二人の魔女 (ADONIS+)
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プロローグ
1.魔法使い


 第一次ベヅァー戦争。それは下位世界の存続を目的とした三千世界監察軍に甚大な被害を与えた。その為、当時の監察軍はその立て直しに躍起になっていた。

 

 彼らがまず行ったのが、失ったトリッパーの増員だ。ベヅァーを抑え込むにはとにかくトリッパーの数を揃える必要があり、これは急務であった為に、トリッパー増員計画が進められていた。

 

 そして、それと並行して進められていたのが対ベヅァー兵器の開発だったが、実のところ、ブリタニア帝国で用意されていた対ベヅァー兵器である超16号がベヅァーに通用しなかったことから、思いっきり難航していた。

 

 これは、超16号は当時の技術レベルにおいて最高のスペックを実現しており、それを遥かに上回る人造人間を作り上げるのは至難の業だったからだ。

 

 それでも人道的な理由から一度は放棄したセル(ドラゴンボール)を参考にバイオテクノロジーを利用した人造人間計画を初めとして様々な研究が進められる事になったが、その一つとしてスーパーロボット計画が立ち上げられた。

 

 超16号は人間大のサイズで作れるロボットとしては最高の物であったが、やはり人間サイズではスペースの問題からパワー値も限られている。そこで50m以上の大きさのスーパーロボットであればその問題も解決できると言う考えだった。

 

 それにともない、監察軍ではゲッターロボ、イデオン、ライディーンといったスーパーロボットの無限力にかなり興味が持たれて盛んに研究されることになった。

 

 そうした研究の過程で、一時期デモンベインのような人間の為の鬼械神(デウス・エクス・マキナ)を作ろうという意見もあったが、それを操縦できる者がいないという問題があってそれは凍結されている。

 

 しかし、これは正直勿体ない。可能性があるのであれば試してみるべきだし、操縦できる者がいないのであれば作ればいいのだ。それは適当な転生特典を与えて育てれば事足りる。

 

 勿論、手間はかかるがベヅァーに対抗しうる戦力を得る為の必要経費と考えればやる価値はあるだろう。

 

 

 

「……というわけで、貴方達を魔女にスカウトします」

 と死神が言って来た。

 

「いや何で魔女なんです? 俺たちは男ですよ」

「そうだ。その通りだ!」

 

 真っ白でこの世とは思えない場所で、黒い服に身を包んで大鎌を持った髑髏という一般的な姿をしている死神の言葉に俺とこの場にいたもう一人の男が突っ込みをいれた。

 

「まぁ魔女は私の趣味ですよ。でも貴方達もこれを受けておいた方がいいですよ」

「どういうことです?」

「先ほども言ったように下位世界に転生しないのなら普通に輪廻転生の輪に戻るだけですが、貴方たちの次の転生先は虫の予定なんですよ」

「虫! 人間じゃないのかよ!」

「まぁ『一寸の虫にも五分の魂』と言うじゃないですか。そういうのもありなんですよ。さあ、どうします。このまま虫に転生しますか? それとも下位世界で魔女になりますか?」

 と、死神は言って来た。

 

「わかった。魔女になるとしよう」

「仕方ないな。俺もそうするよ。虫は嫌だ」

 

 俺ともう一人の男はしぶしぶそれを了承した。

 

 男なのに女に転生するのは好きではないが、これでは好き嫌いを言っていられない。

 

 それにしても、童貞で30を超えると魔法使いになれるという都市伝説は有名で俺もそれを知っているほどだが、まさか童貞の30過ぎで死んだら魔法使いではなく魔女に転生する羽目になると思わなかったな。

 

「まぁ私の趣味を押し付けるだけでは貴方たちに悪いので、貴方たちが優れた魔術師になれるように転生特典としてチート能力を上げますよ」

「おお、テンプレだ!」

 

 チート能力という言葉に反応する俺たち。

 

「まぁ能力の詳細については転生後に直接教えますからその時に試してください。あと質問はありますか?」

「俺たちの転生先はどの世界ですか?」

「そうですね。本当はデモンベインの世界と言いたい所ですがあそこは凶悪なので、最初は『GS美神 極楽大作戦!!』の中世ヨーロッパにします。まずはそこで中世魔法技術を習得してください。それからいろんな世界で魔法や魔術などのオカルト技術を学んでいくというのがいいでしょう」

 

 GS美神か。確か漫画を見たことがあるが、中世ヨーロッパとなると色々とありそうだな。

 

「それと貴方達は魔法技術を習得しやすい家に双子の姉妹として転生する事になります」

 

 双子ですか。まぁ分かり易くていいかもしれないね。「他に質問はありますか?」と、聞かれたがもう聞くこともなかったので、「ない」と答えた。

 

「では、転生します」

 死神がそう言うと俺たちは意識を失った。




解説

■第一次ベヅァー戦争
 シドゥリ暦2000年に破壊神ベヅァーが出現した事で勃発した戦争(超戦士伝説を参照)。このベヅァーは当時の三千世界監察軍本部とそこに存在していた多くのトリッパーを消滅させて、更に数多の下位世界に散らばっていたトリッパー達に刺客を送り付けることで抹殺した。最終的には超サイヤ人ミズナによって討ちとられたが、監察軍の受けた被害は甚大なものであった。

■トリッパー増員計画
 第一次ベヅァー戦争後に監察軍が進めた憑依型トリッパーを大幅に増員するための計画。その計画で大日本帝国とアトランティス帝国が建国されている。

■超16号
 ブリタニア帝国と監察軍が共同で開発していた対ベヅァー兵器。元々は全人工製の人造人間16号(ドラゴンボール)を監察軍の超技術で魔改造したもので複数体建造されていた。ブリタニア帝国では万が一にも暴走すれば自国を滅ぼしかねない事から最終兵器として扱われていたが、第一次ベヅァー戦争で現存するすべての超16号を投入したもののベヅァーにはまったく通用せずに撃破されてしまった。 

■死神
『ブリタニア帝国記』や『トリッパー列伝』などで、現実世界(上位世界)の人間をトリッパーにして下位世界に送り込んでいる存在。単独ではなく複数存在しており、個々に性格なども異なる。

■輪廻転生の輪
 上位世界では人間だけでなく動物や虫までも魂を持っており、それぞれ死後は転生するが、その転生する種族は決まっておらず、現世では人間であるが、来世では虫になるという状況も大いにありえる。


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GS美神 極楽大作戦!!
2.チート能力(GS美神編)


※2~5は、『GS美神 極楽大作戦!!』の世界が舞台になっています。


 13世紀の欧州。当時の欧州はオカルト全盛期だった。ヨーロッパの魔王ドクター・カオスを初めとする錬金術師、魔法使い、魔女たちが未だ大きな力を持っていた時代。

 

 しかし、当時それほど活発ではなかったとはいえ魔女狩りがすでに発生しており、既にその悪影響を受けて中世魔法技術に衰退の兆しが見えていた。

 

 そして、私が転生したのはそんな世界だった。

 

 私はスイス・イタリア国境付近の辺境領主の次女エリーゼとして転生した。家族構成は両親、一歳年上の長女マリアと私の双子の妹アイシャだ。

 

 これで気付いた人も多いでしょうが、私が生まれた家はドクター・カオスのパトロンだった領主の家で、更に死神の言った通り、妹のアイシャは私と同じトリッパーでした。

 

 ちなみに上位世界(現実世界)では魔女狩りは12世紀以降キリスト教会の主導によって行われて、数百万人が犠牲になったと言われていたが、実際にはこれは風説にすぎません。

 

 魔女狩りはもともと民衆の間から発生して15世紀から18世紀まで行われて欧州全土で最大4万人が処刑されたというのが通説で、魔女といっても犠牲者は女性だけでなく、男性も〝男性の魔女″という形で含まれていた。

 

 しかし、『GS美神 極楽大作戦!!』では1242年(13世紀)の段階で魔女が民衆に弾圧されている描写があり、マリア姫が取り成していなければシャレにならない状況になっていた。

 

 恐らくこの違いは魔女やオカルトが架空の物である上位世界と、魔女もオカルトも実在しているGS世界との差によって発生していると思われる。

 

 

 

 西暦1231年。四歳になり、ようやくある程度動けるようになった。

 

 赤ん坊時代は本当に困りました。まさか赤ちゃんプレイをやらされることになるとは思いませんでしたからね。今となっては黒歴史です。

 

 そんな私たちの前に死神が現れて転生特典について説明してくれた。

 

 私たちの転生特典は二人とも同じで、その内容は以下の通りです。

 

 1.オカルトの鬼才

 2.固有世界観

 3.理解

 4.分割思考

 5.高速思考

 

 それで、この五つの能力の詳細はこうなります。

 

【オカルトの鬼才】

 これは文字通り、ありとあらゆる下位世界でオカルトと呼ばれている分野に対して千年に一人という伝説的な偉人になれる才能です。これは霊能だろうが、魔術だろうが、関係なくオカルトであればOKです。

 

【固有世界観】

 実は魔法や魔術というのは、その世界観が適合して初めて行使可能になる汎用性のない代物なんです。例えば精霊のいない世界で精霊魔法を使えませんし、魔術基盤がない世界で型月系の魔術は使えないが、この能力は現地の世界観の壁を無視して自分の都合のいい世界観を現地世界に押し付ける事が出来る能力ですね。これによって本来ならば魔術が使えない筈の世界で魔術が使えたりします。

 

【理解】

 見たり聞いたり触ったりした物事を理解して完全に使いこなせる。

 

【高速思考】

 21世紀のスーパーコンピュータ並の速度で思考が出来る。

 

【分割思考】

 常に数百もの思考を同時にできる。

 

 これらのチート能力の中でも【理解】が一番便利だった。何しろ、書物の文字を見るだけで文字や内容を理解して使いこなせる。他人の会話を聞くだけで言葉を理解して使いこなせる。さらには様々な道具を触るだけでその構造を理解して使いこなせる。という能力なのだ。

 

 そんなチートになったから、現地の言葉をあっという間に習得して、更に親の書庫から様々な知識を手に入れました。その際、父の持つ書物の中に魔法技術やオカルト知識を扱っていた物がやたら多かったですが、よく考えれば原作でも田舎領主の父はオカルトアイテムや書物の収集家だったからある意味で予想通りです。

 

 最も父はただの辺境領主にすぎないし、そもそも13世紀は未だに羊皮紙が主流で、一応製紙技術が伝わっていた物の、製紙工場が欧州全土に普及していない上に、印刷技術もないのだ。

 

 こうなると本の大量生産など不可能で、必然的に本の数が少なくて貴重品となるので、あっという間にすべての本を読み終えてしまった。

 

 ちなみに知識の習得は【理解】に【高速思考】と【分割思考】を併用しましたね。こうすると、一冊の本をたった数秒で全部理解できます。そんな感じなので書庫は常人から見れば異常な速度で読破できました。

 

 両親はそんな私たちを天才だと大喜びしていましたね。まぁ喜ばれるのはいいですが、ここでは知識の絶対量が少なくて物足りなさを感じましたね。

 

 そういえば、原作では領主の父はオカルトを趣味にしていて、中央から追われた古代の秘術を継承している大魔法使いや錬金術師などを匿っていたらしい。その為、私とアイシャは魔女などのオカルト関係者と知り合いになった。折角なのでそうした方々に弟子入りして中世魔法技術やオカルト知識を教えてもらいました。

 

 実を言うと前世から魔法とか結構憧れがあって興味がありましたし、化け物染みた才能でそれらを面白いほど順調に吸収できた。師匠の魔女さんとかは私たちの異常な才能に興奮していましたね。きっと教える方もここまで才能があると、教えがいがあったのでしょう。やたらと褒めて熱心に教えてくれました。

 

 ここで彼女たちが私たちの才能に嫉妬するような小心者でなかったのは本当にありがたかったですよ。魔女狩りで追われていた人たちですが、根は善人でした。

 

 まぁ私とアイシャの化け物じみた才能で早期に「もうお前に教えることはない」と免許皆伝を貰うという結果になりましたけど。

 

 そんなこんなで十年ほどやっていたら、一人前どころか欧州最高の魔女になっていましたよ(笑)。

 

 それと、十年もオカルトだけやっていたワケではなく、知識取得のために死神に頼んで監察軍の電子書籍端末をもらって様々な知識を獲得しています。

 

 さすがに超技術を誇る監察軍だけに自分の周りにウィンドウ(空中モニター)を幾つも展開して電子データを読み取るなんてSFな事も当たり前にできました。

 

 こうして下地となる知識を確保した私は、それを利用して内政チートに励んだわけです。




解説

■世界観
 創作物にはすべからく世界観があり、それは物語の基盤ともいえる。これによってその世界の法則もそれぞれ違い、監察軍ではこの世界観の違いを把握してそれに対応する事を日常茶飯事にしている。

■電子書籍
 本を電子化した物で、監察軍の技術ならば小さな端末があればウィンドウを出してそのデータを読むぐらいは簡単にできます。

■ウィンドウ
 ネルガル(機動戦艦ナデシコ)が開発した空中に浮かんで表示されるモニター。監察軍ではそれを発展させて恒星間通信や異世界間通信にも使用している。なおウィンドウに触れても人体に悪影響はない。


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3.時空の復元力

 西暦1242年。原作において美神たちが時間移動してくる時期になりましたよ。私とアイシャは成長して今では華の15歳です。

 

 さて、ここで私エリーゼ・ペルティーニの外見ですが、パソコンゲーム『ウィッチズガーデン』の雪村 涼乃(ゆきむら すずの)と瓜二つになっています。私の魔女としての格好も雪村 涼乃の白を基調として雪をイメージしたアバター服を模倣したものです。その為、私の服も微妙に露出度が高い服ですね。

 

 そして妹アイシャ・ペルティーニの外見も『ウィッチズガーデン』の緋宮あやり(ひのみや あやり)そっくりで、服装も緋宮あやりのアバター服を模倣しています。

 

 勿論、私たちのこの外見は偶然ではなく、死神が『ウィッチズガーデン』を知っていて魔女ならこれかなと、この外見にしたそうですね。

 

 ちなみに『ウィッチズガーデン』は私もアイシャも知っていたので、外見に合わせて魔女の衣装を作りました(死神にも薦められた)。

 

 そんな私達ですが、先日監察軍でゴッド・ブレス(BLACK CAT)という特殊なナノマシンを自分の体に打ち込んで老化を止めました。

 

 死神によると私たちは長期育成型らしく、数十年どころか数百年から数千年単位で様々な下位世界を旅して修練を詰んでいって、能力を高めるというプランらしいです。その為、高々数十年で老い衰えてしまっては話になりません。だからゴッド・ブレスの投与は必須ですね。

 

 まぁ私たちとしても折角の美少女になったワケですから、すぐに老いたくはありませんからね。

 

 

 

 さて、前回も言いましたが、私たちは内政チートをしています。具体的には農学では連作障害を防ぐために四周期輪作を導入したし、サツマイモ、ジャガイモ、トウモロコシなどを監察軍を介して領地に持ち込んで栽培していました。この結果うちの領地は豊かになり、領民の支持は鰻上りな状態ですよ。

 

 この時代たくさん収穫出来て餓える心配がないというだけでも恵まれていると言えますし、領民の為にいろいろと頑張ってくれる領主の娘に対して領民が好意的になるのは当たり前です。

 

 更にお金を稼ぐためにうちの領地で栽培しているサトウキビからグラニュー糖(上位世界では世界的に一般的な砂糖)を生成して高級品として国内や国外の貴族たちに売りさばきました。

 

 実は砂糖はちゃんと精製しないとブラウン・シュガーのような色のついた砂糖になります。まぁこの時代にグラニュー糖の精製技術はないので、砂糖と言えばブラウン・シュガーになるのが当然です。

 

 そんな欧州で新発売された見た目も味もいいグラニュー糖が大好評でバカ売れしています。

 

 勿論、大量生産し過ぎて価格が低下したら困るので、少数生産でブランド販売です。そんなワケでグラニュー糖の生産はうちの領地だけの目玉産業となっていて、おかげで懐が温まって笑いが止まらない状態です(精製技術を独占しています)。

 

 これのいい所は使い出したら止められないという事ですね。

 

 例えば客に出す飲み物につける砂糖がグラニュー糖から黒砂糖なんかに変わっていたら経済的に苦しくなったというのが一目瞭然ですから、面子を重んじる貴族であれば止められないわけです。

 

 ここで、たかが砂糖一つでと思うかもしれませんが、貴族社会は意地の張り合いでもあるようで、侮られるというのはプライドの問題もありますが、馬鹿に出来ないデメリットもあるわけです。

 

 いつの世も貴族が美術品などを収集してその財を見せつけるのは、それが自分の権勢を知らしめるという政治的効果もあって、政争や権力闘争などの要素にも絡んでくるからで、まったくの無駄とも言い切れないわけです。

 

 これは平民から見れば馬鹿にしか見えませんが、当事者にとっては真剣なんですよ。

 

 

 

 それで、どうしてそんなにお金を稼ぐのかというと、研究資金確保の為なんですよね。実は魔術などオカルトの研究はお金がかかります。

 

 まぁ原作でもやたら高価なオカルトアイテムが出てきたりしていたのでそれも分かりますが、これで好き勝手お金をつぎ込んで研究していたら、いくら領主の家でも金欠になってしまいます。

 

 ましてや所詮うちは辺境領主にすぎないので、そこまで裕福というワケではない。こうなると、潤沢な研究資金を確保したければ、まず確実に金儲けする事を優先する必要があるわけです。

 

 そんなワケでうちの経済事情は原作よりもかなりいいですよ。この影響で我が家が支援しているドクター・カオスにも潤沢な資金が流れています。

 

 カオスは20世紀末のボケ老人のイメージが強いが、13世紀のカオスはまさに全盛期でしたね。まさか中世魔法技術だけでなく監察軍の知識も学習している私達と対等に渡り合えるとは思わなかった。

 

 こっちがチート能力で天才やっているのに対して、カオスは公式チートという感じです。さすがはマリア姉さんが稀代の天才錬金術師と絶賛しただけの事はあります。

 

 そんなカオスが持つ錬金術の知識には興味があったので、カオスとも知識や技術のやり取りをしていて、これは私たちも結構得られる物がありました。 

 

 ただ私たちから言わせれば、カオスの研究は時代を先取りしすぎているというか、先行し過ぎているという感じですね。

 

 大体、まともな蒸気機関すら実用化できていない時代に、戦闘機(カオスフライヤー1号)とか機械犬(バロン)とか作って役に立つのか?

 

 ぶっちゃけ、量産性、整備性、運用などを考えたらガトリングガンやアームストロング砲の方がまともに使えると思いますよ。今は20世紀ではなく13世紀ですから(笑)。

 

 まぁ魔法科学の技術検証機として割り切るのならばそれでいいかもしれませんが、どう考えてもカオスに投資した資金に見合うだけの利益が帰ってきそうにないから、パトロン泣かせですよ。

 

 原作でカオスが金欠で困っていたのはこれがあったからじゃないかな?(パトロンにも十分な利益をもたらしてくれる研究者じゃないとパトロンに嫌われます)

 

 そんな突っ込みを受けている為か、カオスにとって私たちはパトロン(私たちが稼いだお金もカオスに融通している)であると同時に、とても優秀な共同研究者でもあるが、ロマンがないと思われています。

 

 そんなカオスですが、一ヶ月ほど前に欧州を荒らしまわっている吸血鬼ブラドーの討伐に出向いています。原作通りブラドー伯爵を打ち取る事で名を上げて、もっといいパトロンを探そうとしているのでしょうね。

 

 実はカオスの不在中にプロフェッサー・ヌルがうちの領地にやってきたので、当然ながら門前払いで追い返した。その際、父は私たちがヌルに関して異常なまでに敵意を抱いているのに不思議に思っていたが、私たちの説得に応じてくれた。

 

 このヌルはアシュタロス配下の魔族で、アシュタロスの命令で人造モンスターを製造販売する事で、神魔の勢力バランスを乱して神族と魔族を巻き込んだ全面戦争を起こそうと企てている極めて危険な魔族だ。おまけに、うちの領地を乗っ取って好き勝手すると分かっている奴を受け入れられる筈がないでしょう。

 

 これでよしと思ったが、ヌルがゲソバルスキー男爵率いる暗黒騎士団を使っていきなり城を襲撃してきた。私たちはそれを撃退しようとしたが、多勢に無勢で城を落とされてしまい、何とか父と姉を守りながら近隣の村に逃げ込む事にした。

 

 正直な話、戦えない他人を守りながら戦うのは難しいね。まぁ私たちの実戦経験が乏しかったというのもあるでしょうが、少し悔しいですよ。

 

 最初にヌルを門前払いしてしまえば、うちを諦めて他の領地を乗っ取るだろうと判断していたが、ちょっと甘かったね。

 

 これが原作の修正力、いやもしかしたらこの世界特有の時空の復元力なのかな?




解説

■エリーゼ・ペルティーニ
 元ネタ:雪村 涼乃(ウィッチズガーデン)
 外見年齢:15歳
 身長:156㎝
 体重:42㎏
 3サイズ:83(C)・55・81

 転生特典
 1.オカルトの鬼才
 2.固有世界観
 3.理解
 4.分割思考
 5.高速思考

 この『二人の魔女』の主人公。死神が進める鬼械神計画(監察軍が推進しているスーパーロボット計画の中で凍結されたプラン)のパイロット候補として育成中のトリッパー。この計画に合わせて最高の魔術師となれるように転生特典を調整している。15歳の時にゴッド・ブレスを投与したために以後不老長寿になっている。元ネタに合わせて氷の魔術を好んで使っている。
 ちなみに死神が最初から、【すべてのオカルト知識】や【創作物に出てくるあらゆる魔法や魔術などを使える】などというチートを与えずに、曲がりなりにも自分自身で学習して努力していかないと力が身につかないようにしているのは、そうしないと自分の力をちゃんと使いこなせないからだ。

■アイシャ・ペルティーニ
 元ネタ:緋宮あやり(ウィッチズガーデン)
 外見年齢:15歳
 身長:152㎝
 体重:45㎏
 3サイズ:88(E)・57・87

 転生特典
 1.オカルトの鬼才
 2.固有世界観
 3.理解
 4.分割思考
 5.高速思考

 エリーゼと同じ鬼械神計画用のトリッパー。エリーゼの双子の妹として転生しており、特典も同じために能力自体はエリーゼに匹敵している。15歳の時にゴッド・ブレスを投与したために以後不老長寿になっている。元ネタに合わせて炎の魔術を好んで使っている。
 ちなみに原作ではマリア姫の名字が不明なため、このSSオリジナル設定としてペルティーニという名字を使っている。

■ウィッチズガーデン
 2012年に『ういんどみる』が発売した18禁恋愛アドベンチャーゲーム。魔女がメインヒロインとして登場している作品で、死神は趣味でエリーゼとアイシャの外見をこのゲームのヒロインと同じにした。

■ゴッド・ブレス
 元々は『BLACK CAT』の世界で開発された不死のナノマシン。これを投下された人間は老化が停止して手足が千切れるような怪我でも即座に再生する凄まじい自己修復能力を得る事ができる。ただし脳が損傷すると再生できないという欠陥もあり、本当に不死身というワケではないが、比較的容易に不老長寿を得られることから三千世界監察軍に所属するトリッパーはこれを投与する者が多い。

■時空の復元力
 この世界の原作では過去に時間移動してアドルフ・ヒトラーを暗殺するなどの歴史を改変するような事をしても、別の事件が発生して大まかには歴史は同じような流れになる。その為、時間移動をしても過去も未来も変えられる事しか変えられない。ここでアシュタロスのように修正でどうにもできないような改変を行おうとすると、宇宙意志の反作用が働いて、それを行おうとする者に逆風が吹くことになる。


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4.鶏が先か、卵が先か

 村人が魔女を捕らえたという話を聞いた。原作通り美神と横島がこの時代に来たようだ。原作通り姉のマリア姫と美神たちが話をしていたので、私たちが美神に会う事にした。

 

「エリーゼ! それにアイシャも!」

 と、美神が私たちの名を口にしたのは少々驚いた。

 

 思わずアイシャと顔を見合わせるが、すぐに美神に向き直った。

 

「貴女たちとは初対面のはずなのに、何故私の名を知っているのですか?」

 としらを切る事にした。

 

 本当は美神の事を知っているが、それを説明するのに原作知識の事を言わねばならないので、ここは白を切るしかない。それに確かに私は美神たちとは初対面なので嘘を言っていない。

 

 しかし、美神たちが私たちの事を知っているという事は、この世界の20世紀末に私たちがいるということだろう。

 

 正直言ってこの世界は魔女狩りとか色々と鬱陶しいから、ある程度知識や技術を吸収したらこの世界から出ていくつもりだったので、この事は意外であった。

 

 こうなると私が約750年後にこの世界の日本に行って原作の舞台に関わる事が因果律で決定されているという事だろうか?

 

 いや、そこまで厳密に因果に縛られることはないだろうから、何も強制的に行くことになるとは思わないが、時空の辻褄合わせの為には行った方がいいだろう。

 

 彼らが未来から来たからこうなったのか。それとも未来の私が原作介入をしようとした為にこうなったのかは分かりませんけどね。

 

 まぁ時間移動は因果律を覆す行為だから、鶏が先か、卵が先かという議論になりかねないので、深く考えても結論は出ないだろう。

 

 これは今考える必要はない事だ。後750年はあるのだからその時になって考えればいいだろう。

 

 

 

 私たちが白を切ったために、美神は過去に来た為に面識のない状態となったと、理解したようだ。

 

 次にカオスの話題になって美神とマリア姉さんが話し込んでいると、ゲソバルスキー男爵率いる暗黒騎士団が村を襲撃してきた。

 

 これに対してバロンが迎撃して奮戦するもゲソバルスキー男爵によって倒されてしまった。そう書くとシリアスに見えるが、ゲソバルスキー男爵が骨を投げてそれを無防備に飛び上がってキャッチするのはすごく間抜けだった。

 

 機械なのに犬としての習性があったことが敗因といえるだろうが、ある意味カオスの作品らしいといえるね。

 

 おまけに精霊石の結界もゲソバルスキー男爵がマリア姉さんの盗撮写真につられてマリア姫と横島が結界の外に出てしまって無駄になってしまいピンチになった所にカオスが帰って来て敵を薙ぎ払った。

 

 しかし、あえて言わせてもらおう。リモコン操作を間違えてカオスフライヤー1号を自爆させてしまったとか間抜けにも程があるぞ。あれほど間違えるといけないからリモコンで自爆できるようにするなといっておいたのに。

 

 所謂自爆スイッチはロマンですというやつかな?

 

 それもいいかもしれませんが、間違えないで下さいね。あのカオスフライヤー1号なんて私が稼いだお金が湯水の如く使われているんですよ(泣)。

 

 

 

「そうかそうか。ワシ以上の天才が城を占拠している上に貴様らは未来から来たと言うのか」

 と、カオスは頷いていた。

 

「しかし、分からないわね。未来ではカオスは老人になっていたのに、エリーゼとアイシャは外見が全く変わっていなかったわ」

「ふむ、そうか」

 と、カオスが私たちに視線を向けて来た。

 

 美神たちのせいで私たちが不老長寿になっている事がばれてしまったので、その辺りを上手くごまかさないといけないね。面倒な事です。

 

「確かに私たちは独自の延命処置を施しているけど、それはカオスとは異なる方法を用いているからその違いの所為でしょうね」

 と、答えておいた。

 

 その際に、延命処置の内容を聞かれたが、「秘術だから答えられない」と、突っぱねておいた。いくらなんでも異世界のナノテクノロジーによって延命処置を施されているとは言えませんよ。

 

 幸いこの時代の錬金術師や魔女たちも本当に切り札と言える秘術は他人に教えないのが当たり前だったので、私の言葉が受け入れられた。

 

 ここでバロンに仕掛けられた立体映像投射機によって、ヌルが出てきてカオスと会話になった。ヌルはカオスを勧誘するが、カオスはマリア姉さんの言葉を聞いて人情を優先して、それを断った。その時に、美神がカマをかけてヌルが魔族である事を暴いた。

 

 

 

 ちなみにヌルとの戦いでは美神と横島だけでなく私とアイシャも加わって激しい戦闘をやりました。ヌルは魔族一術に長けるというだけあって手強く、おまけに本来魔族は人間界ではほんの一部の力しか使えない筈なのにヌルは地獄炉のバックアップを受けて人間界でも全力で戦えるのでかなり面倒だった。

 

 カオスが地獄炉を停止した事で一気に逆転してヌルを倒すことに成功したものの、力不足を痛感したものです。

 

 私とアイシャはチート能力から人間の限界を超えた200マイトもの霊力を保有していたが、ヌルは強かったのでかなり苦戦した。まぁこの世界では人間よりも動物の方が霊力が高かったりするし、そもそも人間の霊力限界値というのもかなり低いから、本当に面倒だよ。

 

 それはともかく、これでヌルは倒されて領地の平和が戻りました。美神たちもカオスによって無事に未来に送り返された。最もその際に美神がカオスの所蔵品をちゃっかり盗んでいたのは余談である。




解説

■鶏が先か、卵が先か
 これは因果性のジレンマで、平たく言えば「ニワトリとタマゴのどちらが先にできたのか」という問題である。

■カオスの延命処置
 ドクター・カオスは古代の秘術を使って千年以上生きている。最も常人よりは遥かに遅いが老化しているので、その秘術は完全な不老になるというワケではない。

■マイト
 霊力の強さを表す単位で、100マイト辺りが人間の限界であるが、エリーゼたちはそれを大幅に超えている。


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5.白魔女

 ヌルを撃退した後、カオスはヌルの残した施設をぶんどって研究に励んでいて、私も金稼ぎに励みつつもカオスと共同で研究をすることになったが、真っ先に私たちとカオスがやった研究は脳の記憶容量の克服だった。

 

 通常、常人は脳の三分の一も使いこなせずに人生を終わらせるものだが、稀代の錬金術師であるカオスは全盛期の現在では脳を完全に使いこなしている状態だった。

 

 しかし、人間の脳には容量の限界という物がある。その為、原作ではカオスはこの脳の限界により物覚えが悪く、過去の知識や技術をトコロテン式に忘れてしまっていて、ガラクタしか作れない状態にまで落ちぶれていた。

 

 実のところ、カオスの記憶力に関しては私たちも大いに悩んだ。カオスにこの問題を指摘して対策するようにするか、それともそれを無視して原作通りにするか。

 

 その結果、私たちはカオスにこの問題を指摘して、これを解決するために一緒に研究しようと持ち掛けた。

 

 やはり何だかんだといってもカオスとは付き合いが長いし、それなりに良好な関係である。そんなカオスが後々に困る事になると分かっているのに知らんぷりをするのはあまりにも薄情だからね。

 

 ここで記憶容量の克服と言ってもいろいろと案がある。

 

 ミサカネットワーク(とある魔術の禁書目録)をヒントに複数の人間の脳をネットワークで連結させるという方法もあるが、これは非人道的なので却下した。

 

 結局、パソコンの外付けHDD(ハードディスクドライブ)のように外部補助記憶装置を作ってその装置にカオスの記憶をコピーしてリアルタイムで連結するという手段が採用された。

 

 

 

 ちなみに私を含めたトリッパーの場合は脳の記憶容量はたいした問題にならない。というのも記憶というのは脳だけでなく魂でも憶える事ができるからだ。

 

 少し考えれば分かる事ですが、脳は肉体が経験した事を記憶する仕組みになっています。

 

 つまりその体が経験した事のない事は覚えられないわけです。そうなると私達トリッパーが前世の記憶を持っている事が説明できないが、その穴を埋めるのが魂の記憶です。といっても誰でも魂の記憶を使えるわけではなく、肉体を持たずに魂だけで存在する者やトリッパーとかでないとまともに使えません。

 

 普通は魂を持つ生物が死亡した場合は転生するが、その魂の記憶は消去されるか、封印されるかされる(その辺りはそれぞれの世界によって異なる)。

 

 しかし、トリッパーの場合はその記憶を維持したままで下位世界にトリップして転生か憑依をするので前世の記憶を使えるし、その影響もあって魂の記憶を使いこなせるようになるのだ。

 

 この魂の記憶は意外に便利で、脳の場合は容量に限りがあるのでカオスの様な問題が発生するが、魂の場合は容量が桁違いなのでシドゥリのようにやたらと長生きしているトリッパーでも問題にならないのです。

 

 

 

 その次に行われたのが人工霊魂の生成でしたね。

 

 試作M-666はすでにほぼ完成状態で、後は人工霊魂の問題だけでしたから、その理論も私たちとカオスが協力して実用化しており、無事に成功しました。

 

 原作ではマリア姫の死後にM-666を彼女と同じ顔と名前にしていましたが、どういうわけかこの世界では比較的早くマリアが完成しました。といっても本格的な起動はかなり後にしてしばらくお蔵入りするそうです。

 

 流石に今の時点でマリア姉さんと同じ顔と名前の女性型ロボットを大っぴらに動かすことはできませんからね。

 

 まぁ私たちとしては共同作業でM-666の製造技術や人造霊魂のノウハウも手に入れられたので大いに有意義だったし、カオスも当時はあまり力を入れていなかったソフトウェア分野は私たちの協力でかなり向上しているので、お互い得るものが多かったです。

 

 おかげでマリアは原作よりも感情が豊かで人間に近い状態になりました。

 

 

 

 そして私たちは別に研究ばかりしていたわけではありません。折角GS世界にいるのだからと、魔術だけでなく霊能の訓練もしています。ぶっちゃけると領内の除霊は積極的にやっていますし、白魔術などを使い日照りの時は雨乞いをして、怪我人や病人がいれば治療をしたりもしました。

 

 魔女だけに大鍋でトカゲなどを煮て薬を作ったりもしましたよ。というか魔女の知識は直接戦闘よりもそういう物が多いですね。

 

 おかげで私たちは優秀な白魔術を使う魔女として領地だけでなく近隣諸国にも知れ渡るようになり、周囲の圧力が怖くなりましたよ。

 

 まぁこれを克服するために国内や近隣諸国の有力者(特に力を持つ王侯貴族など)の怪我人や病人を助けてあげたりして、恩を売りまくりました。

 

 中には魔法でどうにかできない場合もあって、監察軍の医療技術を白魔術と偽って治療に使用した事すらありましたが、これが大いに役に立ちました。

 

 誰だっていつ自分や家族が病気になるか分かりません。そうなると極めて優秀な白魔術の使い手を安易に排除できないわけです。

 

 こうした地道な活動が実って、私とアイシャの名は欧州に広く伝わる様になりました。何時しか私たちは13世紀最高の白魔女姉妹と呼ばれるようになりましたね。

 

 ちなみに魔女になった上に不老である私達は結婚することなく、マリア姉さんが有力な貴族の次男を婿に迎えました。元から高齢だった父が亡くなってからは夫婦で領地を経営しています。

 

 マリア姉さんはカオスを愛しているようですが、限りある命しかない自分ではカオスの負担になると原作でもカオスのプロポーズを断っていますが、跡取り娘であるから後継者を産む義務があるので、この辺りはマリア姉さんも大変ですね。

 

 

 

 そして時間が過ぎていき五十年程たった1294年にマリア姉さんが亡くなりました。この時代からすれば寿命と言えるほど長生きしていますが、これには不老となった私達との違いがはっきりと認識させられました。

 

 正直言って、もうこの世界で吸収できる知識や技術は少ないし未練もありません。それに、新たに領主となったマリア姉さんの孫は熱烈なキリスト教徒でカトリックの教えからはみ出ている物をやたらと敵視する困った小僧です。

 

 当然ながら私達やカオスとの仲は最悪で、これにはカオスも嫌気が指して私たちと同じくこの領地から出ていくことにしたそうです。

 

 こうして私たちはカオスと別れを済ませて、この世界から去りました。

 

 後に聞いた話ではこの馬鹿孫は私の知識を悪しき物として排除したため、四周期輪作を止めて昔からの農業に戻して、サツマイモ、ジャガイモ、トウモロコシなどを魔女がもたらした物として排除した為に欧州から失われることになったそうです。

 

 実はこれらの農法や作物は歴史に与える影響が大きいから余所に広めずにうちの領地だけでやっていたので、この愚行で一気にすべてを失う結果になりました。

 

 この結果、欧州の地で再び四周期輪作が行われて、サツマイモ、ジャガイモ、トウモロコシなどがもたらされるのは後世になってからになりました。

 

 もしかしたら、これも時空の復元力の働きかもしれませんね。まぁ今となってはどうでもいいですが。




解説

■人造人間 試作M-666
 後の女性型ロボットのマリアで、世界初の人工霊魂の成功例。

■白魔術
 好ましい目的で使われる魔法や魔術。一般的に恋愛成就、雨乞い、豊作祈願、紛失した物を見つけ出す、壊れた物を修復する、病気を治療するなどといったものが該当する。


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スレイヤーズ
6.魔道都市(サイラーグ編)


※6は、『スレイヤーズ』の世界が舞台になっています。


 魔道都市サイラーグ近郊に私とアイシャは転移した。

 

「あれが魔道都市と呼ばれていた頃のサイラーグですか」

「そうみたいだね。まぁここにいても仕方ないから実際に行ってみようよ」

「ええ」

 

 流石に街中で転移するのは人目に付きすぎるのでサイラーグ近郊に転移したが、その為これから街に入らないといけなくなった。

 

 サイラーグ・シティに入り、私とアイシャは前回と同じ中世ヨーロッパ風の街並みを眺めていた。この手の街並みは13世紀の欧州で見慣れているが、やはり異世界なために違いはそれなりに目につきますね。

 

 

 

 このサイラーグ・シティはライゼール帝国のほぼ真ん中にある街で、原作では巨大な神聖樹フラグーンが街のシンボルとして存在している。まぁそのサイラーグは、魔獣ザナッファーやコピーレゾに壊滅させられ、その後は冥王フィブリゾによって死者たちが住まう渾名通りの死霊都市にさせられて、さんざん不幸な目に合っていた。

 

 そんなサイラーグであるが、原作の120年ほど前に魔獣ザナッファーに滅ぼされるまでは魔道士協会の本部がある事から魔道都市と呼ばれているほど魔道が進んだ街だった。

 

 残念ながらサイラーグにあった魔道士協会本部が崩壊した後は、新たに魔道士協会本部が建てられることもなく、各地域の魔道士協会支部がてんでバラバラに活動している状態になっていた。

 

 それだけにこの世界の魔術を学びたいのならば、魔道都市時代のサイラーグに行ってみるのがおすすめです。

 

 ちなみに私たちがこの世界を選んだのは、この世界の魔術がかなり強力だからです。実のところGS世界の魔法は霊力に依存しているだけに、基本的に霊力の低い人間では不利なんですよ。確かに私たちは人間の限界を超えた霊力を持っていますが、それでも高が知れています。

 

 とてもじゃないが、この世界の竜破斬(ドラグ・スレイブ)みたいに魔法ひとつで街を壊滅させる事など不可能です。

 

 そういう事で、私たちは原作開始の200年ほど前のサイラーグ・シティに来たわけです。

 

 

 

 ここで「まったく異なる異世界に来たら読み書きどころか会話すらできないだろ!」と、突っ込む方がいるかもしれません。

 

 しかし、私たちには【理解】というチート能力があります。

 

 街中で人々の話声を時間をかけて聞いていれば言葉を理解してこの世界の言葉を使いこなせるようになり、本屋に行っていくつかの書物を早読み(本のページを軽くめくる。その際に【分割思考】と【高速思考】を併用すれば一冊に付き数秒程度で可能)するだけで文字を理解して使いこなせるようになった。

 

 本当にこの能力は便利です。前世でこんな能力を持っていたら、外国語の習得に四苦八苦している世の学生さんたちから嫉妬されていたでしょうね(汗)。

 

 

 

「それでどうするの?」

「やはり魔道士協会に行きましょう。さっさと魔術を学びたいですから」

 

 魔道士協会とは魔術を習得したい人たちの為に設立された組織で、魔道士になりたい者から授業料をもらって講義をしたり、所蔵している魔道書等の書物を閲覧させたりしています。

 

 最も悪用者が続出しかねないから、教えてくれるのは理論や概念のみで専門学校みたいな感じらしい。

 

 そんなわけで魔道士協会にお金を払い、魔術を学ぶことにしました。その予算に関しても金塊や宝石類を大量に持ち込んでいるから問題ありませんよ。

 

 何でそんな物を持っているのかというと、実は監察軍の原子配列変換技術を用いれば金や宝石類などはいくらでも量産できるからです。そうなると、金塊もそこいらの石ころと同じ程度の価値しかありませんし、宝石もガラス玉のようなものです。

 

 そんな物を持ち込んで資金にしているのは悪辣に見えるかもしれませんが、これらはれっきとした本物で、この世界ではちゃんと価値があるので倫理的には問題なかったりします。まぁ、この世界の金や宝石の流通量が若干増えた所でたいした事はないでしょう。

 

 

 

 原作ではリナが親に頼んでかなり幼い時から魔道士協会で魔術を学んでいたようだったので、もしかしたら他は年少の子供ばかりかもしれないと思っていましたが、実際に講義を受けていた人たちは子供の他にも私たちの外見年齢(15歳)と同じぐらいの人や大人も結構いましたね。

 

 よくよく考えてみれば、ある程度成長してから魔道士になりたいと思った人や、親のお金ではなく自分で授業料を稼いで講義を受ける人がいても可笑しくありませんね。

 

 ここで理論や概念だけでなく、魔道書などの書物を読むことができたのは好都合でした。ここは魔道士協会本部というだけあって協会付属の図書館の規模が大きくて並の人間では生涯をかけてもこれを学習しきることは出来ない程でした。勿論、並の人間ならば、という但し書きがつきます。

 

 私たちはこれを一ヶ月も掛からずに制覇した。いや一ヶ月近くもかかったと、逆にこの図書館の規模を褒めてあげていいでしょう。

 

 魔力に関しても私たちの魔力容量(キャパシティ)はどうも人間離れしているようで、「まるであのレイ=マグナスのようだ」と講師たちからは凄まじい評価されて早々と卒業することになりました。というか私たちの学習能力が高すぎて飛び級みたいな感じになってしまいましたね。

 

 後は実践と、覚えた魔術を片っ端から試しまくりましたが、どうも私たちは魔力容量が大きすぎて手加減しないと過剰攻撃になってしまうようですね。

 

 そんなわけで魔術の強弱やアレンジ、更にはオリジナルの魔術の開発など50年ほどやって大体満足できる程の実力を付けたので、この世界から立ち去る事にした。

 

 

 

 余談として、50年の間にこの世界にあったダークスターの五つの武器の一つ颶風弓(ガルヴェイラ)を回収して研究しました。どうやって手に入れたかって?

 

 まず、衛星軌道上から豪雪地帯にある半球状の建物を検索して探し当てました。

 

 人間では解除が難しい厄介な竜族の結界にしてもN2爆弾(新世紀エヴァンゲリオン)を設置して建物ごと結界を爆破処理。

 

 エンシェントドラゴンが仕掛けた最後の結界だけは破壊できませんでしたが、そこは神滅斬(ラグナ・ブレード)で破り、ガルヴェイラをゲットしたわけです。

 

 こんな過激な事が出来るのもガルヴェイラが武器の形をしていてもれっきとした高位魔族であるからだ。純粋な物理攻撃であるN2爆弾ではガルヴェイラを破壊できませんから自重せずに済みました。

 

 ダークスターの五つの武器が有する使用者の意志力を増幅して光を生み出す能力や、魔術を桁違いに増幅する機能は興味深かったので徹底的に研究して、これらのデットコピーを作れるまでになりました。

 

 流石に高位魔族そのものであるオリジナル並みの機能は無理だったが、それでも十分満足のいく物に仕上がったので大満足ですよ。

 

 流石にガルヴェイラをこのまま持ち帰るとスレイヤーズTRYのブレイクになってしまうから置いていきましたけど、本当は持ち帰りたかったですね。




解説

■魔獣ザナッファー
 本来は魔法を防ぐ封魔の鎧だったが、異界黙示録(クレアバイブル)の不完全な知識で作られたために人間を取り込んで魔獣に変化してしまうという欠陥品になってしまった。

■コピーレゾ
 現代の五賢者の一人、赤法師レゾのコピーであると同時に魔族との融合体(恐らくキメラ)である為に人間離れした魔力容量(キャパシティ)を持っていた。彼の使う魔術の威力はサイラーグを一撃で壊滅させたほどである。

■冥王フィブリゾ
 原作第一部のボスキャラで、コピーレゾによって殺されたサイラーグの住民に仮初の命を与えて生ける死者にしていた。

■竜破斬(ドラグ・スレイブ)
 魔王シャブラニグドゥの力を借りた人間が使用可能な最強の黒魔術(重破斬は規格外な魔術である為に例外)。ドラゴンを一撃で殺すことができるほどの魔法で、これを筆頭にこの世界の魔術はかなり強力である。

■レイ=マグナス
 原作の千年前の伝説の魔道士。降魔戦争の時に彼の中に存在していた七つに分かたれて封印されていた魔王シャブラニグドゥの一つが復活した。

■ダークスター
 異世界の魔王で五つの武器を作り上げた存在。TRYで登場。後のロストユニバースではダークスターとその五つの武器は神話として語られており、その当時開発された兵器の名称にその名が使われている。

■颶風弓(ガルヴェイラ)
 光の剣(正確には裂光の剣)と同じくスレイヤーズの世界に存在していたダークスターの五つの武器の一つ。そのあまりの破壊力をエンシェントドラゴンたちが恐れた為に彼らの神殿で封印される事になった。

■スレイヤーズTRY
 スレイヤーズのアニメ第三期。アニメオリジナルストーリーなので原作とは内容が違う。


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ゼロの使い魔
7.系統魔法(ハルケギニア編)


※7は、『ゼロの使い魔』の世界が舞台になっています。


 スレイヤーズ世界から引き上げた私とアイシャは、次の行き先を原作が始める30年前の『ゼロの使い魔』の世界にした。

 

 ゼロの使い魔の舞台となるハルケギニアに存在する魔法は系統魔法に先住魔法の二つだ。例外として虚無魔法があるが、これは例外的な物であるため無視して構わないだろう。

 

 先住魔法は基本的にエルフなどの亜人たちが使う魔法で、仮にエルフや亜人たちに教えてもらうにしても現地の人間と彼ら亜人との関係はお世辞にも良好とは言えず、それが困難であることは原作を見れば容易に想像できる。

 

 しかし、系統魔法は人間が使う魔法である為、この世界の人間に溶け込んで学習すれば比較的簡単に習得できる。

 

 そういうわけで、早速ハルケギニア諸国の一つ帝政ゲルマニアに行くことにした。

 

 ここで何故ゲルマニアにしたのかというと、ゲルマニア以外の国では貴族と平民との格差が酷くて、それが原因で余計なトラブルが発生するのを避けるためだ。このゲルマニアが比較的マシなのは平民でもお金があれば貴族になれるという制度のおかげだろう。

 

 原作ではルイズなどは「金で爵位を買う野蛮な国」とゲルマニアを蔑視していたが、お金があるという事、つまりお金を稼ぐ能力があれば上に成り上がれるという実力主義な体制で為、貴族と平民の壁が低く、トリステインのように過剰なまでに平民を蔑視していない比較的健全な国家だ。

 

 少なくとも生まれだけで、すべてを決するよりはいい。というかトリステインの貴族とか門閥貴族(銀河英雄伝説)みたいに歴史と伝統ばかり主張して腐敗していた連中ばかりだよ。

 

 歴史と伝統に価値がないとは言わないけど、それをこだわり過ぎると碌なことがないからね。

 

 ここで二次小説とかならば爵位を買って貴族になり原作介入と行くのですが、私たちはそうはしません。何故なら私たちは領地経営がしたいのではなくて系統魔法を学びたいだけだから、そんな無駄な事はしません。

 

 今回は唯の大富豪として動きます。まず『スレイヤーズ』の世界のように言葉と文字を理解して、この世界に適応する。この辺りは最早テンプレですね(笑)。

 

 次に金塊をこの世界の通貨エキュー金貨に代えて、生活しながらこの世界の常識を学ぶ。と同時にこの世界の魔法関係の書物を買い集めて系統魔法の学習を始めました。

 

 幸い私とアイシャはこの世界の系統魔法にも才能があったようで、比較的簡単に杖と契約をかわしてコモンマジックを習得して系統魔法に入った。

 

 

 

 こうして五年で四系統魔法すべてスクウェアに到達した。

 

 この世界のメイジ(この世界の魔法使いの名称)の使う魔法は私たちの基準からすればたいした事はない。どうもスレイヤーズの魔法よりも効率が悪いようですね。派手さに欠けるというか、何かちゃちというべきかとても微妙です。

 

 しかし、錬金と固定化は応用の幅が広く比較的有意義でした。何せ科学知識が豊富な私たちが錬金を使えば自力で様々な資源を調達できますし、固定化を使えば劣化しやすい書物や道具などをそのままの状態で保存できる。特に精密機械の保管には便利ですね。

 

 それで今やっているのがさまざまなマジックアイテムの解析です。

 

 私たちの【理解】は触った道具の構造を理解できます。つまり触るだけでその道具がどういう材料を使っていて、どういう工程で作られているのかが分かります。まるでどこかの赤い弓兵みたいですが、それだけにマジックアイテムから技術を収集する事もできます。

 

 折角なので、ついでに私たち専用のマジックアイテムを作る事にした。

 

 元ネタ繋がりで、私は雪村 涼乃のワンドに似せて弓型のマジックアイテムを作り、アイシャは緋宮あやりのワンドに似せてショットガン状のマジックアイテムを作りました。

 

 この二つのマジックアイテムはスレイヤーズの世界で解析した颶風弓(ガルヴェイラ)のデータを元にしたので、意志力や魔法を増幅する機能があります。

 

 私のマジックアイテム〝フライシュッツ″は光の矢を射る弓で、アイシャの〝エトワール・フィラント″は光の散弾を打ち出すショットガンという感じです。

 

 ちなみにマジックアイテムですが、すべてお金で穏便に集めましたよ。フーケじゃあるまいし強盗なんかしません。世の中お金があれば大概の事はできます。

 

 まぁそうこうしている内にあっという間に原作開始の時期になったので、この世界から撤退することにしました。

 

 もうこの世界で得られるものはないでしょうし、一々原作介入なんかするつもりもありませんからね。

 

 

 

 それと重要な事としてこの世界でスレイヤーズの魔法を一通り試してみたら全部使えました。それも精霊魔術も黒魔術も関係なく(汗)。

 

 精霊魔法はこの世界にも精霊がいることから不思議に思いませんでしたが、魔族の力を借りる黒魔術が使えたのは驚きでした。

 

 死神の説明によるとこれが【固有世界観】の効果らしい。

 

 そもそも世界観の壁というのは私達トリッパーに重くのしかかるもので、特に私たちのような世界観の影響をもろに受ける魔法を主体とするトリッパーには死活問題なんです。 

 

 正直【固有世界観】があって本当によかったと思いましたよ。といってもこの能力にも制限がある。

 

 自分に都合のいい世界観と言っても、本人がその世界観をきちんと把握していないといけないので、実際にその世界に赴いて現地の魔法や魔術を習得していく事で現地の世界観を把握していく必要があるそうです。

 

 つまり今の私が『ファイナルファンタジー』の魔法を使いたいと思っても使えません。『ファイナルファンタジー』の世界には行った事がありませんし、あの世界の魔法を使った事もありませんからね。その為、自分でいろいろな世界に行って直接現地の魔法を習得していかないといけないわけで、これが私とアイシャが現在やっている事です。

 

 正直な話、【創作物に出てくるありとあらゆる魔法や魔術などを無制限に使用可能】とかいうチート能力があれば、一々現地で学習なんかしなくても様々な世界の魔法を使えるわけですが、死神によると、そんな楽をすると本当の意味で各世界の魔法技術を習得できないし、チート能力に胡坐をかくだけのトリッパーになってしまうからダメだそうです。

 

 確かにチートに胡坐をかくだけのトリッパーになるのもアレなので、多少の苦労は仕方ないでしょうね。それにチート能力のおかげで他人よりも遥かに効率的に魔法を習得できていますし、恵まれた才能も有ります。これで文句を言ってたら贅沢者でしょう。




解説

■エルフ
 ゼロの使い魔にもエルフが存在しているが、人間との関係は極めて悪く、エリーゼも彼らと関わるつもりはない。

■赤い弓兵
 型月世界の英霊エミヤの事。

■フーケ
 原作のトリステインで様々なマジックアイテムなどを盗んでいた大泥棒。

■ファイナルファンタジー
『ドラゴンクエスト』と双璧をなしているRPGの超有名シリーズ。


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ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…
8.職業(上の世界編)


※8は、『ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…』の世界が舞台になっています。


 ゼロの使い魔の世界から撤退した私たちは休養を兼ねてしばらく監察軍本部でニート生活をしていた。といっても本当に怠けていたワケではなくて、仲間とのコミュニケーションを取る事や、次の世界に行く準備をしていた。

 

 幸い監察軍にはトリッパー専門の娯楽施設を兼ねた各種原作資料のレンタル施設があり、そこで私たちは最近SFC版『ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…』とその攻略本をレンタルしてやりこんでいます。

 

 そう、私たちが選んだ次の世界はドラクエⅢなんですよ。

 

 実のところ、前世ではオリジナルのファミコン版を少しやった事があるけど、リメイクされたSFC版はやった事がなかった。更に言えばファミコン版もちゃんとクリアまでやっていないから原作知識が中途半端だ。

 

 監察軍では以前はこういう場合は苦労したそうですが、近年では原作知識を得る為の資料とその為の施設が充実してきたので、改めて原作知識を知る作業が楽になりました。その為、攻略本を読み込んでゲームをプレイして、ドラクエⅢの原作知識を身に着けています。

 

 言うまでもなく、この手の原作知識というのはトリッパー達の利点なのでしっかりやらないといけませんからね。

 

 これまで原作知識を利用して最大限に利益を得つつも、危険を見事に回避できたのも原作知識が役に立ったからです。だから情報(原作知識)がいかに大切なのかは、私たちも十分に理解しています。

 

 そんなこんなで、私たちは原作開始16年前のドラクエⅢの上の世界に来ました。ドラクエⅢは上の世界と下の世界(アレフガルド)の二つの世界が舞台になっていますが、私たちは上の世界で活動します。

 

 ちょうどこの時期は魔王バラモスが上の世界に侵攻してきてアリアハンの勇者オルテガがバラモス討伐の旅に出かけた所です。

 

 さて、この世界はゲームの内容をそのまま具現化した下位世界ですが、ちょっと勝手が違うところがあります。具体的には職業がそうです。

 

 ゲームでは主人公が最初から勇者になっていて転職が不可能な状態になっている上に、仲間もルイーダの店で簡単にパーティ編成できるので分かりづらいですが、誰も最初から職業についているわけではありません。ましてや異世界からおとずれた私達なんかは無職状態です。つまりプー太郎ですね(笑)。

 

 では、どうやって職業に就くのかというと、ここで出てくるのがダーマ神殿です。

 

 てっきり転職する時以外はようがないと思っていましたが、ダーマ神殿に行って最初の職業を決めないといけないらしいです。

 

 ここで職業を決めて初めて冒険者になれて、そうした人たちがアリアハンにあるルイーダの店に出入りしているというわけですね。

 

 とにかく、職業を決めないと経験値稼ぎもできないので、私たちは始まりの街に相当するアリアハンをすっ飛ばしていきなりダーマ神殿に転移した。

 

「さてと、アイシャ最初はどの職業にする?」

「そうだね。転職の組み合わせも考えないといけないから悩みどころだね」

 

 この世界では、ドラクエの呪文を覚えようと思っています。この世界の魔法はゼロの使い魔みたいに発動体が必要だったり長々と呪文詠唱があったりしないので、実戦向きですね。おまけにベホマは呪文一つで完全回復できたりするので使い勝手はいい。

 

 ただ残念なのが、この世界の蘇生魔法は私たちトリッパーには効かない事ですね。下位世界の人間なら死んでも呪文一つで蘇る事が出来るのですが、私たちの場合は中々上手くいかないからゲームみたいに死んでも王様が生き返らせてくれるなんて事はありません。

 

 つまり死んだらおしまいですね。どこかのVRMMO物で有名なデスゲームみたいな状態ですよ。だからこそ無茶はできない。蘇りが当たり前のRPGの世界ですが、これまで通り慎重にやりますよ。

 

「やはり遊び人→賢者に転職という形かな?」

「でもさ。その前に盗賊→武闘家→戦士というのも捨てがたいよ」

「確かにそうですね。じゃあ盗賊→武闘家→戦士→遊び人→賢者という順にしようか?」

「そうだね」

 と、アイシャが承諾したので最初は盗賊にした。

 

 ドラクエⅢの転職システムを利用すれば、戦士になれば剣や斧を使った戦闘ができるようになるし、武闘家になれば素手での戦いを鍛えることができる。いずれも私たちに不足しがちな近接戦闘能力の向上になる筈です。

 

 私たちはチート能力とこれまでの経験もあって、魔術師や魔法技術の研究者としては大賢者も足元にも及ばないほどになりましたが、接近戦の技量は凡人なんですよ。

 

 こればかりは地道に改善していくしかないので、この世界のシステムを利用してそこを鍛えるつもりです。

 

 それと盗賊というのは、この世界では役に立ちそうな魔法を覚えられるので最初の候補に入った。まぁ盗賊は能力が中途半端だから序盤はいいけど、中盤以降は使い勝手が悪いからレベル20になって魔法を覚えたらさっさと転職ですね。というわけで私たちは盗賊になった。

 

 

 

「これが盗賊ですか。何か今までと変わらないな」

「服装もそのままだね。まぁよく考えたら当たり前だけど」

 

 ゲームでは転職によって衣服だけでなく外見まで変わっているが、よく考えたら現実ではそうなる筈がない。

 

 ゲームでは分かりやすくするために変更しているだけで、この世界では職業が変わっても能力値が変動する程度の様で外見や服装とかは変わらないようですが、装備可能な武器や防具は職業によって決まるようなので、この辺りはゲーム遵守だね。

 

 私とアイシャはともに職業は盗賊なので、盗賊二人組のパーティという事になる。普通に考えたらバランスが悪いが、私たちの場合は異世界の様々な魔法が使えるので、それを補う事は簡単だった。

 

 本当は他にも仲間を入れた方がいいけど、私たちの使う魔法はこの世界に存在しない物であるため、人目につきたくないので、二人編成のパーティをやる事にした。

 

 ちょっと心もとないけどオルテガなんかは一人でやっていたからそれよりはマシだろう。

 

 こうして私たちは異世界の魔法を使いながらレベルアップに励むのだった。

 

 

 

 そんなわけで、私とアイシャは盗賊でレベル20になると、武闘家になってまたレベルアップに励んだ。

 

 この時には格闘戦の経験を積んでおきたかったので、戦闘中は出来るだけ格闘で戦い、レベル20になると戦士に転職して剣や斧での戦闘をやりこんで、レベル20になると遊び人に転職した。

 

 正直これまで魔法ばかりで近接戦闘は殆どやっていなかったんですよね。戦闘にしても長距離殲滅が主体でしたし、仮に目視距離の戦闘になっても白兵戦は避けていました。

 

 これまでは固定砲台として力をふるっていたわけですが、今後の事を考えると「接近されたらおしまいです」ではやっていけないので、ここは苦労してでも近接戦闘を身につけないといけない。

 

 最も武闘家や戦士の戦い方となると、私たちのチート能力による補正の対象外ですから、これまでのような急成長なんてできずに四苦八苦する日々でしたね。といっても死んでしまったら元も子もないので、安全マージンを取るためにレベルが低い時はスライム相手に頑張っていて、徐々に強い相手と戦うという本当に慎重な戦いをやっていました。

 

 こうして苦心の末に接近戦の修練をやって遊び人になったので、これからは効率重視のレベルアップに切り替える事にした。

 

 この世界には塔や洞窟などにモンスターがいる。通常はそこに潜ってモンスターと戦いレベルアップに励むが、私の場合は竜破斬(ドラグ・スレイブ)で塔や洞窟を丸ごと潰した。他にもモンスターの集まっている場所とかにも超長距離から竜破斬(ドラグ・スレイブ)を打ち込みました。

 

 この世界はモンスターを殺せば経験値を得てレベルアップするという世界観なので、この反則的な行動でも経験値が手に入った。

 

 この場合、その場のモンスターたちをすべて倒した事になり、大量の経験値が得られるのだ。たった一回でレベル20を超えたので役に立たない遊び人を卒業した。

 

 正直RPGの世界観をガン無視している行動ですが、問題なくレベルアップできているので構わないでしょう。まぁ他のトリッパーとかには空気読めよと言われるかもしませんけど(笑)。

 

 そんなわけで、とうとう念願の賢者に転職しました。

 

 この賢者は魔力が高い上に魔法使いと僧侶の魔法をすべて使えるという職業で、レベルアップが遅いという欠点があるけど、そこは効率よく経験値を得られる私たちにとってたいした問題にならない。

 

 ちなみにドラクエ3の転職システムは転職することでステータスが半分になる。私たちは転職を何回も繰り返したから、これまで得た能力も低下するのではないかと懸念していたが、実際に低下するのはこの世界の魔法を使う能力だけでしたね。

 

 つまり転職のデメリットは異世界の魔法を使う能力までは影響しないというワケです。

 

 しかし、反則染みたレベルアップのやり方で賢者としてレベルを上げまくっており、習得した魔法も一通り試してみた。こうしてDQ3の魔法は一通り習得しましたが、これからが私たちの真骨頂です。

 

 まず、『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』で登場したメドローアを初めとしたオリジナル魔法を片っ端から試してみました。これは私たちでも即座にできる事ではなく習得に数時間かかりましたよ。逆に言うとそれほどの事をたった数時間で出来たからすごいと言えるかもしれませんね。伊達にチートじゃありません。

 

 次に、『ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章』で登場した二つの呪文を組み合わせる合体魔法を試してみました。流石にこれには苦労するだろうと思っていましたが、私たちが高レベルの賢者であった為に、これらも多少の試行錯誤で習得することに成功した。

 

 漫画でも二つの呪文を合体させる事で威力がかなり強化された魔法や、特殊な効果を発揮する魔法とかもありました。とりあえず原作で登場した合体魔法の組み合わせは片っ端から試してみましたし、他にも私たちが思いついた組み合わせによっていろいろな合体魔法を作り出してみた。

 

 それと、忘れてはいけないのが世界樹です。この上の世界には世界樹があるので、私たちはそれを探し出しました。勿論、世界樹の葉も研究材料として興味深いものですが、もっと欲しかったのは世界樹の枝ですね。それは私たちの考えているあるアイテム作りの材料になるでしょう。

 

 本当は世界樹を伐採して丸ごと持ち帰るというのもありかもしれませんが、さすがにそれはやりすぎですし、恐らくそこまで必要としないと思うので、私たちは世界樹の一部の枝を切り落して回収して、ついでにその枝に系統魔法の固定化をかけておいた。

 

 こうして、楽しんでいると私たちがこの世界にきてから20年もすぎてしまい。主人公が魔王バラモスを討伐したという噂を聞くことになりました。こうなると、上の世界のモンスターも大人しくなりますし、もうこの世界で得る物はないので、この世界から引き上げる事にした。




解説

■各種原作資料のレンタル施設
『短編及び中編集』の原作知識で登場する各種施設。

■SFC
 スーパーファミコンの略称。

■盗賊
 SFC版で追加された職業なので、原作のファミコン版には登場しない。

■DRAGON QUEST -ダイの大冒険-
 オリジナルのドラゴンクエスト世界を描いた漫画作品。漫画であるためか、ゲームでは登場しないオリジナルの技や呪文なども登場しているが、後にそれらの一部は後のDQシリーズに取り入れられている。

■ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章
 ドラゴンクエストⅢの百年後の世界を舞台にした漫画作品。

■合体魔法
 大賢者カダル(ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章)が編み出した二つ以上の呪文を合体させる秘術。

■固定化
『ゼロの使い魔』に出てくる系統魔法の一つ。物品を長期間保管するのに向いていて、原作では太平洋戦争時のゼロ戦もこの魔法で劣化することなく保管されていた。


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Rance IV -教団の遺産-
9.魔法院(聖魔教団編)


※9~15は、『Rance IV -教団の遺産-』の世界が舞台になっています。


GI0344

 

 魔王ジルの暗黒の時代が終わり、魔王ガイによって人類は奴隷から解放されて三百年以上がすぎたこの時期、大陸の東半分を使う事を許された人類は多くの国家を建国した。その結果、人類社会はまがりなりにも秩序を築き上げていた。

 

 しかし、それらの国家を支えていたのは剣などの武器を用いた純粋な『力』で、後にこの大陸の文明の基幹となる筈の『魔法』は認められていなかった。その為、当時の人類社会は戦士が評価されている一方で、魔法使いは見下されていた。いや、それどころか人類圏で彼らはペテン師扱いなどの迫害を受けてかなり地位が低かった。

 

 そんな状況であるためにこの時代において魔法使いに対する人々の対応は冷ややかなものだった。

 

「おら、ペテン師風情が、俺たちの街に来るんじゃねぇ!」

 

 そういって街中で歩いていた魔法使いを殴る蹴るの暴行を加えている者たちも当たり前にいるぐらいだった。

 

 そして、その様な状況でも周囲の人間は関わりを避けて見て見ぬふりをしており、それを止めようとする者はいなかった。それが普通であったが、今回はそうではなかった。

 

「止めなよ」

 

 そんな彼らを止めようとしたのは、とんがり帽子を被っていかにも魔法使いと恰好の二人だったが、その二人がこんな街では見られないような絶世の美少女であった。彼女たちを見た男たちは欲望に染まったいやらしい笑みを浮かべた。

 

「おう、お嬢ちゃんたち魔法使いか?」

「お嬢ちゃんたちが俺たちの相手をしてくれるっていうのかい?」

 そう言って、彼らは少女たちに絡んだのだったが、相手が悪かった。

 

「爆裂陣(メガ・ブランド)」

 

 彼らは少女の魔術で吹っ飛ばされた。この爆裂陣(メガ・ブランド)は殺傷力が低いから、この手の輩を排除するのに重宝されていた。

 

「な、何だ! あれは!」

「魔法か!」

 

 しかし、街中だった事もあって大騒ぎとなった。

 

「お前さんたち来るのじゃ」

 

 それを見て、それまで暴行されていた魔法使い(よく見ればそれなりの老人だった)が、二人の手を掴んで走り出した。

 

 

 

「ここまで逃げれば大丈夫じゃ」

 

 老人とは思えない早さで移動した老魔法使いはかなり離れた場所でそう言った。

 

「それにしてもお前さんたち無茶をするのう。街中で魔法をぶっぱなすとはな。じゃが助けてもらったのは事実じゃから礼を言う。ワシはフリーク・パラフィン、見ての通り魔法使いじゃ」

「私はエリーゼ・ペルティーニ」

「アイシャ・ペルティーニ」

 と、私たちは名乗った。

 

 それにしてもフリーク・パラフィンですか。いきなり原作キャラと遭遇するとは奇遇ですね。まぁフリークはランス世界における魔法工学の天才でしたから、この世界の魔法技術を学習したい私たちにとって彼と会えた事は好都合ですね。

 

「フリークさん一つ聞きたいのですが、この世界では魔法使いが迫害されていますか?」

 

 原作知識では魔人戦争後に聖魔教団や魔法使いに対する反発から魔法文明に対する迫害が発生していたから、聖魔教団が登場する前の時代なら魔法文明は迫害されていない筈なのに魔法使いに対する扱いが酷いように感じたのだ。

 

「おかしなことを聞くのう。今は力が世界を支配しており、魔法は見下されているのは常識じゃよ」

 

 やはり、この時代でもそうなのか。私は面倒な事に舌打ちした。GS世界でも感じたが、こういう迫害は地味に厄介なんですよ。

 

「実は私たちは異世界から来た者ですから、この世界の常識に疎いのです」

「なんと異世界とな。にわかには信じがたいが確かに先ほどの魔法は異質な物を感じたな。あれが異世界の魔法なのか?」

 

 フリークはさっき使った爆裂陣(メガ・ブランド)の異常性に気付いたようだ。まぁこの世界にはあの系統の魔法はないし、基本原理が全く違うから魔法使いならば違和感があるのでしょうね。

 

「それで、私たちはこの世界の魔法を学びに来たのですが、フリークさんよろしければご教授願いたいのです。勿論代価としてお金をお支払いいたします」

 

 実際、金ならいくらでもあるので多少払っても問題ない。

 

「うむ、そうか。確かにお前さんたちからは凄まじい魔力を感じる。それだけの能力があるのならばワシらの魔法を覚えるのも簡単じゃな。なら引き受けようかの」

 と、フリークは快く引き受けてくれた。

 

 

 

 こうして、私たちはフリークから様々な事を学ぶことになったが、この世界でも私たちの魔法の才能は十分に発揮されて、これにはフリークも「これほどの天才が存在していたとは思わなかった」と言って魔法院に入学するように熱心に勧めて来た。

 

 魔法院というのは魔法使いたちの学校で、フリークはそこで講師をしているらしい。確かにフリークからこの世界の魔法の基礎を学んでいるが、それだけでなく魔法院で専門的に学んだ方がいいかもしれない。

 

 それに魔法院ともなれば魔法関係の書物も豊富だろうし、それから得られる知識も魅力的だ。

 

 こうして、私たちは魔法院に入学したが、入学試験の筆記と実技は共に最高で文句なしの入学だったことは言うまでもない。




解説

■GI0344
 ルドラサウム大陸で使われている魔王暦で、GIは第六代魔王ガイの略称。

■爆裂陣(メガ・ブランド)
『スレイヤーズ』の精霊魔術。地面を爆発で吹き上げる呪文。術者を中心に足元に波紋が広がり、土砂とともに吹き飛ばす。地面が剥き出しのところでないと使用できない。通常は殺傷能力は低いが、本編3巻及びアニメ第1期でコピーレゾが使用した強化版は竜破斬すら上回るほどの爆風を生み出した。殺傷力が低いのでリナが知り合いを吹っ飛ばすのによく使う。


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10.人造人間

GI0350

 

 魔法院を無事に卒業したが、私とアイシャは魔法院に残って研究をしていた。というのもこの世界の魔法技術はこれから発達することが分かっている為に研究現場から離れたくなかったからだ。

 

 そうそう、魔法院での学生生活ですが、同期に伝説の魔法使いM・M・ルーンがいましたね。私とアイシャそしてルーンは共に魔法レベル3の伝説級の才能であった為に三人とも生ける伝説扱いでした。

 

 ちなみに序列は私=アイシャ>ルーンの順番でした。意外かもしれませんが、この時のルーンはまだ若造に過ぎません。確かに魔力だけならルーンは私たちに次ぐ物がありますが、経験だけでなく制御や運用能力でも雲泥の差があります。

 

 私たちは伊達に百数十年もあちこちの魔法技術を学習しているワケではありません。それらの世界で習得してきた事やこれまで頑張って来た事は今の私たちの糧になっています。

 

 私とアイシャはフリークととても親しくしており、ルーンもフリークと歳の離れた親友という感じだったので、その繋がりで私たちとルーンもそれなりに関わるようになったのですが、どうもルーンは私を意識しているみたいで、ぶっちゃけると面倒な事にルーンは私に惚れています。

 

 ちなみに前世では男だった私たちは当然ながら男に抱かれる事には抵抗があります。だから性欲とかは自慰やアイシャとのレズプレイで処理している。

 

 ちょっとそこ、レズビアンなんて言うな! 百合は美しいんだよ。はっ、いけませんね。どうも電波が来てしまったようです。

 

 さて、話を戻しますが、そういう事から私に対する好意を気付いていないふりをしています。

 

 ルーンが告白でもしてきたらきっぱりとお断りするつもりなのですが、一向に告白してこないので膠着状態になっていますね。というかルーンは魔法の腕は確かですが色恋沙汰には臆病なようですね。

 

 私も切っ掛けがないからルーンをふりようがないですよ。まさかいきなり「あなたは私の好みじゃない」なんて言えませんからね。

 

 

 

 まぁつまらない事はそれでいいですが、現在私が研究しているのが人造人間です。それもただの人形ではなく人工的に生成された魂を宿した完全な人造人間の創造だ。

 

 この人工的に生成された魂というのはGS世界の人工霊魂の事で、私たちはあの世界でその技術を習得している。

 

 それで、この人造人間の試作品を私たちはすでに作っています。私が作った私の嫁にしてメイドであるリーラがそうで、リーラの素体は監察軍の技術で作られた人間の女性そっくりのアンドロイドです。

 

 このリーラの元ネタはリーラ・シャルンホルスト(まぶらほ)で、彼女の外見、能力、性格を可能な限り再現している。

 

 素体が素体なだけに、マリアのように見ればロボットと分かる外見ではなく、人間とまったく同じ外見(皮膚の感触も同じ)で風呂に入る事もできれば食事もできる。とどめに性交渉までできる完璧ぶりです(しかもあそこの具合は人間以上)。おまけに魂まで宿しているわけですから人間に限りなく近い人造人間と言えるでしょう。

 

 アイシャが作ったのはエーファ・ノイビル(まぶらほ)を元ネタにしたエーファ。このエーファは原作通りのドジっ子メイドですよ。

 

 この二体(二人?)の人造人間に共通して言える事は人間の女性に限りなく近いアンドロイドをベースにしている事ですね。マリアのように兵器を内蔵してロケットパンチができたりしません。戦闘能力も身体能力も人間並み何ですよ。というかマリアはどこか中途半端な気がしますね。

 

 人間を模した人造人間ならば戦闘能力など追求せずにトコトン人間に近づけるべきですし、戦闘能力を追求した人造人間ならば人間の外見を中途半端に模倣せずに戦闘に特化した外見を追求するべきです。

 

 まぁカオスはある程度人間を模していた方が人間社会の中で活動させるのに都合がいいと思ったかもしれないから、一概に間違いとは言い切れないか。

 

 さて、この二体を見てお気づきの人もいるでしょうが、私とアイシャではメイドの好みが違います。私はリーラのような美人で完璧メイドが理想なんですが、アイシャは眼鏡のドジっ子メイドが好きなんですよ。まぁ好みが分かれましたね。萌えというやつですね。

 

 言うまでもなく性格は少々改変していて、それぞれ主に対して服従するように設定しており、メイドとして家事だけでなく夜のベッドでも奉仕してもらっています。

 

 さて、このリーラの才能限界は100で技能レベルはメイドレベル2、エーファは才能限界が100で技能レベルはメイドレベル2です。

 

 ランス4で登場した人工生命体あてな2号は才能限界がレベル1だったのでまったく成長しませんが、私たちは人造人間にある程度の才能限界と技能レベルを設定することができます。

 

 実はランス世界の才能限界や技能レベルは魂に依存しているために、人工霊魂つまり人為的に魂を作る過程でその魂の能力をある程度調整できるようになりました。といえば簡単に見えますがこれはかなり大変な事で、私とアイシャがこの世界の魔法技術を取り込んで数年がかりでようやく実用化に成功した技術なんです。

 

 ちなみに空中都市を研究しているフリークはこの人造人間や人工霊魂に驚いていました。それも分からなくもありませんよ。魔法技術と理解不能な異世界の技術の融合体ですから常識をブッ飛ばすものです。

 

 そんな私達ですが、現在は戦闘用の人造人間の試作品を作っています。戦闘用なだけに外見は戦闘能力を優先させたもので、見た目は闘将とかなり似ている物になりそうですね。

 

 うむ、私たちの戦闘用人造人間と闘将はどっちが強いのか興味深いですね。闘将が実用化されたら試してみましょう。




解説

■リーラ・シャルンホルスト
 まぶらほ外伝に登場するメイド。メイドの愛好団体MMM(もっともっとメイドさん)の第五装甲猟兵侍女中隊の大尉(ハウスキーパー)。ドイツ人。常に冷静沈着で家事全般は勿論、介護から戦闘機の操縦、マネートレードでの利殖まで何でも完璧にこなすスーパーメイド。

■エーファ・ノイビル
 まぶらほ外伝に登場するメイド。階級は一等兵。ドジっ子で皿を割ることが多く、眼鏡を付けている眼鏡っ子。


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11.魔教団

GI0350

 

 ルーンは恩師であるフリークがすでにかなりの高齢で遠からず死ぬ事を憂いて、永遠の命の研究を行った。その際にルーンはフリークの研究の副産物であるネクロマンサーの技術を発展させて、人間の細胞を金属にすることで寿命を克服したバイオメタルを生み出した。

 

 ただこのバイオメタルは不完全な物で脳と眼球を金属に変えることしかできなかったが、フリークの機械人形を発展させた義体を使う事でこの技術を完成させた。

 

 当初フリークはこの人道に抵触する存在に抵抗を覚えたが、ルーンの説得によってバイオメタルによって機械の体を得ることに同意した。

 

 かくして、加齢よる有能な人材の損失を防いだルーンは次の目的を達成すべく行動を開始した。

 

 

 

GI0351

 

 当時すでに大陸有数の魔法使いであったルーンは世界各地から26人の選りすぐりの魔法使いを集めて魔教団を結成した。ここで原作よりも人数が二人多いのは私たちが魔教団に参加した影響だろう。

 

 ちなみにこの世界のルーンはM・M・ルーン(マジック・マスター・ルーン)と呼ばれることはなかった。これは明らかに私たちがルーンよりも格上だったからだ。その代わりに私がM・M・エリーゼと呼ばれるようになりましたよ。どうでもいいけど地味に原作ブレイクですね。

 

 この魔教団の目的は、世界に魔法を認めされて見下されている魔法使いたちの地位向上させる事と、人類に真の平和をもたらす事だ。その為に、魔教団は自分たちの力を見せつけるべく動き出した。

 

 

 

GI0352

 

 昨年結成されたばかりの魔教団は当時の大陸最強の国家、バルシン王国に宣戦布告した。

 

 100人にも満たない魔法使いの集団に過ぎなかった魔教団がバルシン王国に宣戦布告したことは当時の人々は愚行としてまともに取り合う事はなかった。とはいえ宣戦布告されたバルシン王国は小生意気にも自分たちに敵対した魔教団を殲滅すべく2万もの軍を動員した。

 

 しかし、戦場には魔法使いの姿は一人もいなかった。

 

「鉄の人形だと!」

 

 異様な敵の姿を見たバルシン王国軍総大将ボォルグ・ラウゼン・ストマウスはそう叫んだ。

 

 戦場にいたのは魔教団が満を持して投入した24体の鉄兵と100体の戦闘用人造人間レオンだった。このレオンたちは私が作り上げた鉄兵と同じ鉄の体を持つ前衛戦力だ。驚異的な事にすべてが格闘レベル2の技能レベルが与えられていた。

 

 このレオンシリーズは格闘レベル2と才能限界値が100とかなりの性能を誇るが、これを量産する際に一々秘術を用いて人工霊魂を作るのが面倒だったので、オリジナルのレオンの人工霊魂の波長をそのままコピーする事にした。

 

 その時ついでに妹達(とある魔術の禁書目録)のミサカネットワークを参考にレオンたちをネットワークで連結して経験を共有させる事にした。その為、レオンたちは戦えば戦うほどにレオンシリーズ全体の戦闘経験が蓄積されて強くなるのだ。

 

 更に今回の戦いでは関係ないだろうが、ハニーを参考にした人工霊魂の調整で彼らは無敵に等しい魔法抵抗値の高さを得ており魔法をほぼ無効化する「絶対魔法防御」の特性まで持っていた。

 

 原作では24体の鉄兵にすらかなわなかったバルシン王国であったが、今回はそれに加えて鉄兵など足元にも及ばない(レオンシリーズは最強の闘将ディオ・カルミスに匹敵する強さ)化け物染みた戦闘兵器が100体も加わっていたのだ。彼らはたまったものではなかっただろう。

 

 この戦闘の結果、バルシン王国軍は呆気ないほど容易く壊滅してバルシン王国は滅亡した。この信じられない結果に大陸では激震が走り、後にこの戦いは鉄兵戦争と呼ばれることになる。

 

 なお、この戦いで戦死したボォルグ・ラウゼン・ストマウスを初めとした多くの戦死者たちは魔教団によって後の闘将の素材として転用されることになる。

 

 しかし、私が言うのもなんだけどボォルグさんは哀れだね。戦争で殺された上に仕えるべき国を滅ぼされたのに、それを行った怨敵に闘将に改造されて絶対服従する事になるのですから。私が彼の立場だったらたまったものではないでしょう。

 

 プライドがボロボロで、死んだ方がマシですね。というか死んでからも絶対服従の魔法をかけられてこき使われているからマジ外道だね。

 

 穏健派のフリークなんかこの所業に眉を顰めているほどですよ(汗)。まぁ私からすればトリッパーでもない連中がどうなっても興味がないですけど。

 

 ちなみに魔教団は滅ぼしたバルシン王国跡地に魔都デトナ・ルーカを築いた為に、そこは後の魔法世界の中心として発展していく事になる。

 

 

 

GI0355

 

 魔教団は原作と同じように三年ほど戦争を続けて人類圏を統一した。といってもすべてが順調だったわけではない。特に唯一魔法が使える者として蛮人に味方した黒髪カラー(ハンティ・カラー)は鬱陶しいほど目障りだった。

 

 鉄兵は物理防御力は高いが魔法抵抗力は低い、これは鉄兵たちの素体が魔法が使えない蛮人だったから発生した弱点であるが、魔法レベル3の黒髪カラーに対してはかなり不味く、鉄兵がかなりやられてしまい戦争が長期化してしまったのだ。

 

 そこで私は戦闘用人造人間を投入することでケリを付けさせた。さすがのハンティも魔法が全く通用しない上に、そこいらの鉄兵とは比べ物にならないほど強い人造人間たちには手も足も出ず、かろうじて瞬間移動で逃げ出すので精一杯だった。

 

 こうした問題もあったが、概ね原作よりも上手くいったために魔教団の結成、鉄兵戦争、人類圏の統一などの時系列が原作よりも早くなった。その理由は私たちが大規模な資金援助や鉄兵の開発協力などをやったからだ。

 

 特に資金援助は大きかった。ルーンを初めとして魔法使いたちの多くは貧乏というほど貧しくなかったが、速やかに戦力を整えるほど裕福でもなかったのだ。

 

 いつの世も金の力は大きいよね。




解説

■魔教団
 後の聖魔教団の前身で、原作ではルーカ・ルーンとフリーク・パラフィンを含めた24人の魔法使いによって結成された。

■M・M・エリーゼ
 この世界のエリーゼとアイシャは魔法レベル3、神魔法レベル3、聖魔法レベル3、魔鉄匠レベル3と魔法関係でレベル3を四つも保有するというチートぶりで、原作で人類最強の魔法使いルーカ・ルーンもエリーゼとアイシャのチートには歯が立たなかった。

■ボォルグ・ラウゼン・ストマウス
 ランス4で登場した闘将。聖魔教団の魔法使いが施した闘将ディオと異なり絶対服従の魔法がちゃんと効いているので教団の理念にしたがって活動する真っ当な闘将の一体である。

■鉄兵
 ランス4で登場した闘将のプロトタイプ。原作ではたった24体でバルシン王国軍を壊滅されてバルシン王国を滅亡させた。

■黒髪カラー
 原作では魔法使いでありながら唯一蛮人に味方して魔教団をてこずらせた存在。しかし、この世界の魔教団には割と容易く叩き潰されています(死んでいませんよ)。


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12.闘神都市

GI0377

 

 人類圏を統一して22年が過ぎて頃に闘神都市αが完成した。これに伴い魔教団は聖魔教団と名を改めた。

 

 その聖魔教団七人衆に私とアイシャも名を連ねる事になりました。原作では五人衆だったがここでも変化してしまいましたね。

 

 そして魔人との戦争に備えて次々に闘神都市を建造することになったが、ここで少々揉めた。

 

 実は元々闘神は闘将と同じようにバイオメタルによって金属になった24人の幹部たちの脳を組み込む予定だったが、対象者たちはバイオメタル技術の永遠性に疑問視していたし、自分の肉体が消滅する事を嫌った為に、聖櫃に入り魂のみで生き続けるというミイラ化手段を取る事にした。

 

 しかし、実際には原作と同じで単にルーンの指令を受けて動くだけの傀儡にすぎず、闘神になった時点で元の魔法使いの意志は消滅していた。

 

 さて、闘神は聖櫃のミイラから遠隔操作される人形というわけであるが、闘神本体や聖櫃のミイラが破壊されたら闘神都市が崩壊してしまうという致命的な弱点があった。というか闘神は無敵結界を有する魔人と消耗戦をやらないといけないのにこの弱点は何だろうか?

 

 折角闘神を遠隔操作できるなら、蒼崎橙子(空の境界)のようにスペアの闘神を用意して現在使っている闘神が撃破されたらスペアの闘神を動かすといった行動もできる筈なのに、闘神がやられたらお終いなんて致命的すぎるでしょう。

 

 そこで私が考えた闘神都市は、空中都市そのものに人工霊魂を宿らせて、その人工霊魂に闘神を遠隔操作させるという物だった。

 

 これは人工魂(メタ・ソウル)の渋鯖人工幽霊壱号(GS美神 極楽大作戦!!)が屋敷そのものに宿り、更には自動車などに憑依するといった行動までしていた事を参考にした。

 

 こうなれば闘神都市そのものを破壊しなければ闘神都市は陥落しない筈だ。

 

 おまけに聖魔教団の人間にも言えないが、その闘神都市にマシンセル(スーパーロボット大戦α外伝)を注入すれば自己進化する上に自己修復機能も備えるようになるので、生半可な事では闘神都市自体を破壊する事はできなくなるだろう。

 

 しかし、これはルーンを初めとした幹部たちが難色を示した。そんな事をすれば聖魔教団の象徴であるすべての闘神都市が聖魔教団全体ではなくエリーゼとアイシャの戦力になりかねないからだ。

 

 人工霊魂の欠点は反逆防止の為に創造主に対する服従を組み込まないといけないので、それ以外の者の命令権がない事だった。

 

 この手の人工霊魂はテレサの事例もあって命令権を単純明確にしておかないと逆らいかねない恐れがあったので、こうなってしまったのだ。

 

 勿論、創造主が「私が次の命令を出すまで□□の命令に従いなさい」と指示しておけば命令権を一時的に他者に貸すこともできるが、最優先命令権がエリーゼとアイシャにある事には違いなかった。

 

 これが人造人間レオンシリーズが圧倒的に強いにも関わらず、闘将の需要がなくならない理由でもあった。

 

 こうした結果として、私から言わせれば欠陥品としか言えない闘神都市が計画通りに作られることになった。

 

 しかし、これでは心もとないので、私とアイシャが独自に異世界勢力に追加の闘神都市を作らせて、それを対魔人戦力として私たちが使う事を教団に了承させた。

 

 これは教団そのものに負担にならずに戦力増強になるのでルーンも認めたのだ。その為、私とアイシャは監察軍の施設を利用して異世界で計画外の闘神都市を建造した。

 

 ちなみに私とアイシャが異世界の魔法使いであることは幹部たちは知っていたので、この事はそれほど驚かれなかった。最も計画外の闘神都市の建造の代償に関しては気にしていたが、私たちの自腹で済ませると分かると顔を引きつらせていたね。

 

 

 

 さて、ランス世界の魔法文明は今の聖魔教団時代が絶頂期で、魔人戦争後は見る影もなく魔法分技術が衰退してしまっているから、私たちとしては可能な限り魔人戦争の開戦を先延ばしにして魔法文明を原作よりも発展させた方が得る物は多い。

 

 そういう事情もあって開戦を遅らせようと思うが、原作では魔人戦争の開戦理由はハッキリしていない。というもの聖魔教団から攻め込んだという説は、五つの闘神都市が未完成で闘将すら満足にそろっていないという準備不足の状態からすれば不自然だ。

 

 そうなると、聖魔教団が東側の残存していた魔物たち(ほとんどが下級モンスターと中級モンスター)を駆逐して西に追いやっていたのが魔人の怒りを買って、魔人に攻め込まれてしまったという説がもっともらしいから、無用の魔物狩りは控えた方がいいでしょう。

 

 そこで、私は直接街や人々に無視できない程の被害を与えている魔物以外は無視する事を提案した。

 

 これにはルーンや他の幹部たちはかなり反発したが、「無暗に魔物狩りをして下手に魔人を刺激したら準備不足の段階で開戦する事になりかねない」と念入りに説得したら彼らも条件付きであるが受け入れた。その条件は開戦準備が整い次第、東側の魔物を駆逐するというものだった。

 

 この結果、原作とは違って人類圏にいる魔物の対策は不完全なものとなり、人類統一後も魔物の被害が多少なりとも出たが、聖魔教団は目に余る魔物は闘将や人造人間が討伐するという地道な行動に終始した。この消極的な行動は一部の魔法使いには不評だったけどそれは仕方ないだろう。

 

 最も魔農民の導入で人類の食糧不足を解消して飢えを克服するなど人心掌握にも力を入れていた。治安の維持と食糧の安定供給が行われていれば民衆の不満はだいぶ抑えられるからね。

 

 私もしばらくはヒマになったが、何もしていないわけではない。JAPANでは地獄に通じる穴があり、そこから出て来た鬼が悪さをして日本人を苦しめているという問題があった。そこで現地の治安維持と経験値稼ぎを兼ねて私とアイシャはレオンたちと一緒に鬼退治をやっていた。

 

 鬼族は魔王領の魔物たちとはまったく関係ない存在であり、いくら鬼を退治しても魔人を刺激しないという利点があった。まぁ鬼王を刺激したくもないので地獄に通じる穴からJAPANに侵入してくる鬼を倒すだけにとどめており、こちらから地獄に行って鬼を殺すといった行動は禁じておいた。

 

 これならばある程度の筋は通るので、鬼族の反発はそれほど大きくならないだろう。

 

 これによって私とアイシャのレベルもぐんぐん上がっていった。少々やり過ぎて、JAPANの鬼が激減してしまいましたが、元々JAPANに侵入して悪さをする鬼は限られていますからそうなるのも仕方ないですね。

 

 この一連の鬼退治で、JAPANでは聖魔教団の評判が良くなりました。そりゃ思惑はどうあれ恐ろしい鬼を無償で退治してくれるのですから原住民からすればありがたいでしょうね。




解説

■マシンセル
 ズフィルード・クリスタルをもとに開発された自律型自己修復金属細胞で、一種のナノマシン(スーパーロボット大戦α外伝、スーパーロボット大戦OG)。これを注入された機体は自己進化して自己修復機能を備えるようになる。

■鬼
 地獄の管理人で、魂の浄化を担当している種族。魔王配下の魔物とは関係ないのでエリーゼたちの経験値稼ぎの標的になっている。


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13.ソドムとゴモラ

GI0440

 

 原作ではGI420に準備不足の段階で魔人戦争が勃発したが、この世界では聖魔教団は戦力が整い魔人との戦争準備を終えていた。

 

 これは人類統一が比較的早く行われて早期に戦争準備を始めることができた事と、原作よりも20年も先延ばしできた事が大きかった。

 

 では聖魔教団の正規戦力を説明すると、闘神都市はα~Ωまでの24個存在して、24人の幹部たちが闘神となって上空の浮かぶそれぞれの闘神都市に配置されている。当然ながら対魔人戦力である闘神も24体揃っている。

 

 ちなみに闘神になったフリーク・パラフィンを含めた24人の幹部たちは自分の意思を失ってルーンの命令を聞くだけの傀儡となっている。ルーンは私たちを初めとした他の者にはそれを言っていないが、原作知識から私たちはそれを知っていた為、闘神になった幹部達と合う事がなくなっても気にしなかった。

 

 私としても自我を失いただの人形となった連中と一々交流を持つつもりはなかったからね。

 

 次に闘神都市の護衛と対魔物戦力として前線で戦う闘将(鉄兵を進化させた完成品)も十分な数を揃えることができた。この闘将の素材集めのためにルーンはかなりあくどい事をしたようですが、私たちには関係ないので特に記載することでもない。

 

 その闘将をサポートする聖骸闘将もそろっている。主にロンメルシリーズやマーダーシリーズ、フォートラン系で、原作では後に人類の敵として行動しているが、現時点では聖魔教団の貴重な戦力である。

 

 更にルーンはキャンテルなどの一部のドラゴンたちの協力を得ることができたので、彼らを闘神都市α~Ωまでの24の闘神都市に防空ドラゴン部隊として配備した。

 

 ちなみにエリーゼとアイシャの闘神都市にもドラゴンを配備しようという話はあったが、私たちはそれを断っている。

 

 

 

 これだけでも聖魔教団は原作よりも遥かに強化されているが、これに私たちの私兵戦力(最優先命令権が聖魔教団ではなく私とアイシャという一個人が有しているので私兵として扱われている)が加わる。

 

 私たちの戦力の筆頭として挙げられるのは、私とアイシャが監察軍の協力を得て建設した闘神都市ソドムと闘神都市ゴモラだ。

 

 私は人工魂(メタ・ソウル)ソドムを作成して、闘神都市ソドムに宿らせて、アイシャは人工魂ゴモラを作成して闘神都市ゴモラに宿らせた。

 

 ソドムは闘神都市ソドムを自由自在に動かすだけでなく、闘神ソドムを遠隔操作して戦う事ができるようにしておいた。この闘神ソドムは一度に一機ずつしか遠隔操作できないが、闘神都市内部には多くのスペアがあり、例え破壊されても次の闘神ソドムを動かす事ができる(これはゴモラも同じである)。

 

 他の闘神都市は聖櫃や闘神を撃破すれば闘神都市を破壊できるが、この闘神都市ソドムとゴモラはそんな弱点はない上に、マシンセル(スーパーロボット大戦α外伝)を注入した事で進化して自己修復機能まで備わっている為に、これを陥落するのは魔人でも至難の業となっている。

 

 またランス世界だけでなく異世界でも使用が想定されている為に、浮遊システムはランス世界の魔法工学ではなく、異世界でも安定して使える純粋科学技術のフロートシステム(コードギアス 反逆のルルーシュ)を採用している。

 

 動力は闘神都市のマナバッテリーの他に熱核タービンエンジン(マクロス7)を搭載しているなど、魔法工学と科学技術のハイブリットになっている。

 

 ちなみに闘神都市にそのような対策を施しているのは私たちの固有世界観には大きな穴があるからだ。忘れがちであるが、固有世界観は私たち個人に恩恵を与えるだけのチート能力にすぎず、それはソドムやゴモラには備わっていないし、固有世界観自体がFateの固有結界のように能力者の周囲に影響を与えて異世界の世界観を適応させているにすぎない。

 

 こうなると下手にランス世界の魔法工学が機能しない世界に闘神都市を持って言った場合、私たちが闘神都市から離れただけで固有世界観の影響外になって浮力を失った闘神都市が墜落しかねないのだ。

 

 この二つの闘神都市の防空戦力としてロボット兵(天空の城ラピュタ)を配置している。これは遊び半分でラピュタネタに走った為そうなったが、監察軍の技術でマクロス系の核融合炉やガンダムSEEDの発泡金属などを採用しているので、それなりに強力な物になっている(エリーゼはこのロボット兵があるので防空ドラゴン部隊の配属を断っていた)。

 

 更に闘神都市の護衛として戦闘用人造人間レオンシリーズとグレイシリーズが存在している。グレイシリーズはアイシャに作られたオリジナルの人工魂グレイを複製して大量生産した代物で、アイシャに絶対服従している。技能レベルが聖魔法レベル2で才能限界が100となっており、レオンと同じくすべてのグレイがネットワークで連結されて極めて効率的に学習して経験を積んでいる。

 

 

 

 そんな状況になったので、人類文明の中心にして魔法文明の中心である魔都デトナ・ルーカで今後の方針を決める話し合いが行われた。

 

「エリーゼ、君の言う通り準備が整ったので邪魔な魔物を処分しようと思うがかまわないな?」

 と、闘将となったルーンは私にそう訊ねた。

 

 ルーンは高齢となったためにかなり前に闘将になっていた。まぁ普通の人間は百数十年も生きられないし、仮に生きられてもそこまで高齢になったら体が衰えてまともに動かせなくなるから闘将になるのは当然でしょう。

 

 そういえばルーンが闘将になる前に私に告白してきましたが、私はそれを断っている。言うまでもありませんが、男は好みじゃないですよ。

 

 ちなみに聖魔教団を初めとする人類には私とアイシャが生身の人間の体でありながら一向に老いないのは、私たちが異世界の魔法使いで異界の技術によって不老長寿になっているからだと説明している。

 

 現在、聖魔教団の実質的な上層部はルーンと私とアイシャの三人になっている(他の24人はただの傀儡)。その為、現在の聖魔教団の方針はこの三人の意向が大きく反映する形になっていた。

 

「そうね。もう問題はないでしょうね。でもあくまで人類圏にいる魔物だけですよ。魔王領に攻め込むのは駄目です」

 

 本当はもう少し先延ばしして魔法文明の発達を促したかったが、最近は下の魔法使いから強硬論が出ており、最早避けられない情勢となっていた。

 

「それは勿論だ。まずは人類圏の魔物を排除する。それで魔人が仕掛けてくるなら迎撃する。それでいいな?」

「ええ、私はそれでかまわないわ。アイシャは?」

「私もそれでいいわ」

「そうか」

 

 私とアイシャがルーンの意見に合意したことにルーンは満足したようだ。こうして、聖魔教団を動かす三人が合意したことで、人類圏で魔物狩りが開始した。

 

 聖魔教団は、これまで魔人を刺激しないように我慢していた鬱憤を晴らすかのような徹底した魔物狩りを行った。荒野のモンスター狩りだけでなく、各地のダンジョンにも闘将や人造人間が魔物を狩り取っていった。

 

 聖魔教団の主力である闘将や人造人間の圧倒的な力によって、大陸の東側から魔物が次々に駆逐されていく、その有様は戦いではなく一方的な虐殺であった。

 

 この聖魔教団の猛攻で生き残ったのは、かろうじて西側に逃げ込んだわずかな魔物たちだけだった。かくして人類は邪魔な魔物たちを自分たちの領域から追い出す事に成功した。

 

 何も知らない一般人は魔物が駆逐されたことを素直に喜んだが、この事が人類史上最大の戦争を誘発させることになる。




解説

■聖骸闘将
 生成生物の一種で、魔法使いの死体で造られた人造魔法使いや魂の入っていない大型戦闘メカなどで、聖魔法を使用する。自己修復機能を備えている為に戦いで破壊しても数日で再び動き出す。

■闘神都市ソドム
 エリーゼの拠点として建造されたオリジナルの闘神都市。『天空の城ラピュタ』を参考(といってもあの巨大な木は邪魔なので存在しない)に、上部は巨大な城と城下町、下部は半球になっていて、それを城壁が囲んでいるという外見にしている。城壁には対空レーザー砲が多数搭載されており、ハリネズミのような防空網となっている。尚この闘神都市ソドムが浮上した時は監察軍に所属しているあるトリッパーが「ラピュタは本当にあったんだ!」と言ったらしい。

■人工魂ソドム
 闘神都市ソドムを統制する人工魂。エリーゼに作られているためにエリーゼに絶対服従している。技能レベルは格闘レベル3で、才能限界は240と基礎能力も極めて高い。闘神ソドムを遠隔操作する際にはマナバッテリーから他の闘神よりも遥かに強大な魔力を供給されるために魔力を馬鹿食いするシステムを採用しており、自己修復能力も極めて強力なものになっている。その理由は闘神都市の浮遊と移動に使われる筈の魔力を熱核バーストタービンエンジンで賄っている為に、その余剰分の魔力を闘神ソドムに回しているからである。

■闘神都市ゴモラ
 アイシャの拠点として建造されてオリジナルの闘神都市。外見は魔法都市ヴェーン(LUNAR シルバースターストーリー)を参考に円錐状になっているが、対空レーザー砲はそれなりに配備している。

■人工魂ゴモラ
 闘神都市ゴモラを統制する人工魂。アイシャに作られているためにアイシャに絶対服従している。技能レベルは格闘レベル3で、才能限界は240とソドムと同じく基礎能力が高い。またソドムと同じ理由で遠隔操作される闘神ゴモラは強大な力を発揮している。

■ロボット兵
 エリーゼが『天空の城ラピュタ』のネタに走って遊び半分で採用したもの。これに使用されている技術は万一流出しても惜しくない程度の低レベルに抑えられているが、それでもかなり強力な機体となっている。闘神都市ソドムとゴモラで防空ロボット部隊として使用されている。実は魔法技術が一切使われていない科学兵器である。

■戦闘用人造人間
 戦闘用に開発した人造人間で、格闘に優れたレオンシリーズと聖魔法を使うグレイシリーズが存在している。ネットワークで連結することでシリーズ全体が効率よく学習と経験を積んで強くなるという驚異的な存在であるが、実は監察軍の基準からすれば大したものではなく、人造人間17号(ドラゴンボール)のように超サイヤ人と殴り合いができるような戦闘能力は持っていない。これはそこまで強くする必要がなかった事と、万が一にも反逆された場合を考えてエリーゼたちが手におえなくなるほど強くしなかった為だ。また闘将は個々に形や鎧の形状が異なるが、人造人間たちは同じシリーズであればまったく同一であるため、生産性、整備性、運用性などに優れている。

■聖魔法
 聖魔教団が作り上げた闇属性の魔法で、この世界ではエリーゼとアイシャはこの聖魔法の開発にも積極的に参加している。


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14.魔人戦争

GI450

 

 人類圏に行われた魔物狩りに好戦的な一部の魔人が我慢できなくなって聖魔教団に攻め込んできた為に魔人戦争が勃発した。

 

 開戦当初はケイブリス、メデュウサ、レッドアイの三人の魔人だけが参加していたが、闘将パステトがたった一人で二千の魔物を倒してしまい、それを知ったノス、レキシントン、ガルティア、レイといった武闘派の魔人たちが聖魔教団に興味を持って次々に参加したのだった。

 

 初期にはこれだけの魔人が参加していることから聖魔教団は早期に敗北するだろうと、魔人たちは思っていた。

 

 しかし、戦線が膠着していて勝負がつかない状態になってしまった上に、レキシントンが人間の仕掛けた罠にはまって死亡してしまうというハプニングが発生してしまった。

 

 無敵である筈の魔人が人間如きに殺されるとは思っていなかった魔人たちはこれに驚愕して、聖魔教団を危険視した為に、本来人間に無関心な魔人や戦いを好まないはずの魔人たち(ジーク、ケッセルリンク、パイアール、アイゼル、メガラス、ハウゼル、サイゼル)も参加して、おまけにケイブリスに命令されてバボラがよく考えずに参加した。

 

 こうして、この魔人戦争に脱落したレキシントンを除けば14人もの魔人が参加する事になった。

 

 

 

GI470

 

「見事に膠着状態ね」

 

 闘神都市ソドム上層部に建設されている城(通称エリーゼ城)の玉座に座った私は戦況を確認していた。

 

 開戦から二十年が過ぎた現在、地上では闘将や人造人間たちが魔軍と激しくやり合っていた。

 

 原作では準備不足の為に対魔物戦力として予定していた闘将を闘神の護衛に回して魔軍には蛮人に対処してもらわざるを得なかったが、この世界では十分な数の闘将が用意されていた上に戦闘用人造人間も揃っていたので、魔法が使えない蛮人は前線投入させる事はなかった。

 

 上空の闘神都市では飛行タイプの魔物が攻め込んでくる程度で、それらはα~Ωの場合は配備されている防空ドラゴン部隊の迎撃にあって、ソドムとゴモラの場合は装備されている対空レーザー砲の餌食になっている。

 

 そう、対空レーザー砲は極めて有効だった。

 

 レーザーを無効化するディストーション・フィールドを当たり前に使っている私たち監察軍には実感しにくいが、この世界の連中には対空レーザー砲による迎撃システムはかなり有効だったのだ。

 

 これは『マブラヴ』の世界で光線級のBETAが超音速のジェット戦闘機すら駆逐してしまった事を考えれば当然だが、音速すら越えられないモンスターではレーザー砲の的にしかならないからだ。

 

 あまりに有効すぎて折角防空戦力として用意したロボット兵が使えないほどですよ(笑)。

 

 勿論、これは魔物の話であって無敵結界を持つ魔人にはレーザー砲では撃退できないが、魔人たちは闘神都市に直接乗り込むのを避けていた。

 

「まぁこの状況は原作と違って魔人たちが闘神都市の攻略に及び腰になっているからだろうけどね」

 

 そう、原作では魔人戦争時に魔人たちの間で闘神落とし(闘神都市の撃破)がゲームとして流行して撃破した闘神都市の数を競い合っていたが、この世界ではそういったゲームは発生していない。

 

「エリーゼ様、やはりレキシントンの死亡が大きいのでしょう」

 と、リーラが声をかけて来た。

 

 開戦以前から私の拠点は闘神都市ソドムになっているので、私に仕えるメイドのリーラもこの城に移っていた。

 

「まぁそうでしょうね」

 

 私はリーラに対して軽く笑った。

 

 原作では魔人レキシントンは魔人ノスに騙し討ちにあって倒れたが、この世界では闘神都市ソドムに仕掛けた対魔人用の罠で命を落としている。

 

 確かに魔人は無敵だ。あらゆる手段を用いても決して傷つける事が出来ない。

 

 しかし、生き物を殺すには何も傷をつけなければならないというワケではない。呼吸ができなければ生物は生きていけないのだ。

 

 そこで私たちは闘神都市のブロック化と隔壁で各地を細かく封鎖できるようにして、封鎖した任意の場所の空気を抜いて真空状態に出来るようにした。

 

 当然通路の壁や隔壁は分厚い超合金ニューZα製(しかもマシンセルによってダメージを与えても即座に修復する)であった為にこれで閉じ込められたら魔人でもどうしようもないし、実際この罠に引っかかったレキシントンは酸欠で死亡した。

 

 魔人を殺すには別に特別な力が必要ではない。創意工夫で人間は魔人を死なせることができるのだ。

 

 この事は人類圏では戦意高揚の為に大々的に伝えられて聖魔教団の士気を大いに高めたが、私としては別にそれが目的ではない。私たちの拠点であるソドムとゴモラに魔人が乗り込んで荒らしまわったら迷惑なので、魔人を牽制しただけだ。

 

 実際これは魔人たちにも伝わって彼らに衝撃を与えた。そうはそうだろう。絶対無敵と驕り高ぶっていた魔人が、自分たちが思わぬところで死ぬ可能性があるという事を嫌がおうにも実感したのだ。

 

 レキシントンと対立していたノスも表向きは人間風情に殺されたレキシントンを散々嘲笑ったが、内心では聖魔教団を警戒するようになった。

 

 その結果、魔人たちは対魔人用の悪辣な罠があると思われる闘神都市(その手の罠が実在するのはソドムとゴモラだけだが魔人たちはそこまで知らない)に直接乗り込むことを躊躇うようになった。

 

 かくして、この世界の魔人戦争は原作以上の膠着状態になってしまったが、そんな中でも名場面というのはそれなりにあって、闘神都市ゼータが魔人バボラとの七年にも渡る激戦の末、特攻撃滅して聖魔教団の士気を高めたり、闘神シータが魔人ノスと七十日間にも及ぶ殴り合いをやったりしたね。

 

 現在は闘神都市ソドムが地上の魔軍を魔導砲で撃退することを行っており、順調に戦果を上げていて私はやることがなくなった。

 

 それで、空いた時間を使ってたまに戦場に出て超長距離から魔軍に対してフライシュッツで増幅した竜破斬(ドラグ・スレイブ)を打ち込んだりしている。この手の大量破壊魔法は効率よく経験値を稼げるから効果的なんです。本当は蛮人たちの街に打ち込んで大量殺人をやっても経験値を稼げるのですが、立場上できないので、その分、魔軍に打ち込んでいる。

 

 最もちまちまレベルアップをやるのが面倒になったから魔法レベル3を活用してゲートコネクト使うことにした。ランス03のジルを参考にゲートコネクトを用いて居るだけで上限までレベルが上昇する異世界「オルケスタ」を探してレベルを上げることにしたのだ。

 

 その後、多少時間がかかったがオルケスタを見つけた私たちはレベルを10000オーバーまで上げておいた。レベルが上がり過ぎな気もしますが、どうも私たちはランスと同じ才能限界無限みたいで、レベル10000を超えても才能限界に到着しなかったですね。

 

 他にも戦利品(レキシントンの魔血魂)の解析を行っていますよ。アレって実は前々から調査してみたかったものなんです。

 

 聖魔教団の者たちが必死の思いで戦っている最中であったが、エリーゼはとことんマイペースだった。




解説

■魔軍
 魔王や魔人が率いる魔物の軍勢の事。

■光線級
 BETA(マブラヴ)の一種でレーザー光線を発射する。その命中率や有効射程距離は強力で、マブラブ世界ではこれの所為で航空戦力が無力化されて人類は劣勢に追い込まれてしまった。

■超合金ニューZα
 マジンカイザーに登場する装甲材。強度、重量などのバランスがいい事からブリタニア帝国で軍事利用されている。

■魔導砲
 闘神都市の主砲で、たった一発で街を消滅させるほどの威力がある。

■ゲートコネクト
 異世界に行くことができるゲートを開くことができる魔法。地上の者には魔法レベル3の魔法使いか魔王でなければ使用できない。

■魔血魂
 魔人が死亡した場合、その死体は消滅して魔血魂という赤い球体が残る。この魔血魂とは魔人そのものであり、これが他の生物の体に宿る事でその魔人が復活する場合がある(その体の持ち主の精神に負けてしまい、魔血魂が上書きされて元の魔人が消滅してしまう可能性がある)。


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15.五十年目の悪夢

GI500

 

 魔人戦争が開始してもう五十年がたっている。いつまでたっても終わらない戦争。膨大な戦費。それは当然ながら聖魔教団に支配されている魔法が使えない蛮人たちの大きな負担になっていた。

 

 また、魔人戦争によって魔軍に街が襲撃されるなどの被害を多々受けていて、彼らは魔軍の恐れを抱いて何とか戦争を終わらせたいと思うようになっていた。

 

 そして支配者たる聖魔教団も魔軍との長きに渡る消耗戦に勢力を著しく低下しつつあった。

 

 こうした情勢下で聖魔教団は戦費調達の為に情け容赦なく蛮人たちに重税を課していた。聖魔教団がここまで蛮人に配慮しなかったのは、原作と違って蛮人は戦争に何ら貢献していなかったからだ。

 

 この世界の最前線では当初は闘将と人造人間たちが魔軍と激しく戦っていたが、長きに渡る戦いで闘将たちが激減してその補充が追いつかなくなってしまった為に、現在では聖魔教団は残存するすべての闘将を闘神の護衛に回していた。

 

 こんな事ができたのは強力な人造人間が大量提供されていたからだ。エリーゼとアイシャは魔人戦争で人造人間たちが経験を詰んでどんどん強くなっていくのに気を良くして、監察軍の協力を得て人造人間を大量生産して積極的に前線に投入していた。

 

 事実、人造人間たちは強かった。この当時の魔軍に所属する魔物たちにとって戦えば戦うほど異常なまでに強くなっていく人造人間たちは恐怖そのものだった。

 鋼の鬼神、だれが最初にそう称したかは分からないが、魔物たちは人造人間をそう呼んで恐れていた程だった。

 

 また、運用にしても闘将と同じように人造人間に魔力を送り込むだけですむので魔法使いとしても使いやすかったのだ。命令権が間借りしたものである事に不満はあったが、彼らの戦果はそれを吹き飛ばして余りある程であった。

 

 そんな状況であった為にわざわざ前線に魔法を使えない蛮人を投入しようなどとは誰も思わなかった。

 

 何しろ軍隊というのは金食い虫だ。食糧や装備などいくらかかるか分からないのに、そんな出費をしてまで役立たずの蛮人(聖魔教団に所属する魔法使いの偏見に満ちた考えであるが、当時としては一般的な考えだった)を使おうとは思わなかったのだ。

 

 この結果、聖魔教団の蛮人に対する蔑視は原作よりも酷くなり、蛮人たちの聖魔教団に対する不平不満は高まっていった。そんな人類の軋轢を魔人ノスに付かれた。ノスは言葉巧みに蛮人たちを唆していく、折しもこの戦争が魔法使いたちの傲慢の所為で勃発したという噂が蛮人たちの間で蔓延していた為に、これを切っ掛けに蛮人たちは聖魔教団に反逆した。

 

 その事を知った聖魔教団の盟主ルーカ・ルーンは怒り狂い暴走してしまう。

 

 彼はこれまで魔軍に対して向けていた戦力を魔法を使えない蛮人抹殺にも投入していった。闘神都市の魔導砲を受けて消滅していく街。それは皮肉にも人類を救うことを切実に願っていたルーンが引き起こしていた悲劇だった。

 

 

 

「やはりこうなりましたね」

『原作通りだから、これは仕方ないわ』

 私は闘神都市ソドムから、闘神都市ゴモラにいるアイシャと通信を交わしていた。

 

 私はルーンの暴走ぶりにため息をこぼした。

 

 原作では蛮人の反逆は31年目に発生したが、この世界では50年目に起きた。

 

 ここまで長引いたのは原作と違って蛮人が前線に投入されていなかった事と、聖魔教団の力が原作よりも強化されていた事が原因だろう。

 

 しかし、魔法使いと魔法が使えない蛮人の対立はこの世界の人類によって避けては通れない問題で、遅かれ早かれ起きていた筈だ。

 

「それで、アイシャそちらの準備はどう?」

『こちらも前線に投入しておいた人造人間たちは回収しておいたわ』

「そう、なら撤退するわ」

『確かに潮時ですね。このままだと魔王ガイが介入してくるわ』

「そうだね。では、さっさとこの世界から出ていくとしましょう」

 

 この魔人戦争は合計15人の魔人とその魔人率いる魔軍が参加していたが、魔王ガイ自身は関わっていない。

 

 しかし、この聖魔教団の暴走はガイも無視できない筈だ。何しろこのまま聖魔教団が人類を攻撃し続けていれば人間の数が激減して勇者を覚醒させてしまいかねない。

 

 この世界の勇者は何でも倒し屋で、その力は人類の死亡率に比例する。つまり人間が死ねば死ぬほど勇者の力は解放されるのだ。

 

 四代目の魔王ナイチサは人間を殺し過ぎて勇者の力を著しく高めてしまい、その所為で寿命を大きく縮めるほどのダメージを受けたほどだ。

 

 それを考えれば、このまま聖魔教団が人間を殺しまくったら、勇者の力が解放されてしまい、そのとばっちりで魔王ガイも勇者に殺されかねない。

 

 原作ではそこまで行く前にフリークがルーンを殺して聖魔教団の暴走を止めたが、この世界のフリークは闘神Ωとしてルーンの傀儡になっているからそれは期待できない。この場合、魔王ガイが動くのは確実で、そうなると返す刀でこちらもやられかねないから、そうなる前に引き上げるのだ。

 

「まぁ収穫は十分にあったから損はしていないわね」

 

 私たちはこの世界で大きな利益を得ていた。勿論、自腹(エリーゼたちは監察軍に色々と借りを作った)でオリジナルの闘神都市を建造したり、人造人間を量産していたので投資も大きかったが、回収できた利益はそれを遥かに上回っていたのだ。

 

 

 

 実は、この世界の聖魔教団の魔法文明は原作よりも遥かに進歩している。その理由は私たちが魔法工学の発展を促したからだ。

 

 私たちのチート能力【理解】【分割思考】【高速思考】は極めて有効で、これらを併用することで現地の魔法技術を習得してきた。それらの知識を下積みにして、それを遥かに発展させた理論や技術を大量に編み出すことができた。

 

 普通ならばそんなことはできないが、【分割思考】と【高速思考】を併用すれば、私の脳を高性能の分析器と演算装置として機能させる事ができる。これはそこいらの天才では逆立ちしてもできない正にチート能力だった。

 

 更に私たちが元々いた上位世界では様々な魔法のアイデアがあってそれを知っていただけに、これまで収集した知識を元に、驚異的な速度でそれらの実用化を検討し、理論を構築して技術として確立していった。この為、現行魔法技術よりも遥かに進んだ技術を編み出すのはそう難しい事ではなかったし、後はそれらの魔法技術を実用化していけばいいだけだ。

 

 魔教団時代からそうした地道な行動をしており、聖魔教団は私たちが提供された理論や技術の実用化に血眼になり、膨大な予算を付けて技術開発を推し進めていた。

 

 本来、技術の発達というのは暗闇の中で試行錯誤するようなものであるが、私たちの場合は結果が分かりそれに至るまでの道筋が分かっているだけに、最低限の試行錯誤で技術革新が進んでいったのだ。

 

 この結果、GI440年代には魔法技術の凄まじい勢いで発達していたし、その後の開戦でそれは一気に加速された。

 

 古来より戦争は技術を爆発的に発展させるという言葉がある様に、聖魔教団は強大な魔人に対抗する為に死に物狂いで魔法技術の発展に力を注いでいたのだ。

 

 ちなみに私たちがここまで聖魔教団に肩入れしたのは彼らに仲間意識を持ったからでも、この世界の住民を救う為でもない。

 

 酪農家が良質の肉を販売して収入を得る為に手間暇かけて牛を育てるように、私たちも聖魔教団を手間暇かけて育てて魔法技術の発展を促した。

 

 それがこの世界の魔法技術の飛躍的発展を促し、私たちはそれを余すことなく収集していった。

 

 私たちにとってこの世界の人間は、いや人間だけでなく魔人や魔物を含めたあらゆる存在はどうでもいい存在で、彼らを利用して利益を得る事だけが目的なのだ。

 

 そして時期がくれば聖魔教団を見捨てて撤退するつまりだったから、ソドムとゴモラにはドラゴン、闘将、聖骸闘将などだけでなく聖魔教団の魔法使いすら配置せずに、私たちの私兵戦力のみで固めたのだった。

 

 ちなみに私が手に入れた魔血魂は解析が完了していたので、先ほど地上に投げ捨てておいた。

 

 流石にこの世界の魔血魂を異世界に持ち込むのは良くない。この世界の魔人の数を減らしてしまうからね。

 

 もはや用済みとなったこの世界に長居は無用だったから、私とアイシャは二つの闘神都市ごとランス世界から姿を消した。

 

 

 

 余談であるが、エリーゼたちが去った後、魔人戦争は大いに混沌とした状況となった。

 

 聖魔教団は前線を支えていた人造人間たちが姿を消したために地上での戦線を維持できなくなって敗退を重ねていき、闘神都市もソドムとゴモラの離脱と、蛮人抹殺に動いたために守りが薄くなって魔軍に侵入される事を許す結果となり、闘神都市内部で激しい戦闘が繰り広げられていった。

 

 しかし、それでも聖魔教団は魔軍と人類抹殺を止めようとはせずに人類を抹殺していく。

 

 この聖魔教団の暴走に危機感を抱いた魔王ガイがついに動いた。ガイはその圧倒的な力で闘神都市を次々に陥落させていった。

 

 こうして闘神都市は全滅。魔都デトナ・ルーカも陥落して聖魔教団は崩壊した。この時に盟主ルーンも魔軍との戦いで戦死した。

 

 その後、ガイは魔人や魔軍を元の境界線まで戻して、再び人類に対する不干渉政策を取る事になり、人類壊滅の危機は回避された。

 

 しかし、人類に真の平和をもたらす事を目的に掲げた聖魔教団が人類を滅亡の危機に追い込み、魔王ガイがそれを防いだ事は、その後の歴史に大きな影響を与えた。

 

 生き残った人類は聖魔教団を憎み、魔法文明の否定と魔法使いの弾圧を徹底的に行うようになり、数百年にも及ぶ弾圧の結果、魔法技術は廃れてしまった。

 

 こうして、ガイの時代が終わりリトルプリンセスの時代になった頃には、繁栄を極めたかつての魔法文明は見る影もなく衰退していた。

 

 また聖魔教団時代に作られた聖骸闘将は聖魔教団崩壊後も最後の指令である人類抹殺に動き続けており人類の脅威となっていた。その為、それらは聖魔教団の負の遺産として扱われる事になった。




解説

■役立たずの蛮人
 聖魔教団から見れば蛮人で軍隊を編成するよりも、闘将や人造人間で軍隊を編成した方が対費用効果が遥かによかった。というよりも闘将や人造人間が強すぎて相対的に蛮人が役に立たなくなった。

■ナイチサ
 ジルの前の魔王。人間を大虐殺したせいで勇者のリミッターを外してしまい、寿命を削られるほどのダメージを受けた。この反省から次の魔王ジルは人間を虐殺して数を減らすのではなく、人間を家畜化して一定の人口を保つ事で勇者の覚醒を防いだ。


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BASTARD!! -暗黒の破壊神-
16.霊子力(バスタード編)


※16~19は、『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』の世界が舞台になっています。


 ランス世界から引き上げた私たちはバスタードの世界に行くことにした。その時期は原作開始から約四百年前の1980年だ。この年代は大崩壊の28年前で、この時期からこの世界に潜り込むことにした。

 

 ここで面倒だったのが戸籍だ。これまでの世界では戸籍はしっかりしていなかったが、この世界のこの時代は違う。しかも、戸籍がしっかりしているのにコンピュータを導入していないという中途半端な時期であるためにハッキングして戸籍を偽造するという手段も取れないから、本当に面倒でした。

 

 この偽装工作は死神が完璧にやってくれたからよかったもののそうでなかったら断念していましたよ。

 

 そんなわけで28年の時間を使って可能な限り文明を向上させた状態で、大崩壊に挑もうと思います。勿論、ある程度文明を向上させただけでは旧世界の崩壊は避けられないし、私も避けようと思ってはいない。

 

 ただ優秀な科学者として実績を上げて、私たち自身が旧世界の科学をより発展させるつもりなんですよ。その狙いは勿論、霊子力(れいしりょく)を応用した科学技術と魔法科学技術を得る為ですね。

 

 そこで、私は速やかに霊子力理論を公式発表した。原作では1996年にディータ・ダークスが発表していたが、それよりも16年も早くした。更に、莫大な資金を投入して霊子力の研究所を建てて次々に新技術を公表していった。

 

 その予算は錬金(ゼロの使い魔)で金を大量に作って流した事で確保した。その内情を知る者がいれば反則だと言いたくなるほど容易く資金を確保できましたね。

 

 こうして公表された新技術のその中でも、霊子動力炉は世界に驚愕を与えた。何しろ魂の力というオカルト的な力が当時最高のエネルギーであった原子力をも圧倒する凄まじいエネルギーを得られるのだ。当然ながら新エネルギーである霊子力に注目が集まっていった。

 

 ちなみに霊子力というのは霊力とも呼ばれるエネルギーで、ようするに魂の力の事だ。その為、GS世界のオカルト技術と親和性が高い。というよりも使用するエネルギー源は同じで、霊力を利用したこの世界の魔法は、GS世界の中世魔法技術に通じるものがある。

 

 実はGS世界の中世魔法技術は複雑な魔法陣を描いて呪文を唱えることで、霊子力(霊力)をコントロールするもので、これはバスタード世界の魔法と同じだから、その応用でこの世界の魔法の基礎を作り上げるのは簡単であった。

 

 しかし、これは著しく才能に左右されるために魔法が使える人間は限られてしまう上に、その能力に個人差がありすぎるのが難点だ。これはGS世界の霊能力も才能に依存しているから仕方ない事であろう。元から科学の様に誰でも使えて、誰でも同じ結果が出せる代物ではないのだ。

 

 この様な実績を上げて行くと、私とアイシャは「霊子工学の権威」とか「始まりの魔法使い」などと言われて一躍時の人になりました。

 

 それにともないこの世界の科学は飛躍的発展を遂げることになったが、そうこうしている内にあっという間に2008年7月になった。

 

 

 

「派手だね」

 と、呑気に感想を述べつつ、私は映像に映る激しい戦闘を眺めていた。

 

 後に大破壊と呼ばれるアンスラサクスの暴走と、その後の天使軍団と悪魔軍団の激突。私はそれらを太陽系外で待機させている巡洋艦の中から観察していた。流石に大破壊は地球どころか太陽系にいる事すら危険すぎるから別の星系に移動したのだ。

 

 通常ならば、ここまで距離が離れていると観察に支障が出るが、そこは事前に監視機器(ステルス式の監視衛星や各地に設置した観測機など)を配置しており、その情報を受信することで問題なく対処できた。

 

 やや安全策にすぎないかと思いはしたものの、いくら幾多の世界を旅して力を付けた私達でも天使軍団や悪魔軍団の戦いに巻き込まれたくはない。流石に命がいくつあっても足りないからね。

 

 臆病かもしれませんが、ダーク・シュナイダー(以後D・S)のような力は今の私達にはありません。

 

 そのうち、バスタード世界の天使軍団なんか足元にも及ばない、あの破壊神ベヅァーに対抗しうる力を手に入れなくてはいけない事を考えれば情けないかもしれませんが、無理な物は無理ですね。勇気と蛮勇は別です。

 

 この大破壊で40億人以上の人間が死んでいますが、そんな事は私達にはどうでもいい。とにかく今は情報収集を優先する。

 

 そうして、天使軍団と悪魔軍団による予言戦争は終了したので、そろそろ動くとしましょう。

 

 

 

「なんじゃ、お前たちは!?」

 

 その場にいた科学者たちは瞬間移動でいきなり現れた私たちに驚いていた。

 

「私の名はエリーゼ・ペルティーニです。そしてこっちが私の妹のアイシャ・ペルティーニよ」

「エリーゼ・ペルティーニに、アイシャ・ペルティーニじゃと!」

「確かにあの二人だ!」

 

 その場の科学者たちが驚いていた。そりゃそうだろう。私たちは彼らの研究していた霊子力の権威だからね。彼らの研究はすべて私たちの発表した理論を元にしていると言えば、その凄さは分かるだろう。

 

 当然、彼らは私たちの名ぐらいは知っている。おまけに私たちが美少女という容姿であったこともあって尚更認知度は高かった。要するに私たちの顔を知っている科学者は多かったのだ。

 

「貴方達ですね。あの化け物を作り出したのは?」

 と、私は責め立てるように言う。

 

 実のところアンスラサクスは某国の超生物兵器として開発されていた物で、その某国は優秀な科学者を集めてそれを開発させていたのだ。

 

 ちなみに私達にもスカウトは来ていたが、さすがにアンスラサクスなんか作る気にならなかったから断っていた。

 

「わ、ワシらを処断するつもりか!」

 

 自分たちの仕出かした事は理解しているのだろう。彼らは顔を青ざめていた。実際彼らの仕出かした事を考えれば生き残った人々に重罪人としてリンチにされても文句は言えないだろう。

 

 最もバスタード世界で、人間が霊子力の研究をすれば神を怒らせると分かっていたのに霊子力理論を発表した私たちが言うのも何ですが(笑)。

 

「今更そんな事をしても仕方ないわ。これからの事を考えないといけないわ」

「これからの事じゃと?」

 そう怪訝な顔をする彼ら。

 

「確かに地球のすべての国家は崩壊して人類社会も壊滅したわ。でも人類が滅亡したわけじゃない。貴方達は罪滅ぼしとしてこの荒廃してしまった世界の再建に力を注ぐべきです。生き残った人々の為にもね」

「確かにそうじゃな」

 と、彼らは私の言葉に頷く。

 

 原作でもエウロペアの十賢者がそうしていたから、そう言っても彼らが反発はしないのは原作知識で知っていた。当時の彼らはここでそれを拒むような人でなしではなかったのだ。あくまで当時はですが。

 

「ええ、ここまで荒廃してしまうと大変ですが、それでもやらねばならないのです」

 

 こうして、私たちは世界の再建の為に大破壊をもたらした科学者たちの生き残りと協力することになりました。




解説

■戸籍の偽造
 二次小説ではオリ主による戸籍の偽造が良くありますが、ある程度戸籍がしっかり管理されている世界の場合はこれが中々難しい。ここで戸籍情報がコンピュータ処理されていれば監察軍の超技術でハッキングという手段も使えるが、それ以前のアナログ方式だと逆に難しくなる。

■錬金
 土の系統魔法(ゼロの使い魔)の一つで、かなり使い勝手がよく、二次小説ではオリ主が重宝している魔法である。


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17.エウロペアの十二賢者

 大破壊によって旧世界は滅び、世界は荒廃してしまった。私たちは旧世界の科学者の生き残り(老人たち)の集団と世界の再建と管理の為に協力していた。

 

 その過程で、老人たちが前々から研究していたエルフの改良が進んでいた。

 

 エルフはファンタジーで登場する亜人だが、この世界では数世代にもわたって霊的遺伝子的改良を進めて作り上げた人工種族である。エルフは通常の人間よりも知能が高く魔力が強い上に寿命もおよそ1500年まで拡張された存在だ。

 

 そのエルフたちによってエルフ神聖四親皇家が作られるが、私たちはそのエルフたちを束ねる立場になっていた。

 

 その時には私とアイシャ以外は自らをエルフに人工進化させており、私たちはエルフを含めた人類からエウロペアの十二賢者と呼ばれる存在になった。外部からすればエルフの老人十人と人間の少女二人による集団だったから奇異に見えたかもしれないね。実際エルフたちも疑問に思っていたようです。

 

 それと私たちがエルフにならなかったのは、私たちの体を下手に弄ると逆に弱体化する恐れがあるからだ。私たちは死神によって様々なチート能力をこの身に宿しているが、異種族に改造するという行動をすればそれらが損なわれる確率が高い。そもそもエルフにならなくともとっくに不老長寿になっているから必要ないのだ。

 

 ちなみに原作では十賢者だったのに、この世界では十二賢者なのは私とアイシャが加わった為だ。

 

 

 

 さて、エルフという人工種族を創造できたように霊子力を応用した科学はもはや魔法の域に到着しており、ドラゴンなどのファンタジーな存在まで作り出せるようになった。

 

 そんな中で私たちがやっているのが霊子動力炉の改良だ。

 

 これは原作ではキング・クリムゾン・グローリー(以後KCG)、通称『方舟』の動力炉として使われていた物で、エルフたちの持つ霊子力を動力源にして臨界運転を行えば宇宙開闢(うちゅうかいびゃく)に匹敵するエネルギーを発することも出来る代物だった。

 

 その様に霊子力は原子力をも上回る高エネルギーを得られる上に、無限にして完全無害というこの世界における究極のエネルギーだ。

 

 何しろ火力発電と違って一々燃料を投入しないといけないという事もないし、原子力発電の様に暴走すると放射能汚染の危険があるということもない、とてつもない優秀ぶりだ。

 

 しかし、この霊子動力炉の小型化は実現できていなかった。というもの霊子動力炉は人間の魂の力を収束して活用する物である以上、多数の生きた人間を内部に取り込んでおく必要がある。

 

 この多くの人々と、その人々を生存させるための生命維持装置を内包しないといけないという構造からどうしても霊子動力炉が巨大化してしまうのだ。

 

 そこで思いついたのが『魔法少女まどか☆マギカ』のソウルジェムと、GS世界で登場したアシュタロスのエネルギー結晶だ。それらの様に魂を加工すれば解決できると考えた私たちはその実験を行う事にした。

 

 この実験には霊的に優れたエルフのクローンを大量に使用する事になった。情け容赦なく大量生産したクローンたちをすり潰して試行錯誤を繰り返した末に実用化に成功した。

 

 何かやっていることがどこかの学園都市のマッドサイエンティストのようです。実際、妹達のようにクローンを大量生産して魂の抜き取って抜け殻になった肉体は廃棄処分していますから、その所業は外道の一言でしょう。これには老人たちでさえドン引きしていましたね(汗)。

 

 その結果作り出した手のひらサイズの結晶体をソウル・クリスタルと名付けて、これを用いた新型の小型霊子動力炉を開発した。

 

 このソウル・クリスタルは見た目こそちゃちな結晶に過ぎないが、これ一個で10万人ものエルフのクローンの魂が凝縮されている代物で凄まじい高エネルギーを発揮できた。

 

 当然ながら、これはKCGの主動力炉として採用されて使われることになるが、それだけでなく私たちの闘神都市にもこのソウル・クリスタルを使う事にした。

 

 私たちの保有する闘神都市ソドムとゴモラは、動力にランス世界のマナバッテリーの他にマクロス世界の熱核タービンエンジンを搭載していた。

 

 そこで熱核タービンエンジンを新型霊子動力炉に換装する事にした。その際に、霊子動力炉から得られる膨大な霊力を逆天号のように霊力増幅装置で増幅する事で、強力な防御結界や霊波兵器も搭載することに成功した。

 

 これで闘神都市の出力が大幅にアップして、総合戦力も向上していた。

 

 ちなみに霊子動力炉はオカルトな技術であるものの、生物が持つ魂の力という根源的な力を動力としている為に、リリカルなのはの魔導炉のような世界観の影響を受けやすい代物ではなかった。その事から、比較的多くの世界で使える汎用性の高い動力炉ですよ。

 

 本音を言えば、オカルトの専門家というべき私たちが拠点として使っている闘神都市の動力が熱核タービンエンジンというあまりにも純粋科学的な物であるのはイメージに合わないというこだわりですね。

 

 

 

 それと忘れてはいけないのが主人公のD・S(ダーク・シュナイダー)ですね。彼は老人たちの作り上げたD-System(霊子力の高速無限増殖炉ともいうべき精神兵器)と呼ばれる純粋エネルギー体の霊魂を持つ人造生体というトンデモな魔導師です。それだけにその潜在能力は凄まじい物で、チート能力を持つ私たちを遥かに上回る程ですよ。

 

 私としてはD・Sに宿るジューダス・ペインに興味があったので複製が可能か調べてみましたが、結果的に無理と言わざるを得なかった。それはジューダス・ペインが霊魂(魂)、精神、肉体の三つに凄まじい負荷をかける代物で、常人には耐え難き激痛に見舞われる上に、使い続ければ使用者の存在そのものが消失するからだ。

 

 私の場合はトリッパー特性から魂にはダメージはないが、精神と肉体が受けるダメージは許容範囲を逸脱しているから、とても使える代物ではなかった。その為、私たちは現状でD・Sと関わっても得る物がないのでD・Sに関わらずに研究を優先させているし、D・Sを作り出した老人たちもD・Sに対しては現状では放置というスタンスだった。

 

 そんな状態だから私たち十二賢者がD・Sと関わるのは魔操兵戦争(ゴーレム・ウォー)の時になるでしょうね。




解説

■ソウルジェム
 キュゥべえ(魔法少女まどか☆マギカ)が人間の少女の魂を加工して作り上げた宝石。型月世界で第三魔法と呼ばれている魂の物質化と似て非なる技術によって作り上げられた代物である。

■アシュタロスのエネルギー結晶
 アシュタロス(GS美神 極楽大作戦!!)が数千人にもおよぶ人間の魂を加工・凝縮して作り出した結晶。当初は究極の魔体のエネルギー源として制作されたが、後に宇宙処理装置(コスモ・プロセッサ)に使用される。尚この結晶はアシュタロス用に調整されている為にアシュタロスしか使用できない。

■妹達
 美坂美琴(とある魔術の禁書目録)のクローンで、学園都市では二万体以上の妹達が生産された。

■学園都市
『とある魔術の禁書目録』で舞台となる超能力の開発を行っている街。

■逆天号
 GS世界でアシュタロス一味が使用した兵鬼。アシュタロス自身がエネルギー源となった事と、高性能の霊力増幅装置が相まって人間界に存在していた神魔を一掃することに成功した。

■トリッパー特性
 上位世界人の魂は下位世界のありとあらゆる力をもってしても干渉できないという特性。この為トリッパーが死亡したら下位世界の蘇生魔法やドラゴンボールなどで蘇らせる事ができない。例外としてトリッパーの魂に干渉できるのは、姫神みこなどの特殊なトリッパーと死神だけである。


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18.魔操兵戦争

 魔操兵戦争(ゴーレム・ウォー)は、D・Sが自らの失われた半身を取り戻すために世界制覇に乗り出したために発生した戦争で、D・Sがゴーレムを多用した事からそう名付けられた。

 

「ゆゆしき問題だな」

「さよう、D・Sの行動は我々の意図しないものだ」

 

 D・Sは魔操兵や魔獣の大軍勢を引きつれて中央メタリオン大陸を席巻する大戦争を引き起こしており、世界の管理を行っている十二賢者にとってこれは放置できないものとなっていた。

 

「それに四王国を滅ぼされては封印の守りがなくなるではないか!」

「だからアンスラサクスの封印を地上の者たちに任せるのではなく、宇宙空間にバラバラに配置するべきだと言ったのよ!」

 と、私は指摘しておいた。

 

 この世界でもアンスラサクスの四つの封印は四つの王国に守護させていた。というよりも私たち十二賢者が王国を作らせたワケである。

 

 実のところ、原作を知る私たちはそれに反対した。四王国は確かに封印を守ろうとはしていたが、如何せん実力が乏しく魔操兵戦争の時には軒並み壊滅状態になったし、その十五年後には四天王によって四王国がことごとく滅ぼされて封印が解放されて、アンスラサクスが復活してしまったからだ。

 

 しかし、そもそもの切っ掛けはアンスラサクスの事をよく知っている筈のアビゲイルが、うっかりアンスラサクスの精神を解放していまい、その隙をつかれてアンスラサクスに操られてしまった事だから、アビゲイルの迂闊ぶりには困ったものですね。というかエウロペアの十賢者なんだからアンスラサクスの封印に手を出すなよな。

 

 そんな理由もあって私と彼らでは封印を守り方には相違があった。

 

 老人たちはアンスラサクスの封印が目が届く場所に配置したかったから原作の様に人間たちに守らせるつもりだったが、私は人間の手の届かない宇宙空間の各地(出来れば太陽系以外の場所に分散配置したかった)に隠しておきたかったのだ。

 

 実のところKCGは宇宙戦艦でもあるから宇宙に出るぐらいは可能であるし、やろうと思えば不可能ではないのだ。

 

 結局、私とアイシャ以外は目が届く地球で管理することに拘った為に却下されてしまったが、後でアンスラサクスが復活すれば彼らはそのことを後悔するだろう。

 

「今更そんな事を言っても仕方ないじゃろう。それよりこれからどうする?」

「こうなったら、あやつをいったん殺して、一時的に動きを封じ込めてみてはどうだ。丁度いい素材もあるしな」

「確かメタ=リカーナのラーズ王子だったな。四王家の中でも特に竜族の血が濃い者じゃ」

「そうじゃ、そやつに試作竜戦士を与えてみればどうじゃ?」

 

 竜戦士。それはバスタード世界の霊子力を応用した科学技術の粋を凝らして作り上げた対光体用決戦兵器だ。十二賢者はその研究をしており、すでに試作品が完成していた。

 

「あの試作品竜戦士(プロトルシファー/プロト・ワン)なら問題ないかな。結局あれは本採用されなかったものだし、例え失っても惜しくないもの」

 

 私たちも試作型の製作に関わったが、正直あれには熾天使並の光体とまともに戦えるだけの能力はない。それでもかなり強力ではあるのだが、如何せん目標となる性能に満たすことができなかった欠陥品だ。

 

 原作でも強力だったとはいえ、たかだか魔操兵一体とD・S相手に相打ちになっている。これでは熾天使どころかそこいらの天使にも勝てないだろう。まぁあれは初期の試作品だから仕方ないか。今では原作で登場したウリエルと死闘を繰り広げた竜戦士を開発中だ。

 

 この正式版竜戦士には私たちもかなり興味を持っている。何故なら人間が作り出した機械でありながら、あのウリエルと死闘を繰り広げるほどの戦闘能力を発揮していたからだ。その性能は鬼械神に近いものがあり、私としては本当に興味深い。というよりもそれが目当てでこの世界に来て、この老人たちに協力していた。

 

 勿論、竜戦士は可能な限り原作の物よりも強くなるようにしている。弱いよりも強いほうがいいからね。といってもこの竜戦士は使用するリスクが大きすぎるから、他人に使わせるならばともかく自分で使う気は毛頭ない。某世界に存在する人間の為のデウスマキナのように使用者に負担をかけない物ではないからね。

 

 私はチート能力を持ってはいてもあくまで人間でしかない。人外ではないからその辺りを度外視できない。

 

「では、試作型竜戦士をラーズ王子に与えてD・Sを討たせるということでいいな」

 と、老人たちが聞いてきたので、私とアイシャもそれに同意した。

 

 原作では竜戦士に殺されたD・Sはそのことにへそを曲げてアンスラサクス復活の時に竜戦士と融合するのを嫌がったから後々の事を考えるとそれは良くないかもしれない。とはいえ、ヨーコを含めた仲間たちを天使たちに殺されたD・Sはそのことに怒り結局は竜戦士との融合するようになるから、それでも問題ない筈だ。ならば特に変える必要はないだろう。

 

 

 

 その後、ラーズ王子を筆頭とする五英雄が魔操兵戦争を終結に導いた。ラーズ王子は試作型竜戦士と融合してたった一撃で四千の魔操兵を撃破するなど奮戦したが、原作通りD・Sと相打ちになった。

 

 この戦いで、D・Sは一端殺されてしまうが、事前に仕掛けておいた転生の秘術でとある赤子に転生するもののそのことがジオに知られてしまい、ジオによって彼は封印されてしまう事になる。

 

 この辺りまでは、原作通りだ。そうなるとアンスラサクスの復活と天使軍団の降臨も原作通りのスケジュールになるだろう。

 

 そろそろ身の振り方を考えないといけない。いくら私でも天使や悪魔とまともにやり合うつもりはないし、この世界の連中にそこまで義理立てしてやる必要などないからね。




解説

■鬼械神
 パソコンゲーム『斬魔大聖デモンベイン』の世界で登場した機械じかけの神様。まがい物とはいえ邪神に迫る程の戦闘能力を有する。

■人間の為のデウスマキナ
 覇道財閥が作り上げた鬼械神を模した自動人形(デモンベイン)の事。


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19.最終戦争

 西暦2410年になり原作通りアンスラサクスが復活した。それに伴い地球中で邪神軍団が人間を殺しまくっている。まったく旧世界の者たちはとんでもない生物兵器を作ったものです。

 

 あの老人たちでさえアンスラサクスがあそこまで面倒な存在になるとは思いもしなかったらしいですね。とはいえ、そんなアンスラサクスと邪神軍団も真打が登場する前菜のようなものに過ぎないからこの世界の者たちはたまらないでしょう。

 

 原作ではKCGに移住した一親皇家率いるエルフの集団は霊子動力炉の動力源となったが、ソウル・クリスタルの実用化によって彼らが霊子動力炉に使われて事もなく、KCGに現在も住み着いていた。

 

 そんな中で、邪神群の中にKCGの防御シールドを超えてテレポート可能な者がいたためKCGが大打撃を受けて防御シールドを破られてしまったから、住民たちの避難までやらねばならなくなった。

 

 ここで「それなら最初からKCGにいるエルフたちを避難させておけよ」と突っ込みを入れたい人もいるかもしれないが、アンスラサクス率いる邪神軍団とその正体である天使軍団は地球各地で現れて人類の虐殺をしているから、KCGにいなければ安全とは言えないわけです。

 

 老人たちは起死回生の策としてD・Sを竜戦士と強制融合させようとしてもアビゲイルが拒否したためにそれができず、D・Sがアンスラサクスと直接戦う事になった。

 

 その戦い自体はD・Sの活躍でアンスラサクスを撃破する寸前まで行ったが、正体を現した天使によってD・Sが封印されてしまう。

 

 そんなわけで、現在は400年前と同じように正体を現した天使軍団によってKCGはタコ殴りされており、浮力を半ば失い緩やかに落下中という状態になっている。

 

 そんなどん詰まりの状態で老人たちは「天使たちよ。もっと力を見せてみろ」と高笑いしている。ぶっちゃけいっちゃっているね。

 

「さてと、霊子動力炉か」

 

 この世界の霊子動力炉は原作と違ってかなり小型化されている。それこそスーパーロボットに搭載できる程だ。

 

 それだけに原作の様に霊子動力炉中枢部で派手に戦闘するなどできないが、その変わりに霊子動力炉付近で激しい戦闘が起きていた。

 

「この箱舟はもう駄目ね。ここは私とアイシャに任せて貴方たちはここから脱出しなさい」

「……良いのか。死ぬぞ」

 

 私の言葉に正気になったのか、老人たちは私にそう尋ねた。

 

「もはやどこにいても大差ないわ。だったら特等席で天使の力を見てみたいからね」

「そうか、わかった。では後は任せた」

 

 そういうと、老人たちはその場から出ていった。そんな老人たちとは別に私とアイシャはそのままデータを取れるだけ取ることにする。言うまでもないがこの場に残る事は死を意味するが、勿論、私たちは死ぬつもりなどない。

 

「がはっ!?」

 

 データ収集に集中していると、いきなり何かに腹を貫かれた。見ればそれは天使の手だった。視線を動かすと私の隣でデータ収集をしていたアイシャも天使に腹を貫かれていた。テレポートか。天使は瞬間移動して後ろから私たちを攻撃してきたのだろう。

 

 そして、天使の次の攻撃で私は意識を失った。

 

 

 

 

 

「やれやれ、やられちゃったよ」

 

 地球から、いや太陽系からもかなり離れた場所の宇宙空間に待機していた巡洋艦の一室で、私はそう愚痴た。

 

 先ほど天使に殺されたのは私たち本人ではなく、私のコピー・ホムンクルスだ。私たちはそのコピー・ホムンクルスをこの位置から遠隔操作していた。

 

 元々『スレイヤーズ』の世界にはエリスがやったようにコピーを遠隔操作する技術はあったから、それを発展させて、ここまで離れた位置からコピーを遠隔操作できるようにした。その為、私たちはアンスラサクス復活の少し前にコピーと入れ替わり、地球から遠く離れたこの場所から私たちのコピーを遠隔操作していたのだ。

 

 このコピーの操作方法はVRゲームのような感じで、アバターの代わりにコピーを動かしていた感じですね。だからコピーが殺されてもRPGで自分のキャラクターが死んだのと同じ感覚です。

 

 本当にこのコピーは実に役に立ってくれました。私たち自身が遠隔操作していたのもあるが、あの老人たちでさえ、コピーだと気付かなかったのだ。

 

 これで、エウロペアの十二賢者のエリーゼ・ペルティーニとアイシャ・ペルティーニは死亡したという形になるだろう。

 

 後はエウロペアの十賢者がやる筈だった仕事をあの老人たちにやってもらえばいい。

 

 やっていることがかなり姑息ですが、原作を知る私としてはこれ以上地球にいるなどできません。主人公じゃあるまいし、天使と悪魔から人々を守ろうなんて思っていませんよ。というか極端な事を言えばこの世界の人間が絶滅しようが私たちにはどうでもいいのだ。

 

「エリーゼこれからどうする?」

「そうね。もうこの世界で得られるものはないし、天使と悪魔の最終戦争に巻き込まれるのもいやだから引き上げましょう」

 

 目的だった竜戦士もとっくに完成しているから、当然ながらその製造技術もちゃんと把握している。この技術は後々に役に立つでしょう。

 

 こうして、私たちは天使と悪魔の最終戦争が繰り広げられている地球を無視して、430年ほど過ごしたバスタード世界から撤退した。




解説

■コピー・ホムンクルス
『スレイヤーズ』の世界で登場する人間の複製。コピーは通常は自我が存在せず、実験用に用いたり別の魔術で遠隔操作するという使い方が主流となっている。大概の人間であれば外見だけでなく才能などもコピーできるが、流石にエリーゼたちのチート能力のコピーは不可能なので、例え本人が遠隔操作してもその戦闘能力は格段に落ちる。

■エリス
『スレイヤーズ』の登場キャラクター。赤法師レゾの側近の魔道士で、レゾのコピーを魔術で遠隔操作していた。


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GS美神 極楽大作戦!!
20.魔女たちの帰還(GS美神編その二)


※20~26は、『GS美神 極楽大作戦!!』の世界が舞台になっています。


 西暦1994年。私たちがこの世界から旅立ってから丁度700年が過ぎた。

 

 この700年という時間は非常に長かった。かつては私たちを大いに煩わせた魔女狩りはもはや過去の産物でしかなくなっていた程である。その為、この世界で研究三昧の日々を送るというのもありだが、のんびりするのもいいだろう。

 

 今は原作開始の四年位前ですが、私たちがわざわざこの世界に戻ってきたのは、以前この世界にいた時に未来からやって来た美神と横島が私たちを知っていたからだ。

 

 そこで、この世界の原作にある程度関わる事にしたのだ。といっても私たちは原作の流れを大幅に変えるような事をするつもりはない。あくまで、メインキャラたちと知人になる程度にするつもりだ。それでどうなるかは分からないが、それはやってみれば分かるだろう。

 

 さて、この世界は私たちが転生した世界である為、これまで訪れた下位世界の中でも特別な物だ。監察軍でもこの世界における優先権が私たちに認めれれているから他のトリッパーもこの世界には干渉してこない。まぁGS世界の並行世界は無限にあるからここ以外の場所を使えばいいという理由もあるのだが。

 

 さて、久々に来たわけだから知人に会うとしよう。700年ぶりという事もあって知人といってもドクター・カオスしかいないけどね。そんなわけでドクター・カオスの屋敷に参ることにしました。というか原作のカオスは赤貧生活を送っていたが、この世界のカオスは普通の裕福でした。

 

 そういえば、原作では記憶容量の問題から知識を失いまくってしまい、まともな発明ができなくなったから貧乏だったのだ。ならば記憶容量の問題が克服されて実力をちゃんと出せるならばそれなりの生活ができるのも道理だろう。

 

 屋敷のメイドに私たちの名前を伝えると、カオスがすぐに反応して会う事ができた。正直なところ700年ぶりなので忘れられていたらどうしようと不安だったが、原作と違ってこの世界のカオスの頭はしっかりしていたようだ。とはいえ、以前カオスの記憶力の為に骨を折った事もあるから、これで忘れられたらたまりませんよ。

 

 

 

「700年ぶりね。ドクター・カオス」

「そうじゃな。それにしても懐かしいのう。お前たちはあの時のままじゃないか。その姿を見ていると若かりしあの頃を思い出すぞ」

 

 私とアイシャはあえてカオスが見慣れていた魔女の衣装を身にまとっていた。そしてあの頃からまったく外見が変化していない私たちを見たカオスが懐かしく思うのは当然だろう。

 

 しかし、私たちの外見が変わっていないのに、若い美男子だったカオスがすっかりと老人になってしまったのは、やはり年月を感じてしまう。思えば私たちも歳をとったものです。

 

「しかし、お前たちこの700年どうしておったのじゃ? まったく音沙汰なしじゃったから死んだかもしれん、と思っておったのじゃぞ」

「私たちは魔女狩りがうっとうしかったから、ほとぼりを冷ます為に700年ほど異世界に行っていたのよ」

「異世界じゃと!? そんな馬鹿な…。いや、お前たちならあり得ないとは言い切れないが、それにしても…」

 

 カオスはそう言いつつも考え込んでいた。

 

 GS世界の中世魔法技術をもってしても異界空間ならばともかく、異世界に行くなど絵空事でしかないので容易に信じられないが、その一方で、カオスは私たちの優秀さも知っているだけに戯言と切り捨てる事もできないようだ。

 

「まぁ信じるか信じないかはどうでもいいけど、私は700年前に行方不明になった状態だから現代では戸籍がないのよね。そこでカオスにその辺りを何とかしてほしいのよ」

 

 中世ならばともかく、20世紀末では戸籍がないとマジで何もできない。例えば質屋で金や宝石を売ろうにも身分証明書がないと駄目だろうし、仕事もできないのだ(この世界で仕事に就くつもりもないけどね)。

 

 とどめに職務質問なんかされたら最悪である。何しろ戸籍がないからどこの国にいても不法入国者扱いになってしまうから面倒極まりない。対策として、戸籍の偽造という方法もあるが、このGS世界ではカオスという伝手があるから、今回はカオスに頼もうと思っていた。

 

「うむ、確かにそれはできなくはないが、そうなると説明が面倒じゃな」

「その辺りは本当の事を言えばいいですよ」

 

 つまり魔女狩りから逃れる為に異世界に逃げ延びた13世紀最高の白魔女姉妹が、700年ぶりにこの世界に帰還してきたとね。

 

 異世界なんて眉唾者でしょうが、13世紀最高の白魔女という看板があるから当時の魔法技術に詳しくない者たちはもしかしたらと思うでしょう。実際13世紀のオカルト技術は現代よりも遥かに優れているからね。

 

「まぁそうするしかないが、そうなるとお前たちの周囲が何かと騒がしくなるぞ。お前たちはワシほどではないが欧州オカルト史ではそれなりに名が通っておるからな」

 

 魔女狩りで死に絶えたと言ってもいい魔女が、それも13世紀というオカルト全盛期において最高の白魔女と呼ばれたエリーゼ・ペルティーニとアイシャ・ペルティーニが現代に現れたとなったらオカルト業界を揺るがす大ニュースとなるだろう。

 

「そうですね。有名人というのは面倒ですね」

「まぁ騒ぐ連中はしばらくしたら収まるじゃろうし、それまではこの屋敷にいてはどうじゃ?」

「そうですね。私たちも貴方といろいろと話しておきたい事もありますから、そうしましょう」

 

 こうして、カオスがオカルト業界の伝手を使って私たちの戸籍を復活させる際に起きた騒動をやり過ごす為に、私たちはカオスの屋敷にしばらく滞在することになった。

 

 そして二人の魔女の帰還はオカルト業界を驚愕させる事になった。勿論、オカルトGメンやGS協会などのオカルト業界の重鎮たちが私たちに会いに来て相手をしなくてはならなかったりして、何かと面倒な事になったのは言うまでもないだろう。



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21.ロストテクノロジー

 世の中にはロストテクノロジーと呼ばれる物がある。それはかつては存在していたが時代と共に失伝してしまった技術の事で、魔女狩りによって失われた欧州の中世魔法技術もこのロストテクノロジーに該当する。

 

 しかし、当時の魔法技術を極めた魔女が現れた事で状況が変わり、オカルト業界ではかつての中世魔法技術の復活を望む声があがった。

 

「…というわけでして、お二人に弟子入りを希望する方々がいます」

 

 面倒なことに私とアイシャがオカルト関係者からそう言われるのも日常茶飯事となっていた。オカルト趣味の連中なんかがこぞって私たちの弟子入りを希望しているし、それ以外にもイギリスに滞在していた現代の魔女である魔鈴めぐみも希望してきたぐらいだ。

 

 オカルトや魔術が趣味の連中はともかく、曲がりなりにも現代の魔女として名を知られている魔鈴めぐみが弟子入りを熱望してきたのは、それだけ魔女に思い入れがあるのだろう。

 

 この時点が魔鈴めぐみはわずかな文献から失われた魔法を復活させていたが、彼女が復活させる事ができたのは中世魔法技術の中でもほんの一部にすぎない。それだけ失われた知識や技術が多すぎたのだ。

 

 正直、私たちの基準(13世紀の魔女の水準)からすれば、彼女でも魔女と名乗らせるのもおこがましい三流以下の見習い魔女でしかなかった。

 

「お断りします」

「しかし、魔法技術を復活させるにはお二人のご協力が必要なんです」

「そもそも中世魔法技術が失伝したのは、当時の人間たちが魔女狩りなんかやって、私たち魔女を狩りたてて貴重な知識を抹消していったからでしょう? その所為で私たちは異世界に逃げ込む羽目になったんですよ」

 

 訪問者は失われた中世魔法技術が復活すれば人々の役に立つはずだと主張していたが、私から言わせれば呆れてものが言えない事だ。まぁ魔女狩りなんて現代の人間には歴史上の出来事に過ぎないだろうが、その魔女狩りに振り回されていた私たちにとっては自らの過去の事なのだ。その認識の差は大きい。

 

 私から言わせれば魔法技術が失伝したのは当時の欧州の人々の愚行の所為だ。そいつらの子孫の為に彼らの愚行の尻拭いを何故私がしなければならないのだ。バカバカしくてやってられない。

 

「それに魔法薬や破魔札などのオカルトアイテムの製作に忙しいから、弟子の育成なんてできませんよ」

「そうですか。残念です」

 

 私がきっぱり断るとオカルト関係者そう言って帰って行くが、これも日常茶飯事だ。ここ数年、私たちはそうした事を繰り返していた。

 

 実のところ、別に中世魔法技術を復活させても私たちには損はないが、それをすればGS世界のオカルト業界に大きな影響を与えてしまうのは分かっている。そうなるとその余波で何が起こるか分からないから、少なくともアシュタロスの一件が終わるまでは原作ブレイクはやりたくないのだ。下手な事をして、滅亡エンドなんてごめんですからね。

 

 しかし、いつまでも断り続けるのは面倒な事になりそうだが、弟子を取るのはもっと面倒だからアシュタロス編が終了したら、中世魔法技術に関する本を出版しようと思う。そうすれば弟子入り希望者が来ても「知りたきゃ出版している本を読めばいいでしょ」と、突っぱねる事ができるからね。

 

 それと先ほども言ったが、私たちはこの世界に帰還してからはオカルトアイテムを制作販売している。これは別に除霊と違って免許とか必要ないからだ。中世では除霊に免許など必要なかったが、現代ではGS免許が必要で、無許可で除霊とかできない。

 

 それならGS免許を取ればいいだろうと思わなくもないが、そうするとGS協会という組織に序属する事になってしまう。組織に所属するのは私としてはそれはあまりやりたくない事なのだ。ランス世界では聖魔教団に入ったが、正直言って組織という枠にはまるのは窮屈だったのだ。

 

 それに原作ではGS免許を持つ主人公たちがオカルトGメンに徴兵されていたように、あの手の免許は非常時には厄介な義務も発生するからね。国家権力に無理やり協力させられるなんて御免です。それならば、GS免許を取得しない方が身軽でいいのだ。

 

 そんなわけで、私たちは除霊活動はやっていない。例外は悪霊や妖怪などに襲われた時ぐらいだろう。さすがに降りかかる火の粉ははらわないといけないし、正当防衛だからこれだけは法に引っかからない。

 

 それとこの時代のオカルト技術はどうも13世紀の水準からかなり低下しています。

 破魔札とかもかなり威力が低く、あの当時に使われていた破魔札なんか私たちやカオスぐらいしか作れる者はいないという有様で、これがやたら高値で売れています。

 

 カオスもこの取引で収入を得ていたが、カオス一人ではとてもじゃないが供給が需要に追い付かない状態だったらしく、私たちが作った破魔札もバカ売れしていますよ。

 

 そういえば、原作で中世魔法技術が廃れたのは魔女狩りの所為もあるだろうが、カオスが物忘れをしてしまいそれらの知識を忘れてしまったというものであった。実際、カオスは13世紀には魔女たちの書物などをたくさん持っていたから中世魔法技術も知っていたのだ。彼がきちんとそれらの知識を後世に残そうとしていたら、今でも残っていたかもしれない。

 

 いや、魔女狩りは当時の教会だけでなく当時の人々もやっていたからカオスはわざわざそれを保護しようとはしなかったのだろうね。下手に知識を伝えようとしていたら標的にされていたのは間違いないだろうし、それで魔女狩りがなくなった時には記憶力に問題がでて、その辺りの知識を忘れてしまったのだろう。

 

 それならカオスの記憶が健全なこの世界なら中世魔法技術がある程度残っていても可笑しくないだろうと思うが、魔女狩りを恐れたカオスはそれらの書物を手放していたらしく、その後もわざわざ知識を伝えようとはしなかった為に、この世界でも原作と同じように技術が失伝していた。

 

 ちなみにトリッパーである私たちはその活動から監察軍という組織に所属しているが、監察軍という組織はトリッパー支援組織という役割から、私たちの活動に大いに役に立つ。というよりも監察軍の協力がないと異世界間転移ができないから困るのだ。

 

 このように私たちが監察軍に所属しているのは下位世界を渡り歩くのに便利だからだ。

 

 

 

 さて、原作がはじまり原作通り優秀な霊能力者の肉体を奪う為にカオスが来日した。この世界のカオスは記憶容量の問題は何とかなっているが、老化だけはどうしようもない状態だった。

 

 カオスの延命処置は不完全な物だったからそれも仕方ないだろう。むしろ千年持って上出来だと言えるね。何気に私たちよりも長生きしているし。そんなわけで若い肉体を得る為に美神令子の体を奪おうとしたが失敗してしまい、そのまま日本に滞在しているらしい。

 

 さて、そろそろ時期的にいいだろうから、私たちも原作の舞台東京に向かうとしましょう。



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22.美神除霊事務所

 東京にきた私たちは美神除霊事務所を訪ねて、美神令子や横島忠夫にあった。

 

 訪問の理由はドクター・カオスと揉めたGSを見てみたかったからという理由にしておいた。これはカオスが優れた霊能者の体を乗っ取ろうとして、美神がそれを撃退した事から不審に思われることはなかった。

 

「13世紀の魔女というから物凄い老婆を想像していましたが、こんなにお美しいお嬢さんたちだとは思いませんでしたよ」

 と、言いながら横島が私たちに馴れ馴れしくしてきた。

 

 しかし、これでもまだマシになった方で、初めて会ったときは「生まれる前から愛していました」と、言いながらルパンダイブをして飛びかかり美神に殴られていた程である。正直な話、男は趣味じゃないので横島のセクハラに付き合うつもりはないが、原作の主要キャラなのであまり無下にもできない。

 

 ちなみに私の容姿は雪村 涼乃と全く同じものだからかなりの美少女で、アイシャも緋宮あやりの姿なのでこの私に劣っていません。おまけに十分歳を取っているから私たちに手を出してもロリコンにならないという免罪符から、アプローチがそれなりにある。といっても相手にしないけどね。

 

「話が進まないから、あんたは黙ってなさい」

「は、はい」

 

 美神が横島を叱責して私から引き離した。

 

「うちの丁稚が迷惑を掛けたわね」

「いえ、気にしていませんわ」

「そう、ありがとう」

 

 美神としては私たちを無暗に怒らせたくないのだろう。ある程度配慮していた。横島の横槍がなくなったから美神と世間話を多少したが、そろそろ頃合いなので帰る事にした。

 

「さて、挨拶も終わりましたから、私たちはこれで失礼します。美神さん機会があればまた会いましょう」

「ええ、そうね。また会えるといいわね」

 

 こうして私たちは美神除霊事務所を後にした。

 

 

 

「さてと、これで仕込みは十分ですね」

 

 私がわざわざ美神と横島にあったのは美神たちが13世紀に時間移動する際の仕込みだった。あの二人は私たちの事を知っていたから未来の私たちは二人と合ったことがあると判断したのだ。

 

 そうなると、どういった形で会う事になるかが分からなかった。というものこの世界の私たちはGSになっておらず、除霊作業をやっていないからGSそれも日本の民間GS事務所の二人との接点が分からなかったのだ。

 

 私の予想では何らかの形で知り合いになると思うが、予想できない面倒な形でそうなるよりも自分から会いに行った方がいいと思ったのだ。幸いカオスが美神と対立したので丁度いい口実ができた。

 

 それに私たちにとってキリスト教圏の欧州は居心地が悪いから、原作の舞台である東京に移住するついでにという理由もある。今の欧州は魔女狩りがなくなったとはいえ魔女というのはマイナスイメージが付きまとって何かと息苦しいです。

 

 しかし、東京は地価が高いし広い土地の確保が難しいから、異界空間に闘神都市ソドムとゴモラを持ち込んで、そこを居住空間及び拠点としておいた。実のところ私たちはランス世界で闘神都市を建造してランス世界から撤退するときに闘神都市も持ち帰ったわけですが、その後の運用では問題が出ていた。

 

 それはDQ3世界やバスタード世界でも闘神都市は悪目立ちし過ぎて持ち込めないという問題があったからだ。

 

 闘神都市はあくまで空中都市でしかないから、宇宙空間に持ち込んで運用するなんてできないから隠密性という点では最低の代物だ。その為、ソドムとゴモラを監察軍が存在しているリリカル世界の無人世界に凍結するという手段を取らざるをえなかった。

 

 リーラやエーファなどの人造人間たちはその闘神都市の管理の為に残して、私たちは異世界で活動する事にした。それ以降は時々闘神都市を改良したりする程度で基本的に闘神都市にいる時間は少なかった。

 

 そんな状況だっただけに闘神都市ソドムとゴモラをGS世界の異界空間に持ち込んで使用すると伝えた時にはリーラとエーファは喜んでいた。彼女たちからすれば私たちの専属メイドという役割なのにそれを果たせない状態だったのが不満だったのだろう。そう考えると悪い事をしてしまったね。

 

 

 

 そんなこんなで、現在の私は久しぶりに起動させた闘神都市ソドムのチェックをしている。それは長らく浮遊などの最低限の機能以外は停止させていたから、不備が出ている可能性があるからだ。

 

 最もこのソドムとゴモラは何万年でも使えるようにメンテナンスフリーを追及しているからあくまで念のためですよ。

 

「エリーゼ様、マナバッテリーと霊子動力炉のチェックが完了しました。いずれもこの世界での使用に問題ありません」

「そう、それはよかったわ」

 

 正直汎用性が割と高い霊子動力炉はともかくランス世界のマナバッテリーはちゃんと動くか心配だったんですよ。あれが使えないと人造人間たちの魔力充電が上手くいかず、私が直接魔力を与えないといけない状態になるからね。

 

 ちなみに私の作った人造人間は電力ではなくランス世界の魔力で駆動するようになっていて、あまりにもマナバッテリーが使えないようであればマリアの様に電力で動くように改造する事も検討していたのだ。

 

 電力もそうだけど下位世界における科学の汎用性は凄まじいものがあり、神秘や魔術などのオカルトはこの点では科学の足元にも及ばない。正直に言うと、オカルトの専門家である私にとっては複雑な思いです。

 

 やはりオカルト一辺倒では駄目で、科学とオカルトを上手く融合させる事が私たちの目指す道になるでしょうね。

 

「さてと、先ほども言ったけど明後日にはカオスをここに招待するから歓迎の用意をしておいてね」

「かしこまりました」

 

 そういえば、このソドムにトリッパー以外の客を招くのは初めての事であったね(リアルラピュタなこの空中都市に観光目的で来たトリッパーは過去に存在していた)。

 

 かつて仮初とはいえ味方だった聖魔教団の連中であってもここに招待なんぞしたことがなかったが、古き友であるカオスには見せておきたくなったのだ。

 

 私が下位世界人に対して友情などという思いを抱くとは正直思わなかったが、私にも人間らしい情という物がちゃんとあるという事でしょうね。




解説

■リリカル世界の無人世界
『魔法少女リリカルなのは』で登場する次元世界は無限に思えるほどの膨大な世界を内包しており、その世界の中には人間が住んでいる世界もあれば人間が住んでいない無人の世界もある。

■マナバッテリー
 ランス世界の聖魔教団が開発した魔力増幅装置。闘神都市に補助機関として使われており、魔導砲のエネルギー供給や、人造人間たちに魔力を充電させ、闘神に対するエネルギー供給などに使われている。


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23.招待

「これほどの空中都市を見られるとは、なんと素晴らしい!」

 

 異界空間の上空2000mに待機させた闘神都市ソドムに招かれたカオスは興奮気味だった。それはそうだろう。このソドムは私たちがこれまで訪れた世界で得た技術や知識がふんだんに使われており、現代の技術など軽く超越している空中都市なのだ。

 

「はい、ドクター・カオス」

 

 そんなカオスに同行した人造人間マリアはこの世界では私がソフトウェアの分野を改善したから原作よりも感情が発達していて、しゃべり方もより人間に近くなっている。といっても人間にかぎりなく近いリーラと比べれば、すぐにロボットだと気付く程度の代物に過ぎないけどね。

 

 マリアはよくみればロボットだと一目瞭然なのだが、リーラは外見では全く分からないし、実際に会話をして体を触っても人間と区別が付かないのだ。おまけに食事もできればセックスも可能なので余計に人造人間であると分かりにくいのだ。

 

 こういうとリーラのマリアはまったく違うのだが、マリアの製作にはカオスだけでなく私たちも携わっている事から、ある意味マリアはリーラやエーファの姉に当たる存在と言えるだろう。

 

 私はこの闘神都市ソドムの案内をリーラに任せており、リーラはカオスとマリアを一通り案内して接待していた。カオスは私が製作したマリアとはまったく異なるコンセプトのリーラに興味を持ったので、リーラが私たちが作り上げた人造人間について色々と説明した。

 

 ちなみに私たちが作り上げた人工霊魂は大きく分けて三タイプになる。

 

 身体能力や戦闘能力を度外視して、外見だけでなく内部機能も可能な限り人間に近づけた非戦闘タイプ。次に、戦闘能力をトコトン追及して外見も戦闘に特化した戦闘タイプ。最後に、闘神都市そのものに宿って管制を行う事が出来て、更に闘神を遠隔操作することで戦闘まで可能とする特殊タイプ。

 

 この三つが製作されており、これらはマリアのコンセプトとはまったく異なる物だった。

 

 しかし、現在では防空用のロボット兵だけでなく、戦闘タイプのレオンシリーズとグレイシリーズは闘神都市内部で凍結されていた。というのも戦闘がないために彼らを起動させておく必要がないからだ。

 

 格闘に優れたレオンシリーズならば状況次第ではこの世界で起動させる事もあるかもしれないが、ランス世界の聖魔法しか使えないグレイシリーズは凍結するしかないだろう。何しろこの世界はランス世界の魔法が使えないようなので、グレイシリーズは役に立たない。

 

 魔法や魔術という物は互換性が悪いので本当に使い勝手が悪い。私たちならばともかく、他の者はこの世界観の違いに注意しないといけませんね。元の世界でブイブイ言わせていた魔法使いがよその世界では無能者になっていたというのはよくある事です。

 

「しかし、こんなとんでもない代物をどうやって作り上げたのじゃ?」

 

 いくら私たちが13世紀最高の白魔女姉妹であったとしても、この闘神都市を制作するなど不可能だからカオスが疑問に思うのも当然だろう。

 

「私たちが異世界に行っていたという話は知っているでしょう。だったら私たちが700年も何もしていなかったと思う?」

「成程そういうことか。異世界の知識と技術を学習していたというわけか。ではお前たちが異世界に行ったのは魔女狩りから逃れる為だけでなく、異世界の知識を求めたからじゃな」

「そうよ。あの時すでにこの世界で学習できることは粗方学んでいたからね」

 

 カオスの推察通り、確かに私たちがこの世界を離れた理由はそれも含まれていた。

 

「異世界の技術か。それは興味深いな」

 

 カオスは私の言葉に面白そうに言う。カオス程の天才にとっても異世界というのは未知の存在だから興味を持つのは分かる。

 

 

 

「それはそうと、カオス貴方に聞きたい事があるのだけど」

「なんじゃ?」

「以前貴方は若くて強い霊能力を持つ美神令子の身体を手に入れようとして、美神と敵対した事があったでしょ?」

「うむ、そうじゃ」

「何故美神令子にしたの? ヨーロッパの魔王と言われた貴方がわざわざアジアの僻地のしかも女性の身体を得ようとするなんて可笑しいですよ」

 

 そう、普通に考えれば男性であるカオスが、女性である美神と肉体を入れ替えようと思うのは可笑しいのだ。鎌田勘九郎のようにオカマならばともかくカオスはその点ではノーマルな筈だし、大体美神でなくとも霊能力に優れた男性など世界中にいくらでもいるのだ。

 

 原作では酷いボケ状態だったからその辺りの行動は理解できるが、この世界のカオスがそんな事をするわけがない。

 

「肉体交換というのは口実で、実は美神令子と知り合いになるのが貴方の目的でしょう?」

 

 カオス程の者が、わざわざ美神令子と知り合いになるのはあまりにも不自然なのだ。だから無理やり理由を作り上げたと考えた方が自然だ。

 

「……その通りじゃ。しかし、それはお前たちも同じじゃろ。だから700年もこの世界から離れていたのに、この時期にこの世界に戻って来たわけじゃしな」

「そう、お互い考える事は同じだったのね」

 

 その結論に至り、私とカオスは薄く笑みを浮かべた。

 

 思い出してみれば、あの時のヌルとの戦いはかなりギリギリだった。それだけ地獄炉によって強くなっていたヌルは厄介だったのだ。

 

 当時の私たちではヌルに勝つのは難しい。そういった意味では美神たちには中世ヨーロッパに時間移動してもらわないと困るのだ。だからカオスも私たちも美神たちと知り合いになるようにしたし、美神たちが時間移動するように誘導するつもりなのだ。

 

 

 

 後日、私が製作したリーラに刺激されたのか、原作通りカオスが新たなる人造人間テレサの製作を決めたが、その資金は膨大なものになり私に出資を求めて来た。正直に言うと金などいくらでもあるからポイと出してもいいのだが、一応製作する人造人間の仕様書と人工霊魂の術式を提出してもらったが、それは原作通り色々と不味い代物だった。

 

「これは駄目ね」

「何故じゃ?」

 

 資料に目を通した私がダメ出しをすると、カオスが疑問の声を上げた。カオスにとってはかなりの自信作だったのだろう。

 

「まず人工霊魂製造の術式だけど、この部分が曖昧で意思の制限が緩すぎるわ。これだといきなり反逆しかねないわよ」

「あ、ホントだ」

 

 原作ではテレサが生みの親であるカオスにいきなり反逆したが、それもこんな術式をみれば納得できる。これでは危険すぎるよ。

 

「それとボディスペックが高すぎるわ。これじゃコストが高騰してしまうから売り物にならないわ」

「しかし、最高のスペックがあってこそじゃろう」

 

 確かにマリアのように自らの相棒として制作するならそれで正解だろうが、今回は量産して金儲けする為の物である以上、消費者が買ってくれる商品でなくてはいけないのだ。

 

 確かにボディスペックは低いよりも高い方がいいが、性能を追求しすぎると価格が高くなって売れなくなる。

 

 大体一般人にとってやたらと戦闘能力の高いロボットなんていらないし、そんなものを一般人に販売したら法律的に問題がある上、余計な社会問題になってしまう。

 

 また高い戦闘能力を売りにして軍隊に売り込むという案も難しい。というもの軍用アンドロイドというのはこれまで実用化されていないから有効性が証明されていないのだ。その様な物がそう簡単に採用されるのか、という問題が当然出てくる筈だ。

 

 それに人を殺してなんぼの軍隊に使わせる事で人工霊魂に人殺しを学習させると、将来的にどのような悪影響が出てくるか分からない。

 

 これはランス世界で散々軍事利用したお前が言うなと突っ込まれそうな考えだが、私の場合は製作した人工霊魂はすべて私の命令に従うという命令系統が極めてシンプルな物だからできた事なのだ。

 

 結論を言うと、価格を高騰させてまでオーバースペックを追及しても全くの無駄である。私はその辺りの意見をカオスに説明しておいた。

 

「売り物にするなら余計な霊的素材の排除とスペックを人間並みにしてコストを抑えるべきだわ。当然飛行能力もいらないし、武器を内蔵する必要もない」

「しかし、それでは売れんのではないか?」

「そうでもないわ。家事をやってくれるメイドロボや、介護をやってくれる介護ロボとかいう触れ込みで売り込めばいいじゃない。コストさえ低く押さえられればそれで売れる筈よ」

「そうか! 確かにそれなら売れるぞ!」

 

 これが後の大ヒット商品となるテレサシリーズ開発の経緯であった。

 

 こうして、量産されたテレサは世界的に大流行して、家事、育児、介護の現場で大活躍したが、すぐに各国政府の規制により、それ以外の事務や工場労働などの仕事をさせる事は禁止された。

 

 まぁテレサが活躍し過ぎると雇用がなくなってしまい、大量の失業者が発生してしまう為に政府の行動は間違っていないだろう。

 

 私たちも何も人間の仕事を取り上げたいわけではないので、それに文句はない。



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24.時間移動

 カオスから美神たちが時間移動したと連絡が入ったので、私たちは美神除霊事務所に行くことにした。

 

 そこでは、おキヌとカオスが話し込んでいた。

 

「おう、お前たち来たか」

「エリーゼさん、アイシャさん大変なんです!」

 

 落ち着いているカオスはともかく動揺しているおキヌはちょっと面倒ですね。

 

「話はカオスから聞いたわ。おキヌちゃん落ち着いてちょうだい」

「で、でも…」

「心配しなくても時間移動した美神たちの行先には心当たりがあるわ」

「そうじゃな」

 

 そう、私とカオスは美神たちの行先などとうに知っている。

 

「どういうことですか?」

「実は私とアイシャとカオスの三人は13世紀に時間移動してきた美神たちと合ったことがあるのよ。今回はその時間移動の筈です」

「そ、そんな事があったんですか。じゃあ美神さんは?」

「落ち着いて、結論を言えば確かにいろいろあったけど、ちゃんと未来に時間移動したはずだからそのうち帰ってくるわよ」

「そうなんですか?」

 

 私の返答に安心したのかおキヌは喜んでいた。

 

「まぁここで待つだけというのも暇でしょうから、あの当時の昔話でもしましょうか。カオスもいいでしょ?」

「おお、懐かしいのう」

 

 私の言葉にカオスは賛同したので、13世紀の昔話に興じる事にした。

 

 

 

「……とまぁそんな事があってな。ワシはヌルの施設を分捕ってそのまま50年ほどその地で研究をしておったんじゃ」

「そうだね。あのヌルの施設は本当に凄かったよ。おかげに研究の役に立ったわね」

 

 老人の昔話は長いと言うが、私たちとカオスの生きた時間は並の老人では歯が立たない程です。それだけに話す事には事欠かないですね。そんな風に話し込んでいると、美神たちが出現してきた。

 

「美神さん、横島さん、よかった無事だったんですね」

 

 美神と横島が無事に帰って来たことにおキヌは大喜びしていた。カオスはカオスでマリアの無事を喜んでいたし、マリアがマリア姫から託されたメッセージを聞いてカオスがしんみりとしていた。

 

 そんな風に、ここで終わればいい話だろうが、カオスが美神の荷物に気が付いた。それは大昔にいつの間にかなくなっていたカオスの道具だった。

 

「これはワシの道具ではないか! いつの間にかなくなっていたと思ったらお前がガメていたのか!」

「お、大昔の事でしょ。時効よ」

「時効って」

「この人は時間移動能力何て持つべきじゃないな」

 

 美神のあんまりな行動におキヌや横島も呆れている。まったくです。折角昔の事を思い出して感傷に浸っていたのに台無しですよ。

 

 それに美神のやっている事は時間犯罪そのものですね。過去で犯罪を犯しても、大昔の事だから時効と言い切るなんて困ったものです。

 

 しかし、これは無視できませんね。時効うんぬんで無罪か有罪かはともかく、これらの道具はカオスの道具で、美神によって盗まれた盗品であるという事実は変わらないのだから正当な持ち主に返却するべきです。

 

「美神さん大昔だろうが、貴女がカオスの貴重な道具を盗んだ事には変わりはありません。悪い事は言わないからそれらの道具はカオスに返す事です」

「嫌よ。これは私の物よ」

 

 どこまで強欲なんだこの女は? というか何でここまで金銭欲が強いんだか、お金なんて生活する為に必要とする物や目的を果たす為に必要な物があれば十分な筈だ。いくら私でも他人の物を盗んでまで金銭を得ようなんて思わないぞ。

 

 大体、貧しい子供生活を送った事で守銭奴や金の亡者になったという話はよく聞くが、美神家は貧しいどころか、一般家庭に比べたらそれなりに裕福な家庭だった筈だ。それなのになんてこんな風になるのだか。まったく訳がわからないよ(byキュゥべえ)。

 

 私は転生してからお金に困った事などないから、理解不能なのもあるけどね。何しろ金なんか系統魔法の錬金(ゼロの使い魔)を使えばいくらでも調達できるし、監察軍のバックアップまであるのだ。これなら他人と考えが違ってくるものだろう。

 

 それはいいですが、これは何とかしないといけませんね。ふむ、ではこの手でいくか。

 

「そうですか。そこまで言うなら仕方ありませんね。では今回の事は美神公彦さんにご報告するとしましょう」

「な、何ですって!」

 

 父親に報告するぞ、という私の言葉に美神は顔色を変えた。

 

「貴方のお父さんもさぞかし悲しむでしょうね。娘が時間移動能力を悪用して盗みを働いたなんて聞きたくないでしょう。私もできればそんな事は言いたくはありませんが…」

 

 そこで言葉を切って、私は美神に視線を向けた。私は言外にどうなるかは貴女の行動次第だと伝えていた。それが分からぬほど馬鹿でもないだろう。

 

「う~。わ、分かったわよ。返せばいいんでしょ。返せば」

 

 流石にこれには美神も耐えかねて諦めたようで、大人しくすべての荷物をカオスに返した。

 

 えっ、これでも駄目だったらどうするのかって? 勿論、その場合は本当に美神公彦に報告していましたよ。その後で美神家が家庭内で揉めても知った事ではありませんからね。

 

 そういえば死津喪比女との戦いで、これらの盗品から美神が組み上げたカオス・フライヤーⅡ号が活躍していましたね。それがないとなると、下手をすれば美神たちが敗北して原作崩壊もありえますね。だから後で適当な魔法の箒を原価で美神に売りつけてやるか。それで何とかなるでしょうし、それでも駄目で、原作崩壊してしまっても私は別に困らないから別に構わない。

 

 しかし、これで私たちがこの世界でやるべき事は終わりましたね。もう、この世界で得る物もないでしょうから引き上げてもいいんですが、折角なのでアシュタロス編が終わるまではいるとしましょう。

 

 確かアシュタロス編では、宇宙処理装置によって世界中で悪霊、妖怪、魔族が大暴れして大混乱になるイベントがあったから、それをあの実験に利用できるかもしれないからね。



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25.ディス・レヴ

 アシュタロスが宇宙処理装置を使い、地球各地で悪霊、妖怪、魔族の死者がアシュタロスの部下として復活した。彼らは地球規模で大暴れしていたので、現在では地球全土が大混乱になっていた。

 

 しかし、不意にそんな状況に変化が訪れた。出現した悪霊たちが次々に消失していったのだ。

 

 その原因は片田舎に配置されているディス・レヴと、それを囲む巨大な魔法陣だった。それはエリーゼとアイシャが設置した物で、この魔法陣によって制御されたディス・レヴはこの世界の死霊や悪霊を次々に吸収していった。

 

 現在私とアイシャは魔法の箒に跨り、ディス・レヴが配置している魔法陣の上空を飛んでいて、ディス・レヴを遠巻きに眺めていた。

 

「悪霊どもの吸収は上手くいったね」

「ええ、地脈と魔法陣の補助があるとはいえ、何とかディス・レヴの実験に取り掛かれたわ」

 

 このディス・レヴは、『第3次スーパーロボット大戦α』で登場する負の無限力を用いる機関で、理論上は無限のエネルギーを得られる物だ。

 

 かつて監察軍は対ベヅァー兵器の開発の過程で様々な無限力に興味を示して研究を行った。その結果として、イデ、ゲッター線、ビムラー、ザ・パワー、ムートロンなども研究対象になったのだ。

 

 しかし、これらはいずれも超エネルギーを内包した強大な力で、厄介な事に意志を有する為に人間が完璧にコントロールするのに手を焼く代物なのだ。

 

 おまけにイデを筆頭に、暴走した場合は監察軍本部やブリタニア帝国が存在している宇宙そのものを滅ぼしかねないものであった為に、無限力の研究は、『スーパーロボット大戦α』の世界で行われることになった。

 

 そんなわけで監察軍では無限力の研究はそれなりに進んでいたが、負の無限力であるディス・レヴに関してはまったく進んでいなかった。というのもディス・レヴがあまりにも危険過ぎた為に設計段階で開発が凍結してしまい、実際に起動実験が行われた事すらなかったからだ。

 

 今回私たちはその危険極まりないディス・レヴを用いた実験を行っていた。それは地脈と魔法陣によって、ディス・レヴでこの地球中の悪霊を吸収するという大規模なものだった。

 

 本来ならば、そんな実験を行えばすぐに露見して各国政府やオカルトGメンなどから突き上げをくらいかねないものであったが、今なら問題にならない。何故なら地球規模で大混乱に陥っている為に、そんな状況を把握する事などできないからだ。

 

 要するにドサクサまぎれに派手な実験をやっているのですが、このディス・レヴはその性質からこの手の実験に向いていますね。

 

 

 

「やってくれましたね。エリーゼ姫、アイシャ姫」

「あらヌルじゃない。久しぶりね」

「本当ね。懐かしのキャラ再登場という所かしら」

 

 そんな私たちの前に人間の姿をしたヌルが現れた。確かに原作でもこいつは宇宙処理装置で復活していたから、私たちの前に現れても可笑しくない。

 

 それにしても私たちが姫と呼ばれるのは本当に久しぶりですね。ここ700年ほどなかったですよ。

 

「ええ、懐かしいですが、アシュタロス様の為に貴女たちには死んでもらいます」

「まぁそう言うでしょうね」

 

 分かりきったヌルの行動に私たちは微笑して、その数分後にはヌルがズタボロになっていた。

 

「ずっと死んでいた貴方が私たちに勝てるわけがないでしょ」

「少年マンガは強さのインフラが激しいから嫌いです!」

 

 私たちにボコボコにされたヌルがなんかメタな発言をしていた。700年ぶりのヌルとの戦いは、ハッキリ言ってまともな戦いになりませんでしたね。あの時はヌルは地獄炉のバックアップを受けて強化されていた上に、私たちは未熟だったから大いに苦戦した。

 

 しかし、異世界での自己向上特に、DQ3世界、ランス世界、バスタード世界などでレベルアップを繰り返した私たちの魂の力は桁違いに高まっており、霊力は5000マイトを超えていた。当然ながら、人間の領域を遥かに超越しているので、そこいらの中級魔族なら圧倒できるのだ。

 

「しかし、このまま負けるものか!」

 

 私たちにかなわぬと見たヌルは、私たちを無視してディス・レヴに突撃した。ヌルは悪霊を一掃した魔法装置(ディス・レヴ)を破壊しようとしたのだ。

 

「なるほどね。悪い選択ではないわ。でも愚かね」

「ぎゃああああっっ!!」

 

 不用意にディス・レヴに近づいたヌルがディス・レヴに取り込まれた。

 

「私たちでさえディス・レヴの半径50m以内には近寄らかなったのに、魔族が迂闊に近寄るからそうなるのよ」

 

 ディス・レヴには近づいた生命体を取り込むという危険極まりない特性がある。おまけに下手にディス・レヴを機体に搭載して実験すると、その機体を自律稼働させかねないので、ディス・レヴ本体のみで実験をやらざるを得なかったのだ。

 

 ついでに言えば魔族は霊体が皮をかぶっているような存在で人間よりも遥かに幽霊に近いので、ディス・レヴとは相性が悪い。その為、ヌルはディス・レヴに取り込まれてしまったのだ。

 

 私たちはそれを淡々と眺めつつも上空から観察を続けていた。

 

「こちらのデータはこんなものか。ハルヒそちらはどう?」

『ええ、こちらのデータ収集も大体終わったわ』

 

 私はウィンドウ(空中モニター)に映るハルヒと通信を行っていた。

 

 現在、衛星軌道上では監察軍の巡洋艦が存在しており、彼女たちには今回に実験に協力してもらっていた。彼女たちもディス・レヴの起動実験には興味があったのだろう。

 勿論、こんな実験が許されたのは、この世界が監察軍の勢力圏ではないからだ。極端な話、ディス・レヴが暴走してこの世界に甚大な被害を与えても監察軍にとっては問題ないし、私たちもこの世界にそれほど興味はないから仮に滅んでも痛手ではないのだ。

 

 そうこうしている内に、地球各地で暴れていた魔族や妖怪たちが次々に消失していった。どうやら宇宙処理装置が破壊されたようだ。となると、そのうち各国の混乱が収まるだろう。

 

「ハルヒ、そろそろ潮時なのでディス・レヴを処理してね」

『わかったわ。じゃあまた後でね』

 

 ハルヒがそう言うとウィンドウが消えて、ディス・レヴもその場から消えた。ハルヒは手筈通り、ディス・レヴを太陽に転送したのだろう。

 

 たった一回の実験でディス・レヴを使い捨てるのは勿体ないが、あれは危険すぎるので手元に置いておけないし、だからといってこの世界に放置する事はもっとできない。その為、太陽に転送して焼却処分するのが妥当だったのだ。

 

「しかし、実際生で見てみると、本当にディス・レヴは厄介ね。いくら私たちでも自力でアレを安全に制御するのは難しいでしょうね」

「やっぱり何らかの制御システムが必要だね」

「そうね」

 

 私たちの目的の為にもディス・レヴの制御は必要でしょうね。リスクはあるが、あの力は魅力的なのだ。




解説

■ディス・レヴ
 ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α)の動力源。怨霊や悪霊などの宇宙中の負の存在の集合体からなる「負の無限力」を吸収して、それを動力とする。また原作では「生命が輪廻転生する際の狭間の力を使っている」と語られており、実際には死霊や悪霊以外の力も使われている。

■負の無限力
 バンプレストオリジナル。反イデとされる力で、悪霊や怨霊などの意識集合体からなるイデに匹敵する無限力。

■イデ
 無限力の代表格。イデオンの力の源。

■ゲッター線
 無限力の一種で、ゲッターロボの動力源。

■ビムラー
 無限力の一種で、ゴーショーグンの動力源。

■ザ・パワー
 無限力の一種で、木星に眠る無限エネルギー。

■ムートロン
 無限力の一種で、ライディーンの動力源。

■ハルヒ
 監察軍の所属するトリッパーの一人で、当サイトのSS『トリッパー列伝 涼宮ハルヒ』に登場している。


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26.若返り

 アシュタロス編が終了して数か月がたった。大混乱になった各国も体制を立て直して何とか持ち直している状態であった。最も私たちにとってはどうでもいい事であったが。

 

 それと以前にも言ったが、この世界のオカルト技術は13世紀の頃に比べて衰退しているので、この世界で吸収できる物はなかった。とはいえ神魔族の技術、特にアシュタロスの技術などは私たちでも興味をそそられる物だったから、ある程度の技術を回収しておきました。

 

 どうやってそんな物を回収できたのかというと、アシュタロス一味が世界中にある神魔族の拠点を潰しまわっている時期に、アシュタロスたちの不在をついて南極のアシュタロスの秘密基地に潜入しただけです。

 

 この南極基地は原作ではアシュタロスが撃ち込んだ核ミサイルを美神たちによって呼び戻されて吹っ飛んでいるからそれまでに調べておきたかった。というよりも神魔族たちとの戦いからその後の逆天号の被弾辺りがタイムリミットだと思う。流石にアシュタロスが帰ってくる時にいたら危険すぎるからね。

 

 そんなわけで、限られた時間内に調査を行う事にしたが、宇宙のタマゴの実物が沢山あって様々な技術の資料があったので、それらに習得していった。

 

 普通ならば宇宙のタマゴの実物とか資料とかを盗んでいく物だが、私たちの場合は宇宙のタマゴを初めと下様々なアイテムなどは触るだけで構造を理解できるし、資料などパッと見るだけで理解できる。その為、わざわざ実物を盗んでいく必要はないからやっている事はコソ泥っぽいけど、ただの不法侵入ですね。

 

 これは傍から見れば犯罪行為ですが、GS世界の法律では魔族の人権は保障されていないから、別に魔族の住宅に侵入しても犯罪ではないですよ。まさに盗賊に人権はない、もとい魔族に人権はないという状態です。

 

 私としては少しでも収穫が得られたらいいな、と思っていたが、想像以上の物が手に入ったので、まさに笑いが止まらない状態でしたね。

 

 さすがにその事が神魔族に知られたら彼らに目を付けられてしまい厄介な事になるから目立たないように注意しましたよ。実際、アシュタロス編では私は美神たちにはまったく関わっていないので、名前すら出てこない状態です。

 

 

 

 そんな事で、この世界で得られる物はないからこの世界から引上げることにした。本当は弟子入り拒否の為に、中世魔法技術関係の書物を出版でもしようかと思っていたが、引き上げるならば一々そんな事をする必要などなかった。

 

 引き上げるにともない、カオスとマリアに別れの挨拶をする事にした。挨拶をするのがこの二人だけなのは、この世界では美神たちとはそれほど関わりがない為にカオスとマリア以外に別れの挨拶をするほどの仲の者がいなかったからだ。

 

「そうか、名残惜しいのう」

「はい、ドクター・カオス」

 

 カオスはしみじみとしていた。まぁ彼としてもなまじ長生きしている為に昔の知り合いなど私たちしかいないという有様になっているからね。その私たちがこの世界を去るのは寂しいのだろう。

 

「カオス、これは餞別ですわ。時の砂の呪文(サンズ・オブ・タイム)」

「何じゃ!」

 

 私の呪文によって砂の様な物がカオスを包み、そしてそこから若い青年が現れた。

 

「こ、これはまさか!」

「そう、私の秘術で貴方を800年ほど若返らせたのよ」

「若返りを完成させていたのか!」

 

 私が使った魔法はDQ世界の呪文で、対象となる者の時間を操る事で若返りや老化など自在にできる代物だ。今回はカオスの肉体の時間を800年ほど巻き戻した為、カオスの外見は私たちが初めて会った全盛期のカオスに戻っていた。

 

「おお、この溢れる力。なんと素晴らしい」

「カオス、不老になったわけじゃなくてあくまで若返らせただけだから、800年後にはまた元の老人になってしまうからね」

「そうか。まぁ800年も若返ればそれで十分だよ」

 

 それもそうだ。カオスはすでに千年以上生きている上に今回の若返りでまた寿命が延びたわけですからそれで十分なのでしょう。

 

「そう、じゃあカオスもう会う事はないと思うけどお元気でね」

「うむ、さらばだ」

「さようなら、エリーゼさん、アイシャさん」

 

 こうして、私たちはGS世界から撤退した。

 

 ちなみにカオスの若返りによって、私たちが他人の若返りまで会得していた事が知れ渡って、大きな騒ぎになった。何しろ世の中は平等ではないので、一般人よりも権力やお金がやたらとある人間はそれなりにいるが、そんな彼らでも時間だけは平等です。誰もが等しく老いて死んでゆく物なんです。

 

 それだけに大金を払ってでも若返らせてほしいと思う者たちは眼の色を変えたが、肝心のエリーゼたちがこの世界からいなくなったから、すべて空振りになってしまった。

 

 こうして、これらの騒動も人類史上最高であろう魔女たちのエピソードとして後々まで語り継がれていくことになる。




解説

■盗賊に人権はない
 リナ・インバース(スレイヤーズ)の名台詞。彼女はそう主張して盗賊いじめをやっている。

■時の砂の呪文「サンズ・オブ・タイム」
 マンガ『ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章』で登場するオリジナル呪文。時間を操ることで若返ったり元に戻したり出来る。


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魔法先生ネギま!
27.魔法世界(ネギま編)


※27は、『魔法先生ネギま!』の世界が舞台になります。


 原作開始の20年ぐらい前、つまり大戦終了直後の魔法世界にある中立国家アリアドネー。GS世界から引き上げた私はそこに赴いた。その目的は当然ながら現地の魔法を覚える事だ。

 

 ネギま世界の魔法は身体能力を向上させる〝戦いの歌″とか〝武装解除″とか独特な物がありますし、別荘とかにも興味はある。

 

 この魔法世界は社会があまり熟成していない。何しろ奴隷制度が堂々と存在しているので、戸籍なんかもしっかりしていない有様だったりするけど、これは私たちにとっては好都合だった。

 

 異世界から来た私たちは当然ながら戸籍はありませんが、それでも金や宝石を出せば通貨が手に入るし、魔法が公開されているから魔法関係の書物やマジックアイテムの類もお金さえ払えば普通にお店で購入できます。そんなわけで書物から大まかな魔法の知識を理解してそれを練習したが、ここでもいつも通りの才能が発揮されて、あっという間に大概の魔法を習得することに成功した。

 

 この世界の魔力というのは、生まれつきで大体の量が決まり後天的にその魔力を増やすのが難しいという世界観で、私たちの場合はチート能力の恩恵で主人公のネギすら足元にも及ばない程の強大な魔力を持っています。といってもネギみたいに魔力をろくに制御できずに武装解除の魔法が暴発するなどという醜態とは無縁です。

 

 常人では使いこなせないほどの魔力でも私たちならば簡単に制御できます。この辺りは経験ですね。伊達に800年近くもオカルト系の能力を磨いてきた訳ではありませんよ。

 

 そんなこんなで、この世界の魔法の習得は順調に行きました。それは良かったのですが、私たちが強すぎで余計な注目を集めてしまうので魔法の練習などは人目につかないところでやらないといけなかったのが面倒でしたね。

 

 ちなみに私は頭の出来が違うので目を通した魔法の書物から魔法の呪文を覚える事など簡単にできるから、この世界に存在する数多くの魔法の呪文も暗記しています。ナギみたいにアンチョコを見ながらでないとろくに魔法が使えないなんて事は勿論ありませんよ。私たちはナギみたいに肩書が嘘ではなくて、本当に千以上の魔法が使える魔法使いですから。

 

 私たちの実力ならその気になればこの世界の魔法使いたちが主張する立派な魔法使いとやらにも簡単になれます。とはいえ立派な魔法使いなんて胡散臭いものはどうでもいいですね。

 

 そういえば私たちは数多の下位世界を守るために破壊神ベヅァーに対抗する力を身に着ける為に修行中だったりします。あまりにも長い事やっているから忘れがちですけどね。何しろ800年近くやっているから常人がやるような武者修行とか見聞の旅なんてレベルじゃなくて、最早仙人の修行並ですよ。私たちは仙人と言うには世俗に塗れているけどね。

 

 現在の魔法世界では大戦終了後という事もあってナギやラカンのファンという人が多かったけど、私たちから見ればどうでもいいです。ミーハーみたいに追っかけなんかする気は当然ながらありませんよ。そんな歳でもないからね。

 

 

 

 こうして、魔法の習得や、マジックアイテムの解析などを続けて早20年ほどが経ちました。夏休みの時期になったので、そろそろ完全なる世界も本格的に動き出す筈です。

 

 私たちはこの世界では原作に関わるつもりはない。そんな事をしてもメリットなんかありません。他のオリ主ならば3-A組のヒロインたちと関わってあれこれやったりするのでしょうが、私たちはそんなつもりはない。

 

 別に原作を守ろうなんて綺麗事を今更主張するつもりはないですが、わざわざ原作ブレイクするメリットもない。勿論、利益があるなら原作を崩壊させても構わないですが、意味もなく引っ掻き回したりはしません。誰だってただ働きは嫌ですからね。

 

 そういう事ですから、面倒な事にならないようにさっさとこの世界から引き上げる事にします。

 

 20年も造物主が作り出した魔法世界でいろいろと研究をつづけた結果、人造異界の作り方を習得できた。これで別の世界で人造異界を作り出して造物主の真似事もできるようになりましたが、今のところそうする予定はありませんね。何しろわざわざ人造異界なんか作らなくとも下位世界はいくらでもありますから。

 

 そういえば、造物主は火星の人造異界である魔法世界の崩壊という状況で世界を救うために奔走していますが、悪役扱いになっていろいろと不憫な方ですね。仮に私が人造異界を作ったとして、その人造異界が崩壊の危機に陥っても面倒なので放置するでしょうね。

 

 それを考えると造物主はいい人ですね。いや私が冷酷なだけかな。メリットにならない存在など容易く切り捨てる事に躊躇いすら覚えないですから。私も悪になったものです。

 

 まぁそんな事はどうでもいいですが、この世界では極力原作に関わっていないから多分原作通り終了すると思う。そういう風にならなくて、この魔法世界が滅び悲劇的な最後を遂げても私たちには関係ないからどうでもいいです。



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Fate/stay night
28.神代の魔術(古代ギリシャ編)


※28は、『Fate/stay night』の世界が舞台になります。


 ネギま世界から引き上げた私たちは、型月世界に行くことにした。この型月世界というのは『月姫』『空の境界』『Fate/stay night』『魔法使いの夜』などの下位世界だ。

 

 ここでは魔術を学ぼうと思うが、型月世界では神代の時代が魔術の全盛期で、この当時の魔術師はかなりの能力を持っていたが、時代が過ぎるごとに神秘は失われてしまい21世紀には魔術は見る影もなく衰退してしまっている。

 

 そうした事から最初は21世紀に行こうかと思っていたが、どうせなら全盛期の神代の時代に行って魔術を習得した方がいいと判断して、紀元前15世紀の古代ギリシャに来た。

 

 思い切ってかなり古い時代に来てしまいましたが、やたら古いとはいえ文明はあったので街並みはそれなりでした。といっても時代が古すぎたのでド田舎を通り越した街です。一応金銀や宝石などが価値があったので、それらでお金の調達ができたから問題ありませんよ。

 

 しかし、ネギま世界のように魔術の書物でも買おうとしても、この世界ではそうはいかなかった。何しろ印刷技術どころか製紙技術すらないから本自体がない。というか羊皮紙を使った羊皮紙本が登場するのが紀元前2世紀頃で、15世紀になってから紙を使用した紙本が登場するという話なので、この時代にないのは当たり前ですね。

 

 そんな訳で本を買って知識を得るという手段は使えない。

 

 そこで魔術師に直接弟子入りするという手段を取る事にした。原作の魔術師の設定からこれは無理かなと思っていたが、案外簡単に行きましたね。

 

 実はこの世界では原作開始時期と違って神代の時代では魔術の存在が秘匿されていなかった。魔術や魔術師が普通に人々に知られていたし、魔術師を探そうとすれば案外簡単に探すことができた。

 

 ここで驚いたのが、その魔術師が魔術を教える私塾をやっていた事だった。よく考えたら魔術の研究にはお金がかかる物が多い。権力者だったら何とかなるが、並程度の一般人では魔術の研究は難しい。

 

 その魔術師も先祖は権力者だったが没落してしまった為にお金を稼ぐために私塾をやっているらしい。確かに権力者の家でも権力を持ち続けるとは限らず没落してしまうのはよくある話ですね。

 

 そんな没落魔術師になると資金調達が大変です。そうなると、そこいらの農民とかやっていてもそれなりのお金は稼げないから、特技を活かして私塾をやるのは理解できます。

 

 私たちとしては問題ないどころかむしろ好都合だったので、高額の代価を支払ってその魔術師から魔術を教わる事にした。

 

 こうして魔術を学習した私たちですが、さすがに本もない世界では知識の習得に手間が掛かり学習に手間取りましたね。

 

 しかし、その魔術師が持っていた魔術礼装とかはかなり優秀な物ばかりだったので解析してそれらの知識を理解したりした。

 

 そんな私たちの能力はその魔術師をして稀代の天才と言わしめる程の者で、あっという間に師から吸収しつくしたので魔術師として独立する事になった。

 

 そこで適当な場所で工房を作り上げた。

 

 本当はこの世界に闘神都市を持ち込んでそこを拠点にしたかったが、そんなことをすれば抑止が働く恐れがあったので自重しておいた。それと下手に英霊と祭り上げられても困るから余計な活躍はしないようにした。要するに世間にあまり関わらずに世捨て人の様な暮らしをしていた。

 

 お金だけはあるから、人と関わる必要はあまりないですからその辺りは楽ですね。工房に籠って魔術の研究にふける日々で、それなりに楽しめましたよ。何しろこの世界の魔術は奥が深い幅広くやろうとすると私たちでもかなり時間がかかります。

 

 最もこの世界の魔術は根源に到達することを目的にしている為かどうも効率が悪い。特に戦闘系では使い物にならないですね。

 

 基本的に暗示や結界とかが重宝できますが、粗方の魔術を学習したら人形作りとか魔術礼装製作とかの物作り系の魔術を主に研究する事にした。私たちは根源なんか目指していないので、どうしてもそういう方面に向かってしまいます。

 

 こうして、この世界で二百年ほど魔術の研究を好き勝手にやりました。そういえばこの間コルキス王国のメディア王女がいろいろとやらかしたという噂を聞きましたね。それを聞いてそういえば原作に登場したキャスターはこの時代の出身だったと思い出した。

 

 思えばキャスターは女神ヘラによって散々な目に合っていますね。というかギリシャ神話の神々はまともな神がほとんどいないですよ。案外現代の欧州が一神教のキリスト教になっているのも土着の宗教に嫌気が指したからかもしれない、と思えるほど困った方々である。

 

 実は神代の時代なだけにこの世界には神々が普通にいるが、私たちはそれらと関わらいようにしていた。神々というのは気分屋であるし、理不尽な事で呪いをかけたりするから関わりたくないです。まさにさわらぬ神に祟りなしですね。

 

 さて、型月世界の魔術研究も十分やったので、そろそろ引き上げるとしますか。もうこの世界で得られる物はないし、いい加減低レベルの食事や文化しかない古代ギリシャには嫌気が指しました。それに抑止とかがあるこの世界は何気に制限が多くて面倒ですからね。



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ファイナルファンタジーV
29.ジョブ(最終幻想編)


※29は、『ファイナルファンタジーV』の世界が舞台になります。


 型月世界から引き上げた私たちは『ファイナルファンタジーV』の世界に来ていた。このFF5の世界は一言で魔法といっても白魔法、黒魔法、時空魔法、召喚魔法、魔法剣、時空魔法、青魔法、歌と色々な種類があり、それらを習得するにはそれらの魔法を使うジョブ(職業)にならなければいけない。

 

 この辺りは以前いたDQ3の世界と共通しているし、DQ3の転職システムに相当するジョブチェンジシステムもある。そう、ここで重要なのがそのジョブチェンジだ。

 

 FF5ではクリスタルの欠片を集めることで様々なジョブになることができる。つまりクリスタルの欠片を集めて魔法使い系のジョブになり魔法を習得していかないとならないのだ。

 

 いくら私たちの魔法の才能がチートで一度でも使用した魔法は無条件で使えるといっても最初の段階で躓いたらどうしようもない。そこで原作知識を利用して主人公バッツ・クラウザーの仲間になることにした。

 

 つまり、原作開始直前にこの世界に来てバッツと仲間になり、原作通りにレナ・シャルロット・タイクーン、ガラフ・ハルム・バルデシオン、ファリス・シェルヴィッツを仲間にしたわけである。

 

 FF5では主人公たちは四人パーティであるが、この世界では私のアイシャを含めて六人パーティになっても問題なく行動できた。やはり主人公パーティだからといって人数制限があったりするわけではないのだ。

 

 風のクリスタルの欠片を手に入れた時には、私が黒魔道士でアイシャが白魔道士になったが、その後はちょくちょくジョブチェンジして様々な魔法を使用していった。

 

 とりあえず原作よりもパーティの人数に余裕があるので、私たちが魔道士系のジョブになってバッツ達には戦士系などの他のジョブに回したりできるのだ。

 

 FF5の魔法はショップで購入したりもできるが、宝箱、イベントで入手できるものもあった。特に召喚魔法は戦闘で習得できる魔法が多いから戦闘イベントをこなさないといけなかった。

 

 ここで最も問題なのが青魔法だった。青魔法は青魔道士かラーニングのアビリティをもつ者がモンスターの特殊攻撃を受けてラーニングすることで習得できるという特性から魔法を覚えるのが難しい。その為、欲しい青魔法だけに絞って他は諦める事にした。

 

 正直言うと、マイティガードやエアロ系辺りはともかくあまり使えない青魔法が多かったので取得する魔法を絞るのは問題なかった。

 

 魔法といえばこの世界の時空魔法はかなり興味深い。メテオのインパクトや攻撃力もさることながら、時間と空間をかなり自由にコントロールできるだけにこれを応用すればいろいろな事に利用できるだろう。

 

 また、FF5の魔法は実戦向きで、というよりもRPGの魔法なだけに実戦に特化していると言えるでしょう。呪文の詠唱もなしに魔法が使える上に赤魔道士の連続魔法にいたっては一度に二つの魔法が使用できるのだ。

 

 DQ3の世界では複数の呪文を融合したりしたけど、連続魔法はそれよりは難易度が低かったのでわりと簡単に習得できたのは幸いだった。

 

 そうして、私たちが同行することになったバッツ達のクリスタルを巡る冒険。それは彼らにとっては未知のものであろうが、原作を知る私たちには予定調和であった。その一環としてガラフが死に、クルル・マイア・バルデシオンが仲間になったが、その事に干渉しなかった。

 

 別にガラフがどうでもいいというわけでもないが、いくら原作キャラクターでもトリッパーでもない下位世界人を原作を捻じ曲げてまで助けるつもりはないのだ。

 

 そういえばGS世界はともかく、それ以外の世界では原作に関わらずに魔法を習得していたが、このFF5の世界では思いっきり原作に関わっています。まあ、魔法習得の関係上関わらざるをえないわけだから仕方ないでしょうね。

 

 勿論、光の戦士一向に二人も部外者が参加している関係で、原作との乖離は発生していたものの、私たちができるだけ原作を順守していた為、その影響は最小限にとどまっていた。

 

 余談としていうならFFシリーズの飛空艇はかなり興味があったので、シドと意気投合していろいろと専門的な話し合いに没頭してしまい、しまいには飛空艇を魔改造してしまったのはどうでもいい事でしょう。

 

 そしてエクスデスとの戦い、ラスボスのネオエクスデスを倒したわけです。後はエンディングとなって世界は平和になりめでたしめでたしとなった。こうなると、この世界には用はないので、私たちはこのFF5の世界から引き上げることにしました。

 

 この世界の魔法は研究とかではなく戦闘向き過ぎたせいで、僅か一年でやるべきことが終わってしまいましたね。今までで最短でしたよ。

 

 そういえば、エクスデスの使用していた無の力ですが、さすがの私たちもあれは習得できなかった。エクスデスが派手に使いまくっていたので観測する事はできたのですが、習得するにいたらなかったのだ。といっても、スレイヤーズの重破斬(ギガ・スレイブ)のようなものなので、それで代用できるからいいですけどね。



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LUNAR2 エターナルブルー
30.RPGのお約束(LUNAR編)


※30は、『LUNAR2 エターナルブルー』の世界が舞台になります。


 FF5の世界から引き上げた私たちは『LUNAR2 エターナルブルー』の世界に訪れていた。この世界の原作は魔法世界ルナを舞台にしたRPG(ロールプレイングゲーム)だ。

 

 RPGなだけにこの世界の魔法は戦闘に長けている。といっても、この世界で使用する魔法辺りはRPGの世界としてはありきたりなのでそこまで注目するに足るものではないが、それでも異なる魔法形式を習得するのは魔法技術向上の役に立つだろう。

 

 このLUNAR世界で魔法を習得しようとするなら魔法都市ヴェーンで学ぶのが最も適しているだろうが、ヴェーンは歴史と伝統のある由緒正しい魔法ギルドだけあって私たちのように身元が確かでない人間が容易に学べる場所ではない。

 

 しかし、LUNAR2の時代ではヴェーンは衰退しておりかつての権威ある魔法ギルドの繁栄は見る影もない。そんな状況なだけに魔法ギルドの現当主レミーナ・オーサは物事を損得勘定で考える事が多いが、それが悪いわけではない。むしろ金を積めば容易に便宜を図ってくれるだけに話が早いのだ。その為、この時代を選んだわけです。

 

 そんなわけで、レミーナに大量のお金を渡してヴェーンでの魔法を学ぶことにした。私とアイシャは魔法ギルドに所属していない外部の者でありながら魔法を学び、ヴェーンの所蔵されている書物や資料などを閲覧していく。

 

 普通ならそんな勝手なことは許されないでしょうが、金を積めばそれができる。これがお金の力です。といっても、錬金を使えば金銀財宝なんていくらでも用意できるものだから私たちとレミーナでは金銀の価値はまるで違います。何せ私にとってはそこら辺の石ころ程度の物でもレミーナにとっては宝の山ですから。

 

 こうして、魔法の知識を習得したわけですが、この世界はRPGだけに魔法を習得するにはレベルアップしなければならない。その為、私とアイシャはモンスター退治を行いレベルアップに励み魔法習得に励むことにした。幸いこの世界のモンスターは私やアイシャの敵ではなく、私たち二人のパーティでも問題なくレベルアップができ、一通りの魔法を習得できたのである。

 

 

 

 さて、ここでRPGのお約束と言えばステータス・ウィンドウにアイテムボックスでしょうが、残念ながらこの世界にはそのようなものは存在しない。というか、RPGの代表的作品であるドラゴンクエストやファイナルファンタジーの世界でもそれらはなかった。

 

 つまりゲームではキャラクターのステータスを見る事やアイテムやお金を自由自在に出し入れが可能でしたが、実際にその世界に来たらできなかった。ゲームでできたことはまさにご都合主義だったわけですね。

 

 ステータスはともかくアイテムなどはいちいち持ち歩くのが嫌だったので監察軍が天地無用の世界から入手した亜空間収納技術を用いて様々な物品を亜空間に収納していましたが、ここは魔女らしく魔法で何とかしてみるのもいいかもでしょう。というわけで、新たにステータス・ウィンドウとアイテムボックスの魔法を作り出した。

 

 まず、ステータス・ウィンドウはファイナルファンタジーのライブラの魔法を参考にした。このライブラは対象のステータスや弱点を知ることができる魔法で、それを自分や味方に適応させたのだ。

 

 次に、アイテムボックスは『魔法先生ネギま!』のダイオラマ魔法球に使われている時間と空間制御魔法と、『ファイナルファンタジーV』の時空魔法を用いて、新しい時空魔法として形成した。

 

 このアイテムボックスは理論上ならば容量無限で収納された物品は時間が停止するので腐敗や劣化がない。つまり暖かい食べ物を収納しておけばいつまでも冷めることなく、アイテムボックスから出せば暖かい食べ物がそのままの食事をいつでも食べることができるし、アイスクリームなども溶けることがなく、冷たいままで保管できる優れものなのだ。

 

 ぶっちゃけると、アイテムボックスに入れていたら、物品が劣化しましたとか、食料が腐ってしまいましたなんて事になったら使いにくいですからそれも当然ですね。

 

 

 

 この二つの魔法によってRPGらしくなりましたが、せっかくLUNARというRPGの世界にいるわけですからよりRPGごっこを楽しむのもいいでしょう。というわけで、魔導人形をアバターとして遠隔操作してみた。やはりRPGというのは生身の身体で直接戦うのではなくプレイヤーがキャラクターを操作するものですからね。

 

 この魔導人形にはステータス・ウィンドウとアイテムボックスを統合して開発したメニュー・ウィンドウという魔法を組み込んでおいた。やはりRPGといえばメニューを表示して操作するものですからね。

 

 このメニュー・ウィンドウは、ステータス、アイテム、装備、魔法、スキル、パーティ、オプション、ログアウトなどRPGを参考にした項目を揃えて操作できるようにしていた。ログアウトは完全に遊び要素で、オプションは細かい設定などをできるようにしています。こうした、新魔法の効果もありLUNAR世界でのRPGごっこはそれなりに楽しめた。

 

 結局、このLUNAR世界では魔法の習得や開発などで二年ほど滞在して引き上げることになりました。尚、この世界で開発した新魔法はとある並行世界において偽VRMMORPG制作に大いに役に立つことになるのであるが、それは完全に余談である。




解説

■錬金
『ゼロの使い魔』世界の土の系統魔法で、原子配列変換によって黄金すらも作れる魔法である。

■ダイオラマ魔法球
『魔法先生ネギま!』世界のマジックアイテム。一定の空間をミニチュアサイズの箱庭に収納することができ、内部の時間を加速させることが可能。


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斬魔大聖デモンベイン
31.セラエノ大図書館(デモンベイン編)


※31~33は、『斬魔大聖デモンベイン』の世界が舞台になります。


 LUNAR世界から引き上げた私たちはとうとう念願だったデモンベイン世界に訪れた。死神の計画上この世界に来ることは最初から決まっていた事であるが、流石にいきなりこの世界に来てSAN値をガリガリ削るような魔術を習得するのはあまりにも無謀であった為に、千年に渡って様々な異世界を巡りながら自己強化を進めてきたのだ。

 

 元々オカルトに対して千年に一人という稀代の才能があった上に、千年の間オカルト技術を研究し続けて精神を強化した私たちはそこいらの最高位の魔導書を見てもビクともしない程です。実際、私たちはセラエノ大図書館で大量の魔導書を読みまくっていますが何ともありませんよ。

 

 えっ、セラエノ大図書館とは何かですか? まぁ確かにあそこは原作でもあまりでませんでしたね(汗)。

 

 簡単に言うと、セラエノとはプレアデス星団にある惑星の一つで、そのセラエノに存在する旧支配者や旧神から盗み出した書物や石碑を初め数多くの本が所蔵されている大規模図書館がセラエノ大図書館です。

 

 盗品が多いと言うあたり何か大英博物館を彷彿とさせるものですが、まぁその辺りはどうでもいいでしょう。重要なのはこのセラエノ大図書館がデモンベイン世界の魔術を学習する場所としては最高の場所であるという事だ。

 

 最も地球どころか太陽系からもかなり離れているから、デモンベイン世界の文明レベルでは到底来ることはできないが、逆を言うと私たちの様に恒星間航行が可能な宇宙船を使う事ができる者なら問題なく来ることができる。こういう時は監察軍に所属していて良かったと思いますね。そんなわけで今回はここで魔術を習得する事にした。

 

 

 大図書館というだけあって、ここの図書館の所蔵された所蔵数は相当な物で、私たちをして制覇するのに十年もかかりました。まぁ時間がかかったのは量の問題だけでなく、いくら耐性があっても一度に大量の魔導書を理解するのはちょっときつかったりしたので、読む速度を落としていたからだ。

 

 ここで、たかが本を理解したぐらいでキツイと表現した事を意外に感じるかもしれませんが、魔導書の内容とか冗談抜きで外道の知識ばかりなので、常人だと読んでいるだけでドン引きするどころかSAN値をガリガリ削れます。といっても私にはそこまで影響しない。外道な事なら書物の中だけでなく実際に散々実行しているし、そんな物を見たからと言ってどうなるほど純粋ではありません。だから、ちょっときつい程度で済んでいる。

 

 ちなみに私たちはボッチで図書館制覇を挑んでいたワケではなく、ラバン・シュリュズベリーというおっさんもいた。

 

 そういえばこの人『機神飛翔デモンベイン』でも登場していたね。でも原作開始の30年前だから幾分か若いようですね。原作では老人だったのに、現在は中年男性という感じです。それでこのラバンはこの大図書館に所蔵されているとある石版の欠片からセラエノ断章の写本を作っていた。

 

 そんなラバンですが、私たちがこの大図書館の書物や石碑などの所蔵物を制覇した事を聞くと驚いていましたね。というものこのセラエノ大図書館に所蔵されている外道の知識の量は凄まじいもので達人級の魔術師であっても人間ならば正気を保ったままそのすべてを習得するなど不可能だからだ。というか量が多すぎて僅か10年で制覇できる代物ではない。だからラバンから「お前たち本当に人間か?」と何気に人外扱いされた時には顔が引きつったりもした。

 

 まったく本当に失礼な人ですね。あくまで私はチート能力者にすぎず、人外ではありませんよ。

 

 実はラバンは私が来る前からここにいて、もう20年ほどここにいるらしい。そこで私が地球に行くと言うと一緒に連れて行って欲しいと頼まれたのでついでにラバンも宇宙船に乗せて地球に行くことにした。

 

 まぁその際に宇宙船の事でラバンから少し聞かれたが、そこは適当に流しておいた。というか盲目の癖に宇宙船だと理解できるとは侮れない。魔術を使って把握しているのだろうけどね。

 

 

 

 その後、ラバンとはアメリカに降りてから別れたが、私たちはアメリカ各地を旅しながら魔術の練習と悪の魔術結社や邪神崇拝集団などと戦う日々を送る事にした。デモンベイン世界は悪の魔術結社とか邪神崇拝集団というのがリアルに世界各地に多数あるので探すのに苦労しませんでしたね。

 

 どうもこの世界では、魔術を何の制限もなく思う存分研究したいと思う魔術師が悪の魔術結社を結成したりしているようで、中々なくならないようです。というかこのデモベ世界では魔術師の就職先ってミスカトニック大学や覇道財閥あたりしかないと思う。そうなると、職に就けない魔術師が魔術を悪用して跳梁跋扈するのは当たり前かもしれない。

 

 まぁ型月世界の魔術師もロクデナシだったから、デモベ世界の魔術師がそうであっても可笑しくはないけど、一般人からすれば迷惑な話です。

 

 それはともかく、私たちはそんな生活を送っていましたが、ミスカトニック大学陰秘学科の推薦入学の知らせが来た。どうもラバンから私たちの事が覇道鋼造に伝わったらしくスカウトしているらしい。

 

 さて、どうしたものか。実のところセラエノ大図書館を制覇した今となってはミスカトニック大学秘密図書館にはそれほど価値はない。

 

 しかし、書物を理解して独学で習得するだけでなく偶には講師から学ぶというのも何か得る物があるかもしれないから悪くない。それにどうせ時間などいくらでもあるから最悪無駄に四年間を浪費したところで痛くもかゆくもない。

 

 こうして私たちはミスカトニック大学に入学した。

 

 私たちはその卓越した能力から講師たちに吸収できる物は吸収した。といってもあまり得る物はなかったけどね。それでもラバンの出張講義はそれなりに楽しめたからミスカトニック大学に来たのは失敗ではなかった。

 

 大学三年生になるとミスカトニック大学の秘密図書館を利用できるようになったので図書館の制覇に乗り出したが、やはりめぼしい知識は収集済みであったので新しい知識をそれほど得ることはできなかった。

 

 いくら世界中の魔導書を集めていると言ってもセラエノ大図書館の品揃えにはかなわなかったのだ。その事は予想済みだったので私もそこまで落胆はしていませんが、ちょっと残念です。

 

 まぁミスカトニック大学の目玉とも言えるネクロノミコン・ラテン語版を見ることが出来たのがせめてもの慰めでした。



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32.ネクロノミコン・機械語写本

 ミスカトニック大学を卒業した私たちは覇道鋼造にスカウトされた。これは原作にない展開で、恐らく私たちが卓越した魔術師であった為に彼の興味を引いたのだろうが、私たちはそれを丁重に断った。

 

 よくよく考えればイレギュラーである私たちが覇道鋼造と関わるとナイアルラトホテップに目を付けられる恐れがある。小説版軍神強襲で登場したエドガーのように排除される危険性は極めて高い。

 

 いくら私たちが強くでも現時点でナイアルラトホテップと戦えるほどではないから、それは避けるべきだ。そうした理由もあってアーカムどころかアメリカからも離れて、帝都東京に移住する事にした。

 

 190×年の東京では欧米人の美少女という外見である私たちはやたら目立った。21世紀と違って外国人が珍しくないというワケではないからね。

 

 しかし、私たちに視線を向ける日本人は多いが、実際に話しかける日本人はめったにいない。というのも日本語が通じるとは思っていないからだろう。

 

 現代でも英語などが下手なので外国人に話しかけるのを避ける日本人は多いから、この時代ともなればもっと酷いのだろう。

 

 ちなみにエリーゼとアイシャの元ネタは全然日本人に見えないが、一応日本人という設定だ。しかし、GS世界で欧州人として生まれた影響もあって私たちの外見はどうみても白人女性である。

 

 まぁ両親が中世ヨーロッパの人間なので遺伝子的に考えれば当たり前という考えもあるが、魔女を自称するからには見た目が日本人女性よりも白人女性がいいのは言うまでもないだろう。この辺りは死神のこだわりの結果かもしれない。まあ、そんな事はどうでもいいけどね。

 

 さて、東京暮らしですがやっぱり時代が古い事もあって平成日本とは違いますね。レトロな空気があるのでこれはこれでいいですけどね。

 

 しかし、この帝都東京はアーカム程ではないけど怪異が出てきます。思わず「サクラ大戦かよ!」と突っ込みたいぐらいアレな東京ですが、ここは無限螺旋とは関係が薄いからこの辺りは安全地帯であろう。アーカムよりはマシだね。

 

 

 

 そんな東京に来ましたが、実はここで学ぶような事がないので、取りあえず暇つぶしに魔導書を作る事にした。

 

 実は私たちはまだ魔導書持ちではない。書と契約できるだけの位階(クラス)にはとっくに到達しているがどうもしっくりと来なかったのだ。

 

 そういえばミスカトニック大学でも結局私たちが書を持たずに卒業した事を疑問に思っている者は多かった。というもの陰秘学科では優秀な生徒が書と契約するのは常識だったからだ。

 

 しかし、そこで契約できる書といっても所詮は二流の魔導書だ。あのネクロノミコン・ラテン語版ならばともかくそこいらの書では鬼械神(デウス・マキナ)を召喚できない。というか機神召喚の術式は魔術の奥義でもあるから最高級の魔導書でないと不可能だ。

 

 まぁ純粋な鬼械神(デウス・マキナ)は人間やめないと負担が大きすぎてまともに使えない代物だけどね。いくら私たちでも人外になるか、自分の命を削りまくって死ぬなどという結果は御免ですからどのみち鬼械神(デウス・マキナ)は最初から使うつもりはない。

 

 覇道鋼造も言っていましたが、私たちが欲しいのはこの先百年を戦い抜くことができる人間の為の鬼械神(デウス・マキナ)なのです。

 

 ここで魔導書といえば古臭い本をイメージするだろうが、私は斜め上を行くことにした。私たちが考えたのは覇道鋼造がデモンベイン制御用魔導書として用意したネクロノミコン・機械語写本だ。

 

 あれは機械がネクロノミコンの記述を理解できる言語で翻訳した写本で、最新の解析機関を使用することでのろまな人間を遥かに超える情報処理速度を発揮した。といってもこの時代相応の速度でしかないが、魔術と科学が上手く融合させる事でかなりの効果を発揮できていた。

 

 そこで私が思いついたのが原始的な解析機関などではなく、より高性能のコンピュータを用いたらどうなるかというものだった。

 

 それも現代日本のスーパーコンピュータなどではなく、ブリタニア帝国で主流となっている超光速演算が可能なタキオン型量子コンピュータをベースに使ったらどうなるだろうか?

 

 その凄まじい情報処理速度で魔導書の術式を行使できるとなれば、大規模な儀式魔術も完全に無人化することもできる。この辺りは『魔法少女リリカルなのは』のデバイスの発想にも通じる物があるが、これを利用すればあのディス・レヴの制御もできるかもしれない。

 

 元々、私たちはディス・レヴの制御に関しては科学一辺倒ではなく、オカルト技術を用いた実験をやっていた上に、それを発展させてオカルトと科学を融合させた制御方法を模索していた。

 

 それを考えれば高度な科学技術によって作られたタキオン型量子コンピュータのOSがオカルトたる魔導書の写本であるという非常識極まりない組み合わせもありだろう。

 

 まあ、タキオン型量子コンピュータといっても魔導書のハードとして使う以上ある程度の改良が必要だ。やはり鬼械神やディス・レヴとの相性を考えると純粋科学技術のコンピュータではなく、オカルト染みたコンピュータじゃないとね。

 

 そうなると『ふしぎの海のナディア』で登場するブルーフォーター(正式名はトリス・メギストス)あたりが有力かな? いや、あれは光コンピュータだったからそのままじゃスペックが低い。となるとブルーフォーターをタキオン型量子コンピュータに改造するのもありだろう。

 

 

 

 このアイデアから、魔導書用コンピュータ〝ネオ・トリス・メギストス″を完成させてネクロノミコン・機械語写本をそのOS(オペーレーティングシステム)としてプログラミングした。更にディス・レヴ制御用の術式もソフトウェアとしてネオ・トリス・メギストスにインストールしておいた。

 

 これらを用いた実験は概ね成功してディス・レヴを安全に使用できるようになった。なお鬼械神(デウス・マキナ)とディス・レヴの制御に用いられたネオ・トリス・メギストスのネクロノミコン・機械語写本はディス・レヴの強大な負の霊力を浴び続けた結果、僅か数年で精霊として実体化できるようになったが、それは余談である。




解説

■ナイアルラトホテップ
 ナイアーラトホテップ、ナイーラソテップ、ニャルラトホテプ、ニャルラトテップなどとも表記される。クトゥルフ神話などに登場する架空の邪神。デモンベイン世界では物語の黒幕である。

■サクラ大戦
 セガサターン用ドラマチックアドベンチャーゲームで、大正時代の東京が舞台であるが、魔装機兵や降魔が跳梁跋扈する世界観である。

■デバイス
 デバイスは魔導師(魔法少女リリカルなのは)が使用する機械仕掛けの杖で、このデバイスの補助によって魔導師は詠唱を必要とせずに強力な魔法を行使できる。

■タキオン型量子コンピュータ
『宇宙戦艦ヤマト』の世界で入手した超光速で動く粒子(タキオン)を用いたコンピュータ。超光速で演算できる為に何らかの方法で物理法則の壁を超越できるのならば、これを用いた機体は超光速の機体制御が可能になる。

■光コンピュータ
 現代のコンピュータは電子や電気を使った動作・制御を用いて記録や情報処理を行っているが、光コンピュータは光(光子)のみで動作・制御するコンピュータである。その性能は2010年代最速のスーパーコンピュータであっても一千万年はかかる演算をわずか一瞬で処理可能なほどで、まさに究極のコンピュータと言えるが、あくまで光の速度で演算するためタキオン型量子コンピュータよりも性能が低い。

■ブルーフォーター
『ふしぎの海のナディア』に登場する青色の結晶状アイテムで、正式名はトリス・メギストス(賢者の石)。金属位相体オリハルコンでできた三次元基盤の光コンピュータで光のエネルギーを固体状態にしており、死んだアトランティス人の魂が帰る場所と推測されるなど妙にオカルト的なコンピュータである。

■ネオ・トリス・メギストス
 エリーゼたちがブルーフォーターをタキオン型量子コンピュータに改造した代物。外見はブルーフォーターと同じく青色の結晶状の形をしている。鬼械神のメインコンピュータであるが魔導書として携帯も可能で、人型に変形して精霊形態になったり、そこから更に魔術師と融合してマギウスモードになれる。ブルーフォーターことトリス・メギストスを新たに作り直した為に新たな賢者の石(ネオ・トリス・メギストス)という名称にしている。

■OS(オペーティングシステム)
 OSはコンピュータのハートウェアを操作する為の基本ソフトの事で、代表的な物としてはパソコンのWindowsシリーズが上げられる。


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33.人造神

 私たちは原作に関わる事を避けて帝都東京に居座り続けたが、ループの終了地点である大十字九郎とアル・アジフがヨグ=ソトースの門を潜った事でその状況が変わった。

 

 ちなみに今回の大十字九郎は魔導探偵ではなく、ミスカトニック大学の学生でしかない。つまりまだループを終わらせる原作の九郎に至っていない。これはシャイニング・トラペゾヘドロンを呼び出していない事からも正しい筈だ。

 

 そうなると今回の大十字九郎はマスターテリオンに敗北して、過去のアリゾナに到着する。その後、九郎はアリゾナ州の荒野で野垂れ死にしていた覇道鋼造に成り代わって覇道財閥を作り上げる事になるが、その辺りはどうでもいい。

 

 私たちにとって重要なのは、ナイアルラトホテップが次の世界に移動した事だ。これまでは邪神に目を付けられる事を恐れて自重しなければいけなかったが、その枷が外れたのだ。その為、私たちはアーカムに戻り積極的に行動した。

 

 当時のアーカムはブラックロッジによって廃墟と化してしまい、その再建に追われていた。その為、アーカムシティは結構大変な状況であったが、アーカムにとって最大の脅威となっていたブラックロッジが壊滅したために治安は劇的に改善されており、覇道財閥の主導の元で急速に復興が進んでいた。

 

 そんな復興計画が進んでいるアーカムで、私たちはミスカトニック大学の面々と交流をもったりしながらも悠悠自適の生活をしていた。

 

 大十字九郎はお金がなくて生活に困窮していたが、私たちの場合はお金に不自由していないので働かずに遊んで暮らせる。といっても本当に遊んでいただけでなく、魔術や錬金術の学習もちゃんとしていましたよ。

 

 アーカムに来た時についでにドクター・ウェストとエルザのコンビとも接触したが、はっきり言って付き合いきれなかった。能力だけならドクター・カオスに匹敵すると思える程にあるが、人格に問題があり過ぎた。真正の○○○○だったからまともに会話するのも嫌になったほどです。なまじ能力があるから私たちをライバル視して絡んでくるようになったので、本当に鬱陶しかった。

 

 そう考えるとGS世界でドクター・カオスと仲良くなれたのは、彼の能力もあるが何より人格が良かったからだと再認識する羽目になりましたね。というか私は何気に友達が少ないですね。

 

 私たちは様々な下位世界を旅するトリッパーだから友達が作りにくいという事情もあるから仕方ないですね。それにいくら友達がいないといってもウェストと友達になる気は毛頭ありませんよ。

 

 そんなこんなでマイペースにのんびりと生活していたが、この世界の世界情勢に変化が出て来た。これまでの一連の出来事で破壊ロボやデモンベイン関連の技術が世界に流出してしまい、各国がそれらを積極的に軍事利用したからだ。

 

 こうして破壊ロボやデモンベイン関連の技術を応用した兵器が出没して、それが戦場に投入されるという場面も出て来た。量産されたドラム缶状の破壊ロボが戦場で活躍する風景は何とも言えない物だった。

 

 しかし、これは悪い事だけではない。ブラックロッジは壊滅したが、この世界には未だに脅威となりうる魔術結社や邪神崇拝集団が存在しており、それらは野放しにしていたら世界を滅ぼしかねない厄介な連中だった。各国がそれらと戦える戦力を持つことは世界の安定に寄与する事になった。

 

 実際、各国もそれらの対策はそれなりに力を入れていたので、これまでのような邪神ハンターによる草の根的な活動ではなく、軍隊などの国家機関による地球規模の安全保障体制が整う事になった。

 

 そんな世界だからその歴史も上位世界の史実とは大きく違っていて、日露戦争はあったが太平洋戦争は発生していなかったりしている。というのも覇道財閥の影響でアメリカの力は史実よりも大幅に上回っており、「アメリカと戦う?何それ馬鹿じゃないの(笑)」という状況だった事と、日本も極端な軍国主義に陥っておらず資源にそこまで困窮していなかった事が上げられる。それだけ覇道鋼造の影響は大きかったのだ。

 

 そういう事で太平洋戦争は回避されたものの、帝国主義の時代の終焉によって大日本帝国は穏便に日本国と国体を改める事になった。

 

 そんなこんなでループ終了地点から百年ほどこの世界ですごしていたが、そろそろ飽きて来たからこの世界から引き上げることにした。

 

 

 

リーラside

 

 監察軍のスペースコロニー内部にある無人の工場を二人のメイドが歩いていた。彼女たちの名はリーラとエーファ。それぞれエリーゼ・ペルティーニとアイシャ・ペルティーニに仕えるメイドたちだ。

 

 ここは監察軍の秘密研究所となっているスペースコロニーがある世界だ。監察軍では危険な研究は本部や支部が存在する世界ではなく、それらとは全く関係のない下位世界に研究施設を用意してそこで研究する事にしていた。

 

 それは核実験を本国から離れた離島でやったりするように、その危険性から万が一の事態になっても自分たちが被害を出さないようにする為だった。

 

 当然そこで研究される物は細菌兵器などの危険きわまりない代物や、オカルト関係でも特に危険性の高い物だったりする。

 

 つまりバイオハザード(生物災害)やオカルトハザード(魔術災害)が発生しかねないアレな場所で、そうした事態になればこのスペースコロニーの動力源となっている相転移エンジンを暴走させてこのスペースコロニーを自爆させるか、あるいは大量破壊兵器を撃ち込んで消滅させる手筈が整えられていた。

 

 リーラは工場の中で組み立てられている物を見上げる。それは巨人の骸という印象を与える代物だ。ズフィルード・クリスタル製のフレームだけで50mは超えているそれはリアル系ではなく、スーパー系であるのが一目瞭然であった。

 

 恐らく完成すればアニメに登場するスーパーロボットのような感じの機体になるであろうが、それは骨格に当たるフレームこそ組み込んでいたが、まだ二割程度しか装甲を取り付けていない状態であった。

 最も自動機械によって次々にフレームと同じくズフィルード・クリスタル製の装甲が取り付けられている為にそれも時間の問題だった。

 

「ああっ。ようやくエリーゼ様の華麗なるドレス(鬼械神)が完成するのですね」

 

 普段は冷静沈着である筈のリーラがそれを眺めながら感極まった声を上げた。彼女にとって敬愛するエリーゼの長年にわたる悲願が完成する時なのだ。

 

「リーラさん、そういえばこの機体の名前は決まっていますか?」

 

 エーファが同僚のリーラに話しかけた。エーファとリーラは同格の存在であったが、彼女にとってこの完璧すぎるリーラは尊敬する存在であり、自然と態度も目上の者に対するものになっていた。

 

「ええ、紹介します。こちらは鬼械神カーリーです」

 

 リーラが鋼の巨人の名を口にした瞬間、その場の空気が震えた。それは未だ稼働していないにも関わらず、まるで生きているかのような力を感じた。

 

「これ、生きているのですか?」

「いえ、まだ生まれていません。ですがこのカーリーはアイシャ様の鬼械神ドゥルガーと対をなす、エリーゼ様の究極の鎧にして、彼の破壊神ベヅァーを討つ至高の剣、そして人によって作られた不滅にして無敵の人造神です」

 

 リーラは今まさに誕生するカーリーを祝福するかのように高らかに宣言した。




解説

■オカルトハザード(魔術災害)
 デモンベイン系の魔術を初めとしてオカルト系の存在によって発生する災害の事。監察軍ではそれを警戒してその手の危険な研究は僻地の世界に用意したスペースコロニーでやらせている。

■ズフィルード・クリスタル
 ゼ・バルマリィ帝国(スーパーロボット大戦シリーズ)の機動兵器などに使用される自立・自覚型の金属細胞。「自己進化」「自己増殖」「自己進化」「情報解析・共有能力」という特徴を持つ。ドゥルガーとカーリーはこれらをフレーム材と装甲材に採用する事でメンテナンスフリーを実現している。

■カーリー
 エリーゼ専用の鬼械神(正確にはその紛い物)で、アイシャの鬼械神ドゥルガーと同系統の機体である。このドゥルガーとカーリーの由来は『MAZE☆爆熱時空』の聖甲機(ロムアーマー)ドゥルガーとカーリーである。


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新世紀エヴァンゲリオン×斬魔大聖デモンベイン
34.裏死海文書(使徒戦役編)


※34~42は、『新世紀エヴァンゲリオン』と『斬魔大聖デモンベイン』のクロスオーバー世界が舞台になります。


 私たちがデモンベイン世界を引き上げた後、監察軍でこれまでのデータを元に専用の鬼械神カーリーとドゥルガーを完成させた。これでベヅァーに対抗しうる力を一応手に入れた。

 

 しかし、これでやる事が終わったと怠けるつもりはなく、私たちは次の研究に入る事にした。その研究対象とは宇宙のタマゴだ。

 

 実はGS世界でアシュタロスの技術を回収していた際に宇宙のタマゴの技術も入手していたのだ。これまでは優先順位が低かったから後回しにしていたが、あれは興味深い物です。

 

 宇宙のタマゴの素材は個人で入手するには手間が掛かるが、監察軍を通して調達すれば簡単に入手できたのもありがたかった。

 

 これで宇宙のタマゴを作るわけですが、ここでどんな世界を作ろうかと考え込んだ。

 

 宇宙のタマゴを使えば、大概の下位世界そっくりの仮想世界どころか、原作が存在しないオリジナルの仮想世界だって意のままに作ることが出来る。

 

 しかし、そんな物を作ろうとするならば自分で世界観をあれこれ決めておかないといけない。小説の作家とかならそういうのは得意だろうが、私たちは作家ではないからね。それに所詮は興味本位の実験にすぎないから、そんな事で頭を悩ますのも面倒だった。

 

 そこで、ネットの二次小説でよくあるクロスオーバーに挑戦することにした。これは二つ以上の原作の世界が融合している物で、物語の関係からその世界観を無理やり融合させる為にカオスな設定になってしまう二次小説が多いが、作り物の世界だから問題ないし、既存の物語を応用するだけなので手間はそれほどかからないだろう。

 

 そんなわけで、取りあえず『新世紀エヴァンゲリオン』×『斬魔大聖デモンベイン』というクロスオーバーの組み合わせにすることにした。というもの前世でエヴァ世界とデモベ世界のクロスSSを読んだことがあり、エヴァ世界の『裏死海文書』をデモベ世界の魔導書にすることが出来るか興味深かったからです。

 

 ここで完成した宇宙のタマゴに世界観の設定をして置く。

 

 まずデモベ世界では人類誕生前に旧支配者とかが地球に君臨していたが、それらは邪魔なのでクトゥルフ神話系の邪神や種族などは創造こそしたものの、天の川銀河に干渉してはならないと制約を加えておいた。だから彼らは他の銀河系を領域にしていた。

 

 こうして天の川銀河をフリーゾーンとして確保して、適当な地球型惑星で第一始祖民族を私の奉仕種族として創造しておいた。この辺りはマスターテリオンが作り出した火星人みたいなものですね。

 

 彼らは天の川銀河に存在する唯一の知的生命体として大いに繁栄したが、母星が寿命を迎え滅亡の危機に陥ってしまった。これは惑星である以上仕方がない事だ。形ある物いつかは壊れる。それは惑星として例外ではない。

 

 私はそうした事態の際に一つの命令を彼らに与えていた。それは原作の様に『自分たちを生命の根源の姿に戻していくつかのグループに分かれて月に乗り、新たなる惑星に向かえ』というものだった。

 

 私が上手く調整しておいた事もあり、原作通りアダム乗せた白き月が地球について、遅れてリリスを乗せた黒き月が地球に降りた。また黒き月が地球に落下した際に月形成のジャイアントインパクトが発生した。その後、アダム由来の使徒は活動を停止状態となり、リリス由来の人類が地球で繁栄することになる。

 

「さてと、本命の魔導書を用意しておきますか」

 

 まず魔導書作りで良質な材料は適当な霊木を材料にした紙だ。そこでDQ3世界で入手した世界樹の枝を使う事にした。

 

 この世界樹の枝はかなり昔に手に入れた物であるが、固定化の魔法できちんと保管しておいたのでまったく劣化していない状態だ。

 

 そこで大量に保管していた枝の一部を錬金の魔法で紙に変えて、一枚一枚手書きで記述しておいた。ついでにインクとかも高位の魔術師である私の血を混ぜておいたので材料としてかなり良質な物だ。

 

 ここで記載する言語は原作通り天使文字であるエノク語にした。このエノク語はバスタード世界でエルフの魔法文明が良く使っていたので、私たちもなじみ深い物でしたね。

 

 原作では死海文書とは第一始祖民族が記した生命の種やロンギヌスの槍の使い方を記したマニュアルや運用時の計画書を、写本したもので、その中で特に重要で秘匿されたものが裏死海文書だとされている。

 

 そこで、当たり障りがなく重要度が低いものは適当な書類に記載しておく一方で、重要な内容は裏死海文書に記載しておくとしよう。

 

 こうして完成した裏死海文書とその他の書類には固定化の魔法をかけて死海にある洞窟に収めておいた。後にゼーレの前身である宗教団体がこれを発見することになり、彼らによってサードインパクトが発生することになる。

 

 

 

 

 

 赤い海。サードインパクトによって発生した世界は生命が存在せず、ただ赤い海だけがあるそんな場所であった。そんな場所で私は一冊の魔導書を回収した。

 

『裏死海文書』

 

 それはエリーゼによって宇宙のタマゴの外で記述され、千年前にこの世界に送り込まれた魔導書だ。

 

「さてと、迎えに来たわ。インデックス」

 

 私のその言葉に反応して、裏死海文書のページが飛び散り周囲を舞う。やがて飛び散ったページが一か所に集まり一人の人影が現れた。それは白い修道女姿で銀色の髪に緑の瞳の10代前半と思わしき少女だった。

 

「エリーゼ様、お待ちしておりました」

「長きに渡りご苦労でした。それで成果の方はどうです?」

「はい。残念ながら私を使う事ができる魔術師はおりませんでしたが、千年の時間とセカンドインパクトとサードインパクトの原因となった因果により、私の魔導書の格は大きく上がりました」

「そうですか。やはり人類絶滅の原因の一つになったらそうなりますね」

 

 魔導書というのは経過した時間の長さと、どれだけ魔術師に使われたかで、その力が決まる事が多いが、因果の大きさも大きな影響を与えるのだ。

 

 そして、この世界ではアスカとシンジだけが生き残ったが、その二人もすぐに野垂れ死にしている。つまり人類は絶滅している状態なので、裏死海文書の因果はとても大きなものになっていた。

 

「でも、せっかく宇宙を作ったのに、こうもあっさりと滅びたのでは面白くないです」

 裏死海文書を用意してサードインパクトが発生するように誘導した私が言うのも何だが、この赤い海はつまらない。

 

「では、時間を戻してやり直してはいかがでしょうか?」

「そうね。そうしましょう」

 

 この世界は宇宙のタマゴの中に存在する世界で、私から言わせればゲームの中の仮想世界と大差はない。だからリセットボタンを押すようにやり直しも簡単にできるのだ。




解説

■宇宙のタマゴ
 GS世界のアシュタロスが作り出した新たなる宇宙の雛形。その内部には現実と同じ一つの宇宙が存在している。また宇宙のタマゴの内部は時間の速さを変えることが出来るので、外の世界では少しの時間であってもタマゴの中で長時間すごすことができる。エリーゼはこの機能を利用して本来なら数百億年単位の時間がかかる実験を短時間で行っている。

■火星人
 小説版『斬魔大聖デモンベイン軍神強襲』でマスターテリオンが作り出した奉仕種族。

■固定化
 物品を劣化させることなく保管する系統魔法(ゼロの使い魔)。エリーゼたちは大切な物品はこの固定化をかけて保管している。

■錬金
 土の系統魔法(ゼロの使い魔)の一つで、水銀などを使って良質の金を量産したり、様々な資源を作り出したりできる。エリーゼたちはこれを利用して資金調達を行っている。

■インデックス
 元ネタは『とある魔術の禁書目録』のインデックスで、恰好も同じ白い修道女姿だ。ただし安全ピンはさすがにない。魔導書『裏死海文書』の精霊であるが、エリーゼが裏死海文書にくくった人工霊魂が核となっている為、一般的な魔導書の精霊とは少々異なる。


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35.覇道財閥

 19世紀のアメリカ合衆国の荒野で一人の男性が倒れていた。男の名は覇道鋼造。後に世界一の大金持ちとなる覇道財閥の総帥として知られる事になる男であるが、現在はアメリカに移住した日系人の貧乏な探検家に過ぎなかった。

 

 彼は金鉱脈を掘り当てるというアメリカンドリームを夢見る探検家であったが、現実はそう甘くなかった。食糧も水も底をついてもはや録に動くこともできない有様だった。このままでは鋼造は野垂れ死にしてハゲタカに食い散らされて骨だけが残る運命だっただろう。

 

「いい感じに行き倒れていますね」

 

 そんな彼に私は日本語で話しかけた。

 

「だ、誰だ…?」

 

 行き倒れているだけあって鋼造の声はかすれているが、何とか会話は可能の様だ。

 

「私はエリーゼ・ペルティーニ、通りすがりの魔女よ。私と契約するならば助けてあげましょう。どうする?」

 契約するか、という私の質問に鋼造は弱弱しく頷いた。

 

「いいでしょう。覇道鋼造、契約にのっとり私は貴方を助けましょう」

 

 私は魔術で鋼造の生命力を高めてやった。これで一息をついたところで水を飲ませて消化にいい食べ物も食べさせてやった。こうして鋼造は九死に一生を得る事ができたわけであるが、勿論それだけですませるわけがない。

 

「では契約が成立したから、これからしばらく私に従ってもらうわ」

「ちょっと待て、どういうことだ!」

 と、鋼造が文句をいって来た。

 

 まぁそれはわからなくもない。助けてもらったからお礼をするという程度ならばともかく服従しろ。では納得しないだろうね。でもここはゴリ押しするとしましょう。

 

「あら、私が助けなければ貴方はここで野垂れ死にして死体をハゲタカに毟られて、骨だけになっていたのよ。それに比べたら遥かにマシよ。それに悪い話ではないわ。貴方を世界一の大金持ちにしてあげる」

 と言いつつ、私は微笑んだ。

 

 

 

 それからというもの、私は鋼造にアリゾナの金鉱脈を掘り当てさせて得た大金をニューヨーク市場で次々に投資させた。それらは当時としてはあまりに無謀な投資であったが、後にすべて莫大な利益を上げることになる。

 

 そして鉄鉱、石炭、石油、鉄道、その他の諸貿易などでも莫大な利益を上げて、あっという間に世界経済を牛耳る巨大財閥が成立していった。その覇道財閥の総帥となった鋼造は私の言葉通り世界一の大金持ちになった。

 

 私は原作通りにマサチューセッツ州アーカムに拠点を置いて、私の魔術理論を駆使してそこを強力無比の魔術的要塞にした。

 

 しかし、ミスカトニック大学は建てられなかった。というものこの世界では邪神やその他の種族はこの銀河に一切干渉していない為に邪神崇拝集団や怪異どころか、魔導書や魔術師すら存在しないのだ。例外は私たちと裏死海文書ぐらいだ。

 

 そういえばちょっとしたハプニングがあった。鋼造が孤児院にいる息子(覇道兼定)を引き取る時に兼定に刺されてしまったらしい。おかげで私が回復魔法を使う羽目になったが、今では笑い話ですね。

 

 当時の兼定は非力な子供だったので大した傷ではなかったけど、運が悪かったら鋼造が死んでいたかもしれませんね。まぁ死んでもDQ世界の蘇生呪文で生き返らせればいいから別に構いませんよ。

 

 こうして時間が過ぎて兼定の娘が生まれて10年が過ぎた頃に鋼造が私の目的を訊いてきた。どうも以前からそれが知りたかったようだ。

 

「鋼造、貴方には裏死海文書の写本を渡したでしょ」

「ああ、俄かには信じられんが確か起こりうる未来が書かれているという話だったな」

「それは間違いないわ。何しろ私はサードインパクトによって人類が滅亡した未来をやり直すために未来から来たのだから」

「そうか…」

 

 未来から来たと言うとほら話に聞こえるが、私の場合は状況証拠的にそう言えば納得してしまうでしょう。何しろ未来人でもなければできないようなデタラメな投資をことごとく成功させているのだからね。

 

「時期的に鋼造にはあまり関係ないけどね。多分貴方の玄孫が当事者になるだろうから精々こき使ってあげるわ」

 

 サードインパクトの時期は後百年ほどある。既に老人となっている鋼造がこれに関わる事はあるまい。

 

「まぁ玄孫の前に総帥の後継者が問題よ。鋼造、孫娘の瑠璃は聡明ね」

「瑠璃を次の総帥にするのか?」

 

 鋼造にとって私が暗に次の総帥を瑠璃にするように言っているのが意外だったようだ。確かにいい歳をした息子がいるから普通ならばそちらを後継者にするだろう。

 

 しかし、兼定は無能ではないが、覇道財閥を運営できるだけの能力は持っていない。小説版でも覇道財閥を維持できないと言っていたぐらいだ。いくら傀儡でもそれなりの能力がないと困る。だから原作で覇道財閥の総帥を見事に努めていた才媛の瑠璃に期待しているのだ。彼女ならば次に繋げてくれるだろう。

 

「…そうか、お前から見ても兼定では無理か」

 と、鋼造が妙に納得したようなセリフを言う。

 

 多分、鋼造自身も兼定では不安があったのかもしれない。まぁ孤児院に迎えに行くといきなり刺されて、その後は気まずくてまともに付き合えなかったから当然でしょう。

 

 

 

 こうして鋼造亡き後の覇道財閥総帥に瑠璃が就任した。瑠璃はその才覚を発揮して見事に覇道財閥を運営していたが、浮いた話がなくて少々焦った。何しろ女性が安全に子供を産める時期と言うのは限られている。ちゃんと子孫を残してくれないといけないから晩婚では困るのだ。

 

 瑠璃が政略結婚に嫌気が指しているのも理解できるだけに強く言えなかったが、どこかの貧乏探偵(大十字九郎)とゴールインしてくれた。正直家柄的に釣り合わないが、その辺りは私にはどうでもいい。重要なのは瑠璃が子供を作ってくれた事だ。

 

 この瑠璃の子も成長すると一鉄と言う男の子をもうけたのでいう事はない。おそらく時期的に一鉄がゼーレとやり合うことになるだろう。そこで私は一鉄を調教もとい教育しておいた。すべては舞台の仕込みの為である。




解説

■覇道鋼造(はどう こうぞう)
 デモンベイン世界では覇道財閥を一代に立ち上げた超人と称されているが、それは鋼造になりすました大十字九郎がやったことである。本物の覇道鋼造は金鉱脈を探している際に野垂れ死にした探検家にすぎない。この世界では本物の覇道鋼造がエリーゼによって覇道財閥の総帥に成り上がっている。

■覇道兼定(はどう かねさだ)
 小説版『斬魔大聖デモンベイン軍神強襲』に登場した本物の覇道鋼造の息子で覇道瑠璃の父親。原作の覇道鋼造はマスターテリオンとの戦いに敗れて過去に飛ばされた大十字九郎が入れ替わった偽物なので、覇道鋼造(偽物)とは血のつながりはないが、本人はそのことを知ることなく、その後ブラック・ロッジに殺された。この世界では覇道財閥を維持する能力がないため、エリーゼには傀儡として使う価値もないと思われており何気に扱いが悪い人。それでも大学を卒業しているし、生活に困らないだけのお金は貰っているから仕事漬けの瑠璃より幸せかもしれない。

■覇道一鉄(はどう いってつ)
 覇道鋼造の玄孫にして覇道瑠璃の孫。覇道財閥三代目総帥で、サードインパクトの時期に総帥であった為にエリーゼにこき使われる事が決定しているかわいそうな老人。先祖の因果というか、鋼造がエリーゼに多大なる借りを作ったばかりに膨れ上がった膨大な利子を含めてその返済に奔走する事になる。


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36.使徒襲来

 西暦2015年になり、とうとう第三使徒サキエルが日本に上陸してきた。15年ぶりに現れた使徒に戦略自衛隊が猛烈な攻撃を仕掛けるも全く歯が立たず、とうとう市街地にも関わらずN2兵器使用に踏み切った。この結果、街が吹き飛び付近のシェルターも壊滅した。

 

 これで使徒殲滅が出来ていればまだよかったが、多少のダメージを与えたものの使徒は未だに健在という有様だった。この事態を受けて戦略自衛隊は指揮権を国連軍に移譲させた。

 

 ここで使徒迎撃組織である特務機関ネルフに指揮権がいかなかったのは、事前に使徒迎撃の際に最初に日本の戦略自衛隊が使徒と戦い、戦自が手におえない場合は国連軍に指揮権を移譲させて、国連軍でも手におえなければネルフに移譲させるという取り決めが事前にされていたからだ。

 

 この話が決まったのは覇道財閥のテコ入れによるものだった。国連軍はその母体はアメリカ軍が主力なのでアメリカの影響が大きくなる。そうなるとアメリカの影の支配者たる覇道財閥の意向を受け入れさせることが十分可能になるのだ。

 

 また、ネルフの後ろ盾であるゼーレも国連軍では使徒に勝てないと判断したので、これをあっさりと受けいれたという事情もあった。勿論、彼らはこの判断を後で後悔する事になる。そう、国連軍にはあったのだ。使徒をものともしない強大な力を持つ存在が…。

 

「…というわけで使徒がもうすぐ自己修復を終えて動き出すわ。そこで今回はアイシャにやってもらうわ」

「わかったわ」

「今回は国連軍特務部隊デモンベインの初仕事だから頑張ってね」

 と、私は出撃するアイシャに激励の言葉を伝えておいた。

 

 ちなみに特務部隊デモンベインというのは、私たちがドゥルガーとカーリーを用いて使徒殲滅を実行する為にでっち上げた国連軍に所属する部隊だ。国連軍と言っても正規の部隊ではなく、三年という期間限定の試験部隊にして特務部隊という扱いだったが、この部隊自体は三ヶ月ほど前に発足していた。

 

 その内情は独立愚連隊にして覇道の私兵部隊というもので、それをアメリカから派遣された国連軍特務部隊という形式を整えているにすぎなかった。

 

 このような無茶な部隊が存在するのは、この部隊の費用(人件費などを含む)は国連やアメリカからは一切出ておらず、覇道財閥の資産から出ていたからだ。この辺りは使途不明金だらけで不正流用の疑いが濃厚なネルフとは大違いである。

 

 

 

アイシャside

 

 その場には全長55mもの大きさを誇る赤い装甲に覆われた鋼の巨人が配置されていた。そのロボットの外見はデモンベインのような足部シールドや角とそこから伸びた尻尾のような物は存在せず、むしろアイオーンに近いものだった。

 

 これこそがアイシャの鬼械神(デウス・マキナ)ドゥルガー。破壊神ベヅァーに対抗する為に建造されたスーパーロボットの一機だ。

 

 アイシャはそのドゥルガーのコクピットに乗り込んで、メインコンピュータ(ネオ・トリス・メギストス)のOS〝ネクロノミコン・機械語写本″を起動させた。それによってネクロノミコン・機械語写本の精霊マーシャがコクピット内に出現した。

 

「アイシャ、お久しぶり」

「ええ、マーシャ早速で悪いけど出撃するわ。ディス・レヴの制御とシステムチェックをお願い」

「うん、分かった」

 

 ディス・レヴ、霊子動力炉、正常稼働。

 フレーム及び装甲材のズフィルード・クリスタル異常なし。

 呪圏、分子強化、正常稼働。

 

「アイシャ、システムオールグリーンだよ」

「そう、なら虚数展開カタパルト作動! アイシャ・ペルティーニ、ドゥルガー、出ます!」

 

 立体型魔法陣がドゥルガーを取り囲むように現れて、アイシャとマーシャが乗るドゥルガーを戦場に転送させた。

 

 

 

 そして、ドゥルガーは第三使徒サキエルからある程度離れた場所に出現した。サキエルは巨大な魔法陣からいきなり現れたドゥルガーを警戒したのか、目から光線を撃って来た。

 

「無駄よ」

 だが、それはドゥルガーが展開している呪圏によって弾かれた。

 

 この呪圏とはバスタード世界における上位の天使と悪魔が常時展開している超多重結界だ。この凄まじい防御力によりそんなちゃちな攻撃は届かない。更に呪圏の他に分子強化によって機体そのものを分子レベルで強化しているから呪圏がなくてもこの程度の攻撃など全く通用しないのだ。

 

 この分子強化というのは、『ドラゴンボール』の人造人間に使用されている高エネルギーを用いて分子レベルで肉体を強化する技術を発展させたものだ。原型が超サイヤ人とやり合える性能を持つ代物だけあって、今のドゥルガーには地球を破壊して余りあるような攻撃でも傷一つつかないのだ。

 

「遊びはしないわ。さっさと消えなさい」

 

 ドゥルガーは右手に黒い球を出現させて、サキエルに突撃して、

 

「レムリア・インパクト!」

 

 そして、ドゥルガーの右手に発生している球体をサキエルに叩きつけた。

 

「昇華!」

 

 マーシャの言葉に無限熱量の球体は一気に拡大してサキエルを飲み込んだ。それによって凄まじい光が発せられた後には大きなクレーターのみが残されており、サキエルは欠片も残らず消滅していた。

 

 

 

ネルフside

 

 ネルフは使徒が襲来してきたが、実はこの時準備万端とは言えない状況だった。というものゲンドウはサードチルドレン碇シンジを確保し損ねていたので、現在パイロットは重傷を負った綾波レイしかいなかったのだ。

 

「使徒襲来か。まったくこんな事になるのならあの時サードチルドレンの捜索を打ち切るべきではなかったな。碇」

 冬月はため息をついた。

 

「仕方ない。今はレイに任せるしかないだろう」

 と、ゲンドウは淡々と答えた。

 

 ゲンドウがシンジを捨てた直後にシンジが行方不明になったが、ケンドウはその捜索を一か月も経たないうちに打ち切ってしまった。

 

 ゲンドウからすればシンジなど予備にすぎずレイが本命であったのだが、レイではユイが目覚める可能性が極めて低いと最近判明したので慌ててシンジを再捜索したもののすでに手遅れで発見することはできなかったのだ。

 

「初号機が暴走さえすれば何とかなる」

 

 その為、ゲンドウはレイに賭けるしかなかった。

 

 そう、ゲンドウは思っていたが、事態は彼の想定を遥かに上回っていた。いきなり出現した巨大ロボットとそれによる使徒殲滅。これは彼のシナリオに存在しない事態だ。

 

「バカな。何だ。あれは…」

 

 こんな事は想定すらしていなかった。

 

 エヴァンゲリオンでなければ使徒に勝てない。それはゲンドウのいやネルフ全体の常識だった。その為、国連軍が指揮権を持っていてもすぐにネルフに指揮権を移譲する筈だった。彼にとって国連軍などこちらの準備が整うまでの時間を稼ぐだけのコマにすぎなかったのだ。

 

 しかし、現実には国連軍による使徒殲滅という事態だ。ゲンドウと冬月はシナリオから著しく逸脱した結果に顔を強張らせた。




解説

■デモンベイン
 原作で覇道財閥が建造した鬼械神の紛い物であるが、ブラック・ロッジどころか魔術や怪異も存在しないこの世界では当然ながら建造されることはなかった。しかし、その名はエリーゼたちの部隊名に使用された。

■マーシャ
 元ネタはマーシャ・マクレラン(ウイッチズガーデン)で、彼女は原作で緋宮あやりと仲がいい幼女だったので原作繋がりで彼女を参考にした。アイシャのドゥルガーの制御を担当しているネクロノミコン・機械語写本の精霊。

■ドゥルガー
 死神が進めた鬼械神計画によって建造された鬼械神の紛い物。見た目は赤いアイオーンに似たロボットという感じである。

■呪圏
 バスタード世界の上位の天使や悪魔が常時展開している超多重結界。原作で紹介されている結界の効果は、集音、探知妨害、潜影、財宝探知、勝利、力場、直接攻撃回避、ブレス無効、罠発見、対病防御、対エナジードレイン、事前対応化、魔法耐性、常時回復、精神防御、界移動、反魔術、対パラライズ、嘘発見、対ガス・凝視、慣性制御、対植物防御、対毒防御、危険探知、対不死防御、失敗回避、支配、迷彩、減虫、対生物防御、等。

■分子強化
 このSSでは、『ドラゴンボール』の戦士たちは気によって細胞レベルで肉体を強化する事で音速を軽く超える速度で格闘戦をしたり、百倍以上の重力に耐えたりしているのに対して、気を持たない人造人間は永久エネルギー炉などから得られたエネルギーを使って分子レベルで著しく強化をしていると設定しています。というか、そうでもしないと人間サイズの人造人間が超サイヤ人と戦えるわけがないです(汗)。

■レムリア・インパクト
 元々はデモンベインに搭載されている近接昇華呪法で、無限熱量によって敵を殲滅する炎熱系究極魔術と言える性質から炎系の魔術を好むアイシャがドゥルガーに採用した。このレムリア・インパクトは破壊力が強すぎるようにみえるが、ドゥルガーは手加減を間違えるとあっさりと地球そのものを吹き飛ばしてしまいかねないので、むしろ被害を最低限度に抑えることができる安全な攻撃と言える。このため原作のレムリア・インパクトはナアカル・コードを送信しなければ使用できないようになっていたが、ドゥルガーの場合はその手のリミッターなどは搭載しておらず無条件に使用できるようにしている。


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37.ゼーレ

 アメリカ合衆国は第二次世界大戦後に超大国として世界に君臨しており、セカンドインパクトの後もいち早く復興を遂げて、その覇権は揺らぐことはなかった。その原動力となったのが覇道財閥である。

 

 その覇道財閥は南北アメリカとオセアニアを勢力圏にしており、欧州、アフリカ、中東を勢力圏としているゼーレと世界を二分する存在として敵対していた。

 

 そんな覇道財閥の本拠地アーカムシティの覇道邸に、覇道総帥(一鉄)と国連軍特務部隊デモンベインのメンバーが集まっていた。

 

 余談であるが、国連軍特務部隊デモンベインのメンバーは、

 部隊長リーラ・シャルンホルスト特務大尉(30歳)

 操縦士エリーゼ・ペルティーニ特務軍曹(25歳)

 操縦士アイシャ・ペルティーニ特務軍曹(25歳)

 経理 エーファ・ノイビル特務一等兵(25歳)

 この四名で構成された部隊だった。

 

 ここで巨大ロボットを運営しているのに整備班とかいないのか?と思う人も多いかもしれませんが、ドゥルガーとカーリーはメンテナンスフリーなので修理や整備の必要がない。この点、動かすだけでも多額の費用を必要とし、修理費用になると国が傾くネルフの決戦兵器とは大違いである。

 

 ちなみにこの四人の年齢はあくまで戸籍上の年齢である。外見年齢20歳のリーラ以外は15歳ほどにしか見えないので、そのままで国連軍に所属して使徒と戦うのは拙い。そこで覇道財閥の伝手を使いアメリカ国籍を取得して2015年の時点で全員が実年齢より若く見える大人という形にすることにしたのだ。

 

 勿論、この四人は大人どころかそこいらの100歳を超えた老人でも若者に見える程の超高齢者であるが、外見でそう見えないから、その辺りは気を付けていたのだ。

 

 また、カーリーの管制をしている明乃(あけの)とドゥルガーの管制をしているマーシャは、外見年齢が幼すぎていくら鯖読んでも大人と言うには無理がありすぎた事と、鬼械神(デウス・マキナ)を動かす時しか使用しない専用AIのような存在であった為に戸籍を用意する必要もないので、隊員扱いになっていなかった。

 

「一鉄、国連議会はどうなったかしら?」

「はい。大まかにはエリーゼ様のシナリオ通りにネルフの特務権限の大幅な規制に成功しました」

「そうですか。それならネルフが特務権限で鬼械神の徴収や技術提供を要求する事はできないわね」

 

 エリーゼにとってそれが一番嫌な事だった。まぁ仮に提供してもこの世界の技術レベルでは活用などできっこないが、それでも技術流出というのは好ましくない。そこでネルフの異様なまでに強い特務権限を規制させたのだ。

 

 

 

 実は国連議会では国連軍特務部隊デモンベインが使徒殲滅に成功した為に国連軍を中心に反ネルフ派が勢いづいていた。

 

 これはネルフがエヴァンゲリオンでなければ使徒に勝てないと言って無茶苦茶強引に馬鹿みたいに予算を取っていく癖に、機密と言って録に監査を受け入れず情報提供もしない。更にやたら強力な特務権限で他の組織に高圧的な態度を取る事が多く、少年兵を採用するなど、色々と問題行動をやっていたからだ。これで嫌われない筈がない。

 

 国連内及び各国の反ネルフ派はデモンベインによる使徒殲滅ができた事で、これまでエヴァンゲリオンでなければ使徒に勝てないと主張したネルフを非難して、ネルフ不要論を主張した。更に第三使徒殲滅直後の国連議会でアメリカの国連大使が爆弾を落とした。それが作戦部長葛城ミサトが行った特務権限の乱用だ。

 

 実は某作戦部長殿はネルフの特務権限で日常的に犯罪をもみ消していた。駐車違反、スピード違反、飲酒運転、人身事故、衝突事故、公共物破損に傷害を度々やっており、これらの結果、特務権限で手が出せない現地警察の真面目な警察官たちはネルフに反感を募らせていたのだ。

 

 そんな現地警察官にアメリカの諜報員が事前に接触して、これらの不正行為の証拠と証人を確保していた。警官たちも最初はアメリカ政府の人間を警戒していたが、「ネルフ(某作戦部長)の特務権限の乱用をアメリカが問題視しており、これを正すために協力してほしい」と説得すると、真面目な警官ほど協力してくれたのだ。それだけ彼らもネルフ(作戦部長)に頭にきていたわけである。

 

 そして、アメリカの国連大使はこのカードを国連軍による使徒殲滅という絶好のタイミングで切った。

 

 ネルフの幹部が日常的にそんな事をしていることを知った各国大使たちは、幹部がそうなら他の職員の多くがそのような犯罪行為をしているのだろうと判断してネルフを犯罪集団として猛烈に非難したのだ。

 

 勿論、これらの諜報員や国連大使の動きには覇道財閥(エリーゼ)の暗躍があったのは言うまでもない。

 

 

 

「これによって、ネルフは使徒との優先指揮権だけは確保したものの、予算の大幅な縮小と特務権限が縮小されることになりました」

 

 ネルフの後ろ盾となっているゼーレにとって使徒殲滅は本来の目的ではないが、これからもネルフではなく国連軍が使徒殲滅をしていくというのは明らかに拙いので、ゼーレがこれだけは確保したのだ。逆に言うとそれ以外はどうにもならなかった。

 

「それは上々ね」

 

 正直な話エリーゼとアイシャにとってこの世界の命運などあまり興味はない。元々介入したのだって、初めて作り出した世界があっさりと滅びてしまったのが面白くないからと言う理由であるし、使徒殲滅をやることにしたのは鬼械神の実戦テストがやりたかったという理由があったからだ。

 

「ネルフも頑張るね。でもシン(碇シンジ)がいないネルフでは使徒殲滅には支障が出るでしょうね」

 

 原作でネルフが使徒との戦いを切り抜けたのは碇シンジの功績が大きいし、おまけに彼はサードインパクトの依代でもある。だからこそエリーゼは碇シンジがゲンドウに捨てられた直後に回収した。

 

 現在では碇シンジは〝シン・シャルンホルスト″と名を変えて戸籍上はリーラの息子ということになっている(勿論アメリカ国籍を持つアメリカ人)。

 

「シンといえば彼は最近『裏死海文書』を使いこなしているようだね。思ったよりも魔術師として適正があったわね」

 

 アイシャが思い出したように言う。

 

 そう、私たちはシンを確保するついでに裏死海文書のマスターとして教育しておいたのだ。

 

 これは私たちが既に魔導書と契約しており、裏死海文書を必要としていなかったというのもあるが、裏死海文書が使い勝手が悪かったという理由が大きかった。

 

 そもそも裏死海文書は使徒の能力を魔術として再現して使用するという目的で私が執筆したものだ。

 

 これに用いられた理論はデモンベイン世界の魔術理論だけでなく、スレイヤーズ世界で魔族から力を借りる黒魔術の理論も応用して実用化したが、残念なことに私たちのチート能力をもってしてもそれらの魔術は宇宙のタマゴの中の世界でしか使用できなかったのだ。つまりタマゴの外の下位世界ではまったくの役立たずというわけである。

 

 私たちのチート能力が上手く働かなかったのは、この世界が真っ当な下位世界ではなく、宇宙のタマゴによって作られた人工宇宙である為に発生した不具合だと思われる。とはいえ、よく考えてみればエヴァ世界の使徒の能力を魔術として行使できる下位世界など存在しないのでこれは当たり前だろう。

 

 そんなわけで、この宇宙のタマゴの中でしか役に立たない裏死海文書だが、だからといって捨てるわけにもいかないので、この世界の人間からマスターを見繕う事にしたのだが、シンが思ったよりも優秀だったのだ。

 

 しかし、14歳であるシンがデモンベインに所属することはない。年齢から問題がありすぎるからね。戦争は大人の仕事で、少年兵の出番はありませんよ(笑)。

 

 

 

ゼーレside

 

 暗い部屋の中で一人座っている碇ゲンドウ。そのゲンドウの他にも黒いモノリスが並んでいた。

 

「使徒再来か。唐突だな」

「十五年前と同じだよ。災いは何の前触れもなく起こるものだ」

 モノリスから音声が流れる。

 

「しかし、碇、第三使徒との戦いで君たちネルフは何をしていたのかね。ただ見ていただけではないか」

「さよう膨大な費用をつぎ込んだエヴァンゲリオンだというのに、我々の先行投資を無駄にしないでもらいたいな」

「君のネルフは役に立つのかね。そうでなければ無駄と同じだよ」

「おまけに先日の国連議会では君たちの尻拭いにさんざん苦労したぞ」

 

 これは某作戦部長の特務権限乱用問題の一件である。確かにネルフ幹部の不始末だけにこれはネルフ総司令ゲンドウの管理責任が追及されるべき事である。これにはゲンドウも顔を引きつった。ゲンドウ自身それは知っていたが重要視せずに「問題ない」ですませていたが、その所為で手痛い目に合う事になった。

 

 しかし、ゲンドウにも言い分はあった。そもそも裏死海文書の記述に拘る老人たちがあの葛城ミサトを作戦部長に推挙したのだ。これはゼーレの人選にも問題はあったが、そんな事を選民思想に染まったこの老人たちに言えるわけがないので、ゲンドウは老人たちの説教に耐えるしかなかった。

 

「ともかく、使徒殲滅の優先権だけは確保したので、次は何としてもネルフが実績を出すのだ!」

 と、老人たちは散々ゲンドウに説教した後でそう締めくくった。

 

 

 

 その後、ゲンドウが退出した後でもゼーレの話し合いは続いていた。

 

「しかし、あのロボットはあの覇道財閥が開発した物らしいな」

 

 使徒殲滅の後で、国連軍は各国にある程度の情報公開をしていた。その中にはあのロボットが鬼械神(デウス・マキナ)ドゥルガーという名称である事や覇道財閥が開発したロボットである事も含まれていた。

 

「覇道財閥、それにあのロボット。これらは裏死海文書には一切書かれていない。とんでもないイレギュラーだよ」

 

 覇道財閥はゼーレ結成以前から世界経済に君臨している存在であり、ゼーレにとって最大の仮想敵であった。最も裏死海文書にまったく記載されていなかったからそのうち潰れるだろうと思っていたが、このような番狂わせとなってしまった。

 

「しかし、我らとて裏死海文書のすべてを把握しているわけではないぞ」

「例の未解読部分か」

 

 この世界ではゼーレの前身となる宗教団体が死海の洞窟で後に死海文書と呼ばれることになる文書群と、裏死海文書という本を発見した。その際に彼らはより重要な情報が書かれていた裏死海文書を隠し、この裏死海文書が預言書である事を知った彼らはゼーレを結成したのだ。

 

 当然ながら彼らゼーレはこの裏死海文書をすべて解読しようとした。しかし、序文と第一章を除いて解読できなかったのだ。というのも裏死海文書の序文には『魔術師としての能力がない者は第一章以外を読んではならない。もし読めば災いが降りかかるであろう』と注意書きがされていたからだ。

 

 当初ゼーレはそれを無視して第二章以降も解読しようとしたが、解読を行った者たちが次々に発狂して怪死していった。

 

 その後も解読を試みたが少なくない犠牲者が出た事で、止む無くゼーレは第一章のみで解読を終わらせたのだった。

 

 何故こうなったかというと、実はこの世界の裏死海文書はデモンベイン世界の世界観における最高位の魔導書だったからだ。第一章は当たり障りのない預言書もどきの内容に過ぎないが、第二章以降は外道の知識が詰め込まれていた。そんな物をただの学者が解読しようとすればこうなるのは当たり前である。

 

「こうなると、裏死海文書を何者かに奪われたのが痛い。おかげに未解読部分の解読は完全に不可能になってしまった」

「さよう。未だに見つかっていないからな」

 

 エリーゼは一年前に裏死海文書を回収しておいた。その為、ゼーレの老人たちは奪われた裏死海文書を回収するために探し回ったが徒労に終わっている。

 

「いずれにしても次の使徒をネルフに殲滅させねばなるまい。その為に手を打っている」

「さよう。国連軍に指揮権を移譲してはいけない」

 

 こうしてゼーレは次の使徒に備えて準備を進めていった。

 

 

 

ネルフside

 

「それで、あのロボットについて何か分かったのか?」

 

 ネルフ幹部が集まった会議の場で当然ながらドゥルガーの事が話題となった。

 

「空間転移、使徒の攻撃を防いだバリア、そしてあの攻撃、MAGIも理論が分からないとのことです」

「ふむ、そうか」

「ただ、戦闘データを分析した結果、このロボットのエネルギー係数が無限を指しました」

「何だと!」

 

 エネルギー係数無限。それは使徒のS2機関ですら不可能な事で、日本どころか地球中の電力をかき集めてもそんなエネルギーは計測されない。

 

「つまり、あのロボットにはS2機関すら凌駕する動力炉が搭載されているということか。馬鹿な。そんな事は例え小型核融合炉を実用化しても到底不可能だ!」

 

 冬月が驚愕していた。

 

「しかし、データを確認するとそうとしか判断できません。それとあの攻撃ですが、使徒のA.T.フィールドを中和するのではなく圧倒的な攻撃力で使徒もろとも消滅させています。また例のバリアですがこれはA.T.フィードではなく全く別種のバリアとしか分かりません」

「つまり、さっぱりわからないという事か」

 

 冬月がため息をこぼした。

 

「せめて情報を得られたら話は別ですが、現状では無理です」

「ねぇリツコ。それならこの機体を徴収すればいいじゃない」

 と、ミサトがいいアイデアを思いついたとばかりに言った。

 

「ミサト、ネルフの特務権限は縮小されているからそんな事はできないわよ。第一そんな事をしたらどうなると思うの?」

「何って人類の為になって万々歳じゃないの」

 と、本気で言うミサトにリツコは頭を抱えた。

 

 これまでネルフはエヴァンゲリオンでなければ使徒に勝てないと散々主張して強権をふるって来たのだ。それなのに実際に使徒との戦いでは国連軍のロボットが使徒を殲滅してしまったのだ。おかげでネルフは各国から嘘つき呼ばわりされており、かなり拙い事になっていた。

 

 そんな状況で使えるからとあのロボットを徴収しようとすれば、各国からどういう目で見られるか火を見るより明らかである。大体、今のネルフは特務権限を規制されており国連軍の機体を徴収などできない状況なのだ。これにはミサトも愚行が大いに影響していた。

 

「とにかく次はかならず我々が使徒殲滅をしなければならない。いいな」

 と、ゲンドウの言葉にネルフ幹部たちは頷いた。




解説

■リーラ・シャルンホルスト
 エリーゼに仕える人造人間のメイド。元々は名字がないただのリーラだったが、アメリカ国籍を取得する際に名字がないと拙いので、原作繋がりでこの世界ではリーラ・シャルンホルストという名前にしている。また外見年齢が四人の中で一番高いので対外的に特務大尉として部隊長に就任させられている。

■エーファ・ノイビル
 アイシャに使える人造人間のメイド。彼女もリーラと同じで原作繋がりでノイビルという名字を名乗る事にした。階級は特務一等兵。

■明乃(あけの)
 元ネタは雪村明乃(ウイッチズガーデン)で、雪村涼乃の妹だからエリーゼと容姿が似ている。エリーゼの鬼械神カーリーの管制をしているネクロノミコン・機械語写本の精霊。

■シン・シャルンホルスト
 この世界の碇シンジの名前。エリーゼはサードインパクト阻止の為に鍵の人(キーパーソン)となるシンジを確保して、ついでに魔術師として教育していた。それと名前を変えているのはネルフから隠す為である。


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38.不安

 第三使徒殲滅の三週間後に第四使徒が襲来した。ネルフ初の使徒戦が勃発したが、結論から言えばネルフの大敗であった。

 

 今回はエヴァ初号機に綾波レイが搭乗していたが、シンクロ率がいまいちであった事と、彼女が命令に忠実過ぎた事が流れを変えることになった。

 

 相田ケンスケと鈴原トウジがシェルターから抜け出していた為に、ミサトが初号機に二人を乗せて撤退するように命じた。

 

 ここでレイのシンクロ率の低さが仇となり、二人を乗せた途端に初号機まともに動かせなくなり初号機は使徒に撃破された。おまけにエヴァ回収スポットから使徒が侵入してしまうという大失態を犯してしまう。

 

 

「エリーゼ様、すぐに指揮権の移譲を通告しなくてもよろしかったのですか?」

 と、リーラが訊いてきた。

 

 現在の特務部隊デモンベインはネルフが対使徒戦に敗退もしくは戦力を失った際にネルフに指揮権の移譲を通告する権限を与えられていた。

 

 ここで国連軍のトップではなく特務部隊デモンベインが直接そうする事になったのは、デモンベインは名目だけは国連軍所属になっているが、独立愚連隊にして覇道財閥の私兵と言う存在で、国連軍上層部としてもデモンベインは動かしにくい存在だったからだ。

 

 通常ならばそんな部隊は認められないだろうが、そこはデモンベインの人員がたった四人で分隊規模にすぎず、アメリカ合衆国を裏から支配している覇道財閥の後押しがあったからだ。その上、三年間だけの試験部隊であったし、その部隊に予算を一切出していなかった事からわざわざ文句を言う者も居らず、これまで誰も問題視していなかったのだ。

 

 しかし、第三使徒殲滅でそれが大きく変わった。忌々しいネルフを差し置いて使徒を圧倒的な強さに仕留めた鬼械神の強さは彼らの想像を絶していた。当然ながらこれによって多少の問題が発生したが、そこは一鉄に収めさせた。

 

 その結果、デモンベインは通常の国連軍の指揮系統から外れて独自に動ける部隊になったのだ。

 

「そうしてもいいけど、ここはもう少しネルフを痛めつけておきたいわ」

 

 確かにエヴァが敗れた時点で即座に指揮権の移譲を通告すれば損害は小さくなる。だが、それではネルフの無能さが諸外国に対して目立たなくなるだろう。

 

 しかし、敗北して大損害を受けて、その損失の為に国が二つ三つ傾くほどの予算を搾り取ればそれだけ各国がゼーレとネルフから離れていく。要は「使徒に勝ったデモンベインは金を一切要求してこないのに、ネルフは負けた癖に膨大な金を要求しやがって!」と反感を持たせればいい。そうなれば私たちには好都合なのだ。

 

 そんなわけでしばらく待っていると、ネルフが「指揮権を移譲するから助けてくれ」と泣きついてきた。第四使徒が第3新東京市の地下、箱根大深度地下大規模空間(ジオフロント内)で派手に暴れているらしく、彼らもなりふり構っていられないのだろう。

 

 流石のネルフもこの状況で「こちらの指揮下に入って使徒を殲滅しろ」と命令してこない。某作戦部長ならやりかねないけど、普通ならそんな事をしたら自分たちの立場が悪くなるだけだからね。

 

 ふむ、これは突っぱねてもいいが、そうするとネルフが「国連軍に救援を求めたのに来なかったから被害が拡大した」と私たちに責任を押し付けてくる可能性があるね。そう考えれば、この辺りが潮時だな。

 

 私は鬼械神カーリーに乗り込んで、虚数展開カタパルトでジオフロント内に出現した。

 

 この私のカーリーはアイシャのドゥルガーとは色違いでほぼ同型となっている。これは使用用途がほぼ同じため設計も統一しておいたからだ。おかげで生産にかかるコストもある程度抑制できた。最もドゥルガーとカーリーは整備や修理など必要ないので、コストを抑えなくても運用面ではかなり楽である。

 

 現在地のジオフロントは地下空間にもかかわらず意外に広いのでカーリーでも戦闘に支障はない。さてと、では目の前に使徒を始末するか。

 

 第四使徒は転移でいきなり出現したカーリーを警戒しているのか、盛んに光の鞭をふるっている。その速度は音速を超えており、それなりに強力なようだ。最もカーリーからすればそんなもの児戯にも等しい。

 

「姉様。如何いたしましょうか?」

 と、明乃が私に訊く。

 

 正直な話、カーリーの規格外の性能をもってすれば第四使徒など玩具の様な物に過ぎないから、戯れになぶり殺しにする事も簡単にできるが…。

 

「戦いに遊びを加える趣味はないので、一気に片付けるわ」

「わかりました」

 

 私は金ぴかの慢心王ではないので、例えザコでも油断などしない。

 

「触れれば消滅必至の奥義」

 

 カーリーの右掌に展開される破滅の術式。形作られた手刀が白く燃える炎をまとう。絶対零度の白い炎をまとう奥義。

 

「「ハイパーボリア・ゼロドライブ」」

 

 私と明乃の声が重なりカーリーの奥義が発動すると同時に、カーリーは亜光速で第四使徒の背後に回りその手刀で貫いた。第四使徒が展開しているA.T.フィールドも硬い外皮もこの奥義の前では紙装甲にすぎない。

 

 そして、第四使徒の全身が凍り付いて粉々に消滅した。

 

 私のカーリーとドゥルガーの違いは採用している近接昇華呪法にある。ドゥルガーはデモンベインのレムリア・インパクトを、カーリーはリベル・レギスのハイパーボリア・ゼロドライブを搭載していたが、この違いは別に深い理由があるわけでなく、単に好みが違っただけである。

 

「任務完了、これより帰還する」

 

 ここは敵地とも言えるネルフ本部だ。長居は無用なので、私は転移魔法でさっさと引きあげた。

 

 

 

ネルフside

 

 第四使徒殲滅から数日後。

 

 当然ながら第四使徒戦に敗退した上に甚大な被害を出した事で、ゲンドウは老人たちにさんざん説教された。

 

「それで碇、弐号機と参号機の方はどうなった?」

「委員会も何とか早期に運び込んでくれることを約束してくれた」

「そうか。それはありがたいな」

「あの老人たちにとってもネルフがこれ以上負けたら拙いからな。当然のことだ」

 

 そのゲンドウの言葉に冬月も頷いた。今のネルフが置かれている状況はシャレにならないものになっていた。地上の武装ビルだけでなく、切り札のエヴァ初号機が大破。おまけにジオフロントにも甚大な被害が出ていた。

 

 それでも使徒に勝てていればなんとかネルフの面目は保てただろうが、実際には使徒に敗れて甚大な被害を出した挙句に国連軍に救援を求めるという醜態を晒してしまったのだ。

 

 こうなると、国連議会でも公然とネルフ批判が巻き起こるのは同然だった。ついでに言えばネルフが出した被害の修復の為に各国が更なる負担を強いられる事が批判を更に煽っていた。

 

 この世界の地球各国はアメリカという例外を除いて、セカンド・インパクトの被害から立ち直りきっていない。例えるなら乾いた雑巾を搾り取られるような事を強いられるので、各国は金食い虫のネルフに本当に嫌気が指していた。

 

 こうなると、次も負けたらどう考えても拙い事になるだろう。おまけに初号機は前回の戦いで大破しているから、今のネルフは零号機しか戦力がないのだ。そこで無茶でも弐号機と参号機を送ってもらう事にした。

 

 とりあえずネルフの方針としては、初号機にレイを乗せて、フォースチルドレンとフィフスチルドレンを選出して、参号機と零号機に乗せることにした。

 

 ちなみにフォースチルドレンは鈴原トウジで、フィフスチルドレンは相田ケンスケだったりする。この二人はシェルターから出た事でネルフに様々な損害を与えたとして利敵行為などの罪状と、とんでもない負債を押し付けて脅迫する形でチルドレンに就任させた。最もトウジは嫌々ながらで、ケンスケは嬉々して了承していたのは対照的であった。

 

「ふむ、次は何としても結果を出さないと拙いな」

「ああ」

「しかし、そうなるとあの葛城くんでは荷が重いぞ。いっそのこと作戦部長を変えるべきではないか?」

「……」

 

 そう、前回の敗北はミサトが致命的な命令を出したせいもある。というよりほとんどその所為だ。

 

 ミサトが作戦部長になった本当の理由を知る冬月はミサトの能力など最初から期待していなかったが、まさかあそこまで無能だとは思っていなかった。

 

「駄目だ。裏死海文書の記述に拘るゼーレがそれを許す筈がない」

「やはり、そうか」

 

 冬月はため息をついた。

 

 追い詰められているネルフとしてはミサトなど使いたくないが、ミサトの存在は重要なファクターとなっている。その為にゼーレはミサトをクビにする事も作戦部長から外す事も許さなかったのだ。

 

「使徒と言えば、あのロボットは第四使徒を容易く倒していたな」

「老人たちもあのロボットにはかなり警戒しているようだ」

「そうだろうな。亜光速の機動性か。化け物だな」

 

 ネルフではMAGIを使って第四使徒戦のデータを分析した結果、国連軍の青いロボット(カーリー)が、光速の42%の速度で第四使徒の背後に回り込んで、その手刀で使徒の胴体をぶち抜いた事が判明したのだ。

 

「あの巨体で、どうすれば亜光速で動けるのだ?」

「A.T.フィールドをどうやってぶち抜いているのよ?」

「というか、何で使徒が氷漬けになって粉々に砕けているの?」

 などとワケが分からない事この上ないが、その圧倒的な強さは嫌でも理解できた。

 

「今はあのロボットの事よりも、次の使徒に何としても勝たねばならない」

「葛城君の指揮で?」

「「……」」(汗)

 

 その瞬間ゲンドウの冬月の脳裏に一抹の、いや凄い不安が残ったのだった。




解説

■カーリー
 エリーゼ専用機。外見は青く塗装したアイオーンみたいな感じ。実は亜光速どころか超光速で格闘戦ができるという化け物染みたスペックを誇る。

■ハイパーボリア・ゼロドライブ
 リベル・レギス(斬魔大聖デモンベイン)の奥義。原子の完全なる停止というレムリア・インパクトと全く正反対の性質を持つ。エリーゼは元ネタから氷系の究極魔術であるハイパーボリア・ゼロドライブを採用している。見た目の派手さではレムリア・インパクトに劣るものの、対象となる敵を確実に殺す必殺技でありながら周囲に余計な被害を与えない為、レムリア・インパクトより使い勝手が良かったりする。


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39.連敗

 第五使徒ラミエルが襲来。これに対して未だに使徒戦の優先権を何とか確保していたネルフは迎撃を開始した。

 

 この時ネルフの戦力は初号機の修理が完了しておらず、参号機もまだ到着していないという状態だった。その為、使える戦力がエヴァ零号機(相田ケンスケ)とエヴァ弐号機(惣流・アスカ・ラングレー)だけであり、ケンスケが訓練を始めたばかりであることを考えると、最強の戦力はアスカの弐号機である事は間違いなかったが、そのエヴァ弐号機が地上に出た途端に荷電粒子砲で狙撃されて大破した。

 

 ぶっちゃけると、ミサトは偵察も牽制もないまま馬鹿みたいに正面に出して磔にされただけという醜態を世界にさらしてしまった。前回は何とか戦いらしきものが出来ていたが、今回は論外であった。

 

 この事態にネルフだけでなくゼーレも大慌てになった。何しろ後がないから何としても今回の使徒をネルフが殲滅せねばならないが、この時点でネルフは外部組織に対する特務権限を縮小されており、原作の様に戦自の陽電子砲や日本全土から電力の徴発などはやりたくてもできなかった。

 

 そこでゼーレは日本政府内のゼーレの草を動員して無理やりヤシマ作戦を実行させた。これには裏死海文書に第五使徒には日本全土の電力を集めれば勝てるという記述があったからだ。

 

 また、その様な事ができたのは、この世界のゼーレはジオフロントがある日本を重要視して念入りに抑えて現内閣をゼーレの傀儡にしていたからである。

 

 かくして、この世界でもヤシマ作戦が実施されて、ネルフは最後の戦力であるエヴァ零号機が日本全土の電力を集めた陽電子砲による使徒迎撃を試みたが、これが失敗に終わった。というのも原作ではエヴァを二体使って陽電子砲と盾を運用していたが、この世界では零号機だけなので盾がなかったからだ。

 

 電力を集めて陽電子砲を発射しようとすると、第五使徒も荷電粒子砲を発射したためにお互いの砲が大きくそれてしまったのだ。そこに第五使徒が再び荷電粒子砲を打ち込んだ為に陽電子砲とエヴァ零号機は大破して、この敗北で戦力を失ったネルフは国連軍に指揮権を移譲した。

 

 

 

アイシャside

 

「そんなわけで、ネルフは指揮権を国連軍に移譲いたしました」

 と、アイシャはエーファの報告を聞いていた。

 

「ヤシマ作戦をこの世界でやるとはね。てっきりこの世界では取りやめになると思っていたから意外だわ」

 

 今までの工作で、ネルフの特務権限をあれだけ削ればヤシマ作戦は実行不可能だと予想していたが、まさかゼーレが日本政府を使って無理やりやるとは思ってもいなかった。

 

「でも、やり過ぎたわね。かえって状況が悪くなっているわ」

 

 ヤシマ作戦でネルフが使徒殲滅に成功していれば使徒殲滅機関としてのネルフの体面を保つ事ができただろうが、失敗しては逆効果だ。こうなるととんでもない負担をさせられた日本のゼーレ離れが起こるだろうし、こちらがそれを煽るのも難しくないだろう。この際、日本をゼーレから離反させるというのもありだ。まぁ今は使徒殲滅が先だから、さっさと出撃しますか。

 

「虚数展開カタパルト展開、ドゥルガー出撃!」

 

 使徒殲滅の為にアーカムシティから第三新東京市に転移する。座標は第五使徒の真上だ。それは使徒はその構造から真上が荷電粒子砲の死角になっていると予想できたからだ。

 

 別にドゥルガーなら荷電粒子砲が命中してもビクともしないが、アイシャはマゾではないので無暗に攻撃をくらうつもりはない。

 

「レムリア・インパクト!」

「昇華!」

 

 真上から強襲するドゥルガーに対して第五使徒はATフィールドを張るが、それは無駄な抵抗だった。確かに第五使徒のA.T.フィールドは強力であるが、ドゥルガーのレムリア・インパクトの前にはひとたまりもない。

 

 そもそもドゥルガーのレムリア・インパクトはディス・レヴの無限力によりデモンベインのレムリア・インパクトよりも遥かに強力なのだ。そんなものをくらえばA.T.フィールドも紙装甲にすぎず、一撃で使徒は消滅した。

 

 尚、この鮮やかな使徒殲滅によりネルフの失態がより強調されてしまったのはいうまでもないだろう。

 

 

 

日本side

 

 現在の日本では政変が起きていた。というのもゼーレの草であった内閣が解散したからだ。

 

 そもそも使徒戦が始まってからというもの日本は踏んだり蹴ったりという状況だった。第三使徒戦で戦自は被害を受けた上にN2兵器で自国の街を壊滅させてしまうという失態を犯してしまうだけでなく、第四使徒戦ではゼーレの命令により国連軍に指揮権の移譲を厳禁された上に使徒を第三新東京市に誘導する事になったのだ。

 

 その為、戦自は第四使徒に原作より激しい攻撃を加えたが、それは使徒の反撃を受けることになり、戦自は大打撃を受けた。これだけでもヤバい事態であったが、ヤシマ作戦が内閣に止めを刺した。

 

 当時の内閣を初めとして日本上層部に入り込んでいたネルフの草たちがゴリ押しして実現したヤシマ作戦であるが、その被害額は目を覆わんばかりだった。

 

 まず前置きとしてセカンド・インパクト後の日本は人口の激減によって電気需要量が激減しており、これによって日本にある電力会社が作る総電力量が低下してしまいヤシマ作戦の目標電力に届かなかった事を指摘しておきます。

 

 こうなると戦自の基地や、付近の自家発電を持つ病院などから電気を無理やりかき集めて、更に陽電子砲に電力を送るために収束地点などでは、戦自や民間の技術者を協力させていた。つまり、日本中から必要となる電力、機材、技術者を投入していたわけで、その結果、人工呼吸器などに頼っていた患者や、緊急手術が必要だった患者などが、数百人単位で死亡してしまった。その為、犠牲になった患者の遺族や無理やり働かせた技術者たちに対する補償もとんでもない出費となり、その上日本中が一時的に停電になる事で日本経済に大打撃を受けた。

 

 これでネルフが勝っていればまだマシだっただろうが、これほどまでに負担にもかかわらず結果が敗退であり、一方で国連軍のロボット(ドゥルガー)は使徒をあっさりと殲滅してしまった。その結果、政界と財界では大いに揉めるだけでなく、国民から政府への非難が殺到してマスコミによって政権が徹底的に叩かれることになりゼーレ派の多くが失脚した。こうして、日本国内でゼーレの勢力が一気に低下していった。



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40.消化試合

 第五使徒戦が終わって暫くして農協ロボもといJA(ジェット・アローン)が発表されたが、この世界ではネルフが干渉しなかった為に、JAは暴走することなく発表会を終えた。これは今のネルフに妨害工作などしている余裕がなかったからだ。何しろ戦績が一不参戦と二敗。これでは役立たずと言われても文句を言えない。

 

 そんな時期に第六使徒がエヴァンゲリオン参号機を輸送している国連軍太平洋艦隊を襲撃した。太平洋艦隊は強力な艦隊であるがA.T.フィールドの反則的な防御力には対抗できない。その為、彼らは使徒迎撃の実績を有する特務部隊デモンベインに救援を求めた。

 

 余談ではあるが、太平洋艦隊にはエヴァ参号機が乗っているが、パイロットのトウジは本部で訓練の為に不在なので動かせなかった。まぁ例え動かせたとしても陸戦タイプのエヴァンゲリオンでは海戦などまともにできないからどうにもならなかっただろう。

 

 そんなわけで私はカーリーで即座に戦いを挑んだ。言うまでもないが私のカーリーは鬼械神アイオーンのシャンタクのようなフライト・ユニットがなくても自力で高速飛行(超光速巡航)が可能なので、その外見はいつもと変わらない。

 

 そんなカーリーでも海中にいる敵を叩くのはこれまでとは勝手が違うが、そんな些細な事は問題にならない。

 

 私がカーリーを介して発動させた魔術によって第六使徒は空中に引きずり出した上で、ハイパーボリア・ゼロドライブで仕留めた。

 

 こうして第六使徒戦は終了したが、手ごたえがなさすぎた。確かに使徒はこの世界の通常兵器では倒せない強さであるが、カーリーやドゥルガーを使うほどの相手ではない。正直、蟻を潰すために核兵器を使っているような過剰なところがあると言わざるをえない。

 

 最近では消化試合というか、単純作業をやっているようで飽きて来たから予定を切り上げる事にした。どうせネルフが第十七使徒戦まで持ちそうにないから遠慮など無用だ。

 

 

 

「エリーゼ、アダムの処理は終わったよ」

 

 使徒殲滅が終わり、アーカムシティで覇道邸の主である六十代程の老人(覇道一鉄)と優雅に茶を飲んでいるとアイシャがそう報告してきた。

 

 私は今回の使徒戦で太平洋艦隊にアダムが持ち込まれる事を原作知識で知っていた為に、アイシャにアダムの処理を依頼しておいた。

 

 常人では太平洋艦隊で運ばれているアダムをどうこうすることはできないだろうが、数多の世界の魔導技術を極めた私たちにとってその手の工作は容易い事であった。

 

「そう、ご苦労様でした。これで使徒によるサードインパクトは阻止できるわ。後はネルフを潰すだけね」

「しかし、よろしいのですか?」

 

 予定の切り上げに一鉄がやや心配しているようだ。

 

「確かに予定とは違うけどネルフは最後まで持ちそうにないからね。それならこちらから動いて主導権を握った方がいいでしょう?」

「確かにそうですな」

 

 現在のネルフは崩壊寸前で、各国でネルフ不要論が異常なまでに高まりいつ潰されても可笑しくない状態だった。最早第十七使徒戦まで持たないだろう。何しろ、各国にあるネルフ支部の職員たちは沈みゆく船から逃げ出すかのように次々に辞職しており支部の維持すら不可能な状態になっている。ゲンドウによってイエスマンばかり揃えられているネルフ本部でさえ辞職者がかなり出ているのだ。

 

 この世界のネルフがここまで追い詰められている理由として、原作と違ってネルフ以外に使徒を殲滅可能な組織が存在している事と、ネルフに使徒殲滅の実績がない事が上げられる。

 

 原作ではネルフ以外に使徒殲滅が不可能でサードインパクトを阻止するために渋々嫌なネルフに我慢していた各国であるが、この世界ではそんな事をする必要がなく、国連議会ではネルフ叩きが激しさを増していた。

 

 そこではネルフを潰すべきだと主張する反ネルフ派の国とネルフを擁護する国連内部のゼーレ派が攻防を繰り広げているが、ゼーレ派があまりにも劣勢であった。

 

「まぁそんなわけで悪いけどアダムや使徒たちには退場してもらうわ」

 

 まずはアダムを排除して使徒によるサードインパクトを阻止する。しかる後にゼーレとネルフ(ゲンドウ)の人類補完計画を阻止するという手順だ。その為、不確定要素となる第七使徒から第十七使徒には登場する前に退場してもらった。

 

 どうやったかというと、単に覚醒する前に攻撃して殲滅しただけだ。

 

 元をただせば使徒は私が作り上げた奉仕種族で、使徒という仕組みも私が構築した物だったから未覚醒状態でも見つけるのは容易く、後はA.T.フィールドさえ発生させていない標的を潰すだけでよかった。

 

「後はネルフを潰すだけですな」

「ええ、使徒を処分した今、ネルフ本部にあるリリスとそのコピーであるエヴァ初号機を始末すればチェックメイトだし、各国の根回しはやっているのでしょ?」

「はい。日本政府を初めとした各国も私たちが提供した情報に驚いていました」

「そうでしょうね。人類補完計画なんてすべての動植物を巻き添えにした無理心中に付き合いきれないでしょうし」

 

 覇道財閥の伝手で各国に極秘情報を流したが、その反応はかなりの物だった。まぁゼーレやネルフがこれまでやってきた事やこれからやろうとしている事を知れば、ゼーレよりの国家ですら切り崩すのは簡単だった。

 

 彼らはゼーレ派といっても利害関係などでゼーレについているにすぎない。そんな彼らにとってゼーレやネルフがやろうとしている事は容認できる筈がなかった。

 

「ですがエリーゼ様。ネルフを潰すにしても、ゼーレは影に隠れると思われます」

「まぁ確かにそうだけど、計画通りいけばゼーレは無力化するわ」

 

 表では権力を奪われて指名手配され、裏でも権力を失うとあってはいくらゼーレでもどうしようもないだろう。後は大人しく朽ち果てさせればいいのだ。

 

 

 

ネルフside

 

 エヴァ参号機を輸送していた国連軍太平洋艦隊が第六使徒に襲撃されたが、特務部隊デモンベインによって殲滅された。これによってエヴァ参号機は無事に届いたものの、ネルフはまたしても実績を上げることができなかった。

 

 ゲンドウからすれば忌々しい事に今回に至ってはネルフに要請すら来なかったのだ。後になって国連からデモンベインによる使徒殲滅の情報が伝えられただけで、その扱いの悪さはネルフの現状を物語っていた。

 

 そんなゲンドウに追い打ちをかけたのが密かに持ち出していたアダムが行方不明になった事だった。運搬人である加持リョウジが言うには気が付いたらなくなっていたとの事だが、これはシャレにならない。

 

 アダムがどこにあるか分からないという事は、下手をすれば知らぬ間に使徒とアダムが接触して使徒によるサードインパクトが発生するかもしれないのだ。その為、ゲンドウは必至で捜索をするが、元々アダムに関しては極秘事項であるがために大っぴらに探すこともできず、結局頓挫してしまった。

 

「碇、アダムも問題だが、国連でも反ネルフの国の勢いが強くなりすぎている。はっきり言って拙いぞ」

「分かっている!」

 

 冬月に言われるまでもない。今の状況は拙い。しかし、ゲンドウにはどうすればいいのか皆目見当も付かなかった。

 

 ここで短絡的に特務部隊デモンベインに対する破壊工作でも仕掛けようにも覇道財閥のガードが固すぎて彼らの施設が見つからなかった。これは彼らが空間転移でいきなり現れるという理不尽な兵力展開方法を採用している事が原因だった。おかげでどこにデモンベインの施設があるのか分からないのだ。

 

 こうなると、正攻法で使徒を倒して実績を上げるしかないが、戦績は二不参戦と二敗でどうみても役立たずになっている。というか国連議会で公然と役立たずと罵られており、ネルフは風前の灯火となっていた。

 

 まぁネルフが追い詰められているのは、これまでネルフが散々好き勝手してきたからなので自業自得であった。

 

 最早独自の補完計画と言っていられない。次に敗北したらその前にネルフが潰れて何もかもが台無しになってしまうだろう。ゲンドウはそう判断していた。

 

 しかし、ゲンドウは知らなかった。アダムや倒すべき使徒さえも既にエリーゼによって始末されてしまっていることを。



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41.ネルフ崩壊

 第六使徒戦から暫くして国連軍がネルフ本部を襲撃して武力制圧した。まさか国連軍が攻め込んでくるとは思わなかったネルフは対応が遅れなすすべもなかった。

 

 これはネルフが研究所上がりで本格的な軍事組織でなかった事と、ネルフの装備が対使徒戦に特化しすぎて対人戦闘に向いていなかった事が大きかった。おまけにその不向きの武装すら使徒戦で甚大な被害を受けており稼働率が著しく低下していたから国連軍とまともに戦える筈がない。とはいえ、流石に原作の様に問答無用で皆殺しにするわけではなく、投降する職員は拘束して抵抗するネルフ職員は射殺するという形になっていた。

 

 ちなみにこの奇襲はエヴァパイロットのチルドレンたちがいない時間に行った為にネルフはエヴァンゲリオンを出撃させて抵抗する事さえできなかった。勿論、万が一にもエヴァンゲリオンが出撃したら国連軍の被害も馬鹿にならないから、念のために私とアイシャがスタンバイしていたが、出撃の必要はなかった。

 

 こうした中で私は電光石火の勢いでネルフ本部にあるエヴァ初号機とリリスを殲滅した。これでサードインパクトはどうあっても実行不可能になったのだ。

 

 国連軍がネルフ本部を制圧したという情報をゼーレが知った時には既に手遅れとなっていた。というより例えゼーレが情報を入手していたとしてもどうしようもなかっただろう。何しろゼーレ派の者たちは軒並みこちらに寝返ったのだから、彼らに味方は一人もいないのだ。

 

 こうなってしまっては世界経済に君臨する覇道財閥に対抗しうるとまで言われたゼーレもただの年老いた老人会でしかなかった。表と裏でゼーレが潰されて彼らの多くは死ぬか、すべての力を失ってただ潜伏するしかなかった。

 

 戯れに潜伏中のキール・ローレンツに会って抹殺しておいたが、あの男は私がエリーゼ・ペルティーニであると知ると驚愕していた。まぁゼーレが解析していた裏死海文書のオリジナルには作者名として私の名前が記載されていたからそれも当然であるが、裏死海文書の件で多少からかってやると面白いように反応していてそれなりに楽しめたね。

 

 他のゼーレメンバーに関しては放置しておいた。どうせ他の者が狩りたてるか老いて死ぬだろう。私がわざわざ殺すまでもない。

 

 その後、セカンドインパクトの真相や、サードインパクトと人類補完計画などの真相が公開されて、ゼーレとネルフは世界中から悪役として糾弾された。

 

 ゼーレのメンバーは雲隠れしてしまったが、ネルフ幹部たちは吊し上げにされてゲンドウや冬月などは処刑された。

 

 ネルフ支部も閉鎖されて建造中だったエヴァ量産機も実はサードインパクトを起こす為に建造していた事が世論の怒りを買って廃棄処分されることになった。

 

 中にはエヴァンゲリオンの戦闘能力に興味を持つ国家もあったが、その国にしてもエヴァがあまりに使い勝手が悪くコストがかかる事に、世論に逆らってまでエヴァの軍事利用を実行したりはしなかった。

 

 ただしその国もネルフやゼーレ関係の技術などを接収して自国の技術の発展に利用するなどやる事はやっていたりする。

 

 こうして一連の事態が収拾していくと、国連を中心とした各国の復興が進んで行く事になる。

 

 

 

「これで終了だね」

「そうだね」

 

 この世界で私とアイシャが干渉するべき事はもうないだろう。

 

「覇道鋼造と結んだ契約もこれで終わりだけど、一鉄お前はこれからどうするの?」

 

 覇道鋼造との契約においてサードインパクトの阻止の為に覇道財閥を興して存続させるという約束は既に終了した。その為、一鉄が覇道財閥を解体しても問題ない。といっても彼の親族がそれに納得するわけがないけどね。

 

「そうですな。これからは孫娘を後継者として育てて何れは覇道財閥を任せていこうと思います」

「ああ、あの子ね。確かに無難でしょうね」

 

 対抗馬たるゼーレが潰れた今では覇道の力は以前よりも遥かに高まっているそれこそ世界を経済的に支配していると主張しても何ら問題ないほどだ。

 

 それだけに覇道総帥の地位は極めて重いだろう。私の見る限り一鉄の後継者は逸材ではないが、それなりに使える人物だったので世界最大の覇道財閥の維持はできるだろうが、その後はどうなるかはわからない。

 

 しかし、それは彼らが自力で何とかするべきものであり、私の関与すべき問題ではない。不滅の国家が存在しないように不滅の財閥だってありはしないのだ。栄えようが滅びようがなる様になればいいし、そもそも利用価値のなくなった財閥がどうなろうが私の知った事ではない。

 

 どうぞ、好きにしなさい。

 

 

 

シンside

 

 僕の名はシン・シャルンホルスト。かつて碇シンジという名前だったけどね。名を変えたのはゼーレやネルフの人類補完計画の駒にならないように、覇道財閥に匿われたからだ。

 

 彼らの計画が潰れた後は素性を隠す必要はなかったが、ネルフ総司令だった碇ゲンドウの息子という立場は世間体が極めて悪く、今更碇シンジと名乗ってもデメリットが多すぎた。仕方ないのでシン・シャルンホルストのままで生きる事にしたのだ。まぁ碇シンジという名に未練があったわけではないから僕的にはどうでもいいけどね。

 

 ちなみにあれから十年が経ち僕はアメリカの大学を卒業して覇道総帥(一鉄)の孫娘の美樹お嬢様の執事になった。

 

 どうもエリーゼさんが僕の事を覇道総帥に頼んでいたらしくて、総帥は僕が大学を卒業するまでは足長おじさんとして生活の面倒を見てくれたし、卒業後も孫娘の執事という仕事を割り当ててくれた。

 

 自分に言うのも何だけど僕はそれなりの魔術師であるけど、だからといってそれで食っていけるわけではない。何しろこの世界では怪異とかは無いので魔導探偵みたいに魔術がらみの仕事を請け負う事もできないからね。そうなると下手をすれば非合法な事を仕出かしかねないから普通に働けるようにちゃんと大学を卒業させてくれた上に、適当に実入りのいい執事の仕事を斡旋してくれた。

 

 この執事という仕事にしてもリーラお義母さんから色々と仕込まれていたからそつなくこなせたし、いざとなれば魔術師としての超人的な能力を駆使してSP代わりに働けるので、覇道財閥にとっても僕は有能な人物だった。

 

 そんな僕が持っている裏死海文書だが、精霊たるインデックスはここ暫く本の形態でいることが多い。というのも僕ほどの魔術師になると魔導書を使わなくてもある程度の魔術は行使できるので使う必要がなかったからだ。

 

「よくぞ僕に魔導書を使わせた」とか言ってみたいなんて思っても、裏死海文書を使うに足るような敵なんて出てこないから使いようがなかったりする。

 

 まぁ強力な魔術師や怪異とかに頻繁に襲撃される世界というのも嫌だが、魔術がない世界というのもある意味物足りないものがあるね。

 

 しかし、よく考えると魔術なんて外道の知識の集大成だから魔術なんて広まらない方が社会にとっていい筈だ。怪異に至っては論外だしね。そう考えればこの世界は常人にとっては暮らしやすいいい世界なのでしょう。

 

 それに折角サードインパクトの危機を乗り越えて存続することになったのだから、この世界をよりよくしていくべきだろうね。



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42.邪神

インデックスside

 

 惑星ニューアーカム上空を巨大なロボットが飛行していた。それは55mを超える程の巨体を持つ白銀の装甲を纏う機体。それは最古にして最強の魔導書『裏死海文書』によって召喚された“鬼械神ロゴス”だった。そのロゴスが上空にて逃げ去ろうとしていた怪異たちを容易く切り裂いた。

 

「くたばれ怪異共が!」

 

 ロゴスのコクピットでは二十代ほどの青年、ジャンが興奮気味にそう叫んだ。

 

「ジャン、怪異は倒したからさっさと地上に降りて術式を解け!」

「けっ、分かっているよ」

 

 私の意見にジャンは不愉快そうに吐き捨てた。

 

 

 

 時は四十一世紀。かつてのサード・インパクトの危機から既に二千年以上の月日が流れていた。

 

 この二千年と言う時間は人類にとっては長かった。かつてのセカンド・インパクトの被害から復興して宇宙進出を果たした人類はやがて恒星間航行を実現させて、三十世紀には天の川銀河全土にその勢力を拡大するまでになった。

 

 ここで人類の歩みが止まっていれば問題なかった。しかし、人類は天の川銀河の外に進出してしまった。そう邪神たちが蠢く暗黒の領域へ。

 

 近隣銀河に進出して暫くは問題なかったが、十年も経たないうちに別銀河に進出した人類は邪神たちの洗礼を受けることになった。

 

 開拓者たちが正体不明の化け物(旧支配者などの邪神)に甚大な被害を受けた為に、人類は軍事力で彼らの排除を決定した。

 

 しかし、当時の人類は科学技術こそ進んでいたが魔術などのオカルトにはまるで無防備だった。当然ながら人類は一方的な大敗北をこうむった。これが後に邪神大戦と呼ばれる戦争だった。

 

 ここで、邪神たちが天の川銀河に侵攻してくればなす術もなく人類は壊滅していただろうが、彼らは天の川銀河に一切立ち入ろうとはしなかった。数少ないデータからそれが可能である筈なのに彼ら自身はそれをしなかったのだ。まぁエリーゼ様が施した制約の為にしたくてもできなかっただけであるが。

 

 最も邪神たちも何もしなかったわけではなかった。奉仕種族や怪異たちを天の川銀河に送り付けるなどの嫌がらせを行ったのだ。

 

 こうして、人類はオカルトに触れることになり、魔術結社や邪神崇拝集団などが誕生してしまい、その結果として人類文明は衰退してしまった。その為、恒星間航行もできなくなり、星間ネットワークを失った人類はこの惑星ニューアーカムのように各地の植民惑星でバラバラに生活するようになった。

 

 こうした情勢の中で裏死海文書の精霊であるインデックスは人類社会に対する不干渉を止めて積極的に人類に仇なす怪異や邪神崇拝集団などと戦うようになるが、その過程でどうしても魔術師と契約する必要があった。これは裏死海文書が魔導書であるからで、いくら最古の魔導書でも魔術師がいなければたいした事はできないからだ。

 

 

 

「ジャン、お前の戦いは無駄が多すぎる。あの程度の敵を倒すために鬼械神を召喚するなどやり過ぎだ」

「……」

 

 当代のマスターであるジャンは私の忠告に不快な表情をした。それを見てインデックスはため息をつきたくなった。

 

 この青年ジャンは怪異に恋人を殺されて以来、異常なまでに怪異狩りを行うようになった。勿論、インデックスはそんな復讐心などに興味はない。ただ利害が一致して契約を結ぶのに都合がいいと思うだけだったが、それでもあんな戦い方では先が思いやられる。

 

 本来、鬼械神とは人間に過ぎた物だ。当然ながらそんな物を召喚して使っていけば魔術師は命を削る事になる。実際これまでインデックスと契約した魔術師の多くが短命で終わっている。まぁそれ以前に戦死してしまった者もいるが。

 

 この点で言えば最初のマスターのシンは優秀だった。彼は鬼械神の召喚を避けて結局一度としてロゴスを呼び出すことなく90歳で大往生を遂げた。インデックスの記憶にある中でもまっとうな人間でありながらここまで生きたマスターは他にいない。

 

 まぁシンの場合はあくまで要人警護で人間相手に戦う事しかしなかったから鬼械神など無用であったし、卓越した能力によって魔導書に頼らずとも強かった。だから比較対象が悪いと言えば悪いのだが、それでもこの男の素人ぶりが目についてしまう。

 

「復讐を否定しないが、もっと効率よく戦え。そうでないと早死にするぞ」

 

 この男が死ねばまた次のマスターを探さなければならない。正直言って頻繁にマスターを変えるのは効率が悪いから勘弁してほしい。とはいえ、インデックスはこれまでの経験からこの男が早死にするだろうと半ば確信していた。

 

 正直言ってこんなマスターを使い捨てにするような事を続けるのは嫌気が指すが、それは仕方ないだろう。彼女は人類の為に悪と戦う存在で、そのあり方を放棄するわけにはいかなかったのだ。

 

 

 

エリーゼside

 

 宇宙のタマゴの状況を確認して私は時間を確認する。今回はタマゴの中でかなりの時間を過ごしていたが、外の世界では一日も経過していない。一応その後の世界も確認していたが、良くも悪くもないという感じだ。

 

 人類が近隣銀河に進出して邪神たちに袋叩きにあったのは意外だったが、彼らは天の川銀河に直接干渉できないから人類滅亡の危機に陥る事もないだろう。とはいえ、文明が衰退してデモンベイン世界みたいに科学と魔術が入り混じった世界になってしまったけどね。

 

 邪神たちの奉仕種族や怪異たちを送り付けるという行動は私の決めたルールに抵触しかねない物であったが、それを言うなら先にルール違反をしたのは人類の方だろう。

 

 愚かな事だと思うが、所詮は試作の世界にすぎない。だから駄目になっても別に問題ない。

 

「仮想宇宙の創造ですか。面白い事をしていますね」

「……貴方ですか。いきなり私の研究所に上がり込むのは止めて欲しいですね。心臓によくありませんよ」

 

 私の後ろから話しかけて来たのは私たちを転生させた死神だった。

 

「それで、何の用です?」

「貴女たちに渡す分のグングニルが完成したので報告に来たのですよ」

「へえ、やっとあれが完成したのですか。予定よりも随分と遅れていたから半ば諦めていたのですが、それは何よりです」

「そう厳しく言わないでほしいですね。さすがにあれほどの物を仕上げるのは我々とて容易ではありませんよ」

「それは、そうでしょうね」

 

 あれは魔導技術を極めたエリーゼですら作り出すことはかなわぬ正しく神器としか言いようがない代物だ。死神たちですら二つ作るだけで千年以上の月日がかかったのも無理はないだろう。

 

「でもやっと駒が揃いました」

 

 カーリーとドゥルガー。そしてあれは人間が扱うには過ぎたる力だろう。

 

 しかし、ベヅァーとの戦いの為には必要な力なのだ。いずれ必要となるその時にそれらは私たちの力となるでしょう。




解説

■ロゴス
 裏死海文書の鬼械神として登場したオリジナルの機体。イメージとしては細見のアイオーンと言う感じである。

■ジャン
 未来において裏死海文書と契約した魔術師。といっても契約する前は素人であったために魔術師としての実力は極めて低い。おまけに復讐心に振り回されて暴走気味なので短命で終わりそうな人である。


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多重クロス
43.滅びの箱(第二次ベヅァー戦争編)


※43~47は様々な下位世界が舞台となっています。


『超時空世紀オーガス』を原作とする下位世界。その世界には三千世界監察軍の秘密研究所として使われているスペースコロニー『メンデル』が存在していた。

 

 その世界は監察軍の本部や支部が存在しない世界で、普通ならばそんな辺鄙な場所に研究所など作らないが、研究している内容が危険極まりない代物であった為に、万が一の事故に備えて可能な限り被害を抑える為に隔離された研究施設を用意していたのだ。

 

 そんな曰くつきのメンデルで、ジュデッカの機動テストが行われていた。このジュデッカとはスーパーロボット大戦で登場する半人半蛇型の機動兵器で、当然ながら監察軍の技術で魔改造されて桁違いに強化されていた。

 

 その最大の特徴は動力として特殊機関〝滅びの箱″を搭載した事だろう。この滅びの箱は、監察軍の最大の敵である破壊神ベヅァーの力を借りてエネルギーを得るという代物だった。

 

 これは毒を持って毒を制するというアイデアから、エリーゼが『スレイヤーズ』の黒魔術を参考に開発したオカルト寄りの永久機関だったが、対ベヅァー兵器として致命的な欠陥があったために実際に製造させることなく設計終了と共に凍結されて、監察軍にデータだけが残されていた代物であった。

 

 ちなみに欠陥と言うのは、『スレイヤーズ』の魔王シャブラニグドゥに対してその力を借りた竜破斬(ドラグ・スレイブ)で攻撃しても無意味なのと同じ理由だ。要するに「あんたを倒すのに力を貸してよ。ねぇあんた」と言っているような事なので使い物にならないのは当たり前だった。

 

 こうした問題からエリーゼはディス・レヴを採用して、滅びの箱は忘れ去られていたが、「滅びの箱でベヅァーの力を浪費させればベヅァーを弱体化できるのではないか?」という仮説が出た事でその状況が変わった。

 

 勿論、ベヅァーの持つ凄まじい力からすれば、たった一つの滅びの箱で浪費させられるエネルギーなど微々たるものでしかないが、それでもトリッパー達によるエネルギー中和と相まって滅びの箱を量産すればかなりの効果が見込める代物だった。

 

 彼らの試みが上手くいっていれば監察軍の対ベヅァー戦略も大きく変わる筈だったが、実験を開始した途端にジュデッカが暴走を開始した。

 

 滅びの箱から流れ出るエネルギーがジュデッカを侵食して乗っ取っていく。更にあろう事かジュデッカから破壊神ベヅァーの反応が検出されたのだった。

 

 この事態に機械仕掛けの科学者たち(スーパーコンピュータによる人工知生体)は何とか対処しようとするがどうしようもなかった。

 

 そして、勝手に起動したジュデッカが放った高エネルギーによって、彼らはコロニー・メンデルごと消滅した。

 

 その破壊の跡に唯一存在しているのがジュデッカいや、それを乗っ取った破壊神ベヅァーだった。

 

 ベヅァーは破壊の権化。下位世界創造の反作用によって意図せずに生み出されし者。そして数多の下位世界に滅びをもたらす破壊神。

 

 そのベヅァーの出現によって、ここに第二次ベヅァー戦争が勃発した。

 

 

 

「ふん、ここにはトリッパーはたいしていなかったようだな」

 

 そのベヅァーは自らが破壊したメンデルを一瞥する事もなく、更にトリッパーを始末する為に、より多くのトリッパーのいる世界に転移しようとしたが、いきなり宇宙艦隊が出現してベヅァーに砲撃を加えて来た。ベヅァーはそれをもろに浴びるが、全く効いていなかった。

 

 その艦隊の砲撃は地球規模の惑星であれば一撃に破壊できるほどの火力であったが、ベヅァーにとってはそんなもの微風のようなものだった。

 

「邪魔だ!」

 

 ベヅァーが腕を払うとそれだけで周囲に展開されていた艦隊が破壊されていくが、次の瞬間にはどこからともなく破壊された艦隊を優に上回る規模の艦隊が出現してベヅァーに攻撃を加えてきたのだった。

 

 

 

エリーゼside

 

 コロニー・メンデル消滅と破壊神ベヅァーの出現は電撃のような勢いで監察軍全体に伝わった。それによって監察軍本部と二つの支部では非常事態宣言が発令されたのだった。

 

 これにともない監察軍本部では多くのトリッパー達が巡洋艦などの艦船に乗り込んで各地の下位世界に分散していく。これは第一次ベヅァー戦争で大勢のトリッパーが本部ごと抹殺させてしまった教訓からベヅァーが出現した場合はトリッパー達は分散させて一気に叩き潰されないようにする為だ。

 

 ちなみに、これは本部だけがやっている事で、アトランティス支部と日本支部はそれぞれの独自の対応をしているだろう。監察軍ではその辺りのことまでいちいち口出しせずにそれぞれの支部に任せていた。

 

 今回の監察軍本部の対応はなんだか後ろ向きに見えるが、通常戦力ではベヅァーに歯が立たないから仕方ない。それにトリッパーを分散させてもベヅァーにとって監察軍本部は敵の本拠地なのだから狙われる可能性が高いのだ。

 

 しかし、流石に総司令官のトレーズ・クシュリナーダはここに残って全体の指揮を取っていた。トレーズの場合いくらベヅァーに攻撃してくる可能性があっても、総司令官が本部から逃げ出すのは何かと問題があるので、トレーズが残るのはある意味仕方ない事だった。

 

 そんな監察軍本部でユグドラシル・システムを使用する為に、私とアイシャは準備を進めていた。

 

「いよいよですね」

「本当に唐突だね。でもまだ出現する筈じゃなかったのに、一体どういうことなの?」

 

 かつての第一次ベヅァー戦争の際にトリッパーが激減して極めて危険な状況になったものの、その後行われたとトリッパー増員計画によって監察軍が進めるベヅァーの力を中和は順調にいっていた。当然ながら現時点ではベヅァーが出現する程のエネルギーなどない筈だった。

 

「前回はエネルギー不足を押して無理やり出現していたみたいだし、今回もそうだと思うけど…」

 

 ただ状況的に気になる物があった。まさかとは思うが…。

 

「一応、手筈通りにベヅァーが出現したあの世界にバイド艦隊を送り込んでいるけど足止めにしかならないでしょうね」

 

 ホシノ・ルリ率いるバイド艦隊は質量共にかなりのものであったが、相手があのベヅァーでは足止めしかできない状況だった。というより最初からベヅァーが出現した時に奴を足止めする為に用意された戦力なので、ベヅァーを倒すことは期待していない。本命は究極の鬼械神であるカーリーとドゥルガーなのだから。




解説

■メンデル
 ガンダムSEEDネタからバイオハザードやオカルトハザードなどが発生する可能性がある危険な研究をするために辺境の下位世界(超時空世紀オーガスの世界)に用意された研究用スペースコロニー。ちなみにカーリーとドゥルガーの開発もメンデルで行われた。本部や支部ほどではないがベヅァー出現時には少数のトリッパーがいたが、彼らはメンデルごと消滅している。

■ホシノ・ルリ
 当サイトのSS『トリッパー列伝 ホシノ・ルリ』に登場したトリッパー。バイド(R-TYPE)の能力を持っており、その特性から彼女が率いるバイド艦隊はベヅァーの足止め役を担当している。


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44.混乱時空

ルリside

 

『超時空世紀オーガス』の世界で、ホシノ・ルリ率いる三千世界監察軍特務基幹艦隊がベヅァーと交戦していた。この特務基幹艦隊とは何かというと、監察軍がベヅァーの足止めの為に用意した特殊艦隊であった。

 

 これが用意されたのは前回の第一次ベヅァー戦争で旧式の無人艦隊群がベヅァーの足止めにある程度の成果を上げた事が原因であった。

 

 当初はブリタニア帝国軍でベヅァーの足止めを行う事も検討されたが、その戦力を整える為に必要とされる予算はブリタニア帝国政府高官たちですら顔を引きつらせるほどの金額であった事から即座に却下された。

 

 勿論ブリタニア帝国の国力を持ってすればその気になれば不可能ではないものの、戦時でもない平時においてベヅァー復活に備えて足止め用と言うあまりにも後ろ向きな戦力の為に膨大な国費を費やす事はできない。

 

 こうした結果、低コストで必要とされる戦力を整える手段としてバイド艦隊が採用されたわけである。このバイド艦隊は第一次ベヅァー戦争で残存した無人艦隊の生き残りや、これまでブリタニア帝国軍の旧式艦艇などを取り込んだ上に、その増殖能力で膨大な戦力を整えていた。

 

 ルリはこのバイド艦隊をゼントラーディ軍を参考に、巨大な宇宙要塞1基と500万隻の宇宙艦隊で構成された基幹艦隊として編成し、その基幹艦隊を一千個以上用意するなどゼントラーディ軍並の物量を揃えていた。この一千個もの特務基幹艦隊をもってすればブリタニア帝国軍と正面から戦って撃破できるほどである。

 

 これは先ほどの平時から過剰なほどの軍備を整えることが出来ないという理由から、いくらブリタニア帝国軍であっても質が拮抗していたら物量で押しつぶされてしまうからだ。

 

 本来ならば国軍でもない監察軍がこのような軍備を有することは認められないが、では「帝国軍がその戦力を整えろ」と言われたら上記のように財政などの問題からそれはできない以上、それを黙認するしかなかった。

 

 そんな曰くつきのバイド艦隊は役割に従ってベヅァー出現の情報をキャッチするなり、虚無魔法(ゼロの使い魔)の世界扉(ワールド・ドア)を使ってこの世界に展開していた。

 

 通常ならば、この虚無魔法は『ゼロの使い魔』の魔法が使えない世界では使用不可能だし、そもそも世界扉(ワールド・ドア)では『ゼロの使い魔』の世界ならともかく他の原作の下位世界には移動できないが、ルリは転生特典やバイドの進化能力でそれらを克服していた。

 

 こうして、監察軍のユグドラシル・システムに頼る事なく進化させた世界扉(ワールド・ドア)で艦隊規模の異世界間転移を自由自在に行えるバイド艦隊はベヅァーに対する足止めとして有効に機能していた。

 

 当初は時間がないために少数の艦隊を送り込んでいただけだったが、次第にその数を増やして現在では巨大宇宙要塞一基と500万隻の宇宙艦隊で構成される基幹艦隊規模で戦いを仕掛けていた。

 

 特務基幹艦隊はベヅァーに対して強力な要塞砲や艦艇からの相転移砲、重力波砲、ビーム砲などを雨あられのように打ち込んでいく。

 

 更に虚無魔法の爆発(エクスプロージョン)をリーヴスラシルの能力と、基幹艦隊の物量を用いた賛美歌詠唱によって通常の数億倍にも増幅して発動させた。その威力は地球規模の惑星すら一撃で原子の塵に変える程であるが、ベヅァーにはそれすらも通用しなかった。

 

 確かにバイドで構成された特務基幹艦隊は強い。通常の人間相手ならば最強であっただろうが、ベヅァーにそんな物は通用しない。ベヅァーの腕の一振りで巨大要塞が撃破されて無数の艦艇が破壊された。

 

 このように特務基幹艦隊の攻撃が通用せずに一方的に撃破されていくが、その度に別の基幹艦隊を世界扉でこの世界に送り込んでひたすら物量戦をしかけていた。

 

「分かっていましたが、とんでもない化け物ですね」

 

 ルリにとってこの戦いはかなりきついものがあった。

 

 今のルリは人間と言うよりもバイドという集団がルリであった。ルリは膨大な数のバイドによって構成されるネットワークによってバイドたちを統制していて、いくら個々のバイドを潰されても体細胞の一つを破壊された程度にすぎない。

 

 つまり、すべてのバイドが失われない限り死ぬことはないが、それでも圧倒的な相手に対してひたすら耐えるだけの戦いというのは精神的に負担が大きかった。

 

 戦闘を開始して数時間。すでに百個もの特務基幹艦隊が壊滅しており、いくら容易に補充できると言っても一方的にやられて面白いはずがない。そんな中で友軍機が転移してきた。

 

「やっと真打が来ましたか」

 

 ルリはやっと現れたカーリーとドゥルガーを見て安堵した。

 

 

 

エリーゼside

 

 ベヅァーの姿を見た私はその姿に眉をひそめた。今のベヅァーはジュデッカの姿をしていたからだ。私たち監察軍が作り出した物をベヅァーにいいように利用されているようで不愉快だった。

 

 私たちの出現に合わせてバイド艦隊は撤退していくが、これは事前の打ち合わせ通りだ。バイド艦隊は足止めには使えても共闘には使えないのだ。

 

「姉様、ジュデッカから発生されているベヅァーのエネルギー値は前回よりも下回っています」

 

 明乃の報告は幸先がいい物で、スペックではカーリーはベヅァーを大きく上回っていることになるが、さりとてそれを真に受けて楽観するわけにもいかない。ベヅァーは前回と違ってジュデッカに取りついている為にその戦闘力が図りにくい。とはいえ、ここであれこれ考えていても仕方ない。とにかく一度戦ってみるしかないだろう。

 

「アイシャ、いくわよ!」

「ええ!」

 

 こうして私たちは待ちに待った戦いにカーリーとドゥルガーで挑んだ。

 

 

 

 カーリーは超光速でベヅァーに殴りかかり、ベヅァーはそれを四本ある腕の一つで受け止めると同時にドゥルガーの攻撃も別の腕で受け止めた。

 

 カーリーとドゥルガーは続けざまに拳や蹴りなどを交えて凄まじい速度で攻撃を仕掛けるが、ベヅァーは二機の猛攻を難なくさばいていく。これにはエリーゼも内心舌打ちした。彼女自身も楽に勝てる相手だとは思っていなかったが、二機がかりでも軽くあしらわれているとは想定よりも遥かに強い。

 

 この三機の超絶なエネルギーのぶつかりはその世界の時空すらも軋ませていくが、エリーゼやアイシャはそんな事を気にしていられる状況ではなかった。

 

「レムリア・インパクト!」

 

 そこにドゥルガーが右手に発生させた闇色の光球を叩きつけようとしたが、それによって生まれたスキを突かれてドゥルガーが蹴り飛ばされてしまった。

 

 大技というものは当てるのが難しいというのは常識で、それはレムリア・インパクトも例外ではない。これまでは圧倒的に格下ばかりを相手にしていたから問題にならなかったが、この戦いでは致命的だった。

 

「触れれば消滅必至の奥義」

 

 私は蹴り飛ばされたドゥルガーを気にせずにカーリーの右掌に破滅の術式を展開させた。このハイパーボリア・ゼロドライブならばレムリア・インパクトとは違ってスキが生まれにくいはずだ。

 

「「ハイパーボリア・ゼロドライブ!」」

「第一地獄、カイーナ!」

 

 私と明乃の声が重なりカーリーの奥義が発動すると同時に、カーリーの右手とベヅァーの右の上腕の獣の頭の様な腕がぶつかりあって、その衝撃によって時空が激しい振動を起こした。

 

「こ、これは時空震!」

「姉様、巻き込まれます!」

 

 この時に発生した時空震はベヅァーとカーリーを飲み込み、二機はその場から消失した。

 

 エリーゼは知る由もないが、この戦いで『超時空世紀オーガス』世界の時空は混乱して世界はあらゆる多次元世界の入り混じった混乱時空となってしまうのだった。




解説

■世界扉(ワールド・ドア)
『ゼロの使い魔』で異世界に移動する事すら可能とする虚無魔法であるが、あくまで『ゼロの使い魔』の世界に所属する世界でないと移動できないという制限があったが、ルリは三千世界監察軍の異世界間転移に適応して世界扉を進化させた。

■リーヴスラシル
 自身の生命力を消費して虚無の使い手の魔力を増幅させる能力。生身に人間がこの能力を多用すれば生命力が枯渇して死に至るが、バイドであるルリはその制限がない。

■賛美歌詠唱
『ゼロの使い魔』の世界で、聖堂騎士が得意とする合体魔法。普通は過酷な訓練と統率の果てに使用が可能になる物で、人数が多ければ多いほど難易度が上がるが、多数の肉体を一つの意志で統制しているルリの場合は容易に実行できる。

■混乱時空
『超時空世紀オーガス』の世界は主人公が使用した時空振動弾によって混乱時空になってしまうが、この世界ではエリーゼたちの戦いの余波で発生している。


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45.時空震

 時空震に巻き込まれたエリーゼは次の瞬間別の宇宙空間に移動していた。

 

「こ、ここは?」

「姉様、ここは『ギャラクシーエンジェル』の世界です」

「異世界間転移ですか、でもユグドラシル・システムを使っていないのに」

 

 先ほどまで『超時空世紀オーガス』の世界にいたのに『ギャラクシーエンジェル』の世界に移動してしまったとなると異世界間転移したとしか考えられないが、いくら時空震に巻き込まれたといっても別の下位世界に移動するなど本来ならありえない。

 

「推測ですが、ベヅァーが戦いに際に発生したエネルギーのぶつかり合いを利用して異世界間転移をしたと思われます」

「そうですか、そうなると異世界間のラインはないでしょうね」

 

 通常、異世界間転移を行う場合は行き来が可能なように異世界間で特殊な回線を用意して異世界間の繋がりを維持しなければならない。何しろ下位世界は一つの原作だけでも無限の並行世界を抱えており、その中で該当する世界を探すのは、広大な砂漠の中に紛れて込んだ一粒の砂を探すに等しい。それ故そうしないと二度と元の世界には戻れないのだ。

 

「やってくれましたね」

 

 ろくでもない状況にエリーゼは怒りを露わにした。現状は仲間とはぐれてしまい戻る事ができない。こうなると監察軍が私を捜索してくれるまで合流するのは不可能だろう。

 

 

 

「姉様!」

 

 明乃の声にエリーゼは気を取り直すが、急接近したベヅァーが殴りかかってきた。

 

「ぐうっ!」

 

 カーリーはそれを咄嗟に右腕で受け止めたが、右腕が破損してしまう。呪圏による防御結界や分子強化による強化をもろともせずにダメージを与えた。いや、カーリーだからこそそれだけで済んでいるのだ。

 

 続けてベヅァーの攻撃を受け止めていくが、そのたびにカーリーはダメージを蓄積していった。

 

「明乃、機体の修復を」

「はい、修復魔術をかけています」

 

 カーリーの装甲材とフレーム材質はズフィルード・クリスタルであるので自動修復されるが、更に修復魔術をかけることでより早く治すことができる。といってもベヅァーの猛攻の前では破損と修復のイタチごっこになってしまった。

 

 カーリーがベヅァーの攻撃を受け止めるたびに破損して、エリーゼがそれを修復させるという繰り返しであったが、エリーゼもこれには溜まらず逃げるようにベヅァーと距離を取った。

 

「何てパワーとスピードなの。このカーリーを完全に上回っているわ」

 

 エリーゼは戦慄した。これは明らかに可笑しかった。そもそもベヅァーは世界創造の反作用が蓄積されて出現するエネルギー体である為、その強さは蓄積されたエネルギー量に比例する。

 

 監察軍は多数のトリッパーによるエネルギー中和作用を用いて、ベヅァーのエネルギーを減少させて弱体化させる事に成功していた。これは前回の第一次ベヅァー戦争で無理やり出現したベヅァーが本来よりも著しく弱体化していた事からも間違いない。

 

 確かに第一次ベヅァー戦争直後こそトリッパーが激減して危なかったが、その後のトリッパー増員と彼らによるエネルギー中和によって今回のベヅァーは前回よりもエネルギーが少なくなっていた。その為、決して勝てない相手ではない筈なのに、実際に戦ってみるとベヅァーは前回よりも強くなっており、このカーリーですら歯が立たない有様だった。

 

 エリーゼたちは対ベヅァー兵器としてカーリーとドゥルガーを制作する際に前回のベヅァーの戦闘力を参考にそれを上回る性能を与えた。それは上記に理由からそれで十分だと判断したからだ。この計算違いはエリーゼにとっても痛手だったが、どうしてそうなったのか何となく想像がついた。

 

「ジュデッカを取り込んだからでしょうね」

 

 今回のベヅァーは上記の理由からそれ単独ではカーリーよりも強くないし、ジュデッカはスーパーロボットの技術が使用されているとはいえカーリーよりも劣るスペックでしかない。だが、ベヅァーが滅びの箱を媒介にしてジュデッカを取り込み、更に自らのエネルギーを用いてジュデッカを大幅に強化したとすればこの異常な強さにも説明がつく。

 

 滅びの箱はその仕組みからしてベヅァーとの魔術的なつながりを持つため、それを利用すればハッキングをするような感じで侵食する事も不可能ではないのだ。

 

「私たちはベヅァーに最高の依代を与えてしまったというわけね」

 

 何とも皮肉な現状にエリーゼは自嘲した。とはいえ、自嘲していても仕方ない。アイシャを初めとする仲間たちとはぐれて強大な敵と単独で戦わなくてはいけないという状況に変わりはないのだから。

 

「明乃、超絶破壊砲(ディモ=リション)を展開しなさい」

「はい、姉様」

 

 エリーゼたちはカーリーの両手の掌をベヅァーに向けて巨大な魔法陣を展開してエネルギーを溜める。格闘戦では勝ち目はないから必殺奥義でケリを付ける。いくらパワーで勝っていてもこいつをまともに食らえばただではすむまい。だが、こちらの動きに合わせてベヅァーもエネルギーの溜めに入った。そのエネルギーはこちらに匹敵するほどだ。

 

 負の無限力ディス・レヴを動力とするカーリーと、ジュデッカを取り込んだベヅァー。この二機が蓄積していくエネルギー総数はすさまじいものだった。

 

 その力のぶつかり合いとなると一体どれだけの被害が出るか予想もできないが、エリーゼはここで引くわけにはいかない。

 

 エリーゼはこれまで危険を避けて聖魔教団やエウロペアの十賢者などの味方ですら切り捨てて利益を追求してきた。それはどう見ても冷酷非情な行動だっただろう。

 

 しかし、エリーゼには下位世界を守るためにベヅァーに対抗しうる力を得なければならないという使命があった。だから目先の情を捨てて徹底的に合理主義を貫いた。

 

 それもすべてはベヅァーとの戦いに備える為だ。そして、その戦いの場において保身に走るわけにはいかない。もし、そんな事をすれば今までの行動をすべて否定することになってしまうのだから。

 

「超絶破壊砲、発射!」

 

 こちらが超絶破壊砲を発射するのと同時に、ベヅァーも強力な攻撃を放った。

 

 双方が放った超エネルギーがぶつかり合う。そのあまりに膨大なエネルギーの衝突によって周辺の時空がガラスのように崩壊してしまい、大規模な時空震が発生した。

 

「また時空震か!」

「姉様、また巻き込まれます!」

 

 時空震はまたしてもカーリーとベヅァーを巻き込んで二機ともこの世界から消失した。

 

 余談であるが、この時に発生した時空震(クロノ・クェイク)は当時この『ギャラクシーエンジェル』の世界において巨大星間文明であったEDEN文明を完全崩壊させる未曾有の大災害となってしまった。




解説

■ユグドラシル・システム
 三千世界監察軍が異世界間転移に使用している装置。これによって機械的に安定して各地の下位世界に行き来できる。

■超絶破壊砲(ディモ=リション)
 元々はバスタード世界で竜戦士ルシファーが両肩の竜頭を前方へ伸ばして、その口から発射する必殺技であったが、エリーゼはそれを改良してカーリーの両手によって展開される魔法陣から発射できるようにした。また、その威力もディス・レヴによって桁違いに強化されている。エリーゼが超サイヤ人4(ドラゴンボールGT)の十倍かめはめ波のかわりに用意した必殺技。

■時空震(クロノ・クェイク)
 ギャラクシーエンジェル世界で原作の約600年前に発生した大災害。これによって当時繁栄を極めていたEDEN文明は崩壊してしまった。原作とは異なり、この並行世界ではカーリーとベヅァーの戦いによって発生しています。


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46.グングニル

 時空震に巻き込まれた次の瞬間、エリーゼたちが乗ったカーリーはまた別の世界に移動していた。その場所は宇宙空間とも違う、なにか得体のしれない空間だった。

 

「姉様、これは次元空間です」

「次元空間という事は…」

「はい、ここは『魔法少女リリカルなのは』の世界です」

 

 リリカルなのはの世界には三千世界監察軍本部が存在しており、エリーゼたちにとってはある意味最もなじみの深い世界とも言えた。最もエリーゼたちが行く事が多いその世界はあくまで無限に存在する『魔法少女リリカルなのは』の並行世界の一つにすぎないから、この世界がその並行世界である保証はどこにもない。

 

「奴はどこ!」

 

 エリーゼが索敵の為に探査魔術を走らせると、ベヅァーは比較的近くにいた為にすぐに発見できた。

 

『くくくっ、下位世界を飛び越えながら行われる戦い。世界の壁も時間も壁も我らには障害となりえない。訪れる世界を崩しながら巨大な力をぶつけあう。まさに我らの戦いに相応しいと思わないかトリッパーよ』

 

 そこにベヅァーの嘲笑交じりの通信がカーリーに入って来た。これにはエリーゼも一瞬眉を顰めたが別に驚く事でもない。そもそもベヅァーが取り込んだジュデッカは元々はカーリーと同じ監察軍で製造された兵器なのだ。当然ながら通信機の規格も同じであるし、それを利用すればこちらに通信を送るなど当たり前にできる。

 

「戯けた事を、私はそのような事に興味はないわ。あるとすれば貴様を討つという事だけよ!」

『ほう、それができるとでも?』

 

 完全に舐めきっているベヅァーの嘲笑交じりの声を聞いてエリーゼは微笑した。確かにベヅァーの強さはこちらの想定を遥かに超えている。今のままでは勝ち目はないだろう。とはいえ、もう勝った気になっているのは油断し過ぎであるが、ベヅァーと敵対しているエリーゼにとっては好都合だった。

 

 

 

「明美、グングニルを出すわ」

「はい」

 

 カーリーの右手から闇が発生して、そこから一本の巨大な槍が出現していく。それは次元どころか異世界間の壁すらも超越して持ち主の召喚に応じて如何なる下位世界であっても出現する神器グングニル。それは文字通り神に属する死神たちが作り上げた至高の槍であった。

 

「スーパーモードに移行!」

 

 エリーゼはカーリーを通常戦闘用のノーマルモードから全力戦闘用のスーパーモードに移行させる。それに合わせてグングニルは各地の下位世界にアクセスして、そこから膨大なエネルギーをかき集めていく。

 

 このグングニルは、第一次ベヅァー戦争でミズナが下位世界からエネルギーを集めてベヅァーを倒した事を参考に死神たちが製作した神器で、この時と同じように各地の下位世界からエネルギーを集めて取り込む事ができる。

 

 通常、鬼械神カーリーはディス・レヴの力だけで戦闘するノーマルモードでも十分すぎる力を発揮できた為に、グングニルによるパワーアップを用いたスーパーモードは明らかに過剰な物であった。エリーゼも念の為に用意しただけで実際に使うつもりなどなかった機能であったが、皮肉な事にそれを使用して戦わなくてはいけない状況になってしまった。

 

『各地の下位世界からエネルギーを集めているだと! そうはさせん!』

 

 スーパーモードに移行したカーリーは、下位世界から集めたエネルギーを取り込んで全身を金色の光に包まれている。そんなカーリーを見てエリーゼがグングニルを用いて行っていることに気付いたベヅァーはそうはさせぬとカーリーに襲い掛かるが、カーリーはそれを捌いていく。先ほどまでは圧倒的な力の差があったが、今では同じぐらいであり守りに徹するカーリーに対してベヅァーは攻めきれずにいた。

 

 これまでと同じ光速を超えた超光速で繰り広げられる激しい攻防、それをカーリーは槍を用いて互角の戦いをやっていく。いや徐々にカーリーがベヅァーを押していくようになった。

 

『ば、バカな人間がこれほどの力を制御できる筈がない!』

 

 とうとうベヅァーを大きく上回ったカーリーに弾き飛ばされたベヅァーがそう絶叫する。最もベヅァーが驚くのは無理もない事だったりする。

 

 そもそも第一次ベヅァー戦争後に監察軍が対ベヅァー兵器を開発する為に推進していたスーパーロボット計画は半ば失敗に終わっており、多くのスーパーロボットが計画されたにも関わらず要求される性能を満たすことができたのはカーリーとドゥルガーの二機だけだった。

 

 これには勿論理由がある。そもそも人間サイズの人造人間の限界から、人間の数十倍もの大きさを誇るスーパーロボットを作ろうとし、その動力として無限力に目を付けたまでは良かったが、肝心のパイロットの能力が問題だった。

 

 言うまでもないが、ベヅァーとの戦いはそのあまりの強さから超光速で行わるものである。こうなるとスーパーロボットを動かすパイロットは超サイヤ人のような次元違いの身体能力を持っていない普通の人間なので、いくらシステムで補助してもその反応速度についていけなかったのだ。

 

 これでベヅァーと戦うなら、OSが未完成でまともに動くこともできない初期のストライク(機動戦士ガンダムSEED)のようにのろのろ動いて的になる様な戦いしかできない状態であった。では有人機を諦めて無人機にすればいいと思うかもしれないが、それは無人機を否定する総司令官トレーズの意向と、規格外な力を持つスーパーロボットの無人機が暴走したらとんでもないことになるという不安によって却下されている。

 

 こうした理由からスーパーロボット計画は頓挫してしまい、後にカーリーとドゥルガーが完成するまでは失敗の烙印を押されていたほどだった。では鬼械神カーリーとドゥルガーは何処が違っていたのかと言うと、無限力を採用していたのは同じであったが、パイロットの能力向上システムや補助システムが違っていたのだ。

 

 カーリーとドゥルガーには主動力としてディス・レヴを搭載していたが、他にも霊子動力炉を搭載しており、この霊子動力炉がパイロットである魔術師の魔力をバックアップする事で、その能力を次元違いに高めていた。これは元々バスタード世界でD・Sがユダの痛みを用いてその能力を思いっきり向上させていたのを参考に、より安定してより安全に能力を向上させる仕組みとして採用したものだった。

 

 最も霊子動力炉があれば誰でも可能というわけではなく、エリーゼの様な規格外な魔術師と、強い力を持つ魔導書である明乃のサポートがあって、初めてそれだけの魔力を制御できているのだ。仮に普通の人間やそこいらの二流魔術師が使ったりしたら膨大な魔力を制御できずに自滅するだけだろう。

 

 つまりベヅァーと戦う事ができるスーパーロボットという代物は魔術師、魔導書、鬼械神の三位一体がそろって初めて誕生した奇跡だったのだ。そして、エリーゼたちはグングニルという神器を使う事で更なる高みに至る事になる。

 

 

 

 そのカーリーとベヅァーが対峙していると、不意に空間が歪み、赤い鬼械神ドゥルガーが現れた。ドゥルガーはカーリーと同じグングニルを持ち黄金の光を纏っていた。

 

「アイシャ、グングニルの力でこちらに来たのね!」

『ええ、お待たせエリーゼ』

 

 こちらに通信を送るアイシャ。グングニルにはユグドラシル・システムの簡易版とも言うべき機能があって、更にエリーゼたちが持つ二つのグングニルはリンクしており、一方が存在している世界に移動する事も可能だった。

 

『あいつも下位世界から集めた力を取り込んでいるのか!』

 

 ベヅァーが怒声を上げる。今のカーリーだけでも勝てないのにドゥルガーの相手もしないといけないのだから当たり前だろうが、私たちはそんな事で情けを掛けたりはしない。

 

「アイシャいくわよ」

「ええ」

 

 カーリーとドゥルガー。二機は僅かな乱れもなくそろってグングニルを構えてベヅァーにその槍先を向ける。それは双子の姉妹であり、長年パートナーを組んでいた二人ならではの見事な連携だった。

 

「「消えなさい。ベヅァー!」」

 

 エリーゼたちは二つのグングニルから巨大なエネルギー波をベヅァーに向けて放った。そしてそれはベヅァーを飲み込んでいく。

 

『ぐあああ、バカな! こんなバカなーーー!!』

 

 ベヅァーはそれに抵抗しようとするが、それができずに飲み込まれていく。今のカーリーとドゥルガーの戦闘能力はベヅァーを完全に上回っている。そんな格上の相手が二人ががりで攻撃しているのだから、とてもじゃないが防ぎきれるものではないだろう。

 

 ベヅァーに取り込まれたジュデッカがそのエネルギーで撃破されて、そしてそれに取りついていたベヅァーも完全に消滅した。それだけでなく、このすさまじい攻撃の余波で大規模な次元断層まで発生してしまった。

 

「姉様、次元震です!」

「ええい、またですか!」

 

 次元空間で発生した次元断層は大規模な次元震となり、カーリーとドゥルガーはそれに吹き飛ばされてしまった。

 

 余談であるが、この時は『魔法少女リリカルなのは』の世界の旧暦462年で、この大規模次元震によって周囲の次元世界を崩壊させるという歴史の残る惨劇となり、後の時空管理局設立のきっかけとなった。




解説

■グングニル
 死神たちが対ベヅァー用に製作した究極神造兵器。あらゆる下位世界の並行世界の一部を凝縮して作成されている為、監察軍が用いているユグドラシル・システムに因んでグングニルと呼ばれている。その力は規格外そのものである為にその製造は極めて手間がかかり、死神たちはこれを二本作るだけで千年以上の時間をかけている。そのあまりの大きさゆえに人間どころか18m級のモビルスーツですら扱える物ではなく、55mという常人の三十倍もの大きさを持つカーリーとドゥルガーでないと扱えないほどの大きさである。

■スーパーモード
 カーリーとドゥルガーに搭載されている全力戦闘用のモード。負の無限力ディス・レヴによる膨大なエネルギーだけでなく、各地の下位世界から供給させる膨大なエネルギーを取り込む事で、唯でさえ強大な戦闘能力を桁違いに高めることが出来る。このスーパーモード発動時には機体の周りが黄金の光に包まれる為に一目でそれがわかる。理論上は通常戦闘時の数百倍まで戦闘能力を向上させる事ができるが、現実問題としていくらエリーゼたちでもそんなとんでもないエネルギーは制御出来ないので、今回は戦闘能力を通常戦闘時の三倍に引き上げているだけである。

■次元震
 リリカルなのは世界の旧暦462年に発生したいくつもの次元世界を滅ぼした次元災害。この世界ではエリーゼたちの戦いの余波で発生している。

■戦闘力
 気の強さを表す単位で、『ドラゴンボール』で使用させている。カーリーとドゥルガーは気を用いていないが、その強さを戦闘力で表現すると下記のようになる(1垓は10の20乗)。
 カーリー&ドゥルガー(ノーマルモード):戦闘力10垓
 破壊神ベヅァー(第二次ベヅァー戦争時):戦闘力15垓
 カーリー&ドゥルガー(スーパーモード):戦闘力30垓


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47.そして、それから

 ベヅァーとの戦いが終わって一年が過ぎた。

 

 あの時発生した大規模次元震に巻き込まれてしまったカーリーとドゥルガーは『魔法少女リリカルなのは』の世界の一部であるとある無人世界に漂着した。その為、エリーゼとアイシャはそこで住み付くことにした。というものこの世界は三千世界監察軍が存在しない並行世界であり、監察軍のユグドラシル・システムによるリンクしている下位世界ではない為に自力での帰還が不可能になったからだ。

 

 こうなると監察軍の仲間が見つけてくれるのを気長に待つしかないし、宿敵であったベヅァーを倒した今となってはそこまで無理をして帰らなければならないわけでもなかった。

 

 幸いにもエリーゼたちがたどり着いた無人世界はそれなりに居住環境は良かった。温暖で食べ物にも困らないし、家や服装などは系統魔法(ゼロの使い魔)の錬金でいくらでも調達できるのでどうとでもなる。

 

 勿論、その生活は極めて高度な文明を誇るブリタニア帝国の水準から見ればとんでもない田舎暮らしに思えるが、文明レベルが低い下位世界で長く生活していたエリーゼたちは、最低限度の質さえ確保されていれば問題ないし、そうした田舎暮らしも慣れ親しんでいた。

 

 この世界の時間はゆっくりと流れている。特に今日の様な天気のいい日は、エリーゼとアイシャはファンタジー小説とかに出てくる村娘の様な服装で、のんびりとひなたぼっこ(日光浴)を楽しんでいた。

 

 千年以上も生き続けた偉大なる大魔女にしては意外な楽しみかもしれないが、この世界ではそれも悪くないものですね。

 

 千年以上も修行や研究の日々ばかりを送っていた私たちにとって、こうしたのんびりした時間は本当に久しぶりであった。

 

 案外こうした生活も悪くないもので、このまま仲間が見つけてくれなければ気楽な隠居生活を決め込むのも悪くない。

 

 まあ、これまでいろいろと頑張り過ぎただけかもしれない。ベヅァーとの戦いに備えて準備を整える事ばかりしていたから、どこか精神的に余裕がなかったからね。こんな風な生活をしてみるとこれまでと違った考えも出て来るみたいです。

 

 

 

 そうして、エリーゼとアイシャが穏やかな時間をまどろんでいると、不意に異世界間の転移反応を感知した。

 

 エリーゼは気になって視線を向けてみると、上空に見慣れた空中都市が出現していた。それはまぎれもなくエリーゼの闘神都市ソドムであった。

 

「ソドム!」

『はい。エリーゼ様にアイシャ様、只今お迎えに参りました』

 

 闘神都市ソドムの出現に驚くエリーゼの元に、ウィンドウ(空中モニター)が展開された。そのウィンドウには私のメイドであるリーラが映っていた。

 

「そう、貴女がここに来たという事は監察軍はちゃんと私たちを捜索してくれていたのですね」

『その通りです。ベヅァーとの戦いの後で、皆さんにお願いしてお二人の捜索が行われました。とはいえここまで時間がかかってしまい申し訳ありません』

 

 エリーゼたちは知る由もないが、第二次ベヅァー戦争の時にベヅァー消滅と共にエリーゼたちが行方不明になったのを受けて死亡説もあったものの、ベヅァー討伐に成功している事から生存説が強かった事から監察軍はエリーゼたちの捜索を行っていた。

 

 しかし、エリーゼたちが様々な下位世界を飛び越えながら戦っていた上に、それらの下位世界で未曾有の大災害が発生していた事からエリーゼたちの捜索が難航してしまい。二人を発見するのに時間がかかってしまった。

 

「ふふっ、どうやら私たちは隠居するのはまだ早すぎるみたいだね」

「そうだね。これからも頑張らないとね」

 

 私たちは笑いあいながら、そして軽やかに闘神都市ソドムへと向かっていく。

 

 こうして、二人の魔女の戦いは終わった。だが、トリッパー達にとって破壊神ベヅァーとの戦いはこれで終わりではなく、下位世界が存在し続ける以上常に付きまとう問題であった。

 

 平和とは戦争と戦争の間にある期間に過ぎないという言葉があるように、彼女たちにとっては平和とは一時のものでしかないのかもしれないが、それでも彼女たちは歩み続けるのであった。

 

 

 




あとがき

 これで、やっと『二人の魔女』が終わりました。様々な作品世界を渡りながら成長していく魔女たちという多重クロスSSは結構書くのが大変でしたが、こうして無事完結を迎えられてよかったです。エリーゼとアイシャの二人の魔女はその後も監察軍で活動することになりますが、それはまた別のお話です。それを書く機会があるかはADONISにもわかりません(爆)。


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