ロクでなしと悪の敵 (ジャガルナ)
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プロローグ

ボーイズラブ(ガチ)になるかはまったくもって一切謎ッ!!!!!!!!!とりあえずジャティスはガチホモ決定(にっこり)。正義厨だし、光に焦がれても不思議じゃないよね!


最期の光景は地獄だった。

 

 

逃げる場所なき焦熱地獄。止むことのない断末魔の合唱。目の前で塵のように転がっている元軍人が言うには魔星と呼ばれる生体兵器が原因らしいが、そんなことなどもはや死に行く自分にとってはどうでもいいし、どうにもできない。

 

 

四肢は動かず、全身から命が流れ出ていく。視界の端に見える右腕が灼熱に焼かれているというのに、もはや熱さも感じない。

 

 

死だ。ただ冷たい死だけがここにある。それだけが今の自分を満たす全てで、つまるところ詰みだった。

 

 

 

 

---そう、彼はもうすぐ死ぬ。その結末は変わらないし、変えられない。現在の医療技術では彼の傷は治せない。

 

 

 

「この傷は---間に合わなかったか。」

 

 

 

故にこそ、かの英雄は現れる。救えなかった誰かに、せめてもの安寧をと。声音に滲むのはこの惨劇を引き起こした2体の魔星への極大の憎悪と赫怒の念。そしてなによりも不甲斐ない自身への嘲りだった。

 

 

揺らめく炎に照らされた金髪、顔を斜めに走る傷跡、そしてなによりも激烈な光の意志で輝く両眼。鋼の英雄、法の番人、始まりの星辰者、英雄譚---アドラーの民が諸手を上げて喝采する、悪の敵。そう、彼こそは----

 

 

 

「クリストファー・ヴァルゼライド総統・・・?」

 

 

その自分の掠れた呟きが聞こえたのか、彼はその鉄面皮をほんの少しだけ崩して、こちらを労わる様に見つめた。その表情が、誰よりもなによりも優しくて、悲しくて、雄々しくて。

 

 

なんでもっと早く来てくれなかったんだ、どうして自分がこんな目に。そんなつまらない感情は、一切合切光に灼かれて消滅した。だって今目の前にいる彼は、見ず知らずの、消え行く自分の命のために、こんなにも怒ってくれている。こんなにも悲しんでくれている。その感情が、この地獄ではあまりにも尊く見えたから。

 

 

「助けられず、すまない。すべては俺の至らなさだ。罵ってくれて構わない。恨んでくれて構わない。だが君の無念は俺が晴らすと、それだけはここに誓おう。必ずだ。」

 

 

義憤と悲哀の混ざった声音で紡がれたのは紛れもない宣誓だ。彼は自分のために戦ってくれると、自分の恨みを受け止めてでもなお、自分のために戦い勝って見せると。そう光の英雄は言ってくれたのだ。

 

 

ならばこそ、もはやなんの憂いもない。ここで死ぬことの恐怖など、もはや気にもなりはしない。今の自分を満たすのは歓喜。ただそれだけだし、それ以外はいらない。冥土の土産には十分すぎるものを貰ったから。

 

 

あぁ、けれど。もし次があるのなら---

 

 

 

「ぼくも、あなたのようになりたい・・・。」

 

 

 

燃える街に消えていく英雄の背を見つめながら、少年の意識は消滅していく。五体は灰に、精神は冥府の奥底へと墜ちていく。完全なる生命の終焉を迎え、また一人焦熱地獄へ散っていく。

 

 

---そしてだからこそ、条件はここに揃う。運命が射止めた生贄は、輪廻の車輪へ組み込まれ、別天地への新生を果たす。その身に憧憬の具現たる炎雷を宿して。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

過去からいまへと回帰する。

 

 

眼を開ければそこにいるのはいつも通り白衣を纏った塵屑どもだった。小汚い痩せぎすの男であったり、ヒステリックで神経質な女だったり。物心付いた時から俺はここにいて、物心付いた時から俺は弄られていた。

 

 

ここは実験場だ。天の智慧だとかいう外道共が汗水たらして人間の尊厳を貶める実験場。およそ考えうる限りの地獄が、ここにあった。

 

 

俺より前にいた子供達は次々と死んでいった。ここに集められるのは身寄りのない子供ばかりであり、死んでも誰も困らないからと、いつか男が言っていた記憶がある。死んだ子供達は、実験のデータを取るためにネクロマンサーに押し付けるとも。

 

 

ここに逃げ場など一切ない。死んでもその体は、死は、尊厳は。余すところなく汚され踏み躙られる。

 

 

反逆などまず思いつかない。彼ら子供に、魔術という超常の術を扱う大人に抗う術などありはしないし、そもそも暗示で反骨心すら叩き折られる。---俺以外は。

 

 

今も昔も、俺を正気でいさせてくれるのはあの日願った鋼の願望。灼き尽くさんばかりの光を胸に抱く限り、俺は決して狂いはしない。

 

 

「心臓に埋め込んだオリハルコンの経過はどうだ?」

 

 

「完全に同化しています。アダマンタイト製の発動体も完成したと報告が。」

 

 

「そうか・・・くひ、ひはは、ひははははははは!やった、やったぞ!?まさしく世紀の大発明だ!あぁ大導師様見ておられますか!我々は!私は!遂にやり遂げました!星を駆る/借るもの---星辰奏者(エスペラント)の完成です!これでもはや、我らに敵はない!」

 

 

狂ったように笑う男の声が煩わしい。怒りで血液が沸騰しそうだ。

 

 

そんなにも嬉しいか、なんの罪もない子供を塵のように消費したことが。

 

 

そんなにも嬉しいか、俺のような何かを殺すことしかできない兵器を生み出したことが。

 

 

そんなにも嬉しいか、その大導師様とやらの役に立てることが。

 

 

 

そんなにもそんなにもそんなにも----どうして、そんなにも、()()()()()()お前たちは。

 

 

赫怒の炎が心胆まで巡っていく。断罪の雷霆が魔術と魔薬に侵された脳を貫き覚醒を促す。

 

 

悪を許せないのだろう?---あぁ許せない。

 

 

悪を滅ぼしたいのだろう?---あぁ滅ぼしたい。

 

 

---今を生きたいのだろう?---あぁ、生きたいさ当然だ。生きて俺はこいつらを、滅ぼさなければならないのだから!

 

 

たとえこの身があの日の地獄へ墜ちようと、こいつらのような塵屑を滅ぼすその日まで、決して止まることなど有り得ない!あぁそうだとも。すべては----

 

 

 

「---明日の光を掴むために」

 

 

目が眩むような宣誓と共に身を起こし、最期まで笑い続けた男の首をへし折った。混乱に陥るやつらの間を身を擲つ様に走り抜け、その先にある一振りの刀を掴んだ。瞬間、胸が燃え上がる様に熱くなる。同時に、脳の中で言葉が次から次へと浮かび上がって止まらない。そしてそれこそが今の自分になにより必要なものだと直感で理解して、キーとなるその聖句(ランゲージ)を口にした。

 

 

 

「天昇せよ、我が守護星---鋼の恒星(ほむら)を掲げるがためッ!」

 

 

 

故にこれにて序章は終わり。英雄譚が幕を上げる。胸にあの日の憧憬を抱え、地獄にこそ輝く冥府魔道の雷神が、産声をあげて新生した。

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「どういうことだ・・・?どいつもこいつも死んでやがる。気をつけろ白犬。まだどこかにこれを引き起こしたやつがいるかもしれねえ。」

 

 

「うん、もちろんだよ・・・っグレン君!あそこ!誰かが・・・うぅん子供!子供が二人いる!」

 

 

「おいッ!お前ら大丈夫か!?クソッ意識がねえのか・・・白犬!そっちのガキ持て!こっちのガキは応急手当だけじゃ間に合わねえ!医者に見せねえと・・・!」

 

 

 

「急ごう、グレン君!---大丈夫、君たち二人は絶対に助けて見せるから。だから君たちも頑張って。どうか生きることを諦めないで・・・!」



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アルザーノ魔術学院編
早朝の鍛錬


聞くんだけどぶっちゃけヒロインとかいらないよね?百歩譲って燃えゲーらしくホモインはありだけど、光の奴隷なんだからヒロインとか甘えだよね!


一応考えたけど、

大天使ルミア嬢はアッシュとヘリオスの例を鑑みるに、融合(意味深)するにはまず真っ向からぶつかって対等にならないと話にすらならないので無理。ルミア嬢はどちらかというメンタルで戦うガ―ルであって覚醒連打されても挫けないけど並び立つには純粋な強さが足りない。


銀髪女神システィは純粋な強さはまだしもオリハルコンメンタルの主人公+殴り愛の時の覚醒連打に付いていけなさそう。一番希望はあるヒロインだけど作者がシスグレ派なんでやっぱり希望はない。南無三!


爆走ガールリィエルは策とか全部パワーで押し切る今作のゴリラ枠だけど、主人公は改造人間だから搦め手なしで純粋に叩き潰せてしまうし、強引に突破しようとして主人公を追い詰めても最後には覚醒されるので勝てない。というか染まりやすいのでむしろ光の亡者側。ヒロインより主人公全肯定ガールと化す確率の方が高い。


俺の朝は日の出に始まる。未だに深い眠りの中にいる義妹を起こさぬように静かにベッドから抜けだし、水分補給用の水と手拭、木刀を持って家を出る。

 

 

まずは軽くフュジテの街を5周ジョギング。道中、日が出て浅いというのにすでに仕事場へと向かう大人たちと挨拶を交わしながら体を温める程度に走っていく。最後の一周は仕上げとして少しギアを上げ、郊外にある丘を駆け上がる。

 

 

丘の頂上にはベンチが二つほどあるだけで開けているため木刀を振り回すのには丁度いい。妹が言うには隠れた夜景スポットらしいが、日も出たばかりの早朝なので当然カップルなどいるわけもなく、誰も座っていないベンチに水と手拭を置いて木刀を構えた。

 

 

 

かつていた実験場では戦闘訓練とは名ばかりのモルモット同士の殺し合いが度々行われていた。そのため、仰ぐべき師など居るはずもなく、剣術も、体捌きもなにもかもが我流であり独学だ。

 

 

ただ一つ確かなことは、自身が扱う剣術は守る剣ではなく攻める剣、もっと言うのならば殺すための剣だ。極論、剣術は人を殺す技術であり、お行儀のよい極東の剣道とは違う。あれは礼節を重んじる面が強いため、こと殺し合いの場においては倫理観や余計な感情に邪魔されやすい。

 

 

だがあちらはあちらで訓練する型は合理的だ。お行儀の良さ故に基本に忠実。先人の積み重ねた技術は年月を経て研ぎ澄まされるのは剣術も剣道も同じ。

 

 

かつて暗殺チームに同伴して極東へ赴いた時、道場で稽古を見たことがある。その風景を思い出しながら、いつも通り木刀の素振りを始めた。

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「ふっ・・・ふっ・・・!」

 

 

振る。振る。振る。一心不乱に、されどその所作は淀みなく。剣の握りを体に染み込ませるように、剣先までも体と一体化させるように。

 

 

額から流れる汗が眼に入るが構いやしない、振り続ける。それが己に必要なことだとなにより理解しているから。

 

 

 

「ふっ・・・ふっ・・・!」

 

 

 

そもそも俺は自身のこの力をあまり使う気はない。星辰奏者(エスペラント)としての力ははっきり言って化外の力だ。なにせこの世のものではなく、疎ましい下劣畜生の産物でしかないのだから。

 

 

世界の裏側---悪魔共の巣食う魔界の、その空気中に漂う禍々しい魔力。それを心臓と同化したオリハルコンという特殊な金属を介して取り込むことで俺は星辰奏者足り得ている。そして無論、そんな力に普通の人間は耐えられるわけもなく、故にこそ俺の体にはその負荷に耐えられるだけの調整が施されている。

 

 

無茶に無茶を重ねただけあって俺の寿命はもって30歳ほどまでだろうが、そこは大した問題ではない。元より何歳までであろうと、俺は最後まで生き足掻くし生き抜くつもりだ。

 

 

問題は、この力が余りに強すぎるというものだ。過ぎたる力は不幸しか招かない。自分を英雄などと思ったことは一度もないが、強大な力を持つという意味では変わらない。

 

 

そして英雄の最期はいつだって悲劇的だ。裏切り、姦計、騙し討ち。例を上げれば限がない。そんなつまらない最期を遂げるなど有り得ないし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

大きすぎる力は民衆に安心ではなくむしろ恐怖を抱かせるし、なにより自分の慢心の原因にもなる。それで基礎を疎かにしてしまえば必ずどこかで襤褸が出てしまうものだ。

 

 

故にこそ、俺は星辰奏者ではなく、ただの剣士として鍛錬を積んでいるのだ。無論あちらの鍛錬とてかかさないが、比率は断然剣術に傾いている。勝利のためならば手段など選ばないが、手札というのはひけらかしては意味がない。星辰光を使わずに済むのなら、それが一番良いに決まっている。

 

 

努力が報われる保証などこの世のどこにもありはしないが、そもそも努力をしなければ報う報われないという前提にも立てない。報われないからと言って、無駄な努力など一切ないのだし、結局のところやっておいて損な努力がないことは確かだろう。役に立つ保証がないのと同じく、役に立たない保証もまたないのだから。

 

 

 

「ふっ!・・・ふぅ。」

 

 

 

ぶん、と風切り音の後、素振りを止めて構えを解き木刀を下ろす。気付けば始めた頃よりもだいぶ太陽は昇っていたようで、今から帰って準備をすれば学院の始業時間に間に合う時間だ。

 

 

 

---そう、学院。つまりは今の俺の肩書は学生であり、魔術師見習いというわけだ。身寄りのなかった俺と妹が学生になるのは少々面倒なことではあったが、勤め先ともいえる上司と、恩人の保護者に手を回してもらえたおかげで今の立場に収まることが出来た。

 

 

 

どちらかと言えば魔術に対して正の感情を持っていないという俺ではあるが、良くも悪くも魔術は簡単に敵を殺せるものだ。塵を殺す手段の一つになるのだから、俺の心情など些細なもの。多少の嫌悪など軽く飲み干すくらいはどうということもない。

 

 

あくまで俺は悪の敵。必要とあらば非道に手を染めることなど厭わないし、手段など選ぶべきではない。正義の味方でもなく、ましてや英雄ですらない俺が、手段を選ばない悪を相手に手を尽くさず勝てるなどと、思いあがるのも甚だしい。分を弁えろよ、劣等だろうがこの身など。

 

 

---すべては悪を滅ぼすため。

 

 

---誰かの涙を笑顔に変えるため。

 

 

------そしてあの日望んだ鋼の英雄。その背に近付きたいがために。

 

 

「そうとも、故にこそ俺はここにいる。滅悪の雷火、なおも潰えず---死の光はここにある。ならば後は進むだけだ。どこまでも、前へ前へと、な。」




努力描写は入れておきたかった。光の奴隷も覚醒ばっかりに目がいきがちだけど、根底にあるのは積み重ねたものだしね。描写が薄くてすまんが、まあそれはまたどこかで鍛錬風景とか書こうと思う。



ていうかエスペラント技術って下手しなくても人道から全力でフライアウェイしてるし、真っ当な軍なら研究続けられるわけないよね。っていうのが天の智慧スタートさせた理由。分かりやすい悪っていうのも英雄譚には必要だからね。


主人公の名前は次回!次回出るから!妹と一緒に!前向きに善処するからお兄さん許して



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早朝の鍛錬:裏

そういえば光の亡者と光の奴隷の違いなんだけど、やっぱり”自覚の在りなし”かなって思ってる。


具体的な例だとヘリオスも総統閣下も基本自分の事を”光に振り切りすぎた破綻者”で、なおかつそれがいいことだとは思っていないしむしろ唾棄すべき塵屑だとすら思ってるところ。

糞眼鏡との戦いで閣下が極楽浄土を否定した時も、「みんながみんな善悪で分けられるわけじゃないんだし、お前の言ってる正しい者だけの理想郷じゃどっちつかずの中間者まで死んじゃうし、それは許されねえだろ(意訳)」って言ってるわけだしね。少なくとも閣下は遅咲きの花(善にも悪にも傾けない無辜の民)を見守るスタンスなわけで。


光の亡者の糞眼鏡と本気おじさんは、光のメリットにばかり目がいって、それが齎す被害(デメリット)は「最終的に報いるから必要な犠牲だ」とか「本気を出せないからそうなる」とかいって自覚なしに押し付けるところが糞。


その点で言ったらこの主人公は今は光の亡者以上光の奴隷以下って立ち位置かな。原風景というか、憧憬の元は閣下だから光に憧れたってところは亡者と同じだしね。


有体に言って、そこは地獄だった。

 

 

死体が無造作に打ち捨てられ、どこに踏み出しても肉を踏みつける感触がする。腸を踏みつけてぶちゅり、という音を立て中身が飛び出るが、それを不快に思うことなどもはやない。

 

 

あまりに無惨、あまりに凄惨。此処に至って倫理観など持ち合わせたものなどもはや一人もおらず、そんなものを持つやつから死んでいく。そして事実、初めは数百人いたものも、いまや二人を残して物言わぬ死体へとなり果てた。

 

 

だというのに、まだ敵は生きている。それは即ち、数百対一の絶望的差を覆し続けたということに他ならず、その戦闘論理には敵ながら天晴れと言わざるを得ない----わけがない。

 

 

人を殺して、なにが凄い、だ。なにが天晴れ、だ。ふざけるなよ塵屑が。極論ただの殺人鬼でしかないだろうが、そんなことが誇らしいとか馬鹿じゃないのか貴様らは。

 

 

赫怒の炎が揺らめいて空間を歪めていく。激烈な意志それ自体が現実世界へ黒雷として現出する。慈悲も逡巡もありはせず、ただただ殺意に痺れていた。

 

 

 

「さぁ、後は僕と君だけだ。グレンはどうやらリタイアらしい。」

 

 

「そのようだな。だが俺一人だろうが、やることは変わらん。貴様を殺す。ただそれのみだ。」

 

 

「---あぁ。愚問だったね、失礼。」

 

 

片や人工天使を従えた錬金術師(アルケミスト)

 

 

片や刀を携え、その身に炎を纏った地獄の審判(アヌビス)

 

 

正義を謳う錬金術師は笑う。あぁどうかその輝き(正義)をぼくに示してくれと声高々に叫んで止まず、五体が絶頂して止まらない。彼は真実狂していて、もはやどうしようもないほどに彼は自分が正義だと信じて疑うこともしない。そしてそれ故に、彼はどこまでも救えない。

 

 

断罪を謳う地獄の審判は猛り狂う。知るか黙れよ貴様の正義など心の底からどうでもいいんだと、声高々に吠えて止まず、流れる血が沸騰して紅い蒸気が止まらない。彼もまた、ただただ憤怒に身を窶して怒りに狂っていると言っていい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の事も、自身に課せられた任務の事もなにもかもを忘れて赫怒に身を任せるそのさまは、やはり絶望的なまでに救えない。

 

 

両者の背後に広がる轢殺の轍。それは即ち敗者の残骸で、あるいは英雄譚の礎だ。どうしようもないほどに救えない二人の男と時と場所を同じくしたという不幸。言ってしまえば、彼らはただただ不幸でタイミングが悪かっただけの被害者でしかなかった。

 

 

---いついかなる時代も、犠牲なくして英雄は生まれず、悲劇なくして正義は謳えず、敵無くして勝利もまたない。古来連綿と受け継がれてきた残酷なまでの戦場の理は、この瞬間をも絡め取っている。計算による未来予知すら可能とする錬金術師も、意志一つで現実を超越する光の奴隷も、その理からは逃れられない。

 

 

だがそんなことすら今の二人には些細なことで、彼らはただただ眼前の敵を滅ぼさんと息を巻く。天使が剣と盾を構え、主の敵を討滅せんとその身に威光を滾らせる。地獄の審判もまた刀を構え、眼前の畜生を断罪せんとその身に冥府の雷を迸らせた。

 

 

殺意と赫怒が世界を満たす。あとはもう、ただただ己が殺意で自らの敵を殺し、潰し、消し去るのみ---

 

 

 

 

 

「勝つのは俺だ---」

 

 

「いいや、僕さ---」

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「また、あの夢。」

 

 

現実へと回帰する。

 

 

柔らかな毛布から身を起こし、頭を二、三度振るう。そのたび、血のように赤い赤髪が視界を塞ぐが、今は目に優しくない自分の髪がありがたかった。おかげで、夢の事を幾分か忘れられた。---もっとも、それも完全な忘却には及ばないが。

 

 

「ほんと、勘弁してほしいよ。」

 

 

言いながら、表情に浮かんでいるのは嫌悪感を含んだ苦笑いだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()、こうして兄の過去を夢に見る。そしてそのたびに、光に灼かれて私が私でなくなっていく実感がある。

 

 

自我を保とうとしてはいるが、なにせ競う相手はあの義兄だ。不撓不屈が肉体を持ち、正しいことを正しい時に正しいやり方で当然のように出来る人。義理とはいえ兄弟としてなら兄以上の優良物件など存在しないと断言できるが、しかし同時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とも断言できる。

 

 

あの人は終わっている。人として正しくない生物のくせして、地上に生きる人間の誰よりも正しいことを出来てしまうのだから、そのやるせなさもひとしおだ。

 

 

 

「もし、ファウスト義兄さんがああじゃなかったら---」

 

 

ああじゃなかったら、どうなのだろうか。答えは決まっている。私は今、生きてはいないだろう。

 

 

あの日実験場で義兄に救われないまま、その他の子供たちと同じように、塵のように消費されていたはずだ。故にこそ、私は彼を尊敬しているし感謝もしている。その気持ちは本物だ、嘘などでは断じてない。

 

 

だがそれでも---

 

 

 

「私じゃ、義兄さんみたいにはなれないよ。正しいことは痛いし、辛いし、報われる保証なんてどこにもない。頑張れば何とか出来るなんて、そんなの義兄さん達みたいな人たちだけだよ。出来ない人は、どうやったって出来ないんだから。」

 

 

声音に滲むのは自身への嘲笑。ああまたそうやって言い訳を並べ立てて、無理だ出来ない諦めよう?それが気持ちいいことだから、欲に流されるのは人間だから仕方がない?我ながら、本当に反吐が出るくらいに卑屈で矮小で堕落してる。

 

 

こんな女があの人の義妹?やめてくれよ恥ずかしい、同じ姓を名乗るなんて情けなさと申し訳なさと恐ろしさで脳味噌が弾けてしまいそうだ。私のような塵屑は、やはりあの日に死ねば良かった---

 

 

 

「あぁ、もう。また変な方向に。」

 

 

言って、思い切り頬を叩く。余りの痛みに跳び上がったが、思考はどうやら落ち着いた。きっと頬は林檎みたいに赤くなっているだろうけれど、コラテラルダメージというやつだろう。さっさと起きて朝御飯の支度をしよう。きっと義兄も、もうすぐ日課から帰ってくる。

 

 

「よっこらせっと。」

 

 

そうして、中年男性のような声と共に毛布を蹴飛ばし、ベッドから抜けだした。

 

 

---窓の隙間から私を照らす太陽は、今日も忌々しいくらいに、私を焦がす勢いで、燦然と輝いていた---

 

 




主人公の名前出す(主人公が出るとはいってない)


うちの義妹ちゃんは拗らせ無気力ガール。お兄ちゃんとしては好きだけど、人としては終わってるから複雑な気持ティってかんじ。


先に言っておくと、この義妹ちゃんは狂い哭いたり天に飛翔したりはしません。光の眷族でも闇の眷族でもありません。実験を受ける直前に実験場壊滅に巻き込まれた、星辰奏者でもなんでもない普通の女の子。



(書いててジャティスと主人公が聖戦始めたのは残当なので反省も後悔も)ないです。



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