問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ? (エステバリス)
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ステータス※ネタバレあり

どうも、こんちゃっす。これは主人公プロフィールであります。

っていうわけでネタバレもありますので、最新話まで閲覧済み、もしくはネタバレだって構わない!って人がご覧ください。

新しく記事を追加し次第、ここに載せますので。


※十二月一日 主人公設定にスリーサイズと、概要を少し追加。

※十二月七日 挿絵追加。なぜ鉛筆……

※2014/五月十九日 プロフィール一部追加&変更。今後の表現に矛盾を発見したのでおっぱいが大きくなりました。

※六月六日 "人類の罪(ア・ヒューマン・オブ・ギルティ)"の詳細と"竜胆の秘密"を公開。

※六月十三日 新ギフト詳細追加。

※八月二十三日 挿絵 "双狐終天"を追加。やはり鉛筆である。ドヘタクソだからある種の覚悟をした方がよろしいかと……

 

竜胆くん通常バージョン{IMG1569}

 

疾風の隼さんの問題児超コラボの劇場版限定フォーム、竜胆くん"双狐終天"{IMG4807}

 

 

名前:高町 竜胆

 

年齢:15歳

 

性別:(一応)男

 

スリーサイズ:B(ココ重要):82 W:56 H:70 ←アンダーとトップの差が結構あるのでかなりおっきい。なにがとはここまで言ってあえて言わない。

 

身長:155に達していないという噂が……

 

体重:すごく軽い

 

外見:茶髪に紫の瞳。キリッとしてる時は結構イケメンだが、普段はどう見てもショタ。因みに神格解放時には従者に似て赤みのある桃髪になる。

 

性格:驚くほどに冷めた性格。だがお人好し。あとツンデレ。

 

所有ギフト:

呪術

玉藻の前

人類の罪(ア・ヒューマン・オブ・ギルティ)

 

所有ギフト紹介:

 

呪術:本来は玉藻の前が持つスキルと呼ばれているもの。

タマモが竜胆に取り憑いた時にタマモのスキルから彼のギフトに移り変わった。

これはタマモの持つスキル全てを総括して呪術として成り立っているため、呪術だけがこのギフトの本質ではない。

なお、本来はタマモが持っていたものであるためタマモが近くにいないと所有権はタマモに移る。

 

玉藻の前:自分の内にいる玉藻の前の存在と、竜胆とタマモの持つ神格を指し示している。タマモは現界することもでき、その間は彼女も呪術のギフトを扱うことができる。

不完全な憑依をしているらしいので本来の力を出し切れていない。因みに彼女の本来の強さは如何なる修羅神仏であろうと小指で惨殺できるほどに強力で凶悪。

 

人類の罪(ア・ヒューマン・オブ・ギルティ):今の高町竜胆を彼たらしめている彼の原典といえるギフト。

このギフト自体、本人でも完全に把握できていなく、曖昧にしか理解していない。彼はこのギフトを比喩ではなく、人類の強欲さが生み出した罪の権化そのものと言っている。

なお、このギフトは他の二つのギフト同様に後天的に入手したギフトであり、出自は本人が頑なに語ろうとしないので不明。

 

ステータス(Fate/風)一巻時点:

筋力:D 魔道士としては平均的

耐久:D 魔道士としては平均的

敏捷:EX 魔道士というよりむしろ暗殺者というべき

魔力:B+ 魔道士の中では低い部類

幸運:E−−− 圧倒的低さ

宝具:? 現段階では不明

 

二巻時点での変更点:

幸運がE−−−−−に低下。

また、"人類の罪"による"侵食"が原因で筋力、耐久共にC−に上昇。

 

概要:

◆箱庭に召喚された四人のうちの一人。極力人との関わりを好まない。というよりはむしろ意図して関わらせないようにしている。

◆クールで気取った態度をとっているが、本質は自分を省みないお人好しで、こんな性格になるまでは本気で"正義の味方"に憧れていたほどの子供。というか今も子供。この性格になったのは家族の死が原因となっていて、本来は明るく、老若男女問わず人を引き寄せる魅力を持ったカリスマだった。

◆今も結構な子供で、色々言ってはいるが内心「決めゼリフとかカッコいいなー」なんて思っている。一応、彼は過去に起こった事から「俺は俺だ」という言葉を無意識のうちに使うことがあるらしい。

◆元の世界では歌舞伎役者の女型をしていて、それこそとんでもなく有名だった。そのため、今の気取った態度を維持するのはそう難しくはないらしい。彼の細かい動作を見ていると、口々に「何処か煌びやか」と言われる。

◆趣味は家事全般。料理から裁縫、洗濯、食材選び、バーゲンセールに飛び込んで行くなど、もはやオカン。特に料理には並々ならぬ拘りがあり、本人曰く「使えないと思われがちな素材だからこそ食べる人に感動を与える素材となる」らしい。因みにそれらは全てその道のプロすら舌を巻くほどであり、特に料理は驚異的の一言に尽きる。

◆一人で何年も過ごしてきたので人との関わりが少し苦手。そのせいか、自分の思っていることを素直に言えない困ったツンデレくんでもある。

◆服装は陣羽織をあしらった赤と紫のコートと黒のインナー。下も陣羽織をあしらっているが、こちらはインナーと同じ黒一色。

◆なお、一度関わりを持ってしまった相手にはとことん甘く、自分自身は突き放そうと思っても細かなことでも気にして反応してしまうというデレっぷり。

◆ただし、自分自身の境遇故か、人が「こうだから」「ああだから」という理由で差別するということを本気で嫌っており、箱庭世界の"ノーネーム"の差別には激しい憤りを覚えているため、名無しという差別をされると差別された相手が誰であろうと話に乱入してくる。

◆だが、そんな性格から他人優先の平等主義のように思われることもあるが、その本質は自身の事を全く省みようとしない、いわば自分自身が自分という格差の中で一番下の存在となっているため、彼の本質を知る者や見抜いている者は「これ以上に歪な存在は他にはない」とコメントしている。

◆そして彼を語る上で外せないのは幸薄である。出自、箱庭世界に招かれた経緯、孤独であろうとする理由、"侵食"など、とにかく彼は幸薄でそれがラッキースケベなイベント(本人は超無関心)や仲間とのすれ違いに発展している。

 

主な人間関係

 

十六夜 基本的に彼のすることを傍観するポジション……でいたいと思っている。いざという時は彼に自分を殺してもらうよう頼もうとも。

 

飛鳥 箱入りお嬢様だと思っている。ガルド戦以降は一人で戦った肝っ玉を認めている。

 

耀 なぜか気になる。彼女がやたらと世話を焼くように彼も彼女にやたら世話を焼く。

 

黒ウサギ うるさいウサギ。ぶっちゃけ戦闘しているところを見たことないから本当に強いのか疑問に思っていたり。

 

ジン 覚悟の決まった子供。自分自身は覚悟を決めても実行に移せない部分があるので羨ましく思っている。

 

竜胆くんの趣味嗜好

 

好きなものは?

甘口カレー。ミルクとチョコは必須。

 

将来の夢は?

死にたい。

 

ノーネームについてどう思う?

変人の集まり。俺は変人ってか怪人。

 

好きなアニメは?

ガンダム。できればアナザー系統。UCは人が死にすぎるからそんな好きじゃない。

 

好きなラノベは?

ラノベ……?小説版仮面ライダーシリーズ、かな。

 

好きな子は?

いるかんなもん。いた、だ。

 

 

以下、超絶ネタバレ注意!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の正体は彼のいた世界や箱庭とはまた異なる世界の組織によって後天的に現在、未来、過去、異世界、に存在するあらゆる生き物の細胞と血液を合成させられて誕生した"アーティフィシャルキマイラ"と呼ばれる存在。

元々母親が特殊な生まれであるため、母親の血を色濃く次いでいた彼はいかなる生き物とも安定して混ざり合うことができる希少な存在。高町竜胆が本来有していた部分は0,1パーセントにすら満たず、タマモ曰く『元の人格でいられたこと自体が奇跡』。

なお、救出された当時三歳の彼の首輪には"Extend VEil"と彫られていたらしい。

 

"人類の罪(ア・ヒューマン・オブ・ギルティ)"

彼の持つ、後天的ながらも彼の原典とも言えるギフト。その正体は高町竜胆という名のキマイラそのもの。

当然、このギフトが消えるということは一パーセントにすら満たない人間性しか彼には残らなくなるので、これが消えるということは殆ど死んだも同然である。

更に、このギフトはあらゆる現在、過去、未来、異世界の生き物全ての情報が詰まっているため、竜胆が元々持っていた異世界知識から様々な武器の召喚も可能にしている。

ぶっちゃけ暴走してなければ全部これでいいんじゃね?っていうレベルで汎用性もあってチートクラスの強さ。

 

能力値("人類の罪"解放時)

 

筋力:EX

耐久:EX

敏捷:計測不可能(高すぎるスペック)

魔力:なし(実際は魔力が完全に呪力になった)

幸運:計測不可能(低すぎるスペック)

宝具:EX("人類の罪")

 

四巻後

玉藻の前の霊格消失によりギフト"玉藻の前"及び"呪術"が消失。玉藻の前より神格を授与したため、"太陽神の表情(アマテラスの顔)"を入手。

また、それに伴い"人類の罪"がコントロール可能となったため、ギフトネームが"人類の希望(ア・ヒューマン・オブ・ホープ)"に変化。

 

四巻後の詳細

タマモが神格の授与……正確には人の部分を丸ごと神に変えたため、人の部分が完全に消失した。そのため今の彼にあるのは99パーセントを超える獣の力と0,1パーセント未満の神の力を持つ、いわば微神獣と呼ぶべき存在となった。

だが、その0,1パーセント未満の神の力は元々英霊としての力が四億を超えるタマモのものなので、たったそれだけの神格で竜胆の人格を引っ張って"侵食"と"暴走"を止めることに成功した。

"侵食"の影響で自我を失う心配がなくなったためか、竜胆自身人を遠ざけることもなくなり、タマモに貰った形見として神格を捉えているので自殺願望も完全に消えた。

ただし、彼が人との関わりが苦手なことと幸薄なことは基本的に変わらないのでツンデレとカタチは変われど不幸なことだけは変わらないので何気ない発言が後々のブーメランだったり、耀がキスまでしたのに気づいてくれなくてイライラしたり、完全に乙女のそれである。

因みにやたらと外見幼女と幼女と仲良くなりやすく、最近ではロリコン疑惑まである。最近死に別れた双子の姉と再開してシスコンまで発覚した。しかもその双子の姉も見た目幼女である。因みに露骨なツンデレなので"ノーネーム"のメンバーにはソッコーで好きな人がバレている。

なお、狐だけに雪には強い……というか雪が大好きなのだが、昔ごんぎつねを読んで火縄銃がダメになった。

実は若干マゾの気があって頭のネジが飛んでると痛めつけられる度に悦ぶ変態になる。無論、普段はむしろ痛めつけられると泣いたり怒ったりするが。

あとやたら死にかけたり命の危機に瀕したりしてる。原作六巻時点で番外編含むと二巻のペスト戦、三、四巻の"人類の罪"の暴走、コラボ番外編の飢餓と失血、虚構の箱庭編でのリップとの殴り合いと、すでに五回死にかけている。

ぶっちゃけ君付けされるだけで他の誰からも基本女扱いされてる。本人はそれが嫌でそういうイベントがあると全力で引きこもっている。作者だって基本彼を男と見ていない。なんでこの男がこんなに可愛いかというと女だと思って書いてるからである。更に五巻以降簪も装備し女の子っぽさが更に上がった。

 

四巻後のギフト

"太陽神の表情(アマテラスの顔)"

◆タマモから譲り受けた竜胆自身の神格。タマモの物から竜胆の物となったため、神格の解放も自由に行えるようになった。

タマモが本来太陽神であるため、彼が神格を解放すると背中に灼熱の輪が現れる。しかし、豊穣神の神格も同時に存在するため、神格を解放するといつもの九尾と狐耳も現れる。以前のギフトの"玉藻の前"と"呪術"はここに統合され、"玉藻の前"は霊格ごと消えた。

ぶっちゃけ"玉藻の前"の消失で"狐巫女"の別名は消えたようなものだが、箱庭側からの認識は相変わらず狐巫女である。

"人類の希望(ア・ヒューマン・オブ・ホープ)"

◆"太陽神の表情"の加護によって微神獣と化した竜胆がコントロール可能になった"人類の罪"が変化した姿。

このギフトは竜胆の獣の一面を神の力がコントロールできる程度に発動することができ、身体のあらゆる部分を神話にすら現れない過去、現在、未来、異世界の獣の力すら再現することが可能である。それどころか、直接的に接触で付着した指紋や血液などからも細胞合成のサンプリングを行うことが可能で、高燃費、低性能ながらも直接接触した人物のギフトを使うことも可能。

また、竜胆自身"人類の罪"を完全に把握していないこともあってか、このギフトには未だ解放できないブラックボックスの部分が存在する。その一端として出ているのは上述した獣の力と異常な記憶能力。しかしこれはこの力のあくまで一端なので、本来のこのギフトが全開になれば神が相手だろうが簡単に舐めプで圧倒できる。

竜胆の一人称が時々俺達になるのは様々な細胞が独立していて竜胆はその細胞一つ一つを自分ではない別の獣の意思と捉えているからである。

また、彼は一説にこのギフト……というより"人類の罪"を保有しているが故に超絶不運体質であり、行く先々で(主に逆セクハラ)なにか不幸がある。なぜこのギフトの持ち主が不運体質を持つのかは一切謎。一説ではそもそもの彼の貧乏くじの的中率の高さが箱庭に舞台がシフトしたことによって不運の内容もハードになっているとも言われている。まあともかく彼は生まれ持ったものかこのギフトによるものなのかはともかく超絶不運体質なのは変わりない。

 

四巻以降の人間関係

 

十六夜 恩人。他人を避ける必要がなくなった今は十六夜の煽りに張り合ったりと悪友のような関係になっている。

 

飛鳥 関係は特に変わっていないが、完全なツッコミ役になった彼はいつ彼女の"威光"で無茶振りを要求されるかビビっている。因みに神格を顕現すれば通用しなくなるという考えには至っていない。

 

耀 耀が好きすぎて生きるのが辛い。話題に挙がっただけで狼狽するわ近づかれるだけで赤面するわで逆に距離をおくようになった。特にキスは決定的である。

 

黒ウサギ なんやかんやで経済面を支えてくれるのに感謝している。まあ竜胆の店が黒ウサギより利益を挙げているのだが。多分竜胆が本当の家族と十六夜以外で腹を割って話せる唯一の相手。

 

ジン 十六夜の支援もあるとはいえ、様々な方向で交渉を進めている彼を称賛している。自分には交渉力がないから羨ましいとも。

 

竜胆くんの趣味嗜好

 

好きな子は?

いきなりかよ!……い、いるわけないだってなんだその顔!あーそうだよいるよ好きなヤツ!

 

ロリコン?

なわけねーだろーが!小さいのが色々寄ってくるだけだ!……まあ、頼られるのは嬉しいけどさ。

 

それってつまりロリコン?

……殺すぞお前。

 

好きな子のいいところを挙げてくれませんか?

この問い方拒否権あるみたいだけど……ない?やっぱない?……俺の作った料理美味しそうに食うとことか、なんかあった時ずっと側にいてくれるとか。それからそれから(以下彼氏自慢する女そのもののためカット)

 

好きになった切っ掛けは?

いつまでこれ引っ張るんだよ!?……気づいたら好きだった。そんだけ。は?普通?こっちは真面目に答えたんだぞ!?

 

お姉ちゃんに一言!

漸く違う話題になった……ってこれ答えたらロリコンとかシスコンとか言われるオチだろ。んー……ま、生きてないけど、無事でよかったよ。

 

 

番外コラム 竜胆くんの不幸集

 

原作小説 YES!ウサギが呼びました!

1 プロローグの段階で家族全員死亡確定。

2 カレーが台無しになる。

3 神格の解放を行わざるを得なくなったせいで巨乳狐さんにご主人様と呼ばせているように思われる。

4 入浴中To LOVEる(本人はまったく興味ナシ)。

5 神格の解放を行ったせいで"人類の罪"の"侵食"が悪化。耀との仲がこじれて"サウザンドアイズ"のお世話に。

 

原作小説 あら?魔王襲来のお知らせ

1 ペストと一日喋った結果交渉の場に立ち会わせてもらえなかった。

2 仲のこじれた耀と暫く二人きり。

3 ツンデレの片鱗。

4 ペストに腹に風穴開けられて腕が一本吹っ飛ぶ。

5 そのせいで"人類の罪"が一気に侵攻。ペストを殺害。

6 だというのに二日で完治。化物。

7 治ったのにお祭りに行かせてもらえなかった。

 

原作小説 そう……巨龍召喚

1 ぶりっ子ぶって資金を稼ぐ。この上なくみじめ。

2 サラという名前に過去の感傷に浸った結果タマモと修羅場になりかける。

3 "人類の罪"の影響により五感消失。

4 "人類の罪"暴走。

 

原作小説 13番目の太陽を撃て

1 明かされる家族惨殺と孤独、それにより明かされる現在の性格設計。

2 "人類の罪"の暴走を抑えるためにタマモの存在が消える。

3 耀への好意を自覚したが、同時にツンデレが本格的に稼働する。

4 キスしたのに好意に気づいてもらえない。

 

箱庭家族コラボ編 狐と鴉と時々博愛主義者

1 いきなり異世界に転移し、約二週間飲まず食わずの生活。

2 奴隷売人によるスライム姦。

3 男娼にされかけた。

4 幼女にお姉さん呼ばわりされる。

 

箱庭家族コラボ編 少年達は普通の希望を夢見て玉砕!?

1姉の暴走を止めようとしたら姉共々異世界に転移、右腕をバジリスクの毒にやられたので切断したら失血死しかける。

2 故意ではないが男の顔面が彼のおっぱいに埋められた。

 

原作小説 降臨、蒼海の覇者

1 ツンデレ生活の始まり。

2 自分から裁判沙汰に巻き込まれに行く。

3 死に別れた双子の実の姉(年下)に自分の恥ずかしい過去を暴露されかける。

4 白夜叉に女性用水着の着用を強制される。

5 ポロリもあった。

 

虚構の箱庭編

1 レベル1スタート。

2 自分の思い描いた世界で耀にやりたい放題されたい放題される。

3 リップに着せ替え人形にされる。

4 目の前で仲間が三人人形にされる。

5 不可抗力の上にこうせざるを得なかったものの、異世界の耀を自ら手に掛ける。

6 四人(うち少なくとも一人は大食い)に一日中奢り財布が一人きりのクリスマス状態。ついでに店の資金にまで影響を及ぼし赤字になる。

 

イメージソングFry Me To The Moon

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Re;store Is Zero for Extreme

 

 



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無敵の転生者か……無敵と最強はどっちが強いんだろうな?
くろすおうばあ! 狐と無敵は出会うそうですがなにか?


今回はクロスオーバー!やったね!

ここハーメルンで『問題児たちが異世界から来るそうですよ?〜無敵の転生者〜』の天月時雨くんとペットのヒョウちゃんが登場!

ヒョウちゃんかわいいよヒョウちゃん。

なお、この手の番外編の恒例行事?時系列一切無視は今回も働いているのでご注意を!




その日、高町竜胆は朝御飯の支度をしていた。

 

"ノーネーム"の食事は彼の方針で朝はエネルギーを付けるべきだということで多めになっている。

 

この件について、某お嬢様(過去形)は語る。

 

「彼の料理に口出しすることはそれ即ちコミュニティの崩壊に繋がるわ」

 

朝は少なめ……恐らくこれは昼食、夕食と共に一般女子の願望とも言える。

 

誰だって肥満体質にはなりたくない。

 

しかし、彼の料理の量はあろうことか朝多めだ。

 

曰く、「朝は多め、昼は適度に、夜は抑えて。これが人間の健康状態を保つ」そうだ。

 

実際、これを採用して以降は子供たちがいつもより動きが良くなっている。

 

初めは渋っていた女子勢も正太郎コンプレックス……即ちショタコン大喜びの涙目+上目遣いに折れた。それはもう、見事に。

 

本人は意識していないだろうが、実際彼の身長は陣羽織のせいで大きく見えるだけで年下の飛鳥や人間で言う第二次成長期真っ盛りの黒ウサギよりも低く、並んでいると耀といい勝負ができそうなくらいなのだ。

 

それでも、流石に問題児最年少の耀よりは大きいが。

 

「……味噌汁はこんなところか。昨日の残りの肉じゃがでも使おう───」

 

か、と言ってお鍋の蓋を開けようとした時、正体不明の青年とウサギっぽい人っぽいのがいた。

 

「───」

 

そっと、蓋を閉めた。そしてついでに剥がせないお札を貼り、漬物石を乗せた。

 

「───さて、朝から肉じゃがはいけないよな。だったらなににしよう「出しやがれコラショタッ子!」……ちっ、強力な札に加えて漬物石に重力を加えた筈なんだが」

 

青年は蓋を外し、隣にいるウサギ?共々肉じゃがまみれで出てきた。

 

「この程度で俺を止めれると思うなよ」

 

「……心底どうでもいいがどいてもらえないか?朝食くらいはやるから、人の家に不法侵入した挙句肉じゃがの詰まった鍋の中にいた理由を教えてほしいんだが」

 

◆◇◆

 

「ふむ、かいつまんで言えば、神様転生をそこのペットだったウサギ共々して、チートにこの箱庭とはまた違う箱庭ライフをしていて『違う箱庭世界行こうぜ』的なノリになった……ということか」

 

「まあ、簡単に申せばそうなりますね」

 

正直な。俺はこのお気楽者を好きにはなれん。

 

説明全部ペットに丸投げして自分は居眠りを決め込む。その辺がヤケに子供っぽくてイラっとくる。

 

こらそこ、同族嫌悪じゃね?とか言うな。

 

「ん?……話終わったか……?」

 

「だいたいは話終えましたよ、マスター」

 

「こちとら貴様のフリーダムっぷりに辟易してる」

 

「そうかそうか。んじゃメシくれ」

 

「……貴様の境遇を知らなく、かつ俺が朝食をやると言わなければ全力で叩きのめしていた。如何に『無敵』と言えどどんなものにも上がある。『最強』でも『チート』でもそれは同じだ。

貴様のペットに感謝しておくんだな」

 

「ハッ。そんな境遇で『孤独』であり続けようとするお前もよっぽどだ」

 

……俺の境遇を語った覚えはないのだが。俺と同じか。互いが互いを直感的に理解したのか。あるいは『人類の罪』の在り方に気づいているのか……

 

「そこで大人しくじっとしてろ。黒ウサギにお前のことを知られると面倒だ。

あれは俗に言うキレ症だからな」

 

「おー。大人しく待っとくとするよ」

 

◆◇◆

 

「なんでお前がここにいる」

 

「いやなに、お前の料理が絶品だったから思わず。

鯛も一人はうまからずって言うだろ?」

 

「ごめんなさい。私ではマスターを止められません」

 

「ああ、うん。なんかキミこういうの逆に乗せられそうな気がするんだけど」

 

いきなり見知らぬ二人と漫才をしている竜胆を見れば"ノーネーム"一同が唖然とするのも無理はない。何故なら彼はコミュニティの中でも他人……特に大人と会話をしようとしない。

 

あるとすれば、面倒見がいいので年下の子供とエロい従者くらいのものだ。

 

「誰ですかその人」

 

従者の狐さんからのコメント。

 

「俺達とは違う可能性を生きる"ノーネーム"……だそうだ」

 

ご主人の狐さんからの返信。

 

「そんなことはどうでもいいのです」

 

狐耳と尻尾がモフっと生えた従者は竜胆の肩を掴み、トチ狂ったような表情になった。

 

「私はそこの女のことを聞いているノデス……誰ですかアレ。これ以上フラグ乱立させたらいくら私でも殺しかねません。

というかウサ耳は黒ウサギさんだけで十分いやむしろケモノ枠は私だけで事足りるんですよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

「わけのわからんことを言うな。フラグだのケモノだの。俺にはそういうことをした覚えもそういう嗜好もない」

 

「此方側に来て早数ヶ月!その間に墜とした女性はメインキャラとサブキャラで合計五人!モブを含めると数百人以上!メインとサブにはそのうちロリっ子が三人!

神ですか貴方様は!墜とし神なんですか!?」

 

狂いすぎてやたらメタい発言が飛び交う。

 

「貴方様は普段どのようにお過ごしになられているのかチェックしたいです!」

 

そう言われると竜胆は正直に普段の生活を語り出す。

 

「まず朝起きて農場の様子を見に行くとだいたい麦畑にペストがいるな。毎日御苦労って思って頭を撫でる。

次に朝食の仕込みをしてるとリリが降りてくる。まあこれはいつも一緒に料理してるからな。他愛ない話をしてるとリリは喜ぶから喋ってる。

全員に料理を振舞った後は子供達に感想を聞いて部屋で新しい食材について考える。そうしているとよくサラ殿とサンドラから連絡が届く。

そして昼食と夕食の準備が終わったらコミュニティの庭で一番昼寝の穴場になってる場所に行く。するとよく耀がいるから一緒に寝てて、帰って食後はお前と一緒にいる」

 

話終えて「これでいいか?」と抗議の目をよこす。

 

それを聞いて"ノーネーム"全員……子供にまで呆れられていた。

 

「ってか、そもそもこいつら含めて朝食振る舞うだけでどうしてこうなる?」

 

「そ・れ・は・ご主人様が朴念仁の鑑、キングオブ朴念仁だからですよおおおお!!

自分の行動の結果を考えなさい!いつも女性関連トラブルでしょうが!」

 

「失礼なことを言うな。男性交友だってある」

 

「なにズレたこと抜かしちゃってんですかああ!?男性との交友があっても起きるトラブルは常に女性関連!私もう我慢の限界だ殺すよし殺す殺す殺す殺す殺すこ、コロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロ───」

 

そこでオーバーヒートを招いたのか、ボン!という音を立ててタマモは一切動かなくなった。

 

竜胆は頭を掻きながら、後ろにいる時雨とヒョウに向き直り、一言。

 

「……すまなかったな。うちのエロ狐が」

 

「多分貴方の朴念仁が全面的に悪いと思いますよ?」

 

その日の朝は一名欠席、二名追加で朝食を行ったのだった。






やっぱし他の作品のキャラクターさんの口調とか難しいね!

お互いペットがいる者同士変に気が合わなきゃいいですけど……


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くろすおうばあ! 無敵と罪の……?



終わったと思いました?まだだ!まだ終わらんよ!

……まあ、あれで終わったらすっげえ後味悪いんですけど




「……おいコラ無敵」

 

「なんだショタッ娘?」

 

「そのショタッ娘とかいうのをやめろ。俺がおかしな性別のようだ。

……それより、どうして俺達は戦っている」

 

「あぁ?んなの……お前が強そうだからだよッ!」

 

下手をしたら……いや、下手をしなくても十六夜越えてますとでも言わんばかりのパンチを竜胆はいなす。

 

そう……なんか知らんが、突然「ギフトゲームしようぜ」的な展開になっていたのだ。

 

『ギフトゲーム名 "罪の権化"

 

プレイヤー:天月時雨

 

ゲームマスター:人類の罪

 

勝利条件:己が力を持ってしてその罪を打ち砕け

 

敗北条件:なし(降参、もしくは死亡はゲームマスターの勝利とする)

 

ゲームマスターとしてこのギフトゲームが公正で不公平であることを認める。"狐巫女 印"』

 

「だいたいだな……勝手に俺をゲームマスターにしてゲームを始めるな。しかもなんだ、この狐巫女って。

完全に俺の箱庭での呼称じゃねえか……!」

 

「はっはっはっ!似合ってるじゃないか!」

 

「てめぇ、ブチ殺すぞオラァ!」

 

まるで強さの計測装置がどんどんパワーのインフレで役立たずになっていくあれのような戦いを繰り広げている二名。全員唖然。

 

「お、おかしいですね……マスター、かなり本気でやっちゃってますよ?」

 

「おかしいのはそちらの方でございますよ。私のご主人様が普段は忌み嫌って使いたがりもしない"罪"を使いかけているんですよ?」

 

互いの主人のことをよーく知ってる従者×2は一際唖然。というか二人はいつの間に隣で観戦するような仲になったのだろうか。

 

さっきまでタマモはヒスってたのに。

 

「面白いぞ面白いぞ!無敵を出しかけてまだ対応するのかよ!」

 

「こっちは全く面白くない……!使いたくもない技を使わせかけてんだぞ……」

 

「それでも使うってことは負けたくないってことだろ?」

 

「フッ……まあな!」

 

拳を互いに打ち出す速度はほぼ互角───否、ほんの少し、この打ち合いの中ではほんの少しだが、竜胆の方が速い。

 

だがそれでも決定力に欠ける。彼のギフトの性質上、ほぼ無敵と言える相手と対峙した場合は必ず長期戦になる。

 

(くそっ……これだから神様転生ってのは……!強さのインフレが激し過ぎなんだよ……)

 

それでも、相手が生物であれば"彼ら"が負けることはない。

 

それが彼の───高町竜胆の存在というものだからだ。

 

「ハッ!」

 

「そらよっ!」

 

二人の蹴りが激突する。力がほぼ互角であるこの蹴りが生み出す硬直時間は、彼らにとって最高のアタックチャンスとなった。

 

「オラァ!」

 

「ふっ!」

 

放った拳はそれぞれの顔面を捉え、顔が外れそうになる衝撃が二人を襲う。

 

だが、均衡したままの脚がまだまだ二人を引き剥がさない。

 

「おおおおおお!」

 

「ドラァァァァ!」

 

ゴリッ、という音が互いの頭から響く。

 

ヘッドバッドの影響で二人は額から血を流し、均衡していた脚も離れる。

 

「ちぃ……!呪法・炎天!」

 

竜胆は呪術札を時雨にむけて構える。すると彼の周囲の大気が擦れあい、爆発を起こした。

 

「こっざかしい!」

 

時雨はその爆発を掻い潜り、一気に竜胆へ接近していった。

 

「ぶっつぶれろショタッ娘───ってうぉわ!?」

 

時雨は竜胆に拳を振るおうとし、咄嗟に全力で後ろに下がった。

 

先程まで時雨の頭があった場所には鋭く尖った爪があり、その爪は竜胆が繰り出していた。

 

「ふむ……全力で避ける、か。

如何に身体が如何なる攻撃を受けなかろうが、内臓は鍛えようがないようだな。加えて、やはり脳を狙ったら今まで以上の反応を見せた。脳みそが潰れれば実質死んだことになるのは如何なる生き物も同じだからな」

 

「し、ショタッ娘!てめえ可愛い顔してなにえげつねえこと言ってんだ!?」

 

「フッ、無敵生物の殺し方を検討していたのさ!」

 

「上等だ!本気で"無敵"になってやらぁ!」

 

「だったら俺も出し惜しみはしない!」

 

ボウッ、という音と共に二人の空気が更に変わる。いや、むしろ竜胆に至ってはその姿に変化をもたらした。

 

茶色の髪は黒く染まり、アメジストの瞳は紅くなる。全身の服装は撤廃され、代わりに身体中を黒い毛が覆う。

 

黒い翼と黒い九尾はこれほどまでにない恐怖感を与え、彼の身体は獣そのもののようになった。

 

「せ、戦闘力一億、二億、三億……まだまだ上がっています!?」

 

タマモがどこかで見たことのある装置を装着しながら切羽詰まっている。

 

……本当に慌ただしそうにしているのに、ふざけているように見えるのは何故だろうか。

 

「まだまだ増えて……無量大数!?」

 

次の瞬間、ス◯ウターはボンッ!という音を立てて壊れてしまった。

 

「……おいおい、無敵だってのに、その上があんのかよ?」

 

「言ったろう。無敵と言えど生き物なら俺には勝てないってな」

 

「……ハッタリじゃねえみたいだな……」

 

「人間やめて吸血鬼になっても、生き物という概念で存在しているなら、な」

 

「チッ……やめだやめだ。強い奴と戦えるのは嬉しいが、勝算が一厘もない奴と戦えるかっての」

 

「賢明な判断だ。流石に無敵より上にいったとなると、俺の意識が保てるかもわからないしな」

 

◆◇◆

 

戦闘後……

 

「ったく……神ってのもアテになんねえな……無敵ったのによ……」

 

「神ほど非力で信じにくいものはないさ。なんせ、人のやってる事を上から見ることしかできないのが大抵だからな。

……まっ、俺の知り合いの神様達はそんなことなかったがな」

 

さらっと爆弾発言をする少年。

 

「……お前も一度死んだクチなのか?」

 

「死んだか否か、と聞かれれば一度死んだことになるな。

だがお前と同じだ。死んだからこそ得たものも山のようにある。……この世界にいるのも、死んだからこそだしな」

 

「お?もしかして俺達似た者同士か?」

 

「かもな」

 

ニコニコと面白そうに会話をする二人。もう二人ともいい笑顔をしていてなんか怖い。

 

「さて……流石にこれ以上ここにいるのはマズイんじゃないのか?異なる世界にいつまでもいつづけたら、その世界の本来あるべき姿がメチャクチャになる可能性がある」

 

「そりゃ大変だな。ま、楽しめたからいいけどな」

 

「楽しんでくれてなにより。いつか俺もそっちに行かせてもらうさ」

 

「おうよ、そんじゃあな」

 

その会話を最後に、天月時雨とヒョウは元の世界へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………肉じゃがの鍋に入って。

 

 




なんやこのオチ!そう思った方は手を上げましょう。

大丈夫、もしそうだったとしても貴方は悪くない。

『くうはく』さんありがとうございました!またこういう機会があれば嬉しいです!


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ウサギに呼ばれた俺は異世界に。まあ、異世界とか慣れっ子だけど。
一話 INVOKE


はい、どうも。問題児たちと最後の幻想風魔道士が異世界から来るそうですよ?のかっこうむしです。

絶滅したと思いました?いいえ、まだ生きてます。

主人公に関しては真・ゼルガーの部屋にて投稿してあるもう一人のボク(天上天下)の設定を基準としています。一部展開などがわからなければそちらをご覧ください(ちゃっかり宣伝)。

では、はじまりはじまり〜。


その日、高町竜胆は最悪の気分だった。

 

その理由は竜胆が親と兄弟姉妹を失う日の夢を見てしまったからだ。

 

家族が全員死んだ日のことは何時だって鮮明に思い出せる。

 

家族が死に、自分だけ生きた時は周りの人間には死神とまで呼ばれた。

 

勿論、親の友人や、親しい仲の人達は手を差し伸べてくれた。

 

だが、竜胆はそれを全て拒否し、友人の家がどれだけ全力で探そうと見つからないような場所に住んでいた。

 

一応、親に貰った命であるからには生きることは義務であると考える彼は最低限の生活はしている。

 

だが時折、その鮮明すぎる映像が夢にまで出て来て、彼にその日生活というものを忘れさせてしまう。

 

そんな中、偶然彼は見つけた。

 

目の前にある封筒を。

 

なんとなく、気になったのでそれを見る。それには、見事な行書体で「高町竜胆殿へ」と書かれていた。

 

「なんだ……これ」

 

自分宛の手紙?"あの家"が総力を挙げても見つけられないような場所に?

 

竜胆はそれに疑問を感じながら、封筒を開けた。

 

そこには、こう書かれていた。

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能(ギフト)を試すことを望むのならば、己の家族を、友人を、財産を、全てを捨て、我らの箱庭に来られたし』

 

「……なに、これ───ッ!?」

 

竜胆はその手紙が突然光出したことに、驚愕した。

 

次に瞳を開けた瞬間、竜胆は空に放り出され、目の前の景色は完全無欠に異世界だった。

 

◆◇◆

 

現在位置、空。後方から三人+一匹。男一人に女二人、オス一匹。そのうち一匹は現在絶叫を挙げてる。……煩い。

 

これで死ねるなら仕方ないな、と思いながらも下方を見ると、そこには緩衝材のように水膜が幾重にもある。

 

「……どうやらカミサマは、俺にまだ死神引退させてくれないみたいだな……」

 

そんなことを呟きながら、俺は着水した。

 

◆◇◆

 

「し、信じられないわ!まさか問答無用で引きずり込んだ挙句、空に放り出すなんて!」

 

……尻尾は、出てないな。耳も。問題ない。

 

「右に同じくだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。

石の中に呼び出された方がまだマシだ」

 

「……いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

 

「俺は問題ない」

 

「そう、身勝手ね」

 

男と長髪の女はフン、と互いに鼻を鳴らし、服の端を絞った。少し遅れ、短髪の女は猫を抱えて服を絞る。

 

「ここ……どこだろう」

 

「さあな。まあ、世界の果てみたいなのが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?」

 

確かにそんなものは見えた。まあ、そんなの俺にはどうでもいいことなのだが。

 

金髪の男は軽く髪を掻き上げて、

 

「まず確認しておくが、もしかしてお前らも変な手紙が?」

 

「そうだけど、まずはオマエって呼び方を訂正して。

私は久遠 飛鳥(くどう あすか)よ。以後は気をつけて。

それで、そこの猫を抱えている貴女は?」

 

「……春日部 耀(かすかべ よう)。以下同文」

 

「そう、よろしく春日部さん。じゃあ、そこの可愛らしい姿をした貴女は?」

 

「俺は男だ……それに、名乗る必要性なんてない」

 

純然たる事実だからな。

 

「女の頼み事くらい、聞いてやったらどうだ?」

 

これ以上ここにいる必要性を感じなくなったので、その場から去ろうとすると、金髪の男が俺の肩を掴んできた。

 

……ほう、面白い。常人なら今ので何本か折れてるな。

 

「……気が変わった。その要求を了承しよう。

俺は高町竜胆。関わった人間は死ぬ自称死神だ」

 

「随分堅苦しい言い方だな。息苦しくねえのか?」

 

「少なくとも、誰かと馴れ馴れしく過ごすよりはマシだ。

それより、名乗らせたからには名乗るのが筋合いじゃないのか?」

 

「ヤハハ、そりゃそうだ。俺は逆廻 十六夜(さかまき いざよい)。野蛮で凶暴で快楽主義と、三拍子揃った駄目人間なので、用法と用量を守った上で接してくれよ、死神サン」

 

「……覚えておこう。取扱説明書でもくれたなら、な」

 

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、死神サン」

 

心からケラケラ笑う逆廻十六夜。

 

傲慢そうに顔を背ける久遠飛鳥。

 

我関せず無関心を装う春日部耀。

 

興味なさそうにする高町竜胆。

 

そんな彼らを物陰から見ている人物が一人。

 

(うわぁ……なんか問題児ばっかりみたいですねぇ……)

 

彼らを召喚した張本人、素敵なウサミミがチャームポイントの黒ウサギは召喚しておいてアレだが、彼ら、特に竜胆が協力する姿は客観的に考えられなかった。

 

◆◇◆

 

十六夜は苛立たしげに言う。

 

「で、呼び出されたのはいいが、なんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とやらの説明をする奴でもいるんじゃねえのか?」

 

「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」

 

「……この状況に対して落ち着きすぎてるのもどうかと思うけど」

 

「心底どうでもいいな」

 

四者四様の感想を述べる。まあ、竜胆に関してはただの独り言に近いが。

 

「そもそもだ。お前らも気づいているんならそこに隠れてる不埒者を拷問して尋問すればいい」

 

竜胆が黒ウサギの隠れている場所に視線を動かす。それに呼応するように四人の視線が黒ウサギに集まった。

 

「なんだ。貴方達も気づいていたの?」

 

「当然、かくれんぼじゃ負けなしだぜ?」

 

「あんなもの、ただの騒音にすぎん」

 

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

 

「……へえ?面白いな、お前ら」

 

十六夜は軽薄そうに笑うが、目は笑っていなかった。

 

その究極はやはり竜胆で、「出て来なければ殺すぞ」とでも言わんばかりだった。

 

「や、やだなあ、御四人様。そんな狼みたいな怖い目で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?

ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。

そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」

 

「断る」

 

「却下」

 

「お断りします」

 

「なら勝手に死ねばいい」

 

「あっは♪取り付くシマもないですね♪

って最後の酷すぎません!?」

 

「真の英雄は眼で殺すと聞く。なら俺の視線は人を殺せるか試してみたいな」

 

バンザーイ、と降参のポーズ。

 

しかし、その眼は冷静に四人を値踏みしていた。

 

(肝っ玉は及第点。この状況でNOと言える勝ち気は買いです。

まあ、特に最後の方が目立って扱い辛いのが難点ですけども)

 

黒ウサギはおどけつつ、四人との接し方を考えていると……

 

「えい」

 

「フン」

 

「フギャ!」

 

耀と竜胆が黒ウサギの耳を全力で引っ張った。

 

「ちょ。ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵ミミを引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」

 

「好奇心の成せる技」

 

「人を値段で換算するようなその眼が気に入らないだけだ」

 

その後、ウサミミが本物とわかった十六夜と飛鳥も全力で引き抜きに掛かったとか。

 

 




ご覧いただきありがとうございました。

またいつ私のガラスなハートがギガドリルブレイクするのかは定かではありませんが、どうか生暖かい目で、そんな目で私を見ないで!

……失礼、どうか暖かい目で私を見守ってくれると幸いです。


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二話 鬼帝の剣

突発的な始まり方も多々あるので、少し気をつけてもらえるとうれしいかなー、なんてしがない私は思ったりもするので。


この世界は面白いらしい。まあ、俺には正直心底どうでもいい。

 

どうやら、この世界にはギフトゲームと呼ばれるこの世界の法そのものと呼べるようなものがあるらしいが……その辺どうでもいい。

 

なんか、十六夜がその辺の質問の締めくくりに「この世界は面白いか?」という問いに黒ウサギは「YES」と即答。

 

ま、その辺どうでもいいが。

 

んで、現在俺は黒ウサギのコミュニティとかいう、まあ家族みたいなののリーダーのジンとかいう子供に箱庭の案内をされている。

 

因みに黒ウサギは突然「世界の果て見てくるぜ!」とか言ってどっか行った十六夜を追っかけるために急に髪を青から緋色に染めて猛スピードで駆け抜けて行った……が、多分十六夜に追いつくのは少なくとも半刻はかかるだろう。

 

で、現在食事中。

 

現在、春日部と久遠、ジンに春日部の抱えているジジネコが注文したので、後は俺だけ。

 

まあ、貰えるもんは貰っとこう。

 

「甘口カレーとミルク。カレーに砂糖入れといてください」

 

「あら、可愛い注文をするのね」

 

「意外」

 

「ほっとけ。だいたいそこの春日部の抱えてる三毛猫だってネコマンマとか、ありきたりすぎだろ」

 

俺がそう呟くと全員、特に春日部と三毛猫が驚愕していた。

 

「三毛猫の言葉、わかるの?」

 

「動物ならな。多分幻獣の類も行ける。

そこの猫の店員もだろ?」

 

俺が注文をとっていた猫の店員に問う。

 

「はい!そうですよ。お嬢さんはよくわかってらっしゃいますね」

 

「男ですので。お嬢さんという呼ばれ方は気に食いませんね」

 

「あら、失礼しました。でも本当に可愛らしい容姿をしてらっしゃるので」

 

「……ほっといてください」

 

そのまま俺はむすっとして席に座る。

 

(なんか、むすっとしてるのが余計可愛らしく見えてしまうわ)

 

(想像以上)

 

なんだか向けられたくない視線を向けられている気もするが、気にしない。

 

「それよりだ。春日部もだろ?だいたいの生物なら会話できるんじゃないか?」

 

「ええと……ペンギンもいけたから、きっと大丈夫」

 

「だ、そうだ」

 

「そう……二人には素敵なギフトがあるのね。羨ましいわ」

 

春日部は恥ずかしそうに頭を掻くが……俺としては正直こんなの呪縛(カース)以外の何物でもない。

 

「久遠さんは」

 

「飛鳥でいいわ。よろしくね春日部さん、高町君」

 

「竜胆でいい」

 

「う、うん。飛鳥はどんな力持ってるの?」

 

「私?私の力は……まあ、酷いものよ。だって」

 

「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュ"名無しの権兵衛"のリーダー、ジン君じゃありませんか。

今日は御守り役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

 

久遠がなにか言おうとした時、下衆で無駄に上品な声が聞こえた。

 

ジンはまるでうざったいとでも言わんばかりに顔を顰めた。

 

「ぼくらのコミュニティは"ノーネーム"です。"フォレス・ガロ"のガルド=ガスパー」

 

「黙れ、この名無しめ。聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいじゃないか。

コミュニティの誇りである名と旗印を奪われてよくも未練がましくコミュニティを存続させるなどできたものだ。───そう思わないかい、お嬢さん方に紳士殿」

 

紳士殿?俺が?面白い冗談だ。

 

っつーか、よくあんな着飾ったようなピッチピチのタキシード着れるな。逆に尊敬するわ。

 

ガルドとかいうエセ紳士は俺と春日部の前にある空席にどかっと座った。

 

……よく折れないな。これも箱庭の技術か?あの家の技術じゃあるまいし。

 

「失礼ですけど、同席を求めるよならばまず氏名を名乗った後に一言添えるのが礼儀ではないのかしら?」

 

「おっと失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ、"六百六十六の獣"の傘下である」

 

「烏合の衆の」

 

「コミュニティのリーダーをしている、ってマテやゴラァ!!

誰が烏合の衆だ小僧オォ!!!」

 

……ふむ、どうやら二人は険悪的な仲のようだな。それより、だ。

 

「少し失礼」

 

俺は険悪的な二人を遮るように手を上げる。

 

「詳しいことは呑み込めないが……紳士、ガルド殿、と言ったな。

そのガルド殿とジン殿が険悪な仲なのは承知した。

それを踏まえた上で、二人に質問しなければならないことがある」

 

俺は鋭く睨む。が、睨む対象はガルドではなく、

 

「ジン殿。貴方が俺達を"異常な程に積極的に誘おうとしている"貴方達のコミュニティの現状を教えてもらいたい。

俺達が新たな同士として呼ばれたのなら……それ相応の権利はあると思われるが、違うか?」

 

ジンは少し困ったように言い淀む。対してガルドは面白いとでも言わんばかりにニヤニヤしている。

 

「成る程、確かにそれは的を射ていますね。しかし彼はそれをしたがらないでしょう。

よろしければ、この私が"ノーネーム"のコミュニティを客観的に説明させていただきますが」

 

ふむ、これはだいたい想像通りだな。ジンは俯いて黙り込んでいる。

 

「その旨を由としましょう。話してください。ガルド殿」

 

「承りました。まず、コミュニティとは読んで字の如く複数名によって構成される組織の総称です。

受け取り方は種によって変わり、人間の場合は家族とも組織とも、国とも言い得ます。幻獣は群れとも言えます」

 

「それはそうでしょうね」

 

「はい、ご確認までに。そしてコミュニティは活動をするのに旗印と名が必要不可欠。特に旗印はコミュニティの縄張りを主張するもの。

この店にも大きな旗が掲げられているでしょう?あれがそうです」

 

ガルドはカフェテラスの店頭にある六本傷が描かれた旗を指す。

 

「ふむ……確かに。旗とは、俺達が住んでいた世界における身分証みたいなものか……」

 

「そうですね。その認識が正しいです。

コミュニティを大きくしたければ、その土地等を賭けてギフトゲームを行います。事実、私のコミュニティもそうして大きくなっていきましたから」

 

ガルドは一応、とでも言うように、しかし腹の底は自慢するように自分のピッチピチタキシードの胸ポケットについているそれを見せる。

 

「……見たところ、この辺りの店などは貴方のコミュニティが多くを占めていますね」

 

「ええ、残念な事にこの店のコミュニティは本拠が箱庭の南側にありますので手出しできませんが、この二一○五三八○外門付近で活動可能な中流コミュニティは全て私の支配下です。

残すは本拠が他区か上層のコミュニティと───奪うに値しない名もなきコミュニティぐらいです」

 

クックッ、と下衆い笑い声を出すガルド。

 

なるほど、つまりノーネーム(名無し)とはそういうことか。

 

「さて、ここからが貴方達のコミュニティの問題。

実は貴方達の所属するコミュニティは数年前まで、この東区画最大手のコミュニティでした」

 

「正直に言ってしまえば意外ですね」

 

「とはいえ、リーダーは別人でしたがね。ジン君とは比べようもない、実に優秀な男だったそうですよ」

 

ガルドは今度は心底つまらなさそうに言う。自分のこと以外興味ナシ、か。

 

まあ俺は自分のことも含めて基本的に興味ナシだけど。

 

「彼は東西南北に別れたこの箱庭で、東の他に南北との親交も深かった。

いやホント、私はジンのことは毛嫌いしてるんですけどね、これはマジですげえんですよ。

南側の幻獣王格や北側の悪鬼羅刹が認め、箱庭上層部に食い込むコミュニティだったのは、嫉妬を通り越して尊敬に値します。

まあ、先代は、ですがね」

 

「………」

 

「人間の立ち上げたコミュニティではまさに快挙と言える数々の栄華を築いてきたコミュニティはしかし!

……彼らは敵に回してはいけないモノに目をつけられた。そして彼らはギフトゲームに参加させられ、たった一夜で滅びた。

ギフトゲームが支配するこの箱庭の世界、最悪の天災によって」

 

「「「天災?」」」

 

俺と春日部、久遠は思わず同時に聞き返した。それほどのコミュニティを滅ぼしたのが、ただの天災なのはあまりに不自然だったからだ。

 

「これは比喩にあらず、ですよ。

彼らは箱庭で唯一最大にして最悪の天災……俗に"魔王"と呼ばれる者たちです」





あの家、とかそういうのはあんまりお話に干渉しないんで、気にしないでくださいね。

詳しく知りたいのなら 真・ゼルガーの部屋に行ってください。


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三話 鳥の歌

こんにちわ!

この前タグの意味がわからないという質問もらっちゃいました!失念。

……まあ、今現在イミフなタグは後々明かされるので、突っ込まないでくれるとガラスのハートな私は嬉しいです!




「なるほどね。だいたい理解したわ。つまり、魔王というのはこの世界における特権階級を振り回す神様etc.を指し、ジン君のコミュニティは彼らの玩具として潰された。そういうこと?」

 

久遠はガルドの説明を聞き終え、一応最後の確認とばかりに再度聞き返す。

 

「そうですレディ。神仏というのは古来、生意気な人間が大好きですから。

愛しすぎた挙句に使い物のならなくなることはよくあることなんですよ」

 

ガルドはカフェテラスの椅子の上で大きく手を広げ、皮肉そうに笑う。

 

「名も、旗印も、主力陣の全てを失い、残ったのは膨大な居住区だけ。

もしもこの時に新たなコミュニティを結成したのなら、前コミュニティは有終の美を飾っていたんでしょうがね。今や名誉も誇りも失墜した名もなきコミュニティの一つにすぎません」

 

「確かにそうですね。そこで終わっていたのならどれだけよかったのか」

 

「そうでしょう。そもそも名乗ることを禁じられたコミュニティに、一体どんな活動ができますか?

商売ですか?

主催者ですか?

しかし名もなき組織など信用されません。

ではギフトゲームの参加者ですか?

ええ、それならば可能でしょう。では、優秀なギフトを持つ人材が、名誉も誇りも失墜したコミュニティに集まるでしょうか?」

 

「そうね……誰も加入したいとは思わないでしょう」

 

「そう。彼は出来もしない夢を掲げて過去の栄華に縋る恥知らずな亡霊でしかないのですよ」

 

ピッチピチのタキシードが破れんばかりで品のない笑い声をあげる。

 

ジンは顔を真っ赤にして両手を膝の上で握りしめていた。

 

「もっといえばですね。彼はコミュニティのリーダーとは名ばかりで、殆どリーダーとして活動はしていません。

コミュニティの再建を掲げてはいますが、その実態は黒ウサギにコミュニティを支えてもらうだけの寄生虫」

 

「ま、ガキだからな」

 

「……そう。事情はわかったわ。それでガルドさんは、どうして私達にそんな話を丁寧にしてくれるのかしら?」

 

久遠は含みのある声で問い、ガルドもそれを察して笑う。

 

「単刀直入に言います。もしよろしければ、黒ウサギ共々、私のコミュニティに入りませんか?」

 

「な、何を言い出すんですガルド=ガスパー!?」

 

「黙れジン=ラッセル。そもそもテメェが名と旗印を新しく改めていれば最低限の人材はコミュニティに残っていただろうが。

それを貴様の我儘でコミュニティを追い込んでおきながら、どの顔で異世界から人材を呼び出した」

 

「そ……それは」

 

「なにも知らない相手なら騙し通せると思ったか?その結果、黒ウサギと同じ苦労を背負わせるってんなら……こっちも箱庭の住人として通さなきゃならねえ仁義があるぜ」

 

ふーん……そんなに崖っぷちなのか。ジンのコミュニティ。食後に恥を忍んで頼むとでもおもったんだけど……

 

「……で、どうですか御三人様。返事はすぐとは言いません。

コミュニティに属さずとも、貴方達には三十日間の自由が約束されます。一度、自分達を呼び出したコミュニティと私達のコミュニティを視察し、十分に検討してから───」

 

「結構よ。だってジン君のコミュニティで私は間に合ってるもの」

 

は?と驚くジンとガルドを尻目に、久遠はなにもなかったように紅茶を啜る。

 

「春日部さんと竜胆くんは今の話しをどう思う?」

 

「別に、どっちでも。私は箱庭に友達を作りに来ただけだもの」

 

「心底どうでもいい」

 

「あら、春日部さんは意外ね。じゃあ私が友達一号に立候補してもいいかしら?

私達って正反対だけど、意外に仲良くやっていけそうな気がするの」

 

久遠はやや気恥ずかしそうに髪を弄りながら問う。

 

春日部は少し無言で考え、小さく笑って頷いた。

 

「……うん。飛鳥は私の知る女の子とはちょっと違うから大丈夫かも。

竜胆は?」

 

俺に急に話をふっかけるな。

 

「俺はノーネームに入らないかもしれないぞ?」

 

「他のコミュニティでも友達がいるのはいいことだと思う」

 

「……先に断っておくが、死神って自称する通り、関わった奴は片っ端から危ない目に会うぞ?」

 

「そんなの、起こってからの問題」

 

「……わかったよ。じゃあ春日部、俺はお前の友達二号だ」

 

俺が呆れたように言うと、何故か春日部はむすっとしていた。

 

「……友達って、名前で呼ぶものじゃないの?」

 

……そうなのか?いや、だとしたら、どうして久遠は「春日部さん」でOKだったんだ?

 

まあ、言ってもややこしくなるだけだし、別にいいか。

 

「……耀。これでいいか?」

 

「うん」

 

リーダー二人をそっちのけで会話をしていたら、まあガルドはわかってて無視したんだが、それを取り繕うように大きく咳払いをした。

 

「失礼ですが、理由を教えてもらっても?」

 

「だから、間に合ってるのよ。竜胆くんは知らないけど、春日部さんは聞いての通り友達を作りにきただけだから、ジン君でもガルドさんでも構わない。そうでしょう?」

 

「うん」

 

「そして私、久遠飛鳥は───裕福だった家も、約束された将来も、おおよそ人が望みうる人生の全てを支払って、この箱庭に来たのよ。

それを小さな小さな一地域を支配している組織の末端として迎え入れてやる、などと慇懃無礼に言われて魅力的に感じるとでも思ったかしら。だとしたら自身の身の丈を知った上で出直してほしいものね、このエセ虎紳士」

 

……よくもまあそこまでバッサリと言えるもんだな。

 

ガルドは多分、久遠の無礼極まりない物いいに怒るか、自称紳士としての言葉を選ぶかをしている。

 

「お……お言葉ですがレデ

 

「"黙りなさい"」

 

その時、ガルドの口が明らかに不自然に、かつ勢いよく閉ざされた。

 

「……!?……!??」

 

ガルドは必死に喋ろうとしているが、それでも開けない。

 

「私の話はまだ終わってないわ。貴方からはまだまだ聞き出さなければいけないことがあるのだもの。

"貴方はそこに座って、私の質問に答え続けなさい"」

 

今度は久遠が言った通り、椅子にヒビが入らんばかりに勢いよく座り込む。

 

本当に凄いな。今度なにでできてるのか調べさせてもらいたい。

 

と、その様子に驚いた先程の猫の店員が急いでここに駆けつけてきた。

 

「お、お客さん!当店で揉め事は控えてくださ───」

 

「ちょうどいい。貴方も第三者として聞いていてください。

多分、面白いことが聞けると思うんですけど、ね」

 

俺は店員を引き止め、態とらしく言う。

 

「久遠、お前のギフトはだいたい理解したから、存分に聞いてくれ」

 

「わかったわ竜胆くん。それじゃあ……貴方はこの地域のコミュニティに"両者合意"で勝負を挑み、そして勝利したと聞いたわ。

でも、私達が聞いた内容とはちょっと違うの。コミュニティのゲームとは"主催者(ホスト)"とそれに挑戦する者が様々なチップを賭けて行うものの筈……ねえジン君。

"コミュニティそのものをチップにゲームをすること"は、そうそうあることなの?」

 

「や、止むを得ない状況なら稀に。しかし、これはコミュニティの存続を賭けたかなりのレアケースです」

 

店員もそれに同意するように頷く。

 

「そうよね。訪れたばかりの私達ですらそれくらいは解るわ。

そのコミュニティ同士の争いに強制力を持つから"主催者権限(ホストマスター)"を持つ者は魔王として恐れられる。

その特権階級を持たない貴方がどうして強制的にコミュニティを賭けあうような大勝負を続けることができたのかしら。

"教えてくださる"?」

 

ガルドは悲痛な表情をするが、相反的に口が動き出す。

 

まあ、ここまで行けば誰でもわかるだろう。

 

この女、久遠飛鳥の命令には……絶対に逆らえないと。

 

「き、強制させる方法は様々だ。一番簡単なのは、コミュニティから女子供を攫って脅迫すること。

これに動じない相手は後回しにして、徐々に圧迫していった」

 

「まあ、そんなところでしょう。貴方のような小物らしい堅実な手です。

けどそんな違法で取り込んだコミュニティが従順に従ってくれるのかしら?」

 

「各コミュニティから数人ずつ子供を人質に取ってある」

 

……子供を人質に?

 

「……そう、ますます外道ね。それで、その子達は何処に幽閉されてるの?」

 

「もう殺した」

 

………………………………………………………………………は?

 

「初めてガキ共を連れて来た日、泣き声が頭にきて思わず殺した。それ以降は自重しようとしていたが、父が恋しい母が愛しいと泣くからイライラしてやっぱり殺した。

それ以降は連れてきたガキは全部纏めてその日に始末した。けど身内のコミュニティの人間を殺せば亀裂が入る。

始末したガキの遺体は証拠隠滅のために部下が食

 

 

 

 

 

「"黙れ"」

 

 

 

 

ガルドの口が先程以上に強く閉じられた。

 

「素晴らしいわ。ここまで絵に描いたような外道とはそうそう出会えなくてよ。

流石は人外魔境の箱庭といったところかしら……ねえジン君?」

 

「彼のような悪党は箱庭にもそう居ません」

 

「そう?それはそれで残念。

ところで、今の証言で箱庭の法がこの外道を裁くことはできるのかしら?」

 

「厳しいです。勿論、彼がやったことは違法ですが、裁かれる前に箱庭から出ればそれまでです」

 

「……そう。なら仕方ないわ」

 

久遠は苛立たしげに指を鳴らすと、それが合図のように怒り狂ったガルドは勢いよくテーブルを砕き、巨躯を包むタキシードが破れ、ワータイガーとしての本当の姿が露わになった。

 

あ……カレー……ミルク……

 

「テメエ……どういうつもりか知らねえが、俺の上に誰が立ってんのかわかってるのか!?箱庭第六六六外門の魔王が俺の後見人だぞ!!

俺に喧嘩売るってことの意味が

 

「"黙りなさい"。私の話はまだ終わってないわ」

 

ガルドはまたも不自然に口を閉じるが、丸太のような豪腕を振るう。

 

しかし、それに割って入るように耀が片腕でそれを止めた。

 

「喧嘩はダメ」

 

耀は一旦それを受け止め、それを放した。

 

───阿呆!

 

その瞬間、耀に向かって先程の豪腕を振るった。

 

「───え?」

 

「ったく……油断禁物だ。少しは人を疑え」

 

その豪腕は今度は少し装飾過多な鏡に受け止められていた。

 

「まさか……竜胆?」

 

「そうだ」

 

耀が振り向くと、そこには左手の人差し指と中指をその鏡に向けている俺。

 

「動かれると面倒だ。凍ってろ」

 

俺が合図を出し、それと同時にガルドの両手両脚が凍りついた。

 

耀の細腕には似合わない力、自分の豪腕を受け止める鏡、突然凍る四肢と、完全にパニックになっているガルド。

 

そんな中、久遠は楽しそうに笑っていた。

 

「さて、ガルドさん。私は貴方の上に誰がいようと関係ありません。それはきっとジン君も同じでしょう。

だって彼の最終目標は、コミュニティを潰した"打倒魔王"だもの」

 

ジンは少し息を飲み、それにはい、と答える。

 

「そういうこと。つまり貴方には破滅以外の道は残されていないのよ」

 

「く……くそ……!」

 

そんな中で、俺は突然手を上げる。

 

「久遠、今からノーネームの誇りとフォレス・ガロの存続を賭けて勝負って言うんだろ?」

 

「そうよ」

 

「なら俺も参加させてくれ」

 

「あら?どうしてかしら。貴方はコミュニティの仲間ではない筈よ」

 

それを言われたら痛いな……でも、そんなのどうでもいい。

 

「理由は三つ。一つは俺はコイツの気取った態度が気に入らない。

二つ、こいつは俺が食おうとしていたカレーとミルクをめちゃくちゃにした」

 

そう言うと、久遠とジンは「そんな理由で!?」とでも言わんばかりだったが、食べ物という命を粗末にしたアイツを許せんだけだ。

 

「そして三つ目……それはな」

 

俺はそれを言おうとした時、あの時のことが蘇った。

 

……悶え、苦しみ、息絶える獣達。そして、助けを乞うしかできなかった俺。

 

だからこそ、言ってやる。こいつだけは……

 

「俺はな、人の命を消耗品のようにする奴のことが殺したいくらい嫌いなんだ」

 

だからこそだ。俺の中にいるこいつらがこんなにも疼いているのは。





え?主人公が子供っぽい?

それは仕様です。この子のコンセプトは「誰よりも大人ぶろうとしているが故に、誰よりも子供」ですから。


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四話 WORLD END

主人公は合法ショタなんです。

ただ、言動のせいで全くショタに見えませんね。




日も明け暮れた頃、十六夜と黒ウサギが帰ってきた。

 

まー怒ってる。とんでもなく怒ってる。

 

「な、なんであの短時間に"フォレス・ガロ"のリーダーと接触してしかも喧嘩売る状況になったのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」「準備してる暇もお金もありません!」「一体どういう心算があってのことです!」「聞いているのですか四人とも!」

 

「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」

 

「殺したかったから喧嘩売った。反省も後悔もしてない」

 

「黙らっしゃい!!!」

 

三人合致で、俺は本気で言ったら怒られた。因みに逆廻はニヤニヤと見ている。

 

「別にいいじゃねえか。理由ナシに喧嘩売ったわけじゃねえんだし」

 

「十六夜さんは面白ければいいのは先程の会話で十分承知です!

それに竜胆さんに至っては殺したいってなんですかそれ!?

加えて、このゲームに勝って得られるものなんて自己満足だけですよ!」

 

黒ウサギが身を乗り出して俺たちに"契約書類(ギアスロール)"を見せる。

 

そこには、先程俺達がガルドと契約して挑んだギフトゲームのチップなどが書かれていた。

 

「プレイヤー側が勝利した場合、主催者のコミュニティリーダーは参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の法に従って正しい裁きを受け、コミュニティを解散する───まあ確かに自己満足だ、

時間かければ立証できるものの、それを態々負ければ見逃すだなんてな。

しかも竜胆の目的は達成できないんじゃねえのか、これ?」

 

「箱庭追放程度だったら闇討ちするから問題ない」

 

「そういうのを街中で堂々と言わないでください!」

 

「冗談だ。あの外道一匹殺すのに態々闇討ちなんぞしない。

正々堂々と殺す」

 

「それが問題だと言っているんですこの問題児様!!」

 

ズバァンッ!とハリセンが鳴り響いた。

 

いったぁ……このツッコミ技術は姉さんにも劣らんぞ……

 

「にしてもだ。まあ個人的に殺したいけど、それを差し引いてもアイツは野放しにしちゃおれんだろ。

ああいう輩はさっさと掃除するのが一番なんだよ」

 

三人も頷き、黒ウサギは諦めたように頷いた。

 

「はぁ~……仕方ない人達です。

まあいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。

"フォレス・ガロ"程度なら十六夜さん一人いれば」

 

「その件は却下だ」

 

「そうだぜ。俺は参加しねえ」

 

十六夜はフン、と鼻を鳴らす。因みに俺はその辺にあったソフトクリーム屋のソフトクリームをペロペロと舐めている。

 

「竜胆、着いてる」

 

「ん、悪いな耀」

 

耀はハンカチで俺の口元をぐっと拭う。

 

「ハハ、なんだなんだ?

大人びてるのは態度と言葉だけか?行動は随分と子供なんだな」

 

「黙ってろ」

 

「お、お二人共仲がよろしく……ではありません!十六夜さんと竜胆さんはコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

 

「俺はまだノーネームに入るって言ってないぞ」

 

「へ?」

 

「残念ながら俺がここに来た理由は逆廻みたいな快楽を求めるわけでも、久遠みたいに退屈な世界から抜け出すわけじゃないし、耀みたいに友達作りに来たわけでもない」

 

「で、ではそれは?」

 

 

 

 

 

「死ぬためだよ」

 

 

 

 

 

「な……」

 

黒ウサギが絶句する。久遠とジン、耀はポカンとし、十六夜の表情から笑みが消えた。

 

「阿呆とでもなんとでも言っても構わないさ。

ただまあ、今回は命を消耗品みたいに扱うアイツを殺したくなっただけで───」

 

左右から平手と鉄拳が飛んで来た。

 

「っつ……どうしたよ、久遠、耀」

 

「命を消耗品みたいに扱う奴は殺したいくらい嫌いだ」

 

「これ、さっき貴方が言った言葉よ」

 

「……それがどうした。俺は俺が嫌いだからそう言ったんだし、ガルドが嫌いだからそう言ったまでだ」

 

「だとしたら!」

 

耀が万力のような力で俺の服を掴んだ。

 

「だとしたらなんで私と友達になってくれたの!?」

 

「……知るか」

 

おいおい、耀って俺の憶測だともっと静かに怒るイメージだったぞ?感情丸出しかよ。

 

まあ、流石にここでKYになるのはよろしくないな。

 

「……悪かった。さっきの話は忘れてくれ。

……それと、俺が箱庭に来た理由はホントにそんなとこだから、これ以上触れるなよ」

 

俺は耀の腕を軽く押しのけ、黒ウサギの方に向く。

 

「は、はあ……では何故十六夜さんは参加しないので?」

 

少しどよんとした空気の中で十六夜はなんの躊躇いもなく言った。

 

「そんなの、この喧嘩はコイツらが売ってアイツらが買ったからだ。

そんなのに俺が関わったら無粋だ」

 

「……あぁもう、好きにしてください」

 

黒ウサギは恐らく一日中逆廻に振り回されてたのだろう。肩を落としてトボトボと歩いた。

 

◆◇◆

 

「……桜か。流石は春真っ盛りといったところか」

 

竜胆が道を歩き、幾年振りかの桜を堪能していると、三人がそれに異論を唱えた。

 

「今は真夏じゃなかったかしら?」

 

「いや、気合の入った桜なら残ってる頃の初夏だろ?」

 

「……?今は秋だったと思うけど」

 

んっ?と竜胆を抜いた三人は顔を見合わせていると、黒ウサギはそれを笑って説明した。

 

「皆さんはそれぞれ違うせか「それは立体交差平行世界論による時間の差異だな。

時間軸以外にも歴史や文化、生態系にも違いがある」あう……先に言われてしまいました……」

 

「へえ?パラレルワールドってやつか?」

 

「近いな。まあ、説明すると一日二日は超えるから、またの機会だな」

 

「な、何故竜胆さんがそれを……」

 

「俺にもそういう青春を謳歌して女と乳繰り合った頃くらいはあるさ」

 

曖昧に答える竜胆。

 

「竜胆って、彼女いたの?」

 

「まあ、な。別れたっていうか……俺が自分から交流を断った」

 

余程恥ずかしいことでも思い出したのか、竜胆は顔面を真っ赤にしてやや足早に歩く。

 

そうしていると、一つの店に行き着いた。

 

サウザンドアイズ。箱庭の東側を代表するコミュニティの一つだ。

 

日が暮れて看板を下げる割烹着の女性店員に、黒ウサギは滑り込んでストップを、

 

「まっ」

 

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

かける暇もなく、黒ウサギは悔しそうに店員を睨む。

 

「流石は超大手の商業コミュニティといったところか。

押し入る客の拒み方にも隙がないな」

 

竜胆が感心するように頷く。

 

「なんて商売っ気の無い店なのかしら」

 

「ま、まったくです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」

 

「文句があるなら他所へどうぞ。貴方がたは今後一切の出入りを禁止します。出禁です」

 

「出禁!?これだけで出禁とか御客様舐めすぎで御座いますよ!?」

 

キャーキャーと喚く黒ウサギに店員は冷めたように侮蔑を籠めて対応する。

 

「なるほど、"箱庭の貴族"と謳われる"月の兎"の御客様を無下にするのは失礼ですね。

中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

 

「……ぅ」

 

月の兎、それは黒ウサギの種族全体を指す種族で、なんでも箱庭の貴族とか言われるほどにすごい生物らしい。

 

「俺達は"ノーネーム"ってコミュニティなんだが」

 

言葉を詰まらせる黒ウサギに対し、十六夜はなんの躊躇いもなくそれを言う。

 

「ほほう、ではどこのノーネーム様でしょう。よかったら旗印を確認させて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

ぐっと黙り込む。これが名と旗印の有無が作る差である。

 

「……なるほど、貴女は解って言ってますね?」

 

竜胆が黒ウサギがなにか言い出すまえに女性に問いかける。

 

「ええ、それがなにか?」

 

本当に「それがどうした」と言わんばかりに言う店員。

 

 

 

 

 

「差別はそれだけ命を軽く見ている証拠だ。

あんまり舐めた態度とってっと……"死ぬぞ"?」

 

 

 

 

 

空気が、変わった。

 

「ッ!?」

 

(……ほー、こいつはなかなかやべえな……)

 

(こ、この威圧感はなんなの!?)

 

(竜胆から……色んな匂いが感じる?)

 

(一体これはなんなのですか!?それに、今一瞬竜胆さんから感じたモノは……)

 

「死ぬ覚悟、できて言ってんだよな……?」

 

そして、竜胆の爪が異常な程伸びた。

 

「あ、貴方は自分がなにをしているのか「そんなの、承知のことだ」なっ……!?」

 

「り、竜胆「止めてくれるなよ、耀」……え?」

 

竜胆は店員の首を抑え、耀に目を向ける。

 

その目は獰猛に、紅く光っていた。

 

「俺の中のこいつらが疼いているんだよ……それに逆らうつもりもないから、近づいたら死ぬぞ」

 

こいつら、それが何を指すのか全くわからないが、耀は直感で理解した。

 

(これ……竜胆の意志だけど、竜胆一人の意志じゃない……)

 

竜胆が爪を店員に寄せようとした 。その時、

 

「そこまでじゃ」

 

女の声が響き、そこに目を向けると、和服に銀髪という変わった格好をした小さな少女っぽいのがいた。

 

「この度はうちの店員が後先も考えないことを言って悪かったの。

この店のオーナーとして、詫びさせてもらおう」

 

「……誰だアンタ。今俺は人を殺したい気分なんだ。邪魔されると殺したくなる」

 

「……おんしのその目、咎を背負っておるな」

 

「だからどうした」

 

「少し、眠ってもらおう」

 

それが手を数回叩いた。

 

たったそれだけで、竜胆は深い眠りについた。

 

「……まあ、いざこざは止めてやった。お主もこれに懲りたら人を見る目を鍛えることだ」

 

少女が割烹着の店員にそう言うと、店員は「はい……」と言って頷いた。

 

「うちの性悪店員が済まなかったの。私はこのサウザンドアイズのオーナーを務める白夜叉という者だ」

 

白夜叉と言った少女は、小柄とはいえ自分よりはるかに大きい竜胆を片手で抱えた。

 

「着いてくるがよい」





大・暴・走!

まあ、この大暴走にもきちんと理由はあるわけで……あ、この段階でネタバレはしませんよ?


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五話 儚くも永久のカナシ

勇気と無謀は別モノってよく言いますね。

結構意味がわかる気がします。

そして竜胆くんの初バトルです。ようやく、タグを理解していただけるかと。




「っ……う……」

 

竜胆の目が覚めると、そこは見たことのない和室だった。

 

「む、起きたかの」

 

「……アンタは?」

 

白夜叉が近づいてくると、少しだけ警戒心を出す。

 

「そう警戒するでない。私は白夜叉。このサウザンドアイズのオーナー……っと、この話はさっきしたの」

 

「……悪いけど、俺あんたの顔見た覚えはないぞ」

 

「なんと!こんな美少女を忘れるとは!」

 

「いや、ホントに……確か、サウザンドアイズの店に入ろうとして、それで門前払い喰らって……それ以降は覚えてない」

 

俺が自分の覚えているところを掘り返していると、白夜叉はそこにいた黒ウサギを見る。

 

「黒ウサギ、お主はまたヤバいのを呼んできてしまったようだの」

 

ん?と竜胆が白夜叉が目を向けた方を見ると、そこには十六夜、飛鳥、耀、黒ウサギにジンがいた。

 

「本当に覚えてないの?」

 

耀が何故か心配そうに尋ねてきた。

 

「悪い。なにも覚えてない」

 

そう言うが、腹の底では、竜胆は自分がなにをしたのかを理解していた。

 

(なにも覚えてないってことは、"アレ"になりかけたんだよな……でも、"アレ"になりかけるくらいのことがあったのか?)

 

竜胆はその原因を探ろうとして……やめた。

 

(どうせ今まで一度もその時の事を覚えたためしがないんだから、思い出すだけ無駄か)

 

自分の中で自己整理し、白夜叉に向き変える。

 

「さてと、ではそこの可愛いのが起きたみたいだから改めて、と」

 

「誰が可愛いだ」

 

「私は白夜叉。この箱庭東外門に存在する四桁の門、三三四五外門に本拠を構えるコミュニティ"サウザンドアイズ"の幹部だ。

黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きい美少女と認識しておいてくれ」

 

「はいはいお世話になっております本当に」

 

投げやりに言葉を流す黒ウサギ。その隣で耀が小首をかしげる。

 

「その外門ってなに?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者が住んでいるのです」

 

ここ、箱庭の都市は上層から下層まで七つに振り分けられており、それに伴ってそれを区切る門には数字が与えられている。

 

黒ウサギが箱庭の上からの見取り図を書く。それは外門によって幾つもの層に分かれていた。

 

「……超巨大タマネギ?」

 

「いえ、どちらかといえばバームクーヘンね」

 

「ああ、どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

「いや、パリの区画だな」

 

四人がそれを見て好き勝手言い出す。

 

「ククク、確かにどちらかと言えばバームクーヘンだな。ところでパリの区画とはなんぞ?」

 

「ググれ」

 

余程めんどくさいのだろう。

 

「ふふ、うまいこと例える。その例えなら、今ここはそのバームクーヘンの一番外、皮のところじゃな。

更に言うなら、東西南北の四区切りの東側に辺り、外門のすぐ外は世界の果て。

あそこはコミュニティこそ入っていないものの、強力なギフトの持ち主が多く住んでおる。

例えば、その水樹の持ち主などな」

 

白夜叉は黒ウサギの持っている木の苗のようなものを指す。恐らく、名前からして水に関係しているギフトなのだろう。

 

「して、一体誰が、どのようなゲームであの蛇神に勝ったのだ?

知恵比べか、或いは勇気か?」

 

「いえ、この水樹は十六夜さんがここに来るまえに蛇神様を素手で叩きのめしたんですよ」

 

「なんと!?クリアではなく、直接倒したと!

ではその童も神格持ちか!?」

 

「いえ、そうは思えません。神格は普通、一目でわかるものですし」

 

神格とは、生来の神そのものではなく、種の最高ランクに身体を変幻させるものである。

 

蛇は蛇神に、ひとは現人神や神童に、鬼は天地を揺るがす鬼神に。

 

神格は自身のみならず、ギフトも強化するので、多くの者はこれを目指している。

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったので?」

 

「知り合いもなにも、あれに神格を与えたのは私だ。もう何百年も前だがの」

 

白夜叉は小さな胸を張り、堂々とする。

 

しかし、そんなの気にしてられないのが問題児三人様である。

 

「へえ?じゃあお前はあの蛇より強いのか?」

 

「ふふん、当然だ。私は東側の"階層支配者(フロアマスター)"だぞ。この東側の四桁以下のコミュニティでは並ぶものなしじゃ。

……まあ、先程のは少々本気でやったがの」

 

先程、それはつまり竜胆を眠らせたあれのことだ。

 

「そう……ふふ。ではつまり、貴女のギフトゲームをクリアできれば、私達のコミュニティは東側で最強、ということかしら?」

 

「無論、そうなるのう」

 

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

竜胆を除く問題児三人は闘争心剥き出しで白夜叉を見る。

 

「抜け目ない童達じゃ。依頼しておきながら、私にギフトゲームに挑戦とはな。

して、そこの童は?」

 

白夜叉が竜胆に向き直る。

 

「俺はいい。あんたと"決闘"したら、勝てる気がしないからな」

 

「おいおい竜胆、随分と弱気だな」

 

「なら俺にも言わせてもらおう。逆廻、久遠、耀。お前らのそれは"勇気"ではなく"無謀"だ」

 

「え、ちょ、皆様?」

 

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えておる」

 

「ノリがいいわね。そういうの好きよ」

 

「ふふ。そうか。───しかし、そこの童は気づいたようだが、お主らに確認じゃ」

 

「なんだ?」

 

白夜叉は着物の裾からサウザンドアイズの刻印が入ったギフトカードを取り出し、壮絶な笑みで一言。

 

「おんしらが望むのは"挑戦"か───もしくは、"決闘"か?」

 

刹那、四人の視界に爆発的な変化ぎ起こった。

 

視覚はその意味を無くし、様々な情景が脳裏を掠める。

 

それは、黄金の穂波、白い地平線、森林の湖畔。

 

そして、雪原と凍る湖畔、水平に巡る太陽がはっきりと見えた。

 

「「「なっ……!?」」」

 

あまりの異常さだった。

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。

私は"白き夜の魔王"。太陽と白夜の星霊。白夜叉。

おんしらが望むのは、試練への挑戦か、それとも対等な決闘か?」

 

「水平に巡る太陽と……白夜と夜叉。

あの水平に巡る太陽やあの土地はおまえの表現ってことか」

 

「如何にも」

 

暫くの静寂の末、十六夜が切り出す。

 

「……参った。今回は黙って試されてやるよ」

 

「ふむ?それは試練を受けるということか?」

 

「ああ、そうだ」

 

「ええ。私も、試されてあげていいわ」

 

「右に同じ」

 

三人が一通りの答えを出した。

 

「よいぞ、ではおんしらの挑戦を始めようか」

 

◆◇◆

 

結果から言わせてもらうと、耀が白夜叉から出されたグリフォンのギフトゲームに勝利した。

 

なんでも、耀のギフトはただ動物と話せるだけじゃなく、友達になった動物のギフトを得るらしい。

 

……それならば、ガルドを片手で支えたのはさしずめ象のギフト、というところか。

 

───で、何故か俺だけ三人とは違うギフトゲームをすることになった。

 

『ギフトゲーム

一騎討ち

 

・プレイヤー一覧

高町 竜胆

 

・クリア条件

神群の獣の首を取れ。

 

・敗北条件

死亡、降参、或いはプレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

例外として、生物の召喚を行った場合も敗北となる。

 

宣誓

上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名のもと、ギフトゲームを開催します。

 

"サウザンドアイズ"印』

 

「一騎討ち……ふうん、神話の獣と一騎討ちしろってことか……」

 

「左様。して、お主の相手をするのは……」

 

その時、白夜叉の右隣から業火が巻き起こった。

 

「……イフリートか」

 

「ほう?よくわかったの。

その通り。こやつはイフリート。かのアラビアンナイトにも登場した焔の魔神じゃ」

 

竜胆が白夜叉に問い、「YES」と答えられる。

 

『こいつが今度の相手か?夜叉さんよ。

悪いが、俺が今まで見てきた奴の中で一番貧弱そうだぜ?』

 

イフリートはおよそただの人間には聞き取れない声で竜胆を侮蔑する。

 

「ほう、言ってくれるじゃないか焔の魔神。まあ、ただの漁師に騙されて壺の中に閉じ込められるようなオツムじゃわからんよな」

 

だから竜胆もイフリートにそう返す。

 

するとイフリートは、自分を馬鹿にされた怒りと自身の言葉を聞き取ったことへの驚愕が混じった顔をした。

 

『てめえ……言ってくれるじゃねえか。どこのもんだ?』

 

「無所属の高町竜胆。多分"ノーネーム"に加入予定」

 

『どこのもんかと思ったら名無しかよ……おい、夜叉さんよ。

ぶっ殺してもいいんだな?』

 

「ああ、かまわんよ」

 

イフリートの問いに白夜叉は別にいい、と答える。

 

『だ、そうだ。

ってなわけで、さっさと死ねや!!』

 

イフリートの焔が一直線に竜胆に向かって行く。

 

「……死にたいとは言ったが、こんな奴に殺されるのは御免だな」

 

その瞬間、イフリートの放った焔は氷になった。

 

「!ほう……かのイフリートの煉獄と言われる焔を凍らせるか……」

 

「なんだ……期待してただけ損した」

 

『んだと!?』

 

「ふう……出てこい。八咫の鏡」

 

竜胆が地面に手を置くと、そこから一つの鏡が出てきた。

 

「あれ……あの時の!」

 

耀はそれを見てなにかに気づいた。

 

「八咫の鏡……まあ、今の俺じゃあ飛び道具として飛ばすのが精一杯だけどな」

 

あの時ガルドを受け止めた鏡だった。

 

『てめえ……どんな芸当使ってんだ?

ギフト的にはただの大道芸人に転向した方がいいんじゃねえのか?』

 

「笑えない冗談だな。大道芸人なんてやってるような面はできん」

 

『クックックッ!確かにその無愛想じゃそんな仕事できねえわな!』

 

「言ってろ……」

 

竜胆はそのまま八咫の鏡をイフリートに飛ばす。

 

「さあさ……一曲、ワルツでも如何か?」

 

竜胆が流れるように八咫の鏡を動かす。

 

『ぬ、ぐぅ!?』

 

鏡にイフリートは完全に弄ばれていた。

 

「そら、踊れ」

 

竜胆の鏡は彼の指揮に寸分たがわず従い、イフリートを追い詰めていく。

 

『な、めるなぁ!』

 

遂にイフリートはそれを拳で殴り返した。

 

「っとと、乱暴な断り方だな」

 

『け!てめえみたいな得体の知れない奴なんて焼くのが一番なんだよ!』

 

イフリートが両手を合わせ、前に翳すと、そこから一筋の熱線が現れた。

 

それを竜胆は間一髪躱す。

 

「驚いた……近接技しか脳の無い奴かと思ったが……これは面白い」

 

『人を脳筋扱いするのかよ。

まあいいさ。否定材料なんて、ないみてえなもんだからな!』

 

イフリートの背面から、ビットのようなものが出てきた。

 

「おいおい、それまんま機械じゃねえか……」

 

『ぶっとべ!』

 

イフリートの号令と共に、大量の熱線が放たれた。

 

◆◇◆

 

さあて……どうするか。もう後がない。多分、あれを一発でも食らったら、そっからドンドン攻められて負ける。

 

……あれをやるか?

 

『あれをやらせてください。私なら、あの熱線を残らず根絶やしにできます』

 

その時、俺の頭にそんな声が響いた。

 

……ち。背に腹は変えられん。やるしかないか。

 

そして俺は、その言葉を紡ぐ。

 

神格解放、と。

 

◆◇◆

 

イフリートの熱線がとどいた。

 

『はっはっはっ!威勢がいい割りにはあんまりだったな!』

 

イフリートは勝利を確信し、高笑いをする。

 

「嘘……死んじゃった?」

 

誰かがそう呟いた。

 

「いや、まだだぜ」

 

そんな中、十六夜はそう呟いた。

 

「そうだろ?死神サン」

 

「ふん……勝手に殺してもらっても困る」

 

煙の内側から、そんな声が響いたと思うと、イフリートに先程の熱線が直撃した。

 

「負けたくないんでね……本気、出させてもらうぞ?」

 

そう言った竜胆は、九つの狐尾と耳を携えていた。





あの声の主は何者……?いえ、わかってますさ、わかってますとも。

皆さん、検討ついてますよね?ついてなかったら私が自分の文才について若干浮かれます。わーいって。


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六話 サイレント・ヴォイス

さて、突然ですが悲しいお知らせです。

実は私、この度重大な案件がありまして、暫く更新ペースが下がると思います。

具体的な理由としては神機片手に神を喰らう……最低ですよね。わかってますさ、わかってますとも。




『なんだ……そのふざけた格好は?』

 

「ふざけたもなにも、俺の力さ。

言ったろう?神格解放ってな」

 

「神格の解放ですって!?」

 

竜胆の当然といった言葉に黒ウサギと白夜叉は息を飲む。

 

「さて……これを時間以内に片付けないと、自称良妻狐さんが煩いんでね。

さっさとケリをつけさせてもらう」

 

その瞬間、竜胆の姿は消えた。

 

「き、消えた!?」

 

飛鳥が竜胆を視認できずに困惑した声を挙げる。

 

「いや、違うぜお嬢様」

 

「竜胆は、ただの一般人には視認できないくらいの速さで動いている」

 

それもそうだ。飛鳥の真骨頂はギフトを使った精神支配。その能力では運動能力も並の人間程度だろう。

 

「だが……流石の俺もあんな速度は出せねえな……」

 

十六夜は参ったと言わんばかりに声を出す。

 

『ちっ!だったら避けられねえようにすりゃいい話だろうが!』

 

イフリートは拳の焔を地面に叩きつけ、辺り一面に焔を撒き散らす。

 

「いい考えだが……その焔じゃあこの速度域に入った俺の風を振り切ることは不可能だ」

 

なんと竜胆は、それを走って突き破った。

 

「こいつでも喰らっとけ!」

 

竜胆はそのままイフリートの顔面をサッカーのボレーシュートの如く蹴り飛ばした。

 

「さーて……こっちのウォーミングアップは終了だぜ?

こっからギア上げんぞ?」

 

竜胆はイフリートに挑発するように言う。

 

『ち、調子に乗るなぁぁぁぁぁぉぁぁぁぉぁ!!!』

 

イフリートはそのまま焔を直線上に放つ。

 

「遅えよ」

 

『だったらこいつだぁ!』

 

竜胆はそれを躱すが、イフリートはそれを察していたようにビットからレーザーを照射させる。

 

「こいつが箱庭の生き物の速さ……だが足りない。足りないぞ!」

 

竜胆はレーザーを全て間一髪で躱し、少しずつ動くペースを上げていく。

 

「お前に足りないもの、それはな。

情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ、そして何よりも……」

 

竜胆はその一言と共に全てのビットを破壊する。

 

「……速さが足りないッ!」

 

その一言と共にイフリートの腹部に拳を叩き込んだ。

 

その攻撃にイフリートは倒れ伏す。

 

「さて……多少熱くなってしまったが……これでギフトクリアにならないってことは、契約書類の通り、コイツを殺せってか……」

 

竜胆は地面とキスをしているイフリートを見る。

 

「……悪いが、必要な時以外に殺しはしない主義だからな。

このゲームは棄権させてもらう」

 

『……ちっ、さっさと殺せばいいものをよ』

 

竜胆はすぐさま起き上がったイフリートを見て、少し舌を巻いた。

 

「意味のない殺しはしない。意味のある殺しは非常時のみ」

 

『変な奴だ……いいさ、敵の情けで貰った勝ちなんているかよ。

夜叉さんよ。俺ぁこのギフトゲームの辞退を宣言すんぜ』

 

イフリートがそう言うと、白夜叉は「そうか、では、私からの試練は皆合格、と」言った。

 

これは面白くなりそうだ。

 

白夜叉はそう思っていた。

 

◆◇◆

 

「さて……私のギフトゲームを乗り越えたからには、三人ともに素養が高いのは明らかだ。

しかし、これではおんしらのはなんとも言えんな……おんしらは自分のギフトをどの程度に把握している?

 

「企業秘密」

 

「右に同じ」

 

「以下同文」

 

「かなり危ない」

 

「うおおおおい?いやまあ、仮にも対戦相手だった輩にギフトを教えるのが怖いのはわかるが、それじゃ話が進まんだろうに」

 

「別に鑑定なんて必要ねえよ。人に値札貼られるのは趣味じゃない」

 

十六夜の言葉に飛鳥と耀が同意する。

 

「ふん、あんな力なぞ逆に知りたくもない」

 

竜胆は相変わらず底の見えない発言をするだけ。

 

困ったようにしている白夜叉は、突如妙案が浮かんだとばかりにニヤリと笑った。

 

「ふむ、なんにせよ"主催者(ホスト)"として、星霊のはしくれとして、試練をクリアしたおんしらに"恩恵(ギフト)"を与えてやらねばいかん。

ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度よかろう」

 

白夜叉がパンパンと柏手を打つ。すると、四人の手元に光り輝く四枚のカードが現れた。

 

カードにはそれぞれの名と、体に宿るギフトのネームが刻まれていた。

 

コバルトブルーのカードに逆廻 十六夜・ギフトネーム"正体不明(コード・アンノウン)"

 

ワインレッドのカードに久遠 飛鳥・ギフトネーム"威光"

 

パールエメラルドのカードに春日部 耀・ギフトネーム"生命の目録(ゲノムツリー)" "ノーフォーマー"

 

ハニーゴールドのカードに高町 竜胆・ギフトネーム"呪術師" "玉藻の前" "人類の罪(ア・ヒューマン・オブ・ギルティ)"

 

それを見た黒ウサギは驚いたような、興奮したような顔で四人のカードを覗き込んだ。

 

「ギフトカード!」

 

「お中元?」

 

「お歳暮?」

 

「お年玉?」

 

「児童手当?」

 

「ち、違います!というかなんで皆さんそんなに息があってるんですか!

このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードなんです!

耀さんの"生命の目録"だって収納可能で、好きなときに顕現できるんです!」

 

「つまり素敵アイテムでオッケーか?」

 

「だからなんでそんなに適当なんですか!

あーそうです、超素敵アイテムなんです!」

 

四人は物珍しそうにカードを見る。

 

「我らの双女神の紋のように、本来はコミュニティの名と旗印も記されるが、おんしらは"ノーネーム"だからの」

 

「ふうん……もしかして、水樹って奴も収納できるのか?」

 

何気無く水樹にギフトカードを向けると、それは光の粒子になって消えた。

 

そしてカードには溢れるほどの水を生み出す樹の絵が描かれ、ギフト欄の"正体不明"の下に"水樹"と刻まれた。

 

「おお?これ面白いな。

もしかしてこのまま水を出せるのか?」

 

「出せるとも。試すか?」

 

「だ、駄目です!水の無駄使い反対!その水はコミュニティのために使ってください!」

 

チッ、と十六夜はつまらなさそうに舌打ちをする。

 

「そのギフトカードは正式名称を"ラプラスの紙片"。即ち全知の一端じゃ。

そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった"恩恵"の名称。

鑑定はできずともそれを見ればだいたいのギフトはわかる」

「へえ?俺のはレアケースってわけか」

 

「……見る限り最悪のギフトネームだな」

 

ん?と白夜叉は十六夜のギフトカードを覗き込む。

 

そこには確かに、正体不明の四文字。

 

「……いや、そんな馬鹿な」

 

あり得ないとばかりにギフトカードを取り上げる。

 

「正体不明だと……?いいや、あり得ん。全知であるラプラスの紙片がエラーを起こすなど……」

 

「なんにせよ、鑑定は失敗ってわけだ。俺的にはそっちの方がありがたいさ」

 

(そういえばこの童……蛇神を倒したと言ったな)

 

ただの人間が神格保有者に勝てるのだろうか。

 

「強大な力ということは間違いないが……まさか、ギフトを無効化した?いや、まさかな」

 

強大な破壊の力を持つこととその破壊を諌める力は一つのギフトに併用することは不可能のはず。だとすると、やはりラプラスの紙片にエラーがあった方が妥当だ。

 

「して、そこの小僧。おんしのその"人類の罪"とはなんじゃ?」

 

今度は竜胆に向き直る。

 

「見当はついてるが……的を射ているとしか言えん」

 

竜胆は溜息をつきながらギフトカードを手渡す。

 

「その検討とは?」

 

「言う義務はない。いや、言いたくない」

 

つまり、それ程踏み入って欲しくないものなんだろう。それに白夜叉は「うむ、仕方ないの」と言うと、次の質問をぶつけてきた。

 

「では、この"玉藻の前"とはなんじゃ?」

 

「玉藻の前……ね。さっきのあれもそれが関しているのかよ?」

 

十六夜が竜胆を見る。さっきの、とは当然尻尾と耳のことだ。

 

「……教える義務はn「はーい、お呼びでイケメンさん?」……勝手に出てくるな」

 

突然なにもない場所から九本の尻尾と狐耳、巫女服という奇抜な格好の女性が現れた。

 

「わお……この方、神格持ちデスよ?」

 

黒ウサギが現れた女性を見た瞬間に驚く。

 

「皆様はじめまして、私、玉藻の前と申します。どうぞお気軽にタマモ、とお呼びくださいな。

ご主人様に取り憑いている守護霊とでも思ってくださいまし」

 

『ご主人様?』

 

「はい、その通りでございます。私、この方に憑いた時からこのイケメン魂にもう惚れ惚れ!

あ、別に良妻狐さん、でもOKですよ?」

 

「黙ってろ」

 

「フギャ!?」

 

竜胆の拳がタマモの頭に落ちた。

 

「だから使いたくなかったんだよ……タマモ、さっさと戻ってろ」

 

「嫌でございますぅ!私も皆さんと女の子な会話がしたいんですぅ!」

 

「殺してやってもいいんだぞ?」

 

「……大人しくもどります」

 

タマモはそう言うとまた消えた。

 

「む……ところでだが、おんしらは黒ウサギのコミュニティが打倒魔王を掲げていると知っておるのか?」

 

「俺はまだ予定段階だ」

 

「そうよ。だって楽しそうじゃない」

 

「楽しそうで済む話ではないのだがの……若さ所以なのか、ただの無謀か、或いは勇敢か……

まあ、魔王がどういうものかは帰ればわかるだろ。

それでも魔王と戦うなら止めんが、そこの小娘二人は確実に死ぬぞ」

 

二人は一瞬だけ反論しようとしたが、白夜叉の威圧感に吞まれてそれができなくなる。

 

「魔王と戦うのなら力を付けよ」

 

「そう……肝に銘じておくわ。

次は貴女の本気に挑戦するわ」

 

「ふふ、望むところだ。ただし、黒ウサギをチップに賭けてもらう」

 

「嫌です!」

 

「つれないこと言うなよぉ。今なら三食首輪と家つきだぞ?」

 

「それもう完全にペットですから!」

 

そして五人は無愛想な店員に見送られて帰っていった。




ついに登場しました、タマモさん!さて、彼女はこの色々とぶっ飛んだ主人公とどう絡んでくんでしょうね?

それは間違いなく主従関係です。自問自答。


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思い付きな暴走番外編 問題児たちのお遊戯だそうですよ?



どうも、ここにきてまさかの番外編。どうやら私の脳味噌はゲッター線にやられたようです。

まあ、私自身が暴走してるので時系列云々は気にしないでください。あ、あとキャラ崩壊とかも。しかしキャラ崩壊はがんばって主人公以外基本させないので。




箱庭生活も板についてきたある日、高町竜胆はこんな提案をしてきた。

 

「なあ、なにか面白いことしないか?」

 

「面白いこと?」

 

その言葉に真っ先に反応したのはやはり逆廻十六夜である。

 

「ああ、そうだ。この頃俺達は自由に動くことが少ないと思うんだ。

そう、例えば……ガンダムファイトみたいなお祭り系なこと、できないかな?」

 

「がんだむふぁいと?」

 

聞きなれない単語に思わず聞き返してしまうのは久遠飛鳥。まあ無理もない。戦後間も無くからこの世界に来た彼女に、ガンダムファイトなんて単語を知るはずもないのだから。

 

「聞いたことがある。昔、人型の機械に乗って各国の優越を決める世界大会があるっていうアニメがあるって」

 

無表情ながらも竜胆の言葉に耳を傾けていた春日部耀はそう答える。

 

「そう、それ。

それってさ、こっちの世界でいうギフトゲームに似てないかなって思ったんだ」

 

「それで?なにが言いたい」

 

「つまり……」

 

竜胆がお得意の呪術で指パッチンすると、そこには、ああなんということでしょう!

 

 

 

 

 

カボチャの馬車がありました。

 

 

 

 

「皆でなにか劇でもしようよ」

 

言ってることが素晴らしく支離滅裂だった。というかガンダムファイトってなんだったんだ。

 

◆◇◆

 

※以下、台詞が圧倒的に多そうなので◯◯「セリフ」とします。

 

竜胆「というわけで突如始まりました。第一回、異世界人による劇団稀哲(ひちょり)」

 

黒ウサギ「その名前はスポーツ選手とタレントに怒られるからやめなさいこの問題児様!」

 

いきなり竜胆の頭を黒ウサギがハリセンで叩いた。

 

竜胆「むっ……偶には俺にもはっちゃけさせてくれよ。今まであの性格でいるの大変だったんだぞ?」

 

黒ウサギ「貴方はあの性格でも既にはっちゃけてます!というかなんのためにこんなことを───」

 

十六夜「暇つぶし」

 

飛鳥「面白そうだったから」

 

耀「以下同文」

 

竜胆「思いついたから」

 

黒ウサギ「あなた方は自重という言葉を知らないんですか!?」

 

十六夜「悪いな、黒ウサギ。俺はその言葉の意味はわかっていても、それを実行に移すつもりは毛頭ない!」

 

黒ウサギ「それが一番問題なんです!」

 

何時ものテンションに呆れかえる黒ウサギ。しかし、彼女も伊達にこの四人の相手を何度もしてきたわけではない。

 

こうなったら、もう諦めるしかないのだ。

 

黒ウサギ「はあ……もういいのデスよ。好きになさってくださいな。

どうせ私達が何を言っても聞かないのでしょう?」

 

飛鳥「あら、わかってるわね」

 

黒ウサギ「本音を言うのならわかりたくありませんでしたが……」

 

竜胆「さあて、じゃあお題を決めよう。

そうさな、昭和人の飛鳥にも、俺と十六夜よりも未来から来ている耀にもわかる奴……」

 

そうして、約決めが始まった。

 

◆◇◆

 

昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。

 

ジャック「ヤホホ。まさか私がおじいさんとは……いやはや、ノーネームの皆さんはいつも面白いですねえ」

 

白夜叉「うむ、私がおばあさんなことを除けば完璧な人選だの」

 

おじいさんは山へ芝刈りに。おばあさんは川へ洗濯に行きました。

 

白夜叉「全く……こういうのはあの店員にでも任せておけばよいのだ。だいたい私は白夜叉だぞ?だというのに……」

 

おばあさんがぶつくさとなにか言っていると、どんぶらこ、どんぶらこ、と……巨大ないちご大福が流れてきました。

 

白夜叉「……おい。この展開は桃ではなかったのか?」

 

おばあさんは仕方なく、いちご大福を持ち上げました。

 

白夜叉「しかし……ふむ、このいちご大福はなかなか美味そうだの。調理の手間もないし、楽に食べれる。

よし、今日の夕飯はこれに決まりじゃ」

 

おばあさんは巨大ないちご大福を片手で持ち上げ、家に帰っていきました。

 

ジャック「ヤホホホ!その大きないちご大福はどうしたのですか!?」

 

白夜叉「川から流れて来おった。消費期限も問題ないし、害虫に食われた跡もないから、安心して食べられようぞ」

 

ジャック「ヤホホ!それはなんと素晴らしい!ではいただきましょう!」

 

おじいさんがカボチャ頭からいちご大福をパクッと食べる……なんともシュールな光景でした。

 

二人がそのいちご大福を食べ、真ん中まで行くと……

 

「「こ、これはッ!?」」

 

ああ、なんということでしょう。いちご大福の中から、元気な男の娘が出てきました。

 

竜胆「誰だ今男の娘とか言った奴は!?」

 

男の娘はひょっこりと猫のような、しかし狐ベースの耳と尻尾を生やしていたので、二人は男の娘を「いちごダキニ」と名付けました。

 

竜胆「ってか、ネーミングセンスねーな……」

 

いちごダキニはそれからすくすくと成長していきました。一日経てば胸が膨らみ、二日経てば明らかな童顔に。おかげでおばあさんは変態的な趣味に走ることができました。

 

白夜叉「むほほほっ!娘プレイというのも中々ではないか!ほれ、ここがよかろう?ここがよかろう?」

 

竜胆「馬鹿、離せ!ふあぁっ!?ってめ、どこ触ってやがる!?」

 

白夜叉「むほほほほほっっ!!男の癖に胸のあるおんしが悪いのだよ!」

 

竜胆「ふざっけんな!てめえ、完全に台本無視してんじゃ、ひあぁっ!?」

 

……おばあさんはすでにすこしさくらんしてるようです。

 

まあ兎も角、いちごダキニはある日、町で悪さを働く鬼の噂を聞きました。

 

竜胆「正義の味方……か。そういうのになってもいいな。

あの婆さんから離れる口実にもなるし」

 

そう考え、思い立ったが吉日。いちごダキニは早速鬼退治の準備をしました。

 

そして出発当日。

 

竜胆「んじゃ、ちょっくら鬼退治してくるわ」

 

ジャック「ヤホホ!あなたならやってくれると信じてますよ!」

 

白夜叉「くぅ……これは暫くあやつの胸を堪能できないという私への罰ゲームなのか!?そうなのか!?」

 

強いて言うのであればYESでしょう。

 

白夜叉「仕方ない。さっさと終わらせて帰ってくるのだぞ。このバナナパフェをやるからの。私特製だ」

 

竜胆「あ、悪い。食事の用意はいつでもできるようにしてあるから……ってそんな顔するな!

あーわかったわかった!もらってやるから!」

 

いちごダキニは指をウネウネさせて不気味な笑みを浮かべるおばあさんに生態本能で危機を悟ったのか、渋々バナナパフェをもらいました。

 

そして暫く歩いていると……

 

竜胆「上にいるのはわかっている。姿を現せ」

 

ダキニがそう言うと、木の上からキジっぽい美少女が落ちてきました。

 

耀「お腹減った」

 

竜胆「……犬からじゃなかったか?これ」

 

ダキニはまあいいや、と思い、キジっぽい美少女に話しかけました。

 

竜胆「どうした」

 

耀「食べ物欲しい」

 

美少女のお願いにダキニは断れず、腰に巻いていたバナナパフェの入った袋を取り出そうとして───

 

竜胆「───ない」

 

耀「ご馳走様でした」

 

既に美少女が全て食べ終えていました。

 

竜胆「て、てめ、どんだけ食ってんだ!?折角ばーさんがくれたから後で食べようとおもったのに!」

 

なんだかんだ言いながらもおばあさんのパフェを食べようとした辺り、ダキニはツンデレのようです。

 

ダキニが慌てて美少女から袋を取り上げますが、既に空っぽ。

 

耀「もっとほしい」

 

竜胆「ええい、お前は犬か!?キジよりも犬の方がお似合いだぞ!?」

 

まあともあれ、ダキニの料理に惹かれた美少女はダキニについていくことにしました。

 

竜胆「いいか、食い過ぎるなよ?食べ物はタダじゃないんだから、後で後悔するのはお前だぞ?」

 

耀「わかった」

 

さながらお兄さんと妹……いえ、お姉さんと妹です。

 

暫く二人旅をしていると、今度は犬に会いました。

 

タマモ「みこーん!私のレーダーにイケメン魂を検知!あなたですね!」

 

竜胆「……は?」

 

タマモ「これはもうビビッとビビッド来ましたよ!決定!あなた私の主人様!」

 

竜胆「い、いや……いきなり主人がどうのって言われても……」

 

耀「………(ジー)」

 

竜胆「なんだよ」

 

耀「なんでも、ない」

 

そうは言っても、美少女は少し不満気でした。しかし無理もありません。いきなり同行者がわけのわからない犬?に誑かされそうなのですから。

 

タマモ「私もあなた方のパーリーメンバーにエスコートプリーズ?」

 

竜胆「……ノーセンキュー」

 

タマモ「ワ、ワイ!?何故!?」

 

そう問う犬にダキニはこう答えます。

 

竜胆「これ以上同行者が増えたら食費がバカにならない……料理の作り甲斐はあるけど」

 

実際、おじいさんとおばあさんに貰った支援物資と資金は既に限界寸前でした。それも、九割以上美少女の食費に消えています。

 

竜胆「というわけだ。すまんな」

 

二人はそう言うと、犬から離れようとしますが……

 

タマモ「ふっふっふっふっ、同行者に食いしん坊将軍と名高いブラックホール胃袋なキジがいればそれなりの準備をするのは当たり前、これでどうです?」

 

犬が胸元からそれを引っ張り出そうとすると、ダキニは真っ赤になり、美少女はダキニの視界を一瞬で塞ぎました。

 

タマモ「呼ばれてないけどジャジャジャジャーン!!」

 

そこには、大量の金銀と食べ物がありました。

 

タマモ「交換条件です。私を仲間にしてくれるのなら、こちらの所有権は全てあなたのものです」

 

それは、ある種悪魔の選択でした。

 

竜胆「ど、どっちを選ぶ?もしあの女の犬もそこのキジ同様ハイパー食いしん坊だったら、その時点で資金は全て底を突くぞ?

いやしかし……ええい、ままよ!」

 

ダキニは犬が食いしん坊でないことを祈り、契約しました。

 

まあ、犬のおかげでなんとか家計が助かり、三人が道を進むと、今度はコウモリがいました。昼なのに。

 

竜胆「猿じゃ……ないのか?」

 

レティシア「流石に女の子に猿はいけないだろうという作者の配慮だそうだ」

 

竜胆「正直飛行要員二人もいらないんだけどな……サ◯シだってイッシ◯地方でオー◯ド研究所から◯ザードンを受け取る時も、ケ◯ホロウをメンバーから外してたし」

 

それは言ってはいけない。

 

レティシア「まあなんだ。それほど迷惑をかけるつもりはないから、私も仲間にしてくれないか?」

 

竜胆「ああ、いいぞ」

 

即答でした。

 

タマモ「ちょ、なんですかその我々との扱いの差は!?」

 

竜胆「普段の行いじゃないか?」

 

即答で正論でした。

 

◆◇◆

 

そして一行は鬼のいる場所、鬼ヶ島に繋がる道を発見したわけですが……

 

竜胆「船が、ねえ」

 

一番の問題とここに来て直面しました。これでは鬼退治どころではありません。

 

耀「ダキニ、あれ」

 

美少女が指差すと、そこには一席の船がありました。大きさは丁度女の子四〜五人乗りほど。ダキニは男ですが、そこはかんけいありません。

 

竜胆「ん?なんだ、この看板」

 

看板には一言、こう書いてありました。

 

『我々鬼を倒したければ鬼ヶ島まで来い。地図もあるから、歓迎の準備もしておく』

 

ダキニは少しだけイラっときました。

 

竜胆「……犬、コウモリ、キジ」

 

タマモ「なんでございましょう?」

 

レティシア「なんだ?」

 

耀「呼んだ?」

 

ダキニは人目を気にせず、叫んだ。

 

 

 

 

 

 

竜胆「進路を鬼ヶ島へと向けろ!全速前進DA!」

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

鬼ヶ島にくると、本当に歓迎ムードだった。

 

十六夜「おお、来たか。待ちくたびれてワイン啜ってたぜ?」

 

飛鳥「この私に待たせるなんて……いい度胸をしているわね?」

 

二人とも、黒毛和牛のステーキを丁寧に切って口に運んでいます。

 

竜胆「ふざけるな。俺はお前達と一緒にメシなんか───」

 

その途端、ダキニの顔が固まった。

 

何故なら、同行者三人が既に食事に入っていたことに絶望感を覚えました。

 

竜胆「……お前らなぁ……」

 

耀「ふぁひにもふぁへふ?(訳、ダキニも食べる?)」

 

竜胆「誰が食うか!!」

 

十六夜「食うか?(激辛麻婆を片手に)」

 

竜胆「食うか!!」

 

どこかで見たことのあるネタでした。

 

まあ、そんなこんなでダキニ達一行は鬼と仲良く暮らし、鬼達はダキニに常識を叩き込まれ、鬼ヶ島から街に買い物にでるわで大変かつ、楽しい毎日を送りましたとさ。

 

めでたしめで……たし?

 

◆◇◆

 

「どうだった?黒ウサギ」

 

「はっきり一言で申し上げると、はっちゃけすぎです」

 

「だよねえ……」

 

箱庭の冬空の下、そんな溜息が聞こえてきた。






まずひとこと。はっちゃけすぎました。もうしわけありません。

完全に自己満足の塊です。

しかし、満足!反省してるけど後悔はしてないでやんす!


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七話 思春期を殺した少年の翼

四億か……いや、怖いな。




白夜叉とのゲームを終え、半刻ほど歩くと、"ノーネーム"の居住区が見えてきた。

 

「この中ぎ我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入り口から更に歩かねばならないのでご容赦ください。

この近辺はまだ戦いの名残りがありますので……」

 

「戦いの名残り?噂の魔王って素敵ネーミングな奴との戦いか?」

 

「は、はい」

 

「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてもらおうかしら」

 

先程の一件があり、飛鳥は機嫌が悪かった。プライドの高い彼女からすれば虫のように見下されたという事実が気に食わなかったのだろう。

 

黒ウサギが躊躇いながら門を開く。すると門の向こうから乾き切った風が吹き、四人の視界を砂塵が覆った。

 

「……ほう。これが魔王か」

 

三人が砂塵から顔を庇う中、竜胆は一人それを見続けていた。

 

「これが現実とは、信じ難い」

 

三人が目を開くと、そこには一面に廃墟が広がっていた。

 

「逆廻」

 

竜胆はその辺で木材を拾い、軽く十六夜に投げ渡す。

 

それは十六夜が取るために軽く握っただけで、乾いた音を立てて崩れた。

 

「……おい、黒ウサギ。魔王とのギフトゲームがあったのは───今から何百年前の話だ?」

 

「僅か三年前でございます」

 

「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。

この風化しきった街並みが三年前だと?」

 

そう、そのコミュニティの跡地は、ありとあらゆるものが長い年月をかけて崩れたような痕跡を残していたのだ。

 

美しく整備されていたはずの白地の街路は砂に埋れ、木造の建築物は軒並み腐って倒れ伏している。要所で使われていた鉄筋や針金は錆に蝕まれて折れ曲がり、街路樹は石碑のように薄白く枯れて放置されている。

 

とてもではないが、三年前に人が住んでいたような風景ではなかった。

 

「……断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方はあり得ない。

この木造の崩れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えない」

 

飛鳥と耀も、廃屋を見て複雑そうな感想を述べた。

 

「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。

これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」

 

「……生き物の気配もまったくない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」

 

二人の感想は十六夜よりも遥かに重い。

 

「……その辺に散らばっている魔力素が全くない。なんとも言い難いな」

 

竜胆もそれほどの戦いに少しだけ声を荒げた。

 

「魔王との勝負はそれほどのものだったのです。

彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。

彼らは力のある人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないように屈服させて、僅かに残った仲間達も心を折られ……コミュニティから、箱庭から去っていきました」

 

「だからこそ、白夜叉みたいなゲーム盤が必要になってくるのか」

 

そうは言うが、竜胆は興味なさげに感情を殺した黒ウサギと、複雑な表情をした飛鳥と耀に続く。

 

しかし十六夜は、瞳を爛々と輝かせ、不敵に笑って呟いた。

 

「魔王───か。

ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねえか……!」

 

◆◇◆

 

「あ、みなさん!水路と貯水池の準備は整っています!」

 

五人がコミュニティの土地に来ると、先に戻っていたというジンが水路の掃除をして待っていた。

 

「ご苦労様ですジン坊ちゃん♪皆も掃除を手伝っていましたか?」

 

ワイワイと子供達が黒ウサギなよ元へと群がる。

 

「黒ウサのねーちゃんお帰り!」

 

「眠たいけどお掃除手伝ったよー」

 

「ねえねえ、新しい人達って誰?」

 

「強いの!?カッコいい!?」

 

「YES!とても強くてカッコよくて可愛い人達ですよ!紹介するので一列に並んでくださいね」

 

すると子供達は一矢乱れぬ動きで横一列に並んだ。

 

数は凡そ二十人、というところだろうか。

 

(マジでガキばっかだな。半分は人間以外のガキか?)

 

(じ、実際に目の当たりにすると想像以上の数だわ。これで六分の一?)

 

(………。私、子供嫌いなのに大丈夫かなあ)

 

(黒ウサギの教育は良と見た。ていうか、俺は果たしてカッコいいなのか、それとも可愛いなのか)

 

『後者ではないでしょうか?』

 

(黙ってろタマモ)

 

『まあでも!私はご主人様のそのイケメン魂に惚れたんですけどね!』

 

(強制召喚して脳髄カチ割るぞ?)

 

『ほんっと申し訳ありませんっしたぁ!

どうかそれだけは!それだけはご勘弁を!』

 

と、脳内でタマモと竜胆がどうでもいい会話をしていると、

 

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

耳鳴りがする程の声に意識をそっちに持ってかれた。

 

まるで音波兵器だった。

 

「ハハ、元気がいいじゃねえか」

 

「そ、そうね」

 

(……本当にやっていけるかな、私)

 

十六夜はヤハハ、と笑い、二人は複雑な表情をする。

 

そして竜胆はというと……

 

「声が大きすぎる。それでは逆に感情を伝えにくくなるな。

だが、元気の良さは見られた。結構。及第点だ。

子供は元気が一番だからな……」

 

まるで昔を思い出すように子供にそう言った。

 

……竜胆は、何故かその後の黒ウサギ達の会話には参加せず、屋敷に入って行った。

 

◆◇◆

 

女性三人は大浴場で湯に使っていた。大浴場の天井は箱庭の天幕と同じなのか、透けて見える。

 

「本当に長い一日でした。まさか新しい同士を呼ぶのはここまで大変だとは」

 

「それは私達に対する当てつけかしら?」

 

「め、滅相もございません」

 

バシャバシャと音を立て、慌てて否定する。耀は隣りでふやけたようにウットリしている。

 

「このお湯……森林の中の匂いがして、すごく落ち着く。三毛猫も一緒に入ればいいのに」

 

「そうですねー。水樹から溢れる水をそのまま使ってますから三毛猫さんも気に入ると思います。

浄水ですから、そのまま飲んでも問題ありませんしね」

 

「うん。……そういえば、黒ウサギも私や竜胆みたいに三毛猫の言葉がわかるの?」

 

「YES♪"審判権限(ジャッジマスター)"の特性上、よほど特異な種ではない限りは会話が可能なのですよ」

 

そっか、と耀は少し嬉しそうに返事をした。

 

「ちょっとした温泉気分ね。

好きよ、こういうお風呂」

 

「水を生む樹……これも"ギフト"なの?」

 

「はい、そうですよ」

 

そうした他愛のない会話を暫く続ける。

 

「ところでところでお二人様。こうして裸の付き合いをしているのですし、よかったら黒ウサギも皆さんのことを聞いてもいいですか?

ご趣味や故郷のことナド」

 

黒ウサギがそう言う。すると、二人が返事をする間も無く声が聞こえてきた。

 

「趣味は家事全般。出身は東京。実家は病院やってた」

 

え?という顔で声がした方を向く。

 

そこには湯気の切れ目からハッキリと誰かの後ろすがたが見えた。

 

小柄な身体で、茶色い髪をしていた。

 

「り、竜胆さん!?」

 

「裸の付き合い、なんだろ?」

 

「な、ななな、なんでここに!?」

 

「それはこっちの台詞だ。人が折角入浴して和んでたとこを突然現れやがって」

 

どうやら、竜胆がここに来たのではなく、黒ウサギ達が彼の存在に気づかなかったらしい。

 

「……見たら殺すわよ」

 

「お前らの裸に興味なんぞない。かといって、逆廻のにもないがな」

 

竜胆はそういう。

 

「すみませんねえ、ご主人様は多少こうしたラッキースケベな気があるんですよ。

あ、因みに私は都出身で趣味は和食料理です」

 

突然耀の隣にタマモが現れた。

 

「タマモ?じゃあ竜胆は……」

 

「はっはーん、ようやくお気付きになられましたか。そうですとも!私とご主人様は先程まで『お前を抱きたい』的な状態だったんでおぶぅ!?」

 

「くだらんデタラメを言うな。次は頭に食らわす」

 

背中を抑えるタマモ、竜胆の手元には太陽の神が持っていたとされる八咫の鏡があった。

 

「うおお……私の宝具で私を攻撃するなんて……」

 

「黙ってろ。そんなんで太陽の神とか名乗れるんだからお前がある意味で恐ろしいわ」

 

「た、太陽の神、でございますか?」

 

「こいつの伝承はな、本来は狐ではなくジャッカル、その本当の姿は太陽神、天照大御神の表情の一つって言われてるんだが……その辺はカットだ」

 

「か、神様、でございますか」

 

三人は八咫の鏡にグリグリと背中を押されて溺れかけているタマモを見る。

 

「……これが?」

 

「俺への憑依が不完全だったからその力の何分の一ってとこしか出せてないらしい。

因みにタマモの今の力は九で、強い英霊を100とすると、本来は九の尻尾の数乗らしいから、本来の力はだいたい四億だ」

 

三人とも口を開けて絶句。

 

「……さて、俺とタマモは答えたから、久遠、耀、答えてもらうぞ」





戦闘力四億とかwwラディッツさんでさえカカロットとピッコロさんが協力してようやく倒せたのに。

四億てww


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八話 パラドキシカルZOO

ライダーキックが炸裂したな……




「ま、まさかあそこに竜胆さんがいるとは思ってもいなかったのデスよ……」

 

「考えればあり得ることだったのだけどね……」

 

「……でも、一回もこっち向かなかったから、変な所で律儀」

 

風呂上がり、女子三人は竜胆よりも先に上がっていた。

 

本人曰く「俺は超久々に風呂入ってるからもっと満喫したい」らしい。

 

「それにしても、このドレス随分動きやすいわね」

 

「はい!それは昔白夜叉様がくださった黒ウサギの服なのですよ!

動きやすさは抜群です!」

 

飛鳥はためしに二回、三回、と回ってみる。

 

「……驚いたわ。こんなに動きやすいスカートは初めて」

 

「ふふ、当然でございます!なんといってもこの衣装には特別な御加護が、」

 

「ふむ、胸辺りが余っているな」

 

え?と三人。

 

「黒ウサギ、お前のボディラインと二人の身体を一緒にするなよ。

久遠はともかくとして、流石に耀にこんな胸余りする服を着せるのは───」

 

ガゴンッという危ない音が響いた。

 

「いっつつ……どうした、そんなに胸が小さいのが嫌か?」

 

考えるまでもなく、竜胆がいた。

 

「乙女の心を理解していないわ、貴方」

 

「ふん、そういう自分のためにならないことを学ぶのはどうでもいい。

久遠、さっさと脱げ」

 

は?と再び三人。

 

「いいから脱げ。それじゃあある意味恥ずかしくてたまらんだろ?」

 

そこまで言うと、三人はようやくああ、と納得した。

 

「貴方が直してくれるの?どれくらいかかる?」

 

「15秒あれば一着はつくれる」

 

「……超人?」

 

その後、本当に15秒で竜胆は飛鳥の服を見繕ったのはどうでもいい話である。

 

◆◇◆

 

翌日、一行はギフトゲームの舞台としてガルドが用意してきた、フォレス・ガロの居住区に来たのだが……

 

「ほう、正にジャングルだな」

 

やけに露出の高い肩出しの和服……というより巫女服っぽいのを着込んだ竜胆はそう言う。

 

いや、それだけなら元々その辺の女子より女子っぽい容姿をしている竜胆なら別段気にすることはない。問題はというと……

 

「……どうして、胸があるのかしら?」

 

「知るか。偶にある胸のある男って奴だ。女性ホルモンが身体に混じってるらしい。

一回それが嫌で男性ホルモン打ち込んだらその瞬間打ち込んだ分が全部死滅した」

 

竜胆は思い出したくないような風に明後日の方向を見る。

 

「そ、そう。ところで、このジャングルは何事なの?」

 

「虎の住むコミュニティなんだからおかしくないだろ」

 

飛鳥の言葉に十六夜はそう返す。

 

「いや、おかしいです。フォレス・ガロのコミュニティの本拠は普通の居住区だった筈……それに、この木はまさか」

 

ジンが木々に手を伸ばす。その樹皮は生き物のように脈打っていた。

 

「やっぱり、"鬼化"してる?いや、まさか」

 

「……複数の種族を纏った混血……嫌になる」

 

竜胆もそれに触れて心底嫌そうな顔をする。

 

「ジンくん。ここに"契約書類(ギアスロール)"が貼ってあるわ」

 

飛鳥がそう言う。門柱に貼ってあった羊皮紙にはゲームの内容が記されていた。

 

『ギフトゲーム "ハンティング"

 

・プレイヤー一覧

久遠 飛鳥

春日部 耀

高町 竜胆

ジン=ラッセル

 

・クリア条件

ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐

 

・クリア方法

ホストが指定した特定の武器でのみ討伐可能。指定武具以外は"契約(ギアス)"によりガルド=ガスパーを傷つけることは不可能。

 

・敗北条件

降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を果たせなくなった場合。

 

・指定武具

ゲームテリトリーにて配置。

 

宣誓

上記を尊重し、誇りと御旗の下、"ノーネーム"はギフトゲームに参加します。

"フォレス・ガロ"印』

 

「……やられたな」

 

竜胆がそう言うと、黒ウサギとジンも同様に声を挙げる。それを飛鳥は心配そうに問う。

 

「このゲームはそんなに危険なの?」

 

「いや、ゲームそのものは単純だな。だが問題はルールだ。

このルールは直訳すれば向こうが指定した武具でしか奴を倒せない。

即ち、久遠のギフトで奴を操ることができなければ、耀のギフトであいつを傷つけることもできず、俺の呪術で奴を凍らせたり燃やしたりすらできなくなる」

 

「すいません、僕の落ち度でした。初めに勝負を挑んだ時にルールをその場で決めておけば……」

 

実際のところ、ルールを決めるのに当たって、全てをホスト側に決めさせるのは殆ど自殺行為に近い。ジンはギフトゲーム参加ぎ初めてのため、それを理解していなかった。

 

「まあ、問題はないさ。奴を殺すには指定された武具のみ。しかし、奴の注意を引き寄せるにはなにをしてもいいのだろう?」

 

「い、YES」

 

「ならば、囮は俺に任せておけ」

 

◆◇◆

 

ギフトゲーム開始から数分、一行はとある屋敷を見つけた。

 

「あそこ。そこらへんに匂いがないってことは、建物の中にいる」

 

耀はその屋敷を指してそう言った。

 

「あいも変わらず便利な力だな」

 

竜胆はその屋敷に向かってなんの躊躇いもなく進む。

 

「ああ、そうだ。ジンはここにいろ」

 

竜胆が屋敷の二階に入る前にそう言った。

 

「な、何故ですか?僕もギフトは持っています。足手まといには」

 

「なる。ほぼ確実に」

 

「なっ……」

 

ジンは竜胆のその一言に思わずカチンと来た。

 

「いいか、お前はまだ十五にも満たない子供だ。ギフトだってどんなの持ってるか知らないが、お前自身の身体能力等を考えると、自身が戦闘をするようなギフトじゃない。

それにな、俺達全員が入っていったら、その時点でヤバい可能性だってある。ジンには退路を守ってほしい」

 

やはり、冷たい言葉などからは想像できない程のお人好しだと二人は思う。

 

ジンはそれらが理にかなっていた回答だったので、不満だったが渋々と屋敷の階下で待つことにした。

 

耀と飛鳥は慎重に、竜胆は至ってなにも気にせずギシギシと階段を進む。

 

階段を登った先の扉を竜胆は何の躊躇いもなく開くと、

 

「───………ギ、GEEEEEEYAAAAaaaaa!!!」

 

言葉を失った虎の怪物が、白銀の十字剣を背に守って立ちふさがっていた。

 

◆◇◆

 

目にも止まらぬ突進。それを受け止めたのは、飛鳥を庇った耀だった。

 

「逃げて!」

 

珍しく声を張り上げた耀に、竜胆は短く「了解」と告げると飛鳥を連れて逃げ出す。

 

ジンはその虎を見ると、彼の変化を素早く理解する。

 

「鬼!しかも吸血種!やはり彼女が」

 

「つべこべ言うな!舌を噛んでも知らんぞ!

タマモ、お前はジンを運べ!」

 

「了解!って、これ普通違いません?

普通お殿様がお姫様を運ぶんじゃありません?」

 

「気にするな。お前の方がジンより力強いし、何より重い」

 

「んなぁんと!?

乙女に重いと言いましたねご主人様ぁ!?」

 

「GEEEYAAAAaaaaa!!!」

 

「ま、待ってください!まだ耀さんが上に!」

 

「俺達を逃がすためにやってんだ!

命を無駄にするな!生きるのを諦めようとするな!」

 

竜胆は飛鳥を、タマモはジンを腰から抱きかかえ、俗に言うお姫様抱っこをすると、その辺の壁を二人してどこか見たことのある特撮ヒーローキックをかまして破壊した。

 

そして暫く二人は走り、丁度いいところで飛鳥とジンを降ろす。

 

「ふう……白銀の剣、吸血鬼。

間違いないな。あれが指定された武具だ」

 

「吸血鬼?」

 

「はい。元々ガルドは人・虎・悪魔の霊格から得たワータイガーだったのですが……吸血鬼によって人から鬼に変えられたのでしょう」

 

だからガルドは虎の姿だったのだ。人の霊格を失ったため、もう人の姿にはなれない。

 

「ふむ、だとすると、黒幕はその吸血鬼の可能性が高いと」

 

「わかりません。吸血鬼は箱庭では希少種ですから。

しかし、理性を失ったガルドがこれほどの舞台をつくるのは不可能なので、そう考えるのが妥当です」

 

「そう……誰か知らないけど、生意気なことをしてくれたわね」

 

飛鳥が不機嫌そうにしていると、茂みからガサッという音がした。

 

「誰だ」

 

「……私」

 

茂みから出てきたのは血だらけの耀だった。

 

「春日部さん!大丈夫なの!?」

 

「大丈夫じゃ……ない。凄く痛い。

ちょっと、本気で泣きそうかも」

 

その場で崩れ落ちた耀の右手には、白銀の剣が握られていた。

 

「まさか、たった一人で剣を?」

 

「本当は倒すつもりだった。……ごめん」

 

なにに対しての謝罪なのか、それを告げることなく意識を失った。

 

「……久遠。行ってこい。耀は俺達が見ておく」

 

「そう、助かるわ」

 

「あ、飛鳥さん!?ダメですよ、一人じゃ無理です!

悔しいですけど、ここは降参しましょう!」

 

「馬鹿、どうせ逆廻のことだ。負けたらコミュニティ抜けるとか言ってんだろ?」

 

「なっ……」

 

なんでそれを、とは言えなかった。

 

どういうことか、竜胆はジンと十六夜との会話、「名を取り戻す代わりに、このギフトゲーム負けたら抜ける」という契約を交わしていたのだ。

 

「大丈夫よ。どんなに強くても知性のない獣に負けるつもりはないわ。

それに、悔しいじゃない?春日部さんは、私とジンくんじゃ勝てないし、万一逃げられない時にって、竜胆くんも一緒に逃がしたのよ?」

 

飛鳥は「十分で決着つけてくるわ」といい、屋敷に戻っていった。

 

「……さて。耀、我慢しろよ」

 

竜胆は耀の出血箇所、右腕に手を当て、発火させた。

 

「ちょ!?なにやってるんですか!?」

 

「火傷させて傷口を塞いでるんだ。痛いが、死ぬよりはマシだろ?」

 

竜胆はそう言うと、黙々と作業に移る。

 

「すみません、私が本来の力で顕現できていたのなら、治療すっ飛ばして死者蘇生とかもできるんですけど……」

 

タマモは申し訳なさそうに耀を見る。

 

そうしていると、飛鳥がガルドを倒したのだろう。ギフトゲームの終了宣言が為された。

 

「……やっぱり、俺に人助けとか合ってねえや。

囮になるって言ってたのに、全部女に任せっきりだったしな……」



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九話 泪のムコウ

と、言っても一方的に竜胆くんが化かしてるだけなんですがww

あと、今回は少し少なめです。




ギフトゲーム終了後、俺と黒ウサギは久遠を庇って倒れた耀の治療のためにコミュニティのギフトを用いた儀式の場、工房にいる。

 

「これが治療用のギフトか」

 

「YES。しかし、本来ならば扱いが難しく、私にしか使えないようなものばかりなんですが……」

 

「……ま、関係ないな。

伊達に『人類の罪』を背負ってるわけじゃない。兎にできて俺にできない道理はないし」

 

その言い方に多少ムッとしたようだが、改めて俺を見る。

 

「これか……悪いな、耀。ちょっと痛いかも……って、気絶してたら痛いとか関係ないか。

タマモ、手伝え」

 

「はいな。まるで夫婦の共同作業のようですね!まるでケーキを切るように!」

 

「そこの水晶取ってくれ。時間がない」

 

「……ガン無視ですか、ご主人様」

 

またわけのわからない事をほざくタマモを黙らせて作業に入る。

 

「すごい……初見でギフトの本質を完璧に理解してる……」

 

「類似した系統の物を扱ったことがあるからな。

俺の親族は正直規格外の塊だった」

 

それこそ、世界を股に掛けて「その家を敵に回したらどんな国でも一週間経たずで消える」と言われる程にだ。

 

「ず、随分と規格外な御家だったのデスネ」

 

「かく言う俺が一番規格外……いや、そうでもないか。

一人の人間が千年以上若さを保ったまま生きてるような家だからな」

 

「そんな阿呆な……」

 

「俺の思い出話を全部聞こうとするなら、黒ウサギはもっと俺と、俺の家という規格外を知ってからの方がいいな」

 

言えるかよ。父母共に性転換転生した上で、年齢的不老不死なんだからな。それに兄と姉は異世界の王族と来たもんだ。兄さんに至ってはその王本人だし。

 

しかもだ。母さんの前世はあの斎藤一。色々史実とは違う部分もあるけど、それは確定事項らしいし。

 

「さて……終わったぞ」

 

「え?うそ、もう完璧に終わってる……?」

 

「ま、完治まで二日三日ってとこだ。

血の方は増血しといた。流石に輸血は金がかかるし、俺の血は危険だからな」

 

「は、はあ……」

 

そして俺は部屋に戻って行った。

 

◆◇◆

 

「……あー、なんか無駄な事したな、俺」

 

俺は部屋に戻るなり、ベッドに頭から突っ込んだ。

 

「人助けなんて、あの日以降やった覚えなんてないぞ?」

 

「ご主人様、案外皆さんにお心許しちゃってますしね」

 

「……うっせ」

 

苛立ち混じりに仰向けになると、何故かタマモが俺に覆いかぶさってきた。

 

「……おい、なんのマネだ」

 

「なにって言われましても……襲う?」

 

「お前は俺の事意外常に頭ん中から抜け落ちてんのか?ああ?」

 

「十六夜さんも中々魂の据わったイケメンさんだとタマモは思ってますよ?」

 

「話が繋がってねえっての……」

 

タマモが少しうざったくなったので、どけようとする。

 

が、タマモは剥がれない。

 

「ふふん、私、こう見えても神様なんですよ?」

 

「くっそ……こんな時に限って無駄な力使いやがって……」

 

迫って来る顔を押し退けようとタマモの顔面を思いっきり押すが、無駄に力のあるそれは一向に離れる気がしない。むしろどんどん近づいてる。

 

「さあご主人様……経験豊かなこの玉藻の前にお任せくださいまし……」

 

「誰が……!」

 

咄嗟に呪符を取り出し、タマモに攻撃しようとするが、それも一瞬にして取り押さえられる。

 

「私、知ってるんですよ?ご主人様が"あの方"と一緒にいた時、常にされるがままだったって……」

 

「うぐっ……」

 

あの方って絶対あの人のことだよな……なんでタマモが顕現してもいない時期の事を覚えてんだこいつ。

 

しかし、その時ピキン、という音が頭から鳴った気がした。

 

そう、俺はこの場を諌める方法を思いついたのだ。

 

……が、しかしこの手は絶対有効だろうが、俺のメンタルに酷いダメージを受けること必須。

 

(やらねばヤられる!しかし、これだけは……ええい、ままよ!)

 

「う、うっさい!別に俺だって好きでされるがままだったわけない!」

 

「じゃあ……私とあの方、どちらが好きですか?」

 

───勝った!計画通り

 

「い……言わせんな」

 

「へ?」

 

「言わせんなっての!俺はお前の方に決まってるだろ!」

 

これで、チェックメイト。

 

「い、」

 

「い?」

 

「いいいいいいいやっっっっっったあああああああああああああああああああ!!!

ご主人様からの愛の告白、ゲットだぜえええええええ!!!ついでにツンデレも!」

 

狂喜乱舞し、思わず俺から離れるタマモ。

 

「くたばれ」

 

その瞬間に首を折った。

 

「ぐべらっ!?」

 

タマモは一気に倒れ、まるでブルータス、貴様もかとでも言うかのような目で俺を見る。

 

「ばーか、演技だ演技。お前は本当に騙しやすくて助かるよ」

 

「ぐおおおっ……まさか上げて落とされるなんてぇ……」

 

それだけ言うと、タマモは回復のために俺の中に戻っていった。

 

ま、いくら神っつっても首折れたら痛いわな。

 

「さて、と。俺は外の催しものでも見に行きますか」

 

俺はそのまま、外に感じた十六夜ともう一つの力を感じ、そこへ行くことにした。




家族のことは触れないでください。ハーメルンで詳しく説明する気はさらさらありませんのでww

因みに竜胆くんのツンデレは割とガチのツンデレです。


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十話 僕じゃない


竜胆くんや、きみはどうしてそんなに可愛いイケメンなんだい?

A, そんなの俺が聞きたいくらいだ。




現状、十六夜が金髪の幼子の投げたジャベリンを殴って散弾銃の如く鉄塊が飛んだ。

 

「……おいおい、こいつはどうなってるんだ?

十六夜、お前吸血鬼の投げる槍も殴るって、なんでもアリか?」

 

俺は態とらしくやれやれ、とでも言わんばかりのポーズを作った。

 

「お、竜胆か」

 

「ああ、俺だ」

 

因みにその吸血鬼は十六夜の散弾銃もびっくりなそれを受ける瞬間に黒ウサギが救い出していた。

 

「さて……そこの吸血鬼。お前、神格ないだろ?」

 

吸血鬼にそう問うと、そいつは「何故それを……」と返した。

 

「勘だ」

 

「……勘で神格をかつて保持していたことまでバレてしまってはカッコがつかないのだが?」

 

「冗談じゃないぞ。

神格の有無もなんとなくわかる」

 

「……なんだ。どうりで弱いわけだ。他人に隷従させられたらギフトまで奪われるのかよ?」

 

「……ふーん、こいつ、他のコミュニティに隷属されてんのか。

だが、そいつは違うな逆廻。

箱庭の原則上、隷属させた奴でも

合意がなければギフトの受け渡しは不可能。

つまり、この吸血鬼は自分からギフトを差し出したってわけだ。

今の実力は当時の十分の1ってとこか?理由は知らん。むしろどうでもいい」

 

「レティシア様……どうしてそんなことを……」

 

俺がそう言うと、黒ウサギはそんな風に言っていた。ていうか、あいつの名前レティシアっていうのか。まあ、人の所有物を覚えるのはどうでもいいからいいか。

 

「……それは、」

 

レティシアは何度か言おうとして、それを喉の奥にその度押し込める。逆廻は鬱陶しそうに頭を掻く。

 

「まあ、あれだ。話があるならとりあえず屋敷に戻ろうぜ」

 

「人の所有物を勝手に匿ったようなものだ。そっちの方が賢明だな」

 

「……そう、ですね」

 

二人は沈鬱そうに頷いた。

 

◆◇◆

 

そして屋敷に戻ろうとした時、異変は起こった。

 

遥か遠方から褐色の光が差し込む。あれはゴーゴンの光か?

 

「あの光……ゴーゴンの威光!?

まずい、見つかった!」

 

レティシアは咄嗟に俺達を守るように立ち塞がり、その光を全身に浴び、その身体を瞬く間に石へと変えた。

 

「いたぞ!吸血鬼は石化させた!すぐに捕獲しろ!」

 

「例の"ノーネーム"もいるが、どうする!?」

 

「邪魔するようなら構わん、斬り捨てろ!」

 

逆廻はキョトンとしたと思ったらまた獰猛に笑い出す。

 

「参ったな。初めてオマケとして扱われた。

この場合は手を叩いて喜ぶか、怒りに任せて叩きのめすか、どっちがいい?竜胆、黒ウサギ」

 

「自分の感情に任せて暴れ回るのがいいんじゃないか?」

 

「あ、あの旗印はサウザンドアイズの幹部の"ペルセウス"のものです!

レティシア様はあそこの所有物……迂闊にてを出せません!」

 

ちっ……いい感じに煽って全員嬲り殺しにでもしてくれればよかったんだがな……

 

「これでよし……危うく取り逃がすところだったな」

 

「相手は箱庭の外側とはいえ、交渉相手は一国規模のコミュニティだからな。奪われでもしたら───」

 

「箱庭の外ですって!?」

 

黒ウサギはその言葉に反応し、飛び上がった。

 

箱庭の外ってことは……

 

「どういうつもりです!?彼らヴァンパイアは箱庭の中でしか太陽の光を浴びられないのですよ!?

そのヴァンパイアを外に連れ出すなんて……!」

 

「我らが頭領の決めた事だ。部外者は黙っていろ」

 

騎士もどきは翼の生えた靴で空を飛び、そう言った。

 

これは多分、箱庭におけるコミュニティの侮辱ととれるだろう。

 

本拠への不当な侵入、更に内部でもあの行為。明らかに俺たちを名無しと罵っているのだろう。

 

「こ、この……!これだけ無遠慮に無礼を働いておきながら、非礼を詫びる一言もないのですか!?

それでよく双女神の旗を掲げていられるものですね、貴方達は!!!」

 

そう言う黒ウサギを、あろうことかそいつらは笑った。

 

「ふん、こんな下層のコミュニティに礼を尽くしては、それこそ我々の旗に傷がつく。

身の程をしれ、"名無し"が」

 

「な、なんですって……!」

 

……ほう、随分と矮小な侮辱をしてくれる。

 

「フン。戦うというのか?」

 

「愚かな。自軍の旗も守れなかった"名無し"など我らの敵ではない」

 

「恥知らず共め。我らが御旗の下に成敗してくれるわ!」

 

……あ?恥知らず?

 

「……言いたい事はそれだけか?正義を語る愚図共」

 

不思議と、声が自然に出ていた。

 

「愚図?それは自軍すら守れなかったお前達の方ではないのか?」

 

「そんなお前達が随分大きくでたものだな」

 

「……ろ」

 

「んぅ?なんと言った?」

 

「黙っていろ。肉片の一つも残さずに食い潰されたくなかったらな」

 

◆◇◆

 

「り、竜胆さ───」

 

黒ウサギは知っていた。先程もこんな感じになっていた竜胆を見た覚えがある。

 

「食い潰されるのは、貴様らの方だろうが!!」

 

騎士もどきが槍を構えて竜胆に突進する。

 

「……不味いな」

 

気づけば、その男の槍はきれいさっぱり消えていた。

 

「なっ……!?」

 

「サヨナラ、だな」

 

竜胆はその紅の瞳を爛々と輝かせ、次の瞬間には一対の翼が生えていた。

 

「つ、翼!?奴は人間と幻獣の混血種だとでも言うのか!?」

 

変化はそれに収まらなかった。

 

次の瞬間、男の翼の靴が消えていた。正確には、切り刻まれていた。

 

「さあ、次はどこを喰われたい……?」

 

右手から獣さながらの爪を伸ばし、現れた狐耳と九尾も黒く染まっていた。

 

「ひ、ひぃ……!」

 

「あはは、さいっこォ……!その絶望に歪んだ顔……!でも、見てて映えるものでもないから、殺してやるよ」

 

竜胆は右手を男に突き立てようとした時、

 

「フンッ!」

 

「ッ!?」

 

十六夜が真後ろからアームハンマーで竜胆を思いっきり殴った。

 

だけにとどまらず、元にもどった彼のよく伸びる頬を引っ張り続ける。

 

「ちょちょちょちょ、十六夜さん!竜胆さんに悪戯してる暇があるなら彼らを追いましょうよ!?」

 

「あいつらなら逃げたぞ」

 

「え?って逃げ速すぎでしょう!?」

 

びっくりしながら空を見ると、百人単位はいた空を飛ぶ騎士は始めからいなかったようになっていた。

 

「いえ、違う……あらは不可視のギフト!?」

 

「ペルセウスってコミュニティが神話通りなら、間違いなくそうだろうな。

……しかし、箱庭は広いな。空飛ぶ靴や透明化する兜が実在するんだからな」

 

感慨深く言う十六夜を黒ウサギはキッと睨む。

 

「気持ちはわかるが、やめとけ。ここでサウザンドアイズの関係者と揉めたらマズイだろ」

 

「それは……そうですけど」

 

「詳しい話を聞きたいなら順序を踏むもんだ。

レティシアがペルセウスの所有物なら、白夜叉ならなんか知ってるだろ?」

 

確かにそうだ。仮にレティシアを白夜叉が連れてきたのなら、詳しい事情を知っている筈だ。

 

「他の連中も呼んでこい」

 

「え?で、でも昼間の件もありますし」

 

「なら御チビとお嬢様だけでも連れてけ。どうもキナ臭い。

最悪そのばでゲームにだってなり得る」

 

───ま、そうなっても俺一人かこいつ一人で十分だろうけど

 

とは思っても口にしない。なぜなら十六夜は自称空気が読める男なのだ。

 

……未だ竜胆の頬を伸ばしていなければもっと説得力はあっただろうと、黒ウサギは思った。





暴走主人公!なんかいい!

巨龍召喚辺りで色々やらかしてくれそうでいい!


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十一話 人、神、機-Man God Machine-

最近短め多い……でも、私はもう逃げませんよ!

この小説書き続けますとも!




「ふーん。つまり、そのルイオスとかいう完全親の七光りな色男な変態ペルセウスがレティシアと交換条件で黒ウサギを差し出せ、と言ったわけな」

 

起きて早速面倒な会話を耳にした竜胆は面倒臭そうな顔をしてそう言った。

 

「竜胆くんからもなにか言ってあげて。私達を呼んだ張本人がそんな風でいいのかってね」

 

「しかし!レティシア様は我々の同志なのです!

見捨てるわけにも参りません!」

 

わーきゃーわーきゃーと竜胆そっちのけで口喧嘩を仕出す二人。そんな二人を見て竜胆は鬱陶しそうな顔をした。

 

「人の部屋でわーきゃー騒ぐな。そんな下らない口喧嘩を見せに来たのなら自分の部屋に戻れ。

そういう答えのない討論っていうのは結局延々と続くからやめろ」

 

「「なっ……」」

 

容赦のない言葉に二人は思わず揃って竜胆に突っかかりそうになった。

 

しかし、竜胆の言ったことが事実なのは変わらない。

 

「ジンに頼んで黒ウサギには暫く謹慎してもらう。そこでゆっくり悶々と考えろ。

あと久遠。お前はもう少し素直になれ。『私、黒ウサギがそばにいて欲しいの!』とかな」

 

「き、謹慎!?」

 

「お待ちなさい!どうして十六夜くんと全く同じくことを言うの!?」

 

「さて、俺は逆廻とチェスでもしにいくかな」

 

竜胆は二人を置いて、十六夜の部屋に向かった。

 

◆◇◆

 

「ふーん、お前も結構冷たいもんだな」

 

「そうだな。これでも物事は淡白に割り切る方なんだが……どうやらここに感情移入してしまったようだ」

 

噛み合わない会話をしつつも、二人ともお互いなにが言いたいのか理解しているように笑い合う。

 

「ん?そう来るか。でも、大将首がお留守だぜ?」

 

「ふん、使える駒は王でも使うさ。そいつは囮だ」

 

チェスの駒を持ちながら二人はそう会談する。

 

「ヤハハ、それじゃ、俺達はお前の駒ってか?」

 

「そうだな。だが、戦う以上は俺も駒になる。この王みたいにな」

 

二人は暫し無言のままチェスを打ち合う。

 

「……で、逆廻……いや、俺もここの一人である以上は名前で呼ぶべきか。十六夜、お前は一定の条件を満たせば『無条件にそのコミュニティに挑戦できる』って制度は知ってるか?

伝説と、旗印に掛けてな」

 

駒を持った十六夜の手がピタリと止まる。

 

「……ほう?どういうことだ」

 

「ま、お前に遠回しに言っても無駄だからな。単刀直入に言うぞ。

お前にその気があるのなら、ペルセウスに挑戦してみないか?」

 

そら、チェックだ。と竜胆は十六夜の王の前にルークの駒を置いた。

 

◆◇◆

 

「「邪魔するぞ」」

 

それから数日、耀、飛鳥、黒ウサギが話し合っているところに二人が乱入した。因みにドアを蹴り破って。

 

「い、十六夜さんに竜胆さん!今までどこにって破壊せずには入れないのですか、あなた達は!?」

 

その言い方だと、耀や飛鳥もそうやって来たようだ。

 

「だって鍵かかってたし」

 

「あ、なるほど!じゃあ黒ウサギの持っているドアノブはいったいなんなのですこのお馬鹿様!!!」

 

ドアノブを力いっぱい投げつけたが、それは竜胆の呪術によって目の前で止まる。

 

十六夜は大きな風呂敷を持ち、ヤハハと笑う。

 

「その大風呂敷、なにが入ってるの?」

 

無表情な耀が珍しくそれに興味を示した。

 

「ゲームの戦利品だ」

 

竜胆がそう言うと、風呂敷から一人でにそれが出てきた。当然、竜胆の呪術だ。

 

「───……これ、どうしたの?」

 

「戦利品だって言ったろう」

 

「こ、これって……海魔(クラーケン)とグライアイを!?」

 

「まさか……あの短時間で本当に!?」

 

「ゲームよりも時間との戦いだったが、あとはお前次第だ」

 

肩を竦めて軽薄に笑う十六夜とポリポリと頬を掻き、目を逸らす竜胆

 

「ありがとう……ございます。

これで胸を張って"ペルセウス"に戦いを挑めます」

 

「礼を言われる程じゃねえさ。むしろ、面白いのはここからだからな」

 

「さて、疲れたから俺は寝る」

 

黒ウサギは二人がコミュニティのためにしてくれたことに涙し、それを拭って立ち上がった。

 

「ペルセウスに宣戦布告します。

我らの同士、レティシア様を取り戻しましょう」



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十二話 蒼穹

書くことがないですね!

でも前書きは書きます!なんか楽しいし!




「竜胆さん、お時間ですよ」

 

外でぼけっと持参の料理本を読んでいた竜胆に、黒ウサギがそう声をかけた。

 

「ん……わかった。すぐ行くって皆につたえといてくれ」

 

「了解しました。それではまた後ほど」

 

黒ウサギが立ち去り、そこから一人そこ───ギフトゲームの会場に赴こうとする。

 

「タマモ、俺の予想が正しければお前の力が必要になってくる。

……いいか?」

 

『当然です。この不肖玉藻の前、ご主人様の指令に全力を尽くします。

あ、勿論夜の方も全力を───』

 

「………」

 

『すみません、ちょーしくれてました。その無言はやめてください』

 

「……行くぞ」

 

◆◇◆

 

"契約書類(ギアスロール)"文面

 

『ギフトネーム名 "FAIRYTALE in PERSEUS"

 

・プレイヤー一覧

逆廻 十六夜

久遠 飛鳥

春日部 耀

高町 竜胆

 

・"ノーネーム"ゲームマスター ジン=ラッセル

 

・"ペルセウス"ゲームマスター ルイオス=ペルセウス

 

・クリア条件

ホスト側ゲームマスターを打倒

 

・敗北条件

プレイヤー側のゲームマスターによる降伏

プレイヤー側のゲームマスターの失格。

プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合

 

舞台詳細・ルール

※ホスト側ゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない

※ホスト側参加者は最奥に入ってはいけない

※プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスター除く)人間に見られてはいけない

※姿を見られたプレイヤー達は失格となり、ゲームマスターへの挑戦資格を失う

※失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行する事はできる

 

宣誓

上記を尊重し、誇りと御旗の下、〝ノーネーム〟はギフトゲームに参加します。

 

ペルセウス印』

 

◆◇◆

 

「つまり、ペルセウスの寝首を狩れってか」

 

「それならルイオスとかいうのも伝説にならって爆睡だ。そこまで甘くはないだろ。

つまるところ、透明になるペルセウスのギフト、ハデスの兜を強奪、ルイオスの下へ……だな」

 

"契約書類"を見つめていると、飛鳥が難しそうな顔をしていた。

 

「見つかったら即ゲームオーバー。ルイオスへの挑戦権を失う。

ジンくんが発見された場合はその時点で私達の負け……なら、大きく分けて三つの役割分担が必要ね」

 

ジンと共にゲームマスターを倒す役。見えない敵を索敵する役。そして、失格覚悟で囮と露払いをする役。

 

「索敵なら、俺と耀に任せろ」

 

「春日部はともかく、お前は大丈夫なのか?ただの呪術だろう?」

 

「人類の罪は伊達じゃない。その辺の獣風情に劣る要素なんてない。

で、そうなるとルイオスとかいうのを倒すのは十六夜の役だな」

 

「あら?じゃあ私は露払い役なの?」

 

むっとする飛鳥だが、先日、ルイオスにギフトが通用しなかったところから彼女では彼に対応することができないのは明白だった。

 

なにより、飛鳥のギフトは不特定多数の相手にこそ高い効力を発揮する。

 

しかし、それでも不満なものは不満だった。

 

「悪いな、お嬢様。俺も譲ってやりたいのは山々だが、どう考えてもやつの相手は俺が適してる」

 

「……ふん。わかったわ。

今回は譲ってあげる。ただし、負けたら承知しないんだから」

 

飄々と十六夜は肩を竦めるが、黒ウサギは対象的に神妙な顔で不安を口にする。

 

「残念ですが、必ず勝てるとは限りません。油断しているうちに倒さねば、非常に厳しい戦いかと」

 

「……あの外道、そんなに強いの?」

 

「いえ、彼自身はさほど。

しかし、彼が所持しているギフトは、黒ウサギの推測が外れていなければ───」

 

「「隷属された元・魔王様」」

 

「そう、元・魔王の……え?」

 

横から声を出した十六夜と竜胆に、一瞬言葉を失った。

 

「もしペルセウスの神話通りなら、神界に献上されたはずのゴーゴンの生首が存在するわけがない。

にもかかわらず、奴らは石化のギフトを使った」

 

「星座として招かれたのがペルセウスなら、さしずめ首に下がっているらしいチョーカーはアルゴルの悪魔となる」

 

「……アルゴルの悪魔?」

 

飛鳥達三人は顔を見合わせ、小首を傾げるが、黒ウサギは驚愕したまま固まっていた。

 

彼女だけが、今の答えに至るという異常性に気づいたからだ。

 

「お二人共……まさか、箱庭の星々の秘密に……?」

 

「まあな。この前星を見上げた時に推測して、ルイオスを見た時に確信した。後は空いた時間にアルゴルの星を観測して答えを固めたってとこだ。

まあ、機材は白夜叉が貸してくれたからな。難なく調べれた」

 

「で、では、竜胆さんは?」

 

「調べるだけなら阿呆でもウサギでもできる。

アルゴルが変色恒星じゃないことに疑問をもったから調べただけだ」

 

四人はポカンとしながら二人を見る。

 

「……もしかして、お二人さんは意外に知能派なんですか?」

 

「そんな大したものじゃないさ。原理さえわかればだれでもわかる」

 

「何を今更。俺達は生粋の知能派だぞ。黒ウサギの部屋の扉だって、ドアノブを回さずに開けられただろうが」

 

「……いえいえ。そもそもドアノブがついてませんでしたから。扉だけでしたから」

 

「あ、そうか。だけどドアノブがついていても、俺達はドアノブを使わずに扉を開けられるぞ」

 

「………………………………。参考までに、方法をお聞きしても?」

 

黒ウサギがやや冷ややかに見る。

 

十六夜がヤハハと、竜胆が不自然に微笑んで門の前に立つ。

 

「そんなもん───」

 

「その程度───」

 

「「こうやって開けるに決まっている(んだろ)ッ!!」」

 

轟音と共に、白亜の宮殿の門を蹴り破った。

 

◆◇◆

 

「ふふ……不可視の人間を除けば、粗方集まったかしら」

 

飛鳥が周囲を見渡す。そこには騎士達が空駆ける靴を履いていたが、水樹の生み出す水がそれを遮る。

 

「……飛鳥」

 

「あら。どうしたのかしら、竜胆くん?というか、いつの間に名前で呼ぶようになったの?」

 

「仲間、だからな。名前で呼ぶのは普通と思っただけだ。

で……俺は呪術使って向こうには不可視状態だ。もし向こうになにかあったら、上に向かうから、そのつもりでいてくれ」

 

「了解よ。いえ……むしろ、今すぐ向かったら?」

 

「ご厚意感謝するが……やめとこう。箱入りのお嬢様を一人にするってのは、些か不安だからな。

異常がおきてから───」

 

その時、一筋の光が挿し、周りの兵士、飛鳥、耀が石になっていた。

 

「なっ……まさか、石化のギフト……」

 

『ご主人様!エマージェンシーです!

どうやら、上層で十六夜様やジン様達があのド外道と戦闘を開始、これらはその余波……いえ、余波というよりは、意図して仲間ごと石化させたようです!』

 

「……人の命、それも仲間をだと?」

 

その時、竜胆の瞳はアメジストから紅に染まっていた。だが、以前のように暴走はしていない。

 

「……タマモ」

 

『はい』

 

「神格を解放しろ。負担は俺が請け負う」

 

『ですが……』

 

「いいから早くしろ!石化したこいつらがどれだけの硬度があるかは知らんが、このままじゃ瓦礫に巻き込まれて全員死ぬ!」

 

『……わかりました。ただし、後でどうなっても知りませんからね。

ご主人様はもともと、こういった呪術を使うような人じゃないんですから』

 

「上等……!」

 

そして、金色の九尾と狐耳が現れた。

 

◆◇◆

 

白亜の宮殿の最上階にて、ルイオス=ペルセウスは狂喜していた。

 

「ハッハッハッハッハ!!これがアルゴルの魔王の力だ!

ありとあらゆるものを石へと変え、その存在を終わらせる!」

 

「……へえ、こいつはヤバイかな」

 

十六夜はその光景を目の当たりにし、そう漏らした。

 

「なかなかわかってるじゃないか!

そうだとも!これが僕の力さ!」

 

「いや……そうじゃねえ」

 

十六夜は珍しくバツの悪そうな顔をする。黒ウサギもその理由をなんとなく察した。

 

「?ならなにが……」

 

ルイオスが言葉を紡ぐ前に、圧倒的な光景を目の当たりにした。

 

それは、一人の少年。九つの尾と、狐の耳。そこには紛れもなく、神格が宿っている。

 

そして、その後ろには、大量の石像と化した人間がいた。

 

「さっきからキャンキャンと耳障りな声を出しやがって……加えて、貴様の同士すらも捨て駒のように扱う態度……万死に値する」

 

紅の瞳は、星の騎士を見つめていた。





石化を防ぐ……タグにチートでも付けようかな?


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十三話 ignited

お久しぶりです。

っていうか、タイトルがまんますぎた……


「……見たところ、そこにいる女が"アルゴルの魔王"か。だとすると、そこの見ない顔がルイオス=ペルセウス」

 

竜胆は紅に光る瞳をルイオスに向けながらそう言った。

 

「なっ……お前、アルゴールの石化が効いていない!?」

 

「ふん、あの程度で魔王を名乗るか。片腹痛いわ」

 

竜胆はそう言いながら黒ウサギの下に石化した同士二人とルイオスの部下を置く。

 

「下にいると、万が一のことがあるからな。連れてきた」

 

「ジ、ジャッジマスター!奴は僕への挑戦権があるのか!?」

 

「あります。審議の結果、彼───『狐巫女』は貴方への挑戦権を正式に持っているとの報告が」

 

ルイオスは思わず黒ウサギに問いかけ、彼女はそれに即答する。

 

───どうやら、彼の仮の呼称は『狐巫女』で決定らしい。

 

「ルイオス=ペルセウス」

 

竜胆が冷ややかに、まるで見る価値すらないとでも言うように彼を見下ろす。

 

「お前は俺の逆鱗に触れた……覚悟、できてるか?」

 

「ちっ……アルゴールの石化から逃れた程度で、調子に乗りすぎだよ!」

 

ルイオスは本能的な恐怖を隠すように炎の矢を放つ。

 

その矢は蛇のように蛇行し、不規則な軌跡を描いて竜胆に向かっていく。

 

竜胆は、手を前に構えた。

 

「『風手双掌』、風をも捕らえる双手の掌。

万槍をも防ぐ鉄の真理」

 

その不規則な矢の動きに、竜胆の手は完全についていった。

 

「八百万を映す理の鏡」

 

『八咫の鏡』

 

着弾する直前、竜胆の手前に八咫の鏡が現れた。

 

「返せ」

 

『承りました』

 

たった一言、それだけで竜胆に宿るタマモは八咫の鏡に妖力を込めて弾き返した。

 

「ちっ、うちの海魔を倒すだけの実力はあるってところか!」

 

ルイオスは舌打ちをすると、炎の弓を仕舞い、"星霊殺しの鎌"、ハルパーを呼び出す。

 

「押さえつけろ、アルゴール!」

 

「RaAAaaa!!LaAAAA!!!」

 

およそ人には聞き取れない声で、アルゴールは竜胆に向かう。

 

「掛かったな」

 

竜胆は小さく、そう呟いた。

 

竜胆が軽く指を弾くと、宮殿の柱が爆発した。

 

その爆発によって、アルゴールは宮殿の下に落ちた。

 

「十六夜」

 

「オーライ!」

 

十六夜はその一言で竜胆の言いたいことを理解したらしく、アルゴールを追うように下へと飛び込む。

 

「な、何をした!?」

 

「"魔道士(キャスター)"の基本的技能。"工房作製"。

自身の周囲に存在する空間に様々な細工を施し、自分にとって有利な戦闘域を開発する特技。

下で飛鳥と耀が暴れ回ってる間に、合図で爆発する爆弾を仕込ませてもらった」

 

そう、アルゴールの石化を破ったのも、この"工房作製"で自身が石化しない空間を作ったというわけだ。

 

「……まぁ、まさか無差別にやってくるとは思わなかったからな。あいつらに使ってやる暇はなかった」

 

あいつら、とは飛鳥と耀、そしてペルセウスの騎士達を指している。

 

「くっ……!図に乗るなよ!」

 

「貴様がな」

 

ハルパーで接近するルイオスを八咫の鏡で対応する。

 

「受けとれ。お前のための、蹴りだよ!」

 

竜胆は八咫の鏡に苦戦していたルイオスに接近して蹴り飛ばす。

 

ルイオスは辛うじてそれをハルパーの柄で受け止めたが、追撃するように八咫の鏡がハルパーを弾き、竜胆は空中を『踏みしめて』ルイオスに再接近した。

 

「そらよ!」

 

ルイオスよりも僅かに上に跳んだ竜胆はルイオスに踵落としを食らわせた。

 

「ガッ!」

 

「ほらよ!」

 

「Gya……!」

 

ルイオスが地面に叩きつけられるのとほぼ同タイミングで階下から十六夜が現れ、彼に吹き飛ばされたアルゴールが地面に伏した。

 

「き……貴様ら、本当に人間か!?一体どんなギフトを持っている!?」

 

そう問うのも無理はない。片方は天翔るヘルメスの靴よりも速く動き、空を踏みしめて跳ぶ。もう片方は"星霊"を力でねじ伏せているのだから。

 

二人は見せつけるように、疑問に応えるようにギフトカードを取り出す。

 

「ギフトネーム・"正体不明(コード・アンノウン)"───ん、悪いな。これじゃわからないか」

 

「ギフトネーム・"人類の罪(ア・ヒューマン・オブ・ギルティ)"───読んで字の如く、人の生み出した罪の権化だ」

 

二人は飄々と笑う。余裕を見せる彼らの背中を見て、ジンは慌てて叫んだ。

 

「い、今のうちにトドメを!石化のギフトを使わせてはダメです!」

 

それこそが星霊アルゴールの真の力。世界を石化させるほどの力こそ、アルゴールの本領だ。

 

だが、竜胆にはそれが効かなく、力でねじ伏せたいルイオスは更に正面対決を臨んだ。

 

「アルゴール!宮殿の悪魔化を許可する!

奴らを殺せ!」

 

「RaAAaaa!!LaAAAA!!!」

 

謳うような不協和音が響き、宮殿が丸ごと生き物のように呻き出した。

 

「なるほど、ゴーゴンにはこんなのもあったな」

 

ゴーゴンは様々な魔獣を生み出したという伝説もある。それは、星霊が与える種であるから、ある意味では当然だった。

 

「もう生きて帰さない!この宮殿はアルゴールの力で生まれた新たな怪物だ!

貴様らには、最早足場一つ許されない!貴様らの相手は魔王と宮殿そのもの!このギフトゲームの舞台に、最早逃げ場はないと知れッ!!!」

 

ルイオスの狂った笑い声と不協和音が重なる中、二人は小さく呟いた。

 

「───……そうかい。つまり、この宮殿ごと壊せばいいんだな?」

 

「───阿呆か、貴様は。何のために俺が『大量の魔力、妖力を使ってまであいつらを上に引き上げた』と思っている」

 

「「え?」」

 

ジンと黒ウサギは、激しく嫌な予感がした。

 

竜胆が指を再び鳴らす。

 

十六夜が無造作に挙げた拳を宮殿に向かって振り下ろす。

 

直後、宮殿の二、三、四階は跡形もなく崩れ、広大な一階と屋上のみとなった。

 

これはあり得ない。仮にもここはギフトゲームの舞台なのだ。ギフトゲームの戦いの舞台となると、当然舞台はかなりの硬さがある。

 

それこそ、山河を砕く程の一撃が必要である。

 

「……馬鹿な……どういうことらなんだ!?奴の拳は、奴の不可解な行動は、山河を打ち砕く力があるというのか!?」

 

怒りと恐怖が入り混じった叫びを挙げるルイオス。

 

十六夜はやや不機嫌に声をかけた。

 

「おい、ゲームマスター。これでネタ切れか?」

 

ルイオスは暫し固まったまま動かず、暫くしてハッとし、最大限に凶悪な顔をした。

 

「アルゴール。終わらせろ」

 

石化のギフトを解放した。

 

こんなデタラメな現実を彼は受け入れたくなかった。

 

 

「カッ、ゲームマスターが、今更狡いことしてんじゃねえ!」

 

十六夜は、アルゴールの放った褐色の光を踏み潰した。

 

そして竜胆は工房の力により、アルゴールの『石化』の恩恵を付与することを拒んだ。

 

それらに防がれた光は、跡形もなく、ガラス細工のように砕け散った。

 

「ば、馬鹿な!?」

 

ルイオスが叫ぶ。叫びたくもなる。階下にいたジンと黒ウサギですら叫びたくなったのだから。

 

「せ、"星霊"のギフトを無効化、いえ、破壊した!?」

 

「あり得ません!あれだけの身体能力を有しながら、ギフトを破壊するなんて!?」

 

白夜叉が十六夜の"正体不明"をありえない、と結論づけた理由。それは、圧倒的な破壊の恩恵と全てを無に帰す恩恵は、この箱庭の世界において存在しない筈。

 

しかし、十六夜は"正体不明"のギフトしかない。それはつまり、その"正体不明"に圧倒的な破壊の力と、全てを無に帰す力の二つが両立している、ということになる。

 

そして、驚いたのはもう一人、タマモだった。

 

(石化を防いだ……?そんな、私の恩恵による神格付加にも、ご主人様が有している"呪術師"としての恩恵は私の力が加わっているとはいえ、ご主人様本人には何百という人を運び上げる大量の魔力を行使して、かつ石化を防ぐ魔力なんてないはず!

ならば、何故ご主人様は石化を防いだ……?そんなの、一つしかない筈です。しかし、あれは今のご主人様の手に余る代物……先程、あの瞳が紅に輝いた時から?)

 

 

もしも、"人類の罪"がタマモや竜胆が思っていた以上のものだとしたら。

 

それはいずれ、『あの時』のように全てを竜胆の心のままに喰らいつくす。

 

あの恩恵は、例え神であろうと手に余るものだ。それが更にこのような厄介な力を手にしたのなら、それこそ比喩ではなく『世界が彼によって喰われる』。

 

「さあ、続けようぜゲームマスター。"星霊"の力はまだこんなもんじゃないだろ?」

 

「魔王を隷属させてるんだろう?ならばまだできるはずだ」

 

軽薄そうに挑発する十六夜と、表情を変えずに見下ろす竜胆。だが、ルイオスの戦意は既にほぼ枯れていた。

 

かたや、"箱庭の貴族"はおろか、"白き夜の魔王"ですら出所、効果、名称不明という、正真正銘の"正体不明"。

 

かたや、比喩ではなく、世界を喰らわんとする、石化を止めるだけではなく、謎に包まれた、これもまた正体不明の"人類の罪"。

 

圧倒的な奇跡と、奇跡を破壊する力。

 

黒ウサギは十六夜はともかく、竜胆がこんな意欲的に戦闘を望む性格だったかと溜息を吐き、彼らに近づく。

 

「残念ですが、これ以上はでてこないと思いますよ?」

 

そう言うと、竜胆はアルゴールを縛っている鎖を見る。

 

「……ちっ、通りで縛られてると思ったよ。奴は星霊を扱うには未熟すぎるな」

 

「っ!?」

 

ルイオスは突然瞳に感情が宿った。彼の性格からして、反論の一つもするだろうが、それがない辺り、その言葉は真実なのだろう。

 

「所詮は七光りと元・魔王だな」

 

「長所が破られれば打つ手なしってか」

 

二人は失望したと言わんばかりに落胆する。勝敗は決したようなもの。黒ウサギが宣言しようとした時、二人───特に紅の瞳になった竜胆は先程のルイオス以上に凶悪な笑みを見せた。

 

「ああ、そうだ。もしこのまま負けたら……お前達の旗印。どうなるかわかってるんだろうな?」

 

「な、何?」

 

十六夜の言葉に不意をつかれたように声を上げた。それもそうだ。

 

彼らはレティシアを取り戻すために旗印を手に入れるのではなかったのか?

 

「そんなことは所有権さえあればいつでもできる。そんなことより、旗印を盾に、即座にもう一度ゲームを申し込む。

───そうさな、次はお前達の名前を貰う。そうすればお前達も"名無し"だ」

 

ルイオスの顔から、一気に血の気が引いた。

 

そして、初めて砕けた宮殿と、竜胆がゲームに不利になってまで助けた、石化した自分の部下に目が行った。

 

二人は少しの慈悲も見せず、凶悪な笑顔のまま告げる。

 

「そして、その二つを手に入れたら、名前も、旗印も、"ペルセウス"が箱庭で永遠に活動できないように、徹底して貶めてやる。

貴様らが泣こうが、喚こうが、怒ろうが。コミュニティの存続が出来ないくらいに、徹底的に。徹底的にだ。

……それでも必死に縋るのがコミュニティなんだろ?だからこそ、貶め甲斐がある」

 

「や、やめろ……」

 

ここで負ければ旗が奪われる。そうなれば決闘を断ることができない。まして、こんな壊滅状態で戦うなど不可能。

 

つまり、ペルセウスは今、崩壊の危機に晒されているのだ。たった二人の、少年によって。

 

「嫌なら、打開策はひとつしかあるまい?」

 

「来いよ、ペルセウス。命懸けで、俺達を楽しませてみせろ」

 

「負けない……負けられない、負けてたまるか!

奴らを倒すぞ、アルゴオォォォル!!!」

 

敗北を覚悟し、コミュニティ存続のために、ペルセウスとゴーゴンは地を駆けた。




竜胆くんはドンドンチートになりますよ?


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一章最終話 僕たちの行方

お待たせしました。一章の最終話です。

次は……二巻?それとも番外?


どうしてこれを俺は予測できたのだろうか。

 

ペルセウスに勝ってレティシア=ドラクレアの所有権がノーネームに移った。嬉しい。

 

ここまでは誰もが予想できる。

 

だが、どうしてか俺は、その後に言った三人の言葉を何故か予想できていたのだ。

 

「「「じゃあこれからよろしく、メイドさん」」」

 

「え?」

 

「え?」

 

「……え?」

 

「………」

 

「え?じゃないわよ。だって今回のゲームで活躍したのって私達だけじゃない?

貴方達は本当にくっついてきただけだもの」

 

「うん。私なんて力いっぱい殴られたし、石になったし」

 

「つーか挑戦権持ってきたの俺と竜胆だろ。

所有権は俺達で等分、3:3:2:2でもう話はついた!」

 

「まて。俺は何も聞いていない」

 

「何言っちゃってんでございますかこの人達!?」

 

もはや、黒ウサギとジンは錯乱していた。

 

そして当人たるレティシアは何故か冷静。

 

俺?久し振りに言うけど、心底どうでもいい。メイドとかいらん。アイツの相手してるだけで疲れる。

 

『アイツっていうのはやっぱり』

 

(お前だ。タマモ)

 

『や、やはり……ご主人様のAT-フィールドはガード堅すぎますよ!

食事に誘われて「これから食事行くから」とか言って断る声優ですかこんちくしょー!』

 

まあ、そんなタマモはおいておくとして。

 

「んっ……ふ、む。そうだな。

今回の件で、私は皆に恩義を感じている。コミュニティに帰れたことに、この上なく感動している。

だが親しき中にも礼儀あり、コミュニティの同士にもそれを忘れてはならない。

君達が家政婦をしろというのなら、喜んでやろうじゃないか」

 

「俺はそんなこと一言も言ってないぞ」

 

「レ、レティシア様!?」

 

あれ、今日ってなんか無視される日なのか?俺の発言が他の奴らのせいでかき消されてるんだけど。

 

「私、ずっと金髪の使用人に憧れてたのよ。うちの使用人ったら、皆華も可愛げも無い人達ばかりだったもの。

これからよろしく、レティシア」

 

「よろしく……いや、主従だから『よろしくお願いします』の方がいいかな?」

 

「使い勝手がいいのを使えばいい。そっちの方がいいのならうちのエロ狐にでも喋り方聞いてくれ」

 

「誰がエロ狐でございますか!?」

 

「常に発情期なお前だ」

 

「そ、そうか……いや、そうですか?んん、そうでございますか?」

 

「黒ウサギとタマモの真似はやめとけ」

 

◆◇◆

 

それから3日後、ノーネームは金欠だというのに、俺達四人+タマモ+耀の三毛猫と、レティシアの歓迎会を開いていた。

 

「えーそれでは!新たな同士を迎えたノーネームの歓迎会を始めます!」

 

「……風が気持ちいいな。思わず寝てしまいそうだ」

 

「おいおい竜胆。まだ九時にもなってねえぜ?お子様は寝る時間か?」

 

「煩いな……お前よりは若くても飛鳥や耀よりは長生きしてる」

 

そうは言いつつも結構限界だ。あんまり長く寝てると朝がやばいから、普段は早めに寝ている。俗に言う早寝早起きっていうやつだ。

 

「だけどどうして屋外の歓迎会なのかしら?」

 

「うん。私も思った」

 

「黒ウサギなりの精一杯のサプライズってところじゃねえか?」

 

実際、今のノーネームの財産はあと数日で底を突く。俺達が本格始動したとして、百を超える子供を養うのは少し難しい。まして、その中には魔王との戦いや仲間の救出もあるのだから、尚更だ。

 

「無理しなくていいって言ったのに……馬鹿な子ね」

 

「……そう、だな……。……俺も、そう……思う……」

 

うとうとしながら飛鳥の言葉を返す。ここに姉さんがいたらスキンシップとか称して「竜胆可愛い」なんて言ってハグしてくるだろう。

 

まあ、その姉さんも死んでしまったのだから、それすらも懐かしくて愛おしい。

 

歓迎会の『本番』はもう少し後、と言っていたので、俺はそのもう少しを安らぎの中へと沈めていった。

 

◆◇◆

 

突然だが、俺の家族の話をしよう。

 

まず長男の俺の兄さん。異世界のどの記録にも乗っていないという過去の王様本人らしい。なんでも死の直前に現代にタイムスリップして母さんに拾われたらしい。

 

強くて、胡散臭くて……俺の大好きな兄さんだった。

 

次に、長女の姉さん。この人はさっき言ってたハグする姉さんだ。異世界の王族のクローンだそうだ。

 

まあ、つまるところ姉さんも、兄さん同様に母さんに拾われた。因みに姉さんの方が兄さんより年下だけど、姉さんが先に拾われたらしい。

 

優しくて、あったかくて……俺の大好きな姉さんだった。

 

次に、次女の姉さん。俺の双子の姉。俺はお姉って呼んでた。

 

お姉はとにかくアホだった。天才なのに、アホだった。あと、異性一卵性双生児っていうやつだったから、すごいチビだった。

 

それでも、なにかと俺の世話を焼いてくれた。いやまあ、逆に俺が世話を焼くような感じになってたけど。

 

世話好きで、後先省みなくて、俺の大好きなお姉。

 

次に、俺の弟と妹。三男と三女。

 

弟は困ったことに、姉さんの彼氏さんの血縁関係にある人が原因で女装がファッションとなってしまっていた。妹も結構腹黒い。

 

きっと俺が守りたいものって、こういう家族なんだろうなって思わせてくれた、大事な弟と妹。

 

そして、父さんと母さん。二人はなんかもうややこしいことこの上ない存在だ。

 

一言で纏めると、二人して性転換転生を体験してて、魂に直結してる不思議なオーパーツの力で、寿命では死なない、年を取らないという異質な存在。母さんに至っては体の一部分が機械だ。

 

それでも、俺を愛してくれた父さんと母さんだ。

 

そして……言うのも恥ずかしいが、俺の元・彼女さん。

 

困ったことに、変態だ。本当に困っていた。事あるごとに俺の胸を揉みしだいていた。あとヤンデレ。

 

それでもやっぱり、俺を世界で、いや、全ての世界と宇宙の中で俺という個人を愛してくれた人だった。

 

だけど、俺は死神だから。幸せなんて手に入れられない。

 

そう。例えどんな場所に逃げたって、俺は死神なんだ。

 

大事な人ほど、儚く消える。

 

そんなのが嫌だ。嫌だから、俺は逃げたはずなのに。

 

ここでも、守りたい人達ができてしまった。

 

◆◇◆

 

「竜胆……竜胆っ……」

 

「───さん」

 

空に上がっていたペルセウスの旗、ペルセウス座が消えた時、突如春日部耀は眠っている竜胆が気になった。

 

しかし、竜胆はいくら揺さぶられても、聞き覚えのない名前を出しては、苦々しそうに顔を歪めるだけ。

 

「───いやだよ。ぼくをひとりにしないで」

 

「───え?」

 

突如、竜胆はそう言い出した。

 

「───ひとりぼっちは、いやなんだよ。さびしいのは、いやなの」

 

そう寝言で呟きつづける竜胆はどこか儚げで、このまま放っておけばどこか遠くへ行ってしまいそうで……

 

思わず、耀は彼の手を優しく握っていた。

 

「大丈夫。竜胆は一人じゃない。寂しくなんか、ない」

 

「───ありがとう」

 

『『『ありがとう』』』

 

「───え?」

 

またも、耳を疑ってしまった。

 

今、竜胆が寝言で彼女に礼を言った時、色々な声が聞こえてきた、そんな風に感じた。

 

「───お礼なら私もだよ。初めて会った日も、ガルドから助けてくれたし、次の日も真剣になって私の怪我を治してくれたそうだし。

それに、友達になってくれたし」

 

今は眠る。今際の世界の理を、"人類の罪"は知るのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何度も言いますけど、竜胆くんがいた世界については 真・ゼルガーの部屋 の天上天下と名乗っている私の小説をご覧になってくださいね!

時々名前やらややこしい部分やら出てきますが、直接御話に干渉はしないので。


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今更すぎる正月番外編! 孤独の狐のお正月

とっても今更すぎますね。あととってもお久しぶりです。あけおめです。

かっこうむしです。

因みに前回の桃太郎ならぬいちごダキニ同様時系列と竜胆くんのキャラ崩壊はぐっちゃぐちゃです。その辺はあしからず。




箱庭にも季節があるように、箱庭にも所謂『お正月』は存在している。

 

正月だと言うのに油揚げと稲荷寿司……季節外れではないが、年明けは年越し蕎麦か餅ではないのだろうか。

 

ともかく、その油揚げと稲荷寿司をもっちもっちと小動物のように食べている少年、高町竜胆は隣にいる自身に憑依した狐、タマモこと玉藻の前と共に初詣でも行こうかと思っていた。

 

「……年、明けたな」

 

「明けましたね」

 

数年前から誰もいない場所で過ごしてきていた彼らにとって年を明けるということはそうとう久しぶりに感じている。

 

「というか、なんで正月なのに餅も蕎麦も食わずにこの二つなんだ。

……畜生、お前が取り憑いて以来こういうのが美味く感じるんだよ」

 

「ご主人様、それは『悔しいけど、感じちゃう……』的なことですか?」

 

「お前のお花畑な脳みその中身かち割って見てみたくなってきたな」

 

「ごめんなさい私が悪かったです許してくださいその右手に持ったフライパンをしまってください!」

 

「一発ぶっ叩いとかないとお前の頭の中身は変わらないと思うんだ」

 

「や、やめてくださいまし!やめてとめてやめてとめてやめてとめてアッーーーーーーーー!!!」

 

ゴギャンッという結構危ない音が響いた。

 

◆◇◆

 

「やっぱり初詣なんか行ってる暇はないな。このコミュニティは遊ぶ時は本気で遊ぶような奴らばっかりだしな……ん?

あれは……ペストか。おい、なにやってんだ?」

 

竜胆が暴走した憑依霊を気絶させた後、外で畑でもたがやかそうかなんて考えていると、見知った顔を見つけた。

 

「あら、竜胆。あなたこそお正月からこんなところになんのようかしら?」

 

「畑と田んぼの様子見だよ。コミュニティの子供らは洋食、和食と完全に1:1の比率だからな。

正月だからと言って、和食一択っていうのもあれだし」

 

「御苦労なことね。まぁ、料理の方は貴方とリリに任せておけばどうとでもなるわ。

特に貴方に料理の文句を言ったらそれこそヤバいことになるわ」

 

以前、和食だけの料理を出した時のことである。彼はこれを機に洋食派の子達にも和食を食べて欲しい、翌日は洋食オンリーで逆もまたしかりという感じで作ったのだが、それがそれぞれの派の子達にとっても文句を言われてしまったのだ。

 

因みに彼はその日からおよそ数週間厨房に篭ったきり出てこなかった。ドアを開けようとしたリリ曰く、扉の向こうから「あいつらを満足させられなかった……俺の料理はまだその程度……ああダメだ。もっともっとだ。もっと上達して、あいつらに最高の料理を振舞ってやらないとダメだ……」という言葉が聞こえてきたらしい。

 

因みに彼はプレイヤーとしてだけではなく、既に箱庭最高レベルの料理人としても有名である。

 

その彼はまったく自分の腕を誇りに思うことなく、貪欲に上を目指し続けているからこそ 、その時子供の我儘を真に受けてしまったのだ。

 

因みにその時はメンバー総出で彼を止めたのだが……それはまたのお話。

 

「……そうか……俺の料理は……まだ、不満を言われる程度のレベルなのか……」

 

文句を言ったらそれこそ大変、そう言ったのは間違いだったらしい。

 

「あ、いえ……そういうわけじゃないのよ?仮に、もしもの話だから!私達、実際貴方の料理を毎日食べられてすっごい満足だから!」

 

「……ほんとう?」

 

子供みたいな言葉遣いと子供みたいな目で見られてしまった。

 

「ほ、本当よ!」

 

「ぐすっ……よかった……」

 

いちいちややこしいメンタルの持ち主であった。

 

◆◇◆

 

「古代米味噌……流石の俺でもこれ程の食材を使ったことはないな……さすがは箱庭、こんな栽培が難しいものも簡単に作ることができるなんて……」

 

田んぼの様子を見ながらそんな感想を述べる。

 

「ふむ……これをどう洋食派の奴らにも食べさせるか……だな。調理の方法は様々だが……味噌を使った料理なんて洋食には聞いたことがないからな……」

 

その時、ピキンときた。

 

「そう言えば昔、エジプトパンに味噌を使ってる料理漫画があったな。となると直火で焼くか……いや、炭焼きの方がいいか。炭もそれなりもやつ……備長炭みたいなのがあれば」

 

料理のことで頭を使うことが彼にとって至福の時。それでも本人は趣味の範囲を出ないと言う辺りがすごいのだが。

 

「竜胆」

 

三度、女性の声。

 

「なんだ、耀か。ペストといい正月の朝っぱらからこんなとこにいるなんて、うちの女性陣はどうなってるんだ?」

 

「そういう竜胆も正月の朝っぱらから田んぼの真ん中にいるなんて、女の子らしさがゼロだよ?」

 

「お れ は お と こ だ」

 

「冗談」

 

「当たり前だろ」

 

それ以降バッタリと会話が途切れる。元々控えめな耀と会話がなければ喋ろうとしない竜胆の二人なのだ。こういう光景は結構見る。

 

「……耀。お前、和食派?それとも洋食派?」

 

「突然どうしたの?」

 

「いや、気になっただけだ」

 

稲を一つ一つ見ながらそう言う。

 

「……どっちでも好き。沢山食べられればそれでいい」

 

「お前は……もう少しグルメというか、そういうのを知れよ……料理の作りがいがないだろ。

俺としちゃもう少し拘りを持って欲しい」

 

「拘っていつかみたいに厨房に引き篭られても困る」

 

「うぐっ……」

 

どういうことか、竜胆は耀に甘い。例の厨房に引き篭った時も決め手となったのは耀だった。

 

「……その、なんだ。久しぶりに誰かのリクエストに応えて料理するのも悪くないなって思ってだな。

あ、いや違う!別にお前だから聞いたわけじゃない!偶々、近くにいたから聞いただけだ!」

 

両手を前に出してブンブンと降る。真っ赤になった顔は黒ウサギの緋色になった時の髪よりも鮮やかだ。

 

「う、わわわわ!?」

 

田んぼの中でブンブン降っていたのが災いしたのか、そのまま体勢が崩れて頭から田んぼに入っていった。

 

「竜胆?」

 

「ぅわ……顔面ベットベトだな。泥パックとかいうのもあるけど、田んぼの泥じゃあダメだろうな……」

 

むくっと立ち上がり、他人事のように言う。

 

「少し風呂に入って来る。丁度米の下調べも終わったしな」

 

さっきまでの動揺っぷりや如何に、彼はテクテクと本拠に向かって行った。

 

◆◇◆

 

「どうしてこうなった」

 

大浴場。そこは早朝早くから使う奴なんてそうそういない。それが夜明け直後なら尚更だ。

 

だがしかし、いた。先程別れた筈の耀がいた。ついでに言うなら先程気絶させたタマモと先程別れたペストもいた。

 

入って気づいた瞬間に撤退しようとした彼はそのままタマモに羽交い締めにされ、入浴を強制されていたのだ。

 

「新年早々入浴したら混浴って……どこのラブコメだよ」

 

三人がいる方向とは正反対の方向を向いてはぁ、と項垂れる。

 

「竜胆」

 

「うわあああああああああああああああ!!!??」

 

後ろから突然声が掛かってきたのでビクッとなる。

 

「ぺ、ペストか……驚かせるな……」

 

「いえ。こんなに女性関係で動揺している貴方を見てると、つい驚かせてしまいたくなったのよ」

 

「どこの好きだからイタズラする小学生だ!」

 

ふぅ、と再び一息。この状況は正直に言うととってもマズイ。

 

こういった女性関係のトラブルが起きたことは箱庭に来る以前、以後と共に何度かあったが、何度体験しても慣れるもんじゃない。

 

「最終鬼畜元魔王ペストとでも呼んでやろうか……?」

 

また思考の世界へと入り込む。

 

「ご主人様〜!」

 

むにょん。

 

「っっっ!!?!??」

 

今度は背中に弾力を感じた。

 

大変言いにくいことだが、三人の中でむにょんなんて擬音が出そうな身体つきをしているのは一人しかいない。

 

「な、なな、何をするだァーッ!」

 

「何って……ナニ?」

 

「ふざけるなっ!タマモてめえ!」

 

ブチ切れる竜胆。しかしタマモはむにむにと押し付けてくる。

 

「───!!?───!!」

 

最早何を喋っているのかわからずじまい。マイペース極まる耀も合わさって、彼にとって最悪な年明けだったという。

 

 

 

 

 

おまけ

もしも竜胆くんが耀ちゃんに一目惚れだったら?

 

※とってももしも的展開爆発です。ついでに言うならパロディネタ満載です。

そして竜胆くんは以前いた世界では女子泣かせな容姿のせいで男にモッテモテだったため、男性的魅力というものに自信がありません(これは本編の方でも同様)。

竜胆くんとタマモは別居です。

 

それでは、はじまりはじまり〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 めし どこか たのむ 送信者:料理男

 

そう打たれたのは箱庭にあるスレッド『えーゆーの庭』。

 

料理男こと高町竜胆はその文字を見た時、どう答えてくれるかという不安でいっぱいだった。

 

「な、なんか恥ずかしい……」

 

元はと言えば内気な性格をなんとかするためにこういうのも経験するべきと思っていたが、まさかこんな形で経験するとは微塵にも思わなかった。

 

簡単に言えば一目惚れ。

 

箱庭に一人で召喚されてガイドもないままうろうろしていたら、大きな虎男に襲われそうになっていた少女を助けた時が全ての始まりだった。

 

彼にとって、世界の始まりの日と言っても過言ではない。

 

その少女から助けてもらったお礼にともらった二つあったうちの一つの木彫りのペンダント。それを首に掛け、なんか恥ずかしさと嬉しさがごっちゃ混ぜになっていた。

 

と、そんな時にスレッドのコメントに一つ。

 

2 押し倒せばよいのじゃ! 送信者:ウサギに捨てられて金髪に足蹴にされた夜叉

 

「……いやダメでしょ!?」

 

思わず画面越しにツッコんでしまった。

 

間髪入れずに次のスレが出てきた。

 

3 攫え!! 送信者:問題児一号

 

「だからダメでしょ!?」

 

4 攫いなさい!! 送信者:問題児二号

 

「悪ノリしないで!?」

 

しかも名前まで悪ノリしている。これは一体どういうことか。

 

5 たった一言よ。こう言えば済むわ。『俺のモノになりなさい』とね。 送信者:ステンドグラスの引き篭もり

 

「なんで皆そんなに会って間もない子に積極的にさせようとするの!?」

 

しかもステンドグラスに引き篭もるわけがわからない。

 

6 いけると思います 送信者:スーパーウサギ人

 

「なにが行けるの!?」

 

とまぁ、ツッコミどころ満載だったが、皆が皆協力的な姿勢だったので助かった。

 

まあそれから暫くした後、それが起きた。

 

143 ちょ、ペンダントさんと日曜日に会うことになったんだけど。俺、どうしたらいい!? 送信者:料理男

 

そう。そんな感じだった。

 

144 自分に自信を持て。お前に足りないのは自信だ。 送信者:問題児一号

 

145 その通りじゃ。お主の顔はみたことないが、こうして会話しているだけでも誠実な人間とわかるぞ。 送信者:ウサギに捨てられた(ry

 

そんな風に次々送られてくるスレッドの数々。

 

なんか、涙が出てきたらしい。

 

「ありがとう、皆……俺、やってみるよ!」

 

かくして、彼と彼女の恋愛劇が始まった───!

 

 




完全に電車男とか戦車男とか言わないで。パロディ満載とか言っといてほぼその二つしか使わなかったことには反省してますって!

でも……ツンデレの竜胆くんなんだぜ?こうしてネットとはいえ内なる悩みを打ち明けている彼とか貴重そうじゃない?

少なくとも私はそう思う!


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幕間ってエロくないですかご主人様?幕の中で繰り広げる愛……なんあぶだあっ!?

サブタイトルと違ってシリアスな気がする。




俺、高町竜胆の目覚めは最悪の一言に尽きた。最悪、というよりは驚愕だったが。

 

まず、目が覚めたら目の前に耀がいた。反射的に跳び退こうとしたが、何故か耀にがっちりホールドされてた。

 

しかもそんな状態で「竜胆は一人じゃない」なんて言われたから、正直当事者の俺が一番サッパリだ。

 

で、現状。そのままガッチリとホールド中。

 

「よ、ょぅ……」

 

思わず尻窄みにそんな声を出してしまう。

 

「は、はずか……しい……」

 

多分俺の顔は真っ赤を通り越し灼熱なんだろうなぁー、なんて思いながらそんな風に言う。

 

「あっ……ごめん」

 

その言葉を聞くと、耀は突然バッと離れる。

 

「その……だ。なんで、こうなってた?」

 

「……竜胆が、どこか遠くの誰かみたいだったから」

 

「どこか遠くの、誰か?」

 

思わずオウム返しに返してしまう。

 

「この前から気になってたんだけど……竜胆が変になった時に、竜胆が竜胆一人の意思で動いてるみたいじゃなかったから。

なんというか……集団の意思を竜胆が行動に移してる、みたいな」

 

……集団の意思が、俺の行動に?

 

「……気のせいじゃないのか。確かに俺はスイッチ入ると記憶が吹っ飛ぶくらいにおかしくなるらしいが、俺は俺だ。

誰かに運命を左右されるほど弱くはないつもりだ」

 

「なら、いい」

 

それだけ言うと耀は部屋から出て行った。外で日が完全に登っているところを見ると、恐らく歓迎会でうっかり眠ってから今現在まで寝ていたんだろう。

 

なにもやることがないと思っていた矢先、

 

「………ッ!」

 

身体全体から激痛が走った。

 

「ぐぅっ……ぁ……ぁああああ!!」

 

メギッ、という音が背中から響いた。

 

背中を見てみると、そこには一対の黒い翼があった。

 

「ぐっ……くそっ……"進行"がここまで……あッ!があ!!」

 

再び激痛が、今度は身体中に迸る。

 

「ご主人様!?」

 

俺の様子に気づいたのか、タマモが現界し、俺の身体を支える。

 

「やめ……ろ……来るな……来ないでくれ……やめて……こないで……たす……け───」

 

俺の意識は、再び暗い闇に落とされた。

 

◆◇◆

 

「……っ……ぅ」

 

竜胆が目を覚ますと、そこは昔一度見たことのある景色が広がっていた。

 

「この部屋は……白夜叉か……」

 

「うむ、その通りじゃ」

 

竜胆が身体を起こすと感じた違和感。背中を見てみると、そこには『彼の異変』を示す黒い翼があった。

 

「そうか……"進行"、進んで……」

 

「"進行"って、どういうこと?」

 

その声に思わずビクッとする。暫く彼は固まり、恐る恐る振り向く。

 

「……よ、う……」

 

無表情な顔とは裏腹に、あからさまに『怒ってます』的オーラがバリバリ出ていた。

 

◆◇◆

 

「それで、"進行"って何?」

 

「言う義務は……ない」

 

「ある」

 

「だから……」

 

「竜胆は私達の仲間だから、教えて」

 

「……言う必要はない。俺はお前達を仲間と思ったことはない」

 

竜胆はそっぽを向き、自分の翼を撫でる。

 

「"ノーネーム"にいるのも成り行きだ。元々ガルドを殺すために一時的にいたにすぎないし、"ペルセウス"の時も奴らが気に食わなかっただけだ」

 

「嘘だよ」

 

「嘘なんかじゃない」

 

竜胆はそれきり何も言わなくなったが、これ以上なにも言う気はないし、言わせる気もないと言っていることがはっきりとわかった。

 

まるで、彼が彼であることを拒んで、彼となっているかのように。

 

それは竜胆が『無』であり、竜胆が『全』であることを示す───

 

「───悪い、白夜叉。暫くこの部屋借りることになる。

それと、"名無し"」

 

次の瞬間、竜胆は何時もの彼に戻り、"名無し"と他人行儀に呼ぶ。

 

「短い間だったな。それなりには楽しかった。

所詮、世界は俺に幸せを許してくれない……俺は死神なんだよ」

 

「───ッ!待って!りん───」

 

次の瞬間、耀の目の前は"ノーネーム"の屋敷になっていた。

 

「……ごめん、"ノーネーム"。こんな勝手な奴で……でも、駄目なんだ。

"人類の罪"は、近づく者を皆食べ尽くす……それが親しい人なら……尚更」

 

孤独の狐は静かに告げる。自らの存在を───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───人類の罪の、罪深さを。






やはり幕間のようなハイテンションにはならない。これが私クオリティ!


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ご主人様、ハロウィンとはなんでしょう?古代文明の祭りだ。
一話 目指すはノーザン?


ここから魔王襲来編です!

竜胆くんの現状説明とかツンデレとかが主なのでいつもより馬鹿なくらい短いです!すみません。




「……北側へ行く?」

 

白夜叉の部屋の布団に横になっていた竜胆が、白夜叉の言葉を反射的に聞き返した。

 

「うむ。実は北側の"階層支配者(フロアマスター)"が変わっての。

しかしその童がおんしのところのジンと同年代なのだ」

 

「……今の俺の立場は便宜上"サウザンドアイズ"預かりの客分の筈だ。

それと、"名無し"の話題を出すな」

 

「ぬかせ小僧。翼の件が一段落すれば嫌でも"ノーネーム"に送り返してやるわ」

 

竜胆は「チッ……」と言いながら、憎らしげに背中の翼を見る。

 

そんな時、

 

「白夜叉?いるかしら?」

 

そんな声が聞こえてきた。

 

「噂をすればなんとやら、じゃな」

 

「……寝る場所を変える。俺に会いにきたのならいないって言ってくれ」

 

竜胆は呪術を使い、フワフワと浮かびながら白夜叉の部屋を後にした。

 

◆◇◆

 

「匂いも完全に消した。"工房"で音も漏れないから、問題ないだろ……」

 

竜胆がフッと一息つくと、彼の真横に狐耳の巫女、タマモが現れる。

 

「ご主人様?なにをそんなに必死になってまで皆様……特に耀様に会いたがらないのですか?」

 

「……気のせいだろう」

 

「……ハハーン☆」

 

竜胆がそっぽを向いてそう言う。しかし、仮にも数年の付き合いであるタマモには所謂コミュ症の竜胆が嘘をついているなんてはっきりわかる。

 

「……なんだよ」

 

「恥ずかしいんですね?」

 

「……は?」

 

「ご主人様、案外お子様ですからね~。あんな風に突き放した以上、簡単に出てきちゃカッコ悪いですもんね~?」

 

「……し、心底どうでもいい考えだなっ」

 

目を逸らして少し噛みぎみ。どうやら図星のようだ。

 

「とにかく、俺はもう寝る。この症状だって暫く寝てれば治るんだからな」

 

「おやぁ~?"ノーネーム"の皆様と会いたがらないのに、早く帰りたいんですか?」

 

その場から逃げるために適当になにか言おうとしたら、墓穴を掘ってしまう。

 

「……う、」

 

「う?」

 

「うるさいうるさいうるさい!

俺は寝る!耀のことなんか関係ない!

本当だからな!?本当に耀のことなんか関係ないからな!?」

 

「フンッ!」と言うと、彼は拗ねてしまったのか、布団の中に潜り、動かなくなった。

 

「……言い過ぎちゃいました」

 

タマモは竜胆が潜っていて、少しはみ出している翼を見て微笑む。

 

「まあ、これ以上弄っちゃうと本当に拗ねちゃうので、私もお暇しましょう。

よい夢を、ご主人様」

 

頭まで被っていた布団を肩下まで被し直すと、案の定竜胆は眠っていた。

 

「……ありがとう。いまのぼくのかぞく……」

 

それが誰を指すのか、誰にもわからない。






ツンデレ男主人公とか問題児SSでどこを探してもここぐらいのもんだよ全く!

てか、ツンデレ男の娘って誰得……


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バレンタイン番外編! 狐のお料理教室

ドーモドクシャサン。

とある事情につきメンタルブレイクしてた昆虫です。

なんとか立ち直ったのでここからまた更新しますよ。

あ、あとこの手の番外編にありがちな時系列無視と竜胆くんの崩壊もありますので。



2/14。

 

別名、バレンタインデー。もしくはセントバレンタインズデー。

 

その起源はローマ帝国期にまで遡る、由緒正しき聖なる一夜である。

 

しかし、それがバレンタインの日となったのはあまりにも悲しい出来事からである。

 

それは、古代ローマの皇帝、クラウディウス二世は故郷に待つ人がいれば、それだけで戦力の士気が下がると思い兵士は結婚不可を定めたことから始まる。

 

そんな兵士を哀れと思った司祭ウァレンティヌス……バレンタインは兵士の結婚を隠れて行った。

 

しかし、そんなウァレンティヌスはやがてクラウディウス皇帝に見つかり、処刑されてしまう。その日が2/14……女神ユノの祭日と同日であり、ウァレンティヌスはルペルカリア祭の時に捧げる生贄となった……

 

以来、その日はウァレンティヌスの行ったことのように恋人を祝う日となった……

 

「……バレンタインのあらすじはこんなもんかな。日本に伝わったのが五十年代とはいえ、流行したのは七十年代だから、飛鳥は知らないだろうが……」

 

「ごめんなさい、私は知らなかったわ」

 

「私もそこまでは知らなかった」

 

「竜胆さんはいちいち知らなくてもいい知識を持っているのデスね……」

 

現在地、俺の部屋。

 

バレンタインだからコミュニティの皆に菓子でも、と思っていた時、耀、飛鳥、黒ウサギが殴り込んで来て「飛鳥にバレンタインを教えてあげて」なんて言うものだから……現在に至った。

 

「こんなもんでいいだろ?じゃあ俺はこれから用事あるから」

 

「カカオの匂いがする」

 

……犬かよこいつ。

 

「アールグレイの紅茶、ココア、生クリーム……これは生チョコ。

卵白にグラニュー糖、アマレット……これはチョコムース

それでこれは───」

 

「教えればいいんだろ……わかったからその料理当てはやめてくれ……作ってもないのにネタバレは職人として傷つく」

 

最近耀がヒドイ。なんか知らないけど俺が嫌がることをピンポイントで突いてくる。

 

「ま……教えるからには全力全開で教えるけど、根、上げるなよ?」

 

その時のおれは、きっと最上級の笑顔をしていただろう。

 

◆◇◆

 

「包丁さばきがなってない!」

 

「そんなこと言わないでよ。私今までこんなことなにもしてこなかったし」

 

「うるさい俺が監督をしている限りは俺の指示に従え!いいかお前らは俺を満足させるためにやっているんじゃないぞ送る相手を幸せにするためにやってるんだ妥協なんてするんじゃないッ!!」

 

キャラが変わってた。

 

「……なんで私がこんなこと」

 

「こらそこペストォ!私語は慎め!お前らは耀とリリ、その他料理を作る年長組を除いて全員クズ以下の料理スキルしか持たない!ならば数をこなせ!数で無理な分は集中して質を上げろ!」

 

完全に昭和の鬼教師である。もしくはラムダドライバでも起動したのだろうか。

 

「竜胆様!この場合はどの果物を選んだ方がいいでしょう?」

 

「ん?これか?……そうだな、俺は果物は入れずにビターの方が好きだが……果物を入れるならやはりチョコレートには苺だな」

 

「ありがとうございます!」

 

「頑張れよ。俺はド下手共に教えなきゃいけないからあんまり教えれないが、耀とリリならできる限り答えてくれる」

 

そしてこの温度差である。小さな子供に甘々……

 

「っ!白雪ィッ!俺は微塵切りにしろと言ったのに何故短冊切りになる!」

 

「それはこの包丁が」

 

「俺がぶっちぎりでド下手クソなお前でも使えるように態々他のコミュニティまで行って恩恵付加してもらった上にそもそも俺が西以外の地域から厳選した包丁を使っとるのに包丁のせいにするなぁッ!間違いなくお前の責任だ!!」

 

「黒ウサギは四人の中ではまだ及第点だ!だが足りん!もっと精進しろ!」

 

因みに竜胆はこれらの叱咤激励?を自分の分もチョコレートを作りながら言ってる。右手には見事な孔雀のカタチを。左手にはキリストが十字架に磔にされているものである。

 

凄まじいまでにいらない方向に特化した能力である。

 

付け加えると、彼は料理が上手、などというギフトは一切有していない。純粋に、実力と努力だけで箱庭トップクラ

スの料理人になっていた。

 

まあ、そんなこんなで約半日が過ぎて……

 

「……まあこんなもんでいいだろう」

 

目の前のチョコレートは少しカタチが歪だったり、分量を間違えたような匂いもするが、それでもまだマシなものだ。

 

「……もう俺に教えることはないな。渡したい奴に渡して来い」

 

はーい、なんてかなり体力的に限界な皆様方がザワザワと散らばって行く。

 

「……さて、俺もチョコレート作らなきゃな……」

 

戦場はこれから二時間後へ……

 

◆◇◆

 

「……できた」

 

竜胆が作ったのは簡素な生チョコ。それが複数入った袋が沢山ある。

 

「さて……この二つは郵便でサンドラとサラ殿に届けるとして……まずいそうなところは……厨房か」

 

菓子製作用の部屋を出て隣の厨房に入る。

 

「やっぱりここか、リリ」

 

「あ、竜胆様」

 

そこにはリリがいた。彼女は別段料理を作っているわけでもなかったが、そのかわりに椅子に座っていた。

 

「リリ、プレゼントだ」

 

「ふぇ?はわわ!」

 

竜胆がリリの頭目掛けてそれを投げる。リリはそれをなんとかキャッチした。

 

「これ……」

 

「生チョコだ。本当は全員に作りたかったんだが……時間がなかった上にあいつらが押しかけてきたからな。

代表って言ったらアレだが……お前に作っておいた」

 

「ありがとうございます!私からもチョコレートです!」

 

竜胆が受け取ったそれは可愛らしく作られたチョコレートだった。テンプレのようにハートマークになにやら文字が書かれてた。

 

「ありがとうリリ。ホワイトデーは三倍返しだな」

 

「ほわいとでー?」

 

「ああ、リリは知らないか。俺の時代以降の日本だけの風習だからな。

バレンタインに女の子に渡されたチョコレートを男が一ヶ月後に三倍返しするっていう日のことだ」

 

「そんなんですか……期待してていいんですよね?」

 

「もちろん」

 

暫く話をした後竜胆は部屋を出て行った。

 

◆◇◆

 

続いては麦畑。

 

「本当にお前らってわかりやすいところにいるな」

 

「それでもわかりにくいところにいるよりはありがたいでしょ?」

 

「まぁな……ほれ、プレゼントだ」

 

続いて竜胆が訪れた場所にいたのは斑の少女……ペスト。

 

「それにしても……ペストは農耕が好きだな」

 

「好きって程じゃないわ。生前がそういう仕事をしていただけ」

 

「そうか……」

 

暫く畑を見ていると、突然ペストの手元からなにかが飛んで来る。

 

「チョコ……?おい、これは」

 

「渡したい奴に渡せって言ったのは貴方よ」

 

「……俺なんぞに渡しても三文の得もなかろうに……」

 

「それをどうするかは私の勝手よ」

 

「それもそうか……」

 

暫く無言でいたら、竜胆は突然パッと姿を消した。

 

◆◇◆

 

「……ん?耀は……寝てるな」

 

例の寝心地のいい場所に行くと、耀が寝ていた。

 

「……まあ、いつものことだしな。腹の上にでも置いとけばわかるだろ」

 

竜胆は耀に作っておいた生チョコを耀のお腹の上に置く。

 

「朝っぱらからなんか疲れたな……タマモは朝イチで渡せなんて言うし」

 

竜胆が耀の隣に腰掛け、木にもたれかかる。するとすぐに睡魔が襲ってきた。

 

「ぁふ……寝るか……」

 

そう言うと竜胆はすぐに静かな寝息を立てて眠り始めた。

 

「……寝るの早い」

 

その直後、その瞬間を待っていたといわんばかりに耀が目を開いた。

 

すやすやと眠る竜胆を暫く堪能し、改めて彼の顔をよーく見る。

 

あどけない顔だ。今日は陣羽織も着ていないからより子供っぽさと可愛らしさが目立つ。

 

「いつもお疲れ様。ハッピーバレンタイン。竜胆」

 

それだけ言うと耀もまた眠りについた。

 

竜胆のお腹の上に一つのチョコレートを置いて。

 






悶え死ぬ。

自分の傷を抉る私はドMだと思います!


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バンガイヘン もどらぬぼくのひ

今回はとことんシリアスで行きたい。そう思うのです。




夢を見た。

 

あれは……いつの日だっただろうか。

 

俺は自分が負わされている『罪』を知っていた。

 

だけど……それでもその時は幸せが欲しかった。

 

それはきっと……好きな人がいたから。

 

ああ……あれは、いい日々だった。

 

きっと……こうして箱庭で暮らしている日々に負けない位、暖かい日々だった。

 

それでも、『ぼく』の『罪』は幸せを許さなかった。

 

家族は死んだ。

 

ある日、全員……俺以外の全員が死んでしまった。

 

原因は不明。母さんの関係者に探偵とか敵に回した国が一日で滅ぶ家とかあったけど、それらの人達が総力を挙げても原因はわからなかった。

 

探偵の人の相棒の人が全ての平行世界で起こったことを記録する地球の本棚と呼ばれる場所でもわからずだった。

 

俺はその人達に迷惑かけたくなかったから一人で旅することにした。

 

その先で厚意にしてくれた人は沢山いた。

 

だけど、その人達も母さん達と同じだった。

 

原因不明の突然死。

 

様々なところに行っては、俺と関わった人が死んでいく。そんな生活を続けて行くうちに……

 

───俺は次第に誰かと一緒にいることをやめた。

 

丁度、そんな時だった。

 

「はいはいどうもはじめまして。私、取り憑いたご主人様に生涯全てを捧ぐ良妻狐でございます」

 

最初に会った時は……ぶっちゃけ精神が病みまくってた俺でも殴りたくなった。

 

初対面でご主人様、だの良妻狐だのと、あーだこーだと喋れば変なことばかり。

 

それでもはじめのうちは放っておいた。

 

どうせこいつも母さんやその人達と同じで、俺をおいてさっさと死んでいくと思ってた。

 

でも。

 

「それはあり得ませんね。私は貴方様に取り憑いたユーレイみたいなものですから、私が貴方様から離れる時は即ち貴方様の生涯が終える時です。

ですから私と共にこの二人だけのアヴァロン、ユートピア!ニライカナイ!シャングリラ!アルカディア!その他諸々の楽園でラブラブなライブを〜!まず手始めにおはようのちゅーから!」

 

……正直、こんな奴と二人だけで過ごすなんて不安しかなかったが、自分といて死なない人がいるっていうのはそんな不安忘れるくらい嬉しかった。

 

だから、いつの間にか誰かといることの楽しさを思い出していた。

 

きっと……ここで過ごしているのも、そんなのを思い出したから。

 

俺が生き物みたいな感情を思い出したから。

 

◆◇◆

 

「……いつもの家族が死ぬ夢だと思ったけど、随分と懐かしい夢を見たな……」

 

これは嘘偽りのない言葉だった。

 

床の方に目を向けると、行儀良く座布団の上で正座しながら寝ているタマモ。

 

「黙ってれば本当にただ綺麗な奴なのにな……」

 

なんとなくタマモの頬に触れる。するとタマモはどうしてかふにゃあっとした顔になった。

 

「はあ……まあ、こいつのおかげでここでこんなコミュニケーションもとれてる訳だしな……」

 

そんな時、ドアから控えめなノックが響いた。

 

「竜胆、タマモ、起きてる?」

 

ん……耀か。

 

「ああ、俺は起きてる。タマモはぐっすりみたいだから放っておいてくれ」

 

ベッドに座りそう言う。すると耀が部屋に入ってきた。

 

「おはよう」

 

「ああ……おはよう」

 

火龍誕生祭以来、耀と俺はどういうことか関わることが多くなってきた。

 

多分……互いが誕生祭の前の喧嘩?が負い目になっているんだろう。

 

こうして耀と……"ノーネーム"の皆と過ごしていくとすれば、いつかは俺の『罪』を教えないといけない時が来るだろう。

 

だけど、今はそんなのどうでもいいくらいだ。

 

それはまたいつかの話として……今は、この暖かい温もりの中に甘えるとしよう。

 

さあ……この変わらせたくない日々の始まりだ。






作者「シリアス一本でいくと言ったな」

読者「そ、そうだ作者……た、たすけ」

作者「あれは嘘だ」

読者「うわー!!」


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二話 ぱすと?おあ、ふゅーちゃー?

あれはもうホワイトデーみたいなものだったから、一ヶ月悩みまくってホワイトデー番外はしないと誓いました。


それは、昔の話。

 

俺はその人のことが、世界で一番大事だった。

 

その人のためなら、命だって投げ出してもいい覚悟があった。

 

だけど、逃げた。

 

逃げたんだ。

 

俺にはそんなことをする資格なんかない。だから、逃げた。

 

その結果はなんだ?また守りたい人達ができて、また逃げている。

 

本当に、俺って……あーあって感じだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に……………………………………あーあ。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

「……夢、か……」

 

竜胆は辺りを見回す。そこは寝る前に使わせてもらった部屋だった。

 

「……俺は、弱いな……今更あんな夢を見た程度でここまで……あの世界に、幸せに帰りたいなんて……」

 

暫く無言で部屋にいる。

 

「……そういえば、北側に来たんだったな……祭りがあったんだっけ……」

 

竜胆はなんとなく祭りが気になったので、無断で部屋から出て行った。

 

◆◇◆

 

「展示品置き場……なるほど、中々の逸品が集まっているな」

 

展示品置き場の中央にデカデカと置いてあったペンダントランプのような物に目が移る。

 

「製作者"春日部 孝明"……春日部?

そういえば、耀のお父さんはギフトとして機能するくらいの作品を創る彫刻家だったな……もしかして、同一人物だったりしてな」

 

そんなわけないか。と決めつけ、次の作品に視線が移る。

 

笛吹き男、嵐、ネズミを取るピエロ、黒い斑点のついた人間を模した四つのステンドグラスだ。

 

「出品者" "……あいつらとは別の"ノーネーム"か。

しかし、"名無し"にしておくには勿体無い出来栄えだな……」

 

───ありがたいことを言ってくれるわね

 

「ッ!?」

 

突然どこかから声が聞こえた気がして、ハッと振り向いたが……周囲には竜胆と距離をおいて見学している者のみ。

 

「……気のせいか」

 

───あら?私の声が聞こえるのかしら?

 

「……気のせいじゃないな。どこにいる?」

 

小さな女の子のような声音だ。だけど声は声音から考えられる歳不相応に落ち着いた感じがする。

 

───ここよ。ここ

 

「ここって……どこだ……」

 

───いるでしょう?貴方の目の前に

 

そこまで言うと、竜胆は目の前にあるステンドグラスを見た。

 

「……おいおい。物と会話する"ギフト"なんて持ってねえぞ?」

 

───でも、貴方は実際に私と会話してるわ

 

「それもそうだな。だけど……本当にそんな"ギフト"はなかった筈なんだけどな」

 

竜胆が頭を掻いていると、ステンドグラスは名案だと言わんばかりに竜胆にこういう。

 

───丁度いいわ。貴方、私の話し相手になりなさい。

いつまでもこんなところにいても退屈なのよ

 

「物が退屈とはな……流石神様の箱庭というところか。

いいだろう。俺でいいのなら、夜まで話し相手になってやる」

 

───やさしいのね。その辺の女の子に言ったら惚れちゃいそうよ?

 

「まさか。近づく者は敵でも味方でも死んでいく死神に惚れる奴なんていないさ」

 

───優しい人っていうのは、自分が優しいって自覚してないものなのよ。

いつ、どんな時でもね

 

そう言われた竜胆が暫くトントン、と頭を叩いていると───

 

「確かにそうだな。俺の昔の知り合いは優しいっていうのを自覚してないお人好しがいたな」

 

───昔?

 

「ああ。箱庭に来る前の知り合いさ。

まあ、ここに来る数年前から会ってないけどな……」

 

───そう。悪いことを聞いたわね

 

ステンドグラスから発せられる声はバツが悪そうな声を出す。

 

「気にするな。自分から交流を絶ったんだからな」

 

───そういうのを優しいって言うのよ。無自覚ね

 

そんな他愛のない話は竜胆の宣言通り、夜まで続いた。

 

◆◇◆

 

竜胆の現在地、サウザンドアイズの浴室。

 

ノーネームの浴槽に負けないほどの大きな大浴場で、竜胆はタマモとゆっくり肩まで湯船に浸かっていた。

 

「……なあ、タマモ」

 

「なんでございましょうか?」

 

「……あのステンドグラスから聞こえてきた女の子の声。結局誰だったんだろうな」

 

「謎は深まりますね。というかご主人様?」

 

「なんだよ」

 

竜胆がタマモの方に目を向けると、急に肩を掴まれる。

 

よーく見ると、彼女の表情はグルグル目で口が裂けそうな勢いだった。

 

わかりやすく言うと、某ロボットのエネルギー源に汚染されちゃった状態なのだ。

 

「ご主人様がタラシなのは知っていましたが……まさかステンドグラスまでにもそんなことをしてしまうとは、本当に恐れいりマスヨ……ふフ負府腑譜腐FUHU……」

 

「……はっ?」

 

「一発、殴ってもいいデスか?」

 

「却下に決まってるだろうが」

 

「答えは、聞いて、マセン」

 

「なんだそりゃ……!」

 

浴場でこんなことをしている。本当は足を滑らせたりするので、竜胆は常にゆっくりと歩いているが、そんなことは言ってられない。

 

「なんなんだよ……俺はステンドグラスと喋ってただけだぞ……?」

 

「それが、問題なのです……!」

 

「……たくっ、わけのわからん」

 

そんな浴場の追いかけっこは数十分続いた。

 

◆◇◆

 

「はぁっ……はぁっ……なんなんだよ……無駄に疲れさせやがって……!」

 

「ぜぇっ……ぜぇっ……それもこれも、全部、ご主人様が悪いので、ございますよ……!」

 

改めて湯船に浸かる二人。

 

「うっさいよ……だいたいこっちは尻尾と翼があるせいでいつも通りに動けないってのに……」

 

息をつき、恨めしそうに尾骶骨に生えた尻尾を見つめる。

 

最初に生えた時は九本だったが、今は落ち着いているのか、三本まで減った。

 

「だいたいだな……お前少しは自分の行動の結果、起きた被害とか省みろ。

誰が後始末してると思う」

 

「良心的で家庭的な私のご主人様の高町竜胆さんに相違ないです」

 

「わかってるならいい。俺はもう出る」

 

ザバッと湯船から腰を上げると、後ろからタマモの声が聞こえてくる。

 

「おや、いつもなら二時間は入っていますのに」

 

「これ以上入ってると無駄に疲れる。それに"ノーネーム"の奴らがいるから、いつまでもここにいると面倒なんだよ」

 

実はその"ノーネーム"の奴らが、竜胆が帰ってくる数時間前に入浴していたのは知るよしもない。

 

「ステンドグラスに描かれた絵……嵐にネズミ捕り、笛吹き男と黒の斑点の人間……いずれも童話『ハーメルンの笛吹き』の複数ある伝承にあったな。

だとすると、あの声の主はその伝承のいずれかに当てはまる能力でも持っているのか……」

 

竜胆は身体についた水滴を拭いながら考える。

 

「そう言えば、白夜叉は"予言の眼"を持った奴の予言から"魔王"が攻めてくるとかいうことを知ったんだっけか……」

 

だとしたら、魔王は既にこの街に潜り込んでいる可能性もある。

 

「その"魔王"の情報とか詳しく聞いてなかったな……まぁ、どうでもいいか。

俺はあいつらのところから離れたわけだし、無理に"魔王"と戦う必要もない」

 

寝巻きとして使用している着物に着替え、その最中に考える。

 

「……あのステンドグラス、寂しくないかな……」

 

どうも考え事に没頭すると最終的に他人のことばかり考えてしまう。竜胆は暫く考え、白夜叉に借りている部屋に向かって歩き出す。

 

「明日また行くか……声だけしかわからんとはいえ、女を一人にして泣かせるほどイヤな奴のつもりじゃないからな……」

 

死神、なんていう言葉で己を縛っていても、結局は誰かを心配してしまう。彼は自分という存在の危険性を知っていながら、それに目を背けてしまう───

 

「……この件が片付いて白夜叉に追い出されたら皆に謝らないとな……」

 

そんな風に思いつつ、彼はその日の出来事に幕を降ろした。

 

 




なんかもうリア充爆発しねーかなっていうくらいに女性と絡みますねこの死にたがり厨二狐は。

たまには十六夜くんのことも忘れないでやってほしいです。


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三話 狐巫女の矛盾


前回までのあらすじ!

竜胆くんがツンデレ全開でノーネームの下から離れる!

竜胆くんが謎のステンドグラスに出会う!何者なんだ……(すっとぼけ)

竜胆くんが従者のお狐様(♀)にお風呂場で追いかけられる!

以上!本編スタート!



「……ちっ」

 

「ほれほれどうした?折角の美貌が台無しじゃぞ?」

 

「……俺は男だ」

 

火龍誕生祭舞台区画。現在竜胆は運営の本陣営で白夜叉の隣に座らされていた。

 

どうも一般の席が空いていなかったので"ノーネーム"と白夜叉を舞台上からゲームが見えるバルコニー席を用意してもらっていた……らしい。その火龍誕生祭のメインたるサンドラという少女に。

 

因みに竜胆は"サウザンド・アイズ"の客分として扱われている。

 

十六夜は嬉々とした表情で決勝の開幕を待ちわびていた。

 

一方竜胆はというと、気まずくてしょうがなかった。

 

そんな中、黒ウサギが舞台中央に立つ。

 

「長らくお待たせしました!火龍誕生祭のメインギフトゲーム・"造物主達の決闘"の決勝を始めたいと思います!

進行及び審判は"サウザンド・アイズ"の専属ジャッジでお馴染み、黒ウサギがお勤めさせていただきます♪」

 

「うおおおおおおおおおおお月の兎が本当に来たあああああああああああぁぁぁあああああ!!!」

 

「黒ウサギイイイイイイイ!!

お前に会うためにここまで来たぞおおおとおおおおおおお!!!」

 

「今日こそお前のスカートの中を覗いてやるぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

「……馬鹿ばっかりだな」

 

そんな喧騒を聞きながら率直に感想を述べる。

 

確かに竜胆の目から見ても正直、黒ウサギは可愛い部類だろう。だがそこまで盲信的に叫ぶ必要がどこにあるのだろうか。

 

『むしろ私はあれくらい積極的になって欲しいのですが』

 

「死んでもお断りだ」

 

竜胆とタマモがそんな痴話喧嘩を繰り広げているうちに、十六夜と白夜叉に電撃が走りそうな会話をしていたが、あまりにも不毛なのでカット。

 

(……ん?今感じた力、妖力に似たような物だったな。耀の方に向かってる)

 

「それでは入場していただきましょう!第一ゲームのプレイヤー・"ノーネーム"所属の春日部耀と"ウィル・オ・ウィスプ"所属のアーシャ=イグニファトゥスです!」

 

耀が舞台中央に行こうとしたとき、火の玉が彼女のすぐそばを横切った。

 

その影響で耀は尻餅をつきそうになる───が、その直前に装飾過多な鏡に支えられた。

 

「……え?」

 

耀がもしやと思いバルコニーの方を見ると、そこには右手の人差し指と中指を合わせて耀のいる方に向けている竜胆がいた。

 

「あっはははははははは!見て見て見たぁ、ジャック?"ノーネーム"の女が無様に尻餅ついて───ない。まぁいいや。素敵に不適にオモシロオカシク笑ってやろうぜ!」

 

「YAッFUFUFUFUUUUuuuuuu!!」

 

ドッと観客席の一部から笑い声が出てくる。

 

「……はぁ。"名無し"が出るのが不満なら勝てばいいだろうが。頭悪いな」

 

竜胆は笑続けている観客席を一瞥し、鏡を使って耀を立たせる。

 

一方耀は笑い声など気にせず、ジャックと呼ばれた周囲を廻る炎に目が向いていた。

 

「その火の玉……もしかして」

 

「はぁ?何言ってんのオマエ。アーシャ様の作品を火の玉なんかと一緒にすんなし。

コイツは我らが"ウィル・オ・ウィスプ"の名物幽鬼!ジャック・オー・ランタンさ!」

 

「YAッFUUUUUUUUUUUUUUuuuuuuuu!!」

 

アーシャが腰掛けている炎に合図を出し、火の玉が巨大なカボチャっぽいのになった。

 

「随分と煩いカボチャだな。包丁で頭斬り裂いてやりたい」

 

「お主、存外腹黒いのう」

 

「まあな」

 

竜胆と白夜叉は眼下で耀を嘲笑っていたアーシャとジャックを完全無視して喋っていた。

 

「ふふ~ん。"ノーネーム"のくせに私達"ウィル・オ・ウィスプ"より先に紹介されるとか生意気だっつの。

私の晴れ舞台の相手をさせてもらうだけで泣いて感謝しろよわこの名無し」

 

「YAHO、YAHO、YAFUFUUUUuuuuu~~~♪」

 

その時何を思ったのか、突如竜胆は立ち上がり、舞台の方に飛び降りて行った。

 

「「「はっ?」」」

 

その光景を見ていた選手と観客は全員唖然となった。無論、サンドラと白夜叉も同様だった。

 

「お前馬鹿なのか?」

 

そして飛び降りて第一声がこれである。

 

「はぁ?」

 

「悪いけどアーシなんとか=イグニファトゥなんたらとかいう名前、俺達聞いたことないんだ。

名前も知らない奴に突然泣いて感謝するとか、誰もするはずないだろ」

 

明らかに名前がわからないふりをして話し出す竜胆。

 

「で、これが噂のジャック・オー・ランタン?迷える子供を救うはずのジャック・オー・ランタンが名無しだからなんて理由でここまで子供を小馬鹿にするか?

偽物なんじゃないか?」

 

あっはははは!と笑う竜胆。しかし、その笑い方はどこか感情のない笑い方だった。

 

「んだよ。オマエもそこの女同様"ノーネーム"なのかよ」

 

「違う……と言いたいところだが、コミュニティを離脱したわけじゃないからな。

"サウザンド・アイズ"預かりの"ノーネーム"所属。こんなところか。

おわかりいただけましたかな?アーシなんとか様とジャック・オー・ランタンのニセモノさん」

 

次に全体にまた違う動揺が回る。まさか天下の"サウザンド・アイズ"が"ノーネーム"の人間を客分として迎え入れているのだ。

 

「命のピンチだった時に白夜叉に助けてもらったのは感謝してるよ。ま、お前らだったら"名無し"だからなんてくだらない理由で見捨てるんだろうけど。

あー、東側所属でよかったわ。ホント、白夜叉様々だよ」

 

彼はなんと"ウィル・オ・ウィスプ"の侮辱と共に白夜叉、ひいては"サウザンド・アイズ"に更なる高評価を与えるような言動をし出した。

 

「ちょ、いきなり乱入しないでください!っていうか貴方身体は大丈夫なんですか!?」

 

黒ウサギが審判としてではなく、つい"ノーネーム"の黒ウサギとして言ってしまう。

 

だがまあしかし、"サウザンド・アイズ"預かりの客分と"サウザンド・アイズ"の専属ジャッジという関係が周りから見た感想なので別段関係を怪しまれることもなかった。

 

「黒ウサギ、このゲーム、俺がコイツのサポーターとして付く。いいか?」

 

「そ、そんなこと言われましても……事前に言ってくれないと困りますし」

 

「じゃあ事前に報告しなければサポーターとして参加できない、なんてルールがあるのか?」

 

竜胆がご丁寧に"契約書類"を見せてくる。そこの一文には

・サポートとして一名までの同伴を許可

とあるのみだった。

 

「因みに俺の"人類の罪"は種類的に言うと結果的には創作系ギフトだからギフトの使用云々は"呪術"と"玉藻の前"が使えなくなるだけだ」

 

黒ウサギは暫し考え、ジャッジマスターとしての判断を向こうに仰いで、次いでアーシャに視線を送る。

 

「ただいま判断を受理しました。対戦相手側に問題がないのなら、とのことです」

 

「ハッ。上等だよ。その口二度と開けねえように叩き潰してやるから上がって来いよ」

 

上手い具合に挑発できたようで竜胆は内心ほくそ笑む。

 

「ぬかせ餓鬼。貴様なぞ全力を出す必要もない」

 

こうして、ギフトゲームが始まった。





竜胆くんがフリーダムすぎて皆さんが介入させない場面にも平気で介入しちゃってます!

というかここで介入しないと後々の大きなイベントが発生しないんです。

言うなればここの選択肢でトゥルーエンドかハッピーエンドかに別れるのです。


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四話 大樹の下のフォックス



ちょっとばかり書き溜めしてました。

でも基本作者の頭は色々かっとビングしてるので謎の超展開とかあるかもしれません。

因みに今回のタイトルの元ネタは借りぐらしのアリ……うわなにをするやめ(爆



「……ん?悪いな白夜叉。俺のせいで変なイメージつけちまって」

 

「構わんよ。それよりも"サウザンド・アイズ"は人命救助のためなら普段は蔑ろにしてしまう"ノーネーム"も助ける、というイメージがついたわけじゃからの。

逆に感謝するわ」

 

「そりゃ、どーも」

 

竜胆は白夜叉と軽口を言い合いながら、内心では違うことが気になっていた。

 

(尾と翼はいつもより治まっている……無茶はできないとはいえ、普通に戦うくらいならできるはず)

 

とはいえ、自分自身その詳細を全て知っているわけではない"人類の罪"しか使えないという状況はかなり危険だ。"呪術"は"玉藻の前"が付近もしくは内部にいないと使えないし、その"玉藻の前"は存在自体が三人目のプレイヤーにしか見えないから当然使えない。

 

竜胆と白夜叉のやりとりを見た黒ウサギはそれで溜飲が下がったのか、宮殿のバルコニーに手を向けて厳かに宣言する。

 

「───それでは第一ゲーム開幕前に、白夜叉様から舞台に関してご説明があります。ギャラリーの皆様はどうかご静聴の程を」

 

会場の喧騒が一瞬で消え、それに合わせ、主催者の白夜叉はバルコニーの前に出て会場を見渡し、緩やかに頷いた。

 

「うむ。協力感謝するぞ。私は何分、見ての通りお子様体型なのでな。大きな声を出すのは苦手なのだ。

さて、それではゲームの舞台についてだが……まずは手元の招待状を見て欲しい。そこにナンバーが書かれておらんかの?」

 

「招待状忘れた奴災難だったな」

 

「ではそこに書かれているナンバーが、我々ホストの出身外門───"サウザンド・アイズ"の三三四五番となっておる者はおるかの?

おるのであれば招待状を掲げコミュニティの名を叫んでおくれ」

 

ざわざわとどよめき、やがて一人の木霊の少年が招待状を掲げた。

 

「こ、ここにあります!"アンダーウッド"のコミュニティが、三三四五番の招待状を持っています!」

 

おお!という上がり、次の瞬間には白夜叉の姿が霧散し、少年の元に一瞬で現れた。

 

「ふふ。おめでとう、"アンダーウッド"の木霊の童よ。後に記念品でも届けさせてもらおうかの。

よろしければおんしの旗印を拝見してもよろしいかな?」

 

少年はコクコクと頷く。そして白夜叉は彼の差し出したコミュニティのシンボルマークをしばし見つめ、それを返すと、次の瞬間にはバルコニーに戻っていた。

 

「今しがた、決勝の舞台が決定した。それでは皆の者、お手を拝借」

 

白夜叉が両手を前に出し、観客もそれに倣う。

 

パン!と会場一致の柏手が鳴ると共に、いつかのように世界が変貌していた。

 

◆◇◆

 

「夜叉の世界……か」

 

暫く億劫な落下感を堪能しながら隣にいるパートナーに目を向ける。すると耀は気まずそうに目を背ける。

 

(……気にしてないのになあ。だいたい、あの時のだって俺が侵食の事隠してただけなのに)

 

そう思うと、バフン、という少し意外な着地音がした。

 

下を見ると樹木。上、右、左も樹木。

 

「この樹……ううん、地面だけじゃない。ここ、樹の根に囲まれた場所?」

 

そう理解できたのは耀の嗅覚が土の匂いを嗅ぎとったからだろう。

 

耀の独り言を聞いていたもう一人が小馬鹿にしたように彼女を笑う。

 

「あらあらそりゃあどうも教えてくれてありがとよ。そっか、ここは根の中なのねー」

 

耀は無関心そうにアーシャから顔を背ける。挑発のつもりはなかったのだろうが、竜胆に口喧嘩で散々言われた彼女を苛立たせるには十分だったらしい。

 

「無闇に自分が獲得した情報を口にしない方がいい。今みたいな無粋な輩が盗み聞きをしている可能性もあるし、それが勝敗を別つ程だったら尚更だ」

 

竜胆はアーシャを無視しながら耀にそう告げる。

 

「……竜胆」

 

「……勘違いするな。俺はアレにムカついただけだし、ジャック・オー・ランタンに期待していた分失望しただけだし、観客の無脳さに呆れただけだ」

 

「それ、ガルドやルイオスの時も言ってた」

 

「……気のせいだろ」

 

竜胆はそっぽを向いてなにも言わなくなった。

 

「……だが、カボチャの化けの皮を剥がしてみたくなった」

 

「え?」

 

「独り言だ。気にするな」

 

そう言った時、突如空間に亀裂が入り、その中から黒ウサギが現れた。

 

その手には"契約書類(ギアスロール)"が握られており、それを淡々と読み上げる。

 

『ギフトゲーム"アンダーウッドの迷路"

 

勝利条件

一、プレイヤーが大樹の根より野外に出る。

二、対戦プレイヤーのギフトを破壊。

三、対戦プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合(降参含む)。

 

敗北条件

一、対戦プレイヤーが勝利条件を一つ満たした場合。

二、上記の勝利条件を満たせなくなった場合。』

 

「───"審判権限(ジャッジマスター)"の名において。以上が両者不可侵であることを、御旗の下に誓います。

お二人共、どうか誇りある試合を。此処に、ゲームの開始を宣言します」

 

黒ウサギの宣誓が終わり、試合開始のコールとして二人は距離をとりつつ、初手を探る。

 

暫しの睨み合いの後、アーシャが小馬鹿にした笑いを浮かべた。

 

「睨み合っても進まねえし、先手は譲るぜ」

 

「………?」

 

「ま、さっきの件もあるし、後でいちゃもんつけられても面倒だし?」

 

ツインテールを揺らし、肩を竦める。

 

耀は無表情で暫し考え、一度だけ口を開いた。

 

「貴女は……"ウィル・オ・ウィスプ"のリーダー?」

 

「え?あ、そう見える?なら嬉しいんだけどなぁ♪

けど残念なことにアーシャ様は」

 

「そう、わかった」

 

「少し突けばボロが出る。阿呆の典型だな」

 

嬉しそうに語り出すアーシャ。しかし二人は会話をほっぽり出して背後の通路を疾走した。

 

「え……ちょ、ちょっと……!?」

 

自分から投げかけてきた会話を完全無視し二人仲良く木の根を走る。アーシャは暫し唖然とする。

 

ハッと我に返ったアーシャは怒りのまま叫び声を挙げた。

 

「オ……オゥェゥウウケェェェェェイ!!とことんバカにしやがって!

そっちがその気なら加減なんざしてやんねえ!行くぞジャック!木の根の迷路で人間狩りだ!」

 

「YAHOHOHOhoho~!!」

 

カボチャとゴスロリと、無口とツンデレ。四者四様のメンバーによる追いかけっこが始まった。






ザ・フリーダム&姑息。なんて奴だ竜胆くんよ。

姑息な手を……(今後の竜胆くんの修羅場について考えながら)

あ、姑息ってその場しのぎとか一時凌ぎとかそういう意味らしいですよ。

つまりバリアンの(面)白き盾さんはあのインテリな見た目なのに間違えていると……


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五話 ランタンうぃずフォックス



今回はいつもの半分程度しかないです。

区切りが悪いですからね。




後ろから迫る炎。それを消し去る旋風。

 

そして少しずつ離れていく距離。

 

現在竜胆は耀を右腕一本で背負って迷宮を爆走していた。

 

「出口の空気は?」

 

「北西の方角」

 

「了解!」

 

口数の少ない二人は短いやりとりをすませる。竜胆も嗅覚や触覚は強いが、耀には劣るので確実性を求める手を打った。

 

竜胆が北西の方角に向かって左手を突き立てる。すると木の壁はボロボロと崩れ、一直線に道ができる。

 

「くっそ!あんなメチャクチャな進み方しやがって!

追うぞジャック!」

 

「YAッFUuuuuuuuuuu!!」

 

アーシャとランタンは二人を追うが、本気を出せばあの十六夜ですら実現不可能な速度で動くことが可能な竜胆だ。本気で走っていないとはいえ、アーシャ達と比べれば速度差はある。

 

「二手に別れる。道は作れるな?」

 

「うん。熊とも象とも友達だから、このくらいの木なら大丈夫」

 

「そうか……じゃあ、散開!」

 

すると、耀は竜胆から離れてそれぞれ上下に向かった。

 

「ジャックは背負ってた方を追え!いざとなったら……!」

 

「YaHo!!」

 

そう言い、アーシャとランタンも別れる。

 

「よし……偽カボチャが来たな……!」

 

竜胆は走りながらそう呟く。

 

暫く竜胆とランタンは走り合い、途中とピタッと止まる。

 

「さて……ようやっとご対面だな、偽カボチャ」

 

「YaFu?」

 

竜胆の言葉にランタンはかくりと首を傾げる。

 

「いい加減その偽物ごっこはやめたらどうだ?

ホンモノのジャック=オー=ランタン」

 

そんなランタンに苛立ったのか、竜胆は左手の爪をランタンの喉元まで延ばす。

 

「……なるほど、貴方は気づいていたのですね?ジャック=オー=ランタンに幻滅した、と仰っておきながら、私の正体を見破っていたと?」

 

「なんとなく……ではあったがな。お前と対面した時に僅かだが……俺がかつて出会ったジャック=オー=ランタンに酷似した力を感じた」

 

「ほほう。そんな若さでありながら多くのことを経験したのですね。

貴方の中から様々な歪を感じ取れます」

 

ランタンの様子が変わった。変わった、というのは様子というよりギフトの"本質"が、だが。

 

「そこまでわかるのか。俺は化けの皮を覆ったカボチャってことしかわからなかったぞ」

 

「ヤホホホ!それだけ理解していれば充分すぎますヨ!何と言っても私はあなたのパートナーの彼女のような幼子や貴方のような心の幼い方にも親切なカボチャですから!」

 

「的を射ている。いくら表面上を取り繕おうと人と関わることはあまりなかったからな。

それなりに長い付き合いをしてる奴らにはボロが出る」

 

竜胆とジャックはふふん、と笑い合う。

 

「で……どうなさいますか?私と戦います?」

 

「遠慮しておく……不死のギフトを壊す力なんてない。それに俺のギフトは使えば使うほどヤバいシロモノだからな……」

 

「……して、ならばなぜ突然参加を決意したので?」

 

ジャックが問うと、竜胆は唐突に視線を逸らす。

 

「……見てられなかったんだよ。あいつが」

 

「あいつ、と言いますとあのお嬢さんですか?」

 

「……ああ。あいつは俺とは違うから、俺みたいに人との関わりを拒絶するような奴になってほしくないんだ」

 

ふう、と苦笑いを浮かべる竜胆。しかしジャックは表情こそカボチャ頭でわからないものの、彼に否定的な言葉を発した。

 

「その自虐的な言い方、感心できませんね」

 

「事実だ。俺にはもうどうでもいいことだしな」

 

「……そうですね。私のようなカボチャにもわかります。

貴方はもう既に後戻りできない程に自らの"ギフト"に身体を侵されている」

 

「最早"ギフト"よりも"カース"の方がしっくり来るな。こんなの死んだ姉さんに知られたらなんて言われるか……」

 

「……ヤホ?お姉様ですか?」

 

「ああ。家族思いのとんだ阿呆さ」

 

竜胆が話を切り上げようとした時、丁度『勝者、アーシャ=イグニファトゥス』というアナウンスが聞こえてきた。

 

「負けちまったか」

 

「ヤホホ、そのようですね。

失礼ですが、お名前を聞いても?先程はアーシャの戯れに付き合っていたせいで聞きそびれてしまいましたので」

 

「名乗るに値しないと思うが……まあ、言おう」

 

竜胆は消えゆくステージの中でその言葉、自らの言霊を紡いだ。

 

───高町、竜胆───

 

「なっ───」

 

ジャックがそんな声を漏らしたことを、彼は気づかなかった。






ジャックさんが竜胆くんの名前に驚いたその理由とは?

それに関しては竜胆くんの大事な人とジャックさんのコミュニティが関係しています!



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六話 出逢イタクモナイノニ



今回は魔王戦の序章……竜胆くんのツンデレっぷりが起こす出会いたくもなかった二人の出逢いです。




ゲームが終了した直後、竜胆は既にステージから去って元の場所に戻っていた。

 

「どうだったよ、竜胆。ジャック=オー=ランタンはよ?」

 

「そうだな……なるほど確かに、世界中でかなり有名なだけはある。かなり愉快で腹が立つことのないカボチャだったさ」

 

隣にいる十六夜に軽く口を叩き合い、なにかの話をしている耀とジャックを見る。

 

「じゃあ、やりたいこともやったんだから俺はもう行く」

 

椅子に腰掛けずにいた竜胆はそのまま振り向いて会場から出ようとする。

 

「なんだ?女でも待ち合わせてるのか?」

 

十六夜はニヤニヤと意地汚い笑みを浮かべてくる。

 

「そんなところさ。一人淋しくいる女を放っておけるほどできた生き物じゃないんでね」

 

正直に答える竜胆に十六夜はつまらなさそうな顔をする。

 

しかし、竜胆が会場の出口を潜ろうとした時、その怒号は突然響いた。

 

「待てッ!竜胆!"あれ"見ろ!」

 

「───"あれ"だと?」

 

突然十六夜に呼び止められたのでなにがあったのかと振り返る。

 

そこには、黒く輝く"契約書類"が雨のように降り注いでいた。

 

『ギフトゲーム名"The PIED PIPER of HAMELIN"

 

プレイヤー一覧

・現時点で三九九九九九九外門、四○○○○○○外門、境界壁の舞台区画に存在する参加者、主催者の全コミュニティ。

 

プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター

・太陽の運行者・星霊 白夜叉。

 

ホストマスター側 勝利条件

・全プレイヤーの屈服・及び殺害。

 

プレイヤー側 勝利条件

一、ゲームマスターを打倒。

二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

"グリムグリモワール・ハーメルン"印』

 

静まり返った会場の中、観客席で一人の男が膨張するように叫ぶ。

 

「魔王が……魔王が現れたぞオオオオオォォォォォォォ───────!!!」

 

それとほぼ同じタイミングで竜胆は美術館に向かって走っていた。

 

◆◇◆

 

境界壁・2000m地点。

 

遥か上空にある境界壁の突起に四つの人影があった。

 

一人は露出が少ない白装束を待とう女。白髪の二十代半ばに見える女は二の腕ほどの長さのフルートを弄びながら舞台会場を見下ろす。

 

「プレイヤー側で相手になりそうなのは……"サラマンドラ"のお嬢ちゃんを含めて四人ってとこかしら。あの狐の坊やは走ってただけでそんなに強くなさそうだしね、ヴェーザー」

 

「いや……あのカボチャには参加資格がねえ」

 

「じゃあ四人目ってのは?」

 

斑模様のフリルのついたドレスを着た少女が軍服のような服装に明らかに目立つ巨大な笛を持つ男性に問い掛ける。

 

「あの狐の小僧だよ。あいつ、なんのつもりだか知らねえが"ギフト"を顕現させていても"ギフト"の力を使ってねえ」

 

「それどういうこと?"ギフト"っていうのは普通顕現させれば力は自然に発動するものでしょ?」

 

「んなもん俺が知るかよ。知ってたら今みたいな遠回しな発言はしねえよ」

 

男がはあ、と溜息を吐くと少し戦慄したように呟く。

 

「つまり、あの狐小僧はギフトの力もなにも使わずにあれだけの速度を出して"白夜王"が創り出した舞台の壁を破壊してたんだよ」

 

「……なにそれ」

 

「兎に角、マスターもラッテンも死にたくなけりゃ覚えとけ。

あいつとまともにやり合うなよ」

 

「……肝に銘じとくわ」

 

「関係ないわ」

 

二人がそれぞれ異なる答えを残し、三人はそれぞれ別の場所に行った。

 

◇◆◇

 

「ハッ……ハッ……」

 

竜胆は混乱する観客達を押し退けて走っていた。

 

とある場所に向かって。そこがギフトゲームの舞台となっているから。

 

「間に会え……割れてるなよ……名前のない黒死病のステンドグラス……!」

 

彼は道を駆けながらぼそりと呟く。

 

あのステンドグラスの正体はわからないが、一度でも関わりを持ってしまったらどうも彼はその人を見捨てることができないようだ。

 

たとえ、自分が自分で死神を自称するほどの呪われた存在だと自ら理解していたとしても……

 

暫く竜胆が走っているとステンドグラスが置いてあった展示館を見つけ、扉を乱暴に蹴破る。

 

「おい、無事かステンドグラス!」

 

竜胆は展示館に入るとなんの迷いもなく一気にステンドグラスが置いてあった場所に向かって走る。

 

「おいっ……!いるなら返事しろ……!」

 

その場所につき、昨日置いてあった場所にその姿はなかったので周りを見渡す。

 

「いない……?くそっ、展示場所を移されたのか?」

 

「───あら。"魔王"が現れて大騒ぎになってるっていうのに物探しなんて、とんだ物好きなのか……あるいは余裕の現れなのか」

 

静かに、しかしはっきりと響き渡る声が竜胆の耳に届きスッと振り返る。

 

「……"魔王"か」

 

「ご明察。私は今回の"ギフトゲーム"の魔王側ホストマスターのペスト……!」

 

ペストと名乗った"魔王"が竜胆の顔を見た途端に強張った顔になったので竜胆はそれを訝しむ。

 

「……どうした?俺の顔になにかついてるのか?」

 

竜胆が魔王の顔色を伺うように下から覗くとペストは確信したように質問してくる。

 

「り……リンドウ……?」

 

突然名乗ってもいない自分の名を問われるので彼も自身の記憶に潜る。

 

暫く考え……唯一、彼女の声音と一致する声を見つけた。

 

「お前……まさか……ステンドグラスか!?」

 

こうして二人は平穏に出会うはずだった場所で、互いに殺し合う者同士として出会ってしまった。






姉御肌(甲殻類の中では)のペストとツンデレ弟系の竜胆くんが下手したらメインヒロインたる春日部さんよりもお似合いになりかねない……だと……くそう、ショタとロリだなんて色々すごいじゃないか。



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七話 キツネの奇妙な探検



別に擬音にゴゴゴやらドドドやらバァァーーン、みたいなのはないですよ?




互いの警戒……というか、先ほどまでのギスギスとした雰囲気はまるでなくなっていた。

 

「……ステンドグラス」

 

「な、なに?私には一応ペストっていう名前があるんだけど」

 

「こんな時にそんな冗談はやめとけ。今の話聞いてる奴がいたら間違ってでもお前を殺しに来るぞ?」

 

「……一日話してわかったけど、貴方って本当に変な人ね……」

 

竜胆が真顔で発言したのに対してペストははあ、と肩を下ろす。

 

「……でも、冗談なんかじゃないのよね」

 

「……そう、か」

 

「そうよ。私は叶えなきゃいけない悲願があるの。

その悲願の邪魔になるというのなら……リンドウ、貴方でも殺すわ」

 

ペストが語気を少し荒げてそう言うと彼女の周囲に黒く濁った風が漂った。

 

「上等だ。ここにはお前以外にも守ってやりたい奴がいるんだ。

お前がその邪魔をするってんなら……ステンドグラス、いやペスト。お前を倒す」

 

そう言うと竜胆はペストに向かって走り出した。

 

「……!速い……!行きなさい!」

 

駆け出してから遅れて足音が聞こえる。ペストはそれに対抗するように黒い風を前方で壁になるように動かした。

 

「……遅いッ!」

 

しかし、竜胆は壁が完成しきる前にペストの背部に回り込み、蹴りを食らわす。

 

ペストは展示館の壁に衝突するが、すぐさま体勢を立て直し、竜胆に向かって行く。

 

「嫌な風だ……全身の生存本能がお前の風を嫌っている……」

 

「それはそうよ。私の風は死を司る風……生き物はこの風の前ではひれ伏すことしかできない……!」

 

風が不規則な軌道を描きながら竜胆に向かっていく。当然竜胆はそれを躱すが、規則のない動きに徐々に集中力を切らしていく。

 

「かなり厄介だ、こいつは……」

 

空気の振動で風を切ってもペストが意のままに操っている以上一瞬の時間稼ぎにもならない。

加えて、タマモが付近にいない以上彼女が彼の中にいる証である『玉藻の前』も意味を成さなくなるし、『呪術』も元々はタマモのスキルなので恐らく能力の優先順位はタマモの方に行くだろう。

 

つまり、彼は自分でも全ての詳細を理解していない『人類の罪』に頼ることしかできない。しかも『侵食』が進み、いつ『暴走』に至るかもわからない状況でだ。

 

「……ねえリンドウ」

 

そんな考えに没頭していると、突然ペストが話しかけてきた。

 

「なんだ、ステ……ペスト」

 

「……なんで、さっき蹴ってきた時本気で蹴らなかったの?」

 

「本気で蹴ったつもりだったんだが……まあいい」

 

竜胆は自分の足を確認し、今後の戦闘続行に支障がないことを確認し、ぶっきらぼうに告げる。

 

「多分……お前だからだろうな。関わりを持った人間を"俺の意思"で殺したくないんだろう」

 

「なにソレ。ホント変な人ね」

 

「それを言うならお前もだ。さっきの"死の風"とやら、全く殺意を感じられなかった」

 

「……らよ」

 

急にペストの声のボリュームと頭が下がり、竜胆の聴覚でも聞き取れないほど微妙な声が発せられた。

 

「すまない、なんと言った?」

 

竜胆が首を傾げながら聞くと、ペストはバッと頭を上げる。

 

「聞こえなかった……そう、ならいいわ」

 

それだけ言うとやけに上機嫌になる。竜胆は尚も首を傾げる。

 

「どういうことだ……まるで意味がわからんぞ……」

 

「いいのよ、気にしないで」

 

「いや、気になってしょうがないんだが……」

 

「私が気にしないでと言っているのだから気にしないで」

 

「だから……いや、もういい。続きやるぞ。

条件はあくまで打倒だからな。殺さないように加減するように努力する」

 

「そうね。私も少なからず関わりのある貴方を殺すのは少し気が引けるけど───時間切れのようね」

 

ペストが意味深な含み笑いをするので竜胆は疑問に思う。

 

「時間切れ……だと?」

 

そう呟いた時、聞き慣れたうるさい声が響いてきた。

 

「───全員速やかにギフトゲームを中止してください!

これより"ギフトゲーム"『THE PIDE PIPER of HAMELIN』の不備に関する議論を行います!

繰り返します───」

 

「時間切れ……てのはこういうことか」

 

竜胆が振り返るとペストは小さく笑んでいるのがわかった。

 

「ええ、そうよ。このゲームを皮切りに貴方達は私達の配下となり、貴方は私の───に、なるのよ」

 

竜胆はんっ?と眉をひそめた。彼の聴覚を持ってしても、先程のように言葉の最後辺りが全く聞こえないほどに小さな声だったのだ。

 

「……まあいい。行くぞペスト」

 

「あら、敵である私と一緒に会議の場所に行くなんてどういう風の吹き回し?」

 

「……だからだよ」

 

今度は竜胆が蚊の鳴くような声で何か呟いた。

 

「……ごめんなさい、聞き取れなかったわ」

 

「……だよ」

 

「聞こえないわ、もっと大きな声で言いなさい」

 

「ッ!ひ、一人は寂しくて怖いんだよッ!!」

 

素直に大きな声で返すと、今度は真っ赤になって黙り込んだ。

 

「……ぷっ」

 

「……ナ、なんだョ……」

 

「いや、おかしいじゃない。一人が寂しいのに最初にここにやって来た時も今も一人だなんて」

 

「……寂しかったし、トモダチと喧嘩したから、会うと恥ずかしいからここに来てた」

 

まるで男女のイメージが逆転していた。寂しくて恥ずかしいから一人になっている少年と、一人でじっとしていて、いざ少年と対面するとそんな一面を笑う少女。

 

「ふふふっ……竜胆、貴方ホントに変な人ね。ますます気に入ったわ」

 

「気にならないでいいのに……」

 

二人はそのまま終始そんな感じの会話を交えながら会話に向かっていった。

 

その後ろ姿は、"箱庭"の"天災"たる"魔王"と周りに存在するだけで死を撒き散らしているような"歪で孤独な狐"……敵対しているモノ同士にはとても見えなかった。






そのうち作者はショタコン呼ばわりされそうですがそんなことないですよ!?ただ色んな人に支持してもらえる私の作品の男主人公が軒並みショタ、男の娘要素があるだけで!


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八話 家族オモイ、子供化ケル



今回はひっさびさに春日部さんと絡むよ!

いつもより文字数多いから多分メインヒロインとの絡みに力入ってるなこれ。




「お前帰れ」

 

会場にやって来た竜胆に浴びせられた第一声がこれだった。

 

「なぜだ十六夜、確かに俺は交渉術がないかもしれんが話し合いに立ち会う資格はあるはずだぞ」

 

「ちげーよ阿呆、問題なのはお前が"魔王"様といがみ合った様子も跡もなくこの部屋に一緒に入ってきてることなんだよ。

そんなお前をこっちサイドに置いとくと変に怪しまれるだろ。だから部屋に帰れ」

 

「しかし……」

 

「だったらなんだあの"魔王"サマの楽しみましたみたいな顔は。まるで気に入った男と一緒にいて満足してる女みてぇだぞ」

 

「気に入ったとは言われたがそこまでとは知らなかった」

 

「言い訳は終わったら聞くから出てけ。あ、お前この部屋な」

 

こうして有無を言わさず竜胆はギフトゲームの会談の場から追い出されていった。

 

途中タマモと合流して『女の匂いがしますネ』と言われて一悶着あったのは余談である。

 

◆◇◆

 

「……暇だ」

 

『暇潰しに使えそうなものが何一つありませんからねぇ……』

 

部屋に戻り、一通り部屋のチェックを終えた矢先、ベッドに転がり込んでこれだった。因みに隣には霊体化したタマモが寝転がっている。

 

因みになぜかサイズはダブルである。

 

「ベッドでトランポリン……なんてのはマナーが悪いしな……」

 

『そうでございますねぇ……例えるならば神前で寝転がるようなものですね……』

 

「お前という神前では寝転がってもなんら問題はなさそうだがな」

 

『なんですかそれ。私いらない神扱い!?っていうか神扱いされてないんですか!?』

 

タマモがガビーンとなっている。そんな彼女を見た竜胆は敢えて彼女が自分の視界から見えなくなるように寝返りをうちフォローの言葉を言った。

 

「俺はお前をそんな存在だなんて思ったことはないよ……いつだってお前は俺の前に出てきた時から俺の家族だ」

 

『………』

 

突然常にハイテンションな彼女らしからぬ沈黙なタマモになっていたので竜胆は疑問に思いながらタマモの方に振り向く。

 

「……?どうした」

 

『え!?あ、いや、突然そんな事言われると困ってしまうというか……家族という言われ方は良妻狐を心掛けるタマモ的には少しアレですが、いつでもオールタイムバッチこいな私にも不意打ちだったというか……』

 

突然そんな事を言われたので激しく動揺しているタマモだったが竜胆にはなぜ彼女がここまでアタフタしているのかがわからず、まあいいやと思い一言発してまた寝返りをうった。

 

「変な奴……」

 

竜胆がそう呟いた矢先、ドアが開くような音がした。

 

「……ん?」

 

竜胆がドア元を見ると、それはいた。

 

「………」

 

「……耀?」

 

春日部耀だった。竜胆がコミュニティを一時的に離れたあの一件以降互いが恥ずかしくて互いに何か言えなかったのに……というか竜胆は気にしてなくて耀の覚悟ができるのを待っていたというのになぜこう彼女はここに来ているのだろう。

 

「なんで……ここにいるの」

 

「十六夜に渡された部屋の番号がここだったからだ」

 

「ここ……私の部屋なんだけど」

 

「……嵌めたな十六夜」

 

竜胆は一瞬で理解した。してしまった。いやむしろこの考えに至らない方がおかしいとすら思った。

 

恐らくはこれで仲直りしろという彼なりの気遣いなのだろうが、この二人にとってはお互いに気まずくて会いたくない状況……まあ、竜胆はそうでもないが、だったのだ。

 

『それでは私はこの辺でお暇させて頂きますね。お二人の雰囲気に圧迫されて死んじゃいそうですから』

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

タマモがそう言って去ったものの、二人とも基本が無口だから全く会話が始まらない。耀に至ってはドアの前で突っ立ってるままである。

 

「……その、な、耀」

 

竜胆はそんな沈黙……誰かと一緒にいる中の沈黙に耐えきれなくなったのか、あるいは予想外の事態に焦っていたのか、彼から耀に話しかけた。

 

「……何?」

 

一方耀はそのまま。ポーカーフェイスにも程があると思うが……内心彼女もどうしようどうしようとかなり焦っていた。

 

「ええっと……その、なんだ……この前のこと、で、だな……」

 

「うん」

 

「わ……わる、かった……ょ。俺の事、隠しててさ」

 

「私も、事情を知らないままあんな事言ってごめん。『それ』……隠してたかったくらい嫌なんだよね……?」

 

耀の言葉……嫌という言葉に彼は多少の語弊を感じるが、今言っても特に変わりないと思いそういうことにしておいた。

 

「そう……だな。正直、知られたくなかった。

でも、誰かと一緒にいた以上はいつかバレることも覚悟していたから……」

 

肩幅から多少飛び出る程度にまで縮小された翼を見ながらそう言う。しかし、そう言う彼の顔元にはどういうことか、涙が滲んでいた。

 

「でも……できれば、誰にも知られることなくいたかった……今までのギフトゲームとかだったら感情の昂ぶりでこうなるって思わせれてたから……」

 

雫はゆっくりと頬を伝っていく。

 

「泣くトコじゃないのに……なんで泣いてるんだよ、俺……これじゃまるで泣き虫みたいじゃないか……」

 

頬を伝って顎に行き、そこから彼が座っているベッドのシーツに零れるように涙が流れるが、竜胆はそれを拭おうとしない。

 

竜胆は幼い頃からおよそ普通とはいえない暮らしをしていたが、それでも、いや、だからこそ家族の温もりは人一倍知っている。

 

だから彼は家族を失った時、ひとしきり泣いて知人達がどれだけ探しても見つからない場所へと逃げて行った。

 

きっと彼は温もりを人一倍知っている分、失った時の哀しみも人一倍知っているのだろう。

 

だから彼は泣いているのだ。この"力"に"暴走"と"侵食"というものがあり、それを知られた以上、仲間の下にはいられない……失う哀しみを味わいたくなくて。

 

これが彼の……クールというキャラクターで人を惹きつけず、無愛想に人を突き放す彼の本当の姿。

 

失いたくないから得るのを恐れ、喧嘩別れしたくないから友達を作ろうとしない……なのに、一人を極度に嫌うという、ただの見栄っ張りで素直になれない、我儘で泣き虫な子供そのものである。

 

……だけど、その竜胆は今見栄を張らず、嘘をつかず……涙を流す理由を見つけることもできずに泣いている。

 

「おれ、は……ぼく、は……どうすればいいの……?ひとりは、イヤだ……」

 

竜胆はいつもの偉そうな態度もかったるそうな態度もなかったかのような……今にも儚く消えそうなほど小さな声で、軽くつついてやれば倒れてしまいそうな状態で耀に問い掛けた。

 

そんな彼を見て、耀は思わず彼の下に近づく。竜胆の身体は耀が一歩ずつ近づく度に、ビクッ、ビクッ、と震えていた。

 

そして耀は竜胆のいるベッドまでくると、ゆっくりと、竜胆に不安を与えないように、ゆっくりと彼の身体を抱き締めた。

 

彼の肌は、布越しでもわかるくらい冷たかった。きっとこれも"侵食"の影響なのだろう。

 

「大丈夫。私はそんなの気にしない。竜胆は一人じゃないよ」

 

「でも……」

 

「それに、きっと飛鳥も十六夜もそんなこと気にしない。二人とも『それがどうした』なんて言うよ」

 

「………」

 

「私たちはまだ皆子供なんだから……誰かに甘えることは知らなきゃダメだと思う……私も、父さんが帰って来てた時は父さんにベッタリだったから。

だから、それが同じぐらいの人に変わっただけだよ……」

 

耀は"侵食"の影響が少なくなってきて小さくなった翼を軽く握る。

 

「だから……竜胆がその"侵食"で私達の知らない竜胆になっても、竜胆は竜胆だから、そんなの気にしないよ」

 

「ほんと……に?」

 

「ホントだよ。約束する」

 

「あり、がとう……"おねえさん"……」

 

竜胆が抑揚のない声でそう言うと、今度は彼自身が耀に身を預けるようにした。

 

耀はそんな彼を見て『前から思ってたけど、本当に小さな幼児みたいだ』なんて思っていたのだが……先程の言葉に引っかかった。

 

「……お姉さん?」

 

それはおかしい。年齢的に考えても竜胆は15、耀は13だ。

 

なのに、彼は自分を"おねえさん"と呼んだ。

 

「………ッ!?」

 

それについて考えていたら急に握っていた翼が熱くなった。いや、翼だけではない。服越しから伝わっていた凍えるほどの冷たさだった彼の肌も、今度は砂漠のように熱くなり、彼の肌という肌が真っ赤になっていた。

 

シュビバッ、と耀の動体視力でも見えないくらいの速さで竜胆が耀から離れた。

 

「ち、……ち、違う!!今のは……今のは……今のは……!?」

 

真っ赤な顔で何か取り繕うようにしている竜胆。耀としてはなにが違うのか、何故今のはからなにも言わないのか、謎だらけである。

 

「今のは……そ、そう!姉さん!幻覚で俺の姉さんが見えたんだ!

それと姉みたいに接してくれた人達も!」

 

竜胆はあたふたとし、右手の人差し指を虚空に向けてブンブンと振る。

 

「だ、だから決して耀になにかしたかったとかそういうわけじゃ───」

 

ない、そう言おうとした時、ベッドからボフッ、となにかが倒れる音がした。

 

今この場には竜胆と耀以外誰もいない。竜胆は謎の言い訳をしていた。

 

つまり───────

 

「よ……う……?」

 

竜胆の身体の火照りが一気に冷める。しかし、入れ替わるように耀の顔が先程の竜胆に負けないくらい赤くなっていた。

 

「おい……耀?」

 

叩いても揺すっても反応はない。そして耀の身体はやはり、先程の竜胆に負けないくらい熱い。

 

そして、彼女の肌には薄く、黒い斑点が浮かび上がっていた。

 

「これ、どういう───」

 

ことだ、と言いかけた時、急に火龍誕生祭の出来事がフラッシュバックした。

 

───班模様のステンドグラス……近くにあるステンドグラスを見る限り、ハーメルンの笛吹きの黒死病か。

 

───貴方、面白いわね。少し私の話し相手をしてほしいわ。

 

───此度の火龍誕生祭、どうやら私の部下の"ギフト"によると、"魔王"の襲撃があり得るのじゃ。

 

───冗談はよせ、ステンドグラス。

 

───本当よ。それと、私には"ペスト"って名前があるの。

 

黒死病、魔王、ハーメルンの笛吹き、ペスト。

 

これら全てのフラッシュバックが彼に確信を齎した。

 

「まさか……黒死病なのか……?」

 

竜胆の言葉は、彼の中の二人の少女と共に揺れ動いていた。






久々の幼児化主人公。そして即座にツンデレになる。

しかし竜胆さんや。ことはそうほのぼのとしてませんのよ?


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九話 テンプレートテンプテーション


ご報告!疾風の隼さんの超問題児コラボ、私なりに言うと問題児たちが異世界から来るそうですよ?MOVIE大戦MEGA MAXですね!どっかで聞いたことが……?気のせいですよ。

それにうちのツンデレ狐くんが従者さん込みで参加することになりました!




「……んっ……」

 

春日部耀は鼻腔をくすぐるような匂いに誘われ、目を覚ました。

 

「ここ……」

 

「おお、起きたか春日部」

 

寝ぼけと熱によって意識がはっきりしないまま聞き覚えのありすぎる声を聞いた。

 

「十六夜……?」

 

「おう、そうだぜ。因みに、そこで寝てるのは竜胆だ」

 

「へ?」

 

十六夜がそんなことを言うので意識を視界の隅に送る。するとそこには寝ていた耀の邪魔にならない程度の場所で、ベッドに頭を置いて寝ている竜胆がいた。

 

その寝息はゆっくりと安定して、耀が意識を失う前の取り乱し様が嘘のようだった。

 

「春日部、お前ホントにこいつに気に入られてるな。

お前が倒れた時、コイツなんて言ったと思う?」

 

いつもの不適な笑みを浮かべ、耀に問う。彼女はポーッとしていてそんなのを考える暇がなかった。

 

「……なんて言ったの?」

 

「『コイツの看護は俺がする。手出し干渉一切無用。入る時はアポを取れ』だ」

 

なんというか……コイツ、という辺りが彼らしい。手出し干渉一切無用というのも、黒死病の感染者を多く出さないための措置なのだろう。黒死病の感染経路を断つためなのか、最初に部屋に入って来た時よりもはるかに部屋が綺麗になっている。

 

それにしても。

 

「なんで竜胆は……黒死病の感染を恐れずにここまでしてくれたんだろう……?」

 

「聞いたら何時もの返答だよ。『お前らに話す必要がないから心底どうでもいい。"人類の罪"をなめるなよ』の一点張りだ……まあ、おかげでこっちも謎解きはかなり進んでるんだが」

 

「ホントにいつも通りだね」

 

ただ、なんだかいつもより少し必死になってそんな事を言っていたのだが。それは余談である。

 

「ああ、そうだ。竜胆がさっき寝る前に春日部が起きたらそこにあるお粥食べさせといてくれって言われてたな。あと、そのお粥の隣に手紙も置いてた」

 

「ふうん」

 

置いてあったスプーンでお粥を食べ、少し興味がある風に竜胆の手紙を見る。

 

「……おいしい」

 

「ヤハハ、そりゃそうだ。なんせアイツがお前"一人"のために作ったんだからな」

 

一人のため。言い方や感じ取り方を変えれば、それはそれでいらぬ誤解を招きそうな言葉ではある。

 

そんな風に思っていると、ベッドに頭を乗せている竜胆はぼそ、と何か呟いた。

 

「十六夜……快楽主義も程ほどにな……飛鳥は、庶民の生活に慣れて……黒ウサギはカルシウム取れ……お前怒りっぽいぞ……」

 

そんなことをつぶやいていたので、二人は一緒に吹き出した。

 

「ヤハハハハ。やっぱコイツはアレだな」

 

「うん、アレだよね」

 

「ツンデレ」

 

「タマモは偶には俺以外の事にも目を向けて……耀は……まあ、元気にしてればいい……」

 

なんだか最後に言った自分のことだけなげやり気味でムッとしたのだが、そんなことよりと手紙に目を向けた。

 

『拝啓 春日部耀へ

 

なんてことを綴ってみた。手紙を書くなんて数年ぶりだから何を書こうものか……あ、もしかしたらこれは文字稼ぎの機会だな。

丁度いい』

 

なにを書いたものか、と綴っておいてその返しはないと思うなぁ、なんて思いながら耀は次の文に目を送る。

 

『ありがとう。多分お前がいなかったらこんなに自分の感情を表せれることなんてないと思う。お前が友達になってくれって言ってくれたおかげだ』

 

「そういうのは自分の口から言ってほしいな……」

 

耀が今度は少し不満気になる。すると次の文にはそう言うとわかっていたかのようになっていた。

 

『直接口で言わない事に関しては悪いと思っている。だけど、俺はどうしてかこういうのは素直に言えない。

できれば今度素直に感謝するという事を教えてほしい』

 

「……うん。勿論」

 

『それと、一緒に置いたお粥はしっかり食えよ。個人のために作った料理なんて随分久しぶりだから、食べなかったら流石に凹む。感想あったら言ってくれ』

 

しかし、本当に美味い。お粥だと言うのに米はビショビショではなく、それでもデンプンはいい感じに水に染み込んでいる。

 

時々厨房に篭ってはなにかしていたのは知っていたが……恐らく『個人のための料理』の練習だろう。タマモにでもあげていたのだろうか。

 

『あと十六夜。これから記載するのは俺の今回のギフトゲームの考察と……仮説が正しければ立証するクリア条件だ』

 

「何?」

 

『耀に見せて変な負担かけたくないから、ここからは十六夜一人で読んでくれ』

 

「……あいよ。んじゃ春日部、ちょっと離れるわ」

 

「ん」

 

十六夜が手紙を持って部屋から退出する。

 

そして、部屋は再び二人きりに。

 

ただし、竜胆はおねむだが。

 

「………」

 

なんとなく、彼の頭に手を伸ばしてみる。

 

サラサラだった。顔も端正でモチモチ。茶髪の髪は"侵食"の影響か、少し黒いメッシュがかかっている。

 

こうして見ていると男子には見えない。どう見ても女の子である。

 

「……なんか、女として負けた気がする」

 

十二秒で服を見繕ったりかなりレベルの高い料理を作ったり、本当に性別を間違えていないだろうかと思う。

 

「……胸、出てたなぁ」

 

ガルドの時に着てた服、あれは胸部の主張が結構あった。黒ウサギくらいあったのではなかろうか。あれは流石に凹んだ。

 

女性化乳房という症状らしいが、男より胸が小さいとなんだか悲しくなってくる。

 

「ん……?」

 

と、竜胆の瞳はゆっくりと開かれた。

 

「ょ……ぅ……?」

 

「───っ!?」

 

思いっきり本人に見られた。頭を触って撫でて、サラサラな髪やらモチモチな顔やらを堪能してたところを思いっきり見られた。

 

「んにゅ……なにしてたんだ……?」

 

「なっ、なんでもっ……」

 

しかし、そう言いながら堪能するのはやめない。

 

「そう……か……ッ!」

 

そして竜胆の意識がハッキリしていくにつれ、彼の顔色が変わっていく。

 

「……なに、してんだ……?」

 

「……竜胆が悪い」

 

「な、なんで?」

 

「こんなサラサラでモチモチで家庭的でその辺の女の子より胸のある竜胆が悪い」

 

「いやなんで!?てか胸の話題やめて!サラシ巻くくらい嫌なんだぞ!?」

 

「だったらその胸……よこせぃ」

 

「ばっやめろ!触ったって増えないって!?ってかむしろ俺のがデカくなりかねなひゃあぁっ!?」

 

「デカい。妬ましい」

 

「やめ、やめて!?ちょ、だからやめ、へ、変になるって!変になりゅううううううううううううう!!!??」

 

こうして、再戦前夜はよくわからない状態になっていた。





作者は果たして主人公になにがさせたいのか、我ながら本当に気になってきた。



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十話 イキル罰



タイトルからして不穏な空気……




「耀の所には行った。黒ウサギにも朝の挨拶はして……十六夜ともしたし……うん、準備はできてる」

 

「もしかして、だぁ~れか忘れていらっしゃいませんか?」

 

「……うん。あとは戦うだけだ」

 

「ガン無視しないでくださいまし!私今回何もしてないですよねぇ!?」

 

「ははは、横から幻聴が聞こえるや」

 

「むきゃー!暫く出番なかったからってその扱いはあんまりでございます!タマモ放置プレイなんて慣れてないです!」

 

「なら慣れるまで放置しとこ」

 

「それだけはご勘弁を!ご勘弁をおぉぉおおおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!」

 

とは言いつつも、結局は最終的に従者を助けているツンデレなご主人様であった。

 

だが、そんな内心で竜胆は思考の海の中にいた。

 

(ヴェーザーは十六夜がどうにかするだろう……ラッテンは数の差をネズミを操る力でタイまで持ってくるから、早めに潰した方がいい……)

 

でも、と思考を次に至らせる。

 

(向こうにはもう既に俺と対面して、俺の速度と戦い方を知ったペストがいる。そこから考えると、ラッテンは確実に俺との対面を控えさせてくる……とすれば)

 

◆◇◆

 

ゲーム開始直前、"魔王"側は挑戦者側を見下ろす。

 

「マスターマスター、どうやらあいつら、ゲームの謎を解いちゃったみたいですよ?」

 

ラッテンの言葉にヴェーザーは舌を鳴らしながら毒づく。

 

「チッ。ギリギリまで最後の謎は解けないと踏んでたんだがな」

 

「───仮に」

 

ペストがぽうっ、と呟く。

 

「仮に、謎を解かれたとしても……全員倒せば問題ないわ」

 

ポツリと呟いた一言は二人をその気にさせる。そして、彼女自身も自分の言葉に……竜胆を撃つ覚悟を持たせた。

 

(初めて会った時のステンドグラスに描かれていた私達の絵を見ただけで物語を理解していた……それに、あの金髪の子も白夜叉確保のためとはいえ、黒死病の本格発生が起こる前にまでゲームを早めてきた。

だとしたら、少なく見積もっても敵方の頭脳はあの二人……金髪の子はヴェーザーに任せるとして、リンドウはラッテンに任せていい相手じゃない……かと言って、ヴェーザーにそんな負担を課す訳にもいかない……)

 

そこまで考え、ペストはとある結論に至る。

 

(だったら……)

 

そして、二人の考えは一つの答えを見出す。

 

((ペスト/リンドウは俺/私が討つ))

 

二人の答えは交差し、全く同じ結論に至る。

 

しかし、ルール変更による竜胆側の不利や、ペストは知らない"玉藻の前"という存在など、互いに有利不利もあった。

 

◆◇◆

 

ゲーム開始と共に、地面が震えた。

 

既に集団から離れていた十六夜はこの震え、変化した町がハーメルンの町だと悟り、町を駆け回る。

 

「なるほどな……竜胆の言ってた通りだ。この手の敵は場所を自分達のフィールドに持ってくる、か」

 

十六夜は暫く動き回ると、唐突に止まり地面に拳を打ち付けた。

 

すると、街道が破壊され、探していた敵の姿が見える。

 

「ようヴェーザー」

 

「会いたくなかったぜ、小僧」

 

短く相槌を打つ。快楽主義の十六夜は勿論のこと、会いたくなかったと言っていたヴェーザーもこれから自分達がすることに心を踊らせ、拳と笛を構える。

 

そして、それらは重なり、轟音を響かせた。

 

◆◇◆

 

場所は移り、ヴェーザー河付近。

 

十六夜と同じく単独行動をとっていた竜胆はその河に足を付けていた。

 

「水もしっかりと再現されているか……こんないい場所、ゲーム盤にしておくには勿体無いな」

 

岩肌に腰掛け、足を伸ばす。

 

「そうは思わないか?───ペスト」

 

竜胆が誰もいない場所で語りかけると、その問いに対する答えは上から帰って来た。

 

「そうね───リンドウ」

 

上にいたペストはフワ、と飛び降り、河に足を"乗せた"。

 

ペストを取り囲むように、黒い風が舞う。

 

竜胆の髪が従者の色───赤みがかかった桃色になり、狐の耳と九つの尾が出てくる。

 

"黒死病"の風と"呪術師"のエーテルが河の水を吹き飛ばした。

 

◆◇◆

 

「竜胆さん!"黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)"との戦闘、お手伝いに参りました!」

 

黒ウサギとサンドラが現れ、ペストに飛びかかる。しかし、ペストはそれを軽くいなす。

 

「いらん」

 

「そうは問屋が下ろしません!竜胆さんは体調の不良が原因で"ノーネーム"から離れていたのでしょう!?

いつ、またそれが起こるかわかりません!」

 

「……ちっ。あんまり俺に近づくと死ぬぞ」

 

いつも通りの通告をし、ペストに向き直る。

 

「三対一……か。イジメみたいで嫌なんだがな……」

 

「なら、戦わないという選択肢でも選んで高みの見物でもしていたら?」

 

「結構……神格を解放した以上、決意を鈍らせるわけにはいかない」

 

そう言うと、竜胆は姿を一瞬で消し、ペストの後ろに回り込む。

 

「くっ……!」

 

最早瞬間移動と呼べるその動きにペストは黒い風を後部に集中させて纏う、が。

 

「速さが足りない!」

 

ハイキックを頭部に浴びせる。吹き飛ばされたペストを追うように空気を踏み込み、一瞬で距離を詰める。

 

「セイ、波ッ!」

 

掌底を腹部に決め込み、そのまま後退する。

 

「どう、でしょう?」

 

一部始終を見ることしかできなかった黒ウサギとサンドラは驚愕の表情をとる。サンドラは彼の圧倒的な速さに、黒ウサギは体調が良くない状況でありながらあれほどのポテンシャルを引き出したことに、だ。

 

「……いや、こんなんじゃ死なない」

 

竜胆が瓦礫に目を向けると、そこには少し傷のついたペストがいた。

 

「くっ……!?なぜ、今の攻撃にダメージを……」

 

ペストは傷の癒えない身体を見て驚愕する。

 

「やはり……か。どうやら、お前にとって俺との……いや、俺達相性はすこぶる悪いみたいだな」

 

竜胆はそれを見てなにかを理解したような風になる。

 

「どういう……ことなの……?」

 

ペストが癒やすことのできない傷を諦め、戦闘に戻ろうとして、竜胆の神格に感じていた違和感の正体に気がつく。

 

「まさかその神格……!?天照大御神のもの!?」

 

「ご明察。俺の世界ではタマモはただの狐じゃなく天照大御神の表情の一つとされている」

 

「あ、天照大御神……」

 

ペストと共にサンドラも驚愕する。が、そんなサンドラを黒ウサギが悟ったように諌める。

 

「サンドラ様。竜胆さんとタマモさんの規格外っぷりに驚いてたらやってけれませんよ……あの人、自分でもまだよくわかってない危険な"ギフト"をお持ちの上にその天照大御神ことタマモさんを完全に手懐けてますから……」

 

付近でそんな会話をされて竜胆は正直やめてほしいと思ったが、まあいいや、とペストに向き直る。

 

「太陽の、神……!」

 

「やる気が増えたようで何よりだ。流石は八千万の怨念の集合体……!その死の功績たる神霊様だ」

 

流れるように竜胆がとんでもないことを言い出す。サンドラはまた驚き、ペストと黒ウサギはもう驚かない。

 

「流石ね……やっぱり貴方ね。ゲームの謎を最初に解き明かしたのは」

 

「なっ……八千万の死の功績……!?」

 

サンドラの声がそのとてつもなさに震え、一歩、足を後ろに置く。

 

「だが、功績だけじゃ足りない。最強種、ドラゴン以外で神たるには"一定の信仰"が必要……タマモが神霊としているのも倉稲魂の神(うかのみたまのかみ)の豊穣神としての側面あって……どうやってその信仰を集めた?」

 

「貴方に答える義理はないわ」

 

「そう言うだろうと思ったさ……!」

 

竜胆は拳に風の呪術を織り交ぜペストにぶつける。しかしペストはこれを躱し、逆に死の風を吹きかける。

 

「凍れ……!」

 

その風は竜胆の指揮で一瞬で凍りつく。今度は足に風を集め、氷を思い切り蹴り飛ばす。

 

蹴れば殴り、殴れば蹴るという攻撃は黒ウサギから見れば竜胆らしからぬものだった。

 

竜胆は基本的に周りの仲間を巻き込まない戦い方をする。ペルセウスの時もわざわざ石化した者を残らず持ち上げてきていたのだ。

 

なのに、今の竜胆はどう見ても周りを一切気にしない戦いをしている。

 

黒ウサギはそんな彼に"人類の罪"の"侵食"を知らずとも違和感を覚えた。

 

「っ……く、あ、ぁあ」

 

そして、竜胆も自らを蝕む"侵食"とタマモの神格化による負担に顔をしかめ、誰にも聞こえない苦悶の声を挙げる。

 

彼は、自分自身との精神的な戦いに気をとられて周りを気にかける暇を失っていた。

 

そして、それが原因で───ヴェーザー河の最も深い位置に足を踏み入れてしまった。

 

「───!?」

 

「これを、くらいなさいっ!!」

 

ペストの渾身の一発が竜胆の身体を貫いた瞬間だった。






竜胆くんが……死ぬ?気になる真相は次回に!



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十一話 コロス罪、片鱗ヲ



魔王戦ケッチャコ……

ってかちょっと終わるの早くない?




貫かれた腹部。血に濡れた手。

 

幼いサンドラはその惨状に目を当てられず、思わず目を背けていた。

 

「ぐっ……ぅ、ぁ……」

 

竜胆はペストの腕を掴み、悶えた声を挙げる。

 

しかし、掴んだペストの腕は決して離さなかった。

 

「っ……ぅうあぁ!」

 

風を纏った右ストレートがペストの顔面に炸裂する。

 

「こ、の……つぅ!?」

 

「どうした……?殺せよ……その黒死の風で……俺を殺せよ……!

殺してみせろ……殺してくれよ……コロシテよ……!」

 

「っ……!!?」

 

竜胆の纏う謎の威圧感にペストは思わず戦闘中であることを忘れるほどの戦慄を覚える。

 

そして、同時に彼女は彼へ、哀れみの感情も向けていた。

 

殺せ、殺してみよ、コロシテ、と呟く彼の姿は言葉通りの自殺願望者にも見える。その証拠に傷の増える身体を見て不自然に微笑んでいる。

 

そんなに生きることが絶望なのか、と寂しい死を迎えたペストという"個人"は竜胆の姿に死を迎える前に恨みの慟哭を叫んだ自分を重ねていた。

 

もう自分に残された選択肢は死ぬことだけだった生前の"カノジョ"は彼が生きる権利を持っているのに死を望んでいることに、憤りも覚えた。

 

「───!!そんなに死にたいのなら、望み通りコロシテやるわよ!」

 

ただし、ペストは黒死の風を一切纏わず、神霊としての格によって強くなった拳だけで竜胆を、引き抜けない左手で内臓を掻き回し、自由に動く右腕で竜胆をメチャクチャに殴る。

 

「俺はこれで死ねるんならそれでいい……!ここが俺の墓場でもいい……!

子供に夢を見せて消失させたこのヴェーザー河が俺の死に場所なら俺も本望だ!」

 

内臓を掻き回してくる左手を右手で握り潰れるほどの握力で握り、空いた左腕は狂ったようにペストを殴り続ける。

 

二人は互いに互いの攻撃を避けることなく、殴り、殴られ、内臓をメチャクチャにされ、腕を握りつぶす。

 

それは、とてつもない光景だった。

 

「………っ」

 

黒ウサギは自分がなんのためにここに彼の援護をしに来たのかも忘れ、醜悪な戦いに目を背ける。

 

サンドラは、言うまでもないだろう。

 

ペストの左腕は関節なんてなかったように不自然に曲がり、衣服もほぼ原形を留めずに、辛うじて素肌を隠す布としての役割を果たしている程度の状態であった。

 

一方の竜胆は更に酷い。メチャクチャにされた内臓は多くの部分が体外に出ており、心臓、杯など、なければすぐに死んでしまう器官を残してほぼ全滅状態だった。ペストの左腕を握る右腕は生物の限界を超えたパワーを引き出したせいで力が籠らない……というか、腕として機能していない。衣服もペストと同じく、辛うじて布として生きている程度である。

 

「そうやって死のうとしてる貴方にわかるわけない!私の願いも、私達の苦しみも!」

 

「そうさ!人は所詮一人……孤独なんだ!だけどな、死んでも生きたいと願うお前達と生きるくらいなら死んだ方がいい俺達はそもそも理解なんてできないんだよ!」

 

「あなたをそんな目で見ていた私がバカだったわ!そんなに死にたいなら私がコロシテ私達の一人にして、否が応でも生きさせてやる!」

 

「ならば俺もお前を殺す!生を渇望するお前達と死を渇望する俺達は、戦うことでしか分かり合えないッ!」

 

ペストの身体から黒死の力が、竜胆の身体から歪な力が漏れる。竜胆はその力に呑み込まれ、収まったはずの"侵食"が再び活動を始め、竜胆の身体に変化を促す。

 

黒く塗られた翼が再び現れ、鮮やかな金の尾と桃色の髪は瞬く間に漆黒にそまる。

 

そしてアメジストの瞳は血走った赤となり、ハイライトを失う。

 

「ぅ、ぁぁぁああああああああぁぁあああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!!」

 

その叫びはその場に暫く音を消し去り、東に、西に、そして南に……いや、箱庭というものがある世界そのものを震わせた。

 

同時に、死んでいた右腕が再び動き出す。鋭利な刃物となった手はペストの左腕を掴む力を強め

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

引きちぎった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───っ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」

 

ペストは左腕を失った痛みに、否。紙切れ同然のように自信の身体から落ちていった左腕に恐怖し、叫んだ。

 

「ぁぁぁぁぁ!?

ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」

 

しかも、この怯えようは尋常じゃない。彼女は他にも、竜胆という存在に恐怖した。

 

しかし竜胆はそんなペストを気にするそぶりもなく、躊躇なく彼女の首を跳ねようとする。

 

『おやめください……!ご主人、様ぁ……!それ以上は、ただ倒すだけという行為以上になってしまいま、す……!』

 

竜胆の中のタマモも竜胆の力に押しつぶされないように耐え、必死に呼びかける。

 

「………!

…………………………!!」

 

しかし、そんな彼も彼の感情を失い、タマモの静止に動きを止めたのは一瞬だけで再び動き出す。

『……!やむを得ません……こうなれば!』

 

タマモは竜胆の支配を乗り切り、顕現する。

 

「こうなれば私の全ての力、とまでいかずとも……四、五尾ほど展開して、強制的に!」

 

タマモは竜胆の腕を掴みながら、自らの手と手を合わせる。

 

「五尾……始動!」

 

タマモは瞬時に五つの尾を展開し、両の手を叩く。

 

「……!」

 

すると竜胆はいつかの白夜叉のように、静かに倒れた。

 

「……あ、あぁ……!」

 

ペストは状況の変化を呑み込めず、今だ竜胆が与えた恐怖に呑み込まれている。

 

「……なにも知らずに逝けるのは、ご主人様の力の片鱗を目の当たりにすれば当然でございます……

せめてその痛みを知らないまま、逝ってくださいまし」

 

タマモは再び、両の手を開く

 

「両の手を叩き合わせた先のモノ。右手と左手。神霊とヒト。男と女。隠と陽……そのハザマは、なにがある?」

 

ペストの身体が暗闇に包まれ、その姿を視認することも、そこから声を出すこともできない。

 

「答えは───答えだけが知っている」

 

パン、と乾いた音が響き、ペストごと闇は消えた。






ちょっとグダッたかな?

まあ、取り敢えず竜胆くんのヤバさが理解できたら十分すぎます。



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二章 最終話 夢みる狐



戦いが終わった後はなにをしよう?

イチャイチャするに決まってんだろ……!




魔王襲来から二日が過ぎた現在、外は魔王の襲来で潰れた火龍誕生祭の続きをやっている。

 

老若男女、様々な者達が亡くなった者の分まで祭りを楽しんでいる。

 

───因みに、俺が目を覚ましたら既にギフトゲームが終わっていた。ペストに腹を貫かれた後のことは……恐らく"侵食"の影響だろう。全く憶えがない。

 

ただ、今回の"侵食"はかなり派手なことをやらかしたらしく、ギフトゲームについて詳しくは教えてくれなかったが内臓は心臓と肺、肝臓と腎臓を残してほとんどなくなった……らしい。

 

なぜ、らしいかとアバウトに言うと……

 

「……このたこ焼き、いいソースを使っている……」

 

うん、こうやって胃の中を転がっていく食べ物達がなんとも……

 

ああ、失敬。見ての通り二日どころか目を覚ました時には貫通した腹もくっつき、内臓も元通りになっていたからだ。

 

因みに黒ウサギ曰く「どうしてなんの処置もしてないのにこうもあっさり元通りになっているのデスか!?」だ。

 

どうしてもこうしても、俺は人間やめちゃってるからしょうがない。

 

しかし、そんな無茶が祟ったのか、あるいはペストが死んだことに精神的にショックだったからか、俺はまたちょっとだけ眠って、起きた時には耀に謹慎処分を言い渡された。

 

まあ、謹慎処分されて大人しく従っていることからわかる通り、俺の身柄は俺が寝てる間に白夜叉から"ノーネーム"に返却されたらしい。

 

人の人生に関わるかもしれないんだから当の本人そっちのけで話をするのはやめてほしかったんだが。

 

「あ、美味しかったんだ」

 

と、先ほど口にした言葉が耀に聞こえたらしい。

 

耀はここ二日、ずっと俺のところにいたらしい。なんでも同じ部屋のよしみでもあるし、なにより黒死病の件で恩返ししてないだとか。

 

気にしないでもいいのに。

 

因みに、俺が起きた時、ダブルベッドだったベッドは取り払われ、シングルベッド二つになっていた。なぜ取り払う前提であんなことしたのならわざわざダブルベッドを用意したと聞きたい。

 

「竜胆」

 

「ん?」

 

「あーん」

 

「誰がするか!?」

 

目の前に差し出されたたこ焼きを爪楊枝ごととって食べる。子供じゃねえっつうの……

 

なぜか耀が露骨に残念そうな顔をしたが気にしない。だってたこ焼きが美味しいから。

 

そういえば、子供で思い出したが、どうやら今回の誕生祭で北のフロアマスターになったサンドラが直々に俺のお見舞いに来てくれたらしい。

 

その証拠の花を見ると『怖い狐のお姉さんへ』と書かれていた。え、なにこれ?怖い狐って俺なんかやらかしたの?あとついでに俺男だからね?

 

「……なあ耀」

 

「何?」

 

「ここから出して」

 

「ダメ」

 

「なにゆえ」

 

「ダメだから」

 

「それは理由に「ダメだから」いやだから「ダメだから」あの「ダメだから」あ「ダメだから」……はい。大人しくしてます」

 

畜生……なにがこいつをここまで駆り立てる!?なんの使命感を帯びている!?

 

「……あえて言うのであれば」

 

と、突然耀が続けてきた。気になるので静聴する。

 

「おまえの罪を数えろ」

 

なんでやねん。なんで耀の時代からしたらかなり過去の番組のこと知ってんねん。思わずエセ関西なってもーたわ。

 

ってか俺の罪ってなによ?俺なんか悪いことした?

 

くそぉ逃げたい。女と二人きりの空間なんて過去のマゾい出来事のせいで嫌なんですけど。

 

ペストは……まぁ、雰囲気が若干あの人に似てたからそんなことを特に意識することはなかった。

 

「……なぁ、耀」

 

「なに?」

 

「最初、俺が"侵食"の影響で暴走した時、怖かったか?」

 

「……正直、怖かった」

 

「だろうなぁ……」

 

怖かった、そう言われても仕方ないと思っていたから言われても気にしないと思っていたが……俺は少し残念がっていた。

 

まるで俺が人に認められないことを嫌がっているようにだ。

 

……なにをバカなことを思っていたんだ。俺は認められないのが当たり前な存在じゃなかったのか?いや、認められてはいけない存在ではないのか?

 

今までずっとそう思ってたのに、どうしてかそれを認めたくなくなっていた。

 

いや……そうじゃない。

 

俺は、こいつに嫌われたくないんだ。

 

人を危険にするから嫌ってほしい。なのに嫌ってほしくない。

 

「……バカか俺は。なんで俺はこいつに嫌われたくないなんて……」

 

「嫌ってなんかないよ?」

 

…………………………………………………………………………………………………………………は?

 

ちょ、まさか聞こえてた……のか?あれ、思い出したら最後の方だけ喋ってた気が……

 

「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい!!!!

 

羞恥心で死ねるならもう死んでるわこれ!

 

ベッドの上をゴロゴロと転がっていると耀に止められました。

 

しかもよっぽど俺が羞恥心のあまり転がりまくってたのか、転がってるところを抱き上げてきやがった。

 

えっと……これ、お姫様が抱っこって奴?嬉しくない!すっげぇ嬉しくない!

 

「暴れたらダメだよ……」

 

「………」←羞恥心が高まりまくって最早なにも言えない。

 

しかも此奴、頭の辺りを抱えている右手を器用に使って頭まで撫でてきやがる。

 

「ぁ、あたまなでるなぁ……!」

 

やめてくださいなんの罰ゲームですかこれ。

 

……兎も角、こうして俺の火龍誕生祭は羞恥と羞恥と羞恥と羞恥に溢れた、羞恥しかない終わりを迎えたのだった。

 

◆◇◆

 

某所にて。

 

一人の幼い少女がそれを見ていた。

 

一人の写真。その写真に写っている人物は、高町竜胆。その姿は一室で静かに眠っている姿だった。

 

恐らく、耀がなんらかの理由で開けていた時に撮影していたのだろう。

 

「ふふ。まさかここに来るなんて……まぁ、貴方なら来てもおかしくはないと思っていたけどね」

 

少女は右手の掌から桜色の炎を出し、その中に躊躇なく竜胆の写真を投げ入れ、燃やす。

 

「なら、きっともうすぐ会えるね……私の感が正しかったら、次に会うのは……"アンダーウッド"かな?」

 

少女は、桜と紅の混じった炎の中に消えていった……






最後に現れた彼女は何者なのだ……?

結局このまま出番がないなんてオチも……?←そんなはずない。


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巨龍召喚、罪ノ覚醒
一話 守銭狐



第三章開始!三章と四章……つまりアンダーウッドの魔王編はついに竜胆くんの過去と"人類の罪"に触れ込みます!




「キミ、立派ね。"ノーネーム"だからって理由で一人で小さいのに働くなんて」

 

「あ……いえ、僕よりも小さな子達は沢山いますから……その子達のためにも働かないとやっていけないんです。

それに、"ノーネーム"になってコミュニティから逃げ出した人もいますから……僕はいつかコミュニティを復興させたいんです」

 

「へ~……うんわかった。このパスタ、貰っちゃおうかな」

 

「あ、じゃあ銅貨50枚になります。どこのコミュニティが作った銅貨でも大丈夫ですよ?」

 

「へえ、安いのね」

 

「所詮"名無し"ですから、安くないと買ってくれませんよ」

 

気のいい女性はそのままパスタを人啜りすると、「美味しい!小さいのに凄いね!」と絶賛してもう二つ買って行った。

 

「……さて、これで銅貨の合計数は1700……金貨一枚と銀貨七枚分か」

 

先程のニコニコとした表情から一転、屋台の裏から銅貨の数を数える茶髪アメジストの少年、竜胆である。

 

「低身長と童顔……使いたくもない特徴をこんなところで使うハメになるとはな……」

 

「あ、ねえキミ」

 

「あ、いらっしゃいませ!なにか御用でしょうか?」

 

ものすごい態度の変わり方である。これも彼が昔役者をやっていたからできる技だ。

 

「とっても美味しそうな匂いがしたからなにかな、て思って来たんだけど……キミ、所属は?」

 

「あ……えっと、"ノーネーム"です。コミュニティの仲間が食べるには誰かが収入を得ないといけないから……」

 

「うぅっ……小さいのにエラいのね……私、パスタ一つ買うわ……」

 

「ありがとうございます!銅貨50枚です!」

 

涙ながらにパスタを啜って帰っていく女性を尻目にまた裏でいつもの顔に戻る。

 

「1750枚……ったく、なんで俺がこんなお姉みたいなド守銭奴なマネをしなきゃならん……利益もギリギリ黒字ってとこだし」

 

そもそも、なぜ竜胆がこんなことをしているのか、理由は少し前に遡る。

 

◆◇◆

 

ペスト……"黒死斑の魔王"との戦いからおよそひと月。

 

十六夜を筆頭にした四人の問題児と(竜胆は色んな意味で問題児)と"ノーネーム"の代表格達は今後の方針について語り合うため、本拠大広間に集まっていた。

 

大広間の中心に置かれた長机は上座からジン=ラッセル、逆廻 十六夜、久遠 飛鳥、春日部 耀、高町 竜胆、黒ウサギ、メイドのレティシア、そして年長組代表、竜胆と同じく食事当番の狐娘のリリが座る。

 

"ノーネーム"では会議の際、コミュニティの席次順に上座から並ぶのが礼式であるのだ。

 

コミュニティリーダーのジンの次席に十六夜が座っているのは水源の奪還をはじめとした様々な戦果を挙げているからで、彼の次席にいる飛鳥は不満そうである。

 

そして竜胆が四人の問題児達の中で一番下の理由。それは彼の"ギフト"である"人類の罪"が原因であることに他ならない。魔王戦で見せたあの暴走は、コミュニティにおいて危険すぎるという判断を受けたためだ。

 

竜胆も特に不満を見せることもなく、むしろ「一番下の方が妥当じゃないか?」と言っていた。

 

そしてリーダーであり、旗頭でもあるジンだが、ガチガチに緊張しているようだ。

 

十六夜はそんなジンを見ていつものようにヤハハ、と笑う。

 

「おいおい御チビ。俺よりいい位置に座ってんのに、随分気分が悪そうじゃねえか」

 

「だ、だって、旗本の話ですよ?緊張して当たり前じゃないですかっ」

 

ギュッとローブを掴んで反論するジン。しかし理由はそれだけではなく、上座に座る、ということはそもそも前提として"コミュニティのために試練……ギフトゲームに参加できる者"でなければならない。この常識に加え、組織への貢献、献身、影響力などが求められる。

 

戦果らしい戦果をあげてないジンが引け目を感じるのは当たり前だろう。

 

「ジン、憶えてるだろう?お前は俺達のシンボルとなっている。

今後の"ノーネーム"として挙げた戦果は全てお前の名の下に集約されるだろう。そのお前が上座に座らないということはお前がそのシンボルという役割を放棄したと俺は取るが?」

 

「YES!竜胆さんの言うとおりでございますよ!

事実、この一ヶ月間に届いたギフトゲームの招待状は全てジン坊ちゃんの名前で届いております!」

 

ジャジャン!と黒ウサギが見せたのはそれぞれ違うコミュニティの封蝋が押されている三枚の招待状。それも、うち二枚は参加者ではなく、貴賓客としての招待状だ。

 

「ほぉう……俺達"名無し"にしては破格の待遇だな」

 

「苦節三年……とうとう我らのコミュニティにも招待状が届くようになりました。それもジン坊ちゃんの名前で!

だから堂々と胸を張って上座にお座りくださいな!」

 

「苦節三年ね……ババ臭い言い回しだな」

 

次の瞬間竜胆は黒ウサギに思いっきり睨まれたので「悪い悪い」と言って身を竦ませる。

 

しかし、ジンは先程以上に思いつめたように俯いた。

 

「だけど、それは───」

 

「僕の戦果じゃない、か?」

 

「……はい」

 

竜胆はジンが言った一言に呆れた。子供は面倒だ、と思った……のだが、恐らく竜胆以上に面倒な子供はそうそういないだろう。

 

「お前、なんのために俺達が他のコミュニティに行けるものをこの"名無し"に居座ってると思ってる?」

 

「え?」

 

「本当にここの生活が嫌だったら今頃俺達はそれぞれ適当に箱庭をほっつき回って"魔王"の烙印でも押されるだろうさ。まあ俺はそれでも構わないがね。

……だけど、俺達はここの生活を気に入っている。その気に入った生活をくれたのは間違いなく俺達を召喚したお前だ。それに、お前は絶対にコミュニティを復興させるという"覚悟"もある。

……羨ましい。死を望んで自分で死ねない俺にはないものだ」

 

「………」

 

「だからな、ジン=ラッセル。お前は覚悟をカタチにできない俺のようにはなるな……だから、そこにいてくれ」

 

「……わかりました。皆さんの期待に応えれるリーダーになるべく、僕も精進します」

 

「そうだ。若造は夢を持つことから始まるんだよ」

 

「……多分、貴方に若造なんて言われたくもない言葉ナンバーワンに入るんじゃないかしら?」

 

飛鳥の言葉を受けた竜胆が泣きそうになったのは余談である。

 

◆◇◆

 

そんなこんなで会議は続き……

 

「それじゃ、最後に……リリ。農場の復興はどのくらい?」

 

「は、はい!農園区の土壌はメルンとディーン、それにタマモおねーさまが毎日がんばってくれたおかげで全体の四分の一が既に使える状態です!

これでコミュニティ内のご飯の確保には十二分……いえ、竜胆様のお料理ならば十五分の土地が用意できました!

田園に整備するにはもう少し掛かると思いますが、葉菜類、根菜類、果菜類を優先して植えれば数ヶ月後には成果が期待できると思います!」

 

ひょコン!と狐耳を立てて喜ぶリリ。あの荒廃した土地を僅かひと月で復興させれるとは思っても見なかったであろう。

 

「……ん?タマモおねーさま?」

 

「あー、それがですね。どうやらリリちゃんのお母様のルーツが私とほぼ同じ、私とは別の倉稲魂の神だったそうでして、一応農耕の神としてお手伝いしてたらそう呼ばれるようになっちゃいました」

 

えへへ、と舌を出すタマモ。それに対し竜胆は───

 

「むしろババ様か叔母様だろ」

 

「酷い言い掛かりでございます!私まだそういうお年頃じゃないです!」

 

「幽霊生活千年がよく言う」

 

「反論できない……」

 

完全論破していた。

 

「さて、アホ狐との話が終わったところで……本題はなんだ?」

 

「あ、はい。今回のお題は復興が進んだ農園区に特殊栽培の特区を置こうと思うのです」

 

「特区?」

 

「YES!ありていに言えば霊草・霊樹を栽培する土地ですね。例えば」

 

「芭蕉精とか?」

 

「マンドラゴラとか?」

 

「マンドレイクとか?」

 

「マンイーターとか?」

 

「YES♪っていやいや最後のおかしいですよ!?"人喰い華"なんて物騒な植物を子供達に任せることなんてできませんっ!

それにマンドラゴラやマンドレイクみたいな超危険即死植物も芭蕉精のようなものを育てて詩人の霊が夜な夜な子供を泣かせたらヤバいじゃないですか!?」

 

「……そう。なら妥協して、ラビットイーターとか」

 

「なんですかその黒ウサギを狙ったダイレクトな嫌がらせは!?」

 

うがーっ!とウサ耳を立てて怒る黒ウサギ。

 

レティシアは一向に話が進まないのを肩を落とし、十六夜達に率直に告げた。

 

「つまり、主達には農園の特区に相応しい苗や牧畜を手に入れてきてほしいのだ」

 

「牧畜って、山羊や牛みたいな?」

 

「そうだ。都合のいいことに"龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)"連盟から収穫祭の招待状が届いている。

連盟主催ということもあり、収穫物の持ち寄りやギフトゲームも多く開かれるだろう」

 

「それに今回の招待状は前夜祭から参加を求められたものです。しかも旅費と宿泊費は"主催者"が請け負うという超VIP待遇!場所も南側屈指の景観を持つという"アンダーウッドの大瀑布"!境界壁に負けない迫力の大樹と美しい河川の舞台!皆さんが喜ぶことは間違いございません!」

 

「……行きたい」

 

竜胆の眼がすっごいキラキラしてたのは恐らく火龍誕生祭でまともにお祭りを満喫できなかった分もあるだろう。

 

「へえ……"箱庭の貴族"の太鼓判付きとはすごい。

さぞかし壮大な舞台なんだろうなぁ。お嬢様はどう思う?」

 

「あら、そんなの当たり前じゃない。だってあの"箱庭の貴族"がこれほど推してる場所よ。

目も眩むくらい神秘的な場所に違いないわ。

……そうよね、春日部さん?」

 

「うん。これでガッカリな場所だったら……黒ウサギはこれから"箱庭の貴族(笑)"だね」

 

「"箱庭の貴族(笑)"!?な、なんですかそのおバカっぽいボンボン貴族みたいなネーミングは!?

我々"月の兎"は由緒正しい貞潔で献身的な貴族でございますっ!」

 

「そんな服装でよく貞潔だなんて言えるな。しかも献身的な貴族っていうのが俺達にハリセン使ってる時点で怪しい」

 

四人が黒ウサギをからかっていると、ジンがコホンとわざとらしく咳払いをし、一同に注目を集める。

 

「方針については一通り説明が終わりました。……しかし、一つだけ問題が」

 

「問題?」

 

「はい。この収穫祭ですが、二十日ほど開催される予定で、前夜祭を入れれば二十五日。

この規模はそうそうないですし、最後まで参加したいのですが、長期間コミュニティに主力がいないのはよくないです。そこでレティシアさんと共に一人残ってほし

 

 

 

「「「「嫌だ」」」」

 

 

 

問題児満場一致で否定された。しかしこればかりはジンも譲れない。

 

「でしたら、せめて日数を絞らせてくれませんか?」

 

「というと?」

 

「前夜祭を三人、オープニングセレモニーからの一週間を四人。残りの日数を三人……このプランでどうです?」

 

「ジン、そのプランだと二人が全部参加できるが、それはどう決める?」

 

「それは───」

 

席次順で、と言いかけたが、この箱庭世界の常識がこの外界からの問題児四人に通用するかはわからない。

 

それに加え、問題児一の問題児ストッパーの竜胆も明らかに全日参加したいオーラを出している。

 

どうしたものかと迷っていると、十六夜がテーブルに身を乗り出し、提案した。

 

「なら、前夜祭までの期間で誰が何日行くのかをゲームで決めるのはどうだ?」

 

「ゲーム?」

 

「あら、面白そうじゃない。どんなゲームをするの?」

 

「ふむ……ならば、"前夜祭までにより多くの成果を出した二人が勝者"というのはどうだ?

この箱庭らしい、いいゲームだとは思わないか?」

 

竜胆が提示した内容に三人は顔を見合わせる。それなら条件は五分五分だ。

 

「いいぜ」

 

「ええ。それで行きましょう」

 

「うん。……絶対負けない」

 

こうして問題児四人はゲームを開始し、冒頭に至るのである。





竜胆くんに最も言われたくない言葉ベストスリー

一位、お前可愛いな

二位、ホントにガキみたいだな……

三位、ツンデレとか面倒だなおい


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二話 ジャラン者蘭


ギフトカードの便利性がわかる回となってしまった(笑)




というわけで現在。竜胆は誰が見ても作り笑いとは思えない営業スマイルで周りの……特に女性客を引き寄せている。

 

「……うん。これでサウザンド・アイズ印の金貨十枚……」

 

因みに、どうしてギフトゲームで利益を得ようとしないのか、というとそれも彼の"人類の罪"が絡んでくる。

 

最近、誰にも……いや、詳細を知っている耀とタマモにしか気づかれないくらい小規模だが、"侵食"の進行が乱高下しているのである。

 

こんな状態でギフトゲームなんか参戦すれば、どうなることか。

 

「……まあ、戦わずに済むっていうなら俺はそれでいいけどな」

 

それに、この作戦なら上手くいく。竜胆にはそんな確信があった。

 

竜胆は手早く準備を終わらせ、ある場所に向かった。

 

◆◇◆

 

それから数日、結果を発表する当日となった。

 

竜胆が田園を耕していると、一緒に耕していたリリがなにかを見つけたように走って行った。

 

「おいリリ。そんな泥だらけでどこに行くつもりだ」

 

竜胆はリリを追いかけるように田園から出て、呪術を用いて手早くいつもの格好に戻る。

 

「皆様お帰りなさい!」

 

リリが挨拶していたのは、十六夜、飛鳥、耀の三人だった。

 

竜胆はなるほど、と思いリリの後に続く。

 

「おかえりだ」

 

「うん。ただいま」

 

いつも通りの挨拶をして、十六夜は随分疲れてそうなのにいつも以上に元気なリリを見ていた。

 

「なんだか嬉しそうだな、リリ」

 

「はい!こうやってコミュニティのお仕事をするのはとっても楽しいです!お昼ご飯だって美味しく食べられます!」

 

ひょコン!と狐耳を立てながらはにかむリリ。彼女は雑木林をしばし見つめ、泥だらけの手をギュッと握って十六夜達を見る。

 

「それに……私の家は元々農園を預かる一族でしたから。荒れた農園を見る度に、私達の世代ではもう土いじりはできないだろうな……って、ずっと諦めてました」

 

人一倍働き者なリリは自分のやることを見つけ、前にも増した充実感と共に生活することができているのだろう。竜胆はそんなリリを微笑んで見つめ───

 

「竜胆、そんな顔もできたんだ」

 

「は?」

 

竜胆の表情を見た全員が固まっていた。

 

彼らの見間違いでなければ、竜胆は今笑っていたのだ。

 

普段の彼は無口、無表情。感情を露わにすることがあっても基本は怒り、悲しみ……そして、耀にだけ見せた涙だけ。

 

作り笑い自体はコミュニティ間ですることは多少あった。だが、今の彼はどう見ても本心で笑っていた。

 

「い、いや、笑ってなんか、ない」

 

「いや、中々いい顔だったぜ竜胆」

 

「中々可愛い笑顔をしてたわ、竜胆くん」

 

「うん。笑った竜胆はいつもより可愛い」

 

「~~~~!!可愛い可愛い言うな!俺は男だ!」

 

顔を真っ赤にしながら腕を振り回して否定する。三人の鎖骨辺りに器用にポカポカと殴りつけるが、いつものあり得ない強さが微塵も感じられないくらい弱かった。

 

そして、そんな彼を見て三人同時に抱く感情は。

 

(((可愛い……)))

 

そう思ってた矢先。

 

グウゥゥゥン!と竜胆を除いた四人の腹の虫が一斉に鳴りだした。

 

一同、主に飛鳥とリリの頬が紅潮し、竜胆の表情はその瞬間いつもの無表情に戻った。

 

「……ぁ、えっと、」

 

「………。飛鳥、はしたない」

 

「ちょ、ちょっと春日部さん!?」

 

「全く、これだから箱入りのお嬢様は……」

 

飛鳥ぎ十六夜をキッ!と睨む。しかし十六夜はその視線をあっさり受け流した。

 

「はぁ……本拠に昼食の用意がある。今日は最終日だから比較的早く戻ってくると思って人数分の米ならあるから、種類はあるぞ。

なんか希望するのは?」

 

「マジ?なら梅鰹醤油を」

 

「私はしそ昆布ね」

 

「………。シーチキンマヨネーズ」

 

「結局耀も食うんだな……お前の分は特大サイズにしといてやる」

 

こうして一同が本拠に戻る時は正午から一時間がすぎていた。

 

◆◇◆

 

食事の後、俺達四人は収穫祭前の戦果報告のため、ある場所に集まっていた。

 

まず、飛鳥の結果だが、

山羊10頭と、その山羊を飼育するための土地の整備。

 

これは嬉しいことだ。しかも牛ではなく山羊をチョイスしたというのがなんとも……

 

山羊は牛が持つ牛乳アレルギー成分の主成分、αs-1カゼインを持たないという。それに加えなんでも人の母乳に成分が近いとか。

 

それに山羊の乳は牛のそれよりもはるかに栄養が優れ、脂肪球が牛よりも小さく乳成分が食品に浸透しやすく、ふっくらとした味わいになるとか。

 

ああ、失敬。話を戻して耀の結果を。

 

耀はあの"ウィル・オ・ウィスプ"主催のギフトゲームに勝利し、炎を貯蓄できるキャンドルを手に入れたらしい。

 

これで火を使った料理を作る時に遠慮はいらなくなるな。火がないと子供達も物足りないだろうしな。

 

「……あ、そういえば竜胆」

 

「……ん?なんだ?」

 

「なんか、ジャックが『今度貴方に会わせたい人がいます。またお会いできたらその時に』って」

 

「……俺に会わせたい人?俺、幽霊の知り合いなんてアーシなんたらとジャックしか知らんぞ?」

謎は深まるばかりだな……まあ、いいか。

 

十六夜は不敵に笑むと、わざとらしく手を叩き出す。

 

「いや、意外だったぜ二人とも。金銭の流通が主になっているこの下層でよくここまで成果を出せたな」

 

「全くだ。それをギフトゲームで手に入れたお前達には素直に賞賛しよう」

 

「上から目線でどうもご親切に。

……それで、十六夜くんと竜胆くんはどんな成果を挙げたのかしら?」

 

飛鳥が鋭い視線で俺達を睨み、そして俺達は不敵な笑みを浮かべる。

 

「それじゃ、今から戦果を受け取りに行こうかね」

 

「なら、俺はどれだけ戦果を挙げたか確認しに行こう」

 

「……受け取りに?確認しに?どこに?」

 

「「"サウザンドアイズ"」」

 

俺達の声がハモったのは珍しいことだった。

 

余談だがハモるってハーモニーから来てるらしい。

 

◆◇◆

 

入店直後にハプニングがあった。

 

それは白夜叉の部屋に入ったのと同時になにかやわらかい物質が俺の頭に覆いかぶさってきたのだ。

 

なにかなーって思ったけど別に気にしないことにした。心底どうでもよかったし。

 

閑話休題。

 

十六夜が手にしたのは"外門権利書"。そして下層の水問題解決のための最初に十六夜が倒した蛇神を完全に負かし、隷属させたこと。

 

白夜叉に依頼された水問題、水源開拓に関してはその蛇神……白雪姫の持つギフトを受け取るだけでよかったらしいが、よもや隷属させてくるとは思ってもみなかったらしい。

 

まあ、取り敢えず十六夜は文句なしのクリアだ。

 

「それで?これだけ期待値が上がってるんだ。竜胆はなにをしてくれてたんだ?」

 

「まあ、それは問題になるよな……白夜叉、例の奴はどこまで行ってる?」

 

「うむ。こちらも中々……をすっ飛ばしてあり得ないペースじゃ。

もう既に北側の五、六層と南側の六、七層まで進出しておる」

 

進出?と一同が首を傾げる。まあそれもそうだな。

 

「利益は?」

 

「これじゃ」

 

白夜叉に渡された巨大な袋。それを受け取ると中々の重さがして、中から金属同士がこすれ合う音もした。

 

俺は床にギフトカードを置き、袋を持ち上げる。

 

「へ?り、竜胆さん。一体なにを」

 

黒ウサギの心配そうな声をシャットアウトし、袋を裏返す。

 

「あらよっと」

 

 

 

 

 

 

 

ジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリジャリ。

 

 

 

 

 

 

 

全部ギフトカードに収まった。おお、ギフトカード便利。

 

「り、竜胆サン……?今のは……」

 

「それぞれの地域で主に流通している金貨。サウザンドアイズ印を始めとして約三種類の金貨がざっと五万枚ずつだったな。今落ちてた時にざっくり数えたけど」

 

「……なっ」

 

「どこでそこまで集めたの……?」

 

絶句する飛鳥とギフトカードの中に収納され、枚数まで丁寧に書かれた金貨の表記を見つめる耀。

 

「まあ、知りたいだろう……というか今後の"ノーネーム"の資金の動かし方についても色々あるし」

 

コホン、と取り敢えず咳払い。

 

「俺の店の利益だ」

 

「「「はっ!?」」」

 

「"総合的料理店狐堂"。俺がゲーム開始から二日目に立ち上げた店だ」

 

「な、ななななんで"名無し"の私達にそこまでのお客様が!?」

 

「"サウザンドアイズ"名義だからだ。その代わり俺の得た利益の60パーセントは"サウザンドアイズ"行きだがな」

 

利益の40パーセントでおよそ150000枚分の金貨……つまり"サウザンドアイズ"側はそれより20パーセント多い分得ている。

 

因みに開店直後から客が殺到したのはあの路上販売で買ってくれた人にパスタ専門から色々な料理を作るためにちゃんとしたお店を"サウザンドアイズ"の支援の元作ると説明したからだ。

 

正に、時は金成る……

 

「いい取引じゃったわ!」

 

「全くだ。当然、俺達がここまで金を得てもただの成金。得た収入の更に最低60パーセントは各地の寄付金として収めて貧困や飢えに苦しむ下層のコミュニティに渡す予定だ」

 

恩も売れるし、栽培以外でも食料の調達ルートができるってわけだ。いいぞこれ。

 

「これが俺の戦果。資金調達、資金難のコミュニティへの無償寄付、更に"サウザンドアイズ"の資金面への援助と、俺の料理程度で皆が喜んでくれるなら幸いだ」





60パーセントでジャリジャリとか某ファウンデーションに「ハッピバースデイ!」とか言われるじゃないですかやだー。



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三話 ユメ



竜胆の姿は少しずつ、メッキを剥がされて暴かれる……




高町竜胆はふわっとした感覚の中にいた。

 

覚めることがないのなら、ずっとこの安寧に身を預けてもいい。そんな安心感を与える感覚だった。

 

だが、現実はそうはいかなかった。

 

竜胆はその感覚から突き放され、冷たい地面に足を着ける。

 

「……っ、なんだここ……」

 

竜胆は現在地を確かめるように歩き出す。

 

真っ暗な空間の中暫く歩いていると、足の感覚がなにか感じた。

 

「この匂い……血?」

 

竜胆がその血の発生源を辿るように、匂いの源へと向かう。暫く歩き続け、最も濃い匂いのする場所にたどり着くと───

 

「なんだ……これ……?」

 

死体の山だった。

 

しかも、その死体の中にはガルド=ガスパーやペストなど、自分と関わってしまったが故に死んでしまった者もいる。

 

「りん……どう……」

 

真下から声が聞こえ、そこに目を向けると、そこには右目を喪失した、顔を血で濡らした耀の姿があった。

 

「───────ッ!!」

 

思わず視線をズラす竜胆。だが、ズラした先にはタマモがいて、その姿は耀同様に見る目も当てられない。

 

逃げるように視線をズラせばそこには"ノーネーム"という"家族"がいて、竜胆は逃げる場所を失った。

 

「りん、どう……たすけて……」

 

死体、重症の身体、その全てが竜胆の身体にのしかかってくる。

 

「や、めろ」

 

「りんどう……」

 

「やめろ……」

 

「りんどう」

 

「やめろと言っている!」

 

「「「りんどう……」」」

 

「やめてくれぇ!」

 

りんどう、その言葉だけが彼の耳に入ってくる。その声を否定し、逃げる度に彼にかかる重みは増していく。

 

「「「たすけ、て……」」」

 

「やめろ……やめるんだ……やめてくれ……」

 

亡者の中に覆いつくされた竜胆は、僅かに残された視界から、なんの傷もない一人の人間を見つけた。

 

「たす、け───」

 

竜胆は気付けばその名前も顔もわからない誰かに助けを求めていた。

 

どれだけ惨めに、哀れに見えたろうか。

 

「……助ける?なにを言っているんだ、お前は」

 

僅かに聞こえてきた声は、不思議と他の声よりも澄んで、よく聞こえた。

 

「……え」

 

故に、彼にとっては一番の打撃だった。

 

「お前/俺は死にたいんだろう?死に際になって、そんなことを言うのか?」

 

その姿は、はっきりと見えた。

 

その人物の姿は、竜胆自身だった。

 

「お前/俺は、ここで死ぬんだ」

 

その声を皮切りに、自身の声は聞こえなくなり、亡者達の声が一層大きくなった。

 

「嫌だ……嫌だ……死にたくない……でも、俺は……」

 

亡者達の声に、小さな呻きは掻き消されていた。

 

◆◇◆

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」

 

竜胆は瞳に僅かな涙を浮かべ、腕でそれを拭おうとして、全身から出ていた汗のせいで目が染みた。

 

だが、逆にそれのおかげで今までパニック状態だった頭を落ち着けた。

 

「…………………………………………………………………………………………………………夢、か……最悪だ」

 

多分、今まで彼が見た夢の中で最悪、というのは家族が死んだ夢だろう。

 

なのに、今の彼は自らが死ぬことにそう漏らした。無論、あの亡者にも一因はあるが、彼はそう言ったのだ。

 

「……くそっ、俺と関わって死んだ奴も全員……家族以外全員いた。

なんて嫌味な夢だ……!今日はアンダーウッド収穫祭の初日だっていうのに……!」

 

竜胆はベッドを叩きながらそう呟く。だが、彼は自分の中の価値観……自分自身の存在というものを理解していないのか、どうして最悪なんて言ったのかもわかっていなかった。

 

◆◇◆

 

そして、南側に向かう日がやってきた。

 

「ようやく来たのデスよ」

 

「……すまん」

 

黒ウサギの茶々を一言で返す竜胆。少し顔を俯け、顔色は伺えない。

 

「……どうかしたの?」

 

「少し、嫌な夢を見ただけだ……別にいつかのように体調が悪いわけじゃ、ない」

 

「ならいいんだけど……」

 

はたしてこれは嫌な夢を見た、それだけで済ませていいのだろうかと耀、飛鳥、黒ウサギ、ジンの四人は揃ってそう思っていた。

 

「……そういえば、十六夜は?」

 

「十六夜さんはヘッドホンがなくなってそれを探すと言って、権利を耀さんに渡しました」

 

「……そう、か」

 

十六夜がいれば幾分かはこの不安もなくなるんじゃないかと思っていたが、その十六夜がいないということに少し辟易した。

 

「ホントに大丈夫?」

 

「大丈夫……って言えたらいいのにな……ま、時間も惜しいから早く行くとしよう」

 

◆◇◆

 

「「………っ!」」

 

そして、一行は"アンダーウッドの大瀑布"にたどり着いた。

 

ちらりと見るだけでわかるほどの絶景。目測でも300メートルはありそうな巨大な水樹が目を惹く。そのあり得ないサイズは樹齢何千年と過ごした大樹でも比較できない。

 

そして、そこから流れる大量の水は大瀑布の名前を冠しても違和感のないものであり、その下流にはその流水による恩恵を受けているであろう都市部が見える。

 

「………」

 

そんなはしゃぐ二人を尻目に、竜胆はただただ滝を見て溜息をついた。

 

「水はいいな……流されるだけの人生で」

 

どこかポエムのような感じがしたが、そう言っていないと気分が晴れないのだ。

 

はしゃぐ乙女二人とやけにローテンションな乙女っぽい男。かなりカオスだった。

 

と、そんな状況の中耀はあるものを見つける。

 

「飛鳥、竜胆、あれ!」

 

耀に促されるまま無気力に上を向く。その瞬間、竜胆は表情を一変させた。

 

その生き物は青い羽毛で羽を覆った、二本足の鹿というような姿ぢった。

 

「……耀、アイツには近づくな。間違ってもトモダチなんかになろうとするな」

 

「なんで?」

 

「アイツはペリュドン。人を殺す生き物だ」

 

「人を……殺す?食べるとか、そういう意味で?」

 

「違う。ヤツらは人を殺して失った自らの影を取り戻す。影がある限りは人畜無害な生き物だが……」

 

ペリュドンは竜胆と目が合い、そのまま竜胆に向かって襲いかかってくる。

 

「生まれ持った影には呪いがあって人を殺さないとそれを取り戻せず、取り戻さないと生きていられない哀れな生き物だよ。……俺みたいにな」

 

竜胆はペリュドンに向けて軽く睨みつける。

 

その瞬間、ペリュドンはなんの前触れもなく、死んだ。

 

「見つかったら死ぬまで追われる……だから殺すしかない」

 

竜胆はペリュドンの死骸に一言、「すまない」とだけ言いペリュドンを呪術で焼却する。

 

『その通りだ。博識だな、少年』

 

すると突然、上方から聞き覚えのある声が響いてきた。

 

そこに目を向けると一頭のグリフォンが空に止まっていた。止まっていた、という言い方は変かもしれないが、グリフォンの翼は動いていないためそう言うしかない。

 

『友よ、待っていたぞ。ようこそ我が故郷へ』

 

そのグリフォンの言葉遣いからして、今までに出会ったことのある物言い。

 

そして誇り高いグリフォンと友になった、となればそのグリフォンは間違いなく、"サウザンドアイズ"のグリフォンだ。

 

「久しぶり。ここが故郷だったんだ」

 

『ああ。収穫祭で行われるバザーには"サウザンドアイズ"も参加するらしい。私も護衛の戦車を引いてやって来たのだ』

 

見れば彼の背中には立派な鋼の鞍と手綱がある。彼の騎手と友に来たのだろう。

 

「白夜叉がいれば……まあ、いざという時になんとかなるか」

 

そんな中、竜胆は不安を紛らわすように呟く。そのつぶやきは動物にも聞き取れないほど小さいものだ。

 

グリフォンは黒ウサギ達にも視線を向け、翼を畳み前足を折る。

 

『"箱庭の貴族"と友の友よ。お前達も久しいな』

 

「YES!お久しぶりなのです!」

 

「……ああ、久しぶりだ」

 

「お、お久しぶり……でいいのかしら、ジン君?」

 

「き、きっと合ってますよ」

 

飛鳥とジンはグリフォンの言葉がわからず、とりあえずお辞儀をする。

 

グリフォンは嘴を自らの背中に向け、彼らに乗るよう促す。

 

『此処から街までは距離がある。南側は野生区画というものが設けられているからな。東や北よりも道中は気をつけねばならん。

もしよければ、私の背で送って行こう』

 

「本当でございますか!?」

 

黒ウサギは喜びの声を上げ、ジンと飛鳥はやはり言葉の壁のせいで首を傾げる。

 

耀はグリフォンから一歩距離を置き、深々と頭を下げた。

 

「ありがとう。よかったら、名前を聞いてもいい?」

 

『無論だ。私は騎手より"グリー"と呼ばれている。友もそう呼んでくれ』

 

「うん。私は耀でいいよ。それでこっちが飛鳥とジンで……そこの可愛いのが竜胆」

 

「………」

 

あれ?と耀は思わず首を傾げる。竜胆の性格……というか、今までの彼の反応からすれば「俺は男だ」というのは当たり前だったはずだが、彼はなんの反応もしない。

 

『分かった。友は耀で、友の友は飛鳥とジン、それに竜胆だな』

 

グリーと名乗ったグリフォンは翼をはためかせ承諾する。その間に事情を黒ウサギから説明された飛鳥とジンは同じく頭を下げグリフォンの背に跨る。三毛猫も黒ウサギに抱かれ同乗。

 

「……すまない、失礼する。

……なにかあったらとりあえず俺のせいにしておいてくれ」

 

『面白い冗談だな』

 

竜胆はそれだけ言うとグリフォンの背中に跨らず、両足を同じ方向に投げ出してグリフォンの背中に座る。

 

耀はもう一度、グリフォンにペリュドンの事を聞き、その後グリフォンと耀は飛び立った。

 

空の旅に少しトラブルもあったりしたが、まあ兎も角一行は普通に目的地へと向かっていく。

 

「……グリー、と言ったか」

 

竜胆が突然、会話が途切れたタイミングでグリーに話しかけてくる。

 

『なんだ、竜胆?いや、それより私の言葉は……』

 

「聞こえている。それより、お前に聞きたいことがある」

 

『……聞きたいこと?』

 

言葉を理解していることに若干驚きながら、グリーは竜胆の話に耳を傾ける。

 

「お前……窮屈じゃないのか?」

 

『窮屈?』

 

「獅子と鷲……二つの混ざり合うことのない生き物が混ざっている。

お前は……その二つのどれに当てはまることもできないでいて、窮屈じゃないのか?」

 

竜胆は珍しく本気で問いかけるように質問してきた。ただ、本人は空を見上げながら独り言のように呟いている。

 

『……窮屈か。確かに、グリフォンという種族が私一人であればそう思っていたろうな。

だが、グリフォンは私一人ではないのだ。同じグリフォンである……家族とも呼べる者達が、きっと混合種という壁を破ってくれたんだろう』

 

「……そう、か」

 

竜胆は空を見上げたまま、グリーの言葉を受け止め切れなかった。






種族の壁、そこに疑問を持ったのにもわけがあります。なぜなら、竜胆くん自身がその当事者だからです。



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四話 ナマエ



孤独の狐、少しだけ過去の感傷に浸る……ってあれ?これいつも通りじゃね?




グリーと別れた竜胆達を待っていたのは、また再開だった。

 

「あー!誰かと思ったらお前、耀じゃん!何?お前らも収穫祭に、」

 

「アーシャ。そんな言葉遣いは教えていませんよ」

 

聞き覚えのある名前と声につられて上を見る。そこには"ウィル・オ・ウィスプ"のアーシャとジャックが窓から身を乗り出して手を振っていた。

 

「アーシャ……キミも来てたんだ」

 

「まあねー。コッチにも色々事情があって、サッと!」

 

窓から飛び降りて竜胆達の前に現れるアーシャ。

 

自慢の青いツインテールを揺らし、黒のゴスロリ衣装の後ろ手で手を組みながらニヤリと笑う。

 

「ところで、耀はもう出場するギフトゲームは決まってるの?」

 

「ううん。今ついたところ」

 

「なら"ヒッポカンプの騎手"には必ず出場しろよ。私も出るしね」

 

「……ひっぽ……何?」

 

何それ?と耀はペリュドンの時にしっかり説明してくれた竜胆の方に向く。

 

「ジン。説明してやってくれ」

 

コホン、とまるでそれが癖であるかのように一間入れたジンは簡単にだけ説明する。

 

「ヒッポカンプとは別目"海馬(シーホース)"と呼ばれる幻獣で、タテガミの代わりに背ビレを持ち、蹄に水掻きを持つ馬です。

半馬半魚と言っても間違いではありません。水上や水中を駆ける彼らの背に乗って行われるレースが、"ヒッポカンプの騎手"というゲームかと思います」

 

「……そう。水を駆ける馬までいるんだ」

 

「因みに、ヒッポカンプにはトビウオのような羽を持って飛ぶこともできる種もいる。

彼らの解体新書によれば成長過程でタツノオトシゴと分岐した、とも言われている」

 

ジンの説明に軽い追記を加える竜胆。

 

耀は両手を胸の前で組み、強く噛みしめる。

 

半刻も経たないうちに二種類もの幻獣の情報を得たことが、南側が幻獣の宝庫だということへの実感がわき始めているのだろう。

 

「前夜祭で開かれるギフトゲームじゃ一番大きいものだし、絶対出ろよ。私が作った新兵器で、今度こそ勝ってやるからな」

 

「わかった。検討しとく」

 

パチン、と指を鳴らして自慢げに笑うアーシャ。

 

一方ジャックは竜胆の前にフワフワと麻布を揺らして近づき、礼儀正しくお辞儀した。

 

「久しいな、ジャック。お前と話したい話題があって困ってたんだよ」

 

「ヤホホ。こちらこそ。……話したい話題、というのはだいたいの検討はつきますが、なんの話題でしょうか?」

 

「決まってるだろ。お前が俺に会わせたいヤツだよ。ここには来てるのか?」

 

「ヤホホ。やはりそうですか。残念ですがそれは───」

 

「お前に会わせたいヤツ?聞きたいか?それはな───」

 

「アーシャ、会うまでは秘密と釘を刺されているでしょう?」

 

「あっ……そうだった」

 

「そういうわけです。残念ながらお会いするまでの秘密、と言わせてもらいます。

それと、ここにいるかという質問については、NOです。ですが、お伝えすればひとっ飛びでやって来ると思われますヨ?」

 

「ひとっ飛び、か」

 

「勿論、一瞬で現れるなんてこと……いえ、わかりませんネ。あの方は時間と自分にルーズですから」

 

◆◇◆

 

その後、アーシャとジャックの二人と共に今回の収穫祭の"主催者"に挨拶することが決まり、地下都市の螺旋階段を下っている。

 

収穫祭というだけあって様々な場所に出店が張ってあり、それらから香ばしい香りが漂う。

 

耀はその中で"六本傷"の旗が飾られている出店にふっと瞳を奪われる。

 

「……あ、黒ウサギ。あの出店で売ってる"白牛の焼きたてチーズ"って、」

 

「駄目ですよ。食べ歩きは"主催者"への挨拶をすませてから、」

 

「美味しいね」

 

「いつの間に買ってきたんですか!?」

 

「うむ、チーズのくせに乳製品特有の匂いも無加工でなく、それでいて伸びのあるな焼き上がりだ。

これほどまでに上質なチーズもそれほどないな」

 

「竜胆さんはしれってそれを調理しながら歩かないでください!そもそもどこで入手したんですか!?」

 

「俺の店」

 

「ていうか竜胆くん、ついさっきまですっごいローテンションだったのになんで料理が絡むとここまでその気になるのかしら……」

 

二口、三口と食べ進める耀と次々と焼き上げて行く竜胆の隣で、飛鳥とアーシャが物欲しそうな目でチーズを見つめる。

 

それに気づいた耀は包み紙を二人に近づけて小首を傾げた。

 

「───……匂う?」

 

「匂う!?」

 

「匂う!!?匂うって聞かれた!?そこは普通『食べる?』って聞くはずなのに『匂う?』つて聞いたよコイツ!!」

 

「うん。だってもう食べちゃったし」

 

「しかも空っぽ!?」

 

「残り香かよ!どんなシュールプレイ望んでるのお前!?」

 

「あっ、チーズが焼きあがったら消えた……」

 

「やっぱり竜胆が作ったやつの方が美味しいよ」

 

「おかわり入りやがったよコイツ!私達にあげる気ゼロだ!」

 

食べては出来上がるチーズを食べる。出来ては消えるの繰り返しを暫く見ているととってもお腹がすいたという。

 

◆◇◆

 

一同はそのまま暫く進み、目の前にある件の大樹を見上げていた。

 

「……黒ウサギ。この樹、何百メートルあるの?」

 

「"アンダーウッド"の水樹は全長500メートルと聞きます。境界壁の巨大さには及びませんが、ご神木では大きな部類だと思いますよ」

 

「そう……私達が向かう場所は?」

 

「中ほどの位置ですね」

 

「………。そう」

 

つまり高度250メートルほど。それを梯子や備え付けの足場を伝って行かなければいけないのだ。

 

耀はめんどくさそうな顔を隠すそぶりもなく表情に出し、

 

「……わた」

 

「飛ぶなよ?それいくらなんでも自由すぎるから飛ぶなよ?

あと、こういうのは足で登って行って最終的に感動するものじゃないのか?」

 

「飛んでいっていい?」

 

「春日部さん、それは自由度が高すぎるわ。それに、そろそろ私は竜胆くんの多趣味についていけなくなりそうよ」

 

「ヤホホ!春日部嬢と竜胆殿のお気持ちはわかりますが、団体行動を乱すのはよろしくありません。それに本陣までは基本的にエレベーターで入るものなんです」

 

エレベーター?と一同は首を傾げるが、途中で竜胆だけは「ああ……なるほど。水を使うのか」と納得する。

 

ジャックは特に説明もせずに歩みを進めて、太い幹の根元まで来て木造のボックスに全員を手招きする。

 

「このボックスに乗ってください。全員乗ったら扉を閉めて、傍にあるベルを二回鳴らしてください」

 

「わかった」

 

木製のボックスに備えられたベルの縄を二回引いて鳴らす。

 

すると上空で、水樹の瘤から水が流れ始めた。

 

竜胆達の乗っているボックスと繋がった空間に大量の水が注がれているのだ。乗用ボックスと連結している滑車がカラカラと回り、徐々に上がり始めた。

 

「わっ……!?」

 

「上がり始めたわ!」

 

「……やっぱりか。箱庭といえど、考えることは人間的だな」

 

「ヤホホ!反対の空箱に注水して引き上げているのです。原始的な手段ですが、歩くよりはよほど速い」

 

ジャックの言うとおり、水式エレベーターはものの数分で本陣まで到着した。

 

吊られたボックスを金具で固定し、木造の通路に降り立つ。

 

「……板を繋げているだけにしてはかなり丈夫だな」

 

「ほ、本当ね……」

 

「……このまま俺だけ落ちればいいのに」

 

「……いや、どうして竜胆さんはそこで自分死ねよみたいなことを言うんデスかねぇ?」

 

「そのうち死ぬ気だから……耀、そんな目で見るな」

 

「……私の目が黒いうちはそれは禁止」

 

「……わかったよ。自殺願望を口にするのはお前がいないうちにな」

 

「私がいなくてもダメ。勝手に死ぬのも禁止」

 

「はぁっ……結局そうなるのか……」

 

竜胆が呆れ、全員に「悪かった」と一言だけ告げる。

 

よく見ると、落ちないように両側に柵が設けられている。身を乗り出すことがない限りは落ちないだろう。

 

幹の通路を進むと、主催者である"龍角を持つ鷲獅子"の旗印が見えた。

 

「旗が一枚、二枚、三枚……七枚?七つのコミュニティが主催してるの?」

 

「残念ながらNOですね。"龍角を持つ鷲獅子"は六つのコミュニティが一つの連盟を結んでいると聞いております。中心の大きな旗は連盟旗でございますね」

 

黒ウサギが指す旗印は七枚。

 

"一本角"

 

"二翼"

 

"三本の尾"

 

"四本足"

 

"五爪"

 

"六本傷"

 

そして中心に連盟旗・"龍角を持つ鷲獅子"が飾られていた。

 

「これが連盟旗……でも、連盟ってなんのために組むの?」

 

「はいな。それは、」

 

「連盟旗なんてものは用途様々さ。一定の契約をして連盟を組むコミュニティが複数あれば、それは連盟として為るだろう。

だが……その一番の目的は恐らく魔王への対抗だな」

 

「ま、また横入りされたのデス……」

 

「魔王に?」

 

「連盟旗を組んでいるということは……つまり旗印一つにしているということだ。

だったら連盟を結んだコミュニティが魔王のギフトゲームに強制参加された時に介入だってできるんじゃないか?」

 

「本当にいい読みしてマスネ、竜胆さん……その通りです。

まあ、絶対に助けてくれるかはわかりません。介入するか否かは連盟コミュニティの判断です」

 

「そんなんじゃ気休め程度にしかならんな……血盟でも結べばいいのに」

 

そっか、と相槌を打ち旗印を見上げる。他のメンバーは三人が話している間に本陣入り口の両脇にある受付で入場届けを出していた。

 

「"ウィル・オ・ウィスプ"のジャックとアーシャです」

 

「"ノーネーム"のジン=ラッセルです」

 

「はい。"ウィル・オ・ウィスプ"と"ノーネーム"の……あ、」

 

受付をしていた樹霊(コダマ)の少女はハッ、と顔を見上げる。

 

彼女はメンバーの顔を一人一人確認し、ついでに名前も確認する。そして飛鳥のところで視線を留める。

 

「もしや"ノーネーム"所属の久遠飛鳥様でしょうか?」

 

「ええ。そうだけど、貴女は?」

 

「私は火龍誕生祭に参加していた"アンダーウッド"の樹霊の一人です。飛鳥様には弟を助けていただいたとお聞きしたのですが……」

 

「そんなことがあったのか」

 

ああ、と飛鳥は思い出したように声を出す。

 

「あの白布の痴女……ラッテンと戦っていた時にちょっとね。火蜥蜴に襲われてた樹霊の子が一人いたわ」

 

「やはりそうでしたか。その節は弟の命を助けていただきありがとうございました。

おかげでコミュニティ一同、一人も欠けることなく帰ってこられました」

 

「こちらは一人死にかけましたけど……」

 

「生きてるならそれでいいだろ。何度も掘り返すな。凹む」

 

話に便乗して狐様を弄るウサギ。狐はバツの悪そうな顔をする。

 

「そんなことより、それはよかったわ。なら招待状をくれたのは貴女達なのかしら?」

 

「はい。大精霊は今眠っていますので、私達が送らせていただきました。

他には"一本角"の新頭首にして"龍角を持つ鷲獅子"連合の議長であらせられる、サラ=ドルトレイク様からの招待状と明記しております」

 

"ノーネーム"一同、竜胆を除いて一斉に顔を見合わせて驚いた。

 

竜胆はなぜ、見合わせていなかったのかと言うと───

 

「───サラ、」

 

その名前に過敏に反応していたのである。

 

「どうかしたの?竜胆くん」

 

「ああ、いや……なんでもない。それより、ドルトレイクって確か白夜叉に聞いた限りだと……確か、"サラマンドラ"の、」

 

竜胆がジンに向かって問うと、ジン本人も驚いたような顔になっていた。

 

「え、ええ。サンドラの姉である、長女のサラ様です。でもまさか南側に来ていたなんて……そういえば街の随所に北側で作られている水晶体をみましたが、まさかそれを流出させたのは───」

 

「流出とは人聞きが悪いな、ジン=ラッセル殿」

 

聞き覚えのない女性の声が響き、ハッと一同が振り返る。

 

途端、熱風が大樹の木々を揺らした。激しく吹きすさぶ熱と風、その発生源は空から現れた女性の持つ、二枚の炎翼だった。

 

「サ、サラ様!」

 

「久しいなジン。会える日を待っていた。後ろの"箱庭の貴族"殿とは、初対面かな?」

 

燃え盛る翼を消し、樹の幹に舞い降りた女性、サラ=ドルトレイク。

 

姉妹のサンドラ同様の赤髪を長く靡かせる彼女は、健康的な褐色肌を大胆に露出させ、踊り子の服ではないかと思うほどである。

 

強い意思を感じさせるような瞳の頭上に生えた、サンドラ以上の威厳を放つ二本の龍角が猛々しく並ぶ。亜龍としての力量を推し量るのにはそれだけで十分だろう。

 

サラは一人一人の顔を確認し、受付の樹霊の少女に笑いかけた。

 

「受付ご苦労だな、キリノ。中には私がいるからお前は遊んで来い」

 

「え?で、でも私がここを離れては挨拶に来られた参加者が、」

 

「私が中にいると言ったろう?それに前夜祭から参加するコミュニティは大方出揃った。

受付を開けたところで誰も責めんよ。お前も他の幼子同様、少しくらい収穫祭を楽しんで来い」

 

「は、はい……!」

 

キリノ、そう呼ばれた樹霊の少女は子供らしい表情を見せ、竜胆達に一礼して収穫祭へ向かう。

 

「ようこそ、"ノーネーム"と"ウィル・オ・ウィスプ"。下層で噂の両コミュニティを招くことができて、私も鼻高々といったところだ」

 

「……噂?」

 

「ああ、立ち話もなんだ。皆、中に入ってくれ。茶の一つも入れよう」

 

手招きしながら本陣へ消えるサラ。

 

竜胆は他のメンバーが反応する前に彼女の後を追い、先ほどの超ネガティブなグリーの飛行とは全く違う表情を見せた竜胆に面食らった三人は、急いでアーシャとジャックと共に後を追った。

 

◆◇◆

 

「では、改めて自己紹介させてもらおうか。私は"一本角"の頭首を務めるサラ=ドルトレイク。聞いた通り元"サラマンドラ"の一員でもある」

 

「じゃあ、さっき地下都市や街で見かけた水晶は」

 

「モチロン私が作った。しかし勘違いしないでくれ。あの水晶や"アンダーウッド"の技術は私が独自に生み出したもの。盗み出したように言うのはやめてくれ」

 

ホッとジンは胸を撫で下ろす。まあ、ぶっちゃけると独自の技術でもない限りは盗作と言っていいのだからそれは気がかりだったのだろう。

 

「それでは、両コミュニティの代表者にも自己紹介を求めたいのだが……ジャック。彼女達はやはり来ていないのか?」

 

「はい。ウィラは滅多なことでは領地からは離れないので……それに、もう一人の彼女はとても時間と自分にルーズですから。

まあ、彼女に関しては恐らくあと一日二日でもすれば飛んで来るでしょうね。文字通り」

 

「そうか。北側の下層で最強と謳われる参加者二名、是非とも見たかったのだが……」

 

「「……北側、最強?」」

 

耀と飛鳥が声を上げる。

 

隣に座っていたアーシャは自慢そうにツインテールを揺らして話す。

 

「当然、私達"ウィル・オ・ウィスプ"のリーダーと、そのリーダーの最強の右腕なんて言われてる二人のことさ」

 

サラは彼女達を一瞥し、頷きながら話を続ける。

 

「そう。"蒼炎の悪魔"、ウィラ=イグニファトゥスと"獄炎の使者"、ス」

 

「ストップ。彼女は彼……竜胆殿がいる場所では話さないでくださりますか?

彼女は『彼に会って驚かせる』と意気込んでいましたし」

 

驚かせる。そんな子供のような言葉を使う女らしい。そんなのが自分に会いたがってるかと思うと、竜胆は少し辟易した。

 

「そ、そうか……ん?竜胆……もしやキミは最近この辺で見るようになった料理屋のオーナーか?」

 

「あ、はい。そうなります。憶えてもらえて光栄です」

 

竜胆が珍しく敬語を使うので、それもまた一同面を食らう。

 

「そう言えば南側にも展開してたな……あんまり名前知られたくないんだが……」

 

「謙遜しないでほしい。一度あの店には立ち寄ったが、南側でもあれほどの職人はそうそう……いや、殆どいないだろう」

 

「いえ、俺なんてまだまだですから……それと、"サラさん"って呼ばせていいですか?」

 

「構わないが……急にどうした?」

 

「……その、昔の知り合いと同じ名前で、雰囲気も似てるので、そう呼びたくなったんです。

多分、敬語もその名残りで……」

 

「そうか。そう呼びたくばそう呼んでくれ。私は一向に構わんよ」

 

「すみません。貴女自身として見ていないみたいな感じで……」

 

「そう悲観的にならないでくれ。私が悪いようだ。かといって、キミが悪いわけでもないんだが……」

 

最近はなんだか竜胆の色々な表面が見えるなぁ、なんて思う"ノーネーム"一同だった。






なんだか急速度で竜胆くんの元の世界の扱いだの暮らしだのわかってきます。

竜胆くん……正直に言うと若干M気質があったり。



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五話 仮面トココロ



巨人族来訪。きっとリア充に嫉妬した人類の恨みで登場したわけじゃないと思いたい。




あれから、色々あった。

 

対象を80本の触手で淫靡に改造するという謎の植物、"ブラック★ラビットイーター"なる、完全に特定の個人を狙われているものを黒ウサギが消し炭にしたり、似たような植物、"ふぉっくす★クリーパー"なるものもあったので、それは俺が消し炭にした。

 

「……勿体無い」

 

「あんな植物あってたまるか。自然の摂理に反するものはなにがあろうと認めん」

 

その後、複数人行動を義務づけられ……一人の方が気楽だったのだが、義務づけられるとなれば"人類の罪"の秘密を共有している、タマモと白夜叉以外で唯一の耀を選ぶ以外に選択肢がなかったのだが、正直どうも気まずい。

 

ペストとの決戦前夜以降なんだかんだとヤケに俺に世話を焼いてくるし……いや、世話を焼くだけならそれ以前からもちょっと焼かれてたのだが、最近はそれが更に悪化している。

 

まるで子供扱いされてるようだ。俺の方が年上なのに。

 

ただ……なんというか、14歳の女性に身長がギリギリ、本当にギリギリ勝ってる程度の身長だと説得力がないのが現実なのだが。

 

それよりも、だ。

 

「……おい耀」

 

「ふぁひ?」

 

「お前どれだけ食えば気が済むんだ?」

 

「全部食べるまで」

 

「お前は阿呆か!?財布すっからかんにする気なのか!?」

 

「……うん。まあそうなるかな」

 

「そうなるじゃないよ!」

 

コイツの頭の中食欲しかないのかと疑いたくなる。

 

実際、店に金出してるのは俺なのだ。金遣いの荒い……というか荒い通り越した姉がいたからそれなりに資金の管理はしているのだが、消える分の大半は多分これで消えてる。

 

「こんなんで行儀のいい食べ方だから怒れないんだよ……」

 

実際、耀は出店で何度か口にすればなくなる食べ物でない限りは椅子に座って丁寧に食べる。が、異常なのはその速度と量。いつの間に食べたと言わんばかりの速度と、初めはホントに食べきれるのかと疑った量を食べる。

 

「………っ」

 

不意に、背中の辺りから鈍い痛みが走る。

 

"侵食"の時の痛みだ。やはりそうとうキている。

 

「……"侵食"?」

 

「……ああ。そうみたいだ。どうも最近は小規模だが頻発しててな……」

 

「……ねえ。今更だけど、"侵食"が進んでいくと、最終的にどうなるの?」

 

「わからないな……少し暴れまわって鎮静することもあるし、影響は完全に消えるかもしれないし、あるいは……目に映った生物を見境なくコロス化け物にでもなるか……そうならないことを祈りたいよ」

 

「……そっか」

 

「ただまぁ、正直なところ"侵食"がある程度の段階まで進むと俺の記憶を吹っ切ってなにをしたのかなんて憶えてないんだが……黒ウサギ達に聞いた影響の及ぼし方から察するに、多分化け物になる」

 

自分の心が死んだなんて知覚できないまま、身体が生きて心が死んでいく、周りに一番迷惑をかけるパターンだと付け加えると、不意に耀に両手を取られる。

 

「心が死んでも、身体が生きてるのならきっと心も戻ってくるよ。

身体は器……心は命。竜胆は多分、そんな感じ」

 

「……確かめようのないことだらけな上に、不確定論の運任せか……幸薄な俺にはあんまり期待できない話だよ」

 

「幸がないのなら、私と幸を分け与えよう」

 

「……面白いヤツだよ、お前は。人を不幸にする幸薄の死神に幸を与えてどうするっていうんだ」

 

「生きる今が不幸でも、生きていれば幸もきっとあるよ。

……いつか、竜胆が言ったよね。生きるのを諦めるなって」

 

……あれ?それって、ガルドから耀見捨てて逃げた時にジンに言った言葉だよな……?

 

「竜胆が持ってるって言ってる自殺願望なんて、ホントはないんじゃないのかな……?そんな言葉を言えるなら、尚更そう思えるんだ」

 

「……バカ言え。俺は───」

 

───なにを言っているんだ。お前は死ぬことが望みじゃ、なかったのか?

 

───死ななきゃいけない……だけど、俺は……

 

「……わかんなくなって来たよ。死んで不幸を演じた悲劇の悪になりたかったのか。生きて死ぬことに怯える、ただの子供になりたかったのか……」

 

「迷うっていうことは、そう思ってなんかないんじゃない?答えが出ないだけで」

 

「それこそわからないだろ……」

 

「ふふっ、確かにそうだね」

 

自分の言ったことがオモシロオカシかったのか、耀は屈託のない笑顔を浮かべて来た。

 

ヤバい。すっごいなんかキタ。

 

でも、そんな顔を見せてくれたのがどうしてか、すごく嬉しくて、つい思ったことを口走ってしまう。

 

「……まあでも、本当にヤバくない限りは生きることにするよ。

そんな笑顔が消えるのは寂しい」

 

俺はなにを言っているんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?

 

バカヤロー!こ、これじゃなんか、こ、こここここここ、こく、告白してるみたいじゃないか!?

 

顔を真っ赤にしながら、チラッと耀の方を見る。

 

「………?何か言った?」

 

よかった!本当によかった!食べるのに夢中で聞いてなかったみたいだ!今回ばかりはこの大量出費にも意味があった!

 

と、まあこんな感じで初日は過ぎて行った……

 

◆◇◆

 

「……なんであんな事言っちまったんだろうなぁ……俺は」

 

初日のお祭りを終えて、寮に戻って来た竜胆は、部屋につくなりベッドに背をつけて考え事に耽っていた。

 

「そんなもの、決まっていましょう?ご主人様」

 

ちら、と横を見るといつの間にかタマモが顕現していた。

 

「いたのか……タマモ。最近見てなかったから不安だったぞ」

 

「まったくもって大丈夫じゃないです。最近のご主人様は心の中より外の方でもお喋りを始めたから、私とお話しする時間が減っているのです」

 

「まあ……言われればそうだな。人と話すのも、最初は久しぶりで慣れなかったけど、今はそうでもない」

 

竜胆は自らの身体を隅々まで確認し、"侵食"の影響は少しなくなったことを理解すると、今度こそスゥッとリラックスする。

 

「……サラ、か」

 

「気になりますか?」

 

「……まあ。名前以外にも色々似てたしな」

 

「……グラマラスで」

 

グサッ、と竜胆の心にその一言が突き刺さった。

 

「優雅で、凛々しくて、髪が長くて、瞳がカッコよくて、歳上なところ……とかですか?」

 

「……そうとも言うな。まああくまで似てるだけだし、そういう感情で見るわけでも予定もない」

 

ポーカーフェイスっぽい焦った顔で頷く。ポーカーな顔と焦った時の顔の変化はわかりやすいなー、なんてタマモが思ったのは別のおはなしだが。

 

「耀には悪いが……"ヒッポカンプの騎手"は手伝えそうにもないしな……祭りを楽しむ以外の選択肢がない───」

 

ズゴンッ!そんな音が響くと、竜胆の頭上から、二体の巨大な人影が現れた。

 

「巨人……?」

 

竜胆がぼそ、と呟いたその姿は全身30尺はくだらない巨躯をもち、巨大な薙刀を握った巨人はギョロリ、と竜胆を見つめ、戦闘態勢に入った。

 

「ギフトゲーム開始の知らせも特にない……典型的な無法者だな」

 

竜胆がはぁっ、と呆れるとアメジストの両目を血走った朱色に変える。

 

「悪いが……これがお前達の勝手な進撃とあっては力を出し惜しむ必要性は感じられない……どうなっても知らんぞ」

 

竜胆は全身から呪力を込め、身体から火柱を発生させる。

 

「わるいが……周りに構ってると俺が死にかねない」

 

竜胆は炎を風と共に弾丸として放つ。周りの家屋ごと巨人達は焼け死んでいく。

 

「死ね……」

 

火柱が炎を纏う竜巻になり、灼炎と共に竜胆ごと巨人を巻き上げ、地表に上がる。

 

「死ね……死ね……消えろ……失せろ……消失しろ……焼滅せよ……」

 

ふと、不意に周囲を濃霧が包み、それから感じられるよくわからない感覚が竜胆を襲う。

 

「………ッ!!」

 

急に竜胆の呪術の威力が衰え、朱色の瞳は更に異常性を増したように深くなり、タマモとの融合の影響で桃色になっていた髪が漆黒になり、逆立ち始める。

 

「……グッ、ぁ……!」

 

それを好機と見たのか、巨人達が一斉に竜胆に迫ってきた。

 

───ヤバい

 

そう竜胆が思った瞬間、巨人達は全て、斬り割かれた。

 

「っ……!」

 

その巨人達を殺したのは、一人の女性。銀色の髪をポニーテールに纏め、狐を模したような上半分のみを隠す仮面を着けている。

 

竜胆が、否、"罪"がその女性を本能的に敵と認識しかけた時、いつの間にか上空にいて、そこで戦闘をしていた耀の旋風によって霧を払われ、竜胆としての意識が戻る。

 

「無事ですか?お身体が優れないように見えましたので……」

 

「……気遣い感謝する。助けてくれなかったら、多分コイツらを全部喰ってた」

 

「喰う……ですか。なるほど。貴方は自分ですら把握しきれていない異常な力にその身を飲まれようとしている」

 

白銀のドレススカートと鎧は全身が巨人の血に塗れ、恐らくただの人間ならば吐き気すら催すだろう。

 

「……名前、教えてもらっても?」

 

「フェイス・レス……そうよばれています。遺伝子の接ぎ木……貴方の名も、いざという時に貴方の同志に知らせるために知っておきたいですね」

 

「遺伝子の接ぎ木……なるほど、俺を指すには的確だ……ってか、俺が死ぬ前提か……俺は竜胆……改めて礼を言う、フェイス」

 

「いえ、お礼には及びません。では私はこれで」

 

フェイス・レスが去ったと思うと、急に倦怠感が湧いてきた。

 

「ふぅっ……」

 

「無事でしょうか?肩をお貸ししますが……」

 

魂レベルの繋がりを持つタマモならばその倦怠感の異常性を感知しているはずだが、竜胆は強がりなので敢えて知らないふりをする。

 

「ちょっとヤバい……」

 

「竜胆、肩を貸すよ」

 

フェイス・レスとの会話を終わらせた竜胆にタイミングよく耀が竜胆の身体を両手で抱く。

 

所謂、お姫様抱っこである。

 

「……いや、だからなんでこうなる」

 

「竜胆、軽いから」

 

「いや、その理屈はおかしい」

 

「耀様!それは私のジョブでございますのになにゆえ横取りを!?」

 

「いや、お前の理屈もおかしい」

 

まあ、耀に悪いがこの倦怠感にはもうそろそろ抗えなくなってきたので、身を任せるとしよう……なんて思った竜胆は眠りの世界に行ったのだった。






こうして竜胆くんは丁寧に暴走フラグをおっ立てていくんですね。なにをやってるんだねキミは。



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三章 最終話 罪、目醒メノ刻


そして、人類の罪は目醒める……たった一人の少年を揺さぶりながら……




憂鬱とした倦怠感から、意識を強引に引っ張られていく……そんな感覚を感じ、それに抵抗する気力すら湧かず、竜胆は意識を眠りの底から浮上させる。

 

───なあ、俺は……オレタチは、これでよかったのか……?

 

───生きることを願うのなら、それでいいんじゃないのか?

 

───願っても……傷つけるだけの力だとしても、なのか?

 

───キミは傷つけるヒトじゃないだろう?それは、私達がよく知っている

 

───……わからないよ。世界が。俺がいる意味が……俺に、生きろと言う意味が……

 

◆◇◆

 

巨人達の襲撃もひとまず収まり、そこで怪我をした人達が収容されているキャンプの端……竜胆は、瞳を重たそうに開けた。

 

「……世界の真理はなんなんだろうなぁ……どうして世界は、生きろと俺に囁くんだ……?」

 

いっそそのまま終わらぬ夢を見たい……そんな風に思っていた竜胆は目の前に置かれた支給レーションを見つけ、静かにそれを食べだす。

 

「自ら死ぬことは……生きることを拒まれて死んだ者への冒涜……だからな……」

 

竜胆はレーションを食べ続けていると、次第に……無意識のうちに、食べるペースが上がり、感情に"喰べる"以外のものがなくなっていた。

 

野犬のような、本来の彼が見たら説教でもしそうなくらい粗野な食べ方で食料を喰らい、携帯食糧で量も少なかったとはいえ、それをあっという間に喰らい尽くした。

 

「……くそっ、なんなんだよこれは……」

 

食べ終わり、食以外の感情も湧き上がると、つい先ほどまでの自分自身を思い出す。

 

「これも"侵食"のせいだっていうのかよ……だとしたら、もう俺は───」

 

完全に、人間というセルを失おうとしているのか……?

 

そう意識をすると、急に胸の中を圧迫感がこみ上げる。

 

不意に、自分がこの世界で敵対した者達を思い出す。

 

ガルド=ガスパー。竜胆は彼に対してはただの人殺しだと思っていた。

 

だが……もし自分が箱庭にいなければ?言ってはなんだが、あの時の拳が耀の頭蓋を割って、飛鳥にも"威光"で動けなくなろうが、きっとそのうち威光を攻略して、彼女を叩き潰す。

 

そしてジンと、あの猫の店員……加えて周囲の者を証拠隠滅に殺していたろう。

 

そうすれば、いずれ白夜叉にバレて箱庭追放程度にはなろうが、彼は生きていただろう。

 

ルイオス=ペルセウス。竜胆は彼をただの口だけは達者なトーシロと思っていた。いや、実際そうだった。

 

そのままガルドのIFが続いていれば、これも"ノーネーム"の仲間には悪いが、レティシアを売り捌いてそのまま万事解決だ。彼はコミュニティ解散なんてことにはならなかったろう。

 

ペスト。竜胆は彼女を放っておけない真逆の存在と思っている。

 

上のIFが続けば、誕生祭に招かれた多くの人を殺し、彼女の言う悲願を達成させられただろうか……いや、十六夜がいる時点で負けるのはほぼ確定的に明らかだが、タマモ達に聞いたような悲惨な終わり方にはならなかっただろう。

 

全て、竜胆と敵対した者は必要以上にオカシナ目に会っている。

 

「これも……"罪"っていうのか、俺は……」

 

自身はヒトでなくなる。そんな感覚に大した感情は湧かないが……もし、それがペストの時以上の暴走を引き起こし、二度と竜胆という意識が呼び起こされることがなかったら?

 

それはきっと、彼の肉体はただの破壊の塊になる。

 

それだけが、竜胆の気になること。

 

「あら、起きてたの?」

 

突然、聞いたことのある、もう聞けないと思った声が聞こえてきた。

 

声の主はすぐにわかった。自分がその者のことを思い出していたからだ。

 

「……ペストか……?」

 

「……また、会えたわね」

 

竜胆が声の方向を振り向くと、そこにはいつかの斑のワンピースとは違う、レティシアが着ているようなメイド服を纏ったペストの姿があった。

 

「……なによ」

 

ペストを見つめ、なにもしなかった竜胆に対してペストは少しキツめに言葉を出す。

 

「なんで、生きてるんだ……?」

 

「ジンに隷属されたのよ。私のギフトゲームのクリア条件、全部満たされちゃったからね」

 

「……ああ……」

 

「ほら、皆のところに向かうわよ。また巨人族が襲ってきた時のために……貴方の体調が悪いのは知ってるから、手を貸してあげる」

 

「……ああ、悪い」

 

ペストが差し出した手に、竜胆は自身の手を重ねる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、重ならずに彼女の少し横を通った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜胆はペストの手を握ったと思ったのか、そのままベッドから地に足をつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は、そのままバランスもとれずに倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リ、リンドウ!?」

 

ペストは倒れた竜胆の身体を持ち上げ、どうにか立たせようとする。

 

竜胆は少しふらつきながらも立ち上がる。

 

「だ、大丈夫なの?今、頭から当たったけど……」

 

「……ああ。不思議と痛くない……」

 

ペストの差し出した手を、彼は今度も触らず、地面に当たると違和感に気づいたのか、何度か手を振るが、ペストの手に触れることはなかった。

 

ペストは竜胆の手を握り、握った手ごと両手で竜胆の顔をペストの正面で固定させる。

 

「リンドウ。今私がなに着てるかわかる?」

 

「……斑のワンピースじゃ、ないのか?」

 

その一言で、ペストは確信した。

 

今……竜胆は視覚を失い、何も見れなくなっているし、触覚もなくなっていて、痛みも平衡感覚も失っている。

 

恐らく、レーションを食い漁っていた時には味覚もなくなっていただろう。なかなか苦いものだった筈で、彼はコーヒーが苦手なはずなのに、ほぼコーヒーに近い味のそれを平然と食べていたのだ。

 

また、その食べ物の匂いもコーヒーのものだった……つまり、嗅覚もなくなっている。

 

今の問いに返した辺り、まだ聴覚は残っているようだが、恐らくそれも時間の問題だろう。

 

「リ、リンドウ……とにかく、ジン達に連絡しないと……聞こえる?」

 

竜胆はペストの声に反応しなくなった。もう、聴覚も消えているのだろう。

 

「タマモ!リンドウの従者ならいるんでしょう!出てきなさい!」

 

「は、はい!」

 

ペストに呼ばれると、ついぞ今まで竜胆につられて眠っていたタマモが起きて顕現される。彼女も事態に気づき、焦った声を出している。

 

「こうなったことはあるの!?」

 

「いえ、今まで一度も……しかし、これはもう……!」

 

「なに!?どういうことなの!?」

 

「今は話している場合ではありません……!ご主人様を完全に動けないように隔離できる場所に連れて行きます!」

 

竜胆を抱き上げたタマモはそのまま猛スピードで"龍角を持つ鷲獅子"連合の本拠に向かう。

 

だが、その道の途中、"アンダーウッド"全体に響き渡る音が聞こえた。

 

───目覚めよ、林檎の如き黄金の囁きよ───

 

その声と共に、黄金の琴線を弾く音が聞こえた。

 

◆◇◆

 

待っていられない。そんな発言をして早々"アンダーウッド"に向かって、やって来た十六夜とレティシア。レティシアは街につくなり十六夜と分かれていたのだが……

 

───目覚めよ、林檎の如き黄金の囁きよ───

 

えっ、と呟いたレティシアの体から力が抜ける。

 

同時に、琴線を弾く音が三度響き、彼女の意識を混濁させる。

 

なにが起こっているのかわからない、飛びそうな意識の中でかろうじて背後を見たレティシアはクスクスと笑うローブの女性を見た。

 

「───トロイア作戦大成功。お久しぶりですね、"魔王ドラキュラ"。

巨人族の神格を持つ音色はいかがですか?」

 

「き……貴様……何者……」

 

「あらあら、ほんの数ヶ月前の出会いも忘れちゃうなんて、少し酷いのではなくて?

……しかしそれも、すぐ気にならなくなるわ。だって貴方は───」

 

───もう一度、魔王として君臨するのだから。

 

◆◇◆

 

巨人族から奪った"黄金の竪琴"が消えたのに、サラが気づいたのはそれからさほど時間がかからなかった。

 

だが、それも遅かった。

 

十六夜と黒ウサギは目の前に捉えられたレティシアを見た。混濁する意識の中、レティシアはかろうじてそれを口にした。

 

「十三番目だ……十三番目の太陽を撃て……!それが、私のギフトゲームをクリアする唯一の鍵だ───!!!」

 

断末魔のような叫びと共に、レティシアは現れた巨龍に呑まれて光になり、その光はやがて、黒い封書となり、魔王の"契約書類"として"アンダーウッド"に降り注いだ。

 

『ギフトゲーム名 "SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING"

 

・プレイヤー一覧

獣の帯に巻かれた全ての生命体。

※ただし獣の帯が消失した場合、無期限でゲームを一時中断とする。

 

・プレイヤー側敗北条件

なし(死亡も敗北と認めず)

 

・プレイヤー側禁則事項

なし

 

・プレイヤー側ペナルティ項目

ゲームマスターと交戦した全てのプレイヤーは時間制限を設ける。

時間制限は十日ごとにリセットされ繰り返され続ける。

ペナルティは"串刺し形"、"磔刑"、"焚形"からランダムに選出。

解除方法はゲームクリア及び中断された際にのみ適用。

※プレイヤーの死亡は解除条件に含まれず、永続的にペナルティが課される。

 

・ホストマスター側勝利条件

なし

 

・プレイヤー側勝利条件

一、ゲームマスター・"魔王ドラキュラ"の殺害。

二、ゲームマスター・"レティシア・ドラクレア"の殺害。

三、砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に掲げよ。

四、玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主導者の心臓を撃て。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

印』

 

◆◇◆

 

琴線の音と共に変わったのは、レティシアだけではなかった。

 

「ガッ、ァッ、ゥグァァァァァァァァァァァァ……!!!」

 

竜胆である。彼は琴線の音が鳴ると共に、突然苦しみ出した。

 

「立て続けに……一体なんなの……!?」

 

ペストは怪訝そうに竜胆を見つめるが、タマモはこれ以上ないほど驚愕した顔となる。

 

「ご主人様……!?なりません!今しばらくお耐えください!」

 

「ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」

 

竜胆の叫びは、この世の全てを震わせる。

 

叫び終えたかと思うと、竜胆の身体が勝手にタマモから離れていく。

 

漆黒の髪は更に黒く染まり、まるで虚無を思わせるようになる。

 

瞳は鋭く、紅くなり、輝きのない鈍ったものとなる。

 

牙は獅子を思わせるような鋭く硬いものとなり、あらゆるものを"神砕く"。

 

爪は万物を切り裂くものとなり、服は一糸纏わず消え去り、身体の要所のみを漆黒の体毛が覆う。

 

そして、背後に現れた漆黒の翼は総ての天を司る道となる。

 

見開かれた瞳は一瞬、タマモを見つめ、ただ一言だけを残す。

 

「ぼくのひみつ……あることないことぜんぶいって……それで、ころして」

 

それだけ残して、竜胆は虚空の中へと消えていった。

 

第三章、完





巨龍召喚は早めに終わらせました。

そして十三番目の太陽を撃て、は正直ギフトゲームよりも竜胆くん戦がメインになってくると思われます。

まあ、主人公がどうにかなって大嫌いになっても、問題児SSのことだけは嫌いにならないでください!



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ぼくは、いきてていいのかな?
一話 孤独




第四章

ついに目醒めた"孤独の狐"の"人類の罪"。

その力は、破壊と虚無……




"アンダーウッド"の収穫祭本陣。そこは"魔王"となったレティシアが"主催者"を務める異例のギフトゲームを攻略するため、黒ウサギが発動した"審判権限"でギフトゲームを一時中断し、会議を行おうとしていた。

 

多くの者達は突然の事態についてこれず混乱し、負傷者として医務室に送られた。

 

「さて……何から話すべきか……」

 

今回の作戦会議の進行を担うサラ=ドルトレイクは頭を抱えていた。ギフトゲームについてのこともあるが───他にももうひとつ。いや、二つ。

 

一つは、春日部耀が上空に浮かんでいる"主催者"側の本陣となっている浮遊城に言って連絡も途絶えていること。これに関してはサラというより、"ノーネーム"が心配している。

 

そしてもう一つ。恐らく今回のギフトゲームで巨龍並みの攻略難度を誇るのであろう……高町竜胆のことである。

 

事情を知らない彼女らは突然彼がおよそヒトとは言えない姿になって暴れ回っているという情報を手にした時からどういうことなのかと頭を捻らせている。

 

「───!サラ様!ペストと、竜胆さんの使い魔のタマモさんが!」

 

「彼の使い魔だと?」

 

黒ウサギが声を張り上げてサラにそのことを告げ、本陣に戻って来た二人を迎え入れる。

 

「おいタマモ、どういうことだ?竜胆の奴が無差別に暴れ回ってるってのは」

 

二人が本陣に来た途端、十六夜がタマモに詰め寄って来た。状態がわからねば状況も確認できない、ということなのだろう。

 

「タマモ……貴女、リンドウに言われたんでしょう?全てを話せ……って」

 

ペストはタマモに向かってそう言う。タマモは周りの空気を感じ、やはり言うしかないことを悟り席に座る。

 

「……確かに、全てを話せと言われました。ご主人様がそれを望んでいるのならば、私はそれを拒みません。

……話しましょう。一人の少年が望むべくもなく植え付けられた"罪"と、今を蝕んでいく"罰"を……」

 

いつものおちゃらけた彼女からは想像もできないくらいに真剣な表情。それはいくら問題児と言われている飛鳥と十六夜だろうと、余計な口を挟んではいけない気がした。

 

「ご主人様……高町竜胆様は、元々異世界に通じる技術を持っていたことは、恐らく"ノーネーム"の方は気づいているのではないでしょうか?」

 

「まあな」

 

「ええ。時々異世界の自分がどうの……なんて独り言を喋っていたわ」

 

「私も……初めて東側に訪れた時にヤケに異世界というものに精通していたので、もしやとは思っていたのですが……」

 

「そうなんです。竜胆様のお母様は昔とある事情で異世界を自由に転移する手段を手にして、家族ぐるみで同じように異世界を移動できる方々と交流を深めていました」

 

タマモは竜胆の魂に補完されている過去の記憶の蓋を開け、語り出す。

 

「様々な出来事があって、それを笑って終わらせて……竜胆様はそんな家の拾われ子の長男と長女、双子の姉に双子の弟と妹という家族の次男……竜胆様のお母様達の生活はそんなものだったんです」

 

でも、タマモは語るように言う。まるで本を読み聞かせるようで、彼という物語が一冊の、完成しきっていない本を読んでいるようだ。

 

「そんな日々もそう長く続きませんでした」

 

「……どういうことだ?」

 

「竜胆様は、三歳の誕生日の夜、音沙汰もなく消えたのです」

 

「消えた……?それって、竜胆くんがいなくなったって……?」

 

「当然、お母様達は必死に探し回りました。丸一日探して、幾億という世界。探して、探した末にお母様の友人が竜胆様を見つけました」

 

「……どこで、見つかったのです?」

 

タマモはそれを言うのを一瞬だけ躊躇し、それも一瞬で振り払って告げる。

 

「人造合成生物兵器製造実験所……お母様の友人が元々追っていたとある組織の一部でした」

 

「じ、じんぞう……?」

 

「……おい。合成生物兵器って、まさか竜胆の奴は───」

 

十六夜が恐るべき答えに辿り着き、驚愕の色を隠せないまま詰め寄って来た。

 

「……はい。十六夜様のご想像の通りです。ご主人様は後天的にあらゆる世界、あらゆる時代の生き物達の血液、細胞を植え付けられ、如何なる生き物の力をも行使できる存在、"アーティフィシャルキマイラ"と言うべき存在なのです」

 

その場にいた全員が息を呑んだ。

 

人造のキマイラ。三歳にして人間として生きることを第三者の介入によって放棄させられてしまった存在……それが、高町竜胆なのだ。

 

「以降、元々暗殺者の家系に密接な関係のあったお母様は人が変わったようにその組織の名が出る度に潰し、潰し、潰し尽くしていました。

そんな中でも精神そのものが崩壊しなかったのはやはり、竜胆様が自身の境遇を気にすることもなくいたことなんです……ですが」

 

ですが、その一言がこれ以上ないほど、彼らに竜胆の絶望感を感じさせていた。

 

「家族は皆々、竜胆様が十三歳の時に原因不明の突然死を遂げました。……ただ一人、竜胆様を除いて」

 

原因不明、果たしてそれで終わらせていいのだろうか。明らかに第三者の介入であるとわかるものだった。

 

「竜胆様は哀しみに暮れながらも、その死に方の不自然さに気づき、引き取ると言ってくださったお母様の友人達の言葉を全て断って、振り切って、たった一人であてのない旅に出ました。

その旅先には厚意にしてくれる方も沢山いて、竜胆様も束の間の安らぎに浸っていたかった……でも、そんな人達も皆死んで、また遠くに行って、同じことの繰り返し……」

 

「だから死神、か。自称するのにもやっぱりそれなりの理由はあったんだな」

 

「はい。そして竜胆様はやがて世界のどこともしれない場所に辿り着いて、誰もその場所にいないことと、誰も来ないような場所であるということを認識して、三日三晩、涙を枯らし尽くしました」

 

三日三晩泣く、そんなものは比喩的な表現なのだろうと思っていたが、彼は本当に三日三晩泣き続けていた。自分は関わった人を殺してしまう。もう人と関わることなんてなく死んでいくんだ、と。

 

「そうして竜胆様の人生そのものを棒に振るうような、全てに絶望した生活が始まり、やがて竜胆様は泣くことも笑うこともなくなりました」

 

死のうと思って頸動脈を斬り裂いたこともあったが、異常な再生力は彼に死を許さず、一ヶ月間気道を完全に塞いでも息が切れることもなく、およそ自分で死ねる手段はほぼ全て試して、そんな一年が過ぎて竜胆が14歳になった時だ。

 

「竜胆様は失った家族の愛を僅かに思い出し、私は竜胆様が丸一年失って、不意に渇望した愛と、竜胆様の身体に存在している野干と白面九尾の細胞と血液を媒介として、現代に現れました。

細胞と血液、即ちご主人様の構成する魂そのものを媒介とした私とご主人様はそれから約一年を過ごし、箱庭の招待状を受け取りました」

 

それから先は皆の知る通り。出会ったばかりの頃は死神が人を殺さないように突き放したような態度を取り、やがて人との付き合い方を忘れたせいで素直になれない小さな少女のような少年となった……

 

「あの竪琴の音が聞こえた後に巨人族達は群れを成して襲ってきました。竪琴に巨人族を操る力があるとすれば、恐らくご主人様の中にある巨人の細胞と血液が過剰に暴走した結果……私はそう見ています」

 

話を終えた時には、全員がなんとも言えない表情になっていた。

 

「それが彼、竜胆くんの"人類の罪"の正体……」

 

「確かにそれは人の業が生み出したと言っても過言じゃねえな……」

 

「……そもそも、ご主人様の人格が元の人格であることが奇跡に近いんです。

ご主人様のお母様が調べた結果によるとご主人様の人の細胞と血液の割合はどちらも0,1パーセント以下……身体の部位によっては3パーセントほども一つの生物の細胞、血液をつぎ込まれた部位もありますから……それが、ご主人様の"人類の罪"がご主人様を"侵食"して暴走させる原因なのです」

 

一時的に人間としての人格が主導権を失っているのだ。恐らく、今もそうなのだろう。

 

「ハッ、やれやれ……迷惑のかかる問題児の末っ子だな」

 

「まったくね。春日部さんより年上なのにあんなに子供なのは、その人の部分がそこで成長を止めているせいなのね……」

 

十六夜と飛鳥は本陣の暗い雰囲気を紛らわすように冗談を言ってみるが、あまり効果はなかった。

 

「……皆様、折り入って、お願いがあります」

 

そう言うと、タマモは綺麗に身体を折り、頭を下げた。

 

「ご主人様は自分を殺せ、と仰いました。ですがっ……!」

 

そのまま地に足をつけて土下座をするのではないか、それほど真剣だった。

 

「私には、ご主人様が失った幸せを、この世界で取り戻してもらいたいんです……!ご主人様を、助けてください……!」

 

その姿は、かつて中国で悪名を馳せた大妖狐、蘇妲己が見せるはずのない……そして、人に興味を持って、一人の少女、藻女(みずくめ)として記憶を失って生き、自らの正体を知って、それでもなお人とわかりあおうとした悲劇の妖狐、玉藻の前が行ったその時の頼みよりも真摯なものだった。

 

それほどに、彼女は高町 竜胆のことを主従関係を越えて、一個人としての幸せを望んでいるのだ。

 

そして、そんな彼女をみた彼らも───

 

「……ハッ、こんなデキた女がここまで頼み込んでるんだ。断らないわけねえだろ」

 

十六夜が。

 

「当然よ。そもそも彼は私達の家族だもの」

 

飛鳥が。

 

「YES!私も竜胆さんには人並みの幸せを知ってもらいたいのデス!」

 

黒ウサギが。

 

「そもそも断る理由なんてないわ」

 

ペストが。

 

「はい。僕も立場が同じだったらこうしてます……いえ、それでもここまでできるか……」

 

ジンが。

 

"ノーネーム"一同は満場一致で頷き、それを見たサラはここぞとばかりに声を張る。

 

「それでは改めて、ギフトゲーム"SUN SUNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING"攻略会議及び、"狐巫女"高町竜胆の救出会議を始める!

このギフトゲームは今までの中でも最上位に入るほどの熾烈な戦いとなるだろう!これ以降の進行は黒ウサギ殿に一任する!各自、ギフトゲームの参加者として、多くの命を預かる者として、責任のある発言を望む!」






ぶっちゃけ魔王のギフトゲームっていうよりは竜胆くんと十六夜くんのチート対チートと魔王戦がほんのちょっとってだけだったり……

因みにこのキマイラ設定はぶっちゃけなんでもアリのチートギフトです。だから暴走してるんだけど。

オーズ風に言うとプトティラコンボ的存在で、竜胆くんの異世界の知り合いという名前を出せないキャラクター達の版権技を使えたりします。

メダガブリューとかメダガブリューとかメダガブリューとか。


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二話 よくぼー



少年は羽ばたく。

空へ、そこに待つ、変わり果てた家族の元へ。




翌日、様々な議論を繰り返され、今回のギフトゲームの配置はこんな感じになった。

 

天空城突入、並びに現在空中で動きを止めている竜胆との交戦救出は十六夜、タマモ、グリーの三人に任せることとなった。

 

理由は単純明快。現時点で竜胆とマトモに戦えるとしたら、第三宇宙速度を越えるetcなどのぶっ飛んだ力を持つ十六夜がいいのだが、それ以前に竜胆の下と天空城に向かうには空を飛ぶ必要があるので、"ノーネーム"でも信用してくれるグリーに乗ることになった。

 

そして、タマモは竜胆救出の秘策があるらしいので同行。しかしそれは己の持つ殆どの呪力を使うらしいので、戦闘はほぼ十六夜に一任される。

 

そして、"アンダーウッド"の上空1000メートル地点。

 

十六夜は空で身体を丸めるようにしていたそれを発見すると、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「……いたぜ。グリー、タマモ、死なないように気をつけろ」

 

「うむ。私とて彼と同じ混合種。言わば同士だ。

その同士をむざむざ見捨てるわけにはいかない……!」

 

「はい。私も覚悟はできております。

ご主人様を救う覚悟を……!」

 

「ヘッ、オーケーだ。

タマモは特に気をつけてろ。魂が繋がってるってんなら、お前が死んだら折角アイツを助けに来たのが無駄になっちまう」

 

それは、近づいてくる十六夜達の生命の鼓動に気がつくと、丸めた身体を元に戻し、気力のない直立不動をとる。

 

「前々から……一度お前とヤリ会ってみたかったんだよ、竜胆!」

 

十六夜はグリーの背中から跳び、一瞬で"罪"の下に接近する。

 

しかし、"罪"もまたそれ以上の速度で動き、十六夜の腕を切り飛ばさんばかりに剣の如き爪を振るう。

 

十六夜はそれをあえて腕で受け止め、逆の腕で"罪"の腕をとる。

 

「こいつでも喰らえ!」

 

十六夜は凄まじい速度のパンチを"罪"に食らわせる。そのパンチは華奢な身体つきをしている"罪"には多少オーバーキルのような感じもしたのだが……

 

「………♪」

 

"罪"はその痛みをものともせず……否、痛みを感じるからこそ笑みを浮かべていた。

 

「───なっ、」

 

十六夜はその異常性に思わず感じたことのない違和感を感じる。

 

「いただき、ます」

 

"罪"は、十六夜の頸動脈を噛みちぎる勢いで、彼の首筋に噛み付いて来た。

 

「ガッ!?この、ヤロウ……!」

 

十六夜も"罪"の首をへし折る勢いで殴る、殴る、殴りまくる。

 

幸いというか、"罪"は十六夜に組みついているので十六夜が地に落ちることはない。

 

「………!!」

 

「ガッ、グゥ……!ヤハハハ……楽しいなぁ、楽しいぜぇ……!やっぱりこういう命を掛けた戦いっていうヤツは燃える!」

 

"罪"は殴り続ける十六夜に耐えかねたのか、あるいは噛み付くという行為に飽きを覚えたのか、口を離し十六夜を殴り飛ばす。

 

グリーはその先にいち早くたどり着き、十六夜を背に乗せる。

 

「こいつは一筋縄じゃいかねえやぁ……!」

 

「……十六夜様。恐らく今のはほんのお遊びです。

今のご主人様は"人類の罪"に振り回されて呪術を使うことも、私を取り込むこともできませんが、"罪"しか使わないということは裏を返せばなにをしてくるのか全くわからないということ……ですが、あれは」

 

タマモの言葉が続く前に"罪"は行動に出ていた。

 

遥か下の地面の一部を一瞬にして持ち上げ、竜胆の周りには足場ができる。

 

竜胆はそこに手を突っ込んで、引っこ抜く。

 

するとそこから、先ほどまで影も形もなかった大口を開けた恐竜の口に紫の刃先が伸びた斧のようなものが出てきた。

 

「あれは……!メダガブリュー!」

 

「メダ……なんだそれ?」

 

「ご主人様の記憶の中にあった、異世界の知り合い様が持っていた武器です。

確かあれは、斧とバズーカ、二つの力が使え───」

 

る、と言おうとしたら斧の持ち手を銃の持ち手のようにカタチを変え、躊躇なくバズーカを撃ってきた。

 

「んなろっ!」

 

十六夜はそれを拳で押し返そうとする。しかし、着弾した瞬間、それは爆発し、十六夜に少なからずのダメージを与える。

 

「結構、やるじゃねえか……」

 

「………!」

 

十六夜が傷を確認し、"罪"はその瞬間にメダガブリューをアックスモードに戻し、十六夜に肉薄する。

 

十六夜が咄嗟に左腕を差し出し、斧を受け止める。その衝撃は十六夜の足場となっているグリーにかなりの負担がかかり、苦悶の声を上げる。

 

「グッ……!」

 

「無事か、グリー!」

 

「私は問題ない……っ!お前は早く、竜胆を……!」

 

グリーがそう言うと十六夜は"罪"の腹部に蹴りを決め、"罪"は吹っ飛ばされる。

 

「っ……!腕が抉れやがった……!」

 

メダガブリューに斬られた腕はわかりやすく抉れていた。しかも十六夜が見た限りでは、抉れた左腕から銀色のメダルのようなものが四枚零れ落ちていた。

 

咄嗟に十六夜は"罪"の方を見ると、"罪"はそのメダルを右手に持っていた。

 

「せんとうよく……?これがキミの、よくぼー……?くだらない……」

 

"罪"はおぼつかない言葉遣いで十六夜を見下すように笑う。

 

「そのよくぼー……けしたげる」

 

"罪"は銀のメダルを一枚ずつメダガブリューの紫色の刃先、エナジーエンハンサーの中に入れ、恐竜の顔にまるでメダルを喰わせるようにスライドする。

 

『GOKKUN!』

 

メダガブリューの顔を元の位置に戻すと、メダガブリューから恐竜のような形をしたエネルギーが現れる。

 

『PU・TO・TYRA・NNO HISSATHU!』

 

「グランド・オブ・レイジ……」

 

呟きと共に振るわれる斬撃は、十六夜の身体を容赦無く斬り裂いた。






結局メダガブリューじゃねえか。

きっとそうツッコまれても仕方ないと思った。



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三話 エキセントリック


今回、竜胆くんも十六夜くんも一切出てきません。




「ど、どうなってるんだ……!?巨人族が、これほどの数を……!?」

 

"アンダーウッド"の地上、大量の巨人族が蔓延る中、明らかに異彩を放つ存在がいた。

 

小さな少女と、竪琴を持った女性。彼女らは奪われた竪琴を奪った張本人で、更にもうひとつ、端的に言えば"ゴーゴンの呪い"の石化の恩恵を死に変えて当てはめる恩恵、"バロールの死眼"と呼ばれるギフトも、奪っていた。

 

「飛鳥!ペスト!ジン!」

 

サラは彼女らにやられた三人を見つけ、三人の下に向かおうとする、が。

 

「残念でした。貴女の身体があの三人に届くことなんてないよ」

 

少女の言葉通り、サラの身体は走っても走っても、一向に三人の下にたどり着くことがない。あれほどに近い距離なのに、何故。

 

「アウラさん。この人には用ないから、やっちゃってください」

 

「わかったわ……」

 

アウラ、そう呼ばれた女性は、サラに向けて"バロールの死眼"を放つ。

 

「───!」

 

サラに死の恩恵が与えられ、無条件で彼女の命が散る……そう、思った矢先だった。

 

「いぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいやぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっっっほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおうううううううううううううううううううう!!!!!」

 

そんな、戦場には明らかに場違いな声が聞こえて、その声の主とおぼしき影が、

 

 

 

 

 

"バロールの死眼"の恩恵を蹴り飛ばした。

 

 

 

 

「なぁぁぁああああああああああっっははははははははははぁぁぁはぁぁぁぁぁああああああいてぇっ!!!!?」

 

その声の主は、そのまま地面に顔面から激突した。

 

しかし、その声の主は何事もなかったかのように立ち上がり、身体についた煤を払う。

 

「にゃはははは!なんか知らないけどよくわかんないものノリと勢いで蹴り飛ばしちゃった上に前方不注意で顔面衝突事故しちゃったぜぃ☆

私ったらおっちょこちょいだなうんまったく!」

 

場の雰囲気をぶっ壊すように高笑いしながら少女はニコニコとする。

 

「……アウラさん」

 

「……ええ。わかったわ」

 

少女の雰囲気に呑まれかけたアウラと少女は、咄嗟に気をとりなおして彼女に向けて"バロールの死眼"を放つ。

 

「んにゃ?ダメだよぉ。こんな危なっかしいもの人に振り回したら」

 

少女がそれに向けてしっしっ、と手で払うようにすると、死眼はそのままあらぬ方向へと飛んで行った。

 

「まぁったくもぉ。リンが来てるって聞いたから進路を"アンダーウッド"にとって全速前進DA!して飛んで来たっていうのに……いきなりなんだねこれは。

最終戦争?最終戦争なのかなこれは?にゃはははは。んなわけないか!」

 

変わらずマイペースに笑い続ける少女に、アウラと共にいる方の少女はん?となる。

 

「あの、リンって私のことなんですけど?」

 

「おやぁ!ちょっと見ない間に女の子っぽさが違うベクトルに進んだねぇ!

ってか胸縮んだ?やった私とほぼおんなじじゃん!

んふふ~。三年ぶりにリンのお胸でも堪能しようかと思ったけど、これはざんね……おや?私の知ってるリンと匂いが違うよ?

はっ!さては偽物!?ホンモノのリンをどこにやった!?」

 

「なんですか偽物って!私はリンですよ!」

 

「あ、なんだ本名がリンなのか!こりゃ失敬!私の可愛い可愛いリンは愛称だからね、ごめんねリンちゃん」

 

「……貴女にちゃん付けされる理由なんてありません!」

 

マイペースすぎる少女に痺れを切らしたのか、リンと名乗った少女は腰にマウントしていたナイフを少女に向かって投げる。

 

「おうさ危ない」

 

少女が大胆にそれを躱すと、リンはいつの間にか少女の背後に回る。

 

「死んでください!」

 

「生憎死んでるから、もう一度死ねるならためしてみたいよ!」

 

背中から急に杖のような物が伸び、倒せると確信していたリンに直撃する。

 

「ふがっ……!?」

 

「にゃはははは!ビックリした!?ねえビックリした!?

ビックリできたってことは私ってばホラーでも天才かな?」

 

「こんのっ……!」

 

リンは一瞬で少女から距離をとる。

 

「むふっ。距離があるなら……ファイヤーーーーッッ!!」

 

少女が杖を前方に突き出すと、そこからありえない熱量の炎が出てきた。

 

「ど、どんだけメチャクチャなんですか!?」

 

下手をすると大樹ごと焼き払うような炎が飛び出てきて、リンは驚愕する。

 

そのうちにリンは炎に呑まれる。

 

「ありゃ?ちょっとやりすぎたかな?」

 

あれれ?と首を傾げる少女を見ながら、サラは絶句していた。

 

(あんな熱量の炎を後先顧みずに撃った……!?なんなのだこの少女……!?)

 

んん~?と少女が力加減間違えたかな?なんて思っていたら、煙が晴れてきた。

 

「……わぁーお!今のを守り切った……ノンノン、違うねぇ。

熱の影響でかいてる筈の汗が一切出てない。服のよごれもない……となれば空間に干渉してるのかな?ならさっきの超スピードも納得納豆だね」

 

「……おバカなのか天才なのかハッキリしてほしいです」

 

「モチ、天才!」

 

少女はニコニコと笑いながら再度炎をチャージする、かと思った瞬間に炎が砲撃のように吹き荒れていた。

 

「ちょ、」

 

「ヒート!プリーズ!」

 

「まっ、」

 

「ヒー、ヒーヒーヒーヒー!」

 

「タイムっ……」

 

「フレェイム……ドラゴォン……!」

 

「撃ちすぎ……!」

 

「ボー……ボーボーボーゥ!」

 

「ですっえぇ……!」

 

そうは言いつつも、リンはしっかりと攻撃を防ぐ。

 

「うーん、力技じゃどーにもならないかぁ……じゃ、L・I・O・N!ライオーン!!さらーぁに、ハィハィ、ハィ、ハイパー!」

 

少女はテンションのまま叫び、杖が銃に変形する。

 

「押してダメなら引いてみなってねぃ。それに倣えば、数でダメなら質にキマりってね!」

 

今度はどこからともなく声が聞こえてくる。

 

『ハイパー!マグナムストライク!』

 

「にゃは!実は今のは腹話術ってね!」

 

少女は軽く笑い、銃のトリガーを弾き絞る。

 

銃弾は空間の壁に阻まれたと思ったら、一瞬でリンの阻んだ空間の中に現れた。

 

「ええええええええ!!?なんですかそれ!?」

 

「魔法だよ!」

 

「最早奇術だよコレ……!?」

 

そうは言いながらもしっかりと避けるリン。少女はそんなリンを見てニッカリ笑う。

 

「ねーねー、リンちゃん?」

 

「なんですか……っ?」

 

リンは何をしてくるかと警戒している体制だったが、少女はあっけからんとした風にそれを言った。

 

「帰ってくれないかな?ぶっちゃけこんな戦い無意味だし」

 

「無意味……!?」

 

少女はにゃははははは、と笑いながら続ける。

 

「ほらさ、どー見てもリンちゃん本気じゃねーし。なんちゅーか、小手調べ?そんなもんでしょ?

ほれ、だからリンちゃんが本気になる前に私がリンちゃんぶっ殺さないうちに、"帰れよ"」

 

飄々とした表情で、そんなことを言う。

 

その言霊の威圧感は、竜胆の言葉と似ていた。

 

世界を震わせる声で、しかし、透き通るような声。魔法のような不思議で、現実のように無機質な声。

 

リンは、完全にそれに当てられた。

 

「っ……!」

 

「ほれほーれ、帰んないとぶっ殺しちゃうよ?ヒーヒー火が出る三秒前ー」

 

「わ、わかりました……!帰りますよ、アウラさん!」

 

「え、ええ……!」

 

リンとアウラは少女に、純粋な動物的本能で恐怖を感じ、撤退する。

 

「あ、でもその"バロールの死眼"は危険だから、壊しといたからね!」

 

「「……はい?」」

 

少女がそう言うと、アウラの手元でバゴンッ、なんて音が聞こえ、そのまま二人は消えて行った。

 

「バハハ~イ」

 

少女はニッコリとしながら二人を見送って行った。





現れた謎の少女の正体は一体……!?

ってか、お話の短縮とはいえやりすぎだと思う。ごめんなさい。なんでもするから!


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四話 バイバイ



バイバイ。

その言葉は、誰に向けて……




「………ッ、クソが……っ、今のは痛かったぞ……!」

 

十六夜がグリーとタマモを庇うように腕を交差させて、"罪"の攻撃を防ぐ。

 

「……いがい。キミのよくぼー、つよい」

 

「そうかねェ……だが、今のお前の方は、逆に欲望がなんにもねぇように見えるぜ!」

 

「……そうだろうね。ぼくは、きょむだから……」

 

「ケッ、つまんねぇなァ……俺の知ってる高町竜胆は常に死欲があったよ……望みもしてないくせにな……!」

 

「それ、かこ……いまはいま。ぎゃくにいまは、いきてこうやって……キミをコロしているのに、よろこびがあるよ……?」

 

「……言ってろ!」

 

十六夜は腕を"罪"に向けて振り抜き、その拳圧が"罪"に直撃する。

 

「いたい、なぁ。でも、キモチ、いいよ……いじめるのも、いじめられるのも、すき」

 

「変態だな、てめー」

 

バズーカの砲弾を拳圧で相殺する。それは改めての挨拶がわりという意味だったのか、"罪"は再びメダルをメダガブリューの中に収める。

 

『GOKKUN!』

 

今度はそのまま恐竜の顎を元の位置へ戻さず、メダガブリューをバズーカモードにし、引き金を引く。

 

『PU・TO・TYRA・NNO HISSATHU!』

 

「……バーン」

 

バズーカから放たれた砲撃は、先ほどの斬撃に匹敵する威力のものだった。

 

「グリー!避けろ!」

 

「承知した!例えこの身が砕け散ろうと、十六夜と竜胆の従者は私が死なせん!」

 

先ほどのは斬撃だったが、これは砲撃。どれだけの威力かあろうと懐に潜り込んだ攻撃よりは幾分か躱しやすい。グリーはその砲弾を全力で避ける。

 

しかし───

 

「ぬっ、ぐぅ、あァ!?」

 

グリーの片翼が砲弾に抉られ、翼を失った。

 

「グリーさん!?」

 

「気にするな……!元より我々グリフォンは翼がなくとも飛べる!」

 

「しかし、有翼動物にとって翼は───」

 

「翼一枚に甘えて命を救えなかったらどうする!?彼の心の痛みは、私の誇りを失った程度よりも確実に、遥かに痛い!

もしそれに甘えて命を救えなければ、それは私にとって誇りの翼を失う以上の恥だッ!」

 

グリーは吠える。命を粗末にするなと。種族の誇り程度と命を天秤にかけるならば、その答えは決まり切っているのだろう。

 

「……グリーさん……!」

 

「オーケー……!いい根性だグリー。それを聞いて俺も覚悟ができたぜ!」

 

十六夜は再び腕を振り抜き、今度は幾束をも光を集めた虹色の光を放つ。

 

「───!?」

 

"罪"は、突然現れた光に驚愕し、ほぼギリギリのタイミングで光線を躱す。

 

そして、その隙の大きな避けは"罪"に決定的な隙を作り出した。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおらぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

十六夜は"罪"に向けて跳ぶ。その腕に如何なる恩恵をも無効化にする力を込め、飛びつく。

 

無効化の力は、"罪"の力を消し去ろうとせんとする。

 

「ぅゥウ、グゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!」

 

十六夜の"正体不明"の力が"罪"に響き、一瞬"罪"の身体から抵抗が消えた。

 

「───今だ!タマモォ!!」

 

「承知しました!グリーさん!」

 

「心得た!」

 

グリーが旋風を巻き上げ、タマモに"罪"に繋がる風の道を作る。

 

「参ります!」

 

タマモはその道を駆け抜け、"罪"の身体に触る。

 

「は、な……せ……!」

 

「放すわけねえだろぉが……!」

 

「太陽神の権限、完全解放……!今、竜胆様に存在するヒトの部分を、ヒトではなく神に変換します!」

 

───神。つまり、太陽神と豊穣神の表情を併せ持つタマモが、竜胆を人に戻すのではなく、神にする。

 

確かにそれならば、暴走する力を神の力で強引に抑えることもできるだろう。なにせ神と獣では格が違いすぎる。

 

だが。

 

「───おい、タマモ。お前、太陽神としての神格を竜胆に受け渡すって、まさか───」

 

「───はい。どうやら私はここまでになるようです。これからは、ご主人様が私の後継者……次代の太陽神であり、豊穣神となるのです」

 

つまり、神格を失うことになる彼女は、ただの霊になって、天に逝くということになる。

 

白夜叉が蛇神、白雪姫に神格を渡したような時の問題ではないのだ。

 

タマモは、自分の存在を確立させている神格そのものを竜胆に受け渡すと言ったのだ。

 

「私は白夜叉様のように多くの神格を持ってるわけではありませんから……十六夜様。共にいられた時は刹那のようでしたが、楽しかったですよ」

 

「……バカ野郎……!お前だって、家族だろうがっ……!」

 

十六夜がそんな言葉を漏らす。まるで別れが近づいているかのように、タマモの身体は光の粒子に包まれていく。

 

「……太陽神が気まぐれで生まれ変わったただの悪霊狐がここまで来られたのです。

こんなどうしようもないちゃらんぽらんな狐を大事な家族と受け入れてくれた貴方達や、ご主人様の為に、再び得た命を散らせることができるのなら、本望でございます」

 

「───この、主従揃って大バカ野郎共が……!」

 

十六夜が惜しむように毒づくと、身体が光の粒子に包まれたタマモは微笑んだ。

 

「ふふっ、大バカ野郎……ですか。

それもいいです。だって、ご主人様も私も、貴方達大切な方々の為にしか、大バカ野郎になんてなれませんから……」

 

さようなら、そして、また会えるのならば、黄泉の国で。

 

タマモはどんどんと光となる。自らの存在が消えゆくのを実感しながら、タマモは最後に竜胆を抱き締める。

 

「これから貴方には、沢山の苦難と悲しみが待っているでしょう……それでも、貴方はもう望まない死を望む必要も、それを恐れる必要もないんです……貴方の生きたいように生きて、貴方の愛を育んでください」

 

タマモは竜胆の額に、自らの唇を重ねた。

 

「さようなら、私の愛しい、ご主人様……高町、竜胆……」

 

その言葉と共に、タマモの身体は完全に消え去り、光は竜胆の身体へと入って行った。

 

そして竜胆は、グリーの背中に収まった。

 

◆◇◆

 

「……っ、……」

 

「……起きたか。竜胆」

 

「……十六夜……」

 

大空の中、高町竜胆は瞳を開けた。

 

「……すまない。迷惑かけた」

 

「……ああ」

 

竜胆は暴走していた時のことを把握しているようで、自分の身体を腕で掴み、肌が千切れんばかりの力を籠める。

 

「……わかってるなら、やることもわかってるよな」

 

「……うん。グリーもごめん。その翼……」

 

「……いや、私はいい。それよりもキミの方が心配だ」

 

「……大丈夫。俺、行くよ」

 

竜胆がいつもよりもあどけなさを残した口調……否、堅苦しさがなくなった口調でそう言う。

 

「……行くって、どこにだ?」

 

「わかってるんでしょ?耀のところだよ。

俺は、俺のやりたいようにするよ」

 

「……フッ、まあそう言うだろうと思ったよ。

行ってこい。お前の生きたいように生きろ。今の俺にはこれしか言えねえよ」

 

「……ありがとう」

 

竜胆は朱色から、元のアメジストに戻った瞳で黒い翼を展開し、十六夜の目にすら留まらない速度で飛んで行った。

 

「俺は、行くよ……タマモ。それがどんな道でも、後悔したくないから、進むよ……!もう、母さん達やお前の時みたいな後悔はしないためにも……アイツは、耀は絶対に……!」






ちょっと急展開気味でしたね。

だから説明力のない作者はここでタマモが消えた理由を本編よりほんのちょびっとわかりやすく説明。

1、竜胆の暴走する身体を止めるため、竜胆が持つ人間の側面を全て神にすることで神の権限で獣の暴走を諌める。

ニ、しかし、それは竜胆に自分の神格を受け渡すことと同義であり、竜胆に神格を渡したタマモは元々神だったため、霊格も一気に失って消滅。

三、竜胆は過去の出来事やタマモが消えたことで、死神である自分が原因で誰かぎ死ぬことがもうないように耀の下へコントロール可能になった"罪"を使って向かう。

こんなところです。あと、"人類の罪"に関してはまだ完全にわかり切ってはいないので、竜胆自身解放できないパーソナリティがあります。


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五話 人類の希望



バイバイは言わないよ。

だって、お前の想いはずっと、俺の中で生きているから。




『……よかろう。ならばその誇りと共に、消え失せるがいい───!』

 

「ッ、このっ……!」

 

龍の姿をした鷲獅子、グライア=グライフは春日部耀に向けて衝撃の真実を告げる。

 

それは、春日部耀のギフト"生命の目録"が遺伝子配列の操作により獣の力を呼び起こし、生体兵器キメラを創り上げるというものであった。

 

しかし、耀はそれを頑なに受け入れない。父が創り上げた贈り物が、そんなものであるわけがない。

 

それに、この力は仲間達が"素敵な力"と言ってくれたのだ。この力をそんなものだと認めたくない。

 

認めたく、ない。

 

自分はそんなものなのだと、認めたくない。

 

認めるわけにはいかない。春日部耀はそんな生き物ではない。

 

少なくとも、皆に認められた命はそんな命じゃあ、ない。

 

それに、皆と会えたのはこの力があったからこそなんだ。その世界を切り拓いたのは、自分の足なんだ。

 

だったら、ならば。その命は───

 

「私の命……財産は、皆のものなんだ……!」

 

グライアの炎が耀を包み込む。その炎に自らの死を覚悟し、それでも生きると思い続ける。

 

誰かに助けは請わない。彼ならば、絶対に助けなんて請わない。

 

気づけば、箱庭に来るために捨てるものなんてほとんど持っていなかった自分は、同じく捨てるものがなかった彼に既視感を持ったのかもしれない。

 

陽炎のように、気づけば死んでしまいそうな、危なっかしい彼を見ていたら身体が動いている。

 

彼なら逃げない。彼は生への諦めがあっても、死ぬという他者への冒涜だけは絶対に持ち合わせていない。

 

だったら、私もなろう。矛盾してでも、この力が生体兵器を創る力だとしても、この力に頼ろう。

 

それしか、家族に……高町竜胆という自分の希望に、してあげられるものがないから。

 

「私はっ……!矛盾を抱えてでも、生きる!この力がそんな力だとしても、私は合成獣の力を拒否して、希望として受け入れる!!」

 

だから───

 

だから。

 

「私の竜胆─希望─は、いつだってそこにいるんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はっ!大事な人を!二度と死なせないッ!

だから手を伸ばす!どこまでも伸びる手で!大事な人を引っ張るッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耀を包んでいた炎は突如氷の塊になり、炎は砕けて散った。

 

「りん……どう……?」

 

来てくれた?耀はそう呟こうとしたが、彼の瞳には悲しみ、怒り、憤り……色々な感情が混ざって、耀は口を出すことができなかった。

 

「もう、死なせない……!父さんや兄さん、姉さんに双子、お姉みたいに関わりもなく死んで行った人達も、母さんみたいな人生が狂った人も、死なせない……っ!タマモみたいに、誰かのために消えて行った人も消させやしない!

例え俺の家族が俺のせいで人生が狂ったとしても!俺は皆を死なせない!

トゥルーエンドなんて御免だ!全員幸せのハッピーエンドで、生きて幸せにするんだ!俺の"罪"で……」

 

竜胆は黒く染まった、しかし新月のような神秘を持つ翼を広げる。

 

「竜胆……その身体、それに"罪"って……」

 

「……一つ。俺は自分の理性を抑えることができずに、周囲に多大な迷惑をかけた。

二つ。俺のせいでタマモは消えた。

三つ。仲間に余計な時間をとらせた……そして無限。俺は生きる"罪"。

俺は自分の罪を数えた。

さあ、お前の罪を数えろ」

 

左手の指で銃を作り、グライアに向ける。

 

『そんなもの、数えるヒマなどない!!』

 

グライアは龍の吐息で竜胆の身体を焼き尽くす。耀の時よりも、強い炎で。

 

「……弱いな。俺の知っている龍の吐息は一吹きで幾多の世界を同時に壊す」

 

右手を軽く振るうだけでその炎は消し飛んだ。

 

グライアと耀は驚愕したが、それは炎を消し飛ばしたことに対してではない。

 

「モドキでいいのなら俺でも龍になれる。……お前の相手をするなら右手で充分だけどな」

 

竜胆の右腕は見間違えようのない、龍のものとなっていた。

 

『ま、まさか……貴様も"生命の目録"を……!?』

 

狼狽するグライアに対し、竜胆は見下すように笑う。

 

「そんなわけがあるか……遺伝子操作で元の生き物に戻れるだけマシだ。たった今、生き物の遺伝子を見る生き物の力を使わせてもらって理解したよ。

その"生命の目録"の正体」

 

竜胆は大げさに腕を広げて、自分を見る。

 

「はんっ……!なるほどやはり、俺の身体は最悪だよ。

本来の自分が欠片の欠片の欠片の欠片ほどしかなくて、それを強引に引っ張ってるんだからなぁ……」

 

竜胆は自分の遺伝子を見て不快な気分になる。

 

自分の身体にある幾億もの遺伝子。その圧倒的な数に吐き気すら覚える。

 

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおのおおおおおおおおおおおおおれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!』

 

グライアはトチ狂ったように剛拳を竜胆に振り下ろす

 

竜胆はそれを、灼熱の腕で止める。

 

「"サウザンドアイズ"のイフリート……力を借りるぞ」

 

右腕の灼熱はイフリートのものへと変貌した腕の結果である。腕はグライアの腕を燃やす。

 

そして竜胆はすぐさま地面に腕を突っ込む。

 

「来い……メダガブリュー」

 

地面から引き抜かれた腕に握られた砲斧一体の武器、メダガブリュー。

 

「タマモ……力、貸してくれ。太陽剣」

 

竜胆の胸部辺りから、赤い剣が姿を現した。

 

そして一枚、十六夜の時のメダルを自分に投げ入れる。

 

それだけでメダルはあり得ない量、彼自身の身体から零れ落ちてきた。

 

「……なるほど。人類の強欲の塊である俺は欲望そのものってか……まあ、それも悪くはない。

これで、守れる力が大きくなるからな!」

 

竜胆は生み出したメダルを自身の身体の中へと取り込んでいく。

 

「さぁっ……飛ばして行くぜ。止めてみな」

 

竜胆はそのまま超スピードで動き出す。ギフトの力を完全に使いこなせるようになった今の彼は、これだけの速度下でも細かな動き一つ捉えれるほどとなっている。

 

グライアの身体は速すぎる竜胆の速度について来れず、なんの前触れもなく身体に傷がついていくようにしか見えない。

 

『おっ、のれぇぇ……!』

 

「太陽剣……貫け!」

 

『ぐっ、おおおおおお!?』

 

「メダガブリュー……喰らい砕け!」

 

ある程度の攻撃を終えた竜胆は急に止まり、地面のメダルを確認する。

 

「お前の欲望は、薄いな……メダルが出てこない」

 

地面に一枚のメダルも落ちないことに辟易とし、同時に竜胆はグライアに呆れる。

 

「まあいいか……そこに、もっと美味そうな欲望があるんだ」

 

竜胆がアメジストと紅の混じった瞳で後ろを見る。そこには、大蛇の身体と翡翠の翼を携えた杖を持つ耀がいた。

 

『───なっ!?なんなのだ、それは……!それは、私の知る"生命の目録"では……!』

 

「欲望の進化だよ、それは……」

 

竜胆はその姿を見て、"罪"が持つ欲望への感動を解放する。

 

「素晴らしいッ!新しい欲望、その力の誕生だぁ!ハッピバァァァァアアスデェイッ!!」

 

強欲から生まれた彼は、人に戻れて、人ならざるモノにもなれる春日部耀を疎ましく思った。

 

だから、叫んだ。彼女の決意に。自分と同じ、否定する力で戦う覚悟を決めた彼女の誕生に。

 

『グアアアアアアッ!!?』

 

杖から放たれた閃光がグライアの身体を焼き尽くす。グライアはボロボロの身体となり、地面に膝を着く。

 

「これが、無欲と有欲の違いだよ。俺はこの力を否定するし、受け入れないが、この力で戦う。

アンタは、自分が自分じゃなくなる力を受け入れているんだよ」

 

竜胆は左手を鷲獅子のものへと変え、グライアを突き落とした。

 

◆◇◆

 

グライアが消えて、緊張感が消えた場。竜胆は耀に振り向き、右手を差し出す。

 

「───はじめまして。高町竜胆です」

 

はじめまして。それにはなんて感情が含まれていたのか。それはよくわからない。

 

でも。

 

「……うん。はじめまして」

 

耀は彼の右手を掴んだ。耀はニッコリと微笑み、竜胆も若干顔を赤らめながらも微笑む。

 

そして、竜胆の身体は元の姿へと戻り、服もいつもの陣羽織に戻る。

 

そこで、竜胆はどっと疲れが来たのか、身体がふらついた。

 

耀も慣れない力を使い、身体をふらつかせ、結果的に二人は互いを支え合うように座り込んだ。

 

「……タマモ、いなくなったの?」

 

耀が不意に聞いてくる。先ほどの竜胆の言葉が頭に残っているのだろう。

 

「……ああ。俺の"人類の罪"を止めるために、太陽神の神格を俺に与えて……」

 

竜胆は涙を流すこともなく告げる。彼の悲しみで流れる涙は、とうに枯れてしまっているのだ。子供らしい悔やみで流れても、家族がいないという悲しみでは泣けないのだ。

 

「最低だよな……家族が死んでるのに、泣けないだなんて……」

 

「……ううん。無理して泣く意味なんてないよ」

 

耀は竜胆の手を握る。気づけばこの行為も彼が不安になる度にやっている。

 

「それに、竜胆は笑ってた方が絶対いいよ。竜胆らしい顔になる」

 

耀の笑顔が竜胆の表情を難しいものにさせる。

 

(そう言えば……向こうのサラさんにも母性を求めてたよな。俺)

 

世話を焼くな、鬱陶しい。竜胆はずっと耀にそう思っていたのだが、冷静に考えてみると、自分自身母性を求めていたのだ。

 

(ああ……そうか。どうもサラさんの時と似たような感覚だと思ったんだ……)

 

向こうのサラは竜胆を助けるために手段を選ばなかった。そうしているうちに竜胆はやがてサラに依存するようになっていて、独りで生きていくうちにそれを忘れていた。

 

それでも、身体に染み付いてしまった、母性への甘えは消えずに一度弱いところを見せてしまった耀に依存するようになってしまった。

 

(そうだったのか……)

 

それだけじゃない。ただサラに似ているだけでは似ている人で終わらせる筈なのに、どうしてここまで耀を気にかけるのか。

 

きっと、手段を選ばずに助けていたサラとは違い、ただひたすら「竜胆は生きるべきなんだ」と言ってくれた彼女に涙が出て来ていたのだ。

 

理由なんてない。生きるんだと。

 

(ああ……そっか)

 

竜胆はようやく、なぜ自分がここまで必死になって耀を助けに行っていたのかを理解する。

 

(俺……好きになってたんだ。耀のこと)

 

理屈なんてないのに、なぜか納得してしまった。

 

納得したら、今までのつっかえが全部とれたせいか、急に眠気が出てくる。

 

耀を見ると、竜胆より人間的な欲に忠実な耀は既に眠っていた。

 

竜胆は耀の寝顔を少しだけ見て、少しだけ笑う。

 

そして、彼女の耳元に唇を近づける。

 

「───好きだよ、耀」

 

それだけ言うと竜胆は起きる気力を完全に失い、耀の隣で眠りについた。

 

眠る彼が持っていたギフトカードには、今まで彼が保有していたギフトが全て消えて、新たなギフトが浮かび上がっていた。

 

"太陽神の表情(アマテラスの顔)"

"人類の希望(ア・ヒューマン・オブ・ホープ)"






人を好きになるのに理由が必要かい?

少々急ぎ足気味でしたが、竜胆くんが好きを知ったのは、理由なんて必要ないことを知ったからです。


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六話 フォーティーンデイブレイク



孤独の狐は自分にとっての太陽達を知った。

それでも、彼は自分自身が太陽の一つであることを自覚してはいなかった……




「……んっ、……頭、揺れる……」

 

「起きて竜胆。起きて」

 

「んぅっ……?」

 

つい先日味わった地獄のような微睡みとは違う、優しく穏やかな微睡みの中、竜胆は脳を震わせる声に反応して目を覚ました。

 

「……起きた?」

 

「………!!?……!…………!?」

 

目の前に耀がいて、竜胆はなにも言えなかった。

 

なにせ、ツンデレの竜胆が当人含み誰も見てないし聞いてないとはいえ、つい先ほど好きだなんて言った相手が目と鼻の先にいるのだ。困惑しないわけがない。

 

「耀、ちか、ちか、近い……!?」

 

「さっきはもっと近かったと思うけど……?」

 

「いや、でも近い!近いから!?」

 

「……そう?でも、今はそんな話してる場合じゃないよ」

 

「そんな……って。俺は死活問題なんだけど……」

 

そう呟きながら竜胆は耀の言葉に疑問を持ち、周りを見る。

 

そこには老猫一匹、十六夜とレティシアがいた。

 

「……どういう状況なんだ?これ」

 

「丁度いい!竜胆もなにか言ってくれ!」

 

竜胆が起きたことに気づいたレティシアは唐突にそんなことを切り出してきた。

 

「なにか……?なにかって、なに?」

 

「二人を止めてくれ。でないと……二人とも死ぬ」

 

「…………………死ぬ?」

 

「バカ言えレティシア。ここで動かなかったら死ぬのはお前なんだぞ?」

 

「……おい。俺は状況の説明を求めたのにややこしくしないでくれ」

 

目覚めたばかりの頭をフル回転させて今の問答について考えるが、まるで意味がわからないのでやっぱり聞くことにした。

 

レティシアは答えるのを少し渋り、十六夜は躊躇いなく言う。

 

「ついさっき、このギフトゲームをクリアさせた」

 

「……それで?それだけじゃここまでのことにはならないはずだけど」

 

「そして、今から12分後に箱庭の天幕が開く。今ここにいるレティシアは精神体みたいなもので、本体は別にいる」

 

「………………巨龍の中か?」

 

「ご明察だよ。よくわかったな……つまり、箱庭の天幕が上がっても巨龍を倒せなければ吸血鬼のレティシアは……死ぬ」

 

「まぁ、そうじゃないと突然巨龍が出てきた理由にならないだろう?それに、レティシアは吸血鬼の中で唯一"竜騎士"に上り詰めたと聞く。なら納得だ」

 

竜胆はうん、と首を縦に振る。

 

「わかってるなら尚更だ。私が皆を殺さないように、キミもなんとか言ってくれ」

 

「……ああ確かに。巨龍の力は強いし、危ないかもな」

 

「ああそうだ。だから彼らを止めてくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だが断る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ、ふざけてる場合じゃないんだぞ!?」

 

竜胆が茶化すように言った一言にレティシアは憤慨する。しかし、竜胆はその直後に大真面目な顔をする。

 

「……だったらお前を見捨てろというのか」

 

「そうだと言っているんだ」

 

「それこそふざけてるなよ吸血鬼。お前は自分の作り上げた"罪"に目を背けてここで死ぬつもりか?」

 

「……そうだ……」

 

レティシアの言葉を聞いた竜胆は精神体のレティシアの胸ぐらを掴む。

 

「このっ……バカヤロウ!修正してやるっ!!」

 

竜胆は躊躇なくレティシアの顔面を思いっきりブン殴った。

 

レティシアは実に5メートルほど吹っ飛ばされ、精神体なのに血反吐を吐く。

 

「仲間を死なせたくない……だと?笑わせるな。俺は生きる"罪"なんだ。その"罪"相手に"罪"でロンパする気か?できるわきゃねぇだろ!!」

 

竜胆の威圧に圧され、レティシアはつい黙り込む。

 

「誰も死なせたくないからだぁ?違うね。お前はそうやって悲劇のヒロイン演じてるにすぎないんだ。

救われる方法があるのに仲間のためにそれを放棄して死ぬ?そんなことして死んだら……タマモはなんなんだ!?俺はまた救える命を救えないのか!?」

 

竜胆はギフトゲーム攻略の鍵となっていた十三の天球の帯を叩き壊す。

 

「お前が死んで迎えるバッドエンドもトゥルーエンドも真っ平御免だ!俺が望むのは全員生還のハッピーエンドだけだ!

そのハッピーエンドのためなら1パーセントに満たない可能性だって掛けてやる!俺だって1パーセント未満の塊なんだ!」

 

理論なんてどうでもいいと言わんばかりの感情をレティシアに吐き、言いたいことを言い切る竜胆。

 

その姿は、恐らく"罪"から切り離されて、改めて"罪"を否定して受け入れたから見られるのだろう。

 

「"罪"から逃げるな!"罰"と向き合え!レティシア=ドラクレア!!

お前の本心を……見せてみろ!」

 

支離滅裂な物言いの中にたった一言だけ、彼の言いたい言葉があった。逃げるな、向き合え。

 

「……私は……」

 

レティシアは、

 

「私は……!」

 

本心を、さらけ出す。

 

「私は!助かりたい!頼む!私を助けてくれ!」

 

レティシアの本心に対して、竜胆は───

 

「完全無欠、完膚無きまでに救ってやるさ。"人類の希望"をなめるなよ?」

 

竜胆はギフトカードに刻まれたギフトを見せつけながら、ニヤリと笑った。

 

◆◇◆

 

「さって……行くか」

 

「竜胆……お前、なんであんな無茶苦茶な物言いで納得させられるんだ?」

 

飄々と城に穴を開けて飛び降りる準備をする竜胆に十六夜が少し呆れて問う。

 

「理屈で壁作ってるヤツに理屈で返しても無駄だろ?

だからああいうのは言いたいことを最後まで残して、適当に言葉言っとけばなんとかなる」

 

「メチャクチャじゃねーか……」

 

「まっ、あとは……"人類の希望"をなめるなよってことだ」

 

竜胆が新月の翼を展開させると、丁度いいタイミングで耀もやって来た。

 

「行くぜ……!"太陽神の表情"、発動!」

 

竜胆の背中、新月の翼の更に後ろから炎の輪ができ、九つの狐尾と狐耳が現れる。

 

「アァァァァァァァァァアアアアイ、キャァァァァァァァアアアアン、フラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアイ!!!!」

 

竜胆は翼で、耀は"生命の目録"で誕生した光翼馬(ペガサス)の力を宿したブーツで十六夜を運びながら飛び立った。

 

駆ける、駆ける、駆ける。

 

太陽神とペガサスはその翼を最大の力で加速して駆け抜ける。

 

竜胆は耀よりも速く駆け抜け、巨龍の元に辿り着く。

 

巨龍は目覚めた飛鳥の操るディーンによってその動きを封じられていた。

 

「ナイスタイミング……!これ以上ないチャンスだ!

心臓……掻っ捌いてやる!!メダガブリュー!!」

 

竜胆の意思により、メダガブリューは地面から直接竜胆の元へ飛んできた。それも二本。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!セイッハァァァァァァァァァァアァァァアアァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

ガブッ!!という音と共に竜胆の体内のメダルの多くをメダガブリューは喰らい、一発の大きさが必殺技で消費しない分大きく増して行く。

 

ベキバキゴキッ!!

 

そんな音と共に、巨龍の心臓を守る皮膚は砕き、喰われた。

 

思わず竜胆はその血を全身に浴び、獣のような笑みを浮かべた。

 

「やれえええええええええええええええええええええ!!!

十六夜ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

 

竜胆の叫び声と共に、ペガサスの速さを誇る耀に連れられた十六夜がニッコリと笑う。

 

「見つけたぞッ……!!!十三番目の太陽おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

巨龍の心臓は、少年の一振りで消し飛び、心臓からこぼれ落ちたレティシアを耀が抱きとめる。

 

竜胆は素早くレティシアの元へ行き、自分の陣羽織を被せる。

 

そして飛鳥、耀、十六夜、竜胆。四人の問題児達はいつの間にか、並んで立って、一斉に右腕を上げた。

 

「「「「完全勝利!!」」」」

 

四人の顔はそれぞれやることをやり遂げた、気持ちのいいものだった。






とまぁ、急ぎ足ですが四巻の戦闘も終了ですね。竜胆くんがレティシアに使った謎の説教は他人の死をよく思わず、自分自身を投げ捨てれる覚悟を持っていた竜胆くんだからできたという説教です。

ここでちょつと今回のサブタイトルについて。フォーティーンデイブレイク……つまり十四の夜明けですね。

これは四巻のタイトルにもなっている"十三番目の太陽を撃った"後の十四番目の夜明けという意味で、レティシアと竜胆くんの新たな日々の始まりを意味しています。

次回、セリフを一部抜粋
「うー!放すんだ!ヤメルンダッ!」

……うん。やっぱりシリアスだろうがコメディだろうが版権作品のオマージュを忘れないな、この甲殻類は。



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四章 最終話 Kiss Shoot for You



日常パート。竜胆くんの女の子らしさとツンデレ力がマッハ。




魔王戦から二日。レティシアが目覚めたのとほぼ同じ時。

 

高町竜胆は自分のギフトカードをふぅ、と見つめていた。

 

"太陽神の表情"。

"人類の希望"。

 

いずれも、自分のたった一人の従者……竜胆からすればたった一人の家族が自身の存在そのものと引き換えに竜胆に与えたチカラ。

 

タマモは『貴方は次代の太陽神となる』と言っていたが、どうも実感が湧かない。

 

いや……実感しろという方がムチャクチャなのだ。なにしろつい一昨日までいつ暴走するかもわからない危険な存在として人生の半分以上を送ってきたのだ。

 

「神……なんて言われてもな」

 

唯一、変わったところがあるとすれば『寿命』か。

 

一つの身体に様々な細胞、血液を詰め込まれた竜胆には当然人より寿命の短い生き物の情報が大量に存在する。

 

勿論、人より長く生きる生き物のモノも入ってはいるが、なるほどどうして、人は時代が進むほど長く生きられる。

 

竜胆は寿命の短い代わりに圧倒的な生き物の情報が比較的多く集っており、竜胆の時代の人間の平均寿命……80付近の3分の1も生きられることはできないと言われていた。

 

だけど、神という生き物は外的要因がなければほとんど恒久の時を生きていられる。そのことは様々な神話が物語っている。

 

つまり、僅かとはいえ神そのものとなった竜胆の寿命は永遠と断言することはできずとも、それに近い人生……否、神生を生きることやなるだろう。

 

「……まぁ、そこまで考えても実感湧かないけどなぁ」

 

考えても考えても無駄無駄無駄無駄。なら今は考えないことにしておこう。なにせ今はそれよりも……

 

「……よう」

 

これしか考えられないのである。

 

一人になればひたすら耀耀耀と、人によっては小一時間ほど他に考えることないのかと問いただしたくなる。

 

───好きだよ、耀───

 

「───────!!んにゃーーーーーーー!!!俺のバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!!なんてこと言ってるんだ!?」

 

ゴロゴロと転がって悶絶する。思えばあの時の自分はなにかが色々とおかしかった。

 

うまそうな欲望がどうのやら、喰らい尽くしたいやら。まるで変態だった。

 

「うぐぅああああーーーっ……!なにをはっちゃけてたんだ俺はぁっ……!?」

 

最低だ最低だ最低だ最低だ。ひたすら自分に向かって最低を連呼する。それほど彼には自分が最低に見えたのだろう。

 

「もう耀に顔向けできない……なにをどうすればいいのかもわからない……」

 

「私が、どうかしたの?」

 

パグンッ、という謎の音を出して緊急停止する竜胆。

 

顔を上げる必要もなく、声を掛けた人の正体を悟ったのか、そのまま全力で逃げ出そうとする。

 

しかし まわりこまれて しまった!

 

ついでに陣羽織の襟も掴まれてしまった。

 

「うー!放すんだ!モウヤメルンダッ!」

 

「逃げるから放さない」

 

「……あうち……」

 

放したらなにをするかまで完璧に理解されてたので抵抗する気力を完全に失った。

 

「……それで、私がなにって言ってたの?」

 

「……黙秘権行使」

 

「喋らせる権利行使」

 

「考えていたことを忘れる権利行使」

 

「忘れたことを思い出させる権利行使」

 

「絶対に言いたくないという権利行使」

 

「絶対に言わせるという権利行使」

 

「だったら───」

 

「それじゃあ───」

 

一時間後。

 

結論から言うと終わりなんてなかった。竜胆が適当な権利を使おうとすると耀がそれを打破する権利を使う。

 

それでも、それでもとやり続けることなんと一時間。二人とも完全に喋り疲れている。

 

「……わかったよ。じゃあクイズにする」

 

竜胆が諦めたように言うが、それでも言う気はないらしい。

 

「クイズ?」

 

「そう、クイズ。今から俺があることをする。その行為の意味を答えれたら、お前は俺がなにで悩んでたかわかる……そういうギフトゲームだ」

 

竜胆がそう言うと、どこからともなく一枚の紙が落ちてくる。

 

『ギフトゲーム名"狐の想い"

 

・プレイヤー ゲームマスター

春日部 耀

 

・ホスト ゲームマスター

高町 竜胆

 

・クリア条件

ホスト側のゲームマスターが行った行為の中に隠された答えを出せ。

 

・敗北条件

誤った答えを出す。

 

・特殊ルール

プレイヤー側ゲームマスターが勝利条件もしくは敗北条件を満たすまではこのゲームは永続的に続く。ホスト側ゲームマスターの権限を持ってしても中断は不可能。

 

宣誓

上記を尊重し、誇りと御旗とホスト側ゲームマスターの名の下、"太陽神の狐"はギフトゲームを開催します。

"ノーネーム"印』

 

「……十六夜とかに"契約書類"は見せたくないからな……書類そのものは俺が持っておく。

書類の破棄はしない。それは絶対だ」

 

「……うん。それで、今から竜胆がする行為っていうのは?」

 

耀がそう言うと、竜胆は少しだけ表情を赤らめ、周りの様子を見る。

 

誰もいないことを確認すると、竜胆は意を決したように、耀のノースリーブの服から出てきているほっそりとした腕を掴み、やや乱暴に引っ張る。

 

耀は少しだけ驚き、竜胆は少し躊躇いを見せるが、勢いに任せてそのまま腕に顔を近づける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜胆はそのまま、耀の腕に自分の唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………えっ?」

 

「……これが行う行為だ。この行為の意味を答えれたら、ギフトゲームはお前の勝ちで、俺が悩んでたものの正体を……きっと理解する」

 

それだけ言うと竜胆は黒い翼を広げてせわしなくパタパタとどこかへ飛んでいく。

 

そんな竜胆を見送って、暫くした後耀は小さく呟いた。

 

「……もしかして、私の腕につまみ食いしてたお肉の匂いついてたのかな……?」

 

その答えを彼のいるところで口にしたら確実にアウトだった。






告白なんてしない!なぜなら彼はツンデレだから!

竜胆くんのギフトゲームの意味はわからない人は

キス
で調べるだけでソッコーで出てくると思います。多分わからない人なんてそうそういない。


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コラボ番外編! 孤独の狐と13年の亡霊
狐と鴉と時々博愛主義者



今回から数話、疾風の隼さんの小説とコラボします!先日決定したのでもう揺るがないね!例えこの他サイトではカオスに定評のある甲殻類がどんなカオスを引き起こしても責任は一切……いえ、とります。とりますって!だからすみません……出してくださいよ……ねえ。彗星とか見えるんですけど?いや、違うか……彗星はもっとバァーッて動くもんな。

いや、それよりも個人的に気になるのは……キスシーンって感想でも呼び起こすんですか?いつもより感想きててビックリなんですけど。




「……死ぬ」

 

高町竜胆は見たこともない場所を彷徨っていた。

 

見たことのない森、林、木。そして密林……ありていに言えば森を彷徨っていたわけである。

 

「どうしてこんなことになってるんだよ……」

 

様々な生き物の力を使える竜胆でも生物的な空腹は存在する。その様々な力のおかげで今日この瞬間……彷徨い始めて実に一週間を生き続けている。

 

だがまあ……流石に限界である。流石どころか一週間もなにも食べずに動いていること自体がおかしいのだが。

 

「神が空腹で死ぬとか、どんな非常識な展開だよ……」

 

空腹で意識も朦朧としているのにそんな冗談まで言えるのはある意味才能である。多分今までの自殺願望が自分の死というものを無意識のうちに忘れさせているのだろう。慣れや癖とは恐ろしいものだ。

 

そんな中暫く歩き続けていたが、流石に限界だったのか、ついに竜胆は倒れてしまった。

 

臨死体験なら何度もしているのだが、今回は周りに誰もいない。家族だって、消えた従者だっていない。

 

そんな孤独が、なぜか孤独の狐である彼の精神をセンチメンタルにさせた。

 

「俺……死ぬのかな……?」

 

ついこの間までなら甘んじてどころか、怯えながらも喜んで受け入れていたろうなぁ……なんて竜胆は思いながら飛んでも飛んでも空にたどり着けなかった木を見上げる。

 

「……誰にも知られずにひっそり孤独死か……今までなら、それが一番だったんだけどなぁ……」

 

不思議なものだ。人の感情というものはこうも簡単に変わってしまうのか。

 

竜胆はそのことに驚きながらも、瞳を開ける気力さえ失う。

 

「……耀。ギフトゲーム、永久中断かもな……ああでも、クリアしてほしかったな……そしたら……どんなに恥ずかしくても、好きって言えたろうし……」

 

竜胆は彼らしくない弱気な本音を吐露しながら意識を失う。彼の命は最早風前の灯である。

 

「……おや?先日から耀さんの名前をやたらめったら呼んでいる声がしていると思えば……耀さんは可愛いお嬢さんとお友達になられたのですね……」

 

そんな彼を見つけたのは、一羽の鴉だった。

 

 

 

 

 

問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ?

×

問題児たちが異世界から来るそうですよ?箱庭の家族物語

 

狐と鴉と時々博愛主義者。

 

 

 

 

 

「っ……知らない……いや、知ってる天井だ……」

 

竜胆が目を覚ますと、そこは本当に見覚えのある天井だった。まあ、わかりやすく言えば竜胆の部屋。"ノーネーム"のである。

 

「……あれ……?なんで俺、自分の部屋にいるんだ?……いや、違う。この部屋、誰かの匂いがしている……俺の部屋なら俺の匂いなんてわからないから無臭の筈なのに……?」

 

とりあえず立ち上がり、部屋の散策をする。少し色々探ると、そこに衝撃的のものがあって思わず竜胆はひっくり返った。

 

「んなっ!?───ったぁ!?頭打ったぁ……!」

 

ひっくり返った衝撃で後頭部を思い切り打つ。しかし、痛いで済むのはキマイラの身体が頑丈だからか。

 

「っつつ……なんだよ、これ……!?」

 

竜胆が見つけたのは写真だった。ただし、ただの写真ではない。

 

「なっ、なんて写真だよ……!?」

 

春日部耀が満面の笑みをしている写真だった。自分で撮った覚えはないので無闇に触るとなにがあるのかわからないので見るだけだが、すっごいビックリしている。

 

「あ、アイツこんな顔できるのかよ……俺の前だと無表情、微笑み、母性のいずれかだぞ……!母性なんて見せられても困るけど」

 

そう。その写真に写っている耀の顔は竜胆が見たことなどないくらい笑っていた。いつも竜胆に見せているのが弟や従弟に対するような表情だとして、いや正にそれなのだが……その彼女はまるで彼氏に見せているかのような笑みである。

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………誰だ」

 

思わず声を漏らしていた。勿論、部屋には竜胆以外誰もいないのだが、竜胆は呟いていた。

 

「相手は誰だ……まずそいつから殺してやる……」

 

竜胆の身体からやたらと黒いオーラが出てくる。ぶっちゃけ怖い。

 

「次に耀を殺す……最後に俺を殺して、耀を抱いて死んでやる……」

 

目のハイライトが消えた上に完全に朱色になっている。最早彼は別の意味で"暴走"している。

 

「ああ……父さん。わかってるよ……よく母さんに言ってたよね。浮気したら殺すって。母さんちゃんと浮気しなかったけど、してたら父さんもきっとこんな感じになってたよねぇ……ねえ?」

 

病んだ。病んでしまった。このただでさえフラグを建てていくツンデレ狐が更にめんどくさい属性を手にしてしまった。

 

「おーい、竜胆起きたかー……ってぬわーーーーーっっ!!」

 

銀髪の少年、五十嵐五月雨が部屋に入って来た瞬間に突然飛んできたイチゴっぽいクナイに襲われた。

 

「い、いきなりなにするんだ!?」

 

「……お前か……お前か……」

 

「な、なにが!?怖いんだけど!?」

 

「お前が耀を横から掻っ攫って行ったのか……誰か知らんが、殺させてもらうぞ…………ッッ!」

 

「なにが言いたいんだあんた……!?ああもう、話が始まらねえから嵐に呑まれて反省しやがれ!!」

 

◆◇◆

 

「……すまなかった、五月雨」

 

「すまんで済んだらポリはいらないって習わなかったか?まったく……僕じゃなかったら死んでたぞ?」

 

「ああ……多分お前じゃなかったら殺しにいかなかったと思ってる」

 

「なんだそりゃ!?」

 

「そうさな……お前の言葉を借りるなら、家族想いの博愛主義者だからさ。キヒヒ」

 

「なあ……流石に言いたいんだが、さっきまでのあんたのどこに博愛主義の文字があった?」

 

「……ないな」

 

竜胆がはは、と掠れた笑い声を上げる。

 

「こちとら笑い話じゃないんだがなぁ……というか、あんた変わったな」

 

五月雨がよかったよかった、と表情を一転させる。

 

「アホな従者と変な女のおかげだよ。あいつらのおかげで俺の"罪"は"希望"なんだって知ったさ」

 

「ふぅん。で、その変な女とやらに惚れたってわけ?」

 

ははははは、と笑っていた竜胆の身体からバギョッ、という人体構造的に鳴るはずのない音が鳴る。

 

「だ、誰が耀のことが好きだと言った!?そんな気はこれっぽっちも、ない!」

 

「ほほー。僕は耀のことなんて一言も言ってないのにね〜」

 

「っ……!なんという失態……!」

 

竜胆が嘆いていると、丁度ドアが開いて、また違う人物が出てきた。

 

「五月雨くん。さっきから少し騒がしいですけど、もしかすると……おや、そのもしかするとでしたか」

 

黒い髪の青年……それもかなりのイケメンが部屋に入って来た。

 

「お、八汰鴉か」

 

「……八汰鴉?八咫烏じゃなくてか?」

 

竜胆が名前の微妙な違いに反応する。すると八汰鴉と呼ばれた青年は竜胆にまるで営業スマイルの如き完璧な笑みを見せる。

 

「ええ。僕は中国の鴆と八咫烏のハイブリッドでして。八咫烏そのものではないんです。

……それにしても、幼いとはいえ女の子がそんなにガサツな言葉使ってはいけませんよ?もっと丁寧にしましょう?」

 

「へえ……って、俺は男だ!ついでに言うと16!五月雨よりも一つ上だ!」

 

「じゅ、16で、男の方……!?す、すみません……その、失礼を承知で言いますが、あまりにも幼い女性に見えてしまいまして……特に寝顔なんかも」

 

「……まあいい。初対面でそう言われるのは慣れてる」

 

多分慣れてはいけないことに慣れている。というか竜胆は普通慣れないことばかり慣れてしまっている。

 

「……で、ここは五月雨の部屋なのか?」

 

「ああ。そうだ。苦労したんだぜ?寝てるあんたにあーんして、起きない程度に顔触って顎動かして……」

 

「いや、そういうのは聞いてない……問題は誰が俺をここまで運んだかだよ。ここが俺からすると異世界なのはお前がいる時点で十中八九間違いないけど、俺はなにもされた覚えなんてない」

 

「一応、倒れていた貴方を運んだのは僕ですけど、見た感じ一週間はなにも食べていなかったでしょう?」

 

「否定はしない……知らない場所である以上は見知った外見の植物も迂闊に手を出せないからな」

 

竜胆ははぁ、と溜息を漏らしてゆっくりと立つ。

 

「だ、大丈夫なんですか?丸一日ほど寝てましたけど……」

 

「問題ないだろ……理由もわからずこの世界に来てしまった以上、一分一秒でも早く向こうに戻るための手がかりがほしい。

世界が動く時間なんてバラバラだからな……俺が戻ってきたら五年後になってた、なんてパターンだってありえる」

 

竜胆はドアを開き、五月雨の部屋を後にする。そして廊下の床に足をつけた瞬間───

 

「あっ、竜胆。ついさっき大掃除があってワックス掛けしてたから気をつけ───」

 

ツルン、と小気味のいい音を鳴らして竜胆が滑った。そのままそばに置いてあったバケツに頭から直撃する。

 

そして竜胆がこけた衝撃で少しだけ腐って脆さの残っていた屋敷の天井が破れ、彼の頭に当たる。

 

更に、屋敷の天井側にあった高価そうな大きな石が竜胆の腹部に落ち、鳩尾に綺麗に当たった。

 

「「「………」」」

 

竜胆を遭われそうに見下ろす五月雨と八汰鴉。そして思いっきり水を被って顔を真っ赤にする竜胆。

 

「……いや、竜胆」

 

「……なんだ?」

 

「可愛かったぞ」

 

「……そんなフォローするくらいならもっと早くその注意を言ってくれないか?」

 

 





というわけでコラボの一話目でした!

ここに来て竜胆くんの計測値マイナス方向に計測不可能になっている圧倒的幸運の低さの片鱗が現れました。

疾風の隼さんには八汰鴉さんメインと頼まれていたのですが……話をわかりやすくするために今回は竜胆くんの面識のある五月雨くんに少し多めに出てもらいました!

いや、それにしても不運の結果でここまで可愛く映るって、一種の才能だよこれ……


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こんなに誰得な物語が果たして他にあっただろうか……by竜胆



コラボ第二弾……のはず。

カオスに定評のある甲殻類が多分最もはっちゃけた結果。




「これで何回目だ……?違う世界の箱庭の、しかも"ノーネーム"から来る奴は……」

 

五月雨の世界の十六夜は嘆息した。あまりにも同じ現象が起きすぎていて、最早第三者によって仕組まれているのではないかとすら思えてくる。

 

「この世界に来訪してくる輩はこれで六回目だな。こうも来ると流石の拙者も運命を感じられずにはいられない」

 

うむ、と竜胆からすると時代錯誤な口調をする、いかにもサムライな霞刃も頷く。

 

「普通はこういうのには正史の物語に加えて一人だけ介入してくる筈なんだがなぁ……この世界はやたらと俺の知らない奴が多いな」

 

しかも、色々と竜胆の知っている"ノーネーム"にいないはずの知っている者までいたりともうなにがなにやら。

 

「まあいいか……そもそもここまで懇意にしてもらう意味なんてないし、俺がここに来たことに関しては俺の問題だからな。いつまでもここにはいられない」

 

「待ってください。行くって、どこに?行くアテでもあるんですか?」

 

「ない」

 

キッパリと言い放って本拠から離れようとする。ちょっとかっこいいかもしれないが、全然かっこよくないと全員が思ったのはご愛嬌である。

 

「それじゃあ僕が貴方を助けた時のように飢え死にするだけですよ。ここにいた方が」

 

竜胆が変に格好をつけるので八汰鴉は彼を止めようとする。

 

「ここはお前達の世界だ。俺が絡んでいってお前達が本来行うはずだったことができなくなったら、困るのはそっちだ」

 

感情論には理屈で。レティシアを助けた時の理屈には感情で、という時とはまるで正反対である。

 

「仮にこの世界で永住することになっても、お前達の物語には介入しないさ」

 

「しかしっ……!」

 

「……竜胆の好きにしてやってくれないか?八汰鴉」

 

そんな竜胆を止めようとする八汰鴉を諌めたのは五月雨だった。

 

「なっ、なにを言って……」

 

「竜胆の言うとおり、これは僕達の物語なんだ。言っちゃなんだけど、その物語に彼が関わる資格はない。だから、僕達も彼の物語に無闇に関わりにいく資格なんてないんだよ」

 

「っ………!」

 

「……八汰鴉。俺を見つけてここまで運んできてくれたのには感謝する、ありがとう」

 

じゃあな。とそれだけ言うと竜胆は本拠から出て行った。

 

「……まあ、今まで来たヤツらも一癖二癖あったよ。竜胆はそんな彼らよりも少しだけ気難しいだけだ」

 

「……五月雨くん……」

 

「だけど、竜胆もやっぱりここに来た異世界の"ノーネーム"の彼らと同じものを持っていたね」

 

「……同じもの、ですか?」

 

「ああ。家族を想う気持ち……世界が違って知らないヤツがいようと、彼らは"ノーネーム"という家族を守ってくれてた。あれが竜胆なりの想い方さ……まあ、素直になれないだけだよ」

 

「………」

 

八汰鴉はただ、竜胆が開けたドアを見つめていた。

 

◆◇◆

 

「……さーて。カッコつけて飛び出したわけだが……はてさてどうするべきか……」

 

東側の商店街、いつもはよく見るこの光景も世界が違うというだけでかなり違和感を覚えてしまう。なんというか、今までpH値6.9だった水のpH値が急に7.1になったような……まあとにかく、本当に微妙な違和感だ。

 

「匂いも若干違うんだよなぁ……空気の味も、風の音も……」

 

獣さながらの五感は街の微かな違和感にすら過敏に反応する。こうやって違いがわかって、ここが自分の物語でないというのを実感させられる。

 

「こうも違和感だらけだと余計に早く帰りたくなるな……っ、ん?この声……」

 

商店街らしい喧騒の中、竜胆の聴覚は確かにある声を捉えた。

 

───だ……か、……け……────

 

───……けな……こ……よ……なしく……ろな……────

 

「声は……!裏路地?なんでそんなところに人が……」

 

更に耳を澄ませる。竜胆のキマイラという特徴は喧騒の中の数々の声の中で、はっきりと裏路地の声が聞こえた。

 

───助けて……、誰か助けて……!────

 

───助けなんてくるわけねえだろ!入り口は完全に封鎖しれてるんだぜ。"名無し"は"名無し"らしく目上のコミュニティの奴隷になれってんだ!────

 

「───命の冒涜……!」

 

瞬間、竜胆の瞳が一瞬だけ赤く血走る。しかし、それを自制し、声が聞こえた方向へと全力で駆ける。

 

30秒ほど走り、声が壁越しに聞こえる場所に来ると、目に入った目の前にそびえている壁はまるでつい先ほど作られたように下層の路地裏には不釣り合いなものだった。

 

「入り口は完全に封鎖……ここか!」

 

竜胆は右手を巨人のものに変幻させ、拳で思い切りそれを破る。

 

「なっ!?なんだ!?」

 

「助けを求めたヤツ!無事か!?助けに来たぞ!」

 

竜胆が暗闇を見通す瞳で暗がりにはいった場所を見る。するとそこには、縄でグルグル巻きにされた小さな少年の姿があった。

 

「おっ、よく見るとなかなか可愛い娘じゃねえか。しかも、さっきチラッと見たギフトカードは"名無し"のものと来たもんだ」

 

「マジかよ……!ちょっと目が勝ち気だけど、その手の輩には高く売れるぜ……!」

 

恐らく、彼らは身分の証明ができない"ノーネーム"の人間を攫って行って違法売買をする、所謂奴隷商人というヤツなのだろう。

 

命の冒涜を自分の死を望んでいた頃から嫌っていた竜胆はそれを理解すると、より一層怒りが強くなる。更に、

 

「おい……クソ野郎共……」

 

「ヘッヘッヘ……一丁前に男らしいセリフ吐いちゃって。これは天のもたらしたなんとやらってヤツじゃないのか?」

 

「そうだなぁ。男らしい口調も見た目とギャップがあっていいじゃねえか!」

 

「俺は……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………男だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

竜胆の叫びが響き、地面から見た感じ30キログラムほどありそうな赤と黒が混じった銃剣が姿を表す。

 

竜胆はその銃剣のハンマーを上げ、手のひらに呼び出したEと書かれたUSBメモリをそこに挿す。

 

「くたばれ変態があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

『エンジン!マキシマムドライブ!!』

 

更に神格も起動し、背中の炎輪がブースターとなり、目にも留まらぬ速さで変態に肉薄し、一刀の下斬り捨てる。

 

「変態共……絶望がお前らのゴールだ」

 

変態が倒れているのを見て満足した竜胆は少年の方に向かって行く。

 

「よいしょっと……無事か?」

 

竜胆は銃剣を仕舞い、今度は小さいサバイバルナイフを使って縄を切る。

 

「うん……怪我はないみたいだな。よかった」

 

竜胆が立ち上がると、少年は余程怖かったのか竜胆に抱きついてきた。

 

「うぉっ……そんなに怖かったのか……無理もないな。これから奴隷として売り払われるかもしれなかったん───」

 

直後、竜胆は続く言葉を遮られた。

 

「なっ……!?」

 

その少年の姿が著しく変化したのだ。

 

それは、妙にネバネバとした粘着質のあるものだ。カタチは個体とも液体ともとれない奇妙な……スライム状のものだ。

 

「どういう……っ!」

 

竜胆の身体のあちこちにスライム状の少年だったなにかがへばりつく。竜胆は妙な気持ち悪さに顔をしかめる。

 

「なんだこれ……!?」

 

竜胆が露骨に嫌な顔をすると、その瞬間さっき気絶させたはずの変態が奇妙な笑い声を上げながら立ち上がった。

 

「イッヒヒャヒャヒャ……!まさかこうも簡単に釣れると思ってなかったぜ……!ハイブリッドの中でも何万人もの喧騒の中で針が落ちる音も聞き取れる希少な生物が東側に群れで来てるって聞いてこんなめんどくさい手を使ってみたら……群れからはぐれた、それもかなり可愛いのが獲れるなんてよぉ……!」

 

「なっ……!?まさか、少年も……」

 

「ご明察ゥ!お前らを捕まえる道具だよ!」

 

最悪だ。よかれと思って助けに来れば、自分とは接点なんて遺伝子を持っているかもしれないこと以外の関わりがない生き物と勘違いされて捕まっただなんて。

 

「こんの……!」

 

竜胆は太陽神の神格を解放しようとするが、身体から発現される炎はおろか、神格すら現れなかった。

 

「ギフトが……使えない?」

 

「イッヒハハハハハハ!!そのとぉりだぁ!そいつはギフトカードに含まれた"ラプラスの悪魔"の力を封印する力があぁる!!これでお前はもう逃げることもできねぇ、奴隷生活まっしぐらだよぉ!!」

 

「ギフトが使えないならっ……力ずくで───ふぁぁ!?」

 

竜胆が男達に直接殴りかかろうとした瞬間、竜胆の身体にへばりついていたスライム状の物体がめまぐるしく動き出す。

 

そのせいで竜胆は妙に艶かしい悲鳴を上げながらバランスを崩して倒れる。

 

「ヒュー。可愛い声出しちゃってぇ……ホントに男かよ?」

 

「うるさい……!そのナメたツラで二度と外に歩けないようにして───ひ、ぅう!?」

 

竜胆が抵抗の言葉を、反抗の意思を見せつけようとする度にスライム状の物体は動き出す。あらゆる生物……中には女性の遺伝子だって詰め込まれている竜胆の男らしからぬ弱点と言えるだろう。

 

やがて疲弊しきり、抵抗も反抗もできなくなった竜胆は意識を失う。

 

消えかかった意識の中で、男達の下衆な笑い声が嫌に耳に残った。

 

 






なんなんだこれ……いったい誰得なんだよ……と問われるとどう考えてもロリショタコン得だったことを思い出す。

きっとコラボ作品でこの子より酷い目にあう人なんてそうはいない。



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その手の愛好家には重宝されることを否定できない竜胆であった。

なんなのこのお気に入り……

なぜ男のスライム◯レイでお気に入り人数が増えているんだ……ええい、変態しかいないのかこの小説のお気に入りは!?(お気に入りが増えてうれしい)




「白夜叉様。突然僕を呼び出してどうしたのかと思えば……オークションですか?」

 

「うむ。こういう合法オークションではたまーに違法なものが取り扱われることもあるのじゃ。私は時々神格隠して美女に変装して、こうして取り締まりに来ておるのじゃよ」

 

「美女かどうかについては自分で言ったことだけツッコんでおきますよ。それでどうしてそんなものに僕だけを呼ぶんですか?」

 

東側のほぼ箱庭の外にあたる辺り、そこには一つのオークション会場がある。

 

下層にあるとはいえ、取り扱うのは中層クラス以上のコミュニティや違法を働くコミュニティにしか手にすることのできない、それなりに価値のある物品を取り扱っている。

 

「いやのぅ。"ペルセウス"の小僧が北側に行ってしまったせいでこの辺の辺鄙な場所を統治する者がおらなんだよ。あやつはこういう自分の娯楽に関してはそれを潰されることを良しとせんかったから、このオークション会場周辺はそれなりの治安はあったのだ」

 

「……つまり、僕に"ペルセウス"に代わって見張りをやれと?」

 

「無論、強制はせんよ。お主にはお主のやることがあるじゃろ。……だがしかし、あの小僧がいなくなってここの治安が乱れ始めているのもまた認めたくないが、事実なのだよ」

 

「……本当に認めたくなかったんですね。すっごい悔しそうな顔をしていますよ?」

 

「当たり前だ。私とて"階層支配者"なのだぞ。それがコミュニティ間に著しく問題のあったコミュニティによって治安が守られていたとなると、腹が立つのも自明の理よ……!」

 

白夜叉が静かに怒りの炎を煮えたぎらす。言い忘れたが、白夜叉の変装は確かにそれなりの美女である。黒髪の大人の魅力が出ていて……恐らく本来の姿を知っていて、かつ正体を知っている者からするとロリババァがババァになったと思われるくらい妙に大人びた印象が与えられる。

 

勿論、人に優しい八汰鴉はそんなこと思わない。ノーコメントと言ったが内心では美女だとは思っている。本来の姿を知っているのでそれ以上なにも出てこないが。

 

「まあ……見るだけ見てきますよ。他でもない白夜叉様の頼み事ですからね」

 

「すまぬのう」

 

「すまないと言うのならこんなこと押し付ける候補に僕を上げないでください」

 

「カカカカッ!これは一本とられたわ!八汰鴉よ、お主五月雨達と過ごすうちにジョークのセンスも上がったのう!」

 

「お褒めに預かりどうも。彼らにはこれくらいじゃないと相手してられないですからね」

 

そんな軽いやりとりをした後、八汰鴉はオークション会場のステージを見る。今のところは合法的に手に入れたとしか思えないものを親切心で安く売るコミュニティか、よほど金が必要なのか、珍しいものを必要以上の値段から始めるコミュニティしかいない。

 

「まあ昼だからのう。我々の仕事の本番は夜からじゃ」

 

「そうですね。昼は色々な方がいますから。顧客のタイプが固まる夜辺りが違法オークションが来るところでしょうかね」

 

途中、緑色の粒子を出すコーンのようなカタチをしたものやら宇宙刑事の30分の始まりを告げる人がやたら喋るベルトやらが出品されたが、その辺は特に問題ない。

 

「……さて、八汰鴉よ。恐らく今日のオークション、大きな確率で違法オークションが開かれる」

 

時間も真夜中に差し掛かり始めた時、突然白夜叉が真面目な顔をして告げる。

 

「……根拠は?」

 

「ここ最近、五感がそんじょそこらの神よりも秀で、かつ強力なギフトを持つ希少種族"ゲイザー"の群れが東の外側からやって来ていると聞いておる。

しかも最近ゲイザーを捕まえたとかなんとか言っていた輩がいると裏の手口で聞いての。もしかすれば、ゲイザーがオークション商品として出品されるやもしれん」

 

「……ゲイザー。確か地球には伝承すら存在しないヒト型の獣人生物でしたね。

ええっと……確か彼らがいた場所は、ブラックホールの中。そんな圧迫された環境下だからこそ五感が異常発達したと聞いていますが」

八汰鴉が思い出すように記憶の中の情報を取り出す。三年間も幽閉生活を続けていると覚えていたことも自然に抜け落ちていってしまうらしい。八汰鴉はまた一から勉強し直しだな、と思い飲み物を飲みつつ出品台を見る。

 

「───さて!今度の商品はなんと!ブラックホールの使者との逸話を持つ希少獣人生物!ゲイザーのオスです!繰り返します!今度の商品はブラックホールの使者との逸話を持つゲイザーのオス!」

 

「……オスオスオスオスうるせえよ。そんなに女に見えるのか?」

 

ブハッ!と八汰鴉はミネラルたっぷりの水を盛大に吹いた。

 

なぜなら、商品説明の時にゲイザーと呼ばれた彼は明らかに聞き覚えのある声だったのだ。

 

「……買うならさっさと買え。キズモノでよければ嫌々ながら奉仕してやる」

 

ぶっちゃけると目隠し+両手を後ろ縛りにされている竜胆だった。というかなにをキズモノなんて衝撃発言してくれているのだろうか。

 

周りからはそんな彼のそっけない態度になにを感化されたのか、次々と値段が張り付いてくる。

 

「ほれ。予想通り……って、お主はなにをしておるのだ?」

 

「いえ……ちょっと知り合いだったからビックリしただけです。このオークション、さっさと取り締まりましょう」

 

「うむ。言われずともそうするつもりだったが……お主の知り合いと言われると個人的私情込みで更に許せんの。というかなんじゃあの美少女は!本当に男かえ!?」

 

「今は取り締まりですよ。白夜叉様」

 

八汰鴉がそう言うと、白夜叉は黒髪の美女から元の幼女の姿に戻り、パンパンと手を叩く。

 

「聞けぃ!私は白夜叉だ!今回オークション商品として指定されているゲイザーはオークション商品の対象外!いわば違法品だ!これより白夜叉の名の下に違法狩猟者に拉致の実行犯、及び違法売買の現行犯の罪で判決を下す!

ゲイザーを出品、入札した者全てに箱庭追放の刑だ!そこで商品にされているゲイザーの身柄は"サウザンドアイズ"が保護した後に帰るべき場所に帰す!繰り返す───」

 

白夜叉がそう告げると、その違法者達は揃って逃げ出す。

 

「逃しはせんよ!八汰鴉!」

 

「承知しました!」

 

白夜叉が八汰鴉にバトンを渡すと、八汰鴉の羽根が逃走者達の身体に直撃し、身動きがとれなくなった。

 

「即興でつくってさたシビレ羽根ナイフが役に立つとは思いませんでしたよ」

 

逃げようとした違反者は全て捕らえられたのであった。

 

◆◇◆

 

「……お。あったあった。ギフトカード」

 

それから。竜胆は白夜叉と八汰鴉に礼を言うと、ギフトカードを探し出したのだ。

 

曰く、「そうとうすごくてギフトカードが隠されたことしか頭に入って来なかった」なにがすごいのかはきっと睡眠薬かなにかだろう。あのままスライムっぽいなにかに放送コードに引っかかる行為をされていたわけではないのだろう。きっと。絶対。

 

「まさか種族間違えられてここまで大事になるとはなぁ……たまげたよ」

 

「たまげたのはこっちです。突然貴方が商品として出て来るんだからビックリしない方が変ですし」

 

よっと、と竜胆は"太陽神の表情"で呪術を使い衣服をいつものものに変える。

 

「はぁ……まあ、助けてくれたのはありがとう。結局これで帰れるってわけでもなさそうだし、もうちょっとここにいることになるのか……?」

 

「だったら"ノーネーム"のお屋敷にいてください。流石にこんなことが起きるとNOなんて言わせておけませんからね」

 

「だよな……悪い。世話になる」

 

竜胆が八汰鴉を見て微笑んだ瞬間、二枚の黒い封書が二人の手元に落ちてきた。

 

「……黒い封書、だと……!?」

 

「……まさか、魔王……!?」

 

『ギフトゲーム 流星の少女

 

・プレイヤー一覧

高町 竜胆

八汰鴉

 

・プレイヤー側勝利条件

凍える流星の中、詩人の母の幻影をうつつのものとせよ。

魔王の討伐。

 

・プレイヤー側敗北条件

詩人の母が凍える流星の中で息絶える時。

 

・プレイヤー側注意事項

詩人の母が受ける痛みとプレイヤーの痛みは繋がっているため、詩人の母の死はプレイヤーの死を意味し、プレイヤーが一人でも死亡すればその時点でこのギフトゲームは主催者側の勝利となります。

また、勝利条件と敗北条件が同時に達成された時、敗北条件の方を優先されます。

 

宣誓

上記を尊重して"詩人の作品たる母"はギフトゲームを開催します。』




そして唐突に始まる魔王のギフトゲーム!

ぶっちゃけこのギフトゲームは魔王のギフトゲームとしてはかなり異質なものとなつています。

この魔王の元ネタが調べずともわかった人、勝利条件の意味を理解した人はその元ネタを読み漁って、作者がその作品を作った理由なども知っていると断言できるでしょう。

あっ、因みに今回の感想はかなりアレでしたね。男のスライムプレ◯に反応するなんて点てやはり変態じゃないか!(前書きにも書いた通り感想貰ったことですごい喜んでいる)


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白い流星の下で



くっ、エロいイベントから普通のイベントになったら途端にお気に入りの変動が減った……これが、エロパワーだとでも言うのか……!?




ギフトゲームが始まると同時に、舞台はオークション会場の片隅から大きな中世の洋国の街中のような場所に変わった。

 

「ここは……見た感じ、中世の英国、ペストのゲーム盤に似ていますが……」

 

「中世イギリスとハーメルン街のドイツが似ているわけはないだろう。似ている……とすれば、ここのモデルはドイツの隣国だな」

 

さて、と竜胆は上を見上げる。

 

それはもう大降雪だ。ぶっちゃけ陣羽織じゃこんな天気の中歩き回るのは危険だろう。

 

「これ、気に入ってるんだがなぁ……」

 

竜胆は溜息を漏らしながら衣服を竜胆の時代で今時という感じの冬服に変わった。マフラーが口元を覆って仏頂面が見えないからやたらと女性っぽく見える。

 

しかし、どうしたことか。服装を変えても竜胆が感じる凍えは変わらなかった。

 

「……どういうことだ……?」

 

「恐らくこのギフトゲームのルールですよ。"詩人の母"と呼ばれている、この街のどこかにいる人物が凍えを感じているんだと思います」

 

「……これもダメージっていうことなのか……だったら早いところ探さないといけないな。この感じからするとその人物は防寒の類いを一切行えないと見ていい……その人物の凍死によって、俺達も凍え死ぬ」

 

八汰鴉もその言葉に頷く。

 

「では……手がかりとなりそうなものはなんでもいい。探し回る必要がありますね」

 

「ああ……人物名の特定だけでギフトゲームは圧倒的に優位に行える。そこを中心にして探し出そう」

 

そう言うと二人は少しだけ離れて行動を始める。

 

ギフトゲームは、始まったばかり……

 

◆◇◆

 

とある時、とある場所。

 

大雪の降り注ぐその街の中、裸足で小さな男の子を追いかけて行くみずぼらしい服装の少女がいた。

 

「待って……!返して……私の、靴……」

 

「へん!貧乏人のお前には靴なんて似合わねえよ!貧乏人のくせに今日の日に街中で歩いてるんじゃねえ!」

 

少女は貧乏人である。とある理由で今日は目的を果たすまで家に帰ることは許されない。

 

彼女がこの大降雪の天候の中で裸足でいるのにも、そこにある。元々は普通に靴を履いていたのだが、片方は馬車に巻き込まれて見失い、もう片方は今のように少年に奪われてしまっている。

 

「待って……!待って……!」

 

凍傷を負った足では少年を追いかけることもできなくなり、少女はやがて諦め、自らの責務に戻った。

 

◆◇◆

 

「あっ……ぐっ……!?」

 

情報を集めている最中、竜胆と八汰鴉の足に嫌な痛みが走る。

 

「この感じ……凍傷しているのか……だとしたら、その目的は今靴を履いていないのか……?」

 

時間が経てば経つほど情報は手に入るが、その情報を生かしきれないようにその情報が邪魔をしてくる。

 

「っ……八汰鴉。なにか情報はあったか?」

 

竜胆と八汰鴉はマトモに足を動かせないと悟ると、翼で動くことにしてすぐさま合流していた。

 

「ええ……時間が少しかかりましたが、いくらか……というほどでもありませんが」

 

「いい……今は一つでも欲しい。不可解だと思ったことを言ってくれ」

 

竜胆が催促すると、八汰鴉は頷き手に複数枚の板を持ってきた。

 

「……それは?」

 

「家の標札です。ギフトゲームの舞台だから奪っても構わないと判断してもって来ましたが……見てください」

 

八汰鴉の持っている標札に一通り目を通す。ここは明らかに日本ではないはずなのにカタカナで名前が書かれている。そして、なにより不可解なのは───

 

「ホー・セー・アナスン……ホー・セー・アナスン……ホー・セー・アナスン……同じ人名ばかりだな……」

 

「ええ……ですがしかし、一つだけ違うものがありました」

 

八汰鴉が一枚の板を取り出し、それを見せる。

 

「アンナ……このホー・セー・アナスンの名前以外には、このたった一枚だけが見つかったってことか?」

 

「はい。一枚だけ、アンナと」

 

八汰鴉の持ってきた情報は他にもここがデンマークをモデルとした場所であること。これに関してはその辺の日本語でない文字から理解したらしい。

 

「じゃあ次は俺か……俺はこれを見つけて来た」

 

竜胆が八汰鴉に見せて来たのはカレンダーだった。めくると次の日が表示されるというものだ。

 

「カレンダー?それがどう不自然だと……?」

 

「見てみろ」

 

竜胆に渡されたカレンダー慎重に見る。今日と設定されている日は12月25日……クリスマスの日だ。

 

八汰鴉が次のページを見ると、それは不自然だった。

 

次の日は12月26日ではなく、12月31日……大晦日の日だったのだ。

 

更に次の日をめくると、今度はまた12月25日。それをめくれば12月31日、めくると12月25日……と二つの日だけが永久的にループしていた。

 

「確かにこれは……不自然です。意図的に二つの日以外が破られているんじゃなくて、二つの日が永続的に続いている……」

 

「ああ……でも俺はこの日は物語が行われている日ということだと思っている」

 

「……二つの続かない日が物語とは不自然です。根拠は?」

 

「ない……だが、そうとでも思わなければ納得できない。どうしてこの日だけが続いているんだと……」

 

竜胆が寒さに顔を強張らせながら話す。どうやら目的の人物は雪が身体中についたようだ。

 

八汰鴉もまた顔を強張らせ、標札の話題に移る。

 

「では、今度は僕の考察を……恐らく、この標札の二つの名前は物語の主人公と原作者ではないでしょうか?」

 

「原作者と主人公……か」

 

「はい。名前からして恐らくホー・セー・アナスンの方が原作者でしょう……中世のデンマークは確か貴族社会。僕らの身体が冷えているのは主人公が冷えていっているから……ならば、苗字の存在しないアンナが主人公なのではないでしょうか」

 

「まて。そのアンナを主人公とするのならクリア条件の"詩人の母"とはどういうことだ?主人公だと言うのならそれは作者の子という表現の方が正しいだろう?」

 

「………!確かに……では何か足りないピースが……?」

 

八汰鴉が焦るように呟くが、竜胆は本能的にこれ以上集まる情報はないと悟っていた。

 

そもそも、たったこれだけの情報を集めるのにもかなりの手間だったのだ。恐らくあったとしても集めている間にゲームオーバーだろう。

 

竜胆が頭を捻らせ、捻らせ、僅かな違和感を埋めるべく思考する。

 

考えても、考えても、答えは浮かばなかったが、それでも考えて続け、その瞬間だった。

 

ぽうっ、と竜胆達の身体の周りが少しだけ暖かくなった。

 

少しの間、安心するような暖かさを感じ、その後すぐさま右手の辺りが熱く感じた。

 

そうすると、暖かさは消え、暫くするとまた暖かくなり、右手の辺りが熱くなり、暖かさは消える。

 

まるで炎が下につたっていくかのように───

 

「───まさか、いや、そうか……!それならホー・セー・アナスンの名前も、詩人の母というのも、アンナという主人公にも納得がいく!」

 

竜胆が立ち上がり、凍傷を負った足で駆ける。

 

「ちょ、竜胆くん!?いったいどこへ行くんですか!?」

 

「煙の匂いがするところだ!そこに、詩人の母がいる!」

 

八汰鴉はとりあえず竜胆を信じ、彼についていく。

 

「どういうことですか?煙の匂いって……!」

 

「一つずつ説明する。まずループし続ける二つの日。それはやっぱり、物語の行われている日なんだ」

 

「こんどはちゃんと根拠があるんでしょうね……!」

 

八汰鴉がそう言うと竜胆はしたり顔で笑う。

 

声には出さなかったが、多分「"人類の希望"をなめるなよ」と言いたそうにしている。余計なことを言えないくらいにその詩人の母は衰弱しているのだろう。

 

「ある。これにはある理由があるんだ。

まず、この作品の原作は大晦日の日……それでもクリスマスにも物語があるという理由。それは子供が大晦日という日をあまり詳しく知っていないということなんだ」

 

「ということは、この作品は童話ですか……?それも主人公が死んで終わるバッドエンドもの?」

 

「そうなる……次に名前だ。アンナは置いておいて、このホー・セー・アナスンは本名じゃない」

 

竜胆達が感じていた熱がいっそう強くなり、意識が朦朧とし出した。

 

詩人の母の命が尽きようとし、詩人の母と命が繋がっている二人にも影響を与えているのだ。

 

「ホー・セー・アナスン……ホー・セーはHとCのデンマーク語読み……アナスンはデンマーク語で表記するとAndersen……Hがファースト、Cがミドル……そしてAndersenがラストに来る著名なデンマーク人は一人だけだ」

 

竜胆は路地裏に複数の小さな炎に囲まれている少女を見つけると、そこで止まる。そして少女の元へ向かい、その名前を告げる。

 

「本名ハンス・クレステャン・アナスン……英語名に直すとハンス・クリスチャン・アンデルセン……そして詩人の母とはつまり、アンデルセンの母をモチーフにしたということ……それがこの物語の主人公、日本のテレビでアンナと名付けられ、ギフトゲームの名前、流星の夜に死んでいった少女……その題名は───!」

 

その題名は───

 

───マッチ売りの少女

 

 






コラボをそうそう長引かせたら本編忘れちゃいそうだから展開を少し早めました。

今回のギフトゲームの題名がわかった人はいたかな?いたらWikipediaとかpixivとか色々な方面から調べ尽くした人だと思われます。



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雪狐と烏の抱く炎


コラボ最終回です!

疾風の隼さんありがとうございました!




目の前の少女は、炎の中の幻影と戯れている。

 

少年は戯れる少女を憐れむ。

 

そして鴉は、二人を見守る。

 

「……あら?お兄さんとお姉さん、こっちに来て。おばあちゃんが一緒に楽しいことしよって言ってるよ」

 

マッチ売りの少女……アンナはニコリと微笑んで二人……竜胆と八汰鴉を手招きする。

 

「……少女の幻影をうつつにしろ。つまり……この物語のハッピーエンドが大前提か。自身の母の幼い頃を描いたというアンデルセン御大に怒られそうだな」

 

竜胆はアンナに微笑み、彼女に近づく。

 

「……竜胆くん……」

 

八汰鴉もそんな彼に続いてアンナの下に寄って行く。

 

「お兄さんにお姉さん。私とおばあちゃんと、楽しいことしよ?」

 

「別にいいけど……俺はお姉さんじゃなくてお兄さんだからな」

 

「ふふ。わかったわ、お姉さん」

 

「……はぁ」

 

訂正して承諾されても変わらなかった。ちょっとだけ精神ダメージ。

 

竜胆はアンナが渡して来た、現在進行形で燃えているマッチを受け取る。

 

「これで会いたい人に会いたいって願えばその人に会えるんだよ。お姉さん、とっても会いたい人、いるよね?」

 

「……いるよ。でも、その人達に会っても意味なんてないさ」

 

竜胆がマッチの火を消さないように慎重に持つ。

 

身体のあちこちが凍えて機能しなくなってきた。どうやらアンナそのものは無事でも、アンナの身体が限界に達してきているのだろう。

 

「どうして?もう会えないんだよ?」

 

「……そうだな。会えないから、会っても意味がないんだよ」

 

「……むーっ。お姉さんの言ってることがよくわかんない」

 

「……うん。きっと難しいね」

 

竜胆が昔を思い出すように考える。家族がいた日のこと。家族が死んだ日のこと。

 

そうして箱庭に来たこと。たった一人の家族が自分のために消えたこと。

 

恋をしたこと。

 

昔に会えるのなら、その時の人達に言いたい放題言ってやりたいとさえ思う。

 

だけど、その昔は鏡像なのだ。様々に存在する過去の一つ。あるいは、ただの鏡。感情もなく、演技を行うだけの鏡かもしれない。

 

「確かに過去って大事だよ。それでも……俺達が生きているのは"今"だろ?

失った過去を守るのはいい。でもアンナ。今のキミは失った過去にすがっているだけだ」

 

「なんで?おばあちゃんに会えたのに、それはいけないことなの?」

 

「手厳しいなぁ……いいかい、アンナ。俺が言いたいのはおばあちゃんに会えるのがいけないことなんじゃなくて、そのおばあちゃんについていくことがいけないことなんだよ」

 

竜胆がアンナに優しく諭すように言い、八汰鴉の方を振り向く。

 

「八汰鴉……お前確か、未来予知のギフトがあったよな?」

 

「"導の陽光"ですか?確かにありますが……」

 

「アンナに見せてやってくれ。彼女の未来を……このまま祖母について行った先の未来を」

 

「……わかりました」

 

八汰鴉が自ら発せられる光をアンナに照射する。太陽神の遣いとされる八汰鴉の陽光はなぜかアンナに暖かさを与えることができなかったのだが、その光の中身……アンナはそなよ光景を見て、目を見開く。

 

「……あれ?おばあちゃん、いない……私、動いて……ない?」

 

アンナが見た光景は、絶望そのものだった。

 

灯りを失い、先端が焦げた無数のマッチ。そのマッチに囲まれたアンナは虚ろな目で壁にもたれかかって微動だにしない。

 

そしてアンナの周りには祖母の姿はカケラもなく、好機の目、あるいは彼女を貧乏なばかりに喜ばしい記念日に死んでいった哀れな少女という目で見ている見たことのない大人だけ。

 

「私……なんで動いてないの?」

 

アンナは自らが見た光景に震え、恐怖する。

 

無理もない。幼い子供が自分がこのままだともうすぐ死ぬと言われたのだ。まだまだ動物的本能と理性の均等がとれていない幼い子供は、恐怖に対して人一倍敏感だ。

 

「それがキミの未来なんだ、アンナ。このままおばあちゃんについて行ったら、キミはそうなって二度と帰ってこれない」

 

物語としては死ぬことでしか救われない彼女だったが、竜胆はレティシアのギフトゲーム以降自他共に認めるモストハッピーエンド症候群に陥っていると言っても過言ではないくらいにバッド、トゥルーエンドが嫌いだ。

 

例えアンデルセン御大にいかな意図があってこの少女を創ったのであろうと、竜胆はこの少女を救いたいと願った。

 

「ねえアンナ……キミも俺もまだまだ子供だ。世界には俺達の知らないことは沢山ある。そんな知らないことを知らずに死んじゃうなんて嫌だろ?

帰る場所がないのなら俺が帰る場所になる。家族が恋しいのなら、俺が家族になる。心を暖める太陽がいないのなら、俺が太陽になる。だから死なないでくれ。俺はキミに死んでほしくない」

 

竜胆がアンナを優しく抱きしめる。アンナとほぼ同じくらいに冷えている竜胆の身体はアンナに物理的な暖かさを与えることはできない。

 

「お姉さん……あったかいね」

 

「そう言ってくれると嬉しいよ。つい最近まで冷えきっていたから……俺の太陽が、俺の心を温めてくれたんだ」

 

自分の心のド真ん中からいつも離れてくれない……否、離せないたった一人の少女がくれた温もりはいつの間にか、自分でも他の人を温めることができるようになっていた。

 

たったそれだけでも、彼女という存在は今の竜胆には必要不可欠となっていた。

 

「……帰ろう、アンナ。俺の家に」

 

「……うん。ありがとう、お姉さん」

 

「……俺は男だ」

 

すっかり蚊帳の外になってしまった八汰鴉の目には、竜胆とアンナは本物の兄妹にしか見えなかった。

 

◆◇◆

 

「世話になったな、八汰鴉」

 

「いいや。僕も十分有意義な時間を遅らせてもらったよ、竜胆くん」

 

ギフトゲーム終了後、アンナの右手を握った竜胆が八汰鴉にもう一度礼を述べると、八汰鴉はついさっきまでのよそよそしい態度から一変、普通の人間が仲のいい友人に言うような態度でそう言った。

 

「おい……口調変わってないか?」

 

「ふふ。友情の証……そうとってくれると嬉しいよ」

 

「随分と友情のハードルが高いな……じゃ、ほら」

 

竜胆が自分の右手を差し出してくる。握手、ということなのだろう。

 

八汰鴉も竜胆の右手を左手で握る。二人は手を握り合い、もう一度握り直すように握りあった手を一度上下に振る。

 

手を離すと、手を握ったままだった八汰鴉に右手を握ってぶつける。そして上からその手で軽く叩き下ろし、今度は下から軽く振り上げる。

 

「友情の証だ。宇宙に行ったら宇宙キターって叫べ」

 

「叫ばないよ……」

 

八汰鴉が呆れ気味に笑うと、竜胆とアンナの身体が急に光り出した。

 

「……おわかれみたいだな」

 

「どうやらそうみたいだね」

 

竜胆と八汰鴉は互いにもったいなさそうな顔をする。だがすぐに表情を元に戻す。

 

「じゃあな。八汰鴉……バイバイ。また会おう」

 

「ああ……またいつか、会おう」

 

竜胆と八汰鴉が互いの拳を合わせようとし、拳が合わさった瞬間、竜胆とアンナの存在は八汰鴉の箱庭から消えた。

 

「……また会おう、竜胆」

 

◆◇◆

 

「───ん、帰ってきたか」

 

竜胆が瞳を開くと、そこは本拠のすぐ前だった。隣りにはちゃんとアンナもいる。

 

「り、竜胆さん!?今までどちらに!?」

 

帰ってくるなりうるさいウサギの声が聞こえてくる。うるさいなぁ、と思いつつも帰ってきたということを実感させる意味ではやはりいいうるささだ。

 

「どれくらい行方不明だったんだ?俺は」

 

「丁度一週間です!一週間もどこに雲隠れしてたのですか!?皆さん心配して昨日も探し回っていたんですよ!」

 

「人助けしてたんだよ。マッチのために死んじゃいそうだった女の子をな」

 

「はい……?って、その女の子はどちら様ですか!?」

 

「助けが必要だった女の子さ」

 

竜胆がニコリと笑うと、丁度それが引き金のように十六夜、耀、飛鳥の三人が飛んできた。

 

「竜胆テメェ……今の今まで散々迷惑かけやがって……人助けだぁ?」

 

「私達を置いて人助けなんていい身分ね、竜胆くん。貴方がいないだけで普段のご飯も物足りなく感じていたのよ?」

 

「うん。リリと竜胆が一緒に作らないと味半減してた」

 

三人が次々と文句を言うように言い寄ってくる。竜胆は森林の孤独生活からまた騒がしい生活に逆戻りだな、なんて思いながら笑う。

 

「ほれ。人助けしたら新しい家族が増えた。名前はアンナ……マッチ売りの少女だよ」

 

「アンナだよ。マッチ、買う?」

 

「おおう。会うなりいきなりマッチ買えときたか……」

 

「というか竜胆くんってペストといいリリといい、なんでそんなに小さい子と仲良くなるの?」

 

「もしかして竜胆ってロリコン?」

 

「なわけあるかっ!誰がロリコンだ!俺が好きなのは───」

 

「「「「「好きなのは?」」」」」

 

「好きなのは……───!」

 

ボフン、という謎の音と共に急に竜胆はバタンと倒れた。

 

どうやら、あの箱庭の人達とは違って竜胆が自分の思いを素直に吐露するのは、もう少し先のようだ。





というわけでコラボ終了です!疾風の隼さんありがとうございました!

今回のギフトゲームの魔王は他でもない、アンナです。アンナは永遠に転輪するゲームの中で永遠に死に続ける存在で、何度も何度も死に続けているうちに魔王としての記憶を死んでも死ねないというショックで失ったということになっています。つまり魔王を殺す=ギフトゲーム敗北で、アンナが記憶を失っていなかったらその時点でほとんど積みでした。

まあともかく、八汰鴉さんという竜胆くんの新しいお友達とアンナが現れたおかげでまた一つ竜胆くんが死ねない理由が増えました!

コラボありがとうございました!次回から本編に戻ります!


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番外編だと!?ふざけやがって! 男狐は記憶を失って



別に過去話による鬱展開じゃないですよ?そうさ100パーセントコメディですよ?




"アンダーウッド"の収穫祭が終わってから、どれくらい時が過ぎただろうか。数日?それとも数週間?2クールかけた友情ごっこだって時の流れが億劫になることなんてないだろう。

 

竜胆は収穫祭が終わった時に白夜叉から直接「私からのプレゼントだ」なんてもらったビンを眺めていた。

 

「なんのプレゼントだよ、これ……聞いても開けてからのお楽しみしか言わなかったし……」

 

正直、あの駄神のことだ。よからぬことを考えているのは目に見えているが、その辺に関しては流石"希望"となっても"罪"の化身。人間的に開けたくないものほど開けたくなる。

 

そう、まるで開けるといけないと言われているのに車のドアを開けてしまう赤子の如く───

 

「───……ちょっと、だけ……」

 

そして竜胆はそのビンを開けてしまった。

 

◆◇◆

 

「竜胆?そろそろ夕ご飯の準備する時間だから早く戻って来てくれると嬉しいってリリが」

 

今日も今日とて春日部耀は竜胆が子供らしい本能に任せて眠る竜胆を起こしに行く。なにがあったとか、そういうのは特にないのだが、ツンデレ純情狐になった竜胆の世話をなにかとしていた耀はいつの間にかそういう役目を担っていた。

 

「………?竜胆ー?」

 

いつもなら彼の耳が反応してわかった。すぐ行くなんてどうしてか顔を赤らめながら行くのだが、どうして赤らめる必要があるのか耀には全くわからなかった。

 

だがしかし、今日の彼はなにかが違った。違いすぎた。

 

「うみぁぅ?」

 

なんか、やけに、可愛らしい声、が聞こえ……た。

 

発生源はいつも竜胆が可愛らしい寝顔で寝ている場所である。きのせいか、声の質も似ている。

 

耀はつい気になって声の発生源を探したが、それはすぐに見つかった。

 

「うにぅ?」

 

孤独の狐改め、自由のニャンコが誕生した瞬間だった。

 

◆◇◆

 

「……で、なんでその……仮称にゃん胆くんは春日部さんの膝から離れないの?」

 

「……なつかれた?」

 

「いや、俺の目からすると最初からなつき度MAXだったぞ。そのままレベルが上がって進化したんじゃないのか?」

 

それから、竜胆は耀に連れられていったのだが、なにが起こっているのか全くわけがわからなかった。因みに膝から離れないとは言っても、身長は本来の彼のものとそう変わらないので頭を乗せているだけだ。

 

「これはどちらかと言えば退化なんじゃ……?」

 

「みゃぅ?」

 

多分、飛鳥の言うとおり生物学上では寿命や歩行足の数など、進化というよりは退化しているように見える。

 

「みゃにゃう!うにぁあ!うーみゃ〜!」

 

「……なんて言ってるんだ?こいつ」

 

「猫の言葉だけど猫語じゃないからわかんない……多分、『退化なんて言うな!人類は日々進化しているんだぞ!アンパンマ◯の顔みたいに!』って言ってると思う」

 

「なんでそこでア◯パンマン!?こうなる前から薄々感じていた彼のフリーダムっぷりは一体なんなの!?そもそも◯ンパンマンの顔って成長してるの!?」

 

「うみゃー!にゃにぁにゃふかーー!」

 

「作画が進化してるだろ!そもそもアン◯ンマンは元々はただのあんぱん配ってたおじさんだ!って」

 

「昭和の私にはわからないわよそんな話!だいたいアンパ◯マンなんて前に竜胆くんが教えてくれただけで私全然知らないんだけど!?」

 

飛鳥が叫ぶように言うと突然そばで床がこすれる音がした。

 

「アンパン◯ンが……ヤツが元々はただの人間だと……!?そんなバカなことが……」

 

十六夜がなんか絶望していた。

 

「そんなバカなこと、俺は信じないぞ……!アン◯ンマンは俺が託児所を転々としていた時からそばにあったヒーローだ!断じて認めてなるものかぁ!」

 

「ふみゃ、にぁにぁにぁ、にゃう……にゃ?」

 

「真実だ。それより十六夜貴様、アンパンマ◯を英雄視していたとは……どの辺が好きだった?と」

 

「んなもんばい◯んまん殴り飛ばして自分の顔が抉れる瞬間に決まってるだろうが……!」

 

歪みきった偶像英雄だった。

 

◆◇◆

 

「で、竜胆のいた場所にこんなビンが置いてあったんだけど」

 

耀が出したビンにはよくわからない、きたない文字が並んでいた。

 

「なんだこれ……?にゃたたび……これを飲めばツンツンした狐もあら不思議、好きな子にすりすり甘えて来るにゃんこになる!……だとよ」

 

「……ああ。だから竜胆くんは狐耳でも狐の尻尾でもなくてネコミミと鍵尻尾のにゃん胆くんになったのね」

 

やたら酷い文字だったので竜胆がそれが理解できなかったのもわかる。

 

「……んみぁ〜」

 

竜胆改め、にゃん胆はブーツを脱いだ右の素足で器用に頬をぽりぽりと掻く。とても可愛い。

 

にゃん胆は両手と共に2つの足と2つの腕で耀に近づくと彼女のブーツに頭をすりすりしてきた。

 

「おおう、なんだ?にゃん胆のヤツ、発情期にでもなったか?」

 

「違うよ十六夜。ネコは好きな人の足に頭をすりつける習性があるの」

 

「みゃあ♪」

 

にゃん胆は耀が頭を撫で返してくれたことがよっぽど嬉しかったよか、気持ち良さそうな表情をする。

 

「ほら、ね?」

 

「……だな。マジもんのネコだ、コイツは」

 

十六夜が呆れながらにゃん胆の頭に手を置こうとする。

 

「ふかーー!!」

 

怒られた。嫌らしい。

 

「……不公平じゃねえか?これ」

 

「十六夜くんの普段の行いのせいじゃないの?」

 

「どっちにしろにゃん胆は竜胆よりも正直者ってことだよ」

 

正直も行き過ぎると人を傷つけることがあるが……多分十六夜じゃなかったら、にゃん胆じゃなかったら傷ついてただろう。

 

すると突然、どうしたことだろうか。にゃん胆がそのままうつ伏せになってぐでっとした表情になった。

 

眠たいらしい。どうやらにゃん胆は竜胆よりも生物的な欲にも正直なようだ。だからといって、ニャンコになっているとはいえ人が靴で踏み鳴らしている床の上でおねむをするのはあまりよくないが。

 

まあ、その日は"ノーネーム"一同がにゃん胆に癒されたのは疑いようのない事実である。

 

◆◇◆

 

後日談というか、今回のオチ。

 

翌日、にゃん胆の記憶を全て失った竜胆は問題児達と共に"サウザンドアイズ"に呼ばれていた。

 

白夜叉が"階層支配者"の役目を終え、仏門に入ったことから、今までほど"サウザンドアイズ"に厄介になることはないと思っていた、矢先である。

 

「な、にゃんだこりゃーーーーーッッ!?」

 

にゃん胆の時が若干残っているのか、竜胆は若干猫語で叫んだ。

 

そんな彼が手にしているのは、複数枚の写真。

 

「ふはははははははははは!!!これぞ私が先日"ノーネーム"の館に侵入して撮った秘蔵の写真達よ!」

 

写真に写っているのはにゃん胆。眠そうな顔をしてデフォルメで口を三角にしているにゃん胆。耀に甘えまくってるにゃん胆。昼寝から起きて陣羽織がはだけているにゃん胆etcetcetc……

 

にゃん胆だらけである。

 

「白夜叉……俺の記憶が昨日の分スッポリと抜けているのは貴様の仕業かぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!」

 

「無論そのとおり!実にかわいらしかったぞよ!」

 

なっははははははははははは!!と上機嫌そうに笑う白夜叉は不意に影に覆われた。

 

次の瞬間、その影は消え、逆に明る過ぎるくらいに明るくなった。

 

簡単に言えば、竜胆が身体の至る部分からワイバーンだったり魔神だったりガルーダだったりフェンリルだったりのパーツを顕現させ、太陽神の神格も顕現させたのだ。

 

「なはは……は?」

 

「くたばれ駄神様がぁぁああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「わ、私は滅びぬ!例え私のこの身体が消えようと第二第三の白夜叉がこの秘蔵写真の群れを───」

 

敗者のテンプレみたいなセリフを吐いて白夜叉は光の中に消えた。

 

「焼却!」

 

そして写真達は第二第三の白夜叉が現れる前に燃やされた。

 

その後、竜胆は暫くそのままでいると、突然元の姿に戻ってニコッと笑う。

 

「帰るか!」

 

因みに、耀が弄るために個人的に二枚くらい取ってあったのは秘密である。

 






やはり、彼は弄られる運命にあったのだ……



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なんなの……この嘘予告……ああ!それって仮面ライダー?



甲殻類の謎の妄想力が生み出した謎の産物。

天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ……貴様を屠れと俺を呼ぶ!

その九つの尾に覆われた少年の名は、仮面ライダーフォックス!!(ドーン☆)

さあ、ここからはツンデレのステージでショータイムだ!

注意!仮面ライダーとかほとんど関係かりません!




箱庭県名無市(はこにわけん ななし)、日本のどこにあるとも知れないよくわからない県。

 

そこは、社会から生きていくにはこの世界そのものが狭すぎると判断された少年少女達が政府に隔離された土地。

 

かといっても、当の少年少女はそんな隔離ライフを結構満喫しているため、この土地は特に問題視されることはなかった。

 

そんな箱庭県名無市東区なんたら番地(やたら長いので省略)にはとある屋敷がある。

 

別名"名無しの館"。この土地に送還された一人の少年が一晩で作り上げたという色々な意味で曰くつきな館である。

 

無論、住人はいる。それも結構な数が。

 

「おはよ……」

 

この、いかにも眠そうな顔をして右肩のパジャマがはだけている見た目美少女の少年こそが、この名無しの館を作った張本人、高町竜胆である。

 

送還された理由はありえないレベルの不幸。更に不幸の伝染と人為的に遺伝子操作を受けたからである。

 

伝染と言っても、この名無市にやって来てからは伝染した結果自分にしかツケが回ってこなくなる不幸となったが。

 

また、彼の特長で一番目を見張るのはその圧倒的な女子力である。

 

現在のように服をはだけるサービスは勿論のこと、料理も世界チャンピオンにでもなっとけと言われるレベルで得意とし、掃除も大好き洗濯も心が綺麗になるから大好き特売デーは全速力で駆け抜ける超節約者であり料理は普段使われない場所を美味しく使うを信条に……など。ここまでできた奥さんもそうそういない。

 

だが男だ。

 

高町竜胆の朝はキッチンで始まる。お気に入りのエプロンを身に纏い、送還される以前に様々な場所を巡り歩いて入手した極上の鉄鉱石から作り上げた包丁を手に、残像を残すほどの速度で動き回り複数の作業を一人で同時にこなす。

 

残像とか非常識とか言われるが、最早この家では調理中の残像は常識となっている。

 

「今日はサービスディ〜皆にサービスディ〜ごはん沢山山盛りポテトのサービスディ♪」

 

……どうやら作曲センスは皆無のようだ。しかし、こんな歌を楽しそうに口ずさむのだからなんとも言えなくなる。

 

一通り料理を作り終えた竜胆はその辺にあるボタンを押す。

 

『朝六時三十分!六時三十分!ズバッ!』

 

打ち切り食らってもニュースでもやりそうな目覚ましアナウンスが響き、やがて上の階から複数人……数十名の人間が降りてきた。

 

「全員いるかー?」

 

「リンねーちゃん、いつものー」

 

「だから、俺はねーちゃんじゃなくてにーちゃんだっての……って、いつものって……アイツはいつまで寝てるんだよ……起こしてくるから適当に食べててくれ。準備はできてるから」

 

竜胆はいつもの、と呼ばれると頭を抱える。やはり、この子供だらけの環境になにかしら影響を受けたのだろうか。

 

竜胆は館の階段を登り、三階の竜胆の部屋のすぐ隣にある『眠り姫るーむ』と書かれた部屋をノックする。

 

「おい、起きてるか?」

 

返事はない。

 

「寝てるんだな。だったら勝手に入るぞ」

 

竜胆が扉を開け、ちょっと動物のコーディネイトが施されている部屋に見向きもしないで布団に向かう。

 

「おーきーろー」

 

布団を揺するが反応はない。

 

「ごはんだぞー」

 

返事がない。やはり先日ごはんだと嘘をついて起こしたせいで言葉じゃ起きてくれないようだ。

 

「はー……本当にマイペースなヤツ……」

 

竜胆は布団の中に腕を差し込み、巻き上げる。すると中から竜胆とさほど変わらない身長の少女が出てきた。無論寝ている。竜胆はそのまま少女の背中と膝の裏を腕で抱えてそのまま部屋から出る。

 

「……ま、いつも気づけばされてるのは俺の方だからな。偶にはお返しもいいだろ」

 

竜胆はちょっとした子供心から覗かせるイタズラ心を出し、階段を降りる。

 

ぶっちゃけイタズラして楽しかったかと言われるとお姫様抱っこをしてる方が恥ずかしかっただけなのだったが。

 

あれ、おかしいな。されてる時も相当恥ずかしかったのに、してる方が恥ずかしい。

 

竜胆はそう思いながら食堂に入る。

 

「よっこらせっく……っと」

 

途中いけないセリフを吐きそうになったので急いで訂正する。少女を椅子に座らせ、の食材を少女の目の前に置く。

 

「……いただきます。おはよう」

 

「おはよう……お前の頭と腹は一体どうなってるのか小一時間程問いただしたいよ」

 

少女はつい先ほどまでの眠気もなんのその、どう一瞬で目を覚ましたのだ?と聞きたい。

 

「ごはんの匂いがすれば起きる」

 

「変な奴だな……ホントに。天地神明の神でもお前のことはよくわかんないだろ」

 

「……天地神明?」

 

「天と地の神々ってこと……俺達人間には及ぶところなんてナシ」

 

「へぇ……でも私はその神様でもわかんないなんてね」

 

「わかんないよ……お前のことだけは」

 

はたから見れば普通の会話だが、この二人からすれば『恋人の会話』のつもりだ。

 

そも、この名無しの館を竜胆が作ったのは彼女のためである。たった一人の少女がお腹減ったと竜胆の前に現れた時、気まぐれで助けた。

 

その後、生活らしい生活をしていなかった竜胆に彼女はやたらと世話を焼いた。その甲斐?あってか竜胆はいつの間にか彼女にデレていた。

 

そして、何年かして告白。すんなりOK。以上。

 

「リンねーちゃん……今日は医大で講義あるんでしょ?耀ねーちゃんに構ってるヒマなんてないんじゃないの?」

 

「あ……そうだった。んじゃ耀、チビ子達は任せたからな」

 

「うん。行ってらっしゃい」

 

そうして竜胆は名無しの館を出る。出るとすぐカブトムシの角が生えたコウモリが飛んできた。

 

「ご主人、今日は何するつもりなんだ?」

 

「医大の講義だよ……言っとくけど勝手に出てくるんじゃねーぞ」

 

「ケケケ。ご主人にそう言われちゃ従うしかないねぇ……だけどご主人、俺の仕事みたいだぜ?」

 

「……マジか」

 

竜胆は少し速足で駆ける。コウモリが指し示した方向に走る。

 

駆けた先には、ありえないサイズの巨龍がいた。

 

「……まためんどくさそうなやつだな……行くぞ、"キバットゼクター"」

 

「あいさ、ご主人」

 

これは、お屋敷と町の平和を守る一人の少女風少年とツノ付きコウモリの物語……

 

仮面ライダーフォックス、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っていうお話を考えてみたんだけど」

 

「どんな物語だ!?そもそも俺とお前が恋人とかおかしくない!?」

 

「……なんで?」

 

「……そ、それは……俺達まだそういう関係じゃ……あーーーーもう!!兎に角これは却下だ!」

 

「……つまんないの」

 

「真剣に却下!」






というわけで嘘予告でした。決して始まりません。

特に設定してませんが、仮面ライダーフォックスは簡単に言えばクロックアップとコンボチェンジできるキバって感じです。



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魔法とギフト



どうもみなさん!今回はコラボ編ですよ!なんと箱庭家族でトップクラスの知名度と人気を誇る忙人K.H.さんの『異常な普通』も異世界から来るそうですよ?とコラボぉう!

それではぁ、今回のコラボ番外編、スタァァアートだぁ(若◯規夫風)




 

 

「ハッ……ふぅ……はぁ……!」

 

「……ッ……お、姉……俺のことはほっといて……さっさと行けよ……」

 

「ぜぇったい嫌……弟見捨ててのうのうと生き残って……いやもう私死んでるけど、なにがお姉ちゃんですかっての」

 

どことも知れない荒野の中、鈴蘭は竜胆を担いでその足をどことも知れぬ目的地に向かって歩いていた。

 

竜胆は右手から先を喪い、鈴蘭は肩に彼の脇を置いて支えているため、彼女のコートや頰にはべっとりと朱色と紅色、ところどころに彼の異常性の象徴、虫特有の血リンパ液が付いている。

 

「くそっ……ドジった……まさかあんな奴らにこんなことしなきゃならないなんて……」

 

「喋っちゃダメだよリン……喋ったら傷口が広がっちゃうから」

 

鈴蘭は多少大きな女性よりも更に小さい竜胆よりも小さい身体で彼を抱え、弟が死んでしまいかねないことに涙を流しながらひたすら足を前に進める。

 

「お姉っ……もう俺、無理っぽいから……みんなに、耀に、よろしく言っといてくれ……」

 

「嫌!絶対言わないもん!リンが死ぬなんて神様夜叉様ハロウィン様が認めてもおねーちゃん絶対認めないもん!」

 

「いや……ごめん、無理……」

 

「……嫌。起きてよリン。リン───!!」

 

そうして、竜胆は瞳を閉じた。その閉じた瞳は鈴蘭だけでなく、()()()()が見ていた。

 

◆◇◆

 

「……っん……」

 

「……お、起きたみたいだね。どうだいお目覚めの感想は?できれば聞かせてほしいな、竜胆クン」

 

「……ああ。お前の薄ら笑いのおかげで目が覚めたよ、健太。ありがとう、最悪だ」

 

目を覚ました竜胆の目の前にいたのはあまり会話はしていないが、他の知り合いからの口伝と互いに顔を合わせた時に既になんとなく関わるのを避けていた少年、景山健太だった。

 

「ははは、これはまた随分と手厳しいなぁ。一応、死にかけてたキミと泣いてたお姉ちゃんを助けたのは僕なんだぜ?」

 

「なるほど……道理で傷口から血が一切流れないわけだ。お前、さては体外に出る血液の量を『ゼロ』にしたな?」

 

「うん、大正解さ」

 

竜胆は身体の調子から気絶してから全く血液が減った様子のない……と感じ、直感的に健太の行ったことを理解した。それに正解、と答える健太。

 

「相変わらず頭のおかしいギフトだ……」

 

「それを言うならキミこそそうさ。なんだいそれ、五月雨クン達から聞いてはいたけど、キミが目を覚ます直前に完全に無くなってた右腕が急に生えた時にはビックリしたよ。思わずそれに対してキミを『普通』にするところだった」

 

「……無理だったろ?」

 

竜胆が試すように問うてくる。健太は何一つ隠す事なく、普通に頷いた。

 

「まあね。驚くことにキミはその腕が突然生える状態が『普通』らしい。それが普通なら僕はそれに対してなんにもできないよ……本気出せばわからなくもないけど、キミはただの人間になったら死んじまうんだろ?」

 

「そんな普通嫌なんだけどなぁ。お前だってそのギフト……引き剥がすのは無理なんだろ?少なくとも現状は……お前の"原点"(ゼロポイント)は俺の"希望"と同じ、存在を確立させているギフトなんだろう?」

 

「否定はしないよ」

 

はぁ、と二人揃って溜め息。

 

「互いに苦労するな……放り捨てたいのに捨てることが不可能で、それに縋って頼るのが現状だなんて」

 

「いや、まったく」

 

言わばそれは互いが互いに対する抑止力。二人は互いの関係性に空笑いをして、また再び溜め息をつくのであった。

 

 

 

「問題児と孤独の狐が異世界から来るそうですよ?」×「『異常な普通』も異世界から来るそうですよ?」

コラボ編 少年達は普通の希望を夢見て玉砕!?

 

 

 

そもそも、事件は唐突に起こった。

 

その日、"ウィル・オ・ウィスプ"から鈴蘭がやって来た。

 

理由は「弟の顔を見に来た」。たったそれだけで北側から東側までひとっ飛びできるのだからブラコンは侮れない。

 

そうして鈴蘭はいつも通りアホなことをして竜胆に怒られ、十六夜に「バトろうぜ」なんて言われたから十六夜はともかく、加減を知らない彼女は酷いレベルの力をどっかんどっかんぶっぱしまくりその壮絶すぎる光景を見て泣いてしまった年少組の子供。

 

当然、竜胆ブチ切れる。右腕に圧縮された風を纏って繰り出された拳は鈴蘭のギフトと干渉し、その日二人は"ノーネーム"の屋敷から消えた。

 

◆◇◆

 

「以上が事の顛末だ」

 

「……うん。キミも身近な人に振り回されてるのがよぉ〜くわかったよ」

 

「いやぁ……まさか転移した先でコカトリスとバジリスクの群れがいるとは思わなかった。おかげで不意打ちで右腕に毒貰ったから、咄嗟に切り飛ばしたんだよ」

 

竜胆は自分の右腕をピクピク、という擬音が聴こえる感じで動かし、不調がないことを確認する。

 

「それなんてマジュニア?」

 

「そこにツッコまないでくれ。あとはその腕を囮にして逃げた。でも毒よりも失血で死にかけるとは予想外だった」

 

「いやいやいや。普通に考えたら腕一本はかなり危ないでしょ」

 

「ペストの時に土手っ腹に風穴空いたから大丈夫かと思ったんだ」

 

「……いや、待って。色々ツッコミたいけどさ、そもそもなんで土手っ腹に風穴空いてそんな他人事みたいに言えるの?」

 

「二日三日で完治したからな。他人事同然だ」

 

竜胆は気にしてない、とでも言うように腹に手を当てるが、実のところそれが自身の怪物性を改めて示したあの一件は彼自身にとってかなり堪えた。

 

しかしどうも最近はそういうのとは違う理由でこの辺が痛くなってくる。やはり元の性格に戻ったのが災いしてつっこみ役になったのが間違いだったろうか、胃が痛いとも言う……とメタい考えをしていたらふと一つ気になることが。

 

「……なあ、健太」

 

「なんだい?」

 

「お姉は……どこ」

 

ドコオオオオオオオオン

 

「……今のは洒落かい?」

 

「こんな都合のいい洒落があってたまるか」

 

姉の……鈴蘭の居場所を問おうとした時、外から聴こえてくる爆音。まさか。いやそんなまさか。

 

「……いや、それは流石にあのアホお姉でもあり得な───」

 

「にゃーははははは!!やるぞな異世界のイザちー!それでこそ私もガチの出し合いができるってものよォ〜っ!」

 

「テメェこそそのちんけな身体にアホみてえなパワーあるじゃねえか!こんなに物理的にも熱くなる勝負はそうそう味わえねえ!」

 

「ふおおおおおお!!私のこの手が光って唸るぅ!イザちー倒せと輝き叫ぶぅうう!」

 

その瞬間、竜胆は気を失っていたということを疑問視されるほど神速の動きでギフトを発動。黒ウサギのハリセンを造り、アホの元へと走っていった。

 

「ひっさぁつ!シャァァアアアアアイニングゥッ!フィンガアダァッ!?」

 

「アホかァっ!お姉もこの状況に察しがついてるなら十六夜なんかと相手してる場合じゃないってことぐらいわかってるだろぅがスカタン!」

 

「いたいよリン!起きたことはともかくとして、せっかくししょーが教えてくれたこの『輝ける指(パルマフィオキーナ)』のパワーを試したかったのに!」

 

「ルビ振ってもアウトじゃねえか!技名出すな!」

 

「おお……黒ウサギに劣らぬ閃光のハリセンツッコミ」

 

「それなら武器をそのまま取り出すリンもいけないと思います!おねーちゃんはリンがやったこととおんなじことをやっただけだもんね!」

 

「それには触れるな!ウチの作者も読者層が限られるから考慮すべきだったって嘆いてたから!」

 

メタい、ひたすらメタい話を展開する双子。これだけのツッコミを有していながら十六夜達には使わなかったメタツッコミ。それだけこの(ボケ手)は厄介かつ強敵なのだ。しかもこれを鈴蘭は天然でやっているからなおタチが悪い。

 

「……んー。竜胆クンってあんなキャラだっけ?前にみんなで飲み明かした時に性格まるごと変わってたのには驚いたけど……」

 

これには健太も戦慄。凄まじい剣幕で鈴蘭に迫る竜胆もそうだが、天然のボケで完全に流せそうな鈴蘭にも。

 

「だいたいこの屋敷のボロボロっぷりはどうするつもりだ!返済しろなんて言われたら今文無しの俺達は完全に破産だぞ!?」

 

「あれー?リンってお店持ってなかったっけー?お金ないの?無計画は女の子に呆れられちゃうゾ☆」

 

「誰のせいで財布ごと洋服に変えられたと思ってんだマヌケ!」

 

「……やっちゃったぜ!」

 

逃れられなかった。決め手は余計な失言。

 

これから小一時間竜胆は鈴蘭に説教をし始めた。

 

「……てかさー、十六夜」

 

「ん?なんだ健太」

 

「十六夜ならあの人をさっさと力で黙らせれたんじゃないの?彼女のあの攻撃はギフトによるものだろ?だったら……」

 

「いんや。お前は見てなかったから理解できてないだろうが、アイツのギフト自体は多分消せるけど問題はあの"魔法"だよ」

 

「魔法?光みたいなもん?」

 

「似て非なる……が正解だな。アレが魔法に『破壊(デストラクション)』のギフトを付与して『消えない炎』を作っているのなら、アイツはギフトに『決して消えない炎』という概念を魔法で付与している」

 

十六夜は実際に体験した鈴蘭の炎の感触を覚えるように手を握る。

 

「魔法使いが"魔法の限界"という概念を破壊して"事実上"無限大の魔力を供給するのであればあのロリ姉は幽霊になっているせいで"実際に"無限大の魔力を有している……これは、同じ魔法使いとしては光はその概念の破壊を介さないといけない部分勝っているとも言える……って、光とロリ姉の明確な違いは俺がその破壊した概念を無効化できるのか、そもそもの体質故に無効化できないか、これだけだな」

 

「……えーっと、つまり光の魔法はギフトに無効化を無効にするギフトを重ねていて、あのロリお姉さんの魔法はギフトに無効化を無効にするの魔法を重ねているから、無効化を無効にするのがギフトの効力である光の魔法は十六夜は消せるけどギフトを魔法でコーティングしているロリお姉さんのギフトは魔法がギフトを守っている……?ああ、言葉にすると余計わけわかんないな」

 

つまり、堤光の魔法はギフトであり、鈴蘭=T=イグニファトゥスの魔法はギフトではなく、"魔法"そのものという概念。この些細な違いは十六夜の"正体不明"がギフトである光の魔法を無効化できても鈴蘭の魔法はギフトではないので消すことができない、ということだ。

 

「まあガチのタイマンなら『破壊』は応用の幅が広いからな。どっちが強いなんて俺には言い切れないな」

 

「……へえ。鈴蘭=T=イグニファトゥス、か。彼女は幽霊だから、生きてる僕らの常識なんて通用しないんだねぇ」

 

その日、五月雨の世界に来た時の反省から竜胆達は大人しく健太の"ノーネーム"の館に世話になった。

 

竜胆はすごく申し訳なさそうな顔をしていたが、結局鈴蘭がアホなことをしてまたお仕置き、いつもの彼に戻ったとか。

 

◆◇◆

 

「……アイツだ。アイツが例の……」

 

「ヤツか。なるほど道理で、随分と」

 

「ああ……アレには我々の、13年の亡霊作戦の要となる存在……なんとしても」

 

「……13年の亡霊作戦、ねぇ」

 

 






というわけで続く!13年の亡霊作戦……名称自体は某月がそこにあるアニメからもらっていますが、多分これからの問題児コラボでも関わりを持っていく風になっていくと思います。

名前を出すのは控えますが、問題児超コラボの主人公+そこから増えてく主人公達……僕は便宜上某博愛主義さん達からいただいて箱庭家族と呼んでいますが、その中の人のコラボ番外編にもコラボ番外編特有の敵、というのがいていいなーと思ったからです。はい、モロパクリですごめんなさい。

まあそんなことより(そんなことどころではない)忙人K.H.さんコラボありがとうございます!次回もがんばりますよぉ!


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動き出す運命


竜胆くんェ……キミはなぜ他作者様の主人公に対してまでヒロイン&ちょろイン属性を遺憾なく出してしまうんだい?




 

翌日

 

「……むぅ。場所が違っても生活習慣だけは変わらないな。起きたら農場と台所に行きたくなる……でも台所はともかく農場は俺が口出しすることじゃないからな……ああ困った。もう完ッ全に目が覚めた」

 

竜胆達は健太達に借りた一室を使って寝ることにした。流石に当初はいくら姉弟と言えど男女が同じ部屋で寝泊まりするのは如何かと少し竜胆達は議論したが、結局「リンと久しぶりに二人で寝るんだい!」ともうどっちが姉なのかわからないくらいに鈴蘭が猛反発したため、この状況に落ち着いた。

 

ふと、竜胆は何故か自分は床で寝たはずなのにいつの間にかベッドの上にいたことを思い出し、隣を見てみるとそこにはアホっぽい顔をしながら寝ている鈴蘭の姿があった。起きると知らぬ間に姉のベッドにいたり鈴蘭が横で寝てたりは昔割とよくあったことなので竜胆は動じない。どうせ今回も寝ているうちにお姉が魔法で気付かれないように運んだんだろう、とその程度の感想しかない。

 

「うへへへ……リンのごはんはおぃしぃぞぉう……ぜぇんぶ私のものだもんね……」

 

「……しかし、こうもひっつかれると起きられないな……」

 

まあ、竜胆は姉にたいしては割と容赦がないのでその気になれば引きずりながら動くくらいはするのだろうが、

 

「……うふへへひほっ。ダメだよリン……いくらおねーちゃんが大好きだからって、そんな行為におよんじゃあいくら箱庭でもマズイってばよ〜」

 

「………………」

 

ゲシッ。

 

つくづく竜胆は時々この姉のことがよくわからない。一応生前はリア充だったはずなのに優先順位はいつも竜胆〉〉(越えられない壁)金〉〉彼氏〉〉家族〉〉自分なのだから、もしかしたら竜胆を性対象として見てるんじゃないかという発言も時々飛び交う。

 

まあ、多分おねーちゃんジョークとか言われるだろうし、そもそも彼女は可愛い弟の幸せのためならなんだってやる、が信条なので竜胆が余程彼女に対して本気で性的恋愛感情を抱かない限り彼の迷惑を考えてそんなことはしないだろう。彼女はアホであってもバカではない。

 

とまあ、そんなことはともかく、竜胆の足裏によって床に叩き落された鈴蘭はそれでも眠り続ける。幸せそうな寝言も健在だ。

 

「……やることないし、勝手にやるのは気が引けるが朝飯でも作るか。勿論、いいと言われたらの話なんだけどな」

 

竜胆は呪術を使って手早く寝間着をスカート部分を太ももあたりまでにし、ズボンを履いたエプロンドレスに着替えると悠々と厨房の中へと入っていった。

 

◆◇◆

 

「……なんだかすごく早くに目が覚めたな……もう眠れない」

 

それから少し、健太も目を覚ました。理由はよくわからないがやたらと眠気はない。

 

「……腹減った……なんか食いたい……」

 

健太は自分の腹を軽く摩ってベッドから降りる。するとその瞬間無性にいい匂いがした。

 

「……誰か厨房にいるのかね……?リリはこの時間はまだ起きてないだろうし……あ、まさか……」

 

健太はこのいい匂いの素を作っているのが誰なのか察しがついたのか、そそくさと衣服を着替え、多少身嗜みを整えて食堂に向かって行った。

 

◆◇◆

 

「やっぱりいた」

 

「やっぱりとはなんだ健太。まるで俺がここで勝手に料理してるとわかってここに来たみたいに……いや、わかって来たんだろうな。この時間はリリが起きる時間じゃないからな」

 

食堂と厨房を繋ぐカウンターの一席に健太が座り、一言。すると案の定というか竜胆の声が帰ってきた。

 

「そうゆうこと。起きたのは偶然だけどね」

 

健太が改めて背中を伸ばすと、コキコキといい音が彼の肩やら背中やらから鳴った。

 

「……健太、朝は何派だ?」

 

「秘密で。シェフに任せるさ」

 

「了解。ちょっと待ってろ」

 

竜胆はそう言うと厨房の奥の方へと入っていった。一応他人のコミュニティの本拠のはずなのにどこになにがあるのか、どういう品種なのかも完璧に理解して竜胆は調理を始める。

 

「よくそんなささっと取ってささっとできるね。ここ一応キミの"ノーネーム"とは違うんだろ?」

 

「俺は鼻が効くからな。十年以上この道に従事していれば匂いでどんな食材なのかは察しがつく。味覚審査員が食べるだけで食材を理解できるのとおんなじさ」

 

「十年……竜胆クン、いつからどんな理由でこれ始めたのさ」

 

「趣味だ。他の料理人とは違って俺はこれが本職じゃないしまだ趣味の範疇だからな。正直店を開いてもまだまだだとは思う」

 

竜胆は卵を皿に落として手慣れた動きでかき混ぜ、フライパンに入れ、加熱。時間になるまでの間にキャベツを千切りにしてハムを薄く切る。

 

「コーヒー?紅茶?」

 

「コーヒー、ホットで」

 

「把握……じゃあスマトラをベースにしてエルドラードか。キリマンジャロを入れるのも一興だな」

 

竜胆はまたすらすらと本でも読んでるようにコーヒーを抽出。フィルターにセットする。

 

そしてコーヒーが出来上がるのとほぼ同時に卵も焼かれ、竜胆は手早くコーヒーを注ぎ、キャベツとハムの乗った皿の傍らに焼いた卵の一欠片を乗せ、完成。

 

「お待ちどう……エスプレッソに限らずコーヒーは淹れたてが美味いらしいから早く飲むことを勧める」

 

「お、サンキュ。……で、なんでらしい?」

 

「……俺はコーヒーは苦すぎて飲めないんだよ。淹れるのはいいがよくこんな苦いのを飲めるって思う」

 

「へぇ、勿体無い。シェフの努力も相まってこんなに美味いのに」

 

「せ、世辞を言うなっ!俺はまだ未熟だってさっきも言ったろ!?」

 

「……ほほう、これはこれは」

 

ちょっと褒めるだけで竜胆は狼狽して顔を真っ赤にし、顔を背けた。それを見た健太はまるで『面白いものを見つけた』とばかりに目を輝かせた。

 

「そっ、それより耀はどうした?アイツなら匂いに惹かれて起きても不思議じゃないんだが……」

 

「……そうなの?」

 

「少なくともウチの耀はそうだ。おかげで朝は大抵こうやって今みたいにほぼ二人っきり……やりにくいったらありゃしない」

 

「……へぇー〜。ほォ〜。そうなんだぁ」

 

「なんだそのウザい言い方」

 

竜胆が自分の分の料理を調理し始めたところでそう漏らすと健太は彼と彼の世界の耀の関係……という竜胆の耀へ抱いている感情をなんとなく理解した。

 

「いや、なに?ここは人生と経験のセンパイとしてね。……耀とはどこまで行ったのカナって」

 

その一言を申した瞬間、竜胆の持っていた包丁が落ちて彼の足の指を切断した。

 

「───ッ!!?お、おおおお前何言ってる!?どこまでって、俺と耀はそういう関係じゃないしそもそも俺みたいなのが耀に相応しいわけがないというか俺なんかがそんなんになったらアイツも迷惑するに決まってるというか───」

 

「へぇ、つまり好きだけど付き合ってないんだ……ってまずはその足心配しない!?ザックリイッたけど!?」

 

「あ、そ、それは問題ない。これくらい一時間もあればまた生えるから」

 

ともかく、厨房に人の血があるのは流石にマズいので切れた足の指はビニールに詰めて切断面は強引に止血。床を拭いて靴を洗い、乾くまで草履で代用するが……切れたのが親指のため、草履ではうまく動けない。

 

まあそれは置いておき、竜胆も竜胆で紅茶を淹れて砂糖をダバダバ突っ込みクピクピと飲む。若干拗ねた顔がまた可愛らしいと思わず健太も感じた。

 

「……確かに俺は耀が好きだよ。だけどアイツ朴念仁だし、頑張っても俺元々こんな身体にされるくらいには運悪いから肝心なとこだけありとあらゆる現象で『ごめん聞こえなかった』状態になるし、そもそもアイツは俺のこと手間がかかる、正直になれない妹くらいに思ってるんだろーし」

 

「………」

 

思わず健太は目をそらす。まさか同じ人間にここまで差があるとは。いや、多分彼の世界の耀だけが特別こんなんなのだろうが。

 

というかそもそもの問題は(一応)男で耀より歳上のはずである竜胆が妹扱いされているということであるのだが。

 

まぁ、後者に関しては彼自身の趣味嗜好と思考が子供っぽいのと耀と同じくらいの身長なのが原因なのだろう。あとついでに健太は女扱いされるのもなんとなく理解できた。

 

(もう……これはまさしくツンデレのオンナノコだよなぁ、彼)

 

指摘されるだけであの反応、認めたと思うと愚痴り始めて若干自己嫌悪に陥る。そして恐らく素であろう、健太の褒め言葉に対する反応からもう確定的に明らかだった。

 

そして耀はこれ。性別が逆転しても違和感がない(番外編参照)

 

「因みにどういう朴念仁回答を?」

 

「夜に偶然二人きりで出かけた時に星を見てて、『星も綺麗だけど近くにもっと綺麗なものがある』って言ったら『うん。竜胆の方がずっと綺麗』って……」

 

「うわぉ」

 

「付き合えこのヤローってヤケクソ気味に言ったら『どこまで付き合えばいいの?』とか、他にも……」

 

話を聞く限りもう竜胆の世界の耀は朴念仁男子のテンプレを網羅していた。そして竜胆もまた気づけばツンデレのテンプレを網羅していた。

 

「っていうかだいたいさ……俺は、ぶっちゃけ不安なんだよな……もしかしたらそれが足枷になってこんな中途半端になってるのかもな」

 

「不安?キミの"罪"はもう"希望"となって、暴走の心配はないんだろう?なにを今更」

 

「そうじゃない……違う。俺の不安はその過程じゃなくて結果なんだ……もし、仮に俺が耀と恋人同士になって、お前らみたいになったとしたら……それは俺達の関係はただの"恋するヤツとその友達"から"恋人"になる。それが怖いんだ」

 

竜胆は天井の電気に向かって手を伸ばし、なにもない虚空から"ソレ"を掻き分けるように手を揺らす。

 

「もし、そのたった一つの変化が俺の関係全部を変えたら……?そう思うと、俺は"変わること"が怖くなった……悲観、だよな。ある種自分の立場に酔っているのかもしれない」

 

「………」

 

健太は黙って竜胆の言葉を聞いていた。竜胆から吐露されるそれはまさしく、彼の心の弱さと誰かに縋る思いを綴っているのだろう。

 

だから健太は聞いた。竜胆の弱音を、そしてその上で、言うべき言葉を言う。

 

「……羨ましいね、竜胆クンは」

 

「……は?」

 

一瞬、何を言っているんだこいつはとでも言わんばかりの顔で竜胆は健太に振り向いた。

 

「竜胆クンがそうして迷ってるってことは、キミはこのまま変わっても変わらなくてもキミの人生に間違いはないってことなんだよ。僕みたいに"変わることでしか自分を正しいモノとして正当化できない存在"とは違ってね」

 

健太は竜胆の注いだコーヒーを一気に飲み干してカウンターから立ち、彼の手を握った。

 

「ほら、キミの手は暖かい。キミの存在は僕みたいな"影"とは違う。誰かを照らす"太陽"だ」

 

「………」

 

「キミの手は間違いなく誰かに影響を及ぼしている。そういう意味じゃ確かにキミがそうやって怯えるのも無理はないかもしれないけど……そういう時は僕らが支えるさ」

 

健太はゆっくり、取った彼の手にもう片方の手を乗せる。健太の手は冷たかったが、竜胆にはそれが不思議と暖かく感じた。

 

「迷えばいい。迷う人間は確実に大きくなる。迷んだことのない人間よりも多くの経験を手にできる。だから……そう悲観的にならないでほしいな」

 

「……けん、た……」

 

「…………ん?なに?」

 

「……あ、ありがと。嬉しい……で、でも!」

 

竜胆は何故か顔を真っ赤にしながら顔を背ける。健太は首をかしげる。

 

「……こういう風に手を握られたら、その……勘違い、されそう……」

 

「───!?わぁああああ!?ご、ごめん!」

 

そう、竜胆は容姿で言うならまごうことなく美少女の領域。そんな彼にこう、異性を慰めるかのような手の握り方をするという健太の図はハタから見れば"いかにも地味っぽい少年が美少女を口説いている"という風に見えなくもない。

 

普段は別に鈍感でもなんでもない健太がこれに気付けなかったのは一重に"竜胆が男である"という事実がそういう考えに持って行きにくくしていたからであろう。だが竜胆はそれが日時茶飯事なので気づく。

 

「……い、いや、いいんだ。いいんだけど……」

 

「え、あ、はい」

 

お互いが状況を理解し、暫く無言の時間が過ぎてどうしようもない。

 

「……その。健太を───」

 

竜胆が頑張ってなにか言おうとした瞬間、屋敷の壁が粉砕され、同時に一本の刀が二人に向かって飛んで来た。

 

「「ッ!?」」

 

二人は今までの妙に甘酸っぱい雰囲気から一転、急いで椅子から飛び退いた。

 

「へぇ、ぃまのを避けるかぁ!」

 

「そっちのいかにも普通っぽいヤツが避けるのは意外だった」

 

「誰だ!」

 

竜胆は洗面台の水を集めて固形化し、声の発生源に向かって投擲すると目標地点に達する前にそれは掻き消された。

 

「おぃおぃ、ぃくらなんでもそんな赤子あぃてにするくれぇの雑魚ぇ攻撃てぃどで沈むとでも思ってんかよ!?」

 

「心外だ」

 

「質問してるのはこっちだ。勝手に人様のコミュニティに進入して屋敷を壊して……『塗りつぶす』よ?」

 

勝手に話を進める二人に健太はイラっと来たのか、その"異常"を振り撒く。

 

「おぉ!なぁるほど!そのぃじょうな感じ……それならあれを避けたのも納得だぁ!」

 

だが、片方の声は健太の言葉に圧されることなく騒ぎ続ける。

 

夜雷(やくさ)、俺達はここで遊びに来たわけじゃあないことを忘れるな」

 

「ィヒヒ!わぁってるよ貭魂(しちこん)!だけどこうも面白そうなヤツがぃるとさぁ……オレも滾るんだよなぁ!」

 

13という年月を経て、亡霊は再び現れた。

 

 












番外コラム

もしも竜胆くんを攻略するゲームがあったら。エンディングタイトル編(告白セリフ編とかあるとは言っていない)

十六夜ルート 最高の相棒

飛鳥ルート 小さな騎士(ナイト)

黒ウサギルート いつまでも一緒に

ジンルート 互いの信頼

タマモルート 純情狐

鈴蘭ルート おねーちゃんの幸せ

ペストルート 親愛なる恋人(とも)

耀ルート スノーホワイト

……会話とかは思いついたらで。はい。



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変わりゆく者たち

だんだんと夜雷のキャラが固まってきた……

登場した時に印象付けられたウザキャラと、キチキャラである!

ただ、もしかしたら健太くんのギフトの解釈が忙人さんと違う確率が結構、それなり……



「ィヒヒ!オラオラどうしたおにぃさん!?威勢良く『塗りつぶす』なんてぃった割にゃ逃げてばっかじゃねぇかぁオィ!」

 

「チッ……厄介だね、僕が一番苦手なタイプだ」

 

夜雷の拳と肘、肩が同時に襲い来る。そう形容すればいいのだろうか。彼の圧倒的な速度の攻撃を前に健太は回避を余儀なくされていた。

 

健太は"特定の存在"に対して絶大な相性の良さを誇るが、その対象は"異常な存在"。ワータイガーなどの"普通ではありえない存在"に対して強く働く一方でただの虎のような"現実にもありえる存在"に対してはその力は一切働かない。

 

こんな拳と肘と肩の攻撃が一度に飛んでくるような生命体が普通の生命体なわけがない。だが、事実として健太は何故か先ほど夜雷の攻撃の余波によって発生した真空波に対してダメージを負った。鞍馬天狗の力で無理矢理受け止めた攻撃にも、鞍馬天狗の力を使ったことによってその異常への耐性が低くなったとはいえ傷を負った。

 

健太を健太たらしめているものの多くは"平常運転"(ノーマルオペレーティング)の恩恵による実質的な不死性であるのだが、それを封じられれば鞍馬天狗の力とレールガンで戦うことになる。

 

が、"平常運転"が作用しない相手とは決まって"異常性"のない相手。鞍馬天狗どころかレールガンで事足りる。

 

だというのに、この夜雷はその一切が通用しない。レールガンの有用射程まで逃げようにも距離を詰められる。距離を[0]にするなんて論外だ。

 

(でもこれは参ったね……"平常運転"が作用しないってことは彼自身を[0]にするのが妥当だけど、それをさせてくれる隙はない。……いや、これが"一番かつ手っ取り早い"!)

 

「ィヒハ!ヒャフハ!ヒハハハハハ!!」

 

「黙ってた方がいいと思うけどね、夜雷クン……だっけか!?」

 

「ィヒヒヒハハ!!これが黙ってられるか塗り潰し屋さんよぉ!?ぃせいよく出てきたヤツをぃっぽう的に嬲り潰すなんてさ……オレ的にゃサィコーだぜ!?」

 

無邪気に邪気を振りまきながら高笑いする夜雷の姿は子供のそれとさしたる違いはなかった。その笑い声はまるで竜胆と似ていた。声も笑い方もなにもかも違うのに、健太には昔の竜胆の笑い方と彼の笑い方がそっくりに感じた。

 

「……そう、か。んじゃあ、忠告はしたぜ?」

 

「……あ?」

 

「"()()()"」

 

「あ……ん、ギィ!?」

 

健太がその言葉を発した瞬間、夜雷の肉体は文字通り潰れた。

 

「んだ……こりゃあ!?」

 

「夜雷……オマエの頭上に存在する()()とオマエの立つ地面の距離を[0]にした。つまり……その中間にいるオマエは惑星に押し潰されているのさ。あとついでにお前の潰れている場所の空気と惑星の赤道の距離も[0]にしてあるから、僕にその惑星が届くことはないぜ」

 

「キ……ィ、ヒヒハハ……お、もしれえ……おもしれぇよアンタ……前言はてっかぃするぜ……悪かった。アンタ強ぇ」

 

「喋らない方がいい。オマエは惑星に潰されている以上口を開けるのだって苦痛のはずだ」

 

「キ、ハハハ……優しぃじゃねぇか。だけど、なぁぁあああああッ!!!」

 

「んなっ……なんちゅームチャクチャな!?」

 

健太の言葉を聞いた直後、なんと夜雷はそこにあるはずの惑星を物理的に持ち上げた。

 

「キ、ィハハハハハハ!!!ィヒ!ヒャ!フハ!アヒヒヒヒ!!ィィイイイヤッハァァァアアアアアッ!!!」

 

夜雷は正真正銘、気を違えたような笑い声を挙げながら

そこにある惑星をオーバーヘッドキックでぶち壊した。

 

「んなアホな!?惑星を蹴り一発で粉微塵にしたぁ!?」

 

「ィヤッハァアア!!ぃくぜぃくぜぃくぜぇ!さぁあ〜あこっからが本番だ塗り潰し屋さん!」

 

「ッチ……これで"普通"とか頭おかしいだろ!バカも問題児も大概にしろってんだぁ!」

 

◆◇◆

 

「お前ら、こんなところで騒ぎ起こしてどうするつもりだ!?」

 

「言ったはずだ。遊びに来たわけではない」

 

「その『遊びに来たわけではない』の内容を俺は聞いている!」

 

竜胆は地面から鋼と木を呪術で掘り当て高速で切断、溶接して急造の日本刀を作り出し、貭魂へとそれを向ける。脅しではなく、返答次第では斬り捨てると言わんばかりに。

 

「……我々の目的は貴方だ、(回帰する者)

 

「∀……?どういうことだ。それに俺が目的ってどういうことだ!?」

 

「13年……我々、いや、長は13年もの年月をずっと貴方を探し続けていた」

 

「13年だと?」

 

「くく……それを貴方が知る由もない。黙って我々に攫われてもらおうかッ!」

 

「断る!ただでさえ女だ女だと言われてるのにこれ以上ピーチ姫してどうするかってんだ!」

 

貭魂は円を描くように腕を動かすと、腕が通り過ぎた場所から小さな球状のビットが12個現れる。

 

「"十二天帝牌大驚升"!!」

 

「どこの師匠だテメェはっ……!」

 

「破!」

 

竜胆のツッコミを他所に貭魂はビットを射出する。そのビットからは幾数ものロケット弾が飛び交って来る。

 

竜胆はそれに対して刀の他に長柄の槍を作り出し、ロケット弾を切り裂いて爆風を呪術で真空波を発生させて熱の影響を排除するが、その爆風に紛れて貭魂は竜胆に肉薄する。

 

「っ速いっ!」

 

「征、破!」

 

「っが!」

 

貭魂はそのまま震脚、靠撃(こうげき)……肩による攻撃で竜胆の防御を崩し、そのまま肘撃で吹っ飛ばす。

 

「ち、中国拳法っ……!」

 

「それだけでは、ない!」

 

宙に打ち上げられた竜胆に手早いステップで距離を詰めると、竜胆の顔面に左を叩き込み、腹部にボディブローを決め、竜胆の顔面を掴んで飛び膝蹴りを放つ。

 

「ぐぁあ!?」

 

「呼、応おおおお!」

 

「っムエタイ……いや、キックボクシングまでか!?」

 

武器の使用と呪術による支援を主とする竜胆とは最悪の相性だ。武器はその特性上槍のように超クロスレンジでは意味を成さない武器もあるし、剣のように超至近距離で戦うにはその長さがデッドウェイトとなり満足に振るえないものも多い。

 

武器を入れ替えるにしてもこの距離では構築する間も与えられない。

 

これで仮に至近距離用の武器に変えたところで貭魂はまた飛び道具なりを使ってその武器が機能しない、かつ呪術を使う間も与えられないミドルレンジでの戦闘へとシフトするだろう。

 

全方位に対応できるが故に竜胆はその切り替えの主導権を相手に握らせてしまった時の戦いは相手にかなり分がある。そもそも竜胆は全てに対応できるが故、一つに特化した敵への戦いを嫌う。

 

元々速さに思考を割いて守りを疎かにしがちな竜胆にとって貭魂の中国拳法のような一撃必殺を念頭に置くモノはかなり相性が悪い。

 

健太も竜胆も、分の悪い勝負。

 

「せぁ、ハッ!」

 

貭魂の全体重を乗せた一撃が竜胆に向かう。竜胆はそれを紙一重で躱すと、膝蹴りをお返しとばかりに側頭部に浴びせるが、それでも貭魂が止まる様子はない。

 

「ぬぅん!」

 

「どぉららら!!」

 

貭魂の正拳突きに対して竜胆は右腕を龍のものへと変質させて殴りあう。遺伝子を部分的に引っ張るなんて行為はありうるかもしれない"暴走"を引き起こす可能性があるので避けたかったが、彼には文句もなにも言っていられない。

 

竜胆も、"暴走"の危険性を省みてでもこの能力の全てを引っ張る覚悟を決めた。

 

「"タイタン"!」

 

竜胆の両足をタイタンのものへと変質させ、貭魂の足場に地殻変動を発生させ、強引に貭魂の攻撃を躱す。

 

「っ!」

 

「"イフリート"!」

 

次いで竜胆は龍の腕をイフリートのものへと変質、逃げ場を失った貭魂へ灼熱の拳を叩き込む。

 

「させん!」

 

貭魂はそれを震脚で地面を畳返しして防ぐ。防げたのはほんの数瞬時だったが、その数瞬は絶大なアドバンテージを貭魂に与える。

 

「せぁあ!」

 

「それにゃもう、喰らわねえんだよ!」

 

竜胆はその行動が来ると『予測』して既にダガーを生成していた。貭魂の攻撃をダガーで闇討ちの意味合いも込めて迎撃すると即座に竜胆はダガーを貭魂に向けて投げつけ、貭魂の側頭部に右のハイキックを喰らわす。

 

「ぬぅっ!?」

 

「おぉおらよぉ!」

 

竜胆は貭魂の側頭部を軸にさらなる捻りを加え、左脚の踵を浴びせてまた新たな刀を生成、踵蹴りの勢いを更に加えた斬撃を繰り出す。

 

「なんという身体の安定感ッ……鍛えていない人間にはどんな超人にもこれほどの動きは繊細すぎてできん!」

 

「身体の安定感なら歌舞伎で十年前から鍛えてるんだよ!」

 

「ぬぅっ……覇ッ!」

 

竜胆がまるでくっついたかのように貭魂の身体に攻撃を浴びせ続けているため、耐えきれなくなった貭魂はとうとう震脚の風圧で竜胆を追い払った。

 

当然、体重が軽い竜胆は踏ん張る地点もないため簡単に吹き飛ばされる。

 

「くそっタレ……!図体だけじゃねぇ、(つよ)く、堅い。それに頭もキレやがる」

 

「………」

 

竜胆の舌打ちに対して貭魂は腰を落とすカタチで応える。それはいつでもいける、という意思の表れ……

 

「上等。だったら俺も───」

 

それに対して竜胆も腰を落とし───

 

「うわぁぁあああああ!?」

 

「───ってなぉああああ!?」

 

ドンガラガッシャン。そんな愉快な擬音とともに崖から健太が降ってきた。

 

「っつつ……こんなところに衝撃を緩和するなにかがあって助かった……下手したら死んでたカモ……!?」

 

「……ぁ、ぁぁぁぁぁ…………………」

 

「………」

 

「ィヒヒヒハハ!!コィツぁ傑作じゃねぇかオィ!塗り潰し屋さんよォ!お前ラッキースケベってヤツだ!ヒハハ!!」

 

これはもう健太のラッキースケベではない、竜胆が生まれ持った圧倒的な不運だ。

 

……もう、察しはつくだろう。健太は崖から落ちてそのままダイレクトに竜胆に覆い被さったのだ。しかも健太の顔面は華麗に竜胆の男らしからぬ巨乳にうずめられ、視点によってはこれ絶対な状況。

 

まぁ、竜胆は当然。

 

「は、はは離れろおお!?」

 

「ゴメンゴメンゴメンゴメンゴメンゴメンゴメンあじゃぱぁー!?」

 

羞恥心のまま腕を魔物の腕へと変質させて健太を殴り飛ばした。それでも竜胆が腕をを変質させて"異常な生命体の腕"になったことで健太は傷一つ負わなかったのだが。

 

また、その時一瞬竜胆のギフトカードに"不幸体質(逆セクハラ)"という文字が映った気がしたが幸い?誰も見ていなかった。

 

「ィヒヒ!あぁ〜あ面白ェモン見せてもらったぜ両人様よォ!だけど、スゥィーツな時間ははぃ!しゅ〜りょ〜ってぇワケだ!ィハハハ!」

 

「誰がスウィーツだぶち飛ばすぞテメェ!」

 

「……だが貴方が攫われる立場にあるのは事実。大人しく攫われて頂く」

 

「お断りだって言ったろうが!オラ健太、この報復は後回しにしてまずはアイツらをぶっ潰す!手伝え、塗り潰し屋さんなんだろ?」

 

「ほんっとゴメン……まぁアイツらを塗り潰すのは賛成だ。塗り潰し屋さんってのはアイツが勝手につけたんだけどねぇ」

 

 




竜胆くんの不幸体質日記
健太に胸に向かってルパンダイブされた(故意ではない)

竜胆くんの不幸体質をもってすれば愛が重い彼女持ちのリア充もこの通りよ……ふはは、健太くん、コラボが終わったあとそっちの耀さんに絞られるがいいさ……

なんていったって見方によれば「健太が知り合いの可愛い子にルパンダイブした」って見えるからな!いやそれ以外にどう見ろと。


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変わらない彼ら

ってなわけで『異常な普通も異世界から来るそうですよ?』コラボも今回が最終回です!忙人K.Hさんありがとうございました!

それでは、バトルありサービスシーン(主に竜胆くんの行為)あり、お笑いありの最終回、どうぞ!



剣が重なる音と、大地を抉る一撃が二つと形容し難い音。

 

四つの音はそれぞれ不定期に重なり合う音を変え、絶えることなく鳴り続ける。

 

「っだー!オカシイよこれ!なんでさっきからここまで派手に音鳴ってるのに人っ子一人来やしないんだ!?」

 

「まったくだ!聴覚のいい耀やお前の眷属のロキ辺りは気づいてもいいはずだろ!?」

 

「ィハハハ!!無駄無駄無駄無駄無駄ァ!オレ達がぃるこの空間はぃまオレのギフト"虚無空間"(ヴァニティー・フィールド)で実質的に"誰もぃなぃ空間"になってる!まぁ、誰もぃなぃクセにわくせぃがあったなぁ予想がぃだったがなぁ!」

 

「そういう事だ。ここは我々四人以外何者も存在しない世界……数を呼ばれると厄介なのでな。そしてこれがッ!」

 

その言葉を引き金に貭魂は自らの左腕を引き千切った。そして次の瞬間、彼の腕から溢れ出る血が、左腕だった部分から大鎌のようなカタチをしたものに変わるように生えて来た。

 

「私のギフト、魂魄の怒り(バイオレイジ)……ハッ!」

 

貭魂が右腕を振るうと、鎌のカタチになり損ねた彼の血が全て小さなダガーのカタチを形成し、健太と竜胆に向けて飛んで来た。

 

「っ!」

 

「血液がもう凝固してるのか!?」

 

「ただの血じゃダメージの無効化はできないっ……どうする!?アレを使うしかないのか……気が引けるけど……」

 

この血そのものに対して"平常運転"が働かないことを悟った健太は自然と身体の急所をガードしていた。そしてそれをなんとなく理解した竜胆は健太を守るように彼の前に立つ。

 

「……健太」

 

健太が使うもの、"半身半念"……それはありとあらゆるものを[0]にする文字通り何でもアリな荒業。

 

その気になれば健太は竜胆が僅かな時間を稼いでくれれば貭魂と夜雷を一瞬で文字通り消すこともできる。そんな異常な技だからこそ、本気でキレていない今の健太はそれを切るのに少しの躊躇いがあった。

 

それを察したのだろうか、竜胆は声のトーンを少し上げて健太に話しかける。

 

「お前はいいヤツだな」

 

「は、はぁ?いきなり何言ってんのさ」

 

「正直な感想さ。今こうしてアイツらを消し去る策があるのにお前はそれを使うことを躊躇っている。それだけさ」

 

「……冗談。僕はあんまりそれ自体使いたくないだけだよ。やろうと思えばさっさとできる」

 

「……それはお前にやらせたくないな。人を[0]にしたことはあっても人を殺したことはないだろ?それは俺の役目だ」

 

「そう言うなら、キミも相当なお人好しだけどね……!」

 

竜胆はダガーを全て一身に受ける。健太を庇うように、まるでそれが役割とでも言うかのように。

 

「テメェらもテメェらだ……いつまでも俺が耐えっぱなしだと思うなよ!」

 

竜胆はその一言をトリガーに"太陽神の神格"を発動させる。血液はその高温によって液体に戻り、気化する。

 

そして竜胆は炎のブースターを吹かせ、貭魂に接近。ハンドアックスを手に持ち貭魂の脳を砕くように斧を振るう。

 

「クタバレクソッタレがぁあああ!!」

 

「くたばるかよぉ!ィヒャビャピャ!!」

 

だが夜雷が貭魂を庇うように前に出て竜胆の一刀を簡単に弾き飛ばす。しかし健太はそのタイミングを見計らったかのように弾かれたことで体勢を崩した竜胆の間を縫い、かつ夜雷に直撃するようなコースに向けて電磁加速砲(レールガン)を発砲する。

 

そしてそれは今度は貭魂の"魂魄の怒り"によって再び散らした自らの血を傘状にして電磁加速砲から夜雷を守る。

 

「キヒャヒャヒャヒャヒャ!!アヒハハヘフハヒヒヒヒ!!!」

 

そしてその血の傘の中から飛び出してきた夜雷が体勢を崩した竜胆に向けて強襲してくる。

 

「させない!竜胆クンと僕の距離を[0]に!」

 

それに対して健太は竜胆と自らの距離の概念を[0]にしたかと思うと、なにもない空間を掴む。

 

「うわわわ!?」

 

すると竜胆の身体はすぐそばにいないはずの健太の手に引っ張られて夜雷の攻撃を回避させられる。

 

「ゴメン!あの夜雷が明らかに異常なのに"平常運転"を無効化した以上はキミとアイツの距離を[0]にして攻撃を届かなくさせても意味がない可能性を考慮したから……!」

 

「気にしない!それより目の前のコイツらを片付けてからだ!」

 

竜胆は背中の炎を纏めて夜雷に向けて撒き散らす。やはりそれは貭魂の血の傘で防がれたが、それは一瞬だけのことですぐに液状化、気化を起こす。

 

「てぇりゃああ!」

 

更に竜胆はそれに続くように手斧を夜雷に向けてぶん投げる。だが、それも単発ではなく、投げてはまた新しいものを生成しては投げる、武器を選ばない竜胆だからこそこの戦い方が可能だ。力が足りないのならば物量で。

 

「ィハハハ!斧がメチャクチャ飛んでクラァ!貭魂これおもしれェや!」

 

「遊ぶのも程々にしろ。∀を連れ帰ることがEの望みだ」

 

「キャカカ!!そーだったなそーだったよ!なんてったってあのEの頼み事だかんなぁ!オレ達ゃそれに従うだけだよなぁ!」

 

「さっきから訳のわかんねえ話ばっかしやがって……わかるように説明しろってんだ!」

 

「まったくだっての!わからないことをわからないままにするのは好きじゃないんだよこちとら!」

 

「理解してもらう必要はない!」

 

「だとさカップル様!大人しくカノジョが攫われるとこを歯噛みしながら見てなってんだぁ!」

 

「誰がカップルだ!誰と、誰が!?あと誰がカノジョだ!言え!答えてみろ夜雷!」

 

「ィハハハ!!ぃうと思う〜?残念!ぃぃませ〜ん!」

 

「ドチクショー!あのクソムカつくウザい顔おおおおおお!!」

 

「まぁ、ぃわなくてもわかるんだろうけどなぁ!」

 

「あの態度マジ腹立つぅううう!」

 

竜胆が半ば感情に振り回されるように斧を投げまくる。そんな行為を続けたせいか、その行動はどんどんと単調になって行き、あっという間に夜雷は斧を弾きながら炎の中を前進して来た。

 

「ィヒャ!クタバレ!」

 

「くたばるのぁテメェの方だッ!」

 

夜雷の拳に対してバカデカいハンマーを創り出してぶつける。拳とハンマーという誰がどう見ても優劣のわかるはずの二つの力は何故か、拳が次第にハンマーを押していた。

 

「ふぐぐぐぐぐ…………!!」

 

「ィギギギギギギ!!」

 

二つの力が混じり合い、夜雷という身体を基点にして地面が割れる。二人の踏み込みと加えられているパワーの桁違いさを如実に表しているが、二人はそんな状況でも構わず力を振るい続ける。

 

「竜胆クン横だ!」

 

「隙あり!」

 

「グガッ……!?」

 

「ギャヒ……!?」

 

そんな鍔迫り合いの状況にあり、互いに身動きが取れない状況だったからか、互いのパートナーは二人の身体を電磁加速砲で、固まった血の槍で撃ち貫かれる。夜雷は強烈な電流によって、竜胆は地面ごと縫う槍によって身じろぎ一つできなくなるが、夜雷はすぐに身体の電気を弾き出し、竜胆は健太が血液の温度を[0]にすることで束縛から解放される。

 

「ケフッ……どーする健太。このままじゃどこまでいってもどんぐりの背比べだ。身体能力が一般人のお前がいるコッチの方が長期戦になると不利だぞ」

 

「いやいやまさか……確かに僕は"普通"だけど、"模倣演者"(フェイクパフォーマー)、ついでに策士でもあるんだぜ?」

 

「策があるってのか?どんなのだよ」

 

「ふふふ……それは……」

 

「……なぁるほど。それは妙案じゃねぇの。乗ったよ!六文銭掛けてやる!」

 

「なんだそれ!?僕を信じてないってのかな?」

 

「なわけないだろ。生き地獄を体験した御狐様のジョークだよ。三途の川なんて今はもう渡りたくもない……んじゃ、ちょっくら仕事しようか!」

 

竜胆が神格を消し、右手に呪符を持ち直す。

 

「凍れ!」

 

竜胆の号令一つで夜雷と貭魂の周囲は一瞬で氷漬けになった。

 

「ぬっ!?」

 

「アァア!?ぃまさらせけェマネしてんじゃねぇよ!!」

 

夜雷がその氷を見て躊躇なく拳を振り下ろす。

 

「まて夜雷!この氷、なにか───」

 

貭魂が夜雷を止めるも叶わず、夜雷の腕は氷をを粉微塵に砕き、破片を浮かび上がらせた。

 

「引っかかってくれて、ありがとうよ!俺からのファンサービスだ!受け取れ!」

 

竜胆は次の呪符で二人に向かって───正確には夜雷が撒き散らした氷を狙って大量の水流を流す。ただしそれは水流と呼ぶにはあまりに貧弱な、低圧水流。

 

だがそれこそが竜胆の、ひいては健太の狙い。その水流に触れた氷達は、一斉に煙を噴き出した。

 

「やられた……!これはドライアイスか!?」

 

「関係ねぇ!この煙とドラィアィスの温度じゃ、匂ぃだって頼りにならねえ!」

 

「それは、どうかな?」

 

その一言と共に竜胆は煙の中から正確に夜雷を狙って手斧を振るう。

 

「んだと!?」

 

「イルカの力を使わせてもらったんだ!ソナー音使ってな!」

 

「超音波で我々の位置を正確に把握した、ということか……!」

 

「Exactly(その通りでございます)」

 

急に英語でその通り、と答える竜胆。間違いなくノリだ。

 

「そして俺が高速で突っ走ったってことはドライアイスの煙の中から一点だけ煙が晴れるルートがあるってわけで……!」

 

「いい仕事するよ竜胆くん!」

 

健太の手に握られた電磁加速砲が出力を上げて発射される。その反動で地面に軽く足が沈み、その力強さを表している。

 

「"魂魄の怒り"……!」

 

貭魂が電気を血液の水に閉じ込めようと球状の血液を液体化して操る。が、血液と電気が触れ合う直前、ほぼ直角に弾丸が曲がり、そのまま貭魂に直撃する。

 

「なんっ……だと……!?」

 

「今撃ったのは専用弾の一種さ。さっきまでのが実際に電気を発射する弾丸で、今のは……磁力を帯びた弾丸。発射すれば血の主成分である鉄にも反応するほどの磁力を持っているから、その防御法は通用しないぜ?」

 

その言葉が出てきながら健太は内心冷や汗をバリバリかいていた。あの変態ども(シューターズギルドの方々)はなんて多種多様で用途がピンポイントすぎる弾丸を作ってくれたんだ、と。

 

「ちぃっ……!」

 

「おちつけ夜雷。ドライアイスの煙のせいで多少動揺はしたが、基本的な対処法は何一つ変わっていない」

 

「ケヒッ……頼もしぃよなぁ頼もしぃぜあぃぼう!テメェのおかげでオレァ思ぃっきり暴れられるってもんだぜぇ!!」

 

夜雷は喜びの叫びを挙げながら再び竜胆に向かって突っ込んで行く。が、夜雷の前に立ちはだかったのは、健太。

 

予想外の出来事に思わず夜雷は竜胆に向けて走っていた身体のバランスを健太に向けたせいで崩す。だが夜雷にはそんな状況でも健太の五臓六腑を引き裂く自身があった、

 

が、次の瞬間こそ本当に夜雷と貭魂は驚愕した。健太は己の右腕を"龍"のものへと変質させていたのだから。

 

「んなっ!?塗り潰し屋さん、テメェただの人っコロだろ!?」

 

「まさか!?ありえない!ただの人間が部位変質だと!?」

 

「マニュアル通りにやってますっていうのは、阿呆の言うことだぁぁぁぁああああああああああ!!!」

 

それもそのはず、彼は健太ではない。呪術で顔も体型も変えて健太の演技をした"竜胆"なのだから。

 

竜胆の拳が夜雷を殴り飛ばし、貭魂の驚愕の隙をついて急速接近、夜雷のところに投げ飛ばす。

 

「ってこたぁつまり、あの∀の方は……!?」

 

『「その通りさ。"模倣演者"と"写し身作りの仮面"(アバターメイカー)で竜胆"クン"の姿から体型、声帯、仕草その他諸々を模倣した"景山 健太"だよ!」』

 

そう言うと健太は夜雷と貭魂と自分の距離を[0]にし、吹っ飛ばされる二人をそこにいると見立てて掴み、殴る。

 

「喰らえっ!男女平等パンチ!」

 

「ガッ!?」

 

「ぬぁあ!?」

 

「れんぞくパンチ!」

 

「あだだだだだ!?」

 

「鬱陶しい……!」

 

「とどめの……きあいパンチィ!」

 

「「がふぁッ!」」

 

ギャグに見えるが真剣に、竜胆の姿をした健太はいつもの彼よりはるかに力強くなっている拳を容赦なく叩き込む。男女平等なのかはともかくとして。

 

「ケヒッ……ハ、ィハ……あぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!塗り潰し屋さん!ヤッパテメェはブッコロ対象第一位に昇格だクソッタレ!ぜってぇぶっ殺す!泣き喚いてもこれまでのこと全部懺悔してもぉ!テメェだけはぜってぇぶっ殺してやるからなぁ!カヒヒヒヒヒャ!シャガガガガ!!ケハフフフフフ!!!」

 

夜雷は最早言葉のイントネーションがはっきりと聞こえるほどに高笑いしていた。喜び、怒り……それがなんなのかは本人以外には計りかねないほど異質なものだった。が、

 

「……いや、時間切れだ夜雷。Eから撤退命令が来ている」

 

「ア゛ァ゛!?今更撤退だぁ!?冗談言うなよE!オレは目の前のコイツをぶっ殺したくてぶっ殺したくて仕方ねぇんだ!いくらテメェの命令でも従えねぇ!!」

 

夜雷が辺りを怒鳴り散らすように叫んでいると、不意に貭魂は夜雷の腹部に腹パンをかまして黙らせた。

 

「いい加減にしろ……それ以上はEの意思に反する」

 

貭魂はそれだけ言うと、夜雷が気絶したことで解除された"虚無空間"からまた別の次元の穴のようなものを作り出す。

 

「待て!逃げる気か!?」

 

「……∀。Eは追いたくば追えと言っている。Eと我々のことを知りたくば、この先を通ることだな」

 

「その前にテメェらをとっちめてそこの尋問マスターに尋問してもらうだけだ!」

 

「ねえそれ酷くない!?僕の扱い尋問マスターってナニソレ!?」

 

竜胆が追いかけるより早く、貭魂は次元の穴を通る、その刹那───

 

「っ!?」

 

炎の熱線が貭魂を遮った。その熱線の発生源には、機械的な杖の水晶部分を貭魂に向けていた、鈴蘭。

 

「お姉!?なんでここに!?」

 

「実は最初っからいたりして!」

 

「だったらさっさと出てこい!」

 

「いやぁ、ヒーローは遅れてやってくるもんだと思ってたのにさぁ、リンもケンタンもぜぇんぜんピンチなんないもん。おねーちゃん今回見せ場ナシかと思った!」

 

「ふ・ざ・け・る・なぁぁぁぁあ……!その面ぶん殴ってやる!!」

 

「へっへーんだ!私見せ場あったもんねー!殴られるのお門違いだもんねー!」

 

「そーいう次元じゃない!いたんなら最初っから加勢しろっていう意味だぁ!」

 

「……ねぇ、二人とも」

 

「「ん?」」

 

「あの二人……逃げてったよ」

 

「「………」」

 

「………」

 

「アホ姉えええええええ!!!」

 

「ぬわーーっっ!!」

 

竜胆が怒りのあまり一瞬で鈴蘭のいる高度まで上昇してムーンサルトキック、昇竜拳と繋げて錐揉みしながら打ち上げられる鈴蘭の足を掴んで足を上側、頭を下側にする。

 

「ちょ、リンまっ、それはいくらおねーちゃんが死なない幽霊とはいえ───」

 

「くたばれえええええええ!!」

 

ある意味、貭魂達に向けてた時よりも明確な殺意を込めながら竜胆は鈴蘭の首と顎の辺りに両足を固定し、強引に大回転仕出す。

 

落ちていく時の流れによって重力加速度と回転でドンドンと加えられていくなにか恐ろしいもの。その速度はドンドンと加速して行き次第に健太にはキレた影響か、目元が真っ暗になり左目だけが赤く光ってる竜胆の顔が残像を残したように沢山見えて……それは地面についた瞬間、カタチを成した。

 

「どおおおおおおおおおおおらああああああああああ!!!」

 

「さっぷるげぴこぶらばぁら!?」

 

……そう。パイルドライバーが炸裂した。しかもただでさえ高い木の上より高い場所に鈴蘭がいたのに竜胆のムーンサルトキック、昇竜拳のコンボで更に高度を叩き出される始末。

 

まぁ、竜胆もこんなことしても幽霊の鈴蘭は物理的に死ぬことはないとわかってやっているのだが。

 

「……ふう」

 

「いってー!チョーいてー!ねーねーケンタン私タンコブできてない!?髪の毛禿げてない!?ただでさえ生え変わった髪だから心配なのに!」

 

「ああ……うん。問題ないよ」

 

「おーよかった!」

 

「よくねえ!」

 

鈴蘭はまるで滑って転んだ後のように後頭部を摩りながら起き上がる。朱色の髪を摩りながら"橄欖石"色の目から涙を浮かべている彼女は黙っていりゃ間違いなくそういう層の目を引く美ロリ……だが黙ったら死ぬのが彼女なので美ロリにもなれないというのが悲しい事実。

 

「ったく……んじゃ、追うとするか……おらお姉、アイツら逃した責任としてついてきてもらうからな」

 

「いやそれ格闘コンからスクリューパイルドライバーキメてたリンにも責任が」

 

「ついてきてもらう」

 

「……ぶー」

 

竜胆は鈴蘭の身体を小脇に抱えながら貭魂が作った次元の穴に向かって歩いて行く。次元の穴の目の前まで行くと、竜胆はふと足を止めて健太の方に振り返った。

 

「健太、急に押し掛けてドタバタして……挙句俺個人に用があるヤツらへの対処も手伝ってくれてありがとな」

 

「どーってことないって。僕ら血は繋がってなくても、あの戦いの頃から家族だろ?」

 

「そうだったな。まあ、世話になった。また会った時は今度は俺がお前を招待するよ。コイツは返す」

 

竜胆は思い出したように健太に電磁加速砲とその弾丸を投げ渡す。健太はそれを受け取って竜胆の方に向き直る。

 

「じゃ、そろそろ俺らは行く───」

 

「ばいばーいケンタン!ケンタンさっきリン押し倒してたけどリンのお婿さんはいつでも募集だからその気になったらいつでもおねーちゃんに言ってね!」

 

「「ぶふぉ!?」」

 

行こう、としたら鈴蘭が急にとんでもない発言をした。これには思わず二人も盛大に吹き出す。

 

最初っからいたとは言っていたが、まさかそれについて言及されるとは二人とも微塵も思っていなかったのだろう。

 

「……ケ☆ン☆ターー…………」

 

その声が聞こえた瞬間、健太の顔はこの世の終わりのような顔をしていた。バカな、何故彼女がここに、何故こんな時間に起きている、何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故!?

 

ガタガタと、恐怖心がそのまま表れたように震えながら、ギギギギと、ブリキのような音を立てながら、健太は霊波紋に取り憑かれた漫画家のように振り返る。

 

そして、その恐怖心は確信へと変わる。

 

「…………………や、やややややややぁ、か、かかす、かすすす、かすか、春日部サン……な、なんでこんな時間に、こんな場所にいるの、カナ?」

 

思わず苗字で呼んでしまうほどの圧倒的恐怖感。そのわかりやすいオーラは竜胆を一瞬涙目にするほどのもので、隣の元凶のアホ姉はなにが起こっているのやらという表情をする始末。

 

「……竜胆、今の話、本当……?」

 

いきなり話を振られてビクゥ!となる竜胆。豆腐メンタルな上に精神年齢が十三歳の彼からすれば悪夢以外のなにものでもない。

 

だが、そんな十三歳の精神年齢がいちばんやっちゃいけない悪戯心を解放してしまう。なんとか自分の"罪"を軽くしようと、なんとしてでもこのリア充を爆発させようと。

 

竜胆は自らの歌舞伎役者としての経験をさっきの健太の変装以上に発揮させ、艶やかで蠱惑的で涙を浮かべた表情を作る。確実に健太を殺して自分の無罪を証明するべく、竜胆は自分の男のプライドをかなぐり捨てた。

 

「ぅっ……本当だよ……健太が急に押し倒してきて、すごい怖い顔してた……グス」

 

「ちょっとおおおおおお!?」

 

「……そっか。じゃあ竜胆達はもう行って。これ以上は見せられないから……これからは大人の空間」

 

大人の空間というのは暴力的な意味なのか、砂糖盛大コースなのかは分からないが取り敢えず自分は許されたという事実を竜胆は頂戴した。よし、これで心置きなく自分は自分でアホ姉を折檻できる。そう思いながら。

 

「じゃあ……バイバイ」

 

竜胆はもうこれ以上健太の世界の耀の発する異常ななにかにあてられたくないと感じてさっさと次元の穴を通って行った。

 

◆◇◆

 

「……ところでお姉。なんで起きてたの?俺がお姉蹴り飛ばした時思いっきり寝てたよね?」

 

「リンー、いくら私とはいえ蹴り飛ばされてベッドに顔面から落ちて起きないほど寝坊助さんじゃないんでござるよー?」

 

「それ伏線だったの!?」

 

 




これで今回のコラボ、終了です!重ね重ねですが、忙人さんありがとうございました!

何気に竜胆くんの歌舞伎役者設定が一番使われた回だったので僕としても大満足です!


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異なるモノ



今回はコラボ編の13年の亡霊編を進めていきます!

今回のコラボの御相手は……江宮 香さんの『一番の問題児の性別がひっくり返ってるみたいです』とのコラボです!

それでは、はじまりはじまり〜!




「ほいっと」

 

 

 

「っ……二つ目の世界か。ここはどの世界なんだか……」

 

別の世界からその場に現れたことを示す異次元の穴から竜胆と鈴蘭は姿を現わす。

 

この旅は竜胆が好きな仮面のヒーローみたいにその世界についたら◯◯の世界とわかるわけでもないとわかっていたため、やっぱりかというような表情を作る。

 

「お姉、ここがどこかわからない以上は前の世界で貰った食料ぱっぱと食わないように───」

 

「塩が効いてて美味いですなぁ」

 

「ふ・ざ・け・る・なぁぁあああ……………!!」

 

言う前に既に全て食い尽くされていた。わかっていたが、いくらなんでも超フリーダムすぎる。舐めてんのかこの阿呆は、と竜胆は怒りよりも呆れを浮かべていた。

 

そして勢いそのまま弟そっくりに伸びる頬をグイングイン伸ばす。

 

「ひふぁひふぉひふ!ふぉふぇーふぁふふぉふぁふぁふぉふぉーふぁふぉふぉふぁふぉひふ!」

 

「なーにが『痛いよリン!おねーちゃんのタマのよーな頬が伸びる!』だ!お姉が持ってんのは球の肌じゃなくてバカの頭だろーがァッ!」

 

竜胆は開幕からツッコミ全開で鈴蘭を折檻する。長年の付き合いが彼を『この阿呆を相手にするには口出しても曲解するだけだから言うだけ無駄』と理解しているが故の行動である。

 

「だいたいここがどこかもわかんないのに一瞬で数少ない食料を食い尽くす阿呆がどこにいるってんだよ!?」

 

「あいむひぁー!」

 

「開き直るなアホお姉!」

 

「うごごごごご!!」

 

そんな姉弟コントを続けていると、主にツッコミ側の竜胆の体力はマッハで消費され、すぐに竜胆はツッコむ気力を無くす。

 

「……この際これは事故だ。不本意だけどこっちの"ノーネーム"か"ウィル・オ・ウィスプ"を探そう……夜雷と貭魂を探す前に死んだらシャレになんないからな……」

 

「さんせー!せんせーバナナはおやつですかー?」

 

「さっき全部食ったのにバナナがあるわけねぇだろ!」

 

どう見ても遠足気分。異世界のことは異世界を行き来した母や竜胆と同じ時を過ごした上に竜胆よりも三年間長く箱庭に住んでいるから鈴蘭自身よ〜くわかっているはずだが、どうにも緊張感がない。

 

「ってか、なんで俺は異世界に来るたびに死にそうになるんだよ……」

 

最初の世界の毒漬けやその前に訪れた時の二週間飲まず食わずよりは現状はるかにマシだが、どうしてもこのアホ姉がいるだけで疲れがマンモス溜まる。しかし異世界に来た途端死にかけた最初の世界や姉のいなかったその前の世界と比べると果たして苦痛はこっちの方がマシなのかどうかは正直すぐにはうんと言えない。

 

「誰でもいいから来てくれぇ……黒ウサギー、飛鳥ー、耀ー……十六夜……」

 

最後に十六夜が出たのは一重に彼への信頼だろう。自分を彼女と共に"孤独の罪"から救ってくれた他でもない彼は自ずと竜胆の中でも信頼度が高くなっているのだ。

 

「……オイ、今俺の名前を呼んだか?」

 

「え……?」

 

不定形の森の中から聞こえたのはハスキーより高めの声。クールさを醸し出すが、どこか聞き覚えのある声と似ている……この声は。

 

「……誰だ?お前」

 

「いや、お前が呼んだんだろ。十六夜って」

 

「……十六夜?」

 

十六夜と名乗ったその人物は、正直竜胆にとって違和感しか感じなかった。ツンツンの金髪に学ランっぽい服。そこまではいい。だが、この人物にはある違和感があった。

 

超展開で有名なあのアニメの主人公ばりの聴力を獣の力で発現させた竜胆は人物の声───その奥に耳を澄ませる。そうか、頭の中に爆弾……あるわけなかった。

 

「おい、どーした。お前、見ない顔だがウチの誰かの知り合いか?」

 

───これだ。竜胆は違和感の正体を理解した。

 

首だ。違和感の出どころを理解した竜胆は次に目で十六夜の首を見る。

 

これにも違和感。いやまぁ、耳を澄ませた時からわかっていたが……この十六夜、喉仏がない。

 

竜胆が感じた違和感は『喉仏が震えてないこと』だと理解した。

 

おいおいマジかよ冗談キツい……と思いながらも、箱庭に来る前から家族ぐるみで異世界に関わってきたのだから驚きこそすれ混乱はしない……だが、認めたくない。十六夜がまさか、()()()()になるなんて予想できなかった。

 

故に竜胆、これからエキセントリックな行為に励みます。

 

むくりと、竜胆はさっきまでの疲れが嘘のように立ち上がって十六夜の側まで来る。哀しいかな、並び立ったせいで身長差が露骨に出ている。

 

「っ………(なんだコイツ……なんか底知れないモノを感じるぞ……)」

 

対する十六夜も竜胆纏うそれに気づいたのか、思わず身構える。そして竜胆が動き出す───

 

「ふんっ」

 

「ふぁあ!?」

 

竜胆は遠慮も恥もなにもなく、十六夜の股間にタッチした。そして思わず悲鳴を挙げてしまう十六夜。そして股間の感触。

 

「…………………………………………気の所為だったら、よかったのになぁ」

 

竜胆はグダッと項垂れる。とすると恥行に驚いた十六夜は思わず竜胆を締め上げる。

 

「て、テメェどういうつもりで当人の許可もなしに女の大事な部分に触れてくれやがった!?」

 

あっ、と竜胆は自分の憶測が正しいことを悟った。

 

知っているのと比べて気持ち高い声、見当たらないし聴き当たらない喉仏、それになにより本人の発言内容。

 

……間違いない。コイツ……いや、()()、逆廻 十六夜は───────女であった。

 

◆◇◆

 

「以上、俺がここに来た経緯だ」

 

それから十六夜にぶん殴られてなんだかんだと弁明。『違う箱庭から来た』と言った瞬間に竜胆の行為の真意を理解した辺り、どうも彼女も他の歴史を歩んだ箱庭から来た人間と面識があるらしい。

 

無論、納得したということは即ち他の箱庭で会ったヤツらは軒並み逆廻 十六夜が男である世界の人間なのだろう。

 

「事情はよくわかった……けど、悪いがこっちの"ノーネーム"は今色々忙しくてな。居候二人抱えていいのかどうか……」

 

「いや、気にしないでくれ。寝床に関してはどうせこのアホ姉は一緒に寝ろ一緒に寝ろと煩いだろうから一つで構わないし、流石に一食もらうほど迷惑になるつもりもない。一日だけでも寝床を貸してくれれば自炊なりなんなりするさ」

 

十六夜の申し訳なさそうな言葉に竜胆はとんでもない、と両手を挙げて首を振る。そもそもこうして他の歴史の箱庭に勝手に上がり込むという暴挙自体を竜胆はあまり良しとしない。本来その世界が歩むべき歴史を歪めてしまわないように注意し、その物語を本来の世界やそこから派生する異世界を形成する"中心人物"との触れ合いはなるべく避けたいのだ。

 

まぁ、もう既に知り合って触れ合ってしまっているのだが。

 

「……けど意外だな。俺の知ってる十六夜はそんなしおらしくないからな。なんか新鮮だよ」

 

「俺だって女だ。男とは根本から違うし、それを言うならお前だって()()()()()()()()()男言葉じゃねぇか」

 

「………」

 

言われてしまった。初対面である以上覚悟はしていたが、やっぱり言われた。

 

案の定凹んだ竜胆はぷるぷると震えながら十六夜の肩を掴む。

 

「十六夜ぃぃぃ……」

 

「な、なんだよそんなゾンビみたいな顔して……」

 

「俺はぁ……お、男なんだぁ……!」

 

「は、はぁ!?そんな女みてぇな顔と体型して男!?胸まであるのに下手な冗談言うなよ」

 

「胸に関してはそういう実在する病気だ!顔だって六年前と比べて断然男っぽくなってるし背丈もこの前150は越えた!(6センチくらいサバ読んでる)」

 

「……マジか」

 

「マジだよ!」

 

!かすんぷと怒る竜胆の顔を見て十六夜は『マジで言ってる』と解釈した。実際マジで言ってるのだが、その怒ってる表情からしてとても男には見えない。

 

「嘘だと思うなら……仕方ないけど、こっちもやっちゃった以上は股間触ってもいいけど……」

 

「触らねぇよ。第一そんなことしたら……(アイツになにされるか)

 

「え?なんだって?」

 

大事な部分を小さく呟いて竜胆はテンプレのように難聴。おかしい、この男喉仏の振動を聞き取れるくらい耳がいいのにこの難聴はおかしい。

 

「いや、なんでもねぇ。それじゃあ当面はその目的のヤツらを探してとっちめる、あるいはまた他の箱庭に逃げられた時まで一部屋貸す。そっちは自給自足、てところか」

 

「そうだな。俺としては止めてくれる場所と野宿よりは食料調達簡単そうな場所にいさせてくれるだけで満足だからな。助かるよ」

 

初対面なのに悪いな、と一言謝るが、その後すぐ個人的なトークに移る。

 

「しかし……なんというか、初めてあった気がしないな」

 

「そうだな……俺も、なんかお前とは前になにか、忘年会みたいな感じで会った覚えとか、現在進行形で学校で顔合わせたり、もしくは大人数巻き込んで箱庭が消えた世界で会ったような、そんな気がする」

 

あっはっはっは!と二人して何故か大爆笑。余程会ったことないのに会った気がすることにツボに入ったのだろう。

 

が、その二人が仲良く喋っているのが面白くなかったような顔してるなよがここに一名。

 

「くぉぉらぁあ!ダメでしょリン!リンには心に決めたおにゃのこやおねーちゃんがいるってのにそんなどこの誰とも知れないいざちーにうつつを抜かして!」

 

鈴蘭が竜胆の後頭部にボレーシュートをかました。

 

「いったぁ!?なにしてんだよお姉!」

 

「だからぁ!リンはそーやってちょっと仲良くなればとことん心配されるんだからダメなの!リンを心配していいのは私と耀ちゃんさんだけ!」

 

「わけがわからん!?」

 

「わからなくてけっこー!こちらの問題です!」

 

「頼むからそういうことは教えてくれない!?」

 

流れるような姉弟コント。完成度高い。

 

「……コントはいいから本題戻そうぜ?」

 

これには思わず十六夜もそう零す。その一言で鈴蘭は「それもそーだね!」と一転してにこやかな顔になる。変わるの早、と思いながらも十六夜はえーと、それで?と続ける。

 

「鈴蘭が耀……ちゃんさん?と鈴蘭意外にかまうなーってとこだったな」

 

「言ったまんまの意味です!リンは私がいないとだめだめですし、耀ちゃんさんが大好きなので耀ちゃんさんは特例でぇす!」

 

「……へぇ」

 

「ちょっと!?なにいらないことまで言ってる上に嘘八百ついてんの!?」

 

竜胆が顔を真っ赤にしながら鈴蘭に怒り立てる。まぁ、顔真っ赤ということはどれがいらないことでどれが嘘八百なのかはすぐ様わかるわけで……

 

「……で、どこまで行ったんだよ?」

 

「ぶっ、どど、どこまでって、どこまでもなにも俺と耀は、そんな関係じゃないんだって!……その、俺が勝手にアイツのこと好きになっただけだし、それにアイツ鈍いし、もっと言うとタイミング悪いし!」

 

恥じらいながら十六夜の質問に丁寧に答えていく竜胆。なんだこの女子力。

 

「で、でも!好きになるのにもそれなりに理由はあるっていうか!俺の作ったご飯いつも残さずに美味そうな顔しながら美味い美味い言って食べてくれるし、アイツ自身料理それなりにできるからそういう話もできるし、なにより……」

 

「なにより?」

 

「アイツと一緒に昼寝してると……そう!あったかい!ポカポカしてて落ち着く!」

 

「……惚気乙」

 

竜胆の好きな子自慢はまさに彼女のいいとこ自慢そのものであり、さしもの十六夜もこう言わずにはいられなかった。

 

実際今まで何人に言われたことか。竜胆が語る耀の自慢に惚気話、そしてその惚気話から連想される耀のイメージ。

 

なんでお前らそこまで行って付き合ってないの?と。

 

仕方がない。そこまで行ってても尚耀は竜胆の好意に気づかない上に竜胆もツンデレだし。なにより彼の不運は天井知らずなのでことあるごとに腹の虫とか邪魔者とかで台無しにされる。何度勇気を持ってなにか言おうとしても『グーギュルル』に邪魔されたことか。おかげで暫く竜胆はお腹の鳴る音に恐怖反応を示していたほどだ。

 

「そ、そういうお前はどうなんだ!俺の知ってる十六夜より無礼な感じがしない!女になるだけでそこまで性格が変わるわけない!」

 

「俺か?……俺かぁ」

 

はぁ、と露骨に溜息を吐く十六夜。それはなにかあるという証拠。竜胆はそれを見逃さなかった。

 

「誰だ」

 

「は?誰だって、なにがだよ」

 

「ジンは……違うか。アイツはどっちかっていうとあんまり手のかからない弟って感じか。ならマンドラ……いやいやないない。グリー……?違うな。これもそういう関係よりは戦友という関係がしっくり来るだろうし……蛟劉?」

 

「っぁ……!?」

 

「……マジなのか」

 

疑い半分で聞いてみたが、蛟劉の名前を出した時とほとんど反応が変わらなかった。

 

B I N G O!

 

「……へぇー。ふーん。まさか蛟劉と……()()十六夜がねぇ。これは驚きだ」

 

「そ、それを言うならお前の方とおんなじだ!理由だってそれなりにあるし、アイツ胡散臭いし若干ヘタレっぽい臭いするけどそんなことないし、……凄かったし!」

 

「凄かったってなにが……やけに誇張表現だな」

 

誇張表現しないといけない大人の都合があるのです。

 

まぁ兎も角、こうして何故か女みたいな男といろんな世界でも基本男の女と超絶ブラコンのレディーストークに花を咲かせたまま一夜が明けていったのだった。

 

◆◇◆

 

ある世界、ある場所。そこには一つの牢に閉じ込められた夜雷と、彼の言うEが対面していた。

 

「ザッケンナゴルァ!E!なんでオレを前に送んねぇ!?」

 

「……夜雷。お前は一つ目の世界の時に俺の命に背いたな」

 

「それがどうしたってんだァ!オレはまだやれた!あそこで"マグナ"を使ってりゃアィツも∀もブッ飛ばせてた!∀を連れてくることがテメェの望みだろうが!アァ!?答えてみやがれE!!」

 

「口が減らないな。まぁ案ずるな。∀の下には"逸生"と"玖螺摩"を向かわせてある。お前の言う∀を取り逃がす心配はないさ」

 

「逸生と玖螺摩だぁ!?ふざけんじゃねぇ!!アィツらがどんなヤツらなのかはテメェがぃちばん知ってるだろーが!」

 

「知ったことじゃない。∀がここに来るときは死んでさえなければ最悪、廃人でも構わないからな」

 

その一言と共に、Eは夜雷の前から姿を消す。その寸前に見せていた表情は間違いなく、"笑顔"であった。

 

 






というわけでコラボ編の一話目でした!

正直まだ江宮さんの方の夜子ちゃんのキャラを掴み切ってないこともあってあんまり文章が本領発揮できてない感がありますが、次回こそはっ、次回こそは……!



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交わらないのに好相性



ハイスクールD×Dからなんとあのキャラが……!?(白目)




 

 

そんなこんなあって、夜。

 

鈴蘭は気づけばパチ、と目が覚めていた。

 

「ふぁーわ。あるぇ、今何時?そーねだいたいねぇ……」

 

寝ぼけているのか、一人で延々とボケ続ける鈴蘭。暫くそんなこんなして、また寝ようと思ってベッドに横向きになる。できるだけ可愛い可愛い弟の可愛い寝顔を可愛く堪能して可愛いと愛でてから可愛さのあまり眠れないくらい可愛いです可愛い。

 

そんな風に思いながら鈴蘭は竜胆がいるであろう場所に腕を回し───それは空を切った。

 

「……おろ?」

 

っかしーな、と鈴蘭は今度こそ目が覚めて互いに小さいため十分添い寝できるシングルベッドから飛び上がる。

 

やはり竜胆の姿はない。

 

「ははーん、リンったら。私をとことん心配させるんだからぁ。もう、小さい頃迷子センターに来たのを忘れたのカナ?」

 

100パーセント真っ赤な嘘である。迷子センターに届けられたのは鈴蘭で竜胆はむしろ家族の中で一番早くそれに気づいて探し始めたくらいだ。

 

まぁそれで見つかっても「にゃははは!もう会えないかと思ったよリン!」なんてお気楽思考なのは今も昔も相変わらず。

 

「それより、ほーんとにどこ行っちゃったんだろ?リンってば行く先々でなんにもしてないのに不運な目に遭う体質だからおねーちゃんしんぱぁい」

 

善は急げや急げ!と呟いて『おねーちゃんセンサー!』とかよくわからない単語を叫ぶと少ししてから鈴蘭はそっちに竜胆がいるのをわかっているように、迷いなく進む。

 

「女のにほいがするぜよ……それも三つ!まーけしからんぞ!私のおとうはなぜこうも無自覚に、かつ知らないうちに女を無駄に惹きつけるのだ!」

 

というより、竜胆の不運の中でも目立って女運の悪さがあるのだが。

 

竜胆がツンデレ全開の対象となっている耀に始まり、異世界を練り歩く前に寄った"始まりの世界"で出会った元・魔王のマッチ売りの少女ことアンナ。竜胆の記憶から消えた"虚構の世界"で竜胆とその他三名を引っ掻き回した"顔も覚えていない少女"。この三人だけでもキャラクターが強烈であり、そもそも竜胆のツッコミ系の性格の確立となった鈴蘭もその三人とは別格でカウントされる。

 

果たしてここまで女運が悪い男なんてそうそういるのだろうか。そもそもその他の方面でも不運なため、彼と付き合っていると可哀想に見えてくる。

 

兎角、鈴蘭はリンのかほりがする場所のドアを見つけて、そーっと扉を開ける。

 

「───テメェら、竜胆(ソイツ)を連れてどこ行く気だよ」

 

「貴女には関係ないわ。特異点」

 

「そうなのよ。早くこの子をEのところに届けないと、みすみす逃げていった夜雷と貭魂が可哀想でしょう?」

 

「……なるほど、お前らはコイツが追ってた奴らの仲間か」

 

おねーちゃんです。大変です。リンが修羅場ってます。でも、多分これいつもの事です。

 

鈴蘭の心情とは逆に竜胆は気持ちよさそうな顔して可愛い寝息立てながら寝ている。卓越した五感があれば普通こんな状況になれば彼の目は覚めるため、明らかに彼らしくない。

 

「……これは、前みたいにカッコいい登場したら怒られるだけだよねぇ」

 

鈴蘭はアホではあるがバカではない。自称昔を踏み越えて成長する学習型ハイスペックおねーちゃんなのだ。

 

「んふふー……な・ら・ば……たらば、したらばァ!!」

 

オラーッ!と突然鈴蘭はドアを蹴り壊す。

 

「「「!?」」」

 

「どうどうどう!なにがなんだか知らねーが、弟の恋路の邪魔する女はシマウマと私に蹴られてしまえってんでぃ!」

 

「……それ、馬な」

 

「そーそー!いやーなんかいざちーにそう言われると懐かしさみたいなものを覚えるよ!」

 

「悔しいけど俺もだ」

 

ていうかぶっ壊したドアどうすんだ……と数多の逆廻 十六夜が過去に行ったドアぶっ壊しを棚に上げる。そんなことはどうでもいいが。

 

「とにもかくにも!うちのおとーと連れてどーするつもりでい!なんとなーく察しはつくけどね!」

 

「……なんだ、事情は把握していたのね。()()()。なら話が早い……この殿方を私達に攫わせてくださる?」

 

「却下!リンに世話焼いていいおにゃのこは生涯我が家高町の家族とリンが心に決めた子だけと五年くらい前から決めてあるのデス!」

 

だいたい弟が誘拐されてる現場見て黙認するおねーちゃんがおりますかぁ?と続ける鈴蘭。至極尤もなのだが、どうにも彼女が言うと説得力に欠ける。

 

まぁ、そういうと鈴蘭は手元から機械仕掛けの魔法の杖を呼び出してそれを槍のように構える。

 

「弟を誘拐しようとする極悪犯は成敗しちゃる!今私の気分は正に暴れん坊!」

 

「……そう、逸生。どうやら彼女は意地でもハニーを渡す気はないみたい」

 

「そのようね玖螺摩。これはつまり……欲しけりゃ倒していけ、ということでしょう」

 

「ぅう……誰が、ハニーだ……俺、男なのに……むにゃ」

 

真剣な会話の中で、かつ自分が眠らされている状況でも竜胆の女呼ばわりセンサーはしっかりと万能していた。なんという無駄な能力なのだろうと十六夜は呆れてしまう。

 

「許さんぞ人間のクズめ!リンのダーリンは心の中にいる一人だけだぞ!」

 

「だから……俺、男……」

 

「……コイツ本当は起きてんじゃねぇの?」

 

十六夜の正論すぎるツッコミは残念ながら竜胆の反応すら得られずに空を切る。起きていてこの反応なら竜胆は間違いなく確信犯である。

 

「と・り・あ・え・ず!誰だか知らないけどかわうぃ弟を攫おうとする不敬な輩は即刻ファイアー!!!」

 

とりあえずでは済まない量の焔が逸生と玖螺摩を当の竜胆ごと覆い尽くす。

 

「あ!やっべやっちまった!」

 

「……お前ホントにアイツの姉貴かよ」

 

十六夜がドン引きしながら躊躇なくぶっ放した焔に目をやる。まあそのツッコミも何から何まで納得の一言で、あの逆廻 十六夜がツッコミに回らざるを得ないというのが鈴蘭=T(タカマチ)=イグニファトゥス……否、高町 鈴蘭という少女なのであって、決して彼女が問題児としてのレベルが低いというわけではないのだ。

 

というか、鈴蘭がツッコミに回る必要があるようなヤツがいるなら見てみたいものである。

 

「……驚いた。まさか実の弟であるハニー諸共攻撃してくるなんて」

 

「ハニーちゃう……」

 

もう逆に鬱陶しいので竜胆のツッコミは文中からカットの方向で。

 

「ちゅーか!おねーちゃんの知らないうちにまた女引っ掛けて!どういう関係!?」

 

「いや……鈴蘭。アイツはお前らが言ってた例の二人組の仲間だ。なんでハニーなのかはともかくとして」

 

十六夜の発言になーる、と理解した鈴蘭は改めて杖を構え、橄欖石色の瞳を爛々と輝かせる。

 

「そーいうことね。じゃあこの場所は……異空間かな?」

 

「そう。私のギフト"Lava"(幼い恋)。本当はハニーとこの世界の特異点をこの空間に閉じ込めるつもりだったけど……まさかお義姉さんまで入ってくるのは予想外」

 

「誰がお義姉さんだ!私は認めんぞ!」

 

プリプリ、と玖螺摩に対して完全に幼女みたいな怒り方をしながらコートよ袖をまくってブンブンと腕を振り回す。これはつまり戦るつもりという意味なのだろう。

 

「……つまり、弟が欲しければ私を〜っていうくだり?」

 

「倒してもやらん!」

 

「玖螺摩、このままでは話が平行線のままタイムリミットが来てしまうわ。いずれにせよここに来た目的は特異点と闘うこと……そうではなくて?」

 

「さっきから特異点特異点と……そいつは話の流れからして俺みたいだが、なんなんだよソイツは。ギフトにもねぇ」

 

玖螺摩を諌める逸生に対して十六夜が浮かび上がった新たな疑問を口にする。そんなギフト十六夜は持っていないし、そのように呼ばれた覚えもない。

 

「……教えても用が済めばこの世界に来ることは永劫ないわ。教えるだけ無駄なので教えません」

 

「ハッ、上等。やっぱ俺はこういうのが性に合ってるみてぇだ。来い!メルヘン!」

 

十六夜がニタリと、逆廻 十六夜らしい笑みを浮かべながら自らの眷属の名を叫ぶ……が。

 

「……ん?おい、メルヘン?メルヘン!」

 

「あらあら、もしかしてコレのこと?」

 

出ない、メルヘンが出てこないと思っていた彼女に対して逸生は青白い色のした光体を手元に持っていた。

 

「そいつは……まさかメルヘンか?」

 

「その通り。正式名称は"神魔の絵本"(フェアリー・テイル)ね。数に差ができるのは厄介だから封印させてもらったわ……まぁ封印できるギフトは一つっきりだけどね」

 

「チッ……勝手に人の家に上がってきて部屋ごと異空間に飛ばした挙句居候誘拐しようとして、あまつさえ人のギフト勝手に奪いやがって!"月光の籠手"(ムーンライト・グローブ)!"青龍偃月刀"!」

 

ならば、と十六夜は月神の神格の宿るグローブと青龍の力を宿す偃月刀をギフトカードから召喚する。十六夜は持ち味の驚異的な身体能力を駆使して竜胆を抱いている玖螺摩に向かって一直線に突っ走る。

 

その理由は単純、火力調整のできない上に制圧能力に長けた鈴蘭では玖螺摩を狙うと竜胆ごと殺しかねないからだ。ならば破壊力で勝っていても、ある程度は力の調節も効くし偃月刀という武器の都合上そういう戦い方にも対応はまだできるからだ。

 

「くらいやがれ!」

 

十六夜は偃月刀を竜胆を抱く玖螺摩の右腕に突き出す。玖螺摩がそれを右に躱すと、今度は十六夜が突き出した偃月刀を右に薙ぐ。偃月刀とは本来その構造上突くことよりも薙いで斬るほうが効率的だ。それも十六夜の力でそれを振り回せば強烈な遠心力も相まってその破壊力は本来のスペック以上に引き出される。

 

「っ……!"Cocoon"(自覚する愛)!」

 

だが玖螺摩は自らのギフトの力で偃月刀と十六夜の間に存在する"空間を切断"した。そのせいか、十六夜の視点から二人の姿が斜めにブレて見えた。

 

「……危ない」

 

「今のはさっきのと同じ……いや、それの派生か。範囲を限定的にした代わりにより応用の利くものにした、ていう感じか」

 

「そこ危ないよいざちー!」

 

「ん?うおお!?」

 

冷静に思考するのも束の間、鈴蘭に促されるままにその場から移動すると十六夜のいた空間、ただしくは十六夜のいた床がガオンッ!というような感じの擬音と共に消滅した。

 

「ふふ、どう。私の"イフワールド"のお味は?」

 

これは逸生のギフト。理屈や理由はわからないが今確かに床が消された。自分がいた場所ごと消すようにだ。

 

「いざちー……どう?コイツ」

 

「どうって……俺には相性最悪だな。もし今のギフトが物質を消滅させるギフトなら"月光の籠手"の防御も"青龍偃月刀"の水の操作も結局は液体とはいえ物質だから消されちまう……」

 

「なるほど……で、ぶっちゃけ私もそっちのリンを抱えてる方は相性も状況も悪いね……抱えてない方は私も策があるから戦えないこともないしできるだけタイマンで戦いたいけど、敵さんはお互いどっちとも戦かえるからそうもいかないよね……」

 

「じゃあ互いをカバーしつつ狙いは一点集中ってか?」

 

「ザッツライ!いいね。いざちーのその落ち着いたところはまるでギフトもあって水みたいだ」

 

「そーいうお前はギフトも一直線でアホなところも炎みてぇだな」

 

「炎と水って、真逆みたいだけどもしかして私達案外お似合い?結婚する?」

 

「女同士じゃできねぇだろ。ってか俺にゃ彼氏もいるんだからそういうのは冗談抜きでやめてくれ……」

 

「にゃははは!いざちーがイケメンだからつい、ね。どっちかが性別違ってたら私惚れそーだよ」

 

二人は互いに軽口を叩き合いながら作戦を決める。お互いに槍を構えているような格好で十六夜は"青龍偃月刀"の周囲に龍型水を、鈴蘭は杖を持つ両手を焔で纏いながら互いのターゲットを見据える。

 

暫く四人はそのまま暫く動きを止めていたが、鈴蘭の頬に焔が一片、十六夜の顔を弾けた水が跳ねるスレスレを飛んだ、その瞬間───

 

「───突撃ィッー!!」

 

「───だァア!!」

 

二人は焔と水龍を穂先に集め、狙いを定めて一突き。逸生は焔ごと穂先を、玖螺摩は空間を切り取って攻撃を回避する。

 

(デバイスが折られかけた!完全にイカれたら魔法の行使が難しくなる……やっぱりこの人のギフトは"一定範囲内の物質の消滅"!物質を消すんなら……!)

 

鈴蘭は自分の"冥界の獄炎"と"魔導王"の組み合わせで火力調整のできない焔を巧みに操っていたが、その中から彼女の代名詞である"冥界の獄炎"を使うことを頭の中からスッパリ切り捨てる。

 

「私の本職は───パパからたっぷり、ママからちょびっとだけ受け継いだ"魔導師"なんだかんね!!」

 

杖の先から彼女の生まれ持つ強大な魔力が一瞬の間に鈴蘭の背丈を越えるほどの大きさを持って現れる。

 

「大きい!?」

 

「パワー絞らないからね!当たると……痛いよ!」

 

球体から溢れ出た魔力のビームが八つ、溜め込みすぎた魔力から溢れるように逸生に迫る。彼女はそれをギフトで掻き消そうとするが───できない。

 

「まさか!?質量を持つ非物質だとでも!?」

 

攻撃を消せずにビームによって仰け反る逸生。それはほんの一瞬だったが、"冥界の獄炎"で腰辺りに焔のジェットブースターを作っていた鈴蘭にとってはいとも簡単に詰められる距離。

 

「一点集中!!インパルス───」

 

逸生の懐に強襲した鈴蘭の光球はとどまることを知らないほど巨大化し、鈴蘭の足下にはここ三年ほど一切使っていなかった魔法陣。その砲撃は逸生すらも覆い始め、それは部屋の天井を貫く───

 

「ブラスターッッ!!!」

 

「ガッ、ァァアアアア!!?」

 

逸生は天井ごとぶちぬかれて圧倒的な光の雨が逸生の姿を消す。

 

「やるじゃねぇか!弁償の方は後で請求してやるから覚悟しとけよ鈴蘭、いやスズ!」

 

ヤハハ!というわかりやすい笑顔を向けた十六夜は偃月刀を投げ槍(ジャベリン)の要領でぶん投げる。当然なんの変哲も無い投擲は玖螺摩に簡単に躱されるが、あの十六夜がなんの考えもなしにむざむざと武器を手放すわけがない。

 

「荒れ狂え!"青龍偃月刀"!」

 

十六夜は偃月刀に纏わせていた高水圧の激流を()()()()()()()発射する。

 

「!? 気でも狂ったの?ハニーに攻撃するなんて……!」

 

「いいや、そこでお前がソイツを守ろうとするのは当たり前だ!」

 

十六夜は"月光の籠手"の効力で強化された拳で玖螺摩の足下をぶん殴る。当然その地点を中心に地割れに近い現象が起こり、完全に玖螺摩は体勢を崩す。

 

そして十六夜は持ち味の剛拳をグローブで強化されながら放つ。そして今現在は真夜中、それも満月から僅かに欠けた十六夜の月。異次元にも惑星があることは"最初の世界"でわかっているし、万全とは言えずともほぼ最高に近い能力を発揮できる。

 

「砕けろ!!」

 

「ふっ、ぐっ!?」

 

ドパンッ、という小気味のいい音を立てながら十六夜の拳は玖螺摩の顔面に減り込んで彼女を吹っ飛ばす。同時に竜胆の拘束も離れ、ふわっと浮いた彼の身体の背中と膝裏を両手で支える。

 

どう見ても、実際お姫様抱っこなのだ。

 

「ノォウ!いかにいざちーと言えどリンにそんなマネするのはおねーちゃんとして許しませんぞぉ!」

 

「コイツがお姫様抱っこしやすい体勢で飛んでくるのがわりーんだよ……あーわかったわかった。降ろすからそう噛み付くな」

 

二人は相変わらずコントしながら竜胆をゆっくり安全な場所に降ろす。普段こんな状況になるといの一番に起きて静かに物事を対処しそうなだけに彼がこんな状況で安らかにくーくー可愛い寝息立てながら寝てると少しムカついてくる、と十六夜は思わざるを得ない。

 

「さて、と……ヤツらは?勢い余って地平線の彼方までぶっ飛ばしちまったか?」

 

「ちーっとやりすぎたかねぇ。下手したら私達元の箱庭に帰れなくなりそうなんだけど……」

 

二人がそれぞれぶっとばした方向に目線を向けると、二人は同時に目を見開いた。

 

「「あっぶね!?」」

 

突如飛んできた得体の知れない攻撃が二人の身体を掠める。得体が知れないのは確かだが、誰からの攻撃なのかはハッキリしている。何故なら今この異次元にいるのは自分達とそこで静かに寝ているのと、あと二人しかいないから───

 

「驚きました……まさか、質量を持つ非物質なんてものを用意してくるなどと。流石は∀の実姉、といったところでしょうか」

 

「……返して。ハニーを返して」

 

それぞれ吹っ飛ばされた場所からゆっくり、だが確実に帰ってくる。

 

「ふふ……先ほどEから許可が下りました。"マグナ"の使用を許可すると。これを使って耐えれる輩など、様々な世界を巡っても特異点ですらほんの一部しかいませんわ」

 

「……返せ、返せ返せ返せ返せ、返せぇぇぇぇぇ……!!」

 

二人の身体からドス黒いなにかが溢れ出ている。二人は知る由も無いが───このドス黒い力は、竜胆がペストとのギフトゲームの時に引き起こした"侵食"と"暴走"の時に竜胆に現れていた毛の色と瞳の変色の時のものとよく似ていた───

 

「マグナ……その力は充全に扱えない者でも木っ端魔王ごときなら微塵のように消し去ることも可能。さて……貴女方はこれにどこまで耐えられるのか、見ものね」

 

本番は、始まってすらいなかった。

 

 






はい、前書きを読んだ皆様、突っ込んでいいですよ。さんはいせーの……

名前の読みが一緒なだけじゃねーか!

これはあれです、彼女の名前が偶然夜雷達につけてる法則と一致していただけでですね、こう、名前だけでも江宮さんへのファンサービス(笑)になればと……ええわかってますよ性格が全然違う時点でサービスになってないことくらい知ってますよ畜生!

ところでラストエンブリオの表紙絵見ましたけど誰なんでしょうねあの謎の金髪美少女(笑)は?ラストエンブリオの告知に出てましたけど、蛇腹剣持ってたけどだれなんだろーなーわかんないなー(棒)

というわけで、以下逸生と玖螺摩のギフト紹介パートワン!

逸生
ギフトネーム 不明
能力、物質をガオン、てする能力。ポルポルと話を追うと急にイケメンになった犬はエジプトの占い人に後ろから『危ない!』と言われて庇って死なれないように注意しよう。

玖螺摩
ギフトネーム "Lava"
英語で書いて日本語で読ませる辺り作者が厨二病抜けきってないと自覚させる要因。その能力は大雑把に指定された空間を異次元へと切り離す能力。なので今二人が戦っている部屋は夜子の世界の"ノーネーム"の一室である。

ギフトネーム "Cocoon"
英語で(ry
その能力は"Lava"の効果範囲をより限定的にした代わりにそれを攻撃、防御に転用できる程度に使い勝手をよくしたもの。ぶっちゃけあくうせつだ(爆)



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偉大なるもの

おねーちゃん式超理論。




 

「……"マグナ"……?」

 

「そう、"マグナ"。夜雷と貭魂は使わなかったみたいだけど……それが私達のギフトの真骨頂」

 

「我々"エルフ"の持つ……貴女方"アルト"には使う事のできない、我々のみに許された人類の未来の力……でしょうか」

 

立ち会っただけでもわかる。この二人の力はただ強くなっただけのものじゃない。正面に立つだけで目眩のするような感覚に当てられていて、十六夜は軽く吐き気を催した。

 

「……人類の未来の力、ねぇ。その割にゃ随分現在(いま)を生きてる人間一人に固執するじゃねぇか。そいつはどういうことだよ」

 

精一杯の強がりを以って言い返す十六夜だが、それに対する生物の本能が語る震えには逆らえないようで彼女の手の震えが鈴蘭には見える。

 

故に、鈴蘭も彼女の強がりに応えるべく精一杯の、いつもの自分を演じる。

 

「んにゃ、そだよいざちー。未来が云々かんぬん言うってんなら無性生殖でもしとけってんだよ。今この時の人間ってのは有性生殖する生き物なんだから、クローン技術は未来に帰れってね!」

 

いまいちわかりにくい例えだ、と十六夜は思ったが、逆に彼女らしい阿呆な発言を聞けて肩の荷が降りた気もした。

 

「……お前、わかってやってるんなら相当な女狐だよスズ」

 

「にゃは。死んでから暫くは大分落ち込んだからね。ウィラっち直伝のメンタルカウンセリングだよ……まぁ、流石に鈍器は使わないけどねぇ!」

 

そして彼女は彼女らしく先陣切って駆け出す。"マグナ"がなんなのかはわからないが、その前に潰せばいいだけのこと。力押しは鈴蘭の得意分野だ。

 

「しょーげきの……ゲルマン殺法!」

 

頭に浮かんだ意味不明の単語を繋げて叫ぶ。ノリと勢いが信条だからこそこんなことを叫ぶ。そんなことをすることにも彼女自身知覚仕切っていない理由がある。

 

幼い頃より"魔法"を持っていた鈴蘭はそれを争い事に使ったこともある。加えて彼女は十六夜や竜胆よりも三年長く箱庭にいる。それは彼女にとってかなり大きなアドバンテージとなる。

 

「ゲルマンニンポ!分身のジツ!……って気分でね!」

 

気分、果たしてそれだけでこんなことが……本当に分身なんてバカげたことができるのだろうか。だがそれができる。それが魔法とともに歩み、一度死したことで得た文字通り無尽蔵のマナ。それが彼女の彼女たる……"ウィル・オ・ウィスプ"の"獄炎の使者"たる所以なのだ。

 

「増えたところで……無駄なのよ!」

 

一喝。吼えるだけで増えた彼女らは本体を残して一瞬で消える。本体も無論ダメージを負っている。

 

「ぐっ!?」

 

「スズ!?」

 

「こっち向いて……ハニーを奪った、バツ!」

 

十六夜が悲鳴を挙げる鈴蘭に思わず目を移すその一瞬を玖螺摩は逃さない。十六夜に向けて手をかざし───その身体を一刀両断にした。

 

「───ぐ!?ぁぁあああッッ!?」

 

"butterfly"(消えゆくこの儚い想い)

 

───痛い!痛い痛い痛い痛い痛い!!

 

十六夜が感じていたのは、ただひたすらに痛み。例え腕をもがれようとも第三宇宙速度で飛来する物体を捉えようとも決して砕かれることのない彼女のその肉体は、ただの一言で砕け散ってしまったのだ。

 

いや……捻じ切る、という方が正しいか。彼女の身体と共に、意図していない深層心理に存在する彼女の心にもその破滅の蝶は飛来し、その鱗粉で総てを捻じ切るのだから。

 

「貴女のココロは……どんな味?」

 

玖螺摩は無表情から少しだけ、唇を吊り上げる。

 

彼女は勝利を確信したのだ───

 

◆◇◆

 

時が止まった。そう形容すればいいだろうか。

 

鈴蘭は今しがた行われた逸生のギフトを大方目星を立てていた。

 

それが最初の考え、"時を操る"ギフト。もし最初のアレが物質を消すギフトではなく物質の時間を急速に早めるものだとしたら?

それなら鈴蘭の焔が消えたことにも説明がつく。

 

空気と焔の時間を操って急速に焔の維持に使う酸素量を早めたのならば、周囲にある気体は二酸化炭素ばかりになって焔がカタチを維持することができなくなる。多分答えはこれだ。

 

そして恐らく、今は物質ではなく"世界"の時間を止めた。なら、恐らくこのギフト……使うギフトの真の名をさらけ出すという行為が"マグナ"なのだろう。理由は定かではないが、確かに名前を封じて真の力を封じるという枷が必要となることも納得できるほどの力だ。

 

「謎さえ解けば楽チン……て言いたいけど、無理くせー」

 

「あら、どうやらタネには気付いたようですね。行動と思考には見合わない洞察力ですね」

 

「にゃはは!お褒めに預かってどーも!」

 

「褒めてはいないわ」

 

逸生がなにか言っているようだが、そんなものはガン無視。それこそ彼女のジャスティスなのだ。

 

「ですが……ならば貴女も先程呟いた通り、御理解なさっているのでは?これが躱しようのないものであると」

 

「っ……!」

 

「ならば今一度───"フリーダム"!」

 

来る───

 

防ぎようのない攻撃を前に鈴蘭は現状打破に勤しむべく意識を傾ける───

 

◆◇◆

 

声が、聞こえる。

 

……なんの声?

 

……いや、知ってる。この声、知ってる。

 

多分箱庭に来てから、いや、それよりも前……何もなかった退屈な十年と金糸雀と過ごした七年、そのどちらよりも俺に……いや、逆廻 十六夜という()の心の奥底に響かせた声。

 

……だった、はず。

 

……いや、そもそも俺にそんなヤツがいたのか?俺には……私には、彼氏と呼ばれる存在がいたのだろうか?

 

というか、そもそも私って誰だ?誰って、ダレ?

 

ああああああ、アー アー アー …… わからない。誰なんだ、私を呼んでいるのは。

 

私の名前みたいなものを呼んでいるのは……誰?

 

……いや、一つじゃない。ついさっき聞いてた声が聞こえる。これは……?

 

───んなろ、人が避けれないからっていい気になりおってからに!

 

アホっぽい声。いや、このダメな意味で趣のある喋り方はアホっぽいではなく、アホそのものだ。

 

───き…み……女の子……!?

 

ああ、これだこれだ。思い出した。アホっぽい声の次に今となってはなんかムカつく発言。こんなことを言われてこんな気持ちになるヤツなんて一人しかいない。

 

ならばこのモヤモヤはなんだ?答えは単純だ、愛してるが故の怒り。

 

ならば、この愛している者とは?それも簡単。私の……いや、俺の、俺だけのオトコ。

 

ならば俺だけとは?決まっている。俺のカレシだ。

 

ならば俺とは?そんなの分かりきっている。俺は俺。逆廻 十六夜だ。

 

ならば───それは───ならば───それに関しては───ならば───そんなもの

 

質問を解く度に生まれる質問は、質問の内容を問われる前に答えに辿り着く。

 

なぜ?そんなのは当たり前だ。

 

「───人の思い出を、勝手に奪い取れると思うなよ」

 

逆廻 十六夜は、誰よりも己の存在に悩んで、誰よりもその答えを知っているからだ。

 

◆◇◆

 

「───うおらァッ!!」

 

「なっ───!?」

 

鈴蘭が状況の変化に気付いたのはその声が聞こえてから十六夜の体感で数秒後だった。

 

「ぐっ……"正体不明"(コード・アンノウン)……止まった時間の中すらも動くのね」

 

「……そんな。"記憶"の空間を捻じ切ったのに、なんで……?」

 

「ハッ、そんなん決まってんだろ。頭が覚えてなくても身体が憶えてんだよ!このアホの頭を悩ませる発言と行動も、アイツの味も!!」

 

ド直球に、意味がわからないヤツなんてそうそういないくらいにわかりやすく告げる。少し前の自分だったら恥ずかしがって言うこともなかっただろうが、色々と吹っ切れた。むしろ、コイツらに少しでも隙が生まれるのならどんな醜態だって晒してやるとさえ思っている。

 

一瞬でも忘れさせたツケはでけぇ、あとここでこの事を言っても十六夜の世界に本来いた人間なんて当の十六夜と封印されてるだろうから聞こえていないであろうメルヘンしかいない。

 

「いざちーアダルト!大人の階段登っちゃってたのね!リンが寝てて良かった!」

 

「なにに安心してるんだお前は。いいからさっさと倒すぞ」

 

「ウィッス!」

 

鈴蘭が威勢良く頷く。それを見た十六夜は心なしか張った顔を少しだけ緩める。

 

十六夜の捻じ切れたはずの肉体は何故か冗談のように元通りになっていた。恐らくこれが"butterfly"の正体───脳に対して現在存在している空間の認識に齟齬を生じさせて見せられた幻覚を現実と誤認させるもの。

 

一瞬記憶を失ったのは"記憶"という空間を捻じ切られたせいで記憶に齟齬が生じたせい……だろう。

 

「魔法を集中して……と、"ジャスティスハート"、久々にその名前を晒すよ!」

 

今まで鈴蘭が一度たりともその名を呼ばなかった魔杖、彼女はその名を呼ぶ。例え間違いであれ、己の信じることこそが正義であるという心の杖の名を。

 

そしてその瞬間、魔杖の先端から槍状のカタチをしたエーテルのカタマリが現出する。これこそが鈴蘭の魔杖、生前から愛用し続けて彼女の魂にこべりついて共に箱庭に来た杖"ジャスティスハート"。

 

「名を晒す……であればそれは名を明かすことで真の力を発揮する類のギフトということなのね」

 

「関係ない。ぶっ殺す」

 

「やれるもんならやってみなさいよってね!今の私ゃ久しぶりに本気を出すから、テンションハイのマックスハートだっ!」

 

「やるこた変わんねぇよな!ぶっ飛ばして他人の世界まで巻き込んでやがるバカどもの本拠地をあぶり出すだけだ!」

 

"ジャスティスハート"を握る鈴蘭と"月神の籠手"と"青龍偃月刀"を持つ十六夜。確固たる個を握る二人と、時間と空間という概念を掌握する二人。四人の得物は相容れぬ同士混じり合い、それは切り離された世界を揺るがす。

 

「ケッ、人の部屋だからって好き放題荒らし回りやがって……スズ!」

 

「あいさー!」

 

十六夜の号令と同時に鈴蘭は槍と化した杖の穂先を更にマナを集中させることによって肥大化させて広範囲を薙ぎはらう。それを玖螺摩が自分と穂先の境界の空間を切断して回避する……が、ギフトを無効化させる"正体不明"でその境界を物理的に乗り越えて玖螺摩をぶん殴る。

 

「ぎぁ!?」

 

「玖螺摩!」

 

「よそ見運転してる暇はねーだわさ!」

 

「ごっ、ぉあ!?」

 

玖螺摩に気を取られた逸生に槍を全力で突き刺す。

 

「ブラスト!!」

 

鈴蘭の叫びに呼応するように逸生を突き刺すエーテルは逸生の傷口からガンガンと球状のエーテルとなって逸生の肉体に寸分違わず炸裂する。

 

が、しかし。

 

「っ……捕まえました、よ!」

 

「脚を……捻じ切る!」

 

それだけでやられる二人ではない。逸生は槍ごと鈴蘭の身体を掴み、玖螺摩は吹っ飛ばされざまに鈴蘭への救援を阻害するべく十六夜の脚を捻じ切った。

 

「ぐっ───」

 

幻覚であるのはわかっているが、脳にダメージが与えられていると認識されればそうもいかない。脳はその存在しないダメージに"本当にダメージを受けた"と錯覚させてしまう。そして鈴蘭も───

 

「"フリーダム"」

 

その言葉を紡いで、十六夜がマトモに動くことがかなわなくなったこの世界は文字通り逸生のモノとなる。目の前の奇怪な少女を恐れる必要もない。ゆっくりと、確実に葬るだけ。

 

だけ、なのに───

 

「───ぃよいしょおおおおおおお!!!」

 

「はぁぁあああああ!?」

 

鈴蘭は動く。時間が支配された世界で、鈴蘭は逸生の世界をぶっ壊す。

 

「本当の力を明かした"ジャスティスハート"は、私の気合と合わさって時間をぶっ壊すくらい訳などなぁぁあい!!」

 

「なんて無茶苦茶!?」

 

「無理無茶なんて、私の辞書にはない!なぜなら……おとーとを守るおねーちゃんは無敵だからなのDA!」

 

ちょいさー!と、無茶苦茶すぎるのに彼女なら納得できそうなわけのわからない理由で逸生のギフトを打ち破ってきた。

 

「逸生……!」

 

「ちぇすとー!」

 

今度は穂先を棒状にしてぶっ叩く。もう彼女の暴れっぷりはメチャクチャな領域だ。時間が止まった世界でも彼女の大暴れを視認していた十六夜はそう形容するしかなかった。

 

とにかく、玖螺摩と逸生は完全に気絶してしまったのだが。

 

「勝利の……2!」

 

「Vだろ」

 

勝利を確信した鈴蘭はそう叫ぶので突っ込む。なんでこのドアホに付き合わされにゃならんのだ……と十六夜は玖螺摩が気絶したことで自由になった脚を動かしながら鈴蘭に話しかける。

 

「さって……あとは目覚めたコイツらを尋問するだけなんだが……!?」

 

鈴蘭に目を向けた十六夜はその異常に目を見張った。

 

「お!おお!?なんだこれなんだこれなんだこれ!」

 

鈴蘭をはじめとする、十六夜以外の四人はまるで泥に呑まれるようにそのカタチを失い始めていた。鈴蘭はやはりマイペースに驚くだけだったから緊張感に欠けるが。

 

「……んー、もしかしたら時間切れかな?元々私達はいざちーの世界にいるべきじゃないモノ。だから私達はこれからまた違う世界に飛ばされるか、元いた箱庭に戻るか……その二択だね」

 

「お前、以外といろんなこと知ってんだな」

 

「にゃははは!異世界云々に関してはこの年代ではリンも私もかなり博識の部類に入っちゃうよ?なにせ物心つく前から体験してることだからね」

 

あくまで陽気に笑う鈴蘭。それならもう俺が変な心配かける必要はないか、と十六夜は息を吐く。

 

「この空間もそのうちいざちーの世界に戻れるハズだから、また会えたら会おうぜ!アデュー!」

 

「……おう、お前、結構面白かったぜスズ」

 

こうして二つ目の世界での旅は、終わりを告げた。

 

次の世界は……なんなのだろうか。それは鈴蘭も竜胆も知らない、Eと呼ばれる人物だけが知っているのであろう。

 

 





ってなわけで江宮 香さんありがとうございました!

この13年の亡霊編は孤独の狐編最終エピソード、Loneliness of fox に繋がるので、コラボさせていただいた以上は必ず完結させます!

それでは、次回からは本編に戻ります!


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凍てついた世界



というわけでお前の家族を殺したのは俺だ、からのコラボ編というわけでまるでほんものの作家のような引き延ばし戦法である。いや別に引き延ばしじゃないですけどね?

ってなわけで今回のお相手は紅の暁さんです!例によって最初の回は会話パートなので戦闘はありません




 

 

「……ぬ……」

 

二つ目の世界の一件を終え、何時まで寝てるのか定かでなかった竜胆が目を覚ましたのは丁度鈴蘭がそろそろ起こそーかな、と思い始めた頃だった。

 

「おはよーリン!グッモーニン!起きるなり次元の狭間でおねーちゃんの顔を見る気分はどーだい?やっぱりサイコー?」

 

「ちょー最悪だ」

 

はぁ~、と露骨にげっそりとため息。実際に起きると姉がいるという光景自体は五年前見たっきりなので少し嬉しかったが、すぐに朝からこのアホ姉がいる=ロクでもない事が起こるというのがお約束だったため、すぐに嫌な顔になったのだ。

 

「で……どーやらさっきの世界一とはお別れしたみたいだけど、どこに向かってんの?」

 

「道の行く先!」

 

「……具体的には?」

 

「さっぱりわからん!あだだだだだ!!ゴメン!ゴメンって!でもホントに突然のことだったからどこに向かってるのか全然わかんないのは事実なのおおお!!」

 

さっぱりの時点で既に腕ひしぎ十字固めを極めていただいた竜胆はもう色々とダメな領域に片足を突っ込んでいるのかもしれない。主に心労的な意味で。

 

「無効で闘った二人も結局よくわかんない……手?みたいなものにどっか持ってかれちゃったんだ。今絶賛追いかけ中なんだけど……上手く撒かれた」

 

鈴蘭が子供っぽすぎる性格を隠すことなくちくしょー!と叫ぶ。起きてそうそうこんなに騒がれると竜胆も耳を塞ぎたくなるのだが、こんなのもう慣れてるから気にしない。

 

「じゃ、次に行く世界はさしずめ三つ目の世界ってことか。一つ目の世界みたいに知ってるヤツってパターンもあればさっきの二つ目の世界みたいに知らないヤツの世界ってパターンがあるが……そう簡単に知り合いに会えるわけないか」

 

箱庭だって何千何億と違う歴史を歩んでるんだからな。という呟きはどう考えてもフラグにしか見えない。

 

「お!見てみて!そろそろ三つ目だよ!ほれ!ほれほれ!」

 

「騒がなくてもわかってるって。それにこんなに十年以上前から体験してるでしょ」

 

竜胆の陣羽織の裾を掴む鈴蘭。果たしてどちらが姉でどちらが妹なのかわからなくなる会話をしながら二人は三つ目の世界に足を踏み入れたのだった―――

 

◆◇◆

 

「……て、なんだこれ!?」

 

「すっげー!人がみんなピタッと止まってる!何で!?」

 

新しい手品かな!とか論点がズレ過ぎてるアホ姉(鈴蘭)を尻目に竜胆は周囲にあるものをちらと観察する。

 

動かない市民。動物の声も嘘のように聞こえない。風が吹いているような感覚があるというのに風の吹く音は一切ない。

 

「どうなってるんだ……これじゃ元の世界に戻るどころの話じゃなくなってくるぞ……」

 

不安が焦燥に変わって行く感覚に苛まれながらこの珍妙な現象の意味をさぐる。ない。なにもない。理由もわからない。そう思った通り矢先―――

 

「うははは!!すっげー!これ見てリン!やべー!噴水の水がカッチカチやぞ!」

 

「ふ・ざ・け・て・な・い・で・マジメにかんがえろぉぉおおお…………!」

 

「痛ぇー!リンのアイアンクロー超痛ぇー!ちょ、いた。にゃあぁ!」

 

マジギレした竜胆が全力のアイアンクローを注ぐ。その威力は先ほどのものよりも桁違いのモノで流石の鈴蘭もギブアップを申し出るほどだった。

 

「ったく……ん、水がカッチカチ?水は常にカタチを変える流動体だろ。それが固まってる……それに、人も固まってる。……まさか」

 

鈴蘭のカッチカチからなにかを得たのか、竜胆は地面に一言謝ってから思いっきり石積みの地面を蹴り砕く。

 

すると、割れて飛び散った石は少しすると一斉にその場で動きを止めた。空中でだ。

 

「……不完全ではあるけど、時間が止まっているのか?」

 

不完全、と付けたのは自分達が動いている事と、その動いている自分に触れた物体が動いていたことに起因する。もし本当にこの世界の時間が止まっているのだとして、完璧に時間が止まっているのならこの世界に来た瞬間自分達もこの時間の牢獄から爪弾きにされていたのだろう。

 

「俺達にイレギュラー的な要素がある……ととるべきなのか?だとすればそのイレギュラーの要素はなんだ?別の次元の箱庭から来た、とか。いや……もしくは俺達が正史の箱庭の世界において存在しない者だから……か?」

 

「多分それが正解だ」

 

自分達だけ、という項にだけ沿って考えを口に出していると、突如聞こえた声に遮られた。

 

「誰だ!?」

 

「誰だ、は酷いな。昔の"異世界同時召喚"の件で一緒に闘ったじゃねぇか」

 

竜胆に対してフレンドリーな口調で話し掛けてくる。その様子から互いに喋りあったことのある知り合いだとちうことは理解できた。声も、憶えている。

 

「―――トーヤか?」

 

「おう、そうだぜ竜胆。そんで、お前の推察通り"正史の箱庭に存在しない"俺もお前と同じで止まった時間の中を動いている」

 

「ヤッホーリンちゃん。私覚えてる?」

 

「……上月 琉璃。お前だけは忘れんぞ……若干数名含めよくも俺をあんな……思い返すだけでも寒気がしてくるようなことをしてくれたな……」

 

「え?なに、琉璃お前なにやってたの?」

 

「いやー、リンちゃんともう一人が可愛いかったから、愛でに愛でてただけだよ?」

 

「マジで?あの時の『くっ、俺に近づくな。呪い殺されたいのか』みたいなことを言ってた頃の?」

 

「そうそうそれそれ!」

 

「言うなぁああああああああ!!おまっ、それだけは言うな!!!」

 

「えー、どうしよっカナー。リンちゃんが可愛く赤面してる顔もみたいしぃ、リンちゃん根がマジメだから弄り甲斐あるし」

 

「言わないで!お願いだから言わないでよぉ!!」

 

涙目になりながら琉璃に必死に懇願している竜胆の姿には謎の背徳感がある。どうやら彼にはマゾの素質だけではなく、先天的な被虐体質(色んな意味で)があるようだ。

 

なんというか、弄ってもいじめても楽しいし可愛い。

 

しかしまぁ、そんなことをされては黙っていないのがこの(ブラコン)なわけで。

 

「こらー!誰だか知らないけどウチのかわいーおとーとをいぢめるのはおねーちゃん許しませんよ!即刻、月に変わって上様成敗しちゃる!」

 

「……おねーちゃん?」

 

「不祥事ながら実の姉だよ。といっても今はただの浮幽霊だけどな」

 

そのとーり!と何故か自慢気にNAIMUNEを張る鈴蘭。隣りの弟が豊満なだけあって哀れさが加速させられる。

 

「……可哀想に」

 

「頭が残念なんだ……ウチのアホ姉」

 

「あ、なんとなく理解した。お前の性格とかそういうのも」

 

「……察してくれてありがとう」

 

なんでこんなアホ姉に育ってしまったんだ……と竜胆は落涙を禁じ得ない。

 

それはまぁともかく、と竜胆はどうでもいい話を横におく。

 

「これはどういうことなんだ?俺達以外の時間が止まったって……」

 

「言ったままの意味だよ。さっき白夜叉に次元の歪みが生まれているって言われてまた誰か来ると思って待ち構えてたら……急にこのザマだ」

 

「こっちも同じ。急に"イザヴェル"の子供達が固まっちゃって、それで凍夜の方に行ったらこの通り」

 

「待て。さっきの仮説が正しいのなら"イザヴェル"の子供が固まるのはおかしくないか?」

 

竜胆の疑問に対して琉璃は静に首を横に振る。

 

「それはあくまで"イザヴェル"が私が存在しているからできたコミュニティであって、あの子達はどうやら元から"正史の世界"には存在してた子らしいの。だから動けるのは私と凍夜だけ」

 

「そうか……で、トーヤ、またっていうのは?」

 

「最近この箱庭に飛ばされてくる奴らが結構いてな……それに連動して"異端者"(ハエレティクス)っていうヤツが出てくるんだよ」

 

厄介そうな顔をする凍夜を見て竜胆もそのハエレティクスはただの鬱陶しいヤツではないと理解し、できるだけ情報を取り出すべく会話に花を咲かせる。

 

「それはどんな?」

 

「面倒ったらありゃしない連中だ。フォーマルハウトってヤツが作ったとか言ってな、次元を越えようとして失敗して、その影響で元の世界の人間……つまり俺や琉璃じゃ倒せないギフトを持ってる」

 

南の魚座(フォーマルハウト)、か。それにしてもそのハエレティクスはバカの集まりなのか。行き先も帰り道もわからない旅路なんて迷うに決まってるだろ」

 

「次元を飛ぶのは体験済みなのか?」

 

「生まれたときから体験してるよ。それにさっきまで二つ違う箱庭で俺も戦ってきたとこなんだ」

 

「さっきのは私が戦ってたけどね!」

 

「一回目は余裕かましながらヒーローは遅れてとか言ってたヤツのセリフ?それ」

 

冷静なツッコミが鈴蘭に炸裂する。それでも彼女はお構い無しにマイペースだ。

 

「戦ってた?」

 

「ああ。ご丁寧に俺を狙ってるって宣告してきてな」

 

「リンちゃんモテモテだね」

 

「ヤロウ二人とヤンデレと女王気質にモテても嬉しくないわ!そもそも俺が好きなのは……!」

 

「「「好きなのは?」」」

 

「……~~!!やっぱこの話ナシ!前言撤回!」

 

「気になるな」

 

「気になるね」

 

「好きなのは私?」

 

黙ってろよブラコン、と竜胆はここ最近例を見ないほどの冷徹な釘を刺す。どうやら厨二病やってた頃の癖がまだ抜けきってない様子……

 

「え、本当のところどーなのおねーちゃん?」

 

「それがねー、リンは耀ちゃんさんにゾッコンLOVEなんだなぁ、これがね」

 

「あぁ~、耀ちゃん好きな子多いよね。凍夜もその一人だし」

 

「いやでもこれがねぇ、あの子筋金入りの鈍感でリンが頑張ってアプローチしても気づいてもらえないんだ」

 

「いやでもツンデレだから尚更な」

 

「リンちゃん可愛いね」

 

「大声でコソコソ話すな!お前ら確信犯だろ!」

 

「「まぁね!」」

 

「うわぁああああん!!」

 

二人揃ってうん、と言うものだからさすがに弄られ慣れてる竜胆も泣いて立ち去りたくなる。しかし、状況というものはそうはさせてくれず、結局二人は凍夜と琉璃についていくしかないのだが……

 

竜胆は「なんでこんなのと一緒に歩かなきゃいけないんだよ……」なんて呟きつつも二人についてくる。

 

「それで、そっちは?そっちも戦ってるヤツがいるんだろ?」

 

「あ、あぁ……コミュニティなのかはわからないけど、"エルフ"って名乗ってたらしい。お姉に聞いたことだから確証はないけど、お姉達のことを"アルト"って呼んでた。あと、"マグナ"っていう能力がある、らしい」

 

「……なんでさっきかららしい?」

 

「お姉の言うことだから」

 

「しっつれーな、私は清廉潔白だよ!牧師さんにも負けないくらいに!」

 

「嘘つけ」

 

「あうっ」

 

鈴蘭の筋金入りのボケに竜胆は対応することそのものが面倒になってるように突っ込む。しかしこうでもしてないと彼の体力が持たないのだ。

 

暫く歩いたら一向。どこに向かっているかさえ二人にはわからないが、ここは凍夜と琉璃を信じて何も言わない。のだが。

 

「……なぁ、トーヤ」

 

「なんだ?」

 

「……ハエレティクスってどんな見た目?」

 

「そりゃ色々だぞ。蟹もいたな。龍の形もしていたし……」

 

「……じゃあ、あの黒いケイローンみたいなのは?」

 

竜胆が指を指した先には獰猛な声を荒げながら明らかに足を地面に擦らせる動作をしている黒いケイローン。

 

「……動いてるな」

 

「動いてる」

 

「じゃあ竜胆。こっちからも質問。その奥にいる男と女の二人組は誰だ?」

 

「……動いてるな」

 

「動いてる」

 

間の続かない漫才のような会話をしながら二人は互いに指を指し合う。二人ともボーッとしているが、これらが指す意味は流石に理解しているようで―――

 

「Gyaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」

 

「ほう、こんなものがいる上に時間が止まった世界か。ふふふ、どうやら舞台のセッティングはする間もなくゲストが進めてくれていたようだ。なぁ、"死期"(しき)

 

「そうみたいね、"悠慈"(ゆうじ)

 

芝居がかった喋り方をする男とその傍らで人形のような生気のない目とゴシックロリータの衣服を来ている少女が呟く。その会話を聞く限り、コイツらはハエレティクスやこの止まった時間には関与していないとわかるが―――

 

「ねぇリンちゃん!あの子可愛い!」

 

「……琉璃。あれ、俺狙ってる敵。ドゥーユーアンダスタン?」

 

「オフコース!つまりひっとらえたら愛でてもかまわんのだろう?」

 

いやそうじゃねーよ!という心のツッコミを一つ。こんなただでさえぶっ壊れてる空気をもっと酷いレベルにまで引き込むわけにはいかない。

 

「と、いうわけでぇ、化け物サンファイオー!ワタクシ達高みの(けぇん)物、決め込んでますからァ!」

 

ハエレティクスが自分に危害を加えないと判断したのか、悠慈と死期はその辺の岩に尻を落として文字通り見物をするようだ。

 

「……ぷっつーん。トーヤ、俺あーいう煽り上手で自分はなにもしないヤツ大ッ嫌いなんだ」

 

「……へ?」

 

「アイツは俺がぶっ潰す」

 

笑顔だったが目が笑ってない。完全に殺る気だ。

 

「……アイツらが元の世界に帰る鍵なんだろ?殺さない程度にな」

 

「はーい」

 

軽い返事だったがスゴイなんかでドスが効いてた。コイツの怒りの基準がよくわかんないが、とりあえず戦闘は始まった。

 

 






というわけでコラボ編第一話でした!凍てついた世界、明らかにトーヤくんの名前を意識してとってますねこれ。はいそうですとも!



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霊廟の空


一ヶ月待った……!再び問題児を書くために!問題児作品成就のために、ハーメルンよ!私は帰ってきたァ!!

……あ、コラボ二話目です。




 

"異端者"(ハエレティクス)。それが彼らに与えられた名前。

 

正しき名前などない、なくなった。

 

次元の狭間に落ちたその時から彼らは名前も帰る世界も失ったのだ。故に彼らは()()()()()()()()()()()()()()()()()()、箱庭から存在を抹消される。

 

ようするに、ハエレティクスにはこの凍てついた世界の影響を一切受けない。

 

そしてハエレティクスはその特性上凍夜や琉璃には傷を与えられても倒すことができない。必然的に竜胆か鈴蘭が倒すしかない。が、竜胆は今慈朗と呼ばれた男を圧殺することに意識が行っているため、鈴蘭にしかその役目は望めない。

 

「琉璃、鈴蘭助けてやってくれ」

 

「えぇ~!私あの子と遊びたい!」

 

「我が儘言うなって。終わったらいくらでも遊ばせるから」

 

「おk把握」

 

流石と言うか、鈴蘭に対する竜胆と言うか、凍夜はごねる琉璃は軽く流して死期と対峙する。

 

「待たせたな。ちょっと俺の相手になってもらうぜ?」

 

「問題ないよ"絶対者"。貴方が相手なら私も手加減する必要ないから」

 

「なるほど、例の"マグナ"ってヤツか。俺のことなんで知ってるのかは……聞かないでおこうか」

 

「これから消える貴方にそれを答える必要もない……"マグナ"、起動(アウェイクニング)

 

元々彼女が持っていたのであろう霊格が一気に弾けて強烈な力の奔流が迸る。

 

圧倒的かつ特徴的が過ぎるその力の正体を看破するのは容易い。凍夜はこの霊格を知っている。

 

「……純血の龍種、その霊格か」

 

「正解、だよ。正しく言うのなら半分だけど」

 

凍夜の問いに軽く答える。それは答えてもなんの不益もないととるか、単なる傲慢ととるか。

 

「……どっちにせよ龍が相手なら加減する必要はないな!」

 

凍夜のギフト"絶対者"が作動する。だがこの時間が止まった凍てついた世界では物質を動かしたり因果律の書き換えなどもできない。

 

時間には干渉できないというただひとつの縛りがギフトの能力を描き消してしまう切欠になった。これが箱庭の恐ろしさ。死力を尽くしてなにかを為そうとしてもそのなにかをするための前提条件から覆されたらどうしようもないが、それをどうにかできない方の不手際とするのが箱庭の理不尽さなのだ。

 

ならば、今の凍夜にできる書き換えは、今動いている自分達のみに対することしかできない。

 

(周りのモノを使えないのはかなりキツいが……やるだけだろ!)

 

凍夜はその力で自らの身体を光子に変えて不可視かつ光速の肉薄を行う。

 

だが死期はまるでその動作を読んでいたかのように動き、光の速度の攻撃を回避した。

 

(避けられた!?動体視力云々の問題じゃないぞこれはっ……!だとすれば)

 

死期の動作で彼女のギフトにある程度の憶測を立てた凍夜は自分の身体の情報を次々と上書き(オーバーライド)し、四肢や胴体を分離、まるで自分の身体を鞭や剣、銃のように変質させて全方位から咄嗟の判断で避けることは不可能な範囲攻撃を仕掛ける。

 

「コイツでどうだっ……!」

 

凍夜はこの攻撃を避けられる筈がないという確信を持っていた。だが、この連撃は()()()()()()()()()にした行為だ。

 

攻撃とはなにも敵を傷つけるだけのものではない。敵を観察する手段でもある。

 

(コイツならこの状況を打破できるギフトはあって三つ!上手く行けばギフトの看破もできる!)

 

当たれという願いとギフトの看破のためにも避けてくれという願い、相反する二つの願いが籠められた攻撃が死期を狙い打たんと襲いかかる。それを見た死期はポツリと一言。

 

「……全部避けるのは無理、だね」

 

「……!?」

 

確信とも予測とも違う、そうだと決めつけたような言葉。その言葉と共に死期は身体を準備運動のように捻るだけで攻撃の雨を九割回避してみせた。

 

「コ、イツッ……!」

 

「焦りが目に見えてるよ絶対者。次の動きの予測が容易い」

 

「ぐっ、ぼぁっ!?」

 

凍夜のブロックの隙間を丁寧に崩す手刀を撃ち込む。ガードを(めく)られて仰け反ったところに痛烈な掌底を腹に叩き込む。

 

「自分の力に無意識に過信していたね。それが隙になるっ!」

 

死期のハイキックを上半身と下半身を分離させて強引に避ける。そして直後に死期の背中から激痛が走る。

 

「ソイツは、オマエもだろうがァ!」

 

「衣服ッ……!」

 

衣服だ。自らの衣服の因果率を書き換えて機動砲台に変化、それを死期の攻撃を避けた時に胸元に隠し、視界から外れてから晒した。

 

「吹っ飛びやがれぇ!」

 

身体に捻りを加えた回転ハイキックが側頭部に突き刺さる。

 

気味のいい音を立てながら死期は頭を地面に強打する。

 

だが攻撃を仕掛けた筈の凍夜の脚にもダメージが入る。

 

「かってぇ……!?龍の恩恵だろうが、ここまで硬くなるもんなのかよ……!?」

 

想像を越える硬さに実際感じる痛みよりも遥かに大きな激痛を感じるが、戦闘を行う上で必要のない筋肉をアドレナリンに変えて痛覚を麻痺させる。

 

凍夜が仰け反った僅かな時間の間に死期も体勢を整え、黒のギフトカードを手に取る。

 

「……来い、"彩牙"、"破巌"」

 

掛け声と共に二本の小刀が現れる。忍が持つようなソレとは違い、ショーテルのように曲がりくねったソレは特徴的で凍夜も思わず目を凝らしてしまう。

 

「また面白いカタチしてんなぁ……だったら俺も、"森羅万槍"」

 

凍夜も自らの愛槍、"森羅万槍"を取り出す。挑まれたからには真正面から受けて立つ。偶にはこういうのも悪くない。

 

「……一槍求むよ、絶対者」

 

「応えようか、龍剣士さん」

 

両者の言葉を発端として二人は同時に斬りかかる。二本のショーテルを同時に打ち合おうとするが、ショーテルの形状で凍夜はガードの上から直接攻撃を叩き込まれる。

 

「フンスッ!」

 

「ぬぁっ!?」

 

ショーテルなんて特異にも程がある武器を使う相手とは流石に初めて相手にする凍夜。自分から槍を降っても流線形のショーテルは死期の技量も相まって氷の上を滑らされるかのように受け流される。

 

「フッ!」

 

「ごぶっ……!んなろ!」

 

「当たらないよ」

 

腹部への強烈な膝蹴り。凍夜がカウンター気味に回転して踵落としを繰り出すも躱される。まるで凍夜の挙動を予測しているかのようだが、それにしたって早すぎる。

 

予備動作に入る前からどの行動をとるのかを理解しているかのような挙動で確実に躱し、確実にガードを崩す無駄のない攻撃。短いショーテルという異質な武装が見事に噛み合っている。

 

厄介だ。

 

凍夜はそう思わずにはいられなかった。ショーテルだけ、もしくは謎のギフトだけなら対策の立て方がいくらでもあるが、それらが組み合わさって隙がなくなっている。

 

二本のショーテルと一本の槍が小気味のいい音を立てながらぶつかり合う。だがその手数の差はやがて顕著に現れ、凍夜の手から槍が弾き飛ばされる。

 

「―――」

 

「そこ!」

 

死期が二本のショーテルを交差させ、凍夜の身体を挟んでそのまま挟み斬る状態に移る。

 

「んのっ……この程度!」

 

「スパーク!」

 

なんとか拘束から逃れようとする凍夜だが、死期の叫び声と共にショーテルから超高圧の電流が流れて手が緩む。

 

「ぐ、ァァアアアア!!」

 

「このまんま、挟んで真っ二つだ!」

 

「んぬぬぬ……死ぬ……わけねぇだろ!」

 

引っ掛かった、という顔をした凍夜を見て死期は思わず後ろを向く。なにもない、―――ブラフ?

 

そう思った矢先、頭上から先程弾いた槍が死期の胸を貫いた。

 

「―――ご、ふっ……!?」

 

貫いた槍はそのまま胴体を貫通し、凍夜は槍の根元も槍と同じ形状にして引き抜く。

 

目に見えてふらついた瞬間、穂先の側面で側頭部を叩き降ろし、腕をアサルトライフルに変えて連射。次々開く風穴を見ながら容赦なく引き金を引き続ける。

 

「ぐっ、……ぁあ……!」

 

「どうだ、その様子じゃ()()()()()()()逃げられないだろ?」

 

「……やっぱり、気づかれてたんだ……ぐ、」

 

「そりゃな。あんなにわかりやすいくらいにハッキリして迷いのない動作をすれば時間が止まって見えるような動体視力か未来予知の系統しかない。で、初動を見る直前から動いていたことを考えると、後者以外考えられねぇ」

 

ご丁寧に考察とその理由も述べる。その姿勢を見た死期は露骨なほどに悔しそうな溜め息をつく。

 

「そっか……じゃ、逃げる。慈朗、あとよろしく」

 

「んー、任されちゃったかー。はいさ、面倒だけど任された」

 

竜胆の攻撃を悠々と躱しながら慈朗はだるそうに右手を上げる。

 

「んのやろっ……なめやがって!」

 

「ふー?別に侮ってるわけじゃないって。面倒って言っただけでさ」

 

「それをなめてるって言うんだろうが!いちいち頭に来るなお前は!」

 

慈朗は攻撃を仕掛ける素振りすらなく、ただ攻撃を避けるだけ。その不可解な事実を頭に地が上った竜胆は気付くことなく殴りかかる。

 

「はっははは。そうだそうだ、そのまま来いよ。俺にもっと見せなよ∀、絶対者も力を振るえ」

 

「うるっせぇ!テメェに言われなくてもそのクッソムカつく面ぶん殴ってやる!」

 

「やれるもんならなー、ほーらほーらもっとこいもっとこい。それがお前さんのためでもあるし、"E"のためでもあるんでね」

 

慈朗の意味深な呟きに思わず激昂状態だった竜胆も手を止める。

 

「……どういうことだ」

 

「さてね」

 

「だいたい"E"って誰なんだ。そもそもなんでお前達はこうして性懲りもなく異世界に現れる?」

 

「そいつは秘密。時が来れば嫌でも知るだろう。だがその知るに絶対者を始めとした異世界の面々は関わることはない。関われない。……でも―――」

 

―――まだだよ。まだ、時間がかかる―――

 

空虚を見据えた慈朗の呟きは、なにもない空へと竜胆の空振った剣線と共に消えていった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――いいぞ、"俺達"の革命の準備は整いつつある……はははは……ひはは……きひひははは……!!―――

 

 





次回、紅の暁さんとのコラボ編最終話!夜露死苦ゥ!

……ちょっとスランプかも。



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異端者舞って、異能者駆けて


ターニングポイントってなんだかシリアスにしたくなるよね!

そんなコラボ最終回、紅の暁さん、ありがとうございました!




 

「VOOOOOLEREEEEEEE!!」

 

「うるせー!黙らんかー!」

 

人馬型のハエレティクスの咆哮を叫び声で返す。バカみたいな光景だが本人達は真剣にやっているのがまた呆れるものだ。

 

「っちゅーか、なんなのコイツ!やったら硬いし!」

 

「防御に特化してる……とは考えにくいね。あの速さだ。なにか、アイツに特別な措置を施されていると考えた方が無難かな」

 

地団駄を踏む鈴蘭とは対照的に、琉璃は落ち着いて状況の判断をする。凍てついた世界は元に戻らない。世界の時を凍らせたのは十中八九慈朗のギフトだ。そしてハエレティクスの強化にも慈朗が関わっているとすれば、慈朗のギフトは支援、妨害。率先して戦うタイプではない。

 

ならばなぜ純血の龍種という協力なギフトを有している死期は簡単に退いたのか。

 

「スズちゃん、ハエレティクスの注意は私達が引くよ!二人が戦いやすいように!」

 

「あいさまかせなルリルリ!私の杖捌き、見せちゃるばい!」

 

考えられるのはいくつか。

 

慈朗には死期のギフトを凌駕する隠し玉かあること。慈朗と死期の目的が既に完了しており、死期は別の目的を達するために逃げると見せかけてどこかに移動した。

 

そして慈朗にはなにかまだ果たしていない目的があること。

 

(なんにせよリンちゃんの超スピードを軽々と回避するようなヤツなんだ。理想は私達が速攻でハエレティクスを倒して援護に向かうこと……そしてハエレティクスを倒すのは、スズちゃんじゃないといけないのもある)

 

「んなろ、ちょこまか動きおってからに!命中率重視の弾丸じゃ威力が足りないし!」

 

ハエレティクスが不規則な動作で二人の照準をずらす。右に動けば左に、左に動いたかと思えば右にと、不規則でやりたい放題をそのまま具現化したかのような動きだ。

 

「くっそう、んじゃったら……」

 

鈴蘭はなにを思ったのか、唐突に杖を消し、型がメチャクチャな徒手空拳の構えを取る。

 

「っしゃ来いや!」

 

「は?ちょ、スズちゃん得物放すとかさすがにそれは私も予想外―――」

 

鈴蘭のそのまま姿を見た途端、ハエレティクスは超スピードで鈴蘭に迫る。第三宇宙速度すら突破し、時間の進む速度すら越えんとばかりに迫ってくる巨体。鈴蘭はそれを静かに見据えて、手を瞳に添える。

 

「―――"ジャスティスハート"、ギアモード!」

 

途端、鈴蘭の紅い瞳は真逆の蒼に染まる。自らのギフト、"冥界の獄炎"の焔を腕に纏い、見ることどころか知覚することすら許さない突進が迫る―――

 

「ばぁくれつ、ナッコォ!!」

 

止めた。凄まじいという概念すら超えた速度の一撃を。下手をせずとも竜胆のそれよりも遥かに小さな腕一本で。

 

「いってぇ……!プロミネンスバインド、トラップバインド、カウンターバインド、一斉稼働!!」

 

掛け声一つ。それだけで充分だ。鈴蘭の言葉によって鈴蘭とハエレティクスを囲むように地面や空中に展開された魔法陣から現れたしなった焔と紅く輝く鎖はハエレティクスを縛り付ける。

 

「今だよルリルリ!」

 

「……うん!"星眼"!」

 

鈴蘭が作った決定的な隙を琉璃は逃さずにハエレティクスの頭部に幹竹割りを仕掛ける。凍夜の"森羅万槍"に匹敵する刀、"星眼"の一撃はハエレティクスの特性上決定打を与えることはできなかったが、確実なダメージを与える。

 

「でぇぁやぁあ!!」

 

今度は脚部への一撃。ハエレティクスの崩れた体勢は鈴蘭のバインドがきっちりと押さえつける。

 

「"ジャスティスハート"、ポイントリリース……ランサーモード」

 

鈴蘭は瞳の色を元に戻し、杖に戻し魔力の槍を作り出してハエレティクスの胴体に突き刺す。

 

「エクステンドモード起動(アウェイクニング)。アサルトモード」

 

突き刺した部位をマシンガン状の銃身に変える。持ち手を引いて杖に着いているマガジン状の物を異なる物へと変更。弾丸の性質を効率的に変動。

 

柄尻のボタンを押し込み、銃身を回転。乱射を開始する。

 

「バルカンフレア、ファイアァァァァアアア!!!」

 

「心臓、一突きにしてやるッ!」

 

琉璃が心臓部を一突きと称しながら滅多刺しにし、鈴蘭が肉体を内部から狙って連続照射を行う。鈴蘭の持つ無限の魔力が止むことのない熱の弾丸の雨を撃ち込んでハエレティクスの内部温度を急上昇させる。だがそれは琉璃の滅多刺しと刀自体に込めた"冷却"の恩恵と外部から直接入り込む空気で急激に下がり……上昇と下降を繰り返した身体はハエレティクスの肉類の限界を超え、破裂した。

 

「核が剥き出しになった!今だよスズちゃん!」

 

「ランサーモード!剥き出しのエゴそのものを、突き刺してやるッッ!!」

 

ハエレティクス心臓を一刺しにし、それを超熱の魔法で完全に溶かす。

 

ハエレティクスを倒した二人は互いにサムズアップを見せ会う。

 

「さ、かわいいおとーととその家族のお手伝いしようじゃないかルリルリ!」

 

「そうだね……っと、その前に。多分別の分岐から来ている問題上、三回くらい限りしか使えないけど、スズちゃんに切り札を渡すね」

 

「んにゃ?なにそれ」

 

「それは貰ってから。ゲーム時間の短縮かつ即効性、利便性共に応用が効くとしたら……これだね」

 

鈴蘭をちらりと見た琉璃は少しだけ念じ、空白の空間から一枚の羊皮紙を生み出す。

 

「簡単かつシンプルな分、こっちの箱庭の人達みたいに永続して使えるものじゃないけど、威力と利便性は一級品だよ。さぁ、スズちゃん。キミの力を見せるためにも、キミの力の源を見せてほしい!」

 

◆◇◆

 

突然だが、竜胆にはよく目立つ悪癖がある。

 

怒りっぽいこと、素直になれないこと、自分にとって都合の悪いことはとにかく否定すること。

 

自覚は割とある。二番目のことについては日常茶飯事だ。だが三番目に関してはどうだろう?

 

ぶっちゃけ彼はそれに自覚はない。頑固と言われれば当たり前のことをこなそうとしてるだけと答え、病的なハッピーエンド厨と言われれば助けれそうな命があって見捨てるのは人間のやることじゃないと切って捨てる。

 

この三つがうまいこと彼のデメリットとなっており、慈朗は怒りで大振りになった攻撃を悠々と躱し、凍夜の槍撃も槍故の大振りになってしまうそれも簡単に避ける。

 

「ほらほらもっと攻め立てて!俺のギフトなんて自分以外の生命体一体の強化と一定条件下での世界の凍結だけなんだぜ?お前ら二人で倒せねーわけないだろ?」

 

「いちいちカンに障るヤロウだな……!その面ぶっ飛ばす!ぜってぇだ!」

 

「やってみなって何度も言ってるっしょ……ほれほれさっさとなさいな」

 

「くっそ……コイツは流石に俺も腹が立つぞ……」

 

ゆらゆらとまるでそこになにもないかのように空虚な躍りを続ける慈朗の姿は狂気すらも覚えるほどだ。薄気味の悪さとその無意味ともとれる行動を凍夜はいよいよなにかあると確信めいた予感がしていた。

 

「ん?絶対者、なにか余計なことを考えてるな。もしかして俺に隠し玉の一つや二つあるとでも邪推してるのかな?」

 

「っ……嫌なヤツだよお前」

 

「ははは、意味なく勘ぐってるところ悪いが、俺にはもうなんにもないぜ?ギフトカードにもさっきの二つしかない」

 

ほれ、と余裕の現れか、ふたりに見せびらかすように真っ白のギフトカードを晒す。その態度はまた竜胆の怒りを買い、一層単調かつ激しい攻撃になる。

 

(どうやら本当になにもないみたいだが……ただあの死期を逃がすだけならこの時間稼ぎは少々どころじゃないほどやりすぎという感がある……やはり、なにか意図が他にある……なんだ、なんなんだ?)

 

凍夜が気にしている間にもドンドン時間は経っていく。二人の行動に合わせて動く慈朗の姿は不気味とかそういうものを越えている。

 

時間は過ぎていく。動くはずのない時間の歯車がキリキリと音を鳴らして……

 

「……もうそろそろ、かな?」

 

◆◇◆

 

『ギフトゲーム"覚悟の証明"

 

主催者

・上月 琉璃

 

参加者

・鈴蘭=T(タカマチ)=イグニファトゥス

 

参加者側クリア条件

・己が信じ、進む道の根元を叫べ

 

主催者側クリア条件

・なし

 

上記に則り、誇りと御旗の下、ギフトゲームを開催します。

 

"上月 琉璃"印』

 

「これはなんなんだい?」

 

「私のギフト"ただ一つの奇跡"(オンリーワンギフト)。力を求める人達にその人だけの力を与えるためのギフトゲームを開催するギフト……色々都合があるから簡単かつ単純なものにしたけど、スズちゃんなら瞬殺でしょ?」

 

さぁゲームスタートだよ。と琉璃は言う。鈴蘭は改めて軽く"契約書類"(ギアスロール)を確認し、ニコッと笑って即座に叫ぶ。

 

「楽勝、私が信じる道の根っこはいつだって―――おとーとが幸せになること、ただそれだけだよ!」

 

理解から攻略までコンマと必要なかった。当たり前だ、彼女は自他共に認める弟絶対主義(ブラコン)なのだから。

 

そしてゲームをクリアした鈴蘭のギフトカードには新たに一つ、"簡易版・月光処女"(インスタント・ピュアハート)と記され、ギフトネームの隣に"Ⅲ"と浮かび上がった。

 

「新しいギフト、ゲッチュ!」

 

「うん……スズちゃん、今貴女が受け取ったそのギフト。"簡易版・月光処女"は簡易版が示す通り使用制限があるの。ギフトネームの隣にあるⅢがその使用制限。使う度にその数字は減っていって、0になるとギフトそのものが自壊する。今いる箱庭から離れてもまた別の箱庭に行く可能性は捨てきれないから……一発で仕留めて」

 

「……らーじゃだよ。期待に応える」

 

おふざけなしの首肯。手に持った"ジャスティスハート"を再びギアモードに変えて右手を突き出し、腕に左手を添える。

 

ゆらゆらと揺れる慈朗。事情を知らない竜胆と凍夜は慈朗に翻弄されて時々射線に重なる。

 

「"簡易版・月光処女"起動。"冥界の獄炎"、一点集中状態。"魔導王"重ね掛け。ソニックムーヴを弾丸に起動。速度が上がる分威力をこのままにするとオーバーキルになるから、貫通力と威力を限界まで姿勢制御安定、反動減衰問題に充てる……」

 

"魔導王"の発動と共に現れた幾つもの複雑な数式を鈴蘭は一瞬で解いていく。解いた数式を独自運用の為に書き換えて弾丸と自らの身体に付与する。

 

"簡易版・月光処女"の能力は魔法そのものに使用する魔力を鈴蘭の持つ無限の魔力ギリギリまで使用するというもの。これにより能力拡張の幅を限界まで拡げ、小回りの効かない鈴蘭の魔法に応用性を加えるというものだ。

 

そして鈴蘭の魔力は上述の通り文字通りの無限。なにもデメリットは存在しないし、拡張するのに時間を加えれば一発で敵を仕留める弾丸を拡散させ、それらを全て敵にホーミングさせることができる。

 

だが今回は時間を掛けてはいられない。必要最低限の術式だけ書き加えて、狙い撃つ。

 

「撃てる?」

 

「とーぜん。私を誰だと思ってんのさ……最強最高、オンリーワンでナンバーワンのスーパーおねーちゃんだぜ?」

 

「その根拠はどこから来るのかなぁ……まいいや。私そっちの方が好きだからね。さーやっちゃいなさい!」

 

「おっけい!任せろ!」

 

琉璃の声援に鈴蘭は笑い、翳した手の小刻みな振動は止まり、確かに慈朗の頭に狙いを定めた。

 

鈴蘭の視界に映るそれらは強化された視力と動体視力……そして僅かな挙動で起こる初動すらも理解する。

 

竜胆の初動、凍夜の初動、慈朗の初動……それらを全て見定め、次にどう動くかも判断、射撃のタイミングを図る。

 

「狙い撃つ……くらいやがれぇああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

三人の重なりが離れ、確実に回避のしようがない体勢、その一瞬を衝く。一瞬の時を往く光の如く。

 

光を、時を、宇宙の広がる速度よりも遥かに疾い。その一発の光茫を放つ。

 

「―――!?」

 

一発、当てるだけで慈朗はコロンと倒れた。速すぎるその弾丸は、威力がなくとも生命体を殺すのには充分過ぎたのだ。

 

「―――やっちゃ……た?」

 

「……みたいだね」

 

「……―――」

 

「どうした、竜胆」

 

呆気なく、あまりに呆気なく死んでしまった慈朗の姿。それと、その慈朗を殺した姉の姿を呆然と見ることしかできない。

 

「……また、死んだ……」

 

「また?」

 

「……ごめん。なんでもないんだ。なんでも……」

 

竜胆の肩は震えていた。その呆気ない死に方に家族や親しくしてくれた人達の死に様を思い出したのか。無意識に凍夜に寄りかかっていた。

 

「……また、か」

 

凍夜は竜胆の背を叩き、やさしめに頭を掻き回す。

 

「……同情ってほどじゃないが……身近な人が死んだことなら俺にもあるよ。その気持ちはわかる」

 

慈朗が死んだことをトリガーに、止まった時間は動き始め。二人の身体を風が凪ぐ。

 

「その感情に思うところがあるなら決着をつけるんだ。お前たち姉弟の異世界巡りの旅に」

 

「……うん」

 

「さっき死期が逃げたときに見た歪み……俺ならアレを再現できる。それを通れば、ゴールに近づくだろ」

 

「うん」

 

凍夜が竜胆を引き剥がし、右手を翳す。するとそこから小さな歪みが出て、竜胆をその中へ押し飛ばす。

 

「―――」

 

「行ってこい。お前は半端にしか決着をつけられなかった俺とは違う。昔のお前がいた証があるだろ?」

 

琉璃が引っ張ってきた鈴蘭に眼を移して、その鈴蘭も押し飛ばす。

 

凍夜のサムズアップを見た竜胆は凍夜に聞こえるように、最大限大きな声を張り上げて叫ぶ。

 

「―――トーヤ!全部終わったらそっちに行く!だから待っててくれ!俺の旅の決着―――俺が今の俺として生きてきた、13年の決着を!」

 

「ああ、いつでも来い。いる場所が違っても俺達は家族だろ?」

 

竜胆の顔が消えていく。歪みが閉じているのだ。竜胆と鈴蘭の姿はあっという間に見えなくなり、その場にはなにもなかったように、二人だけが残った。

 

「……行ったな」

 

「行ったけど……慈朗の死体が消えてる」

 

「まだ続いてるってことだろ。終わるのがいつかは知らないが……俺は待つだけだ。帰るぞ琉璃」

 

「そうだね。さ―――そのうちまた北側に行くんだから準備しとかないとね。"アンダーウッド"からも帰って来たばかりだし」

 

 





紅の暁さん、コラボありがとうございました!

トーヤくんやルリルリは割りと二人のことを理解しやすい性格してるんじゃないか、みたいな妄想してたので書きやすかったです。

下のは蛇足すぎる番外コラムなので面倒な人は見ないのを推奨するよ!ノリと勢いの存在だったおねーちゃんがすごい存在に見えてくるから!










以下、おねーちゃんのギフトが難しいって人に下手したらもっと難解になる説明ー!

まずそもそも、おねーちゃんの使う魔法は魔法を使うための魔力を使うのですが、その魔法は所謂、魔力さえあれば科学的に証明できる魔法が主になっています。

なので魔法を使うのに数式を用います。数式を具現化させるのがおねーちゃんの本来の魔法であり、それを"冥界の獄炎"で炎の属性を付与しています。

この魔法は籠めた魔力の大きさに比例して威力が上がるのですが、この威力というのは魔力で拡大させた数式を入れる場所に威力増大の数式を入れているので強くなる。

なのでその威力増大の数式や貫通力の数式を速度上昇や反動減衰、姿勢安定などの数式に書き換えている。

"月光処女"のギフトはその籠める魔力の限界を撤廃するギフトなので、時間さえあれば一発で箱庭どころかブラフマーとかカーリーとか、神話でもチートすぎてドン引きレベルの神様だって殺せます。チート。

……この数式の書き換えを数秒で行って、試射もなしに成功させるおねーちゃんも大概なんですが。



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雪空の名無し花



ちゃうねん。久しぶりにいつもの竜胆くん書いたから遅れたわけやないねん。

……何言っても言い分けにしかなんないっすよねこんちくしょー!

というわけで本編に繋がるコラボ編、今回のお相手は、本編で!




 

 

その日、箱庭全土が未曾有の大雪に包まれた。

 

異常気象だの、淤加美神(おかみのかみ)の御乱心だの、様々言われているが結局のところ真相は謎だ。

 

「もしかしたら雪女の仕業かもねぇ!」

 

その箱庭の"ノーネーム"、各々ある世界において基本的にその一つの世界にしか存在しない、所謂"特異点"と称される少女破従 夏凛(はじゅ かりん)はそんな異常事態でも意気揚々と喋る。

 

「異常気象っていうけど、結局は冷害が多少起こってる程度だ。一部のコミュニティは持ち前のギフトで難なく過ごすだろ」

 

夏凛の物言いに賛成するように相槌を打つ十六夜。自由気ままな二人の発言に、すぐ近くにいた縁巳 呉羽(えんみ くれは)がツッコミを打つ。

 

「いや……二人とも流石に緊張感なさすぎ……でも、雪女か」

 

「どうしたの呉羽くん。なにか心当たりとかがあるの?」

 

「あ、いや……雪女。名前なら飛鳥も知ってるでしょ?」

 

「ええ。名前くらいなら」

 

「それが不思議でね。雪女なんてだいそれた名前をして、人生を憂いた人の心の隙間に付け入るように現れるのに……自分が殺しかけたしがない男のために、身を焼くような熱い恋をするんだよ」

 

「……熱い、恋」

 

ぽけー、と。ついつい復唱してしまう飛鳥。

 

「そ。そういうのって聞くとなにか矛盾したロマンスを感じるよね」

 

そういうの、よくないかな?と問い掛けてくる。困る。そんな笑顔で問う来ても、こちらがよくわからないけど困る。

 

「でもさ!そんなのが実在するなら……喋ってできるなら戦って、お友達になりたいよね!」

 

夏凛がほんわかとマイペースな発言をする。よーっし、と両腕を天に掲げて謎のポーズを作る。

 

「コロンビアー!雪女よ来ーい!」

 

「いや、そんなんで来るのは逆に雪女かどうか怪しくなるんだけ―――」

 

「ふにゃ!?」

 

「ごふっ!?」

 

「―――ど!?」

 

突如、天空から(現在地室内なので比喩表現につきあしからず)少女が降ってきた。なんというナイスタイミングなのか。

 

「は、親方(はーちゃん)!空から雪女が!」

 

「いやいや夏凛、服装が白装束の雪女とは真逆の真っ黒なんだけど」

 

「誰が雪女かしっけーな!私ゃ脳から爪先までバーニングな熱血少女やっちゅーに!」

 

落っこちて来た少女は真っ黒なコートに炎をあしらった模様、太陽を思わせる炎髪灼眼、それになにより言葉の端々に感じられるクールさを微塵も感じさせないアホっぽさが明らかに"雪女と真逆"のイメージを与えてくる。

 

「……ま、いいか。私の呼び掛けに応えたってことは、戦えるってことだよね?」

 

「え、ちょ、夏凛?」

 

「喧嘩の申し込みか!よかろう受けてたーつ!!」

 

「え、は?」

 

(この子、なんかすごい可愛い!終わったら思う存分喋りたいな!それになにより―――)

 

(この女、なにやら我が最強のおとーとによくない影響を与えそうな気がする……出る食いは引っこ抜く!それになにより―――)

 

((―――なにかすごいシンパシー(同族意識)を感じるッ!!))

 

人を振り回す最強クラスの天然ボケ共、邂逅の瞬間であった。

 

◆◇◆

 

魔法(物理)、とでも呼ぼうか。そんな現状である。

 

吹き荒れる赤い奔流と飛び散る灼炎の破片。互いが互いに『本来固体として存在しないそれら』を純粋な力で殴り飛ばす。互いに周りの迷惑を鑑みてないからなおのこと性質(タチ)が悪い。

 

力には力。ならばその力に対抗するために力。それならばその力を叩き潰すために力……と双方の脳筋ぶり(バトルスタイル)が顕著に現れる。

 

しかも双方明らかに嗤っている。

 

「あはははは!!すごい!すごいよすごい!こんなに純粋に戦い合ってるのに力負けされない!こんなの滅多にないよ!」

 

「そりゃお互い様さね!私だって考えなしのガンドコにゃ自信、あったんだけどさ!」

 

見るものからすれば異様な光景。片方を知る人からすれば驚愕の光景。あのバカっぽい言動の幼女がこんなアホみたいな戦闘を繰り広げるとは、という。

 

そして両方を知っている者は―――残念ながら現状はまだいない。

 

夏凛の赤い風はうねりを上げて鈴蘭に向かい、彼女もそれを赤い障壁で防いで。また鈴蘭が太陽も真っ青の火力の炎を引きずり出せば夏凛もまた赤い風で防ぐ。

 

赤い。赤すぎて目に悪い。赤いだけならまだしも、それが通常の三倍とか言うのもバカらしくなるような速さで動き回っているのだ。

 

「くらえぇい!おねーちゃんキィィィィィッック!!!」

 

「なんのおおお!!私流、スーパーキーック!!」

 

互いにアドリブ感満載の蹴りを重ね合わせる。子供達からはヒーローショーみたいな演出に大満足だ。

 

しかし互いにこのまま殴り合いだけでは決着がつかないことを察したのか、自分の得物をギフト、ないしはギフトカードによって呼び出す。

 

鈴蘭はその杖を、夏凛は不定形な赤い力を柄だけ作って構える。

 

「せりゃああ!」

 

先に動いたのは、鈴蘭。

 

「先んずれば勝負を征す!私のターンッ!」

 

一感覚遅れて夏凛も動く。杖が振るわれ、赤が棒状になる。武器が重なり、ほぼ同じほどの力だったそれらは勢いよく弾かれる。

 

そうなれば、武器が固定された一つしかない鈴蘭よりも流動的に形を変えられ、一つ弾かれた程度なら代替えの利く夏凛の方が有利。

 

「その首もらったぁぁぁぁ!!」

 

赤い欠片を長槍に変えて全力で突きを行う―――その刹那。

 

「甘ぁぁぁぁぁぁぁぁぁいい!噛みきったガム以上に甘ぁぁぁぁぁぁい!」

 

 

よく意味のわからない比喩を用いると、突然巨大な壁が二人の間を遮る。

 

「盾ッ!?」

 

(THURUGI)だ!」

 

防人ッシュな台詞が表す通り、降ってきた壁は盾ではなく、(やりとかいてつるぎとよむ)

 

しかもそれは、先程飛ばされた杖が変型したものだったのだ。

 

槍が元の大きさを取り戻し、地面から引き抜かれると、それが合図だったかのようにまた静かな空気を取り戻す。

 

「凄いね!ここまで楽しんで戦える人なんてそういない!」

 

「そりゃどうも……他称蒼炎の悪魔の右腕、獄炎の魔女としては嬉しい限りだよ」

 

「……さ、続き、しよっか」

 

「オッケー。それじゃ―――」

 

それじゃあ、なんて言わせない。遅ればせながら、とうとうアイツがやって来た。

 

「それじゃ―――なにかな?」

 

「おお!我が愛しきおとーと!おねーちゃん先についちゃったからつい遊んでたよ!」

 

「………………言い訳はそれだけ?」

 

「私は常に本音しか言いません!」

 

「そっかぁ。それじゃ―――御叱りの時間だアホお姉」

 

ものっそい剣幕で鈴蘭の愛しきおとーと……竜胆はお説教を始めたのだった。

 

◆◇◆

 

ズズッ、お茶を啜る音。

 

「案の定知り合いの世界だったわけなんだが……」

 

さて、と言うように状況の整理に移ろうとする竜胆。しかしそんな彼の身体のいたるところをぷにぷにと触ってくる夏凛のおかげで全く本題に入ることができない。

 

「……変なとこ触ってこないから怒りにくい……」

 

あくまで夏凛が触っているのは彼の頬とか頭とかだ。まるで子供のようにペタペタと触ってくる。

 

「夏凛。彼……、が話しにくそうだから離れて」

 

「む……はーい」

 

「あとお姉も離れてて。どーせ話を脱線させてくるから」

 

「なぜだ!」

 

「……突っ込むの面倒なの。離れてて」

 

「おとーとが冷たいです!」

 

「で、えーと、そっちのアンタが」

 

最早なにを言ってもこの姉はなにも変わらないのでガン無視。今日の竜胆は少し機嫌が悪い印象を受ける。

 

「縁巳 呉羽。話は夏凛から少しだけ聞いてるよ。とてもボクに似てるって……」

 

「ああ……うん……」

 

似てる、の意味を察してしまって二人とも一気に御通夜ムード。こんな悲しみの連鎖にいることがとてもアレなのだ。

 

「……ま、話を戻す。俺達がこの世界に来たのには少しばかり厄介な理由だ。ここは四番目に訪れた世界だから『四つ目の世界』って言おうか」

 

そして竜胆は話した。自分と姉がこのめんどくさすぎる異世界巡りの旅に出ている理由。もしかしたらもなにも、ほぼ間違いなくこの世界にも"エルフ"の人間がいること。

 

もしかすれば、夏凛や呉羽にも迷惑をかける可能性があることも。

 

「うん……なるほど。事情は呑み込めたよ」

 

「ああ。その上であつかましいが、最初の世界と二つ目の世界で嫌と言うほど自分の運のなさを痛感しててな……多分ここから出たら間違いなく俺達はなんかの理由で死にかける。だから……"ノーネーム"の部屋を貸してくれないか?」

 

竜胆の頼みに呉羽はさすがにうーん、と考え込む。

 

今の状況は最初の世界や二つ目の世界のように死にかけていて無償で助けることに良心的にもあまりメリットがない。

 

かといって三番目の世界のようにその世界そのものが死んでいるという深刻な状況というわけでもない。

 

いくら親友の友と言えど、自分が初対面である以上少なからず自分達側の損得は考えてしまう。

 

―――あ、いいことがあるじゃないか。

 

「そうだ……竜胆……んー、なんか呼びづらいからリンくんでいいや」

 

「御勝手に。お前にならなんて呼ばれても不思議と嫌気はしないよ」

 

「ならリンくんで。えっとね、今こっちの世界でも少しおかしなことがあってね」

 

「おかしなこと……?」

 

「そう。そっちも"アンダーウッド"から帰って来たばかりならこの異常気象の不思議さはわかるでしょ?」

 

「……なるほど、確かに。"アンダーウッド"帰りの頃は真夏もいい頃だったな」

 

「うん……そのことで"サウザンドアイズ"から異常気象の調査の以来を引き受けていてね。でも夏凛はあんなだし、ボクはあまり身体が強くないんだ。そこで」

 

「手伝え、と」

 

「そう。もしかしたら異常気象にそっちのいう"エルフ"も関与している可能性も否定できない。いい交換条件だと思うんだ……どう?」

 

答えはわかりきっているのだろうに、敢えて聞いてくる。こういう無駄に嫌味なところをチラつかせてくるところも本当に俺に似ている……と思いながらその返答は迷うことをしない。

 

「勿論YESだ。宿を提供してくれるならこっちからすれば願ったり叶ったりだ」

 

「よし……契約成立だね」

 

互いにニカッと笑ったのを気に話し合いを終えた。

 

「さて……ここからはボクらも家族ってことでね。これからどれくらいの付き合いになるかはわからないけど、よろしくねリンくん」

 

「ああ……リンくんにカリン、か……偶には忘れてたことを思い出すのも悪くはないか……」

 

竜胆は薄い笑みを浮かべながら、呉羽と弱々しく握手をしたのだった。

 

 






というわけで、桔梗さんコラボありがとうございます!

予定ではオリジナル敵は今回で出尽くす予定です。それでは。



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いつか来る、違う未来



悲報
前書きのネタがなくなったことが理由で完成してから三日間投稿しなかった作者がいるらしい。イッタイダレノコトヤラ……(目逸らし)




 

 

「……確かに、東側とはとてもじゃないけど思えないくらいの異常気象だ」

 

ぐっ、ぐっ……とブーツを雪に埋もらせながら前に行く呉羽に着いていく。本人曰く、この辺りに異常な観測記録が出ているとのこと。

 

「うん。この辺りを起点に三日程前から起こっている。ただ寒いだけなら冷害だけで済むんだけど……問題は起点になっているこの辺りでは相転移現象が全く起こってないってこと」

 

相転移現象。ある安定した物質の相と呼ばれる物が変化する現象を指す。液体から固体に固体から液体に……といった変化も相転移に含まれる。

 

つまり、ただの異常気象ならば必ず相転移現象が発生するはずである。だというのにそんなことは一切起こっていないということが事実。

 

「まるで突然現れたようにこの辺りで吹雪が起こってね……」

 

「なるほど……それなら大寒波や雪女、淤加美神が起こした、という線はなさそうだな。考えられるとすれば、そうだな……特定の場所と繋がっている、か」

 

「ボクもその線で調べてた。だとしたらそれは"境界門"を弄って起こした現象の()()だけを転移させているっていうまた厄介な問題が浮上するんだけどね」

 

「どっちにしろ"境界"を操作する力を持ってる者が起こしていることには間違いはなさそうだな……さて、そうなると異世界も関連性が少なからず出てくるわけだが」

 

因みに鈴蘭と夏凛はお留守番だ。なんといっても変に暴れて貴重な証拠がなくなるのは困るし。

 

「それで……調べているうちに見つけたんだよ」

 

「なにを?」

 

「これさ」

 

呉羽がその場にあった岩をどかそうとする―――のを竜胆が止める。

 

「いい、俺がやる」

 

「え?」

 

「昔の話とはいえ病弱なヤツに肉体労働なんてさせられるか、普通」

 

「そっか、ありがと。優しいねリンくんは」

 

「……別に」

 

いつもの彼なら全力で否定していたであろう感謝を、比較的素直に受け止める。

 

どうにもこの縁巳 呉羽には心を許してしまう。同じだからだろうか、……いや、同じという意味では合っているのだろう。

 

呉羽にとっては過去でも、竜胆にとっては未来のこと。盲目的に、ただ愛した人のために自分を見失う。

 

それを知らない竜胆は不思議な感覚に苛まれたが、さして気にはしなかった。岩をどかした竜胆は呉羽に向き直る。次はどうすればいい、と。

 

「よくもまぁ、俺の知ってる奴らはズケズケと人の心に入ってくる……」

 

「なにか言った?」

 

「いや、別に」

 

アイコンタクトで次にやることを教えてもらった竜胆は空間の一点を指で突く。するとそこからブラックホールと形容すればいいか、そんなような黒い狭間が現れた。

 

「これか」

 

「そう。これが吹雪の発生源で雪を東側に停滞させている原因であるのはほとんど明白なんだけど、それ以上これがなんなのかは全くわからない」

 

「……ビンゴだ。これは明らかに異世界転移に使われる技術がある。十中八九とは言わないが"エルフ"の人間が絡んでいるのは違いない」

 

「そうなの?パッと見じゃよくわからないけど」

 

「座標の固定の仕方や座標のマーキングをすると必ず残る空間の歪みがある。幼い頃は俺も多用していた技術だからな」

 

尤も、理論がわかれど開発できる技術を持っているのなんてほんの僅かしかないが、と付け加える。

 

あくまで自分は第三者から偶然提供された技術を使っているにすぎなかったし、その第三者に物を知ることへの興味が深かった幼い自分が理論を聞いただけ。記憶したことを忘れられない竜胆だからこそわかるのだ。

 

「場所によってはもしかしたらどこの世界と繋がっているのかわかるかも知れない。それはほとんど、海の中から特定の砂を一粒拾い上げるような確率だけど―――」

 

使っていたものと同型だからか、手慣れた動きで歪みからコンソールを引っ張り出して歪みの先の世界を逆算していると、途端に竜胆の動きが止まった。疑問に思った呉羽が竜胆の顔を覗き見る。

 

その顔は驚きに染まっていた。冗談みたいなものを見ているかのように。なにかの因果がこの人物の運命を引き寄せているかのようにだ。

 

「……嘘だろ……この座標……」

 

「リン……くん?」

 

「この座標パターン、俺のいた世界と同じだ」

 

「え?」

 

「しかも歪みから逆算した転移装置の登録名称、母さんが使ってた転移装置と完全に一致してる」

 

死んだはずの母の持ち物がなぜこんなところに、と疑問に思った竜胆は途端に血相を変えてコンソールを乱雑に叩き始めた。

 

「冗談だろ……それじゃ下手をするとあの時母さん達が死んだのも、こうやって異世界を転々と巡ってるのも、全部本当に俺のせいじゃないか……!どれだけ人に迷惑かければ気が済むんだよ俺はッ……!クソが!」

 

明らかに焦りながらコンソールを操作し、出てきては消える文字列を一瞬で暗記しながら自分の記憶も頼りに母がかけているプロテクトを次々に外す。

 

科学的に異世界へと転移することにあまり詳しくない呉羽は目の前に起こっている現象を上手く理解することができず、おびただしい文字列と切羽詰まった形相の竜胆を見守ることしかできない。

 

「どれだ……!あの日依頼母さんは復讐のために人生を費やしていた……!ならあるはずだ!今回の事件のヒントが!あの時起こったことの真実がッ!!」

 

正直、その姿は痛々しかった。見ていられない。光の見えない穴の中を迷走している竜胆の姿はかつて夏凛に囚われて、抜け出すことすら放棄していた自分とよく似ている。

 

「落ち着いてリンくん!焦らなくても手に入れられる情報は逃げないから!」

 

呉羽はなにか悪い予感がしていた。竜胆の発言からして、今彼は普通では開示されない情報のプロテクトを突破しようと試みているのだろう。だがもしこの場に、突破できなかったプロテクトを突破させるためにこの歪みを設置した者がいたとすれば?

 

それは今の行動が完全に悪手であることを物語っている。せめて安全を確保してからが望ましい。

 

だから呉羽が竜胆を止めようとした―――その時に。

 

「うわっ!?」

 

「ぐっ!?」

 

二人はコンソールから引き離された。不思議な感覚によって身体ごとその場から捨てられたような気分だ。

 

「予想通り、プロテクトの解除をしてくれたか……うん、予定通りすぎて怖くなってくるな」

 

「そうじゃなきゃ無用に情報提供しただけだろ」

 

男の声が二つ。二人の後ろから聞こえてきた。

 

「……お前ら、"エルフ"か」

 

「そうだよ」

 

「どういうことだ……お前らは五年前のあの日にも関わってたのか!?いやそうじゃない!それより前からも!答えろ!お前達は何者だ!?」

 

息を荒げて問い掛ける。もしかすれば自分の存在そのものにコイツらは関わってくるのかもしれないのだ。気にかけるのは当然のことだろう。

 

「……そうだな。敢えて答えるとすれば、俺達は"何者にもなれなかった者達"(ノーフォーマー)、と言ったところか」

 

「ふざけるな!そんな曖昧な答えで許容するとでも思っているのかよ!?」

 

「思ってはいない。が、この旅を終えればいずれ嫌でも知ることになる。言葉にするなら答える必要性がない」

 

「ぐっ……!知っているからといって、なんでも見透かしているように!」

 

元々この世界に来たときから巡る意味もわからずに様々な世界を転々としていたストレスのせいか、少し気が立っていたという印象のある竜胆だが、この二人が来てからはそれが確信めいているかのように浮き彫りになっている。

 

いけない。フォローに回る必用もあるし、早くみんなに知らせないと。

 

そう呉羽が直感的に判断したが、向こうはそれを許すほど甘くない。

 

「悪いがお前達には少し付き合ってもらう。なにもこの情報を得るためだけにこの世界に来ているわけではないからな」

 

パチン、と指を鳴らすと、急に歪みが肥大化した。それがなんなのかを察した竜胆は急いで呉羽の元に駆け寄る。

 

「俺達を次元の狭間に放逐するつもりか!?」

 

「そうするつもりはない。だが、時間稼ぎはさせてもらう」

 

呉羽を担ごうとした瞬間、二人はもう一人に思いっきり足蹴にされる。歪みはそのまま二人にだけ吸引力を生み出し、踏ん張りを効かせることもできずに竜胆と呉羽は歪みの中、次元の狭間へと飲み込まれていった。

 

◆◇◆

 

「「―――はっ!」」

 

同時刻、夏凛と鈴蘭は同時になにかの電波を受信した。

 

「おねーちゃんレーダーが言っている!おとーとピンチ!」

 

「私も感じたよぉっ!」

 

謎の電波の一言で済ませて二人はさっさと外出の準備をする。マフラー、コート、その他諸々……とにかく詰め込めるものを詰め込んで二人はさっさと本拠を後にした。

 

「二人がいなくなった場所は?」

 

「わかるよ。私も一応行ったことあるから」

 

一面銀世界で半ば自分達の位置の確認すらもできないような道を二人はすらすらと進む。途中、二人のものと思われる足跡があったのでそれを追う。

 

「ここだよ」

 

「―――ん」

 

二人が足を止める。そこには既に竜胆達の姿も空間の歪みもなかった。

 

だが、二人のものとは別に二つの足跡とこの場で荒事があったかのような跡がある。

 

これだけあれば二人の身になにがあったのかは想像に難くないだろう。

 

「……明らかになにかの介入があるね。そこに隠れてる人達もそう思うでしょ?」

 

跡を確認しながら、夏凛は僅かに人気を感じた方向へと声をかける。

 

そこからは、小さな少年少女が出てきた。

 

(か、かわいい!)

 

夏凛がそう思ったのはご愛嬌だ。

 

「やっぱり見つかったね」

 

「うん。でもそっちの方がいいでしょ?」

 

「ええ。そっちの方が、Eのため」

 

少年少女は互いに言葉少なく、だがしっかりと意志疎通できているかのように話し合う。

 

鈴蘭は直感で理解した。というより、Eという単語から理解した。

 

こいつらは"エルフ"だ。

 

それを悟った鈴蘭は自然に身構えていた。

 

それを見た夏凛も頭のスイッチを切り替えて紅い乱気流を発生させる。

 

「怖いね。まるで見透かされてるみたいだ」

 

「そうだね」

 

二人が臨戦態勢に移行したのと同時に、少年少女も薄ら笑いを浮かべて臨戦態勢をとる。

 

ここに、二つの戦いが始まった。

 

 






コラボ第2話ありがとうございました!

……ネタが、ない。(絶望)

……えーと、えーと。

き、桔梗@不治さん、有り難うございます!



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空虚な流れ星



こんだけ待たせて短いって言うね!ごめんなさい桔梗@不治さん含めて皆様!



 

 

唐突な話だが、鈴蘭=T=イグニファトゥスは自分が"高町 鈴蘭"であった頃のことをあまり覚えていない。

 

薄情、と言われるだろうか。だがそれも仕方のないことなのかもしれない。

 

消えない炎に焼き尽くされ、生きながらも地獄を味わった彼女はその炎の不思議な力によって記憶の大部分を消去された。まるで焼き切れたフィルムのように記憶が途切れ途切れに存在している。

 

覚えているのは家族の名前と生前恋人がいたこと。そして自分は生来"魔法"と呼ばれる技術を身に付けていたこと。

 

あとは……死ぬ間際に聞いた死神の『復讐を』という言葉だけ。

 

恐らくは母を恨んでいた者達だろう。弟の身体を弄り回した者達への復讐のために母は生きる価値のないと断じられた者からただ姿を見た者まで、その二振りの日本刀で狩り尽くした。

 

ならばその母が、家族である自分達がまた復讐されるのも道理かもしれない。

 

鈴蘭が本当に懸念を抱いているのは竜胆が"生き残ってしまったこと"。

 

復讐は復讐へ、そうやって報復され続けているのを幼い彼は知らなかったのかもしれない。だが彼がとったのは予想外にも"誰の迷惑にもならないようにする"こと。

 

自慢ではないが、小さな頃から賢しかった竜胆だ。復讐の無意味さを知っていたか。あるいは―――そんなことをする気にすらならなかったか。

 

恐らくは後者だ。久しぶりに見たときの彼の瞳と、割と打たれ脆い性格から多分違いはない。

 

まぁ、要するに。

 

彼女は彼のことをよく知っているようでなにも知らないし、彼女の心労は彼女や、彼女をよく知る者ほど知らないのだ。

 

◆◇◆

 

「おねーちゃん、踵落としぃ!」

 

謎の技名が響き、紅蓮を纏う脚撃が大地を揺るがす。少年はとんとん、と軽々しくそれを避けて、かと思うと一瞬で距離を詰めてくる。

 

「そぉ、れ!」

 

「ジャストガード!残念ダメージ入りませーん!」

 

なんのゲームだ。思わずそう突っ込まずにはいられない。

 

だがそんなふざけた攻防もせめぎあいが続いている。攻撃と防御。二つがおびただしく入れ替わり、バトルスピードもだんだんと増していく。時折向こう側の赤い乱気流とそれと対峙する黒い波導の余波が邪魔や加勢をしてゆく。

 

現在この二組は少年と鈴蘭が前で殴り合い、少女と夏凛が後方で小競り合いを続けているという感じだ。

 

だがこの状況に二人は違和感を感じている。

 

確かに鈴蘭は殴り合いもできる。だが彼女の本領は後方からの砲撃。およそ支援とは言い難い火力の支援。

 

対して夏凛はギフトの特異性をいかして臨機応変に戦えるものの、どちらかと言えば好んで前に出る方だ。

 

互いが互いに、どういうことか本来の仕事を交換しているという状態。疑問と違和感を持っているというのに不思議とその役割を変える気にはならなかった。

 

どういうことだ、と二人は思う。だが答えは出ず、また出す気にもならない。

 

「考え事はいけないよ!」

 

「うわ、たた!」

 

突然目の前に飛んできた裏拳を杖でなんとか守り抜く。が腕が痺れた。これくらいなら我慢はできるが、反応速度や握力の低下は免れないだろう。

 

しくじった。鈴蘭はこれ以上の猛攻を阻止すべく目の前に障壁を構築しつつも後ろに下がる。

 

が。

 

「せやぁ!」

 

少年がおもむろに雪面を蹴り上げたと思いきや、その中からいくらかの小石が第三宇宙速度を超えて襲い掛かって来て、障壁を一瞬で破った。

 

「ぐっ!?ウッソだろお前!」

 

迫る障壁に身構えたが、それらが直撃する瞬間に夏凛の乱気流がそれを阻んだ。

 

「さ、サンキュー!」

 

「ゆーうぇるかむだよ!」

 

互いに親指を立てるが、そんなことをやってる余裕もなく少女の力の奔流が夏凛を襲う。

 

が、それは助けた礼と言わんばかりに夏凛の周囲に球状の壁が現れて阻む。

 

改めて互いの顔を見た二人はニカッと笑んで、二人共に前に突進した。

 

「―――来た!」

 

「戦況が覆った。これは……」

 

二人の行動の中からなにかを察した二人も衝動に突き動かされて前に出る。二つの嵐と一つの炎と、その身一つ。

 

ぶつかり合ってまだまだ戦いは続く。

 

 

 

 

 

少し、時間を遡る。

 

竜胆と呉羽がブラックホールのようなものに吸い込まれて少し。ようやく二人は目を覚ました。

 

「ぅ……つ……ここは……」

 

「歓迎されてる……わけじゃないね。感じる。ところ狭しとさっきの力が」

 

目覚めてすぐに頭のスイッチを切り替えるのは流石と言ったところか。竜胆が呉羽の前に立ち、静かに正面を見据える。

 

「お目覚めか両人」

 

「そろそろ起きる頃だと思っていたよ」

 

「……それはどうも。態々待ってたっていうのか」

 

「ん?怒りに身を任せて突進はしてこないのだな。短気に見えてその実、戦局を見誤らないクチか」

 

「寝て頭が冷えただけだ」

 

ペッ、と吐き捨てるように呟く竜胆。片方の青年が「結構」と呟くとスッ……とその構えを臨戦態勢のものへと変える。

 

「答えろよ。お前らはどうして俺達が起きるのを待っていた。それとEってのは誰だ。それ以外にもまだ聞きたいことは山ほどある。なんで母さんの転移装置を持っていたとか……聞きたいことだらけでな」

 

「答えたはずだ。時が来ればわかると」

 

「そういう勿体ぶる態度なんて必要ない。答えるか、答えないのか。どっちだと聞いているんだ」

 

「……今はNO、だな」

 

「―――そうかい!」

 

答えを聞いた途端、竜胆は褐色の青年に拳を叩き込んでいた。

 

「こいつはお礼代わりだ……」

 

「……確かに受け取った。では、やろうか」

 

二人は後ろにいる相方を見て、即座に一歩引いた。

 

竜胆が己の呪術で造り上げた弩を呉羽に渡すと、呉羽は自らのギフト境界上(ボーダーライン)でその弩と融合。自らの右腕をそれと同化し引き絞った一射を放つ。

 

牽制目的のそれはあっさりと避けられたが、竜胆が呉羽の思考に合わせているかのように用意されたピストルやアサルトライフル、レールガンと、次々に自らの身体を同化させて射撃の嵐を穿つ。

 

「うおっ……は!面白ぇギフト持ってんじゃねえか男女!」

 

「その呼ばれ方は、あんまり嬉しくないね!」

 

嵐のように降り注ぐ鉛や鋼鉄。竜胆の作り出す武器という武器を身体に取り込んで耳をつんざく轟音を鳴らすが、二人の男はすべてを避けることはできずともその多くを回避している。

 

が、その回避を竜胆は読んだ。次にどこをどう動くか。呉羽の攻撃の雨を卓越した動体視力で全て把握して、最短ルートに筋肉の挙動から予想される次の動作。

 

それらを理解して、褐色の男に二振りの手斧を振る。

 

「っ!」

 

「まだだ!」

 

次に狙うのはもう片方。色白の男だ。雨の中を走り、ジャンプしながら宙返り。所謂前方宙返りをして、右足に鋼鉄を織り込み、踵落とし。

 

さらに踵落としの勢いでさらに宙返りをし、両手にボウガンを構えて発射。それを投げつけて更に別のボウガンを作って発射を繰り返す。

 

「ぐぉっ……!」

 

そしてすぐさま呉羽の雨から離脱した。

 

竜胆の猛攻に怯んだ二人はそのまま呉羽の攻撃を甘んじてしまう。

 

「とんでもない攻撃だが……」

 

「パワーが足りないな!」

 

だが二人はニヤリと笑い、強引に猛攻を掻い潜る。色白の男が褐色の前に立ってブラックホールから二振りの剣を取り出して、目にも止まらない異常な速度―――とは似ても似つかない、ゆったりとした一振りで銃撃の嵐を一瞬で振り払ったのだ。

 

「お返しだ、受け取りやがれよ」

 

ひゅっ、と指揮棒を振るうように剣を振るった。するとどうしたことか。呉羽が撃ち放った弾丸の全てがまるごと、二人に帰って来た。

 

「あ―――」

 

「呉羽!これに!」

 

竜胆がおもむろに紐を取り出して呉羽に掴ませた。

 

「うん!」

 

竜胆の意図を理解し、呉羽は紐と同化した。

 

"境界上"の性質上残ってしまう呉羽の要素、質量はともかく、紐と同化して形状の自由性を有するのは竜胆にとって都合がいい。

 

紐と同化した呉羽を若干乱雑に掴んで、弾丸の嵐を避ける。

 

「なかなかキレるな……じゃ、これだな!」

 

色白自身がブラックホールに飲み込まれたと思うと、竜胆の目の前に現れた。

 

(瞬間移動の系統かっ……いや、物質転移!?だとすればこの空間は転移先の空間……じゃあさっきのは!)

 

恐らくは転移させて、そのまま進行方向を変えてもう一度呼び出したか。

 

だがそうなれば疑問も浮かぶ。自分達を巻き込んだときの吸引力はなんだったのか。

 

ギフトの合わせ技という線もあるが、ならさっきの一勢掃射の時に重力波を使えば回避もできたはず。

 

ならなにが考えられるか。恐らくはまだ、外に誰かいるんだ。

 

なら褐色の方のギフトは未知数だ。なにをするのか、なにが用意されているのか。わからない。

 

だが……少なくとも現状、自分達はこの男らに踊らされる以外に解決策はないのだ。

 

 






先週デジモンの映画見に行きました。アグモンの進化シーンで思わず泣いてしまいました。

……リアルタイム時赤ん坊だったのになんで涙流せるんでしょうね?こういうのって二十歳過ぎた人が流すべき涙だよね?



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降臨、蒼海の覇者……と黒天の朱炎
零話 幸せハッピーデイズを語る狐




また番外編っぽいサブタイを……

まあいいよね!次回から五巻行きますよ!




「───リン。私達もいつか、あの人達みたいなすごい人になれるといいね……」

 

そんな言葉と共に、俺の意識は引っ張られていった。

 

◆◇◆

 

「……随分懐かしい夢を見たな……」

 

目覚めて第一声。竜胆はうつろうつろとした思考の中でそんな感想を持った。

 

「あの世界の夢……か。もう戻ることもできないんだろうけど、あの人達の人生が俺を探すだけで尽きなきゃいいんだけど……」

 

なんであんな夢を見たんだろう。そう思って昨日自分が何をしたのかを思い出す。

 

「えーっと……確か昨日は……」

 

腕にキス。

 

「……俺、なんてことしてたんだろ……」

 

今更になって死にたくなってきた。まさか相手の同意も得ずにキスするなんて耀は考えもしていなかったろうな、なんて竜胆は思う。

 

まあ、当の本人は盛大な勘違いをしていたのだが。

 

「───寝る!思い出せなくなるまで寝る!」

 

だがまぁしかし、基本的に竜胆は恥ずかしがり屋で一途なので、一度自覚してしまった想いというものはそうそう頭から離れてくれない。

 

忘れろ忘れろと布団に潜って中でもがいて蠢いても竜胆にとってとんでもないレベルの事態であるそれは忘れることなんてできない。

 

むしろ昨夜はよくそんなこと忘れて眠れたなと言えるほどだ。

 

「バカバカバカバカ俺のバカ……!」

 

寝れないのをすぐに悟った竜胆はボフボフと布団を叩いてどうにかしようとする。まあそんなのでどうにかなるのなら彼はここまで苦労してないのだが。

 

「くぬぅぉぉお……!どうすればいい……タマモ……?」

 

彼は無意識にその名前を呼んだ。

 

だが、当のタマモはもう3日前にいなくなったのだ。それでも竜胆はそのことを忘れてタマモの名前を呼んだ。

 

そして返事が暫くしても返ってこないから漸く竜胆はタマモがいないことを思い出した。

 

「はぁ……結局俺は他人に依存してたんだな……」

 

竜胆ははぁ、と溜息をつくと、途端に今までの恥ずかしさが冷める。

 

「……寝ようかn「竜胆、ちょっと来て」寝かせて!」

 

◆◇◆

 

それから竜胆は耀に連行され、十六夜の部屋に着いた。

 

「……異邦人の親睦会?」

 

「そうよ。思えば私達……ああ、竜胆くんはタマモに人生教えられたから例外だけど、自分達のことってほとんど知らないでしょう?」

 

「ああ……そうだな」

 

「だから、第一回目のお題として"自分の世界の生活観"を教えてもらうことにしたの」

 

十六夜も今の今まで知らされていなかったのか、彼の好奇心に火がついたような感覚もした。

 

「……結構マトモなお題でビックリした。俺はなんの脈絡もない変なトークするかと思ったよ」

 

「ああ。俺も意外だ。お嬢様や春日部はそういうSFチックな話題に興味ないと思ってたんだが」

 

「そんなことないわ。自分の生きた時代と別の時代の人間が語り合うなんて、中々に知的で素敵な会話じゃない?」

 

「私はそんなに興味ないんだけど……三人を見てると多分、私が一番未来から召喚されてるみたいだから。情報の提供っていう意味では価値があるかなって。

それに、竜胆の世界は元々異世界と繋がりを持ってたんでしょ?流石に私の時代にもそんな技術なかったから、そこは気になる」

 

なるほど、と竜胆は納得する。

 

確かに、世そのものの技術力は耀の時代に大きく劣るはずなのに、その耀の時代に存在しない異世界の移動手段というものを持っているというのは気になることなのだろう。

 

「……そうさな。別に隠すものでもないから、教えよう。

実はその異世界を移動する機械……あれは実際、俺の世界で作られたものじゃないんだ。だから世界の技術そのものは根本的なところから十六夜の時代とそうは変わらないぞ」

 

「……へえ?」

 

十六夜が興味深そうに目を光らせる。そうと聞くと余計に気になるようだ。

 

「じゃあ、竜胆はどうやってそんな技術を?」

 

「偶然の産物だな……いや、そのな?」

 

「その、なに?竜胆くん」

 

竜胆は少し恥ずかしそうにして、あははと笑いながら告げる。

 

「俺が生まれてすぐの頃に母さんが偶然異世界に飛ばされたんだ。本当に突然」

 

「どんな偶然だよ……」

 

「その時に会った人がな……まあ、平たく言えば神様だったんだよ。つっても、神様とは思えないほど変わった神様なんだけど」

 

なんという驚き。まさかそんな阿呆みたいなことをこんな阿呆みたいな世界に召喚される前から味わっていたとは。

 

「で、母さんはその神様に弄られに弄られまくって、地獄の方がマシなんじゃないかっていうバカみたいな修行を受けて……その神様が人間だった時から持ってたものを貰ったんだ」

 

「それが……異世界移動の機械?」

 

「呆れた技術力だな……」

 

「まあ、その人の技術は俺の世界の一万二千年先に行ってるからな。その人個人の技術が」

 

しかも個人の技術という有様である。これは流石の十六夜も苦笑いしている。

 

「まあ当然、どんな世界だろうと幾億、無量大数すら越えるわけだ。そうしていくうちに似たような境遇の人達とも出会って行って……俺の事件が起きたんだよ」

 

途端になんとも言えない空気になってしまったので竜胆はしまったなー。なんて思う。

 

「あー、でもそのおかげで皆に会えたわけだし、俺の人生なんだ。後悔はしても、過去に振り向いて戻りたいだなんて思いはしない」

 

それに関しては本心だが、らしくないことを言ったな。なんて竜胆は思う。

 

多分、今までの自分だったら「悪かった」の一言で終わってただろうなぁ、なんて思いつつも。

 

「それで、竜胆の母さんの知り合いにはなにか共通点みたいなのはあったか?」

 

「基本的に女難の人ばっかだった」

 

超即答。果たしてそれに一番目が行くというのはどうなのだろうか。

 

「ああでも……母さん含めてほぼ全員に共通点あったな」

 

「「「それって?」」」

 

三人は興味を惹かれて竜胆に詰め寄る。竜胆は三人……特に耀に対して狼狽し、変な笑顔を浮かべて腰に手を当てる。

 

すると、鉄に似たようなものでできたベルトと、カメラのようなカタチのしたバックルが現れた。

 

「こんな感じのカタチをはじめとした、色んなベルトを使って悪い奴らだったり怪人だったりと戦った経験のある自由の味方だった」

 

そう告げると、三人は揃って笑い出す。

 

「は、ハハハ!ヤハハハハ!なんだそりゃ!そもそも自由の味方って、正義の味方じゃねえのか!?」

 

「正義なんて言ったら偽善だろ。あの人達は大事な人達の自由のために戦ってたぞ」

 

「ふ、ふふふ。ごめんなさい竜胆くん……!それは私も……!」

 

「……凄いんだね、竜胆の知り合いの人は」

 

「笑うなよ。皆すごい人ばっかりだったんだから……」

 

問題児三人の笑い声は、"アンダーウッド"の河を震わせた。






あんまり詳しくは書けないでゴザル。



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一話 荒ぶる魂 バーニング・ソウル!



今までのシリアス気味だったサブタイはどこへ消えたと言わんばかりにパロディ臭がするサブタイ。

これはヒドイとしか言い様がないね!




「ぁふ……昨日は色々喋りすぎたな……」

 

お祭りだからと言って少し調子に乗ったかなー、なんて竜胆は思いながら出店の手伝いを朝早くからやっている。

 

「ごめんね、こき使っちゃって」

 

「いえ。朝は早く起きて早く動きたくなる性分なので、むしろこれはありがたいです」

 

竜胆が自分の店で鍛え上げた営業スマイルで応答する。

 

「それに……折角お祭りが再開したんですから。少しでも沢山楽しむ人がいれば、そっちの方がいいでしょう?」

 

「ホントにごめんね……」

 

そんな感じで竜胆の朝は過ぎていった。

 

◆◇◆

 

動きたくなる性分とは、真っ赤な嘘である。

 

確かに竜胆はやるかどうか考えるよりも実際に試すという人間だが、今回ばかりは違う。

 

竜胆の脳内メーカー

愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲独占欲恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋恋食欲

 

こんなもんになっている。

 

まあ、わかりやすく言うとまるまる二日自分がやらかしたことに思いっきり後悔していらっしゃるのだ。

 

つまり、彼が朝早くから起きて手伝いをしている理由は『寝付けなくて身体の火照りを誤魔化すため』である。

 

「もうヤダ死にたい……死にたくないけど死にたい……」

 

こんなところにも欲がですぎて矛盾している。

 

「おや、竜胆さん?こんなところで一体なにをしていらっしゃるのですかな?」

 

紳士的な声が聞こえて来て、顔を上げるとそこにはジャックがいた。

 

「……いや、俺個人の問題だから……あ、それよりジャック。俺に会わせたい人っていうのは……?」

 

「ヤホホ。覚えてくれていてなによりです。しかし残念、彼女は朝にとても弱い……また昼頃、きっと彼女から訪ねに来ると思いますヨ?」

 

「……ありがとう」

 

「ヤホホ。お気になさらずに。貴方はやはり笑っていた方が見映えがよくなります」

 

「……それ、どういう意味だ?」

 

◆◇◆

 

さて、時間は飛んで昼。竜胆は例の彼女とやらの存在が原因で気が気ではなく、やることなすことが中途半端だった。

 

そんな彼は、今一度己の情熱に火がついた光景があった。

 

「な、なんだあの女の子!?ものすごい速度で肉を食べているぞ!」

 

「ま、まさか口の中に辺りに物を収納するギフトを……!?」

 

「い、いや違う……!あれはそんなチャチなものじゃ決してない!ただ単に、『食べて噛み、呑み込む速度が速い』だけなんだ!」

 

「………」

 

春日部耀が食べていた。

 

肉を。

 

ありえない速さで。

 

暫く見ていると、"六本傷"の料理人のペースが上昇し、更にそれを見計らったように耀の咀嚼速度も増していく。

 

この料理対決。彼の目から見れば勝算のない勝負だった。

 

だから、彼は───

 

「な、なんだお前!?」

 

「その厨房を貸せ。お前達じゃ無理だ……ヤツの咀嚼に勝ることは」

 

有無を言わさず、厨房に上がった。しかもすでに着替えてある。

 

「同じ種類の食材なら俺が個人的に持ってきたものもある……これで"六本傷"の食料庫がなくなる心配はない……俺に任せろ」

 

「し、しかしっ……!」

 

竜胆は料理人の制止も聞かずに動き出した。右手にナイフを。左手に肉を持って。

 

「さて……調理開始と洒落込もうか……!」

 

ギャラリーが驚愕に呑まれたのはほぼ竜胆が動き出した瞬間だった。

 

「ふ、増えた!?あの料理人の少女、分身した!?」

 

「いや、違う!あれはただ単に超高速で動いているだけだ!焼く、切る、盛り付ける、肉を調達する……その全てを一人で小刻みに、超高速にやっているんだ!」

 

「あんまり焼きすぎると追いつかれかねないからな……今回はレアだ!」

 

次の行動も観客を驚かせた。

 

なんと彼は肉を焼いていたフライパンを回転させたのである。

 

「なっ!なんという荒々しい調理方法!見た目とは裏腹なんていう次元じゃないぞ!」

 

「しかし、この行為にいったいなんの意味が……?」

 

「そう言うと思ったから……御賞味あれ!」

 

更に人数が増え、周りにいる人に肉を配る。観客達はそれを恐る恐る食べる。

 

「こっ!これはっ!?」

 

「食べただけでわかる!この味は……"六本傷"の料理人達があのお嬢ちゃんに焼いていた時のものより遥かにしっかりと火が通っているッ!焼いている時間はそれよりも短いのにだッ!」

 

「……っ!まさかっ、あの回転させて焼く調理方法は『火を直に当てて焼く時間を短縮させること』が目的だったのか!?」

 

「それだけじゃない!刺身だろうとなんだろうと、森羅万象の生肉は鮮度が命!時間短縮によって鮮度も損なわせないのか!」

 

味の評論家と化した観客+料理人が驚愕の声を次々と上げて行く。

 

「これだけの料理がこんな状況で作れる料理人なんて聞いたことがない!いったい何者……!?」

 

料理人の一人がそう呟いたのを聞いて竜胆は思わずニヤリとする。

 

「おせーてくれよ!アンタいったい何者なんだ!?どこのモンだ!?」

 

「どこのモンかと聞かれれば……答えて上げるが世の情け。東側"魔王"討伐の"ノーネーム"所属、兼"サウザンドアイズ"運営の総合料理店狐堂がオーナーを務める高町竜胆です!」

 

その言葉と共に更に観客がざわめく。

 

「東側の"魔王"討伐の"ノーネーム"ってまさか、今回のギフトゲームをクリアに導いたあの!?」

 

「いや、待て!それよりも狐堂のオーナーだと!?」

 

「知っているのかテリー!?」

 

「むう。間違いない……狐堂とは最近南側にも出回っている新設の料理店のこと。味もかなりよく、値段も味と料理に不釣り合いで利益なんてギリギリ出るか出ないか程度のものという……そのオーナーは"サウザンドアイズ"の協力の下開店にまでこぎ着けた"ノーネーム"の者と……都市伝説だとタカをくくっていたが、まさか真実だったとは……!」

 

その説明が終えると観客が一斉にハイテンションになる。まさか都市伝説が真実だとはわからなかったことと、その真実のすごさを讃えているのだ。

 

「ふっ……ヤル気出てきた!俺の中に宇宙キタぜこれ!」

 

竜胆の調理速度が更に早くなり、亜光速に迫りかねない速さと化した。

 

「……負けない」

 

さらに耀の食べる速度もランクアップ。手を振るうだけで肉が消えているようにも見える。

 

正に一進一退。引かず引かせずの戦いが何分か続いていると、その場の空気を凍らせる声が響いた。

 

「……フン。なんだこのバカ騒ぎは。"名無し"のクズ共が汚らしく喰い、粗野に調理しているだけではないか」

 

完全に場の空気は凍結した。それでも竜胆は気にせず自分の料理を続ける。

 

料理人なんて悪質なクレーマーの一人や二人に一方的に言われることくらい当たり前なのだ。いちいち反応していても終わらない。

 

だから反応するのは名指しで呼ばれた時と仲間に手を上げる時。それ以外は完全無視を決め込むことにした。

 

「連中はアレですよ。巨龍を倒して持て囃されている猿共ですよ」

 

「ああ……例の小僧のコミュニティか。なるほど、どうりで普段から残飯を漁って料理を焦がしそうな貧相な顔をしている」

 

無視。耀が食べなくなったので自分で食べることにした。

 

たった今、とりあえずきっかけがあれば殺ろうとも決めた。瞳に若干の朱が入る。

 

その後も男達は"ノーネーム"を乏し続けた。

 

曰く、数日もすればまた残飯生活。

 

曰く、"名無し"に栄光が来る日などない。

 

曰く、曰く、曰く、曰く、曰く、曰く曰く曰く曰く曰く曰く曰く曰く曰く曰く曰く曰く曰く曰く曰く曰く曰く。

 

ありとあらゆる言葉で竜胆達を乏しめる。竜胆は俺がオーナーって時点で食べ物に困ることなんてほとんどないのにアホなのか?なんて思っていた。

 

まあそれでも、いい加減にしないと周りの人も気を悪くするだろうし、それに耀を乏しめるという行為が竜胆にとって許せなかった。

 

丁度、そんな時。

 

「そんなことありません!」

 

「……リリ」

 

聞き覚えのある……というかほぼ毎日声を聞いていた気がする同士の声が聞こえた。リリはそのまま男達と言い合い、そこで"龍角を持つ鷲獅子"連盟の"二翼"首領とかいうヤツを相手にしていただかなんだか言われていた。

 

あー。これは手助け必要かな……

 

俺は現在焼いていた肉を先ほどまでのレアではなく、ウェルダン……焦げる寸前まで焼きリリと言い争いをしていたヤツに投げつける。

 

「へぇ?それでキミ───うぁっつゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」

 

「あ、すみませーん。お客様。焼き加減を間違えた肉を誤ってそちらに投げつけてしまいましたー」

 

仕方ないよね。手が滑ったんだし。

 

「き、貴様……あづぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!??」

 

「すみませーん。また手が滑ってしまいましたー。謝罪するので許してくださーい」

 

謝罪、許してとは言いつつも頭を下げることはなくウェルダンミート、しかもほぼ焦げる寸前を丁寧に一口サイズで"二翼"の男達に投げつける。

 

「というわけで……"二翼"のリーダーさん……お前もさっさと喰え」

 

竜胆は先ほどまでのニッコリとした表情のまま、たった今完全に焦がした肉をそのままグリフィスと名乗ったリーダーの口の中に直接突っ込んだ。

 

「ッ……!?ォァ……!!」

 

竜胆は口の中に突っ込んだ腕を確認すると、唾液で濡れていたことに対して明らかな侮蔑の目で見て、炎で殺菌・消毒する。

 

「グッ……き、貴様ァ……あろうことかグリフィス様にまで……!」

 

「悪いか?無料で利益ギリギリの肉を喰わしてやったんだ。むしろ感謝しやがれ」

 

「"名無し"風情が、つけあがるなよ……!」

 

「つけあがるなよ……?それはこっちのセリフだ混血種の恥晒しが。他人を見下し悦に入り、あまつさえ食べ物に敬意を払わない……貴様らの態度は食べられるものは食べられて当然という目をしている」

 

「それのどこが悪い?所詮貴様ら"名無し"はあの愚かな女、サラ=ドルトレイク同様に我々強者に喰われる宿命なのだ!」

 

竜胆は今の言葉に激しく反応した。

 

「……サラさんが喰われる?どういうことだ」

 

「それ、どういうこと?」

 

耀と竜胆がほぼ同時に声を出した。それを見た"二翼"はここぞとばかりに笑い転げる。

 

「なんだ……あの女から聞いていないのか?あの女は龍角を折ったことで自らの霊格を激しく磨耗し、今までの強さが嘘のように弱くなってしまったよ!

元々龍の力を見込まれて議長となったのだ。それがなくなればその座から引くのは自明の理よ!」

 

竜胆は絶句した。一応、彼はサラが龍角を折ってそれを飛鳥に授けていたことは知っている。

 

だが、そこまでは知らされていなかったのだ。恐らくそこは竜胆が自分が"暴走"したせいと引きずりかねないと危惧していたからなのだろう。

 

「……訂正しろ」

 

「何?」

 

「サラさんが愚かな女と言ったこと……訂正しろよクソ鳥公共。サラさんはお前らクソ鳥共の故郷である"アンダーウッド"を護るために龍角を折ったんだ……俺の責任を、彼女の愚かな行いと言うな……!」

 

「おいお前、いいかげ───」

 

グリフィスの近くにいた近衛兵が竜胆に近づくが、彼の言葉は続かなかった。

 

竜胆が自分の怒りが原因で溢れ出た凍気によって一瞬で氷漬けにされたのだ。

 

無論、これは手だしにはならない。ただ近づいて来たら凍った。それだけなのだ。

 

「雉も鳴かずば撃たれまい……クソ鳥。もう一回言うぞ。訂正しろ」

 

「……誰が"名無し"なんぞに頭を下げるものか!」

 

グリフィスの言葉に呆れを交えながら竜胆は地面からメダガブリューを掘り出し、刃先をグリフィスに向ける。

 

「仏の顔も三度まで……これが最後だ。訂正しろ」

 

身体から溢れ出てきた六枚のメダルをメダガブリューの中に詰め込みながらそう言う。恐らく、彼は自分が何を言おうと向こうの答えは分かり切っていたのだろう。

 

竜胆の予想通り、グリフィスはそれでも余裕の表情を崩さずにニヤリと笑う。

 

「そういえば、もう一匹いたな……バカな真似をして己の誇りを手折った者が」

 

「……なに?」

 

「有翼の幻獣にとって翼は己の誇りそのもの!王者たるグリフォンならば尚更だ!

ヤツは元気か?"名無し"の猿を助けるために誇りの象徴である翼を失った、愚かで陳腐な我が愚弟は!?」

 

我が愚弟。グリフォン。翼を失った。

 

もう、一人しかいなかった。"ノーネーム"の人間……竜胆を助けるために翼を失ったグリフォンなんて、グリーしかいない。

 

「……死ね。消えろ。生きて帰ってくるな。失せろ。この世から存在を抹消しろ」

 

『PU・TO・TYRANO・HISSATHU!!!』

 

竜胆が無造作に腕を振り下ろす。その時───

 

「やめとき。それはそこの鳥だけやなくて周りも大勢死ぬで。

殺しはしたくないやろ?」

 

黒い髪をした隻眼の男に腕を掴んで止められた。

 

竜胆は暫くそのままでいたが、メダガブリューを地面に落とし、それを大地に同化させた。

 

「すまない。止めてくれて感謝する。

無条件に暴れる力だったから、止め方があまり理解できてなかった」

 

「まあ、わかりゃええよ。取り敢えず、キミらはちょっと本陣来てや。言いたかないけど取り調べするから」






大暴走してやったぜ!

なお、余談ですが今回の竜胆くんと耀ちゃんさんのバトル、実は魔王襲来より前からこうなる予定でした(笑)

どんだけやねんとツッコまれても文句は言えない。

あと、ここからは少し真面目なお話を。

ここに書くと多少ネタバレるかもしれないので詳しくは書きませんが、活動報告で孤独の狐に関する募集をしています!

是非見て、応募してくれると嬉しいです!



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二話 箱庭超会議


ニコニ○超会議とか言っちゃいけない。

あと、募集の方にご応募が早速二件ありました!
biwanodinさん、シユウ0514さんありがとうございます!

取り敢えず、一件もないという哀しい事態はまぬがれましたww




「………話はよく分かった。この一件は両者不問とする。しかし次に問題を起こしたら強制退去だ。以上」

 

「ふざけるなッ!サラ議長!コイツらは我らの同士を重症に追い込んだんだぞ!なのに処罰しないとはどういう了見だ!?」

 

「それはお前たちにも非があるからだ。私に対する侮辱は………まあ、目をつぶってやるとしても」

 

「……サラさんはそれでいいのか?俺は絶対許さないぞ……そもそも俺達はサラさんが龍角を折ったせいで霊格が減少したなんて聞いてない」

 

竜胆が怒り狂うグリフィスに呆れながらサラに尋ねる。しかしサラは拒絶するように───

 

「キミ達には関係のないことだ」

 

「……確かに、そうだけど……」

 

サラは押し黙る竜胆を尻目に、再びグリフィスに視線を戻す。

 

「……しかしグリフィス。彼らに対する侮辱は行き過ぎた名誉毀損だ。決闘を申し込まれたとしても仕方の無いと言える。違うか?」

 

「確かに、決闘という形式ならば重傷を負っても仕方がない。しかしあの小娘は問答無用で同士に危害を加えたのだぞ!過剰な暴力行為だろうがッ!」

 

青筋を立てて怒るグリフィス。しかし竜胆の瞳にはその怒りが同士のためではなく、公衆の面前で大っぴらに恥をかいたことに対してであることがはっきりと映っていた。多分、他の面子もそう見えている。いやそうとしか見えない。

 

というかそもそも、竜胆はあの時"二翼"の者が近づいてきたから凍らせただけと開き直っている。しかもしっかりとあの後は普通に解凍したので多少風邪は催すかもしれないが、氷漬けにされた時間もそう長くないので重症なわけがないと思っているのだが。

 

「……空気ぶち壊しの時点で恥かきまくりだったことになんで気づかないかな……」

 

「なんだと貴様!!」

 

「弱者たる"ノーネーム"を虐げて悦に入る……南側の次期"階層支配者"サマは随分と人望を得る方法をわかってないんだな」

 

「……このっ……!」

 

終わりがなさそうな言い争いを繰り広げる二人。サラは呆れながらも二人を止めようとした。

 

「やめとき二人共。サラちゃん困っとるやろ」

 

それを止めたのはつい先ほども竜胆を止めた、わざとらしい関西弁を使う隻眼の青年だった。

 

青年は椅子に座らず壁にもたれかかり、かったるそうな声で呼びかける。

 

「蛟劉殿……その、200歳にもなってサラちゃんというのは」

 

「あっはっは!僕の妹と同じこと言うねえ、サラちゃんは」

 

蛟劉と呼ばれた青年は愉快だと言わんばかりに笑うと、途端に笑うのをやめて二人に視線を送る。

 

「まぁ、ぶっちゃけた話をすると"ノーネーム"の子らはちょっと過剰防衛気味やな」

 

「なんですって……!?そもそも貴方は何者なの?これは"ノーネーム"と"二翼"の問題でしょう。だからこそ"龍角を持つ鷲獅子"連盟の議長のサラが仲介しているはずよ」

 

今まで静聴していた飛鳥が食ってかかるように蛟劉に言う。彼女も心底腹を立てていたようで、それまで竜胆に任せきりで蓄積させていた怒りを爆発させんとしている。

 

それを見たサラは少しどころではなく焦り、急いで飛鳥を止めようとする。

 

「ま、待ってくれ飛鳥!この方は亡きドラコ=グライフの御友人で、連盟の御意見番でもある方なんだ」

 

「……御意見番だと?そんな輩がいるとは初耳だが」

 

竜胆は人望ないんじゃない?と小さく呟いたが、幸い?にも誰にも聞かれなかった。

 

そして蛟劉は困ったように頭を掻きながら振袖から蒼海色のギフトカードを取り出した。

 

「ふ……"覆海大聖"蛟魔王だと!?」

 

「昔はドラコ君やガロロ君をよく世話したったからなあ。その時の恩を今、一時の宿り木として返してもらってるんよ」

 

「はたらかない魔王さま!か?」

 

「キミは少し黙っとろうな狐少女。それと一応御意見番だからニートやないで」

 

俺男……と竜胆が凹むのは最早お約束である。しかし今回は自分から無意味に首を突っ込みに言ったので誰もフォローはしない。

 

蛟劉は一旦ごほんと場の空気を元に戻すように咳払いをする。

 

「巨龍の件については申し開きもせえへんよ。けどな、今回に限ってはあの場で事を終える必要があった」

 

「なに?」

 

「あのな、若いの。オマエ何処の誰に喧嘩売ったと思ってるんや?」

 

「………?何を今更。私は"ノーネーム"に」

 

「阿呆、オマエはこの子らが何か分かってるんか?サラちゃんのことは問題ない、グリーくんのことも、個人のことなら問題ない。大きな問題は白夜王の同士であるこの子らとグリーくんを侮したことや」

 

その言葉にグリフィスは言葉を飲み込んで蒼白になった。

 

「この子らとあの鷲獅子は白夜王の所属するコミュニティの同士やぞ。その同士が侮辱されたと身内贔屓の白夜王が聞いたら───"二翼"は今日明日中に皆殺しやで?」

 

確かに、その通りだ。グリー個人を乏しめることなら別になんの問題もない。身内の問題とも言える。無論、サラのことなんて"アンダーウッド"を守るためとはいえ、ほぼ自業自得の結果だ。

 

だが、そのグリーが白夜叉の同士ということなら話が違う。

 

「最強の"階層支配者"にして太陽の主権を14も持つ御方や……身も蓋もない話を言うと、アンタ……巨龍14体と戦うことになるんやで?」

 

戦えるわけがない。十六夜だって耀のペガサスの加護を受けた超高速移動で運ばれ、飛鳥が押し留めて、竜胆が巨龍の皮膚をかっさばいた上でしか心臓を潰せなかったのだ。

 

そんなのが14体。しかもそれに白夜叉本人が加わってくるのだ。

 

「……とにかく、僕が君らを止めたのはそういう理由や。星霊とか仏様とか、敵に回すもんやないで?敵に回したら最後、旗も残らず滅ぼされるだけなんやから」

 

哀愁の漂う声音で呟く蛟劉の瞳は、修羅神仏を敵に回した者だけが理解できる色を含んでいた。

 

グリフィスは不満そうな瞳を向けていたが、それでもこの場は押し留まった。蛟劉の言う事全てが正論だと理解して、舌打ちをしながらその場を退こうとドアへと手を伸ばす。

 

しかし、二つの声がグリフィスを固める。

 

「「待てよ馬肉。逃げる気か?」」

 

「……なに?」

 

その声の主は竜胆と十六夜のものだった。

 

「待てよ馬肉。逃げる気か?……ほら。聞こえなかったみたいだからもっかい言ってやった」

 

「逃げてんじゃねえよ。白夜叉のことなんてそっちの都合じゃねえか。なんでそっちの都合でこっちが譲歩しなきゃならねえんだ」

 

「お、お二人とも……」

 

黒ウサギの声が聞こえなかったように十六夜は怒りを露わにし、竜胆は冷たい殺気をグリフィスに向ける。

 

そんな二人に蛟劉は呆れて二人の肩を掴む。

 

「あのなぁ、少年少女……仮にも先に暴力振るったのはそっちの方やぞ?」

 

「だからなんだ。じゃあ言葉の暴力は暴力じゃないのか?」

 

「言葉の暴力っていうのは直接的な傷を付けず、痣もなければ血も流れない。だがな、それでも心や魂に傷をつけて涙を流させる……俺からしてみればそっちの方が悪質で卑劣だ。

それが10にも満たないガキなら尚更だ」

 

二人の剣幕にはさしもの"ノーネーム"の同士も驚いた。

 

確かに竜胆は元々家族に対して自分の命を簡単に差し出せるくらいのお人好しで、家族を傷つける者には問答無用で殺しに行きかねないが、普段から軽薄な笑いが張り付いているような十六夜が怒っていることになりより驚いている。

 

「白夜叉が牙をむくとしたら、それは同じ口上のはずだ。……違うか?」

 

「……なるほど。一理ある」

 

「なっ!?」

 

「とはいえ、今は収穫祭の真っ最中。他の参加者も楽しんどるしここは一つ、箱庭らしくギフトゲームで決着をつけたらどうや?」

 

「異論はない……迷惑かけるよりはいいし、そもそも俺達もギフトゲームに出るつもりだったからな……そう、"ヒッポカンプの騎手"で決着つけようか。

一番デカいゲームで大恥かかせてやる」

 

「敗者は壇上で土下座だな───異論はあるか?」

 

「ふ、ふん。今から恥を掻く準備でもしておくのだな」

 

「こっちのセリフだ馬肉。お前が抜いた刃は収める鞘のない諸刃だ。お前が虚仮にしたグリーの傷は、俺の手足と竜胆の意識……そして消えたタマモの代償だ。その代償は必ず支払ってもらう」

 

グリフィスは舌打ちをして部屋を退出した。その背を見守った後、蛟劉は疲れたように大きくため息をついた。

 

「すまんかったな、少年少女。キミらの言うことは一々ごもっともや。よく耐えてくれたな」

 

「別にアンタのためじゃない……それに、俺にはあの馬肉よりも今は許せないことが一つある」

 

「なんや?言える問題なら言ってみ?一応僕も御意見番やし、相談になら乗れるで?」

 

「そうか……なら、遠慮なく言わせてもらうぞ……!」

 

ピキピキと青筋を立てて蛟劉の胸ぐらを掴む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は男だッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……へ?」

 

「馬肉がいたから黙って聞いてりゃ合計三回も少女言いやがって!!口調で気づけ蛇!!」

 

「……ゴメン。ホンマゴメン」

 

「ゴメンで済むなら裁判なんていらねえよ!」

 

それから三分くらい竜胆が理不尽なくらい怒ると、急に表情が元に戻った。

 

「スッキリした。ありがとな御意見番サン」

 

「いやこれ御意見番の仕事やないと……ゴメンなんでもない」

 

竜胆がニッコリと笑ったので蛟劉は思わず謝る。

 

「……まあいい。それよりも蛟魔王か。西遊記にはアンタの記述は他の四人の大聖に比べると如何せん少ない。

悪いと思うのなら是非武勇伝を聞かせてもらいたいな」

 

「………え?それはちょっと」

 

「ああそうか……俺は女なのか……女だったらこんな辱めを受けた以上はもうお嫁に行けないし、辱めを与えた蛟魔王様に嫁ぐしかないなぁ……」

 

「……勘弁してくれへんかな、それは」

 

「じゃあ聞かせろ」

 

「私も聞かせてほしいわ。私も西遊記くらいは知っているから、伝記と事実がどれくらい同じなのか知りたいわ」

 

「全くだぜ。竜胆の言う通りアンタの記述はどこをどう探しても見つからないからな。すごく興味ある」

 

「YES!そういうことなら黒ウサギも聞きたいのデスよ!」

 

「あー、いやいや、年寄りの昔話なんてそんな」

 

「私も聞きたいぞーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!」

 

突然、そんな声が壁の奥から聞こえた。

 

次の瞬間、壁が物理的に壊されてそのままそこにいた蛟劉が吹っ飛ばされる。

 

「のわぁーーーーーっ!?」

 

地面もえぐれたせいで埃が巻き上がる。蛟劉を下に仁王立ちしているしている人影は小さく、ジンより少し大きいか小さいか程度のものだった。

 

「……このテンションにこの声、まさか、あのギフトゲームの時に突然乱入して"バロールの死眼"を壊した御方デスか!?」

 

黒ウサギがビックリしたように声を出す。

 

だがしかし、埃が晴れた時に一番驚愕したのは他でもない、竜胆だった。

 

「……なっ、なななな」

 

「おっ!ようやく会えた!やっほーリン!久しぶり!

おや、どうしたねその豆鉄砲がハト食ったような目は。もしかして私のことわかんない?リンは変わったね!男子は三日合わせて舌目して見よって言うしね!」

 

「……刮目だろ。それとハトが豆鉄砲食っただ。お姉……」

 

はい!?と全員が竜胆とお姉と言われた少女を見比べる。

 

……確かに、よーく見るとそれとなく似ている。だが待て。驚くような幼児体型なのにお姉と呼ばれたのだ。

 

「覚えていてくれてサンクスだよマイブラザー!その通り、私こそがキミの最愛のお姉ちゃん、高町鈴蘭改め、鈴蘭=T=イグニファトゥスのお帰りだよ!」





なんとずっと前から存在を示唆されていたのは竜胆くんの死んだお姉ちゃんでした!

実は二章の最後に出てきたあの人……あれがこの残姉ちゃんです。あの頃の彼女はまだミステリアスな威厳があった……



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ニューキャラクター ステータス

竜胆くんに続いて颯爽登場した超フリーダムおねーちゃーん、そんな彼女のステータスです。




 

 

名前:鈴蘭=T=イグニファトゥス(スズラン=タカマチ=イグニファトゥス)

 

 

【挿絵表示】

 

よっしぃさんに描いていただきました!ありがとうございます!

 

種族:人間(浮遊霊)

 

年齢:14歳(肉体年齢は11歳)

 

性別:女

 

スリーサイズ:表記するのも哀しい幼児体型

 

身長:130cm

 

体重:乙女のヒ・ミ・ツ☆

 

外見:肩甲骨辺りまで伸びる紅のセミロングの髪。ペリドット(橄欖石)色の瞳。因みに元の髪色は黒、瞳は茶色と日系人代表みたいな感じだったが、死ぬ直前の出来事が影響で髪がまるごと生え変わり、瞳が変色した。

 

性格:アホの子。なにをどうしたらそうなるのかとツッコミたくなるような言動を突拍子もなく言い放つ。

 

所有ギフト:

灼炎の神衣(ヘリオスのカムイ)

魔導王

冥界の獄炎(ハデスフロウガ)

恩恵破壊者(ギフトブレイカー)

 

ギフト詳細:

 

灼炎の神衣(ヘリオスのカムイ):

ウィラに与えられた彼女の服のことである。

炎を扱っておきながら炎が大嫌いな鈴蘭のためにウィラが用意した特別な服。炎そのものに恐怖反応を示す彼女はこの服を着ることによって脳に直接"炎ではなく太陽"であるという旨の暗示を効かせる効果がある。

なお、彼女的にはこれ以外の服も着たいので脱げるなら脱ぎたいと言っている。

 

魔導王:

彼女が生まれた時から持っていた先天的なギフト。ギフトというよりは魔法というジャンルなのだが、本質はそうではない。彼女の超大な魔導の力から本来"魔王"となりかねなかった力をウィラが魔導の王として封印している。なお、本人はそのことに気づいていないので王様気分である。

 

冥界の獄炎(ハデスフロウガ):

死んだことによって直接冥界にまで辿り着いた彼女の魂が偶然冥界の神の力を吸収して生まれたチートギフト。溶けない氷だろうと水だろうと、不燃性の物質だろうとそのまま燃やす事が可能である。炎の度合いは調整が難しく、そもそもなんでもかんでも遠慮なくぶっぱなす彼女は高出力以外でこのギフトを使ったことがほとんどない。

炎は"魔導王"と組み合わせて変則的な動作が可能である。

 

恩恵破壊者(ギフトブレイカー):

彼女の奥の手、ギフトを無効化ではなく破壊するギフト。破壊されたギフトは再生するものでもなければ基本的に元には戻らない。

ただし、生物の存在を確立させているギフト(人類の罪/希望など)は生物そのものを破壊することになるため、破壊することができない。

 

概要:

本編開始の五年前に死亡した竜胆の双子の姉。ただし、実年齢は死後箱庭に呼び出されて三年しか経っていないので14歳と竜胆よりも年下。

死んだ時、"ウィル・オ・ウィスプ"のウィラ・ザ・イグニファトゥスによって箱庭に招待され、後に"蒼炎の魔女"の右腕"獄炎の使者"と呼ばれるようになった。

死んだ時のトラウマから炎が大嫌いで、なんの措置もなく炎を見ると発狂する。

ザ・アホの子とでも言うような人物で常にハイテンション。四字熟語やら諺やらをよく使うが、基本的に使い所か読み方、名前を間違えている。

肉体年齢は幽霊のため変わっていないが、竜胆曰く「ぶっちゃけ三年普通に過ごしてもこの身長のまま」と断言されている。

ウィラ曰く最初に呼び出した時はビックリすると思ったが、全然ビックリしてなかったとのこと。やはり異世界と元々繋がりがあるため、その辺は理解があるのだろう。

そして彼女を語る上で外せないのは酷すぎる金遣いの荒さである。生前はお小遣いをその日に洋服に使い切り、友人に借りて返さないなんてザラ。その度に竜胆が支払っていたので彼は金銭管理がかなりしっかりしている。因みに彼は姉とはこんなものだとも思い込み、若干そういったところで天然の気もある。

良くも悪くも、高町竜胆の性格設計に大幅に関わった人物である。

なお、幽霊になった反動でギフトとは別に元々持っていた魔法の力が強化され、"実際に"無限大の魔力を有している。これはギフトとは扱われていないため、ギフトを打ち消すギフトの影響を受けない。

因みに弟バカ。ブラコンとも言う。なんやかんや言っておねーちゃんを慕っているシスコン(確定)の弟より酷いと言われている。

 

好きな人は?

いきなり乙女のぷらいべーとに覗き込もうとするとは!嫌いじゃないわ!実をいうと人間時代付き合ってた人がいました!アホな子ほどかわいーって。しつれーな!アホじゃないもんね!

 

弟の恋路について一言。

ダメダメですな。もっと、こーズババ!っといかないと。それでズドーンって感じで!

 

自分のいいところは?

全て!オールマイティにこなすXラウンダーなのさ!

 

それをいうならオールラウンダーでは?

細かいこと気にしちゃダメダメ!

 

好きな食べ物は?

リンの作るご飯ならなんでも!リンの炊くお米だけで半年は生きてられますなぁ……ジュルリ。

 

座右の銘は?

世界は私のためにあり!

 

弟さんについて一言。

生きててよかったって心底思ってるよ。おねーちゃんは弟のためなら最強になれるからね!

 

 



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特別編!教えて!白夜叉先生!


箱庭世界の日常やら兎は煉獄へやらにあったアレ。

今回の白夜叉先生は孤独の狐について、原作では10000%(二時創作的に)教えてくれないことを教えてくれます!




白夜叉「おうさおうさ皆の衆!よくぞやって来た!今回は問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ?の孤独の狐的な説明をしようではないか!今回はアシスタントもいるぞよ!」

 

竜胆「あのさ……なんで俺がアシスタントなの?もっと適任とかいなかったの?アホなの死ぬの?」

 

白夜叉「まあそういうな竜胆よ。……うむ?そういえば私がおんしのことを名指しで呼んだのは今回が初めてかの?」

 

竜胆「みたいだな。どうも他のSSに比べると二巻時点の絡み俺達多めなのになんでなんだ?」

 

白夜叉「まあ、大方作者の文才じゃろ。気にすることはない」

 

竜胆「そうだな……気にして仕方ない。んじゃ、さっさとこの変な空間から脱出するためにも質問、補足はちゃっちゃと答えてくぞ」

 

Q."人類の罪"

 

竜胆「いきなり人のプライベートを奥底まで踏み抜かれた気分だぞオイ」

 

白夜叉「気にするでない。そもそもおんしについてはこのギフトを語らずして語りようもあるまいて」

 

竜胆「それもそうか……んじゃ説明する。

"人類の罪"は俺……すなわち高町竜胆としての存在を確立させているギフト……まあこれ自体は作中で何度も言及したか。というかむしろこのギフトについてはほとんど作中で説明したんだがな」

 

白夜叉「甘い甘い。おんしのそのギフトには未だおんしが知らぬブラックボックスが存在する。そのブラックボックスの正体は……不明だ。まあ一種の"正体不明"ととってもらえればよい」

 

竜胆「まあ今はタマモのおかげで"人類の希望"になったけど、ギフトの在り方そのものは一切変わってないな。だから神の部分が強引に引っ張ってる獣の部分はなにかの弾みでまた暴走するかもしれん」

 

白夜叉「おんし……懇切丁寧にフラグをおっ立てたの」

 

竜胆「うるさいな。説明中だから黙っててくれ。……まあともかく、この力自体は今も昔も変わらない、不安定な力であることには変わりないな」

 

白夜叉「また、このギフトは人類の進み過ぎた欲の化身だ。その欲望は人の時代が進めば進むほど大きくなって行くであろう。箱庭最古の連中が創り出すものが"人類最終試練(ラスト・エンブリオ)"であるならば、常に進みゆくこのギフトは"人類継続試練(コンティニュー・エンブリオ)"と呼ぶべきだの。

いつその力が牙を剥くか本人もわからぬ上、時が進めば進むほどその力が長大になるなど、厄介としかいいようがないな」

 

Q."玉藻の前"

 

竜胆「"玉藻の前"……か。ぶっちゃけこのギフトに説明はそういらないな」

 

白夜叉「そうじゃの。それでも言うのであれば、このギフトはギフトが一新する前の竜胆が持っておった神格……否、此奴の家族と言うべきか」

 

竜胆「詳しい記述はインターネットなりなんなりで調べればわかるが、それじゃわざわざ説明する意味もない。ここでは普通の日本神話として伝わっている玉藻の前と俺の家族のタマモを比べよう」

 

白夜叉「日本の記述によれば玉藻の前の以前の姿はあの封神演義の蘇妲己……つまり中国の王朝時代にまで遡る。妲己として悪の限りを尽くし、太公望によって討伐された末に日本に逃げ込んで来た……それが本来の玉藻の前じゃ」

 

竜胆「だけど、ウチのタマモは少し違う。確かに妲己とタマモは同一人物と呼んでいいが、タマモの正体はかの天照大御神の表情の一つだ。日本の最高神が余所者の化け狐なんていい目で見るわけがない……だが、タマモは妲己が日本に現れたちょうどその時、見えもしない神……つまり自分に一方的な信仰を丁寧にする人間に興味を持った。

そして天照大御神は自らを絶世の美女へと変えて、記憶を失って、ただの人として生き始めた」

 

白夜叉「なんの因果か、妲己はその美女に取り付いたのだ。タマモは自分の正体に一切気づいていないわけだからの。知らぬ間に化け狐と太陽神が融合して、太陽神と豊穣神となった。

それからは史実通り……天皇家に嫁ぎ、天皇が原因不明の病に伏したことから、陰陽師の安倍晴明がタマモの正体を割り出したのだよ」

 

竜胆「そうして自らの正体に思い悩むままタマモは那須の地に逃げ延び、そこで自らのことを思い出す。

一度目はそんなこともあってほぼ放心状態で軍を壊滅させ、殺しの愚かしさを改めて知ったその後の二度目は話し合うために毒矢の嵐の中、たった一人で訴え続けた。『自分が悪かった。もう一切人里には現れない。だから帰ってくれ』と……だが、それが止むことはなかった。

神と言えど、人の子として転生していたのだから、やがて全身に毒が回って、彼女は死んだ。

そうして彼女は思い知ったのさ。人と神は相容れない存在なのだと。人ではない人のような生き物を化け物とするこの世界は、自分を人として認められる場所はない、とな」

 

白夜叉「うむ。これは流石の私も唇を噛み締めざるを得まい。見た異常を異常としてでしか見れないのは実に人間の業よ。そういう意味では被害者同士、おんしらはお似合いかもしれぬ」

 

竜胆「嫌だな、そんなお似合い……」

 

Q."呪術"

 

白夜叉「カット」

 

竜胆「おいこら待てクソ神」

 

白夜叉「なんじゃ。ぶっちやけ語ることなんてないじゃろ」

 

竜胆「だからと言って仕事を放棄するな」

 

白夜叉「仕方ないのお……では、説明するぞい。

このギフトは本来タマモが持っていたものじゃ。しかしまあ、この小娘のような小僧に取り付いた時に契約の証として譲渡したものじゃ」

 

竜胆「小娘のような小僧は余計だ」

 

白夜叉「ホントにそれ以外言うことないのう。まあ言うのであればこのギフトは神格と共にある。つまり今現在は神格を正式に譲渡された竜胆のものとなっておる」

 

竜胆「呪術、そう一口に言っても色々あるからな。風の呪術とか、炎の呪術とか、氷の呪術とか……あとはタマモ本人に聞いたが、筋力を呪術で強化した金的の呪術もあるらしい」

 

白夜叉「金て……流石は日本最古と呼んでもよい妖怪じゃの」

 

Q."太陽神の表情"

 

竜胆「前々から気になってたが、そもそも太陽神って一口に言っても色々あるよな。天照大御神しかり、アポロンとかラーとか。なんで色々あるんだ?」

 

白夜叉「それはまあ宗教的な問題云々もあるだろうが、一番大きく捉えられるのはその国の太陽への捉え方じゃろ」

 

竜胆「つまり?」

 

白夜叉「ほれ、ラーは神話の石碑じゃと隼と人が合わさった鳥人間もしくはスカラベ人間じゃろ?つまりラーの場合は太陽は日の浮き沈みと共に現れるそれぞれの生物の中でほぼ食われることのない、食われる立場にとっての絶対上位存在というわけじゃ。

それでも人間の姿があるということは、食われる側でありながら食う側にとっては敬う対象なのじゃ」

 

竜胆「なんか言い訳っぽいな……まあいいか」

 

白夜叉「つまり太陽神とは食われる側と食う側、両方の気持ちを知っておるということだ。……ほれ、おんしもグリフィスの小僧の件では食うものを作り上げる側でありながら食われる者の想いをしっかりと受け止めておったであろ?」

 

竜胆「まあ、そうだな」

 

Q.高町家の壊滅

 

竜胆「お前……どんどん人のトラウマみたいな出来事土足で踏み荒らしてんな」

 

白夜叉「そうは言われてものー。これは私が知ることではなく読者に知ってもらうことだしのう」

 

竜胆「ああもう言い返せないのがムカつく……まあいい。だが説明と言っても、俺がこの事態に気づいたのは全てが終わった後だ。

……正直、凄惨の一言に尽きたよ。身体に一切外傷がないのに死んでいたり、一切燃えていないのに人が持つには溶けるほどの体温……まあ、これ以上はグロ的な意味でR-18になりかねないかもしれないから言わないでおくよ」

 

白夜叉「言うて、作者は次回にグロ表記するらしいがの」

 

竜胆「鬼畜の所業じゃねーか」

 

Q.マッチ売りの少女[アンナ]

 

竜胆「アンナ……ねえ。俺自身はあの子が記憶無くなってるから詳しくは知らないんだが、アンタはあの子のことをどれくらい知ってるんだ?」

 

白夜叉「人類最終試練じゃの」

 

竜胆「……はい?」

 

白夜叉「あれは様々な時空の箱庭をゲーム盤ごと渡り歩いておる人類最終試練の一種じゃ。まあ、おんしらがクリアしたことでその試練はあらゆる時間、歴史を歩んだ箱庭で同時に終わりを告げた……じゃが、物語とはハーメルンの笛吹きのように諸説様々ある。もしかしたら、どこかの世界には魔王にならなかったマッチ売りもおるかもしれぬの」

 

竜胆「魔王……だったのか?え?じゃあアンナって実質俺が隷属させたのか?」

 

白夜叉「そうなるの。しかしあのマッチ売りは記憶を失い戦い方とギフトを喪失しておる。今ではただの幼いマッチ売りの少女だよ」

 

竜胆「そうか……」

 

Q.タマモの末路

 

竜胆「お前死にたいのか?俺に殺されたいのか?」

 

白夜叉「お、落ち着け!別におんしの恨みを買っておるわけではない!ただ私は読者におんしの境遇や感情を知ってもらおうと……!

というかそれらに関してはおんしが幸薄すぎるのが問題じゃろ!?」

 

竜胆「白夜が太陽に沈められるって中々面白いジョークだと思わないか?」

 

白夜叉「まっ、待───」

 

今しばらくお待ちください……

 

Now Rording……

 

白夜叉「むほほほほ!!よい胸をしておるわ!」

 

竜胆「やめろバカ!んなとこ触───ひぎぃっ!?」

 

白夜叉「よいよい!くるしゅうないくるしゅうない!」

 

竜胆「くるしゅうあるって!やめ、やめらめぇっ!」

 

白夜叉「うむ。一通り楽しんだところで本題に戻るとしよう」

 

竜胆「はぁっ、はぁっ……人の身体好き勝手弄って愉しみやがって……」

 

白夜叉「では本題に戻る。タマモが竜胆に譲渡したのは彼女の神格……つまり存在を確立させる最重要要素となっている」

 

竜胆「つまり?」

 

白夜叉「タマモは霊格ごと完全消滅したということじゃ。輪廻の輪にも乗れず、その魂は天に登ることもなければ地に下ることもない……完全な孤独が途方もない永遠を彼女を襲うだろうな。

そういうわけでは、おんしもタマモも"孤独の狐"というわけじゃ」

 

竜胆「……ばーか。俺がそんなこと知ってアイツを放っておくと思うか?」

 

白夜叉「思わんの。ハッピーエンドシンドロームのおんしはの」

 

竜胆「その通り。何百何千年かかろうと絶対に迎えに行って、連れ戻すさ」

 

白夜叉「ふっ、私はおんしのそういうところ、嫌いではないぞ」

 

竜胆「ただの自己満足さ。こんなのはな」

 

白夜叉「それでよいのではないか?おんし含め、生物とは欲の塊。私とて例外ではないし、そんな欲のない人間は私からすれば恐ろしい生き物以外の何物でもない」

 

Q.最後に白夜叉先生とアシスタントさんから一言

 

白夜叉「今現在解き明かされていまいちよくわからない点については一通り語ったはずじゃ。いずれはまたこのコーナーも新しい謎が解き明かされれば随時行われるであろう」

 

竜胆「もう俺はコイツと一対一で語り合うなんて死んでも御免だ」

 

白夜叉「そう言うなよ、つれないなぁ」

 

竜胆「つれるつれない以前の問題だ」

 

白夜叉「まあよいか。しっかり付き合ってくれたおんしは改めてツンデレと思い知ったよ」

 

竜胆「なにがだ!?」

 

白夜叉「因みにこのコーナー、次回は未定だが……アシスタントはもう決まっておるらしいぞ」

 

竜胆「誰だ」

 

白夜叉「おんしの姉だよ」

 

竜胆「……次回が今回より何倍も酷い結果なのが目に見えてわかるよ」

 





というわけで教えて!白夜叉先生!でした!

因みにまた一人募集してくれました。ギンレウスさんありがとうございます。

取り敢えず、見ていて疑問に思ったこと……というよりは理解力の低さから聞きたいことが投稿してくれた三人様にあります。例の活動報告のコメント欄に載せておいたので、返信してくれれば幸いです。


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三話 幽霊おねーちゃんと御狐おとーと



孤独の狐募集の結果を出しました!結果は活動報告の方でお知らせしていますので、見ていってくれると嬉しい……と思います!




「はぁ……キミが噂に聞く、"ウィル・オ・ウィスプ"の"獄炎の使者"だったのか……だがしかし、噂に聞くよりは……」

 

サラが突然壁を吹っ飛ばして現れた鈴蘭を見ながら呟いている。

 

「?」

 

「なんとも……小さな身体をしているな……」

 

「そんなこと言わないでほしいでゴザルよ!11で死んだんだから仕方ないと思われ!」

 

「お姉……俺達は異性一卵性双生児なんだからどーせそこまで伸びないだろ?」

 

異性一卵性双生児、それは一卵性双生児は普通産まれないはずの異性の双子である。

 

生物学上ではごく稀にだが事例はあり、異性一卵性双生児にはその性質上、性的、身体的になんらかの障害があるのだが……この双子の場合はどうやら"異常に小さい体躯"と"異常に女らしい身体つきと思考"を持ってしまったようだ。前者は異性一卵性双生児では多めの事例なのだが。

 

「……あー。それよりも、弁償してくれないかな?流石に」

 

サラは鈴蘭が壊した壁を指差す。鈴蘭はてへぺろ!とでも言う顔で竜胆を見た。

 

「はぁ……金遣い荒いお姉のことだ。もう全部使ったんだろ?」

 

「いやー、ごめんね?」

 

「いいよ別に……それでいつも俺や父さん達が苦労してただけだし」

 

明らかにだけではない。竜胆の若干天然な性格設計にはよもやこの姉のフリーダムぶりが関係しているのではないかと思わされる。

 

「……っていうか、お姉はもう5年前に死んだんだろ?俺目の前で死んでるの見たけど、なんでここに……」

 

「ははーん、リンやわかっとらんですなぁ。弟が心配で幽霊がやって来た!なんて言ったら?」

 

「ない。そんなんだったら今頃来るわけないし、そもそもお姉は北側最強の一角なんだろ?」

 

「んまそうなんだけどね!リンは理解が良くて助かるよ!」

 

さて……どこから話したものか、と鈴蘭は態とらしく考える。

 

「そーだね。まずは一回死んだ時から始めよっか。うーん……リンからすれば五年なんだろうけど、私からすればまだ三年くらい前かな……まあ私もなんで死んだのか、その辺の記憶が曖昧なんだけど」

 

◆◇◆

 

熱い。熱い熱い熱い。苦しい。炎が身体にまとわりつく。

 

死の寸前に鈴蘭が感じたのは、そんな感情だった。

 

どうしてこうなっているのか。誰がこんなことをしたのか。あるいは……なにがこうしたのか。その全てがわからない。動機も、炎も、そして……その誰かなんているのかと。

 

炎のせいで陽炎のように揺らめく視界の中で鈴蘭はなんとか家族だった人達を見つけた。

 

母は、機械の身体が剥き出しになってよくわからない鋭利なものが突き刺さっている。

 

父は、右の身体が始めからなかったかのように傷もなく消えている。

 

兄と姉は、互いを守り合っていたかのように寄り添って動かない。

 

下の双子は、外傷一つなく、まるで身体の栄養が全て消えてしまったように朽ちている。

 

……あれ?双子の弟は?私の……私の弟は?

 

死という極限に近い状況の中で鈴蘭はふと思った。

 

いない。跡形もなく死んでしまったのか、あるいは……まだ、生きているのか。

 

後者だったら嬉しいな、と鈴蘭は思いながら炎に焼かれながら、焼けただれない身体からその魂を切り離そうとしていた。

 

丁度、その時だった。

 

「お姉ちゃん!」

 

聞き覚えのある声だ。そう……丁度今、彼についての考え事をしていた。

 

生きてたんだ。よかった……

 

鈴蘭は動かない表情から笑みを作った……つもりだ。

 

「お姉ちゃん!?どうしたの、これ……お母さん達、皆……」

 

「……………リ、…………ン…………」

 

なんとか、なんとかだが声を振り絞ることができた。

 

よかった。まだ、声は届いてる。

 

「お姉ちゃん!しっかりして!死なないでよ!?」

 

「……生きて、て…………よか、った……………」

 

「なんで僕の心配してるんだよ!?自分の心配してよ!」

 

竜胆は嘘だと言うように姉の身体を揺する。だが、姉の身体はほとんど糸が切れかけているように動いてくれない。

 

「……僕なの?僕のこの身体のせいなの!?」

 

「…………違う、よ。リンはなにも、悪くない…………」

 

鈴蘭は消えかかっている命の灯火の中、全てを振り絞って声を出す。

 

「…………リ…………ン…………」

 

「……もういいよ。喋らないでよ。助かるから、喋らないでよ!」

 

「生きて、て……くれて……………ありが、と」

 

もう、それから鈴蘭が言葉を発することはなかった。

 

「お姉……ちゃん?お姉ちゃん……お姉ちゃん?お……お姉ぇ……!!僕は……俺は……どうしたらいいんだよ……!?」

 

竜胆の慟哭は、それから彼が忽然と消えるまで続いた。

 

◆◇◆

 

……あれ?私、死んだんじゃなかったっけ?

 

というか、ここどこなんだろ……?

 

さっきまでの死んじゃいそうな熱い炎とは違う。命をくれるような……そんな、優しい炎。そんな感じの暖かさが包んでるような……そんな感じがする。

 

この炎……誰の炎?

 

「……貴女の命、とても生への縋りがあった。まだ、なにもできていない悔恨の炎……貴女はまだ、生きていないといけない」

 

……誰?誰の炎?

 

「私は、ウィラ。ウィラ=ザ=イグニファトゥス」

 

私を包んでいた炎の主は、とても柔らかい炎、そんな感じだった。

 

◆◇◆

 

「まーそうやってウィラっちのおかげで幽霊として生きるようになって、それから色々あって暴れ回ってたらあら不思議!"ウィル・オ・ウィスプ"の外じゃウィラっちの最強の右腕だの、"獄炎の使者"だの呼ばれてたんだよねー!

私すごくね?かっこよくね?」

 

「幽霊として生きてたっていうのには驚いたけどすごくもなければかっこよくもない」

 

「つれないなーリン。昔はあんなに純真無垢だったのに」

 

「昔を掘り返すな。今は今だろ」

 

「えー。昔は『おねーちゃーん』って甘えてきてたのに」

 

「どんだけ昔だ!」

 

「五年前。私からすれば三年前」

 

「ほほう……それはそれは」

 

「……おい、十六夜。その言葉はどういうつもりだ」

 

「いや、春日部とギフトゲームの作戦立てに行く時にいいネタができたなー、なんて」

 

「貴様ァ……銀河眼、じゃなくて、太陽神の神格の餌食にしてくれる……!」

 

「ははーん?春日部に言うなってかァ?言わないおいてやるよぉ!」

 

「(無言の手刀)」

 

ガシッ!

 

「やめろミザ……リン」

 

「くぅっ……次は止めない!」

 

「そりゃどーも」

 

そんなギャグのような一連の動作から気を取り直す。

 

「……だったら勝負だ。今回の"ヒッポカンプの騎手"、俺達四人で出るつもりだったギフトゲーム、俺は騎手としてお前らに勝つ!勝ったら耀にそのこと言うな!」

 

「……いいぜ。じゃあこっちが勝ったらお前の箱庭の知り合い全員にお前のシスコンを公表する」

 

明らかに割りに合ってない。だがしかし、竜胆からすれば耀にだけは絶対に知られたくないので、頷いている。

 

そもそも、耀絡みになった竜胆がマトモな思考をしているかさえ怪しい。ついさっきだって謎のはっちゃけをしたのだ。

 

「……それでいいぜ……お姉、手伝ってくれ」

 

「えー。私的にはリンのお友達皆に色んなリンを知ってほしいのになー」

 

「誰のせいでこんなことになってると思ってる!?いいから手伝え!」

 

半分は自業自得なのは伏せておく。

 

「さって……となると、他にサポーターやってくれる人を探さないとな……」

 

竜胆は鈴蘭の首根っこを掴んでサラに修理代を支払い、大樹から蛟劉の件なんて忘れたように跳び降りた。






こうして狐くんは苦労人へなっていく……

因みに竜胆くんはおねーちゃんが現れたことでちょっと今までセーブしていたツッコミ役の本能がちょちょいと滲み出ています。多分中二病時代よりもツッコミの言葉が行為も伴いそうで凶悪です。



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四話 炎の転こ……協力者


例の募集に応募してくれた皆様(三人)ありがとうございます!今回から皆様(三人)が考えたオリジナルキャラを登場させて行きます!




「さて……勢いよく飛び出してみたものの、アテがあるわけでもないしな……」

 

「えー。アテなかったの?リンってば、考えてるように見えてお茶目さんだなー」

 

「うるさいな。そもそもお姉が余計なこと言わなきゃこんなことにはならなかったんだよ」

 

「そーやって人のせーにするのよくないと思います!あ、今私幽霊か!」

 

「間違いなく変なこと言ったお姉のせいだよ!船に突っ込んで幽閉するぞ!」

 

「やめてー!乗り物だけは勘弁してー!酔っちゃうから!ウォータースライダーですら5秒で酔っちゃうから!」

 

夫婦漫才を見なくなったと思ったら姉弟漫才を始めてしまった。

 

相変わらず調子狂わされるな……と竜胆は思いつつももう会えないと思っていた家族と再会することができたことには内心すごく喜んでいる。

 

実はこうやって姉を連れ回しているのも、都合のいい口実ができたから久々に二人とも炎を使うだけに、姉弟水入らずで色々話そうと思っていたのだ。

 

だが、残念なことに竜胆は元の世界の思い出を家族が死んで以降マトモに作っていなかったのだ。話すテーマなんて箱庭のことでしかない。

 

「あ!ねえねえリン!すっごい可愛い服ある!」

 

「買わないからな」

 

「ぅえー!?」

 

「そもそもお姉、コッチ来てから何着買ったんだ?」

 

「えーっと、ギフトゲームで元の世界より四倍くらい稼げたから……8000着?」

 

「買い過ぎだアホお姉!そんな着もしない服に金掛けてるから肝心な時に金がないんだろ!」

 

「しかしですなーリンや。やはり洋服の買い物はやめられないのですよ!ほら、この服とか絶対リンに似合ってるって!」

 

「完全に女物じゃねーか!お姉まで俺を女扱いする気か!?」

 

「うるさいきょぬー男子!全く色々と全く育たなかった上に幽霊になって成長の見込みが消えた私の双子とは到底思えぬ!」

 

わーきゃーわーきゃーとアホな姉と生真面目すぎてツンデレな弟。

 

そんな二人を、一人の少女が見つめていた。

 

「……じー」

 

だがしかし、そこは視線やら気配やらに人一倍敏感な動物的本能の塊の竜胆。彼からすれば見ていますよと言っているようなものだった。

 

「……おい、誰だ」

 

「んにゃ?どしたの、リン」

 

突然口論をやめた竜胆に鈴蘭はん?と竜胆を見る。

 

「誰かが俺達を見てる。意図的に……それなりの距離から」

 

「誰がどうやって?なんのために?」

 

「んなの俺が知るわけないだろ……そこか」

 

竜胆が黒翼を展開して飛び上がる。迷いは微塵も感じられないところから彼がよほど暇なのがうかがい知れる。

 

「あー!逃げたなリン!待てー!」

 

鈴蘭も竜胆の行動に勘違いしながらなんかよくわからない力で空を飛ぶ。

 

飛び始めて30秒。竜胆は壊れかけの民家のところで止まった。

 

「おい、ここにいる奴、出て来い。出てこないと家ごと燃やすぞ」

 

竜胆の声が出てから10数秒。誰も出てこないので焼き払おうかと思った、その矢先だった。

 

「………」

 

「……女?」

 

一人の少女が信じられないものを見るような目で竜胆の前に現れた。

 

「お前か?さっきからジロジロと俺達のことを見ていたヤツは」

 

「───会えた」

 

「……は?」

 

「よーやく会えたーーーーーーーーー!!!!」

 

「は?いぃぃぃいいいい!?」

 

突然少女に飛びつかれるように抱きつかれた。なにがどうなっているのか、竜胆には全くわからない。

 

「思ってた通りだ!肌スベスベモッチモチ!ツンツンしてそうな目つき!狼狽えた時の紅い顔!

全部、全部可愛い!パーフェクト!ストライクボールド真ん中!」

 

「こんの、はな、せ……!HA☆NA☆SE!」

 

「ダメ、離しません!前夜祭の時から気になってたけど、やっぱり遠くから見たのより実物の方が何倍も可愛い!」

 

「ぜ、前夜祭からだと!?前夜祭ったら、俺ほとんど外出てないぞ!」

 

「偶然見つけたの!そして思った!ああ、この子は私の天使だって!正に私に愛でられるために現れたような!私のセンサーに引っかかるどころかド真ん中を撃ち抜いていったような?」

 

「知る、かぁぁあああ……!離れ、ろ……!息が切れるぅ……!」

 

「離さないってばぁ……!」

 

「うごごごごごご……………!」

 

「ふぬぬぬぬぬぬ……………!」

 

互いが離れろ、離すまいと押し込み、引き寄せ……かなり不毛である。これをやっているのが見た目美少女の少年と美少女だからそこまで酷くは映っていないが。

 

「ぅ私もむぁぜろぉおおおおおーーーーー!!!」

 

「「ぬわーーーっっ!」」

 

ようやく追いついた鈴蘭は竜胆が見知らぬ少女と遊んでいる(鈴蘭視点)のを目撃し、自分も混ぜろと勢いよく突っ込んで行く。

 

はっきり言って、カオス以外の何者でもなかった。

 

◆◇◆

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!ホントにごめんなさい!」

 

「ごめんですむなら裁判はいらない……と、言いたいところなんだが……」

 

「ホントにごめんなさい……私、可愛いものを見るとどうも我を失って抱きつきに行く性分で……」

 

「迷惑な性分だなおい」

 

「竜胆くんは今まで会った子の中で一番可愛かったです!ホントに男の子?」

 

なぜか若干鼻息荒くして意気込む少女。竜胆が出会う女性にマトモな人が少ないのはなぜだろうか。

 

「男だよ男でわるいかチクショー!」

 

竜胆が泣きながら叫ぶ。正直よくもまあ毎度毎度同じ反応ばかりしていて飽きないなと思うほどだ。

 

「あっ、自己紹介が遅れてた……私はセック・ズルグ。竜胆くんは気軽にセックって呼んでほしい……かな」

 

「ああ。わかった、ズルグ」

 

「セックって呼んでほしいかな?」

 

「よろしく、ズルグ」

 

「セックって呼んでほしいかな?」

 

「ところでズルグ」

 

「り、竜胆くんが……いぢめてきた……!」

 

「こらーリン!女を泣かせる男はハードボイルドじゃないぞー!」

 

「いや、別にハードボイルド心がけてるわけじゃないし……」

 

竜胆がよくわからない怒り方をする姉にため息をつきながら頭を抱える。

 

───やっぱり姉弟水入らずなんて思うんじゃなかった……でも、あそこに残しといて変なことあいつらに吹き込んでも困るしな……───

 

竜胆はめんどくさそうに立ち上がり、改めてセックを見る。

 

「わかったよ……セック。ほら、これでいいだろ?」

 

「やったー!竜胆くんに名前で呼ばれた!」

 

「だから抱きつくな暑い離れろ……!無駄に力強い!」

 

数分後

 

「ごめんなさい」

 

「よろしい。ところでセック。聞きたいこと……というより興味があることが一つある」

 

「なんですか?竜胆くんの疑問で私に答えれることなら、答えられる範囲で答えますよ?」

 

竜胆は壊れた廃墟を指差しながら聞く。

 

「お前……見ていた、と言ったな。こんな遠くもいいところの距離でどう見ていた?」

 

「あー……それですか、私のギフトの応用です。"ローゲ・フィアンマ"っていう炎を操るギフト」

 

「また火属性かよ!私達と被ってる!」

 

「うるさいぜ。少し黙ってろお姉。質問してるのは俺だ。……で、炎でどうやってそんなことができるんだ?」

 

セックは自慢気にふふんと笑い、右手に小さな炎を作る。

 

「それは、ほら……こーやって陽炎を発生させて、密度を上げて蜃気楼にするんです」

 

「……なるほど。蜃気楼の視覚屈折を起こしているのか」

 

「竜胆くんは勤勉ですね。その通り。蜃気楼で視覚を弄って目の前にキミがいるように錯覚させていたんですよ」

 

「器用なことを……」

 

「すっげー!私なんて炎のコントロールが難しいギフトだからバンバン燃費も気にせず撃ちまくることしかできんっちゅーのに!」

 

姉弟二人がそれぞれ賞賛の言葉を贈る。セックはちょっと嬉しそうにしている。

 

そして、それだけの芸当ができるのなら、彼女をサポーターにしてもいいんじゃないかと竜胆も思わされる。

 

「……あのさ、セック。明後日なにも予定とかないか?」

 

「ないけど……なんで?はっ、まさか可愛い竜胆くんからデートのお誘い?」

 

「ちげーよ。お前、俺のアホ従者に代わって脳髄カチ割ってやろーか」

 

「なんだ違うのか……」

 

露骨に残念そうな顔をするセック。竜胆は話が全然進まないことにため息をつきながら、さっさと本題に戻そうとする。

 

「俺、明後日の"ヒッポカンプの騎手"に出場するんだよ。そのサポーターになってくれるヤツ探してて……セックがよければサポーター、やってくれないか?」

 

竜胆が恥ずかしそうに目を逸らしながらそう質問する。なぜ恥ずかしそうにするのかはよくわからない。

 

「……やっぱりデートのお誘いじゃないですか……」

 

「だから、どこが……?」

 

「うん、いいよ!私、竜胆くんのサポーターになるよ!」

 

「まあ……いいや。ありがとう」

 

こうして、二人目のサポーターを獲得。あとは一人だ。

 

「いやーははー。竜胆くんとチーム組めるなんて夢のようだよ。夢なら竜胆くんにちゅーしてもいいかな?」

 

「いいわけねーだろジュラルミン製鉄板で頭ぶん殴るぞ」

 

落ち着いた時と気分が高揚している時の竜胆への接し方の差から一抹どころではない不安を感じてはいるが。





というわけでbiwanosinさん考案のセックちゃんでした!ちゃんとbiwanosinさんが思い描いたセックちゃんになっていたか超心配です!

まあそれより、この時点で水のギフトゲームにメイン炎三人というありえないチームなんですけど!やっぱり火属性は火種が集って強くなるの?

いや、こうなったのも姉弟揃って火属性……しかも弟は万能型からメイン炎に変えた甲殻類が悪いんですけどね!



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五話 アクアジェットで吹っ飛ばして行け モヤモヤ気分霧払いして



というわけで募集キャラ二人目、ギンレウスさん案のエイーダちゃんです!

やったね竜胆くん!ツッコミが増えるよ!

ただまあ、ギンレウスさんの予想したエイーダちゃんになるかはまだ不明……っていうか今回エイーダちゃんそこまで絡まないんだよね。むしろ白夜叉さんと絡んで……なんだ、いつものことか。




残念な美少女ことセックを仲間に加えた竜胆一行はその後二時間くらい人探しを続けていたのだが……

 

「見つからないな……」

 

「そうそう簡単には見つからないと思いますよ?こういうチームで参加するギフトゲームは同じコミュニティ内で参加するのが普通ですから。

ましてや、チームリーダーが"ノーネーム"だなんて言われたら拒否するのも致し方ないですね」

 

「ぶー。リンはいい子なのに、なんで"ノーネーム"ってだけで避けられちゃうんだろ……」

 

「"ノーネーム"だからだろ……いくら"アンダーウッド"を救うのに一番奮闘したコミュニティだろうと、根っこからついてる"ノーネーム"への偏見はそう簡単にとれないよ」

 

「うーむ、なぜ美少女三人組なのに男一人寄らないかと思えばそういう理由だったのか……」

 

「誰が美少女三人組だ、俺は男。女になった覚えなんて微塵もない。そもそも自分で自分を美少女と言うなアホがばれる」

 

「大丈夫!竜胆くんはとっても可愛いから!」

 

「フォローになってないぞセック。お前ホントは俺のこと嫌いだろ」

 

「そんなことないよ!大好き!ベリーライク!」

 

「なんでだろ……イマイチ信用できない」

 

気性の浮き沈みが激しいからだろうか。竜胆はどうしても彼女がハイテンションな時の言葉が信用できない。

 

「うーむ……私の人脈で拾えないこともないけど、どーしても来るのは三日くらいかかっちゃうからなー……間に合わないな」

 

「……無能おねーちゃん」

 

「きゃぴーん!リンにおねーちゃんって呼ばれた!」

 

無能と言われたのにそっちに反応してしまうのはなぜだろう。姉弟揃ってブラコンのシスコンとは。

 

「……やっぱり困った時はあいつに頼るしかないな」

 

「あいつ?どちら様?リンの彼女?」

 

「んなもんおるか!」

 

「そうだよ!竜胆くんは清廉潔白な童貞だよ!」

 

(ごめんセック……俺、もう卒業してるから)

 

それが前の世界の出来事でもあることは秘密。しかもそれが逆レ(禁則事項です!)であることも秘密。

 

「……って、そうじゃない。なんで一つの話題でここまで脱線するんだ……白夜叉んとこだよ。あいつに頼めば協力者の一人や二人、なんらかの条件付きで出してくれるだろ」

 

「おー!困った時の夜叉えもんだね!」

 

「便利なんですね」

 

自分から提案しておきながら困った時に白夜叉に頼るのはいかがだろうとは思った。竜胆は個人としてもコミュニティとしても彼女に結構頼っているので、若干気が引ける。

 

見返りになにを求められるのかも怖い。

 

「……まあ、負けられない戦いなんだ。今更あいつに一つ二つ辱めを受ける程度はどうってことないか」

 

残念なイケメン(美少女とも言う)とはきっとこういう生き物のことを言うのだろう。彼の目には確実に耀に恥ずかしい過去(幼少期)を暴露されるか否かしか頭にない。

 

果たして、これが本当に呼び出された直後に普通に人殺しをするような発言をして、色々人間として常識的に危ないことを言っていた人間の姿なのだろうか。

 

いや、そうであろう。反語……反語?

 

「さて……白夜叉のいるところは……と」

 

◆◇◆

 

「というわけなんだが」

 

「そうは言われてものう……"サウザンドアイズ"はレンタル屋ではないぞ?」

 

「文句なら最初に専門外のギフト鑑定を吹っかけた黒ウサギに言え。俺悪くない」

 

「おんしも大概いい性格しとるのう……最初のツンツンが嘘のようだな」

 

竜胆達は神格の返上によって元の大人の姿に戻った白夜叉の元に現れた。

 

白夜叉が若干汗をかきながらそう言うと竜胆は意地の悪い顔をする。やはり、彼の精神年齢は無理矢理大人びさせただけで11に家族を失ってから止まっていたのだろう。

 

だがしかし、精神年齢が幼いからと言って、彼は年相応にはそういうことを知っている。竜胆は白夜叉の耳元に唇を近づけ、少し妖艶な色気を醸し出しながら囁く。

 

「もし、紹介してギフトゲーム参加の仲間が増えたら……イ・イ・コ・ト・……しようかな……?」

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………マジで?」

 

「ホントもホント……こんなこと冗談で言うと思う……?」

 

「………───………────!!乗ったぁ!その契約、交わす!」

 

「交渉成立……」

 

そのまま白夜叉は急ぎ足も急ぎ足、多分今までで一番気合いの乗った面持ちで色々と手配をする。

 

「……ほぇー。リン、なに言ったの?」

 

「白夜叉さん……随分と興奮した表情でしたけど……?」

 

「なぁに。魔法の言葉さ。色仕掛け……あるいは誘惑……とも言うか。やりたくなかったけど」

 

「竜胆くん……キミさ、否定してるのに自分でやっちゃうってどーなのかな……」

 

「逆にあれだけ言われてそういう顔だって気づかない方が変だろ……だから使いたくなかったんだよ」

 

「待たせたのう!手配が済んだぞ!」

 

「「「早い」」」

 

腐っても元"階層支配者"ということか。書類仕事には慣れているのだろう。

 

「むっふふふ……今回の"ヒッポカンプの騎手"に合わせて水の使い手を呼んだ。ホントはもう一人候補がおったのだが……そやつはなにやら都合があるようでの。

そも、おんしら纏めてメイン炎だろう?」

 

「まあ……メインは三人共炎だな」

 

「うむ、というわけで、来よ!」

 

白夜叉がいつも通りパンパン、と柏手を打つと、奥の襖から空色の髪を一本に束ねた少女が現れた。

 

「また女かよ」

 

「そう言うでない。もう一人はおんしと同類だったが……それの方がよかったか?」

 

「どっちにしろ女だらけにしか見えないってことじゃねえか」

 

「そうなるのう!」

 

なぜかエヘンと胸を張る白夜叉。ちょっと殴りたくなったが、返り討ちに会って変なことされたくないので自粛。

 

「……あ、自己紹介、どうぞ」

 

「……うむ。儂はエイーダ・ミュール。こんなナリじゃが、一応はそこの駄神のお眼鏡にかかるコミュニティの一角を担ってはおる。

まあ、よろしく頼む」

 

「ストライク!可愛いキュート!」

 

「わかったからセックはしゃしゃり出るな!また面倒なことになる!」

 

「抱かせろ……抱かせろ……レッツ抱擁……!」

 

「お姉も止めてくれ!コイツやっぱり見かけ以上に力ある!」

 

「うわぉ……セックちゃんパワーAだね。弾道次第でホームランバッターも夢じゃないよ……!」

 

「なんの話をしてるんだ!?」

 

開始早々このカオス。やけに顔がにやけてる白夜叉、顔が影で隠れているセック、謎の感心をする鈴蘭、そして泣きそうな顔の竜胆というわけのわからない状況に放り出されたエイーダは片手で頭を抱える。

 

「……わけのわからんチームに呼び出されたのう……はて、こんなチームで勝てるのやら……」

 

至極尤もなコメントであった。

 

◆◇◆

 

「んじゃ、世話になった。俺はこれからヒッポカンプ選びして来る」

 

「ま、待てい!おんし、仲間にしてくれたらイイコトしてやると言っておったではないか!」

 

……ちっ、憶えてやがったか。

 

「はぁ……しょうがないか。ほれ白夜叉。目閉じて顔出せ」

 

「ん。こうか?」

 

白夜叉が顔を突き出してくる。うん、明らかにキス待ちだ。

 

だがしかし!まるで全然!この俺の考えにたどり着くのには程遠いんだよねぇ!

 

「んじゃ……」

 

「………」

 

俺は白夜叉の顔に唇……ではなく、右手の人差し指と中指を左手で抑え、バネを使ってギリギリまで曲げる。

 

そして、左手を放す。

 

しなりの聞いたしっぺが白夜叉の額に直撃した。

 

「ぐぶるぁ!?お、おんし……これがイイコトかえ!?」

 

「はっはっはっは!他人……しかも男にエロスを要求した時点でお前の負けだ!よからぬことを企んで愉悦に浸る夜叉様に太陽の神様兼、豊穣の神様兼、孤独の狐からのプレゼントだ!」

 

あっははははは!とまるで別人のように笑っていたと後にセックは語る。

 

だけど関係ないね!すっげ楽しい!白夜叉にしっぺ!すっげ楽しい!大事なことだから二回言いました!

 

「……おおおのれぇい……いともたやすく行われるえげつない行為に私の怒りが有頂天になったぞ……!」

 

「ははははは……ん?」

 

「白夜叉よ。もはや手加減をする必要などない!今の私のパワーでおんしのその反抗心を消し去ってしまえぇい!」

 

「へぇあぁ!?

……や、やめろ白夜叉。落ち着けえええええ!!」

 

「ふーっふっふwあーはぁーはぁーはーっwうあぁーはぁーはぁーはぁーはぁーはっwふぁっはっはっはっはぁーっwwひぁっはっはっはっww」

 

「や、やめろ白夜叉、マジで!んぎぃ!?み、皆見てるからぁ……!」

 

「ふふふ……いつも(番外編)していることであろ?ほれ、ほれ……!」

 

「んっ……そんなこと、してな……ひぃ!?ら、めぇ……そんなとこ、触るな……っぅ!?」

 

暫く、なんか艶かしい嬌声が響いた、とか。






結局いつも番外編で白夜叉さんがやってることを本編でもやらかしただけじゃないですかヤダー!

そして特に理由もなく行う次回のセリフ抜粋

「……いつも無表情なのに、こういう時だけ笑顔って、ズルい」

竜胆くんがデレたぁ!つまりそういうことなのだぁ!


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六話 月光の下で



ニヤニヤ。

ニヤニヤ。ニヤニヤ。それだけしか言えない。


「……これがヒッポカンプか。なるほど。やはり百聞は一見に如かずだな……俺自身にヒッポカンプの遺伝子があっても、ヒッポカンプそのものは見たことないからいい体験だ……」

 

水面を優雅に歩く水馬……ヒッポカンプ達を見ていた竜胆はなにを思ったのか、ゆっくりと水面に足をつけた。

 

そして、彼はおぼつかない足取りで立ち上がった。

 

「ぅお……結構難しいな、これ……波が揺れて動きにくい……表面張力のコントロールが重要なのか……」

 

ぐらぐらと足をふらつかせながら竜胆は一歩を踏み出す。

 

すると、丁度それを見ていた一頭のヒッポカンプが竜胆に駆け寄って来た。

 

『あ、貴方……これを始めてどれくらいですか?』

 

「……ん?あ、ヒッポカンプか。人語を喋らない動物とコミュニケーションを一対一でとるのは始めてだ……今までだったら大抵タマモがいるんだけど……

えと、これは……さっき始めました。色々あって、ヒッポカンプの力を目の当たりにしたから、特徴を学んで行こうかと」

 

『は、初めて!?我々でも一、二ヶ月はマトモに歩けませんよ!?』

 

「……へ?」

 

正に衝撃の真実。なんで俺こんな普通に歩いてるんだろ?と竜胆は目を丸くしていた。

 

「……そっか。これも、俺の特異性か……」

 

竜胆は疲れたような、呆れたような顔でゆっくり、おぼつかない足取りでヒッポカンプに近づく。

 

「ねえ、アンタ……名前は?」

 

『……私はカムプスです。もう競走馬としての寿命もなくなる年老いた馬ですよ』

 

「……年老いた、か……でも、アンタの目は全然年老いているように見えないな」

 

『意地が悪い性格なのですよ。今年で競走馬としての引退はほぼ確実ですから。

最後に人を乗せて走りたいと思っていたところ……貴方を見つけたのです』

 

カムプスと名乗ったヒッポカンプは残念そうに水面を見つめる。本当に残念そうで、基本お人好しな竜胆がそれを気づいて放っておくわけもなかった。

 

「……カムプスさん。俺、実は明後日"ヒッポカンプの騎手"に出るつもりなんだ。

それで、暫く見ててもいい競走馬が見つからないんだ……こういう時、ものを言うのは経験だと思うからさ……カムプスさんがよければ、俺と一緒に"ヒッポカンプの騎手"に出てくれないか?」

 

竜胆の言葉にカムプスは目を丸くしたように竜胆を見つめる。

 

『本当……ですか?嘘ではないのですか?』

 

「嘘は苦手なんです。作り笑いはできても、感情を作るのが苦手で」

 

竜胆は愛想笑いを浮かべながらカムプスの背ビレを撫でる。

 

カムプスは竜胆の愛嬌のある、それでも感情が渇いたような笑顔になにを思ったのか、頭を竜胆の腕に当ててくる。

 

『……慎んで受けさせてもらいます。こんな老馬でよろしければ』

 

「言っちゃなんだけど、老馬だからこそ、だね。この場合は」

 

『……ですね』

 

呆れたような笑い声が少しだけ響いていた。

 

で、丁度そのタイミングだった。

 

「竜胆?」

 

逃げたい。声が聞こえた瞬間に竜胆は即座に思った。だがしかし、彼は今全く慣れていない水上にいる。

 

つまり?逃げられない。

 

つまり?目の前にいるのは、今竜胆が一番会いたくない人物。

 

つまり?それはもう、竜胆が自分から死ぬほど恥ずかしい思い出を作るきっかけとなった少女、春日部耀にほかならなかったのである。

 

「……っ、……、逃げ、逃げる……!」

 

竜胆はなんとしてでも逃げようと全力で足を動かそうとするが、乗ったことのない乗り物を運転するかのごとく華麗にスリップしてしまった。

 

「ふがっ……!?」

 

「大丈夫?」

 

耀はすっ転んだ竜胆にちょっと驚いて、すぐさま彼に近づく。彼女も少しおぼつかない足取りだったが、水上を歩いていた。

 

そして耀は竜胆の元まで行くと、膝を曲げて視線を竜胆よりちょっと上辺りにして右手を差し出した。

 

「立てる?」

 

耀はすっ転んだ竜胆が少し面白かったのか、あるいはすっ転んだ竜胆に弟を見ているかのような、もしくは他の感情からか、微笑みを浮かべていた。

 

竜胆はその微笑みを見て完全に顔を真っ赤にしてプルプルと震えながら右手を掴む。

 

「……いつも無表情なのに、こういう時だけ笑顔って、ズルい」

 

竜胆は耀に支えられながら立ち上がり、耀に聞こえる程度にではあったが、小さな声で呟いた。

 

◆◇◆

 

その後、川辺の岩に二人で腰を降ろして隣に座る。

 

が、悲しいかな。会話がなにもない。

 

かたや、無表情の少々無口。

 

かたや、ツンデレの上に目の前には惚れてる相手。

 

この二つが巧妙に混ざり合って微妙な空間が生まれていた。正直竜胆は感情かなぐり捨てて言いたいこと言えと言われれば全力で泣き散らしていただろう。そんな感じ。

 

「竜胆」

 

「へぇえ!?」

 

突然名前を呼ばれたのでつい変な声で反応してしまう。

 

竜胆が振り向くと、目の前に耀の顔があったので一気に真っ赤になる。女性疑惑の時といい、リアクションが決まって一つである。

 

「竜胆……"ヒッポカンプの騎手"で私達と違うチームで出るんだよね?」

 

「え?あ!?なんでそれ知ってるの!?」

 

「十六夜に聞いた。なんでそうなったのかは聞いてないけど」

 

耀がそう言ったので思わず胸を撫で下ろす。よかった。本当によかった。

 

ただ、これに負ける=小さい頃の彼が見られるというだけでつい最近の出来事ではないということに彼は気づいていない。

 

「あ、あぁ……よかった……」

 

「……竜胆、あのギフトゲームといい、今回といい、なんかここ三日でよく私に隠し事してるよね」

 

「……………………………ソ、ソンナコト、ナイヨ?」

 

言えるはずがないのだ。その二つに関してはほとんど自分のことが耀に割れてしまうことなので、教えることなどできないのである。

 

「怪しい」

 

「あ、怪しくない。ドント怪しくない」

 

「それ、怪しいってことだよ?」

 

「……はっ、」

 

竜胆は華麗に墓穴を掘った。やはりというか、どうも彼女相手には話しづらい。惚れた相手に普通に話しかけてる人とかいるけど、竜胆はそんなことできる人はホントにすごいと思ってた。

 

「ふふっ、やっぱり竜胆って不思議だ」

 

「……は?不思議?」

 

「うん。目を離せなくって、気づいたらどこか遠い場所にいて、なのに、いつも求めればすぐ近くに来てくれる。……レティシアの時も、竜胆のことを思ってたら来てくれた」

 

いつの間に日が暮れていたのだろう、上空には綺麗な弧を描く三日月が浮かんでいた。

 

月の光に照らされている耀は、竜胆の瞳からは普段より少し神秘的で、綺麗に見えた。

 

「いつも近くにあるのに気づけば沈んでて、求めれば昇ってくる。

キミは、まるで太陽だ」

 

耀は微笑み、竜胆を横目で見ながらそう言う。

 

……太陽。竜胆からすれば自分はそんなに大層な存在には見えなかった。

 

違うんだ。俺はお前がいたから光ってる……太陽はお前なんだ。そんなことを言いたいのに、何故か言葉が出ない。

 

「………………もし、」

 

「………?」

 

竜胆はそう思いながら、なんとか声を出す。

 

「……もし、俺が太陽だとしたら、」

 

竜胆は三日月を見上げながら指で三日月をなぞる。

 

「お前は宇宙だな。光ってる俺を作ってくれたのは、お前だよ」

 

そこで一際つよく、間違いなくなんていうのをつけないのが彼らしい。

 

竜胆は横目で見てくる耀にふっ、と微笑みながら、本人達が気づかないほど、身体を耀に近づけていた。

 

「……なあ、耀」

 

「……なに?」

 

竜胆は少し迷ったように、暫くなにも言わなかったが、意を決したように耀へと向き直る。

 

「"ヒッポカンプの騎手"が終わったらさ、俺と二人で"アンダーウッド"を出てどこか旅行にでも行かないか?」

 

グキュルルルルルルルルルルルルルルル。

 

超、空気を読まない音が聞こえてきた。耀の、お腹から。

 

耀は恥ずかしがる様子もなく、あ、という感じで自分のお腹を見る。

 

「……ゴメン。私と竜胆の二人でどこに行くって?」

 

「……ああ、いや……二人で食べ歩きでもしないか?金は……俺が出すから」

 

「行く」

 

即答だった。多分、竜胆が全部払うと言ったからだろう。

 

「はははは……はぁ」

 

竜胆が感情が一切こもっていない渇いた笑い声をあげると、同時に溜息も出てきた。

 

竜胆はお腹を押さえる耀を見つめながら、ふと視線を三日月に戻す。

 

星空の観察には良すぎる、南側なのに湿気は少なく、少し暖かいという最高の気候だった。

 

月は静かに佇んでいた。まるで二人を見守っていたかのように。

 

「……いつか、ゲームもなにも関係ない。勇気が出来たら言うよ。嘘で塗り固められた俺の、嘘偽りのない本音……」

 

誰にも聞こえない小さな呟きは、虚空の中へと消えて行った。






もう耀ちゃんさんが完全にエロゲの主人公ですよ!大事な時に動物的な超聴力が役立たずで「え?なにか言った?」って、完全にエロゲもしくは恋愛シミュゲーの主人公ですよぅ!



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七話 恥じまりの音



星空デートは感想を稼げなかった……くっ、ツンデレ力が足りなかったということか……!




「グリーへの見舞いも済ませた……ヒッポカンプの方もカムプスさんには結構乗ったから後は当日まで待つ……か……」

 

竜胆が欠伸をしながら屋台を見て回る。色々……色々ある。

 

例えばこれ。今竜胆が持っている簪。

 

ついさっき簪が売っていた場所を通ったら急に店員に捕まって押し付けられたのである。性別に関するツッコミをする間も与えずに渡されてそのまま姿を消した。

 

「……最近髪も伸びたしな。放置してたからまた一層そう扱われるようになったのか……」

 

かといっても、切るとなぜかすぐ伸びる。箱庭に来た時くらいにはすぐに戻るからわざわざ切るのも野暮である。

 

折角なので貰った簪使おうと竜胆は思った。元々歌舞伎役者をしていた彼は慣れた……というか慣れすぎと言われても仕方のない手つきでササっと簪を後ろに刺す。

 

茶色い髪とマッチングしていて、竜胆の元々の女顔もあってか、かなり似合っていた。

 

「……こんなん似合ってもしょうがないよな……」

 

竜胆は溜息を吐きながらもう一度ギフトゲームの確認するか……と"契約書類"に目を通して、泣いた。

 

『ギフトゲーム "ヒッポカンプの騎手"

 

参加者

・自由参加(ヒッポカンプのレンタルは可。)

 

勝利条件

・折り返し地点に眠る黄金の果実を取り、スタート地点にてゴールせよ。

 

敗北条件

・落馬した場合(落馬の基準は水中に騎手が落ちた場合)

・上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

追加ルール

・一人の騎手につき三人までのサポーターを許可する。

 

追加ルールⅡ

・女性と"ノーネーム"所属の"狐巫女"は女性用水着着用を強制する。

 

宣誓

上記を尊重し、誇りと御旗の名の下に"龍角を持つ鷲獅子"連合はギフトゲームを開催します。

 

"龍角を持つ鷲獅子連合"印』

 

追加ルールⅡを見た瞬間に竜胆のナニカが切れた。

 

「白夜叉ァァァァァアアアアアアアアアァァァァァアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアア!!!!」

 

きっと名指しされなかったことが白夜叉唯一の良心であったのだろう。

 

翌日、白夜叉の部屋には血塗れになった白夜叉(ただの気絶)と、彼女の横には"おきつねさまのしわざ"というダイイングメッセージがあったという……

 

なお、無惨な白夜叉が発見される前日、やたら可愛く怒った顔で水着選びをしている茶髪にアメジストの瞳の人物が目撃されたとか。

 

◆◇◆

 

ギフトゲーム開催当日。

 

「はぁ……なんで男の俺が女モノの水着着なきゃならんのだ……そりゃ確かに、ホルモン云々で胸は無駄に出てるけどさ……あ、タマモ水着とっ……いないんだったなぁ……」

 

竜胆はどれだけ引っ張ってるんだと溜息をついて呪術で水着を運ぶ。

 

水着が身体にフィットしたのを見て少しだけ安心する。

 

「よかった……そこまでじゃなかった……」

 

流石に下はプライドとしてトランクスタイプだが、胸がある以上上は仕方が無い。

 

「皆待っているからな……いつまでもここで凹んでても仕方ないか……」

 

竜胆は朝から何度目かの溜息を吐いて部屋から出た。

 

◆◇◆

 

「おまたせ……」

 

竜胆は肩を落としながら十六夜がいる場所に近づいた。

 

何度男女問わず凝視されたことか。羨みだの好奇だの、あげられるのなら箱庭中の女性にこの女性要素全部あげたいと思わずにはいられなかった。

 

「似合ってるぜ竜胆。普段のムッツリ陣羽織もなかなかだが、そっちは色気があるな」

 

「黙れ変態。殴るぞ」

 

「ヤハハ。今のお前の殴るは冗談じゃねえな。なんの腕で殴られるか」

 

「それはその時のお楽しみだな」

 

二人がニヤニヤと笑い合っていると、丁度その時に5人の人影が現れた。

 

「お待たせ」

 

「待ったぜ二人とも……っと、竜胆んとこの三人も一緒か」

 

「………」

 

上から耀、十六夜、竜胆。

 

「おい竜胆、目を逸らすな。男ならしっかりと見ろ……春日部の水着」

 

最後だけ、竜胆にしか聞こえないくらい小声だった。

 

「ぶふぉっ!?な、ど、どういうことだ!?」

 

「とぼけるなっての。会えば真っ赤で遠ざかって、会えなかったら会えなかったで残念がる。

……そんなことしてたら隠しててもバレバレだっての」

 

「なっ、ななななんのことだ?べ、別に俺は……耀のことなんかぜんぜん好きじゃないんだからな!」

 

「ツンデレ乙。ほれ、しっかり見ろ。あの世に行ってもこぉんな面白いショーは見られんぞ」

 

まるで女と女の恋を応援する男の会話だが、これは男同士の会話である。

 

「……ああもう、わかった。見るよ……」

 

竜胆は意を決して振り返る。

 

そして、言葉を失った。

 

露出が、多い。

 

皆揃って、露出しまくりである。

 

おかしい。昭和の淑女である飛鳥ですらもワインレッドのビキニタイプにパレオ。露出しまくり。

 

「は、ハハハレンチ……は、ハィ……ハィ……ハイパー……」

 

「お前は一体なにを言っているんだ」

 

竜胆はおかしいくらい動揺しまくっている。

 

耀はセパレートタイプの水着で、黄色とオレンジのボーダータイプ。スレンダーな彼女にピッタリだ。

 

そしておねーちゃんこと鈴蘭は何故かスク水の上に普段の衣がスク水が見えるくらい薄くなっているもの。スク水になんの需要があると小一時間ほど聞きたい。

 

更にセック。おねーちゃんほどではないが、小さな身体の彼女は膝下10cmほどのスパッツタイプの下に、これまたピチッとしている上着。こっちは肘辺りまでだ。

 

最後にエイーダ。何故か膝上少しと肘の手前辺りの全身スパッツ。いや、それをスパッツと呼んでいいのだろうか。

 

「……お前ら、揃いも揃ってなんでそんな露出あったりマニアックだったりするの……?」

 

「……多分竜胆くんにだけは言われたくないわ」

 

そういう飛鳥達は竜胆に視線を向ける。

 

一応プライドとして下は膝上少しのハニーゴールドより少し濃いめのトランクスタイプ。ボーイッシュさを醸し出しているが、ボーイッシュじゃなくて男である。

 

問題は上。そう、上である。

 

元々そういう体質の竜胆はどうしてか一般女性以上にそれが大きい。個人的にもこれだけはどうにかしたいのだがどうにもならない。

 

過去に男性ホルモンを撃ち込んだら撃ち込んだ分だけ死滅したという逸話持ちである。もしかしたら彼の身体のせいかもしれないのだが。

 

なので上に関しては下と同じ色のビキニである。これは本人が着けてて泣きたくなってきた。

 

「……うん。竜胆は黒ウサギに勝るとも劣らないくらいにエロいな!」

 

「右腕……ドラゴン……!」

 

多分、竜胆が全力で十六夜殴った初めての瞬間であった。

 

◆◇◆

 

それから暫くワーキャーしてて、セックに襲われかけたりエイーダに助けられたりしてると、黒ウサギからギフトゲーム開始の合図を受けたので、飛鳥と竜胆はそれぞれヒッポカンプに乗る。

 

竜胆の隣には見知った顔……フェイス・レスがいた。

 

「久しぶりだな、フェイス」

 

「お久しぶりです、狐巫女」

 

狐巫女とはっきり言われたのはルイオス戦以来だったため、ちょっとショックを受けた。

 

「私は"ノーネーム"の皆様は四人で共に出ると思っていたのですが」

 

「最初はそのつもりだった」

 

竜胆が溜息混じりにそう言うと、フェイスは無表情のまま、言葉を紡ぐ。

 

「まあ、あなた方にとってはそちらの方が良いのでしょう」

 

「……!どういう……ことだ……!?」

 

「おや、ご存知、ないのですか。今回のギフトゲームは南側の"階層支配者"の決定にも関わっているのですよ。

まあ、あなた方が勝てば次の"階層支配者"はどうなるかわかりませんが……"二翼"が勝てば間違いなくグリフィス=グライフのものになるでしょうね」

 

「……オーケィ、だったら、勝てばいい」

 

「勝たせはしませんよ。仮にも私は"クイーン・ハロウィンの寵愛者"。ここで無惨に負ければクイーンに顔向けできません」

 

竜胆はニタリと、フェイスは無表情の中に静かに情熱を燃やす。

 

そして、開催前に白夜叉からの一言。

 

「えー、ではまず開催前に一言。黒ウサギは実にエロいな!」

 

ガシュ、という鋭利な音が白夜叉の頭から聞こえる。どうやら黒ウサギが白夜叉に石を投げつけたようだ。

 

「普通に進行してください!」

 

「コホン、では気を取り直して……"ノーネーム"の狐巫女も男のくせに実にエ」

 

ドベガシッ、今度はメダガブリューが飛んで来た。

 

 

「俺を巻き込むなエロ夜叉!弄るなら黒ウサギだけにしろ!」

 

「それも勘弁ならないんですが!?」

 

「うむ、流石にこれ以上は痛いので本題に。皆も知っているだろうが、この収穫祭は我々〝サウザンドアイズ〟からも多くの露店を出しておる!しかし残念ながらゲームの開催を準備する時間がなかったのだ。そこで考えたのだが………この"ヒッポカンプの騎手"を勝ち抜いた参加者には、"サウザンドアイズ"からも望みの品を贈呈すると宣言しておくぞ!」

 

竜胆はその報酬とやらが気になった。欲望剥き出しにその報酬が欲しいっぽい。

 

「それでは参加者達よ。指定された物を手にいれ、誰よりも速く駆け抜けよ!此処に、"ヒッポカンプの騎手"の開催を宣言する!」

 

そして、その瞬間───

 

フェイス・レスの蛇腹剣は参加者達の水着やら鎧やらを一瞬で切り裂いた。

 

「きゃ……きゃああああああああああああああああああ!!?」

 

途端、黄色い絶叫が響き渡る。

 

「へ、変態だーーーーーーー!!!」

 

竜胆は思わず口を菱形にしながら叫んだ。

 

「勝利のために手段を選んだのみです」

 

「選んでねえだろ!?明らかに選んでねえだろ!?」

 

竜胆は咄嗟に両手にガブリューを持って対応したが、それでもフェイス・レスの周辺、全体の10分の1は自らの醜態を隠すために河へと落ちていった。

 

「クッ、流石は我が仇敵が選んだ騎士ッ!血も涙もないその判断力と、肌には傷を付けず水着だけを斬り捨てる剣技ッ!宿敵の臣下なれど見事だと言わざるを得ないッつうかもっとやれヤッホウウウウウウウ!!!!そしてついでに狐巫女の小僧の水着も剥いでしまえ!むしろやれえええええええええ!!!」

 

「「「ヤッホオオオオオオオオオオオ!!!」」」

 

「変態ども纏めて燃やし尽くしてやらああああああああああああああ!!!!」

 

「「「ギャアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」

 

竜胆が白夜叉と観客の歓喜の声を聞いたと同時に、その場にいた女性の声ほとんど全てを体現するかのように赤い龍を模した右腕から炎を出した。多分ストライクベントと聞こえたのは気のせいだ。

 

南側の未来を掛けたギフトゲームは、早速カオスなことになっていた。






トランクスとビキニの組み合わせは多分私の趣味。多分……多分。



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八話 獄炎の使者



ちょっと短め。

実はセックちゃんもエイーダちゃんも本格的に活躍するのはギフトゲーム後の一悶着だったり。




『現在、トップ集団は五頭! トップは"ウィル・オ・ウィスプ"のよりフェイス・レス! 二番手並びに三番手は"ノーネーム"より久遠飛鳥! 以下三番手、四番手は"二翼"の騎手達が猛追、五番手は二番手と同じく"ノーネーム"の高町竜胆が追って、それ以降は"二翼"の騎手達が続く状況です!』

 

「五番手か……まあ上々ってところか……」

 

『もうしわけありません……若い馬ならばもっと速く走れたのですが……』

 

「そう言うなよカムプスさん……俺から頼んだことなんだ。それに、カムプスさんの走りは丁寧だから現状落馬の心配はないよ」

 

『はい。私も走れる限り全力を尽くします』

 

竜胆とカムプスは軽く相槌を交わし、少しだけ加速する。

 

そして竜胆のすぐそばで空を駆ける鈴蘭、セックと水上を走るエイーダに目を向ける。

 

「俺は一人で大丈夫だ。お姉達は手筈通りに頼む」

 

「あいよ!おねーちゃんがんばっちゃうぜよ!」

 

「竜胆くんの期待に応えれるように頑張るよ!あと帰ったら揉ませて!」

 

「断る」

 

「うむ、そこの乳揉み魔は儂がなんとか綱を握っておこう。こうなった以上は楽しむだけ楽しもうぞ……ほれ、お前達も笑っておけ」

 

「ん。じゃ解散!」

 

途中の別れ道でセックとエイーダは右、鈴蘭は左、竜胆は真ん中の道を突っ切る。

 

「さぁて……真ん中の選択肢……飛鳥とフェイスが通った道は吉とくるか凶とくるか……」

 

竜胆はカムプスの丁寧な走りに身を任せて行った。

 

◆◇◆

 

『先日の遺恨を晴らしに来たか───小娘!』

 

某所、十六夜と別れた(勝手に)耀は光翼馬(ペガサス)の奇跡を宿した具足を身につけ、複数のグリフォンの軍勢と対峙する。

 

その中には一頭、他の者よりも格上の力を感じるピッポグリフがいる。どうやら今回、グリフィスはサポーターに回っているようだ。

 

「……別に、遺恨なんてないし。戦略的に潰しに来ただけだし」

 

『ッ、何処までも舐めてくれるな……!』

 

グリフィスの苛立ちに呼応するように雷が吹き荒れる。

 

しかし耀の言っていることも半分は本当だ。

 

「貴方達は、此処から一歩も行かせない」

 

『舐めるなよ、小娘ぇぇええええええええええええええええええええええ!!!』

 

怒りの雷が吹き荒れ、光の量子が飛び散る。

 

その光と雷のぶつかり合いはまるで、グリフィスと耀のぶつかり合いのように見える。

 

ならば、次の瞬間の出来事も、実際の光景に移し替えることもできるだろう。

 

雷と光との間に、一筋の炎がぶつかって来た。

 

『「ッ!?」』

 

思わず二人は炎が飛んできた方向に目を向ける。

 

ピッポグリフのグリフィスと獣の力を使える耀だからこそ、その炎を撃ち出した主の姿を視認できた。

 

ただの一般人にはその距離からは全く見えなかったであろう、そのような距離だ。

 

「やっぱり超長距離射撃は集中力がいるね……一直線の高速砲でもロックオンまでに数秒かかっちゃうや」

 

射撃の主は、耀がつい先程初めて出会った、竜胆の双子の姉、鈴蘭=T=イグニファトゥスであった。

 

「ごめんネ耀ちゃん……あんまり手加減できないからさ……ケガしないでよね、リンの気に入った子だからさ……!」

 

つい先程までのおちゃらけた素振りとは違う、本当に集中しているのだと嫌でも解る、そんな鬼神のような表情だった。

 

鈴蘭は両手で構えた鉄製の杖のグリップと本体をまるで狙撃銃でも握るような構えをしている。

 

「リンは"二翼"のプレイヤーがいたら容赦無く撃ってくれって言ってたからね……狙い撃つよ」

 

鉄製杖のスコープから送られる、その視点からのデータを基に確実にグリフィスに狙いを定める。

 

「"冥界の獄炎"……SHOT」

 

その一言と共に正確無比にグリフィスに高速砲が飛んでくる。

 

グリフィスはなんとか射撃を躱して周りの"二翼"の同志に向かって叫ぶ。

 

『何をしている!?あの小娘を速く止めろ!近づけばさしたる脅威ではない!』

 

グリフィスの言葉で部下達は鈴蘭の下へと向かって行く。

 

「……そう、どんどん来て……大漁旗掲げるよ。"二翼"の部下達は私が引き付けるから、耀ちゃんは馬肉とタイマン……がんばって」

 

ニコリと見た目と不相応な笑みを浮かべると、杖のカタチを二丁の拳銃型に変える。

 

そして鈴蘭はまるでステップでも刻むかのように、メチャクチャに先程よりも出力も飛距離も少ない炎を撃ち出す。

 

『血迷ったか!?』

 

"二翼"の獣達は鈴蘭には聞こえない声を出す。

 

だがしかし、鈴蘭には獣達が発した言葉をまるで理解したかのように首を横に振る。

 

「やっぱり鳥ちゃん達は鳥籠に……だよね」

 

獣達が接近してきたその時、鈴蘭はもうひとつの仕掛けを動かす。

 

「"魔導王"……スクラッパーフレア!」

 

全員がそこを通過した瞬間、獣達の両真横から獄炎がまるでスクラッパーのように押しつぶして来た。

 

「「「グギャアアアァァァァアアアアアアアァァ!!?」」」

 

「殺しはご法度だからね。死なない程度には燃やしとくよ」

 

鈴蘭の呟きは、耀がグリフィスを叩き潰す音に掻き消された。

 

◆◇◆

 

「流石箱庭……!山の山頂に海があるとは思わなかったぜ!」

 

箱庭、折り返し地点にて、とある方法でフェイス・レスよりも速く折り返し地点に辿り着いた十六夜と飛鳥は取り敢えずと言った風にひと段落する。

 

「十六夜くん、はしゃぐのもいいけどゲームを優先しましょう。竜胆くんや彼女に追いつかれたらなにをされるかわからないわ」

 

飛鳥の言葉に渋々といった様子で山河を駆け下りる。

 

そして、その瞬間だった。

 

「十六夜くん!彼女が来たわ!」

 

「───もう、か?」

 

十六夜が振り向くと、そこには銀髪の仮面騎士、フェイス・レスがいた。

 

「……やはり、先に辿り着いたのは貴方達でしたか。どうやら狐巫女は若い馬よりも、経験のある老馬を選んでいたようなので……先を行く者がいるとすれば貴方達しかあり得ませんね」

 

「そりゃどうも……だな」

 

フェイス・レスは十六夜が防ぐ前に蛇腹剣で折り返し地点の証拠物の果実を取ると、一転して緊迫した様子になる。

 

互いに探り合っている……どちらかが背中を向けたその瞬間、それはその方の敗北を意味する。

 

幸いにも滝はフェイス・レスの後ろ側にあるが、仮にそこから飛び降りたとしても無防備状態のところを十六夜に殴られておじゃんだろう。

 

互いが一歩も動けない、飛鳥も下手に動いたらやられかねない状況の中で、現状に一つの変化が起こった。

 

津波、そう形容すればいいだろうか。

 

まるでそれは、地面から響くかのような音。

 

その自称にフェイス・レスはまさかそんなこと、しかしそれは……といったような驚愕した面持ちになる。

 

それこそ、十六夜がその地響きに異様ななにかを感じ取っていなければそのまま叩き落とされていたであろうほどに。

 

「……まさか、こんなギフトゲームに……!"枯れ木の流木"とさえ揶揄されている彼が……!?」

 

フェイス・レスの呟きと共に、その主は現れた。

 

「いやぁ、遅れてもうた!折角白夜王に無理言って入れさせてもらったのにまさか寝過ごすなんてなぁ!

……でも、キミらがチンタラしてくれてたおかげで充分間に合ったわ。余計な荷物込みでな」

 

その名は、蛟魔王、覆海大聖、真なる名を、蛟劉。

 

「やっぱ、真ん中は正直者が通るわけなんてないな……直前で気づいてヒッポカンプの尻尾掴んでついて行ってよかったよ……無事か?カムプスさん」

 

『え、ええ……なんとか……』

 

そして、孤独の狐……高町竜胆。

 

"アンダーウッド"の戦いは、後半戦へと差し掛かる……






そういえば一つだけ言いたいことが……お気に入り数がいつもより増えてた。貴様らそんなにきょぬーショタが好きか。

ならばもっとサービスしてやろうじゃないか!御期待しているがいいさ!



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九話 走れリンドス



走れメロ……竜胆くん。自分の誇りのために。




「よお十六夜……遅れたよ」

 

「ヘッ、速くしねえと春日部どころかお前の知り合い全員にシスコンが知れ渡っちまうぜ?」

 

「それだけは勘弁願いたい……な」

 

テッペンではそんな会話が繰り広げられていた。

 

だがしかし、そんな軽口を叩き合ってはいるが、目の前にいる存在には流石にそんなことは言えない。

 

飛鳥とフェイスは逃げた。飛鳥に関しては死を覚悟した逃亡だが、竜胆と十六夜が作った一瞬の隙をついて逃げたのだ。

 

「カムプスさん、危ないから離れててくれ……せめて、俺達の戦いの余波が届かないところまで」

 

『……わかりました。無事を祈ります』

 

「了解だ……」

 

カムプスが無事な場所まで離れたところで竜胆は右手にメダガブリューを、左手にメロンを象った盾を装備し、足場を凍らせる。

 

「十六夜……悔しいが、ここは共闘するしかない」

 

「……ヤハハ。弱気じゃねえか竜胆」

 

「そういうお前も笑い声に軽薄さがないぞ……」

 

「作戦会議中みたいやけど、攻めてもええかな?」

 

「「ッ!」」

 

竜胆と十六夜が一口二口叩き合っていると、二人の胸元にまで蛟劉は接近してきた。

 

「ぐっ───」

 

「くっ……!」

 

十六夜は両腕で、竜胆は盾で拳を受け止める。だが次の瞬間、蛟劉は竜胆に向けて左足でハイキックを仕掛けてきた。

 

左腕が大きな盾で動きを阻害されているからという判断だろう。

 

「タジャスピナー!」

 

竜胆は咄嗟にメダガブリューを捨て、右腕に不死鳥を象った赤い盾を呼ぶ。

 

「なるほど……なかなかバリエーションが豊富なんやね」

 

「お褒めに預かり光栄……だ!」

 

竜胆は両腕に力を込め、蛟劉の攻撃を弾く。

 

「目隠し代わりにくらっとけ!」

 

竜胆は右腕のタジャスピナーから複数のメダル状の炎を放つ。しかし蛟劉はこれを周囲の水を操って軽々と打ち消す。

 

「まだだ!」

 

竜胆は更に左腕の盾、メロンディフェンダーを弧を描くように回す。メロンディフェンダーは水を裂き、蛟劉に肉薄する。

 

「んな小細工で倒れるわけないやろ」

 

蛟劉は左手でメロンディフェンダーを後方に弾き飛ばす。

 

暫く見当違いの方向をメロンディフェンダーは周り、竜胆の元へ戻ってくるが、蛟劉が竜胆に一瞬気を取られた時、今度は十六夜が蛟劉に肉薄して拳を突き出す。

 

「……確かにこの拳は天賦の才や。まったく恐ろしい……せやけど、それもただなにも考えずに使うだけやったら、ギフトが泣くだけや。

そこの狐巫女の少年みたいに上手く立ち回ってぇな」

 

蛟劉は十六夜の拳を掴み、右腕を構える。

 

「この一回はその授業料や。殺しはご法度やから、死ぬんやないで───」

 

蛟劉の拳が十六夜に突き刺さる。十六夜は激しい嘔吐感と痛みを受け、それでもなお笑いながらヘッドバットを喰らわせる。

 

「ッ───」

 

「ざまぁみやがれってんだ……!」

 

「バナスピアー!」

 

十六夜がヘッドバットの衝撃で蛟劉から離れるのと同時に竜胆は黄色い槍を蛟劉に突き刺し、その手を離す。

 

「ドンカチ!マンゴーパニッシャー!」

 

更に右手に片手持ちハンマーと巨大なハンマーを呼び、ドンカチで槍を叩き、マンゴーパニッシャーでそのまま蛟劉を殴る。

 

しかし、蛟劉はその一撃を受けても吹っ飛ぶどころかまったく動かなかった。

 

「ええコンビネーションや……キミは状況をよく弁えとる……だけど如何せん、少年よりもパワーが劣っとるで!」

 

「がっ───!」

 

蛟劉が強い水圧を含んだ水を纏った拳で竜胆を殴る。

 

全身が水に浸かったわけではないから、これは落馬ではない。

 

蛟劉の拳をマトモに受けた竜胆は海の中に落ちそうになるが、間一髪で氷のスロープを作り出し、立て直す。

 

「怪物かよ……俺か十六夜じゃなかったら身体中一切合切使い物にならなくなってたぞ……!」

 

「キミらだからこそ、や」

 

「言ってくれる……!」

 

竜胆はチイッ、と舌打ちをしながら、ニヤリと笑う。

 

「けど、もうタイムリミットだな……悪いな十六夜、あとは任せた!」

 

「は?後は任せたって……どういうことだオイ!」

 

「言葉の通りの意味だ……よ!」

 

竜胆は氷の上を走り、滝の方へと飛び降りる。

 

「て、テメェ!逃げやがったな!ってか果実どうした!」

 

「んなもん最初にメロンディフェンダー投げた時に採ってあんだよ!」

 

竜胆は右手にいつの間にか果実を持っていた。

 

確かに、メロンディフェンダーが帰ってくるまでにそれなりの時間がかかっていたが、まさかそんなことをしていたとは。

 

「や、やりやがったな!」

 

「ここで"覆海大聖"と戦うのも面白いんだが、生憎負けられない戦いなんだよ!お前があんなこと言わなきゃしっかり戦ってたさ!」

 

竜胆は子供っぽくあっかんべ、としながら落下して行った。

 

◆◇◆

 

そして落下中、竜胆はおもむろに手を伸ばす。

 

「さて……作戦開始だ、セック、エイーダ」

 

「竜胆くん!予定通りだよ!」

 

竜胆がそう呟くと同時に、下から靴の効果で空を飛んでいるセックが竜胆の手を掴む。竜胆はそのままセックによって落下の勢いを殺されながら、滝のすぐそばに現れた渦の中心部に来る。

 

「うむ……時間ジャストじゃ。些かここに来るまでに苦労しておったようじゃが……?」

 

「ちょっとな……」

 

渦の中心部はエイーダの水を操るギフトによって竜胆の立っている場所に水が一切寄っていない。

 

「じゃ……行くぜ。"天照の顔"!」

 

竜胆は神格を顕現させ、いつもの九尾と狐耳を出す。今回は腰に赤いメダルが三枚入って斜めに傾いているバックルとそのベルトの横側には円盤状のスキャナーとメダルが六枚入りそうなホルダーがついている。

 

「竜胆くんすっごい可愛い!」

 

「うるさい今はそれどころじゃないだろ!」

 

やはりというか、セックに抱きつかれそうになったため、軽くあしらう……というか水中に叩き込む。

 

「ガボボボ!私水中落ちたけどもしかしてこれでサポート不可!?」

 

「いいだろ別に……あとはサポートいらないんだから」

 

「まあその通りじゃな。儂らはここでこうしてお主の手伝いで終わりじゃしのぅ……」

 

「だからといってここで仲間に撃墜とかシャレになんないよぅ!」

 

ぶー、と毒づくが、竜胆は意に介さずゴキゴキと身体を鳴らす。

 

竜胆は背中に出現した炎の翼を呪力でブースター状に変幻させる。

 

左手にタジャスピナーを顕現させ、炎の力を左腕に溜める。

 

「ふぅ……出て来い、メダル……」

 

竜胆は更に意識を強めると、身体から7枚、赤、緑、黄色、白、青、紫、橙のメダルをタジャスピナーの中にセットする。

 

「行くぞ!」

 

タジャスピナーのレバーを引っ張ると、内部が回転する。

 

そして腰のスキャナーを手に取り、タジャスピナーに翳す。

 

『タカ!トラ!バッタ!サイ!ウナギ!ティラノ!コブラ!

Giga Scan!』

 

「ドオオオオオオリャアアアアア!!」

 

竜胆は左腕を突き出す。

 

「シャアアアアアアイニイイイイイングゥゥゥッッッ!!

フィンガァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッーーー!!!!!」

 

炎の拳が大河を吹き飛ばす。そして更に両腕にメダガブリューを装備する。

 

「ファイアー!」

 

背中のブースターを最大に吹かせて半ばブースターに動かされながらもしっかりと地面を蹴り上げる。

 

その速度はあり得ないほどで、彼の身体が人間では引き裂かれるほどのものだ。

 

というかその速度、タマモの神格を得てイフリートを圧倒していた頃よりも圧倒的である。

 

そして炎が大河を打ち消せなくなった頃になると、両手のメダガブリューを乱舞させ、剣圧で大河を引き裂く。

 

「あっはぁーーーーーーはっはっはははははははははは!!!ヒィ~ャッハァーーーーーーーー!!イーーーーーヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!ぶるぅああああああああああああぅ!!」

 

最早なんの声かもわからないほどに酷い笑い声をしながら駆け抜ける。

 

「たのしーーーー!!」

 

正に、鬼。

 

◆◇◆

 

「ごきげんよう仮面の騎士様!勝つのは私───久遠飛鳥よ!」

 

フェイス・レスの蛇腹剣が飛鳥の隠し持っていた宝玉によって燃やされる。そしてそのショックでフェイス・レスは体勢を崩された。

 

「くっ───!」

 

「私の勝ちよ!」

 

「いいや、俺の勝ちだ!」

 

「「!?」」

 

どこからともなくそんな声が聞こえると、突然足下の大河が割れた。飛鳥のヒッポカンプは支える水を失い、バランスを崩す。

 

「アイム、Win」

 

大河の中から竜胆が飛び出てきてそのままゴールテープを切る。

 

のだが、竜胆のブースターの勢いが強すぎてそのまま観客席まで突っ切って行った。

 

「ふんがっ!?」

 

顔面から衝突した勢いで竜胆はそのままぶっ倒れた。

 

「いっててて……ってな───!?」

 

「……おや、これは」

 

「り、竜胆くん!?」

 

「オオオオオオオオオオオオオオオ!!!やりおったぞこの小僧!私が注文した通りに!しかもセルフで!なんというサービス精神!」

 

「「「ヤッオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」

 

竜胆の水着が……剥けていた。

 

なんということでしょう。そもそもあの超加速をすればいくら箱庭といえどただの市販の水着(オカンな竜胆はできるだけ安くて不本意ながら自分に似合うと思った奴を選んだ)では脆くなるも当然、むしろ破れなかったことが奇跡である。

 

そして、観客席に直撃した衝撃で、完全に剥けたのだった。

 

「……ぁ、ぁゎぁゎ……見るな……見るな見るな見るな見るな!!」

 

竜胆は羞恥心のままに曝け出された胸部を抑えながら泣き叫ぶ。

 

「見ないでよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

因みに、竜胆はおねーちゃんに感謝せねばならない。

 

なぜなら、この時おねーちゃんは耀が飛鳥の手助けに行かないように足止めをしていたのだ。

 

多分、耀が現場にいたら竜胆はセップク、ハラキリ、自分からカンデン、自分からチッソク、ヒアブリetcetcとしていたことだろう。






いったいいつ、誰がヒッポカンプに乗ったままゴールせねばならないと言った!?

少なくとも本作の契約書類にはそんなこと書いてないね!

すみませんチョーシこきました。

次回で蒼海の覇者編は終了。その後は応募してもらったキャラ達と竜胆くんか頑張る特別編を行う予定です!



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結から続 霧の多年草


今回で一応五巻は終了です!

次章からは完全オリジナルですので、ちょっと文字数が多かったり少なかったりとマチマチかも。




ギフトゲームから三日。

 

外はお祭り、中は静か……そんな状況の中、我らがツンデレ狐様は部屋に閉じこもっていた。

 

「竜胆、いい加減外に出なよ」

 

「ヤダ。出たらみんな変な目で見てくる」

 

耀の訴えも今の彼には届かず。竜胆は布団の中に潜って動かない。

 

理由は明白。自分でやらかしたあの狐巫女サービスシーン事件の一件以降"アンダーウッド"のどこを歩いてもそういう目で見られたので、竜胆はついに部屋に閉じこもってしまったのだ。

 

しかし、そもそもそういうことになりかねない作戦を考案した彼自身にも非があるのはあしからず。更にギフトゲームの名前を無視した反則まがいのことまでやらかしているのだ。

 

流石に三日も引きこもられれば"ノーネーム"側としても彼の割と豆腐気味なメンタルが気になるのもまた事実。なので竜胆にうってつけな耀を向かわせたのだが……この通りである。

 

「なんで引きこもってるのか、詳しく聞いてはないけど……あんまり皆に心配かけない方がいいと思うよ」

 

「ヤダ。あいつらが変なこと言わなきゃ俺だけギフトゲームに違うチームに出る必要なんてなかった」

 

もう拗ねた子供そのものである。こうなった子供が面倒なのは自明の理。よっぽどのことでもないとテコでも動かないだろう。

 

「……じゃあどうすれば出てくれるの?」

 

「出ない」

 

出ないときたか。しかしこちらも皆に「耀が一番」とそのコミュ力を買われているのだ(違うそうじゃない)。そうやすやすと引き下がれない。

 

だが、意地でも部屋から出ないという竜胆は初めてだ。そんなにショックな出来事でもあったのだろうか。

 

それでも耀も引き下がるわけにはいかない。子供は甘やかすだけではダメなのだ。

 

「竜胆」

 

「なんだよぅ」

 

「ギフトゲーム終わったら一緒にどっか食べ歩きするって約束だったよね」

 

「……今はヤダ」

 

「今がいい」

 

「ヤダ……ヤダ。ヤダ」

 

布団ごと丸くなる。いったい中でどうなっているのだろう。

 

耀がまるで布団に潜って起きない子供を起こすお母さん、あるいはお姉ちゃんのように布団をひったくる。

 

「起きて、竜胆」

 

「ヤダ」

 

もう子供そのものだ。ヤダ以外に言うことがないのだろうか。

 

「なにされたかわかんないけど十六夜達は私が注意しとくから、ね?」

 

「…………白夜叉」

 

竜胆が突然白夜叉の名前を出すので耀は怪訝そうに竜胆の方を見る。

 

「白夜叉がどうかしたの?」

 

「しろやしゃ ちょっといっぱつ なぐらせて」

 

「……え?」

 

「しろやしゃ なぐる。

そしたら でる」

 

なぜか舌足らずに、かつ抑揚がない声で喋り出す。

 

だがまぁ、耀にとってはこの際出て来てくれればなんでもいいので。

 

「……グッb」

 

「b」

 

一発で互いにサムズアップし合ったのである。

 

その後、竜胆の部屋はもぬけの殻となり、ギフトゲーム開始前日とほとんど同じ手法で血の海に沈んだ(気絶)白夜叉が発見された。

 

今度はダイイングメッセージが一切なく、犯人はそんなものを書く手間すら与えずに気絶させたのだと考察される。

 

◆◇◆

 

「………」

 

「竜胆、背中に隠れてないで出て来てよ」

 

竜胆は耀の背中にしがみつき、周りからの視線を見なかったことにしているかの如く俯いている。

 

「……うぅ」

 

そう言われた竜胆は半ば諦めて顔を上げ、耀の隣を歩く。

 

好機の目線。ヒソヒソと聞こえてくる会話には「あの子、ギフトゲームの時にやらかした……」「ああ、あのエロい子だ」なんてものが中心である。

 

「エロくてわるかったなぁ!どーせ俺は外見女だよ!」

 

竜胆は泣きながら叫ぶ。やはり、彼のメンタルは豆腐だ。

 

もーやだ……いえかえる……と泣き言を言い出すのでその度に耀が宥める。彼女もめんどくさい男に好かれてしまったものだ。

 

まぁ……そんな風に過ごしていって、夕方に差し掛かったころ……その事件は起きた。

 

「……あれ?耀……?」

 

耀がどこにもいない。それどころか、周囲には人っ子一人いない。

 

「……なにが起こってるんだ?集団でなにかやってるのか?」

 

ついさっきまで耀は隣にいた。周囲にも竜胆をそういう目、もしくは本当に偶々通りすがっていた人達もいた……

 

だが、誰もいない。誰も彼もいない。不自然に、誰一人として……

 

「どういうことだ……なにかの冗談だったら笑って済ませられないぞ……!」

 

竜胆が周りを見渡し、やはり誰もいないことを確認する。思えばこの"アンダーウッド"そのものも様子がおかしい。まるでなにかに汚染されたような……そんな感じに。

 

「気味が悪い……なにがどうなつている……」

 

竜胆は空を見上げる。空の色は青空から不自然な赤紫に変わっていて、なお不信感を際立たせる。

 

───そんな中、空から一枚の紙が舞い降りて来た。

 

黒い封書だ。竜胆はそれの正体に薄々勘付いていた。

 

その封書を受け取り、竜胆の表情が驚愕に染まった。

 

『───────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────── ─────────────────────』

 

「……なんだ、この"契約書類"は……?」

 

一目で"魔王"の"契約書類"てあることはわかった。

 

だが、なにもない。正確には、読めない。いかなる書物に描かれた文字でもなく、箱庭でも見たことのない文字。

 

これは、竜胆が読めないというより……読むことができなくなっている文字、そう形容した方が正しいか。

 

そう結論付けた瞬間。

 

「お前もここに取り込まれたのか」

 

少年の声が聞こえた。

 

「誰だ」

 

「争う気はない。そもそもここで争ったって双方なんの益にもならないだろ?」

 

現れたのは、少年……と形容すべきか、少女と形容すべきか。恐らく口調からして少年だろう。

 

「的を射ている。それより、お前も……と言ったが」

 

「ああ。前夜祭の頃に急にな。それ以降はやることもなくここでのんびり暮らしだ」

 

前夜祭の頃。そこから換算すると少なくとも一週間はここにいるということだ。

 

「出る気はないのか」

 

「ない……と言えば嘘だな。正確にはあった、だ。

ここに迷い込んで"契約書類"を受け取ったものの、"主催者"もいない、"契約書類"は読めない、そのことを指摘するための"審判権限"所持者もいない。

ここまで来れば流石にお手上げさ。元々所属するコミュニティもいざこざで抜けた流浪人だからな。どこでどう暮らそうが俺にはどうでもいい」

 

「世捨て人だな。正に」

 

「そりゃそうだ。こんなとこに一週間もいれば精神崩壊しない方がおかしい。一週間も一人なんだからな」

 

「俺は一年間一人でも余裕だぞ。実際やったし」

 

「……随分エキセントリックな過去なんだな」

 

竜胆は否定はしないとだけ言うとまた含み笑いを浮かべる。

 

「それに、諦めるにはまだ早いんじゃないか?」

 

竜胆が少年に"契約書類"を見せる。その"契約書類"はつい先程まで全く読めなかったのに、一部分だけ読めるようになっていた。

 

『ギフトゲーム"───────"

 

プレイヤー一覧

・高町竜胆

・霧乃秀里

・───────

・───────』

 

これ以降は一切変化はなかったが、完璧に読めるようになっている。

 

「……キリノヒデサト、なるほど、これがお前の名前か」

 

「……俺の"契約書類"も読めるようになってる。そこだけ……おまえの名前は……タカマチ、リュウドウ?」

 

「リンドウだ。多年草のリンドウからきてる」

 

「……どういうことなんだ……?」

 

「さあな。ただ確かなのは、お前と俺が出会って、出会った参加者の名前とこれがギフトゲームであることが開示された。

参加者の欄にはまだ二人……つまり、俺達が四人になった時にギフトゲームとして動き出すってことじゃないのか?」

 

「……そう、か」

 

秀里は封書を閉じると、竜胆に向き直る。

 

「俺自身はこのままここにいても構わないが、帰りたいヤツらがいるなら話は別だ。協力するよ、竜胆」

 

「お人好し……だな。よろしく、秀里」

 

正体不明の魔王戦が、始まる。





三人目の募集キャラの秀里くん。誰がどう見てもキリ子さんなので、次章のパーティーが可愛い子しかいません。なんつー萌えオタ用RPG。



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アフターもーど! いふ、問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ?


今回の番外編、いくつか構想があって……

①、主要メンバー軒並みTS。

②、耀ちゃんさんが色恋に積極的になって竜胆くんが抱かれる。

③、未だ訪れぬ原作の終わりを妄想して描く、問題児たちの別れの物語。

結局、③になりました。理由としては①は……TSしてもいつも通りじゃね?とか思ったから却下。②は耀ちゃんさんが覚醒したら竜胆くんが萌え死にしたり腹上死したりするので却下になりました。

というわけで、イフルートとしては旗を取り返した後に箱庭に残るか、元の世界に帰るか……この二択。原作は前者で終わりそうな気もしますが、さっき表記した通り、別れの物語なので帰るルートです。

というわけで、はじまりはじまり〜




いったい、どれくらいの時を刻んだのだろう。

 

……わからないな。楽しい時間って、あっという間だから。

 

俺の人生、色々あったけど、後悔はしてないよ。

 

……して、ないと思う。

 

だから、この選択も必然で、これも……当たり前のことなんだ。後悔もないし、悔やみもない。

 

……ただ、ただ一つ。あるとすれば……

 

俺がまだ、彼女に俺の想いを伝えていないこと……

 

言ったらきっと迷惑をかける。だってこれは、もしかしたら……いや、もしかしなくても、今生の別れになる可能性が膨大だ。

 

だから、俺はこの想いを胸の中に仕舞おう。胸の中に仕舞って……忘れよう。この、忘れることのできない身体で……

 

……でも、俺の心は、頭で理解してることよりもずっと、物わかりが悪くて……

 

結局俺は、あのコミュニティで一番、子供だったんだ───

 

◆◇◆

 

「……皆様、今日まで本当にありがとうございました。御四人様がこのコミュニティに来てくれたおかげで、我々は名と旗を取り戻し、過去の栄誉を越える功績を手にしました。

皆様は……元々いるべき世界に帰ることを選びました。ですので、最後の一日……心残りのないように御過ごしください」

 

黒ウサギの精一杯の感謝の気持ちは竜胆達、問題児四人の魂を震わせる。

 

黒ウサギはまだ別れの時でもないのに大粒の涙を隠そうともしなかった。それほどに、彼らがやって来たこの時は彼女の200年という年月よりも濃いものだったのだろう。

 

「別に、再開する可能性が限りなく低いだけでないわけじゃないんだ。今生の別れと決まったわけじゃないんだからそこまで泣くな」

 

「で、でしゅがっ……!」

 

涙そうそうと泣く黒ウサギを宥めるように言う竜胆。だがしかし、彼も心の奥底ではもう再び合う可能性がほぼ皆無なのは理解している。元の世界にある次元跳躍装置さえあれば簡単なのだが、この次元の座標を知らないから元の世界に戻ってもここに来れる可能性なんてないに等しいのだ。

 

「後悔はしないように。だろ?だったら、お前がこの二択を迫って来たんだから後悔はするな」

 

「……はぃ……」

 

竜胆の説得に黒ウサギは声を小さくしながらも頷く。

 

「……後悔はしないように、か。じゃあさっさと会いたい奴らと会って今日を終えるとするよ」

 

そうして竜胆はその場を去って行った。

 

◆◇◆

 

「ここの農場にも随分世話になったもんだ。店の商品の材料を採ってコミュニティの奴らにメシ作って……いいもんだったな」

 

「その通りよ。私も貴方というコックがいなくなるのは残念だわ」

 

「わ、私も竜胆さんともう一緒にお料理ができないと思うと……」

 

竜胆の独り言についてくるように来たのはペストとリリだった。なぜか農場と彼女達は縁があるな、と思わずにはいられない。

 

「悪いな……それでも俺には帰る世界があるんだよ」

 

「そんなのわかってるわ。だから引き止めたりなんかしないわよ」

 

「はい。私達は皆様が一番これだと思った道のりを、ひたすら応援することしかできませんから」

 

「……ふっ、励ましていくつもりが励まされちまったな……」

 

竜胆が目を閉じて笑うと、すぐに目を開けて両手をパシンと叩く。すると彼の手の中からペンダントとピアスが出てきた。

 

「ほら……リリにはこっち、豊穣神の加護がついたペンダント。ペストには健康の加護がついたピアス……まあ、お守りみたいなものだから、気に入らなければどこかに置いておいてくれ」

 

「……いいえ。貴方からプレゼントなんて初めてよ。気に入らないわけがないわ」

 

「はい!私もこんなに立派なものを貰ったからには頑張ります!」

 

「……それでいいさ。未来は木の枝。その枝から選ぶ道は、きっと最良の選択肢がある。俺はそれの後押しをするだけだ」

 

竜胆は最後に農場の手入れをして、その場を跡にした。

 

◆◇◆

 

「悪いな飛鳥。勝手に押しかけて来て」

 

「いいえ、竜胆くんの方から訪ねてくるなんて珍しいわ。招き入れない方がおかしいわよ」

 

飛鳥が紅茶を淹れようとするが、そこはありとあらゆる料理を網羅した料理の天才高町竜胆。自分で淹れると言って元々高級だったのに、さらにヤバイくらいに高級感を醸し出すものと変貌していた。

 

「さて……最後だからって感傷に浸ってみたが……なにを話せばいいのやら」

 

「あら、竜胆くんはついさっきまた会えるかもしれないと言っていたのに、随分と弱気ね」

 

「それはそうだ。あの時は黒ウサギがあんなんだったからああ言ったが、正直なところ俺達がまた会える可能性なんてそれこそ限りなくゼロに近いんだ。

この箱庭だって様々な歴史を歩んだパラレルワールドがある。その中からこの世界を見つけ出すなんて、砂漠から一粒の砂を見つけ出すようなものだ」

 

竜胆はお手上げだ、と両手を上げる。

 

「……前から言いたかったけど、私も今を逃したらもう言えないかもしれないって理解してるから言うわ……私、貴方のその悪い開き直りの仕方、正直嫌いよ」

 

「こういう性格になっちまったからな……もう直しようがない。諦めてくれ」

 

竜胆がペコリと謝る。まあ飛鳥もそう言われることは承知だったので特に表情を変えることもなく言い返す。

 

「じゃあ、今度会う時までに直しておきなさい」

 

「……それは、久遠飛鳥としての命令か?」

 

「わかってるくせに……友達としての約束よ。高町竜胆くん」

 

飛鳥が右手の小指を出して来たので、竜胆も右手の小指を出して指を絡める。

 

「「ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本呑〜ます。指切った」」

 

飛鳥の部屋からは楽しそうな声が聞こえてきたという。

 

◆◇◆

 

「フラッシュだ」

 

「残念だったな竜胆、フルハウス」

 

十六夜の部屋。突然彼の部屋にやって来た彼は「ポーカーでもやろう」と言い、約30分ずっとポーカーを続けている。

 

だが、まあ結果はずっと十六夜が勝ち続けている。

 

「……なんでだ?今日は勝率が悪いな……」

 

「……満足したか、竜胆」

 

「……満足したって、どういうことだよ」

 

「いや……聞くだけ無駄だな。お前が今、満足なんてしてるわけがねえ」

 

十六夜がカードを片付けてその辺に投げ捨てる。十六夜は竜胆を見つめて、真っ正面から問い質す。

 

「お前、春日部になんにも言ってねえだろ」

 

「……なんで、そこで耀が出てくるんだよ」

 

「んなのどうでもいいだろ。なんでお前、アイツに会いに行かねえ」

 

「……お前には関係ない」

 

「ああ確かに関係ねーさ。だけどな竜胆、お前だってそんなナリしてても男だろ。男はやらなきゃいけない時がある……今ここで春日部になんにも言わなかったら、一番後悔するのはお前だぞ」

 

「……言っても、俺がスッキリしてもアイツが今度は苦しむだけだろ……!返事もできずに生涯を終えるかもしれないんだぞ!

俺はアイツが好きだよ。もういっそ認めてやる!だけど……俺が一番望んでるのはアイツの幸せだ。俺が今このタイミングでアイツに好きだなんて言っても……アイツを苦しめるだけなんだよ!」

 

「それがどうした」

 

竜胆の心のままの叫びを十六夜はたった一言で一蹴する。十六夜は竜胆の胸倉を掴んで顔を掴む。

 

「お前のそれはただの言い訳だ。だったらどうしてお前の心は泣いてる。どうした"人類の罪"!お前はお前の欲望のままに生きて自分も仲間もハッピーエンドで終わらせるんだろ!

他人のハッピーエンドを案じるなら……まず自分のハッピーエンドを作り上げろ!その上で春日部にもそんな心配を与えてやらない究極のハッピーエンドを作れ!」

 

竜胆は、泣いていた。ハッピーエンドを作る……どんなご都合主義になったってベターなハッピーエンドは妥協しない、ベストなハッピーエンドを創り上げると。

 

その言葉は一種の症候群と診断されるほどのものだった……ハッピーエンドシンドローム。とでも言おうか。幸せを溺愛し、不幸を身がよじれるほどに嫌う、最早病気の領域のそれ。

 

「……ダメだよ。こればっかりはどうやっても無理なんだ。耀の不幸と俺の不幸……俺が選ぶのは、やっぱり自分の不幸でいいと思うんだ」

 

だが、そんな竜胆も今回ばかりはと頭を横に振る。胸倉を掴んだままの十六夜の手をそっと解いて、そのまま十六夜の部屋に手をかける。

 

「……大バカ野郎がっ……!」

 

「ああ、バカなんだろうな……でも、あの時もタマモが言ってたろ?俺は……お前達のためにしかバカになれないんだ。だからこれもバカなりの選択なんだよ」

 

竜胆の笑顔は、とても笑顔とはいえない哀しさを帯びたものだった。

 

◆◇◆

 

竜胆の自室。

 

「……なぁ、本当について来るのか?」

 

「当然でございます。私はご主人様の付き人ですから」

 

「モチ!このまま弟だけ帰るってなるとおねーちゃん悲しくてゲームに集中できないよ!」

 

竜胆が目の前でフワフワと浮いているタマモと鈴蘭に話しかける。すると二人共既に竜胆と共に元の世界に帰ることを選んだようで、しっかりと頷いた。

 

「神格も霊格も失って存在自体が消えてしまったというのに、それでもご主人様はタマモを助けてくださりました。ならば、タマモはご主人様にずっと添い従うことにしました」

 

「私も、もうウィラっち達にはお別れ言ってあるからね。後はリンに憑いて、リンと一緒に帰るだけだよ」

 

「……そっか。んじゃいいや……俺、そういや帰ったらなにやるか全然決めてなかったな……」

 

「だったら、みんなのところに帰ろうよ。俺は帰ってきたぞーってね」

 

「……そうだな。母さん達がいなくても、あの人達はきっとなにも変わらないからな……」

 

竜胆は懐かしむように笑う。だが、それなりの年月を彼と一緒に暮らしている二人には竜胆の笑顔に曇りがあることをなんとなく理解していた。

 

「……耀ちゃんには会わないの?」

 

「……会ってどうするんだよ。会ったらきっと、俺もう耐えれないよ」

 

竜胆はすぐにその笑顔が消えて悲しそうな顔になる。

 

「後悔はしないって言ったんだ。後悔してるところを見せたら……カッコ悪いよ」

 

二人は頭を抑える。やっぱりこの少年は悲観的だ。こうだったら、ああだったらと。自分のことは仮定やこうなるだろうという高い可能性ばかり見て、そんなことして迷惑じゃないのかと葛藤をする。

 

「……リン」

 

「……なに、お姉」

 

鈴蘭はその小さな身体をめいっぱい使って大事な弟の身体を抱きしめる。

 

「恋ってさ、なによりも行動することが大事だと思うよ?お金や見た目、内面なんかも大事に思われるけど……それでも、好きになった方が動かないとお互いどれくらい気があってもダメだと思うんだ」

 

「……それは、耀を不幸にする選択だよ」

 

「うん。そう言うのはわかってるよ。だから、言わなくてもいい。言わなくてもいいから、ただ一目、耀ちゃんに会って来なよ。後悔しても遅いんだよ?」

 

「……お姉、俺……」

 

「にゃはは、皆まで言うな!おねーちゃんとタマモはなによりもリンの幸せを願ってるから、私達は今のリンを後押しするだけ」

 

竜胆が二人に顔を向けると、鈴蘭はいつもの笑顔を、タマモはいつもの飄々とした、つかみどころのないような表情をしていた。

 

「行って行きなさいな、ご主人様。私達は耀様の代わりになどなれません。ですから、貴方様の選ぶ道を、ただ最良の方向に向かうために導くのが、私とお姉様の御務めでございます」

 

「……うん。行ってくる」

 

竜胆はふら、と立ち上がり、部屋を飛び出て行った。

 

目指す場所は、やはり───

 

◆◇◆

 

「……待ってて、くれてたのか?」

 

「遅いよ竜胆。寝ちゃうところだったよ」

 

いつもの木の下。いつもは竜胆がそこで昼寝をすると耀がふらっと現れるのだが、今回はシチュエーションが逆だった。

 

「いつからいたんだよ」

 

「わかんない。けど夕焼けになる前からいたから……二時間はいたかな」

 

随分と待たせてしまったな、なんて竜胆は思う。それと同時に、自分が来ると信じて二時間もここにいた耀にはやはり感服したし、愛おしさも感じる。

 

そう思っていたら、身体が勝手に動いていた。勝手に身体が耀のすぐそばにまで来て、勝手に彼女の身体を抱きしめていた。

 

「……竜胆?」

 

「ゴメン。突然変なことやって……でも、少しこのままにしといてくれ」

 

「……ん。わかった」

 

耀は表情が見えないながらも、竜胆の今の表情をなんとなく理解したまま竜胆の背中に手を回した。

 

暫くずっとそのままだったが、やがて、竜胆の身体が震え始める。

 

「……明日でお別れだな」

 

「そうだね」

 

「……多分、もう会えないだろうな」

 

「……そうだね」

 

「……俺、嫌だ」

 

「……?」

 

竜胆が身体を離す。耀の目に映っていた竜胆の顔は、箱庭に来て初めて家族と会えなくなることで泣いていた。

 

「もう皆と会えないなんて、俺は嫌だ……!黒ウサギの時はああ言ったけど……絶対もう二度と会えないから、嫌だ……!別れたくない……!」

 

「……私も、別れたくはないよ。でも、四人で決めたことでしょ?」

 

耀が宥めるように言うが、竜胆の涙は止まらない。

 

もう何年も前に、家族と会えなくなる涙は枯れたはずなのに、竜胆の涙は止まらない。嫌だ、嫌だと泣き散らす。

 

「………」

 

口下手な耀には、彼を宥める言葉を持ち合わせてなどいなかった。

 

◆◇◆

 

「それではこれより、皆様を元の世界に戻す転送を行います。方法は、ただ皆様を召喚した際のギフトを逆転換させるだけ……それで皆様は元の世界に帰れます」

 

黒ウサギの簡単な説明が終わり、四人の足下に奇妙な魔法陣が現れる。

 

「皆様、転送までに少し時間がかかりますのでお待ちください」

 

十六夜はいつも通りの顔で、飛鳥は少しだけ泣きそうな顔で、竜胆は顔を見せようともせず、耀はいつもの無表情がいつも以上に出ている。

 

「……ヤハハ。お別れだな。楽しかったぜ箱庭!楽しかったぜ俺達のコミュニティ!アディオス!」

 

「ここの思い出は元の世界よりもすごく鮮明に残っているわ。ここで知って培ったこと、二度と忘れません」

 

「………………じゃあな」

 

「みんな、バイバイ。また会おうね」

 

四人がそれぞれ言うことを言って、身体が光の粒子となる。

 

そうして、十六夜、飛鳥と消えて、竜胆が消える瞬間だった───

 

竜胆は言葉が途切れても、応えることのできない彼女を不幸にしても、やっぱりこれを伝えることにした。

 

「耀!俺はお前が、何億何兆とあるこの世界で、誰よりもお前のことが───」

 

竜胆の姿は、そこで消えた。最後まで言葉は聞こえなかったが、その先の言葉は当事者達以外の誰もが予想できただろう。

 

「待って!りん───」

 

耀の姿も最後までその言葉を言うことなく、消えてしまった。

 

それが、月の兎が知る、彼女のコミュニティが誇る問題児たちの最後の刻。彼らがどうなったのか、彼女らが知ることは、なかった。

 

◆◇◆

 

───────……………………風が、冷たいな。

 

まるであの時と同じだ。

 

確かあの時もこんな感じに全身風を浴びて、そのあとは……あれ?身体の正面が、あったかい。

 

風を浴びていないとはいえ、さっきよりあったかい。

 

───────……………………なんで?

 

◆◇◆

 

ドボン、と竜胆の身体は海の中へと落ちて行った。竜胆は感触で海水と理解し、海水が目に入るのを嫌ったため目を閉じたまま上へと上がって行く。

 

竜胆が感じたあたたかさは海に落ちた後も続いたので、竜胆はそれを見るために、呼吸してから確認する。

 

そして、言葉を失った。

 

「……耀」

 

「なんか、来ちゃった」

 

「なんで……!?」

 

「わからないけど、今はこれでいいよ」

 

「よくないだろ!耀は帰るのを選んだんだろ!?だったら───」

 

竜胆の昨日までの言葉と矛盾した言葉を耀は人差し指を当てて止める。

 

耀のスリーブレスのジャケットも、竜胆の陣羽織も着水した時にはだけたようだが、耀はそれを気にせずに竜胆の手を取る。

 

「さっきの言葉の続き、私聞けなかったもん。お前のことが、までしか聞けなかった」

 

「───なっ、」

 

「だから、ね?少なくとも、竜胆が教えてくれるまでは帰る気もないよ。教えてくれても、わからないけど」

 

「…………………い、いぃいぃぃぃいい……」

 

「い?」

 

「言えるかぁッ!!耀のバカ!」

 

高町竜胆は、孤独故に世界に呼ばれた。その世界で、自分の力のせいで人間的に孤立してしまった彼らと出会い、彼らは人間的に大きな成長をして、孤独に打ち勝つ力を手に入れた。

 

きっと、あの世界の彼らの家族は、彼らに未来という名のギフトを送ってくれたのだろう。

 

罪は、希望で償える。

 

「私達は完全にお邪魔虫のようですね……いかがなさいます?お姉様」

 

「そんなの……この楽しそうな二人がこれをやめるまで見てるしかないよね」

 

だって、罪の塊だった少年は、たった一人の少女の温もりがそれを変えたのだから。

 

彼らはきっと、この先も変わらない。変わった彼らは変わらない日常を送り続けるのである。

 

Fin

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「竜胆、どういうことか教えてよ。なにが言いたかったの?」

 

「知らない!耀のバカ!」

 

 





というわけでアフターモードでした。原作がどうなるかはわかりませんが、原作が帰還エンドなら間違いなく本編ラストはこのお話しの使い回しになります。

なぜ耀ちゃんさんが元の世界ではなく、竜胆くんの世界に来たのか……それは神のみぞ知るってとこです。

作者ですら愛が起こした不思議パワーとしか言えません!



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虚構の箱庭
虚構の箱庭 水面のとばり




というわけで、今回からは特別章です!




「……ああは言ったけど、全く見つからないな……」

 

「そりゃあそうだろ……おれがお前と会うだけに一週間かかったんだ。別のヤツが来るのにどれくらいかかるかもわからないぞ……」

 

誰もいない、箱庭のようで箱庭ではないこの世界を竜胆と秀里は仮に"虚構の箱庭"と名付けることにした。

 

それはともかく、現在地は"ノーネーム"の屋敷らしきもの。当然、人は竜胆と秀里の二人以外にはいない。

 

竜胆は主を失った機械のように動く水樹を眺める。

 

「十六夜ならもしかしてと思ったが……いい加減どういうことなんだ……?」

 

「なにがどうなってるかは当然俺もわからないな。ここには動植物がないし、食欲をはじめとするあらゆる欲求がなくなっていく……でもなぜか生きていけるという状況はまさに地獄だ」

 

「なにもする気のおきないそれは……間違いなく廃人の一縷を辿るな」

 

二人してはぁ、と露骨なため息。

 

どうやら道のりは遠そうだ。

 

◆◇◆

 

うぬ。読者の諸君、儂はエイーダ・ミュール。とあるコミュニティの一角を務めておる。

 

しかし困ったもの。今はそのような肩書きなぞなんの役にも立たぬ窮地に陥っておるのじゃ。

 

「誰も……おらぬ」

 

事に気づいたのはつい先ほどであろうか。今までなぜ気づかなかったと自分を恥じる一方だ。

 

「あるいは、その辺りの感覚が一時的に著しく低下していかのか……じゃの。どちらにせよ、現状打破には至らぬわけじゃが……」

 

そして困ったことがもう一つ。着替えがない。

 

ただでさえ着るのにこっぱずかしいあの衣装を常時着たままというのは誰もいないとはいえ勘弁ならぬ。かといって、周りの木々は全て死に絶え、そもそも儂は衣服を作るなどという技量はない。

 

素っ裸より何分もマシというのは確定的にわかりきっておるのじゃが……人間そうも言ってられない生き物らしく、さっきから衣服衣服……と欲望が掻き立てられておる。

 

なにゆえか、欲望を掻き立てられてもその気は起きず、その欲も次第になくなってきておるのじゃが。

 

「……そういえばここは東側の"トリトニスの滝"じゃの。ええい、こうなれば滝行でもして心を落ち着けるに限るのぅ……」

 

「……風邪ひくぞ、エイーダ」

 

「ふぉお!?」

 

な、何奴!?と、儂は思わず振り返る。

 

今の心情。

 

孤独なSilhouette  動き出せば

それはまぎれもなく ヤツさ

 

そう、ヤツ。孤独なシルエットを持つ儂が動き出せば、そこに現れるのはまぎれもなく、ヤツ。

 

儂をあの駄神の提案でチームに誘ってきて、最後のスタートダッシュ作りしか役目がなかった儂……そういう作戦でギフトゲームの名前をガン無視した、ヤツ。

 

高町竜胆がおったのじゃ。

 

◆◇◆

 

どうも、高町竜胆です。久し振りの地の文で少し緊張してます。

 

え?初期の冷酷無比のモノローグはどうしたって?

 

やめて。それ黒歴史。

 

おっと、話を戻そう。たった今俺と秀里は三人目を見つけた……いや、見つけたというよりは、やる気起きないならなにか目的をやる気失った都度持てばいいと言い訳じみた謎の自己暗示を秀里が提案したため、取り敢えず世界の果ての"トリトニスの滝"へ競争しようとなって、負けた。

 

ヤバイ速い。俺速さには自信あったのに……俺がスロウリィ!?冗談じゃねえ……これじゃあ文化的二枚目半だ……俺が亜光速だとしたらあいつは神速だよ。光より神。はっきりわかんだね。

 

んで、"トリトニスの滝"についたら滝行でもするかという聞き覚えのある声が独り言してたから、エイーダがいた。

 

ぬ……それよりコイツ、あの時のギフトの服じゃないか。そんな服で滝行なんてしたら風邪ひく……という放っておけない精神が彼女を助けよとゴーストと共にガイア的に輝きながら囁いたのだ。俺はガイアに囁かれようが輝くのは嫌です。

 

するとあら不思議。奇妙なはんの……いや、俺も似たような反応した実体験あるからとぼけません。これは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寂しい時に突然声をかけられた時の反応ですね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今だからこそ笑ってぶっちゃけられるけど、元の性格に戻るまでは年中無休で俺もこんな状態だった。勿論、タマモはいたけど、あいつは……ブラコンが度を越えたおねーちゃん、みたいな感じだったな。

 

だからこそ、あーやって真摯に……ただ一言、ずっと言ってほしかったことばっかり言って接してくれた耀に惚れたわけで……いややめよう。これ以上は俺の精神がもたない。恥ずかしさで死ぬ。

 

……あー。思い出したら尚更帰りたくなった。

 

「……お主さっきから泣いたり赤くなったり顔が大変じゃぞ」

 

「へぇあ!?」

 

ま、まさか……!?ポーカーフェイスに絶対の自信がある俺が……こうもあっさり感情を顔に……くそっ、この瞬間だけ中二狐時代が羨ましい……!あの頃だったら顔色一つ変えなかった!絶対!

 

……っと、そんなことよりも、ここでエイーダに会ったってことは……

 

『プレイヤー一覧

・高町竜胆

・霧乃秀里

・エイーダ・ミュール

・───────

 

勝利条件

ねえ、キミ達はなぜこんなところにいるの?それはね、キミ達は本来あの世界にはいない存在だからだよ。

え?じゃあ本来の世界って?そんなのないよ。だって世界はたくさんあるから。人の数だけ世界があって、世界の数だけ人がある。

それでも、キミ達があの世界の人間だって言うのなら、この世界に置いた世界の鎖を壊すこと。

大丈夫、キミ達ならきっと、イチに戻ってもさみしい自分に打ち勝てる。』

 

「……詩的だな」

 

「ああ。こいつみたいな詩的なものは作者の心理描写も表していることもある……どれをミスリードとみるか。どれを正解とみるか……」

 

「……ぬぅ?いまいち上手く状況が呑み込めぬが……儂らはギフトゲームのゲーム盤に取り込まれた、ということかの?」

 

「そうなる。しかも脱出するにはこの広大な箱庭で誰かもわからないあと一人の参加者を見つけないと、ギフトゲームの"契約書類"すらマトモに読めない……」

 

「これまた面妖な……」

 

「ともかく、あと一人を見つけよう。ギフトゲームの攻略は必然的にそれからになる」

 

「異論はないぜ」

 

「うむ。それしかあるまい」






うーん。やっぱり導入編はどうしても文字数少なくなるな……

次回からはセックちゃんも参加で本格的に始まりますよ!



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陽炎のいざない


どうも、甲殻類です。監督が虚淵氏だからきっと戦い抜く道を選んで主人公だけ不幸エンドなんだろうな、と思いながら鎧武を見ていました。

ですがあらびっくり、コウタさんは自分のために世界を守って戦い抜く道を選んじゃいました。

さんざん酷い状況になってきている鎧武でしたが、やっぱり虚淵さんも日曜朝八時には勝てなかったのだろうかと思う今日この頃です(主人公が最終回前に死んだ龍騎や主人公の余命あと僅かで終わった555を思い出しながら)。

……やっぱ主人公死んでもおかしくないかも。




どうも。セック・ズルグです。突然ですが、私は今遭難しています。

 

え?突然すぎるって?いや、ホントに私も知らない間にバビュンッ、と誰もいなくなったから私にもわかんないんです。

 

よもやこのまま私は孤独死してしまうのではなかろうか。いいや、それは嫌だ!

 

絶対に……絶対に……!

 

竜胆くんのモフモフ尻尾をモフモフしてモフモフしながらモフモフをモフモフしつつモフモフがモフモフでモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ

 

……まあつまり竜胆くんをモフモフしたいのだよ!

 

……んんっ、つい竜胆くんのモフモフが至高のモフモフで我を忘れてしまいました。

 

「あー、それにしてもホントに竜胆くんはモフモフっぽかったな……」

 

やはりモフモフしたい。今この場で竜胆くんをモフモフしたい。いなくてもモフモフしたい。いいや、いないからこそできるモフモフというものがあるんじゃないかな?人間のイマジネィションを限界まで働かせて竜胆くんをモフモフする私を想像するのだ……!大丈夫、ピンク(神格化してる時の竜胆の髪色)髪の人は淫乱だってばっちゃが言ってた!

 

……ばっちゃて誰?

 

あー考えてたらまた竜胆くんに会いたくなってしまったぁ……だけどこんな誰も見当たらない世界でそんな特定の個人を見つけ出すなんて不可能もいいとこ───

 

「……さっきからなに言ってんのお前?」

 

「ふぇ?」

 

お、ぉ、おおお……!

 

神は、私を見放さなかったというのか……!?

 

◆◇◆

 

「竜胆くーーーーーーーん!!」

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!背骨が折れるぅうううううううううう!!!」

 

感極まって抱きつくセック。そして窒息しかけた恐ろしさを身に刻んでいた竜胆はそれを躱さんとするが、ありえない方向転換の仕方をされてそのまま抱きつかれた。

 

「うぅ~モフモフが足りないよ……竜胆くんモフモフ出してよぉ」

 

「なんともない状況であんな恥ずかしいの出すかぁ……!死ぬ、し、しぬ……!」

 

セックを引き剥がそうとするが、やはり引き剥がせない。なんという馬鹿力。

 

「竜胆、それなんともない状況には見えないぞ」

 

「うむ。同感じゃ。ほれ、セックの要望に応えてさっさと尻尾を出してモフられるのが最善案と思うがの」

 

もがき苦しむ竜胆を秀里とエイーダは尻尾出せ、尻尾出せ、と日本の首都で行われる友達公園で車をダーツで狙うがのごとくアンコールをする。

 

「ふぉおお……せ、背に腹は変えられん……この状況で背と腹変えても結果変わんないけど……!神格解放……!」

 

竜胆はいつものセリフを寸分たがわずに言い切る。だが、竜胆になんの変化も訪れない。

 

「……あれ?」

 

「なにをやっとるか竜胆。ほれ、さっさと儂らを足蹴にした時のようにモフモフ尻尾と狐耳、ついでに火の翼を出さんかい」

 

「……あれ?あれ、れ……?神格が……出てこない」

 

「そんなわけなかろうに。お主と神格はニ、三年は共にしておるのだろう?」

 

竜胆が不思議そうに顔をしかめ、それをエイーダが咎める。だが、何度やっても結果は変わらない。神格が現れずに尻尾も狐耳も、炎の翼さえも現れない。

 

「どうなってる……?"呪術"も一部の高位術が使えない。"希望"は論外か……」

 

一つ一つ確認していき、竜胆の主力がほとんど使えないと悟ると、竜胆は露骨な溜息をつき、戸惑っているセックを強引に引き剥がす。今度は秀里の方に向かってったが、触らぬ神に祟りなし、竜胆は見なかったことにした。

 

「考えうる限り最悪の事態だ……お前ら、自分のギフトの調子はどうだ?」

 

「ギフト……?そういえばさっきの竜胆との競走、ヤケに身体が鈍ったと思っていたが……ってぬぎゃー!!?背骨!背骨がぁぁぁぁーーー!!?」

 

「儂もじゃ。さっき滝行をする時に上手く水上を滑れなんだ」

 

「私もです。炎の調節があまり上手くいきませんでした……」

 

「セック、秀里が死にそうな悲鳴を上げてるのに落ち着いたテンションで喋ってるのはなんでだ」

 

三者三様、それぞれ言い方は違うが、共通して"ギフトが上手く扱えない"と言っている。

 

「……"きっとイチに戻っても、あなたたちならさみしい自分に打ち勝てる"……」

 

竜胆がふと呟く。それに真っ先に反応したのは秀里だ。

 

「……それ、ギフトゲームの勝利条件だよな」

 

「ああ……"イチに戻っても"……これってつまり、俺達のレベルが1に戻ったってことじゃないのか?」

 

竜胆は強引に解釈すればこうなるんじゃないか?と続ける。

 

「否定したいところじゃが、否定する材料は一切見当たらないのう……」

 

「でも肯定するにも材料はまだ足りない……とにかく、まずは"契約書類"を見ることには始まらないだろ」

 

「え?これギフトゲームなの?」

 

話について行ってないセックを尻目に竜胆達は"契約書類"の追加された部分を確認する。

 

『ギフトゲーム "The WORLD of RAGNA-ROCK"

 

プレイヤー一覧

・高町 竜胆

・霧乃 秀里

・エイーダ・ミュール

・セック・ズルグ

 

敗北条件

ああ、キミたちはさみしい自分に打ち勝てなかった。なんて寂しいことだろう。

もうキミたちはあの世界には戻れない。この世界で飢えることなく、如何なる気力も湧くことなく、自らが死ぬということもなく、永遠にこの世界に閉ざされる。

世界の鎖を解き放つこともできずに、自らの想いすら忘れていなくなる。

それは……きっと、幸せな不幸……』

 

「……不吉だな。しかも"主催者"に関して一切の触れ込みがない」

 

竜胆が苦虫を噛み潰すように機嫌を悪くする。隣の秀里も、この敗北条件が自分達の末路を指し示していると理解し、そんなものを甘受しようとしていた自分がいたことに戦慄する。

 

エイーダはなにも言わなかったが、それでも状況の恐ろしさを知り、言葉を飲んでいた。

 

セックは未だ状況を理解し損ねていたが、それでもこのギフトゲームに敗北した末に起こることの恐ろしさは理解していた。

 

「……とにかく、これで全ての情報が開示されたわけだ。一つずつ整理していこう」

 

竜胆がそう言うと、改めてギフトゲームの"契約書類"全体を見直す。

 

『ギフトゲーム "The WORLD of RAGNA-ROCK"

 

プレイヤー一覧

・高町 竜胆

・霧乃 秀里

・エイーダ・ミュール

・セック・ズルグ

 

勝利条件

ねえ、キミ達はなぜこんなところにいるの?それはね、キミ達は本来あの世界にはいない存在だからだよ。

え?じゃあ本来の世界って?そんなのないよ。だって世界はたくさんあるから。人の数だけ世界があって、世界の数だけ人がある。

それでも、キミ達があの世界の人間だって言うのなら、この世界に置いた世界の鎖を壊すこと。

大丈夫、キミ達ならきっと、イチに戻ってもさみしい自分に打ち勝てる。

 

敗北条件

ああ、キミたちはさみしい自分に打ち勝てなかった。なんて寂しいことだろう。

もうキミたちはあの世界には戻れない。この世界で飢えることなく、如何なる気力も湧くことなく、自らが死ぬということもなく、永遠にこの世界に閉ざされる。

世界の鎖を解き放つこともできずに、自らの想いすら忘れていなくなる。

それは……きっと、幸せな不幸……』

 

「ギフトゲームの名前は、そのまま読んで"ザ・ワールド・オブ・ラグナ-ロック"……さて、ラグナ-ロックか……こんな単語は聞いたことないから、恐らく造語だろうな」

 

「ラグナ-ロック……普通に考えればラグナロクとロックをかけた造語と捉えるべきですね」

 

"契約書類"を読んで状況を完全に理解したセックは竜胆に続いて口を出す。

 

「普通に考えればそれだな。ロックは勝利条件にある世界の鎖、ていうフレーズから考えて、呪縛の方のロックじゃないか?」

 

「……ぬぅ、すまぬ。儂はどうも横文字が苦手じゃ。ギフトゲームの名前に関することで口出しはできそうにもない」

 

秀里が意見を出し、エイーダがちんぷんかんぷんといった風に頭を傾げる。爺言葉は言葉遣いだけではないらしい。

 

「じゃあ……さみしい自分……ってなんなんだ?」

 

「言葉をそのまま受け止めれば、俺達がここにいることの共通点は"なにかしらそのさみしい自分を構成するものがある"ことと、"俺達が本来の箱庭には存在しない"ってことだな」

 

「本来の箱庭ね……私は生まれも育ちも箱庭なんだけど、それじゃあ変じゃないかな?」

 

「だとしたら俺と同時に召喚された奴らが"契約書類"に名前すら載っていないことも気がかりだ。本来の箱庭にいない……それはあいつらも同じだし、そもそもそれなら箱庭生まれじゃない奴ら全員がここに来るはずだ。

でも……これも強引な解釈かもしれないし、そんな確証どこにもないが、これなら納得できる」

 

「……どういうこと?」

 

「"だって世界はたくさんあるから……人の数だけ世界があって、世界の数だけ人がある"。これはパラレルワールド全体のことを指しているんじゃないのか?」

 

竜胆がさらっととんでもない発言をする。

 

「ぱ、パラレルワールドだと!?」

 

「ああ。俺は箱庭に来る前から色々なパラレルワールドを見て来たし……箱庭についてからも、何度か違う歴史を歩んだ箱庭から来た奴と会ったし、俺自身も何回かパラレルワールドの箱庭に行ったことがある」

 

「……お前に色々ツッコミたいところができたが、今はそれどころじゃないか」

 

秀里が顔を引きつらせながらも竜胆に対して冷静に対処する。

 

「ああ……まあ、さみしい自分に関しては全然検討がつかないから置いとこう。最後に……このギフトゲームの攻略方法だな」

 

「ぬ……単純に考えればその"世界の鎖"とやらを壊せばよいのではないか?」

 

「その鎖はどこにある」

 

「……ぬぬ」

 

エイーダの意見を一蹴する竜胆。だが少しその言い方が悪かったと思うと、咄嗟にフォローする。

 

「あ、悪いエイーダ。言い方が悪かった。"世界の鎖"を壊すことが勝利条件であることという考えには俺も賛成だ。

だけど俺達はその"世界の鎖"がどこにあるのかも、"世界の鎖"がどんなものなのかもわからない。

まずはそれについて話し合おうってことだよ」

 

竜胆がそういうとエイーダは途端にしかめっ面を元に戻す。

 

「うーん……私はそんなの、聞いたこともないですね」

 

「右に同じくだ。俺も色んなヤツの雇われ傭兵をしてきたが、そんなもの聞いたこともない」

 

セックと秀里も聞いたことがないと言う。

 

「全員聞いたことすらないか……だとするとこの世界特有のものとなるか……」

 

ふむ、と竜胆は顎に手を当てた───その時だった。

 

人並みの視力に下がってしまった竜胆でもそれは見えた。だが、それはあまりにも遠くから見える。

 

そう、それはつまり───

 

「Guaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!」

 

「な、んだあのデカさ!?」

 

竜胆が叫ぶと同時にそれが叫ぶ。

 

それは一気に地面に降り立つ。

 

その見た目は……巨大すぎる鳥。

 

「オイオイ……ラグナロクっても限度があるだろ……いきなり巨鳥って……巨人がいるなら巨鳥もいるって屁理屈かよ……」

 

竜胆が呆れて溜息をつく。それと同時に四人は戦闘態勢に入る。

 

「っ……おまえら、俺達は今レベル1だ。危ないと思ったら真っ先に逃げろよ……」

 

「当然……」

 

「命あってのなんとやら、じゃからの」

 

「わかってます……」

 

四人はそれぞれ札、剣、水の槍、炎を携えながら巨鳥に向かって突撃していった。

 

 

 

 

各キャラクターのステータス?

RPG風に

 

高町竜胆(M)後衛支援型

HP 45 MP 80

STR 8 VIT 7 DEX 17 AGI 9 INT 15 LUK 1

 

特殊技能

呪術L1 ⁇? ⁇?

 

霧乃秀里(M)前衛挑発型

HP 70 MP 40

STR 8 VIT 12 DEX 7 AGI 14 INT 7 LUK 6

 

特殊技能

加速L1 ⁇?

 

エイーダ・ミュール(F)中衛万能型

HP 60 MP 65

STR 6 VIT 7 DEX 4 AGI 10 INT9 LUK 7

 

特殊技能

アクアサーファーL1 シャーク・メイル

 

セック・ズルグ(F)中衛支援型

HP63 MP 70

STR 5 VIT 7 DEX 5 AGI 8 INT 7

LUK 11

 

特殊技能

ローゲ・フィアンマL2 ⁇?

 

 





はい、ぶっちゃけ特別編のギャグは基本この辺で終わりです。あとはシリアスな笑いを取りにいくか、竜胆くんに不幸な出来事が起こって笑いを取るかの二択です(オイ)

あ、あと評価のあの棒線に色が付いてたのを見たときには思わず変な声でふぉおっ!?って叫びました。

作者が半年近く月一更新してたからなんですが、苦節約一年……ううっ、ここまで長かった……

つまりこっからも長いというわけで……



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偽りの英華英"耀"



ちょー短いお話し。

理由はカットしたから。




ああ、とてもいい気持ちだ。

 

ようやく彼が、私の鳥籠に来てくれた。

 

条件の限定が甘かったせいで何人か余分に来てしまったけど、まあどうでもいい。

 

ああ……ああ、ああ……それでも、だとしても……

 

貴方と私は敵になっている。ならば貴方は、迷わず私と戦うのだろう。

 

こんなに悲劇的な私達の立場……さしもの、ロミオとジュリエット……であれば、私は貴方というジュリエットのために、貴方がなによりも嫌うバッドエンドのロミオとジュリエットを、ハッピーエンドへといざないましょう。

 

高町竜胆……貴方は春日部耀という青い鳥を追い求めるチルチルなんかじゃありません。

 

私は貴方の……貴方というカイを連れ戻す、ゲルダ……

 

そう、私はゲルダ。青い鳥なんて必要ない。彼に必要なのは、私だけ……

 

貴方はなにも考えなくていい……私が全てを与えてあげるから……貴方は私の、愛おしいドール……

 

◆◇◆

 

巨鳥は誰も現れないことに業を煮やしたのか、南の方角に向かって行った。

 

「……行ったか?」

 

「逝ったかと思ったよ」

 

「とんでもねぇ、待ってたんだ」

 

「遊ぶでない男衆とセック。ただでさえレベル1の酷さを実感した戦いだと言うのに……」

 

「いやエイーダ。俺は遊んでなんかないぞ。秀里が勝手にゲリラ路線に持って行ったからセックが乗っただけで」

 

「いや、俺は竜胆が行ったか?なんて言うからそういうフリかと」

 

「私はノリで乗ってみました」

 

「話がややこしくなるからこれ以上の詮索はなしじゃ。お主ら全員がふざけだしたらできることもできんくなってしまう」

 

まあエイーダの言っていることは正論なので三人はこれ以上なにも言わないことにした。

 

そして、改めて四人の頭に残った疑問。

 

「……あいつはどこから来たんだ?」

 

秀里のその言葉を皮切りに、レベル1パーティーの会議が再開した。

 

「来た時も南、去った時も南だったな」

 

「ああ……心なしか箱庭の中枢に向かった気がするけど」

 

「「「「………」」」」

 

話題が消えた。もう話すことがない。

 

「……行くか?箱庭の……中枢」

 

秀里がそう言うと三人とも全力で頷いた。

 

「元の世界に戻ればそう簡単には箱庭の中枢なんて素敵そうな場所行けないだろうしなぁ……行きたいな、個人的にも」

 

「今回は同意じゃ。キナ臭い匂いもするしのう」

 

「私も同意します。箱庭の中枢ってどんな感じなんでしょうね……?」

 

「さあな……行って見なきゃわかんねえだろ」

 

そうして一向は、箱庭の中枢へと向かって行った。

 

◆◇◆

 

「……四つ、あるな」

 

箱庭の中枢のふもとまで来ると、示し合わせたかのように四つの扉があった。

 

「四人別々に入るべきか、それとも一気に入るか……なんて、聞くまでもないな」

 

「当たり前じゃの。儂らのレベル的に今までなら出来ていたかもしれん単独突破なぞできるわけもない」

 

こういう時にマジメなエイーダは助かる。如何せん子供っぽくて発言力のない竜胆よりも安心感があるのだろうか。

 

「んじゃ、行くか……折角だから、赤の扉を選ぼう」

 

竜胆が扉に手をかけ、開く。

 

そして四人が同時にその中へと入って行った───

 

◆◇◆

 

声が、声が聞こえる。

 

このお祭り騒ぎみたいな声と、時々聞こえる水のせせらぎの音……ここは、"アンダーウッド"?

 

「───声?」

 

俺はハッとなって顔を上げる。

 

空は、青い。

 

人は、いる。

 

間違いない。ここは……俺の知ってる、"アンダーウッド"……

 

「竜胆?」

 

「え?」

 

突然、後ろから一番聞きたかった声が聞こえてきた。

 

白いスリーブレスのジャケットにオレンジと茶色の中間あたりの色をした短パン、栗色の短い髪と瞳。

 

全て、全て俺が会いたかった、それだった。

 

「………」

 

「どうしたの?」

 

彼女───春日部耀は普段の俺なら悩殺できるんじゃないかというくらいに可愛く首を傾げた。

 

「……耀?」

 

「そうだけど……どうしたの?」

 

「……いや、白昼夢だった、みたいだ」

 

俺は急いで平静を取り戻し、いつもとなんら変わりない仏頂面を作る。

 

むにゅうっっっ。

 

……………はい?

 

「そういう顔は、よくない」

 

「ふぁっ!?ふぇ?」

 

突然、耀が俺の頬を摘まんで伸ばして来た。痛い痛い痛い!?なにこの状況!?

 

「ふぁっ、ふぁひひふぇんふぁふょう!?」

 

「なにしてんだ耀、じゃないよ。折角二人でお祭りなんだから楽しもうよ」

 

……………………………………………………え?お祭り?俺と耀が、二人で?

 

「ほら、竜胆行こうよ。竜胆から誘って来たんでしょ?なら、彼氏らしく彼女をエスコートしてよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……え?俺が、彼氏?耀の……?






戦闘シーンまるまるカットてなんだこれ……久しぶりに二千未満行ったぞ……素人時代じゃあるめーし……



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幽玄の潜光陰"耀"

いやー時間かかった……こうなったのも全てゴルゴムの乾巧が変身するディケイドの後輩ライダーの絶対に許せないユグドラシルに所属する晴人のせいよ!




そう……貴方はずっとそこにいて。ずっと貴方の幸福に満ちていればいい。

 

貴方の幸福を見るのは私も嬉しい。

 

だけど、貴方の幸福は私の幸福じゃあないの。

 

だったらどうしよう……?そんなの、決まっているわ。

 

そう……私の幸福は、貴方とずっと、一緒にいること……

 

ずっとずっと、私と貴方は一緒よ……竜胆。

 

◆◇◆

 

これは現実じゃあない。

 

竜胆は耀にわけもわからず"アンダーウッド"の露店を案内していた。

 

だが、これが現実じゃないということは簡単にわかる。

 

いつ、俺達はそんな関係になった?そもそも、耀が俺の好意に気づいているのか?

 

そんな感情がグルグルと渦巻き、竜胆の悪癖とも言える口に出さないスパイラルが巻き起こる。

 

「……う、竜胆」

 

「……………ん?」

 

「ん?じゃないよ竜胆。次のところ、案内して」

 

「……あ、ああ。すまない。少し色々考え事があってな……」

 

「少しか色々、どっちかにしたら?」

 

耀はおかしなものを見たかのようにクスクスと笑う。竜胆はそれを直視できず、思わずそっぽを逸らしてしまう。

 

「っ……じゃあ次行くぞ。時間は限られてるんだろ?」

 

「うん。黒ウサギ達には無理言って休ませてもらったからね」

 

竜胆は恥ずかしさを隠すように耀の手を取ってズンズンと歩いていく。

 

「美味いか?」

 

「うん、美味しい」

 

「じゃあこれ」

 

「酸っぱいバナナも新鮮で美味しいね」

 

「えーっと、これ」

 

「挽肉?でも不思議な味がする……」

 

「俺の料理」

 

「一番美味しい」

 

「……自分でふっかけといてなんだが恥ずかしいな、今のは」

 

そうして何軒か回っていくと、やがて耀の表情が無表情になっていく。

 

「じゃあ次は……あっ、あの料理屋だ」

 

「……竜胆。女の子とのデートに食事処オンリーってどうかと思う」

 

「……え?好きだろ?食べるの」

 

余談だが、この高町竜胆という少年は女性の趣味嗜好を理解していない。

 

元の世界ではその容姿故に男という男を焚き付け、元来のカリスマ性溢れる言動と性格、男が望む理想の女の趣味嗜好を地で行くというわけのわからないモテっぷりだった故に同年代の女性には敬遠されがちだった。

 

付き合っていた人もいたが、それでも彼の趣味嗜好は彼からすれば男の趣味嗜好と思い込んでいるため、女性の趣味嗜好がわかっていない。

 

ようするに、恋する乙女(♂)で男にモテたから女性との関わりが極端に少ないのだ。

 

「……気を悪くしたのなら謝るよ。ごめん。こういうのは好きな人の好きなことをすればいいのかと思ってて……」

 

「……私のためにがんばってくれたのはわかったから、いいよ」

 

耀は竜胆に満面の笑みをぶつけ、竜胆はそれに対して周囲に結露現象を起こすほど真っ赤になる。

 

「……悪かったな。出来の悪いカレシ"とやら"で」

 

とやら、この言葉を使っているということは竜胆はこれが現実ではないと認めている証拠だ。

 

だが、認めていても否定したくなるものでもある。

 

「じゃあ今度は私の番。竜胆をエスコートするよ」

 

耀に引っ張られながら、竜胆はとある確信に至る。

 

「……やっぱり、この世界って───」

 

そう、この世界は───

 

◆◇◆

 

「諸君、今日は無礼講だ。好きなだけ飲んでくれたまえ」

 

「団長……俺未成年だぞ?酒なんか飲んで大丈夫なのかよ?」

 

「はっはは。言っただろう?無礼講だと。今回の"鷹狩り"、秀里くんにはとても頑張ってもらったからな」

 

鷹狩り。それは秀里が所属"していた"コミュニティ、通称"剣騎士団"で定期的に箱庭の外で行われる危険な幻獣狩りのことである。

 

していた……そう、秀里はもう、"剣騎士団"には所属していないはずである。このコミュニティのリーダーこと団長とのいざこざで……

 

「おら秀里、飲め!今回の"鷹狩り"のMVPはお前なんだから、主役が飲まなくてどうすんだ!」

 

「だから俺は飲む気なんてないって……おいなんだそれ!?そのおかしな色したカクテルはなんだ!?」

 

「ああすまない秀里くん、これは私の自信作でね。誰か被験た……味見を頼みたい」

 

「おい団長!?今さりげなくヤバいこと言いかけただろ!?」

 

ワーキャーワーキャーと、今の流浪人傭兵では考えられないほどの賑やかさ。

 

秀里は久しく、偽物の世界とわかっていながら家族の温もりを思い出していた。

 

「……やっぱり、この世界って……アレ、だよな……」

 

そう、やはりこの世界は───

 

◆◇◆

 

「どうかしたのかえ、エイーダ。儂の顔になにかついとるのか?」

 

「いえ……なんでもないぞよ、爺上。少し、奇妙な夢を見ておったのじゃ」

 

「そうかのぅ……エイーダは一人で考え込む性格じゃからの。あまりコミュニティの同志と上手くいっていないと聞いてはおるぞい」

 

「そんなこと……ない、と思うのじゃ。爺上はコミュニティの頭領にも引けを取らぬ実力故、早く戻ってきて欲しいがためにデマを流しておるのだ」

 

エイーダがふんっ、と顔を背けると、彼女の祖父は優しそうな表情を作り、エイーダの頭を撫でる。

 

「ぬぅっ……儂を子供扱いするでない、爺上」

 

「ほっほっほ。孫なぞいつまで経っても可愛い子供には変わりないぞよ」

 

エイーダは祖父の手をじれったく思いながらもそれを甘受する。

 

「エイーダ。お主の表情は、まるでお日様のようじゃのぅ……」

 

「ぅ……ぬ。もったいない言葉じゃ。爺上」

 

エイーダは祖父とともに屋敷の池が鹿威しの音とともにせせらぐのを聞きながら、思考を一気に現実へと戻す。

 

「……やはり、この世界は───」

 

◆◇◆

 

「あ、セックちゃん!」

 

「……みんな」

 

セックは自分の瞳を疑った。

 

そんなわけがない。あるはずがないと。

 

「どうしたの、セックちゃん。鳩が豆鉄砲食っちゃったみたいな顔してるけど」

 

「あっ……ううん。なんでもないよ。私、ちょっと白昼夢だったみたい」

 

目の前にいるのは、かつてセックの友達だった人間。

 

だった、だ。

 

彼女が幼少期に起こしたとある事故以降、敬遠されて一切出会っていないのだ。

 

その件から、彼女は現実から逃げるようになっていた。

 

忘れようとして、色々なものに逃げた。

 

ギフトゲームに逃げた。下層部に逃げた。笑顔に逃げた。

 

可愛いものに、逃げた。

 

だというのに、彼女の目の前には、そんなことまるでなかったかのようにセックの手を引っ張る友達だった人達。

 

「行こうよ、セックちゃん!」

 

「あっ……ま、待って!すぐ行くから」

 

セックはただ、どうしてこうなったのかわからなかったが、一つだけ、わかったことがある。

 

「これって、まるで───」

 

◆◇◆

 

俺が心の奥底で、

 

俺が"剣騎士団"から去ったあの日から、

 

爺上が亡くなられてから、

 

私がずっと逃げてて、忘れようとしていた、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一番幸せな、世界……

 

 




ぬう、自分の文才の無さが疎ましい。ところどころ露骨なカットをしてしまう。

というかセックちゃんとエイーダちゃんに関しては甲殻類が勝手に設定盛り込んだんですけどね!

こんな背景あったらいいなーって思っただけなんです!biwanosinさんギンレウスさん、なんでもするから許して!



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唐突にッ!番外編! あいつがおれでおれがあいつで?



セックちゃんの見せ場が全く思い浮かばない末にこの結果になってしまった。

うん……プリーズミー文才!




 

 

それは突然の出来事だった。

 

「なんだこれーーーッ!?」

 

いつもの日常のくせから誰よりも早く起きた竜胆は起きた瞬間、身体の異常を感じ取っていた。

 

身体の異常を感じ取った、というよりは色々と違うのだ。

 

身長は心なしか少しだけ高くなっている気もするし、目元にかかっている髪もない。筋肉も元々異常な身体能力と相反するかのようにあまりついていなかったが、いつもよりも更に腕が細い。

 

極めつけにはいつも鬱陶しいと思っている胸部の重量感がなくなって、下半身からはどうもナニかが消えたようにも思う。

 

下半身の感覚からありえないくらいに不安にさいなまれ、思わず各部屋に備え付けてある鏡に顔を向けたのだが……

 

顔が、間違うことなく彼が恋心を抱いている春日部耀のものだったのだ。

 

「ど、どうしたの春日部さん……らしくない喋り方と声量でこんなに朝早くから叫んで……」

 

「あ、ああああああああ飛鳥ぁ!?大変だよ!耀の顔してるオレが耀になって貧乳になった上に女になった!」

 

「落ち着いて春日部さん!なにを言っているのかまるで意味がわからないわ!」

 

「どうしたのデスかお二人様……こんな朝早くから子供達が起きてしまいそうな大声を……」

 

「黒ウサギぃ!貧乳になった!」

 

「んなっ!?黒ウサギは胸が萎んでなどいませんヨ!?」

 

「違うそうじゃないんだ!嬉しいことなんだけどオレの胸が縮んだ!」

 

「もっと意味がわからないデス!」

 

「そもそも春日部さんに縮むだけの胸が……あっ、いえなんでもないわ」

 

「オレは好きなヤツの顔に整形するような変態なんかじゃないのに!豊胸手術ならぬ縮胸手術を受けた覚えもないし性転換した覚えすらない!」

 

「……はい?好きなヤツに整形?」

 

「それで、縮胸に……性転換……まさか貴女、竜胆くん!?」

 

果たして縮胸が男と決めつける証拠になるのはどういうことなのだろうか。

 

◆◇◆

 

「まさかとは思ったが……本当にそのまさかとはな……」

 

"ノーネーム"の食堂で問題児達が座る席、そこには制服のブレザーを脱いだ十六夜といつもの私服の飛鳥と黒ウサギ、胸部が異常に強調されるワイシャツとラフなジーンズを履いた竜胆(中身は耀)、そして寝起きの時と同じパジャマにエプロンの耀(中身は竜胆)が集まって食事をしていた。

 

どうもこの入れ替わり事件の真相はよくわからず、とりあえず原因判明まではこのままだ。二人の身体に宿ったギフトは元の身体にあるままなので、ギフトゲームに支障を起こしかねないため、実際問題かなり大きなことなのでメイド組とジンは事態の解決に頑張っている。

 

「むぅ……竜胆ばっかり女性フェロモンバリバリでズルい」

 

竜胆(耀)……以下、耀と表記する。耀はジトーっとした目で入れ替わった自分の身体を確認して胸を揉みしだき出す。

 

「人の胸を勝手に揉むな!オレが一人で変なことしてるみたいじゃねえか!」

 

耀(竜胆)、こちらも以下竜胆と表記。竜胆は自分の身体を揉みしだく耀の左手の手首を掴んで止める。ぶっちゃけ自分もその体型がどれほど男として悲しい体型なのか理解しているが故、それを強調するような行為は絶対にしてほしくないのだ。

 

「まあまあ、竜胆も春日部も面白い体験をしたってことじゃねえか。空想ではよくあることだが、こんなおもしろ……面白そうなことは滅多に経験できないぜ?」

 

「言い直してなからなそれ。あとこれ色々不便なんだよ……」

 

「不便?なにが不便なの?」

 

「ただ身体が入れ替わるだけならまだしも、性別まで入れ替わったんだぞ?当然、男の常識も女の常識も然り、男や女にしか起こらない現象の対処もわからない。

……そ、その、トイレ行くまで我慢する……コツも、違う……」

 

最後のセリフは顔が真っ赤になっていた。そんなに恥ずかしいのなら言わなきゃいいのにと耀以外全員思っていたが、耀が真っ赤な顔で恥ずかしそうに俯くという図はかなり新鮮だったので誰も突っ込まない。

 

「ああ、確かに。朝少しそれで困ったよ。あと少し遅かったら漏らs」

 

「恥じらいゼロなのかお前は!?ってかオレの顔でそんなこと言うのヤメテ!聞いてるこっちがすっごい恥ずかしいから!」

 

頭に?マークを浮かばせる耀と真っ赤になって耀の発言を止める竜胆。やはり中身が変わってもそう違和感は……性別的にない。

 

「……お前ら、本格的に生まれてくる性別間違えたんじゃないのか?」

 

「なんでだよ!オレは日々男らしく振舞ってるじゃねえか!」

 

「「「え?どこが男らしく振舞ってるの?」」」

 

「お前らみんな嫌いだバーカ!」

 

ツッコミ役って、大変だと思うの。

 

◆◇◆

 

「ゴメン耀……こんな面倒なこと頼んで……」

 

「別に気にしてない。腕上げて」

 

「……ん」

 

"ノーネーム"本拠、耀の部屋。

 

そこにいるのは二人の少女……いや、一名男なのだがこの際どうでもいい。

 

「でも竜胆、服くらい自分で着ないと」

 

「他人の身体直視しながら着替えれるか!ってかお前もんなこと言うなよ……これ、お前の身体なんだぞ?

……その、お前は……他人に裸勝手に、自分の預かり知らぬところで見られても恥ずかしくないのか?」

 

耀は自分がいつも着ている服をその辺からとって来た布で目を隠している竜胆に着せている。やはり、朝食時にパジャマにエプロンだったのは他人の、しかも好きな人の身体を勝手にジロジロ見るのはどうかと思ったのだろう。

 

対して耀は普通に着替えていた。この落差はなんなのだろうか。

 

「恥ずかしい……と、思うよ」

 

「ならなんであんなこと言ったんだよ」

 

「でも、竜胆ならいいよ」

 

「───ぶふぉ!?」

 

思わず上げていた手も下がってしまった。そのまま竜胆はのたうちまわってむせて、かなりヤバい。

 

(え、どういうことそれ。俺なら別にやってもいいってどういうこと!?なに?俺なら裸見せてもいいの!?どういうことなのこれ───)

 

「竜胆なら絶対変なことしないから。それに着替えるのだって一人でも目隠ししてやってたでしょ?」

 

「……さいですか」

 

安心したような、それでも不満そうな複雑な表情を浮かべる竜胆。今日も彼の乙女っぷりは健在……いや、性別すら変わったためパワーアップしている。

 

それからまた耀は竜胆に服を着せる作業に戻る。いつもの服とショートパンツ。そしてニーソックスとブーツ。

 

最後に耀の身体の安全を護るペンダントを掛けて完成。いつもの春日部耀。

 

「……なあ、前から思ってたんだけどさ、このシャツちょっと胸元露出多くない?」

 

とりあえず確認する前に一言。彼にとっては耀の身体とはいえ、自分でやることになるのでその辺はとても気になるのだろう。

 

「そうかな。私は竜胆が戦闘衣装だーってタマモに無理矢理着せられてたあの巫女服の方がすごかったと思うけど」

 

「あれは掘り下げないでくれ。頼むから……ってそういう意味じゃないんだよ。こう、日常からこんなに胸部強調しててもいいのかって思ってさ」

 

「そんなに出してる?黒ウサギの方が出てるけど」

 

「……ああ、そうだったな。ゴメン」

 

竜胆は目隠しを外しながらやはり色々と違う体格で慣れない身体を軽く動かす。

 

「……しかし、このニーソックスって結構違和感あるな。俺はこういう膝上まであるソックスって履いたことそんなないからさ。歌舞伎だって女型してたとはいえ、日本のヤツだからくるぶしまでなんだよな……普段は素足にブーツだし」

 

「んー……慣れればそう違和感ないよ。おかげで夏でも基本それだったし」

 

「そんなもんなのかねぇ……」

 

◆◇◆

 

東側七層、商店街。

 

あの後耀は普通に一人で着替え出し、思いっきり竜胆を泣かせたりしたが、特筆することもなく……いや、強いて言えば耀が竜胆よりも男らしいファッションをして竜胆に泣きそうな顔もされたりもした。竜胆は「差別ズルい……」とか言ってた。

 

「今日はいつにも増して人が多いね……」

 

「ああ……確か今日は掘り出し物市がやってるだろ。多分それだよ」

 

「掘り出し物?例えばなにが売ってるの?」

 

「そうだな……妙なものが売ってるな。泥だんごに始まり、どんなギフト積んでるのか知らないけど破って少しすると治る紙のドアとかすべりだいとか、果てはドリルついたサイが二足歩行してるヤツのぬいぐるみとかあるな」

 

「なにそれすごく欲しい」

 

竜胆が相変わらずオカン並みの商店街に関する知識を披露すると耀は目からキラキラと輝く一撃を放っている。

 

それに一瞬可愛いと竜胆は思ったが、すぐに自分の顔に可愛いとかナニイッテンダ!フジャケルナ!と思い直す。

 

「……欲しいのか?」

 

「欲しい」

 

「……わかったよ、ほれ、これで買って来い」

 

「ん。それじゃ……」

 

「っておい!?オレは行かないって!一人で行けって!」

 

やっぱり女って不思議だ。竜胆はつくづくそう思った。

 

……自分が一番不思議なのは黙っておく。

 

「おじさん、そこのぬいぐるみ頂戴」

 

「ん?これか?プレゼント?」

 

「うん、彼女に」

 

「っはぁ!?なんでオレにだよ!」

 

しれっと彼女と呼ばれたことには反応しない辺りが流石竜胆といったところか。

 

「どうせ後で私の部屋に置くんだからいいじゃん」

 

「うっ……そりゃ、そうだけど……」

 

喋る度にグルグルと表情を変える竜胆。そんな竜胆が店主に受けたのか、ニッコリと笑い出す始末。

 

「可愛い彼女さんだ!よっし、じゃあ彼女さんに免じて三割免除しよう!」

 

「かっ、かのっ……!?」

 

店主の彼女発言に唐突に真っ赤になる竜胆。彼女でも反応するとは乙女が過ぎるのではなかろうか。

 

そうしてまあ竜胆が赤面してブツブツなにか言っているが、購入完了。

 

混乱し続ける竜胆の手を引っ張って耀は別の場所に……というか商店街を離れ出す。それなりに人の数が少ない場所で耀ははい、と買ったぬいぐるみを竜胆に手渡してくる。

 

「……え?は?なにこれ」

 

「竜胆にあげる」

 

「……いや、待て。なんでぬいぐるみ?っていうかこれ耀が自分のヤツにって買ったんじゃないの?」

 

「竜胆にあげるために買ったの」

 

「そもそもオレの金だったよね!?プレゼントですらねえ!」

 

「いいから……はい」

 

「えっ、いや、ちょっと……!」

 

ぬいぐるみを押し付けられた竜胆は納得がいかないといった顔をしながらそれを受け取る。

 

いずれにせよ、こういうのは竜胆も好きだ。こう、怪獣サイズのヤツがデフォルメでぬいぐるみになったものには妙な愛嬌がある。

 

「……まあ、ありがと」

 

「ん。それじゃ次行こう」

 

「うわっ、ちょっと待てって!」

 

耀に引っ張られるままの竜胆は結局殆ど自分の金でプレゼントをもらうというわけのわからないことをされていた。

 

「……リ、リンが耀ちゃんに積極的になってる!おねーちゃん嬉しい!ついにリンが好きな子のために積極的になるなんて!」

 

偶然見ていた幽霊のおねーちゃんは盛大な勘違いをしていたのだが。

 

◆◇◆

 

「鬱だ……鬱すぎる……」

 

なんてったって大変なのだ。人間、日常を過ごせば衝動的にやりたくなることや日課となっていることもある。

 

今竜胆がしようとしていることも日課。しかも彼からすれば死活問題モノである。……というか、死活問題云々の前に耀の身体を気遣うのなら絶対にやらねばならないことだ。

 

「風呂入んなきゃ行けない……でも耀の身体なんて直視できないぃぃぃ……」

 

これ。圧倒的、これ。

 

ならば、竜胆がやることは決まって一つ。

 

「……目隠ししよう。幸いにもこの身体のギフトはペンダントのおかげで"生命の目録"が使える……っていうか、そういえばアイツ、初めて会った日にバッタリ風呂場で会ったけど……ペンダント着けてなかったな。

……なんでだろ?白夜叉に貸した時も大した変化はなかったし……付けてなくても一定の距離にあるなら問題ないのか?」

 

まーいーや、と竜胆は目隠ししながら手探りで衣服を脱いでいく。あーでもないこーでもない、となんとか脱ぎ終わり、続いてその辺にあるタオルを二枚、腰と胸元に巻いて目隠しを外す。

 

大事な部分は隠れている。大丈夫だ、問題ない。

 

「……入るか」

 

竜胆は覚悟し、風呂場に入る。と、ここで更に問題がもうひとつ。

 

「……身体はどう洗えばいいんだ……」

 

そう、身体の洗い方。いつもならわっしわっしと洗えばモーマンタイなのだが、女性の身体はとてもデリケート……だと思うのでそうはいかない。これでは身体どころか髪の毛にも気を配らなくてはいけない。恥じらいを押し殺して風呂場に来た理由がない。全く。

 

「うぅっ……どうすればいいんだよぉ……助けて誰か……」

 

「助けを求める声に呼ばれた気がした」

 

助けを求めた瞬間に耀が現れた。なんだこのご都合展開と竜胆は頭を抱えたくなる。

 

だが逆に、いつもなら頭を抱えたくなるご都合展開も今の竜胆にとっては救いの手に他ならない。

 

「助けて!身体が洗えない!どう洗えばいいのかわからない!」

 

「わかった」

 

ヤケにものわかりがいい耀は竜胆に頼まれるままに自分の身体をシャンプーで洗い始める。

 

「……なんか、一から十までゴメン……」

 

「別に気にしてない。私は竜胆の身体で色々面白いことできたし」

 

「……えー……」

 

頭を慣れた手つきでわしゃわしゃと洗われ、竜胆は思わず父や上の姉に昔そうしてもらっていたことを思い出す。

 

元々竜胆はあのアホ姉のおかげでしっかりとしていたので、アホ姉にかまっていない時は基本父がアホ姉を止めていたので、その分兄や姉には可愛がられていた。

 

そのせいか、気づけば彼はアホ姉の行う奇行を中心に物事を考えるようになっていた。

 

随分久しぶりに他人中心に、それも特定の個人を中心に考えた気がする。

 

「思えばここに来てから数ヶ月……長いような短いような……っひぃ!?」

 

突然、なにか刺激されるような感覚を感じた竜胆は思わず全く男らしくない。だというのによく聞いてる気がする声を上げる。

 

「お、おおおおおおお前どこ触ってぃひゃあ!?」

 

「身体洗うんだから胸くらい我慢してそれに竜胆もあるでしょ。……こんな女泣かせのサイズが」

 

「ううううるさい!自分でやるのと他人にされるんじゃ色々違うしそもそもほしくもなかったぁいぎぃ!?」

 

「我慢するっ……私の声でそんな嬌声出さない」

 

「無理……むりぃ……!」

 

竜胆が耀にベタベタ色々危ないところに触って耀が色々危ない声を出す。普段のギャップからしてヤバい。

 

「やめっ、やめてぇ……ふぇあっ!?」

 

身体中触られまくった竜胆はついに身体を支えきれなくなって、何故か耀を巻き込んでぶっ倒れた。

 

「いっ!?」

 

「痛っ……!」

 

そして二人は頭をぶつける。

 

「いった……大丈夫?りんど……う?」

 

「いってぇ……そっちこそ……ぉ?」

 

耀の身体が竜胆の身体に覆い被さっていた。

 

まるで竜胆が耀によからぬことをされているようにも見える。

 

「───ご、ごめん耀!ごめ、ご……お?」

 

「……元に戻った」

 

元に戻った。耀のその言葉が示す通り竜胆の目の前には耀の顔が映っており、ちょっと視線を下げるとモザイクがかかるか湯気フィルターが効力を発揮しそうだ。

 

「───……!?………!………………!?」

 

驚き、一瞬男のくせに女みたいに理不尽な怒り方をしそうな顔をし、また赤面。女そのものである。

 

「……なにしてんだ?お前ら」

 

そして現れた我らが問題児、逆廻十六夜。

 

竜胆は真っ赤になっていた顔を一気に蒼白にする。

 

「い、いいいやちが、違うぞ十六夜!別に俺達はそういうことしてたわけじゃない!」

 

「戻ったのか、お前ら……いや、それより耀竜で風呂場プレイか……」

 

「なにが風呂場プレイだ馬鹿!そもそも耀竜って普通逆じゃねえの!?」

 

「いや、それよりも……ヤハハ……やっぱりお前ら根本的に生まれてくる性別間違えただろ……うくくくぅ……wwww」

 

「笑うなぁ!ってか耀もそろそろどいて!」

 

「……あっ、ゴメン」

 

「なんで今気づいたみたいに言ってんの!?」

 

もうホントにヤダこの超問題児ーーー!!と風呂場に竜胆の泣き声が響いて行った。

 

◆◇◆

 

オチ。

 

結局、二人が入れ替わった理由は全くの謎。白夜叉も今回ばかりは「なぜそうも狐巫女の小僧に事件が起これば私のせいにするのだ!?」と身の潔白を主張。実際、"サウザンドアイズ"の店員は白夜叉はここ一週間一切外に出ていないと証言。

 

一切合切謎であるのだが、一人だけ全く疑いがかけられなかった意外な人物が犯人だった……だが、その人物が犯人だとは誰一人として知るよしもなかった。

 

「ふふっ……お姉さんはアンナからの細やかなプレゼント、気に入ってくれたかしら……?最近思い出したけど、私だって元魔王なんだから……」

 

犯人の少女は静かに、今日も商店街で望む映像を見せるマッチを売るのだった。

 

 






竜胆くんがフラグを建てる幼女は病原体そのものだったり、アホな上に実の姉だったりとロクな幼女がいない。



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みせかけの艶"耀"



おうおうおう、今回はこの作者の甲殻類節が炸裂して一般の方々には理解し難い、もしくは理解できない描写があるかもしれないぜ。

多分こうなったのはexvsFBやりすぎてちょっと富野節が移ったからだぜ。




 

 

……どうして?

 

どうしてなの?

 

どうして貴方は鳥籠に囚われても逃げようとするの?

 

信じられない理解できない思いにもよらない。私が貴方に、貴方の幸せを全部あげてるのに!

 

そんなに私のあげてる幸せが嫌なの?そんなに……そんなにあの女がいいの!?

 

認めない。

 

認めない……認めない。

 

認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認め認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないみとめないミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイmitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai mitomenai !!!!!

 

認めない!!認めない!!!認めない!!!!

 

……貴方がそんなにイタズラ好きだなんて思いもしなかったわ。思わず怒っちゃったけど……そういうコドモらしいイタズラ好きなところも好きよ……

 

ええ……ええ。思わず興奮して新しいモノにも目覚めるくらいにはステキなイタズラだったわ……

 

ああ……竜胆、イケナイ子ね。苛めてしまいたいわ。

 

心の幸せだけで満足できないのなら……私が貴方に、カラダとココロの満足を両方、与えてあげる……

 

◆◇◆

 

───なんなんだ、この違和感は。

 

今いる世界は間違いなく、俺が一番望んでいた世界だ。なによりも、一番。

 

なのに、なんなんだこの違和感は。

 

嬉しいのに、楽しいのに、なにも感じない。

 

全く嬉しく感じない。全然楽しく感じない。なんのプラスな考えも感じない。

 

「どうしたの?竜胆」

 

「ああ……いや、なんでもない。うん、楽しい……はず」

 

俺は耀の手渡してきたマカロンを一つ頬張る。俺の好きな苦味も甘味も控えめビターなチョコ味だ。

 

この違和感が気持ち悪い。楽しいのに楽しくないという、矛盾が気持ち悪い。

 

「……やっぱり、変だよ竜胆」

 

「え?なにが、どう変なんだ?」

 

「いつもの竜胆じゃない。いつもの竜胆だったら好きなもの食べると子供みたいな顔するもん」

 

……マジ?

 

もしそうだとしたらまた周りに子供だの問題児末っ子だの言われる……ヤバい。

 

「ねえ、竜胆はなにを隠してるの?竜胆はなにが不満なの?竜胆は……今の私になにを感じてるの?」

 

「………っ」

 

「竜胆は辛いことがあっても誰にもなんにも言わないよ……でも、みんな竜胆がなにかを抱えてることはわかってる。

竜胆、嘘ばっかりなのに嘘言うのヘタクソだもん」

 

嘘ばっかりのくせに嘘がヘタなのは認める。なんとなく、わかってる。

 

隠し事がヘタなのはそういう性格だから仕方ない。

 

それでも、果たして言えるのだろうか?この耀に、この世界やお前は俺の望みが生んだ、あるはずのない世界なんだって。

 

……言えない。絶対言えない。

 

そもそも言いたくない。

 

夢の世界とはいえ、耀を悲しませたくない。泣いてほしくない。でもこの世界から出ないと俺のいた箱庭に戻れないし……

 

「竜胆」

 

「………」

 

「竜胆、竜胆ってば」

 

「………」

 

「ふんっ」

 

ヒュバシッ!

 

「レグナント!?」

 

「……竜胆ってば」

 

「え?な、なに?」

 

「話聞いてる?」

 

「え……あ、いや、ごめん聞いてなかった」

 

「やっぱり」

 

うっ……そう言われるとな……

 

「……竜胆さ、ここにいるべきじゃないと思うよ」

 

「……え?」

 

「行きたいところ、あるんでしょ?」

 

「………」

 

なんでわかったんだ?

 

「言ったでしょ?竜胆は嘘つくのヘタクソだって」

 

「いや、でも行きたい場所があるなんて一言も」

 

「Don't think feel……竜胆の時代にいた人の言葉。考えるんじゃなくて感じたんだよ」

 

「はぁ……お前はどこに行ってもわけのわかんないヤツだなぁ……」

 

ホントに……わけのわからんヤツだ。

 

「……そうだな、ありがとう。行ってくるよ。俺の行きたいところに……できればこの幸せな夢が、リアルになるように」

 

俺は耀に背を向けて、本来いるべき世界へと戻るためにこの世界から去って行く。

 

そう、夢は結局、夢でしかないんだ。だから人間は、どれだけ罪深いと言われても夢を追い求めている。

 

「……うん、行ってらっしゃい」

 

突然、耀に腕を引っ張られた。

 

え?何事?って───

 

「───んっ、」

 

「───んんぅ!!?」

 

く、くくく唇を奪われたぁああああ!!?

 

「ふっ、んっ……」

 

「ひ……あ、ぅ……」

 

長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い長い!?なんなのこれ!?なにこれ!?サービスなの?エロスなの!?

 

ひいいいいい!!?一方的に口内を蹂躙させられてる!向こうのサラさんにヤられまくって開発させられた感覚が鋭敏すぎるくらいに機能しているううう!

 

違うんですサラさん俺はドMじゃないんです!違うぞ耀俺はドMじゃない!でも、ふぁっ、どうしてもこんな酷い蹂躙をされると……もっとしてほしく───

 

「バイバイ竜胆。もう会えないけど、いい時間を過ごせたよ。お幸せに」

 

◆◇◆

 

「……お?帰ってきたみたいだな」

 

「そうみたいだな……色々ヤバすぎるラストだったけど、お前らはどんな世界だったんだよ」

 

「まあ、幸福な世界だったことに変わりはないのぅ……」

 

瞳を開けた竜胆を迎えたのは、まるで憑き物が落ちたような清々しい表情の秀里とエイーダだった。

 

秀里は見慣れない剣を、エイーダは同じく見慣れない槍……正確には偃月刀を持っていた。

 

「……なんだ?それ」

 

「新しいギフト……と簡単に言えばこうじゃの」

 

「なんか目が覚めた時に手紙と一緒に落ちてたんだよ。それで中枢にある"世界の鎖"を砕けって」

 

秀里に渡された手紙を確認する。そこには達筆な行書体でこう書かれていた。

 

『それは世界を暴く刃、神器。貴方達がさみしい自分に打ち勝てたのならそれは相応しい。

剣士の彼には剣、ギフト銘は"五行の神刀"。

水の彼女には槍、ギフト銘は"八岐の雅槍"。

炎の彼女には円月輪、ギフト銘は"六道の能輪"。

そして竜胆、貴方には斧、ギフト銘は"九頭龍の舞斧"。

この四つを重ねて"世界の鎖"を砕けば、貴方達は元の世界へと帰って来られる』

 

「差出人は不明、しかもこの神器とやらは渡されたヤツが帰って来ないと取れないステキ使用と来たもんだ」

 

「……そう、か。じゃあ……これか?」

 

竜胆が手紙の中から突然現れた斧、と形容するよりは扇に近いそれをギフトカードに収める。

 

それは確かに、"九頭龍の舞斧"と書かれていた。

 

「……あとは、セックだけか?」

 

「そのようじゃの……セックはお気楽そうに見えたが、まさか最後になるとはの……」

 

「お気楽に見える分だけ不幸ななにかを隠してるってか……」

 

悲しい自分、それは叶うことのない願いとわかっていながら願ってしまい、それが実現した世界に放り込まれた自分達のことなのだろう。

 

きっと、その悲しい自分を乗り越えて元の世界へと帰ることを決心した彼らは……悲しい自分を背負って生きていけるのだろう。

 

だから、未だ帰って来ない最後の一人を待っていた。

 

 






りんどうくんはどえむ。それ以上でも以下でもない。

そして今回謎の差出人からもらった四つのギフト、ぶっちゃけちょーつえーです。下手したら"人類の希望"の武器召喚能力なんて補助に回るかもしれないくらいつえーです。



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ろきのおもちゃ


セックちゃんがヒロインしてる話。今回の章に限ってヒロイン交代なのか?




 

……なにを焦っていたのかしら。そうよ。焦る必要なんてない。

 

彼女が竜胆達の仲間である以上、彼女が現れるのをきっと竜胆達は待ち続ける。

 

……それでも彼女は絶対に竜胆達の目の前には現れないわ。

 

彼女の闇は、竜胆が今忘れている闇に匹敵するほどに深く、暗い。

 

狡知の彼も罪なことをしたわね。

 

まさか、人間の女に……ふふっ、竜胆ほどじゃあないけど、彼女にも興味が湧いてきたわ……彼ら四人は皆、心に程度の差はあれど闇がある。

 

ああ……いい、いいわ。竜胆を私の愛を全て受け入れてくれる人形にしたら、後は彼女らを私が愛でる人形にしましょう……

 

竜胆……貴方が連れてきてくれた三人、とってもいい子達よ……

 

さあ……チューリップの庭の中で、踊り続けなさい。

 

◆◇◆

 

楽しい。心の奥底からそう思えたのはいつぶりだろうか。

 

今まではなにをするにしてもワクワクとした感情が浮かんで来なかった。

 

でも、だけど。今は違う。友達がいる。

 

今まで色んな人と仲良くはなったけど、どれが友達のボーダーラインかなんてわかっていなかった。

 

今ならわかる!これが友達!私が逃げ続けて、否定して、ずっと渇望していた、友達!

 

友達がいる!私はもうひとりぼっちじゃない!

 

……あれ?じゃあ、今の私って……なに?

 

◆◇◆

 

「……戻って来ないな」

 

「うむ、あのお調子者がこんなところでつまづくとは思えんのじゃが……」

 

虚構の箱庭の中枢、秀里のぽつりとした呟きは途端にエイーダの一抹の不安を吐き出させた。

 

「……覚悟はするなよ、秀里、エイーダ」

 

ただ一心に扇のような斧を片手に持った竜胆は静かに呟く。

 

「覚悟はするなって……それはセックが戻って来ない覚悟をするなってことか?」

 

「そうだ」

 

「しかしのう竜胆……儂らは今セックの内情を知らぬ故、覚悟をするなということは不可能じゃぞ?」

 

「もし覚悟をしたのなら信頼すればいい。どんなにありもしない本物の世界にアイツが囚われたとしても……帰って来ると信じるんだ」

 

竜胆の言うことは相変わらず言葉が少し足りない。竜胆の言うことが意味していることはなんなのかを理解させる気配り、その辺が彼には足りない。

 

だから二人は結論、竜胆の言わんとしていることがあんまり理解できていなかった。

 

◆◇◆

 

「貴女は誰なの?」

 

「───え?」

 

突然、セックの後ろから聞きなれない声が聞こえてきた。

 

いや、聞きなれないのではない。今までずっと聞いていたのだが、その声音は自分が今まで感じていたものよりも違う声なのだ。

 

「───貴女は、誰なの?」

 

「……あ、貴女こそ、誰?」

 

自分のことを問いてくる声に同じ質問で返す。そうなるのも仕方がない。なぜなら目の前にいるのは他でもない、"セック・ズルグ"なのだから。

 

「私はセックですよ。貴女……私の真似をしてなにが楽しいの?」

 

「そんなっ……私は貴女の真似なんてしてるつもりはないです……私は、私はセックです!そちらが私を真似ているだけではないんですか!?」

 

「そんなわけがないですよ。世の中に本物は一つしかないんです。私は彼女達とずっと仲良く過ごしてきました……でも、貴女は?

貴女は果たしてそうなの?貴女は彼女達とずっと、今日に至るまで仲良しこよしでしたか?違いますよね?」

 

「……っ、それはっ……!」

 

「やっぱり。貴女は私のフリをする嘘つきさんではないですか。セック……いいえ、ロキのおもちゃさん……」

 

「……!ロキ……!?」

 

セックははっきりと明確に、その神の名を告げたもう一人の自分を改めて凝視する。

 

「やっぱり……私、貴女を見てると不思議とイライラしていたんです。貴女の受けたロキの加護……凍てつく炎は私の大っ嫌いなものなんですっよ!」

 

「がっ、ぎゃ!?」

 

もう一人のセックは自分のギフト"ローゲ・フィアンマ"とは真逆の、燃え盛るような熱さを秘めた氷を纏って思い切り殴りつけてきた。

 

「ぐぅっ……なに、そのギフト……そんなの、私知りません……」

 

「ギフト名"ホワイト・アース"……こう言えば、ロキのおもちゃである貴女はすぐにでも理解するのでは?」

 

絶句。まさに彼女は何秒かの間まるごと呼吸することも忘れていた。

 

ホワイト・アース……白いアース。それは北欧神話でとある神と激闘を繰り広げた神の異名。

 

そして、"ローゲ・フィアンマ"と空と海を駆ける"カリガ"。この二つの持ち主もまた、とある神と激闘を繰り広げた。

 

白いアースの名を、ヘイムダル。

 

ローゲの炎の名を、ロキ。

 

共に北欧神話による神々の黄昏……ラグナロクで互いに滅ぼし会い、同士討ちの果てに相討ちとなった神の名である。

 

そして、ギフトゲームの名は"THE WORLD of LAGNA-ROCK"……ラグナロクの再現ともとれるこのギフトゲームの中で、二柱の神の加護と悪戯を受けた二人はラグナロクの再現を始めるのは、至極当然。

 

「白いアース……ヘイムダル!」

 

「ローゲの炎……ロキ!」

 

ヘイムダルの加護を受けた者が今目の前にいると理解したその時、ロキの悪戯を受けた身体は否が応でも多少の拒絶反応を起こす。

 

そしてそれは、目の前にいるヘイムダルの加護を受けた者も同じ。

 

「っ……貴女はさっきからずっとずっと、私の心を揺さぶるようなことを言って……その上、ヘイムダルの加護を持っている……!」

 

「そういう貴女は私とヘイムダルの一番討つべきロキのおもちゃ……多少なりともロキの力を持っている!」

 

「「そもそも、セックは二人もいらない!貴女は私が───」」

 

「焼き尽くす!」

 

「氷結させる!」

 

 





うーん、オリジナルってやっぱ難しい。最近の更新が遅い上に文字数が……ウゴゴゴゴ

結論、オリジナル展開になると竜胆くんは口下手な電波ちゃんと化す。



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番外!編! おねーちゃんの箱庭日記 導入編



ここにきてまさかの番外編。いったいいつまで話の先延ばしをするのやら……




 

 

「ねえ、お姉」

 

「なーになになにリン?もしかしておねーちゃんに聞きたいことがあるのかな?よぉし、言ってみよ、ドンシンゴンと受け止めてしんぜよう!」

 

「いや、お姉に質問するくらいなら十六夜とか白夜叉……いや、十六夜とか黒ウサギとかに質問してる。そうじゃなくてさ。突然知りたくなったんだよ。お姉が箱庭に来てからの三年間……"ウィル・オ・ウィスプ"のこと。……ほら、家族、だし。そういうコミュニケーションもさ」

 

「むはー!可愛いぞぉー!ウチの弟は世界一可愛いぞぉー!舌目せよぐみんどもー!これが私の可愛い弟だぁっー!」

 

「やめろ阿呆お姉!それと刮目だって"アンダーウッド"でも言っただろ!」

 

「にゃははは。冗談冗談。マイケルだってばよ!よーし教えてしんぜよう!あれは今から三年間のことだった……」

 

◆◇◆

 

「……うにゃ?あれれ?私って確かに死んじゃってたよね?こー、リンの前でらしくもなく感傷的なこと言って……」

 

「貴女の魂は私が拾ったの。貴女はまだ生きるべき。後悔と心残りが今まで見た何処の誰よりも大きく深い……これは、家族愛?」

 

「あっるぇ?誰かねキミは。私は鈴蘭!高町鈴蘭さ!鈴蘭でもスズでもお好きに呼ぶがいい───あいたぁ!?」

 

にゃははは!と貧相な胸をビシッと張っていると、鈴蘭は突然目の前の少女に鈍器で殴られた。痛い。超絶スーパー痛い。

 

「なんのつもりだい!やられたらやりかえす、倍返しだっ!」

 

鈴蘭が少女から鈍器を奪い取って全力で殴るとゴギィーン、というやたらと酷い音が少女の頭から鳴った。

 

少女は痛そうに頭を抑えている。

 

「痛い……」

 

「にゃははは!これぞまさにケンカリョーセーバイだにゃぁ!」

 

多分違う。喧嘩両成敗はきっとこんな状況で使うような言葉じゃあない。

 

「……わかった。喧嘩両成敗」

 

そして少女もそれを信じる。のっけからダメだこいつらと思わざるを得ない。

 

「それで……なんだっけ?私が生きてるべき?どゆこと?」

 

「……言ったままの意味。貴女はまだ生きるべきってこと」

 

「うにゃ?そーは言われてもどの道死んじゃってる身でありますしなー」

 

「……貴女は死んでる。でも、冥府にはいない」

 

「……んー?つまり、なんだ?ゆーたいりだつー?」

 

「そんなところ。よかったら貴女、私のコミュニティに来ない?」

 

「コミュニティ?私になにかしろとな?や、残念だけど私雑務は苦手中の苦手、センセに何度怒られたことやら」

 

鈴蘭がわーい、バンザーイ、とアホらしく手を挙げる。そんな鈴蘭に少女は再び鈍器で殴る。

 

「うにゃぁ!?」

 

「私が貴女に求めているのは雑務じゃなくて、実力。貴女のギフトを私にみせて?」

 

その直後、少女ことウィラ・ザ・イグニファトゥスは鈴蘭に鈍器を奪い取られてぶん殴られてケンカリョーセーバイと言われたことも記しておく。

 

◆◇◆

 

「これが貴女のギフトカード。これに貴女のギフトが詰まっている」

 

「ほほー。こんな紙一枚にとな。ここの技術もあの人の技術に負けず劣らず……」

 

試しに鈴蘭は"冥界の獄炎"と書かれたギフトを使うことにした。鈴蘭の合図とともに、彼女の右手から漆黒の炎が現れる。

 

そして鈴蘭はこのギフトを使ったことを死ぬほど後悔した。

 

「……ほの、お、」

 

「……スズスズ?どうかしたの?」

 

「……ほのお、ほのお、ほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのおほのお…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ほの、お」

 

ただひたすら、なにかに怯えるようにほのおとだけ連呼し続ける。最後の言葉はややくぐもった声だったが、その怯え方が尋常ではなかった。

 

「……ぁ……ぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!

炎ッ!!!?炎!?ほ、……炎は、イヤ!!!!死にたくない!!炎、来ないで!!!殺さないで!!!!!!私とママ達……リンを殺さないでぇ!!」

 

「ス、スズスズ!?どうか、したの……!?」

 

突然、鈴蘭が先ほどまでのお気楽さが嘘のように泣き叫び、まるで別人のように狂い出した。炎は嫌だ、死にたくないと叫びながら漆黒の炎を所構わず発射している様は、まさしく魔王そのものである。

 

漆黒の炎に当たったものは無機物有機物問わずに燃え尽きていく。木や蝋は勿論、石畳やガラスにまで直接火を付け始めた。

 

「落ち着いてスズスズ!どうか、したの!?」

 

「炎……!私を消しちゃう、破滅の光……!?来ないで!来ないでぇ!」

 

結局、彼女はそれからギフトの使い過ぎで精神が尽きるまで叫び続け、その強すぎるギフト"冥界の獄炎"と、それを最強たらしめていると判断された"魔導の覇王"は、後者をウィラによる封印暗示で弱体化させ、前者をウィラの作った衣によって炎を太陽の日と誤認させるという措置によって対処。そして"魔導の覇王"彼女が"主催者権限"を使用できると判明され、彼女が魔王になることの恐ろしさを認識させられた。

 

改めて高町鈴蘭は強すぎる力を魔王に悪用、もしくはなにかの弾みで彼女が世に仇名す最悪の魔王にならぬよう、"魔導王"として生きることとなったのだ。

 

◆◇◆

 

「以上!導入編!」

 

「ふーん……いやごめん、お姉が発狂とか正直想像つかん」

 

「しっけーな!これでもわたしゃあ健全な女性だぞぅ!」

 

「あーはいはいわかったわかった。お姉はとても魅力的な女性です美しいです家族じゃなかったら結婚したかったですー」

 

「いやんリンったら。おねーちゃんが魅力的なのはわかるけどそこまでいわなくてもいいのに……わかってることだからね!」

 

「うわすっげぇコイツ轢き殺したくなった」

 

「にゃははは!またまたぁ、照れ隠しはよくないゾ☆いくらリンがおねーちゃん大好きでおねーちゃんがリンのこと大好きでも言ってくれなきゃわかんないんだから!」

 

「うっさい黙れアホお姉!いっぺんカメに脳みそ齧られて死ね!」

 

「ところがどっこいもう死んでます!」

 

「うるさいバカ!……でも、よかったよ。ちょっと変わってても、お姉はお姉だからな」

 

「にゃっ!?……そ、そんな風に言われるとおねーちゃんだって恥ずかしくなるっちゅーの!リンのバカ!好きな子いるクセにおねーちゃんときんしんそーかんだなんていけないんだぞぅ!」

 

「はぁ!?なにが悲しくてお姉なんかと近親相姦せにゃならんのだ!?俺にとってお姉はただの大事な家族!他の誰かよりも優先度がちょい上なだけだからな!」

 

 






ぐたーる、番外編でもぐたーる。



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やさしいうそ



いやー、なんかすんません。更新遅れましたぁ!

これは……あれです、伊達じゃないガンダムとか、スイカバーガンダムとか使うのが楽しかったんですよ!ガンダムのせいだ!

……いや、すんません、普通にこの虫ケラのせいです。はい。




 

 

氷が炎を燃やし尽くし、炎が氷を凍てつかせる。そんな表現が正しいのだろうか。

 

二人のセックは目の前にいる自分に向かって互いに本気の殺意を飛ばす。時には互いに凍てつく炎と燃え盛る氷を纏って殴り合う。

 

「"ローゲ・フィアンマ"!燃やし尽くして!」

おもちゃの号令一つで凍てつくような炎は不可解な動きをしながらセックに向かっていく。

 

「"ホワイト・アース"!凍てつき燃やせ!」

 

セックの氷は炎などまるでなかったかのようにあっさりと空間ごと氷結させる。しかし、おもちゃはその氷に溶けてしまうのではないかというほどの熱を感じて戦慄する。

 

「……こんなのがロキの悪戯を受けたの?なんというか……拍子抜けです。こんなのに悪戯したロキも、そんなロキと相討ちになったヘイムダルも弱々だったんですね、どうせ」

 

「っ……言ってくれますね……!私もこんなのに悪戯したロキは目が節穴なんじゃないかと疑ったこと、ありますよ……!」

 

おもちゃは自嘲気味に笑いながらゆっくりと立ち上がる。両腕には黒い炎を纏って殴り合い宇宙といった感じだ。

 

だがしかし、セックはそんな彼女を見つめて可哀想なモノを見るかのような冷ややかな瞳を送る。

 

「……バカみたいですね。そうやって自分を受け入れないつもりですか?貴女は。

そんなに友達程度に裏切られただけで、ただただ逃げ続けて……貴女と共にこの場所に来た三人も迷惑な女に目をつけられたものです」

 

「うるさい……!貴女に何がわかる!?信じてた人達にただ嘘つきの悪戯を受けたせいで、ただそれだけなのに!それだけなのに……それだけでコミュニティから追い出された私の気持ちが!

その友達といられる貴女に!コミュニティの一角を担ってるエイーダちゃんに!自分からコミュニティを抜けたヒデくんに!……私とおんなじなのに、コミュニティの仲間に助けられた竜胆くんに!わかるわけないんだッ!!」

 

「ええ、わかるわけないですよ」

 

自分が持てなかったものを"その程度"とあざ笑ったセックに、まるでそれがトリガーとなったようにおもちゃは叫び出す。

 

どうして自分だけ、どうしてお前達は、なんでこんなにも違うんだと……それがただの八つ当たりに等しい行為であろうと彼女は叫ばずにはいられないのだ。

 

なんで自分には自分を理解してくれない人ばっかりなんだ。どうしてお前達の周りには理解者に恵まれているんだ。

 

……どうしてお前達は、私みたいにならないんだ。

 

なんでお前達にも自分は自分だと主張できるようなものがないのに、なんでお前達の周りの人間はそんなものを受け入れてくれる。

 

自分に向けられることのなかった想いを向けられている彼らに彼女は叫ぶ。どうして貴方達や偽物に全部あって、私だけなにもないんだ、と。

 

だが、そんな彼女の慟哭をセックはただ一言、"わかるわけがない"と一蹴する。

 

「貴女は彼らになにも言っていない。貴女が望んでいるもの、求めているもの……なにも言わなくてもわかってくれるだなんて、甘ったれるな!」

 

セックは半狂乱になって自分を見ていないおもちゃに向かってゆっくりと歩を進め、ギフトもなにもない、純粋な拳で彼女を殴り飛ばす。

 

その拳にはつい先ほどまでのヘイムダルの加護の影響で殺しにかかっていた時の物騒な想いはなく、哀しみに満たされた拳だった。

 

「自分から動こうともしないくせに、口だけは達者……境遇がおんなじでも結果が違うのは貴自身の、そのなにも言おうともしない性格のせいに決まってる」

 

「っ………」

 

殴られた頬を抑えるおもちゃにセックは冷ややかに見下す。まるで彼女が自分と同一の人間であることそのものを、ロキとかヘイムダルとかそういうのを抜きに嫌っているようだった。

 

「貴女は誰も信じていないんだ。たった一度裏切られただけで、人間全てがそういうのなんだって勝手に絶望して」

 

「……違う」

 

「違わなくない。貴女はとても弱い人間です」

 

「違う!私は……私は弱くなんかない!」

 

「そして同時に、私も、貴女と共にここに来た彼らも、とても弱い」

 

「……え?」

 

必死に自分を責め立てるセックから耳を背けるように違う、違うと首を横に振り続ける。

 

だが、そんな中に彼女から届けられた言葉はとても意外で、信じられない言葉だった。

 

「人間は弱いから群れるんです。群ようとしない人は強くなんかない……強情で弱さを認めないだけ」

 

途端に、セックはいつもの白々しい表情でも、ついさっきまでの殺意に満ちた表情でもない、月明かりのような微笑みを見せる。

 

「ふふ。どうやらこの世界やこの世界の私を造った人はどうしても貴女をこの先に進めたくなかったようだけど……思惑が外れたようね」

 

「………………どういう、ことなの……?」

 

一人で現状に納得するセックに、"セック"はまるで理解できないとばかりに目を丸くする。

 

「うーん、なんというべきでしょうか……例えもなにもないですが、本来貴女をここに閉じ込めるのが役割だったはずのこの世界は貴女に現実でここのような幸せを追い求めることを望んで、敢えて貴女に対して真逆とも言える立場の私を造って遣わした……みたいな?」

 

「………」

 

つまり、簡単に言うとこの世界のセックとこの世界は、セックをこの世界に永住させるために生み出されたはずなのにその真逆のことをした、ということだ。

 

「きっと貴女の心からできた世界だから貴女のことが好きで好きでたまらないんですよ。この世界も、私も……どうでした?迫真の演技だったでしょう?」

 

この世界のセックの笑顔にセックは毒気を抜かれ、同時に今まで自分が感じていた劣等感や確執がどうでももいいものに思えてきた。

 

「……はい。とても凄い演技でした」

 

「そっか。それじゃあここからは私がいなくても頑張れるね。

貴女のいるべき世界はこんな与えられた幸せじゃなくて、幸せを掴み取る世界だから……」

 

セックに背を向けさせたもう一人のセックは彼女の背中を押し出す。振り向いたセックが目にしたのは、いつか自分が忘れた自然な微笑みを向けてくるもう一人のセック。

 

「……私、頑張るよ。幸せをもらうんじゃなくて、幸せを掴み取るために───」

 

だから、今だけは……いつもの作り笑いをセックは浮かべていた。

 






こんなに時間かけた上にこんな体たらくな文しか書けないなんて、私は小説家のとんだ鼻つまみ者だ……!

マジで文才がほしぃー!


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チューリップ



なんでや!なんで……なんで投稿が遅れたんや!あんさんがあの小説投稿のLAボーナス欲しさにボスの情報を伝えんかったから、ディアベルはんは死んでまったんや!そやろがぁ!

すんません。




 

 

「……ようやく、この面倒な世界から出てこれるんだな」

 

「そうだな……ここで勝てば、だけどな」

 

「秀里。縁起でもないことを言うでない。儂等は出るためにここにおるんじゃ」

 

「その通り。私達、まだ向こうでやり残したことが沢山あるんですから」

 

四人がそれぞれ言いたい放題。そもそも竜胆自身少しグダリかけてるこの戦いは多少ご都合になってでも即効で解決すべきと思っているのだ。

 

改めてそう決意した時、四人の持つ"五行の神刀"、"六道の能輪"、"八岐雅槍"、そして"九頭龍の舞斧"が突然光り出し、四人の身体が途端に浮きだす。

 

「……お?なんだこれ」

 

「多分俺たちを導いているんだろうな、神器が。元々四人いないとたどり着けないパターンか……あるいは」

 

「あるいは?」

 

「そもそも念ずれば叶う……そんなパターンか」

 

「……お前、それもしセックが帰ってこなかったら一生俺達あのままってことじゃねえか。後者はお前のよくわからん言葉のせいで」

 

「……結果オーライだ」

 

竜胆がフン、と若干意固地になる。

 

「でも、あれですよね。こういう特別ななにかが導くって、こう……ラスボス戦前のセーブ不可能エリア」

 

「不吉なこと言うな!」

 

「……というか、そもそも人生にセーブもリセットも無理じゃろ?ほれほれ、諦めい秀里」

 

「こんな時に人生引き合いに出されても困るんだが……まあいいや。エイーダの言う通りだし」

 

そんな風に四人が言いたい放題駄弁っていると、すぐに箱庭の中枢の最奥にたどり着いた。

 

「さて、ここが目的地か……」

 

「たどり着いたはいいが……なにもないな」

 

「お前は逆になにを期待してた?だ?」

 

「なにもないことに期待してた。なにもなさすぎて改めてビックリしたんだよ」

 

秀里が溜息をつきながら周りを見渡す。本当になにもない。あるとすれば、天井にあるステンドグラスくらいなものだ。

 

「どこにあるんだ……?世界の鎖ってのは……」

 

「それを探す必要性はないわ」

 

突如、そんな声が聞こえてくる。天井からだ。

 

ステンドグラスの方をむけば、そこから黒い影がかかり、その影はすぐに竜胆達に近づき、ステンドグラスを破壊する。

 

「……なぜなら"独りの剣士"に"飢える鮫"。"ロキのおもちゃ"に……"孤独の狐"。貴方達みんな私の人形になるからよ。特に竜胆、貴方は特別よ」

 

ステンドグラスを割って着地した衝撃で巻き上げた土煙りは徐々に晴れていき、その声の主の姿が露わになる。

 

「───っな!?耀!?」

 

その姿を見て竜胆は驚愕した。

 

それもそのはず、その少女の姿は春日部耀とほとんど一瞬だったのだ。

 

茶色い髪がペンキで塗りつぶしたかのように黒く、黄土の瞳は白銀に。スリーブレスジャケットは白から真っ黒になり、短パンに至ってはゴシックなドレスへと変わっている。

 

だが、姿形は竜胆がどう見ても、春日部耀その人のものである。

 

顔の造形も手の小ささも肩幅も、あと貧乳も、全て竜胆のキマイラ化によって身についている異常な記憶力の中にいる耀となんら変わりがないのだ。

 

「竜胆、貴方は一人特別な部屋に隔離して、私が毎日毎日部屋のインテリアも服装の趣向も変えて私とずっと永遠を過ごすの……ああ……竜胆……その陣羽織もクールで素敵だけど、貴方はもっと可愛いものが似合うわ……例えばゴスロリとか」

 

「お前やっぱ耀じゃねーだろ」

 

瞬間、竜胆は少女に肉薄して"九頭龍の舞斧"とメダガブリューの斧二刀流で少女に斬りかかる。

 

だがしかし───

 

「……あら?竜胆はもしかして今、私と戦おうとしたのかしら……?

ああ、いいわ。その敵いもしない敵に一心不乱に立ち向かうサマ……加虐心を燻られる……それが最愛の貴方なら、なおさらよ竜胆!」

 

「……こっち来んな」

 

竜胆が若干引き気味に耀そっくりの少女と距離を取る。二重の意味で。

 

ただまぁ、未ださっきの世界以外で片鱗を見せていないものの被虐体質とマゾっ気のある彼が言えたことではないのだが。

 

それにしても、まったく同じ顔をしているのに竜胆はよく殴れたものだと自分で不思議に思っていた。あれだろうか、今のはツッコミとして機能したのだろうか。

 

「……ってか、なんでよりにもよって耀のコンパチだ。秀里にしろエイーダにせよセックにせよ……なんで俺へのピンポなんだ?」

 

「それはヒミツ。でも……敢えて言うならば、愛かしらね。貴方の……竜胆への、ね」

 

少女はわざとらしく笑いながら竜胆に急速接近してくる。

 

「やらせるかよ!」

 

それを秀里が"五行の神刀"を構えながら防ぐ。

 

秀里が少女の足止めをしているその一瞬の間にエイーダは"八岐の雅槍"で少女に斬りかかる。

 

「"神器"を持っててその程度なの?"神器"は持ち主の力量を限界突破して振るえるというけど……限界超えてこの程度だなんてお話しにもならない……っ!」

 

秀里とエイーダを受け止めた少女はそのままただ一つ、気迫を込めるだけで二人を吹き飛ばした。

 

「二人共!だったらこれで!」

 

吹き飛ばされた二人を見て、元々接近戦が不向きなギフトだらけというのもあるが、近づくのは得策ではないと判断したセックは"六道の能輪"を少女に向かって投げつける。

 

「おもちゃごときが、邪魔をするな!」

 

「おもちゃなんかじゃない!私は私だ!」

 

少女が"六道の能輪"を受け止めたのを確認すると、握り拳を作った右腕に炎を纏い、そこから熱線を少女に撃ち飛ばす。

 

「効かない!こんなだからロキの呪いを今まで受け止められなかったのよ!」

 

「それはっ……今のことじゃない!」

 

竜胆の呪術によってセックの手元にまで転移してきた"六道の能輪"はセックが持ち手を対象方向に両手で引っ張り、非常に反った二本の剣となる。

 

「せやぁっ!」

 

「くっ!?」

 

さすがに円月輪が剣になるとは予想していなかったのか、対応が一歩遅れて鍔迫り合いに少々不利となっていた。

 

「せぇい!」

 

エイーダがジャベリンの容量で"八岐の雅槍"にありったけの水流のエネルギーを込めてぶん投げる。

 

「おらぉよ!」

 

更に秀里は部屋の高さの許す限りまで自らのギフト"加速"で登り、そこから慣性と重力による落下速度を更に"加速"し、唐竹割りに"五行の神刀"を振り下ろす。

 

「奥義……麒麟!」

 

その剣技によって重力と"加速"のギフトによる重力加速度と自身の体重、そして剣速の全てを総括した一撃が少女に叩き込まれる。

 

「ぐっ……!?姑息な手を……」

 

そう言い、少女は瞳を閉じて三人の武器を受け止めていた両手を離す。すると割れたステンドグラスをオリハルコンへと材質を変えて四人に飛ばしてきた。

 

「ぐぁ!?」

 

あまりの強烈さに思わず三人とも少女から離れてしまうが、すぐに少女に強襲する。

 

だが今度は───

 

「はぁっ!」

 

今度は腕を交差させると、三つの神器はその材質をラバーへと変換させられた。

 

「なっ!?」

 

「獅子ッ!奮迅ッ!」

 

驚愕するセックに少女は拳の材質をオイルに変える。少女の拳がセックに触れると、先程の"ローゲ・フィアンマ"による熱線で残った残滓にも同時に触れ、少女の拳が大爆発を起こす。

 

「ぁああ!?」

 

セックは吹き飛ばされるが、少女は爆発で右手が吹き飛んだはずが、一瞬で元の姿に戻る。

 

「んだっ、このアホみてえな回復力!?」

 

驚愕のあまり秀里が叫ぶと、少女は今度の狙いを秀里にし、左腕をバスター状のものに変えると、そこから暴風が巻き起こり、秀里を吹き飛ばす。

 

当然、腕はすぐに引きちぎりエイーダに投げた後に生え変わった。

 

「あとは貴女……!」

 

少女は背中にバーニアを出現させ、音速を突破する速度で肉薄したかと思うとそのままあやつる武器も水もないエイーダに右手の平を輝かせ、アイアンクローをかましたと思うとまた大爆発を引き起こした。

 

「がっ……!?」

 

「みんな!?」

 

「余所見してるヒマは、ないんじゃなくて?」

 

「っがぁ!」

 

竜胆がほぼ一瞬と言っても差し違えない時間で三人が一蹴されたことに驚愕していると、それこそ正に大きな隙と言わんばかりに少女は元の……元のという表現かすらわからないが、耀と全く同じ、どこか病的なものを感じさせる細い腕で竜胆の腹部にパンチ。竜胆はその場に跪き、痛みをこらえていると、突然少女に抱かれた。

 

こう、いわゆるお姫様抱っこで。

 

「……は?」

 

「……ふ、ふふふ……ようやく私のところに来てくれたわね竜胆……さぁ、早く行きましょう……私と貴方だけの部屋、ドールハウスに……」

 

「なにがドールハウスだそれより離せ!なんで俺はこうもことごとく女にお姫様抱っこされるんだ!?」

 

「それは……貴方がお姫様だからよ、竜胆。恋して助けられて、ある時は助けて……正にお姫様ね」

 

 

色々言ってやりたいしふざけんなとか言いたいが、腹パンの影響でマトモに動くこともできないため抵抗もできない。

 

「だいたいテメェ……なんでわざわざ耀の姿してるんだよ……」

 

竜胆が抵抗できないので、せめてもの時間稼ぎとしてなにかをし始める。

 

「……そんなもの、どうだっていいでしょう?言いたいことがそれだけなら、さっさと行きましょう」

 

少女は竜胆を抱えたままこの場所から立ち去ろうとする。

 

マズイ。このままじゃマズイ。

 

実質パーティメンバーは全員暫く動けない。その暫くの程度にもよるが、あんまりにも長すぎると初めて会った時の秀里ように無気力状態に陥るかもしれない。

 

どうすれば───と思っていた時、竜胆の頭に電流が走り、それを即時行動に移す。

 

あとは、あの三人次第だ。

 

◆◇◆

 

「っ……ぁ?俺達、なんでこんなところに……」

 

「うぬぅ……?なにやらとても大事なことをしていた気もするのじゃが……」

 

「思い出せません……というか、思い出す気すら湧かない……」

 

竜胆が少女に連れさらわれて暫く、ようやく三人は目覚めた───の、だが。

 

やはり竜胆が懸念した通り何も憶えていない。思い出す気力もないようだ。

 

「くそっ……スッキリしねぇ……それに、誰か一人忘れてるみてぇだ……」

 

「どうも釈然とせん……というか何故我々はこのような場でコロンと眠っておったのだ?」

 

「なにかが、なにかが足りない……そう、あのよく憶えてないけどモフモフした感覚……とっても可愛い子だった気が……」

 

どうやらその辺は普通に記憶にあるようだ。なんという執念。

 

「こう……なんていうか、行動を促したヤツ?そんな気が……って、なんだ?あの紙」

 

秀里が頭をひねっていると、突然一通の手紙を見つけた。

 

「ぬ……?セック、お主宛だそうだ」

 

「へ?私?」

 

セックが手紙を受け取ると、恐る恐ると封を切る。

 

そして開いた手紙にはポップ体の字で可愛らしく文字が書いてあった。

 

『この奥に悪い人に捕まっちゃった……助けて!お姉ちゃん……

竜胆より』

 

「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

 

電撃が走った。もう止められないほどに走った。

 

「ど、どうしたお前……突然意味不明に叫んで」

 

「竜胆くんだよぉ!竜胆くん忘れてたよ!あと私達元の世界に帰る途中で変なのに襲われたんだ!」

 

「「そうだった!忘れてた!」」

 

なんというご都合。可愛いは正義を地で行く竜胆の決死の作戦、正に彼は恥とか女扱いとか、そういう観念を全部かなぐり捨てて呪術で作った手紙をここに置いたのだ。

 

ここまで自分で否定するものを使いこなして、最早彼は女扱いするなと言われても元々低かった説得力がほぼ皆無となってしまった瞬間でもある。

 

「い、急ごう!竜胆くんが変なのに変なことされちゃうよ!」

 

「そ、そうだな!竜胆が変なのに変なことされる前に急ぐぞ!」

 

「いや……お主ら変なの変なのって……ここにいる時点で儂らは変な境遇じゃろうに……」

 

 






もうちょっとだけこの茶番に付き合ってください。これ終わったら乙三巻なんで。え?一巻と二巻?なにそれおいしいの?

↓気分で作ってみた次回予告

「アンタの名前知らない」

「私はリップ」

「からかうな!」

「洒落てないわ」

「流石もなにもねえよ」

「俺達は帰るんだ!」

次回 メルトアウト

「四肢をもぎ取って!首を引き千切って!」

「助けるよ、リップ」


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メルトアウト



……いやぁ、なんかすんません。こんな遅れてもうしわけありませんでしたおよそ300人のお気に入り様方ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

いや、なんかヒロインよりヒーロー書きたくなって仮面ライダーに熱入ったせいなんです!僕悪くな……いや悪い!

お詫びと言ってはなんですが、というかお詫びと言えないのですが二話分投稿しときます!ホントサーセン!




「ああ、いいわ竜胆……綺麗、とても綺麗……世界のなによりも……」

 

「……お前、俺にケンカ売ってんのかあ゛あ゛?」

 

「褒め称える以外の答えなんてないわ。やっぱり貴方は最高よ!ああもういっそのこと言ってしまうわ!

好きよ竜胆。世界のなによりも、箱庭だろうと異世界だろうと……そこに貴方と私を隔てる壁があるのなら秒速300万光年で蹴り砕いて迎えに行きたいくらい……!」

 

「お断りだ!だいたいこんな変なことされてるヤツ相手に好きになれるかヴォケ!」

 

竜胆が少女に連れ込まれたのは、ドールハウスと名付けられていた部屋だ。この部屋に連れ込まれるなりいつの間にサイズ測ったと言わざるを得ないくらいに竜胆の体格にフィットした服……主にドレスやゴスロリを着せられている。

 

因みに今の衣装は肩出し&際どさ丸出しというヤバいドレス。胸部だけなんか透けててモザイクが必要になるかならないかの瀬戸際である。

 

(くっそ……身体が思うように動かねえ……"人形部屋"だからなのか?考え付くのはアイツのギフトかこの部屋そのものに用意されたギフト……)

 

後者ならばなんとかしてこの部屋から脱出すれば終わりだが、前者ならばそうもいかない。

 

それに、少女がやたらと人形という単語を頻発していたことやこの竜胆の人形のような扱いから考えると、自分はそのうち心からマジモノの人形になってしまう可能性もある。

 

もしそうだとすれば、そうなったらもう自分の精神が身体に帰ってくる可能性なんて皆無に等しいだろう。そうだとした場合はなぜ竜胆の精神をさっさと消さないか。それは恐らく、一重に彼女が彼の反応を楽しんでいるからであろう。

 

幾度となく否定はしているが、あれだけ言われれば自分が女顔なのは理解している。そんな自分の表情の変化だとしたら、そういう加虐趣味のある者はどちらかと言うと被虐体質気味な竜胆の反応と表情変化を楽しんでいたとしても納得できる。

 

「おまっ、こんなことして楽しいのかよ……?」

 

「楽しいわよ?これ以上なく、素晴らしいほどにね」

 

帰ってくる返答は予想通り。身体が動かない以上は無闇矢鱈とギフトを使って反抗しても意味はない。というか最悪機嫌を損ねて一発アウトだろう。

 

「ほらほら竜胆。もっと私と遊びましょう?」

 

「……ぐっ、」

 

「嫌なの?」

 

「……めっっそうも、ないです……どうぞお好きに、なんにでも扱ってくださいませ……」

 

「今、なんにでもと言ったわね?」

 

「あっ、」

 

今、明らかにヤバい失言をしてしまった。取り消そうとすれば下手するとゲームオーバー。取り消さなかったらなにをされるかもわからない。

 

詰んだ。これ詰んだ。竜胆はとてつもないうっかりに頭をぶん殴られたような感覚に陥った。

 

「……そうね。なら、これから私のことを呼び捨てで呼んで」

 

「……おろ?」

 

しかし、命じられた言葉は予想外にも簡単すぎるものだった。三人を倒せ、なんてものでもなかった。

 

「不満?」

 

「いや……そうでもないけどさ。俺、アンタの名前知らない」

 

少女は竜胆の一言に失念していたとでも言うような顔をした。そしてすぐに先程の薄ら笑いを浮かべる。

 

「私の名前はバゲット=ツポレフ・リップよ。呼び捨てで呼びなさいと言ったからリップと呼びなさい。こっちが下だから」

 

「分かったよリップ。これでいいか」

 

「充分よ。そのうちお姉様って呼ぶように調き……調教してあげるわ」

 

「やめんかR指定付くしそもそも変わってないからな。それとよりにもよってその顔でんなこと言うな」

 

ヤバいこと言ってきた少女……リップを一言で一蹴する。絶対服従だろうがなんだろうがこればっかりは言っておきたい。ふざけんなと。

 

ただまあ、やはり竜胆のツッコミは要点と自分の言いたいことをしっかり補完しているので素晴らしい。ツッコミの才能がある。いやむしろ阿保姉によって強制的に育て上げられただけなのだが。しかしR指定だのなんだの言ってたらウブな彼は顔を真っ赤にしてしまった。

 

「ふふ。真っ赤にして怒る竜胆も可愛いわ」

 

「からかうな!こちとら本気で言ってんだぞ!」

 

「私も本気よ?」

 

「ほっ、本気だったらなおさら悪いわ!」

 

狼狽。狼狽狼狽。クソ狼狽。普段こういう惜しみない好意を寄せてくれる人物は年少組と姉だけ……

 

「ん?なんで俺小さいヤツらに限って好かれるんだ?」

 

「子供だからじゃないの?竜胆が」

 

頭を傾げながら、見る限り素で答えたのだろう。かなり竜胆の精神が抉れた。

 

「断じて違う!違うったら違う!」

 

ブンブンと頭を振って否定材料なんてないのに否定する竜胆。それにしても、こう素で酷いこと言われたりすると嫌でも耀とリップが同じ顔なのを意識せざるを得ない。

 

耀が竜胆にとっての太陽ならば、この少女リップは竜胆にとって……全く違えど似ている、例えるなら黒耀石とでも言おうか。

 

上手いこと言った。

 

「洒落てないわ。その黒耀石っていうの」

 

「心を読むな」

 

早速冷静にツッコミを行えるようになっている彼の適応力は頭おかしいとしか言えない。適応力が高い人間は有能だが、竜胆は頭おかしいと思うくらい有能だ。ツッコミ的な意味で。

 

だが、そんな中、竜胆はリップへの対処と並行して必死に脱出策を案じていた。

 

(とりあえず動けないことにはどうしようもない……解呪系統のギフトは……タマモが残した"呪術"にはない。

だとしたら頼りになるのは"希望"の能力……全く、"罪"がまさしく"希望"になるってのはなんの皮肉なんだか……)

 

そう決断すると次に自分の知識の中から獣、果実、樹木……あらゆる生物の持つ能力を思い出していく。竜胆の"人類の希望"はただDNAを持った者と同等になるのではなく、"接触"した生き物限定ならばそのギフトを燃費と引き換えに1/100程度まで弱体化した状態で使える。……本人は燃費が悪いし弱体化が酷いしで使いたがらないが、最早そんなもの構っていられない。

 

(地球の本棚……ダメだ。これじゃ直接的な解決にならない。あの博愛主義者の250のギフトは……ナシだ。あのギフト一つ一つは俺もまだ全部見てないから把握できてない。そういう考えで行ったら陰陽師なんて持っての他だ。ないのか……いや、あるじゃないか。なにを忘れていたんだ。ずっと近くで見てきたギフトが……!)

 

「さて……竜胆、次はこのドレスを」

 

「お断りだ!」

 

竜胆は自分の存在そのものたるギフト"人類の希望"を発動させる。瞬間、今まで綿でも詰まっていたかのように動かなかった身体が嘘のように普通に動き出したのだ。

 

「"人類の希望(ア・ヒューマン・オブ・ホーブ)"……"正体不明"!!」

 

そう、それは自らのコミュニティの戦友、逆廻十六夜のギフト。ギフトを無効化し、超常的な力を与えること以外のなにもかもが文字通り"正体不明"。

 

そんな馬鹿げたギフトだからこそ、1/100の力でもギフトの無効化をやり遂げたのだ。

 

「っぐ!?」

 

突然の出来事にリップは対処出来ず、竜胆の蹴りをモロにくらう。その隙に竜胆は更に"太陽神の表情"を発動し、呪術で服をいつもの陣羽織にお色直しをした後、背中を浮遊する炎の輪と翼のエネルギーを右腕に集中。

 

それを一気に解き放ち、地面を殴る。

 

「この瞬間を待っていたんだ!!」

 

その一言と共に"ドールハウス"は一気に音を立てて崩れ、その空間は底のない異空間となる。

 

「くうっ……!?ドールハウスが……!?私のコレクションルームが……!」

 

「これ以上お前の意味わかんねえ遊びに付き合ってられるか!」

 

竜胆は自分の足場が崩れる寸前にエネルギーを翼と足に移動させ、部屋のドアを蹴り破って出る。

 

だが、それで終わりなわけがない。

 

「りんっっ……どおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

リップは竜胆の名を呼びながら先程の恍惚とした表情とは一変した、怒りに染まった表情を浮かべながら竜胆に飛びかかって来た。

 

「余所見運転は注意するけど、横の不注意は注意しないぜ?」

 

竜胆が不謹慎な笑みを浮かべた瞬間、リップは真横から来た物体に吹き飛ばされた。

 

「がっ!?」

 

「ギリギリセーフ……」

 

「流石のスピードだ秀里。ナイスタイミング」

 

そう、真横からリップを吹き飛ばしたのは秀里だった。

 

「流石もなにもねえよ。神速一歩手前まで開放したんだぞ?流石に身体が痛えっての」

 

秀里が疲れましたとアピールしていると、秀里が来た場所から宙を飛んで来る少女とその少女に捕まっている別の少女の姿が映った。

 

「ヒデくん!間に合ったんですか!?」

 

「なんとかな!」

 

「流石じゃ秀里。お主のその速度はやはり頼れるのぅ」

 

セックとエイーダも遅れてやって来る。竜胆は改めて三人の姿を見ると、ふっ、と笑う。

 

「さて……お前ら。多分これがラストバトルだ!"世界の鎖"は今は忘れよう!俺達は……帰るんだ!」

 

秀里が"五行の神刀"を。セックが"六道の能輪"を。エイーダが"八岐の雅槍"を。竜胆が"九頭龍の舞斧"を構え、リップと相対する。

 

「……そう。貴方達は結局、私をここに置いていくのね……いいわ。だったら貴方達みんなの身体を壊して、壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して!!!!四肢をもぎ取って!首を引き千切って!身体を本物の人形に変えて!!ずっとずっとずっと、ずーーーーーーーーーっっっと、私の世界に、私のドールハウスで一緒に暮らして貰うわ!あは、あはは、あははははははははははははははははははははははハハハハハハハハハハハハハハハハHAハハハハはハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハははハハハハハハハハハハハハハはははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハはハハハハハハハハハハハハハ」

 

リップは、狂ったように笑い出す。もしかしたら、彼女自身もまた、この世界の無気力化の影響を受けて精神が破綻してしまったのがしれない。

 

竜胆は、顔が耀だからとかそういうのは関係なく、彼女を見ていられなかった。

 

ほんのわずか。一瞬と呼んでもいい時だったが、彼女と触れ合い、彼女を耀のニセモノではなく、リップとして見るようになるには十分すぎたのだ。

 

「……助けるよ、リップ。お前が何者だろうとそんなお前は見たくないよ」

 

だからこそ、このハッピーエンドシンドロームは動く。目の前の少女を救うために。偽善と嘲笑われようと……






後編に続く。


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EL-Shaddai

二話分投稿したらストックが切れたでゴザル。




「竜胆オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

「助けてやるさ……リップ!」

 

竜胆が悲痛な叫びを挙げるチューリップに向けて"九頭龍の舞斧"をかざし、突進していく。

 

「俺達も……!」

 

「続こうぞ!」

 

「竜胆くんにだけいいカッコさせてられないですしね!」

 

そして竜胆の後ろを秀里とエイーダ、セックも続く。三人共腕に"鎖"を砕くための武器を持ち、またチューリップの元へと向かう。

 

「もうワタシをlonelyにしないでヨ竜胆!ワタシが貴女に全力でLOVEを注いであげるカラ!」

 

「……ごめん、リップ。俺は正直なんでお前にそこまで想われているのかはわかんない。だけど、俺はお前の想いに応えてやることができない」

 

リップが自らの構成物質を光粒子へと変え、一瞬で竜胆の真後ろに動く。

 

しかし竜胆はまるでそれを察知していたかのように地面から氷の柱を出現させてリップの身体を串刺しにする。

 

「イタイ、痛いいたいイタイイタイ……竜胆、ああ竜胆……!」

 

だがリップは竜胆以外の全てが眼中にないとでも言わんばかりに氷の柱の根元をへし折り、柱が突き刺さったまま竜胆に向けて歩を進める。

 

「竜胆……ワタシが守るから……!貴女という存在を、ワタシが……!」

 

リップは身体の構成物質を更に神珍鉄へと変貌させ、身体中から紅の棘を伸ばし、竜胆を手繰り寄せるついでに竜胆の近くを飛び回る三匹の羽虫を消し去ろうとする。

 

「"三重加速"!」

 

「"シャークメイル"!我が身を守ってくれ!」

 

「"カリガ・レプリカ"!」

 

秀里は自らの加速の限界領域を三段階一気に引き上げ、エイーダは身に纏う鮫肌で守り、セックは秀里同様速度を引き上げて攻撃を凌ぐ。

 

「"八咫の鏡"!」

 

そして竜胆はタマモの神格とともに受け継いだ彼女の武装、"八咫の鏡"に呪術を施して防ぐ。

 

「大人しく寝てろ!"朱雀"!」

 

秀里が"五行の神刀"を片手に峰でリップを打ち上げ、更に加速でさらなる飛躍を可能とし、そのまま加速し続けた身体を刀に乗せて斬りおろす。

 

「"麒麟"!」

 

そして秀里の麒麟を行ったことによって発生した一瞬の硬直の隙を埋めるかの如くエイーダが"八岐の雅槍"に自らのギフト、"アクア・サーファー"の力を加え、高圧水流を纏い、更に槍の尻と自身の足から水流によるブースターをかけ、リップの肉体を一閃する。

 

「まだまだ!まだ私達のターンです!」

 

セックはそれに続き、"六道の偃月輪"を二つの曲刀状に変化させ、リップの身体を両側から両断し、"カリガ・レプリカ"の力である程度の制空を可能としている彼女はリップの身体を両足で蹴り、その要領でバク転しながら着地する。

 

そして竜胆は締めとでも言わんばかりに今度は六方向から氷の柱を出現させ、そこから地を這うようにリップの身体を凍らせ、彼女の身体を文字通り上下真っ二つにした。

 

「……やったか?」

 

「いや、そんなわけがない。今のとさっきの戦いを見ればわかる……リップのギフトは恐らく"構成物質の変換"……俺がリップなら、いやそもそも今の彼女にそんな冷静さがあるかはわからないが、普通なら……」

 

攻撃を妨害された時点で守りの体勢はとっている。

 

竜胆が発する前にリップは氷の中からその姿を現わす。ゆっくりと突き刺さったはずの氷の柱をまるで刺さっていなかったかのように歩み寄る。

 

そして彼女の体は───一切傷がついていない。

 

衣服に一切の汚れすらないのだ。

 

「なっ───」

 

「まさか、手応えは確かにあったぞ!?」

 

「……ふ、ふふフフふフフフ……ああ竜胆……こんなに壊して……ワタシのヒトガタ達……イケナイ子。竜胆……貴女のカラダで治していただくわ……?」

 

そしてやはりリップは三人に目を向けることなく竜胆に向かう。

 

だが、情緒不安定で半ば精神が崩壊しているリップの言葉の端々には竜胆達に行ったことの正体を告げる要因があった。

 

「ヒトガタ……まさか、ドールハウスの人形か!?」

 

「まさかとは思うが、よもやその人形の原子配列を組み替えて自らと全く同じ姿をした人形に変えたとでも言うのかぇ!?」

 

「まさか、そんなことをあの一瞬で、しかもドールハウスの外からやっていたなんて不可能です!」

 

「それでも現に起こっている……それに、リップの言うことをそのまま受け止めるなら治さなければならないということ……つまり、ドールハウスの人形には限りがある」

 

これがリップの持つギフトの二つ、"量子変換(クアンティゼィション)"と"影人形の人形部屋(シャドール・ハウス)"。この二つの組み合わせによってリップはドールハウスの人形がある限り武器も身代わりも創ることができる。

 

命なきモノに力を与え、命あるモノの断片を命なきモノとする……正に耀の影と称しても違和感のないギフトだ。

 

「ッ……!リップ……」

 

「竜胆!お前は帰るんだろう!?元の世界に!俺たちのいない一瞬になにを知ったのかは知らないが、自分の信念だけは捻じ曲げるな!」

 

「秀里っ……!くそっ!」

 

竜胆は苦しそうな顔をしながらゆっくりと隙をかくそうともしないリップの身体を"九頭龍の舞斧"で裂く。

 

だが、その攻撃はリップに受け止められ、扇の斧の原子をゴムへと変えられる。

 

「竜胆……竜胆……竜胆リンドウりんどう……!」

 

リップはただ盲目的に竜胆の名前だけを呼び続け、とうとう彼の胸元にまで辿り着く。

 

「くっ───!来い!アームズウェポン!」

 

竜胆の言葉一つで時空の裂け目からメロンの盾、ミカンの刀、バナナの槍など様々な武器が現れ、二人の身体を強引に押し飛ばして二人の身体をまとめて吹っ飛ばす。

 

「ぐっぁあ!?」

 

「りんどう……!」

 

竜胆は更に武器を召喚してそれらをリップに向けて飛ばし続ける。

 

彼女に触れられればなにかよくないことが起こる……そんな考えが竜胆の中にあったのだ。

 

「竜胆……そう、鬼ゴっこがしたいのネ……?」

 

リップは妖艶で歪な微笑みを竜胆に向けると自身の原子を再び光粒子に変換し、竜胆の目の前に迫る。

 

「ッ!?来るな!」

 

竜胆は自分ごと凍らせるカタチでリップと自分の間に氷塊を出現させ、接触を防ぐ。

 

「───アは。"EL-Shaddai doll makeЯ(エル-シャドール・メイカー)"」

 

次の瞬間、竜胆は氷に追い出されるように弾き飛ばされた。それと同時に竜胆が包まっていた氷塊は瞬く間に可愛らしくデフォルメされた人形となった。

 

「───なっ、」

 

そして竜胆は己の直感で危惧していたものの正体を理解した。

 

───これだ。竜胆は自分自身が最も忌んでいる"人類の希望"が、獣の本能が告げた危険。

 

触れた物を全てヒトガタへと"還る"不殺という名の惨殺。

 

その名を"全知全能(神の御神体たる影人形を創りし、超える神)のヒトガタ"。

 

正に、EL-Shaddai doll。

 

「……いらない。こんなゴミ屑、もうワタシ二は必要ないわ」

 

リップは氷のヒトガタの原子を完全にメチャクチャにして消し去ると、再び翳りのある笑みを竜胆に見せる。

 

そして───竜胆も今の光景で全てに合点がついた。

 

なぜ、この虚構の箱庭の植物が全て死んだように竜胆に応えてくれないのか。

 

なぜ……人間が一人もいないのか。

 

そもそも、ここに"世界の鎖"があるのならなぜリップはわざわざこの世界からの脱出手段であるこの場に竜胆を呼び寄せるように龍を操ったのか……そしてその龍はどこに消えたのか。

 

その、全てが。竜胆の頭の中で合致したのだ。

 

「……リップ、お前、まさか……」

 

「どウしたの……?竜胆」

 

竜胆は確かめるように、内心で信じたくないとばかりに口に出す。

 

この世界の……虚構の箱庭の真実を───

 

「お前、この世界の住人を───全て人形にしたのか?」

 

「───ふ、フフフフふフフフふハはハハハハはハハは!!!アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうよ。この世界の生き物、ヒトも、幻獣も、神格を持つヤツらも!

タマモもイザヨイもアスカもクロウサギもジンもペストもシラユキも竜胆の大好きな"ノーネーム"のコドモタチもシロヤシャもスズランもヒデサトもエイーダもセックもアーシャもジャックもルイオスもレティシアも魔王連合もサラもフェイス=レスもコウリュウもガロロも天界の刺客も!!!

この世界で一番愛した竜胆も!!!

全部、全て、なにもかも!ワタシの"EL-Shaddai doll makeЯ"でヒトガタにしたのよ!!!」

 

これが、虚構の箱庭の全ての真実。全て、この世界の全て……彼女を除く全てを、たった一つのギフトで崩壊させられたのだ。

 

そして竜胆は聞き逃さなかった。今リップが言った人物の名は全て竜胆と箱庭で一定以上の関わりがある者達───

 

なのに、一人だけいない。ある意味もなにも、箱庭の中で竜胆が最も深く関わり続けた彼女の名がない。

 

それだけで、竜胆にはリップの本当の名を理解してしまったのだ。

 

「───お前、"耀"……なのか?」

 

竜胆のその問いにリップはただケタケタと不気味で生気のない笑みを浮かべ、白銀の瞳はハイライトを喪う。

 

「そう───ワタシの本当の名前は、"春日部 耀"。ああ……ずっと待っていた。竜胆にワタシの名前を呼んでもらえる日を───」

 

 




わかりにくかったと思うので色々解説ー!

といっても基本リップこと虚構の箱庭の耀ちゃんさんのギフトなんですけど。

EL-Shaddai doll makeЯ
これはリップをイメージする上で耀ちゃんさんの影ということでシャドーという単語を使いたかったんですが、手元にあった某なんたらモンスターズのカードが彼女の嗜好である人形と合体させりゃいいんだ!って教えてくれてこうなりました。因みに読み方は本編で書いてありますが、エル-シャドールメイカーです。
EL-Shaddai……そのELの意味はヘブライ語で神です。つまりリップは人形を創る神様です。そしてshadowとかけてまたヘブライ語で全知全能を意味するEL-Shaddaiというダブルどころではなくややこしいネーミング……こんな説明で大丈夫か?因みに結局shadow使ってねぇなんてツッコミは禁句。

影人形の人形部屋
無論これもシャドーとドールから来てる、リップと竜胆くんが組んず解れつした人形部屋とそれによる身代わりです。うん、説明する必要なかった。ちょ、シエン将軍、いくらレベルや条件に不相応に攻撃力低いからって一族の結束しながらヤリザ殿を身代わりにするのは───

量子変換
これは読んで字のごとく……なわけがない。読んで字のごとくならなぜ原子配列変わったし。これはリップが耀ちゃんさんだったという名残りです。量子変換とありますが、量子変換して光粒子になったりすること自体原子配列の組み替えによる副産物です。まあつまりダブルオーライザーの量子化みたいなもんです。クアンタは意図して量子化詰んでるのでまた別ですが。なんでさっきから問題児もライダーも関係ない話してるんだろ、僕。

ふう……はぁ……えっと、今明かされる衝撃の真実ゥ〜!

リップは耀ちゃんさんのそっくりさんではなく、虚構の箱庭の耀ちゃんさんそのものなのでしたァ!



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孤独の狐一周年記念編! 星空デート



みなさん、本日この瞬間を以ってして、問題児たちと孤独の狐が異世界から来るそうですよ?は一周年を迎えました!

元々ガラスのハートだった僕をここまでもっていってくれたのは、他でもない感想をくれたり、コラボしましょうと持ちかけてくれたりした他作者様と読者様です!

本当にありがとうございます!これからの一年も、問題児たちと孤独の狐をよろしくお願いします!




 

 

「よう、竜胆」

 

「なんだ十六夜……その気持ち悪いくらいな笑みは」

 

アンダーウッドの旅行が終わってすぐの頃だった。店も俺が目を離していてもある程度はマトモに機能するようになったし、そもそもアンダーウッドに来てからやることの連続すぎて精神が酷いことになっていた。

 

なので、部屋でゴロゴロ。うん、ヒマっていいことだ。ゴロゴロ、ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……なんてやっていたら十六夜に部屋から引っ張り出された。

 

「うるせーんだよさっきから。態々俺の部屋に来てヒマヒマヒマヒマいいながらゴロゴロしやがって。その胸揉みしだくぞ」

 

「……変態」

 

そう、自室と言っても十六夜の自室である。まあ、流石に俺も他人の部屋でヒマヒマ言うのは罪悪感があった。

 

……なんか、こう、十六夜にかまってオーラ出してたみたいで。

 

「そんなにかまってほしいなら他あたれ他。俺はお前みたいにヒマじゃねぇーんだ」

 

あ……やっぱりかまってオーラ出してたのか。すまない十六夜。

 

「って言ってもなぁ……飛鳥も黒ウサギもジンもペストもいない、子供達に厄介になるのは気がひける。そーなると北や南に厄介になるのもまた色々となぁ……」

 

「だったら春日部とデートでもしてこい」

 

「ぶっふぉ!?お、おおおおま、なにデートとか言ってんだ!?別に俺と耀はそんな関係じゃないぞ!?」

 

「片方がベタ惚れならそれはもうデートなんだよ。丁度昨日のギフトゲームの景品で色々貰ってきたからそれでも使って遊園地なりなんなり行ってこい」

 

えー……そ、そんなもんなのか……?っていうか箱庭に遊園地なんてあったのか……遊園地そのものをコミュニティの本拠にしてるとするならあり得なくはないな……そういう商業コミュニティなのか?

 

「……で、でも迷惑じゃないのか?もしかしたら耀も飛鳥達みたいに忙しいかもしれないし……」

 

「俺はその迷惑してる忙しい人なんだけどな」

 

ごめん、ほんとゴメン。

 

◆◇◆

 

コンコン

 

「……?どうぞ」

 

「失礼します」

 

何故か面接のような掛け合いから始まる会話。因みにこの時竜胆は果てしなくテンパっている。

 

「どうしたの?竜胆」

 

「ぇぁ、いや、その……ヒマだからどこか行かないか……って。丁度面白そうなものもあるしおすし……」

 

「……お寿司?」

 

「い、いや寿司は関係ないけど……うん、どう?」

 

「行く。お寿司食べたい」

 

耀は涎をダバダバ垂らしながら立ち上がった。とても汚い。

 

「いやだからお寿司関係ない……まあいいか」

 

この間僅か10秒。如何に春日部耀という人物の食欲が凄いのかを改めて思い知らされたのだった。

 

◆◇◆

 

「……箱庭にゲーセンなんてあったのか……」

 

「意外」

 

耀と俺は東側のとある場所にあったゲーセンに、つい出来心で足を踏み入れた。

 

そこはまあ……なんと言うか俺の時代のゲーセンにそっくりだった。ある程度の客がいて、店員……というかコミュニティの一員も楽しげに商売をする。

 

「理想的な職場だなぁオイ」

 

「みんな楽しそうだね……竜胆はどこから攻めるの?」

 

「……そうだな。じゃあストレートに、クレーンゲームから行くか」

 

俺は店員に数枚の銀貨を渡してもらったコインをクレーンゲームの……俺の身長の1/3程度の大きさのぬいぐるみのある台に突っ込む。

 

「結構大きいけど大丈夫なの?」

 

「まあ、な……こういうのはだいたいアームがゆるゆるなのが世の常。何回か連コして手に入れるのが常套手段だがっ……」

 

ここで俺は少しだけインチキ紛いのことをする。あの金遣いの荒いお姉に振り回されてたら多少卑怯なことをしても金の出費は抑えるようになってたから、こういう行動をするのはほとんど癖と言ってもいい。

 

クレーン台を通じて呪術を発動、台からクレーンに通じている特定の線を探し、そこに筋力強化の呪術を施す。

 

するとクレーンのアームはまるでガラスにぶつけたら壊しそうな力でぬいぐるみを引っ張り、見事に落とされる。

 

「……こんなもんかな」

 

「おー」

 

ごめんなさい!そんなすごいもの見るような目で見ないで!ただのイカサマだから!

 

……にしても、ぬいぐるみ……人形か……

 

いや、今はこっちの方が優先だ。今は耀といるんだ。下手なことしたら評価がダダ下がりになってしまう。

 

……えーっと、これは、うん、ひとまず虚勢張っとこう。

 

「……ま、ザッとな。次はどうする?」

 

「じゃあアレ。ガンシューティングゲーム、バイオームハザード」

 

「そのタイトルヤバくないか?」

 

「いいんじゃない?気にしたら負けだよきっと」

 

「……まあこれ以上箱庭の事情に首つっこむ気もないけどさ……」

 

俺と耀はコインを入れ、拳銃を取る。

 

軽いな。なんつー軽さ……これじゃあ逆に狙いがつけにくい。

 

「……軽い」

 

どうやらその事に関しては耀も同様なようだ。やはりこういうのは歴戦の勇士よりもゲーマーの方が得意なのだろう。

 

「えーっと……弾数は12発……多いな、ペダル踏んでる間だけ射撃可能、ペダルを離すとリロード……」

 

こういうわりかし説明がイージーだとな、なんか難易度が相対的に高そうな気もするんだが……

 

「こんなに軽いとゾンビ撲殺できない」

 

「……はい?」

 

え、ちょ、今この子なんて言った?拳銃でゾンビ撲殺する気だったの?

 

そして俺は流されるままに耀の銃さばきに圧倒され、結局なにをすることもなく耀一人で全てクリアしてしまったのだ……

 

「っつぁー……やっぱりデジタルゲームは目に悪いなぁ……常に動く敵だとかなんだとか」

 

「竜胆はこういうの嫌いなの?」

 

「いや……嫌いってわけじゃないんだけど、母さんが医者だったからさ、そういうのに無意識に意識しちゃうんだよ」

 

「そっか……ねえ竜胆」

 

「なんだ?」

 

耀は手近な場所にあったエアホッケー台にコインを入れ、出てきた円盤を手で掴む。

 

「勝負しない?」

 

「……勝負?」

 

「そ、罰ゲーム込みの勝負。どう?」

……勝負、か……正直賭け事はそんなに好きじゃないんだよなぁ……ギフトゲームのおかげでそこまで気にしないけど。

 

うっし、罰ゲームってのも面白そうだし……それに、うまくいけばもしかしたら好感度も上がるかもだし……

 

「受けてたってやる。後になって後悔するなよ?」

 

「決まりだね。それじゃあ───」

 

勝てると思ってた俺がバカだった。

 

ご存知の通り俺は"人類の希望"があるせいで野生の力が解放されている。そんな状況で力加減なんてできないのだ。

 

加えて、俺はお姉や十六夜みたいに後先考えずにポンポン暴れ回るような人間じゃない。

 

ならば?決まっている。力の抜き方が超極端になって負けてしまったのだ。

 

「……負けた」

 

「勝ち。ブイ」

 

くそおおお……負けたぁ……

 

「それじゃあ罰ゲームしっこー」

 

「……で、肝心要の罰ゲームってなんなんだ?俺、この後の展開が割と容易に想像つくんだが……」

 

どうせ女装しろだと思う。俺に課してくる罰ゲームなんてお約束的に考えてこれしかない!

 

やだぁぁぁ!!女の格好とかもうやだぁぁぁ!!!

 

「衣装change」

 

「やだぁぁぁ……女装だけは……女装だけはぁ……ん?衣装チェンジ?え?ゑ?誰と誰が?」

 

「私と竜胆」

 

……ゑ?

 

◆◇◆

 

「っ………!!」

 

「似合ってる」

 

やだぁ!助けてえ!天国の母さん父さん兄さん姉さん弟妹そして死んだけど身近にいるお姉!俺絶対越えちゃいけない一線越えかけて……あれ?こういう展開前にもあった気が……

 

……おい待て。冷静になってみたら俺、耀の服着るの二回目じゃん。

 

なんで!?どういうエロゲ展開!?

 

いや待て落ち着け俺、俺は断じてエロゲ主人公でなければ、ただの主人公ですらない!多分エロゲ主人公という意味では耀の方がお似合いだ!なにせコイツ俺のアタックことごとく回避してるし!

 

好きって言おうとしたら腹が鳴るわ、空よりお前の方が綺麗な気がするとかそれっぽいこと言っても「竜胆の方が綺麗」なんて嬉しくもない返しをされるし!

 

なんなんだコイツ……なんなんだ俺……!

 

「なんなんだはないと思う」

 

「ファッ!?」

 

え!?今コイツ俺の心読んだ!?え、ちょ、ファミチキくださいって思ったら反応するかな!?

 

「なんなんだだけ口に出てたよ。なに考えてたのかは知らないけど」

 

……ホッ、よかった。肝心要の部分は聞かれてなかった。

 

……あれ?でもこれって、あのまま告白したかったの聞かれた方が好都合だったのか?……ちくしょー!

 

「……で、このカッコ、いつまでやりゃいいんだ?流石にこのカッコのまま本拠まで帰るのはマズイだろ……」

 

「そうだね……うーん、それじゃ、本拠に帰る頃になるまで」

 

……神様ぁ、俺なんでこんな変なことするヤツに惚れたの?

 

……あ、俺今神様か。神様成分1パーセント以下だけど。

 

「それじゃれっつごー。次の場所は……遊園地にでもしよう」

 

しかも俺から誘って十六夜に渡されたものとはいえ俺が用意したものなのに耀が仕切ってるし……なんなの……あの人……

 

そうしてやって来た遊園地。改めて言うけど、なんで箱庭に遊園地なんて場違いにも程がある。

 

「それじゃ早速おばけ屋敷から」

 

「嫌だ!おばけ屋敷は嫌だ!」

 

いきなりのんてことをのたまうのだこの女!?遊園地でおばけ屋敷だと!?冗談じゃない!

 

遊園地って言ったらもっとキラキラしてるのが定番だろうが!メリーゴーランドとか!なんでわざわざおばけ屋敷なんてドMが行きたがる場所を初手に選択する!?

 

「……竜胆、おばけ屋敷苦手なの?」

 

「……悪いかよ」

 

苦手なものは苦手なんだ。ジャックやお姉みたいに実体があって触れるならともかく、幽霊っていうのは基本触ることができない!そういう姿が見えるのに触れないっていうのは動物本能が恐れるんだよ!

 

「……そう、じゃあ行こう、おばけ屋敷」

 

言ってるそばからおばけ屋敷行こうなんて言いやがったぁー!ちょ、ホントやめて!マジで、いや、怖い!

 

「れっつごー」

 

「嫌だぁぁぁぁ!!助けてぇええ!!」

 

嫌だよおおおお!!!呪われて死んじゃうよおおお!!助けてよぉ!

 

「うばぁー。うらめしy」

 

「嫌だァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!助けてお姉ちゃぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああん!!!」

 

ああ……もうオワタ……昔お姉に連れ回されたせいで無意識にお姉の助けを求めている……お姉なんて「魔法なんざ科学の発展の末の産物なんだから、ゆーれーなんていねーですよ」なんてわけのわからないこと言うし……お姉の魔法こそまさにオカルトの発展なのに……

 

(……可愛いなぁ、もう。きっと前の世界でもこうやって鈴蘭に泣きついてたんだろうなぁ……)

 

「もぉやだぁ……家帰る……家帰っていつものように白夜叉ぶん殴る……」

 

「竜胆、この手の番外編はオチとしてよく白夜叉を殴ってるけど、これは白夜叉になんの関係もないからやめとこうね」

 

……はい。存じております。でも白夜叉殴りたい。殴らないと気が済まない。

 

「……しょうがないなぁ。ほら、そこの昇降口から途中退場できるよ。私も一緒に出てくから」

 

「ぅう……ありがと……」

 

「どういたしまして」

 

……完全に子供あやしてるお姉さん気分だろお前。口調がいつも以上に柔らかいぞ。

 

でもそれに甘えてしまう俺は……ちくせう……

 

そうして次に俺が連れてこられた場所は……はい終わったー。ジェットクォーストゥァー。

 

「さあ、あれ乗ろう」

 

はっはっは。もういいよ。好きにしろよさっさとしろよ!おら早くしろってもーいーよ早く乗ろうぜあっはっはっはっは……

 

◆◇◆

 

「イヤージェットコースタータノシカッタネー」

 

「目が笑ってないよ竜胆」

 

もう気にしないでよ……ほっといてよ……あの後も絶叫アトラクションばっかり乗せられるもん……こんなんなら耀と俺の共通点っぽく動物園にでも行けばよかった……

 

「……さて、アトラクションもほとんど回ったし、最後はベターに観覧車でも乗ろっか?」

 

「……そうだな。もうそれしかないな。俺の精神これ以上磨耗させないで。観覧車も閉鎖空間で少し嫌だけど」

 

「竜胆、遊園地ととことん相性悪いね」

 

ソダネ……なんて呟きながら俺は耀と共に観覧車のなかに乗っていく。

 

「ごゆっくり、空の旅を」

 

従業員、アンタロマンチストだな。そういうのは……こういうアブノーマルなデートしてる俺らよりもっとマトモなカップルに言ってやってくれ……!

 

「楽しい一日だったね」

 

「そうだなぁ……すっげぇ疲れたけど、うん、楽しかったことには変わりないな……」

 

俺は背もたれに完全に身を任せて天井を見上げる。

 

……あー、すっげ疲れた。ヤバイ。ヤバイヤバイヤバイ。

 

「……ありがとな。俺の暇つぶしに手伝ってくれて」

 

「ううん。私も楽しかったからいいよ……それに」

 

……それに?

 

「楽しいデートだったよ」

 

……HA?で、デート……?デート?Date?

 

……い、いやいやいや!そう言えば確かに!二人きりだったけど!十六夜も片方惚れてればそれはもうデートって言ってたけど!

 

「い、いやいやちょっと待って!MA☆TTE!デデデデート!?今日俺達デートしてたの!?デートして生きてたの!?」

 

「落ち着いて竜胆、軽いジョークだから」

 

「い、いいいいや待て!そもそもデートの基準ってなんなんだ!?なにがどうなればデートなんだ!?」

 

「おち、ついて!」

 

ボグァン!なんて音が俺の頭から鳴る。すっげぇ痛え。それどころじゃないから大して気になんねえけど。

 

「ほら、景色でも見て落ち着いてよ竜胆」

 

そして俺は耀に抱えられて外の光景を見せられる。そこに広がっていたのは───

 

「……すげぇ……」

 

なんというか、いつも飛んでいる空なのに、実感が湧かなかったのだろうか。こうして静かに見ると、空は紅く燦々と輝いていて、すごく綺麗だ。

 

「……なんで、今までこんな綺麗な景色に気づかなかったんだろう……」

 

「その答え、教えてあげようか?」

 

「……え?」

 

耀はそのまま俺の手を取り、俺を壁のところまで追い詰めて彼女も壁に手を付ける。……多分壁ドンとかいうヤツの一種だ。

 

「……それはね。普段は竜胆の方が綺麗だからだよ……今日は私に泣きついてばかりだったから夕日の方が綺麗に見えたんだよ」

 

「……え?……え?」

 

え、ちょ、なに言ってんのこの人!?近い!近い近い!顔近い!

 

どうしたのコイツ!?いつもに増してジゴロなんだけど!?

 

「……そ、それって……どういうこと……?」

 

「わかってるくせに……」

 

……考えたくない!嘘だと言ってくれ!俺このまま男として屈辱もいいところになるのは嘘だと言ってくれぇ!

 

「……ね?り・ん・ど・う……?」

 

「……や、待って、待って……そ、そういうの、心の準備が……」

 

おかしい!こんな時になぜかギフトが使えない!こんなの、こんなの、こんなグッドエンディングは嫌だ!

 

しかし、そんな俺の懇願は余所に耀の顔はどんどんと俺の顔に近づいていく。

 

そ、そんな、マジで待って……!それ以上はホントに……!

 

「竜胆……I love you……」

 

英語で言ってもそれはちょっとホント、マジで……!や、いやぁぁぁ!!!

 

◆◇◆

 

「……ハッ」

 

「起きたか竜胆。お前、人の部屋に来てヒマヒマ言って言いまくった挙句に寝るとか何事だよ」

 

「……え?」

 

……あ、そういえば、十六夜の部屋でゴロゴロしてたんだっけ。

 

……まさか、夢にまで出て夢にまで攻めの立場に立たれるとか、俺どういう被虐体質してるんだよ……

 

「……目は覚めたか?相当ヒマしてるみてぇだから、これで春日部でも誘って来い」

 

「はぁぁ!?ななななんでそこで耀……っん?」

 

……おい、これって、夢と同じ流れだよな……?

 

……そういやその前もその前もさらにその前もおんなじような夢見てる!

 

……お、俺はあと何周あの恥ずかしい思いすればいいんだぁ!?

 

……END。スタートに戻る。

 

 






無限ループって怖くね?おかしいな、最初はただのデート回だったのに……

とまあ、その辺はおいといて、これからも孤独の狐、よろしくお願いします!

竜胆くんの戦いはこれからだ!



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阿修羅、目覚める

結構色々考えたらオクレータ。サーセンフヒヒ。




 

「やっぱり……耀、だったんだな……他人の空似でもこの世界が作った幻でもなく……この世界に呼ばれていた、耀」

 

「その通りよ。……それにしても、鈍ちんの貴方がよくわかったわね?私のこと」

 

「……生憎、記憶力と耀のことでのクイズなら負ける気がしないからな……だけど、それも仇になったのかな……」

 

竜胆は自分を落ち着けるために軽くジョークを口にしながら"九頭龍の舞斧"をリップに……否、耀に向ける。

 

竜胆の腕は確かに震えていて、自分自身でも抑えがきかないほどのものとなっていた。

 

(くそっ、……まだギフトが"罪"だった頃なら異世界の耀なんて簡単に殺せたはずなのにっ……!なんで、なんで躊躇うんだよ……!?)

 

ジョークも自分自身に言い聞かせることができず、震える右手を左手で抑えようとして、その左手ごと震え出す。

 

『いくら残酷に振る舞おうとしても、貴方はこの人の中で一番躊躇っている』

 

……そんな言葉を竜胆は不意に思い出す。かつてこの虚構の箱庭とも違う、いわば本当の歴史を歩んだ春日部耀に言われた。

 

あの時はまだ素直になれなかった自分はその事実を必死に拒み続けていた。

 

……だが、時が経って改めて同じような局面の前に立つと、その言葉は真実味を帯びて竜胆の目の前に直面する。

 

「くそっ……くそっ……!」

 

「なに腑抜けた声出してんだ竜胆ォ!」

 

竜胆が集中力を乱して焦燥しているうちに耀は着実に竜胆の元へと近づき、その右腕を振り下ろさんとしていた。

 

だが、その瞬間に秀里は竜胆が実体化させたアームズウェポンを耀に向かって投げつける。耀はアームズウェポンを全てヒトガタへと変えたが、その隙に秀里は耀の腹部に回し蹴りを決め込むと、竜胆のを脇に挟んで距離を離す。

 

「バカか竜胆!?お前あとちょっとで人形に変えられるとこだったんだぞ!?そんな時になんでなにもしねぇ!?」

 

「っ……!くそっったれ!」

 

秀里の一喝でなんとか正気に戻った竜胆はメダガブリューを地面に叩きつけ、それを耀に目掛けて蹴り飛ばす。

 

だがそれも"EL-Shaddai doll makeЯ"でヒトガタへと変えられて無力化される。

 

言い難いジレンマに竜胆はリップのことを考えることをやめ、彼女のギフトの考察に入る。

 

彼女を倒すためには"人形部屋"の人形を全て壊す必要がある。だというのに"EL-Shaddai dollmake Я"が近づくことを許さず、遠距離からの攻撃をまた新たな人形へと変えてしまう。

 

どうしようもない悪循環に陥っている。やはり、彼女に効果的なのは始めに行った波状攻撃だろう。"EL-Shaddai doll makeЯ"は彼女の行動の様子からして、腕に調節触れないと発動しない。

 

だとすれば、速度の秀でた秀里と竜胆の二人が撹乱して両手を防ぐのが効果的なはず───

 

「……危険な賭けだが、これしか方法がないのも事実、か」

 

竜胆は歯がゆそうにしながら横にいる秀里、後ろにいるエイーダとセックに問い掛ける。

 

「耀の……リップのギフトは両手でしか発動できないはずだ。俺と秀里でリップを陽動するから、二人はそのうちに……」

 

「……ああ。少しは切り替えたみたいだな」

 

「うむ。現状はそれしかあるまい」

 

「でも、秀里くんも竜胆くんも、くれぐれも無茶はしないように」

 

「……ああ。無理無茶は慣れている。多少は大丈夫さ」

 

「そういう問題じゃねえだろ……!」

 

軽口を叩き合い、改めて四人は耀と……リップと対峙する。

 

(だけど気掛かりなのは……リップが俺達が虚構の箱庭で誰かから……いや、リップが全ての人間を人形に変えたって言った時点で誰が持ってきたのかはなんとなく察しがつくが……色々と腑に落ちないことがあるのもまた確かだ。

……でも、余計な邪推をして士気を下げるわけにもいかない、か)

 

「行くぞ秀里!捕まるなよ!」

 

「言ってろ竜胆!速度なら俺の方が上だ!」

 

竜胆は神格を解放、秀里はギアを三段階まで引き上げ、二人は挟撃するカタチでリップに強襲する。

 

もちろんこのカタチでの攻撃でリップが狙ってくる方は……竜胆。

 

「ずぇあっ!」

 

「あぁああ」

 

竜胆の"九頭龍の舞斧"による一撃をリップは髪の根元の原子をオルトロスの触手に、先の原子をオリハルコンへと変えて受け止める。だがその間に秀里はリップの右腕に"五行の神刀"を振り下ろす。

 

「くたばれ!」

 

「っジャマ……!」

 

秀里の一振りをリップは躱す。その弾みで竜胆を抑えていた髪が解け、再び竜胆が動き出す。

 

「スイッチ!……なんてな」

 

「一言余計だ秀里。だが、いいアシストをしてくれる!」

 

竜胆は今度はリップの足を払い、体勢を崩したところでアームズウェポンの山を召喚し、リップを滅多刺しにする。

 

「まだこれで終わりだと思うなよ……!呪法・鎖錠緊魂魄!」

 

そして竜胆は手元に取り出した呪札から鎖を四本呼び出し、リップの両手足を抑える。

 

「やれ!二人とも!」

 

「委細承知じゃ!」

 

「行きます!」

 

続けてエイーダが"八岐の雅槍"に水の力を乗せ、投擲の構えを取る。

 

「くらうがよい!」

 

エイーダはそのまま槍を投げつけ、無防備なリップの土手っ腹に風穴を開ける。だが、その風穴も"影人形の人形部屋"の力で即座に消える。

 

「ですがっ……まだ!終わりません!」

 

エイーダに続くようにセックは"六道の偃月輪"を二つに分割し、片方に炎を纏いながら投げつける。

 

それがリップに当たると同時にセックは駆け出して偃月輪を引き抜き、二つの刃で踊りでも踊るかのようにリップを斬りつけ、締めに二つの偃月輪に高熱を纏わせブッピガンとでも言うかのように振り下ろした。

 

「せやぁああああ!!」

 

セックの一振りがリップの身体を斬り裂いた瞬間、秀里も動き出す。自身の刀と"五行の神刀"の二振りを同時に振り下ろし、遠心力によってリップを"叩き潰す"。

 

「くらっとけ……白虎!」

 

そして締めとでも言わんばかりに竜胆は右手に高熱源体を召還し、リップの顔面を悲痛そうな顔で掴み、熱源体にエネルギーを加えていく。

 

「っ……はぁああああああああああ……!!ヒィィイイイイト!エンドッ!!」

 

そしてリップを掴んでいた右手の熱源体は大爆発を起こし、リップが"影人形の人形部屋"の加護がなければ死んでしまいかねない状況を作り出した。

 

「……リップ、」

 

竜胆は右腕に残った彼女の感覚を思い出す。……やっぱり、まごうこともなく、リップは春日部耀なのだとはっきりと理解させられた。

 

竜胆がリップを掴んでいた時、彼女のゴシックな服の内側に木彫りのペンダントを見つけた。

 

そのペンダントには微かだが、ギフトが働いている感覚があったし、耀は自身のギフト"生命の目録"がなければ歩くこともままならないのだ。

 

そして、彼女は耀とはっきり理解してしまったことが……竜胆に大きくのしかかる。

 

「っ……くそっ、耀……なんて後味の悪い世界だ……」

 

竜胆は自分の右手についた感触をさっさと忘れようと腕を振り、地面を殴る。しかし、その痛みを持ってしてもこべりついた感触は離れない。

 

「……ちっ」

 

現実を認め、受け入れたのか、やがて竜胆はその行為をやめて爆煙の先へと警戒を移す。

 

まだ、リップを倒したとは限らないのだ……だから、こうしていたこと事態が悪手でもあった。

 

そして爆煙が晴れたその一瞬、その隙にリップは今までの狂気じみた鈍足から一転、竜胆ですら反応できないほどの速度をもって接近してきた。

 

「なっ───」

 

「……♪"EL-Shaddai doll───」

 

リップの右腕が竜胆の身体に突き刺さる───その、今際。

 

竜胆の身体がバランスを崩し、尻餅をつくカタチでリップの右腕を回避した。

 

だが、リップの右腕はなにも掴まなかったわけではない。その腕にはしっかりと、竜胆を突き飛ばした人物───セック・ズルグが捕まっていた。

 

「───!?セッ───」

 

「ぐっ……ぁあ!」

 

竜胆が確認するように、かつ受け入れられないように彼女の名を呼ぶ。セックの悶え声に掴んだモノが竜胆ではないと悟ったリップは途端に嫌悪感を露わにし、最後の言葉を吐き捨てた。

 

「makeЯ"」

 

その言葉を紡いだ瞬間、セックの身体は量子に包まれ、手足が見えなくなる。恐らく、人間という情報を原子ごと書き換えるのにはそれなりの時間を要するのだろう。

 

「っ……竜胆、くん……!これを……!」

 

セックが苦し紛れに投げた、手が手とも言えないモノから放られた物を竜胆は掴む。

 

其れは───この世界で手にしたセックのギフト。"六道の能輪"。

 

「勝って……!勝って、貴方の未来と希望を───」

 

その一言と共に、セックは小さな人形へと変貌した。その人形は可愛げのあるものでありながら一種の狂気が醸し出され、改めて竜胆達にリップの引き起こしたことの末路の悲惨さを認知させるには、充分すぎるものだった。

 

「……嘘、だろ……!?」

 

竜胆を手早く回収した秀里もうわ言のように呟いた。エイーダも言葉にすることのできない戦慄に口を噤み竜胆に至っては瞳孔を開いて閉じない。

 

しかし、そんな彼らを余所に、リップは人形へと変えたセックを乱暴に掴むと、竜胆の手元に放り投げた。

 

「ほうら竜胆……?それ、貴女のお友達なんでしょう……?返してあげるわ」

 

「……………………」

 

竜胆は言葉を紡ぐこともできず、膝下に投げつけられたセックだった人形に目を向ける。

 

「……いい顔になったね竜胆。じゃあ……面倒だけど、竜胆は最後にしてあげよう」

 

リップはわざとらしく"耀"の口調に戻してそう呟く。その言葉を聞いた瞬間、竜胆は彼女が言った言葉を理解できずに彼女の初動に対応することができなかった。

 

「っぁ!」

 

そして竜胆が反応したのは神珍鉄へと変えたリップの脚と剣と刀を交差させてそれを防いだ秀里の、両者がぶつかり合う音を聞いた時だった。

 

「ッ!?秀里!?」

 

「でぁゃあ!」

 

「フフ、フフフ……」

 

秀里の剣とリップの身体が幾度となくぶつかり合い、幾重にも火花を散らす。

 

秀里が左に突きを出せばリップはそれを無視して左手で秀里の身体を掴みかかり、それを"五行の神刀"でいなす。

 

そしてそのせめぎ合いの中、秀里はとある確信をした。

 

(間違いねぇ……氷や炎みてぇな非生物ですら人形にできるくせにさっきの竜胆の"舞斧"を防いだ時もセックを人形にした時も"能輪"ごと人形にする選択肢もあったはず……だが、コイツはそれをしていない……!

だとすれば、『"世界の鎖"を砕く手掛かりに四つの神器』っていうのも……コイツと戦うことが必然とわかっていて、なおかつ四つの武器は"EL-Shaddai doll makeЯ"の影響を受けないんだ!なら俺がやるべきことの最低限のことは───)

 

そう思った瞬間、右手の剣が弾かれる。最早左手の"神刀"でガードをする時間すらなくリップの手が迫る。

 

ここまでか、そう思った瞬間だった。

 

「そう簡単に、諦めるでないぞ若僧!」

 

秀里とリップの間に入り込むように激しい水流が現れたのだ。水流に阻まれたリップの腕は一瞬で水流を人形へと変えるが、秀里の速度を以ってすれば距離を離すには充分すぎる隙を与えた。

 

「っつぁ……助かったぜ、エイーダ」

 

「いつまでもボサッとしている時間もなかろう。儂らには元の世界に帰らねばならぬ理由もある」

 

 

秀里が目を向けた先にいたエイーダは"八岐の雅槍"を構えており、そこから自分のギフトで作った水流を撃ち出したのであろう。

 

秀里は加速を加え続け、リップに剣を弾かれた影響でほとんど動かなくなった右手を抱え、ニタリと笑う。

 

(っても、首の皮一枚繋がったってトコか……最悪、竜胆かエイーダのどっちかに刀を渡して俺の方は終了か……?)

 

秀里は一瞬浮かんだネガティヴな考えにすぐさま否定し、自分に喝を入れ直すために使い物にならなくなった右腕を地面に思い切り叩きつける。

 

「っつぅ……!?でも、コイツで目ぇ覚めた……!」

 

秀里は涙目になりながら腕を振り、"神刀"で身体を支えて立ち上がる。

 

「……オイ竜胆。テメェメンタルぶれぶれすぎだろ。凹むのはいいが、立て直せ……でないと、死ぬぞ」

 

「……悪ぃ。でも……理解と覚悟は違うもんだな……ゴメンけど、もうちょっと時間かかるかもしれない」

 

竜胆は自嘲ともとれるようなカラ笑をすると、その目線を"舞斧"とセックに渡された"能輪"……そして、彼女自身に落とす。

 

「っ……まぁいい。アイツにゃこの世界で受けた刺激が俺達以上なんだ……コミュニティの仲間が敵って時点でデカいだろうにな……」

 

「だが、いつまでもそのような泣き言を許すつもりも毛頭なかろう。竜胆が立ち上がるまで、儂ら二人で彼奴を倒そうぞ……セックの分も、な」

 

秀里が左手を、エイーダが右手を前に、それぞれの神器を構える。リップが竜胆を狙わないと公言した以上は竜胆を護りながら戦う必要性はなくなったが、逆に言うなら竜胆以外に狙いを絞ったということ……ある意味では戦いにくくなってしまったのだ。

 

「……!"三重加速"!」

 

「"アクアサーファー"!」

 

二人は己のギフトの力を限界近くまで引き出し、リップと音速の域に達しかねない速度を叩き出しながら果たし合う。

 

(奥義は無闇に使えば隙を晒すだけだ……小技だけで倒すのが理想だけど……!)

 

秀里の威力を抑えた突きを躱され

、完全に動かない右腕目掛けてリップは左手を突き出す。

 

秀里はそれを"神刀"を横薙ぎに振るって発生した遠心力で強引に回避する。

 

(そうも言ってられない……!確実に当てて逃げれるタイミング……僅かな、コンマ一秒未満だろうが見つけ出す!)

 

秀里は自身の感覚を極限にまで引き延ばし、リップと自身とエイーダ、三人の一挙手一投足の全てを完璧に把握することが可能なほどの動体視力を一時的に保有する。

 

これぞ、秀里のありえないまでの"加速"の副産物……その速度について行くために自然と己の身体が生物の限界を超え始めているのだ。

 

だが当然、"三重加速"を行うだけで肉体を傷つけている以上、そんな荒技をしてしまえば秀里の身体は無事では済まない。その証拠に彼の眼球は彼自身の行いが原因でどんどんと傷つき、着実に視覚がきえていく。

 

だが、それでも秀里は執念で傷ついた眼球を機能させる。焦点もバラバラ、高低の見分けもつかない。この場の広さも不明瞭……しかし、その瞳は真っ直ぐにリップを見据えていた。

 

一方のエイーダも秀里とリップに速度で劣る分、"雅槍"の特徴たるリーチの長さを利用してリップの攻撃をトリッキーに防ぐ。時に水を盾にして防ぐが、その行為は秀里の動きを阻害しかねないので本当に限界の時にだけ。

 

さらにリップもメチャクチャに見えてかなり考え込まれた動きで二人を追い詰める。秀里とエイーダの牽制に身体を得物と合わせて動くことによってダメージを最低限にまで減らし、攻撃で吹き飛ばされたリターンの足技もきっちりと行う。

 

無論、それらは距離をある程度離したエイーダと動体視力で動きを読んでいる秀里には通しない。

 

このままでは確実に消耗戦になるだけ……そしてそれは"影人形の人形部屋"を持つリップが圧倒的に有利だったが、チマチマと戦っている現状にリップは飽き飽きしていた。

 

「もっと動きなさいよ!前菜が長いとメインディッシュがつまらなくなるでしょう!?」

 

だんだんとリップの動きが苛立ちに任せた単調なものとなって行く。それはまさに秀里が望んでいた状況なのだが───リップはここに来て秀里の見当違いな行動に出た。

 

「───!もうつまらない!貴方達はヒトガタにもしない!する価値もない!」

 

そう言うとリップはあろうことか、未だに立ち直ることのできない竜胆に向かって駆け出した。

 

「なっ───」

 

「不覚───!」

 

一瞬その行動に呆気をとられたが、二人の行動は早かった。

 

「"四重加速"───いや、"神速"だ!」

 

「頼むぞ"八岐の雅槍"!全力を以って竜胆の下へと馳せ参じるのじゃ!」

 

二人はその言葉を紡いだ瞬間、人間の加速限界───殺人的と形容すべき領域までの速度を叩き出し、竜胆に迫る二本の腕を弾いた。

 

「ッ!!どこまでも私のジャマを……!」

 

だが、秀里もエイーダも、それに全ての力を注ぎ込んだせいか、最早動くこともかなわない。

 

そしてそれを見たリップは猟奇的な笑みと共に両手にその恩恵の力を宿す。

 

「狙い通り動いてくれたね。さようなら……ゲームオーバーだよ、ヒデサト、エイーダ。

"EL-Shaddai doll makeЯ"」

 

そしてその腕は無情にも二人の肉体を貫き、秀里とエイーダの身体は量子ごとカタチを変えていく。

 

「……秀里?エイーダ……?」

 

そして事にようやく気づいた竜胆はゆっくりと二人の名を呼ぶ。

 

「……ちっ、こんなヘナチョコのために命張ったのかよ俺ら。マジ最悪な気分だ」

 

「これで立ち上がれなければ同感じゃな……だが、最早後は託して祈る他あるまいて」

 

エイーダがそう言うと、秀里の持っていた"神刀"とエイーダの"雅槍"が彼女の水を伝って竜胆の手元に来る。

 

それを恐る恐る受け取った竜胆を見ると、二人は満足したような表情を作った。

 

「後は……お主の問題じゃ。帰るのじゃろう?元の世界に……お主が知るあの者の下へと」

 

「だったら……今は後ろは振り向くな。終わったらいくらでも振り返ればいい。俺にこの世界で戦う理由を渡したのはお前だ。

ならば今、ここで!お前の決意を見せてみろ!高町竜胆!」

 

「ッ……!」

 

竜胆は秀里とエイーダの二人の言葉に、否、秀里とエイーダ、そしてセックの三人の言葉に竜胆は起き上がった。

 

四つの"神器"を呪術で浮かび上がらせ、再び神格を呼び起こし、現れた九尾の姿を変える。

 

中央の一尾を残し、四尾は金色の腕に、二尾は灼熱の翼と共に寄り添うような翼に、そして残りの二尾はその姿を鬼たる酒呑童子と大天狗たる崇徳上皇……そして彼が従えていた玉藻の前の魂を刻みつける。

 

両手と変幻した尾……合計六本の腕はそれぞれ"九頭龍の舞斧"とメダガブリュー、二本の剣状に分割した"六道の能輪"、そして"五行の神刀"と"八岐の雅槍"を掴んだ。

 

そして竜胆はその姿になると同時に、全ての躊躇いを捨て去ったかのように、かつての彼そのものたる冷酷な瞳をリップに向ける。

 

「リップ……俺はお前に手加減することは、もうできないぞ……」

 

そう、この時……日本三大悪妖怪の力を権限させた阿修羅はその地に現れたのだ。

 

 




あー……えっと、その……なんと今週からテストがあってですね……ええ、その。とりあえず、来週の日曜日までは何一つ更新できそうにないです。孤独の狐もオーズの方も!

みなさんサーセン!


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"A his hopes"


……サーセン!エクスカリバー抜いた100万のアーサーの一人になってたら遅れました!

だって……だって!盗賊ちゃんが可愛いんだもの!あんなんプレイするしかねぇだろ!

ってかそもそもテスト勉強とテストとテストの成績悪かったから暫く勉強してたんだよ!……泣きたい。こんな多忙な冬休み前、泣きたい。




 

「あははハはははハハハハハははははははハ!!楽しィ!楽しい楽しい!楽C!竜胆の心臓の鼓動、トクン、トクンてぇ聴こえてくる!ああ幸せ!」

 

「ちっとも楽しくなんか……ない!」

 

刃物から鋼、鋼からスライム、スライムから龍の鱗……数えだしたらキリがないくらいに目まぐるしく変わり続けるリップの身体。竜胆はそれを六つの腕で完璧に対処し、彼も天狗と鬼と化した尾を更に変化させ、竜胆とリップの戦いは完全な泥試合と化していた。

 

しかも、リップの方はほとんど半狂乱でいるのだからその痛々しさが竜胆の心を突き刺して離さない。

 

だが、竜胆はそんなリップを見ても戦う決心を揺らがせない。

 

こんな自分のために、三人は自分の存在を投げ捨ててまでしたのだ。そんな彼らの姿を見て奮い起たない方こそどうかしている。

 

「さあ竜胆!死のダンスを踊りなさい!」

 

「悪いが、デュエットダンスは苦手でな。リードされるのはもっと嫌なんだよ!」

 

リップと竜胆は互いにジョークともとれる言い合いをしながら武器を、身体をぶつけ合う。

 

リップは右腕の肘関節を"量子化"によって分断、形質変換すると共に常に最高威力を叩き出すだけの素材を集める。

 

一方の竜胆も秀里の戦い方からかわせない攻撃は絶対に守っていかなくてはならないこともしっかりと把握し、六本腕というアドバンテージを有効に活かしている。

 

竜胆は二本の能輪を乱舞させ、振り向きざまに雅槍を放り投げた。

 

「突いて薙ぐ武器がジャベリンじゃないと思うなぁ!呪法・天凱水月!」

 

雅槍は竜胆の呪術によって激流を帯び、それによって発生した水圧がすさまじい速度を引き出す。

 

リップはそれに対し自らの身体を光子に変えて避ける。

 

「ちぃ!チートかよそれ!インチキギフトもいい加減にしろよ!」

 

「アはハはははは!!竜胆ォ!竜胆竜胆竜胆竜胆!!モチロン!ワタシは貴女をAIしてるなう!だからぁ、愛ならこんなことできても仕方ないんだよぉッ!」

 

最早メチャクチャ。一言一言の言葉の速度が次の言葉を紡ぐことすらもどかしいとまでに加速していくリップは竜胆の後頭部を掴みかかり、神刀に阻まれてまた光子変換をしてワープする。

 

「くっそ……無茶苦茶な動きしやがって!イフリート!技借りるぞ!」

 

竜胆は左手のメダガブリューをタジャスピナーに交換し、炎を纏って地面に叩きつける。すると炎が竜胆が殴った地点を中心に半円状に広がっていく。

 

「炎なんかじぇ、ヤめられない止まらない!」

 

リップはその炎すらも"EL Shaddai doll maker"で人形へと変えてしまう。だが、竜胆はその炎をリップの足を止めさせる一手として使ったのだ。炎の翼に割く呪力を最大まで割き、その速度は音速を越え、第三宇宙速度を越え、亜光速にすら達する。

 

そしてその圧倒的な炎のブースターの余波は彼自身の身体にまで及び、竜胆の身体を真紅に染めていく。

 

「ッァァァァァァァアアアアアアアアアア!!!」

 

竜胆の、否。秀里の神刀が通り抜けざまに強烈な一太刀をリップに浴びせ、慣性的にありえないUターンをした竜胆はすぐさま投げつけた雅槍を拾い切り抜ける。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

更にUターンし、能輪が交差してリップの身体を捕らえる。

 

「ぐっ……!"量子変換"……ッ!?」

 

リップはたまらず"量子変換"で抜け出そうとするが、ギフトカードを足ではたき落とされ、それの発動を不可能とする。

 

「せやぁああああ!!」

 

竜胆はそのまま交差した二本の剣を振り抜き、その衝撃で空中に投げ出されたリップを、まるで空中を踏みしめて、身体のバネを使って回転しながら跳ぶように強襲する。

 

「はぁ!!」

 

右手の舞斧が回転と竜胆の体重を加えて斧でリップを叩き割る。リップはその一撃によって亜光速で箱庭の中枢の床にめり込んだ。

 

だが竜胆は止まらない。戦うことを覚悟した彼は、獣の闘争本能を極限まで絞り出し、理性を抑え付け、"敵を再起不能以上になるまで徹底的に攻撃し続ける"。

 

六本の腕を同時にリップに向けて突き刺そうとし、間一髪のところで躱される。

 

そしてその刺突が生んだ隙はかなり大きく、リップは強く笑った。

 

「竜胆!ワタシと一緒に新しい世界へ行こう!」

 

「お断りだ!お前は俺が好きになった耀じゃないんだよ!お前にとってだって、目の前にいる俺はお前が好きになった俺じゃないだろう!?

もし、俺が竜胆だからなんて理由でそんな迷惑以外のなにものでもない偏愛を向けてくるのなら……お前は決して、この世界の俺に恋をしていたんじゃない!恋に恋をしていただけの、ただのメルヘンが過ぎた女だ!」

 

「そんなことどうだっていいじゃない!大した問題じゃない!ワタシは竜胆といたい!それだけでワタシが貴女に愛を注ぐには充分すぎる!」

 

「ふざけろ!迷惑だメンヘラ!」

 

竜胆は最早リップが耀であることを忘れたように毒を吐きまくる。かつて自分が孤独を演じていた頃にこういう言葉を心の奥底にダメージとして響かせることはよくやっていた彼にとって口喧嘩はお手の物だ。

 

「……ふ、ふ。いいわ。別に。どの貴女になんて言われようと……貴女達はただ、ワタシに愛されているだけでいいのだから。愛に応える必要なんてない。だって貴女達はワタシの愛を満足させるための人形なんだもの!」

 

「……それがお前の本音か!リップ!」

 

リップの言葉から彼女の愛を察した竜胆は心底彼女を軽蔑した。ただ一緒にいたいから動けない人形にするわけでもない。彼女はただ、自分が自己満足のために"竜胆に"愛を注いでいたいからと。そんな理由で竜胆を……秀里とエイーダとセックを。この世界の全てを人形に変えたのだ。

 

「お前はもう耀でもなんでもない!自己満足のために全てを意のままにしようとする自己中心的で後先を見ない快楽主義のバカだ!」

 

少なくとも、竜胆の知っている耀は自己チューでも快楽主義でもバカでもない。誰かのために、誰かと一緒に肩を並べていたいから努力して、楽しいことに目がなくてもそれがこんなことに発展することもなく、自分ができることを見据えるような人間だ。

 

竜胆にとってリップはもう、なにもかもが耀と真逆の生き物なのだという認識を与えられていた。

 

いくら似ていても、いくら同一人物でも。ここまで違えば人の汚い部分の結晶である竜胆は彼女という存在を否定するには充分すぎたのだ。

 

「お前は、ここで殺す!」

 

恐らく、殺す、死ね、と連呼してきた竜胆が本気で人を殺す気になったのは今回が初めてだろう。それはいくら彼がドライにぶっていた時でも本質はなにも変わっていなかったからである。ペストの時も"罪"の"暴走"がなければ殺されていたし、それが起こってしまった結果ペストを殺してしまっただけで彼自身に殺意はなかった。それくらいに彼には今まで人殺しへの躊躇いがあったのだ。

 

だが、彼はもう完全にタガを外した。帰ると約束したからではない。耀のところに帰りたいからでもない。ギフトゲームに勝ちたいからですらない。ただ純粋に、リップを殺したい。

 

それだけだった。

 

◆◇◆

 

戦いは竜胆の殺意から一変、泥沼化の一縷を辿った。

 

竜胆はリップの攻撃を腕以外の全てを無視して斧を、刀を、槍を、二本の剣を振るい、自らの身体を犠牲にしてリップの身体をゴリゴリ削る。

 

リップも竜胆の攻撃の激化に合わせたかのように速く異次元的な攻撃を繰り出す。

 

「殺ッす……!お前を、殺す……!」

 

「デュエットが激化してきた……ああ、これが貴女の情熱……!ワタシを殺したいという情熱!」

 

会話は最早必要ない。交わす価値すらない。

 

あるのはただ、目の前にいる存在を殺し/愛し尽くすという生物の本能のみ。

 

拳が空を切り、六つの腕が世界を割く。その空間には、否。その世界には殺しあい、愛し合う二人しかいない。

 

二人はこの世界のアダムとイヴ。……だが、二人は互いに命を実らせることなんてしない。

 

互いに、この世界から最後の命を消し去ろうとしているのだ。

 

殺し愛、冷静さを欠いていたからなのかもしれない。リップがそれに気付けなかったのは。

 

怒りと悲しみ、相反する二つの感情が早く終わらせたいと願ったからかもしれない。竜胆がそれに気付けたのは。

 

『───────』

 

「───えっ」

 

その瞬間、竜胆はリップの腕に捕まった。リップはすかさずギフトネームを紡ぎ、勝利を、そして幸福と絶頂を確信した。

 

「───"EL Shaddai doll───」

 

「"人類の希望(ア・ヒューマン・オブ・ホープ)"……形式、"正体不明(コード・アンノウン)"!」

 

しかし、竜胆は自分の残された力ほとんど全てを削って"劣化・正体不明(アンバランス・コード・アンノウン)"を発動して一瞬リップのギフトの発動を遅延、その隙に竜胆は全力で抗って腕から脱する。

 

「はぁッ……はッ……!今のは……?」

 

竜胆は霞んできた視界の中、リップに気をつけながら必死で聞こえてきた声の元を探す。そしてそれはすぐに見つかった。

 

『───────』

 

「……いいのか?」

 

その声の主は竜胆になにかを提案したようで、それに対して竜胆は問うと、声の主は承諾したようで竜胆は改めてリップと対面する。

 

声が聞こえるまで無闇に力を無駄遣いしていたせいで炎のブースターもその炎が尽きようとしている。当然、それに注ぎ込んだ呪力も底をついている。

 

ならば───これしか手はない。

 

「ッ!」

 

竜胆はブースターの加速がこれ以上不可能になるまで加速した。その加速はほんの数秒だったが、それはしっかりと竜胆の役割を果たした。

 

「ふふっ……ようやく、ようやっと終わりが来るのね……さあ竜胆、ワタシの腕のナカに……!」

 

リップが腕を広げ、交差する一瞬で捉える体勢に入る。目に見えて減速している竜胆に対してそんな余裕を見せているのにはもう竜胆は万策尽きたという確信と竜胆が自分のものになるということに対する陶酔があるが故だろう。

 

だからこそリップは、次の竜胆の行動を理解できなかった。

 

タジャスピナーを投げ捨てた竜胆の左手に握られていたものがその姿を見せる。そしてそれを見てリップは固まった。

 

「っ!?それ……なんで……!?」

 

「これでぇ……っ、おわり、だぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

竜胆がリップに向けて見せたのは───彼女自身が人形に変えた、この世界の竜胆の人形だった。

 

恐らく、竜胆が"人形部屋"から脱出した勢いで一つだけ出てしまったのだろう。

 

そして竜胆にとってこれが最高の希望となり得たのは、これが他でもない竜胆の人形だったということ。一度竜胆達の目の前で造った人形を破り捨てた彼女だ。これが竜胆のものでなければこのような狼狽をするはずがない。

 

一閃、リップの身体は竜胆によって、五つの傷口を造られて地に伏したのだった。

 

 





ふぅん。竜胆くんの心理描写って疲れる……わりと心移りしやすいからどうビッチに見せずに書くか……



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最終譚 世界を止めた少女

一応これで虚構の箱庭編は終了です。

こんな寄り道以外のなにものでもなかった編ですが、見てくれれば幸いです。




「っは……ぜ、……ふ、ぅ」

 

五つの軌跡がリップの身体に刻まれ、最早動くことも叶わないほどの傷跡をつけられた。

 

それと同時に竜胆が使っていた"太陽神の表情"と呪術による尻尾変幻も解かれ、能輪、雅槍、神刀が四つの金属音を奏でて地面に落下する。

 

「勝……っ、た!」

 

舞斧を持つ右手を支えながらリップを見下ろす。リップは虚ろな目をしながらも必死に身体を動かそうとしている。

 

「まだ……!まだよ……ワタシは、まだ……!終われな……ワ、ワタ、わた、わたし、私は……!」

 

「……!」

 

そして竜胆はリップの言葉の違和感を感じる。なんというか、語感が違う……

 

「ワタシ、は……終われ……い、いや……!私は、私……!」

 

元々発言が支離滅裂だったリップのその言動は更によくわからないものだった。竜胆も流石にこれには首を傾げ、もう彼女が動くことも叶わないということは理解しているため、時間のある限りリップを眺めていた。

 

「違う……!あなた、は!私なんかじゃ、ない……!いや、ワタシがワタシ……!耀はワタシ……!違う、あなたは、耀じゃない!」

 

最早意味がわからなかった。彼女の口ぶりはまるで耀が二人いるような───

 

「───ふた、り?」

 

この感覚はかつての自分も覚えがある。彼に関しては全く抵抗することもできなかったが、"罪"に完全侵食された時も竜胆は勝手に動く自分の身体に抗っていた。

 

正直あの時は視覚が消えた時には既に自分に未来はないと悟っていたが、まさかと竜胆はその可能性に当たる。

 

「まさか……耀もなにかに"侵食"されてるのか?」

 

人は世界が違えば徹底的に変わる。だから竜胆もこの瞬間まで耀が支配されているという可能性に当たらなかった。

 

だが、この口ぶりはそうとも捉えれる……否、そうであって欲しいという希望的観測が竜胆にはあった。

 

「リップ……おい、リップ!お前はなにかに支配されているのか!?教えてくれ!リップ!」

 

「りん、……どぅ!これ、は……ワタシが耀……!うる、さい!私に憑いた魔王の仕業……!そうじゃない!そうじゃなく、ない。世界を、取り憑いた人間の想いを手前勝手に捻じ曲げて、うるさい……!うるさいのは、そっち……!世界をやりたいように、変える魔王……!」

 

耀が竜胆に向かって右手を出し、それをリップが左腕で抑えようとする。

 

だが、リップが竜胆によってほぼ殺された状態となったせいか、今や耀の方が肉体の主導権を握る状態となっている今の状態ではリップの腕を払いのけるなど容易なことだった。

 

「りん、どう……!手を、とって……!時間がない、リップのギフトを使って、竜胆に理由と解決策、教えるか……やめろ!竜胆!早く!」

 

「っ、わかった!」

 

竜胆は咄嗟に耀の手を掴む。もしかしたらこれ自体リップの罠かもしれないとは竜胆も思っていた。

 

だけど、彼女の言葉は信じられた。全てを否定したリップとは違う、暖かな包容力が竜胆には感じられたのだ。

 

「っ……"量子変換"。私の記憶を水に変えて……竜胆。こっち来て」

 

「あ、ああ……っ!?」

 

耀に促されるままに耀の下に身体を近づける竜胆。すると突然、耀は竜胆の唇を奪った。

 

「んにゃっ!?にゃ、にゃにしふぇ……ん、ふぁ……」

 

「んっ……ちゅ……」

 

ただ唇を奪われただけならそれでもいい。だがこれはこう、所謂愛を貪り食うディープなヤツだった。無論、というか当たり前のように舌が竜胆の口内に入り込んでいる。

 

「ふぇ、ょ、ふぁっ……」

 

「じゅぶ……ぷはっ」

 

暫くこの状態が続いたが、唇は離れ、竜胆は真っ赤な顔になる。

 

「んなっ、なななななななななななななななななななななななななななななななななななな」

 

「竜胆っ……初心い。可愛い」

 

もしかして、この世界の耀は本質的にはリップと一切変わりないのではないだろうか。そう竜胆が思った瞬間だ。

 

竜胆の記憶の中に見覚えのない景色が広がった。

 

◆◇◆

 

───これは?

 

竜胆の記憶に植えつけられた記憶。それはこうなった原因、対抗策、全てが綴られていた。

 

「竜胆」

 

「うっ……耀」

 

その記憶の中にいた耀は、竜胆の知っている彼女よりも少しだけ背が大きかった。逆に、竜胆は更に小さく、なんか年上受けがよさそうだった。

 

「竜胆~!」

 

「いーやーだー!離してー!」

 

その記憶の二人はおよそ彼には予想だにしなかった。耀が積極的に竜胆に抱きついて頬ずり。竜胆は全力でもがく。

 

これがこの世界の二人の違いなのだろう。抱いている恋愛感情が逆になって、耀が竜胆を好み、竜胆は耀を心強い知り合い程度に……過度なスキンシップに辟易しているのだろう。

 

だが、彼らが歩んできた刻は竜胆が歩んだ歴史と大差はなかった。

 

自分でも恥ずかしくなるような箱庭初期、タマモを従えて、"罪"に悩まされ、ペストとの戦いで"侵食"が進み、"アンダーウッド"で"罪"が完全侵食。十六夜に救われると同時にタマモが消失。そして"龍角を持つ鷲獅子"連合の代表を決めるギフトゲームを行い、そこからバカをやって本拠に戻り……

 

そこからだ。耀に魔王が取り憑いたのは。

 

耀は竜胆に想いを伝えられないことへの焦りからつい魔王に漏らした願い、"竜胆の全てを受け入れたい"というものを媒体として世界の全てを人形へと変えた。

 

そうして自分の恋は最早何にも受け入れられないと悟り……バゲット=ツポレフ・リップ。Tu-リップ……チューリップとなった。

 

そうしてリップの欲望の赴くままに、様々な世界の竜胆を基点として新たな世界も人形に変えるべく竜胆達を呼んだ。

 

これが、この世界の……世界を止めた少女の真実。

 

そしてその記憶は竜胆に向かって叫ぶのだ。

 

元の世界に帰りたければ……人形となった全てを救いたければリップと融合した耀を、二人を繋ぐ"人形部屋"となった彼女を壊せと。

 

◆◇◆

 

「………」

 

「竜胆……!わかった、でしょ。だから早く!やめて……!傷が癒えたらもう私はまたリップに侵食される……!リップは一度取り憑いた相手とは絶対に離れることができない!だから早く!リップを、人形部屋を、私を殺して!」

 

「っ……で、できるわけ、ないだろ!そんなことしたら、お前が死ぬんだぞ!?」

 

「もう、私は死んでるようなものだから……!そうよ竜胆、ワタシは耀……!それに、もう私は数え切れない程の"罪"を魔王として犯した。そもそも、私を殺さないと竜胆は元の世界に帰れないんだよ!?」

 

「討てない!討てるわけない!」

 

「竜胆ッ!!」

 

「嫌だ!!殺したくない!死にたくない!ぼくは、ぼくはぁ……!」

 

「───!分からず屋!"量子変換"!!」

 

耀は右腕の量子に変えて竜胆の腕を強引に動かした。

 

「なっ───まっ、待ってくれ!待って!やめ───」

 

「さよなら、竜胆───やめろ!ワタシはまだ!まだやりたいことが!自分勝手だけど、最後に貴方に会えてよかった───」

 

「いや、やだ……やめて、やめてよ、やめてくれ!

 

"耀"───────!!」

 

無情にも耀によって操られた腕は、九頭龍の舞斧は振るわれる。

 

耀は最後に笑っていた。なにに笑っていたのかは定かではない。だが、その顔は間違いなく、これから死にゆく者が見せるような顔ではなかった。

 

「嬉しいな───私を、その名前で呼んでくれるんだ」

 

───私はチューリップ……報われることのない、悲恋の花言葉───

 

◆◇◆

 

「───あ、れ?」

 

「───う、りんどう。竜胆!」

 

「……耀」

 

気づけば竜胆は"アンダーウッド"の模擬店売り場の近くにいた。

 

「今までどこにいたの?探したんだよ」

 

「え、そう、なの?あのさ……俺、どのくらい探されてた?」

 

「え?ほんの五分くらいだよ。ちょっと探したけど、すぐにここでボーッとしてたから。

ほら、行こう。私と食べ歩き、するんでしょ?」

 

竜胆の手を握る耀。その手はなぜか、酷く懐かしく、悲しさを感じた。

 

「り、竜胆……?なんで泣いてるの?」

 

「……え?」

 

竜胆は無意識のうちに泣いていた。どうして泣いているのか、なんで耀の手の暖かさが懐かしく思うのか。それは竜胆にはわからない。

 

「なんで……だろう」

 

「……変なの。やっぱり竜胆って時々よくわからないことするよね。それも……"人類の希望"の副作用?」

 

「そんなはず……ない」

 

「あー!竜胆くん!」

 

「ぬ、竜胆ではあるまいか」

 

そんな時、突然最近聞いた覚えのある二人の声が聞こえた。

 

セックとエイーダは見知らぬ女性を引き歩いていて、竜胆の首を傾げさせた。

 

「セック……エイーダ」

 

「ええ!?なんで竜胆くん私達見ただけで泣いてるんですか!?」

 

「ほんに子供じゃのお主……ほれ、面識のない朱里が困っとるじゃろ」

 

「……朱里?」

 

「うむ。本来なら儂に変わって白夜叉に呼ばれていた者じゃ。本来は秀里という男なのじゃがな……湯やら水やらを被ると性別が変わる故、今回のギフトゲームは遠慮しておったのだよ」

 

「うへー。話に聞いたとおり、本当に女の子みたいだね竜胆くん」

 

「お主には言われたくなかろう朱里」

 

「……秀里」

 

秀里。その名前に聞き覚えがないのに、何故か知っている。

 

なにか大事なことをそいつに言われたような……そんな気が。

 

「……どうする?竜胆。それじゃ二人で食べ歩きできないね」

 

「え……あ、ああ!こーなったら俺の男らしいことろ見せてやる!金なら幾らでも払う!今日は四人とも俺の奢りで好き勝手しろってんだ!」

 

「竜胆くん太っ腹です!(あと男っぽく振る舞うところが可愛い!抱きしめたい!)」

 

「"ノーネーム"の割には偉く太っ腹ではないか。うむ。今日くらいは儂も乗っからせてもらおう」

 

「竜胆くんカッコいいー!私惚れちゃいそうだよ!」

 

「竜胆……遠慮なく食べるけど、いいの?」

 

そうして竜胆は今更自分の発言を後悔した。ヤバい。絶対コイツら俺の奢りをいいことに好き放題やらかして屋台が壊れたとしても修理費俺にツケる気だ。

 

「……は、ははははははは!!お、男に二言はない!やってやろうじゃないか!」

 

そうして竜胆の財布が空以下になって、暫く料理店が私情で赤字になったのは秘密だ。

 

竜胆の記憶からはリップという記憶は消えた。

 

だが、なければ失った分を育めばいい。竜胆はそうして、失った家族だって育んだのだから。

 

───ありがとう、竜胆

 

その言葉は喧騒の中に消え、竜胆の記憶の奥底に、思い出せないくらい小さく封じられた。

 

 




記憶なくなったら話の意味なくね?とか思うでしょうが、少なくとも彼ら四人には無意識下にこの虚構の箱庭での出来事を覚えています。

まー、ゲームの結末を見ればわかるでしょうが、世界の鎖とは世界の全てを支配していた人形部屋のことを指していたんですね。

ですからぶっちゃけると、竜胆くんはこれから更に耀ちゃんさんに対して無意識に殺してしまったことへの罪悪感を感じてしまうので、ストーリー的には結構大きく絡んでいます。

あ、あとなんでリップ隷属しないの?とかに関してはリップは肉体の主導権を得た耀ちゃんの"量子変換"によって自分の魂もろともリップの魂をタマモの末路と同じく存在をなくして初めから存在しなかったことにしたのです。元々なかった存在はいくら魔王のルールでも再生して隷属はできなかったということです。



次章予告

「殿下。そう呼ばれている」

「じゃあ私も貴方もリンですね!」

「サンドラ……その人達は?」

「あ!怖い女のお兄さん!」

「サンドラ……頼むからその呼び方はやめてくれないか?」

「私怖い!この檻が、私をまた殺すんじゃないのかって!」

「キミは、死なない」

次章 原初龍と輪廻龍



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原初龍と輪廻龍
一話 音色《ついおく》


孤独の狐今年最後の更新です!

いや、なんかすんません!年末もいいとこなのにゲームハマって……はい、サーセン。

それでは虚構の箱庭編を挟んだ第六章、スタート!




……いつぐらい、だったろうか。

 

そう、確か……七年前。俺が初めて稲穂に触れたのは。

 

あの時はなんというか、すごく感動した。俺の身体の都合上、俺はありとあらゆるものの生命というものに気付けば関心を寄せていたのだ。

 

これはこうだからこうだ、とか。絶対に他の人には解り得ない自分だけの世界に没頭するのが大好きだったのだ。

 

「リ~ン~!なにやってるの?おねーちゃんも混ざっていいかな?いいよね?ダメって言っても行くからね!答えは聞いてないからね~!」

 

……ああ、お姉は昔っからこんなのだったな。

 

そう言えば、母さんが昔仕事で外国に医学の勉強に一ヶ月くらい旅立った時だ。俺は母さんに無理を言って同行させてもらった。

 

多分、本意ではなかったんだろう。なにせ母さんの人生は俺がキマイラになった時からなにもかもが変わったから、きっと勉強っていうのも嘘で本当は外国に行ってまで俺の身体を弄り回したヤツらに復讐しに行ってたんだろう。息子にそんな姿見せたくなかったんだ。

 

だって母さんは笑顔になれないのにいつだって家族の前では笑顔だなんて呼べるはずのない、メチャクチャな笑顔を無理に作っていたから。

 

そんな母さんの顔を見る度に俺は申し訳なくなって、俺がいていいのかだなんてガキの頃からずっと思ってた。あの時はいらない正義感なんてよく捻り出してたものだ。

 

……そんな時だ。母さんが丸一日だけ帰れなくなった日があった。別に俺は当時から自炊はできたし、そもそも外国に来てからというもの、自炊どころか包丁すら握ったことのない母さんに代わって料理を作ってたからそこは問題なかった。

 

でも、流石に俺は外国で丸一日親のいない環境下で暮らすということには耐え難かった。思わず泣いてしまった。でも……

 

『……貴方、男でしょう?なんで男のくせに泣いてるの』

 

そう、声が聞こえた。当時は涙で視界がぼやけて誰が俺に喋りかけたのかもわからなかった。いや、今もわからない。いくら記憶力があっても見えなかった景色を覚えれるはずがないのだ。

 

俺がただただ泣きじゃくってると、その声の主は弱ったような顔をして───

 

『参ったわね……あ、そうだ』

 

そういうとその子は俺の目の前に一つのオルゴールを置いて、その曲を鳴らした。

 

その曲の音色ははっきりと覚えている。優しくて、包みこまれるようで。思わず泣くのをやめたぐらいだ。

 

『この前拾ったのだけど、ちゃんと使えるようね。……そうだ、それは貴方にあげる。今度会った時にでも返してくれればいいわ』

 

そう言うとその子の声は『じゃあね、バイバイ』という一言を最後に聞こえなくなった。

 

その後も暫くオルゴールは鳴り続けて……やがて、止まった。

 

止まったオルゴールがすごく寂しくて、また泣きそうになったからオルゴールを鳴らそうとした……でも、そのオルゴールは決して音を奏でる事はなかった。

 

まぁ、当たり前か。巻きネジがなかったんだから。今思えばあの子はすごく慌てん坊だったんだろう。落ち着けるためにあげたオルゴールの巻きネジを忘れるなんて。

 

それ以降、俺はそのオルゴールを後生大事に持っていたが……それも、家族が死んだ時に一緒に燃え尽きてしまった。

 

……そうだ。今度時間があったらオルゴールでも作ろう。作り方は知ってそうな黒ウサギか十六夜にでも教えてもらえばいいし、あの曲の音は今でも憶えてる。

 

あゝ、今日もいゝおつきさまだ。

 

◆◇◆

 

「……農園に来たらこれか」

 

「ご、ごめんなさい竜胆様。ペストさんも白雪姫様も『米だ、パンだ』と言い争いになってしまって……」

 

「で、その結果最終的に罵倒のし合いになったと」

 

「キャベツの千切りもできないくせによく言うわねムダおっぱい!」

 

「なんじゃとぉ!?二時間もあれば千切りくらいこなせるわ!ナイムネ!」

 

「ずっとあんな感じで……」

 

「……リリ。今日は中華料理だ。暫く中華で行く。これ以上女同士の惨めな貶し合いは見てられない」

 

「……ですね」

 

そして竜胆は年長組を一箇所に集め、ペストと白雪姫をガン無視して麦と米の収穫に勤しんだ。

 

暫くして後ろからレティシアの説教が二人に対して降り注いだが、そんなの御構い無しに竜胆達は農作業を続けていった。

 

◆◇◆

 

「は?オルゴールの作り方を教えてほしい?」

 

「な、なにを急に『二人に頼み事がある』なんて真剣な顔でおっしゃるかと思えば……」

 

「真剣なんだよ黒ウサギ。オルゴール作りたいんだ」

 

「と、言われましても……私達月の兎が箱庭に招かれたのは時期的にオルゴールが社会に普及するより遥か昔。私も詳しいわけでは……」

 

「同じくだ。お前、いくら俺が多芸でスゴいからって買いかぶりすぎじゃねぇか?いくらなんでもオルゴール製作なんてマニアックなことしたことねぇよ」

 

「……そうか。残念だ」

 

十六夜と黒ウサギの返答は半ば予想してはいたが、やはり無理の一言を伸ばしたものだった。

 

竜胆はため息をつくが、すぐにいつもの表情に戻ってその場から去ろうとする。

 

否、去ろうとしないと十六夜になにを言われるかわからないから去りたいのだ。

 

「……竜胆、お前オルゴールなんか作ってどうするつもりだったんだ?」

ほら来たー、と竜胆はため息をつきながら十六夜の方に振り返る。そして二、三秒ほどタメ、ゆっくりと言い放つ。

 

「……キ、キブンダ」

 

「なんつーわかりやすい嘘」

 

「片言でまるわかりでございますね」

 

そもそも隠し事を隠し通す意地に定評があっても嘘が苦手な以上これはもう逃げられないだろう。竜胆は観念してポツリと呟いた。

 

「……昔、女の子……?に貰ったオルゴールのことを思い出した。そしたら作りたくなったんだよ」

 

「女の子……?って、お前それなんで疑問形なんだよ」

 

「顔もわからないんだ。あの時は顔を見ることもなかったからな。喋り方に抑揚があったから女の子だと思っただけだ」

 

竜胆は呪術で自分が次元の歪みの中に保管してある場所から紙と鉛筆を引っ張り出し、ガリガリと絵を描き始め、終わった。

 

「速えな。さすが」

 

「そんなのはどうだっていいだろ。重要なことじゃない。オルゴールはこんな感じだった」

 

「巻きネジがねえぞ?巻きネジのカタチは?」

 

「その子、俺に巻きネジ渡すの忘れてたからカタチも知らない」

 

「なんと慌てん坊な……」

 

「だな。今思えばホントにそう思う。でも……いや、だからこそ作りたいんだよ。

顔も知らないあの子のオルゴールをさ」

 

竜胆が頬を掻きながらオルゴールの絵を眺める。その顔はどこか嬉しそうであり、多分並の男が見たら欲望に任せて襲いかかりそうなくらい可愛かった。

 

だがしかし、十六夜は揺れる小舟の中黒ウサギともつれ合って彼女の胸部を押し付けられても『役得だな』程度にしか思わない猛者。今回も『可愛いな。写真でも撮ればまた弄り甲斐のありそうな顔をしてる』くらいの反応だった。

 

反対に黒ウサギが萌えすぎて悶えていたが。

 

「ってかよ。オルゴールならこう、当時流行ってたと思うお嬢様とか未来の技術でうんたらと春日部とかに頼めばよくないか?なんでわざわざ俺達に頼みに来たんだよ」

 

「……十六夜なら、なんでも知ってそうだったから」

 

「人をネコ型ロボットみたいに言うな。俺にだってできないことはあるんだよ」

 

「あのー、じゃあ黒ウサギは?」

 

「なんとなく、黒ウサギなら知ってるかなーって。ウサギは騒音が苦手らしいからオルゴールは好きなんじゃないかと」

 

「そ、それは確かに私は騒音が苦手ですし、オルゴールも好きかと問われれば好きデスけど……そんなに積極的に聴くほどじゃありません」

 

はぁ、と無意識にため息をつく竜胆。普段から誰かに心配されたがらない彼らしくないそれは一層二人を申し訳なく、同時に不安にもさせた。

 

豆腐メンタルの彼に支障がなければいいんだけど、的な意味で。

 

◆◇◆

 

所変わって、耀の部屋。

 

春日部耀は"アンダーウッド"から帰って来てすぐの頃から感じている違和感に頭を傾げ、その原因について考えていた。

 

なんというか、身体が妙に熱い。熱とかそういう病の類ではないのはいつにも増して健康な身体が証明しているのだが、それがかえって不安だった。

 

そしてそれは今朝、意外なカタチで判明した。

 

「っ……!?」

 

突然、彼女の右腕が燃え盛り出したのだ。だが、熱を感じなければなにかが燃えたような跡もない。

 

「なん、なの……これ……!?」

 

『……ぬぅ。地に降り立つこと自体は幾度と屈辱と共に味わっていたが、人間の娘を依り代として降り立つのは初めてか』

 

「……え?え!?」

 

普段からマイペースで慌て顔をあまり見せたがらない彼女が思わず素で驚いてしまった。

 

『……おい娘。娘よ』

 

「……え?え?」

 

『聞いているのか娘!』

 

「……どうしよう。これじゃご飯食べる前に炭になっちゃう」

 

だが彼女がこの事態で一番気にしているのはそれだった。流石の食い意地。今日は和か洋かと待ちわびて思考を巡らせているが、今日はペストと白雪姫のせいで中華料理になっている。

 

『おい小娘!?どうして我よりも飯に頭が傾く!?』

 

「そうだった。貴方は誰なの?どこにいるの?」

 

あ、と耀は自体を再確認し、半ばどうでもよさそうに問いた。

 

だがその者は聞いてきたことにかなりテンションが上がった。

 

『えっ、いきなりか……まあよかろう。我は"ククルカン"、気軽に呼ぶといい、ヨウ』

 

ククルカンと名乗ったその存在はクククと笑いながら耀にそう言うが、本来ならここで提示される問題『なんで私の名前を』には彼女は一切触れなかった。

 

ククルカンはその質問が来なかったことに凹んでいたのだが。

 

「それよりククルカンはどこにいるの?あとなんで私に話しかけてるの?」

 

『しっ、質問には答えるが、(なれ)はなぜ汝自身の名を知っているとか、そういう前提条件を疑問に思わないのか?』

 

「知らない人に突然名前を呼ばれるの初めてだから気づかなかった」

 

そこでようやく耀はそのことに気づいた。これにはククルカンも唖然としている。

 

『……ま、まぁよかろう。語ろうか。なぜわれ我が汝の名を知っているかと問われると』

 

「いいから早く質問に答えて。その過程でその理由も必要なら語って」

 

『……酷い……』

 

完全に凹んでしまったククルカン。しかし耀はガン無視。

 

「早く」

 

『……あーわかったとも。言えばいいのだろう言うとも』

 

それでもなお急かされるのでククルカンは半ばヤケになって耀に語り出す。

 

『我はこれまで幾度となく現世に現界した。此度は偶然汝の身体を依り代としただけでな。で、我が汝の身を依り代としてこの世界に現界した理由はただ一つ。あんの憎きヤツをブチのめし再び太陽の主権を取り戻す!これしかあるまいに!』

 

「……太陽の主権。それって白夜叉のこと?」

 

『白夜叉?ヤツはそのような名ではない。あぁぁあああんにゃろうの名前を、ふざけた格好を思い出す度に殴りたくなる……一時とはいえアレに協力した自分もぶん殴りたくなるわ……!』

 

「……はぁ」

 

なにはともあれ、一応このことは伝えない方がいいだろう。太陽の主権の件について白夜叉が関わらない以上、耀はククルカンをどうするつもりもないし、ククルカンは耀に取り憑いているだけでヤツというのに会わなければなにをすることもなさそうだし。そもそも"ノーネーム"にはお節介焼きで心配性なくせにお節介を焼きたくなって心配になる少年がいるのだから、余計な心配を少年にかけたくない。

 

「……うん、このことは黙っておこう。竜胆やみんなに余計な心配かけたくないし」

 

そうして耀はククルカンに頼んで腕の炎を消してもらって食堂へと足を運んだ。

 

彼女のギフトカードには一つ、"金星の創世神"(ヴィーナス・ラ・クリヱィター)というギフトが記されており、それはこれから始まる戦争の火蓋となることもしらずに。

 

 




というわけで今年最後の孤独の狐でした!

耀ちゃんさんに取り憑いたククルカン……多分わかる人ならすぐにわかります。ギフトネームとかすげぇドストレートですしね!

つまり、ククルカンの正体わかればあんにゃろぅの正体もわかる!一石二鳥!

……ぁ、でもわかっても感想のとこで答えるのは……こう、ナ、ナンダッテー的なのを、ね?



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二話 出会《あんうん》



今年の初投稿!みなさん今年も孤独の狐をよろしくお願いします!




 

 

時は暫く経過し、北側へ。ジンの"ノーネーム"は"階層支配者"の招集会の動向という"ノーネーム"では考えもつかない大抜擢を受けてやって来ている。それもホスト側からの直々の指名だ。

 

ジンとペストはその招集会に参加すべく北側の都"煌熖の都"に集い、そこでサンドラとジャックの歓迎を受けていた。サンドラとペストはいつ爆発してもおかしくないくらい淀んだ空気だったが。

 

そんな素晴らしいを通り越して奇跡とでも言うべきそんな時、問題児達は───

 

「おお!思った以上に絶景じゃねえか!」

 

「ええ。炎と硝子の街だけあって、まるで地上の宝石箱だわ」

 

「うん。"アンダーウッド"とは対照的な景観」

 

北側の都、"煌熖の都"の発展の象徴たるペンダントランプの上で、どう見ても不法占拠しながら若干一名を欠けてお弁当を広げていた。

 

思わずジンはずっこけた。

 

「な、なな、なんで十六夜さん達があんな所に!?」

 

ジンとペストに先駆けて北側に来ていた彼らであったが、流石にこんな大事なことがある中で問題行動を起こすことはなかろうと思っていた。思いたかった。

 

だが、現実はそうも上手くいかない。よりにもよって"サラマンドラ"の秩序と権威の象徴たるペンダントランプの上であんなことをしてしまっては信頼問題に発展し、招集会から叩き出されても文句の言いようもない。

 

「と、とにかくペスト!あの三人をバレないうちに無理やりにでも降ろして───」

 

「貴様らああああああああああああああああああああああああああッ!!!誰の許可を得て其処に立っている!?」

 

時すでにお寿司、否遅し。眼下では既に"サラマンドラ"の憲兵が集っていた。

 

ジンは頭を抱え、普段の苦労が滲み出るような顔つきをしていた。

 

「………………あのさ、ペスト」

 

「なぁに?」

 

「キミの力で皆さんを暫く大人しくさせられないかな?」

 

そしてこの有様である。問題児と過ごすうちに自然と彼の中でもモラルが崩れ始め、性格が荒み始めているのだろう。ともかく、声が静かな分物騒極まりない。

 

「出来なくはないけど、終わった後はジンの命が危ないんじゃない?」

 

ペストはニヤリと笑う。そしてジンは御免被るという顔を。

 

「……専門家に任せよう」

 

「そうね。それが無難だわ」

 

「彼女らならば回廊を抜けた先の宿舎にいるはずですヨ」

 

「ありがとう。ペストはすぐに二人を呼んできて」

 

はいはーい、とペストはメイド服を揺らしながら宿舎へと向かっていった。

 

一方問題児達。

 

三人はペンダントランプの端に座って眼下を見降ろす。その遥か下には"サラマンドラ"参謀のマンドラと憲兵団が、

 

「ふざけているのか貴様らッ!?そのペンダントランプをなんだと思っている!!さっさと降りて来い大バカ者ども!あとなんかペンダントランプにヒビ入ってるけど弁償するんだろうなぁ!?」

 

これを三人は完全に無視。彼らはふざけているのではない。真面目に、真剣に、悪戯をしているだけなのだ。

 

「それじゃ、そろそろ遅めの昼にするか」

 

「そうね。竜胆くんがいないのが残念だけど」

 

「竜胆、急に『お前らといると嫌な予感がする』って言って宿舎の厨房に籠っちゃったからね」

 

十六夜達三人は宿舎を出る前に竜胆に貰ったお手製のお弁当を広げ、歓談に勤しみ出す。

 

十六夜は梅鰹おにぎりを口にし、思い出したように問う。

 

「そういえば春日部。登録したギフトゲームがまだ一つ残ってるそうじゃないか。どれに出るつもりなんだ?」

 

「火龍誕生祭で登録した"造物主の決闘"。今回はリベンジ」

 

「ふふ、今回こそ勝てるといいわね春日部さん」

 

飛鳥の言葉にこくんと頷いた耀はパクパクとおにぎりとサンドイッチと唐揚げを驚異的な速度で頬張る。

 

(美味しい。竜胆のご飯はやっぱり美味しいな。スズがあんなに絶賛してたのもやっぱり頷ける)

 

因みにスズとはアホおねーちゃんこと鈴蘭のことである。彼女は竜胆の作るご飯ならお米だけで一年過ごせると言ってのけている。それほど竜胆のご飯が美味しいのだろう。

 

或いはブラザーコンプレックスとも言う。弟は弟でシスコンなのだが。

 

『むぅ……汝の口を通して我にもこの食物の味が染み込んでくるぞ。なかなかにいい味ではないか』

 

そんな時、彼女の脳裏にククルカンの声が聞こえてくる。

 

───うん。私が今現在この世で一番好きな料理人が作った食べ物───

 

『一番好き……か。ここ二日間汝の言う料理人を見てきたが……なるほど。あれはまたよい伴侶となるであろうな』

 

───そうかもね───

 

軽く振った、料理人の耀に対する心の代弁をククルカンはしてみたが、耀の反応はまるで他人事。思わず二日で色々と察してしまったククルカンも呆れてしまう。

 

『……そうだな。まったくどうして、汝という女子は他人の心を掴む癖にこうも無知なのだ?』

 

───……?どういうこと?───

 

『気にせずともよい。そのうち知ることだ』

 

ククルカンとの秘密の会話も終わらせ気合も頬袋も心境もいっぱい。そんな時もマンドラの声が聞こえた気がしたが、無視。

 

「十六夜くんの予定は?」

 

「俺?俺は特にねーよ。今日は散策にでも行こうと思ってたからお嬢様に付いて行ってからはまったくのノープランだ」

 

「そう。でも意外ね。普段から考えすぎなくらい計画練ってそうな十六夜くんなのに」

 

「そうか?」

 

「うん。でも偶にはこういう日もあっていいかもしれないよ。十六夜は普段から色々考えすぎだから、もう少し周りに合わせて生きて欲しい」

 

「それはなんとも難しい注文だ。この段階で竜胆以外のヤツらにはだいたい合わせてるんだけどな。竜胆は言わなくても合わせてくるから合わせる以前の問題だし……っと、考えすぎで言うなら竜胆も竜胆だな」

 

「ええ。あれはどう見ても考えすぎね」

 

十六夜と飛鳥が耀を見ながらプークスクスと笑う。

 

「うん。人生難しく生きてる。あんな誰彼構わず助けて一人で抱え込む竜胆はそのうち考えすぎで老けちゃいそう」

 

そして耀も言ってしまう。そんな彼女に対して十六夜と飛鳥はお、おおうみたいな目で耀を見る。ククルカンも顔があればまさしくそんな顔をしている。

 

会話の趣旨が違うのに成立してしまった。彼の恋模様と彼の人生模様という違うにも程がある内容の会話はなぜか混ざっても違和感がない。

 

「それじゃ、お嬢様はジャック達と合流。御チビと竜胆は招集会会場の挨拶回り……竜胆と御チビは合流場所を決めてあるそうだが。春日部はゲームに参加」

 

「あら、ジャックも来ているの?」

 

「ああ、最後の同盟相手の紹介と……お嬢様へのプレゼントを用意してな」

 

ニヤリと笑う十六夜。キョトンとする飛鳥。竜胆のお弁当美味しいと頬張る耀。三人の真後ろで殺意の波動的なものを出す黒ウサギ。後ろで気付かずに美味しい美味しい言われて赤面する竜胆。

 

一名は気付かずだったが、やはり無視。

 

おにぎりに添えられた油揚げをひょい、と口に投げ込んで十六夜は勢いよく立ち上がる。

 

「それじゃ、ここで一度解散とするか」

 

「ふぉうふぁふぇ。ふぁふふぁふぁほぉうふふふぉ?(そうだね。飛鳥はどうするの?)」

 

「どうするもなにも、私一人じゃ降りられないわ。二人のどちらかに降ろしてもらわな

 

「だったら黒ウサギがたたき落としてあげますこの問題児様方ぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

「お、美味しい?お、美味しいって……こんなにストレートに言われたの初めてなんだけど……ど、どどどどどうしよう!?ステーキの時は勝負だったし感想聞く間も無く馬肉騒ぎになってたし、それまでは感想なんて軽く聞き流してたし……あ、わわわ……ほ、褒められた……耀に褒められた……!」

 

ズパパパァアン!!!と勢いのあるハリセンが迸り、三人はペンダントランプから叩き落とされる。ついでに三人を叩き落とすために呼ばれた一人は嬉しさのあまりトリップして降りる気配もなく、叩き落とされる側になっていた。

 

◆◇◆

 

「……悪い、ジン。叩き落すために呼ばれたのに気づいたら叩き落されてた」

 

「いえ……貴女の料理を食べてる彼女という状況で貴女を呼んだ僕の落ち度でしたから」

 

そうして叩き落された四人のうち三人は亜龍達との鬼ごっこを繰り広げ、一人はリーダーと反省会。

 

「全くその通りね。ジンはジンでもう少し自分でなんとかする方法を覚えるべきだし、リンドウはリンドウで平和ボケが過ぎるんじゃない?」

 

ペストが皮肉たっぷりに二人を糾弾。当然二人は反省するが、ジンは竜胆達が箱庭に来た当初とは違い、怯みかけこそはしたもののすぐに気合を入れる。

 

「確かにその通りだ。何時までも二人に任せていられない。僕ももっとしっかりすべきだ」

 

「その意気だ。……まぁ、」

 

「その意気ね。……まぁ、」

 

「「百年後くらいには一矢報いて死ぬんじゃないか/死ねるんじゃないの?」」

 

「はは……はぁ」

 

二人揃って出た忌憚のない意見にジンは脱力して肩を落とす。

 

「さ、それじゃそろそろ行こうか」

 

「何処に?」

 

「挨拶回りだな。召集会に来るコミュニティは俺達のように支配者だけじゃない。

今後の支配者の動きを知りたいであろうコミュニティなんてごまんといるから、名前を売るにはいい機会だ」

 

なるほど、と納得したペストは二人とともに"サラマンドラ"本拠に足を伸ばしたのだった。

 

◆◇◆

 

竜胆の心境は不可解なものでいっぱいだった。

 

(……さっきからなにかに見られてるような気がするな。いや、見られてるというよりは……見られていた、か?

今はそうでもないが、今度は若干"サラマンドラ"の近衛兵がうるさくなってきている……これは、なにかが起こっているな)

 

獣の力により発達した聴覚は竜胆に知りたくなくても細かな情報を与えてしまう。この辺はある程度自分で出し入れできる耀のものと比べると不便だ。こうも聴覚が発達しているとそのうち発達しすぎてあらゆることを逆手にとられかねない。

 

(ともあれ、今は俺達に関係は───ん?)

 

そんな中、上方向から空気を裂くような音が聞こえた。これは……落ちている、だろうか。

 

「ジン、上」

 

竜胆がぼーっと思案しているとえ?とジンの間抜けな声とペストの冷静な声が聞こえ、振り返ると。

 

宮殿の天井からフード姿の人影がジンの頭上に落ちてきた。

 

「ってちょっとなんで───!?」

 

ジンが理解するより早く人影に押し潰された。

 

ゴベギッ、とか色々鳴っちゃいけない音が鳴ったかと思うとペストは悠々とジンの前に歩み寄り、ドSな目でジンを見下ろし……

 

「……ちっ」

 

「なんで舌打ち!?なにに対する舌打ちなの!?」

 

「主人の無事を呪ったメイド的舌打ち」

 

「死んだらシャレにならんぞペスト」

 

「ジョークよリンドウ」

 

さも当たり前のようにそう言うペストにジンは言い返そうとしたが、落下した人物がそれを遮った。

 

「……ジン!?ご、ごめん!怪我はない!?」

 

突然自分の名前を呼ばれたのでジンはヒヨコが見えそうな頭を抑えながらその人物を見て、叫んだ。

 

「サ、サンドラ!?ど、どうしたのその格好!?」

 

「事件の捜査にお忍びで出かけるところ。ジンも来る?」

 

サンドラは赤い髪を揺らしながら無垢な瞳で小首をかしげた。

 

竜胆はその顔がこちらのサラとダブり、やっぱり姉妹なんだなと思わされる。

 

「あ、あのねサンドラ。キミは仮にも北の"階層支配者"なんだよ?そう無闇に外出するもんじゃないし、第一召集会の時間が迫るこの頃に」

 

「うん。だからその前に終わらせようって三人で決めたの」

 

「いやだから、そういうことじゃなくて───」

 

三人、という言葉にジンは言葉を切った。

 

そういえば、人影は三つあった。ジンはサンドラから視線を離し、背後で沈黙していた二人に声をかける。

 

「貴方達は、"サラマンドラ"の同志ですか?」

 

「………、」

 

二人は麻布のフードを被り黙り込む。その見た目は背丈からジンと同年代と思われる。

 

それが怪しさを助長させ、ジンはじっと二人を見つめていた。

 

「べ、別に怪しい人じゃないの!1年くらい前から仲良くなった二人で……その、ジンにも紹介しようと」

 

サンドラは両手を振ってしどろもどろと説明しようとするが、一人が見かねたのか、不思議な声を挙げた。

 

「慌てなくても大丈夫だよーサンドラちゃん。私達の身分はそこのメイドさん───ペストちゃんが保証してくれるから」

 

刹那、ペストの顔が強張った。

 

麻布のフードを被った二人は示し合わせたようにフードを外し、顔を露わにした。

 

「な……!?」

 

「………?」

 

その二人の顔を見たペストは間違いなく、動揺していた。

 

その二人はジンとほぼ変わりのない年代と見て取れる少年少女だった。

 

「私はリン。こっちは殿下。よろしくね、ジンくん」

 

「……殿下?」

 

「……よろしく。訳あって名は名乗れないが、好きに呼んでくれ」

 

「……で、ジンくん?そこの、ペストちゃんとジンくんと一緒の女の人は?」

 

もう竜胆は女の人と呼ばれても動揺しなくなっていた。いや、動揺することが無意味なのだと一種の悟りを拓いていた。

 

「俺は男だ。俺は……リン、とでも呼んでくれ。偶然にもキミと同じ呼び方になるが、そこの殿下と同じ、訳あって名乗るのはよしとく」

 

「ぅわお!私と同じ呼び名なんだね!ますますお姉さんっぽいよ!」

 

「あ……怖いお姉さん!その節はお世話になりました」

 

「……サンドラ。頼むからその怖いお姉さんはやめてくれ。傷つく」

 

(嘘……!?なんでリンと殿下が……!?なんで、二人が"サラマンドラ"の宮殿に……!?)

 

ほんわかとした空気、ほんわかとした空間の中、ペストは冷や汗を禁じ得ない状況となっていた。

 

 






少々駆け足気味ですが、リンちゃんと殿下の登場です!うへへ、ロリショタはやはりよいですなぁ……じゅるり。



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三話 再会《あかいめ》

本編に戻る!

それだけ!




竜胆が自分の名前を名乗らずに愛称の方を使ったのには訳があった。

 

まず一つ。いくらサンドラの友人とはいえ、箱庭はなにがあるのかわからないことは幾度となく色々な目に遭ってきた竜胆は十分承知していること。

 

そして二つ目はリンと殿下がペストと見知った仲……それも、まるで旧友のように接していることに違和感を感じていたからだ。

 

兎角、竜胆は脱走中のサンドラと出くわした時点でまた余計な不運、貧乏クジを引かされたと思っていたその時、宮殿内の警備兵の声が聞こえた。

 

「おい、大変だ!サンドラ様がどこにも見当たらないぞ!?」

 

「なんだと!?また抜け出したのか!?」

 

「マズイ!マンドラ様が外出中のうちに探し出せ!!」

 

おいおい……と竜胆は思わずにはいられなかった。サンドラの脱走が伝わる前なら穏便に済ませられないこともなかったかもしれないが、こうしておおっぴらにサンドラが逃げたことが伝わればこうして会話している自分達は下手したら脱走の幇助をしたのなんだのとその辺の立場が弱い"ノーネーム"の竜胆達はタイーホ直行。ならばと竜胆はリンとペストの手を掴む。

 

「逃げるぞ。脱走の幇助なんて理由で牢獄行きはしたくないだろ?」

 

「え、ええ!?」

 

「それもそうだな。行くとするか」

 

サンドラはジンの手を引っ張り、殿下はサンドラについて行くように走り出す。

 

「リ、リンド……リン!わかったから引っ張らないで!自分で走れるから」

 

「そうか、悪かった。そっちのリンは?」

 

「うん、こっちも大丈夫!怖いお姉さん」

 

「……それはやめてくれ。本当に」

 

竜胆とリンが後ろを走っている以上ペストは余計な行動と取れるようなことはできない。リンと殿下がなにを考えているのかはともかくとして、今は成り行きを見定める他ないと感じたペストは殿下の後を追い、六人は宮殿を後にするのだった。

 

◆◇◆

 

場所は変わって箱庭五四五四五外門舞台区画・"星海の石碑"前の闘技場。

 

煌めくカットグラスで彩られた"煌焔の都"の中でも一際華やかな場所に耀と、彼女の中に住み着いているククルカンは足を運んでいた。

 

『ほう……確かに"神々の戯び場(あそびば)"と呼ぶに相応しいな。こんなモニュメントに宝石をふんだんに使って星の輝きを表現するとは、アステカには到底無理なモノだ』

 

素直に感嘆の声を漏らすククルカンに対して耀はバツの悪そうな顔を浮かべていた。どの場所に飾ってある珍品名品を見回して、改めてその完成度の高さを感じていたのだ。

 

(……こんなゲームに私が出場していいのかな?)

 

ペンダントランプやこの舞台区画が良い例であるように、北側は精鉄、結晶製造、錬金術といった精密な技術を扱う事に長けている。そういった土地柄もあり、人間が非常に多く存在している。

 

人は個としての力が小さな分、独創性や技術力が他の種に比べてケタ違いとなっている。竜胆のような人工で後天的な生物兵器を作るという発想、それを可能にする技術力は彼に悪いがそれは人間の長所が生み出したのだろう。

 

勿論、闘技場で"造物主の決闘"に参加する者たちもまた、己の功績を残したくて参加する者ばかりだ。そんな"造り手"達がひしめき合う中で自分のような"造ったものを受け取った"だけの存在がここに混ざっていいのかなー……、なんてぼんやりと思っているのだ。

 

(展示回廊を見て回るだけでも十分楽しいし、これ以上不評を買ってもコミュニティのためにならない……かな?)

 

こういった彼女の浮世離れした疑問には大抵三毛猫が答えてくれたが、彼はもう耀の隣にはいない。巨龍との戦いで重傷を負った三毛猫は余生短いこともあり、余生を"アンダーウッド"で過ごすことを決めて大樹に残った。

 

『……二人で決めたことなのであろう?ならばそれを今更後悔しても遅いのではないのか?』

 

遠い目で展示品を見つめていると心が繋がっているククルカンが耀に話しかけてくる。彼は彼で『己の果たすことさえ果たせれば如何でもいい、汝の人生は汝で決めろ』と軽い話し合い以外では大したアドバイスもくれない。

 

確かにこれは二人で話し合ったことだ。三毛猫と耀は同じ日に生まれて同じ時をずっと過ごしてきた。最早家族以上の家族と言っても過言ではなかったのだ。

 

しかし、だからこそ三毛猫はそんな耀との人間関係を心配していた。

 

『お嬢はもう一人やない。これからは人間の社会(むれ)の中で生きていかなあかん』

 

そう言う彼の言葉を耀は否定しなかった。いつか来る互いの別れのカタチが少し変わっただけだから。別れを寂しく思ったが、その申し出を断ることは裏切りに等しい。

 

耀は断腸の思いで三毛猫を"六本傷"のガロロに預け、傷の治療と今後の世話を願い出た。"ノーネーム"が今のまま旗の所有が必須となる"桁の昇格"をするために"六本傷"と同盟を結んでいたこともあり、これを快諾してくれた。

 

だからこそ、これからは常に一人で考えていかなくてはいけない、という時にククルカンが現れたのだ。

 

『さあ、ガロロとかいう老猫やあの吸血鬼のメイドには汝の父のことは聞けなかったのだろう?そしてそれでも父のことを知りたくばその軌跡を追えと言われ……ここにいる』

 

そしてククルカンの言う通り、耀の父春日部孝明の友人を自称するガロロとコミュニティの同志であったレティシアに父のことを聞いても「今はまだなにも話せない」の一点張り。

 

だから"階層支配者"の会議に自分達が招待されたことと、同じく同盟を結んだ"ウィル・オ・ウィスプ"、そして未だ伝えられていない最後の同盟相手と会いに行くために北側に行くことは名の立つ彫刻家だった父の軌跡をたどるには丁度よかった。

 

「……うん。わかってるよククルカン……でも、流石にそう簡単には見つからないよね」

 

腕を掴んで耀は再び悩む。"生命の目録"でゲームに出て、周囲の反応から父のことを調べる手もあるが、それは先ほど思ったように技術者が腕を競うゲームに技術者でない自分が出ることは迷惑がられ、醜聞が広まることもある。別に自分一人にそういった評価が降るのは構わないが、それでコミュニティにまで悪評が広まるのは避け

 

ズガシュ!

 

たい。痛い。それじゃあどうするかと考えても中々答えは出ないので、仕方なく頭に当たった鈍器みたいは物を手に取った。

 

(……なにこれ)

 

『ふむ、有り体に言えば金槌だな。どうやって、何故この雑踏の中を投げつけたのかは些か疑問だが』

 

心と共に感覚も耀と共有しているククルカンは少し痛そうな声をしながら耀に話しかけてくる。

 

(……もしかしたら"煌焔の都"じゃ当たり前のことなのかも。工芸の街なんだし)

 

『いや待て!?何故そのような発想に至る!?我は時々本当に汝の考えが読めぬ!』

 

(……だとしたら誰が投げたんだろう)

 

『ええい話を聞かぬか!汝は元々世情に詳しくない上に人たらしなことは知っておるが流石にこれは度が過ぎ

 

ズガシュ!

 

もう一発飛んできた。

 

(………、)

 

ギリ、と金槌を握り締める。一発だけなら誤射、偶然かもしれないが二度も続けば流石に故意の領域だ。しかも五感が獣並みの耀に気付かれることのない一投。並みの投擲ではないことは簡単にわかる。

 

『……ヨウ、遠慮をすることはない。見つけ次第ボコれ。我が許可する』

 

ククルカンも若干キレ気味に告げる。耀は目を閉じ五感を集中させ、三度目の強襲に備える。

 

(………。)

 

「……大丈夫?」

 

「───え?」

 

『なんと……!?』

 

今度こそ本当に驚いた。驚きすぎてこけそうになったくらいだ。

 

だがそれも仕方がない。五感の感度を意識して上げていた耀に気付かれることなく真後ろまで近付いてきたのだから。

 

「え、えっと……?」

 

耀は半口開いたままの声の主である、自身と同年齢程に見える少女を見る。

 

華の蜜のようなベビーフェイスと薄いウェーブがかかったツインテール、そしてその容姿と、耀とほぼ大差ない身長であるにも関わらず蠱惑的すぎるホディライン……これに関してはそれを男でやってのけてるのがいるのでスルー。

 

更に色々と際どい服装は男性を誘ってるとしか思えず、そんな服装にも関わらず無垢な瞳を持っている。

 

正直、同性でそんな事にちょっと……いや、かなり疎い耀でも心臓の鼓動が高鳴ってしまう。

 

が、その容姿が逆に耀の警戒心を刺激させる。

 

(この子……人間じゃない?アーシャやスズみたいな霊体とも違う……)

 

「……頭、大丈夫?」

 

それは決してお前バカじゃねえの、という旨の質問ではなく、その痛そうに鈍器が二回ぶっ刺さった頭は無事ですか?という旨の質問であることは耀は即座に理解した。

 

「あ、うん、大丈夫。でもこれ、貴女が?」

 

コクン、と少女は頷く。その仕草一つとっても愛らしく、いくら耀でもこんな子を殴るわけにはいかないと思い……

 

『……やってしまえ』

 

ズバシュ!

 

「!?」

 

一発だけチョップのお返し。岩が割れる程度の強さで。ぶっちゃけ殴るのと大差ない。

 

「一回は一回……これでおあいこ」

 

「………………………………………うん」

 

少女は表情一つ変えずにコクリと頷く。反省はしたらしいと感じた耀は気を取り直して自己紹介をしようとするが、少女がそれを遮る。

 

「貴女も、ゲーム出る?」

 

「ああ、それって"造物主の決闘"?」

 

ちょっとだけ違う意味の決闘ととれる返事の仕方をする。

 

「うん、出るの?」

 

「う……、うん、出る」

 

耀は正直なところ出場するか決めかねていたが、彼女の瞳に押されてつい頷く。

 

「……そう、出るんだ」

 

少女はうっすらと微笑を浮かべ、

 

「よかった。これでコウメイとの約束が果たせる」

 

え───と耀が言葉を失った途端、少女は前触れ一つなく、まるで霞のように消えた。

 

「嘘……!?」

 

消えた……そう、それは消えたとしか形容のしようがない。気配を消すでもなく、速い脚で離脱したわけでもなく、空へと駆けたわけでもない。

 

本当に、消えた。

 

(そんな……どうやって……!?)

 

『……ヨウ、今はそれどころではないのではないか?今、あの女子は汝が探し求めていた単語、コウメイの名を口にしたのだ。それを追わずしてどうする、みすみす父のことを知るチャンスを逃すつもりか?』

 

コウメイ、耀の父、春日部孝明を知る者は皆そう呼んでいた。まさか、もしやと耀はククルカンに促されるがままに闘技場を見上げる。

 

「───出よう、ククルカン。私、汚名を被ってでもこれに出なきゃいけない理由ができた」

 

『クク、我は我自身の望みが達成されればそれでいいさ、時が来るまでは汝の好きにするがいい』

 

◆◇◆

 

「……ここまで来れば一先ずは安心か。公共施設の子供風呂にでも逃げ込んでもよかったが……すまん、流石にこの体型じゃ俺は無理だ」

 

「そうね、貴女のそのふざけた体型は私もどうにかしてもらいたいわ」

 

「それは俺が一番なんとかしたい」

 

ペストと軽口を叩き合い、気分は遠足を引率するお兄さん。ハタから見ればお姉さんなのはご愛嬌。

 

「しかし、これじゃそうやすやすと安住できる場所がないな……少し俺がよさげな場所探してこようか?」

 

「ううん、この辺のことならおね……リンさんより私がよくわかってるから、暫くここで目的地を考えよう」

 

「そうか。それじゃあお言葉に甘えさせて……と」

 

竜胆がふぅ、とため息をつく。それに続くするように他の面々もリラックスできる態度をとる。

 

「しっかし……なんでまた事件の捜査なんてことをするんだ?俺はあんまりこういうこと言いたくないが、キミは仮にも"階層支配者"だろ?それなのになんでこんなことを」

 

「だって!みんな私のこと認めてくれないんだもん!マンドラ兄様も、コミュニティのみんなも!いつまでも私を子供扱いして、大事なところで信じてくれない!だから神隠しの事件を解決してみんなに認めさせてやるんだ!」

 

なるほど、と竜胆は納得する。サンドラくらいの年頃なら男女関係なく自分は自立できると主張をし出す。しかもサンドラは前回の南側の巨龍強襲と時を同じくして襲来して来た魔王二体を倒した、とも聞いている。

 

言い方は悪いがそれでサンドラは少し慢心しているのだろう。まぁ、認めてくれないと見えるように接するマンドラも過保護なのだが。

 

「……サンドラ。多分マンドラはキミのことが心配で心配でたまらないからそう言ってるんだよ。信じてないんじゃなくてキミになにかあったらいけないって思ってるんだよ」

 

「でも!でも私は強くなったもん!それに……!」

 

サンドラはなにか竜胆にぶつけようとしたのだが、その口を途端に閉じる。何故閉じたかはともかく、サンドラの表情の変化からして恐らく、自分を認めさせるということとは別にある本音を言いたかったのだろう。

 

「……まあ、キミが本気でその神隠しというのを解決したいと思うのなら、脱走の幇助をした以上は俺も手伝う。勿論ジンとペストも」

 

「ちょ、り……リンさん!?それでいいんですか!?」

 

「どうもこうもない。あくまで俺はサンドラが本気なら手伝うって言っただけだし、ここまで乗りかかったら強引に降ろす方が逆に悪い」

 

はあ、と竜胆が俺もお人好しになったもんだなぁ、と箱庭に来る前から変わらない本質に今更という風に嘆きながら空を仰ぐ。

 

「───え?」

 

そして仰いだ空には人がいた。

 

「こんなとこにいたのかい。殿下、リン」

 

その人物は殿下とリンの名を呼びながら竜胆達と同じ場所に足を立たせる。

 

「ああ。連絡一つよこさずに悪かったな。状況が状況でそんなことしてる場合じゃなかった」

 

「いんや、構わないさ。俺はハナが効くからな」

 

殿下と話すその少年の容姿はどこかで見たことのある見た目だった。銀髪の髪を後ろを三つ編みにし、各部に銀の装飾を施した黒いブレザーを思わせる服装をしており、身長は十六夜より少し低い程度だろうか。箱庭に来てからこんな人物と出会ったことのないのに、竜胆は不思議とこの少年に既視感を持っていた。

 

「えっと……リンちゃん、殿下。その人は?」

 

どうやらサンドラもこの少年とは初対面らしい。ああ、と殿下は思い出したように少年に向けて掌を向ける。

 

「数ヶ月程前からの付き合いでな。ウチのコミュニティの人間じゃないんだが……仕事の都合で何度か世話になってるんだ」

 

少年はサンドラの掌の上に自分の手を優しく乗せ、紳士的に振る舞う。

 

「お初にお目にかかる、サンドラ=ドルトレイク……て、こんなんは俺のキャラじゃあないな。それよりも……」

 

少年はその歩みをゆっくりと竜胆の方に向けてくる。竜胆にとって知らないのに既視感のあるその少年は違和感の塊でしかなかった。

 

竜胆は"人類の罪"の影響によって忘れることのない記憶力と人間を超えた感覚能力を持っている。

 

だから見覚えのない顔を、聞き覚えのない声のトーンを、嗅ぎ覚えのない匂いを持っているのに彼自身、()()()()()()()()()()という事実を気持ち悪がっていた。

 

「なんだよ、まさか忘れたのか?竜胆」

 

「───!」

 

気味の悪い予感は的中した。自分は殿下とリンには違う名を名乗っていたのに、コイツは俺のことを竜胆と呼んだ。俺はコイツを、コイツは俺を知っている───いつ?どこで?どうやって?なんで俺はコイツを覚えていない!?なんでコイツに懐かしさを感じている!?どういうことなんだ───

 

「……ぷ、くはははは!!なんだよそんな変な顔して!でもまぁ、十何年かぶりだから忘れてるのも無理ないか……いや、忘れてるわけはないんだがな」

 

「どういうことだ!?なんでお前は俺を知っている!?俺が……お前に懐かしさを感じているのとなにか関係があるのか!?」

 

「おいおい、失礼だな竜胆。俺だよ、エトだ」

 

「───エト?」

 

その瞬間、全ての疑問は瓦解した。自分は懐かしさを感じているのに彼のなにもかもに覚えがないことも、この少年と竜胆の出会いが()()()()()()()()()()()()()()ならば納得だ。

 

そして、その名にも聞き覚えがあった。いや、聞き覚えがあるどころではない。

 

「エト……って、あのエトなのか!?あの研究所で会った、あのエトか!?」

 

「よーやくお気づきか?そのエトだよ。全く、お前に貰った名前だってのに、忘れられてたなんて心外だよ」

 

エト、その名は竜胆がキマイラとなる前に出会った名も無き少年の名だった。

 

 




少年は一つの再会を果たした。少女もまた、父の軌跡をたどる出会いを。

友と恋、それは二つの反するものたち……

次回、過去《はりがね》



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四話 宿命《かりそめ》



この辺から色々と原作と変わっていきます……具体的には、お風呂シーンまるごとカットとか。

それと、オリジナル章第二章への繋がり的な意味合いもあるので……もしかしたら孤独の狐はそのオリジナル章で完結かもしれません。




 

 

「エト……お前生きてたんだな!?あの時死んだんじゃないんだよな!?」

 

「ったりめーよ。あんな爆発一つで死ぬタマかよ……それに、お前も生きてるんなら俺も生きてるのは当たり前だろ?」

 

「ああ……ああ!確かにそうだよな、うん!」

 

「にしてもお前……ちょーっと見ねぇうちに随分可愛くなったもんだなぁオイ!ッハハハ!」

 

「て、テメェ!そーいうエトはあれから十年以上経ってるクセに結局チビじゃねぇか!」

 

「あ゛ぁ゛!?テメェ見ない間に随分大層な性格になりやがっなぁ!?」

 

「そういうエトも前は聞き分け良かった!」

 

ギャーギャーワーワー、竜胆はエトと名乗った少年と親しげに、かつ彼らしからぬ毒気を持って悪口をぶつけ合いまくる。

 

「あ、あの、竜胆さん……そちらの方は?」

 

「ん?あ、紹介してなかったか。コイツは『エト』。一言で言うなら、俺の同類」

 

「ってわけだ、よろしくな竜胆のコミュニティさん」

 

「あ、ジン=ラッセルです。それでこっちがペストです」

 

「……ペストよ」

 

「ムッツリかこのロリ娘は」

 

エトはニヤニヤと笑いながらペストを見る。ペストはちょっと君が悪そうな顔をする。

 

「それより……エト、さん?竜胆さんの同類ってどういうことなんですか……?いえ、なんとなく予想はつきますけど」

 

「そりゃあね、言葉のまんまの意味さ。俺も竜胆(コイツ)と同じで身体中弄くり回されたキマイラってこと。ただし攫われてきて突貫作業で弄られた竜胆とは違って、俺は元々そこの研究施設で実験台になるべくその前の段階の研究で一番出来の良かった被検体の遺伝子から造られてるんだけどな」

 

やっぱりか……そんな表情でジンとペストはエトを見る。だが、エトは当初の竜胆のように絶望感に塗り潰されているような風には見えない。

 

というか、むしろその真逆。今の竜胆に近い、フランクでイケメンなのに飛鳥より身長があるかないかくらいの大きさで、さっきの竜胆との舌戦から三枚目というイメージの方が大きい。

 

「"被検体モデルE-10"。だからE-10(エト)……なんて安易な発想だけど、名前と友達をくれたコイツにゃ感謝してんのさ」

 

まあよろしく頼むよ少年少女!エトはそう言って殿下とリンの方に目を向ける。

 

「あ、そうそう殿下、キミらを探していたのには他でもない理由があってだよ」

 

「お前が意味もなく俺達と接触するわけがないだろう。互いにコミュニティの名こそ知れども全貌は知らない仲だ。お前は互いに曝け出しあった相手にのみ等しく接すると聞いている……今の会話がいい例だ」

 

「ははぁ、流石は殿下、お見通しってわけね。オーケー。んじゃさっさと用件だけ……"造物主の決闘"に一戦、面白そうな試合がある」

 

エトは軽く笑った後怪しく微笑みながらそれを告げる。面白そうな試合、とだけ告げられた殿下は首を傾げる。

 

「面白い?どんなだ」

 

「殿下が北と南の魔王襲来辺りの時に見つけたっていうギフトの持ち主とその同胞……それと、"ウィル・オ・ウィスプ"のリーダーのバトルロワイアルさ」

 

「なに……!?」

 

「どうだい?席は取ってある。行く価値はあるんじゃないかな?」

 

エトの言葉に彼らしからぬ動揺をした殿下は一考し、即座に首を縦に下ろした。

 

「そうだな。行くとするか……まあ、こっちの野暮用が終わればだが……」

 

殿下はちらと竜胆達の方を見る。竜胆はジンにリーダーに任せるという風に目を配ると、ジンもそれに頷く。

 

「うん。殿下達にも予定があるのなら、竜胆さんの言う通りここまで乗りかかった僕らもいっそのこと手伝うよ。それで、追っている事件っていうのは?」

 

ジンがそう言うとサンドラは軽く頷く。

 

「"煌焰の都"では今、子供の失踪事件が相次いで起こってるの」

 

「失踪事件?それも、子供の?」

 

"階層支配者"であるサンドラが追うにはあまりにも小さな事件なので思わずおうむ返しに唱え直した。

 

「言いたいことはわかるよ。でもこれは十中八九悪魔か鬼種が起こしてる事件……一種の"神隠し"だと思うの」

 

「なら専門の機関に任せるべきだ。"サラマンドラ"にもあるはずだよね?」

 

「それでどうにかなるなら"階層支配者"が態々出向く筈もない……となれば、"神隠し"は"神隠し"でも、なにかその専門家でも解決できない要因があると?」

 

「その通りだよ竜胆さん。今回の事件はただの"神隠し"じゃない。コレの"ルール"を彼らは認知できていない」

 

「ルール?ってことはギフトゲームの一種としての"神隠し"ってことか?それで失踪する"事件"が起きているとなると……意図的に"子供だけを狙った魔王のゲーム"って言いたいのか?」

 

「確証は少ないけど。早くに対処するに越したことはないから」

 

なるほど、と竜胆は腰元を左手で掴みながら右手は左腕に乗せて顎元に持っていく。無駄な巨乳がちょっとそれを阻害している。

 

対して竜胆と同じくサンドラに質問を投げかけたエトはふーん、と興味はなさそうな素振りを見せる。

 

「……ペスト。お前のゲームもハーメルンの笛吹きの子供の失踪に絡む一種の"神隠し"だったな。思い当たることかなにかはないか?」

 

ペストは少し膨れながら顔を顰め、少し考えた素振りを見せるとサンドラに問い直す。

 

「……"契約書類"は発見されていないの?」

 

「ない。代わりに文のようなものが現場に残されていた」

 

「文?」

 

その問いにサンドラは現場に残っていた三つの文字を炎で描く。

 

───遊手好閑(ゆうしゅこうかん)

───虚度光陰(きょどこういん)

───一事無成(いちじむせい)

 

ペストはサッと読み直すが、意味がわからないことも含めて微妙な顔を浮かべる。

 

「……リンドウ、これどういう意味?」

 

もうエトに名前を看破された以上偽名の方で呼ぶ必要性を感じなくなったペストはいつものように竜胆の名を呼ぶ。

 

「ジン」

 

「え!?……え、えっと、総括すると"日々を怠惰に過ごし、何も成す事もない"……かな。三つとも。手掛かりは他には?」

 

「もう一つだけ。現場の壁にでっかく"混"の文字が書かれていた」

 

ジンの問いかけに答えたのはリンだ。

 

「この文字がネックなんだけどね、実は"階層支配者"の招集会に似たようなものが挑戦状として届いてるらしいの」

 

「挑戦状?」

 

「うん。すっごい口汚い内容だったから要約するけど……"階層支配者"を襲うといった文面だったらしいよ」

 

「なるほど……態々"階層支配者"に喧嘩を売るバカはどこぞの十六夜(戦闘狂)か魔王に限られるからな」

 

「ええと、わかってることを纏めると

一つ、子供が失踪する事件が相次いでいる。

二つ、現場には"遊手好閑"、"虚度光陰"、"一事無成"の三つの文字が書かれていた文があった。

三つ、同じく現場には"混"の一文字。

四つ、"階層支配者"への襲撃予告にも"混"のメッセージ

これで全部?」

 

ジンの言葉に頷くサンドラ。そうしてサンドラの下にいるリンと殿下の姿にペストは無性に嫌な予感を抱いていた。

 

(……ホント、一体何を考えているのやら)

 

ただ成り行きを見守ることしかできないペストは現状黒ウサギか十六夜と運良く遭遇できればなんかあるなー、程度。竜胆はエトという存在もあって完全に殿下とリンに対して激甘モードで接している。

 

とどのつまり、匙を投げることが最良。

 

「というかそもそも、その襲撃予告者は本当に魔王なの?この前みたいな各個撃破狙いでならわかるけど、今回は"階層支配者"が集う招集会よ?本当は他になにかあるんじゃないの?」

 

「他に、か?ムッツリロリ娘にはなにか思い当たる節でもあるのかい?」

 

「ないわ。ただこの"煌焰の都"は貴重なギフトや工房を展示する"星海の石碑"がある。"階層支配者"への襲撃はブラフで、本当の目的はなにか他のものがあるんじゃないの?」

 

ペストの言葉にサンドラは一理あると思ったのか暫し黙り込む。

 

「襲撃予告というモノをブラフにしてまで果たすこと……?そこまでするほどの貴重品なんて北側に来る前に軽く下調べはしたがそんなものはなかったはずだが」

 

「あるよ。一つだけ」

 

リンがぽつりと呟き、殿下を除く五人は思わずリンを凝視する。

 

「"煌焰の都"には二百年前に封印された魔王が眠っている。それも超弩級のモノで、"箱庭の貴族"の都を僅か一刻で滅ぼした、護法十二天にさえ匹敵するのがね」

 

リンの可憐な笑顔とは百八十度真逆な言葉にジンとペスト、竜胆は思わず息を呑む。

 

「いやまて……そもそも"箱庭の貴族"の都を滅ぼしたってことは」

 

「まさか、黒ウサギの故郷を!?」

 

「それに護法十二天って最強の武神集でしょ?それに匹敵する魔王がここに眠っているなんて、にわかに信じがたいけど……

 

三人の戦慄を帯びた言葉にサンドラは気まずい表情で頷く。

 

「じ、実はそれ、私も"階層支配者"に就任した時に初めて聞いたんだ。でも父上様が最高機密だから誰にも話すなって言われてたのに……なんでリンはそれを知ってるの?」

 

「業界の噂話。それにこれは飽くまで噂話。こんな大都市にそんな護法十二天に匹敵する魔王が封印されてるなんて普通は誰も信じないでしょ?」

 

リンは飽くまで噂話だと主張する。

 

確かに、そんなバケモノみたいなヤツがこんな大都市に封印されるなんて普通に、いや、どれだけ愚かしく考えてもあり得ない。あり得るとすればそれはもう信じられない夢の領域だ。

 

そう思案した竜胆は話を総括すべく強引に話に決着をつけた。

 

「……そうか。まぁ、一度俺達だけで"神隠し"の調査はしよう。勿論エトもだ。それで何もなければ大人しく"サラマンドラ"に協力を仰ぐ。それでいいか?」

 

「捜索って、当てはあるの?」

 

「絶対的に正しいとは言えない。ジンも答えには至っているだろうがな」

 

竜胆が不敵に口を閉ざす。さっきまでのエトへの噛み砕いたような態度ややたら驚いていた彼とは一転していつもの大胆不敵な笑みを浮かべている。

 

「竜胆。その態度は周囲の疑惑を増長させるからあまり関心はできない」

 

そんな竜胆に対して殿下が一言糾弾の声を浴びせる。それに対して竜胆はバツの悪そうな表情を浮かべる。

 

「すまないな。一時期はこうして虚勢を張ってないとやってらんない時期があったせいでかなりクセになってるんだ。……まぁ、現場を確認して回れば予想は多分確信に変わる。それと明日、あのニート蛇……もとい、蛟劉に会いに行く」

 

「蛟劉……蛟魔王に?」

 

ペストが不思議そうに問うと、今度はジンが口を開く。一瞬言うのをやめようかと思ったが、先程の殿下の言葉がまるで自分にも「不可解な態度は周囲に困惑を及ぼす」と言っているようにも感じたため、やはり言い切ることにした。

 

「敵の狙いは多分"階層支配者"じゃなくて……白夜叉様がいなくなったことで階層支配者代行に就いた蛟劉さんだと思う」

 

「……根拠は?」

 

「遊手好閑、虚度光陰、一事無成。これらの意味はさっき言った通り中華で"日々を怠惰に過ごす"意味がある……これがもし犯人からのメッセージであるとすればそれは枯れ木の流木とさえ揶揄された蛟劉さんが階層支配者代行に就いたことに不満を持っている者からのモノなんじゃないかな」

 

「確かに……それなら辻褄が合うかも!」

 

「おおー!凄い凄い!ジンくんと、そこに気付いた竜胆さんはゲームメイカーの素質あるね!」

 

「そんなガラじゃないからやめてくれ」

 

「蛟劉さんが"煌焰の都"を訪れるのは早くて明日の早朝……それまでに他の現場は見回っておこう。最初の現場は?」

 

ジンがサンドラに問うと、サンドラが答える前にエトがその口を開いた。

 

「それに関しては殿下達にとっても好都合な場所さ。さっき事件の捜査してるヤツがいたからなにやってんのか聞いてきたよ。最初の現場は"星海の石碑"……偶然も行き過ぎてる気がするが、場所は"造物主の決闘"が開かれる地区だ」

 

エトは偶然自分と同じ屋根の上を移動していたバカみたいな動きをする金髪の少年の姿を思い浮かべながら、そう言うのであった。

 

◆◇◆

 

『ギフトゲーム名"造物主の決闘"

 

・参加コミュニティ

✳︎全二十四名 ※別紙参照。

 

・ゲーム概要

一、予選は一試合で三人が一斉にぶつかり合う。

二、最後まで失格しなかった一人が予選通過。

 

・勝利条件

一、対戦者がリングから落ちた場合。

二、対戦者のギフトを破壊した場合。

三、対戦者が勝利条件を満たせなくなった場合(降参含む)。

 

・敗北条件

一、参加者がリングから落ちた場合。

二、参加者のギフトが破壊された場合。

三、上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

宣誓

上記を尊重し、誇りと御旗の下、コミュニティはギフトゲームを開催します。

"サラマンドラ"印』

 

沈み始めた夕陽とペンダントランプの篝火が闘技場に差し込む。支配者の招集会という一大イベントもあってか、今回の"造物主の決闘"は今までにない盛り上がりを見せていた。

 

三人の参加者はそれぞれ闘技場の隅に立ち、開幕の銅鑼が鳴るのを待ち続ける。

 

飛鳥は北側に立ち、苦虫を噛みしめるような顔で対戦者を睨む。

 

(まさか最後の同盟相手があの"ペルセウス"だなんて……しかも、"造物主の決闘"で優勝しなければディーンと新しいギフトを含む私の三つのギフトをあのボンボンに献上するなんて……いえ、それよりも)

 

飛鳥は別方向に立つ二人の人物を見つめる。

 

(まさか春日部さんとギフトゲームで競い合う日が来るなんて……それに、もう一人は"ヒッポカンプの騎手"でその春日部さんと馬鹿騒ぎの対戦をした鈴蘭さん……どちらも一筋縄では行かない相手ね)

 

耀は右手を開いたり閉じたり、不可解な行動を繰り返しており、鈴蘭に至っては観客席にいる観客一人一人で手を振ってテンションがハイになったのか、投げキッスまで仕出す始末。

 

「───んにゃ?あーはー!私飛鳥殿に睨まれてる!きゃーこわ!でも、ギフトゲームは本来楽しんでやるものなんだからそういう顔は良くないゾ☆」

 

イラっと来た。なんか凄いイラっと来た。無自覚に鈴蘭は飛鳥を煽り、ドンドンと飛鳥の沸点は怒り新党である。

 

「………」

 

そしてそんな飛鳥の表情からアーシャは察して思わず飛鳥に声を掛ける。

 

「ちょ、ちょっと待った!飛鳥、アレはスズ姐の素なんだよ!そっちにはスズ姐の弟もいるから話は聞いてるかもしれないけど、あーやって無自覚に他人を煽っちまうんだよ!」

 

「っ……!厳重注意しておいて!竜胆くんにお仕置きしておくよう私からも頼むから!」

 

「お、おう!わかった!」

 

正直、それだけでは飛鳥の個人的な怒りは収まらなかったが、そこはあえて我慢。

 

(上等よ……!ここは舞台の上。この借りは例え北側最高のプレイヤーだろうと必ず返してあげるわ……!)

 

しかし、逆にその煽りは飛鳥の竦んだ心に喝を入れる結果に至ったのだ。

 

「貴方達を信じてるわよ……ディーン、そして"アルマテイア"」

 

『お任せください、マイマスター』

 

◆◇◆

 

『……どうだ、ヨウ?』

 

(……問題ないよククルカン。貴方が私の中に入ってきたせいで強制的に付加された力の余波……なんとか理解できた)

 

『ならば問題はない。我が汝の中にいたせいで負けたなどという結果になれば目覚めが悪い』

 

耀は右手を開き、閉じを繰り返し自分の中に強制的に流れ込んでくるククルカンの力の一部を制御していた。

 

どうして飛鳥がゲームに参加したのかは知らない。

 

だが、耀にもゲームに参加し、勝ち抜くだけの理由はある。

 

耀は横目で相変わらずのハイテンションで周りにアピールしている鈴蘭の姿を見て、先程の青い髪の少女の言葉を思い出す。

 

"これで、コウメイとの約束が───"

 

あの後遭遇したアーシャにその少女が"ウィル・オ・ウィスプ"のリーダーのウィラ=ザ=イグニファトゥスであることは聞いた。

 

そのウィラが何を知っているのかは定かではないが、あの口ぶりは間違いなく父に関する何かを知っている。ならばその側近である鈴蘭からもなにかを聞きだせる可能性は決して低くない。

 

それに何より、久遠飛鳥の友人として彼女の前で、高町竜胆の"友人"として彼の姉である鈴蘭の前で恥ずかしい戦いは許されない。

 

『……あいも変わらず不憫な男よ』

 

(………?まぁ、観客席には黒ウサギとジャックがいた。なら飛鳥は新しいギフトを手に入れているはず。それを使われる前に勝負をつける)

 

ククルカンの呟きは理解できなかったので無視することにし、闘志と気迫、同士への期待感を胸に秘めて微笑む。もし初撃を凌がれればさほれは飛鳥が弱点を克服した証明。

 

それは友として嬉しくもあり、頼もしくもあり、驚異でもあり、愉しみでもある。

 

(それにスズのギフトはわかってる……スズの性格からしてこんな試合で"恩恵破壊者"(ギフトブレイカー)を使うことはまずない。なら対抗策も充分にある……大丈夫、私は負けない)

 

絶対の自信と策をその手に握りしめ、集中力を極限まで高める。

 

そしてその集中力が一瞬、彼女の周囲にあり得ない熱量を生み出すと共に闘技場の銅鑼と審判を任されたアーシャの喝采が鳴り響いた。

 

『それでは第一試合!

"ノーネーム"所属 久遠飛鳥!

"ノーネーム"所属 春日部耀!

そして我らの爆走ヘッド!優勝候補筆頭の一角!道を塞ぐ壁は天元突破のクレイジーガール!

"ウィル・オ・ウィスプ"所属 鈴蘭=T=イグニファトゥス───!!!』

 

雄々オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!と鈴蘭の紹介と共に立ち昇る大歓声。だがまあアーシャはその大歓声の理由を自身ではなく鈴蘭に向けて言っているのだと誤解しつつも、その盛り上がりに満足そうに頷き、右手を掲げて宣誓する。

 

『それでは此処に───"造物主の決闘"の開催を宣言します!!!』

 

 






次回予告

戦いはいつだって始まる。なにをきっかけにしようとも、なにを理由にしようとも。どんな戦いであろうとも、理由のない戦なんてありはしない。
好奇心だって理由となりうる。悪戯心も理由となる。ならばこの戦いはなんなのか。

■■■■■■。

炎の中、それは叫ぶ。必ず果たすと叫ぶ。全てはただ、■■のためだけに。

次回、悠久《うつろい》



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五話 悠久《うつろい》


軍神様の進路相談です!読みました。

あれです。孤独の狐のクライマックスは完全に出来上がりました。

案として別れるのが
竜胆くんが不幸な目に遭ってる最中耀ちゃんさんが気丈に振る舞う。
竜胆くんが不幸な目から脱出してから耀ちゃんさんとイチャイチャするか。

この二つに別れました。

イヤー、ドッチニシヨウカマヨウナー。




 

ギフトゲームが始まった途端、それは唐突に襲って来た。

 

「開幕ぶっぱはジャスティィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッッッス!!!行くぜ突撃ラヴハァァァァァァァアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」

 

「え!?」

 

「な、なによこのデタラメな熱量!?」

 

『なんとバカげた女子だ!いくらギフトゲームが死んだら死んだ方が悪いゲームとはいえ、こんな腕試しのようなゲームでいきなり殺しにかかるなど!?』

 

鈴蘭はいきなりどこからともなく機械仕掛けの杖を取り出すと、飛鳥と耀に向けて超、大質量の冥界の焔を放った。

 

しかもただの冥界の焔ではない。彼女のギフト"冥界の獄炎"(ハデスフロウガ)によって本来燃やせないものまで燃やすという概念を付加させられた脅威の一撃である。

 

「ちょ、スズ姐タンマァァアアアア!!?」

 

実況席にいたアーシャ達は攻撃遮断のギフトによってその焔こそ届かなかったものの、その余波と熱だけはそれを貫通するように届いて観客達を遠慮無く吹き飛ばした。

 

このようにふざけたような記し方でもわかるくらいに、否、そうとしか形容できないほどに鈴蘭の力はムチャクチャだった。

 

その様子は観客席から見ればどう見ても『鈴蘭が飛鳥と耀を一方的に消し炭にした』としかとれない光景だ。

 

それを理解したから、それを認知してしまったから黒ウサギは声を荒げて鈴蘭に向けて激昂し、彼女を糾弾せんとする。

 

「よ、よくも……よくも黒ウサギの、貴女の弟様の同士を───!!!」

 

「いえ、落ち着いてください黒ウサギ殿。アレ程度で死んでしまうほど、お二人ともヤワではありませんヨ!」

 

へ?と黒ウサギは思わず間抜けな声を挙げてしまった。

 

果たしてそれが合図だったのか、それとも偶然なのか。轟々と燃え盛る獄炎は、紗蘭という雅な鈴の音によって打ち砕かれた。

 

◆◇◆

 

あれから少ししてから結局殿下達と別れて闘技場まで足を運んでいたペストは目の前の事象に呆然となっていた。

 

最早、この現象は比喩でもなんでもない。

 

鋼鉄を燃やし尽くし、凍てつく氷を燃やし、炎すら燃やし尽くす焔は一瞬にして巨大な氷柱となり粉々になった。

 

「炎を……無機物ですら燃やし尽くす焔を凍らせた……!?まさか飛鳥が、」

 

そして視線を闘技場に落とし、再び驚いた。

 

闘技場に飛鳥の姿はなく、鈴蘭と耀の二人とは別に鋼の球体が聳え立っていた。

 

そのサイズはディーンと匹敵するサイズで何者も寄せ付けない堅牢で壮大な存在感を放っている。

 

「もういいわ。防護を解いて、アルマ」

 

『了解しました、マイマスター』

 

その球体の中から飛鳥の声が響き、同時にその球体も喋り出す。その瞬時、球体はその姿を力強く躍動し、威風堂々と稲光を漂わせる。

 

(山羊の……神獣!?それも稲妻を担っているなんて、並大抵の神獣じゃあない……!)

 

古来より雷は神霊の格の高さを現す象徴である。

 

"神鳴り"、読んで字の如くそれらの自然現象は太古から現代まで人類が支配することのできない唯一の事象である。

 

そんなものを従えるのはそれだけの力を持つという証明である。

 

(おかしい……あの山羊の神獣は明らかに飛鳥の実力を上回っている

飛鳥はどうやってあんな怪物を調伏したの……?)

 

「ペスト!どうしたのそんなところで!」

 

彼女の名を呼んだのは展示回廊で別れたジン達だった。

 

三人はペストに駆け寄るが、リン、エト、竜胆の三人がいないことに小首を傾げる。

 

「………?リンドウ達はどこに?」

 

「リンは事情があるって別れたけど、それは殿下の方が詳しいんじゃないかな?」

 

「大丈夫だ、把握している。リンのことだ、今頃神隠しの正体でも突き止めているところなんじゃないか?」

 

「ホントに!?」

 

「ああ、手掛かりを見つけたと言っていたからな」

 

「竜胆さんとエトさんは残念ながら……気づいたらいなくなってたんです」

 

「それに関してもあのエトのことだ。十数年ぶりに友と再会したのが嬉しくてその辺をほっつき歩いてるだろ……それより見てみろ。なかなか面白いことになってるぜ」

 

殿下は楽しそうに眼下の試合を観る。その先にある光景は───

 

◆◇◆

 

(もうっ……凍らせる宝珠は燃やす宝珠よりも値段がバカにならないくらいぼったくりだっていうのに、いきなり使わせてくれたわね……!)

 

飛鳥は山羊の神獣───アルマテイアを従えながら軽く毒づく。ただでさえ(竜胆というでかすぎる収入源があるとはいえ)ノーネームで資金稼ぎに難のあるコミュニティに属している彼女からすればできれば使いたくなかった一手。それをこうも容易く使わせるとは流石は竜胆に聞いていた通りネジがぶっ飛んだ姉、そして金銭感覚の無さ。

 

先程の圧倒的火力も相まって飛鳥は人一倍彼女を敵に回さなくてよかったと色んな意味で思った。

 

(それより春日部さんは!?)

 

飛鳥はそこでハッとなって耀のいた場所に目をやる。

 

「………」

 

どうやら飛鳥の心配は杞憂だったようだ。だが飛鳥はその杞憂が一瞬にして驚愕に変わった。

 

「春日部さん……!?」

 

「……ふぅ、」

 

飛鳥の驚愕は尤もだ。なぜなら耀は今、()()()()()()()使()()()()()()()()()()

 

にも関わらず、彼女の身体には傷一つついていない。

 

「か、春日部さん……どういうことなの、それ!?」

 

「それは……秘密。ちょっと飛鳥にも言えない事情がある」

 

耀はそう言いながらも内心この事には自分が一番驚いていた。

 

(ク、ククルカン……聞いてないよ、貴方の力がこんな凄いものだなんて)

 

『くくく、言うわけなかろう。我は汝のそういう阿呆のように呆然としておる顔が見たかったのだ。どうだ、これで汝も少しは我の偉大さを理解したであろう?』

 

ククルカンは悪戯っぽく笑う。そんな彼の声に耀は少しだけ辟易しつつもそんな感情がバレないように必死にポーカーフェイスを作っていた。

 

『特に我の力は炎。炎を扱うモノとして冥界神程度の副産物としての焔なぞに燃やされてたまるものか』

 

ククルカンは自慢半分にまるでバカにされたようにケッ、と吐き捨てる。

 

『まぁ、ほぼ強制的とはいえ我が力を貸しておるのだ、勝って魅せよ、ヨウ!』

 

「……わかった」

 

最後の一言は小さく口に出しながら頷く。

 

「……さて、鈴蘭さん。もうこの際貴女の悪癖に関しては気にしないことにするけど……答えてもらうわ。なぜこんな燃やせないモノすら燃やす危険極まりない焔をなんの躊躇もなく放ったのかを」

 

耀もこれにはコクッ、と頷く。ククルカンという不確定要素の塊がいたからなんとかなったものの、もしそれがなかったらあっさりと灰の

カタマリへと変貌していたことは想像に難くない。

 

「んにゃ?……危険?」

 

鈴蘭はそんな問いに対して『まるで意味がわからんぞ!』とでも言うような顔を見せる。

 

「にゃはは!ジョーダンでしょ飛鳥殿!なーんでこの程度の炎が危険極まりないのだい?」

 

あっけからんと、そんな事を言い出す。これには思わず二人共返しの言葉に詰まってしまった。

 

「……そ、そうね。あの程度の焔ならなんともなかったわ」

 

「と、当然。あの程度の焔なら、なんともなかったし」

 

『内心超ビビっていながら何を言うか。汝が過剰にビビってたせいで精神が繋がっている我もビビらなくていいのにビビってたのだぞ』

 

(うるさい)

 

煽ってくるククルカンに内心一言。本当に鬱陶しそうなのでさすがにククルカンは押し黙る。

 

そんな耀の心情はいざ知らず、鈴蘭は煽っているかと思われた台詞から一転、ふざけた口調だけ残して真面目な表情を作る。

 

「……まーさ、私初めて会って"ヒッポカンプの騎手"で耀ちゃんさんと手を合わせた時から思ってたんだけどぉ……なんつーか、過小評価し過ぎじゃね?」

 

「え……?」

 

「別に私が二人を過大評価してるわけでもないし、可愛い可愛い弟の私とは別の家族だからちょ〜っと贔屓してる、とかそんなのは全然ないんだよ?でもね、二人共やっぱり自分に自信がないように見えるんだよ。世の中楽〜に生きなきゃ辛いよ?イザちーみたいに楽しみたいこと楽しみ尽くしてさぁ、リンみたいに硬いこと考える必要なんかないんだって」

 

自分もそうだったから、と内心一言付け加える。死んで幽霊になって、ウィラと出会って箱庭を知って……忙しさを彼女なりに感じてはいた。生活に慣れてその忙しさがなくなったその瞬間、彼女はとてつもない後悔に苛まれた。

 

もしあの時生きていられれば、弟にあんな涙を流させる必要なんかなかったのではないか。あの時、なにがなんだかわからないうちに全てを失った日で、原因を知ることができていればこんなことにはならなかったのではないか。

 

そんなできるはずもないことを彼女はただ弟が心配だから、弟が世界で一番大好きだからという理由だけでできていたのかもしれないと自分の首を絞めていた。

 

日に日に焦りが出て来てコミュニティに迷惑をかけていると感じ、サボりと嘘を言って火龍誕生祭で生き甲斐だった弟がいないのならいっそのことこのままコミュニティを抜けてまた死んでしまおうかとナーバスになっていた頃、偶然ステンドグラスを眺めていた竜胆()を見つけた。

 

それは正に天命だった。今すぐその場に出て行って抱き締めてあげたいとも思った。だが、その時に彼女は知ってしまったのだ。

 

高町鈴蘭の知る高町竜胆はあの日からまるで時間が止まってしまったかのように死んだ瞳をしていたことを。

 

それから葛藤して、自分の魔法で"アンダーウッド"でまた会えると知って……そこに行くのが怖かった。

 

果たして再会した弟は自分のことを姉と呼んでくれるのか、そもそも死んでから物理的な時間が止まった自分は姉と呼べるのか。そんな悩みを抱えたままジャックに竜胆のことで呼ばれて"アンダーウッド"に向かっている際の魔王の襲来。否が応でも彼女は"アンダーウッド"へと全速前進しなければならなくなり、ギフトゲームを終えてからジャックに『どうやら彼の肩の荷は降りて昔通りの彼に戻ったようですヨ!ヤホホ!』という一言を聞いた時は心底安心して、自分も昔の自分に戻れた気がした。

 

「……そう。貴女達のおかげなんだよ。弟を……リンと私を助けてくれたキミ達にはね。だからこれは私からの御礼!私は手加減できない性格だし、ギフトも火力調整なんてことできないから遠慮無くかかってこんかいッ!」

 

「当然よ……私達がなんで貴女を助けたのかは知らないけど、相手からの誠意は全身で受け止めるわ!」

 

「勿論、私も全力全開。だからスズも最高の力で私達と戦って」

 

「おうおうおk!私はそーいうの大好きだかんね!さースイッチ入れ直して頑張るよ!」

 

そしてその瞬間、事態は一変した。

 

◆◇◆

 

「お前……どこかで僕と会ったことないか?」

 

時は少し遡り、黒ウサギ達と合流したペストは改めて三人の試合を見ていた。そしてその試合がいい感じに白熱してきた頃、飛鳥の負けっぷりを見るためと言ってジャックについて来ていたルイオスは殿下に向けてこう言った。

 

「そうかもしれないな。会ったことがあるとすれば俺のコミュニティは商業コミュニティだから、なにかの商談の途中で顔を見た程度じゃないか?」

 

「ああ、うん。そんな感じの記憶。思い出しそうで思い出せない……どこか大きな商談の時に会った覚えがあるような」

 

ルイオスはどこだったかなー、と呑気に考える。その姿を見たジンはなにかの確証に至ったようにルイオスに話しかける。

 

「あの、ルイオスさん」

 

「あん?どうしたんだよ」

 

「いえ、それってもしかして───()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃないですか?」

 

その瞬間、その場にいた人物、殿下を含めた全員に戦慄が走る。殿下とペスト以外の人間からすればレティシアを"ペルセウス"に売ったコミュニティなどとあるコミュニティを除いてあるはずもなく、殿下とペストからすればどうやってその答えに行き着いたのか、という意味での戦慄だ。

 

(ジン……一体いつから……!?)

 

「お下がりくださいサンドラ様!この方が本当にジン坊ちゃんの言う通りの人物ならば、彼は間違いなく'"魔王連盟"の人間です!早く憲兵団を呼んでください!」

 

黒ウサギが殿下からサンドラを守るように立ちはだかる。サンドラは一瞬惚けたように殿下を見ていたが、すぐに自分が友情程度に流されてはいけない"階層支配者"という立場にいることを思い出す。

 

「……"箱庭の貴族"様!彼を捕らえておいてください!すぐに"サラマンドラ"の憲兵団を呼んでくるから!」

 

サンドラはまるでそこにいたくないかのように闘技場の外へと飛び出した。殿下はその一部始終を見守ると少しだけ笑みを浮かべる。

 

「コイツは驚いた……まさか感づかれていたとはな。参考までにいいかジン?お前はどうして俺とリンが魔王連盟の人間だと気付いたんだ?」

 

「……その口ぶりからするとエトさんは無関係みたいだね」

 

「それに関してなら俺達とは違うコミュニティの人間と言ったはずだぜ?」

 

殿下の言葉を聞いたジンは暫く声を貯め、ゆっくりと吐き出す。

 

「……怪しいと思ってたのは最初からだよ。リンは最初僕らと会った時にペストに対して『久し振り』って言ったよね。ペストは隷属してからほぼ毎日僕と一緒にいたからね。その彼女がその期間の間に僕の知らない交友を広げることなんてできない……だとすれば、彼女とキミ達が知り合ったのは彼女が魔王だった頃しかないんだ」

 

「……なるほど。まさか最初の時点でそこに至っていたとは。俺のケアレスミス……いや、そっちのファインプレーか。マーベラスだジン。大正解」

 

殿下はジンの言葉に関して全てを肯定し、そしてすぐに思い出したようにジンに次の話題を振る。

 

「そうだ、もう一つ教えてくれ」

 

「……何?」

 

「ジンは一体何処まで気が付いている?俺にはお前が今回の"神隠し"の解釈を間違っているようには思えない。……本当は見えてるんじゃないのか?"神隠し"の真実が」

 

純粋に好奇心のままにジンを見つめる殿下の瞳。その眼を見つめ返したまま静かにジンは語った。

 

「……いいや。違うよ。あれはあれで一つの推理、一つの解釈。今回の"神隠し"を起こしているのは恐らく西遊記の"混世魔王"。"斉天大聖"(天に斉しき者)に恨みを持つ者が弟分の蛟劉さんを襲うことはなんら不思議じゃない。だからきっと、"混世魔王"の狙いは()()()蛟劉さんだったはずだ」

 

混世魔王の通説は孫悟空の故郷から子猿ばかりを攫い続ける人攫いの猿鬼……が、実のところはその霊格は"放蕩心"……思いのままに生き続ける心の化身である。西遊記という混沌極まる混世で人の心の隙間に漬け込み"一事無成"、一事も為すことのない魂へと変質させる。

 

これは大人を緩やかな堕落へと誘い混世を築き、子供の放蕩心を増長させることで親から孤立させる力を持つ。

 

これが、"未熟な子供の神隠し"の真実である。

 

一通り話したジンは改めて殿下にその視線を送る。

 

「……殿下。僕達は今日、これにとてもよく似た境遇の女の子と共にいたよね?」

 

「ああ。そうだな」

 

最早隠す素振りも無い。それはもうジンがその女の子の正体を答える必要もないことを如実に示していた。

 

「殿下……キミ達の狙いは"混世魔王"とコンタクトを取ること、そしてその力でサンドラを"神隠し"に遭わせることだ……!!」

 

「ブラボー、百点満点だジン。まさかそこまで見抜いていたなんておもいにもよらなかった。本当に見直したぞ」

 

高らかに嗤いを挙げながら面白かったという感情を有りっ丈の全てを使う殿下。

 

その二人のやりとりを隣で聞いていたペストは蒼白になりながらもそもそもの顛末を顧みていた。

 

(それじゃあサンドラは宮殿から抜け出したんじゃなくて……"神隠し"の被害者として仕立て上げさせるために宮殿を抜け出させられていたってこと……!?)

 

もしあの宮殿で出会っていなければ今頃サンドラは"神隠し"の被害者として姿を消していた。招集会の主催者たる彼女がいなくなれば"サラマンドラ"の空中分解は明白。主催者達の連携も取りづらくなる。

 

あの時サンドラに出会えたのは正に奇跡のような巡り合わせだ。

 

(リンドウが二人を甘やかしていた以上話しかけるタイミングなんてなかった。ジン……まさか、一人でここまで考えていたなんて……!)

 

「……殿下。今すぐ投降してほしい。この状況がどうにかなると思うほどキミは愚かじゃないハズだ」

 

「ふぅん。投降、ねぇ」

 

殿下は嗤いを噛み殺しながら周囲を取り囲む人物達を一瞥する。

 

"ペルセウス"の頭首、ルイオス。

 

"ウィル・オ・ウィスプ"の参謀、ジャック。

 

"箱庭の貴族"である黒ウサギ。

 

"ノーネーム"に下った元魔王ペスト。

 

一通り確認するとふっと、悪戯を思いついたように笑った。

 

「そうだ。取引しようぜジン」

 

「……取引?」

 

鸚鵡返しな返したジンに対して妙案を思いついたというような笑顔で───

 

「全員、生かして帰してやる。だからジンとペスト、それとこの場にいない竜胆は俺の軍門に下れ」

 

 





前書きの案は結局どの案も竜胆くんがスーパー不幸な目に遭ってその不幸の内容は全く変わらないというファンサービス込みですがね!

というわけでラストエンブリオ編を書くとしたらの予告編っぽいのどうぞ。





瞳を開いた。

場所はわからない。自分が何者かなんて曖昧すぎる。

それでもきっと、きっと記憶の奥底にいる顔も見えない"あの人"ならきっとこうする。僕は"あの人"になりたい。名前も知らない"あの人"に。

だから僕は名前がない。"あの人"を追い求めて、自分でも"あの人"でもなくなった僕は何者でもない。

だけど、それでも僕を名前で呼びたいのなら。

それなら僕のことは、ブルームと呼んで欲しい。

待ってて"あの人"。僕はアナタになる。アナタに僕は、なりたいんだ。






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六章 最終話 疑惑《ちかい》



というわけで六章最終話です。今後重要になる要素があるので話を詰め込んだら一万文字超えてました。

それでは本編、どうぞ。




 

 

ドゴン、そんな音が数秒跨いで二回響いた。

 

発生源は三人が戦っている舞台ではなく、その観客席。

 

当然そんな音を出してしまえば戦っている三人含め、誰もがそちらに目をやってしまう。

 

その光景は圧巻の一言に尽きた。

 

"月の御子"と称され、"箱庭の貴族"として名だたる黒ウサギが"マハーバーラタ叙事詩"より召喚した不死を与える鎧を召喚し、その上で重傷を負わされていたのだから当然だ。

 

「───よくもっ……!」

 

「私たちの黒ウサギを!!」

 

その光景を見た途端、耀と飛鳥は試合そっちのけで黒ウサギを撃沈させた男───殿下に向けてその"牙"の矛先を向けていた。

 

「待って二人とも!その白髪ボーイ、なんか変だ!」

 

『待たぬかヨウ!いくら我の力の断片を受け取った汝でもあの者の純粋な腕力には勝てぬ!そもそも、汝がここで死んだら我はこれからどうすればいいのだ!?なにも為すことなく天に連れ戻されるとか恥どころの問題ではないぞ!?』

 

「うるさい!それはククルカンの都合だ!これは私の都合なんだ!」

 

二人に静止の言葉を投げ掛ける鈴蘭とククルカンを完全に無視して二人は殿下に迫る。飛鳥はギフトカードからディーンの腕を召喚して殿下を挟むように両の拳を動かす。

 

「握り潰しなさい!ディーン!!」

 

ディーンの身体を構成する神珍鉄が高速で伸び、殿下の身体を潰さんとするが、殿下はそれを飛んで軽く躱す。

 

「くらえっ……!」

 

しかしそれを読んでいた耀が"アフーム=ザー"とククルカンの灼熱を帯びた蹴りを殿下に向ける。

 

それに対して殿下は真正面から受け止める。腕が煉獄に焼かれているはずなのに殿下の腕は一切力が揺るがない。

 

「へぇ、さっきから気になってたが、お前のその力は明らかに"生命の目録"のモノだけじゃないな。地獄の焔をものともいなかったということは……炎の神性があるな。なら副産物の焔に焼かれないのも納得だ」

 

「っ!知ったような口を……!」

 

「その反応は是と受け取るよ。なら現状一番厄介なのは……神格持ちのお前か!」

 

殿下の蹴りが耀の身体に炸裂する。無論、これをマトモに受ける程耀は生温くない。アフーム=ザーの炎を自分の前面から前に向けて噴射することで強引に身体を動かして殿下の攻撃を避ける。

 

「顕現……"イタカ"!」

 

続けて大気を操るイタカの力を引き出して足に纏ったままの炎をマシンガンのように撃ち出す。殿下はそれに対して腕を振り、ハリケーンに迫る風圧を作り出すことで掻き消す。

 

「やるな……"生命の目録"で顕現できるのは幻獣だけだったはずだが、アフーム=ザーもイタカも眷属とはいえ神性であるのは違いない。となるとお前に力を貸している"ナニカ"の助力か。ギフトを特定されるような行動を取るのは悪手だぜっ!」

 

殿下はハリケーンの中で腕を突き出す。その腕から発せられる風圧は今度は一点集中、マグナム弾のようにハリケーンを突っ切って来た。

 

「くっ……!まずい」

 

「守りなさい!ディーン!」

 

『DEEEEEEN!!』

 

それが直撃する直前、飛鳥の指揮によってディーンの腕が二人の間に割って入る。

 

「神珍鉄の巨人……コイツも相当の霊格を持った龍角を持っているだけに厄介さはその辺の同物とは比べ物にならないな。だがいくら指揮者の力が強力で人形も強力だろうが、扱いが下手じゃまるで意味を成さない!!」

 

殿下は耀を守ったことで関節的に弱い部分を露出させてしまったディーンに向けて渾身のパンチを繰り出す。が、流石に新品同然に生まれ変わったディーンはそれでは壊れることはなく、多少蹌踉(よろ)めくだけで済んだ。

 

が、その蹌踉めきが命取りとなった。その一瞬だけあれば結構とでも言うように殿下はディーンの身体を足場に飛鳥に迫り、そのままドロップキックを放つ。

 

「させない!」

 

それを耀がすんでのところで割り込んで殿下の攻撃をガードする。が、その行為だけで耀は飛鳥ごと吹っ飛ばされ、一気に逆の観客席にまで飛んでコンクリートに似たような素材でできた壁にめり込む。

 

「『ぐっ、あっぁ……!?』」

 

「が、ふっ……!」

 

耀と全ての感覚を共有しているククルカンからもその苦悶の声が聞こえてくる。致命傷というほどの傷ではないが、間違いなくこれは暫く動くことさえままならないほどの手傷を負わされた。

 

───マズイ

 

三人はほぼ同時に同じ言葉を心の中で愚痴った。このままでは間違いなくやられる。そう、確信してしまった。

 

「参ったな……二人ともウチに欲しい人材なのに……俺、手加減とか苦手なんだよ……」

 

ちぇ、と殿下はジンとペストが驚くくらいに年相応の表情をする。まるで玩具を手にして、その玩具がすぐに使えなくなってしまいそうと危惧したような、そんな顔を。

 

「っ……アルマテイア、ディーン。ぶっつけ本番だけど、やるわよ」

 

『DEN』

 

『はい、マイマスター』

 

「……ククルカン。私にもっと力を譲渡して」

 

『……こんな無茶振りはゴメンだが、背に腹は変えられんか。一気に与えるからな、ぶっ倒れても我は知らぬぞ』

 

「……それはククルカンも一緒に死ぬことだから、そんなことは起こらないよ」

 

『……たく、汝は何故そんな無駄なところだけ鋭いのだ……いや。どうやらその必要はなさそうだ』

 

ククルカンの呟きに耀は思わず振り返る。その姿を見た耀はどこか安堵したような……まさしく、あの鷲獅子と戦った時と同じモノだった。

 

「……彼らが、来た」

 

「え……?」

 

耀の呟きを聞いた飛鳥は思わず耀の見つめる方を見る。そこには静かに、確かな怒りを持っている少年が二人。

 

逆廻 十六夜と高町 竜胆が、そこに聳えていた。

 

◆◇◆

 

「……オイ、竜胆」

 

「なんだ、十六夜」

 

「……三人をやったのは、アイツか?」

 

「……想像はできていたが、いざとなるとクるモノがあるな。間違いなく、殿下がやった」

 

「……そうか」

 

十六夜はそれだけ言うとその視線を殿下の方へ向ける。

 

「……オイ、クソガキ。黒ウサギをやったのは、お前だな?」

 

「ああそうだ。俺がやった」

 

十六夜の質問に殿下は物怖じ一つせずに即答する。その言葉だけを聞くと、十六夜はその薄ら笑いすら浮かべなかった顔を、普段の彼にあるまじき()()()()()を殿下ひ向けていた。

 

「そうか……なら遠慮はいらねぇな。白髪鬼ィ!!」

 

怒号と共にその山河を打ち砕く蹴りを殿下に向けて一切の容赦無く振り抜いた。

 

「ガッッ……!?」

 

殿下のガードをいとも容易く打ち破り、意識が一瞬飛びかける。だがそれでも渾身の力を以って踏みとどまる。が、その一箇所に留まるという行為は殿下の首を絞めた。大人しく吹っ飛ばされるべきだったのかもしれない。

 

僅かにでも距離を開けれれば、十六夜に捕まることだけはなかった。

 

「貴様……!?」

 

殿下は全力を込めてその腕から脱出しようとしたが、その程度のモノでは今の、怒りでいつもよりも力のリミッターを無意識に外していた今の十六夜に対して微動だにできなかった。

 

それだけではない。仮に殿下が十六夜の手から脱出できていても、完全にその後になにをする事もできない状況にあった。なぜならば。

 

「……殿下。やっぱりキミは、()()()の人間だったんだね」

 

竜胆だ。"人類の希望"(ア・ヒューマン・オブ・ホープ)のギフトで右腕をスティムパリデスの鋼を応用して日本刀のカタチに変えて殿下の首元にそれを抑えていた。

 

それだけではない。かつて彼が持っていた"呪術"と"玉藻の前"を一つに統括した"太陽神の表情"(アマテラスの顔)で周囲の鉄鋼物を強引に結合、武器のカタチとして形成。呪術で浮遊させて座標を固定する。

 

「ツモだ殿下。キミの……いや、お前の目的を話せ。じゃないと殺す。これは……脅しじゃない」

 

竜胆はかつて自分自身に向けていた、あるいは世界の全てに向けていた呪いの象徴とも言える殺意をはっきりと殿下に向ける。

 

「……いや、どうやら俺が話すことはなさそうだ」

 

「……なに?」

 

次の瞬間、殿下の姿は綺麗さっぱりと消えた。

 

「消えた……?」

 

「コイツは……あの時の"神隠し"か?」

 

「正解だよ金髪の少年。まったく、キミは地の力が強大な上にそれだけ博識とは厄介極まりないよ」

 

声が聞こえた方向にはシルクハットと燕尾服を身に纏った青年と先程消えた殿下の姿があった。

 

「全く、厄介極まりないと思わないかね、軍師(メイカー)殿」

 

「うるさい。今は話しかけないで」

 

その男に話しかけられると、どこからともなく、リンが現れて殿下に跪く。

 

「……殿下の様子はどうです?アウラさん」

 

「問題ないわ。派手に怪我をされていますが、致命傷は一つもありません。紙一重で全ての急所を躱していた

ようです」

 

『当然だ。この方は我らが旗を背負う旗頭。どこぞの馬の骨にやられるほどやわではない』

 

リンとも男性とも、殿下とも違う二人の声を聞いて竜胆ははっとなる。

 

この二人の声を、憶えている。一寸のズレもない彼自身の記憶の中にはっきりと刻まれている。

 

「"アンダーウッド"の時の鷲獅子……!それに、その声は俺の"罪"を目覚めさせた時の!」

 

『貴様……あの時のキマイラの小僧か!?』

 

竜胆が意外な人物との再会に戸惑うものの、殿下はアウラに血を拭われ、ゆっくりと立ち上がると十六夜と竜胆を一瞥する。

 

「……リン。最強種を倒した男っていうのは、あの男か?」

 

「そうだよ」

 

「……そうか。それならヤツも"原典"(オリジン)候補者か……グライア、お前を倒したというキマイラはアイツ……竜胆で間違いないんだな?」

 

『間違いありません』

 

殿下は静かに十六夜を見下ろし、十六夜もまた怒りの矛を収めながらも黄昏の空を背負う彼らを睨む。

 

「……ハハッ、凄い偶然だ。"生命の目録"と"原典"候補者。あまつさえアイツの言う"RiZE"が同じコミュニティにいるなんてな……欲しいモノからホイホイ飛び込んでくるなんて順当に物事が運びすぎだ。なにか俺バチでも当たっちまうかなぁ?」

 

『それこそ殿下に覇道を成せという天啓……いかがいたします?殿下が望むのであれば、我らはいつでも』

 

「まぁ待て。今日のところは一度退く。"サラマンドラ"の警備隊の連中も来ていることだしな」

 

殿下が指差した先には数多くの火龍が群れをなしていた。闘技場のすぐそこには騒ぎを嗅ぎつけた憲兵団とマンドラもいる。

 

「このままぶつかり合うのも面白そうだが……折角混世魔王という駒を手に入れたんだ。それにここは箱庭。こういうのはギフトゲームで決着をつけるべき、趣向を決めて遊ぶんだよ……手筈は整ってるんだろ?リン」

 

「うん。混世魔王さんはいつでもギフトゲームを始められる段階にあります」

 

「そうか。それならやり残したことは……いや、一つあったか」

 

子供染みた悪戯を思いついたように殿下はニヤリと笑う。竜胆を一度見て視点を変える。その先にいたのは、ジンとペスト。

 

「ジン、ペスト。派手にやっちまったが、どうやら無事だったようだな」

 

「っ、殿下……!」

 

唐突に名を呼ばれたので二人は思わず戦闘の体勢をとる。それに反応するように魔王連盟は体勢をとるが、殿下がその行為を止める。

 

殿下は竜胆とジン、ペストを見ると涼やかな笑みを浮かべわざとらしく声量を上げて、周囲にハッキリと聞こえるようにそれを言い放った。

 

「今日は楽しかったぞジン!ペスト!そしてリンドウ!今日一日のことは忘れない!例の保留にした、()()()()()()()()()()()を、よくよく考えてくれ!」

 

「「「なっ……」」」

 

思わず三人は息を呑む。しかし、同時に気づいた。既にここには多くの憲兵団が集まっている。それに加えてもう三人が殿下とリン、サンドラと共に一日を共にしていたことは多くの人に知れ渡っている。

 

このままではジンとペスト、それに"ノーネーム"の主戦力である竜胆には間諜の容疑に掛けられて行動を制限されることは想像に難くない。

 

「殿下……キミは……!」

 

「と、芝居掛かって言ってみたが、どうだ?一本取り返したぞジン」

 

そしてその無邪気な、悪意が一切欠片も感じられない殿下の態度によってこれは先程の、殿下の正体を看破したことへの意趣返しだとあうことに気づいた。

 

あまりにも無邪気、その行きすぎた仕返しにジンは冷や汗と共に肩を落とす。

 

「キミは……最悪だ」

 

「自覚はあるよ」

 

そう返す裏に、リンもペストに微笑みかける。

 

「私は楽しみにしてるよペストちゃん。貴女がもう一度魔王連盟に戻って来てくれるのをね」

 

「……そう。だけど残念ね、その誘いは正式に断らせてもらうわ……私は、"黒死班の御子"(ブラック・パーチャー)は魔王連盟と完全に縁を切る。今後顔を合わせるとしたらそれはもう戦禍の中よ。……次はきっと、容赦しない。会いに来るならそのつもりで来なさい」

 

「そう……なら見届けてあげる。八千万の怨嗟の声は、星の宿命を変えるに値するのかどうか。その夢が破れた時こそ、貴女はもう一度魔王になる、その時になって悔やむがいいよ、ペストちゃん」

 

予言のように告げるとリンはペストに背中を向ける。それはもう、トモダチとして語ることなどもうないということを暗に表しているのであろう。

 

「さて、竜胆……お前だけなにも喋れてないな。なにか一言だけでももらおうか?」

 

殿下は憎たらしい笑みを竜胆に向ける。だが竜胆はそんな殿下の笑みを完全に無視して、見上げているはずの彼は殿下達を見下ろすように見ていた。

 

「お前達に話すだけの価値があることなんてミクロもない。さっさと失せろ……!」

 

「怖いな、可愛い顔が台無しだ。まぁ、決着は後日にでもつけようじゃないか」

 

その言葉と共に殿下達は再び男性のギフトで消えた。

 

かくして、この永遠にも似た数分は幕を降ろしたのであった。

 

いくつかの、出会いと再会の音色と、悠久のような暗雲と疑惑を遺して。

 

◆◇◆

 

"煌焰の都"サランドラの宮殿・地下牢。快晴の昼とは一変した曇る夜空の中から見える三日月を鉄格子越しに、ペストは独り寂しく見上げていた。

 

「……ま、"煌焰の都"はペンダントランプが明るすぎて星明かりが見えないらしいけど」

 

───暖かな気候と夜の輝きが、太陽と同じく自ら輝きを放つ星明かりを文明の光が消している姿は太陽の光が弱まったことで死んでいったカノジョタチにとって最高の皮肉だった。

 

「……でも、これからどうしようかな……」

 

幼い膝を抱えて蹲る。一時的な処置として、あくまでカタチだけのものとしてペストとジン、そして竜胆は地下牢に入れられていた。

 

だとしてもあんまりだ。

 

「……流石に、ちょっと早まったかもしれないわ」

 

あの時ペストはリン達に勢い任せで宣戦布告をしたが、彼女がどう太刀打ちしようとも自分では足元にすら及びもしない相手だということはよくわかっている。わずかな勝算すらなく、出逢ったが最後、ペストはいとも簡単に死んでしまうだろう。

 

八千万の怨嗟に応えられず消滅すれば永遠に糾弾にさらされ続ける。

 

(………)

 

それが怖いというわけではない。

 

だが、彼女には箱庭で為さねばならないことがあった。

 

「……当然か。大流行の理由に太陽の周期が絡んでいたのだもの。人の力じゃどうすることもできない」

 

黒死病の死を縛る宿命はとても強固だ。

 

だが、箱庭とは"可能性(いせかい)に偏在する空間"。ならばペストは太陽に復讐することで黒死病の大流行の楔を引き抜くことが可能ではないかと。カノジョタチを箱庭に呼んだあの男の哄笑と言葉を思い出す、わ

 

「……まぁ、ソイツはその後誰かに殺されたみたいだけど。おかげでステンドグラスに閉じ込められたまま、何百年も倉庫で埃を被ることになったんだけど……」

 

言葉で言うだけなら簡単だ。だが黒死病の年代記には魔女狩りのような行いをして黒死病患者を見つけて殺していたともされている。

 

これだけ大規模の"歴史の転換期"(パラダイムシフト)を引き起こそうものならそこに関与している英霊達が黙っているはずがない。一部の魔王も牙をむくかもしれない。

 

「黒死病の運命を変えたい……でも、ジンや飛鳥、リンドウに相談したところで……賛同なんてしてくれるわけないわ」

 

「そんなことないよ」

 

ひゃあ!?と彼女らしくもないみっともない声を上げてしまいそうになる。

 

どうやらその声の主はジンのようだ。隣の牢屋に放り込まれていたらしい。

 

「し、信じられないっ……!聞こえていたのならもっと早くに声を掛けるのが礼儀でしょう!?」

 

「ご、ごめん。本当は途中で声をかけようかと思っていたんだけど……どうもそんな空気じゃなかったから……」

 

「……すまないペスト。俺も聞こえてた」

 

「っ!リンドウまで……!っ、で、どこから聞いてたの?」

 

「ええと、"煌焰の都"は星明かりが見えないってところからかな」

 

「同じく」

 

「全部じゃない!」

 

もー!とペストは毛布を床に叩きつける。壁越しでなければ真っ赤な顔をしたペストに二人はなにをされていたのかたまったものじゃないだろう……

 

「悪かったって……で、さっきの話だ。俺は別に反対しない。多分十六夜達も手伝ってくれるだろ」

 

「うん。それは僕も」

 

「……それはどうも御親切に。でも安心して。私は自分の力でどうにかするって決めたの。"ノーネーム"には迷惑かけるつもりもないわ」

 

突き放すように告げるペスト。普段のジンならそこで言い淀んで終わるだろうが、今日の彼はなぜか諦めが悪かった。

 

「……わかった。ペストがそう言うなら何も言わない。でもその代わりと言っちゃなんだけど、一つ聞かせて欲しい」

 

「なに?」

 

「ペストは、どうやって死んだの?」

 

途端、先ほどまでの雰囲気は激変した。壁越しに伝わる怒りと殺意はジンに向けられ、壁がなければ殺されていたかもしれないほどの殺意を向けられている。

 

「……心外。どうして貴方がそんなことを問うの?私の呪いはそんなに根深く見えたの?」

 

「ううん。そうじゃない。でもさっきからペストらしくないくらい元気がなかったから、もしかしたら牢屋が怖いんじゃないのかなって」

 

「……っ……!」

 

本当に、今日のジンは嫌なくらい鋭い。カマをかけられていたのか、どんな基準で見抜いたのかは知らないが。

 

「もしもそうなら僕の方から口添えして先に出してもらうようにしてもらうよ。いつ襲撃があるかわからない以上、"サラマンドラ"は猫の手も借りたい状況の筈だ。なんとか口裏を合わせて先に出るのは難しくはないはず」

 

「いいわよべつに。……その、牢屋は少し苦手だけど、こんな寂しいところにマスターと達観した性格に見合わないくらい子供なトモダチを置いていくほど薄情者でも不忠者でもないつもりよ」

 

……彼女自身、忘れてしまいそうなほとの時を旅してきたが、それでも死の冷たさは魂に根付いているのだろう。鈴蘭が自らが操るはずの焔に処置無く見ると発狂してしまうことと同じように。

 

二人は暫く言葉を交わさず、竜胆も二人を見守るように静かにしていると、不意にペストが降参したように呟き出した。

 

「……ジン」

 

「なに?」

 

「悔しいけど正解よ。……私は黒死病に罹った後、家の牢屋に閉じ込められて死んだわ。伝染を恐れた父によって」

 

「………」

 

「感染ルートを洗い出そうとして躍起になった父は当時私と仲の良かった農奴を皆殺しにした。男女、子供老人……なにもかも見境なくねわ、今になって思えば本当に馬鹿ね。黒死病の感染ルートは蚤や血液からだってことも知らずに。おかげで農奴を追い回して処刑した人もそれに参加した父も、みんなみんな、みーーんな、纏めて感染して一族郎党あっという間に全滅よ。滑稽、救いがないと思わない?」

 

アハハハハ、とあの時の正気を失った父の瞳を強引に忘れるように、嫌悪と憤怒、そして果てない哀しみを込めて空笑いをする。

 

「……死の間際にね、父にも聞こえるように牢屋から叫んでやったわ、『死ね、死ね、みんな死んじゃえ。私を殺そうとする者全部、私達をここからいなくなるようにする者全て、幾万回生まれ変わろうとも無残に、残酷に、滑稽に、誰の救いもなく憐れに死んでしまえ』……てね。そしたら本当に死んじゃった。そのおかげで私は小さな霊格を得たの。呪いの成就っていうの?悪霊としてはそこそこ強力な霊格だってリンが言ってたわ」

 

「………、」

 

「それからかな。死後特にやることもなくヨーロッパをふらふら歩き回ったわ。そしたらあちこちに似た様な境遇で死んだ人がいてね。その人達は浮遊霊みたいなものなんだけど……なんだか寂しそうに生きている人達を眺めていたから。その姿が見ていられなくて手を引いたらいつの間にかヨーロッパから出て数百年も旅をして……気づけば総勢八千万の大所帯、というわけ」

 

はい身の上話おしまい。

 

そんな風に言い終わったかと思うと、ペストは思い出したように次の話題を取り出してきた。

 

「……そう言えば、そうして旅をしている時に一度だけ、私が見える子供に出会ったこともあったわ。その子は『お母さん、お母さん』って母の名前を呼んでてね……興味があったから話しかけてみたの」

 

「……それで?」

 

「男の子なら泣かずに前を見なさい、て励ましてあげたんだけど、困ったことにそんな事を言った私に母を重ねたのか余計泣き出しちゃってね……その子と会う前に引っ張った子に貰ったオルゴールをその子にあげたのよ。そしたら意外も意外、その子は途端に泣き止んだのよ。それから私はみんなに呼ばれていたからすぐにその子と別れたけど……その後になってネジを渡すのを忘れていたわ。泣き虫は治ったのかしらね」

 

「……え?」

 

ペストの言葉に今まで二人の、正しく言うとペストの独白を聞いていただけだった竜胆が反応を返した。

 

「……ペストそれって」

 

「そうね……聞くまでもなかったかしら。また会った時はそれから箱庭に呼び出されてステンドグラスに封印されて、それが解放される少し前。見違えるくらいに皮肉屋になって、なのに心の底は前となにも変わらない真っ直ぐな子になっていたわ……リンドウ」

 

「……お前、だったのか」

 

「そうよ。もっとも、証拠品のネジは箱庭に来るときに呼び出される触媒にされてなくなったけどね」

 

ペストは今度こそこれでおしまいよ、と言うと沈黙し、竜胆とジンもしばし黙り込むが、ぽつりと今度はジンがつぶやく。

 

「知らなかった……ペスト、優しかったんだね」

 

「───はっ、?」

 

「見ていられなかったんでしょ?黒死病が原因で死んだ人達を。そんな人達をわざわざ探しに手を引いて、小さかった竜胆さんとちゃんと相手をして、魂達には寂しくないように一緒にいるなんて、優しくないとできないよ」

 

「そうだな。あの時の女の子の声音も頭がグシャグシャになってて思い出せないし、顔も見れなかったから本当にお前なのかはわからないけど、少なくともお礼だけは絶対に言わなくちゃいけないな、これは。……ありがとう」

 

忘れられないと絶対覚えられるは別物だからな。と竜胆は付け足す。

 

「……フン、随分贔屓目な感想と何度も聞いたような謝罪みたいな感謝をありがと」

 

「そんなことない。少なくとも僕はキミが歴史を変えたいという理由が見えたよ。……うん。ペストは優しかったんだ」

 

しみじみと言われても困る。自覚がない上に、嬉しさよりも気恥ずかしさが先行しているせいでどう返せばいいのかわからない。

 

「───よし、決めた。"ノーネーム"の再建が終わったら、僕はキミを手伝うよ」

 

ジンは唐突に、誓いの言葉を口にした。

 

「な……何言い出すの突然!?」

 

「十六夜さん達には言いにくいんだよね。だったら僕から説明する。その上で断られても、僕一人でも手伝うよ」

 

「そういうことじゃない!ジンはまがりなりにもリーダーでしょ!?コミュニティを放り出していいわけが、」

 

「大丈夫、その問題はもう解決してるし、むしろ今後の目標ができて嬉しいくらいだ」

 

自分一人でジンは納得し、ペストは唖然とジンの話を聞き、壁の向こうの主人を見つめる。

 

「……本気なの?」

 

「本気だよ。キミの願いは叶えるべきだ。八千万の()()に応えるために。魔王連盟と決着がついてコミュニティ再建の目処がだったら……その時は必ずキミの力になる」

 

壁越しでもわかるほどの真摯さ。それを向けられたペストは壁越しに向かい合うジンを見つめ───小さく頬を緩めて可憐に、笑った。

 

「……そう。ならその条文を契約内容にしましょう」

 

 

「契約?」

 

「ええ。魔王の隷属ではなく、ジン=ラッセルと私が結ぶ契約。その契約を貴方が守り続ける限り、私は貴方をマスターと認め続けるわ」

 

ペストのその答えは、間違いなく今までのからかっていたような態度とは別物の、本当にジンを主と認めたものだった。

 

だが、そんな二人の会話に面白くないと言わんばかりに竜胆が割り込んでくる。

 

「ちょっとストップ。まさかこんな話聞かせておいてウチのコミュニティのリーダーと俺の心の恩人はおれを蚊帳の外にしようっていうのか?」

 

「……リンドウ」

 

「一人追加だ。俺もジンとペストと契約(ギアス)を交わす。お前達がその契約を守り続ける限り、俺はお前達を命に代えても護ってやる。それがコミュニティの一員として、いやトモダチとして俺がお前達と交わす、一つだけの契約だ」

 

朧月の雲間が晴れて、そこから三日月の光が三人に降り注ぐ。

 

壁越しに手を重ね、三人は二つの契約を交わすのだった。

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

復讐してやる。

 

必ず復讐してやる。絶対に殺す。

 

異なる業火の中、両者は互いを見据えながら叫ぶ。

 

その誓いは、これから三年以上続く魔王との戦いの、壮絶で巨大で、宇宙を超えて異世界にまで届く戦いの狼煙となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

第六章、完

 

 






ちなみに今回だけ六章のサブタイトルの漢字二文字+平仮名四文字から外れて平仮名三文字にしたのはこの話がターニングポイントであり、今までの話とは変わって孤独の狐編では恐らくここからほぼシリアス一辺倒に変わるということを示唆しています。もう七章以降はギャグ要素は薄めだと思ってください。



次章予告

「黒ウサギのウサ耳が───!」

「つまりもうマトモに戦うこともできないと?」

「俺を倒せるのがお前だけであるように、お前を倒せるのもまた俺だけだ」

「GEEEEEEOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

「竜胆───!」

第七章、落陽、そして目覚メ



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落陽、そして目覚メ
一話 破滅へ向かう約束


さぁみなさんお待ちかね!シリアス100%の前に、多分孤独の狐編最後のマトモな恋愛要素だよ!




───太陽は落ち、月は堕とされる───

 

◆◇◆

 

あの事件が起きたのは、確か俺が11になった日のことだ。つまり、お姉が11になった日でもある。

 

俺はあの日、なにが起きたのかは全然知らない。憶えていることと言えば、月明かりが雲に隠されていたってことと、皮膚を溶かされるわけでもなくただ燃えるお姉の身体。

 

だから……復讐なんてできない。復讐する相手が誰なのかもわからないし、そもそも復讐する相手がいるのかどうかもわからない。

 

きっとその真相は、お姉なら知ってる。本人は知らない、覚えてない、なにも知覚できないまま死ぬ手前に来ていた、なんて言ってるけど……嘘だ。なんとなくだけど、お姉が嘘をついてることはわかる。お姉の言葉を借りると、俺がお姉のおとーとだから、なのだろうか。

 

兎にも角にも。お姉が話したがらないのなら俺が追求する必要はない。お姉はアホだけどバカじゃないから、きっと言わないことにもそれなりの理由があるんだろう。

 

 

 

 

 

だからタカマチ リンドウは、なにも知らない───

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

「よ、どうしたんだよ竜胆」

 

「十六夜か。珍しいな、お前から声かけて来るなんて」

 

「そうか?まあお前からはちょくちょく声かけられるが……珍しいってほど声かけてない憶えはないぞ?」

 

「……かけてこないよ。お前、だいたいなんでも一人でできるからな。他人に頼るとか、他人に任せるとか基本しない」

 

頼ってばかりで自分じゃできることの少ない俺とは大違いだよ、と竜胆は続ける。

 

コイツ……自分で勝手に"サウザンドアイズ"と契約してボロ儲けする店建てるなんてやりたい放題やっといてできること少ないなんて言うのかよ、と十六夜はらしくないくらいに呆れる。

 

はは、と空笑いをする竜胆は"アンダーウッド"で買った(実際はタダで貰ったのだが)という、最近やたら髪が伸びると言って纏め上げるのに使っている簪に触れながら十六夜の肩を叩く。

 

「でも、十六夜が理由はどうあれ誰かを頼ろうとしないのは本当だからさ、頼み事してくれるのは素直に嬉しく思うんだよ。いや、別にこれが頼み事って決まったわけじゃないんだけど」

 

「頼み事、ていうよりは作戦の報告だよ。やっぱり"アンダーウッド"の一件で同盟側にはお前がまたあの巨人族を操るギフトで操られる可能性が捨てられないわけじゃない……だそうだ」

 

「……そっか。で、俺はなにしてればいいんだ?」

 

竜胆の質問に十六夜は手を前に出して、人差し指以外を引っ込める。

 

「一つ目。呼び出されるであろう巨人族は相手にするな。これだけは絶対尊守だ」

 

「……つまりこの戦いはマトモに戦わせる気はないってことか……黒ウサギが戦えない状態だっていうのに思い切ったな」

 

「それでもお前を敵に回すよりマシだ」

 

今の同盟側は先日の殿下との戦いで"鎧"と"槍"を同時に顕現させてしまった黒ウサギはその反動で自分の霊格の証であるウサ耳を失い、戦力として数えることが絶望的になった。

 

それでも、確率一桁でも竜胆を敵味方無差別の第三勢力(ワンマンアーミー)にしたくはないが故の決断だろう。ただでさえ"アンダーウッド"ではグリフォンの翼と神格保持者一人を結果的に屠ったのだ。相手にしたくないのも無理はない。そして十六夜は二つ目、と続ける。

 

「"混世魔王"も相手にするな。ヤツは子供を限定して心に漬け込んでくる"神隠し"を持っている。これに関してはサンドラと御チビにも念を入れてある」

 

「……おい待て。それはつまり俺が子供だって言ってるのか?」

 

半ギレになりながらもなんとか平常を装って十六夜に尋ねる。それに対して十六夜はそりゃそうだ、というような顔をする。

 

「そりゃそうだろ。我が家の末っ子」

 

「なにが悲しくて同期に歳下が二人いながら末っ子扱いされにゃならんのだ!?」

 

「まあまあ、それはそれとしてだ」

 

「何がそれはそれだ!俺は問題大アリだ!」

 

「真面目に聞け。これが一番お前にやってほしいことだ」

 

十六夜がそれまでのからかうらような雰囲気から一転、真面目な顔をするのでつい竜胆も息を呑んで十六夜の言葉を待つ姿勢になる。何を言われるのかは理解している。というかそれしかないだろう。

 

()()()()()の相手だ」

 

「……エトか」

 

竜胆が歯がゆそうに呟くが、そこに至るのも少し考えればわかることだ。

 

彼は殿下とリンの二人と親しげにしていた。この時点でエトは魔王連盟となんらかの繋がりがあるのはハッキリする。

 

「……だけどな十六夜。俺はジン達と離れた後もエトとは軽い身の上話もしたぞ?アイツは自分でコミュニティを作ったって言ってるし、殿下達のコミュニティとは同盟みたいな関係は結んでいないとも聞いた」

 

それに例えアイツが俺と同じでも俺は成功品でアイツは失敗作だ。あの研究所の目的が総ての生命体の因子を持つ生物の完成だった以上、ギフトだって当然違う。そう続ける竜胆。友と戦えるか?という十六夜からのある意味での試練に対して竜胆はそれ以上の答えで返してきた。これでもう十六夜は確信した。

 

───コイツになら、任せられる

 

◆◇◆

 

「春日部さん、少しいいかしら?」

 

飛鳥が耀の部屋を訪ねたのは、彼女が魔王連盟との戦いに向けて少しずつククルカンの力に慣れようと与えられた部屋で彼に言われるがまま精神統一をしていた頃だ。

 

「飛鳥……どうしたの?」

 

「いえ、大したことじゃないわ。少しお話をしないかと思って……ティーセットも持ってきてあるの」

 

「あ、ありがと」

 

飛鳥が手に持っていたティーカップを机に置いて紅茶を注ぐ。それに二人は一口つけたところで耀が飛鳥に話を切り出す。

 

「それで……話って?」

 

「ええ、二つほど。一つは……直球で聞いた方がいいわね。"煌熖の都"に来る直前辺りから春日部さん少し様子が変だったわ。そう思う決定打だったのは……"造物主の決闘"なのだけど」

 

竜胆くんのお姉さんの焔を生身で耐え抜くなんて不可能でしょう?と飛鳥は続ける。彼女は見抜いていたのだ。耀の身に起こっていた変化と、耀の周りになにかがいることを。

 

「……少し、色々あってね。今は私に力を貸してくれてる人がいるんだ」

 

「……そう。っ、じゃあ次の質問よ」

 

飛鳥は一瞬、それを言うのが阻まれたような感覚に陥っていたが、もう聞くしかないだろう。いい加減真偽を確かめなければオチオチ寝ることもできないくらいに心配なのだ。

 

「貴女……竜胆くんのこと、どう思ってる?」

 

「……どう?」

 

「それは……えっと、同じコミュニティの家族として好意わ持っているのか、それとも他のなにかを抱いているのか……ということよ」

 

「……変な質問」

 

飛鳥の質問の真意がよくわからなかったのか、耀は疑問符を浮かべながら首をかしげる。

 

やっぱりか、みたいな顔を見せる飛鳥。これからどう言えばいい感じに遠回しに竜胆が耀に持ってる好意を伝えられるのか、と変なことを考える。なぜこんなことをするのかと言うと───現状を面白がってる十六夜とは違って飛鳥はいつなにかが起こるのか怖くてヒヤヒヤしているのだ。

 

「そ、そのね、春日部さん───」

 

「───正直ね、よくわからないんだ」

 

「え?」

 

あはは……と彼女らしくない顔をしながら耀はティーカップに口を付ける。

 

「確かに竜胆は大事な家族。私はそう思ってる……けど、私がみんなと異世界に来た時から不思議と彼に目が行っちゃうんだ」

 

「………」

 

意外だ、とでも言いたそうな表情をする飛鳥だったが、それも当然だ。

 

なにせ今の今まで恋愛なんてれの字も知らないであろう育ち方や態度をしてきたこの少女(春日部 耀)が今、はっきりと

自覚はなくとも箱庭に来た時からずっと気になっていると言っているのだから。

 

「最初はよくわからないけど、放って置けない人だと思ってた。少し目を離すと自分から死にに行くようなムチャして。だから私はなんとか歩み寄ろうとしたんだけど……"アンダーウッド"で自分のギフトの呪いから解放されたかと思えば今度は立場が逆。色々心配されて、私は貴方に心配されるほど弱い人間じゃないんだって思った」

 

それでも今思い返せば自分は心配され尽くしてる。死にたがりだった頃も、今も。彼にはずっと心配してるのに心配されていたんだ。

 

「そうやってるうちにさ……ドンドン気になって、竜胆のことだけ考えてスズに色々喋ってた時もあったんだ。なんかスゴいニヤニヤしてたけど」

 

が、やっぱり耀は耀みたいだ。ここまで自分の竜胆に対する好意を見せておいて理解をしていない。飛鳥は思わず頭を抱えるが、当の本人にこれだけ自覚のない想いを持っていれば自分が口出しするのは無粋というものだ。

 

あとは、彼女(耀)が気づくか、(竜胆)が伝えられるか。

 

飛鳥は自分の聞きたかったことをある意味で聞けたことに満足したようで、肩の荷を下ろしたのだった。

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まだだな。まだ、時間がかかる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

俺は、戦えるだろうか

 

戦うしかお前に道はない

 

それが、運命?

 

それが運命だ。絶望し、お前の本当の姿を見せろ

 

 

 

()は見ていた。少年の姿を。少年の持つ未熟で驚異的な力を。そして一途な想いを。

 

───此度もまた、未来に希望を馳せた若き命を散らすのか、我と汝は……

 

彼は涙を見せる。確定してしまった運命を。そうすることしかできない、自分自身に恨みを募らせて。

 

◆◇◆

 

雲間に隠れた月を見上げる。月明かりを見られず、竜胆は短く嘆息する。

 

「……確か、あの日の夜もこんなんだったな」

 

忘れたくても忘れられない、例の研究によって植え付けられた獣の力の副産物として生まれた驚異的な記憶力は今も時々竜胆を襲う。もう既に五年の月日が経っているというのに、その日のことをまるで直前に起こった出来事のように憶えている。

 

それは、竜胆が全てを失った日。家族の命とペストに貰ったオルゴール、そして自分の人生を全部纏めて燃やし尽くされて、三歳からの自分を全部否定されたような気にさえなった日。

 

「……あれを人為的に起こして、ソイツが箱庭にいるんだとしたら。復讐したい……でも、それでいいんだろうか」

 

───貴方はこれから自由です───

 

"アンダーウッド"で自分のために消えたタマモ。彼女は竜胆に自由なのだと言った。それは、これからの人生を復讐に捧げても、今まで通りの死に場所を探す日常でも、自分が変わるという選択でも、どれでも好きなことをすればいいということなのだろうと今思えば理解できる。

 

そう思うとやはり彼女は、竜胆にとってウザいし言うことがどストレートだったが頼りになる姉のような存在だった。

 

「……どっちにしろ、嫌な予感がする。十六夜にはああ言われたけど、俺が頑張らないと……」

 

「それはダメだよ」

 

小さく呟いた一言はいつの間にか彼の後ろにいた耀によって阻まれた。

 

後ろを見てしまった、という表情をした竜胆はすぐに耀を手招きする。

 

「……一応聞くけど、どこから聞いてた?」

 

「確かあの日の夜もこんなんだったなってとこ」

 

「やっぱりな……あー、恥ずかしい独り言聞かれた」

 

彼の今言ってる恥ずかしいは十六夜達にからかわれるような意味での恥ずかしいとは違うのだろう。単純に人に聞かれると「何言ってんだコイツ」みたいに思われて恥ずかしく思っているのだろう。

 

「……それで、俺になにか用でもあるのか?」

 

「飛鳥がね、多分戦闘開始は明日だから今のうちに話したいこと話しておいた方が私のためにも竜胆のためにもなるって」

 

「なるほど……確かにそれはそうかもな」

 

俺ってこんなに心配されてたんだなぁ、なんて昼間の十六夜との会話で再確認させられたそれをまた確認する羽目になると流石にいい気はしない。だが、それで二人の会話は止まってしまい互いに言い淀んでしまう。

 

『ヨウ……言いたいことがあるのならハッキリ言ったらどうだ?喉の奥になにやらよからぬ言葉が詰まっておるぞ』

 

(煩い黙って。話聞くな寝てろ)

 

『段々我に遠慮がなくなってきたな(なれ)……まぁいい。今はお前の言うことに従うよ』

 

ククルカンが黙ったのを確認するが、やはりなにか知恵を貸してもらってから黙ってもらうべきだったか、とすぐに後悔する耀。だが、話は彼女からすれば意外なことに竜胆から切り出された。

 

「耀……"アンダーウッド"じゃ色々邪魔が入ったけどさ、今はハッキリ言うよ」

 

「……何?」

 

「あのさ、いつか……二人でどこか出掛けよう。コミュニティとかギフトゲームとかちょっと忘れてさ。二人で行きたいとこ行って、やりたいことやるんだ」

 

よくないかな、と耀の顔をしっかりと見据える竜胆。その表情は元来の幼さも合わせて儚く見える。儚いからこそ、竜胆はこんなことを言っているんだ。

 

蝉や陽炎はその命をごく僅かな時で燃やし尽くすというが、耀の眼に映る竜胆の姿はまさにそれだ。これまで以上に、"アンダーウッド"の時以上に脆く見えて、どこか遠くへ行ってしまいそうで。

 

だから耀は、竜胆の身体を抱き締めた。

 

「───えっ!?よ、耀!?」

 

「…………………それ、約束」

 

「へ?」

 

「絶対守って。約束を守らずにどこかに行くなんて、絶対に許さないから」

 

竜胆が戸惑うほど強く、ガッシリと背中に手を回されている。竜胆はその腕に触れることを一瞬だけ躊躇して───確かに、しっかりと触れる。

 

「約束する。それで俺はキミに伝えたいことがあるから。絶対に」

 

「……絶対だよ」

 

「絶対。なにがあっても。俺はキミにだけは嘘をつきたくない」

 

ほとんど同じような身長をしている二人はその小さな身体に、互いに昔は宿していなかった温かみ(人への想い)を感じ合う。

 

永遠に続くような一瞬。竜胆は、そして無意識ながらも耀も、ずっとこの時間が止まり続けることを望んでいたが、それは無慈悲にも空から降り注ぐ一枚の黒い羊皮紙に遮られる。

 

「っ───竜胆、アレ───!!」

 

「まさか───もう来たっていうのか!?」

 

『ギフトゲーム"Tain Bo Cualinge"

 

 

・参加者側ゲームマスター

"逆廻 十六夜"

 

・主催者側ゲームマスター

"■■■■■"

 

 

・ゲームテリトリー

"煌熖の都"を中心とした半径2km。

 

 

・ゲーム概要

※このゲームは主催者側から参加者側に行われる略奪型ゲームです。

このギフトゲームで行われるありとあらゆる略奪が以下の条件で行われる場合に限り罪に問われません。

 

条件その一

ゲームマスターは一対一の決闘で雌雄を決する。

 

条件その二

ゲームマスターが決闘している間は略奪可(死傷不問)

 

条件その三

参加者側の男性は決闘が続く限り体力の消費を倍加する。

 

条件その四

主催者側ゲームマスターが敗北した場合は条件を反転。

 

条件その五

参加者側ゲームマスターが敗北した場合は解除不可。

 

条件その六

ゲームマスターはテリトリーから離脱すると強制敗北。

 

 

終了条件

両陣営のゲームマスターの合意があった場合にのみ戦争終結とする。

ゲームマスターが死亡した場合、生き残ったゲームマスターの合意で終結。

 

 

宣誓

上記を尊重し、誇りと御旗の下、"ウロボロス"連盟はゲームを開催します。

"ウロボロス"印』

 

 

「───うっ!?ぐっ、ああ!?」

 

「竜胆!?」

 

そのギフトゲームを見て、ゲームが始まった瞬間、竜胆の身体は途端に悲鳴を挙げた。

 

心臓が震え、全身の血流が逆転するような感覚と言えばいいのだろうか。むしろ、これの他にどんな表現も出来る気がしない。

 

頭で嫌悪感を理解するよりも疾く身体が倒れ、心臓を口から吐き出すような不快感に襲われる。

 

「ぉ、ご、ぎぐば!げぅ………!!」

 

とうとう竜胆は膝を地につけてしまった。顔すら地につけ、眼球が飛び出るのではないかという程に眼を開く。窒息するのではないかと疑うほどに息を荒げ、身体を抑えて蹲る。全身の汗が止まらない。身体のありとあらゆる血管が皮膚から浮かび上がり平衡感覚すら消えてゆく。あの時とは違い辛うじて五感は生きているが、それが逆に竜胆の苦しさを助長させてしまう。

 

「うぎっ……がっ!ごほっ、げっ!!」

 

「竜胆!このままじゃ息が……いや、そんな問題じゃない!このままじゃいくら完全に人の身体構造でなくなってる竜胆でも、急激すぎる容体の変化に身体がついてこれなくなるっ……!なにか、なにかしないと!」

 

『すると言おうと、なにをどうするつもりなのだ!?この少年の状態は異常すら超えてるのだぞ!?』

 

「わからないよ!それでも、なんとかしないとこのままじゃ絶対竜胆が死んじゃう!」

 

───痛い!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イ?いたい……?なんだっけ……それ。これ?

 

脳に快感が走り込んで来る……!脳みそをダイヤモンドだって斬れる刃物で切り裂かれる感覚!すごい気持ちいい!!

 

そっか……コレ、いたいってゆーんだ。

 

は、ふふ。あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!いたい!きもちいい!くるしい!たのしい!!こんなかんかくがあったなんてしらなかった!すごいすごい!えくすたしいがちょうてんまできてふらすとれいしょんがさいていへん!!あたまをりらいと!からだがりぷれいしたがってる!もっとちょうだい!じらしてもいい!ほしい!こんなたのしいかんかく、じぶんひとりでたのしむのなんてきがひけちゃう!だれか、だれかとしぇあしあいたい!どこかにいるかな!?えんどれすで、ふたりででゅえっと!ぼくとおどろうよ!そにくのませやのにてのとこほゆれののこてめほこけゆねそにめのおえはなやらたかまのねねぬこのなねやてよののねやこよねんのこまととねけねのそ!!!!

 

「竜胆!ねぇ、竜胆!起きてよ!冗談でしょ!?起きてるんでしょ!?ねぇ!!」

 

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………、いた。

 

ぼくのほしいの、ぜんぶくれるひと!あげたいの、ぜんぶあげたいひと!なぐって!けって!ずつきして!ころしあって!ぜんぶほしい!なにもかもあげたい!これってなに!?あいらぶゆう!?しんぞうえぐりあって!のうみそつかみあって!いいたいよ!このきもち!つたえたい!あいしてるって!あいしてるから、ころしたいしころされたい!

 

だから……いおう。ぼくのほんね。

 

「───Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」

 

「竜胆───!!!」

 

◆◇◆

 

そうして、月は堕ちた。

 

 




本編がキチガイMaxでシリアス100%だとしても前書きと後書きは愉し……楽しくありたい。私はそういう人になりたい。

だって、にんげんだもの。
甲殻類

……あ、前書き詐欺とか言わないでね?ちゃんとラブコメしてたから許してね?……許されない?絶許?やっぱり?



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二話 夢より覚めて欲しい今



なんだか箱庭家族がいっぱい頑張っているっぽいので僕も暫く孤独の狐集中期間に入りたいと思います。

といっても感情のない少女も箱庭超コラボもしっかり更新せねば……




 

 

あぁ……欲しい。全部が、何もかもが。この身体は欲望のカタマリなんだ。なら、素直に生きたってバチは当たらないでしょう?

 

その言葉は甘美で、背徳的で、恍惚を感じるものであった。今の今までこの感情に気付けなかった自身に萎えてしまうようで、だというのにそこから百八十度自身の価値観をただの一度で変えてしまう麻薬のような禁忌の悦びに飢えていた。

 

ただ欲望のままに欲望の化身は言葉を紡ぐ。この世のモノとは思えない歪んだ瞳孔で、この痛みという快楽を味わい、与えることのできる幸福感を最愛の人に与えられるという希望()。その瞬間の苦痛に歪むアナタの表情と苦痛を与えられる羞恥心に塗れた自分の痴態を妄想するだけで総てが満たされてゆく気にすらなってしまう。

 

だが、ダメだ。それがあくまで妄想であると知っているからこそどうしても想うだけでは煮え切らない。想い、想われ、行い、行ってもらう。これこそが互いに()()()()()ということなのだから。

 

ああ……なんて(希望)を与えてくれる……

 

待っていてね、アナタ……すぐに、快楽の虜になるから、一緒に……ね?

 

 

 

 

 

 

 

…………………………あれ。アナ■って、■?……■■■■?誰、だ■たっけ■■

 

◆◇◆

 

ククルカンからすれば、今から千余百年程度前のことだ。

 

アレと協力したのは確かあれっきりだったはず……いや、あれっきりであってほしい。

 

今思えばバカで無謀な若僧だった。アイツに協力した時点で当時の自分をぶん殴ってやりたいとすら思っている。そこまで恥ずかしく、頭に来るヤツがいる。

 

アイツの、猫の手も借りたかったあの憎たらしい過去がなければこうして自分は何度も異世界を転々とする理由も、ヤツも"天に招かれた善神"となることなどなかっただろう。

 

だが実際はどうだ。ヤツは天に昇るために自分の手から太陽主権を奪っていった。

 

以来我は天軍なるものを信用することはなくなった。幾度となく、太陽主権を取り戻すために天軍を制圧し、その度にまた太陽主権を持って優位になったヤツが我を追い払う。

 

だが……それも今回で止める。存外この小娘……ヨウの中は居心地がよい。愛されて恋を知らず……かといって愛を知らないわけでもない。熟していない未熟な果実だからこそ神という"完成されてしまった"存在である我に新鮮味を味あわせてくれる。

 

だというのに、この新鮮味は……反吐が出てしまう。

 

ようやく恋というものを自覚し始めたこの宿主を愛し、宿主が自覚のない恋を抱くこの少年に……なんの罪があろうか。

 

我ができることは、このような因果へと導いた世界に憎しみをぶつけることだけだ。

 

◆◇◆

 

理由はわからない。だが今目の前にいる竜胆がいつもの竜胆ではないこと。それだけは耀は確かに知覚していた。

 

「っ……ククルカン」

 

『……逃げろ、ヨウ』

 

「それは……なんで?」

 

『あの少年の神格が消えている。汝達の記憶を漁ればそれがあの少年にとって何を意味するのか───そんなものすぐにわかる』

 

「───、」

 

やはり。耀は目に見えて悔しそうな表情で下唇を噛み締める。

 

竜胆にとってタマモから受け継いだ神格は形見であると同様に自らのギフトである"人類の罪"(ア・ヒューマン・オブ・ギルティ)を制御する唯一つの手綱。それが切れたということはつまり、神格で無理矢理押さえ込んでいた"人類の罪"が再び"侵食"と"暴走"を引き起こしたということ。

 

今の竜胆が"暴走"を引き起こしているのは明白だ───

 

だからこそククルカンは耀に逃げることを促した。恋している人を愛している者がその生命を断ち切るなんて、決してあってはいけない。彼の老婆心は咄嗟に耀を守ろうとするが、それを本人が実行に移せるかはまた別の問題だ。

 

できない。自分はあくまでも耀の中に住み着いていてギフトを貸しているに過ぎない存在。ヤツのように完全な憑依は不可能だ。

 

「……く、あは、ひ……あ……そ、ぼ?」

 

「……ぁ、っ………」

 

天真爛漫なその笑顔。微笑ましくもとれるその笑みはその意味を全て理解している耀にとって悪魔の笑みにしか見えなかった。無邪気な邪気は理性というものを持つ耀には恐怖心を煽られるような感覚だ。

 

だが、耀もこれまで様々な苦難を乗り越えてきている。多少恐怖心を煽られたと言っても何もできないわけではない。今本能(おもい)のままに話し、欲している"罪"とは違って自分は本能(きょうふ)に対抗する理性がある。

 

あの時十六夜は彼を止めたではないか。ならば今、十六夜よりも彼に近くあの時よりも力を持っている自分が止められない道理はない。

 

「……いや、逃げない。ここで竜胆を放って逃げたら絶対に被害が悪化する。そんなこと……絶対させちゃいけない」

 

『ならん!少年の力は汝が思っている以上に残酷だ!それに汝は少年を止める術など持っていないだろうに!』

 

「できなくてもやるんだ!今は私にしか……私と貴方にしかできないことなんだ!」

 

『っ〜……!不服だが汝の言い分にも一理ある。非ッッ常ォーに嫌だが助力はする。死んだら責任とれ!』

 

「死んだら責任なんて取れないよ!」

 

大きな掛け声を挙げながら耀はククルカンの恩恵により強化された"生命の目録"を起動させる。

 

『集中せよ。今の汝は"ノーフォーマー"(何者にもなれる者)。命の起源たる焔を司る我の助力を以ってすればあの時の、少年の姉や魔王連盟の小僧の時以上の力を発揮する』

 

「───シフト"フレースヴェルグ"。二重掛け(ハイブリッド)、"スフィンクス"!」

 

重ね掛け。これがククルカンの存在によって可能とした耀の新たなステージ。二つの獣や神性の能力を重ね合わせることで短所ごと長所を纏め込んだというハイリスクハイリターンの技能。

 

そしてフレースヴェルグとスフィンクスは共に鷲の姿をしている。耀の狙いはほぼ間違いなく───被害を最小限に抑えられる空中戦。それも超高高度の。

 

「来て!」

 

「あっ……おいてかないでよ!」

 

竜胆を尻目に耀は空中へと駆り出す。するとやはり耀以外眼中にない"罪"はたどたどしい口調で耀に静止を呼びかけながら追いかける。だがその速度は幼い口調に反して耀を追い越さんばかりの速度で飛んでいる。

 

無論、追いつかれることは耀も百も承知だ。初めて彼のギフトゲームを見たときからもその圧倒的な速度は知っている。ならばタガの外れた今の"罪"には耀に追いつけない道理はない。

 

だからこそ、理性と本能の決定的な差を、発想というものに違いがあると理解している耀はまだ駆け抜ける。唯飛ぶのではない。足元に風のターボを作り、耀は加速。その風は耀を疾くするのと同時に彼女の後ろにいる"罪"の速度を下げる働きもしている。

 

「めんどくさい!これじゃま!きえちゃえ!」

 

だがそれは"罪"の駄々のような声一つで消え去ってしまった。それを見た耀は思わず足を止めてしまう。

 

(なんで!?今の竜胆には"罪"しかギフトがない筈……あんな大胆な力を使える生物の力を顕現するのには時間をかけて力を収束するかわざわざ肉体の部位を変質させる必要があるのに……?)

 

『言ったであろう、少年は汝が思っている以上に残酷な力を持っていると。恐らく暴走状態に陥って深層心理が無意識にかけていたリミッターが外れたのであろう』

 

認識そのものが違った!耀は竜胆自身が知らなかったギフトの一面に思わず歯噛みする。ギフトゲーム……箱庭での戦闘とは知らない手を見せられようが知らない方の落ち度。それが箱庭のルールとしてわかっている以上それ以上はなにも言わない。

 

それでも"罪"を被害の及ばない雲海上にまで誘導した。であればここからは耀も攻勢に回ることができる。

 

「……、"イタカ"、"フェンリル"」

 

速さを追うにはそれ相応の速さを以って。いくら頑丈な身体を選択しようとも人体構造の弱点である関節や内蔵を突かれては意味がないし、そもそも守りを固めても当たらなければどうともならない。

 

故に、速さ。

 

"罪"と耀は直角に曲がる軌跡を描きながら幾重にも光を重ね、また離れ……互いの身体にかかる強烈なGを二人はものともせずに飛び回る。

 

「ふっ、とばす!」

 

耀の拳は"罪"と重なるより前に突き出され、それを"イタカ"の風で拳圧を発射する。"罪"は射程外からの攻撃を予想外と思ったのか強引な動作で風を避ける。

 

が、それは耀の思うツボ。無理な体勢で攻撃を躱した"罪"を逃さず横腹にハイキックをぶつけ、脚にイタカの風をホイール状に回転させてゴリゴリと防御を削る。

 

決まった───完璧に捉えたと確信した耀はしかし、"罪"の淫靡で悪魔的な笑みを見て一瞬だけ手を緩めてしまった。

 

攻撃を受けつつも耀のジャケットを掴み、横腹に受けている攻撃を完全に無視しながら強烈なヘッドバッドをお見舞いし、あまりの痛みと頭部に与えられた衝撃で明確な隙を晒してしまった耀に"罪"は容赦なく追撃のボディーブローをぶちかます。

 

「ぉぁ、ごっ……!!げほっ!ぐっ!?」

 

思わず胃に詰まったものを纏めて吐き出しそうになるが、一欠片の慈悲のように"罪"が喉を押さえつけて気道ごと食道を締め付けて気持ち悪い感覚を吐き出すことすら認めさせてはくれない。

 

「……ねぇ、もっとかんじあおうよ?きみも、がまんなんてしなくていーんだよ。いっかいしょうじきになればさ……いままでがばかみたいにおもえるよ?」

 

「っ……!それは、ダメ……!」

 

「どうして?くだらないりせいなんかをすてるの、こわい?こんなに、こぉんなに、きもちいーのに」

 

 

 

 

だから、ね?

 

 

 

蠱惑的な誘いだ。艶かしさすら感じる幼い言葉にはこれまでの竜胆という少年の絶望と希望の全てを無駄なことだったと吐き捨てるような言葉が詰まっていた。紅く濁った瞳はかつての宝石のようなアメジストの輝きを塗りつぶすように光を灯さない。

 

『ヨウ!今の少年の言葉を絶対に耳に貸すな!頷いてしまえば汝は少年の虜になってしまう!』

 

心地の良い言葉を投げかけてくる"罪"に圧倒されていた耀を立て直すようにククルカンが叫ぶ。その言葉に意識を持って行かれた耀はハッとなって竜胆を押さえつけていた脚を離して距離を置く。

 

「ゴメン……助かった」

 

『礼なら少年を救ってからだ。尤も、救う方法など我らには持ち得ていないのだが……っ!』

 

首を抑えられたからか、酸素を求めて全力で咳き込む。軽く涙を浮かべながら目はしっかりと"罪"を見据える。

 

"罪"を見た耀は一瞬呆気にとられたような表情をしてしまった。"罪"自身が信じられないような眼でぼうっと耀を見ていた。

 

「……ひてぇ、するんだ」

 

「……え?」

 

「じゃあ、もういい。ひてぇしてもひていしてもヒテイしても否定しても泣いて許しを請いても!!気絶するくらいの快楽を与えてやる!!!指を折って手の皮を剥いで!!手首を捥いで肘を叩き斬って!膝より下もなくして逃げられなくして!ずっとずっとずっっっっっ、、、と!!愛を一方的に注ぐ!絶望に顔を歪ませる瞬間だけをいつまでも見せてくれるようにたたいてぶって蹴って!!死んじゃっても知らない!!!」

 

ひときしり(わめ)くその姿と喚く内容は今の竜胆の……"罪"の精神状態がどれだけ歪んでいるのかがはっきりわかるほどのものだった。無邪気な故に残酷とはよく聞くが、これはもう残酷というレベルのものではない。もっと恐ろしい。生命の人智を遥かに超えたナニかだ。

 

「しんじゃえ、しんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえ!!しんじゃえぇええええ!!!」

 

部位変質によって形容しがたいナニかへとカタチを変えた腕部をメチャクチャに振り回しながら"罪"は耀に襲いかかる。謎の圧力に押さえつけられて耀は金縛りに遭ったように動けない。恐らくは今"罪"が顕現させている未知の生命体の力なのだろうが、それだけでは説明のしようがない本能的恐怖を煽られる。

 

「動けっ……!動け!動いて!!」

 

『なぜ動かん!動けと言うておるだろうが!動け!!』

 

精神が繋がっているククルカンにも耀の感じている恐怖がダイレクトに伝わる。叫んでも喝を入れても身体が動くことはない。最早これまでか。ククルカンが宿主の、自らが定めた最後のチャンスの終わりを感じたその瞬間───

 

「はいはい、逢瀬の最中を邪魔してゴメンよお二人様」

 

耀の前に出た何者かによって"罪"の身体が弾かれる。割って入ってきたそれは銀髪の三つ編みを揺らし、未だに震えたままの耀に近づく。

 

「おい、無事か?お姫様」

 

「……お、姫様?」

 

「お、無事みたいだな。動けるか?動けるならさっさと逃げろ。アンタに死なれちゃ困るからな」

 

耀の安否だけを確認したその人物はさっさと視線を"罪"に移す。

 

「……まだ時間はかかるか。まぁ、関係ないか」

 

「……あ、貴方は……?」

 

「ん、俺?俺はエト。コイツに名前を貰ったトモダチさ……わかったらさっさと逃げな」

 

エト。話は竜胆やジンを通して十六夜から聞いている。竜胆が"罪"を与えられる前に知り合った同胞(はらから)で、竜胆は彼にとっての最初のトモダチ。そして、今回の戦争における最大の不確定要素───

 

だが、任せろと言われた以上今の彼の相手ができない耀はその言葉に頷くしかない。

 

「っ……わかった。任せる」

 

「任された。口約束で申し訳ないがお姫様が逃げるまでの時間は稼いでやるよ」

 

耀がフラフラと戦列から離れて行くのを尻目に、視線は"罪"から外さない。

 

「にがさない!」

 

「おおっと、お前の相手は俺だぜ?お仲間同士相手になってやるからさ」

 

わかりやすい余裕を見せるエト。"罪"はその姿が頭にキたのか、目に見えて嫌悪感を露わにしながらエトに向けて構えをとる。

 

「さ、第二ラウンドと洒落込もうじゃないか?」

 

エトは急速に肉薄してきた竜胆に向けて密かにほくそ笑んだ。

 

 






元からニッチ層向けだったのにドンドンヤバい層向けになってきてる気がするこの作品……



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三話 闇の中に産声ひとつ。


一応今回で落陽、そして墜月分は終わりです。僕の大好きな閣下は暴虐の三頭龍に持ち越し……デス。




 

「……よぉ、竜胆。随分とアレなカッコになってんじゃねぇか」

 

「……だれだよ、おまえ」

 

「呵々!どーやらほんっとうにやっちまったみたいだな。ま、俺としては……そうなった後の方が気がかりなんだが?」

 

「しつもん、こたえろよ」

 

会話のキャッチボールが成り立っていないことに苛立ちを露わにしながら"罪"はその双眸でエト睨む。お前のことなんて眼中にない、とでも言うように。

 

「答えても意味なんてないだろ?どーせお姫様がお前を止めるんだからな。あ!でも、後でいいこと教えてやるよ」

 

「おまえのいうことなんてきかない。さっさときえろ」

 

「冗談。お姫様に逃げるだけの時間稼ぐって言っちまったんだ。約束は守らなきゃオトコノコじゃねぇって」

 

"罪"の……竜胆の容姿を皮肉っているような言葉は確実に怒りを蓄積させている。

 

眼中にないのなら、否が応でも眼の中に突っ込めばいい。煽り、実力……今のエトの持ち得る力を使って"罪"をこの場に繋ぎ止める。

 

「おまえ、きらいだ」

 

「そうか?俺は()()()()()()大好きだぜ?綺麗事しか並べられねぇ偽善者よりはそういう本能の赴くままに動くヤツの方が好感を持てる」

 

そう……世の中割り切ったモンが勝てんのよ。エトは息を吐くように告げる。その達観したような物言いは何故か"罪"を苛立たせる。なんでおまえはそうもかんたんにあきらめられないものをあきらめられるようなことを。ふざけるな。

 

"罪"の抱くその憎しみの出処を"罪"自身が捉えられないままより一層鋭さを増した瞳がエトを刺す。エトはおー怖い、とおちゃらけた台詞を吐くだけだ。

 

「───!!」

 

「正面衝突かよ。上等!」

 

"罪"はただ怒りのままに兵器と化した己の身体を振るう。対してエトはグローブ型の籠手を纏ってそれに対抗する。

 

「まだコイツは30%程度か……ま、時間稼ぎにゃ丁度いいさね!」

 

拳と拳の殴り合い。雲の上で戦う二人を見守るのは、ただケタケタと笑うように存在する三日月だけだった。

 

◆◇◆

 

「ぐっ……ふぅ……」

 

同刻、星海の神殿付近。"罪"による攻撃の影響で腹部を抑えながら耀はできるだけ早いペースで陣営に戻ってきた。一刻も早く自分が見てきて、起こってしまった現実を伝えるために。エトが彼を止めている間に。

 

『……ぐっ、無理をするな。我がいなければ確実に死んでいたレベルの負傷だ』

 

耀の痛みを同調しているククルカンが腹から声を絞り出すかのように苦痛の混ざった声で耀を諭す。だが耀はそれでは止まらない。伝えるために、救うために。

 

「……無理。それに、ここにいるより本陣に戻った方が安全……だからさ」

 

『……倒れるなよ。そうなっては本末転倒だ』

 

「勿論……」

 

ククルカンの心配する声を軽く流して耀は本陣に向けて歩を進める。今すぐにでも吐いてしまいたいような不快感があるが、何故か喉元でそれが押し戻される。まさかさっき強引に食道を止められて吐くものを呑み込んでしまったのが原因で呑み込んでしまうのが癖になってしまったのじゃないか、と地味に嫌な考えを巡らせながらじっと本陣を見据える。丁度そこにいたのは───

 

「……十六夜と、黒ウサギ?じゃあアレは、魔王連盟側の……え!?な、なに!?」

 

耀が困惑の声を挙げるのも無理はない。なぜならば、戦闘をしていた"煌焰の都"は急に大地震を起こし、地にあるものを薙ぎはらうように大きく揺れたのだから。

 

◆◇◆

 

時は少し遡り。

 

「らぁ!」

 

「っ」

 

"罪"に向かって音速を超える速度のラッシュを繰り出すエト。しかしその表情は想像よりも上手くいっていないと感じたのか、あまりよくはないものだ。

 

対して"罪"は先ほどとなんら変わりはない。竜胆が元々持っていた神格"太陽神の表情"が消えたことで同時に内包されていた呪術は使えない。純粋な格闘センスと肉体の部位を不規則に変化させて強襲、不意打ちを狙う戦法だ。

 

「完成にはまだ一年くらいはかかるシロモノだが……ここまで渡り合えただけ上等なのか?いや、まだまだだろどう考えても……」

 

チッ、と軽くエトは舌打ちをする。その言葉が指す意味はわからないが、これでは"罪"に向かって自分が万全ではないと言っているようにしか思えない。

 

っし、と気合いを入れ直したエトは"罪"に向けてその眼差を飛ばす。

 

「さあ来やがれ……お前にゃ俺のギフトの実験台になってもらうぜ……」

 

「よゆー、むかつく!」

 

エトの挑発的な態度に"罪"は激昂する。怒りとはパワーアップというのがファンタジーの常識だが、ここは箱庭。宗教的観念や神話を基に作られたこの世界はけっしてファンタジーなどではない。

 

エトは自分のギフトで攻撃を難なくいなして膝を容赦なく"罪"の腹部に叩き込む。丁度先ほど"罪"が耀に対して行ったようにだ。

 

「よく引っ掛かってくれるよ。素体に頭が在っても人格にゃ脳味噌詰まってねぇみたいだな!」

 

「うる、さい!」

 

「ま、でもお陰様でお姫様がもらった一発返せたんだ。スッキリしたよ」

 

あくまで挑発に。"罪"の怒りを煽るように招くその手はとんでもなく"罪"を苛立たせる。

 

エトのゲームメイクは十六夜や竜胆のように素直にゲームを解かない。正解と煽りを交えての作為的なミスの誘発。ミスが出れば儲けモノだが、別にミスの誘発が勝つために必須だとは考えていない。むしろ出ても出なくても関係ない。

 

だがそれでもその挑発的な態度をとる本当の理由は―――――敵対者に対する絶対的な自信。負けるつもりも毛頭なく、完膚なきまで叩きのめすという力。

 

それだけの力と自信が彼にはあるのだ。そして、自分の目的のためならば何を犠牲にしてもいいというある種の独善的な理想。それがあるからこそ彼は今こうして"罪"と対峙できている。"罪"に対して時間稼ぎができる。

 

「さぁ来やがれ!どんどんとな!」

 

「言われる必要性なんてない!」

 

身体を小さく畳んだ"罪"は超高速でエトに接近してその豪爪を振るう。速く単純になった分エトは一歩横に動くことで"罪"の一撃を回避、標的を見失って綺麗に外れたそれに容赦なく膝を腹部にぶつけ、アームハンマーを後頭部に振りおろし、アームハンマーの勢いでそのまま宙返りしながら踵落とし。

 

「グギャァッ!?」

 

「弱ぇんだよ!動きが単調すぎてつまんねぇ!オラオラオラオラ!!ヒハハハハ!!」

 

一切の油断をみせず、かといって滲み出る余裕を隠すでもなく高笑いしながら"罪"をその空にあるはずのない地面に縫い付け、幾度も幾度も背中を足蹴にする。

 

「ハハ!クヒャッハハハッー!そらそらそら!クソ弱ぇ!そういうのに頼るだけだからテメェはそうなんだよ!!」

 

「ァッ!ギッ!ゲガ!!」

 

「ケヒャハハ!!……あ、そーだ。いい事教えてやるっていってたっけ」

 

「ッグ、ゴ……かっ、ふ……ぅ!?」

 

エトが"罪"の髪を掴んで引っ張る。強引に同じ目線に合わせるその行為は端から見れば『エトが竜胆に救われた最初の友』だと言われて信じる者なんていないだろう。

 

「さーて、どうしようかなぁ。言ってやってもいいが、さっき断られたし。なによりオマエムカつくし」

 

「ぐっ……ううう!!」

 

「ケヒャヒャ!怒ってんのか!?俺に一撃でも入れてから吠えやがれってんだよ!!」

 

「だまれ!ぜったいやりかえしてやる!なこうがわめこうがやめるもんかっ……!」

 

「ヒハ!そういうのは現状何とかしてから言えってんだよ三下ァ!」

 

エトの笑い声と"罪"に対する情けのない羞恥を味あわせるようなその行為は終わることを知らない。ククルカンの力を得ていた耀を打ち倒した"罪"をその辺のゴミクズのようにあしらっている。

 

「こ、ろしてやる!!おまえ、ころしてやる!!ころ、こ、ころころころコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロ!!!!!!!!」

 

「アッハハハハ!!どーやら母体にギリギリ残った理性が完全に溶けるまで一歩ってみてぇだな!ハハ!そこまでになってんなら教えてやるか!ァア!?」

 

「コロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ」

 

最早声ですらない。"罪"の口から聞こえるのはこう形容するしかない音だけだ。

 

それを満足そうに見ていたエトは"罪"の口をどういう方法かは全くわからないが黙らせ、唇を耳元まで持っていく。

 

「竜胆……お前にとって五年前か。俺にとっちゃそんなのどうでもいいが……よく聞けよ」

 

「…………!━━━!」

 

リンドウの顔をじっくりと眺め、勿体ぶるような顔を作り、また狂喜の笑みを作って、エトは紡ぐ。

 

「竜胆。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五年前にお前の家族を殺したのは俺だ━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………え?」

 

言葉すら失ったリンドウがつぶやいた一言。その言葉と共に、彼の理性は完全に消え失せた。

 





ジャンジャジャ~ン!今明かされる衝撃の真実ゥ~!楽しかったぜェ竜胆、お前との友情ゴッコォ~www

……エトが真ゲス。

ただまぁ、当初からこういう予定でしたし。エトが真犯人って予定でしたし。結構わかりやすかったんじゃないでしょうか?あからさまにラスボスの持ってる設定『親友だけどなにか裏と通じてる』とか。


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暴虐の三頭龍、呪われた呪術師
一話 繋がる切れ端



一旦、一話だけ本編に戻ります。そのあとはコラボ編に戻るので御安心を!

なお、今回ゲストとして別作品に出演してる竜胆くんとおねーちゃんのお母さんのコトネさんを出演させてみました。久しぶりにこの人書いたなぁ……




 

―――あれから、八年が経つ。

 

竜胆の母、コトネは炎に包まれる研究施設から真っ黒のコートと長ズボンを身に纏い、血の着いた二本の剣を握って出てきた。

 

「っ……ここも違った……もう尻尾を掴んでも切ってはまた生やすの繰り返し……」

 

くそっ、と解りやすい毒を吐く。

 

竜胆(むすこ)があの事件で人でなくなった時、彼女は自分を恨んだ。平和というぬるま湯に浸かっていた自分を。

 

彼女の家は有り体に言えば暗殺者の家業だ。彼女自身そうであると判明したのは諸々の理由もあって竜胆と鈴蘭が生まれた少し後になるが。

 

とにかく、自分がその家の人間と判明した時自分の姉に当たる人物は二つの選択肢を与えた。

 

家の一員として従事すること。

 

その事実を忘れてこれまで通りの生活をすること。

 

彼女は即決で後者を選んだ。家族に心配させたくないから。なによりもそれは家族が認めないから。

 

だが……その選択は誤りだった。

 

自分に力があればあんな悲劇は起こらなかったかもしれない。あの子の未来を、なにもない真っ白なものにせずに済んだかもしれない

 

感情のやり場を失った彼女は、涙と憎しみを全て竜胆という少年をコロした者達に押し付けて、自責の感情と、自らの境遇を知っていながら、自分達を不安がらせないよう気丈に笑う竜胆から逃げるように人殺しに打ち込んだ。

 

「でも、八年前の研究者の日記があった……研究所が壊滅した時にどこかへ流れて行ったらしいけど、やっぱり人工複合生命体の研究所の関連施設にあったみたいだ」

 

コトネの左手に握られている小さな日記帳。これが八年前の真相に少しでも近づければ、そう一縷の想いを馳せながら彼女は日にちがほとんど焼ききれている日記を捲った。

 

◆◇◆

 

⬛月⬛⬛日

 

新しい実験体の目星がついたらしい。どうやら今回は先天的に他の生物に対しての適合率と感受性を優先して手に入れたモノらしい。既に姐さん何百代と渡って適合率を上げてきていた人工モノとどんな競争をするの、一科学者として楽しみでならない。……だが、こんなことをしていいのかというチクチクとした罪悪感は消えないばかりである。

 

 

⬛月⬛⬛日

 

件の実験体が手に入った。話通り、あらゆる生命体のとの適合率が極めて高い。コレは間違いなく人類が新たな進化を果たすための偉大な一歩となるだろう。実験体の肉体は別の生命体のみならず、同じ人間の、それも稀型と呼ばれるような血液型、さらには異性の肉体パーツや遺伝子にすら適合している。疑いようもない、コレは今までチマチマと積み重ねてきた人工モノよりもはるかな出来映えだ。

 

私はこの実験体にEVEと名付けた。新たな人類を作る者として、この名は最も相応しいだろう。

 

 

⬛月⬛⬛日

 

EVEの調整とこれまでの人工モノを全て排除することが決定した。確かに人工モノ達は年月をかさねるごとに数も増えている。EVEというこれまでにない素材を手にした以上はもう存在している理由など到底ないだろう。

 

だが、気掛かりだ。EVEを調整したことや彼らを産み出したのは此方の都合だ。本来ならばEVEもこのような目には遭ってはいけないただの男の子だろうし、彼らだって生きていることには変わりがない。

 

結局、EVEの調整と彼らの廃棄は私の手前勝手な一存では止めることができなかった。

 

 

⬛月⬛⬛日

 

どうやらこれは然るべき裁きのようだ。どうやら昨日彼らの廃棄の話を偶然耳にしたらしい⬛⬛⬛⬛が突然暴れだした。これが原因であの男にもここの存在が察知され、急速に接近してきている。やはり、人を人工的に新たな進化の段階へと推し進めるということは不可能であり、侵してはいけないテリトリーだったようだ。

 

ならば、私はこの日記を綴ろう。この研究が如何に愚かで、如何に自然の摂理に反していたのかを。それをこの日記を手にした某につたえるために。……彼らやEVE、そしてEVEの家族への償いにすらならない贖罪のために。私はこの日記を死する時まで綴

 

◆◇◆

 

「……胸糞悪い。こんなの見なければよかった」

 

EVEと呼称されておるのが自分の息子とわかったのだろう。コトネはそれをバラバラに切り裂こうと考えたが、それが手掛かりになる可能性を考慮してそれはしなかった。

 

「っ……!明日はリンくんとスズちゃんの誕生日なんだ。さっさと帰ろう……!」

 

その次の日、彼女はただ一人、その息子を遺して死んでしまった。

 

おかげで、研究施設で起こった事の真実を知るものは当事者以外いなくなってしまったのだった。

 

◆◇◆

 

魔王の証明たる黒い契約書類(ギアスロール)が空を舞う。

 

ギフトゲームの概要を記す物はその羊皮紙には一切ない。ギフトゲームではある。だがルールなど存在しない。そうとでも言うようだ。

 

そのゲームを開くモノは、絶対たるモノ。"不倶戴天"を掲げる悪の王。

 

汝、"悪であれかし"。絶対たる存在は三つの双眸と六の紅の瞳を光らせて、再誕と決戦の鐘を鳴らした。

 

 

 

『―――いざ来たれ、幾百年ぶりの英傑よッ!!死"力"を尽くせッ!"知"謀を尽くせッ!!蛮"勇"を尽くし―――我が胸を貫く光輝の剣となってみせよッ!!!』

 

 

 

「っ!?」

 

己の生物としての本能が十六夜をその攻撃から避けさせたのは、奇跡の二文字と言っても差し違えないだろう。

 

"悪"の凶爪の余波はたちまち宮殿の断崖を吹き飛ばして地盤を切り裂いた。

 

殿下と呼ばれたあの少年の姿はもう見当たらない。コレの存在に感づいていたからか、あるいは初めからコレを甦らせるつもりだったか―――ジン達から聞いた話から考えるに、それは間違いなく後者だ。

 

(っぐ……!ふざけてるとしか思えねぇ。コイツが、魔王アジ=ダカーハ……本物の最強種かよ……!)

 

アジ=ダカーハ。"拝火教"(ゾロアスター)という善悪の二元論で世界の理を解くという特異な宇宙観(コスモロジー)を持つ神群の一派。

 

この三頭龍の一派の持つ"魔王"とは神群の敵対者に与えられる座とは一線を画す。

 

彼らは神群に仇なしたから"魔王"となったのではない。この三頭龍を筆頭とした"拝火教"の魔王は―――悪行を為すことを目的として産まれ、暴威を振るう魔王なのだから。

 

(どうすればいい!?右腕はさっきコイツに殴ってぶっ壊れた。なら左でも結末は変わらねえ……!)

 

殿下との闘いで既に肉体は瀕死の域。意識も途切れかけていて朦朧としている。

 

―――正面からじゃ、勝てない。

 

本能が告げる。十六夜はそれに屈辱を感じながらも逆らわず、三頭龍に背を向けて先程黒ウサギと共に逃げたアルマテイアが向かった方向とは真逆に走る。

 

「嘗めんなよ、蜥蜴……!」

 

足なら動く。熔岩の海に沈みかけた岩盤を踏み抜いて距離を離す。

 

この、現在考えうる最善の策ですらも三頭龍は一蹴した。

 

裂け

 

刹那、十六夜の身体は鋭利なナニカに切り裂かれる。

 

「ガッ!?」

 

何が起こった。認知することすらできない。三頭龍はその場から一切動いていない。

 

(なんだコイツ……どんな恩恵を使ったんだ……!?)

 

『………』

 

十六夜の心の問いに答えるように三頭龍は虚空を指でなぞる。

 

途端、三頭龍の背中の翼が鋭利な刃に姿を変える。変幻自在なその黒い物体に十六夜はあるものを思い出す。

 

(レティシアと同じ龍の影……!正体はコイツか!?)

 

だが、それは十六夜の知っているものとは格が違う。竣さ、精度。どれも何段階も上のそれを懸命に避けるが、避けきれないで頬をかするものもいくつかあった。

 

(クソッマジで洒落にならねぇ……!)

 

強いとはわかっていた。だがこれほどの力の差があるのか。

 

紅の双眸で十六夜を見下す三頭龍は、状況を確認するようにつぶやいた。

 

『……そうか。私と闘う前から既に死に体だったか。傷さえなければ逃げることはできたのであろうに』

 

「!?っ、んだと……!?」

 

あちらからすれば最大級の慈悲を込めたのだろう。だがそれの真理を理解した、否、理解してしまった十六夜は屈辱で奥歯を噛み締める。

 

―――傷さえなければなければ、逃げることはできた

 

それはつまり、万全であっても戦いにすらならないという意味だ。

 

それは箱庭に来るまでの十六夜そのものだった。己の勝利を疑うことなく、敗北を疑うことなど微塵もない。

 

生まれついて強いものは強い。弱いものは弱くて仕方がない。逆廻 十六夜がずっと抱き続けた価値観を、逆に叩きつけられた。

 

(なるほど……確かにコイツは、腸が煮えくり返る……!)

 

今まで一切経験のない同情や憐憫、そういった負の感動に笑みを浮かべて彼は自らの右腕を掴む。

 

「憐れんでくれてありがとうよ……おかげでもう少し足掻けそうだ……!」

 

自らはその絶対たるモノに屈しない。それこそが今の十六夜にできる抵抗。十六夜を立ち上がらせているのは、不屈の闘志というどうしようもない根性論だけだ。

 

三頭龍はその双眸と瞳で十六夜を見つめ―――邪悪に嗤う。

 

『なるほど。その不屈さ、高く評価しよう。どうやら貴様は暴力だけでは折れんらしい。ならば、こういう絶望はどうだ?』

 

三頭龍はその白い爪で自らの身体を切り裂いた。途端に大量の血液が噴出し、三メートルはあろう彼の巨体が血に染まる。血液は緩やかに滴り落ち、やがて命を得たかのように蠢く。

 

大地が、溶岩が、朽ちた大木が。血液を浴びたソレらが双頭の龍へと姿を変える。

 

(コイツら……神霊級の分身!?白夜叉が戦ってたっていうアレか!?)

 

『山羊を一匹、雌を一匹逃がした。それと……そこに雌が一匹いる。追って殺せ』

 

「何!?」

 

驚愕に捕らわれた十六夜が思わず眼を向けた先には、どういうことか先程から姿が見えなかった、満身創痍の春日部 耀。

 

「か、春日部!?バカ野郎、早く逃げろッ!!」

 

そこにいた耀に十六夜は叫ぶ。最悪のことだけは避けなければ。ここで全員が死ねば、箱庭に未来があるかすらもわからないのだ。

 

耀の元に向かおうとする十六夜を先回りして背中に背負う旗印を靡かせながら、三頭龍は吼える。

 

『さぁ、どうする人間?これで時間を稼ぐ意味はなくなった。同士を救うためには私を滅ぼすしか道はないぞ』

 

「ふっ―――ざけやがれ、この駄蜥蜴がッ!!」

 

死に体の闘志を振り絞り、十六夜は三頭龍の腹部に左の拳を叩き込む。

 

諸刃の剣に等しいそれは純白の巨体に打ち込まれ、その身体に深々と食い込んだ。

 

『っ……!?』

 

三頭龍から僅かに苦悶の声が漏れる。だが十六夜が感じた衝撃はそれを遥かに上回っていた。

 

(お、もい……!?三メートルが持ってていい質量じゃねぇだろ……!?)

 

どういうことか、この三頭龍は大陸に匹敵する質量をその僅か三メートルの身体に秘めている。十六夜の拳が砕けたのも納得だろう。

 

左拳は砕けて血飛沫を上げる。迸る激痛を猛る血潮と雄叫びでねじ伏せる。

 

「ガァァアアアア!!!」

 

秒間数百発。打つ度に飛び散る鮮血。三頭龍がどれだけの質量を秘めていようが、十六夜には星を揺るがす力を持っている。それが第三宇宙速度を越えて三頭龍の身体に食い込めば―――

 

『ぬぅっ……!!』

 

三頭龍の身体は一歩引いた。その一瞬の体重移動。それを見逃さない手はない。拳打の標的を腹部から左の首に変え三発。その後に首を羽交い締めにして横転させる。

 

三頭龍の上に乗った十六夜は最期の勝負に出る。

 

(ここだ―――コイツを逃せば、もう勝機は永遠にない……!)

 

砕けた右腕に極光が宿る。

 

巨龍を打ち砕き、かつて死者の世界を切り裂いた恩恵。

 

"正体不明"を"正体不明"たらしめているそれを見た三頭龍は驚愕に揺れる。

 

「―――っ!?」

 

否、揺れたのは彼のみではない。三頭龍を中心に大地と大気が鳴動し、彼の双掌には力の渦が収束し、灼熱の球体が生まれる。

 

『"アヴェスター"起動―――相剋して廻れ、"疑似創星図"(アナザー・コスモロジー)……!!』

 

溶岩よりも熱いそれを身で浴びる十六夜は思わず息を飲む。

 

(なんだ……炎の恩恵か……?)

 

ならば、どれほどのものであろうと恐るるに値しない。十六夜の光はどんな物質であろうと防げるものではない。

 

光を逆手に構えた十六夜は三頭龍の心臓に柱を振り降ろす。

 

三頭龍は炎を天に掲げ、その一撃を受け止める。極光に触れたそれは掻き消えるかと思いきや、より激しい灼熱を以てせめぎ合いを始めた。

 

「っ―――クソッ、なんでもアリかよテメェ……!!」

 

ありったけの力を込めて柱を押し込む。

 

しかし三頭龍の炎はより勢いを増して輝きを放つ。

 

反発を増した二つの力はやがて光球となって周囲の全てを文字どおりねじ曲げる。

 

二つの力は森羅万象の全てを打ち砕き、原子すらも砕かれる。

 

十六夜の霞む視界には凶悪な笑みを浮かべる魔王を見る。

 

『終わりだ、新たな時代の申し子よ。貴様では―――この"悪"の御旗は砕けないッ!!』

 

二つの力が同時に砕ける。余波の直撃を受けた十六夜は塵芥の如くその身を宙に舞わせた。

 

◆◇◆

 

「バカ野郎、早く逃げろッ!!」

 

「―――ッ!」

 

十六夜の渾身の懇願を聞いた耀は本能で二頭龍から逃げる。身体は先程の竜胆との戦闘で動くのを拒んでいるが、それを自らの風で身体を吹き飛ばすカタチで動かす。

 

『GEEEEYAAAAAAA!!』

 

自分がここにいては彼に余計な心配をかけるだけだ。二頭龍から全力で逃げ、飛鳥達と合流し、十六夜と竜胆の身に起こったことをありのまま伝える。

 

これだけが耀がすること。コレだけしか、今の耀が果たせないこと。

 

『GEEEEEYAAAAAAAAAA!!』

 

『ヨウ!逃げるアテでもあるのか!?』

 

「ない!」

 

『メチャクチャだ!我はそのようなこと認めんぞ!』

 

「だったら!ここで死ねっていうの!?竜胆も助けられずに、十六夜の目の前で!?」

 

『そうではない、動くのなら考えよ!此度の戦争は考えもなしに何かを為すことなど不可能だ!』

 

「っ……!」

 

耀は自らの身体を振り向き、炎熱を二頭龍に向けて放つ。ククルカンの恩恵を受けたそれはいつもとは比べ物にならない力を持っていたが、それだけではかの三頭龍の分身を倒すことはできない。

 

必死に逃げる。痛む腹部を押さえながら、彼女が浮かべるのはただ一人、彼のこと。

 

「……竜胆」

 

彼の名前を呼ぶ。ただそれだけの行為がこんなに苦しさの感情を含んだのは初めてだ。

 

思えば、彼に会ってから、箱庭に来てから不可思議なことでいっぱいだった。

 

死にかけた春日部 耀を無理矢理治療してくれた。黒死病に侵された耀につきっきりで看病してくれた。"アンダーウッド"の夜の河で喋った時も不思議と会話が弾んだ。さっきだって、私とふたりでどこかへ行こうと誘ってくれた。そして、竜胆が竜胆じゃないナニカになっても根本的に私に向けてきた瞳は変わらなかった。

 

苦しい。もがけばもがくほどこの感情が泥沼に漬かって行く。

 

「"アフーム・ザー"!!」

 

牽制をしながら逃げる。逃げて逃げて、想いを馳せる。

 

『俺は死神だ、死にたくなかったら関わるな』『ひとりにしないで……』『バカか、俺は。なんでコイツに嫌われたくないなんて……』『トゥルーエンドなんて御免だ!全員幸せのハッピーエンドで生きて帰るんだ!俺の"罪"で……!』『お前は宇宙だな』『約束する。それで俺は、キミに伝えたいことがあるから』

 

記憶が、想いが、細胞の一つ一つが。彼の言葉を思い出させる。

 

理解のできない感覚に苛まれながら耀は二つ首の龍から逃げる。生きるために、事実を教えるために、

 

―――彼を、想うために。

 

 





ってなわけで次回からはコラボ編に戻ります。ちなみにエトの力ってどんだけ?て思う読者様がいると思うので一言で説明しますと、

平行世界に存在する箱庭(要するに問題児SS)の数だけ無限に強くなります。



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二話 嘆く咆哮



孤独の狐、更新!

最近新作のネタばっか出て来て困ってます。どうせすぐ飽きるのに。




 

 

「―――ぁ、ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!」

 

獣は叫ぶ。一縷の理性すらも掻き消されたその記憶には最早なにかが残ることはない。

 

次々と硝子のように獣の記憶が砕けていく。生まれた記憶。人として生きた記憶。友だった者に出会った記憶。小さな斑の旅人に勇気付けられた記憶。家族が消えた記憶。姿を消した記憶。自分を一途に慕ってくれる家族と出会った記憶。この世界に来た記憶。慇懃無礼な親友に出会った記憶。情熱的なお嬢様に出会った記憶。ウサギの同士と出会った記憶。小さな長と出会った記憶。大いなる白夜と出会った記憶。数年ぶりに心配された記憶。斑の旅人と再会した記憶。全ての感覚が消え行く記憶。なにかを自覚した記憶。くだらない戦いに本気になった記憶。死んだ姉にまた会えた記憶。記憶の奥底に消えた記憶。友だった者と再会した記憶。記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶

 

 

 

大切な()()との記憶。

 

 

()()()に裏切られた記憶。

 

 

 

全てが混ざって、溶けていく。

 

嗚呼、でも最後だけは、名前だけでも。側にいてほしい。名前もわからない誰か。一人は寂しい。だから―――

 

「―――さようなら、⬛⬛⬛⬛――――」

 

獣は世界から今まさに、消えようとしている。

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――いいや、汝にはまだ。願いがあるだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

「―――撒いた?すぐに嗅ぎ付けられるかもしれないけどっ……今は飛鳥達に知らせないと……!」

 

『だが、この身体ではそう長くは持たないぞ……これ以上無茶な顕現を使えば汝の生命に関わりうる』

 

「……ッ、黒ウサギ……飛鳥……」

 

二頭龍達から命からがら逃げてきた耀。途中幾度となくその攻撃に晒されてククルカンによる"本来使える力以上の力の行使"は確実に彼女の身体を傷つけていた。

 

だがそれでも彼女は歩を止めない。真実と現状を知るただ一人の者として―――

 

「……いた。飛鳥、ペスト……黒ウサギ……?」

 

そうしてようやく二人を見つけたが、黒ウサギはあの時飛鳥が呼び出した山羊の星獣に掴み掛かっている。

 

明らかに様子が変だ。疑問に感じた耀は歩調を速めて三人の元に急ぐ。

 

「な、なんてことを……!貴女が本当に山羊座の星獣ならば、あの魔王が何者か知っていたはずです!アレは、魔王アジ=ダカーハはただの魔王ではありませんッ!!あの魔王は数多の神群を退けてきた人類最終試練(ラスト・エンブリオ)ッ!如何に十六夜さんと言えど勝ち目など皆無!それぐらい貴女なら知っていたでしょう!?」

 

『知っていましたとも。そして他でもない、十六夜殿も承知していたはず。末期と悟っていたからこそ彼は、私に貴女を託したのです』

 

星獣―――アルマテイアの言葉に黒ウサギはなにかを思い出したのか、ドサリと膝を折って項垂れた。

 

理解はできても否定してほしかったほどのなにかが、起こっていたのだ。

 

「……、っ。……四人とも」

 

今このタイミングで顔を出すのが空気の読めない行為だということは理解しているが、それを気にしている程の余裕も彼女にはない。ふらふらと三人の元に歩み寄り、倒れそうになったところを飛鳥に支えられる。

 

「春日部さん……!?いったいどうしたの!?」

 

「……竜胆が、また"暴走"した。それで重傷を負わされて、今はエトが足止めをしてくれてるはずだけど……その後にアジ=ダカーハの分身体に襲われた」

 

「―――!耀さん!十六夜さんは、十六夜さんは!?」

 

「……逃げろ、って。それだけ言って、三頭龍に挑んでいった」

 

耀の口から語られた二つの真実は黒ウサギにより一層重たい影を落とす。大事な同士―――家族を今再び失ってしまうのか。

 

「……そんな。私は、お二人にそんな目に遭って貰いたくて箱庭に招待したわけじゃないのに……なんで、そんな……」

 

「……アルマ。春日部さん……十六夜くんは、死んだの?」

 

『私も死亡を確認したわけではありません。逃げ切れたという可能性だって無いわけではありません。ですがしかし……あの傷では難しいかと』

 

「……私も、ボロボロで挑んでいく姿しか見えなかったから。わからないとしか」

 

二人は直接的な言葉を避けて選んだが、飛鳥もそこまで鈍くはない。十六夜が決死の戦いを挑んだのは火を見るより明らか。

 

最悪の状況は考えていたが、これはその更に上を行っていた。今までも窮地に陥ったことこそあれど、今回はその比ではない。

 

黒ウサギは霊格を失い、ジンは行方知れず。十六夜は魔王と一騎討ち、そして竜胆は再び"罪"を暴走させた。

 

残る主力は飛鳥と耀のみだが、耀も傷だらけでいつものように期待することは正直できない。

 

「……だからって、気落ちしている暇なんてないわ」

 

パシッ、と己の頬を叩いてアルマテイアに向き直り、改めて問う。

 

「状況はわかったわ。でも魔王の情報が少なすぎる。アルマ……なにか知っているのなら情報をちょうだい。貴女はあの魔王を知っているのでしょう?」

 

『ええ。箱庭の古参ならばかの悪神を知らぬものなどおりますまい。―――マスターは"拝火教"(ゾロアスター)という神群をご存知ですか?』

 

いいえ、と飛鳥は首を横に振る。それを見たアルマは緊張したような面持ちで三頭龍の所属する神群について語り始めた。

 

『拝火教の悪神群は"悪"(Aksara)の旗印をかかげ、不倶戴天の敵として箱庭を荒らして回りました。今でこそ善神筆頭格とされる帝釈天、彼も本来は"拝火教"に身をおいた魔王と聞いています』

 

「じゃあ、あの龍は帝釈天と同格と?」

 

『……ええ、少なくとも昔は』

 

「……どういうこと?」

 

隣で聞いていた耀がその含みを持った言い方に怪訝な表情で返す。

 

アルマテイアは答えるかどうか考えた後、言葉を選びつつ語る。

 

『あの三頭龍はただの魔王ではありません。……いえ、むしろ魔王として真にあるべき魔王、でしょうか』

 

「というと"主催者権限"とは別のもの、ということ?」

 

『むしろ逆です。魔王とは形を成した試練そのもの。そもそも"主催者権限"とは内的宇宙を解放して最古の魔王を己の霊格に取り込むための秘奥。悪用されるようになったのは最古の魔王が駆逐されて安寧を手にしたからなのです」

 

つまるところ"主催者権限"とは、魔王を筆頭とする悪を討つためのもの。飛鳥はさきほど見たジャックの"主催者権限"を思い出す。

 

子供を悪用、もしくは殺害したことのある者に対してのみ発動する善性の試練それこそが"主催者権限"のあるべき姿。

 

『真の魔王は全く別物の試練。それも只の試練ではなく、人類を根絶させかねない史上最強の試練が顕現したもの―――我々はそれを"人類最終試練"(ラスト・エンブリオ)と呼びます』

 

「……っ。"人類最終試練"」

 

『聞いたことはありませんか?魔王とは"天災"だと。それは額面通りの意味。雷雨、地殻流動、疫病……これらの擬人化が神群に多いのは度重なる人類存続の危機を我等心霊が調伏させてきたことの証。中には天体法則のような例外もありますが』

 

頷いた飛鳥は次にペストを。耀はククルカンに問いかける。

 

黒死病の大流行などその最たる一例の一つ。人類最悪の疫病を乗り越えたそれは、人類繁栄に課された最大級の試練と数えられる。

 

(……ククルカン)

 

『そうさな。我はむしろ逆だ。"人類最終試練"が人類に課す試練であれば、我とアレの存在は"滅びた人類を再生させる"神霊だ。宇宙を作り上げた数ある宇宙観(コスモロジー)の一つ。"疑似創聖図"(アナザー・コスモロジー)と呼ばれる』

 

「……ならあの三頭龍もなにかの天災や年代記、天体法則を取り込んだ魔王なの?」

 

『……恐らく。アジ=ダカーハも昔はあそこまで絶大な魔王ではありませんでした。西洋神ならば戦女神や死者の王達と同じほど……ですがある日を境に―――アジ=ダカーハを筆頭にした何体かの魔王達が、一斉に霊格を肥大させたのです。それこそ一体一体が、百万の神霊を退けるほどに』

 

「「ひゃ、百万の神群を!?」」

 

二人は状況を忘れて素っ頓狂な声を上げた。そんなもの強いとかそういう次元ではない。文字通りの桁違い。驚異すら越えている。

 

項垂れていた黒ウサギも拳を強く握りしめて肯定する。

 

「その話は……本当です。比喩ですらない。かつてこの箱庭には数多くの神群が存在していました。そのほとんどが最古の魔王によって駆逐されていったのです」

 

『試練そのものたる最古の魔王達を倒すことは、物的には不可能でした。そこで最古の魔王に対抗する手段として後に造られたものこそ、"主催者権限"。ギフトゲームの原形』

 

それこそが、"主催者権限"を悪用した者を魔王と呼ぶ理由。己の霊格を試練そのものに変えるそれは、本質的にはなにも変わらない。

 

(……あれ。でもそれって。"主催者権限"さえあれば三頭龍を倒せるってことじゃ……)

 

『理屈上はそうなる。年代記にせよ天災にせよ。試練の食い合いとなるのだ。だがその三頭龍を打倒、あるいは封印する程の"主催者権限"となると最強種か、戦いに特化した天軍……アヤツ程度だな』

 

「……蛟劉さんは?」

 

ならばかつて"斉天大聖"や"平天大聖"と共に箱庭で神群相手に暴れまわったという蛟劉ならば。

 

だがそれは飛鳥が否定する。

 

「残念だけど蛟劉さんは行方不明よ。同じくサンドラ、ウィラ、ジャック、鈴蘭さん。そして"ペルセウス"のボンボン坊っちゃんも。避難民は"サラマンドラ"が辛うじて纏めている状態」

 

最悪なんて状況じゃない。ならククルカンは?彼も神霊の筈。なんらかの対策案はあることも期待できる―――

 

『期待しても無駄だ。我は産み出す側と言ったばかりだぞ。相反する属性で試練に対抗することができてもそれは根本から違うものをぶつけ合うこと。宇宙ほど作ることが簡単で、壊すことが難しく、規模の大きなものはない。ぶつけ合っても完全に力負けする。そもそも今の我は太陽主権を奪われた影響で宇宙創世の力の一端をも使うことができん』

 

だいたい我の宇宙創世はアヤツの助力なしではなし得なかった分力も半分だろうよ。と自嘲気味に笑う。

 

―――本当に打つ手がない。殿を務めていた飛鳥とペスト以外ほぼ壊滅ととって間違いない。

 

「……参ったわ。私達、あの二人がいないとマトモに打開策も思い付かないのね」

 

歯痒さを堪えられない飛鳥も自嘲気味に笑う。今までの魔王戦のほとんどは十六夜と竜胆に方針を任せ、十六夜に中心を任せていた。依存していたと言ってもいい。曲がりなりにも"ノーネーム"が魔王と戦ってこられた要因の大半があの二人の知識量と尽力によるものだったのだ。

 

歯痒さに痛いほど身を震わせた飛鳥は、

 

 

 

ズガシュ!

 

 

 

鈍器に頭を殴られた。この痛みには文字通り痛いほど身に覚えがある。

 

「……ウィラ=ザ=イグニファトゥス!いるのなら出てきなさいッ!」

 

あぅ、という声とともに虚空からウィラが降りてくる。

 

「ご、ごめんなさい」

 

「ごめんなさいじゃあないでしょう!?鈍器を落とされたのは二度目よ!普通に声を掛けられないの!?」

 

「ま、まぁまぁ。落ち着いて飛鳥。……ウィラも無事でよかった」

 

見かねた耀が苦笑いで止める。半泣きになっていたウィラはゴシゴシと涙を拭い、改めて謝罪した。

 

「本当に、ごめんなさい……龍が来たとき、真っ先に逃げたから……みんなと合流するのが後ろめたかった」

 

「だからって鈍器をぶつけるのはどうなの」

 

『……とにもかくにも。頭主と参謀のいない非常時です。私とマスターはコミュニティの代表として"サラマンドラ"の現状報告を行い、そのまま前衛に回ります。異論は?』

 

「ないよ。ペストは?」

 

「……ないわ」

 

『よろしい。ではお乗りなさい』

 

アルマテイアの促す仕草に一瞬思案した飛鳥はすぐに背中に跨がる。

 

「……それじゃ、行ってくるわ」

 

「うん……!飛鳥、早く行って!三頭龍の……アジ=ダカーハの分身体が来る!」

 

『急ぎます!捕まっていてください!』

 

耀の言葉に有無を言わさぬほど早くアルマテイアは電光となって駆け出した。

 

飛鳥を見送った耀達は分身体……二頭龍に視線を移して睨む。

 

「……やろう」

 

「ええ」

 

「……うん」

 

『異論はない』

 

人類に課せられた試練がなんだ。壁があるなら乗り越えて全部幸せにしてやる。

 

彼ならそう言うだろう。耀は信じることのできない相手に任せた彼のことを案じながら、二頭龍へと挑むのだ。

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

さぁ、人類の進化の終着点。その第一歩の始まりだ

 

 

 

 

 

 

 

 






徐々に、徐々に大きくなっていく。彼女にとっての彼。

だがその切っ掛けは決して二人が望んだものではなく、小さく、大きな願望に揺れ動かされた結果―――

次回、叫ぶ絶望



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三話 叫ぶ絶望

よくわかる(?)前回の孤独の狐!

エト「お前の家族殺したの俺なんだわ(笑)」

竜胆「」



耀ちゃんさん「もしかしたら私は竜胆を十六夜や飛鳥以上に見てるのかも」

クーさん「おせぇよタコ」



飛鳥「双頭龍が襲ってきた。そっちオナシャス」

ちゃんさん「おk把握」

おねーちゃん「行方不明なう」

十六夜「死にそうなう」

そんなこんなで孤独の狐、暴謔の三頭龍最終話スタートー。




―――契約するんだ。汝の……キミの願いを、聞かせてほしい。

 

◆◇◆

 

二つ首の龍が、吼える。それは戦うという行為をする、明確な意志の表れだ。

 

なるほど、確かにこれは三頭龍が言っていた通り間違うことなき神格保持者の持つそれ。

 

ならばその敵と戦うには、自分もありったけの力をぶつけて対向するしかない。

 

そして、ククルカンという"主催者権限"こそ持たないものの、神格を持つ力を解放するとその余波がどこまで及ぶかわかったものじゃない。というか見られてそれを追求されると面倒くさい。

 

よって―――

 

「ウィラ、ペスト。二人は"サラマンドラ"の方の援護に回って」

 

「は?なに言ってるのヨウ。貴女一人でこれだけの二頭龍に立ち向かうっていうの?」

 

「……それは無謀」

 

「大丈夫。無謀じゃないし、向こうも人が多い方がいいでしょ?だからここは任せて」

 

「それはなにか策があるって信じていいのね?」

 

「策というほどでもないけどね」

 

任せろ、と言わんばかりにペストに向けて親指を立てる。竜胆のことで色々あるだろうに、気丈に振る舞う耀の姿を見たウィラはペストの肩に手をポンと置く。

 

「ここはヨウヨウに任せて、私達は行こう」

 

「……わかったわ。でも、言ったからには生きてかえって来なさいよ。貴女になにかあったらそれこそリンドウが悲しむわ」

 

「死ぬ気はないよ」

 

自信を含んだ耀の返答を聞いた二人はウィラの作った境界門(アストラル・ゲート)を通過して"サラマンドラ"のいる方に向かっていった。

 

それを見届けた耀は二頭龍達と対峙する。獰猛かつ無機物的という不可思議な感覚を与えるだけです眼を向けられて少し訝しんだが、すぐに迷いは振り払う。

 

「……いけるよね?」

 

『まだ汝と我の力は完全に信和していない。これほどまでに時間がかかるなど普通は断じてあり得ぬことだが……無理はできぬとだけ言っておこう』

 

「無茶や無謀はしないよ……無理はするけど」

 

彼女のギフトカードが薄紅く輝きだし、首にかけたペンダントも光りだす。"生命の目録"の力が本来あるべき姿から離れ、"金星の創世神"の力が溢れだす。

 

自らの衣服がほんの一瞬だけ弾け飛び、それに代わるかのように白い翼を模した、露出の多い装束に変わっていく。

 

「"生命の目録"……形態、"大鵬金翅鳥"(ガルーダ)!!」

 

神鳥"大鵬金翅鳥"。七天大聖が一人、"混沌大聖"(天を混沌せし者)が属する神獣。

 

普通ならば"獣達の遺伝子の組合せで未だ見ぬ生物の力を手にする"という彼女の"生命の目録"ができる範囲のことを簡単にオーバーロードしている。なんの助力もなければ不可能なものだ。

 

が、助力があれば?

 

幸いなことに今の彼女の中には神格と神性を持つククルカンがいる。しかも彼は大鵬金翅鳥と同じ"炎"の力の持ち主。彼の力と合わされば、"生命の目録"の力で大鵬金翅鳥に限りなく近い者の遺伝子を作り出して力を上乗せするだけの仕事になる。

 

「……やるんだ。竜胆だってこの力を箱庭に来る前から使ってた。今はあの時の彼と同じ条件……!?」

 

かつてタマモの神格を取り込んだように、彼女もククルカンの神格を取り込んでいる。体験したことがなくとも、使っている様さえ見ればできる。あの時のタマモも今のククルカンも、魂に宿っている存在だからそれは同じ――――そう思っていた。

 

『無事か!?力だけでなく一気に神格まで貸し渡したのだ……汝に相当な負担はかかっているだろう……』

 

(こ、こんな……こんな借りるだけでっ、ここまで負担が……!?条件は一緒のはずなのに、彼は何喰わない顔でこんな重荷を背負っていたの……!?)

 

顔の所々にぼぅ、と光のラインが走る。その光の出現が引き金になったかのように彼女を激しい頭痛が襲う。

 

「―――ぁ、ああ!!ぎ、ぅ、……!」

 

『無茶はするな!できぬと判断したら即刻神格のパスを断つからそのつもりでいるのだ!』

 

「―――ぅ、も、問題っ……ない」

 

ククルカンの言葉を聞いて逆に吹っ切れたか。耀は頭痛と奇妙な感覚を無理矢理抑え込んで二頭龍の群れに向き直る。顔に浮かんだ光のラインはすでに消えている。

 

「―――」

 

言葉は交わさない。交わせないし、交わす必要も交わす理由もない。

 

ただ一瞬の溜めを以て、それらは急激に動き出した。

 

いつだったか、自分と同じ"生命の目録"を所持していたグライア=グライフは最強種の力を顕現させることのリスクを明確に口にしていた。

 

耀のギフトが本来あるべきカタチから姿を変えているとしてもそれは変わらないだろう。この恩恵には隠された代価が確実にある。

 

―――そもそも、代価もなしに手にできるものなどないのだ。箱庭に来た時もそうだ。来てからも何時だって、勇気や自らの血肉を……あの二人を代価にして今自分はこの場にいる。

 

(ククルカン……私は今日までこの力のリスクが怖かった。目の前に自分の力のリスクを恐れることなく身を(なげう)ってる人がいたのにだよ)

 

『―――………』

 

(でも、それがこの有り様なんだ。またあんな目に遭った竜胆を止められずに、十六夜を一人で戦わせて……きっと飛鳥にも無理をさせちゃってる)

 

『今の汝の力。これを使えたのであれば……足手まといになどならなかったのであろうな』

 

(うん……きっとこれを見せていたら十六夜だって、『一緒に魔王と戦ってほしい』って言ってくれたはずなんだ……だから……ッ!!)

 

「どけっ……!私は今、助けなきゃいけない人達がいるんだッ―――!!!」

 

『GEEEEEYAAAAAAAAAA!!』

 

三体の二頭龍をたった一人で相手取る耀。まるで躍りでも踊っているかのように炎を振り撒き、二頭龍の持つ鋼鉄すらも上回る肉体を燃やす。

 

二頭龍が周りの龍脈やら大木やら水脈やらに自らの血を浴びせて新たな二頭龍を産み出そうとしようとなると直ぐ様耀はその素を大鵬金翅鳥の炎で焼き尽くす。比喩などではなく、焼き尽くしている。

 

だが、やはり彼女の懸念通り反動があったのか、大鵬金翅鳥の炎は耀の身体そのものを焼きつくし始めた。

 

「―――!っ、ぅ」

 

その一瞬のよろめきを見て二頭龍は好機と思ったのか、数で増やそうとしてもそれができないと悟ったのか、一斉に耀に襲いかかってきた。

 

「な、めるな、蜥蜴!!」

 

彼女らしくもない、十六夜のような物言いで腕を振るう。その腕の軌跡に合わせて炎が壁になるように二頭龍を遮る。散った炎は耀の右目を襲い、自らの視力すらも焼いてしまう。

 

「ぁ、ァぁぁあァァァあぁぁアぁあああァ!!!」

 

『くっ、おい無事か!?』

 

「ぅう、おおあああああああああああああああ!!!!」

 

自分の身体を襲う炎の痛みを掻き消さんとする絶叫。自分の身体すらも焼いてしまう炎を腕に纏って二頭龍の両の首を掴んで炎を誘導させる。

 

『GEEEEEYAAAAAAAAAA!?』

 

「ふっとべぇぇぇぇぇえええええ!!」

 

それを他の二頭龍に向けて蹴り出す。吹っ飛んだ二頭龍は見事に他のそれを巻き込み、さらに炎を拡散させる。

 

「ぅぅうぅぅぅう……まだ、だ……!」

 

一応これで二体倒した。あとは一体。

 

どこにいるかと周りを軽く見渡していると―――右半身に衝撃が迸った。

 

「っぐ、が!?」

 

『ぐぉ!?使い物にならなくなった右目の死角を……!』

 

完全な不意討ちに耀は対応することができず、受け身をとれずに倒れてしまう。二頭龍はその追撃と言わんばかりに自らの影を伸ばして襲う。

 

『飛べ!ヨウ!』

 

「っ!」

 

ククルカンの言葉を聞いて反射的に衣の翼を翻す。なんの準備もなしに飛んだものだからそのフライトは酷い有り様だ。

 

だが当たらなければなんの問題もない。崩れた体勢を良しとし、二頭龍は凶爪を煌めかせて彼女を襲う。

 

「炎の……壁!!」

 

咄嗟の判断で炎の壁を作り出して二頭龍の行動を遮る。同類が二体もやられたその炎の強力さはいかに暴力のみの生命体以下である二頭龍とて理解している。そしてそれを無闇に出せば耀が自滅することも充分知っている。

 

だから、その行動は二頭龍には理解できなかった。

 

耀は自ら、その炎を突っ切って二頭龍に肉薄してきたのだ。最早正気の沙汰ではない。幾度か軽く触れるだけで右目を潰しているというのに、それが怖くないとでも言わんばかりの突進だ。

 

「くた、ばれええええええええええええ!!」

 

『GEEEEEYAAAAAAAAAA!!!??』

 

身体の捻りを加えたハイキックが吸い込まれるかのように二頭龍の二つの頭を巻き込んで直撃する。

 

総時間、二分にも満たないほどの短さ。たったそれだけで二頭龍を駆逐し尽くした耀の姿をその場にいた者達はまるで生物以上の存在を仰ぎ見るかのように眺めていた。

 

「凄ぇ……」

 

「あの人間……龍を三体も倒した……!」

 

「あれが本当に人間の力なのかよ……!?」

 

火龍隊は勿論、駆けつけたマンドラもその圧倒的な力に舌を巻いていた。

 

が、当の本人はそんな状態ではない。

 

「ぁ、あ、ぎ……!!」

 

『無理をするな……!右目が焼かれたのだ。平衡感覚だっておかしくなっているだろう……』

 

脅威の焼いた炎は敵だけに留まらず、自らの身をも焼いていた。白い肌は真っ黒に焼け爛れ、指先は麻痺して痙攣している。力の危険性を露骨に、かつ単純に示すかのように右目の付近の睫毛と眉毛は塵一つ残さずに消え、栗色の虹彩のは真っ白になっている。

 

「……問題、ない。傷なら治るし、痛いのは我慢すればいいだけだから……!」

 

だが、命は灯火がなくなればそれで終わりだ。

 

様々な獣と言葉を交わす力を持った耀は世界の残酷さをよく知っている。

 

家畜が食物であることを、生餌が自身は餌であることを、自覚していた。

 

二千年代以降を生きる人間にとって獣の言葉を理解する力というのは、決していいことだけではない。むしろ、心が折れるようなことだらけだ。

 

弱肉強食、淘汰される命。

 

自らより後に生まれ、自らよりも先に逝く。

 

それを知る耀はこの世界にすぐに馴染めた。

 

それをしっているからこそ、今しなければならないことはわかっていた。

 

(さっきの光……あれは間違いなく十六夜のギフトだ。なら、まだ間に合う―――)

 

痛みは絆と根性と想いでなんとかなる。やれる。できる。今なら、力になれなかったあの時のとは違う。力になってやれる。ずっと頼ってきた彼に、頼ることのできる人になれる。

 

だが、現実は常に非情だった。

 

「っ、え……、」

 

『な、なに……!?』

 

なんの前触れもなく"生命の目録"がその姿をペンダントへと戻る。飛ぶことすらままならず、虚空から現れたウィラが受けとめ―――

 

「わっぷ!」

 

られなかった。腕をすり抜け、胸のド真ん中に落ちて、危うく飛鳥の残したディーンに助けられる。

 

「耀。大丈夫?」

 

「う、うん。ありがとう。でもどうして急に―――」

 

不自然に言葉が切られた。それを怪訝に思ったウィラはどうかしたのか、といった眼差しで彼女を見つめる。

 

耀は愕然としたまま己の下半身を凝視している。まるで信じられないものを見るかのように。……信じたくない現実(もの)を、見ているかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……足が、動かない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

「足が……う、動かない……!?そんな、そんなどうして!?どうしてこんな時に!?」

 

狂乱したように声をあげる。目の失明や腕の傷などとは比べ物にもならない衝撃だったのだ。

 

『……ヨウ、もしや汝は……いや、耳を澄ませてみよ』

 

あわてふためく耀を諭すようにククルカンが助言をする。だがそれは助言というよりは、冷たい現実を突きつける最後の言葉そのものだ。

 

その証拠に、今までの卓越した彼女の聴覚からはヒトが得られる以上の情報は一切入ってこなかったのだ。

 

「……まさか、ギフトがなくなった……!?」

 

急激に彼女の顔が青ざめた。それはなにも心情的なものにも限らない。

 

耀の身体は急激に衰弱を始めたのだ。

 

「ぁ……ぁあ、あ……!!ッ!ガ、げほっ、ごふっごふっ!?」

 

絶望のあまりに霞んで出てきた声の震動にすら自分の身体は反応してしまう。咳き込み、倒れ、瞳に浮かんだ悔し涙が彼女の状態をそのまま投影している。

 

グライアの言葉から、ギフトの代償は竜胆と同じく"春日部 耀が春日部 耀ではないナニカ"へと変貌することなのだと思っていた。しかし、真実は全くの逆だった。器に注げる量を越えた力の代償は、それまで注がれていた力ごと、その器をなくすこと。

 

(これじゃ、竜胆どころか十六夜すら助けられない……友達の証だったギフトも、なくなって……!)

 

手にしたものが音もなく消えていく。

 

父がくれた両足も。

 

種族を越えた友情も。

 

世界を越えて育んだ絆も。

 

仄かに灯っていた僅かな想いすらも。

 

なにもかも総てが消えてなくなる。そんなもの初めからなかったのだと。父に、三毛猫やグリーに、黒ウサギに、飛鳥に、十六夜に……竜胆に。

 

彼らにそんなもの存在していなかったのだと、突きつけられたかのような絶望感すら襲ってくる。

 

「―――クッ、ハ、ハハハハハハハハハハッ!!これはこれは、思いもよらぬ僥倖だ!力の代価は、思った以上に大きかったようだなァ!」

 

下卑た笑い声が突如木霊し、ハッと二人は顔をあげる。耀はそれを僅かにだが、ウィラはそれの覚えは確かにある。

 

途端、熱風と冷風を放出してマクスウェルの魔王が姿を現す。

 

「大鵬金翅鳥を顕現させた時は流石に肝を冷やしたが……ククッ、まさかそんな対価が必要だったとは。どうやら天も私の恋路を応援してくれているようだ」

 

「マクスウェル……今度は負けない!」

 

「おおっと勘違いしないでくれ花嫁よ。なにも私は戦いに来たわけではない。この窮地にキミを迎えに来たのさ」

 

「キモい!」

 

「嬉しそうでなによりだ」

 

即答するが、聞こえていない。いかに陶酔していようとこの変態ストーカーが危険なのには変わりない。とりわけ今のマクスウェルには不定の狂気が宿っている節がある。

 

「ウィラ。私もあれから反省したんだ。今まで私は手を尽くしすぎた。それが遠回りになってキミには良く思えなかったのだろう。それくらいは私も察せる」

 

「キモいッ!!」

 

「そこで私は真摯に考えた。キミが私の下に来る方法を―――そして思い付いたんだ」

 

マクスウェルは右手を軽く上げる。二人はその仕草に覚悟を決めた。

 

が、マクスウェルの奇行はその予想を上回っていた。

 

「要するに、私の下へ来ざるを得なくすればいいんだ!」

 

弾いた指の彼方から、爆発が巻き起こった。その先は街道辺りだろうか。そして街道を越えた先にあるものといえば―――

 

「ま、まさか、"境界門"(アストラルゲート)を壊したの!?」

 

「御名答!はてさて……隣の"境界門"まで、何万キロだったかな?」

 

本来、如何なる魔王とて"境界門"の破壊だけは絶対にしない。それを壊すということはつまり、そこにいるもの達を小さな惑星に放り込むことと同義だからだ。

 

だが境界を操るマクスウェルにそんな常識は通用しない。そんなもの、あってないようなものなのだ。

 

「ふふ……では、脅迫(こうしょう)だウィラ。我が花嫁に来るというのなら、私の力で避難民とキミの友達を助けてあげないこともない」

 

「っ……!」

 

チェックメイトだ。この状況を乗り切る方法はマクスウェルの要求を飲むしかない。

 

『最悪だ……この外道もこの状況も、最悪だぞ……!』

 

タイミングだって悪すぎる。耀は恩恵を失って、ククルカンの力を引き出しても肝心の本人が戦えず、いつアジ=ダカーハが来てもおかしくない。

 

一度でも断る素振りを見せればマクスウェルは耀達を容赦なくここに投げ捨てるだろう。

 

霊体の空間跳躍が可能なウィラなら、自分だけでも逃げ出せるのだから。

 

最悪で、最低の状況。彼女達は、ついになにもすることが敵わなかった。

 

◆◇◆

 

 

 

『踏み越えよ―――我が屍の上こそが、正義であるッ!!』

 

 

 

「お前が魔王か、アジ=ダカーハ―――!!」

 

 

 

 




認めたくない真実。

突きつけられる現実。

誰もが理想のようにはなれないとわかっていながらも、己の理想そのものとなった者を認められず。

復讐を。必ず、復讐を。

復讐を願われ、彼はなにを想う。

簡単だ。彼の想いは、常に一つなのだから。

次章、そして狐は契約を。

―――サヨウナラ、ボクノダイスキナヒト



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そして狐は契約を
一話 少女の本心




大分、大分お待たせしました……

生き抜きに書いたはずのProblem Childrenが進むは進むはでこちらは半年以上の放置……しかもコラボ中に放置とか前代未聞です。

本当に桔梗@不死さん、ならびに当作品を楽しみにしてくださっていた方々に心からの謝罪を。

キャラを思い出すため、あと数話ほど本編の執筆をしますが、必ずコラボも近いうちに終わらせます。

本当に申し訳ありませんでした。




 

 

熱い(熔ける)熱い(眠い)熱い(消える)

 

既に事切れた家族達の亡骸が遠くに感じる。遠近感がなくなっている。

 

目の前の風景がモノクロだ。色彩を感じ取る事ができなくなっている。

 

━━━冷たい。

 

燃え盛る床が、ママ達の瞳が、━━━私の感情が。

 

ああそうか。死ぬってこんなにあっさりしてて、安心するんだ。

 

ふと、彼の怨讐に満ちた赤い眼を思い出す。私達と大して歳も変わらないだろうという彼はとても哀しそうな笑顔で笑っていた。ザマァみろ、と嗤っていたような気がした。

 

「……そっか。そういうことか」

 

思い出した瞬間、彼女は総てを理解した。これも物語の一部なのだと。彼女は、いや彼女らはあの日、物語の悲劇のヒーローにならざるを得なくなった彼を引き立てる為の脇役(モブ)だったのだと。

 

それじゃあ仕方ないなぁ、と彼女は一層死を享受した。それが彼の物語に必要なモノであるのならば、自分は誰だって殺して魅せるし、誰にだろうと殺されて魅せる。

 

だってそれが━━━愚かな姉が賢く儚い弟にできる唯一の孝行なのだから。

 

「お姉ちゃん!」

 

嗚呼聞こえる。この消え入りそうな声は間違いなく、弟のモノだ。愛しい声。この声が歓びに至るのならばなんだってできる。

 

「お姉ちゃん!? これどういうことなの!? お母さん達も、みんな……」

 

それから先は何か、三度か四度と彼と噛み合わない問答を交わした気がする。そこからは記憶が焼けて思い出せない。思い出そうとすると彼の涙と忌まわしい焔が彼女の脳内を駆け巡って拒絶反応を起こすのだ。

 

ただ彼女が覚えているのは、泣きじゃくる弟の涙を拭おうとして、愛していたという言葉をカタチにしようと、必死にナニカをしようとしていたことだけだ。

 

何時までも、彼女の中で消えることのない焔の中にその引きつった笑顔を遺して、彼女の中の彼は囁き続ける。

 

━━━ボクを幸せにしてよ。ボクが幸せになれないのはみんながボクの目の前で死んじゃったからだ。だから責任とってよ。責任とって、ボクを幸せにしてよ。おねーちゃん

 

だから彼女は応え続ける。高町 竜胆を幸せにするために。タカマチ スズランは総てを投げ捨てて、高町 竜胆をシアワセにするためのキカイになるのだ。

 

◆◇◆

 

声が聞こえる。

 

声だ。声だ。透き通るような声だ。

 

記憶を頼りに声の主に覚えはないかと探す。

 

ない。この声は初めて聞く声だ。

 

どうせ消える理性だ。最後の一時くらい、誰かと語らっていても損はないだろう。願うことならそれが彼女であればと思わずにはいられないが。

 

『……聞こえるか、少年よ』

 

嗚呼聞こえる。聞こえるとも。寸分の狂いもなく、静かな林の岩清水のようにハッキリと聞こえる。

 

『そうか。よかった』

 

よかった? 消え逝くこの身を案ずるなど、髄分な物好きではないか。

 

『……(なれ)は己が運命を享受するつもりか?』

 

するとも。避けようがないから。

 

『……人の宿業とは、何時の時代も罪深きモノと思っていたのだがな……これは格別だ』

 

そんな特別扱いされる程でもない。偶々廻り合わせが悪かっただけだ。

 

異世界に来て、変われると思ったけど。結局このザマじゃないか。手前勝手に人を好きになって、変な期待だけさせておいて死ぬ。なんて最低な男だろう。こんな自分が特別だなど、天地がひっくり返っても有り得ないことだ。

 

『……悔いているか? 己の選択を』

 

悔いているとも。悔いないわけがない。

 

『良い、それは良いことだ……さて、余から汝に一つ、契約を持ち掛けよう』

 

契約? ナニソレ。

 

『汝の願いを叶えようではないか。無論対価はあるし、余は余で果たすべき目的があるのだが』

 

じゃあ、する。

 

『……待て。聞いていたのか? 対価があるぞ。願いを叶える対価などロクなモノでないのは古今東西の決まり事だろう?』

 

興味ないよ。どうせこのままだと消えるんだから。

 

それならどんな対価を支払おうと願いを叶えてもらう方が何百倍もマシだ。

 

『……そう、か』

 

そうだよ。それに俺、もう疲れた。これ以上辛い思いしたくない。

 

『……そうか。だがそれでは些か疑問が残る。そこまで未練がない素振りをしていて何を願う? 何故悔いる?』

 

だって、俺の選択が彼女を悲しませるから。悲しませたくないのに、悲しませることに変わりがないから。

 

『それが願いであり、悔いか?』

 

うん。願いを叶えてくれるのならお願いだよ。名前も知らない誰か。お願いだ。

 

春日部 耀(あの子)を護ってほしい。迫る驚異全てから。立ち塞がるもの全てから。何もかも悉く、悉く。

 

『……その願い、しかと聞き届けたぞ少年。少年の願いは我が名、我がそなた(供物)に誓って果たす事を誓おう』

 

◆◇◆

 

「さぁ行こうか、我が花嫁」

 

下卑た嗤い声が聞こえる。ククッ、という興奮と滾りを抑えきれないそれを聞くことしかできない。

 

飛鳥と黒ウサギがマクスウェルの手によって何処かに跳ばされた。箱庭の貴族の力を失った黒ウサギと"威光"以外のギフトの持たない状態の飛鳥。この二人が揃って箱庭の外か、三頭龍の眷属が蔓延る場所に跳ばされたら二人は一巻の終わりだ。いや、むしろそうなっている可能性の方が高い。

 

「ぁ……ぁ、うぁ……」

 

『おのれ! おのれおのれ! このような外道に恥を晒さねばならないなど、我の生涯において最高峰の恥だ!』

 

言葉にならない悲鳴を挙げる耀と、歯噛みしながらマクスウェル本人に届く事のない罵声を浴びせるククルカン。

 

打つ手がない。

 

「く、そ……くそ、……ちくしょ……ごほっ!? が、ふぅ!」

 

悔しさで左目から涙が溢れる。大事な友達(ともたち)を助けるのだと、それだけの力があるのだと息巻いていた直後にこの有り様だ。耀は自分の非力さと愚かさに悔しさを感じる。

 

「ハ、……ハハハハハハハハハハッ!!! 滑稽だ! 実に滑稽だ! つい先ほどまであの三頭龍の眷属を相手取っていたと言うのに、その惨めな姿! 正しく道化(ピエロ)ではないか! 腕を焼き、眼を焼き、更にはギフトまでも焼く! 万物を焼き払う炎に命よりも大事なモノを焼き払われた気分はどうだ!? 春日部 孝明の娘ェ!!」

 

「だ、まれぇ!!だまれだまれ!だま━━━あぎっ、ぐぇぁ!!」

 

ありったけの声で一喝してみせるが、ひ弱な彼女の身体はそれだけで咳き込み痙攣を起こす。

 

この悪辣な男に弱さを見せてしまった事以上に彼女の全てと言っても過言ではない力を「その程度」と切り捨てられた事が何より堪らない。

 

せめてこの脚が動きさえすれば。

 

それさえできればギフトなどなくとも反抗の意思表示程度は出来ると言うのに。身体は全身を鎖で繋がれたかのように動いてくれない。

 

瞳から光が消える。自分の望んだ何もかもが消え去り、絶望し、目の前を見るという勇気すらなくなりかける。

 

マクスウェルがウィラにナニカを語りかける。当然ウィラは怯えたまま応える事はない。

 

地響きが聞こえる。

 

眷属の二頭龍達の叫び声が木霊する。

 

もう何も聞こえない。絶望の深海に身を落とし、耀はただ倒れ込むことしかできない。

 

━━━"煌焰の都"の戦いは此れにて閉幕。

 

大地は蹂躙され、同胞の誇りは踏みにじられる。

 

彼女はただ大人しく敗北を受け入れて、大地に身を預けた。

 

 

 

 

 

 

いいや、まだ終わらない。

 

春日部 耀の心を貫いた言葉はとても聞き慣れた声音で、全く聞き慣れないモノだった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

「━━━何ッ!?」

 

「━━━え?」

 

直後、各人の耳をつんざくかのような爆音が鳴った。マクスウェルはその爆音と共に十数メートル余り吹き飛び、耀は劣化した目では何が起こったのかも理解しかねない。

 

「……では、初期段階へ移行しようか。先ずは明らかにこの異常事態を起こしていて尚且つ、()()の内に含まれる護衛活動も行う。良いことだ」

 

その声を耀が聞き間違える事はない。だがやはりその声は違和感を感じるモノだ。彼の声で、彼の口だと言うのに、喋っている彼が彼でないような錯覚をこれまでに発達した五感で得た情報は与えてくる。

 

「……なんだ、貴様は……」

 

「なんだ、とは随分と大層ではないかマクスウェルの悪魔。目に見えて態度が変化していては三枚目の人相も六枚目以下だな」

 

まぁいい、とバッサリ切り捨てる。彼の姿をした何者かはそのまま悠長な歩みでマクスウェルに接近し、林檎を握ったような手形でマクスウェルに拳を叩き込んだ。

 

「━━━ヌッ!?」

 

すんでのところでマクスウェルは反応し、右腕でそれを止めた。

 

「……貴様も私と花嫁の邪魔をするか。鬼狐」

 

「そうだ。少年との契約と余自身の目的のためにな。"境界門"を破壊したとなると相応の報復は覚悟の上であろう、マクスウェルの悪魔よ」

 

身体を覆う体毛はやがて姿を無くし、代わりに漆黒の浴衣が何処からともなく身を包む。新月のように流麗で、底の見えない右目にはマクスウェルの姿が写し出されているが、その眼の奥には彼の姿など眼中にないようにも見える。

 

「今の貴様程度であれば人類は乗り越えるだろうよ。でなければ()()()()()()()()()()。早々に消えると良い、三流」

 

「何……ッ!?」

 

「聞こえないのか、今の貴様程度ならば人類は容易に乗り越えると言ったのだ」

 

「キ、様ァ……!」

 

憤怒の形相を露にするマクスウェル。だが彼は意にも介さず捕まれた腕を払うと逆に関節に手刀を落とし、腹部に軽快な回し蹴りを撃ち込む。

 

「余とて時間は限られているのだ。()くこの場から失せろ」

 

グ、ア!?

 

そんな悲鳴を口にすることすら叶わずマクスウェルは遥か遠方に弾き跳ばされた。

 

最早姿すら見えなくなったマクスウェル。彼はそれを一望してから、くるりと春日部 耀に振り返った。

 

「春日部 耀……依り代の少年の言っていた少女か……」

 

「……りんどう、だよね……?」

 

か細い声で耀は問うた。竜胆の姿をした何者かは暫し逡巡すると、やがてその口を開く。

 

「……この身体の主の名は確かに高町 竜胆という少年だ。加えて言うのなら、余は少年ではない。少年の身を依り代に顕現したただの神だ」

 

「……じゃあ、その身体は? どうして竜胆の獣化が解けてるの?」

 

「詳しく説明することは少年の本意に抵触することになる。申し訳ないがそれに答えることは余にはできない」

 

すまない、と謝る。随分と低姿勢な神だと思わずにはいられないが、そう思った途端、何故か耀の意識は遠退き始めた。

 

「━━━━、━━━━━━」

 

「━━、━━━━━━━━━━━━」

 

聞き覚えのある二つの声音だ。誰のもの身体はまで考える程の余裕は今の耀にはなく、それを子守唄のようにして彼女は訳のわからない眠りへとついたのだった。

 

 






執筆意欲とインスピレーションを取り戻せたのは本当によかったです。マジでよかったです。竜之湖先生ありがとうございますとしか言えません。

ここから暫く孤独の狐に集中致しますので、何卒よろしくお願いします。



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