒が居たら伸ばしたくなる。それが教師というものですから」

 

 その言葉に寺坂は舌打ち混じりに言った。

 

「ちっ……よく言うぜ汚職警官。教師より、泥棒の方が向いてんじゃねえか?」

「にゃあ!?何を言いますか聖職者に向かって!」

 

 まぁ、せんせーは聖職者じゃないよねぇ~あはは~




『重大発表』

「突然ですが……」
「どうしたの~?そんな神妙な面持ちになって~」
「とある作品とコラボすることが決定しました」
「おぉー!(ぱちぱちぱち)」
「作者様のお名前は『水澄』様、コラボする作品は『ゲーム好き男子と暗殺教室』です」
「すごいよね~この作品とコラボしてくれるなんて~」
「現在、構想を詰めていっています。だから、いつ頃に掲載かは言い切れません」
「でもそう遠くないうちにはやるんでしょ~?」
「まぁ、遠くないうちにね」
「ならいいや~で、何で投稿間隔こんなに開いたの~?コラボについてそんなに詰めてたの~?」
「ううん。そうじゃないらしいよ。作者曰く『なんかいろいろ重なって気付いたら月日が流れてた』らしいよ」
「うわぁ~でもこれから投稿ペース戻るの~?」
「それがそうじゃないみたい。駄作者曰く『6月で車校終わるような鬼のようなスケジュール組まされてマジで執筆時間ねぇ』らしいよ」
「不定期更新タグフル活用だね~…………でも、そんなんでコラボ大丈夫なの?」
「まぁ、大丈夫だと思うよ。別に執筆時間ゼロじゃないし。無理なら無理って言ってるし」
「というわけで皆さん。心配しないでください~」
「一応お知らせでした。お知らせした理由はお相手の作品の方で告知があったので、こちらも告知しておこうと」
「向こうの作品も面白いから読んでみてね~」
「「以上お知らせでした」」








はい。というわけでコラボします。
こんな告知で心配になる人が大勢いるかもしれませんが安心してください。
コラボ前にお相手の作品をお読みになった方がコラボの話を何倍も楽しめると思うので是非見に行ってください。
七夕には必ず投稿しますので(ただし、普通の話かコラボかは不問とする。多分、普通の方)ではまた。


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どろぼーの時間

風人と有鬼子のコードネームどうしようかと考えてる今日この頃(まぁ、まだまだ先なんだけど)
あ、あとがきで重大発表があります。


 二学期の滑り出しは順調(なようなーそうでもないようなー)……ってことにしておいて、鬼ごっこの次の日。僕と有鬼子はいつも通りに教室に入る。

 

「おっはよ~何読んでるの~?」

 

 すると、皆がなんか雑誌を数冊広げて読んでいた。

 

「和光に神崎ちゃんか。これみなよ」

「これ~?」

 

 なになに~?

 

「『Fカップ以上のみを狙うヌルフフフと笑う黄色い下着ドロ』…………大変じゃないか!笑い事じゃないよ!」

「そう……だね」

「これは有鬼子もあぶな……」

 

 と、ここで有鬼子のある一点を見てみる。こういうのシンデレラなんとかっていうんだっけ?でもまぁ。

 

「……いわけないか~明らかに大丈夫そごふっ!?」

 

 みぞおちに……拳がぁ……

 

「風人君。それ以上口開くと…………殺すよ?」

 

 何でだろう。Fカップ以上なら当てはまらないから安全そうでよかったって話じゃないの……?

 と、僕が倒れ込んでいると、

 

 ガラッ

 

「汚物を見る目!?というか、一人倒れてるし!」

 

 せんせーが入ってきた。

 

「風人君のことは気にしないでください」

 

 気にしてください有鬼子様。

 そして、そのまませんせーに雑誌を渡している。

 

「これって、殺せんせーのことだよね?」

「正直がっかりだよ」

「こんなことしてたなんて」

「ちょっと待ってください!せんせー全く身に覚えがありません!」

「犯人は皆そうやって言うんだよ!」

「急に復活したと思ったらなに言いだしてるんですか!?」

 

 いや、こういう時ってねぇ。こういうこと言いたくなるじゃん。

 

「じゃあ、アリバイは?」

「アリバイ?」

「この事件が発生した日の深夜。せんせーどこで何をしていた?もしくは誰かといた?」

「何って、一人で高度10000mから30000mを上がったり下がったりしながらシャカシャカポテトを振っていましたが」

「凄い面白そ~!僕もやりたい!」

「というか、誰が証明できるんだよ!」

 

 今度ジェットコースター的なの乗りながらシャカシャカポテトふろかな~

 

「皆よせ。確かに殺せんせーは小さな煩悩満載だ」

「というか、煩悩の塊といっても過言ではない!」

「いい加減黙ろうか。風人君」

「……はーい」

「……コホン。だが、今までやったことと言えば精々、エロ本拾い読みしたり、水着生写真で買収されたり、休み時間一心不乱にグラビアに見入ったり、『手ブラじゃ生ぬるい私に触手ブラをさせてください』と応募はがきを出してたり……」

「ん、んんんん、んん?」

「……今和光なんて言った」

「『もう、アウトじゃね、それ?』って言ったよ」

「んんん!」

「『その通り!』だって」

 

(((恐ろしいレベルで意思疎通がなされていた!?)))

 

 すると磯貝君はせんせーに背を向けて肩をふるわせ、

 

「せんせー。自首してください」

 

 懇願した。

 

「磯貝君までぇ!?こうなったらせんせーの潔白を示すためにも教員室に来てください!せんせーの理性を証明するために机の中にあるグラビアコレクションをすべて捨てます」

 

 教員室に向かうせんせーと皆。いや、そんなのがある時点で問題だろ。

 

「まぁ、正直な話。今回はせんせーが犯人じゃないでしょ~」

「だろうね」

「なんだ~。来てたの~?カルマ」

「まぁね」

 

 ふーん。そう思いながらせんせーが残した名簿を開くと、

 

「わぁお。あからさまだねぇ~」

「持ってったら?」

「はーい。ってカルマも行くでしょ~」

 

 と持って行くと机の中からブラが出てきたようだ。うん。やばいね。

 

「皆~これ見て」

 

 女子の出席簿の横に書いてあるアルファベット(なんか一人違うけど)。皆の胸の大きさかな?

 

「ちょっと私だけ永遠のゼロってどういうことよ!」

「それが事実だ!受け入れるんだししょー!」

「ムかぁ!あるにはあるんだよ!」

「お、落ち着いてください!」

「でも、有鬼子はBなんだね~Aだと思ってたけど思ったより――」

 

 次の瞬間頭に痛みが走った。

 

「言っていいことと悪いことあるよ。ね?わ・か・っ・た?」

「……分かりました」

 

 アイアンクローされた拍子に名簿から一枚の紙が落ちた。

 

「落ちたよ風人……って、これは椚ヶ丘のFカップ以上のリストか」

 

 カルマが拾い上げて読むと同時に一歩せんせーからみんな引いてしまう。

 

「み、皆さん!今日は皆さんとバーベキューをしようと昨日仕込んで……あ」

 

 そして、クーラーボックスから出てきたのは、鉄串に刺さったブラジャーだった。

 ……いや、カオスだよね?それ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きょ、今日の授業はここまで……また明日」

 

 今日も一日終わりました。せんせーも終わりました。

 

「あはは、今日一日針のむしろだったろうね」

「だね~このままだと逃げ出すんじゃないの~?」

「でも、殺せんせー。本当にやったのかな?こんなシャレにならない犯罪を」

「地球爆破に比べたらかわいいものでしょ」

「でも~もし岡島が仮にマッハ20の下着ドロだったら~」

「何で俺だよ!」

「え~?変態だから」

「ダメだよ。真実でも堂々と言ったら」

「酷すぎる!?」

「で、話戻すけど~。そんな岡島でもこんなね~」

 

 僕はバスケットボールを渚に投げ渡す。

 

「証拠をボロボロ残さないでしょ~。違う?」

 

 ただし、ブラジャーがついてるが。

 

「体育倉庫にあったのを俺たちが見つけた。他にもバレーボールとかにもついていたよ。こんなことしてたら、俺らの中で先生として死ぬことくらい分かってんだろ。あの教師馬鹿にしてみれば、俺らの信用をなくすことは暗殺されるのと同じくらい避けたいだろうしね」

「うん。僕もそう思う」

「でも、そしたら一体誰が……」

「ニセよ」

 

 不破さんが静かに呟いた。

 

「体色。笑い方。ニセ殺せんせーよ!ヒーローもののお約束!偽物悪役の仕業よ!」

 

 凄いテンション高いなぁ。後、ヒーローもののお約束って、ヒーロー要素あったっけ?

 

「ということは、犯人は殺せんせーの事を熟知している何者か。律。私と一緒に手がかりを探して頂戴」

 

 すると、律は探偵のコスプレをして、

 

『はい!』

「その線だろうね。何の目的にせよ、こういう噂が広まることで賞金首(殺せんせー)がこの街にいられなくなったら元も子もない。俺らの手で真犯人ボコってタコに貸し作ろうじゃん」

「おー」

『はい』

「うん」

「……永遠のゼロ」

 

 一人すでに戦闘モードなのですが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ。身体も頭脳もそこそこ大人の名探偵参上」

「心も頭も大人なめーたんてーさんじょー」

「……やってることはフリーランニングを使った住居侵入だけどね」

「というか、風人の面倒俺らだけで見るの?マジで?」

「まぁ、神崎さんが来れなかったからね……仕方ないよ」

 

 というわけで現在、とある住居に侵入し、車の陰に隠れるは僕、不破さん、渚、カルマ、ししょー。そして、

 

「んで、不破よぉ。何で真犯人は次にこの建物を狙うって分かんだよ」

「TERASAKAである。我らが下僕TERASAKAである」

「誰が下僕だ!」

「風人。心の声が漏れてるよ」

「おっと。今の忘れて~」

「全く。まぁ俺も同意見だけどさぁ」

「おいカルマ!テメェもそう思ってたのかよ!」

「しぃ寺坂君。君の下僕問題は置いといて最初の質問にお答えしよう。ここは某芸能事務所の合宿施設。この二週間。巨乳ばかりを集めたアイドルグループが新曲の練習をしているって」

『はい。犯人の傾向から察するに、この施設が標的(ターゲット)になる確率。99.78%』

 

 うーん。でも、何だろうねこの些細な違和感。そう、例えるならゲームが順調に進みすぎて逆に怪しいというか……

 

「しかも!この合宿は明日で最終日!真犯人がこの極上の獲物を逃すはずがない」

 

 …………あからさまに僕らを(トラップ)に誘い込んでいるような感じがする。まるで、僕らが真犯人の描いた脚本(シナリオ)通りに動かされているって表現するのが適当だろうか?そんな感じだ。

 

「なるほど……」

 

 車の陰から洗濯物(主に女性の下着類)が干された庭の方を見張る中学生六人。

 ぶっちゃけ。僕たちって相当やばい奴らだよね?

 

「あ……!」

「殺せんせー」

 

 すると、庭の茂みに殺せんせーが現れた。……ただまぁ。

 

「なんだ。せんせーも真犯人を追って……」

「どう考えても盗む側の格好だろ」

「逮捕してこよっか~?」

 

 殺せんせーの格好はサングラスに黒い風呂敷を頭に巻いている。そして、極めつけは……。

 

「見て!真犯人への怒りのあまり下着を見ながら興奮しているわ!」

「アイツが真犯人にしか見えねぇぞ!」

「とりあえず録画録画~と」

 

 下着を見ながら顔を赤くし興奮を隠しきれないせんせー。100人いたら100人がもうこいつが犯人だろと言うレベルである。

 

 ガサッ

 

 そんな中、奥の方の茂みが揺れる音がした。

 

「ねぇあっち」

「真犯人とーじょーかな~」

「分からないけど誰か来たね」

「黄色い頭の大男!」

 

 真犯人はその手際の良さから干してある洗濯物を手際よくつかみそのまま、

 

「あの身のこなしただもんじゃねぇ!」

「ヤバい!逃げられる!」

 

 いや、逃げるのは無理だろ。だって、

 

「捕まえた!」

 

 マッハ20のせんせーから逃げられるわけないじゃん。そして真犯人の上にのしかかった。というか、服も真っ黒だったんだねせんせー。やっぱりアンタが犯人じゃダメ?真犯人そこにいるけど。

 

「私に化けてうらやましいまねしてくれて!」

「本音が漏れてるぞ~」

「丸裸にして隅から隅まで手入れしてやります!」

 

 うわぁ。この台詞だけ見たら変態だぁ。お巡りさーん。ここに変質者がいますよー

 

「何か。下着ドロより危ないことしている人みたい」

「笑い方も報道通りだしね」

「で、風人君は何しているの?」

「殺せんせーのかっこいい姿を録画しているよ~」

「阿呆抜かせ。本音を言ってみろ」

「面白そーだったからつい~」

『画質もバッチリです!』

 

 と、こっちで下らない話をしていると向こうに動きが見えた。

 

「さぁ!顔を見せなさい!この偽物め!」

 

 殺せんせーが男のヘルメットを脱ぎ去る。そして月明かりに照らされる中、ついにその男の素顔が明らかになり……

 

「いや誰だよ」

「あ、あの人確か」

「え?ししょー知ってるの~?」

「うん。確か烏間先生の部下の……」

 

 そうなの?と思ってるとどうやら殺せんせーも知っていたようで、

 

「あなたが……なんでこんな」

 

 次の瞬間。殺せんせーの四方を覆うようにシーツが地中から現れた。

 

「国に掛け合って烏間先生の部下をお借りしてね。この対殺せんせーシーツの檻の中まで誘ってもらった」

 

 ……チッ。やっぱり罠だったかぁ。

 

「南の島で君の生徒たちがやった方法を参考にさせてもらったよ。当てるよりまずは囲うべし」

 

 いや、パクりじゃん。

 

「この声は……!」

「さぁ、殺せんせー。最後のデスマッチを始めよう」

 

 指ぱっちんをならすと、シーツの檻の唯一空いている上の部分。そこに飛び込もうとする人影が。

 

「殺せんせー。お前は俺より……弱い」

 

 白い触手に武器を付けて、現れたのはイトナ君だった。




『重大発表』

「突然ですが……」
「なんだろ~?ついこの前も同じようなことがあった気がするんだけど~既視感(でじゃぶ)?」
「とある作品とコラボすることが決定しました」
「おぉー!(ぱちぱちぱち)」
「作者様のお名前は『音速のノッブ』様、コラボする作品は『結城 創真の暗殺教室』です」
「すごいよね~この作品とコラボしてくれるなんて~(あれ?この台詞に言い覚えが……)」
「現在、構想を詰めていっています。だから、いつ頃に掲載かは言い切れません」
「でもそう遠くないうちにはやるんでしょ~?(この流れもなんか見覚えが……)」
「まぁ、遠くないうちにね」
「…………で、二話連続で同じ下りやってない~?後今日七夕じゃないよ~」
「喜ばしいことじゃない。こんな()()()とコラボしてくれる心の優しい人がいるだなんてね」
「そうだね~…………というか、有鬼子が辛辣すぎて駄作者泣いちゃうよ~?」
「ふふっ。キャラ崩壊?タグをつけてるもの。私って原作の私と乖離しすぎてもはや別人まであるからね。だからこれくらいの辛辣さがちょうどいいと思うの」
「…………原作の有鬼子のままだったら僕は平穏に学園生活送れたのになぁ~」
「なーにーか言ったかな?(*^_^*)」
「む、向こうの作品も是非読んでみてね~!じゃ、僕はこれで~(─=≡Σ((( つ•̀ω•́)つ)」
「はぁ……まったく。あ、音速のノッブ様が書いてくれた予告編が下にあるから見てね。以上私たちからのお知らせでした」










《コラボ編 ~予告~》


「ありがと……だいす……」
「千影!おい!千影!!」
「あぁぁぁ……あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

不幸な事故により、この世を去った千影。閉じられた彼女の目はもう2度と開くことはない───────筈だったのだが。

「やぁ、目が覚めたかい、和泉 千影さん?」
「あなたは……………何者ですか?」
「結城 創真。まぁ、何と言うか面白い奴さ、僕は」

再び彼女は目を開いた。

「君は確かに死んだ。それは揺るがないね。今の君は幽霊みたいなものだ」

そして、彼女は願う。

「叶うなら……………もう一度だけ、風人君に会いたい……………」
「フッフッフ。その願い、このホリー達が叶えてあげるよ!じゃあ、行こうか!かつて君のいた世界に!」

そして、感動の再会─────

「あの時、彼女の魂をあの世へと送ったのは俺だ」
「テメェが千影を……………………!!」
「迷惑な勘違いを……………まぁ、丁度良い。この世界のE組の暗殺者の実力、見せてみろよ!」

の筈が、風人VS創真!?一体何故こうなってしまったのか………………。

「悪いけど、中学生如きに負ける気はしないね」
「舐めてんじゃねぇよ。ただの中学生じゃないって事、見せてやる」

果たして、この物語の結末は如何に……………!

「推定Aカップじゃ、まな板だなー」
「まな板でも可愛けれゃ良いんだよ!!」
「お前ら、一回死んどけ」

…………………どうなる?


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イトナの時間

宣言通り投稿します。番外編の時系列は高校生だと思ってください。だから少し進化しています(何がとは言わない)。

『七夕』

「七夕の夜。一年に一度しか会えない……か。いい話だよね」
「そーだねー」
「……興味なさそうだね」
「うーん~イチャついてばっかで仕事してなくて引き離されたって思うと自業自得じゃねって思えるよ~」
「そういうことは言わないの」
「はーい」
「でも、もし、私たちが引き離されて一年に一度しか会えないとしたら……どうする?」
「多分、ぶち壊すかな~」
「……何を?」
「その縛りを。一年に一度しか会えないルールを。とにかくぶち壊せばいいんでしょ~例えどんな障害があってもね~」
「ふふっ」
「どうしたの~壊れた~?」
「ううん。予想していたよりも嬉しい回答が帰ってきたからね。うんうん。そんなに私といたいんだね」
「…………うっさい」
「私もだよ」

(どうしよう。笑顔で障壁を壊して進む有鬼子が容易に想像できる。おかしいな?牽牛と織姫の話がゲーマーと鬼の話に変わっちゃうよ。ヤバい僕も逃げそう。あ、逃げたら地獄の果てまで……)

「大丈夫。君がどこに行こうと地獄の果てまで追いかけるからね(#´∀`)」

(あ、笑顔なのに目が笑ってない。思考を読まれたかな?あ、しゅーりょーのお知らせだ)

「そ、そんなことより~短冊にはどんなお願い事書いたの~?」
「うん?私はね……」

『ずっと風人君と一緒にいられますように』

「ふ~ん。じゃ、僕はこれで……」
「待って。風人君のお願いは?」
「……よし、笹につけて~っと。帰るよ~」
「ああもう。待ってよ。私は教えたのに何で教えてくれないの?」

(教えられるわけないじゃん。だって……)

『ずっと有希子と一緒にいられますように』

「そんなにおかしなこと書いたの?」

(だって、有希子と同じ事を書いたんだから……)

これは少し先のお話……(多分)
イトナ君のお話では神崎さんの出番は少ないかも……


 イトナ君が殺せんせーを攻撃する中、シロさんがブツブツと長い独り言を言っている。

 

「君たちのを使わせてもらったよ」

 

 そして長い独り言が終わったと思ったらこっち向いて何か言ってくる。いや、だからパクりじゃん。

 

「シロ!全部テメェの計画か!」

「そういうこと。生徒の――」

「僕らの信頼が失いかければ~せんせーは必ず動くよね~で、こんな罠ですといったあからさまに怪しいやつでも飛び込んでしまうって思ったんでしょ~?」

「――――そういうことだ。まぁ、まぬけだったってことだな。生徒でも思いつくような簡単な計画にはまってしまうなんてね」

 

 シロさんがなんか言おうとしてたけどぶった切ってみました。まる。

 

「くそっ!俺らの獲物だぞ!」

「いっつもイヤらしいとこから手ぇ回してぇ!」

「そうだぞこの変態~!スケベ~!」

「……いや、そういう意味のイヤらしいじゃないと思うよ?」

「はっはっはっ。それが大人ってものさ。じゃあ、ここで君たちにも教えてあげよう。あのシーツに見せて囲っているのは対先生繊維の強化布だ。とても丈夫で戦車の突進でも破けない」

 

 え?マジ?

 

「それと、イトナの触手につけたのは刃先が対先生物質で出来たグローブ。これにより触手がぶつかる度じわじわとダメージを与えていく。そして、イトナの位置取り。常に上から攻撃し、奴を逃さない。どうだい?これで――――」

「仕留められたら楽だろーねぇ~」

 

 シロさんの説明を聞いてはみたがそれでせんせーが負けるとは微塵も思えない。

 

「俺の勝ちだ。兄さん」

 

 せんせーにとどめを刺そうとしているのか、触手で貫こうとするイトナ君。

 

「……!?」

 

 しかし、どこか驚いた表情を見せる。大方、攻撃を避けられたのであろう。

 

「ええ。見事ですイトナ君」

 

 そして、冷静な声が聞こえる。あーあ。やっぱりか。

 

「でもね。いくらテンパりやすい先生でも、3回目となればすぐに順応して見切ることはできます。先生だって日々学習するんですよ?」

 

 すると攻撃の嵐がやんだ。おそらく、せんせーがイトナ君の触手を受け止めたのであろう。

 

「イトナ君。先生が日々成長せずして、どうして生徒に教えることができるでしょうか……?」

 

 なるほど。せんせーが成長した分だけ僕らが殺しにくくなると。……それはそれでよろしくないなぁ。

 

「さて、せんせーも夏休みの完全防御形態の一件から一つ技を学習しました」

 

 おぉっ!もしかして必殺技?

 すると、シーツ内が光って明るくなる。

 

「触手の全部ではなく、一部だけを圧縮して力を得る方法」

「な、なんだ……!」

「覚えておきなさいイトナ君。せんせーに取って暗殺は教育。暗殺教室の先生は、教えるたびに強くなる!」

 

 そしてビームが発射された。

 天をも貫かんとするそのビームはたやすくシーツを弾き飛ばして、イトナ君の触手についていたグローブを破壊した。

 

「そういうことですシロさん。彼をE組に預け、おとなしく去りなさい。あと……」

 

 ……あと?

 

「私が下着ドロじゃないという正しい情報を広めてください!」

「絶対そっちが目的でしょアンタ」

「……わ、私の胸も正しくはび、Bだから!」

「いや、ししょーは永遠の0で合ってますよ?」

「ムかぁ!どうやら決着をつけないといけないようだね!」

「ほへぇ?なんのです?」

 

 と、僕らが阿呆なやりとりをしていると、

 

「あぁ!?がっ……!………頭がっ痛い!頭がっ……!脳みそが裂ける……!」

 

 イトナ君が頭を押さえ苦しみ始めた。

 

「度重なる敗北のショックで触手が精神を蝕み始めたか、ここいらがこの子の限界か。これだけ術策を授けても悉く失敗しているんだからね……イトナ。君の情がないわけじゃなんだか、次の素体を運用しなくてはならないからね。さよならだ。あとは1人でやりなさい」

 

 立ち去ろうとするシロさんを僕は止める。

 

「ねぇ~シロさん……アンタさぁ。それでも保護者?大体さぁ、イトナ君が失敗しているとか言ったけど~アンタの詰めが甘いだけじゃないの?」

「つくづく鬱陶しい子だね、君は。ただ、君には何の興味もない」

 

 すると、せんせーの方を見るシロさん。

 

「私は許さない。お前の存在のすべてを。どんな犠牲を払おうとお前さえ死んでくれればそれでいい」

 

 去って行くシロさん。

 そしてイトナ君は発狂しながら夜の闇に消えて行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。たまたま昨日、シロさんに雇われた人を見かけるとたんこぶができていた。

 どうやら烏間先生にやられたらしく、部下の人曰く『あの技は通称「殺人拳骨」直径4センチに渡って頭髪が消し飛び、頭皮が内出血で2センチ持ち上がる技』だそうだ。

 多分。僕の耐久力なら死ぬ。はっきり分かりました。

 で、教室に入ると、せんせーが唇(っぽいもの)をとがらせていた。

 

「先生のことはご心配なく、どーせ心も体もいやらしい生物ですから」

 

 対して皆がご機嫌を取ろうとしている。何でそんなこと……って、あ、昨日のことか。

 

「でも、そのとーりだよね~せんせー」

「か、風人!今それを言うと……!」

「ふーんだ。風人君の言うとおりですよーだ」

 

(((こいつめんどくせぇ……!)))

 

「だって、いやらしくないならさ――」

 

 と、僕は昨日撮影していたものを流す。

 

「こんな、洗濯物を見て息を荒げるわけないもんね~」

「にゅや!?い、いつの間にぃ!?」

「あはは~でもさ。せんせーがいやらしいのは置いといて~イトナ君はど-するの~?」

「そうですね。心配なのはイトナ君の方です。触手細胞は人間に植えて使うには危険すぎます」

 

 触手……細胞?まぁいいや。で、イトナ君……というか、今回の一件でシロさんの性格は大体分かった。

 あの人はコマとしか思ってない。イトナ君然り僕ら然り。だから、平然と見捨てられるし、平然と僕らを使ってくる。僕らのことなんて一切無視でせんせーの命を狙うヤバい相手だね。

 そして、次の日。イトナ君に関していそうな情報が入る。 

 

『皆さん。これを見てください』

 

 律が起動し、僕らにとあるニュースを見せる。

 簡単に言うと昨日の深夜、ケータイショップが連続で襲われて店を有り体に言えば更地にしているそうだ。まぁ、実際は無惨に破壊されてるだけで多少は店の存在も残ってるけどね。

 

「間違いありません……この破壊の仕方はまず触手でしか無理です」

「じゃあ犯人はイトナ君なの~?」

「えぇ。おそらく……」

「どうすんだよ殺せんせー?」

「担任として責任を持って彼を止めます」

 

 せんせーの言葉には皆言葉には出さなくとも否定的だ。クラスメイトとはいえ……ね。

 

「どんな時でも自分の生徒から触手()を放さない。先生はね。先生になる時にそう誓ったんです」

 

 教師バカって言うんだろうね。こーいうの。

 イトナ君の犯行時間は基本夜。仕方ないなぁ。クラスメートを助けに行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜になった。携帯ショップの付近では警備が強化されている。だが、そんな警備、触手持ちのイトナの前にはあまりにも無力だった。

 

「……キレイ事も遠回りもいらない…………!負け惜しみの強さなんてヘドがでる…………!勝ちたい……!勝てる強さが……欲しい…………!」

 

 イトナはフラつきながらケータイショップを去ろうとすると、目の前には殺せんせー。その後ろにはE組の生徒たちが。

 

「兄さん………」 

「殺せんせー、と呼んでください。私は君の担任ですから」

「スネて暴れてんじゃねーぞイトナ。てめーには色々んなことされたがよ、全部水に流してやるからおとなしくついてこいよ」

 

 寺坂が前に少し出て言うと、イトナは触手を動かし始める。

 

「うるさい……勝負だ……!今度は………勝つ……!」

「もちろん勝負してもいいですよ。ただ、お互い国家機密の身。どこかの空き地でやりませんか?勝負が終わったらバーベキューでもしながら、みんなで私の殺し方を勉強しましょう」

 

(それって自分が勝つって言ってね?)

 

 心の中でツッコミを入れる風人。ただ、彼にしてはまともなツッコミだ。

 

「その先生(タコ)しつこいよ?担任になったら地獄の果てまで教えに来るから」

「そうそう~一度捕まったらもう逃れられないよ~」

「ヌルフフフ。目の前に生徒がいるのだから……教えてたくなるのが先生の本能ですよ」

 

 その言葉にイトナがポカーンとしていると、壊れたケータイショップの入り口から何かが投げられた。

 店内に煙が充満する。よく見ると殺せんせーの触手は溶け始めていた。

 次の瞬間、煙の中から対先生弾が何発も発砲される。

 

「これが今回第二の矢、イトナを泳がせたのも予定の内さ」

 

 シロの声が店の中に響く。

 

「さあイトナ。最後の御奉公だ」

 

 銃声とは異なる音が聞こえたと思うと、シロの部下はイトナに向かってネットを放つ。ネットはイトナを包み込み、イトナは身動きが取れなくなっている。

 

「追って来るんだろう?担任の先生?」

 

 そして、そのネットごとトラックに引っ張られ何処かへ行ってしまう。

 

「殺せんせー……」 

「…………大丈夫ですかみなさん!?」

「まぁ、なんとか」 

「では先生はイトナ君を助けに行きます!」

 

 マッハでイトナの元へ殺せんせー。みんなは今のことにちょっと怒っている。

 

「俺らをかばって回避反応が遅れたな……」

「白やろう……とことん駒にしやがって……!」

「さて、じゃあ仕返しに行こっか」

「行こっかって言ってもよぉ。どこに行ったか分からねぇじゃ」

 

 そう。カルマは仕返しにいこうと言うも問題はどこに行ったかは分からない。

 

「大丈夫。今ここにいないバカが教えてくれるからさ」

 

 次の瞬間。既にいないバカの存在に気付いたE組の面々が驚き、あきれたのは言うまでもない。 



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バカの時間

あとがきで大事な報告がございます。
察しのいい人は多分分かると思います。


 Broooooo!

 

 うーん。とりあえず、トラック止まってくれないと動けないから暇なんだよなぁ~。うーん。そうだ!

 

「律~」

『なんでしょう』

「僕の位置情報を皆に送っておいて~……後、ここの位置情報を僕にも教えて~」

『分かりました』

 

 シロの掌で踊らされて、ただ黙って終わる皆じゃないことくらい知ってる。だからきっと仕返しに僕らを追ってくるはず……と、思ってるとトラックがようやく止まった。

 止まった場所は一見するとただの道。左右に木が並んでいる……うーん。建物とかないし、かと言って地図を見ても信号もないみたいだし……罠だね。こんな場所で止まるなんて怪しすぎる。

 

「イトナ君!」

 

 と、ここで殺せんせー登場。イトナ君を解放すべくネットに触ると触手が解けた……さすがに対策はしていたみたいだ。こりゃあ厄介極まりないね。

 そして殺せんせーに向けて照らされる気味の悪いライト。あれ?どっかであんな感じの光を見たような……見てないような。

 

「思惑通りとは言え本当にバカだねぇ殺せんせー。撃て。狙いはイトナだ」

 

 放たれる弾。おそらく対殺せんせー物質のだろう。というか、着ている服もシロと同じで対殺せんせー物質でできているみたいだし。

 

「そう。お前は自分以外の者が標的となったときに弱い」

「なら、僕がやればいいんだね~」

 

 僕は人差し指で手錠をくるくると、両手合わせて計六個ほど回している。

 

「お前は……!…………なぜここにいる?」

「お前…………どうして」

 

 まるで計算外が起きたと言わんばかりの声色だ。

 

「え~勝手に乗り込んじゃったからかな~密航ってやつ~」

 

 そう言うと同時に僕は回していた六個の手錠を銃を打ってる奴らに向かって放つ。当然、木の上にいるため避けることはせず、撃ち落とそうとする。

 

「計算通り~っと」

 

 僕は更に手錠を取り出し投げつける。今度の狙いは人じゃない。ライトだ。ま、打ち落とされたんだけどね。

 

「風人君!後ろ!」

「あ~大丈夫だよ~」

 

 シロの部下全員が木の上にいる訳ではないことは分かってた。当然こんな動きしている僕の方に注目は集まる。というか、シロの指示だろうなぁ。奴を押さえろ的な。ま、僕を押さえて人質にでもすれば楽だろうけど~

 

「残念でした~」

 

 僕は振り向きざまに正面のやつに一発拳を叩き込み、左右から来ている二人の攻撃をしゃがんで交わして一人の脛を蹴る。そのままもう一人の足首に手錠を引っ掛け、反対側のわっかを一気に引き上げる。

 

「後シロ~僕やせんせーに意識向けすぎだよ~」

「どういうことだい」

「ま、意識向けさせるように動いたのは僕だけどさ~」

 

 次の瞬間。カルマが木の上にいた一人の男に両足で蹴りを食らわせ、地面に蹴り落とした。

 

「なんだ!?」

 

 続けざまに前原も木の上に登り白服を下に蹴り落とす。下ではシーツを拡げていたクラスメートがスタンバイしており、丁寧に簀巻きにした。他にも寺坂や岡野と言った運動神経がいい組が木の上にいた白服を全員落としていった。

 

「お前ら……なんで?」

「カン違いしないでよね。シロの奴にムカついてただけだけなんだから、殺せんせーや和光が行かなきゃ私たちだって放っといたし」

 

 速水さんのツンデレ発動。いやー大立ち回りってほどじゃないけど、注意をひきつけることには成功……

 

 ツンツン

 

「はーい~?」

「…………」

 

 振り返るとそこには無言の圧力を放っている有鬼子が。…………え?僕なんかした?

 

「こっち見ていていいの?シロ。撃つのやめたらネットなんて、根元から外されるよ?」

 

 うわぁ……本当に根元から外してるよ……すごい力だなぁ。というか……

 

「こ、今回は何もしてませんよ……?」

 

 ただ、ちょっと皆に黙ってトラックに密航して、ちょっと大立ち回りを演じて、ちょっとサポートに徹しただけだ。……何もしてなくはないけど、僕は悪くないはず……だよね?

 

「……無事でよかった」

 

 え?

 

「去りなさいシロさん。イトナ君はこちらで引き取ります。あなたはいつも周到な計画を練りますが、生徒たちを巻き込めばその計画は台無しになる。当たり前のことに早く気づいた方がいい」 

「………私の計画には大幅な見直しが必要なのは認めよう。イトナなんかくれてやるよ。どのみち二、三日の命。すぐに死ぬ。それまでみんなで楽しく仲良く過ごせばいい………」

 

 何かシロがどっか行ったけど、え?あの有鬼子が純粋に僕の心配を……?

 

「もう。一人で先に行かないでよ」

「え、えーっと……」

「でも、無事だったから許すよ。もし、怪我してたら……」

 

 言葉に出さなくとも言いたいことはよく分かった。死は免れなかっただろう。おそらく、怪我してたらお説教からのお仕置きだったに違いない。きっとそうだ。うん。間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえずネットを外し、イトナ君を解放する。

 

「せんせー。触手をとってあげたら~」

「そうしてあげたいのは山々ですが……触手というのは、使用者本人の意思の強さで動かすものです。イトナ君に力や勝利への病的執着がある限り触手細胞は強く癒着して離れません。そうこうしてる間に肉体は強い負荷を受け続け…………最終的には触手もろとも蒸発して死んでしまいます」

 

 マジか……とってあげれば終わりじゃない……というかそもそも取れないなんて……

 

「だからその病的執着する原因を知らなければなりません」

「原因か~」

「そう言われてもねぇ……」

「こいつが大人しく身の上話をするとも思えないし……」

「その事なんだけどさ」

 

 ここで不破さんが自身が律に頼んで調べてきてもらったことを言う。何故。イトナ君はケータイショップばかり襲ったのか。その疑問から調べを進めると、イトナ君。フルネームで堀部イトナは『堀部電子製作所』の社長の子供だった。そこは世界的にスマホの部品を提供してた町工場だったが、一昨年負債抱えて倒産。社長夫婦は息子を残して雲隠れだそうだ。

 

「けっ。つまんねぇな。それでグレただけかよ」

 

 その話を不破さんから聞いて、空気を読まないような発言をしたのは寺坂だった。

 

「抱えてるものなんざ皆それぞれあるっての。重い軽いは別にしてな」

「え?あのバカで脳なしの寺坂にもあるの……?」

「あるわ!」

 

 ……あーどうしたら頭よくなれるとか、僕やカルマに仕返しできるかとかかな?

 

「俺らんとこでこいつの面倒見させろや。そこで死んだらそれまでだ」

 

 寺坂組がイトナ君の面倒見ると言い始めた。

 もちろんここで解散……だったんだけどそりゃね。心配になりますわ。寺坂組、寺坂、村松、吉田と狭間さんの四人。どうやって、心開くんだろう?

 というわけで、みんな陰でこそこそ寺坂組の様子を伺ってる。

 

「寺坂の奴。どうやってイトナの心を開く気だ………?」

 

 磯貝君がそう言うが、いやあの寺坂だよ?

 

「さてお前ら…………」

「なんだ?寺坂」

「どーすっべ?これから」

「「「…………」」」

「何も考えてねーのかよ!」

「本当無計画だなお前は!」

「うるせー!4人もいれば考えの1つくらいあるだろ!」

 

 何も考えてないに決まってるじゃん。ここであの寺坂がまずはこうして次はとか語り始めたら、とりあえず壊れたか偽物って事で殴り飛ばしに行くよ?

 と、そんな中で狭間さんが提案をする。

 

「村松の家ラーメン屋でしょ?一杯食べたらこの子も気が楽になるんじゃない?」

「お………おお」

 

 というわけで寺坂組と僕らは村松の家、松来軒へ。

 そこでイトナ君はマズそうにラーメンを食べる。

 

「……マズイ、おまけに古い。手抜きの鶏ガラを化学調味料で誤魔化している。トッピングの中心には自慢気に置かれたナルト、4世代前の昭和のラーメンだ」

 

 ヤバい。なんてグルメリポートだ。僕ですらそんなことは言わないぞ。 

 

「じゃあ次はうち来いよ。こんな化石ラーメンとは比較になんねー現代の技術見せてやるからよ」

 

 ということで次は吉田の家。吉田モーターズについた。

 

「おぉー!」

 

 そこで、吉田はイトナ君を後ろに乗せてバイク走行をしていた!

 

「ねぇね!僕も運転したいって言ったら運転させてもらえるかな!(わくわく)」

 

(((いや……まずは中学生がバイク運転してることにつっこめよ)))

 

「ダーメ。風人君。あれはおもちゃじゃないんだよ?」

「うぅ……いいなぁ……」

 

 バイク運転……楽しそうだなぁ。

 

「よっしゃいくぜ!必殺!高速ブレーキターンだ!」

 

 かっこよくブレーキターン自体は成功した……イトナ君が近くの茂みに突き刺さったけど。

 

「本当に計画ゼロだね……」

「そりゃそうだろうね。あいつら基本バカだから」

「本当に何も考えてなくてお気楽だね~」

「風人君もね」

「あ、でも狭間さんなら」

 

 そっか。あの面子の中で唯一頼れそうな狭間さんなら、と思ったそんな中、イトナ君の前に何十冊かの本を置く。

 

「復讐したいでしょ、シロの奴に。だとしたら、名作復讐小説「モンテ・クリスト伯」全7巻2500ページ。これを読んで暗い感情を増幅しなさい?あ、最後の方は復讐やめるから読まなくていいわ」

 

 やべぇ。力への執着なくさせるはずなのに力への執着を助長させてどうするんだ……?やばい。僕が全く思考が読めない……だと?あ、いつものことだ。

 

「もっとねーのかよ!簡単にアガるやつ!だってこいつ頭悪そう……」

 

 そう寺坂が言った時、イトナ君は身体を振るわせている。そして、触手が現れる。

 

「あぁっ!寺坂がバカにしたからイトナ君がキレて触手が暴走した!」

「うるせぇーぞ風人!」

 

 僕らの方へと逃げる四人。そんな中寺坂が叫んでいた。……いや、事実じゃん。寺坂に馬鹿にされたら誰でも怒るって。

 

「俺は……適当にやってるお前らとは違う!今すぐあいつを殺して……勝利を………!」

 

 イトナ君の言葉に寺坂は逃げるのをやめて、イトナ君の方を向く。

 

「おぅ。奇遇だなイトナ。俺もあんなやつ今日にでも殺してぇって思ってるさ。でもよ、お前には今すぐあいつを殺すなんて無理なんだよ。そんなビジョン、捨てちまえ。そうすりゃ楽になるぜ?」

「うるさいっ!」

 

 寺坂の言葉にイトナ君は触手を寺坂にぶつける。

 

「2回目だし、弱ってるから捕まえやすいわ………」

 

 しかし、寺坂はそれを腹で受け止め抑え込む。 

 

「でも、吐きそうな位クソ痛いけどな………」

 

 あいつ……避ける素振りすら見せなかった。最初から受け止めるつもりだったのか……。

 

「吐きそうといえば村松の家のラーメン思い出した……」

「あぁ!?」

 

 可哀想だが、これが事実だね。

 

「あいつはタコから経営の勉強奨められてんだよ。今はまずくてもいい、()()()店を継ぐ時があれば、新しい味と身につけた経営手腕で繁盛させてやれってよってな。吉田も同じだったな。()()()役に立つかもしれないってな。…………なぁイトナ!」

 

 寺坂は拳を握り締めるとイトナ君の頭を殴りつけた。

 

「一度や二度負けた程度でグレてんじゃねーぞ!()()()勝てればいいじゃねーか!あのタコだってな。今殺れなくてもいい。100回失敗してもいい。3月までにたった1回でも殺せれば、それだけで勝ちだ。親の工場なんざその時のカネでなんとかすればいいだろーが!」

「でも……耐えられない……次の勝利のビジョンが出来るまでは……俺は何をすればいいんだ……?」

「アホか。さっきみたいにバカやって過ごすんだよ。そのために俺らがいるんだろ?」

 

 すげぇいいこと言ってる。明日は雨かな?

 

「さすが寺坂だ。こういう適当なことへーきで言ってくる」

「でもま、こういうときのバカの一言って堅苦しくなくていいよね~」

 

 触手から力が抜け、目から執着の色が消える。

 

「……俺は、焦っていたのか?」 

「おう。だと思うぜ」

「イトナ君、今なら君を苦しめる触手細胞を取り払えます。大きな力を失う代わりにら君は多くの仲間を得ます。殺しにしてくれますね?明日から」

「勝手にしろ……。もう、この力も兄弟設定も飽きた…………」

 

 こうして彼は真の仲間となったのだ。




『大事な報告』

「作者から『長らくお待たせしました』だって~うーん。誰を待たせたんだろうね~」
「もちろん。読者の皆様だよ」
「作者の投稿ペースは急激に遅くなったもんね~それに対する謝罪かな~」
「それもあるけど今日の報告は別のことです」
「別のこと?」
「遂に音速のノッブ様とのコラボ編が完成いたしました」
「おぉー(ぱちぱち)」
「前回の告知から約一ヶ月半。本当にお待たせしました」
「…………ぶっちゃけ遅すぎだよね~」
「…………うん。大声では言えないけど遅れた原因の大半はうちの()()()だよ」
「…………なんというか予想通りだね~」
「本当にごめんなさい。裏で駄作者にはオハナシしておきます」

(あ、これうちの作者死んだな。がっしょー)

「で~?いつ掲載なの~?」
「結果から行くと次の日程で掲載します」

8/22 18:00 『暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~』にて前編その1を投稿

8/23 同時刻 〃 前編その2を投稿

8/24 同時刻 音速のノッブ様の『結城 創真の暗殺教室』にて後編その1を投稿

8/25 同時刻 〃 後編その2を投稿

「四部構成なんだね~」
「四日間に渡って1話ずつ掲載って形ですね」
「あ、地味に明後日からだ~」
「まぁ、明日よりも一日空けた方がこの話を見てくれる人がその分増えて告知の効果が出ると思ったらしいよ」
「おぉーしっかりと考えているんだね~」
「ということでお待ちかねのコラボ編いよいよです」


「皆さん。楽しみにしてくださいね」


「「え……?」」


「では、報告は以上です。ここまでありがとうございました。またお会いしましょう」


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バカの時間 二時間目

 イトナ君が正式加入?って言うのかな?まぁ登校し始めてある日の放課後。

 

「ねぇね~イトナ君。何作ってるの~?」

「風人か。ラジコンの戦闘車だ」

「おぉー!かっこいいね~!」

「昨日あのタコに勉強漬けにされてストレスがたまった。だから殺しに行く」

 

 なんて動機だ。っと、有鬼子が一緒に帰るからちょっと待っててって言われてるんだよなぁ~暇だなぁ。

 

「寺坂がバカ面で言った」

「あぁ!?」

「いや、寺坂は最初から阿呆面でしょ~」

「あぁぁっ!?」

「間抜け面かもしれないよ」

「ああぁっ!!?」

 

 イトナ君、僕、カルマに言われて怒りマークを浮かべる寺坂。

 

「100回失敗してもいいって。だからダメ元で殺しに行く」

「ほへぇ~でもすごいハイテクそうだね~というか面白そう!僕でもこういうの出来る~?」

「ああ。親父の工場で基本的な電子工作は覚えたが。安心しろ風人。こんなの寺坂以外なら誰でも出来る」

「いらっ!」

「やったー!寺坂以外が出来るって全人類ができるんだね~」

「おいてめっ!」

「やめなよ風人にイトナ。あの寺坂でも努力すれば千年後にはきっとできるようになってるかもしれないよ」

「てめぇらなぁ!」

 

(((うわぁ……寺坂が可哀想に見えてくる……)))

 

 と、そんなこんなしているうちに戦車は完成して、床に置いて動かし始めた。しかも気付けば教室には男子しか残っていなくて女子は全員どっか行ったみたい。

 動き始めた戦車。僕らの足元をスムーズに動き、セットして置いた空き缶に向けて発砲。

 

「「「おぉー!」」」

 

 しかも、走ってるときも撃つときもほとんど音がしない。イトナ君が言うには、電子制御を多用することでギアの駆動音をおさえているそうだ。

 そのうえ戦車につけられた小さなカメラが操縦するコントローラーの画面とリンクしていて映像付きで見られる。かっこいいね!

 

「一つ。お前らに教えといてやる。狙うべき理想の一点。ターゲット(殺せんせー)の急所だ」

 

 ……急所……かぁ。

 

「奴には()()がある。位置はちょうどネクタイの真下。そこに当たれば一発で絶命させられる」

 

 なるほど。やっぱり心臓はあるのね。というか、そんな位置まで知ってるとなると、情報提供者(シロ)はやっぱり怪しすぎるね。

 

「よし。暗殺に備えてしっかりと試運転させておこう」

 

 うんうん。確かに試運転は大事だよね。うんうん。

 戦車は教室を飛び出し廊下へ。曲がり角付近で、女子たちの声がしたので一旦止まる。まぁ、踏まれたら最悪だもんね。で、カメラは上を向いており――――

 

 

 

 

 

 ――――次の瞬間、女子たちの何名かがカメラに写ってるところを通過した。

 

 

 

 

 

 

「……見えたか?」

 

 岡島が凄く真剣に呟く。

 

「カメラが追いつかなかった……!視野が狭すぎるんだ……!」

 

 続いて前原も。うーん。確かに視野は大事だとは思うけど……

 

「カメラをもっとデカいのにしたらいいんじゃないか?」

 

 そして村松の意見。いや、それって、もう意味ないよね?

 

「重量がかさんで機動力が落ちる」

 

 機動力が落ちると標的の補足が難しくなるそうだ。すると、暗殺では使いづらくなる。うん。本末転倒だね。

 

「…………ならば。カメラのレンズを魚眼レンズにしてみればどうだろうか?」

 

 『参謀』竹林孝太郎が静かに意見を出す。そして、メガネを軽く押し上げ、魚眼レンズに変えるメリットを説明する。

 

「送られた画像をCPUを通して歪み補正すれば、小さいレンズでも広い視野を確保できる」

 

 ほへぇ。だったら、確かに魚眼レンズの方が理にかなってる気がする。

 

「……わかった。視野角の大きい小型魚眼レンズは俺が調達する」

 

 『カメラ整備』岡島大河がなんかカッコよさそうに言ってるけど……あれ?大丈夫かな?この人たち。

 

「律。ゆがみ補正のプログラムは組めるか?」

『用途はよく分かりませんがお任せください!』

「録画機能も必要だな……」

「ああ。効果的な改良分析には必要不可欠だ」

「外せない機能だな」

 

 ……なんだろう。凄く遠い世界に彼らは旅立った気がする。おかしいなぁ。下着ドロの時にはあんなに引いていたと思うんだけど……。

 

「これも全て暗殺のため!ターゲット(女子たち)を追え!」

 

 と意気揚々に外に出ようとした戦車。試作品一号は、外に出ようとした瞬間。段差でこけた。

 

「復帰させてくる!」

 

 映像越しに見ていた『高機動復元士』こと木村正義はダッシュで復帰させに向かった。

 

「段差に強い足回りも必要じゃないか?」

 

 うーん。確かにそうだね。

 

「俺が開発する。駆動系とか金属加工には覚えがある」

 

 『駆動系設計補助』吉田大成が開発を宣言する。何かすごい面子がそろってるんだなぁ。E組って。

 

「後、車体の色についてだが、ここは学校だけ。学校の景色に紛れないと標的(女子)に気づかれる恐れがある」

 

 どうしよう。さっきから正論しか言ってない気がする。

 

「引き受けた。学校迷彩……俺が塗ろう」

 

 『偽装効果担当』菅谷創介が筆を構えて役割を引き受けた。

 

「ラジコンは人間とはサイズが違う。学校を快適に走り回れるよう、俺が地図を作る」

 

 『ロードマップ製作』前原陽斗がまともなことを言う。

 …………おかしい。目的はあれなはずなのに改善点は暗殺にもリンクしている。何かがおかしいぞ……?

 

「腹が減ったら開発は出来ねぇ。校庭のゴーヤでチャンプルーでも作ってやらぁ」

 

 『糧食補給班』村松拓哉がエプロンをつけて家庭科室へと向かう。

 とまぁ、こんな感じで完全に本来の目的を忘れて暴走しているけど……完全にこのクラスになじんだなぁ。すごいなぁイトナ君。というか楽しそうだけど……やめとこ。僕まであんなのに参加してたってばれたら……

 

「……死を超える絶望か…………多分、地獄すら生ぬるいかも……」

「どうしたの?遠い目をして」

「ううん~何でもないよ~」

 

 やめよう。そんな想像も。きっと優しい(よね?)彼女のことだ。もし、混ざったとしても笑顔で…………処刑に来るな。うん。間違いない。

 と、凄く真剣に考えていると試作品一号から送られてくる画面が真っ黒に染まる。

 上を見上げるとそこには、

 

「「「化け物だぁあああああ!」」」

 

 と、叫ぶので気になって画面を見てみると、

 

「あ、イタチだ~可愛いなぁ~」

「あれのどこが可愛いんだよ!」

「ちょっと捕まえに行ってくる~」

「あぁおい!」

「早まるなバカ!」

 

 さぁイタチを捕まえよ~おぉ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま……」

「お帰り……あちゃー」

「イタチ……捕まえられなかった」

「「「いやそっちかよ!」」」

「あ、これお土産……はい」

 

 と、壊れてしまった試作品一号を手渡す。はぁ……。捕まえたかったのに。

 

「クソ、主砲の威力が足りなかったな」

「次からはドライバーとガンナーを分担しないとな。射撃は任せたぞ、千葉」

「お、おう……」

 

 ここに来てようやく暗殺に関係ありそうな『搭載砲手』に任命された千葉龍之介。

 

「開発にはミスがつきもの」

 

 さらさらっとマジックを取り出してなんか書いてる。えーっと、『糸成Ⅰ』……?

 

「糸成Ⅰ号は失敗作だ。だが、ここから紡いで強くする。100回失敗してもいい。最後には必ず殺す。だから、よろしくな。お前ら」

 

 いい話だ。皆の友情も深まりこれで、一件落ちゃ……

 

「よっしゃぁ!3月までにはコレで女子全員のスカートの中を偵察するぜ!」

 

 ……どうしていい雰囲気で終わらせてくれないんだろうか。

 

「へー………今なんて言ったのかな?岡島君」

 

 ガシッと岡島の肩をつかんだのは片岡さん。ありゃりゃ。

 

「か、片岡ぁ!??これはだなその」

「全部聞いてたわよ。で?誰が言い出しっぺ?まさかイトナ君じゃ……」

「岡島だ」

「ちょっ!これは違うんだ!」

 

 片岡さんを筆頭に女性陣が帰ってきた。あーあ。こりゃあ岡島死んだなぁ。

 

「そ、そうだ!これは全て和光のせいなんです!」

「え?僕~?」

 

 おかしいなぁ。僕は特に関わった記憶が……

 

 ポンッ

 

 僕の肩に静かに置かれる手。振り返るまでもなくひしひしと伝わってくる殺意。一瞬で静かになる教室。はっはっはっ。

 

「僕はむじ――」

「はいはい。話は後でね。じゃあ、帰りましょうか」

 

 振り返るとそこには鬼が立っていた。

 

「じゃあ、皆さん。また明日」

 

 そして、有無をも言わせてもらえず連れてかれる僕。行く先は地獄かこの世の終わりか。あぁ、どうしてこうなったのでしょう。

 

「おい、岡島……」

「和光君は無実でしょう?」

「最低ね」

「…………悪かった和光。まさか弁明の余地もないとは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、えーっと有鬼子さん」

 

 現在連れてこられたのはE組の山の少し奥に行った人目につかないところです。……なるほど。殺すのに持って来いの場所だ。

 そして現在。僕は木を背に立たされています。目の前には鬼がいて逃げ道はありません。なるほど。絶体絶命です。

 

「ぼ、僕は今回の件!無実を主張します!」

「……………………」

 

 僕の主張に対して何も言いません。怖いです。

 

「はぁ…………」

 

 すると、小さくため息をつきます。え?何ですか?

 

「……知ってるよ」

「え?」

「風人君が無実なことくらい知ってるよ」

 

 マジで?え?じゃあ、なんでここに連れてこられたんだろう……?というか…… 

 

「ちょ、ちょっと待って。え?あの殺気は……」

「演技だよ?あの場から風人君を連れ出すのに手っ取り早いと思って」

 

 さも当然といった感じで見てくる有鬼子。いや、あの殺気は本物だったようなぁ…………

 

「それに、私がすぐ疑うわけないよ。風人君がそんなことしない人だって知ってるから」

 

 あぁ神様。僕は今回有鬼子が素直に分かってくれて本当に感謝しています。むしろ、こんな彼女を信じず恐怖していた僕と罪を押しつけた岡島とついでに寺坂を殴り飛ばしたい気分です。

 

「…………?」

 

 と、ここで僕の中にある疑問が芽生える。

 

「え?じゃあ、なんでここに僕は連れてこられたの~?」

「そそそれは……その……」

 

 と、急に顔を紅くする有鬼子。本当にどうしたんだろう?

 

「か、風人君もああいうの(女子の下着)興味あるのかなぁ~って」

「うん!(ラジコンとか電子工作とか)凄い興味あるよ!」

「そ、即答……」

 

 ほへ?だって、電子工作ってかっこいいじゃん!僕もイトナ君に弟子入りしてラジコン戦車作ってみたい!そして思う存分遊んでみたい!

 

「わ、分かった……は、恥ずかしいけど……」

 

 すると、スカートの中に手をやる有鬼子。え?どうしたの?って思ってると……

 

「え?」

 

 何か急にタイツを下ろし始めた。…………え?

 

「ちょ、ちょっと待って。…………何してるの?」

「は、恥ずかしいけど……風人君だけだからね」

 

 そして真っ赤に染まる顔でスカートの端に手をやりそして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、穴があったら入りたい…………」

 

 真っ赤な顔で隣を歩く鬼。これぞ本当の赤鬼だ。

 

「う~ん。ビッチ先生に毒されたのかな~」

 

 スカートをたくし上げ下着があらわになってしまう前に僕が有鬼子の手を押さえ、何とか止まった。で、聞いてみると「だだだって風人君が女子の下着に興味がすごいあるって言ったから!」と言われたけど……うん。僕が興味あったのは電子工作なんだよ。

 まぁそんなギャルゲーでありそうなベタベタな勘違いが起き、それに気付いた有鬼子はタイツを戻すとその場で顔を紅くして恥ずかしいとか消えたいとか連呼していた。そんな彼女を支えながら麓まで降りてきてようやく僕の支えなしで歩けるようになって今に至ります。

 

「うぅ……お願いだから……忘れて」

「え?嫌だ」

 

 え?何で忘れないといけないんだろう?

 

「今度からこれをネタに揺すって……」

 

 と、言いかけてる時に僕の両肩を掴む有鬼子。

 

「お願いだから……皆には言わないで……」

 

 なんだろう。前にも似たような事があった気がする。しかも、今回は涙目付きで……どうしよう。あの有鬼子がすごい可愛く感じる。え?何だろうこの小動物みたいな愛くるしさ。鬼の要素が一切感じないぞ。

 

「べ、別に……冗談だし……」

 

 僕は思わず目をそらしてしまう。僕に演技だったとは言え恐怖心を与えてきたから少しやり返そうと思っただけなのに……何だろうこの気持ち。何というか……

 

「だから安心してよ~彼女の弱みを流すわけないじゃん~」

 

 何というか。もっと苛めたくなってしまった。ヤバい。この一線だけは超えちゃいけない気がする。

 

「だって……風人君だもん……」

「僕に対する信頼度低くない!?前のはしっかり守ったよね!?」

 

 悲報。彼女が僕のことを信頼してくれない。

 

「…………もしかして……風人君も脱げば恥ずかしくないのでは……」

 

 悲報。彼女の頭はさっきのでショートしたようだ。

 

「僕は嫌だよ?」

「う、うん……私の心の準備が出来たらね」

 

 おかしい。何かがおかしい。本当にショートしたんじゃないだろうか。

 この時の僕は知らなかった。まさか、彼女の言葉が現実になるなんて……

 

「って、フラグ立ててみたけど。ま、どうせフラグ回収なんてベタなことはやらないよね~」

「…………?」

 

 フラグとは建てても結局意味はない。だけど、フラグを立ててみるのはなんとなく面白そうだからである。まる。

 

「じ、じゃ、待たね」

「うーん。家まで送ってくよ~今の有鬼子。危なっかしいし~」

「え、あ……うん。ありがと……」

 

 今の彼女を相手にすると凄い調子が狂うと思いました。



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収穫の時間

 イトナ君も加入してすぐの休日。僕は涼香と出掛けていた。

 

「「おじゃまします」」

「いらっしゃい。二人とも」

 

 と言うのも出掛けていたってほどの話でもなく、千影の家に来ていただけだ。だけというか何というか……。

 

「ごめんなさいね。呼び出しちゃって」

「いえいえ。私たちは大丈夫ですよ」

「何かあったんですか~?」

「俺から説明する」

 

 と、ここで現れたのは、

 

「俊昭さん……」

「風人君。ついてきたまえ」

 

 千影のお父さんこと和泉俊昭(としあき)さんだ。あ、ちなみに今更だけど千影のお母さんの方は和泉千秋(ちあき)さんだ。

 僕は立ち上がって俊昭さんについて行く。

 

「なんか進展があったんですか~?」

 

 ちなみにだがこの人は警察官。それも事件捜査にも上から関わっちゃってる系の人である。

 

「いいや。千影の方は何も変わらない」

「……そうですか~」

 

 僕は千影のことが事故ではなく事件と疑い始めたとき、警察官である千影のお父さんに話をしていた。半信半疑とまでは行かないが俊昭さんの中にもしこりのようなものがあったらしく、調べてもらっている。

 だが、事件……というか千影の件はあのドライバーがやったということで表面上は決着がついてる。その状態は今でも変わってない。何も覆せるだけのモノがないからだ。

 

「ただ、気になることが分かった」

「気になることですか……?」

「分かったというより俺の些細な違和感だけなんだがな。ここ数年。この市内だけで何人もの小学生から高校生が殺されている」

「はぁ~……」

「そしてそれらのすべては犯人が捕まってる……が、どうにもおかしい」

「…………?」

 

 どういうこと?

 

「いや、おかしいというのは不正確だな。君の話を聞いたうえだと何か違和感が残るんだ」

「僕の話ですか~?」 

「犯人は全員否認しているんだよ。いや、正確には否認じゃないか。千影の時みたいに全員が自分のせいじゃないって言ってるんだ」

「えーっと……え?全員がですか?」

「確かに犯人であっても自身の犯行を否定する者もいる。それ自体は普通だ。だが、犯人の中には自供したり認める者もいる」

 

 それっておかしくない?

 

「何で全員が自分のせいじゃないって言っているんですか?」

「千影の事件の時は急に千影が飛び出したからというのがドライバーの意見だった。君は近くに人がいたと言ったが痕跡がなかった」

 

 その通りだ。あくまで近くに人がいたと言うのは僕のみが言っている。他の人は言ってない。

 

「似たような事故で1年前。この市内である中学生がひき逃げにより殺されている。ひき逃げ犯は捕まえたがそこでの供述に『その子が隣の男に急に前に押し出された。ブレーキをかけても間に合わず激突。死なせてしまった。怖くてその場を逃げた』とある。こちらとしてはそんな男がいたという証拠は得られず、犯人がひき逃げをしたという事実は変わらなかったから何ともしていないが……」

 

 なるほど……。直感だが真犯人が関わっていやがるな。

 

「他にも『自分は罪を着せられた』みたいな発言は多い。むしろ、ここで起きている事件はそんな犯人しかいない」

 

 なんだよそれ。自分は手を下さずかよ。

 

「それに加えてこの市で、ここ数年自殺者も多い」

「自殺者も……?」

「原因の大半はいじめ。後は君のような親しいものの死によるものもある」

 

 なんだよそれ……この市で人死にすぎかよ……。

 

「後、気がかりなのは行方不明だな」

「…………え?誘拐じゃなくて?」

「ああ。突如消えた生徒たち……。何人かが消え今も見つかっていない。君や涼香たちの同級生だった人も何人かいたな。犯人がいるかは分からんが向こうからのコンタクトは一切なし。誘拐かは分からないが、誘拐にしようにも状況が不可解過ぎる」

 

 殺人に自殺者に行方不明。なんでもありかよ。てか、物騒すぎるだろここ。実はここは米〇町と同じくらいの頻度で事件が起きているのでは?身体は子供頭脳は大人の名探偵(死神)がいるんじゃないか?

 

「だから和光風人君。君も気をつけた方がいい」

「え?僕ですか~?」

「もし君の予想通り黒幕がいた時、君は充分標的になりうる存在だ。もちろん、年齢的にというのもあるがそれに加え、君はこちらが解決したものを深掘りして黒幕を追い求めようとしている。もしそのことが知られようのものなら黒幕側は君を早急に標的にし、命を狙ってくるだろう」

 

 僕にはこの忠告が嫌に頭に残った。そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、俊昭さんと何話してたの?」

「この市は物騒だね~って話」

「そう」

「涼香は?千秋さんとなに話してたの?」

「後、一ヶ月ぐらいでしょ?」

「…………ああ、そういうこと」

 

 すべて言わなくても察した。

 

「あ、竹原先生だ」

「あぁ。涼香さんに風人君か。こんにちは。久しぶりだね。風人君」

「そうですね~何してるんですか~?」

「ははっ。見ての通り買い物だよ」

 

 目の前の男……竹原先生は両手に抱えたスーパーの袋を掲げる。ちなみにフルネームは忘れた。だって、下の名前で呼ばれているとこ見たことないもん。

 

「今日は甥っ子たちが来ていてね。ちょっと食材とかが足りなくて」

「へぇ~」

「君は相変わらずだね……」

 

 この人とは割と長い付き合いになる。記憶が正しければ小四の時に僕らが通っていた小学校に赴任してきて、中学も僕らが上がると同時に上がってきてのなんだかんだで五年ちょい。まぁ、担任になったのは小五、中一、中三と地味に多い。しかもきれいに一年おき。なんだろう?オリンピックの短い版?あ、ワールドカップかな?

 

「ああそうだ。風人君も気をつけるんだよ?この辺は物騒だからね」

「分かってますよ~竹原先生」

「本当に分かってるかい?全く、君という子は危なっかしいんだから……」

 

 この人は割と面倒見がいい。僕のような生徒にも普通に関わってくるし、転校して縁が切れたはずなのにこうして普通に話しかけ心配までしてくれる。どっかの教師バカを思い出すよ。

 まぁ、教師になって六年。三十行かないくらいのおっさんだし、この方針が固まってきたんだろう。

 

「じゃあ僕はこれで」

 

 そうして去って行く先生。

 

「あの人変わってないね~」

「まぁね。今は私たちの担任でもあるけど、風人君が転校して行った後も特に何もないよ」

 

 そっか、僕の担任(ただし一ヶ月にも満たない)だったから現涼香と雷蔵の担任か。

 

「さあって……帰ろ~」

 

 僕は涼香を送り届けるとのんびり家に向かった。



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コードネームの時間

 それは衝撃から始まった。

 

「じゃ、ジャスティス!?」

「ええぇっ!?」

「てっきり正義(まさよし)かと思った」

「まさか、正義(ジャスティス)だとは~……」

 

 何と木村君の名前が正義と書いて『まさよし』ではなく本当は『ジャスティス』だったのだ。

 

「み、皆知ってたの!?」

「うん……まぁ、その入学式で聞いてたからね」

「和光は転校生だから知らなくて当然だよ」

 

 どうやら木村君は殺せんせーとかにも最初から名前で呼ぶときは『まさよし』にしてくれと頼んでたそう。だから僕が知る術はなかったのだが……なんてことだ。『きらきらねーむ』と呼ばれるものがまさか身近にいたなんて……?あれ?そういや、このクラスって変わった名前の人多いね。

 で、彼の名前がこんな風になってしまったのは、木村君の両親は警察官らしく、正義感で舞い上がってつけちゃったみたいだ。……可哀想に。

 

「親なんてそんなもんよ」

 

 とここで狭間さんが入ってきた。

 

「私なんてこの顔できららよ」

 

 ……マジかぁ……。で、狭間さんの母親は本人曰くメルヘン脳なくせに気に入らないことがあればヒステリックにわめき散らす……うわぁ。うちの母親と大違いだ。

 

「大変だねー皆。ヘンテコな名前つけられて」

「あはは~カルマには皆言われたくないと思うよ~」

「そう?俺は結構気に入ってるよこの名前。たまたま親のヘンテコセンスが遺伝したんだろうねー」

 

 それに比べて『風人』はまだマシだ。『風のようにしがらみを振り払って自由に生きる人』と自分で作ってみたけどまさしく僕の生き様を表しているようだ。ま、親は手を焼いているけど。

 

「せんせーも名前には不満があります」

「えぇ~殺せんせーはいいじゃん~ししょーにつけてもらった立派な名前があるじゃん~」

「そうです。でも、気に入っているから不満があるのです」

 

 どういうこと?

 

「未だ二名ほどその名前で呼んでくれない人たちが」

 

 あ、烏間先生とビッチ先生か。

 

「烏間先生なんて、私を呼ぶ時、『おい』とか『お前』とか!熟年夫婦じゃないんですから………」

「えぇっ!?二人は熟年夫婦だったの!?」

 

 しょ、衝撃の新事実。まさかの殺せんせーと烏間先生は夫婦だったとは。

 

「風人君。多分考えていることは違うと思うよ?」

「え?違うの?」

「うん」

 

 なんだぁ。違ったのか。驚かせないでほしい。

 

「あ、そうだ!なら一層のことコードネームで呼び合ったらどう?皆の新しい名前を考えるの。ほら、南の島であった殺し屋さんたちも互いのこと本名隠して呼び合ってたじゃん」

 

 スモックおじさんにグリップおじさんぬ。ガストロおじさんにジャックおじさん。皆元気にしてるかなぁ?

 

「それはいい案ですね。ではこうしましょう。皆さんにコードネームの候補を書いてもらい、せんせーがその中で引いたものを皆さんのコードネームとします」

 

 そう言って渡される紙の束。うへぇ。全員分考えるのはちょっと面倒だなぁ。瞬間で思いついた人は何人かいるけど……。

 

「では、今日一日……名前で呼ぶの禁止!」

 

 え?マジで?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして1時間目。烏間先生(堅物)標的(ターゲット)にした模擬暗殺訓練がスタートした。

 

杉野(野球バカ)!野球バカ!堅物に動きはあるか!?」

「まだ無しだ菅谷(美術ノッポ)磯貝(貧乏委員)チームが堅物の背後から沢に追い込み、速水(ツンデレスナイパー)が狙撃する手はずだ」

 

 手はず通り貧乏委員チームが堅物を追い込むも、堅物によってその包囲は簡単に抜かれてしまう。

 

「甘いぞ2人!包囲の間を抜かれてどうする!特に前原(女たらしクソ野郎)!銃は常に撃てる高さに持っておけ!」

「そっち行ったぞ!三村(キノコディレクター)倉橋(ゆるふわクワガタ)!」

 

 しかし、ゆるふわクワガタが銃を構えたところ方向を変えて別の場所に行った。

 

吉田(ホームベース)村松(へちま)イトナ(コロコロ上がり)!」

 

 寺坂(鷹岡もどき)が木の上から銃を構えて地上の三人に指示を出す。

 地上に気を取られた隙に鷹岡もどきが発砲し、見事命中。

 

「来たよ風人(バカゼト)

「分かってるよ有鬼子(有鬼子様)

 

 続けざまに木の上にいた僕が上の木を跳躍して渡りながら地上に向けて発砲。有鬼子様も僕に合わせて木の上から発砲する。

 

「バカゼト!空中での不安定な発砲はそう当たらないぞ!」

「くそぉ……手錠なら百発百中なのに~」

「それから奥田(毒メガネ)茅野(永遠の0)!射点が見えては当然のように避けられるぞ!」

「嘘……気づかれた?そっちお願い!凛として説教()!」

 

 銃を構えていた二人だが、標的からはばっちり見られていたようだ。

 

「任せて!行くよ!ギャル英語(中村)性別()!」

「「了解!」」

 

(射手を特定させない射撃……凛として説教の指揮能力のおかげか。背後から距離を保って隙を窺う、変態終末期(岡島)このマンガがすごい!(不破)もなかなかのものだ……)

 

 変態終末期……うーん。今更だけど本当に終わってるんだなぁ。

 

中二半(カルマ)が退路を塞いだ!頼んだぞ……!ギャルゲーの主人公(千葉)!)

 

 ギャルゲーの主人公による発砲。だが、それを木で防いだ堅物。

 

「ギャルゲーの主人公!君の狙撃は常に警戒されていると思え!」

 

 しかし、そんなことは承知済み。最後の仕上げはギャルゲーの主人公ではないのだ。

 堅物がギャルゲーの主人公に注意が向いたそのとき、背後から現れたジャスティス(木村)によって撃たれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうでしたか?皆さん。1時間目をコードネームで過ごした気分は」

「「「何か。どっと傷ついた……」」」

 

 うぅ……一体だれがバカゼトなんて……色んな人から何回もバカゼトって……。

 

「殺せんせー。なんで俺だけ本名のままだったんだよ」

 

 そういえばそうだったなぁ。なんでだろ?

 

「今日の体育の訓練内容は知ってました。君なら活躍できると思いましてね。さっきみたいにカッコよく決めた時なら『ジャスティス』って名前でもしっくり来ませんでしたかね?」

 

 確かにそうだね~というか、僕も名前の前に一文字ついただけの単純なコードネームで……単純故にすごい傷ついたんだけど。

 

「安心の為言っておくと、木村君。君の名前は比較的簡単に改名手続きができるはずです。極めて読みづらい名前であり、君はすでに読みやすい名前で通している。改名の条件はほぼ満たしてます……」

 

 なるほど。確かに『ジャスティス』なんて言いづらいしね。

 

「でもね木村君、もし先生が私を殺せたなら、世界はきっと君の名前をこう解釈するでしょう。『まさしく正義だ』『地球を救った英雄の名にふさわしい』とね」

 

 確かにそうだね~。

 

「親がくれた名前に大した意味はないです。意味があるのは、その名の人が実際の人生で何をしたかです。名前は人を造らない。人が歩いた足跡の中にそっと名前が残るだけです。もうしばらくその名前を大事に持っておいてはどうでしょうか……?少なくとも暗殺に決着がつくときまでは………ね?」

 

 確かにな~昔の偉人だって後世に名前が残るからこういう名前がいい!って言う人はあんまりいないだろうし。

 

「……さて、今日はコードネームで呼ぶ日でしたね」

「えぇー1時間目で終わりじゃないの~?」

「ダメですよバカゼト。そういう約束ですから。さて、せんせーのコードネームを紹介するので、以後この名前で呼んでください」

 

 と黒板にチョークで書いたのは、

 

 『永遠(とわ)なる疾風(かぜ)運命(さだめ)皇子(おうじ)

 

 ダサい。後、どや顔がむかついたので全員で銃を構えて発砲する。

 結果、殺せんせーは一日『バカなるエロのチキンのタコ』と呼ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてコードネームで呼ぶのも終わった放課後。

 僕は叫んだ。

 

「誰だ!僕のコードネームを『バカゼト』にしたやつ!」

「少し考えれば分かるじゃん。寺坂に決まってるよ」

「お前かぁ!」

「ちょっと待て!俺じゃなへぶっ!?」

「はははっ。実は俺だけどね」

「なっ!これじゃ寺坂を殴り損じゃないか!」

「殴り損って……」

 

 カルマのやつめ。騙すとは汚い。寺坂が犠牲に……なっても仕方ないか。

 

「名前については私も文句有るのだけど!誰よ!私に『永遠の0』ってコードネームをつけて投票したの!」

「あ、それ僕だよ~」

「お前かぁっ!」

「いや~ししょーにお似合いだと思って~」

「どういう意味よ!」

「そのまんまの意味だよ~?」

「こんのぉ……!あ、逃げないでよ!話は終わってないんだからね!」

「あはは~逃げるが勝ち……」

 

 次の瞬間。僕の首根っこは誰かに掴まれた。

 

「ねぇ……バカゼト君」

 

 静かにだが確かにその声は僕を恐怖させた。いや、僕だけじゃない。皆目を合わそうとしてくれない。さっきまで怒ってたししょーでさえもだ。

 

「な、何でしょう……?」

 

 そこには笑顔の鬼がいた。

 

「一体誰かなぁ?私に『有鬼子様』なんてコードネームをつけた人。ねぇ?誰かなぁ?」

「さ、さぁ……」

 

 こればかりは僕も分からない。何故なら犯人は僕ではないからだ!

 

「嘘はよくないよ?正直に吐こうか」

「い、いや僕じゃありませんよ!?これは犯人の巧みな罠です!僕を嵌める為のです!だから違うと僕は主張します!」

「へぇー……」

 

 ヤバい。これ何一つ信じていない目だ。

 

「か、神崎さん。風人君が違うと言ってるし違うんじゃないかな?」

「そうだよ。そこのバカだったらもっと違うコードネームつけてそうだし」

「そ、そうだね。風人君が神崎さんのこと様付けして呼ばないだろうし」

「今回は和光は犯人じゃないんじゃないか?」

「そうだよ。和光君を疑うのはよくないよ」

「皆……!」

 

 教室に残ってた皆が全力で僕のフォローをしてくれる。うんうん!皆分かってくれるんだね。持つべきものは沢山の友人だね!

 

(ごめん神崎さん!神崎さんのコードネーム『有鬼子様』って書いたの実は僕なんだ!)

(あはは……神崎さんのコードネーム。俺が考えた奴って言ったら殺されそう)

(本当にごめん神崎さん!考えていたとき風人君のこと思い出してつい…………)

(((本当にごめんなさい……!)))

 

 後に殺せんせー経由で分かったことだがこのクラスは29人います。先生は3人で、そこから本人を除くので31人がその人のコードネームを考えます。で、『有鬼子様』とコードネームを投票したのは驚異の27人です。つまり、僕と先生三人を除くクラスメイト全員が同じコードネームで投票しており、皆自分が書いたのが当たったと思い込んでこのように罪悪感からフォローしてくれてたのです。酷い話だ。

 ただ、じゃあ、何故有鬼子様と皆が考えたかと聞かれて根本にあるのはと聞かれたら僕の存在である。つまり、僕が悪いと。なるほどなるほど。

 

「……そこまで皆が言うなら」

 

 で、そんな皆の心の中を知らない有鬼子は純粋に証拠もないのに僕を疑うのは可哀想だと思い信じることにしたそうだ。よかった。

 

「じゃあ、風人君はなんて投票したの?」

「え?『鬼ゲーマー』」

「殺す」

 

 どうにも結論の部分は変わらないそうだ。

 『鬼のように強いゲーマー』ではなく純粋に有鬼子の鬼とゲーマーを合わせたコードネームだったが本人はお気に召さなかったようだ。その後僕の身に起きたことは伏せておくが……

 

(((絶対僕/俺/私が書いたってばれないようにしよう……!)))

 

 クラスの仲間の(無自覚での)意思統一は行われたらしい。

 ちなみにだが、有鬼子が僕につけたコードネームは『マイペースゲーマー』僕の持つマイペース。ゲーマーの二つの要素を取り入れたらしい。いや、有鬼子と僕が付けたのそう変わらないじゃん。ゲーマーの前にお互いを示す一言を添えてるだけで。ほら、ということは、僕が一方的にやられるのって間違ってない?ねぇね間違ってない?



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体育祭の時間

 この日。E組男子は集められて体育祭に関する衝撃の事を聞いた。

 

「棒倒しをやるの~?」

 

 夏前の球技大会でもあったがE組は一クラス余るという素適な理由でクラス単位のそういう団体戦と呼ばれるものには通常枠では出場できないのだ。

 じゃあなんでそんなE組が棒倒しをやることになったのか?それは昨日、磯貝君のバイト先に浅野君と金魚の糞たちが襲来。磯貝君に棒倒しでE組がA組に勝ったらバイトのことを見逃してやるよと言ったそうだ。ちなみに、うちの学校はバイト禁止だが、磯貝君の場合は家庭の事情とか諸々で仕方ないと想う。特例を認めても……って、この学校が認める訳がないか。

 

「そうだな」

「ただ、A組男子は28人。対してE組は16人。まず数の上では完全に不公平だね」

 

 棒倒しは男子参加の競技。二倍までいってないけど結構な人数差である。A組がこっちに人数を合わせてくれる……なんて優しいことするくらいならこんなことにはなってないか。

 

「はぁ……俺らに赤っ恥かかせようとする魂胆が丸見えだぜ」

「もし、負けたら磯貝はまたペナルティー。下手すりゃ退学になりかねない。どーすんだよ?」

 

 と、ここで黙っていた磯貝君が動き出す。

 

「いや……やる必要はないよ……みんな。浅野のことだ。何されるか分かったもんじゃない。それに、これは俺が播いた種だ、責任は全部俺が持つ。退学上等!暗殺なんて校舎の外からでも出来るしな!」

 

 その言葉に僕らは思った。

 

「「「いけてねぇわ!全然!」」」

 

 とりあえず全員が手近にあったものを磯貝君に投げつける。カルマは何故か生わさびのチューブを投げつけていた。いや、常備なの?それ。ちなみに僕は手錠だ。

 

「何!自分に酔ってんだ!」

「このアホ毛貧乏!」

「アホ毛貧乏!?」

 

 と一通り物も投げつけ、ついでに新しいコードネームも決まったところで女たらしクソ野郎がアホ毛貧乏に近づいた。

 

「難しく考えんなよ。磯貝」

「前原」

 

 すると、前原は磯貝君の前に対殺せんせー用のナイフをタンっ!と音を立てて置いた。

 

「A組のガリ勉どもに棒倒しで勝てばいいんだろ?」

「むしろバイトがばれてラッキーだったね」

「日頃の恨みをまとめて返すチャンスじゃねぇか」

「倒すどころかへし折ってやろうぜ」

「あはは~皆の前で恥かかせてあげようよ~」

「なぁ?イケメン」

 

 僕らE組男子は前原のおいたナイフに手を添えていく。皆の心は一つ。リーダーがやられて黙っていられるほど僕らのクラスは大人しくない。

 

「お前ら……よし。やろうか!」

「「「おう!」」」

 

 そういえば僕って棒倒しやるの初めてなんだよね~くぅううう。凄い面白そう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしていろいろあったけど体育祭当日。

 とりあえず、個人競技系はほぼ全員参加と選抜者の参加があるので、まぁ、多少出番はあるけど他のクラスみたいに団体種目に出ないのできつくはない。ちなみにほぼ全員参加というのは、人数の関係上全員ではないがそれでもほぼ全員が参加する種目のことである。

 

「100m走か~ありがちだね~」

 

 とりあえず僕の最初の種目は100m走。何故か最後に走らされる組にいる。皆の様子だと、木村君は一番だったけど他の人たちは一緒に陸上部とかが走ることになるとどうしても陸上部には勝てない。普段から走ったりしてるけどやっぱり短距離のエキスパートには勝てないようだ。ちなみに100mって短距離なの?

 

「和光風人か」 

「やっほ~浅野君~」

 

 で、運が悪いことに一緒に走る中には浅野君がいるんだよね~あはは~

 

「君たちは棒倒しで正式に叩き潰してあげるよ」

「あはは~君たちが潰されないといいけどね~」

「ふん。まぁいい」

 

 と僕らはそれぞれスタート位置に立つ。みんなはやそーだなぁー

 

『位置について……よーい!ドン!』

 

 スタートのピストルとともにスタートダッシュを決める。ふははははっ。こっちはよく(リアル)鬼ごっこをして鍛えられてるんだよ。今さら君たちに負けるとでも思うのかい?

 

「おぉぉぉぉ!風人君いいですよ!こっちに笑顔を一つ!」

「いぇーい!」

「そうです!最高ですよ!」

 

(((アイツ余裕そうだなぁ……)))

 

 と何事もなく一番乗り。え?カメラに視線を向けて転べって?いや、芸人じゃあるまいし。

 続いてはパン食い競争。僕は出ません。おいしそーだなぁ。

 

「やっぱり原さんじゃ……」

 

 今走ってるのは原さん。他の人たちが既にパン食べようともがく中彼女はまだパンのあるゾーンに到達してない。足が他の人たちに比べて遅いのだ。

 これはダメかと思ったが、何と原さん。パンのあるゾーンに到達すると一瞬でパンをくわえ……

 

「飲み物よパンは」

 

 パンを食べるゾーンで一瞬で食し、ゴールした。

 

(((かっけぇ……!)))

 

 続いての競技は男女混合二人三脚。男女一組の二人三脚でうちからも何組かエントリーしている。で、多くの人が予想がついているかもしれないこの競技。はい。僕と有鬼子で組んでエントリーしています。

 

「練習したことないけど…………大丈夫かな?」

 

 ちなみに一切練習をしていません。いやねぇ。棒倒しがメインで他の競技のこと忘れてました。あはは~つまり、ぶっつけ本番。

 

「大丈夫だよ~」

「風人君。多分私が足をひっぱちゃうことになると思うけど…………」

「あはは~合わせるから全力で走っていいよ~」

「分かった。離さないからね。風人君のこと」

「はーい」

 

 そういうと僕の腰に手を回して、くっついてくる有鬼子。あれ?さっき前原がペアの岡野さんの腰に手を回してセクハラって走ってる最中に叩かれていたけど。そんなことやりながらも普通に一番だったけど。

 

「僕はどこに手を回せばいいのだろう~?」 

 

 いやねぇ。隣に鬼がいたら逃げたくなるし、もう足繋いだからそもそも逃げられずに殺される。死なないためにはどうすればいいのだろう?

 

「どこでもいいよ?」

「じゃあお言葉に甘えて~」

 

 僕も腰というかそのちょっと上の横っ腹というべきかそこに手を回す。いや、高さ的にちょうど良いし、ここなら誤って胸に手がなんて事態は起こらないだろう。

 

『よーい……ドン!』

 

 スタートダッシュから息が合っていたと思う。まぁ、僕が完全に合わせている状況だが、有鬼子に僕に合わせてというのも酷過ぎる話だろう。

 

「すげぇ。なんだあの二人」

「普段からは想像もつかないね……」

「風人がしっかり合わせている……」

「うまいこと風人を制御している……」

「凄いなあのバカップル……」

「ヌルフフフ。流石としかいいようがありませんね」

 

 結論から言うと一番でした。わぁーい。

 

「お疲れ様」

「有鬼子こそ~お疲れ~」

「頑張ってね。棒倒し」

「うん~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、いよいよ僕らの戦いが始まろうとしていた。

 一個前の種目綱引きではなんと、A組が開始と同時に相対したクラスを全員()()()()()異例の展開に。いや、どこの世界の綱引きだよ。綱引きってそんなんだっけ?

 今日に至るまで糸成Ⅱ号で情報を仕入れてはいたが、その展開に持って行ったのは浅野君が呼んだ四人の外国人助っ人。学校側としては研修留学生ということになっている彼らは圧倒的体格とパワーの持ち主たち。

 

「すごいね~」

「へぇ。びびった?」

 

 隣にいるカルマとのんきに話している。

 

「ううん~だって怒った有鬼子の方が怖いもん~」

 

 あんなのと比較にならない。うんうん。あれはヤバいよ。

 

「ま、奴らの狙いは分かってるからね」

 

 そう彼らの狙いは勝利ではない。偵察の中で彼らの……いや、浅野君の目的は『僕らを徹底的に痛めつけ中間テストには影響を出させること』悲しいことにスポーツマンシップという言葉を彼は知らないらしい。

 

「我らがリーダーについて行けば問題ないでしょ」

「だね~」

 

 と磯貝君の方を見る。

 

「よぉし!いつも通り殺る気で行くぞ!」

「「「おぉっ!」」」

 

 こうしてエキシビションマッチ。棒倒しはスタートするのだった。

 A組VSE組。勝つのはどちらか。



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棒倒しの時間

 とりあえず、整列と挨拶も終わらせ僕らは配置についた。

 

「…………おい……あいつら攻める気あるのか?」

 

 と、ここでA組の金魚の糞のうち理科の方のメガネ(今は眼鏡つけてない)がなんか言ってる。が、無理もない。

 

「攻める奴が一人もいないぞ」

 

 そう。僕らは全員棒のところで集まり棒を支えている。

 その名も完全防御形態陣形である。どやぁ。

 

 パァンッ!

 

 棒倒しに開始の合図。始まるのか~

 

(さぁ!攻めてこい!浅野!)

(……誘い出そうとしてるのか?甘いな)

 

『攻撃部隊、指令Fだ』

  

 浅野君が手を動かすと、1人の外国人を筆頭に数名がこちらへとやってきた。というか英語?というか……ゴリラ?

 

『WooooOOOOOO!』

 

 あ、イノシシだ。イノシシとゴリラのハイブリットだ。

 

「くそが……!」

「無抵抗でやられっかよ!」

 

 と、ここで吉田と村松が飛び出して外国人の……確かケヴィンとか言ったっけ?そいつに向かって突撃する。が、

 

「吉田!村松!」

 

 ケヴィンのタックルによって無情にも客席付近まで飛ばされてしまった。わーお。

 

『亀みたいに守っていないで攻めてきたらどうだ?と言っても通じないか』

 

 へぇ~。通じてるけど?

 

『いいんだよ、これで。今の2人は俺らの中でも最弱だし……御託はいいから攻めてくればぁ?』

『そうそう~たった二人吹き飛ばしたくらいで調子乗らないでよ~』

『ほう。なら……』

 

 挑発に対し、しっかりと突っ込んで来てくれるケヴィン以下数名。それに対し、

 

「今だ!作戦!『触手』!」

 

 僕らは彼らの突撃に合わせて跳び上がる。そして、上から彼らに乗りかかりさらに棒を半分くらい倒して棒の重みで固定する。

 結果7人が棒を固めることに専念している。

 

「両翼攻撃部隊。コマンドKだ!」

 

 と、なんか指示を出して左右から二つの部隊がこっちに突撃してくる。つまり、真ん中が空いたと。

 

「よし!攻撃部隊!作戦『粘液』」

「「「おうっ!」」」

 

 そこにE組の攻撃部隊。磯貝君を筆頭に前原、木村、杉野、岡島、カルマ、僕の七人が突撃していく。

 

「かかったな」

 

 僕らが中央突破を試みると、なんと両翼攻撃部隊が防御に戻るために僕らを追ってきた。で、前には外国人の二人。カミーユとジョゼの二人を筆頭にこちらを待ち構えている。このまま行けば彼らと衝突。とてもじゃないが突破はできないだろう。

 僕らはうなずくと共に、ある場所に逃げ込もうと走り出す。そう、

 

『何でこっちに来るのぉぉおお!??』

 

 観客席である。3ーDの観客席に入り込む僕ら七人と追ってくるA組の攻撃部隊。

 まさしく阿鼻叫喚の大パニック。逃げ惑う観客。巧みに彼らの座ってたパイプ椅子を利用して逃げる僕ら。必死に捕まえようとするA組と二人の大型外国人。

 

『場外を使うな、なんてルールは無かった。来いよ、この学校全部が戦場さ』

『でも、流石に学校全部は広すぎだよ~せめてグラウンドだけだね~』 

『小賢しい……!』

 

 本当に大パニックだなぁ。

 

「橋爪!田中!横川!深追いせずに守備に戻れ!混戦の中から飛び出す奴を警戒するんだ!」

 

 と、ここに飛んでくる冷静な指示。やっぱり、あの司令塔は厄介だなぁ。

 

「赤羽。和光。木村。磯貝の四人には特に注意しろ」

 

 ふむふむ。

 

「あれ~僕もブラックリスト入り?よっと」

 

 迫り来る手をひょいっと躱す。

 

「そりゃあ、風人も警戒人物でしょっと」

 

 時には客席を飛び回り、

 

「あ、ごめんね~」

 

 時には外国人の頭を(物理的に)使ってアクロバティックに躱す。

 そんな事を繰り返す僕ら。多分だけど、そろそろかな?

 

「そろそろいい頃合いじゃね。磯貝」

「ああ。ここまでは作戦通りだ」

 

 磯貝君がそう言った瞬間。A組の棒に向けて走り込む二人の人影。吉田と村松である。負傷退場のふりをして観客席の裏側から回り込んでいたのだ。

 

「逃げるのは終わりだ!行くぞ!『音速』」

「「「よっしゃあぁっ!」」」

「風人!任せたぞ!」

「おっけー」

 

 僕以外の6人がA組の棒に向かって突撃する。え?僕はって?

 

「さぁて、ここから先は通させないよ?特にそこの外国人のお二人さん」

 

 一人残って挑発しますよ。

 ぶっちゃけ脅威は浅野君以外にはあの外国人4人だけ。他の奴らはE組に勝つ可能性は限りなく低い。流石に訓練されてるんだよこっちは。

 で、ケヴィンを押さえ込めた以上残るは3人。そのうち追いかけてきた2人が棒に向かって戻らないようここで僕が足止めする。まぁ、戻らないようというか邪魔されたら困るしね。

 

『はっはっはっ。お前のようなチビ一人が足止めだって?笑わせてくれるな』

『痛い思いする前にママのおっぱいでも飲んでな』

 

 あぁっ……!?

 

『御託はいいんだよ肉の塊ども。ほらほら、来いよ腰抜けどもが!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヌルフフフ。流石風人君ですねぇ。この短期間でフランス語とポルトガル語が少しとはいえ話せるようになっている」

「ふふっ。誰が教えたと思ってるのよ」

「えーっと、風人君雰囲気的に挑発してますよね……なんて言ったんですか?」

「カゼトは『御託はいいんだよ肉の塊ども。ほらほら、来いよ腰抜けどもが!』って言ってるわね。まぁ、その前に思い切り馬鹿にされてたから仕方ないけど」

「…………イリーナ先生。風人君に何を教えたんですか?」

「違うのよ?私は普通の会話だけを教えようとしたのにあの男が『挑発文句が早く知りた~い』っていうもんだから……つい」

「「「…………」」」

「まぁ、相手を怒らせるのも彼の得意分野だが。どうするつもりだ。彼一人であんな二人の相手なんて……」

「ヌルフフフ。安心してください。彼があの二人程度に負けるほど柔な鍛え方はされてませんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ほらほら~?もう終わり~?』

『この野郎……!』

『ちょこまかと』

 

 全く。二人とも母国語が違うせいで実際は同じような言葉をそれぞれの言語に置き換えて言ってあげてるんだよ?そこだけでも感謝してほしいレベルだよ。

 

『レスリングと格闘家か~の割には弱いよ~』

『うるせぇぞガキが!』

『黙ってろこのチビ!』

『同い年だっての!』

 

 カミーユが足を掴みにタックルしてくるのを彼の背中を支えに避け、ジョゼの蹴りとかを近くのA組生徒を盾に避ける。全く、クリーンな試合にするために表面上は暴力が禁止になっている。まぁ、タックルはオッケーだけどうーん。ほんと、やりづらい。

 と、思ってると、棒の方で誰かが悲鳴を上げた。吉田の声だ。見ると、吉田は腕をつかまれるそのまま投げ飛ばされ、そして、

 

「岡島ぁぁあああああっ!」

 

 岡島が顔面を蹴り飛ばされ大きく吹っ飛んだ。無論、演技ではない。

 

『よそ見とはいい度胸だな!』

『このままぶっ殺してやる!』

「しまっ……!」

 

 左右から挟み込むようにカミーユとジョゼの突撃。それに僕は回避反応が遅れ……

 

「なんちゃってー」

 

 ゴンっ! 

 

 ……るわけねぇだろバーカ。誰が勝負の最中によそ見してその上味方がやられて叫ぶよ。

 僕は避けるも勢い余って突撃した二人。一瞬の隙を突いて二人に足払いを仕掛ける。無論ばれないように。そうすれば、周りから見れば二人がぶつかって転んだだけに見える。

 

『君たちの敗因を教えてあげよう』

 

 僕は倒れ込んだ二人を見下しながら言う。

 

『大きく二つ。一つ。殺すという言葉を軽く使ったこと。もう一つ』

 

 僕は最大限の殺気を込めて言い放つ。

 

『僕をチビなガキだと侮り油断したことだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼は相手を騙すことに長けています。それは言葉だけではありません。仕草や見た目から油断を誘い相手を的確に殺す。何もないと思わせておいて実は何かがあったりその逆も然りです。彼のような者を相手するときは冷静である必要がある。そうでないと、散々挑発され大きな隙をさらけ出したとき、無策に突っ込み彼の術中にはまってしまう。全て彼の作戦通りだったわけです」

 

 殺せんせーの解説を聞いた上で倒れた二人の上で座ってる風人君を見る。おそらく何か言われても『別に~座ってるだけで暴力なんて振るってないよ~』って言い返すのが目に見えている。

 そして、Aクラスの残りの人たちは自分たちよりも遙かに強い留学生たちを倒した風人君に恐怖し助け出すことはせず自身の棒へと帰って行く。

 

「浅野君は確かに強い壁です。高いリーダーシップ。的確な策。身体能力に頭脳とあらゆる面で恵まれています」

 

 振り落とされた磯貝君の背中を台にして更にA組の棒に飛びかかっていくE組男子たち。結果棒の方には竹林君と寺坂君のみという結果に……。どうやって支えてるんだろう?

 

「忘れられがちですが、風人君もまた紛れもない天才…………いや、本当に忘れられがちですけど」

 

 普段の言動、行動から忘れられているけど風人君は基本何でもそつなくこなせる。

 

「浅野君のようなリーダーには磯貝君はなれないし、ならなくていい。でも、浅野君とは違って磯貝君には多くの仲間に恵まれています。彼の足りない部分を埋めてくれる存在がたくさんいます」

 

 そして棒倒しは最終局面を迎える。

 

「来い!イトナッ!」

 

 磯貝君が手を組み、そこに向けてイトナ君がダッシュする。そして、磯貝君の手に片足を乗せるとそのまま大きく空へと投げ飛ばす。

 

「ヌルフフフ。故にたった一人が強者であるクラスにうちのクラスが――――」

 

 イトナ君は空中で体勢を整え棒の先端を掴み、全体重をかけて、棒を倒した。

 

「――――負けるわけがありませんよ」

 

 棒倒しは無事E組の勝利で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様。かっこよかったよ」

「ありがとね~」

 

 無事片付けも終わり、浅野君たちも今回の磯貝君の件は不問としてくれた。やったね。

 

「そういえば、さっき下級生の女の子たちから声かけられてなかった?」

「見てたの~?なんかね『かっこよかったです』って言われた~」

 

 うーん。僕がやったことと言えばせいぜいあの外国人を倒したことだけどなぁ~というか僕の印象って二学期最初の全校集会でやばい人でまとまってると思ったんだけど。違ったみたいだね~

 

(どう考えても惚れてた気がするんだけどなぁ……見た目はいいもんね……)

 

「どうしたの~?心配事~?」

「……ちょっとね」

「なになに~教えてよ~」

「ううん。風人君が気にすることじゃないから大丈夫だよ」

「えぇ……でもほら~有鬼子~僕に話したら気が楽になるかもしれないよ~」

「大丈夫。私にはゆとりがあるから。でも、一つだけ」

 

 そういうと僕の目を見てきて、

 

「浮気しないでよ?」

 

 と、告げた。え?浮気?誰と?



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間違う時間

少しずつ動いていきます。


 体育祭も無事終わって数日後。E組全体の評価(ついでに僕個人とかも)が少し上がった今日この頃。

 

「「「さぁさ、皆さん!二週間後は二学期の中間テストですよ!」」」

 

 殺せんせーは分身で大量に増えていた。

 

「「「いよいよA組を超える時が来たのです!」」」

 

 毎回テスト前恒例の殺せんせーによるマンツーマン(色々と違う気がする)勉強である。

 一学期の中間の時よりも分身の数は増え、その分頭のおかしな分身が大量に混ざってる。つまり、成長したのかしてないのか分からないのである。

 

「「「熱く熱く……熱く行きましょう!」」」

「「「暑苦しいわ!」」」

 

 僕は勉強がてらふと窓の外を……

 

「……邪魔だな~」

 

 ……見て感傷に浸りたいのに殺せんせーの分身が壁となって窓の外が見れない。なんて残酷なことをしてくれるんだ。

 10月になって暗殺期限は残り5ヶ月となる。僕はこの10月というのが嫌いだ。理由は察してほしい。

 

「さぁ、風人君!」

「なぁに~?」

「一学期期末で浅野君に負けて神崎さんの胸を借りて泣いてましたね。今回こそはリベンジですよ!」

「今思い出させる事かよ!あぁぁっ!消し去りたい過去なのに!今殺してやろうかこのタコ!」

「ヌルフフフ。今は授業中ですよ。休み時間にならいくらでも付き合ってあげましょう」

「上等だこの野郎!」

 

 休み時間。毎時間のように暗殺を仕掛けたが全部躱される。やっぱり無策でつっこむのはダメかぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、放課後。珍しく皆の下校時間帯が被り多くの人と帰っている。さすがに休み時間で疲れたし、何か策を練らなければ殺せないことくらい今更分かっている。どう殺してやろうかあのタコ……!

 

「風人君!」

「……あ、有鬼子~どうしたの?」

「さっきから声かけても全然反応なかったから」

「ごめん~考え事してた~あはは~」

 

 というかよく見ると皆の空気が重い。え?どうしたの?何かあったの?

 

「でもさ、勉強に集中してる場合かな私たち……あと5ヶ月だよ。暗殺のスキル高める方が優先じゃないの?」

「……んなもん仕方ねーだろ。勉強もやっとかねーとあのタコ来なくなんだからよ」

 

 ああ。矢田さんと寺坂のお陰で分かったよ。なんだ。そんなことか。というか後5ヶ月しかないって言っても、まだ5ヶ月もあるという見方もできなくはないと思う。人の感覚はそれぞれだけどなぁ。

 

「クックックッ。難しく考えんなよお前ら。俺に任せろよ」

 

 何か任せる要素あっただろうか?あの岡島に。

 

「スッキリ出来るグッドアイデアを思いついたからよ」

 

 うーん…………はっ!

 

「ダメだよ岡島!」

「ど、どうした風人?」

「中間テストをなくすために学校を破壊するつもりでしょ!それはよくないよ!」

「んなことするかぁ!」

「……え?しないの?」

 

 おかしい。彼ならやりかねないと思ってたのに。

 

「とにかくついてこいって」

 

 で、岡島に案内される僕ら。ついた場所は丘。すると、目の前には何かの建物の屋上部分が見える。……え?ここどこ?

 

「ここは……?」

「最近開拓した通学路だよ」

 

 僕には道に見えないけど……どの辺りが通学路だろうか。

 

「こっからフリーランニングで建物の屋根を伝ってくと、ほとんど地面に降りずに隣駅の前まで到達出来る。今日から皆でここを行こうぜ、通学するだけで訓練になるなんて一石二鳥だろ?」

「えぇ~……危なくない?もし落ちたらに……」

「そうだよ……()()とか()()とかも怖いし……」 

 

 怪我……事故…………うぅっ。

 

「それに烏間先生も裏山以外でやるなって言ってたでしょ?」

「へーきだって!行ってみたけど難しい場所はひとつも無かった。鍛えてきた今の俺らなら楽勝だって!」

「……うーん……岡島、やっぱりマズイんじゃないか?」

「いーじゃねーか磯貝!勉強を邪魔せず暗殺力も向上できる。2本の刃を同時に磨く、殺せんせーの理想とするところだろ!」

「確かにそうだね」

「だろ?なぁ、風人もこういうの面白そうだろ?」

「…………ふざけるな」

「「「……え?」」」

 

 その発せられた言葉に驚く一同。

 

「おいおい。びびってんのかよ風人」

 

 パシッ

 

「さわんな」

 

 オレの手は寺坂の手を振り払った。

 

「オレは帰る。別にお前らがなにしようが勝手だが…………ふざけたことはやんなよ」

 

 そして、そのまま背を向けて帰る。

 

「あ、待ってよ。風人君……!」

 

 後ろから誰かついてきたが知らない。

 

「何だよアイツ。急にキレて意味分かんねぇ」

「ねー。でも和光君はいいよね。私たちより頭良いし、暗殺力もあるし」

「どうせ、明日には『面白そ~』とか言って混ざってくるだろ」

「まぁ、あいつのマイペースさは放っておいて行こうぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってよ。風人君!」

 

 私は急にキレた彼を追い掛ける。

 私の予想……というか、皆と同じだけど風人君は絶対について行くと思った。別にフリーランニングの技術はあの面子の中なら間違いなくトップクラスだし何より彼は面白そうなことに目がない。絶対ついて行こうとするから引っ張ってでも止めようかそれとも私もついて行こうかどうしようか迷ってた。でも、断るのもましてキレるのも想定外だった。一体どうしたのだろう?

 するとふと足を止め、辺りを見渡し始めた風人君。

 

「風人君?」

「有鬼子……」

 

 そして私の名前を呼んで振り返り……

 

「ここ……どこ…………?」

「え、えぇぇ……?」

 

 涙目で彼はそうつぶやいた。ちょっと待って。今の今まで何の迷いもなく進んでいたよね……?

 

「……中三で迷子になって泣くって……はぁ。ほら手を出して?」

「……折るつもり?」

「違うからね!?」

 

 思わず叫んでしまう。まさか、手を繋ごうとして手を出してって言ったのに返答がそう来るとは思わなかった。さすがに予想外……。

 

「行くよ」

「はーい……」

 

 結局手を引く形になる……が。何か今日の風人君は様子がおかしい。どうしたのだろう?

 で手を引いて歩き、知ってる道に出ると、

 

「おぉー!何か帰ってきた気がする!」

 

 とりあえず迷子でなくなったことに安心したようだ。本当に反応が幼い子と変わらないことに少しあきれてしまう。

 

「ねぇ、風人君。なんで急にキレたの?」

「…………え?僕怒ってないよ~?」

「え……?」

「何か急に頭が痛くなって……気付いたらさっきのところにいた……」

 

 ちょっと待って。今の風人君から嘘偽りを一切感じない。純粋な本音だ。…………まさか、それって、

 

「ちょっと待って。()()()()覚えているの?」

「岡島があの丘に皆を連れて行って……そこから曖昧に……」

「じゃあ、寺坂君の手を払ったのは?」

「……え?誰か払ったの?」

 

 …………やっぱり。

 私の中でパズルのピースが少しずつ埋まっていく感じがした。原因は……一つしかない。でも、ちょっと待って。原因は分かっているのに分からない。何でこんなことが急にそれも今起きているの?

 

「ねぇ。途中で一人称が『オレ』に変わってたの気付いた?」

「???僕は変えて話してないよ~?そもそも岡島に連れられてから僕は一言もしゃべってないし~」

 

 無自覚の人格変更。更にその間の記憶が飛んでいる……。

 夏休みの終わり。風人君の過去の話を聞いて、風人君の中には後、二つ――女装を含めると三つとか増えるけどあれは違うと思う――の人格がある。人格とまでは行かなくとも人にはそれぞれいくつか裏の顔というのがあると思う。だから、別に人格がいくつか有ること事態は正常で、風人君の場合はそれを完全に制御していた。

 だけど、もしこれが続いたりしたら……。私の想像通りなら……いや、まだ結論づけるのは早い。

 

「どうかしたの~?」

「う、ううん。何でもないよ」

 

 風人君の中の人格が解離し始めてる……いや、もしかしたら本人の気付かないところではもう……。

 そして翌日。私は風人君の懸念が嫌な形で当たってしまったことを知ることになる。



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びふぉーの時間

 次の日の朝。私は風人君と普通に登校した。

 

「おっはよ~……あれ?」

 

 風人君は挨拶をしながら疑問に思う。それもそうだ。まだ早い時間とは言え人が()()()少ないのだ。

 

「人少なくない~?集団サボり~?」

「それは違いますよ」

 

 と、後ろから現れたのは殺せんせーと、

 

「別に遅刻しないのに…………多分」

 

 カルマ君だ。

 

「これで全員ですね」

 

 先生は何を言ってるのだろう?全員と言いながら半数以上いないような……

 

「まず、昨日ここにいない人たちが起こしてしまったことをお話します」

 

 そう言って、殺せんせーの話を聞くと……どうやらあの後岡島君たちは自転車に乗ったおじいさんと衝突し、二週間の入院を余儀なくさせたらしい。

 で、私たちはこれからの二週間二つのことをする。一つは中間テスト勉強の禁止。もう一つがそのおじいさんの代わりとなって働くことだ。

 

「後、今からビンタをします」

「「「え?何で?」」」

「も、もちろん威力は抑えます!全員平等に扱わないと不公平ですので……」

 

 変なところでこだわる先生だ。でも、風人君とかカルマ君とかがなんか言いそうだけど……。

 

「せんせー。僕、心の準備まだだから最後の方にして~」

「あー俺も。ちょっと準備したいから最後に回しといて」

 

 彼らは何を言ってるのだろう?先生もそう思ったけどとりあえず本人たちの希望を叶えるべく順番は最後になった。なんだろう?威力は抑えるって言ってるんだから心の準備も何もないと思うんだけど……

 

「許してください」

 

 もち

 

「許してください」

 

 もち

 

 そして、音だけでも分かるもっちりビンタが始まった。もはやビンタではないと思う。

 

「許してください」

 

 もち

 

 私の順番が回り、ビンタされたけど全く痛くない。何か柔らかいものが触ったな程度だ。

 そして、順番は回っていき、心の準備とやらを済ませた風人君とカルマ君の前へ立つ先生。

 

「許してくだ……どんな格好してるんですか君たちは!?」

『普通だよ。ね~カルマ』

『そうそう。ほらほらビンタはいいの?』

 

 …………二人はガスマスクをつけていた。

 確かに皆頬をぶたれて(?)いるから、先生の言う平等にするためには彼らも頬にビンタしないといけないのだけど……

 

「明らかに何か仕込んでますよね!?」

『そんなことないよ~たまたま律が落としたガスマスクをつけているだけだよ~』

『そうそう。たまたま対殺せんせー物質でできてるだけだから。安心していいよ』

 

 それはたまたまではない。必然だ。

 こういうずる賢いというか……卑劣というか……そういうのを見るとやっぱり頭の回転は早いんだろうなぁ。

 結果として、この二人のせいで、触手の何本かが破壊され時間も取られたことを記す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず僕ら無関係組はせんせーに連れられわかばパークってところに。

 

「というわけで今日から園長先生に代わって中学生のお兄さんお姉さんたちが来てくれました」

「「「はぁーい!」」」

 

 子どもがいっぱいだなぁ。やれやれ。

 

「遊ぼうよー」

「ねぇね。お兄さんー」

「遊ぼ!」

 

 何故か一瞬にして僕の周りに何人かの子どもが集まる。

 

「はぁ……何で僕って子どもに好かれやすいんだろ~?」

 

(((精神年齢が近いからだろ!)))

 

 昔からとまでは行かないが何故か僕は子どもに好かれやすかったりなつかれやすい。不思議な話だ。

 とまぁ適当に相手していると、

 

「で何やってくれるわけおたくら?大挙して押しかけてくれちゃって……減った酸素分の仕事くらいはできるんでしょーねぇ」

 

(((なかなかとんがった子もいらっしゃる)))

 

「やべぇ。さくら姐さんがご機嫌斜めだ」

「ああ」

「今まで見たこともないくらいだ」

「殺されるぞお兄さんたち」

「入所五年の最年長者」

「並ぶものなきここのボス」

「学校の支配を拒み続けること実に二年」

「「「エリートニートのさくら姐さんに殺られるぞ」」」

 

 決まったな。

 

「おまえら急にスイッチ入ったな!」

「カッコ良く言ってるけど要するに不登校だろ!」

「てか和光まで息ぴったりじゃねぇか!」

「適応能力高すぎだろお前!」

 

 と外野がガヤガヤ言ってる中、我らがさくら姐さんはほうきを持った。

 

「働く根性あんのかどうか、試してやろーじゃないの!」

 

 そして一番近くにいた渚に襲いかかる!……が、床が崩壊し、そこに落ちた。

 

「「「暴力では何も解決しない。哀れとしかいいようがないな」」」

「もう何もいえねぇよお前らの変わり身の早さと」

「極々自然に和光が混ざってることも」

「はっ。本当にバッカみたいね」

 

 と、ここで背後から声がする。

 

「な、なんてことだ……!」

「さくら姐さんに続くここの女帝……!」

「「あおい姐さん!」」

「フンっ。くだらない。あなたたちのやってることも……ねぇ。そこのバカそうなお兄さん」

 

 と、僕の方を指さしてきたので後ろを向く。ああ、なるほど。

 

「寺坂~あおい姐さんがお呼びだよ~」

「バカか!呼ばれてんのはテメェだよ!」

「そっ。私が呼んだのはあなたよ」 

 

 えぇ……

 

「そんなにバカそうに見える~?」

「もの凄く」

 

 酷いなぁ。

 

「ねぇお兄さん。勝負しましょう。私が勝ったらお兄さんはここにいる間、私の下僕ね」

「僕が勝ったら~?」

「特に決めてない。まぁ、私が勝つから気にしなくていいよ」

 

 えぇー……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、29人で2週間あるので、いろいろできるのではと考えた僕たちE組。いくつかの大まかなグループに分けられ、僕は調理班だったんだけど…………

 

「ひぐっ…………」

「よしよし~」

「な、泣いてない……ひぐっ」

 

 泣き出したあおい姐さんをなだめていた。

 いやね。勝負をふっかけてきたのはいいんだけど勝負内容が勉強だったんだよ。まぁ、中三に舐めてるとは思ったけど意外にもこの子は勉強ができたんだよね~あはは。さすがに負けはしなかったけど勝ったらこれである。

 天才で相当な負けず嫌い……かぁ。

 

「かーぜーとー君?」

 

 少し懐かしむ感覚を上書きするこのゾクッとする感覚。

 僕はその姿を確認するとともに弁明を始めた。

 

「あ、いやこれはその……」

「なぁに泣かせてるのかなぁ……?」

 

 割と近くの方で遊んでいた男の子や女の子がこちらに注目する。錯覚だよね?彼女の後ろ髪が地味にあがっているのは錯覚だよね?

 

「ひぃいいい。誰か……た、助けて……!」

 

 あまりの恐怖に不覚にも子どもに助けを求める僕。

 いやね。あれだよ。僕も世間一般から見れば子どもって事で手を打ちましょう。

 

「やべぇ。あのお兄さん殺されるぞ」

「ごくり。さっきの演劇以上にリアルだ……」

「こ、これが『しゅらば』なのね」

「は、初めてみた……」

 

 違うんだ君たち。これは決して見世物じゃないんだ。さっき寺坂やカルマたちがやってたような演劇じゃないんだ。リアルなんだ。

 と、ここで勇敢にも鬼に立ち向かう勇者がいた。

 

「お、お兄さんは悪くない!」

「ね、姐さん!」

 

 小学四年生の勇者は中学三年生の鬼に立ち向かう。

 

「ごめんねあおいちゃん。そこにいる私の彼氏とちょっとオハナシするだけだから」

「「「か、彼氏だって!?」」」

「こんな子どもっぽいお兄さんがお姉さんの彼氏!?」

「見た目以外釣り合ってるように見えねぇ……」

「ほ、本当の『しゅらば』だった……!」

「これは見物ね……!」

 

 なるほど。君たち。自分たちの発言が全員僕の求めているものと違う方を向いていることに気付いてくれ。いえ、気付いてくださいお願いします。

 

「わ、渡さない!このお兄さんは私のだもん!」

 

 おかしい。さっき僕勝ったよね?ね?

 

「あの~」

「「風人君/お兄さんは黙ってて!」」

「…………はい」

 

(((このお兄さん弱っ!てか、立場低っ!)))

 

 違うんだ君たち。決して僕が弱いんじゃない。彼女たちが強いんだ。後、男の子たち。そんな可哀想な子を見るような感じで見るんじゃない。君たちもこうなるぞ?

 こうして『正妻VS愛人』を思わせるような(実際は彼女と小四の女子)戦いは僕がお昼ご飯を作りに行くと抜け出すまで続いたのだった。ちなみに、しっかり誤解は解いておきました。本当だよ?



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あふたーの時間

時系列は高校生で放課後の帰り道だと思ってください。

『ハロウィン』

「とりっくおあとりーと」
「どうしたの風人君?」
「ふふん!今日はハロウィンだよ!だからとりっくおあとりーと!」
「なるほど。まぁ、そう言うと思って準備はしておいたよ。はい」
「わぁ~い」
「へぇ。たくさんもらったんだね」
「うん~皆くれたんだよ~」

(それって子供扱いされてるんじゃ……)

「あれ?仮装はしなくていいの?」
「今日は学校だったから~さすがに仮装しては行けないよ~」
「常識があってよかった……」
「まぁ、有鬼子のように日頃から仮装はしてないです」
「私が日頃から仮装?」
「そうそう~有鬼子の本性は廃人鬼畜ゲーマーなのに学校では優等生の仮面を被って……」
「…………(´ω`#)」
「…………(´・ω・`;) 」
「風人君?」
「…………なんでしょう」
DEATH or DIE?
「……………………ごめんなさい」

(笑顔で言われても怖いけど真顔で言われても怖い……なんでこんなにうちの彼女は怖いんだ……!)

「はぁ。冗談だよ」

(絶対嘘だぁ……!)

「Trick or treat」
「へ?」
「Trick or treat」
「え、えーっと、貰ったお菓子なら……」
「つまり、風人君自身はお菓子を用意していないんだね(⌒-⌒)」

(嫌な予感……)

「じゃあ、たっぷりいたずらしてあげるからね……ふふっ」
「ちょ、それは何かがおかし……んんっ!?」












 この後風人の身にどんないたずらがされたかはご想像にお任せするとしよう。


 あれから気付けば二週間が経ちました。

 最初は険悪(というよりも有鬼子の誤解)だったあおいちゃんと有鬼子も普通に仲良くなり、僕はあおいちゃんに勉強を教えながらご飯を作りながら年少組の相手をしていました。あれ?意外に働き過ぎじゃない?僕。

 

「何じゃこりゃぁぁあ!」

 

 とここでおじいさんの驚く声が聞こえる。なるほど。あの人が松方さんか。

 

『E組の裏山から間伐した木と廃材を集めて作られた木造住宅。窮屈で貧弱だった保育施設は広くて頑丈な多目的空間に』

 

 あれ?何か聞こえる気がする。ナレーションか。

 

「なんと……たった2週間で……」

 

 想像以上の出来栄えに思わず呟くおじいさん。ここの従業員は少し前のことを思い出しながら言った。

 

「まるで鳶職人みたいでしたよ。休まず機敏に飛び回っていたので」

 

 ちなみに僕は建築には一切関わっていない。さすがに建築までしたら(物理的に)身体が足りないです。最近、ちょっとお疲れ気味なのに……。

 

「それじゃ次は二階を案内しますね」

 

 磯貝君の誘導で僕らは階段を上る。二階の部屋は大きく二部屋に分かれていた。

 

「時間と資材が限られていたので単純な構造にしました」

「後、近所を回って読まなくなった子ども向けの本をもらってきたんです」

 

 片方は図書室みたいな場所。うん。すごいいい感じだと思う。

 で、もう片方の部屋に目を向けると中は室内遊技場となっており、現在進行形で子どもたちが元気よく遊んでいる。

 

『ネットやマットを入念に敷き安全性を確保。雨に濡れない室内なので腐食や錆で道具が脆くなることもありません』

 

(こいつら……)

 

「最後に職員室兼ガレージへ案内します」

「………ガレージじゃと?」

 

 そう言って一階のとある一室に案内する。すると、そこにはあの日壊れて見るも無惨だったおじいさんの自転車がイトナ君と吉田の手によって改ぞ……改良され電動三輪自転車となっていた。

  

『上の部屋の回転遊具が三輪自転車の充電器と繋がっています。走行分の大半は遊具をこげばまかなえる計算です』

「つまり子どもたちがたくさん遊ぶほど園長先生が助かる仕組みってわけだね~」

 

 ほんと、気付いたら色んなものができていてびっくりだよ~

 

「う……上手く出来すぎとる!お前らの手際が良すぎて逆にちょっと気持ちも悪い!」

 

 叫んだ松方おじいさん。少し息を荒げると、自転車のであるものに気付く。

 

「な、なんじゃこれは!?」

「おじーさんの古い入れ歯を再利用した自転車ベルだよ~あ、ちなみに僕が考えたよ?」 

「そんな匠の気遣いいらんし!」

 

 再び息を荒げるおじいさん。しかし、荒げる息を整えると今度は鋭い目つきで僕らに言った。

 

「だが、ここで最も重要なのは建築でもモノを充実させることでもない。子どもたちと寄り添い心を通わせることだ。それができていないのであれば、この2週間働いたとは認めんぞ」

 

 さすが園長先生。子供第一だね~でもま、そっちの方が心配ないんだよね~

 

「おーい渚」

「風人お兄さん」

 

 とさくら姐さんが渚の方に、あおいちゃんは僕の方に来る。

 

「100点」

「おぉー偉い偉い~よしよし」

「こ、これぐらい普通。だからなでるなぁ!」

 

 そっぽを向くあおいちゃん。 

 この子が不登校になっているのは学校がつまらないからだそうだ。この子は天才肌で、学力だけなら現時点で寺坂のちょい下くらいある。そんな彼女からすれば周りは格下ばっかで何も学ぶことがない。そう思うとだんだん学校へ行く意味が薄れてきたそうだ。

 そんな彼女に僕はこう言った。『自由でいいんじゃない?』と。

 僕は別に行きたくないなら行かなければいいと思う。大事なのは行きたいって思ったときに行ける環境が用意されているかということだろう。

 

「どう~?ちょっとは面白そうなことありそう?」

「お兄さんを見ていた方が面白いことが起きる」

「酷いなぁ~」

「でも、学校にはまた別の面白さがありそう……」

「まぁ、気長に行こうよ~」

「うん!で、いつかお兄さんにも勝つからね!」

「あはは~勝てるといいね~」

 

 僕らの和やかな会話。向こうでも渚がすごい無自覚にさくら姐さんをオとしていた。

 

「……クソガキ共がまったく……文句のひとつも出てこんわ」

「園長先生!」

「先生!」

 

 松方のおじいさんは悔しそうにそう言うと、駆け寄っていった二人の頭を撫で僕たちに言う。

 

「もとよりおまえさんたちの秘密なんぞ興味は無い。ワシの頭は自分の仕事で一杯だからな。おまえさんたちもさっさと学校に戻らんか。大事な仕事があるんだろ?」

「「「……はい!」」」

 

 いい人だなぁ松方さん。

 …………ところで、中間テストっていつだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 テストを返却された渚、杉野、岡島の三人が暗い表情で帰路についているのが、後ろを振り返るとよく見える。有鬼子はって?何か殺せんせーと話がしたいって残っていったよ?

 すると、彼らの後方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「拍子抜けだったなぁ」

「やっぱり前回のはマグレだったようだね~」 

「棒倒しで潰すまでもなかったな」

 

 その奥にいたのは総合1位を取った浅野君と金魚の糞たちだった。

 

「言葉も出ないねぇ……まぁ当然だけどな!ギシシシシ」

「この学校では成績が全て……下の者は上に対して発言権は無いからね」

 

 そう言うと金魚の糞たちはゲスな笑みを浮かべ彼らを見下し始める。よぉし、まざろぉー

 

「へーぇ、じゃあんたらは俺に何も言えないわけね」

「僕にもね~あはは~」

 

 金魚の糞たちの後ろからカルマが。渚たちの前から僕が現れる。

 

「まーどうせうちの担任は、1位じゃないからダメですねぇ~とか言うんだろーけど」

 

 赤羽業 492点 学年3位

 

「ふふん~その点僕は心配ないね~」

 

 和光風人 493点 学年1位タイ

 

「カルマ君……風人君も」

「気付いてないの?今回本気でやったの俺と風人だけだよ?」

「それも知らずに大口叩いて~ぷくく~恥ずかしいね~」

「ま、毎回お前らも負けてたら立場ないだろうからね」

「僕らの優しさに感謝してよね~」

 

 あはは~悔しそうな顔が凄いこっち見てる。

 

「でも、次のテストは皆も容赦しない。俺たちが同じ土俵で戦える最後の場だからね」

「あれ~?三学期は?」

「あー風人は転校生だから知らないんだ。AからD組は基本内部進学。俺たちE組は受験だから学年末テストは内容が違うんだよ」

「ほへぇ~」

「行こうぜ渚君」

「そうだね~帰ろうよ皆で~」

 

 ということで、僕らは帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「烏間先生……迷惑かけてすいませんでした」」」

「これも仕事だ気にしなくていい」

 

 そして翌日の朝、僕らは職員室で烏間先生にあらためて謝罪していた。しかし、烏間先生は口では言いつつも目はパソコンに向けられ一切こちらを見ようとしない。

 

「君たちはどうだ?今回の事は暗殺にも勉強にも大きなロスになったと思うがそこから何が学べたか?」

 

 烏間先生からの問い。その問いに誰よりも先に渚が口を開き答えた。

 

「…………強くなるのは自分の為だと思ってました。殺す力を身に付けるのは名誉とお金のため。学力を身に付けるのは成績のため」

 

 確かにそれもあるかもしれないね。

 

「でも身に付けたその力は他人のために使えるんだって思い出しました。殺す力を身に付ければ地球を救える……学力を身に付ければ誰かを助けれる」

 

 渚は僕とカルマの方を向いてそう続けて言った。カルマも僕も特に誰かを救ったつもりはない。あんなのただの気まぐれだし、真実を伝えただけだし。

 

「もう下手な使い方しないっす」

「気を付けるよ……いろいろ」

 

 渚の後に岡島と前原も答えた。その表情には反省の色が見え、烏間先生は1つ頷くと席から立ち上がる。

 

「考えはよくわかった。だが、()()()()では高度な訓練は再開させることは出来ない」

「「「え!?」」」

 

 どういうことだろう?と思ってると烏間先生は1着のジャージを机の上に出す。そのジャージは股下が破けて、さらに至るところに穴が開いてる。うわぁ。ボロボロだなぁ。

 

「あ、それ……俺のジャージだ」

 

 なるほど。お前のか。

 

「ハードになる訓練と暗殺に学校のジャージではもはや耐えられん。ボロボロになれば親御さんにも怪しまれるし君たちの安全を守れない。そこで俺たちからのプレゼントだ。今日を境に君たちは心も体もまた強くなる」

 

 そう言うと職員室に防衛省の人たちが大きな段ボールを運び、中から新しい体育着を取り出す。

 

「本日より体育はそれを着て行うものとする。先に言っておく。それより強い体育着は地球上に存在しないぞ」

 

 皆が各々の感想を抱きながら新しい体育着に着替え終える。そうやら衝撃耐性引っ張り耐性切断耐性耐火性などなどあらゆる面で最高クラスだそうだ。

 僕の感想?そんなの決まってるじゃん♪

 

「凄い……かっこいい……!」

 

 僕のテンションは最高潮だった。



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プレゼントの時間

 次の日。

 

「すやぁ……」

「風人君……連れてくる意味あった?」

 

 カルマ君の背中で気持ちよさそうに寝ている風人君を指して渚君が聞きます。

 

「何か最近寝ても寝ても疲れがとれないんだって」

「よし、そっとしておこう」

「ねぇ誰かこいつ持つの変わってよ」

 

 私たち修学旅行の四班組の七人は買い出しに来ていました。

 昨日。あれから新しい体操服を貰った私たちは、殺せんせーの前で性能の披露をし、答えは暗殺で返すと言った。そしてその後には、ビッチ先生がこの女子の超体育着のデザインを考えるのに一役買っていたことが発覚。まぁ、ビッチ先生の初期案は水着みたいなので……ぶっちゃけ何も守れてないと思うが。

 そして発覚したのはもう一つ。ビッチ先生の誕生日が実は私たちがわかばパークで働いていたときに過ぎていたことだ。しかも烏間先生はその時に誕生日プレゼントを渡さずビッチ先生もそれで不満を漏らしていた。

 そんなわけで、素直になれない大人のために南の島の時のようにくっつけ大作戦をやろうって話である。

 

「だってなぁ……」

 

 今さっきまで前原君から連絡担当の杉野君に現状報告がなされていた。

 教室では今、ビッチ先生と烏間先生の引き離しとビッチ先生の足止め……というか時間稼ぎ?が成功したとのこと。つまり、後はプレゼント購入係の私たちの働きにかかっているというわけなのだが……

 

「ビッチ先生。大概のモノもらったことあるからなぁ」

「難しいね」

「クラスのカンパは5000円ちょっと。これで大人の女性一人を喜ばせるプレゼントなんて……」

 

 厳しいのは仕方ない。私たち中学生が出せるお金なんて決まっていますからね。

 

「ねぇ。君たち。あの後大丈夫だったかい?」

 

 と、ここで急に話しかけてきた青年。……あの後?あの後って一体……?

 

「ほら。おじいさんの足の怪我」

「ああ。救急車を呼んでくれた……」

 

 なるほど。この方が救急車を。

 

「はい。けがの方も今は治って……あの時はありがとうございました」

「それはよかった。ところで、プレゼントとか大人にふさわしいとか聞こえたんだけど……」

「はい」 

「なら、こういうのはどうだい?」

 

 すると花屋さんは私に綺麗な花を一本差し出してきた。受け取って見てもやっぱり綺麗な花だ……。

 

「たった1週間程度で枯れるものに数千~数万も使うなんてって思うかも知れないけど、実はブランド物よりもずっと贅沢なんだよ。人の心なんて色々。このご時世、プレゼントなんて選び放題なのに……未だに花が第一線で通用するのは何故だと思う?」

 

 そう言われて少し考えます。うーん……。

 

「心だけじゃない。色……形……香り……そして儚さが人間の本能にピッタリと当てはまるからさ」

 

 凄い説得力のある言葉だ。

 

「すごい演説だったよ。電卓さえなかったら文句無しの完璧だったのにねぇ」

「ははは。一応商売だからね……目を瞑ってくれると嬉しいな」

 

 カルマ君の言葉に花屋の人は電卓をポケットに仕舞いながら苦笑いを浮かべる。

 

「でもどーする?今だったら花の縁と言うのもあって特別に安くしとくよ?」

 

 考えるまでもなく私たちの心は決まってました。

 

「ふぁああああ」

 

 とここでカルマ君の背中から大きなあくびが。

 

「やっと起きた?バカゼト」

「あぁ?……あーオレは起きたな」

 

 そしてカルマ君の背中から降りる風人君……え?……オレは……?

 

「で?アンタ誰?」

「そっか。風人君は寝てたしあの場にいなかったから知らないんだね。この人はこの前の松方さんの時、救急車を呼んでくれた親切な花屋さんだよ」

「ふーん」

 

 (見るからに)興味なさそうに聞き流す……が、その目は確かに花屋さんの方を見ている。

 

「で?アンタ何者?」

 

 そして、今度は何故か花屋さんをにらむように……腹の内を探るように声を出す。

 

「もう寝ぼけてるでしょ」

「ごめんなさい。この人は凄いマイペースなので」

「ははっ。気にしなくていいよ」

 

 こっちの人格の風人君は、いくらなんでも初対面の人に警戒心むき出し過ぎだ。普通の花屋さんなのに。

 

「あっそ」

 

 片手であくびを押さえながらもやはり警戒心は解かれていない様子だった。

 

「じゃあ、これにします」

 

 でも、もう買い物そのものは終わってるのでお金と商品の花束を交換して、

 

「毎度あり」

「ありがとうございました」

 

 私たちはこの場を立ち去りました。……未だ警戒を解かない風人君を連れて。うーん。何だろう。あの花屋さんを警戒する理由は分からない。でも、風人君は風人君。誰に対しても警戒心をあらわにすることはしないはずだから……?一体風人君は何を考えているんだろう?

 

(あれが、和光風人……情報とはまるで別人だったな。だが、奴だけは僕の中に不信感を感じていたようだ。まぁいい。どのみち彼は何をしてくるか分からないんだ。ああいう何をするか予測不能なタイプは早めに手を打った方がいい。そうでないと計画に支障しかきたさないだろうな) 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん~よく寝た気がする~あれ?買い物は~?」

「もう終わったよ?」

「へぇ~何買ったの?」

「花束だよ」

 

 花束?ほへぇ~なんか意外。

 

「でも、風人君。寝起きとは言えあんな態度はダメだと思うよ?」

「へ?態度って何ですか?ししょー」

「え?覚えてないの?花屋の店員さんに向かって『アンタ誰?』って言ったんだよ?」

「うーん……記憶にないな~そんなこと言ったの?」

「思い切り言ってたよ?何か寝起きの不機嫌そうな感じで」

 

 ダメだ。全然思い出せない。うーん……?

 

「そ、それよりも早く烏間先生に渡してこよ?」

「そうだね」

 

 有鬼子が会話を続けさせたくないと言わんばかりに僕らの話を切った。うーん。ま、気のせいかな?

 で、外にいるビッチ先生に見つからないように職員室に入る僕ら。

 

「イリーナに誕生日の花束?何故俺が?君らが渡したほうがあいつも喜ぶだろ?」

 

 可哀想なビッチ先生だ。今の聞かれてたら泣くよ?あの人。 

 

「烏間先生。あのビッチが必要な戦力だと思うなら、同僚の人心掌握も責任者の仕事じゃね?」

 

 おぉ。カルマがそれっぽいこと言ってる。

 

「あ、俺らが用意したのはナイショで」

 

 そう言われて烏間先生も納得し、花束を持っていった。

 で、僕らは職員室から出ると、ステージを次の段階に移行する。

 外でビッチ先生を相手していた組は用事があるとか何とか言って帰った。

 と口では言っても、本当に帰ったわけではいない、僕らと同様に職員室の近くで聞き耳を立てている。

 ビッチ先生はひとりぼっちになり、そのまま職員室に戻ると、そこには烏間先生がいた。

 

「ちょっと聞いてよカラスマ!ガキ共が……」

「丁度いい、イリーナ。誕生日おめでとう」

 

 突然の事態に、ビッチ先生は困惑している。 

 

「…………え?うそ。アンタが……?」

「遅れてすまなかった。色々と忙しくてな」

 

 ビッチ先生は嬉しそうに花束を貰う。

 

「まさか、なんか企んでたりしてないでしょーね?」

「バカ言え。祝いたいのは本心だ。恐らくは最初で最後の誕生日祝いだしな」

「え…………?何よ、最初で最後って」

 

 ビッチ先生は一転して冷めた口調で言うと、烏間先生は話を続ける。……あれ?空気が想像と違う方に向かってない?

 

「当然だ。任務を終えるか地球が終わるか。2つに1つ。どちらにせよあと半年もしないで終わるんだからな」

 

 ビッチ先生は悔しそうに、そして悲しそうに烏間先生を見て、そのまま窓のほうまで歩いて来た。あれ?やばくない?

 そう思ってると思いっきり窓を開け、こそこそと隠れて見ていた僕らを冷たい目で見下すビッチ先生。

 

「……こんなことだろうと思ったわ」

 

 と言うと、ビッチ先生は本物の拳銃を取り出し、発砲した。

  

「おかげで目が覚めたわ。最高のプレゼントありがと、カラスマ」

 

 そう言葉を残し、ビッチ先生は花束を烏間先生に返した上で、荷物を持って去ってしまった。

 

「烏間先生、流石にアレは無いと思うんですけど……」

「まさか、まだ気づいてないんですか!?」

「そこまで俺が鈍く見えるか?」

「見えますよ~?」

「……………………」

「というか一言も二言も余計なんじゃないですか~?」

 

(((いやそれはお前だからな!))) 

 

「まったく困りまいてっ!」

「はいはい。ちょっと静かにしていようね」

 

 うぅ……黙らせるために暴力振るうなんて……酷い話だ。 

  

「非情と思われても仕方ないが、あのまま冷静さを欠き続けるのなら、俺は他の暗殺者を雇う。色恋で鈍るような刃なら、ここで仕事をする資格は無い……それだけのことだ」

 

 そしてその日を境にビッチ先生は学校に来なくなってしまった。



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現れる時間

 ビッチ先生がいなくなって今日で数日が経過した。

 先生がいなくなったというのは私たちの空気をほんの少しとはいえ重くさせるのに充分だった。

 6時間目が終了し放課後。烏間先生はバックを持って帰ろうとしていた。

 

「烏間先生!任務というのは分かりますが……!」

「……殺し屋の面接がある。先に帰るぞ」

「か、烏間先生!」 

「一つ言っておく。これは地球を救う任務。君たちの場合は中学生らしく過ごしてもいいが、俺や彼女は経験を積んだプロ。情けは無用だ」

 

 そう言って出て行ってしまった烏間先生。

 あの人は私たちには優しい面を見せてくれる。でも、自分やビッチ先生、部下の人たちなど大人に対しては厳しい人だ。

 

「もし、イリーナ先生に動きがあったら呼んでくださいね。先生はブラジルにサッカー観戦に行ってくるので!」

 

 と、マッハで飛び立つ殺せんせー。今日はサッカーの決勝戦がブラジルで行われるらしい。それに前々から見に行くと張り切っていた。

 烏間先生も殺せんせーもどこかに行ってしまい残ったのは私たちE組のクラスメートだけ。

 

「ビッチ先生。大丈夫かな?」

「ダメ。電話も繋がらない」

『GPSや公共の監視カメラにも気配がありません』 

 

 律でさえお手上げな状態。これでは探そうに探せない。

 

「まさか、こんなんでさよならとか無いよな」

「そんなこと無いよ。彼女にはまだやってもらうことがある」

 

 優しい声が聞こえる。何か、その声を聞くと安心する感じだ。

 

「だよねー。何だかんだ一緒にいたら楽しいもん」

 

 そして、さっき千葉君に答えた彼は言う。  

 

「そう。君たちと彼女との間には充分な絆が出来ている。それは既に下調べで確認済み。僕はそれを利用させてもらうだけ」

 

 その人が答えるとともに教卓の上に花束を置く。

 

「「「…………!?」」」

 

 その瞬間、()()()()私たちは気付いた。その男の人が私たちの教室に入ってきたことに。あまりにも普通に混ざってきていて全く気付かなかった。

 

「僕は『死神』と呼ばれている殺し屋です。今から、君たちに授業をします」

 

 驚きのあまり声が出せない。いつから私たちの教室に?どこから会話に参加した?何の違和感も感じなかった……いや、違和感を感じさせなかったと言うべきか。

 

「花はその美しさにより、人の警戒心を解き、心を開きます。渚君。君たちに言ったようにね」

 

 そして、そのさりげなく入ってきたのはあの時の花屋さんということに気付く。

 

「でも、花が美しく芳しく進化してきた本来の目的は虫をおびき寄せるため」

 

 すると、律に送られる一通のメールが。

 

「律さん、画像を表示して」

 

 そして律の本体に表示された画像。そこには拘束されたビッチ先生が。

 

「「「ビッチ先生!?」」」  

「手短に言います。彼女の命を守りたければ先生たちとここに居ない和光風人君には絶対に言わず。18時までに君たちだけで僕が指定する場所に来なさい」

 

 黒板には簡易的な人の絵と何本かの線が。

 

「別に来なくても構わない。その時は、小分けにして全員に届けます。そして、次の花は、君たち、E組の生徒のうちの誰かに送るでしょう」

 

 何も言わなくとも黒板の絵の意味は分かった。

 そして、この人が恐ろしいことを言ってるのも。でも、何で……何でこの人の声を聞いて安心してしまってるの?何で警戒ができないの?

 

「ははっ」

 

 そしてその人は笑った。

 

「やっぱり。和光風人君がいないだけで話がスムーズに進む。どうにも彼には僕の話術とかは効かないみたいだからね。正解だったよ」

「「「…………っ!」」」

 

 買い出しに行っていた私たちは全員思い出す。

 あの時の風人君の妙な発言。妙な態度。…………なんて感覚をしてるんだ……流石とかそういうレベルじゃないだろう。私たちは結局一切の違和感さえ感じられず風人君がおかしいと結論付けて終わらせたと言うのに。

 

「ねぇ……まさか風人が今日休みなのってアンタの仕業?」 

 

 カルマ君が聞く……が、それは今回ばかりは違っている。

 

「それは違います。カルマ君。和光風人君はお墓参りに行っています。今日は彼にとって大切な幼馴染みの命日だからね……と僕が言ってもこんな状況では信じてくれないだろう。というわけで今のに嘘はあったかい?神崎さん」

 

 こちらに振ってくる。どうにも情報が行き渡ってるようだ。

 

「嘘はないです。彼の言ったとおり風人君は幼馴染みの二周忌で休みなの」

「「「…………っ!」」」 

 

 別の意味で驚きが走る。当然だ。あの風人君がまさかそんな理由で休んでるなんて思いもしなかっただろうから。

 

「おうおう。勝手に色々としゃべってくれてよぉ。俺らはあんなビッチ。別に助ける義理ないんだぜ?」

 

 寺坂君、吉田君、村松君の三人組が死神の前に立つ。

 

「第一、ここで俺らにボコられるとは考えなかったのか?」

「不正解です。寺坂君。それらは全部間違ってます」

 

 全部……?

 

「君たちは自分たちで思ってる以上に彼女が好きだ。どれだけ話し合おうとも『見捨てる』という結論には至らないだろうね。そして……」

 

 死神は花束の花を真上に上げる。当然ながら花が空中に舞った。

 

「人間が死神を刈り取ることなどできはしない。畏れるなかれ、死神が人間を刈り取るのみだ」

 

 その言葉を残して死神は消えた。 

 そして教卓には地図が残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから私たちは誕生日の花束の中に盗聴器を発見した。死神が先生二人と風人君がいなくなるこのタイミングを狙ったのだと分かった。おそらく風人君の場合は日程が合わなければ別の手段で排除していただろうが……そんなたられば話はスルーしておこう。

 その後、超体育着を全員身につけて死神の指定する場所に移動。潜入をし、一回は捕まるも脱走に成功する。

 だが、そこからが問題だった。死神は私たちとは次元が違う強さで、戦闘系の人たちは全員やられた。また、ビッチ先生の裏切りによって救出に行った私たちのグループも全滅する。

 結果的に、全員が首輪型の爆弾を付けられ、両手に手錠をさせられ別の檻のような牢屋に入れられた。

 

「練習台はもう結構。あとはもう人質でいればいいよ」

「はぁ。結局お前らだけで片付いたのかよ」

 

 牢屋の外には死神とビッチ先生ともう一人フードを被って顔を隠している男がいる。あの男は誰?

 

「まぁま。君は保険だからね」

「へいへい。和光風人が来たら起こしてくれ」

 

 そう言って壁にもたれかかり腕を組む。目元は確認できないため、本当に寝ようとしているかまでは分からない。

 

「彼は呼ぶつもりなかったんだけどなぁ……まぁいっか」

 

 私たち全員が拘束された事を確認すると、死神はタブレットを開いた。

 

「さて、次は烏間先生と和光風人君だ。風人君はともかく烏間先生なら君たちよりかは良い練習台になるだろう」

「……ん、これは……」

 

 隣でカルマ君が小声で呟く。見ている先は……モニター?監視カメラの映像が見られ…………あ。

 

「死神さーん。モニター見てみなよ。あんたまた計算違いしたみたいだねー」

「……………なぜわかった?」

「さーね。なんかあったんでしょ」

 

 そこに写っていたのは犬の変装をした殺せんせーと烏間先生。そして、風人君だった。



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墓参りの時間

 今日は多くの人にとってはなんてこともない平日。何か特別なことがあるわけでなく、ただ過ぎていく他の日と何ら変わらない日。でも、僕に……いや、僕らにとってはただの過ぎていくような日ではない。

 

「大丈夫?」

「涼香こそ」

 

 今日は千影の命日。

 僕らは制服には着替えたが学校には行かない。二年目の命日……三回忌の日。別に超遅刻してなら学校に行けないことはないが……僕も涼香もこんな日に学校なんて行く気はない。流石に精神的に来るものがある。親たちもそれを分かっているため、無理に行かせるつもりもない。

 

「あなたたち……一ヶ月ぶりね……」

「そうですね……千秋さん。あれ?俊昭さんは……?」

「ごめんなさいね……あの人外せない用事があるらしいの。最近もちょくちょく遅かったし……きっと忙しいのよ」

「いえ仕方ないですよ……」

 

 実の娘の命日に外せない用事があるなんて……そんなに重要なことなんだろうか……?まぁいい。社会とはそんな都合よくいくものじゃない。そんなこと考えても仕方ないな。

 この三回忌には千影の家族以外には僕と涼香だけ。それはそうだ。そんな大所帯でやることでもないし、そんなの千影は望んでいないだろう。

 

「……安心して。大丈夫よ」

 

 千秋さんが声をかけてくる。

 去年の一周忌。僕は……いや涼香もだがまだ自分の心に整理が何一つついておらず千影のお墓の前で泣き崩れて何時間も動けなくなってしまうことがあった。

 ならこの一年でそういうことは起こさないようになったかと聞かれれば僕はまだ無理だと思う。心の中の整理が少しずつついた……けどそれは多分違う。そんなのはただのまやかし。少しはついてもどうしても彼女の死は僕らに大きな穴を開けてしまう。

 彼女が何故死ななければならなかったのか。僕の中にある些細な違和感。真犯人がいるのは分かっている。分かっていてもそれがどこの誰かが分からない以上、このたまった感情の矛先はどこにも向けれずただただ押し殺している。押し殺しすぎて僕の中にその感情がどれだけのものなのか。いまいち分からない。

 

『それでは、はじめさせていただきます』

 

 普段の僕ならここで寝ていただろう。しかも最近は何故か寝ても寝ても足りなくむしろ疲れている錯覚に陥っている。きっと、この日が近づいていることを心のどこかで考えてしまいそのせいで本当の意味で眠れていないのだろう。

 だが、眠るなんてことはしない。千影の家族の前とかは一切関係ない。ただ、そんなのは彼女に失礼だし、そもそもこの心に睡魔なんて襲ってくる余地はどこにもなかった。僕の今の心に襲ってきている睡魔は無力。何も眠たさなんて感じない。そう、この圧倒的な悲しさ以外何もかもが無力だ……。

 僕はあと何回彼女の死を考えるだろう。今日だけで何回この気持ちになるだろう。

 そんな中で嫌な思考がよぎる。もし殺せんせーが地球を爆発してくれれば楽だろうって。当然僕は死ぬだろう。地球上の生命は皆滅びるだろう。でもそうすれば僕の追い求めている真犯人もどこかで死んで、もし地獄が存在すればそこで断罪を受けるだろう。そうすれば僕の目的は果たせるんだ。

 …………でも、ダメなんだ。そんなことを願ってしまっては僕は何のためにこの3年E組で暗殺者になっているか。何のために僕があの教室にいるのか。分からなくなってしまうから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……」

 

 三回忌も終わり最後に千影のお墓の前にいる僕ら。日は既に傾き、もうすぐ暗闇が訪れる。

 僕は泣いている涼香に胸を貸しながら、ただ千影のお墓を見ていた。そこに千影はいない。分かってる。分かってるのにそこをずっと見続ける。ダメだ。ダメなんだ。

 

「強くなったね……」

 

 千秋さんが声をかけてくる。僕は泣いてはいるが去年のように泣き崩れていない。

 去年は自己嫌悪と哀しみが入り交じった涙だった。僕は目の前で大切な幼馴染みを失った。僕が守れなかった。守る力がなかったと自分を責め、ただ千影に謝り続ける涙と失ってしまった悲しみの涙。ごちゃ混ぜになって押し寄せた感情が涙となって流れ続けていた。

 だが、今年は違った。感覚として自己嫌悪の方が何故かなくなっている。開き直った?そういうわけではないが、ただ自分の無力さを責めるような感情は湧いてこなかった。今あるのはただ失った悲しみだけだ。

 

「そういうわけじゃないです…………」

 

 去年との違いはもう一つある。きっと、僕がここに来る前に感情をさらけ出した。だからその分は軽くなってるのだろう。たったそれだけのことだ。そう。たった……

 

「でも、ダメなんだ……」

 

 ずっと支えてもらう。そう言うのは簡単でも実際は難しい。支えている側がいつか自分とあらゆる重みで折れてしまう。今は折れなくても蓄積されいつかは。だから支え合う必要がある……でも、僕には支えるなんて出来ない。

 僕はただの弱者。何の力も持てず一人で立つことすら出来ない弱者。あの教室で誰よりも弱く……誰よりも脆い。そういう人間なんだ。

 

「すみません……」

 

 あれから気付けば時間は経ち真っ暗に。僕は涼香を置いて、少し離れた場所に移動する。

 

「…………何の用?せんせー。…………僕そんな気分じゃないんだけど……」

 

 無論電話は電源オフにしておいた。ただ、僕はかなり特殊な環境にある。ないとは思うが万が一何かあってもいいよう、三回忌そのものが終わったときにバイブレーションだけありにしておいた。

 そして、振動を感じ、スマホを開けると殺せんせーからの着信だった。きっと、僕が墓参りって知ってるから精神的なケアをしようと思ったのだろう。教師バカならやりそうなことだ…………とてつもなくいらないお世話だが。

 

『よ、よかった……!』

「はぁ?」

 

 何がよかったのかさっぱりよくない。後、僕は全くよくない。

 

「……切るよ」

 

 僕は通話を切ろうと――

 

『ま、待ってください。君だけなんです』

 

 ――して止まる。僕だけ?何が。

 

『君以外の既に全員に電話を試してみたんです。しかし、君以外全員に電話が繋がらないです』

 

 全員……?目的とかはともかく、結果だけ見るとおかしくはないか?

 確かに一人や二人なら分かる。通知を切っていたり気付かなかったりしたのだろう。だが、全員ダメ?それに僕以外全員というと律を除くとしても27人いる。その27人全員と連絡が取れなくなったというのか?しかも27人目に電話をかける頃には最初にかけた人が折り返しなりなんなりで連絡が取れてもいいはず。それすらないのはどう考えても不自然だ。

 

「何が起きてるの?」

『分かりません』

 

 ふぅー一回頭を切り替えろ。

 

「烏間先生には?」

『連絡済みです。君の前に連絡しましたので君を迎えに行く手はずを整えていると思います』

 

 そっか。僕だけは今日に限っては居場所が割れてるか。

 

「じゃあ、合流してみる。せんせーは?」

『私はダッシュでブラジルから戻ります』

「わかった」

 

 そう言って電話を切る僕。その後烏間先生に連絡をして落ち合う場所を決めた。

 

「ごめんね。ちょっと行ってくるよ…………千影」

 

 僕はお墓に向き直り謝ると涼香に用事ができたとメッセージを送りその場を立ち去った。



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潜入の時間

 そして僕はあの後烏間先生、殺せんせーと合流。教室を見てきた烏間先生が言うには超体育着が僕以外全員分なくなっていたとのこと。後は花びらと花が落ちていただけだそうだ。

 

「生徒を人質に取ったか」

 

 で、あの後落ちていた花の匂いとか僕ら生徒の匂いを頼りにここまでやって来た僕ら三人。

 

「おそらくは」

「厄介な人たちに限ってそういうのやるよね~」

 

 夏休みの鷹岡だったり、後は少し違うけどこの前のシロだったり。厄介な人たちに限って殺せんせーを狙わずまず僕ら生徒を狙ってくる。本当に迷惑な話だ。

 

「行きますよ」

「ああ」

「うん~!」

 

 と言っても今日は手錠も何もないただの制服姿なんだよね……武器ゼロだけど大丈夫かな?まぁ、この人たちがいればよっぽど大丈夫だと思うけど。

 

「そうだ。潜入して何があるか分かりません。風人君。トランシーバーアプリをONにしておいてください」

「はーい」

 

 言われた通りONにしてズボンのポケットにしまっておく。

 先行するは烏間先生。銃を構えて警戒万全。その後を僕がついて行き、殺せんせーは僕らを守るように細かく移動しながら着いてくる。

 

 バタン!

 

 そして扉を開けて入ると急に扉が閉まった。そして、

 

「部屋が……下がってる?」

 

 部屋全体が動き出しているみたい。どうなってるんだろう?エレベーターみたいだね。

 そして、徐々に下に降りていくと何かが見えてきた。あれは……

 

「ビッチ先生!?」

「イリーナ!」

「イリーナ先生!」

 

 ビッチ先生と銃を持った男……

 

「アンタ誰?」

 

 誰この人?

 

「お前は!この前の花屋………!お前が首謀者か?」

 

 花屋さん? 

 

「そうだよ。聞いたことないかい?『死神』の名を」

 

 ヤバい。名前知らんけどこの人は今まで会った奴らと格が違う。というか不思議な感覚だ。気配がぼかされてこの男の全容が捉えられない。

 

「彼女と生徒全員の首に爆弾をつけた」

 

 僕らの方にビッチ先生がこちらへ押し出されて倒れ込む。ビッチ先生の首には首輪のようなもの。手には枷が……逃がすつもりはないてことか。

 

「僕の指示1つで直ぐに爆破できる」

「随分と強引な方法ですね……人質で脅せば、私が素直に死んでくれると?」

「さぁ?どうだろうね」 

 

 なんだこいつ。あの銃二つが怪しいけど……他に仲間は誰もいないのか?

 

 プシュッ!

 

 なにかが放たれた音が響く。は?こいつは何もしてないはず。一体誰が、

 

「な…………!」

 

 そう思ってビッチ先生の方を見る。彼女の手枷から小さな銃砲が見える。

 そして、僕らが動揺している間に彼女は何かのスイッチを押す。

 ビッチ先生によって撃たれた触手。スイッチが押されるのと同時に殺せんせーの立っている床が大きく開く。度重なる想定外(イレギュラー)に僕はもちろん。烏間先生も殺せんせーも反応が遅れた。

 

「殺せんせー!」

 

 落ちていくせんせーは必死に触手を伸ばし床をつかもうとするも、

 

 パァンッ!

 

 伸ばした触手ははじかれる。次々と伸ばしていく触手だが、全て、

 

 パァンッ!パァンッ!パァンッ!

 

 はじかれる。完全に見切ってる。見切った上で撃ってる。嘘だろこいつ……。いくら初速からマッハ20が出ないと言ってもこのスピードが見えてるのかよ。

 そして一番下に落ちたと思われるせんせー。そこから皆の声がする。

 

「僕らも行こうか。お別れの言葉を言いに」

 

 その言葉はビッチ先生だけでなく、僕や烏間先生に向けて言われた言葉でもあるだろう。死神に促されるがまま後をついて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……?」

 

 僕らが降りていくとそこには殺せんせーと僕以外のE組のクラスメートたちが牢屋の中に入っていた。

 

「ここは洪水対策で作った国の放水通路さ……ひそかに僕のアジトとつなげておいたけどね。地上にある操作室を使えば、近くの川から毎秒で200tの水量がここを一杯にする」

 

 ……はぁ?ちょ、ちょっと待て!

 

「その水圧で対先生用に作ったこの牢屋の鉄格子でところてん状にするって寸法さ」

「それって、皆も巻き添えってこと!?」

「その通りだクソガキ」

 

 そう応えたのは、見張り役かは知らないけど死神の後ろに立つフードを被った男だった。

 

「まぁ仕方ねぇさ。こいつの策通りなんだからな。このガキどもは諦めろ」

 

 淡々とした口調で残酷なことを言いつけてくる。

 

「イリーナ!お前それを知ってる上で……!」

「プロとして結果優先で動いただけよ。カラスマ、あんたの望んでいた通りにしてあげただけよ」

「…………!」

 

 状況としては最悪……だね。

 

「さて、急ごうか。来いイリーナ、今から操作室を占拠して水を流す」

 

 でもどうする?僕一人でどうにかなる次元じゃない。こいつら二人ともヤバい。その上人質に放水路に……ああもう。

 と、ここで、水を流しに行こうとした死神の肩をつかんだ烏間先生。

 

「確かに多少手荒になってしまったことは認めよう。でも、この地球を救う、最大のチャンスをみすみす見逃せって言うのかな?」

 

 そして一息つくとともに、裏拳を死神にかました。

 

「日本政府の見解を告げる……この場にいる28人の生徒の命は地球より重い。それでもお前が彼らごと殺すというなら……俺が止める」

「「「烏間先生!」」」

「か、かっけぇ……!」

「ほう……」

 

 凄いなこの人。やべぇわ。

 

「それとイリーナ。プロってのはそんな気楽なもんじゃないぞ」

「……え?」

 

(なるほど。烏間を殺すには予定より時間がかかりそうだ。こいつはおそらく足止めしないしここは)

 

 次の瞬間、僕らに背を向けて逃げる死神。

 

「待て!」

「ま……!」

 

 とっさに殺気を感じ、飛んできた拳を腕をクロスさせガードする。くっ。痛いな。

 

「おっと、テメェは行かせねぇよ」

「ッチ。先生~ここは任せてください」

「烏間先生!トランシーバーをONに!」

 

 一瞬足を止めるもそのままダッシュで追いかけていく烏間先生。

 

「和光風人だな?」

「……そうだけど~何で知ってるの~?」

「何で知ってるか?クククッ。ハハハハッ!」

 

 急に笑い出す目の前の男。え?なにこいつ。壊れた?

 

「俺の顔を見てもそれは言えるか?なぁ――――風人君?」

 

 フードがとられ露わになるその顔。

 

「あ、アンタは……!」

 

 その顔には見覚えしかなかった。

 

「よう。約一ヶ月ぶりだな」

「な、なんでここにアンタがいるんだ!答えろ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――竹原先生!」

 

 僕の目の前にいるのはかつての担任。一体なんでここに……?

 

「せ、先生!?」

「ああ、そうだよ。俺は和光風人君の元担任。なぁ?」

「……口調も違うようだけど?」

「ああ。あれな。自分でも反吐が出る真面目さだろ?こっちが素だ」

 

 後頭部をかく竹原先生……。

 

「で?意味ない質問だろうが……なんで竹原先生(アンタ)がここにいる?」

「クククッ。ああ、和光風人。お前に最後の授業をしにきてやったよ」

「最後の……授業だと?」

「そうですよ?風人君」

 

 するといつも聞いてきた喋り方というか声の調子、トーンになって言う。

 

「さて、今日僕が行う授業は大きく二つです。『和泉千影の死の真相』と『和光風人のぶっ壊し方』の二つです。さぁ、君にとって最後の授業です。冥土の土産にしていってくださいね」

 

 だが、喋り方がきれいなだけで言ってることはふざけてやがる。

 てか、ちょっと待て…………

 

「千影の……死の真相だと?テメェ!何を知ってやがる!」

「授業に積極的でよろしい。じゃあ、最初の質問です。『和泉千影を殺した真犯人は誰でしょう?』」

 

 微笑みかけながらそんなふざけた質問をする。こんな状況でこの質問。その答えなんてたった一人に決まってんじゃねぇか。

 

「テメェか……!テメェがやったのかぁ!」

「はははっ。大正解だよクソガキ」

「テメェが……千影の人生を奪った……!」 

 

 

 

 

 

 ――――ドクン

 

 

 

 

 途端黒く染まっていく感覚が僕を支配する。

 

 

 

 

 

 ――――ドクン

 

 

 

 

 もうこの黒の浸食は止まらない。

 

 

 

 

 ――――ドクン

 

 

 

 

 もうこの黒さ以外に何もない。

 

 

 

 

 ――――ドクン

 

 

 

 

 …………あるのはこいつへの醜い復讐心だけだ。



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真実の時間

 風人君の元担任が……千影さん殺しの真犯人?

 

「ハハハッ!安心しろ和光風人!テメェが壊れる前に全部教えてやるから楽しみにしな!」

 

 笑う竹原と呼ばれてた男。

 それに対し風人君の纏う空気は一変していた。

 

「……ざけんなよ……!」

「いけない!風人君!落ち着きなさい!」

「……テメェは……テメェだけは……!ぜってぇ許さねぇ…………!!」

「へぇ~許さない……ねぇ?じゃあ、どうするんだ?」

「オレがお前を…………コロス」

 

 風人君から溢れ出すドス黒い感情の波。醜く暗く冷たい殺気が辺り一帯を支配し、誰も口を開けなくなるようなプレッシャーが感じる。私たちに向けられてないはずなのに、私たちは恐怖で震えてしまう。

 

「はははっ」

 

 その男は笑った。風人君から向けられている殺気がなんともないように笑った

 

「じゃあ、第二問だ『俺は誰でしょう?』」

「んなの知るかよ!」

 

 風人君が強襲する。だが、それを軽くあしらって壁に向かって投げ飛ばした。

 

「ガハッ!」

「不正解っと。仕方ねぇな。じゃ、自己紹介しときますか」

 

 な、何なのこいつ……まるでペースがつかめない。いや、それだけじゃない。この男……恐ろしく怖い。殺意で怖いとかそういう問題じゃない。ただ、狂いすぎてる。あの鷹岡よりも恐ろしい勢いで狂っている……!

 

「俺は自称『ガキ専門の殺人鬼』。裏では『ジョーカー』って呼ばれてる」

 

 さ、殺人鬼……!?

 

「ってもよぉ。俺は美学ある殺人鬼だ。そんじょそこらの殺人鬼と一緒にされちゃ困るがなぁ」

 

 ゲラゲラと笑うジョーカ-。殺人鬼に美学……何を言ってるの?

 

「ガキは面白れぇよ?痛めつけがいがあるし、殺そうと思えば簡単に殺せる弱い存在だ。加えて、そのガキが死んだときの親や友人の反応がまた滑稽でよ」

 

 ガンッ

 

「……黙れよ」

 

 近くのコンクリートの壁に拳を叩きつけて威圧する風人君。向けられているはずの殺気。だがジョーカーはなんともないのか話を続けた。

 

「和光風人もさ。和泉千影をトラックにはねさせた時なんか爆笑でさぁ。はははっ。お前らにも見せてやりたかったぜ。このガキの泣き叫ぶ姿を」

「黙れって言ってんだろうがああああああぁぁぁっ!!」

 

 完全にキレてる。人格の入れ替わりなんて関係なしにもう殺意や怒気を含む復讐心しか残ってない。

 風人君が一瞬でジョーカーに近づき拳を突き出す。だが、

 

「おせぇよ!」

「グッ……!」

 

 拳を避けると腹部に膝蹴りを入れ、風人君は膝をつく。嘘。風人君が戦闘で……?

 

「んじゃ、場所変更。俺もそろそろ行こうかな?ここだと死神の奴が巻き添えにしそうだし」

 

 そう言って歩き出すジョーカー。そして、上へと繋がる扉の前で、

 

「さぁて、ついてくるよなぁ?和光風人」

 

 振り返って挑発するような笑み浮かべ、去って行った。

 

「…………コロス……!」

「風人君!あの男を相手にするだけ無駄です!あの男は脱出した後私がやります。だから……!」

「止めんなタコ!オレは千影の敵討ちをする!誰が何と言おうと…………オレがアイツを殺す!」

 

 風人君は立ち上がると同時にジョーカーを追って消えた。

 

「いけない!あのままでは……!」

 

 しかし、今の風人君に私たちの声は届かない。

 

「フン、彼らを倒すなんて無謀ね。確かにカラスマも人間離れしてるけど、死神はそれ以上よ?それに、カゼトの方も。ジョーカーはあんな風に性格と思考こそ底辺のゴミクズだけど実力は十二分にある。勝ち目はゼロよ」

 

 首についてる爆弾を外し、冷徹な表情で言うビッチ先生。

 

「ビッチ先生……」

 

 すると、カルマ君が嘲笑うように口を開いた。

 

「怖くなったんでしょ?こんなゆるい学校生活に慣れ親しんで、殺し屋の感覚を忘れかけてきて。俺ら殺してアピールしたいんでしょ?私は冷徹な暗殺者ってね」

 

 その言葉にビッチ先生は苛立ち、牢屋に向かって爆弾を投げつけ叫んだ。

 

「うるさい!アンタらに私の何が分かるってんのよ!考えたことなかったのよ!こんなフツーな世界を楽しむことに!弟や妹みたいな奴らと遊んで、恋愛の事で相談したり、悩んだり……そんなの違う、私が過ごす世界はそんな眩しい世界じゃないのよ」

 

 どこか板挟み状態になってるように感じる言葉。先生の中でも何か葛藤があるように思える。 

 すると、何か通信が入ったようで走り去っていくビッチ先生。

 壁にあるモニターを見ると、一つには烏間先生が扉を開けようとしているところ。別のモニターには向き合う風人君とジョーカーが映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここなら大丈夫だろ」

 

 怒れる風人を前にしても笑みを浮かべるその男、ジョーカーは続けて言った。

 

「さぁ。お前はいつまで壊れずに持つかなぁ?」

「殺す!」

 

 風人は男の懐に入り込みそのまま拳を突き出そうとして、

 

「おせぇよ!」

「グハッ!?」

 

 その拳が当たる前に膝蹴りによって後ろに飛ばされる。

 

「あぁ。今からするのは授業中の雑談だから聞き流していいぞ?俺はさ。基本は間接的に人を殺すんだよ」

 

 ジョーカーは話をする。キレてる風人の耳には一切届いていないがそんなのどうでもいいようで、話続ける。

 

「直接は手を下さない。お前らの時みたいにただ押しただけとか、精神的に追い込むだけとか。ああ、後は不良どもをけしかけたこともあったな」

 

 その間も風人は何度も攻撃を仕掛けるが全て軽くあしらわれ、手痛い反撃を喰らう。

 

「よくやるのは精神破壊だな」

「耳障りなんだよ!」

「なら耳でも塞いでろっと!」

 

 突っ込んでくる風人に対して横に半歩ずれて避けるとがら空きとなった背中に回し蹴りを決める。

 

「さてさて。なら授業再開がてらの第三問『なぜこんなに時間をかけているでしょう?』ああ。答えは二つあるからね」

 

 時折芝居がかった口調で風人に話しかけるジョーカー。

 

「知るかよ!」

「不正解です」

 

 その瞬間、風人は蹴り飛ばされる。

 

「正解は君をじっくり壊していくためと君が絶望するのを見るため」

 

 そして、倒れていたところを頭をつかんで無理矢理立たせる。

 

「俺が好きな顔っていくつもあんだよ。怒りにまみれた顔。殺意むき出しの顔。反抗的な顔。憎しみを隠しきれない顔。でもそれらは一番じゃない。一番はな…………絶望に染まった顔さ」

 

 ジョーカーは顔を歪ませ、風人に笑いかけるように話す。

 

「もう少ししたら死神が水を流してあの牢屋の連中は死ぬ。きっともがき苦しむだろうなぁ。中学生二十何人かがすぐには死なず、苦しみながらじわりじわりと死んでゆく……想像するだけで興奮しねぇか?で、テメェはそいつら(クラスメイト)を失った絶望で顔をゆがめる。生きる気を失わせる。正気のない顔も想像するだけで溜まらねぇよなぁ!」

 

 そのまま床にたたきつける。

 

「ハハハッ!死神と組んだのもその表情を見るためだ!あぁ、でも残念。あんなに大勢のガキを死神に殺させるのはもったいない。俺にもあのガキを何人か分けてほしいぐらいだ。なぁ。そうは思わないか?」

 

 倒れ込む風人に向けてにやついた笑みを浮かべる。

 

「カハッ!……んなこと知るかよ……!」

 

 拳を地面に叩きつけてふらふらになりながらも立ち上がる。

 

「大体分けられたやつがいたところで……何する気だクソ野郎」

「あははっ。なんだなんだ?興味津々か?」

「…………」

「おっと、これは違ったな。返答次第じゃ二度と口も開けなくしてやるって感じか」

 

 風人は肯定も否定もしない。ただただ睨みつけている。

 

「そうだな。テメェみたいにじっくり壊すのも楽しいだろうなぁ。拷問まがいのことをしてから殺すのも一興。ああ、女なら強姦して、心と身体を壊して自殺に追い込むのも楽しいな。それにあいつらには首輪(爆弾)ついてるし、俺には絶対逆らえねぇ。なんだ、完璧じゃねぇか。夢が膨らむなぁ?おい」

「やっぱり…………テメェは生きる価値ゼロだ……な!」

 

 鋭い蹴りを繰り出す風人。だが、それも受け止められてしまう。

 

「おぉっ?なんだぁ。今のクラスメイトたちがそんな風に扱われる想像でもしたのか?」

「なわけ……!」

 

 しかし、その止められた足を軸に回転し、そのまま蹴りを顔面に向けて放つ。

 

「ははっ。そうだ。ここで第四問」

 

 が、支えとしていた足を離され、ジョーカーは簡単に避けた。

 

「『君は何故椚ヶ丘でエンドのE組に落とされたでしょう?』」

 

 一瞬風人は固まる。突然質問の方向性が大きく変わったからだ。

 しかも、風人の中ではそんなこと推測できていたこと。そんなの風人自身の素行不良さが原因で理事長が落とした。今更過ぎてしかも自分の中で答えが出ている風人は固まるしかない。

 

「正解は、俺が仕組んだからでしたぁ」

「は……?」

 

 思わず疑問を口に出す風人。

 

「お前不思議に感じてなかったのか?クククッ。そりゃぁ思い当たる節でもあったんだろうなぁ」

「どういうことだぁっ!」

「俺はお前の元担任だぜ?お前が転校するのが椚ヶ丘って聞いたときになぁ。向こうに成績とか送らないといけなかったんだよ。これは理事長に聞いたんだけどよぉ。そのままの成績とかの資料を送っただけではお前はA組に入れたらしいんだわ。それじゃあつまらねぇ。だから成績を改ざんしてやったさ」

 

 風人は理解が追いつかなかった。いいや。この逝かれた思考を理解したくなかった。

 

「なぁに。いじったのは欠席数だけさ」

「…………っ!」

 

 ここで風人は怒りの中矛盾に気付く。

 それは夏休み。理事長室で理事長が風人に向けて言ったこと。

 

『君は中間テスト総合学年五位。期末テスト総合学年二位。学力は充分。授業の欠課も()()()()()()()()()()()()()()()本校舎復帰……君の場合は本校舎へ行くか。その権利をもうすでに持っている』

 

 当時の風人は何も思わずスルーした。しかし、今となっては無視できない。

 風人は授業を確かにサボっていた。だが、授業自体は出席していたはずだ。つまり、欠課扱いにはならないはず。だがこの言い方ではまるでが欠課が無視できないくらい多かったようではないか。そんなの授業を出ていたのにありえない。

 しかも欠席数と言っても欠席数は重要である。当然、この男だから理由の方には理由なし、遠回しにサボりと書くだろう。そう書かれては進学校側は素行不良とみなす。風人自身にサボり癖があるせいで些細な矛盾に気付かなかった。

 

「だが、E組で暗殺やってるのは想定外もいいとこだ。ッチ。落ちこぼれクラスで一緒に劣等感を味わっていればよかったものがよぉ」

 

 悪態をつくジョーカー。ジョーカー側の唯一にして最大の誤算は殺せんせーの存在。彼のせいで風人が思わぬ方向に成長していたのだ。

 

「おっと。今の問答で君の殺意が減ったか?面白くねぇので特別問題。君の同級生で行方不明者が何人かいるのは知ってるよね?さて『彼らはどうなったでしょう?』」

「あぁ!?テメェが糸を引いてやがったのか!」

「あはは。君なら俺が和泉千影殺しの真犯人ってことから簡単に推測できたと思うけどなぁ。安心しろ。あそこで近年起きていた小学生から高校生の絡む事件や死の裏には大概俺がいるからな」

「何が安心しろだぁ!何人に手をだしゃ気が済むんだテメェは!?」

「気が済む?はははっ。俺は貪欲な人間さ。俺のこの欲望は満たされることはねぇよ。一生なぁ」

 

 狂気の塊。

 風人の殺気にジョーカーも当てられ続けているが、ジョーカーのこの常人と逸脱した狂気に風人も当てられ続けている。

 風人は微塵も理解できなかった。この男の思考が一切分からなかった。

 

「ははっ。というわけで答え合わせだ!特別に見せてやるよ!」

 

 そして風人の背後の扉から現れた数人の男女。全員風人と同じくらいの年齢だ。

 

「なっ……!」

 

 風人は目を見開いた。

 いくら他人に興味がない彼だったとしても彼の通っていた学校は小学校中学校共にそんなに生徒数はいない。他クラスであっても何度か顔を合わせたことくらいはあった。そこに並んでいるのは名前は知らなくとも見覚えのある奴らばかりだったのだ。

 

「どうして……!どうして……!!」

「どうして?おかしなこと言うなテメェは。こいつらは俺が拉致し、俺が人形(マリオネット)としたやつらさ。こいつらには身体以外何も残ってない。思考も感情も理性もな。なんせ、俺がこいつらの心を徹底的に破壊してやったんだからな。こいつらは俺のコマ(奴隷)たちだ」

 

 すると何を思ったのか風人に手を差し伸べるジョーカー。

 

「さぁてと。じゃあここまで心が折れなかった君に特別サービスだ。和光風人。俺と来いよ。そうすればこれ以上傷つけず命も取らない。ああ、もちろんお前の心も壊さない。それに加えてこいつらは俺の所有物だがお前が気に入ったやつがいれば分けてやるよ。ほら、こいつらは元同級生たちだ。それ以外にももちろんいるが、犯したいなら存分にやればいい。殴りたいなら存分に殴っていい。こいつらを好き放題させてやるよ。…………なぁ、最高の条件だと思わないか?」

 

 心が折れかけてる人間にはまるで自分に降りた唯一の救いの糸。断ればどうなるかなんて分かってる。嫌でも恐怖を植え付けられ、絶望的な未来しか残されてない中の光。普通の人間なら、心はもう持ってかれるだろう。そう、

 

「……断るに決まってんだろうがあぁっ!」

 

 普通の人間ならだ。

 

「ほう?まだその目でいられるのか。たいしたものだ」

「ざけんなよ!何が人形だ!何が奴隷だ!何が所有物だ!そいつらはテメェのモノじゃねぇ!人間だろうがぁっ!!」

 

 残された力を使って叫ぶ風人。だが、ジョーカーの心に響くことはない。

 

「テメェは千影を殺した!オレはアイツの未来を奪ったお前を殺す!テメェのようなやつと組むぐらいなら死んだ方がマシだ!」

「そうか。なら、お前ら。三十秒やる。こいつを」

「ぐはっ……!?」

「殺さず壊せ」

「「「はい」」」

 

 ジョーカーは風人を地に沈めると、彼の所有物たちに託すことにする。

 

「飽きたし、そろそろ最終問題にしよう。『和泉千影はなぜ死ななければならなかったのか?』なぁ?一番こいつが知りたいんだろう?」

「…………!」

「ハハハッ。元同級生たちから味わう暴行。それを受けても俺に殺気を放ってくるか……クククッ。いいだろう。このまま教えてやるよ」

 

 その部屋に響くのは何かを殴ったり蹴ったりする音と呻き声とジョーカーの笑い声。

 そんな中ジョーカーは語り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まず、俺の標的(ターゲット)は和泉千影だけじゃなかった。和光風人。テメェも標的(ターゲット)だったんだよ』

「「「……っ!?」」」

 

 トランシーバーアプリから聞こえてくるのは衝撃の真実。風人君も標的だったというの……?

 

『そう。俺はお前ら二人を壊して殺すそれか人形にしてやろうと考えたさ。お前らが小五の時になぁ』

 

 嘘でしょ……千影さんがちょうど二年前。すなわち中一で亡くなってる……そのさらに二年前から動いていたというの?

 

『お前らを標的にした理由は単純だ。お前らの顔は整っている。だから歪んだ顔が、絶望した顔が見たかった。それだけだ』

 

 なにその理由……!そんなあの男の自己満足の為に千影さんは殺され風人君は狙われたの?

 そんなの……誰も救われなさ過ぎる。救いがなさ過ぎる。よくある恨みとかそいういうものじゃない。そんなの千影さんが、風人君が可哀想すぎるじゃない……!

 

「こ、殺せんせー!?」

 

 こちらでは殺せんせーが真っ黒になって怒っている。当然だ。そんな理由で人が一人死んで一人殺されかけているんだ。

 

『俺の方針でどちらかを徹底的に破壊してからもう片方を精神的に崩壊させるってのは決まってた。そこで、どちらを破壊させたら楽しいかって考えたさ。あの普段は物静かで大人びてる和泉千影か、負の感情なんて知らなそうな純粋なお前か』

 

 かつての同級生たちに足蹴にされている風人君を笑いながら告げている。

 

『まぁ。お前を破壊するのは骨が折れそうだったし、和泉千影は中々の逸材。ありゃぁいい女だ。いい女を俺の手で徹底的に破壊しようとしたわけだ。もちろん。精神的にも身体的にもなぁ?そこで、いじめを起こさせた』

『うっ…………いじめ……だと?』

『ああそうさ。いじめは分かりやすく簡単だ。相手を孤立させるにも、精神的に負荷をかけるのもな。まさかお前。和泉千影が目が正しく見えていないことが知られたからいじめられたと勘違いしてないか?』

 

 風人君の話では、大元を辿ればそれが露呈したせいでいじめが起きた……いや、いじめが起きようとしていたと言っていた。まさか……違ってたと言うの?

 

『バーカ。全部俺が仕組んだことだ。気付かないか?お前らが頭いいせいでいじめは学校側も認知していたはず。なのに、何でいじめは消えなかったのか。何で繰り返されたのか。なぁ、分からないかぁ?』

 

 確かに少し違和感を感じる。今になってみれば、いじめとなりそうなことは全て風人君が潰していたはずなのに、なんでそれでも何度も再発し何度も風人君が潰していたのか。根っこが相当深ければ何度も執拗に繰り返されるかもしれない。ただ、それは今回のケースには当てはまらないと思う。なら、なおさらそんなに執着する理由がないはず。

 でも、そんなのって……たった二人を潰すために職権を乱用していたの?二人を潰すために彼らの同級生たちを利用したというの?

 

『だが、これにも誤算があった。お前と岩月涼香が一切和泉千影から離れようとしなかった。お前らの歳の心理だと、普通はいじめられっ子から離れたくなるもんなのになぁ』

 

 そう。普通はいじめと無関係でいたいし、関わるとしてもいじめられてる側を守ると自分がいじめられる。そう思って普通はずっといじめられている側に立ち続けるのは余程の事がない限り起きないはず。

 

『最初のプランじゃ、和泉千影が孤立したとこを俺自身の手元に誘導。後は徹底的に身も心も破壊してそれをテメェの前で見せつける予定だった……が一向に孤立しねぇせいで没にした。で、時が来るまで他の奴らで遊びながらプランを練り直した。そして、俺はお前らが中学一年にしてようやくその時が来た』

 

 所々私たちですらジョーカーという男の狂気を感じる言葉がある。そんな狂気にやられそうになるが……その時って……? 

 

『お前ら初めて大喧嘩しただろ?ククッ。ようやく和泉千影が孤立したって思った。だから二年前の今日。最初はあそこで拉致しようとした。だが、お前の声が聞こえた。お前がいると何かと厄介だから諦めようと思った。でもな都合よくトラックが来たんだよ。だったら、お前の目の前で殺してやろうって、思考を切り替えたわけだ。ははっ!これが真実だよバーカ!たくよぉ!目の前で大好きな大好きな幼馴染みが死んだってのにテメェは生き延びやがって!まぁ、壊れてくれたから充分楽しめたんだけどなぁ』

 

 じゃあ、千影さんが死んだのって……

 

『っと、余裕で三十秒経ってたな。お前らやめていいぞ』

 

 風人君の周りから離れていく元同級生たち。

 

『和泉千影を殺した真犯人は俺って言ったが、本当はお前なんだよ。お前があの場に現れなければ和泉千影は死ぬことはなかった。お前さえいなければ和泉千影は死ぬことはなかったんだよ』

 

 ――――――もっとも、生きているといえる状態かは知らないがな。

 

 ジョーカーの笑い声が牢屋にも届いている。

 千影さんが死んだのは……風人君を絶望させるため。絶望させたかったのは絶望した顔が見たかったから……最低すぎる。そんな理由って……残酷すぎるでしょう。

 

『…………コロス…………ぜってぇ……ぶち殺す!!!』

『すげぇなおい!こんなの聞かされボコボコにされてまだその目でいられるのかよ!』

 

 お腹を抑え大笑いする。そしてしゃがみ込んで風人君の目を見て言い放つ。

 

『そうだなぁ。まだ連絡がないって事は水は流れてない。今から死神に頼んであの牢屋から一人拝借しよう。あの女から聞いたんだが確か、お前の彼女。あの牢屋の中に居るんだってな。名前は……神崎つったっけ?今からその女を目の前で、心も身体も女としても人間としても何もかもを壊してやろう。そうすりゃあお前も絶望するだろ?な?あの時以上の目の前で奪われる感覚ってやつを味合わせてやるよ』

『黙れぇっ!!』

 

 風人君は頭突きを放つも軽く避けられる。

 

「安心してください。もう首の爆弾は外してありますし、彼がここに来たとしても私が守ります」

「こ、殺せんせー……」

 

 お陰で少し落ち着いた。大丈夫……こっちには殺せんせーがいるのだから。

 

『有希子にまで手を出すつもりか!』

『ああ。そう言ったんだよ。と言っても前に手を出そうとしたことはあるんだがな』

『…………はぁ?』「…………えっ?」

 

 トランシーバー越しに私たちの声が重なった。……え?

 

『お前。中二の夏休みにあの女と何回か会ってただろ。たく、その女のせいでお前の精神状態は回復に向かってしまった。ほんと、余計なことしてくれる。そのまま大人しくすさんでいればよかったのになぁ。だが、そこで思った。今度はその女を壊せばお前はまた壊れてくれるってな。だから不良どもを使おうとしたのに勘のいいテメェは気付きやがって』

 

 う、嘘でしょ……?あの時のアレにこの男が関わっていたの……?不良たちが勝手にやろうとしたように見せかけて裏で糸を引いていたの……?この男は一体なんなの……?

 

『あれにも関わってたのかよ……!もう話はうんざりだ!テメェはオレがコロ……!』

 

 立ち上がった風人君。しかし、

 

『あぁ……!?』

 

 立ち上がるもすぐに自身の身体を抱きかかえるように再び倒れ込んでしまう。

 

『なに……この痛み……!全身がぁ……っ!』

『はぁ?』

『うぅ……!お、お前は……!』

 

 倒れ込みながら風人君はジョーカーの方に顔を向ける。

 

『お前は……!千影を殺した……!』

『何を今更……ああそういうこと』

『お前は僕がころぐふっ!』

 

 ジョーカーは何かに納得すると、風人君を蹴り飛ばして言った。

 

『なんだ。お前は俺が壊す前から既に()()()()()わけか』

 

 そして一瞬で興味が失せたような、つまらない眼を風人君に向ける。

 

『どういう……がはあぁっ!?』

 

 聞こえてくる風人君の悲痛の叫び。ジョーカーは仰向けになった風人君の腹に拳を叩き込んだ。

 

『寝てろ。なぁに、目が覚めたらお前は生きる気をなくしてるさ』

 

 そして、風人君が動かなくなったのを見るとジョーカーは立ち上がり、風人君に背を向けた。

 

『もっとも、目が覚めることがあればだけどな』

 

 そう言い残して……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何がどうなってるんだ……!気付いたら全身がボロボロであの男は無傷。

 何も分からないけど、あの男を進ませたらダメだ!アイツは僕がやらないと……!アイツは千影を…………!

 でも……ダメだ。身体に力が……それに、今ので意識が…………保て……な……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかりしなさい!風人!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄れゆきそうになる意識の中、僕はその声を確かに聞いた。



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心の時間

「しっかりしなさい!風人!」

 

 僕の聞いた声。僕は顔をあげると……

 

「千影……?」

 

 そこには千影がいた。宙に浮いてるみたいだけど。確かに千影だ。

 

「もう、僕も死ぬのかな……」

 

 そうか。千影が僕を迎えに来たのか。なるほど……。

 

「ごめんね。敵を取れなくて……」

 

 パンッ

 

 次の瞬間。僕は千影に平手打ちをされた。

 

「……え?」

「何弱気になってんのよ!あなたはまだ生きてるでしょ!」

「……何が起きているのか分からない。……けど、アイツは僕よりも強い」

 

 気付いたらボロボロになっていて何が起きたか分からない。でも、アイツがこんな風にしてきた。それだけは分かる。そして、僕がアイツに勝てないことも。

 

「…………和光風人は私のせいで二つに分かれてしまった」

 

 すると、目の前の千影が唐突におかしなことを言い出す。

 

「あなたは知らないけど、和光風人は二つに分かれてしまったの」

 

 二つに……分かれてしまった?

 

「えっと…………何が分かれたの?」

「人格だよ」

 

 ……へ?人格?

 

「たく。一から説明が必要なのかよ」

 

 すると、凄く聞き覚えのある声がする。

 

「よぉ。主人格の方のオレ」

 

 その声がした方を向くと、

 

「……え?」

 

 そこにはもう一人の僕(和光風人)が立っていた。…………え?どうなってるの……?

 

「オレはもう一人のお前だ」

「……整理が追いついてないんだけど」

「なんか二人の風人君を見ると凄いね……」

 

 鏡があるわけじゃない。いや、そういう話をしているわけでもないけど……

 

「本当に……何がどうなってるの?」

「じゃあ、私から説明していくね」

 

 間に立って千影が説明を始める。

 

「まず、風人君の中に別の人格が生まれたのは私が死んでからなの。それは自覚があるよね?」

「…………うん」

 

 僕の中に『オレ』と『私』という大きく二つの人格というか感情が生まれた。

 

「でも普通の人にとっていくつかの人格……まぁ、そこまで行かなくても見せる顔が有るって言うのは普通のことなの。家族に見せる顔や学校で見せる顔、恋人だけに見せる顔とかね。別に自覚しているから何の障害もない……普通ならね。そして風人君の中のも普通のに分類されるものだったの……最初はね」

「最初は?」

「うん。風人君の中にある怒りや憎しみといった負の感情。それを前面に出すときにあなたは『オレ』という一人称になってそれらを吐き出す。少し前まではこうだったはず」

 

 確かに……まぁ、そこまで意識してないけどあの時から怒ったりすると一人称が変わってるのは気付いていた。だから多分そういうことなんだろうと思った。

 

「じゃあ、何で分かれたの?」

「風人君の心が限界に達したからよ」

「限界に?」

「そう。あなたにはそんな自覚はないと思う。でもね。無意識の間にも風人君の心には負荷がかかっていたの」

 

 心に……負荷が?

 

「人には自衛本能があるのは知ってるよね?風人君の心は風人君自身が壊れないようにもう一つの風人君を生み出したの」

「それがオレってわけだ」

 

 そう言ってもう一人の僕は僕の目を見る。

 

「解離性同一障害。確かではないけど風人君はそれに近いものを患っているの」

 

 解離性同一障害。簡単に言うと……

 

「多重人格?」

「そんな感じ。症例の中には心理的ストレスが原因なものがある。風人君は私の死ぬ瞬間を間近で見てしまった。その時のトラウマがトリガーとなってるの」

「で、でも今までそんな感じは」

「左手首」

 

 僕はとっさに左手首にある無数の古傷を見る。

 

「風人君は自分を傷付ける、自傷行為をしていた。確かに自殺しようと首吊りとかを試みたこともあったでしょ?でも、それよりも自分を傷付ける回数の方が多かった。そうやって自分を傷つける痛みで私を失った心の痛みを掻き消したり誤魔化そうとしていたのよ」

「そ、そんなこと――――」

「ないって?ううん。あるの。風人君が自殺しようと、死のうとしたのは本当。でもね。その中にはそういう目的が含まれていたの」

 

 千影が説明してくれる……でも、何これ……僕が僕じゃない?何で?あの時はただ死にたいからやっただけのはず。なのに、そんな事考えているはずがない。僕の知らない僕がいるの?意味わかんないよ……全然。

 

「でも、自殺はやめたでしょ?風人君は生きる道を選んだ。それは普通。生存本能ってやつだね」

 

 違う。そんなのは違う。僕が自殺をやめたのは自殺する意味がないと思ったからなんだ。そんなことしても何も解決しない。何も生まない。だからやめた。それだけなんだ。生きたいとも死にたいとも考えなかっただけなんだ。

 

「それを悪いとは言わない。でも、そのせいで一つの捌け口を失った」

 

 僕は自殺を捌け口なんて考えていない。考えていないはずなのに……!

 

「そして中学三年生になって暗殺が始まった。風人君はその中で色んな殺意というものを覚えていき触れていった」

「そ、そうだけど……」

「そんな殺意に溢れる生活していく中で、風人君は無意識の中で私を殺したやつに対する憎悪や殺意といった感情が膨らみ始めていたの」

「……え?」

「ゆっくりと時間をかけて膨らんだその気持ちは風人君を押しつぶしてしまいそうになる。だから、さっきも言ったように風人君の心はもう一つの人格を作ったの。あなたとは分けられたね」

 

 まさか、じゃあ……。

 

「君は……僕の憎悪や殺意が生み出した……」

「それだけじゃない。憎悪、怒り、殺意、恨み、無力感、後悔…………お前が今まで押し殺してきた感情すべてで出来ている。お前という人格には千影のことで、悲しみしか残ってない」

「あなたは今日。悲しみしか感じていないことに違和感を持った。それは夏休みの終わりに神崎さんに気持ちを吐き出したから悲しみしか残ってないとあなたは思った。でも本当は違うの。本当はそれ以外の感情がもう一つの人格の方に行ってあなたの中になかっただけなの」

 

 あぁ……そうか。そういうことか。僕の中から消えたと思っていたものは本当は消えたんじゃなくて君が全部引き受けていたんだ。

 

「納得した?」

「…………大体は」

「で、問題はここからだ」

  

 すると、もう一人の僕が言う。

 

「何が起きているのか分からないって言ったな?オレは全て持っている。オレはお前が表に出ているときの記憶も、無論オレが表に出ているときの記憶も全て持っている。オレが前に出ている間はお前の人格は眠っている状態にあるからお前は知らないがな。ま、お前の人格が前に出ていてもオレは起きているが」

 

 何それ……まるで生み出された()の方が本物で、生み出した僕はいらないみたいじゃないか。

 

「現状、身体はボロボロで意識を失いかけている」

「意識を……失いかけている?」

「朦朧としている感じだ。オレがギリギリ前に出てつなぎ止めている」

 

 もうてっきり失ってると思ってたのに……。

 

「この場で選択肢は三つある」

「三つ?」

「ああ。一つは諦めて意識を失う。次目を覚ますか覚まさないかは知らんがもう諦めるって事だ」

 

 そうか。意識を失ったらもう二度と目を覚まさない可能性もあるのか……。

 

「もう一つは人格を完全に分ける」

「どういうこと?」

「オレが出てこれるのはお前が怒りを感じたりトラウマを思い出した時。オレには前に出るタイミングもましてや消えるタイミングもコントロールできない。さっきオレが消えたのはあらゆる出来事を引き合いに出され、怒りが振り切れてそっちの人格を起こしちまったんだ」

「……はぁ?」

「オレはあくまでお前の中にあるんだ。オレのキャパがオーバーしたらお前のとこに行くんだよ」

 

 ……自分なのによく分からない。

 

「要するに君で抱えきれなくなった感情が僕に流れ込んで、その拍子に僕が起きたってこと?」

「そういうことだ。で、人格を完全に分けると、オレはお前と好きなタイミングで入れ替われる」

「となると?」

「さっきのように途中で入れ替わることなく最後まで戦えるわけ。多分だけどな」

 

 ……はぁ。

 

「で、最後の一つがお前が消えることだ」

 

 …………はぁ?

 

「今、和光風人の中にはオレとお前がいる。人格が二つあるって事はさっきのようなイレギュラーが起きかねない」

「でも、二つに完全に分かれればいいんじゃ……」

「いいか?オレはお前と好きなタイミングで入れ替われるって言ったが逆もしかりだぞ?」

「逆……ああ」

 

 僕からも好きなタイミングで入れ替われるんだ。

 

「それに二つに分けたとすると和光風人という人間は二つの人格、二つの心を持って生き続けることになる。当然、完全に分かれたから今後オレたちが交わることない。しかも完全に分けるから記憶も共有しない。となると、ここを乗り越えた未来を考えたときにクソ生きづらくなる」

 

 なるほど……。

 

「無論それは未来の話で、現在の話ならお前が消える。そうすればオレがお前の消えた分だけ完全に復讐心で満たすことができる。だからさっき以上に歯止めを外すことができる」

 

 僕が自分を保つための逃げ道として君を生み出した。

 そして僕が消えることで僕のスペースが空くからその分君が支配できる……。

 

「あくまでお前が主人格だ。決めるのはお前だ」

 

 僕に決定権が委ねられる。なんとなくだがタイムリミットは近いことは分かる。

 千影の方を見るも彼女は何も言わない。ただただ僕の答えを待っている。

 決めると言われても僕が表に出てもやつには勝てない。それはやる前から知ってる。なら、やつに勝つには君の方に出てもらった方がいいんじゃないか?多分完全に分かれるより、もう僕が消えた方が和光風人自身の勝率が少しとはいえ上がる。それに君は僕に持ってないものをすべて持ってる。だったら、僕なんかいらないんじゃないか?僕という存在はいない方がいいんじゃないか?

 

『風人君!』

 

 ……………………あれ?今、有希子の声がしたような……。

 

『死なないで!風人君!風人君!』

 

 死なないで…………か。

 それは和光風人に言っていて和光風人の中の僕という人格に向けた言葉ではない。それは分かってる。分かってるのに…………

 

「……………………よし」

「決めたか?」

「僕は――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドンッ!

 

 爆発が牢屋の中で起きる。私たちが外した首輪型爆弾だ。でも、今の私には関係ない。

 

「風人君!」

 

 壁に擬態するため隠れる中、私は必死に呼び掛ける。音声はカメラ越しにモニターを見ているであろう死神には届かないそうなので必死に呼び掛ける。

 

「神崎さん……」

「風人君!お願いだから……」

 

 モニター越しだが、ボロボロの風人君が倒れて動かない姿が映っている。

 

「お願いだから……」

 

 戦って勝ってなんて言わない。私を守ってとも言わない。お願いだから……

 

「死なないで……」

 

 今の私のたった一つの願い。 

 だけど、その願いが届いたのか分からない。一切動く様子もなく何も音も聞こえてこない。

 

「神崎さん……」

「風人君!ねぇ起きてよ!風人君!」

 

 檻の中で、私の声だけがこだまする。しかし、何も答える気配はない。

 

「そんな…………」

 

 何度呼びかけても答えは返ってこない。そんな…………本当に…………。

 

「お願いだから!風人君!返事して!生きているなら返事だけでもいいからして!」

 

 私の両目から涙が流れ始めた。風人君は死んでいない。生きているんだ……そう信じたいのに涙が流れる。止めたいのに止まらない。涙が流れてしまう。

 

「うぅ…………」

 

 何で返事をしてくれないの……?何で…………うぅ…………。君が死んだら……私は……どうすればいいの……?ねぇ…………風人君。お願いだから……。

 私は力なくスマホを落としてしまう。幸い床は殺せんせーがコーティングしてるおかげで音もなくただ静かに。

 そしてその静寂の中に音が響く。

 

『ぐふっ!……て、テメェ…………どうして…………!』

「「「…………っ!?」」」

 

 ジョーカーの声だ。今までの声音とは違う。

 

『どうしてまだ立ち上がれる――――――――和光風人!』

 

 咄嗟に画面の方を見ると、そこには確かに立っている風人君がいた。



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風人の時間 二時間目

『神崎有希子は和光風人の隣にいるよ。ずっと君を支え、君に支えられながら存在するよ。だから大丈夫。安心していいよ。和光風人はしっかり存在しているよ。ここにね』

 

 いつぞやの有希子の言葉を思い出す。

 

「僕は――――――――どれも選ばない」

「……ならどうする気だ?このままだとなんの解決にもならないだろ?」

 

 僕は君の掲示する選択には従わない。いいや。そもそもが違ったんだ。

 

「戻ろう」

「……はぁ?」

「君は本来僕の中にあった。ならさ、戻ろうよ」

 

 僕は君にそう提案する。

 

「戻るって、バカかお前は!お前が耐えきれなかったからオレが生まれたんだろうが!」

 

 そう。僕は全て間違えたんだ。

 

「ああそうだよ!僕は耐えきれなかった!だから君は生まれてしまったんだよ!」

 

 有希子はあの日言ってくれた。

 

『でも今だけは……ううん。今からは私に、その苦しみを悲しみを隠さなくてもいいんだよ』

 

「僕は間違えていたんだ!間違えたから君が生まれてしまった!『有鬼子は僕の苦しみを背負ってくれると言ってくれた。でも、この醜い心(殺意)だけは見せるわけにはいかない。それは彼女と共に背負うべきものではないから』僕はずっとそう思っていた!それが間違いだったんだよ!」

「それの何が間違ってんだよ!」

「間違いだらけでしょ!その醜いと思ってる心に押し潰されて君が生まれてしまったんだからさ!」

 

 有希子は僕の中にあるこの気持ちも受け入れようとした。でも、僕はそれを拒んだ。それだけじゃない。その気持ちを悟らせないよう必死に押し殺し、隠してきた。彼女は僕を信じてくれた。なのに、僕は応えられていなかったんだ。

 

「何で君が生まれたか!それは僕が弱かったからだ!そして大馬鹿者だったからだ!」

 

 その重みで僕は潰された。潰れてその重みを君に押しつけてしまった。

 

「だったら!戻しても同じだろうがぁ!そんなんだったらオレが消えた方がマシだ!そうすりゃ何も残らねぇ!」

「違うよ!それじゃダメなんだ!」

「…………は?」

「君は僕が抱えるはずだった痛みなんだ!僕が抱えるはずだった傷なんだ!僕が抱えるはずだった重荷なんだ!決してなくしちゃいけないんだよ!」

 

 僕は続ける。

 

「全部全部全部!なくしちゃいけないんだよ!僕が感じたことを!君が感じたことを!ゼロになんてしちゃダメなんだ!なかったことにしちゃダメなんだ!」

 

 それこそ本当の逃げだ。それこそ一番意味がない。

 

「…………だから君の感じてる思いを僕に返して。傷つくのは怖い。でも……それでも!それは僕も感じるべき思いだ!僕が持つべきものなんだ!」

「……………………」

「わがままだよ。傲慢だよ。勝手に君に押しつけて勝手に君から戻そうとしている。でも――――」

 

 ――――それがベストで、それが正しいんだ。少なくとも僕はそう思う。

 

「……オレがいたらつらいことはないぞ」

「知ってる」

「……オレがいたら苦しまなくてすむぞ」

「分かってる」

「……お前に戻すと、さっきまでの記憶も痛みも苦しみも……全部お前に行くぞ?」

「うん。覚悟はできてる」

 

 僕と君はまっすぐ向き合う。

 

「迷いなし……か。はぁ、お前の選択に従うって言ったのはオレだ」

 

 すると、君は諦めたように言うと、僕の肩を叩く。

 

「こんなとこでごちゃごちゃ言う気はねぇ。オレはお前の中に戻る。…………飲み込まれるなよ?」

「大丈夫だよ」

「……ふん」

 

 消えていくオレ。

 完全にオレが消えたとき、失われていた記憶が、感情が、痛みが……僕の中を一気に駆け巡る。ああ、僕は君にこんなものを抱え込ませていたのか。

 

「ありがとう……」

 

 僕の中に消えたオレに感謝する。

 

「私の信じてる風人君ならそうすると思ったよ」

「千影……信じてくれてありがとう」

「どういたしまして。さぁ、時間はないよ」

「分かってるよ」

 

 もうそろそろ起きないといけない。そうじゃないと二度と起きれなくなってしまうから。

 

「先に謝っておく……ごめん!」

「どうしたの?急に」

「千影の復讐は果たせないかもしれない……」

「……はぁ。私は最初からそんなの望んでいないよ?」

 

 僕の両頬を両方の掌で挟む千影。

 

過去()に囚われないで。君はまっすぐ未来を見て」

 

 そして笑顔を向けたと思うと解放してくれる。

 

「うん。いってくるよ……大好きな人を、皆を助けるために」

「いってらっしゃい!頑張って!」

 

 背中を優しく押されるような感覚の後、辺り一帯が光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だよ死神。はぁ?全員首輪外して逃走した?そんなのあるわけねぇだろ。ッチ。まぁいい。今から確認してくる」

 

 通信機に向けて話していたジョーカー。お陰で僕に気付いていない。だから、

 

「ぐふっ!」

 

 一発その顔面を殴りつけてやった。完璧な不意打ち。ようやく一発はいったね。

 

「……て、テメェ…………どうして…………!」

 

 殴られたジョーカーは僕をにらむように声を出す。

 

「どうしてまだ立ち上がれる!――――――――和光風人!」

 

 どうして?そんなの決まってる。

 

「アンタは僕の大切な幼馴染みを殺した。そして僕の彼女を壊そうとしている」

「それがどうした?壊そうとして何が悪い」

 

 僕は確かに怒ってる。でも不思議とこの思い(殺意)はさっきとは全然違う気がした。

 

「大好きで大切な彼女を失いたくないからに決まってんだろうがぁっ!!」

 

 身体はボロボロ。おそらく骨が何本かいってるだろう。だから?それは負けていい理由にも守れない理由にもならない。

 二度も目の前で大切な人を失いたくない。千影だけじゃなくて有希子もこんなクソ野郎にやられてたまるか。

 

「はははっ!だがテメェはボロボロ。そう長くは持たねぇ」

「ねぇ知ってるかい?人ってさ、好きな人のためなら限界なんか越えられるんだよ!」

 

 僕は急接近し膝蹴りを喰らわそうとする。

 

「甘いんだ……ぐはっ!?」

 

 その前に僕に拳を突き出してくるジョーカー。

 だけど、さっきまでの攻防でその行動が読めていた僕は身体をねじらせ拳をかわして後ろ蹴りを放つ。

 

「てめ……さっきまでと戦い方が違うじゃねぇか……!」

「有希子が僕を呼ぶ声がした。千影が僕の背中を押してくれた」

「何言ってやがる……」

「そしてオレが僕の中に戻った。ここからは本来の和光風人が相手するよ」

「ははっ。テメェは俺が憎くないのか?和泉千影を殺した俺が」

「憎いに決まってるだろ。殺してやりてぇよ。でもそんなモノは一回置いておく」

 

 僕は拳を構える。

 

「過去の復讐のためじゃない。未来を守るために僕は戦う」

 

 そう誓ったんだ。その誓いを伝える意味でも改めて宣言する。

 こいつのスタイルは良くも悪くも僕と近い部分があった。奴は巧みに挑発し、思考力を低下させ判断を鈍らせてくる。結果、僕はまんまと奴の挑発に乗ってしまい単調な分かりやすい攻撃しか出来ず一発も入らなかった。

 なら、こいつに勝つには千影のことを頭の片隅においやる必要がある。千影の復讐から来るドス黒い殺意をいったん置いておく。そうすれば利用されることはない。

 

(この野郎……目つきが変わりやがった。ッチ。人形にしようと思ったら時間がかかりすぎる)

 

「仕方ねぇ。人形にするのはやめだ…………この場でお前を殺す」

 

 するとジョーカーはサバイバルナイフを取り出した。

 

「なら、僕も本気で行かせてもらうよ」

 

 対してブレザーを脱ぎ捨てカッターシャツを腰に巻き、上裸になる僕。

 

「はっ。テメェは立ってるので精一杯だろうが」

 

 ところどころ内出血しているようで痛々しさを感じる。

 

「言ったろ?限界を超えるって。ああ、でも最初に言っておきたいことがある」

「なんだぁ?遺言か?」

「違うけど。まぁいいや」

 

 僕は殺意を消して、笑顔で告げる。

 

「竹原先生。僕をE組に落としてくれてありがとうございました。おかげで僕は大切な仲間や守り抜きたい彼女ができました」

 

 この野郎のしたことは一つも許されないことだし許してはならないこと。

 だけど、僕にとってたった一つだけ。このクラスに配属されたことだけはよかった。

 これは本心だ。僕が先生に向ける本音だ。もし、他の組に配属されていたらきっと、こんな風には成長しなかっただろう。そういう意味ではやはり思惑と違ったとしても結果的に僕をこのクラスと出会わせてくれた先生には感謝しないといけないと思う。

 でも、こんなことで同情を引こうなんてさらさら考えていない。

 

「もう、僕が貴方を先生と思い慕うことはない」

 

 ある意味最後の言葉かな。先生としての貴方に向ける最後の。

 僕の中でもう貴方は死んでいる。残ってるのは殺人鬼としてのジョーカーだけだ。

 

「じゃあそろそろ行くぞジョーカー。アンタ風に言うなら授業延長戦ってとこだ」

 

 不思議と絶望感はない。殺意はあるけどどこか温かく、正しく僕の力になってくれている。よく分からないけどそんな感じがする。

 

「ははっ。仕方ねぇな。おい。どこから切り落としてほしい?選ばせてやるよ」

「アンタの首」

「そうかよ!」

 

 ナイフを構えて突き刺そうと突進してくる。

 

「それくらい」

 

 半歩横に動いてカウンターの為に拳を突き出そうとする。

 

「だろうな!」

 

 が、急停止してナイフを水平に切り裂くジョーカー。

 

「隙アリ!」

 

 僕は拳を出すのをやめ、しゃがんで避ける。そのままお留守になってる下半身に蹴りを入れる。

 

「ッチ!」

 

 舌打ちしながらもナイフを振り下ろし僕の首を狙ってくる。

 

「遅いよ!」

 

 それを横に跳んで避け、立ち上がると同時に詰め寄ってパンチを喰らわす。

 

「ふー。だが、今のを喰らって分かるが、テメェの攻撃全然痛くねぇな。まぁ、そんだけボロボロにしたんだ。満足に力が出ないのも当然か」

「言ってろ。一発一発が軽いならお前が倒れるまで何十何百発喰らわすだけだ」

「その前に死なねぇといいけどな!」

「死ぬかよ。絶対に」

 

 繰り出されるナイフを全て躱し、それに対してカウンターをお見舞いする。流れが完全に僕に来たと思ったとき、

 

「…………っ!?」

 

 急に足が動かなくなる。

 

「バカが!油断したな!」

「くっ……!」

 

 身体に紅い線が入る。身体を反らして避けるものの避け方が甘かったようで、左肩から右脇腹にかけて線が入った。幸い傷はそう深くない。だが、一体なぜ……!?

 

「テメェ……!」

「はははっ!これは俺とお前のサシ(1対1)じゃねぇんだよ!」

 

 足をつかんでいるのはやつが呼び出した男女数名。僕の足が動かないように掴まれている。完全に失念していた……!彼らは心を壊されたせいで自我というものがない!気配が一切なかった。クソ、やられた……!

 

「埒が明かないな」

 

 足は動かないものの攻撃に対処して何とか致命傷は避けることはできる。まぁ、完全には無理で所々切り傷が増えているが……!

 

「やれ」

 

 次の瞬間。ものすごい力で足が後ろに引っ張られ倒される。

 

「ッチ。避けたか」

 

 僕は転がって振り下ろされたナイフを避ける。判断が、行動が一瞬でも遅れていたら今頃死んでいた一撃だ。

 ただ今ので拘束は解けた。僕は彼らからも距離をとるように動く。ジョーカーに勝つには……!

 

「まず、彼らを倒さないと」

 

 彼らのことをジョーカーは人と思ってない。代替の利く道具。さすがに彼らに命を考えない特攻や押さえ込みなんてされたら現状。僕に勝ち目はない。

 

「テメェにできるのか?そいつらは人間なんだろ?それもお前の元同級生たち。何の罪もない奴らにお前は手を出せるのか?ああ、言っておくとそいつらの痛みに対する抵抗は異常。何せ、俺がサンドバックにすることがあるぐらいだからな?てか、そもそも痛みなんてもう感じないだろうなこいつらは。何が言いてぇかって言われりゃ、お前の弱った攻撃なんぞいくらでも耐えるだろうな。ハハハハハッ!」

「はぁ……本当に、アンタはよく喋るね。弱い犬ほどよく吠えるって言葉知らない?」

 

 彼らへの手出しを躊躇させる狂言(戯れ言)と手を出してもお前じゃ倒せないっていう煽り(挑発)だと分かっているけどうるせぇ。それにその声いい加減聞き飽きた。

 

「アハハハハハハハ。そういうことは俺に勝ってから言うんだな!やれ。テメェら」

「あのさぁ。アンタ、僕のこと勘違いしてない?」

 

 向かってくる彼らの攻撃を全て避けながら一人ずつ、

 

「僕は格闘家じゃないんだよ?三年E組の暗殺者(アサシン)だ」

 

 彼らの動きが止まる。いいや少し違う。全身が僅かに震え、動けないでいる。

 

「ごめんね」

「…………何をした?」

「アンタは彼らの精神を破壊した。破壊の方法は絶対的な恐怖を与えたこと。だったら単純だ。その恐怖を超える恐怖を与えればいい」

「ははっ!お前の殺気でも当てたか!だがそんなの僅かな時間稼ぎ程度にしかならねぇぞ!」

「充分だよ。僅かな時間でも稼げれば」

 

 僕は一人ずつ迅速にオとしていく。当たり前だ。こんなんでずっと足止めできるわけがない。

 

「正面から殴らなくても()れる。暗殺者なめんじゃねぇぞ」

 

 彼らは心を壊されただけで肉体改造を受けたわけじゃない。ならオとすのは普通の人間と同じように出来る。

 

「さて、これでアンタの切り札は出尽くした。違う?」

「おいおい。お前は俺より弱い。おまけ(人形)が居なくなったところで状況は変わらないぜ?」

「……知ってるさ。僕がアンタより弱いのは」

 

 ゲームのキャラクターみたいに死んだ淵で凄いパワーアップして帰ってきたわけでもないし、ボス戦で負けそうになる中主人公の眠ってた力が目覚めて逆転勝利ってわけでもない。

 僕はただ戻っただけだ。そう。あくまで戻っただけ。強くなんてなってない。

 

「でも知ってる?僕がアンタより弱くても、アンタが勝者になるとは限らない。だから宣言する」

 

 僕は奴に指をさし、宣言する。

 

「アンタは僕に勝てない。アンタが僕よりどんなに強くてもアンタは僕に絶対勝てない」

 

 上からの物言い。当然奴は怒るだろうな。

 

「はっ!くだらねぇこと抜かすんじゃねぇぞガキが!」

 

 接近してナイフを振り当てようとする。

 だが、僕はその前にナイフを持つ奴の右手を打ちナイフを落とさせる。落ちたナイフは転がり僕の足下へ。

 

「なっ!?テメェ何をした!まだテメェの間合いの外だぞ!テメェは武器なんて……!?」

「言ったはずだよ?本来の和光風人が相手するって。ごめんね。僕って正面戦闘よりこういう騙まし討ちとかの方が得意でさぁ」

 

 僕の手に持ってるものを見て驚くジョーカー。

 

「いつから武器が無いと錯覚した?」

 

 僕は武器を振るう。その武器はジョーカーの顔面を打った。

 

「そういうことかよクソが……シャツをわざわざ腰に巻いたのはベルトがなくなってるのを隠すため。ベルトも鞭として使えば武器にはなるな」

 

 武器がないなら生み出せばいい。使えるものは全部使う。生憎殴り合い的なのはそう得意じゃないんでね。

 

「だがその武器は殺傷力ゼロだ。ははっ!」

「本当に?」

「……っ!!」

 

(な、なんだこいつ……!さっきまでと本当に同じやつかよ……!?ドロドロとした醜く荒荒しい殺気じゃねぇ。純粋に俺だけに向けられた……)

 

「ま、確かにベルトはね。でも、こっちはどうだい?」

 

 僕は奴の落としたナイフを拾う。

 

(な、なんだ……!なんなんだよこいつ……!それにこの殺気はなんだ!怖い?怖いだと?俺がこんなガキに恐怖しているというのか!?)

 

「さぁ……処刑の時間だ」

 

(く、来る……!)

 

 僕はベルトを鞭のように振るう。

 

「はっ!そんなの掴めばいいだけじゃねぇか!」

 

 パシンッ!

 

 ベルトが当たると同時にそれを掴むジョーカー。

 

(なっ……!ベルトを放しただと!?しまった!本命はナイフか!)

 

 僕はベルトを放すと、続いてナイフを……

 

(何してやがる!こいつナイフも放して……!?違う!ナイフの方を見てやがる!まだ何かするつもりか!)

 

 やつの目はゆっくりとナイフの方に引き寄せられていく。

 

(だが、この殺気の乗った一撃さえ避ければ……!?)

 

 パンッ!!

 

 僕はそんな奴に近づき、目の前で手を合わせ、大きな音を出す。

 

(がっ……!?な、何だこの音……!?)

 

 反射的に戦くジョーカー。僕は一瞬で脚を引っかけ、奴の背中を地面につけさせる。

 

「アンタ。ナイフに全神経を集中させていたでしょ?猫騙しだよ。アンタにとって、この音は――――」

 

 ――――思考の外から強襲してきた爆弾だ。

 

「僕のミスディレクションに渚の猫騙しを合わせた。ああ、言っておくと……」

 

 僕は震えながら立ち上がろうとする奴を蹴り飛ばす。

 

「……ガハッ!?」

「二度と立たせねぇよ?おとなしく――」

 

 もう一発蹴り飛ばし、部屋から出る。

 

「――地面に這いつくばって寝ていな。一生。ああ、でも安心しろ」

 

 更にもう一発と、どんどん蹴っていく。

 

「意識は失わせねぇ。アンタが僕にやってくれたようにな」

「て、テメェ……!」

「あぁ?アンタは僕の憎い復讐相手だ。そのことを捨てたわけじゃないし、アンタに対してそれ以外は何も残ってねぇよ」

 

 別に復讐心とかは一回置いただけで誰も捨ててないし。

 

「アンタが千影を殺したこと、有希子を狙ったこと、他の人たちを壊したこと。ホント、殺してやりたいと思うよ」

 

 顔を腹を足を僕はただ蹴っていく。つま先で、足の甲で、時には速く時には抉るように。

 

「でも、僕は気付いた。アンタを殺すのは間違ってるって」

「ぐっ……!?」

「確かに復讐したい。だけどそれで殺しても意味はない。アンタは死ぬ時に苦しむよ?でもさそれで終わりなんだよ。死んだら終わり。それ以上アンタは苦しむことはない」

 

 でもそれじゃダメなんだよ。

 

「アンタ一人が死んで終わり。そんな結末で今までアンタに殺されたり壊された人や残された周りの人が納得できるわけがねぇ。だから精々生きて苦しみやがれ。テメェに変われとも懺悔しろとも言わない。代わりに今まで被害を受けた奴ら以上の苦しみをテメェは受けて醜く生き続けろ」

 

 これが今の僕の考えだ。殺す気はもうない。代わりにこいつは生きて地獄を、苦しみを味わってほしい。死にたくても死なせず苦しませ続ける。わずかな希望を壊し、地獄の中で生きながらえさせる。それが今の僕の望みだ。

 ……我ながら最低な望みだ。オレの方の思考が混ざってるだろこれ。

 

「ふざけ……!?」

 

 すると何かに気付いたように目を見開くジョーカー。

 

「ば……!この先は……!」

 

 すると、蹴った拍子にジョーカーが落ちていく。

 

「あ」

 

 当然僕もそのまま一緒に気付かず落ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああぁぁぁっ!?」

 

 し、死んじゃう!?このまま落ちて……! 

 

「あ、下に水が。ラッキー」

 

 僕は受け身をとる。ふぅ。下にクッションがあって助かった。

 

「あ、烏間先生」

「風人君か。君も無事……とは言い難いな」

「あはは……」

 

 すると、壁際になんかゾンビがいる。え?なにあれ……理科室の人体模型?

 

「後、一緒に落ちてきた男を下に引いてるぞ」

 

 おっと、クッションかと思ったらジョーカーだったか。

 あーあ。最後の最後で身を挺して僕の事を守ってくれた……なわけないか。僕が着地できるよう空中でこいつの上に移動しただけだ。というか、今の不意の一撃で完全に意識を失ってるよ。ということは?

 

「ぶい。僕の勝ちだね♪」



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二人の時間

 倒した二人を縛りあげると共に僕と烏間先生は皆の捕まってる牢屋の前にいた。

 

「ぐっ……!くそ……!何とかこいつだけを閉じ込めたまま殺す方法は無いのか……!?」

 

 烏間先生は死神から奪ったタブレットを見ながら、何とかしようとしている。てか、あのゾンビが死神だったのか……何というか……うん。これからはゾンビに改名だね。

 

「というか~今皆が殺せば解決だよ~さぁやるんだ~」

 

 と言っては見たものも牢屋にいる皆は殺る気がないらしい。むぅ。

 

「考えても無駄ですねぇ烏間先生。風人君もです。というか、出ようと思えばこんな檻はすぐ出れますよ。マッハで加速して壁に何度も体当たりしたり、音波放射でコンクリートを脆くしたり。ただそれはどれも一緒にいる生徒にとても大きな負担をかける。だから烏間先生。あなたに死神を倒してもらったんですよ」

「はぁ……言われなくてもわかるさ、お前がクラスの結束を強めるために、最小限しか手を出してないこともな」

「あれ~?僕牢屋に入ってないよ~?」

 

 クラスの結束というか、あ、僕だけあの超体育着着てないし仲間外れ?

 とまぁ、いろいろあって解放。えぇーもう解放するの~?諦めが早いよ~

 

「風人君!」

「おっと……」

 

 解放されると同時に抱きついてくる有鬼子。

 

「もう!無茶ばっかして!」

「あはは……ごめんなさい」

 

 いやぁ……ねぇ。まぁ無事だったからよかったということで……

 

「でも……その。こんな時だけど…………初めて……風人君が私のこと……好きって言ってくれて…………嬉しかったよ」

「………………え?ちょっと待って。何で知ってるの?」

 

 おっかしいなぁ。あそこからここまでどうやって聞こえたんだろう?え?聞こえるはずないよね?なら何で……?

 

「和光くーん。ポケットにあるスマホを見てみ~」

 

 中村さんが声をかけてくる。スマホ?あーずっとポケットに入ってたか……そういや出した記憶はないなぁ。

 取り出してみると、トランシーバーアプリがONに…………まさか?ONにしたのは……ここに潜入した直後……。

 

「ま、まさか……?」

「お察しの通りだよ。風人」

 

 ピッ

 

『――――大好きで大切な彼女を失いたくないからに決まってんだろうがぁっ!』

 

 カルマのスマホから再生される声。誰の声?僕のである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………酷いや」

 

 僕は隅で膝を抱えていじける。

 

(((そこ怒るか恥ずかしがるとこじゃないの!?何でコイツいじけてるの!?)))

 

 ふんだ。もういじけてやる。

 

「よしよし。私も大好きだよ。風人君」

「……ふーんだ」

 

(((甘ったるいなぁ……ブラックコーヒーが欲しい)))

 

 ふぁぁああああ。何か眠くなってきた……あれ?何か前にも似た感じの……この意識が遠のく感覚………………

 

 ドサッ

 

「風人君!?」

「無理もないです。あれだけの怪我、傷でよくここまで意識が持ってました。烏間先生!彼を早く病院へ!」

「既に医療班も手配してある。医療班!彼を運んでくれ!特に出血が酷い。血液型は確かABだったはずだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様。風人君」

「千影か……」

 

 真っ白な空間。さっきと同じような空間で、そこにいるのは僕と千影のみ。

 

「ありがとね。お陰で助かったよ」

「ううん。私は風人君の背中を押しただけだよ」

 

 彼女にとってはたったそれだけの事かもしれない。でも、そのことが僕を支えてくれたのは、僕を正しい道へと進ませてくれたのは事実だ。だから、 

 

「ありがとう」

 

 僕は再び感謝の言葉を口にする。

 

「どういたしまして……かな?」

 

 そういえば久し振りに会話をする気がする。

 

「ところで(千影)は何者なの~?」

「うーん。分かんない」

「へ?」

「風人君の心の中に居る幻想としての和泉千影かもしれない。幽霊としての和泉千影かもしれない。もしかしたらまた別の……まぁ、自分では分かんないかな」

 

 ……えぇー。そんなのあり?

 

「そういやさ」

「ん~?」

「風人君はこの世界で自分の生きる意味を価値を……見出せた?」

「……まだ分かんない。でも、少なくとも僕がいなくなると有鬼子が悲しむだろうから」

 

 なんとなくだがそんな気がする。

 

「私はさ。本当はこの世界に生きる意味がわかんなくなっていたんだ」

 

 そう言うと語り始めた。

 

「日記読んだんでしょ?死ぬ前日の以外さ、すがすがしいまでにきれい事ばっかりなんだ。それって一見するといいことに見えるけど、結局私は本音を誰にも、どこにも言えなかったんだ。お母さんには言えなかった。この目のことで私が壊れそうなくらい苦しんでいることを。本当は日記に書きたかったけど見られたら意味ないからね。もう何のために日記つけてたかわかんないよね?でさぁ。本当は死にたいって何度も思ってたんだ。風人君は……明らかに考えていなかったよね」

「まぁ、千影が死ぬまでは……ね」

「でも、私は生きる意味を一つ見出したの。それが風人君の更生。性格の矯正。それが私の生きる意味だと思ったの」

 

 恐ろしい話だ。まさか、そう思われていたとは。

 

「最初は私なしじゃ生きられないくらいだった。だから、私は何度も踏みとどまれた。君がいたから。でも、次第に性格にはある程度歯止めがきくようになっていった。それは嬉しい変化だよ?でも、私からすれば徐々に生きる意味を失わせていった」

 

 すると、クスッと笑った。

 

「最低だよね。勝手に生きる意味にして、勝手に生きる意味を失わせていく要因にさせて。本当はこんなに嫌な女なんだよ。私って。そしてあげくには間接的に君を殺そうとした」

「卑下しないでよ。それに最後のは違う。あれは僕の選んだ道だよ」

「ありがと。ねぇ、風人君」

「なに?」

「パラレルワールドって知ってるよね」

「うん」

 

 パラレルワールド、平行世界とも呼ばれる世界はたらればの仮定の世界とも言われている。

 でも急にそんなの持ち出してどうしたんだろう?

 

「もしさ。私に才能なんてなくて目が完全なただの女の子だったら。君と仲良くなっていたかな?」

「なれたよきっと。そういう千影こそ僕がどこにでもいそうな男の子でも仲良くなってたでしょ~?」

「うん。きっとね。…………あーあ、やっぱり死にたくなかったなぁ……」

「少なくとも今はあの時自殺がうまくいかなくてよかったと思えるよ」

 

 だってこんなに面白い奴らと会えたから。

 

「もし、私が死ななくて、仲直りがうまくいってたらどうなってたかな?」

「うーん。どうだろ?」

「風人君とデートしてたり、何なら神崎さんと私と風人君の三人でどこか遊びに行ったり」

「一緒に殺せんせー暗殺しようとしてたり」

「キスだけじゃなくてその先も」

「いや、それ以前に幼なじみじゃなくて恋人になっていたりでしょ」

「あーあ。…………そう思うと悔しいね」

 

 暗くなる千影。

 

「仕方ない。そこは平行世界の私に期待だね。それか来世の自分!」

「来世って……」

「うん。来世もきっと風人君を好きになってみせるよ」

「はーい」

「でもすぐ来たらダメ。今はこの世界で生きて」

「分かってるよ~」

 

 今はただこの世界を生きる。目が覚めた僕はきっと少しマシになってるはずだ。

 

「そうだ、風人君。これだけは覚えておいて」

 

 真面目な表情の千影。

 

「私は貴方をずっと見ているよ」

 

 ふむふむ。

 

「…………え?ストーカー?」

「ねぇ。こういう真面目な時くらいそういうことを言わないでいたら?だから神崎さんに怒られるんだよ?」

 

 いやぁ、ずっと見ているとかもはやストーカー発言そのものじゃん。

 

「うーん。気が向いたらね~」

「こりゃあ、神崎さん大変だね」

 

 それは仕方ない。僕はただ元に戻っただけだ。ただの自由奔放な自分に。

 

「はぁ。全く」

「あはは……」

「それと私を思い出すのはこの日だけでいいからね。それ以外の日は忘れていてもいいよ」

「うーん。あと、誕生日くらいは思い出すよ~」

「忘れる気満々だね……」

「でも、きっと無理だよ~何度も思い出すかな」

「いいよ。私が肉体として存在しなくても、貴方のここに私はいるからね」

 

 そう言って僕の胸を指す千影。

 

「今の風人君なら大丈夫。もう支えてくれる人はいるからね…………大切にしなさいよ。泣かせた日には蘇ってでも怒りに行くよ?」

「分かってるよ~」

 

 すると、千影の身体から光が溢れ始めた。

 

「もうすぐ風人君は目が覚める。またお別れだね」

「千影。色々と言いたいことも話したいこともあるけど、これだけは言わせて」

「何かな?」

「今までありがとう。大好きだったよ千影のこと」

「ふふっ。こちらこそ。大好きだよ。風人君」

 

 最後の言葉を残し千影は消えていった。

 

「…………ありがとね」

 

 届かないと知っていても感謝の言葉を口にする。

 そして、僕は消えた彼女に背を向けて歩き始めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を醒ますと白い天井だった。

 

「ここはどこ?僕はだ」

「風人君!」

「い、いたいいたい」

「あ、ごめん」

 

 やっぱり最後まで言わせてくれない。うーん。寝起きにネタを仕掛けるからかな?いや言ってみたくない?『ここはどこ?僕は誰?』って。

 

「もう。昨日一日、目が醒めなくて凄い心配したんだからね!」

「え?」

 

 日付を見ると、あの潜入から二日……昨日一日寝ていたそうだ。わぁー

 

「あれ~?学校は~?」

「烏間先生が、朝の面会を特別に許可するように頼んでもらってね。この後、殺せんせーに運んでもらうつもりだよ」

 

 ほへぇ……

 

「色々言いたいことはあるけど……目を覚まして本当によかった」

「あはは……心配かけました」

「本当だよ!無茶ばっかして!」

「ごめんなさい……」 

 

 こればかりは謝るしかない。いや、実際問題途中までは分かれていた僕のせいだと思うんだ。だから僕は無実…………なわけないか。

 

「あのさ……風人君。私は風人君のこと好きだよ」

 

 今なら僕も言えるかな。

 

「僕も有希子のこと。好きだよ」

「えへへ……風人君~」

 

 腕に抱きついてくる有鬼子。ど、どうしたんだ!?あ、そっか。まだ僕夢の中に居るんだ。そっかそっか。そうでないと、こんなに有鬼子が甘えて来るわけがない。……でも、痛みを感じてるんだよねぇ……リアルな夢だなぁ。

 

「千影さんのことでここ最近は遠慮してたからね。今日からは甘えさせてもらうよ?」

「あはは……お手柔らかに」

「手加減なしだよ?」

 

 マジかぁ……

 

「よく考えたら私たち。恋人なのに甘えたりしてないよね?」

 

 そうかなぁ?ときには説教され、ときには雷を落とされ、ときには鬼ごっこをして…………あれ?恋人って何だろう?

 

「これからは一杯甘えさせてもらって、一杯説教するからね♪」

「おかしいなぁ~後半余分じゃない?」

「さぁ?」

 

 何だこの有鬼子。一周回ってちょっと怖くなって来たんだけど。いや、前からか。うん。前からだな。

 

 コンコンコン

 

「失礼するよ。君の担当医の者だ。目が醒めたようだね」

 

 入ってくる白衣を着た人。あれ?何で目が醒めたって分かったんだろう?エスパー?

 

「私がナースコールで呼んでおいたよ」

 

 仕事が早いことで。

 

「君の現状を簡潔に述べておこう。まず、全身打撲。肋骨の数本をはじめとしいくつかの骨にヒビ。左肩から右脇腹にかけての大きな切り傷及び前面にもろもろの切り傷。以上だ」

 

 わー骨にヒビはいってるのか……てかあんだけ喰らっといて折れてないんだね。じょーぶだなぁ……。

 

「まぁ、若いから骨のヒビもすぐ治るだろうが、二週間は安静にしていなさい。後数日は入院してもらうことになってる。じゃあ、何か問題があったら呼んでくれ。ああ、そうだ。面会に来た君。昨日と同じ先生が迎えに来てるよ」

「分かりました。ありがとうございます」

「ありがとうございます」

 

 頭を下げる僕ら。なるほど。数日は暇かな。

 

「あれ?治療費とかどうなるんだろ~?」

「最初に気にするのそこなんだ…………全部防衛省が負担するって言ってたよ」

「じゃあいいや~」

 

 何かわざわざ個室まで取ってくれてるらしいし~のびのびゲーム出来るね。

 

 コンコン

 

「はーい」

「失礼します。本日の昼間の看護担当させていただきます」

 

 ほへぇ。若い女の人だ。まぁ、担当の看護師といっても僕は重傷人(僕基準)でもなければ、老人でもないから補助的なのはいらないと思うけど。

 

「では、体温と血圧、心拍を」

「はーい」

 

 と、一通りやったが全部正常。頭の中は異常でもこれは正常だ。

 

「失礼しました」

 

 さて……

 

「なに~?その眼~?」

「……風人君。いくら看護師が綺麗な人でも色目使ったりデレたら怒るよ」

 

 もう怒ってると思うのは僕だけだろうか?

 

「だいじょーぶ。だいじょーぶ。僕を信用してよ!」

「風人君だから信用できないんだよなぁ……」

 

 酷い。彼女が彼氏を信じてくれない。

 

「じゃあさ、信用するために…………キス……していい?」

「ほへぇ?」

 

 と、答えを言う前に既にキスされた。

 

「いってきますのキス。じゃあ、いってくるね」

「……いってらっしゃい」

 

 出ていく有鬼子。

 

「ところで…………いってきますのキスって……何?」

 

 いってらっしゃいのキスは聞いたことあるけど……うーん。新しい日本語かな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よかったですね神崎さん。風人君が目覚めたようで。何かありましたか?」

「いえ、何も」

 

(あああああぁぁぁぁぁ。『何がいってきますのキスね』って、ああああああ!何でそんな恥ずかしいセリフがスラスラと言えるの!?ということはただいまのキスも……あぁぁぁ想像するだけで恥ずかしい……)

 

 なお、有鬼子はその後にすごい恥ずかしさがこみあげてきたらしい。何を今更。



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入院の時間

後書きに重大なお知らせ(?)とアンケートがあります。


 入院一日目。有鬼子があの造語を作って二時間後。

 

「暇だー」

 

 既に僕は暇を持て余していた。いや、テレビなんて見ないし?というかそもそも平日の午前中とか何やってるの?後、ゲーム欲しい。とりあえず、ゲーム欲しい。だれかちょうだい。

 

『なら私と遊びませんか?』

 

 すると、スマホから声がかかる。

 

「あれ~?律。授業はいいの~?」

『大丈夫です。本体がしっかり受けているので』

「ふーん。何して遊ぶの~?」

『しりとりなんてどうでしょう!』

「却下~」

 

 しりとりで人工知能様に人間の記憶で勝てるわけがないじゃないか。戦略?無理無理勝ってこない。

 

『じゃあ、将棋でどうでしょう』

「ならいいよ~」

 

 ふっ。僕の実力を見せてやる~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 って、意気込んでいた時期が僕にもありましたね。

 

『王手です』

「はい」

『王手です』

「……はい」

『王手です』

「…………はい」

 

 そう言えば律はどんどん学習して強くなっていくことをすっかり忘れていました。

 

『王手です』

「律」

『何でしょう?投了ですか?』

「千日手だよ~」

『あ……』

 

 と、引き分けに持ち込みお茶を濁す。学習するとは言え、さすがにまだ引き分けの為に進めてるとは読めなかったようだ。危ない危ない。

 

 ペタペタ

 

 聞いたことのあるノック音が響き渡る。あーこの音は、

 

「授業はいいの~?殺せんせー」

 

 窓を開ける僕。

 

「はい。今はイリーナ先生の授業ですから」

「そう~」

 

 え?時間割りいつもと変わんないだろって?僕が一々覚えていると思う?

 

「お邪魔しますね。思ったより元気そうで安心しました」

「まぁね~でも退屈し始めたよ~」

「ヌルフフフ。そう言うと思って」

「おぉー!もしかしてゲームを!」

「君専用の入院中の課題を作って持ってきました」

「僕の期待を返せ!」

 

 酷い話だ。入院中の人間に課題を突きつける教師がどこにいる。……あ、ここにいたわ。

 

「担当医の人から話は伺っています。両親の方には別の原因で入院しているということにしておきました。話は合わせられますね?」

「まぁ、元担任の殺人鬼と戦ったなんて言っても信じないだろうけど~」

「それはそれで。後、ごめんなさい。風人君」

 

 頭を下げる殺せんせー。

 

「君の前面の大きな切り傷。これだけは傷跡が一生残ってしまうそうです。私のせいです。私がついていながら君に一生残るような傷を残してしまった」

「……そう」

 

 何となく起きてから予想はしていた。何となくだけど予想通りだった。

 

「顔をあげてよせんせー。僕は別に傷跡なんて気にしてないよ~というか、一生残るような傷ってのは今更だし~」

 

 左手首を見ながら呟く。本当、ただ、今度の傷はちょっとでかすぎたかな?

 

「ま、あのジョーカーが二度とこの世に出ないなら、いい対価だよ~」

 

 朝、有鬼子が行ってから烏間先生と防衛省の何人かの人がやってきた。その後千影のお父さんからも説明があったが、あの男は色んな犯罪に関わっており、無期懲役……死刑は免れられないだろうとのこと。まぁ、本当は勲章モノの働きを僕はしたらしいけど全て話を合わせるために千影のお父さんがやったことにしてもらった。さすがに国家機密の暗殺が関わっている以上こうするのがベスト。てか、千影のお父さんに暗殺のこと伝わったなぁ……。

 あと、行方不明で人形とされた人たちは保護されたらしいが社会復帰は難しいそう。

 

「そうですか」

「まぁ、この傷を見たら大抵の人はひくだろうなぁ……あーあ。海とかプールとか行きにくくなるかもね~。ま、いいけどさ」

 

 なんだかんだ言いながら行こうと思えば行けるし。

 

「そうだせんせー。もしさ、せんせーが今回のことを気に病むくらいならさ~。せんせーが治せるようにしてよ。せんせーのその触手で僕らの命が危機に晒された時は救ってよ。医術という意味でもさ」

「……やはり君はよく分からない生徒ですね」

「酷いなぁ~…………死神さん」

「……本当に君は何者ですか?」

「さぁ?ただ人を見る目だけはいいよ~」

 

 あの人は死神っていうのには何か物足りなさを感じたと烏間先生が言ってた。確かに詰めの甘さじゃないけど、何だろう。あんな男を相棒に選んだことを完全に間違えていた気がしたし、うーん。僕でも同じ状況だったらうまくやってる気がする。

 どうやら予想通りらしい。

 

「それに、自分で言ってたじゃん~。私は殺されても仕方ないくらいの罪を犯してるって~」

「やれやれ。バれてしまうとは」

「いいよ~。僕は誰にも言わないから~」

「……何か変わりました?」

「千影の件に区切りがついたかな。もう復讐心なんて残ってないし曖昧だった心に決着もついた。すっきりした心でこれからは思う存分有希子(好きな人)と居られるね~」

「そうですか。なら、私は戻りますね。()()()()()病院の方に迷惑を掛けないように」

「はーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 

「来たよ~風人」

「思ったより元気そうですね」

「涼香。雷蔵。おひさ~」

「と言っても涼香とはこの前会ったばかりでしょう?」

「もう、風人君違うでしょ?」

「ほへぇ?何が?」

「いいよお姉ちゃん。これが本来のお兄ちゃんだから」

 

 と、やって来たのは涼香と雷蔵。後は有鬼子だ。

 

「それにしても、酷くやられましたね風人」

「そうそう。通り魔に襲われたとは言っても風人。アンタやられ過ぎじゃない?」

「あはは……」

 

 通り魔って。通り魔よりヤバい敵だったんだけどなぁ。

 

「でも、通り魔を捕まえたそうですね。そこは流石です」

「本当、深い傷を負いながらも勝つあたりなんだかな~」

「あはは……」

 

 色々否定できなくて笑うしかない。

 

「全く。ダメだよ?彼女を心配させちゃ」

「そうですよ。知らないところで彼氏がボロボロにやられ入院だなんて」

「有希子ちゃんも驚いたでしょ?このバカが学校休んだ次の日は病院のベッドの上で目を覚まさなかっただなんて」

「う、うん……」

「あはは……」

 

(言えない。どういう人と戦ってどうボロボロになっていったかを見ていただなんて言えない)

 

 これぞ何も言えねぇ……ってやつだね。

 

「いい風人?もっとね普段から――」

 

 この後小一時間涼香のお小言が続いて……

 

「涼香さん。明日も学校ですしそろそろ帰りましょう」

「そうだね。じゃあね二人とも」

 

 そう言って去っていった。

 

「行っちゃったね」

「だね~」

 

 嵐のような二人だったなぁ。

 

『風人さん。篠谷さんからメールです』

「雷蔵から~?読み上げて~」

『はい。「ああ見えて涼香さんは昨日とても心配していましたよ。風人がもし死んだらどうしようってね。僕も涼香さんも風人がこんなところでくたばる玉でないことぐらい分かってましたが、それでも心配だったようです。今日のお小言は大目に見てやってください」以上です』

「やっぱ心配かけたのかな……。律」

『はい』

「雷蔵に、『それは悪かった。でも大丈夫だから心配しなくていいよ~』って返しておいて~」

『分かりました』

 

 なるほどね。千影の言う通りだったよ。

 

「今回の件で分かったよ~。僕は一人じゃないんだね」

「ふふっ。やっと分かったの?」

「そうだね」

 

 あーあ。何か、

 

「復讐って疲れるよね」

 

 アイツもそれを分かってくれればいいが。

 

「あ、そうだ。風人君。今日は学校でね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風人君は私の話を聞いてどこかうずうずしている様子を見せた。やっぱり入院って退屈になっちゃうのかな?まぁ、風人君って楽しいこととか面白いこと好きだし。

 話も一段落して、夜ご飯の時間。それも終わり面会時間の終わりが近づいてきたとき、風人君はトーンを落として言った。

 

「有希子はさぁ…………」

「うん?」

「千影が死んだのは僕のせいだと思う?」

 

 そう言った風人君の顔は真剣というよりどこか自己嫌悪が混ざっている。

 

「風人君はどう思うの?」

 

 私は彼の答えに予想がついていたがあえて聞いた。

 

「僕のせい……だよね」

「ジョーカーがそう言ったから?」

「……ううん。違う」

 

 風人君の過去を聞いたときも風人君は自分のせいで千影さんが死んだと言っていた。そして今もそう思ってる。…………多分、彼はこの先もずっと彼女の死を自分のせいだと言って責め続けるんだろう。

 

「僕があの時意地を張らなければ。僕が避け続けず彼女と向き合っていたら。きっと彼女は死なずにすんだんだよ」

 

 元凶は風人君によって白日の下にさらされた。でも、彼の心の傷は全て癒えるわけがない……か。

 

「そうだね。風人君がそう思うなら風人君のせいじゃない?」

「…………っ!」

 

 こういうときはきっと『風人君のせいじゃないよ』とかを言うのが正解なんだろう。

 でも、私はそんな薄っぺらい言葉で風人君の抱えてる苦悩をとれるとは思わないし、とりたくない。

 

「千影さんと喧嘩したのが悪い。千影さんを避けたのが悪い。風人君の悪い点を挙げたらきりがないね」

「……そうだね」

 

 きっと、私は嫌な女なんだろうな。

 彼が意を決して質問したのに、酷い現実を再認識させるなんて。ただえさえ底に沈んでる彼をさらに突き落とすようなことを言って。

 

「でも、私は風人君は救われていいと思う」

「…………え?」

「君はずっと苦しんだ。一人で苦しんでいた。もがいてあがいて。黒幕を倒したのにまだ苦しんでいる」

 

 私は彼の苦しみを推し量ることはできない。当然だ。私は彼じゃない。彼の苦しみがどこまでかなんて知ることは絶対できない。

 

「君は自分を責め続けた。十分すぎるほど責めたと思うよ。だからさ、もう君は救われていいんだよ」

 

 ねぇ。気付いている?君の両目から涙が流れ始めてることに。

 

「千影さんは君のことを責めないよ。絶対に『風人君のせいで私が死んだ』なんて言わない。他の人も風人君が悪いなんて考えてないよ。分かる?君を責めている人間は君しかいないんだよ」

 

 千影さんも、彼女の両親も、涼香さんたちも。ジョーカーを糾弾する人はいても風人君を責める人はいない。初めから風人君を責める人は風人君しかいない。

 

「君が君を許せば救われるんだよ。君はもう自分を許していいんだよ」

「で、でも……それじゃダメなんだよ…………」

 

 涙がポツポツと、彼の手の甲に落ちていく。

 

「僕は……許されちゃいけないんだよ……」

 

 今にも消えそうな声で彼は答えた。

 私は彼を凄いと改めて思った。彼はどこまでも優しいんだ。どこまでも優しく、その優しさで傷ついている。

 

「ううん。許されていいんだよ」

 

 私は彼の手に手を重ねる。

 

「もう前を向いていいんだよ。君が千影さんの死について負い目に感じる必要はないんだよ。それに今の君を千影さんが見たらこう言うよ。『もうこれ以上自分を責めないで。もう自分を許していいんだよ』てね」

 

 私はそのまま彼を抱き寄せ、頭を撫でる。

 

「君は悪くない。これまでたくさん傷ついた。これ以上君が傷つく必要はない。だから――――」

 

 ――――君は許されるべき人間だ。だから、もう自分のことを許してあげて。

 

 彼はその日涙を流し続けた。

 私はそっとなで続けた。

 きっと、その涙が止んだ時、彼は自分を少しずつ許して前へと進むのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、入院二日目。それは起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……律。敵は?」

『曲がり角のドアのところに一人です』

 

 どうする……一人なら倒せるが、仲間を呼ばれたら厄介だ。くそどうすればいい!

 

「律。奴らに見つからないルートはないのか?」

『いえ、どのルートにも何人かいます。堅実ではないでしょう』

「くそ。何でだ!」

 

 何で僕は入院してるだけなのにこんなことが起きるんだ。こんな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして誰も家にゲームを取りに帰らせてくれないんだ…………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『多分ダメですよね?』

 

 くそ、奴ら(看護師たち)の警備が堅すぎる!三階とかなら窓伝いに脱走もできただろうにここはもっと高い。そこから降りるにはこの怪我だし非現実的。

 

『そろそろ戻った方がいいのでは?』

「いいやダメだ!」

 

 問題は僕がザ・入院患者のような服装であること。いや、身体中ボロボロだから私服とかちょっと着るの痛いんだよ~はいいけどそれが仇となった!そのせいで抜けだそうに抜けだせないし、腕に付けられた入院患者を示す紙というかそんな感じのモノ。その二点のせいで病院からの脱走は困難を極めていた。

 

「僕は諦めない!諦めなければきっと成し遂げられる!」

 

 全てはゲームのため。今こそ普段の訓練の成果を発揮する時だ!

 まずは天井を歩く?いいやダメだ。どの道出るところで気付かれる。

 なら、ミスディレクションは?いいや、服装が目立ちすぎる。

 

「静かに気配を消し、時を待つか……いや、今は一刻を争っている。一分一秒が惜しい」

 

 くそ、何か手は……!手は何かないのかぁ……!

 

「はっ!シーツをパラシュートのようにして脱出。……いける!」

 

 そうとなれば部屋に……

 

「あのー和光風人さん。お食事の時間です。御戻りになりましょうか?」

 

 な、何故僕の場所がバれたんだ!さてはコイツ。暗殺者か!?

 

「ほら、医師から安静にと言われているでしょう?動けるのはいいことですが寝ていて下さい」

 

 ……待てよ?ここで油断お誘うのもアリだな。脱出の意思がないことを示そう。

 

「はーい。大人しく寝てますね~」

 

 ふっふっふっ。さぁ、警戒を解くんだ。さすれば、僕の脱出計画は容易く、

 

「……後、個室は窓が少ししか開かないようになっていますので」

 

 なっ!?き、気付かれただと!?僕の完璧病院脱走計画が!畜生いつ気付いたんだ……!

 

『風人さん。「僕は諦めない!諦めなければきっと成し遂げられる!」って言ってた辺りからずっと後ろに立ってましたよ?あの人』

「……ふっ。明日こそは……いや、今日の午後にでも脱出してやる……!」

 

 その後、僕の部屋を看護師たちが厳重にマークしていた。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――ってことを風人さんは今日の午前中やっていましたよ』

 

 昼休み。本体の律を通して風人君の入院ライフがクラス全員に伝えられた。

 

(((何やってんだアイツは…………)))

 

「ねぇ、神崎さん。風人君。病院でも相変わらずなんだね……」

「はぁ……これはお説教かな……」

 

 でも、私は元気な彼にちょっぴり安心した。きっと今までのしがらみを少しはとくことができたのだろう。すぐにじゃなくていい。少しずつ彼は自分を許せるようになるだろう。そうやって前へと進んでいくんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……まぁ。それとこれとは話が別だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日の放課後。風人に雷が落ちたのは言うまでもない。




~重大なお知らせ(?)~

「死神編も終わり平和が訪れました」
「……僕まだ入院中なんですけど……後、雷落とされたばっかだし……」
「それは風人君が悪いです」
「うぅ……中盤の珍しくかっこいいヒロイン的な有鬼子は何処へ……」
「で、ここからの展開についてのアンケートを行いたいと思います」
「無視された…………って、アンケート~?」
「作者の中で今、今後の展開について二つのルートが思い浮かんだそうですが、どちらにしようかを決めてほしいとのこと」
「優柔不断だね~うちの作者は。で~?二つのルートって?」
「一つはほぼ原作通りに行くルート。時々オリジナルを加えるけど基本は原作って感じ」
「ほうほう」
「もう一つはオリジナルストーリー……というかオリジナル長編?を入れるルート。長い……ってほどでもない(と思う)けど、少しシリアスというか重い展開を入れる感じかな」
「うへぇ……もう死神編でお腹一杯じゃないの~?」
「まぁ、後者だと原作と同じ場面でも前者と変化が見られると思う」
「例えば~?」
「殺せんせーの過去話のシロ乱入シーンで、原作や前者だと二代目だけなんだけど、後者だとそこにもう一人追加される」
「どーせ、ジョーカーじゃないの~?」
「ううん。女の人らしいよ」
「…………は?……性転換?」
「どうしてそうなるの…………後はクリスマスの話をやりたいけど、前者と後者で大きく展開が変わりそうって」
「クリスマスに影響……?全然見えてこない……」
「えっと、作者から後者のオリジナルストーリーで入れる予定の要素一覧があるんだけど……いる?」
「まぁ、今の話だけじゃどちらにするか判断つかないもんね~」
「じゃあ、読んでいくよ?
・殺せんせーの過去話の後、冬休み最初に入れる
・南の島の殺し屋たち再登場(登場ってだけで凄い重要かは別問題)
・女の人が敵
・有鬼子闇堕ち
…………ちょっと待って。私闇堕ちするの?しかもそれって言っちゃダメなやつじゃない?割と根幹に当たる気がするんだけど?後、その流れでなんでこうなるの?」
「……いや。原作に比べたら大分堕ちてるような……いてっ!」
「こほん。えーっと、前者を便宜上『原作ルート』、後者を『オリストルート』として、アンケートをします」
「後者は『有鬼子闇堕ちルート』でしょ」
「……作者曰く死神編では千影さんが中心にいたからここらへんで有鬼子が主軸のストーリーを作ってもいいかもとのこと」
「また無視された……でも確かに、ジョーカーが千影と僕の因縁の相手だったもんね~」
「期限は一週間程度を予定。11月18日午前6時00分を締切とし、その時に一票でも多かった方を採用です」
「まぁ、今後の展開とか言ってるけど気楽に投票してね~」


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入院の時間 二時間目

 入院三日目。

 

「こほっこほっ。ああ。あの葉っぱが落ちたら僕も死ぬのかなぁ……」

「……………………」

「ああ、有鬼子。ごめんね。先に行くよ」

「……………………」

「もう眠いや……ああ、お迎えが来たみたいだ」

「……………………」

「だから……ね。どうか……最後くらいは……」

「……………………はぁ」

 

 ため息をつく有鬼子。

 

「風人君――――」

 

 そして有鬼子はベットで横になる僕に向かって告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――宿題が終わるまでゲームは没収です」

「ちくしょぉぉぉぉぉおおおおおおおお!」

 

 現在入院生活三日目。いぇい。スマホと昨日お母さんが持ってきてくれたゲーム機で遊んでいて徹夜して眠いです。宿題?はっはっはっ。一切手をつけてないよ。受験?どっか消えた。

 世間は土曜日です。入院している僕にとっては関係ないけど有鬼子たちは休みです。

 

「この鬼!僕は信じてたよ!ここまでしたらさすがにゲームを返してくれるって!」

「はぁ?」

「あ、ごめんなさい……僕一応重症人ですので暴力は……あぅ」

 

 彼女のげんこつは何故かジョーカーのパンチよりも痛かったです。

 

「うぅ……僕だって遊びたいお年頃なんだよ!」

「反省してないのかなぁ?」

「あ、反省してます……ごめんなさい。反省してますので……」

 

 今日は彼女にとっても休日。なのに面会時間が始まってからずっといる。どうにも僕が心細いからって言ってたんだけど、僕は悲しいです。マイゲームたち(ソウルフレンド)を奪われて。 

 

「うぅ……真面目なんだよ……有鬼子は……」

「風人君が不真面目なだけです」

 

 僕は(心の中で)泣きながら宿題を進める。一方の有鬼子も自分の勉強をしている。

 

「出会った頃はもっと不真面目だったのに……」

「見た目がでしょ?」

「うんうんうんうんうんうん」

 

 それは激しく同意する。というか首を縦に振りすぎて頭がクラクラしそう。

 

「同意しすぎ…………あ、そう言えば、風人君は将来、何になりたいとかあるの?」

「何で~?」

「もうすぐ面談やるんだって。確か医者だっけ?」

「ほへぇ~でも多分医者にはならないかな~あれは千影のためだったし」

「そうなんだ。ニート以外ならなんでもいいよ」

「じゃあ敢えてのニートで~」

「そんなおかしなこと言っちゃうのかなぁ?」

「あぅ。ぐりぐりはやめてください……」

 

 おかしい。何故彼女は重症人の彼氏にここまで暴力行為に出られるのだろうか。

 

「そーいう有鬼子はなんなのさ~」

「私は介護士だよ」

 

 介護士……?ま、まさか……!

 

「ダメだよ有鬼子!入居者が自分の指示に従わないからって暴力にでたら!」

 

 暴力介護士だと!?この御時世すぐに捕まるよ!どうしよう!彼女が犯罪者になっちゃう!

 

「そんなこと、風人君相手じゃあるまいししません」

「あ、そっか~じゃないよね!?……よく考えたら今の僕って介護される立場じゃない?」

 

 だってこの前の脱走劇を見た医者曰く、『入院日数を増やされたくなかったらおとなしくしてなさい』と言われ『常人ならあんなに動けるはずないんだけどなぁ……あの状態で』とまで言われているんだ!そうだ!きっと介護される立場に違いない!

 

「介護してほしいの?」

「介護というか……優しくしてほしいです」

「へぇ……それってまるで私が優しくしてないみたいだね」

「え?あれで優しくしてたの?」

「してないよ」

「だよね~」

 

 あれは優しくしてたんじゃなくて手加減していたんだ。はき違えちゃダメだ。

 

「「あはははは」」

 

 僕らは向き合って笑い合う。そして、

 

「……ごめんなさい」

 

 本日何度目かの謝罪をするのだった。

 

「……ふふっ」

 

 静かに笑う有鬼子は本当に恐ろしかったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お昼ご飯は入院患者(とてもそうは見えないそうだが)ってことで病院食です。そろそろ飽きてきました。後、プリン食べたいです。プリンじゃなくてもいいのでスイーツ食べたいです。きっと僕の頭がおかしくなってるのは甘いものが不足しているに違いありません。

 

「は……はい。風人君。あーん」

 

 目の前には有鬼子が一口分持って僕の口に入れてこようとしてきます。僕は抵抗することなく、

 

「あーん」

 

 食べます。

 有鬼子の提案により(発端は僕だが)何か介護されることになった僕。言っておくと僕の両手は()()()手錠によってベットにくくりつけられています。両腕が不自由という設定のために手錠を使うなんてバイオレンスだと思います。あ、ちなみにこれ(手錠)僕のね。というか両手が(物理的に)使えないので万が一有鬼子が暴走したときには一切抵抗できません。

 

「も、もう一口……あーん」

「あーん」

 

 対する有鬼子は(どこからか)借りてきたナース服を着ています。

 おかしい。介護士と看護師。読み方はどことなく近いかもだけど、介護士はナース服を着ないです。じゃあ、何で着ているかと聞かれたら、

 

『か、風人君って、私にナース服着てほしい……?』

 

 と聞かれたのでとりあえず何も考えずに「うん」と答えたらこうなりました。ちなみに提案者はあの二人(カルマ&中村さん)らしいね。どうやら学校でこうすればと言われたらしい。

 

「よく似合ってるね~」

「そ、そうかな……?」

 

 昼食も食べ終わり、動けない僕の代わりに運んでくれた有鬼子。

 何だろう。ナース服を着た彼女は鬼の要素を一切感じない。不思議だ。ナース服のイメージがきっと彼女の持つ鬼の要素を打ち消したのだろう。うんうん。

 

「とても可愛いよ~」

「あ、ありがと…………」

 

 なんだこの可愛い生き物。なぜだ。あの目を覚まして以来僕の中で何というか……有鬼子が凄い可愛く思えてしまう。なんだこの気持ち。そうか……!これが……!

 

「保護欲ってやつか……」

「…………?」

 

 なるほど。僕はまた一つ賢く…………はっ!今ならゲーム返してもらえるのではないだろうか?

 

「風人君……!」

「有鬼子!?」

 

 そう思った矢先、なぜか僕のおなかの上に馬乗りになってくる有鬼子。すみません。僕けが人です。

 

「もう我慢できない!大好き!」

 

 すると何か抱きついてくる。え?えぇ!?

 

「好き好き大好き!」

 

 な、なんだこれ……!?急に甘えてきてるんだけど……!?

 

「ど、どうしたの……!?」

「私は寂しいよ……」

 

 ごめん。よく分からないけど、まず手錠外して。あと、ゲーム返して。

 

「最近全然会えなかったもん!だからいっぱい甘えるの!」

 

 ああ。なるほどね。これが彼女の持つ人格の一つか。

 きっと、僕に会えなかった不満と欲望と心配していたのと性欲と甘えられなかったのと願望が混ざった結果がこれか。…………ん?なんか一つ、僕の現状からさらっと非常にまずいものが混ざっていたような…………?

 

「えへへ~♪」

 

 まぁいいや。つまるところ、僕のせいでぶっ壊れたと。なるほど。

 …………いや最初から壊れてるか。うん。彼女は最初から壊れている。

 

「大好き」

 

 そしてあの時のこれからはいっぱい甘えさせてもらうってこれか。

 

「ねぇ。キスしよ?」

「……いいよ」

「やった」

 

 と、僕の頬に両手を添え、キスをしてくる有鬼子。

 

 ドサッ

 

「……お兄ちゃん?」

 

 キスをしている中、何か荷物を落とす音と涼香の声が聞こえる。

 

「涼香さん。ここは見なかったことにしていったん引き返しましょう」

 

 続いて雷蔵の声も……あれ?これ何かマズくない?有鬼子もそう思ったようで、僕の唇から自身の唇を離す。

 

「そそそうだね……二人ともごゆっくり……」

 

 閉じられた扉。目を合わせる僕ら。

 

「…………あぁ…………!」

 

 正気に戻る有鬼子。そして、ゆっくり僕の上から降りてベッドの傍らで……

 

「………………恥ずかしい……!」

 

 耳まで真っ赤にして蹲る。

 

「いやいやいや!あの二人絶対誤解してるよね!?いや、誤解の余地なんて微塵もなかった気がするけど!とりあえず追いかけて弁明してこないとダメだよね!?」

「………………うぅ……!」

 

 ダメだ。僕は拘束されて動けないし有鬼子は恥ずかしさのあまり動けない。

 

「律!雷蔵にメールを!『何もないから病室に入ってきて』って送って!」

『了解です…………と、返信が来ました』

「早っ!?なんて来たの!?」

『「大丈夫です」だそうです』

「何が大丈夫なの!?」

 

 結局、僕が頑張って拘束を自力で抜け出し、雷蔵と涼香を追いかけていった。

 ちなみに何故か追いかけるときに僕自身が看護師たちからも追いかけられていた。なにこれ?僕そんなに有名人?



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進路の時間

「久しぶりだね~学校に行くのも~」

 

 ついに僕も退院(まぁ、病院の人からは運動禁止にされてるんだけどね)。一週間ぶりくらいに学校に行く。あれから、入院生活は変わりなくドタバタだったけど……まぁいっか。

 

「ねぇ、風人君。手錠を二つ貸してくれる?後、その鍵も」

「いいけど……はい」

 

 隣を歩く彼女に手錠を貸す。一体何に使うんだろ……

 

 カチャリ、カチャリ

 

 すると、僕の両手は手錠によって繋がれた。しかも、

 

 カチャリ、カチャリ

 

 一個だけではなく二個使ってだ。……え?

 

「えーっと、有鬼子さんや?この状況は……?」

 

 すると笑顔でロープを出す有鬼子……そして僕の手錠の真ん中に端をくくりつけてもう片方を自身が持っている。へ?

 

「あの~僕手錠脱出マジックとか出来ないですよ~?」

「大丈夫。抜け出さなくてもいいから」

「…………まさか」

 

 僕は今すごいまずい状況になっていることに気付いた。手錠で繋がれている僕。それにロープを付けて、引っ張ってる有鬼子。

 

「……ごめんなさい。僕にペットになる趣味はないです」

「大丈夫。風人君を逃がさないためにやってるから」

 

 怖いです。逃がさないためにこんな武力行使に出るなんて……バイオレンスです。

 

「お医者さんから運動禁止って言われてるでしょ?風人君の事だから『運動は禁止されても暗殺は禁止されてない!』とか言って平気で野山を駆け巡ってそうだもん」

「あはは……」

 

 す、鋭い。何故ばれたのか。

 

「だからこれは見せしめ」

「み、見せしめ?」

「うん。もし、無茶しようものなら……次は足を縛るからね?」

 

 ヤバい。この人、とても発言といい発想といい僕の彼女とは思えないくらいバイオレンスだ。

 と、僕の久しぶりの登校は何故か手錠によって繋がれたままの登校になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「進路相談?」

「はい。先日予告したとおり、今日は進路相談をします。もし、先生を三月に殺せたら君たちはその先のことを考えなければなりませんからねぇ……もっとも、殺せなくて無意味に終わるでしょうが」

 

 じゃあ、やらないでよ。

 

「と言うわけで、進路希望を書けた人から職員室へ来てください。勿論、面談中も暗殺はOKですよ」

 

 そう言って、殺せんせーは教室から出ていった。

 何人かの人は予告された時から考えていたり決まっているらしく早々に教室を出て行く。

 

「うーむ。どうやって芸を仕込んだ物か……」

 

 僕は進路……ではなく、殺せんせーを殺す方法を考えている。今の僕は両手が満足に使えない。うーむ……

 

「あはは。改めて見ると風人が神崎さんの彼氏からペットにジョブチェンジしたみたいだ」

「してないよ!全く。僕だってこの仕打ちはあんまりだと思うんだ!」

 

 もっといい方法はなかったのだろうか。

 

「中村さん!これ書いたの中村さんだよね!?」

 

 と、渚が叫んだ。なになに?面白いこと?

 

「君にはその仕事がお似合いさ」

 

 後ろから面談用の紙を見る。ふむ。名前『潮田渚』志望校『女子校』志望する職業第一希望に『ナース』で第二希望に『メイド』かぁ。

 

「何で勝手に人の進路を歪めているの!?」

「ぷくく~お似合いだよ~渚。あ、風人の進路も代わりに書いといたよ。ほら、その手じゃ書きにくいでしょ?」

 

 そう言って紙を見せてくる。えーっと?名前『和光風人』志望校『どっか』

 

「どっかって……」

 

 まぁいいや、えーっと?志望する職業が第一希望に『神崎さんのペット』で第二希望に『神崎さんの奴隷』ふむふむ。

 

「渚より悪化してるじゃん!」

「僕のも大概だからね!?」

「でもよぉ和光君。今の君の姿を見たら全員が納得するよ?」

「しないでよ!僕だってこれは不本意なんだから!」

 

 そう言って両手を見せる。

 

「全く……」

 

 僕はカルマから紙を取り返して、書き直して教室から出て行く。これ以上面倒なことが書かれないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほうほう。君は弁護士ですか。なんとなく意外ですね……何故でしょう?志望理由とかありますか?」

「そうだね~僕は今までこういうのは考えてこなかったよ~。前は千影基準。アイツと一緒って訳じゃないんだけど、良くも悪くも自分一人では分からなかったから。まぁ、これも結局は千影基準なんだけどね」

 

 僕は入院中に考えた。有鬼子から宣言された日から暇つぶしに考えていた。

 

「この前のジョーカーは千影だけじゃない。多くの人を犠牲にして、多くの人を巻き込んだ。中には加害者になってしまった人もいた。ちょっと話は変わるけど冤罪っていうのがどうしても存在する。裁かれた人は皆が皆犯罪者って訳じゃない。中には無罪なのに有罪になってしまった人がいるのも事実」

「えぇ。その通りです」

「僕はそんな人たちを救いたい。真実を白日の下にさらし、ジョーカーのようなやつを被害が広がる前に捕まえたい……それだけなら探偵とか警察でいいかもしれないけどね」

 

 でも、探偵とか警察とかは僕に向いていない気がする。

 

「だから、僕は法律を武器にして僕なりの立場から救える人を救いたい。僕は、全員を救えるアニメのヒーローにはなれやしない。でも、僕に助けてと言ってくれた人くらい助けられる。そんな人になりたい」

「救うための武器が法律ですか」

「まぁ、もし知り合いの誰かが何かに巻き込まれても手助けできるためにもね~」

「君なら大丈夫です。失う哀しみを知っている君ならきっと正しい形で救える。弁護士になるというのはあくまでそれを為すのに都合がいいからということですかね」

「そうそう~」

「そうですね。なら今の段階から少しずつ六法全書でも覚え始めましょうか。高校も君の実力なら難関校も狙えますし、大学は君のことですからそのままレベルの高いところの法学部も行けるでしょう」

「まぁ高校はまた考えておくよ~」

 

 ということで、僕の面談終了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。

 

「風人」

「なに~母さん?」

「明日。担任の先生と面談しましょう」

 

 ……WHAT?

 

「頼んどいてね」

 

 ……マジで?



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三者面談の時間

「えぇ?風人君のところも面談に来るの?」

 

 翌日の学校、どうやら、渚のお母さんも面談に来るらしい。向こうは転級の手続きに来るそうだが……

 

「僕の場合は何で来るのか分からないんだよ~……トホホ」

 

 思い当たる節しかなくて困ってる。

 しかも、困ったことに烏間先生は出張中。残ってるのあの殺せんせーとビッチ先生だもんなぁ……あ、ちなみに時間帯としては渚の後に面談らしい。

 

「バカゼト成績()()はいいからね」

「ほんと、この前の中間も同率一位だし、成績()()はいいから」

「もしかしたら、A組に行くとかそういう話?」

「えぇー面白くなさそう……というか、烏間先生がいない中そもそも誰が担任役になるのさ~」

「なら、私がやろうか?」

 

 そう提案してきたのはビッチ先生。なんと、死神の件以来服装を清楚な感じにしているのだ。これはビッチという称号を考え直す必要があるかもしれない。

 

「私もアンタたちの先生よ?アンタたちのことくらいしっかり見てるわ」

「じゃあ、模擬三者面談をやってみようよ~」

 

 で!

 

「……何でこうなってんの~?」

「どうせ、アンタも面談なんでしょ?渚でも風人でもどっちでもいいわ」

「寧ろ厄介な方を練習台にした方がいい」

 

 という皆々様のご意見から生徒役(役じゃない)は僕。保護者役は有鬼子となった。

 

「じゃあ、よーいスタート」

 

 ということで、模擬三者面談スタートである。

 

「では、まず担任として最も大切にしている事は何ですか?」

「……そうですね、あえて言うなら『一体感』ですわ。お母様」

 

 お、意外に真面目な返答だ。これならイケるかも?

 

「じゃあうちのバ……風人にはどういった指導方針を?」

 

(今、バカって言おうとしたな)

(バカって言いかけてたな)

(でも、実際親からバカって言われてそう)

 

 酷い。うちの親もバカって言うけどさぁ。後、コレとか。

 

「風人君にはキスで安易に舌を使わないよう指導しています」

 

 雲行きが怪しくなった。

 

「まず唇の力を抜いて数度合わせているうちに、相手の唇からも緊張感が消え柔らかくなります。密着度が上がりどちらがどちらの唇かもわからなくなってきたころ……一体感を崩さないようそっと舌を偲ばせるのです」

 

 なるほど、そういう一体感か。

 あまりの返答に有鬼子は頭を抑え片岡さんが銃を抜いてビッチ先生の眉間に照準を合わせた。

 

「そもそもうちのクラスの担任は名目上烏間先生」

「だよね。親同士で話を合わせるために統一しておかないとね」

 

 と、僕らがどうすべきか悩んでいると、

 

「ヌルフフフ、簡単なことです。私が烏間先生に成りすませばいいのですよ」

 

 ドア越しに聞こえる声。なるほど、その手があったか。

 ドアを勢いよく開けて現れた殺せんせー。

 

「おう!ワイが烏間や!」

「「「再現度ひっく!」」」

 

 あまりの再現度の低さに涙が出てきた。

 顔のパーツがほぼ殺せんせー。無駄に腕ばっかり筋肉があるように見せるため太くなって、しかも色を肌色というかなんというかに変えてるせいでソーセージにしか見えない。極めつけは足の本数。もう人間には見えない。

 

「とりあえず、要らない触手を切り落とそうよ~」

「だね。殺せんせー。2本を残して後は切っちゃおう」

「ぐぬぬ……仕方ない……ってちゃっかり殺そうとしないでください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 といろいろあって、顔のパーツは作り、余分な触手は全ての机の中にしまい込んだ。

 で、渚のお母さんがやって来て……

 

「うへぇ……怖そ」

「しぃー」

 

 僕らは隠れて様子をうかがっているが……渚のお母さん怖そう。てか、厳しそう。

 で、何か外からこっそり聞いていると、最初は体操選手の話やらで流れをつかんで、いい感じに持って行ってる。

 

「それにしてもお母さんお綺麗でいらっしゃる。渚君も似たんでしょうかねぇ」

 

 殺せんせーの言葉を境に何か渚のお母さんの空気が変わった。

 

「この子ねぇ……女でさえあれば私の理想にできたのに」 

「……貴方の理想?」

 

 ……理想?

 

「ええ、この位の歳の女の子だったら長髪が一番似合うんですよ」

 

 そうなの?短髪でも可愛い人は可愛いと思うよ?

 でも、何か渚のお母さんは短髪しか許されなくて、渚が勝手に髪をまとめたときは怒ったらしい。酷い親だ。 

 

「そうそう進路の話でしたわね。私の経験から申しますに、この子の齢で挫折する訳にはいきませんの。この椚ヶ丘中学から放り出さたら大学にも就職にも悪影響ですわ。ですからどうか、この子がE組を出れるようお力添えを」

「……渚君とはちゃんと話し合いを?」

「この子はまだ何にもわかってないんです。失敗を経験している親が子どもの道を造るのは当然でしょう」

 

 何だろう。凄くむかつく親だ。

 

「なるほど。なぜ渚君が今の彼になったのかを理解しました」

 

 殺せんせーはそう言うと唐突にヅラを外し、

 

「そう!私、烏間惟臣はヅラなんです!」

 

 …………え?大丈夫?この状況って結構マズくない?

 

「髪型、高校、大学……これらは全て渚君自身が決めるものであって貴方が決めるものではない。それにお母さん。渚君の人生は渚君のモノ。決して彼は貴方のコンプレックスを隠すための道具ではない」

 

 ヅラを引き裂くせんせー……

 

「この際担任としてハッキリと申し上げます。渚君自身が望まぬ限り、E組から出る事は認めません」

 

 どうしよう。あの頭が目に入ってかっこいいはずなのに……

 

「何なのアンタ!教師のくせに保護者に向かってなんて言い方なの!バカにすんじゃないわっ!はぁ!?人の教育方針にケチつけれるほどアンタ偉いの!?言っとくけどこんな山奥にバカ共集めて教えるようなバカ教師に説教されるほど堕ちちゃいないわ!私はアンタなんかよりずっと世の中のこと知ってるのよ!」

 

 急に叫びだした渚のお母さん。これには窓際で聞き耳立てていた僕らも思わず耳を塞ぐ。

 

「お、おっかねぇ……」

「やばくね……?」

 

 とりあえず、教室に戻ってみると……

 

「あれ?次まさか僕の番?」

 

 え?こんなの見た後に僕の番だって?マジ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、渚君のお母さんが行ってから十分くらいした後、

 

「ふぅーアンタ。毎日これ登ってるの?」

「どやぁ。僕の凄さが身に染みたか」

「はいはい。ほら行くわよ」

 

 次は風人君の番です。一回だけ見たことがあるけど……

 

「風人の母さんも美人じゃね?」

「見た目はいいけど……」

「後は中身ね。どっちから遺伝したか……」

 

 さっきと同じくらい興味津々な皆。

 

「僕って三者面談じゃなかったよね……」

 

 多分公開処刑じゃないかと思った。

 

「失礼します」

「お待ちしておりました。風人君のお母さん」

「すみませんね。時間を取ってもらって」

「いえいえ、で、今日はどう言ったご用件でしょうか?」

「その前にバ……風人。アンタは廊下にいなさい」

「へーい」

 

 と、三者面談のはずなのに早々に追い出された風人君。

 

「すみませんね。あの子が居ると話が進まないもので」

「……それは重々承知しています」

 

 私たちも激しく同意する。

 

「風人の成績見させてもらいました。一学期中間総合5位。期末総合2位。二学期中間総合1位」

 

 成績の話をしている……やっぱり転級の話かな?

 

「お母さん。もしかして、転級の話でしょうか?」

 

 殺せんせーが先んじて聞く。

 

「転級?なぜそんなことさせる必要があるのですか?」

 

 しかし、風人君のお母さんの返答は予想とは違うものだった。

 

「E組が差別を受けていることは知っています。親としてはそんな環境から子どもをいち早く出す。それが普通なんでしょうね」

「でしたら……」

「でも、だから何でしょう。あの子は一度としてE組から出たいと言ったことはありません。だったら、親が何故あの子をわざわざ出たくない環境から無理やり出す必要があるのでしょう?」

 

 何というか……達観している。

 

「先生。あの子は小さい頃から何でも出来た俗に言う天才です。鳶が鷹を生むなんて言葉の通り私たちからは想像もできない子が生まれたんですよ。最初は与えることがいいことだと思ってました。次々と課題を与え、あの子を育てようとしました。でも、与えたものはすべてこなしてしまい、あの子は退屈していたんです。そんな時、一人の少女とあの子は会った」

 

 その少女はおそらく千影さんのことだろう。

 

「その少女もあの子と同じくらいの天才でした。その少女とあの子は頭脳は同じくらい。でも、精神的にはかけ離れていた。いいえ、正確にはあの子はずっと幼いままでした。理由は分かっています。私たちはあの子の『才能』ばかり目が行ってあの子『自身』を見ていなかった。あの子には色んなものを与えましたがたった一つ。『愛情』という大切なものを与えなさすぎた。あの子は無意識だったんでしょうね。無意識に愛情を欲している日々で、きっとあんな風に」

 

 それでマイペースで子供っぽい……。

 

「環境が人を作るとはよく言います。あの子はずっと辛かったんでしょうね。自分に愛情を向けてもらえず、私たちは愛情の向け方が分からなくなってしまった。接し方が分からなくなっていた。だから、親しくしていた少女が目の前で死んだ後あの子は生きる目的がなくなってしまった。きっと私たちが死んでもあの子はそんな事にはならなかった。唯一あの子を見てくれた彼女だったから余計辛かったんでしょうね……」

 

 そうなんだ。風人君が自由にしていられたのはきっと、後悔からなんだ。幼いときに鎖で縛り続けて雁字搦めにしてしまった。そのせいで歪んでしまったから……

 

「私たちは何もしてやれませんでした。でも、あなた方は違います。あなた方はあの子自身と接してくれた。だからあの子自身も少しずつ成長していると思います」

「それは違いますよ」

「……え?」

「あなた方は何もしてやれなかったわけではない。しっかり、風人君を見守っているじゃないですか。鎖で縛るのをやめた。だからといって完全に放置していたわけではなくて、しっかり見守っている。本当に愛情がないのなら、風人君自身に価値は感じません。才能だけを見ていたなら、きっとこの場に彼はいなかったでしょう」

「そうですか……」

「はい」

 

 きっと反省して不器用なりに頑張っていたんだろう。でも、多分風人君もそれを感じ取ってるはず……何だろう。風人君って本当に色んな事を経験しているなぁ……。

 

「じゃあ、本題に入りますけど……あの子今彼女がいますよね?このクラスに」

「ほう。それは本人が?」

「見ていて分かります。今のあの子は、千影ちゃんが……親しかった少女が生きていた時のような楽しさを感じますから」

「確かに楽しそうですよ」

「その彼女。多分神崎有希子ちゃんで合ってると思いますが」

 

 何で当てられるんだろう。というか、私の話に変わってない?

 

「その子は――」

 

 ゴクリ、どうしよう。何か条件つけられてそれを満たしてなかったら別れさせるとか?

 

「――その子は努力できる子ですか?」

「…………はい?」

 

 え?何かもっとこう成績優秀とか性格とか……あれ?そういう話だと思ってたんだけど……。

 

「性格も頭の良い悪いも家がどうこうも私は風人が受け入れているなら何でもいいです。ただ、その子は努力できる子かどうか。何の努力も出来ない子には流石に任せられませんから」

「その点ならご心配なく。その子は――いいえ。このクラスの生徒は皆、目標に向かって努力できる子たちです。私が保証します」

「ならよかった。あの子がこのクラスでよかったですよ」

 

 そう言って立ち上がった風人君のお母さん。

 

「このクラスは危険な事に巻き込まれていますね?」

 

 その言葉を聞いた瞬間。私たちは鳥肌が立った。…………暗殺のことがばれた?

 

「深く詮索はしません。それに貴方は烏間先生ではありませんよね?……まぁ、人間ですらないでしょうが」

 

 本当にばれてるんじゃないだろうか?

 

「特にそのことをとやかく言うつもりはありません。私からたった一つだけ。あの子をお願いしますね」

「……風人君のことは責任を持って預かります」

「あなたが何者でも私は何も言いません。貴方は風人(息子)を見てくれる先生。それで充分です。では」

 

 そう言って、職員室から出て行く。

 

「じゃあ、風人。話終わったから帰るね。アンタも遅くならないでよ」

 

 風人君に一言残して去って行った。 

 そして……

 

「か、風人君!?何か私のことバレかけてるんですけど!?」

「あーうん~母さんねぇ。なんか察しがいいんだ~勘が鋭いというか~あはは~」

 

 あれは鋭すぎだろう。もしかして、その妙な勘のよさは母親譲りではないだろうか。




※この後書きはフィクションです。茶番です。ネタです。飛ばしたい人は飛ばしてください。






 目が覚めると目の前には刀を持った鬼(メインヒロイン?)がいた。

「作者さん?貴方の罪状を述べてください?」

 気が付くと私は手を縄で縛られ拘束されていた。

「ほらほら~正直に言わないと~…………マジで死ぬよ」

 近くには風人君(主人公)が最初は煽るように、次第に真面目なトーンで言ってくる。

「早く言いなさい?」
「はい。私、作者は四ヶ月くらいこの作品から失踪していました」
「知っていますか?この話が2020年最初の投稿なんですよ?」
「あ、じゃあ、あけましておめでと――」
「遅すぎです!」

 ボコッ

「うっ……刀は斬るものであって、柄で殴るものじゃ……」
「まぁまぁ有鬼子~そう怒らないであげてよ~きっと忙しかっただけなんだから~ね?」
「そうだよ!世間一般は大変なんだよ!」
「へぇ。じゃあ、世間一般の皆様が大変な中、貴方は何を?」
「ニート生か――」

 ボコッ

「――嘘です。バイトです」

 ボコッ

「ちょっと待て!今のは本当だわ!」
「バイトが出来る→体調は悪くない→執筆できる→投稿しろ→制裁」
「……ちょっと待って?その流れはおかしくない?」
「ちなみに体調が悪かったらどうしてたの~?」
「体調が悪い→家に居る→時間が余る→執筆できる→投稿しろ→制裁」

((うわぁ……鬼だ))

 ボコッボコッ

「サラッと心読みやがったな!?」
「酷い!僕まだ何も言ってないよ!?」
「はぁ……一回殺して転生させた方がいいんじゃないかな」
「ひでぇ……ん?そんな態度を私に取っていいのか?我らがメインヒロインよ」

(あれ~?何かこの作者開き直ってね?)

「態度?何か問題でも?」
「いいかい?君の行動は私の指先一つで決まるのだよ」
「へぇ…………脅しているつもり?」
「だから君のことなど風人君とあんな展開やこんな展開に持ち込んで骨抜きにすることも出来るんだぞ!」
「…………っ!」

 頬を赤らめる目の前の鬼…………勝ったな。

「先生!有鬼子は中身が毒で出来ている為、抜く骨がありません!」
「な、何だって!?風人君!それは話が違うじゃないか!」
「僕に言われても知らないです!有鬼子の中身をこんなドス黒いもので満たしたのは作者です!」
「クソっ!なんて事だ!私の完璧な計画が……はっ!」
「………………死ね」

 ザクッ

「は、犯人は……お……に……(カクッ)」
「さ、作者ぁ!?有鬼子!いくら何でも図星だからって今のは――」
「………………次」

 ザクッ

「は、犯人は…………ゆ……き…………こ(カクッ)」

 その後、

「か、風人君と作者さん!?どうして二人がやられているんですか!?」

 二人が血を流しながら倒れているところを通行幽霊が目撃。現場には血文字が残されていたとかいないとか。
















「はい。というわけで、投稿が遅れたことを深く私からお詫びします。前回投稿したやつでやる気がとか言った矢先にこれなので、しっかり作者には言っておきます。次回はこんなにお待たせさせないよう努めていきます。
……え?作者があんな状態だったのに何で私が喋れるかって?……ふふふっ。それは秘密です♪」


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学園祭の時間 

 三者面談の日の夜。渚のお母さんが渚と共にE組校舎を燃やしかける事件が起きたが殺せんせーの活躍により無事解決。渚も親子の関係が少しは改善されたようで結果オーライってやつだ。……まぁ、烏間先生カツラ説が渚のお母さんの中で流れていることを除けば。多分、誰にも言ってない……というか言えないだろう。息子の担任が若いのにカツラだなんて。本物の烏間先生は知ったらどんな反応するんだろうか?

 

『もしもし?聞いてる?』

「あーうん~聞いてるよ~」

 

 僕は今電話中である。相手?そんなの……

 

『でさぁお兄ちゃん。椚ヶ丘の学園祭だけど……』

 

 僕をお兄ちゃんと呼ぶのは涼香しかいない。

 

『私たち行くつもりだからよろしくね』

「学園祭デートってやつ~?」

『そうなの!椚ヶ丘の学園祭って結構本格的じゃん。しかもここでのクラスの収益の結果が大学とか社会に出ても響いてくるくらいなんでしょ?』

 

 そう。うちの中学……というか中高の学園祭は本格的すぎるのだ。まさか、楽しくわいわいやればいいはずの学園祭がそんな裏事情を抱えている(公に知られている時点で裏ではない気がする)。

 まぁ、すごい話なんだけど、あの理事長の開く学園祭だからなぁって思うと納得してしまう自分がいる。

 

『うーん。でもお兄ちゃんたちは一緒にまわれないんでしょ?』

「まぁ、利益勝負で云々ってのもあるけど、多分ずっとE組にいるかな~」

 

 まぁ、居るだけで僕個人としては動く気も働く気もない。いや、面倒じゃん。

 

『絶対E組のところに行くからね』

「まだ何やるか話し合ってないけどね~」

『何でもだよ。あ、ステージ系だったら時間を教えてね。まぁ、決まり次第報告ってことで!』

「えぇ……そういうの有鬼子に頼んでよ……」

『いや、お姉ちゃんの勉強を妨げるわけにはいかないじゃん』

「僕ならいいの!?」

『まぁ息抜きがてらでいいんじゃない?』

 

 酷い話だ。

 

「で~?用件はそれだけ~?」

『そういや怪我は治った?』

「うん~もう完治したよ~」

 

 まぁ、何故かまだ野山を駆けまわることは禁止されているが時間の問題だろう。

 

『そう。よかった。じゃ、頑張ってね。学園祭』

「そこそこはやるよ~」

 

 こうして切れる電話。

 一つ思うのは頑張るのは学園祭より勉強ではないだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本校舎では、E組がまた何かやるのではないかと大きな盛り上がりを見せているそうだ。

 

「浅野の奴。スポンサー契約したそうだ」

 

 A組の浅野君はなんと、飲食店と契約するっていうもう学園祭の域を超える荒業を見せる。

 いや、超えすぎだし荒業すぎだし。

 

「今までもA組をライバルに勝負する事で君たちは成長してきました」

 

 テストや体育祭とかかな?

 

「この対決は暗殺と勉強以外の一つの集大成になりそうです」

「集大成?」

 

 渚が首を傾げる。僕もよく意味が分かってない。

 

「そう!君たちがここでやってきた事が正しければ。必ず勝機は見えてきますよ」

 

 とは言え出店とかそういうのは300円、イベント系は600円までと上限がある。どんなにA組との対決で賑わってるとしてもE組は本校舎を使えないだろう。だから、こんな山道をわざわざ登ってまで金を落としたくなる。そんな出し物……………………無理じゃね?

 圧倒的に不利な戦い。皆頭を使うが一向に改善案は出てこない。だが、殺せんせー僕らのそんな様子を見ても焦ることはしない。

 

「確かに浅野君は正しい。必要なのはお得感です。安い予算でそれ以上の価値を生み出せれば客は来ますから」

 

 確かにそうだね。低い支出(ローリスク)大きなものが手に入れる(ハイリターン)。これが重要だろう……となると、E組はお金以外に山登りという支出(マイナス)がある。うーん。それで莫大なリターンを感じさせるのかぁ……。

 A組には浅野君の人脈がある。なら、E組には何があるのだろう?

 

「E組におけるその価値とは……例えばこれ」

 

 そう言って見せてきたのは…… 

 

「……どんぐり?」

「ええ。これは裏山にいくらでも落ちているどんぐりです。種類は色々ありますが……実が大きくアクの少ないこのマテバシイが最適ですかね。皆で拾ってきてください、君たちの機動力なら1時間程度で山中から集めてこれるはずですから」

「わぁーい」

「あ、風人君は待機でお願いしますね」

「えぇっ!?何でさ!」

「君のことですから野山を駆け回り傷が開く恐れがあります。まだ激しい運動は禁止されているでしょう?」

「うっ……」

 

 確かにその通りだ。僕は比較的安静にしているのに()()()そうやって危険視されている。医者からも、「君のことだからあと一週間は激しい運動禁止ね」と昨日言われたばかりだ。

 

「……でも、僕だってどんぐり拾いしたいもん!ついでに山の中の面白そうなもの拾いたいもん!」

 

(((絶対碌な物拾ってこなさそう……)))

 

「それ以上我が儘言うと神崎さんを見張りにつけますよ」

「おとなしくしてまーす」

 

(((まさかの即決!?)))

 

 決して(彼女)の監視を恐れたわけじゃありません。ただ、僕一人ではなく有鬼子まで減ってしまえばその分どんぐり集めの効率が落ちてしまいます。それに医者からも言われているしね。断じて(彼女)による見張りが嫌だったわけじゃないよ?ほんとだよ?

 

「暇そうな風人君にも仕事をしっかり与えますよ」

「え?ゲームしろって話じゃなかった?僕は大人しくゲームしてるから皆頑張って~」

「神崎さんを――――」

「……と思ったけど皆頑張ってるのに僕だけゲームもダメだよね~で?何すればいいの~?」

 

(((神崎さんって風人の彼女だよね?明らかに反応がおかしいような……)))

 

 最近、有鬼子の名前出せば僕がへこへこ従うみたいになってる。むー。そんなつもりはないんだけど…………怒らせると怖いし。なんかさっきから何故か有鬼子がどんどん笑顔になってるし……

 

「とりあえずメモしたことをやっておいてください。じゃあ、皆さん。山へ行きますよ」

「「「はーい」」」

 

 やれやれ。

 

「眠たいし寝ようかなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寝ようと思ったけど律に『サボってたら神崎さんに報告しますね♪』と脅され(心の中で)大号泣しながら一、二時間程頑張りました。

 

「これを使ってラーメンを作りましょう!」

「ラーメン……だと?」

「らーめん?」

 

 ラーメンという単語に反応したのは村松と僕。

 と、気付けば話は進んで目の前にあるのは粉。話によると集めたどんぐりを水につけて浮いたものを捨て、沈んだやつの殻を割って渋皮を除き中身を粗めに砕き流水(川の水)につけてアク抜き。そこから天日干しをしてひいたものが目の前にある粉の正体だ。

 で、無害なので僕は通称どんぐり粉を指に軽くとり少し舐めてみる…………ふむふむ。

 とりあえず、僕はプリンの時に律に作ってもらった伊達眼鏡をかける。

 

「うーん。味と香りは中々面白そうだけど粘りが足りないね。つなぎに卵を使おうと思うとその分経費がかさみ、スープにお金をかけられなくなる。そうなると利益という面を考えたときにどうしてもプラスが生み出しにくい。何より卵を多く使うためにこのどんぐり粉の独特の味わいが失われるかもしれない。活かそうと思うと中々難しい粉だ」

「「「……………………」」」

 

 すると何故か皆が固まった。え?どうかしたの?

 

「そういやお前……料理もできたんだな」

「久々にハイスペックさを感じた……」

「ヤバい……普段と違いすぎて凄い違和感」

「こいつ……出来る!」

「???」

 

 なんだこの反応。失敬だなぁ。

 

「ふっふっふっ。ですが風人君。これを使えば解決するのでは?」

 

 そう言って出してきたのは……自然薯?

 

「ふむ……確かに自然薯ならつなぎに申し分はないかな。でも自然薯って卵より高くない?」

「ご心配なく。この自然薯はE組の裏山に生えてますから」

「ならOKかな。後は混ぜてみてどんな麺が出来るかっていうことと、スープの開発だね。ラーメンというよりつけ麺の方にシフトチェンジしたらいいんじゃないかな?そうすれば麺が時間による変化でのびたりすることもないし、何よりつけ麺の方がラーメンよりもスープそのものの量は一食当たりで少なく押さえられる。そうすれば利益を考えたときにつけ麺の方が確実に儲かるね。少なくとも僕はそう思うけど村松はどう思う?」

「お、おう……何一つ反論するところが見当たらないな」

「ただ、つけ麺主軸で行くのが確定だとしてもそれでは一人当たり一食が精々。サイドメニューもある程度は豊富にしておかないと、どんなにおいしくとも一品しか売ってないでは飲食店を出す上では確実にアウトだ。裏山になら探せば他にも食材が出て来ると思う。幸い裏山なら食材とかの費用はゼロ。利益を生むには最適だ」

「えぇ。皆から見えないE組の武器ですよ」

「確かに大きな武器だ。皆にはサイドメニューの確保をしてほしい。村松と僕でこの麺に合う最高のスープ作りをする。村松。目標は低コストで最高の味わいだ。調理室へ行くよ」

 

 僕はいつの間にか殺せんせーが持っていた僕のエプロンを身にまとい調理室へ行く。時間は有限だ。やれるだけのことをしなくては。

 

「…………ねぇ。あれマジで誰?」

「プリンの時も見たけど……風人君って眼鏡かけると知的になるの?」

「ですが、彼の言っていることは全て的を得ていますよ。そもそもつけ麺だけでは戦うことは出来ませんからね。あれはあくまでメインウェポンですよ」

「けっ。ならそのつけ麺が霞むくらいのサイドメニューの材料を探してやろうじゃねぇの」

「だね。あの状態の風人君をギャフンと言わせてあげようよ」

 

(ヌルフフフ。彼がここまでやる気を出すのは想定外でしたが、よい方向に向かっているようで何よりです)

 

「どうしたの?神崎さん」

「…………何か凄いなぁ……って」

「あはは……普段とは大違いだもんね」

「うん。さっきの風人君……格好よくて凄いドキドキした。これがギャップ萌えかな?」

「確かに。普段は子どもっぽいというか可愛い系だよね」

「よし。風人君に負けないよう私たちも頑張ろっか」




「質問」


「約一ヶ月失踪していた作者から質問が届いているって」
「最初に棘がある気が……で、質問?誰に?」
「読者の皆様にだって」
「ほへぇ~どんな」
「Twitterに関してだって」
「ついったー?作者ついったーやってないよね~?」
「うん。何かYouTube見ていて、実況者の人が動画告知をTwitterでやっている人がいてね」
「ふんふん」
「知っての通り作者って風人君と同じでクソ……超マイペースだからいつ投稿されるか分かんない状況」
「地味に傷付くな~」
「だからTwitterでそうやって告知したらありがたいのかな?って、後は感想欄じゃできないこともできるんじゃないかって」
「なお作者はガチで使ったことないからよく分かってない模様」
「でも、見たり聞いたりはしたでしょ」
「うん~友達にアカウントが十数個ある人がいるって~そんなにアカウント作ってどうするんだろうね?」
「とこんな感じなので意見(?)を募集(?)します。詳細(?)は活動報告にて」
「あ、感想欄には書かないでくれるとありがたいです~きっとお互いに面倒なので」
「活動報告には下記のリンクからどうぞ」

活動報告URL
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=236583&uid=129451


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学園祭の時間 二時間目

 学園祭前日。準備は滞りなく進んでいた。

 

「…………うん。ようやく完成したね」

「ああ。ここまで長かったな」

「ええ。この味ならメインウェポンに相応しいでしょう」

 

 ついに看板メニューのどんぐりつけ麺のスープが完成した。

 スープ作りは難航した。実家がラーメン家ってことで、村松が主、僕がサイドメニューにも手を出しつつ、フォローするという形を取った。いやまぁ、本当にここにたどり着くのに苦労した。

 

「風人。サブメニューの方は?」

「大丈夫。問題ないよ」

「よし。これなら行けるな」

 

 グラウンドの方を見てみると既にテーブルの配置を終えていて皆休憩していた。

 

「一応、試食してもらおうか。明日への英気を養うのとこの一週間お疲れ様ということで」

「だな。明日からが本番だ。それにこっちの武器の威力を知ってもらうのにはちょうどいい」

 

 まぁ、皆色んなところを飛び回っていたからね。授業の後だというのに凄い働いてくれたから。

 

「皆~差し入れだよ~」

「ほらよ。これがうちの看板メニュー。どんぐりつけ麺だ」

「「「おぉー!」」」

 

 皆ご飯となるとすごい勢いだなぁ。しっかり全員分用意したんだから。

 

「うめぇ!」

「最高だな!」

「おいしい!」

 

 皆からも大好評だ。うんうん。

 

「では、皆さん。明日から気合い入れて行きますよ!」

「「「おおぉぉーー!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~♪~~♪」

「嬉しそうだね風人君」

 

 帰り道。いつもよりも遅い時間ですがいつも通り二人で帰っています。

 隣の風人君は何というか凄い嬉しそうな空気が滲み出ています

 

「え~分かる~?」

「うん」

「僕らが時間をかけて作ったものを皆がおいしいそうな顔で食べてくれたんだよ~嬉しくないわけないじゃん~」

「そっかぁ……」

 

 私はそんな風人君を見ていると頭を撫でてあげたくなってしまう。ということで、彼の頭に手をおいてゆっくり撫で始める。

 

「頑張ったんだね」

「うん!」

 

 すると、私に抱きついて来る!?えぇっ!?ちょ、ちょっと待って!心の準備が……!

 

「だから絶対成功させようね~!」

 

 そしてキラキラと輝く純粋な瞳を私に向けてきます。うっ……ま、眩しい……。というか……

 

「わっ……!」

 

 凄く可愛く感じて思わず抱きしめてしまう。

 やっぱり、準備の時に見せていた格好いい風人君も好きだけど、こういう子どもっぽくて可愛さを感じられる風人君も大好きだ。

 

「じゃあ、また明日ね~」

 

 その後、しばらく抱きついて離れなかったけど、私の家の前につく。そして、手を振って風人君は自分の家の方へと向かっていく。

 風人君は最近……というか死神の一件で少し変わった気がする。本当に微々たる変化だけど一歩前に進めたと思う。

 

「私は……」

 

 ううん。やめよう。今は明日のことを考えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園祭当日。僕は基本的には調理担当。時々配膳というかウェイター的なのをするという役目に。まぁ、調理担当は僕、村松、原さんの三人しか居ないんだけどね。

 他の皆はというと山の下で客引きしたり、足腰が弱い人の為に運び屋みたいな感じをしたり、山の中で食材を集めていたり、偵察したりと様々だ。殺せんせー?ああ、せんせーなら屋根のところでシャチホコになってるよ。

 

「ああ!」

 

 と、エプロン姿でお客さんに料理を出してると、新たに山を登ってきたお客さんを見て杉野が声を上げる。

 えーっと、学ランを着崩した感じの『THE・不良』が五人……?

 

「…………どちらさま~?杉野の知り合い~?」

「修学旅行の時の高校生だよ!」

 

 修学旅行?高校生?……ダメだ。イマイチ思い出せていないけど思い出したことにしておこう。

 

「(ぽんっ)…………あー思い出したーあの時の高校生かー」

 

(((こいつ完全に忘れてるだろ!)))

 

「テメェに至っては会うの三度目だろうが……!」

 

 おかしい。何故思い出せてないことがバレたんだ。

 

「いやいや、覚えてるって~ねぇ、リュージ君!」

「リュージじゃねぇよ!」

「冗談だよ~リュータロー君」

「さっきより離れてるぞおい!」

「で~?ヤスオ君たちは何しに来たの~?」

「リュウキだよ!テメェふざけるのも大概にしろよ!?」

「おぉ……!そんな名前だった気がする……!」

「気がするじゃねぇよ!」

 

 更に息をあげるりゅーき君。どうやらお疲れのようだ。可哀想に。体力ないのかなぁ?

 

「で?アンタらは結局何しに来たわけ?また女子でも拉致るつもり?」

 

 カルマが煽るように聞いている……?ん?また?

 

「んなこともうしねぇ――」

「あぁっ!有鬼子とししょーを拉致した高校生集団か!」

「――よって今更かよこのチビが!テメェらもいい加減こいつを止めろよ!話が進まねぇだろ!?」

「「「……………………」」」

 

(((だって相手が相手だし。止める必要はないかなぁって)))

 

 修学旅行の時の班員は全員無言で顔を背けた。何だろう。仲間外れ?

 

「はぁ。だが、別に力を使わなくたって台無しに出来る。例えばぁ?この店の料理がマズいとちょいとネットで呟いたりなぁ」

「……それは僕らへの挑戦状と受け取っていいんだね」

「あぁ?んなことは知らねぇよ。ほら、さっさと出せよ」

 

 僕は注文を取り調理室へ去って行く。そして、

 

「注文のどんぐりつけ麺だ」

 

 りゅーき君たちの前につけ麺を置く。

 お仲間たちは料理の見た目から既においしそうとはしゃぐがりゅーき君だけは硬い表情。そして何かを決意したように食べ始め、

 

「う……うまい……!」

 

 一口目で涙ながらに感想を言ってくれた。

 まぁ、今のが本音だろうし僕は満足だ。後は……

 

「ビッチ先生。パース」

「ええ、任せなさい」

 

 ああいういいお客さん(金ヅル)の相手はビッチ先生に任せよう。そうすれば……

 

「駅前にあるわよ……A・T・M♥」

「「「卸して来やす!」」」

 

 金ヅル(カモ)金を卸して(ネギしょって)帰ってきて(やって来て)くれるから。

 

「貢ぎコースが確定した……」

「チョロいわね」

「さぁって全メニュー二周くらいさせよー」

「えぇ。ドンドン金を落とさせるわよ」

 

(この人たち悪魔だ……)

 

 この後、彼らのお財布は凄い軽くなったとか。まぁ、いいよね?僕らの売り上げに貢献してくれたってことで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、風人。やっほー」

「しっかり働いてますね。風人」

 

 高校せ――金ヅルたちから金を巻き上げるのも終わった頃、涼香たちが遊びに来た。

 

「涼香~雷蔵~やっほ~」

 

 とりあえず、二人はテーブルに付く。

 

「いやぁここまで疲れたよ……こんな山道歩いてるんだね」

「まぁね~そういや二人とも学校は?まさかのサボり?」

「ああ、風人はそういうの興味なかったですから覚えていなくても無理はないですね」

「???」

「今日は私たちの中学校の創立記念日で休みだよ」

「えぇー!?じゃあ、僕も前の中学校の創立記念日だから休みにしよ~」

「ダメです。涼香さんたちが休みでも風人君には関係ありません」

 

 と後ろから僕の肩に手を置いて語りかけてくるのは……

 

「…………げっ

「どうして、そんな『見つかりたくない相手に見つかった』みたいな表情をするのかなぁ?」

 

 みたいではなくまさにその通りである。そして握られた肩がすごい痛いです。ミシミシ言っています。誰か助けてくださいマジで。

 

「有希子ちゃんこんにちはー。その格好似合ってますね」

「え、あ、ありがとう……」

「そういえば風人もエプロン姿ですね。調理担当ですか?」

「調理担当兼ウェイター。いぇい」

「あ、お兄ちゃん料理は意外にできるもんね」

「ええ。性格からは想像できませんが」

 

 何故だろうか。褒められている気がしない。

 

「注文のどんぐりつけ麺です」

「ほほう。これが看板メニューの……」

「では、いただきますね」

 

 そう言って二人は食べ始める。

 

「ん~おいしい!」

「ええ。麺と汁がいい感じに調和されていますね」

「ふふん~この味を求めて一週間頑張ったんだよ~」

「こんだけおいしかったら儲かってるんじゃないの?」

「うーん。やっぱり山道を歩いてわざわざというのはネックになってるみたい~」

 

 僕らからしたらそんなに大変とは思わないけど、やっぱり一般ぴーぽーからしたら辛いみたいだし。

 

「風人お兄さん!」

 

 と、どこかで聞き覚えのある声がする。

 

「おーあおいちゃん。よく来たね~皆で来たの~?」

「うん!」

 

 見るといつぞやの松方さんが子どもたちを連れている。さくら姐さんは真っ先に渚の方へと行ってるようだ。

 

「はっ!風人の妹枠を脅かす存在が……!」

「いや、僕ら従兄弟だし。もっと言えば今涼香の方が歳上だし」

「妹枠に歳なんて関係ない!」

「いや関係あると思う」

「新ジャンル『歳上妹』でここは手を……」

「それは妹の域を超えてるでしょ!」

 

 何でこんなにテンション上がってるんだろ……。

 

「こんにちは。僕は篠谷雷蔵。風人の友達です」

「こんにちは。篠谷さん……あれ?風人お兄さんと別の学校の人?」

「何でそう思ったの?」

「有希子お姉さん……えっと、ここの学校の人は皆制服着てたのに、そこの女の人と篠谷さんは私服だったから」

「よく見てるんですね」

 

 と、こっちが従兄弟でバカなやり取りをしている中、あおいちゃんは雷蔵と有鬼子と話していた。

 

「あ、私は岩月涼香だよ。よろしくね」

「よろしくお願いします」

「風人!どうしようすごいこの子いい子なんだけど!」

「……風人お兄さん。岩月さんって……」

「違うよ。涼香は普段はもっとまともだよ。今はただ学園祭デートでテンションが上がってるだけなんだ」

 

 遠い目をして語ってみる。うん。きっと普段はまともだよ…………きっと。

 

「で~ご注文は何にする~?」

「どんぐりつけ麺で」

「はいは~い」

 

 ということでつけ麺を取りに行く。

 見ると他の一緒に来ていた子たちもどんぐりつけ麺を頼んでいるようで……うーん。

 

「まぁいいや~」

 

 本音を言うと利益度外視して彼ら彼女らにサービスというか、色々と食べさせてあげたいけど、流石に松方さん側が遠慮しちゃうだろう。仕方ないね。ここは我慢しよう。

 

「おまたせ~注文のどんぐりつけ麺だよ~」

「ありがとうございます」

 

 相変わらず歳に似合わないくらい丁寧な子だ。

 

「風人君」

「なぁに~?」

「あおいちゃんに作法とか教わったら?」

「はっはっはっ。冗談が好きだね~有鬼子は」

「冗談?」

「い、いやぁ、僕があおいちゃんに教わるなんてそんなことあるわけ…………ないよね?」

 

 お、おかしい。自分で言っていて自信がなくなってきた。

 

「大丈夫だよ有希子お姉さん。風人お兄さんはやる時はやる人だから」

「あおいちゃん……!」

「やる時以外が酷すぎるんです」

「あー…………ごめんなさい。こればっかりは反論できそうにないみたい」

「あおいちゃん……!有鬼子!せっかくあおいちゃんが僕のフォローをしてくれているのに説き伏せたら可哀想でしょうが!」

 

((いやいや。小学生にフォローされていることの情けなさに気付いて?))

 

「でも、このつけ麺美味しいです」

「ありがとう~」

「ところでお兄さん。お兄さんはまた来てくれないのですか?」

 

 聞いた話によると渚はあの後も定期的に松方さんのところを訪れさくら姐さんの勉強を見ているらしい。他の人もちらほら行っていた人はいるらしいけど僕は行っていない。

 い、いやぁあれだよ?だって、死神騒動に入院騒動と、僕自身が身も心も行ける状態じゃなかったからね。

 

「よぉし、今度遊びに行くね~」

「うん!」

 

 満面の笑みを浮かべるあおいちゃん。うぅ……なんてまぶしいんだ。

 

「もちろん有希子お姉さんも一緒にね」

「…………え?」

 

 あ、あれ?僕の遊んで暮らす夢の生活に暗雲が立ちこめたんだけど。

 

「確かに、風人君だけだと子どもたちと一緒に遊んで終わりそうだからね」

「そ、そんなことないよ~」

「目が泳いでますよ。お兄さん」

 

 あっさりと僕の計画は見破られ崩れ去るのだった……。




Twitter始めることにしました。

「はい。というわけで前話にて云々言っていましたがとりあえず始めることにしたそうです」
「ほうほう~」
「…………まぁそんなことよりも投稿頻度あげろこのカスって気持ちですが(ボソッ)」
「え、えーっと有鬼子さんや?そ、その……」
「何かな風人君(^_^)」
「あ、い、いえ……な、何でもないです」
「というわけで興味がある方は覗いてみてください」
「作品投稿の告知はするみたいだよ~後は特に決めてないらしいです~」
「URL等はこの作者のマイページから」
「あれ~?活動報告みたく下に貼り付けてないの~?」
「作者がめんど――活動報告以上に興味ある人はいないって思ったかららしいよ」

(どうしよう。この有鬼子怖い……あ。有鬼子有鬼子って言い続けているけど、有鬼子様の画像とかイラストってほとんどないんだよね……不思議だな~)

「風人君(チョイチョイ)」
「はい~何でしょう(へこへこ)」
「フンっ!」
「ぐへっ!」
「失礼なこと考えてた気がしたから」
「…………(チーン)」
「あ、そう言えば不思議なことにもうフォロワーがいるみたいです。……ウチの駄作者が投稿する前から。これって普通なのか特別なのか知りませんがありがとうございます」

 というわけでTwitter始めました。何かこの言い方だと冷やし中華始めましたみたいな響きで面白いです。

「作者さん(チョイチョイ)」

 何かな?メインヒロイン(スタスタ)

「フンっ!」

 ぐはっ!?

「ふぅーどうでもいいことに面白がってる駄作者はおいといて、では次回もお楽しみに!」


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学園祭の時間 三時間目

 とまぁ、あの後は雷蔵と涼香も交えた五人で仲良く談笑(時折僕や有鬼子は店の手伝いをするために抜けていたが)。雷蔵と涼香の二人は松方さんたちと共に下山していった。

 

「ふぅ~」

「お疲れ様……って言いたいけどまだまだ仕事はあるからね」

「うへぇ~」

 

 気付けば一般客は消えて代わりに物騒な人たちが店に来ていた。…………殺し屋ばっかりだ。うわぁ……。

 

「ねぇ……これって、絶対に殺せんせーを狙ってきているよね?」

「だよね~。ダメだよ有鬼子。客とは言え彼らの相手に行ったら。有鬼子可愛いんだから」

「かわっ……!」

「全く、今山を上がってきたジャックおじさんたちもどうせ……?ん?」

 

 顔をなぜか紅くする有鬼子をスルーして改めて今山を上がってきた四人組を見る。

 何かさっきはホテルで渚を口説いていた(字面だけ見るとアレだが真実である)ダンスが下手だった坊っちゃんがやって来て、渚が女装して対応していたけど……おぉ。それにしても懐かしい。

 

「おひさ~おじさんたち」

「久しぶりだな、クソガキ」

「クソガキって酷いな~ジャックおじさん。で~本日は四名様ですか~?」

「そうだな」

「じゃあ、席にご案内~」

 

 ということでそのままご案内する。すると、

 

「あ、おじさんぬ。おひさ~」

「ぬぅ。貴様はあの時の」

「心配しなくてもいいよ。俺は何もする気ないから」

 

 カルマがグリップおじさんぬに声をかけるが……嘘ばっかである。この男のズボンの後ろポケットからワサビチューブの先端が見えている。

 

「まぁまぁ。ゆっくりお水でも飲みながら語りましょうよ~」

「はいはい。風人君は店員なので注文を取ってさっさと厨房に戻る」

「えぇ~……」

「ははっ。お前さんが例のお目付役か」

「え?お目付役?」

「ちっちっちっ。それは古いよガストロおじさん」

「古い?どういうことだ?」

「なんと!ここにいる鬼はお目付役から彼女へとグレード…………アップ?したのだ!」

 

 ガシッ

 

「な・ん・で初対面の人にそんな失礼な紹介をされてるんだろう……ねぇ」

「ご、ごめんしゃい……」

 

 あ、頭が……!頭が割れる……!

 

(ぬぅ。この女。なんて殺気だぬ。とても恋人に向けているとは思えぬ)

(なるほどな。この暴れ馬を制御するにふさわしい強さってわけか)

(コイツを制御……至難のワザだと思うが平然とやっているな)

(ガキに対してこの扱い……こいつら本当に付き合っているのか?)

 

 四者四様のことを思うおじさんたち。残念なことに彼らの中に僕を助けるという発想はないらしい。…………とても悲しいです。

 

「まぁいいや。注文だろう?姉ちゃんや、とりあえずどんぐりつけ麺四つとモンブランと山葡萄ジュースも四つずつ……まぁこんなもんでいっか」

「はい承りました」

 

 そう言って笑顔で僕の後頭部を掴み引きずりながら教室へ向かおうとする鬼。

 

「あーすまんがそこのバカは置いていってくれ。話したいことがある」

「あ、分かりました」

「うわぁああ!」

 

 ドサッ

 

「うぅっ……急に離さないで欲しかった……」

 

 引きずられていた体制から急に支えを取るなんて……しかも、こっちを見向きもしないなんて……うぅ。鬼め。

 

「あー……そのなんだ。お前も大変だな」

「ジャックおじさん……!」

「それにしてもお前さん。大分纏う空気が変わったな」

「そうだね。俺たちからすりゃあ、夏に会った時とは別人に感じる」

「強くなっているぬ。精神面も含めて」

「あはは……」

 

 何というか、複雑な気持ちだ。褒められて嬉しいけど褒めてきている相手が相手なだけに素直に喜んでいいものかどうか。

 

「何か一つ区切りでも付いたか?ジョーカーを倒して」

「あれぇ?何でその事知ってるの~?」

「こっちとしちゃぁ大ニュースだからなぁ。まさかジョーカーが一介の中学生にやられるなんてな」

「うっ……ということはよくもやってくれたな!的な感じで僕の元に暗殺者が……!」

「ないない。特にあの男は俺たち同業者からも好かれちゃいなかったからな」

「あの男は弱気者を痛めつけることに快楽を覚えているぬ。とても共感できないぬ」

 

 よかったぁ。……まぁ送り込まれるんだったらとっくに何か起きていたか。

 

「本当は強くなったお前と本気で殺り合ってみてぇが……ぶっちゃけ面倒だし。俺もお前も、お互いに本気の殺意を抱かねぇだろうし」

「まぁね~」

 

 あの時と違ってこの人たちは殺し屋だけどいい人たちって知っている。

 それが分かっている以上、模擬戦的なのならともかく本気で殺し合う……なんて出来ないだろう。少なくとも僕を殺されるような大罪を犯し、殺すような依頼を出されない限りは。

 

「というわけでほらよ」

 

 そう言って投げ渡してくるのは……

 

「ワイヤー?」

「本当はピアノ線みたいなお前との戦いで使ったものを渡したいが…………あれは危険すぎる。お前が殺し屋とかになるんだったら別だが……」

「殺し屋にはならないよ~」

「目を見りゃ分かる。そのワイヤーなら切れることはない。だが、使い勝手はいいようになっている」

「安全で便利なワイヤーってとこか~」

「ははっ。何やら準備していたのはこれだったか」

「ジャックにしては珍しいな。ノーリターンって分かっていながら」

「随分と気に入ったと見えるぬ」

「うっせ。……たく、コイツと俺はスタイルが近いから殺し屋になるつもりだったら後継者にしたいくらいだが……まぁいい」

「でもこれでイタズラの幅が広がるんだよね!」

「そうだな。分かってると思うがそれで人の首を撥ねることはできねぇが、首を絞めることくらいは十分できる」

「もちろん~気を付けるよ~」

 

 やったー!僕のNEWアイテムだ。これでどんなことしようかな~

 

「精々使いこなしてみな。お前にはナイフとか銃よりそういう変わっているモノの方がよく似合う」

 

 変わっている?…………あぁ、確かに普段は手錠だし、ジョーカーにはベルトを武器に戦ったっけ?確かに変わっているなぁ。そこにワイヤー……?僕は一体何を目指しているんだろう?

 

「お待たせしました。ご注文のどんぐりつけ麺です」

 

 と、そんなことを思っていると注文の品が届く。

 

「ねぇね~見て見て~ジャックおじさんからプレゼント貰ったの~」

「へぇ~良かったね」

「うん!だからこれからちょっと練習に行ってきま――」

 

 次の瞬間、気付いたら僕の手元にあったワイヤーは消え、僕自身が何故かワイヤーによってぐるぐる巻きに捕らえられていた。

 

「ダメです。今は仕事しなさい」

 

(なんつー女だ。今の手際の良さ、尋常じゃねぇぞ)

(おいおい。俺たちですら視認するのがやっとってか?)

(手から奪い去って捕縛までの時間が短すぎる……何者だぬ)

(ただ残念なことにこの女の異常さはコイツの前だけらしいな)

 

 今の一連の動きを見て四者四様に考えているらしいけど、やっぱり僕を助けるという選択肢はないらしい。

 

「ほらほら、行くよ。では失礼します」

「うぅ~じゃあね~また会ったらよろしく~」

 

 今度はワイヤーにより身動きを制限されたまま連れてかれる。……おかしい。何か僕が悪いことしたみたいじゃん。

 ちなみにこの後、グリップおじさんぬの断末魔が聞こえてきた。きっとカルマが何かしたんだろう。うん。そうだ。そうに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日になりました。

 あれからも特に大きな動きはなく滞りなく終わりました。

 

「うーん」

「どうしたの?」

「いやねぇ。昨日の感じだとどうやってもA組に勝てないなぁ……って」

 

 僕らE組は使える武器を全部使って頑張ってやっているけど、どうしてもA組に勝つにはあと一手足りない。

 

「そうだね……昨日も風人君が自由に動けた時間があるってことはそれだけまだ忙しくないって事だからね」

「そうそう~」

 

 自分で言うのもアレだがクソ忙しくて猫の手も借りたいってなっている時にあんなにお客さんのとこで油を売っていたりしない。つまり、僕に余裕があったって時点で昨日はそんなに忙しくなかったのだ。

 そしてそれは致命的な事態でもある。飲食店である以上どうしても客の回転率には限界がある。今日が仮にずっと行列で常に満席状態でない限りは勝ち目はないと言っても過言ではない。

 

「……ただ、昨日の今日でそんなことが起こると思えないけどなぁ~」

 

 諦めというよりはただの事実確認だ。たった一日でそんなに客が来るほどこの世界は甘くない。

 

「ねぇ。何か騒がしくない?」

「ん~?言われてみればそーだね~」

 

 もうすぐE組校舎が見えるってところ辺りで騒がしさを感じる。なんだろう?トラブル発生かな?

 

「おーい!和光!神崎!」

 

 何か慌てた感じで磯貝君が声をかけてくる。

 

「何かトラブル?」

「ある意味な。ちょっと見てみろよ」

 

 そう言われついて行くとそこには行列が……

 

「「え?」」

 

 珍しく有鬼子とハモる。並んでいるのはE組の店……え?

 

「というわけだ。和光、まだキッチンの方に村松しかいなくて準備に追われている」

「あ、うん。いってきまーす!」

「神崎。俺たちは和光たちのフォローだ」

「うん。分かった」

 

 何でこんなことになっていたか。後に聞いた話によると、あの例のゆーじ君はなんと今一番勢いのあるグルメブロガーだったのだ!…………え?マジ?って思ったら事実だった。

 で、その彼がこの店の事を、ベタ褒めするように書いてくれたお陰ですごい評判になり、開店前から行列が、しかも回転してからもずっと行列が残る状態で。

 

「和光!こっち10人前出来たぞ!」

「私もサブメニューの方が出来たわ」

「風人。頼まれた分の食材だ」

「オッケー!次の指示は岡島に出してある!村松!原さん!まだまだ作っていくよ!有希子!」

「分かってるよ。風人君」

 

 すぐさま僕の目の前に置かれていた邪魔なものはなくなり、新しい食材たちが。

 

「さっすが!」

「ふふっ。こっちは任せて」

 

 僕が主に食材たちの下準備なり、切ったりして、原さんが主にサブメニューの調理、村松がどんぐりつけ麺の調理と完全に分業化をしている。

 そんな僕を完璧にフォローしてくれている有鬼子がいるおかげで僕自身の作業効率が一人でやるときの2倍……いやそれ以上になっている。

 

「なぁ。あの二人って凄い息が合っているな」

「風人君は神崎さんがやってくれると分かって動いているし、神崎さんは風人君がやってほしいことを完璧にこなしているね」

「どっちも凄いな」

「普段からは想像できない」

「普段もなんだかんだで相性バッチリだよ。あの二人は」

 

 後ろで何か言っている気がするけど重要そうじゃないので全部無視する。

 そんな感じで夕方。行列も大分短くなった頃、

 

「大変です!どんぐり麺の在庫が切れそうです!」

「予想以上に売れたからな」

「でもA組はそれ以上に稼いでいるはず」

 

 多少手を緩めて話に耳を傾ける。ふむ……朝の時点で結構在庫があったから売れ残りは今度食べればいいかなんて考えていたけど……色んな意味で甘かったか。

 

「サイドメニューの山の幸も売れ行きがいいよ。残り時間はこれで粘ろうよ」

 

 確かにメインメニューはもちろんだがサイドメニューも売れに売れている。あんまり食べたことがないからだろうか?

 

「もう少し山奥に手を伸ばせば在庫はまだ生えているぜ」

 

 泥だらけになりながら食材調達班の木村君が答える。近くには同じく泥だらけの岡野さんが。

 ……うーん。山奥に行けば……ねぇ。

 

 タンッ

 

「ここで打ち止めにしよう」

 

 僕は包丁を置いてそう宣言する。その宣言に周りの皆はどこか驚いた様子を見せる。

 

「ほう。それはどうしてですか風人君」

 

 何故か頭だけ栗になっている殺せんせーが聞いてくる。

 

「これ以上採ると山の生態系を壊しかねない。A組に勝つという一時的な目的の為に今後ずっと残ってしまう被害を自然に与えたくないから」

「そうですね。その通りです。あらゆる生物の行動が縁となって恵みとなる。実感したでしょうか?君たちがどれほどの縁に恵まれてきたことか」

 

 殺せんせーの言葉でふと店に来ていた客のことを思い出す。その中には僕の前の中学の人もいたし、出会った殺し屋さんたちもいた。ライバルとして戦った人や、迷惑をかけた人たちも……ああ、そう思うと確かに恵まれている環境にあるんだな。

 

「あーあ。結局今日も授業が目的だったわけね」

「勝ちたかったけどな」

 

 程なくして在庫はほぼなくなり、少し早いが店仕舞いをすることになった。

 

「お疲れさま。風人君」

 

 僕は店仕舞いをサボ――何となく風に当たりたくて少し山に入ったあのプールのところにいた。違うよ?僕は頑張ったから免除されたんだよ?本当だよ?

 

「おつかれ~」

 

 後ろから声をかけてきた有鬼子…………もう何で居場所が分かったのかとかは放っておこう。

 隣に座ってくる有鬼子。ほ、ほら、サボってるなら連れ戻されてるでしょ?だから僕はサボってないよ?

 

「大変だったね。今日一日」

「そうだね~」

 

 朝来てからずっと厨房に行って料理をしていた気がする。あれ?休憩時間がなかったようなぁ……もしかしてブラック企業だった?

 

「意外だったな」

「ほへぇ?何が?」

「あんだけ頑張っていたからA組に勝ちたいって思いが一番強いと思ってたのに。殺せんせーが言う前にやめようって提案するもん」

「そうだね~僕も負けたいわけじゃないよ~。でもさ僕はお客さんを見て満足したんだ。頑張って作った僕らの料理をおいしいって言ってくれてさ。だから躍起になってA組に勝つ必要はないって思ったんだ。それよりはここが残る方がいいってね~」

 

 僕自身のちっぽけな利益よりももっと広いところを見る。それだけだね。

 そしてこれから言うのは僕自身のちっぽけなモノをかけたものだったりするが……まぁいいや。

 

「ねぇ。有希子…………僕と勝負しない?」






「ツイッター 話す内容が 分からない 我らが駄作者、心の川柳……字余り」
「…………くだらない悩みだね」
「だよね~ちなみにうちの駄作者そのために1時間ぐらい悩んだんだって」
「…………時間の無駄使いすぎるでしょ……」
「出した結論はこの小説のあとがきで遊ぼうってことで、投稿が本来の予定より一年ぐらい早くなったんだって~」
「……ちょっと待って。聞き捨てならない台詞が聞こえたんだけど……」
「ああ、この小説のあとがきとまえがきはぶっちゃけ作者のお遊びコーナーになってるからいいかな~って言ってたよ」
「…………駄作者。召喚」

 駄作者だよ?何か用かな君たち。

「……風人君からとんでもないこと聞いたんだけど……」

 ああ、Twitterで何投稿すればいいかで1時間くらい悩んだ話?いやね~何話せばいいんだろうって思ってさ~

「だよね~ああ、作者が最近ゲームに没頭して筆が進んでない話はどう~?」

 それね~ノってる時はまとめて書き上げられるんだけど……ねぇ。やる気が心電図みたいな感じだから。

「ほへ~そもそもネタがないなら話さなくていいんじゃない~」

 それもそっか~

「じゃないよね。二人とも……実はこの話。投稿されるのが1年後だったかもしれないって聞いたんだけど?」

 あはは~さすがに冗談だよ。

「何だ……さすがに冗談……」

 この前三ヶ月放置してみたから三ヶ月くらいなら怒られないかなって。じゃあ、三ヶ月も三十ヶ月も変わんないんじゃないかなって。

「確かに~1字違いだからね~あんまり変わんない変わんない~」
「(#^∀^)゛o゛」

 さっすが風人君。話が分かるね~

「いえいえ~マイペースな人の気持ちは分かるからね~」

 そして三十カ月後を目標にしていたら気付けば前の話から三日という。

「さっすがマイペース~投稿頻度が気分によりすぎ~」 
「(;・-・)lニフ←包丁 」

 ん?どうしたんだいメインヒロイン。包丁なんか取り出して?

「そうだよ~ここには食材はないよ~」
「(^_^)ニコニコ lニフ」

 グサッ、グサッ

「さ・よ・う・な・ら♥」
「な、なんでだ……!僕が何をした……と(バタッ)」

 お、おのれ……!いつか本編で……覚えてろよ……(バタッ)












「というわけでそこで散っている二人はおいといて、こんな感じで駄作者は成敗しておきました。まぁ、ここはギャグ漫画的世界なはずですので次の話では多分復活しています。ちなみにあの駄作者は最近本文を書き上げる→寝かせる→あとがきでなんか書きたいとが思う→書く→投稿というクソみたいな事をやっていますのできつく締めておきました。うちの駄作者は後書きを自由スペースにすることに皆様慣れているでしょうから、きっと多くの方が飛ばしたでしょうが、締めはしっかりしましょう。次回もお楽しみに!」


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期末テストの時間

 文化祭の結果は1位が中学の三ーA……つまり浅野君のクラスだ。で、2位が高等部の三ーA。つまり先輩である。そして3位に我らが三ーEが並ぶ結果で幕を閉じた。

 

「さぁて、この一年の集大成です。次はいよいよ学の決戦です。トップを獲る心構えはありますか?カルマ君」

「さぁねぇ。バカだから難しいこと分かんないや」

「では、トップを維持する覚悟はありますか?風人君」

「維持する~?ふふん。僕は負けるつもりはないよ~」

「せんせーは一学期中間の時、クラス全員が50位以内と言う目標を課しましたね。あの時のことは謝ります。せんせーは焦りすぎましたし、敵のしたたかさも計算外でした。ですが今は違う。君たちは頭脳も精神も成長した。どんな策略やトラブルにも負けず目標を達成できるはず。堂々と全員50位以内に入り、堂々と本校舎復帰の資格を獲得した上で、堂々とE組として卒業しましょう」

 

 なんだろう……堂々とが多いなぁ……。

 

「そう上手く行くのかな……」

「「「え?」」」

 

 と、ここで若干マイナス寄りの発言をしたのは杉野。

 

「A組の担任が交代したらしいんだ。新しい担任はなんと浅野理事長」

「そうですか……とうとう」

「正直、あの人の洗脳教育は受けたくないよ」

「授業の腕もマッハ20の殺せんせーとタメはるし」

「あの人の授業を受けたら多分もう……逆らえる気がしない」

「えぇっ!?そうなの!?凄く面白そうじゃん!せんせー!ちょっと遊び……偵察にいってきまーぐえっ」

 

 席を勢いよく立ち上がり、そのまま勢いよく飛び出そうとした次の瞬間、僕は首根っこを掴まれ席に戻らされていた。

 

「はぁ。ダメだよ?遊びに行かないの」

 

 殺せんせー?違うよ。殺せんせーより速く反応した有鬼子の仕業だよ。

 と、そんな感じで僕が今日一日、面白半分でA組に向かおうとすると対殺せんせーナイフがどこからともなく飛んできて僕の行方を遮っていたことを記す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「理事長と殺せんせーってさ。何かちょっと似ているよね」

 

 帰り道。何かE組全員で帰る流れとなった本日。不破さんの一言に僕は少しだけ共感できた。

 

「どこが?」

「不破さんの言いたいことは分かるよ~あの二人は間違いなく教師で収まりきるような器じゃないもん~」

「そうそう。それなのに二人とも普通の先生をやっていること」

 

 まぁ殺せんせーは本当は別の職業だったけど……まぁいいか。

 

「理事長なんてあれだけの才覚があれば総理でも財界のボスでも狙えただろうに。たった一つの学校の教育に専念している。そりゃあ手強くて当然だよ」

 

 うんうん。確かにそうだね。っと、ん?あれは……?

 

「あ、あれ、浅野君だ」

「何か用かよ。偵察に来る玉じゃねぇだろうに」

「こんなことは言いたくないが君たちに依頼がある」

 

 依頼?ほーしゅーは?

 

「単刀直入に言う。あの怪物を君たちに殺してほしい」

「よっしゃ~。任せておけ~」

 

 ということで僕は理事長室に向かおうとすると、

 

「ぐえっ」

「話は最後まで聞くの」

 

 いきなり制服の襟を掴むのは反則だと思います。

 

「勿論。物理的に殺してほしいわけじゃない。殺してほしいのはアイツの教育方針だ」

「教育方針って、どうやって?」

「簡単な話だ。次の期末で君たちE組に上位を独占してほしい。無論1位は僕になるが、優秀な生徒が優秀な成績でも意味はない」

 

 ……ほう?

 

「君たちのようなゴミクズがA組を上回ってこそ、理事長の教育がぶち壊せる」

「浅野君。君とお父さんの乾いた関係はよく耳にする。ひょっとしてお父さんのやり方を否定して振り向いてほしいの?」

「勘違いするな。父親だろうが蹴落とせる強者であれ。そう教わってきたし、そうなるよう実践してきた。人はどうあれそれが僕ら親子の形だ」

 

 変わってるなぁ……この親子。

 

「だが僕以外の凡人はそうじゃない。今のA組はまるで地獄だ。E組への憎悪だけを唯一の支えとして勉強を限界以上にしている。もしあれで勝ったならば、彼らはこの先あの方法しか信じなくなる。敵を憎しみ、蔑み、陥れることで手にする強さは限界がある。君たち程度の敵にすら手こずるほどだ」

 

 やっぱり言葉の端にとげがあるような気がするなぁ。

 

「高校に進んでからも彼らは僕の手駒だ。偏った強さの手駒では支配者を支えることは出来ないんだ。時として敗北は人の目を覚まさせる……だからどうか、正しい敗北を僕の仲間と父親に」

 

 そう言って頭を下げる浅野君。やれやれ、手駒だかなんだと口で(まぁ本心だろうけど)言っているが結局、仲間だと心の奥底の方では思ってるじゃないか。

 そんな彼の元へと行く僕とカルマ。

 

「へぇ?他人の心配している場合?1位取るの君じゃなくて俺なんだけど」

「ぷくく。二人が1位?笑わせないでよ~君たちじゃなくて僕だよ?」

「「「……………………」」」

 

 空気が一瞬にして固まった気がするが無視する。

 

「言ったじゃん。次はE組全員容赦しないって。1位は俺でその下もE組。浅野君は10番辺りがいいところだね。あー風人はその下がお似合いかな」

「おーお。カルマが遂に1位宣言」

「一学期末と同じ結果はゴメンだけどね」

「そーだよ~1位は僕。10位は浅野君。カルマはずっこけて50位くらいじゃないかな~」

「おうおう。そしたら今度は俺にも負けんじゃねぇのかぁ?」

 

 あおる寺坂。しかし、すぐさま寺坂はカルマによって膝蹴りされた。あーあ。あおりすぎだよ~

 

「浅野。今までだって俺たちは勝ちに行っていたし、今回だって本気で勝ちに行く。いつもお前らと俺らはそうしてきただろ?勝ったら嬉しくて負けたら悔しい。そしてその後は遺恨を残さない。もうそろそろこれでいいじゃないか。こいつらと戦えて良かったってお前らが感じてくれるよう頑張るからさ」

 

 さっすが我らがリーダー。いいこと言うね。

 

「余計なこと考えてないでさ。殺す気で来なよ。それが一番楽しいよ」

「だね~手加減なんて必要ないよ。本気で来いよ。さぁ楽しもう?」

「フッ。面白い、ならば僕も本気で行かせてもらおう」

 

 僕らの間にはじけ飛ぶ火花。さぁ、楽しくなってきたね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残りテストまで一週間。浅野君と会ってから僕らはより一層勉強に熱が入った。

 

「風人ー!ここの問題教えてくれー!」

「うん~ここはね……」

 

 放課後とかは殺せんせーだけじゃなく僕ら生徒同士でも教えることになった。

 何かこの口調でも前より教えるのがうまくなったと一部の人の間では言われている。むむ、何か失礼な感じだ。

 

「風人~寺坂たちの国語任せた」

「あいよ~じゃあ、彼らの数学託した~」

 

 僕やカルマは全教科を教えるけど、流石に寺坂とかには得意な教科しか教えるつもりはない。というか、彼らに対しては得意な教科しか今は教えられる気がしない。

 

「後これ使っていいよ」

「わぁーい」

 

 やったー竹刀とか持ってみたかったんだぁ。

 

 ペシン!

 

「よーし、始めるぞ-」

「ちょっ!今何で一回叩いたお前!」

「気分!」

「ふざけんな!」

「私語厳禁だぁー」

 

 ペシン!

 

「誰かコイツの暴走止めろぉ!」

 

 とまぁ、こんな感じで放課後の勉強会は進んでいくのだった。まる。

 そして、

 

「風人君。一つお願いがあるの」




 GW特別企画!

「いぇ~!」

 一週間毎日投稿!

「いぇ~!」

 始めます!

「いぇ~!」
「…………いやいやいや。ちょ、ちょっと待って?え?ついて行けないの私だけ?」
「いぇ~!」

 ペシンッ

「風人君ずっとノリだけで騒いでたでしょ」
「う、うぅ……たしかにそうだけど……」
「駄作者。説明を」

 我作者。ふと思う。一週間毎日投稿しようと。

「…………え?それだけ?え?え?他になんかなかったの?」

 特になし。

「…………マイペースもここまで来ると呆れるしかない……」
「でも大丈夫なの~?」

 問題ない。失踪したら煮るなり焼くなり好きにしてくれ。

「よし、風人君。大鍋の準備を。私は包丁研いでくるから」
「早い!行動が早い!」
「だって三ヶ月と三十ヶ月を一字違いで済ませようとする駄作者だよ!?一週間毎日投稿っていいつつ、本当は一週間毎日執筆!(なお投稿するとは言っていない)かもしれないんだよ!」

 なぁ風人君や。このお方は頭でも打ったのかい?

「駄作者の日頃の行い~」

 ぐっ……私が何をしたと……!

「有鬼子をこんなにしたじゃないか!あの頃の清廉潔白伯夷叔斉品行方正青天白日な美少女の有鬼子を返してよ!」

 待つんだ!有鬼子にそんな時期があったわけがないだろ!

「なっ……!……あ、それもそうか」

 そうそう。

「(ꐦ°д°) ヘェー 」
「だ、駄作者!有鬼子が凄い形相で怒って……」

 │出口│ヽ(^ ∇^* )ツ....... バイバーイ♪

「逃げやがったあのクソ野郎!ま、待って!僕は悪くないんだ!駄作者に言わされてただけで」












 その後、風人君の断末魔が聞こえたとか聞こえてないとか。
 では今日より一週間毎日投稿スタート!明日もお楽しみに!


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勉強会の時間

 勉強をしていつの間にか土曜日になりました。

 そんな休日の午後。僕は現在、どこにいるかと言うと……

 

「ここで合ってるよね~?」

 

 改めて場所を確認する……うん。大丈夫だ。問題ないね。

 

 ピンポーン

 

「うーん……?」

 

 インターホンを鳴らしてから僕は迷った。

 ピンポンダッシュをするかしないかを。

 しかし、迷うのが如何せん遅すぎたのだ。

 

「はーい……あれ?しっかり居たんだね」

「むぅ。僕を誰だと思ってるのさ~」

「てっきりピンポンダッシュをするんじゃないかなーって」

「いくら僕でもそんなことしないよ~」

 

 何でばれたんだろう。おかしい。絶対にばれないと思っていたのに。

 

「まぁいいかな。さぁ、あがって」

「お邪魔しまーす……」

 

 そう言って有鬼子の家にあがる僕。

 

 ガチャリ

 

 有鬼子が後ろ手でドアのカギを閉める。

 

「ふふっ……」

 

 そして静かに笑う彼女……あれ?今の状況相当マズくない?

 

「安心して風人君。…………絶対逃がさないから」

 

 こ、こわぁ…………っ。

 

「あ、あはは……逃がさないって……」

「大丈夫。逃げたとしても……地獄の果てまで追い掛けるから」

 

 目に光が宿っていない。…………あ、詰んだかも。

 

「なんて。冗談だよ」

「そーいうの良くないと思うんだ。怖すぎだったよ~」

「ごめんごめん。何かおどおどしている風人君が可愛いくて……ちょっと苛めたくなっちゃった♪」

 

 おどおどしているって……隠しているつもりだったんだけどなぁ。

 いやね。あれだよ?涼香の家とか行く時なんて緊張とかそういうのは一切ないけどね?一応家の中まで入るのは初めてなわけだし……こう、ね?さすがに僕のメンタルは鋼じゃないよ?

 というか、それを分かった上で怖がらせてくるとか…………やっぱり鬼じゃね?彼女の皮を被った鬼だろう。

 でもお陰でなんかそういうものが吹っ飛んだ気がする。

 

「じゃあ、案内するね」

 

 僕の横を通って先に靴を脱ごうとする。そんな有鬼子の腕を右手で引っ張り、

 

「「…………」」

 

 彼女の後頭部を左手で押さえながらキスをする。

 数秒ほど唇を合わせたあと、離れると、そこには顔を真っ赤に染めている有希子がいた。

 

「ふふん~仕返しだよ~取り繕っていたようだけどバレバレだね~」

 

 さっきまで僕をおちょくっていた有鬼子も結局緊張していたことに変わりはないんだ。

 

「もう……親がいたらどうするの……」

 

 あきれているように言っているけど恥ずかしがっているのがバレバレだ。…………あれ?有鬼子ってこんなに可愛かったっけ?なんというか……そう。凄い可愛い気がする。

 

「気配でいない事ぐらいはバレバレなのだ!」

 

(それはそれで凄い気がする……)

 

「じゃあ、勉強しよっか~今日の目的はそれでしょ~?」

「うん。いこっか」

 

 とりあえず彼女の部屋に案内される僕。そしてその部屋の扉を開けるとそこには……!

 

「ふ、普通だぁ……!」

「……その反応はあまりにも失礼じゃないかな?」

「だってだよ!あの有鬼子様の部屋だよ!そりゃあもうゲームが山積みになっているとか!そうじゃなければ拷問器具でいっぱいとか……!それがなんか凄い普通なんだよ!普通に綺麗に整頓されていて……おかしい。僕が間違っていたのだろうか……はっ!」

 

 慌てて口を押さえる僕。しかし、時既に遅しという奴で目の前には目以外が物凄い笑顔で……視線だけで人を殺せそうな感じがする。

 

「…………ふーん」

 

 ゆっくりと、頷いた後、次の瞬間容赦なく足払いを仕掛けてくる。僕はそれを避けようと跳んだが僕の身体が空中にあり、抵抗できないタイミングで片手で僕の頭をつかんで、

 

 ガンッ!

 

 床にたたきつける。

 幸いクッションが頭の位置にあったおかげで助かってはいるが……およそ、彼女が彼氏にしていいようなそんな行為じゃないだろう。

 そして僕のおなかの上で馬乗りになる有鬼子。そして、

 

「風人君。今謝れば許してあげる」

 

 握りこぶしを作りながら笑顔でそう言ってくる。

 

「ふっ、僕が謝るわけ――――」

 

 ドンッ!

 

 こぶしが容赦なく振り下ろされる……僕の顔から数ミリ横にそれた位置に。

 

「もう一回言ってあげようか?」

 

 こ、この人……本気だ!本気で僕を殺す気だぁ!

 

「ごめんなさい」

 

 そう察した僕は素直に謝ることにしました。

 最近思うこと。彼女の容赦がなくなっている気がする。あれ?僕らって本当に付き合っているんだよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園祭の終わった日。風人君が私に勝負しようと提案してきた。その勝負の内容はテスト。私が勝ちを収めた――と言ってもあまり望んだ勝ち方ではなかった――あの一学期期末テスト。簡単に言うとそのリベンジをしたいらしい。

 勝負するのは5教科。国語、数学、英語、理科、社会の5教科で、1つでも私が風人君以上の点数を取ったら勝ち。…………と、ここまでなら前の戦いの敗因を踏まえたルール設定と言える。そこに彼はもう一つ追加した。

 

「もし、僕が学年一位を取れなかったら無条件で僕の敗北。有希子の勝ちでいい」

 

 それを聞いた時私の中にはあらゆる感情が生まれた。私はゲームが好きだ。勝負も好きだ。ただ、ここまでハンデを与えられた状態で彼と戦うことに私は抵抗を覚える。

 彼が私のことを舐めてるとかそう言うわけじゃなくて、もっと単純だった。

 

「無茶苦茶なことを言っている。でも……お願い」

 

 単純に悔しかった。

 彼は本気だ。でも、彼自身が最大限本気を出すには私じゃ役不足だったんだ。

 この勝負は私と風人君の勝負。でも、風人君にとって、意識的にか無意識にかは分からない。ただ彼は私を相手としてみてない。その先にいるカルマ君や浅野君を見ている。私に勝てるという油断?そんなのは一切ない。だって、彼の目はいつになく本気だったから。

 

「……分かったよ。その熱意に応じてあげる」

 

 だから私は勝負を受けた。

 このゲームの必勝法は一つだけ。私がどれかの教科で満点を取ればいい。いいや、必勝法じゃないか。私の唯一の勝ち筋なんだ。

 風人君は本気で全教科満点を取りに、学年一位を取りに来るだろう。前回の勝負は同点は引き分けだったが今回は同点を風人君の負けとした。だってそうじゃないと私に勝ち筋がなくなるから。

 薄々風人君は感じているんだろうな。今回は1問……いや、1点でも落としたら負けるようなハイレベルの戦いになるって。それを自覚させるためにこの勝負を挑んでいる。…………なんか都合のいい道具みたいだなぁ。まぁ理由が理由だから許すけどさ。

 風人君はきっと私が関わらなくても満点を取れるように努力するだろう。じゃあ、何故この勉強会を開いたか。簡単な話だ。私が点を伸ばすためだ。

 

「ねぇ。ここの問題教えて」

「うん~ここはね~……」

 

 死神の一件以来、風人君の人格変更はなくなり、一人称の変更は起こらなくなった。

 真面目な話をするときに「私」を一人称にしなくて話せるようになったし、怒っても「オレ」になることはない。風人君が言うには本来の自分に戻ったって言ってるけどそれは違うと思う。

 彼はようやく自分の足で立てたのだ。

 言い方はアレだが多分この表現がふさわしい。

 

「ありがと。じゃあ次はこっち」

「は~い」

 

 後はこのゆったりとしたしゃべり方の時でも教えるのはうまくなったのも成長だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん~よく勉強しているな~我ながら」

 

 時刻は7時頃。休憩も少しは挟んでいるけどそれでも長いこと勉強している気がする。

 

「遅くなっちゃったけどそろそろ夕飯作ろうか」

「だね~」

 

 どうやら有鬼子のご両親は今日は外泊してくるらしい。理由はこの地区のなんとかと言っていた気がするけどあんまり記憶に残ってない。つまり、この家には今、僕と有鬼子の二人だけ…………?ん?何だろう。夕食作り、二人きりと思うと不思議と包丁を持った鬼が追いかけてくるイメージが流れる……気のせいだよね?うん。

 

 ガチャ

 

「降りてきたか二人とも」

「ご飯できているわよ」

 

 リビングへと続く扉を開けるとそこには一組の夫婦と、食卓には料理が並んでいた。

 

 ガチャ

 

 それなのになぜか有鬼子はドアを閉める。

 

「…………(ブツブツ)」

 

 何故だろう。ドアに額を当て小声で呪詛のように唱える彼女。声は聞き取りにくいけどその姿を見ていると……うん。寒気しかしないね。

 

「……風人君」

「はい」

「ちょっと待っててね」

 

 そう言うとドアを開けて乗り込む有鬼子。ちょっと待っててと言われたので、一瞬だけ動きを止めてから有鬼子に付いていく。人によって時間の感覚は違うからね。しょうがないね。

 

「お父さん!お母さん!今日は外泊してくるんじゃ……!」

「ああ。俺が急遽明日仕事入ったからキャンセルした」

「しっかりと連絡入れておいたわよ……あ、貴方が風人君ね」

「そうです~有鬼子のお母さん」

「あ……本当だ……数時間前に連絡が……」

「そういうことだ。で、君がウチの娘と付き合っている」

「これからもよろしくね。あ、嫌いなものとかある?」

「嫌いなものはないです~コホン。有希子さんとお付き合いさせてもらっている和光風人です。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく」

「よろしくね。ほら有希子。貴女も早く座りなさい」

「う、うん……って風人君!?いつの間に!?ちょっと待っててって言ったじゃない!」

 

 隣に座るや否や物凄く驚いている有鬼子。あれ?会話にも混ざっていたのに気付かなかった?

 

「まーまー。気付かなかった方が悪いと言うことで~」

「うっ……」

「じゃあ、食べましょうか。いただきます」

『いただきます』

 

 ということで手を合わせ、食べ始める。

 

「何か……納得いかない……」

 

 何が納得いかないんだろう?そんなことより、

 

「おいしい~」

「ありがとうね」

 

 いや~あれだね。平和だね。有鬼子の親だからもっと怖いかと思った。

 そんな感じで談笑しながらご飯を食べるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食も終わり一段落ついた頃。

 

「有希子。先風呂入っていなさい。ちょっと風人君とお話していたいわ」

「うーん。僕は勉強があるのでちょっと遠慮――」

「一緒にゲームしながらね」

「――わーい。ゲームする~」

 

 あっさり風人君がゲームに釣られた。あれ?お母さんってゲーム……まぁいいか。

 

「安心しろ。別にお前らの関係にとやかく言うつもりはない」

 

 顔を青ざめるようにして私に言ってくるお父さん。ふふっ。1年前は絶対に考えられなかったことだ。

 

「はーい」

 

 従う……という言い方はあれだが言われたように私は風呂に入る準備をして風呂に向かう。

 歯を磨いたり諸々し、服を脱ぎ、シャワーで髪を洗い終えた後に湯船に浸かる。

 

「ふぅ……」

 

 風人君が来る前――朝からずっと勉強していたからさすがに疲れた。

 

「風人君の適応力高いなぁ……」

 

 私でさえ急に親がいて戸惑っていたのに、何も気にした様子がなく受け入れていて……はぁ。流石というか何というか。

 それにしても危なかった……風人君を泊めると言うことを伝えておいてよかったぁ……。

 

「……あれ?」

 

 今って私がいないから……?ま、まさか話したらマズいことを……!……んん?私に関して話したらマズいことなんて存在したっけ?お父さんを黙らせた話?あの程度では風人君からの評価なんて変わりようがないだろう。

 でも、本人が聞いたら笑っちゃうかもしれないけど、私は風人君のおかげで自分の心をさらけ出すことに抵抗を覚えなくなった。他者からの評価なんてお構いなし。自分の思うままに生きようとする彼の姿を見て。

 

「ふふっ……」

 

 なんかいいなぁ。こういうの。風人君はきっと私がすべてをさらけ出しても受け入れてくれる。もっと、この自分の中の黒い心をさらけ出しても。うーん……ヤンデレ路線もいいかもしれないけどちょっとなぁ……いや、狂おしい程に風人君のことを愛しているのは事実だけど、風人君のバックグラウンドを考えるとあんまり……。

 

「まぁいいかな」

 

 そんな感じで風呂を出る。浴室と脱衣所の扉を開け……

 

 ガラッ

 

 脱衣所と廊下を繋ぐ扉が独りでに開いた。

 

「…………え?」

「…………あ」

 

 一瞬の沈黙。

 時がまるで止まってしまっているのではと錯覚させられる気分に陥る。

 目の前には珍しく固まってこちらを見る風人君。

 そんな彼を前にして私は……

 

「きゃあああああああああああああああああああああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し時を戻そう。

 僕は有鬼子のお母さんに誘われゲームすることにした。と言っても、電動ゲームでなく、トランプでのゲーム。近くにいた有鬼子のお父さんも誘ってババ抜きをしていた。

 

「ふふふっ。実物を見ると聞いていたのと同じくらい面白い子ね」

「何を聞いていたんですか~?」

「超マイペースで自由人。褒めていた……というより悔しがっていたわよ。学力とか自分より遙かに上だって」

「あはは~そんなことないですよ~」

 

 別に遙か上だとは思わないんだけどなぁ~まぁいいや。

 

「君にはこれでも感謝している。私は……娘をしっかりと見ていなかった。親失格だ」

「あの時のあの子は凄かったわよ。本当に」

「あの時?」

「そう。あの子は今までお父さんには決して逆らわなかったの。まぁ、内心ではそのせいで荒れていたのに気付いたのは遅すぎたんだけどね」

「去年の夏の非行。気付いていたら止めていたはずだった……なのに気付けなかったのはきっと娘を娘として見ようとしてなかったからだろう」

「それが進路に関して喧嘩して、その上であの子が君と付き合うって言ったときにはもうね」

 

 うわぁ……うちでは想像できないなぁ……。

 

「お父さんも頭に血が上ってつい彼氏――君をバカにする発言をしたの。そしたら、あの子、恐ろしいほどにキレてね」

「やめてくれ……思い出すだけで鳥肌が立ってくる」

 

 血の気が引いていく有鬼子のお父さん……何したんだろう……マジで。

 

「でも、その件のお陰でお父さんも強く言うことはなくなったし。何というかようやく丸く収まったのよ」

「大変そうですね~」

「君も気をつけた方がいい。あの子は怒らせると……死を覚悟した方がいい」

「大丈夫です。既に何度も死を覚悟しましたから」

 

(凄いいい笑顔で言ってるけど……え?それって大丈夫なの?あなたたち)

 

 何だろう……有希子のお父さんからはシンパシーを感じる。とても他人とは思えない。

 

「コホン。でも君の存在があの子にとって大きなプラスになっているのも事実だ」

「本当にね。あの子が君のこと話すときは凄い楽しそうよ」

「だから……というわけでもないが、これからもよろしく頼む」

「任せてください」

 

 と、後は数回ババ抜きをした。有希子の祖母の話とか、後は秘蔵のアルバムがあるとかいろいろ聞かせてもらう事ができた。で、そんなことやってると有希子のお母さんがもう風呂行っても大丈夫よって親指を立ててグーってやって来た。

 おかしいな?人が通った気配はないんだけど……?ま、いっか。時間も経ったしもう大丈夫だろう。

 

「面白いことも聞けたな~」

 

 とりあえず脱衣所と廊下の間の扉を開ける。

 

 ガラッ

 

「…………え?」

「…………あ」

 

 その美しく長い黒髪は水分を含み、毛先から水滴が垂れ落ちる。

 そしてその水滴は、普段衣服に包まれて見ることが叶わない胸にある二つの小さな丘。その片方を超え腹部へと進む。

 僕は無意識に水滴を視線で追い掛け、そのまま下に。傷一つ付いていないその美しい肌を滑る水滴は少しくびれのある腹部を下り、足の付け根へと……

 

「きゃあああああああああああああああああああああああ!」

 

 僕にはこの後の記憶がない。

 最後に覚えているのは衣を一切身につけていない彼女の姿。

 そして、その可愛い顔を紅潮させる彼女だった。



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勉強会の時間 二時間目

 倒れた風人君を部屋に運び彼の頭を膝の上に乗せている。

 

「不覚だった……」

 

 あの時の光景を思い出してもさすがに最低だと我ながら思う。

 ギャルゲーでありがちなこういう風呂場とかでの俗の言うラッキースケベイベント。そこでのヒロイン側は大抵悲鳴を上げるとか、身体を隠すとか、一発殴るとかそんな感じだろう。

 じゃあ、何故風人君は気絶して倒れているか。私の裸を見て気絶したから?ううん。

 

「まさか……一瞬で風人君の正面に行き鳩尾に肘鉄を食らわせそのまま流れるようにアッパーを顎に喰らわせて、追い打ちをかけるように逆の手で脳天を殴打しトドメに首筋を手刀で打つなんて」

 

 自分でもそんな格ゲーでいう即死コンが決められるとは思わなかった。半ば無意識だったがそれでも自分が恐ろしい。

 気が付くと目の前には倒れた風人君が……しかも服を着たりして話を聞けばこの遭遇イベントは実の母親によって仕組まれたものらしい。つまり、風人君は完全に被害者なのだ。

 

「…………はぁ」

 

 誤解のないように言っておくと私は確かに恥ずかしかった。でも嫌だったからってわけじゃない。何というか……そう。心の準備が出来ていなかった。完全なる不意打ちだったから問題であって……いや、大事なのは色々とあったが私の裸を見られたのと風人君をぶちのめしてしまったという事実だけか。

 期末テストという大舞台を前に何やってるんだろう……。

 

「…………むにゃ……」

 

 すると私の膝の上から声がする。

 

「…………えへへ……」

 

 軽く笑い出す風人君。だが、閉じられた目からは涙が伝っていた。

 

「……もう大丈夫だよ……心配しないでいいよ…………千影」

 

 あぁ、そういうことか。

 何となく察した私は彼の頭を撫でることにする。

 

「……有希子はね……とても優しいんだよ。真面目だし可愛いし……あ、ゲームも強いね……えへへ……僕にとって最高の彼女だよ……」

 

 ……寝言だよね?実は起きているってパターンじゃないのこれ?すごい恥ずかしくなってくるんだけど。……でも、こうやって思われているって思うと……なんだか照れるなぁ。

 

「……ほぇ?さっき鳩尾に肘鉄を食らわされそのまま流れるようにアッパーを顎に喰らわされて追い打ちをかけるように逆の手で脳天を殴打されトドメに首筋を手刀で打たれた?ははは……冗談が好きだなぁ~」

 

 寝言だよね!?寝言にしては流暢とかそういう次元じゃないんだけど!?やめて!さっきの愚行をリピートしないで!凄い恥ずかしくなってくるから!

 そんな感じでもだえること数分。落ち着きを取り戻すことに成功すると、

 

「…………あれ?」

 

 風人君と目が合った。

 

「……僕……何で泣いてたんだろう……?何か夢でも見てたのかな……?……ん?僕は確か……?何でここで寝てるんだろう~?」

「か、風人君。起きたんだね」

「うーん……寝ぼけてる気がする~ま、いっか」

「起きたならお風呂に行くといいよ。うん。いってきたら。今すぐに」

「あ、うん。分かった~……ん?何かとても大切なことを忘れているような~?」

「そ、そうかな?ナニモナイトオモウヨ?」

「なぜにカタコト?ま、いっか~」

 

 そんな感じで風人君はトコトコと風呂場に向かっていく……。

 

「よし、勉強しよう。そうしよう」

 

 私は無心で勉強することにした。うん。雑念も何もいらない。今は勉強するのみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~」

 

 湯船につかりながら僕は考える。いや正確には思い出そうとするか……

 

「一体僕の身には何が起きたんだ?」

 

 この記憶が飛ぶというか時間が跳ぶというか……なんとも懐かしい感覚だ。ん?まさかまた人格変更?実はアレ治っていなかった?

 

「いやそうじゃないか……」

 

 そんな都合良く人格は変わらないだろう。それに人格の入れ替わりなら僕が有鬼子の膝の上で寝かされて……?寝かされていた?なんで?

 

「思い出せぇ……思い出すんだぁ……」

 

 まず、僕の名前は……違うそこからじゃない。今朝食べた……違うそこでもない。確か、有鬼子の両親とトランプしながら雑談。何かを見る。気付けば寝ていた。

 

「……?」

 

 記憶に飛躍がありすぎるだろ。

 確か……風呂に向かったはずだ。そうお風呂に。で………………ああぁぁぁっ!思い出したぁ!確か有希子の裸を見たんだ!しかも風呂上がりの!

 

「……っ!」

 

 いや、鮮明に思い出してきて……その……ご馳走様?ってなんだか……有希子の顔がまともに見れなさそうだけど……だってその……ね。ぶっちゃけて言うなら……はい。最高です。

 

「……モゴモゴ」

 

 湯船に顔を沈める。

 い、いやあれだよ!僕だって同い年の従兄弟に可愛い幼馴染みがいたからね!そりゃあ、女子の裸を見るとかさ!着替えにバッティングするとかさ!お風呂も一緒に入ったよ!で、でもそういう目で彼女らを見ていなかったし!小学生だったから何も思わなかったけど……あああああ!今思うと凄い恥ずかしいじゃん!不可抗力とはいえ彼女の一糸まとわぬ姿を……あああああ!勉強会だよ!?今日の目的は今度の期末テストに向けた勉強会だよ!?

 

「…………いや落ち着け僕……!落ち着くんだ……!相手はあの鬼だぞ……!って違うよ僕のバカ!鬼とかいいながら無茶苦茶可愛かったよ僕の彼女!ってああああ!い、いやここは落ち着くために素数を!素数を唱えるんだ!」

 

 この後風呂から出て、気まずさのあまりか僕らは無言で勉強会を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうすぐ日付が変わる頃だろうか。風呂上がりから数時間。僕と有鬼子はひたすら無心で勉強に打ち込んでいた。消しゴムを取ろうとほんの少し手とかが触れあっただけでお互いが「「あっ……」」とか何というか少し恥ずかしくなって空気が固まる始末。

 初々しいカップルか!なんだかんだで夏の終わりからの付き合いだぞ!

 

「そ、そろそろ寝ようか……」

「そ、そうだね~……」

 

 あの僕らが何と目を合わせられないというこの空気。どうしようか。いや、どうしようもない。

 そして追い打ちをかけるように……

 

((何で布団が一つしかないの\んだよ!?))

 

 有鬼子は元々床とベッドで分けて――夏の泊まりのようにするつもり()()()。しかし何の因果か知らないが()()()来客用の布団が洗いに出されていて現状ベッドしかないのだ。

 

「ぼ、僕は雑魚寝するよ~有鬼子が使って~」

「う、ううん。風人君にそんなことさせられないよ……」

「…………じゃあ、一緒に寝る?」

「…………うん」

 

 と紆余曲折を得て僕らはベッドの中。お互いに向き合っているが……気まずい。

 

(いや待て。この空気というか……全体的に僕らしくない。そうだよ。発想の転換だ。僕は確かに有希子の裸を見た。でもそれは未来に起こるはずの出来事が何の因果か今になっただけでこの先は何度も……)

 

(よ、よし。ここは一旦落ち着こう。まずは気絶させたことを謝るんだ。……そして私の裸を見た記憶は……絶対あるよね。ないならこんな空気になってないよね。で、でも、この先何度も見せる機会が……)

 

「「…………っ!」」

 

 次の瞬間。僕らは同時に頬が熱くなる感覚に襲われた。

 

「…………ふふっ」

「……どうしたの~急に?」

「……照れている風人君ってレアだなぁ~って思って」

「…………うるさいなぁ~そういう有鬼子だって照れてるじゃん」

「ふふっ。そうだね」

「ははっ」

「どうしたの?」

「ちょっとね~」

 

 何というか……この空気もちょっとだけいいかもって思える自分がいる。

 

「ごめんね」

「なにが~?」

「さっき風人君を気絶させちゃって」

「あーうん。何となく想像通りだよ~」

 

 いや、確かに固まりはしたけど気絶はさすがにない。となると、物理的にやられたと言うことは想像に難くない。

 

「電気消さない?もう眠いよ~」

「そうだね。寝よっか」

 

 明かりが消え暗くなる部屋。

 

「ねぇ……有希子」

 

 僕は彼女の背中に手を回し抱き寄せる。僕と彼女の距離はほぼゼロとなる。

 

「好きだよ」

「……っ!」

「おやすみ」

 

 僕はそっと手をどけようとする……が、反対に背中に手が回ってくる感覚が。

 

「……このままがいい」

「……分かった」

「私も好きだよ……おやすみなさい」

 

 それから程なくして眠りについた。

 恥ずかしさとかそういうのもあるけど、彼女の近くは凄い安心できる。

 こんな時間がずっと続けばいいな。



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期末テストの時間 二時間目

 あれから期末テスト当日となった。……え?日曜日はどうだったのかって?

 朝起きる→ご飯→勉強→ご飯→勉強→帰るって感じでビックイベントは特になかったよ?

 

「今日過ぎればゲーム今日過ぎればゲーム……!」

「風人君?私たちは受験生って……まぁ今日くらいは許してあげるか」

「よし!許可ももらえたし頑張るぞぉ!」

「でも風人君。テストが終わった後にそんな気力残っているの?」

「分かんない!」

 

 だってあの理事長が動いたんだもん。そんなの分かるわけがない。

 

「ただまぁ油断はできないだろうけどね~あはは」

「……はぁ。色々と心配だなぁ……筆箱持ってきた?」

「え?そこから?しかもテストじゃなくて僕の忘れ物が心配なの?」

「当然です」

 

 酷い。僕の彼女が信用してくれない。…………?何だろうこの禍々しい殺気は……?

 

「風人君?」

「あーうん。何か薄汚い醜い殺気の塊を……」

 

 と、どこからか声が聞こえてくる。

 

「「「E組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺す」」」

 

 ……ん?何か同じ言葉を繰り返してる?

 

「「「E組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺す」」」

 

 段々と声がはっきり聞き取れるようになったような……つまり原因の所に近づいているかな?

 

「「「E組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺す」」」

 

「「…………」」

 

 思わず固まる僕と有鬼子。原因は三年A組の教室だった。

 

「わーリアルゾンビが一杯だぁー」

「そ、そうだね……」

「僕が銃持って正面から突撃するから、打ち漏らしを頼んだよ~」

 

 きっとあれだ。ゾンビを撃って進んでいく系のゲームだこれは。そしてゴールはこの学校からの脱出だうん。間違いない。

 

「はぁ……風人君」

 

 と、そんな僕の現実逃避に呆れた様子の彼女。やれやれ。僕だってこのちょっとしたホラーから目を背けたいがための冗談なのに。相変わらずウチの彼女は手厳し――

 

「私の方が腕前が上なんだから、私が前衛で風人君がバックアップだよ」

 

 ――違った。ウチの彼女も現実逃避を始めた。

 よし、ここは二人で現実逃避をしながらリアルホラー脱出ゲームを楽しむぞ!

 

「ちょ、何してるの二人とも!?」

 

 僕らが懐から銃を取り出そうとした瞬間、ししょーの焦るような声が聞こえた。

 

「「え?リアルゾンビシューティングゲーム」」

「違うからね!?風人君はともかく神崎さんまでどうしたの!?」

「いや、僕はともかくって酷くないですかししょー?」

「風人君はいつもノリで生きてるでしょ!」

「酷すぎる!あまりにも酷すぎる!」

 

 ししょーの言葉が心に刺さりまくりだ!

 

「あのね……私思ったの」

「「え?何を?」」

「こんな現実があるのなら、そっと心の扉を閉じてしまおうと」

「「その扉は閉じちゃダメなやつだ!」」

 

 あ、この目は完全に現実を見ない目だ。アニメで例えるなら目から光が消え失せている。

 

「風人君!お姫様の呪いを解くには王子様のキスが必要だよ!」

「意味わかんないよ!?」

「ほら!神崎さんなんて目を閉じてもう受け入れ準備万端だよ!」

「何で今日に限ってこんなにノってきているの!?おかしいよね!?お願いだから戻ってきて!」

「いや」

「嫌じゃないからね!?」

 

 その後なんやかんやあって正気に戻った僕ら……テスト前に何やってるんだろう。ほんと。

 

「でもA組の人たち怖いくらい本気だね」

「だね。勝てるの風人君?」

「まぁ、あんな如何にも殺気立っているような獣より、心の中に鋭い殺気を秘めた奴の方が脅威だと思うよ~」

「なるほどね」

 

 だからあんな獣共は眼中にない。A組の中で脅威となるのはたった一人だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 英語

 

「ふぅーん。本気出してきたってわけか~」

 

 明らかに今まで受けてきたテストより内容、量、質。すべての要素において次元が違う。

 おかげさまで目の前にいる問スターも今での奴らが可愛く見えるほど厳つく強そうだ。

 

「でもまぁ――」

 

 僕はターゲットの弱点を見抜き的確に一撃を叩き込む。

 

「――倒せないわけじゃない。無理ゲーじゃなくてハードモードとかそんな感じだね~」

 

 そう思いながら次の問題へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 社会

 

 さっきの休み時間、E組でもかなりの人たちが消耗を隠しきれていなかった。

 やはり問題は一つ一つが難しくかつ量が多い。

 テスト時間フルに集中していてもこれか解けきれない可能性がある。

 

「訂正しよう。これ、ハードモードじゃなくてベリーハ-ドモードだ」

 

 ……というかマニアックな問題多くないか?社会さん。

 一学期期末テストよりも何というか……重箱の隅をつつくと言うとあれだけど細かいところまで出してくる。

 でもテスト範囲というルールを逸脱していない。だからまぁ……

 

「これでオッケーかな~?」

 

 

 

 

 

 理科

 

「そういやA組の奴らはどうなんだ?」

「休み時間に見てきたけどよ……そりゃあもうやばかったぜ」

 

 と、誰かが答えている間に問スターの頭に飛びかかる複数の陰。

 

「うわぁ……」

 

 その陰たちはただただ狂っている。

 やばい。ひたすら頭突きなりなんなりで堅い装甲を壊そうとしている……石頭かな?

 

「獣って言ったけど……ありぁ恐ろしすぎだろ」

 

 アイツらもまとめて狩ったら追加で点もらえるかな?よし。

 

「一狩り行こうぜ~!」

 

 

 

 

 

 国語

 

「お、おい……何なんだアイツら」

「一体二人で何処まで行くつもりだよ……」

 

 目の前の武将のような巨大な問スター。次の瞬間には刀で切り刻まれて砕け散っていた。

 背後から首を狙う問スターの一撃。それも割って入った陰によって止められ刀を砕かれる。

 

「さっすがぁ~」

「国語は得意分野だからね!」

 

 押し寄せる問スター共を一網打尽にしていく。

 

「なぁ、俺の記憶が確かなら一学期期末では風人のやつ、神崎さんにやられてなかったか?」

「そうだったよね……でもあの二人。破竹の勢いで問スターを倒していってるよ」

「私たちも負けてられないね!」

 

 気付けば辺り一帯には屍の山が築かれていた。

 

 

 

 

 

 

 数学

 

「ふむ……」

 

 問スターを片っ端からぶちのめして来た風人。しかし、数学最終問題を前にした問題――問スターを見て手が止まってしまう。

 

「まさか漸化式を中三のテストで出すとは……」

 

 その問スター。なんと漸化式を使わせる問題であり、そのことにより手が止まってしまっている。

 

「手が止まっているように見えるけど……もしかして倒せないとか?」

 

 すると風人の後ろからゆっくりと歩いてきたのは、

 

「カルマか……ちょっと驚いただけだよ~」

 

 カルマだった。

 

「じゃあ、倒しに行こうか」

「だね~」

 

 風人とカルマはそれぞれ問スターに向かって走って行き、飛び乗るとそれぞれ爆弾を投げ入れる。

 動きが止まる問スター。次の瞬間には爆発し倒れていた。

 

「特殊解に持って行くんだよ。先週やり方教えたじゃん」

「や~カルマのおかげで覚えていたよ~ありがとね~」

 

 と、軽い口調で二人が話していると、どこからか聞こえる爆発音。

 

「まぁ、予想通りだね~」

 

 燃えているラス前の問スター。その前に立っているのは浅野だった。

 そして空から現れるラスト問スター。

 数学最終問題。半数近くの生徒はここまでたどり着いておらず残りの半数も時間がギリギリ。

 故にこの数学最終問題を解ける可能性を秘めていたのは、浅野学秀、赤羽業、和光風人の三人だけだった。

 

(さて……どうしよう?)

(やっべ……時間足りなくね?)

 

 三人が問題に取りかかっていく。少しした後、浅野は二人に先んじて問題を解き進めていく。しかし、風人とカルマの二人の手は完全に止まっていた。

 

(……うーん。簡単に言うとこの空間でA0……僕の占める体積を求めろ!ってことなんだよなぁ~)

 

 立方体の箱の中に居る感覚になる風人。動き回ろうとしても見えない壁が邪魔をする。

 

(いたた。この壁が僕の領域の境ってことか……でもこの箱本当になんなんだ……?あれ?箱?)

 

 ふと疑問に思い問題文を見直す風人。そして、

 

(あれ……?これ)

(難しい計算いらなくね?)

 

 風人とカルマは何かに気付く。

 二人が何かに気付いた数分後、終戦(テスト終了)を告げる(チャイム)が鳴り響いた。



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期末テストの時間 三時間目

 期末テストは終わった。……何だかどっと疲れたが僕は帰宅してご飯を食べて、パソコンを開いた。

 

『風人君。今inしてる?』

「あいよー」

『じゃあ、殺ろっか』

 

 オンラインで会話する僕と謎の人物……って言いたいけどもうばれてるよね?はい。ウチの彼女です。

 FPS。ファーストパーソン・シューターの略称で一人称視点のシューティングゲームと言ったらいいのかな?はい。そんな感じです。ウチの彼女がなんでも夏明け?くらいにはまったらしく、僕も入院中に勧められてやり始めました。

 ちなみに有鬼子はオンラインFPSを初めて一ヶ月であだ名が有鬼子とつけられたそうです。面白いです。いやね?だってプレイヤーネームをyukikoにしてるんだもん。そりゃあそうなるのも時間の問題だよ。

 

『じゃあ、いつも通りね』

「へーい」

 

 チーム戦もやるけど、僕も有鬼子も基本個人戦……バトルロイヤル形式でやることが多い。まぁ、チーム戦だと僕らのチームがほとんど優勝する。個人戦だと彼女が大体勝利を収める……圧倒的なkill数を持って。……だからそんなあだ名つけられるんだよね。

 

「というか有希子はエグいんだよなぁ……」

 

 始まって少し経った頃。少なくとも僕の倍はkillしている。だって、敵の進みそうな進路とか潜んでいそうな場所とかを完全に網羅して、対策しているもん。ガチ勢過ぎるよ……僕?僕はどちらかと言うとエンジョイ勢だよ?

 有希子は負けると大抵僕に愚痴を溢す。愚痴というか何というか分析を始める。この時こうすればよかったーって。で、意見を求められる……(ちなみに適当な返事をするとゲームの世界でボコボコにされるので注意しよう)僕は負けると次の面白いことに手を出し始める。ここ最近の趣味はシューティングゲームって言ってるのにあえて武器なしで挑もうとしてみたり、チーム戦で頑張って味方をkillしようとしてみたりとかそんな感じ。

 なお、今はPCだが今後は据え置きでガチでやるそうだ。僕?僕は彼女にあわせるだけだよ?

 

「暇だなぁー」

 

 先ほど背後から撃たれて地に伏せた僕のキャラ。ログを見ると撃ったのはあのお方だった。

 僕らの取り決め?により、二人とも負けるまでは次に入らないって言ってる。要するに同じ部屋で、同じブロックで戦いたいのだ。二人で入ってるときは。

 最初の方こそ色んな人にやられまくったがここ最近2割が調子に乗ってやられるが残りの8割が有鬼子にやられている。

 

「うーん……」

 

 この世界では僕は有鬼子にはほとんど勝てない。

 でも現実世界の……そう。サバゲーみたいなのをやったら僕らってどっちが勝つんだろ?このゲームと違って身体能力とかそもそものスペックが僕らでは違うからな~

 

「まぁ、いいや~」

 

 どーせ、そんな機会は滅多にないだろーし。考えるだけ無駄なことだね。

 とりあえず、僕は決着が付くまでスマホでソシャゲをやることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして日は流れ遂にテスト返却日となった。

 

「さて、これからテストを返します」

 

 クラス内が緊張感に溢れかえる。僕らの目標、全員が50位以内というのもそうだし、何より僕自身も凄い緊張してきた。

 

「細かい点数を四の五の言うのはよしましょう」

 

 すると、殺せんせーがマッハで一人一人に答案の束を返してくる。

 

「今回の争点は総合順位です。今頃A組でも順位表が貼り出されているころでしょうし、E組でも順位を先に発表してしまいましょう」

 

 黒板に貼り出される順位表。僕らは全員立ち上がってそれを見る。

 僕はそれを下の順位の方から見ていく。確かに僕自身の順位も気になるけど、それよりもクラス全員がトップ50に入れたかの方が気になる。

 

「俺が……47位」

「うちでビリなのは……寺坂だよな」

 

 その呟きと共に僕は確認を進めていく。寺坂を筆頭に、いつもは点数下な人たちが全員見えて中盤でもE組はしっかり名を残して……

 

 

 

 

 

 1位 赤羽業  500点

 1位 和光風人 500点

 3位 浅野学修 497点

 

 

 

 

 

 E組全員の名前がしっかりと載っていて、僕とカルマの名前は一番上にあった。

 

「「「やったぁっ!」」」

 

 クラス全員が歓喜の渦に包まれる。

 

「上位争いも五英傑を引きずり下ろしてほとんどE組!」

「そして1位は風人と初のカルマ!」

 

 よしっ!と小さくガッツポーズをする僕と半ば放心状態になるカルマ。

 そんな僕らの元に笑みを浮かべた殺せんせーがやって来た。

 

「どうですか二人とも。高レベルの戦場で狙って一位を獲った気分は?」

「別にって感じ……」

「あ~カルマが照れてる~」

「そういう風人君は?どうですか?」

「もちろん~嬉しいに決まってるじゃん♪」

 

 今回は狙って勉強して一位を獲ったもん。嬉しくないわけがない。

 

「君たちと浅野君の勝敗は、数学の最終問題で分かれましたね」

「あれね……何か皆と一年過ごしてないと解けなかった気がする」

「それ分かる~前までの僕だったらずっと分からないままだったかも」

 

 難しいとか難しくないってのもあるけど……あの問題の趣旨をしっかり読み取って、適切な方法を思いつけたのはやっぱりこのクラスにいたというのが大きい。だからあの問題は皆のおかげで解けた気がする。

 

「でもカルマとは決着付かなかったな~」

「いいじゃん引き分けで……今日くらいはさ」

「そうだね~」

 

 前までだったら単独トップとか勝ちに拘っていたけど……今はそんなこといいや。カルマとは引き分け。浅野君には勝った。それでいいや。

 

「ちなみにA組はテスト前半の教科までは絶好調でした。ところが後半になるにつれ徐々に問題に引っかかる生徒が増えたようです」

 

 あーあのゾンビと化したA組の人たちか……

 

「そりゃ、殺意なんて1日中保つのは私たちでも疲れるもん。こういうのは一夜漬けじゃなくて長い時間を掛けて育てないとね」

 

 確かにな~まぁ、殺意のコントロールは大分できるようになってるけど、それでも1日中放出するのは普通にしんどい。

 

「これで気兼ねなくゲーム三昧な日々を送れるね~」

「風人君?忘れているかもしれないけどこのテストはあくまで通過点だよ?」

「ヌルフフフ。神崎さんの言うとおりですよ」

「うへぇ……」

 

 僕の夢のゲームに明け暮れる日々はどうやらまだまだ先になりそうだ……うわぁ……。

 

「あ、そうだ。今回の勝負は私の負けでいいよ。風人君」

「???負けでいい?」

 

 有鬼子がそうやって言ってくる。でも、妙な言い回しだな~。それだとまるで本来は勝っていたように…………あ。

 

「ま、まさか……」

 

 有鬼子は一枚の……国語のテストを見せてくる。得点は100。

 

「でも、これで勝負に勝っただなんて私のプライドが許さない。だから負けでいいよ」

「じゃあ両方負けってことにしようよ~。勝者はいない。そうしよう……ね?」

 

 僕としては、唯一つしか勝ち筋がないはずなのにその勝ち筋を辿った彼女に素直に敗北を認めたい。彼女としては、そうだとしても僕に勝ったと言うのはプライドが許さない。

 だったら、両方が敗者でいいんじゃないかな。お互いが自分の負けだと認めているんだから。

 

「いいよ。じゃあ、お互いがお互いの命令を聞く……ってことでいいかな?」

「うーん~そうだね。まぁ、前と違って命令にしなくても大概の事は聞きそうだけどね~」

「それはお互いにでしょ?いいの。この勝負の終わりとしてこの形がいいっていう私のワガママなんだから」

「彼女のワガママなら仕方ないな~」

 

 やれやれ。ワガママだったらいっか。

 それに命令……というかやりたいことはこの勝負をふっかけた時には決めてたし。

 と、僕らも含めた皆でワイワイやるのも一段落して、皆席に着いた。

 

「さて皆さん。晴れてE組を抜ける資格を得たわけですが…………この山から出たい人はいますか?」

 

 ふむ。いや、出る気はさらさらないんだけど、これでもし全員が出たいです!なんて言った日には殺せんせーどうするんだろう?泣きながら僕らの説得を始めるとかかな?

 まぁ、でも皆、対せんせー用のナイフとか銃とか構えてる。つまり、僕らの答えは一つ。この場所で暗殺を続けていくということだ。

 

「ヌルフフフ。棘の道を選びますね……では今回のご褒美にせんせーの弱点を特別に教えて――」

 

 ドゴォッ!

 

 すごい物音と共に教室が揺れる。

 な、なんだ!?ま、まさか……最強の魔王有鬼子様のお目覚めか!?……あ、冗談です。本当は有鬼子のお腹の音って言いたかっただけで――

 

 ドゴォッン!

 

 再び揺れる教室。同時に僕の脳天に振り下ろされる拳。

 辛うじて受け止めたがむちゃくちゃ痛い。そして、受け止められたと知るとすぐさま、両手を僕の頬に持ってきて、

 

「風人君?…………そういう冗談はよくないよ」

 

 思い切り引っ張った。

 

「しゅ……しゅみましぇん……」

 

 というかなんで分かったんだろう。声に出してないはずなのに……あと、いつの間に移動してきたの?

 

「はっ!校舎が!」

 

 そんないつも通りのやり取りを無視して片岡さんが窓を開け、外を見て声を出す。

 僕も(頬を引っ張られながら)有鬼子と外を見ると、ショベルカーによって校舎が破壊されていた。…………え?敵襲?

 

「退出準備をしてください」

 

 すると、どこからか響いてきた声……この声は理事長先生か。

 

「今朝の理事会で決定しました。この旧校舎は今日を以て取り壊します」

 

 旧校舎……取り壊し?じゃあ、僕らは……除名処分?存在抹消?え?どうなるの?

 

「君たちには来年開設される系列学校の新校舎に移ってもらい、卒業まで校舎の性能試験に協力してもらいます」

 

 なるほど……要するに実験台と。

 で、どうやらその新校舎は設備などを主に刑務所を参考にしたらしい。もう一度言おう。()()()()参考にしたらしい。いやいや、それってまるで囚人じゃ……

 

「牢獄のような環境で勉強できる。私の教育理論の完成形です」

 

 訂正しよう。まるでじゃない。扱いが囚人のそれだ。いや、牢獄って言っちゃったよ。僕を囚人扱いする人間は有鬼子一人で充分です。間に合ってます。

 

「ああ、それと。私の教育にあなたはもう用済みだ」

 

 殺せんせーに向けて何か言ったかと思うとごそごそとスーツの内ポケットを探る理事長。

 

「今ここで私があなたを殺します」

 

 取り出したのは、最悪の武器(解雇通知)だった。




 ちなみに駄作者は昨日からSWITCHでFORTNITEを始めました。

「…………それ投稿頻度下がるんじゃ……」
 
 銃とか全然当たらないクソみたいな腕ですので近接武器をメインに戦ってます。…………なんで勝てないんだろう?

「いや、今勝てない要因あげたよね?」

 30試合くらいソロの試合に潜って最高2位だから。

「最低は?」

 100位笑。

「………………」

 ツルハシ同士の殴り合いに負けた。

「………………」

 うまい人見て凄いなーと感心している現状です。

「………………」

 だからこう言うのが上手い有鬼子さんマジリスペクトです。

「……は、はぁ……」

 あと目の前にあるものを破壊して進むのが楽しい。

「…………それって考えて壊してる?」

 まっさかぁ~あはははは。

(…………終わったこの駄作者。勝つ気を全く感じない)

 ちなみに建物破壊に夢中で背後からやられることも何度か。そのままツルハシ片手に突っ込むことも何度か。

「もしガチ勢の方々がいらっしゃったら本当にすみません。うちの駄作者……強くなる前に別の楽しみ方見つけようとする人なんです」

 でも2位の時もしっかり近接戦闘仕掛けて何人かkillしたよ(なお一位の人にはそれで負けた)

「……こういう人なんです……控えめに言って頭おかしいんです……!」

 失敬な。頭おかしいわけがないでしょ。

「頭おかしくない人はこの後書きでゲームの話をしたりしません」

 …………ところでさ有鬼子さんや。

「……何ですか?」

 この後書き……オチがないんだけど……

「…………(⌒∇⌒)」

 と、というわけで次回もお楽しみに!


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理事長の時間

 取り出された解雇通知という名の禁断の伝家の宝刀。

 まさかのカードに僕ら全員は神妙な面持ちを浮かべている。

 

「面白いほどに効くんだよこのタコには!」

 

 いや、カードに対してもだけどそれに対する殺せんせーの反応が面白い。凄い取り乱している。ふっ。仕方ない。助け船を出すか。

 

「りじちょー!それは余りにもふとーです!」

「か、風人君……!」

「確かにこのタコはエロくてスケベで変態で巨乳主義で、教員室の机の引き出しの二重底の下にそういう本を隠しているどうしようもない汚職性犯罪教師です!」

「か、風人君!?何で君がそんなことまで知っているのですか!?」

 

(((いや、前の下着ドロの濡れ衣の件で懲りてなかったのかよ!)))

 

「ですがそんなタコでも僕らをここまで育て上げ、真摯に向き合ってくれた素晴らしい……」

 

 と、自分で言ってて思う。あれ?学校でエロ本を読んで生徒のゴシップネタに敏感で変態な教師……ふむ。

 

「りじちょー!せんせーの解雇は適当だと思います!」

「君は何がしたかったんですか!?」

 

 いやね。少しでもフォローできるかな?と思ったら意外に難しかった。

 

「早合点なさらぬように。これは標的を操る道具に過ぎない」

「ダメだったんだよ殺せんせー!せんせーは一度解雇されて大人しく反省するんだ!」

「そんな不当で急な解雇は断固反対です!解雇されたら私はどうやて生きていけばいいんですか!」

「そんなのその辺の草でも食べて生きていくんだよ!」

「嫌ですよ!多額の退職金を貰って豪遊したいです!そもそも給料が安すぎるんです!」

 

(((こいつら聞いてねぇ……理事長先生が怖いくらい笑みを浮かべてるぞ……)))

 

「自分が金使いすぎるから金がなくなってるんでしモゴモゴ」

 

 と、不意に後ろから口元を抑えられる。くっ……!

 

モゴモ(放して)――」

「これ以上喋るなら首を捻切るよ」

「…………」

 

 何でそんな恐ろしいことを平然と言えるのだろう。怖い。怖すぎるんだけど……。

 

「……私は殺せんせー、あなたを暗殺に来たのです。私の教育に……不要となったのでね」

 

 その一言に抗議を続けていたせんせーも押し黙った。というか誰か助けて。後ろの人に殺されそうです。え?喋ったら殺す?僕は人質か何かですか?

 

「……本気ですか?」

「確かにあんたは超人的だけど思いつきで殺れるほどウチのタコ甘くないよ」

 

 そんな言葉を聞いて静かに微笑む理事長。

 

「取り壊しは一時中断してください。中で仕事を済ませてきます」

 

 そして工事関係者にそう伝えると、僕らを教室から追い出す。よし、お陰で有鬼子からの拘束も解けた!

 教室内をセッティングし、殺せんせーと理事長の二人が向き合った。

 

「もしもクビが嫌ならば……この教室を守りたくば、私とギャンブルをしてもらいます」

 

 す、すげぇラスボス感。なんてプレッシャーだよこの人。

 

 ここで理事長が持ち出したギャンブルについて。ルールは簡単。

 用意されたのは五つの手榴弾と五教科のそれぞれ一冊ずつの問題集。

 手榴弾は四つは対せんせー用、一つは対人用のものらしいが匂いや見た目では区別不可能。ちなみに、ピンを抜きレバーが起きると爆発するらしい。

 で、まずピンを抜きレバーを起こさないよう慎重に問題集の適当なページに挟み込む。そのページを開いて右上の問題を解くらしいが……普通に考えたら開いて一秒に満たない時間で爆発するから常人では不可能。だが、せんせーはマッハ20で動ける超生物だからギリギリ何とかなるレベル。ちなみに解けるまで動くの禁止らしい。

 順番は殺せんせーが先に四問、最後に理事長が一問解くそう。

 

「このギャンブルで私を殺すかギブアップさせれば……あなたとE組がここに残ることを許可しましょう」

「ははっ」

「どうしたんだい?和光君」

「いいや~凄いせんせーが不利だなぁーって」

「確かにそうだね。しかし、社会に出たらこんな不条理の連続だよ。強者と弱者の間では特にね。だから私は君たちにも強者側になれと教えてきた」

 

 殺せんせーの肩に手を置く理事長。

 皆は不公平とかそう思っているだろう。でも不思議なことが一つだけある。不利ではあるが殺せんせーも理事長も命というリスクを負ったギャンブルになっている。

 僕が理事長側の立場なら極論、五つとも対せんせー手榴弾にして、五回ともせんせーに解かせる。そしてせんせーが生きてクリアすれば自分の負け。そうすれば、理事長はノーリスクで暗殺を仕掛けられる。

 理事長が死ぬ確率は存在する。ルール的に理事長の番が回ってきたら確実に死ぬ。確率をゼロにしようと思ったらできたはずなのに何故しなかったのだろう?ギャンブルがしたい?試したい?命をかけたい?ダメだ。全然読めない。

 

「さぁ、チャレンジしますか?これはあなたの教職に対する本気度を見る試験でもある。…………私があなたなら迷わずやりますがね」

 

 理事長の威圧感はこっちまで届いている。それに対してせんせーは、

 

「も、もちろんです!」

 

 了承の意を示す。いや、了承しか選択肢がそもそも残っていないか。

 そして数学のテキストの前に座る殺せんせー。理論上と言ったらあれだが早い話、開いた瞬間に解いて閉じれば爆発しないのだ。それがせんせーには出来る。だが……あの殺せんせーは何しろ緊張するとテンパりやすいんだよなぁ……今は完全に理事長のペースだし。

 意を決して問題集を開く殺せんせー。

 

 そして約1秒後。

 

 バアァァンッ!

 

 大爆発。風圧は外にいた僕らのところまで届いてきた。

 殺せんせーを見ると大ダメージを受けている。とてもじゃないがあと三回は耐えきれないだろう。

 

「まずは1ヒット。あと3回耐えられればあなたの勝ちです。さ、回復する前にさっさと次を解いてください」

 

 浅野理事長は解雇通知をちらつかせながら余裕な表情で殺せんせーを見ている。

 狼狽える僕らに対して理事長は諭してくる。

 

「弱者は暗殺でしか強者を殺せないが、強者は好きな時に好きなように弱者を殺せる。私はこの真理を教える仕組みを全国にばらまく。防衛省から得た金とあなたを殺した賞金があれば全国に我が系列校を作れるでしょう」

 

 なるほどねぇ……。

 

「でもさぁりじちょー。本当に強者は弱者を好きな時、好きなやり方で殺せると思ってるの~?」

「えぇ。現に今証明して見せているでしょう?」

「まぁ殺せたら証明かんりょーだね~殺せたらだけど」

「まぁいい。さぁ、殺せんせー。私の教育の礎となってください」

 

 あと三回喰らえば殺せんせーは死ぬ。それぐらい僕でも分かる。でも、あと三回喰らわなければ死なないだろう。

 次の瞬間。社会のテキストを開き閉じたせんせー。問題集の表紙には紙が貼り付けてあった。

 

「はい、開いて解いて閉じました」

 

 固まる理事長。

 

「この問題集シリーズ……ほぼほぼどのページにどの問題があるかを憶えています。数学だけ難関でした。生徒に長く貸してたので忘れてまして……」

「私が持ってきた問題集なのにたまたま憶えていたとは」

 

 せんせーの言葉に対し、呟くように応えた理事長。だがそんな偶然が起きたわけではないことくらい理事長なら分かってると思うが……。

 

「まさか。日本全国全ての問題集を憶えましたよ。教師になるんだからしっかりと勉強しました。『問題が解けるまで爆弾の前から動けない』こんなルール情熱のある教師ならクリアできますよ」

 

 理科と国語も問題を開いて解いて閉じるせんせー。

 そう、今殺せんせーが言っていることくらい理事長なら分かっていたはずだ。あの常識外れの教師バカにこの手は通用しないことくらい。

 

「残り1冊……あなたの番です。どうですか?目の前に自分の死がある気分は。死の直前に垣間見る走馬灯。その完璧な脳裏に何が映っているのでしょうか?」

 

 理事長が何を思い何を考えているかは分からない。

 あの浅野理事長とは言え、開いて解いて閉じるなんて不可能だ。絶対に爆発する。

 普通の人間だったら100%死ぬと分かった状況でこのギャンブルを続けないだろう。

 

「………殺せんせー。私はね。もしあなたが地球を滅ぼすなら、それでも良いんですよ」

 

 英語の問題集を開いた理事長。

 

 ズドン!

 

 閃光と共に本物の爆弾の音が響き渡る。教室内では煙が充満して状況が分からない。

 煙が晴れて行き残ったのは……

 

「ヌルフフフ」

 

 笑う殺せんせー。そして、薄い膜のようなものに包まれた理事長の姿だった。

 

「私の脱皮をお忘れですか?」

 

 月に一度のせんせーの切り札。

 

「……何故私に使った?」

「私が賭けに勝てばあなたは間違いなく自爆を選ぶでしょうから」

 

 立ち上がる理事長。

 

「似たもの同士だったからです。テストの間に昔のあなたの塾の教え子たちに会いに行ってきました。あなたの教師像や起こったことも」

 

 話によれば、浅野理事長は昔、ここで小さな塾を経営していたそうだ。最初の生徒は三人。そのうちの一人が中学に上がり……自殺したそうだ。

 それを浅野理事長は責めた。自分が良い生徒へと育て上げたのに……すぐに死んでしまったからだ。

 

「私の求める理想は、昔のあなたの教育とほぼ同じでした。私があなたと比べて恵まれていたのはこのE組があったからです。あなたは昔描いた理想の教育を無意識に続けていたんですよ」

 

 するとせんせーはどこからか対せんせー用のナイフを取り出した。

 

「これからもお互いの理想の教育を貫きましょう」

 

 ナイフを受け取った理事長。

 

「このE組は温情を持って存続させることにします」

「ヌルフフフ。素直に負けを認めませんね」

「それと、たまには私も殺りに来て良いですかね?」

 

 そして先ほどとは違う笑顔を向ける理事長。

 

「ヌルフフフ。好敵手にはナイフが似合う」

 

 こうして理事長来襲編は幕を閉じたのだった。



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風人と有希子の時間 お願い

今回はちょっとアレな描写が含まれているかもしれません。


 テスト返却から理事長来襲し、無事に乗り越えた僕らは日曜日になりました。

 

「というわけで……」

「どういうわけなの……?」

 

 現在僕と有鬼子の二人は、僕の母さんの運転する車の後部席に並んで座っていました。

 テストに勝った命令?というかお願いで僕は彼女にある場所へ一緒に来てほしいと頼み込みました。で、お母さんに出かけることと場所を言うと、移動の時間とか金とか面倒だから車で送るというあのお母さんから出るとは思えないお言葉を頂きました。

 まぁ、言葉の裏の意味を考えると、さっさと彼女を正式に紹介しろバカ息子ってことなんですがね。こっちに泊めたことも向こうに泊まったこともあるし、なんなら毎朝のように一緒に登校していること知ってるし。もっと言うなら伝えてないはずなのに何故か彼女だとばれたし。いや本当に何者だようちの母さん。

 

「久しぶりね有希子ちゃん」

「あ、はい」

「前に会ったのは……そうね。面談の時ぶりかしら。まぁ、あの時はあなたたちが陰からこっそり見ていたって感じだけど」

 

(……え?まさかあの時の私たちの動向も全てばれてたの?この人……ほんとに何者なの?)

 

「ごめんね。うちのコレが大分迷惑かけてると思うけど……」

「だ、大丈夫ですよ。結構減りましたから……」

 

 そうだそうだ。前は一日二桁がざらだったのが今では一桁で収まってる。立派な成長だ。

 

「まぁいいわ。有希子ちゃん。避妊はしっかりしなさいよ」

「ひ、避妊!?」

「母さん…………。アンタ脈絡もへったくれもなしによく堂々と言えたね……ほら完全に固まっちゃったよ」

 

 顔を真っ赤に染めて、頭から湯気が出ている。全く。うちの母さんは唐突に何を言い出すか分からない。きっとこの人のこの血を受け継いだんだろう。

 

「当然よ。私はまだ孫を見る気はないもの」

「いや、そこじゃなくて……ね?こっちの心配は?」

「そうね……有希子ちゃんが大学行くなら大学卒業までは孫の存在はいなくていいわ。あ、でも避妊すればオッケーだと思ってるわよ」

 

 この人……実は性に関しても寛大だった?嫌だな……実の親のこんな一面を見るとは……隣で有鬼子が完全にオーバーヒートしてるよ。

 

「ほんとは……」

「ほんとは……?」

 

 ミラー越しに見えたが、哀愁を浮かべた表情を浮かべている。何だろう?本当は何があったんだろうか?

 

「ほんとは、千影ちゃんにも小学高学年ぐらいから言っていたんだけどね」

「アンタ最低か!?僕の知らないところで何吹き込んでたのさ!?」

 

 マジかよこの親。なんてこと吹き込んでいやがったんだ。

 

「風人。アンタのことを考えてよ」

「ほへ?」

「アンタは人のことを考えてなさ過ぎたからね。そういうことを通して相手を思いやる大切さを……」

「色々と間違いすぎだろアンタ!?」

 

 やばい。うちの親……実は超絶なバカかもしれない。空前絶後のバカかもしれない。

 

(やっぱりね。今のこの子は千影ちゃんの話題を出してもメンタルにダメージを受けている様子はない。折り合いをうまくつけられたのでしょう。今回のこともその最終段階……ってわけじゃないけど通過点なのかしら)

 

「母さん…………僕これから腕のいい脳外科を調べるね」

「あー、頭を治せばまともになるかもって?まぁ、アンタには必要かもね」

「違うよ!僕に必要じゃなくてアンタに必要なんだよ!有鬼子もそう思うよね!?」

「避妊……ベッド……初夜……子供……」

「あ、完全に処理落ちしてる……」

「やめなさいよ。車の中では。家に帰ったらやりなさい」

「アンタは一回黙ってろぉっ!」

 

 車内は混沌を極めていました。誰か助けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やって来た場所にはお墓がある。あのクソみたいなテンションの道中だったが、僕の目的はお墓参りだった。

 命日の日……あの日は結局、僕は途中で抜け出したり、その後いろいろあったため何というか……そう、キチンとしておきたかったのだ。

 

「私は車にいるから。好きなタイミングで戻ってらっしゃい」

 

 墓の掃除を三人でした後、母さんは手を合わせてその後は足早に去って行った。

 …………全く。察しがいいというかよすぎというか。

 

「ごめんね……前は。いろいろあってさっさと帰っちゃって。千影を殺した黒幕はしっかりと捕まえたよ……長かった。この二年。僕は絶望と復讐を抱えながら生きていた……ごめん。何かさ、色々と無駄に生きちゃったよ。あと、あの時千影が居なかったら絶対に道を踏み外していた。何というか……ありがとう」

 

 僕は思っていることを全部吐き出す。今は周りに有希子しかいないし、全部声に出す。

 

「でもさ……千影。もう僕は大丈夫だよ。君がいなくてもこの世界で生きて行ける。君がいない世界を生きて行ける。ああ、そうだ。紹介するよ。彼女はね、神崎有希子。僕の大切な彼女だよ。……千影。僕は君のことが好きだった。大好きだった。でも今の僕が好きなのは有希子で、愛しているのは有希子だけなんだ。君のことは二度と好きにならない。これが君の最後の言葉に対する僕の答えだ」

 

 あの日のキスと千影の言葉。僕はそれに対しての答えを、千影にも有希子にも伝える必要がある。端から見ればおかしいかもしれないがそれは残された者の義務だと思う。

 

「千影。唯一無二の僕のかけがえのない大切な親友。心配しないで。君との思い出が風化しようと、僕の心に君は生きているよ。もう二度と囚われない。僕は前を向いて生きるって決めたから」

 

 最大限の笑顔を向ける。そこに彼女は確かにいる。見えないけど確かにいる。そんな気がするから。

 

「有希子も何かある?」

「そうだね……じゃあ少しだけ」

 

 僕は斜め後ろに立っていた彼女に声をかける。すると彼女は一歩前に出て僕の横に立った。

 

「初めまして和泉千影さん。神崎有希子です。あなたのことは風人君に聞きました。あなたはきっと誰よりも風人君にふさわしい。でも、私は負けません。風人君を想うこの心は誰にも負けるつもりはないです。……だから心配しないで。風人君がまた道を踏み外しそうになったら私が引き戻すから。……どうかあなたは静かに見守っていてください」

 

 そして少し目を閉じた後、もう大丈夫と言って一歩下がった。

 

「じゃあね。そうだな……もし地球が存続していたら、今度は春くらいに来るよ。僕の卒業と進学の報告も兼ねてね」

 

 僕は手を上げてそのまま有希子と車に向かう。

 その足取りは来るときよりも軽かった、そんな気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、今日はありがとうございました」

 

 僕の家に着く。あれからゲーセンに行ったりショップに行ったり……まぁ有り体に言えば実の母親を足に使ったのだ。

 

「私も話せて楽しかったわ。風人。アンタ送って行きなさい」

「はーい」

 

 というわけで二人並んで有鬼子の家に向かう。

 

「楽しかったね」

「ねー」

「でも良かったの?権利を使っちゃって?」

 

 彼女ならば、お願いとか命令とかしなくとも一緒に着いてきただろう。そんなことは最初から知っている。

 

「さぁね~別に使い道なさそうだったし」

「……もしかして、頼んだら何でもやってくれると思ってる?」

「さすがにそんなことないよ~ただ、僕は命令とかそういう縛るのが好きじゃないだけ」

 

 自分の意思と自由が一番。これ常識ね。

 

「でも風人君のお母さんって……何というか。すごい人だよね」

「そう?」

「何か全部見透かされているようで……ね」

「あはは……」

 

(あの全てを見透かす洞察力と不意を突く衝撃の言葉の数々……なるほど。風人君の母親だ)

 

 実のところ僕は母さんをよく分かっていない。何というか……今までそんなに深く関わろうとしていなかったからだ。まぁ、父さんもよく分かってないけど。

 今度家族で話そうかな……なんのとりとめのない話でも。

 

「ねぇ……また一緒に出かけようね」

「うん~……あ、そう言えば有鬼子はお願い。何に使うの~?」

「うーん。どうしようかな」

「ま、まさか……前みたいに強引に……」

「被害者みたいな顔だけど……あの時私を無理やり押し倒したの風人君だったよ?」

「♪~♪~」

「口笛上手いね……ってそんなんじゃごまかされないから」

 

 あの時は有鬼子が悪い。僕悪くない。うんそうだ間違いない。

 

「でも、あの時の強引さがたまになら合ってもいいかもね」

「え?何で?」

「ギャップで興奮するから」

「…………」

「ふふっ。じょうだ」

「目を覚ますんだ有鬼子!ビッチ先生の次はあのバカ親に毒されたか!」

「冗談。冗談だよ」

「ふぅ~よかった。有鬼子が変態になったかと思って焦……?」

「風人君?」

 

「いや、今思ったけど有鬼子って変態じゃね?なんというかちょくちょくそういう発言をしてるし。剰え僕を痛めつけることに快楽を覚えているし。あ、でも今の発言からすると実はドMの才能も秘めているのでは?ぶっちゃけ、僕なんて怒られているときとかそういうときに興奮なんてしたことないし……ああ、でも言わないでおこう。言うとめんどくさそうなことに――」

 

「(^_^#) ピクピク」

 

 ――あれれぇ?おかしいぞぉ?何で笑顔のまま怒ってるんだ?………………ま、まさか……。

 

「全部口に出てた?」

「うん♥」

「(゚ー゚;Aアセアセ」

「風人君♪」

「な、何かな?」

「正座♪」

「σ( ̄∇ ̄;)ぼく?」

「せ・い・ざ♪」

「ε=ε=ε=ε=ε=┏(゚ロ゚;)┛ダダダッ!!」

「…………逃がさない」

 

 こうして、僕は夕日に向かってダッシュするのであった。

 迫る鬼から逃げるために。




「いや~本当に一週間毎日投稿したね~」

 でしょ~ちなみにまだ続くよ?

「うぇ?」

 ちょっと本編に関係ない話を二話ほど明日明後日で投稿します。むしろそのためにここまで進めた感じがある。

「さすが駄作者……あれ?有鬼子は?いつもそこにいるのに……」
「この話がいいと思った人。good」
「……え?どうしたの?ハーメルンにgoodとかいいねとか付ける機能はないよ?」
「私を彼女に欲しいと思った人。good」
「待って待って?え?え?ウチの彼女遂に壊れた?露骨なコメント稼ぎに入ったよ?」

 風人君。それは仕方ないことなんだ。

「何故に?」

 さっき言った本編に関係ない話、あれ有鬼子の出番もないんだ。

「ほうほう、だから壊れたと……いや納得できるかぁ!」
「そうだよ!」
「ほら正気に戻――」
「何でアンケートの回答欄が欲しい、欲しくない、その他、俺は巨乳派だ!の四つなの!?」
「――戻ってねぇ!なんの話!?ねぇなんの話!?」

 あーそれはね。この話の下にあるアンケートの話だよ。
 うちの有鬼子様は恋人に欲しいですか?という質問の回答欄だね。

「マジでやるの!?需要はどこ!?」

 需要ならあるさ……うちの有鬼子様がどれだけ愛されているかを知るため。

「……本音は?」

 寝て起きたら閃いたからやってみようぜ!

「この駄作者がぁ!」

 というわけでクソアンケート。興味のある人は応えてね。

「ちなみに、その他の人は何らかの方法でその他の中身を教えてくれると嬉しいな♪」
「おいおいおい!?かつて類を見ないほどの露骨な感想稼ぎとかに入ってきたぞ!?」

 期限は特に決めてないので~あ、活動報告作ってほしければ希望があれば作りますよ。

「ご自由にどうぞ♥」
「いいのかそれで!?本当にいいのかそれで!?」

 あ、ちなみに本編と関係ない話はシリアス要素がありますので読まれる際はご容赦を。

「このタイミングで言うことじゃねえぇぇぇっ!」


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演劇の時間

どうしてこうなった……。
見る際は心の準備と背後にお気をつけください。


 デートも終わり、冬休みの訪れを今か今かと待ち侘びる今日この頃。皆様いかがお過ごしでしょうか?

 せんせーがこの前、テストのご褒美として弱点――力がないということを教えてくれた。ゲーム風で言うならAgl(速さ)に特化して振ったためにStr(力)が低いのだ。

 静止状態の触手一本程度なら僕ら一人一人が抑えこめば動けなくなるらしい…………もっとも、抑えられるんだったら苦労はしてないだろうが。

 

「「「演劇発表会!?」」」

 

 我らがリーダー磯貝君に告げられたのは、受験がある僕たちE組に演劇発表をしろとのこと。クラス委員会で決められたらしく文句は言ったものの、トップである浅野曰くどうせなんとかするのだろうとのこと。

 何だろうその……責任放棄というか何というか。まぁ、信用してくれているのかな?

 

「渚君渚君。主役やらない?」

 

 と、カルマが見せてきたプラカード(いつの間に用意した?)には、タイトル「阿部定」で、小さな象を手のひらに乗せる渚のイラスト………………あーそういう路線で行くのね。

 

「よし、さいよー」

「待って!?全然よくないよ!?」

 

 と、渚から凄い反対があったので不採用に。

 で、なんやかんやあって(ボーッと過ごしている間に)、脚本と監督が決まった。三村監督、狭間さん脚本って感じだ。そして、

 

「せんせー……演劇に出たい」

 

 殺せんせーが役者を務めることになった…………マジで?

 

「分かったわ。殺せんせーもしっかり演じてもらう」

 

 すげぇ……本当に出すつもりなの?マジで?

 

「和光、神崎。アンタらが主役よ」

「はーい………………はぁああああああ!?待て待て待て!僕はこっそり裏方でゲーム……間違えた。皆のフォローをしようと思ってたのに!主役にされたら僕の劇の練習時間でゲーム時間が減る……間違えた。僕なんかよりもっと主役がふさわしい人間がいるよ!」

 

(((この男。さてはサボろうとしていたな……)))

 

「かーぜーと君?」

「あっ……待って?暴力は反た……」

「そうよ神崎。落ち着きなさい。私は端っから和光風人の方には期待してないわ」

 

 え?狭間さん……それってどういうこと?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 E組は昼休憩の発表のため、皆お昼ご飯と共に演劇を見ている。

 ご飯を食べ、バカにしながら見るつもりだろう。

 

 そんな中、舞台の幕が上がった。

 

 

 

『昔々、ある時代のあるところ。二人の姉妹が住んでいました』

 

 舞台中央では二人の人物がスポットライトを浴びていた。

 

「オーほっほっほ!見れば見るほど醜い豚どもですわ!貴女もそう思うでしょう?」

 

『姉は目の前に居る人々を見て、嘲り高らかに笑います』

 

 姉――和光風子は明らかに観客の方を見ながら蔑む表情で高らかに笑う。

 この光景に観客たちの手が止まる。当然だ。明らかに観客である自分たちのことを見て笑っているように思えたからである。

 

「…………はい。そうですわね」

 

『妹は姉の言葉に同意する。否、同意せざるを得なかったのです』

 

 座り込んでいる妹――神崎有希子は死んだ目をして同意する。

 それに対して姉は妹のそばにより、顎を手で持ち上げ優雅な笑みを浮かべる。

 

「うふふ。貴女は蒙昧な愚衆共とは違うよう……賢いのね?」

「………………お姉様ほどではございません」

 

 立ち上がり再び観客の方に向かって高らかに笑う姉の姿。

 

「当然ですわ!この世の中に(わたくし)より賢く、私より美しい人間なんているはずがありませんもの!」

 

 そして後ろでは何枚かの写真が流れた。刃物で刺されて突っ伏す少女。泡を吹き倒れ込む少女。頭から血を流して倒れる少女……。

 あまりにもリアリティ過ぎて観客全員の食べる動きが止まり釘付けになる。

 

『姉は人の皮を被った化け物でした。気に入らないものは全て壊して殺す。刺殺毒殺撲殺焼殺絞殺圧殺など、あらゆる方法で殺してきました』

 

「私は今から出かけてきますの」

「……ああ、なら私も」

 

 スパーン!

 

 響き渡る何か叩かれたような音。

 それと同時に倒れ込む妹。

 

「貴女が私と?オーほっほっほ!冗談もほどほどにしてくださる?では、私はこれにて」

 

 そんな妹に目もくれず立ち去っていく姉。

 あまりの光景に観客たちはドン引きしていた。

 

「お、おい……今のってマジでやったのか?」

「ば、馬鹿野郎!演技だろ演技!」

「で、でもさっきの写真……あれ本物じゃないの?」

「まさか……本当に殺したのか……?」

 

 段々と観客たちを恐怖が支配していく。

 これはただの演劇ではないのか……と。

 

「…………あぁ……ウザい……」

 

 そんな中低い声が響き渡る。

 

『一人残った妹。ゆらゆらと立ち上がる彼女の目には復讐の炎が宿っていました』

 

「…………あぁ……殺したい!あの女が居なければ他の姉妹が死ぬことはなかった!あんな女が存在しているから私は自由になれない!」

 

『近くにあった物を蹴りつけ、叫ぶ妹。積もり積もった恨みは殺意へと変わりました』

 

「ヌルフフフ。その願いを叶えたいですか?」

 

『魔法使いのタコです』

 

「あの女を殺してやりたいですか?……何を犠牲にしたとしても?」

「殺したい!あの女を殺してやりたい!四肢を切り刻み、あの心臓を一突きしてやりたい!あの澄ました顔をグチャグチャにしてやりたい!地獄の炎であの女の身体を灰にしてやりたい!」

 

『魔法使いは妹の願いを聞くと口角を上げて笑います』

 

「ヌルフフフ!その願い!叶えてあげましょう!」

 

『取り出したのはナイフと睡眠薬です。それを受け取る妹』

 

「これがあれば……あの憎き姉を殺せる……!ふふふふふっ………………殺す。絶対に…………ぶっ殺す」

 

『妹は静かに笑いました。その目には確かな殺意が宿っていました』

 

 そして舞台は暗転する。

 明るくなったとき、そこには、

 

「ちょっと!どういうつもりなの貴女!」

 

『磔にされた姉。妹は食事に睡眠薬を混ぜ、姉を磔にしたのです』

 

「どういうつもり?ふふふっ!私はねあなたのことが大っ嫌い!憎い!ぶち殺してやりたい!」

「ま、待ってちょうだい!貴女……私に何を!」

 

『妹は躊躇いなくナイフを振りかぶります』

 

「ああああああああぁぁぁっ!!」

「あはは!もっと苦しんで!もっと悲鳴を聞かせて!」

 

 ザシュッ、グサッ、ザクッ

 

 舞台は薄ら暗転し、何度も何度もナイフを振りかぶる妹の後ろ姿の陰が映る。

 響き渡るのは姉の悲鳴とナイフが刺さる音だけだった。

 そして遂に音が止み、再びスポットライトが妹に当たる。

 

「あは、あははははははっ!」

 

 そこには真っ赤に染まった妹の姿があった。

 

『無惨な姿になり果てた姉の姿を見て、返り血を浴びた妹は高らかに笑いました』

 

「もっと殺したい!もっと悲鳴を聞きたい!」

 

『妹は姉を殺したことにより内なる欲望が解放されたのです』

 

 そしてゆらゆらと舞台袖に向かう妹。その手には血に染まったナイフが……

 

「ヌルフフフ。お行きなさい少女よ。その思いが満たされるまで」

 

『後ろから見守る魔法使いは笑いながらその姿を消していきます』

 

 舞台の照明が消えてゆき代わりに観客側の照明がつき始める。段々と明るさを取り戻す体育館。

 しかし、次の瞬間。体育館は暗闇に包まれる。

 

『次の標的はあなたかもしれません』

「あははははははっ!」

 

 暗闇に響く笑い声。

 

「ヌルフフフ……!」

 

 それと同時に奇妙な笑い声も響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「重いわ!」」」

「これの何処があかずきんだよ!」

「こんな状態で飯が食えるか!」

「というか怖すぎだろ!」

「てか何で魔法使いがタコなんだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 観客からの大ブーイング。それに対して狭間は。

 

「バカね。タイトルのあかずきんは赤ずきんじゃなくて鮮血(あか)ずきんよ」

 

 とのことだった。

 なお、この後E組は芝居道具を持って一目散に逃げていくのだった。




「駄作者召喚。今回の演劇に関して説明を」

 いやね。最初はね?原作通り行こうと思ったんだよ。正確には2パターン思いついてたんだよ。

「2パターン~?」

 風人傍観者パターンと有鬼子と風子チェンジパターン。

「風人君はマイペースだから演劇に出させてもらえず部外者扱い。もう一つは風子となって私と入れ替えほぼ原作通り」

 そうそう。まぁ、後者で行こうと思ったんだけどね……ふと思ったんだよ。

「何を~?」

 そうだシンデレラにしようと。

「「…………は?」」

 この話を書いてた朝の4時頃(ガチ。ちなみに徹夜ではなく早起きです)に何を思ったか、そうだ桃太郎やめてシンデレラにしようと思いました。

「……い、いやいやシンデレラ?最初の姉妹のくだりとか魔法使いは近そうだけど……」

 ただ問題があってね。あ、王子とか舞踏会やり始めたら何かやばいと思ったわけだよ。

「あーそうだよね。長いよね」

 そこで閃いた。あ、ホラーにしようと。

「「え?どうして?」」

 作者はね。何故かは分からないけどリアルの友人たちから、絶対に背後を刺されて死ぬと言われていてね。あ、使えそうって。

「「いやいや、まず何があった?」」

 で、純粋なホラー書けないからこういう路線で行こうってなったのが今回の演劇です。つまり、いつも通り。

「……あ、いつも通り、自由にいったわけね~」

 そういうこと。ちなみに裏設定で、姉が殺戮を繰り返した原因はあの魔法使いがそそのかしたから。そして妹の殺戮もいつかまた魔法使いにそそのかされた誰かによって殺されて止まりまた……って感じのもあるよ。
 後は、姉(強者。A組とか)を妹(弱者。E組)が殺すという意味合いも込めて……はい。まぁ、姉はともかく狂気の妹役は原作の神崎さんでは絶対に務まらないなぁって。

「そりゃそうだよ~原作ではあんなに狂ったように笑わないだろうし~」

 でもうちの作品では常日頃だし。その異常状態にE組の皆もなれてるし。

「その通りだね~つまり……遊んだと?」

 その通りです。…………ん?我らが有鬼子は?

「ほへぇ?そう言えば…………まさか」

 よし。今日はこの辺りで!次回もお楽しみに!

「あ、逃げないでよ駄作者!次回もお楽しみに!」












 この後、血の海に伏せている駄作者と風人君が発見されたとか。












 もしかしたら次はあなたの番かもしれません。


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正体の時間

 演劇発表後。E組教室にて。

 

「はは…………あはは…………」

 

 有鬼子は窓辺に立って壊れたように笑っていた。

 

「何か私ってさ。絶対こういうことするキャラじゃないよね?ね?何でこうなったんだろう……」

 

 実際、あそこまですごい演技を見せてくれたんだ。賛辞の言葉の一つでもかけたいが……如何せん、皆、今は声をかけても効果なしと思って一歩引いてる。仕方ない。僕が代表して慰めに行くか。だって彼氏だもんね!決して皆からお前逝って来いって目で見られたからじゃないよ!

 

「いい演技だったじゃん♪」

「風人君……!」

「いつもよりもカッコよかったよ♪」

「うぅ……!」

「よしよし~」

 

 胸に飛び込んでくる有鬼子。何というか、このクラスにおいてこんな大胆にイチャつくと言ったらあれだが……そう。恋人関係を隠そうともしないのは僕らだけだと思う。

 いやね?ヘタにイチャつけば誰かさんたちのからかいを受けることは明白だからね。仕方ないね。

 

「ヌルフフフ。神崎さんも凄い演技力でしたよ。流石の一言に尽きます」

「あ、ありがとうございます」

「風人君の視線誘導術も見事なものです。そのおかげで今回の演技から皆さん目が離せませんでしたよ」

「あはは~でも、狭間さんの脚本と三村君の監督。皆のフォローも大きいよ~」

 

 いくら注目を集めさせても僕以外の所では、彼ら彼女らの演技がものを言う。演技、道具、ナレーション。全部が観客を惹きつけるに必要な要素だ。

 僕はただそこに観客の焦点を当てさせただけだ。

 

「ふふっ。あの高圧的な嘲笑に表情。私の期待通りだったわ」

「というかお前ら……あの殺気とか本物だっただろ。無茶苦茶引いたわ」

「「え?本気だけど?」」

 

 あの時有鬼子を本気でぶつつもりで手の動きや殺気を出していた。……まぁ、さすがに避けられるようにしたし、最悪寸止めしてから軽く当てるつもりだったし。

 え?凄い音が出てただろって?あれは流石に僕が有鬼子をぶったから出た音じゃないよ?なぜかはよく分からないけど、カルマが舞台裏でタイミングよく寺坂をぶった音らしくね。たまたまマイクに入って観客たちにお届けする形に……まぁそのせいでリアリティーが出たんだけどね。

 

「というか有鬼子。本気で僕を殺す気で台詞とかやってたでしょ」

「当然でしょ?いつもの感じでやったからね」

「無茶苦茶怖かったんですけど!?磔にするって言ったらカルマの野郎ガチで縛りやがったし!台本になかったよね!?」

「いやー神崎さんのことだから本気で殺りやすいように俺なりの配慮だよー」

「配慮が配慮じゃねぇよ!?マジで殺されるかと思ったよ!?」

 

 あの時はマジで怖かった。というか本気で刺してきたよね?マジで?と思ったけど?まぁ、本物のナイフだったら死んでたなと思いつつ。

 

「ねぇねぇ~。そういえば、僕の台本ではあの時寸止めって書いてあったんだけど……」

「え?私の台本だと刺せって書いてあったよ?」

「脚本家~二人で台本に相違がございました~どういうこと?」

「いいじゃない。アンタも神崎に刺されるなら本望でしょ?」

「全然本望じゃないんだけど!?」

 

 何を思って本望だと思ったのだろうか。あまりにも認識が酷い。

 

「でも……その……」

 

 頬に手を当てどこか照れた感じの有鬼子。何だかそのモジモジと恥じらう姿がとても可愛ら――

 

「……私にやられる度に悲鳴を上げるその姿……ゾクゾクしちゃった♥」

 

 ――次の瞬間。僕は教室を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けてぇ!渚ぁっ!」

「わっ!?風人君!?急にどうし……ああ、また神崎さんを怒らせたの?」

「今回は僕は悪くないんだ!なんなら殺せんせーの触手を賭けてもいい!」

「いや勝手に賭けないでください!?」

「ってあれ?渚にししょー。それに殺せんせーも……どうしたの?こんな倉庫で?」

 

 逃げ込んだ倉庫の中には何故か二人とタコの姿があった。一体こんな所で何してるんだろう?

 

「ちょっと小道具を散らかしちゃってね……手伝ってもらってたの」

「ほへー」

 

 すると、僕の第六感がここにいてはいけないと警鐘を鳴らす。え?どうした僕の第六感?

 

「手伝ってよ。風人君も」

「あ、僕はあれがこれでそれだからこれにて失れ――」

「ヌルフフフ。風人君。神崎さんにある事ない事言いふらしますよ」

「――是非手伝わせていただきます……!」

 

 血の涙を流しながら同意する。第六感……!もう少し……こう…………ね?早くね?教えて欲しかったなぁ……

 

(あはは…………神崎さんがちょうどいい脅しの道具になってる)

 

「そうだ。今思い出話してたの。この一年色々とあったねーって」

「そう言えば風人君が来たのってカルマ君の停学明けの後だったよね」

「そーだね~」

「そこからだよね。…………神崎さんが壊れ始めたのって」

「うん……修学旅行明けにはもはや別人だったよ……」

「ヌルフフフ。彼女も自分の殻を破った証拠ですよ……」

 

(……大事なものまで破りすぎてる気はしますが)

 

「でも風人君もあの頃から変わったよね」

「そう~?僕はよく分かんないや~」

「そうですよ。君もしっかり成長できています。……後はもう少し日頃の言動を意識して……」

「うへぇ……」

 

(私もたくさんのことをこの教室でやったなぁ……)

 

 すると、手をうなじ当たりに持って行くししょー。

 その極々自然な動作に対して僕は視線を外そうとしたが……僕の視線は彼女のうなじから離れることが出来なかった。見とれていた?違うそうじゃない。

 明らかに髪とは違う。二本の触手が生えてきたからだ。

 

「…………気付かなかったね……最期まで」

「避けろ!せんせー!」

 

 茅野が攻撃するのと僕が声を出したのはほぼ同時。

 触手による攻撃は殺せんせーの足下の床を破壊する。

 砂煙が倉庫に充満する中、かろうじて確認できたのは倉庫の下に大きな落とし穴が広がっていること。

 

「大好きだよ、殺せんせー。…………死んで」

 

 落ちる殺せんせーに対して上から飛び降りる茅野。

 

「茅野が……」

「クソっ!」

 

 いつからだ。あの触手はいつから彼女に備わっていた?プリン暗殺の後?いや違うだろ。あの時の彼女からは僕のジョーカーに対して抱いていた憎しみ。あれと同等のものを感じていた。そして今も……クソっ。じゃあ、やっぱり最初からなのか?最初から全部隠してきたのか?

 

「渚!無事!?」

「うん。なんとか……」

「一旦離れるよ!」

 

 余波が凄い……茅野の奴。完全に殺せんせーの動きを見切っていやがる。ということはあの深い深い落とし穴の下には何かあるな……茅野の動き。あれは殺せんせーを地上に上がらせないために攻撃している。

 

 ドンッ!

 

 校舎の横で土煙が上がった。そこから出てきたのは傷だらけの殺せんせー。そして、

 

「あーあ、壁を壊して地中から脱出。思わず防御しちゃったよ、殺せんせーが生徒を攻撃するわけがないのにね」

 

 出てきたのは触手を伸ばした茅野。

 クラスの皆も今の音で教室から外に出てきたようだ。

 

「か、茅野さん……?」

「何、その触手……」

「渾身の一撃だったのに、逃がすなんて甘過ぎだね」

「茅野さん……君は一体……」

「ごめんね。茅野カエデは本名じゃないの。雪村あぐりの妹。そう言ったら分かる?人殺し」

 

 そう語る彼女の顔は今まででたった一度しか見たことのない表情だった。

 

「明日また殺るよ。場所は直前に連絡する……触手をあわせて確信した。今の私ならやれる」

 

 そして飛び立つ茅野。そのままどこかへ消え去ってしまった。

 

「あり得ない……メンテもせず触手を生やし続けていたなんて……地獄の苦しみが続いていたはずだ。表情に出さないなんてまず不可能……」

「いいや……アイツなら可能だよ」

 

 僕の言葉に驚く皆。

 

「茅野カエデ。本名雪村あかり。磨瀬榛名という名前で今活動休止中の人気子役」

「風人君……それは本当なの?」

「結構前に本人に確認したよ……全部本当だ」

「だが役者だから乗り越えられるほど甘くはないぞ」

「……一つ言えるのは……彼女は前の僕と同じなんだよ。ごめん。これ以上は今は話せない。話したらいけない気がする…………帰るね」

 

 僕は埃を払って、固まる皆を無視して、鞄を持ちそのまま帰った。

 誰も僕の後を付いては来なかった。




全く本編関係ないけど皆さんはファーストキスのことを覚えていますか?って聞いてみたけど私はファーストキスってそこまで深く覚えてないですね。

「「急に何を言い出したこの駄作者」」

いやね。漫画とか二次元のファーストキスって凄い印象的で当人たちも絶対忘れられないものじゃん。

「「あー……」」

で、とある人が言ってたんだけど、思いの外ファーストキスって覚えてないなぁって。そのことに共感できるなぁって。いや、さすがに誰としたかは覚えているけど。

「そこ忘れたら最低ですからね……」
「まぁ、僕なんて……うん。あれを忘れることは絶対ないね」
「私は……?」

(あれ?よく思い返せば私のファーストキスの相手って……実はビッチ先生?いや、あの人はノーカンにしてほしい気が……)

そう言えばこの前のうちの有鬼子様の恋人にしたいですかアンケート、応えてくれた人、ありがとうございます。(尚、投票終了にはしてないのでまだで応えたい人や結果を見たい人はどうぞ投票してみてください。ネタですので)

「あーあの駄作者の思いつきね。……よく乗ってくれた人がいたものだ」

そして、この話を投稿時点で欲しいって人が一番多かったです。

「え……あ、ありがとうございます。何か照れるなぁ……」

ちなみに二番目は俺は巨乳派だ!ですね。

「……なるほど」

ちなみに駄作者は貧乳派だ!

「「…………あーなるほど」」

まぁ、正確には胸の大きさは二の次だけどどちらか選べって言われたら貧乳派だね。迷うことなく。で、二人は一体何を納得したの?

「いや……何で僕が貧乳派なのか……なんでししょーと仲がいいのか……なんで千影が断崖絶壁だったかの理由が分かった気がする」

おぉ……!特に意識してなかったけど……!

「やれやれ。でも意外だよね。有鬼子がBって」

それね。Aでもいいと思うのに。

「全くだ。どうする?今から全部修正して一層のことゼロにしとく?ししょーみたいに」

うーん。それだとゼロが霞むからなぁ……ってあれ?有鬼子は?

「さっきししょー呼んでくるって……ん?今のししょーって確か触手持ちなような……」

よ、よし!二学期編もいよいよ大詰め!次回もお楽しみに!

「また次回会いましょ~!」












この後、駄作者と風人君が乗り込んできた茅野(触手付き)と有鬼子に処されたのは言うまでもない。


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守る時間

 その日の夜。窓をノックする音が聞こえた。

 

「殺せんせーか」

「ええ。今時間ありますか?」

「いいよ。でもここじゃあれだし屋根の上でいい?」

 

 というわけで屋根の上に登る僕ら。空を見上げながら僕は話し始める。

 

「ねぇせんせー……僕は止めるべきだったのかな」

 

 帰ってからずっと悩んでいた。僕は彼女の復讐を止めるべきだったのではと。

 

「君は気になったらトコトン突き止める性格だ。誰にもそのことを言わずに一人で突き進んでいく」

 

 耳が痛い話だが自覚はある。鷹岡のこと、殺せんせーのこと、茅野のこと、ジョーカーのこと。最初の三つは実際調べきって考察して確認して。僕は人より多くの情報を持っていたし、鷹岡はともかく他の二つは今も周りの皆より情報を持っている自信はある。ジョーカーは……結局僕一人では真相にたどり着かなかったけど。

 

「だからこそ知らなければよかったことも君は知ってしまい、それを一人で抱え込んでしまっている」

「あはは~だよね……」

「私も甘かった。茅野さんについてそこまで知ることが出来なかった」

「……いつしかさ。実は茅野のことが怖くなってたんだよ。だってさ、憎い復讐相手がすぐそばにいるのにその復讐心を、殺意を僕は真実を確認した後も全然感じ取れなかったんだよ」

 

 ……まぁ、殺気とかはこの教室にいたせいで割と溶け込んでたし、復讐心も僕という素晴らしい身代わりがいたから不自然ではなかっただろう。

 ただそれは溶け込んでいたとか不自然ではなかったのような受動的ではなくて、彼女がそうさせたのだろうけど。だから怖いのだ。

 怖くて怖くて……でもこの教室でそんな風に怖がってるということを悟らせたくなくて。だから親しげな愛称で、親しげな感じで接していた。接しようとしてきた。

 

「でも僕には止める資格はなかったんだよ……僕は同じ穴の狢。あの日まで復讐のためだけに生きて、ジョーカーっていう敵をやれたら正直死んでもいいって思ってた。復讐を果たせば自分はどうなってもいいって。そして僕の復讐は果たされた」

 

 ――――まぁ今の僕にはどうなってもいいなんて気持ちはさらさらないけど。

 彼女は今、復讐の相手を殺そうとしている。復讐を果たそうとしている。

 

「せんせー。僕は……どうすればいいのかな?どうすればよかったのかな?」

 

 茅野を死なせたくないのも、止めたいのも本心だ。でも、僕には止める資格がない。復讐を果たした僕には彼女を止める資格はないんだ。

 

「風人君。人は時に間違えます。せんせーも多くのことを間違えました。でも過去は変えられない」

「そうだよね……」

「私は君に答えを掲示しない。だから君はどうしたいのか。何をすべきなのか。何が大事なのか。明日までに考えてみてください。どの道を選ぶかは君次第です」

 

 去って行く殺せんせー。

 

「どうしたいのか……」

 

 僕は夜空を見上げて、考えることにする。僕はどうしたいのか。どうすればいいのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。殺せんせーは全てを話す決心をした。ただ、それは僕ら三年E組の生徒皆が揃ってる時にとのこと。

 で、茅野からメールで今日の夜7時に裏山のすすき野原に来るように指示があった。

 そして現在。僕らは茅野の呼び出しがあった場所にいる。

 

「来たね……じゃあ、終わらそ?」

 

 見るからに調子が悪そうな茅野。

 

「茅野さん、その触手をこれ以上使うのは危険過ぎます。今すぐ抜いて治療しないと命にかかわる」

「え、何が?すこぶる快調だよ。ハッタリで動揺を狙うのやめてくれる?」

「……茅野。全部演技だったの?楽しい事も、色々したのも、苦しい事みんなで乗り越えたのも」

「『演技』だよ。これでも私の役者でさ?渚が鷹岡先生にやられてるときも、じれったくてしょうがなかった。不良に攫われたり、死神に蹴られた時なんかはムカついて殺したくなったよ。でも耐えてひ弱な女子を演じ続けた。殺る前に感づかれたらお姉ちゃんの仇が打てないからね。まぁ、風人君には気付かれたけど」

 

 僕は皆より前に出る。

 

「ねぇ茅野……復讐なんてやめにしない?復讐なんてさ、何にもならないよ」

「うるさいなぁ……君は黙っててよ」

「僕の時と違ってさ。殺せんせーが雪村あぐりさんを私利私欲の為に殺したとは思えない。だからさ……せめて話を」

「うるさい!」

 

 触手の先端部分が発火する。それはまるで彼女の中の怒りを表しているようだ。

 

「いいじゃん風人君は!復讐を果たせたんだから!その手で憎いやつを倒せたんだからさ!邪魔しないでよ!放っておいてよ!君には私の復讐を止める資格はないっ!」

 

 確かにその通りだ。僕には資格はないだろう。でも、

 

「お前を止めるのに資格もクソもあるかよバカが!目の前で仲間が間違った道に進むのを黙って見ていられるわけがないだろ!絶対に止めてやる!それが僕の答えだ!」

 

 二度と自分と同じような存在を生み出したくない。だから僕は茅野を止める。たとえ僕が彼女に恨まれようとも絶対に。

 すると、茅野は触手を振るい、円状の炎のリングを作る。内側にいるのは殺せんせーと僕、そして茅野。

 

「そう……私の邪魔をするなら君を殺ってから殺せんせーを殺すだけ!」

「そうか……それが君の答えなんだね」

「そうと決めたら一直線だから!」

 

 次の瞬間。僕に迫る炎を纏った二本の触手。

 

「僕もこうと決めたら一直線だから!」

 

 僕は武器を構えて彼女に向かって走って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相対する風人と茅野。その戦いは常軌を逸していた。

 

「僅か十数秒の全開戦闘でもう触手に精神をむしばまれている」

 

 繰り出される触手の応酬。その攻撃は一撃でも当たれば風人はひとたまりもないだろう。

 

「死んで!死んで!死んで!死んで!死んで!」

「絶対に死なせるかよ!」

「うるさい!」

 

 触手の応酬。戦闘開始から数秒で、茅野は風人一人に焦点を定めず、殺せんせーと風人の両方を狙ったものになっていく。精神が不安定なために目の前にいる相手全てを狙っている。

 殺せんせーは触手を防御と回避。対して風人は、

 

(右左上左右下上左右上上右上左下右上左上下下右左――――)

 

 視点をあらゆる方向に移し、身体を動かし、脳をフル回転させていた。

 触手の動きは終始速いわけではない。引き戻した瞬間であったり遅くなる瞬間が何度も存在している。その引き戻す場所を狙って手錠を投げつけたり、ワイヤーで攻撃することで彼女の攻撃回数を減らそうとしている。さすがに触手を傷つけて再生に体力を奪われては意味がないと悟り使ってるのは全て金属製のものである。

 だが、風人は自分の力を分かっている。さすがに二本の触手に対し、同時に攻撃を行うことは出来ない。しかも間違っても茅野自身に攻撃を当てないようにするにはなおさらだ。一本の触手に注視して攻撃を行い、もう一本の触手はほとんど放置。回避のみに専念している。

 

「これじゃ、死んでと言ってる方が死にそうじゃ……」

「だが、風人の野郎。あの攻撃を全て対応してやがる……」

「なんて奴だよ……」

「それは違います!」

 

 すると、炎のリングの外にいた生徒たちに向かって殺せんせーは顔だけ分身を作り出す。

 

「な、何故に顔だけ!?」

「風人君のお陰で攻撃そのものの回数は減っていますが、それでも全身の分身を作り出すまでの余裕はないです」

「それはそれで器用なような……」

「だが、さっき言った風人がってやつは……」

「風人君がやってるのは異常なまでの処理を短時間でこなしているに過ぎません!茅野さんの位置、触手の位置、スピード、自身の位置、手錠とワイヤーのスピード……何十手先まで彼は読み切って戦っている!はっきり言って長くは続きません!」

 

 そう。風人は手錠をマッハの速度で投げれるような超人ではない。マッハで移動できる化け物でもない。どうしても茅野や殺せんせーと比べるとかなり劣っている。そのため、彼は並外れた思考力でその差を無理矢理埋めているのだ。風人が手錠を投げつけているのは何十手も先にある攻撃の溜のポイント。読みが一つでもズレれば効果はなくなるのだ。

 しかも、どれだけ収納しているかは分からないが手錠にも限りがある。二つの要因を考えるとあと数十秒持てば奇跡だろうか。

 

「一刻も早く茅野さんの触手を抜かなければ!彼女の触手の異常な火力は自分の生存を考えていないから出せるものです!ですが彼女の殺意と触手の殺意が一致している間は触手の根は神経に癒着して離れません!」

「じゃあどうすれば」

「手段はひとつ、戦いながら引き抜きます。風人君は既に限界を超えている。こんな環境で無理もありません。そこで先生のネクタイの下の心臓。そこの限りなく心臓に近い部分を貫かせます。『殺った』という手応えを感じさせた瞬間、触手の殺意は一瞬弱まります。その瞬間に誰かが茅野さんの殺意を忘れさせてください。方法は何でもいい、思わず暗殺から注意が削がれる何かです」

「でも、先にせんせーが死んじゃうんじゃ……!」

「恐らく先生の生死は五分五分です。でもね?クラス全員が無事に卒業できない事は先生にとって死ぬよりも嫌なんです。……マズい!これ以上は彼の命に関わる。今から彼をそちらに放り投げます。誰か受け止めてください!さっきの件はお願いしますね!」

 

 殺せんせーの分身が消えた次の瞬間。火の壁を越えて風人が弧を描いて飛んできた。

 

「って本当に飛んできたぞ!」

「誰が受け止めるんだよ!」

「寺坂!杉野!磯貝!行くよ!」

「お、おうっ!」

「分かった!」

「任せろ!」

 

 カルマの指示に合わせて四人が風人の落下地点に先回りして、風人を受け止める。

 

「がはっ……!……けほっけほっ!」

 

 風人が身軽な事もあってか衝撃は小さくすんだ。

 

「風人君!」

 

 受け止められた風人の元に駆け寄る有希子。

 

「けほっけほっ……やっば……」

 

 幸いなことに一撃も喰らっていない。だが、先読みに回避に脳と身体をわずかな時間で酷使しすぎたために一気に体力とか諸々を持ってかれている。

 

「飛ばすなら……先に言ってほしかった……」

 

 その上緊急事態とはいえ、急に吹き飛ばされたんだ。彼の中での状況把握がまだ完全に出来ていない。

 

「もう!無茶ばっかりして……!今は休むの!」

「はーい……」

 

 有希子に肩を借りる風人。立ち上がろうとするも緊張感が解けたせいでさらに疲労が押し寄せ立っていられない。そしてそのまま座り込む。だが、その目は確かに茅野と殺せんせーの方を向いていた。

 

(ははっ……さっきまであんな化け物の戦いの中にいたのかよ~……というか頭痛い……)

 

 疲れのあまり何にも考えたくない風人。

 そしてそんな風人の退場には気にも止めず茅野は殺せんせーを殺そうとしていた。

 

「死ンデ!死ンデ!死ンデ!」

 

 茅野の猛ラッシュ。その中で一瞬の隙を見つけた茅野は殺せんせーのネクタイの真下に位置する心臓。そこにめがけて二本の触手を突き刺した。

 

「ごふっ……!」

 

 少量の吐血。

 

「殺ッタ……!」

 

 茅野が殺したと確信した次の瞬間。茅野に伸びる二本の触手。

 

「離シテ!離シテヨ!」

 

 その触手は茅野を捕らえ、離さなかった。

 

「君のお姉さんに誓ったんです。君たちからこの触手を離さないと……!」

 

 そんな茅野と殺せんせーの前に立ったのは渚だった。

 

「……渚」

  

 次の瞬間。渚は一瞬で茅野との距離を詰め茅野にキスをし始めた。

 ほとんど全員が突然の出来事に驚いている中、カルマと中村はケータイを取り出し左右に分かれ撮影を開始した。

 

「――――――――っ!?」

 

 しかも舌を入れる大人のキスをする渚。

 

(あーありゃ、堕ちるだろうなぁししょー)

 

 特に驚いた様子もなく淡々と見守る風人。

 5HITを超えた頃には茅野の目から殺意の色は消えていたがそれでもキスを続行する渚。

 結果10秒15HITのディープキスを持って、茅野は目を回し、渚の腕の中で気絶した。

 

「これでどうかな?殺せんせー」

「満点です渚君!今なら抜ける!」

 

 茅野の触手は殺せんせーによって綺麗に取り去られた。



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迷う時間

 気絶した茅野。殺せんせー曰く絶対安静だが一応無事。今は寝ているだけらしい。

 で、キスをして動きを止めた王子様こと渚は最悪の悪魔コンビ、カルマアンド中村にいじり倒されていた。

 

「キス10秒で15HITってとこかしらね……まだまだね」

 

 そんな中ビッチ先生による、先ほどのキスの採点結果が出る。どうやらまだまだのようだ。まぁ、確かに15HIT程度じゃダメだよね。……でも、目的は果たせたしオッケーだしよくない?

 

「40HITは狙えたはずよ」

「俺なら25は堅い」

「うんうん」

「もうやだこの教室……私も20は行くけどさ」

「ちなみに僕も35くらいなら行けそ~」

「張り合わないの」

 

 と、キスの10秒あたりのHIT数について盛り上がる(どんなクラスだよ)僕たち。

 

 パシュッ!

 

「はっ……!」

 

 くだらないことで盛り上がり、一方殺せんせーは失いすぎた体力の回復に努めていた頃、一発の銃声が響き渡った。

 

「瀕死アピールも大概にしろ。まだ躱す余裕があるじゃないか」

 

 そこにいたのはシロ。そしてもう一人……誰あの……なんかこう……何で頭の上までチャックあげてるんだろう。

 

「使えない娘だ、自分の命と引き換えの復讐劇ならもう少し良いところまで観れるかと思ったがね」

「ふざけんなよシロクロ野郎。勝手に使えない判定とか出してんじゃねぇよ」

「これだったら君の復讐劇の方が面白かったが……まぁいい。大した怪物だよ、いったい一年で何人の暗殺者を退けて来ただろうか。だがここにまだ二人ほど残っている」

 

 するとシロはその仮面を外し素顔をさらす。

 

「最後は俺だ、全てを奪ったお前に対し、命を持って償わせよう」

 

 ………………誰?

 

「行こう『二代目』。3月には……呪われた命に完璧な死を」

 

 そうして消えていく二人……結局何しに来たんだろうか?

 

「茅野が目を覚ましたぞ!」

 

 二人が消えて程なくして、茅野が目を覚ます。渚の方を見て顔を赤くして背けた……ほぅ。

 

「最初は純粋な殺意だったの。お姉ちゃんの仇って……だけど殺せんせーと一緒に過ごすうちに殺意に確信がもてなくなった。この先生には私の知らない別の事情があるんじゃないか?殺す前に確かめるべきじゃないか?って。でも遅かったの。その頃にはもう触手の殺意が思い止まることを許さなかった……バカだよね。皆が純粋に暗殺を楽しんでたのに私だけただの復讐のためだけにこの1年を費やしちゃった」

「茅野。僕は茅野にこの髪型を教えて貰ってからさ、自分の長い髪を気にしなくて済むようになった。殺せんせーって名前もさ、皆が気に入って使ってきただろ?目的がどうとか気にしなくていい。茅野はこのクラスを作り上げてきた仲間なんだから。どんなに1人で苦しんでたとしても全部演技だったなんて言わせないよ。皆と笑った沢山の日が」

 

 凄いな渚は。すごいいいことを言えて。

 

「殺せんせーは皆揃ったら全部話すって約束した。先生だって聖人じゃない、良い事ばかりじゃないのは皆知ってる。でも皆で聞こうよ」

「……うん。ありがと……私、もう演技やめて……いいんだ」

 

 涙を流す茅野にクラスメイトたちが寄り添う。誰も責めることはしない。彼女の本心を聞けたのだから。

 

「殺せんせー。たとえ先生にどんな過去があったとしても、それが真実ならすべて受け入れます。だから話してください」

 

 殺せんせーは僕らの顔を見渡した後、語り始めた。

 

「できれば過去の話は最後までしたくなかった。けれど、こうなってしまってはしなければなりませんね。君たちとの信頼を、絆を失いたくないですから。夏休みの南の島で烏間先生がイリーナ先生をこう評しましたね?『優れた殺し屋ほど万に通ずる』非常に的を得た言葉です。先生はね?教師をするのはこのE組が初めてです。それにも関わらずほぼ全教科を滞りなく皆さんに教えることができました。それは何故だと思いますか?」

 

 察しのいい何人かが気付く。

 

「そう。2年前まで先生は『死神』と呼ばれた殺し屋でした。それから、もう一つ。放っておいても来年の3月には先生は死にます。1人で死ぬか、地球ごと死ぬか。暗殺で変わるのはそれだけです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺せんせー……いや、『初代死神』は劣悪な環境に生まれ『死』だけを信じて生きていた。『初代死神』にとって殺し屋は天職だった。しかし、2年前。唯一の弟子である『二代目死神』によって裏切られ拘束。シロこと柳沢によって実験のモルモットにされた。そしてその時の監視が茅野の姉……『雪村あぐり』彼女はここ三年E組の担任をしながら初代死神の監視をしていた。

 そして一年前。月でマウスに対して同様の実験をしたところ月が七割方蒸発するという大惨事。それを見た柳沢は初代死神の殺害を決意する。しかし、それは失敗。触手を操るようになった初代死神の前に左目を失う。

 そのまま初代死神は研究所で破壊活動を行う。彼を止めるために雪村あぐりは抱きつき、その瞬間触手地雷と呼ばれる兵器が彼女を襲う。彼女は瀕死の重傷。自らの死を悟った彼女は後の殺せんせーにこう告げる。

 

『もし……残された1年。あなたの時間をくれるなら…………あの子たちを教えてあげて』

 

 彼は彼女の最後の願いを聞き届けて、三年E組の担任となった。

 

 話を聞き終わったとき、僕らの脳裏をよぎるのはこの一年の思い出。

 

 そして僕らは最大の難題と向き合う。

 

 

 

 ――――この先生を殺さなくてはならないのかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 年が明けて1月6日。僕、渚、杉野、奥田さん、有希子の五人はししょーのお見舞いにやってきた。

 

「大丈夫?茅野?」

「うん。新学期には滑り込みセーフだって」

「よかったね~学校休まなくてすんだじゃん~」

「そうだね。でも、風人君も来るなんてちょっと意外だったな」

「ししょーのためですよ~」

「本音は?」

「有鬼子に家から引きずり出されました……」

「あはは……風人君らしい」

 

 酷い。何も無理やり引きずることはなかったのに。

 この冬休み誰も暗殺についての話を出さなかった。

 僕自身も結局暗殺は行わず、これからどうするかを悩んでいた。

 いや、実際はもっと前から悩んでいたけどズルズルここまで来てしまっている。

 いつかは決めないといけない。殺せんせーを殺すかどうするのかを。

 勿論、全員が知った以上これは僕だけの課題じゃない。皆の課題だが。

 

「あ、あと、茅野に謝らないといけないことが……。あの夜のことはごめん!他に方法が思いつかなくて……」

 

 あの夜……ああ、渚がししょーにキスしたことか。

 

「まさかー助けてくれたんだもん。感謝しか出てこないよ」

 

((嘘だ))

 

 なんとなく僕と有鬼子の意見が一致した気がする。

 

「よかったぁ」

 

 渚を見て思う。実は鈍感?

 

「そろそろお暇しましょう?茅野さんも疲れたようだし」

「だね~ばいばーい。ししょー」

「じゃあ、明後日また」

「じゃあな」

「またね」

 

 そんな感じで五人で病室の外に出て、病院から出ようと歩き出し……

 

「ああぁっ!思い出した!僕も一個謝ることあったんだ!」

『……えぇ…………』

「ごめん!ちょっと戻りまーす!」

「うん。私たちは待ってるね」

 

 というわけで、僕はししょーの病室へ逆戻り。いやーさっきばいばーいとか言ったのにこれって……

 

「…………何してるの~ししょー?」

 

 戻ってみると布団が盛り上がってバタバタと世話しなく動いている。そして出て来たししょーの顔は真っ赤に染まっていた。

 

「は、はわわ!?か、風人君!?帰ったんじゃ……」

「あー僕も一つ言い忘れたことがって思ったけど……」

 

 僕は口元に手をやってニヤリと笑う。

 

「ほうほう~で、いつくっつくの~?」

「い、いや!渚とはそう言うのじゃないんだから!」

「誰も渚のこととは言ってないんだけどなぁ~あれれぇ~?」

「…………っ!」

「まぁま、ししょー。僕と有鬼子はバッチリ応援するから!ぐー!」

「そ、そうだね……ありが……待って。何で神崎さんも?」

「いや、あの様子だと完全に気付いただろーし」

 

 まぁ、気づけなかったのは渚くらい……だよね?え?あんなわかりやすい演技を見破れなかったの?マジで?

 

「……そうだなぁ……とりあえずごめん!」

「え?何が?」

「いやぁ……ね。あんなに早い段階でししょーのこと気づいていたのにずっと何もできず……長いこと苦しませて」

「そんなの気にしなくていいよ。私もあの時は脅しちゃったし……酷いことも言ったし。それにごめん!いくら触手のせいとは言え風人君に攻撃を加えようとして……その時にも色々と言っちゃって」

「あ~全然気にしなくていいよ~一撃ももらっていないから~」

「それはそれで地味にすごいような……」

「…………まぁ、有鬼子が暴走して報復に来たら諦めて」

「…………風人君や。私と協力しないかい?」

 

 あくどい顔をするししょー。なんというか前よりも感情を隠さなくなったなぁ……というかそんな顔もできるんだ。

 

「…………報酬はししょーと渚のイチャイチャで」

「…………風人君。ここに長いこといたら後で処刑されるんじゃない?」

「…………ほほう。脅してきましたか……あはは」

「あはは。何やってるんだろうね。私たち」

「さぁね。でも僕らはこの程度の距離感がちょうどいいよ~」

 

 ある意味では僕らは似た者どうしかもしれない。大切なものを目の前で奪われ、復讐のために生きていて、今は前を向いている。

 あの日から彼女に対しての恐怖は消え失せていた。僕にとって彼女は掛け替えのない仲間で戦友(とも)なんだ。そして今、僕らは初めて心の底から笑い合えたのかもしれない。

 

「でもこれ以上は嫉妬しちゃうんじゃない?」

「だねー嫉妬されると何しでかすかわかんないから」

「じゃあ、また明後日ね~」

「うん~今度一緒にプリンでも食べに行こうね~」

 

 そして病室から出た僕。

 なお、病院の受付あたりで待っていた有鬼子の頬がむくれていた感じがすごい可愛かったです。




 ごめんなさい!(ザーーーー)

「あ、あの駄作者が開口一番にスライディング土下座するだなんて……!」
「な、なんて美しい土下座なんだ……!僕は駄作者を許そう」

 ありがとう風人君。じゃあ、次回もおたの――

「ってなるわけないでしょ」

 ですよねー

「で?何をやらかしたんですか?」

 皆覚えているかは分からないけど『入院の時間』のあとがきでクリスマスの話やるつもり!的な感じで言ったと思います。

「あーいつの話かな?」

 半年以上前ですね(キリッ)

「何話前の話かな?」

 20話くらい前ですね(キリッ)

「つまり約半年で20話のペースと」

(あれ?意外に投稿してる?もしかして結構投稿してた?)

「駄作者?今『あれ?もしかして投稿してる方?』とか思ってないよね?」

 あはは~そんなわけないじゃん~

「で~そのクリスマスはどうなったの~?よく見たら新年になっちゃったよ~?」

 あーうん。なんか前はやるつもりだったけど、よく考えたらこのルートなら重要じゃないし、やっても殺せんせーのことで何かイチャつかせるの違うなーって思ってさ。

「……逆に聞くけどもう一つの方だとそんなに重要だったの?」

 うん。絶対に外せなかった。

「……はぁ。まぁいいや」

 というわけで二学期編無事終了。

「何か、前の話あたりから茅野さんがヒロインに見えてこなくもないような……」

 大丈夫。茅野は渚のヒロインだから。

「僕とししょーはプリンによって結ばれた友達だからね~」

 この二人はどこまで行っても親友以上恋人未満です。 
 と、そんな本編も次はいよいよ三学期編。集大成ですね。
 この話を投稿する前にUAは120,000を、お気に入り数は800越えました。本当にありがとうございます。ここまで本作に付き合っていただいた方々、どうか次章もお付き合いください。
 では恒例(?)の次章予告がございますのでどうぞ。












 ~次章予告~
 殺せんせーの過去を知り、悩むE組。
 そして彼らは殺すか殺さないかの決着をサバイバルバトルにてつけることにする。

「僕はね~」

 風人は殺す派かそれとも殺さない派か。
 彼の選択は……?












 受験、バレンタインデーとイベントが過ぎてゆくE組。バレンタインでは有希子が大胆な行動に……?

「このクラス唯一にして随一のバカップルだからね。期待できるんじゃない?」
 BY悪魔コンビ片割れ

 と、徐々に有鬼子が色んな意味で暴走していく中、卒業及び殺せんせーの暗殺期限までのリミットが迫るそんなある日のこと。

「り、りじちょー……!」

 風人は理事長のもとにいた。
 一体彼はなぜ理事長のところにいるのか?





 






 暗殺教室も終幕が近付く。果たしてどのような決着を迎えるのか。
 次章『終幕の三学期編』












「風人君」












 風人は暗殺教室の終わりに何を思うのか。


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終幕の三学期
分裂の時間


三学期編スタートです。


 三学期のスタート……しかし、そのスタートは重かった。

 テンションは皆低い。お陰で空気も重い。

 そのまま突入した放課後。渚が皆を裏山に招集した。

 

「で、テメェが招集かけるなんて珍しいじゃねーか。なぁ?渚」

 

 寺坂がいかにもな感じで問うと、渚は一呼吸置き、

 

「……殺せんせーを、助ける方法を探したいんだ」

「それはつまり、3月に爆発させない方法を見つけるってこと?」

 

 なるほど。助ける方法……かぁ。

 

「今はまだアテはない。だけど、先生は僕たちに色々と教えてくれた。だから、殺すより助けたいって思ったんだ」

「わたしさんせー!まだまだ殺せんせーと色々生き物探したいもん!」

「私も賛成。殺せんせーに恩返しもしたいしね」

 

 倉橋さんや片岡さんをはじめとして多くの人が渚の意見を支持する。だが――悲しいと言うべきか当然と言うべきか。これだけの人数がいるんだ。全員が同じ思いであるとは限らない。

 

「こんな状況で言うのもアレだけど、私は反対」

 

 賛成ばかりだったこの空気の中、反対の意を示す中村さん。

 

「暗殺者と標的が私たちの絆。私はそれを本当に大切に感じている。だからこそ…………殺さなくちゃいけない」

 

 今までもそうしてきた。確かにそうだ。僕らはただの生徒と担任って関係じゃない。暗殺者と標的。それが僕らの関係だ。

 気付けば、中村さんの後ろには寺坂組の面々が付いていた。

 

「助けると言っても具体的にどうするんだ?」

 

 反対派の面々も別に助ける方法を考えなかったわけではない。ただ、最悪の形を想定しているのだ。助けると言って助ける方法が見つからず時間切れ。何もかもを中途半端にこの教室を終わらせてしまうことを。

 

「で、でも!考えるのは無駄じゃ――」

「才能があるやつってさぁ。何でも自分の思い通りになると勘違いするよね。ねぇ渚君。随分調子に乗ってない?」

 

 ここで口を開いたのはカルマ。ただいつもと違って若干不機嫌さを感じる。

 

「E組で一番暗殺力あるの……渚君だよね?そのトップの君が暗殺をやめて助ける道を探そうって言ってるんだよ?それってさぁ、今まで才能がないなりに頑張って暗殺しようとしてきた奴らのことを考えているわけ?」

「それは……でも!もっと正直な気持ちだよ!殺せんせーは今まで僕らを見守り助けてくれた!だから今度は僕らが助けたいんだよ!カルマ君は殺せんせーのこと嫌いなの!?」

「だから!この教室は殺意で成り立ってきた!殺意が鈍ったらこの教室は成り立たないんだよ!その努力もわかんねぇのかよ!身体だけじゃなくて頭まで小学生かよ!」

「ちょっとカルマ。それは言い過ぎじゃ……」

 

 僕が代わりに言おうとする……が、渚のカルマを見る目が変わった。そしてその目を見たカルマの目の色も変わった。

 

「え?何その目。小動物の分際で人間に逆らうの?」

 

 完全に頭に血が上ってるカルマ。

 そのまま渚の肩を数発強く押す。

 

「ホラ!ホラ!文句があるなら言ってみろよ!」

 

 そして渚のネクタイを掴もうとするカルマ。そんなカルマの差し出した右手をつかみ、渚は足をカルマの首に巻き付かせ、そのまま地面に膝を付かせ首を絞める。

 

「僕だって半端な気持ちで言ってない!」

 

 そんな渚の締め付けもカルマの前では無力。そのまま立ち上がり、

 

「こいつ……!」

 

 空いていた左手を握りしめて殴りかかろうとする。

 

「まぁまぁ落ち着いてよ。渚にカルマ。喧嘩してどうするんだよ」

 

 僕はカルマの左手を右手で押さえ、残った左手で渚を軽く突き飛ばす。

 というか痛いなこの野郎。何というバカ力だよ。

 

「どけよ風人!」

「うるさいなぁ。頭冷やしてよカルマ」

 

 渚の方は杉野に捕まってる……いや、渚……お前力なさ過ぎだろ……。

 空いた右手でストレートを放つカルマ。それもしっかりと見極めて躱して手錠をかける。

 

「…………っ!」

「悪いけど僕は止めるためだから……卑怯とか言うなよ」

 

 すぐさま捕らえていた左手にも手錠をかける。これで両腕を封じた。後は……

 

「まだ収まらねぇのかよ……!」

 

 その両手を押さえようとするが、マジでキレてるせいで力がすごい。クッ……このバカ力……こうなりゃ気絶させるしか……!

 

「中学生の喧嘩、大いに結構!ですが、暗殺で始まったこの教室。これで決めてはどうでしょう?」

 

 殺せんせーがなんか最高司令官のようなそんな感じの格好で僕らの間に割って入った。手に持ってるのは二丁の銃。

 あまりのことに動きが止まる僕とカルマ。…………いやーその何というか……ねぇ。

 

(((事の張本人が仲裁案を出してきた!!)))

 

 何というか……え?アンタが言うの?何で今喧嘩が起きてたか知ってる?ねぇ誰のせいだと思う?

 で、そんな僕らのツッコミをお構いなしに置いたのは赤と青の箱。

 

「先生を殺すべきと思う人は赤。殺すべきでないと思う人は青。それぞれのチームに分かれ、この赤と青のインクがついた武器で、この山を戦場に戦ってもらいます。相手のチームのインクをつけられたら死亡。つまりは退場です。相手チームを全滅させるか、相手チームの旗を奪ったチームの勝利。そのチームの意見がクラス全員の総意とします。これでどうでしょうか?」

 

 な、なるほど……。

 

「先生はね。大事な生徒たちが全力で決めた意見なら全力で尊重します。でもね、最も嫌なのはクラスが分裂したまま終わること。先生の事を思ってくれるなら、それはしないと約束してくださいね」

 

 これで遺恨を残さず白黒はっきりしようって訳か。

 

「……………どうする?」

 

 磯貝君が確認するが……もう僕らの心は決まっていた。

 

「……よし。これで決めよう」

 

 殺すか殺さないか。…………ん?そう言えば……

 

「せんせー質問~」

「はい。何でしょう?」

「インクのついてない武器を使うのはあんまりよろしくないよね~?」

「そうですね……でも君の力を最大限発揮するにはいつもの武器が必要では?」

「うーん……でもなんかふこーへーな気がするからいいや。風呂敷とかそういうの貸して~」

「分かりました。これで足りますか?」

「ありがと~」

 

 というわけで、僕は常に持ち歩いている手錠たちを置いていく。

 数個置くときには皆、無反応。

 十数個置くときにはちょっと待てと思い始める。

 数十個になっていくと……

 

「「「いやどんだけ持ち歩いてるんだよ!」」」

「あれ~?多かった?ごめん。まだあるんだけど……」

 

 いやね。僕の暗殺のスタイル上いかにして多くの武器を隠し持っておけるかっていう点に尽きるからね。

 

「…………そういやコイツ。茅野ちゃんに向かって大量に手錠投げつけていたな……」

「まさかその量を常備していただなんて……」

「……ただのバカじゃねぇのか?」

「しかも普通に本物の手錠も混ざってるし……」

「というかコイツの何処にそんなに隠し持っていたんだよ……」

 

 と、遂に山のように積み上げられた手錠が。あ、カルマの手錠を外して~っと。

 

「後はワイヤーをちょこんと、はい。これで全部だよ~」

「「「………………」」」

 

 あれ?何だろう……皆固まっちゃったんだけど?どうしたの?さっきまでの張り詰めた空気はどこに?というかせんせーも引いてるんだけど……あり?多かった?

 

「それにしても大分身軽になったなぁ~なんだか不思議な感じ」

 

 別に最初からこんな量を持っていたわけじゃない。ただ、段々と増えていっただけだ。そう段々と。

 

「あれ~?皆選ばないの~?じゃあ、僕から選ぶね~」

 

 というわけで僕は箱に入った武器たちを眺める。もう僕が入る派閥は決まっているのだ。

 

「僕はね~」




というわけでさぁ、風人君はどうするのでしょうか?

「あれれぇ~?アンケート的なのはしないの~?」

うん。しないかな。もう決めて書き上げたし。

「ほへぇ~(……ん?書き上げた?)」

大方の読者の予想した陣営になるはず(多分)。

「どーしてそう思うの?」

想像してみてください。風人君と有鬼子の共闘を見たいか激突を見たいかを。

「あぁー……でもウチの駄作者の感性ズレにズレてるからなぁ」

…………いや普通だよ?うん。

「去年、大学の講義中に急に大爆笑して友人たちからこいつ意味分からんとか言われたくせに?」

……あれはツボに入ったからね。仕方ないね(尚友人たち曰く、笑いのツボがおかしいとのこと)

「アニメとかの推しが時々訳分からんと言われるくせに?」

出番が少ないことが割とあって涙が止まらない(尚友人たち曰く法則性が見当たらないとのこと)

「というか駄作者、友人いたんだね」

いるよ!?

「へぇー」

あ、信じてないな。

「ただいま来ました……」
「あ、有鬼子~遅かったね」
「ちょっとね。で?今何話してたの」
「作者に友人がいるかいないかって話」
「あー……架空の友達(エアフレンズ)?それとも心の友達(ソウルフレンズ)?」

((うわぁ……一瞬で危ない領域に片足突っ込んでいる人になった……))

「まぁ作者の妄想フレンズは置いといて」

待ってくれメインヒロイン。さっきから酷すぎない?

「で?次の話はできあがってるんでしょ?いつ投稿するの?」

気分次第。

「……ふーん。私としては具体的な期限を設定してほしいのだけど」

じゃあ令和が終わるま……(ポキッ)……み、右腕がぁぁっ!?

「一本ね。後九本折られる前に真面目に答えて」
「ちょっと待って。後九本って何?」
「え?駄作者の左腕と両足、そして最後は駄作者の首」
「……えーっと後五本はどこにあるの?」
「風人君の両腕両脚そして首」
「だ、駄作者!真面目に答えるんだ!さもないと僕の命に関わる!」

なるほど……後八回までなら間違えられるのか。

「違うよね!?何で自分を犠牲に主人公を殺そうとしてるの!?」

自分を犠牲にして巨悪を倒す……アリか?

「なしだよ!」
「次回から本編の主人公は私に変わるのか……」
「待って待って!あとがきだけじゃなくて本編からも消されるの!?」

……ふむ。主人公がこのタイミングで消えるのか……誰も考えてない展開……アリか?

「なしだよ!」

じゃあ、来年が終わるまで。

「あっ……( ▽|||)サー」
「ふっふっふ……じゃあ、まずは何処からにしようかな」
「ぼ、僕はまだ生きるんだぁ!εεεεεヾ(;´・з・`)/ニゲロォオオオ!!」
「待ってよ風人君。≡≡≡ ̄Д)バビューーン!」

こうして二人の鬼ごっこは始まったとさ。
風人君。君の犠牲は忘れない。





















「6月中には投稿しますと駄作者が言っていました。え?何で私が最後に告知してるかって?さぁ……?」


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殺し屋たちの時間

 僕は迷わず手にする――赤色のチームの武器を。

 

「僕はこの一年、皆のお陰でここまでやってこられた。殺意によって結ばれた僕らのクラス。暗殺で始まったんだし、終わらせるのもやっぱり暗殺かな」

 

 僕はずっと考えていた。おそらく皆よりずっと前から。当然助けたい気持ちがないわけじゃない。だって、殺せんせーには、この教室の皆にはずっと救われてきたしね。

 僕は自分の成長を、学んできたことを、この思いを、全部暗殺に乗せて伝えたい。この教室ではそうするべきだと思ったから。この教室での成長を示すにはこうするのが一番だと思ったから。

 だから、僕は殺せんせーを殺す。

 

「私は、この先も殺せんせーには、相談に乗ってほしいと思う。助けたいと思う理由はそれだけで充分だよ」

 

 僕が赤色のチームを選んだ後、すぐさま有鬼子がやって来て青色のチームを選ぶ。

 

「たとえ風人君が相手になっても、私の心は揺らがない」

「僕も有希子が敵になっても容赦しないよ~」

 

 そんな感じで早々に僕らの意見が分かれた。でも、僕も有希子もその目に迷いはない。

 誰かによって決められたことでも押しつけられたことでもない。これは自分自身で決めたこと。そして誰が敵に回ってもこの思いを貫き通す覚悟はあった。

 と、僕らに続くようにして皆が各々の思う方のチームへと入っていく。

 

 結果、チーム分けはこうなった。

 

 赤(殺す派)

 カルマ。岡島。岡野。木村。菅谷。千葉。寺坂。中村。狭間。速水。三村。村松。吉田。風人。イトナ。

 

 青(殺さない派)

 磯貝。奥田。片岡。茅野。有希子。倉橋。渚。杉野。竹林。原。不破。前原。矢田。

 

 中立

 律。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから二つのチームに分かれた僕らE組。審判を務める烏間先生から改めて説明が入った。

 お互いのチームの旗の距離は100m。烏間先生は中間地点で判定やゾンビ行為などを見張る審判。ただ、審判のため僕らがどこからどのように攻めようが知らないふりをするとのこと。要するにいくら戦力差があったりしようと先生はずっと中立でいてくれる。

 後はこの超体操着に内臓通信機と目を保護する極薄バイザーが追加したから上手く使えとのことだった。

 説明の後、両チームは作戦会議に入った。

 

「風人はてっきり向こうに行くと思ったんだけどね」

「あはは~まぁ、あれは渚の味方をしたと言うよりも、あの形での決着は誰も望んでないし、納得できないと思ったからね~」

 

 ここは暗殺教室。ただの暴力で屈服させるなんてやり方がまかり通っていいはずがない。

 

「それにしても頭冷えた~カルマ?なんなら僕が指揮しようか~?」

「もう十分冷えた。俺が指揮を執る。それでいい?」

「まぁ、この面子ではお前が相応しいだろ」

「にしてもこっちがすごい有利じゃないか?」

「ああ、この戦いで厄介になってくる男がそこにいるからな」

 

 そう言うと僕の方を見てくる一部の面々。あれ?どうしたの?

 

「予測不能かつ暗殺、戦闘どちらでも問題ないからね。あぁ、風人。お前には指示出さないから」

「何でさ!」

「どうせ、言うこと聞かないでしょ」

「チッチッチッ。僕だって成長したからね!きっとおそらく多分指示をしっかり聞くと思うよ!」

 

(((絶対聞くつもりがないだろこの野郎……)))

 

「風人のトリッキーさを生かすにはその都度その都度の指示は必要ないってね。ただし、二つだけ指示を出しておく」

「二つだけ?」

「一つ。神崎さんを狩れ。二つ。神崎さんが倒した数の分を風人も倒せ」

「ほうほう~」

 

 …………なかなかの注文だ。まぁいいか。元々彼女だけはこの手で殺ろうと思ってたし。

 

「いいのかよ。そんな指示で……」

「わざわざそんなこと言う必要あったのか?」

「いいんだよ。コイツの思考を一番理解しているのは彼女。そして彼女の思考を一番理解しているのはコイツ。だからぶつけておけばいい……まぁ、最悪相打ちでもいいからよろしくね」

「はーい」

 

 大分うちの彼女は警戒されてるなぁ……わざわざカルマが僕をぶつけると明言しているくらいだし。でもまぁ、向こうのチームは数も少ないしいろいろあるけど一切油断はできない。そもそもこのクラスで油断できそうな暗殺者はいない。皆一人一人武器を秘めているのだから。

 僕も自分の武器を見る。ナイフが二本だけ。さてさて、これでどこまで殺れるかな?

 

「じゃあ、風人以外は初期配置伝えるからそのようにお願いねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、両チームが初期配置についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よし、両チームスタンバイOKだな。では、クラス内暗殺サバイバル……開始!』

 

 烏間先生の開始の合図。

 

 パァンッ!パァンッ!

 

 その瞬間に響いた二つの銃声。

 

 そして次の瞬間。青チームの片岡と竹林の肩に赤色のインクが付着した。

 

『なっ……!』

 

 開幕早々に脱落した二人は驚きを隠せない。

 青チームの布陣をあらかじめ把握し、千葉と速水による超遠距離スナイプ。BB弾は50mも離れればブレ対象を大きく外すというのに、千葉に至っては100m以上離れた距離から正確にヒットさせてくる。E組のスナイパーコンビには流石としか言い様がない。

 そんな感じで二人仕留めた赤チーム。

 

「流石だな千葉!もっと殺っちまえよ~俺がちゃんと守ってやるからよ!」

「……おう」

 

 遠距離スナイプを決めた千葉。そしてそんな彼を護衛する岡島。

 だが二人は気付いていなかった。すぐ背後に鬼が迫っていたことに。

 

 ズドドドドドド!

 

 銃の連射音が二人の近くから発せられる。

 気付けば青色のインクがベッタリ付けられた千葉と岡島の姿が……

 

「嘘だろ……」

 

 そして、笑顔で右手の人差し指についたインクを舐める鬼。次の瞬間には移動するために消えていた。

 

「完全に気付かなかった……いつの間に背後に……」

「忘れてた……神崎さんはオンライン戦場ゲームの達人だった。FPSゲームとかでも相当強いと有名になってる。敵とかスナイパーの隠れてそうな場所とかが全てわかるってことか……」

 

 そのまま走って移動する有希子。そして隠れていた菅谷を補足し、仕留めることに成功する。

 

(スナイパーを一人仕留めたのは上々。大体の敵の位置も把握済み。……やっぱり一番危険なのは風人君か。…………彼だけが何処にいるかが分からない)

 

 普段のゲームからも風人は神出鬼没。彼の動きは完全には読めない。だからこそ、

 

「ねぇ~有鬼子~近くにいるんでしょ~?」

 

 彼の声が何の前触れもなく聞こえたことに驚きを隠せない。

 走っていた有希子は咄嗟に木の陰に身を隠す。声も音も立てずに彼の様子を窺う。

 

「まぁ、いいやーどうせいるだろうしー」

 

 ナイフを手の上でクルクルと回しながら言葉を発する風人。

 そんな彼は少し開けた場所に堂々と立っていた。

 

(風人君は私に背を向けている……つまり、私が近くにいるとは思っても細かい場所までは――)

 

「分かってない。って考えてるのかな!」

 

 次の瞬間。一切後ろを見ずにナイフを投げ付ける。

 そのナイフは有希子の隠れていた木に当たった。

 

(…………っ!気付かれてる!?)

 

「あーそのままでいいや~ねぇ、有希子。君は僕を殺りたい。僕も君を殺りたい。だからさ――」

 

 次の瞬間。有希子は隠れていた木から飛び出し、二丁の銃を構えて撃ちまくる。

 

「――本気で勝負しようよ」

 

 ズドドドドド!

 

 銃の乱射音が辺り一帯に響いた。



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激突の時間

 場所はリタイアした人たちが集う待機所スペース。

 そこに開幕早々に脱落した片岡と竹林の姿はあった。

 

「まさかすぐやられるなんて……」

「お疲れ様です二人とも。それもそのはずですよ。彼らは片岡さんの力を知っててやっている。竹林君も、何かしようとしていたのでしょう?」

「これで、敵陣にインクの雨を降らせようと思っていましたよ」

 

 このルールは相手チームのインクが付いたら負け。だから竹林の策は効果は絶大だっただろう。勿論、決まっていたらの話ではあるが。

 

「あそこでユキコとカゼトが出会ったわね。どちらが勝つのかしら?」

「さぁ。ただ……面白い戦いにはなるでしょうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして場面は風人VS有希子に切り替わる。

 風人に向けて銃を乱射した有希子。だが、

 

「それぐらいで当たると思う~?」

 

 風人は全てを見切って躱していた。

 

(普通はそれで当たるんだよ……)

 

 有希子は半ば呆れる。

 

(でも予想の範囲内だ。やっぱりゲームとリアルは違う。ゲームではあんなことは起こるはずがない)

 

 細かく移動を繰り返し風人との距離を取る有希子。

 ただ、今更風人に対し常識が通用しないことくらいは知っている。故に驚きはなかった。

 

(風人君は本気で勝負しようと言った。なら、私も答えないと)

 

 ゆっくりと歩いて自身が投げたナイフを回収する風人に対して、すかさず背後から狙い撃つ。

 

(どうやって勝つ?風人君は動体視力、思考力はバケモノ級。その上スピードやパワーなどは私を凌駕する)

 

 風人は放たれたペイント弾を全て完璧に避ける。

 そしてゆっくりと歩き出す。

 それに対して再び銃を構え撃つ有希子。

 

(銃を撃ち続けても当たらないことは明白。近接戦闘に関しては分が悪い……ただ)

 

「このままではジリ貧だ。そうするしか勝ち筋はない。だから近接戦闘に切り替えるしかない」

「…………はぁ。全てお見通しなんだね」

 

 銃を一つ捨て置き、代わりにナイフを取り出す。ナイフとハンドガンを手にして風人の前に現れる。

 所持しているペイント弾に限りがある以上遠距離から攻め続けることはどのみち不可能だったのだ。

 

「言ったよ?僕は本気で勝負するって…………ぶっ殺す」

 

 次の瞬間。風人の目の色が変わる。そんな彼の殺気を当てられ、一瞬足がすくみそうになる有希子。

 そしてそんな彼女に急接近する風人。

 

「ぶっ殺すか…………いいよ。私も君を――ぶっ殺す」

 

 およそ付き合ってる二人とは思えない言葉の応酬。そして殺意の応酬。

 有希子はそんな風人に対し自身も接近してハンドガンを構える。そして銃を撃とうとして……

 

「遅い!」

 

 風人の蹴りによってハンドガンを弾かれる。そして流れるように回し蹴りを叩き込む。

 

「容赦しないね……!」

 

 回し蹴りを腕をクロスさせることでガードし、そのまま後ろに跳んで威力を殺すのと同時に距離を離す。

 

(ふぅーん……今のを対処してくるんだ……面白い……!)

(この目……この威力……凄い。本気になってくれている……!)

 

 風人は笑みを浮かべていた。目の前の獲物に対して、本気で喰らい殺さんばかりの獰猛な笑みを浮かべていた。

 有希子はそれに応えるように笑っていた。自分に本気になってくれていることに嬉しさと高揚感を感じていた。

 だからこそ二人は思った。

 

((絶対に殺してやる……!))

 

 距離が離れた有希子に対して追撃を仕掛ける風人。彼女に向かって一つ、上空に向かって一つナイフを投げ付ける風人。

 対して有希子は投げられたナイフをしゃがんで躱し、向かってくる風人に対し足払いを仕掛ける。

 それをジャンプして躱した風人。そのまま右足を振り上げて踵落としを喰らわせようとする。

 地面を転がることで踵落としを躱す有希子。転がりながらハンドガンが落ちている場所まで移動し、立ち上がりながら銃を放つ。

 上空に投げたナイフが落ちてきたところをキャッチし、迫るペイント弾を躱しながら投げつけたナイフを回収する。

 

 二人の距離がいったん離れる。

 再度激突する二人。風人が殴りかかれば有希子が空いた胴に蹴りを叩き込む。有希子が斬りかかれば、風人がカウンターを喰らわせようとする。

 互角と言ってもほとんど差し支えない攻防が繰り広げられる。だが身体能力やリアルでの戦闘経験からして風人が圧倒的に有利である。対して有希子は今までのゲームでの経験や風人の思考を読むことにより何とか喰らい付いているのだ。

 そして両者の距離が再度離れた。

 

(へぇ……流石だね。仕留めきるつもりだったのに……ははっ。僕の手持ちがナイフ二本しかないのが惜しいよ)

(踵落としとか殴りかかるとか……容赦ないなぁ……ほんと。でも、手加減されるよりは断然こっちの方がいい)

 

 有希子にとって幸いだったのは風人の手持ちがナイフ二本しかないところだろうか。そのおかげで風人の攻撃のパターンが激減し、ある程度対処しやすくなっている。

 

「ふぅ……もっと楽しみたいけど……そろそろ決めさせてもらうよ」

「へぇ……じゃあ、もっと楽しもうよ風人君。…………なんなら時間終了までさ」

 

(あくまでチーム戦なのが惜しい。この時間をずっと続けたいくらいだが……有希子にこれ以上時間をかけるのは戦略的にマズい)

(私という戦力で風人君を押さえられるなら圧倒的にプラスだ。もっとも、殺せるならそれに越したことはないのだけど)

 

 向き合った二人。両手にナイフを持った風人はゆっくりと歩き出す。その目はずっと有希子を見ていた。そして、左手に持っていたナイフをゆっくりと左側に放り投げる。

 

(ナイフを……!来た!風人君のミスディレクション!でも種さえ知っていれば……!?)

 

 左手のナイフに視線が誘導された有希子。だが、風人のこの技を知っている以上すぐさま注意を風人に切り替える。しかし……

 

(……っ!右手のナイフが消えている!?一体どういう……)

 

 しかし、その視線は風人に向かい、流れるように風人の右手に集中する。左手のナイフだけを落としたはずなのに何故か右手のナイフも消えているのだから。

 そして、その一瞬の停止が命取りだった。

 

「これで終わりだよ」

 

 動きや思考が固まった次の瞬間。風人は有希子に急接近。足払いを仕掛け押し倒す。

 抵抗しようとする有希子。だが彼の左手にナイフがあることに気付き思考と動きを止めてしまう。

 そして、その隙を突いた風人は左手で有希子の持つナイフを弾くと共に、持っていた自身のナイフで首を切り裂いた。

 

「…………え?」

 

 有希子の首筋に入る赤色のインク。だが彼女の中では状況整理が追いついてない。

 左手のナイフを捨て、気付けば右手のナイフが消え、そして左手にナイフが現れた。

 

「もう~なんて顔してるのさ~整理が追いついていなくてポカーンとしてるよ~」

 

 彼女を押し倒した状態でいつもの調子に戻る風人。さっきまでの殺意やら殺気やらはどこへ消えたのか。

 そして思考がまとまらない可愛い彼女のために風人はゆっくりと話し始めた。

 

「信じていたよ。有希子なら僕の捨てたナイフへの注意は一瞬で戻ることを。だから二段構え……ううん三段構えか。左手でナイフを捨てた一瞬後に右手のナイフを上に放り投げた。そして今度は右手に注目させることで動揺を誘い左手でナイフをキャッチ。最後に押し倒して反撃させないよう、左手のナイフに注目させた。状況を二転三転もさせて、有希子の思考を奪った」

 

 風人は確信していた。有希子ならばこう動くだろうと。彼女を信じ。先を読んで手を打っていた。

 

「……あーあ、完敗だったなぁ。やっぱり風人君には全然かなわ――」

 

 ――ないと続けようとした有希子の言葉は続かなかった。何故か?単純である。

 

 風人が有希子にキスをして唇を塞いだからである。

 

 そして数秒の後、顔を離して風人は伝える。

 

「有希子は強かったよ。本気でやってなかったら絶対に負けていた。だからさ……過ぎた謙遜はやめてよ。僕に対して劣等感を感じなくていいんだよ」

 

 そのまま有希子に抱き付く風人。

 さっきの攻防でもそうだ。本来なら視線誘導は一回で事足りる。なのに三回連続で使わなければ仕留められなかった。そこまでしないと仕留められなかった相手が弱いわけがない。

 

(風人君……)

 

 有希子は風人に対して劣等感を感じていたのは事実だ。死神の一件以来一回りも二回りも成長した彼に対し、自分はたいした成長もなく見合っていないと心の中でずっと思っていた。

 でも、本気で殺り合って、風人は有希子を認めていた。心の底から本気を出せる相手だと認めていた。

 

(バカだなぁ……私。勝手にそうやって思い込んでたなんて……)

 

 さっきの風人が話している時の辛そうな表情からしてもそうなのだと有希子は思う。

 風人は対等だと思ってるのに有希子自身が自分のことを下げて見ていた。

 

「ありがと……」

 

 風人は彼女のことを認めていた。

 有希子の心の中にあった重りが一つとれた気がした。

 

「…………そ、そろそろどいてくれるかな?流石に……その……恥ずかしいから…………」

 

 ただ、それとこれとは話が別なのだ。

 お忘れかもしれないが、現在、風人は有希子を押し倒した状態でさらに抱きついているのだ。近くに人が今はいなくても外では流石に恥ずかしいだろう。

 

「あはは~安心してよ。…………次はベッドで押し倒すからさ」

「…………っ!も、もう……そういうことを……!」

 

 顔を赤らめる有希子。当然だろう、外でそんな爆弾発言をされたのだから。

 

「じゃあね~また後でね~」

「うん……頑張ってね」

 

 そして有希子の上から飛び去り、彼自身のナイフを回収してそのまま駆けて行く風人。

 

 サバイバルバトル、風人VS有希子。

 勝者、風人。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談であるが一つ思い出してほしいことがある。

 今回、超体操着に追加性能として内蔵通信機が取り付けられた。

 当然、今回は赤チームは赤チームの、青チームは青チームの会話が聞こえるようになっている。

 二人は指示を聞いたり状況把握のために通信機をONにした状態でいるのだ。

 …………もうここまで言えば後は分かるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(((風人の野郎……!後でコロス)))

(((…………っ!)))

 

 一部を除く男性陣はその会話に嫉妬と怨嗟を。それ以外の大多数の面々は大胆な発言に頬を染める。

 有希子がそのことを知るまで後三分……。



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激突の時間 二時間目

 風人君に負けた私は脱落者の人たちが集まるところに向かっていた。

 

「はぁ……」

 

 ただ、今思えば勝ちたかったぁ。でもまぁ、風人君が本気で私と殺ってくれて嬉しかったからいいか。

 あの時の目。私をぶっ殺すと言った時の目。確かに普段と違って怖かったけど……。

 

「…………反則だよ……あんなの」

 

 凄いかっこよかった。何というか私だけをすごい見てくれて……あぁ……これがサバイバルバトルじゃなかったらあのまま甘えていた気がする。もうこの身を彼に委ねてその手で滅茶苦茶にして欲しいくらいだ。それに加え最後もだ。押し倒した状態でキスして抱きしめてくるとか……今にして思えば凄い名残惜しい感じがする。

 ううん。ダメだ。今は思考を切り替えよう。もう私は脱落したんだし、皆の様子を、どうなるのかを見守っていくんだ。

 

「………………?」

 

 脱落者のスペースに行くと……何というか……妙な空気になっていた。

 いやまぁ、千葉君、岡島君、菅谷君の三人は私が殺ったし、違うチームだったからまだしも、なんで同じチームの片岡さんや竹林君まで目を合わせようとしてくれないのだろう?

そして、何でビッチ先生はそんな生温かい目で見守るような優しい表情なのだろう?

極めつけは……

 

「風人君に対して大健闘でしたね。神崎さん」

「は、はぁ…………」

 

 いや、顔をピンク色に染めて言われましても……。

 

「で、風人君とは実際どこまで行ったのでしょう?」

「い、いやどこまでって……」

「ユキコ」

「え?あ、ビッチ先生。何でしょう?」

「ベッドの上では負けるんじゃないわよ」

「……………………」

 

 全てを、察した。

 

 なるほど……つまりあの会話はすべて聞こえていたんだ。無線越しに……。

 

「それにしても風人君は大胆になりましたねぇ」

「えぇ。あんなことを堂々と言えるのは余程のバカ……いえ、余程肝が据わってないと出来ないわ」

 

 風人君のバカァァアアアアアアアアアアアッ!

 

 私は恥ずかしさのあまり心の中で彼に向かって叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、さすが……風人君だね」

「ほへ?流石って何がですか?ししょー」

 

 あれから僕は移動すると今度はししょーと遭遇した。

 何でもししょーは無線越しに僕と有希子が戦っていたのが分かったらしく、磯貝君の指示で僕を狩るためにやってきたそうだ。…………道中倉橋さんをやられたとかいないとか。

 で、何が流石なのか分からない。

 

「さっきまでの神崎さんとの会話だよ!よく堂々と言えたね!あれ全員に無線越しに聞こえてたんだよ!」

 

 ししょーが言いたいことを僕なりに噛み砕く。ふむふむ。つまり……

 

「次はベッドで押し倒す宣言を全員に聞かれたと」

「今の会話も聞かれてるからね!?」

 

 お互いのナイフがぶつかり合う。

 僕らはそんな会話しながらではあるが戦うことをしている……が決着が付かない。

 いや、ししょーの身体能力が意外に高くて驚いている。もっと楽に倒せると思ってたのに……。何でも役者業で鍛えていたのがとか今は触手による痛みがないとか何とか。

 ふむ……それにしても、分からないことがある。

 

「何か問題でも?」

「大問題だよ!?」

「いやだって、皆の前で接吻とか折檻とか説教とか調教とかされてたし……今更じゃん?」

「待って?最初の一つ以外おかしいことに気付いて?いや最初の一つも普通はおかしいと思うけどさ?」

 

 何というか……そう。今更感が半端ない。

 

「寧ろ知られて何が悪いんだ!」

「開き直っちゃったよ!普通は知られたくないんだよ!」

「そうなの?」

「そうなの!」

 

(って、本当に演技してる様子ないし……それでいて追撃の手は緩めてないし……少しは油断してくれると嬉しかったんだけどなぁ。話をすれば油断して隙を見せてくれると思ったのに)

 

「だってこの前だって有鬼子と――」

「バカゼトシャラアアアアアアアアップ!私言ったよね!?全部聞かれてるって!このままじゃ後で神崎さんに殺されるよ!」

「えええええぇぇぇぇっっ!?ま、マジですかししょー!?僕何かマズいこと言ってました!?」

「マズいことしか言ってないんだよ!」

 

 な、なん……だと……!僕……実はヤバい発言を繰り返してたのか……!

 

「流石ししょー……!僕を助けるために……!」

「バカゼト君……!じゃあ、助けたお礼に私にサクッと……」

「うん!サクッと……本気でやってあげるよ」

「流石に甘くはないか……!」

 

 というわけで、僕はスイッチを切り替える。ふぅ。完全にししょーのペースに飲まれていた気がする(本当は逆です)。

 

「行くよ」

 

(くっ……!やっぱり速いし、変則的で読めないし……!話していたさっきよりも手数が多すぎる……!というか!何でゼロ距離で撃っても当たらないの!?バケモノなの!?)

 

 ししょー……こりゃあ今まで相当力隠してきたな……普通に強いんだけど。まさか、全部躱すか捌かれるとは思わなかった。それに加えて反撃も速くて鋭い。まぁ、でも対応できないわけではない。できないわけじゃないけど……こっちも決められないし……。

 お互いに決め手がない。でもこんな状況だからこそ、この技が生きる。

 

「……っ!」

 

(風人君がナイフを二本とも上に……!?しまった!風人君のミスディレクション!)

 

「いないっ!?」

 

(今の一瞬で何処――)

 

 パンッ!!

 

 響き渡るのは何かが破裂したような音。

 

「この技……渚の……!」

「そうそう~。忘れてない?僕も猫騙しくらいは使えるよ」

 

(そうだった……ジョーカーとの戦いで……!)

 

 倒れ込みそうになるししょーを支える。そして、

 

「僕の勝ちだよ」

 

 最初に投げた二本のナイフがししょーの身体の上に落ちてきた。

 

「ははっ……負けちゃったか……まさかしゃがんで視界から消えるとはね……」

「ししょーの死角に入ってみました。まぁ、ゼロ距離で喰らわせたからね。多分少し麻痺してると思うから。無理はしないでね~」

「もう……強すぎだよ……」

「いやいや。ししょーは今まで爪隠しすぎ……」

 

 全く。有希子に対しては使うつもりなかったミスディレクションを使ったし、ししょーに対してもまさか猫騙しを使わないと早期決着が望めないとは思いもしなかった。

 やっぱり皆すごいなぁ……この一年で凄い成長している。僕の想像を超えているなぁ。

 

『あーあー。さっきから通信機でバカやってるバカゼト。聞こえてる?』

 

 と、そんな感傷に浸ってると我らがリーダーが僕に声をかけてきた。

 

「あ、カルマ~二人倒したよ~」

『まぁ、そこそこかな。で、今の状況どこまで分かる?』

「一応全部聞いてたから大体分かるよー」

 

 確か、速水・イトナコンビが青チーム引きつけ、中村・バカ三人が青旗強襲だったはず。まぁ、向こうが動き出したらスタートって感じだったかな。

 

『分かってるならいいや。じゃ、適当によろしく』

 

 ……ふむ。通信機の本来の使い方をした気がする。さてと、どっちに行こうかなぁ……

 

「もう、大丈夫だよ」

「そう?じゃあ、また後でね~。ししょー」

「うん」

「あと……その……」

「何かな?」

「弁解してくれてるとマジで助かります!というかお願いします!」

「あはは……やってはみるよ」

 

(弁解の余地はないと思うんだけどなぁ……)

 

 よし。僕も向かうか。ということでナイフを回収して先を急ぐことにしました。

 

 サバイバルバトル、風人VS茅野。

 勝者風人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談であるが一つ思い出してほしいことが(ry

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神崎さん神崎さん!風人君と何があったんですか?」

「何もありませんでしたよ(ニッコリ)」

「本当ですか?」

「ええ、何もありませんでしたよ(ニッコリ)」

「とか言って本当は――」

「何もありませんでしたよ(ニッコリ)」

 

(((絶対何かあっただろ……)))

 

 不幸中の幸いなのは、中村とカルマといういつもならいじり倒す悪魔コンビが、サバイバルバトルに集中していたがために全部スルーしていたことぐらいだろうか。

 

(風人君のバカァ……!そして茅野さんありがと……!)



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激突の時間 三時間目

 戦いは終盤戦を迎えていた。

 青チーム残り5人。磯貝、奥田、渚、前原、矢田。

 赤チーム残り8人。カルマ、寺坂、中村、速水、村松、吉田、風人、イトナ。

 

 青チームは渚以外の四人がかりで速水とイトナのコンビを殺り、旗を取りに行く作戦を立てる。守備は捨て攻撃に専念。勝負をつけるつもりだ。

 一方の赤チーム。速水とイトナが青チームの四人を迎え撃っている間に中村、寺坂、村松、吉田の四人が旗を取りに行く。

 

 両チームが勝負をつけようとする中、赤チームの旗を守っているカルマには懸念材料があった。

 

(気になるのは三村でも発見できなかった渚君。そして自由人風人が何をするのか……か)

 

 予め風人には好きに動いていいと言ってある。今の状況も伝わっている。だが、そんな彼が何をするのかは分からない。守りがカルマしかいないから守ってくる?それとも数の暴力で攻め落としに行く?考え始めたらきりがない。

 それに渚に関してもだった。あのカルマがなぜあそこまでいらついていたのか。敵として見ると少し見えた気がするそうだ。

 

 そんなカルマの思考をよそに青チームが速水とイトナを討つべく動き出した。

 

「行くぞ!」

 

 動き出した磯貝、奥田、前原、矢田の四人。

 

 パァンッ!

 

 速水の狙撃によって奥田が殺られる。

 

「左から回り込め!」

 

 磯貝は前原と矢田に指示を出して、自身は右から回り込む。速水は狙いを磯貝に絞り込むと、そのまま狙撃した。

 

「うわっ!」

 

 磯貝に命中し、これでこの場は青チーム2人、赤チーム2人の状態となる。

 奥田、磯貝と二人を立て続けに殺った速水はそのまま狙いを次の人物に向けようとする……が。

 

「……矢田?」

 

 矢田の撃ったペイント弾が首元に命中し、速水は脱落する。

 

「やった!……やられた!」

 

 すぐさまイトナが矢田を狙撃し、矢田は脱落する。

 

「くっ……!」

 

 そしてイトナは銃を盾にすることで前原のナイフによる第一撃を防御する。

 だが、体制を崩し、第二撃はもろに受けてしまい青いインクが身体中に付いてしまう。

 これでイトナは脱落し、青チームが一人差で勝った。

 

「はい~しゅーりょー」

「え?」

 

 この場にいる誰もがそう思った次の瞬間。前原の前面には赤いインクがべっとりと付いていた。

  

「お前……いつの間に……!」

「ついさっきだよ~ぶい」

 

 脱落した者も含め、この場に居た六人は、誰一人として風人がやってきたことに気付かなかった。

 

「じゃあね~また後で~」

 

 そして走り去っていく風人。

 

「マジかよ……全然気付かなかった」

 

 この決戦は結果として赤チームが勝利、青チームの全滅で幕を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、銃撃戦のスタートと同時に突撃した赤チームの四人。その時、カルマは目撃した。

 迷彩柄の死神()が突撃した四人を一瞬で葬り去るその瞬間を。

 

「どうなった~?」

 

 少し驚いていたカルマのもとに風人がやってくる。

 これで残っているのは、赤チームがカルマと風人の二人。青チームが渚のみとなった。

 

「カルマ~」

「ん?何、風人」

「渚は譲るよ~。最後は大将が決めてよ」

「ふーん」

 

 二人は軽く話すとゆっくりとした足取りで中央へと歩いて行く。

 

「既に渚は隠れたみたいだね~」

「だね。渚くーん!銃を置いて出て来いよ!最後はコイツで決めようぜ!」

「そうだよ渚ー!出て来たらカルマと一対一にしてあげるからさ~!」

 

 風人たちは大声をあげて渚を呼ぶ。カルマも風人も渚の位置を把握できていないからだ。

 一方の渚は、スコープ越しに風人とカルマの姿を捕らえている状況。

 

「撃っちゃえよ渚!向こうは二人いるんだぞ!奇襲を仕掛けるしか……!」

 

 杉野は脱落したスペースのところから言うが、茅野がそれは出来ないと否定する。

 

「多分、渚は撃てないよ……。あの二人の言葉が本気だって言うのはこの場にいる全員が分かってる。それにもし、カルマくんの挑戦を断ってカルマくんたちを倒そうとしたら多分風人君も牙をむくことになる。流石に渚と言ってもあの二人と同時に戦うのは厳しいと思う」

「いやあの風人とは言え流石に狙撃すれば倒せるだろ……?」

「倒せないよ。何発も撃ったけど一発も擦りもしなかった。それにあんな無防備な状態の二人に奇襲を仕掛けて倒せたとしても赤チームは納得できる結末じゃない。全員を納得させたいんだよ渚は」

 

 渚は確かに強い。だが、カルマと風人が手を組んで本気で倒そうとすれば……どちらが勝つか。渚自身も今の状況が分かって……

 

「ずるいな……二人とも」

 

 銃を置いて立ち上がる。

 

「あー出てきたね~じゃあ、カルマ。後は任せたよ~」

「大人しく見てなよ」

「分かってるって~」

 

 風人はナイフを取り出すと自分の首を切り裂いた。

 切った後には()()のインクの線が残る。

 

「烏間先生~!これで僕は退場だよね?」

「……ああ。そうだな」

「約束は守ったよ二人とも。じゃあ、後は頑張ってね~」

 

 ひらひらと手を振って風人は邪魔にならない位置まで移動する。

 今回の死亡の条件は相手チームの色のインクをつけられること。そしてルールの中に、相手から武器を奪ってはいけないという言葉はない。だから風人は、予め倒した茅野からナイフをこっそりと奪っておき、そのナイフを持って今、自主退場をしたのだ。自分で自分を倒す。この戦いにおいて普通なら考えもしない行動を平然とやってのけたのだ。

 

「よかったのですか?風人君?」

 

 そんな風人の元に殺せんせーがやってくる。

 

「そうだね~この教室に来たばかりの僕だったら嬉々として渚と戦っていたよ?下手したら第三勢力!なんて言い出してカルマとも戦っていたかな~でもさ、今は違うよ。何というか……そう。このバトルの決着は、このバトルの起きる発端となったあの二人が付けるべきだと思うんだ。その場所に僕はいらないよ」

「ヌルフフフ。成長しましたね……昔の君なら『卑怯、汚いは敗者の戯れ言』って感じで騙し討ちしてましたね」

「まぁね~否定しないよ~。でも今の僕としては、あの二人が納得いく形で決着が付くならそれでいいかな。きっと、他の皆もあの二人が出す結果なら納得するよ。それにさっさと仲直りしてもらわないと嫌だもん。三学期に友達二人が割れた状態とかさ、絶対に嫌じゃん」

 

 風人自身も、有希子や茅野と本気で殺りあえて満足している様子だ。

 そんな風人の様子を見て殺せんせーも満足した様子を見せる。

 

(でもこのサバイバルバトル面白かったな~チームとかいろいろ変えてもう何回かやりたい気分だ)

 

 清々しい気持ちで風人は二人の決闘の行方を見守ることにした。




「というわけで、風人君は自主退場しました」
「まぁ、あっさりとした幕引きだったよね~」
「二人の戦いのシーンは都合によりカットするそうです」
「原作と一緒だしね~」
「今後も都合上カット編集はよくやるそうです」
「まぁ、しょうがないよね~で、駄作者は?」
「ちょっと逃げるって……」
「あはは……」

(手と顔に赤いインクが付いてるのは触れないでおこう)

「えーっと、一応ここ数話の解説入れておく?」
「だね~。多分流れで分かってると思うから蛇足気味になると思うけど」
「今回の……というかここ数話でやりたかったことは私の更生……って言うと少しオーバーだけどそんな感じだって」
「なるほどなるほど……」

(もっと丸く、暴力を振るわなくなればいいのになぁ……)

「死神編が終わってからちょっとずつ風人君に対して劣等感を感じ始めた……っていうのは二学期編の終わりで少しずつ出しているからね」
「うむうむ。苦しゅうない。容姿端麗頭脳明晰な僕に対し、有鬼子が勝ってるのはゲームの腕前と鬼としての強さの――」
「調子に乗らないの」
「――あぅぅ……そういうとこです……」 
「もう……まぁ、そりゃね。ドンドンと前に進んでいく風人君に対して私はずっと立ち止まったままだからね」
「…………」

(いや、もう原作に比べるとえげつない成長を遂げていると思うのは僕だけだろうか)

「だから本気で殺り合って、そこで認めていることを伝える。風人君がそれを伝えるのに暗殺というのを選んだ……まぁ暗殺というか戦闘というか」
「…………ぴゅーぴゅー」
「もう。ダメだよ?人に暴力を振るったら」

(…………ゑ?それ有鬼子が言っちゃう?)

「で、次回からなんだけど、次章予告見てくれた人は分かるように段々私に容赦がなくなります」

(…………ゑ?これ以上容赦がなくなるの?)

「というわけで次回もお楽しみに!」

(……あ、珍しく僕への大きな被害なくあとがきを終える事ができた)

「……よし、じゃあ、締めも終わったし」
「だね~じゃあ帰ろうか」
「あ、その前にいつものやつをやってからでも(*゚∀゚)つ=lニニフ 包丁」
「いやだぁぁっ!」


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宇宙の時間

 結論から言うと、カルマが降伏して渚の勝利となった。

 カルマと渚のタイマン。その結果、青チーム、殺さない派の勝利となる。

 二人は本気でぶつかって和解することが出来た。後、二人ともお互いに呼び捨てで呼ぶようになった。曰く、こんな本気の喧嘩をした後に君付けでは呼べないとのこと。

 ただ三月までずっと助ける方法を模索し続ける事もできないので、期間を設けることになる。期間はこの一月一杯。その結果がどうであれ二月以降は暗殺に専念する。まぁ、僕らは救いたいと思っても国としては暗殺者を送るのはやめないからね。しょうがないね。

 

「…………で」

 

 で、現在僕は有鬼子と有鬼子の家で格ゲーで遊んでいます。つまりオフライン対戦です。

 何でもリアルでは負けたけどゲームでは負けないとのこと……

 

「…………何でこの体制?」

「…………」

 

 あ、有鬼子様集中してて聞いてねぇ……。

 いやね。だってさ僕は足を開いて伸ばして普通にソファーに座っています。普通なら隣に座るはずなのになぜか僕の前に座っています。いや、上だと確かに画面見えないけどさ……。で、わざわざ座布団まで持ってきて何枚か重ねてお尻の位置を少し高くして、僕のおなかとかに背中を当ててもたれ掛かってます。大体、僕の顎の下くらいに彼女の頭の先がある。ちなみに僕の腕は彼女の脇の下を通していて……コントローラーは彼女の胸あたりにある。すなわち、コントローラーが見えない……まぁ、普段から見ることないからいいけどさ。

 何戦かしてこの体制きつくない?って彼女に聞くけどこのままがいいそうだ。何というか……密着度が高い?いつもより凄い密着してやってる気がする。全く……このままじゃなんかの拍子に手が彼女の胸に当たりそうで怖…………あ、当たる胸がなかったわ(笑)

 

「ふんっ!」

「ふべっ!」

 

 次の瞬間。僕の操作キャラが彼女の操作キャラからアッパーを喰らうのと同時に僕の本体が彼女の本体から頭突きを喰らいました。

 ご、ごめんなさい。そう言えばBカップだったし、前に直接見たときも思ったよりは胸があった……

 

「ふんっ!」

「ふべっ!」

 

 次の瞬間。再び僕の操作キャラと僕が顎をやられて死にました。

 あーそうか。まな板っていうのはししょーみたいな女性のことを言うんだー(悟りを開く)

 そしてそんなことをやっていれば当然ゲームには負けるわけで……

 

「風人君」

「はい?」

「負けたから罰ゲームね」

「…………はい?」

 

 え?聞いてないけど?

 

「拒否権は?」

「あると思う?(にっこり)」

 

 僕の手からコントローラーが放され遠くに置かれる(ちなみに有鬼子のも)。

 で、何を思ったのかソファーの上に押し倒して馬乗りになってくる有鬼子。

 

「えーっと……その……」

 

 普通僕らの立ち位置って逆だよね?僕が上で有鬼子が下で……あ、はい。何でもないです。異存はないです。だからその獲物を仕留めるときの肉食獣のような目をやめていただけるとありがた……あ、ダメですか。そうですか。

 僕は覚悟を決めて彼女に言った。

 

「や、優しくしてね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日になりました。昨日はあんなに激しくバトルした僕たち。まぁ、カルマと渚はガチで殴り合っていたため若干顔にけがが残ってるが……まぁドンマイ。勲章さ。

 とそんなこんなで、HR。竹林が前に出て、全体を纏めている。

 

「普通に考えてみよう。各国の首脳は本当に殺せんせーを殺すことしか考えていないのだろうか」

 

 確かにそうだ。そもそも各国の首脳の最終目的は地球を救うこと。あくまで暗殺はその手段の一つに過ぎず、別に何かしらの方法で助かればそれでいいのだ。

 

「確かに各国のトップの研究機関が分担して地球を救うプロジェクトを進めている。だが当然、情報は全て最高機密。君たちが研究内容を知るのは至難の――」

「なるほど~律。データベースへ侵入して~」

『分かりました!』

「ま、待ってくれ。情報は全て最高機密で――」

『プロジェクトのデータベースに侵入しました!』

「なにぃっ!?」

「よし。見せて~」

 

 驚く烏間先生を無視して僕らは律が拾ってきた情報を見る。

 

「うーん。やっぱりかぁ……」

「やっぱりって?」

「各国の首脳もバカじゃないからね~僕らみたいな輩が現れてもいいよう、本当に大事なことは多分オフラインで情報が共有されている」

『オンラインであればどこでも探りを入れられますが……そういう情報は形跡すら残っていません』

 

 まぁ、そもそも厳重なはずのプロテクトをあっさりと破った律はすごいと思うんだけどね。

 

「でも、何か救う研究とかはやってんのかよ」

「あ、あった。アメリカ班の『触手細胞の老化分裂に伴う破滅的連鎖発生の抑止に関する検証実検』って」

「最終結果サンプルは1月25日にISSより帰還予定」

 

 ふむふむ。あいえすえすかぁ……ん?あいえすえす?

 

「「「国際宇宙ステーション!?」」」

 

 まぁ、でも合理的か。宇宙で実験すればあの柳沢の実験みたいなことは起きにくい。というのも、宇宙空間であれば万が一爆発しても被害はそこまで広がりにくい。それに宇宙空間でなければできないことも多いだろうし。

 

「その結果を見ることができれば……!」

 

 なるほど……ISSかぁ……考えたなぁ。

 

「残念だが、君らは末端の暗殺者たちに過ぎない。情報は最後まで来ないだろう」

 

 そりゃそうか……お偉いさんからすれば僕らなんてその程度に過ぎないもんね。

 

「烏間先生。結果はどうあれ俺らは暗殺をやめない。でも半端な気持ちで殺りたくない。救う方法があればまず救う、無ければ無いで皆も腹を決められる。だから俺らは今はっきりと知りたいんだ。卒業まで堂々と暗殺を続けるために」

 

 カルマがいいことを言った。珍しい。本当に珍しい。いつもこうだったらいいのに。

 でも確かにそうだ。助ける方法がないならないですで僕らは腹をくくるしかない。でも、目の前にその可能性を秘めた情報があるのに、中身も見ずに決めることは出来ない。

 すると、殺せんせーが烏間先生に声をかけた。

 

「烏間先生。イリーナ先生。席を外してもらえませんか?」

 

 何時になく真面目なトーンで提案するせんせー。それに従い、烏間先生とビッチ先生は教室を出て行く。

 というか……え?何その顔?惑星をイメージしたの?あのー声のトーンとのギャップが激しくてですねぇ……はい。

 

「君たちの望みはこうですね?ISSで行われている実験のデータを見せてほしいと」

 

 まぁ、その通りだ。盗むなんて贅沢言わないから、ちょーっと見せてもらってちょーっとコピーさせてほしいのだ。ね?本当にちょっとだけ。

 

「あれ?じゃあ、殺せんせーが宇宙から帰るときに盗めばいいんじゃ……?」

「それは出来ません。研究データを積んだ帰還船は太平洋上に着水後、帰還船ごと研究施設に搬入と書いてあります。この帰還船を大きな金庫の代わりにして盗まれないようにしてるわけです」

 

 ああ、そりゃ無理だ。そこまでされたら盗みようがない。

 

「そこでです!近々これが打ち上げられるのを知っていますか!?」

 

 えーっと……ロケット?

 

「日本で開発中の有人宇宙往還船の実験機です。センサー付きの人形を乗せ、生命維持に問題がないかを計測。ISSでドッキングし補給物資を下ろし、荷物を積んで帰還する予定だそうです。そして、この宇宙船がISSに着くのは、アメリカの実検データが地球へ向かう3日前…………もしもこの時、人形ではなく本物の人間が乗っていたら?」

「まさか……!」

「おぉ……っ!」

「はっ……うちの先生。やっぱ頭おかしいわ」

「そう!暗殺教室の季節外れの自由研究テーマ!宇宙ステーションをハイジャックして実検データを盗んでみよう!」

「面白そ~!!」

 

(((いやいや面白そう!じゃないだろ!?)))

 

「さぁ皆さん!やる気はありますか!」

「イェーーーーーーーイ!」

「実験データを見たいですか!」

「イェーーーーーーーーイッ!」

「宇宙ステーションをハイジャックしたいですか!」

「イェーーーーーーーーーイッ!!」

 

(((それにノっちゃダメだろ!?)))

 

「さぁ暗殺教室の自由研究を始めますよ!」

「イエェーーーーーーーーーイッ!!!」

 

 こうして僕らの前代未聞の自由研究が始まった。

 でも不思議なことがある。僕は物凄いテンション上がってるのに、何故か皆のテンションがそこまで上がってない。本当に不思議な話だ。




 最近、長年執筆していてよかったなと思うことがあります。

「ほー。それは何だい?駄作者よ」

 大学のレポート課題で字数指定があっても大抵の文字数なら『あ、これ一話執筆するよりみじけぇわ』って思えること。

「まぁ、この作品も含め駄作者は一話3,000字程度を目指しているからね。原稿用紙七枚分くらい?」

 そうそう。それに加えて、句読点とか表現とかで字数をかさ増しする手も執筆で身につけ始めたから、どんなに興味がなくても字足らずで困ることがほとんどない。

「そのおかげで興味ないレポートも簡単にこなせると」

 何かいい成績もらえたし、いいね。字数制限が全然苦痛に感じない。ただし、英語を除く。

「……あー駄作者。英語クソほどできないもんね」

 高校時代、英語の先生からアメリカの幼稚園児以下って言われた(ガチ)そしてそれを自覚している(ガチ)

「……何ができないの」

 いやね?まず単語を覚えていない。そしてスペルがあやふやで英単語が書けない。最後にやる気がない。というか今はやる気皆無。

「……うわぁ」

 でもリスニングとリーディングはやる気さえあれば出来るよ。まぁ、書けないけど。

「読めても書けなければ大学では致命的な事になってるもんね」

 どやぁ……誰かこの世界から英語を消してくれぇ……。

「と、駄作者の心の叫びはおいといて。で?何が言いたいの?」

 そろそろ大学の授業が佳境を迎え、バイトも大変になりそうだから更新ペース落ちます!

「…………あー何も考えずに夏期講習のシフト全部入れます!って言ったんでしょ?」

 いえすいえす。

「そしたら研修も組まされたんでしょ?」

 ですです。

「それに前期集中で夏休みも講義入れたんでしょ?」

 うんうん。

「…………まぁ11月までに次話投稿してくれればうちの読者は優しいから許してくれるよ」

 風人君……!そうだよね。無言で四ヶ月失踪した前科があるもんね。前もって言っておけば半年……いや一年は許してくれるよね。

「そうだね。許してくれるはずだ――」

「そんなわけないでしょ!!」

「ぎゃあああああああああ!鬼がぁっ!鬼が現れたあああぁぁぁぁっ!」

 ああああああああぁっ!?そんな!今日はいないから本音を言えると思ったのにぃっ!

 ボコッボコッ☆

「ゆ、有鬼子さん……!最後に星をつけてかわいらしくしても……僕らの痛みは変わりません……」

 ボコッボコッ♪

 お、音符に変えればいいって問題じゃ……

「三日」

 はい?

「三日以内に次の話を投稿しなさい」
「…………どうしよう。目が笑ってない。駄作者……ここは頷いておかないと死ぬぞ……」

 …………三年の間違いですか?

「だ、駄作者!?アンタ阿呆だろ!?何で三日と三年を間違えるんだよ!」
「…………コロス

 と風人君が言っていました。

「だ、駄作者!?アンタ最低だろ!?何で人に罪をなすりつけてんだよ!」
「…………コロス
「ってこっちに来たぁっ!?この野郎覚えていろよぉっ!?」

 このあと、風人君の断末魔が響き渡った。
 さようなら風人君。また会う日まで。












「ということで駄作者は一週間に一話は投稿したいとさっき言っていました。多分無理と言っていたので締めておきましたが……え?次回はいつ?今日から三日以内ってことで手を打ちましたよ。ふっふっふっ。心配しないでください。こんな後書きを書いてる余裕があるくらいなのでまだまだ大丈夫です。何かありましたらお気軽にどうぞ。というわけで、次回もお楽しみに」


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宇宙の時間 二時間目

 僕らは宇宙ステーションをハイジャックすると決めた。

 ただ、いくら殺せんせーがいるからと言って頼ってばっかも意味がない。なので僕らは皆で力を合わせて進めることにする。今日はその大まかな方針を立てることに。

 

「必要なのは色々とあるけど大きくは二つだね」

 

 竹林君が再び前に立って話を進める。黒板に書いたのは『訓練』と『計画』だ。

 

「宇宙ステーションをハイジャックするには今まで以上に綿密な計画立てが必要。そして、宇宙に行くためには、さっきの実験機が発射される種子島宇宙センターを抑えないといけない。ただ当然こっちを抑えるに当たっては誰にもばれない事が最低条件となる」

 

 あーそっか。宇宙ステーションでばれるのはもう必然だとしても、宇宙センターでばれたらそもそもロケットを飛ばさなくなったりされたら終わり。

 

「もう一つは訓練。計画についてもそうだし、宇宙に行く時には強力なGがかかる。これに耐える、なれるような訓練は必要だ。さらに知っての通り宇宙空間は無重力。そこでの動きも慣れるに越したことはない。勿論それらの適正とかもあるから注意しないとならない」

 

 ふむふむ。確かにそういうのに弱い人を宇宙へ旅立たせるわけにはいかないか……なるほど。ハイジャック計画に訓練に。それでいて期間はそんなに長くない。……うーむ。

 

「まずは情報収集だね。宇宙ステーションもそうだけど種子島宇宙センター。ここに関しての詳細な情報が必要だ。律。頼めるか?」

『お任せください!』

「ヌルフフフ。もちろん、今回は私も全力でサポートします」

 

 殺せんせーのサポートかぁ……安心できると言えば安心できるなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして放課後になった。

 

「計画草案担当かぁ……」

「頑張ろうね。風人君」

 

 殺せんせーから僕と有鬼子には計画の草案を作ってもらうよう指示を出された。

 何で僕ら二人なの?って聞いたら、ゲームに置き換えれば君たち二人以上の適任者はいないとのこと。

 なるほど……確かにそうだ。これは一種のシミュレーションゲーム。与えられた情報、そして想定外まで考慮して、最善のハイジャックの計画立てをする。作戦の基盤を固めて、皆からも意見をもらって組み込めばより完璧になるか……ちなみに期限は割と短い。今度の休み明けまでだ。まぁ、そりゃそうか。短い時間でいいものはできないけど時間をかけすぎても意味はない。

 あ、もちろんだが律の力は借りていいとのこと。まぁ、律の力があればなんとかなるか。

 

「ゲームの鬼神崎さんと、常識外れの風人が計画の草案担当かぁ……面白そうだね」

「いやいや~どうせカルマのことだから細かいところまで言って来るんでしょ?」

「当たり前じゃん。このクラスの命運がかかってんだからさ」

「だね~まぁ、ヘタなツッコミはできないくらいのものに仕上げておくよ」

 

 任された以上やるしかない。全部を想定は無理でも頑張って立ててみますか……。

 

「あはは……頑張ってね。二人とも」

「渚たちも頑張ってよ?」

 

 僕ら以外にも何人かは責任者なりミッションを与えられている。何かイトナとか竹林はISSの模型を作っていたり……まぁいろいろとあるよね。うん。

 

「そういえばさ風人君。何で首元に絆創膏貼ってるの?しかも二つ。昨日そんなとこけがしてたっけ?」

「聞いてくださいよししょー!実は昨日有鬼子に襲われまして……」

 

(((実はも何もいつもの事じゃ……)))

 

「僕は初めてだったんだよ!優しくしてね……って言っていたのに有鬼子が……!」

「そ、それはごめん……。私も初めてだったから……その……力加減が分からなくて……」

 

(((…………ん?)))

 

「うぅ……僕の身体は有鬼子に汚されたんだ……あんなにそこはダメって言ってたのに激しく……」

「ご、ごめんなさい……返す言葉がないです。私もちょっと……スイッチが入っちゃってて……」

「もう!もし出来ちゃったら責任取って――」

「「「ちょっと待って!?」」」

 

 と、ここで観客三人からなんか待ってほしいと言われる。どうしたの?そんなに慌てて。

 

「ご、ごめん。こんなこと言うのあれだけどさ……」

「二人のセリフ……完全に逆だよね?」

「悪いけど俺もいじる前に理解が追いついていない……何したの?二人で。何、昨日ベットでやったんじゃないの?何で風人に子供ができた感じになってるの?ありえないよね?」

「…………ベットじゃなくてソファーの上だよ?というか僕に子ども?何かあらぬ誤解をされてるような……」

「あー多分言葉が足りなさすぎたんだね……実は昨日……」

 

 ということで昨日あったことをそのまま説明する。

 昨日あの後……わかりやすく言えば有鬼子に捕食されました。

 

「「「…………あーそういう……」」」

 

 一連の流れを説明すると三人は納得してくれました。

 

「余計なこと思った風人君の上にのしかかった神崎さんが」

「風人君の首筋とかを軽く噛むつもりだったのが」

「風人の反応に興奮した神崎さんが欲望のままにそのまま喰い殺したと」

「ちょっとカルマ!?」

「いい流れだったのにぶった切れたよ!?」

「ごめんごめん。怯える風人が面白すぎてつい跡が残るくらい噛んだわけだね」

 

 そういうことです。全く……何がちょっと噛むだよ。甘噛みのような可愛らしいものじゃなくて普通に噛んできて……跡が残ると面倒だから場所変えてほしくてそこはダメって言ったのに……ずっと離れなかったし。むぅ。今にして思えば全く持って酷い話だ。

 まぁそれでも、最後の責任云々は半分くらい冗談だ。大袈裟に言っただけだし、本当に一生残るような跡だったとしても、別に僕の身体そういうのだらけだから今更気にしない。

 

「それに……」

「ん?」

「あ、何でもないよ~それより僕らこっちだから~」

「そうだね。じゃあね。三人とも」

「うん。また明日ー!」

 

 三人と別れて二人になる僕ら。

 それに片方は確かに有鬼子が噛むのがあれで付いた跡。三人にした説明に嘘偽りは存在しない。もう片方は――

 

「でも、そういう風人君もあの後反撃してきたくせに……」

「反撃っていうにはかわいらしいでしょ~?」

「だね……でも……その……胸にキスマークを付けられると……ね。まさか本気でやってくるとは……」

「まぁまぁ~そういう有鬼子もつけてきたんだし~お互い様だよ~」

「でも脱がせてきてまで……もう。あのまま見つかってたらどうするつもりだったの?」

「…………あ、あんなところに三日月が」

「話を逸らさないの」

 

 とりあえず僕らはあんなことがあった後でも平常運転でした。寧ろあの戦いがあったからこそお互いの中に今まで以上に遠慮というものがなくなってる気がする。

 

「あ、そうだ。今度の休日空いてる?」

「うん~計画立てだね~」

「私の部屋にしておく?ほら、今回は流石に風人君の親にバレると……」

「だよね……」

 

 今回の話は流石にマズい。だって実の息子たちがちょっとISSをハイジャックしようとしているんだからなぁ……。あの母親でも流石にひっくり返るだろう。いや、案外応援されたり……?まぁ、ばれないに越したことはないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕らはこの自由研究を頑張った。

 休日は有鬼子の家で()()()()計画を立てた。一切のイチャつきもなく一切の説教もなく…………というのは半分嘘だがまぁ頑張ったよ?うん。

 そんなこんなで大変だったりしたけど、それ以上に楽しくもあった。

 そして遂に作戦決行の日がやってきたのだった。




「緊急事態発生!緊急事態発生!」
「……どうしたの?昨日の今日で駄作者が投稿したこと?」
「うんうん……じゃなくて!僕の進路が迷走状態です!」
「…………はい?」
「駄作者が頭を抱え、さらに頭を抱えふて寝するぐらい緊急事態です!」
「もう一生寝ていればいいんじゃない?」
「そうすると僕らの物語がここで終わるよ?」
「…………で、何でそんなに悩んでいるの?」
「いやね?最初は『風人と有鬼子か……一緒でいいかな』って思ってたらしいんだけど段々『ふむ……こいつら別にすべきか?』とか言い始めたんだよ」
「……………………」
「何でも『どうせ高校生活でも風人暴走するしその抑制として……』って言ってたんだけど『よく考えれば暴走させとけばいいじゃん』って」
「……………………」
「他にもいろいろ悩んでふて寝してゲームしてふて寝して……どうしようもないね」
「……………………」
「というわけでまさかのアンケート!第一回僕の進路どうしましょうコーナー!」
「…………何か……うん。そうだね……うん」
「ちなみに僕の進路を語るシーンがあるけど選択によって有希子の反応が当然ながら変わります」
「……………………」
「期間は一週間!さぁ皆さんの清き一票により僕の運命が決まります!」
「選択肢は私と一緒、違う、その他です」
「そうその三つ……?ん?その他ってなに?」
「例えば卒業できないENDとか……」
「それBADEND以外の何物でもないよ!?留年!?ここに来て留年END!?」
「…………風人君が後輩……いいかも」
「よくないよ!?」
「冗談はさておき、私と一緒か違うか。一票でも多かった方を採用でいきましょう」


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可能性の時間

 そして作戦決行当日。僕は、

 

「ごめんなさいね~警備員のお方。ほんの少し眠ってもらいますよ~」

 

 トイレの個室の中にいた。

 そして目の前には奥田さん特製の睡眠薬で眠らせた下着姿の警備員さんが。

 ……いや怪しいことはしてないよ?僕にそんな趣味ないし。ただ、ほんのちょっと僕らの作戦に使うために眠ってもらってるだけだから。

 

「名前とそのお顔。ほんの少しお借りしまーす」

 

 そして喉元に手をやって喉の調子を整える。

 

「あーあーあー……」

 

 まぁ、ぶっちゃけ気分でやってる感じはあるけど。むしろ気分でしかやってないけど。

 

「……よし。では行ってこよう」

 

 そしてトイレから出て、管制室へ堂々と入って行く。中の人数は……ふむ。これくらいだったらごまかせるな。

 僕は耳の辺りをコンコンと二回叩いてから声を出す。

 

「失礼します。○○の警備の者ですが、先ほど少年が迷ってこちらに入っていったと情報がありました。こちらにそのような少年は来ていませんか?」

 

 まぁ、その迷って入っちゃった少年って僕のことなんだけどね。ん?正確には迷ったと見せかけてあえて入った方が正しいか?

 

「いいえ。来ていませんが……」

「分かりました。ありがとうございます」

 

 すると興味を失せたのか自然に全員の視線はモニターの方に移る。

 

「律。どこのパソコンでもいいんだよね?」

『その通りです』

 

 イヤホン越しに聞こえてくる声。よし、なら大丈夫だ。狙い目は……あそこだね。

 というわけで狙いを定めた僕は何食わぬ顔で、狙いのパソコンのところに近づきササッと律がハッキングできるよUSBメモリを刺してそのまま部屋を出て行く。

 

「これでOK?」

『オッケーです』

 

 律も無事ハッキング出来たようだ。じゃあ、後はトイレに行って……

 

「さてと。じゃあ、警備員さん。お返しするね~」

 

 衣服を丁寧にお返しして、僕はそのまま立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰り。風人君」

「ただいま~」

 

 僕の作戦は一足早く終わったのでバックアップ組の待機スペースにいた。

 

「監視カメラの映像の差し替えは出来ていた~?」

「うん。律がやってくれたよ」

 

 いくら人の目をごまかせても僕の技術では監視カメラはごまかせない。いや機械までごまかせるようになったらもう人間ではなくなる気がする。

 

「凄いね。他のプランを使わず行けたよ」

「まぁ、これが最適だったからね~」

 

 一応他には、倉橋さんと矢田さんが間違って入っちゃったって感じを装い木村君が裏から回ってUSBメモリを差し込むっていうプランもあったけど、こっちだと三人必要。

 ここを抑えるのに人数を割き過ぎるとばれるリスクが上がるし、ばれたとき逃げるのが面倒だからね。しょうがないね。最小限の人数(一人)で済ませられればばれにくいし。

 

「寝かせた警備員の人も無事起きて仕事再開してるな」

「眠らせる時間を極力短くしたので怪しまれずに済んだかと」

「手際よくやった証拠だね」

 

 この作戦上あの警備員の人に騒がれては大問題。だから、拉致する……間違えた。眠ってもらう時もあくまで自然を装ってる。きっとあの人はトイレで少し寝ちゃったとしか思ってないだろう。そう思わせるように僕らバックアップ組は頑張ったんだから。

 え?あの管制室にいた人たちと接したら気付かれる?大丈夫です。あの人そこに関わらないから。装う相手ぐらい選んでいます。

 

「それにしても風人君。役者に向いてるんじゃない?ほら演技力高いし」

「さすがにししょーの演技には負けますよ~…………というかししょーの演技指導厳しいし……」

「ふっふっふっ。なにせ、本職だからね」

「どうせなら僕は怪盗なりたいです!」

「色んな人になりすましてお宝を奪うの?」

「うんうん」

「なるほど。和光君の視線誘導術、変装術、身体能力……」

 

 すると不破さんが僕の肩に手を置いてくる。

 

「和光君!次はマジックの腕を上げよう!そして高校に入学したら三代目怪盗キ○ドを名乗って大怪盗として世界を股にかけよう!」

「おおっ!面白そう!じゃあ、僕これからマジックの練習を……」

 

 カチャリカチャリ

 

 すると僕の手には手錠が……

 

 カチャリカチャリカチャリカチャリ

 

 しかも一つじゃなくて沢山。

 

「有鬼子さんや?僕、まだこの状態で手錠からの脱出とか解錠とかできませんよ?」

「うん。しなくていいよ」

「………………うぅっ……」

 

 僕は目を手で覆い、そして捨てられた子犬のような目(勿論演技)で彼女を見つめる。

 

「(つд⊂)ウエーン(つд・ )チラ」

「目、潰すよ?」

 

 僕はあまりの酷さに号泣しそうな目(勿論本気)でししょーを見つめる。

 

「。゚(●'ω'o)゚。うるうる」

「あ、渚たち無事に発射台着いたみたいだねー」

「よかった。ここまでは成功みたいだね」

「まぁ、向こうのメンバーが失敗するわけないよね」

「こっちの方が失敗する可能性があったんだし」

 

 ……僕は悲しいです。本当に見捨てられた悲しい子になっちゃって。

 

「……有鬼子のいじわる」

 

 だから僕はいじけることにしました。

 

(どうしよう……いじけてる風人君凄い可愛い……あぁぁ。ここが二人きりだったら抱きしめていたのに……あぁ。ちょ、ちょっとくらいなら皆にばれないかな?ちょ、ちょっとくらいならいいよね?ほ、ほら。さっきまで頑張った彼氏へのご褒美って事でああああああ……尊い)

 

 なおこんなことを思っている彼女は末期だと思います。もう手遅れです。はい。

 え?手遅れにしたのお前だろって?のーこめんとでお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして渚とカルマが宇宙に旅立った。

 僕らE組はその出発を全員揃って見届けていた。

 

「二人とも宇宙に旅立ったんだね~」

「あぁ、そうだな」

「寺坂……君は行かなくて良かったのかい?」

「アイツら二人から始まったからな。アイツらが行くのが道理ってもんだろ」

 

 寺坂がかっこよさそうな雰囲気を出して空を見上げている。

 

「あ、いやそういうことじゃなくて。寺坂とダミー人形が行けば仮に落ちても損害ゼロだなぁって」

「カルマと同じ事言ってんじゃねぇよ!揃いも揃って何言ってんだハッ倒すぞ!」

「え?押し倒す?……ごめん寺坂。僕は有鬼子にしか押し倒されたくない」

「テメェぶっ飛ばすぞ!?どんな聞き間違いしてんだよ!」

「寺風……うーん語呂が悪いような……」

「そして不破はどこから現れたぁ!?」

「いや、ウチの駄作者の執筆している作品では珍しいBLの匂いを嗅ぎつけて」

「メタいわ!そして嫌なもん嗅ぎつけんじゃねぇ!」

「寺坂……僕を狙うのはやめといた方がいいよ?」

「誰も狙ってねぇよこの自意識過剰バカが!」

「そうだよ。神崎さんが怒るよ寺坂君」

「だから狙ってねぇって言ってんだろうが!」

 

 すると何だかぜぇぜぇって感じを出している寺坂。

 

「「大丈夫?息上がってるけど?」」

「お前らのせいだろうが!」

「だってさ~不破さんのせいだって~」

「いやいや。和光君のせいだって」

「両方だわ!」

「「それはない」」

 

 キッパリと言う僕ら。寺坂は何だか半分諦めたような顔で……

 

「「ふっ……雑魚め」」

「テメェらぁっ!」

 

 この後、寺坂組が頑張って寺坂を抑えていた。なお、イトナ君だけは火に油を注ごうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから僕らは教室に帰っていった。彼らの帰還まで僕らは何事もなかったかのように烏間先生たちを騙すことにした。まぁ、最終的にはばれるだろうけど。それに、流石に今さっき宇宙に出発した彼らが秒でただいまーって行くわけにはいかないので時間的猶予?というか帰ってくるまで時間はかかる。

 で、そんなこんなで彼らが宇宙から帰ってくる時間になった。渚たちのとこのモバイル律から本体の律を通し多少は状況を把握できている。僕の結論は宇宙の人たちって優しいなぁだった。思いを口に出して正面から話せば伝わるものだなぁーと。

 後はカルマと渚。あの二人は前とまとう雰囲気が変わったというか……

 

「じゃあ、せんせーは迎えに行ってきます!」

 

 飛び立つせんせー。まぁ、あの船は本来なら別の場所に着水(着陸?)する予定だったのを我らが担任が裏山のプールに着水させようとしている。……これには日本のお偉い方々もびっくりだろう。

 

「おっ……見えたね~」

 

 徐々にその姿は大きくなっていく……あはは。本当にやっちゃったよ。

 

 ザパァン!

 

 そして着水。

 

『わあぁっ!』

 

 沸き上がる歓声。

 

「…………!」

 

 苦笑いというか何か固まっている烏間先生。あまりのことにまさしく言葉も出ないのだろう。

 

「僕は心配だな~」

「何が?」

 

 僕の心配をよそに勇者渚とカルマを宇宙船から出すクラスメート。そして、烏間先生のもとで交渉する殺せんせー。

 

「烏間先生……ハゲないといいけど」

 

 ストレスで禿げることはよく聞く話……先生。大丈夫かな?

 兎にも角にも僕らは渚たちが持ち帰ったデータを見ることにする。が、

 

「なるほど。専門用語ばっかだ」

 

 そこには専門用語が英語でズラり。うーん。何となくは分かるけど……あ、

 

「奥田さん奥田さん。これを分かりやすく説明してみて~」

 

 そう言えばこのクラスには僕以上の適任者がいるじゃん。よし。任せよう。いやね?僕は一応分かるだけで……ね?

 そして、奥田さんは語り始めた。

 

「反物質サイクルの暴走を防ぐ研究の実験の結果、爆発リスクは反物質生物のサイズと反比例する。大きいほど安定し、小さいほど高確率で爆発した。また強引に細胞を株分けしても暴走リスクは上がる。よって、月を破壊したネズミの悲劇を起こす条件は、人間ベースでオリジナル細胞の『奴』にはほぼ該当せず、暴走・爆発の可能性は極めて低い。さらに以下で示す薬品を投与することで、さらに爆発の可能性は低くなり、これらの条件を満たした時、爆発の可能性は高くても1%以下。おそらくは、爆発より先に他の細胞が寿命を迎え、90年以内に穏やかに蒸発するだろう……と」

 

 なるほど。お薬を与えれば爆発のリスクを限りなく低くできるって訳だ。

 

「この薬品は作れるのかよ?」

「いえ、割と簡単です。というか、前に私、これとほとんど同じ薬を作ったことが…」

『アレかよ!』

「どれだよ!」

「ほら、ウチの駄作者がすっ飛ばしたやつだよ!」

「メタいよ!?」

 

 とりあえず僕が特に気にも留めていなかった出来事がここで繋がっていたらしい。

 

「なんにせよ!殺さなくても地球は爆発しないで済むぞ!!」

 

 その事に喜ぶ皆。

 

「じゃあ皆、暗殺は?」

「えっ?」

「一学期から続けてきた暗殺は、ここで終わりにするって事でいいのか?」

 

 そう。無理に暗殺をする必要がなくなった現状。どうすればいいのか。どうしたいのか。

 

「……どうするんだ?言い出しっぺはよぉ」

 

 皆の意識が渚へと注目する。

 

「カルマや中村さんに、風人君や殺す派だった皆……僕は全員の気持ちを大切にしたい」

 

 渚の……いや、僕等(E組)が出した結論は、『国からの依頼が消えない限り、3月まで全力で暗殺を続ける』

 僕等にとって暗殺は、使命であり、絆であり、E組の必修科目なのだから。

 そして期限までに殺せなかったら僕らは暗殺を卒業する。

 これが僕らの答えだ。

 だからまた明日からは殺しに行く生活だ。

 卒業するその日まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「…………完。いい最終回だったね……」

 ここまで読んでくれた皆様。誠にありがとうございま――

 ボコッ!ボコッ!

「まだ続くでしょ?」
「何でさ!もう最終回っぽい締めじゃなかったか!」

 そーだそーだ!何かいい雰囲気で終わってたじゃないか!

 バコッ!グチャッ!

「もうエピローグをこの後に付けてもおかしくなくない?と思ってる駄作者は置いといて」
「本当だよ!もう後日談的なの載せとけば完璧……」

 ザクッ!グキッ!

「と、阿呆なこと言ってる主人公も置いといて。さぁ、ラストスパート……の前に。バカな作者がまた短編を書いてました」

 …………言えない。そのせいで5月終わりから6月頭本編の執筆が止まってたことを。

 ドゴォッ!

「おーい。駄作者?生きてる?」

 …………。

「反応がない。ただの屍のようだ」
「しかも今回に至っては前回のように真面目な感じではなく、後にも先にも繋がらず、その上で無駄に文字数が多いため3話に分けるという前代未聞の事態に」
「本当はあとがきで軽くやるつもりがついつい書きすぎたって~あはは」
「おふざけ9割以上。シリアス皆無。残りはその他で構成されている……阿呆でしょ。何で完結する前にそういう方へ走り出すの?」
「駄作者はクソほどマイペースです。今回も何かネットで漫画読んでたらやろうってなったらしいよ」
「そういうの多いから本編が二年以内に完結するか分からなくなるんだよ……」
「あー駄作者ね。何かⅡ周年に最終回を投稿したらかっこよくね?って言ってたよ?」
「…………それ前から?」
「ううん。この後書き書いてる途中」
「…………もう一度しばいてくる」
「ま、待って有希子!もう駄作者のライフはゼロだよ!」
「うん。だから私がいくら攻撃してももう減ることはないでしょ?」
「…………あ、確かに」
「というわけで、次回は短編か本編で会いましょう。まぁ、アンケートのこともあるし多分短編でしょうけど」
「今回の短編は有鬼子様もしっかり登場するよ」
「後、今回やるジャンル?というか入ってくる要素が『ショタ化』『ロリ化』『TS』が各一話ごとに入っていますのでこれらが苦手や嫌いな人は見ないことを推奨します」
「まぁ、本編と一切関係ないからね~無理しずにどうぞ~」


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道の時間

誤字報告してくれる方々。本当にありがとうございます。物凄く助かっています。
また、評価並びにお気に入り登録をしていただいている方々、ありがとうございます。


 2月。2月と言えば……!

 

『メリークリスマス!』

 

 クリスマスである。

 というわけで僕らはクリスマスパーティーを教室でしていた。ちなみに皆サンタクロース。寺坂もサンタクロースの予定だったけどトナカイのコスプレをしている。

 

「クリスマスパーティーは楽しいね~!」

「ヌルフフフ。そうでしょうそうでしょう」

 

 僕と殺せんせーは大はしゃぎ。しかし、なぜか皆は引きつってるご様子……どうしたの?

 

「おっとよい子はもう寝る時間です!」

 

 時計を見ると11時になっていた。もうこんな時間かぁ……

 

「さぁ、布団に入って寝ましょう」

「はーい!」

 

 僕は我先にサンタクロースの服を脱ぎ捨て布団に入る。

 

「あ、誰か電気消しといて~」

『…………』

 

 殺せんせーは教室から出て別室へ。僕以外の面々も渋々って感じで布団に入り電気を消す。

 すると誰かがやってくる気配……ふむ。クリスマスだからサンタかな?サンタかな?

 そして僕以外の皆がサンタに襲い掛かる気配……あれ?サンタからプレゼント強奪しようとしているのかな?

 そんなドタバタが過ぎると電気が付く気配が……。 

 

「明けましておーめでとー!」

 

 あ、正月になったのか。

 

「あとは寝正月です」

「はーい~」

 

 もぞもぞと布団の中から出ると皆和服だった。…………ふむ。

 

「…………おやすみ」

 

 そしてもぞもぞと布団の中に戻る。

 

『いやいや何なんだよこの流れは!』

「せんせーみかん取って~」

「しょうがないですね~」

 

 僕は布団から炬燵に移動して暖を取る。せんせーがミカンを取ってくれたので僕はそれを剥きながらだらける。

 

『って!何でお前は順応してんだよ!』

「せんせー。テレビ一時停止してないで先見ようよ~」

「そうですね~」

「「あははははは」」

 

 スパーンっといい音が頭の上から響いた。

 

「話が進まないから黙っていてね?」

「……あい…………」

 

 和服を身にまとい普段より可愛さとか美しさが上がった有希子。その装いから放たれる一撃は僕の頭を砕かん勢いだった。

 

「誇張表現しないの」

「…………あい」

 

 そんな誇張なんてしてないのに……。

 

「要するに、年末年始という学園ものでは大きなイベントを全て逃したからここで回収しようってことでしょ?」

「その通り不破さん!せんせー、学校で待っていましたのに誰も遊びに来てくれないし……風人君なら来てくれると信じていたのにまさか来ないとは……でもせんせーのことで悩んでいるから誘いにくいし……」

「せんせー…………」

 

 僕はこたつの中で拳を握りしめ、俯く。

 

「……水臭いよせんせー。僕は……僕は!言ってくれれば……」

「か、風人君……!」

「言ってくれればボッチで年末年始を過ごしたせんせーを弄りに行ったのに!」

「な、何でそんな不良生徒に育ってしまったのですかぁ!?」

 

(((いや、割と前からだろ)))

 

 周りの目がだんだんと冷たくなる……あれ?何か酷い。

 

「さぁ続きですよ!せんせーと風人君が撮りためている大晦日番組を見ているところから!冬休みモードで油断しているせんせーを殺してみなさい!」

 

 そこから冬休みは楽しく過ぎていった。大晦日格闘技ではKOする先生を応援してみたり、カウントダウン番組で一緒に盛り上がったり、初詣で一緒にお参りしたり……

 

(((いやお前も暗殺しろよ!)))

 

 駅伝とか色々とスルーしてついに節分。鬼は外~といいながら有鬼子にぶつけてみる。すると、僕の後頭部をつかみ沈められる。

 

「ごめんなさいは?」

「……ごめんなさ……」

「うん。聞こえないよ」

 

 顔を床にめり込ませようとしてくる。そのせいでうまくしゃべれない。鬼だ鬼がいる。

 

(((……………………))) 

 

 この光景にはクラスの皆とせんせーが固まった。そんな中、僕は親指で対殺せんせー用豆を飛ばして、触手に命中させる。場所?感覚でやってるよ?

 

「なっ……!」

「……………………!」

『今なんて言った!?』

「ふはははは。油断したね殺せんせー……だって」

『何でそれで伝わるの!?』

 

 ……ねぇ伝わってるなら僕のさっきの謝罪も聞こえていたよね?伝わってたよね?ねぇ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで年末年始は思い残すことはありません。安心して次の段階に進めます」

 

 何とか解放された僕。すると、何か殺せんせーが言ってる。ふむ……次の段階かぁ……。

 

「…………次はバレンタインか。でもまだ先だよ?」

「一つ大事なことを忘れていますよ?」

 

 すると殺せんせーの懐から大量の問題集……あ。

 

「さぁさぁ!皆さん、暗殺もいいけど受験もね!!」

『…………』

 

 一瞬で沈黙がこの場を支配した。

 

「夢が覚めていくなぁ……」

「しっかり引き戻さないとマズいでしょ。私立は再来週に迫ってます」

 

 僕らは暗殺者であり、受験生でもある。

 すっかり忘れていたなんて口が裂けても言えない。

 

「みなさんが悩んだり頑張っていた先月も、それぞれの志望校に合わせてきっちり授業はしていましたよ」

 

 思い返してみると……ああ。何か普通にというかそれ以上に手厚くやっていた気がする。

 

「そして、受験の結果が出た後で再び面談をします。それぞれがE組を出た後、どういった未来を選びたいのか」

『…………』

「たとえこの先なにがあろうとも、君たちの暗殺は卒業で終わりです。ナイフと銃を置き、それぞれの道へ歩き出さなければいけないのです」

 

 それは自分たちで決めたことでもある。ナイフや銃を置いて僕らは歩き出す。

 今まで僕らは地球のことやせんせーの事を考えてきた。でも、今は自分たちのことを考えなくてはいけないんだ。

 

「必ず別れは来るものです。それが……教室というものなのだから」

 

 その来るべき別れを前に、僕らは自らの進路を見つけなければいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 受験する高校について皆わいわい話をしている。

 

「カルマはどの高校へ?」

 

 当然、僕らのグループも似た感じの話になる。

 

「んー、俺は椚ヶ丘に残ろうかなーって」

「ほへぇ~なんで?」

「よく考えてみなよ。本校舎の奴らからすれば、追い出したはずのやつが戻ってきた、自分たちの上に立たれるんだよ?そんな奴らの屈辱的なツラをあと三年も拝めるなんて最高じゃん!」

 

 うわぁ……相変わらずいい性格してるわぁ……。

 

「それに、平均的な学力だったら上の高校はあるよ。ただ、タイマンの学力で勝負して面白そうなやつってここしかいないんだよ」

「面白そーなやつ……浅野君のことかぁ~」

「そういう風人はどうなの?個人的に勝ち越した記憶がないんだけど?」

「あはは~確かにバトルするなら椚ヶ丘が楽しそうだよね~」

 

 そこは認めよう。少なくとも浅野君にカルマがいれば相手には困らない。

 

「でも、僕は有希子と一緒のところに行くよ~」

「へぇ~どうして?」

「僕も上の方の高校には行けるよ~でもさ。この中学三年間でいろいろあった分、僕は楽しい学園生活ってのを送ってみたいんだ。そしてその学園生活で僕の隣には大好きな有希子がいてほしい。だから有希子と一緒のところに行くよ」

「流石……そこに本人が居るのによく言えるね……」

 

 当然ながらこの帰宅のメンバーには有希子が含まれている。何か頬を紅く染めてるけど気にしない方向で。

 まぁ、思い返せば色々と、荒れてた時期もあったし……うん。普通とはかけ離れた中学生活でした……まだ終わってないけど。

 

「え?それぐらい普通じゃない?まぁ、それに有希子の目指す高校のレベルはそこまで低くないし。大学進学考えたときにアドバンテージになるかは置いといて足枷になるわけでもないし。どうせ、大学は学部とか別になっちゃうから高校ぐらい一緒に楽しみたいじゃん?」

「でも、それだと遊んで終わっちゃうんじゃ……」

「ふふん!そこは抜かりないよ!親や殺せんせーには三年間学年首席を突っ走るって宣言したからね!」

「おぉっ!風人君。もうそんな宣言したんだ」

「目標は高く持たないとね~」

 

 まぁ殺せんせーからも、達成できるように頑張れと言われたしまずは入試だ。ふふん。僕の力を見せつけないとね♪

 

「あ、僕らこっちだからまたね~」

「うん。また」

「じゃあね。二人とも~」

 

 ということで他の皆とは別れて歩く。隣には当然有希子が。

 

「……本当に良かったの?そりゃあ、風人君と一緒のところに行けたら嬉しいけどさ……」

「有希子は気にしなくていいんだよ~これは僕が自分で決めたこと。誰かに言われたからじゃなくて自分で決めた道なんだから!」

 

 多分初めてだと思う。弁護士って選択も、進学先も。誰かにじゃなくて自分で決めた道。だから後悔なんてないし、この道を進むことに迷いはない。

 

「有希子。この一年間ずーっと支えてもらった。だから高校では僕も君を支えるよ」

「……ふふっ。まだ中学生活は一ヶ月くらいあるよ?」

「……むぅ。そこはスルーしてよ~」

「ごめんごめん。いつも風人君は揚げ足取ってくるからね~つい仕返ししちゃった」

 

 ……そんなに揚げ足ばっか取ってないと思うけど……。

 

「頑張ろうね。風人君」

「うん。そうだね」

 

 受験が迫る中、僕には不安はなかった。近くに彼女が居てくれる。だから僕は全力を出すことが出来る。

 

「……受験終わったらゲームしたい…………」

「まだダメだよ?」

「やってないよ!むぅ……律まで使ってきて……」

「こうでもしないと風人君はゲームに走っちゃうからね」

「走らないよ!……多分」

「ふふっ。受験終わったらまた叩きのめしてあげるね♪」

「僕が負けること前提!?絶対勝ってやるんだから……!」




「というわけで僕の進路は無事決まりました!皆さんのご協力感謝です!」
「思ったより票数に差が出て驚いていると駄作者が申しておりました」
「まぁ、高校でもこんな感じなんだね~あはは」
「もう……まぁいいんだけど」
「それより駄作者は?死んだ?」
「この前の後書きであんなに時間が取れないって言ってた癖にまた新しいことに手を伸ばしたからね。ちょっと沈めておいた」
「沈めておいた……あ、そういえば皆さんに協力?というか何かしてほしい?ことがあるんだって」
「またアンケートするの?」
「ううん。何でも駄作者が『ラジオ的なのやってみたくなった』って言い出してね」
「……この後書きの会話も充分それっぽいけど」
「何というか、読者さんたち(リスナー)から質問募集して、僕らが会話して答えるっていうことをやりたいんだって」
「へぇ……質問は集まるの?」
「ふっふっふっ……三人から集まれば奇跡じゃない?」
「……ですよねぇ……」
「質問は自由で極力全部採用したいんだけど……」
「だけど?」
「余りにもあれだなぁって奴はカットするって」
「あれって……」
「まぁ、常識の範囲内なら何でもいいって」
「ふーん」
「ちなみに出演者は僕と有希子、後千影の三人で、イメージはあの一周年の雑談を変えた感じだって」
「……とりあえず質問が集まらなかったらなしにするだけなので気楽にどうぞ」
「ちなみに活動報告で募集しています」







「というか何でこの作品でやってるの?」
「あーうん。もうここまで読んでくれた読者の皆様は精鋭揃いだから、駄作者が阿呆な企画打ち立てたら乗ってくれる人多そうだなぁって」
「そうだね……他の作品の後書きではこんなに駄作者自由じゃないもんね」
「多分他の作品の後書きなんて事務的なことしかやってないよ。というかここまで後書きではっちゃけている作品はあんまりないと思う」
「自覚あったんだ……」
「というわけでよろしくね!僕への質問でも全然いいよ!」


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七三の時間

約一ヶ月ぶりですね。
本編は約二ヶ月ぶり。
タイトルの通りですね。どうぞ。


「ふぁああああああ~」

「大きなあくびだね」

「うん~だって無事合格してゲームで徹夜……ふぁあああ」

 

 受験は無事に終わった。

 と言うのも僕らの第一志望は私立高校で、後半の日程は存在していない。まぁ、クラスメイトの中にはまだまだ本番を控えている人は居るし、僕たちと同じように終わった人たちも居る。

 

「そーいう有鬼子も、電話からの徹夜なのに……よく平気だよね~」

「一日の徹夜くらいならね。でも、今日はしっかり寝るから心配しないで」

「僕も心配しないで~授業中にしっかりと寝るから……」

「うん。却下」

「うえぇ~」

 

 昨日、家に帰ると通知が届いていた。如何にも中にたくさん入ってますって感じの封筒だったから開ける前から合格だろうって分かっていた。とりあえず、合格で加えて入試成績がよくて、特待生制度とかなんとかの対象らしい。何かお金がもらえるとか払わなくいいとか、よくわかんないので親にぽーいって丸投げしといた。

 そしたら、有鬼子から電話が来て、とりあえず1時間ぐらい話してそこからは久し振りにゲーム三昧で……結果は……うん。有鬼子がちょっと鈍ったから取り戻したいとかなんとか言い出したからこうして徹夜になった。つまり、僕悪くない。

 

「それにしても受験当日は……アレだったね」

「うんうん~アレだったね~」

 

 受験当日。僕らの応援のため殺せんせーがやって来たが……まぁ、凄かったとしか言い様がない。分身を使って何か……他の応援に来ていた人たちが霞むぐらいやばかった。

 そんな感じで談笑しながら教室に突入。

 

「……?」

 

 まぁ、全員合格のハッピーエンドではないことが分かった。明らかに竹林の空気が重い。確か彼は国内最難関のとこ受けたんだっけ?とりあえず、趣味が変わるほどショックを受けていることは分かった。

 

「か、確率の問題で、こういうこともありますよ!90%は受かっていたんですから元気出して!」

 

 後、殺せんせーが必死に励ましているがそれが逆効果であることも、よく分かった。

 

「ふぁぁああ~大変だね……あ、手錠落とした……」

落ちるとか滑るとか言っちゃダメ!!」

「「「…………」」」

「竹林君の気持ちを考えてあげてください!そんな彼を傷つけるような言葉は一切禁止します!」

 

 涙を流しながら竹林君を抱き寄せる殺せんせー。

 ……いや、一番竹林君を傷つけてるの多分せんせーだよ?そんな大声で言っちゃって……。

 

「いいですか?受験生たるもの、たとえ戦う場所は違えど共に手を取り合うべきです。以後受験生へのヘイト発言をする生徒は不良生徒とみなし、ピッチリ七三に手入れします!」

 

 ほうほう。つまりNGワードゲームをしようってことかな?

 

「冗談じゃねぇぞ!」

「そんなベタな禁句を問題にすんじゃねぇぞ!」

「問答無用!先生の粘液でどんな髪でも滑らかに整えて……」

「殺せんせー、アウト~!」

 

 というわけで、七三のかつらを被る殺せんせー。…………でも、せんせーって生徒じゃないのにゲームの参加者なのかな?

 

「こ、ここは楽しい話で雰囲気を変えましょう!三村君!最近面白かったドラマは?」

「……そーだな。最近は大河ドラマが熱いかな。真田幸村の浪人時代から描かれていて……」

「三村君、アウト~!」

 

 まぁ、浪人はダメだよね。どうやら殺せんせー判定でもアウトらしいので、ピッチリと七三分けにされている。

 

「浪人なんて不吉なこと言うんじゃありません!他の人……倉橋さん!天気の話で和ませて!」

「え、えーっと……結果はさ、最近は雪が降ってもなかなか積もらないからガッカリだよね~」

 

 次の瞬間、倉橋さんの髪は整えられた。

 

「雪が積もれば滑るのでアウトです!」

 

 いや……それは無茶苦茶じゃ……。

 

「次、寺坂組!」

「お、おう!元気出せや竹林!」

「こっからじゃねーか!」

「勝負はどう転ぶかわからねー……」

「寺坂組、アウト~!」

 

 まぁ正確には寺坂だけだと思うけど、何か巻き添え食らってる。哀れなり。

 

「えぇい!ここは風人君が……って風人君!?」

「はい。何でしょう?」

「何で君はもう七三分けにして、伊達眼鏡までかけているんですか!?君はまだ落ちるとか滑るとか言ってないでしょうに!」

「ふっ……逆転の発想ですよ」

 

 僕は眼鏡をクイッってやりながら答える。

 

「僕の特殊スキル『余計なことしか言わない』を持ってすれば、必ずアウトになることが目に見えている。だったら最初から整えてしまえば怖くないのだよ」

 

(((こ、こいつ……完全に開き直ってやがる!)))

 

「ふはははは!さぁ、僕に話させればどうなるか……分かりますよね?」

「く、くぅ……なんて厄介な生徒なんですか君は……!もういいです!ここは先生のとっておきのスベらない話の出番です!」

 

 何か僕の番は飛ばされて先生の出番になった。

 

「この前、自販機にお釣り忘れてさぁ~後で気付いてすげー慌ててぇ~急いで戻ったのよ。そしたらまだお釣りがそこにあってぇ~超焦ったわ~」

 

 なんかやりきった顔だけど……

 

「「「オチは!?」」」

「いや、殺せんせーのスピードと執念なら絶対に大丈夫でしょ」

 

 と、何か僕と有鬼子以外が七三分けにされていた。まぁ、僕の七三分けには殺せんせーの粘液が使われてないけど……うん。面白い光景だ。というか……

 

「岡島!君、七三分けできるほどの髪あったの!?」

「お前はさっきから着眼点がズレてるだろ!?」

 

 凄い驚いた。あのほぼ坊主といってもいいくらいの岡島も七三分けになっているなんて。

 

「さぁ皆さん!先生のようにもっと元気づけるような話を……」

「……もういい

 

 その時、今の今まで黙って座っていた竹林君が、ドスの効いた声を出した。

 

もう十分です……!ありがとうございます……!くどいほどNGワードぶっ込んでくれて……!

 

 銃を手にして立ち上がる……わぁーい。怒った怒ったー

 

「み、皆さん!彼を止めるのを手伝っ……はっ!」

 

 そして殺せんせーは気付く。怒っているのは、竹林君だけじゃない。髪を滑らかに整えられた人たちもだということに。

 

「てゆーかさぁ……」

「殺せんせーがやりたかっただけだろ」

「受験NGワードごっこ。せんせー好きそうだよね……」

 

 じりじりと詰め寄る七三軍団。

 

「風人の言うとおりだぁ……七三になれば怖いものはねぇ……」

「あぁ……失うものはねぇんだ」

 

 …………あれ?僕そんなこと言ったっけ?何か嫌な予感がしたので髪型を戻しておこう。

 

「受験中は使うのを控えていた罠……今こそ使うときだ」

「ちょ、ちょっと!?皆さん!?」

「死ね!」

 

 殺せんせーの足下の床がパカッと割れる……え?いつの間にあんな改造を?

 

「テメーの苦手な落とし穴だぜ!」

「そのまま地獄に堕ちてくださいよ!」

 

 上から銃をぶっ放す七三分けのクラスメイトたち。殺せんせーが落ち着いてと言っているのも無視をしている。まぁ、じごーじとくってやつだね。

 すると、超スピードで移動し、天井に張り付く。

 

「いいですか!受験なんてお祭りなんですよ!」

「うわぁーついに認めちゃったよ……」

 

 そして竹林君との会話を始める殺せんせー。

 

「あれ?風人君、髪戻したの?」

「……?そーだよー。だって結局言わなかったし」

「ふぅーん」

 

 あ、この目はアレだ。ゲームをしているときの……ヤバい。絶対に僕にNGワードを言わせる気だ。

 

(どうやら気付いたみたいだね……勝者は二人もいらないんだよ)

 

 ……どうしよ。しかも僕が意図に気付いたことに気付かれた。何を言ってるか分からない?簡単に言うと、有鬼子にゲームのスイッチが入った。

 

「ねぇ風人君……」

「…………」

「???そんなに見つめられても伝わらないよ」

 

 嘘だ。絶対に伝わっている癖に……よぉし。こうなったら徹底抗戦してやる……!

 

(((いや、お前らは何不毛な争いをしてんだよ!)))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局、NGワードゲームは引き分けだったね」

 

 あの後、殺せんせーを狙う皆、NGワードゲームを続ける僕らという構図が出来ていた。やって来たビッチ先生がくどいほどNGワードを連発したせいで皆からやられていたが……まぁ、そういうことだね。うん。

 

「凄い不服そうだね……」

「だって、風人君のことだから、絶対に言うと思ったもん。余分なことは言うのに、言ってほしいことは言ってくれない」

「まあまあ。有鬼子の言わせる技術が足りなかったんだよ~」

「…………(じー)」

 

 何か無言で見てくるが僕は関係ない。今回の勝負は引き分け。異存はない。

 

「いいじゃん。前にクラス全員でやった人狼ゲームでは勝てたんだし」

「まぁ、風人君が初手で喰われたり、吊られるのは予想通りだよね」

「ホントだよ!」

 

 酷いよね?こういうゲームやらせるとさ、大概『一番味方でも敵でも厄介』っていう理由でやられるんだよ!僕が何をしたって言うんだ。

 

「それを日頃の行いって言うんだよ?」

「サラッと心の声を読まないでよ」

「でも、風人君ってすごいよね。皆の役職を私より先に把握しちゃうんだもん。そりゃあ、一番にやられるよ」

「ぐぬぬ……でも、味方になっても助けてくれなかったのにぃ……」

「……風人君。私の身代わりになることが、私にとって一番の助けになっているんだよ?」

「酷い!というか思考に癖がありすぎる!」

「ふふっ。冗談だよ冗談」

「ふーんだ」

「ねぇね。今度は二人でNGワードゲームやろうよ。今日の決着をつけるという意味で」

「しょうがないな~」

 

 とまぁ、いつも通り帰るのであった。

 尚、今日は真面目に早く寝ました。




ちなみに、親しい友人間でこういうゲームをやらせると最初にやられるって言うのは作者のことです。
敵に回ってたときに厄介って理由で初手に詰みます。
次回、バレンタイン。風人の運命やいかに?


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バレンタインの時間

バレンタインじゃないけどバレンタインの話です。


 2月14日。世間の皆さまはいかがお過ごしでしょうか?

 

「風人君。おはよ」

「おはよ~」

 

 僕はいつも通りです。

 

「そうだ。はい。コレ」

 

 すると、鞄からごそごそと取り出し渡してくる有鬼子。

 

「ありがと~」

「まぁ、皆に配るのと同じだけどね。風人君には放課後にも渡したいから予定開けといてね」

「はーい」

 

 と、チョコを貰う日です今日は。去年は涼香と複数名の女子たち。一昨年はおいといてその前までは……まぁ、千影からも貰っていました。多分、俗に言う本命と言うやつを。いや小学生が何をと思うかもしれないけど……あれはね。うん。千影だけクオリティーが違ったよ。

 

「朝からお熱いね~お二人さん」

「おはよ~カルマ。珍しいね~登校中に会うなんて~」

「まぁね~だって早く行かないとさ。チョコ貰うのに必死な奴の顔が拝めないじゃん」

 

 悪い方の顔になるカルマ。こりゃ、ダメだ。

 

「でも、何で皆チョコなんて欲しがるんだろ~?普通にしていれば貰えるのに~」

「へぇ。風人は親以外に貰ったことあるの?」

「うん~普通にあるよ~」

「あ……もしかして涼香さんと千影さん?」

「その二人もだし~別の女子たちからも沢山~」

「ふーん。そうなんだ」

「あれ?神崎さん嫉妬しないんだ」

 

 ほんとだ。珍しい~いつもならこのまま折檻調教コースだったのに。

 

「まぁ、風人君が誰からチョコ貰おうと特にね。だって、風人君の彼女は私だもん」

「これが正妻の余裕か……」

「制裁?」

 

 ……なるほど。いつでも制裁出来るって余裕の現れか……

 

「正妻だなんて……あ、カルマ君にもあげとくね。はい」

「サンキュー」

 

 と、三人で登校すると……

 

「岡野!頼むこれを受け取ってくれ!」

「絶対嫌!」

 

 必死に前原が岡野さんにチョコを渡そうとして、それを全力で拒否する岡野さんの姿が……どういうこと?

 

「……で、何で渚は伸びてるの~?」

 

 そして、渚が目を回して気絶している……どういう状況?

 

「ししょー。へるぷみー。状況把握が出来ない僕に状況を教えて~」

「……うん。えっとね、聞いた話なんだけど……」

 

 どうやら昨日、カラオケに行く流れとなった二人。で、岡野さん側としてはデートとかそういう感じだと思っていたが、前原にとっては殺せんせーをおびき出す餌だったと。で、チョコを渡すタイミングで運悪く、殺せんせーと殺せんせーを岡島以下屠りに行った人たちが乗り込んでしまい、結果岡野さんが怒る。

 そして、前原には『バレンタイン当日に岡野さんから改めてチョコをもらう』というミッションを課せられ、失敗すれば内申書の評価がチャラ男になってしまう。しかし、岡島が岡野さんにその内容を伝えてしまい、腹が立っている彼女は当然渡すわけもない。それで現在、前原が岡野さんにチョコを渡し、それをリターンしてもらうことでミッションをクリアしようとしているが……当然失敗続きである。

 

「なるほど~それは大変そうだね~」

「ねー……あ、風人君にもチョコあげる」

「わーい。ありがと~」

 

 前原のミッションは失敗続きだった。失敗したまま、時は昼休みとなってしまう。

 

「大変そーだね~」

「ヌルフフフ。しかし、優れた暗殺者たるもの、異性の扱いも例外ではないです」

「じゃあ、その点僕はバッチリだ~」

「……いや、それはないと……」

「えぇ~?」

「じゃあ、風人君が同じ状況に陥ったらどうします?」

「え?僕の内申書は何でもいいよ?特に気にしてないし」

「……つまり?」

「ふっふっふっ。僕には効果なしだよ!」

 

(((いや、結局解決していないやつじゃん……)))

 

 と、そんな会話している中、この隔離校舎の中での追いかけっこは終わり、お互いが教室で話し合っている。ちなみにいつも通り僕らは教室の外で野次馬だ。いぇい。

 

「その……ゴメン。気付いていなくて」

「謝っても無駄。ここで私が折れないことぐらい知らないの?」

「知ってるよ!おまえのことならこの一年で全部知っている!」

 

 おぉ……格好いいなぁ……

 

「……例えば?」

 

 その言葉には岡野さんも効果ありのご様子。話を聞く気になったようだ。

 

「ハイキックの時に見えてるのに見えてないと思ってるとことか」

 

 …………え?

 

「このタイミングでそれ言っちゃう?」

「いや、風人君もいつもそんな感じだよ?」

「「「うんうん」」」

「酷い!?僕そんなよく分からないタイミングでよく分からないこと言わないよ!?」

「はいはい。静かにね」

 

 ひ、酷い……!というかそもそもハイキックを食らってるときにそんな余裕あるんだね。僕なんてお説教中はそんな見ている余裕ほとんどないよ?

 で、僕のメンタルが傷ついたその一方で、前原による岡野さんの、え?ここでそれ言っちゃうの?が連発中。ガサツとか脳筋とか……彼は岡野さんを怒らせたいのかな?

 

「あとホント暴力がひでぇな!ちょっと怒ると引っ掻く、もっと怒るとミドルキック、さらに怒るとドロップキック」

 

 え?何段階まであるの?ウチの彼女は説教折檻オンリーだよ?

 すると怒った岡野さんの上履きの先からナイフのようなものが出て、前原の喉元に目がけ鋭い蹴りによる突きが放たれた。

 

「……最高に怒ると対殺せんせーナイフで喉元を突いてくる。野生すぎるんだよ……ほんと」

「……え?」

 

 放たれた右足。その足首を前原は右手でしっかりとつかんでいる。そして、よく足先を見るとそれは対殺せんせーナイフではなく、チョコのナイフに変わっており、前原の口にはチョコが……

 

「今朝方すり替えておいたのさ。確かにお前から直接受け取ったぜ」

 

 …………かっこいいような……キモいような。

 

「よく知っているだろ?第一、興味もない女のカラオケのハモり、全曲覚えねぇよ」

「…………ん」

「おまえ、照れると急に黙るよな。ホント単細胞は嘘がつけない」

「やかましい!」

 

 余計な一言を言った前原の顔面に突き刺さる岡野さんの膝。……うわぁ……怖。

 とりあえず、一件落着のようで良かった良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、本命行きますか」

 

 覗き見ていたカルマが口にする。

 時は跳んで放課後。カルマ、中村、茅野の三人は、茅野がどういう顔でチョコを渡したらいいか分からないということで、チョコを渡している人たちのところを偵察して回っていた。

 最初は千葉と速水のスナイパーコンビ、次に寺坂組、そして磯貝、片岡のイケメン委員長と三つを見て回ったのだ。

 

「本命?」

「あーあのカップルか。でももう渡し終えてるんじゃないの?」

「いいや?風人曰く放課後渡すから予定開けといてって言われたらしいよ」

「本命って……あの二人か……」

「なるほど。このクラス唯一にして随一のバカップルだからね。期待できるんじゃない?」

「じゃあさっそく行こうか」

 

 移動する三人組。

 

『この辺でいいかな』

 

 少ししたところにターゲットたちはいた。

 

「おやおや。こんな人気のないところまで行くとは」

 

 中村が評するがカルマと茅野は真剣な様子だ。茅野は分かるが何故カルマも?と疑問に思う中村だったが……

 

『ちょっと目を閉じて』

 

 向こうが進展するようなのでスルーしておいた。そして言われるがままに目を閉じる風人。

 

『口少し開けて』

 

 そんな風人に対して有希子は口を開けるよう促し……

 

 

 

 

 

 

 キスをした。それも舌も入る濃厚な方である。

 

 

 

 

 

 

「な…………!」

 

 あまりの光景に口をポカンとする茅野。ニヤニヤする中村とカルマ。

 そして、ある程度長い時間が経った時二人の唇が離れた。

 

『はぁ、はぁ…………どう?おいしい?』

『甘いのは甘いけど……ディープキスで口渡しはさすがに想定外だったよ~』

『よかった。もう一回やる?』

『……お好きにして下さい~』

『じゃあ……』

 

 そして再び口付けを始める有希子。もう完全にスイッチが入ってるご様子だ。

 

「茅野ちゃん。神崎さんみたいにやれば渚も一コロでしょ」

「む、無理無理無理!普通に渡すのすら無理なのにあんなのは絶対無理!」

「アハハ……でも神崎さんにあんな一面があるとはね~さて、誰の入れ知恵だろ?」

「あ、私だ」

 

 カルマが疑問を口にしたと同時に答えたのは中村だ。

 

「え?中村さん?」

「いやねぇ。前に神崎ちゃんが『どうやって渡したら風人君喜ぶかなぁ……』って言ってたわけよ。普通に渡せば?って言ったけど普通に貰うことには慣れてるってのは容易に想像がついてたらしくてさ」

 

 幼馴染に同い年の従姉妹。バレンタインでチョコを渡すというゲームならテンプレであろうイベント。そして主人公にチョコを渡すようなキャラ属性を持っている人たちが周りにいた風人。故に安易に想像がついた。まぁ、本当に貰ってたわけだったが。

 

「でさぁ、半分くらい冗談のつもりで『キスして口渡しは?絶対やられたことないでしょ』って言ったわけだよ。で、結果がアレ」

 

 幾度となく唇を重ね合わせる二人を指さす中村。

 

「そろそろ行こうか」

「どうしたのさカルマ。そんな慌てた様子で」

「いいや。実を言うと……気付かれてんだよ」

「誰に?」

「風人に」

「…………いつ?」

「最初。目が合ってアイコンタクトを交わしてた」

「…………マズくない?」

 

 と、そんな会話をする中、

 

『美味しかった?風人君』

『うん~でも、大胆だね~有鬼子は』

『え?ま、まぁ……これは……その』

『あそこで三人ほど見ているって言うのに~』

『……え?』

 

 振り返る有希子。目が合う茅野。背を向ける中村とカルマ。

 見る見るうちに顔が紅く染まっていく有希子。

 

『……いつからかな』

『最初から~』

『…………』

 

 スッっと銃を取り出す有希子。

 

『頭を強打させれば今の光景忘れてくれるかな?』

 

 目から光が消えた。

 

『有希子~』

 

 そんな有希子に対して風人は今度は自分からキスをする。舌を入れ、風人のテクニックにより徐々に有希子の思考を奪っていく。そして、

 

(貸しだからね。三人とも)

(恩に着る!)

 

 目で三人に合図し、茅野、中村、カルマの三人は逃げ去っていくのであった。

 バレンタインに命の危険を、普段の風人の気持ちを感じたと三人は思うのだった。

 

『全く……あ、どうしよ』

 

 尚、この後風人は有希子を背負って彼女の家まで届けることになったとか。




 他の作品などを書いている作者なら伝わりますが、各話には編集履歴が見れるようになっているんですよ。で、この話の一番古い編集履歴は何と2019年1月20日。この話……実は2019年のバレンタインの前には書き上がっていました。

「「はぁ?」」

 そして、本来なら2020年のバレンタインに投稿する予定でした。

「「はぁ?」」

 しかし、何処かの誰かが4ヶ月くらい失踪していたため、断念。2021年のバレンタインでいいかなと思っていました。

「「はぁ?」」

 でも、さすがにまた何ヶ月も失踪するわけにもいかないのでこのような中途半端なタイミングになりました。

「駄作者。死刑」
「異議なし~」

 い、いやいやいや!それは酷くない!?

「いや、順当だと思う」
「だよね。ここ最近もペースダウンしてるし」

 それは……

「どうせ、あの作品の方書いてるんでしょ?いいよね、あっちのメインヒロインは。同じキャラ崩壊なのに何で私と雲泥の差が……」
「でも、どっちも公式の設定を極端にしたって意味では一緒じゃ……」

 まぁまぁ。向こうは話の都合上、メインヒロインが全話に登場しないけど、こっちはほら。ほぼ全話に登場するじゃん。

「まぁ、気にしてもしょうがないし、ねぇ駄作者。それに風人君。ロシアンルーレットしない?」

 あーいや、私は用事があるから……

「あー僕はもうたくさんもらったし充分……」
「(^ω^)」

 ……やります。

「…………やらさせていただきます」
「はい。選んでね」

 差し出された両手に乗ってるチョコ……見た目は普通……

「……どっちが外れだ……」

 ええい!確率は二分の一だ!じゃあ、左の方(パクッ)

 ミ(o _ _)oバタッ

「だ、駄作者ぁっ!く、クソォッ!なんてことだ!」

(あ、ラッキー。駄作者が死んだしこっちが当たりだ)

「駄作者……君の犠牲無駄にしない(パクッ)」

 ミ(o _ _)oバタッ

「ふふっ。誰もチョコが二つだけとは言ってないんだけどなぁ。ポケットに三つ目があったり。……さてと、二人がやられたので今日はこの辺で。ちなみにこの後書きはフィクションです。皆さんはロシアンルーレットするとしても辛子かワサビにしておきましょう。私との約束です。では次回もお楽しみに……と言いたいですがこの駄作者曰く、次回は番外編だそうです。何でも私が○○○○になる話だそうです」












 ちなみにちょっとした原作改変。
 冒頭でバカゼトとカルマに有希子からの義理用チョコが行ったでせいで杉野にチョコが行ってないです。
 杉野、すまぬ(笑)


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写真の時間

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いしま――

「今、いつか知ってる?」

え?1月の頭くらい?

「3月です」

な、何だと……?……タイムスリップ?

「駄作者。死刑」

ちょっ、初手死刑はダメ……ぎゃあああああああ。

「ということで、間隔が空き過ぎてすみません。この間にお気に入り登録をして下さった方々、ありがとうございます。ではどうぞ」


 バレンタインも過ぎ何日か。2月も終わりに向かう今日この頃。

 

「ねぇね~カルマ~何々?あのカルマが謝ったって~?」

「……誰から聞いた?それ」

「寺坂~」

「よし。締める」

「ちょっ、あれほど言うなって言っただろ!?」

「えぇ~?何のこと~?」

 

 とりあえず、締められた寺坂を尻目に見つつ話を進める。

 どうやら昨日絡まれていた矢田さんを助けるために、最初は挑発したらしいけどその後素直に謝ったそうだ。

 

「でもカルマが謝るとはね~そんなに手練れだったの~?」

「鷹岡より遙かに強いのが6人。それに加えて烏間先生以上が1人」

「あちゃ~そりゃ、僕ら全員で居てもどうにもならないやつだね~」

 

 流石に路上じゃそんな奴らに敵うわけがない。そりゃあ、カルマも謝るわ。

 でも不思議だな~そんなやばい集団。今まで出会ったことないのに……うーん。こんな時期にそんなヤバい奴ら……なにもないといいけど。

 すると、朝のHRということで殺せんせーが入ってきた。

 

「第二志望以内で全員合格おめでとうございます!」

 

 ペタペタペタ

 

 触手による拍手のせいか、普通はパチパチって言うところがペタペタってなっている。

 

「これで先生の肩の荷も下りましたよ……本来であればこの後に進路相談の予定でしたが、その前にやりたいことがあります」

 

 うずうずしているせんせー。僕らもこの後あることがなんとなく分かっているのでうずうずしている。

 

「このめでたき日にぃ?やることと言えばぁ?」

 

 少しの溜めの後、せんせーは一瞬姿を消す。そして、

 

「編集作業です」

「「「何でだよ!」」」

「え?何の?」

「もちろん卒業アルバム制作ですよ。E組だけのね」

 

 E組だけの?

 

「あ、そっか。学校としてのは作ったもんね。担任は烏間先生ってことで」

「そっかぁ。そこに殺せんせーが1枚も写っていないのはかわいそうだね」

「……いや。ちょいちょいマッハで写りこんではいる……バレない程度だけど」

「…………これ、ただの心霊写真だよ」

「そうなんですよ!だからこの写真を使いたいんです!」

 

 ドンっと置かれる写真の束。……あれ何枚あるんだろう?

 

「1年間、色々と隙を見つけ皆さんと一緒に写りこんだ秘蔵の自撮り3万枚!」

「自撮りというか、それ盗撮じゃない~?後ケタがズレてると……」

「さぁ皆でここからベストの思い出写真を選んでいきましょう!」

 

 …………と言われたけど……3万枚から選ぶって相当時間かかるって次元じゃないような……

 

「私、自分の写真あんま見たくないんだよねー」

「なんで?」

「目、ちっちゃいから」

「ご安心を。目を大きく加工したバージョンもございます」

「……相変わらず手厚いことで」

 

 ……本当にね~でも、

 

「これだけあると、何を選べばいいかわかんないよね~」

「ああ。でも、ベタな写真は正規のアルバムで使ったし……」

「どうせ作るなら意外性のある写真とか?」

「お任せを」

 

 すると出てきたのは速水さんが猫にデレている写真。

 

「クールビューティー速水。ペットショップにて……あとこれ」

 

 するとなんか跳んでいる三村君が。

 

「エアギター三村。夜の校舎にて」

 

 ほうほう。なるほど。

 

「まだまだありますよ。はいこちら。姫系の服を試着だけするプリンセス片岡」

 

 おぉー意外だ。

 

「ゴキブリが出た瞬間の乙女村松」

 

 あはは~面白いね。

 

「殺人事件。ダイイングメッセージを残す和光風人」

「普通だな」

「いつも通りだね」

「もはや日常の一コマ」

「いやいやいや!?僕被害者だよ!?これが日常とかどうかしているよ!」

 

 血文字でゆき……って書いたところで途絶えている……ってこれいつのだ?一ヶ月前?それとももっと前?いや、つい最近?……どれだ?ダメだ。身に覚えがありすぎて特定できない。

 

「夜中の校庭を裸で回るネイキッド岡島」

「変態だ」

「汚らわしい」

「おい、ちょっとまて……」

 

 あの岡島が動揺している?いやまぁ、そんな黒歴史確定なところを撮られたら動揺するか……

 

「ひょっとしてこの中には……俺のすげーやばい写真も入ってるんじゃ……」

 

(((それ以上のがあるのか!?)))

 

 マジか。マジなのか?

 

「いや岡島だけじゃねぇぞ!」

「自分のを探せ!」

「回収して捨てるんだ!」

「おやおや、編集作業にも熱がこもってきましたね」

「いやいや、熱がこもるというか……どう考えてもものすごい勢いで減ってるよ?写真」

「風人君はいいのですか?編集作業」

「まぁ、僕に撮られて困るものはないからね~」

「……(スッ)」

「……ん?」

 

 そう言うと3枚ほど手渡してくる。1枚目が……

 

「あーあったなぁ……」

 

 風子ちゃん……この写真がいつのを指しているかは分かんないけど……うん。やったなぁ……。何というか……何回か女装したな……で、2枚目が……

 

「やられたなぁ……」

 

 病院のベッドにて……あー入院した時ね。いやぁ~……あの時はやばかった。まさか手錠でくくりつけられるとは。そして3枚目が……

 

「…………」

 

 必死の逃亡……どうしよう。背後の鬼が怖い。恥ずかしいというよりあの時の恐怖がよみがえってくる……。

 

「どうです?編集したくなりました?」

「……もしやこれ以上に、僕の恐怖がよみがえってくる写真がこの中に……」

「さぁどうでしょうね?」

 

 ということで僕も参戦する。ビッチ先生がなんか言ってるけどスルーだスルー。

 

「さぁ次は学校行事ですよ」

 

 テストに夏休み、学園祭……何だか濃かったなぁ……

 

「ああ、でも撮りためた量じゃ全然足りない!目標は1万ページのアルバムを作ることなのに!」

「さっきからケタがおかしいよ~」

「それに俺らがどんどん破ってるしな」

「てか広辞苑でも三千ページねぇぞ」

「外に出なさい!衣装を変えて写真の幅を増やすのです!」

 

 そして校庭にて……生物史、日本史、宗教史……何だか、

 

「やりたい放題だね~」

「確かに。この2月の殺せんせー……もちろん受験のことでも色々と助けてくれたけど。好き放題やっていたよね」

「うん。僕ら振り回されてばっかりだよね」

 

 ししょーと渚も同意する。

 

「さぁ風人君!これを!」

「ほへ?」

 

 すると、犬のコスプレをさせられて、首輪につながれたリードを持っているのは有鬼子……いやいやいや!?

 

「酷くない!?」

「……風人君」

「有鬼子……やっぱり有鬼子もこれはおかしいと――」

「語尾にわんは?」

「――酷くないかわん!?」

「んーやっぱり可愛い!」

「た、助けてわん!」

「あはは……大変だね。風人犬は」

 

 酷い。ししょーからももはや犬扱い。

 

「……多分、君らに甘えているんだろう。」

「烏間先生」

「君らは十分成長した。一人前になった生徒たちに、今度は自分が少し甘えたい…そう思っているんだろうな」

「……そっかぁ」

「それだったらこの仕打ちは酷いわん!」

「もうこのままでいいんじゃないんかな?」

「さ、さすがにダメじゃないかな?」

 

 僕が大変な事になっている中、渚は烏間先生に尋ねた。

 

「烏間先生にとっても、僕らはそういう生徒になれたでしょうか?」

「……ああ。もし俺が困ったら、迷わず君らを信頼し、任せるだろうな」

 

 次の瞬間、烏間先生はタキシード姿に。その腕の中にはウェディングドレス姿のビッチ先生が。

 

「なんだこれは」

「烏間先生も皆に合わせてコスプレしなきゃ。いえ、試着の方がよかったですかね?」

 

 そう言えばこの二人も結ばれたらしいんだよなぁ……うんうん。誕生日プレゼントを渡してたあのときはどうなるかと思ったけど。

 

「さて、これで学校内の写真は充分でしょう」

 

 そう言って現れたのは二つのデカいカバン。人が何人も入りそうなサイズだ。

 そう思った次の瞬間。僕らは全員男女別に鞄の中に入れられた。ちなみに服は戻っている。

 

「ちょっと待て!充分ならなんで俺らバッグに詰め込まれてんだ!」

「この校舎の中だけではとても足りない。世界中で皆さんと一緒に写真を撮るんです」

 

 …………今、世界って言った?

 

「今から世界回るとか、冗談だろ!?」

「ただの卒アルじゃ……」

「ねぇアレって冗談だと思う~?」

「……なわけないでしょ。ウチの担任のことだから」

 

 そんな僕らの声をよそに殺せんせーはカバンに手をかけて、

 

「皆さん全員をゼロから持ち上げる力はありませんが……こうやってたっぷり反動をつければぁ~」

「「「聞いてない!」」」

 

 次の瞬間。僕らはお星様になった。

 殺せんせーの暗殺期限まであと……




Twitterで呟くこと、更新の告知がほとんどだった事に気付く。生存報告も兼ね、ゲームでのガチャで何か起きたら呟くことに決めたこの頃。皆様、いかがお過ごしでしょうか?

「「…………」」

私はふと思いました。ここまで投稿が空くんだったらバレンタイン回はバレンタインにやるべきだったのでは……と。

「反省していないのかな?この駄作者は?」
「僕、知ってるよーこーいうのを計画性ゼロって言うんだ」

計画性ゼロ?甘いな。計画なんて最初から存在していないんだよ。

「……誇れないからね?全く誇れないからね?」
「気付けば二周年すっ飛ばして三年目。普通に半年くらい空いたね~」

そこで、この度は私、黒ハムより、ここまでお待たせした皆様に、重大発表をしたいと思います。

「風人君。スコップ用意して」
「はーい」

聞く前から埋める用意をしないで欲しいです……

「どうせ、碌でもない発表でしょ?」
「そーそー。さっきの話からして、ガチャで爆死したとかでしょ?」

コホン。今回する発表はなんと、この作品。この3月中に完結(予定)です。

「「…………」」

驚きすぎて声も出なかったかな?

「絶対に来年でしょ。完結」
「()で予定って予防線張ってるし」

本編もラストスパート。頑張ってこの3月中に区切りをつけます。

「というわけで皆さん。この3月に本編が完結しなければ見切りをつけてください」
「区切りだけに?」

いやうまくないからね?というわけでよろしくお願いします。


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一変する時間

地味に日間ランキング……ギリギリ載ってたなぁ。すごい感謝です。
そして、本当に長く待たせていてすみません。


「な……何十万枚撮ったんだか……」

「世界30ヶ国を一日で……」

「しかも一瞬撮ってすぐに移動……」

「観光する暇もなかった」

 

 教室の至る所から荒い息遣いが聞こえる。まぁ、そんな頭のおかしな所業をした後なんだ。余程の体力バカか、疲れを感じないバカじゃない限り、普通倒れているに決まっているか。

 

「ちょ、風人君……さすがに先生疲れて……にゅや!?」

「はっはっはっ!ほらほらそれくらいの速さなら見抜けるよ~!」

 

 と、酸素ガス?を吸っている殺せんせーに手錠とナイフによる連続攻撃を叩き込む。

 

「な、何で君はそんなに元気なんですか……!」

「だって楽しいからね!ほらほらまだまだ行くよー!」

「にゅ、マジ、誰か、助け……!」

 

 全員が疲れてぶっ倒れている以上、僕を止めるものはなにもない。(鬼の)制約から解き放たれた僕は誰にも止められない。

 

「アイツの体力は底なしかよ……」

「もう驚いている気力もないわ……」

「か、神崎さん……ヘルプ……!」

「ごめんなさい……疲れて動けないです……」

「ふはははは!この僕を止められるものなら止めてみろ!」

「「「…………」」」

 

 聞こえるのは皆の荒い息遣いのみ。ふふん。勝ったなこれは。

 

「でも、何で卒アルごときにこんなに……」

「ヌルフフフ、それは楽しいからですよ。楽しいから手間暇をかけて、工夫して、持てる力の限り取り組めるんです。だからまずは自分が楽しむこと。皆さんもそういう場所を見つけてください」

「僕も今楽しいよ~!いつものスピードが出せない、遅いせんせーを追い詰めるの~!」

『確かに。殺せんせーのスピードはいつもの半分くらいでしょうか』

 

(((それでも十分速いけどな)))

 

「……先生。ちょっと、裏山に行ってきますね」

「待てぇ~!逃がすかぁ!」

 

 ということで裏山でチェイス開始。……あれ?そう言えば今日は元々進路面談の予定だったような……ま、いっか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次は風人君ですか」

「うん~」

 

 数日後。あの日はそもそも教室に帰ってきたのが夕暮れだったし、そこから面談をやる時間やごく僅かな人を残してやる気力もなかったため、面談が流れたのである。

 そんなこんなで、今日は進路相談final。言えた人から帰っていいということで、僕は割と早い段階で来た。まぁ、さっさと帰って行きたい場所あるし。

 

「さて、君のなりたいものは変わらずですか?」

「そーだよ。僕の意思は変わらないからね~」

「ヌルフフフ。入試の方も目標を達成しているようで何よりです」

「えっへん。でも、あくまで通過点。ここからが始まりだよ~」

「君の高校生活ですか……少しは落ち着いた生活を送ってくださいね?」

「……うーん……きっと多分善処すると思うからそう信じて!」

「……不安しかないですね……」

 

 明日は明日の風が吹く。高校生活がどうなるかは未来の自分次第だ。

 

「そうですね。君には一つだけアドバイスです」

「え?有鬼子を怒らせたときに上手く逃げる方法?」

「そこは怒らせないようにしてください!……前へと歩き続けてください」

「……?」

「今後の君の人生の中で、再び大切な人を失ってしまうことも、救えなくて後悔することもあるでしょう。でも、歩けなくなってはダメです。立ち止まってずっと囚われていては、また失うことになってしまう」

「……大丈夫だよ。確かに、僕はずっと立ち止まってしまっていた。でも、ここで皆から前へと歩き続ける力を貰った。心配しなくていいよ。動けなくなってしまう程の悲しみ、その中で藻掻く辛さ……そして、それでも前へと進むことの大切さ。……ここで学んだから大丈夫。僕はもう立ち止まらない。一歩ずつ何があっても前へと進む。だって、それが大切だと信じているから。それに、もし誰かが前の僕と同じ状況に陥っていたなら、今度は僕が力を授ける……何かまとまらないけど、なんとかしてみせるよ!」

「ヌルフフフ。それならいいです」

「あ、そうだ。せんせー。僕からも一つだけ……」

 

 僕はあることを言う。すると、せんせーは頷いてくれる。

 

「じゃ、僕はこれで~」

「気を付けて帰ってくださいね」

 

 見送るせんせーの顔は何処か笑っていた気がする。

 そして、僕は目的地に向かう……その途中で電話がかかってきた。

 

「もしもし~?」

『あ、お兄ちゃん~』

「涼香か~どうしたの?」

『いやぁ~雷蔵君と帰るんだけど暇でさぁー暇潰し?』

「そう?」

『そうそう。ということで少し話そうよ』

「へーい」

 

 といきなり言われても話題なんて思いつかないんだけど……うーん。あ、

 

「そう言えば涼香って高校どこ行くの?」

『あれ?言ってなかったっけ?風人や有希子ちゃんと同じだよ。ちなみに雷蔵君も』

「ほへぇ~」

『いやぁー試験会場では驚いたよ。何か大量の似た顔の人たちが二人を大声で応援しているんだもん。あ、決してそれを見て、二人の友達って思われたくないから見つからないようにしていたとかはないからね。決して違うようん』

「絶対それじゃん~」

 

 と言われたけど、逆の立場なら絶対に避けてるからなぁー……うん。あれは殺せんせーが悪い。

 

『あ、そうだった。前に言ったアレ。日付とか大丈夫?』

「うん。今のところ大丈夫だよ~」

『よかったぁ。それにしても、変わったねぇ~お兄ちゃんは』

「そう?」

『うんうん。去年までと大違い。この成長っぷりには感動を隠せない』

「ふふん。日々進化しているのだよ~」

『いいことだね~あ、雷蔵君来たから切るね~じゃ』

「うん。また今度~」

 

 ということで切れた電話。そっかぁ、同じ高校かぁ……偶然ってすごいなぁ……本当に偶然かは知らんけど。僕が何も情報を得ようとしなかっただけって説は少なからずあると思う。

 そんなこんなで、松方さんのところに行く。いやぁ……顔パスってやつ?働いている人たちに顔を覚えられているから楽に入れるね!

 

「あ!お兄さん!」

「やっほーあおいちゃん」

 

 色んな子がいるけど、ここで一番仲がいいのは相変わらずあおいちゃんだ。仲がいいのはいいことだよね。うんうん。

 

「あれ?この時期は大丈夫なの?」

「うん~一段落ついたからね。まぁ、卒業式とかあるから今度来るのは春休みかな?」

「そうなんだ……お兄さん卒業できるんだ」

「うんうん……ってそこなの心配!?僕はこう見えて優秀なんだよ!?」

「確かに。性格に反して優秀ですよね……でも、本当に優秀な人って自分から優秀とは言わないんじゃ……」

「うぐっ……」

 

 何だろう。彼女の言葉が心に突き刺さる。

 

「そう言えばお兄さん。私ね、来年からはしっかりと学校に行こうと思うの」

「おぉー」

「お兄さんを見ていたら学校生活も楽しそうって」

「そっか~よしよし」

「……お兄さんはこれからも会ってくれる?勉強とか色々と教えてもらいたいなーって」

「もちろん~」

「約束だよ?」

「じゃあ、僕からも。僕よりも楽しむんだよ?学校生活」

「???お兄さんを越えるって大変だと思うんだけど……?」

「あはは~案外そうでもないかもよ」

 

 その後は、他愛もない話をして、軽く勉強を教えてから施設を出て行く。今日はそのまま家に帰るだけだが……

 

「何だろう?」

 

 何かいつもと空気が違うように感じる。気のせいかな?

 

 

 

 

 

 そして、それが気のせいではないことがすぐに分かった。

 家の玄関のドアを開く直前、空から一筋の光が僕らの校舎のある方へと降り注ぐのが見える。

 玄関を開き、鞄を家の中に投げ捨て、屋根の上に登る。すると、僕らの校舎のある山の上を覆うようにして光のドームが形成された。

 何かある。何かが起きている。察すると同時に学校に行こうと思う僕に届いたのは、一通のメール。

 

「先生から……?」

 

 そのメールを開く。烏間先生から届いたのは、自宅待機命令。そして、暗殺のことを他言しないようにする箝口令が改めて敷かれた。

 

「風人?ただいまの前に鞄が飛んでくるって……」

 

 母さんが屋根の上に居る僕を見つけて注意してくる……が、

 

「ごめん。今から出かける」

 

 屋根から飛び降りて校舎の方へと走って行く。

 自宅待機命令?生憎、どう考えても何かとてつもないことが起きているのに、自宅で待つだなんて選択肢は僕にはない。

 

「風人君!」

「有鬼子!」

 

 すると、走ってくる有鬼子の姿が。おそらく他の皆も各々で動こうとしている。

 

「磯貝君から、一旦集まって情報共有したいって」

「分かった」

 

 ただ、バラバラで動いても意味はない。一旦集まるのは正しい判断だろう。

 とりあえず、集合場所に着くと、続々と集まってくるクラスメイト。

 聞こえてくる情報を統合すると、山に繋がる主要な道路は装甲車両が封鎖。光のドームを形成すべく、学校へとレーザーを発射している建物は戦車などの軍事兵器を用いて要塞化。その建物への100m以内の侵入を禁じられている。

 更には、殺せんせーや本体の律とも連絡はできず、あの山に繋がる通信や電源などは全てカットされてしまった。

 

「……要塞化した建物や山に誰にも近寄らせない……兵隊の数も一万を超える万全な体制……」

 

 明らかに一日や二日で計画、実現できる規模じゃない。全て前々から秘密裏に準備されていた。これが国規模での確実で最後の暗殺ってわけか。

 

『まもなく、政府からの緊急発表があるそうです!』

「律!発表の様子を映して」

『はい!』

 

 総理大臣からの発表。巨大光線と光のドームは、月を壊した元凶の怪物を殺すための兵器であること。その怪物を殺さないともうすぐ地球が滅んでしまうこと。また、怪物は政府を脅し、僕らを人質に教師になりすまして学校に潜伏していたこと。各国政府は怪物を暗殺する準備を進めていたこと。

 他にも各国の保身や思惑が混ざった声明。これは、世間に殺せんせーだけが悪者という印象を与えた。

 そして、とどめのレーザー発射日は3月12日。その日は地球が滅ぶかもしれない前日。

 

「…………っ!」

 

 この報道により、世間が騒然となっているのは目に浮かぶ。だが、そんなの関係ない。

 僕らは全員学校へ向けて走り出した。

 

 

 

 

 

「なんだ君たちは!?」

 

 しかし、行く手には警備の兵隊たち。

 

「生徒だよ!あそこの教室の!」

「バリアの中入れてくれよ!」

 

 こちらが通ろうとするのを力尽くで止めようとする。

 

「やめろ!生徒たちに手荒くするな!」

 

 そんな時、烏間先生が現れた。

 

「烏間先生!」

「あれは一体なんですか!?」

「それにあの声明。明らかに殺せんせーだけが悪いみたいじゃないですか?」

「俺すら直前まで聞かされてなかった。おそらく奴に勘づかれないようにするためだろう」

 

 なるほどね……徹底した情報管理ってわけか……烏間先生にさえ流さないなんて……

 

「あの声明は君たちのためだ。脅されたと言えば余計な詮索をされずに済む。全員揃っているならちょうどいい。口裏を合わせるんだ!」

「いくら烏間先生の言うことでも、それは納得できないですよ」

「そうです!殺せんせーと会わせてください!」

「ダメだ。人質に取られてしまえば状況が悪化する」

 

 人質に?本当に声明で流れていたようなせんせーだったらするだろう。

 でも、あの殺せんせーが?僕らが関わってきたあのせんせーが、自分の保身のために僕らを人質にするわけがない。

 

「……っ!」

 

 そう思っていると、人の大群が押し寄せてくる。カメラやマイクの機材を持った集団……マスコミだろうか。

 

「くっ……!」

 

 フラッシュに質問の嵐が僕らを襲う中、現状が非常にマズいことを認識する。

 マスコミ側としては、怪物に支配されてきた生徒たちなんて言うスクープの種。逃すわけがない。それに、状況が状況である以上、彼らもせんせーを始めとした情報が欲しいのだろう。

 僕らの目の前には警備員。後ろには記者などの報道陣。強引に突破もできないし、ここに居てもさらされるだけ。その上、警備員やマスコミはこの騒ぎを聞きつけてドンドン増えていく。

 

「皆!一旦帰ろう!こんな状況じゃ何を言っても聞いてくれない!」

 

 磯貝君の提案で一斉に走り出す僕ら。警備員側は持ち場から動くことはできず、マスコミ側は、鍛え抜かれた僕らに追いつくことなどできなかった。

 双方を振り切った僕ら。話し合い、手分けしてバリアの周囲や発生装置を偵察に行くことにする。

 

「やっぱり、主要な道は全滅だね」

「山にすら入らせる気がないね~」

「バリアの発生装置も警備が分厚い」

「全員で掛かっても建物一つ攻略することができる確率はかなり低い。それが複数……明らかにバリアの解除は無理ゲーだね」

 

 有鬼子と偵察に行くが、どこもかしこも兵隊に武装車両に。いや、それだけじゃないか。マスコミや野次馬などの一般人も僕らからすれば敵に見えてしまう。四面楚歌、八方塞がりってやつだろうか。

 

「たった一日でここまで変わるなんて……」

「一日というか、ここ数時間で、だよ」

 

 とてもじゃないが昨日までの景色とは大違いだ。

 

「そろそろ時間だね」

「そうだね。戻ろっか」

 

 戻ると、他の皆はすでに集まっていた。やはりというか、包囲網は万全。更に明日以降は増援が来る始末。

 

「強行突破でしょ。今夜のうちでも」

「……そうだな」

「明日以降なんて悠長なこと言ってられな……」

 

 次の瞬間。僕らの近くを数台の車が通った。

 ……そして、車の通った後には、誰も居なくなっていた。



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逃走の時間

お気に入り数が4桁の大台に乗った……!
皆さん応援ありがとうございます!これからもよろしくお願いします!


 いきなり、目隠しと手錠のようなもので拘束され、何処かに連れ去られた私たち。

 

「……ここは?」

 

 目隠しが外され、周りを見ると、同じく拘束されているクラスメート。そして、黒い服を着た外国人たち……

 

「今作戦の司令本部、防衛省の施設をお借りしている」

 

 眼鏡を掛けた、如何にもこの中で一番偉いって思われる人が答える。

 

「君たちはここで、暗殺の完了まで我々の保護下に置かれる事になる。親御さんにも連絡済みだから安心してくれたまえ」

 

 ……保護と言っているけど、私たちからすれば監禁に等しい。要するに、邪魔をしてきそうな私たちを、作戦が終わるまでここに置いておこうと…………あれ?

 

「……足りない」

「え?」

 

 こういう時に真っ先におかしなこ――コホン。反論とか色々と言いそうな彼が居ない。

 

「あぁ、よく気付いたね。まさか、あの時、一人取り逃がす……いいや、我々の捕獲を避けるものが居るのは予想外でね」

「まさか……!」

「和光風人君だったかな。我々の捕獲を唯一逃れた者。あの動きと判断力。間違いなく普段から追っ手に追われ、逃げ慣れている証拠……やれやれ、まさか逃走の手練れが居たとは。手間を増やしてくれる」

「「「…………」」」

 

 一瞬、クラスメートの視線が私の方を向いた気がした。

 そ、そんなことはないはずなんだけどな……風人君を()()()()()()()()()追いかけて捕まえて調きょ……間違えました。お説教しているのは週に10回くらいだし……最近は前よりこれでも減った方だし……

 

「だが、彼はこちらの手の中と言えよう。彼の捕獲に既にいくつか部隊も動いている。それに、街中のカメラによる監視。更には彼のスマホのGPSを用いて居場所特定……捕まるのも時間の問題と言えよう」

 

 たった一人の中学生を捕まえるためだけに何て労力……でも、こんなことされたらすぐに……

 

「こちらA班!見失いました!」

「こちらB班!完全に撒かれました!」

「こちら監視班!一切カメラに姿が映りません!」

「大変です!何故か彼のスマホの反応が至る所に……!」

「「「…………」」」

 

 謝るべきではないことは分かっている。この状況で、風人君が捕まらない方がよいことも分かっている。……それでも、ごめんなさい。うちのバカな彼氏が……

 

「…………ま、まぁ、所詮はただの中学生。その内ボロを出す」

「そ、そんなことより!殺せんせーを殺すのを待ってください!」

「そうです!爆発の確率は1%以下なんですよ!?」

「殺す理由なんてないじゃないですか!」

「はぁ……子どもには分からないだろう。いいか?1%でも100%でも世論は殺せと言う」

「な、何でだよ」

「大衆はね。一度恐怖に火が付けばもう理屈なんて通用しない。0%にならない限り、恐れて騒ぎ続ける」

「「「…………」」」

「それに1%という数字はね。地球というチップを賭けるには重すぎるんだよ」

 

 …………この人の言いたいことは分かる……確かに、1%……でも、されど1%なんだ。1%を引けば……地球は……私たちは。でも……そうだとしても、

 

「しかも奴の前世は残虐な殺し屋……生かしておけば何を起こすか分からない。要するに、ヤツが死ぬのは自業自得というこ――」

 

 グシャッ!

 

 次の瞬間。寺坂君の足が、偉そうに喋っていた男の人の顔に刺さる。

 

「あのタコを正論で語るんじゃねぇ!」

 

 そして、私たちの言いたいことを思い切り言ってくれた。

 

「そもそも誰だテメェ!名前も知らねぇモブの分際で!」

 

 ……この場に風人君が居なくて本当によかった。絶対にややこしくなる。

 

「失敬な。私の名前は――」

「どうやら、完全に洗脳されているようだ……あの怪物に」

 

 蹴られた人に代わって前に出た男の人。この人……恐ろしく強い。

 

「連れていけ」

「はい」

「私はここで失礼する。君たちのような輩が、何かトラブルを起こさないように見張るのが仕事でね。ああ、安心したまえ。直に君たちの最後の仲間も保護されるだろう」

 

 そう言って去って行く……風人君。あの人は……ううん。あなたの敵は……相当ヤバい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し時間は戻って、何台かの車が過ぎた後……

 

「あっぶな……」

 

 僕は、近くの陰に身を潜めていた。

 車が僕らの横を通る瞬間にドアが開いて、いきなり捕獲されかけるとは……いやはや。それにしても、普段から有鬼子から逃げて来て身に付いた捕獲者の気配を感知する能力……ここに来て役に立つとは思わなかった。まぁ、それを持ってしても有鬼子には捕まるんだけどね。

 

「ただ、僕以外捕まっちゃったか……」

 

 流石に自分一人が逃れるので精一杯。捕らえようとする縄の数々を避け、一瞬車の上に乗ったり、色々と動くことで捕らえさせない……うん。流石に仲間(クラスメート)を気遣う余裕なんてなかった。

 

「……っ!あれは……」

 

 多分、僕を捕まえるためだろうか。さっきの奴らかは知らないが、何人かの集団が僕らを捕まえた場所に集まっている。

 

「どうする……?」

 

 クラスメートを捕らえたあの手際……間違いなく素人じゃない。完全にプロのそれ。つまり、捕らえようとしたのは国から派遣されたヤツら?確かに、監視カメラとか解析されれば、僕らが情報を集めたりと怪しい行動を起こしているのはすぐに分かるだろう。

 でも、それにしてはあまりに捕らえる判断が早すぎないか?万全を期す……でも、国からすれば僕らなんて30人くらいの中学生集団。放置していても……

 

「いや、最初からか……」

 

 僕らがこんな作戦をいきなり実行されれば、何かしらのアクションを起こすことは容易に想像が付く。つまり、僕らが動いたら捕まえる……みたいなプランを先んじて考え、共有しておいたのだろう。

 

『居たぞ』

『ああ』

 

 ライトが当てられる。見つかるのが思いの外早かった。……いや、待て。流石に早すぎる。気配も消していたし、周りは暗闇……普通はこんなに早く見つからない。

 そうだとすれば、何か見つけたトリック……ああ、なるほど。

 

「律。もしかして、特定されてる?」

『すいません!頑張って抵抗しているんですが……!』

「この声は盗られてる?」

『まだ、このスマホの位置を特定されているだけです……』

 

 いや、それだけでもヤバいっての。まるで、ヤンデレのストーカーみたいだね。

 まぁ、冗談は置いておいて、ハッキング……大体、彼女と(地獄の)かくれんぼをして見つかるときは、本体の律を経由してスマホで位置を特定されているとき。なるほど……本体の律を使わず、モバイル律がやられるってことは……

 

「やっぱり相手がヤバいなぁ……律。座標ズレを起こすとか、複数の機器に僕のGPS情報を偽装できる?」

『や、やってみます!』

 

 僕は僕で、なるべく普通のルートを通る。途中から電源を落とすことも必要だけど……まだ早い。流石に何にも情報を得られていないのに、それは危険すぎる。

 

「こりゃあ長期戦だなぁ……」

 

 流石に長期戦になると……野宿も覚悟か。だとすれば、生きるために最低限の物資が欲しい……流石にこの服装、装備だと持って半日……仕方ない。イチかバチか、家に帰るか。

 

「律。出来るだけ多くのダミーをお願い。危険だけど、一旦家に帰る」

『了解です』

 

 とまぁ、家の付近の屋上に何とか来たけど……

 

「いやぁ……やっぱり厳重警戒かぁ」

 

 家の外には見張りが沢山。家に帰ることは読まれている……いや、家に帰る可能性があるからこれだけの見張り……だけど、仕方ない。この装備だと動きが制限される以上必要なリスクだ。

 

「二階からただいま~」

 

 まぁ、まさか相手も二階から家に帰る中学生(バカ)が居るとは思わず、下しか警戒していないから帰宅(侵入)は難しくなかった。

 

「とりあえず、この体操服に着替えるか」

 

 ぶっちゃけ、これがあれば最悪戦える。食料とか……いや、今はいったん考えないでおくか。

 

 ガチャ

 

「…………っ!」

 

 着替え終わったタイミングで扉が開く。そのことに驚きつつも、臨戦態勢に入ることに。そこに居るのは母親だった。

 

「全く、玄関から帰らないバカ息子が……」

「母さん……」

 

 マジかこの人。音を立てずに静かに帰宅したのにバレたんだけど……?

 

「今、防衛省の方たちから、あなたを保護するって言われたわ。渦中にあるあなたたちの安全と平穏のためにね。……ただ、あなたは断ったらしいわね?全く、そのせいであなたが家に帰ってきたら教えてくれだの、家の周りに見張りを置くだの、息子さんを説得してくれだの……はぁ。とんでもないことに巻き込まれたわ」

「…………っ!」

 

 なるほどね……だから僕らを捕らえることができたんだ。親たちに、国が保護していると説明すれば、最もらしい理由がある以上、反論や反発する親は少ない……いや。そもそも、国という強大な存在がバックに居れば、すぐに納得してしまうか。

 だが、この状況だと非常にマズい。……ここで差し出されたり、報告されたら終わり……。

 

「風人。答えなさい」

 

 何時になく鋭く感じるその目。その目はまるで僕のことを見極めているような、見定めているような目だった。

 

「何であなたはここまでしているの?何であなたはここまでして逃げているの?」

「……殺せんせーともう一度会うためだよ。このまませんせーと別れるなんて嫌だ。相手が国であっても、この答えは変えられない。もう一度会う。会ってどうするかはまだ何にもわかんないけど、そのためには捕まっちゃダメな気がする……だから……!」

「……そう」

 

 大声で反論したらここに居ることがバレてしまう。だから声は抑えたけど……これで伝わったかは分からない。いざとなれば……

 

「…………分かったわ。気をつけて行きなさい」

「……え?」

「あなたの覚悟は伝わったわ」

「いいの……?」

「バカね……いい?相手が防衛省だろうが、何だろうが……自分の息子を差し出せって言われて、素直に差し出せるわけないっての」

「…………!」

「それに、あなたが自分の意志を持って断っているなら尚更……ね?」

 

 この人が……

 

「父さんも同じよ。あなたのやりたいことなんでしょ?なら、全力でやりなさい」

 

 いや、この人たちが僕の両親でよかった。ちょっと恥ずかしいけど、初めてそう思えた。

 

「ただし。すべて終わったら、絶対に帰ってきなさい。今のあなたの帰る場所はここよ」

「……うん。じゃあ、いってきます!」

「いってらっしゃい」

 

 そう言って窓から跳ぶ。その足は普段より軽く感じた。

 レーザー発射、最終暗殺まで後……



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準備の時間

 どうも和光風人です。

 あれから次の日の朝になりました。

 ご存じの通り、昨日から逃亡生活を開始しました。

 さて、そんな僕は今、どこにいるでしょうか?

 

「和光風人君」

「り、りじちょー……!」

 

 正解は、理事長……つまり浅野君の家でした。え?どうしてこうなったんだっけ?

 

 

 

 

 

 というわけで、あの後のことを思い出す。

 とりあえず、昨日、家の二階の窓から飛び出た僕。まぁ、案の定というか何というか、まず監視カメラのあるところに居ると、すぐに捕まえる人たちが飛んでくるため、そういうところに居られない。住宅街……と思ったが、有鬼子の家には見張りが少し残っていたし、あろうことか隣町まで行って、涼香、雷蔵、そして千影の家付近まで行ったけど見張りがいるという事態に。

 やはり……というか、僕が個人的に頼れそうな人の家は全滅していたのだ。監視カメラのあるところもダメということから、残る居場所が限られるなぁと。そう思っていた矢先に一通のメールが来たのだ。差出人は不明。送られてきたのは、暗号化されていたけど、とある住所。そして、指示には、スマホの電源を落とし、追っ手を撒いてから来いと。

 罠……そう考えたが、今の僕にはこの誘いを乗るしかない。考えたけど、流石に警戒が厳しすぎる。身の回りのすべてが敵。人はもちろん、施設なんかもアウト。明日の食事もままならない上、日が昇れば敵は増える。その上、スマホは充電が切れれば使えなくなり、時間が経てば僕自身何もできない状況に陥る。

 ……罠覚悟で行くしかない。そう決意し、警戒しつつも指示に従い、指定された場所に行くと、

 

「和光風人君」

 

 車に乗った理事長が居た。

 相手が理事長……まぁ、担任がダメで、親も説得に応じなかった以上、この人を差し向けるには充分な理由がある。非行に走った(?)生徒の説得……とでも言えば綺麗だが、この人は敵の可能性も充分ある。だって、合理主義者というか……うん。逃がすメリットがない。

 

「私を信じるなら乗りなさい。あなたを保護します」

「…………」

 

 ここで逃げるという選択は大いにある……が、逃げたところどうするって話だ。罠であるなら既に周りには捜索部隊が目を光らせているだろう。それに、この人が本気で僕を捕らえるつもりなら、確実な成功のため保険に保険を重ねているはず。

 何が言いたいかと言うと、この人が敵なら、僕がここに来た時点で詰んでいる。だから、

 

「乗ります」

「よろしい。身をかがめていなさい」

 

 後部座席を開けてくれたが、誰かが居るわけでもない。

 静かに走り出す車。言われたように、身体を低くして外から見えないようにする。

 

「……着きました。降りて結構です」

 

 しばらくすると車が止まる。そこは……

 

「家?」

「私の家です。こちらへどうぞ」

 

 そう言って中に入っていく…………ん?流石に他の皆がここに居るわけないよね?

 

「言ったでしょう?保護すると」

「……本当だったんだ……」

「えぇ。こちらへ」

 

 通されたリビングには……

 

「か、烏間先生!?」

「…………」

 

 頭を抱えていた先生がいた。あれ?防衛省が敵ってことは……この人も敵じゃね?

 

「まぁ、君が予想を超えてくることをするのは、思い知らされていたが……まさか、あの捕獲から逃れるとは……」

「あはは……何か、すみません」

「いや、いい。こっちも君たちを監禁までするとは読めなかった。もしそうなら、もっと対策も出来たが……」

「監禁……やっぱりですか」

「ああ。作戦に支障が出る……君たちを捕らえた集団のリーダー、伝説の傭兵のホウジョウがそう言っていた」

 

 伝説の傭兵って……ああ、何か……うん。名前だけで勝てる気しないや。

 

「捕まった彼らの安全は保障する。君は……大人しく捕まる気はないようだな」

「そうですよ~」

「ただ、君ひとりでは無理だ。クラスの仲間を解放するにも、奴に会いに行くのも」

「……っ!そうだけど……でも……!」

「君はここで数日かくまってもらう。それが君の任務だ」

「でも、数日だなんて言ってたら……!」

「遅くはない。君の仲間たちを信じろ」

「…………分かりました」

「何かあれば秘密裏に伝える……浅野理事長。急な頼みで申し訳ないのですが……」

「構いませんよ。彼も私の生徒の一人ですから。生徒の安全を保障するのは私たちの仕事ですよ」

「ありがとうございます。では、これで」

 

 そう言って家から出て行く烏間先生。

 

「詳しい話は明日以降。今日はもう夜も遅い。風呂に入って寝なさい」

「……はーい」

 

 

 

 

 

 あぁそうか。そんなことがあったな……

 

「……で、何で貴様がここに居る……!」

「あ、浅野君。えっと……遊びに来たよ~」

「違うだろ!何でこんな状況で、お前がここに居る!」

「え?……あ、学校って臨時休校だよね?もしかして、通常通りある?」

「学校は立ち入り出来なくなっている……じゃない!明らかにお前を含めたE組は、この事態の渦中にあるだろ!なぜそんなヤツがここに居ると……!」

「まぁまぁ落ち着いてよ~。ほら、紅茶でも飲む?」

「明らかにおかしいだろう!?」

「あ、しばらくここでかくまってもらうからよろしくね~」

「どういうことか説明しろって言ってるんだ!」

「友達の家にお泊まり会~いぇい」

「さっき、かくまってもらうって言ってただろうが……!」

「じゃあ、私はマスコミの会見に行ってくる」

「あ、いってら~りじちょー。気をつけてね~」

「ちょっ、今この男と残さないで下さ……」

 

 浅野君の声はむなしくも、理事長には届かなかった。

 

「……どんまい」

「うるさい……はぁ。貴様には問いたいことが山のようにある」

「そうだよね……あ、僕の名前は和光風人だよ~よろしく!」

「知ってるわ!」

 

 何だか大変そうだなぁ……まぁ、仕方ないか。世間はこんな状況だし。

 ところで、皆どうしているんだろう……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私たちは保護という名の、囚人のような扱いを受けていた。最低限の食事などが確保されているだけで、私服は没収。クラスの全員が一つの大きな部屋に入れさせられ、重々しい扉が出口を塞ぐ。この部屋から出ることはできない上に監視カメラで監視されている……本当に囚人に近いそれだ。

 さらに映っているモニターからは、流れているのはニュースばかり。専門家の意見や、街頭でのインタビューの様子が流れるも、どれも殺せんせーを非難し、私たちを憐れむものばかり。ただ、事情も知らないような人たちに可哀想に思われる……それが苦痛に思える。

 

「でもよかったね」

 

 そんな中、茅野さんが話し掛けてくる。

 

「うん……無事そうでよかった」

 

 少し前に烏間先生がやって来て、表面上は私たちを諭すように、裏では私たちに情報を渡してくれた。

 当然、殺せんせーの警備に関することもだが、風人君の無事も分かった。一応、これ以上の無茶をしないように釘を刺しておいたらしいけど……

 

「まぁ、大丈夫だよね……」

 

 流石に一人で何とかしようとはしてないようでよかった。……それにしても、よく逃げられたなぁ……全く、無茶するんだから。

 言葉の裏を読むのだったら、風人君にも情報は共有されている。寧ろ、私たちに比べれば、遙かに情報を共有しやすい位置にある。

 脱出のチャンスは必ず作ってくれる……だから、私たちは、殺せんせーに会うために、ここから出られたときの為に作戦を立てることにする。一筋縄ではいかないことは承知の上。だから……

 

「必ず、全員で……」

 

 何処かにいるであろう彼を想いながら私は、今、やれることをする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、和光風人君。君には授業をします」

 

 その日の夜。僕の前にはりじちょーがいた。昼間は浅野君と遊ぶ……もとい勉強で対決をしながら、会話をしていた。向こうから探りを入れてきたけど、E組の根幹に関わるようなことは全部ごまかした。いやぁ、大変だったね。

 

「どうにも、ああ言うマスコミばかりを相手にすると疲れてね……私も人間だ。だから、ストレスなどを発散したくなるんだよ」

「…………」

 

 まず思ったこと。それ、授業じゃなくね?

 

「それに身体を動かさなければ鈍ってしまうんだよ。この歳になるとね」

 

 ちなみに、昼間のうちに僕の服や手錠などの諸々がここに届けられた。しばらくは、ここに住めるね。やったね。

 

「君の得意な戦術は騙し討ち……確かに有効だ。普段の生活においても、真正面から殴り合う機会なんて滅多にない。だから、君にはこの数日、一つの課題を与える。……私にこのナイフで一撃当ててみなさい」

「…………!」

 

 そう言って取り出したのは対殺せんせー用ナイフ。それを僕の方に投げてくる。

 

「もちろんバカみたいに正面から向かってきてもいいですよ。ただ、当てられるとは思えないのでやめた方が賢明です」

 

 それを受け取りつつ、イメージしてみる。この人に正面から堂々と……なるほど。そんな愚直な殺り方で殺れるほど僕は強くなんてない。

 

「縛りを設けよう。君が攻撃に失敗すると補習課題を贈呈。また、成功するまで一日経つごとに補習課題を贈呈。この補習課題の提出がない限り、次の攻撃を仕掛けることは出来ない」

「…………」

 

 ……え?めちゃくちゃ嫌なんですけど。補習課題?りじちょーの出す?マジでやりたくないんですけど……?

 

「ちなみに私以外にこのことをバレると失敗。また、君が出たいと思っている時までに一度も当てられなくても失敗。…………君はここから出られないよ」

「…………はい?」

「もちろん、一生とは言わないけどね。ただ、君の担任と会うことはないだろう。……クリアしないと出られない。君のことだ。ゲームみたいで燃えるだろう?」

 

 おっと、僕はどうやら絶体絶命のピンチにあるようだ。

 

「代わりに君の生活と安全は保障しよう」

 

 なるほどなぁ。安全は保障されたかわりに、うかうか遊んでいられないらしい。

 

「ちなみに拒否権はないよ。さぁ、ゲームを始めよう。和光風人君?」

 

 りじちょーを敵に回す……なるほど。まさか、この人がここで敵に回るとは……!

 

「後悔しないでくださいね~!」

 

 理事長のことだ。たとえ、僕が失敗し続けて、時間切れになりそうでも、絶対に手を抜いてこない。このゲーム……いや、理事長からの特別試練というべきか……絶対にクリアする。



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脱出の時間

 烏間先生がやって来た日から私たちは、大人しく保護されている振りをしながら、出られた時の為、あらゆる作戦を立て、共有し、連携の確認をしていた。もし、山の中まで入れたときの指揮はカルマ君が行うことになり、後はここを出るだけなのだが……

 

「……どーすんだよ。もう今日だぞ。レーザー発射」

 

 いよいよレーザー発射当日になってしまった。寺坂君の言う通り脱出の隙はなく、また烏間先生などが来ることもなかった。

 時間が経てば経つほど募っていく不安。このまま終わってしまうのではないかという不安に押し潰されそうになる。

 

 ガゴォォン

 

 そんな時だった。唐突に重々しく扉が開いたのは。

 

「いいか?本当に顔を見るだけだぞ」

「分かってるわよ。一目見れば安心だから」

 

 聞こえてきたのは女性の声。声のする方を見ると……

 

「あ~ん、生徒たち~!心配したわ~!」

「「「…………」」」

 

 ビッチ先生が先生に似合わない笑顔でやって来た……ああ、こんな時に……ビッチ先生なんだ。あまりのことに私たちがどうしようもない空気でいると……

 

 がしっ!ぶちゅ!

 

「!?」

 

 唐突に竹林君の顔を掴み、キスをする。先生がキスをすること事態は正直見慣れていたが、あまりに唐突なことに全員が固まる。

 

 ぶちゅ。ぶちゅ。ぶちゅ。ぶちゅ。

 

 そして近くに居た、矢田さん、私、渚君、三村君にもキスをする。

 いつもに比べると短いキス……ただ、キスの後に口の中に違和感があった。

 

「皆、元気?元気ならいいわ。じゃ、帰るわね」

「ほ、ほら。もういいだろ?」

「もー、外に見張りがいるじゃない。こんなことでビビらないでよ~」

 

 そう言って連れてかれるビッチ先生。

 

「じゃ、またねガキども」

 

 ガゴォォン

 

 そして、扉が閉じられる。キスされた面々は私を含め、口の中に違和感を感じる。しかし、他のほとんどの人が何しに来たのか分かっていない様子だった。

 

「な……何しに来たのよ!ビッチ先生!」

 

 茅野さんが泣きながら渚君に問いかける。と、同時に私たちは口の中の違和感の正体に気付いた。

 

「…………これは」

 

 私たち五人の口の中から機械の部品と丸めた紙が……え?何これ?

 

「僕の爆弾一式だ」

 

 …………どうしよう。色々と凄いような……というか、どうやって本当に口の中に入れたんだろう。いや、よくこれだけ入っていたというか……

 

「よし、これで脱出できる!」

「今すぐ行こう!」

「待った」

 

 やっと訪れた脱出の機会(チャンス)。そのことに、一早く脱出しようという人たちを止めたのはカルマ君だった。

 

「どうしたんだよ?早く行かないのか?」

「去り際にビッチ先生。ハンドシグナルで五分待てと伝えてきた。……恐らく、五分後が一番の脱出の好機になる」

「「「……っ!」」」

「……分かった。全員、脱出の用意。矢田。その紙には何て?」

「待ってて。えっと、これは……見取図?ここからの脱出経路が書いてあるみたい」

「見せて」

「うん」

 

 カルマ君や磯貝君が脱出の経路の確認をする。一方の私たちも竹林君が爆弾を組み立ていつでも使えるようにし、他の人たちもすぐに動けるよう軽くストレッチなどをしていた。

 そして、ビッチ先生が来てから大体五分が経過したとき、

 

 ガゴォォン

 

 再び重々しい扉が開いた。そこに現れたのは迷彩柄の服を着た男性……帽子を深く被っているけど、この気配って……

 

「……風人君?」

「ご名答~!さぁ、脱出するよ~」

 

 帽子を軽くあげ、私たちに笑顔を向けてきたのは、唯一捕まらなかった、私たちのクラスメートで私の彼氏、風人君だった。

 色々と言いたいこととかあるけど、今は脱出が優先。

 

「皆、行くぞ!」

「「「おう!」」」

 

 磯貝君の号令と共に、一斉に飛び出していく私たち。部屋から出ると、すぐ脇には眠らされている男の人……さっき、ビッチ先生が言っていた見張りだろうか?

 

「風人。このルートは安全?」

「うん~カメラは律がハッキング済み。だけど、音はなるべく出さないでね」

 

 それに、モタモタしていたらバレるから急いでね~といつもの軽い調子で言う。

 脱出マップは完璧のようで、私たちが通る道には誰も居なく、それでいて安全に通れている。最後の扉だけ竹林君が軽く爆破し、通れるようにする。敷地から出てすぐのところには先ほどと違い、真面目な表情のビッチ先生が。そして、私たちの分の靴が置かれていた。

 

「遅いわよ。私の完璧な脱出マップがありながら」

「ビッチ先生。これって……」

「カラスマから頼まれてね。でも、思ったより時間がかかっちゃったわ。E組教師を口実に通って心を開かせ、休憩室で見張りが談笑する習慣を作って、あんたらの脱出経路を確保するまで。でも、どこにでも居るわね。頭の固い見張りが。まぁ、カゼトが手筈通り眠らせたから問題なかったでしょうけど」

「いえす~監視室に忍び込んで律による簡単なハッキングもね~まぁ、僕も脱出に時間かかっちゃったから、お互い様ってことで~」

「え?脱出って…………風人君も捕まっていたの?」

「いやぁ~本当に辛かったよ……」

 

 すると何処か遠い目を向ける風人君。……そうなんだ。きっと、何処かで同じように……

 

「一日三食、決まった時間に栄養に配慮された豪華な食事が出て。お風呂がそこそこ広くてゆったり出来て。ベッドがふかふかでそこから出たくなくなって……」

「「「…………」」」

 

(((コイツ……殺す……!)))

 

 ……風人君はここで殺っていいと思う。

 何でこの子はそんな贅沢な生活を送っていたんだろう。囚われの身だった私たちなんて、最低限の食事。明らかに簡素な作りの共同風呂。布団もよくある敷くタイプで全然ふかふかじゃなかったし……君は追われていた身だよね?私たちは()()保護されてた立場だよ?おかしいよね?この格差は一体何なの?

 

「そして、攻撃に失敗すると補習課題という名の地獄が待っていて……あぁ、後一日早く当てたかった……」

「「「…………?」」」

 

 ……一体、風人君はどこに居たんだろう。凄い不思議だ。

 

「それよりレーザーの発射時刻は日付が変わる直前なんですってね」

 

 と、ビッチ先生の一言で我に返る。そうだ。風人君を捕らえ問い詰め吐かせることはいつでも出来る。今は、やるべきことがあるんだ。

 

「どういう結果になるか……それは誰にも分からない。けど、明日は卒業式の日なんでしょ?最後の授業……存分に受けてらっしゃい」

「「「はいっ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆は各自家に帰って、準備するらしい。らしいと言うのは、僕は自分の家を出るときに準備はしてきたし、すべて終わるまでは帰らないつもりだからである。潜入する時に奪っておいた服をビッチ先生に押し付け、再び浅野家に来ていた。

 

「無事に会えましたか?」

「えぇ。色々とありがとうございました」

「礼には及びませんよ」

 

 この家から出る条件だったナイフ当て。結局、成功したのは今日のお昼だった。

 起床時、おはようございますという挨拶と共に、ナイフを振り下ろしたが避けられて失敗。昼食時、机の下、足で器用にナイフを蹴り飛ばしたが、受け止められて失敗。解き終わった補習課題を渡す時、確認が終わったと同時に奇襲を仕掛けるも新たな補習課題で防がれ失敗。就寝時、おやすみなさいと共にナイフで向かおうとしたが投げ飛ばされて失敗。

 失敗に失敗を重ね、最終的には気配を消して背後を取ったがすぐに気付かれ、ミスディレクションで注意の対象を余所に向けさせて、それでもアレだったのでポケットからスマホを落としてフラッシュ機能を使い視界を奪って急接近し、僕の攻撃を敢えて防がせた上で、仕込んでいたワイヤーを操り首下にナイフを飛ばす……という、もう、何で気配を消してグサッとやって終わらなかったんだよ、と嘆きたくなるレベルで何重にも手を打って何とか当てたのだ。

 思い出すと、この数日で解いた補修課題は軽く二桁……気付けば高校の範囲も平然と出ていて、難易度もやばかったなぁ……何というか、流石理事長の課題って感じだ。

 

「明日は卒業式です。……あなたたちが全員揃って参加することを祈っていますよ」

「はい!」

 

 そのまま家を出て行く。

 この数日間は色々と大変だった。でも、勉強と諸々の技術に少しだけ磨きをかけられたような……まぁ、大変だったが充実はしていた。少なくとも、逃げ惑う生活やただ大人しくしているだけだったよりはずっとマシだと思う。

 

「風人君」

「有鬼子~」

 

 屋根を跳んでいると彼女と合流する。

 

「一時間後に隣町のここに集合だって」

「りょーかい」

 

 有鬼子が見せてきた地図。なるほど、隣町から入って山を一つ超えるルートしかないのか。

 

「そうだ風人君。一回止まって」

 

 目的地に向かう途中、何処かのビルの屋上にて何故か止まるように言われた。

 

「え?何?なんかあった?」

「……ここ数日、彼女を心配させた罰を与えるね」

 

 どうしようか。凄い怒っている気がする……え?どうしよう。僕、皆の下にたどり着く前にここから突き落とされるのかな?……流石にこの体操服着ていても、この高さは死ぬんじゃないのかな?下、コンクリートだし……

 

「ちょ、ちょっと待った。えっと、流石にここはマズ……んっ」

 

 そう思っていると彼女の両手が僕の頬を軽く押さえ、そのまま彼女とキスをする。

 数秒に渡るキスの後、重なった唇が離れていく。そして、ゆっくりと彼女は僕の胸のところに飛び込む。

 

「もう……本当に心配したんだから……!」

「……ごめんなさい」

「ううん……でも、無事だったから……」

 

 僕は静かに彼女の背中に手を回す。

 そうして、数分くらい経っただろうか。静かに離れる僕ら。

 

「……後は、すべて終わってからね」

「うん……うん?」

 

 え?これで終わりじゃないの?

 

「これで終わり?数日分の寂しさを数分で埋められると思っているの?」

「……すみません。思っていました」

 

 …………どうしよう。これはしばらく彼女に頭が上がらない気がしてきたぞ……

 と、そんなことはさておき、集合場所には続々とクラスメートが集まっていた。

 

「風人。今回の作戦、お前の動きを伝える」

 

 カルマから手短に作戦を伝えられる。そうこうしている間に全員揃ったようだ。

 

「時間がない。この潜入が間違いなく最後のチャンス。最後の任務は全員無事に登校すること。……行くぞ」

 

 僕らは磯貝君の合図と共に一斉に駆けだしていく。

 殺せんせーの暗殺期限まで、後3時間。



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登校の時間

 聞いていた話と違う。

 中学生集団。普通の中学生が、少し訓練で強くなった程度だと聞いていたはずだったのに。

 どうしてそんな奴らがここまでやれる?

 どうして、俺たちが追い詰められている?

 こっちに向かっている敵の数は分からない。それに対してこちらの小隊は既に半壊。

 

「はい。これでしゅーりょー」

 

 横から気の抜けた声が聞こえてくると共に、声のする方へと銃を向ける。

 次の瞬間。俺の視界に飛び込んできたのは、こちらの顔面を的確に狙った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボコッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~これで何Killしただろう?」

「誰も殺していないでしょ?ほら、さっさと簀巻きにするよ」

「へーい~」

 

 ということで、今々飛び膝蹴りを顔面にぶち当ててノックダウンさせた人をぐるぐる巻にしていく。

 

「こっちは片付いたよ~」

 

 有鬼子が何やら打ち込んでいるのを尻目に、指揮官カルマへの連絡を済ませる。

 

『了解。そしたら、そろそろ本隊と合流。また、もう少し崖に近いところに二、三人いるらしいからついでに撃破しておいて』

「りょーかい~崖から突き落としておくね~」

 

 ということでさっさと移動。さっき、誰かの断末魔が聞こえてきたけど……あぁ、あれがカルマの言う人間エサだっけ?まぁいいや。

 

「じゃあ、こっちも~っと」

 

 見ると二人が崖際で固まっていた。全く、ダメだな~崖際で固まっていたらさ……

 

「片方が躓くと二人仲良く奈落の底だよ?」

 

 後ろにいた人の足下めがけワイヤー付きの手錠を投げる。そのままワイヤーに足を引っ掛けさせ、軽くバランスを崩させる。そして、近くにあった手頃な石を後頭部にぶつけさせ……

 

「い、いきなり押すなよ!押したら落ちるだろ!?」

「誰かに引っ掛けられて何かをぶつけられたんだ!俺じゃね……」

「そこまで言うなら押すねーえーい」

 

 近くに居た相方に向かって倒れ込むさっきの人。こっそり近づいて、最後にその人の背中を優しく蹴って押してあげる。最後の一押しってやつだね。

 

「「ぎゃあああああああ!」」

「崖の滑り台。楽しんできてね~」

 

 二人纏めて崖下に落ちていく。まぁ、ここの崖はそこまで高くないから精々全治一、二週間で済むでしょ。

 ただ、今の悲鳴を聞いても反応があまりないってことは、この辺の敵さんは全滅させたかな?まぁ、それならいいや。

 

「容赦ないね」

「うん~。だってバラエティの定番でしょ?」

 

 押すなよって言って、押すのは定番だと思う。つまり、あの人たちは、本心では押して欲しかったに違いない(違います)。僕はあの人たちの気持ちを汲んで押してあげた。それだけだね。

 

「そろそろ行こう?これ以上風人君による犠牲者を出さないために」

「えー僕、そんなにイタズラしてないよ~それより有鬼子の方が酷いじゃん。僕が倒した相手に麻酔銃ぶち込んで確キル入れてるじゃん」

「当然。ダウンさせた相手に確キル入れるのは、こういうのの定番だよ?」

 

 いや、多分この場合だと確キルと言うより死体蹴りっていうと思うんだ。

 

「せめて、念押しだよ?」

 

 既にダウンしている相手にそんな……あ、何でもないです。何でもないので(鬼のような)笑顔を向けないでください。怖いです。控えめに言って恐怖です。

 

「やっほー。ただいま合流しました~」

「あはは……その分だと何人犠牲になったんだろう」

「う~ん、分かんないや。とりあえず二人は崖から突き落としたよ」

「…………生きてる?その人たち」

「だいじょーぶでしょ~」

 

 渚をはじめ、クラスメートの多くが集まって動いていた。少人数のチームに分かれての撃破作戦はほとんど終わったようだ。

 何で僕が有鬼子とペアなの?って聞いたら、僕の行動を管理出来るのは有鬼子しかいないとのことだ。酷いなぁ。僕は(今回は珍しく)しっかり指示に従っていたのに。

 

「……っ!止まって!」

 

 順調に進んでいるように見えていた。

 突然、目の前から明らかに強者の気配がする……この人が例の伝説の傭兵……そう思っているとクラスメートの一人が弾丸のように飛んできた。

 

「危ない!」

 

 その軌道に居たししょーを間一髪で渚が庇って避けさせた。

 

「……失礼した」

 

 そう言って姿を現したのは、如何にも怖そうなおじさん。確かに烏間先生の三倍強いって言ってたけど……納得だ。これはヤバい。ジョーカーとか比じゃないね。

 

「君たちの力を低く見積もり過ぎていたことを謝罪しよう。ここからは、本当の私を教授し――」

「けっこーでーす!」

 

 目の前の強敵……ホウジョウさんって言ったけ?その人が眼鏡に左手をかけ、なんか言っているのを無視して近付いていき、跳び蹴りを喰らわせようとする。

 

「――そうかい」

 

 その蹴りは左腕で防がれた。どうやら、眼鏡を外すのを中断し防いだようだ。だがそう思うのと同時に、右腕に持っていた銃で殴られ飛んでいく。

 

「容赦ないなぁ……」

 

 両腕をクロスして防いだものの、勢いよく木に着地。片手で中学生一人吹き飛ばすとか規格外過ぎでしょ。

 

「全く……人の話は最後まで聞くものだ」

 

 そう言いながら再び左手を眼鏡にかけるが、飛んできた麻酔針を捕るため、眼鏡から手を放して左手でキャッチする。

 

「部下の実弾ライフルを使いたまえ。それがないと互角にもならんぞ?」

 

 ……いや、それでも音もなく飛んできた麻酔針をキャッチする、なんて離れ業をしたアンタはどうかしていると思うんだけど?

 

「……では、行くぞ」

 

 と、眼鏡にまた手をかけたタイミングでカルマが奇襲を仕掛ける。その手にはスタンガンを棒状にしたものを持っていて、触れた相手に電気を流せるものである。

 

「フン」

 

 眼鏡を外すのを中断し、カルマは吹き飛ばされ、僕の横にやって来る。

 

「……小賢しい」

 

 そう言って左手で眼鏡を外そうとするけど、そこに向かって杉野が手頃な石を投擲。ホウジョウさんが石の飛んできた方を向くと、有鬼子がフラッシュを焚く。その眩しさに乗じて、一斉に近接戦闘が比較的得意なメンバーがホウジョウさんに向かっていった。

 

「あれ?もしかして合図って……」

「一撃離脱……合図はアレだよ」

 

 確かに、この人と遭遇戦にしたら合図が出次第、一撃離脱で仕掛けるって聞いてたけど……マジ?合図ってあの人が眼鏡に手をかけたらじゃないの?だって、あの人って眼鏡を外すと戦闘のスイッチが入るんでしょ?

 

「まぁ、風人のタイミングはベストだったし、お前がズレるのは読んでいたから問題ない」

「ズレるって酷いなぁ……でもまぁ。もう一度行ってくるよ……っと!」

 

 ホウジョウさんが持っていた長銃が蹴り落とされ地面に落ちる。それを悪用され……拾われないように三つほど手錠を投げて、銃の位置を遠くへとズラす。これであの人には僕たちの連携をかいくぐりながら銃を拾うことはできない。

 

 バァン!

 

 竹林君の投げた爆弾が空中で爆発する。そっちに気を取られていた隙に僕は手錠を五個くらい同時に投げ当てて、こっちに気を向かせる。

 

 ボッ

 

 こっちに気が向いた瞬間。反対側の上空よりイトナ君のドローンに搭載された麻酔銃を律が撃つ。これにより、首筋に麻酔針が刺さった……が。引っこ抜かれてしまう。あれ?おかしいな……これって象すらも気絶すると聞いたような……聞いてないような。

 ま、まぁ?烏間先生が南の島で、そのレベルのガスを受けてもしばらくは動けたように、この人に効かないことも計算の内。

 麻酔針が当たったタイミングで、近接戦闘を仕掛ける部隊の攻撃が一斉に止む。

 

 パァン!

 

 攻撃が止んだ中、わずかに感じた気配。その気配のする方へとホウジョウさんは向くと、そこに木からぶら下がった渚がいきなり現れ、クラップスタナーを放つ。あまりのことに対応できず、一瞬仰け反るホウジョウさんの後頭部を押さえながら木から足を放す渚。

 

「カルマ!」

 

 そして岩の上に居たカルマはその声と共に高く飛び上がる。

 

 ゴッ!

 

 カルマの踵落としが顔面に、渚の膝蹴りが後頭部に鈍い音を立てながらぶち当たる。

 

 ドサッ!

 

 二人の攻撃でホウジョウさんは地面に仰向けになって倒れた。

 一瞬の静寂。

 

 パァン!

 

 そして、倒したことを確信したカルマと渚はハイタッチを躱す。

 

「ちょ、まだ動いている!」

「ホントだよ~!」

 

 ゴンッ!

 

 気配を完全に消し、背後に回っていた僕の踵落としが、ホウジョウさんの後頭部に勢いよく突き刺さる。この人がまるでゾンビのように起き上がりそうになったときの、渚とカルマのビクッとした表情はお笑いものだ。実に滑稽であった。

 

「ちゃんとトドメ刺せクソッタレ!カッコつけてハイタッチとかしてんじゃねーぞ!」

「ぷくく。倒したことを確信してハイタッチまでして……ぷくく。かっこ悪~」

「「…………」」

 

 寝そべる形になったホウジョウさんを蹴り起こして、寺坂や僕らによるスタンガンなどによる電流責め、速水さん、千葉君による麻酔銃乱れ打ち。最早、死体蹴りを超えたただの鬼畜の所業。

 一通り終えた後、両手両足に手錠を何重にもかけ、更に普段より多目にぐるぐる巻にした。

 

「よし行くぞ!バリアの中に入ってしまえば殺せんせーの権力内だ!」

 

 と、喜ぶのもいいのだが……

 

「……まだ意識あるよ。この人」

「フルコースを喰らったのに……バケモノ過ぎるだろ」

「…………よく生きてるなぁ……この人」

「まともにやっていたらと思ったらゾッとするわ」

 

 ……何故か意識がまだあるんだよね……本当に人間ですか?普通の人はここまで喰らったら……うん。ここまで喰らう前に意識を手放しているよ?絶対に。

 と、そんなことを考えている間にバリアの中に入ることに成功。そして……

 

「音だけでも……恐ろしい強敵を仕留めたのがわかりました。成長しましたね。皆さん」

「「「殺せんせー!」」」

 

 せんせーとの感動的な再会……なのはいいんだけど、全員が各々の武器を取り出しながらせんせーの下に駆け寄っている。まぁ僕も手錠片手に行っているから同じなんだけどね。

 しかし、感動的な再会の余韻に浸って居られる時間は長くない。空には発射予定のレーザーの光が、今にもこぼれ落ちそうなくらい輝いている。僕らは、状況を説明すると共に、逃げることを提案するが……

 

「いいえ。きっと逃げられないですよ」

 

 殺せんせーは落ち着いた様子で棄却する。

 

「地球の命がかかっている以上、ここまで来たら誰を人質にしようと発射は止めない。それに、爆発しなかったとしても、これだけ強力な力を持ち奔放に活動する怪物を世界各国は恐れないわけがない。息の根を止めてしまいたい……そう思うのが妥当でしょうね」

 

 確かにそうだ。このせんせーは明らかに人を超えている……知っている人からすれば無害かもしれないが、知らない人からすれば恐ろしい怪物。ここで仕留めておきたいと思う……か。

 

「もっと早く来ることが出来ていれば……私たちも捕まっていなければ……もっと打つ手があったかもしれないのに……!」

「おそらく結果は変わらなかったでしょう。君たちのような勢力が居ると言うことで、危険視され、捕まれば厳重な監視下に置かれていた。また、発生装置の防備も完璧……今の君たちの能力と装備では呆気なく捕まってしまう。この作戦は完璧だ。技術、時間、人員……そのすべてが惜しみなく注ぎ込まれている」

 

 ここまで大がかりな計画……それなのに僕らはその予兆すら感じ取れなかった。一週間前にレーザーが堕ちたあの日……もうあの時点で、手遅れだったのかもしれない。

 

「私はね。世界中の英知と努力の結晶の暗殺が、先生の能力を上回った事に敬意を感じ、その標的であったことに栄誉すら感じます」

 

 せんせーは誇らしげに。一切悲観することなく告げる。でも……そんなことを言ったら……

 

「じゃあ、私たちが頑張ってきたことは……無駄だったの?」

 

 矢田さんが僕らの感じ始めていることを口にする。

 

「無駄な訳がありませんよ。君たちは、先生が爆発する確率が1%以下突き止めてくれた。そこから沈んでいたE組の明るさが戻り、この1ヶ月間。短かったですが楽しかった。その過程が、心が大事なのです。これまでに習ったことを全て出して、君たちはせんせーに会いに来てくれた。これ以上の幸福はありませんよ」

「はぁ……何というか、やるせないというか……うまくいかないもんだね……」

「風人君」

 

 そう言うとせんせーの触手が頭の上に乗っかる。

 

「皆さんも。先生からアドバイスを。これから先、大きな社会の流れに阻まれ、結果が出せないことがあります。でも、社会に原因を求めたり、否定してはいけません。それは時間の無駄……世の中そういうもんだ、と悔しい気持ちをやり過ごしてください。そして、その後考えるのです。社会の激流が自分を翻弄するなら、その中で自分はどう泳ぐべきかを」

 

 せんせーは僕らの目を見て、話を続ける。

 

「やり方はここで学んだはずです。いつも正面から立ち向かう必要はない。君たちがここで学んだことを、殺る気をもち何度も何度も試行錯誤すれば、いつか必ず素晴らしい結果に結びつくです。君たちは全員、一流の暗殺者なのですから」

「……ここでも授業かよ」

 

 寺坂がそうやってぼやくと、せんせーはいつも、僕らを教えている感じで、あくまで教師として答えた。こんな時だからこそできる授業と。……やれやれ、このせんせーは……僕らを導くチャンスだと思えばこれだから……。

 

「でもね。君たちが本気で私を助けようとしてくれたこと……ずっと、涙を堪えていたほど嬉しかった」

 

 一人一人の頭に軽く触手を置き、ハンカチまで取り出して答える。 

 

(……なんで、そんなに落ち着いてられるんだよ。殺せんせー)

 

 その姿はいつもと変わらないように思える。 

 

ここ(E組)に来なければ、普通に生きれたかも知れないのに。僕らは、殺せんせーの…………)

 

「……ところで中村さん。激戦の中でも君の足音はおとなしかったですねぇ?」

「……え?何で足音で分かるの?というか、どうやって分かるの?」

「ヌルフフフ。私くらいになれば、風人君が二名ほど敵を崖から蹴り落としたことも音で分かるのです」

 

 ……いや、そこまで行くと地獄耳過ぎて引くんだけど……え?なにこのせんせー。生徒を足音で判別しているだけじゃなくて、行動すら音で分かるって……

 

「しかも、甘い匂いが先程から……!」

 

 鼻の穴を拡げて、よだれまで垂らしている。とてもさっきまでいい話をしていたとは思えない。

 中村さんは呆れながらその匂いの正体を取り出し、せんせーの前に置く。

 

「確か雪村先生は、今日を殺せんせーの誕生日にしたんだよね?だから、ケーキを持ってきたんだよ」

 

 そこには小さなケーキ。

 

「す、凄い……!一切形が崩れていない……!な、何てことだ……!」

 

 僕なら一瞬で崩す自信がある。だって、存在を忘れると思うから。

 

「まぁね~。簡単に崩れてしまうこのケーキを、ここまで崩さず運んだ私の体術を褒めてほし……聞けよ!」

 

 ちなみに殺せんせーは中村さんの方に目もくれず、エサを前にした腹ぺこの犬のようによだれを垂らしていた。まじかこの教育者。生徒の凄さより飯かよ、スイーツかよ。

 

「ああもう!皆!準備はいい!?」

 

 中村さんがロウソクに火をつけてケーキに刺しに行く。

 

「サンハイ!」

 

 中村さんの合図で皆がバースデーソングを歌い始める。

 え?なにそれ聞いてないよ?というか、ケーキが出てきた辺りから僕、聞かされてないから知らないんだけど?

 

「くせぇ仕込みしやが……って!」

「まったくだ……って!」

 

 文句を言った寺坂が片岡さんに耳を引っ張られ、それに便乗した僕が有鬼子に思い切り足を踏み抜かれた。痛かったです。女性陣が怖いです。だから、僕も歌います。

 歌っていると烏間先生とビッチ先生も到着した様子。

 

「1本しかねぇから!大事に消せよ!」

「あれ?じゃあ、殺せんせーって1歳……あ、黙ってまーす」

 

 皆が盛り上がっている中、有鬼子が僕の頭を掴んだので静かにしています。はい。

 そして、殺せんせーが息を吹きかけようとした次の瞬間。

 

 ザッ!

 

 何かがケーキを打ち抜いた。

 

「ハッピーバースデー」

 

 校舎の屋根の上……そこには柳沢ともう一人が立っていた。

 

「世界一残酷な死を、プレゼントしよう」

 

 そう言って後ろの奴のファスナーが下ろされていく。

 

「先生。僕が誰だかわかるよね?」

 

 そこに居たのは……バケモノへと変わり果てた二代目死神だった。



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ラスボスの時間

 その姿はまさにバケモノ。こんなバケモノが元人間なんてどうやっても信じられない。

 

「そのタコと、同じ改造を施しただけだ。違う点は彼が自ら強く望んでこの改造を受けたこと」

 

 改造……?改造ってレベルなのか……これ?殺せんせーよりバケモノらしいんだけど。

 

「想像できるか?人間の時でさえ君たちを圧倒した者が、比類なき触手と憎悪を得た。その破壊力を」

 

 次の瞬間。僕は宙を舞っていた。僕だけではない。クラスメート、誰一人も反応できず、ただ宙を舞っていた。

 

 ドドドドドドッ

 

 耳がやられるほどの激しい音。えぐれる地面。堕ちる僕ら。

 何が起きたのか一切分からなかった。

 

衝撃波(ソニックブーム)。彼の触手は初速からマッハ2、最高瞬間速度はマッハ40を出せる!」

 

 起き上がると、殺せんせーに対しての触手による猛攻が行われていた。

 耳の痛みなどにやられつつも考えるが……要するに、スピードが倍……!そんなのどうにか出来る相手じゃない。

 

「二代目の超人的とも言える動体視力と直感力は、触手によって増幅。超音速の世界にも容易く順応した」

 

 何だよそれ……!容易く順応って……!

 

「最大の違いは継続的運用を考慮に入れていない触手設計。寿命は持って3ヶ月。それと引換に凄まじいエネルギーを引き出す。さらに、死ぬ時にも爆発のリスクはない。安全かつ完璧な兵器だ!」

「でもそれってさー……二代目も使い捨てのコマってこと?」

 

 明らかに短すぎる寿命。どう考えても長く使っていく気がない。

 

「ああ。その通りだよ」

 

 しかし、柳沢は呆気なく肯定した。

 

「そうやっていつも……!他人ばっかり傷付けて、自分は安全なところから……!」

 

 ししょーの怒りの隠った声。その声に対し、

 

「俺に死の覚悟がない……そう思うかね?」

 

 首筋に注射を打ち込む柳沢。その目は僕たちには想像ができないほどの狂いが見えた。

 

「命などどうでもいい。全てを奪ったお前さえ、殺せれば!」

 

 柳沢の身体に変化が現れる。ヤツの身体は人間の原形を留めながらも、バケモノへと変わっていく。

 

「体の要所要所に触手を少しずつ埋め込めば、人間の機能を保ったまま超人になれる」

 

 超人と言っているが、バケモノとさして変わらない……そう思っていると一瞬で殺せんせーの背後に移動。左目からせんせーの細胞を固まらせる光を放った。

 

「モルモット……生徒たちに一生の傷が残るような、無残な死を!」

 

 そこへ二代目の触手による攻撃が迫る。

 

「なんのっ!」

 

 それを触手で防ぐせんせー。

 

「……皆さん。先程言い忘れていたことがあります。どれだけ正面戦闘を回避してきた殺し屋にも、人生の中に数度。全力を尽くし、戦わねばならない時がある……先生の場合、それが今です!」

 

 そこからせんせーと二代目、柳沢による規格外の戦いが繰り広げられる。一撃一撃が衝撃波を生み、動きはほぼ見えない。ただ分かるのは二代目の攻撃、柳沢のサポート……このコンビは殺せんせーの力を遙かに超えている。

 流石の僕らも、誰一人この戦いに介入できない。この音速バトルを前になにもすることが出来ない。次元が違いすぎる。圧倒的な強さ、それを前にして逃げる……そんなことすらできない。

 絶望に暮れる……が、少しずつ戦いに変化が起きていた。

 

「かわし……」

「はじめている……?」

 

 確かに殺せんせーが劣勢であることは変わっていない。でも、被弾が明らかに減っていた。

 

「律。見える?」

『えぇ。人数、パワー、スピード……圧倒的とも言える戦力差。それを工夫で埋めています』

「…………どこまでもせんせーだね……」

 

 せんせーは僕らに弱者なりの殺り方を教えてきたと思う。対等ではなく、戦力差があって、そんな中でどんな風にその戦力差を覆すか。その姿を今も見せてくれている……僕らに示そうとしてくれている。

 一通りの攻防が終わったのか、双方地面に着地し動きを止める。

 

「道を外れた生徒は教師の私が責任を取ります。だが、柳沢……君は出ていけ。ここは生徒が育つための場所。君に立ち入る資格はない!」

「……まだ教師何ぞ気取るか。ならば試してやろう」

 

 指ぱっちんと共に一瞬で僕らの近くに移動する二代目。

 

「分からないか?我々が何故このタイミングを選んで来たか」

 

 パワーを溜め始める二代目。その矛先は僕ら生徒……!

 

「いけないっ!」

「守るんだよな?先生ってやつは」

 

 一瞬の閃光、そして砂煙が僕らを襲う。

 しかし、僕らの誰にもダメージはない。

 それが意味することは、今の二代目の一撃を全て殺せんせーが防いだと言うこと。

 

「「「殺せんせー!」」」

 

 たった一撃でせんせーはボロボロになる。僕らを守るために自らを盾にし、身を削る。

 そんなせんせーの姿を嘲る柳沢。容赦なく、二発目、三発目と指示を繰り出していく。

 そのすべてを受け止め、僕らに一切のダメージを与えさせないせんせー。

 

「ターゲットと生徒が一緒にいれば、こうなることは必然。不正解だったんだよ、今夜ここに入ってきたお前らの選択はな!」

 

 柳沢は僕らに非常な現実を突きつけようとする。 

 

「やめろ柳沢!」

 

 そんな姿に業を煮やした烏間先生が銃を構える。

 

「これ以上生徒を巻き添えにするな!さもなくば……」

 

 次の瞬間。烏間先生が柳沢による肘打ちで吹き飛ばされる。

 あの烏間先生が防御も碌に出来ずに吹き飛ばされる。柳沢ですらこの強さ……!

 

「どんな気分だ!大好きな先生の足手まといになって、絶望する生徒を見るのは!」

 

 ……ずっと前から知っていた。

 気付いていたのを気付かぬふりしていた。

 殺せんせーの最大の弱点。それは……

 

「分かったか!お前の最大の弱点は……」

 

 

 

 

 

 ……僕ら。

 

 

 

 

「なわけないでしょう!!」

 

 頭の中をよぎった考えをも塗り潰す勢いの殺せんせーの言葉。

 

「正解か不正解かではない!彼らは命懸けで私を救おうとした!恐ろしい強敵を倒してまでここに来てくれた!その過程が!その心が!最もうれしい贈り物だ!」

 

「弱点でも足手まといでもない!生徒です!!」

 

「全員が、私の誇れる生徒たちです!!」

 

 殺せんせーの熱弁。しかし、柳沢には響かない。

 

「そうかそうか。だがな?お前は間もなく力尽きる。そこまでして守った生徒も、全員俺の手でなぶり殺す。お前が、我々の人生を奪ってまで手にした1年。全て無駄だったと否定する。それで、ようやく我々の復讐は完成する」

 

 それどころか、更なる狂気さえ感じる。

 

「さぁ、続けるぞ。生徒をちゃんと守れよ。お前の可愛い生徒を」

 

 次の瞬間。聞き慣れた短い発砲音と共に何かが二代目の顔を横切る。

 そして、見えたのは殺せんせーの横でナイフを構える……

 

「逃げて殺せんせー!どこか隠れて回復を!」

 

 茅野の姿だった。

 そこに容赦なく二代目の攻撃が刺さる……がギリギリのところで躱し、持っていた対殺せんせー用ナイフで触手に傷をつける。

 

「ほう……なるほど。これを見切れる動体視力が残っていたか」

「よすんです!茅野さん!」

 

 せんせーの言葉。しかし、茅野は退こうとしない。

 

「ずっと後悔してたの……私のせいで、皆が真実を知っちゃったこと。皆の楽しい時間を奪っちゃったこと。……だから、せめて守らせて?先生の生徒として」

「君は正しかったんです!あのお陰で皆は正しいことを学べたのだから!」

 

 茅野にせんせーの意識が向いた瞬間。二代目がせんせーを吹き飛ばす。そして、

 

「二代目」

 

 柳沢の指示で二代目が力を溜める。二代目を倒そうと迫る茅野。

 そして、その触手による一撃は……

 

 

 

 

 茅野の胸を貫いた。

 

 

 

 

 

 落ちる茅野。

 

 

 

 

「茅野!」

 

 地面に着く直前に滑り込みでキャッチする。頭や足をぶつけないようにギリギリのところで抱えた……が、間近で見てもその傷は酷かった。

 

「はははははははは!姉妹揃って俺の目の前で死にやがった!はははははははは!本当に迷惑な奴らだなぁ!姉の代用品として飼ってやっても良かったが、あいにく穴の空いたアバズレには興味は無く」

「……黙れよ」

 

 おかしそうに笑っていた柳沢。そいつに向かって片足で手錠を蹴りつけた。

 

「……黙れよ……カスが」

 

 呆気なくかわされたがそんなの気にしない。

 

「はははははははは!そうか!キサマは二度目か!目の前で大切な仲間を失うのは!」

「…………っ!」

 

 その一言が僕の中にあったリミッターを外す。

 殺す。殺気が、ヤツに対する殺意が溢れ出て来る。

 今にも向かおうとする僕を押さえたのは、せんせーの触手だった。 

 

「…………!」

 

 止めないで……そう言おうと思った僕は殺せんせーを見て、言葉を失った。

 それはさっきまでのような黄色ではなく、ドス黒く染まっていた。

 

「それだ!その色でなければフルパワーは出せない。その闇の黒こそが破壊生物の本性だ!」

 

 今まで見たことのない色。その色を見せたことに満足そうな表情の柳沢。

 

「だが、ボロボロのお前の渾身のド怒りも、二代目が真の力で否定する」

 

 柳沢が二代目に何かを注入する。すると、二代目の気が膨れ上がり、それは近くに居る僕たちを吹き飛ばす勢いだった。

 

「離れよう!」

 

 抉れていく地面。土の塊が風圧と共に襲い来る中、渚が提案する。

 

「ここにいたら確実に巻き添えだ!」

「……分かった。離れよう」

「逃げるのだって俺たちの立派な戦術だよ」

 

 茅野をそのまま抱え、二代目やせんせーから離れていく僕たち。

 確かにそうだ。僕がやるべきなのは、あのバケモノたちの戦いに真正面から介入することじゃない。僕らは僕らのやるべき事をする。

 

「……ここで、終わる」

 

 僕らが離れると、二代目の今までで最も強力な一撃が放たれる。

 その一撃を受け止める共に、殺せんせーから白い光が溢れ出す。

 

「……いや、黒い……?」

「……違う。黄色だ……」

「いや、赤……」

「緑……」

「青!」

「白……!」

 

 色が何色にも変わり、そして最後には白色になる。

 

「……教え子よ。せめて安らかな……卒業を」

 

 殺せんせーから純白なエネルギー砲が発射される。

 その一撃は二代目を飲み込み、その風圧でついでに柳沢を吹き飛ばす。

 そして、瀕死の二代目に向かう殺せんせー。懐から対せんせーナイフを取り出して、

 

 

 

 

 

 二代目を刺した。

 

 

 

 

 そして、少しした後。二代目は粒子となって空に散っていった。



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卒業の時間

 二代目(とついでに柳沢)の打倒。

 ラスボスを倒したはずなのに、僕らは誰も歓喜の声をあげない。

 

「茅野……」

「カエデちゃん……!」

 

 腕の中で眠る彼女。彼女を失った悲しみが僕らを襲う。

 

「ししょー……」

「…………とにかく降ろそう。敷くもの持ってくる」

「いいえ。降ろさないでください。あまり雑菌に触れさせたくない」

 

 降ろそうとするのを止める。

 

「せんせー……」

 

 でも、ずっとこのままって訳にもいかない。そう思っていると、殺せんせーが真面目な表情で僕らを向く。

 

「皆さん。過去は変えられない、失ってしまったものは取り戻せません。先生も多くの過ちを犯しました」

 

 そう言うと細かな触手に支えられた紅い球体が目の前に降りてくる。

 

「ですが過去から学び、繰り返さないことは出来ます」

「……え?なにこれ?」

「茅野さんの血液や体細胞です。地面に落ちる前に、無菌の空気で包んでおきました」

 

 あ、だから僕には血とかがかかっていないのか……って、え?あのバトル中にそんなことしてたの?

 

「君たちを守るための触手は、温存していましたからね。……今から、ひとつひとつ、全ての細胞を繋げていきます」

 

 ししょーを生き返らせる手術が始まった。精密かつ速いその手術。空気中にある紅い球体は徐々に小さくなっていた。

 

「血液も少々足りません。AB型の人。協力を」

 

 決して協力を惜しむつもりはないが、気付けば触手が腕に刺さっていて血が吸い上げられていく。イトナ君やカルマも似た感じだ。

 

「中村さん。破壊されたケーキを先生の口に」

「はぁ!?」

 

 その発言には衝撃が走った。

 

「土まみれのグチャグチャ。もうケーキというかごみだよ?」

「エネルギーが必要なんです!」

 

 おーなるほど。

 

「戦闘中もずっと食べたかったし!」

 

 その発言には衝撃が走った。一体、あの戦闘中のどこにケーキを食べたいだなんて考える余裕はあったのだろうか?いや、ないでしょ。あっちゃダメでしょ。

 と、そんなことを考えていると手術も後半。糸を用いず、痕一つ残さず傷口が塞がっていく。

 

「……ふぅ。後は心臓が動けば蘇生完了です。マニュアル通り完璧に行ったはずです」

「へ?マニュアル?」

「生徒が学校でどてっ腹をぶち抜かれた時の対処マニュアルです」

「「「そんな大惨事、フツー想定しねぇよ!」」」

 

 本当だよ。どこまでマメなんだよ。いや、一周回って恐怖だよ。

 

「……今だから言います。たとえ君たちの体がバラバラにされても蘇生できるように備えていました」

 

 無茶苦茶怖いこと言ったよね!?今エグいこと言わなかった!?

 

「先生がその場にいれば。…………先生が生徒のことをしっかり見ていさえすれば」

 

 殺せんせーの触手による電気ショック。

 

「か……はっ……!」

 

 蘇生したししょー。上体を起こし、辺りを見回す。そこで、殺せんせーが助けてくれたとことを察する。

 

「また……助けてもらっちゃった」

 

 いつもの髪型に結ってもらいながらそう答えた。

 

「何度でもそうしますよ。お姉さんもそうしたでしょう」

 

 皆が一斉にししょーに飛びかかる。喜びのあまりってやつだ。

 

「くしゅ!」

 

 するとししょーがくしゃみをする。

 

「ていうか私なんて格好!?」

 

 あぁ、なるほど。体操服の前面が大きく破れているのか。

 

「かわいそう」

「何が!?」

 

 イトナ君がししょーの胸を見てそう呟く。

 

「はい、ししょー。風邪引くよ~」

「ありがと……風人君」

 

 着ていた上着を脱いで貸してあげる。それにしても……

 

「うぅっ……」

「ど、どうしたの!?」

「命と引換に胸が……!胸がゼロに……!……ん?あ、元からか」

「やかましい!」

「へぶっ」

 

 復活したししょーのアッパーによって、僕は殴り飛ばされた。

 

「何でコイツは余分なことを言わないと気が済まないんだ?」

「相変わらずバカだね……コイツ」

「こういうところは成長してないね……」

「……はぁ。何て残念なの……」

 

 ちなみに誰も殴り飛ばされた僕の心配をしてくれませんでした。まる。

 

「いやいや。逆かもしれねぇぞ」

「逆?」

「あの手厚い殺せんせーのことだ。ちょっと位、巨乳に治しているかもしれねーぞ」

「そーなの?殺せんせー」

 

 皆で殺せんせーの方を向く。すると、ゆっくりとせんせーは倒れていった。

 

「疲れました……」

 

 倒れ込んだせんせーは、どこか満足げで……とても弱々しかった。

 

「皆さん。暗殺者が瀕死のターゲットを見逃してどうするんですか?」

「「「……!」」」

「殺し時ですよ。楽しい時間には必ず終わりが来ます。それが、教室というものです」

 

 不意に空を見上げる僕ら。ここに来た時より一層光が膨れ上がっている。

 その光は、レーザー発射がまもなくであることを静かに……されど強く語っている。

 暗殺期限まで30分を切る。レーザーはもう発射されてもおかしくない。

 

「……皆。俺たち自身で決めなければいけない」

 

 磯貝君が静かに語り出す。

 

「このまま手を下さず、天に任せる選択肢もある…………手を上げてくれ。殺したくないやつ……?」

 

 静かに手を上げる僕ら。クラス全員が手を上げていた。

 

「下ろして」

 

 そして、少しの間があった後、

 

「…………殺したいやつ……?」

 

 ……今になって、このクラスで過ごした楽しい思い出が頭を駆け巡る。

 その思い出には銃があって……ナイフがあって……先生がいた。

 

「「「…………」」」

 

 俯きがちに手を上げる。

 三学期が始まった時、僕は殺すのを選んだ。

 そこから僕らは、国の依頼が取り下げられない限り暗殺を続けることを選んだ。

 その時とはほんの少し思いが違うかもしれない。

 

「……分かった」

 

 ……これが僕らの答え。

 静かにせんせーの元へと歩く僕たち。

 僕らは殺し屋で、先生が標的。歪に見えるこの関係。この関係だからこそ生まれた絆。

 この絆を守って卒業するために、恩師に対してすべきこと……

 全員がせんせーを取り押さえる。

 二学期期末テストのご褒美。そこで教えてくれたせんせーの弱点。僕ら全員で押さえれば捕まえられること。

 

「……こうしたら動けないんだよね?」

「えぇ。握る力が弱いのは心配ですけどね」

 

 その言葉に僕らは改めてせんせーの触手を握り直す。

 この1年ずっと、僕らと向き合って、僕らを育て上げてくれた先生の触手を。

 

「ネクタイの下が……心臓。最後は……誰が殺る?」

 

 片岡さんの言葉に、カルマの方を一瞬見るが無言だった。

 

「……お願い皆。僕に……殺らせて」

 

 たった一人だけ、この場で名乗り出た人が居た。

 

「……誰も文句はねぇ。だろ?」

「うん、異議なしだよ」

「この教室じゃ、渚が首席だ」

 

 他の皆も渚が殺ることに否定はない。

 静かに渚は殺せんせーの上へと跨がる。ネクタイをずらそうとしたが……

 

「ネクタイの上から刺せますよ。もらったときに穴を開けてしまったので。これも大事な縁と思い、残しておきました」

 

 その縁が今、こうして……か。

 

「……さて、いよいよです。皆さん一人一人にお別れの言葉を贈っていては、時間がいくらあっても足りません。細かいことは教室に残してありますので、長い会話は不要です。そのかわりに、最後に出欠を取ります。全員が先生の目を見て、大きな声で返事が出来たら、殺してよし!……では、呼びます」

 

 せんせーからの最後の出欠確認。そう思うと少しだけ緊張というか……

 

「……っとその前に。先に先生方に挨拶を」

 

 ……少しだけ緊張が消えた。いや、先にやっておいてよ。気付かなかった僕らもアレだけどさ。

 

「イリーナ先生。参加しなくてもよろしいんですか?」

「……私は充分もらったわ。たくさんの絆と経験を……この暗殺はあんたとガキ共の絆だわ」

 

 その答えに少し笑顔になるせんせー。

 

「烏間先生。あなたこそが生徒たちをここまで成長させてくれた。これからも相談に乗ってあげてください」

「……ああ。おまえには苦労させられたが、この一年。一生忘れはしない。さよならだ……殺せんせー」

 

 烏間先生の言葉に満足するせんせー。そして、僕らの方に向き合った。

 

「……では皆さん。出欠を取ります」

「「「…………」」」

 

 触手を通じて皆の、せんせーの緊張が伝わってくる気がする。僕も、やっぱり緊張を……

 

「ま、まさか!ここで早退した人は居ませんよね!?」

「「「早よ呼べ!」」」

 

 ……したかったなぁ。なんで最後の最後までこんなんだろう……

 

「……では。行きます」

 

 番号順に一人一人呼ばれていく名前。一人一人が、涙を堪え、涙を浮かべながら、せんせーの方を向いて答えていく。

 徐々に近づいていく順番。そして……

 

「風人君」

「はい」

 

 僕は先生の目を見てはっきり答える。

 律、そしてイトナ君も呼ばれ、29人全員の名前が呼ばれた。

 

「本当に楽しい一年でした。皆さんに暗殺されて……先生は幸せです」

 

 もう時間だ。まるで走馬灯のように流れ込んでくるのは、ここで過ごした記憶。

 ……それを僕たちは自分たちの手で終わらせ、卒業する。

 見るとナイフを持つ渚の手が震えている。渚は殺せんせーを標的としてだけでなく、先生として憧れていた。渚から感じる感情は何処か、黒いものに呑み込まれていて、その感情を吐き出すように声をあげながらナイフを突き刺そうと……

 

「そんな気持ちで殺してはいけませんよ」

 

 渚の首筋に細い触手が触れる。

 

「落ち着いて……笑顔で」

 

 その言葉で落ち着いた様子の渚。さっきまでの黒いものは感じなかった。

 ゆっくりと、顔を上げた渚。

 

 

 

 

 

「さようなら。殺せんせー」

 

 

 

 

 

「はい。さようなら」

 

 

 

 

 

 渚は全身で礼をするようにナイフを差し出した。

 

 

 

 

 

 ――――――卒業おめでとう。

 

 

 

 

 

 最後にそう聞こえた気がした。

 そして、殺せんせーの全身が光の粒子となり、僕らの手から離れ……消えていった。

 溜めていた涙が流れていく。溢れて止まることがない……

 

 

 

 

 

 まもなく日付が変わる。卒業の日だ。

 僕らはこの日。一足早く、この暗殺教室を卒業した。



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未来の時間

 早朝。皆が起きるより早く目が醒めた。

 眠気覚ましに校舎の外に……そこはまだ暗かった。

 

「んー……!」

 

 土手のところで寝そべる。

 あの後、殺せんせーの面影を求め、涙ながら教室に戻った僕たち。

 待っていたのは全員分の卒業証書、卒業アルバム、そしてそれぞれへのアドバイスブックだった。

 いつの間にかレーザーは放たれたらしいが気付かず、現場検証部隊が来たらしいが烏間先生が外で相手してくれた。教室に、僕らだけにする配慮だろう。

 過去最大級の厚さを誇ったアドバイスブック。というか、見たことないレベルの厚さの本。読んでいるうちに気付けば涙は止まり、というか、アドバイスの内容が無茶苦茶細かすぎることにうんざりしてきて、寝落ちしてました。

 

「……ん?おはよー」

 

 すると、寝そべっていると僕を見下ろしている人が現れる。

 

「うん。おはよ」

 

 有希子である。まだ日が差していないのに早起きだなぁ……人のこと言えないけど。

 

「隣、いい?」

「うん~」

 

 静かに腰掛ける有希子。ただ、僕は身体を起こす気はなかった。

 

「思ったより平気なんだね、風人君は」

「ほへ?」

「ほら、千影さんの時は一週間くらい塞ぎ込んでいたんでしょ?」

「あはは~……まぁ、約束したからね。せんせーと」

「約束?」

「前へと歩き続ける。大切な恩師を失った……でも、僕はそこで立ち止まっちゃいけない。せんせーはそれを望んでいないからね~だから」

 

 よっと、と身体を起こして僕は立ち上がる。

 

「失った哀しみもある。それは間違いないよ。僕はそれを抱えて前へと行く。だって、せんせーと過ごしたこの時間はずっとここにあるんだからさ」

「ふふっ……なんだ。よかった……風人君がくよくよして沈んでいたら……」

「背中を押すとか?ふふふ、僕も成長しているんだよ~」

「……背中を蹴り飛ばしていたところだったよ」

「バイオレンス!?それは流石に酷くない!?」

「静かにだよ?皆、まだ寝ているから」

 

 何だろう。この彼女は相変わらずというか……うん。今度、有希子の制御方法とかアドバイスされていないか読んでおこう。あんだけ分厚くて細かかったんだ。きっと何処かに載っているはず(ちなみに載っていません)。

 

「綺麗な朝日だね……」

「うん……でも、有希子の方が綺麗だよ」

「ふふっ、いつからそんなうまいことが言えるようになったの?」

「最初からだよ~……あ、嘘です。多分つい最近です」

「ありがとね。それと、これからもよろしくね」

「うん~こちらこそよろしく」

 

 近くでは早咲きの桜が揺れていた。

 僕らは他の皆が起きるまで、その桜を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君たちにはこれからも注目されて大変だったり、こちらから箝口令をしかせてもらうこともあるだろう。君たちのことはできる限り守るが……俺から先に謝らせてくれ」

 

 烏間先生が頭を下げる。

 

「平気ッスよ。俺たちも平穏に収まるように努力するからさ」

「烏間先生を困らせたくないしね」

「大船に乗ったつもりでいてよ~」

「いや、風人の船は泥船でしょ」

「風人君は何もしない方がいいでしょ」

「うんうん」

「何でさ!」

 

 いくら何でも、問題は起こさないっての!

 

「代わりに、今日の椚ヶ丘の卒業式に出させてください。本校舎の皆との戦ってきた日々も、大切な思い出ですので」

「……ああ。手配しよう」

 

 その言葉を聞いて安心した。

 

「全員起立!」

 

 磯貝君の合図で立つ。そして、

 

「「「烏間先生、ビッチ先生。本当に色々教えて頂き、ありがとうございました!」」」

 

 声を揃えて感謝を述べ、礼をする。そして、身体を起こすと卒業式に向けてわいわいと話をする。

 

「で?卒業式ってどこでやるの?」

「市民会館だって」

「ほへぇ~……何処?」

「いい?風人君。私たちに付いてくるんだよ?」

「迷子扱い!?僕はしっかりと一人でも行けるから!」

「今、何処って言ったじゃん……それより、制服取ってきてもらわないと」

「あ、そーだった~」

 

 ということで、制服を取ってきてもらい、着替えて市民会館へ。

 

 

 

 

 

 始まった卒業式。特に問題はなく、順調に行われていた。

 

「和光風人」

「はい」

 

 呼ばれたので壇上まで上がっていく。

 

「卒業おめでとう。しっかりと約束を守ってくれて何よりです」

「浅野理事長。今までありがとうございました」

「これからも精進してください」

「はい!」

 

 理事長が証書を渡してくれる。

 最初会ったときとは違い、この人からは温かさを感じた。

 きっと、この一年で理事長も理事長の中で変化したんだろう。そう思うと少しだけ嬉しかった。

 

 

 

 

 

「卒業おめでとう。風人」

「母さん……!」

「ほら、父さんも」

「苦手なんだよ……でもまぁ、おめでとう」

「父さん……二人ともありがとね!やりたいことを応援してくれて!」

「「まさかウチの息子から感謝の言葉が出るなんて……!」」

「酷くない!?僕だって感謝する時はするよ!?」

「ほら、行きなさい。皆のところへ」

「また家でな」

「うん!」

 

 僕は証書片手に皆のところに行く。

 

「……いつの間にか、あんなに大きくなったのね」

「……そうだな。きっと、想像できないようなことを乗り越えたんだろうね」

 

 皆も一言二言家族と話すと自然に集まっていた。

 

「風人君……本当に卒業できたの?」

「実は風人君のだけ留年通知書とかじゃない?」

「何で僕は卒業を心配されてるの!?」

 

 ちなみに、何故か僕は卒業を心配されてました。解せぬ。

 

『卒業式が終わったみたいだ!』

『インタビューだ!』

 

 すると、カメラとマイクを持った人たちが乱入してくる。……えぇー、ここでもマスコミなの?

 

「皆早く駐車場へ!バスを待機させてある!」

 

 と、マスコミの波に呑まれながら烏間先生が言うけど……駐車場って、このマスコミ集団を越えた先じゃ……と、考えている間にもマスコミからの質問殺到、フラッシュで眩しい。

 ……流石に鬱陶しいし、強力な殺気を当てたら黙るかな……?そう思った矢先、僕らE組とマスコミの間に強引に割って入る人たちが。そして、僕らの頭の上には椚ヶ丘学園の旗が……

 

「浅野君~!」

「安心しろ。僕らがお前たちの道を作る」

「ひゅーひゅーかっこいいー」

 

 先頭には浅野君。周りにはA組の皆が。有鬼子に言い寄ろうとしたごえーけつの……なんとかって人は、有鬼子が笑顔でなんか言ったらおとなしくなってた。何言ったんだろう?

 

「……はぁ。君たちは仮にも同じ学校で学んだ生徒。見捨てれば支配者の恥になる」

 

 何というか……変わらないなぁ。

 

「赤羽。君だけはここに残るそうだな。ほとぼりが冷めた頃にたっぷりと吊し上げて吐いてもらう。そこの和光とかいうバカは一切吐かなかったからな」

「へぇー風人って浅野クンのところにいたんだ」

「ぴゅーぴゅー」

 

 というか、今気付いた。カルマが制服を着ている……凄いレアな光景だ。

 

「……和光。次はキサマに勝つ。首洗って待っておけ」

「じゃあ、しっかりお風呂に入っておくね~」

「……どこまでも貴様は……!」

「……じゃあね浅野君。楽しみにしてるから!」

「ふん」

 

 そして、バスに乗り込む僕ら。

 僕らを乗せたバスは静かに走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからは色々とあった。三百億の賞金は速やかに支払われた。アドバイスブックを参考に学費と将来の一人暮らしの頭金ぐらいを頂いて……色んなところに寄付。ちょっと大きな買い物をして、残りは国に返した。

 

「ふぅー……と」

「綺麗になったね」

 

 3月のある日。僕と涼香は千影のもとを訪れた。雷蔵と有希子も居るけど、二人には少ししたところで待ってもらっている。

 

「よし、いこっか」

「そうだね」

 

 卒業と進学の報告をしにやって来た僕たち。お墓の掃除をして、近況報告をした。と言っても口にはあまり出せないことばかりだから静かにだけど。

 

「そう言えば、何か言ってなかった?」

「ん~?」

「せんせーがどうとか」

「あ~……うーん。内緒だね」

「えぇーお兄ちゃん秘密が多すぎだよ……ただえさえ、今回の騒動のこと全然聞けてないのにー!」

「あはは、まぁ、後で話せるところは話すよ」

 

 殺せんせーとの最後の進路面談の時、終わりがけにお願いしたこと。

 

 

 

 

 

 もしせんせーの暗殺に成功して、もしあの世で千影に会えたら……色々と教えてあげて。

 そして、僕らを導いたように……志半ばで死んだ彼女を導いて。努力家で生真面目だから、きっと、僕よりは扱いやすいよ。

 お願いします。これはせんせーにしか頼めないんです。

 

 

 

 

 

「せんせー……最後に頼んじゃってごめんね」

 

 せんせーも雪村先生とか二代目とか色々とあるけど……約束、守ってくれたら嬉しいな。ううん。あのせんせーなら守るか。あの人は最高の教師だから。

 空を見上げると三日月が少しだけ欠けていた。僕らの象徴である月は、徐々に崩壊をしていくらしい。いつか、また満月が見られるとか何とか。きっと、他の人たちの中では今回のことは薄れて行ってしまう。でも、僕は……僕らは。絶対に忘れない。

 だって、あんな一年を、あんな仲間たちを、あんな恩師たちを忘れることは出来ないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、七年と少しが経過した……

 

「風人君。大切なお話があります」

「……はい。何でしょうか」

「……何でもう正座しているの……?」

「あはは~……け、決してやましいことがあったわけじゃないよ?

 

 もしかして、事件の現場見に行くーって遠くまで行ったとき、ついでに一人で観光していたから怒っているのかな?……でも、お土産買ったし……それとも、この前、事件の資料を整理してついつい時間を忘れて寝落ちして家に帰らなかったことかな?そ、それとも……」

 

「……はぁ。後でお説教ね」

「あ、はい」

「まぁ、もう付き合って八年近く、結婚して少し……そこまで怒るつもりもないけど」

「やったね♪」

「うん。最低でも一週間ゲーム禁止で許してあげる」

「なっ……!ひ、酷い……この鬼!悪魔!有鬼子!」

「…………(ゴンッ!!)」

「…………あうぅ……」

「で、本題なんだけど……」

 

 一枚の写真を見せる。切り替えが早いのはこういうやりとりをもう何年もやってきたからだろう。それはもう熟年の夫婦のように……と、そんなことは置いておいて、痛む頭をさすりながら写真を見る。見せてきたのは写真というより、何かの検査の画像だった。

 

「…………事件?」

「ある意味事件だよ。さて、弁護士さん。何の事件でしょう?」

「…………すみません。探偵じゃないのでヒントを下さい……!」

「ここだよ」

 

 有希子が指したのはその画像の一部分……

 

「何か……違うね。他の場所と」

「はぁ……こういう時だけ鈍いんだから…………赤ちゃんだよ」

「…………へ?」

「妊娠してたの……6週目だって」

「…………じゃあ……!」

「これからこの子が成長して行くに連れて色々と分かるけど……」

「あの有希子がお母さんに……?」

「うん。その言葉そっくりそのまま返すね。あの風人君がお父さんになるんだよ」

「……ということは、色々と気をつけないといけないのか?」

「ふふっ、そうだね。頑張ろうね……あなた」

「うん!頑張って支えていくよ!」

 

 新たな命が二人の間に生まれようとしていた。




『暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~』本編完結!
完結までに2年4ヶ月くらい……本当にありがとうございます!
お気に入り登録も1,000件を超え、色んな人から感想や評価を貰いました!
ここまで付き合ってくれてありがとうございます!


もし、興味があれば、今後の展開など、長くなった後語りを投稿しますので明後日(次回)も見てください。


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完結後
後語りの時間


遂に、『暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~』堂々の完結!

 

「「「…………」」」

 

どうしたの?声も出なかった?

 

(((本当に3月中に完結した……)))

 

ということで、一周年の時みたいに三人プラス作者で今後のことも含め話していきます。

 

風「本当に完結した……」

鬼「もっとかかると思ってた……」

千「意外ですね……」

風「どうする~?掘った穴無駄になっちゃったよ?」

鬼「いいんじゃない?埋めちゃって」

 

え?ちょっ、ま…………。

 

風「……よし。ということで、駄作者抜きでやっていきます!」

鬼「まぁ、居なくていいでしょ」

千「あはは……後でこっそり掘り起こさないと」

風「で~なんだっけ?何か聞いてる~?」

鬼「まぁ、駄作者の話たいことリストがあるからそれを基準にしていきましょう」

千「とりあえず、駄作者さん曰く、もう6年ぐらい色々と執筆して、初めて本編が完結したんだって。だからこの作品は初めて完結させられた作品だそうです」

「「それは色々とアウト!」」

千「この作品も見切り発車で始まったけど、収まるところに収まって良かったとのこと。ラストをどう締めるかが凄い悩んだんだって」

「「…………!」」

千「原作みたく、活躍する風人君を書くか、お二人が結婚するところを書くか。初めての……アレに至る流れを書くか悩んでふて寝して。いろいろあった結果、妊娠発覚エンドと」

風「流石駄作者。予想外のところから来た」

鬼「見切り発車でも最後くらい決めておいてよ……」

千「あはは……一応、最初の原作準拠を考えていたけど、いざ書こうとして何か違うってなってこうなったそうです。ちなみに、駄作者のこの作品も含め、よくあることだそうです」

風「流石マイペース。建てた計画が毎回狂っていくことに定評がある……」

鬼「知ってるよ。高校時代、あまりの計画性のなさにテストまでの計画表をほぼ白紙で出したんでしょ?」

千「…………それでいいんでしょうか」

 

 

 

 

 

千「ということで、まずは今後について。完結したんですが、

1.IFルート(千影生存、番外編の続き)の投稿

2.高校生編

3.番外編などの投稿

の三つがありますね。1はゆっくりとやります。ただ、この作品を見た上で興味があればって感じなので、通常投稿ではない予定です」

風「確かに、この作品がある前提でだもんね」

鬼「いきなり投稿しても困惑しそうだね」

千「2は普通に何話かやってもいいそうですが、同時に違うこともしたいと思っているそうです」

風「違うこと……?」

鬼「いつもの思い付きだね……」

千「一周年でも触れましたが作者はバカテスの二次創作を書いていますし、バカテスという作品が好きです。だから、マイペースゲーマーの成長、第二部ということで、バカテス世界にぶち込んでもいいかなと。まぁ、こちらもこの作品が前提ですので、やるとしても通常投稿はしません」

風「さっきと同じだね~」

千「ただ、バカテスを知らない人たちでも読みやすいような配慮を心掛けるので安心してください」

鬼「安心というか……私のヤンデレボコデレ要素が爆発しそうだね……」

風「…………やめよう!あの高校へ進学すると僕への被害が当社比三倍くらいに増えちゃうよ!」

千「3は番外編も含めた諸々です……まぁ、1や2に含まれないことだと思ってください。と、そんな感じで、本編は完結、区切りを迎えたけど……って感じです」

風「完全に終わるのはいつになるのやら」

鬼「多分、ないでしょ。しかも、相変わらずの不定期。1~3の件も順番も間隔もバラバラになると」

千「作者自身が今の大学の勉強以外にも、勉強したいことも出来たそうですし、バイトでは何故か偉い立場になっていますし……そういう意味では不定期更新。気が向いたときに気が向いただけ書いて投稿。本当にいつも、迷惑をかけていますが、今後も変わらないってことですね。ただ、作者が生存していることは、Twitterなり、作者のマイページを見れば分かるかと」

風「Twitterが作者生存用な件について」

鬼「まぁ、最近はゲームのガチャ結果が多く投稿されているし」

千「ちなみに今朝から推しのガチャで外し、最高レアが25%出るガチャに続き50%も外したので心が折れたそうです。推しの方は、ふて寝して心が安らいだらまた引きますとのこと」

風「駄作者の運はよく分からないからね~ピックアップじゃない最高レアキャラを二枚連続抜きとか、ピックアップが仕事してくれないとよく言ってるし」

鬼「と、この様に生存してガチャで爆死しているところもTwitterで確認出来ますので。生存報告にどうぞ」

 

 

 

 

 

千「次にこの作品に関わる小話。さっきも出てきたけど、この作品は見切り発車で、決めていたのは、風人君がマイペースゲーマーであることと、神崎さんが鬼でヒロインってことだけ」

風「……え?本当に何にも決めてないじゃん」

鬼「誰が鬼よ。だから、大切なタイトルで英語を間違えて、指摘されて、途中でタイトル変えるっていう阿呆なことをするのよ」

千「あはは……後は話し方が決まって、年齢不相応の子どもっぽさや、一言余分で堂々とその発言が出来るとか」

風「中性的な容姿で女装が似合って、何でかノリノリなんだよね~」

鬼「そのせいで私が苦労をすることに……」

千「そして多重人格的な感じになると。そうじゃないと、一向に真面目な話が出来ないからというのが最初の理由なんだけど、本当に多重人格になって、重い過去を持って……」

風「武器が手錠というのは、作者が好きなアニメのキャラの武器から来ているよ~。自由人な僕が、ナイフとか銃とか普通の武器を使わないことからだね~。まぁ、千影の武器がトンファーになる予定と言えば、伝わる人には伝わるよ~!」

鬼「ちなみに、最初の方でスーパーボールを暗殺に使っていましたがそれも別の好きな作品から来ています。あれは……IFルートで答えが出てくるので、ここでは省略」

千「ですね。…………って、まさか、私が肉弾戦担当……?」

風「そこはお楽しみに~っと、そーいえば、一周年の時に千影、涼香、雷蔵の誕生秘話をやるって言ってたよね?」

鬼「確かに。しかも、オリキャラをあんまり出したくないと思っている作者なのにね」

風「原因はその場のノリで出すことが多くて、後々動かせなくなるのと、既存のキャラが高確率でキャラ崩壊起こすから!」

鬼「キャラ崩壊の代表例、私」

千「自分で言っちゃうんですね……本来、登場予定はなかったそうですが。唐突に、有希子さんが勘違いで嫉妬する話が書きたくなったそうで、そこで登場したのが風人君の従姉妹の涼香ちゃん。そして、従姉妹だと結婚できるからそういう疑惑を払拭するために登場したのが涼香ちゃんの彼氏で風人君の友人の雷蔵君ですね」

 

 

風「なるほど……あれ?千影は?」

千「この中だと最後ですね。ただ、特殊な経緯があったそうです」

鬼「特殊な経緯?」

千「書いていくにあたって、南の島と死神編での風人君の立ち回りを考えたそうです。南の島で風人君が終始大人しく付いていくだけなわけがない」

風「そこで登場したのがジャックおじさんか~確かに。あの時の僕は今よりも扱いにくいでしょ」

鬼「今でもそんなに変わらないよ?」

風「酷い!この作品のテーマは僕の成長なのに!」

鬼「後は私こと有鬼子でしょ?」

千「まぁまぁ。それで、死神編はターニングポイントにしたかったそうです」

風「変わる大きなきっかけというか、何というか」

千「だから、死神編では風人君の過去と向き合う……って考えていたそうです。そこで取っ掛かりとして、和光風人はどうしてこうなったかを考えたそうですね」

風「ほへ?作者が考えたからでしょ?」

千「これは、作者の考えなんだけど、物事の多くは理由があると。その人が何故そんな思考をして、そのような性格、ものの見方をするようになったか。そこには必ずそうなった原因や背景があるってね」

鬼「私の場合は親からの圧。そして、そこの風人君が引っかき回すからだね」

千「だから、風人君がE組に落ちた理由もしっかりと考えていたし、有希子さんとの出会いの経緯も考えていた」

風「転校生が唯一の知り合いとよく関わる……うん。ありそうだね~」

千「一人称が私になると真面目になる。頭がよく、気になったことを徹底的に調べるけど、興味のないことは一切。暴力や命が関わると空気が変わる……まぁ、マイペースなところに少し隠し事が増えた感じだね。しかも、序盤ほどのマイペースさだと誰かが風人君のサポートをしていた可能性があった」

鬼「私の立場だね。あそこまで行くと、保護者役じゃないけど、誰かが引っ張っていないと学校生活が心配だね」

風「酷い!過去編でもチラッと出てきたけど、僕は一人でも大丈夫だったよ!」

 

((絶対にそれはない))

 

千「でもそれだけだったら、語調を変えて真面目になる必要はない。それが、その保護者役の模倣だとすれば、その人が近くに居れば模倣する必要はない。と、いろいろ詰めていくうちに出来たのが」

風「僕の中学までのお目付役で、面倒見が良すぎるくらいよかった千影」

千「良すぎた理由は私が過去編で言っていた理由だね。…………後は、ジョーカーはただのモブがやるはずだったんだんだって」

風「……え?マジ?」

鬼「モブから風人君たちの担任に……?」

千「ジョーカー戦を書いていて、ふと思ったのが、『何故、ジョーカーは和光風人と和泉千影を覚えているのか』だったそうです」

鬼「ジョーカーは殺人鬼……その殺人鬼が、何故二年前に殺した相手とかを覚えていたか」

風「でも、アレは僕らに執着していたから……」

千「ただのモブが執着していたら、絶望は少なかったかもしれない。ただ、風人君がE組に落ちた理由を改めて考えたりすると、自然とピースが当てはまって、ジョーカーが誕生したそうです」

風「なるほど……」

千「ただ、伏線を張っておきたかったけど、露骨すぎてバレました、と」

鬼「そりゃ、あのタイミングで出てきたらバレるでしょ。明らかにあの何でもないタイミングで登場されたら、コイツ犯人だろって誰でも思うでしょ」

風「ミステリーなら間違いなく駄作だね」

千「本来、伏線を張るときは、もっと前から張るそうですし、逆に何の気もなく書いていた言葉を他の話で拾って繋げる事もあると。むしろ、後者の割合がかなり高いそうです」

鬼「ちなみに、そのせいでダンガンロンパの二次創作……通称、創作論破を書きたいのに書けないもどかしさがあるそうです。その上、ラブコメ系(?)を書きすぎて、どうしても恋愛色が強く出過ぎてしまうという悲しみがプラス。ちなみに全然進まなくて匿名投稿で更新停滞中、零からやり直そうかと思う今日この頃とのこと」

 

((暗殺教室ってラブコメ……?))

 

風「まぁ、ああいうのは伏線が大事だからね~うちの作者は伏線を意図的に張るのが下手くそだから向いてないよね~」

鬼「恋愛色が……確かに。命を扱うとか学生っていう点は暗殺教室と共通していても、流石に恋愛全開は無理でしょ」

千「ちなみに作者はグロい描写が苦手です。シリアスよりコメディの方が好きです。……って思っているのに頭を使った騙し合い殺し合い系が結構好きとのこと。小説版の人狼ゲームなんかも好み」

鬼「うちの駄作者は狂っているからね……ちなみに人狼やワードウルフ、NGワードゲームみたいな、相手との対話系は、そこそこ得意だけど苦手だそうです」

風「どういうこと?」

鬼「敵に回すと厄介。ナチュラルに嘘を付くから怖い。平然と裏切り引っかき回す。など、仲間内でやらせると初手で詰んだり、無茶苦茶警戒されます」

千「なんというか……はい。まぁ、仲間内だから、自由にやれているということで」

風「まぁ、話が逸れたけど。千影はIFルート、涼香や雷蔵は高校生編で出て来るからね~うんうん」

 

 

 

 

 

千「後は後語りらしく、はっていた伏線とかかな?」

風「といってもなんかある?」

千「そうだね……風人君が有希子さんを呼ぶときは場面によって使い分けているとか?」

風「あれね~普段有鬼子で呼んでいるけど、有希子って呼ぶときもあるよね~」

鬼「一応、呼び分けはしているみたいだね。……基本が鬼なのは解せないけど」

風「後はししょーもだし、殺せんせーは……微妙って感じかな?」

千「一番作者が頑張ったのは、風人君に有希子さんのことを異性として好きだと、死神編の終盤まで言わせないようにしたことだって」

風「確かに。本編でもそのことは軽く言ってたよね……」

鬼「……付き合っている相手に2ヶ月以上、好意を示してもらえなかったら普通は病むよね。まぁ、それを承知で告白した感じもあるけど」

風「最初から病んでるでしょ」

鬼「後で覚えておいてね♪」

千「あはは……でも、あれは風人君なりの誠意ってことなんだよ」

風「あんな別れ方すればそうなるでしょ……でもまぁ、そう言えるようになったのは、ある意味、整理がついた証拠かな~」

鬼「だから、千影さんとの対話の最後で、お互いが好きと伝え合ってるけど、風人君は過去形、千影さんは現在形で言っている。ああいう展開は賛否両論あることを知った上でやりたかったからやったけど、後悔はしていないそうです」

千「他には、風人君の自殺未遂の跡は修学旅行編で伏線らしきものを張っておいたり、露骨だけど二人と殺せんせーが映画に行く話で私の存在を軽く触れたり……」

風「あれ~?千影って、凄い後に登場したんじゃ……」

千「その辺りで私という存在が生まれたんだよ。確定したのは1学期期末で、風人君が浅野君と話すところだね」

鬼「後は、死神編が終わってからは、風人君の成長に対し私が自分は進んでないと思っているところだったりかな」

風「他にもここは~ってのがあるかも!そこは探してみてね~」

 

 

 

 

 

千「ということで、後語りの時間もそろそろおしまいです」

風「語り始めたら切りがないもんね~」

鬼「本当にね」

千「何度も失踪したり、読者から凄い心配されたり、前書きや後書きで遊んだり、色々と挑戦したり……本当に自由にやっていたと思います」

風「うんうん~途中からこの作品は何でもアリって思い始めたからね~あはは」

鬼「ギャグ漫画みたく、特に風人君と駄作者は何度倒しても蘇って……数えていないけど、風人君は絶対に三桁行ったよね?本編で書いていないだけで一日一回以上やられているし」

風「ふっふっふ、でも、僕のライフはまだ残っているよ~」

鬼「うん。IFルートは無理だけど、高校生編でもっとそのライフを削るから覚悟してね♪」

風「……僕、IFルートに逃げようかな」

千「IFルートは……風人君。多重人格より恐ろしいことになってるよ……?」

風「…………詰んだ?もしかして詰んだ?」

千「と、とりあえず締めの挨拶を。応援や心配、協力してくれた人々のお陰でここまで来ました。本当にありがとうございます」

鬼「原作の神崎有希子からはキャラ崩壊し過ぎて想像付かないですが、こんな風にすることができたのも温かく受け入れてくれた皆様のおかげです」

風「タイトル通り、これは僕の成長物語。読んでくれた皆、本当にありがとね!また別の機会で会いましょう!」

「「「本当にありがとうございました!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、最後に無事に掘り起こされた作者から謝辞を。

この作品は作者が初めて本編を完結させることが出来た作品(ガチ)であり、コラボや番外編などを通し、多くの方と交流できた作品です。前書きや後書きで途中から自由にやっていて……よく受け入れてくれたなと。そして、投稿ペースが本当にバラバラで、毎日投稿するときもあれば数ヶ月あくときもあって……こんな作者のマイペースさにここまでついてきて頂き感謝です。

一区切りここでつきました。これも皆様が様々な形で応援してくれたおかげだと思います。

ここまで、ありがとうございました。

もし、これからも付き合ってくれる方はマイペースで自由気ままなこんな駄作者ですが、色々とこの作品関連でもやりますので、見ていただけると幸いです。

では、またお会いできる日を。

作者 黒ハム



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