学戦都市アスタリスク ≪因果を曲げる者≫ (まぐなす)
しおりを挟む

第零章 願う者
0ー1.プロローグ


不定期ですが、どうぞよろしく。



寒い......

 

 

周りは一面の雪景色。

 

 

痛い.....

 

 

少年の周りは紅に染まる。

 

 

ザッ....ザッ...

 

 

雪を踏む音。

 

 

「のぅ...お主、よい星辰力を持っておるのう」

 

 

誰だ.....

 

 

「どれ、わしと来てはみんか?」

 

 

何故.....

 

 

「まぁ答えは聞いとらんがの。お主名は何と言う?」

 

 

.....

 

 

「ふむ、わしがつけてやろう」

 

 

何.....

 

 

「そうじゃのう....うむ、今後は『空 高原(コン タオイェン)』と名乗るがよい」

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

 

「さてさて!とうとうやって来ました!王竜星武祭準々決勝二回戦!もう既に準決勝進出を決めた≪戦律の魔女≫と対戦することになるのは果たしてどちらか!」

 

 

 

俺はステージへ続く通路を歩きながらその声を聞く。

 

 

 

「まずは東ゲート!前回王竜星武祭チャンピョン!全試合一瞬でカタが付く圧勝!レヴォルフ黒学院序列一位≪孤毒の魔女≫オーフェリア・ランドルーフェン!」

 

 

 

大きい歓声が上がる。

 

 

 

「そして西ゲート!なんと序列外にして今大会のダークホース!星導館学園≪氷狼≫高原 空!」

 

 

 

スポットライトを浴びながらステージに降り立つ。

 

 

 

「さて今回の注目ポイントはずばり、どこでしょう?」

 

 

 

「そうですね、今まで相手を瞬殺してきたランドルーフェン選手と、全ての試合堅実に自分のペースで戦った高原選手。いかに高原選手が自らのペースに持ち込むかが勝利の鍵になりそうです」

 

 

軽く体を動かす。

 

 

「一瞬の一撃なランドルーフェン選手、安定遵守な高原選手、勝利の女神はどちらに微笑むのか!」

 

 

 

息を深く吐く。

 

 

 

「バトル......」

 

 

 

前を見据える。

 

 

 

「スタート!」

 

 

 

瞬間、星辰力を放出した。

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 

「≪塵と化せ≫」

 

 

 

 

「≪破城氷槌(はじょうひょうつい)≫!」

 

 

 

 

≪孤毒の魔女≫の声と同時に叫ぶ。

 

右腕が氷に包まれ、やがてそれは俺の体の十倍近くまで成長する。

そしてそれを大きく振りかぶり....

 

 

 

「おぉぉおお!」

 

 

 

振り抜く。

 

 

ガガァァン!

 

 

瘴気の奔流と氷の拳がぶつかり合う。

 

ギリッ...ギリッ...と氷が軋む音がするがその場で押し留まる。

 

 

 

『受け止めたー!今大会誰も止められなかったランドルーフェン選手の攻撃を受け止めたー!』

 

 

『ランドルーフェン選手の技の星辰力には流石に及ばないようですが、氷の質量と腕力がそれをカバーしているのでしょう』

 

 

 

だがこのままでは負けるのは明確。

だから次の手を打つ!

 

「≪氷雷針(ひらいしん)≫!」

 

体の回りに氷のエストックを生成し、≪孤毒の魔女≫に向かって飛ばす。

 

だが...

 

 

パリン

 

 

 

『何と言うことだ!高原選手の氷の槍が星辰力だけで止められ、挙げ句握りつぶされた!』

 

 

 

そんなものは予想通りだ。

それは時間稼ぎ。

俺は右手に繋がる氷に星辰力とイメージを流し込む。

 

 

 

「目覚めろ...≪スリュム≫!」

 

 

 

体から抜け出るよう生成された氷と右腕の氷が繋がり、やがて十メートルを越える氷の巨人となった。

 

 

 

 

 

グオオオォォォォォォオ!!!

 

 

 

 

 

巨人は拮抗していた右手を無造作に振り抜いた。

 

 

ブゥォン!

 

 

毒の奔流は霧散した。

 

 

 

『な、な、何と言うことだー!先ほどを上回る驚愕!高原選手の生み出した氷の巨人によって、ランドルーフェン選手の毒が消し飛んだー!』

 

 

 

 

そして俺はまた能力を発動する。

 

「≪ヨトゥンヘイム≫」

 

俺から広がるように一瞬にして氷が生成されステージを覆う。

 

同時に...、

 

 

『どういうことでしょう!?す、ステージに...雪が降っています!』

 

 

 

頭上から《氷の結晶》が降り始めた。

 

 

 

グオオオォォォォォォオ!!!

 

 

 

そんな中、氷の巨人が≪孤毒の魔女≫に向かい両腕を振り抜く。

 

 

が、それも≪孤毒の魔女≫の両手に阻まれる。

 

しかしそれはいつもほど余裕な顔はしてなかった。

 

 

「...シッ!」

 

 

俺は≪スリュム≫の横を通り抜ける。

 

 

「≪破城氷槌≫」

 

 

そして右腕に生成していた氷の腕で≪孤毒の魔女≫を殴り飛ばす。

 

「...!」

 

壁にぶつかる≪孤毒の魔女≫。

 

 

 

『誰が予想できたでしょう!高原選手がランドルーフェン選手を押している!』

 

 

『今は高原選手のペースでしょう。完全にいつも通りの戦闘ができています』

 

 

 

 

今のは良いのが入った。

だが校章が宣言してないからまだ試合は終わってない。

 

 

 

「.....ッ!」

 

 

 

仕掛けておいた能力に何が反応したため俺はその場を飛び退いた。

 

 

 

『おおっと高原選手ここで距離をとった、やはり堅実にダメージを重ねていく戦法なのか?』

 

 

『しかし今のは追撃すべきだったでしょう。それに距離を取るには離れすぎて...』

 

そこで解説の声が途切れる。

 

 

『どうしました?』

 

 

『もしかしたらランドルーフェン選手の瘴気には見えないものもあるのかもしれません』

 

 

『ええっ!?そんなの避けようがないじゃないですか!』

 

 

『はい。ですから彼は避けたのです。我々にはランドルーフェン選手から距離を取ったように見えましたが、恐らく()()()()()()を避けたのだと思います』

 

 

『で、ですが見えないと今...』

 

 

『そのための雪でしょう。能力者にとってその能力は感覚器官でもあります。高原選手の能力は見ての通り氷なので、同じ氷の結晶である雪は彼の感覚器官となるわけです』

 

 

 

 

客席かひときわ騒がしくなる。

 

だがそれを意にしないように≪孤毒の魔女≫は瓦礫を落としながら出てきた。

 

 

「...まさかあなたの運命がここまで強いとは」

 

 

「俺はお前の言う運命は単に強いか弱いかだけで決めてるようにしか思えないんだが」

 

 

俺は十分に警戒しながら会話を繋ぐ。

 

 

「...それがこの世の摂理だからよ。その人の力、それを運命と呼ぶの」

 

 

「そんなのは単なる結果論だ。力と運命は確かに通じるものがあるだろう。だがそれが全てではない」

 

 

「...いいえ、それだけよ。この世界は、それだけ」

 

 

「悲観な運命論者には現実を、反例というものを見せてやろう」

 

 

 

星辰力を込める。

 

 

「≪白月華≫」

 

 

巨大な逆円錐形の氷の塊が≪孤毒の魔女≫の頭上に生成される。

 

そしてそのまま落下する。

 

 

「≪塵と化せ≫」

 

 

≪孤毒の魔女≫が能力で対抗する。

 

が、

 

 

 

 

オオオォォォォォォオ!!!

 

 

 

 

≪スリュム≫が≪白月華≫を上から殴り付けた。

 

 

「...!」

 

 

≪孤毒の魔女≫が息をのむ。

 

 

 

「≪雪鎖鉄≫」

 

 

 

地面から現れた氷の鎖が≪孤毒の魔女≫の両腕を拘束する。

 

しかしそれも、一瞬で壊された。

 

 

 

 

 

ーーーそれだけで十分だった。

 

 

「≪氷死針≫」

 

 

≪氷雷針≫よりも細い、まさに氷の針が≪孤毒の魔女≫が鎖を壊した直後、その校章に突き立つ。

 

 

 

 

パリン...

 

 

 

 

『オーフェリア・ランドルーフェン、校章破壊!』

 

 

『勝者!≪氷狼≫高原空!』

 

 

 

その音声を皮切りに、歓声がドームを覆い尽くした。

同時に氷の巨人は姿を消す。

 

 

 

『なんと!激闘を制したのは!高原選手!いやー、素晴らしい戦いでしたね』

 

 

『やはり最初から最後まで自分のペースで戦えたことが良かったんでしょう』

 

 

 

 

しかし、空はそんなこと気にしてられなかった。

 

「ぐっ....」

 

 

 

『おおっと、どういうことでしょう...高原選手が苦しんでるようですが...』

 

 

『もしかしたら...避けきれてなかったのかもしれません、ランドルーフェン選手の瘴気を』

 

 

『で、ですが、試合は普通に戦ってるように見えましたが...』

 

 

『恐らくですが、星辰力を放出し続け瘴気が回らないようにしていたのではないかと思います。それで緊張が解けたのと同時に星辰力も切れ、瘴気が体に回ったのかと思います』

 

 

 

解説のそんな会話を聞きながら、俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

世界は≪落星雨(インペルティア)≫と呼ばれる隕石群の襲来により世界は変質。既存の国家は衰弱し、統合企業財体が台頭した。

 

ここは水上学園都市≪六花≫、通称アスタリスク。

 

星辰力(プラーナ)≫、及び≪万応素(マナ)≫による新人類、≪星脈世代(ジェネステラ)≫の少年少女達が様々な目的を持ち、生活を送る都市。

 

アスタリスクでは≪星武祭(フェスタ)≫と呼ばれる世界最大の総合バトルエンターテイメントが行われていた。

≪星武祭≫は個人戦の≪王竜星武祭(リンドブルス)≫、タッグ戦の≪鳳凰星武祭(フェニクス)≫、団体戦の≪獅鷲星武祭(グリプス)≫がある。

そして≪星武祭≫で優勝した人には、統合企業財体がなんでもひとつ願いを叶えるという物だった。

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 

 

「知らない天井だ...」

 

 

目を覚ました俺は別途に寝かされているようだ。

消毒液の匂いもするため、治療院だろう。

 

「ぐっ.....う....」

 

体を起こそうとするが、思ったように動かない。

この様子では治癒能力者による処置は受けてないようだ。

 

≪星武祭≫参加者は治癒能力者による処置を受けた場合、その時点で失格になる。

 

その観点では俺はまだ失格にはなってないようだ。

しかし、それでも...

 

 

「ほぼ優勝は無理だなぁ...」

 

 

口に出して呟く。

 

 

「そんなことを仰らずに」

 

 

病室の入り口にはいつの間にか入ってきていたのだろう、金髪美人がいた。

 

 

「よう、エンフィールド」

 

 

クローディア・エンフィールド。我らが星導館学園生徒会長にして序列二位。

 

 

「そろそろクローディア、とお呼びください」

 

 

「嫌だね」

 

 

何せこの女は腹が黒いことこの上ない。

そのため一定以上信用しない、という意味をこめて姓で読んでいる。

 

 

「もう...、それで、体調はどうです?」

 

 

どうもこうも...

 

 

「大丈夫に見えるならお前が病院に行け」

 

 

なにせ体も起こせない程。

 

 

「瘴気が随分回ったようですね」

 

 

「まさか...≪スリュム≫の動きでそこまで雪が乱れるとはなぁ...」

 

 

そう、空が気づけなかったのは≪スリュム≫が≪白月華≫を押し込むのに動いた風圧で一部の雪がなくなり、瘴気の接近に気付けなかったのだ。

 

 

「まぁ明日の試合までは休んでいて下さい」

 

 

「ああ、有り難くそうさせてもらうよ...」

 

 

そのまま眠りに落ちる。

 

 

 

明日は準決勝。

相手はクインヴェール女学院序列一位にして生徒会長、そして世界の歌姫である≪戦律の魔女≫シルヴィア・リューネハイムだ。

 




空「さてはて後書きコーナーですが初回は残念ながらゲストは用意できませんでした」

空「ので、司会進行回答俺が行わせて貰います」

空「でまぁ最初になんだけど少々今後について」

空「ひとまず前書きでも言ったように、書きたくなったからで始めています」

空「あ、だからって失踪はしないよ!うん、たぶん、きっと、めいびー...」

空「ですが、お伝えした通り、状態が状態なので恐らくこれもバハムートも春までは投稿できません」

空「一応余裕があれば編集していきますが...、まぁモチベーションもそんなに保たない方だから期待薄かな?」

空「んでこれの話なんだけど、ヒロインどうしようかなー...と」

空「あ、今話と次話は原作の一年前、皆が中三の時の話からです」

空「恐らく三話辺りから綾斗が入ったりすると思うんだけど...」

空「リースフェルトと綺凛ちゃん、あと紗夜は天霧ガールズの予定で、空のヒロインはシルヴィアってのは決定事項なんだけど...」

空「クローディアをどうするかっていうのと、オリジナルでもヒロインを追加すべきかなーと迷ってて」

空「こんなテキトーな作者の作品に意見が言ってくれる人がいたら喜ばしい限りです」

空「それではこれからもよろしく!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

0ー2.準決勝

今は生焼け肉様の『学戦都市の"元"ボッチ』を拝読させて頂き、書きたくなりました。
皆さんの作品を読んでると、自分の茶番の少なさと下手さが少し恥ずかしくなってくる...。
一応笑って読めるようなものを目指してるんだけどなー...


≪王竜星武祭≫準決勝第二試合。

それに今日俺は出場する。

第一試合は午前中、第二試合は午後からだ。

 

「はぁー...」

 

昨日治療院で夜を明かし、ひとまず自分の寮に戻るところだ。

俺は昨日の試合で毒の瘴気を浴び星辰力も結構消費したため、今日の試合が午後からだったのは幸いだったのだが...、

 

「その幸いを足しても余りある程のコンディションの悪さよ...」

 

なんてテンションを落としながら学園に近づく。

すると校門付近で見知った顔に出会った。

 

「おっ、高原じゃねーか。昨日はおめでとさん」

 

「どーも......夜吹」

 

夜吹英四郎、一応クラスメイトだが俺はあまりこいつを信用していない。

 

「それでそれで?今日の意気込みだとか何かないか?」

 

そしてこいつは生粋のマスコミなのである。

 

「ノーコメントだ」

 

こいつには余計なことを言うとを足元を救われるからなにも言わない。

 

「何だ、高原か」

 

声の方を向くと赤髪異国系美人がいた。

 

「よう、リースフェルト」

 

ユリス・アレクシア・フォン・リースフェルト。

リーゼルタニア王国の正真正銘王女様だ。

 

「ふん...このペテン師め。実力を隠していたとはな」

 

結構いい性格をしている。

 

「だがまぁ、おめでとう、とは言っておこう」

 

...根はいい奴なのかもしれない。

 

「まぁでもそうだよなー、まさか序列外の奴がここまでやるとは誰も思っていねぇよなー」

 

「黙れパパラッチ、お前は人の回りをチョロチョロと走り回っていればいいのだ」

 

「そうそう、Gの様にな」

 

「ねぇひどくね!?新聞部何だと思ってるの!?」

 

「「マスゴミ」」

 

「うわぁぁぁぁぁ!」

 

こういう時たまに息が合うのもまた一興。

 

「だが高原とて万全ではあるまい」

 

「...気付くか」

 

流石は序列五位。

一応取り繕ってるつもりだったんだがな。

顔色と重心の変化がわかったんだろう。

 

「そうだ高原、≪星武祭≫が終わったらお前に話がある」

 

「ん?ああ」

 

話?何だ?宣戦布告か?

 

「それと、私とて同じ学校の生徒が勝ち進むのは悪くない気分だ。だから...その...なんだ、頑張れよ」

 

とだけ言ってくるりと回るとどこかへ行ってしまった。

 

「素直じゃないねぇ...」

 

言葉の殺虫剤をかけられたがこいつは直ぐに立ち直る。

ほんとにGのようだ。

 

「さて...俺も行くかね」

 

午後の準決勝に備えて体の調子を確認するため、俺は訓練室に向かうのであった。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

 

『はてさてやって来ました≪王竜星武祭≫準決勝第二試合!先ほどまでやっていた第一試合では界龍第七学園序列三位≪万華鏡≫神月 舞華選手が既に決勝進出を決めています!』

 

『剣先の描く弧は万華鏡の如し、準決勝にも関わらず危なげなく勝ち抜いて来ましたね』

 

『さて!そんな強敵を相手にするのは果たしてどちらか!東ゲート!我らが歌姫!クインヴェール女学院序列一位≪戦律の魔女≫シルヴィア・リューネハイム!!』

 

『対する西ゲート!序列外にしてあの≪孤毒の魔女≫を倒したダークホース!星導館学園≪氷狼≫高原空!』

 

 

そんな実況解説を聞き流しながら軽く体を動かしていると、歌姫殿が歩いてきた。

 

「初めまして≪氷狼≫くん、今日はよろしくね」

 

そう言って手を差し出してくる。

 

「随分スポーツマンシップがあるんだな。いや、この場合はウーマンか?」

 

その手を取って握手する。

 

「あはは、余裕あるね」

 

「どうかな?余裕がないの裏返しかもしれないぞ?」

 

すると世界のアイドルは少し真剣な顔になる。

 

「一ついいかな?」

 

「ん?何だ?」

 

「私君に見覚えある気がするんだけど...会ったことあったっけ?」

 

すっごいナンパの常套句を聞いた気がした。

 

「初対面だと思うよ、あぁ、テレビとかはよく見させて貰ってるけどね」

 

「...そう、ありがと、お互い頑張ろうね」

 

その時の陰った顔をきっと俺は一生忘れないだろう。

 

「そうだな」

 

そして元の位置に戻る。

 

 

 

『そろそろ時間がやって参りました!果たして勝利はどちらの手に!バトル...』

 

 

 

 

 

『スタート!』

 

 

 

 

 

 

 

「♪ぼくらは壁を打ち崩す 限界の先に境界を越え 傷を厭わずに 走れ 走れ」

 

「≪氷晶霧石≫」

 

最初から≪戦律の魔女≫が歌いだす。

同時に俺も能力を使う。

 

するとステージ全体がキラキラと輝き出す。

 

 

『これはまた高原選手の仕業か!?昨日の雪に引き続き今日はダイヤモンドダストだー!』

 

 

照明を浴び反射するその様子は、まさにダイヤモンドのようだ。

 

だがそれを気にすることなく身体強化した≪戦律の魔女≫が接近し、銃剣一体型煌式武装を振りかぶる。

 

「≪白城壁≫」

 

俺の目の前に分厚い氷の壁が現れ、≪戦律の魔女≫の攻撃を防ぐ。

 

「≪氷雷針≫」

 

氷のエストックを生成し、放つ。

対する≪戦律の魔女≫は後退しながら余裕を持って回避する。

 

「≪銀群鳥≫」

 

更に俺は大量の氷の烏を生成する。

その烏共は生成次第≪戦律の魔女≫に襲いかかる。

それを見た歌姫は歌い出す。

 

「♪音よ走れ 音よまもーーーーーッ!」

 

突然その歌が止まる。

しかし、≪銀群鳥≫は全て煌式武装によって落とされた。

 

 

 

『おおっとどうしたことでしょうか?突然リューネハイム選手の歌が止まりました!』

 

『普通に考えれば高原選手の仕業と考えるのが妥当ですね』

 

 

 

「コホッコホッ...こ、これは...」

 

「悪いな、俺もお前の歌は好きなんだが、やっぱり勝ちたいんでね」

 

≪氷雷針≫を追加生成し追撃をさせる。

だがそれを≪戦律の魔女≫は難なく避ける。

 

 

 

『なるほど...。恐らくあのダイヤモンドダストですね。あれを吸って喉か肺が少し凍りついたのでしょう。戦闘は問題ないでしょうが、あれで歌うのは少し難しいかと思われます』

 

『氷にそんな使い方があったんですね!凝った能力に見合わぬその多彩さ!高原選手の≪魔術師≫としてのレベルの高さが伺えます!』

 

 

 

すると≪戦律の魔女≫が真っ直ぐ突っ込んでくる。

 

「≪白城へーーー≫ッ!ゴフッ!」

 

能力を発動しようとするが血を吐いて失敗してしまい、もろにパンチを受けてしまった。

 

 

 

『ここで高原選手にクリーンヒット!この試合初の大きいダメージだ!』

 

『最初の技で防ごうとしたみたいだけどできてなかったみたい。吐血もしてたし...多分、昨日の毒が残ってるんじゃないかな?』

 

 

 

(ここで...決める!)

 

再度≪戦律の魔女≫が突撃するーーーーーが、

 

 

パシッ

 

 

今一度突きだした拳は、だが≪氷狼≫に止められていた。

 

 

 

 

 

「アハハ!アハハハハハハハハ!!!」

 

 

 

 

 

≪戦律の魔女≫は≪氷狼≫に蹴り飛ばされた。

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 

(な、何が起こったの...?)

 

雰囲気の豹変した≪氷狼≫を見て困惑する歌姫。

だがそんなことしている暇ではなかった。

 

 

 

「アハハハハハハハハハハハハッッ!!!!!」

 

 

 

一瞬で距離を詰めた≪氷狼≫が右のストレートを見舞って来る。

どうにか左腕に星辰力を込めて防御するけど、骨が軋む音が聞こえる。

それを横目に見ながらこっちも負けじと校章目掛けて殴り掛かる。

だがそれは≪氷狼≫の左足に阻まれる。

 

(あの体勢から防御を間に合わせた...!?)

 

その秘密はすぐにわかった。

左足の下に氷の柱がある。

 

(足の裏に氷を生成して無理矢理足を押し上げたの!?)

 

≪氷狼≫はそのまま氷の上に乗ると回し蹴りをする。

上半身を反らしてギリギリ避ける。

だが≪氷狼≫はそのまま縦に一回転し、踵落としをする。

 

「く...ッ!」

 

両腕に星辰力をありったけ込めて足を受け止める。

≪氷狼≫はそのままその両腕を足台にして私を飛び越える。

着地後すぐ殴り掛かって来るがこれは読めていたため、しゃがんで避けて懐に潜り込む。

そのまま渾身のパンチを見舞うも、殴り飛ばす寸前≪氷狼≫の蹴りも私の左脇腹を抉った。

 

「くあっ.....!」

 

両者共に吹き飛び壁に打ち付けられる。

 

 

 

『すごーい!両者譲らぬ殴り合い!』

 

『高原選手は遠距離から能力による完全封殺型だと思っていたのですが、まさかここまで近接ができるとは...、恥ずかしながら私は目で追うことすらままなりません』

 

 

 

『『(....けど笑ってるのめっちゃ怖い)』』

 

 

 

 

「はぁ...はぁ...」

 

(ちょっとキツい一撃を貰っちゃったかな...いてて)

 

「アハハ!アハッ!アハハハハハハハハハハ!!」

 

笑いながら三度突撃してくる≪氷狼≫。

 

(受けきってやる...!)

 

シルヴィアのその覚悟は、だが必要なくなった。

 

 

 

カクン

 

 

 

シルヴィアの目の前まで来ていた≪氷狼≫の体が一瞬止まった。

 

「ーーー今!」

 

渾身の拳は寸分違わず校章に吸い込まれていった。

 

 

『高原空、校章破損!勝者、シルヴィア・リューネハイム!!!』

 

『いやー、たった数回で見切るとは流石序列一位ですね』

 

 

高原くんは糸が切れた人形のようにパタリと倒れてしまった。

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

「ん....んん?」

 

目を覚ましたそこは見覚えのある天井。

どうやら先日と同じく治療院にいたらしい。

 

「...そうか、負けたのか」

 

だが俺は特段()()()()わけではなかった。

ふと気になって部屋の壁の時計と電子カレンダーを見ると準決勝の翌日の夜だった。

つまりは、決勝の後。

ネットを開けば『≪万華鏡≫!≪王竜星武祭≫制覇!』と堂々表示している。

 

「何だ、負けちゃったのか」

 

俺と戦った歌姫は決勝に敗れたようだ。

 

 

コンコン

 

 

病院の扉がノックされる。

返事をする間もなく入ってきたのは我が校の生徒会長。

 

「あら?目が覚めていましたか」

 

「まぁ、な」

 

「まずはベスト4おめでとうございます」

 

「負けたけどな」

 

「十分素晴らしい結果だと思いますよ」

 

エンフィールドはコロコロ笑う。

 

「さて、今少しよろしいですか?」

 

「あー...構わんが...どうした?」

 

「あなたにお客様です」

 

客?

そう言われて病室にひょこっと顔を見せたのはーーー

 

「こんにちは...いや、こんばんは、かな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「≪戦律の魔女≫?」

 

 

 

 

 

 

昨日空が戦ったシルヴィア・リューネハイム当人だった。

 

 

 




空「またやってきましたこのコーナー....はぁ、今日のゲストはー?(棒)」

夜吹「皆の新聞記者、夜吹英四郎でっす!どもー!」

空「......チッ」

夜吹「え"、なんでそんな不機嫌なの?」

空「(鏡で顔を写してやる)」

夜吹「って俺!?そういうこと!?」

空「これ書くのに小説とアニメと少し見直したんだけど、そしたらユリスとクローディアが可愛くてですねー...、ヒロインに欲しいなーと思ってしまいまして」

夜吹「ほほぅ!それで『学戦都市でぼっちは動く』(斉天大聖様)の如くハーレムで、『学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~』(ムッティ様)のようにたぶらかしていくスタイルにすると!?」

ゴッ!(拳骨)

空「やかましいわ!てゆか語呂悪!」

夜吹「しょうがねぇだろ!許可取ってないならせめて『様』つけてちゃんと全部言わないといかんだろ!?」

空「それと人聞き悪いわ!確かにパクrーーーリスペクトすることはあるけど、ハーレムとかメンバーはちゃんと考えてるんだよ!」

夜吹「(今パクりって言おうとしたな...)で?その選考基準は?」

空「俺(作者)が『あ、欲しい』と思ったらだ」(キリッ)

夜吹「それ絶対上の方々の作品の影響も受けてるよね」

空「...また次回お会いしましょう」

夜吹「てあ!?まだ終わっ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

0ー3.日常へ

シルヴィア・リューネハイム

 

 

 

 

この世界では知らない人はいないであろう有名人。

 

クインヴェール女学院序列一位にして生徒会長。

 

≪魔女≫にして、世界トップの歌姫。

 

 

 

ーーーそして、≪王竜星武祭≫準決勝で俺を負かした張本人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな著名人が何故か俺の病室に来ている

 

「...よしエンフィールド、パン=ドラで俺を吹き飛ばせ」

 

ーーーのは夢か幻に違いないだろう。

 

「現実をちゃんと見て下さい。本物ですから」

 

少し呆れ顔のエンフィールド。

いや、これを現実だと認める方が辛いだろう。

 

「えーーっと...出直そうか?」

 

いや申し訳ない、ちょっと現実逃避したくなっただけです。

 

「いや、大丈夫だ」

 

 

そう言う高原だが視線の先は窓の外にある。

 

「ほんとに大丈夫?」

 

大丈夫じゃないですマジで。

 

「あらあら、高原君も素直じゃありませんね」

 

エンフィールドはコロコロ笑う。

 

「...何だ」

 

「気まずい上恥ずかしくて顔が見れないと言えばいいのに、と思いまして」

 

「え...?」

 

すとぉぉぉぉぉっぷ!

何?何でこの人こんな的確に心読んでくるの?

 

「クローディア?どういうこと?」

 

「大方、あんな姿見せたことで恥ずかしくて、その上負けたから少し気まずいって感じでしょう」

 

この全てお見通しですよ感よ。

 

「あーー...ごめんね?」

 

「そこは素直に謝らないでくれ...」

 

俺は顔を隠す他なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「もう大丈夫だ」

 

それから数分間だけ待って貰った。

その間にエンフィールドは帰っていったから今は病室に歌姫と二人っきり。

 

さっきとは別の意味で顔見れなくなりそうだよな。

 

「それで?話って?」

 

そこまで言って少し前にも似たようなことを言われた記憶があったが、思い出すのが面倒になったから無視した。

 

「私が打倒≪孤毒の魔女≫を掲げてるのは知ってるかな?」

 

そう、このシルヴィア・リューネハイムは三年前の≪王竜星武祭≫でオーフェリア・ランドルーフェンと当たり、負けたのだ。

それ以降メディアに対し打倒≪孤毒の魔女≫を宣言し、そして今回の≪王竜星武祭≫がやってきた。

だが結果は知っての通りシルヴィアと当たる前に俺が倒してしまったのだ。

 

「そうだったな、それで?」

 

「試合的にはオーフェリアに勝った人に勝ったんだから、ある意味打倒できたって言う人もいるかもしれないけど、私としては満足いかないんだよね」

 

「まぁ、そうだろうな」

 

俺だって同じ立場だったらそうなるはずだ。

 

「だけどやっぱりオーフェリアだって強くなってた。このまま私が戦って勝てるって言える自信がちょっとないんだよね」

 

「だからアドバイスくれない?試合見てたから取った戦法はわかるんだけど、どうしてその作戦にしたかっていう過程が知りたいから」

 

「なーるほど...」

 

確かに情報収集も有効な手だ。

 

「ま、断る理由もないからいいか」

 

「ほんと!?ありがとう!」

 

手を取って喜んでくれる。

うーん...見る人が見たら誤解しそうだ。

 

「んじゃまぁ早速だが、瘴気って言ったら空気とか気体ってよりも微粒子の集まりってイメージなのは何となくわかる?」

 

「あー、確かに。ちゃんとした気体ってよりも、なんか成分が溶け出してるみたいなイメージだね」

 

「そ、そうやって考えると不思議なのは、わざわざ腕の形を取っているとこだ」

 

「でも能力はイメージがあった方が強力になるよ?」

 

「腕にする必要はないだろ...ってよりも瘴気なら形を持たせるより、ただただ放出した方が強いだろ。壁作っても回り込ませることもできるし」

 

「そう言われてみれば...確かにそうだね」

 

「まぁそっちに意識を持ってって、色ないやつから意識を外そうとしたのかもしれないがな...まぁとにかく瘴気にわざわざ形を持たせてくれるなら対処法は出てくる」

 

「え?形あっても強いのは変わらなくない?」

 

「そうではあるんだが...能力ってのは星辰力関係を除けば普通の物理法則に則ってると言うのはわかる?」

 

「学校でも習うからね」

 

「んじゃ普通にぶつけ合いになったとき、押し合いに使う要素は?」

 

「え?星辰力とスピードと...あ!質量!」

 

「そ、星辰力に関しては≪孤毒の魔女≫に大きなアドバンテージがあるがスピードは工夫次第でどうにでもなる。だったら行う攻撃は全て質量を持たせてやればいい」

 

「まさかそんな方法が...」

 

「まぁ後は大技バンバン使って最後に小細工で校章を狙うってとこだ。そもそも≪孤毒の魔女≫の意識消失を狙うよりは校章狙った方が楽だからな」

 

「もし意識消失を狙うなら?」

 

「≪氷晶霧石≫で呼吸できなくするか、他の能力ってなら気圧上げてやったりだな」

 

「ひょうしょうむせき...?ああ!ダイヤモンドダスト!」

 

「そもそも窒息までいかなくとも能力使えないように集中力を乱せばいいんだ。いきなり呼吸できなくなった戸惑うしな」

 

「って考えると、さっきの気圧の話強すぎない?」

 

「まぁ能力は使い方次第だが...俺の場合氷の密室作ってやれば、例え気圧上げられても大丈夫だからな」

 

「あー...すごいね、よく考えてる」

 

「自分がされて嫌なことを探るのが一番早いと思ってるんでね、されたくないことを普段から探してるくらいだ」

 

「自分のされたくないこと...ね、うん!ありがと!」

 

「こんなんで役に立ったのならいくらでも」

 

と、歌姫様は紙切れを一枚渡してきた。

 

「これ私のプライベートアドレス。また今度お礼したいから空いてる日連絡してね」

 

「...これおいそれと渡していいものじゃないだろ」

 

「いいのいいの。あ...」

 

するとリューネハイムは少し真剣な表情になる。

 

「も一つ質問いいかな?」

 

「なにかな?」

 

「ニーナとアレキs...じゃなかった、高原くん試合中豹変したけど...あれどうしたの?なんか純星煌式武装が暴走した時みたいだったんだけど...」

 

「......君のような勘のいいガキは嫌いだよ」

 

「え...?」

 

「冗談だが...まぁそういう風に思ったのならそういうことなのだろうな」

 

「どういう...」

 

「悪いがこれ以上は言えない。このことは俺と俺の師匠しか知らんからな。まぁ一部例外を除くが」

 

「そう...ごめんね?」

 

「今のは話せなかった俺が謝るところだろうに」

 

と、リューネハイムは腰を上げた。

 

「私そろそろ行くね?」

 

「ああそうだ、リューネハイム」

 

「何?」

 

「準優勝、おめでとう」

 

少しだけ目を見開いた。

 

「ありがとう!」

 

そして病室を出てーーー、

 

「それと今度から私のことはシルヴィって呼んでね♪」

 

ーーーーーーー行った。

 

それ愛称だろ....?

 

だが不思議と悪い気はしなかった。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

 

数日後、学校が再開する日。

 

登校途中様々な目線を向けられたり、祝福の言葉を貰ったり、決闘申請してきたり...。

 

まぁ最後のは氷付けにしてやったんだが。

 

教室に入れば、それはほぼ全て称賛の言葉に変わった。

意外なことにあのお転婆姫様からもおめでとうと言われ、存外嬉しかった。

尚、視界の隅をウロチョロするのがいたからそいつも氷付けにしてやった。

 

 

そして授業終了後。

 

「あぁ、高原。この後いいか?」

 

「お?構わんが?」

話し掛けてきたのはお転婆王女ユリスだ。

 

 

「「「「えっ...?」」」」

 

クラス全員がこっちを向く。

 

「お、おい聞いたか今...」

 

「ああ、お姫様が高原を誘ったぞ」

 

「まさか...デキてるのか?あの二人」

 

「いや待て、あのお姫様本物か?」

 

「確かにな、そこも疑問だな」

 

 

 

「わ、私を何だと思っている!私とて人に接することはある!それに、で、でき、デキてるって言うがお前らだって人を何かに誘うことくらいあるだろ!」

 

 

 

「それでもなぁ...あのお姫様だぜ?」

 

「ちょっとねー...」

 

 

 

「そ、それにこいつは今回の功労者だろう!少しは労ってやろうと思っただけだ!」

 

 

 

「うーん...でもなんかなぁ...なぁ?」

 

「そうだよね、なんかなぁ...って感じ」

 

 

 

「ーー!もういい!行くぞ高原!」

 

「ってうお!待て待て!引っ張るな!」

 

そのまま俺は王女に引っ張られ教室を後にした。

 

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

お姫様に連れられて出たのはいいものの、どこに行こうか迷っているようだった。

そのため俺は某ハンバーガー店を指定。

そして今は飲み物と軽食を食べている。

 

「んで?何でこんなとこまで連れてきたの?何?俺誘拐されたの?」

 

「流石にそれは想像力が過ぎるだろう...ていうか忘れたのか?」

 

リースフェルトのジト目...悪くないな。

 

「...何だったっけ?」

 

「準決勝の日に言っただろう!話があると!」

 

「あー...言ってたねぇ...」

 

一口ジュースを飲む。

 

「それで?話って?」

 

「なんか気に食わんが...まぁいい、聞きたいのはオーフェリアに勝った時の戦術についてだ」

 

「またか...」

 

オーフェリア、オーフェリアって、どんだけ皆オーフェリア倒したいんだよ...。

 

「また...?」

 

「ああ、リューネハイムにも聞かれた」

 

訝しむような目を向けてくる。

 

「リューネハイム...?まさか≪戦律の魔女≫か?」

 

「ああ、直接勝ちたいんだってよ」

 

「そういえばそんな事も言っていたな」

 

「で、まぁ俺としても教えるのはやぶさかではないんだが...」

 

「何かあるのか?」

 

「ちょっと何人にも言うってのは気が引けるかな?」

 

肩を竦めて見せる。

 

「それと、そんな関係でもないだろ」

 

「どういうことだ?」

 

視線の温度が下がった気がした。

 

「今まで押し退けてた奴に聞くってのはちょいと虫が良すぎないか?」

 

「そ...それはだな...」

 

お姫様はたじろぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、いいけどな」

 

「...え?い、いいのーーー」

 

「但し条件がある」

 

「...言ってみろ」

 

命令形なのがちょっと気にくわないが

 

「性格を治せとまでは言わん。皆でなくともいい。だがせめて俺とはもうちょい仲良くしてくれ」

 

「ほぅ...残念だ、お前はああゆう奴らとは違うと思ってたんだがな」

 

お姫様の言うああゆう奴らとは、リースフェルトが王女であるため近づいた奴らのことを言っているのだろう。

 

「一緒にすんな、そもそも俺はお前の国の事情は知っているつもりだ。お前に近付いてもそんな点では無意味だってこともな」

 

そう、こいつの国リーゼルタニア王国は今や統合企業財体の傀儡となっているのだ。

そのため下心を持ってこいつに接触してもなんの意味もない。

 

「では何故私と仲良くしたいと?」

 

一口ジュースを飲む。

 

「俺個人とお前のためだな」

 

「ほう...私のためと?私がいらないと言っているのにか?」

 

万応素がリースフェルトに引き込まれ始める。

 

「ああ、お前は真っ直ぐ過ぎる。それが悪いとは言わん。時には意見を貫き通す真っ直ぐさも必要だろうが、お前は真っ直ぐ過ぎる。その上お堅い。そんなんじゃひょんなことで簡単に壊れちまうぞ」

 

「...ご忠告感謝する、だが私は壊れん...いや壊れてなどおれんのだ。...少し昔話をしよう」

 

そしてリースフェルトは話してくれた。

本国にありリースフェルトの母が出資した孤児院の話。

そこでオーフェリアと会った話。

借金でオーフェリアが連れ去られた話。

そして、オーフェリアに負けた話。

 

「こんな有り様だ。ここで序列五位だの≪華焔の魔女≫だの呼ばれている私も、国の子供を守るので精一杯なのだ...壊れてはおれんし、友人ができたとしても付き合ってはいられないのだ...」

 

「だからこそだろう。だからこそ友人がいれば、気休めでも相談には乗るだろうし、助けてくれるかもしれない...まぁ人にも寄るかもしれんがな」

 

「だが私は王女である!そもそも人付き合いなどちゃんとせねばいかん上、金目当てで誘拐でも起きるやもしれんのだぞ!」

 

「王族?誘拐?馬鹿馬鹿しい。んなもん否定のための言い訳にすぎん。それ以前にそんなもの気にする奴は友人とは呼べんだろう」

 

「だ...だが...」

 

「だから言ったろ?俺とだけでもいい、と。お試しとしてでいい、さっきも言ったが王族として俺はお前に価値は見出だしてない」

 

「だが誘拐だの何だのは...!」

 

「おいおい、俺はこれでも≪王竜星武祭≫ベスト四だぞ?誰が誘拐されるって?」

 

「う...うぅ...」

 

「....」(ジーーーーーー)

 

「うぅぅ...」

 

「.......」(ジーーーーーーーーーーー)

 

「わかったわかった!私の敗けだ!...お前を友人として認めよう!」

 

「そりゃどうも」

 

「そ、それと私のことは...その、ユリスと読んでくれ。近しい者にはそう呼ばせてる...」

 

「了解、ユリス。んで話を戻すが...」

 

「話?」

 

こりゃ忘れてんな。

 

「≪孤毒の魔女≫の対策だよ」

 

「あ!そうだった!」

 

「んな訳でーーー」

 

そしてリューネハイム(シルヴィなんて呼べるわけないんだよなぁ)に話したことと全く同じ事を話した。

 

「大いに助かったぞ高原!ありがとう!」

 

「お、おう...」

 

こいつ礼とかちゃんと言えるんだな。

 

 

 

 

 

「ふん!昼間っから盛ってるなあ?ユリス」

 

声のした方を向くと到底学生とは思えない筋肉ダルマがいた。

確か名前は...

 

「レスターか、また性懲りもなくやってきたのか」

 

ああ、レスター・マクフェイルか。

確かうちの九位で≪轟遠の烈斧≫が二つ名の。

ユリスに負けて以降突っ掛かり続けてるって噂だったな...。

 

「俺の実力はあんなもんじゃーーー」

 

「待った待った」

 

食って掛かろうとするマクフェイルを制止する俺。

 

「何だテメェ...って≪氷狼≫だとっ!?」

 

「ベスト四祝してもらってるんだ、邪魔しないでくれ」

 

「知らねぇよそんなもん!テメェこの街のルールを知らねぇ訳じゃねぇだろ?」

 

周りの客が距離を置き始める。

 

「そりゃもちろん」

 

「へっ...なら話は早ぇ。高原空に決闘を申請する!」

 

マクフェイルは校章に手を置くとそう宣言した。

 

「高原、受けなくていいぞ。そもそもレスターの狙いは私なんだからな」

 

ユリスはカバーしてくれる。

 

「さっきも言っただろ?そんなのは承知済みだ。...我高原空、決闘申請を受諾する」

 

おお!っと周りから歓声が生まれる。

 

そしてレスターは大型の斧型煌式武装を取り出した。

三秒後ーーー、

 

 

 

 

『Start of the duel!』

 

 

 

 

「オォォォォ!!」

 

マクフェイルは斧を振り上げそのまま突撃して来る。

 

「≪氷柱剣山≫」

 

俺の目の前で斧を振り下ろす途中のマクフェイルに、地面から生えた氷の柱が直撃する。

 

「ぐおぉぉぉっ!」

 

そのまま数メートル吹っ飛ぶ。

 

「≪白十字架≫」

 

着弾したマクフェイルの体を氷が包む。

因みにクラスで(夜吹)を氷付けにしたのもこの技。

 

「な、何だ!?」

 

驚きの声を上げるがもう遅い。

いくら≪星脈世代≫とて、隙間なく氷に飲み込まれれば筋肉も強張るため、抜け出すことはほぼ不可能だ。

 

「≪氷雷針≫」

 

氷のエストックでその校章を貫いた。

 

『校章破損。End of the duel』

 

おおー!と周りから先に勝る歓声が上がった。

 

「な...んだと...」

 

俺はマクフェイルに近づき氷を溶かし始める。

 

「勿体ないな...それだけの筋肉、相当な鍛練の賜物だろうに、それをその短気がドブに捨ててる」

 

と、氷が溶けきる前にマクフェイルは自力で残りの氷を壊した。

 

「うるせぇ!テメェも絶対この仮に返すからな!」

 

そのまま去っていった。

 

 

「悪かったな、迷惑かけて」

 

再度椅子に腰掛け、残りのジュースを飲み干す。

 

「それは私のセリフだろうに...全く、本当にいい友人を持ったものだ」

 

 

 

この時の俺は忘れていた。

これで俺が序列九位になったと言うことに。

 




空「さぁさぁやって来ました後書きのお時間です、今日のゲストはー?」

ユリス「ユリス・アレクシア・フォン・リースフェルトだ。よろしく」

空「はいお転婆王女ユリスさんです」

ユリス「なっ、何だお転婆王女とは!」

空「だってそうだろー?来る人来る人に突っ掛かっていつの間にか序列五位になってるんだから」

ユリス「ちっ...お前がうちの国民だったら不敬罪で牢屋にぶちこんでやったものを」

空「残念ながら俺、作者でもあるので不可能です」

ユリス「そんなバカな!」

空「逆に言えば姫様を登場させないってこともできるんですよ」

ユリス「そんな理不尽な!」

空「さぁ、認めた方が楽になりますよ?」

ユリス「わた、わ、わたしは...」

空「さぁ、さぁ、さぁ」

ユリス「...私は実はーーーっておい、私これ見覚えあるぞ」

空「あ、ばれた。気になる方は『無敗の最弱のその影は』第二話学園訪問の後書き『第二回!激白!≪製作秘話≫のコーナー!』をご覧下さい」

ユリス「何を宣伝しているのだ...これはアスタリスクを見に来ている人のものだぞ。バハムートを求めてはないだろう。それと私はお転婆ではない、リーシャと違ってな」

リーシャ「なんだとー!」

空「収集がつかなくなってきたので今回はここまで!それでは皆さん次回もよろしく!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

0ー4.願い

気が向いている今のうちに書けるだけ書いときますね。


マクフェイルとの決闘後。

数分間まで回りにいた客が押し寄せて来て握手やら応援やらで忙しかった。

 

「...俺今度からユリスみたく突っぱねようかな」

 

「お前さっき自分で言ったこと否定するなよ...」

 

ユリスに呆れられる。

 

解せぬ...。

 

 

 

 

「失礼、星導館学園の高原空さんかな?」

 

突然、黒スーツのリーマン風の男に声を掛けられた。

先ほどまで人に囲まれていたし、特段不思議ではなかったのだが、空にはその人に見覚えがあった。

 

「確か運営委員の...」

 

「よく覚えていたね、≪星武祭≫運営委員の柳澤と言います、まずはベスト四おめでとう」

 

ユリスは空気を読んで黙っててくれている。

 

「ありがとうございます」

 

「早速本題なんだが...少々事情があってね、君の過去を調べさせて貰った。君中等部二年で編入するまで≪万有天羅≫の所にいたのは本当かい?」

 

「なっ...!」

 

ユリスも思わず声を上げる。

 

「よく調べましたね、そんなこと」

 

流石は統合企業財体、奴らが本気になったらプライベートなぞ無いも同然だ。

 

「十才で≪万有天羅≫に保護され、そこで今の名前『空 高原(コン タオイェン)』を授かり、四年後そこを離れ星導館に転入した、でいいかな?」

 

「なっ!今の話は本当なのか!高原!」

 

「ほんと、よく調べてますね...。事実ですよ」

 

「なぁっ...!?」

 

ユリスはあり得ないと言った風だ。

 

「まさか!転校が≪星武憲章≫違反だからここから追放だとでも言う気か!?」

 

ユリスが今度は柳澤さんに食って掛かる。

どうでもいいけど説明セリフありがとう。

 

「いや、彼が≪万有天羅≫の元にいたのは事実だが、黄龍に在籍してなかったのもまた事実。一応、外からの転入という形になっているから違反ではないね」

 

「それで?どうしました?」

 

ユリスを制して続きを促す。

 

「高原さん、本名は覚えていますか?」

 

「あっ...!」

 

ユリスも気が付いたのだろう。

先程この柳澤も言った、≪万有天羅≫に命名された、と。

つまりは高原空は本名ではない。

 

「そこですか...覚えていますよ」

 

「教えて貰えますか?」

 

目を見ればこの人が悪ふざけで聞いている訳じゃないのはわかる。

 

 

 

「はぁ...わかりましたお答えします。ユリスも聞いてていいが黙っといてくれよ?」

「あ、あぁ...」

 

一呼吸。

 

「俺の本名は...神月 霜です」

 

 

 

 

 

太陽が雲に隠れ、冷たい風が吹き抜けた。

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

「神月...?どこかで...」

 

「ではもう一つ、と言うよりも確認ですが...」

 

思った以上に真剣な眼差し。

 

「黄龍の序列三位≪万華鏡≫神月 舞華の弟、という事で相違ないですか?」

 

「≪万華鏡≫!そうか...それでか...」

 

「はぁー...ほんっとよく調べたな。そんなに暇なら就職したいくらいだ」

 

「いえ、残念ながら逆ですよ」

 

「逆?」

 

意味わからん。

 

「本人であれば話して言いということなので言いますが、神月舞華さんが優勝し願ったことは、弟...つまりあなたの捜索でした」

 

「ちょっと待て...それだとこいつが失踪していたみたいな言い方ではないか」

 

すると柳澤はかぶりを降った。

 

「みたいな、ではありません。実際に彼は六年前から行方不明だったんです」

 

「えっ...」

 

「全く...余計なことまで...俺の捜索ってことは報告するのか?」

 

「ええ、それが仕事ですから」

 

「...まぁいいか、他には何か?」

 

「いえ、以上です」

 

「そうですか、お疲れ様です」

 

「ええ、それでは」

 

 

 

柳澤さんは帰って行ったが一人俺の隣に頬を膨らませた人が残っている。

 

「どういうことだ?高原...いや神月」

 

「高原でいい。今はそう名乗ってるつもりだ」

 

ジュース...はもうなくなっていたな。

 

「これで俺の所在について姉さんに連絡が行っただろう...姉さんの事だ、学校まで会いに来るはずだ。その時に話せる限り一通り事情を話すつもりだ。その時は同席していい」

 

「今話すつもりはないと?」

 

「ああ...悪いな」

 

「いや、お前がそういうのならその時まで待とう」

 

俺自身、こいつと友人になれて良かったと少し思った。

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

それから翌日。

クラスメイトに序列九位おめでとうと言われようやく気が付いた。

 

序列九位なんて実感も沸いてないからな。

 

ついでにまたもGが沸いていたから氷付けにしてやった。

 

 

授業後。

たまたま帰りがユリスと重なったため、能力について少し話し合っている。

 

と、校門に近づいたときそこがザワついていることに気が付いた。

 

「なんだ?」

 

「どっかのお姫様が火遊びでもしたんじゃないか?」

 

「ふんっ」

 

「痛った!」

 

足踏まれた...痛い。

 

「ほら、見に行くぞ!」

 

「お前...自分が見世物じゃないと言う割には見る方には回るんだな...」

 

 

 

「...ッ!」

 

だが群衆の後ろに着いた時には誰がいるのかわかった。

ユリスと人をかき分けて進む。

そしてその先にいたのはーーー、

 

 

 

 

 

 

 

 

「久し振りね、霜くん」

 

 

 

≪万華鏡≫神月 舞華だった。

 

「うん、久し振り」

 

空が少し笑って見せたが舞華はすこし笑顔を曇らせた。

 

それに気づかず空は端末を操作し始める。

 

『はい、どうしました?』

 

「あぁ、エンフィールドか?客だ、許可証とどっか部屋を用意しといてくれ」

 

『...わかりました、そのまま生徒会室までどうぞ』

 

それだけで通信は切れた。

 

「ってな訳なんだ、ちょっと来て貰える?あとユリスも」

 

二人とも頷いて着いてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

校舎に入って結構歩いてそこに着いた。

 

コンコン

 

ノックをするとすぐに扉が開いた。

 

「これは...あらあら、また随分珍しいお客さんを連れて来ましたね」

 

「おー、邪魔するぞ」

 

「失礼する」

 

「失礼します」

 

俺、ユリス、姉さんの順に入る。

 

「まずはお座り下さい」

 

エンフィールドにすすめられ俺と姉さんが向かいに座る。

ついでにユリスは律儀に立っている。

 

「まずは、初めまして≪万華鏡≫当校の生徒会長をやっております、クローディア・エンフィールドと申します」

 

「初めまして≪先見の盟主≫それと≪華焔の魔女≫も、黄龍第七学園序列三位神月 舞華です」

 

「噂にあった空のお姉さんですか」

 

「そんな噂立ってねぇよ...影星か」

 

「えぇ、何やら運営委員が我が校の生徒探ってるとのことでしたので少々」

 

影星とは星導館の運営母体である銀河の所有する要は特殊部隊のようなものだ。

 

 

「...席を外しましょうか?」

 

エンフィールドが気をきかせてくれる。

 

「いえ、構いませんよ。...霜くんにはまずベスト四おめでとうって言うのが正しいのかしら?」

 

「そんなこと言ったら姉さんだって優勝おめでとうだよ」

 

「ありがとう。でも驚いたわ、霜く...空が≪魔術師≫だったなんて」

 

「霜でいいよ。で、能力だったね。実はあの氷は≪魔術師≫の能力じゃないんだ」

 

「「「え?」」」

 

これには一同驚きの声を隠せない。

 

「それと自分でも映像見て驚いたけど、リューネハイムとの試合、あの豹変と≪魔術師≫ではない能力...エンフィールドならわかるんじゃないか?」

 

「...っ!まさか純星煌式武装!?」

 

エンフィールドが驚いてるのは新鮮だな。

 

「だが待て、そもそもお前は煌式武装でさえ使ってないだろう」

 

「ま、それも含めて昔話といこうか」

 

いつの間にかエンフィールドが用意していた紅茶を一口飲む。

 

「六年前、俺は一般人に剣を向けたことがあってね、まぁそいつは星脈世代だったし正当防衛も認められたんだが、当時うちの当主だった母に怒られてな。嫌になって家出したんだ」

 

「当時物凄く探したけど見つからなかったのよ?」

 

「そりゃそうだ...国外にいたからな」

 

「国外!?」

 

舞華姉の本性が見え隠れする。

 

「正確には連れてかれた、だ。家出してちょっとした公園で膝抱えていたら後ろから口を押さえられて誘拐された。そのまま外国までひとっ飛びだ」

 

「随分と計画的ですね」

 

「まぁな、よくわからんまま連れてかれた先はどこかの研究所だった。同い年くらいの子供が何人も収用されていたよ。そして一度だけ俺が顔を見た研究主任だと言う女は...ヒルダ・ジェーン・ローランズだ」

 

「...っ!≪大博士≫...だと...っ!?」

 

そしてある意味ではユリスが一番因縁のある相手だ。

何せーーー、

 

「オーフェリアをあんな風にした奴の研究所...まさかお前...」

 

≪孤毒の魔女≫オーフェリア・ランドルーフェンを一般人から≪魔女≫に()()()()()張本人なのだ。

 

「≪孤毒の魔女≫の物とは別物の研究だったがな...その研究は、≪魔術師≫または≪魔女≫を作ること」

 

「...何か違うのか?」

 

「≪孤毒の魔女≫に行ったのは≪星脈世代≫にする実験だ。何故か飛躍し≪魔女≫にまでなったがな。対して俺のは能力者に、だ。実験方法も違うみたいだ」

 

「そうか...いや、話を折ってすまない」

 

「関係がなくもないからいい。ーーーそして俺がされたのは、≪ウルム=マナダイト≫の注入だ。...知っての通り≪純星煌式武装≫ひいては≪ウルム=マナダイト≫には能力者にも似た能力がある。それを体に定着させることで能力者を作り出そうとしていたらしい」

 

「それで実験は...?」

 

舞華姉が恐る恐る聞いてくる。

 

()()だ。細胞に浸透するはずの液化マナダイトは血液に混流、一部が心臓で結晶化している」

 

「そんな...」

 

「その後、研究所は事故により壊滅、俺は逃げ出し≪万有天羅≫に保護された、という訳だ」

 

「そんなことが...」

 

「大丈夫ですか?」

 

ほぼ放心している姉に声を掛けるエンフィールド。

 

「お前も...大丈夫か?」

 

そして俺を心配してくれるユリス。

 

「ああ」

 

「だが何故お前は会いに行かなかった?昨日の様子では≪万華鏡≫が姉だと分かっていたのだろう?」

 

それはーーー、

 

「会いたくなかったからじゃない?」

 

そう圧し殺したように言ったのは...舞華姉だった。

 

「そんな訳...」

 

「だって今も、校門で顔合わせた時も、霜くん作り笑いしてたでしょ」

 

「なっ...そうなのか?」

 

「流石は姉さん...でも一つ訂正。会いたくなかった訳じゃない、会いたいという気持ちさえ湧かなかったんだ」

 

「んなっ...!家族だろう!姉だろう!お前...そこまで見下げた奴だったのか...?」

 

それはユリスの願いのようにも聞こえた。

 

「違う...とも言い切れんかもしれんがな。だがその前に一つ忘れている」

 

「何だと?」

 

「エンフィールドもそれに悩まされてるはずだ」

 

「...っ!代償...」

 

そう、≪純星煌式武装≫は使用者に対し、代償が伴う。

 

「俺に注入された≪ウルム=マナダイト≫...個体名≪弦月冷装≫こいつの能力は氷の操作、代償は...感情」

 

「っ...」

 

舞華姉の嗚咽だろうか。

 

「普段は完全に感情がなくなり、戦闘中ノリ過ぎると今度は感情が押さえれなくなる...≪戦律の魔女≫との戦闘は随分楽しかったみたいだな」

 

「ま、待て待て!お前昨日教室で笑っていたじゃないか!」

 

「悪いな、作り笑いだ。会話の流れとかで、こうした方がいいってのは掴めるから無理やり感情を作ってるだけだ」

 

「そ...んな...」

 

まぁ無理もない。

ユリスにとっては裏切られたような感覚になるはずだからな。

 

だがーーー、

 

 

 

 

 

 

「...辛かったのではないか?」

 

 

 

後ろから頭を抱かれた。

 

「え...?」

 

「正直に言うとな、私も突っぱねて来た人の中には本気で私に向き合おうとしてきたやつも居たのではと後から後悔していた。お前の気持ちがわかる...とまで言うのは流石に業腹かもしれんがどうせお前のことだろう、私がお前が裏切った、と思ったとでも考えていたのではないか?」

 

「...」

 

図星だ。

 

「だがお前も言っただろう友人は相談に乗る、と。それとお前にこんな言葉を返そう...『そんなもの気にする奴は友人とは呼べんだろう』とな」

 

それは昨日、俺がユリスに言った言葉だった。

 

「お前のことだ、相手の気分を害さないためにやっていたのだろう。ならばそれを私は責めることはできん。逆に礼を言うべきだろうな」

 

こんな時でも冗談を言ってくれるクラスメイトが嬉しかった。

 

「だからいいんだ。私は気にしてない」

 

こんなことしても許してくれる友人が嬉しかった。

 

「例え感情が無くとも、お前はお前...私の友人だ」

 

こんな俺でも、認めてくれるユリスが嬉しかったのだ。

 

 

 

 

 

 

この日、俺は感情を無くして初めて、涙を流した。

 

 

 

 

 

††††††††††

 

 

 

 

「す、すまなかった...」

 

顔を真っ赤にしたユリス。

感情がない俺は残念ながら顔が赤くなることはない。

いや一応恥ずかしいとは思っているのだが。

 

「いや、ありがとう」

 

「ねー...私蚊帳の外だったんだけどー」

 

舞華姉...化けの皮が剥がれてるよ。

 

「えぇ、私もでしたね」

 

エンフィールドも不満を漏らす。

 

「悪かったって」

 

「おほん!それは良いとして...霜くん、ちょーーっと外に出てて貰えるかな?」

 

「ぬお?いいけど...」

 

「ごめんねー」

 

 

 

ってことで外で待たされること数分。

 

『入ってきていいよー』

 

入った俺が見たものは、ほんの少し顔の赤いエンフィールドと、さっきより顔が真っ赤なユリスだった。

 

「..........」

 

「...何があったの?」

 

「女の子同士のお話です」

 

「あっはい」

 

こういう時は引き下がるべし、過去の経験からそうわかっている。

 

「あー...こほん、それはそうと空?≪王竜星武祭≫で優勝したら何を願うつもりだったのか聞いてもよろしいでしょうか?」

 

まだほんのり頬の赤いエンフィールド。

 

「おー...てったって面白くないぞ?」

 

「面白くなくても構いません」

 

「俺が願おうとしたのは、≪弦月冷装≫の排出だよ」

 

「...っ!」

 

「そしてこれが成功して感情が戻れば...」

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺から家族に顔を見せようと思っていたんだ」

 




※霜は『そう』と読みます。

空「後書きコーナー!今回のゲストは?」

エンフィールド「どうも、星導館学園生徒会長を務めています、クローディア・エンフィールドと申します、以後お見知りおきを」

空「ってなわけでエンフィールドだ」

エンフィールド「ところで空?」

空「んお?何だ?」

エンフィールド「何時になったらクローディアと読んでくれますか?」

空「えー...いいじゃん別に呼び方ぐらい」

エンフィールド「では別にクローディアでも構いませんよね?」

空「だがなエンフーーー」

エンフィー「クローディアです」

空「しかしだーーー」

エン「ク・ロ・オ・ディ・ア」

そ「ーーー」

「クローディアクローディアクローディアクローディアクローディアクローディアクローディアクローディアクローディアクローディアクローディアクローディアクローディアクローディアクローディアクローディアクローーーーーーー」

空「わかった、クローディア」

クローディア「はい♪」

空「で?何の話するんだっけ?」

クローディア「あれでしょう、読みを振ってないことが多いって話です」

空「そーなんだよね、ルビ振るの面倒くさいんだよね」

クローディア「そのせいで霜の読み方も今出たとこですしね」

空「まぁ要望があったら話の最初に出た言葉にくらいはルビ振りますので」

クローディア「それといつからかはわかりませんが、一週間以上投稿がなければ、来年の春までないと思って下さい」

空「それではそろそろお暇させて頂きましょう」

クローディア「ではまた次回~」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一章 戦う者
1ー1.進み往く時間


「霜、神月流とは?」

 

ーーー鎌倉より続き、かつてを残しながらも時代を取り入れ続けた古流武術の流派です。

 

「その技の及ぶ所は?」

 

ーーー無手に始まり、現存する武器全てに及ぶ。

 

「その初心にして極地とは?」

 

ーーー柔を成し剛を成せ、です。

 

「よろしい、今日は知っての通り外の道場を見に行きます。...理由はわかりますか?」

 

ーーー神月流は時代だけでなく他の流派をも取り入れる"いいとこどり"です。

 

「...良い所取りは所謂だから忘れてね?それでは今日見に行くのは何処かわかりますか?」

 

ーーーはい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー天霧辰明流道場です。

 

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

「ふぁーーあ」

 

特に普段から代わり映えのしなかった春休みが開けた本日。

一つ大きめな欠伸をしていると、俺、高原空は目の前でオロオロしている少年に気が付いた。

 

後ろから見てもわかる。

細身の割に結構鍛えられた筋肉。

少し出す足も独特な摺り足のクセが見てとれる。

そして同時に星辰力の違和感にも気が付いた。

 

なんてアンバランスな強さだろうか。

 

それにしてもあそこまで目立つ人物を今まで覚えてないってことはあり得ない。

テンパってるとこを見ても恐らく高校からの新入生ーーー、

いや、星導館は小等部から大学部までエレスカレーター式だ。

それぞれ節目に入ってくる人もいるがそれを新入生とはあまり言わず、転入生と呼ぶ。

 

つまりは彼は転入生なのだろう。

 

 

「どうかしたのか?」

 

流石に見てるだけなのは微妙だったから声を掛けることにした。

 

「え、えっと...ハンカチが落ちてきたんだけど、どこから来たのか分からなくて...」

 

こいつ、俺を見ても何の反応もしない...。

自慢じゃないが俺は去年の≪王竜星武祭≫のお陰でアスタリスク内外問わず、有名人になったと自負している。

その上わざわざ高等部からアスタリスクに編入してくる奴だ。

普通は≪星武祭≫ぐらい見てないとおかしい。

だとするとこいつは自分の強い意思で来たわけではないと言うこと。

ならこいつはきっと、

 

「特待生か」

 

「え?良くわかったね」

 

まぁこいつに話しかける以前に...

 

「特待転入生が来るって噂はあったからな、お前に見覚えないしそうじゃないかと思ったんだ」

 

「へぇー、あ、俺は天霧綾斗、よろしく」

 

出してきた手を掴む。

 

「高原空、高等部一年だ。よろしく」

 

天霧、天霧...どこかで聞いた名前だな。

 

「それよりも、これ...どうしようか」

 

その手にあるのはさっき言っていたものであろうハンカチがあった。

んが、それには見覚えがあった。

 

「ちょっと見せて貰えるか?」

 

「え?いいけど」

 

渡されたそれを見ていくが...うん、あいつのだな。

 

「...ええい!全くこんな時に....」

 

天霧と顔を見合わせる。

声がしたのは俺たちの頭上。

正確には近くの建物の開いてる窓からだった。

 

この声には聞き覚えがある。

このハンカチの持ち主だ。

 

「知り合いのだ、後で届けておくよ」

 

「え?でも今あそこから声が...」

 

ヤバイこいつ犯罪者予備軍だ。

 

「...はぁ、あそこは()()()だ、今だって女子の声だっただろ」

 

「え!?あっ...」

 

「天霧...お前そういう奴だったのか?知らなかったんですー!って言えば許して貰えるとか思ったりする...もしそうなら早く言ってくれよ、縁切らんと俺まで疑われる」

 

「ちょっ...そんなんじゃないって!本当に知らなかったんだから!」

 

少し顔が赤いのを見ると意外と純粋なのかもしれない。

 

「今の時代、知らないは罪になるんだぞ...?はぁ後でちゃんと調べておけよ」

 

「うん、ありがとう」

 

そして俺は端末を用意して数少なく登録してある一人に電話を掛ける。

すぐに上の方からドタバタ聞こえてきたと思ったら、電話に出た。

 

『な、何だ?空、こんな忙しい時に』

 

「まずはおはよう、ユリス」

 

お転婆王女ユリス。

 

『ああ、おはよう...ではなくてだな!』

 

「ハンカチだろ?今持ってるぞ、俺」

 

『本当か!?』

 

「窓から降ってきたんだと、今持ってるし教室で渡すがそれでいいか?」

 

『助かった!ありがとう』

 

「じゃ、また後でな」

 

『ああ』

 

そうして通信が終わった。

 

「待たせて悪かったな」

 

「いや、俺の持ち込んだ面倒だったからね、お礼を言うくらいだよ」

 

「別にい...あいや、んじゃ一つ頼み聞いてくれない?」

 

「いきなりだね...それで何をすればいいの?」

 

呆れる天霧。

どうでもいいがこいつ結構いいやつなのかもしれない。

 

「朝練付き合ってくれね?」

 

「朝練?構わないけど、何で俺なんだい?あまり剣には覚えがないんだけど...」

 

「おいおい...お前それ本気か?だったらこの世界皆ないレベルだろ」

 

「あったとしてもそこまでじゃないよ、少し道場に通ってただけだよ」

 

少し、少しねぇ...。

 

「少しじゃ摺り足くせにならないだろうに」

 

「あはは...、良く見てるね」

 

苦笑いする天霧。

 

掴み所のない奴。

 

 

 

 

 

 

「高原!俺と勝負しやがれ!」

 

と、野生のレスターが現れた。

 

こいつは俺がぶっ飛ばして以来こうやって決闘を挑んでくる。

その数十三回。

そのうち空の勝ち十三、負けゼロで空が勝ち続けてる。

一応、挑んでくるのは全部受けてやってる。

 

「決闘を申請する!」

 

「天霧、ちょっと離れててくれ」

 

「あ、うん、わかった、頑張ってね」

 

「おう...申請を受諾する」

 

と、すぐにギャラリーが集まってきた。

またマクフェイルと高原かよ...。

高原の勝ちだな。

などなどの声が聞こえてくる。

 

またとか言うなら見なければいいのに、飽きないねぇ。

 

『Start of the duel!』

 

 

「≪氷水龍≫」

 

地面が凍てつき、それがレスターへと襲い掛かるように動く。

そしてレスターの目の前で氷から龍が現れ、顎を向ける。

 

「うぉぉぉぉぉ!≪ブラストネメア≫!」

 

レスターが斧型煌式武装を振り抜く。

そして龍と拮抗、いや龍が断ち切られた。

 

「へっ!こんなん俺にはーーー」

 

 

「≪氷死針≫」

 

 

 

 

パキッ

 

『レスター・マクフェイル、校章破損』

 

 

突如流れた音声にレスターが固まる。

 

「俺の勝ちだ」

 

そう言って空が振り替えった瞬間。

 

「危ないッ!」

 

右から飛来した何かを天霧が掴み取る。

 

飛んで来た方を見ると人影が逃げていくところだった。

 

「≪氷雷針≫」

 

氷のエストックを飛ばすも、手応えがない。

 

「ちっ...助かった、天霧」

 

「どういたしまして、でも余計なお世話だったかもね」

 

右手で光の矢を握り潰す天霧。

 

「お?どうしてそう思った?」

 

「雰囲気とか、視線とか、完成に剣士のそれだもん」

 

やっぱこいつ犯罪者予備軍だろ。

 

「...俺隠してるつもりあるんだけど」

 

「うん、隠れてはいると思うよ?俺がちょっと敏感なだけだから」

 

やっぱこいつ色んな意味でやべーわ。

 

「そういえば高原って≪魔術師≫だったんだね」

 

「...はぁ」

 

「え?何その『こいつ何も知らないんだな』って感じのため息」

 

こいつ何も知らないんだな...。

 

そんなことをしていると奴が来た。

 

「よっ!お疲れさん!」

 

「来たな...パパラッチ」

 

夜吹英二郎ことパパラッチだ。

 

「んな反応すんなって、っておお?見ない顔だなー」

 

ゴミラッチが天霧を見つけた。

 

「初めまして天霧綾斗です、よろしく」

 

「おう、俺は夜吹英二郎ってんだ、よろしく」

 

「こいつが例の特待生な」

 

「ほほぅ!」

 

な、こうすればすぐ食い付く。

 

「なるほどなるほど?こいつがあのエンフィールド女史が無理矢理転入させたって噂の」

 

「ま、にしてはアスタリスクについて知らなさすぎだがな」

 

「それを言われると返す言葉もないよ...」

 

「へぇー、どんくらいだ?」

 

「さっきのこいつの発言をもう一度言ってやろう」

 

天霧の声真似をする。

 

「『そういえば高原って≪魔術師≫だったんだね』だとさ」

 

夜吹が呆れる目をする。

 

「天霧...流石にそれはないぜ」

 

「えっ...ごめん...高原ってそんな有名なの?」

 

「呆れて物も言えねぇぜ」

 

呆れて物も言えねぇぜ...。

 

「いいか?天霧、こいつは≪氷狼≫の二つ名を持つ前回≪王竜星武祭≫のベスト四だ」

 

「へぇ...えええ!?」

 

この反応よ。

 

「ついでにうちの序列四位だ」

 

そう、≪王竜星武祭≫の次の公式序列戦で、何故か格上の≪氷屑の魔術師≫ネストル・ファンドーリンに挑まれ無事勝利し、見事序列四位になった。

 

「四位!?つまり学校で四番目に...?」

 

「そ、強いってこと。まぁ我が情報網的には一位も目指せるんじゃねぇかとは思ってるんだがな」

 

「強いってのはわかってたんだけどそこまでだったんだ...」

 

うん、こーゆー時は小っ恥ずかしいってのが正解かな?

 

「あはは、そんなもんでもねぇよ」

 

「そんなもん所じゃないんだがねぇ...」

 

天霧を職員室に案内して俺たちは教室に向かった。

 

え?レスターはどうしたのかだって?

いつの間にかいなくなってたよ。

 

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

 

「おっす、ユリス」

 

「ああ、おはよう」

 

少し遅れてやって来たユリス。

 

「おはようさん、お姫様」

 

「ふんっ...」

 

夜吹の挨拶は無視。

 

「やっぱり高原だけかねぇ」

 

そう、ユリスが挨拶を返すのは俺だけなのだ。

 

てまぁ友人と認められてるって解釈すれば別にいいんだが、もう少しクラスメイトと交流を持って欲しいものだ。

 

「はいこれ、例のハンカチね」

 

「助かった!」

 

夜吹への対処とうって変わる態度。

 

「てめえらー、席着けー」

 

と、そこに担任の谷津崎先生が来た。

元レヴォルフのやべー奴で釘バットを持ち歩いている。

 

「喜べー、転入生だ」

 

んで入ってきたのは予想通り。

 

「えと、天霧綾斗です、よろしく」

 

「そーだなー席は...あぁ、デレ姫の隣が開いてるな」

 

「なっ!誰がで、デレ姫ですか!」

 

「だってそうだろー?最近高原にデレてるんだから」

 

的を得ているな。

 

「えっと...よろしく?」

 

「ふん、私は馴れ合うつもりはない」

 

天霧がユリスの隣に来るもツンケンする姫様。

 

「え...?でも...」

 

「姫様は高原にしか気を許してないんだよ。何があったか頑なに話してくれないけどな」

 

ここで登場我らが害虫。

 

「でもまぁユリスよ、ハンカチ拾ったのはそこの転入生なんだよ、礼くらいは言えって」

 

「む...そうだったのか、それは助かった礼を言うぞ、天霧」

 

「ははは...どういたしまして」

 

尚もでかい態度に苦笑いするほかない天霧。

 

「おらー、始めんぞー」

 

やるせない谷津崎教諭の声で授業は始まった。

 

 

 

 

 

††††††††††

 

 

 

 

翌朝。

 

「まさか、こんな時間からやってるとは...」

 

約束の朝練に付き合わせるために天霧を叩き起こした。

とは言うものの周りは真っ暗。

それもそのはず、現時刻は朝四時。

こんな時間ならこの時期じゃなくてもほぼ真っ暗だろう。

 

まあそんなのは些細な事だだ、重要な事じゃない。

それよりもあの天霧のアンバランスさの方が気になる...。

ってやっぱり天霧って聞いたことある気がするんだけどなー。

思い出せん。

 

「なぁ天霧、俺とどっかで会った覚えないか?」

 

ランニングしながら聞いてみる。

 

「高原と?うーん...ないと思うけどな」

 

がやはり望む答えは返って来ない。

俺の記憶違いだったのか...?

そもそも空は実験の影響で記憶も一部飛んでいるのだ。

覚えてなくてもおかしくはないのだが、当の本人はそのことに気がついていない。

 

春先の早朝、辺りが明るくなり始め靄がかかり、少し遠くを見通し難くなったところでランニングを止め、ストレッチを行う。

 

そもそも朝練に付き合えと言ったのは、実際に鍛練相手が欲しかったのもあるが、こいつについて見極めたかったのもあるのだ。

と言うことなのでーーー、

 

「よし、手合わせしよう」

 

やはりこれに限る。

 

「えぇ!?た、鍛練するだけなんじゃ...、あっ」

 

そこまで言って天霧も気がついたのだろう。

そう、ただ鍛練するだけならば相手はいらない。

相手がいるならば手合わせする方が効率的なのだ。

 

「謀ったな高原...」

 

睨まれるが素知らぬ顔をしておく。

 

「...はぁ」

 

覚悟を決めたようにーーー或いは、ただただ諦めたように煌式武装を起動させ、中段に構えた。

 

「≪氷零刀(ひょうれいとう)≫」

 

そのことを満足気に頷き、空は自身の能力で刀を作り右手一本で持つ。

そして右肩、右足を引き天霧に対して斜めの姿勢を取る。

 

「じゃあ...行くぞっ!」

 

声と同時に天霧に向かって駆ける。

彼我の距離は約三十メートル。普通であれば全力で走っても早くて五秒ぐらいだろう。

だが星脈世代では二秒ーーーいや空では、

 

(速いっ...!)

 

一瞬だ。

 

地面を擦るように下段から振り上げた剣は、しかし天霧にギリギリで受け流された。

煌式武装の上を滑った氷の刀は弧を描き、反対から天霧を切りつける。

これは天霧も予想できたようで余裕で受け止めーーーられなかった。

煌式武装に接触した瞬間氷の刀は半ばから折れ、前半分は天霧の顔面へ一直線に向かう。

天霧は上体を反らし、それを避ける。

無防備になった脚を払いにかかるが、その寸前にバク転で避けられ、バックステップで距離を取られた。

 

「ほん...っとやってくれるね、高原」

 

「手、抜いてる場合じゃあねえぞ?」

 

恨めしそうに見てくる天霧に言ってやる。

実際に手を抜いてるかは微妙なとこだが、やはりどこか身体的なスペックと動きが違う。

 

「この状態ではある意味本気だったんだけどね...仕方ない、か」

 

そうすると天霧は目を瞑った。

わざわざ本気を出してくれるみたいなので、一先ず待っておく。

 

「内なる剣を以て星牢を破獄し我が虎威を解放す!」

 

瞬間。

天霧の星辰力が爆発した。

本当にそう感じるほど急に星辰力が増加し溢れ出てきたので。

まるで何かに塞き止められていたかのように。

それはある意味空にも()()()()()()ものだったため何となくわかった。

 

「封印...」

 

つまり、誰か、もしくは自分で力を押さえ込んでいたと言うことだ。

 

「時間制限も反動もあるからあんまり使わないようにしてたんだけどね」

 

威圧感こそ変われど飽くまでも雰囲気、態度はそのままの天霧が肩を竦めて言う。

 

「ふむ...天霧、それ秘密にしておくから今から俺のすることも秘密にしといてくれない?」

 

空は一つ考えてそう口にする。

ここはアスタリスク、情報の重要性は世界でも有数だ。

ましてや生徒ともなれば、戦闘を優位に進めるためにもなるべく情報を隠しておきたいものだ。

 

「うーん...まぁ、確かにそれはありがたいかな」

 

それは流石に天霧も知っていたのだろう。

提案を受け入れてくれたようだ。

 

「じゃ、そういうことでっ!」

 

そういうと空は星辰力による逆風の中、天霧に向かい駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

††††††††††

 

 

 

 

 

 

天霧の秘密を知ってしまった戦闘の後。

教室で駄弁っていたらお姫様が登校してきた。

 

「おはよう、ユリス」

 

「ああ、おはよう」

 

今日も今日とて俺にしか挨拶を返さない。

 

挨拶ぐらいしてもいいと思うんだがねぇ...

 

「っ...」

 

「どした?」

 

ユリスが息を飲んだような気がして声を掛ける。

 

「ああ...っ........なんでもない」

 

この時もう少し声を掛けなかったことを後から後悔することになるのだ。

彼女が手にしていた紙を俺は気にすることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

授業後。

 

「ああ、ゆりーーー」

 

「悪い」

 

天霧の事を少しはぐらかして話してやろうとしたのだが、さっさと行ってしまった。

 

「ありゃりゃ?仲違いでもしたのか?」

 

夜吹が湧いて出てきたが、反応する気にならない。

 

「そういえば、どうしてリースフェルトさんは高原だけに気を許してるの?」

 

更にひょこり現れたのは何も知らないであろう天霧。

 

どうでもいいが天霧がこう出てきても嫌な感じはしない。

 

「それはな、天霧、あの二人はもう結ばれーーー」

 

「俺が、お前の身分気にするつもりはないから俺とだけでもいいから仲良くしてくれって頼み込んだん...だ......」

 

そこで一つの可能性に思い付く。

 

「あいつ...まさか」

 

いきなり視界がブラックアウトする。

そしてうなじ辺りに柔らかい感触。

 

「ふふっ、だーれだ?」

 

「悪いクローディア、今急いでる」

 

我らが腹黒生徒会長クローディア・エンフィールドだ。

誰か見なくてもこんなことするのは彼女くらいなものだ。

 

「...何かありましたか?」

 

だが俺の声で何となく事の重要性を理解したのだろう。

すぐにちゃんとした顔をすると真剣な声で聞いてきた。

 

「ユリスの様子がおかしい」

 

「ユリスが...?」

 

クローディアも少し考え込む。

 

「天霧、夜吹、悪いがユリス探して貰えないか?」

 

その間に二人に声を掛けておく。

 

「ふざけてる場合じゃなさそうだな」

 

珍しく夜吹も空気を読んでくれた。

天霧も頷いて、二人ともユリスの後を追いかけて行った。

 

「クローディア、昨日の俺の決闘の時横槍入れてきたやつは見つかったか?」

 

「あ、え、いえ、それはまだ捜査中ですけど」

 

「恐らくそいつだ」

 

最近のことを考えてもユリスに対し、俺の事で揺さぶるような奴は、そいつしかいないだろう。

 

「予想に過ぎないが、そいつがユリスを呼び出したんだろう。俺を使ってな」

 

そしてこのクローディアも馬鹿ではない。それだけですぐ察してくれた。

 

「それでは捜査を急がせて、ユリスの捜索も―――」

 

「いや、それでは遅い」

 

昨日俺を攻撃してきた奴に反撃した際、手応えがなかった。

正確には≪氷雷針≫自体は命中したが()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

そして奴がユリスを狙うなら耐火能力は特段気を使うと考えていいだろう。

そんなやつが近接戦を仕掛けでもしたらユリスでも勝てない。

悠長に捜索などしてる場合ではないのだ。

 

「ではどうしますか?」

 

心配そうな顔をしたクローディアが顔を覗き込んでくる。

少し考えてから、

 

「裏ワザを使う」

 

ユリスのためだ、腹を括るか。

 

「裏ワザ...?」

 

何のことだか、と言った風のクローディア。

それもそうだ。この事を知っているのは俺以外ではたった一人だけなのだ。

 

「約束してほしい、今から見る事を決して口外しないと」

 

これは俺からであるのと同時にもう一人からの要望でもあるのだ。

 

「...わかりました、クローディア・エンフィールドの名において、決して口外しないと誓いましょう」

 

いつものコロコロとした笑顔ではない、本気の顔だ。

そのことを確認し、空は懐から一枚の藍色の紙を取り出した。

その大きさ、形はまるで―――

 

「呪符?」

 

陰陽師...このアスタリスクでは星仙術士と呼ばれる人たちが使用する札だ。

空は目を瞑り、囁く。

 

「『揺らへ、揺らへ、幻幽なる殻、日を縛る鎖、割らへ、割らへ、法則の楔、真実の盾よ』」

 

瞬間、クローディアの持つ純星煌式武装≪パン=ドラ≫が小刻みに振動し始めた。

 

まるで、天敵に怯える動物のように―――――

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1-2.剣を持つ者

陽が傾き始め、建物を朱く染めた旧市街。

そこを一凪ぎの風が翔る。

それの通った跡の空気は凍てつき、地面は氷っていた。

それはまるで本人の変わらぬ感情を示すように―――

 

 

††††††††††

 

 

背の高い建物に囲まれ外より暗い廃屋。

そこを周囲の光を歪める陽炎が歩む。

それの通った跡の空気は沸騰し、地面は溶けかけていた。

 

 

本人―――ユリスはその事実に気付いていない。

あまりに頭に来ていたユリスは本人の意思に関係なく、周囲に影響を及ぼしていた。

付近の万応素は彼女の感情に感化され、能力の使用に至らないまでも、周囲に集まり、振動し、擬似的な炎を作り出していた。

だが、空間把握能力と万応素への感受性の高いユリスであってもその事に気がつかない程怒っていた。

 

何故なら、唯一の親友である空の命を狙うと言ってきた阿呆がいるからだ。

ユリスとて空がタダ者じゃないことはわかっている。

だがいくら強い星脈世代とて、不意討ちで自らの感知外から攻撃を受けては無事では済まないのだ。

 

空はユリスを単なる友として認めてくれた。

今回のような事が起きても空は構わないと言ってくれた。

だが...だからこそユリスは自分の手で始末を着けようとしている。

それが、ユリスの弱点であるとも知らずに―――

 

 

 

 

「出てこい、卑怯者」

 

指定された場所に行ったユリスは、大胆不敵にも声を上げる。

その声に柱の陰から出てきたのは大柄の、フードを被った人だった。

 

「...舐められたモノだな。万応素の動きを見れば貴様の場所なぞ手を取るように分かると言うのに」

 

基本能力と言うのは万応素を媒介して発動する。

普通は能力の発現箇所の万応素が反応するのだが、ユリス程の使い手であれば、遠隔での能力使用での万応素の動きから使用者の位置を絞れるのだ。

 

「咲き誇れ≪九輪の舞焔花(プリムローズ)≫」

 

ユリスは火球を作り出すと、奥の柱の裏に飛ばした。

 

「おっとと...」

 

それに押されて出てきたのは細身の男だった。

 

「サイラス・ノーマン...」

 

「僕のことなどよくご存知で、≪華焔の魔女≫」

 

おどけたようにそう言って見せるサイラス。

そこには、序列五位を相手するにはあまりにも大きな余裕があった。

 

「...なるほどな、レスターの陰に隠れていたワケか」

 

そう、このサイラス・ノーマンはレスターの取り巻きとして有名だった。

そこにいれば、自分は弱いから強い人に付いていく、という構図ができ、自信の実力を隠せるからだ。

 

「さて、なんのことでしょう?」

 

ここまで来てとぼけて見せるサイラス。

だが、ユリスにも確証があった。

 

「さっきも言ったが万応素を見れば私であれば繋がりがわかる。そこのフードの奴と能力で繋がってるな?確かお前は...物体を動かす能力だったな。としたら人形か?」

 

「くっ...。ふぅ、腐っても序列五位と言うわけですか」

 

サイラスは能力を言い当てられたが飽くまでも大物振っていた。

すると、最初に出てきた大柄の奴が外套を投げ捨てた。

そうして出てきたのは、ユリスの予想通りヒト型の人形であった。

そしてその肩に当たる部分には謎の模様。

観察しているとそれはどこからか巨大な斧型煌式武装を取り出した。

 

「行け!僕の兵隊!」

 

サイラスのその声に反応し、人形が走り出す。

はぁ...っとユリスは一度息を吐く。

そして、

 

「咲き誇れ≪六弁の爆焔花(アマリリス)≫」

 

ユリスより一回り大きな火球を作り出し、飛ばす。

人形はそれに構わず突っ込んで行く―――

 

「爆ぜろ」

 

ユリスが手を握った瞬間、火球は膨れ上がり爆発した。

その爆風に吹き飛ばされ、人形は柱に激突し、動かなくなった。

人形の前面は焼け爛れ、腕は吹き飛んでいた。

 

「ふん、他愛もない」

 

そう言いながらもユリスは少し戸惑っていた。

本当は粉微塵にするつもりだったのだ。

そこまでは行かなくとも、少なくとも貫通するつもりでいたのだった。

恐らくこれ以下の技では倒せなかっただろう。

だがそんな不安を払拭するかのように一歩踏み出した。

 

「なっ...!?」

 

同時に、柱の裏、階下、階上、外、あらゆるところから人形が入ってきた。

 

「まさか、僕とて人形一体であなたを倒せるとは思ってませんよ」

 

そして人形たちは一部を残し、ユリスを四方八方から囲んだ。

ユリスには広範囲でさっきのと同等以上の火力を持つ技はないこともないが、その場合ユリスは瓦礫の下敷きになるだろう。

サイラスもそれがわかってここを指定したようだ。

 

「構わん!全て焼き払うまで!咲き誇れ≪呑竜の咬焔花(アンテリナム・マジェス)≫!」

 

一体の炎でできた西洋風の竜が現れた。

 

「行けッ!」

 

ユリスの声に合わせ、竜が羽ばたき飛んでいくと、人形をその顎で粉砕した。

そこでその竜は止まらず、火を吹き、ユリスに近付こうとした人形を吹き飛ばし、羽ばたき、自らによる人形どもを叩き落とし、その顎で人形を鉄屑に変えて行った。

 

だが人形等は銃型煌式武装を取り出すとユリスに対し、発砲を始めた。

流石のユリスと言えども呑竜の咬焔花を発動しながら別の技を使える程実力がある訳ではない。

そのため、自身も回避しながら竜を自分の前に移動させて、盾代わりにする。

炎の竜は問題なくユリスに降り注ぐ銃弾の全てを蒸発させしめた。

しかし弊害もあった。

 

「くっ...」

 

呑竜の咬焔花を突っ切るように三体、人形が突っ込んで来た。

そう、炎の竜では視界を塞いでしまう上、見た目程威力が出ないのだ。

 

「≪六弁の爆焔花≫ッ!」

 

迅速な対象により、一体は吹き飛ばすことに成功した。

だが残り二体は爆風に煽られた程度でそのまま突っ込んで来た。

そしてその二体にユリスは捕まれ、柱に打ち付けられる。

 

「かは...っ!」

 

気を失いかけるがギリギリで意識を残した。

だが、両腕は人形に捕まれたままだ。

振りほどこうとするが、かなり力が強く、身動ぎするぐらいしかできなかった。

そして悠々と歩いてくるサイラス。

 

「全く...予想以上の被害ですよ。よくやってくれたモノです」

 

と、大げさに頭を振ってみせる。

だが言葉とは裏腹に態度にも、人形の数にも随分と余裕がありそうだった。

 

「ふん...私の炎を直撃させない限り壊せない人形、そんなもの誰でも用意できるわけではあるまい」

 

唐突に話し始めるユリス。

サイラスも余裕があるのだろう、特に動く様子を見せない。

 

「そんなものをこんな量...そんなことができるのはアルルカントくらいのものだ、つまりは奴らの駒か?サイラス・ノーマン?」

 

ユリスも追い込まれながらも、わざと大きな態度を取り、挑発する。

これで激昂して少しでも隙を見せてくれれば...そんな希望的観測があったことは認めなければならないだろう。

だが現実では、サイラスは良くも悪くも大物振っていたためそんなものはなかった。

 

「駒とは言ってくれますね。ですが逆です!僕が奴らを利用していたのですよ!駒としてね」

 

両手を大きく広げてそう言うサイラス。

だがユリスはその真実をちゃんと理解していた。

やはり利用されているのはサイラスだ。

どうせ証拠はないため、何かバレても足切りにされるだけだろう。

 

「さて、性能テストも上々ということで、少々知りすぎてしまったあなたには消えて頂きましょう」

 

そう言いながら、サイラスは静かに右手を持ち上げた。

それに呼応し、付近に寄ってきていた人形のうち一体がその煌式武装を振り上げた。

ユリスはせめて目は瞑るまいと、サイラスを睨み付ける。

 

そして、サイラスは無造作にその右手を振り下ろした。

 

 

 

ザシュッ

 

 

 

生々しい切断音が付近に響く。

そして何かの落ちる音がする。

 

それは腕の肘から下の部分だった―――――

 

 

 

 

 

―――――サイラス・ノーマンの。

 

 

 

 

 

 

「ぎゃぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

自らの腕を押さえて転げ回るサイラス。

そしてその目の前には、()()()()()()()を手にした空がその能力にも似た絶対零度の視線をサイラスに向けていた。

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

「空...」

 

ユリスは自分の出した声が掠れていたことに気が付かなかった。

空はくるりとユリスの方へ振り返ると、徐にその刀型煌式武装を振り抜いた。

するとユリスを抑えていた人形二体が崩れ落ちた。

そして空は解放されたユリスを受け止めて―――

 

―――一発叩いた。

 

「いたぁっ!?な、何をする!?」

 

それなりに痛かったのか涙目に抗議するユリス。

今度は思い切りユリスを抱き締めた。

 

「バカ野郎...俺は気にしねぇつっただろ」

 

そう言った空の声は少し震えていた。

そこでようやくユリスも気がついたのだ。

ユリスは空にとっても数少ない大切な友達なのだと。

そしてそんな友が何も言わずにいなくなったら?

誰だって心配するだろう。

怒っていたとは言え、そんな事にも自分は気が付かなかったのかと、ユリスは自分を責めた。

同時に、そこまで心配してくれた友人に、心から感謝したのだった。

 

「な、なぜキサマがここに...」

 

そこでやっとサイラスが復活した。

腕の出血は人形に無理矢理止めさせたようだ。

だが、その痛さのせいか、バランスのせいか、フラフラしていた。

 

「それは企業秘密って奴だ。だがサイラス・ノーマン、お前は絶対に潰す」

 

空は今一度右手に持った刀型煌式武装をサイラスに向け、宣言する。

それに対しサイラスは元の調子を取り戻していた。

 

「うまく不意討ちが決まっただけでしょう?あなたの能力は強力ではありますが、殺傷能力は低い。僕とは相性悪いでしょう?」

 

そう、氷を操る空にはユリスのような攻撃力のある技はない。

あるとしても質量攻撃だが、この限られたスペースではうまく生かすことは出来ないのだ。

そして数。

これらの情報を以ってしてサイラスは自身が有利だと思い込んでいた。

 

空が二体の人形を切り伏せたことを忘れて。

 

「行け!≪無慈悲なる軍団(メルツェルコープス)≫!」

 

サイラスが叫んだ瞬間、一斉に人形達が動き出した。

それぞれ煌式武装を振りかぶりながら突っ込んで来る。

 

「ちょっと失礼」

 

「えっ!?ちょ....!?」

 

そうとだけ言うと、ユリスを左手一本で抱き抱える。

そしてその右手にもつ刀型煌式武装を迫り来る人形に対し、ゆるやかに薙いだ。

するとどうだろう。人形共はきれいに真っ二つになって崩れ落ちた。

 

「なっ....!?」

 

続く人形も同じ要領で斬り倒していく。

次々と分断される人形に声を出せないサイラス。

そして前衛用の煌式武装を持つ人形を全て切ったところで、破壊の波は止まった。

 

「柔を成し剛を成せ...神月流の初心にして極地だ。固いだけの人形なぞ敵ではない」

 

そこまで言って思い出した。

天霧の名をどこで聞いたかを。

大元は神月流の特徴から来るのだが、神月流は時代を、他の流派を飲み込みながら育って行った流派なのだ。

他の流派と戦い、対策を立て、技術を取り込む。

そのため、他の流派の道場に行くことなんて多々あった。

天霧の名も、そのうちの一つで聞いたのだった。

 

「神月流...?何故その名が...?いやまだ僕の兵隊は―――」

 

「終わりだよ、サイラス・ノーマン」

 

周りを見渡して目に入った光景にサイラスは腰を抜かす。

それは、氷漬けになった残りの人形の姿だった。

天井まで隙間なく氷り、全く動ける状態ではなかった。

 

「ユリスを巻き込まなければ色々と方法がある。これもその一つ。見た所お前の能力はその変な模様の書かれた物体を操作することだろう?ならば隙間なく埋めてしまえば能力は使えまい。そうでなくとも能力が人形としてではなく氷も含めた建物を対象として反応するだろう。お前にそんなサイズの物を操れるのか?」

 

普段こそ普通に喋るもののここまで長く話すことは稀である。

これだけでも感情のないはずの空がどれだけ怒っているかわかるだろう。

いや、その逆だ。つまりはノっているのだ。怒りすぎ、激怒の方向に。

それでも理性を保っているのは普段の鍛練の賜物だった。

 

「ま、まだだっ!まだ僕には!奥の手がある!」

 

轟音を響かせサイラスの目の前に降ってきたのは、頭は天井につくぐらい巨大な人形であった。

 

「は、ははっ。行け!僕のクイーン!」

 

サイラスが命令すると人形はその巨大さに似合わず、機敏な動きで距離を詰めてきた。

息を吐きながら腰を落とす。

ユリスを落とさないようちゃんと抱え直してから、右手の刀型煌式武装を左の腰の高さに構えた。

 

「≪斬焔(キエン)≫及び、神月流抜刀術―――『緋扇(ヒセン)』」

 

一閃。

 

動き始めは滑らかだったが次の瞬間には振り切っていた。

上下で二つに別れる巨大な―――いや、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ぇ...」

 

声にならない声を漏らすサイラス。

一度右手の刀型煌式武装を振ると、その切っ先を腰を抜かすサイラスに向ける。

 

「もう一度言う...終わりだ、サイラス・ノーマン」

 

そう言うと空はサイラスに一瞬で接近し、煌式武装の柄で殴り飛ばす。

 

「へぶっ...」

 

間抜けな声を漏らし吹き飛ぶサイラス。

そして建物の外へと消えていったのだった。

なお既に空によって人形ごと切られた柱は氷によって修繕済みのため倒壊の恐れはない。

 

 

 

「空...すまなかった」

 

突然左手に抱いたユリスが謝罪してくる。

それは自身の身勝手によって空に迷惑かけたことへの罪悪感と、抱えられている恥ずかしさからきたものだったのだが、空には前者しかわからなかった。

 

「わかってるならいい...次からはなしにしてくれよ?」

 

言いながら、ゆっくりユリスを地面に下ろした。

地に足をつけたユリスは振り向くと。

 

「ああ!約束する!」

 

夕日に負けない明るい笑顔でそう言うのであった。

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

「ぎゃぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

建物から吹き飛ばされたサイラスは悲鳴を上げながら、地面に着弾する。

星脈世代である彼ならばあの高さからでも死ぬことはない。

だが、寝そべる体は小刻みに震えていた。

それは先程の悪夢。

自分がアルルカントに作らせた最高傑作、レスターの攻撃にも耐えうる耐久を持つ人形が、一人の男にほぼ全て切り伏せられた。

その上腕も切り落とされたのだ。恐怖するなと言う方が酷だろう。

だが、これで逃げられる、そうサイラスはほくそ笑むのであった。

 

 

 

「建物の南側の路地に落とす...流石です、空」

 

声がした。

サイラスがそちらを向くと両手に青と赤の光を揺らめかす武器を手にした少女がいた。

 

「く、クローディア・エンフィールド...!」

 

サイラスは絶望した。

星導館学園の千見の盟主(パルカ・モルタ)と言ったら未来を見ると言われ、最強の一角とも名高いのだ。

勝てるわけがない。

 

「に、にげ...っ!?」

 

「逃がす訳が...あら?」

 

逃げようとサイラスが背を向け、這ってでも動こうとしたとき、クローディアはそれに気がついた。

 

「全く...心配性なんだか...それともそれだけ怒り心頭だったのか...」

 

急に動きを止めたサイラスの足は凍りついていた。

サイラスは忍び寄る絶望感に意識を手放した。

 

「それでは、よろしくお願いしますね」

 

クローディアが建物の陰に向かって声を掛けると、顔に大きな傷痕を付けた少年が出てきた。

 

「りょーかいりょーかい、ちゃんと連行しますよ。にしても高原のやつも、容赦ねぇな...」

 

その少年は、片腕が落ち、両足の氷ったサイラスを担ぐとグダグダ言いながら歩いて行った。

 

 

 

「それにしても...空、あなたは...」

 

クローディアが思い出しているのはつい一時間前のこと。

 

 

 

パン=ドラが震え始めたのを感じたクローディアは、一度取り出してそれが事実だと確認する。

そして、もう一度前を向くと目に入るのは、呪符を掲げ、多量の星辰力を吹き出しながら、何かを見ている空。

 

「空...あなた、何を―――いえ、何が見ているんですか...?」

 

空が何も答えないまま五分が経った時、掲げていた呪符を体の横へ切った。

そして、クローディアに振り返ることなく言った。

 

 

 

 

「過去を見ていた」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1-3.成長する技

めっっっっっちゃ遅れまして申し訳ない!
いやー...大学ナメてました。忙しいです。
不定期ではありますが、一応小説のことは覚えてますし、ほんの僅かずつ書いてはいます。
ので、待ってくれるという物好きな方は、首を長ーくしてお待ち下さい。


僅かに暗さの残るフィールドで鮮やかな青と薄い蒼の二色の光が踊り回る。

 

時に接し、時に離れ、時にすれ違う。

 

弧を描き、疾く走り、残像を創る。

 

 

 

 

 

振り向き、構えたまま向き合う天霧と空。

空は飄々としているが天霧は息を切らし、肩が上下している。

 

「んー、やっぱ封印状態じゃいなすのか精一杯か」

 

構えを解き、手に持っていた氷の剣も崩壊させながら空が言う。

 

「いや...空が...容赦なさすぎ...なのも...あると...思うけどね...」

 

息を整えながらも反論してくる。

そもそも空は近接が出来ることを隠している上、それなりの使い手なので相手取れるのが天霧くらいなのだ。

だからこそやれるときに練習しておかないと、という事でほとんど手加減はしていない。

 

「手加減してたら練習になんないじゃねえか」

 

「えぇ...」

 

空の横暴さに流石の天霧も呆れ顔。

 

「まぁいいじゃん、お前の練習にもなるんだし」

 

言いながら構えを解き、天霧に水の入ったペットボトルを投げ渡す。

ちゃぷんと音を立てて水が宙を舞う。

 

「まぁそうだけ、どっ!?」

 

素直にキャップを外し、水を飲もうとした天霧の声が裏返る。

見れば天霧の手にするペットボトルの水が凍っていた。

 

「空ーー!!」

 

「あっはっはっはっは!!」

 

声を上げながら凍ったペットボトルを投げて来る天霧。

空が天霧に渡した水を能力で凍らせるという嫌がらせをしていた。

 

「まぁまぁ」

 

そう言ってペットボトルの水を溶かす。

最初から凍ってるものを溶かすことは出来ないが、自身の能力で凍らせたものは溶かせるのだ。

 

「全く...」

 

呆れた様に息を吐きながらペットボトルに口を付ける天霧。

...いや、やらないよ?

 

ピピッ

 

と、そんなことをしていると来客の知らせが入る。

ウィンドウを開いて確認してみれば、お転婆王女ユリスだった。

 

「大丈夫か?」

 

これは一緒にいる天霧に向けた問いだ。

俺の名で演習場を借りてるとは言え、流石に確認しないわけにもいかない。

 

「ああ、うん、大丈夫」

 

快く許しが出たのでロックを解除する。

軽い摩擦音と共に開いた扉から入ってきたのは薔薇色の髪を靡かせた女性。

ユリス・アレクシア・フォン・リースフェルト。

リーゼルタニア王国の王女であり、《華焔の魔女》の二つ名を持つ我が星導館学園の序列五位。

そして空のみに心を開く少女であった。

 

「天霧か、失礼する」

 

空に対する時と流石に違うが、礼儀としてなのかもしれないが、ユリスが一言入れていた事に子供の成長を喜ぶ近所の人になった気分だった。

 

「...空、お前は何を涙ぐんでるんだ?」

 

おっと、そんな事をしていたら見咎められてしまった。

ここで正直に言うとちょっと不機嫌になってしまうので余計なことは言わない。

と、ユリスは一度辺りを見回した。

 

「所で...、天霧はお前のお眼鏡に叶ったのか?」

 

いくら人に無関心なお姫様とて特待生である天霧の実力は気になったのだろう。

無いなら無いで気にしないような気もするが、別に隠すこともない―――いや、あるにはあるがそこを言わなければいいので、自分の思ったことを言う。

 

「それなりに強いぞ」

 

それを聞いた瞬間、ユリスの顔が獲物を見つけた猛獣のようになった気がした。

 

「ほぅ...空にそこまで言わせるか。どんなもんだ?」

 

天霧との手合わせを思い出す。

封印の事は流石にユリスには伝えられない。

別に封印状態とて弱い訳じゃないが、強いわけではない。

そこを上手く伝えるには...

 

「そうだな、()()()()ならユリス相手に五分..いや十分は持つぐらいだ」

 

まぁはぐらかすしかないよね。

だが嘘は言ってない。実際封印状態ならそんなもんだしね。

だた、解除した状態なら恐らく天霧が勝つだろうけど。

 

「成程...それはこの先楽しみだな」

 

ユリスの表情に背筋に寒気を感じたが、気にしないでおく。

 

「それで?本題は?」

 

そう切り出した途端、端から見てもわかるぐらいにユリスの体が跳ねた。

そして空と綾斗と自分の手元の間で視線を往復させる。

 

「えーっと...僕、そろそろ上がるね...?」

 

それは、察してくれたのか、ただただ逃げたかったのか。

何か言う前にそそくさと出ていってしまった綾斗の背中を呆然と見ていると、広い空間に溶けてしまいそうなほど小さな声が届いた。

 

わ、私と一緒に鳳凰星武祭に出て欲しい...

 

うん、一応聞こえた。

が、これは難聴系主人公を目指して聞こえなかった風にすべきなのか?

それともちゃんと察して答えてやるべきなのか?

これが恥ずかしいと言うことは自分に感情がなくたって分かるが、もしかしたら本人はちゃんと言いたかったかもしれないし、でもユリスの性格的には一回目でちゃんと聞いていた方がい――――――

 

「私と一緒に鳳凰星武祭に出てくれ!」

 

今度は鼓膜が破れそうなレベルの声が飛んできた。

いや、うん、ごめん。

まぁでも確かに出るとは言っていたし、逆にペアがいるって話は聞いたことがなかった。

自分で言うのも何だが、アスタリスクにいる学生では俺が一番仲良いのもわかってる。

俺が勝ちたいことも知っていただろうから十分考えられる提案だ。

まぁそれ以前に答えは決まっている。

 

「俺で良ければ」

 

これ一択だ。

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

「そ、その本当にいいのか?私で...」

 

ものすごい心配げなお姫様。

これもユリスの性格からしたらまぁ順当な反応だろう。

 

「まぁ、情のない話、この話が受けるのが一番勝率が高いからな」

 

「だが、私の上にはお前を抜いて3人もいるだろう。その者と組んだ方が勝率は高いのではないか?」

 

うん、これが可愛さの欠片もないやつだったら面倒なだけなんだが、ちょっと不安げな美少女ってだけで見ていたくなるんだから不思議だな。

 

「まぁ相性の話もあるが、情を入れた話、ユリスが一番気楽でいいからな」

 

「っ...」

 

途端、顔を真っ赤にしてそっぽを向くお姫様。

小声で礼を言っているのが良い具合にアクセントになっている。

 

「さ、早速だが登録に行ってくる。訓練は明日からでいいな?」

 

先の綾斗同様さっさと出ていこうとするユリス。

今日空は天霧と手合わせしてたためそれで良かったが、一応言っておきたいことがあった。

 

「あー、待ってくれ。訓練は明日からでいいが、全て放課後にしてくれ。朝はいつも天霧との予定が入ってるし、これは外せない」

 

流石にユリス相手に近接の訓練はしようがないので、こればっかりは外せなかったのだ。

 

「...了解した」

 

ユリスがこれを察したのかはわからないが、快諾してくれたので朝練は更に過酷になることだろう。

 

 

 

(その頃天霧)

 

 

 

「あれ、何か寒気が...」

 

一人未来に来るであろう地獄をどこか感じ取っていた。

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

「はぁ...はぁ...」

 

翌日放課後。

予定通り演習場には空とユリスの姿があった。

どちらとも目立った怪我などは無いが、しかし明確に二人の状態には差があった。

膝に手を置き、鮮やかな薔薇色の髪を揺らすお姫様。

対して、足元に白い冷気を漂わせた空。

どちらが勝っているかは一目瞭然だった。

 

「お前...ここまで...強かったのか...」

 

ユリスがここまで息を切らしているのは、空に走り回されたからだ。

と言うのも、ユリスにはあまり防御技が多くなく、≪大紅の心焔盾≫さえ削り切れれば後は逃げる他なくなる。

対して空は一度氷を設置してしまえば、放っておいても氷は維持され、その間にも攻撃することができる。

また空の氷の温度は零度以下ならほぼ星辰力の消費が変わらず調節することができる。

よって状況にもよるが、防御であればほぼ絶対零度の氷を使っている。

しかし恐らくだがユリスの温度調節は星辰力の消費がシビアだろう。

空の氷を溶かすにしろ壊すにしろユリスは一定以上の技を求められる。

つまりは能力の差であり、相性でもあったのだ。

 

最終的にユリスが負けないためには逃げ回る他なくなり、こうして今息を切らしているわけだ。

 

「んー...お前を否定するわけじゃあないが、素直過ぎるな」

 

手元に残っていた冷気を振り払いながら評価する空。

聞いたユリスは僅かに顔をしかめる。

 

「...どういうことだ?」

 

自尊心を傷つけられたのだろうか。

ただ空の方が強いことを認めているためあまり表に出さないようにしている感じだ。

 

「ユリスの技にな、妨害系統がないんだよ」

 

「妨害...」

 

そう。基本的にユリスの技は攻撃が大半を占めており、僅かに防御もあるが、妨害に関してはほぼないに等しい。

正確にはあるのだろうが、空に、ほぼ誰にでも使えるような妨害技がなかった。

 

「別に攻めている訳じゃない。お前の性格からしてもあまり妨害は好まないだろう。それに妨害が無くてもまだ強くなれる余地もある。だが、俺との差の主な要因はそれだと思われるという話だ」

 

ユリスは俯き、その表情を知ることはできない。

ただ普段から感情を作っている空からしたら見えているも同然だ。

だからこそ、

 

「...参考までに妨害技にどのようなものがあるか、教えて欲しい」

 

これはユリスらしいし、彼女の良いところなのだ。

 

「俺の≪ヨトゥンヘイム≫が良い例だな。人は寒くなると動きが鈍くなるのを利用したものだ。空気中に小さな氷の結晶...要は雪だな、それを生成して気温を下げてる。こうするだけで敵の接近をある程度抑制できるし、接近してきても普段通りを封じることができる」

 

「なる...ほど...」

 

ユリスはもう頭をフル回転させているようで、返事もおざなりだ。

だがこれもまたユリスの良いところだと思っている。

 

 

 

 

 

††††††††††

 

 

 

 

 

時は遡り、サイラスの一件の片付いた翌日。

星導館学園の敷地の一角に、二人の男子生徒の姿があった。

一人は高校生とは思えないほどの体格を有した大男。

一人は比較的細い印象のある少し髪の長い男子生徒。

その相反する二人は少し広めな更地に向かい合っていた。

そして数秒後、特徴的な電子音声が鳴ると弾かれる様に大男が飛び出した。

だがその目の前に急に氷の壁が現れる。

しかし大男は足を止めることなく、持っていた斧型煌式武装を振り抜き、氷の壁を一刀両断した。

次に大男の両脇に氷が現れるも、姿勢を低くし加速して氷のプレスを避けた。

大男が距離を詰める度に様々な氷が襲うが、その悉くを攻略してくる。

そしてついに大男の間合いに入った瞬間、男子生徒の振り抜いた氷の腕と斧型煌式武装が正面からぶつかり、火花を散らす。

暫くそのまま硬直していたが、氷の巨腕に皹が走り砕け散る。

斧を振り切った大男は左からの大振りを、腕を再度生成した男子生徒は裏拳の形で振り抜く。

しかし今度はそれらが拮抗することはなく、一瞬で氷が散った。

それが顔面に飛んできた大男はつい顔を庇い――――――

 

 

 

 

 

 

「俺がお前の決闘を受け続けていたのは、お前のクセを見抜くためだ」

 

そんなことを言って去る男子生徒。

それを見届け、腰を下ろし、自嘲気味に笑うレスター。

 

「お前は最初から俺を評価していてくれていたんだな...高原」

 

 




アスタリスクが出ない...(´・ω・`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1ー4.吹っ切れる心

遅れました。
バハムートよりアスタリスクのが書きやすい...


「ほんっとうにごめん!」

 

肌寒さが残り、空がグラデーションを描く初夏の早朝。

上下で統一されたトレーニングウェアに身を包み同行者を待っていた空だが、来た当人―――正確にはその連れ人を確認して目を丸くしていた。

 

「は、初めまして、高原先輩。刀藤綺凛...です。本日は、その...天霧先輩に無理を言ってお連れして貰いました」

 

小動物の様に縮こまりながら自己紹介するのは知らない人を探す方が難しいほどの有名人。

星導館学園序列一位、疾風迅雷の二つ名を誇る少女。

見下ろす形に成るくらいの低身長。それに釣り合わない二つの果実。どこか放って置けない可愛いらしさ。

見た目からはその強さの欠片も感じられないが、確かに付いた筋肉や、そのバランスからレベルの高さが知れる。

視線を今一度本来の同行者に向けると、再度手を合わせて頭を下げる。

 

「悪いとは思ったんだけど、刀藤さんを放って置けなくて...」

 

空とて言わんとすることは分かる。分かるのだが...

 

「何故判明したときに連絡しなかった?」

 

やはりこれに尽きる。

この気弱そうな少女が、礼儀を欠いてまで早朝から鍛練の参加を申し込んでくる訳がないだろう。

そう思えば少なくとも昨日の夜には空へ連絡が合ってもおかしくはないはずなのだが...

 

「その...ごめん、教えてもらってすぐに紗夜に捕まっちゃって、ごたごたしてたら忘れてた...」

 

紗夜...恐らくは同じクラスの沙々宮紗夜だろう。特出した話は聞いたことがない。ただ転入後少しして天霧と話しているのを見たことがあるため、何らかの関係はあったのだろう。あとよく寝ている。

 

「...まぁここまで来て帰すのも良心が痛むし今回は見逃そう。が、今後はちゃんと連絡するように」

 

「わかった、ありがとう」

 

「ただし、今日はこれのお仕置きも兼ねて後の手合わせは容赦しないからな」

 

それでこの話は終わりだ、と言わんばかりに二人から視線を外し、準備運動を始める空。

同行者二人はその様子を確認すると、少し顔を見合せ、笑い合うと同じように準備を始める。

アスタリスクの空は単色になっていた。

 

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 

星脈世代は身体機能の大半が通常の人間のそれをはるかに凌駕する。それがアスタリスクのトップレベルともなれば言わずもがなだろう。そんな者たちが街中をランニングするわけにも行かず、大半の生徒はアスタリスクの外周を走る。

空や天霧もその例に漏れず、早朝の鍛練は外周のランニングから始めているし、刀藤のいる今回も同じくだった。

 

「はっ...はっ...はっ...」

 

息を吐いて、足を動かし、息を吸って、足を動かす。

いつもと同じように走っている訳だが、綺凛にはいくつか気になっていることがあった。

それは隣を走る綾斗の顔に余裕が無さ過ぎることだ。

いつもこれくらいなら綾斗先輩は体力が少ないのかな...そう思う綺凛であったがその考えが違うことはすぐに分からされた。

 

「ちょっ...空っ、待って...!」

 

息を切らしながら停止を懇願する天霧。

それが聞き届けられたのか、空のスピードが段々と落ちていき、やがて足を止めて振り返った。

現状がとても気になる綺凛は同じように止まる綾斗の隣で静かに次に起こることを待っていた。

 

「どうした?」

 

「どうしたじゃないよ...空...やっぱり結構怒ってるでしょ...」

 

「いや怒ってはないぞ?」

 

「じゃあ!このいつも以上に重いウェイトと早いペースは何なのさ!」

 

困惑を顔に浮かべて声を荒げる天霧。

大人しく見ていた綺凛はこれに納得した。

そう、綾斗の余裕の無さは彼の体力の問題ではなく、そもそものランニングの内容が問題だったのだ。

 

「や、怒ってはないが、何か報復しないと気がすまないなーと思ってな」

 

「それを怒ってるって言うんだよっ!」

 

盲点だった、と言わんばかりに目を見開き驚きをを露にする空。

その様子に疲れていた顔をより一層疲れさせたものにする空。

流石に綺凛もそれに見兼ねて慰めの声を掛けようとしたその時。

 

「っ!」

 

全く違った行動をしていた三人は一斉に一つの方向を向いた。

それは走っていた外周の道から少し内側にあった公園のような所だった。

木々に囲まれたその奥をその場の全員が注視していた。

 

「何か...いますよね」

 

僅かに男共より早く動き始めていた綺凛が、走っている間も腰に吊るしてあった日本刀の鯉口を切りながら声を上げる。

 

「うん、いるね」

 

綾斗も綺凛に同意しながら通常の煌式武装を手にし、起動する。

特に行動を起こすことのない空も視線をそのままに警戒を続ける。

緊張の走る無言の時間が一秒、二秒と過ぎていく。

だがそれが五まで数えられることはなかった。

木々の合間を縫い、垣根を何かが飛び越えて来る。

それに反応して神速の抜刀を披露した綺凛の次の行動、しかしそれは制止であった。

 

「と、トカゲ?」

 

綺凛が少々間の抜けた声を上げる。

ただ、綺凛がトカゲと称したその未確認生物は、それと言うには少しトカゲに申し訳なくなるような姿だった。

似ているとしても頭ぐらいなものである。

 

「トカゲ...というよりは小さい西洋のドラゴンな感じだな」

 

「じゃあトカゲモドキだね」

 

「ドラゴンモドキでもいいだろ」

 

「えっと...私はトカゲモドキで...」

 

少しズレた話題にそれを修正しようとする綺凛であったが、先輩二人に意見することができず話に乗ってしまう。

だが、自分を無視してワイワイ盛り上がる三人に業を煮やしたのか、トカゲモドキが口を開けて叫ぶと、襲い掛かって来た。

銀光一閃。

トカゲが間合いに入るや否や、綺凛が手にしていた刀を振るい、その首を落とす。

 

「あ、あれ?意外と軽い、です...」

 

見た目と合致しない手応えの軽さに、幼い学園最強は困惑を隠せない。

端から見ていた空や綾斗も怪訝な顔をするばかりだ。

しかして、疑念に違わず摩訶不思議なことが起こった。

切り落とされたトカゲモドキの首が液体のような不定形になると、体の首の切り口に引っ付くと頭が形を取り戻し、最初と変わらない状態に戻ってしまう。

 

「あー、そーゆーね...」

 

それを確認した空が行動を起こそうとする。

 

「あの...高原先輩、ちょっと試してもいいですか?」

 

それを制止したのはやはり綺凛だった。

日本刀を手にした少女は、いつもとは180度違った表情でトカゲモドキを注視している。

 

「まぁ、やれることがあるなら試してもらって構わんが」

 

とんとん拍子に進む事態にあまり着いていけてない綾斗を方っておいて、綺凛はトカゲに刀を振るう。

段々と細切れにされていくトカゲの肉塊の一欠片を、綺凛が切った途端その体は液体となって、戻らなくなった。

 

「最後の...もしかして核となるものがあるの?」

 

やっと事態に追い付いた綾斗が、最後の一刀の手応えからその対処法に気がついた。

 

「はい、妙な星辰力の流れがあったので気になりまして...」

 

この言葉に綾斗も空も、この少女の強さの一端に気がついた。

ただ空はそれをおくびにも出さず、周りを見回す。

そしてそれに気がついた。

 

「避けろッ!」

 

トカゲモドキの出てきた公園の木々から今度は火の玉が飛んで来た。

いち早く気がついた空は大きく飛んでそれを避ける。

空の声に反応して二人も跳躍してそれを避ける。

しかし、神の悪戯か。

運悪く二人の着地の先に火の玉が着弾。それ程大きなものではなかったが爆発を起こし、道路に大穴を開けた。

 

「きゃぁぁあああああ!!」

 

存外に大きな声を上げた綺凛と綾斗はその穴に吸い込まれるように落ちていった。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

唯一地上に残った空であったが、二人を直ぐに救出に行ける程の余裕は無かった。

空が着地した瞬間、同じ所から更に五体のトカゲモドキが出現したからだ。

一先ず空は二人と同じ道を進まないように、氷で穴を塞いだ。

それを好機と見たのかトカゲ共は空に襲い掛かる。

先頭に二体、少し遅れて一体。

そして生意気なことに残りの二体は口を開き、そこを赤くし始めた。

飛び掛かってきた二体の首を前に出ながら掴み、その体を一瞬で凍らす。

そのうち右手の方の氷像を、同じく飛び掛かってきた一体に投げてぶち当てる。

視界から二体が消えると、その向こうから火の玉が飛んで来る。

片方の弾を動いて避け、もう片方を左手で持つ氷像を盾にして防ぐ。

意外と威力があったのか一撃で氷は粉砕されたが、バラバラになったそれは、溶けて液体になるともう一度トカゲを形成した。

投げ飛ばした二体もいつの間にかトカゲに戻っている。

 

「ちっ...めんどくさいな...」

 

トカゲ共はまた飛び掛かってきた。

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

「高原先輩、大丈夫でしょうか...?」

 

切り抜かれた柱に座り、未だに戦闘音の続く地上を見上げながら心配そうに言葉を溢す綺凛。

 

「俺にあれがどうにかできたんだから、大丈夫だよ」

 

そう口にする綾斗だが、綺凛の隣に寝転がり顔を苦痛に歪める。

 

 

二人が落ちてきたのはアスタリスクのバラストエリアだった。

バランス調整用の水に着水した二人は、しかしすぐに巨大な生物に追われることとなる。

それは上で現れたトカゲモドキと同じような生命体であり、首長竜のような形をしていた。

泳げない綺凛を抱えたままでは戦えない綾斗は、黒炉の魔剣を抜くと、柱の一部を焼き切り足場を作る。

封印を解放し綺凛の援護の元、流星闘技を使用し討伐に成功した。

しかし流星闘技で星辰力を消費した綾斗は封印が発動。

反動によりロクに動けないような状態になってしまった。

その後ポツポツと自身の境遇を綺凛は語る。

綾斗も自分の事情、目的等を説明して今に至った。

 

 

「あの...綾斗先輩と高原先輩ってどっちが強いんでしょうか?」

 

おずおずと疑問を口にする学園一位。

恐らく随分前から気にはなっていたんだろう。

 

「高原だよ。あいつは反則レベルの強さ」

 

ダルそうにそう言う綾斗ではあるが、その表情は晴れやかだった。

 

「時間制限がなかったり、純星煌式武装を使っても、ですか...?」

 

「うん、封印が完全に解除できればわかんないけど、今の状態であればいくら時間があっても勝てないよ。評価してくれる刀藤さんには悪いけどね」

 

自嘲気味に吐露する。

それでも綺凛は少し不機嫌そうに口を尖らせる。

 

「お、終わったみたいだ。すぐにわかるよ」

 

綾斗がそう言う頃には頭上の戦闘の音はなくなっていた。

そして氷った自分達の落ちてきた穴を見ていると、唐突にその氷が消失した。

そしてその穴から落ちてくる人影。

だがそれは広いバラストエリアの真ん中まで落ちると、氷の羽を広げて減速した。

 

「何やってんの?」

 

明らかに柱が繋がっていたはずの空間に座る綺凛と寝転ぶ綾斗を見て、呆れたように言う闖入者。

その爪先が水に触れる寸前、そこを中心に水が氷り、水面を閉ざした。

氷の上に着地した彼は羽も解き放ち、二人に歩み寄った。

 

 

 

 

†††††††††

 

 

 

 

『End of the Duel!』

 

翌日。

クローディアに連れられ、ユリスを伴って行った演習場のVIP席で天霧と刀藤の決闘を観戦した。

あの日どんなことがあったのかは把握していない空であったが、決闘後の二人をみれば刀藤はちゃんと吹っ切れているのが確認できて安心する。

なお、あのあと空はユリスにこってり怒られたのは言うまでもない。

 

 

「ま、天霧辰明流の多彩さを生かした良い戦いだったな」

 

空が天霧控え室で当人に祝辞を述べると、珍しく同行者のユリスも声を掛けて行った。

それに綾斗は恥ずかしそうに礼を言う。

それが一区切り着いた時、控え室に客の連絡が入った。

綾斗が確認すれば、それは先の決闘の相手刀藤綺凛だった。

おずおずと入ってきた少女は、先の苛烈な戦闘を行った剣客には到底見えない。

 

「綾斗先輩!ありがとうございました!」

 

頭を勢いよく下ろし礼を述べる。

今一度上げた顔はやはり、今までのどこか張り詰めた感じが抜けていた。

 

「それで、負けた身で大変恐縮なのですが、もう一つお願いを聞いては貰えませんか?」

 

どこまで行っても小動物な少女は、顔を赤くしながらそう願い出た。

これは聞いてもいいやつか?―――空がそう思って踵を返そうとしたが天霧は気にせず話を続けさせる。

 

「うん?なんだい?」

 

小さく深呼吸を繰り返していた元序列一位は、ぐっと拳を握り、声を張る。

 

「私と、鳳凰星武祭に出てもらえませんか!?」

 

クローディアと当人を除きその場の全員が驚愕した。

ただ、願われた天霧はすぐに表情を崩す。

 

「俺でよければ」

 

使い所が少し違う...そう思いながらも空はユリスを連れて、静かに控え室を後にした。

後は当人同士の話だし、何よりも同じ出場者が居ては話難いこともあるだろう。

鬼の形相の男とすれ違いながら空はユリスと自分達の鍛練をすべく、来た道を引き返していた。

 

 




や、うん、綺凛ちゃんは綾斗君側だからあんまりモチベ上がんないんだよね。うん。
...最後の方テキトーで、本当に申し訳ない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1-5.鳳凰星武祭開始

短いです。
短いです。
あとごめんなさい。


『さてさてさて!やってきました鳳凰星武祭一回戦第二試合!今年は星導館が熱い!熱過ぎるっ!先の第一試合では新旧一位ペアが新一位天霧選手の一刀の元、一瞬で試合を終わらせてしまいました!恥ずかしながら私、目で追うこともままなりませんでした!』

 

『あの速さは素晴らしいですね。今年の星導館は選手の層が厚いのでしょう』

 

『さて!第二試合もそんな乗りに乗る星導館学園からです!登場していただきましょう!高原空&ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトォォ!』

 

大歓声の中、登場口から歩み出る。

 

『リースフェルト選手は星導館学園序列五位にして≪華焔の魔女≫の二つ名を持つ本物のお姫様です。その魔女としての能力も強力ですが、星辰力と万応素の操作能力も目を見張るものがあります』

 

『強力な能力に、それに負けない制御力!そして!そんな素晴らしいお姫様のペアが普通であるはずがないっ!』

 

『高原選手は去年の王竜星武祭で大判狂わせをした≪氷狼≫の二つ名を持つ有名な選手ですね。去年は序列外だったんですが、今年は序列四位になっています』

 

ユリスと共にフィールドに降り立つ。

 

『さて!星導館学園序列四、五位ペアはどのような戦いを見せてくれるのか!』

 

息を一つ大きく吸い、そして大きく吐く。

 

『バトル....スタート!』

 

 

 

 

 

戦闘開始を合図に敵の黄龍の男子生徒二人が素早く駆け出す。

相手は序列こそは六十位と六十四位ではあるが、他校に置ける二十五位相当の実力がある。

その差こそが黄龍のレベルの高さを物語っている。

茶色で短髪の大柄な男と、紫色で編み込んだ長身の男。

どちらも拳士のようで、能力者ペアであるこちらに対し距離を詰めて来る。

 

「さっきは天霧が派手に行ったからな。負けてられんぞ、空」

 

つい先ほどまでこのフィールドで試合をしていた天霧、刀藤ペアは天霧がド派手に勝ちをかっさらって行った。

同じ星導館の者としても、ライバルとしても、負けてられない。

...と、言った感じにユリスが激励してくる。

 

「そこまで言うなら、お前がやってもいいんだぞ?」

 

「や、遠慮しておこう」

 

取り付く島もなく、断られてしまった。

 

「じゃ、お姫様を守る騎士は、大人しくお敵さんと遊んでおきましょうかね...」

 

言いながら空は二、三歩前に出ると星辰力を溢れさせ、万応素に干渉する。

そして、かつて無いほどの万応素を反応させ...

 

「≪大氷山≫!!」

 

フィールドの大半を氷が埋め尽くした。

氷がないのは空より後ろだけであり、その前方は防護壁に沿って凍り付いていた。

 

『な、なんですかこれは...』

 

元クインヴェールの女の実況者は魂の抜けたような声を漏らしていた。

 

『フィールドが氷漬け...高原選手の能力でしょうけど、これは正直予想以上ですね...』

 

『氷の中で意識を保っているらしくまだ校章による戦闘終了は宣言されていませんが、これはすぐに終わりますね』

 

『End of the Duel』

 

と、言っていたら終わったようだ。

 

『試合しゅーりょー!なんと一瞬で決着がついてしまった!ですがこれを毎回やれば余裕で勝てると思うのですが...』

 

『毎回やれれば勝てると思いますよ?ただここまで派手に能力を使うとなると相当なリソースが必要になるはずです。ので、恐らく開始直後からの二人の雑談をしている間に準備していたのでしょう』

 

『なんと!余裕そうにしていたのも理由があったとは!次の試合も目が離せませんね!』

 

そんな実況解説を背に退場するのだった。

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

ついにやってきた鳳凰星武祭。

開会式ではレギュレーションの変更が通達され、煌式武装の複数所持や、パペットによる代理戦闘が認められたとのことだった。

案の定アルルカントはパペットを使うペアが出るらしいのだが、それ以外の学園が芳しくない。

 

前回黄龍の優勝のペアも出ないし、クインヴェールからも特に名を聞く人たちはいない。

レヴォルフも中位の選手こそいれ、目立った強さは感じられない。

唯一ガラードワースからの出場者が危険視できるくらいだ。

 

ちなみに星導館からは空とユリス、天霧と刀堂、そして意外にもレスターと沙々宮辺りが有力選手として出ている。

 

さて第一試合が終わってしまったので一週間近く暇になってしまう。

勿論他の奴でも見ないといけない試合はある。

しかし全部見る必要があるものもなければ、リアルタイムで見る必要性のあるものもない。

直接応援したい奴もいないのでまさに暇になるのだ。

 

ああ、ユリスも似たようなものだ。

一応毎日体を動かす約束をしているが、疲れを溜めるわけにもいかないため、そんな長時間でもない。

そしてユリスも悲しいことに友人はいないためどうせ暇してるだろう。

 

 

 

 

ピピッ

 

 

と、インタビューを終えてどうしようかと迷っていると端末が着信を知らせた。

 

発信者は―――

 

 

 

シルヴィア・リューネハイム。

 

 

えぇ...

 

去年の王竜星武祭後にアドレスを交換してからと言うもの稀に連絡は取っていた。

だから電話してくること自体に問題はない。

問題があるのは今の状態だ。

 

まだシリウスドーム内のため周りにはたくさんの客がいること。

そして隣にパートナーのユリスがいること。

 

ここで電話に出れば、空間ウィンドウと声によって周りに歌姫との連絡がバレ、隣の王女様から詰問されることだろう。

 

いや、ユリスと俺は単なるパートナーであるから別に問題ないはずなのだが、まだ神月家にいたころ姉から、女の子といるときは他の子のこと考えちゃいけない、と厳命されていたから対処しにくいのだ。

ちなみに舞華姉さんと話してるときに妹の零華に構ったらそう言われた。

 

「ん?どうした?」

 

あぁ、バレてしまった。

 

感情のない今、すがるべき過去の約束を反故にはできない。

 

「あ、あぁ、ちょっと着信がな」

 

「?出てやればいいだろう」

 

ああ、すまない姉さん...

 

 

『遅ーーい!』

 

学生観覧席側の階段へと行き着信に出れば文句が飛んできた。

 

「なっ...戦律の魔女!?」

 

『あら?そこにいるのは華焔の魔女かな?』

 

俺の電話相手に驚きの声を上げたユリス。

 

どうでもいいが人の通話に入り込んで来るなよ...。

 

「...何故世界の歌姫が私のペアのアドレスを持っている?」

 

突然不機嫌になるお姫様。

あれ...なんか既視感。

 

『んー?さー?何ででしょーか?』

 

頼むから煽らないでくれ...。

 

「おい空、どういうことだ?」

 

「あー、去年の王竜星武祭の後シルヴィにオーフェリア対策を聞かれたって言ったろ?そん時に交換したんだよ」

 

「シルヴィ...?お前世界の歌姫を愛称で呼んでいるのか?」

 

「呼ばないと怒るから呼ぶしかないんだって...」

 

「...まぁいい。お前の交遊関係に口出しできる権利は持ってないからな」

 

と言うわりには不機嫌そうである。

これは今後我が姉の言葉は守った方が良さそうだ。

 

『あ、終わった?』

 

しかしこの反応は解せない。

 

「ああ、一応な」

 

『じゃあまずは、一回戦突破おめでとう』

 

「ありがとさん」

 

『随分派手な氷の使い方したね』

 

「お前には効かないだろうがな」

 

『流石にね?』

 

こいつにやったってすぐ溶かされるだろう。

 

「で?それだけか?」

 

『えー?反応ひどくない?』

 

「試合終わった所で疲れてるんだよ」

 

『ふーん.....そういうことにしといてあげる。それでね、星武祭の間どこかで会えないかな?』

 

隣のユリスがピクリと反応したのが怖い。

 

「あー...すまん、流石に開催中はな...終わってからならいいぞ」

 

『はーい!わかった!じゃあ予定合わすから閉会式から一週間以内には一回連絡してね!』

 

さて...今から怒涛の言い訳タイムだ。

 

 

 




次は本戦あたりまで時間飛びます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1-6,鳳凰星武祭本戦第二回戦

短いです。
と言うよりも更新頻度とネタギレ気味のため次からも短いはずです。



『鳳凰星武祭本戦第二回戦!先程の星導館新旧1位ペアは最後に少し謎が残ることになりましたが、そんなものを気にしてる暇はない!またも今年は調子がいい星導館学園!去年のダークホースにして序列4位≪氷狼≫高原 空&≪華焔の魔女≫ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトォォ!!』

 

案外責められることなく片付いたシルヴィの件から凡そ2週間。

俺たちは鳳凰星武祭本戦へと駒は進めていた。

 

『対するはレヴォルフ序列15位≪迅速≫アルナ・オルナと序列24位ゴルオリ・マジル!高い身体能力を誇るオルナ選手と、豊富な星辰力が生み出す凄まじい弾幕のマジル選手の組み合わせがどれ程星導館ペアに食らい付けるかが焦点になりそうです!』

 

 

「レヴォルフがここまでちゃんと鳳凰星武祭に出てるの意外だな」

 

ふと個の力が強いレヴォルフが鳳凰星武祭で普通に戦うことに関して少し気になった。

 

「...あんなやつらでも叶えたい願いぐらいあるだろう。どんなしょうもない願いでもな」

 

「あぁ、そいや願いなんてものがあったな。俺もそれが目的だったはずなのに忘れてた」

 

「...え?空、お前それ本気で言ってるのか?」

 

ユリスにしては珍しく本気で間の抜けた声が出る。

 

「あー、何だ?最近になって去年のオーフェリア戦あいつが油断してたからって気付いたら何か悔しくなってな。戦うのが主旨になって来てたんだよな」

 

「お前そんな.........って、え?」

 

「お?」

 

急に言葉を止めた隣を見る

 

「空...それは感情なんじゃないのか?」

 

 

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 

『バトル...スタート!!』

 

 

「ハッハァッ!!!」

 

「ッ!?氷壁よ!」

 

開始の合図とほぼ同時にオルナが突っ込んできたのに対応するため応急で出した氷の壁だが、一瞬にして割られた。

フィールドに降りた時点で戦闘用に意識を切り替えていたのだが、一瞬オルナを目で追えなかった。

 

「空!...チッ」

 

ユリスを見ればマジルからの銃弾が襲っていた。

 

「ヒョウッ!」

 

横へ意識を持っていかれた一瞬に間合いまで詰められていたが、今回は余裕を持って後ろへ大きく間を取る。

 

「カハッ!!」

 

が、着地前に追撃の膝を受け壁まで飛ばされる。

幸いインパクトの瞬間にズラしたため校章は無事だが、イイのを食らってしまった。

 

『おおっとぉ!これは意外な展開だ!高原選手が一方的に殴られている!』

 

『去年もそうですが高原選手の強さは自分のペースの安定性です。そんな強みの点からオルナ選手の速攻は素晴らしい判断だと思います』

 

「なぁんだ?意外とよえーじゃねぇか≪氷狼≫よぉぉ!」

 

随分好き勝手言ってくれる。

これに関してはあいつが速いだけだろうに。

 

突っ込んできたアイツを左に走って避ける。

また先と同じようにまた飛び込んでくるだろう。

それがわかっていれば対処は難しいものじゃない。

 

「ギ....ッ」

 

三歩と行かず星辰力を十分以上に流した足で回し蹴りをすればクリーンヒット。

距離を離すことに成功した。

 

「≪白城壁≫」

 

ユリスと並び目の前にちゃんとした技の形で氷の壁を生成する。

 

「大丈夫か?」

 

「ああ、全て焼き切ってやった」

 

マジルの弾幕は相当に濃いものだっただろうが、全てを対処せしめたらしい。

そういうところは氷にはない強さだから少し羨ましい。

 

「こっちは正面から見ると結構速く感じる」

 

「あぁそれだが...恐らくあいつ魔術師だぞ」

 

「どういうことだ?そんなの聞いたことかなかったが」

 

事前情報もよく確認したが、奴は単に走るのが得意なだけだとなっていた。

 

「いや...原因は知らん。隠されてるのかただ気付いてないだけなのか、他に理由があったのか...どちらにせよ、先の突撃の時に万応素が反応していたから魔術師なのは確実のはずだ」

 

「...まぁそれがわかったところで、って話だがな」

 

ユリスと違い俺は万応素に対する感受性はほとんどない。

だから奴が魔術師だとわかったとして、何一つ変化はなかった。

 

「...あぁ、いや、対処が絞られたか」

 

「ああ、あれが能力ならお前の≪ヨトゥンヘイム≫も意味がない」

 

≪ヨトゥンヘイム≫は去年の王竜星武祭でオーフェリア相手に使った技だ。

主な効果は戦場の氷への最適化だが、副効果として範囲内の物体の運動能力を下げる効果がある。

と難しい言葉を使っているが、要は凍えて動きにくくなるだけだ。

本来ならこの技で相手の動きを鈍くしてユリスに一撃を見舞ってもらうのが良かったのだが、オルナが能力で移動しているのなら、≪ヨトゥンヘイム≫の運動能力低下は効果がない。

 

「しーかたなし。第一段階解禁と行きましょうかね」

 

「お前ならもう少し行けるかと思ったが...まぁ本戦まで来れたのなら持った方か」

 

「前回はお相手さんが未知に対応してたからな。今回はこっちの番ってわけだ」

 

情報とは力だ。

いくら強い奴でも弱点の情報が漏れていたらソコを突かれてすぐに負けてしまう。

逆に弱い奴でも強みの情報を知られていなければ、最初の一発は確実に決まる。

前回の王竜星武祭はこちらの情報が何一つとして漏れていなかったからだ。

対して今回は俺の情報は随分漏出済み。

苦戦もする。

 

「作戦会議は終わったかぁー?」

 

「ああ、待たせたな」

 

そう言って≪白城壁≫を解いた瞬間――――――オルナが飛び込んできた。

しかしそうなることは予想出来ていたため、次の対処は決めている。

 

 

両手の握り拳を地面に当て―――

 

 

「―――≪氷手(こおりて)≫」

 

 

突如爆発的に発生した白い冷気は空の直前まで迫っていたオルナの顔を打ち僅かにその勢いを弱め、空は両手に付いた氷でその体を殴り飛ばした。

 

『なんと!勢いに反し吹き飛ばされたのは攻勢だったオルナ選手!そしてそれを行った高原選手の腕には氷のガントレット!』

 

『去年の王竜星武祭の準決勝、リューネハイム選手との戦いから高原選手は接近戦の心得があるのではと密かに囁かれて来ましたが...事実だったようですね』

 

『そう言えばそうだ!?去年の戦いでかの戦律の魔女を接近戦で追い詰めていたァ!』

 

「マッジかよっ!?そんなのアリか!?」

 

「実況解説の言うとおり記録映像ちゃんと確認すれば可能性は考えられたはずだよ」

 

全てで校章を狙い拳を振るう。

一度攻勢に出れればコイツ相手は容易い。

というのもほぼどんな動物も後ろに走るのは苦手なものだ。

ましてや正面の敵に対処しながらとなれば大きく距離を取ることも難しい。

 

「ゴルオリィィぃ!援護寄こせぇぇぇえええ!」

 

「オーケー!!」

 

と、煮えを切らしたのかペアに援護を求めるオルナ。

そしてのペアは見事にオーダーをこなしてみせるだろう。

証拠に後方のマジルの構えるマシンガン型の煌式武装からは既に百に迫る弾丸が発射されていた。

 

やはり優秀だ―――――――――――――――うちのペアは。

 

「≪呑竜の咬焔花≫ッ!!」

 

空の後方から飛んできた炎の竜はゴルオリと空の間に滞空し、その身で空に降り掛かるはずだった弾幕を受け切って見せた。

 

そして空はオルナがユリスの竜に僅かに気を取られたのを見逃さなかった。

 

「神月流居合術―――『勁打』」

 

神月流の居合術とは《居合わせた》時に使う術であり、それは抜刀術に限らず無手での戦い方もそこに含まれる。

そして『勁打』とは特定の型がある技ではなく、ある技そのものを指す。

その技とは――――――発勁。

 

 

 

つまりこの攻撃は

 

「チッ...――――――ガッ!?」

 

防御を通り抜ける。

 

辛うじて校章の前に出てきた腕へ当てればそれは体へと衝撃が突き抜け、僅かにオルナの動きが鈍る。

 

そこを逃さずお腹へアッパーカット。

捻りも込められた拳は見事にオルナのお腹へ突き刺さりその体を吹き飛ばした。

 

 

―――『アルナ・オルナ、意識消失。ゴルオリ・マジル、校章破損』

 

同時にユリスの≪呑竜の咬焔花≫がゴルオリへ接近、至近距離の爆発でその校章を破壊した。

 

『試合終了ー!始め劣勢に見えた星導館ペアが勝利を掴みました!』

 

『この戦い、目立ってこそいませんでしたがリースフェルト選手の尽力も随分ありましたね』

 

『と言うと!?』

 

『マジル選手の段幕を高原選手の邪魔になることなく全て捌ききっていたので、高原選手はオルナ選手に集中出来たと言うことです』

 

『なるほど!まさに縁の下の力持ちだったわけで――――――

 

 

 

 

†††††

 

 

 

 

「....分かっていたのか?空。アイツがアレを克服できると」

 

先日、星導館新旧一位ペアの本戦第二回戦が終了した。

一回戦で最大の弱点(タイムリミット)が露見した天霧だったが、二回戦の戦闘中にそれを克服。見事黄龍の性悪ペアに逆転勝利をした。

 

――――――所なのだが、隣のお嬢様は今大会最大のライバルの弱点が無くなったときに無反応であったペアにご立腹のようだ。

 

「まぁな。封印を姉にされたって聞いた時点ですぐに分かった。そもそも封印なんてのはいつまででも掛けてられるものでもない。となれば力を制御出来るようになった時点で外すべきものだ。なら、どこかでは克服出来るはずだよ」

 

「....それもそうか」

 

渋々だが納得してくれたようだ。

 

「さて、準決勝の次の相手はどちらになるかね」

 

視線の先のウィンドウはパペットと対峙する星導館ペアを撮していた。

 




そう言えばフローラ誘拐事件は起きません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1-7,疑念の視線

おーまたせしましたー
前話さすがに酷いと思ったので書き加えたので良ければお読みください...


鳳凰星武祭準々決勝勝利のインタビュー後。

 

「全く、何で近接渋っただけで舐めプだの何だの言われないといけないのか...」

 

「わかってても突っつきたいやつらなんだろう。諦めるのが吉だな」

 

「それはわかるけど...」

 

一先ずエンフィールドが生徒会用の観覧席を開けておいてくれるらしいのでそこへ向いながら話す。

そう、今回の試合はまた近接戦闘については縛って戦ったのだ。

そのことにインタビューで突かれて辟易していた。

この話の何が面倒くさいって、面倒とは思ってないし何も感じてはないのに、何故か辟易出来るところだ。

無味に無い味を感じるようなものだろう。

 

「......」

 

「...そのために優勝を目指すんだろう?」

 

何も言わず手を見ていた俺の考えていたことがわかったのだろう。

この励ましはありがたい――――――と思う。

 

「そうだったな」

 

「ああ、無事終われば何人か呼んで祝勝会でもするとしようか」

 

ユリスのこの発言には素直に驚いた。

彼女は今までひたすら他人を遠ざけてきた。

そのユリスが自分から人を呼ぶと言ってるからだ。

 

「ふっ...そうだな」

 

「その時にはぜひ『万華鏡』も――――――

 

 

 

「呼んだかな?ユリスさん」

 

聞こえるはずのない声が聞こえた。

 

ギギギギ....と声のした方を向けばそこには我が姉君を先頭とした3人の女子。

 

「えっ...あっ...お久しぶりです」

 

「いった!」

 

ユリスの敬語が新鮮過ぎて思わず振り返ろうとして思いっきり足を踏まれた。

 

「うん、久しぶり。《氷狼》も」

 

「久しぶり」

 

ああ、これはありがたい。

これだけで我が姉が後ろにいる()()に俺のことを話してないことがわかった。

 

――――――と言うのも、感情が戻ったら自分から会いに行く...つまり会いに来て欲しくはなかったのだ。

これが最後の線引きであり、感情が無いなりの拘りだった。

 

「お姉ちゃん《華焔の魔女》と《氷狼》と知り合いなの?」

 

底抜けの明るい声で聞くのは双子の妹の姉、拾華(とうか)だ。

 

「この前星導館に行ったときに居合わせてね」

 

ピクリと二人とも反応したのが確かに確認できた。

 

「それって...」

 

先とは手のひらを返したように声の沈んだ拾華の声。

これだけでこの妹が俺に対しどんな感情を抱いているかがよくわかる。

 

「うん、霜くんに会いに行った時」

 

ミシッ

 

建物から軋む音が響き、大きく歪んだような感覚に陥る。

そしてそれに呼応するように大量の星辰力が周辺を威圧する。

 

ユリスも押されてるのか息を呑んで黙っている。

 

「拾華」

 

と、そんな拾華の肩に手を載せたのはその妹の零華。

口にしたのはそれだけだったが、拾華は星辰力の放出を止め大きく息を吐いた。

 

「ごめん、舞華姉」

 

「謝るのは私じゃないでしょ?」

 

「ごめんなさい、高原さん。リースフェルトさん」

 

大人しくこっちを向いて頭を下げるとパアァ!っと花が咲いたような笑みを浮かべた。

 

「それで?結構仲良さそうだけどどうしたの?」

 

くるりと零華たちの方を向いた拾華の後ろでユリスが目を白黒させていた。

...そう、これが拾華の本性だ。

基本的には底なしに明るいのだが、感情が高ぶると恐ろしいほど豹変する...というよりも、普段底なしに明るい猫を被ってるだけなのだ。

そして感情のセーフティラインが大きすぎる故、それを超えたとき豹変したように映るのだ。

 

「《氷狼》とは王竜星武祭についての話で少しね。ユリスさんとは共通の話題で盛り上がれたの」

 

「へーーー!それってど――――――」

 

「私、《氷狼》に興味ある」

 

と、ここでいきなり声を出したのは末っ子零華。

しかしその言い方がどこか意味深なのは気のせいだろうか。

 

「へぇ...どうして?」

 

「勘」

 

舞華姉の問いの答えに、ガクッと勢いを削がれたのは隣のユリスか。

 

「へーーー!零華の勘が反応したんだ!それじゃあ何かあるのは確実じゃん!」

 

マズイことになった、とダラダラ背中に汗を流す星導館ペア。

空は元より、ユリスも先の拾華の様子を見てバレたらヤバいことは認識していた。

 

「《氷狼》、良ければ連絡先をお願いしたい」

 

残念ながらここで端末を持ってないとは言えない。

何故なら今準々決勝を終えた所で、大会の期間中は運営からの連絡に直ぐ応えられるよう、原則端末を携帯しないといけないからだ。

そしてここで断っては後ろめたいことがあると自白しているようなもの。

 

「...えぇ、構いませんよ」

 

「私の方が下。タメ口でいい」

 

連絡先を交換しながら、同年代(タメ)じゃないのにタメ口って変な話だよなぁ、と現実逃避に走る。

あぁ、日本語ってこういうのあるよな。ほらそもそもなんだよたこ焼きって。アイツらタコなくなってたこ焼きじゃん。しかもただタコ焼いてるだけじゃないのにたこ焼きなんて名前してやがって。いやタコもタコだろ何だよあの軟体動物。最初にアレ食おうと思った奴の気が知れないね。それで言ったらイカなんて絶対食っちゃいけ――――――

 

「空!」

 

「え、あ、すまん、どうした?」

 

「いきなり反応が無くなった」

 

無表情かつ抑揚の乏しい声に、どこか責めるような視線と声色が載って飛んできた。

零華はパッと見感情が分かりにくいのだが、慣れると逆に相当に分かりやすいのだ...このように。

 

「えー、あー、すまんな」

 

「むぅ...まだ固い」

 

「勘弁してくれ、ガラードワースの『静姫』相手なんだから仕方ないとしておいてくれ」

 

そう、我が妹、神月零華は聖ガラードワースの序列6位で『静姫』の二つ名を持つ実力者だ。

そもそもバリバリの武術家の子供なのだから、小さい頃から訓練を積んでいたために弱いわけがない。

序列入りこそしてない――――――と言うより、あまり興味がないのか殆ど戦ってないが、拾華も相当に強いはずだ。

 

「それを言うなら空は星導館の4位。それに王竜星武祭のベスト4」

 

「ダブル4ですね!」

 

ダブル4が何だと言うのか...

 

「まぁ了解した。少し時間が掛かることは了承して欲しいが努力するとしよう」

 

「うん」

 

「じゃあこれで失礼する」

 

「あ!ユリスさん!《氷狼》!準決勝進出おめでとう!」

 

「「ありがとう」」

 

返事をすると舞華姉は笑顔で去っていった。

 

 

 

 

†††††

 

 

 

「好きな食べ物は?趣味は?誕生日はいつ?」

 

我が姉妹(きょうだい)と遭遇した準々決勝から翌日。

今日は別の組の試合だけだから日課の訓練と、準々決勝の観覧を終えればゆっくりするつもりだった。

そして今何故か俺はカフェで年端も行かない少女に詰問されていた。

 

ど、どうしてこうなった...?

 

 

 

 

そう、それは今日朝からユリスと軽く合わせをして、別れてからシャワーを終えた時だった。

 

ピピッ

 

「お?」

 

端末がメールの受信を知らせた。

今日は特に何も予定は無かったはずだが...と、送信者を見れば、昨日再開したばかりの(零華)

内容は、

 

『前略、本日デートしましょう』

 

これだけだった。

最初に挨拶があったわけでもないし、疑問形でも何でもなく本当にこれだけだった。

 

「えっ...えぇ...」

 

我が妹ながらこれはどうなんだと思わざるを得ない。

いやそれ以上にガラードワースの生徒がこれでいいのかと心配してしまう。

 

しかしこれもまたどうしようか迷う所だ。

拾華なら準決勝前なのでごめんなさい一択なのだが、残念ながら零華の俺に対する感情が分からないため察されて良いものかどうか迷う。

 

「...いや、行こう」

 

行けば少なくとも分からない以上のことは分かるはずだから――――――

 

 

 

†††††

 

 

 

「ごめん、遅れた」

 

「大丈夫だよ。...っと、今日行くとこは決めてる?」

 

別にそこまで固くなったつもりは無かったつもりなのだが、ジトーっと睨まれて口調を直す他無かった。

 

「決めてない」

 

「じゃあ色気無くてて申し訳ないけど準々決勝見に行かせて欲しい」

 

「ん、大丈夫」

 

恐らく予想はしていたのだろう。

特に渋られる事なく快諾してもらったので一応調べておいた観覧席へ向かうことにする。

 

「どっちが勝つと思う?」

 

「パペット」

 

だよなぁとしか言えない。

今回のカードはパペットvs沙々宮紗夜&レスター・マクフェイルだ。

残念ながらと言うかなんというか、この対戦に星導館ペアが勝てる未来が見えない。

 

確かにレスターの『ブラストネメア』や沙々宮の煌式武装は強力だが、あのバリアを破れるようには思えない。

あれは天霧の『黒炉の魔剣』のような協力無二なモノでなければ破れないだろう。

でなければ奴の処理能力の上を行くか。

そして今の所そのどちらもあのペアが持ってないと判断できるため、パペットと言う答えになるのだ。

 

「自分の学校の人、応援しなくていいの?」

 

「ん?ああ、どうせ優勝狙いであいつらも倒さないといけないんだから正直なとこ言ったほうがいいだろ」

 

「そう」

 

うーん、デート...って言う割にはいつも通り会話を繋ぐ努力が見られない。

前からそうであったが、まさかそれが治る所か顕著になってるとは思わなかった。

 

「...何を願うの?」

 

 

 

「―――っ、俺の抱えてる問題の解決を、な」

 

間が悪い。

いや、狙ったものかもしれないが、会話を終えて少し俺の気が緩んだタイミングでの質問だったせいで、目に見える反応が出てしまった。

 

しかし、それ以上は踏み込んでくる気がないのか、何も行動を起こそうとせずに黙々と歩いていた。

 

 

 

†††††

 

 

 

「あ、終わった」

 

見ていて想定以上に価値のあるものだった。

負けたマクフェイルの立ち回りと《ブラストネメア》の使い所、沙々宮の強力な煌式武装など、今大会ではもう戦うことはないが、今後のいい参考になった。

そしてそれ以上に、パペットの武装合体は先に知れて助かった。

出力もある程度は把握できたからいきなり知らない殺しはされないだろう。

 

「さて、一先ず移動しようか」

 

「うん」

周りで今の戦闘について話してる人たちの合間を抜けドームを後にする。

この後は、観戦しなかった時用に考えていた少し離れたところにあるカフェに行くつもりだ。

 

「どうだった?」

 

「存外悪くない試合だったな。マクフェイルは直情型の性格が緩和されて冷静に戦況を見れていたし、その上で恐らく作戦を立てて戦えていた。沙々宮も武装のクセが強かったがそれを上手く扱えていたと思う」

 

「うん、じゃあどうやってたお――――――」

 

「え?あれ!?零!?零が男の人といる!?」

 

 

え、うるさ。

零華の声を遮って聞こえたのは甲高い女の声。

そちらを見ればそこにはガラードワースの制服を着た少女。

 

「アンリ、うるさい」

 

零華も同意見のようだ。

 

それにしてもアンリ...アンリ・レイミッドか。

『神速』の二つ名を持つ聖ガラードワース学園序列9位。

零華同様まだ中等部ながら冒頭の十二人に参列する実力者。

なはずなのだが

 

「いやでも男の気配の無かった零が男と歩いてるんだよ!?これは大ニュースだよ!!」

 

このアホみたいなテンションの上げ方はうちのパパラッチに通ずるものが見えて、あまり強いようには見えない。

 

「アンリうるさい、失礼」

 

「あっはい....っとぉ!申し遅れました!聖ガラードワース学園序列9位、アンリ・レイミッドと申しまぁぁぁあああ《氷狼》!?」

 

え、うるさ。

ようやくここでその隣りにいた俺の正体に気づいたようだが、やかましさが倍増して嬉しみがない。

 

「紹介不要だろうが、《氷狼》高原空だ」

 

「ど、どういうこと!?零!?」

 

「この前偶然居合わせた」

 

「どーしてそこから今日二人っきりになるの!?」

 

「デート誘った」

 

「わけがわからないよー!?」

 

うーん、零華の口数の少なさでは今の状況ですら説明するのは難しいだろう。

が、俺は俺で面倒くさそうでしかないから説明する気が起きない。

なら、ここは

 

「すまないが、デート中なんだ。また後にしてもらえるか?」

 

「えっ?あっ!はい!すいませんでした!」

 

彼女はぴゅーっという効果音が聞こえてきそうな程の快速で走って逃げてしまった。

 

「これでよし」

 

「助かった」

 

「まぁ後日面倒になるかもしれんが、了承してくれ」

 

「ん」

 

と、話していると目指していたカフェに到着した。

その雰囲気と凝ったスイーツ、香りのいいドリンクと人気なのだが、その席が外のオープン席から仕切られた個室まで揃えられてるのがそれに拍車をかけてる。

 

「知ってたんだ」

 

これは...まぁ恐らくこの店を、と言うことだろう。

去年の王竜星武祭のことと先の発言を含めて戦い一辺倒だと思ってた俺がこんなお洒落な店を知ってるからの言葉ではないだろうか。

 

「去年クローディアに連れてきて貰ったからな」

 

「≪先見の盟主≫」

 

「そ、うちの3位の生徒会長サマ」

 

案内された先は奥のほぼ個室の席。

正確には締め切られた部屋ではないのだが、植物の壁と近くに席がないことから個室と言っても差し支えないだろう。

 

「仲いいの?」

 

「それなりに?去年の王竜星武祭から接触が増えたかな」

 

「≪華焔の魔女≫は?」

 

「えー、あー、そこはすまん、アイツの個人的な事情が関わってくる」

 

「わかった」

 

聞き分けがいいのはありがたい。

っと話していると頼んでいたスイーツが届いたのでお茶を楽しんだ。

 

「おいしかった」

 

「それはよかった」

 

「そういえば」

 

「お?」

 

「どうやって倒す?」

 

「んっ?あー...ふむ......合体はさせないのが前提として、俺ならデカいのは多面的に攻撃してオーフェリアの時みたいに隙を狙う、女型の方はー...まぁ俺が足止めしてユリスにトドメ打ってもらうがいいかな」

 

いきなりですぐにはわからなかったが、そう言えばパペットについての話が途中だったからそれについてだろう。

それについては俺の火力ではアルディのバリアは破れないし、いざユリスでダメだったら手詰まりになる。

ならば、ユリスが火力押ししてもらい、能力の扱いが上の俺がガードを避けることを意識すべきだろう。

 

勿論いくつかプランは考えてあるが、アイツらの限界が見えきった訳ではないために、想定通りとはいかないだろう。

 

「そう」

 

「......」

 

さて、そろそろか。

 

「それで?何のようだ?」

 

「....余裕のない男は、嫌われる」

 

おっふ、何と言うことか。

俺が結論を急いだばかりに、妹に男を説かれてしまった。

 

「......」

 

「けど、いい」

 

俺が何とも言えないような顔をしていたのだろう。

それでも直ぐに話してくれるようだ。

 

「私の姉妹については?」

 

「昨日一緒にいた二人だな?黄龍の≪万華鏡≫とクインヴェールの神月拾華」

 

「うん、でも私達には兄弟が、兄がいる」

 

話の先が見えない。

ここで俺のことを言及してどうするつもりだ?

何かに気が付いた?

有り得る。

零華はうちの家族で()()の才能を持っている。

それは決して戦いだけではない。

 

ではそんな零華相手に初耳のフリをする?それともクローディアから聞いたことにする?

――――――よし、

 

「ほお、それで?」

 

流すことにした。

下手に演技するよりは何か知られることは少ないだろう。

 

「...でもその兄は数年前から私たちの前から姿を消した」

 

「.........」

 

「それから、少しずつ変になっていった。お父さんはより厳しく、お母さんは影でよく泣くようになった」

 

悲しい。

それは何よりこの話を聞いて何も感じない自分に対してそんな言葉だけの感想を描く。

 

「その事に拾華は怒って、舞華姉は兄を探しにアスタリスクに向かった」

 

ここはそんなとこだろうなって予想通りではあった。

 

「そして去年、その舞華姉が王竜星武祭に優勝し、兄の捜索を願った」

 

「......」

 

「そして舞華姉は星導館学園に私達の兄...舞華姉にとっては弟がいたことを報告してくれた」

 

「...」

 

「けどその正体をいつまで経っても話そうとはしてくれなかった」

 

「...つまりその兄を探してくれ、と?」

 

「結論を急ぐと嫌われるよ」

 

またか...

 

「ここで一つだけ不審なことがある」

 

「それは?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

こ、れは...

 

「昨日のあなたの試合後遭遇したときの話、舞華姉は≪華焔の魔女≫はファーストネームで読んでいた。それは話が盛り上がったって言うからそうだと思う。けど―――」

 

「.......」

 

「けど、あなたは二つ名で呼んだ。王竜星武祭について話をして、ある程度親しげに挨拶をした。それなのに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

バレた...いや正確には黒に程なく近いほどのグレーだろう。

まだ確信を持っているわけではない。

しかしこれは...

 

「最初はほんの少しのただの違和感だった。けどこれが完璧な疑問になったのは、とある本戦第二回戦の映像を見たとき」

 

っ...

 

「私達の家、神月流は無手から剣を越え、ありとあらゆる武器に通じた流派。その先は勝利であり、柔を成し剛を成せを真髄とする勝つための技術。そして―――」

 

零華は空間ウィンドウを起こし、俺の前へとある映像を持ってきた。

それは鳳凰星武祭本戦第二回戦、俺達とレヴォルフのペアの試合の、俺とマジルの近接戦闘の映像。

 

「―――ここ。ここでこの選手...あなたの攻撃は防御を突き抜け、相手に刺さった。型の無いこの格闘技は神月流居合術『頸打』。そして今までにうちの門下をくぐった人に、その歳でその名前の人はいなかった」

 

スッと目が細められた。

 

「あなたは、誰?」

 

俺は大きく息を吸って...そして吐き出した。

 

 

 




はてさて大学生私は春休みとなりまして、次話もある程度書いてはいるのでこの春の内には投稿できると思います。
しかしまぁ休暇が終われば、忙しさから更新はまた止まる気がします。
あと『小説家になろう』に全く違う名前でオリジナルの小説を投稿していまして、そちらにも時間がとられています。(まぁそっちも今止まってるんですけど)

と言うか、そちらはコレより駄文になってて悲しみが溢れてます。

まぁ何かしら気になることがあれば頑張ってお聞きくだされば、なるべく答えていこうと思いますのでよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1-8,鳳凰星武祭準決勝

『鳳凰星武祭準決勝!既に聖ガラードワースペアを撃ち破り決勝進出を決めた星導館学園ペアと戦うことになるのはどちらなのか!?』

 

『まずは東ゲート!同じく星導館学園より序列四位≪氷狼≫高原空!&序列五位≪華焔の魔女≫ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトォォォォ!』

 

「もしかしたら...とは思ってたんだがな」

 

「あぁ、だが相手はアレになったか」

 

『対するは!本大会より参加が可能となった代理パペット!アルディ&リムシィィィィィィィイイイ!』

 

「『ふはははは!やはり我々の相手は貴殿になったな!高原空!』」

 

陽気にあの人形は話しかけてくるが、そのせいで俺は恐怖に怯えることとなった。

なぜなら名前を呼ばれなかった相方が隣で高熱を発しているからだ。

 

「『黙りなさいこの木偶坊が。それはマスターが仰っていたことでしょう。それに隣りにお姫様だっているでしょう』」

 

「...ふん、だいたい今ので今までのことの合点がいったな」

 

「『ふむ?一体何のことであるか?』」

 

「『貴方は気にしなくていいことです』」

 

「...え?もしかして今まで温存してきたの無駄だった?」

 

まさかまさかである。

可能性としては考えていたが、まさかユリスを襲ったサイラス・ノーマンに人形を流していたのがこのペアだったとは。

 

「いや、そうとも限らんだろう。隠し続けれていればアイツの処理能力に負担はかけられるからな」

 

「まぁそれで納得しておこうか...」

 

『さぁ決勝へと駒をを進めるのはどちらになるのか!?バトル...スタート!!!』

 

 

 

†††††

 

 

 

「『ふはははは!では今回も最初の一分は指先一つ動かさないとしてやろう!』」

 

『出たァ!アルディ選手この準決勝でもハンデを付けてきた!』

 

「...なぁ、それ破ったとしてお前に何かペナルティあるのか?」

 

「『む?どういうことであるか?』」

 

「空...今聞くのがそれか?」

 

今までやってきていたときも思っていたのだが、あいつがその縛りを破ってその間に攻撃したとしてヤツに何かペナルティを課すことはしないのだろうか?

じゃないと縛りとして成立してないように思うのだが。

 

「いやお前が自分でその縛り破ったとして何のペナルティもなかったら単なる騙し討ちだろ?って話だ」

 

「『ふむ...確かにそうであるな。しかし我々とで負けてやる道理はないのである...ううむ...』」

 

「まっ冗談だ。気にしないで始めるぞ《氷雷針》」

 

未だに唸っているアルディを無視して氷のエストックを5本周りに生成し、視認できるほど星辰力を迸らせる。

そして――――――

 

「行けッ!」

 

左右に2本ずつ超高速で飛ばす。

 

『高原選手、左右に大きく氷の剣を飛ばしたァ!』

 

『なるほど、今までの選手はあのバリアを壊すことに重きを置いてきましたが、高原選手はあのバリアを掻い潜ろうと―――』

 

 

 

「シッ...!!!」

 

――――――ギンッッッッ!!

 

「『むっ!?』」

 

俺は身体で隠して出しておいた刀型煌式武装でアルディの()()を攻撃した。

その後左右に飛んでいったエストックは僅かに差を付けてこそいたが、全てをバリアに阻まれた。

 

「『これは...っ!』」

 

しかし、上からそのバリアを避けて飛来した()()()()のエストックがアルディに襲いかかり、その体勢を崩した。

 

『おおっとこれはぁ!?』

 

『アルディ選手が被弾しましたね...その上身体を動かした』

 

『それよりも驚きなのは何と高原選手が剣型の煌式武装を使用しました!』

 

『今まで煌式武装は一度も使ったことの無い高原選手がここで初を出してきましたね...なるほど、アルディ選手の学習能力対策でしょうね。何故なら彼は未知に弱い』

 

『まさかまさかここでまたも新技が飛び出ました高原選手!一体どれだけ引き出しがあるのでしょうか!?』

 

 

 

「『むぅ...どういうことであるか?』」

 

アイツはどうして被弾したのか不思議でたまらないのだろう。

それもそうだ。

何故ならヤツは≪氷雷針≫の防御のため前方にバリアを展開していたはずなのだ。

それなのに前方にいたはずの俺の剣を受けた。

勿論、俺が想像以上のスピードだったのはあるだろう。

エストックの加速にと思われていたはずの星辰力はその大部分が俺自身の加速に使われていたから。

 

「ネタバレするわけないだろ?」

 

「『それもそうであるな』」

 

そもそもこれはそんな大逸れたことではない。

ただ前方へ加速し、ソレ以上の速度で横へ移動、バリアを避けただけなのだから。

正確には足元に氷を生成して足場代わりにはしたし、方向転換に結構星辰力は使った。

それに≪氷雷針≫にも意識は向いていたはずだ。

前の試合で俺が近接戦闘を渋ったことにより、≪氷雷針≫を見て俺がまた近接戦闘を渋ると判断してしまった。

だからこそ、想定外の接近と、想定以上のスピードに対処出来なかったわけだ。

しかしもう無駄にする星辰力もないためやる気はない。

 

「『ふむ?存外に攻めてこないのであるな?』」

 

「......」

 

集中、集中だ。

相手が人ではなく、俺と同じく感情の無い相手だ。

疑似人格相手に敢えて余裕見せる必要もない。

余計な情報を与えないために黙るのが正解だな。

 

「『ふむ、しかし貴殿の言った通りになったな。一分の制約も破ってしまったし、普通に動かさせてもらうのであるが...うむ、これが申し訳ない、いや情けないであるか?』」

 

存外に最初のあれを気にしてくれているようだ。

俺にとってはありがたいことこの上ない。

 

「『―――何故、貴方は攻めてこないのですか、≪華焔の魔女≫』」

 

「ん?あぁ、別に舐めているつもりはないぞ。少々時間のかかる準備をさせてもらっていたしな」

 

そんなことを言うユリスの後ろには限りなく細長く絞られた数多の≪鋭槍の白炎花≫。

 

「『...どちらにせよあの木偶の坊が制約を破ったので私からも行かせて貰いますよ』」

 

アルディがハンマー型の武装を展開したのと同時に拳銃型の武装を展開したリムシィが発砲する。

 

「≪白城壁≫」

 

が、その全ては氷の壁に阻まれ、その間に俺は刀を手にアルディと切り合い殴り合い。

そしてその全てはアルディのバリアを掻い潜って、そのハンマーで防御をさせている。

 

「『ふははははは!なるほどな!剣を使えるまでは知っていたが、まさかここまでとはな!』」

 

「≪鋭槍の白炎花≫!」

 

準備時間を十分に使って圧縮されたユリスの槍は先の俺を越える速度で()()()()()()()()()()()()()()の元に飛ばしてきた。

 

「『なんと!?』」

 

「―――神月流剣術『汐踏(しおふみ)』!」

 

残念ながら俺はそう多くの神月流を修得しているわけではない。

抜刀術を始めとした居合術は全てを修得しているし、剣術は途中までの修得と、奥義の習いまではやっていたのだが、そこで誘拐されてしまったのだ。

正確には他の術も習いだけならある程度やってはあるが、きちんと把握できているのは剣術だけだ。

 

 

―――だが、だからこそ、その剣術だけは今得てるものの洗練も、知っていた奥義の練習も欠かしたことはない。

 

―――ギンッ!!!

 

「ちっ...!」

 

≪鋭槍の白炎花≫へバリアが向いた隙に『汐踏』で打つ寸前に一歩足をわざと踏み込み、半拍タイミングをズラして切り上げる。

 

バリアはユリスに対し展開され、ハンマーはタイミングをズラして間に合わない。

校章を狙えた―――はずだった。

しかし、実際にはハンマーから離した左腕が割り込み、その腕に傷をつけるだけに留まった。

戦ってるうちに奴が人の身でないことを失念していた。

 

「―――『ルインシャレフ』」

 

その驚愕に僅かに時間を取られた瞬間だった。

 

(まっずい!)

 

俺を狙っているのかユリスを狙っているのかわからないが、どちらにしろまずい。

俺ならば避けることに気を取られるとアルディに対処が間に合わなくなる可能性があり、ユリスの前にある≪白氷壁≫はあまり星辰力が込められていないし、今は生成後の放置中であとは崩壊を待つのみ。

壊れやすさは平時の同一の技より大きい。

 

「ユリスッッ!!」

 

「ああ!」

 

「≪白銀世界≫!」

 

出来上がったのは俺達とパペット達を遮断する、厚さのほぼない()()()()壁。

そう、コレの役目はユリスと俺―――リムシィの標的を隠すためのもの。

 

瞬間、ユリスのすぐを横を通り抜ける極太レーザー。

同時に壊れる目隠し白幕。

 

『なんと!?不意に打たれたリムシィ選手の超火力レーザー!しかしこれは高原選手の咄嗟の白幕によって狙いを外されたぁ!』

 

『これ、さりげないですけど高原選手の呼び掛けでリースフェルト選手に標的向けさせてましたね』

 

「≪九輪の舞焔花≫!」

 

「神月流歩術『蹴跳(けりはね)』」

 

これは地面を蹴る瞬間にのみ星辰力を圧縮、集約することで凄まじい速さを出すための歩術。

黄龍の≪天苛武葬≫に並ぶほどの―――、いや直線においてはソレ以上の速度にも成りうるモノだ。

最初の突撃と違うのは、あればスタート時にのみ星辰力を爆発させ、同様に方向転換時のみ星辰力を使う加速方法。

一発当てるだけではなく、剣術で切り合う殴り合うならば、歩術の方が適している。

 

そして何より、

 

「『む!?これは!?』」

 

先の≪白銀世界≫を作っていた氷の破片はまだ落下途中のものが多く、それ故に俺の姿を隠してくれている。

その煙幕に紛れ間合いまで近付き―――

 

「神月流剣術『狩貫(かりぬき)』」

 

静かな、しかし迅速な一突き。

 

「『むぅぅぅん!』」

 

回避は間に合わないと悟ったのか、ハンマーで弾かれた。

 

「≪氷柱剣山≫」

 

地面から生えた氷柱がアルディの校章を狙う――――――が、それはリムシィの射撃により壊されてしまう。

 

「ああもう!」

 

『なるほど、星導館ペアはユリス選手を氷の防壁の後ろに置いて攻撃に専念させてアルディ選手の防壁を引き付け、高原選手が刀と氷で武器を弾いて校章を狙っているようです。』

 

「『ふはははは!流石であるな高原空!まさかここまで全て作戦通りだったとは!』」

 

正確には狙いと戦い方が作戦通りなだけで、攻撃手順は最初以外ユリスと話し合ってはいない。

 

「『さて、このままでも行けない気はいないのだが、ここで本気を出さねば相手に失礼というもの!』」

 

...ああ、なるほど、一昨日のインタビューであそこまで言われたのはそういう点も含まれていたのか。

感情がないとは言え人間より機械がそこに気付くとは皮肉なものだな。

 

「『そのままやっても勝てるとは思いますが...いいてしょう。圧倒的に倒してこそマスターの素晴らしさを知らしめられるというものです――――――『ルインシャレフ・Maximum』』」

 

リムシィはその武装から光が漏れるほどのチャージをし、上に発射した。

それは最高到達点まで行くと散弾の用に周りに降り注いだ。

 

「っ...《白氷城》!」

 

俺とユリスを囲うように氷の城が出来上がった。

 

「《赤熱の灼斬花》!」

 

「《銀群鳥》」

 

ユリスの火の玉と俺の氷の鳥たちは、いくつか被弾しながらも散弾を避け、リムシィへ近付いて行ったが――――――

 

「『一歩遅かったですね』」

 

『カミラ・パレート校章破損!』

 

合体を止めることは叶わなかった。

 

「『後は任せましたよ』」

 

「『うむ、任されたのである』」

 

「やってらんねぇな...」

 

「まぁそんなものだろう。どうする?」

 

「あんま使いたくなかったがやるしかないか」

 

「そう悲観す――――――「『ウォルニール・ハンマー、発射!』」...っ!?」

 

轟音を鳴らしながら氷の城には大穴が穿たれた。

 

「...おいおい、星辰力渋ったとは言えここまで簡単に壊されるか?」

 

「...前回より火力上がってないか?」

 

「『ふはははは!だがまだまだ終わらないのである!ウォルニール・ハンマー...』」

 

「やってらんねぇな!?」

 

「『発射!』」

 

俺とユリスは城から出て二手に別れて回避。

 

「《氷雷針》」

 

「《九輪の舞焔花》!」

 

多角的に飛んでいった氷のエストックと炎の槍は、しかし個別に展開されたバリアに阻まれた。

 

「確かにこれはやってられないな...本当にいいんだな?」

 

「構うか、やれ」

 

「『む?何かやるのであるか?』」

 

アルディは俺たちが何をするのか楽しみにしているようだ。

 

「はぁ...≪六弁の爆焔花≫」

 

「『む、一つだけ...それに威力もそんなにないのであるか?』」

 

「これには一定の火力があればいいからな...行け」

 

ユリスの手から離れた火球は()()()()()()()()()

そして起爆し俺の身体は吹き飛ばされた。

 

 

 

 

†††††

 

 

 

 

『おおっとこれはどういうことだ!?秘策が出るのかと思えばまさかの同士討ち!?』

 

『リースフェルト選手がミスをするとも思えませんし...故意だとは思うのですが...』

 

「『確かにどういうことであるか?』」

 

「さてな、では踊り狂って貰うとしよう...≪栄裂の炎爪華≫!」

 

地面から生えた炎の爪はアルディを握りつぶすように縮まった。

 

「『何のこれしき!』」

 

アルディがはハンマーを振り回し、その火柱を掻き飛ばした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――刹那

 

「アハハハハハハ!」

 

アルディが吹き飛ばされた。

 

「『これは!?』」

 

『これはまさか...去年の王竜星武祭でリューネハイム選手との戦いのときになっていた状態...』

 

「ハハハハハハ!」

 

空は手に持っていた刀型煌式武装を吹き飛んだアルディに投げつけ、ソレにも劣らない俊敏さでアルディを追い越しまたもアルディを蹴る。

またも飛ばされたアルディの先には――――――投げられていた刀。

 

「『なんと!?』」

 

刀には気付いたためバリアで防げたが、全く以て規則性のない動きに、空本体の攻撃にはバリアを張れないでいる。

 

そして合間を縫って届くユリスの攻撃。

こちらこそバリアを張れてはいるが、お陰で空からの攻撃に対し、回避が取りにくくなっている。

 

『ラッシュラッシュラーーーッシュ!』

 

『わからないことだらけではありますが、暴走みたいな割りにちゃんと対策の元攻撃されてますね』

 

そう、空の攻撃には全て一貫性がない上、あまりユリスの射線に入らない中、多角的に攻められているのだ。

 

「『ぐっ...ぬっ...のぉっ!?』」

 

「ここっ!綻べ!≪大輪の爆耀華≫!」

 

ユリスはなんとここで空が近接戦闘しているのにそれを巻き込む大技。

 

『なんと!?リースフェルト選手、仲間をも省みない大技!』

 

『今までの戦いから見ても、恐らく高原選手から自分ごと、と言うオーダーが出ていますね』

 

『なるほど!何か防ぐ手立てがあるということでしょうか!?しかし、今の状態の高原選手にそれが出来るのか!?』

 

だがその心配は杞憂に終わる。

足を止めたアルディはバリアを複数枚使って≪大輪の爆耀華≫の火力を全て塞き止めて見せ、空の取り直した剣の突きには手を腕まで貫通されることで防いでみせた。

 

『おおっと!しかしその大技も高原選手の攻撃も両方防がれてしまったぁ!』

 

『これは高原選手がこの状態になってしまったからこそですね。先に敵が人の身でないことはわかっていたけど、この状態故に判断出来なかったのでしょう』

 

煌式武装の展開を解き剣を抜いた空は、再度展開した剣を手にアルディへ駆けて行く。

 

「『獣の如き不規則さ...なるほど有効と認めざるを得ないのである...しかし!距離を詰めるのには些か不適切出会ったようだな!』」

 

しかしアルディの直前で方向転換が見破られ、ハンマーの手痛い一撃を食らい吹き飛ばされる。

 

「『ははははは!これだけ距離があれば流石に方向の予想はつくのである!』」

 

「空!ちぃっ!綻べ!≪赤壁の断焔華≫!」

 

『おおっと!今度は炎の壁だ!ユリス選手大技大盤振る舞いですね!』

 

『ああ、最初の1分はこの大掛かりな設置型の準備に使っていたわけですね』

 

『高原選手は意識消失こそまだしてはいませんが、大ダメージから動くことが難しいか!?』

 

「『―――しかぁぁぁし!』」

 

ユリスの炎の壁はバリアで通り道を作られ、直ぐに通過されてしまった。

 

「『そう簡単に我輩は止められないのである!』」

 

そこでアルディが目にしたのは、膝をついて―――――しかし、左の腰に剣を構えた空の姿。

 

「咲き誇れ≪九輪の舞焔花≫!」

 

「≪斬焔≫及び、神月流抜刀術―――『緋扇』」

 

しかしアルディはその攻撃は一度()()()()

故にバリアを空の方へ張り、ユリスの≪九輪の舞焔花≫の軌道を確認するために視線を外してしまう

 

――――――自分の障壁に自信があるから。

 

「――――≪氷縛種(ひばくしゅ)≫」

 

「『むっ!?』」

 

空へ向けていた左腕が突如膨張、表面の装甲を突き破って出て来た氷の蔦がアルディを締め付ける。

 

 

 

――――――途端、バリアはその形を歪め無くなる。

 

 

 

――――――瞬間、空間を斬撃が通り抜ける。

 

 

 

――――――同時、校章が二分した。

 

 

 

 

 

†††††

 

 

 

『エルネスタ・キューネ、校章破損!』

 

『試合終了ぉ!勝者!高原空&ユリス・アレクシア・フォン・リースフェルト!』

 

『終始驚愕と納得の連続でしたね』

 

『まさにその通りでした!初の煌式武装使用に始まり、アルディ選手の被弾、高原選手の予想外の剣の実力、そしてユリス選手の同士討ちと、大技連発ですね!』

 

『順番に確認していきましょうか。高原選手の煌式武装使用ですが、実力と使い慣れてる感じからして随分前から使っていたものでしょう。次にアルディ選手の被弾ですが傍目から見ると分かりやすかったですね』

 

『我々から見れば目で追うことは難しかったですが、その軌道は一目瞭然でした!』

 

『ただ障壁を避けただけですが、その前に使用した氷の剣で一先ず近接のつもりがないと判断してしまったこと、速度を三段階に分けていたために障壁で防ぐことが出来なかったようです』

 

『なるほど、最初に使った氷の剣はただの陽動ではなかったと!剣の実力に関しては先に言っていた通りですね!』

 

『次に同士討ちですけど、これはまぁ高原選手をあの状態にするためですね。そしてあの状態にしたのは規則性のある攻撃をしないためと、恐らく最後の仕込みのためですね』

 

『最後の仕込みと言うと...アルディ選手の腕から氷の蔦が出て来たものでしょうか?』

 

『はい、戦闘中にも言いましたがあの状態でもちゃんと対策が為されていたので冷静な部分が残すことに成功したんじゃないでしょうか?そして最初の接触で、どこかで身体で受けることがわかってたんじゃないでしょうか』

 

『なるほど、それを狙って残しておいた冷静な部分で布石を残していたってことですね!ですがそもそもなぜあの障壁は消えてしまったのでしょう?』

 

『あれは恐らく腕が壊れてエネルギーの伝達系に支障が出てしまったせいですね』

 

『もしや狙っていたのでしょうか!?』

 

『まぁアルディ選手は障壁を張るのにそちらへ手を向ける癖があるようでしたからね。何らか関係していたのは予想していたでしょう。変わってリースフェルト選手の大技大盤振る舞いは、高原選手が防御を担当することで余裕を生んでたために出来てたことですね』

 

『ところで気になるのは最後の攻撃ですが...』

 

『あれは恐らく流星闘技かと思われますね。それも恐らくロボス遷移方式を取り入れた高火力広範囲の攻撃でしたね。星導館学園の沙々宮選手の煌式武装にも使用されていた構想ですね』

 

『まさかまさか高原選手に近接戦闘能力と火力が追加されてしまいました!』

 

『それに目立ってこそいませんがユリス選手の尽力と連携がその前に下にありましたね』

 

『派手な能力と目立つ新たな情報で隠れてましたが、火力連携策略どれを取っても強いペアと言うことでした!』

 

 

「『ふははははは!なるほどな!確かにこれは正気ではないと油断していた我輩の落ち度である』」

 

「ま、お前らはデータ故に信用しすぎるところがあるからな」

 

「それに私の炎の熱で貴様らの動作はほんの少し悪くなっていただろうからな」

 

「『ふむぅ...そんなことまで考えていたのであるか...』」

 

「さてまぁこれからどんしたもんかなぁ...」

 

「『決勝の天霧綾斗、刀堂綺凛ペアであるか?』」

 

「それもなんだが...」

 

「なるようにしかならんぞ」

 

「『?』」

 

 

 

 

†††††

 

 

 

 

 

それは昨日の午後、とあるカフェにて。

 

「あなたは、誰?」

 

俺への視線を一切外すことのない零華の瞳にあるのは疑念。

そしてとほんの少しの期待と警戒。

 

別にここでバラしたって本質的な話構わない。

しかしそれは()()()()()()()

 

家族は、舞華姉はこんなとこまで俺を探しに来てくれた。

拾華は家族の関係に罅が入ったことに起こってくれている。

そして零華もここまで来たと言うことは、俺を探していることは確かだろう。

 

そんな家族達に対し今まで隠れていた俺が、"見つかってしまったからしょうがないね、事情を話すよ"、では筋が通らない。

 

だからと言って適当に誤魔化して聞く相手にも思えない。

確信のもとこの話を出していて、何か要求その他があるからこうして追及してるのだ。

 

ではやれることは、誤魔化しではなく...

 

 

 

「悪いな、話せないんだ」

 

完全なる拒否だ。

 

「...どうして?」

 

「俺の...最後の意地なんだ」

 

店に流れる穏やかな曲が俺たちの間を支配する。

どれ程そうしていただろうか。

 

「...そう」

 

それだけ言って、彼女は紅茶を口に含んだ。

 

「すまんな」

 

「いい。今後とも普通に付き合ってくつもりだし、まだあなたのことを調べ続ける」

 

「それは...おっかないな」

 

飲んでいたコーヒーよりはマシな表情が出来たと思う。

 

 

 

 




書いてたら約9000字だって。
なろうに書いてるオリジナルもこんくらい筆が進めばいんだけどねぇ...

さて次回は決勝!対星導館学園新旧一位剣士ペアです!


...構想もあまり考えてなかったし全くの書き溜めなしなので次回はあまり近くないと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。