ハリケーンブロッサム (びしゃもん)
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始まりはオラたち!

こんにちは。
びしゃもんと申します。
Aqoursの夏ユニット、4曲が大好評発売中ですが、これはそれを聴いた当初から頭の中で妄想していたネタを文章化したものです。
最初はめんどくさくて挫折しましたが、こうして一作完成いたしましたので公開します。
私の大好きなラブライブ!サンシャイン!!が詰まっています。これが私の愛の結晶です。
結構長いですがお付き合いくださいませ。


花丸は鼻息荒く岬への道を往くバスの中ではしゃいでいた。

 

「今回の曲作りは夏がテーマだよね?まるたちが始まり、ルビィちゃん達と善子ちゃん達は中、千歌ちゃん達は終わり。どんな曲にしようかな〜!?」

「ほらほら!花丸ちゃん落ち着いて…!周りにお客さんいるんだから…。」

 

餌を待つ犬のような花丸をなだめる梨子。

周りの乗客の視線が痛い。花丸をいさめるだけでも大変なのだが…。

 

「そんなの、もう…すっご〜くシャイニーな曲にするに決まってるじゃな〜い♪」

 

先ほどの花丸より大きい声を上げる鞠莉に対し、

 

「鞠莉さん…!大きな声出さないで…!

あ!すみません!すぐに静かにさせますから…。」

 

と、梨子は辟易して言う。

正直梨子は、Guilty Kissを組んだ時と同じく今回の組み合わせが本当に不安だった。

というか、そもそも組み合わせはほとんどGuilty Kissと同じである。

善子が抜けて花丸が入ったところで何かが変わるわけでもない。

 

(はぁ〜あ…。鞠莉さんは自由奔放だし、花丸ちゃんはたまにとんでもないことしようとするから、本当に気が抜けない…。私ってどうしていつもこういうポジションなの〜!?)

 

そんな梨子の不安と魂の叫びをよそに、バスは目的地へと向かっていく。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

梨子達を乗せたバスが到着したのは大瀬崎。内浦でも人気のダイビングスポットだ。

シーズンだからか今も朝から多くの人で賑わい、砂浜はごった返している。

だが、今日の梨子の目的はダイビングではない。

 

「あれ?梨子ちゃん、海水浴場抜けちゃうよ?」

 

スタスタと人混みを抜ける梨子に、花丸が声をかける。

花丸は梨子の動きを追っているため、人にぶつかり謝りながら進んでいる。

 

「いいのいいの!今日の目的地はこっちだから!」

 

花丸が遅れていることに気づき、梨子は足を緩める。

今度は手を繋いで、花丸と離れないように歩き始めた。

 

「この奥に何しに行くずら?」

「見てのお楽しみよ!さ!行きましょ!」

 

花丸と合流した梨子は、先を急ごうとするが…。

花丸が、ふとした違和感を目にした。

この辺りにはなかなかいない金髪の美少女が、屈強な筋肉の男性と話している。それだけなのだが…。

 

「あれ?梨子ちゃん。」

 

ツンツンと袖を引っ張る花丸に止められ、梨子は振り返る。

 

「?どうしたの?」

「あれ…。」

 

花丸が指を差す。その先には…。

 

「ちょ、鞠莉さん!?」

 

ダイビングスーツを身にまとい、インストラクターの男性と和やかに話す鞠莉。

きらめく笑顔が、今まさに海へ向かおうとしている。

 

「ちょいちょいちょいちょいこっちきて…!」

 

慌ててスーツの袖を引っ張り、鞠莉を引きずる梨子。

 

「Oh!?梨子!?どうしたのよ急に〜!」

「どうしたもこうしたもないでしょう…!?

…すみません!今日は泳がないので…!あはは…。」

 

引っ張られながら、鞠莉は男性に別れを告げる。

梨子は鞠莉をダイビングスーツ姿のまま引っ張り、海水浴場を後にした。

 




ハリケーンブロッサム第1話です。いかがでしょうか?
ここまでで1200文字くらい。全体で3万文字以上ありますのでもう少しお付き合いいただけると幸いです。
本文は分かりやすさを重視していますが(主語とか述語とか)、逆に分かりにくかったら仰って下さい。次回作で直せたら直します。


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今日の目的

こんにちは。
やはり鞠莉ちゃんは自由奔放が似合いますね。
さて、ここから本題に移っていきますよ。


「全く!今日は何をしにきたんですか!」

 

開口一番、梨子はそう口にした。

ここは大瀬崎の海水浴場から少し離れた林の中。人々の喧騒から離れた梨子達は休憩を取っている。

 

「え?曲を作りにきたんでしょ?」

 

鞠莉が嘯く。

とぼけた顔を見てげんなりしながらも梨子は鞠莉を問い詰める。

 

「じゃあなんで遊ぼうとしてたんですか?鞠莉さん。」

「そりゃあ…夏真っ盛り!な曲を作るためには、思いっきり夏を楽しむしかないと思ったからよ〜!!」

 

ダイビングスーツを着替えながら、鼻息荒く鞠莉が答える。

 

「おお〜。そういうことだったずらか〜。参考になるなぁ。」

 

我が意を得たりと花丸が頷く。

 

「参考にしなくていいから。

とにかく、今回の計画は私に任せるって言ってくれたんだからついてきて下さい〜!遊ぶのは明日!」

「は〜い。もう、しょうがないなぁ〜梨子は!」

 

梨子が懇願すると、あっさりと鞠莉は了承した。

元よりそのつもりだったのだ。梨子もなんとなく察しはついていた。

 

(でも…その度にボケられていたら…。)

 

…ついていたが、身が持たなさそうだ。

 

(なら、さっさと行きましょう!)

 

決意した梨子は、鞠莉が着替え終わるのを待って声をかける。

 

「それじゃあまず、大瀬神社に行きましょう。お参りしてから、奥に進むの。」

「それが曲作りに必要なの?」「ずら?」

 

『夏』と『神社』が結びつかない2人は首を傾げる。

 

「お参りは直接は必要ないけれど…。一応、神様にご挨拶しておこうかと思って。この先の森の中に入るから。」

 

梨子が説明すると、2人とも頷いた。

 

「そういうことかぁ。確かに、神様への挨拶は大事ずら〜。」

「そうね。一応、虫除け、クマ鈴は用意して来たけど…神様にもお願いしておかないとね♪危ない目に遭わないように!」

 

素直な2人に満足気な表情になった梨子だったが、鞠莉の用意周到さには舌を巻いた。

 

(なんだ…私の話ちゃんと聞いてたんじゃない…。)

 

鞠莉は他にも、救急キットや十分な水分など、登山者並みの装備を持って来ていた。

しかもそれを、すでに大瀬崎のダイビングショップに置いてあったというのだから驚きを通り越して呆れてしまう。

 

(だったら最初から、ついてきてくれればいいのに…勝手なことばっかり…。)

「はぁ〜…。」

 

ため息を吐いた梨子に、鞠莉がいたずらな笑みを浮かべて

 

「ため息つくと…美人が台無しだよ?」

「…!」

 

そう言われてしまったので、梨子は無言で抗議した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

大瀬神社は駿河湾の海の守護神とも呼ばれ、旧くから漁民の信仰を集めてきた。

そんな神社の境内に踏み入り、梨子、花丸、鞠莉の3人は静かに参拝する。

 

(良い曲ができますように…。)

(突然のご無礼、お赦しください。もう少しだけ、お邪魔します。)

(みんなが無事に帰れますように…。)

 

その時、不意に強い風が吹いた。

梨子はその冷たさに驚く。

 

(えっ?)

 

花丸も驚いた様子で自分の身体を見回している。

鞠莉はまだ目を閉じていた。




『今日の目的』いかがでしょうか。
なんか、ハーメルンのサイトはOSによって仕様が違うんでしょうか。
1話を投稿した時、もうちょっと編集しやすかったんですが…。
原文ママなので、スマホの方読みにくいかも。ごめんなさい。どうぞよろしく。


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Mysterious factor

前回「OSによって違うのか」とのたまっていましたが原因分かりました。
私、第一話はPC版で編集して投稿。
第二話はスマホ版で編集してました。
そりゃ、違いますわね。
と、言うわけですがこれは基本スマホ版で編集します。スマホで読む人が多いと思うので。
よろしくお願いします。


お参りを済ませた3人は、境内の一角で集まっていた。

 

「ビックリしたね!さっきの!」

「うん…この季節にこんなに冷たい風…」

 

花丸と梨子は先程のことについて話している。

 

「え?冷たい?」

「え?冷たくなかった?」

「ううん。とっても爽やかで、優しかったよ!結構くすぐったかったけど…。」

 

自分と花丸との感じ方の違いに疑問を感じる梨子。

そして鞠莉は…

 

「なになに?なんの話?What’s talking about?」

 

全く2人の会話についていけず混乱していた。

 

「いや…今強い風が…」

「風なんて吹いてなかったよ?」

「え…?」

「そんなに強くもなかったずら。」

 

意見が食い違う3人。

 

(あ…あれ??)

 

梨子まで混乱してきてしまった。

 

「ま!ここは神社!shrineよ!不思議なことのひとつやふたつ起きて当たり前だって!」

「そんなものかな〜…。」

「そんなものずらか〜。」

 

鞠莉が放った根拠のない発言に首をかしげる花丸と梨子。

信憑性はゼロだが、これ以上ここに立ち止まっていても意味がない。

3人は次の目的地へ進むことにした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「これからどこに行くずら?」

 

花丸が興味津津で尋ねる。

 

「この先のビャクシン樹林を抜けて、神池に行きましょう。…と、その前に。

…はい!これ!」

 

梨子はバッグの中に手を入れ、何かを取り出す。

 

「?」

「…これは…?」

 

梨子が出したのは小さめのストラップだった。ひとつひとつがそれぞれ違う形をしている。

 

「ほら、私たち3人でユニット作るって話になった時、何か欲しいな〜って思って…作ってきたの!モチーフを使った根付!

…どうかな?」

 

ストラップを渡された2人は嬉しそうに答えた。

 

「ぅわ〜!すごいずら〜!これ全部梨子ちゃんが作ったの!?」

「ええ、そうよ!…そんなにすごいかなぁ…。」

「すごいも何も、パーフェクトじゃない!ありがとう!梨子!」

 

お礼を言われて少しむず痒くなる梨子。

ストラップを付けると、振り返って花丸に声をかける。

 

「さ!行きましょうか!」

「うん!」

 

そのまま梨子と花丸は、林道に入ろうとする。すると…。

 

「ふが!」

「!?ーーーどうしたの!?花丸ちゃん!」

 

走って神社から出ようとした花丸が何かにぶつかってひっくり返った。

 

「びっくりした〜!ーー大丈夫だよ!梨子ちゃん。

なんか、壁みたいなものがあるずら。」

 

神社の出口でパントマイムのように手を動かす花丸。

 

「え?」

 

不審に思い、梨子も恐る恐る神社の出口に手を伸ばしてみる。

何も無いが、『何かがある』ということは伝わってきた。

 

「…あれ、本当だ。鞠莉さん、鞠莉さんはどう?」

 

梨子は後ろにいるはずの鞠莉に声をかけるが…

 

「…あれ?鞠莉さん?鞠莉さーん?」

「どうしたの?梨子ちゃん。」

 

梨子の声に気がついた花丸が振り向く。

 

「鞠莉さんがいなくなっちゃって…。」

「あれ?本当だ。」

 

辺りを見回してみるが、どこにも鞠莉は見当たらない。

気にはなったが、このままここで立ち往生していても状況は変わらない。

 

「とりあえず…鞠莉さん探そっか。」

「そうだね…。」

 

2人は仕方なく、境内の中を鞠莉を探して歩くことにした。

 




第3話『Mysterious factor』いかがでしたでしょうか。
…ちなみに私、大瀬崎は外からチラッと見ただけで海岸沿いを歩いたことはありませんし、その先の森にも神域にも足を踏み入れたことはありません。
Googleマップで上から見ただけです。
浅はかな知識で騙ることをお赦し下さい神様仏様読者様。


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神隠し

こんばんは。
休日は朝寝てるのでこんな時間になってしまいました。Guilty Kissの公演は楽しかったですね。
さて、前回鞠莉がいなくなってしまいましたが、どこに行ってしまったんでしょう?
少し覗いてみましょうか…。


その頃、鞠莉は…。

 

「んふふ〜♪どう?私はここに付けてみたんだけどーー」

 

振り向いて梨子と花丸にストラップを見てもらおうとするが…

 

「あら?2人ともどこ行ったのかしら…。」

 

2人の姿がない。辺りを見回しても影すら見えない。

 

「むむ…隠れんぼかな〜?

もう!梨子ったら!『遊ぶのは明日!』って言っておきながらやっぱり自分も遊びたかったんじゃな〜い♪」

 

鞠莉の実家はホテルを経営していて、とにかく敷地も広かったため、隠れんぼには慣れている。

鞠莉は自分の腕に絶対の自信があった。こと隠れんぼに関しては。

 

「絶対見つけちゃうんだから!」

 

腕をブンブン回しながら、鞠莉は境内の中を歩き始める。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「いないね…鞠莉ちゃん…。」

「うん…そうね…。ーーーというか…。」

 

梨子と花丸の2人は神社の境内の中を歩き回って鞠莉を探していたが…。

 

「鞠莉さんどころか、他の人も…。」

 

神社の中は少なからず観光客もいて、参拝したりおみくじを引いたりしていたはずだが今は誰もいなかった。

辺りを探し尽くして疲れた2人は休憩用の椅子に座る。

 

「鞠莉ちゃん、どこ行っちゃったんだろう…。」

「うん…。それにここからもやっぱり出られないし…。」

 

梨子は大きなため息をつく。

鞠莉を探すついでにここから出られないかと境内の外をあちこち押してみたものの、全くの徒労に終わっていた。

 

「このままマルたち、ここから出られないのかな…。

こうしている内にもお腹は空くし、だんだん眠くもなってきたし…。

イヤだな…ルビィちゃん…会いたいなぁ…。」

「花丸ちゃん…。」

 

弱音を吐く花丸。

梨子はそんな花丸に声をかけてやるべきなのだろうが、なんと声をかけていいのか梨子には分からない。

 

(こういう時、鞠莉さんだったらーー。)

 

鞠莉だったらどうするか、梨子は考えてみる。

 

『はーい!花丸、そんなに落ち込んでちゃノンノン♪絶対出られるよ!さあ行こう?』

『ん〜…どうせ暇だし、何かして遊ばない?…いいでしょ梨子〜ちょっとだけ!ちょっとだけだから〜!』

 

(はぁ…ムリね…私にはそんなこと…)

 

梨子は精一杯、自分の言葉で花丸を励まそうとする。

 

「とりあえず少し休んだら、また頑張ってみよう?さっきと何か変わってるかもしれない。」

「そうだね…梨子ちゃん、ありがとう…。」

 

花丸はとても眠そうな様子でそう言った。

鞠莉を探すために神社の中をくまなく歩いたから疲れているのかもしれない。

 

(早くなんとかしなくちゃ…)

 

その時、不意に強い風が吹いた。

 

「!?」

 

梨子はその冷たさに驚く。

花丸も驚いた様子で自分の身体を見回している。

 

(またこの風…。)

 

「花丸ちゃん、大丈…夫…?」

 

梨子は花丸に声をかけるがーー

 

「…。」

 

花丸は遠くの一点を見つめるだけで、返事を返さない。

 

「どうしたの?花丸ちゃん。」

「…。」

 

梨子がいくら声をかけても返事をしないので、梨子も花丸の向いている方を見てみる。

そこにはーー




人が忽然と姿を消す…。
実際に起こると気味が悪いですが、そこに尋常ならざるものの気配を感じるある種の美しさは言にするのも畏れ多いですね。
ちなみに私は神社で鳥居をくぐったらそこは神域ということを強く意識しています。
そこで選ばれたものは招かれ、神との謁見を赦されます。
花丸と梨子はどうして2人だけになってしまったのか…。その答えはーー


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行かないで!

第5話です。
ちょっと場面転換が分かりにくかったので、チャプター表示みたいなのやってみました。
少しは見やすくなっているでしょうか?
次回は行間も見直してみようかな…。
そんなこんなで編集は試行錯誤で行なっていきます!どうぞ!


ーーーーーーーーーー鞠莉、大瀬神社ーーーーーーーーーー

 

 

鞠莉は神社の境内で汗をかいていた。

暑いからではない。冷や汗だ。

 

(おかしいわね…こんなに探してもいないなんて…。)

 

もうこの中をざっと3周はしている。

あと調べていないのは神様が祀られている場所くらいだ。

 

(まさかとは思うけど…)

 

鞠莉は神社の神主に事情を話す。

神主は快く鞠莉の申し出を受けてくれた。

 

「ありがとうございます。」

 

神主と一緒に本殿の中に入るが…。

 

「やっぱりいない…。」

 

このままではいたずらに時間ばかりが過ぎてしまう。

 

(仕方ない…ここは神主さんに任せて、外へ行こう。まだ近くを歩いているかもしれない。)

 

そう思った鞠莉は、神主に名前と連絡先を渡して、大瀬神社を後にすることにした。

 

 

ーーーーーーーーーー梨子sideーーーーーーーーーー

 

 

「あの子は…。」

 

突然、花丸が呟き走り出す。

 

「あ!花丸ちゃん!ちょっと待って…っつ!」

 

梨子が腕を掴んで止めようとしたが、花丸の腕の力は異常に強く、振り放されてしまった。

 

【うふふふ…遊ぼう…遊ぼう…。】

「誰!?誰なの!?」

 

妙な声が聞こえる。

走る花丸の周りを不思議なモヤが取り囲んでいた。

このままでは、花丸が連れて行かれてしまう。

 

「待って!!!花丸ちゃん!!!!!」

 

梨子は叫び追いかけたが、境内から出ようとしたところでつむじ風に吹き飛ばされてしまった。

 

「きゃあああああああ!?……かはっ!」

 

背中を強く地面に打ちつけた梨子は、そのまま意識を失った…。

 

 

ーーーーーーーーーー鞠莉sideーーーーーーーーーー

 

 

鞠莉が本殿から出ると、参道の中程に人だかりができていた。

 

「いきなり目の前に出てきてさあ…」

「うん!びっくりしたね!大丈夫かなあ…」

「救急車は呼んだか!?この子大丈夫か?」

 

野次馬の声が聞こえてくる。

 

(!!ーーーまさか…!!)

 

嫌な予感がした鞠莉は、人混みをかき分けて前に出る。

そこにいたのはーー

 

「!!!

梨子っ!!!!!」

 

梨子だった。梨子が仰向けで倒れている。

 

「んん…。んんん…。」

「大丈夫!?…私の声が聞こえる!?梨子!」

「…。」

 

呼吸は正常。脈も変わったところはない。

今のところ急を要する状態ではないことに鞠莉は安堵した。背中を強く打って気を失っているだけのようだ。

 

「すぐに運ぶから我慢して…!

…すみません!通してください!…あ、救急車はとりあえず大丈夫です。…あ、ありがとうございます!」

 

梨子を背負って歩く鞠莉。

神主が社務所を使っていいと言ってくれたので、鞠莉は厚意に甘えることにした。

梨子をベッドに寝かすと、休む間も無く鞠莉は行動を開始する。

まだ花丸が見つかっていないからだ。

まずは神主、海水浴場、ダイビングショップ、周りに点在する旅館…。

あらゆる所を回った。回って、今回のことについて話した。

みんな、手が空いた時に花丸を探してくれるらしい。

そんな地元の暖かさに感謝しながら、鞠莉は梨子の元に戻る。

時刻は夕方を回り、日も沈みかけていた。

 

「ただいま、梨子。」

「…。」

 

ベッドの脇に座り、鞠莉がウトウトしていると…。

ーーピクッ

梨子の指が一瞬振れた。

 

「…梨子…?」




第5話『行かないで!』いかがでしたでしょうか。
気を失う時は「かはっ!」これは譲れません。声を出せず、息だけが肺から追い出される音です。
人間は本当に痛い時、苦しい時、声は出ないんです。気を失う時もね。
次回もお楽しみに!


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私が…!!

突然現れた梨子、忽然と消えた花丸。
鞠莉は失う怖さを知っています。そしてそれを取り戻した時の喜びも。
そんな鞠莉の気持ちになって読むといいのかもしれません。第6話です。


ーーーーーーーーーー???ーーーーーーーーーー

 

ーー(これは…?)

 

こうべを垂れる人々。

その中に、小さな子供を連れた女の人がいた。

その女の人は、子供になにかを囁き、子供は強い意志のこもった目で前を見据える。

その視線の先にはーー

 

ーーーーーーーーーー花丸・?:青空ーーーーーーーーーー

 

気がつくと、空の上を飛んでいた。

 

(あれ…?ここは…。)

 

眼下に見えるのは広大な海。

少し視線を上げれば、遠くの方に巨大な山が見える。

あれは…。

 

「富士山!?どうしてあんな所に…というかあれ!?マル、空を飛んでる!?」

 

花丸は自分の状況に気づいて思わず声を上げる。

 

「すごいずら〜!空を飛べるなんて!ーーー…あ!あそこは内浦かなぁ!?」

 

自由自在に空を飛べることが嬉しくて、現在自分がどのような状況にいるのか忘れてしまっている花丸であったが

 

【うふふ…うふふふふ…。】

 

嬉しそうな声を上げている存在がもう1人いることを知り、我に帰った。

 

(あれ…?さっきの…。)

 

それは、先ほど大瀬神社の境内で見つけた小さな子供。

 

「そこで何をしてるずら〜?」

 

声をかけたが、返事がない。

 

【遊ぼう…遊ぼう…。】

「あ!待って!」

 

そのまま地上へ降りようとする子供を追いかけて飛ぶ花丸。

そこで妙なものが浮いているのに気がついた。

 

(あれは…?)

「白い…箱?」

 

真っ白な四角い箱が3つ、沼津の空に浮かんでいた。

 

ーーーーーーーーーー鞠莉・梨子:大瀬神社社務所ーーーーーーーーーー

 

「…!…!」

「ん…んん…。」

 

誰かが呼んでいる。

 

「…こ!り…!」

「んん…?」

 

誰か…。

 

『梨子ちゃん!梨子ちゃん!!』

 

花丸が自分のことをーー

 

「花丸ちゃん!!」

「梨子!!」

 

梨子が跳び起きると、鞠莉がガバッと強く梨子を抱きしめた。

 

「あ…あれ…?鞠莉さん…?」

「梨子…良かった…!!」

 

よく見ると、ここは大瀬神社の境内ではないようだ。

それに、鞠莉がここにいる。

戻ってこられたのだと梨子は思った。ーー花丸を除いて。

 

「心配したのよ…!梨子…!!」

 

鞠莉の体が震えている。

その顔や服は所々汚れていた。

 

「ごめんなさい…。

…!ーーー鞠莉さん、今は何時ですか?」

 

窓を見ると、少しばかり橙に染まっているように見える。

3人で大瀬神社に着いたのは朝だ。それからあの事件があって、それなりの時間が経っているのかもしれない。

 

「あら…そういえば…。」

 

鞠莉が時計を確認する。

時計は18時頃を指していた。

 

「そんな…!急がないと…!」

 

鞠莉がそのことを伝えると、梨子は焦ったように身をよじり始める。

その行動を鞠莉は厳しい目で制した。

 

「ダメよ。梨子。」

「でもっ…!!」

 

鞠莉に睨まれ、思わず息を呑む梨子。

全身に痛みが走る。自分が風に吹き飛ばされたことを思い出す。

 

「でも…花丸ちゃんが…連れて行かれちゃったんです。早く助けないと…。」

「分かっているわ。今、ダイビングショップの人達や、神社の人達が探してくれてる。梨子は回復に専念して。」

 

鞠莉は簡単に今までの経緯を梨子に話した。

だが、梨子だけは知っている。

花丸が今、人とは別の次元にいることを。

 

「でもきっと…花丸ちゃんは他の人には見つけられない…。私と花丸ちゃんだけなんです。あの場所にいたのは。だから私が行かないと…。

ですからお願いします。私を花丸ちゃんの捜索に行かせて下さい。」

 

梨子は懇願した。

 

(花丸ちゃんを連れ戻せなかった私が…助けないと…!)

 

重い責任だけが、梨子を突き動かしている。

決意の目を、鞠莉に向けた。

しかし鞠莉は梨子が捜索に加わることを許さなかった。

 

「ダメよ。」

「どうして!?私なら大丈夫です!体だって…っつ!」

パンッ!

 

梨子が癒えていない体の痛みに顔をしかめた瞬間、鞠莉の平手が梨子の頰を叩く。

 

「いい加減にしなさい!!」

「…。」

 

梨子が、惚けた顔で叩かれた自分の頰を抑えた。

その頰に一筋の涙が伝う。

なぜ自分が叩かれたのか、梨子はまだよく分かっていない。

鞠莉はそんな梨子を見て、言葉を続ける。

 

「あなたが…!あなたがこれ以上無理をして、取り返しのつかないことになったらどうするの…?誰が喜ぶの…?花丸だって、そんなこと望んでいない。絶対よ。」

 

鞠莉の言葉を聞いたか聞かずか、梨子は呆然と話し始める。

 

「でも…。花丸ちゃんが連れて行かれた時、私の他に人はいなかった…。私だけだった…花丸ちゃんを助けられたのは。なのに…。

だから、私が助けないといけないんです。このままだと花丸ちゃんが遠くに行っちゃう…!だから…!」

 

最終的には駄々をこねる子供のように情けない声で話していた。

これは自分の我儘だと分かってはいるけれど、止められなかった。

鞠莉は再び手を上げる。

梨子は反射的に目を閉じ身構えた。

しかし、恐れていた衝撃は来ず、代わりに温かく包まれる感触があった。

 

「もう…どいつもこいつも…Aqoursのみんなってどうしてこんなに頑固なのかしら…。梨子…私ね、もうAqoursの誰も傷つけたくないの。Aqoursのみんなに、もう二度と傷ついて欲しくないって、そう思ってるのよ。もちろん、梨子と花丸にだって…。花丸のことが心配なのは分かるけど、もしも梨子に何かあったら、取り返しのつかないことになってしまったら…私…私…。」

 

鞠莉の言葉を聞いて梨子の肩から力が抜ける。

 

「ごめんなさい…。でも…。」

「ダーメ。今は休んで…お願い。」

「はい…。」

 

2人はずっと、寄り添うように座っていた。




9話を思い出すような第6話『私が…!!』いかがでしたでしょうか。
意識して書いたのでアレですが。
Aqoursの3年生はみんな結構似た者同士ですよね。そして鞠莉は果南が好きなので、自然と行動も果南に似てくるんです。
人との接し方を果南とダイヤに教わった。そういう話が二期の10話でもありましたね。観てない人は是非観てください。


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…違うよね?

あれからどんな会話がなされたのか。
私が考えるに、特に2人で会話することはないと思っています。仲が悪いとかではなく。
ほら、熟年夫婦とかの、あの会話がなくても縁側でのんびりっていうシチュエーション、憧れありません?ありませんか。皆さん女の子同士のイチャイチャの方が盛り上がるのかな?
まあ今回は状況が状況なので、2人ともお互いの体温を感じて、噛み締めているんです。変な意味ではなく。
というわけで、それを経ての第7話です。


ーーー鞠莉・梨子:大瀬神社〜大瀬崎ビーチーーー

 

時刻は20時を回っていた。

社務所の人は気が済むまで居ていいと言ってくれたが、いつまでも好意に甘えているわけにはいかない。

 

「こんなに遅くまで…ありがとうございました。」

「大変ご迷惑をおかけしました…。」

 

社務所を出て、ビーチの方へ歩き出す2人。

さすがにこの時間になると人はなく、浜辺は静けさを取り戻していた。

まだ体が痛む梨子を支えながら、鞠莉は道を歩いている。

 

「大丈夫?梨子。」

「大丈夫です。ありがとうございます。」

 

鞠莉の問いに対して、生真面目に返答する梨子。

そんな梨子に鞠莉は膨れつらを見せて言う。

 

「んもう!そ・れ・のどこが大丈夫なのよ〜!

I'm perfect. System all greenくらい言ってくれないと〜!」

「オールグリーンって…私は機械ですか?」

 

変な顔をする鞠莉に、苦笑する梨子。

鞠莉はその表情を見て、満足気な顔をする。

その時、ダイビングショップの方から声がした。

屈強な男性が爽やかな笑顔でショップの入り口に立っている。梨子はその男性に見覚えがあった。今朝出会った(というか鞠莉がダイビングスーツ姿で話していた)男性だ。

隣で鞠莉が笑顔で手を振っている。思わず関係性を疑ってしまうが…。

 

(いやいやいや、鞠莉さんに限ってそんなことは…。…でも、あり得るのかな…。)

 

勝手に色々な妄想が梨子の中で広がっていく。海で出会った2人…触れ合うことで深まる愛…どんどん膨れ上がっていく熱い情熱…。

2人が夜の街へ消えていったところで、鞠莉が自分の顔を覗き込んでいることに気がついた。

 

「どうしたの?梨子。」

「いえっ、なんでも…。」

 

顔を赤らめて全力で鞠莉から視線を逸らす梨子。

鞠莉は怪訝な顔をしながらも、再び男性に笑いかける。

 

ーーー大瀬崎・ダイビングショップーーー

 

ダイビングショップに着くと、男性が話してくれた。

大瀬崎のみんなで、花丸を探してくれていること。 ー未だに見つかっていないことー

自分がいなくなって、鞠莉が方々を走り回ってくれたこと。

…男性が、鞠莉の友人であること。

梨子はほっと胸を撫で下ろす。

 

「そっか…そうだよね…。」

「?」

 

しかし同時に、まだ花丸が見つかっていないことも気にかかっていた。

大瀬崎には森がある。とは言ってもそれほど広くはない。これだけ探せば見つからない方がおかしい。

やはり花丸はどこか別の場所にいるのかもしれない。

そう考え、梨子は再び考える。

 

(あの空間…、異様ではあったけどとても空気が澄んでいて穏やかだった…。

悪いものじゃないと思う…んだけど…)

 

考え事をしていると、鞠莉に頭を小突かれてしまった。

 

「こーら!梨子!また難しい表情になってる!スマイルスマイル!」

「スマイル…って、言われても…。」

 

インストラクターの男性は、肌の色に似合わぬ白い歯を見せて笑う。

鞠莉が梨子を見つめる表情も優しい笑顔だった。

 

「笑う門には福来る!覆水盆に返らないんだから、果報は寝て待て!

…今私たちができることは、花丸が戻ってきたときにとびっきりのスマイルで迎えてあげることよ。今の梨子みたいにしかめ面してちゃ、花丸も不安になってしまうわ。」

「とびっきりのスマイル…。」

 

言われた梨子は、精一杯の笑顔を鞠莉に作って見せる。

それを見た鞠莉は、にっこり笑って言った。

 

「宿題ね♪」

「えぇ〜!?」

 

梨子が抗議の声をあげ、頰を膨らませる。

 

「…っぷ、あはははは…!」

「な、なんで笑うんですか!?」

「だって、今の梨子の顔、面白かったんだも〜ん!So funny!」

「はぁ〜!?」

 

笑う鞠莉を見て、呆れる梨子。

ひとつため息を吐くと、鞠莉の笑顔に釣られて笑い出す。

 

「…やっぱり、梨子は笑ってる顔の方が素敵だよ。」

「ん?何ですか?」

「なんでもない!ほら行くよ!」

 

梨子の気持ちがほぐれてきたことを感じた鞠莉は、ダイビングショップを後にすることにした。




第7話『…違うよね?』いかがでしたでしょうか。
梨子は花丸が自分のせいでいなくなって、自分のせいで二度と会えなくなるかもしれないという不安を抱えています。
そんな梨子の気持ちになってこのお話を読むと少し違って見えてくるかも…?
次回をお楽しみに。


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バカ梨子!!!

第8話です。
私が一番好きな話です。早く読んでほしいのでこのままどうぞ!


ーーー鞠莉・梨子:大瀬崎ビーチーーー

 

「ありがとうございました!」

「Thank you! Chao〜!」

 

ダイビングショップの男性に別れを告げ、2人は再び歩き出す。

鞠莉は梨子に手を貸そうとしたが、梨子は断り、1人で歩いていた。

 

「ほら、梨子!」

「あ、もう大丈夫です!ほら!この通り…いてて…。」

「大丈夫じゃないじゃない!ほーら!遠慮せずに!」

「I’m perfect. System all green.でしたっけ?完璧じゃあないかもしれないけど、もう1人で歩けますよ!いつまでも鞠莉さんの手を借りているわけにはいかないから…!」

 

ーーーーーー

 

辺りはほんのり明るく、星の光が砂浜を照らしている。

その光景に見惚れる梨子だったが、どうしても考えてしまうのは花丸のことだった。

 

(どうしてあの時…)

(どうすればあの時…)

 

謎の声を含め、考えなければいけないことが山積みだった。

考え事をしながら歩いていたせいで、鞠莉とかなり距離が開いてしまう。

そんな梨子を、鞠莉は優しく微笑んで待つ。

そして近づいてきた梨子をーーデコピンで出迎えた。

 

「いっ!?いっっっっった〜〜〜〜い!?」

「あはははは!梨子の顔面白〜い♪」

「ちょ、何するんですか!」

 

抗議する梨子の額を指でグリグリする鞠莉。

もう片方の指も額に当て、眉間のシワを伸ばすように広げる。

最後に頬をポンと叩いた。

 

「スッキリした?今のは美顔マッサージ!あとで試してみてね♪」

「美顔…」

 

梨子は鞠莉に叩かれた頬を押さえる。

そして、海を見つめている鞠莉を見た。

 

(あ…また私…)

 

指を当てられた部分をなぞってみる。

 

(私、Aqoursに入って、自分の中の何かが変わったって、そう思ってた。でもそれは千歌ちゃんや曜ちゃん、Aqoursのみんながいたからできたことで…。みんながいないだけで、また、私…)

 

今だってそうだ。鞠莉がいたから、最悪の事態は免れている。鞠莉がいれば、この事件は解決できるかもしれない。

自分じゃなくて、鞠莉が花丸と一緒だったらーー

そんな思いが、つい口からこぼれてしまう。

 

「どうして、私はこんなに頼りないんだろう…。」

「急にどうしたの?梨子。」

 

その呟きを聞いた鞠莉が首をかしげる。

 

「いえ…なんでも…。」

 

鞠莉が向けてくる視線から逃げる梨子。

そんな梨子を見て鞠莉は言った。

 

「大丈夫よ。花丸は必ず戻ってくる。だから…焦っちゃダメ。」

「………ーーー…はい……。」

 

鞠莉が励ましても、梨子の顔は浮かないままだった。

 

ーーーーーー

 

星がきらめき、海が輝く海岸線。

砂浜の上で、梨子が口を開く。

 

「あの…。」

「?」

 

鞠莉は梨子の顔を見た。また難しい顔をしている。

 

「本当に、このやり方でいいんでしょうか…。」

「このやり方って…。花丸のこと?」

「はい…。」

 

梨子は鞠莉の顔を見ずに言う。

鞠莉は梨子との間に大きな溝があるのを感じた。

 

「残念だけど…これが今は最善よ。怪我をしている梨子に無理をさせるわけにはいかないし、花丸の居場所が全く分からない以上、私がヘタに動くことも得策じゃない。今の私たちにできることは、明日まで信じて待つことだけよ。」

「はい…。でも…。」

 

それでも梨子は諦めきれないようだった。

 

「でも…なに?」

 

鞠莉は優しく返す。

 

「なんだか…明日じゃもう遅い気がするんです…今日のうちに花丸ちゃんを見つけなきゃ、取り返しのつかないことになる…。

そしてそれは普通の人たちにはできない…絶対に花丸ちゃんは見つからない…。私だけなんです。花丸ちゃんを見つけられるのは…。」

「何を言っているの…?梨子?」

 

急に善子のようなことを言い出す梨子に戸惑う鞠莉。

構わず梨子は言葉を吐く。

 

「あの空間にいたのは私と花丸ちゃんだけ…でも花丸ちゃんだけ外へ連れていかれてしまった…ということはこの森の中をくまなく探せばそれの居場所も分かるかもしれない…今から探すとしてーー」

「梨子…?梨子!!?」

 

鞠莉はそんな梨子の肩を揺するが、一向に言葉は止まることがない。

それどころか、梨子は歩いていた方向を変え、森に戻ろうとしていた。

 

(一体どうしちゃったの…!?

…もう仕方がない!)

「ーー。」

「梨子っ!!!」

パァン!!

 

鞠莉が平手で思い切り梨子の頰を打つ。

 

「あ…あれ…?私…。」

「よかった…!梨子…!」

 

梨子の動きは止まり、呟きもなくなった。

呆けた顔で叩かれた位置を撫でる梨子。

鞠莉が慌てて弁明する。

 

「あ…ゴメンね!梨子。何かに取り憑かれているようだったからどうすればいいのか分からなくて…。」

「いえ…!いいんです、これくらい…。それよりも…。」

 

梨子は手を下ろし脱力する。

何かを叩きつけたい衝動に駆られても、出てくるのはため息だけだった。

 

「変わりたいな…。」

「どうしたの?急に。」

「いえっ…なんでも…。」

 

心の声が漏れていたことに気づき目を伏せる梨子。

 

「……『私も他の誰かのように』とか思ってる?」

 

こちらを見ずに鞠莉が言う。

なんとなく、嘘は通じないと梨子は思った。

 

「あ…はい…。」

「やっぱりね…。」

 

梨子の反応を見て、ひとつため息をつく鞠莉。

梨子は鞠莉の一言一句を聞き逃さないように集中している。

すると鞠莉は梨子の前に出てきて、急に顔を突き合わせた。

 

「うわぁ!」

 

ビックリして仰け反る梨子。

 

「それは間違いだよ。梨子。」

「………え?」

「梨子は他の誰にもなれない…いや、ならない方がいいの。…だって、梨子には梨子にしかない良いところがたくさんあるんだから、そんなことしたら勿体ないデース!」

 

梨子を諭す鞠莉。

面喰らってしまったが、ここで引き下がるわけにはいかない。

 

(でも…それでも…)

 

梨子は意を決して鞠莉に食い下がる。

 

「それでも…私は…変わりたいんです。強くなって…私に色んなものをくれたみんなに恩返しがしたい。

今はまだ、曲を作ることしかできない…。でもそれだけじゃイヤなんです!」

「どうして?」

「だって…!私がここにいられるのは、Aqoursでいられるのは…曲が作れるから…ピアノができるから…。それができなくなったら、私はここにいる意味が無くなっちゃう…!」

「そんなことないわ。だって私、梨子のこと大好きだもの!梨子は何があったって大切なAqoursの仲間よ。」

「それは『今』だから言えることです!!」

 

梨子の明らかな拒絶の言葉に、鞠莉は一瞬たじろぐ。

それほどまでに梨子が追い詰められていることを感じた。

 

「…今でも時々思うんです。もし私がピアノも、曲作りも何もできなくなったら、それでも私はAqoursでいられるのかって、みんなと…みんなとこうして、一緒にいられるのかって…。ーーー…そう思うと…すごく…怖いんです…!」

「ずっと一緒に決まってるじゃない…。もしも梨子が曲作りで悩んだり、迷ったりしたら私たちが助けるわ。

ほら!今回の花丸のことだって私たち2人で助け合えばーー」

「でも…!でもここに来てから私…何ひとつできてない!!ずっと鞠莉さんに頼りっきりで…!」

「それはーー。」

 

鞠莉は一瞬言い淀む。

 

「でも…梨子は花丸を助けようと頑張ってるじゃない。私はその手助けをしてるだけよ。『頼りっきり』なんてことは絶対にない!」

 

なんとか梨子の迷い、悩み、暗い気持ちを晴らそうとする鞠莉。

だが、梨子のことを想えば想うほど、その気持ちとは裏腹に言葉は強くなる。

 

「……。」

 

梨子が突然黙り込む。

鞠莉が怪訝な顔で梨子を見つめていると、予想外の言葉が返ってきた。

 

「鞠莉さん、前私たちに言いましたよね?

『努力は結果に比例しない』って。

私…花丸ちゃんを助けようと必死に頑張ってるつもりだった。

でも…それが結果に繋がらないなら意味が無いじゃないですか!!!」

 

鞠莉の中で何かが弾ける。

恥も、外聞も、遠慮も容赦もない。これが本当の梨子の気持ちーー。

だから、鞠莉も全てを捨てた。うわべの言葉では梨子の心を開くことはできない。

 

「この………バカ梨子っっっっっ!!!!!」

 

胸ぐらを掴み、砂浜に押し倒して絶叫する。

こうなったらもう梨子も意固地になっていた。

目をそらすことなく、キッと鞠莉を睨みつける。

 

「『意味がない』!?じゃあお前は何のためにこんなことしてるんだ!!

確かに私はそう言った!いくら努力をしても、最終的に自分の望む結果になるとは限らない!」

 

あらん限りの声を鞠莉は梨子に叩きつける。

 

「じゃあーー」

「でも!!それでもっ!!!

それに費やした時間は!!積み重ねてきた経験はっ!!!次の努力や結果に繋がっていく!!!!!」

「ーー!」

 

鞠莉の激情は梨子の反論を許さなかった。

完全に圧し負けた梨子は鞠莉を睨みつけることしかできない。

 

「だから…!だから…!!

『無駄な努力』なんてこの世にこれっぽっちも無いんだよ!!!!!」

 

鞠莉が頭を下げる。梨子の身体を何度も揺さぶる。

 

「梨子が…!

梨子が花丸を助けるって…!絶対に諦めないって…!自分を信じないでどうして花丸を助けられる…!?

自分を信じて行動しないやつを誰が信じられる!?」

 

なおも鞠莉は責め立てる。

できれば、こんな方法は絶対にとりたくなかった。

辛い、苦しい、もう泣きそうだ。

自分の一言一言が、逆に自分を突き刺す。

鞠莉の心の中は次第にグシャグシャになっていく。

 

ー本当はこんなこと、したくないのにー

 

梨子もようやく開けるようになった口を開く。

 

「う…うるさい!私だって…助けられるって信じたい!!でも実際はどうなの!!?こんなに大瀬崎のみんなが探してくれているのに一向に見つからないじゃない!!花丸ちゃんは私にとって大切な仲間なんだから!!鞠莉さんみたいにお気楽に構えられるわけないじゃない!!!!!」

「ーー!!!」

 

突き刺さった心のトゲが、鞠莉の心を貫く。

言ってしまってから、梨子は自分が言ったことの重大さに気がついた。なぜなら…

 

「…!」

 

鞠莉の目から大粒の涙が落ちてきていたから。

途端に梨子の表情が戸惑いに変わる。

それからポツリ、ポツリと鞠莉は話し始めた。

 

「そっか…そうだよね…。私…いっつも言葉が軽くて…。

『心配ないよ、大丈夫だよ』って…励ましてるつもりだったんだ…。

…ゴメンね…梨子…私、梨子のこと…何にも分かってなかった…。」

「そ…そんなこと…。」

 

ない。そう言いたかったが、鞠莉を傷つけてしまった梨子は何を言ったらいいのか分からない。

 

「それに…分かったようなこと説教垂れて…ハハ…何してんだろう…私…。」

 

鞠莉は立ち上がって今日の宿泊先へ歩き始めた。

 

「梨子、ゴメン。今はこんなことしてる場合じゃないよね。ケガもしてるのに…早くホテルに行って休もう?」

「は…はい…。」

 

梨子も立ち上がり鞠莉についていく。

何度も声をかけようと手を伸ばしかけるが、できなかった。

先程のように鞠莉がこちらを振り向くこともない。

梨子は大瀬崎の海を見た。

かつて答えをくれた沼津の海。

その海は、今は静かに佇んでいた。




第8話『バカ梨子!!!』いかがでしたでしょうか。
私がラブライブ!サンシャイン!!のアニメで一番好きな話が一期の8話『くやしくないの?』なのですが、それと同じ第8話です。
鞠莉の言葉、皆さんの心にも何かを残せていたらいいな。
キャラクターの言葉は、もちろん私が考えているのですが、その大部分は「私の中のキャラクター」の言葉でもあります。
ややこしいですが、この言葉は、私ではなくて、「私の頭の中の鞠莉」の言葉なんです。キャラクターが喋りたい言葉を喋らせています。
なので、書いていて泣きそうでした。私がラブライブ!サンシャイン!!からもらったものの全てが、ここに詰まっています。
次回もお楽しみに。


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遊ぶずら!

第9話ですね。
少し間が空いてしまって申し訳ありません。休日は遊んでおりますので…。
梨子、鞠莉の今後が気になりますが今回は花丸のお話です。
どうぞ!


ーーー???ーーー

 

ーー人々はその存在を忘れつつあった。

みんなに自分たちの存在を認めてもらうにはどうしたらいいか。

そんなことは決まっていると、そいつは言った。

ならば、こうすればいいーー

 

ーーー花丸:沼津上空ーーー

 

花丸は、雲の上で考え事をしていた。

 

(ん〜…。空を飛ぶのには慣れてきたけど…)

「どうやって戻ろうかなぁ…。」

 

『空を飛べる』と気がついた時は無性に楽しくて、側にいた子供と一緒に沼津中を飛び回って遊んでいた花丸だったが、冷静に考えてみれば今の自分の状況はおかしい。

 

(地上に降りようとすると壁に当たるし、沼津からは出られないし…。あの変な立方体はどうやら本当に箱みたい…)

 

子供が姿を消し、途端に冷静さを取り戻した花丸は、沼津中を飛び回ってこの空間を調査していた。

調べ尽くした時にはもう日が暮れていた。

 

(それに…)

 

子供と一緒にいた時の記憶が曖昧だった。『楽しかった』はずなのだが、何をしていたのか、具体的なことは靄がかかったように思い出せない。

 

(あの子が特別な力を持ってる…?何か人に催眠術をかけるような…。)

 

その時、どこかから笑い声が聞こえた。

 

【うふふふふ…。遊ぼう…。】

「!?ーーー誰!?どこずら〜!?」

 

その時、3つの白い箱が淡く光り始めた。

しかし、花丸はそれに気がつかず笑い声のする方へ飛んでいく。

 

【あはははは…!あはははは…!】

「うふ、うふふふふ!なんだか楽しくなってきた♪」

 

子供の声があまりにも楽しそうでーー花丸は、段々と色んなことがどうでもよくなっていく。

 

「よーっし!遊ぶずら〜!!」

 

そう言って、声が聞こえた場所

ビャクシン樹林の中へ消えていった…。

 

ーーー大瀬崎:?ーーー

 

ーー大人達は森の中を照らす

行方不明の少女を探して

その内の1人が美しい髪を持つ少女を発見した。

 

「おぉ〜い!この子じゃねえか?」

「あぁ、そうだなぁ。この近くの寺の子だ。間違いねえ。」

「すぐ連絡だ!」

 

そう言って大人の1人が携帯電話を取り出した。

まさにその時

突然少女が目を覚ます。

 

「お、起きた。」

「大丈夫か?」

 

少女は応えず、ただニヤッと笑うと、突然走り出した。

 

「おい!どうした!?」

 

大人達が追いかけるが、強い風が邪魔をする。

 

【あはははは…あははははは…!】

 

少女は笑い、遂には身体が浮き、森の中を自由に飛び始める。

呆気に取られる大人達を尻目に、少女は飛んで去って行ってしまった…。

 

ーーー???ーーー

 

ーー町が出来ていく。

高いビルが建つ。

とうとう自分たちを知る者は僅かとなってしまった。

知っている者の多くは誰かにそれを伝える前に自分たちのせいで死んでしまった。

寂しい。寂しい。

友達が、欲しいーー

 




第9話『遊ぶずら!』いかがでしたでしょうか。
白い箱、テストに出ますので覚えておいてもいいですが、今回で最後の登場です。残念。
とうとう大瀬崎に空飛ぶ少女が現れましたね。この子は一体誰なのか。
そこらへんも含めてお楽しみに!


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ハグ

第10話です。
皆さんは友達欲しいですか?私はこれ以上は要らないです。
人生において、友達は2、3人でいいと思っているからです。
ですが、その友達が短命で、すぐ消えてしまうものだとしたら
そして心の穴を埋める方法が、友達しかいないと思っていたとしたら
私は、どんな方法を取るでしょうね。


ーーー梨子・鞠莉:大瀬崎ーーー

 

ホテルに着いた2人は、気まずい沈黙に包まれていた。

鞠莉がいたずらでホテルに置いてもらっていたハネムーン仕様のベッドが完全に裏目に出ている。

シャワーを浴び床に就いたまでは良かったが、ベッドが落ち着かないのと、今日あった出来事が頭の中でぐるぐるするのとで、梨子は眠れなかった。

結局、窓際で座りながらぼーっと外を眺めている。

 

「まだ眠らないの?」

 

鞠莉が声をかける。

 

「はい…眠れなくて。」

「早く寝ないと、明日持たないよ?」

「ええ…。」

 

上の空で返事をしながら、しかし梨子は何も考えていなかった。

1日で色々な出来事がありすぎて頭の処理が追いつかない。

それは鞠莉も同じだった。

結局、鞠莉も眠れず、梨子の隣に腰かける。

 

「…。」

「…。」

 

素晴らしいオーシャンビューのホテルだが、今の2人には無味乾燥なモノにしか見えない。何かが足りない。

 

『うわぁ〜!!すごいずら!何このベッド!見たことないずら〜!!』

『梨子ちゃん!すごいね!海が綺麗に見えるずら〜!』

『ねぇねぇ!』

 

ー楽しいね!梨子ちゃん!鞠莉ちゃん!ー

 

無表情の2人の目から涙が溢れては落ちていく。

梨子は隣の鞠莉を見た。

 

「あれ…?鞠莉さん、泣いてるの?」

 

そして鞠莉は隣の梨子を見る。

 

「梨子だって…泣いてるじゃない。」

「あれ?本当だ…。何でだろう…。」

 

おかしくなったのはいつからだっただろう。

壊れてしまったのは何故だろう。

どうしてこんなに辛くなってしまったんだろう。

そう考え、2人は向き合う。

先に話し始めたのは鞠莉だった。

 

「梨子…ごめん。私…梨子に自分の考えばっかり押し付けて…。

梨子の気持ち、全然考えてなかった。悩んでいたのにそれを邪魔して、茶化してーー」

「そんなことない…!私も…鞠莉さんの気持ち、全然分かってなかった…。

辛いのは鞠莉さんだって同じなのに…『鞠莉さんは強いんだ』って勝手に決めつけて…羨んで…

あんなひどいこと…!」

 

鞠莉の言葉を遮って続ける梨子。

あの時からずっと心に引っかかっていたこと。

 

「本当に、ごめんなさい…!」

 

ようやく言えた。

 

「梨子。」

 

鞠莉が頭を下げている梨子に声をかける。

 

「ハグ、しよう?」

「うん…。」

 

2人で抱き合い、仲直りをする。

大好きな親友の一番大好きなスキンシップだ。梨子が大切な仲間だからこそ、鞠莉はこれで仲直りをしたかった。

 

「うふふ…。」

「どうしたの?」

「鞠莉さん、果南さんみたい。」

 

鞠莉の温もりを確かに感じながら、梨子は呟く。

鞠莉が思っていることが、今なら分かる気がした。

 

「うふふ…そうかしら?

ついでだから、その堅苦しい呼び方もやめて、『マリー』って、呼んでほしいな。」

「マリーはちょっと…。

…じゃあ…『鞠莉ちゃん』これでいい?」

 

体を離し、面と向かって梨子は鞠莉の名前を呼ぶ。

『ちゃん』をつけられて嬉しそうな表情になる鞠莉。

そんな鞠莉を見て、梨子も笑顔になる。

そして再びハグをした。

 

「もう一回言って?」

「鞠莉ちゃん。」

「もう一回。」

「鞠莉ちゃん!」

「もう一回〜!」

「鞠〜莉〜ちゃん!!」

 

そのままベッドに転がり込み、ふざけあう2人。

 

「うふふ…!」

「あははは…!」

 

ひとしきり笑った後、2人は寝ながら向き合う。

そして、明日の再起を誓った。

 

「鞠莉ちゃん。」

「なあに?」

「花丸ちゃん、絶対に見つけようね!私、もう諦めない…!」

「もっちろん!私達ならできるよ!do our best!」

 

花丸はまだ見つかっていない。しかしこれは大きな一歩だと2人は思った。

ここから状況が好転していきそうな、そんな予感。

その予感は着信音となって、鞠莉のスマートフォンにやってきた。

 

「はい。ーーそうですが…。ーーー……え!!?花丸が!?」

 

鞠莉は梨子と目を合わせる。

その時

遠くの森がざわめき始め、風が窓を叩いた。

 

「!!」

 

梨子は咄嗟に窓の外を見る。

その時、梨子の耳に誰とも知れない、だが確かに聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

【遊ぼう…?】

「花丸…ちゃん?」

「…え?」

 

電話を終えた鞠莉は梨子の方を見る。

すぐに梨子も鞠莉の方を振り向いた。

 

「鞠莉ちゃん…!」

「分かってる。行こう!」

 

寝間着を着替えることも忘れ、2人は外へ飛び出した。




第10話『ハグ』いかがでしたでしょうか。
ちなみにホテルのモデルは『オーシャンビューフジミ』さんです。サンシャインコラボのパズルラリーが12月16日までやっているそうですよ。まだ間に合う。ということで採用。行ったことはないです。
そしてハネムーンベッドのネタはラブライ部員には説明するまでもないでしょう。詳しくは『ラブライブ! the school idol movie』を観て下さい。
さて。本編ですが、また一期の第9話です。ハグ。ヨーロッパ辺りでは当たり前のスキンシップですがアジアでは特別な意味を持つことが多いですね。多分。
鞠莉にとっても大切な行為なので、大事に書かせていただきました。ふざけあう2人が何をしていたのかはご想像にお任せします。


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花の嵐

タイトル回収です。第11話。
花丸の声が聞こえた梨子は鞠莉と共にホテルを飛び出します。
花丸はどこへ…?


ーーー梨子・鞠莉:ビャクシン樹林ーーー

 

「はい!これ!懐中電灯。」

「は、はい!ってうわぁ!これ…光強すぎ…。」

「はい!虫除け!」

「はいはい…ってこれゴ○ジェットじゃない!」

「あはは!冗談!」

「もう!ふざけないの!」

「はーい。じゃあ行きましょうか!」

 

海岸沿いを歩き、森の中に差し掛かるところで2人は装備を確認する。

寝間着に懐中電灯、鈴、虫除けと、かなり間抜けな格好だが、今はそんなことに構っていられない。

 

「声はどっちから聞こえる?」

「えと……こっち!」

「Rojer! Let’s go!!」

 

梨子が聞いた花丸の声は断続的に聞こえてきていた。近づく度に声が大きくなっている。

 

「でも、こんな方法で大丈夫なのかな…?」

「そうね。でも、今はその声を信じるしかない。頼りにしてるからね!梨子!」

「…うん!」

 

鞠莉には声は聞こえていない。だが、その声よりも信頼できる存在がここにいる。

今はそれだけで動くことができた。

 

声を聞く

先に進む

森を抜ける

 

そうこうしている内に、2人は水場にたどり着いた。

 

「ここは…?」

「あれ…?」

 

急に森のざわめきが収まった。

と同時に、梨子が今まで聞いていた声も聞こえなくなる。

 

(この感覚…どこかで…?)

 

その時

 

「梨子!!上!!」

 

鞠莉が声をあげ、懐中電灯の光を当てている。

その視線の先にはーー

 

「!!ーーー花丸ちゃん!?」

 

目を閉じて空から現れた少女。

その少女は梨子のもとまでゆっくりと降りてくる。

そしてそのまま

 

【zzz…】

 

眠ってしまった。

 

ーーービャクシン樹林ーーー

 

突然のことに驚きを隠せない梨子と鞠莉だったが、目的は達成したので一度ホテルに戻ることにした。

1人の少女を背負って戻るのはかなり厳しいと思っていたが…

 

「え?軽い?」

「うん…ほとんど体重がないみたい…これなら私1人でもなんとかなりそう。」

 

怪訝に思いながらも鞠莉は少女のお尻を持ち上げてみる。

確かに、人の重みを感じない。

 

「じゃあ…私は梨子の分の荷物を持つわね!」

「うん。ありがとう!」

「お安い御用♪」

 

2人は時々役割を交代しながらホテルへの道を歩く。

だんだんと、夜も更けていく。

 

ーーー大瀬崎:ホテルーーー

 

ホテルに着いたときには時刻は24時を回っていた。

部屋に着いた途端ベッドになだれ込む鞠莉と梨子。

鞠莉も梨子も、一日中精神的・肉体的に辛いことをしてきた。

そのまままどろむように床に就く。

 

「んん〜…もうダメ…。梨子〜…ハグ…。」

「えぇ〜…。しょうがないなぁ…。じゃあ花丸ちゃんを挟んで…」

 

少女を抱いて寝ようとする2人。

その時、鞠莉は少女と目が合った。

 

「OH!!ーーー…起きてたの?花丸。」

「わっ!驚かさないでよ鞠莉ちゃん!ーーー…起きてるの?花丸ちゃん。」

 

少女は目をパチクリさせながら起き上がる。

 

【お外…】

 

何かを呟きながら窓の方へ向かう少女。

出て行こうとするそれの手を梨子が掴む。

 

「ダメよ、花丸ちゃん。もう夜も遅いし…」

【梨…子…ちゃん…?】

「えっ?」

 

手を掴んでいるその少女は花丸だ。

そう思っていた梨子だったが、その少女の隣にぼんやりと浮かぶ姿を見て、考えを改めた。

 

「花丸…ちゃん…?」

「どうしたの?梨子。」

【鞠…莉…ちゃん。】

 

少女が鞠莉の名前を呼ぶ。

梨子の目には隣の存在が名前を教えているように見える。

 

「そうよ!私がマリー!花丸!ぎゅーーー」

「ちょっと待って鞠莉ちゃん。」

「ふぅぇ?」

 

少女に抱きつこうとする鞠莉の顔を片手で押さえる梨子。

そして、睨みつけながら少女に質問をした。

 

「あなたは誰?花丸ちゃんじゃないわね。」

「ふぇ…?

梨子、何を言ってーー。」

 

鞠莉がそう言って少女を凝視する。

少女はきょとんとした顔で2人を見つめている。

 

【お外…遊び…たい…】

「ダメよ。花丸ちゃんを返して。」

「ちょ、ちょっと梨子?」

 

鞠莉の顔を押さえている手の力が強くなる。

顔が潰される前に鞠莉は梨子の手から逃れた。

 

「どうしたの?梨子。

花丸ならここにいるじゃない。」

 

容姿も、声も、この子は花丸だ。

発見した時は宙に浮いていた気もするし、体重が無かった気もするが、たまにはそう見えたり感じたりすることもあるだろう。何しろあの時は必死だったから。

と、鞠莉は本気で思っている。

 

「違うんです。この子は花丸ちゃんじゃない。

隣にいるんです…花丸ちゃんが…。

この子に私たちの名前を教えてたみたいなんです。」

「WAO…。」

 

見たままを伝える梨子。

少女は怒られたと思っているのか

 

【ごめんなさい…】

 

うなだれてそのまま頭を下げる。

もちろんそれで梨子の気持ちが収まるわけでもなかった。

 

「どうして謝るの?謝るくらいだったら早く花丸ちゃんを返して。」

「梨子…。」

【……。】

 

梨子が詰め寄っても、少女はただうつむくだけで返事をしない。

 

「ねえ、なんとか言ってよ。そんな風に黙ってるだけじゃ、何も分からないじゃない!」

「ちょっと〜、梨子?」

【ぐす…うぅ…ヒック】

 

梨子が肩を掴んで大きく揺らすと、少女は泣き始めてしまった。

なおも追及しようとする梨子を鞠莉が止める。

 

「まあまあ!梨子!そんなに怖い顔してちゃ、話せるものも話せないわ。見たところまだ子供みたいだし。」

「え、…ああ、ごめんなさい。つい熱くなっちゃって…。」

【ぐすん。】

 

少女はまだ泣いている。梨子のことが相当怖かったらしい。

今度は鞠莉が前に出て、少女と話すことにした。

 

「はい、ハンカチ。怖かった?…そう。でも、もう大丈夫よ。{怖いお姉さんだけど、本当はとっても優しいお姉さんだから}」

「聞こえてるわよー。」

 

少女を抱きしめながら気を落ち着かせるように話しかける鞠莉。

少女の方は大分落ち着いてきた。

最後の方はかなり小声で話したつもりの鞠莉だったが…

 

「あ、あれ?聞こえてた?」

「当たり前でしょ!こんな静かなのに聞こえないわけないじゃない。」

【……】

 

少女は鞠莉の後ろに隠れ梨子の様子を伺っている。

それを見て鞠莉はニヤリと笑った。

 

「も〜!梨子がいじめるから〜。」

「んなっ…!?いじめてないでしょ!?ただ…ちょっと………ああもう!」

 

鞠莉に責められ、観念した梨子は少女の前に立つ。

 

(確かにさっきのは大人気なかったし…それに…)

 

なぜかは分からないが、この少女は悪いものではない。そう感じた。なのにそんな少女を責めて、怒りをぶつけて…

 

(これじゃあ、さっきまでと変わらない…。変わらなきゃ…ここから!)

 

梨子は少女の方を真っ直ぐに見る。

先程までとはうってかわって優しい口調で少女に語りかけた。

 

「ゴメンね、いきなり怒鳴ったりして。

私ね、桜内梨子って言うの。あなたは?」

 

優しく語りかけられ、少女は鞠莉の後ろからぴょこんと顔を出す。

しかし、首を傾げて唸っていた。

 

【な…まえ…?】

「そう、名前。花丸ちゃんなら知ってるかしら…。」

 

どうやら本人には自分の名前が分からないらしい。ずっと首を傾げている。

ならばと梨子は後ろにいる花丸に目を向ける。花丸も悩んでいるようだった。

2人(3人)がうんうん唸っていると、鞠莉が1つの提案をした。

 

「じゃあ…私達で名前、つけてあげようよ!」

「私達が?」

 

梨子だけでなく、少女も興味津々で鞠莉を見る。

鞠莉はそのまま続けた。

 

「うん!…そうだなあ…例えば…。ーーー…梨子はつむじ風で飛ばされたみたいだし、森の中を駆け巡る感じがまるで嵐のようだったから…ハリケーンなんてどうかしら!」

「なんで英語なのよ。嵐だったら…そのまんま『ラン』ちゃんでいいんじゃない?」

 

梨子は鞠莉の意見を即却下し、代わりの案を出した。

すかさず、鞠莉が付け加える。

 

「え〜?じゃあ…花丸の姿をしてるから…『花の嵐』ハリケーンブロッサムなんてどうかしら〜!?」

「なるほど…じゃあ読み方的には『嵐花』…ランカちゃんの方がいいかしら。どう?」

 

部屋中を優雅に跳び回りながら名前の提案をする鞠莉。

それは無視して、鞠莉の意見を取り入れつつ、名前を完成させる梨子。

鞠莉はこれで満足したのか、息を切らせてサムズアップをしている。

当の本人はきょとんとした表情で鞠莉を見ていた。

 

「嵐花ちゃん!」

【?】

 

梨子が今つけたばかりの少女の名前を呼ぶ。

振り向いた少女に梨子は微笑みもう一度名前を呼んだ。

 

「嵐花ちゃん。」

【らん…か…?】

「そう。今からあなたの名前は嵐花ちゃん。よろしくね!」

 

名前を呼ばれた少女ーー嵐花は、笑顔で梨子に頷いた。




第11話『花の嵐』いかがでしたでしょうか。
うまく付けられたと思っていますが…。
鞠莉のおふざけにも梨子が上手く合わせられるようになりましたね。アニメのちかりこの関係のようです。
急に口調が変わるのもどうかと思いましたが、まあ大丈夫でしょう。
次回からまた大きく物語が動きます。新キャラ『嵐花』がどんな事件を巻き起こすのか…お楽しみに!


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あなたの名前は…?

実はこの長編には裏のテーマがあるのですが、この話から分かる人は少ないかも…。
次の長編から本気出しますね。
というわけで第12話です。1クール終わっちゃいますね。
どうぞ!


ーーー花丸:?ーーー

 

あの時、地上に降りてからの一部始終を、花丸は嵐花の後ろで見ていた。

自分もその場にいるはずなのに、その光景はどこか映像じみていた。

普通の感覚ならそれはー寂しいーそう感じるはずだった。

しかしーー

 

「梨子ちゃんと鞠莉ちゃん、森の中をあんなに走って…楽しそう!」

「そう!この子は梨子ちゃん!おらのお友達なんだ!」

「それで、この子は鞠莉ちゃん!とっても面白い人なんだよ!」

 

梨子と鞠莉が自分をどれだけ心配しているかーー

そんなことはつゆ知らず、今の状況を楽しんでいた。

だがーー

 

「あれ?梨子ちゃんなんで怒ってるんだろう…。」

「大丈夫だよ。梨子ちゃん本当はすごく優しいずら。」

「そういえばまだ聞いてなかったなぁ。あなたのお名前は?」

「嵐花…いい名前だね!……名前…。」

 

ホテルでのやり取りを通して、少し違和感を感じた。

 

「あれ?名前…。

おら…名前…なんて言うんだっけ…?」

 

心に何か引っかかったような、少し気持ちの悪いこの感じ。

だけどーー

 

「まあ、いいか!」

 

そんなことは今はどうでもよかった。

今はこの楽しさに身を委ねていたいーー

 

「うん、そうだね!明日になったら、また遊ぼう?」

 

ーーー梨子・鞠莉・嵐花:大瀬崎:ホテルーーー

 

【う〜。遊びたい〜】

「今日はもうダメ。明日ね。」

「この子本当に幼いのね…。姿が花丸のまんまだからとってもキュートだわ〜♡」

 

3人は寝る準備を整えていた。

窓側が梨子、真ん中が嵐花、そして鞠莉の順番だ。

鞠莉がずっと嵐花を抱いている。今夜の抱き枕にする予定らしい。

 

「はいはい。あんまり強く抱いて潰さないようにしてね。一応体は…えーっと…。」

 

梨子は鞠莉を注意しようとしたが、一瞬言い淀む。

その変化を鞠莉は見逃さなかった。

 

「花丸。」

「そう。花丸ちゃんなんだから…。」

 

言った後で、梨子も自身の異変に気がついた。

 

「あ…あれ…?」

 

大切な仲間の名前が思い出せない。

梨子は起き上がり、鞠莉の方を見る。

震える声で鞠莉に話しかけた。

 

「ね…ねぇ鞠莉ちゃん…。」

「なぁに。」

「この子は…。」

「うん。」

「嵐花ちゃん…。」

 

寝ている嵐花を指差しながら梨子はそれの名前を呼ぶ。

しかし…。

 

「そう。だけど違う。」

「うん…。それは分かってる…。ーーーけど…。」

「うん。」

「この子は…。

 

……この子は…だれ…?

 

 

 

なにかが違う。この子は、本当はーー

だんだんと、梨子が顔面蒼白になっていく。

 

「あ…。あぁ……!」

「梨子、落ち着いて。」

「あぁあ…!」

 

鞠莉が声をかけるが、梨子はパニックに陥っていた。

 

(無理もない…か。私も同じ状況になったら…)

 

考えただけでゾッとする。自分の大切な人のこと、大切な人だと理解しておきながら名前すら思い出せない。

それは身を切ることよりも辛いことだと鞠莉は思った。

 

「どうして…!?どうして…。」

 

頭を抱えて絶句する梨子を強く抱きしめる鞠莉。

 

「梨子…!

大丈夫…大丈夫だから…。

私が、なんとかしてみせるから……!!」

 

鞠莉に抱きしめられながら、梨子は嗚咽を漏らす。

涙とともに記憶が抜け落ちてしまうのではないかと怖れても、止めることはできなかった。

 

「うぅ…あぁ…ーーごめんね…ごめんなさい…鞠“莉ぢゃん…わたし…助けるって…絶対にだずげるって誓ったのに…!

もう…なにも…なにも思い出せないの…!この子のこと…!名前も…想い出も…!

たくさん一緒に過ごしたはずなのに…なにもないの…!!!

ごめんなさい…私…結局最後までーー」

「そんなことない!!!」

 

鞠莉の胸の中で必死に謝る梨子。

ここまで梨子は十分頑張ってきた。花丸を助けるために普段は出さない声を張り上げて、鞠莉に喰らい付いてきた。

だからーー

 

「梨子が!梨子がいなかったら…花丸のことを諦めていたら、絶対に花丸は見つからなかった!あなたが諦めなかったから、花丸はここにいる!可能性は繋がっているんだよ…!

だから…だから…!

『役立たず』だなんて…言わないでよ…!!

 

鞠莉の目に涙が光る。

 

「ごめんなさい…。鞠莉ちゃん…。」

「なんで謝るのよ…。ダメ。もう謝るの禁止。」

「えぇ…じゃあどうすれば…。」

 

泣きながら怒る鞠莉に困惑しながら、梨子は鞠莉と再び向き合う。

散々泣いて取り乱したせいで幽霊みたいな見た目になっている梨子に、鞠莉は堂々と宣言した。

 

「万事、マリーにお任せしマース!でいいの。」

「えぇぇ…。」

 

正直なところ、涙で顔がグシャグシャなのでいまいち説得力がない。

鞠莉は更に苦言を呈す。

 

「そもそも、梨子はすぐ謝るのがいけないところだよ。私は別に謝ってほしくて怒ってるわけじゃないの。

…それにほら…私たち…

()()…でしょ?」

「……!!」

 

鞠莉に『友達』と言われ、梨子はハッとする。

自分が今まで鞠莉とどう接してきたのか、改めて考える。

 

「友達が友達を助けるのは当たり前のこと。梨子が花丸を助けたいと思うのと、私が梨子や花丸のために何かをするのは同じことなの。だから…謝らないで。私はただ…」

「…。」

 

梨子は鞠莉の言葉を噛み締めながら聴く。

ひとつひとつが心に染み入るような、そんな感じがした。

 

「…?」

 

先に続く言葉がないので鞠莉の方を見ると、鞠莉は笑顔で言った。

 

「…ううん。なんでもない。」

「あ、うん…。」

 

会話が途切れる。

これからどうしようかと梨子が考えていると、鞠莉が明るく提案する。

 

「あっ!そうだ!」

「?ーーーどうしたの?」

 

鞠莉がニヤニヤしている。

こういう時は大抵ーー

 

「次に梨子が謝ったら、罰ゲームなんてどう?」

(やっぱり…)

 

梨子は呆れて肩を落としながら、それでも一応内容は聞いておこうと鞠莉に質問してみる。

 

「あの…罰ゲームってなにをするの?」

「え?ブン殴る!」

「なっ…!?」

 

さっきとは全く違う意味で絶句する梨子。

言った当の本人は腕をブンブン振り回してもうすでに殴る気満々といった感じである。

 

「ちょ、ちょっと本気なの!?ブン殴るって…えぇ!?」

「もっちろん!マリーの本気は効くわよ〜?試してみる?」

「た・め・し・ま・せ・ん!ダメに決まってるでしょ!」

【??】

 

2人が騒いでいると、寝ていた嵐花が起きてしまった。

寝ぼけまなこで2人を見ている。

 

「あ!…ほら、鞠莉ちゃんが変なこと言うから!」

「違うよ!梨子がオーバーリアクションするからいけないんじゃない!ほら!謝って!」

「あ…そうかゴメ…って、そうやって罰ゲームするつもりでしょ!その手には引っかからないわよ〜!」

【???】

 

自分を置いてけぼりにして盛り上がる2人に困惑する嵐花。

そんな嵐花を見かねた梨子が声をかけるが…。

 

「ゴメンね、嵐花ちゃん。起こしちゃったね。」

「あ!今謝った!」

「今のは違うでしょ!?」

「さあ…用意はいいか!?歯を食いしばれぇぇ!!」

「待って!待ってってばーー

ゴフ!

 

突然始まった2人の決闘と衝撃の結末に呆然とする嵐花。

腹にパンチを食らった梨子がベッドの上で伸びている。

それを見つめていると、鞠莉が声をかけてきた。

 

「さてと…ーー嵐花!ちょっといい?」

【?】

 

ベッドから少し離れたところに鞠莉は嵐花を呼んだ。

 

(私は私のできることをやるだけ…)

 

一呼吸置いてから、嵐花に話しかける。

 

「嵐花、あなたは遊びたいのよね?」

【…?ーーーうん!】

「そう…。

じゃあ明日、お姉さんたちがたっくさん楽しい遊びを用意してあげる!楽しみにしててね!」

【ほんとう!?】

 

鞠莉は、Aqoursの活動に関しては家の力は使わないことを決めている。

しかし、今回は別だ。使えるものは何でも使う。仲間をーー友達を助けるためならば。

 

「もっちろん!オハラ家にできないことはアリマセーン!」

【やったー!】

 

両手を上げて喜ぶ嵐花。

そんな嵐花に、鞠莉は声のトーンを落として囁いた。

 

「それで、ひとつお願いがあるんだけど…。」

【?】

「明日一日遊んであげたら、お姉さんのお願い、ひとつだけ聞いてくれないかな?」

【??】

 

この瞬間が一番緊張する。

相手は子供だ。しかし、鞠莉にとっては何か得体の知れない怪物のようなモノだった。

今この瞬間も、豹変して梨子や鞠莉に襲いかかってくるかもしれない。

それが、怖かった。

 

【いいよー!】

 

ところが、そんな鞠莉の考えとは裏腹に、嵐花は屈託のない笑顔で返事をする。

 

(この笑顔ときたら…ーー花丸の満面の笑顔………。

だ…抱きしめたくなっちゃうわ…♡)

 

そんな危険な考えがよぎってしまうほど、嵐花の笑顔は完璧だった。

しかし…。

 

(でも…ダメ。

これ以上嵐花に触れたら私にも影響が出てくるかもしれない。

私が花丸を忘れてしまったら、もう誰も花丸を助けられなくなっちゃう…)

 

梨子の涙を無駄にはできない。

決意を新たにした鞠莉は、嵐花に声をかける。

 

「ありがとう!ーーじゃあ…今日はもう寝ましょう! good night!」

【はーい。】

 

嵐花はベッドの上で倒れて寝ている梨子の隣で寝息をたて始めた。

その様子を見てから、鞠莉はあるところに電話をかける。

 

「ええ…。ええ…。そう。頼むわ。」

 

電話を切ると、窓の外へ目を向けた。

 

「花丸…梨子…。

あなた達は必ず…

私が…!!」

 

風はパタリと止んでいた。




第12話『あなたの名前は…?』いかがでしたでしょうか。
友達の定義とは?
いつのまにか側にいて、それが苦痛じゃない存在がそうなのではと個人的には思います。
いるだけでお互いの助けになる。何かをして助けられたと感じても、相手は助けたなんてこれっぽっちも思っちゃいない。
なぜならそれは当たり前の行いだからです。友達だから。
鞠莉は友達を助けられるのでしょうか?
孤独な戦いが始まります。


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Solo player “MARI”

こんにちは。
前回、梨子の記憶が抜け落ちてしまいましたが、抜けているのは花丸の記憶だけという不思議な状態です。
なので書くのが難しかったです。第13話です。


ーーー梨子:ホテルーーー

 

梨子が目覚めると、目の前に嵐花の寝顔があった。

 

(あ…そうか…私…)

 

昨日鞠莉に『ブン』殴られてそのまま気を失ったことを思い出した。まだ腹が若干痛む。

当の本人は梨子の隣で寝ていた。梨子を挟んで寝る形になっていたようだ。

 

(あれ…嵐花ちゃんを抱いて寝てないんだ…)

 

昨日あんなに可愛がっていたのに…と梨子は思う。

とりあえず顔を洗おうと、洗面台に立つ。

 

(あれ…?)

 

ーーー鞠莉・梨子・嵐花:ホテルーーー

 

鞠莉が目を覚ますと、目の前に嵐花の寝顔があった。

 

(あら…梨子はどこ行ったのかしら。)

 

わざわざ梨子を挟んでまで嵐花を遠ざけていたので鞠莉は少し驚いてしまった。

しかし…

 

(はぁ〜…かわいい寝顔だわ…♡あとでたくさん抱きしめたい…。)

 

嵐花は花丸なのだ。鞠莉はハグの衝動を抑えるのに必死だった。

 

「鞠莉ちゃん、嵐花ちゃん!おはよう。」

 

梨子が2人に声をかける。

今の声で嵐花も起きたようだ。

 

「あ、梨子。おはよう。」

【…おは…よう…ふぁ…。】

 

梨子が洗面所から出てくる。

少し惚けた顔をしている。

 

「?ーーー何かあったの?」

「うん…。鞠莉ちゃん。ーー昨日私…泣いたのかな。」

「!!」

 

鞠莉の頭に衝撃が走る。

 

「覚えて…ないの…?」

「うーん…それがよく分からないの。昨日は、私と鞠莉ちゃん、嵐花ちゃんで大瀬崎まで来て…。」

 

最初からすでに梨子の記憶が狂っている。

鞠莉が思っていたより、この問題は深刻なようだ。

 

(早くしないと…このままじゃ梨子まで…。)

 

鞠莉が深刻な顔をしているのとは裏腹に、梨子はなぜか楽しそうに今後の予定を話す。

 

「あ、それで今日はね…。

ダイビングでしょ、スイカ割りにビーチバレー…。とりあえず夏に海でやることたくさんリストアップしておいたから、全部やりましょう!って感じなんだけど…どうかな?」

【わーい!やるやる〜!】

 

この様子だと、梨子は花丸のことを忘れたことすら忘れている…。

鞠莉はそう確信した。

 

(完全に孤立無援ってわけね…。)

「いいわね!…でも梨子…ひとつ忘れていることがあるわ!」

「?」

【?】

 

だが、あいにく鞠莉は諦めが悪かった。

自分がやると決めたことは天地がひっくり返ってもやらないと気が済まない。

 

(必ず梨子と花丸を連れ戻す!!)

 

鞠莉の目が鋭く光る。

 

「私が…小原家の次期当主だということをね!!」

 

ーーー大瀬崎:ビーチーーー

 

梨子が目を丸くする。

 

「え…。本当にやるの…?これを…私が…?」

「もっちろん!ほら、足にはめて!」

【頑張れ〜!梨子ちゃ〜ん!】

 

鞠莉たちは大瀬崎のビーチから少し離れた場所にいた。

そこにあったのは…。




第13話『Solo player “MARI”』いかがでしたでしょうか。
花丸の記憶が抜け落ちた分は嵐花で補完されています。
なんで泣いたことを覚えていないのかは私にも分かりません。多分…花丸のことを思い出そうとして泣いたからだと思います。

記憶で思い出しましたが、BLEACHという漫画に、『他人の過去の記憶の中に自分の存在を刷り込ませる』能力を使っていた方がいましたね。あんなことされたら、私は本当に自分が信じられなくなると思います。


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嵐花の力

こんにちは。第14話です。
鞠莉はどうして苦労させられてしまうのか。
前回からですが、ここから話の主軸は鞠莉です。今までは梨子だったんですよ。
鞠莉の葛藤と奮闘を最後まで見届けてやってください…!


ーーー鞠莉・梨子・嵐花:ホテルーーー

 

「フライボード?」

「うん!そう!足にボードをはめてね…えーっと、はい!これ!」

【?】

 

ホテルを出る前に、鞠莉は小原家の粋を集めたマリンスポーツの説明をしていた。

鞠莉がフライボードの動画を見せる。

足にはめたボードから高い水圧で水が出て、人が宙を華麗に舞っている様子が映し出されていた。

 

「いやいやいや、無理でしょこんな…。」

「そう?できるよ!梨子なら!」

【楽しそう!】

 

ーーー大瀬崎:ビーチーーー

 

かなり高い技術、というよりセンスを問われるものではあるが、コツさえ掴めれば浮くことは素人でもできる。

実際鞠莉は少し浮くことができた。

 

【すごーい!!】

「でしょ〜!!…うわっぷ!」

「あ!鞠莉ちゃん!」

 

すぐに落ちてしまったが、身体が浮く感覚はなかなか味わえるものではない。

 

ーーーーーーーーーー

 

梨子は生唾を飲み込む。

 

(大丈夫かな〜…海に一直線に落ちたりしないよね…?)

 

海に垂直落下し、そのままチューブが絡まって水難事故…。

最悪の状況を想定している梨子の隣に立ち、鞠莉は囁く。

 

{大丈夫!サルベージは任せてクダサーイ!}

「落ちるの前提!?」

 

足にボードをはめ、船が岸から離れる。

 

(ここまできたら…やるしかない!)

 

インストラクターがスイッチをオンにすると、梨子の身体が一瞬の浮遊感に包まれる。

 

「お?おお…!?」

 

しかし。

 

「っあ…。」

 

次の瞬間、海に真っ逆さまに落ちてしまった。

 

「梨子!?」

 

インストラクターの様子がおかしい。

必死に電源をオフにしようとしているが、できていないようだ。

 

「梨子!!!」

 

たまらず鞠莉は海に飛び込もうとする。

その時。

 

「!!?」

 

突然船がボードごと真上に吹っ飛び、岸まで飛んできた。

そして砂浜に着きそうになると急に減速し、ゆっくりと着地する。

これは言うまでもなく…。

 

「花…丸…?」

 

嵐花の身体が少し浮いていた。どうやら何か不思議な力を使って梨子たちを助けてくれたようだ。

 

【ふぅ…。】

 

嵐花はひとつ息をつくと、梨子に近づく。

もうすでにフライボードの水は止まっていた。

 

【大丈夫?梨子ちゃん。」

「んん…。…?

あなたは…?」

 

梨子は無事なようだ。嵐花が近づいて心配そうに梨子を見つめている。

あまりに突然の出来事で、鞠莉はその光景を少し離れたところから見ていることしかできなかった。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ゴメンっ!梨子!!」

 

鞠莉が梨子に頭を下げる。

幸い大事には至らず、梨子はピンピンしていた。

 

【大丈夫?】

「もう大丈夫よ。そんなに謝らないで、鞠莉ちゃん。」

 

梨子はそう言うと、鞠莉に笑顔を向ける。

 

「鞠莉ちゃん、私のことちゃんと助けてくれたじゃない。」

「…。」

 

その笑顔に堪えきれず、鞠莉は目をそらす。

 

「ううん。違うよ。」

「?」

 

そして、嵐花を見て言った。

 

「梨子を助けてくれたのは…花丸なの。私は…。」

「そうだったの…ん?花…?」

「ああ!気にしないで!ニックネームよ!嵐花のニックネーム!」

「ああ、なるほど!

ありがとう。嵐花ちゃん。助けてくれて…。」

【?】

 

梨子が嵐花の頭を撫でる。

当の本人はなぜお礼を言われているのか分かっていないようだ。

 

【えへ〜…。】

 

撫でられるのが嬉しかったのか、梨子にすり寄る嵐花。

その時梨子の目に、不思議なものが映った。

 

(あれ…?この子さっきもいたな…。)

 

嵐花のすぐ側に、嵐花がもう1人いる。

 

「どうしたの?梨子。」

 

梨子の視線が嵐花から外れているのを見て、鞠莉が声をかける。

 

「いや…。嵐花ちゃんの後ろに…もう1人嵐花ちゃんがーー」

「!!ーー本当!?」

 

梨子の言葉を遮り、梨子の肩を掴む鞠莉。

 

「う…うん。…鞠莉ちゃん?」

「あ、ああ!ごめん…。」

 

ようやく冷静になった鞠莉は、梨子から手を離す。

 

(まだ梨子には花丸が見えてる…ということはまだ花丸を助け出すチャンスはある!!)

 

まだ取り憑かれてから2日目ということもあるだろう。

まだ自分にもできることがあることに、鞠莉は安堵した。

 

「ところで…鞠莉ちゃん?」

「…?なに?」

 

急に梨子に呼ばれたので、鞠莉が振り向くと…

 

「えいっ。」

「いたっ!?」

 

デコピン。

 

「とうっ。」

「ぐ…!?」

 

腹パン。

突然の襲撃に鞠莉が驚いていると、梨子が嬉しそうに言った。

 

「罰ゲーム♪」

「なっ…!?」

(泣いたことは覚えていないのに…罰ゲームのことは覚えている…??)

 

声こそ優しかったが、じんわりと痛いパンチを喰らってしまった。

鞠莉が混乱していると、梨子が笑って言う。

 

「昨日、謝ったら罰ゲームって決めたでしょ?うふふ〜鞠莉ちゃん油断したな〜?」

【なにそれ!?楽しそう!】

「お、嵐花ちゃんもやる?」

 

違う。

梨子との約束は、そんなに軽い気持ちでしたことではない。

こんなに簡単に実行していいものではない。

 

【やるやる〜!】

「うん!じゃあ今から開始ね♪」

 

梨子と嵐花の屈託の無い笑顔を見て、鞠莉はひどい嫌悪感を抱いた。

今の2人と一緒にいると、この世界全てが嘘に見えて気持ちが悪くなる。

もしかしたら自分1人だけがおかしいだけなのではないのかと思えてしまう。

 

(ダメよ…。もう少し耐えなきゃ…。)

 

鞠莉は揺らぎそうになる自分をなんとか抑え、はしゃぐ2人に笑顔を向けた。

 

「もう!梨子!花丸!マリーも混ぜてよ〜♪」




第14話『嵐花の力』いかがでしたでしょうか。カギカッコの大小で少しおかしなところがありますが、変換ミスじゃないですよ。
自分に嘘をつくのは慣れていても辛いものです。
普段、自分を演じている分、気を許した友の前ではありのままでいたい。今の鞠莉にはそれすら許されません。
次回はどんな困難が待ち受けているのやら…お楽しみに!


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死相

不穏なタイトルの第15話ですがご安心を。誰も死にません。
前回は、嵐花が何かしていましたね。今回は何をするのか…。


ーーー???ーーー

 

気がつくと海にいた。

 

(あれ…?体が動かせない…。)

 

目の前には梨子、隣には鞠莉がいる。

自分の体なのに目すらも動かせず、自動で動く映像を観ているかのようだった。

だが。

 

「梨子ちゃん!!!」

 

その強い意思は体に伝わり、力を呼び覚ます。

 

「大丈夫?梨子ちゃん。】

 

少しだけ自由になった体で、梨子を心配する〇〇

 

(よかった…。)

 

梨子の無事を確認すると、それはまた吸い込まれるように体に戻っていった…。

 

ーーー鞠莉・梨子・嵐花:大瀬崎ーーー

 

【梨子ちゃん、もう元気?】

「うん!元気よ!」

「次は何する?」

 

まだ大瀬崎の浜辺にはさんさんと太陽の光が降り注いでいる。

鞠莉は自分が用意したレジャー部隊を全て撤収させていた。先程のフライボードの件があったからだ。

なので今はノープラン。梨子の用意した遊びだけが頼りである。

 

「う〜ん、そうね…。…まだ暑いし、先にダイビングやろっか!」

「いいわね!」

【おー!】

 

3人は一緒に、観光客で賑わう砂浜まで戻る。

歩く3人の目の前に見えてきたのは、昨日も寄ったダイビングショップだった。

先日お世話になったインストラクターの男性に教えてもらいながら装備を付ける。

フィンもそうだが酸素ボンベは思ったより重かった。

 

「果南ちゃんって…こんなに重いもの毎日…扱ってるのね…。」

「そうね…というか花丸…」

【?】

 

十数キロはある酸素ボンベを片手で持つ嵐花。

それでいて体の力は抜いているように見えた。インストラクターの顔が若干引きつっている。

 

「すごい!嵐花ちゃん、それ片手で持てるの!?」

【?うん!】

 

しかし、ボンベの使い方が分からない嵐花は、それをブンブン振り回し始めた。

 

「嵐花ちゃん!これそういう使い方じゃなくてねーー」

【お?おお??】

 

遠心力で回転が止まらなくなる嵐花。

 

「!?ーー嵐花ちゃん!!」

 

梨子が嵐花を止めようととっさに前に出る。

 

「!!

 

梨子っ!!!!!

 

嵐花の回転は予想外に速く、回りすぎてよろめいた嵐花のボンベは鞠莉が動くよりも先に梨子の頭を直撃しそうになる。

鞠莉は梨子を止めようと手を伸ばすがーー

 

(ダメ…!!間に合わない!!!)

 

あの速度で十数キロの酸素ボンベが人の頭に直撃すればどうなるか。

このままでは確実に梨子はーー

目の前の世界がスローモーションになる。

 

(梨子…!

(梨子…!!

(梨子…!!!)

 

目の前が霞む。

 

(イヤだ…!!

(イヤだよ…!!!

(梨子!!!!!)

「………!!!!!!」

 

その時

鞠莉は永遠にも感じられる時の中で確かに見た。

梨子にボンベが直撃する直前、何かーー

 

 

 

ドボゴォォォォン!!!

 

 

 

ものすごい音を立てて、酸素ボンベは床を突き抜け砂浜に沈む。

海が、人が、空が静まり返る。

鞠莉と梨子、そして嵐花も、時が止まったかのように固まっていた。




第15話『死相』いかがでしたでしょうか。
正直強引な話の持って行き方だと思いましたが、「勢いで行っちゃえ!」というわけでこんな話です。
ちなみに、鞠莉が走馬灯の様な体験をしていますが、梨子が何を思っていたか。
(あっ…これ…。 …私、)
です。次回、どうなっているのか、お楽しみに〜。


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Promise you

第16話です。
前回、嵐花の振り回したボンベに頭を持っていかれそうになった梨子。
それを助けたのは誰なのか?
どうぞ!


ーーー鞠莉・梨子:ダイビングショップーーー

 

しばらくして、鞠莉が床に膝を落とす。

 

「う…う…。

うあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!

 

そして、大声で泣き始めた。

 

「鞠莉ちゃん…。」

 

間一髪、難を逃れた梨子は鞠莉の近くで膝を降ろす。

 

「バカっ…バカ…梨子のバカぁ…。

バカ…バカバカバカバカ…!」

 

梨子をひたすらに叩く鞠莉。

 

「バカ…!死んじゃったらどうするのよ…!」

「ごめん…。」

「私…すごく怖かった…!梨子がいなくなっちゃったらって…!」

「…ごめん…。」

「ダメ…もう絶対許さない…!」

「……………ごめん……なさい……。」

「イヤ。」

 

そっぽを向いてしまう鞠莉。

梨子はそんな鞠莉に近づき、その背中に額を乗せる。

 

「鞠莉ちゃん…。私…約束する。もう無茶はしない。勝手にどこかへいなくなっちゃうなんてこと、絶対にしないから…。

お願い…こっち向いて…。」

「ほんと……?」

 

そっぽを向いたまま、鞠莉は応える。

 

「本当だよ。私、もう鞠莉ちゃんの手、離さないから…!」

 

そう言って梨子は、鞠莉の手をギュッと握った。

その温かさに鞠莉は安堵し、そして振り向き、ハグをする。

 

「約束…絶対だよ…?次やったらもう、罰ゲームじゃ済まさないから…!」

「うん…!」

 

ーーー?・嵐花ーーー

 

目の前がぐるぐるしたと思ったら、体から飛び出していた。

 

「うわわ!なんずら!急に!?」

 

よく見ると、現実にいる自分がボンベを振り回している。

そして、そこに突っ込もうとしている人影がひとつ。

 

「!!ーー梨子ちゃん!!」

 

それを見るなり少女の体は梨子の目の前に移動する。

そして、回ってくるボンベに手を突き出した。

 

(お願い…!!)

 

少女の手は光を放ち、ボンベと衝突する。

ボンベは床を突き抜け、砂に沈んだ。

 

「ふぅ…間一髪ずら…。」

 

少女は一息つくと、呆然と立ち尽くしている自分を睨みつける。

そして

 

「こぉぉぉぉ〜らぁぁぁぁぁ〜!!!!!」

 

大声で怒鳴り始めた。

そのあまりにも大きい声に、嵐花は体をすくませる。

少女は砂に沈むボンベを指差して言った。

 

「こんなもの振り回したら危ないずら!!もう少しで梨子ちゃんに当たるところだったんだよ!?」

【………。】

 

嵐花は俯いたまま答えない。

 

「こんなものが当たったら人の頭なんて簡単になくなっちゃうずら!分かってる!?」

【………。】

 

少女はなおも責めたてる。

後ろでは鞠莉が大声で泣いていた。

 

【…なさい…。】

「…なに?」

【ごめん…なさい…。】

 

絞り出すように嵐花は声を出した。

それに対し少女は頷く。

 

「うん。

でもその言葉はーー

…おらに言うことじゃないよね。」

 

少女は厳しい顔を少し緩め、嵐花の背中を押す。

 

【うん…。】

「じゃあ…行こっか。」

 

少女に促され、嵐花は梨子の方へ歩き始めた。




第16話『Promise you』いかがでしたでしょうか。
嵐花と花丸の感情には気を使っているつもりですが、やっぱり思ってたのと違うのは、イレギュラーの鞠莉がいるからかな。
次もお楽しみに!


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ありがとう

第17話です。
前回は梨子が鞠莉に、嵐花が花丸に叱られていましたね。
こうして並べると、関連性がある気がしますね。偶然です。
どうぞ!


ーーー嵐花・梨子・鞠莉:大瀬崎ーーー

 

手を繋いで座っている2人に近づいてくる嵐花。

その顔はもうすでに半ベソだった。

 

【うぐ…ヒック……ごめんなさい…。】

 

2人は直り、嵐花の方を見る。

 

「嵐花ちゃん、もういいのよ。

ね!もう1人の嵐花ちゃんも、もう嵐花ちゃんを許してあげて。」

 

梨子が嵐花に近づき、その頭を撫でてやる。

そして誰もいない方向に向かってなだめるような言葉をかけた。

 

「梨子…。いるの…?そこに…。」

 

鞠莉は梨子の向いている方を見ながら訊く。

 

「?ーーうん。もう1人、嵐花ちゃんがいるの。その子が嵐花ちゃんを叱ってくれたみたい…。」

 

嵐花を抱きしめながら梨子は言う。

鞠莉は梨子の見ていた方向に手を伸ばす。

何かに触れられたような気がした。

そのまま何もない空間に向けて声を出す。

 

「花丸…梨子を助けてくれてありがとう…。あなたがいなかったら…私…一生自分のことを責めて生きていくことになっていたかもしれない…。

本っ当っにっ…うぐ…うぅ…。」

 

途中から泣き崩れて言葉にはならなかった。

その時、

温かい何かが、鞠莉の体を包む。

そして

 

『鞠莉ちゃん、泣かないで。』

 

花丸の声が確かに鞠莉の耳に響いた。

 

「!!」

 

鞠莉はふっと起き上がり、辺りを見回す。

もう気配は消えていた。

 

ーーー嵐花ーーー

 

【うぐ…ヒック……ごめんなさい…。】

 

こわい少女に大声で叱られた後だ。

当然、ひどい目に遭いそうになった梨子には散々に怒られると思っていた。

しかしーー

 

「もうーーいいのよ。」

 

そう言われ、頭を撫でられ、抱きしめられて。

張り詰めていた気が一気にほぐれていった。

 

【う…う…うぇぇぇぇぇん…グズっ…ぇぇ…ん】

 

こんなことは初めてだった。

今まで見たことがあるのは

畏れ

悲しみ

苦しみ

諦め

怒り

そんなものばかりだったから

だから

梨子だけは悲しませないように

いつまでも楽しくいてもらうために

嵐花はーー

 

ーーー?ーーー

 

鞠莉が自分に手を伸ばす。

触れられないと分かっていても、手を重ねずにはいられなかった。

 

「〇〇…梨子を助けてくれてありがとう…。」

 

そう言って言葉を詰まらせる鞠莉に、少女は優しく声をかける。

そして、再び薄れ行く意識の中で鞠莉の言葉を思い出していた。

 

(鞠莉ちゃん、誰の名前を呼んでいたんだろう…。何か、大切なものを見落としている気がするーー)

 

それが何なのかまだ分からないまま意識は呑まれて行くーー

 




第17話『ありがとう』いかがでしたでしょうか。
鞠莉と梨子、花丸と嵐花
嵐花と梨子、鞠莉と花丸
いろんな関係性を、前回から引き続き描けたかな?
次回もお楽しみに!


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あなたのために

第18話です。
前回は嵐花が泣き、鞠莉が泣きの話でした。
泣いた後には何があるのか…
どうぞ!


ーーー嵐花・鞠莉・梨子:大瀬崎ーーー

 

3人は床が抜けたダイビングショップで小休止を取っていた。

ダイビングショップのインストラクターは、「これはこれで良いモニュメントになる」と言って笑っている。

鞠莉の補償の話も断っていた。

 

(この人には悪いけど…相当変わってるわね…。)

 

梨子は寛大な措置に感謝しつつ、そんなことを思っていた。

 

「入り口だし、ボンベの頭も良い感じに見えてるからこのままでいいんだって…。考え方がアーティスティックね…。」

「いや…そう言う鞠莉ちゃんは…。」

「?」

「いや!なんでもない…!ハハ…。」

 

2人の話をそばで聞いていた梨子は、その金銭感覚にめまいを覚えていた。

鞠莉が取り出したタブレットの画面には、見たこともないカタログや数字が大量に出ていた。

 

(さすが…次期当主…。)

 

2人から離れ、とんでもない世界に思いを馳せている梨子のもとに、嵐花が近づいてくる。

 

【梨子ちゃん、】

「ん?なに?」

 

先ほどまでとはうって変わりはっきりとした言葉づかいで嵐花は話す。

梨子はそれに気づく素振りもない。

 

【鞠莉ちゃんは?】

「え?鞠莉ちゃん?…えと…あ!あっちだよ。」

 

梨子は入り口付近でくつろいでいる鞠莉を指差す。

 

【ありがとう!】

 

嵐花は鞠莉の方へ近寄っていった。

 

ーーー嵐花・鞠莉ーーー

 

【鞠莉ちゃん…ごめんなさい。】

「へ?」

 

突然かけられた言葉に、鞠莉は驚いて振り返る。

嵐花はさっきまでの子供っぽさが無く、もう泣きべそもかいていない。

そして何よりーー

 

(花丸……じゃないわね…。まだ…)

 

雰囲気が花丸に近くなっていた。

 

(早くなんとかしなくちゃ…。でも…)

 

それは分かっているが、どうすればいいのか分からない。

今は自分のやり方を信じるしかなかった。

 

【梨子ちゃんを危険な目に遭わせちゃった…】

「あぁ…そのこと…。」

 

嵐花の話はさっきのことだった。

もう全てを出し切った鞠莉は、特に嵐花を責めようとも思わなかった。

 

「梨子にはもう話したのよね?…だったら、もう大丈夫よ。私が嵐花を責める理由は無いわ。」

【でも…】

「?」

 

嵐花が一瞬言い澱む。

 

【梨子ちゃんは鞠莉ちゃんの…大切な人…だから…。】

「…。」

 

真剣な顔の嵐花を見つめる鞠莉。

その表情を確かめてから、口を開いた。

 

「嵐花。昨日した約束、覚えてる?」

【…うん。】

 

今なら真っ直ぐに自分の想いを伝えることができるーー

鞠莉はそう確信した。

 

「『遊んであげたら、言うことをひとつ聞いてくれる』なんて…遠回しな言い方だったわ。今、私が嵐花にお願いしたいことはひとつなの。

ーー花丸を返して欲しい。」

【…うん。】

 

鞠莉が願うのはたったひとつーー

それを聞いて嵐花はひとつ頷くが、表情は苦いままだった。

 

「花丸も私にとって…ううん。Aqoursのみんなにとって大切な人なの。私たちは1人でも欠ければ『Aqours』ではいられなくなる…。それがとても怖いの…。」

【うん…。】

 

嵐花の顔つきが変化する。

苦悶の表情から決意の表情へ。

 

「だからーー」

【鞠莉ちゃん。】

 

鞠莉の言葉を制して、嵐花は口を開いた。

 

「…なに?」

 

多少の緊張感を保ちながら、嵐花は話し出す。

 

【それは私にはできないよ。】

「えっ………。」

 

鞠莉の顔が一瞬で疑念と戸惑いに包まれる。

それを嵐花は真っ直ぐに見つめていた。

 

「どうして…?だって、今までだって何度か花丸は表に出てきてた…。私たちを助けてくれたよ…?だから、きっとーー」

【私には!!できないの…。】

 

うろたえる鞠莉の言葉を遮る嵐花。

 

【もう…一緒にいすぎたの。私にはどうすることもできない…。

何かできるとすれば…それはこの子の意志。その『あくあ』?のみんなと一緒にいたいと、強く願えばあるいは…。】

「そんな…。」

 

嵐花の言葉に肩を落とす鞠莉。

いよいよ自分が何をすべきか分からなくなってしまった。

 

【でも…まだやりようはある…。】

 

ここで嵐花が言葉を切る。

鞠莉のすがるような表情を見ながら嵐花は言葉を続けた。

 

【あの子が出てきてくれるのは、私が風を起こした時…。だから、その時に強く呼びかければ戻ってこられるかもしれない…。】

「風を起こした時…?」

 

鞠莉はさっきまでのことを思い出す。

嵐花は酸素ボンベをいとも容易く持ち上げていた。

普通フライボードがクルーザーごと砂浜まで飛んでくることなどありえない。

つまりーー

 

「その不思議な力を使えば花丸が出てくるっていうことね…。」

【そう。そういうこと。】

 

嵐花は大きく頷く。

少し希望が見えてきて、鞠莉の表情が明るくなる。

それを見て、嵐花は少し寂しそうに笑った。

 

「そうと決まれば……あれ?でも…。」

【?】

「そんなに力を使って、あなたは大丈夫なの?その…『風』?にも限りがあるんじゃ…。」

 

力には限りがある。

それは当たり前のことだが、聞かずにはいられなかった。

 

【ううん。そこは大丈夫だよ。それも含めて『私』みたいなものだから…。】

「ふーん…?」

 

嵐花は楽しそうな笑顔で鞠莉の疑問に答える。

 

【それでね、鞠莉ちゃん。】

「うん。」

【私から改めてお願いするね。

ーー鞠莉ちゃん、私と遊んでください!】

 

そう言って、嵐花は鞠莉に手を差し出す。

鞠莉は一瞬手を出すことを躊躇したが、嵐花とのやりとりを通して自分の考えを改めた。

 

(嵐花は本気だ…。だから私もそれに応えなきゃ…。)

 

嵐花の手を握る鞠莉。

 

「分かった。…でも、手は抜かないわ。覚悟してね?」

【うん!鞠莉ちゃんこそ!…油断してたら吹き飛ばしちゃうからね♪】

「うっ…それはやめてほしいデース…。」

 

そんなことを言い合いながら笑う2人。

そんな2人を梨子は嬉しそうに見つめていた。




第18話『あなたのために』いかがでしたでしょうか。
嵐花が花丸に馴染んできましたね。今までの子供っぽい嵐花もそうですが、姿形、声も花丸なので違いと言えば急に文章力が上がったことくらいでしょうか。
さて、これで和解した鞠莉と嵐花、次回、何をして遊ぶのか?
お楽しみに〜。


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ゲームスタート!

第19話です。
20話で締めてもいいんですが、ちょっと余りそうです。
前回は嵐花が大人になりました。梨子のために彼女は何をするのか?
その辺も気にしながらどうぞ!


ーーー嵐花・鞠莉・梨子:大瀬崎ーーー

 

砂浜に戻ってきた3人は、ビーチバレーをすることにした。

梨子が用意したボールに空気をつめる。

 

【この遊びはどうやってやるの?】

「嵐花ちゃん、やったことないの?」

 

梨子もやったことはないはずだが、鞠莉は黙っていた。

 

【うん。毬とか蹴球とかなら混ざってやったことはあるけど…。】

 

嵐花は昔のことを思い出しながら言う。

 

「ま…まり…?鞠莉ちゃん…?」

「えい。」ペシッ

「いたっ」

 

ふざけた回答をする梨子をチョップする鞠莉。

 

「鞠を蹴って遊ぶやつでしょ〜?結構昔からここに住んでるのね嵐花って。」

【うん。鳥と馬と虎と…ずっと一緒にね!】

「結構愉快なメンバーで過ごしてきたのね…。」

「タイガーは愉快でもないと思うけどね…。」

 

嵐花の回答に普通に返す鞠莉と梨子。

桃太郎よりも奇怪な動物の組み合わせだが、もう多少のことでは2人とも驚かなくなっていた。

 

「まあ、とりあえずやり方簡単に説明するね!鞠莉ちゃん!」

「オーケー!とりあえずやってみましょうか!」

 

そう言うと2人は実際にゲームをやって嵐花にやり方を説明した。

その後は3人で一緒にチームを変えながらやることにした。

最初の方こそ和気あいあいとプレーしていたが…。

 

「じゃあ次は私と梨子!相手は嵐花ね!」

「オッケー!段々慣れてきたわ!」

【うん…そうだね…。】

「うん?どうしたの嵐花?」

 

嵐花の様子がおかしいことに鞠莉が気づいた。

その次の瞬間、風が嵐花の周りを取り巻き、砂が舞い上がる。

 

【そろそろ本気を出す時かな…!】

「ワーオ…。」

「すごい!嵐花ちゃん!」

(ここからが本番ね…。)

 

嵐花が力を使ったということは、花丸がこちらに出てくる可能性がある。

 

(そこが勝負の時…!)

 

その瞬間、何かが鞠莉の目の端を高速で通過した。

 

【鞠莉ちゃん!よそ見してると…危ないよ?】

 

それが嵐花の放ったボールだと気づくのに数秒かかった。

気づけば、嵐花は宙に浮き、こちらを迎撃する気満々で見下ろしている。

 

「やるじゃない…!受けて立つわ!」

 

3人の苛烈な闘いが始まった。

 

ーーー?ーーー

 

その様子を楽しそうに見ていた少女は、自分も遊びに加わりたくてたまらなかった。

嵐花が宙に浮くと、自分も宙に浮いてふわふわしているような感覚になった。

そしてーー

 

ーーー少女・鞠莉・梨子vs嵐花ーーー

 

「加勢するずら!梨子ちゃん!鞠莉ちゃん!」

「もう1人の嵐花ちゃん!」

「え!?花丸!?いるの!?」

花丸の声が唐突に聞こえた。

梨子は姿も見えているようだ。あさっての方向を向いて驚いている。

【これで役者は揃ったね…!本気で行くよ!!】

嵐花を取り巻く風が一層強くなる。

その目は最初に出会った時のように輝いていた。




第19話『ゲームスタート!』いかがでしたでしょうか。
この前ハーメルンのヘルプを読んだのですが、このサイト基本一話に2500文字くらいを推奨してるらしいですね。私は半分以下です。
今回だって花丸登場は次回に引き延ばしたかったのに文字数の関係で出てきましたし。難しいですね。
次回もお楽しみに!


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またね

第20話です。
偉大なる先輩『μ's』の曲に『さようならへさよなら!』というものがあります。
それだけです!どうぞ!


ーーー嵐花vs鞠莉・少女・梨子ーーー

 

ゲームが始まった。

嵐花の一撃は容赦なく砂をえぐるが、鞠莉と梨子に当たる瞬間だけしっかりとスピードを落としていた。

基本少女が猛スピードの球を受け、梨子が上げて鞠莉が打つ。

 

「取ったずら!」

「オーケー!鞠莉ちゃん!」

「ナイス!スマー…!」

 

シュ!

 

嵐花は、風の力を使えば身体に触れなくてもボールを捕ることはできる。

だがそうはしなかった。

身体を宙に滑らせ、舞うようにしてボールに肉薄し打ち上げる。

続けてイルカのように跳び上がり、オーバーヘッドで打ち付ける。

鞠莉は動けなかった。

 

「ビューティフル…。」

「すごい…!」

「未来ずら…。」

 

思わず見惚れてしまうような動きだった。

だが、ここで負けているわけにもいかない。

 

「まだまだこれからだよ!梨子!花丸!」

「うん!鞠莉ちゃん!……嵐……。」

 

鞠莉に鼓舞された梨子は一度言葉を切り

 

「花丸ちゃん!」

 

確かにそう言った。

驚く鞠莉。そして花丸は

 

「マルも頑張るずら!鞠莉ちゃん!梨子ちゃん!」

「うん!…うん…!」

 

熱いものが鞠莉の中から込み上げてくる。

本当は自分自身が一番自分に自信が無くて、失敗しないために策を弄して生きてきた

それが一大企業のトップのやり方だから

今回の作戦は、自分を納得させるために用意した『最後の手段』だった

万が一花丸を助けられなかったとしても《やれることは全てやった》と思い込み、自分を納得させるための最低な作戦

だけど、

梨子が、花丸が、…そして嵐花が、そんな自分の背中を押してくれる。

そんな自分のことを信じてくれている。

鞠莉は自分の頰を思い切り叩く。

 

「絶対に勝つよ!!」

「うん!」

「ずら!」

 

気合いを入れ直す3人。

 

【…。】

[これでいいんだ…これで…。]

 

そんな3人を見て、嵐花は微笑む。

 

【こっちだって…負けないから!】

 

ーーーーーー

 

登りきった日も西に傾き始めた頃、鞠莉たちはあることに気がついてしまった。

 

(しまった…!点数数えてない!!)

(そろそろ限界…。)

(いつ終わるずら…?)

[今何時だろう…。]

 

気持ちが高ぶりすぎて最も基本的なことを忘れていた。

一旦プレーを中断し、鞠莉は無駄かと思いながらも他の3人に訊いてみる。

 

「ねぇ…今…何点くらい?」

「え、鞠莉ちゃんも数えてなかったの…?」

 

梨子も覚えていない。

 

「やっぱり…。花丸は?」

「ん〜…同点くらい?」

 

花丸もいまいち自信がないようだ。

ならばと3人揃って嵐花を見る。

 

【えっと…。】

 

嵐花は少し考えた後、

 

【同点でいいんじゃない?】

 

嵐花は途中まで点数を数えていたが、拮抗状態が長く続いたため数えるのを放棄していた。

 

「そうね。じゃあイーブンから始めて、2点先取で終わりにしましょう!」

 

嵐花の意見を受け、鞠莉が提案する。

 

「了解!」

「燃えてきたずら!」

【私の2点先取で終わりね!】

「なに言ってるの嵐花。私たちに決まってるじゃない!」

 

そんな冗談を言いながら、4人とも配置に着く。

嵐花は、この時が永遠に続けばいいと思った

だけど、いつか終わりが来ることも分かっている

だから、嵐花は今のこの時を永遠に忘れない

次に目覚める時は、きっとみんなはいないからーー

 

ーーーーーー

 

なんとなくそう呼ばれていた気がする。

その名前で呼ばれたとき、そう感じた。

 

「花丸!」

「花丸ちゃん!」

「ずらっ!」

(なんだろう…この感じ…。)

 

ふわふわと楽しかった感覚は薄れ、段々と別の感情が湧き上がってくる。

 

(確か…マルは神社に行って…。怖くて、悲しくて…。そこで…。)

 

今までの出来事がフラッシュバックする。

その時抱くはずだった感情が波のように押し寄せてくる。

独りになってしまって本当はとても寂しかったこと

鞠莉たちと再会できて、本当はとっても嬉しかったこと

梨子が危ない目にあって、本当は自分に一番腹を立てていたこと

そして今ーー

 

(今…今…!!本当に、楽しいこと!!!)

 

花丸が地面に足をつける。

鞠莉は自分の目を疑った。

自分の全てを投げうって助けたかった少女が目の前にいる。

 

「花丸…?」

「鞠莉ちゃん…。」

「鞠莉ちゃん?」

 

梨子だけはこの状況を理解できていない。

 

「花丸っ!!」

 

鞠莉が花丸に抱き着こうと駆け寄る。

しかし。

その体は空を切った。まだ完全には戻っていないようだ。

それを見て嵐花は渋い表情になる。

 

(やっぱりまだーー)

 

その視線はもう1人の少女に向けられていた。

2人は気づいていないが、梨子の記憶は戻っていない。

ただ名前を呼んだだけだ。『鞠莉が嵐花に付けたニックネーム』を。

 

(でも、もうここまで来たら私にできることは何もない…。)

 

見守ることしかできない。でも不思議と不安はなかった。

 

(鞠莉ちゃん、笑ってる。)

 

不敵な笑みを浮かべてこちらを見る鞠莉。

 

(忘れかけてたーー)

 

そう。まだ勝負は続いている。

嵐花はニヤリと笑うと、転がっているボールを手に取る。

その身体は徐々に薄くなっていた。

 

ーーーーーー

 

「やっぱり、強いわね…。」

 

鞠莉は思わず呟く。

鞠莉たちはアドバンテージを取られながら、ギリギリでイーブンに戻すということを繰り返していた。

3人の強い絆がなければここまでは戦えなかっただろう。

しかしその均衡は突然崩れる。

 

【あれっ】

 

初めて鞠莉たちがアドバンテージを取った。

嵐花は自分の身体をまじまじと見る。

もうその身体はほとんど形を成していない。

 

【もう…限界か…】

「どうしたの?嵐花。」

 

鞠莉が心配そうに嵐花を見る。

嵐花は笑顔で言った。

 

【そろそろお別れみたい…。ほら、花丸の体を見て…。】

「お?おお?」

 

花丸の身体が質量を取り戻す。

砂につける足跡がしっかりしたものになる。

潮風に吹かれくしゃみをする花丸。そしてーー

 

「あっっっっっつ!熱いずら〜!!」

 

日が沈む前とはいえ、暑い太陽の日差しを燦々と浴びた砂は熱く、裸足の花丸は跳びはねて海の方へと向かっていた。

 

「あっ花丸!」

「花丸ちゃん!」

 

鞠莉と梨子は花丸に駆け寄り、跳ねすぎて転びそうになった花丸の手を取る。

 

「花丸…!」

 

鞠莉は花丸の手の柔らかさを感じた。

 

「よかった…!本当に…よかった…。

よかったよぅ…!!」

 

そして花丸の存在を確かめるように抱きしめる。

 

「く…くるしぃ…。鞠莉ちゃん、苦しいずら…。」

「Oh!ソーリー!」

 

強く抱きすぎたらしい。

ともかくこれで目的は達成した。

ビーチバレーをしていた砂浜に戻り、鞠莉はお礼を言おうと嵐花を探す。

 

「あれ?嵐花?」

 

だが、いくら見回しても、嵐花は見当たらない。

 

「あ、鞠莉ちゃん、実はねーー」

 

花丸がそのことについて説明しようとすると、どこからともなく声が聞こえてきた。

 

【あ〜楽しかった!さよならっ!】

「嵐花!待って!」

 

鞠莉が引き止めようと声をかける。

しかし、返事はなく、代わりに風が優しく吹くだけだった。

 

(ありがとう、嵐花。)

「さようなら…か…。」

 

西に沈みかけた太陽に向かって、鞠莉は深く黙祷した。




第20話『またね』いかがでしたでしょうか。
このまま最終話も連続投稿します。併せてお楽しみください。
前書きの想い、伝わっていれば幸いです。


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おかえり。

最終話です。
あとがきに次回の物語の予告を挟みますので前書きで色々語ります。
ここまで読んでくださった方、お付き合いくださり本当にありがとうございました。
そして、Twitterの告知などで完結を知り、読み始めてくださった方も本当にありがとうございます。
頭の中で妄想した物語を、こうして文字に起こすことがどれだけ大変なことなのか、今回の長編で痛感しました。
投稿している間、「これは本当に面白いのか」と、書いてる間はさして思わなかったことも気になり始めて悶々としましたが、なんとか最後まで投稿できました。継続して読んで下さった方、本当にありがとうございます。
ここで『ハリケーンブロッサム』の物語は終わりですが、CD曲はあと3曲!グループもあと3組、いるはずですよね?
曲の順番通りに書いているので、次は当然、あの娘たちです。
また長い執筆活動に入りますのでしばらくお別れですが、まあ気長に待っていて下さい。その内投稿しますので(笑)
というわけで、長い前書きでしたが、ここからは本編をお楽しみ下さい!またね!


ーーー鞠莉・花丸・梨子:大瀬崎ーーー

 

全てが終わり、鞠莉、花丸の2人は帰路につくことにした。

梨子はまだ海を見ている。

2人はビーチボールを回収し、コートを片付けて戻ろうとする。

 

「梨子?行くよ〜。」

「梨子ちゃーん!」

 

声をかけても梨子は動かない。

 

「梨子〜?」

 

不審に思った鞠莉が梨子に近づく。

すると梨子は振り向いて笑顔で言った。

 

「私もそろそろ行かなくちゃ。またね!」

「えっ」

 

言うや否や、海の方へと歩き出す梨子。

 

「ちょっとちょっと待って待って…どうしたの?梨子。」

 

梨子の手を掴み引き止める鞠莉。

そんな鞠莉をキョトンとした表情で見返す梨子。

 

「え?だって…もう行っちゃったでしょ?だから私も行かなくちゃ。」

「え?………え??」

 

だんだん梨子の力が強くなる。

戸惑う鞠莉に花丸が手を貸す。

 

「鞠莉ちゃん、手伝うずら。」

 

海へ行こうとする梨子を全力で止める花丸と鞠莉。

梨子の手を掴みながら、花丸は語り始めた。

 

「鞠莉ちゃん、これはこの土地の土地神ずら。そして梨子ちゃんはその生贄なの。」

「急に何の話?花丸。」

 

突拍子のない話に戸惑う鞠莉。

構わず花丸は続ける。

 

「昔…マルたちが生まれるよりもずっと昔、沼津には4つの神様がいた…。ーー

 

 

1つは嘆き続ける虎の神

1つは角の生えた馬の神

1つは燃える鳥の神

そして1つは…

優しく吹く風の神

神様たちは寂しがりやで、何年かに一度、生贄を捧げないと人間界に現れてイタズラをしにきてたずら

ある時は疫病、ある時は大災害、大津波…

今では信仰する人も少なくなって、そこまでする力はないけど、何百年かに一度4体揃って沼津へやってきて、依代を1人、生贄を1人連れて行ってしまう…

 

 

ーーそんな話をあの子の中で聞いたずら。マルたちが出会ったのは風の神。依代と生贄にはマルと梨子ちゃんが選ばれた…。」

「そんな…。」

 

にわかには信じがたい話だが、実際、梨子は何度か危ない目に遭っている。

それも『生贄』になったせいだとしたら納得がいく。

 

「それじゃあどうすればいいの…?花丸が戻ってきても治らないなんて…。」

 

生贄は絶対なのではないかと、鞠莉は不安がる。

しかし花丸は力強く言った。

 

「同じずら。」

「え?」

「マルが戻ってこられたのは、鞠莉ちゃんと梨子ちゃんが一生懸命マルのことを呼んでくれたからでしょ?

だったらマルたちも梨子ちゃんのことを呼び続ける。それだけずら。」

「…!」

(あ…そうか…。)

 

花丸の言葉を聞きながら、鞠莉は嵐花のことを思い出していた。

どうして本来花丸とは『神と依代』という関係の嵐花が突然自分たちを助けてくれたのか

あの時から、嵐花は鞠莉のことをずっと励ましてくれていた

梨子と鞠莉以上に、花丸のことを助けようと頑張ってくれた

もしかしたら嵐花を変えたのはーー

 

ーーーーーー

 

梨子は海の方へ行こうとしているが、2人の手を振り払おうとはしない。

だが、このままではジリ貧だった。

花丸が声を上げる。

 

「梨子ちゃんはまだ迷ってると思うずら…!何か…何か決め手があれば…!!」

「決め手…。」

 

鞠莉はここに来てからのことを思い出す。

 

(3人でバスに乗って…海で泳ごうとして怒られて…)

 

花丸の呻き声を聞きながら、鞠莉は思い出す。

 

(神社に寄って…ストラップをカバンに……ん?)

ストラップ!!

「うわあ!びっくりしたぁ〜…。」

「Oh!ソーリー!」

 

一筋の光明を見出した鞠莉。

しかしすぐにその表情は曇った。

 

(ここから荷物の置いてあるショップまではそんなに距離はない…ないけど…。)

 

ストラップを取りに行く間、花丸は1人で梨子を抑えなくてはいけない。

迷う鞠莉。

そんな鞠莉の心を見透かしたかのように花丸は言った。

 

「行って。」

「え?」

「いいから行って!鞠莉ちゃん!もう…梨子ちゃんを助けるためにはそれしかないずら!!梨子ちゃんは、マルが絶対に止めるから…!!」

「……う、うん!頼むわよ!花丸!!」

「任せるず…うおぉぉぉ…!!」

 

花丸の言葉に背を押されて、ダイビングショップの方に走り出す鞠莉。

鞠莉が離れて、すぐに梨子に負けそうになる花丸だったが、気合いで持ちこたえていた。

 

(ごめん…!すぐに戻るから…!)

 

振り返ることもなく一心不乱に走る。

ダイビングショップに着くと真っ先に自分のバッグのストラップを外す。

次に花丸の荷物を探した。

 

「どこに…?」

 

探っていくと、中に1冊の本が入っていた。

そのブックカバーに、ストラップが付いている。

 

「あった…!」

 

急いで外すと、次は梨子のバッグを探し始めた。

 

「ない…ない…ない…!」

 

バッグの底まで見たが、それらしきものは見当たらない。

 

(早くしないと…!)

 

焦る鞠莉。

このままでは梨子は花丸もろとも海に沈んでしまうかもしれない。

しかし全て中身を出して隅々まで見ても、ストラップは無かった。

 

「どうして…!?」

 

自分のバッグも、花丸のバッグも全てひっくり返したが見つからない。

 

(他に…他に探すところ………)

 

2人で泊まったホテルが思い浮かんだが、すぐに思い直した。

 

(ダメ…間に合わない…。)

 

今まで行ったところを思い浮かべて、ストラップのある場所を予想しようとしたが、すぐに無駄だと頭では理解できてしまう。

 

(………。)

 

とうとう鞠莉は思考停止状態になってしまった。

 

「えっと…えっと…どこに…行けば…?

そうだよ。梨子は言ってたじゃない…もう諦めないって…。

花丸だって、梨子のことを諦めずに頑張ってる…。

私が諦めちゃいけない…いけない…の…。」

 

ストラップを握りしめ、悔しさに涙をにじませる鞠莉。

本当に、これで打つ手は無くなった。

その時

フッと風が吹いたかと思うと、鞠莉の頰に撫でられるような感覚があった。

 

【うふふ…】

「嵐花…?」

【こっち!】

 

何かの声がする方へ釣られるがままに走り出す鞠莉。

それは梨子と花丸が待っている場所だった。

 

「鞠莉ちゃん!ストラッ…!み…見つかったずら?」

 

花丸は梨子を海から押し返そうと頑張っていた。もう腰まで海に浸かっている。

 

「いえ…2つしか…。

嵐花、そこなの?」

「え?」

 

そう言うと、鞠莉は唐突に梨子の水着のポケットに手を突っ込んだ。

その中から、防水ケースに入った梨子のスマートフォンが出てくる。

そこにはーー

 

「…あった。」

 

梨子のモチーフである、ピアノのストラップ。

花丸のものと鞠莉のものを揃えて、鞠莉は梨子の目の前にそれを突き出す。

 

「梨子。これを見て。」

 

ずっと遠くを見ていた梨子だったが、鞠莉の声に反応してその手元を見た。

 

「…………それは………?」

「梨子が私たちに作ってくれたアクセサリーよ。

私はキラキラシャイニーのモチーフ。花丸は満点花丸マーク。そして梨子は…

大好きなピアノ…でしょ?」

「………あ。」

 

そこで梨子の歩みは止まり、花丸は梨子から離れ鞠莉の隣に立つ。

鞠莉は花丸に花丸のストラップを渡すと、梨子にピアノのストラップを差し出した。

 

「ほら、持って!これは梨子の分!」

 

鞠莉が笑顔で言うと、梨子はそれを受け取る。

ストラップをまじまじと見ていた梨子だったが、間もなくその瞳から止めどなく涙が溢れ出した。

 

「あ……あ……。」

 

笑顔で梨子を見つめる鞠莉の目にも涙が光る。

それは花丸も同じだった。

 

「鞠莉ちゃん…花丸ちゃん…!!」

 

2人を見て、名前を呼ぶ梨子。

何も言わずに、2人にハグをする。

 

「おかえり…梨子!」

 

そしてーー

 

「花丸!」「花丸ちゃん!」

 

おかえり…!!

 

「うん…!鞠莉ちゃん、梨子ちゃん!

ただいま…ずら!」

 

ーつづくー




次回予告
『インフェルノフェニックス』

花丸たちが大瀬崎に着いた頃、黒澤ダイヤ、黒澤ルビィの2人は学校の生徒会室で言い争っていた。
「もう!お姉ちゃんこっちにきてから生徒会のお仕事ばっかり!『一緒に作ろう』って言ってたのにこれじゃあ何もできないよ!」
「ルビィ。まだここには来たばかりよ。それに、これもAqoursの活動と同じくらい大切なこと!ただでさえ人数が少ない中で学校を存続させるために努力しているのだから、休みの日だからってサボるわけにはいかないでしょう?これが終わったら手伝うから、先に衣装をーー」
「もういい!そんなの分かってるもん!!
だけど…!だけど……!!」
目に涙を浮かべて言葉を詰まらせるルビィ。
「ルビィ…。」
「もう…!お姉ちゃんのバカっ!!!」
「ルビィ!!」
そのままルビィは生徒会室を飛び出していってしまった。
そのまま椅子に座り込み、ため息をつくダイヤ。
「はぁ…。
『バカ』か…。
確かに、そうなのかもしれないわね…。」
目の前にある書類を見つめて、それからルビィの書いていた(はず)の曲のノートを見に行く。

『お姉ちゃんとのデュエット曲!必ずお姉ちゃんと一緒に最初から最後まで作ること!』

「ルビィ…」
ノートの1ページ目にはそんなことが書いてあった。
自分の机に戻ると、拳を握りしめて机を叩く。
「本当に…私は……。
大馬鹿者だわ…!」
目の前の書類を睨みつけたあとで少し冷静になるダイヤ。
(とりあえず、今のこれだけ終わらせれば少しは余裕ができる…。
それからルビィに謝って、一緒に曲を作ろう。これは私たちの曲なんだから)
そう思い、猛スピードで書類を片付けていく。

ーーその頃ルビィは、学校の廊下で悪態をついていた。
「もう!お姉ちゃんて昔からそう!いつもいつもルビィのことは二の次で、お稽古とかお仕事とかそんなことばっかり!
せっかくお姉ちゃんと一緒に曲が作れるって思ってすごく嬉しかったのにそんな時なのになんでこんな…こんな…。」
でも本当は分かっている。ダイヤがどんな想いで今あの部屋にいるのか。
『こんなこと』なんて言葉で片付けてはいけない。本当に大切なことなのだ。ダイヤにとっても、浦の星のみんなにとっても。
それが分かっているから、分かっているからこそ、ルビィは心のモヤモヤが抑えきれなかった。
(お姉ちゃん…)
「ひどいこと、言っちゃったかな…。」
急に冷静になったルビィは、さっき自分がダイヤに言ったことを振り返る。
(お姉ちゃん、今も1人でお仕事、してるんだよね…。学校のため…そして何より…)
ルビィのために。
スクールアイドルを続けられているのも
お稽古をしなくても怒られないのも
門限を過ぎても許されるのも
こうしてAqoursとして一緒に活動できているのも
全部全部がーー
「お姉ちゃん…。」
(謝らなくちゃ…。そして一緒にーー)
ルビィは生徒会室に戻ろうと振り返る。
その時ふと、窓の外に違和感を感じた。
(あれ?)
校庭が妙にゆらめいて見える。
今日はまだそこまで暑くないはずだが、あそこだけ何かがおかしい。
「なんだろう…。」
ルビィは走ってげた箱に向かい、靴を履き替えて外に出る。
そこでルビィが見たものはーー

to be continued...


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