宇宙戦艦ヤマト2202外伝 波動実験艦武蔵 (朱鳥洵)
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第1話 「発進」

第1話です、良かったら見ていってください。
2話以降は書け次第順次乗せていくつもりです!
キャラクターの大半と艦名はオリジナルです。
ヤマト2202のネタバレを含むかもしれません、第6章まで見ていない方でネタバレ避けたい方はご容赦ください。
全7話予定です。


 ――西暦2203年。

 宇宙戦艦ヤマトが惑星シュトラバーゼを旅立ち、テレザートを間近に見る頃の事である。

「私に艦長になれ、と」

 藤堂長官に呼び出された男は、長官の言葉を反芻した。

「そうだ。君をアンドロメダ級の艦長から外したのは、この任務を遂行してもらうためだ。頼まれてくれるかね、近藤くん」

 近藤武(こんどういさむ)。

 52歳になったばかり、長身で無精髭をたくわえた男。

 山南、安田らが次々とアンドロメダ級の艦長に決まる中、有力視されていた彼が外されたのは、軍の中でも意外だと語られていた。

「しかし、なぜ今になって私がヤマト級の艦長になるのですか」

「……人類が、生き延びるために。”G計画”のために必要なのだ」

「そんなものを発令する時が来ると、長官はお考えですか」

「もしものためだ。それに今回の任務には、様々な試験も含まれている。君になら任せられる」

 艦長クラスにも秘匿にされ続けているG計画の要領は得ないが、長官の強い信任を受けて、断る理由はなかった。

「私で良いのなら、受けさせていただきます」

 

 ――クルーには明朝◯七◯◯に艦(ふね)の前で待つように伝えてある。

 長官にはそう言われたが、艦長として艦を預かる以上、いち早く艦を見て、それを知る必要がある。

 そう考えた近藤は、地球軍司令部を後にしたその足で宇宙港へと向かう。道中乗組員の名簿にも目を通した。科長クラスが皆クセがありそうだが、問題はないだろう。

 宇宙港では、艤装の換装が行われている最中であった。

 かの英雄、宇宙戦艦ヤマトによく似た艦型だが、艦橋は大きなドームが見える。

 艦橋後部に伸びた構造物は飛行甲板の役割を果たし、その下には艦名が大きく描かれていた。

「『武蔵』か……良い名だ」

 ヤマト級二番艦、波動実験艦武蔵。

 ヤマト帰還後すぐ、波動機関の可能性を調査するために建造された艦である。ヤマトの大航海で得られたデータをもとにアンドロメダをはじめとする新造艦に搭載するための武装テストまでをも行い、その問題点などを洗い出した。

 アンドロメダ級とドレッドノート級の設計完了と同時にその役目を終えたはずの武蔵であったが、今目の前にあるそれは出撃の時を今や遅しと待ち焦がれているようであった。

「あなたは?」

 声の方へと向き直ると、そこには若い女性が立っていた。

 青の艦内服が、彼女が技術科の人物であると示している。

「私は、明日から武蔵の艦長になる近藤だ」

「はっ……⁉︎ し、失礼しましたっ!」

 彼女は驚いた顔を見せた後、直ぐに姿勢を正して敬礼をする。

 その様子に苦笑いしながら、近藤は彼女に語りかけた。

「まあまあ、まだ私は艦長ではないんだ。それに、そんなに畏まらなくてもいい。自然体でいてくれ」

「は、はぁ。そうですか」

「で、君の名前を聞いてもいいかな」

 そう問うと、彼女はまっすぐ近藤を見て答える。

「技術科所属、佐伯柑奈(さえきかんな)です。確か辞令では明日から武蔵の技師長を務めることになっています」

「君が技師長の佐伯くんか。いやはや、資料では見たが、随分若いな」

「よく言われます。こう見えて私、ヤマトの真田副長の下にいたことがあるんですよ。だいぶ前ですけど……」

 ゆっくりと目をそらす佐伯に、近藤は武蔵を見ながら問いかける。

「明日から配属なのに今日来るとは、随分熱心だな」

「いえ、私は武蔵の初期クルーなんです。最初から乗っているので、もうこの艦が家よりも落ち着く場所になってきちゃいました」

「はははっ、すっかり船乗りになったようだな」

「ですから、武蔵に戦うための武装をつけて戦いに出すのは……あまり気が進みません」

 佐伯の武蔵を見る瞳は、まるで愛しい人を見るようで。

 近藤はそんな彼女を見ながら、えも言われぬ心情を抱いた。

「私は作業に戻ります。失礼します、艦長」

 彼女の美しい敬礼に思わず敬礼で返すと、佐伯は微笑んで艦内へと駆けて行った。

「武装をつけるのは気が進まない、か」

 今まさに武蔵に載せられようと吊り下げられている砲塔を眺めながら、近藤は呟いた。

「戦わなくていいのなら、俺もその方がいいさ」

 封印された波動砲口を見つめ、近藤はその場を後にした。

 

 

 ――俺が、戦術長?

 言い渡された辞令を頭の中で反芻しながら、なんとも言えない複雑な感情で頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだった。

 有賀義弥(あるがよしや)、22歳。遊星爆弾とガミラスの攻撃で妹以外の家族全員を失い、ガミラス憎しで生きてきた。

 ――ヤマトには、兄さんが乗るはずだった。

 古代守が戦死した後、一時は彼の兄がヤマトの臨時の戦術長として内定していた。

 しかし、あの日の攻撃で彼の兄は死に、古代守の弟である古代進が戦術長を務めることになった。

 彼はそんな古代を心から妬んでいた。

「くそっ!」

 道に落ちていた石ころを蹴飛ばした直後、ポケットの中の端末が震えた。

「なんだ、通話?」

 端末を開き通話に出ると、彼にとって聞き慣れた声が聞こえた。

「美佳か? どうした?」

『あっ! やっと出たなお兄!』

「やっと?」

『そうだよ! 何回も何回も何回も何回もなんっっかいもかけてんのに!』

「そうだったのか、悪かった」

『悪かった、じゃないわバカ兄貴! どこほっつき歩いてんのか知らないけど、ご飯もうできてるからね!』

「わかった、すぐ帰る」

『ん、なら良い。待ってるからね、お兄』

 その言葉で、美佳からの通話は一方的に切れた。

「これは、帰ったら大目玉かなぁ」

 そんなことを思いながら、彼は家へと歩き出した。

 時は春から移り行こうとしている。よく晴れた夕暮れの中を、心地よい潮風が流れていた。

 

 

翌日

「今度はちょっと長くなるかもしれない」

「うん、分かってる」

 玄関先で妹の美佳から荷物を受け取ると、義弥は妹の頭を撫でた。

「うわっ、何、どしたの」

「別に何でもないぞ」

「……そっか」

 少し暗い顔の美佳の顔を覗き込もうとするが、彼女は兄から顔をそらした。

「じゃあ、もう行くからな」

 そう言って美佳に背中を向けた義弥だったが、背後から裾を掴まれ妹に向き直った。

「美佳?」

「あっ、いや、なんでも、なんでもない!」

 慌てて手を離す妹の手をとると、兄として妹を安心させるように彼女の身体を抱きしめた。

「大丈夫。今度は危ない任務じゃないから」

「……待ってるこっちは不安なんだから、早く帰ってきてね。お兄」

「ああ、必ず」

「あと、フネに着いたらポケットの中見てね。絶対だよ」

「ん? ああ、分かった」

 美佳は兄の体を離すと、音がなるほど強く背中を叩く。

「いたっ⁉︎」

「あたしの願掛け。ありがたいと思いなさいよ、お兄」

 家から離れていく兄の姿を笑顔で手を振りながら見送り、彼女は扉を閉めた。

 深いため息とともに扉に背中を預けた彼女は、果てしなく続くとも思える廊下を向いた。

「あぁ……また1人かぁ……」

 自らの身体を抱きしめながら力無く座り込む。

 兄の温もりを、あの感覚を忘れないように。

「……寂しいよ……」

 少なくともここから数ヶ月、彼女は一人でここで暮らさなくてはならない。

 ――兄が、もう帰ってこないかもしれないという不安を抱えながら。

「あたしの事も考えなよ……バカ兄貴……」

 

 

宇宙港

「技術科員は全員持ち場について発進準備」

「戦術科、兵装チェック」

「機関始動準備」

「波動コイルの設置完了まであと10分……レーダー設備問題なし」

「通信テスト。……異常なし」

「航海用設備点検終了。全工程異常なし」

「気象観測装置点検完了、各部問題なし」

 ブリッジでは、発進のための用意が着々と進められていく。

「おー、みんなやってるな。ご苦労ご苦労」

 近藤がブリッジに入ると、艦橋の席にいた面々は一斉に立ち上がり彼に敬礼する。

 それに近藤も敬礼で返し、艦長席へと腰を下ろす。

 ――俺が、この艦を……。

 感慨とも感動とも違う、これからのしかかる重責に対する緊張のようなものが彼の中に広がる。

 乗組員総勢430人。その全員の命を預かる者としての重荷が、今彼の肩にその腰を据えた。

 それを振り払うように立ち上がると、彼を見るブリッジの人員の顔を一人一人見回して口を開く。

「私がこの艦の艦長、近藤武だ」

 その瞬間、緊張の面持ちが緩み始める。

「戦術長、有賀義弥」

「はい」

「航海長、三原泰平」

「はい!」

「技師長、佐伯柑奈」

「はいっ」

「船務長、丹生美華」

「はいっ!」

「気象長、棚橋小百合」

「はい……」

「砲雷長、来島理沙」

「……はい」

「機関長、谷村義晴」

「はいッ!」

「通信士、一ノ瀬海斗」

「はっ」

「……艦長として、俺はまだ至らない部分があるかもしれん。その時は、君たちの力を貸してくれ。頼りにしている」

 近藤にとってはくすぐったいくらいの彼らの目線を受けて、先程まで感じていた重圧は既に消えていた。

 ――艦長とは、こういうものなのか。

「さあ、任務に行こう。発進用意」

『了解!』

 彼の号令に反応し、彼らは敬礼の後席に着いた。

「各部チェック終了、異常なし」

 副長を兼任する機関長の谷村の言葉で、近藤はその彼に目を配る。

「波動エンジン始動」

「波動エンジン始動。フライホイール回転」

「フライホイール回転数良好」

 機関長に続き、航海長が状況を伝える。

「補助エンジン始動、点火。ガントリーロック解除」

 武蔵が停泊する発進ゲート内に補助エンジンで巻き上げられた砂煙が起こり始め、同時に武蔵を固定するロックが艦を解放する。

 艦から発する慣性重力で船体を安定させると、巨体が進み始めた。

「主翼展開」

 ゲートから海上へと出た武蔵の船体から赤色の巨大な翼が姿をあらわす。

 海面のすぐ上を通る巨体が起こす風で水面が波立つ。

「フライホイール接続、点火!」

 艦内にエンジンの回転音が響き始め、次の瞬間メインノズルから炎が伸びる。

 それは海水を巻き上げ、長い眠りから覚めるように轟いて艦を加速させた。

「艦首上げ。武蔵、発進!」

 艦首が空に向くのと同時にエンジンの炎が海水を蒸発させながら船体を押し上げていく。

 水面が凪いだ頃には、既に地上から武蔵の姿は見えなくなっていた。

「大気圏外航行に切り替えます」

 武蔵の主翼が船体へと滑り込む。

 エンジンノズルから出る炎が強くなり、武蔵は更に加速していく。

「月軌道艦体、アンドロメダ級6番艦アルタイルからの電文入電」

「読み上げろ」

「『当該宙域に艦隊集結。貴艦の合流と同時に出撃する』」

 通信士の言葉が終わるのとほぼ同時に、艦橋から肉眼で月と数隻の艦艇が確認できた。

 武蔵がアルタイルの飛行甲板を見ながら横を通過すると、艦隊が同時にエンジンを点火して武蔵に続く。

「ドレッドノート級無人艦、デネブ、ドューベ、デネボラ、ディフダと磯風改駆逐艦の黒潮から武蔵へと指揮信号受信。以後本艦からの稼働指示に従い行動する」

 技師長の佐伯がパネルを操作すると、武蔵の表示の下にそれぞれの艦名表示と「LINK」の文字が追加される。

 今回の航海で武蔵に課せられた任務の一つは、この無人艦のオペレーションである。

 時間断層で艦船を建造しても、人員には限りがある。

 そこでまずは完全な無人ではなく、指令艦からの指示で動く艦艇としての運用を行うという。

 完全なる無人艦隊は、ヤマト級三番艦の銀河の就航を待つ、ということを近藤は聞いていた。

 手始めとして、武蔵はドレッドノート級4隻と急ごしらえの駆逐艦1隻の5隻を操るということである。

 また、武蔵が万一遠隔操作不能に陥った時のためにアルタイルにも同様のシステムが装備されている。

「さて、初任務だ。本艦の任務は、まず輸送船むつきを護衛し資源惑星ザリシアへと向かうこと」

 近藤の説明に、舵を握る航海長以外の全員が振り向く。

 資源惑星ザリシアは太陽系から銀河系外縁部へと約15光年の位置にある恒星系の三番惑星である。ガミラスが開拓し、時間断層の利用権の代わりに地球へと譲渡された。

 宇宙艦艇の建造に不可欠な金属とコスモナイトが多くとれる惑星であり、時間断層運用の要とも言われる星だが、ここ数日は連絡が途絶えているらしい。

 地球型の惑星であるザリシアだが、地盤のほとんどが金属質で構成されているため居住可能区域は限りがあり移住には向かないという事が分かっている。

 今回の武蔵は、輸送船むつきと護衛艦、パトロール艦を無事ザリシアまで送り届けることを第一の任務としている。

「全艦、資源惑星ザリシアへワープ準備」

「ワープ準備、波動エンジンワープシークエンススタート」

 武蔵の赤色の炎が青く変わり、船体が加速し始める。

 武蔵の変化とほぼ同時に、全ての艦も同様にワープ速度へと加速を始めた。

「カウントスタート。ワープまで10秒前、9、8……」

 船務長、丹生の少し緊張した声が響く。

 既にヤマト以外の艦も、武蔵でも何度も成功しているワープ航法ではあるが、彼女のように宇宙艦艇での任務がこれで初めてとなる人員には緊張の瞬間なのだ。

「3、2、1」

「ワープ!」

 航海長の声と共に、艦はワームホールへと突入し、光となって通常空間とは隔絶された空間へと消える。

 艦隊が消えた後の月上空には、艦の影すらも残っていない。

 今ここに、武蔵の旅が始まったのである。

 

 ――第1話 「発進」――




読んでいただきありがとうございました。
戦術長、艦長、技師長以外のキャラがあまり話してないじゃないかとお思いかと思いますが、今後登場が増えていくと思います。
これからもっと面白くしていこうと思うので、よろしければこの後もよろしくお願いします。


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第2話 「資源惑星奪還作戦」

「波動実験艦武蔵」第2話です。
今回は戦闘ありです。戦闘シーンは書くの難しいですね


第2話「資源惑星解放作戦」

 ソラが割れる。

 宇宙に突如現れたフネ達は、その体にまとわりつく氷を砕いてこの世界へと顕現した。

「全艦ワープ終了」

「各部点検、異常なし」

「無人艦各艦も異常ありません」

 航海長、気象長、技師長の声と共に、機関が上げるフライホイールの音が元に戻る。

 彼らの目の前には、この恒星系の太陽に照らされた火星によく似た星があった。

「ザリシアって、あんな星だったのか」

「昔の地球にそっくり……」

 戦術長、船務長の言葉で艦長は実感する。

 若い彼らにとって、赤い星といえばテラフォーミングされた火星ではなく、ガミラスの攻撃で赤錆びた地球なのだ、と。

「星の様子を観測せよ」

 波動実験艦武蔵の観測ドームには、ヤマトやアンドロメダと違い遠方の観測を行う装置が設置されており、ある程度の距離であれば接近や上陸をしなくともその星の観測が可能である。

「観測室から報告。軌道上に……ガトランティス艦隊⁉︎」

 技師長の言葉にブリッジの全員が振り向く。

 ――なるほど、ここ数日連絡が途絶えていたのはガトランティスの襲撃を受けていたからなのか……。

「艦種識別! メダルーサ級2、ナスカ級1、ククルカン級5、それと未確認艦が2隻、これらは同型みたいです」

 逡巡の後技師長から情報がもたらされた。

 近藤はそれを聞いて立ち上がると、

「中央作戦室へ。対処を考える」

 と言い残して艦橋を後にした。

 

武蔵/中央作戦室

「敵艦は10隻ですが、ナスカ級の艦載機数は少なくアルタイルと比較すると70機体以上のアドバンテージがあります。ですから、この星にいるガトランティス艦隊はそこまで脅威としてみる必要はないものと思われます」

 戦術長はこう言い、全艦での中央突破と殲滅を主張した。

 それに砲雷長が口を開く。

「惑星内に敵艦が潜んでいる可能性もあると思いますが」

「それは武蔵単艦の火力で十分撃破可能だと思われます」

「根拠はなんでしょう、戦術長」

「何が言いたい」

 苛立ちを隠せない有賀に来島は向き直り「お言葉ですが」と言葉を続ける。

「戦術長は、浅はかな予測で第十一番惑星で危機に陥ったヤマトの後に続きたいのですか」

「なんだと?」

「見てくれの戦力だけで判断するのは幼稚です。援軍を呼ばれる可能性や惑星内にカラクルム級のような強力な艦艇が陣取っている可能性を考慮に入れない今のプランは、この艦を沈めかねない」

「砲雷長はどうするんだね、作戦プランがあるのだろう?」

 艦長の問いかけに、砲雷長は「対案はあります」と答え、パネルを指す。

「私の案は、まず本艦、アルタイル、無人艦隊で敵艦隊の横をすり抜けて艦隊を静止、反転させて本艦の火力で敵を牽制したのち波動砲で宇宙の艦隊を一掃します」

 モニター内では彼女が示した通り敵を表すマークが消失、武蔵を示すマークはその後惑星内に進みだす。

「惑星内に艦が侵入してから航空隊を展開。惑星内に敵が潜んでいた場合は航空隊の火力をもってこれを叩きます」

「ふむ……」

 砲雷長と戦術長の作戦は両極端なように見えて、その根は同じであった。

 どちらも、一方を倒してもう一方へと向かうというもの。

 ――それでは、遅いな。

「二人の作戦はわかった。どちらも悪くはないが、少しだけ足りないな」

 

 

「……艦長」

 作戦会議が終わり皆が解散する中、技師長の佐伯が艦長の裾を引いた。

「どうした」

「次の作戦の時、私は艦橋から外してください」

「それは、どういう意味だね?」

「私がいても、足手まといなだけですから」

 それだけを残して、佐伯はその場を離れた。

 

 

武蔵/第一艦橋

「情報長、濱内水月、入ります」

「情報長。少しいいかな」

 技師長の代わりに艦橋に入った少女を呼び止め、近藤は彼女のもとへ行く。

「佐伯くんのことなのだが」

「あー……彼女、戦闘が大の嫌いなんです。昔友達がそれで死んだからって。だから、戦闘の時は代わりにあたしが出るって約束だったんです」

「そうだったのか」

「元々軍人志望じゃないのを無理に軍に引き込んだからですよ」

 そう言うと、濱内は席についた。

 艦長席へと戻った近藤は、パネルに表示された時間を確認して指示を出す。

「時間だ。両舷、第一船速。総員第一種戦闘配置」

「第一船速、ヨーソロー!」

 エンジンに火が灯る。

 武蔵を中心に4隻の無人主力戦艦とアルタイルが横に列をなして敵の待つ星へと向かう。

 背後には2キロを超える小惑星があり、その陰には輸送船むつきとその護衛艦2隻がとどまっている。

 眼前の小惑星帯を抜けると、光学レーダーが敵の反応を捉えた。

「全艦全速、アルタイルは艦載機を発艦させよ」

「アルタイルへ通達、艦載機発艦。繰り返す、艦載機発艦」

 身体が後ろへ引っ張られるほどの加速とともに、無人艦は武蔵の隊列から離れそれぞれの方向から敵艦へと接近する。

 ――刹那、艦橋にアラートが鳴り響く。

「ワープアウト反応! 本艦後方、アルタイルの正面です!」

「急速回頭! アルタイルを守る!」

 エンジンの噴射を止めた武蔵は姿勢制御スラスターを噴き無理矢理体を回すと、慣性に逆らい逆方向へと加速する。

「来島、主砲1番2番をワープアウト座標に向けておけ。出てきたところを沈めてやる」

「了解、戦術長」

 武蔵の主砲がわずかに左舷へと向く。

 ワームホールから敵艦の姿が見えた時、有賀は砲雷長に目をやる。

「今だ。撃て!」

 彼の声と共に放たれた閃光は、姿が見えた艦ではなく、その直後射線上にワープアウトした艦艇に直撃した。

 炎をあげる艦の向こうでは、発艦したばかりのアルタイルの艦載機が敵艦への爆撃を敢行していた。

 しかし、この後に控える作戦行動のため対艦装備を満足に使用することはできず、アルタイル自身も発艦作業のため身動きが取れない。

 ククルカン級の速射砲がアルタイルへと連続で砲撃を行う。

 直撃すれば、アルタイルは――。

「撃てええええええぇぇぇっ!」

 間一髪で間に割って入った武蔵が自艦の波動防壁でほぼ完璧に緑の光を弾きながら反撃の構えを見せた。

 三基の砲塔から放たれた青い光はククルカン級の船体を見事に貫くと、その爆発を見届けることなく武蔵は再び惑星へと軌道を戻した。

 発艦の終わったアルタイルもまた武蔵と共に惑星へと加速をかけ、その2隻の上を艦載機が飛んでいく。

 惑星上空では無人主力戦艦が苦戦を強いられていた。中には4発以上被弾している艦も。

 そこで、小惑星帯から一隻の艦が武蔵の横をすり抜けて惑星上空の敵艦隊へと突入を敢行した。

 それは無人艦として武蔵の指揮下にいた磯風改型の黒潮。

 敵の装甲を貫く火砲は無く、ただその速さと艦首に装備された魚雷を用いて敵を威嚇、撹乱して半ば密集していた敵艦隊の陣形に風穴を開けていく。

 そこにアルタイルから飛来した無数の艦載機が敵迎撃機を次々と堕としていく。

「今だ、あの中を抜けろ」

 アルタイルの前に躍り出た武蔵は、背後の艦を誘導するように艦隊の中に開いた隙間をすり抜けた。

 そのまま艦首を上げ惑星の大気圏で発熱を始める武蔵の後ろでは、アルタイルが回頭し、その横に主力艦隊が列をなす。

「アルタイル、主力戦艦群が波動砲の発射準備を始めました」

「よし、黒潮と航空隊はそのまま撹乱を続行せよ。本艦は大気圏離脱後、爆装させたコスモゼロを放って惑星内に潜む敵の索敵を行う」

「了解!」

 艦長の指示に返答した戦術長は窓から見える星の姿を見つめた。

 

武蔵/艦橋後部デッキ

 艦が安定し、窓からは星に浮かぶ雲と艦の後ろが見える。

 開け放たれた格納庫からカタパルトに乗る戦闘機には、追加タンクと空対艦ミサイルが搭載されていた。

「……このフネは、戦うためのものなの?」

 回転したカタパルトから炎を上げて飛び立つ二機のコスモゼロを見つめながら、彼女は手すりを強く握りしめる。

 エンジンノズルの翼から白く尾を引いて進む向こうでは、星の上で放たれた眩い閃光が走った。

「本当に、これでいいのかな」

 

武蔵/艦橋

「拡散波動砲発射を確認。上空の敵は一掃された模様です!」

 濱内水月の言葉に安堵したのもつかの間、レーダーには反応を示す音が鳴る。

「本艦周囲に浮上する物体3! これは……艦⁉︎」

「艦種識別……三隻とも未確認艦です」

「敵艦、ミサイル発射!」

 艦橋の窓から見える一隻が、艦首についた白い巨大ミサイルと中型のミサイルを放つのが見える。

「何発だ!」

「分かりません、全方位からミサイル来ます!」

「っ、波動防壁!」

 被弾直前に艦の周囲に展開された波動防壁にミサイルが直撃し、巨大な煙を上げた。

「ミサイル、第二波接近!」

「波動防壁のエネルギーが足りない、第三波は耐えられない!」

 刹那、第二波の着弾を告げる振動が艦をかすかに傾けた。

「敵艦、第三波発射ノ予兆アリ」

 サブコンピュータとして接続されているAU-09タイプが警告を発する。

「ドーム部以外の波動防壁を遮断、推力全開で正面の敵艦の下に入り主砲を下から叩き込め!」

「は、はい!」

 左へとかすかに傾いた艦をそのまま左舷へと倒し、降下してミサイルを放つ敵の下へと入り込む。

「照準よし」

 全ての主砲が敵艦の腹を捉え、艦橋へと入る光が敵艦の影で減少する。

「てぇ!」

 武蔵の砲塔から放たれた青い光は星の大気を切り裂いて雷をまとわせながら敵艦の艦艇を穿ち、融解させて貫く。

 炎をあげ惑星へと堕ちゆく艦の真下から抜け船体を起こした武蔵は残る2隻へとその砲口を向け、衝撃波と共に光を放つ。

 命中を示すように2隻から爆炎が上がるものの、敵艦は一矢報いようと果敢にミサイルを放つ。

「敵艦ミサイル発射!」

「迎撃、主砲三式、魚雷発射管開け!」

 艦が回頭し敵艦へと正面を向けたのとほぼ同時に、放たれた実弾と魚雷が敵のミサイルを迎え撃つ。

 その時、武蔵の後方から敵艦へと向かう弾道が確認できた。

 その弾は的確に艦橋を射抜くと、第二射、第三射で船体装甲を貫きミサイルに誘爆を促す。

「コスモゼロ帰還しました!」

 艦橋を沿うように後方から現れた二つの機影は、爆炎に包まれる敵艦の上空を旋回して武蔵へと帰還した。

『こちらアルタイル。敵艦隊殲滅後、援軍が現れる気配はない。指示を乞う』

「こちら武蔵、状況は終了した。アルタイルは航空隊収容後惑星へと降下、本艦と合流せよ。無人艦5隻は惑星上空にて待機」

 その指示と共に、近藤は肩の力を抜いた。

「みんな、初陣で良くやってくれた。作戦は終了だ。ご苦労」

 近藤の言葉に航海長以外が敬礼をする。

 航海長はゆっくりと武蔵を谷へと降下させていた。

『――るか――いるなら――』

 通信手席から聞こえてきた通信に、通信士が即座に答える。

「こちら地球軍、波動実験艦武蔵。聞こえるか、この星を占拠していたガトランティス艦隊は殲滅した。生存者は何人いるか」

「艦長、通信は前方5キロ地点の炭鉱内部からです」

「シーガル出撃、救出へと向かえ。輸送船むつきへ、惑星内へと降下指示」

 濱内からの報告に頷いた近藤はすぐに指示を出す。

 ヤマト級に共通で存在する艦底部第三格納庫のシャッターが開き、アームに吊られたシーガルのエンジンに火が灯る。

 アームから解放されたシーガルは勢いよく飛び出し、生存者の元へと向かった。

 一方、小惑星に隠れていた輸送船もまたエンジンを起動させて一路最高速で惑星へと向かう。

 武蔵の艦橋からは、さながら流星のようにアルタイルの姿が見えていた。

 

 ――1時間後。

 地球から送られてきたデータによれば、惑星上空と惑星内で遭遇した重ミサイル艦はヤマトが白色彗星内部、そしてテレザート上空で遭遇した艦と同型のようであった。

 被弾数の多い無人艦を辛うじて残ったドックを借りて修理しているのを見ながら、武蔵から降りた近藤らは生存者と向かい合った。

「まさかこの星がガトランティスに占領されているとは思わず、救出が遅れてしまいました」

「いいえ、たとえ偶然であっても助けていただいたのに変わりはありません。ありがとう」

 笑顔を見せる鉱夫。彼の後ろにいる人々もまた同じように「ありがとう」などと口々に言っていた。

「間もなくこの星には地球から守備艦隊が到着します。波動砲搭載艦が10隻程度配備されると聞きました。ヤマトからの報告ではガトランティスは――」

「そうそう、あんたらのフネはヤマトにそっくりだな。一瞬ヤマトが来たのかと思ったぞ」

 あっはっは! と大きく笑う彼に、近藤は武蔵の方へと振り返った。

 ヤマトの同型艦。それが指す意味は、武蔵のクルーが思っている以上に大きいのかもしれない。

 

武蔵/自室

「柑奈ぁー、起きてるー?」

 艦橋から降りてきた濱内水月が部屋に入ると、あかりは既に消えていた。

「寝てるー……」

「起きてんじゃん」

 部屋の扉にロックをかけた水月は、親友のベッドに腰掛けた。

「大丈夫だった?」

「大丈夫なわけないじゃん、星の外でも中でも構わず無理な挙動するし。壁にぶつかるかと思ったよ」

「まあ柑奈は非力だからね」

「科学者に筋力はいらないんですー」

「前もそんなこと言ってたね。そんなんだと将来たるむよー?」

「……何が」

「このへん」

 水月は布団の中に手を突っ込むと、柑奈の脇腹をくすぐり始める。

 布団の中で足をバタバタさせながらなんとか彼女から逃れた時には、柑奈は息を切らしていた。

 寝苦しかったのかチャックをへそのあたりまで緩めていた彼女の艦内服は肩が落ちている。

「あははっ、柑奈必死すぎ」

「急にくすぐってくるからでしょう⁉︎」

「もう一回やったげよっか?」

「遠慮しとく。……近づかないで、いやホントに⁉︎」

 その日は結局、柑奈に避けられつつも彼女が寝るまで隣にいた水月であった。

 

 

 ――同刻、武蔵の甲板へと出た有賀は、にわかに見える晴れ間に目を細めながら、かすかに吹く風を受ける。

「ガトランティスはなんだってこの星を……」

「意味なんかない、ただ進路上にあったからじゃないか?」

 声の元へ振り返ると、そこには航海長の三原泰平が立っていた。

「第十一番惑星だって、占領してどうにかなる星じゃなかったはずだろ?」

「あの星を占領したのは人工太陽が目的だったからだ。目的がなかったわけじゃない。けど、この星は違う」

「純粋に資材目的って訳でもなさそうだしな。ヤマトの見解では、ヤツらモノを作ることはできないんだろ」

「ああ、だからわからないんだ」

 そう話す彼らのはるか向こうでは、何者かの手によって大規模な掘削が行われた際に形成されたクレーターのようなものが広がっていた。

 それが、ガトランティスがテレザートを封印するために用いた岩石の一部である事は、誰も知らない。

 

 ――第二話 「資源惑星解放作戦」――




読んでいただきありがとうございます。
今回も技師長メインみたいな感じでした。もう半ば主人公っぽいですが、もっといろんな人たちを絡ませたいですね。
ヤマト2202第7章までには書き上げたいところです。


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第3話 「追跡者」

第3話です。
今回はあまり目立った戦闘もなく、クルーの関わりに重点を置いています。
1話、2話に比べると今回割と短めになりました。


 資源惑星ザリシアの解放に成功した武蔵は、地球からの防衛艦隊を待ちながら無人艦の応急修理を進めていた。

「あれの修理は結構かかるのか?」

 戦術長席で頬杖をつきながら有賀はそんな問いを投げかける。

「さあな。生命維持装置をつけるわけでもないんだし、直すのは見てくれの装甲だけだからそこまでかからないと思うけど」

 航海長の三原泰平が背もたれに寄りかかって天井を仰ぐ。

「まあ数が数だから多少はかかるだろうさ。宇宙に出ればそれどころじゃないんだ、ゆっくりしようぜ」

「ああ、そうだな」

 地球からの資源惑星ザリシアの防衛艦隊の到着と、被弾、損傷した無人艦の修理を待つために武蔵のクルーには1日の休みが与えられていた。

 とはいえ、資源惑星であるこの星は居住可能区域も少なく住人は大半が地球人、二等ガミラス人の鉱夫とその家族であるため休暇を与えられタラップが下されていても武蔵から降りる乗組員は少なかった。

 無人艦を率いる関係で武蔵において割合が高い甲板科のクルーには休みなどなく、無人艦の補修に弾薬の補充と忙しなく動き回っているし、機関科のクルーもエンジンまわりの点検に交代で駆り出されている。

 完全なオフなのは、甲板科、機関科、主計科を除いたクルーであった。

 それでも「整備にも使えるかもしれない」という理由でヤマトから設計データが地球へと渡されていた機動甲冑により、修理や補給はこれまでの人力と比べ倍以上の効率で行えている。

 ヤマトへの増設前に武蔵で稼働試験が行われていた艦内工場あってこその装備だった。

 地球からの情報では、ヤマトはテレザートを出立し、白色彗星を追って地球へと転進したという。

 地球でもまた、白色彗星がガトランティスの本星であり地球へと到達するまでに時間はあまりかからないという報告を受けて、迎撃作戦のため慌ただしそうであった。

 武蔵が提出した資源惑星解放作戦時の無人艦のデータを元に波動砲艦隊の第一陣が建造を終えており、アンドロメダ率いる主力艦隊への配備は順調である旨が報告された。

「長官、それは本当ですか」

『そうだ』

 通信室で地球との交信を行なっていた近藤は、長官からの言葉に驚きを隠せなかった。

『波動実験艦銀河を、防衛作戦の時は前線に出す。これは決定事項だ』

「しかし、報告ではあの艦は武装が使用できないと聞きました。そんな艦を出すのなら武装艦の本艦が出た方が」

『今度の作戦には、銀河に搭載されたコスモリバースシステムが必要なのだ。ヤマトも地球に向かってくれている。コスモリバースを使えば、白色彗星が地球へ到達するのを防ぐことができる可能性が高い。よって、貴艦には新たな任務を頼みたい』

 

 

「司令部の命令は以上です」

「そうか」

 武蔵の艦長室で近藤の向かいに座るアルタイルの武田艦長が頷く。

 武田はガミラス戦役時に乗っていた艦が沈み、自分だけが生き残ったことから自らをフネを沈めた男として自分を戒めてきた。

 近藤とは同郷であり、訓練学校時代の後輩としてかわいがってきた。そのため今回、彼が行くのならとアルタイルの艦長を引き受けたのだ。

「そのG計画については要領を得ないが、つまるところ地球の人たちが移住できる場所を探してくればいいんだな?」

「そういうことのようです。その星についてもイズモ計画の時に観測されたデータをもとに目処がついているらしいのですが」

 近藤は武田に、端末に表示させた星の図を渡す。

「この星は確か、私の記憶違いじゃなければ人が生きている可能性が高い星のはず。ここを調べてこいということは」

「侵略を意図してのことではなかろう。どれか1つでも使えれば良いのだから」

 しかし、そう言う武田もまた表情は暗い。

「人類移住計画を、本当に実行する時が来なければいいのだが」

 

 

武蔵/食堂

「オムシスって本当に色々作れるんだね」

「ヤマトでは色々大変だったって聞くけどね。補給しないとさ」

「まあそうだけどねー」

 食べ物を口に運びつつ、佐伯柑奈と濱内水月は食堂の端でそんな会話をする。

 今は昼時ということもあり、艦内食堂は非番のクルーで賑わっていた。

「柑奈ちゃんと水月ちゃんだ! 隣いいかな?」

 2人の返答を待たずに柑奈の隣についたのは、船務長の丹生。

「柑奈ちゃんあんまり食べないんだね」

「もう大体食べ終わったんです、あんまり食べてないわけじゃ……」

「えっ、でも今日は少なかったよね柑奈」

「水月は余計なこと言わないで」

「ちゃんと私くらい食べないとダメだよー?」

「美華さんは食べ過ぎ。太ります」

 水月の隣に座った砲雷長の来島理沙が少し冷たい声色で忠告する。

「そうかなぁ、私食べすぎかな?」

 聞かれた柑奈と水月は、彼女の皿を見ながら首を縦に振る。

 彼女の皿には見るからにカロリーの高そうなモノが大量に乗っており、野菜などの姿は見えない。バランスよく適度な量を乗せてきた水月や理沙とは対照的であった。

「もしかして美華さんっていつもそんな感じの食べてるんですか?」

「そうだよ」

 水月の問いに笑顔で答えると、柑奈が横から口を挟む。

「それで太らないんですか……」

「トレーニングとかはあんまり得意じゃないんだけどね。理沙ちゃんはトレーニング結構してそうだなって思うんだけど」

「私は……まあ、結構してるとは言われます」

「へぇ、だからそんな引き締まった身体してるんだ」

 隣の水月が言いながら彼女のお腹へ手を伸ばすと、彼女はそれを止めた。

「何してるんですか」

「あーバレたかー」

「やめてください」

 冷たくあしらった理沙は、一際大きなため息をついてサラダに手をつけた。

「そういえば前から気になってたんだけど、通信長の『イチノセ』くんって銀河の航海長の双子なのかな」

 丹生のそんな問いに、少しあきれた様子で柑奈が端末を突きつける。

「銀河の航海長はこっちの『市瀬』で、通信長はこっちの『一ノ瀬』だから無関係です。ちゃんと名簿見たんですか?」

「柑奈ちゃんよく知ってるね。私日下部うららから名前だけ聞いてたからさ」

「あー、私は……まあ、色々あって……新見さんとかに助言もらったりする中で知りました。それより、日下部さんって」

「銀河の戦術長だよ。同期なの。まああんまり関わりがあったわけじゃないんだけど」

 そう言って唐揚げを口に運ぶ丹生に、理沙が呟く。

「女性で戦術長は尊敬します」

「そう? あたしは別に、彼女ちょっと堅い印象あったし、理沙ちゃんにはもうちょっと素直でいてほしいかなぁ」

 それを聞いた理沙は、少しだけ頬を染めて目をそらした。

「……余計なお世話です」

 弱々しく呟くものの、丹生の目を見ることはできなかった。

 

武蔵/艦橋後部デッキ

「――もう二度と……」

 手に持った写真を撫でるように見ながら、彼女は呟く。

「気象長」

 背後からの声に振り向くと、そこに立っていたのは通信長の一ノ瀬であった。

「何か用?」

「いいえ、別に用というわけでは。なんとなく気分転換に」

「そう」

 気象長の棚橋の横で手すりに身体を預けた一ノ瀬は、彼女を見ることなく問う。

「前の船ですか」

「ええ。貴方、私の経歴は知っているのでしょう?」

「どうしてそう思うんです?」

「私が何を見ていたのか、分かっているじゃない」

「まあ、なんとなくは」

 棚橋は窓に背を向けると、写真を見つめながら語り始めた。

「カ号作戦の時、私以外の全員が死んで、私だけが生き残った。キリシマに回収された私は、その時誓ったの。もしまた私が艦に乗ることがあったなら――」

「もう二度と沈めてなるものか、ですか」

「……少し違う。二度と、私の目の前では死なせない」

「頼もしいですね」

「ううん、そんな事はない。だって私は、一度負けてるんだから」

 そう言って、棚橋はその場を離れた。

「なんであれ、生きていれば勝ちですよ」

 そう呟いた一ノ瀬の言葉は聞こえていたのか。それは本人にしか分からない。

 

翌日

 ほぼ定刻通りに地球からのザリシア防衛用の艦隊が到着し、武蔵管轄の無人艦の修理も完了していた。

 艦隊の到着と同時に、武蔵、アルタイルと無人艦隊はザリシアを離陸しワープアウトする艦隊を尻目に星を離れる。

 ザリシアの星系から離れた後、艦長は次なる任務を告げた。

「これより本艦は、トラピスト1星系へと向かう」

 近藤の言葉に、航海長の三原は驚きの声を出す。

「艦長、その星系は……」

 トラピスト1は、1世紀以上前に発見された赤色矮星であり、星系内に7つの惑星を持つ恒星である。

 地球からは水瓶座の方角に39.13光年の距離にある。

 その大きさは太陽よりも小さいものの、7つの惑星全てが鉄と岩石でできた地球型の惑星であり、最低でも6つには海があると目されている。

 しかし、恒星間航行が可能となって以降もこの星系には調査に赴く事はなかった。

「三原と棚橋は分かっているだろうが、この恒星は生命居住可能領域に6つの惑星を持つ。我々はこれらの惑星への移住の可能性を調査するという任務を請け負った」

「それは、地球を捨てる事を考えてのことですか」

 席から立ち上がった有賀が艦長を見つめる。

「現時点で、我々が地球を捨てる事はない。将来的な展望を含めての調査だ」

 その言葉に引き下がる有賀。

 彼が席に座るのとほぼ同時に、艦体に強い揺れが走った。

「なんだ⁉︎」

「状況報告!」

「レーダーに感あり。本艦隊後方にワープアウト反応! 総数……20隻!」

 艦底部から黒煙を上げる武蔵の後方では、暗闇に不気味に輝く緑の艦艇が艦隊を睨みつけていた。

 それはまるで、彼らをつけねらっていたかのように。

 獲物を見つけた獣のごとく、その目は武蔵を確実に捉えている。

 

 ――第3話 「追跡者」――




読んでいただき、ありがとうございます。
今回は出航が最後の方で、武蔵は基本的に停泊しっぱなしだったので短めでしたね。
次回はちょっと長くなるかもしれません。


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第4話 「トランスワープ」

戦闘から始まる第4話です。
今回は自分なりに本編に出てきた「アレ」についての解釈と初使用を書いてみました。
よろしくお願いします。


 艦橋に鳴り響く警報音と、船体をかすめる陽電子の光が漆黒の宇宙に色をつける。

 幾度も敵の砲火が船体に直撃するも、それらは全て波動防壁に弾かれて宇宙へと消えていく。

 敵、ガトランティス艦隊の戦力は強大である。

 旗艦と思しきメダルーサ級と2隻のカラクルム級を主戦力として、ミサイル艦と駆逐艦をその周囲に展開している。その総数は20隻にも及ぶ。

 背後から攻撃され追われる身となった武蔵は、こちらへ突撃し最接近した駆逐艦2隻を撃破したものの、攻勢には出ず守護陣形を整えた。

 後部に砲塔を持たないアルタイルを武蔵と無人艦隊で囲み、黒潮を除く主力戦艦と武蔵が応戦のため青い光線を放つ。

「本艦からの砲撃が当たってない……⁉︎」

「ギリギリ射程外なんだ。だから効いてない。こっちの波動防壁だって、避弾経始圧に変化はないだろ」

 丹生の言葉に返しながら、有賀は三原に目を配る。

 彼が頷き返したのを合図に、有賀は席を立ち艦長を見た。

「戦術長、意見具申。このまま逃げていてもどこまでも追って来るだけです。反転して応戦しましょう」

「迷っている暇はないか……転舵反転!」

「おーもかーじ」

 三原の復唱とともに船体が傾き、姿勢制御スラスタを開いて信地旋回のように敵に向き直る。

 武蔵の反転と同時に無人艦隊とアルタイルも反転、航空隊展開のためカタパルトハッチを開いたアルタイルを守るように横一列に展開する。

 背後から武蔵の前へと躍り出た磯風改型の黒潮が最大速力で敵の只中へと突入するのを支援するために大型艦は火砲を撃ちながら速度を上げた。

 前に展開した艦隊の上下左右からアルタイルの航空隊が敵艦隊へと飛び去っていく。

 ――その刹那。

「黒潮の前方にワープアウト反応に酷似した反応を確認!」

「泰平、回避だ!」

「任せろッ!」

 空間を裂いて出現した炎の柱が艦底部をかすめ、波動防壁を削り取る。

 眼前では艦底を灼かれた駆逐艦が溶けるように爆散、その破片すら高熱により塵も残さず消えていった。

 辛くも直撃や損傷を免れた武蔵や無人主力艦隊は隊列を乱しつつも足を止めることはない。

「火焔直撃砲……!」

 艦載機の発艦を終えたアルタイルが武蔵の横に並ぶ。

「棚橋、火焔直撃砲の出現位置を特定できるか」

「問題ありません。ヤマトと浮遊大陸戦のデータがありますから」

 艦長の問いに答えた棚橋はすぐに作業に移り、アルタイルとのデータリンクを始める。

「戦術長、まずは火焔直撃砲を無効化する。射程に入り次第メダルーサ級を狙え」

「了解。丹生、射程まであとどのくらいだ」

「このままの速度であと五分。それまでに火焔直撃砲はあと2回来るかも」

「回避は泰平に任せる。頼むぞ」

 有賀はすぐに航海長から砲雷長へと視線を移すと、次は彼女へと指示を飛ばす。

「メダルーサが射程に入る前にミサイル艦と駆逐艦が射程に入る。まずは旗艦とカラクルム級を守る邪魔な船を沈めるぞ」

「はい」

 艦首側の砲塔が左右に向き、それぞれの砲身が別の角度をとりつつ砲撃を始める。

 そして丹生の予想通り、それはやってきた。

「反応あり、航海長にデータ転送します」

「回避行動!」

 今度は左側へと艦を振り、船体に砲撃をかすめもしない完璧な回避を見せる。

「メダルーサ級、射程まであと2分!」

 丹生の言葉と同時に武蔵とアルタイルが放った陽電子砲がミサイル艦の艦首ミサイルと船体に直撃、内部誘爆を起こして轟沈した。

 にわかに速度を上げた武蔵は艦首から魚雷を放ち、敵艦隊の中に6つの火球を起こす。

 それに呼応するように、航空隊が対空砲火をものともせずに駆逐艦へと急降下爆撃を敢行、装甲を貫いた対艦ミサイルによって駆逐艦は誘爆した。

「あと1分!」

「火焔直撃砲、本艦正面に出現します」

 淡々と、確実に伝えられた着弾点から逃れるために武蔵は一時的に降下、艦橋への着弾を避けるためにバレルロールを行なって左舷を炎が通過する。

「左舷波動防壁避弾経始圧低下、防御可能限界を下回りました」

「ドーム部二重防壁以外の防壁を解除! 余ったエネルギーは砲撃と推進力に回せ!」

 高熱で侵される左舷が溶け出す前に直撃砲が通過し、武蔵は体勢を立て直す。

 その背後では一隻の主力戦艦の補助エンジンが融解し、主砲を撃ちながら艦尾に爆発を起こす。

「デネブのエンジンが融解!」

 丹生の言葉とほぼ同時に、艦橋の扉が開く。

「はっ……⁉︎」

 艦橋の窓から外の様子を見た水月は息を呑む。

「柑奈っ!」

 水月が駆け寄ったのは、小刻みに体を震わせモニターも満足に見えていない技師長の席。

「み……づ、き?」

「柑奈は今すぐ艦橋から出て」

「……だめ。私は……」

「今のアンタに何ができるの⁉︎ ここにいたって足手まといになるだけ!」

「でも……私……」

 その顔は今にも泣き出しそうなほど頼りなく映る。

 敵の砲撃がドームに直撃し、艦橋に光が差す。

「っ……!」

 それから目をそらす柑奈の姿に、水月は耐えられなかった。

「いいからどいて。私が代わるから」

 彼女を避けさせて強引に座り、戦闘に入ってから満足に操作されていなかった計器を手早く操作する。

「今の柑奈がここでできる事はないよ」

「……そんなの……分かってるんだよ……」

 呟いて艦橋を出る彼女の背中を、丹生は心配そうに見つめていた。

 補助エンジンが融解した主力戦艦は行動を止めたわけではなく、波動エンジンを噴き上げて煙を引きながら再加速をかけた。

 直後、武蔵から放たれた主砲の一射が発射体勢に入っていた火焔直撃砲の砲口に風穴を開けた。

「砲雷長、次だ」

「はい」

 それに慢心することなく、即座に接近していた駆逐艦2隻の艦橋に砲撃を当て、行動を止める。

 直前に放たれていた火砲が両舷に当たるが、それを物ともせずに武蔵は前へ進む。

 被弾したメダルーサ級を守るべく2隻のカラクルム級が前へ出てくると、それらは子機のような機体を周囲に飛ばす。

「来るぞ……」

 カラクルム級を回る回転数が上がっていく。

 それらが緑の光を帯びた時、上空からその輪を断ち切る矢が落ちた。

 続いて敵艦の横腹を数多のミサイルが直撃すると、その上を航空編隊が飛び去っていった。

 コスモファルコンだけで編成されたアルタイル航空隊の練度は高く、最新鋭機であるコスモタイガーと見間違うような高速機動を描いて艦隊へと再突撃をかけると、対空砲火を避けながら的確にカラクルム級の火器装備を破壊していく。

 そこに武蔵やアルタイルからの艦砲射撃が正面装甲を貫き、爆炎とともに艦を宇宙を漂う塵とした。

 残った数機の遠隔機体と火砲で武蔵を狙ったカラクルム級の攻撃は無人艦のデネブが割って入ったために失敗に終わり、同艦の砲撃によりその砲塔は完全に沈黙した。

「敵艦急速接近! 体当たりしてくるつもり⁉︎」

 突如として急加速したカラクルム級は煙をあげるデネブを避けて武蔵とアルタイルに向かって突撃をかけてきた。

「泰平、回避だ! 主砲照準、接近してくるカラクルム級戦艦!」

 それぞれに回避をはじめる巨艦だったが、武蔵の砲撃が敵の艦橋を撃ち抜いた直後、回避行動中のアルタイルの後部へとその巨体を衝突させた。

 重たい金属音と火花が散る中、アルタイルは姿勢制御スラスターを噴射させながらカラクルム級の船体に速射砲を叩き込む。

 アルタイル左舷の補助エンジンに艦首をめり込ませた敵艦は、まるで自爆のように突然爆発を起こし、アルタイルを巻き込んだ。

 その背後から飛び出した無傷の無人艦隊が近づく駆逐艦をその砲撃で沈め、武蔵左舷では行動を止めたデネブが爆散した。

 爆炎から飛び出したアルタイルだったが、その後部は大きく破損し、右舷補助エンジンを残すのみとなっていた。

 残された補助エンジンと左舷艦首、船体中央の姿勢制御スラスターで辛うじて直進するアルタイルであったが、波動エンジンの大破により波動砲と主砲が使用不能となり戦闘は困難となった。

 そのアルタイルの前に出た武蔵は、無人艦隊にのこった駆逐艦を任せ、旗艦であるメダルーサ級へと直進する。

「敵旗艦から砲撃来ます!」

 艦首の五連装砲が武蔵に狙いを定める。

 ――だが、砲撃は来なかった。

 敵の主砲とエンジンを撃ち抜いた複数の航空隊からのミサイルによってそれは宇宙を漂う的と成り果て、連続で放たれた武蔵の主砲によって葬られたからだ。

 その背後では三方位を囲まれた駆逐艦が同時砲撃を受けて爆沈した。

「索敵範囲内に敵艦なし。損害状況確認急げ」

 丹生の言葉と同時に、肩の力が抜ける。

 ゆっくりと回頭した武蔵の艦橋から見えたのは、宇宙を漂う破壊された艦艇の残骸と、大きく艦体がえぐれたアルタイルの姿であった。

 

武蔵/中央作戦室

 アルタイルへと接舷した武蔵はこの場での修理が不可能であり、長距離の自律航行も難しい事を確認し、艦長の武田を武蔵へと招き入れた。

 幸いにも現状は生命維持に関わるシステムが動いているが、それもいつまでもつか分からなかった。

「ワープできないんじゃ地球に返すどころかザリシアまでだって戻れないぞ」

「そもそもザリシアでは設備がなくてここまで破損したアルタイルの修理なんてできやしないさ。だから主力戦艦だって簡易的な修理しかできなかったんだ」

 床面モニターに映し出されたアルタイルの状況を見ながら、三原と有賀の言葉が飛ぶ。

「あの、武蔵で引っ張って地球まで行くのはできないんですか?」

 丹生の言葉に、機関長の谷村は首を横に振る。

「武蔵のエンジンだけでは、アルタイルほどの質量を抱えてのワープは無理だ」

「谷村の言う通りだ。もし仮に地球まで送り届けたとしても、我々は再びここに戻らなければならない」

 艦長の言葉に、一同は黙り込んだ。

「アルタイルを現宙域に置いていくしか……」

「そんな! 見捨てて行くなんてできません!」

「なら、他にやり方があると?」

 鋭く聞き返した棚橋の視線に押し黙る水月。

「一つだけ、方法があります」

 場に沈黙が流れ始める前に、佐伯が口を開く。

 床面モニターが切り替わると、アルタイルの姿と2隻のドレッドノート級の姿が三次元的に映し出された。

「航行不能となったアルタイルの両舷に一隻づつ、ドレッドノート級を接舷、固定します」

 彼女の言葉と同時に映像でも同様の事が図示された。

「固定って言ってもどうやって固定するんだ?」

「波動砲発射時に用いる重力アンカーを使えば固定でき、理論上は通常のロケットアンカーを突き刺すよりも遥かに強固に接続できます。そして」

 彼女が接続された艦を指すと、そのエンジンからワープの際に発する発光が図的に表される。

「接続したまま、両舷の艦のエンジンを同調させてワープする事が可能です」

「そんな事、本当にできるのか?」

「アルタイルには不慮の事態を想定して無人艦の制御システムが搭載されています。それを使ってアルタイルから信号を送ればタイミングも問題ありません」

 航海長の質問に答えた佐伯はしかし、懸念材料を一つ挙げた。

「このワープ補助――以後トランスワープと呼称しますが、これを行う場合ブースターとして使うのは同じ艦種でなければなりません。そして波長や出力が著しく異なる場合は失敗の可能性も出てきます。そこで、使用するのに適した艦2隻の選別を行いました」

 床面モニターには、2隻の図面が浮かび上がった。

「ドューベとデネボラか……」

「はい。この2隻は損傷もほとんど無く、撃沈されたデネブを含め本艦と同行していた無人艦の中で最も安定した出力を保っていました」

「アルタイルに2隻をひっつけて地球まで飛ばすとすると、武蔵は一隻だけで守る必要があるのか」

 戦術長の呟きに、艦長は「だが」と続く。

「今はそれしか方法がないのは確かだ。武蔵の防御を考えるよりも戦友を無事に帰すことを考えよう」

「では、アルタイル航空隊から選抜部隊を武蔵へと渡そう。戦闘機格納庫に空きはあるのだろう」

 アルタイルの谷村艦長が近藤の肩を叩く。

 近藤は谷村に頭を下げると、この場の解散を命じた。

 

「柑奈!」

 皆が作戦室から出た後、残っていた柑奈に水月が話しかけた。

「柑奈、さっきは――」

「トランスワープのオペレーションは水月がやるんでしょう?」

「えっ? う、うん、そうだと思うけど……」

「データは入れておくから。あとはよろしくね」

 水月の目を見ようとしないまま、明かりの消えた室内から柑奈は出ていった。

「……やっぱり、怒ってるのかな……」

 データ受信を示す光が端末から漏れる。

 水月はただ、外からの光だけが入る扉の方を見つめているだけだった。

 

 

武蔵/第一艦橋

 会議から1時間後、艦橋ではオペレーションの準備が整いつつあった。

「ドューベとデネボラへの命令信号遮断。指揮権をアルタイルへ再設定」

「設定確認。ドューベ、デネボラのアルタイル接舷開始」

「アルタイル上部飛行甲板から航空隊19機の発艦を確認しました。艦底部ハッチ開きます」

 艦橋の窓からは、アルタイルの艦橋後部に伸びた飛行甲板から垂直に浮き上がったファルコンが編隊で武蔵へと飛来するのが見えた。

 艦載機の収容を終えた武蔵は、後方から静かにアルタイルを見守る。

「重力アンカーによるアルタイルへの固定完了。ワープ準備に入りました」

 眼前では両舷についたドレッドノート級のエンジンから火を噴き、その炎が青く変わるのが見える。

 一体となった3隻は徐々に加速していく。

「ワープカウント開始。10、9、8、7」

 カウントの減少と共に加速度を高めていく。

「アルタイル、ワープ速度へ!」

「3、2、1……」

 暗闇に開いた穴に飲み込まれた艦の姿は消え去り、静けさだけが残った。

「空間航跡探知、アルタイルのワープ開け座標を特定」

 棚橋の言葉から数秒後、静寂を断つように入電音が鳴り響いた。

「アルタイルより入電。『我、ワープに成功せり。地球へ向け数回のワープを行いこの情報を届ける。武蔵は先へと進まれたし。貴艦の健闘と、航海の無事を祈る』」

 艦橋内に安堵の空気が流れた。

「空間航跡確認。アルタイル、予定座標にいます」

「良かったぁ……」

 背もたれに身体を預ける有賀の横で、三原は舵を握り直した。

 艦首を反転させた武蔵は、一路目標地点のトラピスト1星系へと向かう。

 トランスワープに歓喜する艦橋の中、濱内水月だけが視線を落とし、浮かない表情で床を見つめていた――。

 

 ――第4話 「トランスワープ」――




読んでいただきありがとうございます。
遂に武蔵と主力戦艦一隻になってしまいましたね。
第5話も書いている最中です。
この後もよろしくお願いします!


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第5話 「ファーストコンタクト」

いつもありがとうございます。
第5話です。この話を含めてあと3話となりました。
……無事に畳めるのか少し心配になってきそうですが、どうか最後までお付き合いいただけると嬉しいです!


武蔵/第一艦橋

「はぁ……」

 機関音とモニターの音だけが響く空間に、一際大きなため息がこぼれた。

「彼女、元気ないのか?」

 有賀が水月を見ながら泰平に問いかける。

「さあ、俺は知らないけど」

「お前もうちょっと関心持とうとか思わないのか……」

 彼の態度に肩を落とす有賀だったが、その視線は明らかに元気のない情報長に向かっていた。

「気になるなら聞いてきたらどうですか」

 彼の横を通りすぎた棚橋の言葉に、素直にそうだな、と返すことはしなかった。

 視界の隅にそんな彼女を彼よりも心配そうに見ている船務長が見えたからだ。

 ちらりと戦術長を見た丹生は少しハッとした顔をして立ち上がり、彼の席の横でしゃがみこむ。

「な、何、急に」

「有賀くんって、妹いたよね」

「妹? ああ、四つ下の妹がいるけど」

「じゃあさ、彼女達の相談乗ってあげてよ」

「はぁ?」

「『はぁ?』じゃなくて。もうすぐ非番でしょ? 断る理由は無いよね」

「……君がどちらかを請け負うならな。1人で2人は無理だ」

「分かったわよ……私が水月ちゃんの話聞くから、有賀くんは柑奈ちゃんの方お願い」

「よし、そっちは任せた」

 不意に立ち上がった有賀はまっすぐエレベーターへと向かっていった。

「なんだかんだ面倒見いいよね、彼」

 戦術長がいなくなった席の傍らで丹生はしみじみと呟く。

「アイツなりに思うところもあるんじゃないか?」

「そうかも。さて、私も行きますか」

 航海長に返すと、丹生も水月へと話しかけて2人でエレベーターに乗り下へと降りていった。

「美華さんもなかなかですけど」

 遠目で話を聞いていた来島が席に座りながら言う。

「2人ともまるで妹を心配するみたいに……」

「それがお兄ちゃんとお姉ちゃんってもんなんじゃないか?」

 背もたれに体重を預けてはにかむ航海長の横顔を見て、来島は首をかしげた。

「私には……よく分かりません」

 彼女はそう言って視線を前に向けた。

 そんな彼らの様子を、親のような目で機関長が見つめていた。

 

 

武蔵/士官自室

 ディスプレイから出るわずかな光だけが部屋の中に灯る中、チャックを下ろして艦内服を着崩したままベッドに横たわる少女が一人。

 彼女の目はじっと部屋の壁を見つめていた。

 艦の重低音だけが響く部屋の中に、不意に来客を告げるブザーが鳴る。

「ん……?」

 この世になかった心を戻して起き上がり、入り口にあるディスプレイに触れる。

「誰でしょう」

『休んでいるところ申し訳ない。戦術長の有賀だ』

「……私の交代でしたか」

『いや、そういうわけじゃなくて。君と話がしたいなって』

「…………」

 無言で扉を開けると、外から入る強烈な光に目を覆った。

 明るさに慣れて目を上げると、少し顔を赤らめて固まる戦術長の姿。

「佐伯くん、その格好……」

 彼の視線の先を追うようにして自らの身体を見た彼女は、ようやく過ちに気付いた。

「……っ⁉︎」

 胸を隠すようにして後ろを向く彼女と同時に有賀も視線をそらす。

 そのまま気まずい沈黙が流れた後、やっと柑奈が口を開いた。

「…………見ましたか」

「見ようとしたわけじゃないけど……」

「いえ、変なこと聞きました。戦術長は悪くないです、すみません……下着姿で……」

「いや、俺こそ。ごめん……」

「……」

「……」

「……。中、入ってください」

 言われるまま中に入り、二人並んでベッドに腰掛けた。

 彼女は衣服を正し、大きくため息をつく。

「お話ってなんですか?」

「戦うのは怖いか?」

 思わぬ問いかけに背中を向ける。

 部屋の明かりは暗いまま、有賀なりの気づかいの表れだった。

「昔、私には大事な友達がいました。その人が、ガミラスとの戦争で命を落とした……怖いんです、また誰かを失うんじゃないかって」

「……そうか」

「おかしいですよね、私、今は軍人なのに……怖い、なんて」

「おかしくなんかないさ。戦うのは誰だって怖いし、誰かを失うのも怖い」

「戦術長も、怖いんですか……?」

 有賀の横顔を見ると、彼は天井を仰ぎ見て語り始めた。

「俺はこの艦の戦術長を拝命した。だからこそ思う。戦いを指揮する者として、一瞬の迷いが、一つの間違いが、誰かの命を奪う事がある。そしてその責任は全部、俺が背負わないとならない」

「……」

「ガミラスの遊星爆弾で両親が、ガミラスの攻撃で兄が死んで、今は妹が唯一の家族だ」

「……っ!」

「だからこそ、誰かを失うんじゃないかって恐怖は多分君と同じだ。戦闘中は、足が震えて立てないくらいだよ」

 有賀が笑顔で横を見ると、柑奈は下を向いて涙声で言葉を紡ぐ。

「戦術長は……家族をなくして……なのに私は、こんなに弱い……私、ダメなんです……戦術長みたいに、強くはなれません……」

「それでいいじゃないか」

 その言葉に顔を上げると、彼は手を重ねて、まるで妹にするように彼女の頭を撫でる。

「誰かをなくすのは怖いし、亡くした心の傷は一生残るもんだ。たとえそれが友達でも、家族でも。家族だからとか、友達だからとか、そこに違いなんてない。その人が自分にとってどれだけ大切だったかなんて、自分以外には分からないんだから」

「有賀さん……」

「友達を亡くした程度でなんていうヤツは、人の心の傷を理解しようとしないだけだ。そんなヤツ信じなくていい。君が信じたいと思う人を、君が大切だと思う人を守ることを考えればいいんだ。今の俺たちには、その力が与えられている」

「……はい……」

「弱くたっていい。それでいい……無理に強くあろうとしなくていい。それは、自分で自分を傷つけるだけだ」

 彼女の肩に手を乗せると、まっすぐ目を見つめながら有賀は笑顔を向けた。

「一人で考えて、抱え込む必要はない。俺が力になる。きっと、彼女もそう思ってるよ」

「……本当は、分かってたんです。あの時、水月がどうして持ち場を離れてまで私のところに来てくれたのか。でもなんか、水月に突き放された感じがして……本当は……心配してくれてただけだったのに……」

「そう思うなら伝えないとな。彼女は同じ艦の仲間だ。いつでも伝えられる」

 その言葉に笑顔を見せる柑奈に頷くと、有賀は立ち上がった。

「急に来て悪かった。俺は――」

「あっ、ま、待ってください」

 扉へと歩き出す彼の裾を掴んで引き止めると、彼の背に身体を預けた。

「あの……もう少しだけ、お話してもいいですか……?」

「……ああ、いいよ」

 柑奈に言われるまま戻ると、彼女は部屋の照明をつける。

 突然の明るさに目を細めると、彼の視線は壁のショーケースへと向いた。

「これは……」

 そこに置いてあったのは、しっかりと固定された武蔵の模型であった。

 だが、彼が知る武蔵とは少しばかり形が異なる。

「それは建造されてすぐの頃の武蔵です。ダミーの砲塔と波動砲を搭載していたこと以外は今とそんなに変わらないですよ」

「波動砲?」

「はい。最初は、ヤマトに搭載する波動砲のテストが武蔵の任務でしたから」

「……ずっと、聞こうと思ってたんだ。どうして武蔵の波動砲は封印されているんだ?」

 その問いに、柑奈は彼の隣で武蔵の模型を見ながら語り始めた。

「本艦は、ヤマトへ施す予定の改装と、ヤマト搭載予定の波動砲をテストするために作られました。けれど、波動砲のテストで事故が起こった」

「事故?」

「収束波動砲の他に、新たに艦隊戦用の拡散波動砲のテストも兼ねていたんです。もちろんこれもヤマトに搭載予定でした。ですが、テストは失敗に終わります」

「失敗……」

「波動砲は撃てましたし、拡散まで至りました。けれど、拡散波動砲のために収束波動砲では起き得なかったエネルギーの逆流現象が起こった。エンジンへの回路を遮断しエンジンそのものの破損は免れましたが、波動砲の薬室で逃げ場をなくした波動エネルギーは、武蔵の装甲を突き破って外へ逃げ出そうとしました」

「それは……」

「武蔵の波動砲口は大破。拡散波動砲のためには専用のユニットが必要な事がわかりましたが、ヤマト級での試験は不可能な事も分かり、武蔵の波動砲の修復も新造艦建造の為に後回しにされたので、今は砲口が弱点になるのを防ぐために封印栓で塞がれているんです」

「そうだったのか」

「そもそも、波動砲なんて外宇宙を調査するこのフネにはいらないと思うのでいいと思いますけど」

 言いながらベッドに腰を下ろすと、すぐ隣を小さく叩いて有賀を座らせた。

「有賀さん……私の話聞いてくれて、ありがとうございます」

「佐伯さんは仲間だから、心配だったんだ」

「ふふっ……優しいですね。あ、私のことは柑奈って呼んでください」

「分かった。俺のことも義弥と呼んでほしい」

「年上ですから、それはちょっと……」

「そんなに年は変わらないし、階級も同じだから気にすることはないさ」

「そうですか……分かりました、義弥さん」

 微笑みかける彼女を見て、有賀は地球で待つ妹の面影を重ねた。

「きっと義弥さんの妹さんもしっかりした方なんでしょうね」

 立ち上がって柑奈は壁に身体を預けた。

「妹は俺よりしっかりしてるよ。そういえばこの艦に乗る時お守りを渡されたんだ」

 ポケットからヒモに吊るされたお守りを出すと、それを見た柑奈が突然笑顔になった。

「どうしたんだ?」

「義弥さん、ウラ側、見ましたか?」

「ウラ側?」

 言われるまま背後を見ると、貼り付けられた白い布地に妹の字で言葉が書いてあった。

「『気をつけて、早く帰ってきてね。お兄』ですって。愛されてますね、妹さんに」

「アイツ……乗ったら見てくれってこれのことだったのか……」

「見てなかったんですか、今まで」

「ああ、見てなかった」

「はぁ……ちゃんと見てあげてください。妹さん悲しみますよー」

 少しおどけた言葉と共に、彼が持つお守りに手を重ねた。

 彼の手を握り、少し目を閉じた彼女は、目を開けるのと同時ににっこりと笑う。

「頑張りましょうね、一緒に」

「ああ、頑張ろう」

 

 

武蔵/食堂

 有賀と柑奈が2人で食堂へ来たのは、丹生にとって計画通りだった。

 ただ一つ、彼らの距離感が少し近づいているのは予想外だったようだが。

 2人にわかるように手を振ると、有賀の手をとって柑奈と水月から距離を置いた。

「ちゃんと上手くできたんだね、有賀くん」

「まあなんとかな。そっちはどうだ?」

「こっちも大丈夫、あとは2人だけにしよっか」

 2人の視線がこちらに向いているとはつゆほどにも思っていない柑奈達は、どちらからともなく口を開いた。

「「あのさ」」

 あまりにもぴったり声が重なり、2人に笑いが漏れる。

「あのさ、水月。ごめんね、あの時は。なんか、意地張っちゃって」

「ううん、こっちこそあんなこと言って、ごめん」

 しばしの沈黙の後で、柑奈は後ろのメニューを見て水月の手をとる。

「なんか、甘いもの食べよっか」

「柑奈は甘いもの好きだよね。いいよ、何食べる?」

 しばらくして席に戻った2人は、同じパフェを口に運ぶ。

 その時にはすでに有賀と丹生は食堂を去っていたが、2人がそれを知る由もなかった。

「んっ、これ美味しい」

「そうだね。ね、柑奈、ちょっと気になったんだけど」

「ん?」

 イチゴを頬張ったまま顔を上げる柑奈に構うことなく水月は続ける。

「ちょっと明るくなったよね、恋でもした?」

「んぐっ⁉︎ んっ、けほっ、けほっ……な、何言ってんの⁉︎」

「ビンゴでしょ」

 パフェ用のスプーンで指された柑奈は視線を横にそらした。

「そんな事ないよ」

「柑奈は恥ずかしかったり嘘ついたりすると視線そらすよね」

「そ、そんな事ないってば」

 思わず身を乗り出して顔を近づける柑奈をなんとかおさめると、水月はウエハースを口に入れながら「で?」と続ける。

「相手は戦術長?」

「えっ、いや、だから何言ってんの?」

「分かりやすすぎでしょ……顔赤いし、言葉詰まるし、もうちょっと上手く隠せたらいいんだけどねぇ」

「……余計なお世話ですよー」

「あぁ拗ねちゃった……そういうことじゃないから、柑奈は今のままでいいから」

「じゃあこれで許してあげる」

 水月のカップからひょいとイチゴを取ると、そのまま口へと運ぶ。

「好きだねーイチゴ。にしても、戦術長ねぇ……ま、かっこいいとは思うけど」

「水月は義弥さんのことどう思う?」

「えっ、ちょっと待って柑奈達どこまでいってるの?」

「え? ……名前で呼び合うくらい」

「本当に? 昨日まで『戦術長』って呼んでたのに? ちょっと詳しく聞かせて」

 その後、水月に根掘り葉掘り聞かれた柑奈は、多少のごまかしを入れながらも律儀に答えていくのだった。

 

翌日――

 いつものように船体に纏う氷を砕き、武蔵と無人艦ディフダは宇宙空間へと姿を現した。

「ここが、星系外縁部か」

 武蔵の現在位置はまさに目的地であるトラピスト1星系である。

 恒星トラピスト1は太陽よりも小さな赤色矮星である。その光も遠くまで熱をもたらすほどの力はなく、恒星の最も近い位置から六つの惑星までがハビタブルゾーンと呼ばれる生命体が存在できる可能性の高い領域である。

 太陽に比べ生存可能域が広く、近い軌道を複数の地球型惑星が周回しているのが特徴として挙げられるが、地上からの観測ではそれぞれの惑星の自転周期と公転周期が同じであるため、全ての惑星が恒星に対し同じ面を向け続けていることが分かっている。

「……思ったよりも、小惑星が多いな」

 戦術長の呟きに航海長もうなずく。

「これだけの地球型惑星を要していて、この星間物質の量は普通じゃない。アステロイドベルトと同じくらいあるぞ」

「……。いえ、これは半分は小惑星じゃありません」

 棚橋の言葉に振り向くと、続いて第二艦橋にいた水月から第一艦橋へ報告が来た。

『半分どころじゃなくて、武蔵の周りに浮いてるのは6割以上が何かの残骸だと思われます』

「残骸?」

『そう、例えば、内惑星航行用の宇宙戦艦とか』

 柑奈に答えるのとほぼ同時に、艦体に衝撃が走る。

 傾く船体を立て直すと、武蔵とディフダは即座に波動防壁を展開した。

「発砲位置は⁉︎」

「本艦右舷……デブリ帯の中……えっ、何これ……」

「どうした」

 レーダーを見たまま言葉を止めた丹生に近藤が続報を仰ぐと、彼女は近藤を見ながら続ける。

「デブリ帯の中に複数の熱源反応! 総数30……囲まれます!」

「応戦しますか」

「いや待て。艦識別、既知の艦艇か」

 有賀を制止した近藤は技師長を向くが、彼女は首を横に振った。

「いえ、ガミラスでもガトランティスでもありません!」

「艦長、正面の船団中央の艦艇から入電しました。見たことない言語です……解析を試みます」

「頼む。総員に通達、第1種戦闘配備のまま待機」

 艦長の指示の直後、柑奈にだけの秘匿通信が第二艦橋から来た。

「水月?」

『もしかしたら戦闘になるかもしれない。代わろうか?』

「……ううん、大丈夫。私、頑張ってみる。この艦のために」

『そっか。なら、第二艦橋から柑奈をサポートするね。一緒に頑張ろ』

「うん。ありがと、水月」

 通信を切ると同時に、通信長が解析完了を告げる。

「読み上げろ」

「はい」

 

『我らはラーゴラス。我らの安息の地に何用か、異星系の旅人よ。我らの審判を受けられよ、我らを超えて見せよ。さもなくばミルタに立ち入ることは許さぬ。逃げぬというならば、ここに命を置いていけ。ここから去るというのなら追いはせぬ』

 

 艦内に沈黙が流れる。

 最初に口を開いたのは有賀であった。

「つまりなんだ、ヤツらを倒すか、倒されるか、ここから去るかしか俺らは選べないってことなのか」

「そうだろうな。ファーストコンタクトだってのにもうちょっと親しくはできないのかねぇ」

 航海長の言葉に再び黙り込む。

「通信長。こちらからの返信を打電しろ。我々はこの星系の調査のためやってきた。侵略の意思はない、どうか考えを改めていただきたい。以上だ」

「はい」

 視線を艦長から計器に落とした来島は、そこから見える艦隊を眺めつつ呟く。

「どうしたって、敵には戦うって選択肢しかないじゃないですか」

「理沙ちゃん?」

 丹生の声に彼女は振り向いた。

「戦うことしか考えられないヤツに交渉の余地なんかありません。今私達の目の前にいるのはガトランティスと同じ考え方しかできない国家ですよ」

「そう考えるのは早計だと思うぞ。我々もガミラスとの戦争の時は戦端を開いた立場だ。何か事情があるかもしれない」

「ですが戦術長、あんな要求をしてくる国家なんて……」

「彼らは俺たちの進行を止めるために第一射を放った後は一切攻撃しないで俺たちに警告してきた。メンタリティは同じだと思う」

 有賀が視線を前に向けるのとほぼ同時に、眼前の艦に動きがあった。

 武蔵を取り囲んでいた艦は徐々に距離を開き始め、正面の艦隊は旗艦と思しき艦を後方に下げた。

「戦術長、もし戦闘になったら波動砲で正面に穴を開けて突破するのが最善策だと思うのですが」

「待ってください。この場で波動砲を使うのは反対です」

 来島の声に立ち上がった柑奈は彼女の方をまっすぐ見据える。

「なら他にどんな手があるというんですか? 戦闘の定石は味方には最小限、敵には最大限の損害を与えること。この場を突破するのに拡散波動砲は最善策です」

 席を立ち柑奈を睨む来島だが、彼女は「けど」と食い下がる。

「それでは、私達はガトランティスと同じになってしまう。波動砲は侵略のためのものじゃありません。あの力は地球を守るためのもの。他の星の人たちを殺すためのものじゃ、絶対にないんです」

「敵の攻撃で武蔵が沈む可能性を考えれば自艦防衛のために波動砲を使うのは正当な手段ではないですか」

「彼らの星系をおびやかしたのは私達です。彼らに私達が侵略者に見えても仕方がない。最初にガミラスと遭遇した時、地球が先制攻撃をしたのは地球が侵略されるという恐怖があったからじゃないんですか。今の彼らはあの時の私達と同じです。ここで波動砲を使って彼らを屈服させるのは、イスカンダルの言う『愚行』なんじゃないですか」

 イスカンダル。

 かつて地球に救いの手を差し伸べ、ヤマトにコスモリバースを託した地球の恩人。

 イスカンダルの王女スターシャはヤマトにコスモリバースを渡す際に波動砲を最初に作ったのはイスカンダルだと告げ、宇宙を血に染めた過去と共に、わたくし達のような愚行を繰り返さぬようにと沖田艦長に約束した。

 その愚行が何を表すのかについては、地球政府でも意見が分かれている。

「波動砲は――」

 柑奈は、かつてヤマトのクルーから聞いたことを頭の中で反芻しながら続ける。

「波動砲は、地球を、救うべき星を守るための力です。私は……私達は、波動砲を、侵略なんかに使うために作ったんじゃありません」

 彼女の演説に気圧された来島はやり切れぬ表情で席に着いた。

 席に戻る柑奈の姿を横目で見ながら、有賀はある方策を考えていた。

 直後、通信を告げる音が艦橋に響き渡る。

「艦隊より入電。『ならば審判の時。見事我らを超えて見せよ』です」

「本艦を包囲する敵艦隊に熱反応、発砲来ます!」

「っ、やっぱりこうなる!」

 来島の声とともに艦首の主砲が指向し始め、宇宙は敵が放つ光線に染められる。

「主砲発射用意――」

「待て」

 来島を止めた有賀は立ち上がるとまっすぐ艦長を見つめる。

「艦長、自分に考えがあります。この場を任せていただけませんか」

 彼の目は、これまでにない決意をたたえていた。

 部下の成長に表情が緩む。

 近藤は有賀に向き直ると、立ち上がって艦橋にいる面々へと告げた。

「現時刻をもって、本戦闘の指揮権を有賀戦術長に一任する! 有賀。頼むぞ」

「はい!」

 敵が放つ光線砲が波動防壁に遮られて跳ね返される。

 その光を受けながら敵艦隊を睨む有賀の瞳は、確かな自信に満ちていた。

 

 ――第五話 「ファーストコンタクト」――




読んでいただきありがとうございます。
第3話が短かった反動でしょうか、少し長めになってしまいました。
第5話、物語も終盤ということでクルーの距離感に少し気を使っています。
戦術長が主人公ポジを確立させてくれたので、星巡る方舟的な展開となりました。皮肉なものですね、古代っぽく活躍してくれます。
各キャラや艦艇の設定などは7話投稿後に順次1話の前に入れていきたいなと思いながら編纂中です。
それでは次回、第6話でお会いしましょう。


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第6話 「審判の時」

あけましておめでとうございます。
遅くなりましたが第6話投稿です。
再び戦闘スタートですが、戦術長の作戦はどんなものなのでしょう。


武蔵/第一艦橋

「両舷前進強速! ディフダは武蔵後方につけろ」

 数多の砲火が飛び交う中を、2隻の戦艦が進み始める。

「棚橋さん、近傍の星間物質の組成分析をお願いします!」

「了解。頭を貸しなさい、サブコンピュータさん」

 戦術長に応えた気象長は艦橋に備え付けられたAU-09タイプを命令信号で叩き起こすと、次々にデータの照合を行い始める。

 すると、技師長のモニターに赤い表示とともに警報音が鳴り響いた。

「両舷の波動防壁の圧が下がってきています!」

「被弾の少ない位置の防壁とのエネルギー転換で出力維持!」

「上空から接近する飛行物体多数、ミサイルです!」

「対空戦闘はじめ!」

 船務長の声に答えた戦術長の言葉とともに武蔵両舷のシャッターが畳まれ、中から砲身が伸びる。

 数秒で展開と照準を済ませた砲身から放たれた弾は的確にミサイルを貫いた。

 頭上に爆炎を受け、なおも接近するミサイルを迎撃するために対空砲火を放ち続ける。

 波動防壁に阻まれていた敵の砲火は次第に貫通し始め、艦は炎を噴き出し始めた。

「特定完了!」

 気象長へと視線を向けると、彼女は有賀を見て続けた。

「大きなものには水が大量に含まれているようです」

「それは、撃ち抜いたら放出されるか」

「恐らくは撃ち抜いたら一時的に霧散し、再び氷となって……まさか」

 ハッとした顔の棚橋にうなずくと、有賀は砲雷長に視線を移す。

「本艦周囲の小惑星を撃ち抜け。敵には当てるなよ」

「了解、照準開始」

 既に指向していた砲塔がわずかに動くと、光を帯びたその砲身からそれぞれの方向へと青い線が伸びていく。

 貫かれた岩石を中心に無数の白い粒が発生し、恒星の光に照らされてキラキラと輝き始める。

 それは小惑星が粉砕されていくほど密度を増し、肉眼では武蔵の姿をほぼ視認できなくなっていた。

 艦橋から見える外の景色は白く覆われ、微かに何かが触れる音が鳴り始める。

「船体に何かがぶつかってる……?」

「小さな氷の塊です。艦隊が隠れていた小惑星を粉砕して中の水を放出したことで煙幕として機能しているんです」

 航海長の言葉に返した棚橋は続ける。

「この氷はごく微小ですから、船体に傷は残りませんし航空機も破損することはないでしょう」

「高密度の氷が本艦の周りを覆っていることで、若干ですがレーダーの感度が低下しています」

 丹生の言葉にニヤリと笑って頷く有賀は航海長へと指示を出す。

「両舷半速、航空隊発艦。チャフを撒き散らせ」

 氷の中で動きを止めた艦底ハッチを開け、中からコスモファルコンが飛び出していく。

 艦体を舐めるように飛んだ後でそれぞれの方向へと飛び去る機体の後部からは煙幕の煙が尾を引いていた。

 氷で内部の様子が観測できず、既に武蔵が動きを止めている事に気づくのが遅れた艦隊の砲撃が逸れ始める。

 白く輝く氷の煙幕が砲撃によって消えた時現れたのは、チャフを撒き散らしながら艦隊をすり抜けるファルコンであった。

 一方、艦橋横をすり抜けた二機のコスモゼロは中央艦隊へと飛行し、同じようにチャフを撒きながら直進する。

 前方を飛ぶコスモゼロを横目に左右に分かれた武蔵とディフダはそれぞれ中央の艦隊を挟む小惑星の外側に進行した。

 チャフを焼き尽くすように放たれる対空砲火をものもとせず、隼は飛び続ける。

 本来高機動型のコスモタイガーでしかなし得ない挙動であるが、彼らの練度はコスモファルコンでの完璧な回避行動を可能としていた。

 艦隊の頭上へと抜けたパイロット達が見たのは、巨艦とは思えぬ身のこなしで小惑星を旋回する2隻の艦の姿である。

 岩肌に錨を撃ち込み、急旋回する2隻の艦内は強い横方向への重力に晒されていた。

 遠心力によって艦尾が外側へと向くのを姿勢制御ノズルをフル稼働させてどうにか抑制し、錨を巻き取りながら巨艦を回す。

 武蔵に行われている操艦操作を反転して同じ動きをする無人艦もまた、本来高速機動に用いるスラスターを使って体制を整えている。

 艦の勢いそのままに岩塊から飛び出した2隻はすぐさま制動と旋回を行う。

「砲雷長、主砲を敵旗艦へ!」

「はい、主砲照準――」

 彼女を見る戦術長の目を見返して、次に彼が何を言うのかがわかった。

 今の彼はおそらく――。

 戦術長に無言で頷くと、わずかに砲身を動かす。

 そこから放たれた砲火は交わり、一つとなって――。

 

 ――敵の艦橋をかすめた。

 

 しっかりと敵のエンジンへと狙いを定めた一番砲塔ではなく、ほんの数ミリ砲身を上に向けた二番砲塔から発砲したのである。

「これで良かったのですね、戦術長」

「ああ、完璧だ。砲雷長」

 少し微笑みながら振り返った少女に答えると、有賀は立ち上がって一ノ瀬の肩を叩く。

「敵旗艦に打電。『我々はあなた達の言葉通り貴官らを超えた。審判の結果を問う』」

 窓からは帰投してくる艦載機が放つエンジンの光が見え始めていた。

 その後ラーゴラスの旗艦からの返答により、武蔵は彼らと共に星系の調査を実施することになる。

 

 

 一週間にわたりトラピスト1星系の調査を行う中で、ラーゴラスの民についての情報も得られた。

 彼らがラーゴラスと呼ぶのは、地球ではトラピスト1”d”と呼ばれている惑星である。

 彼らがトラピスト1星系――彼らの言うところのミルタ星系へとやってきたのは百年程度前のこと。

 元々はリースリアという、別の銀河にある地球によく似た美しい星に住んでいたようであるが、彼らの星に白色彗星、つまりガトランティスがやってきたことで彼らは星を捨てて彷徨いこの星系にやってきたというのだ。

 彼らの惑星は白色彗星に取り込まれた後姿を消し、重力バランスの壊れた恒星系は死の星系へと変わったという。

「つまるところ、ヤツらの艦は内惑星用じゃなくて恒星間航行用だったってことなのか」

「いえ、それは違うと思います」

 恒星に照らされた緑の星をぼんやりと見つめながら泰平が呟くと、背後から水月が口を挟んだ。

「彼らの艦を調べたところ、主機関はワープ航法が不可能でしたよ」

「じゃあどうやってここまで来たんだ?」

「彼らは用途に応じて内惑星用と恒星間航行用を使い分けているんじゃないでしょうか」

 自らの席に座ったまま会話に参加した柑奈は、パネルを操作しながら続ける。

「もっとも使い分けているといっても、今は使えないんだと思いますけど」

「使えない?」

「彼らは恒星間航行用のエンジンの運用や整備、生産の技術を失っているのだと思います。彼らがここまで逃れてきた艦の姿は残っているそうですが、使用した波動コアが損傷したことと、この星にたどり着いたことで恒星間航行を行う意義が無くなったからでしょうね」

 それを聞いた有賀は「そうか……」と再び窓の外に見える惑星へと目を向ける。

「やっとの思いで見つけた安息の地なら、必死に守るのも分かるか……」

「義弥さんの敵を沈めない戦い方が功を奏して彼らからの信頼は得たみたいですし、この星系にいるうちは安全ですね」

 観測チームが帰投してくる通信を聞きながら、泰平は舵を握り直す。

「調査はこの星が最後なんだよな」

 有賀の問いに「ええ」と水月が答える。

「あとは地球に帰って調査結果を届けるだけですよ」

 第三格納庫にシーガルが着艦した報告が入ると、近藤は口を開いた。

「一ノ瀬、地球への定期報告。本艦はただいまより地球へと帰還する。そちらの状況を報告されたい」

「了解、超空間通信を打ちます」

 一ノ瀬の言葉と共に艦が旋回を始め、景色が回る。

 ラーゴラスの艦艇が、その国独自の光信号で武蔵に伝える。

『戻られるのか。白きほうき星との決戦に参戦できぬは心苦しいが、ここから地球の存続を願う』

 共に調査を行なったこの一週間で、クルーは皆ラーゴラスの光信号を読めるようになっていた。

「一旦入ってしまえば友好的な国だな、ここは」

「ああ。この星の人たちがまた襲われないように、俺たちは戦わなきゃならないんだ」

 三原と有賀の会話の直後、通信席から入電を知らせるブザーが鳴り響く。

「地球より入電しました」

 淡々と報告した一ノ瀬はしかし、その内容に愕然とした。

「数日前に土星沖でガトランティスと会敵、戦果は大敗。アンドロメダは大破、アポロノームを含む地球艦隊は白色彗星相手に多数沈没。ヤマトもエンジン損傷により白色彗星へ落下、消息不明! 現在ヤマトのクルーを回収した銀河率いる艦隊が足止めを行なっているとのことですが、突破は時間の問題……」

「了解した。本艦はただいまより全速で地球へと帰還する!」

 艦長の号令にクルーは敬礼で答え、波動エンジンに火が灯る。

 彼らを見送る異星の民が見送るなか2隻の艦は速度を上げ、光をも超えて宇宙から消えた。

 

 

地球/時間断層ドック

 男は1人、自らが指揮する艦へと入る通信に耳を傾ける。

 ――古代。

「お前はまだ、死んじゃないないよな」

 ヤマトの消息不明。それは男にとって、かつて肩を並べて戦った戦友を失ったも同然であった。

 しかし、彼はまた戦場に向かう。

 ――かの艦が、地球で英雄として語られる艦がまだ生きていると信じて。

「ノイ・ダロルド発進しました。艦長。バーガー艦長、指示を」

 部下の言葉を受け、男は目を開けた。

 ガトランティス艦隊は、かつて彼らがドメルと共に幾度となく屠った相手。

 まさかこんなかたちで戦うことになるとは夢にも思わなかっただろう。

「ノイ・バルグレイ発進。戦列に続け!」

 彼の指示と共に艦は飛び立つ。

 彼らの母なる星とは異なる青き星を背に、人類を守る決戦へと。

 銀河からもたらされた白色彗星の土星沖突破は、月に大使館を持ち、時間断層ドックの使用権を持つガミラスにとっても一大事であった。

 彼らの中にはガミラスを救ったヤマトへの恩返しだと参加した兵士も多くいる。

 バレラスまで侵攻しておきながら占拠する事なく、ガミラスを侵略せず、デスラーが放った滅びの一撃を波動砲の一射をもって粉砕してガミラスを救った。

 はじめはイスカンダルに向けての演技だなどと言う声もあったが、それを絶ったのはヤマトと行動を共にしたメルダやバーガー、そして彼らと話したディッツ提督であった。

 以後、地球や月の大使、第十一番惑星などからヤマトを英雄として讃える声が多くなっていったのである。

「お前らが戻るまでの足止めくらいはしてやるよ、古代」

 火星を超え、彼はまだ生きているはずの戦友へと語る。

 そしてもう1人、ヤマト救出に全てを賭ける男がいたのである――。

 

 

 ――第六話 「審判の時」――




読んでいただきありがとうございます。
言うて戦闘パート半分くらいじゃね? と思われた方。その通りです。
殲滅ではなく突破を目的とするとこんなに早く終わってしまうのかと思いました。
さて、次回はいよいよ(現時点での)最終回です。よろしければ最後までお付き合いいただけると幸いです。


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第7話 「武蔵の願い」

全7話で書いてきた武蔵の物語も遂に最終回を迎えました。
この物語は、結末をヤマトに託して今回で一旦完結いたします。


今回はヤマト2202第6章の19話から21話の間にあたる時系列です。
この話数のネタバレを含むのでお気をつけください!


 ――ヤマトは沈んだ。

 ――人類が生き延びるために、ヤマトの遺伝子を。

 前線に出た銀河率いる地球、ガミラス連合艦隊の奮戦むなしく、白色彗星は地球へ向けてのワープを敢行した。

 ガミラスの臣民の盾によってそれは阻害され、今は火星宙域に釘付けにしてはいるものの、依然としてガトランティスの勢力は絶大であった。

 地球、ガミラス連合軍は時間断層をフル稼働させ徹底抗戦の姿勢を見せる反面、ヤマトのクルーである加藤の反乱行為の代価としてガトランティスから与えられた遊星爆弾症候群の特効薬の開発も並行して進めている。

 そんな地球の現在を憂い、誰もが死んだと思っている一隻の艦に望みを託そうとする男の乗る艦は、ただ1人を乗せて青き星を飛び立った。

 ヤマトと同様の色で塗り分けられたそれはしかし、以前と変わらぬ威容を秘めている。

 ――アンドロメダ。

 艦長の山南は、ヤマトが生きていることに望みをかける。

 誰よりも近くで、キリシマの艦長として沖田と土方を見てきた男だ。彼らの意思を継ぐ古代達の乗るヤマトがそう簡単に死ぬはずはないという確信があった。

 自らが正しいと思った道を歩んできたが、それも裏切られてしまった。

 それを償うことはできない。だからこそ。

 ――せめて、ヤマトだけは。

 

 

地球

 ここ数週間は、テレビも何もかもがガトランティスの侵攻と防衛作戦についての報道しか流していない。

 外に出てみても、たくさんの艦が地底から湧き出ては空に向かっていくだけだ。

 白色彗星が火星宙域に現れたと言っても、地球からそれが肉眼で確認できるわけではない。

 イマイチ実感の湧かない現実。けれど飛び立つ戦艦の姿を見ると、認めずにはいられない。

 地球の人々にとって何より大きなニュースは、ヤマトの消息不明であった。心のどこかで、ヤマトなら、と誰もが思っていたのだろう。

 それは彼女も例外ではなく。

「……お兄」

 艦が飛び立つ空を見上げて足を止めた。

 潮風になびく髪をそのままに、英雄の丘と呼ばれるそこで彼女は兄の姿を思い浮かべた。

 ヤマトに乗る前に亡くなった長男でなく、今、まさに宇宙にいるだろう兄の姿を。

「今、どこにいるの……?」

 地底から次々と現れる巨艦。その名前を彼女が知るはずもない。

 ただ、地球からガミラス様式の艦艇が飛び立つさまはなんとも言えぬ違和感を覚えるものだった。

 

 

太陽系/月軌道

 月軌道の外側へとワープアウトした武蔵は、遠くに見える白い尾を引く彗星をはじめて目の当たりにした。

「あれが……白色彗星か……」

 有賀は息を飲む。

 それは彼が思うよりもはるかに大きく、強大であった。

 ワープを示す光がいくつも見える。恐らくは報告のあった突撃艦隊であろう。

「戦列に加わりますか?」

 艦長へと指示を仰ぐ来島から一ノ瀬へと視線を移すと、彼は首を横に振った。

「事前に通達があった通り、本艦とディフダは月のサナトリウムにいる人々を地球へと送還する任務に移る」

「了解」

 三原が舵を傾けると同時に、突如としてサブコンピューターとして設置されているAU-09タイプが喋り始めた。

「本艦カラ波動実験艦銀河へ調査結果ノ送信ヲ開始。銀河ノ指揮AIカラノ緊急命令ノタメ、りそーすヲ送信ニ使用スル」

「な、なんだ、急に⁉︎」

「銀河の指揮AIからの緊急命令……?」

「どういうこと? 説明しなさい」

 柑奈の指示を受けてぐるりと頭部を回転させると、彼女のモニターに命令文を表示させた。

「銀河ノ指揮AIヨリ『G計画』発令提案ガ成サレタ。ワタシハ有事ノ際、本艦ノ調査結果ヲ銀河オヨビ地球司令部へト送信スル権限ヲ持ッテイル」

『艦長、本艦から急速にデータが送信されています! 送信先は……銀河と司令部です』

「それは水月の側からは制御できないの?」

 そう問う柑奈に、画面の向こうで首を横に振る。

『さっきからやってるけどどうしようもないの。データの放出がどうやっても止められない!』

「なにそれ……私達の知らないところで、何かが始まるっていうの……?」

 レーダーでは徐々に速度が落ち武蔵に置いていかれ始めるディフダが観測され、武蔵の速度そのものも落ち始めていた。

「機関長、エンジントラブルですか⁉︎」

「いや、違うな」

 冷静に答えた機関長は、艦長を仰ぎ見る。

「リソースを割くということは、艦内の設備を稼働させる演算をも蝕むということなのでしょう。このままではいずれ慣性制御も利かなくなる……それだけではなく」

「武蔵が止まる、か」

 徐々に弱くなる機関音、武蔵からの指令が届かず落伍していくディフダ。

 G計画とは。

「それは……今目の前で救える命よりも優先すべきことなのか」

 拳を握りしめる。

 G計画が、人類を生かすために必要であることは理解しているつもりだった。

 だが同時に、武蔵から銀河へと送信されているデータは大半がトラピスト1星系の調査結果である。これは即ち、G計画は地球を救う作戦ではないという事でもある。

 それは――。

 

『全艦優先通信! 聞こえるか⁉︎ ヤマト発見!』

 

 刹那、思考を断つようにはるか彼方からの通信が入った。

「この通信……白色彗星内部、アンドロメダ……山南艦長のものです!」

 一ノ瀬の言葉に、全員が窓の外遠く見える白色彗星を見つめる。

『一瞬だが光学的に捕捉した。ヤマトは生きてる。だが、強い重力場に阻まれて脱出は困難!』

「ヤマト……」

 思わずその名をつぶやき立ち上がる。

 山南艦長の声だけでも分かる。彼が、どれだけあの艦のためを思っているのか。

 ヤマトの救出、ただその一点に賭けているのか。

『本艦は只今より単艦で中心部へと突入、敵重力源の破壊を試みる!』

 ただそれだけを告げて通信は終わった。

「山南艦長。あなたの想い、確かに伝わりましたとも」

 そして近藤は、一度だけ会ったことのある銀河の艦長の顔を思い浮かべる。

 あの聡明な長官のご令嬢だ。そのための力を与えられた銀河のすべき事は理解しているだろう。

 艦長席から立つと、近藤は艦橋の面々を見渡した。

「聞いたな。アンドロメダはすべき事をなす。我々も、多くの命を救おうじゃないか」

 その言葉に頷いた彼らは、次々と行動を始める。

「水月、武蔵の全ての通信機を遮断して。リソースをそこに割かれるわけにはいかないから」

『でも柑奈、勝手にそんなことしたら』

「構わない。技師長の指示どおりやってくれ、情報長。銀河には、もう必要ないものだ」

『……了解しました、艦長』

 言葉とともに水月は頷いて自らの通信を切る。

 瞬間、全ての計器が再起動するような音を発して艦の機関音が大きくなる。

「ディフダとのリンク再接続、本艦操作をトレース」

「サブコンピュータ沈黙、以後全操作を手動に移行します」

 柑奈と棚橋の言葉に続いて、航海長が振り返る。

「機関長! 機関再起動、速度全速まで上げ!」

「機関再起動。速力全速まで上げ」

 大きくなる駆動音と共にエンジンが火を噴く。

「月へのコース修正!」

「艦長、白色彗星内部にワープアウト反応です! 艦識別。波動実験艦……銀河!」

 それは近藤にとって想定内のこと。

 ヤマトの遺伝子を引き継ぐならば、コスモリバースシステムを持つ唯一の艦であれば、そしてあの艦長なら。

 こうするのが当たり前のように。地球を愛し、ヤマトに希望を託す人々を代弁するように。

「白色彗星内部に未知のエネルギー放射を観測! 波動エネルギー……? アンドロメダの波動砲がこれまでにない出力を出しています!」

 彗星のガスに阻まれていても、そこから遠く離れていても見える人の輝き。

 人工知能が叩き出した最適解ではなく、人々が選び取る希望に満ちた茨の道。これが地球の選んだ道なのだと、宇宙へと知らしめる輝き。

「銀河の力……なのか?」

「いや、違うな」

 振り返る有賀の目を見つめ、艦長は言葉を続ける。

「これは、機械の力じゃない。それを使う、人類の力だ」

 光が消える。

 その光に導かれたように、レーダーが感ありの音を出す。

「微弱ですが、新たに一隻の識別を確認。……これは……ヤマトです!」

 望遠モニターに映し出されたそれは、アンドロメダに牽引されて飛ぶヤマトの姿。

 人類の希望、大いなる和を紡ぐ艦の帰還である。

 後に続く銀河に全てを任せるように、ゆっくりと火星へ没し始めるアンドロメダに有賀達は万感の思いを抱き敬礼をしていた。

 

 

月/宇宙港

 武蔵を迎え入れた宇宙軍月面基地には、既にサナトリウムから避難した子供達とその親が集まっていた。

 武蔵とディフダの両隣には戦闘で損傷した艦が停泊し、怪我人を運ぶ人々や伝令を行う兵がせわしなく動いている。

「……武蔵……」

 気密された港内へと入った女性は、我が子を抱きながらその艦を見つめた。

 それは彼女がかつて一年間勤務し、愛する人と出会った艦に似ていた。

「ママ、このフネ、ヤマトみたいだね」

「うん、そうね」

 クルーの誘導に従って2隻に分乗していく親子も皆、口々に子供達を安心させる言葉を重ねていく。

 彼女はまだ知らない。

 病に苦しむ我が子を救えるという一縷の望みにかけ、夫が自らの艦を沈めたという事実を。

 もしもそれを知った時、自らの罪を償うために死に場所を探していた夫に彼女はなんと言うのだろう。

 それを知る者は、まだこの世界にはいない。

「あなた方が最後です。加藤真琴さん、加藤翼くん」

「……はい」

 戦術科を示す制服に身を包んだ若い男性は、彼女達に微笑みながら敬礼をした。

「お会いできて、光栄です」

「今は私、ヤマトのクルーじゃないですよ」

 青年に答えてタラップに足をかけると、彼女は止まって口を開いた。

「ヤマトは、生きているんですね」

 青年を見ることはなく、足元を見たままの彼女に、彼は「はい」と答える。

「アンドロメダ、山南艦長の活躍によりヤマトは敵本星からの脱出に成功しました」

「そうですか」

 それだけを答えて一歩踏み出す彼女に、彼は「それと」と付け加える。

「アンドロメダから山南艦長を救い出したのは、銀河に移乗していたヤマト航空隊長の加藤二尉です」

「……そっか、さぶちゃんが……」

 天を仰いだ彼女は振り返り、青年へと向き直る。

「あなた、名前はなんていうの?」

「武蔵の戦術長、有賀義弥です」

「あなた、古代さんにそっくり」

 彼に笑いかけた真琴は、足早に艦内へと入っていった。

 

 

武蔵

 気密服に誘導灯を持った誘導員が手を振る中、武蔵とディフダは月をあとにした。

「火星付近に艦隊が集結している……」

「火星宙域で、損傷したヤマトのパーツを銀河と交換したりしてるみたいですよ」

 丹生に答えた柑奈は振り返り、窓の外を見る。

「これで、私たちの任務は終わりですね」

「寂しいのか?」

「はい、ちょっとだけ」

 有賀は「そっか」と返し、眼前に見える青い星を見つめた。

「火星宙域より離脱する艦あり。パネルに投影します」

「これは、ヤマトか」

 丹生によって映し出されたのは、改装を加えられ今まさに決戦に向かわんとするヤマトの後ろ姿であった。

 人類の希望を背に受けて、今力強く進むそれは雄々しく、大きく見えていた。

「総員、ヤマトへ敬礼!」

 艦長の号令に従い、立ち上がって敬礼をするクルーの面々。

 そしてもう1人、右舷展望室からヤマトに敬礼を送る人がいた。

「お願い、生きて帰ってきて……さぶちゃん……ヤマト……」

 裾を引く我が子には見せまいとしてきたが、これからヤマトに待ち受ける苦難を思うと自然と涙が溢れる。

 それを、仲間の側で、愛する人の隣で支えられない自分が悔しかった。

「大丈夫だよ、ママ」

 不意に翼が口を開く。

「だってヤマトには、パパがいるんだから」

「……うん……うん。そうだね」

 我が子を抱きしめ、実感する。

 たとえこの先どんなことがあろうとも、この子は守ってみせると。

「両舷前進強速、武蔵、地球へと帰還する」

 艦長の言葉と共に武蔵は地球へと舵を向けた。

 今まさにヤマトが守らんとする青き星。

「俺たちには、何もできないのか……」

「それは違うと思いますよ、義弥さん」

 うつむき呟く有賀の隣に立った柑奈が窓の外を見ながら答える。

「私たちは、直接でなくてもヤマトの戦いに貢献できているはずです。月の子供達を地球へ。この行為もきっと、ヤマトが思いっきり力を発揮するために必要なんですから」

 艦に軽い衝撃が走る。

 大気圏再突入の用意のため、艦の姿勢が変わった揺れであった。

 

 

地球

 空に見える二つの影は次第に近くなり、いつしかその形が見えるまでになっていた。

「あれって……」

 潮風とは違う風が吹き始める。

 どこか懐かしい、いまここに立つ彼女が待ちわびた風。

 艦首にマーキングされた武蔵の文字が陽に照らされて光り輝き、堂々たる帰還を報せる。

「武蔵……帰ってきた!」

 頭上を低空で航行する艦を追いかけて、少女は走り出した。

 満艦飾を輝かせた2隻の巨艦からは、旅立った時にはない力強さがあるように見える。

 水しぶきを上げながら着水した武蔵は、無線誘導に従い宇宙港ドックへと向かうディフダに別れを告げて一足先に入港した。

「お兄!」

 人ごみの中で兄の姿を見つけた美佳は飛びつくように力強く抱きしめた。

「うわっ、どうした?」

「おかえり。お兄」

 その一言で、義弥は自分の不在が彼女にどれだけ負担をかけていたのか少しわかった気がした。

「やっぱり好かれてますね、義弥さん」

「えっ、いや、これは……」

「何? お兄の彼女?」

 その様子を見ていた柑奈が茶化すように声をかけると、美佳は慌てる兄と彼女を交互に見た。

「彼女じゃないですよ、私は」

 笑いかけた柑奈をじっと見て、美佳もまた笑顔を向けた。

「お姉さんみたいな人がお兄の彼女なら安心なんですけど」

「それはどういう事だよ……」

 妹の言葉に返した義弥は、すぐに空へと顔を向けた。

「……地球は、どうだった」

「ずっと同じニュースばっかり。ヤマトが沈んだってニュースも」

「そうか」

「……ねぇ」

 兄につられるように空を見上げた美佳は、それまでより低い声色で兄の服の裾を掴みながら続けた。

「地球は、大丈夫なのかな」

「俺たちにできるのは、信じることだけだ」

 空の彼方でただ一隻、敢然と脅威に立ち向かおうとする艦を思い、言葉を続ける。

「地球は大丈夫だ。絶対に」

 拳を握りしめ、不思議と希望に満ちた目で、その名を告げる。

 希望のフネの名、地球の最後の砦。

 

「この星にはまだ、宇宙戦艦ヤマトがいる」

 

 その瞳には既に、兄の死を引きずる青年はいなかった。

 人々が紡ぐ希望の輪は、あの艦へと通じ力となって、やがて宇宙を包む愛となる。

 いずれその時が来るまで、彼らの戦いは終わらない。

 今は眠ったように静かな武蔵には、再び飛び立つ時が来る。

 これから先の地球が、戦禍に見舞われることのないように。

 いつか本当に、兵器の必要もない愛に満ちた宇宙となるようにと願いながら。

 ――今は眠れ。地球の未来を、大いなる和を紡ぐ希望の艦へと託して。

 

 

        ――第七話 「武蔵の願い」――

 

           ――――完――――




全7話という短い期間でしたが、読んでいただいてありがとうございました。
大いなる和の一部にはこんな物語があればいいなと思い書いていた本作でしたが、3月に公開される「宇宙戦艦ヤマト2202第7章 新星篇」へと結末を託して今回は完結とします。
もしかしたら再び武蔵の物語を語ることがあるかもしれません。その時はどうかよろしくお願いいたします。

あとあと今作に登場したキャラクター、艦艇、惑星の簡単な設定を公開する予定です。ただし、この設定は公式設定ではないという事を前提に見ていただけたら幸いです。

最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。


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「波動実験艦武蔵」設定資料

事前告知の通り設定を公開します!
といっても、艦の諸元などは公式設定とほぼ同じですが。
キャラ設定だけは本編と少し絡めている部分もあります。


◯艦艇◯

BBY-02 波動実験艦武蔵

ヤマト級二番艦

艦種…連邦航宙準戦闘艦艇

乗員数…430名(男女比6:4)

全長…333m

◯兵装一覧

 48センチ三連装陽電子衝撃砲改型×3基

 両舷隠匿型対空パルスレーザー砲多数

 艦首/艦尾短魚雷発射管×12基(艦首艦尾各6基)

 両舷ミサイル発射菅×16基(片舷8基)

 強化型波動防壁

◯その他装備品

 零一式コスモレーダー(2201年製造)

 遠方惑星探査装置

 空間航跡探索機

 波動エネルギー観測装置(今回使用なし)

 改型亜空間ソナー(今回使用なし)

 惑星環境調査装置

 無人艦艇制御装置

 艦内工場

◯艦載機

 コスモゼロ×2機(ヤマト、銀河と同様の発艦方法)

 コスモファルコン/コスモタイガーll×計19機(初期搭載なし)

 100式偵察機×2機

 シーガル×6機

◯初期搭載兵装

 艦首次元波動爆縮放射器(拡散波動砲試験時に破損し、封印された)

 48センチ三連装陽電子衝撃砲×3基(艦首2基は三式弾のみ、艦尾1基はダミー。今作出撃前に全基改型実射砲塔へと換装)

◯解説

 ヤマト帰還後に次世代艦となるアンドロメダ級、ドレッドノート級の武装テストやヤマトに施す予定の改装のテストのために建造されたヤマト級二番艦。拡散波動砲発射試験時の事故により波動砲口が大破したものの、アンドロメダ級等新造艦が優先され未だに修理はされていない。今回は道中戦闘が予測された事や無人艦制御テストが行われることから兵装を搭載し準戦闘艦として出撃した。艦首の封印栓には武蔵のみ特設の波動エネルギー観測装置が内蔵されている。無人艦の制御は第二艦橋航海科の管轄で指示が出されているが、接続は第一艦橋の技術科の管轄。艦底部第二格納庫が縮小された代わりに第三格納庫の収容可能機数が増加、更には演算機や各種解析室が増設されている。

 

 

AAA-06 前衛武装宇宙艦アルタイル

アンドロメダ級六番艦

全長…484m

主機…次元波動エンジン

補機…ケルビンインパルスエンジン

◯兵装

 二連装次元波動爆縮放射器(拡散波動砲)

 40.6センチ三連装収束圧縮型衝撃波砲塔×2基

 艦首連装重力子スプレッド発射機×4

 近接戦闘用六連装側方光線投射機×2

 司令塔防護ショックフィールド砲×3

 四連装対艦グレネード投射機×2

◯艦載機

 コスモファルコン×180機

◯その他装備品

 無人艦艇制御装置

※塗装はアンタレスから両舷の白線を抜いたかたち。

◯解説

 武蔵の護衛のため随伴する空母。本艦には武蔵が非常事態に陥った際、臨時旗艦として無人艦の指揮を引き受ける役割があった。今回はその機能を用いてトランスワープを地球で初めて行い、以後土星沖海戦時にワープブースターとしてドレッドノート級を用いる戦法が用いられる。

 

 

主力戦艦ドレッドノート級

D-3378 デネブ

D-3379 ドューベ

D-3380 デネボラ

D-3381 ディフダ

全長…250m

主機…次元波動エンジン

補機…ケルビンインパルスエンジン

◯兵装

 次元波動爆縮放射機ほかアンドロメダ級と共通

◯その他装備品

 無人航行ユニット

※全艦塗装は標準塗装

◯解説

 銀河やブラックバードをはじめとする無人艦隊のデータ収集用艦艇として開発された艦。有人タイプと外観に違いはないが、指揮艦からの指令コードに従い行動している。土星沖海戦には武蔵のデータを元に正式量産された艦が複数参加した。

 

 

磯風改型突撃宇宙駆逐艦 黒潮

艦種…小型無人雷撃艇

艦体識別マーキングコード…TB-200

全長80m

◯兵装

 12.7センチ三連装陽電子衝撃砲塔×2

 12.7センチ対艦砲×2

 魚雷発射管×3

 ミサイル発射管×8

◯その他装備品

 無人航行ユニット

◯解説

 200番台は無人艦とされており、黒潮はその先駆けとなった艦である。ただし無人航行ユニットは艦橋に後乗せされているため精度は良くない。武装積載可能量は人員がいないため増加してはいるが、運搬装置が張り巡らされているため再装填に時間を要する。これらの問題により、磯風改型を用いた無人艦は作られなくなった。

 

 

輸送船 むつき

◯解説

 地球とザリシアを結ぶ定期便。月面大使館潜入の際古代が用いた艦と同型である。今回はザリシアからの通信が無かったことから武蔵などを待って出航した。

 

 

護衛艦

艦種…フリゲート艦

全長…113.3m 全幅…18.5m

乗員…士官6名/下士官38名

艦番号…025

◯兵装

 艦首小型波動砲

 連装砲塔×3基

 二連装対空パルスレーザー砲塔×4基

 三連装魚雷発射管×4基

 大型魚雷発射管×2基

 四連装ミサイル発射管×2基

 四連装対艦グレネード発射機×2基

◯艦載機

 連絡機×1機

◯解説

 輸送船護衛に充てられた艦。本艦はザリシアからの帰還後土星沖海戦に参加した。

 

 

パトロール艦

艦種…軽装甲巡洋艦

全長…188m

全幅…42.2m

乗員…士官9名/下士官46名

艦識別マーキングコード…E-18

◯兵装

 艦首小型波動砲

 連装砲塔×3基

 三連装魚雷発射管×4基

 ミサイル発射機×8基

◯艦載機

 連絡機×1機

◯解説

 護衛艦と同じく輸送船護衛に充てられた艦。ザリシアからの帰還後本艦は火星守備隊に配備。

 

 

<ガトランティス>

※諸元等は公式設定と同じ。

メダルーサ級殲滅型重戦艦

 

ナスカ級打撃型航宙母艦

 

ククルカン級襲撃型駆逐艦

 

ラスコー級突撃型巡洋艦

 

ガイゼンガン兵器群・カラクルム級戦闘艦

 

前期ゴストーク級ミサイル戦艦

◯解説

 テレザート封印のため派遣されていた艦隊が岩盤回収のためザリシアを占拠、その後ザリシアの艦隊崩壊に従い、同部隊の主戦力である艦隊が武蔵率いる地球艦隊を追撃した。なお地球艦隊が同艦隊を殲滅した後はテレザート解放と地球侵攻のため戦力を割くことはされず、武蔵を追撃する艦隊はなかった。

 

 

 

◯キャラクター◯

「波動実験艦武蔵」

艦長...近藤武(こんどう いさむ)

アンドロメダの艦長候補として名前が挙げられていたが、初期5隻の艦長から外れその後再配備が確定した武蔵の艦長となる。沖田、土方、山南等の二年下の世代であるが、指揮能力は高い。年齢は51歳。

名前の由来は新撰組隊長近藤勲から。

 

戦術長...有賀義弥(ありが よしや)

責任感の強い青年。22歳。一等宙尉。ヤマトに乗艦予定であった兄をガミラスの攻撃で亡くし、軍に志願。特進でヤマトの戦術長になった古代を尊敬しながらも少しだけ妬んでいる。2歳年下の妹がいる他に家族はいない。兄妹での外出中に遊星爆弾が自宅に落ち、家族がいなくなった。来歴として村雨改型巡洋艦の一隻に乗り浮遊大陸奪還作戦に参加、武蔵へと乗ることになる。敵として立ちはだかるものはすべて討つべきという考えを持っているが、それはガミラスによって妹を除く家族全員を失ったためであり、「誰かが死んでからでは遅い」と思うからこそである。

名前の由来は戦艦大和艦長から。

 

航海長...三原泰平(みはら たいへい)

21歳、一等宙尉。地球に残っていた島大介に教えを請い、ヤマト級の大型艦船の操艦技術を鍛えヤマト級2番艦武蔵の航海長を射止めた。銀河の市瀬は彼の後輩にあたる。かなりの努力家であり、同時に自らの力を過信することがない程度に自分に自信がある。

 

技師長...佐伯柑奈(さえき かんな)

20歳の若さで実験艦武蔵の任務に就いた天才技術者。ガミラス戦役でかつて唯一気を許した親友が戦死したため、そのトラウマから戦闘が嫌い。ヤマト建造時、ヤマト帰還後は波動砲の用途が「侵略」に使われることがないようにと願い続けている。地球がガミラスと同じ過ちを繰り返さないように。

 

船務長...丹生美華(にい みか)

彼氏募集中の21歳。佐伯とは武蔵乗艦後仲良くなる。銀河の日下部うららとは同期だが、丹生は彼女を「機械とまでは言わないけど堅苦しい窮屈な子」と語る。いつもは明るくハキハキとした性格だが、気を張る時には必要最低限の事だけを話す。遊星爆弾症候群の従姉妹(7)がいる。

 

気象長...棚橋沙百合(たなはし さゆり)

24歳、ヤマトの西条の同期。あまり感情を表に出さないがその知識は気象長の域を超えており、航海長不在の際は操艦も可能。また技術科にも頻繁に出入りしている。自分よりも仲間が危険に陥る事を嫌い、自己犠牲的思考を強く持ってしまう傾向にある。カ号作戦時に自分以外の艦橋クルーが戦死、必要に駆られて船を操艦して戦線を離脱し沖田のキリシマに回収された過去を持つ。なお同艦艇(磯風型突撃宇宙駆逐艦)の生き残りは彼女だけであった。

 

通信士...一ノ瀬海斗(いちのせ かいと)

20歳、相原の教え子。今回の旅での有人艦艇はすくないが、地球との交信は彼に一任されている。また地球との交信には音声や映像以外にも様々なデータが入り乱れるため、彼のような優秀な人材が選ばれた。

 

砲雷長...来島理沙(きしま りさ)

珍しい女性砲雷長。19歳。艦橋要員の中では最年少だが、艦長や戦術長から飛んでくる様々な指示をベストなタイミングで行うことに長けている。本人は寡黙だが、何か気にくわないことがあると物や人に当たる事もある。

 

機関長/副長...谷村義晴(たにむら よしはる)

32歳。副長を兼任する。沖田艦長のキリシマに乗りカ号作戦、メ号作戦に参加したもののヤマト乗艦は叶わず、武蔵就航時に機関長としてヤマト級に初乗艦を果たす。地球には妻と子供2人(息子と娘)がいる。

 

技術科/情報長…濱内水月(はまうち みづき)

20歳、柑奈と同期。柑奈の良き理解者であり親友でもある。もしも事前に確認されている状況で戦闘になった際は彼女が艦橋に上がることは既に2人の中での共通事項であった。彼女の少し軽い性格が幸いしたのか、色々と背負いすぎる柑奈といい関係を築いている。

 

サブコンピュータ...AU09-Type02

ヤマトのアナライザーと同型、銀河のブラックアナライザーの前身にあたる機体。艦の指揮系統などを統括しているわけではないが、乗組員の操作等を読み取り銀河のAIに送っている。カラーは紺色。G計画発令が銀河のAIから打電され次第、武蔵の全機能を停止させても調査結果を強制送信するプログラムが埋め込まれていた。

 

「前衛武装宇宙艦アルタイル」

艦長…武田信昭(たけだ のぶてる)

53歳。ガミラス戦役時はコンゴウ型戦艦ハルナに乗艦していた。アンドロメダ級初期5隻の艦長にと推薦されていたものの、それは自ら「前の船を沈めてしまった俺に、それはできない」と断っている。同郷ということもあり後輩の近藤とは仲が良く、近藤が武蔵の艦長に内定した際に彼が行くのならと、武蔵と同行するアルタイルの艦長を引き受けた。

 

航空隊長…宗方勝大(むなかた かつひろ)

アルタイル航空隊の隊長。使用機体はコスモファルコンであるが、コスモタイガーllにも引けを取らない戦果を上げ、機体性能の限界を追求する飛行を行う。ヤマト航空隊長である加藤には及ばないものの、他の追随を許さない飛行を見せる。気さくな性格。

 

「その他」

有賀美佳(ありが みか)

武蔵の戦術長、義弥の妹。18歳。家庭的であり、兄を支え続けている。義弥への呼び名は「お兄」。なお兄にだけ少し当たりが強いのは彼女なりの心配。

 

 

◯惑星/恒星系◯

資源惑星ザリシア

地球から銀河の外側に数光年行ったところにある惑星。艦船の材料となる金属やコスモナイトなどの産地であり、時間断層の使用権と引き換えに地球が得たガミラスの植民星の1つ。ガトランティスに占領され、テレザート封印のため岩盤が持ち去られている。

 

トラピスト1(Trappist-1)

地球から39.13光年の位置にある小さな赤色矮星。7つの地球型惑星を持ち、そのうち6つがハビタブルゾーンに位置する。ラーゴラスを除く惑星全てが移住のためには確実なテラフォーミングを必要とする。ラーゴラスの民の呼称ではこの星系はミルタ星系と呼ばれている。

 

惑星ラーゴラス(地球呼称:Trappist-1d)

地球と近似値0.98と高い水準を示す惑星に位置する惑星国家。Trappist-1星系全体が彼らの領空であると主張している。外敵に対しては何かしらの「資格」を求めて、認めた者にのみ内部への進入を許す。が、資格を求める中で彼らは攻撃を辞さないという横暴さも垣間見える。なお、彼らは元々滅んだ惑星リースリアからラーゴラスへと逃れてきた民族の子孫となる。リースリアは地球に似た美しい星であったが、ガトランティスの白色彗星の餌食となり人々は辛うじてラーゴラスへと逃れてきた。彼らはワープ可能艦の建造技術を失っており、内惑星用艦艇を多数建造して自国防衛を行っている。

 

 

◯宇宙戦艦ヤマト2202 本編登場艦◯

BBY-01 宇宙戦艦ヤマト

※最終決戦仕様

 

BBY-03 波動実験艦銀河

※名前のみ

 

ZZZ-0001 アンドロメダ改

※本編と同じ。名前のみ登場。

 

 

◯宇宙戦艦ヤマト2202 本編登場キャラ◯

◯地球

 山南修…アンドロメダ艦長

 加藤真琴

 加藤翼

 

◯ガミラス

 フォムト・バーガー




見ていただいてありがとうございます。
これにて本作の投稿は終わりです。
気が向いたら武蔵のお話を書いたり書かなかったりするかもしれませんが、現時点では未定です。
ヤマト2202第七章新星篇、楽しみですね!


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