純愛エロゲの世界に転生したら夜な夜なダークファンタジーばりの殺し合いをする事になった (オナ陸さんをすこれ)
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純愛エロゲの世界に転生したら夜な夜なダークファンタジーばりの殺し合いをする事になった

衝動には勝てなかったよ……


「……なーんで、こーんなことになったんだろうなァー……?」

 

刀を振るい、首を落とし、手斧を投げて仕留めて、フリーの腕で首をへし折って心臓に刃を突き立てる。

斧を引き抜いて、骸を足で転がして、一息をついて未だ消えぬ無数の敵を見つめる。

殺して殺して殺して殺して……殺しまくっても夜は開けない。

血に汚れ、殺しに慣れ──そして現れぬ救いを求めて悟りを開く真似事をする。

 

全く以って、難儀な人生という奴だ。

 

「……八つ当たりだ。潰す」

 

 

何が悲しくて……

 

何が悲しくて……!!

 

 

「純愛エロゲの世界でェッ!

 

夜な夜な狂戦士めいた殺し合いをしなきゃァッ!!

 

いけねぇんだよォォッ!!!」

 

 

俺はそう叫び、目の前の怨霊どもを鏖殺せんと両手の得物を振るうのだった。

それから黎明が現れるまで殺し続け……今日もまた、血染めの夜が明けたのだった。

 

 

 

──さて、俺の話をしよう。

経緯は略すが、とかく死に、そして転生をした。

その転生先というのが……

 

……その、とても大きな声では言えないのだが。所謂純愛モノのエロゲの世界だったのだ。もはや題名は忘れてしまったが、和モノだったのは憶えている。

 

多少のバトルやシリアス要素はあるが、根本にあるのはラブコメだった。流れとしては片田舎にやってきた主人公がメインヒロインの少女と出会い、神剣の精霊かなんかに選ばれて上手いこと解決して導入が終わり、んで個別ルートに入るとか……そんな感じだったはず……うん。凄惨な殺し合いの日々でほとんど抜け落ちてしまった。物語のように都合良く残っている、とはいかんものだ。

 

そんな中、俺は舞台となる片田舎でも由緒正しい『璃月(あきづき)』に生まれた。まあ簡単に言えば良いトコの出というわけだ。しかし、単に良いトコだけで終わる話ではない。璃月の人間は己を鍛え、護るべき『篠崎』の人間に尽くさねばならない。

……うん、時代錯誤だろ? 古いしきたりをそのままにしてるんだから仕方ない。まぁ、一族ぐるみの付き合いがあると思ってくれ。多少上下関係あるけど。

 

でだ、もちろんなんで古いしきたりをそのままにしてるかつーと、ウチの家は『魔を殺す』一族で、篠崎は『魔を祓う』一族っていう事にある。

物理的に殺し一定期間黙らせるウチと、その黙らせた期間で払って完全に滅ぼす向こう。実によく出来た分担だ。物理と霊的の祓魔師の二家ってわけ。

 

敵となる魔は……土地の記憶なり人間の悪意なりが積み重なってなんか核になるものが生み出している筈。忘れた。まぁ都合よく現れるなんかこう……アレ。

ま、全部序盤の貴重な燃え要素として消えるんだけどな! あとは残った謎とかでヒロインとの駆け引きのスパイスになる程度だよ!

 

だが、ただ一人だけ違う。

メインヒロインの一人──そして俺の妹である『璃月彩乃』ルートだけは。

いやウチのお仕え先である『篠崎裕香』ルートでは影も形も無いんだけどね、そんなの。

 

何せ昔から彼女に従える護衛であり、公式からバトルヒロインと言われるほどバトル三昧なルート。

強さに憧れた主人公と共にしのぎを削り、好敵手として意識していたらいつの間にか恋に落ちていた彩乃。

晴れて恋人になったと思ったら、今度は生き残っていた特殊な魔に取り憑かれ、やがて主人公と戦う事に。そして最後の戦いで、愛と神剣の力で魔だけを斬るという奇跡を成し遂げて大団円……という流れだった筈。

 

まぁ、そんなヒロインの兄貴になったんだわ、俺は。

名前は璃月圭介……でもそんな奴はゲーム中には存在しない。つまりイレギュラー。が、知ったこっちゃねえと、かと言ってめちゃくちゃにするワケもいかんしでずっと修行ばかりしていた。転生した所為か、どうにも生きている実感がなかったというのもある。それに男である以上、一度は最強の名に憧れるだろう。

 

あにさま、あにさまと慕う彩乃とは上手く接せられず、友達を作れという父母の言葉に耳を傾けず、従うべき裕香ちゃんとは公私を別けてまで、俺はただひたすらに強くあろうとした。

いやそもそも精神年齢の違いから上手く接する事が難しくて、それから逃げたかったのかもしれない。けど──

 

──まさかの監視付きですよ。

 

一定期間の修行禁止に加えて人と接する事。過保護かっちゅーに。

『もう戦いばかりに身を投じる必要は無いんだ』とかじゃねーんですよ、求めるものは最強という名の称号ですよ。自分の限界にぶち当たったらそん時はそん時なんですよ。やめるべき時くらい自分でも分かってるんですよ。でもまだ花の十代だし、やっぱり強くなりたいと思うことは自然でしょう?

 

まぁ、そうでもしなきゃ生きている実感もあんまり無いのが大問題なんだけどサ。なので結局、何も変わらなかったワケだ。

 

それからまた人間関係よりも最強の称号を求めて修行の毎日。そんな俺にそんな必要は無いと皆が言うが、いや俺の求める最強の称号のためには必要なんだと言えば『そうじゃない』と言われる。

……うーむ、今考えればあの時力ずくでも止めようとした彩乃を圧倒したのは不味かったか? でも口だと分かりづらいしって武の中に言葉を見よと言ったのは親父だし……まあ、もっとゆっくり考えてみよう。どのみち今しばらくは戻れないんだし。

 

──そう、数ヶ月程前の事だ。

いつものように彩乃と俺と、裕香ちゃんの三人で祓魔を行なっていたところ、裕香ちゃんに不意打ちをかましてきた怨霊がいた。

俺が庇って事無きを得たのだが、代わりに俺は怨霊の中にあった魔に取り憑かれてしまい、夜になると周辺から無数の魔を呼び寄せてしまう体質になってしまった。

 

いい修行相手が増えたと喜んだものだが、雑兵ばかりで話にならず、しかも奴らは俺だけでなく他の人も狙う。その所為で夜も眠れず朝になってやっと一息つけるという有様。

こりゃ迷惑をかけられんという事で、事情を親にだけ説明して、後は武器を担いで山にこもった。

 

恐らくは強さと生の実感を戦いに求める俺の心に反応しているのだろう。だが力無くては生き延びる事も出来ないので修行をするしかない。

もし主人公が彩乃を落としたら「妹を頼む。俺には彼女を不幸にしかできなかった」とか言ってみたいし、そういう意味でも死ぬ事は出来んのだ。

 

そんな訳で俺はこの我欲から逃れるべく、山にこもって昼は求道者の真似事、夜は血染めの戦いに身を投じる生活となったのだ。

……まー、正味学校とか行ってられんし? 昼夜逆転よ? いかんて。

 

落ち着く気配が無ければ、年単位で山にこもるかねぇ……

昼間に人里に下りてきゃ、迷惑はかからんだろう。早く主人公来ねーかな。そうすりゃ多少はマシになんだろ……多分。

 

あれ?

そういや俺に取り憑いた魔って、もしかして彩乃に憑く筈だった奴……とかないよね?

……ないよな?

 

 

────

 

 

璃月彩乃にとって、兄である圭介は変わった人だった。

彼女が物心ついた時から、寡黙で老成していた彼を見て『おじいちゃんみたい』と思っていたし、それに接し方も不器用過ぎて、兄というよりも伯父のような距離感だった。

 

だが彼女は、そんな兄が好きだった。もちろん家族として。

篠崎に尽くす璃月である彼女が、唯一只人として接せる家族の中でも、もっとも自分に近い人物。

しかし、兄の求道に気が付いたのは魔を殺す者としての修行を始めてからしばらくしての事だった。

 

幼いながらに彩乃は感じ取った。

兄は強くなる事に固執していると。ふと思い立って聞いて、帰ってきたのは──

 

『彩乃、強くならなきゃ俺の願いは叶わないんだ』

『兄様……?』

 

彩乃はすぐに察した。

兄はこの地を蝕む魔と、それに対抗するべく人間らしい生活を捨ててまで挑み続ける両家の因縁を我が身一つで断ち切るつもりなのだと。

 

それを知って、並び立とうとした。修行にも力を入れ、父母にその願いを告げて、兄だけが背負い込む事がないように、裕香にも頼んだ。

────必ず三人で終わらせるんだと。

 

だが、圭介は彼女らの願いを振り切るように強くなっていく。人間関係すら断ち切った修行漬けの毎日。いつ眠っているのか、いつ休んでいるのかも分からない。

事を重く見た両親が、『十二分に力がある』『そもそも魔はそこまで強くないのだ』と説得しても圭介は『それでは足りぬのです』と語り更なる力を求める。

篠崎も璃月も困り果て、監視を付けてまでも圭介に普通の生活を送らせようとした。しかし彼はどうにも上手くいかず、彩乃もそんな様子を見ていて不安になってしまった。

 

"やはり兄は、戦いの中にしか生きられぬ人物なのか"──? と。

 

そんな筈はないと思っても、何処か納得してしまう自分もいる。

やがて彼女が両家に"普通"を与えず、また兄のように戦いにしか生きられぬ人物を生み出してしまうこの関係を呪い始めた。

 

そうして彼女が15歳になった時、彩乃は兄に挑んだ。力を認めさせるという意味も込めて、並び立てる程強くなったのだと証明する為に。

 

しかし、惨敗した。

一瞬で敗北し──兄は困ったような顔をしていたのを覚えている。

それ以来、本当にどう接していいのかも分からなくなって……圭介は護衛対象の裕香すら避けるようになってしまって、裕香もまた分からずじまいで──

 

その数ヶ月後、裕香を庇った圭介は、突如として失踪した。

 

大人たちは事情を知っているようだが、あまり積極的に口を開こうとはしなかった。

当たり前だ、祓魔の一族から払うべき魔が生まれてしまう現状を、誰が好き好んで話したがるものか。それに、魔が人に取り憑くなど伝説の神剣を持ち出さねば救えぬ事であり……また神剣の担い手はこの街にはいない。

 

時折、兄がいると聞いた山に登ってみるも、出会える訳でもなし。

 

それから2年が過ぎてしまった。

兄は時折人里に下りている事は知ってるが、しかし上手く出会える事はなかった。

 

だが、全ては終わってしまった。

都会から引っ越してきた少年──弓春渚沙が神剣の担い手であり、そして両家にまつわる因果を断ち切ったのだ。

 

「これで篠崎も璃月も、やっと只人に戻れる……」

「うん……あとは、圭介くんだけ」

「兄様を救わねばなりませんね、裕香」

 

只人に戻れたんだと喜ぶのも束の間。

渚沙と彩乃は惹かれ合い、転がり落ちるように恋人となった。

いる筈なのにいない兄の存在を知った渚沙に聞かれたからこそ彼女は、兄の事を語り出した。

 

「渚沙……その、兄様はな……ただ一人で両家の因縁を断ち切らんとして、誰と関わる訳でもなく努力を続けていたのだ」

「……でも、なんでいないんだ?」

「2年前に裕香を庇って以来、山にこもっている。おそらくは力不足を感じたからだろうが……」

「けど、俺が解決したんだろ? だったら呼び戻そうよ。俺は自分の好きな人が、そんな悲しい顔をしているのなんて見たくないし」

「そうだな……兄様も、やっと只人に戻れるんだ」

 

明るい未来を想像してはにかむ二人。

念には念をと武装を整えて、圭介のいる山へと向かう。

 

──だが、彼らは完全に消えたはずの魔と出会い、これを撃退する。

完全に終わった筈では? そう思ったが胸騒ぎがする。

ガサリガサリと物音を立てて現れたのは──

 

「──彩乃に、誰だ」

 

大和撫子な彩乃と割とよく似た、中性的な顔立ち。

しかし極限まで贅肉を削ぎ落としたのか、身長に対して身体は華奢。

血塗れの和服に身を包み、右腕に打刀を、左腕に手斧を握り締めた美青年。

 

「……兄、様──」

 

数年ぶりに見た兄は変わり果てておらず、涙すら出てくる。

 

「兄様、因果は終わりました。神剣の担い手であり……ええと、その……私の、恋人でもある渚沙が全てを終わらせたのです」

「恋人?」

「えっと、はい。お付き合いさせていただいてます……」

 

おどおどと頭を下げる渚沙を見て、圭介は少し微笑むと──

 

「だが俺の戦いは終わってないんだよ、彩乃」

「兄様、何を──!?」

 

突如、圭介の影から現れる怨霊たち。

 

「──黙っててごめんな。残っている魔は、この俺だ」

「う、嘘だ──!!」

 

(くぅ〜ッ、こういうの一度言ってみたかったんだよね〜!! さぁ来い二人とも! 俺は神剣で斬られただけで魔と分離するぞォォォォォッ!!)

 

──まったく、悲壮な再会が台無しの内面であった。

 

が、彼は忘れている。

 

毎夜毎夜殺し合いを制し続けた彼は、とんでもなく強いのだと──




あとの話は全てご想像におまかせします


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