学年ワーストのギャルが騎士道で成り上がる英雄譚 (TT_お休み中)
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#ぷろろーぐ的な?

 一応、注意っていうかなんてゆーか……ちょっとだけ言わせて。

 このぷろろーぐはあたしの"一人称視点"になるから、文法とかナントカは知らないってカンジ。

 次回から三人称ってゆー書き方になるらしーから、ヤな人は即バックね! んじゃ、よろしく~。

 

○●○●○

 

「ねぇ観に行こうって~桐原クンの試合~」

「はぁ? 行く気無いしダルいしパスでー」

 

 ってゆーか、ホンキで行く気が無かった。「桐原静矢(キリハラ シズヤ)」っていうヤツの試合は一方的リンチ。ぶっちゃけ、ミセモノ小屋みたいな? なんだか相手がカワイソーに思える戦い方って感じ。

 去年はクラスメイトだったんだけど、印象は良くないよねー……一部の女子ウケはバツグンって感じだけど。ホラ、あたしの友達みたいに。

 

「だって相手が黒鉄だよ~? あんだけイジメてたヤツをボコすなんて、桐原クンも容赦ないよね~」

「ふーん……」

 

「ねぇ聞いてんの? キサラってば、塩対応過ぎ!」

 

 

 あー。自己紹介忘れてた。ダメだね、こーゆーの。あたしの名前は『大道(だいどー)キサラ』キサラって呼んでね。

 クラスは二年三組。成績は……筆記科目だけで成り立たせてる感じ? もうハッキリ言う。落第寸前です。

 

 

「だってキョーミ無いし。騎士道って言ったって、あたしの剣使えんし?」

 

「そーやってスネてると、黒鉄みたいに落第するよ~?」

 

 実際、能力値が絶対なセカイ。クラスメイトだった黒鉄一輝(クロガネ イッキ)ってヒトは体術だけしか点が取れなくって、落第しちゃったみたい。

 他にも色々事情はあるらしいけど、あたしも他人事じゃないよね。ってか、普通にネイルとかしちゃってる系ですし。落ちるのも時間の問題でしょ。やば。

 

「いいし。むしろ勝手にすればってカンジ。どーせあたしのデバイスは禁じ手ですよー」

「スネないでよキサラ~!」

 

 何であたしがスネてるかって? 今、コレを読んでるヒト達に例えてみるね。『高校野球では鉄バット、プロ野球だと木製バット』みたいなカンジ。

 

 あー……分かり辛い系? しょうがないなぁ……ぶっちゃけちゃうよ。

 

 あたしの固有霊装は『ブレード』古い言葉で言うと"電磁剣"。あんまり、この世界じゃ見掛けないでしょ?

 ビームっぽいってゆーか、なんかSFっぽいなーってカンジのやつ!

 

 えっ? 『電撃系なら既に破軍に居るだろ』って? ソレって、東堂刀華(とーどーとーか)ってヒトでしょ? あれとは違うんだって。

 

 向こうが王道なら、こっちは邪道……あたしの霊装(デバイス)はホントの意味での『デバイス』なの。

 

 実戦では禁止指定武器(ダメ、絶対)。そういう剣や武器を現代剣(モダン・コンバート・ブレード)って言うんだって。まー使えないからどーでもいいけどネ。ってか、呼び名長すぎ。MCBとか略したらカッコよくね?

 

「一回だけだから、ねぇいいでしょ~キサラ~」

 

 トモダチに根負けってカンジ。一戦だけって約束で観に行くことにするよ。もう剣術に未練なんて無いし……警察来そうだし……はぁ病みそう。

 

○●○●○

 

「マジ黒鉄一輝ハンパなくない!? ヤバ過ぎだって! "1ミリズレてた"とかマジ分かんない! 何であんな戦い出来んの!?」

「キ、キサラ……テンション上がりすぎ……」

 

「やっぱ騎士道ってこうあらなきゃねー! やばやば……久々に戦いたくなってきたなってきたー!」

 

 あたしのテンションが"一刀修羅"なのには理由があった。黒鉄一輝vs桐原静矢は超が付くほどのベストバウト。

 相手の攻撃を受けに受け、アウェーな戦いを一心不乱に突き破って勝つ! そんな黒鉄クンの必殺技が「一刀修羅」……うんうん。『受けの美学』っていいコトバ!

 

「確かに黒鉄……クン。ヤバかったね……アレは認める。キサラの言う通り。だから落ち着いて?」

「いやいや、あんだけ桐原推しだったのに負けて凹んでる系?」

 

「そりゃ凹むって! せっかくワーストワンコールしたのに、なんか一年のステラ皇女が叫んでから形勢逆転だよ!?」

 

 あの戦いを見てから、あたしの心はくすぐられた。何か、忘れていたモノを取り戻せるような気が……いや、あり得ないって。今から他の剣を使ってランクアップとかムリだから。いや、マジで。

 

 ――やっぱ黒鉄イッキだけなのかな、あんな成り上がりが出来るのって。

 

 そう思っていると、少し顔色の悪そうな"センセー"が声を掛けてきてくれた。

 

「あ、キサラちゃん♪」

「あーユリちゃん! 久し振りじゃん!」

 

 そのヒトこそ、折木有里(オレキ ユーリ)センセー。一年の頃の担任。その名も「ユリちゃん」

 ちょっと病弱だけど、あだ名で呼んでねってゆーくらいすっごくフランクで良いヒト。たまに血を吹き出すケドね。

 

「ちょっと、来てくれない?」

「もっちろん!」

「じゃあね、キサラ。また後でね~」

 

 何か友達満足気なんですけど。オタクに負けじと早口で喋ったからドン引きなんですけど。どうしよ。

 

「はいはーい」

 

 ま、いっか。ユリちゃんと話すなんて久々だし。そんなノーテンキに考えてた時期も、あたしにはありました。

 

○●○●○

 

「いいお知らせがあるの☆ 今年度から、電磁剣を含んだ現代剣の使用が緩和されたの♪」

「えっ!? マジで!?」

 

 あたし。驚く。ソレはソレは蝶のように超驚く。一年にどっかの国の皇女が入ったとは言え、そんな超展開アリアリのアリなんですか。

 

「うんうん。だから、テストをサボらなくても良いようになったのよ~」

「ウソでしょ……!?」

 

 ユリちゃん、もとい折木センセーは話してくれた。

 使用緩和の建前は「そもそも使用者が少ないから」でも、ホントの事も教えてくれた「不貞腐れたあたしをどうにか落第せずに在学させたい」ってゆー特例処置……待って、あたしの為? そんなの甘くない? ご都合過ぎない? いいの!?

 

「その代わりと言ってはアレだけど、使用試験をしてもらいたいの☆」

 

 あ、いや。自分の能力に自惚れてるワケじゃなくて、実戦なんて入学以来ご無沙汰系だから自信が無いんです、すいません。

 

「全然あり……ってかホントに……ユリちゃんアリガトー!」

 

 誰かと戦う、そんなコト考えてたらゾクゾクしてきた……相手はさっきの桐原静矢? それとも光属性繋がりの東堂刀華? えぇい誰でも来んかーいッ!

 

「対戦相手はこのユリちゃん……折木有里が相手させて頂きます」

 

「……マジで?」

 

「負けたらその時点で落第ね☆」

 

「(え、やば。ムリなんですけど)」

 

 やばたに。ぶっちゃけ入学してからロクに剣を揮ったコトすらない。そんなギャルの相手は破軍学園の「センセー」勝てる気がしない……って、あたしは言いたくない! 負けたくないって! やってやるって!

 

「分かりました……敬語使ってる時点で、ガチって分かりますよね?」

「えぇ、絵に描いた餅の様にね」

 

 センセー笑ってんじゃん。「無理でしょ」ってナメられてんじゃん!

 分かった分かった! さぁ、そんな崖っぷち落第寸前ギャルの英雄譚……はっじまーるよー!



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#1 #現代剣使用試験 #vs折木センセー #ユリちゃんヤバイ 

「さて! 準備は良いかしら――!」

「ユリちゃん、大丈夫!?」

 

 現代剣使用試験による模擬戦が始まった。ジャッジは自動判定。無観客試合となった会場には一筋のスポットライトのみが足元を照らす。

 

「えぇ。わたしは問題無し」

 

 折木講師はウォーミング・アップと言わんばかりに吐血。伐刀者としての二つ名は『死の宣告(ジョリー・ロジャー)』――不利に思える身体状況を利用する実力者は、血の結晶とも言える固有霊装『カットラス』を展開。

 

「先生、展開くらいは待っててあげるから」

 

 良心的な配慮。だが、その言動からこの試験の意味が分かった。「水際作戦」――上陸しようとする兵士を蹴落とす様な、甘い希望から厳しい現実へと突き落とす。彼女は覚悟した。

 

「……よし、やるか」

 

 キサラは数年ぶりに固有霊装を抜いた――名は『光刃(ボルテックス・ブレード)』実物を可視するのが難しい程の閃光が、折木の視界を刺す。まるで、蛍光灯をそのまま掴んだかの様なフォルム。

 軍用として開発された光刃の能力は、最低限の回復能力と光速で展開する旋回速度。ショートレンジのカットラスに対応出来るかは、彼女のブランク次第。

 

Let's Go Ahead(試合開始)

 

 これまで耳にするとは思わなかった合図に一瞬戸惑うキサラ。その隙きを狙い、伐刀絶技を展開――『血染めの海原《ヴァイオレット・ペイン》』この世の物とは思えない程の苦痛が彼女を襲う。

 自身が山程抱える病を相手に共有させる凶気の能力。「どう? 感じるかしら――死者の様な醜い苦しみが」問いに返せない程の苦痛。

 

「(これが……ユリちゃんの……力……ッ!?)」

 

 ふと、頭上を見上げると紅いカットラスが間近に迫っていた。

 不覚を取られかけたが、痛みを押しバックロールで回避し、光刃でソレを受け止める。――歯を噛み締め、痛みに耐える。だが、その噛み締める力さえ、キサラに対する攻撃へと変貌する。

 

「普通なら狂う痛みだけど……この痛みに耐えられるなんて、先生感心しちゃう」

 

 一瞬のタメを挟み、寸分の狂いの無くキサラの右腕を斬り付け、ファースト・ブラッド。滲み滴る血肉に似た輝き。そう、これは模擬戦。実際の損傷では無いが、痛みと疲労は現実的に身体を襲う。

 震える身体にムチを打ち、キサラは折木を睨み付け、その姿を捉える。まるで死者を食らう魔女の様な姿。

 

「守りに入るとは、貴女らしくないわよ」

「んなワケ……ッ!」

 

 折木はすかさずキサラの間合いに入ると、横から円を描き、カットラスを振りかざす。だが、閃光がソレを食い止め、阻止する。

 

「いい勢いね」

 

 光から伝った衝撃を反動させ、華麗に身を回すと、狐を描き、反対方向の首元へとカットラスを振るう。

 ショートレンジ特有の速さに戸惑いながらも刃を走らせ、辛うじて対応する。だが、それらはキサラを踊らせるかのような翻弄。

 スナップを効かせ、己のカットラスで目の前を弄ぶ様に。――彼女は理解した。スタミナを削り、持久戦へと持ち込もうという戦法。

 

「センセー……小細工ならヤメて」

「小細工に見えるなら、心外ね――ッ」

 

 居合のスピードが上がる。受け流すような揮いだったが、今度は叩き付ける様な威力の高い物へと変化する。乾いた音が澄んだシンバルの様な甲高い音色へと切り替わる。

 

「そろそろ疲れたでしょ? 剣士だなんて貴女らしくない。騎士道なら尚更。伐刀者? ――貴女には無理」

 

 分かり切った挑発。攻めの姿勢に切り替えるには酷だという事すら分かり切るかの如く、カットラスは閃光へ問う。「そんなものか?」と。

 

「んな事……言われ続けたってのッ!」

 

 だが、惨めたらしい生活から脱したい。そんな意地がキサラの動力源となっていた。カットラスの根本を覆し、折木の体勢を強引に切り替える。

 しかし、彼女の様に攻めるとなると体力は削ぎ落とされるのみ。間合いに入れば入るほど、遊ばれる。

 

「(なってない。なってないんだよ)」

 

 勢いだけの剣捌きだと思うと、折木はほくそ笑み、赤子をあやすように朱の刀で容易に返す。

 

「わたしの猿真似をしても無駄。能力をコピーし、上書きする様な黒鉄君に感化された?」

「影響は……されたカモッ!」

 

 そう、伐刀者としての心を取り戻せそうな程に、彼の勇姿がキサラにとってのトリガーであった。

 しかし、折木の言う通り、キサラに一輝の様なコピー能力は持ち合わせていない。彼女の戦法を返すだけでは意味も無い。トリガーを引くだけの無鉄砲。

 閃光の速度は無闇矢鱈に上がる一方――「ヤケに打っても、わたしには勝てない」判っている。身体に走る感覚同様、痛いほど判っているのだ。

 

「あたしだって……あたしだってッ!」

 

 折木の迅速な捌きに、霊装が手から離れてしまった。――「負けたくないッ……!」身体を宙返し、辛うじて脚で捉えたものの、不意を取られ、腹部へと突き刺された朱色の刃。カットラス。

 

「言ったじゃないか。君には無理だと」

 

 言葉にならない叫びが喉から漏れる。現実を突き付けられたかの様な苦しみ。――実戦では負けと判断される状況。しかし、痛みの中でキサラは気づいた。

 

「……勝ったって、思った……ッ?」

 

 痛みこそが闘い。彼女は開き直り、デバイス特有の回復能力を封じた。当然、恐ろしいまでの脅威が身体を襲う。

 だが、ソレらは『闘いの快楽』キサラはそう実感し、苦しみから吹っ切れた。己の伐刀者としての魂が甦った瞬間。

 

「――狂乱ノ蝶(超ヤバイって)

 

 咄嗟に霊装を引き抜こうとしたその時、キサラの脚へと委ねられた光刃で蹴破られ、彼女の胴を掻っ捌く。

 

「(嘘だ――ッ!)」

 

 折木は身を崩しかけるも、体勢を立て直そうとする。だが、もう片脚で蹴られ、無理矢理起こされると、お返しと言わんばかりに腹部へ光刃を突き刺す。脚から彼女の手元へと戻ったその輝きは、血流の様な色で折木を貫いた。

 

「……カットラスが――!?」

「ソレ、お返し」

 

 カットラスは光刃と共に自らの腹部へと突き刺さっていた。蹴り破った瞬間、腹部から抜き取り自身へ突き刺したのである。痛みを乗りこなすソレ(伐刀絶技)に気づいた瞬間、鮮血に似た光が彼女の視界を遮った――『試合終了。勝者――大道キサラ』

 

 試合終了を告げるブザーが微かに揺れる。遠のこうとする意識を掴み、折木はフラつきながらも立ち上がった。

 

「君も……困難に挑もうとする者なのかい……?」

「他にも居たの……あたしみたいな無茶やるヤツ」

 

「それこそ、黒鉄一輝君だよ」

 

 自身に挑み、勝った生徒は一輝だけだと思っていた。しかし、その事実は上書きされ「大道キサラ」の名が刻まれたのである。身を滅ぼす様な無茶。それを振い落そうとしたが、彼女は抗った。

 

「中々やるじゃん。アイツ」

 

 嬉しそうに微笑するキサラの姿は、無鉄砲な少女ではなく"騎士"そのものであった。――その想いに折れてしまった。そう言い、キサラの想いを受け止めた折木の姿。

 照れ隠しの笑いであったが、痛みにも負けない強さと誇りが勝った騎士としての笑顔に、キサラは感極まった。

 

「いいのよ。人ってね泣くと強くなるの。先生は泣いてもね、ずーっと病気三昧だったけどっ」

「違うの……センセーの気持ちが嬉しくて……」

 

「あらやだ。そんな事言われるなんて、こっちも感動しそ――!」

「ユリちゃん!?」

 

 涙ではなく血の噴水を吹き出すと、力が抜けたように横たわる。――「全力出しちゃったみたい。でも、明日から復帰するからね☆」相変わらずな笑顔に、キサラも笑顔が戻った。

 

「あっ……! 伐刀絶技の名前『超ヤバイって』になったんだけど……こういうのって変えられるモン?」

「うーん。ちょっと厳しいかなぁ」

 

「えー!? それってマジヤバイってーッ!」

 

 この日から『大道キサラ』の物語は始まる。――「若いって良いね」そうつぶやくと、スーッと意識が遠のく。慌てるキサラの声が心地よい。折木有里は微笑み、騎士道の歩みを祝福した。



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#2 #初投稿 #フラペうまー #桐原はヤバい

「って、カンジでさ~! 勝っちゃったんだよね、ユリちゃんに!」

「……キサラ、イッキ病にやられたんじゃない?」

 

「はぁ!?」

 

 折木を破り、無事に使用試験をクリアしたものの……七星剣武祭への選抜戦を放棄していたキサラは一ギャラリーとして試合の数々を見届ける事となった。

 

「まー。キサラか桐原が居れば、ちょっとはココの雰囲気も良くなったカモ」

「あたしに言わないでよ、言うなら過去のあたしに言って」

 

 上級生と下級生のみとなった代表選抜選手達に、一部の二年生達は不満に包まれていた。「俺ら居ねーじゃん」「全滅かよ」募る募る地獄のような雰囲気。

 

「何か最悪だね。ここ」

「桐原来ないし、来ても結末は想像したくないケド――」

 

 二人の言葉を遮るようにクラスメイトの男子はヤケッパチに言った「アイツは二年(俺達)に泥を塗ったんだ」――キサラはその言葉に噛み付いた。

 

「それ、違うくない?」

「あぁ?」

「"ぱーふぇくと・びじょん"でヤられるまで、みんなは桐原の事応援してたのに……負けたら掌返すってさ。フィールドに立った事も無いヤツが言うコトバじゃ無くない?」

 

「なんだよ、現代剣に頼ってるバカ女が偉そうに言うじゃねぇか」

 

「ヤメときな? ココで桐原対黒鉄の再放送やっちゃう?」

「んだとオラァ!!」

 

 一触即発になるも、周りのクラスメイト総出で宥め、その場は落ち着いた。

 友人を始めとし、他の男子からも釘を刺された。この澱んだ雰囲気を刺激しない様に。

 

「大道。イキるのはいいけど、みんな鬱憤が溜まってんだ……あんまケンカ売るようなマネは勧めねーぞ」

「分かってるって。一番鬱憤が溜まってたのはあたし!」

 

 呆れる男子であったが、自らのスマートフォンにある映像を映し出した。

 

「この大会。裏七星剣武祭とか言われてんだけど、刀剣のルールも無いんだ。興味あったら参加すればいいと思うぜ」

 

 大会名は『無法地帯(ノー・ホールズ・バード)』その名の通り、身分、霊装、ランクは無礼講。選抜はシャッフルで決められ、学校を代表することも無い個人戦。危なげな魅力に惹かれる。

 

 だが、指定大会以外の出場は理事長への許諾が必要であった。その足で頼もう、理事長へ。

 

○●○●○

 

「ダメってどういうコト!?」

「学園側では許可出来ない。安全上の問題が保証出来ない以上、生徒を出場する事は出来ない」

 

 理事長の神宮寺黒乃は頑なであった。ごもっともであり、反論の余地も無い。

 

「自分の身は自分で守るって!」

「否、それは認められん。君は破軍学園の生徒だ――責任を取るのはどちらだ?」

 

 大改革を行った彼女を持ってしてでも、無法地帯へ放り込む事には抵抗がある。負ければ学園のイメージ以上にキサラ自身の生命の危機がある。教育者としても伐刀者としても、ソレを肯定する事は出来ない。

 

「大道君。君が現代剣を使用している事も理解している。今回の改革も、君達の騎士道を肯定する為の存在だ。今回は理解してくれ」

 

「……黙って口咥えてろっての?」

「指咥えてろ、だよ。キサラ」

「分かってるって! ……こういう風に、あたしは戦いしか出来ないの。敬語だって全然使えないし!」

 

「そうか、礼儀作法を学ぶ事から始めても遅くはないな。話は以上だ」

 

 問答を切り上げ、話は終了。理事長直々の禁止命令。やはり、夢を持つ事は認められないのか。廊下を歩くと、彼女へ投げかけられる声の数々。「大会すら出られないって可哀想だよね」

 

「同情するなら対応する剣か刀をくれっての」

「んじゃさ、許可を出すように動けば良いんじゃない?」

「動くったって、どうすりゃいいの」

 

「なんでも、学園を通さなくたって。広い目線に訴えかければ許可は得られるんじゃない?」

 

 学園から許可が出ない。ならば、現代文明の恩恵を受けよう。友人の手元で震えるスマホ。大衆を動かす剣が、そこにはあった。

 

○●○●○

 

 腕自慢が集う『タフマン・コンテスト』に二人の姿はあった。――企みはこうである。友人に撮影してもらい、自らの腕を全世界に公開する。中世には無いであろうソーシャル・メディアとのタッグ。白鳩もビックリなイマドキ発想。

 

「ってかー。あれとかいいんじゃね? やっちゃう?」

「良いじゃん良いじゃん!」

 

 大剣を肩に担ぎ、辺りを睨み付ける。撮れ高豊富なガチムチンピラ。キサラ曰く「よくアニメの一話で居そうなヤツ」――だが、挑むとなると少し及び腰になってしまう。

 

「えーっと。あたし達JKやってるんデスケドー……良かったらお相手して――」

「ガキのアマが何の様だ?」

 

「破軍です! 破軍の二年やってまーす……えっへへ!」

 

 気付けば『Let's Go Ahead(試合開始)』――大剣でフィールドの彼方へとすっ飛んでしまった。相手は大柄で横柄。ファイトスタイルも似たような物。

 

「あっちゃー……キサラ吹っ飛ばされてんし」

「なんだァ? 破軍ってのは雑魚しか取り扱ってねぇのかアァ!?」

 

 圧倒され、土埃になだれ落ちるキサラの姿を撮る。――名を上げる為。SNS映えする様な戦い方を求めるキサラ。脳内の検索エンジンは、猛スピードで結果を弾き出した。

 

 

『もしかして:受けて 受けて 最後は勝つ』

 

 

 そう、やられても勝てば良いのだ。首をわざとらしく鳴らし、仕留める時を待つ執行人。

 ならば、待たせて焦らせよう。あえて間合いをロングレンジの端へと近付ける。吹き飛ぶリスクを最低限かつ、体力を使い果たすような立ち回りに男は怒る。

 

「チョロチョロガキの癖に……ぶち殺すぞオラァ!」

「いやいや、殺されちゃスナッフビデオになっちゃうんで……」

 

「知るか殺すぞアマァ!!」

 

 またしても大振る舞いでホームラン。だが、最初の勢いより飛距離は少なくなっていた。剣でのダメージよりも砂利で擦りむき、見よう見まねの受け身でこなすのがやっと。

 

「キサラー! 負けんなー!」

 

 友人の励ます声が身に沁みる。一人では絶対に出来ない事。彼女の為にも負ける訳には行かない。

 そう思い、デバイスを握り締める。だが、輝きを灯さずジッとその場を動かない。フィールドの中心点で迎え討つ。さながら、気分は闘牛使い。

 

「そこから動くな。必ず仕留める」

 

 肩で風を切り、剣で風を切り裂こうとしたその時――キサラは動いた。

 

「ちゃんと撮っててッ!」

 

 デバイスを展開し、光速で振るう。すると、砂埃と共に彼女も空を舞う……男の視界が滲み、思わず目を背けた瞬間。

 

『――狂乱ノ蝶(超ヤバイって)!』

 

 頭上で身体を反らし、再展開。太陽の様に輝く光刃を思い切り振りかざし――脳天直撃。決着は一撃であった。

 

「……撮った?」

「撮った……うわぁ土埃のコンシーラーだよ」

「えぇ!?」

 

 映像を確認しようとしたものの、取り巻きが今にも襲おうとする事に気付き、慌てて逃げる。

 この日は追っ手を巻くまで半日掛かってしまった。その間も端役と言えるような連中を光刃で薙ぎ払い、その光景も映像化した。

 

「もう……来ないよね?」

「あー疲れたー!!」

 

 ヘトヘトになりながらも、行きつけのカフェへと駆け込む。フラペチーノを飲みながら、スマホの無料アプリで映像を編集。ネット上へとアップロードする寸前。重要な事を忘れていたと、友人が彼女に言った。

 

「あーキサラ。タイトルどうするよ」

「うーん……イマドキな長ーい名前がいいんじゃね?」

 

 あまりに適当であるが、ただでさえ回らない頭が更に鈍っている。カフェインが無ければ思考停止である。

 

「今の成績は?」

「ドン底。女子界の"ワースト・ワン"名乗れるよ」

「んじゃ、決まり。"学年ワーストのギャルが騎士道で成り上がる英雄譚"!」

 

「やば。めちゃ長いじゃん」

 

 こうして、初めての動画がセカイへ放出された。イマドキのギャルが大男へ戦いを挑むという一風変わったムービーは、本人が思った以上に話題となった。が、疲労困憊の身体を労る為に睡眠する事にした。

 

○●○●○

 

『えーっと。動画を見てくれているみんな。あたしの名前は『キサラ』無法地帯目指して、今日から騎士道で成り上がるぞー!』

 

 SNS上では、ワースト・ギャルに対して様々な議論が飛び交った。それはそれは膨大な意見の数々。

 

「力を持て余した不愉快な遊び」

「新たな剣士の可能性」

「ネット界の七星剣武祭」

「所詮道具だけ」

「若者の道徳を疑う問題作」

「痛快な少女達の活躍」――賛否両論共々集うが、どちらにせよ『大道キサラ』をアピール出来た事は間違いない。

 

『良い子はマネしないでねっ! これマジだからッ!』

 

 イマドキのクラブ・ミュージックをバックに実況しながら、長き茶髪を靡かせ、光刃を捌く彼女の姿に校内のトレンドは持ち切りであった。

 

「キサラ達、あんたらヤバイって!」

 

 つゆ知らずの二人はごく普通に登校するも、投稿の威力は甚大であった。

 校内の掲示板には「大道キサラ、及びその友人。至急理事長室へ向かう様に」――投降命令。二人は血の気が引いた。

 

○●○●○

 

「えーっと……」

「「すいませんでしたッ!」」」

 

 早速、理事長から呼び出された二人。第一声は「ふざけるな」"有難き"数時間もの説教の後、タバコ混じりのため息を吐いた。

 「本当なら退学処分」そう念頭に置き、彼女は重い腰を上げた。

 

「大会へ出場したいのなら、我々は一切のサポートを行わない――何が起ころうと、自己責任で出場してくれ」

「「あっ、ありがとうございましたッ!」」

 

 SNS万歳。ソレだけで充分であった。だが、動画を見ても尚、キサラ達の実力を疑問視する学生達。――皆は口を揃えて言う。「桐原とやってみろ」無理難題過ぎる。

 

「いやー……そもそも出てくれんの?」

「しーらない。ケド、コメント欄には『vs桐原はよ!』ってさ。期待してるっぽいよ?」

 

「そーゆー"夢のカード"は夢のままでいいんじゃない?」

 

 と、言いながらも、何処から噂が飛んできたのか……桐原静矢が住む寮前まで来てしまった。しかも撮影を行いながら。

 

「マジでどうすんの?」

「ピンポーンって鳴らして、居ますかー? って言えば良いんじゃない?」

「……オッケー。コレ見てるみんな、狩人を狩る準備はいい?」

 

 RECが灯れば、こちらのモノ。出なくても居なくても、動画の撮れ高にはなる「あたし達は挑もうとしましたよ」感を出せば、それで良いと二人は判断した。

 チャイムを鳴らすも、返答は無し。あの歴史的敗戦以降、教師相手でもこうらしい。

 

「んじゃ、口で行こう」

 

 軽くノックし、開口一番「桐原ってばー。あたし、三組の大道キサラだけどー……今度でいいから、あたしと戦ってくんない?」――返答は無い。無音。

 ダメか、キサラはそう思うと、友人は"切り札"を繰り出した。

 

「ねー。このまま出てこないと、黒鉄クンみたいに落第しちゃうよー?」

 

 マズいって! と、ジェスチャーする彼女をヨソにカメラ越しに煽り倒す。その言動は『狩人(パパラッチ)』と言えそうな程。

 思わずドアに傾けていた耳を外し、ドアから一歩距離を置く。本能的にマズい。

 

「Cラン騎士なんでしょー? アタシ、桐原クンのファンだったんだけどなー……まぁ今じゃ君こそが最低のワーストワンだって――」

「ヤバイって!」

 

 そう叫んだ瞬間、ドアから無数の轟音が響く――二人が耳を塞ぐこと、約数秒。

 再び視線をやると、音の数だけ矢が刺さったのか、ドアは岩石の様に無残となった。歪んだ郵便受けから、小さな一言。ソレは確実に聞き取れた。

 

「……殺ス」

 

 思わず駆け出し、その場を後にした二人は「#桐原はヤバい」とハッシュタグを残し、動画を投稿。それらも賛否両論となったが、対桐原戦を望む一部の声は変わなかった。

 

 だが、揃って言う言葉は決まっている。何度も言う事となるであろう「桐原はヤバい」――後に、タグが意味を成すことになるとは、この時の二人は知り得なかった。



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#3 #合法的斬リ方ノススメ #蝶と蛇 #太刀筋と光乃筋

「再生数伸びてんね~……いや、だから桐原戦はムリだって」

 

 桐原への"物申し"は流石に悪手であったと反省するも、再生数は伸びる一方。新作を考えなければ、そう思っていると思わぬ報告。

 

「キサラー! 無法地帯(ノー・ホールズ・バード)出場受理だってさー!」

 

 友人は大はしゃぎ。キサラの無法地帯出場は"無事"運営委員会に受理され、着々と準備を進めていた。

 そんな中でも数々のコメントに目を通す。罵詈雑言に多種多様。だが、ある一件のコメントが彼女達の感心を止めた。

 

 

無法地帯(ノー・ホールズ・バード)に行くには死の道だよ。一剣士からの願いとして聞いて欲しい。詳しくは僕の道場まで来てくれ』

 

 

 ただの忠告メッセージなら気にも止めないが、本名らしきユーザー名『綾辻絢瀬(アヤツジ アヤセ)』――キサラは一度耳にした事がある人名であると、友人に言った。最後の侍(ラストサムライ) 綾辻海斗の持つ『綾辻一刀流』の後継者では無いか、その問に興味津々に返す。

 

「そんな人がわざわざメッセ飛ばすなんて、ウチら超売れっ子じゃん。行ってみようよ!」

 

 フットワークの軽さは相変わらず。二人はスマホ片手にいざ外出。

 

 

○●○●○

 

 

「すっごいね……」

「ハンパないマジで……行こッ」

 

 荒廃を極めていたとの噂もあった『綾辻一刀流道場』――だが、綺麗に再建されたソレは威厳を持ち、普段の姿勢も正されそうな規律正しき由緒を醸し出していた。

 

「あの、コメントをもらったので来ちゃったんだけど! 大道キサラだよッ!」

 

 戸がゆっくりと開かれる。その影は、二人よりも大きく威圧感の有る存在。

 

 

「てめェら、どの面下げてこの道場に来てんだ……アァ?」

 

 

 獣をも逃げ出す眼光、睨みを利かせる胸元のスカル・タトゥー。道場生というには……不適格な攻撃性。

 

「あっ、あの……綾辻絢瀬さん、ですか……?」

「はぁ? 人違いが過ぎんだろォが」

 

 友人の様子が何時もと違っていた。驚愕と恐れを兼ねたような表情で震える。

 

「ままま、まっ、まさか……あの貪狼学園の……倉敷蔵人!?」

 

 彼は舌を打ち「その通りだ」と返す。『倉敷蔵人(クラシキ クラウド)』――剣士殺し(ソードイーター)の異名で名を轟かせた戦闘狂(バトル・ジャンキー)

 

「ったく、うるせぇなァ。師匠の代わりに顔立ててるだけだろーが」

 

 まさか、綾辻一刀流の門下生となっていたとは――彼女達はその事実に対し、更に驚く。

 

「……鳩が豆鉄砲食らってやがんな。来いよ」

 

 思わぬ展開だが、彼は絢瀬の代わりと言わんばかりに無法地帯(ノー・ホールズ・バード)の過酷さを突き付けた。

 

 

「な、なにそれ……」

「んな事知らねぇで突っ込む気だったのか!? 自殺志願者かテメェはァ!?」

 

 怒号に絶句するキサラに呆れる蔵人。それもその筈。蔵人が説明した無法地帯の環境は文字通りの物。

 

 通常大会では負傷した伐刀者の『回復期間』を挟み、数週間から数ヶ月に及んで開催されている――だが、同大会は連盟外の大会故、『一週間(殺人週間)』で予選、決勝を行うという。

 運が悪ければ、試合後に勝ち抜き戦と称し回復無しでの連戦を強いられる事もある。

 

「言っとくがな、大会は一切の生命保証を採用してねぇ。自分の身は自分で守るのが鉄則。まぁ、iPS再生槽(カプセル)を使う暇も無ぇがな」

「く、倉敷センパイは参戦の経験があるんですか?」

 

 面白いコト聞くじゃねェか。――蔵人は乾いた笑い。

 

「一度だけな。出場停止処分を喰らった一年の頃、準決勝まで進出した。その一夜で5連勝。気が付きゃぶっ倒れちまったがな……意識が戻った頃には"不戦勝"で相手がコマを進めていた。こっからが面白ェ」

 

 

 その人物が決勝戦へと出場。が、その時点で7連戦を強いられたとの事。その末路を笑い飛ばした。

 

 

「オレと剣を交えなかったソイツは……見るも無残に、ブッ殺されちまった」

 

 

 

 血の気が引くキサラ達を嘲笑い、傑作だ。と高笑う「経験談が聞けて良かったな、テメェらも運が良けりゃそうなってただろうな」――笑えませんよ、と言う友人に「甘ぇな」と払いのける。

 

「いいか、このオレが何故七星剣武祭のベスト8まで残れたか……バカなテメェらに仕込んでやる」

 

 表出ろ、と促す蔵人。彼女が止めようとするも彼は厳しい目で答えた。

 

「善人ぶんのも今の内にしろ。ここは由緒正しき"認可済道場"だ。精々オメーの眼の前でダチがくたばらねぇ事でも願っとけ」

 

 静止を無視し、キサラ達を庭へと連れ出す。「オラ、カメラ回せ」――活動を理解しているのであろう、友人は嫌々ながらスマホを取り出す。

 

「大丈夫。なんとかする」

「あのタップダンスじみた動き、予習させてもらったぜ。続きのタイトルは……『予襲復讐』でどうだ?」

「いいね、面白そー……はははっ」

 

「絢瀬ってヤツに言ったら……分かるよな?」

「言わないって、マジで!」

 

 キサラが冷や汗を掻いてるのは、レンズ越しに嫌でも感じ取られる。だが、現実は過酷だ。蔵人の言葉に従うかの如く、固有霊装(デバイス)展開。

 

 骨密度の限界に挑むかのような大蛇が、今にもキサラを喰らおうかと牙を剥き、空を舞う――『大蛇丸(オロチマル)』"武骨"という言葉はこの霊装の為に表現されたのであろう、そう思わせる程。

 

「(ヤバ……ヘビじゃん!?)」

 

 キサラも負けじとデバイス展開。――『光刃(ボルテックス・ブレード)』モスキート音の様な甲高い音を響かせ、姿を現した電磁剣。口上を付け加え、見栄え良く。

 

「さぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい――蝶のように舞い、蜂のように刺す……大道芸者の輝く舞台へようこそッ!」

 

「面白ェ……久々の剣客なら、存分に楽しまねェとなァ!!」

 

 大蛇と閃光。ハブとマングース。騎士道の皮を被った異種格闘技戦――Lets's Go Ahead(決闘開始)

 

 

○●○●○

 

 

 キサラは得意のフットワークで間合いを詰めようと、軽快にステップを踏む。

 だが、その脚を喰らおうと大蛇丸は今か今かと強引に詰め寄る。それどころか、アクロバティックな身のこなし。

 

「んな小技、オレには見えっこ無ェ……テメェにも見えっこ無ぇがなァ!!」

 

 リーチという概念が辞書には無いのか、巨蛇を操っているとは思えない蔵人の機敏性に驚愕する。この力は才能だけで手に入るような代物では無い、そう判断したキサラはステップにフェイントを盛り込む。

 リズミカルにツーステップを踏みながら太刀筋を読み、袈裟を繰り出すも、そのまま切り替えされる。

 

『ダンスと行こうぜ……蛇骨刃!』

 

 彼女のステップに応戦し、操り手の蔵人の手元から誘われた伐刀絶技『蛇骨刃』――右足を差し出せば、右側へ大蛇が襲い、今度は左脚を差し出せば、左側から蛇骨が襲う。

 さながら、聖書のような因果応報。まるでモーションを予測するかの如く、彼の剣はボリューム・バーを連想させるかの様な自由自在。それは間合いを侵食する様に。

 

「結構磨いてんじゃん……骨が折れそうだってのッ!」

「当たり前ェだろォがッ……! 自分の技磨かねェで、ナニが伐刀者(ブレイザー)だァ!?」

 

 速度も然ることながら、一発の威力も甚大。火花を散らし、キサラへ防戦を強いろうと押し切る。――切羽詰まる程の勢いに『剣士殺し(ソードイーター)』の異名の意を痛感する。

 

「(返すのが精一杯……ってか、何なのこの速度!?)」

 

 蛇の挙動に気を取られるも、己の脚へ意識を向けリズムを乗せる。わざとらしくスピーディーに前後へ出し抜き、蔵人の意識下へ集中させる。

 

「何だァ、社交場気取りかァ?」

 

 両足共々狙おうと、彼は狙いを済ました。――だが、キサラの身のこなしは脚だけでは無い。

 水面斬りのムービングを見せた蔵人に笑みが溢れる「そう来なくっちゃ」――閃光を空へ振りかざし、身体を思い切り宙へ浮かせる。

 

「あたしさ、縄跳び大好きなんだよねッ――!」

 

 地上を這い斬ろうとする大蛇を避け、ボディウェーブで身を波打たせると、肩を軽く揺らし、これまでの緊張を解く。脱力する様にリズムを自らの物へ落とし込む彼女の器量。蔵人は更に滾る。

 

「ほう……そんなんで身体が保つか、見モノじゃねェか!」

「(やっぱ速い……反射速度と軌道修正が両立してる……ッ!)」

 

 キサラの思い通り、反射神経を活かし、回し斬ろうとする蔵人のボディワークにハッキリと理解した『太刀筋など存在しない』と。

 

「じゃあどっちが速いか……チキンレースと行こうじゃないッ!!」

「上等じゃねぇか! オレと張り合うとは、最高に面白れェ剣士(ヤツ)だなァ!!」

 

 骨刃は閃光へと疾走り、相討ちが連続する音の波として響く――二発、いや、三発……その瞬間連斬は、銃弾が走る様な、乾き切った戦場の体を成していた。

 

「オレの反射神経をナメてもらっちゃ困んな嬢ちゃん!」

 

 どれだけ距離を稼ごうが、置こうが"リーチが存在しない"。ならば、反射には"別の反射"で返す。陽はキサラの閃光へと向けられた。

 

「――何ッ!?」

「このデバイスの名前――なんだか知ってるッ!?」

 

 光刃の輝きが伸びた。蔵人の大蛇丸と対するかの様な一筋の光。明らかに延びたソレは、骨の髄まで打ち始めた。

 

「テメェは操れんのか……光ってヤツをッ!」

 

 彼はその事実に笑い、連撃を速める。秒速四連、五連、六連……トップギア知らずのモンスターマシンの如く、閃光へ突き進む。

 

「まだまだ……まだまだァ……まだまだァァ!!」

 

 八連撃で応える蔵人にシャッフル・ステップとボディワークを使い、閃光を瞬かせる。何撃かは交わし切れず身に刻まれるも、光の恩恵を受けアドレナリンは全開。――更にギアを上げようと、キサラは伐刀絶技を繰り出した。

 

「アンタの太刀筋最高……あたしも答えるよッ! 狂乱ノ蝶(超ヤバイって)!」

 

 肩を揺らし、身をこなし、ステップを速める。連斬のリスクを少しでも抑え、後方へ下がろうとする。

 

「いいぜ、攻めて来い……テメェの太刀筋なんざ、断ち切ってやっから、掛かって来やがれってんだオラァ――!!」

 

 連撃のリズムにステップを乗せ、出し抜く。蛇の動きに"乗る"――身を宙返りさせると、骨の背びれを把握。閃光を這わせると、デバイスの輝きを強める。蛇から蔵人への最短ルートが完成。

 

「(今しか、今しかない……ッ!!)」

 

 塀へ足蹴りし、身体に勢い付ける。剣士『大道キサラ』はロングレンジの大蛇丸を"グラインド"――そのまま蔵人に閃光を突き刺そうとした。が、戦闘狂は軌道修正。彼女を縛るように蛇を掴もうとする。

 

 

「させっかァ!!」

 

 

 キサラをワシ掴み、縛り上げた瞬間。一筋の光と痛みが蔵人の胴を走った――「その言葉、そのまま返してやるってのッ……!」

 

 

 大蛇が縛れば縛るほど、閃光の威力が増す。まるで、ありとあらゆる光が強制的に身体へ流し込まれる様な破壊力に、生粋の戦闘狂は苦しみを通り越し『歓び』を笑い叫ぶ。

 

 

 

『最高だ……最凶に……最高だぜッ!!!!』

 

 

 

 閃光を抜き取りながらも、身体を封じる蛇骨を捌き切る――着地と共に光刃を土へと突き刺す。トドメに派手に。キサラは叫んだ。

 

『――閃光魔術』

 

 見栄を切ったキサラの背から、粉塵爆発――蔵人の身体諸共、地が吹き飛ぶ。新たな伐刀絶技が"爆誕"した。

 

「ようやく分かったぜ……テメェの力が……まだ、テメェ自身では判ってねぇ様だがなァ――!!」

 

 力を振り絞るように、剣士殺しは満足気に狂笑を広げる。そんな彼の姿に光を向ける……その時であった。

 

 

「いい加減にせんか!!」

 

 

 一喝の先には帰還を果たした最後の侍――『綾辻海斗』の姿があった。主による強制決闘終了。『反射に気を付けろ』蔵人はそう残すと、名前を問うた。

 

「キサラ。大道キサラ――異名はまだ無いッ」

 

 鼻で笑うが、彼は何処か満足気であった「いつか、もう一度ヤろう。その時はァ――」師匠の怒号に返すと、言葉半ばに道場を去った。肩に二つの挨拶を覚えたのは、その後であった。

 

 



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#4 #vs綾辻家の食卓 #風の意味 #光の意味

「ねぇキサラ、なんでアタシ達……雑巾がけしてんだっけ……?」

「そりゃ粉塵撒き散らして汚しちゃったからっしょ……倉敷センパイ、どっか行っちゃうし……」

 

「もう20往復だ。休むな休むな!」

 

 息を切らす二人。主である海斗へ謝罪を含めて事情を説明すると、道場の清掃を命じられてしまった。

 

「(絢瀬サン、早く来ないかなぁ……)」

 

 決闘後の疲労し切った肉体。侍の厳しい視線を浴びながらも、気合で身体に鞭打つ。何せ、友人まで付き合わせてしまっている。そうなると、真剣に済ます他無いのだ。

 

「終わりましたッ!」

「ご苦労……では、確認する」

 

 指をなぞると、チリ一つ付着せず。どうやらセーフな様子――こういった事には慣れているのであろう、海斗は大きく溜息を付く。

 

「すまなかったな。ウチの倉敷が粗々をした様だが……」

「い、いえいえ……無法地帯への対策を教えてもらってただけなので……」

 

「それは本当か?」

 

 

 侍の眼が光る。半分は事実であるが、少々苦しい言い訳。蔵人には悪いが敬意を払い、本音を白状する。

 

 

「はい。絢瀬さんに弟子入りを黙る条件付きで……すみません」

「――判った。そろそろ娘も帰って来る頃だ。少し食事でもどうだ?」

 

 

 思えば、既に日は暮れていた。二人共、朝から何も食べていない。喜んで応えると、絢瀬の声が玄関から響いた。

 

 

「あっ、キサラさんに……ご友人さん……はっ、はじめまして、綾辻絢瀬です!」

 

 

 絢瀬ご本人とようやくご対面。右目を隠し、とても緊張げに挨拶する彼女に対し、フランクに返す二人。

 

「どもども~。大道キサラで~す」

「こんばんは~。トモダチで~す」

 

 海斗は彼女に夕飯の支度を促すと、そそくさと台所へ向かう。客人に振る舞うには、手際は素早く。それが綾辻家のモットーらしい。

 その間、キサラは彼から「光刃とやらを見せてくれないか」と言われ、自身のデバイスを展開し、手渡す。

 

「どうぞどうぞ。眩しいからご注意を……」

 

 輝きをジッと吟味し、一振。片側を眺め、もう一振――「私の世代には存在しなかった代物だ」落日に照らしながら語ると、持ち手の彼女へ丁寧に返す。

 

「そうか……無法地帯へ足を踏み入れるのか。若気の至りか、そうでないか――」

 

 その瞬間、キサラの眼近に刀が輝る――「"反射"を鍛える必要があるな」寸前で止められた刃に息が止まる。綾辻一刀流の威圧に、思わず生唾を飲み込む。

 

「父さーん。キサラさん達~。夕食が出来ましたよ~」

「よし、食べるとするか!」

 

 軽くなった緊張感が一気に増した。そんな綾辻家の食卓は、更に凌駕される物であった。

 

○●○●○

 

「うわー! マジで美味しそう!」

 

 色とりどりの料理達。とても一人で揃えたとは思えない程の出来栄え。いただきます、と揃え、口に運ぶ。見た目以上に味も美味。

 

「ホントそれ! 絢瀬センパイ、料理上手いんだねー!」

「い、いや……ぼくは……その……」

 

「リアルでもぼくっ娘!? やば、可愛すぎってカンジじゃない!?」

 

「自慢の一人娘だ。可愛い以上の事があるか!」

「やっ、やめてよ……恥ずかしい……」

「娘としては、だ。剣士としては、まだ未熟だがな」

 

 大笑いする海斗に「最近まで入院してたのに」と、愚痴混じりの言葉を溢す絢瀬。その事実に一同は驚愕した。

 彼女によると、数年前に大病を患い、現在はリハビリ中との事。とても病を患っていたとは思えない刀捌き――尚更、反射を鍛える必要性があるのか、と痛感させられる。

 

「早く病に打ち勝たねばな……」

 

 その瞬間、料理が乗ったちゃぶ台が宙を舞う――もしや、キサラは咄嗟に『光刃』を展開。海斗の手元に輝るは日本刀。ゲリラ訓練が行われる。

 彼女は思わず残った机達を踏み蹴り、侍の斬撃を交わすと、入口を囲む木枠に脚蹴り、勢い付け振り下ろす。

 

「少しは成長したか。良い兆しだ!」

 

 すかさず交わされるも、背を合わせるように身体の勢いを切り替える。相対した海斗とキサラ。

 

「行儀が良いのか悪いのか……もう分かんないんですけどッッ!!」

 

 キサラの叫びがコダマする――鍔迫り合いの体となった二人。必死に堪える彼女の姿に海斗は笑みを溢す。

 

「いい洒落っ気だ。派手な身嗜みに負けていない……絢瀬、彼女は打てば響くぞ」

「はいっ!」

 

 ひっくり返ったと思っていた食事は皆、綺麗な状態で皿へ盛られていた。どうやら無事な様子。――「また腹が減ってしまったな」何事も無かったかの様に食卓へ戻るサムライ。

 

「……良く食えるね、アンタ」

「キサラも負けずに食べなよ~。力つけなきゃ、ね!」

 

 友人はお構い無しに舌鼓を打つ。呆れたキサラ。だが、彼女の実力を信用しているのか、ソレはあっけらかんとしていた。

 その後も当たり前のように再び食卓を囲むも、いつ何時"反射測定"が有るか分からない。

 

「(お椀持ってるけど、すぐに持ち替えるんだろうなー……)」

 

 そう考えただけで食欲が減退する。気懸かりという物は恐ろしい。――「気にしすぎだよー」だが、そう友人に促されては、食べるしか無い。夕飯は美味しく完食。

 

○●○●○

 

「あっ、あの……お散歩とか、どう……かな?」

「いいね~。センパイのお父さんが居ると、どうも落ち着かなくてさー……あれ、コレって失礼かな?」

「ううん、気持ちは分かるよ……」

 

 控えめだが、気が利く大和撫子な性格なのかと腑に落ちる。辺りは街の喧騒と打って変わり、樹木と竹が生い茂る長閑な山間。軽いハイキング気分で澄んだ空気を身体に収める。

 

「なんかゴメンね、気を遣わせちゃって」

「いや、いいんだ……無法地帯の件で、呼んだのはぼくだから……」

 

 歩を止め、本題を切り出す絢瀬。蔵人から同じ様なハナシを聞いたとは口が裂けても言えない。だが、概ね言えることは共通していた――『過酷そのもの』だと。

 

「ぼくも父さんの聞き伝えなんだけどね。でも、無茶だけはして欲しくないんだ……」

 

 自身も道場の再建で無茶を行い、剣士の道を外れた行為に手を染めた事を赤裸々にする。同じ様な過ちを犯してほしくない。一視聴者として、一伐刀者として。並木が揺れ、風が靡く――彼女はキサラと向き合った。

 

 

「もし、そうなった時は……この風を思い浮かべて欲しいんだ。追い風になる時も、向かい風になる時もある」

 

 

 彼女の腰に携えられた刀柄に気付く――親子は似るのか、その時。両者、霊装展開。無慈悲な『緋爪』が顕となった。

 

「落ち着いた場所だろう? 君を鍛えるには絶好の場所だよ」

「指定区域以外での霊装展開はダメだって知らない?」

 

 

「君の動画を見てから、その認識は無くなったさ――大道キサラッ!」

 

 

 森林に斬撃が吹き荒れる。まるで枯れ葉同士が揺らめき、双葉となり風に身を散らすかの如く、二人は交えた。

 闇に走る二つの彗星は文字通り、シノギを削る。視界を照らす様、光刃の輝度を増す――が、絢瀬の姿が無い。

 

 

 深みを増した森には、キサラただ一人。――微風が頬を伝う。だが、何かが目近に存在するかの様な違和感。身をこなし、ソレを避けた時であった。

 

 

「(ッッッ……!?!?)」

 

 

 背に走る疾風が、彼女の身体に襲い舞う。思わず口から咆哮が漏れる――激痛と共に、キサラは絢瀬の伐刀絶技を理解した。

 

「やっと気づいてくれたかい……風の爪痕(ぼくの力)を……!」

 

「……ココまで連れてきたってゆーコトは、それなりな理由(ワケ)があったってコトね……」

 

 空間に予めトラップを仕込み、裂かれた傷口を更に広げる――絢瀬の伐刀絶技『風の爪痕』により、斜に刻まれた傷からは血肉が滴る。野鳥や獣が寄り付く様な野蛮な薫り。

 光の力により、何とか封じ込めようとするキサラ。だが、一歩動いて抗いでもすれば……小さな傷を開かせ、致命傷へ持ち込む。サムライという宿命に抗うような刹那。

 

「イイじゃん。そう来なくっちゃ――狂乱ノ蝶(超ヤバイって)!」

 

 頬を緩ませ、キサラは決心した「危なげな状況(スリル)痛み(弱み)を受け入れる」――伐刀絶技を展開し、肉体を襲う痛みを蹴り破る。

 

「反射を鍛えるという意。君には理解出来ているのかなッ!?」

「……あったりまえじゃん。夜空に何があるかくらいねッ!!」

 

 無数の刃に閃光を集わせ、その罠を顕とさせる。仕込まれた数は膨大――まるで星空の様な実態が解った。

 

『輝け……《閃光魔術》』

 

 ならば、月夜の輝きで刃先を輝かせ、身体を舞わせる伐刀絶技――反射の力(・・・・)にキサラは内心で笑う。

 

 

「喰らいな――ッ!」

 

 

 慈悲無く振り下ろされた光刃は、絢瀬の眼近で寸止め「どういう真似だ……!?」「コレ、お父さんへのお返し」暗がりでウィンク。ニカっと歯を光らせるキサラ――「……参った」絢瀬は展開を解除。

 

「父さんの言ってた通りだ。光を魔力へと変換し、デバイスに出力させる……君が持ち得る特異体質(・・・・)、か」

 

「そーゆーコトっ。光刃(コイツ)のチカラ、本番までに気づけて良かった……ありがとね、絢瀬センパイ」

 

 徐々にでは有るが、爪痕による傷が癒えている事に彼女は気づいた「ソレも力なのかい?」――あっちゃー。としたキサラ。自身の技名に肩をすくめる。

 

「さっき、超ヤバイって(・・・・・・)って、言ったっしょ?」

「うん……」

「アレね、伐刀絶技の名前」

 

 

「変わった、名前だね……」

 

 

「でしょー……知ってる。閃光魔術(せんこーまじゅつ)は我ながらイイカンジなんだけどさぁ……ったく、技名くらい変えさせろーッ!」

 

 キサラの叫びが山中に響く――絢瀬は少し笑みを浮かべ、彼女に優しげな眼差しを向けていた『個性のある技じゃないか』ふと溢れた言葉に反応するも、慌てふためく。

 そんな仲睦まじい先輩と後輩。この夜は月と共に彼女達の親睦も深まったという。

 



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#5 #悪夢 #無法地帯 #予選ヤバすぎ

話の都合上、此処から一部キャラ改変が入ってます。予めご了承下さい。


「何で……ッ!」

 

 少女は土に這いつき唇を噛み締める。彼女の身体はヘドロの様に炙り焼かれ、燻る骨肉が曝け出されていた。苦痛など、どうでもいい。剣士としての誇りが焼かれ落ちる事を、彼女は拒んだ。

 異国の地で力を鍛え、自国へ誇り高い伐刀者として戻る。それが彼女の誇りであり願いであった。だが、脅威が間近に迫る。

 

「絶対……負けたくない……!」

 

 変わり果てた兵士の様な肉体に鞭打ち、光を落とした刀を手にすると、眼の前の敵へ構える。無駄な物か、確実に敵へ睨みつけ斬撃を繰り出そうとする――そんな野望の果ては残酷であった。たった一人の少女を焦土へ返す事など容易な物であったのだ。

 

 

妃竜の息吹(ドラゴンブレス)

 

 

 群青色の空が、炎の如く紅く染め上がる――ソレは、眼の前で燃え上がった。セピア色の悪夢が、皮肉にも彩られるかの様に。

 

 

 

 

「……やっば。もうこんな時間!?」

 

 陽の光が眠気眼に射す。それは、キサラの目覚めを祝福する優しげな暖かさ。輝きへと導かれるかの様に、彼女は急いでデバイスを朝空へ向ける。霊装展開に応えるかの様に、彼女の携帯から『《認識完了。おはよう、キサラ》』――ロックが解除されると、ブレードは恩恵を受ける。

 

「(あんたも朝メシ食べなよ~?)」

 

 一度起きれば、ブレードの力を試しに外へ繰り出す。学園指定のブレーカーとパーカー。ヘッドホンとすっぴんを隠すためのマスク――『反射を鍛えろ』綾辻一刀流道場で学んだ一言を噛み締めるかの様に、一つ一つ振り下ろす。

 

《この風を思い浮かべて欲しいんだ。追い風になる時も、向かい風になる時もある》

 

 絢瀬の言葉が脳裏に過る。意識を集中させ、リズムよくツーステップ。風に靡く木の葉に目掛け、身体を風に任せて舞わし斬る――デバイスが禁止指定されてからという物、雨が降ろうが風が吹こうが、これが毎日の日課。

 

「あー。ノンストップ・ミックス終わっちゃった。戻ろ」

 

 一汗流し、友人が未だ起床していない事を確認すると、急いで化粧台へと向かう。――鏡と直面したキサラは、正夢と向き合う。マスクを取ると火傷の痕――ソレは左頬へと、酷く示されていた。

 

 

「鏡よ鏡のクソッタレ。セカイで一番ブスなのはだーれ……この下り飽きたっしょ? あたしもオンナジ」

 

 

 今でこそギャルであるが、中学生の頃までは洒落っ気とは無縁であった。むしろ、剣士としての誇りがあれば飾り気など必要無い。あの悪夢さえ無ければ、そんな凛々しい姿であっただろう。

 だが、あの惨劇からの執念を再燃させた『黒鉄vs桐原』をスマホで何度も見返す。引き返す気が失せる。

 

「黒髪ロングの清楚剣士……絢瀬センパイとタメ張れるかも。ま、今じゃムリだけどさ」

 

 そんなコンプレックスを塗り固めるかの様に、メイクを施し自らを着飾った。破軍学園へ入学した理由も、当初は伐刀者としての門が低いというヤケじみた志望動機――もうあの頃とは違う。頬の痕を隠し『大道キサラ』へと装った。化粧など、彼女にとって霊装展開と変わり無い。

 

「キサラ……もう起きてたんだ」

「まぁねー。不眠症(ふみんしょー)だし」

 

 ウソ。太陽の様な真っ赤なウソ。弱みを塗り固める事には慣れている。

 

「キサラって何気に早起きだしさー、アタシが起きる頃にはメイクもバッチリキメてるし……なんか、今日ヘンくない?」

「そ、そう?」

「まぁ無法地帯の本番だしねー。流石のキサラでも緊張するか」

「まーねっ」

 

 除光液を取り出すとネイルを手入れ。ゲン担ぎだと言うソレを丁寧に施し、身支度は完了。友人も既に済ませており、静かに寮を後にする。

 何度か電車を乗り継ぎ、道に迷う事、数時間。『無法地帯』の開催場所である街に到着――駅の一歩外に出ると、壁や道には隙間の無いスプレーによる落書き。ようこそを告げる看板には白地で『出て行け』の文字。

 

「ヤバいね」

「うん、そだね」

 

 曇り空の下、歳相応なキャリーバッグを押し転がす音が寂しく響く。この街である人物と落ち合う事となっていたが、約束の時間はとうの昔に過ぎていた。だが、律儀に守ってくれる義理堅い漢がソコに居た。

 

「遅せェぞ。何時間待たせんだ、オラ」

 

 倉敷蔵人。この街に溶け込むアウトロー……そして、前々年度『無法地帯』セミファイナリスト。

 

 

 

 

 蔵人に軽く詫びると、彼の案内。師匠から説教を喰らった上に面倒を見ろという指示。個人的にもキサラ達を見てられないと言い、知り合いの関係者を紹介すると言う。親切には乗ろう、二人は意気揚々であった。

 そんな二人であったが、半ば恐怖心を拭うような、その中の好奇心をさらけ出す事で己を鼓舞。

 

「能天気だなテメェら……アトラクションに行くガキじゃねェんだぞ」

 

 一喝するも、横目から彼女達がお互いに手を重ねていた。キサラ達なりの覚悟を見ると、鼻で笑う「強がるのはコロッセオに入ってからにしとけ」――ソレは圧倒的威圧感で彼女達を出迎えた。

 

「うわぁ……」

「オイオイ、遂にヤバいまで言えなくなっちまったのかァ?」

 

 『ノー・ホールズ・バード・コロッセオ』と記された看板を避けるかの様なストリート・グラフィック。何処かの球場に纏わりつく蔦に負けじと、ソレらは異質を放っていた。

 足が止まりそうな二人をヨソに、蔵人は呆れ混じりに歩み続ける。参加する人間が逆に思える光景だが、参戦するのは大道キサラ。カメラを回すのはその友人。暗がりに足を進めると、人影がポツリ。

 中年ほどの男一名。グレーの作業着に小柄な身を包む彼へ蔵人が一言。

 

「オイ、ちょっといいか?」

「おぉ蔵人。久々じゃねぇか。エントリーリストには載ってねぇけど、一回殺ってくか?」

「止せよ、出るのはこのオンナだ」

 

「は? 頭弱そうなこのギャルか!?」

「はぁ!?」

 

 食って掛かろうとするキサラを友人が宥めると、蔵人は小さき巨人の紹介。

 

「紹介する。事務員のGJ(ジージェー)だ。前々年度はコイツに助けられた。今、お前らが此処に居るのも、GJのお陰だと思っとけよ」

「よろしくな、小僧共」

 

 明らかに三下扱いされるも、彼の恩人ならと溜飲を下げる。蔵人は一言「来世でな」と言葉を残し、そそくさと去ってしまった。

 案内役はGJへと変わる。彼と共にコロッセオの中に入ると、無いも同然な無法地帯のルール紹介。

 予選は勝ち残り戦となり、決勝戦は翌日朝から翌週までのランダム選抜となる。壮絶な勝ち抜き戦になる事もあれば、勝ち抜き瀕死の相手を簡単に退け、次のステージへ駒を進める事もある――既に予選は行われていると言い、彼女達を闘いの最前線へと導く。

 

 

「いいか小僧共、チビんなよ?」

 

 

 入場口を開くと、サッカーコート程のコロッセオに無数の騎士。乱戦の舞台(バトルロイヤル)――魔力の混在で可視化する事もままならない。Fラン、Aラン。そんな物など関係無い。さながら、闘いのバーゲンセール。

 全く同じの予選が複数の場所で行われており、この中では3人のみが生き残る事が許される。そんな生命の福袋争奪戦。スタッフ曰く、此処ならではの挨拶があるらしい。既に蔵人が手本を見せたと言い、軽く放たれた一言。

 

「んじゃ、来世でな」

「えっ、ちょっと待ってよ!」

 

 GJがその場を後にすると、キサラの学生手帳から通知が鳴る。

 

『予選参戦まで、残り30分』――最前列で座るキサラと友人に血潮の挨拶。肉体の欠片と思われる血肉を思い切り浴びてしまった。二人は思わず黄色い悲鳴を上げ、外へ脱出。戦慄に身体を震わせる。

 

「ヤバくない……!?」

「ヤバくないワケないでしょあんなトコ!」

 

 覚悟はしていたが、予想以上。恐怖心が精神を襲う。だが、もう後には引けない――キサラは伐刀者としての魂を思い返し、滾らせる。

 雪辱から始まり、今では地に落ちたソレを血混じりに拾い上げるチャンスを掴もうとしている。友人も側で見守ると言い、少ない語彙力から可能な限りのポジティブ・ワードを彼女へ向ける。

 

「大丈夫、キサラならやれるって……やってくれなきゃ困るし!」

「アリガト。生きて帰ってくるから……マジで!」

 

 二人は強く抱擁を交わし、お互いの意志を確認する。人と言う文字は重なり合って出来る――何処かで聞いた言葉を実感させると、キサラは関係者用控室へと歩を進めた。

 

 

 

 

「あと3分、か……」

 

 ため息にほんの少しの勇気が混じる。唯一自分の力を発揮出来る場所――そう考えれば考える程、スイッチは入りそうになる。が、断末魔の叫びがキサラの鼓膜を裂こうとする。

 不安感を振り解こうと、支えてくれた友人、蔵人、綾辻親子の顔を思い返す。数年振りの大会に怖気付いてなど居られない。

 

「〈ココは闘う場所。絶対生きて帰る、勝つ。アタシは勝つ……!〉」

 

 今から飛び込む場所は、過去の自分から誇りを取り返す場所。もう一度思考のスイッチを切り替えると、両足で軽くステップ。阿鼻叫喚をリズムに乗せる様にウォーミング・アップ。

 気分は生き死にを踏みつけるタップダンサー。残り30秒――道徳観を捨てる準備は完了した。

 

「〈今ならイケる。早く……早く!〉」

 

 ブザー音が鳴り響くと、フェンスが解き放たれる。大道キサラ、入場――その瞬間、大剣がキサラの視界を走る。カウンターで光刃を輝かせると、流して捌く。

 コロッセオは外から見るより密集性が高く、流れるように相手が変わる上にソレらは様々。明らかに戦力が劣る剣士が続々と床へと平伏す――血がつけまつ毛に乗ると、視界がボヤける。その隙きに懐へ入り込もうとする者を斬り捨てる。

 

「あったまきた……どっかいい場所無いワケ!?」

 

 こうなったらもうヤケだ。ひたすら光を振りかざし、迎え討つ相手達をこなす。一撃一撃、計算無しの機転とカウンター。地上でバカ正直に滅多打ちを行っても仕方がない。

 ふと、青空が視界に広がる――垣間見えた太陽へ向け、光で軌跡を創り斬ると、軌道の完成。一歩を踏み締め宙へと舞う。制空権確保。

 

 だが、標的となり易い事も理解していた。ソコで光刃が輝く。眩い光で相手の視界を遮る。息遣いと血生臭い鉄を打ち合う地上に向かい、フラッシュを連続させる。さながら、パパラッチのストロボ連射。

 

「喰らいなッ……!」

 

 次々とよろめき、その場に倒れる騎士達。興奮状態である彼らの視界から脳を乱し、身体に電気的発作を促す。最も近いであろう現象で言えば『相手を見る時は、明るい場所で離れて見てね(光過敏性発作)』――直視すれば思考回路が乱れる。キサラの魔力はその光を受け入れる事。光の先に存在する闇を選別する。

 

「〈あー……友達にサングラス渡すの忘れてたな……〉」

 

 連盟側では禁止とされた現代的戦法。戦力は三分の一へと減っていたが、キサラにとっては、あくまで小手先の技に過ぎないという手段。

 運良く生き延びたという表現が相応しいであろう騎士と殺戮に飢えた生粋のバトルジャンキー。前者と後者。キサラの表情は思わず緩む。

 

「うん、オモシクくなってきたじゃん」

 

 後者に限るが、キサラに向かう相手はどれも手強い。一撃ごとの威力が増し、量より質と言わんばかりの戦況。そんな中、女の高笑いがコロッセオに響く。キサラの耳にクリティカルヒットするかのような愉快な声色。

 

「ネー。去年は雑魚狩りしてて忘れてたけど、今年の無法地帯は面白くなりそうだよ!」

 

 軽妙な言動の先――8本腕の妖艶な女騎士。彼女は一本むしり取ると、そのままもう一本の腕と連結させ、しならせる。さながらムチの体となると、辺りの伐刀者達を一気に蹴散らす。エキセントリックと言うべきか、そんな戦法に一瞬の迷いを感じるも昂ぶりは収まらない。

 

「ヤバいヤツばっか……いいじゃん、ってヤバ!?」

 

 殺気を感じ取り、身体を瞬間的にウェーブさせる――間一髪。他の伐刀者へと射抜かれた矢。存在しない場所から放たれたソレは、如何にも〈やられ役〉と言えそうな伐刀者へと向け続ける。応戦しようとする剣士達も迎え撃とうとするも、舌を舐めずる様に撃たれる。逆効果。

 キサラと8本腕以外は邪魔だと言わんばかりのクレバーなファイト。その戦法に既視感しか無かった。が、信じがたい。そんな彼の名は――最後の伐刀者を撃墜した後に響いた。

 

「アンタ……桐原!?」

 

 鼻で笑うも、現れた姿に顔に一片の変化も無い。全て捨て去ったかの様なソレは異質な意志。

 

「だったらどうだってんだ」

「いや、ずっと引きこもってたってハナシ聞いてたし……ってか、まだ返事貰ってないし」

「言っただろ、〈殺ス〉と」

 

 霊装や戦法、容姿は明らかに桐原静也――だが、異様なまでの冷徹さから見える殺気。気迫という物は可視化出来るのか、そう思える様な威圧。彼は殺戮の狩人へと変わってしまった。無法地帯に狩人。そして、返り血がメイクの一部となったキサラ。

 

「一つだけ望みを叶えても良い……お前も直に殺る」

 

 冷ややかな視線が反れ、彼は悠然とコロッセオの中心に立つ。気付けば〈かつて伐刀者だった人間達〉の山が築かれていた。

 8本腕の女騎士も例外では無く、むしろソレを歓迎していた。愉しげな笑みを見せ、拍手喝采で生存した二人を迎える。

 

「新顔じゃん。ようこそ無法地帯に……私は『崇藤峰子(スドウ ミネコ)』フジコちゃんって呼んでネ。それじゃ、また来世でネ~」

 

 器用に8本腕を振り、その場を後にする峰子――『これにて、選抜予選を終了致します。開催は明日朝を予定しています――』ガイダンスが耳から抜ける程に、血肉が滴るコロッセオを唖然と一望する。我に返ると、惨状から慌てて去る。

 

「〈ヤバイヤバイヤバいって!〉」

 

 傷一つ無く生還出来たのが奇跡に思えると、身体を何度も手で擦る……問題無し。友人の呼びかける声、問題無し。命の保証、プライス・レス。



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