FAIRY-TAIL~天候を操る魔導師 (晴月)
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第一話 FAIRY TAILのNo.2

フィオーレ王国 マグノリア

 

そしてこの街に存在するギルド 『フェアリーテイル』

 

そのギルド内から話し声が聞こえてくる。

 

「ミラさ~ん、報酬の高いクエストって無いんですか?」

 

ギルド内のカウンター席に座りながら項垂れているのは、このギルドの新人魔導師 ルーシィ。

 

「う~ん.....残念ながら今のルーシィに勧められるクエストにはそこまで高いものは無いわね。」

 

ルーシィの質問に答えるのはこのギルドの看板娘 ミラジェーン

通称 ミラだ。

 

「でももう少し強くなればS級魔導師になれるし、二階のクエストボードから依頼を受ける事が出来るようになるわよ。」

 

笑顔でそうルーシィに答える。

 

「そういえばミラさん、このギルドにはS級魔導師って何人居るんですか?」

 

ルーシィはミラの話の中で疑問に思ったことを聞いた。

 

「う~ん、そうねぇ....エルザ、ラクサス、ミストガン、ギルダーツと.....あっあとはエクレール (・・・・・)ね。」

 

「エクレール?....誰ですかその人?」

 

ルーシィはミラが口に出した名前の中でエクレールという人物に興味を惹かれたのかミラに質問する。

 

「あぁごめんなさい....ルーシィはまだ会ったことなかったわね。...このギルドで"二番目"に強い魔導師よ。」

 

「二番目!!?」

 

ルーシィは名前から女性だと思っており、その人物がまさかこのギルドで二番目に強いと思わなかったので驚いた。

 

「そ、そんなに強い人なんですか....その、エクレールって人。」

 

「うん!でも私の中では一番強いんだけどね

 

「え?」

 

ミラが何か言っていた気がしたが小声だったのでよく聞き取れなかった。

 

「今はS級クエストの中でも一番過酷な100年クエストってクエストに行ってるけど暫くしたら帰ってくるわよ。」

 

「あの...100年クエストって何ですか?」

 

また聞き慣れない言葉が出てきたのでルーシィはまたミラに聞く。

 

「100年クエストっていうのはね、S級クエストの中でも一番過酷なもので100年間誰もクリアしたことのないクエストだから100年クエストって呼ばれてるの。」

 

「誰もクリアしたことがない!?」

 

「そうよ、だからルーシィも頑張ったら受けられるようになるわよ。」

 

ミラは笑顔でルーシィにそう言う。

 

ルーシィは難しそうだなと感じていた。

 

「おいお前ら!今エクレールの奴から「今から帰る」と連絡があった!」

 

ギルドマスター マカロフからエクレールが戻ってくると聞いた一同、すると突如騒ぎ始めた

 

「エクレールが帰ってくる!?」「帰ってくるのって何時ぶりだ?」「確か半年ぶりじゃないか?」「帰ってきたら勝負だ!」

 

ギルド内では口々にそんな声が聞こえてくる。

 

そして、

 

ギィィ、とギルドの扉を開ける音がした。

 

「今帰った、マスターと話がしたい。....何処だ?」

 

扉を開けて入ってきたのは白いパーカーを着ており、頭にはフードを被った青年だった。残念ながら顔はフードを被っているためよく見えず、特徴的なこととしては彼のパーカーには雲の様なマークが描かれていた。

 

「エクレール!俺と勝負しろ!」

 

突然、ナツがエクレールの前に飛び出して炎を纏った拳を振り上げる。だが、

 

「え!?」

 

ナツの拳はエクレールの体をすり抜け、エクレールはそんな事知るかとばかりにナツを無視してミラの元へと向かう。

 

「オイ、待てエクレール!....俺と勝負しろー!」

 

ナツがまたエクレールに拳を振り上げる。だが、今度はナツの拳を受け止め、そのまま握る。

 

「イデッ!イデデデデデデ!!」

 

エクレールはナツの拳を潰すように力を入れて潰そうとしていた。

 

「ナツ、今の俺は機嫌が悪い....俺の言ってる意味...分かるな?」

 

エクレールの目は明らかな怒りを孕んでいた。

 

「あ.....あい。」

 

「ナツがハッピーみたいになった!」

 

ルーシィがついツッコミを入れる。

 

「.......」

 

そしてエクレールはまたミラの元へと足を向ける。

 

「今帰った。」

 

「お帰りなさいエクレール。」

 

エクレールは他の事には目もくれず最初にミラと言葉を交わす。

ミラはエクレールと話せたことが嬉しかったのかとても嬉しそうに笑っている。

 

「さて、マスターは何処だ?」

 

エクレールはキョロキョロと辺りを見回してマカロフを探す。

 

「ここじゃ。」

 

いつの間にかマカロフはエクレールの目の前のカウンターの上に座っていた。

 

「今帰った。」

 

「それはさっき聞いたわい。....それで、今回はどうじゃった?」

 

「あぁ、簡単な仕事だった...まぁ、事後処理に半年はかかったがな。」

 

と、愚痴を溢すように言い放った。

 

本気(マジ)か!?」「またクリアしちまいやがった....!!」

「やっぱすげえ....!」

 

周囲の魔導師達からは次々にそんな言葉が聞こえた。

 

「え?また?」

 

ルーシィは誰かが言ったまたという言葉の意味をミラに確認する。

 

「そういえばまだ言ってなかったわね、エクレールはこのギルド内では100年クエストを何度も成功させてるの....それも一番多く。」

 

「な!?」

 

そんなに凄い人なのかとルーシィは驚きを隠せなかった。

 

「そんな大層な事はしてないさ、やってることはただの後始末だよ新入りさん。」

 

いつの間にかエクレールはルーシィの隣の席に座っていた。

 

「初めまして、エクレール・ウェザリアだ....今後、仕事で一緒になったときは宜しく頼む。」

 

「は、初めまして....ルーシィよ。」

 

エクレールが差し出した手を取り、握手を交わすルーシィ。

 

「さて、ミラ....注文だ。」

 

「ええ、何時ものやつね。」

 

ミラは席を外すとそのまま店の奥へと姿を消した。

 

「さて、久しぶりのギルドだ....暫くはこの町に滞在するか。」

 

ふとエクレールはそう呟く。

 

「あの...今回はどんなクエストに?」

 

ルーシィは気になり、エクレールにそう訪ねる。

 

「うん?....ああ、今回は村一つを滅ぼしたとされる魔獣の討伐だ。」

 

「え!?.....それってかなり強かったんじゃあ....」

 

「?....いや、全然大したこと無かったな....クエスト行った初日にあっさり倒せたし。」

 

(あっさりと!?しかも初日に!?村一つ滅ぼしたとされるモンスターなのに!?)

 

ルーシィは改めてS級魔導師の凄さを思い知らされた。

 

「問題はそのあとの事後処理だな....村を復興するために一から家を建てたり、教師の代わりに子供に勉強教えたりと大変だったな。」

 

遠い目をしながらエクレールは語った。

 

「俺の事はともかく....そっちはどんなクエストに行ったんだ?....寧ろそっちの方が気になる。」

 

まるで子供の様に目を輝かせながらルーシィに近づく。

 

「わ、分かった、分かったから....その....近い。」

 

「おっと済まない、つい。」

 

エクレールは自分の軽率さを認め、ルーシィに謝罪してから席に座り直した。すると、

 

「.....可愛い。」

 

エクレールの顔を見てふとそんな事を呟くルーシィ。

 

「......!!!」

 

聞こえていたのかエクレールは怒ったような顔をしてそのまま席を立った。

 

「あ、あの......」

 

「.........」

 

ルーシィが声を掛けるもエクレールには聞こえていない様子で何も言わずギルドから飛び出していった。

 

「お待たせエクレール。....ってあら?」

 

エクレールが飛び出していった後、すれ違うようにミラが戻ってくる。

 

「ルーシィ、エクレールは何処?」

 

「あの...飛び出していっちゃいました。」

 

キョトンとしているミラに対してルーシィはエクレールが飛び出していった方角を指差す。

 

「ルーシィ....もしかしてエクレールに"可愛い"とか言った?」

 

「え?....あーそういえば言ったかも。」

 

ルーシィがそう言うとミラはあちゃー、と言って頭を抱えた。

 

「言ってなかったけどエクレールは"可愛い"って言われると嫌がって何処かへ行っちゃうの。」

 

「な、なんで?」

 

「彼、極度の恥ずかしがり屋でね、特に彼の顔を見て"可愛い"なんて言うと何も言わずに外に飛び出していっちゃうの。」

 

へー、とルーシィは納得した。

 

「でもどうしようかしら、この料理。」

 

ミラが運んできた料理を見ながらそう呟く。

 

それはまるでマグマの様に赤く、匂いから察するにとても辛い物のようだ。

 

「あの.....ミラさん、その....見るからに辛そうな料理は?」

 

「これ?.....エクレールのレシピ特性料理、その名も"激辛ドリア。」

 

ミラは笑顔でそう言うが、ルーシィからすればそんな危険物をこちらに持ってきて欲しくないのだが、

 

「うーん、このまま置いておくのも勿体無いし.....そうだ!ルーシィ、代わりに食べてくれない?」

 

「え!?.....い、嫌ですよ。」

 

何で自分が食べなければならないのだとルーシィは拒否する。

 

「遠慮しないで、ほら....あーん。」

 

ミラは笑顔だったが何故か怒っているようにも見える。そしてどうやら拒否することは出来ないようだ。

 

「い、いただきます。」

 

ルーシィは覚悟を決め、激辛ドリアを口にする。

 

そしてその後ルーシィは本当に地獄を見ることとなった。

 

━━━━━━━━━━━

 

夜の街のとある一軒家にて、

 

コンコン。ノックして入室の許可を得るエクレール。

 

「失礼します。」

 

エクレールはミラに誘われ、彼女の自宅に来ていた。

 

「いらっしゃい、エクレール。」

 

ミラが笑顔で出迎えてくれ、エクレールは家の中に入る。

 

「おう!エクレール、久しぶりだな!」

 

リビングではエルフマンが筋トレをしていた。

 

「久しぶりエルフマン、半年ぶりだな。」

 

エルフマンは筋トレをしていた姿勢のままでエクレールと話す。

 

「今からご飯作るからエクレールは座ってて。」

 

「なら、お言葉に甘えさせてもらいますよ。」

 

エクレールはリビングにあるソファーに腰掛け、待つことにした。

 

━━━━━━━━━━━

 

「うん、美味しい。」

 

「ホント!?......良かった。」

 

ミラが作った料理に舌鼓を打ちながらミラに料理の感想を伝える。

 

「これも全てエクレールの作った料理レシピのお陰よ。」

 

「それは良かった....ミラの手助けが出来たなら。」

 

エクレールは、何故か暗い表情でそう告げた。

 

「あの時.....俺が間に合っていれば、あんなことにはならなかったんだ.....済まなかったな二人とも。」

 

「.....」

 

「.....」

 

エクレールは昔、二人に対して確執があった為にそう呟く。

 

「そんな事ない。」

 

ミラがエクレールを励ますようにそう話す。

 

「"あの事"は私達が自分の力を見誤った結果、あんなことになってしまったの.....だから、エクレールは何も悪くはないわ。」

 

ミラは泣きながらエクレールを宥める。

 

「そうだぜエクレール!.....あれは俺が、俺自身が過信した性で......だから、お前は何も悪くはない!」

 

見ると、二人は泣いていた。

 

「済まない、....そんなつもりじゃ無かったんだ....だから、泣かないでくれ。」

 

エクレールはなんとか二人を宥めて、事なきを得るのだった。

 

━━━━━━━━━━━

 

深夜、エクレールは風呂に入ったあと、直ぐにリビングのソファーを借りてそこで寝ていた。ミラとエルフマンは客人にそんな所では寝させられないと別の部屋を用意されたが、エクレールはそれを拒否してこの場所で寝ている。

 

「......スー、スー。」

 

静かな寝息でエクレールは熟睡していたのだが、

 

ドサッ

 

「グハッ、.....一体、な━━━━!!?」

 

エクレールの腹に何かが降ってきて悶絶しそうになったが、降ってきたものを見てそんな気が失せる。

 

「ミラ....」

 

寝惚けてここまで来たのだろうか、ミラの姿は見るからにネグリジェという女性用のパジャマであった。

 

「///....と、とにかく部屋に運ばないと。」

 

赤面しながらミラを見ないようにしつつ、ミラの寝室を探すエクレール。階段を登り、周りを確認するとそこには、

 

「あった...。」

 

階段側から見て右の部屋に『ミラジェーン』と描かれた看板が着いた扉が確認出来た。

 

「よい、しょっと。」

 

その部屋に入ろうと廊下を横切った時、ふとミラの部屋の隣にある扉が目に入った。

 

『....』

 

看板の文字は長い年月が経ってしまったせいか、名前の部分だけが掠れて見えなくなってしまっていた。

 

「....済まない、だが責めるなら俺を責めろ...二人は悪くない。」

 

立て札に手を(かざ)しながらエクレールはそう呟いた。

 

━━━━━━━━━━━━━

 

「よいしょっと。」

 

ミラを部屋のベッドにゆっくり下ろし、そのまま立ち去ろうとしたが、

 

「え━━━━?」

 

エクレールは突如手を捕まれ、そのまま背中からベッドにダイブしてしまう。

 

「ミラ、寝惚けているのか?」

 

ダイブした原因を作ったミラは、幸せそうな笑顔でエクレールの手を握ったままスヤスヤと寝息を立てている。

 

「.....暫くはこのままかな。」

 

仕方ないとばかりにエクレールはミラのベッドに横になり、添い寝するようにして眠りにつこうとする。

 

のだが、

 

「えっと......ミラさん?」

 

寝惚けているミラは自分の胸にエクレールを抱き寄せてそのまま抱き締める。

 

(む、胸が.....苦しい...!)

 

そう思ってミラを退かそうとしたが、

 

「....めんなさい

 

「え?」

 

ミラが何かを呟いた気がした。

 

ふとミラの声を良く聞くと、

 

「ゴメンなさい....ゴメンなさい。」

 

と誰かに対して謝罪の言葉を述べているようであった。

 

「全く、俺に気にするなって言っておいて自分が気にしてちゃ駄目だろ、全く。」

 

エクレールは仕方ないと言ってミラを力強く抱き締めた。

 

「せめて、今だけは....」

 

休ませてやってくれ。

 

そう口にしたかったが、そこで意識が途絶えてしまう。

 

そしてエクレールはそのまま朝までミラを抱き締め続けた。

 

━━━━━━━━━━

 

次の日、流石に帰ってきてから何もしないというのもどうかと思い、二階のクエストボードの前に立つ。

 

「う~ん、これといって楽しそうなクエストが無いな。」

 

どうやらエクレールは楽しいか楽しくないかで受けるクエストを決めているらしい。

 

「仕方ない....これにするか。」

 

エクレールが選んだのは盗賊退治のクエスト。

 

それもS級クエストに指定される程の難易度のものである。

 

「さ~て、今度の相手は俺を楽しませてくれるかな?」

 

エクレールは笑顔でそう呟いた.....呟いたのだが、

 

「エクレールが嗤ってる...。」「きっと"また"だ。」

 

「またあいつの"アレ"か。」

 

と、ギルドの魔導師達が口々にそう言った。

 

「~♪」

 

エクレールはそんな事気にも止めずギルドの外に出ようとする...が、

 

「ねぇ、エクレール...その、私も付いていっていいかな?」

 

ルーシィがエクレールを引き止め、付いていきたいと懇願した。

 

「?.....別にいいけど、何でまた?」

 

ルーシィに対して疑問を投げ掛けるエクレール。

 

「実は今月の家賃が払えなくって」

 

どうやら金欠が理由だったらしい。

 

「分かった....けど俺が今から行くのは普通のクエストじゃない、S級クエストと呼ばれる難易度の高いものだ。」

 

「分かってるわ。」

 

「だからクエストに行った時、俺がルーシィに指示を出す....それに従ってくれ。いいな?」

 

エクレールがいつになく真剣にルーシィに言う。

 

それに対してルーシィは、

 

「分かった....危なくなったら下がるわ。」

 

エクレールの指示に従うようである。

 

「分かった....なら取り分は山分けだ。」

 

エクレールは先程とは違った様子でルーシィに微笑んだ。

 

「ありがとうエクレール!....いやーこの前ナツにタカられてお金があまり無いのよね...アハハ。」

 

ルーシィがそう言うとエクレールの表情が即座に変わった。

 

「ナツが....タカった?....女の子相手に?....ハハハ」

 

その顔は言うなれば般若の面を具現化したようなリアルなものであった。

 

「ヒッ!」

 

これを見てしまったルーシィはビビってしまったが、

 

「ああゴメンルーシィ....でもそろそろ行かないとな。」

 

そう言ってルーシィを引っ張って連れて行ってしまう。

 

「えっ、ちょっ、あ━━━」

 

ルーシィは何も言えずエクレールのされるがままに連れていかれるのだった。

 

━━━━━━━━━━

 

マグノリアから少しだけ離れた町にて、

 

「此所が盗賊共のアジトらしい。」

 

「此所が。」

 

そこは廃墟と化したとある屋敷であった。

 

「さて、盗賊共居るかな~...!」

 

エクレールが急に立ち止まった。

 

「え?何?」

 

エクレールはルーシィの方に振り向いて近付く。

 

「え!?...ち、ちょっと!?」

 

ルーシィはつい、眼を瞑ってしまう。だが一向に何もしてこないので眼を開けてみる...するとルーシィの背中に雲のようなものが付いており、それにナイフを突き立てている盗賊の男も確認できた。

 

どうやらエクレールは背後から近付く気配を察知し、魔法を展開して防いだようだ。

 

「....っち、防いだか。」

 

盗賊は忌々しげにエクレールを睨み付ける。

 

「当たり前だ、あんな風に殺気を漏らしていれば俺ですら気付く。」

 

と、エクレールが口にする。

 

「へっ、だがそんな減らず口が叩けるのも今の内だけだ..オイ野郎共!」

 

男がそう叫ぶと、エクレール達を取り囲むようにして盗賊が現れた。

 

「やれやれ、やっぱりこうなるのか。」

 

「ど、どうするのよ...。」

 

呆れているエクレールとは対照的に不安そうにするルーシィ。

 

「どうするって?......決まってる。」

 

「押し通る。」

 

ニヤッと笑うエクレール。それが盗賊達の気に触ったのか、男がエクレールに襲いかかる。

 

「笑ってんじゃねぇ!!!」

 

男は剣をエクレールの頭に振り下ろす。だが、

 

「な........っ!!?」

 

「えっ...!?」

 

男の剣はエクレールの頭との間に出来た()によって阻まれた。

 

「どうした...そんなもんか?」

 

「バ、バカな.....何で雲が.....。」

 

男は戸惑い、無意識に後退りしてしまう。

 

「今度は此方から行くぞ。」

 

エクレールが雲を掴み、そのまま空に向かって投げる。

 

「《天候操作(ウェザーリポート)》」

 

エクレールがそう呟く。すると晴天だった天気が何時の間にか雷雨へと変化し、エクレールのパーカーも白から黄色へと変わっていた。

 

「な......なんだコイツ!天気を変えやがった!?」

 

「そうか......思い出した!コイツ、エクレール(・・・・・)だ!」

 

盗賊の一人がエクレールの招待に気付き、名前を叫んだ。

 

「エクレール!?....まさかあの『FAIRY TAIL』のNo.2 《天候操作(ウェザーリポート)》のエクレールか!!!」

 

取り乱しながら盗賊はエクレールを睨んだ。

 

「ほう、懐かしいなその呼び名.....そうだ、俺がエクレールだ。」

 

エクレールはまるで悪人のような笑いを浮かべて答えた。

 

「さて、準備が整った........行くぞ!」

 

エクレールは盗賊の懐に潜り込んだ。

 

「《雷掌(イズツシ)》」

 

エクレールは両掌から雷を発生させると盗賊に放った。

 

「グ....ガァァァァ!!!」

 

盗賊は絶叫するとその場に倒れてしまった。

 

「さて.....次はどいつが相手してくれるんだ?」

 

ニヤリと悪人のような笑顔を浮かべて盗賊達を見据える。

 

『や、やってやらぁ!!!』

 

男達はエクレールに対して一斉に襲いかかったが、

 

「《疾風迅雷》」

 

エクレールは全身に雷を纏わせ、男達を次々に倒していく。

 

「テメェら...退いてろ。」

 

「ボ、ボス!!」

 

すると盗賊達の後ろの方から巨人程ありそうなサイズの盗賊が出てきた。どうやら盗賊達のボスらしい。

 

「やるなエクレール.....だが、俺の攻撃はかわせまい!」

 

男は巨大な金棒を振り回し、エクレールに当てようとする。

 

「甘いな。」

 

エクレールは瞬間、男の背後に周り、回し蹴りを放とうとする。だが、

 

「.....!」

 

「何っ....!?」

 

盗賊はエクレールに気付き、そこから金棒をエクレールに当てた。

 

「ぐぁっ!!!」

 

エクレールは地面に叩きつけられ、身体に纏っていた雷が消え、パーカーも白へと戻った。

 

「終わりだ!....女顔(・・)

 

「!!!」

 

エクレールの真上から金棒が振り落とされる。

 

「エクレール!」

 

ルーシィが叫んだが、その声に答えるものは居なかった。

 

「そんな......。」

 

「や....やった、やったぞ!遂にあのエクレールを倒したぞー!」

 

男は歓喜の声を上げ、ルーシィを一瞥する。

 

「よし、あの女は慰みものにしてやる。」

 

ニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべて近付いていく。

 

...........筈だったが、

 

ピシッ!

 

「ん...何の音だ?」

 

男は辺りを見回すが音の発生源は見当たらない。

 

「まさか.....!」

 

男は振り下ろした金棒の先端を見る。するとそこには亀裂が入っていた。

 

ピシピシピシッ!

 

亀裂が広がっていく音が響き、そして遂に....

 

パキンッ!

 

「だーれが女顔(・・)だってぇ!!!」

 

怒りに身を任せて金棒を破壊したエクレールがそこに立っていた。

 

パーカーの色は先程までの白ではなく"赤"へと変貌していた。

 

変化(チェンジ)モード太陽(サンシャイン)

 

エクレールが呟くと先程まで雷雨だった天気が直ぐに晴天へと変化した。そして太陽は次第にエクレールの右手に集まりだし、

 

「俺のこの手が光って唸る!お前を倒せと輝き叫ぶ!.....シャァイニィング...!」

 

集まりきったところで、男に向かって放つ準備を整える。

 

「ま、待て待ってくれー!」

 

男は取り乱しながら静止させる。だが、

 

「フィンガァァァァァ!!!」

 

エクレールは必殺技を叫びながら男の腹に掌をぶつける。

 

すると男の腹に巨大な掌の形の火傷跡が残り、男は気絶し、後ろに倒れた。

 

「.......さて。」

 

ギラリ、と残った盗賊達を睨み付けるエクレール。

 

「残るはテメェらか........覚悟はいいな!!!」

 

エクレールは残党を追いかけ回す。

 

「逃げろ!!!」

 

「あいつには敵わねぇ!!!」

 

四方八方へと散り散りに逃げる盗賊達。だが、この数分後エクレールによって一人残らず討伐され、全員が評議会から送られてきた兵士に連行されるのだった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「今戻ったぞ。」

 

エクレールがギルドの扉を潜ると、

 

「エクレール、俺と勝負しろ!!」

 

またナツが絡んできた。

 

「ちょっとナツ!?」

 

近くにいたルーシィはとっさにガードするが、ナツの炎は一向に来ない。目を開けるとそこには分厚い雲の盾がエクレールとルーシィを守っていた。

 

「よぉ、ナツ....ちょうど良かった。」

 

ニヤリと笑いながらナツをギルドの裏手に引っ張っていくエクレール。

 

「ちょっ、待て!どこに連れてく気だエクレール!」

 

「人気の無い場所。」

 

━━━━━━━━━━━━

 

そしてエクレールは山の中にナツを連れていき、自身の"雲"でナツを拘束した。

 

「あの.......エクレール.....さん?....これは一体?」

 

エクレールの異様な雰囲気に思わず敬語になってしまうナツ。

 

「決まってんだろ......."お仕置き"さ。」

 

エクレールはそう言うと右手に"太陽"を顕現させた。

 

「ナツ....俺前に言ったよな?......女の子に金を使わせるなって。」

 

エクレールに言われて気付くナツ。

 

そう言えばそんな事言ってたなと、今思い出したようだった。

 

「その様子だと今思い出したようだな。.......これは仕置き確定だなぁ」ニヤリ

 

「ヒッ!」

 

ナツはエクレールの様子に恐怖し、つい悲鳴をあげてしまう。

 

「さてナツ、お前、火は平気だったな......なら俺の"太陽"ならどうなんだろうな?.....ちょっと.....試させろや。」

 

その後、山中からナツの悲痛な叫び声が暫く続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




エクレール・ウェザリア

主人公 性別 男

中性的な顔立ちをしており、名前も女性らしいことからよく女性に間違われる。それがコンプレックスとなっており、普段はパーカーのフードで顔を隠している。

因みに超ドSで女性に対してだけでなくクエストで行く先々に迷惑を掛けた奴ら限定でお仕置きを施行する。(拷問レベル)

好きな食べ物は基本的に甘いものと辛いもの(激辛)



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第二話 もう一人のS級魔導師

エクレールがギルドに戻ってきてから数日が経ったある日の事。

 

「エクレール!俺と勝負しろー!!!」

 

ビリッ、バリバリッ!!!

 

「アンギャアアアア!!!」

 

エクレールはナツに電撃を喰らわせ、黒焦げにする。

 

「あぁいいぜ、掛かってこいよ。」

 

明らかに嫌味たっぷりな顔をしながらナツに言い放った。

 

「おらどうしたよナツ、俺はお前が何時もやってることを真似てやっただけだぜ.....ほら立てよ、ほらほらほら。」

 

黒焦げになったナツを蹴りながらニヤニヤしているエクレール。

 

この光景を見ていたルーシィは思った。

 

間違いない、エクレールは超ドSだと、そして絶対に怒らせてはいけないと。

 

「お、おいエクレール.....ナツの奴気絶してるみたいだからさ....もうその辺にしておいたら━━━」

 

グレイがエクレールと止めに入ろうとするが、

 

エクレールはグルンッ、とグレイに向き直る。

 

「ヒッ!」

 

グレイはエクレールの表情に恐怖しつい、変な声を出してしまう。

 

「よぉグレイ、久しぶりだな。」

 

「あ、あぁ....久しぶりエクレール。」

 

グレイが引き吊った表情でエクレールと言葉を交わす。

 

「ところでさ......」

 

エクレールはグレイの肩にポン、と手を置いて一呼吸置いてからグレイに近付く。

 

「まさかお前まで女性にタカったりしてないよな?」

 

良い笑顔でグレイに質問した。エクレールの事を知らない人が見れば可愛い笑顔と言うだろうが、エクレールの事を知っているグレイが見たのでは恐怖しか感じなかった。

 

「い、いいいや...だ、大丈夫だ....迷惑は掛けてない。」

 

「そうか.....なら良いんだ。」

 

グレイの肩から手を離すと、カウンター席に腰掛けたエクレール。

 

「ミラー、激辛メニュー頼む。」

 

「はーい、ちょっと待っててね。」

 

ミラに注文するとふと呟いた。

 

「平和だなー。」と、

 

「いやいや、全然平和じゃないから!」

 

エクレールの呟きについツッコミをいれてしまうルーシィ。

 

「よぉルーシィ、今日も平和日和だな。」

 

「え?えぇそうね......じゃないから!」

 

またもやエクレールの発言にツッコミを入れたルーシィ、今度は乗りツッコミだった。

 

「どうした、ルーシィ?朝から騒がしいぞ。」

 

キョトンとしながら首を傾げるエクレール。どうやらルーシィのツッコミの理由が分かってないようだ。

 

「これの何処が平和なのよ!!!?」

 

ルーシィが指差した方向には黒焦げになったナツそして他にも黒焦げになった魔導師達がそこら辺に転がっていた。

 

「あぁそれ?.......俺が今朝捕まえた討伐対象。.....女性に迷惑掛けてる最中だったから背後から近付いて雷を頭上から落とした。」

 

淡々とエクレールは語るが、普通の魔導師には出来ない芸当である。

 

「これ、大丈夫?死んでない?」

 

「大丈夫、大丈夫。たった10V位しか出してないから。」

 

「ってそれ死ぬから!!普通に考えて!」

 

「冗談だよ....10mA位だから....というかルーシィ、よく電流の強度が分かったな。」

 

エクレールはふと疑問に感じたことをルーシィに聞く。

 

「え!?.....あーまぁ...昔、教えてもらったから。」

 

ルーシィは歯切れが悪そうに答える。

 

「ふーん.....ま、いいか。」

 

エクレールはそれよりも料理まだかな?としか考えていなかった。

 

━━━━━━━━━━

 

「テメェいい加減にしろよこのクソ炎!!!」

 

「なんだとこの変態野郎!!!」

 

「はー、またかよ。」

 

エクレールが激辛メニューを食べ終わり、ナツが復活したその後、ナツとグレイの喧嘩に頭を抱えるエクレール。だがそれも束の間、

 

「おい大変だナツ、グレイ!」

 

突如ギルドを飛び出していったロキが戻ってきた。

 

「なんだロキ?」

 

「エ、エルザが帰って来た!!!」

 

「「!!?」」

 

エルザが帰って来た。その一言でナツとグレイが怯え始めた。

 

「ええっ!....ち、ちょっと二人ともどうしたの?」

 

「あーまぁ、無理もないか。」

 

エクレールが頭を掻きながらそう呟いた。

 

「エクレール、エルザって誰?」

 

ルーシィが訪ねてくる。

 

「エルザは俺と同じこのギルドでのS級魔導師.....なんだが、」

 

エクレールは少し含んだ言い方をする。

 

「真面目すぎるんだよ.....自分のする事全てが正しいと考えていて.........まぁ、簡単に言えば...そうだな...人の話を聞かない自己中心的な風紀委員長ってところか。」

 

「はぁ...。」

 

ルーシィはまだ会ったことがないため、そう返すしかなかった。

 

そして、突如ギルドに巨大な角らしき物を抱えた鎧姿の女性が入ってきた。

 

「今戻った、総長(マスター)はおられるか?」

 

角を横に置いて周りを見渡す。

 

「お帰り!!マスターは定例会よ。」

 

元気よくエルザと言葉を交わすミラ。

 

「そうか.....。」

 

そして周りを一瞥すると周囲の仲間達に説教を始めた。

 

「風紀委員か何かで....?」

 

「エルザです。」

 

「だから言ったろ、風紀委員長だって。」

 

「ん...?エクレールか!久しぶりだな。」

 

エクレールの存在に気付いたエルザがエクレールに近付いてきた。

 

「よぉエルザ、久しぶりだな.....というかその巨大な角、邪魔だから何処かに持っていってくれ。」

 

(言い切った!)

 

(やっぱエクレール凄ぇ!!)

 

(あのエルザに物怖じしないなんて!)

 

周囲の仲間達はエクレールに感嘆の目を向け、心の中でそう呟いた。

 

「む?......そうだな、後で退かそう。」

 

エルザはエクレールの言葉に対して、そう返す。

 

「ナツは居るか?」

 

「此方に。」

 

ハッピーがエルザをナツの元へと誘導する。

 

其処にいたのは....

 

「よ、よぉエルザ....俺達今日も仲良くやってるぜ。」

 

「あい。」

 

ナツと肩を組むグレイとハッピーみたいに返事をするナツの姿があった。

 

「ナツがハッピーみたいになった...!!!」

 

「まぁ.....うん、この二人は......仕方ないか。」

 

エクレールが諦めた様子でナツ達を見る。

 

それもその筈、ナツは昔、エルザに喧嘩を売って返り討ちに会い、グレイは裸で歩いている所をエルザに見つかり、折檻を受けたのだ。

 

それ以来、二人はエルザに対して苦手意識を持つようになったのだ。

 

「....という訳で二人はエルザに逆らえないんだ。」

 

「へぇ.....ナツの喧嘩っぱやさは昔からなのね....。」

 

エクレールの話に納得したルーシィはナツとグレイを一瞥すると直ぐにエクレールに向き直る。

 

「ならちょうど良かった.....三人共(・・・)、手伝ってくれ。」

 

エルザから伝えられたのはある仕事の手伝いであった。

 

「ん?三人共(・・・).....?」

 

エクレールがエルザの言葉に疑問符を浮かべる。

 

「ああそうだ、お前も手伝ってくれエクレール。」

 

「え....はぁぁぁぁぁ!!?」

 

折角休めると思っていたエクレールは、今日計画立てていた休みの予定が全て跡形もなく崩れていく音が自分の中で聞こえた。

 

━━━━━━━━━━━━━

 

駅前にて、

 

「ハァァァァ.......。」

 

深いため息を吐いて絶望に打ちひしがれるエクレール。

 

「なんだとコラァ!!!」

 

「テメェ、もいっぺん言ってみやがれ!!!」

 

それとは対称的に喧嘩を始めるナツとグレイ。

 

「駅前で喧嘩しないの!!」

 

その喧嘩の仲裁に入るルーシィ、第三者から見た四人の光景は、最早カオスとしか表現できなかった。

 

「.....ケーキ....ミルクレープ....チーズケーキ....クリームチーズケーキ...」

 

エクレールは今日行く予定だったケーキ店の、バイキングメニューで食べる予定であったケーキの名前をブツブツと呟いている。

 

「.....あの、エクレール.....さん?」

 

恐る恐るルーシィがエクレールに声を掛ける。

 

「ん?....ああ...済まない、現実逃避してた。」

 

悲しくなるような台詞を然り気無く呟くエクレール。

 

「....ったくエルザの奴、今度罰として激辛メニュー食べさせてやろう。」

 

子供のような悪戯っぽい笑みを浮かべてエルザへの復讐を計画するエクレール。

 

「あれ....?」

 

エクレールの笑みを見てルーシィは、急に胸が苦しくなるのを感じた。

 

(なんだろう.....この気持ち?)

 

ルーシィがエクレールに対してどう思っているか...その気持ちをルーシィ自身が知るのはまだ少し先の話になるだろう。

 

「済まない、待たせた。」

 

ルーシィの背後からエルザの声が聞こえてきた。

 

「あっ....来たみたい....」

 

ルーシィは唖然としてしまった、

 

その理由はエルザの荷物の量である。

 

「荷物多っ!!!」

 

エルザはキャリーバッグを何十個も積み上げたキャスター付きの大きな台車を引いてやって来た。

 

「....で?ちゃんと説明してくれるんだろうな....俺達を此処に呼んだ訳を、返答次第じゃ....分かってるだろ?」

 

エクレールはエルザに対して怒りを剥き出しにしながら理由を訪ねる。

 

「分かっている、今からちゃんと説明する。」

 

エクレールを宥めながら、エルザは事の経緯を話し始めた。

 

クエストで行っていたとある町の酒場で呪歌(ララバイ)がどうだと話していた集団がいたらしく。これはエルザ自身が後で知った事だが、そいつらは闇ギルド 鉄の森(アイゼンヴァルド)の魔導師だったらしい。

 

「あの時、私が気付いていれば奴らを叩きのめしたのに...」

 

悔しそうに語るエルザ、だがそれは....

 

「それじゃあやってることはコイツらと何も変わらねぇよ。」

 

エクレールはナツを指差しながらエルザを指摘した。

 

「んだとコラァ!!!」

 

ナツがエクレールの発言に激昂し、飛び掛かるが、

 

「アンギャアアアア!!!」

 

またもやエクレールに黒焦げにされ、気絶してしまうナツ。

 

「確かに事件を未然に防ぐことは大事な事だ。」

 

エクレールはエルザに淡々と語り始める。

 

「.....まぁ、何が言いたいかと言えば周りに迷惑掛けるなって事だ。」

 

気恥ずかしそうにしながらエクレールは、列車に向かっていった....のだが、

 

「待てよ。」

 

むくっ、とナツが起き上がりエクレールを呼び止めた。

 

「事情は分かった....今回は付いてってやる...条件付きでな。」

 

何時になく真剣な表情をしてエルザを見ているナツ。

 

「条件?」

 

「バ..バカ..!!オ、俺はエルザの為なら無償で働くぜっ!!!」

 

ナツの条件を取り下げようと必死になるグレイ。

 

「...言ってみろ。」

 

ナツは暫く黙っていたが、口を開いた。

 

「帰ってきたら俺と勝負しろ、あの時とは違うんだ。」

 

「!!!」

 

「オ、オイ!!!早まるなっ!!!死にてぇのか!!?」

 

「やれやれ、相変わらずのチャレンジャーだな。」

 

「それと....」

 

次にナツはエクレールの方を向いた。

 

「ん?」

 

「エクレール.....お前も俺と勝負しろ、それが今回俺が付いていく条件だ。」

 

「え!!?」

 

「ナツ、お前.....!!!」

 

「ほう。」

 

「...............は?」

 

まさか自分が選ばれるとは思わなかったエクレールは固まってしまう。

 

「確かにお前は成長した、私はいささか自信が無いが.....いいだろう受けて立つ.....エクレールは、決まってるだろ?」

 

分かりきった事だと言わんばかりにエクレールに訪ねてくるエルザ。

 

「俺の事情や意見は聞かないんですか....そーですか。」

 

エルザの勝手な物言いに対してまたもや現実逃避をするエクレールは、暫くため息を吐いてその場に座り込んでいたが、

 

「.....分かった....ただし、当日の俺の体調が良ければ...の話だ。」

 

「オイ、まさか逃げる気じゃ.....」

 

エクレールの提案にナツが食って掛かる。

 

「まぁ待てよ....ルーシィ以外は知ってることだけど、俺は体調で魔力の量や魔法の威力に影響が現れる....もし当日、俺の体調が優れずに戦って勝っても...嬉しいと思うか?」

 

「....いや、思わねぇ。」

 

「決まりだな。当日、俺は体調が良ければ参加という事で宜しく頼む。」

 

「.....分かった。」

 

エクレールの話に納得したナツは、我先にと列車に乗り込み、エクレール達も後に続くように列車に乗り込んだ。

 

 

━━━━━━━━━━━

列車内にて

 

窓際の席にエクレールとグレイが対面するように座り、エクレールの隣にはエルザ、グレイの隣にはルーシィとナツが座って次の町へと向かっていた。

 

「気持ち悪い.....。」

 

「相変わらずだな、ナツの乗り物酔い。」

 

「あい、それがナツなのです。」

 

「意味分かんないわよハッピー。」

 

「全く....しょうがないな、私の隣に来い。」

 

「あい..」

 

「退けってことかしら......」

 

「ルーシィ、俺の隣に来な。」

 

エルザに退かされたルーシィをエクレールは隣に座らせ、ナツとエルザの様子を伺う、すると...

 

「....!」

 

エルザはあろうことかナツの鳩尾に拳を叩き込み、気絶させた。

 

「ふむ、これで良いだろう。」

 

何事も無かったかのように振る舞うエルザに対してルーシィとグレイは見て見ぬふりをするしかなかったが、

 

「おいおいエルザ、ナツを気絶させてどうすんだよ。」

 

「ナツの乗り物酔いは知っていたからな....これしか方法を思いつかなかった。」

 

「だからってやり過ぎだ....ナツの奴、白目剥いてるじゃねぇかよ。」

 

エクレールだけはエルザに面と向かって指摘するのであった。

 

(ちょっと!?何でエクレールは物怖じしないのよ!!?)

 

(あいつは昔からああいう奴なのさ...子供の頃、あの二人はよく喧嘩してた位だからな。)

 

(えっ!?エクレールが喧嘩?)

 

ルーシィは普段、喧嘩等全くしないエクレールを知っている為、エルザと喧嘩していたという話に驚いた。

 

(ああ....といっても何時もエクレールが勝っていた、魔法を使った場合でもだ。)

 

(エクレールってそんなに強いの!?)

 

改めてエクレールの強さを思い知らされたルーシィであった。

 

━━━━━━━━━━━━━

 

「だーかーらー、今からでも作戦を立てて奴らの計画を阻止する方法を考えろよ!」

 

「必要ないと何度言えば分かるんだお前は!私が居ればそんなものは無用だ!」

 

先程のエクレールの指摘からヒートアップしてエルザとの口論が始まっていた。

 

「私はS級魔導師だ!大抵の相手なら相手取れる!」

 

「....確かにお前は強い。俺もそこは認める.......だがな、お前は力に任せて行動している.....それはいずれお前が危険に晒されるぞ!」

 

「この分からず屋!」

 

「お前こそ、この頑固者!」

 

ギャイギャイと二人の口論は続き、最早誰も止められる者は居ない、いるとするならそれはこの場に居ない 『FAIRY TAIL』のギルドマスター マカロフだけであろう。

 

「...いつまで続くのよこの口喧嘩。」

 

「二人が納得するまでだ、我慢しろ。」

 

取り残された二人は蚊帳の外で二人がクールダウンするのをただ待つしか無かった。

 

━━━━━━━━━━━━

 

目的地に着いた三人は急いで街の中心部へと向かうが、

 

「あれ?ナツは?」

 

「「「あ。」」」

 

しまった、と思い、急いで列車に戻ろうとするが列車は次の駅に向かって発車してしまっていた。

 

「列車を止めろ!」

 

「無茶言わないでください、次の駅までの時間が決まってるんです。」

 

「それを何とかしろ!」

 

エルザは駅員に列車を止めるように命令口調で言うが、そんな無茶な要求は呑めないとエルザに言う。

 

「常識人は私とエクレールしか居ないのかしら。」

 

「おい、俺は違うからな!」

 

「露出魔が何を.....ってあれ?...エクレールは?」

 

振り替えるとエクレールが何処にも居ないことに気付いたルーシィ。

 

彼は一体、何処へ行ったのか━━━

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

場面は切り替わって列車内、取り残されたナツは未だに気絶したままだった。

 

すると前の座席に座る一人の男

 

「『FAIRY TAIL』正規ギルドかぁ....羨ましいなぁ。」

 

男はナツに対して嫌みたっぷりに見下して言い放つ。

 

「キーック。」

 

男は気絶しているナツに対して蹴りを入れる。

 

「あ?」

 

「や~っと反応した。」

 

「何だ....お前。」

 

気絶から目覚めたナツは目の前の男に嫌なものを感じ取った。

 

「はい?よく聞こえないよ。」

 

男はもう隠す気がないのか目の前のナツに対して『FAIRY TAIL』はハエだのなんだのと馬鹿にする。

 

「てめ...」

 

「おーやるのかい?」

 

「くあぁあぁっ」

 

ナツは魔法で男を殴ろうとする。だが、本人も忘れていたであろう事実に直面する....そう、此処が列車の中だということに。

 

「うぷっ」

 

「ヒャハハッ!!何だよその魔法...魔法ってのは.....こう使わなきゃ!!」

 

すると男の影から拳がナツの顔に飛んでくる。

 

「ぐあっ!」

 

「ヒャハハッ!」

 

男はまた下卑た笑いをナツに浴びせる。

 

すると突然列車が急停止した。

 

「な、何だ!?」

 

男は急停止した列車に戸惑い、辺りを見回す。

 

「さっきはよくもやってくれたな.....テメェ。」

 

列車が急停止した事でナツの乗り物酔いが解消され、拳に炎を纏わせていた。

 

「オラァ!!」

 

ナツは炎を纏った拳を男にぶつけ、吹っ飛ばす。

 

「ハエパンチ!」

 

男にハエと馬鹿にされたことから苛立ちを見せながらも、そう言って男を睨むナツ。

 

『先程の急停車は誤報によるものと確認できました、間もなく発車します 大変ご迷惑をおかけします。』

 

車内にアナウンスが流れる。

 

「逃げよ!!!」

 

「逃がすかぁっ!!!」

 

ナツが荷台から荷物を取り出していると、後ろから先程の男が現れる。

 

鉄の森(アイゼンヴァルト)に手ぇ出したんだ!!!ただで済むと思うなよ妖精(ハエ)がぁっ!!!」

 

「先に手を出したのはテメェだろうが...この雑魚が!」

 

「!?...誰だ!」

 

「此処だ。」

 

ナツ達が声のした方角を見ると雲に乗って此方を見ているエクレールと目が合った。

 

「エクレール!!」

 

「大丈夫かナツ?乗り物酔いは平気か?」

 

どうやらエクレールはエルザが列車を止めるよう駅員を脅s...もとい、駅員に頼んでいる時、既に列車を追いかけていたようだ。

 

「外からお前らの一部始終は見ていた.......其処のお前。」

 

エクレールは男を指差す。

 

「そっちこそ『妖精の尻尾』(ウチ)を馬鹿にしたこと....後悔させてやるよ。」

 

エクレールは笑っていた....表情だけ(・・)は、

 

(ヤベェ....エクレールの奴、マジで怒ってる。)

 

ナツはエクレールの怒りを即座に感じ取っていた。

 

エクレールがキレる時は、大抵決まっておりその一つに『妖精の尻尾』を馬鹿にされることにある。

 

だが、エクレール本人はそれだけの事で怒るような人物ではない...エクレールが怒っている本当の理由はただ一つ。

 

「....だがな、それよりも俺は....テメェがナツを馬鹿にしたことが許せねぇ!」

 

男がナツを馬鹿にし、尚且つ自分が所属するギルド『妖精の尻尾』を馬鹿にしたことであった。

 

「ナツ!此方に来い!」

 

「お....おう!」

 

エクレールの怒りの感情に当てられ、怒りが冷めてしまったナツは一瞬戸惑ったが直ぐにエクレールの言うとおり、窓を突き破って列車から飛び降りる。

 

「ぶふ!!」

 

発車している列車から飛び降りた事で飛ばされる筈だったナツはエクレールの作り出した雲に顔から突っ込み、エクレールによって救出された。

 

「取り敢えず、ナツは無事救出成功....後は、」

 

エクレールが後ろを振り替えると、四輪駆動の車がやって来る。

 

「ナツ!エクレール!」

 

「よぉ、エルザ....随分遅い到着じゃねぇか。」

 

どうやら車にはエルザ、ルーシィ、グレイが乗っているようでエクレールはニヤッと笑いながらナツを救出したことを話した。

 

「エルザ、『鉄の森』(アイゼンヴァルト)の足取りを掴んだ。」

 

「何っ、本当か!?」

 

「ああ、先程ナツが絡まれてた男のカバンに三つ目がある髑髏の笛が入っていた。」

 

「三つ目の...髑髏の笛..」

 

「どうしたのルーシィ?」

 

「ううん..まさかね......あんなの作り話よ......でも....もしもその笛が呪歌だとしたら..子守歌(ララバイ)..眠り....死....!!!その笛がララバイだ!!!呪歌(ララバイ)...."死"の魔法!!!!」

 

「何!?」

 

「呪歌?」

 

ルーシィの言葉に疑問符を浮かべる三人。果たしてルーシィは何を語るのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オマケ

エクレール達がナツと合流した同時刻

『FAIRY TAIL』では、

「はぁ....。」

看板娘のミラがため息を吐いていた。

(エクレール...行っちゃったなぁ...。)

「どーしたミラ、ため息なんか吐いて。」

「カナ。」

ミラの様子を見かねてカナが話しかけてくる。

「別に何も....ただ、エクレールが居ないなぁ....って思っただけよ。」

「へぇー。」

「な、何よ。」

「いや?...やけにエクレールの事気にかけるなぁーって。」

ニヤニヤしながらミラを見てカナは話す。

「そ、それは....///」

指摘された事が恥ずかしいのか、ミラは顔を赤らめながら俯いてしまう。

「あいつの事...好きなんだ。」

「それは、その.....」

「隠さなくったっていいじゃん、何たってあんた達姉弟の命の恩人だもんね。」

「それは....そうだけど....///」

また俯いてしまうミラ。

ミラの命の恩人という事だが、この話はいずれ話そうと思う。


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第三話 波乱の幕開け

「....成る程、確かにヤバいな。」

 

ルーシィの話を聞き、危機感を覚える四人

 

「集団呪殺魔法....そんなものがエリゴールの手に渡ったら....おのれ!!!奴らの目的は何だ!!?」

 

四輪を飛ばして先を急ぐエルザ。

 

「冷静になれエルザ、そんなんじゃ奴らと対峙した時に勝てないぞ。」

 

少し落ち着いて行動しろと自身が出した雲に乗って並走しながらエルザに叱責するエクレール。

 

「お前に何が分かるエクレール!!...これは、わたS」

 

「私の責任、とでも言うつもりか?エルザ。」

 

エルザが見上げるとエクレールは普段ぼんやりしている時には見せないほどの真面目な顔つきで彼女を見ていた。。

 

「この仕事を俺達に持ってきたのは確かにお前だエルザ...だがな、何でもかんでもお前が背負ってたら重くて先に進めないぞ。」

 

そう言ってエルザの肩をポン、と叩く。

 

「俺達は仲間だ、お前が助けを必要とするなら何時でも力になってやるさ。」

 

エクレールはヘヘッと悪戯っぽく笑い、場の雰囲気を和ませた。

 

「そう....だな、ならば頼らせてもらうぞエクレール。」

 

「おう!大船に乗ったつもりでいてくれ。」

 

互いに拳を付き合わせて二人は微笑みを見せた。その様子から二人の信頼関係は深いものだと見ていた者達は感じ取った。

 

━━━━━━━━━━━━━

 

クヌギ駅にて、

 

憲兵達が駅を囲んでおり、その周囲には民間人達が集っていた。

 

「あいつ等..列車を乗っ取ったの!!?」

 

「みたいだね。」

 

「馬車や船とかなら分かるけど列車って..」

 

「あい..レールの上しか走れないし奪ってもそれほどのメリットないよね。」

 

「ただしスピードはある...何かをしでかす為に奴等は急がざるをえないという事か?」

 

「なぜ脱ぐ?」

 

と、ルーシィ達が各々考えを話し合う最中エクレールはというと

 

奴らの目的は呪歌(ララバイ)を使う事....何処でどうやってだ?

 

と小言でブツブツと呟きながら考えていた。

 

「もう軍隊も動いてるし捕まるのは時間の問題なんじゃない?」

 

「だといいんだがな.......。」

 

一人不安に刈られながら何か考えているエルザ。

 

そして四人は直ぐに列車に追い付こうとして先を急ぐのだった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

そして遂に、五人は鉄の森(奴ら)がいるであろう場所に辿り着く。

 

「あれは!?」

 

ルーシィが車内から見たもの、それは駅から立ち上る煙であった。

 

「皆さんお下がりくださいここは危険です、ただ今列車の脱線事故により駅へは入れません!!内部の安全が確保されるまで駅は封鎖します。」

 

駅の周囲では民間人が集まり、ざわざわとどよめいている。

 

「行くぞ!!」

 

「でも封鎖って」

 

「いちいち聞いてられっかよ」

 

「うぷっ」

 

「人酔いしてんじゃねぇ!!!」

 

エルザを先頭にして駅に向かう五人。

 

駅内(なか)の様子は?」

 

近くにいた駅員に訪ねるエルザ。

 

「な..何だね君!!!」

 

するとエルザは駅員に頭突きをして気絶させた。

 

「駅内の様子は?」

 

「は?」

 

また頭突き。

 

「駅内の様子は?」

 

「ひっ」

 

「即答できる人しかいらないって事なのね」

 

「段々分かってきたろ?」

 

怯えながら駅に入っていくルーシィとグレイ。

 

「てか"これ"ってあたしの役!!?」

 

"これ"とは乗り物酔いで苦しそうにしているナツの事である。

 

「中へ行くぞ」

 

「おう」

 

「あいさ」

 

それに対して二人と一匹の答えはスルーであった。

 

「シカト..」

 

悲しいと感じるも仕方ないと思い、後に続こうとした時、

 

「ルーシィ。」

 

振り向くととエクレールが雲をルーシィの前に置いた。

 

「それにナツを乗せてくれ。」

 

「いいの?」

 

「ああ、女性が男性を担ぐのは重いだろ?...なら、俺の雲に乗せて運べばルーシィも軽いだろ?」

 

「あ、有り難うエクレール。」

 

「いいってことよ...ほら、行くぞ。」

 

エクレールはルーシィの手を取って中へと急ぐ。

 

「ち、ちょっと待ってよ!!?」

 

それの後を追いかけるようにナツを乗せた雲が中へと入っていくのだった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「軍の小隊が突入したんだがまだ戻ってない。」

 

鉄の森(アイゼンヴァルト)....テロリストたちは?」

 

「まだ出てきてないよ!!!おそらく中で戦闘が!!」

 

エクレール達が進んでいくと、改札前の階段で軍の小隊が倒れているのを発見する。

 

「全滅!!!」

 

「相手は一つのギルドすなわち全員魔導士...軍の小隊ではやはり話にならんか....」

 

「急げ!!!ホームはこっちだ!!!」

 

ホームに向かって走る五人、するとそこには━━

 

「やはり来たな妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

奪われた列車とその上に一人の男が座っており、列車付近には魔導士達が集まっていた。

 

「な....なに....この数..」

 

鉄の森(アイゼンヴァルト)全員集合か...。」

 

「待ってたぜぇ。」

 

「貴様がエリゴールだな。」

 

エルザが列車の屋根に座っている男に目を向ける。

 

「ナツ起きてっ!!!仕事よ!!!」

 

ルーシィが何とかしてもらおうとして、気絶してるナツを起こす。

 

だが、反応が帰ってこない。

 

「無理だよっ!!!列車→魔導四輪車→ルーシィ3コンボだ。」

 

「あたしは乗り物なのっ!?...というか最後はあたしじゃなくてエクレールの雲なんですけど!?」

 

ハッピーの発言に対してツッコミを入れるルーシィ。

 

「貴様等の目的は何だ?返答次第ではただでは済まんぞ。」

 

威圧的なオーラを発しながらエリゴール達に訪ねるエルザ。

 

それに対してエリゴールは、

 

「遊びてぇんだよ仕事もねぇしヒマなもんでよォ。」

 

とふざけたように答え、魔導士達はエルザ達を嘲るように笑う。

 

「まだわかんねぇのか?...駅には何がある。」

 

「駅?」

 

「...成る程ね、呪歌の放送か。」

 

遂にエクレールが口を挟む。

 

「大方、この駅の中にある放送室から...そこのスピーカーを解して呪歌を街中に放送するつもりだったんだろう?」

 

エリゴールを睨み付けながらそうエクレールは答えた。

 

「ピンポン...流石だな『FAIRY TAIL』の自称NO.2 天候操作(ウェザー・リポート)のエクレールさんよォ。」

 

ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべるエリゴールに対してエクレールは暫し沈黙を貫いていたが、

 

「....その"通り名"はあまり好きじゃないんだが....褒め言葉として受け取っておこう。」

 

と、エリゴールに返答するのだった。

 

「この駅の周辺には何百..何千もの野次馬どもが集まってる...いや....音量を上げれば町中に響くかな..死のメロディが」

 

「大量無差別殺人だと!?」

 

「これは粛清なのだ...権利を奪われた者の存在を知らずに権利を掲げ生活を保全している愚か者どもへのな、この不公平な世界を知らずに生きるのは罪だ...よって死神が罰を与えに来た..."死"という名の罰をな!!」

 

「そんな事したって権利は戻ってこないのよっ!!!...てゆーか元々自分たちが悪いってのに....あきれた人たちね

 

「ここまで来たら欲しいのは"権利"じゃない"権力"だ...権力があれば全ての過去を流し未來を支配する事だってできる。」

 

「....アンタ、バッカじゃないのっ!!!」

 

「......」

 

それまで黙ってエリゴールの言葉を聞いていたエクレールが遂に口を開く。

 

「エリゴール、一つ勘違いをしてるぜ...お前。」

 

「あん?」

 

「"流す"んじゃねぇ....."見なかった"事にするだけだ、臭いものに蓋して....全て水に流すなんて事....出来るわけねぇだろ。」

 

「説教のつもりか《天候操作》?...だが、お前が何を言おうと変わらない....俺達は"権力"を手に入れる!」

 

「馬鹿馬鹿しい.....アホ臭くて見てらんねぇ。」

 

エクレールがエリゴールに権力なんて手に入っても過去を精算することはできないと告げるもエリゴールはそんな事関係ないとばかりに話を進める。

 

「残念だな妖精(ハエ)ども。」

 

「この声!!!」

 

聞き覚えのある声にナツが目を覚ます。

 

「闇の時代を見る事なく死んじまうとは!!!」

 

カゲヤマの魔法がルーシィを襲う。

 

「しまった!!!」

 

慌ててエクレールがルーシィを庇うようにカゲヤマの前に立つ。

 

その時、

 

「やっぱりお前かぁあぁぁあっ!!!」

 

酔いから覚めたナツがカゲヤマの放った影魔法に目掛けて拳を振りかぶり、炎でかき消す。

 

「やっとお目覚めか....遅いぞ、全く。」

 

嬉しそうにエクレールは安堵した様子でナツに対してそう言い放つ。

 

「へへっ、悪いなエクレール...でも、完璧に目が覚めたぜ...!!!」

 

拳を鳴らしてカゲヤマを睨む。

 

「今度は地上戦だな!!!」

 

完全に復活したナツ。その周りを固めるエクレール達

 

そして、エクレール達に対峙するエリゴール達。

 

(掛かったな......妖精の尻尾、多少の修正はあったが...これで当初の予定通り......笛の音を聴かさなきゃならねぇ奴がいる必ず殺さねばならねぇ奴がいるんだ!!!)

 

エリゴールが殺したい奴とはいったい?━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四話 妖精女王(ティターニア)天候操作(ウェザー・リポート)

互いに睨みあい、相手の出方を伺う妖精の尻尾(フェアリーテイル)鉄の森(アイゼンヴァルト)

 

「こっちは妖精の尻尾最強チームよ覚悟しなさい!!」

 

「何でルーシィが威張ってんの?」

 

ルーシィにツッコミを入れるエクレール。

 

「後は任せたぞ、俺は笛を吹きに行く。」

 

「!」

 

「身の程知らずの妖精 (ハエ)どもに......鉄の森(アイゼンヴァルト)の..闇の力を思い知らせてやれぃ」

 

そう言ってエリゴールは窓を割って別区画内へと移動した。

 

「ナツ!!グレイ!!エクレール!!三人で奴を追うんだ」

 

「「む」」

 

「え、俺も?」

 

「おまえ達三人が力を合わせればエリゴールにだって負ける筈がない。」

 

「「むむ..」」

 

納得いかないといった様子で互いを見るナツとグレイ。

 

「此所は私とルーシィでなんとかする。」

 

「なんとか..ってあの数を女子二人で?」

 

鉄の森の魔導師達は明らかにエクレール達五人よりは数が多い。二人で相手するには無茶ではないか?と、思うルーシィ。

 

「エリゴールは呪歌(ララバイ)をこの駅で使うつもりだ。それだけはなんとしても阻止せねばならない。」

 

エルザの話を聴かず、既に喧嘩の一本松手前状態の二人。

 

「聞いているのかっ!!!」

 

「「も....もちろん!!!!」」

 

流石のナツとグレイもエルザには逆らえず、仲良しアピールをしながら返事するしかなかった...のだが、

 

「いや、此所はナツとグレイの二人に行ってもらうとしよう。」

 

そう言ったのは、エクレールであった。

 

「な、何故だ!?」

 

断られるとは思わなかったエルザがエクレールを問い詰める。

 

「よく考えてみろエルザ、仮に俺を含めた三人でエリゴールを追い掛ける...そしたら、残った二人でアイツら倒すのか?...いくらなんでもそれは無理だろ。」

 

「む...」

 

エクレールが指差した鉄の森の魔導師達は、エクレール達よりも数が多い。この集団をエルザとルーシィ二人だけで相手にするのは不可能だとエクレールは言った。

 

「しかし、私ならば...」

 

「いーや、俺の心配してる所はエルザ...お前じゃない...ルーシィだ。」

 

「わ、私?」

 

「そうそう、ルーシィはまだまだ新人の魔導師...エルザ、いくらお前がS級でもこの数が相手では叶わない。」

 

「しかし!」

 

それでもエルザがエクレールに意見しようとした時、

 

「くどいぞ...!!!」

 

「!!」

 

その瞬間、エクレールの威圧感はエルザだけでなく、周囲にいた鉄の森(アイゼンヴァルト)達までをも圧倒するほどであった。

 

俺はルーシィを"守れ"と言ってるんじゃない...ルーシィに対して少しは"気を遣え"、と言ってるんだ...!....全く、相変わらず人の話を聞かない....よくそれでS級になれたもんだな...。」

 

「......」

 

威圧感を放った後は元に戻り、エルザに対して呆れた物言いで直ぐにナツとグレイに向き直る。

 

「ナツ、グレイ。」

 

「あん?」

 

「...なんだ?」

 

「さっきも言った通り、二人でエリゴールを追い掛けてこい...あぁ、勿論俺は二人の相性知ってるから仲良くしろなんて言わねーよ。」

 

「...いいんだな?」

 

「あぁ、手柄は二人のどちらかに譲る....行ってこい。」

 

「よっしゃ任せとけ!」

 

ナツは意気揚々と走っていく。

 

「あっ!オイ待てナツ!!!」

 

それを追い掛けて走っていくグレイ。

 

「オイ!おまえ達!!!」

 

ナツとグレイを叱責しようとするエルザを止め、

 

「良いんだよ、二人は"アレ(・・)"で...」

 

エクレールは言った。

 

「しかし、あいつらは...」

 

「あぁ、"仲"は良くないな....でも、炎と氷..."相性"は良い筈だ。」

 

「......」

 

「何か言いたげだなエルザ。」

 

「......」

 

「まぁ、それは後で聞くとしよう。」

 

それと同時に鉄の森達がざわつき始めた。

 

「二人逃げた」

 

「エリゴールさんを追う気か?」

 

「まかせな」

 

すると鉄の森の魔導師 レイユールが行動を開始する。

 

「俺が仕留めてくる!!!」

 

「こっちも!!!あの桜頭だけは許せねぇ!!!」

 

レイユールに続いて、カゲヤマもナツを標的として追い掛ける。

 

「あ、二人追い掛けて行ったか....まぁ、あの二人なら大丈夫か」

 

そう言ったエクレールはルーシィの眼前に立ち、エルザはそのエクレールの隣に立つ。

 

「ルーシィは俺達が撃ち漏らした敵を倒してくれればいい。」

 

「え、でも...いいの?」

 

申し訳無さそうにするルーシィ。

 

「いいんだよ...大体、俺もルーシィもエルザに強制されて連れてこられた身だしな。」

 

「おいエクレール、そんな言い方は...」

 

エルザがエクレールに物申そうとしたが、

 

「ん?..."同意の上"だったか?...違うよな、"強制"だよな....俺のケーキバイキングを邪魔したこと....暫く許さないからな。」

 

「!!!!......す、済まなかった。」

 

「あのエルザが...謝った....!?」

 

エクレールは満面の笑みだが、エルザは冷や汗ダラダラで顔を伏せた。ルーシィはエルザには昨日始めて会ったばかりだが、エルザという人物を多少なりとも理解したつもりであった。しかし、エクレールに笑顔を向けられた瞬間、彼女は萎縮した。まるで、天敵に遭遇した草食動物のように...

 

「エクレールは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の中で唯一と言って良い程エルザに意見を言えるんだ...というか、エクレールには誰も逆らえないしね...ハハ」

 

そう語ったハッピーの目から徐々に光が失われていく。

 

「えっちょっ!?ハッピー!?」

 

キャラ崩壊してるハッピーに戸惑いを隠せないルーシィ。エクレールは妖精の尻尾 (フェアリーテイル)No.2を自称しているが、それ程までに強いのか....と、ルーシィは考え始めたが今は戦いに集中すべきと思考を放棄した。

 

「さて、待たせたな...鉄の森(アイゼンヴァルト)の魔導師達。」

 

エクレールは雲を引き寄せると、着ているパーカーの色が白から黄色に変化する。

 

「女二人と男一人で何ができるやら....それにしても二人ともいい女だなぁ」

 

「殺すにはおしいぜ」

 

「取っ捕まえて売っちまおう」

 

「待て待て妖精の脱衣ショー見てからだっ」

 

口々に下卑た発言をする鉄の森達に

 

「ハァ....どうしてこういう輩は下衆しか居ないんだろうか...?」

 

(...まぁ、だから社会から爪弾き者にされるんだろうな...)

 

と、思ったが口にはしないようにした。

 

「下劣な」

 

と、怒りを見せるエルザに対して、

 

「かわいすぎるのも困り者ね」

 

と、嬉しそうな様子で別の世界に旅立ったルーシィ。

 

「これ以上妖精の尻尾(フェアリーテイル)を侮辱してみろ貴様等の明日は約束できんぞ」

 

するとエルザの手に、剣が一振り現れる。

 

「剣が出てきた!!」

 

「魔法剣だ...まぁ、見てれば分かる。」

 

「めずらしくもねぇ!!」

 

「こっちにも魔法剣士はぞろぞろいるぜぇ」

 

「その鎧、ひんむいてやるわぁ!!!」

 

「わーお、下衆の集まり。」

 

エクレールが呆れた様子でいたその瞬間、

 

『!!!』

 

エルザは素早く跳び、一気に間合いを詰める。

 

そして、魔法剣士達を次々と凪払い、倒していく。

 

「凄ぇ...!」

 

魔導師達がエルザに圧倒されていると、

 

「オイオイ、余所見してて良いのか?」

 

『!!!』

 

今度はエクレールが魔導師達の頭に向かって回し蹴りを入れる。

 

「安心しな、死にはしねぇよ....まぁ、死ぬ程痛いだろうがな。」

 

フードを外して、顔を露出させる。

 

「本当は嫌なんだが......やっぱりこっちの方がやり易い。」

 

「こいつ、天候操作(ウェザー・リポート)だ!」

 

「構うな、やっちまえ!!!」

 

次々とエクレールに襲い掛かる魔導師達。

 

「やれやれ、どうしてこうもワンパターンなのか...」

 

もはや呆れて何も言いたくない。そんな気持ちがエクレールから見えてくるほどであった。

 

「まぁ、」

 

次の瞬間、エクレールは姿を消し、いつの間にか魔導師達の眼前に現れる。

 

「だからこそやり易いんだがな。」

 

熱雷

 

エクレールの右手にはバチバチと雷が集まっている。

 

「あれは...?」

 

「エクレールは天候や雲の名前に合わせた魔法が使えるんだ。今は雷...つまり雷雲の状態。」

 

「雷雲の...状態...?」

 

「そう、この状態のエクレールは"速い"んだ。」

 

「速いの?」

 

「でもただ速いだけじゃない。まるで雷鳴の様に、突然現れては消える....それが、エクレールの魔法の一つ "雷の姿"」

 

「解説ありがとうハッピー、今度魚料理の上手い店紹介してやるよ。」

 

「あい!」

 

「さて、と...続けますか...!」

 

再びエクレールの姿が消え、次々に魔導師達が倒されていく。

 

「凄い...!」

 

圧倒的なエクレールの力にそれしか言えなくなったルーシィ。

 

「さて、あっちも片付いたかな?」

 

エクレールがエルザの方を見ると、殆ど倒していた。

 

「やっぱあいつ強いな....まぁ、当たり前か。」

 

ルーシィも見てみると、エルザは全身に白銀の鎧を纏い、両手に剣を携え、その背後には幾つかの剣が円を描くようにして形を成していた。

 

「あれは?」

 

「...魔法剣士は通常、"武器"を換装しながら戦う...だけどエルザは自分の能力を高める"魔法の鎧"にも喚装しながら戦う事ができる...それがエルザの魔法...」

 

騎士(ザ・ナイト)

 

「うわぁ」

 

エルザの鎧姿にルーシィは綺麗だと感じた。

 

「エルザ..!?こいつまさか....」

 

どうやら気付いたようだが、時既に遅し。

 

「舞え、剣たちよ...循環の剣(サークルソード)

 

円を描いていた剣を自身の半径200mに展開し、周囲の魔導師達を一気に倒す。

 

「ま...間違いねぇっ!!!コイツぁ妖精の尻尾最強の女...妖精女王(ティターニア)のエルザだっ!!!

 

「すごぉぉ━━━━い」

 

「相変わらず、やり過ぎ感が否めんな。」

 

ルーシィが歓喜の声を挙げる一方でエクレールはやり過ぎだと呆れていた。

 

「というかあたし、結局戦わなかったわね。」

 

「まぁ、それが一番いい。」

 

その一方で、エルザが取り零した魔導師が一人、駅の奥へと行方を眩ませる。

 

「エリゴールの所に向かうかもしれんルーシィ追うんだ!!」

 

「え━━━━っ!!?あたしがっ!!?」

 

突然の無茶振りに抗議を申し立てるルーシィ。

 

「頼む!!」

 

「はいいっ!!!」

 

しかしエルザの鋭い眼光に、成す統べなく後を追いかけることにしたルーシィ。

 

「どう見たって頼んでるとは思えない眼光だな、エルザ。」

 

「......いいからお前も奴を追いかけろ。」

 

再び鋭い眼光発動。やれやれといった様子でエクレールは素直に要求を呑む。

 

「へいへい....そうだ、エルザ。」

 

「?」

 

「少し休んでろ、此処まで飛ばしてきたんだ....あんま無理すんなよ。」

 

どうやらエクレールはエルザの魔力が残り少ない事に気付いた様子だ。

 

そう言ってそのままルーシィの後を追いかけるのだった。

 

「やはり見破られていたか...ふふっ。」

 

エクレールの言葉に対して、自虐的に笑うエルザ。

 

直ぐに喚装を解除してその場に崩れ落ちそうになるのを堪えている様子だ。

 

(エクレールの言うとおりだな...やはり、魔動四輪をとばしすぎたのがこたえたな....ナツ..グレイ....ルーシィ....エクレール....後は頼んだぞ)

 

エルザの思いが届いたかは分からないが、エクレール達は必ずエリゴールを止めるだろう。

 

それだけは今のエルザでも分かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




エルザの循環の剣ってAGE-FXのファンネルに似てると思う。


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第五話 嵐の中の妖精達

お待たせしました。続きです。


地方ギルドマスター連盟 定例会会場

 

「マカロフちゃんあんたんトコの魔導士ちゃんは元気があっていいわぁ~♥️」

 

青い天馬 (ブルーペガサス)の総長 ボブはマカロフと会話を弾ませている。

 

「聞いたわよどっかの権力者コテンパンにしちゃったとかぁ」

 

「お━━━━っ!!!新入りのルーシィじゃあ!!!あいつはいいぞぉっ!!!特に乳がいいっ!!!」

 

「きゃ~エッチ~♥️」

 

「元気があるのはいいがてめぇんトコはちぃとやり過ぎなんじゃないかい?」

 

心配そうにマカロフを気遣うのは 四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)の総長 ゴールドマイン

 

「評議員の中じゃいつか『妖精の尻尾』が町一コ潰すんじゃねぇかって懸念してる奴もいるらしいぞ」

 

そう声を掛けるも、

 

「うひょひょ潰されてみたいのう!!!ルーシィのおっぱいで~」

 

当の本人は何処吹く風、酔っていることもありこんな様子である。

 

「マカロフ様ミラジェーン様からお手紙が届いてます。」

 

「ん?」

 

手紙の封を開けると、手紙からミラの姿が映し出された。

 

『総長定例会ごくろう様です。』

 

「どうじゃ!!!こやつがウチの看板娘じゃ!!!め~ん~こ~い~じゃろぉ!!!」

 

『実は総長が留守の間とても素敵な事がありました』

 

「ほう」

 

『エルザとあのナツとグレイ、エクレールがチームを組んだんです。』

 

もちろんハッピーとルーシィもと付け加えて話を続ける。

 

「!!!」

 

『ね?素敵でしょ』

 

「......」

 

『私が思うにこれって妖精の尻尾最強チームだと思うんです』

 

笑顔でとんでもないことを言うミラと冷や汗をかきながらどんどん酔いが覚めていくマカロフ。

 

『一応報告しておこうと思ってお手紙しました♥️それでは~』

 

手紙からミラが消えたと同時に倒れてしまうマカロフ。

 

「マカロフ!!!」

 

「きゃー」

 

「ど..どうした!?」

 

(な..なんて事じゃあっ!!!本当に町一つ潰しかねんっ!!!しかし...ウチの良心であるエクレールがいるから何とかなるか?...それに、定例会は今日終わるし明日には帰れるが....それまで何事も起こらずいてくれぇぇぇぇっ!!!頼むっ!!!)

 

本当にゴールドマインの言うとおりになってしまうと危惧するマカロフ。

 

FAIRY TAIL屈指のトラブルメーカー三人がチームを組んだと言うのだから当然と言えば当然である。

 

そこに、FAIRY TAILの絶対的良心であるエクレールが加わっているので何とかなるかもしれないとマカロフは考えたが、果たして.....

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

駅前では町人達がざわざわと集まっていた。軍隊が突入してから数時間と経過しており、それを心配してかどんどん集まっていた。

 

すると中からエルザが現れる。

 

「き...君!!さっき強引に中に入った人だね中の様子はどうなんだね」

 

駅員がエルザに尋ねるも、エルザは無視して彼の手からメガホンを奪い取る。そして開口一番に、

 

「命が惜しい者は今すぐこの場を離れよ!!!!駅は邪悪なる魔導士どもに占拠されている!!!!そしてその魔導士は此処にいる人間全てを殺すだけの魔法を放とうとしているできるだけ遠くへ避難するんだ!!!!」

 

と叫んだ。

 

町人達は最初、何を言ってるんだと黙っていたが直ぐにそうなのだと理解し、一目散に町から逃げていった。

 

「き...君!!!なぜそんなパニックになるような事を!!!!」

 

「人が大勢死ぬよりはマシだろう...それに今私が言ったことは本当の事だもちろん私達は全力でそれを阻止するつもりだが万が一という可能性もある君たちも避難したほうがいい」

 

そう言われた駅員達も直ぐに逃げていった。

 

(呪歌(ララバイ)...その音色を聞いた者全てを死に至らす禁断の魔法....エリゴールはそれを使い大量殺人を目論んでいる。しかし、これだけ人がいなければ呪歌を放つ意味があるまいさて....奴はどう動くか..)

 

踵を返し、駅へと戻ろうとしたエルザはだったが、

 

「!」

 

目の前で起こっているある(・・)事に驚愕していた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━

 

一方で、エクレールはルーシィと共にを追い掛けていた。

 

「本当にこっちで合ってるの?」

 

「......」

 

エクレールは黙ったまま、エリゴールが向かっていったとされる場所へと向かっていた。

 

(おかしい...奴の気配が全く感じられない...!?...まさか、狙いはこの街じゃないのか?)

 

ひとり、エリゴールの目的に気付きつつあるエクレール。

 

そして分かれ道に差し掛かった時、

 

「エクレール···?」

 

「!···あぁ、スマン何だ?」

 

漸くルーシィが話しかけている事に気付いたようだ。

 

「もう、だから道はこっちで合ってるのかって聞いてるの!」

 

そこでエクレールは急に足を止める。

 

「まぁ、確かにエリゴールが此処を通って行ったか何て分からないしな。」

 

すると、エクレールの後ろを付いてきていた雲から何かが飛び出してきた。

 

「えっ?」

 

よく見るとそれは、小さなエクレール達であった。

 

「可愛い···」

 

クラウディーズ(子雲群)探しもの専門の魔法だ。」

 

ルーシィに一通り説明すると、エクレールはミニエクレール達に向き直った。

 

「見た目は俺の記憶から、魔力の特徴は嵐の様に荒々しい奴だ。探せ。」

 

 

エクレールがそう命令するとミニエクレール達は散り散りになり、左右の道を二手に分かれて探索していく。

 

「俺達はこの道だ。」

 

そう言って、真ん中の道をどんどん進んでいくエクレール。

 

――――――――――――

 

一方、こちらはナツと共にエリゴールを追いかけ、二手に分かれたグレイ。

 

天井に設置されたスピーカーを一瞥し、軽く舌打ちをする。

 

「呪殺の音色をあんなモンで流されたらたまったモンじゃねぇぞ。」

 

そう呟き···瞬間、何かに気付き、もと来た道を戻る。

 

そして見つけた放送室(・・・)の扉を蹴破り、中に侵入する。

 

しかし、中には誰も居らず辺りを見回すグレイ。

 

「何故いねぇ?放送するならココからしかできねぇだろ?」

 

そんなグレイの頭上から忍び寄る一つの影。

 

「待てよ···此処に居ねぇのはおかしい···放送が目的じゃねぇってのか?」

 

鉄の森の魔導士 レイユールはグレイの頭上から奇襲をかけようとするが···

 

 

グレイは即座に気付き、攻撃を回避する。

 

「お前、勘が良すぎるよこの計画には邪魔だな」

 

「やっぱり何か裏があるって事か?全く···仕事もしねーでな~にしてんだから······」

 

レイユールの攻撃を躱し、そう結論付けたグレイ。

 

レイユールは天井から降り、グレイを睨み付ける。

 

「計画の邪魔をする奴は全て殺す。」

 

「計画もクソもねぇだろ···呪歌を放送してぇならこの場所からしかできねぇ···その呪歌を持ったエリゴールが此処にいねぇんじゃ何の為に駅を占拠したのかわかんねぇぞ。」

 

レイユールは再びグレイを殺そうとして攻撃を仕掛けるがグレイはそれを、即座に回避する。

 

レイユールの攻撃は、グレイの後ろにあった放送機器を破壊し、放送室の一角を崩壊させる。

 

 (放送機器を躊躇なく破壊しやがった······!!!やはり呪歌を放送する気はねぇぞコイツ等···!!!)

 

「!!!」

 

一度放たれたレイユールの攻撃は、角度を変えて再びグレイに迫っていく。

 

 

グレイはそれを発動した氷魔法で防御する。

 

「氷!!?···へぇ」

 

レイユールは何か納得した様子でグレイを睨み続ける。

 

「てめぇ等の本当の目的は何だ?」

 

レイユールは少しの間、黙っていたがすぐに口を開いた。

 

「そろそろエリゴールさんの“魔風壁”が発動する頃だな。」

 

「“魔風壁”?」

 

聞き馴染みのない言葉に、グレイは疑問符を浮かべながらレイユールの言葉を反復した。

 

「貴様等を此処から逃がさねぇ為の風のバリアさ。」

 

「何!!?」

 

――――――――――――

 

駅の外に出ているエルザは、目の前の光景に驚愕する。

 

「こ··こんな事が····」

 

そこには、駅を覆い隠す様に巨大な竜巻が発生していたからである。

 

 

「駅が風に包まれている!!!!」

 

これではエクレール達は外に出ることが出来ない。そう痛感していると、

 

「ん?何故妖精(ハエ)が外に一匹··」

 

「!」

 

背後から男の声がする。

 

「そうか··野次馬共を逃したのはてめえか女王様よぉ」

 

「エリゴール!!!」

 

振り向き、顔を上げるとそこには鉄の森のリーダー エリゴールがエルザを見下ろしていた。

 

「貴様がこれを!?」

 

「てめぇとは一度戦ってみたかったんだがな····残念だ今は相手をしてる暇がねえ···中でじっとしてな」

 

直後、エリゴールは魔法を発動させてエルザを吹き飛ばし、彼女も竜巻の中へと閉じ込めた。 

 

「エリゴール!!!」

 

即座に竜巻の外へと出ようとするエルザだったが、

 

「あぐっ!」

 

先に入れた右腕が切り刻まれる感覚に襲われ、思わず腕を引き戻す。

 

「やめておけ··この魔風壁は外からの一方通行だ、中から出ようとすれば風が身体を切り刻む。」

 

「コレは一体何の真似だ!!?」

 

「鳥籠ならぬ妖精(ハエ)籠ってところか··にしてはちとデケェがな」

 

「てめぇ等のせいでだいぶ時間を無駄にしちまった、俺はこれで失礼させてもらうよ。」

 

「何処へ行くつもりだ!!?エリゴール!!!まだ話は終わってないぞっ!!!」

 

しかし既にエリゴールは魔封壁の外には居らず、エルザの叫びは空に消えるのみであった。

 

「·····一体···どうなっているんだ··この駅が標的じゃないというのか!?」

 

切り刻まれた右手を握り締め、悔しさを滲ませるエルザ。彼女もまた、エクレール同様敵の真の目的に気付き始めていた。

 

――――――――――

 

一方、此方はグレイ

 

「ぐほぉ」

 

グレイと対峙したレイユールは彼の蹴りによって、壁の向こう側へと吹っ飛ばされていた。

 

「ややこしい話は嫌ェなんだ、何がどうなってやがる!!」

 

「···計画に想定外の妖精が飛んできた。だから閉じ込めたってだけの話さ。」

 

口元の血を拭いながら、レイユールはグレイの質問に答える。

 

「本来、この駅を占拠する目的はこの先の終点クローバー駅との交通を遮断する為だ。」

 

「!?」

 

「あの町は大渓谷の向こうにありこの列車以外の交通手段はない。エリゴールさんのように空でも飛べれば別だがな。」

 

呪歌(ララバイ)はそっちかっ!!?」

 

「クローバーには何があるかよーく思い出してみるんだなっ!!!」

 

その瞬間、レイユールの魔法がグレイに直撃する。

 

そしてグレイは、レイユールの言葉でクローバーで今日、行われている行事(・・)を思い出した。

 

「ま····まさか··!!そんな··!!クローバー········あの町は······」

 

―――――――――――――――――――

 

「······」

 

エクレールはルーシィ、ハッピーと共にカゲヤマを追いかけ続けていたその時、放った小雲群の一体から連絡が入った。

 

(この駅を中心として巨大な竜巻が発生!?)

 

その連絡は先程エルザが見たあの巨大な竜巻の事であった。

 

(···恐らくはエリゴールの魔法だな···大方、俺達を閉じ込めるつもりなんだろう。しかし、妙だな···この駅で呪歌を放送するつもりなら、そんな事をすれば自分達も出られない筈···)

 

エリゴールのしたことに疑問を感じ始めるエクレール。

 

(まさか、他に目的が?····一体···奴は何をしようとして···?)

 

その時、エクレールはふと、この駅の先にあるとある町の事を思い浮かべた。

 

(そういや、この駅の終点はクローバー駅···今日は確か···!!!)

 

エクレールは気付いた、エリゴールの真の目的が何なのかを。

 

―――――――――――――

 

「じーさん共が定例会をしてる町だ!!!!本当の狙いはギルドマスターかぁっ!!!!」

 

―――――――――――――――――

 

(間違いない···奴らの本当の狙いはギルドマスター達···マカロフ達に呪歌を聞かせて呪殺しようって腹づもりか!!!)

 

エリゴールの真の狙いに気付いたエクレールは直ぐに動いた。

 

(クラウディーズ!!!駅の外に集合、各自その場に待機!)

 

クラウディーズ達へ即座に支持を出すとエクレールは、

 

「え?ちょっと!?」

 

ルーシィをお姫様抱っこする形で抱きかかえ、通路を走っていく。

 

(こうしちゃいられない、早く···奴を見つけないと···!!!)

 

奴とは、カゲヤマのことである。

 

エクレールはエルザの話からカゲヤマが解除魔導士(ディスペラー)だと聞いていた為、エリゴール捜索からカゲヤマ捜索へとシフトチェンジし、急いで探す事に決めた。

 

――――――――――――

 

「ハハッ!!!」

 

「強力な魔法を持ったじーさんども相手に思い切った事するじゃねーの。」

 

「何も知らねえじじい相手に笛を聴かせるなんて造作もねぇさ、エリゴールさんならきっとやってくれる。そして邪魔するてめぇ等はこの駅から出られない···そうだ····もう誰も止められないって事だ。」

 

この時、レイユールは話す事に集中していた為気付かなかった。既にグレイの怒りが限界になっており、魔法を発動しているという事に···

 

「今まで虐げられてきた報復をするのだっ!!!全て消えてなくなるぞォ!!!!」

 

その瞬間、レイユールの顔面にグレイのアイアンクローが炸裂。

 

「止めてやるよ。」

 

その手からは氷魔法が放たれ、レイユールは顔面から徐々に凍っていく。

 

「あっ···おっ···」

 

「そして、俺達の“親”を襲った事を後悔しやがれ」

 

「がっ···は··」

 

「闇ギルドよりもおっかねえギルドがあるって事を思い知らせてやる!!!!」

 

グレイの怒りが籠った氷魔法によってレイユールは頭部を凍らされ、その場に倒れ、戦闘不能となる。

 

果たして、エクレール達はエリゴールの計画を阻止することが出来るのだろうか·····!?

 

···········続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第六話 大地の星霊

「知らねぇんだよ····む···無理だって··魔封壁の解除なんて········俺達ができる訳ねぇだろ····」

 

ホーム内に戻ったエルザは倒した鉄の森(アイゼンヴァルド)のことである魔導士の一人を叩き起こし、エリゴールの発動した魔風壁を解除する方法を聞き出そうとしていた。

 

「エルザ――!!!」

 

「グレイか!?」

 

そこにグレイが先程手に入れた情報をエルザに伝えようと戻ってくる。

 

「ナツは一緒じゃないのか?」

 

「はぐれた···つーかそれどころじゃねぇっ!!!!鉄の森(アイゼンヴァルト)の本当の目的はこの先の町だ!!!じーさんどもの定例会の会場··奴はそこで呪歌(ララバイ)を使う気なんだ!!!」

 

と、北を指差してそう伝える。

 

「だいたいの話は彼から聞いた···しかし今、この駅には魔封壁g」    

   

「ああ!!さっき見てきた!!無理矢理出ようとすればミンチになるぜありゃ!!」

 

「こうしてる間にもエリゴールは総長(マスター)達の所へ近付いているというのに···」

 

「こいつ等は魔封壁の消し方知らねぇのかよ?」

 

苛立ちのあまり、その場に転がっている男に蹴りを入れるグレイ。

 

「よせ····彼等は知らない。」

 

どうしたものかと頭を悩ませていると、

 

「!」

 

「ん?」

 

「そういえば鉄の森の中にカゲと呼ばれていた奴がいたハズだ!!!奴は確か一人で呪歌の封印を解除した!!!」

 

解除魔導士(ディスペラー)か!!?それなら魔風壁も!!!」

 

「探すぞ!!!カゲを捕えるんだ!!!」

 

そう言うとエルザは駅の奥へと走っていき、グレイも彼女の後に続いて奥へと走っていく。

 

「カラッカ······いつまでそこに隠れてる?いるんだろ?」

 

男が声を掛けると、先程エクレール達が追いかけていた男が、柱から姿を現す。

 

「す···スマネ···」

 

「聞いてただろ?カゲが狙われている。行けよ。」

 

「か···勘弁してくれ!!俺には助太刀なんて無理だっ!!!」

 

「安心しな···もっと簡単な仕事だよ···!」

 

「え?」

 

――――――――――――――

 

「あちゃぁ〜」

 

所変わって、エクレール達。

 

「完全に見失ったな。」

 

追いかけていた男を完全に見失ってしまっていた。

 

「どうする?一度戻る?」

 

ルーシィがそう提案すると、ハッピーは突然血相を変えた。

 

「な··何よ」

 

「エルザは「追え」って言ったんだよ··そっか····すごいなぁルーシィは········エルザの頼みを無視するのかぁ···あのエルザの頼みをねぇ〜エルザにあんな事されるルーシィは見たくないなぁ」

 

「あ··あたし何されちゃう訳!?」

 

ハッピーがルーシィを脅すように言い放つが、

 

「安心しろ。何があっても俺の指示だって事にすれば、あいつだってそうそう強くは言えねぇよ。」

 

と言ってエクレールが笑顔を見せる。

 

ルーシィにはそんなエクレールがどこか頼もしく見えた。

 

「······でもまぁ、もう少しでカゲヤマに会えると思うぜ。」

 

そう言ってエクレールは走り始めてからそう呟く。

 

「え?ちょっと待って···!追いかけてるのはエリゴールじゃないの?」

 

エリゴールを追いかけていた筈がいつの間にかカゲヤマに変わっていた事に対してエクレールに問を投げかける。

 

「···奴はもう居ない。さっきで外を確認してきた···エリゴールの発動した魔封壁で、この駅周辺が覆われている。」

 

「そんな···!じゃああたし達、この駅から出られないってこと!?」

 

「そうでもないさ。カゲヤマという男がいればなんとかなる。」

 

「なんとかって···なんでそう言い切れるのよ?」

 

「奴は一人で呪歌の笛の封印を解いた···つまり、奴は解除魔導士だ···ならば、魔封壁の解除方法だって知ってる筈だ。」

 

成程、とエクレールの言い分に納得するルーシィ。

 

「でも、何処にいるかまでは分からないんじゃ···」

 

そう言いかけた所でエクレールは口を開く。

 

「奴は列車内でナツを襲ってた···それにさっきはナツを忌々しそうに睨んでいた···この事から奴の狙いはナツだ···なら、ナツを探せば奴はいる筈だ···!」

 

「···以外にも冴えてるのね····」

 

戸惑いつつもエクレールに対してルーシィはそう評価する。

 

「そりゃねぇ···ナツやグレイ、エルザなんて問題児共を見てたら一周回って冷静にもなるさ。」

 

その時、エクレールは苦笑いでルーシィに答えた。以前からあの三人には手を焼かされているエクレールである。彼らを反面教師としていたらいつの間にかそうなっていたのだそうな。

 

「···まぁ、俺としても奴らの狙いが分かった以上···ここで足止め食らう訳にもいかないからな。」

 

だからこそと付け加えてエクレールは語る。

 

「今はナツを探す。そしてあいつが戦っているであろう相手が俺の探している男だ。」

 

―――――――――――

 

一方その頃、ナツは今だに駅内でエリゴールを探していた。

 

「エリゴォォォル!!!!どこに隠れてんだコラァァァーっ!!!!」

 

ナツは駅内の部屋の壁を一室一室壊しながら探すというかなり···いや、とてもバイオレンスなやり方で探していた。

 

そして壊した部屋にいないと分かると直ぐに隣の部屋の壁を壊し、また同じようにエリゴールを探す。

 

 (あ···あいつ··扉ってモンを知らないのかよ···全く····滅茶苦茶な奴だな····)

 

それをナツの頭上で見ていたカゲヤマはそんなナツの行動に呆れていた。

 

 (しかし、エリゴールさんはもうこの駅にはいないよ····いくら探しても無駄なんだ···もう放っておいても何の問題もないんだけど…それじゃあ僕の…)

 

「気が収まらないんでねっ!!!!」

 

「ぐほぉ」

 

カゲヤマに思い切り蹴られた衝撃で、近くの台車に頭から突っ込んだナツ。

 

「ヒャハ」

 

「おおお··」

 

「またお前か―――っ!!!」

 

まるで顔出し看板に頭を突っ込んだような見た目になったナツ。

 

「君の魔法は大体分かった。体に炎を付加することで破壊力を上げる···珍しい魔法だね。」

 

と、冷静に分析するカゲヤマに対して、

 

「ぬぉおおっ!!!めっちゃくちゃ殴りてぇけどそれどころじゃねえっ!!!殴りてぇけどおめえには用はねえ!!!エリゴールはどこだっ!!!」

 

怒り心頭で看板を破壊するナツ。

 

「さあてどこかな?僕に勝てたら教えてやってもいいけどね。」

 

そう言いながら自身の魔法を発動する。

 

「お!殴った後に教えてくれんのか···!?一石二鳥じゃねーか!、燃えてきたぞ!!」

 

「チッ!!····すばしっこい!!!」

 

しかし、持ち前の運動神経で全て躱していくナツに業を煮やしたのか、更に別の魔法を発動する。

 

「しかし八つ影(オロチシャドウ)はかわせまいっ!!!逃げてもどこまでも追いかけてゆくぞ!!!」

 

「うらぁっ!!!!」

 

「なっ!!!!?」

 

しかし、ナツは次々に襲い掛かってくる魔法を一つ一つ破壊ししていく。

 

「ば···馬鹿な!!!全部破壊しやがった!!!」

 

そして全て破壊した後に残っているのはその魔法を発動した術者本人のみ。

 

「!!!」

 

「だりゃあっ!!!!」

 

「がっ!!?」

 

(な···何だこの一撃は···!?ま···魔導士の拳じゃねぇ!!!?)

 

ナツは、殴られた衝撃で転がっていくカゲヤマの襟を掴むと、そのまま壁に思い切り叩きつけた。

 

そしてそのまま”火竜の咆哮“を喰らわせる。

 

(ば···化け物めェ!!!!)

 

そして、

 

激突音のような大きな音が駅の内部に大きく響き渡り、

 

内部にいたグレイやエルザ、エクレール達にもその音は聞こえて来たのだった。

 

「え!?何!?」「恐らくナツだ···近くにいるな」

 

「近いぞ!!向こうだ。」「こりゃあナツに間違いねぇ」

 

全員がナツを探していた為、同じようにナツのいるであろう場所へと走っていく。

 

「かっかっかっ!!!オレの勝ちだな!!!約束通りエリゴールの場所言えよ」

 

そのことを知らないナツは、漸くムカついていたカゲヤマを殴れた為、上機嫌でエリゴールの場所を聞き出そうとする。

 

「くくく···馬鹿め···エリゴールさんはこの駅にはいない·········」

 

「は?」

 

どういうことなのか理解出来ないでいると、

 

「ナツー!!!それ以上はいい!!!彼が必要なんだ!!!」

 

「うお!?なんだなんだ!?」

 

突然現れたエルザとグレイに驚きつつまだ状況を呑み込めていなかった。

 

「でかした!!!クソ炎!!!」

 

「流石だなナツ」

 

「何だよ二人して···これくれーなんともねぇよ」

 

「····」

 

突然褒められたと思ったのか、ナツは訝しげに二人を見やる。

 

「説明してる暇はねぇが、そいつを探してたんだ」

 

「私に任せろ」

 

そう言うとエルザは左手に剣を召喚し、右手でカゲヤマの襟を掴むと、壁に叩きつけながら首元に剣をチラつかせるような状態で脅しを掛ける。

 

「四の五の言わず魔風壁を解いてもらおう。一回NOと言う度に切創が一つ増えるぞ。」

 

「う··」

 

「オイ···そんなボロボロなんだいくらなんでもそりゃヒデェぞ」

 

「黙ってろ!!!」

 

「いいな?」

 

「わ···わかっ···!?ばっ!?」

 

突然吐血し、意識を失うカゲヤマ。倒れる彼の背中には短剣が突き刺さっていた。

 

やったのは同ギルドメンバーのカラッカであった。彼はカゲヤマを殺せとの命令を受けて、彼を殺しに来たのである。

 

そんな彼をなんとかして意識を戻そうとするエルザとグレイ。

 

「あ··うあ··ああ··」

 

「仲間じゃ······ねぇのかよ···」

 

「ひっひいいっ!!!!」

 

「同じギルドの仲間じゃねえのかよ!!!!」

 

魔法を発動し、カラッカを殴りつけるナツ。

 

意識の無いカゲヤマを無理矢理起こそうとするエルザにそれを諌めようとするグレイ。同じギルドの仲間を、平気で切り捨てる行いに激怒するナツ。

 

そして、

 

「遅かったか···!」

 

遅れてやってきたエクレールとルーシィ達。

 

エクレールは急いでカゲヤマの応急処置を行うのだった。

 

――――――――――――――

 

「エリゴールの狙いは······定例会なの!?」

 

それから暫くして、全員駅の外もとい、魔風壁の前まで戻ってきたが、眼の前にある竜巻の壁にどうすることも出来ずに立ち尽くすのみであった。

 

「ああ···だけど、この魔風壁をどうにかしねぇと駅の外には出れねえ。」

 

グレイがそう説明するも、ナツが魔風壁の中へと飛び込んでいく。

 

「ぎゃああああっ!!!」

 

「な?」

 

「あわわ···」

 

一方のエルザはエクレールの雲の上に寝かされているカゲヤマを起こそうとしている。

 

そしてエクレールは、

 

「······」

 

どうやってここから出るかを考えている。

 

「こんなもん突き破ってやるぁっ!!!」

 

しかし、弾かれてその場に倒れるナツ。

 

「ナツ!!」

 

「馬鹿野郎···力じゃどうにもなんねぇんだよ。」

 

「急がなきゃマズイよっ!!!アンタの魔法で凍らせたり出来ないの?」

 

「できたらとっくにやってるよ」

 

「そうだ···!」

 

すると突然、エルザが何かを思い出したかのようにエクレールへと近づく。

 

「エクレール。」

 

「何だエルザ?今、俺は此処から出る方法を考えて···」

 

次にエルザの口から出た言葉はエクレールの想像を絶するものであった。

 

「カゲヤマに癒やしの雨(ヒール・レイン)を使ってやってくれ。」

 

「!?···オイ、本気で言ってんのか···!?」

 

エルザの発言にエクレールは自分の内側からふつふつと怒りが込み上がってくるのを感じ取った。

 

「癒やしの雨?なにそれ?」

 

事情を知らないルーシィはエクレールにそう尋ねた。

 

「···俺が使える回復魔法の一つだ。どんな傷でも少しずつだが、完治させる魔法。」

 

「えっ、凄っ!」

 

「だが、アレは使えない(・・・・)

 

「えっ何で···!?」

 

でも何故エクレールがそれを使えないのかが分からないルーシィ。

 

「何故だ!?」

 

それはエルザも同じだったようでエクレールに詰め寄りながらそう聞いてくる。

 

「···あの魔法は俺が仲間だと“認識”した者にしか使えない魔法だ···ましてや対象は闇ギルド所属の魔導士···それに、」

 

言葉を続けた瞬間、エクレールのパーカーが白から”赤“へと変化した。

 

「コイツは俺達を妖精(ハエ)と呼んだ···!それだけでも腹立たしいのに、あろうことか乗り物酔いで動けないナツ相手にリンチしようとした奴だ···!そんな奴に使う魔法なんて無い···!!!!」

 

エクレールのパーカーはエクレールの感情によって色が変化する仕様。つまり、赤になったということは怒りを顕にしているということだ。

 

「私が頼んでいるんだ!何とかしろ!」

 

と、コレまた無茶振りをするエルザだが、

 

「お前さぁ···何か勘違いしてないか?」

 

「!!?」

 

今のエクレールには普段感じられない威圧感があり、それが今、エルザに全て向いている。

 

当の本人であるエルザは冷や汗をかきながら、無意識ではあったが、後ろに一歩下がっていた。

 

「俺が助けるのは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の仲間達と一般人だけだ。俺達に仇なす闇ギルドの連中なんて···助ける価値すら無いんだよ···それにお前、“私が頼んでいるんだ”からだと?」

 

「······」

 

それを口にされた途端、エルザは気まずそうに視線を反らす。

 

「妖精の尻尾で一番権力を持っているのはギルドマスターであるマカロフただ一人だけだ。それ以上でもそれ以下でもない···忘れてんじゃねぇよ!!!!!」

 

「······済まない。」

 

気まずそうに目をそらしながらエルザはエクレールに謝罪した。

 

それに満足又は納得したのかエクレールのパーカーは赤から白へと変化し、彼も落ち着きを見せた。

 

「···ならいい。」

 

「······」(あんな風に怒るんだ···エクレールって···)

 

そんなエクレールを見てルーシィはそう感じた。

 

グレイは冷や汗をかいて行く末を見守っていたが、エクレールの機嫌が戻ったことで安堵のため息を吐いた。

 

「ぬぁあああっ!!!!」

 

しかし、ナツだけは力ずくで出ようしていた為、我関せずで魔風壁を突破しようとしていた。

 

「ちょ······ちょっと!!!やめなさいよっ!!!バラバラになっちゃうわよ!!!」

 

「がっ!?」

 

「やめなさいって!!!」

 

羽交い締めにしてナツを魔風壁から引き剥がしたルーシィだったが、ナツは直ぐにルーシィに視線を向けた。

 

「何よ!!」

 

「そうだっ!!!星霊!!!」

 

「え?」

 

「エバルーの屋敷で星霊界を通って場所移動できただろ?」

 

「いや······普通は人間が入ると死んじゃうんだけどね···息が出来なくて。」

 

と、ルーシィがナツに説明していると、

 

「それは無理だ。」

 

と、ここでエクレールが口を開いた。

 

「!?···エクレール···?」

 

「何でだよ、エクレール?」

 

「星霊魔導士が、鍵を使って(ゲート)を開くには同じ星霊魔導士がいる場所でしか開けない···簡単に言うと、この魔風壁の外にもう一人、ルーシィと同じ星霊魔導士が一人以上いないと門を開くことが出来ないんだよ。」

 

と、エクレールなりに分かりやすくナツに教えたのだが、

 

「ややこしいないいから早くやれよ!!!」

 

「話聞いてたか?もう一人いないと出来ないって言ってんだろ。」

 

と、ナツの馬鹿さ加減に呆れた様子のエクレール。

 

「そうだな···」

 

と、一言呟くとその場にしゃがみ込み、床を触ったりコンコンと軽く叩いたりを何度か繰り返した。

 

「えっと···何してるの?」

 

「···成る程。」

 

と、呟く。

 

「この程度の強度なら”アレ“で行けるな。」

 

「“アレ”?」

 

ナツ達の方へ振り向いたエクレールは一言呟く。

 

「ナツ、魔風壁を抜けられるぞ。」

 

「ホントか!?」

 

ああ。と頷いたが、ただしと付け加える。

 

「ルーシィの力が必要だ。」

 

「えっ!?私?」

 

「そうだ···ルーシィ”処女宮“の鍵は持ってるか?」

 

「“処女宮”って···」

 

「バルゴだ。アイツは土の精霊力を宿しているから地面に潜ったり、穴を掘ったりすることが出来る···まぁ、契約していればの話なんだが···」

 

と言って、ルーシィを見るが

 

「ゴメン、私···バルゴの鍵は持ってないの···前に戦ったエバルーって魔導士が持ってたんだけど···逮捕されちゃったし。」

 

「そうか···」

 

振り出しに戻った。

 

そう全員が思った時、

 

「あーーーーーーーーっ!!!!」

 

何かを思い出した様子のハッピーが突然大声を上げた。

 

「どうしたハッピー?」

 

「ルーシィ!!思い出したよっ!!!」

 

「な···何が?」

 

「来る時言ってた事だよぉ!!!」

 

そう言ってハッピーは背負っていた風呂敷から黄道十二門の鍵の一つ ”処女宮“の鍵 つまり、バルゴの鍵であった。

 

「これ」

 

「それは···バルゴの鍵!!?駄目じゃないっ!!!勝手に持ってきちゃーーー!!!」

 

「違うよバルゴ本人がルーシィへって」

 

「ええ!!?」

 

まさかバルゴ本人から鍵を渡されるとは思わず驚きを隠せないルーシィ。

 

「エバルーが逮捕されたから契約が解除になったんだって。それで今度はルーシィと契約したいってオイラん家訪ねてきたんだ。」

 

「アレが···来たのね···」

 

その時のルーシィの脳内ではエバルーの屋敷で見た巨漢の女メイド状態のバルゴを思い描いていた。

 

「ま、何にせよバルゴ本人から契約したいって来てくれたんだ。ここは早く契約した方がいいだろう。」

 

と、エクレールがルーシィに助け船を出す。

 

「!···うん、そうね。」

 

そう言ってルーシィはハッピーから鍵を受け取ると直ぐ様構えた。

 

「我···星霊界との道をつなぐ者。汝······その呼び掛けに応え、門をくぐれ。」

 

そして、星霊魔導士が星霊と契約を結ぶ際の詠唱を始めた。

 

「開け!!!処女宮の扉!!!···バルゴ!!!」

 

 

そして、鐘の音と共に現れた魔法陣から出現したのは、ピンク色のショートヘアのメイドの女性であった。

 

「お呼びでしょうか?御主人様」

 

「え!?」

 

ルーシィは驚いた様子でそのまま固まってしまった。それもその筈、前回見たバルゴの見た目とは異なり、細身の女性の姿をしていたからである。

 

「痩せたな」

 

「あの時はご迷惑をおかけしました。」

 

「痩せたっていうか別人!!!」

 

あまりの変わりっぷりに驚きを隠せないルーシィだったが、直ぐに気持ちを切り替えてバルゴに近づく。

 

「あ···あんた、その格好···」

 

「私は御主人様の忠実なる星霊。御主人様の望む姿にて仕事をさせていただきます。」

 

「前のほうが迫力あって強そうだったぞ」

 

「では」

 

「余計な事言わないの!!」

 

そんなやり取りを間近で見ていたバルゴだったが、エクレールに気付くと驚いた様に表情を少しだけ変えたが、エクレールが左目を閉じて口に人差し指を当てたのを見ると軽く会釈だけして、再びルーシィへと向き合った。

 

「時間が無いのっ!!!契約、後回しでいい!?」

 

「畏まりました御主人様。」

 

「てか、御主人様はやめてよ」

 

するとバルゴはルーシィの鞭を一瞥し、

 

「では『女王様』と」

 

「却下!!!」

 

「では「姫」と···」

 

「そんなトコかしらね」

 

「そんなトコなんだ!?つーか急げよ!?」

 

時間が無いにもかかわらず始めたバルゴとルーシィのやり取りに思わずグレイは口を出すがバルゴは直ぐ様次の行動に移った。

 

「では!!!、いきます!!!」

 

そう言ってバルゴは地面に潜り、穴を掘って駅の外へと進んでいく。

 

「おお!!!潜った!!!」

 

「いいぞっ!!!ルーシィ」

 

「痛っ!?」

 

「おし!!!あの穴を通っていくぞ!!!」

 

ルーシィを褒めたエルザは鎧の胸元に抱き寄せ、グレイはこの機を逃すなと言わんばかりに穴へと走っていく。

 

「エクレール、こいつ連れて行こうぜ」

 

「何言ってんだナツ!!」

 

「···いいのか?」

 

グレイは驚き、エクレールも同様の気持ちで確認する。

 

「あぁ。オレと戦った後に死なれちゃ後味悪ぃんだよ」

 

それを見たエルザは微笑み、気絶から目覚めたカゲヤマも驚きを隠せなかった。

 

――――――――――――――

 

「出れたぞーーーーー!!!」

 

いの一番に穴へと入って外へと出たナツは漸く出れた事に喜びを隠せなかったようで子どものようにはしゃぎだす。

 

「急げ!!!」

 

「うわっ!?凄い風···!」

 

「姫!!下着が見えそうです!!」

 

「自分の隠せば···?」

 

「「オイオイ···」」

 

強風で見えてしまいそうなルーシィの下着を隠そうとするバルゴの下着をがっつり見てしまったグレイとエクレールは同様の感想を口にしてしまう。

 

「無理だ····い···今から追いつける筈がねぇ······お···俺達の勝ちだ···な」

 

早々に諦めろと目覚めたばかりのカゲヤマが嘲笑混じりに口にしたがエルザはそれよりも気になることがあった。

 

「!···ナツはどうした!?」

 

「あれ?」

 

「そういやハッピーもいねぇぞ?」

 

突然姿を消したナツとハッピーに気付いた3人は驚いたが、

 

「先に行ったんだろ···ハッピーの(エーラ)でなら急げばひとっ飛びで間に合うだろうからな。」

 

そう言いながら魔導四輪のプラグを左腕に付けるエクレールの言葉に納得した。

 

「おいエクレール···何をして···」

 

「俺が運転する···お前らは中に乗れ」

 

と、突然の運転宣言に思わずエルザは喰らいつく。

 

「何を言っている!?私が···」

 

「お前はガス欠だろ···!いいから乗れって、運転くらいなら俺でも出来る。」

 

無茶をしようとするエルザを叱責すると直ぐに笑顔になり、全員に乗るように指示する。

 

「それじゃ、ナツを追いかけるぞ···!」

 

そう言うと直ぐに魔導四輪車を起動させ、線路を走っていくエクレールであった。

 



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