超光戦姫ブレイダ (シャイニングピッグEX)
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新しい光

どうも皆様、こんにちは、ぜのぎんと申します。
この度、クロス(@crossryou)様のオリジナルキャラクター、「変身ヒロインブレイダちゃん」でのSSを書かせて頂けることになりました。

久しぶりに書いたので拙い点も有りますでしょうが、どうか宜しく御願いいたします。

ブレイダちゃんはpixivかニコニコ静画で「ブレイダちゃん」と検索すればヒットするので、気になった方は是非是非。めちゃくちゃ可愛いです。


サイレンが鳴り響き、闇の魔物達が街で暴れ回る。

 

 突如として現れた脅威に人々は抗う術を持たず、ただ逃げ惑うだけだった。

 

 機関銃、戦車、戦闘機…全ての武器がスクラップと化し、勇敢に立ち向かって行った人々は次々に魔物達に消された。

 

 家族、友達が目の前で消されていく中、彼女だけは運良く一人の男性に助けられ、命拾いをした。

 

 彼女を救った男性は彼女を抱きかかえ、彼女を素早く安全な場所に隠すと闇の勢力に立ち向かって行った。

 

 その男性は光の力を身に纏い、闇の勢力と激突し、互いの激しい攻撃で辺り一帯に眩い光が放たれる。

 

 「…また、この夢…」

 

 彼女は目を覚まし、制服に着替え、スカートを履き、寝癖がついた生クリームの様な色の髪をくしで溶かし、居間に顔を出した。

 

 「おはよう、ブレイダ。朝ごはん、出来てるよ」

 

 「おはよう、百合さん」

 

 ブレイダと呼ばれた少女は椅子に座り、百合と呼ばれた緑のショートヘアーの女性の前に座った。

 

 「やっぱり、まだお母さんとは呼んでくれないか」

 

 「ごめんなさい、そんなつもりじゃなくて」

 

 ブレイダは慌てて百合に謝った。

 

「良いのよ。ブレイダがそう言う時は、あの夢を見る時だもの。また見たんでしょ?」

 

 「うん…」

 

 ブレイダはトーストを食べながら頷いた。

 

 十数年前の冬の某日、「ヤミノチカラ」に魅了され、怪物となった「ヤミマジュウ」達が世界中を襲った事件。その事件は「ダーク・デイ」と呼ばれ、ブレイダもその被害者の一人で、今もそのトラウマが心に残っているのか、彼女はその夢に悩まされている。

 

 両親を幼くして亡くした彼女を百合が引き取り、ブレイダは百合の養子となった。

 

 「今日はガードナーの集会があるほよ。それで、今回は貴方も必要だから、今日は早く帰ってきてもらえる?」

 

 「うん、分かった」

 

 「最近またヤミマジュウが暴れだしそうって事だから、気を付けてね」

 

 「うん、ありがとうユリさん」

 

 ブレイダは朝食を食べ終え、玄関で靴に履き替え、マンションの部屋を出た。

 

 「いってきまーす!」

 

 「いってらっしゃーい」

 

 ユリはブレイダを見送ると、部屋に戻った。

 

 マンションの階段を降りると、二人の男女が花壇の花に水をやっているのが見えた。

 

 「おはよう、ブレイダちゃん。今日も早いな」

 

 「おはようございます、玲司さん。今日は神凪さんも一緒なんですね」

 

 「ああ。神凪、ブレイダちゃんだ」

 

 車椅子に座っていた女性はブレイダの方を振り向いた。

 

 「おはよう、ブレイダちゃん。今日も頑張ってね!ほら、飴ちゃん」

 

 神凪は弱々しいながらも拳を握り、ブレイダにポケットに入っていた三つの飴を渡した。

 

 「ありがとうございます、神凪さん。頑張ります!」

 

 ブレイダもそれに応える様に拳を握り、白い歯を見せて笑ってみせた。そして、制服のポケットに貰った飴を閉まった。

 

 「今日ガードナーの集会があるって事はもう聞いた?」

 

 「ああ、はい。百合さんから」

 

 「ん、それなら良いや。また百合によろしく言っといてな。それじゃ、いってらっしゃい」

 

 「わかりました!いってきまーす!」

 

 玲司と神凪もブレイダに手を振りながら見送り、ブレイダも後ろを振り向きながら手を振り、朝日の方を向いて学校に向かって走り出した。

 

 少しして、同じクラスの二人の女友達と出会った。

 

 「おはよ、ブレっち」

 

 「おはよう、橘さん、相川さん」

 

 「おいっす、ブレイダ」

 

 ブレイダは髪が長く、制服を着こなしている橘と髪が短く、袖の中に手を入れ、制服を着崩している相川の元に駆け寄った。

 

 「どしたん?今日いつもより暗いよ?」

 

 「え?そ、そう?」

 

 「ブレイダ、耳元触ってみ」

 

 「え?耳?」

 

 ブレイダは橘に言われるまま耳元を触った。

 

 「あ、あれ?いつものヘッドホンがない!?」

 

 カバンの中も探したが、いつものヘッドホンはなかった。

 

 「ブレっちは前からそうだよ。何か嫌な事があれば大体何かを忘れるかしてるもん」

 

 「この前は制服のリボン、そんでもってその前はスマホ。結構前にカバン忘れた時は、この子学校に何しに行くんだと思ったくらいだ」

 

 その事を思い出し、ブレイダは顔を赤くした。

 

 「その節はご迷惑を…」

 

 「まあ、今回が初めてじゃないしね、カバンを忘れる事に比べたら全然マシだよ」

 

 「こーら、翔子も余計なことを言わないの」

 

 「はーい、ごめんなさーい、咲おねーちゃん!」

 

 そう言いながら相川は舌を出しながら頭を軽く小突いた。

 

 「一回どついたろかホンマに…」

 

 橘は拳を持ち上げ、わなわな震わせながら言った。

 

 「ま、まあまあ、ほら、朝貰った飴があるからさ、これ食べて落ち着いて」

 

 ブレイダはポケットから飴を取り出し、橘と相川に一つずつ渡して、自分も袋を開けて口の中に放り込んだ。

 

 「おっ、ありがとな、ブレイダ」

 

 「さんきゅ~」

 

 そう言って橘と相川も飴を口の中に入れた。

 

 「ミルク味か…食べてて落ち着くな」

 

 橘は目を瞑り、飴を味わうように舌で転がしていた。

 

 「おふくろの味だぁ…」

 

 もう既に食べ終わった

 

 「相川さんのおふくろじゃないでしょ…」

 

 「バレた!?」

 

 相川は驚いた様な顔をして二人を見た。

 

 「騙される奴がどこにいる」

 

 橘はやれやれといった感じで頭をおさえて首を左右に振った。

 

 「あっそうだ。今日帰りにプラバ行こうよ。新作のメニュー来たし、ちょうどあたしクーポン持ってるんだ」

 

 「私はいいが…ブレイダは?」

 

 「ごめん、今日は大事な用事があって行けない」

 

 「むー、そっかー…残念。じゃあ、また今度にしよっか。プラバは逃げない!」

 

 「ふふ、そうだな。また今度、時間が開いた時に三人で行こうか」

 

 「うん、ありがとう、橘さん、相川さん」

 

 「良いってことよ!ブレっち!」

 

 相川はブレイダの肩に手を置き、サムズアップしているのだろうか、制服の袖口から真っ直ぐな親指が見えた。

 

 学校に着いた三人は『2-C』と書かれた教室に入り、自分の席にカバンを置き、またすぐに相川の席に集まった。

 

 「で、さっき言ってたプラバの新メニューって?」

 

 「これこれ。『ダブルスイーツマキシマムドライブ』。これは飲み物じゃないんだけど、期間限定でやるんだって」

 

 相川の見せたスマホの画面には、横に二色、縦に三つ、計六色のパフェにスプーンが挿入された写真が映し出され、上にデカデカと『プラネットバックスの新しい風!さあ、お前の味を数えろ!』と書かれていた。

 

 「うええ…何だこの見ただけで胸焼けしそうなスイーツは…」

 

 そう言って橘は胸をおさえた。

 

 「何味があるの?」

 

 「えーっと、一番上がメロンとチョコ、真ん中がストロベリーとクリーム、それで一番下がソーダラムネとマンゴー、ってとこかな」

 

 「何だその合わなそうな合いそうなわからんチョイスは…」

 

 「その内真ん中に生クリームが挟まってエクストリームとか言いそうだね」

 

 「勘弁してくれ…」

 

 「『ダブルエクストリームマキシマムドライブ』?いや、『エクストリームダブルマキシマムドライブ』?どっちにしても凄そう!」

 

 相川は目を輝かせながら言った。

 

 すると、担任の教員が教室に入り、ブレイダ達は自分の席に着いた。

 

 「ホームルームやるぞー。委員長ー。」

 

 「きりーつ」

 

 クラスの委員長の号令で教室の全員が立ち上がり、ブレイダ達の一日が始まった。

 

~~~~~

 

 HRが終わった後、ブレイダと橘は相川の元に来た。

 

 「そう言えば…ブレイダは知っているか?ヤミマジュウの噂」

 

 「ヤミマジュウの噂?」

 

 「うん。まだ本当か嘘かは分からないが、近々また来るそうだ」

 

 「あ、それ私も聞いた。なんか朝ニュースでやってたって」

 

 「ヤミマジュウ…か」

 

 「ヤミマジュウってのは、ヤミノチカラってのに惹かれてくるんでしょ?ずっと前に来て全部持ってったんじゃないの?」

 

 「それはそうだが…まあ、根も葉もない噂だ。近くを通る位だろう」

 

 「………」

 

 「咲、この話はちょっとこれ以上は…」

 

 相川はブレイダの顔が暗くなるのを見て、橘にこっそり耳打ちした。

 

 「あっ、そ、そうだな。すまん、ブレイダ」

 

 橘は慌ててブレイダに頭を下げた。

 

 「ううん、もうずっと前の事だし、噂の話だし、気にしなくて良いよ。第一、そんなに覚えてないし…」

 

 「そ、そうか…」

 

 「しっかりしなよ~。女子弓道部の部長でしょ?」

 

 「どうもこう言うところには無頓着だな…私もまだまだかもな…だが制服をしっかり着れん翔子に言われたくはないな」

 

 「うっ…痛いとこを突いてきなさる…しかも超ド正論で」

 

 「ふふふ、ありがとう二人とも」

 

 微笑みながらブレイダは言った。

 

 「翔子のそう言う所は見習いたいものだな。テストで毎回赤点を取って居残り補習をさせられてるところを見ると、きちんと勉強しなきゃと言う気になれる」

 

 「余計な一言のダメージがデカいっ!」

 

~~~~~

 

学校が終わり、ブレイダ、橘、相川は帰路に着いていた。

 

 「今日は何で部活ないんだっけ?」

 

 「顧問の先生が二人とも出張に行ってしまったし、ここ最近休みもろくに無かったから休みにしたんだ」

 

 「ああ、そういう事ね…」

 

 「まあ、部員の羽根を伸ばせるにはちょうど良い」

 

 「ここ最近ずっと部活、部活で忙しかったもんね」

 

 「ああ。三年生の先輩も引退したし、二年生が引っ張っていかないとな」

 

 「大変そうだねぇ」

 

 「まあ、大変かと聞かれたら大変だな。体力作りやら色々しないといけないしな」

 

 そして、ブレイダのマンションが見えてきた。

 

 「あ、じゃあ私こっちだから…またね、二人とも」

 

 「ああ、また明日な」

 

 「じゃーねー」

 

 ブレイダは二人と別れ、マンションの部屋に入った。

 

 「ただいまー」

 

 「おかえり、ブレイダ。帰ってきてわるいんだけど、すぐに着替えて」

 

 「はーい」

 

 ブレイダは靴をぬぎ、自分の部屋に入って私服に着替え、制服とスカートをハンガーに掛け、居間に入った。

 

 「着替えたよ。…ところで、私のヘッドホンは?」

 

 「ああ、それなら向こうに行けば分かるわ」

 

 「?」

 

 ブレイダは首を傾げながらも百合の言葉を信じ、車に乗ってガードナーのTK地区基地に向かった。

 

 「ガードナーに私が所属?」

 

 「そうよ。その第七部隊に入るの。それぞれポジションがあって、フォワードはヤミマジュウとの戦闘、ディフェンダーは市民の避難誘導、キーパーは基地でその二つのポジションへ指示を出すってとこかしら」

 

 「ヤミマジュウって…わたしヤミマジュウと闘うの?」

 

 「そうよ。貴方には特別な力がずっと眠ってる。それを解放すればヤミマジュウなんてちょちょいのちょいって感じ」

 

 「はあ…」

 

 ガードナーとは、ダーク・デイをきっかけに出来た、ヤミマジュウに対抗すべく結成された組織の事で、正式名称は「Global United All Reflection Doing Needs Every Range」と言う。普段はボランティア活動や遭難した人々の救助など、自衛隊や軍隊に代わって活動をしている。

 

 「ましてや何年も眠らせてるから、起こしてあげれば、凄い戦力になるんだけど…どう?嫌なら嫌でも構わないけど…」

 

 「………」

 

 「まあ、そんな急かす話でもないし、じっくり考えておいて。無理にやらせても可哀想だしね」

 

 「…ありがとうございます」

 

 少しして、百合達はガードナーの基地に到着した。

 

 「やっぱりいつ見ても大きいなぁ…」

 

 建物は東京ドームが三個位入りそうな大きさで、これほどとは言わないものの各都道府県、各国の州に基地が設置してあり、本部はパリにこれの二倍程の大きさの基地が建てられている。

 

 「こっちよ、着いてきて」

 

 ブレイダは迷子にならないようユリに着いていき、「第一会議室」と書かれた部屋に入った。

 

 中には玲司、神凪が小さい箱を持って待っていた。

 

 「やあ、ブレイダちゃん、百合。思っていたより早いね」

 

 「こんにちは、玲司さん。神凪さん」

 

 「おかえりなさい、ブレイダちゃん。早く来てくれてお姉さんは嬉しいよ」

 

 「ありがとうございます、神凪さん」

 

 「さて、早速本題に入ろう。これを見て欲しい」

 

 玲司はそう言って小箱を開け、中身を見せた。

 

 「新しい…ヘッドホンと、スマホ?」

中には、見たことのない形状のデバイスとヘッドホンが入っていた。

 

 「ああ。ブレイダちゃんのヘッドホンを勝手に使用して済まない。だが、ヤミマジュウに対抗する為、元々あったシャイニングシステムをこちらに移植し、改造したものだ」

 

 「シャイニングシステム?」

 

 「ああ。装着者に眠るヒカリノチカラを解放させ、ヤミマジュウに対抗出来る力を作り出す…早い話がこれを使えば戦える様になるって訳だ」

 

 「へぇー…」

 

 そう言いながらブレイダはデバイスとヘッドホンを手に取った。

 

 「通常時はスマートフォンとヘッドホンとして使用可能だ。そして、変身時は、ヘッドホンが通信機となり、君に戦う力を与えてくれるだろう」

 

 「戦う…力…」

 

 すると、サイレンが鳴り響き、辺りで強い地響きが起きた。

 

 「何だ!?」

 

 会議室にあったモニターにニュースが映し出され、そこには、十mほどの巨大な怪物が街を襲っていた。

 

 「こんな時に…!」

 

 「ブレイダ、戦うか戦わないかは君の自由だ…君が戦わない事を選ぶなら、俺が行くし、戦う事を選ぶなら俺達は全力で君をサポートする」

 

 「………」

 

 「…どちらでも大丈夫だ…早く決めてくれ…」

 

 「…わたし、戦います!」

 

 「よし!」

 

 ブレイダはヘッドホンとデバイスを持ち出し、急いで外に向かった。

 

 「えーと…これだ!」

 

 ブレイダはデバイスを操作し、変身シーケンスに入った。

 

 「トランス オン!」

 

 ブレイダの着ていた服は変わり、ヘッドホンにアンテナの役割を果たす部分が追加されて頭部に装着され首から股間にかけて黒いタイツが装着され、その上に戦闘用ジャケットが覆いかぶさり、脚にも太腿から爪先にかけて黒いソックスが装着され、ヒールの様な靴がつき、手首、足首にプロテクターが装着され、蒸気を吹き出しながらしっかりと外れないように蒸着し、腰からスカートが前以外を覆うように装着され、スマホ型のデバイスは胸に戦闘用ジャケットのボタン代わりとなり、リボンも現れて装着され、左手に剣が現れ、それを強く握り、変身が完了した。

 

 

 「キシャオオオオオオオ!」

 

 「まってまってまって無理無理無理無理無理だから!」

 

 相川は、巨大なヤミマジュウに驚いて腰が抜け、逃げれないでいた。

 

 ヤミマジュウの角にエネルギーが溜まっていき、相川は咄嗟に顔を両腕でおさえた。

 

 「!!」

 

 「だあああっ!」

 

 「キシャアアアアッ!」

 

 ヤミマジュウは悲鳴とも、雄叫びとも分からぬ奇声を発しながら横に倒れた。

 

 「…?」

 

 相川の前に新たなヒカリノチカラを持った戦士が立った。

 

 「ごめん、待たせちゃったね。後は任せて」

 

 戦士は少しだけ振り向き、相川にそう言うと颯爽とヤミマジュウに向かっていった。

 

 「あ…あ…」

 

 「翔子!立てるか?」

 

 「え、あ、うん…」

 

 走ってきた橘に手を借り、相川は立ち上がった。

 

 「…光の戦士…?」

 

 「光の戦士?」

 

 ヤミマジュウに立ち向かう戦士は、雲の隙間から溢れた光に照らされ、まさしくそれは「光の戦士」と形容出来る新たな希望の光だった。




今回はここまでです。
次回は、ブレイダちゃんの戦闘からスタートです。
キャラ紹介

柊ブレイダ(ひいらぎぶれいだ):今作の主人公。苗字は養母である百合の苗字を使っている。ガードナー第七部隊に所属する数少ない「ヒカリノチカラ」を持つ戦士で、部隊唯一のフォワード。学生と戦士を両立しており、基本は真面目だがどこか天然が入っている。趣味はヘッドホンで音楽を聴くことで、使っているヘッドホンもかなり愛用している。

橘咲(たちばなさき):ブレイダのクラスメイトで、一年生の頃からの友達。成績も良く、弓道部の部長を務めるが、どこか無頓着なところがある。趣味は読書と映画鑑賞。

相川翔子(あいかわしょうこ):同じくクラスメイトで、成績はあまり良くないものの、周囲への気遣いがとても出来る。決して悪い子ではない…が、先生への反抗心があるのか、制服をしっかり着たことはあまりない。趣味はゲームと漫画を読む事。

柊百合(ひいらぎゆり):ブレイダの養母。ダーク・デイの後に身寄りのなくなったブレイダを引き取り、未熟な母親ながらもブレイダを育てている。元々は婚約する予定だった彼氏がいたが、彼氏もダーク・デイで行方不明になっている。


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Step by myself

第二話でございます。

前回の続きからです。


「トランス オン!

 

 ブレイダはデバイスを操作し、戦闘用の衣装と左手に剣を装着し、ヤミマジュウの元に急いだ。

 

 ヤミマジュウが角から何かを放射しようとする寸前、ブレイダは鈍い音がするほど強く地面を蹴り、ヤミマジュウの顔の横まで飛び上がった。

 

 「だあああっ!」

 

 「キシャアアアッ!」

 

 ブレイダは空中を蹴るようにヤミマジュウに近付き、ヤミマジュウの顔に両足で強烈なドロップキックを入れ、ヤミマジュウは悲鳴の様に叫んで横に倒れた。

 

 ブレイダは地面に着地し、剣を持ち直した。

 

 「…?」

 

 すると、後ろに人がいる事に気が付いた。

 

 「ごめん、待たせちゃったね。後は任せて」

 

 そう言ってブレイダはヤミマジュウの元に駆けて行った。

 

 『ブレイダ、聞こえるか?』

 

 ブレイダの耳元にあるヘッドホンから玲司の声が聞こえ、ヘッドホンに手を添えた。

 

 「は、はい。こちらブレイダ」

 

 『よし、通信は繋がったみたいだな。調子はどうだ?』

 

 「はい!体調なら万全です!」

 

 ブレイダは元気よく玲司に答えた。

 

 「あー、えっと…それは良いんだが…君じゃなくてシステムの方も上手く動いてるかどうか教えてくれるかな?」

 

 玲司は苦笑いしながらブレイダに聞いた。

 

 「ふぇっ!?あっ、はい!なんとか上手く動いてると思います…」

 

ブレイダは顔を赤くしながら答えた。

 

 『よしよし。システムは、今はまだ前の装着者のデータで動かしてるんだが、システムのデータやスキルを君に合わせられるように自動学習装着を装着しておいた。おそらく一、二分ほど経てば君に適したものになるだろう。それまでは少し使いづらいだろうが、頑張ってくれ。こちらも解析が終わればデータを送る』

 

 「はい!やってみます!」

 

 ブレイダはヘッドホンから手を外し、ヤミマジュウの方を見た。

 

 「キシャアアア…!」

 

 ヤミマジュウは立ち上がり、ブレイダに向かって突進を始めた。

 

 「そっちが正面から来るなら…こっちも正面から叩く!」

 

 ヤミマジュウとブレイダはスピードを上げながら距離を詰め、ブレイダは道路の途中で向かい合った二つのビルを利用し、左右のビルの壁を蹴ってヤミマジュウの真上に飛び上がった。

 

 「はああああ…だああああ!」

 

 ヤミマジュウの元に一気に急降下し、剣でヤミマジュウの鼻の角を叩き壊した。

 

 「えっこれ斬るものじゃないの!?」

 

 そう言った途端ブレイダのジャケットの色が変わり、手首と足首のパーツやタイツの上のジャケット、ソックス、そして剣にオレンジ色が入り、二の腕にもプロテクターが増え、爪先の上にデバイスの色と同じ黄色の水晶が装着された。

 

 すると、ブレイダに通信が入った。

 

 『どうやら、適合化が完了したようだ。足元に向けて手をかざしてみろ』

 

 「は、はい」

 

 ブレイダは言われた通り足元に向けて手をかざした。

 

 すると、足のすぐ下に円状の足場が出来上がった。

 

 「おおっ!とと…」

 

 ブレイダはよろめきながらもその足場に着地した。

 

 「これ、なんですか?」

 

 『ふむ…どうやら、空中や狙った場所に足場を作れる能力みたいだ。名前は君が付ければいい』

 

 「名前かぁ…うーん」

 

 ブレイダは腕を組んで眉を寄せた。

 

 「キシャアアア…!」

 「ちょっと今は待ってて!今大事な時間だから!」

 

 「キッ!?シャア…」

 

 ブレイダはヤミマジュウに向けて手のひらをかざし、その勢いに怯んだヤミマジュウは動きを止めた。

 

 「うーん…どうしようかな…」

 

 

 玲司、神凪、百合の三人はブレイダが腕を組んでいるのを司令室のモニターの画面越しに見ていた。

 

 「あの子凄いな…」

 

 「百合さん、あなた一体ブレイダちゃんをどんな風に育てたの?」

 

 神凪は百合の方を見て言った。

 

 「…少なくともヤミマジュウを手で制する事が出来るように育てた覚えはないわ」

 

「でしょうね」

 

玲司と神凪は声を揃えて言った。

 

 

 少し経ってからブレイダは目を開き、腕組みを解いた。

 

 「…決めた!ブライトサークルにする!」

 

 『ブライトサークルか…うん!良い名前だ!』

 

 ヤミマジュウもブレイダの待てが解かれたのを察したのか、雄叫びをあげてブレイダの方に向かってきた。

 

 「キシャアアアッ!」

 

 「あ、待ってくれてたんだね、ありがとう。でも、私もあなたに負ける訳にはいかないの!」

 

 そう言ってブレイダは足元のブライトサークルからヤミマジュウに向けて飛び上がり、ヤミマジュウの手前にブライトサークルを作ってそこに両足で屈伸する様に着地し、強くサークルを蹴って膝を伸ばして大きく飛び上がった。

 

 「一瞬の加速力なら負けない!」

 

 ブレイダは飛翔出来る最高高度の手前にブライトサークルを斜めに作り、体を捻ってサークルの真ん中を両足で全力の力で蹴ってヤミマジュウに向かって飛び立った。

 

 「はああああああ!」

 

 ヤミマジュウは耳の上についた左右の角にエネルギーを充填し始めた。

 

 「キシャアアアオオオオ!!」

 

 『危ない!』

 

 ヤミマジュウは飛んできたブレイダに向けて光線を発射した。

 

 「ブレイダちゃん!」

 

 「ブレイダ!!」

 

 ヤミマジュウの放った光線が止まり、ヤミマジュウの周りにはブライトサークルも見当たらない。

 

 「そんな…」

 

 そして、ヤミマジュウが勝利の雄叫びをあげようとした途端、ヤミマジュウの腹部に強烈な拳の一撃が入った。

 

 「まだまだ!こんなところでは負けないよ!」

 

 ヤミマジュウの腹部にはブレイダの姿があり、ヤミマジュウに強いアッパーを決めていた。

 

 「ブレイダ!」

 

 『ブレイダ!無事なのか!?』

 

 ブレイダはヤミマジュウの腹部を蹴って間合いを取り、ブライトサークルを足元に展開してヘッドホンに手を添えた。

 

 『大丈夫ですよ!バッチリ生きてます!』

 

 そう言ってブレイダは笑顔でサムズアップをした。

 

 『そうか…良かった』

 

 それを聞いて百合と神凪は安心して胸を撫で下ろした。

 

 『よし!勝負を決めてやれ!』

 

 「はい!フルパワー解放!!!」

 

 ブレイダは力強く叫び、ヤミマジュウの周りに幾つものブライトサークルを出した。

 

 「キシャアアア…!」

 

 ブレイダは自分のいたブライトサークルを力強く蹴って飛び立ち、ヤミマジュウの周りのブライトサークルを反射しながら、速度と剣のエネルギーを増幅させていった。

 

 「はああああああ!」

 

 最初は見えていたヤミマジュウも段々目が追いつかなくなり、ブレイダの姿は一つの光の矢の様になり、音速をも超える速さでブライトサークルの間を反射していた。

 

 『MAX POWER,Full Charge!』

 

 デバイスから音声が鳴り、剣にエネルギーが充填された事をブレイダに告げた。

 

 「だああああああ!!!!」

 

 ブレイダは目にも止まらぬ速さでヤミマジュウに飛び込み、凄まじい威力の一撃をヤミマジュウに叩き込んだ。

 

 「キシャアアアアアア!」

 

 ヤミマジュウは悲鳴をあげながら倒れ、ブレイダは地面でブレーキを掛けて急停止するように着地し、その反動で尻もちをついた。

 

 「おわっ!あいててて…」

 

 ブレイダは尻を擦りながらヤミマジュウの方を向いた。

 

 すると、ヤミマジュウの口から紫の水晶が飛び出し、ヤミマジュウは元の小さな生き物へと姿を変えた。

 

 「これは…?」

 

 ブレイダは小さな生き物の近くの水晶を拾い上げた。水晶は光ることも無く、どの角度から見ても中が見えそうにない。

 

 『君が持っているその水晶は無力化されたヤミノチカラだろう。それが結晶化したものだ』

 

 「これがヤミノチカラなんですか?」

 

 『ああ、ヤミノチカラを持つ者が生き物にヤミノチカラを取り憑かせて、それがヤミマジュウになり、それを退治すると今みたいに出てくるんだ。とは言え、もうそれ自体に力はないけどね』

 

 「はぁ…」

 

 『まあ、一度戻ってきてくれないか。君の近くの動物も連れて帰ってきてくれ』

 

 「分かりました」

 

 そう言ってブレイダは鼻の角が壊れた生き物を抱きかかえた。

 

 「おお、よしよし。お前も痛かったね…ごめんね」

 

 そう言いながらブレイダは生き物の頭を優しく撫でた。生き物は一鳴きして眠ってしまった。

 

 「ありゃ、寝ちゃった…まあ、いっか」

 

 ブレイダはブライトサークルを展開し、その上に乗った。

 

 「これもしかして動かせたりする…?」

 

 ブレイダはブライトサークルに動くように念じたが、ブライトサークルはピクリとも動かず、すぐに消えてしまった。胸の端末が赤く点滅して警告音を発しており、どうやらエネルギー切れになりそうな様だ。

 

 「やっぱり動かないかー…まあいいや、歩いて帰ろう」

 

 そう言ってブレイダは基地に戻った。

 

 

 「ブレイダ、ただいま戻りました…」

 

 ブレイダは基地の入り口に入った。それを見た百合達がブレイダの元に駆け寄った。

 

 「ブレイダ!」

 

 百合はブレイダに強く抱きついた。

 

 「く、苦しいよ百合さん…」

 

 「良かった…本当に無事で良かった…」

 

 百合はブレイダを更に強く抱き締め、すぐには離そうとしなかった。よく見ると、少し涙ぐんでいる。

 

 「…ありがとう、百合さん」

 

 ブレイダは百合に抱き締め返し、百合の温もりをその体に感じた。

 

 「とにかく、帰ってきて良かった」

 

 「百合さんも気持ちは分かるけど、一回離れてもらって…」

 

 「あ、そ、そうね。ごめんなさい」

 

 神凪に言われて百合は慌ててブレイダから離れた。

 

 「回収したヤミノチカラと生き物を渡してくれないか?またこちらでやる事があるんだ」

 

 「はい、どうぞ」

 

 ブレイダは持っていた水晶を神凪に渡し、生き物を玲司に渡した。

 

 「ふむ…こいつは、ゴラモだな。無傷ならそのまま野生に返してやれるんだが…鼻の角が欠けてしまっているから、こいつはガードナーの生物部に保護してもらおう」

 

 「ゴラモ?って言うんですか?」

 

 ブレイダは玲司の腕の中にいる生き物を覗き込んで言った。

 

 「ああ。地球に住む怪獣の一匹だよ。絶滅危惧種に指定されててね、こう言う貴重な動物や怪獣は見つけたらガードナーの生物部で保護するようにしているんだ」

 

 確かにこれだけ大きな施設で、ガードナーと言う大きな組織だ。動物を保護するようなスペースや組織があっても不思議ではないだろう。

 

 「水晶の方は、科学研究部で解析しておくから、ブレイダちゃんはもう帰っても良いわよ。凄く疲れたでしょ?」

 

 「なんでそんなこと分かるんですか?」

 

 「だって、まだ変身しっぱなしなんだもの」

 

 「えっ?」

 

 そう言われてブレイダは自分の身体を見た。

 

 「あっ!これはお恥ずかしい所を…」

 

 そう言ってブレイダは顔を赤くしながら端末を操作して変身解除をした。

 

 「ふう…」

 

 ブレイダの服も制服に変わり、剣の代わりに鞄が持たれた。

 

 「これ鞄も収納してくれるんだね。結構便利だ」

 

 「そう言ってくれると、俺達科学技術部も頑張った甲斐があったもんだ」

 

 そう言って玲司は誇らしげに言った。

 

 「…そう言えば、ガードナーっていくつ部署があるんですか?」

 

 「ん?そうだな…たしか…いくつだったっけ?」

 

 「五百を越えた辺りからもう数えてないわ」

 

 「右に同じ…そうね…あるとしたら二千は越えてるんじゃない?」

 

 「に、二千!?」

 

 ブレイダは口と目を見開いて驚いた。

 

 「さすがに二千はないが…まあ、千近くはあるだろうな」

 

 「まあ、各都道府県におけばそりゃあねぇ…」

 

 「うーん、百合さん、今日はもう帰ろう…」

 

 「あらそう?それじゃあ、私達はこれで」

 

 「おう。俺達もこいつらをどうにかしたらすぐに帰るよ」

 

 「分かったわ。それじゃあね」

 

「じゃあね~」

 

 ブレイダと百合は基地を後にし、帰路に着いた。

 

 「それにしてもブレイダ凄かったよ!初陣であんな動きをした子はそうそういないわ」

 

 百合は車を運転しながらブレイダを褒めた。

 

 「うん…あの時は無我夢中で、なんと言うか、皆を助けなきゃって気持ちでいっぱいで…」

 

 「いいのよ、みんなの為に戦ったんだもの。全然良いのよ」

 

 そう言って百合はブレイダの頭を撫でた。

 

 すると、ブレイダのお腹が鳴り、物凄い空腹感を覚えた。

 

 「あら、どうやら貴方もエネルギー切れみたいね。早く帰ってご飯にしましょうか。何がいい?」

 

 「百合さんのお手製ならなんでも!」

 

 「そっか、よーし!手を振るっちゃうぞー!」

 

 夕焼けの中、誰もいない道を幸せの親子が乗った車が家に向かって走って行った。

 

 

 「うわぁぁぁ~!凄ーい!」

 

 食卓の上には和食や洋食等々の数々の料理が並べられ、ブレイダは目を輝かせていた。

 

 「ふっふっふっふ凄いでしょう凄いでしょう。心ゆくまでたんとお食べ」

 

 百合は手に腰を当てて自慢げに言った。

 

 「いただきまーす!」

 

 「いただきます」

 

 百合とブレイダは椅子に座って食べ始めた。

 「………どれも美味しいです!百合さん!」

 

 「そう?良かった。頑張った甲斐があったものね」

 

 よほど美味しかったのか、あるいはよほどお腹が減っていたのか、テーブルを埋め尽くすほどの料理は三十分と経たずに完食された。

 

 「ごちそうさまでした!」

 

 「ごちそうさまでした」

 

 二人は手を合わせて言い、百合はすぐに皿を洗い始めた。

 

 「これ洗ったらお風呂にするから、少し待っててね」

 

 「はーい」

 

 そう言ってブレイダは自分の部屋に入り、前のスマホのデータをデバイスの指示に従いつつ充電しながらデータを移し始めた。

 

 十数分が経ち、ブレイダが風呂に入って出てくる頃にはデータの移行が終わっていた。本当に出来ているか、試しに一曲聴いてみた。

 

 『U-U-U.S.A,U-U-U.S.A.…』

 

 音楽が聴けることも確認し、データ移行が出来てることを確認してブレイダはそのまま眠りについた。

 

 

 

 次の日の朝、ブレイダは橘と相川と会った。

 「おはよう、二人とも」

 

 「おはよう、ブレイダ」

 

 「おはよう、ブレっち。おや?今日はなんだか嬉しそうだね。なんかいい事でもあったの?」

 

 「え?な、なんで分かるの?」

 

 「だって、今日のブレっちの顔、いつもより笑ってるんだもん」

 

 「そうだな。何か良いものでも貰ったのか?」

 

 「うん!実はね、昨日新しい携帯貰ったんだ」

 

 そう言ってブレイダは鞄からデバイスを取り出した。

 

 「随分変わった形の携帯だな…持ちづらくないか?」

 

 橘はブレイダの携帯を覗き込みながら言った。

 

 「ううん、そんなことないよ。電話をする分には全然困らないし、音楽もバッチリ聞けるし」

 

 「まあ~、それなら良かった。ブレっちが嬉しいなら何よりだ、ウンウン」

 

 そう言って相川は頷いた。

 

 「翔子が言うことでもないだろうに…まあ、良いか。ブレイダが嬉しいなら私も嬉しいよ」

 

 「二人ともありがとう」

 

 「ああ、そうだ。昨日ヤミマジュウが出たんだが、大丈夫だったか?」

 

 それを聞いた途端ブレイダはピクっと背中を震わせた。

 

 「そうそう!私はヤミマジュウの真ん前に来ちゃってさー!そしたら謎の戦士?が助けてくれたんだよー!」

 

 「え、えと…それはどんな…?」

 

 「おっ、ブレっちも気になる?これなんだけどね」

 

そう言って相川はスマートフォンの写真を見せた。そこには、ぼやけて写った変身後のブレイダが映っていた。

 

 「あんまし上手く撮れなかったんだけどね、めちゃくちゃかっこよかったんだよー!ヤミマジュウをどおーん!のばあーん!でずどどどーん!ってさ!」

 

 相川は腕を大きく振りながら精一杯二人に説明した。

 

 「お、おおー、す、凄いね…」

 

 「いやー一度見せてあげたかったなぁー!また今度出たら動画撮っておくね」

 

 「あ、ありがとね…」

 

 「そんなの送られても困るだろう、なぁブレイダ?」

 

 「ま、まあ、気になるのは本当だから…でも、写真だけで良いかな」

 

 「ありゃ、そう?それじゃあまた写真撮るね」

 

 「う、うん、よろしくね…」

 

 超光戦姫ブレイダ、彼女の闘いはまだ始まったばかりである。




今回はここまでです!
また宜しければ感想よろしくお願いします!
キャラ紹介
二階堂玲司:ガードナー第七部隊ディフェンダー兼科学技術研究部部長。神凪の夫にしてシャイニングシステムの製作者でもある。神凪と結婚し、子供こそはいないものの幸せな日々を送っている。普段は神凪と一緒にトレーニングをしたり、神凪のリハビリを手伝ったり、あるいは部員と共に様々な武装を作っている。

二階堂神凪:ガードナー第七部隊キーパー兼科学研究部部長。生まれつき身体の筋肉が衰弱しており、常に車椅子に座っており、玲司等の他の人がいないと動く事が出来ない為、どこかに行く時は常に玲司と一緒にいる。玲司もなのだが、この二人はどこか別の世界から来たのではと言う噂がまことしやかに囁かれているが、真相は闇の中である。


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君の夢

三話目です。
重要な回は二話に分けて、日常の回は一話完結で進めようと思います。


玲司、この間襲ってきたヤミノチカラの詳細が分かったわ。ダーク・デイの時と同じ物よ」

 

 研究室にいた神凪は、安全メガネを外し、横にいた玲司にヤミノチカラの水晶を渡した。

 

 「あの時と同じ…って事は、あいつはもうこの世界にいるってことか?」

 

 「断定は出来ないけれど、いるんじゃないかしら。ヤミノチカラは彼がいないと生産出来ないんだから」

 

 「……そうか」

 

 玲司はそう言いながら小さくため息を吐き、水晶を見つめた。

 

 「…あの日からもう十年も経っているのか…あいつは今も…」

 

 「………」

 

 神凪はズボンの太腿の辺りをギュッと握った。

 

 あの日、俺達が来た時にはもうあいつはやられた後だった。何も出来ずに連れ去られる親友の姿を見ている事しか出来なかった。敵の親玉が高笑いをしながら世界中を闇に包んでいく。俺達はただただ、皆を避難させる事しか出来なかった。いつも通りの日々が失われた人々からは笑顔が消え、絶望が世界を包んでいた。そんな時、百合があの闇に対抗出来る小さな小さな光を見つけ、百合は今でも女手一つでせっせと育てている。今ではダーク・デイの影も無くなりつつあったが、家族や友達、大切な人を無くした人は、その心の傷が癒える事は無い。それは百合だって同じ事だ。

 

 「…知ってるか…?今の百合の家にあいつの写真…無いんだ…」

 

 「えっ…」

 

 「忘れようとしてるのか、それとも思い出さない様にしてるのか…そこは俺にも分からない…だけど…百合は、心に相当深い傷を負った…なんなら、ダーク・デイの一番の被害者は百合だ…」

 

 「…私達がもう少し早く来ていれば…もっと早く到着出来てれば…百合と彼だけに任せずに私達も行けば…きっとこんな事は起きなかった…」

 

 「…これ以上はもう、やめておこう。神凪も辛いだろ」

 

 「…そうね…それよりも、今後の事について色々考えなきゃ」

 

 そう言って二人は研究室を出た。

 

 

 

 ヤミマジュウ襲撃から数日が経ったある日、ブレイダは橘、相川と共にプラネットバックスに来ていた。

 

 「今日やっと食べれるね!ダブルマキドラ!」

 

 三人がいるテーブルの上には例のパフェが置かれており、相川は目を輝かせながら服の袖越しにスプーンを握っていた。

 

 「最初見た時は大きいと思ったが、これくらいなら三人で食べれそうだな」

 

 橘もパフェの写真を撮り、スプーンを握った。

 

 「ただこれ本当に食べられるかなぁ…?」

 

 ブレイダも多少心配しながらもスプーンを握っていた。

 

 「まあまあ、これくらいなら大丈夫でしょ!さあさあ、食べよう!」

 

 「おっしゃ!」

 

 「うん!」

 

 そう言って三人はパフェを食べ始めた。

 

 「ここのメロンのアイス美味しいよ!」

 

 「チョコアイスも美味しいな」

 

 「二つをミックスして食べるのも美味しい!」

 

 三人はあれよあれよと言いながら食べ進め、パフェがあった器の中身はあっという間に空になった。

 

 「おお…あれだけあったパフェがもうすっからかんに…」

 

 そう言いながら橘は器の中身を覗き込んだ。

 

 「こう言うパフェとかはたまに食べると美味しいよね」

 

 「ただ、この量のカロリーは考えたくないな…」

 

 「「うっ…」」

 

 橘に言われてブレイダと相川は項垂れた。三人で食べたとは言え、クマのぬいぐるみ一つ分程の大きさを誇るパフェだったのだ。取ったカロリーも相当なものだろう。

 

 「また運動しなきゃいけないのかぁ…めんどくさいなぁ…」

 

 「まあまあ、相川さんも、ちゃんと動こうよ。まん丸でコロコロになっちゃうよ?」

 

 「うーむ…可愛い可愛い豚さんにならなってもいいかな…」

 

 相川はテーブルに頬をつけながら言った。

 

 「安心しろ。ちゃんと走らせてやるさ。最近の弓道部の一年もたるんでくる頃だし、こっちはもうたるんでるみたいだしな」

 

 そう言って橘は相川のお腹の僅かな肉をつまんだ。

 

 「あいだだだだだだだ!!!橘さん!何故つまむんです!?」

 

 相川はつままれた腹部をおさえながら早口で言い、橘は鼻で笑った。

 

 「これは走らなきゃダメそうだな」

 

 「そんな…嘘だ…嘘だそんなことー!」

 

 どこかで見たことのあるようなキャラクターの真似をしながら相川はテーブルに両腕をついて俯いた。

 

 「ほら、馬鹿な事やってないでいくよ。そろそろ混んできたし」

 

 「そうだね、出ようか」

 

 そう言って三人はプラネットバックスを出た。

 

 「いやぁ、三人で来れて本当に良かったよ。休日はやっぱりこうやって集まってどっかに行くに限るねぇ」

 

 相川は嬉しそうに笑いながら言った。それにつられて二人も微笑んだ。

 

 「しかし、珍しいよな」

 

 「?何が?」

 

 「ほら、翔子みたいな奴って大体、休みの日はアニメ見たりとか、漫画読んだりとか、家にいる印象があるだろ?」

 

 「あー、言われてみれば確かにそうだね。男子とかもそんなのが多いのかも」

 

 「お二人共どうやら勘違いしてるようだね」

 

 「違うのか?」

 

 「確かに、わたしみたいなオタクっぽい子は家に引きこもってると思われがちだけど、実はそうでもないんだよねこれが」

 

 「そう…なのか?」

 

 「ブレっち、なんでもいいから適当なアニメの名前言ってごらん。知ってるやつでいいから」

 

 「アニメ…うーん…」

 

 ブレイダは顎に手を添えて目を瞑った。

 

 「…ドラゴンボール」

 

 「おお、結構有名な所を選んだね。じゃあ、ドラゴンボールで説明しよう。ちょうどこの間ドラゴンボールの新作の映画が作られたじゃん?」

 

 「ああ、もう公開してるな」

 

 「もちろん映画がやるって事は舞台挨拶も当然やる訳よ。ドラゴンボールは老若男女問わず大人気のアニメ。見に行かないオタクがいない訳がないんだよ」

 

 「確かに、少し前にもテレビでやってたから、認知度は上がってるよね」

 

 「そう。ドラゴンボールはテレビの放送が終わった後も映画が作られる程の人気作品。そして、ドラゴンボールに限らず、テレビ放送にこぎつけ、映画もやった漫画は今や数えきれない程ある訳よ。勿論、オタクってのはアニメの流行に敏感だから、当然映画にも行くし、大好きなアニメのイベントがやるなら足を運ぶ。だから、決して引きこもりって訳じゃないんだよ。皆楽しいのが好きなのは一緒なんだよ」

 

 「なるほどな…」

 

 「オタクの人も意外とアウトドアなんだね」

 

 「うん。少し前にはキャンプのアニメが流行って、その時にはこぞって皆キャンプに行くくらいにはね」

 

 「翔子も将来はアニメ関係の仕事に就きたいのか?」

 

 「んー…まだ決めてない」

 

 「そうか…夢とかはないのか?」

 

 「夢?うーん…いつかはアニメを作る事かな。それでファンの人と交流したいなぁ…咲は?」

 

 「私か?私は…そうだな…やっぱり弓道部を全国大会に連れてってやる事だな。ブレイダはどうだ?」

 

 「わたし…そうだね…今は見つからないかな」

 

 「そうか…夢を持つってな、時々、凄く切なくなるが、時々凄く熱くなる、らしいぞ」

 

 「凄くいい言葉だね。誰かからの受け売り?」

 

 「まあな。知り合いのクリーニング屋が教えてくれたんだ。あの人の夢は世界中の洗濯物を真っ白にする事だそうだ」

 「なんだか壮大だね…」

 

 「かもな。本人もそう言っていたよ」

 

 そう言いながら橘は小さく笑った。

 

 「だけど、それくらいの夢を持ったって良いと思うぞ。私も大きな夢を持っているからな。ブレイダもなんだっていいから、夢を持ってみろ。私はそれを全力で応援するし、後押しもするさ」

 

 「橘さん…ありがとう。私も作ってみるよ。私だけの夢」

 

 「ああ。夢が出来たらでいいから、ゆっくりで良いから聞かせてくれよ」

 

 すると、大きな突風が起き、街に十メートル程の鳥の様なヤミマジュウが降り立ち、雄叫びをあげた。

 

 「キイイイイイイイッ!」

 

 鳥の様なヤミマジュウは腹部にあった口を開き、辺りの建物や人々を吸い込み始めた。

 

 「なんだ!?あの五角形みたいな鳥!?」

 

 「とにかく逃げるぞ!ブレイダ!翔子!」

 

 人々が逃げ惑い、一緒に逃げようとした橘に腕を掴まれてもブレイダは逃げようとせず、鳥のヤミマジュウの方を見つめていた。

 

 「…橘さん、わたし、今夢が出来たよ。それは…世界中の皆の幸せを取り戻す事。だから…見てて!私の変身!」

 

 「ブレイダ…」

 

 「ブレっち…?」

 

 ブレイダはデバイスを取り出し、端末を操作した。

 

 「トランス…オン!」

 

 ブレイダの身体は眩い光に包まれ、橘と相川は思わず腕で顔を覆った。

 

 「キイイイイイイイッ!」

 

 すると、鳥のヤミマジュウが頭部の角からブレイダ達に向けて光線を発射した。

 

 「だあっ!」

 

 それを何者かが弾き、二人の斜め後ろに着弾して爆発を起こした。

 

 「…あの時の…」

 

 「あ、あなたは…一体」

 

 二人の前に立っていた一人の戦士は振り向いた。

 

 「通りすがりの変身ヒロイン、ってとこかな?」

 ブレイダは少し微笑みながら言った。そして、一呼吸置き、言葉を続けた。

 

 「わたしは戦うよ。あのヤミマジュウと戦えない人達の分まで戦う。それがわたしの使命だと思うから」

 

 そう言ってブレイダは踵をかえし、ヤミマジュウの元に向かっていった。

 

 「ブレイダ!/ブレっち!」

 

 橘と相川は同時にブレイダの名前を呼び、ブレイダは二人の方を振り返った。

 

 「絶対…絶対に帰ってこい!」

 

 「帰ってこなかったら怒るかんね!」

 

 「…ありがとう、二人とも。絶対に帰ってくるよ」

 

 ブレイダは微笑みながら言い、橘と相川も笑顔で見送った。

 

 そして、ブレイダはヤミマジュウの元に向かって走り出した。

 

 

 

 「キイイイイイイイッ!」

 

 ブレイダはブライトサークルに乗り、ヤミマジュウと対峙した。

 

 『こちら玲司。聞こえるか?』

 

 「こちらブレイダ。はい、大丈夫です」

 

 『そうか…よし。こちらでブライトサークルのアップデートを作った。そちらに送信するから是非使ってみてくれ』

 

 玲司がそう言うと、胸のデバイス、コアクリスタルから着信音が鳴り、ブレイダは端末を操作してそれをチェックした。

 

 すると、ブライトサークルが光った。

 

 『Bright circle Can Move』

 

 ヘッドホンからアップデートの情報が聞こえた。

 「ブライトサークルキャンムーブ…分かった!」

 

 ブレイダはブライトサークルをサーフボードの様に動かし、ブライトサークルを動かしてヤミマジュウに接近した。

 

 ヤミマジュウは急な接近に驚いたのか、角から光弾をブレイダに発射した。

 

 ブレイダはそれを左右に数回かわし、次の弾を小さくジャンプして回避して最後の弾を剣で打ち返した。

 

 「キイイイイイイイィィィィィ!」

 

 「ごめん、すぐ助けるから!」

 

 そう言ってブレイダはブライトサークルから飛びあがり、ヤミマジュウの眉間を蹴り飛ばし、ヤミマジュウを後ろに倒した。

 

 『ブレイダ、奴は腹の口から物を吸収する様だ。接近するならあの口を封じてからだ』

 

 「分かりました!」

 

 ブレイダは耳元から手を離し、ヤミマジュウを見つめた。

 

 「あの口…そうだ!」

 

 ブレイダはなにやら閃いたようで、ヤミマジュウの腹の口に吸い込まれないように気をつけながら接近し、大きめのブライトサークルを作り、ヤミマジュウの腹部に密着する場所に出現させた。

 

 「よし!」

 

 「キイイイイイイイ…!」

 

 ヤミマジュウも立ち上がり、ブレイダはそれを見て足場のブライトサークルを動かして距離を取った。

 

 「キイイイイイイ!」

 

 ヤミマジュウは腹部に力を込め、ブレイダを吸収しようとした。しかし、ブライトサークルが蓋となり、ヤミマジュウの腹部には何も入ってこず、不思議に思ったヤミマジュウは首を傾げながら腹部の口のブライトサークルをつついた。

 

 「キイ?」

 

 「少し違和感あるよね…すぐ取ってあげるから、少し待っててね。フルパワー解放!」

 

 ヤミマジュウの周りに幾つものブライトサークルが出現し、ブレイダは剣を振り上げ、剣にヒカリノチカラを溜めながらブライトサークルを飛び立ち、ブライトサークルの間を反射しながら飛び始めた。

 

 「キイイイイイ!」

 

 ヤミマジュウはブレイダを狙いながら光弾を撃つが、どんどん加速して行くブレイダに当たる事はなく、ブレイダはやがて音速を超えた速度の一本の光の槍の様になった。

 

 『MAX POWER,Full Charge!』

 

 「はあああああ…!」

 

 ブレイダはまっすぐヤミマジュウの頭部に向けて飛び立った。

 

 「キイイイイイイイッ!」

 

 ヤミマジュウも負けじと光弾を放つが、全てブレイダに弾かれた。

 

 「だああああああっ!」

 

 ブレイダの剣はヤミマジュウの頭部に強烈な一撃を喰らわせ、ヤミマジュウをノックダウンさせた。

 

 そして、ブレイダはヤミマジュウの後ろに着地し、ヤミマジュウの腹部のブライトサークルを消した。

 

 すると、ヤミノチカラの水晶が現れ、ブレイダはそれを拾い上げた。

 

 『ありがとうブレイダ。水晶と動物は本部の方から回収班が向かうだろうから、君は友達の元に戻ってくれ』

 

 「分かりました」

 

 そう言ってブレイダは倒れ伏している動物の横に置いた。

 

 「お前も辛かったね…よしよし」

 

 そう言ってブレイダは鳥の頭を撫で、その場を後にし、変身を解いて橘達の元に戻った。

 

 

 

 「ブレイダー!」

 

 「おーい!」

 

 遠くから橘と相川が手を振りながらブレイダに駆け寄ってきた。

 

 「二人とも…逃げてなかったの?」

 

 ブレイダの素っ頓狂な質問に二人は少しコケた。

 

 「ん、ま、まあな」

 

 「ここからずっと見てたよ、ブレっち」

 

 「ああ、とてもかっこよかった」

 

 「ふふ、ありがとう、二人とも」

 

 そう言ってブレイダは少し微笑んだ。

 

 「最初ブレっちが変身した時はびっくりしたけど…だけど、打ち明けてくれて嬉しかったよ」

 

 「え?何で?」

 

 「変身ヒーローものとかって、普通あまり人には正体を表さないものなんだけど…でも、私達を信じて、変身してさ、夢も言ってくれて、嬉しかったんだ」

 

 「ああ。少し戸惑ったが…ブレイダが立派な夢を持ってくれたのも嬉しいし、私達を守ってくれたのも凄く嬉しかった。ありがとな、ブレイダ」

 

 「そんな…わたしなんて出来ることをしただけだよ」

 

 ブレイダはそう言いながら両手を胸の近くで左右に振った。

 

 「そうやって言えるブレっち、私は大好きだよ」

 

 「私も、調子に乗らないブレイダは私も好きだ。謙遜せずにもっと胸を張って良いんだぞ?それくらいの事をしたんだ」

 

 「そ、そうなのかな…」

 

 「ま、ブレっちは偉い!これでいいじゃん」

 

 「そうだな。さあ、帰るか」

 

 「うん。皆で帰ろう」

 

 そう言って三人は夕焼けの中、手を繋ぎながら帰路についた。

 

 

 

 

 「新たなヒカリノチカラを持つ戦士…か。お前はどう思う?サリエール」

 

 「あの程度、眼中にはありません。ですが、貴方が消せと言うなら消しましょう」

 

 「ふっ…そうか。だが今はまだ泳がせておこう。奴がどこまで強くなれるか、楽しみにしておけ」

 

 「はっ」

 

 二人のヤミノチカラを持つ戦士は、夜の闇の中に消えていった。




いかがだったでしょうか?
よろしければ感想等よろしくお願いします!
作中にも出てきた「劇場版ドラゴンボール超BROLY-ブロリー-」は絶賛公開中ですのでぜひぜひ。
ちなみに、この日はブレイダちゃんの作者様の誕生日でもあります。



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古き闇

少し遅れてすみません(汗)
第4話です。
ここから少しずつ核心に触れていくかも


これが…ブレイダ…」

 

 サリエールは、部屋のモニターに映し出されたブレイダの戦う様子を見ていた。

 

 「そうだとも、サリエール。これが君のここの世界での宿敵と言ったところだ」

 

 青い髪の男がポケットに手を突っ込み、不敵な笑みを浮かべながら暗闇の中から月明かりの下に出てきた。

 

 「あいつが俺に捕まる直前に放ったヒカリノチカラ…様々な並行宇宙に散らばらせたのは間違いだったみたいだな…」

 

 「貴方のコピー元…ですか」

 

 サリエールは男の方を振り向きながら言った。

 

 そう言うと、男の目付きが変わり、口元からも笑みが消え、その次の瞬間、男は黒いオーラを纏った青いエネルギーの刃を手に発生させながら一瞬でサリエールに近付き、彼女の喉元に矛先を向け、サリエールは少し後ずさった。

 

 「次にその事を言ったら世界の前に貴様を消す」

 

 「も、申し訳ありません」

 

 サリエールは地面に膝をつき、頭を垂れた。

 

 「…まあ良い。あいつの力を奪って正解だった。今や俺は神に等しい力を持っている。最早敵など誰もいない」

 

 そう言って男は刃を消し、サリエールも頭を上げた。

 

 「…お言葉ですが、何故一度ヤミノチカラを世界に放ち、ヤミマジュウにしてもう一度回収を?」

 

 「以前来た時には俺のヤミノチカラが足りなかった。だから、この世界を完全に闇に染める事は出来なかった。だが、生物にヤミノチカラを取り込ませ、ヤミマジュウにする事でヤミノチカラも強まり、もう一度集める事で俺のヤミノチカラが強まり、今度こそ世界を闇に染める事が出来る、という訳だ。既に二体が倒されてしまったが、次からのヤミマジュウを全て倒し、ヤミノチカラを回収すれば問題はない。だが、俺が倒そうとすればヤミノチカラごと砕いてしまうかもしれない。そこで、お前の出番という訳だ」

 

 「そう言う訳でしたか…」

 

 「そうだ。期待しているぞ、サリエール」

 

 「はっ。お任せください」

 

 「頼もしい限りだ」

 

 少し笑って男は暗闇の中に消えた。

 

 「…次の戦士はいつまで持つか…」

 

 夜空の星を窓から見ながらサリエールは呟いた。

 

 

 

 「ふぁぁぁ…」

 

 ブレイダは大きな欠伸をしながら両腕を強く伸ばし、その後脱力して腕を落下させた。

 

 「随分眠そうだねブレっち」

 

 「うーん、ちゃんと寝てるのになぁ…」

 

 ブレイダは目を擦りながら言った。

 

 「流石にあれだけ動けば疲れも溜まるよな。今日の体育は休むか?」

 

 「ありがとう橘さん…でもちゃんと出るよ…」

 

 「そう言いながら寝そうになってるのはどこのどいつだ」

 

 当の本人がうとうとして言っていても説得力はまるでない。寝そうになって倒れそうになったブレイダを二人は慌てて支えた。

 

 「こりゃあ休ませるしかないね」

 

 相川は苦笑いをしながら言った。

 

 「とは言ってもとても人に言えることじゃないしな…どうしたものか」

 

 すると、校門の前で一人の若い男の先生に出会った。

 

 「おはよう、三人とも」

 

 「あ、如月先生。おはようございます」

 

 「おはようございます、如月センセ」

 

 「おう、おはよう。あれ?柊のやつどうしたんだ?具合でも悪いのか?」

 

 如月はブレイダの顔を覗き込みながら言った。

 

 「なんて言うか…」

 

 「少し疲労困憊…みたいな?」

 

 「なるほど…柊は立てそうか?」

 

 「どうかな…」

 

 「…一度だけ…多分立たないとは思うが…」

 

 そう言って二人はブレイダを降ろし、倒れそうになったブレイダを如月が支えた。

 

 「…そっか。事情は分かんねえが、めちゃくちゃ疲れてんなら仕方ねえ。ゆっくり休ませてやんねえとな。とりあえず、先生が保健室に運んでおくから、お前らは先に教室に行ってろ」

 

 「でも担任の先生には…」

 

 「ちゃんと先生から言っておく。任せてくれ」

 

 「…分かりました!ありがとう如月センセー!」

 

 「おう!お前らも遅れないようにな!」

 

 そう言って如月は二人に手を振った後ブレイダを担ぎ、保健室の方に向かった。

 

 「んじゃ、私達も行く?」

 

 「あ、ああ。そうだな」

 

 そう言って二人は自分達の教室に向かった。

 

 「しかし残念だなぁ。ブレっちの変身後の姿と必殺技名考えてきたのに…」

 

 「どんなの考えてきたんだ?」

 

 「色々考えてきたんだよ。まあでも、それはブレっち本人に決めて貰おうよ」

 

 「それもそうだな。私達でも何個か候補を決めておこう」

 

 早速二人は教室に入り、橘は自席にカバンを置いて相川の席に向かった。

 

「どんなのを考えてきたんだ?」

 

 橘は相川の持っているメモを覗きながら言った。

 

 「えーとね…まずは電光超人ブレイダ」

 

 「パソコンの中で戦う訳じゃないだろう」

 

 「んー…じゃあ、光の使者ブレイダ」

 

 「闇の僕達をとっととお家に帰すのか?」

 「帰すわけじゃないね…んー…仮面ライダーブレイダ」

 

 「仮面でもなければバイクにも乗っていないぞ…乗ってるとしたらあの足場くらいだ」

 

 「えー?じゃあ…」

 

 色々言い合ってる内に始業の鐘が鳴り、橘は自席に戻った。

 

 担任の先生が教室に入り、HRが始まった。

 

 「柊は少し体調が悪くて保健室で休んでいる。平気になったら授業に参加するそうだ」

 

 それを聞いて橘と相川は胸をなで下ろした。

 

 

 

 如月は保健室に入り、白衣を着た髪の長い女性の先生に声をかけた。

 

 「おう、光先生」

 

 「あ、如月先生。おはようございます」

 

 光も如月に気付き、席を立って軽く一礼ををした。

 

 「おはようございます光先生。ちょっと急患って言うか、一人休ませてやってくれねえか?」

 

 「?別に良いですけど…どうしたんですか?」

 

 「ああ。2-Cの柊が凄く疲れが溜まってるらしくて、ちゃんと寝てもこんな風だから、保健室で休ませようと思ったんですよ」

 

 「そういう事でしたか。分かりました。担任の先生にはもう伝えましたか?」

 

 「これから伝えに行きます。じゃあ、後は任せますね」

 

 「はい。ゆっくり寝かせておきます」

 

 「よろしくお願いします」

 

 そう言って如月はブレイダをゆっくりとベッドに寝かせ、光に軽く会釈をして保健室を出た。

 

光も、ブレイダの容態を書類にまとめた。

 

 

 

 また、あの日の事が夢に甦る。

 

 ダーク・デイの日の事をまた思い出す。この光景はもはや嫌という程ブレイダの脳裏に焼き付いている様だ。

 

 しかし、今回の視点は自分ではなく、誰かの視点からの光景だった。

 

崩壊していく街を上から眺めていたかと思うと地面が急接近し、明らかに自分の視線の高さではない視点から空を見上げていた。

 

 そして、少し走った後に、瓦礫の近くに赤ん坊と一枚の紙を見つけた。赤ん坊は今にも命の灯火が消えそうになっており、手の平から眩い光を放ち、赤ん坊の命を助け、自分の視点も赤ん坊に移った。

 

 その後、ブレイダの命を助けた男が何かを言ったが上手く聞き取れず、男はブレイダが入った籠を持ち上げてこの場を逃げ出し、ブレイダがいた場所の付近の瓦礫はさらに崩れた。

 

 そして、一人の女性にブレイダを預け、身体から眩い光を放ち、敵の親玉の元に急いだのを見届けたところで、目が覚め、身体を起こした。

 

「あ、おはよう、柊さん。体調はどう?大丈夫?」

 

 ブレイダに気がついた光が振り返って言った。

 

 「お、おはようございます。体は大丈夫です」

 

 「なら良かった。如月先生から凄く疲れてるって聞いて、寝かせてたんだけど、どう?疲れは取れた?」

 

 「ま、まあ、それなりには」

 

 「良かった。どう?授業は出れそう?それとも、まだ休む?」

 

 「いえ、大丈夫です」

 

 そう言いながらブレイダはベッドから立ち、保健室を出ようとしたが、少しよろめいて倒れそうになった所を光に支えられた。

 

 「やっぱりまだ寝てた方が良さそうね」

 

 「でも、休む訳には…」

 

 「身体を壊しちゃ元も子もないよ。まだ少し寝てて」

 

 「う…はい」

 

 ブレイダは大人しくベッドに向かった。

 

すると、突然校庭の方から地響きがし、光は窓に近付いた。

 

 校庭には大穴が空き、二体の赤と青のヤミマジュウが暴れていた。

 

 「大変!すぐ逃げないと!…って、あれ?」

 

 保健室にブレイダはおらず、開いた扉が空しく軋むだけだった。

 

 

 ブレイダは壁にもたれながら走って保健室を抜け出し、外に出て誰もいない所に出て、端末を操作した。

 

 「トランスオン!…くっ…!」

 

 ブレイダは変身して、剣を杖替わりにして座り込み、ブライトサークルに乗り、ヤミマジュウの元に急いだ。

 

 胸のコアクリスタルは既に点滅し、立つのもやっとである。

 

 ブレイダに気付いた相川と橘はブレイダに駆け寄った。

 

 「ブレっち!大丈夫!?」

 

 「立てそうか?」

 

 「少し…キツいかも…」

 

 そういうブレイダの息はかなり上がっており、とても辛そうだ。

 

 『こちら玲司。通信出来るか?』

 

 「は、はい、こちらブレイダ…」

 

 もはやヘッドホンに手を当てる力も無いようだ。

 

 「どうしようどうしよう…何か出来ることは…」

 

 「…ブレイダ、とりあえずこれを」

 

 橘はポケットに入れたスポーツドリンクの入ったペットボトルの蓋を開け、ブレイダに渡した。だが、ブレイダは肩で呼吸をするので精一杯で、受け取ることも大変そうだ。

 

 「…仕方ない、ブレイダ、ドリンクを流し込むから口を開けろ。」

 

 「う、うん…」

 

 ブレイダは言われた通り口を開け、橘はブレイダの頭を支えながらブレイダの口にペットボトルの口を入れ、スポーツドリンクを飲ませた。

 

 「全部飲んでいいからな」

 

「もう授業は終わってるから、心配しなくてもいいよん」

 

 やがて、ペットボトルの中身が空になり、ブレイダは力を振り絞って立ち上がった。コアクリスタルは点滅してはいるものの、なんとか戦えそうである。

 

 「ありがとう、二人とも…すぐ戻ってくるね」

 

 「あまり無茶はするなよ」

 

 「ヤバくなったら帰ってきて!」

 

 「うん」

 

 ブレイダは剣を構え直した。

 

 すると、腕に突然ブレスレットの様な金色の輪が転送され、装着された。

 

 『こちら玲司。今、そちらに簡易的なエネルギー供給装置を送った。調べたところ、君の中のヒカリノチカラがかなり少なくなっていたんでな…一回きりの片道切符みたいなもんで壊されたら終わりだが、今だけなら役立つだろう』

 

 すると、腕の輪が光り、ブレイダのコアクリスタルの点滅が治まり、ブレイダ自身のヒカリノチカラが供給された事でブレイダにも元気が戻った。

 

 「ありがとうございます玲司さん!」

 

 『よし!ささっと倒してやれ!』

 

 「はい!」

 

 ブレイダは二体のヤミマジュウにも臆することなく、ヤミマジュウに立ち向かって行った。

 

 「ウガアアアアアア!」

 

 「ゴアアアアアアア!」

 

 二体のヤミマジュウはそれぞれ赤い光線と青い雷を角から放ち、校庭を壊していた。

 

 それを見たブレイダは二体の頭部に飛び立ち、剣で二体の頭を叩いて牽制し、ブライトサークルの上に着地して二体の間に立った。

 

 「こらー!ダメでしょー!」

 

 ブレイダに気圧されたのか、二体は動きを止めてブレイダの方を見ていた。

 

 「ウガアアアア…!」

 

 「こう言うことしちゃダメだよ!分かってる!?」

 

 「ウガ…」

 

 「ゴアアアアア!」

 

 青いヤミマジュウが角に雷を充填し、ブレイダに向けて雷を放った。

 

 しかし、ブレイダはすぐにブライトサークルで雷を反射させ、雷は空の彼方に消えた。

 

 「あなたも!まだ話してるでしょ!」

 

「ゴア…」

 

 「な、なあ、あいつ怪獣に説教してないか?」

 

 「確かに…二体とも大人しくブレっちの話聞いてるね」

 

 二人は半ば呆然としながらブレイダの様子を遠くから見ていた。

 

「とにかくこっちも時間がないの!さっさと決めさせて貰うね!」

 

 ブレイダは二体の周りにブライトサークルを幾つも展開し、サークルから飛び立とうとした。

 

 すると、いつの間にかもう一人の、青い髪の少女がブレイダの前に浮いており、ブレイダを手で制した。

 

 「戦闘…開始」

 

 「え…?」

 

 二体のヤミマジュウは少女に襲い掛かった。

 

 「刈る」

 

 少女はそう言うと手に持っていた、エネルギーの刃の鎌を上段に構えた。

 

 「ウガアアアア!」

 

 「ゴアアアアア!」

 

 二体のヤミマジュウは少女に襲い掛かった。

 

 「…甘い。そこは私の間合いの中」

 

 少女は鎌を振り、ヤミマジュウに一閃のもとに切り伏せ、二体の首を刈り、二体の首は地面にゴトリと言う重い音を立てて落ち、身体の中からヤミノチカラが出現し、少女はそれを回収した。

 

 「そ、そんな…酷い!何も殺さなくても!」

 

「言っているがいい。それとも、お前もこいつらと同じ様になりたいか?」

 

 少女は鎌の刃をブレイダの喉元に近付けた。

 

 ブレイダの背筋は凍り、何も言うことが出来なかった。

 

 「…やはりこの程度か。期待した私が間違いだった」

 

 そう言って少女はその場から瞬間移動して消えた。

 

 鎌が離れた途端、ブレイダは脱力し、ブライトサークルに尻もちをついた。

 

 「…あの子は…一体」

 ブレイダは立ち上がり、ブライトサークルから降りて変身を解除し、相川と橘も駆け寄ってきた。

 

 「ブレイダ、大丈夫か?」

 

 「うん、これでエネルギー供給が来たから、もう大丈夫だよ」

 

 「良かった~!ブレっちが復活しなかったらかと思うとご飯ものどを通りそうになかったよ~」

 

 「「そりゃあまだ試してないからな/ね…」」

 

 「何はともあれ、何事もなくて良かった」

 

 すると、遠くからジャージを着た如月とブレイダの鞄を持った光が三人の元に駆け寄ってきた。

 

 「お前達無事か!?怪我はないか!?」

 

 「柊さんも大丈夫!?」

 

 「はい。この通り」

 

 「私達も怪我はありません」

 

 「そっか、良かった。お前達に何事もなくて良かったよ」

 

 そう言って如月は胸をなで下ろし、額の汗を拭った。

 

 「如月先生、貴方達の事を真っ先に思い出して探しに行ってたんですよ」

 

 「いや、光先生に言われて思い出したんだよ。皆を避難させて、終わったと思ったら光先生が言ってくれてな」

 

 「まあ、柊さんも、二人も怪我がないなら先生はもう何も言いません。流石に柊さんがいなくなった時はびっくりしましたけど」

 

 「無事にこうして見つけられたんだから言いっこなしですよ、光先生」

 

 「そうですね。今日はこんな事がありましたし、万が一の事を考えて今日はもう学校は終わりなので、三人も帰宅してください。幸い、学校周辺には何事も無かったそうなので」

 

 「分かりました!」

 

 ブレイダも光から鞄を受け取り、相川と橘も更衣室で着替えて鞄を取りに教室に戻った。

 

 「ん、三人とも無事だったか。ほら、お前達の鞄だ。寄り道せずに帰るんだぞ」

 

 相川と橘は担任の先生から鞄を受け取り、三人は帰路に着いた。

 

 

 「あ、そうだ、ブレっち、昨日ね、ブレっちの変身後の名前と必殺技名を色々考えてきたんだよ」

 

 「そうなの?」

 

 「ああ。私達で色々候補も絞ったんだ」

 

 「ほれ、これがリスト」

 

 ブレイダは相川からメモを受け取った。

 

 「好きなの選んで良いよ」

 

 「分かった!じゃあ…この『超光戦姫』って名前にするよ」

 

 「じゃあ、変身後は超光戦姫ブレイダ、ってとこだな」

 

 「祝え!新たなるヒロインの誕生を!」

 

 相川は両腕を広げて、肘から下を上に曲げて斜め上に広げた。

 

 「それ誰に言ってるの?」

 

 「さあ?で、必殺技名はどうする?」

 

 「んー…どうしよ、色々あって迷っちゃうなー…」

 

 ブレイダは顎に手を添えてメモを何度も上下に見た。

 

 「このバニシングスマッシュってのもいいんだけど…ストライザーブレイクってのも捨てがたいんだよね…」

 

 「よし、じゃあこうしよう」

 

 相川は二枚メモ用紙を取り出し、それらの表にそれぞれの必殺技名を書き、後ろに隠して両手でシャッフルし、裏面を見せてトランプのカードを持つ時の様に持った。

 

 「好きな方を引いて、そっちの方を採用しよう。これなら文句ないでしょ?」

 

 「うん!」

 

 そう言ってブレイダは少し悩んだ後、左の方を引いた。

 

 そこには、『バニシングスマッシュ』の文字が書かれていた。

 

 「決まりだね!これでめでたく変身ヒロインだ」

 

 「めでたいもんなのか…?」

 

 「まあまあ、良いでしょ。名前とかって登録出来る?」

 

 「ちょっと待ってね…あった!」

 

 デバイスには必殺技名を入力する画面が用意してあった。

 

 「よくこんなの用意してあるな…」

 

 「まあまあ、何でもいいじゃん。入れちゃお入れちゃお」

 

 「そうだね」

 

 ブレイダは英語で文字を入力し、最後に音声で確認した。

 

 『BANNICING SMASH!』

 

 「大丈夫そうだね。ありがとう、二人とも」

 

 二人は嬉しそうに笑い、ブレイダも嬉しそうに笑った。

 

 「よし!じゃあ、帰ろう!」

 

 三人は手を繋ぎながら帰った。

 

 

 「ヤミノチカラを回収出来ました」

 

 「よくやった。次もこの調子で頼むぞ」

 

 男はサリエールから二つのヤミノチカラを受け取り、体内に吸収した。

 

 「…全ての宇宙に君臨するのは…この俺だ」

 

 男は不敵な笑みを浮かべ、そう呟いた。

 

 「では、失礼します」

 

 サリエールも自分の部屋に戻った。

 

 「…今度こそ、最後まで俺の手駒として働いてくれよ、サリエール。いや、No.675」

 

 男から笑みは消え、そう呟いた。




今回はここまでです。
相川さんが真似したウォズが出ている仮面ライダー平成ジェネレーションズFOREVERも絶賛公開中です!
中の人は初日に見に行きました(自慢)
キャラ紹介
如月先生:ブレイダ達のクラスの体育を受け持つ若い先生。生徒を一番に考え、先生とも対等に接する良き先生。
光先生:ブレイダ達の学校の保健医。普段は保健室で務めており、生徒達の健康を一番に考えている。


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Merry Christmas

クリスマス回です!
滑り込みィ!


…寒いなぁ」

 

 朝早く、ブレイダは寒さで目を覚まし、部屋のカーテンを開けた。

 

 外はまだ暗く、デバイスの画面に映された時刻はまだ朝の五時半を表示していた。

 

 ブレイダは私服に着替え、リビングに出た。

 

 リビングはまだ暗く、百合もまだベッドで寝ている。

 

 「うぅ~寒っ…」

 

 すると、相川から着信がかかり、ブレイダはその電話に出た。

 

 『もしもしブレっち~?起きてた?』

 

 「うん、さっき起きた。どうしたの?」

 

 『やっぱりブレっちも起きたんだ。ちょっと外出てみ』

 

 「?分かった」

 

 相川に言われ、ブレイダは部屋を出た。

 

 「…!凄ーい!」

 

 外は一面銀世界で、雪が積もっていた。

 

 『びっくりしたか?ブレイダ』

 

 どうやら橘も一緒にいるらしく、電話から彼女の声も聞こえてきた。

 

 『私も翔子に叩き起こされて一緒にいるんだが、凄く積もっているぞ。どうやら、昨日の雨が雪に変わったらしい』

 

 「ニュースでも言ってたね。変わるかもって」

 

 「そうだよブレっち~!今ブレっちのマンションの下にいるからおいで~!」

 

 目を凝らすと、マンションの入口の方で下からブレイダに向かって手を振っている二人組が見えた。

 

 「うん!すぐ行く!」

 

 ブレイダは部屋に鍵を掛け、白いコートを着て手袋をはめ、耳当てを着けてブーツを履き、二人の元に向かった。下には暖かそうな格好をした二人がポケットに手を入れてブレイダを待っていた。

 

 「おはようブレイダ」

 

 「おはようブレっち。二人とも朝早いのにごめんねぇ」

 

 「毎年毎年雪が降る度に同じことをやってるんだ。今さら気にすることでもない」

 

 「確かに、それもそうだね。いまさらだね」

 

 「それを相川さんが言っちゃダメなんじゃ…」

 

 「まあまあ、そう気にしない気にしない。とりあえず適当に散歩しようよ」

 

 「そうだな」

 

 相川の提案で三人は街をぶらつく事にした。

 

 街の建物や家にはきらびやかなイルミネーションが施されており、クリスマス一色に染まっていた。

 

 「そっか、もうクリスマスなんだね」

 

 「もうそんな時期か、早いな」

 

 「この間ハロウィンが終わったと思ったらもうクリスマスだもんね」

 

 「クリスマスと言ったらプレゼントだけど、二人は何か欲しいものとかあるの?」

 「プレゼントかぁ…私はやっぱり新しいゲームが欲しいなぁ」

 

 「私も、新しい鞄が欲しいな。昔から使ってたやつももうボロボロになってきたしな」

 

 確かに、橘の持っている鞄はかなり古いもので、あまり店頭にも並んでいないような物だった。

 

 「橘さんは、その鞄の新しいものが欲しいの?」

 

 「いや、別にこれじゃなくても良いんだ。新品の鞄ならなんでもいい。そう言うブレイダは何かないのか?」

 

 「私は…そうだなぁ…うーん」

 

 ブレイダは腕を組んで小さく唸った。

 

 「…前々から狙ってた高い財布が欲しいかな、なんて」

 

 「高い財布?どれくらいするの?」

 

 「五万円位するんだけど、やっぱりダメだよね…」

 

 「五万か…それはかなりの額だな」

 

 「随分高いもの選んだね…」

 

 「で、でもけっこう入るし、模様とかも凄く良いんだよ!ほら!」

 

 そう言ってブレイダはデバイスに画像を表示し、二人に見せた。

 

 財布は革で出来ており、表はマゼンタ、裏はシアンブルーの色になっており、白と黒の線が交差して表と裏の両方に入っていた。

 

 「これはまた派手なものを選びましたな」

 

 「ああ、凄く派手だ」

 

 「そんなに派手かなぁ?」

 

 「逆にこれがバッグから出てきたら店員さん驚くと思うよ~?」

 

 「そんなに?」

 

 「そんなにだよ。それくらい派手なんだよ」

 

 「そんなにかぁ…」

 

 暫くしてから朝日が登り、街では色々な店が開店準備をしていた。

 

 「それじゃあ、そろそろ戻りますか。また後で集まろ」

 

 「ああ。また後でな」

 

 「また後でね~」

 

 そう言って三人は一度散開し、各々の家に戻った。

 

 家では既に百合が朝食を食べている所だった。

 

 「あ、おかえりブレイダ」

 

 帰ってきたブレイダに気付いた百合が食べようとしたトーストを皿に置いた。

 

 「ただいま、百合さん。外は凄い雪だよ」

 

 「だと思った。朝起きたらもういないんだもの」

 

 「まあ、毎年やってるからね」

 

 「流石に慣れっこよ。お腹空いてるでしょ?」

 

 「うん」

 

 「分かったわ。すぐトースト作るから、ゆで卵でも食べてて」

 

 「はーい」

 

 ブレイダはコートや手袋を外し、席に座って朝食を食べ始め、百合はすぐにトーストを焼き始めた。

 

 「外行ってきたんでしょ?イルミネーションとか見てきた?」

 

 「見てきた見てきた!今年も綺麗だった!」

 

 「本当?私も後で行こうかしら」

 

 そう言いながら百合は焼きあがったトーストを皿に置き、ジャムを塗って、ゆで卵を塩につけて食べているブレイダの前に置いた。

 

 「また後で橘さんと、相川さんと集まってどっか行ってくるよ」

 

 「分かったわ。私もお昼からまた仕事があるから、帰るのは六時くらいになっちゃうけど」

 

 「三人で適当に何か食べておくよ」

 

 「うん、了解。あ、でも六時には帰ってきてね。出来れば二人も連れてきて」

 

 「?分かった」

 

 朝食を食べ終わったブレイダはもう一度コートや手袋を着けて外に出た。

 

 「行ってきまーす!」

 

 「いってらっしゃーい」

 

 ブレイダはマンションの階段を降り、敷地を出たところで丁度二人と会ってお互いに軽く会釈をした。

 

 「またプラバで新メニュー出たから食べに行こうよ」

 

 「今度はどんなメニューなの?」

 

 「ほれ、こんなの」

 

 相川はそう言って携帯の画面を見せた。そこには三つの一切れのケーキのセットの画像が表示されていた。

 

 「赤、黄色、緑?」

 

 「信号機みたい」

 

 「これは七種類の味のケーキを楽しめるみたいで、一個頼む事に五百円の安さ!しかもプラバのケーキは超美味い!」

 

 「な、なら行くしかないな!」

 

 「うんうん!今すぐ行こう!」

 

 三人のケーキを見る目はとても輝いていた。三人とも甘い物には目がないのだろう

 

 「ま、まあ、今日はクリスマスイブだし、少しくらいは良いだろう。なぁ?」

 

 「今日くらい大丈夫だよ!うん!」

 

 そう言いながら三人は足早にプラネットバックスに向かっていた。

 

 まだ開店前にも関わらず、既に列が出来ていた。

 

 「流石プラバ…」

 

 「まあ、待っていればすぐだ」

 

 そして、数分後に店が開き、ブレイダ達も店に入った。

 

 「そう言えば、ケーキは何の味があるんだ?」

 

 「えーとね、ストロベリー、マンゴー、メロン、ショート、ブルーアップル、ブルーベリー、オレンジってとこだね」

 

 「何で青リンゴ?」

 

 「さあ?まあ、細かいことは気にしなくていいでしょ」

 

 そして、ブレイダ達の番になり、ブレイダはストロベリー、橘はブルーベリー、翔子はメロンのケーキを頼み、適当な飲み物を頼んで空いている席に座った。

 

 少ししてからケーキと飲み物が運ばれ、三人は飲み物が入ったカップを手に取った。

 

 「メリクリ~!」

 

 三人は乾杯してから同時に飲み、フォークを手に取ってケーキを食べ始めた。

 

 「美味しい!」

 

 「中のブルーベリーが凄く良い…!」

 

 「メロンも美味しー!」

 

 ケーキを堪能した三人は店を出て、街をぶらつく事にした。

 

 「あれは美味かったな…帰りにもう一度寄って持って帰ろう」

 

 「おっ、良いねぇ。私もそうしようかな」

 

 「そうだ、二人とも、今晩家に来れる?百合さんが二人に来て欲しいって」

 

 「そうだな…私も特に予定は無いしな。行くか」

 

 「私も行くよ。暇だし」

 

 「決まりだね」

 

 三人は夜まで適当に時間を潰し、プラネットバックスで例のケーキを六つ程買ってブレイダの家に帰った。

 

 「ただいま~」

 

 「お邪魔します」

 

 「お邪魔しま~す」

 

 ブレイダはケーキの入った箱を下駄箱の上に置き、三人は靴を脱いで入った。

 

 「ああ、おかえりなさいブレイダちゃん」

 

 「メリークリスマース!」

 

 リビングには百合の他に玲司、神凪が席に座っており、テーブルの上にはチキンやらホールケーキやらジュースやら色々置かれていた。

 

 「ただいまー…ってこれは…」

 

 「おかえりブレイダ。もう察しの通り、クリスマスパーティよ!橘ちゃんも相川ちゃんも座って座って」

 

 「は、はい…」

 

 「凄いですねこれ…」

 

 「ガードナーの料理部や食料部、家庭部らが総力をあげて一週間前から全職員にクリスマスケーキを作ってたんだ。もちろん全て冷凍保存していたから問題は無いよ」

 

 「ガードナーの調理担当ってどれだけいるんだろう…」

 

 「全力をあげる所はそこじゃないんじゃ…?」

 

 「まあまあ、こうしてクリスマスを祝えるんだから良いじゃない、ね?」

 

 「まあ、それもそうですね」

 

 「細かいことは気にしちゃダメだね」

 

 「そうだな。気にせず食べよう」

 

 そして、三人も席に座り、百合は全員のグラスにジュースを注いだ。

 

 「メリークリスマース!」

 

 『メリークリスマース!』

 

 百合の合図で一同は乾杯し、ジュースを飲んでそれぞれチキンやらケーキやらを切り分けて食べ始めた。

 

 「百合さん、私達もケーキを買ってきたよ。プラバのケーキ」

 

 「本当?気が利くじゃない。ありがとう」

 

 「これを提案したのは誰あろう咲ちゃんだよ」

 

 「お、おいおい」

 

 「橘ちゃんなの?ありがとね」

 

 そう言って神凪は微笑んだ。

 

 「い、いえ、そんな」

 

 「まあ、ここのケーキ美味しいもんね」

 

 「百合さん達も食べて食べて」

 

 「じゃあ、お言葉に甘えて頂こうかしらね」

 

 そう言って百合達もプラバのケーキを食べ、パーティーは楽しい雰囲気のまま終わった。

 

 「それじゃあ、私達はそろそろ帰るわね。ありがとね百合ちゃん、ブレイダちゃん」

 

 「じゃあな、四人とも」

 

 そう言って玲司は神凪を連れて自分の部屋にもどった。

 

 「二人は私が送っていくよ」

 

 「本当に大丈夫?もう十時回ってるし、無理に行かなくても良いのよ?」

 

 「たまには良いでしょ?ちゃんと身を守る術もあるんだしさ」

 

 「その身を守る術が強すぎるんだよな…」

 

 「まあまあ、心強くて良いじゃない」

 

 「まあ…良いわ。早く帰ってきなさいよ」

 

 「はーい」

 

 そう言ってブレイダはマンションを出て二人と歩き始めた。

 

 すると、10メートル程の黒い帽子と黒い服の巨人が三人の前に立ちはだかった。

 

 巨人は白い袋を背負い、雄叫びをあげていた。

 

 「不審者よりもっとやべーやつ来たじゃんよ…」

 

 「こんなクリスマスの日に来なくたっても良いでしょうよ!」

 

 「ブレイダ、頼む!」

 

 「よしきた!トランスオン!」

 

 ブレイダは端末を操作し、眩い光を纏って超光戦姫ブレイダに変身した。

 

 「一体何がヤミマジュウになってるか分からないけど…さっさと倒させてもらうよ!」

 

 そう言ってブレイダはブライトサークルを作って飛び上がり、剣を構えて突進した。

 

 「ウオオオオオオオオッ!」

 

 巨人は袋を振り回し、ブレイダに叩きつけた。

 

 「きゃぁぁぁっ!」

 

 ブレイダは物凄い勢いで落下し、それを見た橘と相川は急いでブレイダを受け止めた。

 「痛たたた…ありがとう二人とも…」

 

 「大丈夫?ブレっち」

 

 「しかし、あいつの袋をなんとかしないと勝ち目がないな…あいつの袋、どんな感じだった?」

 

 「何だか…中にトゲトゲしたものが入っていたような…」

 

 「トゲトゲ?…あ!」

 

 「なにか分かったのか?」

 

 「確証はないけど…とにかく中身のトゲトゲは壊しちゃダメだよ!さっさと決めて!」

 

 「分かった!」

 

 そう言ってブレイダは立ち上がり、巨人の周りにブライトサークルをいくつも展開し、地面から飛び上がってブライトサークルの間を反射して速度をつけ、剣にエネルギーを溜めて行った。

 

 「はあああああ…!」

 

 『BANNING SMASH!』

 

 音速の速さでブレイダは巨人に接近し、剣で巨人の頭部を強くぶっ叩いた。

 

 すると、巨人の口からヤミノチカラの結晶が飛び出し、ブレイダはそれを空中でキャッチして回収した。

 

 そして、巨人はどんどん小さくなっていき、服も赤くなって一人の老人になった。

 

 「えっ!?」

 

 「嘘…!」

 

 ブレイダは地上に着地し、二人の元に近付いた。二人の前には一人の老人が立っていた。

 

 「あなたは…!」

 

 「(やあ、お嬢さん達。クリスマスの日に迷惑を掛けてしまってすまない。)Merry Christmas.」

 

 真っ赤な帽子と真っ赤な服、白い袋に黒いベルトに革靴をはくその老人は紛れもないサンタクロースだった。

 

 「サンタクロース!?」

 

 「本当にいたんだ…」

 

 「毎年お父さんがとぼけてるとずっと思ってたけど…」

 

 「私も…お母さんがずっと違うふりしてると思ってた…」

 

 「(子供達からはよく言われるよ)」

 

 そう言ってサンタクロースは愉快に笑った。サンタはブレイダの方を見て、ブレイダもサンタの方を見た。

 

 「(君が助けてくれたのかい?)」

 

 「は、はい」

 

 「(どうもありがとう。しかし、このままでは世界中の子供たちにプレゼントを届ける事が出来ない。そこで、君達に手伝って欲しいんだ。手を貸してくれないか?)」

 

 「ブレっち、サンタは何て?」

 

 「このままだと子供達にプレゼントを届けられないから、手伝ってくれないかって」

 

 「…よし、やろう!サンタと一緒なら大丈夫だ!」

 

 「うん!私も手伝う!」

 

 「二人とも…ありがとう!サンタクロースさん!私達もプレゼント配りを手伝わせてください」

 

 「(助かるよ。さあ、聖夜に奇跡を起こすとしよう)」

 そう言うとサンタクロースの前にトナカイとソリが来て、サンタは手から聖なる光を出してブレイダはバトルジャケットの上からサンタの帽子と服を、そして橘と相川の衣装をサンタの衣装に変えた。

 

 「(これで君達も立派なサンタクロースだ。さあ、子供達に夢とプレゼントを届けに行こう)」

 

 「はい!」

 

 サンタはソリに、ブレイダ、橘、相川はブライトサークルに乗ってプレゼントの袋を持ち、空へ舞った。

 

 「おおー!凄ーい!高ーい!」

 「ちょ、ちょっと高くないか?」

 

 相川と橘は街を見下ろしながら夜景を見ていた。

 

 「(これこれ、お嬢さん、気持ちは分かるが、子供はくれぐれも起こさないようにな)」

 

 「はーい、ごめんなさーい」

 

 「そうだな。今日はクリスマス。子供達には寝てもらわないとな」

 

 「今宵は聖夜だもんね」

 

 四人は世界中に飛び、急いで子供達にプレゼントを届けに向かった。

 

 「Merry Christmas…喜んでくれるといいなぁ」

 

 そう言ってブレイダは女の子の頭を撫でた。

 

 「メリークリスマス~…おー、良い子だ。相川サンタからプレゼントじゃ」

 

 そう言って相川は男の子の枕元にプレゼントを置いた。

 

 「メリークリスマス…おやおや、風邪をひいてしまうぞ」

 

 そう言って橘は二人の子供の布団を掛け直してからプレゼントを枕元に置き、頭を撫でて家を出た。

 

 「Merry Christmas…(良い子達ばかりだね。今年も安心して終えれそうだ)」

 

 そう言ってサンタクロースは男の子の枕元にプレゼントを置き、少し微笑んで家を出て、トナカイの首の鈴を鳴らしながら次の家へ向かった。

 

 そして、明け方、ブレイダ達はマンションの敷地の入口に集まり、サンタクロースもブレイダ達の元に来た。

 

 「(本当にありがとうお嬢さん達。今年も無事子供達にプレゼントを届ける事が出来て、とても嬉しいよ。それじゃあ、私はこれで。)Merry Christmas」

 

 そう言ってサンタクロースはソリに乗り、トナカイと共に空に昇った。

 

 「ありがとうサンタクロースさん!メリークリスマース!」

 

 「こちらこそありがとー!」

 「サンタさーん!メリークリスマス!」

 サンタクロースは手を振り、やがて見えなくなってしまった。

 

 「それじゃあ、私達も行こうか」

 

 そして、三人はまずは橘の家へ向かった。

 

 「今日はありがとな、二人とも。メリークリスマス」

 

 「じゃあね~。メリクリ~」

 

 「それじゃ。メリークリスマス」

 

 そして、二人は相川の家に向かった。

 

 「それじゃあ、ありがとねブレっち。メリクリ~」

 

 「メリークリスマス。じゃあね」

 

 二人を送り届けたブレイダは、自分の家に向かった。

 

 三人の枕元には、サンタクロースからの手紙とプレゼントが置かれていた。




今回はここまでです。
サンタクロースがいる世界って素敵だよね


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謎のヒロインS

新年あけましておめでとうございます。
初回から色々ぶっ飛んでます。
ヤミマジュウ・ヤミノザウルス五世登場


新年も明け、友人達と神社へのお参りも済ませ、玲司達からお年玉を貰って数日経ち、ブレイダは寝巻きのまま百合と一緒にコタツに入ってみかんを頬張ってだらけていた。

 

 「んー…暇ねぇ…ブレイダ、あなたどっか行かないの?」

 

 「つい昨日お参り行ったばっかりですよ…」

 

 そう言ってブレイダは一つ欠伸をした。

 

 「流石にこんな時にヤミマジュウも出ないでしょうよ…」

 

 「そうね…それこそこんな時に来たらやられちゃうわね…」

 

 そう言いながら二人は軽く笑った。

 

 すると、コタツの上にあった百合の携帯電話が鳴った。

 

 「百合さん、着信来てますよ」

 

 「んー?うん…」

 

 百合はそう言いながらコタツの中から片手を出し、電話に出るとそのまま仰向けに寝転んだ。

 

 「はいもしもし?」

 

 『もしもし、百合ねえさん?お久しぶりです、奈央です』

 

 「なお…えっと、声優の方ですか?」

 

 『東山奈央さんじゃないです』

 

 「えー?違うのー?」

 

 『違いますってば…零にいの妹の柊奈央です』

 

 「零の妹…あー!」

 

「えええなんですか急に!?」

 

 百合は急に叫んで起き上がり、ブレイダはそれに驚いて身体が跳ね上が

った。

 

 「来るのって今日だったっけ…?」

 

 『そうですよ。一ヶ月前位に伝えたじゃないですか』

 

 「そうだっけ…?ちょっと待ってね」

 

 そう言って百合は通話を繋げたまま、奈央とのチャット画面を開いた。その画面には確かにこの日に行く趣旨が伝えられていた。

 

 「マジだ…」

 

 いかにもやっちまったと言わんばかりの表情で百合は額を叩き、ブレイダは頭にはてなを浮かべていた。

 

 『はぁ…まあ、良いです。私とちゃんと会うのも十年ぶりですもんね』

 

 「ガードナーの基地だといつも画面越しだもんね。けっこう会ってるのに、なんだか懐かしく感じるわ」

 

 『ははは、そうかもですね』

 

 「ところで、奈央ちゃんは今どこに?」

 

 『今TK地区の駅を出た所です。もう少ししたら着きます』

 

 「うん、分かった。気を付けてね」

 

 そう言って百合は電話を切った。

 

 「百合さん、今のは誰から?」

 

 「私の夫の妹よ。貴方の叔母…って言っても会うのは十年ぶりだから覚えちゃいないわね。とりあえず着替えちゃいましょ」

 

 「はーい」

 

 そう言ってブレイダはコタツから出て自室に入り、セーターとジーンズを身につけた。

 

 すると、チャイムが鳴り、まだ着替えてる百合の代わりにブレイダが出た。

 

 「はーい」

 

 ブレイダが扉を開けると、そこには大きな荷物を持った赤い髪のツインテールの女性が立っていた。

 

 「あけおめことよろ~…ってあれ?部屋間違えた?」

 

 女性はそう言って部屋の名前を見た。

 

 「…いや、間違ってないよね…あれー?百合ねえに子供っていたっけ?」

 

 「あ、あのー…どちら様ですか?」

 

 ブレイダはおそるおそる女性に声をかけた。

 

 「あ、あー、ごめんね。緑の髪の女性っている?」

 

 「百合さんの事ですか?今着替えてますけど…」

 

 「あー、じゃあここだ。お邪魔するよん」

 

「あっ、まだ着替えて…」

 

 女性はブレイダの制止も聞かず部屋の中に入っていった。

 

 「あけおめことよろ~、百合ねえ。また女の子捕まえてない?」

 

 「捕まえてませんっ!」

 

 服を着崩しながらも百合はなんとか着替え終わっていた。

 

 「いやー、しかし本当に久しぶりだねぇ。いやー、本当、大きくなって…」

 

 百合の目線は女性の顔ではなく、胸の方に向き、舐め回すように見ていた。

 

 「ていやっ」

 

 「あだっ!」

 

 女性は百合の頭に手刀を叩き込み、百合は頭をおさえた。

 

 「ごめんね~、この人いつもこうなんだよ」

 

 そう言いながら女性はブレイダの方を向いて半分呆れながら笑って言った。

 

 「あ、あの、貴方は…?」

 

 「ああ、ごめん、まだ自己紹介してなかったね。私は柊奈央。百合ねえの主人の零にいの妹で、ガードナーの宇宙研究科所属。お嬢ちゃんは?」

 

 「わ、わたしは柊ブレイダです。ガードナー第七部隊フォワードです」

 

 「んー…となると零にいと百合ねえの子供?それにしちゃあどっちとも似つかないけど…」

 

 そう言いながら奈央はブレイダの顔を覗いたり、髪を触ったりした。

 

 「その子は拾い子よ。私の子ではないけど、自分の子供同然に育ててるわ」

 

 「ふーん、そういう事だったんだ、道理で。まあ、これから宜しくね」

 

 「あ、はい、宜しくお願いします」

 

 そう言ってブレイダは奈央が差し出した手を握った。

 

 「ところで、そっちには届いてないの?ブレイダがガードナーに入ったとか」

 

 「ああ、確かにアメリカの方にも情報は入っていたよ。第七部隊に新しい女の子が入ってヤミマジュウを倒し、ついこの間はサンタクロースと会ったとか。だけど女の子の名前までは公表されなかったんだ。だけど、まさか百合ねえのとこの子供だとは思わなかったよ。確かに子供と暮らしてるのは聞いたけどさ」

 

 「流石ガードナーと言ったところかしらね。ヤミマジュウとヒカリノチカラ、ヤミノチカラの事については何処よりも情報が早いわね」

 

 「そういう事だよ。それに、しばらくは私も日本支部にいる事になったし」

 

 「そうなの?」

 

 「ええ。並行宇宙…マルチバースにもヤミマジュウやヤミノチカラがある事も分かってきたし、そのヤミマジュウが日本に出たからね。知り合いもいるし、元々日本人の君が適任だと言われて来たんだ。しばらくは頼むよ」

 

 「そういう事なら大歓迎よ。明後日からガードナーで仕事があるから、また宇宙開発科に…」

 

 「あ、いや、私はガードナーのフォワードのサポートをしてくれって言われて来たんだ。並行宇宙の研究はアメリカ支部と宇宙支部でどうにかなるだろうし、私もフォワードのサポートをしようと思ってさ。だから困ることがあれば色々強く出来ると思うし」

 

 「そういう事ね。まあ、やる事はそんなに変わらないでしょうけど、また宜しくね」

 

 「ええ。喜んで協力しますよ。その前に、ブレイダちゃんの変身時のスペックを測らせて貰ってもいい?」

 

 「それは良いですけど、どこでやるんですか?」

 

 「確かTK地区の基地にも施設内に模擬練習所とかあった筈。そこを使うわ。早速行きましょう」

 

 「は、はい」

 

 早速、三人は暖かい格好をして外に出た。

 

 すると、大きな地響きと共に地中から十メートル程の体格で角の生えた四足歩行のヤミマジュウが出現した。

 

 「ギシャァァァァァァ!」

 

 「新年一発目ね!正直言ってめんどくさいわ!」

 

 「百合さんいつもに比べて凄く素直!もう顔に出てる!」

 

 ヤミマジュウを見る百合の顔にはめんどくさいとはっきり書かれていた。

 

 「まま、そんな事はいいじゃん。むしろ戦う所を見れるから基地に行かなくて良いわ」

 

 そう言って奈央は鞄の中から小型の機械を取り出し、片耳に装着して機械に着いた赤いレンズをブレイダの方に向けて耳元に着いたボタンを押した。

 

 「あ、あのー、奈央さん?その機械は一体…」

 

 百合は奈央の機械を見ながら言った。

 

 「ん?ああこれ?対象の色々な数値を測る機械よ。決して宇宙のどこかにある軍の戦闘力を測る道具とかではないわ。偶然似てるだけよ」

 

 「は、はぁ…偶然」

 

 「まあ、細かいことは気にしない。さっ、ブレイダちゃん、いつもやってる通りヤミマジュウ倒しちゃって!」

 

 「は、はい!トランス オン!」

 

 ブレイダはデバイスを操作して胸元に装着し、眩い光に身を包んで変身を完了した。

 

 「おおー、これがトランスオン…凄いな…」

 

 そして、ブレイダは剣を握り、ヤミマジュウの元に駆けつけた。

 

 「はっ!」

 

 ブレイダは素早く上に飛び上がってヤミマジュウの攻撃を避けた。

 

 「ヒカリノチカラの出力も上がってる…」

 

 「だぁぁぁ!」

 

 ブレイダは空中で前転をして剣を両手で握り、大きく振り上げてヤミマジュウの鼻目掛け振り下ろした。

 

 すると、ヤミマジュウの周りにバリアが張られ、ブレイダの攻撃は弾かれてしまった。

 

 「なっ…!?」

 

 「弾かれた…!ブレイダ!早く下がって!」

 

 ヤミマジュウはチャンスと言わんばかりに首を振り、ブレイダの胴体に頭突きを食らわせた。

 

 「あああああああっ!」

 

 悲鳴と共にブレイダの身体は地面に叩きつけられた。

 

 「ギシャァァァァァァ…!」

 

 「う…く…!」

 

 ブレイダが身体を起こす暇もなく、ヤミマジュウは前足でブレイダの身体を突き飛ばした。

 

 「うあああっ!」

 

 「ブレイダ!」

 

 ヤミマジュウはブレイダに狙いを定め、ブレイダの方に向かって進み始めた。

 

 「ヒカリノチカラの出力低下中…結構ヤバいかも…」

 

 ブレイダの胸のコアクリスタルは点滅が始まっており、身体も満足に動かせない程に痛めつけられていた。

 

 「くっ…まだ!」

 

 ヤミマジュウが両足でブレイダを踏み潰そうとした途端、ブレイダは身体の下にブライトサークルを作り、素早く動かしてヤミマジュウの攻撃から寸前で回避した。

 

 「まだまだ…本当の戦いはここからだ!」

 

 ブレイダは自分を奮い立たせ、力強く立ち上がった。

 

 すると、空の彼方から青黒い彗星の様な物がブレイダ達の元に急接近し、彗星が落ちた場所から煙と共にサリエールが鎌を持ってブレイダの前に浮上した。

 

 「あなたは…」

 

 「この程度のヤミマジュウに手こずるとはな…私の見込み違いだった様だ」

 

 そう言ってサリエールはヤミマジュウに急接近し、ヤミマジュウはブレイダの時と同じようにバリアを展開した。

 

 「…はっ!」

 

 サリエールの鎌はいとも容易くヤミマジュウのバリアを砕き、サリエールはヤミマジュウの角を斬り裂いた。

 

 「ギシャァァァァァァ!」

 

 それに怒ったヤミマジュウはサリエール目掛けて頭突きをしようとした。

 

 「…捉えた」

 

 サリエールは刃の伸びた鎌を振り下ろし、ヤミマジュウの首は重い音を立てて地面に落下し、頭が無くなった胴体は更に重たい音を立てて倒れ、首元からヤミノチカラの結晶が出現し、結晶はサリエールの手の平の上に落下した。

 

 「か、返して…!」

 

 「返せだと?何を寝ぼけた事を。何故貴様の様な弱者にやらねばならない。これは私がヤミマジュウの命と共に奪ったものだ。欲しければ私から奪ってみるんだな」

 

 「ぐ…!だぁぁぁ!」

 

 ブレイダは剣を強く握り、ブライトサークルを強く蹴ってサリエールの元に飛び立った。

 

 「はあっ!」

 

 サリエールはブレイダの剣撃を鎌で受け止め、ブレイダの首元を掴んで強く引き寄せ、ブレイダの息が一瞬止まった。

 

 「そんなボロボロの身体で私にかなうと思ったか?」

 

 「そんなのやってみなくちゃ…!」

 

 「やらずとも分かる…はぁっ!」

 

 そう言ってサリエールはブレイダの身体を離し、腹部に強烈な一撃を入れた。

 

 「あ…あが…っ」

 

 サリエールは落下しようとするブレイダを逃がすまいとブレイダの頭部を強く掴み、ブレイダの顔を片手で引っ張りあげた。

 

 「元々から違うんだ…何も無かったお前がずっと闘い続けてきた私に勝てる可能性など元々無かったんだ…」

 

 そう言うサリエールの顔は不敵に笑っていた。だが、その目には哀愁が感じられた。

 

 「う…うぐ…っ!」

 

 ブレイダは強くサリエールを睨みつけ、それが気に食わなかったのか、サリエールの顔から笑みが消え、少し歯軋りした。

 

 「…地獄に落ちろ!」

 

 そう言ってサリエールは振りかぶってブレイダを地面に投げ、それを追いかける様に飛び立ち、鎌を強く握って振り下ろした。

 

 「ああああっ!」

 

 サリエールはブレイダの胸を踏みつけながら着地し、ブレイダに顔を近付けた。

 

 「次に邪魔をするようなら死以上の恐怖を見せてやろう…二度と邪魔をしようなんて思わないようにな…」

 

 そう言ってサリエールはその場から姿を消し、百合と奈央は倒れているブレイダの元に駆け寄った。

 

 「ブレイダ!ブレイダ!?返事をして!」

 

 百合は何度もブレイダの身体を揺すったが反応は無く、奈央は素早くブレイダの胸に耳を当てた。

 

 「…大丈夫、まだ心臓は動いてる。とにかく、早くガードナーの医学部に!」

 

 「ええ!」

 

 百合と奈央はブレイダを車内に寝かせ、ガードナーの基地に向かい、ブレイダを医学部に送った。

 

 「…ブレイダ…」

 

 「百合ねえ…」

 

 待ち合い室の椅子で二人はブレイダの無事を祈りながら待っていた。

 

 「…そう言えばさ」

 

 「?」

 

 「百合ねえが心配してる時に申し訳ないんだけど、ブレイダのあの武器の名前ってあるの?さっき装着越しに見てた時、ブライトサークルの名前は出たけど、剣?の名前は出なくって」

 「あー…そう言えば…前に最適化された時、名前も無くなったのね」

 

 「ん?最適化?」

 

 「ええ。前の装着者からブレイダに受け継ぎ作業をする時にね。カラーリングや細部の調整、武器の形状やら色々変えたから、その時にリセットされたのよ」

 

 「そういう事ね」

 

 すると、待ち合い室に相川と橘が息を切らしながら走って入ってきた。

 

 「百合さん!ブレっちは…」

 

 「まだ診察中だけど…あなた達、どうしてここに?」

 

 「外で凄い音がして、その後に外に出てみたら百合さんの車を見かけたから何かあったと思って…」

 

 「外にはヤミマジュウの死骸が落ちてるし、ブレっちは車の中で寝てるから必死で追いかけたらこの中に入ってくのが見えたから、とにかく追いかけてたんです」

 

 「そういう事…」

 

 「百合ねえ、この子達は?」

 

 奈央は百合の方を向いて聞いた。

 

 「この子達はブレイダの友達よ。相川ちゃんと橘ちゃん」

 

 「初めまして、橘咲です」

 

 「は、初めまして…相川…翔子です…ふぅ」

 

 相川は息を整えながらなんとか橘と一緒に奈央に頭を下げた。

 

 「初めまして。私は柊奈央。百合さんの義理の妹よ」

 

 「義理の妹さんですか」

 

 「あれ?でも私達百合さんの主人を見たことが…」

 

 「おっと、相川ちゃん、ちょっとそれ以上はタブーよ」

 

 「?」

 

 すると、診察室の中から、手すりに捕まりながら歩くブレイダの姿が見えた。

 

 「ブレイダ!」

 

 百合は誰よりも早くブレイダに駆けつけ、三人もブレイダに駆け寄った。

 

 「大丈夫?」

 

 「なんとかね…あれ?橘さん?相川さん?」

 

 ブレイダは二人に気付き、二人はここに来た経緯をブレイダに伝えた。

 

 「そう言う事だったんだね…二人とも来てくれてありがとう」

 

 「礼なんて良いって良いって」

 

 「ブレイダが無事ならそれで良いんだ」

 

 そう言う二人はどこか恥ずかしそうだ。

 

 「あんたいい友達持ってるんだね。ちゃんと大事にしなよ?」

 

 そう言いながら奈央はブレイダの頭を撫でた。

 

 「は、はい」

 

 「これからは私ともどもよろしくね、お二人さん」

 

 そう言って奈央は相川と橘の頭も撫でた。

 

 「ところで、ブライトサークルって名前は誰が考えたの?」

 

 「それはブレイダ自身よ。それで、必殺技のバニシングスマッシュは橘ちゃんと相川ちゃん」

 

 「バニシングスマッシュって必殺技の名前だったのね。何の名前だろうとずっと考えてたわ。まあ、それならブレイダちゃんの武器の名前も一緒に考えてもらおうかな」

 

 「武器の名前?」

 

 「ええ」

 

 「どうする?翔子」

 

 橘は腕を組みながら相川の方を向いて言った。

 

 「わ、私!?うーん…剣でしょ?」

 

 「ソード…セイバー…うーむ…」

 

 「心に剣…輝く勇気…あっ!」

 

 相川は何か思いついた様に手の平の上に縦に拳を置いた。

 

 「ブレイブレードってどう?」

 

 「ブレイブレード?ブレイブブレードじゃダメなのか?」

 

 「それじゃちょっと言いづらいじゃん?それで、ちょっと縮めてブレイブレードって訳よ」

 

 「なるほどな…」

 

 「それに、ブレっちもヤミマジュウと戦うのには勇気がいるからさ、それで勇気の証の剣って事でブレイブレードって事よ」

 

 「確かに、あんな怪物と戦うのにも勇気がいるからね。凄く良いと思うよ」

 

 「それじゃあ決まりだね。どうせこれも名前入れるところあると思うよ」

 

 「そうだね。ちょっと待って…あった!」

 

 ブレイダはデバイスを操作し、早速名前を入力した。

 

 「えっと…こう…かな?」

 

 ブレイダは文字を入力し、最後に確認用の読み上げ音声を聞いた。

 

 『BRAVLADE』

 

 「うーん、まあ、少し怪しいが良いだろ」

 

 「そうだね。どうせ音声だけが聞こえるんだし、そこまで気にしなくても良いでしょ」

 

 「うん、ありがとう。大事にするよ」

 

 「まあ、名前を呼んでくれた方が愛着も湧くしな。大事にしてくれ」

 

 「とにかく、ブレイダが無事で本当に良かったわ。二人もありがとね」

 

 一同はガードナーの基地を出て、百合は車で二人を送り届け、そのまま家に向かった。

 

 「しかし、ヤミノチカラを狙う奴もいたなんてね…あの子も対策も色々しないとね」

 

 「うん…それに…」

 

 「それに?」

 

 「あの子の目は…どこか悲しそうだった」

 

 「…救ってあげたいって?」

 

 ブレイダはこくりと頷いた。

 

 「…分かった。私も、色々開発してブレイダちゃんの役に立つような装備を作るよ」

 

 「奈央さん…!」

 

 「私も、できる限りブレイダのサポートはしていくわ。また次は負けないように」

 

 「百合さん…!ありがとう…」

 

 「ま、それにガードナーとしてもあの子には色々聞きたいことが山ほどあるからねぇ」

 

 

 

 ヤミノチカラを男に渡したサリエールは一人星空を窓から見ていた。

 

 「…寂しい…?」

 

 何を言っているのだ私は。私にはあの方が…ガディサイト様がいる。いつも私の側にいるではないか。そんな感情を覚えることなどない筈だ。それに、彼女もいる。

 

 「…少し、良いか」

 

 そう言ってサリエールは目を瞑った。

 

 『あら、久しぶりね、サリエールちゃん。そろそろ私に身体を返してくれる気になった?』

 

 サリエールの周りには白い空間が広がっており、前方にはサリエールと全く同じ顔をした、どこかの制服を纏った一人の少女が立っていた。

 

 「そんなのではない。私にも寂しいと言う感情が芽生えた…どう言うことだ」

 

 「あなたが心のどこかでそう思ったんじゃないの?あ、だからまだ私が残ってるのか」

 

 「フン、お前に何が」

 

 「まあね、あなたの事が百パーセント、十割分かるかって言われたらそんな事はないけれど…同じ身体だもん、何を考えていて、何を感じているのか位は分かるわ」

 

 「フッ…言わせておけば…」

 

 「あら、本当に寂しくないなんて言える?話し相手がガディサイトさんか私しかいないのに」

 

 「…」

 

 「必殺技の名前も、武器も、衣装も、全てガディサイトさんから貰った物じゃないの。それを棚に上げてあの子…ブレイダちゃんに『何も無い』なんて言うのは酷いんじゃない?」

 

 「…黙れ、今すぐお前を消してやろうか」

 

 「あら、そんな事して解決するのかしら?解決するなら話は別だけど」

 

 「チッ…お前と話したのは時間の無駄だったようだ」

 

 そう言ってサリエールはもう一度目を瞑り、目を開けると自室に戻っていた。

 

 「…私にはガディサイト様さえいれば…充分だ」

 

 そう言いながら星を見つめるサリエールの目はどこか切なさそうだった。




今回はここまでです。
キャラ紹介
柊奈央(ひいらぎなお):百合の義理の妹で、昨年までアメリカにいたが日本にヤミマジュウが出たことを聞きつけて日本に帰ってきた。彼女の兄であり、百合の夫である零とは対照的に赤い髪の色をしている。
サリエール:ヤミノチカラを使って変身し戦う少女。その正体は未だに不明である。
???:サリエールの体の中にいるもう一つの精神。サリエールの肉体の中にずっといたらしく、ある意味サリエールの一番の理解者である。


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打倒!ヒロインS!

どんどんサリエールちゃんとブレイダちゃんが戦闘民族化していくが気にするな!


「…ずっと気になってるんだけど、ブレイダちゃんって変身出来るようになってからそんなに経ってないよね?」

 

 百合と奈央の二人はガードナーの基地内の第一研究室におり、奈央はお茶を飲みながら百合に聞いた。

 

 「?ええ、そうよ。それがどうしたの?」

 

 「あの子の戦闘能力について少し気になってね。二年、三年も経ってあれだけ慣れている、なら納得はいくんだけど、まだ半年も経ってないのにヤミマジュウを倒すのはおろかヤミノチカラだけを叩き出す事を目指して戦っているし、あの青い子に邪魔された時以外は全部成功している…」

 

 「まあ、そうね」

 

 「…いくらなんでも戦闘慣れしてない?」

 

 「言われてみれば確かにそうだけど…あの子はれっきとした人の子よ。本当の親こそいないけど、ずっと普通の女の子として育ってきた…ただそれだけのことよ」

 

 「…まあ、百合ねえがそう言うならそれでいいんだけどさ、どうしてこんなに戦闘に慣れているのかもいつかははっきりさせないと。それこそ天性の才能で片付けられるようなものじゃないし」

 

 「…そうね」

 

 

 

 学校の終業のベルが鳴り、ブレイダ達三人はいつも通りの帰路についていた。

 

 「ねえねえブレっち、ちょっと聞いていい?」

 

 相川はブレイダの方を向いて言った。

 

 「ん?良いよ」

 

 「ブレっちってさ、なんでヤミマジュウと戦うのにそんなに慣れてるの?」

 

 「言われてみれば気になるな。前々からそう言う特訓でもしてたのか?」

 

 「どうなんだろう…私も普通に育ってきたし、そんなヤミマジュウと戦うような練習なんてしてないし…」

 

 「ふむ、分からんな。次にヤミマジュウが出てきた時に考えずに動けているのか、それとも考えながら動いているのか…それを見てみないとな」

 

 「そうだね。まあ、考えずに動けてたらそれこそ凄いけどね」

 

 「そんなのが出来たら苦労しないよ。…あ、じゃあここで」

 

 「おう、またな」

 

 「んじゃね~」

 

 「また明日~!」

 

 そう言ってブレイダは二人と分かれ、家のドアを開けた。

 

 「ただいま~。あれ?いないのかな…」

 

 制服でいても仕方がないのでブレイダは自室に行って普段着に着替え、リビングのコタツに入ってテレビをつけた。

 

 「あー…何も起きないって良いな…」

 

 テレビ番組を眺めている内に睡魔が襲いかかり、ブレイダはクッションを枕代わりにして眠ってしまった。

 

 少ししてから百合と奈央が帰宅し、鞄を置き、二人は寝ているブレイダに気が付いた。

 

 「あっ、こやつ寝てら」

 

 「ったく、こんなとこで寝たら風邪ひくわよ。ほら、起きなさい」

 

 百合はブレイダの肩を揺り起こした。

 

 「んー…?あ、おかえり」

 

 「ああうんただいま。そうじゃなくて、コタツで寝てたら風邪ひくよ」

 

 「あ、ご、ごめんなさい」

 

 そう言ってブレイダは身体を起こした。

 

 「まあまあ、百合さんもこないだ寝てたじゃん」

 

 「それ言われると弱るわね…」

 

 苦笑いしながら百合は言った。

 

 (こう見るとやっぱり普通の女の子なんだよね…戦闘中に人格が変わる事もない…やっぱり、体内にあるヒカリノチカラが関係している…?)

 

 二人のやりとりを見ながら奈央は顎に手を当てて考えていた。

 

 「どうしたんですか?奈央さん」

 

 奈央に気付いたブレイダは彼女の方を見た。

 

 「ん?ううん、なんでもない」

 

 奈央は首を振って言った。

 

 「?」

 

 ブレイダは首を傾げた。

 

 

 

その晩、ブレイダが寝静まった後、奈央は百合にとある相談を持ちかけた。

 

 「これからしばらくブレイダをトレーニングさせたい?」

 

 「うん。多分だけど、特訓によっちゃあ凄く強くなれる」

 

 「でも、そんなトレーニングに最適な場所なんてあるの?」

 

 「あの時から十何年も経ってるんだよ?それくらいずっと前に出来てるよ」

 

 「出来てるんだ…で、どんな部屋?」

 

 「うん、少し詳しく話をすると、その部屋とこの世界の時間の流れ方が違ってて、その部屋の中だと二年なんだけど、この世界だと一日しか経たないって訳。しかも、重力の操作も出来るし、大怪我を負ってもすぐに治療出来るアイテムもある。それで、時間の流れも違うから年も取らないからブレイダちゃんの学業には問題ないって訳」

 

 「そんな部屋がいつの間に…」

 

 「結構前からあったんだ。だけど、使う人も鍛えるべき人もいなかったから存在感は薄かったけどね」

 

 「そうだったのね…まあ、いつどんなヤミマジュウが現れるか分からないし、やらせて見ようかしら…」

 

 次の日、ブレイダが学校から帰ってきた後、百合とブレイダと奈央の三人は早速ガードナーの基地に行き、奈央はブレイダにその部屋を紹介した。

 

 「とまあ、こんな部屋なんだけど…どう?入ってみる?」

 

「え、えーと…」

 

 「まあ、入るか入らないかはブレイダの自由だから、入らないなら入らないで良いのよ」

 

 「うーん…少し考えさせて下さい」

 

 「ま、そうだよね…」

 

 すると、地響きと地震が起こり、外からヤミマジュウの咆哮が聞こえた。

 

 「とりあえず答えはヤミマジュウと戦ってからね」

 

 ブレイダは外に出てヤミマジュウの元に走って向かい、百合と奈央は基地でブレイダのサポートに回ることにした。

 

 「今度でブレイダちゃんの真価が分かるわ…」

 

 奈央はモニターでヤミマジュウの元に向かっていくブレイダを見ながら言った。

 

 「グオオオオオ!」

 

 ヤミマジュウはブレイダに向けて数本の触手を伸ばした。

 

 「トランス オン!はぁぁっ!」

 

 ブレイダは飛び込んでくるヤミマジュウの二本の触手を飛び上がって変身し、空中でデバイスを胸に装着して変身を完了させ、足元にブライトサークルを出現させてブライトサークルを蹴り飛ばしてヤミマジュウの触手を二本根元から切り落とした。

 

 「グルルル…」

 

 しかし、切られた触手は瞬く間に再生し、元に戻った。

 

 「やっぱり、そう簡単にはいかないみたいだね…」

 

 ブレイダはブレイブレードを手に構えながら言い、十メートル程の大きさの貝の様なヤミマジュウと対峙した。

 

 『もしもしブレイダ、聞こえる?こちら奈央』

 

 「こちらブレイダ。大丈夫です」

 

 『丁寧な対応ありがとう。やつの本体はその外殻の中にあって、ヤミノチカラもその中に入ってる。外殻は固くてとても壊せる様なものじゃないから、触手をかいくぐりながら中の本体を倒して』

 

 「了解!」

 

 ブレイダは早速ブライトサークルを発生させ、二本飛び込んできたヤミマジュウの触手を両方切り裂き、ヤミマジュウに飛び込んだ。

 

 「ガァァァァァ!」

 

 ヤミマジュウは更に触手を増やし、ブレイダを捕らえようとしていた。

 

 「くっ!そんなの!」

 

 ブレイダはブライトサークルを連なる様に出現させ、サークルの上をスライディングして触手をすり抜け、少しだけ出ていたヤミマジュウの顔に重い剣の一撃を食らわせた。

 

「グルルルルル…」

 

 「はぁぁぁ!」

 

 ブレイダは続けて飛び上がりながらヤミマジュウの触手をかわして顔に蹴りをいれ、剣で縦と横に二回ずつ打撃を入れた。

 

 しかし、どうにも怯んでいる様子はなく、ブレイダはヤミマジュウから一旦距離を置こうとして後ろに飛び上がった。

 

 「ガァァァ!」

 

 すると、ヤミマジュウは両目から赤い光線を放った。

 

 「ああああっ!」

 

 ブレイダはヤミマジュウの光線に撃ち落とされ、ヤミマジュウは触手をムチのようにしならせてブレイダを地面に叩きつけた。

 

 「くっ…!」

 

 ヤミマジュウはしめたと言わんばかりにブレイダに触手を叩きつけ始めた。

 

 「グルルル…!」

 

 「うっ…く…ああっ!」

 

 そして、ヤミマジュウが大きな一撃を喰らわせようと振りかぶって自分に叩きつけようとしたのをブレイダはこれ見よがしに横に転がって避け、力を振り絞って立ち上がった。

 

 「く…」

 

 ブレイダは肩を抑えながら息を切らせ、コアクリスタルを点滅させながらもヤミマジュウを睨みつけた。

 

 「ガァァァ!」

 

 気付くと、ヤミマジュウは触手を巨大な塊にし、ブレイダに叩きつけようとしていた。

 

 「はっ!くっ!」

 

 ブレイダはそれをなんとかして避けようとしたが、足が言うことを聞かず、思うように動かなかった。

 

 「こんなところで…くっ!」

 

 覚悟を決め、ブレイダは目を瞑ったその時だった。

 

 「はっ!」

 

 斬撃音と共に重い音が鳴り響き、ブレイダはおそるおそる目を開けた。

 

 「やはり貴様はその程度だな」

 

 目の前に浮いていたのは、鎌を振りかざした後のサリエールが立っていた。

 

 「貴方は…」

 

 「お前はそこで見ていろ」

 

 サリエールはヤミマジュウの触手が修復されるよりも早くヤミマジュウの懐に飛び込み、ヤミマジュウの顔に肘打ちを決めてヤミマジュウを怯ませ、素早くヤミマジュウの殻の中に飛び込んで行った。

 

 「早い…」

 

 そして、ヤミマジュウの殻の中が青く光ったかと思うと、サリエールはヤミノチカラの水晶を持って殻を突き破り、鎌の刃を伸ばしてヤミマジュウの殻を本体ごと斬り裂き、大きな爆発が起きた。

 

 「あ、ああ…」

 

 爆風の中からヤミマジュウだった生物の死骸がブレイダの足元に転がって来て、ブレイダのつま先にぶつかった。

 

 「そ、そんな…」

 

 「やはり弱いな…所詮下級戦士、無様なものね」

 

 「く…」

 

 「この場でお前を消しても良いが…それではつまらない。何よりまだ消す時でもない」

 

 「……!」

 

 「三日後、私はまたここに来る。そこでお互いのヤミノチカラを賭け、決闘と言うのはどうだ?」

 

 「そ、そんなの…」

 

 「受けないのならばお前の仲間を全て消す」

 

 「な…!皆は関係ない!」

 

 「これは勿論ハッタリでもなんでもない。お前が決闘を受けないと言うのなら、私は本気でお前の家族や友達全てを消す事だって躊躇すること無く消す。これでもまだ受けないと言うの?」

 

 「…分かった!決闘でもなんでも受ける!だから皆は殺さないで!」

 

 それを聞くとサリエールは不敵な笑みを浮かべた。

 

 「そうだ、それでいい。では三日後を楽しみにしている」

 

 そう言うとサリエールは青いオーラを発しながら飛び去って行った。

 

 「くっ、はぁ…はぁ…」

 

 サリエールが去った途端、ブレイダは膝から崩れ落ちた。

 

 『ブレイダ!大丈夫!?』

 

 「こ、こちらブレイダ…大丈夫です」

 

 『良かった…とりあえず基地に戻ってきて』

 

 「は、はい」

 

 ブレイダは変身を解除し、まだ震えている手足を動かしてガードナーの基地に戻った。

 

 「とにかく、ブレイダちゃんが無事で良かった」

 

 「…でも、あの子とは三日後に決闘だって…お互いのヤミノチカラを賭けて…」

 

 「そう言えばそうだったわね…どうする?」

 

 「まあ、決闘をせずに自分達のヤミノチカラを渡す、ってのも一つの手だと思うけど…」

 

 「ブレイダちゃんは、どうしたい?」

 

 司令室にいた玲司、神凪、奈央、百合はブレイダを見た。

 

 「…修行させてください!私、みんなを守るために強くなります!」

 

 「…よし!分かった!俺も精一杯ブレイダちゃんの修行を手伝おう!」

 

 「玲司さん…よし、私も!」

 

 「奈央まで…分かった。私も」

 

 「皆やる気なんじゃない。私もやれることはするわ」

 

 「よし、決まりだな。明日からブレイダちゃんを全力を尽くして鍛えあげるぞー!」

 

 「「「「おおー!」」」」

 

 満場一致でブレイダの修行が決まった。

 

 「じゃあ、まずはブレイダちゃんの怪我を治さないとね。ほら、これ飲みな」

 

 奈央はブレイダに液体の入った小さなカプセルを渡した。

 

 「なんですか?これ」

 

 「まあまあ、飲んでみて」

 

 「はぁ…」

 

 ブレイダは奈央に言われるまま、その液体を飲み込んだ。

 

 すると、身体中の傷が治り、ブレイダの身体は完全に回復した。

 

 「こ、これは…」

 

 「ガードナー特製の回復カプセルよ。これ一つあれば腕がとれようが身体が吹きとぼうが生きてれば全部治るって訳」

 

 「ガードナーってそんなものまで作れるんですね…」

 

 「結構前から作れてたしね。ま、難しい話は今はやめときましょう」

 

 「さ、それじゃあ早速家に帰ってゆっくり休んでから修行ね。気合い入れて行くわよ!」

 

 そう言って百合はブレイダの頭を撫でた。

 

 「はい!」

 

 「良い返事だ」

 

 そして、ブレイダは百合と共に家に向かった。

 

 その道中、相川と橘の二人にその事を話したところ、二人もブレイダの修行を手伝うと言い、何かしらのトレーニング機器を持ってくるという約束で承諾した。

 

 そして、次の日、怜司とブレイダはガードナーのロゴが入ったジャージを着て例の部屋へ入り、他の五人は重力緩和スーツを着用して部屋の中に入った。部屋の中の時間は朝の6時を指していた。

 

 「まず、俺は主に実戦などの戦闘訓練担当だ。まあ、簡単に言えば模擬戦をやる。百合は主に体力作りなど担当する。走り込みとか、体幹を鍛えるんだ。それで、奈央は剣術の練習やスパーリングの特訓担当だ。そして、橘と相川の二人にはストレッチやその場の判断力など、色々な技術や能力を身につける特訓の担当だ。」

 

 「あと、百合ねえとブレイダには言ってなかったんだけど、ここは設定次第で地形も変形出来るから、それも活かしてね」

 

 「そう言う訳だ。皆、分かったか?」

 

 「はい」

 

 「おう!」

 

 「よし!」

 

 全員強く頷き、玲司もそれに応えるように強く頷いた。

 

 「土日合わせて二年とは言え時間が惜しい。早速始めるぞ!」

 

 早速、ブレイダと玲司達はトレーニングに取り掛かった。

 

 まず、早朝の三十分は橘がブレイダの身体をほぐしたり、柔軟をしたりと準備運動をし、その次に百合が山、谷の地形をブレイダに走らせるのを二時間、その後に腹筋、背筋など、身体中のトレーニングを二時間、その後に奈央との剣術の練習を一時間、その後にスパーリングを一時間し、昼休みを一時間挟んで、ガードナーの科学で作ったバーチャルヤミマジュウ操縦機を相川が使ってヤミマジュウの模擬戦を三時間、その後に玲司との模擬戦及び実戦を三時間行い、夜は普段は山の上で瞑想させ、落ち着かせて力のコントロールを身につけ、元の世界での勉強を忘れないように定期的に復習を行うと言うスケジュールを立てた。

 

 模擬戦が終わる毎にブレイダに回復用のカプセルで回復させ、死の淵から復活することで更に強くなるヒカリノチカラの特性を利用する、いわば一種のドーピングも使用して修行をつけていくのである。

 

 最初の三週間ほどは何も縛りを設けずに行い、ブレイダが慣れてきたところで十キロの重りを身体につけて行うのを二ヶ月、そしてまた慣れたところを二十キロの重りに変えて一ヶ月、またまた慣れたところを四十キロに変えて一ヶ月、そして慣れたところで重力を一ヶ月毎に十倍ずつ上げていった。

 

 ブレイダにとっては地獄の様な時間であり、時には三途の川の幻を見たり、天国に行きかけたが、サリエールの忠告や皆の応援を思うと、決して投げ出さずに真面目に取り組んだ。

 

 そして、二年経ち、部屋の重力装置を止め、ブレイダ達は部屋から出た。

 

 「よし、よく二年間、最大二百倍の重力に耐えた。正直、五十倍位で根を上げるもんだと思っていたが…よくやった」

 

 「ど、どれだけ強くなったのかな…?」

 

 見た目にはあまり変わりはないものの、部屋から出る前と比べてかなり余分なものはなくなり、よりシャープになった印象だ。

 

 「ふーむ、スパーリングやらで力はどれくらい付いたかは分かってるけど、どれ、一回変身してみ」

 

 「はい。変身!」

 

 ブレイダは奈央に言われてデバイスを操作し、変身した。

 

 ブレイダの身体は眩い光を身に纏い、その光がドーム状に大きくなり、光の中から超光戦姫ブレイダが歩いて出てきた。

 

 「はあっ!」

 

 ブレイダは腕を払って光のドームを消し、辺りには凄まじい突風が吹き荒れ、一同は顔を手で覆った。

 

 「なんて凄いヒカリノチカラの量だ…いや、地球人でもここまで強くなれるもんなのか…?」

 

 「に、人間の戦闘レベルを完全に超えている…一体どんな修行をしたと言うんだ…!?」

 

 「いや、私達はずっと見てきたじゃない…」

 

 「こ、これが私…!?」

 

 「ああ。二年の努力の賜物だ」

 

 「す、凄い…!皆さん、二年間ありがとうございます!翔子も、咲もありがとう!」

 

 「良いのよ。私たちも興味本位で行ったらなんか凄い事になったし、成り行き上というか…ね?」

 

 「ああ。ブレイダのヤミマジュウの戦いはずっと見てきたからな。私達に出来ることが出来て良かった」

 

 「二人とも…本当にありがとう!」

 

 ブレイダは涙ぐみながら二人に抱きついた。

 

 「よ、よせやい、照れるじゃないの」

 

 相川がそう言って一同は笑った。

 

 そして、ブレイダは変身を解き、一同は帰路に着いた。

 

 「でもあれだね、ブレっちが飛びついて来た時、めちゃくちゃ痛いかなーって思ったけどそうでもなかったね。寧ろ前と同じというか」

 

 「そう言えば…なんでだろうな?」

 

 「おそらく、自然に力のコントロールが出来ているんだろう。おまけに、変身した後でもほとんど力を放出せず、落ち着いていた」

 

 「おお…やっぱ日々の瞑想の成果だね」

 

 「瞑想パワーすげぇ…スカウターがあったら戦闘力を見てみたいな」

 

 「多分ぶっ壊れるぞ」

 

 「玲司さん凄い自信だね…」

 

 「ああ、まだまだ俺に及ばないとはいえ、極限まで鍛え上げたからな」

 

 「流石模擬戦をやってきただけあるなぁ」

 

 「だろ?まあ、後はブレイダが例のあのヒロインとどこまで戦えるか、だな。強くなったとは言え、あいつもどこまで力を出してるかわからんからな」

 

 「そうだね…頑張ってよ、ブレっち」

 

 「私達も応援してるからな」

 

 「うん。やれるだけの事はしてみるよ」

 

 そう言うブレイダは、サリエールと別れた直後とは違い、明鏡止水の如く落ち着いていた。

 

 




今回はここまでです。
次回はサリエールとブレイダちゃんの一騎打ち!


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激闘!ブレイダ対サリエール

さあ、ついに頂上決戦!
二人の変身ヒロインが持てる力を全てぶつけ合うッ!
クロスさんもイメージイラストを描かれていますよ!
https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=71818111 【オリジナル】変身ヒロインの戦闘シーンイメージイラスト | クロス #pixiv


「ねえ、少し聞いてもいい?」

 

「ん?どうしたの?相川さん」

 

車を運転している玲司以外が相川の方を向いた。

 

「二年間ブレっちのヒカリノチカラの特性を使ってトレーニングしてたけどさ、どうしてブレっちのヒカリノチカラの特性を知ってたの?」

 

 「言われてみれば…どうして知ってたんですか?」

 

 橘も他の四人に聞いた。

 

 「前に、ブレイダちゃんがヒカリノチカラが不足してて戦えなくなってた事があったじゃない?あの時についでに解析したのよ。そしたら、命を落としかけるほどの大怪我をしたりした時に全快させると更に強くなる特性を持ってた訳。これは戦闘タイプのヒカリノチカラの特性で、別にこれは珍しい特性ではないんだけど、ブレイダちゃんがあれだけ強くなったのはめちゃくちゃな組手を沢山やったり、あるいは常識を超えた修行を沢山したから、それだけ伸びたんだと思うわ」

 

 神凪が簡単に相川に説明した。

 

 「つまり、激しい戦闘を行えば行うほどどんどん強くなる、という事ですか?」

 

 「まあ、そんなところね」

 

 橘が綺麗にまとめた。

 

 「満月を見て大猿になったり激しい怒りで金髪になって五十倍強くなるとかは?」

 

 相川は目を輝かせながら神凪に聞いた。

 

 「流石にそんなジャンプの漫画の主人公にいそうな特性はないけど…第一その民族は全員黒髪じゃないの」

 

 「ま、それに…おそらく敵のあの子も同じヤミノチカラの特性を持ってるわ」

 

 「えっ!?」

 

 百合の発言に一同は目を丸くした。

 

 「なんでそんなことが分かるんですか?」

 

 「あくまで私の推測にすぎないけど、最後に出会ったヤミマジュウはその前に出会ったヤミマジュウよりも格段に強かった。だけど、あの子は同じ調子で倒してたの。だから、もしかしたらあの子には仲間がいて、それがあの子を強くしている要因だとしたら、って思ってね」

 

 「なるほど…確かにそれなら、そいつが強くなってても不思議ではない、って訳か。となると、そいつの仲間はそいつよりも強い、ってことになるな…」

 

 「うん、そうなるよね…」

 

 「まあ、明日戦うのはそいつだけだ。そいつの仲間が来るにしても、戦うのはブレイダとそいつの一騎打ちだ。心配することはねえよ」

 

 「しかし…」

 

 「大丈夫だよ咲ちゃん。絶対勝つからさ」

 

 そう言ってブレイダは橘の方を向いて拳を強く握って見せた。

 

 「そうか…分かった。信じてるぞ、ブレイダ」

 

 橘もそう言って頷いた。

 

 「決闘の場所は最後にヤミマジュウが出た場所…そこに来るんだったな」

 

 「学校はいいの?」

 

 「そこは大丈夫だよ。明日は学校は学校が出来た日の記念日だから休みだよ。…ね?」

 

 心配そうに相川は橘の方を向いて聞いた。

 

 「ああ。ちゃんと休みだから安心しろ」

 

 それを聞いて橘は胸をなで下ろしてホッとした。

 

 「ブレイダちゃんは明日に備えて今日は早く寝る事だ。他の皆も、二人の戦いが見たいって言うならガードナーの基地からだ」

 

 「はい!」

 

 「応援してるよ!ブレっち」

 

 相川はブレイダの手を握ってそういった。

 

 「私もだ。変われることなら変わってやりたいが…すまん」

 

 橘もブレイダの肩に手を置いて言った。

 

 「ううん、良いよ。その気持ちだけで嬉しいよ」

 

 そう言ってブレイダは笑ってみせた。

 

 そして、相川と橘をそれぞれの家に送り届け、玲司達も自分の家に戻り、ブレイダ達も家に戻った。

 

 「…」

 ブレイダは自室に入り、手を握ったり開いたりを繰り返し、拳を強く握った。

 

 そして、ブレイダ達は風呂を済ませてその日は眠りについた。

 

 

 

次の日、雨の中ブレイダは変身しながら傘をさして四つのヤミノチカラの水晶を持ってあの場所に訪れた。

 

 時計は昼の十二時を指し、辺りには誰もいなかった。

 

 ただ一人、変身済みのサリエールを除いては。

 

 「随分早いじゃない。それとも、そんなに早く死にたいの?」

 

 ブレイダに気が付いたサリエールはブレイダの方を見て言った。

 

 「いいえ、貴方に勝ちに来たの」

 

 ブレイダはサリエールを睨みつけて言った。

 

 「へぇ…面白いジョーダンね。まさか貴方のようなマジメな子からそんな言葉が聞けるとはね…では、どうやっても越えられぬ壁という物を貴様にあじあわせてあげる」

 

 「ジョーダンなんかじゃないよ。それに、必死に努力すればそんな壁だって越えれるかもしれないじゃない」

 

 「ふ…知れたこと…言葉で分からないなら身体で分からせてあげる」

 

 そう言ってサリエールは鎌を取り出し、両手で持って回しながら構えた。

 

 「絶対に負けない…!」

 

 ブレイダも剣を取り出し、強く握って構えた。

 

 そして、サリエールは四つのヤミノチカラの水晶を横に投げ捨て、ブレイダも同じ場所に固めるようにしてヤミノチカラと傘を投げた。

 

 お互いに距離を取り、二人は同時に飛び出した。

 

 「はぁっ!」

 

 「…はっ!」

 

 お互いに刃をぶつけ、その衝撃で同時に後退するが二人は着地してから一瞬で飛び上がり、何度も剣と鎌をぶつけ合った。

 

 「たあぁっ!」

 

 ブレイダの剣が鎌を振り払い、サリエールの腹を叩きつける様にして切りつけ、少し怯んだ所を前回し蹴りを放った。

 

 「ごふっ…!」

 

 「だぁぁっ!」

 

 ブレイダは間髪入れず剣を振り下ろしてサリエールの身体を吹き飛ばし、一瞬だけブライトサークルを作って強く蹴り、サリエールを追いかけるように飛び出した。

 

 「くっ!」

 

 サリエールは宙に浮いて空中で踏みとどまり、迫ってくるブレイダの腹部に後ろ回し蹴りを入れて動きを止めた。

 

 「がっ…!」

 

 「返してあげる…!はっ!」

 

 サリエールはブレイダの腕を掴んで逃げられない様にし、ブレイダの腹部に重い一撃を食らわせた。

 

 「がっ…はっ…くっ!」

 

 ブレイダも負けじとサリエールの腹部に蹴りを入れてサリエールから脱出した。

 

 「はぁ…はぁ…」

 

 「く…」

 

 サリエールはもう一度鎌を強く握り、ブレイダも剣を構えた。

 

 「こうなれば…」

 

 「やるしかない…!」

 

 ブレイダは剣を強く握ってサリエールに向かって飛び出し、サリエールもブレイダに向かって飛び出した。

 

 二人の刃が強い力でぶつかり、お互いの剣と鎌が吹っ飛んで後ろの地面に刺さり、主人から離れた武器は光と闇の粒子に変わってそれぞれのコアクリスタルに戻った。

 

 「はぁぁっ!」

 

 「はっ!」

 

 ブレイダとサリエールの拳がぶつかり、ブレイダは足元にブライトサークルを出現させ、サリエールも宙に浮きながら肉弾戦を繰り広げていた。

 

 「だっ!」

 

 ブレイダの拳がサリエールの頬を掠り、片目の下の切り傷から血が垂れた。

 

 「く…だぁっ!」

 

 サリエールも負けじとブレイダに拳を放って同様に血が流れた。

 

 「はぁぁぁぁぁ…でやぁぁぁ!」

 

 ブレイダはブライトサークルの上に片手をついて身体を横に回して後ろに飛び、その先に新たなブライトサークルを作り出してそれを強く蹴って飛び出し、その勢いを利用してサリエールの腹部に強烈な蹴りを放って怯ませ、間髪入れず両手をついて両脚でサリエールを雲の上に蹴り飛ばし、ブライトサークルの上に立ってブレイブレードを構え、ブライトサークルを操ってサリエールを追い掛けた。

 

 「ぐ…負ける…ものか…!」

 

 サリエールは鎌を取り出し、青空の下、闇のオーラを纏った刃を伸ばし、腕で目の下の血を拭った。

 

 ブレイダも灰色の雲の中、光のオーラを纏った刃を輝かせて雲を突き抜けた。

 「やってくれるじゃない…」

 

 サリエールは凍てつく様な視線でブレイダを睨みつけた。

 

 「私も負けてばかりじゃいられないからね」

 

 そう言うブレイダの目には鋭い眼光が光っていた。

 

 「こんな事でしか話せないとはな…つくづく嫌になるよ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 そう言ってサリエールはブレイダに急接近して鎌を振り下ろした。

 

 ブレイダはそれをブレイブレードで防いだ。

 

 「そうね。わたしもこんな事じゃなくて、あなたと平和的に話してみたい」

 

 「…そいつは無理な相談だ!」

 

 そう言ってサリエールは鎌を下ろしきり、ブレイダは剣を離した。

 

 「どうしてもあなたとは相容れないのね」

 

 「そうね…万が一、いや、決してそんな事はありえないわ」

 

 「分かった。もうこれ以上口で話してても仕方ない。ここからは本気も本気、全力の最終決戦と行こうじゃない」

 

 「望むところよ。今度こそ貴方を消す!」

 

 そう言って二人は最高スピードで飛び出し、ブレイダは剣でサリエールを強く叩きつけ、サリエールもその剣を鎌で払ってブレイダのスーツを切りつけ、へそと腹部があらわになった。

 

 だが、そんな事は気にせずブレイダも殴りかかってきたサリエールの腕を掴んで雲の下まで飛び込み、落下していく勢いを利用してサリエールの身体を地面に投げつけた。

 

 砂や石ころを払い除けながら出てくるサリエールのスーツもボロボロになり、腹部の切れかかっていたスーツの一部をちぎって投げ捨て、腹部とへそをあらわにした。

 

 ブレイダもブライトサークルから飛び降りて地上に着地し、お互いに雨に打たれながら武器を構えた。

 

 「「フルパワー解放!」」

 

 『BANNICING SMASH!』

 

『FATAL END!』

 

 ブレイダとサリエールは同時に宙に飛び上がり、サリエールは特殊能力であるリアクトキューブを展開し、ブレイダはいくつものブライトサークルをサリエールの周囲に展開した。

 

 「「はぁぁぁぁぁ…!」」

 

 ブレイダはブライトサークルを強く蹴ってサリエールの周りを飛びながら剣のエネルギー量と速度を高め、サリエールは鎌の刃にエネルギーを貯め始めた。

 

 そして、お互いに最高の力になったところでブレイダはサリエールに音速を更に超えた速さで突撃し、サリエールも己の持てる力を刃に込め、ブレイダに斬りかかった。

 

 「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 「だぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 互いの刃が激突し、凄まじい量の火花が散り、剣と鎌は粉々に砕け散ったがお互いの闘志は尽きることなく、地面に着地して地上戦になった。

 

 「だぁぁ!」

 

 「はっ!」

 

 二人の膝が激突し、間髪入れずに素早い拳の連打をぶつけ合い、一撃一撃が凄まじく重い一撃で、いつしか大気や地面が揺れるほどまでになっており、二人のコアクリスタルも点滅を始めていた。

 

 だが、二人はそんな事はお構い無しに激闘を繰り広げ、二人の拳がぶつかる時の腕の痺れも気にせず二人はただただお互いの力をぶつけ合っていた。

 

 「はぁ!」

 

 ブレイダがサリエールの腹部に強い一撃を入れた。

 

 「く…だりゃぁ!」

 

 サリエールもブレイダの腹部に強い一撃を入れ、ブレイダは思わず腹部を抑えた。

 

 「く…まだまだぁ!」

 

 ブレイダは腹部の痛みを耐えながらサリエールを強く殴り飛ばし、素早く飛び上がってサリエールに追撃を入れようとするがサリエールも負けじと躱し、ブレイダに前回し蹴りを放って両手の拳をブレイダに振り下ろして地面に叩きつけた。

 

 「だぁぁぁぁぁ!」

 

 サリエールはブレイダの頭目掛けてかかと落としを放ったがブレイダは間一髪で身体を横に回して回避し、地面を強く蹴飛ばしてサリエールの頭上に飛び上がり、後頭部に強い蹴りを放ってサリエールの頭を地面にめり込ませた。

 

 「やぁぁぁぁぁ!」

 

 ブレイダも拳を振り上げてサリエールに向かって振り下ろし、サリエールは地面に手をついて両脚でブレイダに後ろ蹴りをしてブレイダから離れ、地面のめり込みから脱出した。

 

 「く…」

 

 二人とも限界が近く、大汗をかき肩で息をしている状態だった。

 

 「はぁぁぁぁぁ…!」

 

 「はぁぁぁぁぁ…っ!」

 

 二人共強く両拳を握って力を入れ、ブレイダは光のオーラを、サリエールは闇のオーラを放ち始めた。

 

 そして、同時に飛び出し、ブレイダとサリエールは互いの蹴りを交差する様に激突させ、空中で後転して地面を凹ませる程強く蹴り、お互いの拳をスパークが発生する程強い力で激突させた。

 

 「はっ!」

 

 ブレイダは膝蹴りをサリエールの腹部に叩き込み、後ろ回し蹴りでサリエールを蹴り飛ばした。

 

 「だっ!」

 

 サリエールも地面に両足をめり込ませながらブレーキをかけ、ブレイダに向けて飛び上がり、空中で高速回転をして勢いをつけ、その勢いのままブレイダを蹴り飛ばした。

 

 ブレイダも後ろにブライトサークルを出現させて蹴り飛ばし、サリエールの周囲にブライトサークルをいくつも出現させた。

 

 「!」

 

 サリエールもそれに応えるようにリアクトキューブを展開し、ブレイダは加速しながら己の拳にヒカリノチカラのエネルギーを貯め始め、サリエールも己の拳にヤミノチカラのエネルギーを貯め始めた。

 

 「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 「だぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 龍が唸るが如く、二人の魂の叫びが辺りに轟き、二人は持てる全ての力を己の拳に託し、凄まじい勢いで光と闇の力が激突し、巨大な爆発が起きた。

 

 二人の拳は互いの頬に激突し、その衝撃を受けた二人はその場に倒れた。

 

 「あ…く…くく…」

 

 「く…!」

 

 もはや二人には立ち上がる力もなく、しばらくの間、二人とも地面に寝たきりだったがやがてブレイダがやっとの思いで立ち上がり、足をひきずりながらサリエールに歩み寄った。

 

 「く…殺すんなら殺せ…私の負けだ…」

 

 ブレイダはしゃがみ込んでサリエールの顔を見て、手を振り上げた

 

 「…!」

 

 サリエールは覚悟を決め、目を瞑った。

 

 「…あなた、改めて見ると美人さんね。綺麗な顔が台無しよ」

 

 そう言ってブレイダはサリエールの顔から土や砂を払った。

 

 「な…何をしている…私を殺すんじゃないのか…」

 

 「ううん、貴方を殺す気なんてないよ。あくまで貴方からヤミノチカラの結晶を取り返す、ってだけ。そりゃあ、ヤミマジュウの命を奪うのはいけない事だと思うけど、殺してしまったら、あなたが償うことが出来なくなっちゃう」

 

 「私を…許してくれるの…?」

 

 「うん。あなたに言いたい事は全部話したし、あなたの本心も聞けた。相容れる事は出来ないのかもしれないけど、せめて、同じ世界であなたと一緒に生きたい」

 

 ブレイダは穏やかな顔でそう言ってサリエールに手を伸ばした。

 

 「…ふふ、完全に私の負け。あんなに弱かったあなたが、こんなに強くなったなんて…」

 

 サリエールは精一杯手を伸ばしてブレイダの手を掴んだ。

 

 「そりゃあ努力したからね」

 

 そう言いながらブレイダはサリエールの手を引っ張って身体を起こした。

 

「わっ、わわっ!」

 

 サリエールを引っ張った勢いでブレイダは尻もちをついた。

 

「なにやってんのよ、全く」

 

 「ごめんごめん」

 

 そう言って二人は笑い合った。

 

 いつしかサリエールも優しく、穏やかな顔をしていた。

 

 「…私はサリエール。貴方は?」

 

 「私はブレイダ。柊ブレイダ」

 

 「そっか、ブレイダちゃんか。あんた、家族は?」

 

 「今は行方不明だけど、百合さんが母親の代わりをしてくれてるんだ」

 

 「そっか…ここのあなたは幸せね」

 

 「え?それって…」

 

 「ううん。なんでもない。あんたが幸せならそれでいいわ」

 

 いつしか雨も止み、穏やかな風が吹いて、雲の間から太陽の光が差し込み、二人を照らしていた。

 

 「私達二人とも雨でびしょ濡れね」

 

 「そうね。泥んこまみれだ」

 

「ふふ。あんたも払ってあげるわ」

 

そう言ってサリエールはブレイダの顔についた土や砂を払った。

 

 「よし、綺麗になった」

 

 「ありがとうサリエールちゃん」

 

 そう言ってブレイダは変身を解除した。

 

 「あんたの顔も美人さんよ、ブレイダ」

 

 そう言ってサリエールも変身を解除し、私服の姿になった。

 

 「サリエールちゃんはこれからどうするの?」

 

 「さあね。あんたに負けちゃったし」

 

 「そっか…そう言えば、サリエールちゃんの家族は?」

 

 「私?私の家族は…」

 

 サリエールは家族のことを思い出そうとした途端激しい頭痛に襲われ、頭を抱えた。

 

 「う…!」

 

 「だ、大丈夫!?」

 

 彼女が家族のことを思い出そうとするのを止めた途端、頭痛も治まった。

 

 「う、うん、大丈夫。でも…家族のことを思い出そうとすると頭が…」

 

 「そっか…」

 

 「ブレっちー!」

 

 「ブレイダー!」

 

 すると、遠くからブレイダを呼ぶ声が聞こえ、ブレイダはその声の方を向いた。

 

 「咲ちゃん!翔子ちゃん!おーい!」

 

 ブレイダは二人に向かって手を振り、二人も走りながら手を振って駆け寄ってきた。

 

 「ずっと見てたよブレっち!お疲れ様」

 

 「良い戦いだったぞ」

 

 「うん、ありがとう、二人とも」

 

 「…ここのお前は友達もいるのか…」

 

 「ん?うん。紹介するね。橘咲ちゃんと相川翔子ちゃん」

 

 ブレイダはサリエールに二人を紹介した。

 

 「そうか…サリエール。よろしく」

 

 「おうっ!よろしくね!」

 

 「ああ、よろしくな」

 

 二人も座り込んでサリエールと握手を交わした。

 

 「あ、そうだ。ヤミノチカラの水晶…」

 

 ブレイダはヤミノチカラを投げ捨てた場所を見た。

 

 「私が取ってくるよ」

 

 「ありがとう」

 

 そう言って橘はヤミノチカラの水晶を取りに行った。

 

 「しかしまー…」

 

 「な、何?」

 

 相川はサリエールの身体をジロジロ見た。

 

 「デッケェ乳してんなぁ、ええ?」

 

 そう言って相川はサリエールの胸を鷲掴みにした。

 

 「あー、言われてみれば…」

 

 そう言ってブレイダは自分の胸を撫でながらサリエールの胸を見た。

 

 「一体何食ったらこんな風に…」

 

 「こらっ!」

 

 ヤミノチカラを回収して戻ってきた橘が相川の頭を小突いた。

 

 「あいたっ!」

 

 思わず相川は頭を抑えた。

 

 「いやぁ悪いな、こいつも悪いやつじゃないんだ」

 

 「え、ええ…別にいいけど…」

 

 「それじゃあ、そろそろ帰ろっか。二人も疲れてるだろうし、休ませてあげないと」

 

 「そうだな。二人とも立てるか?」

 

 そう言って橘と相川はブレイダとサリエールに手を伸ばし、二人はそれを取って立ち上がった。

 

 「ありがとう、えっと…」

 

 「橘だ。橘でも、咲でも好きな方で良いぞ」

 

 「ありがとう翔子ちゃん」

 

 「おっぱい揉ませてもらったからな!」

 そう言う相川の目は輝いていた。

 

 「…どんな感じ?」

 

 ブレイダは少し顔を赤くしながら小声で相川に聞いた。

 

 「そらぁ良い揉み心地でっせ奥さん…やっぱあんだけのデカさはありますぜ…」

 少し悪どい顔で相川は口元に手を添えながら小声で言った。

 

 「?どうした?」

 

 「あ、いや、なんでもないよ。さ、帰ろっか」

 

 「ああ。たっぷり寝て、たっぷり食べて、たっぷり休みたいや」

 

 夕焼けの中、四人は手を繋いで帰路についた。

 

 ブレイダとサリエールは手を強く握っていた。

 

 

 「あらー…連れ帰って来ちゃったの…」

 

 ガードナーの基地に着いた四人は百合達を驚かせた。

 

 「いやぁ、成り行きに任せてたら…」

 

 「いやぁ、じゃないのよ!…はぁ、まさか敵の子が来るなんてね…」

 

 「だ、だめ?」

 

 「別にダメってわけじゃないけど…うーん、どうしたもんか…」

 

 すると、神凪が車椅子でサリエールに近付き、サリエールの手を取った。

 

 「ねえ、それじゃあ私達の家で暮らさない?私と、玲司と三人で」

 

 「え?」

 

 「良いでしょ?」

 

 「そりゃあ構いませんけど…」

 

 「良かった…。ね、玲司も良い?」

 

 「ああ。俺も良いぜ。それに、お前もこれからどうするか決まってなかったんだろ?」

 

 「まあ、確かに…」

 

 「よし、決まりだ。手続きやら何やら色々あるからしばらくかかるけど、それが終わればお前も俺の家族だ。ブレイダや橘、相川と同じ学校にも通えるぞ」

 

 「ほ、本当?」

 

 「ああ、本当だ。それが終わるまではガードナーの基地で過ごしてもらうことになるけど、いいか?」

 

 「ええ。大丈夫よ。ありがとう、玲司…さん?」

 

 「ああ。とりあえず今は疲れてるだろうし、落ち着いたら改めて自己紹介をしよう」

 

 「はい、ありがとうございます」

 

 「さ、ブレイダもそろそろ…てあら?」

 

 いつの間にか、ブレイダは立ったまま眠りについていた。

 

 「こりゃ相当疲れてたんだな…仕方ない。ガードナーの仮眠室で寝かせとこう」

 

 「ったく…こんなとこで寝るなんて…」

 

 そう言っている内にサリエールも横に倒れて眠ってしまった。

 

 「全く、どっちもどっちね」

 

 そう言いながら橘と相川はブレイダとサリエールをおぶって仮眠室に行き、二人をベッドに寝かせて毛布をかけた。

 

 「それじゃ、ごゆっくり」

 

 相川は小声でそう言って部屋の電気を消した。

 

 二人は隣同士のベッドで、幸せそうな顔で眠っていた。




今回はここまでです!
挿絵についてはクロスさんからキチンと許可を頂きました


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Change myself

サリエールちゃんメイン回
ポンコツキャラにしていいのだろうか否か


「ん…う~ん…」

 

 眠っていたブレイダは目を覚まし、身体を起こして腕を伸ばして脱力した。

 

 まだちゃんと開いていない目を擦りながら辺りを見回すと、横でサリエールが寝ているのを見つけた。

 

 サリエールを起こさないように静かにベッドから降り、自分のデバイスを取って時間を確認した。

 

 どうやらかなり長い時間眠っていたらしく、表示された時間は夜の九時を示していた。

 

 すると、起きていたブレイダに気付いたサリエールも起き、身体を起こした。

 

 「あ、起きたんだ」

 

 「ええ…まだ少し眠いけど」

 

 サリエールはあくび混じりにそう言った。

 

 「身体はもう大丈夫なの?」

 

 「うん、サリエールちゃんは?」

 

 「私も大丈夫。少し関節が痛むけどね」

 

 サリエールもなんとか立ちながらベッドを降り、ブレイダは仮眠室の電気をつけた。

 

 「大丈夫?今日はここがサリエールちゃんの寝る場所だから、もう少しゆっくりしてても良いんだよ?」

 

 「いや、良い。それより、お前は帰らなくていいのか?」

 

 「うん、わたしはもう帰るよ。それじゃ、またね」

 

「ああ。またな」

 

 「うん、また明日」

 

 そう言ってブレイダは仮眠室から出た。

 

そして、橘と相川の二人を見送った百合と合流し、家に帰った。

 

 「…帰ったか…」

 

 そう言ってサリエールは部屋の電気を消し、ベッドの上に座って窓から星を眺めた。

 

 今日は雲もなく、月も綺麗で星を見るのには最適だ。

 

 「こんなに綺麗に星が見えるなんて…」

 

 夜空の星は漆黒の空の中で輝いており、とても美しい空だった。

 

 いつぶりだろう、こんなに綺麗に星を見たのは…。

 

すると、扉がノックされた音でサリエールは我に返り、電気をつけて扉を開けた。

 

 「よう、サリエールちゃん」

 

  「あなたは…確か…」

 

 扉を開けた先には玲司と神凪がいた。

 

 「俺は二階堂玲司」

 

 「で、私が二階堂神凪。よろしくね」

 

 「…サリエール。よろしく」

 

 「ああ、よろしく。これからしばらくの間はこの基地の中で過ごす訳だけど…何か聞きたい事はあるか?」

 

 「今は特に…」

 

 「そうか、分かった。また何か聞きたいことがあったら基地の職員に聞いてみるといい。俺達は大体基地の中の研究室にいると思う」

 

 「基地の中の自販機はみんな無料だから、使いたい時に使ってね」

 

 「はい。分かりました」

 

 「それじゃ、また明日。お風呂は大浴場があるからそれを使えよ」

 

 「ありがとうございます」

 

 そう言って玲司も神凪を連れて去っていった。

 

 「………」

 

 なんだか興醒めしてしまい、サリエールは早めに風呂を済ませ、いつの間にか用意されていた下着とジャージを着用し、ほとんど人がいない食堂で夕食を済ませて仮眠室に戻り、眠りについた。

 

 

 

 次の日、ブレイダと橘と相川の三人はいつもの様に学校に行く途中で話していた。

 

 「ブレっち、今日もサリエールんとこいくの?」

 

 「うん。流石に一人だと寂しそうだし」

 

 「じゃあ、何かしらの手土産でも持ってくか」

 

 「お、いいね。帰りにコンビニ寄ってこ」

 

 すると、学校の鐘の音が鳴り、三人は急いで教室に駆け込んだ。

 

 

 

 一日の授業が終わり、ブレイダと相川は弓道場から出てくる橘を待っていた。

 

 「悪い、待たせた」

 

 汗をかきながら橘は弓道場から走ってきた。

 

 「大丈夫だよ。いつもこんなもんだしさ」

 

 「すまないな、毎日…」

 

 「いいんだってば。さ、行こ」

 

 「ああ」

 

 三人は早速校門から出て学校から最寄りのコンビニに向かった。

 

 「…へっくしゅん!」

 

 歩いてる途中で橘はくしゃみをした。

 

 無理もないだろう。彼女は汗をかいたまま、制服を着てしまい、しかも風も吹いているのだ。寒くてたまらないのだろう。

 

 「大丈夫?咲ちゃん」

 

 「ああ、大丈夫だ。…へっくしゅん!」

 

 「よくそれで大丈夫とか言えたね咲…ほら、これ」

 

 そう言って相川は自分の巻いていたマフラーを橘の首に巻いた。

 

 「あ、ありがとう」

 

 「返すのは明日でいいから、今日はそれ巻いてな」

 

 「翔子…」

 

 相川は橘にサムズアップしてウインクした。

 

 「じゃ、行こっか」

 

 「うん」

 

「ああ」

 

 橘の言葉で三人はコンビニへと歩を進めた。

 

 そして、コンビニへと入り、早速適当なお菓子を買うことにした。

 

 「なんかここ最近女子が多いね」

 

 コンビニの店内はいつもより女子が多く、お菓子売り場のチョコレートもいつもより少なくなっていた。

 

 「やっぱりバレンタインが近いからだろうな」

 

 「あー、そう言えばもうバレンタインだもんね、二人はあげる相手いるの?」

 

 そう言って相川は二人の方を向いた。

 「私は百合さんと、玲司さんと、神凪さんと…後は奈央さんと…そんなもんかな」

 

 「私もお母さんくらいかなぁ。翔子もお父さんにあげるのか?」

 

 「うん。気になる先輩も同級生もいないからねぇ」

 

 「青春もへったくれもないな…」

 

 「咲ちゃんは後輩の子とかに告白されたりしないの?」

 

 「それがあったらいいんだが…皆私に厳しいイメージしか持ってないらしくてな…来る気配が全くないよ。ブレイダは?」

 

 「私もさっぱり。クラスの男子も、他の男子も来ないよ」

 

 「ま、作る手間が増えなくていいんだけどね」

 

 そう言いながら三人は適当なお菓子を選んで購入し、ガードナーの基地に向かった。

 

 基地の仮眠室でジャージを着てテレビを見ながらくつろいでいるサリエールを見つけ、三人はサリエールに近寄った。

 

 「やあ、サリエールちゃん」

 

 「ん?ああ、あなた達か」

 

 サリエールも三人に気付き軽い会釈をした。

 

 「とりあえず適当にお菓子買ってきたけど…食べれないものとかはない?」

 

 「ああ…あ、いや、甘すぎるチョコは少し苦手だな…」

 

 「そっか。まあ、苦いチョコもあるから適当に食べて」

 

 そう言って相川は袋からいくつかお菓子を出してテーブルの上に広げた。

 

 「サリエールちゃんはどうしてたん?」

 

 「そうだな…午前中は自習して、午後はグラウンドで適当に身体を動かしてたよ」

 

 「真面目だなぁ…」

 

 「やっぱり翔子も少しは動くべきなんじゃないか?このお腹はごまかせないぞ?」

 

 橘はニヤニヤ笑いながら相川の少し柔らかいお腹をつついた。

 

 「それとも、今から動く?」

 

 ブレイダも少し笑いながら冗談半分に言った。

 

 「せめてお菓子は控えようかな…」

 「もう遅いじゃない」

 

 サリエールがそう言って橘、ブレイダが笑いだし、サリエールもつられて吹き出した。

 

 「あなた達いつもこうなの?」

 

 「うん。こんな風に笑いながら過ごしてる」

 

 「…いつか私にもこんな風に笑える日が来るのかな」

 

 サリエールは笑いながら冗談を言い合う相川と橘を眺めて言った。

 

 「来るよ、絶対」

 

 ブレイダは自信満々に言った。

 

 「あなたのその自身はどこから来るの?」

 

 「根拠はないけど…けど、さっきちょっと笑ったじゃん。だから、いつか来るよ」

 

 「ふふ、あんたにはかなわないわ」

 

 そう言ってサリエールはお菓子を一つつまんで口の中に入れた。

 

 「っと、こんな時間。それじゃ、そろそろおいとまするよ」

 

 相川は携帯で時間を確認して立ち上がった。

 

 「もうそんな時間か…じゃあ、また明日な」

 

 「また来るね、サリエールちゃん」

 

 そう言って二人も立ち上がり、仮眠室を出た。

 

 「ああ、途中まで見送ってくよ」

 

 そう言ってサリエールも立ち上がった。

 

 「ありがとう、サリエールちゃん」

 

 そして、四人は基地の入口まで向かい、そこでサリエールと別れた。

 

 「じゃ、また明日~!」

 

 「またね~」

 

 「また来るよー」

 

 「ああ」

 

 サリエールと三人は手を振って別れ、ブレイダ達も途中で解散してそれぞれの家へ帰った。

 

 

 

 その夜、サリエールは今日も窓から星空を眺めていた。

 

 今日は月が少し欠けているが、昨日とさほど変わらない天候だった。

 

 「今日も綺麗だな…そうだ」

 

 サリエールは仮眠室から出て階段をあがり、基地の屋上に出て空を眺めた。

 

 やはり、高い場所の方が眺めがいい。

 

 『やっぱり綺麗よね、星空』

 

 「…こんな時にもか」

 

 そう言ってサリエールは目を閉じ、数秒後に目を開いた。

 

 『やっほー、サリエールちゃん』

 

 「やっほーじゃない。一体どうした」

 

 『んー?大した用じゃないよ。呼んだだけ』

 

 「全く…いつもお前はそうなんだ。用があるかと思えば身体を返せだのなんだの…呼ばないと思ったら思いつきで呼ぶだの…」

 

 そう言ってサリエールはため息をついた。

 

 『いいじゃない、たまには。…あなたも、変わってきたわね』

 

 「変わってきた?」

 

 サリエールは階段から降りてくる彼女を見上げながら言った。

 

 『ええ。心のあり方、考え方が少しずつ変わってきてる、そんな気がする』

 

 「変わってきてる…」

 

 『ま、あんたがこれからどうするかは全部あんた次第。好きにすればいいわ。身体はいつか返してもらうけどね』

 

 そう言いながら彼女はサリエールの横を通り過ぎた。

 

 「…!」

 

 何か言い返そうと後ろを振り向いたが既に彼女の姿はなく、虚空だけが広がっていた。

 

 仕方なくサリエールも目を閉じ、数秒経って目を開けると元の世界に戻っていた。

 

 「…いつか…返す時が…」

 

 そう言いながらサリエールは胸の辺りを掴んで言った。

 

 すると、街の方で地響きと共にヤミマジュウが現れ、サリエールは屋上の柵からヤミマジュウを見つけた。

 

 「本当に変わっているのなら…私が変わりたいと願うなら…!トランス オン!」

 

 『Let's!Transformation!』

 

 デバイスを操作して胸元に装着し、サリエールは青黒い闇に包まれ、変身を完了した。

 

 「出る!」

 

 そう言ってサリエールは宙に浮き上がり、ヤミマジュウの元へと飛んだ。

 

 

 「キシャァァァァ!」

 

 夜空の下で赤い炎と煙が舞い上がり、夜の街と四足歩行のヤミマジュウを照らしていた。

 

 「はっ!」

 

 サリエールは鎌を握り、ヤミマジュウの伸ばした触手を鎌で切り裂き、ヤミマジュウの前に立った。

 

 「逃げて!早く!」

 

 サリエールは逃げ遅れていた人々を背にして立ち、ヤミマジュウの方を睨みつけた。

 

 「キシャァァァァ!」

 

 ヤミマジュウも憤怒したのか、身体を大きく上げて両前足でサリエールを踏み潰そうとした。

 

 「甘い」

 

 サリエールは大きく飛び上がり、ヤミマジュウの攻撃を避けた。

 

 「キシャォォォォ!」

 

 ヤミマジュウはサリエール目掛けて口から炎を吐き出した。

 

 「!くっ!」

 

 サリエールは咄嗟に飛行を解除して飛び降りた。

 

 「はぁぁっ!」

 

 サリエールはすかさずヤミマジュウの懐に入り、ヤミマジュウの顎を蹴り飛ばして口を無理矢理閉じさせ、炎を止めた。

 

 「キシャァァ…!」

 

 ヤミマジュウは一歩下がり、サリエール目掛けて片足を振り下ろした。

 

 「捉えた!フルパワー解放!」

 

 『FATAL END!』

 

 一瞬の内にサリエールはリアクトキューブを展開し、ヤミマジュウの足がサリエールに当たる瞬間、鎌の刃にエネルギーをため、ヤミマジュウを一閃のもとに斬り伏せた。

 

 「キシャァァァァ…」

 

 ヤミマジュウは横に倒れながら元の動物のサイズに戻り、力を失ったヤミノチカラの水晶が浮かび上がって来た。

 

 「…完了」

 

 サリエールはヤミノチカラの水晶に駆け寄り、回収しようとしたその時だった。

 

 「はぁっ!」

 

 サリエールの前にいくつもの隕石のような光弾が降り注ぎ、サリエールは慌てて後ずさり、光弾が降ってきた方を見上げた。

 

 「!あなたは…」

 

 そこには、一人の人影が浮かび上がっていた。

 

 「サリエール…帰ってこないと思ったら…貴様何をしていた?」

 

 「が、ガディサイト…様…」

 

サリエールはただ立ち竦んでいるだけだった。

 

 すると、そこにヤミマジュウ出現を聞きつけたブレイダがブライトサークルに乗って飛んできていた。

 

 「サリエールちゃーん!」

 

 「!来るな!ブレイダ!」

 

 「え?」

 

 次の瞬間、ブレイダの身体は光弾に押され、地面に叩きつけられた。

 

 「ブレイダ!」

 

 「私の元に帰ってこい、サリエール」

 

 そう言ってガディサイトは手を差し伸べた。

 

 「く…誰が!」

 

 「随分偉くなったなサリエール…そんな悪い子になったお前には罰を与えなくてはな…」

 

 次の瞬間、サリエールの腹部にガディサイトの膝蹴りが入り、怯んで動きが止まったところを拳で殴り飛ばされた。

 

 「がはっ…!」

 

 「どんな力を手に入れようと所詮は人間…この私には勝てない…」

 

 そう言いながら亡骸がなくなったヤミマジュウのヤミノチカラの水晶を手に取った。

 

 「く…」

 

 地面に叩きつけられたブレイダは気絶しているのかピクリとも動く気配がなかった。

 「もう私は貴様には頼らん…私自身で道を切り開く…」

 

 そう言ってガディサイトは不敵に笑った。

 

 「私が全てのヤミノチカラを手にするまでの間の余生をゆっくり過ごすがいい…」

 

 そう言ってガディサイトは姿を消した。

 

 「ぐ…」

 サリエールはなんとか立ち上がり、ブレイダを引っ張りあげてガードナーの基地へと戻った。




今回はここまでです!
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ブレイダ誘拐事件

とても誘拐事件とは思えない(小並感)


「フルパワー解放!」

 

 『BANNICING SMASH!』

 

 「ギシャァァァァァァ!」

 

 ヤミマジュウからヤミノチカラの水晶が飛び出てきたのをブレイダはキャッチし、一緒にいたサリエールも小さくなって元のサイズに戻った動物を抱きかかえた。

 

 「ふう…」

 

 「完了。さあ、基地に戻ろう」

 

 「うん、サリエールちゃん」

 

 二人は胸のコアクリスタルを外し、変身を解除してデバイスをポケットにしまった。

 

「体は大丈夫?」

 

 「大丈夫大丈夫。あの時は急な攻撃で気絶しちゃっただけだったし、心配ないよ」

 

 「そう…それならいいんだけど…あまり心配かけないで」

 

 「うん、気をつける。それより、前にガディサイトって人が次からは自分で来るって言ってたけど…」

 

 「…」

 

 サリエールは俯いてそっぽを向いた。

 

 「今日は来なかったね。気付かなかったのかな?」

 

 それを聞いてサリエールは少しコケた。

 

「気になるとこそっち?ま、まあ、確かに今日は来なかったけど…」

 

 「どうしたんだろうね?」

 

「さ、さぁ…そういう時もあるんじゃない?」

 

 「うーん、まあいっか。その子と水晶を守れたんだし」

 

 そう言いながらブレイダはサリエールが抱いている動物を撫でながら言った。

 

 そして、二人は基地に入ってヤミノチカラと動物をガードナー局員に渡した。

 

 「ブレイダはどうするんだ?」

 

 「私は少し休んでから帰るよ」

 

 「そう…ま、何も無いけどゆっくりしてって」

 

 そう言ってサリエールは自室になっている仮眠室の部屋を開けて中に入った。

 

 「少し待ってて。お菓子を持ってくるから」

 

 サリエールがお菓子を取りに行っている間、ブレイダはテレビを見て待っていた。

 

 『次のニュースです。昨日の夕方五時頃に児童が誘拐されると言う事件が起き、犯人は以前として捕まっておりません。目撃者によると犯人は黒い車に児童を乗せたあとすぐにどこかへ行ってしまったそうで、この車は以前誘拐事件を起こした犯人と同じものの可能性がありそうです』

 

 「誘拐か…この辺りだな」

 

 サリエールはお菓子の入った袋をテーブルに置いて椅子に座った。

 

 「最近多いよね。咲ちゃん達も大丈夫かな…」

 

 「もう小さな子供じゃないんだし、大丈夫でしょ」

 

 そう言いながらサリエールはチョコを摘んで口の中に入れた。

 

 「そうだといいんだけど…」

 

 ブレイダもチョコを包装から取り出して口の中に入れた。

 

 「それに、心配すべきなのは今から帰る貴女でしょ」

 

 「そ、そうだね…」

 

 ブレイダは少し苦笑いをしながら言った。

 

 「それじゃ、わたしはそろそろ帰るよ」

 

 「そう…分かった、道中気をつけて」

 

 「うん、ありがとうサリエールちゃん」

 

 そう言ってブレイダは椅子から立ち上がり、デバイスがある事を確認して部屋から出た。

 

 「またね~」

 

 「ああ、また」

 

 そして、ブレイダは基地を出て帰路についた。

 

 「今日も疲れたな~…」

 

 すると、次の瞬間黒い車がブレイダの横に現れ、抵抗する暇もないまま数人の男に睡眠薬を嗅がされ、ブレイダは眠ってしまい、車に乗せられてしまった。

 

 

 

 サリエールが部屋でチョコを摘んでいると、デバイスに着信が入り、サリエールは食べようとしたチョコを置いて電話に出た。

 

 「もしもし?」

 

 『もしもし、サリエール?』

 

 「相川か…どうした?」

 

 『ブレっちがまだ帰ってきてないって百合さんから連絡が来てさ、何か知らない?』

 

 「ブレイダ?ブレイダなら結構前に帰った筈だけど…」

 

 『そう…ありがとう、サリエール…』

 

 「ま、待て、一応私も探してみるから、まだ気を落とすな」

 

 『頼むよ、サリエール…』

 

 そして、サリエールは電話を切って屋上に駆け上がり、変身して屋上から飛び、街に飛んだ。

 

 (待っていて…ブレイダ…!)

 

 

 

 「ん…んん…」

 

 ブレイダが目を覚ました時には既に車の中ではなく、どこかの建物の中にいた。

 

 (ここは…どこ…?)

 

 手を動かそうとしたが縛られていて動けず、足を動かそうとしたがこちらも縛られていて動けず、おまけに目隠しをされて口にガムテープもされている様だった。

 

 床はひんやりと冷たく、どうやらコンクリートの上に直に座らされているらしい。

 

 身動き一つ取れないこの状況では助けも呼べそうになかった。

 

 「んん…ん…」

 

 「んんんー!」

 

 「うるせえ!大人しくしろ!」

 

 男性の怒号が聞こえると同時に鈍い音がした。どうやら、自分の他にも同じように誘拐された子供が何人かおり、その内の一人が倒されたのであろう。

 

 「ボス、こいつらどうします?」

 

 「そうだな…夜明けにこいつらを船に乗せて海外に売り飛ばす。多少は金になるだろ」

 

 「分かりました。船を用意しておきます」

 

 「ああ。いい上物が揃ったからな。俺達で遊んでもいいが、それじゃ値段が落ちてしまう。それでは意味が無い」

 

 「ボス、こちらへ」

 

 「ああ、楽しみにしていろよ…ガキ共。精々今のうちに日本の空気をたらふく吸っておくんだな」

 

 そう言って男達は部屋から出た。

 

 (全員出たかな…?)

 

 ブレイダは音を立てないように静かに身体を倒し、目隠しを上手くずらして視界を確保し、なんとか身体を起こして周りを見た。

 

 透明なドアから銃を持った男が見えたが、幸いにも後ろを向いていた様で、ブレイダの事には気がついていないようだった。

 

 そして、子供達の年齢はまちまちで、幼児もいればブレイダより年上の学生もおり、その中にはブレイダと同じ学校の制服を着た女子もいた。

 

 (さてと…まずはこれを外さないと…)

 

 誘拐犯達の考えが甘かったのか、手首は縛られていたものの腕までは縛られておらず、ガムテープをなんとか噛みちぎって深呼吸をし、腕の縄を噛みちぎって手を解放し、足の縄を手で解いて身動きを取れるようにした。

 

 (当分は硬いものは勘弁ね…さて、これが私一人なら脱出は出来るんだけど…他の子達も置いていけないし…)

 

 ひとまずブレイダは身の安全を確保するため、そして可能な行動の範囲を増やすため変身し、ドアを開けて男が振り返るよりも早く手刀を打ち込んで気絶させた。

 

 (よし…)

 

 そして、ブレイダはドアの隙間から左右を見渡した。

 

 どうやら、ボスと呼ばれていた男やその他の男達がいる部屋は別の階層の様で、廊下には他に扉がなく、どうやら地下のようだ。

 

 (まずはサリエールちゃんに連絡をしないと…)

 

 ブレイダは扉を閉めて、サリエールに通信を入れた。

 

 すると、すぐにサリエールが出てくれた。

 

 『もしもし、ブレイダ?今どこにいる?』

 

 「いや、それが場所がわかんなくて…けど、誘拐された人達と一緒にいるよ。多分ここ最近誘拐された人達ばっかり」

 

 『そう…分かった。今ガードナーの方でも誘拐事件を調査していたらしくて…場合によっちゃお手柄だよ』

 

 「事件が解決出来て犯人も逮捕出来る、って訳だね。わたしは何をしたらいい?」

 

 『とりあえず私にも分かるようにヒカリノチカラを高めて。その後にそこにいる子供達を解放して動けるようにしておいて』

 

 「分かった。でも、気合い入れてどうするの?」

 

 『私がヤミノチカラを高めれば位置が分かるように、ブレイダもヒカリノチカラを高めれば私も感知出来るから、その位置情報を基地に送れば後はガードナーがヘリを送ってくれるはず』

 

 「なるほど、分かった!」

 

 早速ブレイダは力を入れて光のオーラを出した。

 

 『よし、位置情報は掴んだ。後は子供達を解放して、地上に出して…と言いたいところだけど』

 

 「言いたいところだけど?」

 

 『子供達を連れて出ては誘拐犯に見つかった時に人質に取られる可能性が高い。まずは建物の中にいる人間を気絶させるなりして。私もそっちに向かってるから、それまでの間耐えていて』

 

 「分かった。頼んだよ、サリエールちゃん」

 

 そして、ブレイダは通信を切り、子供達の拘束を解いた。

 

 「お姉ちゃん…怖かった…」

 

 「怖かったよぉー!」

 

 「よしよし、怖かったよね。もう大丈夫。今お姉ちゃんがガードナーの人達に連絡を入れたからね」

 

 そう言いながらブレイダは寄ってきた子供達の頭を撫でてあげた。

 

 「あの、貴方は一体…」

 

 「今はまだ内緒。とりあえず、皆はまだここにいて」

 

 「お姉ちゃんは?」

 

 「ここの人達をどうにかする。後から青い髪のお姉ちゃんが来るからその人達に着いて行って」

 

 「分かった!」

 

 「よし、いい子だ。将来美人さんだ」

 

 そう言って女の子の頭を撫で、部屋を出た。

 

 そして、階段を駆け上ると二人の男が銃を構えていた。

 

 「撃てー!」

 

 「どうやら聞かれてた様ね!はぁっ!」

 

 ブレイダは男達の銃弾をブライトサークルで弾き、ブレイブレードを非殺生モードに切り替えて男達の頭をぶっ叩いて気絶させた。

 

 そして、出していたブライトサークルを移動させて飛び乗り、迫って来た複数の男達にブライトサークルをぶつけ、怯んだところを一人逃さず気絶させて次の階層に向かった。

 

 すると、白いスーツを着た男が刀を持ってブレイダの前に立っていた。

 

 「ガキがいきがりおって…お前を海外に売り飛ばすのはやめだ。今すぐ切り刻んで魚の餌にしてやる」

 

 そう言って男は刀を構えた。

 

 「そうはいかないね。わたしにも待ってる人がいるんだから」

 

 ブレイダも左手で剣を強く握って構えた。

 

 「戦う前にいいことを教えてやろう…俺の剣の腕は二十段だ。これを聞いてもやるつもりか?」

 

 「…ふふっ」

 

 ブレイダは白い歯を少し見せて笑った。

 

 「何を笑ってやがる!」

 

 「貴方がどれだけ上手いかは知らないけど、大したことなさそうなのに変な自慢してるのがおかしかったの」

 

 「ふ…すぐにでもその減らず口を叩き直してやるわ!」

 

 そう言って男はブレイダに刀を振り下ろした。

 

 しかし、ブレイダは焦ることなく剣で受け止め、弾き返した。

 

 「な、なんだと!」

 

 男は何度もブレイダに切りつけるがかすり傷一つ付けられず、ブレイダに延々と弾かれているだけだった。

 

 「はっ!」

 

 ブレイダは一瞬の隙を見つけ男の腹部に剣で叩きつけ、男は後ずさった。

 

 「な、こ、こんな事が…」

 

 「どうしたの?二十段なんでしょ?」

 

 「く…クソガキぃぃぃっ!」

 

 男は刀を振り回してブレイダに何度も斬りつけていく。が、ブレイダはそれを全て回避していた。

 

 「ほらほら、鬼さんこちら~手の鳴る方へ~!」

 

 ブレイダは若干煽りながらどんどん距離を取り、手を叩いて男をイラつかせていた。

 

 「調子に乗りおって…!もう刀などいらぬわ!」

 

 そう言って男は刀を放り捨て、傍にあった箱からロケットランチャーを取り出した。

 

 「そ、そんなのアリ!?」

 

 「灰になって消え去れぇぇぇ!」

 

 そう言って男はロケットランチャーからミサイルを一つ発射した。

 

 「えーとえーと…ん?」

 

 ブレイダは手に持っていたブレイブレードに気が付いた。

 

 「…一か八か!」

 

 そう言ってブレイダは身体を捻り、片足をあげてブレイブレードを両手で持ってバットの様に構え、ミサイルをブレイブレードで打ち返した。

 

 「な、何!?そ、そんなー!いやー!」

 

 ミサイルは男のすぐ側で爆発し、辺りに爆音が響いた。

 

 「ふう…終わった」

 

 すると、別の通路からサリエールが走ってくるのが見えた。

 

 「ブレイダ、大丈夫?今の音は…」

 

 「ちょっと一悶着あってね…そっちも大丈夫?」

 

 「ええ、会った敵は全員気絶させといたわ」

 

 「じゃあ、後は子供達を解放して元の場所に届けよう」

 

 そして、二人は地下まで行って子供達を部屋から出し、夜明けと共にやってきたガードナーの救助用ヘリに子供達を乗せ、ガードナーの護送用ヘリにボス含め十数人の男達を収容し、それぞれ飛び立って行った。

 

 「ふう、一時はどうなるかと思ったよ」

 

 「だから気をつけろって言ったのに…ま、無事で何よりよ」

 

 「そうでしょ?だから…」

 

 「でも!もう次はないからね!ちゃんと気をつけてよ!」

 

 サリエールはブレイダに顔を近付けながら言った。

 

 「は、はい…気をつけます」

 

「よし。…まあ、誘拐された子供達を助けられたのはブレイダの活躍もあってこそだからね。今日はゆっくり休みな」

 

 「うん。そうするよ…ふわぁ…」

 

 次の瞬間ブレイダはサリエールに倒れ込んでしまった。

 

 「ちょ、ちょっと大丈夫?」

 

 よく見ると、ブレイダは寝息を立てながら安堵した表情で寝ていた。

 

 「ったく…今日だけよ」

 

 サリエールはブレイダを運んでガードナーの仮眠室に入り、自分も隣で寝ることにした。

 

 ガードナーの仮眠室には、午前中からずっと寝ている二人の局員がいたが、誰も起こそうとはしない。今だけは、子供達の為に頑張った二人に休息をあげよう。




ちょっと短いんじゃないですかねぇ…まあ、いつもヤミマジュウと戦っているのを直ぐに終わらせちゃったし、多少はね?

では、また次回!

ここ最近話を思い浮かべるのに一週間かかっているのは内緒だ


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並行世界からの使者

お久しぶりです皆様~!
免許取ったり免許取ったり免許取ったりで忙しかったので中々更新出来ませんでしたが、ようやく更新出来ます!
待たせたな!(スネーク)
あとタイトルは決してダーマッではごさいやせん


ブレイダ達はいつもと同じように学校で過ごしていた。

 

 「ブレイダ、お前誘拐されかけたんだって?」

 

 「うん、結構危なかったけどね」

 

 「誘拐の時点で危ないような気もするけど…まー、ブレっちが無事だからいっか」

 

「それはいいって言うのか…?」

 

 三人が話していると授業開始のベルが鳴り、教室の中の生徒達はそれぞれの席につき、理科の授業を担当する門矢先生が入ってきた。

 

 「よし、授業を始めるぞ」

 

 門矢に言われ、委員長の号令で授業を開始した。

 

 「今日は少し変わったことを教える。とは言っても、テストに出るようなものでもないから雑学程度に聞いていろ」

 

 そう言って門矢は黒板に数本の線を書き、その下に世界の字と本数分の数字を書いた。

 

 「これは平行世界を簡易的に表したものだ。平行世界とは、様々な地球や世界があり、それらは交わらないものの確かに存在している、というものだ。パラレルワールドと言った方がお前達も聞き慣れていると思う。で、この図はその平行世界を線で表したもので世界線と言うものだ」

 

 「その存在はどうして分かるんですか?」

 

 一人の男子生徒が門矢に質問した。

 

 「いい質問だ。では今の質問を踏まえて教えるぞ。今のシーンでも大きく分けて二つの分岐が出来た。例えば、今鈴岡が質問したこの世界線は世界1としよう」

 

 そう言って門矢は一番右の線の下の世界1の文字を丸く囲った。

 

 「で、二つ目だ。特に難しく考えることはない。鈴岡が俺に質問をしなかった世界線だ。これを世界2とする」

 

 そう言って門矢は同じように右から2番目の線の下の世界2の文字を丸く囲った。

 

 「このように、平行世界という物は、小さいところから言えば人一人の言葉や行動の違いから分岐し、大きなところまで言うならば歴史そのものが違っていることさえある」

 

 「ダーク・デイが無い世界線もあるんですか?」

 

 「もちろんだ。まあ、あるいはこの世界線が特殊なのかもしれないけどな」

 

 「へー…じゃあ、宝くじを一枚買って当選する、って言う世界線もあるんですか?」

 

 「理論的には存在する。宝くじの当選番号や自分が得るくじの番号ももちろん違う訳だがな」

 

 「世界線は数えきれないほどあるんですね」

 

 「そうだ。数え切れるやつがいたらそれこそ凄いがな」

 

 門矢は微笑みながら言った。

 

 そうこうしている内に授業終了のベルが鳴り、委員長が挨拶をして授業が終わった。

 

 そして、数分後に担任の先生が教室に入ってHRを行い、午前中で学校は終わった。

 

 「それじゃあ、帰ろっか」

 

 「ああ」

 

 「うん」

 

 そう言って三人は荷物を纏め、鞄を持って教室から出た。

 

 そして、ブレイダが下駄箱を開けた時、靴の上に何か封筒が乗っているのに気付いた。

 

 「?なんだろう、これ」

 

 「どうした?」

 

 「なになに?」

 

 ブレイダは封筒から手紙を取り出し、読み上げた。

 

 「んーと、これは…」

 

 横から二人も手紙を覗き込んだ。

 

 「ラブレター?」

 

 「ってわけでもなさそうだな…」

 

 「一回読んでみようか。何々…」

 

 ブレイダは手紙を読み始めた。

 

 『先日は助けて頂き、ありがとうございました。お礼だけでも言いたくてなんとか柊さんをお探ししました。ですが、面識もあまりないので突然会うのも失礼だと思い、お手紙にしました。体育館の裏でお待ちしております。

 1-B 大森 めぐみ』

 

 と書かれていた。

 

 「うーん、ラブレターみたいに呼び出して告白をするんじゃなく、お礼を言いたいんだね。どうする?行く?」

 

 「ふむ、直接話してお礼を言いたいのなら自分が来ればいいと思うのだがな…」

 

 「まあ、わたし達もすぐに帰っちゃうからね。それに、ウチの高校って髪の色にそんなに指定もないから皆カラフルだし、呼び出さないと本人だと分からないから、仕方ないのかな」

 

「そういう事なら仕方ないか…よし、待たせるのも悪いし行ってみよう」

 

 早速三人は手紙を持って大森と言う生徒の元に向かった。

 

 そして、体育館の裏に行くと一人の女子生徒を見つけ、その生徒に近寄り、女子生徒もこちらに気付いてこちらを向いた。

 

「えっと、あなたが大森さん?」

 

 「は、はい」

 

 丸ぶち眼鏡を掛け、黒い髪で後ろを二つゴムで縛っている女子生徒はおどおどした様子で返事をした。

 

 「え、えと、柊ブレイダさん…ですよね。先日は本当にありがとうございました」

 

 そう言って大森は頭を下げた。

 

 「うん。無事で良かったよ」

 「ねえ大森さん、ここに呼び出したのってブレっちにお礼を言うだけ?」

 

 「あ、いえ、ちゃんとお礼の品も用意してあります」

 

 そう言って大森は二つ箱を取り出してブレイダに渡した。

 

 「これは?」

 

 「手作りのチョコレートです。作ったはいいけど渡す相手もいなくてどうしようか悩んでいた矢先、あの様な事があったので…ブレイダさんともう一人の方の分です。その方に会える様であれば渡しておいて頂けると嬉しいです」

 

 「あ、う、うん。渡しておくよ」

 

 「で、では、私はここで失礼します」

 そう言って大森は逃げるように去ってしまった。

 

 「…ま、サリエールに渡しとこう」

 

 「うん…」

 

 そう言って三人は早速ガードナーの基地に行き、サリエールに会いに行った。

 

 

 

 基地に来た三人はサリエールがいる仮眠室に入った。

 

 「や、サリエールちゃん」

 

 「やっほー」

 

 「おう、サリエール」

 

 サリエールもこちらに気付き、軽い会釈をした。

 

 「今日は随分と早いね。どうしたの?」

 

 「もう学年末テストも終わったからね。午前中で終わるんだ」

 

 「そういう事…」

 

 「あ、そうだサリエールちゃん。この間誘拐犯から助けた子からお礼のお菓子を貰ったよ」

 

 「何を貰ったの?」

 

 「チョコレートだってさ。しかも手作りの」

 

 「へぇ…」

 

 ブレイダはサリエールの前に白い箱を出した。

 

 中には、何も書かれていないハート型のチョコが入っていた。

 

 ブレイダとサリエールは早速チョコレートにかじりついた。

 

 「ん、美味しい…」

 

 「うん、美味しいねこのチョコレート。また何か作って返してあげよう」

 

 「ブレイダ、その気持ちはいい事だが多分延々と続くことになるだろうから止めておけ」

 

 「そ、そう?」

 

 「仮にブレっちが作って返したらまた向こうも作って来ちゃうからね…いつまでも終わらないやつだ」

 

 「それに、こう言うのは受け取って終わりじゃない?向こうも助けて貰ったお礼で作ったんだしさ」

 

 「そっか…うん、そうだね」

 

 話している内に基地のお昼のチャイムが鳴り、時計は午後零時を指していた。

 

 「んじゃ、お昼ご飯食べて行きましょうかね、お腹も空いてきたし」

 

 「ああ」

 

 「うん、行こう」

 

 そう言ってサリエールとブレイダは急いで残りのチョコを食べ終わり、仮眠室を出た。

 

 

 

 「…あれがガードナーのフォワード…大したことなさそう」

 

 そう言って大森は人気のない場所に移動し、メガネを外して投げ捨て、ブレイダやサリエールと同じようなデバイスを取り出して胸に装着し、黒いアンダースーツと紫と緑のラインが入ったバトルジャケットやスカート、シューズを見に纏い、一瞬で姿を消した。

 

 

 「!?」

 

 「…!」

 

 ブレイダとサリエールは一瞬背筋が凍りつき、その場に立ち止まり、二人に気付いた橘と相川が振り返った。

 

 「?どうした?」

 

 「…いや、なんでもない…」

 

 「う、うん、行こう…」

 

 そう言ってブレイダ達はまた食堂に向かって歩き出した。

 

 

 

 「流石だ、大森めぐみ…いや、第1号にして我が最高傑作、究極進化生命体、ガディナ」

 

 そう言われてガディナは片膝をついて頭を下げた。

 

 「いえ、ガディサイト様の作戦があったからこそです。わたくしが貴方様の最高傑作でいられる事を誇りに思います」

 

 「フ…並行世界の果てから呼び寄せたかいがあったというもの。頼んだぞ、ガディナ」

 

 「はっ」

 

 そう言ってガディナは姿を消した。

 

 

 「…最も、精神年齢は小学生レベルだがな…」

 

 

 昼頃、ブレイダ達が昼食を食べ終えて休んでいると、街の方から突然爆発音が聞こえ、それと同時にモニターに街の様子が映し出された。

 

 街ではヤミマジュウが暴れており、炎を吐いて街を火の海にしていた。

 

 「ブレイダ!」

 

 「うん!」

 

 ブレイダとサリエールはデバイスを取り出し、基地から飛び出した。

 

 「トランスオン!」

 

 「トランス…オン!」

 

 ブレイダとサリエールは並んで立ち、デバイスを操作して右手で前にかざし、胸元に装着した。

 

 ブレイダのコアクリスタルからオレンジ色に光るバトルジャケットとヘッドホン、シューズ、ブレイブレードのラインが現れ、強く光って装着変身を完了させた。

 

 サリエールのコアクリスタルから長方形の様なエフェクトが現れ、そのエフェクトがサリエールを通過し、装着変身を完了させた。

 

 お互いはお互いの方を向き、ブレイダが頷くと同時にサリエールも頷き、ブレイダはブライトサークルに乗ってサリエールと共に飛び立った。

 

 

 「来た…トランス…オン」

 

 ガディナは目を閉じてデバイスを胸に装着し、装着したコアクリスタルからバトルジャケットやレオタードが徐々に現れ、装着変身を完了させ、ゆっくりと目を開けた。

 

 「ハァッ!」

 

 ガディナは強く飛び上がり、子供のように笑ってジェット機よりも速いスピードでヤミマジュウの元に向かった。

 

 

 「ガァァァァァァァ!」

 

 ブレイダ達二人は炎を吐いて暴れているヤミマジュウの前に降り立ち、武器を構えた。

 

 「ガァァァァ!」

 

 ブレイダ達に気付いたヤミマジュウも二人の方を向いた。

 

 「こいつの炎が厄介ね。ブレイダ、貴方はブライトサークルでヤミマジュウの気を引いて。その隙に私がヤミマジュウのヤミノチカラを叩き出すわ」

 

 「分かった!」

 

 ブレイダとサリエールはヤミマジュウの吐いた炎の弾を飛び上がって避け、ブレイダは足元にブライトサークルを作ってそれに乗り、サリエールもその場に浮いて止まった。

 

 「頼んだよ!」

 

 そう言ってサリエールは横に飛び、ブレイダは二つほどブライトサークルを手のひらの上に出し、フリスビーを投げるようにして飛ばし、ヤミマジュウの目の横を通るような軌道を描いてブライトサークルは飛んで行った。

 

 ヤミマジュウも気になったのか、上手くブライトサークルの方を向き、サリエールに背中を向けた。

 

 (よし…!)

 

 サリエールは素早くヤミマジュウのうなじの辺りに向かい、鎌を振り上げた。

 

 そして、サリエールが鎌を振り下ろそうとした途端、何者かに物凄いスピードで地面に叩きつけられ、辺りに轟音が響き、ブレイダはブライトサークルの操作を止め、音のした方を見た。

 

 「見~つっけたっ」

 

 サリエールは謎の女子に身体を押さえつけられ、右手で口元を抑えられていた。

 

 「…!?」

 

 「ごめんね…あなたが使えないから私が来たの…今あなたの役目を終わらせるからね…」

 

 そう言って女子は紫と緑のラインが入った銃型の武器を構え、銃口をサリエールの額に当てた。

 

 「だぁぁぁぁぁぁあっ!」

 

 女子が頭を上げたと同時にブレイダが女子に頭突きをし、女子は大きく吹っ飛ばされ、サリエールは女子から開放された。

 

 「けほっけほっ…随分な無茶をするのね…」

 

 「ごめん、サリエールちゃんを助けるのに夢中だったから…あ痛たた…」

 

 そう言いながらブレイダは頭を押さえた。

 

 「く…くふふ…まさか、二人目がいたなんてね…いや、あんたが二人目か!」

 

 女子はよろめきながら立ち上がり、項垂れていた頭を四十五度上げ、カクカクと身体を立て直した。

 

 「誰よ…あんた…」

 

 「…!」

 

 ブレイダとサリエールは武器を構えて後ずさった。

 

 「ようやくここのかわいい妹に会って役目を変わってあげようと思ったのに…てきと手を組んでるなんてね…本っ当に最低だね。サリエール…」

 

 「…!」

 

 その女子の顔は鬼の様な形相をして二人に近付き、思わず二人はもう一歩後ずさった。

 

 「…いや、あなたのような子に名前なんていらない。あなたには657号の名前がぴったりね!ねえ657号!」

 

 声の明るい調子に合わせて顔も笑っているが、その目は怒りと憎しみで満ち溢れていた。

 

 「657号…?違う、私は…」

 

 「何がちがうの?何もちがわないわ。あなたはほかの誰でもない657号よ。ヤミノチカラを集めるために造られた生命体の一体にすぎない。そして、ガディサイト様はあなたに期待を寄せて作った…だけど、あなたも結局失敗作だったみたいね」

 

「私は…私は…!」

 

 「657号ちゃん?事実をみとめましょう?あなたはしょせん1号の私、ガディナのコピーの一体でしかないの。しかも、これまでのコピーの誰よりも劣った存在でしかないの。ヤミマジュウも一人でたおせなくなったくらいだものね?てきの子の力も借りないとたおせなくなったのよね?」

 

 「違う!サリエールちゃんは…!サリエールちゃんは貴方の言う失敗作なんかじゃない!」

 

 そう言ってブレイダは剣を強く握ってガディナに向かって飛びかかった。

 

 「はっ、この子がこの子ならあなたもあなたね!」

 

 そう言ってガディナはブレイダの剣を掴んでブレイダを引き寄せ、右の二の腕を持って逆の方向に力任せに折り曲げ、鈍い音がブレイダの体内に響いた。

 

 「あ…ああ…がっ…」

 

 「こんなんで痛いの?まだまだ、これからよ」

 

 そう言うとガディナは無邪気に笑い、ブレイダが痛がる暇もなく身体を回して左腕を掴み、曲がらない部分を無理矢理曲げた。

 「ああああっっっ!!!」

 

 それは、まるで小さな子供が捕まえた虫の足や手を容赦無く折ったりちぎったりする光景と酷似していた。

 

 「ねえ、次はここ、強く曲げたらどうなるんだろうね?」

 

 ガディナはブレイダの喉元をつついて耳元で言った。

 

 「そ、そこは…」

 

 「やめて…もうやめて…!」

 

 サリエールは涙目になって懇願したが、身体は動こうとしなかった。

 

 「うるさい。失敗作はそこで見てなさい。656号までの他の生命体の殺し方を見せてあげる」

 

 そう言ってガディナはブレイダの首を強く握った。

 

 「く…が…!」

 

 ブレイダも抵抗したいが、両腕がまるで使い物にならず、動かそうとするだけで激痛が走り、動けそうになかった。

 

 「あ、そうだ、他の子達はまだ足でも抵抗しようとしてたんだっけ。ついでに折っておきましょう」

 

 「他の子…まさか!」

 

 「あら、ようやく気付いたの?そうよ、私が全員約立たずの失敗作共を殺してきたのよ。こんなの蚊の一匹や二匹を殺すのとなんら変わりないじゃない」

 

 そう言ってガディナはブレイダの右足の太ももと足首を掴み、膝を使って逆方向に強く曲げ、ボキリと言う鈍い音と共にブレイダの膝の裏が真っ赤に染まった。

 

 「これでもう逃げることも出来ないわね。かんねんしなさい」

 

 「う…」

 

 もはや動く事すら出来なくなったブレイダの首根っこを掴んで持ち上げ、ガディナはニヤリと笑い、サリエールの方を向いた。

 

 「失敗作は自分の力のなさを恨みなさい。恨むのなら、私じゃなくじぶんじしんを恨みなさい」

 

 そう言ってガディナはブレイダの首を強く締め始めた。

 

 「やめろおおおおおお!!!!」

 

 サリエールは力を振り絞って勢いのまま飛び出し、ブレイダからガディナを引き離した。

 

 「へえ、おどろいたよ657号。あなたにまだそんな能力が残っていたなんてね」

 

 サリエールの顔は怒り、憎しみ、恨み辛みで溢れており、その目から流れる涙にも怒りが込められていた。

 

 「これ以上、あんたなんかに好きにさせない!」

 

 「ま、弱者のとおぼえね。657号、また来るから覚悟してらっしゃい。代わりにいいものをあげる」

 

 「何…?」

 

 そう言ってガディナはヤミノチカラを取り出し、ヤミマジュウに向けて放った。

 

 「ガァァァァァァ!」

 

 「じゃあねー」

 

 そう言ってガディナは姿を消し、ヤミマジュウは黒いオーラに包まれた。

 

 「ガァァァァァァ!」

 

 ヤミマジュウが雄叫びをあげると空が暗雲に包まれ、雷鳴が鳴り出した。

 

 「ブレイダ、ブレイダ!」

 

 サリエールは寝転がっているブレイダを揺すり、呼びかけたが返事がなく、サリエールは素早くブレイダの胸に耳を当て、心臓が動いているかどうかを確認した。

 

 どうやら正常に動いているらしく、一定のリズムを刻んで心臓の鼓動が聞こえた。

 

 「良かった…とりあえずすぐ回復させるから、待ってて」

 

 サリエールのコアクリスタルも点滅を始め、サリエールはブレイダを担いで空を飛び、急いで撤退した。

 

 

 

 その日の夜、ブレイダはベッドの上で目を覚まし、ゆっくりと身体を起こした。

 

 周りを見回すと空になった回復アイテムのカプセルがテーブルの上に置いてあり、その横には手紙が添えてあり、ブレイダはその手紙を開いた。

 

 

 

 サリエールはガディナの元に基地のヤミノチカラの水晶を八つ全て持って来た。

 

 「…これでブレイダには危害を加えないのね」

 

 「ええ、可愛い妹との約束だもの。さ、渡してちょうだい」

 

 「…くっ!」

 

 サリエールはガディナにヤミノチカラの水晶を渡した。

 

 「ありがとね、657号。これで、あんたはまだ私達を裏切ってないってことにしてあげる」

 

 「そ、そんな!約束が違うじゃない!」

 

 「あら?あなたにとって得にしてあげようって言ってるのよ?あの子に危害を加えないんじゃなくて、あなたをまだ仲間として見てあげるってこと。あなたは自分の命と他人の命、どっちが大切な訳?」

 

 「それは…」

 

 「ほら、やっぱりあなたも自分の命が大切なんじゃない。決まりね」

 

 「そんな…」

 

 「なにか文句でもあるの?」

 そう言ってガディナはサリエールの方を睨みつけた。

 

 「…」

 

 「何も無いわね。じゃあね」

 そう言ってガディナはその場から姿を消した。

 

 「く…ごめん、皆…」

 

 

 サリエールが仮眠室に入ると、ブレイダがベッドで起きていたのを見つけた。

 「あ、サリエールちゃん…」

 

 「…」

 

 サリエールは何も言わず、ブレイダの隣に座り、ブレイダの肩を掴んでもたれかかった。

 

 「ごめんなさい…ブレイダ…あなたが集めてきたヤミノチカラをあの子に渡してしまった…本当にごめんなさい…」

 

 サリエールは大粒の涙を流して言った。

 

 「しかも…あなたを守る約束だったはずなのに…勝手に変えられて…いつの間にか…私が守られる約束になってて…結局…守れなくて…本当にごめんなさい…」

 

 「サリエールちゃん…」

 

 「最低だよね…私…あの子の言う通りだった…失敗作だったかも…」

 

 サリエールはしゃくりあげて嗚咽を漏らしながら言った。

 

 「…サリエールちゃん、顔を上げて…」

 

 「…」

 

 サリエールは顔を上げてブレイダの顔を恐る恐る見た。

 

 その次の瞬間、ブレイダは優しくサリエールを抱きしめた。

 

 「ありがとう、サリエールちゃん。わたしを守るためにしてくれたんだよね。わたしこそ、何も出来なくてごめん。こんな事しか言えなくて…それに、サリエールちゃんは失敗作なんかじゃないよ。いつもわたしの足りないところを助けてくれるし、わたしが失敗してもちゃんとカバーしてくれる、わたしの大切な親友だよ」

 

 「ブレイダ…許してくれるのか…?」

 

 「どうして?親友だよ?許すに決まってるじゃない」

 

 そう言ってブレイダはいつもと変わらない笑顔をサリエールに見せた。

 

 「ブレイダ…ありがとう」

 

 サリエールも安心したように微笑んだ。

 

 「どういたしまして」

 

 そう言って二人は笑いあった。

 

 「本当はね、この手紙を読んで怖くなったの。もうサリエールちゃんと会えなくなるんじゃないかって。すごく怖かった…だけど、またこうして会えて嬉しかったよ」

 

 「ブレイダ…」

 

 そう言うブレイダの目には涙が貯まっていた。

 

 「もしかしたらもう会うこともなくなって、この先世界が元に戻ってもサリエールちゃんは帰ってこないんじゃないかとか、あるいはってずっと考えててさ…帰ってきてくれて良かったよ~!」

 

 そう言ってブレイダはサリエールの身体に抱きついた。

 

 「わ、私はどこにも行かないよ!約束する!」

 

 「本当?」

 

 そう言うブレイダの顔はもう泣きそうだった。

 

 「約束する。絶対にブレイダを置いてどっかに行くなんてしない。だから、いつもの明るいブレイダでいて」

 

 「…うん!」

 

 サリエールはブレイダの涙を指で拭って微笑み、ブレイダも笑い返した。

 

 「よし、じゃあ、これからどうするか考えよっか」

 「どうするって?」

 

 「あのヤミマジュウをどうやって倒すかだよ。また話し合っていこう」

 

 「そうだね。また皆と話さなきゃ」

 

 そう言って二人は仮眠室を出た。




今回はここまでです。

書きたい話を全力で忘れてたので変えました。

だがこれで良くなった…はず!

次回もお楽しみに!

よろしければ感想、評価よろしくお願いします!


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強く…

ごめん今回短くなっちゃった…
次回めちゃくちゃ頑張るから許して(懇願)


二人が仮眠室を出ると、扉の前に百合や 玲司、神凪が立っていた。

 

 「あ、百合さん…その…」

 

 サリエールは思わずくちごもり、俯いてしまった。

 

 「…ま、文句の一つでも言ってやりたいとこだけど…」

 

 そう言いながら百合はサリエールに近付いた。

 

 「…」

 

 「ブレイダを守るためなら許す!」

 

 そう言いながら百合はサリエールの頭に手を置いた。

 

 「百合さん…」

 

 「いいのか?今まで集めたヤミノチカラを全部持って行かれたんだぞ?」

 

 「ブレイダやサリエールの命が危なくなるくらいなら持ってかれた方がマシよ」

 

 「百合ちゃん…」

 

 「どんなものでも命に変えられないわ。例えそれがどれだけ大切なものでも、大切な人の命には変えられないもの」

 

 「百合…分かった。また俺から上に上手く言っておく」

 

 「ありがとう、玲司くん…さて、二人とも、時間空いてる?」

 

 「?はい」

 

 「そりゃ空いてますけど…」

 

 「ちょうど良かった。玲司くん、神凪ちゃん、お願い」

 

 「分かった。二人とも、付いてきてくれ」

 

 「あのガディナって子にも勝てるかもしれないものが出来たの」

 

 「?」

 

 二人は顔を見合わせて目をぱちくりし、二人に言われるがまま着いて行った。

 

 四人はエレベーターに乗り込んで三階の開発室に向かった。

 

 部屋のテーブルの一つにアタッシュケースが置かれ、四人はそこに近付いた。

 

 玲司はアタッシュケースに近付き、中身を取り出して二人に見せた。

 

 「これは…」

 

 「USBメモリ?」

 

 「ああ。中にパワーアップのプログラムのデータが入っている」

 

 「パワーアップ…と言いますと?」

 

 「どう強くなるの?」

 

 「ああ、これは無限に生物を進化させ、どこまでも強くなるプログラム…通称『インフィニティ・エクシーズプログラム』。このプログラム自体はずっと前からあったんだが、副作用が強すぎて人間には早すぎると結論が出て永久凍結されていたんだが…今こそ使う時だと思ってな。おそらくお前達なら大丈夫だ」

 

 「大丈夫って言われても…その副作用は何なんですか?」

 

 「そうだな…順を追って説明しよう。並の人間にブレイダやサリエールと同じ武装をさせ、そのプログラムを使うと、その人間が望んだような進化を遂げるようになっている。例えば、火や熱さに強くなりたいと思えばその通りに身体が変化し、思った通りに進化をする。だがその反面、水や冷たさに弱くなる、といったような副作用が出る」

 

 「え、でもそれなら水に強くなりたいって思って進化すれば良いのでは?」

 

 「ああ、それ自体は出来るが、身体がその矛盾の状態に絶えることが出来なくなり、身体ではなく精神や脳に異常を来たしてくる。そして、やがては廃人の様になり、ただ戦うことだけしか考えられなくなり、その頃には進化をし過ぎて人間とも生物とも言えない何かに変わってしまうんだ…」

 

 「そんな…」

 

 二人の表情は段々とこわばっていった。

 

 「しかも、進化だから元に戻ることは理論上不可能だ…だが、お前達なら正しい判断をして進化を遂げる事が出来ると思う。どうだ、使ってみるか?」

 

 二人は怪訝そうな顔で見合わせて考えた。

 

 「…まあ、こんなオーバーテクノロジーを使えって言う方も大概だな、すまん」

 

 そう言って玲司がメモリをアタッシュケースにしまおうとした途端、窓ガラスが割れ、変身したガディナが入ってきた。

 

 「いいものみっけ!」

 ガディナはそう言いながら颯爽と玲司の手からメモリを奪った。

 

 「メモリが!」

 

 「く…!ガディナ!」

 

 「あら?誰かと思ったらサリエールちゃんじゃない。どう?今ここで見逃してくれたら今の待遇をもっと良くしてあげるけど?」

 

 ガディナは上から見下しながらサリエールに言った。

 

 「く…そんなのいらない!メモリを返して!」

 

 「あ、そう。そんなにその子が大切なのね。じゃあ、こうしてあげる」

 

 そう言った次の瞬間、ガディナは玲司の腹に膝蹴りを入れ、一瞬動きを止めて背中に肘打ちを入れて気絶させた。

 

 「玲司!」

 

 「玲司さん!」

 

 「これでもまだ手加減をしてるのよ?たったの一%しか力を出してないわ」

 

 「くっ…!」

 

 ブレイダは恐怖で足が竦んで動くことが出来なくなっていた。

 

 「じゃ、これは貰ってくね~。ばいばーい」

 

 そう言ってガディナはメモリを持って割れた窓から飛んで行った。

 

 「ブレイダ…大丈夫か?」

 

 「サリエールちゃん…」

 

 サリエールを見つめるブレイダの目からは光が消え、彼女の身体は恐怖で震えていた。

 

 「…ブレイダ…」

 

 「…怖い…」

 

 サリエールはブレイダの肩に手を伸ばそうとするとブレイダの身体が一瞬ビクッと震え、サリエールも戸惑いながら手を引いた。

 

 「…神凪さん、ブレイダをお願いします。私は玲司さんを医務室に連れていきます」

 

 「え、ええ…」

 

 サリエールは玲司をおぶり、開発室を出た。

 

 ブレイダは何も言えないまま、膝から崩れ落ち、床に手をついた。

 

 「ブレイダちゃん…大丈夫?」

 

 「…」

 

 神凪はため息をつき、弱々しい手で車椅子を動かしてブレイダの元に近付き、ブレイダの肩に両手を置いた。

 

 「ブレイダ…聞いて。今まで貴方は凄いことをやって来たの。でも、きっと戦ってる中で怖いことも沢山あったと思う。けど、あなたはそれでも戦ってこれた。それはなんでだと思う?」

 

 「…皆を守りたいと思った…から?」

 

 「そうね、確かにそれもあるかもしれないわ。だけど、それとは少し違うのよ」

 

 「…?」

 

 「あなたは皆と普通に一緒にいて、一緒にいれるものだと心のどこかで思っていた。だけど、ヤミマジュウが出て、あのガディナって子にもやられて、貴方がこんなに怖がっているのは死ぬのが怖いんじゃない。本当に貴方が怖がっていたのは皆と一緒にいれなくなることよ」

 

 「皆と一緒にいれなくなる…?」

 「ええ…それを極端に怖がっていて、ブレイダは戦ってきた。橘ちゃんや相川ちゃんがいなくなったらどうしようとか、百合さんや私達がいなくなったらどうしようなんて考えた事ないでしょう?いや、考えるのを避けていた…違う?」

 

 「…」

 

 ブレイダは何も言い返せずに俯いた。

 

 「その反応は図星ってところかしらね。それでも、いつかは私達や橘ちゃん達とも分かれる時がいつかは来る。サリエールちゃんともずっと一緒にいられるかは決まってる訳じゃないでしょう?」

 

 「…サリエールちゃんとも…」

 

 「だから、貴方が今考え方を改めるの。貴方に必要なのは勇気」

 

 「勇気…」

 

 「ええ。少し根性論みたいになってしまうけど、あなたには技術や力ではなく、勇気が必要よ。そうすればきっとあの子にも…」

 

 「…うん。頑張ってみる。皆を守らなくちゃいけないから…!」

 

 ブレイダは拳を握って身体の震えを一生懸命止め、力強く立ち上がった。

 

 「ありがとう、神凪さん。私はもう…」

 

 神凪はブレイダに向かって頷き、ブレイダも神凪に笑い返して部屋を出た。

 

 「…立ち直りが早いところも、零くんそっくりだよ」

 

 

 

 ブレイダはエレベーターで一階に降りてサリエールを走って追いかけた。

 

 廊下を曲がるとサリエールが医務室を出てきたのを見つけ、サリエールも足音に気付いてブレイダを見つけた。

 

 「ブレイダ…」

 

 「サリエールちゃん、ごめん。次は私がサリエールちゃんを守る。絶対に」

 

 「…分かった。頼りにしてるよ」

 

 サリエールはそう言って微笑み。ブレイダの目にもいつの間に光が戻っていた。

 

 

 

 

 次の日の早朝、ブレイダとサリエールは二人並んで歩き、ヤミマジュウの元に向かった。

 

 どうやらエネルギー切れらしく、ヤミマジュウは疲れて眠っていた。

 

 「これは願ってもないチャンスだな…寝ている隙にたたき出そう」

 

 「うん、サリエールちゃん。行くよ!」

 

 二人はデバイスを取り出して操作し、構えた。

 

 「「トランス・オン!」」

 

 そう言って二人は胸にデバイスを装着し、一瞬で変身を完了して武器を構えた。

 

 そして、二人は前回と同じようにヤミマジュウの元に飛び立ち、背中の首のあたりまで近付いた。

 

 朝早いのが幸いしたのかガディナもおらず、今度は邪魔されなさそうだ。

 

 「よし…いくよ」

 

 「ええ」

 

 二人は息を合わせ、ヤミマジュウの背中を強く蹴飛ばして口からヤミノチカラを吐き出させた。

 

 上手く口からヤミノチカラの水晶が噴出し、ヤミマジュウはどんどん小さくなっていき、小さな動物へと戻った。

 サリエールはヤミノチカラを回収し、一段落かと思ったその時、想定していた最悪の事態が起きた。

 

 「ちょぉーっと待ったぁーー!そのヤミノチカラ、貰うよ!」

 

 ガディナが二人の元に勢いよく降り立ち、サリエールに近付いた。

 

 「ほら、さっさとちょうだい」

 

 そう言ってガディナはサリエールに手を差し出した。

 

 しかし、サリエールは何も言わずヤミノチカラを後ろに隠した。

 

 「?何やってるの?ほら、早く」

 

 すると、ブレイダがガディナの間に割って入り、ガディナを睨みつけ、手を強く払い除けた。

 

 「貴方にあげるものなんて何も無いわ。さっさと立ち去りなさい」

 

 ブレイダは強くガディナを睨みつけ、静かに言った。




とりあえず今回はこんなところです。
キャラ紹介して終わります。

ガディナ/大森めぐみ
通称「究極進化生命体」。遠い並行世界からブレイダのいる世界に来たサリエールと同じヤミノチカラを使って変身をする。その力は零や玲司を凌ぎ、究極進化の名に相応しいほどの力を持っているが、その反面精神は小学生低学年程のものとなっているため、自分の気に食わないものや不快なものは自分の力でねじ伏せ、言うことを聞かせてきた。子供のような精神のため、理不尽な事が多く、本能的に行動することが多い。


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ブレイダの覚悟

仮面ライダーファイズを見終わって影響されかけたけどなんとか留まった。

流石に悲しい路線に行く訳にはいかんのじゃ…


ブレイダはガディナの手を払い、キッとガディナを睨みつけた。

 

 今までとは違い、ブレイダの気迫でガディナを圧倒していた。

 

 「大丈夫?サリエールちゃん」

 

 そう言ってブレイダは微笑んでサリエールに手を差し伸べ、サリエールはその手を取った。

 

 「ありがとう、ブレイダ」

 

 「礼なんて言いっこなしだよ。それに…」

 

 ブレイダはガディナの方を向いた。

 

 「あなたにはキッチリ借りを返さないとね」

 

 そう言ってゆっくりとブレイダはガディナに歩いて近付いた。

 ブレイダの眼光は強く、昨日の彼女とはまるで別人だ。

 

 「く…う…ううううーっ!」

 

 そして、手にブレイブレードを出現させて強く握り、ガディナが撃った銃弾を弾き、そのまま歩き続けた。

 

 「な…こ、この…!」

 

 ガディナはそう言ってブレイダに向けて二発弾丸を発射した。

 

 「…はぁっ!」

 

 ブレイダは走り出し、構えた剣で弾丸を弾き返してガディナの懐に入り込んだ。

 

 「う!」

 

 「だぁぁ!」

 

 ブレイダは渾身の力を込めて剣でガディナに叩きつけた。

 

 「うわぁぁぁっ!」

 

 ガディナは強く吹き飛ばされ、ガレキの山に突っ込んだ。

 

 「ぐ…」

 

 「………」

 

 ブレイダは立ち止まり、ガレキの山の方を見つめた。

 

 「…ブレイダ…?」

 

 「ふぅっ!」

 

 すると、ガレキの山からガディナが飛び出し、上空に留まってブレイダを見下ろした。

 

 「く…なんでだ…!昨日あれだけ痛めつけてやったのに…!」

 

 ブレイダは上空に浮くガディナを見上げた。

 

 「…」

 

 ブレイダはガディナの方を見つめていた。

 

 「ううう…!今すぐお前を倒してやるー!」

 

 そう言ってガディナはブレイダに向けて飛び出した。

 

 「そう…」

 

 ブレイダはそれだけ言うとガディナの突進を最小限の動作で回避し、ガディナはそのまま地面に頭から突っ込んだ。

 

 「痛たたたた…!ど、どうして避けるのよ!」

 

 「あら、避けちゃ悪かった?」

 

 そう言ってブレイダは転んだガディナの方を向いた。

 

 「当たり前でしょ!避けないでよ!」

 

 「分かった、次は避けない」

 

 そう言ってブレイダはガディナの方を向いて棒立ちで立った。

 

 「さあ、来るなら来て」

 

 そう言うブレイダは先程よりも強くガディナを睨んでいた。

 

 「う…うわぁぁぁー!」

 

 半ば震えながらガディナは銃口をブレイダに向けて連射した。

 

 しかし、銃口が震えているのか銃弾はブレイダの身体をかするばかりだった。

 「お、お前なんかお前なんかお前なんか…!」

 

 「声と銃口が震えてるよ。ちゃんと狙って撃たなきゃ」

 

 「な、何!?そっちが避けてるんでしょ!?」

 

 「バカ言わないで。わたしはここから動いてないわ」

 

 「そ、そ、そんな…ことが…う、う、うそだ…」

 

 ブレイダは真っ直ぐ歩いて進み、弾丸の嵐の中を通ってガディナに歩を進めた。

 

 「あ、当たれ…当たれ当たれ当たれえええ!!」

 

 そうしている内に弾切れを起こし、ガディナは弾丸が出ない銃の引き金を何度も引いた。

 

 「はぁっ!」

 

 ブレイダはガディナの銃を薙ぎ払って手から飛ばし、矛先でガディナの身体を一突きして一瞬動きを止めた。

 

 「がっ…」

 

 「はぁぁっ!」

 

 そして、剣を大きく振りかぶって強くガディナの身体に叩きつけた。

 

 「がァァァァ!痛い…痛い痛い!痛い痛い痛いあああああ!」

 

 そう叫びながらガディナは左肩を押さえた。

 

 「なんで…なんでなんでなんでなんで!どうして私があなたに…!!」

 そう叫んでガディナはブレイダに向かって飛びかかってきた。

 

 「簡単なことよ」

 

 「!」

 

 ブレイダは剣を構え、飛びかかってきたガディナの身体に剣を強く叩きつけてガディナを地面に叩きつけた。

 

 「あなたがわたしの大切な人に手を出した…それだけよ!」

 

 「ブレイダ…」

 

 「ぐうううううっ!舐めるなぁぁぁぁ!」

 

 ガディナは素早く立ち上がってブレイダに殴りかかった。しかし、ブレイダはその拳を掴んで受け止め、腕を上に払い除けて腹部に肘打ちを入れ、後ろ回し蹴りでガディナを蹴り飛ばした。

 

 「く…!これだけは使いたくなかったけど…!」

 

 ガディナは胸のコアクリスタルを外して操作し始めた。

 

 『INFINITY EXCEEDS!START!』

 

 「!」

 

 「来る…!」

 

 ブレイダはサリエールの元にまで下がり、それぞれ武器を構え臨戦態勢に入った。

 

 『Process one』

 

 デバイスの音声と共にガディナは勢いよく飛び上がり、一切の動き無しで音速を超えてブレイダに突撃し、ブレイダが避ける間もないまま上空に連れ去った。

 

 『Process two』

 

 ガディナはブレイダを音速を超える速度を出し、凄まじい力でブレイダを地面に叩きつけた。ブレイダが叩きつけられた場所には五十メートル程のクレーターが出来上がっていた。

 

 「う…!」

 

 「あは…あはは、あはははははは!そうだ!もっと足掻いて見せろ!」

 

 ブレイダが立ち上がろうとする暇もないままガディナはブレイダの髪を掴み、強く頭突きをし、ブレイダは一瞬気を失いそうになった。

 

 「まだまだ…これから全力でぶっ壊してあげる!」

 

 そう言うとガディナはブレイダを地面に一発叩きつけ、もう一度持ち上げてブレイダの身体を殴り始めた。

 

 「りゃあ!だぁ!」

 

 「がっ!げふっ!がはっ…!」

 

 「前は何本か残しちゃったけど…今度は完全に骨一本残さず壊す。その腕も!脚も!身体も!完全にねぇ!」

 

 『Process three. Process four. Process Five』

 

 ガディナはブレイダを殴ろうとする拳を進化させ、見るのも恐ろしい程に巨大で醜悪な拳になっていた。

 

 「ぐ…ううっ…!」

 

 ブレイダは両腕でガディナの腕を剥がそうとしたが、ビクともしない程に強くブレイダを掴んでいた。

 

 「今度はさせない!はぁぁっ!」

 

 そう言ってサリエールは鎌を握りガディナに向けて振り下ろした。

 

 「なっ!くっ!」

 

 ガディナは慌ててブレイダを離し、サリエールはブレイダの身体を急いで支えた。

 

 「やってくれるじゃない…出来損ないどもめ…!」

 

 すると、ガディナは何を思いついたのか、不敵な笑みを浮かべてコアクリスタルを銃にセットし、ブレイダに銃口を向けた。

 

 『Process one』

 

 「これでもくらえ!」

 

 ガディナは引き金を引き、ブレイダに紫色の光弾を放った。

 

 「うああっ!」

 

 光弾を受けたブレイダは地面に倒れ込んだ。

 

 「ふ…」

 ガディナはコアクリスタルを胸に戻した。

 

 「あなた…ブレイダとか言ったわよね…あなたは今のままでいいの?」

 

 「え…?」

 

 「そんな出来損ないの約立たずを守り、結果いつもあなたが傷ついているじゃない。本当はどこかで思ってるんじゃないの?一人でやった方が良いって」

 

 「そんなことない!サリエールちゃんは私の…!」

 

 「パートナーなんて言いたい訳?その子はあなたを助けるようなこともろくにしないまま私にヤミノチカラを渡して、あげく昨日もあなたに大怪我を負わせたのよ?助けることもしないで」

 

 「違う…サリエールちゃんは…!」

 

 ブレイダの拳は怒りでわなわなと震え、歯を食いしばってガディナの方を睨みつけていた。

 

 「何が違うの?そんな自分の相棒も守らない、サポートしない、しかも自分勝手…これ以上酷いやつなんていないわ」

 

 「…私…私は…」

 

 口を開けたままサリエールは首を横に振った。

 

 「もちろん、アタシが襲ったのはあなたを倒さなきゃいけないから。だけど…そこの約立たずがあなたを守らない理由がどこにあるの?そんなパートナー、もう捨ててしまえば?」

 

 「黙れぇぇぇぇぇぇ!」

 

 ブレイダは立ち上がって叫んだ。

 

 すると、ブレイダに異変が起き、ブレイダのコアクリスタルが紫に染まった。

 

 「ああああああああぁぁぁ!!!」

 

 ブレイダの中のヒカリノチカラはヤミノチカラへと変わっていき、段々と増殖を始め、ブレイダの体表にも変化が現れ始めた。

 

 

 

 「なんだ!?何が起こっている!?」

 

 玲司は司令室で 解析をしている神凪に聞いた。

 

 「分からない!ブレイダちゃんの体内のヤミノチカラの侵食率…80%…100%…120%…!?まだまだ上がっていくわ!」

 

 「ブレイダ…!?」

 

 

 「あああああ…!ああああああああぁぁぁ!はぁぁぁぁ…」

 

 正気を失い、肩で息をしているブレイダにガディナが近付き、耳打ちをした。

 

 「あなたの標的は、そこの青い髪の子よ…」

 

 そう言われてブレイダはサリエールの方を向いた。

 

 「全力でやりなさい。あれはあなたから全てを奪ったのよ」

 

 「ガァァァァァァ!」

 

 ブレイダのバトルスーツも白から黒に染まり、オレンジのラインも赤黒く血のように染まった。

 

 そして、剣を握り、サリエールに襲いかかった。

 

 「ガァァァァァァッ!」

 

 「ブレイダ…くっ!」

 

 ブレイダは剣を振り回し、サリエールはそれを避けるのが精一杯だった。

 

 「ウウウ…アァーッ!」

 

 ブレイダは足元に紫色のブライトサークルを出現させて強く蹴って飛び出し、サリエールに急接近した。

 

 「!!」

 

 「ダァァッ!」

 

 ブレイダは強くサリエールに剣を叩きつけた。

 

 「がはっ…!」

 

 ブレイダは弾んだサリエールの首を掴み、力強く握って持ち上げた。

 

 「ウウウウ…!

 

 「がっ…ぐっ!」

 

 サリエールは鎌を慌てて掴み、ブレイダに当てて無理やり腕を引き剥がした。

 

 「ゲホゲホッ!…く…!」

 

 「グ…グアアァァァ!」

 

 ブレイダは尚もサリエールに襲いかかり、サリエールの鎌を掴んでサリエールの身体ごとビルの壁に押し当てた。

 

 「ブレイダ…お願い…目を覚まして…!」

 

 「ウアアアアアッ!」

 

 ブレイダは獣のような雄叫びをあげながら剣を振り上げ、サリエールは覚悟を決めて目を瞑った。

 

 「…?」

 

 サリエールは恐る恐る目を開けた。

 

 「ウウウ…」

 

 ブレイダの剣はサリエールの前髪の直前で止まり、腕が震えていた。

 

 「ウウ…」

 

 「ブレイダ…?」

 

 「…わたし…は…」

 

 ブレイダの変身が解け、正気に戻ったブレイダは辺りを見回した。

 

 「…これ…は…うっ!」

 

 ブレイダに激しい頭痛が走り、頭を押さえてしゃがみ込んだ。

 

 「ブレイダ!?」

 

 「うっ…ううっ!」

 

 ブレイダは震える手を見つめていた。

 

 「わたしは…わたしは…うわぁぁぁー!」

 

 そう言ってブレイダはどこかに向かって走り出した。

 

 「ブレイダ!待って!」

 

 「…」

 

 ブレイダは一瞬立ち止まったが、何も言わず、どこかに走り去ってしまった。

 

 「あらら…ま、自分の行いのせいよね。せいぜい頑張りなさい」

 

 そう言われてサリエールはガディナの方を向いたが、もう誰もおらず、その場にはサリエールだけが残っていた。

 

 「ブレイダ…私がもっと助けてあげていれば…」

 

 空は鉛色に染まり、雨が降り始めた。

 

 「違う…助けなきゃいけなかったんだ…なのに…私は助けようともしないで…!どうして…どうして何も出来なかったの!…」

 

 サリエールの叫びが谺響する。その叫びはとても辛いものだった。

 

 

 

 サリエールは雨に打たれながらガードナーの基地に向かって歩いていた。

 

 全身は雨で濡れ、顔には涙とも雨とも分からない水滴が付いていた。

 

 辺りを歩く人間は誰もサリエールのことなど気にも留めず、自分の行くべき場所に向かって歩くばかりだった。

 

 雨はどんどん強くなり、降水量も増え、サリエールの足元にも段々と水溜まりが増えてきた。

 

 「……」

 

 サリエールの脚は震え、ついに膝を地面についてしゃがみ込んでしまった。

 

 「…ブレイダ…」

 

 雨に打たれているサリエールは歩くことを辞めてしまった。

 

 

 

 「今日はブレっちこないね。どうしたんだろ」

 

 「さあな…風邪とかじゃないのか?」

 

 橘と相川は傘をさして学校に向かっていた。

 

 「風邪かなぁ…あの健康優良少女が風邪なんてひくかね」

 

 「さあな…バカは風邪ひかないなんて言うからブレイダはバカではないんだろうな。咲と違って」

 

 「な、なにおう!」

 

 「ははは、そう怒るな怒るな。…ん?」

 

 橘は道端にサリエールが座っているのを見つけた。

 

 「サリエール…どうしたんだ?」

 

 「ブレっちは一緒じゃないの?」

 

 橘と相川はしゃがみ込んでサリエールの顔を覗き込んだ。

 

 「…ブレイダは…」

 

 二人はサリエールから一連の事情を聞いた。

 

 「…つまり、ブレっちの身体は今はヤミマジュウと同じ、ってこと?」

 

 「…うん、ごめん、私が守れていれば…」

 「過ぎたことを気にしても仕方がない。今はブレイダを探すことが先決だ」

 

 「うん…でも…今会ってもなんて思われるか…」

 

 「大丈夫」

 

 そう言って相川は立ち上がってサリエールに手を差し伸べ、サリエールはそれを見て顔を上げた。

 

 「今はまだ困惑してるだけだよ。ブレっちがあんたを嫌いになんてなる訳ない。約束する」

 「…でも…」

 

 「サリエールとブレイダなら大丈夫だ」

 

 橘もサリエールに手を差し伸べた。

 

 「…分かった。会って話してみる」

 

 そう言ってサリエールは二人の手を掴んで立ち上がった。

 

 「私たちはまだこれから学校があるから…終わったら探すのを手伝うよ」

 

 「ありがとう、二人とも」

 

 「気にするな。いつも助けて貰ってるんだ。こういう時くらいは、な。がんばれ」

 

 「…うん!」

 

 サリエールは強く頷き、走り出した。

 

 

 

 「はぁ…はぁ…」

 

 息を切らしながらブレイダは森の中を走っていた。

 

 「…」

 

 ブレイダは立ち止まり、木陰に座り込んだ。

 

 「…私はもう…戦うことが出来ないのかな…次変身したらまた…」

 

 そう言いながらブレイダは虚空を見ていた。

 

 「ウガァァァァァッ!」

 

 すると、森の中で巨大なヤミマジュウが目覚め、木々を倒しながら街の方に向かっていた。

 

 「あれは…ヤミマジュウ!皆には…近付かせない!」

 

 ブレイダはデバイスを取り出し、デバイスを操作して右手に構えた。

 

 「………!」

 

 先程の暴走していた時間がふと脳裏を過ぎる。だが、そんな事は気にしていられなかった

 

 「…トランス・オン!」

 

 ブレイダは胸にデバイスを装着し、一気に変身を完了させた。

 

 「ううう…ウウウ…く…!」

 

 全身に電流が走り、ブレイダは動きを止めた。

 

 「くっ…グググ…ぐ…!あああっ!」

 

 ヤミノチカラに飲まれそうになるのを必死に抑え、ブレイダは剣を握った。

 

 「わたしは…ヒカリノチカラで戦う…ガードナーだァァァァァ!」

 

 すると、ブレイダを囲っていたヤミノチカラがガラスのように割れて砕け散り、ブレイダの体内のヤミノチカラがヒカリノチカラへと変わった。

 

 「はっ!」

 

 ブレイダはオレンジ色のブライトサークルを出現させて乗り込み、ヤミマジュウの元に向かった。

 

 「はぁぁぁっ!」

 

 ブレイダはブライトサークルから強く飛び立ち、ヤミマジュウの顔に剣の矛先を叩きつけてヤミマジュウは地面に倒れた。

 

 「はぁ…はぁ…ぐ…!」

 

 まだ身体が痛むのか、ブレイダは肩を押さえながら剣を強く握った。

 

 「わたしはもう…負けない!」

 

 ブレイダは走り出し、ヤミマジュウも立ち上がってブレイダに向かって拳を振り下ろした。

 

 ブレイダは剣でヤミマジュウの拳を弾き返し、素早くターンしてヤミマジュウに一歩近付いて身体を剣で突き、ヤミマジュウはよろめいて後ずさった。

 

 「もう私は逃げない!誰も傷つけさせない!」

 

 「ウガァァァァァッ!」

 

 「はぁぁぁぁぁっ!」

 

 ブレイダはヤミマジュウが振り下ろして来る拳に合わせて飛び上がり、ヤミマジュウの周りにブライトサークルを多数出現させ、最初のブライトサークルを強く蹴って飛び出した。

 

 『BANNICING SMASH!』

 

 「だああああああああああああぁぁぁ!!!!」

 

 ブレイダは音速を超え、さらに加速して行きながら剣にヒカリノチカラを貯め、ヤミマジュウに向かって剣を力強く振り下ろした。

 

 「グアアァァァァァァ!!!!」

 

 ヤミマジュウが紫の炎をあげて爆発し、ヤミノチカラの水晶と動物が落ちてきた。

 

 着地したブレイダは水晶を拾い上げ、ヤミマジュウを倒した事を確認した途端に力が抜け、背中から倒れそうになった。

 

 すると、その背中を誰かに支えられ、後ろを見た。

 

 「…サリエールちゃん…ありがとう」

 

 「…良いよ、ブレイダが無事なら」

 

 サリエールはブレイダを支えて立たせ、肩を貸して歩き始めた。

 

 「いつからいたの?」

 

 「ちょっと前…かな。ブレイダの叫びが聞こえて、それを聞いて走ってきたの」

 

 「そっか…」

 

 「うん…今まで守れなくてごめん、ブレイダ。私、これまで以上に頑張るからさ…もっと、頼って」

 

 「…うん、ずっとずっと、頼りにしてるよ」

 

 そう言ってブレイダはサリエールに向かって前と変わらない笑顔を見せた。

 

 「あ痛たた…」

 

 ブレイダは顔を歪めながら腕を押さえた。

 「だ、大丈夫!?」

 

 「う、うん。でもちょっと痛むかな…」

 

 「そんなのちょっとじゃないよ!とにかく基地に戻って回復アイテム飲まなきゃ!急ごう!」

 

 「うん!」

 

 サリエールは変身してブレイダをお姫様抱っこして飛び上がった。

 

 「ふえ!?ええ!?」

 

 「しっかり掴まっててね!」

 

 そう言ってサリエールは一気に速度を上げて飛行を始めた。

 

 「はやーーーーーーい!」

 

 

 

 ガードナーの基地で回復アイテムを飲み、身体中のケガを治した。

 

 「学校の先生には一応言ってあるけど…遅刻にして学校に行く?」

 

 百合はカーテンを開けながら言った。

 

 「うん。咲ちゃんや翔子ちゃんも待ってるだろうし」

 

 「分かったわ。先生には連絡しておくからブレイダは学校に行きな」

 

 「はい!」

 

 そう言ってブレイダは用意されていたカバンを持ち、靴を履いて基地の入口を出た。

 

 「行ってらっしゃーい!」

 

 「…行ってらっしゃい」

 

 「行ってきます!」

 

 そう言ってブレイダは笑顔で学校に向かった。

 

 「…もうすぐ、高校三年生か…」

 

 そう言う百合の目はどこか寂しそうだった。




今回はここまでです。

次回からブレイダちゃんとサリエールちゃんは高校三年生!乞うご期待!

よろしければ感想よろしくお願いします!


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第零話

お久しぶりです!
間に合え平成!


四月になり、ブレイダ達は高校三年生へと進級した。

 

 それに伴い、サリエールもブレイダ達のいる高校に編入した。

 

 以前玲司と神凪の養子になったこともあり、姓は二階堂になっていた。

 

 それでもまだ二人に慣れないらしく、終わった後はガードナーの仮眠室にいるようだったが、本人もいずれ二人のいる家に住まわせてもらうと言っていた。

 

 クラスはサリエールも含め四人同じクラスになり、全員が安堵していた。

 

 担任は昨年と同じ如月先生が受け持ち、クラスメイトの中にも何人か見慣れた顔がいた。

 

 そして、一ヶ月近く経った頃である。

 

 橘、相川、サリエールの三人が卒業後の進路を決めた中、ブレイダだけはまだ進路を書けていなかった。

 

 「ブレっちどうすんの?今日提出期限でしょ?」

 

 「もうガードナーに所属しているようなものなんだからガードナーで良いんじゃないのか?」

 

 「ま、まあ、ブレイダの人生だから…戦いが終わった後の事でもいいと思うよ」

 

 「うーん、それは分かってるんだけど…」

 

 ブレイダは苦い顔をして頭を書きながら用紙とにらめっこしていた。

 

 用紙の欄はどれも真っ白で、自分の名前しか書かれていなかった。

 

 「どこかの大学に行きたいとかないの?」

 

 「無いかなぁ」

 

 「こんなことして働きたい!とかは?」

 

 「それも特に…」

 

 「やっぱりガードナー?」

 

 「うーん…」

 

 「…まあ、とりあえずガードナーだけでも書いとけばいいんじゃない?今も所属してるようなもんなんだし、ガードナーに入れば色んな仕事が出来るから、気になった部署に入ってそこで働けばいいんだからさ」

 

 「そうだね。とりあえずガードナーだけでも書いとくよ」

 

 そう言ってブレイダはガードナーの文字を書き記し、担任の如月に渡した。

 

 「先生、お願いします」

 

 「おう。なんとか間に合ったな」

 

 そう言って如月はブレイダの用紙を受け取った。

 

 「お、ブレイダもガードナーか。頑張れよ!応援してるぞ」

 

 如月はとてもいい笑顔で笑ってブレイダを励ました。

 

 「あ、ありがとうございます。あの、私もって…」

 

 「ん?ああ、このクラスでブレイダと同じようにガードナーに進路希望をした生徒が三人いるんだ。ほら」

 

 そう言って如月はあごで教室の後ろを指した。

 

 振り向くと、その先には橘達がいた。

 

 「本来は言っちゃいけないんだけどな。ま、同じ職場なら構わないだろ」

 

 「咲ちゃん達もガードナー希望だったんだ…」

 

 話を聞いていたらしい相川が白い歯を見せて笑った。

 

 「ああ。あと、他のクラスにも一人いたな、ガードナー希望の女子が」

 

 「?それは誰なんですか?」

 

 「桐崎って言う女子生徒だ」

 

 「桐崎…さん」

 

 「ああ。一度受け持ったことがあるけど、結構良い奴だったな。特撮ヒーローが好きで、そこを気にしているけど、それも個性だしな」

 

 「桐崎さんか…いつか会ってみたいな」

 

 「ああ。見かけたら話してみるといい。噂になってる二人の戦士にも興味津々だそうだ」

 

「へぇー、ありがとうございます」

 

 「おう。また会ったらよろしく伝えておいてな。確かに用紙も貰ったぞ」

 

 「はい!」

 

 そう言ってブレイダは橘達の元に戻ってきた。

 「皆もガードナー希望だったの?」

 

 「まあね。先に言ってちゃ驚かないと思ってね」

 

 「充分驚いたよ…」

 

 そう言うブレイダの顔もどこか嬉しそうだ。

 

 「じゃあ、ブレイダも用紙を提出した事だし、帰るとしよう」

 

 「うん。帰ろっか」

 

 そう言ってブレイダは自分の鞄を持ち、四人は教室を出た。

 

 

 「そう言えばさ、ブレっちのデバイスってさ、前の装着者がいたんでしょ?」

 

 帰る道中、橘はブレイダのデバイスを見て言った。

 

 「うん。そこからわたしに適応して色とかが変わっちゃったけどね」

 

 「前の変身者ってどんな人だったんだろうな」

 

 「じゃあ、今日これから聞いてみる?」

 

 「お、それいいね。私も気になってたんだ」

 

 「じゃあ、行ってみようか」

 

 早速四人はガードナーの基地へと向かい、玲司と神凪の元へ向かった。

 

 

 「すみません、玲司さん。わたしです。ブレイダです」

 

 ブレイダ達四人は科学技術研究部室の扉をノックし、声をかけた。

 

 『ああ、入ってもいいよ』

 

 中から返事が聞こえ、四人は部室の中に入った。

 

 中では玲司と神凪だけがポツンと座っており、他の部員は帰っているようだった。

 

 「よう、ブレイダ。今日はどうしたんだ?」

 

 「このデバイスの前の装着者の話が聞きたくて」

 

 そう言ってブレイダは鞄からデバイスを出して見せた。

 

 「…そうか。この時が来たか」

 

 「え?」

 

 「全てを話すには良い機会だし、全部話すわ。その前の装着者の事も含めてね。まあ、そこの空いてる席に適当に座って頂戴な」

 

 「は、はい」

 そう言って四人は鞄を机の下におき、椅子に腰掛けて二人の方を見た。

 

 「まずはブレイダ達が気になっている前装着者だが…これは俺の大親友でもあり、百合の夫でもある柊零と言う人物だ」

 

 そう言って玲司は携帯電話を取り出し、青く長い髪をした男の写真を見せた。

 

 その横には百合と思わしき緑の短い髪の女性が満面の笑顔で並んで立っていた。

 

 「俺も百合も、そして零も神凪も一度死んで、転生して生まれ変わった…神様としてな」

 

 「転生して生まれ変わったって…ラノベの主人公みたいに?」

 

 「ああ。その解釈で良い。俺は偶然転生出来たが…零と百合は事情が特殊でな」

 

 「特殊…ってどういう事なんですか?」

 

 「零と百合はゼノ細胞と呼ばれる細胞から生まれた半人造人間でな…十三歳になるとその年に死ぬことが運命付けられている。事故死、病死、あるいは自殺…日付や時間、原因は定まっていないが、十三歳のどこかで転生し、様々な異世界へとその身を投じ、その力で様々な悪から世界を救ってきた」

 

 「救ってきたって…例えば何をして来たんですか?」

 

 「そうだな…光の巨人、ゼノになってヤミマジュウよりも巨大な怪獣や宇宙人と戦ったり、戦闘用ロボットを装着して同じようなロボットと戦ったり、提督になって武装した少女達と共に戦ったり、あるいは歴史そのものに介入して世界を守ったりもしたな」

 

 「歴史そのものに介入なんて出来るんですか?」

 

 「ああ。信じてもらえてないかもしれないが、零は時空間を移動する能力を得て様々な世界に飛び、時空犯罪者を捕まえたりしている」

 

 「へぇ~…何言ってるのかさっぱりわかんない!」

 

 「まあ、こんな話を信じろって方が無理な話だ。証拠を見せてやりたい所だが、俺達は今は力をほとんど失い、残されているのは元の世界に帰るだけの力しか残っていない」

 

 「力を失ったって…」

 

 「あなた達が生まれた三年後の2004年にダーク・デイが起きたのは知っているよね?」

 

 四人は同じタイミングで頷いた。

 

 「あの日、零くんと百合ちゃんが時空犯罪者であるガディサイトを追い、ブレイダちゃんやあなた達がいる世界に来てしまった。そう、私達も外から見ていていつも通りどうにかなるんだと思っていた…けれど…」

 

 神凪と玲司はその時のことを鮮明に語りだした。

 

 ~~十五年前~~

 

 

 青い髪をなびかせ、零と呼ばれた男は百合と共に飛行しながら時空生命体ガディサイトを追っていた。

 

 「待て!」

 

 「!」

 

 ガディサイトはなおも逃げ続け、空間の壁に穴を開けてその間を通って逃げた。

 

 「くっ!待ちやがれ!」

 

 零と百合もその穴を通ってガディサイトを追い、百合はその穴を修復してガディサイトを追った。

 

 「ーー!!!」

 

 ガディサイトは声にならない奇声を発しながら零に飛びついて身体を包み込み、零は慌てて顔を腕で覆った。

 

 そして、恐る恐る目を開け、腕を下げると目の前には零と全く同じ姿をしたガディサイトがいた。

 

 「…ふむ、中々いい身体だな。そしてとても強い…」

 

 「な…!?」

 

 「そんな…」

 「だがそれだけではつまらん。まずはこの世界を滅ぼし、その後に貴様を倒してやろう…はぁっ!」

 

 そう言うとガディサイトは身体から闇のオーラを出し、零の中にもあったヒカリノチカラをヤミノチカラに変え、辺りに様々な魔獣が無数に現れ、雄叫びをあげていた。

 

 「さあどうした?俺を倒すのか?そんなことをしていたら人間共が滅ぶぞ?」

 

 「…くそっ!」

 零は玲司に渡されたデバイスを胸に装着して変身し、剣を握って街の方に向かった。

 

 「零!く…!」

 

 百合も仕方なく零に続いて変身し、銃を構えて魔物達と戦い始めた。

 

 すると、瓦礫の中に一人倒れている小さな女の子を見つけ、零は抱きかかえた。

 

 今にも死んでしまいそうなほどに弱っており、零は自分の中のほとんどのヒカリノチカラを女の子に入れ、変身が解けてしまった。

 

 「零…あなたまさか…」

 

 「…この子が最後の希望だ。百合、後は頼む。俺が戻るまで…この子を守り抜いてくれ」

 

 そう言って零は自分のデバイスと抱きかかえていた女の子を百合に渡し、一人ガディサイトの元へと飛んで行った。

 

 「零!くっ!」

 

  百合は片手で女の子を抱き、片手で銃を乱射して周りの魔物を撃ち抜いて魔物を倒した。

 

 「…!」

 

 零はガディサイトの元に向かい、空中で対峙した。

 

 自分の中の力が少ないのか、零は肩で息をしていた。

 

 「俺も舐められたものだ…良いだろう、それが望みなら望み通りにしてやろう!」

 「お前を倒して…さっさと帰らせてもらうぜ!はっ!」

 

 二人は闇のオーラと光のオーラを放ち、強く激突した。

 

 しかし、力が少ない零が自分と同等の力を持つ者に勝てるはずも無く、一方的に無惨に倒され、瀕死の状態になってしまった。

 

 「時空を司る神…か。貴様の力はまだまだ使わせてもらおう…」

 

 そう言ってガディサイトは落ちそうになった零の服を掴み、その力で瓦礫から自分の移動方法となる時空城を作り出した。

 

 「そんな…」

 

 百合は地上から零が倒される様子を見ていた。

 

 「ーーーーッ!うわあああ!!!」

 

 百合は無我夢中で飛び出し、ガディサイトに向かって接近しながら銃を乱射した。

 

 「この女は…そうか、境界を司る女神…貴様も使わせてもらおう」

 

 そう言うとガディサイトは零を放り投げ、百合の身体を包んで力をコピーして零の姿に戻り、零を片手で掴んだ。

 「そ…んな…」

 

 「ふ…そのガキもろとも死に絶えるがいい」

 

 百合はその言葉を聞きながら変身が解除され、翼を失った女神は堕天していき、ただの人間になってしまった。

 

 「…ッ!」

 

 最後に力を絞り出し、少し浮いて衝撃を和らげて着地したが、もう変身は出来なくなり、完全に力を失った。

 

 そうしている内に人々が闇に飲まれ、どんどん消えていった。

 

 腕の中にいた女の子も泣きだし、百合にはただ謝ることしか出来なかった。

 

 「ごめんなさい…ごめんなさい…あなたのお父さんもお母さんも…守れなかった…」

 

 そう言う百合の目からも大粒の涙が落ち、その場にしゃがみ込んでしまった。

 

 すると、女の子のスカートのポケットに紙が入っているのに気付き、百合はその紙を取り出した。

 

 その紙には「ブレイダ」とだけ書かれていた。

 

 「…ブレイダ…ブレイダちゃんね。分かった。私は絶対にブレイダを守り抜く。だから…」

 

 百合はそう言って立ち上がり、その場から逃げるように走り出した。

 

 すると、零のピンチに駆けつけていたのか、玲司と神凪も人々の避難を手伝っていた。

 

 「百合!」

 「百合ちゃん!」

 

 「玲司くん!神凪ちゃん!」

 

 二人も百合に気付き、百合の方を向いた。

 

 「…お前、その子とそのデバイスは…」

 

「…ごめん」

 「く…分かった…!百合と神凪は皆を避難させててくれ!俺もやれる事をやってやる!」

 

 「玲司くん!待って!」

 

 「玲司!」

 

 神凪は叫んだからか激しく咳き込んだが、玲司は気にせずガディサイトの元へ飛んだ。

 

 「お前が…ガディサイトか!」

 

 「ああ。だから何だ?…そうか、君も神様なのか。しかも最高神…いいじゃないか!」

 

 「うおおおおおお!」

 

 玲司は叫びながらガディサイトに殴りかかったがガディサイトは上体を反らして攻撃を避け、一瞬の内に玲司の後ろに回り込んだ。

 

 「スピードならばこの身体の方が上だ」

 

 そう言ってガディサイトは玲司とその力をも取り込んだ。

 

 「ふふ…こりゃあいい。力がどんどん溢れてくる…」

 

 「くそッ…!」

 

 「じゃあね…もう神にもなりきれない君にはもう用はない」

 

 玲司もゆっくり落ちていき、最後の最後に少しだけ浮いて着地し、百合達の元に向かった。

 

 「玲司くん!」

 

 「すまん…百合…零を…取り戻せなかった…」

 

 玲司は倒れそうになったところを百合が慌てて支えた。

 「そんな…零…」

 

 百合、神凪、玲司は灰色の空の下、ガディサイトの方を見上げていた。

 

 「哀れな人類共よ…十五年猶予をやろう。その間に我を倒せる強力な武器でも兵器でも作っておくんだな…」

 

 そう言ってガディサイトは零を掴んだまま時空城に乗り込み、空間に穴を開けて時空城ごと通り、闇と共に消えてしまった。

 

 ~~現在~~

 

 「…これが、ダーク・デイの真実…って訳。ごめんなさい…ブレイダちゃん」

 

 「そんな…わたしのお父さんとお母さんは…」

 

 ブレイダは肩を震わせ、涙を流していた。

 

 それを見兼ねて隣に座っていた相川がブレイダの背中をさすってやった。

 

 「…すまない…」

 

 「私達はブレイダちゃんの家族を守れなかった…その事でブレイダちゃんに憎まれても仕方ないわ…」

 

 「ブレイダ…」

 

 「ブレっち…」

 

 「…ごめん、ブレイダ…」

 

 「…ううん、サリエールちゃんも、玲司さんも百合さんも謝る事は無いよ…皆必死になって皆を守ろうとしてたのは分かったから」

 

 「ブレイダ…」

 

 サリエールはブレイダを見つめてやる事しか出来なかった。

 

 「…とにかく、今年にガディサイトが襲ってくる。それまでに最終調整をしておかなければならない。ガディナも倒さなくてはならないしな…皆、今日はもう帰って休みな…」

 

 「…」

 

 ブレイダは鞄を持って一人部室を出た。

 

 その背中は悲しみに覆われていた。

 

 「ブレイダっ…!」

 

 サリエールは慌ててブレイダを追いかけた。

 

 「ブレイダ、待って!その…」

 

 「…サリエールちゃん」

 

 「その…なんて言うか…」

 

 「…いいよ、もうずっと前の事だし、サリエールちゃんは関係ないよ」

 

 「関係あるよ!大事な友達のことを放っておけないよ!」

 

 「サリエールちゃん…」

 

 「貴方の悲しみは分かってあげられないけど…今だけは全力で泣いて良いよ」

 

 そう言ってサリエールはブレイダを強く抱きしめた。

 

 「…」

 

 ブレイダは大声をあげて、赤ん坊の様に泣き出した。

 

 サリエールはただ抱きしめてやる事しか出来なかった。




今回はここまでです!
良ければ感想お願いします!
間に合わんかった!!!!!
さらば平成!


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小さな地球の話

特別出演:乾巧


「…少し気になったんだが、その時ブレイダのお父さんやお母さんはどうしたんだ?」

 

不意に橘が口を開いた。

 

 「ブレイダちゃんのお父さんとお母さんは共働きで、いつも通り会社に行ってたみたい。お母さんが外国の人って事もあったし、当時は二人とも二十歳前後だったから尚更ね…。働かなきゃ食べていけなかったから…」

 

 「じゃあ、ブレっちは…」

 

 「児童養護施設に入ってたのよ。今でこそガードナーに成り代わったけれど、あの日が来るまでは沢山幼稚園も保育園もあったの。ブレイダちゃんもその子供達の中の一人だった」

 

 玲司はボロボロの写真立てを持って二人に見せた。

 

 写真立てにはカラフルな装飾がなされ、その中の古い写真にはブレイダと同じクリーム色の長い髪の白人女性が微笑みながら赤子を抱き、その横には彼女に寄り添うように黒い髪の男性が笑顔で立っていた。

 

 その女性はブレイダによく似ており、顔もそっくりで、ブレイダの親であることには間違いなかった。

 

 隣にいた男性もとても優しそうな印象を受ける。ブレイダの優しい性格はこの人からの遺伝子だろう。

 「俺と神凪がここに助けに行った時、ほとんどの人が逃げていく中この二人だけは危険を承知でブレイダの元に駆けて行った。だが…」

 

 玲司は言葉を濁し、写真の方を見た。

 

 「…死んじゃったの?」

 

 「…俺にも分からない…」

 

 「…そっか…ね、ねえ、それじゃさ、なんでガディサイトは十五年も猶予をくれたの?」

 

 相川も二人に質問をした。

 

 「さあな…そこは俺にも皆目検討がつかない。零の悪いところが反映されて遊んでるのか、あるいは何か作戦があるのか…どちらにせよ、今は対策を練るしかない」

 

 「ただ、零くんの力を使っているのなら、零くん自体は生きてると思う」

 

 神凪は顎に手を添えて言った。

 

 「柊零と言う男はまだ生きている。しぶとくね」

 

 サリエールが扉を開けて言った。

 

 「サリエール…」

 

 「零のやつが生きてるって…どういう事だ?」

 

 「彼、相当に生命力が強くてね。あの日からずっと飲まず食わずらしいけど、それでも生きてる」

 

 「零のやつは生きてるんだな!?それならまだ希望はある…」

 

 「零くんが生きているならまだ…!」

 

 吉報を聞き、二人の顔に光が戻っていた。

 

 「あれ?ブレっちは?」

 

 「ブレイダなら先に帰ると言ってどこかへ行っちゃったよ…あの様子じゃ普通に帰った訳でもないだろうけど…今はそっとしといてあげて」

 

 「…うん、分かった」

 

 「ああ…」

 

 橘と相川はそう言って頷いた。

 

 

 ブレイダは河川敷で夕焼けが沈んでいくのを見ながら静かに足を抱えて座っていた。

 

 「よう、どうした。そんなとこで座りやがって」

 声がした方を向くと、少し長い髪を なびかせてバイクのヘルメットを外して脇に抱えた青年が立っていた。

 

 「あなたは…」

 

 バイクの荷物の箱を見ると外側にクリーニングの店のロゴが入っていた。

 

 「俺はただのしがないクリーニング屋だ。しかし一体どうしたってんだ、そんなに落ち込んでよ」

 

 青年はぶっきらぼうに言いながらブレイダの隣に座った。

 

 「…」

 

 「んだよ、話くらいなら聞いてやるって言ってんだろ。まあ、言いたくないんなら良いけどよ…」

 

 そう言いながら青年はブレイダの方をちらりと見た。

 

 「…実は、わたしの出自が明らかになって、そこから色々知っちゃって、辛くなっちゃって…」

 

 「…そうか、お前も大変だな。知りたくもねえもんを知っちまって」

 

 「い、いえ、知りたくなかったって事はないんですけど…知りたかった事と一緒に知ってしまって…」

 

 「…ま、情報を得るってのはそんなもんだろうな。物事を知るにはそれだけのリスクもある。それだけだ」

 

 「そんな…」

 

 「お前が知りたいって言ったから向こうも教えてくれたんだろ。情報なんてな、有益な物ばっかじゃないんだ。今後はそれに気を付けるんだな」

 「…はい」

 

 「…情報なんて、人間と同じだ」

 

 「え?」

 

 「世の中、馬鹿正直でいいやつもいれば、自分の正義のためならどんな悪いことだってやるやつもいる。それで悲しい想いをしてきたやつを俺は何人も見てきた。けど、それが人間ってやつだ。良いも悪いも両方ある。そんなもんだ」

「お兄さん…」

 

 「もうお兄さんって歳でもないがな。ほらよ」

 

 そう言って青年は財布から名刺を取り出し、ブレイダに渡した。

 

 「えと…かわきこう?」

 

 それを聞いて青年は思わずコケかけた。

 

 「違う違う、いぬいだ。乾巧。この街の外れの方にある小さなクリーニング屋で働いてる」

 

 「乾さん…」

 

 「まあ、お前が何を背負ってて、何を知ったかは知らないけどよ、守りたいものがあるんなら死ぬ気で守れ。やらない後悔より失う後悔の方が大きいからな」

 

 「…!」

 

 ブレイダははっとして目を見開き、皆の姿が頭を過ぎった。

 

 「…今はまだどうしたら良いかなんて分からなくていい。お前に出来ることをやっていけ。それがお前のやるべき事だ」

 

 そう言って乾は立ち上がり、バイクに乗って街の方に走り去ってしまった。

 

 「乾さん…」

 

 ブレイダも立ち上がり、鞄を持った途端、河の中から大きな水しぶきと共に20メートル程の鮫のような姿をした白いヤミマジュウが現れた。

 

 「!ヤミマジュウ!」

 

 ヤミマジュウは乾の方を向き、真っ直ぐ進んでいた。

 

 「!!乾さん!」

 

 ヤミマジュウの進む先には道路となっている橋があり、ヤミマジュウがこのまま行けばまず間違いなく壊れてしまうだろう。

 

 ブレイダは足元に落ちていた石ころをヤミマジュウに投げつけ、自分に注意を逸らした。

 

 「こっちよ!」

 

 「ガァァァァ!」

 

 ヤミマジュウはブレイダの方に進行方向を変え、ブレイダは乾が向かった街の方とは逆の方に走り出し、ヤミマジュウはブレイダを追うように進み出した。

 

 走っている間にヤミマジュウが背びれの様な器官から怪光線を連射した。

 

 「キャッ!」

 

 ブレイダは一瞬怯んで足が止まるものの、頭をおさえながらしっかり前を向き、光線を避けながらなるべく人がいない場所に誘導した。

 

 すると、デバイスに神凪から着信が入り、ブレイダは素早く操作して走りながら電話に出た。

 

 『ブレイダちゃん!さっきは本当にごめんね!』

 

 「それはもう大丈夫です!どうしたんですか!?」

 

 『新しい乗り物とそれを兼用したアイテムが出来たの!データも送ってるからコードを入力してEnterキーを押して!コードは5を三回!』

 

 「わかりました!」

 

 ブレイダは言われた通りデバイスの画面に映し出された5のボタンを三回押してEnterキーを押してみた。

 

 『COMPLEATE』

 

 すると、デバイスの音声が鳴り、水しぶきと共に白いボディの人型のロボットが現れ、タイヤの様な銃から弾丸を連射しながらブレイダの前に立ち、ブレイダを護るようにして片腕を横に伸ばした。

 

 「これは…」

 

 ロボットはブレイダの方を振り向いて頷き、ブレイダも頷き返した。

 

 『この子はファイズバジン!過去に私達が行った異世界のロボットを元作ってみたわ!ハンドルにライトセイバーが仕込んであるとかはないけれど、バイクに変形出来る機能はついてるよ!胸のΦのボタンを押すと変形するから、試しに押してごらん』

 

 「えっと…これね」

 

 ブレイダはファイズバジンの胸の白にΦのオレンジの線が入ったボタンを押してみた。

 

 『vehicle mode』

 

 すると、ファイズバジンが前に倒れる様にして変形し、一瞬の内にバイクになり、丁寧にヘルメットも添えられていた。

 

 『どう?変形出来てる?』

 

 「うん!ありがとう神凪さん!」

 

 『よしよし、良かった良かった。サリエールちゃんも別の乗り物で来るから、それまで耐えてて!』

 

 「分かりました!」

 

 ブレイダはファイズバジンに乗り込んでヘルメットを急いで被り、エンジンを始動させると共にヤミマジュウも動き出し、ブレイダも再び走り出した。

 

 「こっちだよ!ついてきて!」

 

 「ガァァァァァァ!」

 

 ヤミマジュウもブレイダに向けて怪光線を何度も撃ち、ブレイダも左右に蛇行運転しながら光線を避け、誰も居ないところにまでおびき寄せ、旋回してヤミマジュウの前に立ちはだかり、ファイズバジンを降りてヘルメットを置いた。

 

 「何が正しいとか関係ない!私は私に守れるものを守る!そのために私は戦う!人間として…!超光戦姫として!トランス・オン!」

 

 ブレイダはデバイスを操作して胸に装着し、オレンジの線がブレイダの身体に走り、発行すると共に変身が完了した。

 

 「だぁぁっ!」

 

 ブレイダはブレイブレードを握り、ヤミマジュウの光線を弾きながら駆け出して近付いて小さく飛び、背びれに一撃を加え、ヤミマジュウを蹴飛ばして空中で一回転し、河原に着地した。

 

「ガァァァ!!」

 

 「もう私は負けない…!はあっ!」

 

 ブレイダは歩きながらヤミマジュウが撃ってきた怪光線をブレイブレードの一振で弾き、ヤミマジュウの頭をブレイブレードで強く叩いた。

 

 「ガァァ…!」

 

 すると、ヤミマジュウは鋭く尖った歯を剥き出しにして口を開き、全ての歯をミサイルの様にして飛ばした。

 

 「そ、そんなのあり!?」

 

 ブレイダは咄嗟に頭をおさえ、しゃがみ込んだ。

 

 すると、どこからともなく銃声が聞こえ、ミサイルはブレイダに当たる直前に全て爆発し、ブレイダは顔を上げて周りを見回した。

 

 「ブレイダ!大丈夫!?」

 

 声のした方を向くと、変身したサリエールが河原の上の道路でブレイダと似たような黒いロボットを連れて立っており、ロボットの銃口からは煙が上がっていた。

 

 「サリエールちゃん!その子は?」

 

 「この子はカイザバジン。ファイズバジンの兄弟機で、双子なんだそうだ。配色、呼び出しコードやボタンのデザインは違うが、スペックはほとんど同じだ」

 

 「凄い!」

 

 「ガァァァァァァ!」

 

 すると、ヤミマジュウが雄叫びをあげ、再び歯を飛ばそうと口を開けた。

 

 「二度目はやらせないよ!」

 

 ブレイダは大きなブライトサークルを作り、サリエールと二人で蹴り飛ばしてヤミマジュウの口にはめ込み、ミサイルを飛ばせなくした。

 

 「よし!」

 

 「このまま畳み掛けよう!」

 

 「うん!」

 

 ブレイダとサリエールは再び剣と鎌を構えた。

 

 「はっ!」

 

 「やぁっ!」

 

 二人は同時に飛び出し、ブレイダはブライトサークルを消すと同時にヤミマジュウの頭部に打撃を叩き込み、一瞬怯んだ所をサリエールが鎌で上部の歯を全て斬り裂いた。

 

 「ガァァァァ!」

 

 ヤミマジュウは下部の歯のミサイルを飛ばしたが、二人は焦らずファイズバジンとカイザバジンを呼び出した。

 

 『BATTLE MODE』

 

 『BATTLE MODE』

 

 二機は変形して二人の前に立ち、弾丸を連射して飛んでくるミサイルを撃ち落とした。

 

 「このままじゃ埒が明かない。ブレイダ、後ろに回ってヤミマジュウを水中から引きずり出そう」

 

 サリエールはブレイダの方を向いて言い、ブレイダもサリエールの方を向いた。

 

 「分かった」

 

 そう言いながらブレイダもサリエールに向けて頷き、サリエールも頷き返した。

 

「二人はヤミマジュウの気を逸らしてて」

 

 「頼んだぞ」

 

 二機とも二人の言葉に頷き、二人はそれぞれの飛行方法でヤミマジュウの後ろに飛び、暴れているヤミマジュウの後ろに着地し、ヤミマジュウの尻尾を掴んだ。

 

 「ふん…!」

 

 「ぬうう…!」

 

 二人はヤミマジュウの身体を持ち上げ、河原に放り投げた。

 

 「一緒に行こう!」

 

 「ああ!」

 

 「「フルパワー解放!」」

 

 『BANNICING SMASH!』

 

『FATAL END!』

 

 ブレイダとサリエールはオレンジと青のオーラを放ち、ブレイダはヤミマジュウを剣で思い切りかち上げ、その周りにブライトサークルを幾つも出現させ、ヤミマジュウを落とさないようにブライトサークルを反射してエネルギーを貯めながらヤミマジュウに激突して浮かび上がらせ、その間にサリエールは空中で鎌にエネルギーを貯めていた。

 

 「…今だ!」

 

 「うん!だぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ブレイダの渾身の一撃がヤミマジュウに命中し、ヤミマジュウの身体はサリエールの方へ飛んだ。

 

 「捉えた」

 

 サリエールはヤミマジュウを一閃のもとに切り伏せ、ヤミマジュウの身体を斬り裂いた。

 

 「ガァァァァァァ…」

 

 ヤミマジュウは青い炎を放ちながら灰のように崩れさり、身体は風と共に消えていった。

 

 そして、二人は並び立つ様に着地し、ヤミマジュウが消えていくのを見届け、ヤミノチカラの水晶を回収して変身を解除した。

 

 「なんとか勝てたね、ブレイダ」

 

 「うん、ありがとう、サリエールちゃん」

 

 「ああ。…だが、ブレイダは良いのか?大丈夫なのか?お母さんの事とか、お父さんの事とか」」

 

 「さっきいっぱい泣いたからもう大丈夫。サリエールちゃんも慰めてくれたし、もう元気も戻ったから。そりゃ確かに私のお父さんとお母さんがいないのはあるけど、今の私には皆もいるし、サリエールちゃんがいる。何一つ寂しい事なんてないよ」

 

 そう言ってブレイダは屈託のない、何一つ曇りのない笑顔をサリエールに見せた。

 

 「そう…そうね。あなたはやっぱり笑顔が似合うわ。笑顔のブレイダが一番可愛い」

 

 「ふぇっ!?い、いや、その…あ、ありがとう…」

 

 そう言うブレイダの顔は赤くなっていた。

 「照れちゃったの?ふふ、可愛い」

 

 サリエールは照れるブレイダを見てニヤニヤしながら頭を撫でた。

 

 「い、いや、その、なんと言いますか…」

 

 ブレイダも両手を頬に当てて耳も赤くしていた。

 

 『お二人さーん、イチャつくのは構わないけど、それは帰ってきてからにして下さいね~』

 

 デバイスから聞こえてきた相川の声に二人は我に返った。

 

 デバイスの画面を見ると、通話中の文字が映っていた。

 

 『とりあえずガディナもいなさそうなんで、早めに帰ってきてくださいね~』

 

 「は、はい…」

 

 「わ、分かりました」

 そう言って通話が切れた。

 

 「そ、それじゃ戻ろっか」

 

 「そ、そうだね」

 

 二人は手で顔を扇ぎながらそれぞれのバジンに乗り込み、ヘルメットを被ってエンジンを指導させ、ガードナーの基地へと戻った。

 

 

 そして、二十分ほどで基地に戻り、二人はバジン達を駐輪場に駐車し、基地の中へと入り、研究部室へと入った。

 

 「お疲れ様、二人とも」

 

 「お疲れさん。なんだか、ブレイダが見違えたな。なんと言うか、吹っ切れた感じがするな」

 

 「そ、そうですか?」

 

 「きっと、私が来る前に誰かに会ったんじゃない?」

 

 すると、扉のノック音が聞こえ、一同は一斉に扉の方を向いた。

 

 「どうぞ」

 

 「入るぞ」

 

 声と共に入ってきたのは、真っ白な洗濯物を持ってきた乾だった。

 

 「ん?」

 

 「あん?あ、お前さっきの子じゃねえか。どうしてこんなところにいるんだ」

 

 「それはこちらの台詞ですよ乾さん…」

 

 「俺は仕事で来ただけだ。ほらよ」

 

 そう言って乾は袋に入った白衣を二着テーブルの上に置いた。

 

 「いつもありがとね、乾さん」

 

 神凪は乾に礼を言った。

 

 「おう、またな…お、相川んとこの娘か。お前もデカくなったな」

 

 乾は相川に気付き、橘の方を向いた。

 

 「巧さん!いつ戻ってたんですか?」

 橘も乾に気付き、嬉しそうに乾に駆け寄った。

 

 「ついこの間だ。日本の友達の真理と啓太郎がここらでクリーニング屋を新しく開いたって聞いてな。そこで住み込みで働いてんだ」

 

 「へぇー…じゃあいつでも会えるんですね!」

 

 「まあな。ここらは家賃が高いけど、ガードナーの傘下なら家賃は代わりに払ってくれるし、ガードナーからもどんどん注文が来るからな。有難いもんだ」

 

 「そうですか…」

 

 「ね、ねえ、咲」

 

 「?何だ?」

 

 橘は相川の方を向いて言った。

 

 「前に夢がどうのこうの…って言ってた人ってこの人?」

 

 「ああ、そうだ。今でも忘れずに覚えてる」

 

 そう言って橘は胸に両手を添えて言った。

 

 「あの時の俺の言葉、まだ覚えててくれてたんだな」

 

 「忘れるもんか…絶対に…もう…!」

 

 そう言って橘は乾に抱きついた。その目からは涙が流れていたが、顔は笑顔だった。

 

 「ふっ、昔と変わらないな、そう言う所は。橘の親父さんだけしかいなくなったって聞いたが…喋り方が変わってたけどやっぱりお前はお前だな、咲」

 

 「巧さん…!」

 

 「っと、こんなとこで道草食ってたらまた真理に怒られちまう。それじゃ、またな。親父さんによろしくな」

 

 「…ああ!」

 

 相川は涙を拭い、清々しい笑顔で言った。

 

 それを見届けて乾は笑い返し、洗濯物を持って部屋を出ていった。

 

 「それじゃ、時間も遅いし、送ってくよ。サリエールはどうする?」

 

 「…じゃあ、乗ってく」

 

 「分かった。じゃあ、皆ついてきてくれ」

 

 玲司は神凪が座った車椅子を押して車へ向かい、四人も玲司について行って車に向かった。

 

 そして、玲司は車椅子ごと神凪をゆっくり乗せ、四人は神凪が乗ったことを確認してから車に乗り込んだ。

 

 順に相川、橘と二人の家に送り届け、ブレイダとサリエール、そして玲司と神凪は同じマンションの中へと入り、それぞれの部屋へ入った。

 

 「ただいま~」

 

 「おかえりなさい。ご飯出来てるから、食べちゃって。奈央はもう寝ちゃったし、私ももう食べちゃったからさ」

 

 中では、いつも通り百合が出迎えてくれた。

 

 「はーい。いただきます」

 

 ブレイダは椅子に座って食べ始め、百合もブレイダの前に座って食べてる様子を見ていた。

 

 「どう?美味しい?」

 

 「うん!美味しいよ!」

 

 「そう、良かった」

 

 そう言って百合は優しく笑った。

 

 「ねえ、百合さん」

 

 「?」

 

 「わたし、お父さんもお母さんもいないけどさ」

 

 「…」

 

 「一緒に百合さんがいてくれて、本当に嬉しいって思ったの」

 

 「ブレイダ…」

 

 「いつも私の帰りを待ってくれるし、戦いから帰ってきたら真っ先に心配してくれるし、感謝してもし切れないよ。本当にいつもありがとう、百合さん」

 

 「…うん…うん…私も…ちゃんと母親が出来てるか不安だったけど…ブレイダにそう言ってもらえて…私も嬉しいわ」

 

 百合の目からは大粒の涙が流れて、嗚咽混じりに言っていた。

 

 「いつも本当にありがとね、百合さん。ここまでわたしを育ててくれて」

 

「うん…うん…」

 

 「ねえ百合さん、全部終わったらさ、色んなとこに出かけて色んな思い出作ろうよ。百合さんの仕事が忙しくて色んなところに行けなかったしさ」

 

 「そうね。全部片付いて平和が戻ったら、それもいいかもね」

 

 「やったぁ!決まりだね!」

 

 「ええ。色んな思い出を作ろうね」

 

 

 ブレイダが夕食を食べ終えて風呂に入っている間、百合は食器を洗っていた。

 

 「思い出、ね。何事もなく無事に終わらせて、色んなところに遊びに行きたいわね。本当の親子じゃないけれど…家族として、思い出を作りたいわ」

 

 そして、ブレイダも風呂から上がり、百合も洗い物を終えて布団に入った。

 

 「それじゃ、おやすみなさい」

 

 そう言ってブレイダは自室に入って布団に入り、眠りについた。

 

 

 

『Process twenty.Process twenty one…』

 

 「ははははは…コリャアイイ!最高ノ力ダ!」




今回はここまでです!
ファイズバジンとカイザバジンはどう見ても色違いのオートバジンくんです本当にありがとうございました
宜しければ感想お願いします!


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君のとなり

お久しぶりです~ちょいと間が空いちまったぜ。

今回はサリエールちゃんがメインです。

僕の作品を読んでる人にとっては結構エモい…かも?


日々ヤミマジュウ達は街に出現し、人々を恐怖に陥れて街を壊していくのを辞めようとはしない。

 

 しかし、人々はヤミマジュウが現れる度、事態を収集すべく退治に来てくれる戦士達がいる事を知っている。

 

 「だぁぁぁぁっ!」

 

 「はっ!」

 

 サリエールがヤミマジュウの放った火炎弾を横に切り裂き、その後ろから出てきたブレイダがヤミマジュウに強い一撃を与えた。

 

 そして、二人は逃げ遅れた人々の前に並び立ち、ヤミマジュウの方を向いて武器を構えた。

 

 「ガードナーです!救助に来ました!」

 

 「皆さんは指示係に従って早く逃げてください!」

 

 「分かった!行くぞ!」

 

 「うん!」

 

 「早く逃げよう!」

 

 「お姉ちゃん、頑張って!」

 

 二人は子供の方に振り返って応援に笑顔で返した。

 

 人々は自分と自分の子供を連れて急いで走っていった。

 

 後方にはガードナーのロゴが入った制服を着た局員が立っており、人々の避難誘導を行っていた。

 

 局員からの通信が入り、ブレイダとサリエールの二人は通信機に手を添えた。

 

 『ブレイダさん、サリエールさん、A区からD区までの避難が無事完了しました!』

 

 『避難者の数も市民の数と一致しています。数人怪我人がいますが、命に別状はありません』

 

 「分かりました。後の指示は司令官である玲司さんに従ってください」

 

 『かしこまりました』

 

 そう言って局員からの通信が切断された。

 

 「よし、手早く片付けよう」

 

 「うん、ここから一歩も通さない!」

 

 「ガァァァァァ!」

 

 ブレイダはヤミマジュウが吐いてきた火炎弾をブライトサークルを出して反射させて相殺させ、その横からサリエールが飛び出した。

 

 「やぁぁぁぁぁっ!」

 

 サリエールは鎌を振り上げて空中で縦に三回転し、遠心力も利用してヤミマジュウの頭に鋭い斬撃を与えた。

 

 「グァァァァ!」

 

 「ごめんね、すぐ終わらせるから!」

 

 そう言ってブレイダはヤミマジュウの周りにブライトサークルを展開し、勢いをつけながら反射してエネルギーを溜め始めた。

 

 「ガァッ!」

 

 ヤミマジュウが火炎弾を吐こうと口を開けた瞬間、サリエールは鎌を振りかざし、光よりも早く刃にエネルギーを溜めた。

 

 『FATAL END』

 

 『BANNICING SMASH』

 

 「捉えた」

 

 「正面から叩く!」

 

 二人の必殺技が同時に直撃し、二人が着地して立ち上がると同時にヤミマジュウが爆発した。

 

 ヤミマジュウがいた場所には手のひらの大きさと小動物とそれよりも大きいヤミノチカラの水晶が落ちていた。

 

 「やった…勝った…よかった…」

 

 そう言ってブレイダは武器を下ろした。

 

 「任務完了。お疲れ、ブレイダ」

 

 「うん、お疲れ、サリエールちゃん」

 

 サリエールは静かに笑い、ブレイダも無邪気な笑顔で二人はハイタッチをした。

 

 『ブレイダ、サリエール、まだやる事は残ってるけど、とりあえずお疲れ様』

 

 玲司から連絡が入り、二人は先程と同じように通信機に手を添えた。

 

 「お疲れ様です…それで、やる事とは?」

 

 『ああ、炎の鎮火とヤミマジュウの元となった動物及びヤミノチカラの水晶の保護だ。炎の鎮火に関しては後から消防隊が来るが、放置して大きな火事になってもいけないからな』

 

 「消火活動をするのは良いけど、どうやって消すの?」

 

 『放水ユニットを積んだバジン達がそろそろ着くはずだ。それを使って出来るだけ火を消してくれ』

 

 すると、遠くから誰も載っていないファイズバジンとカイザバジンが二人の前に走って来た。

 

 二機の荷台にはガードナーの消化用の制服とヘルメット、そして水鉄砲のような銃と水の入った大きなタンクが積まれていた。

 

 『少し見た目はアレだが、消化にはしっかり使えるものだ。制服とヘルメットを着用して、タンクを背負って水鉄砲で火を消すんだ。タンクと水鉄砲は繋がっているから補充の手間はない』

 

 玲司に言われて見てみると、水鉄砲とタンクはチューブの様なもので繋がっていた。

 

 『消化隊もものの数分で来るから、目につく範囲で火を消しておいてくれ。既に大きいものや目につかないものは消化隊に任せるんだ、いいな。無理して怪我はするなよ』

 

 「分かりました!」

 

 「分かりました」

 

 そう言って玲司は通信を切り、二人は言われたとおりヘルメットと制服を着用し、タンクを背負って水鉄砲を構えた。

 

 「こう言うのは初めてだから慣れないが…とりあえずやれるだけやろう」

 

 「ええ。今はやれることをやるだけね。ブレイダはそっちの方の消化をお願い。私はこっちの方をやるわ」

 

 「うん、分かった。それじゃ、また後で」

 

 ブレイダはブライトサークルに乗って飛び出し、サリエールも自身の飛行能力を使って火を消しに飛んだ。

 

 ファイズバジンとカイザバジンも変形して武器を放水ユニットに持ち替え、消火活動を始めた。

 

 「…ねえ、サリエールちゃん」

 

 ブレイダはサリエールにだけ通信を繋げた。

 

 『どうしたの?ブレイダ』

 

 どうやらサリエールも向こうで通信を受けてくれたようだ。

 

 「わたし、サリエールちゃんと友達になれて良かったって、心の底から思う」

 

 『…ふふ、よしてよ、今更。私達はずっと一緒に戦っている仲間じゃない』

 

 「うん、それもあるけどさ…わたし、実は皆の笑顔を守りたい、って夢とは別の夢があるの」

 

 『別の…夢?』

 「うん。この戦いが全部終わって、ちゃんと落ち着いたら、普通の女の子として、普通の女性として生きたいの。運命の人と出会って、色んな場所に行ってデートをして、やがて結婚をして、子供が出来て…誰かを支えて、支え合って生きていきたい」

 

 『結婚…か。良いね。相手が出来たら教えてね』

 

 「うん。相手が出来たら、みんなにちゃんと報告するよ」

 

 『ふふ、楽しみにしてる。…あ、でも、変な男だったり、頼りない男

だったら追い払っちゃうかも』

 

 「ええ!?そ、そんなぁ…」

 

 『冗談よ。ブレイダが選ぶ相手なら大丈夫だよ。絶対』

 「そっか…良かった…ありがとう、サリエールちゃん」

 

 『うん。私も、全部終わったら…』

 

 すると、遠くから消防隊の乗った消防車が到着したのが見えた。

 

 「あ、来たみたいだよ」

 

 『…そうみたいだね、それじゃ、さっきの場所に』

 

 「うん」

 

 二人はファイズバジンとカイザバジンの元に降り立った。

 

 近くには三十名ほどの消防隊員達が並んで立ち、隊長らしき若い男性が一歩前へ出た。

 

 「ガードナー消防隊です。ブレイダさん、並びにサリエールさん、消火活動の協力ありがとうございます。ここからは我々に任せてください」

 

 そう言って隊長が敬礼をし、隊員達も敬礼をして、ブレイダとサリエールの二人も慌てて敬礼をした。

 

 「こちらこそ、お役に立てて良かったです、消火活動頑張ってください」

 

 「ええ、お二人も、ヤミマジュウ退治お疲れ様でした。お気をつけて」

 

 「は、はい、ありがとうございます」

 

 そして、隊員達はいくつかの班に分かれ、それぞれの消防車に乗って消火活動を始めた。

 

 「じゃあ、行こっか」

 

 「え、ええ」

 

 ブレイダとサリエールは変身を解除し、変形したバジンに乗り込み、ガードナーの基地に帰った。

 

 

 ブレイダが家に帰り、サリエールと神凪は基地の仮眠室にいた。

 

 「それで、どうしたの?急に相談なんて」

 「それが…その…最近、少し変なの」

 

 「変?どういう事?」

 

 そう言いながら神凪はマグカップを両手で持ってジュースを口に含んだ。

 

 「ヤミマジュウと戦っていて、いつもブレイダと一緒にいて、私とブレイダはいつしか友達ではなく、親友になったと思うの。休日も一緒に色んなところに遊びに行っているし、一緒にいる時間も長い」

 

 「まあ、そうね」

 

 「それで、わたしはブレイダの事を友達として好きなの。いつも助け合って、戦ってて、とても頼りになる最高の親友」

 

 「うんうん」

 

 「でも、いつからか、ブレイダと一緒にいるとこう、胸が苦しいというか…なんとも言えない複雑な感情が湧いてくるの。これって…何…かな」

 

 「…そうね…」

 

 神凪は一息ついてマグカップを置いた。

 

 「きっとそれは、貴方に限らず、全ての生物が持ってる一番大切な感情」

 

 「一番大切な感情…?」

 

 「ええ。あなたは、ブレイダとどうしたい?素直に言ってごらん。私にだけ」

 

 「…私は、出来ることなら、ずっと、ブレイダと一緒にいたい…どんな事になってもいいから、ブレイダとずっとずっと…一緒にいたい…だけど…」

 

 「…」

 

 神凪は静かに、真剣にサリエールの言葉を聞いていた。

 

 「…だけど、私は女だから…ブレイダの夢は叶えてあげられない…一番大切な人の夢を壊す事はしたくないのに…ブレイダの事を考えると、胸を締めつけられるみたいに、とても苦しくなる…」

 サリエールは静かに涙を流した。

 

 「…サリエールちゃん、貴方が今一番好きなのは誰?一番大切な人だって思えるのは、誰?」

 

 「…ブレイダだ。ブレイダが一番大好きで、一番大切な人だ」

 

 「なら、もうやる事は一つじゃない。ブレイダに自分の思いを伝えてごらん。大丈夫、しっかりと伝えれば悪いようにはならないよ」

 

 「…ありがとう」

 

 「いえいえ」

 

 サリエールは涙を拭い、ブレイダに電話をした。

 

 『もしもし?サリエールちゃん?』

 

 「ブレイダ、大事な話があるの。マンションの前で待ってて」

 

 『?分かった…』

 

 そう言ってサリエールは仮眠室を出てブレイダの元に急いだ。

 

 すると、街の方で爆発音がし、サリエールは街の方を向いた。

 

 街の中にヤミマジュウが出現し、ヤミマジュウが暴れ回っていた。

 

 「…!トランスオン!」

 

 サリエールの着ていた制服がバラバラに分解されて弾け飛び、光となって消え去ってサリエールは変身を完了し、ヤミマジュウの元に飛び立って行った。

 

 

 

 「サリエールちゃん、遅いな…」

 

 ブレイダはマンションの前でサリエールの事を待っていた。

 

 腕時計の針は夜の八時を指し、辺りもすっかり暗くなっていた。

 

 「大事な話、ってなんだろう?サリエールちゃんどこか遠くに行っちゃうのかな…それとも、また何かガディサイト達と関わっちゃったのかな…」

 

 

 

 「グァァァァ!」

 

 サリエールは血の止まらない肩をおさえながら、鎌を強く握って飛び上がった。

 

 顔も血に濡れ、スーツもボロボロになっていた。けれど、サリエールは止まることなく、ヤミマジュウの元へ進んだ。

 

 「はぁ…はぁ…ここで…倒れる訳には…いかないの…私を…待ってる…人がいるから…!」

 

 「グァァァァ!」

 

 「フルパワー全開!ブレイダ…力を貸して!」

 

 サリエールはブレイダがいつも言う口癖を真似してリアクトキューブを展開した。そして、刃にエネルギーを素早く溜めた。

 

 『FATAL END』

 

 「一瞬の加速なら負けない!」

 

 サリエールはヤミマジュウが攻撃するよりも素早い一閃でヤミマジュウを切り伏せ、ヤミノチカラは水晶となって地面に落ち、小動物も気絶したまま地面に寝そべっていた。

 

 サリエールは変身を解除して制服姿に戻り、ブレイダがいるマンションに足を引きずりながら必死に向かった。

 

 

 

 「…ブレイダ…」

 

 「…!サリエールちゃん!どうしたのその傷!?とにかく早く手当しなきゃ…」

 

 「…ふふ、ありがと、ブレイダ…これくらい、なんでもないよ…」

 

 そう言いながらサリエールは倒れそうになり、ブレイダはそれを慌てて支えた。

 

 ブレイダはサリエールを自分の部屋のベッドに寝かせ、傷口を消毒して絆創膏を貼り、血を拭いた。

 

 「これで良し。大丈夫?サリエールちゃん」

 

 「うん、ありがとう、ブレイダ。大分楽になったよ」

 

 そう言ってサリエールは何とか身体を起こした。

 「…そう言えば、百合さんは?」

 

 「今日は夜勤。なんか新しく作るんだって」

 「そっか…」

 

 「それで、大事な話って何?まさか…またガディサイト関連?それともどこかに行っちゃうの?」

 

 「…ううん、そんなんじゃない。その逆。私は…ずっと、ずっとずっと、あなたと一緒にいたい。全てが終わったら、ブレイダと二人で暮らしたい。子供は作れないけど…あなたと家族になりたい…」

 

 「…」

 

 ブレイダは呆気に取られ、目を見開いた。

 

 「…だ、ダメ…かな。そ、そう…だよね…お、女同士って…おかしい…よね」

 

 すると、ブレイダが唐突に大粒の涙を大量に流し始めた。

 

 「ど、どうしたの?そんなにイヤだった?」

 

 「ううん、違うの…違うの…嬉しくて…」

 

 「え…?」

 

 「サリエールちゃんが自分の気持ちを言ってくれて、今とっても嬉しいの。わたしもね…サリエールちゃんの事が…」

 

 ブレイダもサリエールに自分の気持ちを告げた。とてもとても短く、シンプルだが、思いがストレートに伝わるような言葉で。

 

 それを聞いて、サリエールも泣き出した。

 

 二人の涙とその笑顔はとても美しく、宝石の様に輝いていた。

 

 「…全部終わったら、また二人で色々話し合おう」

 

 「…うん。ずっと一緒にいようね」

 

 ブレイダはいつもと変わらない無邪気な笑顔を見せ、サリエールも屈託のない笑顔を見せた。

 

 人間の中には完璧な人間なんていない。だからこそ、支え合い、助け合って、愛し合って生きていく。そのパートナーが異性でも同性でも、同じ世界同士でも別の世界同士でも関係ない。お互いが幸せなら、それが一番だ。




今回はここまでです。

なんでこんな話にしたかって言うと、身内がそろそろ結婚するらしいんでちょっとこんな感じの話にしてみました。

いやね、ぼくもこの二人には結ばれて欲しいんすよ…

でも、簡単に結ばれちゃあつまらない。

なので、思いを伝える前に少し苦戦させました。(言うほど苦戦してないかもだけど笑)

では、ここら辺で失礼します。

読んでくれた皆様、もしよろしければ感想や評価をよろしくお願いします!


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超進化!オーバーブースト!

前回からの続きです。

タイトルでネタバレしていくスタイル


サリエールがブレイダに想いを伝えたところで、疲れていたのか、サリエールは気絶するように眠ってしまった。

 

 「お疲れ様、サリエールちゃん。ごめんね、駆けつけれなくて…サリエールちゃんを待ってなきゃ、って思ってて…ううん、言い訳はいらないよね。今はゆっくり寝てて…」

 

 すると、街の方で大きな爆発音が聞こえ、ビルが倒壊する音と共に人々の悲鳴が響き渡った。

 

 「!!」

 

 ブレイダはその音を聞きつけ、窓辺から街の方を見た。

 

 先程ヤミマジュウが暴れていた跡を塗りつぶすように、辺りは瓦礫の山に変わっていた。

 

 「サリエールちゃん…ここで待ってて!」

 

 ブレイダはデバイスを持って外に駆け出し、デバイスをかざした。

 

 「トランス・オン!」

 

 ブレイダはデバイスを胸元に装着し、脚から胸元、胸元から腕、頭と言う順番に変身し、頭に通信機を装着して変身を完了した。

 

 足元にブライトサークルを出現させ、ブレイダはそれに乗って街の方へ飛び出した。

 

 「一体何が…」

 

 街へ着いたブレイダはブライトサークルから飛び降りて街だった場所を見回した。

 

 「クハハハハハ!遅すぎだ!」

 

 すると、上空からブレイダに向けて無数の光弾が降り注ぎ、ブレイダはとっさにブライトサークルを出して自分の身を守った。

 

 「やるね…でもそんなんじゃ…ダメダメだー!」

 

 ブレイダが振り返る隙もなく何者かに後ろからとてつもなく強い一撃を貰い、ブレイダの身体は宙を舞った。

 

 「きゃぁぁぁぁぁっ!」

 

 ブレイダの身体は地面で二回跳ねて瓦礫の山に突撃し、瓦礫の山はその衝撃で崩れ落ちた。

 

 「う…く…一体…誰なの…?」

 

 ブレイダは地面に這いつくばりながら、近付いてくる足音の主を見た。

 

 「久しぶり…私こんなに強くなったんだよ…」

 

 「…ガディナ…!」

 

 ガディナはブレイダを見下ろしながらまるで子供のように笑っていた。

 

 「わたしね、貴方を倒すためにいっぱい、いーっぱい進化したんだよ!見てて!」

 

 そう言うとガディナは銃口を上空に向け、引き金を引いた。

 

 銃口から発射された光弾は遥か上空で爆発して無数の光弾になり、辺りに降り注いだ。

 

 無数の光弾は辛うじて残っていたビルを全て倒壊させ、辺一帯を焼け野原に変えた。

 

 「どうどう?すごいでしょ!」

 「…こんな事…」

 

 「あ、そう…じゃあいいや。もう殺しちゃう」

 

 そう言ってガディナはブレイダの首を掴んで持ち上げた。

 

 「ぐ…う…!」

 

 ブレイダは自分の首からガディナの腕を引き離そうとガディナの腕を掴んだ時だった。

 

 「…!?腕が…あまりにも太い…!」

 

 ガディナの腕の太さは人間のそれを軽く上回っており、自分の胴体よりも太い腕に掴まれていた。

 

 「あんしんして。ゆっくり殺すから、今までの思い出を振り返っててよ」

 

 「ぐ…は、離して…!」

 

 「やだ。だって、わたしがすごいこと分かってくれなかったもん」

 

 「そんな…だったら…」

 

 ブレイダはデバイスを外してファイズバジンを呼ぶコードを入力した。

 

 すると、一体いつの間に来ていたのか、地中からバジンが飛び出し、ガディナに向けて銃弾を連射した。

 

 「わっ、わっ!なに!?」

 

 それに驚いたガディナはブレイダを思わず離し、ブレイダはその隙にガディナの腕から脱出し、すぐさま距離を取り、バジンもブレイダの元に着地した。

 

 「ありがとう、バジン」

 

 バジンの頭がブレイダの方を向いて上下に動き、二人の顔はガディナの方を向き、自分の武器を構えた。

 

 「へぇー、おもしろいもの作ったんだね。それ、私にちょうだい!」

 

 そう言ってガディナはバジンに向かって走り出した。

 

 バジンは銃口を向け、ガディナに銃弾を連射した。

 「うわっ!何すんの!…もうそんなの、いらない!」

 

 そう言ってガディナは素早く銃口をバジンに向け、光弾を連続で放った。

 

 「危ない!」

 

 ブレイダはバジンを押し飛ばし、バジンはビークルモードになって間一髪でガディナの光弾を回避した。

 

 「ぐっ!うう…」

 

 ブレイダはブライトサークルでガディナの光弾を防いだ。

 

 すると、胸のコアクリスタルが赤く点滅を始めた。

 

 「そんな…もう…!?」

 

 「…へーぇ、なるほど」

 

 ガディナは何かに気付いたのか、ブレイダに向かって勢いよく飛び出し、光弾を連続で放った。

 

 「くっ!」

 

 ブレイダは慌ててブライトサークルを出現させ、シールド代わりに使った。

 

 しかし、それ自体がガディナの罠だった。

 

 ガディナはブレイダに気付かれないようにブレイダの後ろに回り込み、ブレイダを後ろから引き倒し、身体を足で固定してコアクリスタルに銃口を向けた。

 

 「…!」

 「これを壊しちゃえば…もう戦えないよね!」

 

 「や…やめて…!」

 

 「…やーだね!」

 

 ガディナは悪魔のように笑い、銃口から刃状のビームを出し、ブレイダのコアクリスタルに突き刺した。

 

 「ああぁぁぁっ!」

 

 ガディナが刃を抜いた途端、ブレイダの身体に凄まじい電流が流れ、コアクリスタルから光は無くなり、ブレイダの目からも光が消え失せ、ブレイダのバトルジャケット、ブレイブレードも消失した。

 

 「…ふっ…くっ…フハハハハハ!やった!やったぞ!ついに…ついに倒したんだ!」

 

ガディナはブレイダの身体から足を離し、ブレイダの身体を蹴り飛ばした。

 

 「こいつもこうなっちゃお終いだね。もう、こいつは超光戦姫にはなれない…」

 

 残されたバジンは主人の危機を察知してバトルモードに変形し、ブレイダの元に飛び立った。

 

 そして、ガディナに向けて銃を連射し、ガディナが怯んでいる隙にブレイダを抱えてその場から逃げ出した。

 

 「逃がしちゃった…まあいいや。次来たら今度こそ完全に倒そっと」

 

 そう言ってガディナもその場から消えた。

 

 

 「ブレイダ!」

 

 サリエールは息を切らしながらブレイダがいるガードナーの病室に入ってきた。

 

 「あ、サリエールちゃん…」

 

 百合は入ってきたサリエールの方を向いた。

 

 「…ブレイダは…」

 

 「…なんとか生きてる…だけど、もう戦うことはおろか目を覚ますことも難しいって…」

 

 「そんな…!ブレイダ!」

 

 サリエールは目に生気がないブレイダの手を両手で握った。

 

 「お願い…目を覚ましてよ…ブレイダ…」

 

 しかし、そんな祈りも虚しくブレイダの手はサリエールの手から滑り落ちた。

 

 「ブレイダ…お願い…」

 

 

 

 一晩経ち、サリエールはブレイダの病室で朝を迎えた。

 

 ブレイダが目を覚ますことはなく、カーテンの隙間からそよ風と太陽の光が差し込んだ。

 

 「…ブレイダ…おはよう…」

 

 サリエールは部屋の時計を見上げた。

 

 時計の針は七時半を指していた。

 

 「…まだ、時間じゃないし、もう少しだけ一緒に居させて…」

 

 そう言ってサリエールはブレイダのベッドに突っ伏して眠りについた。

 

 

 「久しぶり、サリエールちゃん」

 

 サリエールが目を開けると、またあの白い空間にいた。

 

 「貴女…久しぶりに出てきたと思ったら…どうしたの?」

 

 サリエールは近付いてくる女の子に話しかけた。

 

 「ちょっと、ね」

 「ちょっとって…何よ」

 

 「あなたが私の身体を使って、はや数ヶ月…だけど、私はこの身体に帰りたい、だなんて思わなくなってきた」

 

 「どうして…」

 

 「私はこの身体の中でずっとあなたのことを見てきた。それで、ブレイダちゃんと接してる内に、あなたは段々変わっていって…前のあなたでは考えられないような事をしているの、分かる?」

 

 「前の私じゃ、考えられないようなこと?」

 

 「ええ。だって、あなたは敵だったはずのブレイダちゃんと一緒に味方していたし、そして昨日はついに告白した。随分前のあなたが聞いたら、さぞ驚くでしょうね」

 

 「た、確かにそうだけど…」

 

 サリエールは顔を赤くしながら言った。

 

 「それで、私思ったの。この身体はもうあなたにちゃんとあげてもいいかもって。こんなに優しくなった人になら、あげてもいいって」

 

 「私に身体をくれるって…貴女はどうなるの?」

 

 「そうね…この身体を出たら、肉体を持たない私の魂は消えてしまうのかな」

 

 「そんな…ブレイダがいない今の私が消えた方がいい…ブレイダを助ける事が出来なかった私なんて…」

 

 すると、女の子がサリエールに強くビンタをした。

 

 「え…」

 

 「あなたね…ずっと一緒にいたいってブレイダちゃんに言ったんでしょう!?だったら、ちゃんと言ったことを守りなさい!あなたが消えたらそれこそブレイダちゃんは悲しむわ!だから、ちゃんとこの身体で精一杯生きなさい!じゃなきゃ、絶対に許さないわよ!」

 

 そう言う女の子の目には涙が溜まっており、それを見てサリエールはハッとした。

 

 「あなたが!ずっとブレイダちゃんと一緒にいたいって言うからこの身体をあげるって言ってるんでしょうが!それを自分から手放すなんてもうしないで!」

 

 「…ごめん…私、どうかしてたよ。自分で一緒にいたいって言ったのに…」

 

 「…分かれば良いよ。ブレイダちゃんを守るんでしょ?だったら、ちゃんと一緒に、傍にいてあげて…」

 

 「…ええ」

 

 すると、女の子の身体は光の粉に変わり始めた。

 

 「…どうやら、もう、時間切れね…」

 

 「そんな…まだ話したいことがあったのに…」

 

 「その話の続きは…ブレイダちゃんにしてあげて」

 

 そう言って女の子は笑って見せ、光の粉に変わって消失した。

 

 『大丈夫…私はちゃんといるわ。あなたの心の中に…』

 

 女の子の声が聞こえたが何も、誰も見えず、白い空間も消えていった。

 

 そして、外の爆発音でサリエールは目を覚ました。

 

 「ブレイダ…お願い、私に力を貸して!」

 

 サリエールはブレイダの手を強く握った。

 少しだけブレイダが握り返してくれたように感じ、意を決して外に飛び出した。

 

 

 外では、もはや人の形さえも無くなりかけているガディナが暴れ回っていた。

 

 「サリエール…わたしのかわいいかわいい妹…さあ、おいで…」

 ガディナはサリエールに気付き、サリエールの元に近付いた。

 「…誰があんたの妹なもんか!もう私は私だ!あんたの妹じゃない!玲司さんと神凪さんの子供だ!」

 そう言ってサリエールはガディナの腕を鎌で斬りつけた。

 「この…クソガキがァァァァァ!」

 

 ガディナは太い腕と拳をサリエールに向けて放ち、サリエールはそれを避けてガディナの顔に一発パンチを食らわせた。

 

 「…もう、あんたには惑わされない!」

 「じゃあ…こちらも遠慮なく殺してやる!」

 

 そう言ってガディナはサリエールの両腕を掴み、高く飛び上がった。

 そして、勢いよく地面に向かって降下し、サリエールを強く地面に叩きつけてクッションにした。

 

 「く…!」

 

 サリエールは必死の思いで立ち上がり、鎌を強く握った。

 

 「あんた一人で何が出来るんだよ!そんなにフラフラになって!」

 

 そう言ってガディナはサリエールを殴り飛ばし、瓦礫の山に激突させた。

 「はぁ…はぁ…」

 

 それでもサリエールは立ち上がり、両手で鎌を握り、その目には熱い闘志が宿っていた。

 

 「独りぼっちのお前では、もう何も出来やしないんだ!」

 

 「私は…私は、たった独りなんかじゃない!私には、ブレイダも…あの子も一緒にいる!」

 

 すると、サリエールの思いに応えたのか、サリエールのコアクリスタルからブレイダのブレイブレードが飛び出してガディナに攻撃をし、サリエールの手に入った。

 

 「ブレイダ…?」

 

 しかし、周りを見てもブレイダの姿はなく、そよ風が辺りに吹くだけだった。

 

 「…いや、あなたは…」

 

 サリエールの問いかけに応じるようにブレイブレードが日光に反射して輝いた。

 

 「…ありがとう…お願い、私に力を貸して」

 

 サリエールは念を入れるようにブレイブレードを額に当て、そして自分の鎌と一緒に構えた。

 

 「武器が一つ増えたくらいで…!調子に乗るなァァァァァ!」

 

 「!」

 

 ガディナはそう言ってサリエールに飛びかかってきた。

 

 (右!そして回り込んで後ろからブレイブレードを!)

 

 すると、頭の中に声が聞こえ、サリエールはその通りに右に動いた。

 

 ガディナの拳は空を切り、サリエールはその隙をついて後ろに回り、ブレイブレードで打撃を加えた。

 「な、なんだと…!?」

 

 「これも…あなたが…?」

 

(私は最後の力でブレイダちゃんを目覚めさせてくる。あなたは最後までガディナと!)

 

 「…分かった!」

 

 その声が聞こえるとブレイブレードはサリエールの手を離れ、ブレイダの元に飛んでいった。

 

 「何をする気だァァ!させるかァァ!」

「それはこっちの台詞よ!はっ!」

 

 サリエールはガディナの銃を鎌ではじき飛ばした。

 

 「貴様ァ…!」

 

 「ここからは絶対に通さない!」

 

 サリエールは鎌を構え、強く握った。

 

 

 

 「…?ここは…」

 

 ブレイダは、目を覚ますと真っ白な空間にいた。

 

 「初めまして、だね、ブレイダちゃん」

 

 ブレイダの前には、サリエールに酷似した女の子が立っていた。

 

 「あなたは…」

 

「…今、あの子はあなたの為に全力で戦ってる。あなたは、もう一度立てる?」

 

 「…うん。もう、大丈夫。こんなところで寝てられないよ」

 

 「そう…なら、あとはお願いね。あの子と一緒に戦ってあげて」

 

 そう言って女の子は消え、ブレイダは奇跡的に目を覚ました。

 

 「…」

 

 ブレイダは身体を起こし、ベッドから立つと、手にブレイブレードが握られていることに気が付いた。

 

 「…待ってて、サリエールちゃん!」

 

 

 

 「はぁ…はぁ…!」

 

 ボロボロになったサリエールはもう立っているのが精一杯だった。

 

 「どうしたの?もう終わり?なら、もう死ぬしかないよね!」

 

 「!」

 

 サリエールは覚悟を決めて目を瞑った。

 

 「諦めるのはまだ早いよ!サリエールちゃん!」

 

 ブレイダの声が聞こえ、サリエールは恐る恐る目を開けた。

 

 目の前では、ブレイダがガディナの拳をブレイブレードで受け止めていた。

 

 「…ブレイダ!」

 

 「ごめんね…寝ぼすけさんで…もう大丈夫だよ」

 

 そう言ってブレイダはガディナの拳を押し切り、ブレイブレードで斬りつけてガディナを退けた。

 

 「ぐ…!貴様は…!」

 

 「ブレイダ…変身も出来ないのにどうやって闘うの?」

 

 「…サリエールちゃん、デバイスを貸して」

 

 「え!?で、でも、そんなことをしたら…」

 

 「わたしに考えがあるの…成功する確率はとてつもなく低い…だけど!やるしかない!」

 

  「…分かった!私はブレイダを信じる!」

 

 そう言ってサリエールは変身を解除し、デバイスをブレイダに渡した。

 

 すると、ブレイブレードとデバイスが共鳴するように眩い光を放ち、ブレイダはデバイスをかざした。

 「トランス・オン!」

 

 ブレイダはデバイスを胸に装着した。すると、サリエールのヤミノチカラとブレイダのヒカリノチカラが共鳴し、一つに混ざりあって変身を開始した。

 

 ブレイダの変身の姿に変化が起き、腕、肩、腰、靴の装甲、頭の通信機が進化し、膝から下にも装甲が装着され、背中からオレンジの光の翼が生成され、ブレイブレードも出力が上がりスーパーブレイブレードに進化した。

 『OVER BOOST!』

 

 「ブレイダが…進化した!」

 

 「進化だと!?バカな…!」

 「はっ!」

 

 ブレイダは地面を蹴って飛び上がり、ガディナの元に急降下をしながら飛び込んで行った。

 

 「や、やめろ!来るなぁァァ!」

 

 ブレイダはガディナの光弾を回転しながら回避し、いつもよりも強い一撃をガディナに食らわせた。

 

 「ぐァァっ!」

 

 ブレイダは空中で一回転してガディナの後ろに着地し、デバイスを操作した。

 

 『SUPER BANNICING SMASH』

 

 ブレイダの全エネルギーがスーパーブレイブレードに光よりも早く溜まり、ガディナの周囲にブライトサークルを展開し、雷の如くブライトサークルの間を反射しながら飛び回り、エネルギーが最高出力になったところでガディナに突撃した。

 

 「スーパーバニシング!スマーーーーーッシュ!」

 

 ブレイダの一撃はガディナの身体を貫き、ガディナの中にいた大森めぐみを連れて出てきた。

 

 「そ、そんな…そんな…!わたしは…ワタシは…!私はァァァァァ!」

 

 そう言ってガディナは爆発し、ガディナの使っていたデバイスが地面に音を立てて落ちた。

 

 ブレイダは大森めぐみを抱き抱えて優しく着地し、サリエールはブレイダに駆け寄った。

 

 「…ブレイダ…」

 

 ブレイダは優しく笑い、大森めぐみを安全な場所に降ろし、サリエールを抱きしめた。

 

 「ありがとう、サリエールちゃん。もう絶対離さない。ずっと傍にいる」

 

 「ブレイダ…!」

 

 サリエールもブレイダを強く抱きしめた。

 

 そして、ブレイダは変身を解除し、デバイスをサリエールに返した。

 

 「ありがとね、サリエールちゃん。ずっと一緒にいてくれたんでしょ?」

 

 「うん。ブレイダの事が誰よりも心配だったから」

 

「そっか…ありがとね」

 

 そう言ってブレイダはいつものように無邪気に笑い、サリエールも同じように無邪気に笑った。

 

 

 「ほら、これで修理完了だ。ついでにあの強化形態のプログラムも入れておいたぞ」

 そう言って玲司はデバイスをブレイダに渡した。

 

 「ありがとうございます、玲司さん。でもなんであの形態の事を?」

 

 「ああ、ちゃんと奈央がデータを取っててくれたからな。それを元に作ったからすぐ出来たんだ」

 

 「そうだったんですね。…そう言えば、大森めぐみちゃんは?」

 

 「ああ、あいつはまだ病室の中だ。まだ目は覚まさないが、命に別状はなかったし、身体に異変もなかった。おそらく数日後には目を覚ますだろう」

 

 「そうですか!良かったね!サリエールちゃん!」

 

「ええ。良かったわ」

 

 「…そうだ、また大森めぐみが目を覚ましたらちゃんと付き添ってやれよ。ガディナに取り憑かれている間の事を知らなさそうだしな」

 

「分かりました。…それじゃ、行こっか、サリエールちゃん」

 

 「ええ。学校には遅刻って伝えてあるんですよね?」

 

 「ああ。ちゃんと事情は上手いこと説明しておいた」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

 「おう。気をつけて行けよ」

 

 「はーい!」

 

 二人は、指を絡ませて手を繋ぎ、学校へと向かった。

 

「…零、そろそろ帰って来いよ…」

 

 玲司は窓から景色を眺めながら呟いた。




今回はここまでです。

カブト並の脚本だなぁ…まあ、そこはご愛嬌。

よろしければ感想と評価よろしくお願いします!


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奪還

今回から最終章に向けてラストスパートです!

最終三部作を見逃すな!


ブ レイダ、サリエール、相川、橘はいつものように学校に向かって歩いていた。

 

 「痛た…」

 

 ブレイダは呻き声を発しながら片手で頭をおさえた。

 

 「どうしたの?ブレっち」

 

 「頭が痛いのか?」

 

 「うん、ちょっと前からね。こないだまでは時々来るくらいだったんだけど…」

 

 「そうなの…あんまり痛むようだったら保健室連れていくよ?」

 

 サリエールは心配そうな顔をしながらブレイダに言った。

 

 「ううん、大丈夫。確かに少し痛むけど、大した事ないよ」

 

 「そう…それならいいんだけど…」

 

 そう言うサリエールの顔には不安の文字が並んでいた。

 

 「まあまあ、本人が大丈夫だって言ってんだから、気にしないで良いでしょ」

 

 そう言って相川はサリエールの肩を叩いた。

 

 「だといいんだけど…」

 

 サリエールには妙な胸騒ぎがしていた。

 

 四人は教室に入り、自分の荷物を机に置いてすぐさま相川の机に集まった。

 

 「そう言えばさ、ブレっちがあのガディナって奴を倒したんでしょ?」

 

 「うん。新しいオーバーブーストフォームでね」

 

 「それがどうしたんだ?」

 

 「またガディナみたいに新しい娘が来るんじゃないかなって思ってさ…」

 

 「それなら心配はいらないよ。ガディナが特別強すぎただけで、それ以外の子達は一人では時空を超えることはおろか時空の穴すらも開けないから、ガディサイト本人が連れてこない限り来ることはないよ」

 

 「そっか…」

 

 「それに、一番強かったガディナをブレイダが倒したんだから、他の娘を呼んでも倒されるのは目に見えてるからね」

 

 「それじゃあ、サリエールも含め他の変身できるやつらもガディナには勝てないのか?」

 

 「ええ。ガディナは従順な犬のようにガディサイトに懐いていたけど、能力値がおかしくてガディサイト本人も手を焼くくらいだからね」

 

 「能力値?ゲームのステータスみたいなもん?」

 

 「その解釈でいいわ。ガディナはそれがどれも元々高かった…だけど、その作用なのか子供みたいな性格になった」

 

 「なんで?」

 

 「そうね…私達は年相応に精神が成長するようになっているのだけど、ガディナにはそのシステムを組み込まれていなかったからじゃないかしら」

 

 「それでも、普通の人間として生まれたなら、順当に成長するんじゃないのか?」

 

 「…普通の子供として、順当にふむべきステップを踏めなかった…友達も作れず、身の回りの人間はガディサイトだけ…おそらく、私の時以外にも他の並行世界に呼び出されてはその世界の私達のような存在を狩ってきた…友達と言う概念も知らず、悲しいと言う感情も愛も知らないまま、モンスターの様に扱われていたのかもしれないわね。実際、ガディナは人間だったかどうかも分からない…」

 

 「そっか、大森めぐみちゃんがガディナだった訳じゃないもんね」

 

 「ええ。大森さんは一応目を覚まして普通に学校に通っているけれど、ガディナに取り憑かれていた間の記憶はほとんど抜け落ちていたわ」

 

 「そうか…」

 

 如月が教室に入り、三人は慌てて自分の席に戻った。

 

 「またあとで詳しく教えてね」

 

 「ええ」

 

 三人が席について間もなく委員長の号令でHRが始まった。

 

 

 体育の時間中、ブレイダとサリエールは二人でストレッチをしながら話していた。

 

 「ガディサイトは、ガディナもいなくなってこれからどうするんだろうね?」

 

 ブレイダはサリエールと背中合わせになって腕を組み、サリエールを持ち上げながら言った。

 

 「さあ…考えられるとしたら直接襲ってくるか、あるいはまた他の子を連れてくるのか…それでも、ブレイダのオーバーブーストで倒せるから他の子を連れてくる可能性はほぼゼロだと思う」

 

 サリエールもブレイダと同じようにブレイダを持ち上げて言った。

 

 「そうなると、残る手は直接襲ってくるだけになるけど…流石に単純に攻めてくるわけでもないだろうしなぁ」

 

 ブレイダは座り込んで足を広げているサリエールの背中を左に押しながら言った。

 「ガディサイトもそこまでバカではないし…イマイチ分からないね」

 

 サリエールはブレイダに背中を右に押されながら言った。

 

 「でも、狙ってるのはヤミノチカラな訳でしょ?それなら基地に直接攻めてくる…とか?」

 

 ブレイダは足を広げて座り、サリエールに背中を右に押されながら言った。

 

 「確かに…それは考えられそうね。ちょっと前に倒したヤミマジュウの分も合わせて集まっている二十個のヤミノチカラがあれば目的は達成される訳だから…」

 

 サリエールはブレイダの背中を左に押しながら言った。

 

 「うん…でもそれなら、今頃ガディサイトは基地を襲ってると思うんだけど…何も動きがないのはなんでだろう…」

 

 ブレイダは足を広げてその間に両手をつき、サリエールに背中を押されなが言った。

 

 「こればっかりはガディサイト本人にしか分からないわね…」

 

 サリエールもブレイダと同様に背中を押されながら言った。

 

 「うん…」

 

 二人がストレッチを終え、サリエールが立ち上がった瞬間、校舎の近くで爆発音が聞こえ、二人も含めグラウンドにいる全員がその方向を見た。

 

 「えっ…?」「なんだ?」「なになに…?」

 

 全員が見上げた先には、太陽を背に一人の人間が浮いていた。

 

 「これは…!?」

 

 「まさか…ガディサイト!?」

 

 「ご名答。流石我が娘よ」

 

 男は二人の前に静かに降り立って言った。

 

 「もう私はあなたの子供じゃない。帰って」

 

 サリエールはポケットに手を入れてデバイスを出そうとした。が、それをブレイダが手を掴んで止めた。

 

 「ど、どうして…」

 

 「今ここじゃ変身出来ないよ…!皆見てるんだから…」

 

 サリエールはブレイダに小声で言われ、ハッとした。

 

 今この場には自分達だけではなく、ブレイダとサリエールの事情を知らないクラスメイトや先生が沢山いる。もしこの場で変身しようものなら疑惑の眼差しが向けられるのは間違いなかった。

 

 「くっ…!」

 

 サリエールはデバイスを取り出すのを止め、ポケットから手を出した。

 

 「まあ、そういう事だ。今は話を大人しく聞くことだ」

 

 「…要件は何?」

 

 ブレイダはガディサイトを睨みながら言った。

 

 「なに、大した事ではない。そろそろこの世界が歴史の修正を始める、と言うことだ」

 

 「歴史の修正…?」

 

 次の瞬間、ブレイダは頭をおさえながらその場に倒れ込んだ。

 

 「ブレイダ!ブレイダ!?どうしたの!?返事をして!」

 

 サリエールはブレイダの肩を揺らしながら叫び、如月と橘、相川もブレイダの元に近付いた。

 

 「おや、この世界の歴史の修正は案外早いんだな」

 

 「ブレイダに何をしたの!?」

 

 「俺自身は何もしていない。むしろ、何かをしたのはこの世界の方だ」

 

 「世界の方…?」

 

 「本来私自身も含めお前達二人はこの世界に存在しない、いや、存在してはいけない異物…それを排除しようとするのは当然だろう?」

 

 「異物…!?それならあなたもそうじゃない!」

 

 「確かにその通りだ…だが、俺は神の力を得ていることでどうやらその修正とやらから逃れられているようだ」

 

 「じゃあ…いずれ私も消えると言うの!?」

 

 「そうなるな…お前達だけが消え、私はこの世界で永遠に居続ける事が出来る…」

 

 「くっ…!!」

 

 サリエールは鬼のような形相でガディサイトを睨みつけた。

 

 「残りの余生を精一杯楽しむんだな…」

 

 そう言ってガディサイトはその場から消えた。

 

 「く…」

 

 サリエールは力一杯地面を殴りつけた。

 

 「今はこんなことしててもしょうがない。柊を保健室に運ぶぞ!」

 

 「私が運びます!」

 

 「分かった!あとは頼む!」

 

 サリエールはブレイダを背負って保健室に駆け込んだ。

 

 

 

 ブレイダは救急車で搬送され、ガードナーの病院の集中治療室に寝かされていた。

 

 サリエールと百合は医師の宝条、鏡、仮野に状態を聞いた。

 

 「尽くせる手は全て尽くしましたが…」

 

 「どうしても治すことが出来ません。私達の腕を持ってしても、治すことが不可能です」

 

 「そんな…」

 

 「どうにか治すことは出来ないんですか!?お願いします!」

 

 「どうにかと仰られましても…」

 

 「どのような方法でも原因が見つけることが出来ないものは何をしても治し様がない…」

 

 「親族の方には申し訳ありませんが…」

 

 そう言って三人は頭を深々と下げた。

 

 「…先生、頭を上げてください。できることは全てやって下さったんですよね…それなら、私はもう…」

 

 「百合さん…」

 

 百合は集中治療室の前を通って病院を後にし、サリエールもそれを追って百合についていった。

 

 「百合さん…」

 

 「…いつか、こうなることは分かっていた…何度も激しいダメージを受けて、今まで無事だった事が奇跡だったのよ…」

 

 「…」

 

 「ガディサイトも言ってたんでしょう?歴史が修正されて、その際に異物を排除して、元のあるべき歴史を辿ろうとしている…そうなれば、私達もいつかは何かの要因で消えてしまう…」

 

 「百合さん…」

 

 「…ごめんね、こんな時、どうしていいか分からなくて…娘を抱きしめることも駆けつけることも出来なくて…母親失格ね」

 

 「…」

 サリエールには、かけてやれる言葉が見つからなかった。

 

 

 百合とサリエールがガードナーの基地に戻り、第一会議室に行くと神凪、玲司、橘、相川が座っていた。

 

 「事情はだいたい分かってる。ブレイダが戦えない今、この世界はサリエールの手に懸かっている」

 

 「…はい」

 

 「しかし、ブレイダをどうにか治す方法はないのか…」

 

 「もう全部の手は尽くしちゃった訳だしね…」

 

 百合とサリエールはそう言いながら椅子に座った。

 

 「あいつもずるいよねー、零さんの力がないと生きられない癖にさ!」

 

 「そうだな…ん?零の力…?」

 

 「零の力があれば…」

 

 「「「それだ!!!」」」

 

 百合、玲司、神凪は顔を見合わせて言い、サリエールの方を向いた。

 

 「…つまり、どういう事です?」

 

 「無いなら持ってくればいい訳だよ!零の居場所を知ってるサリエールもいるんだ!」

 

 「もしかして…その零さんを取り戻してこなきゃいけない、って事ですか?」

 

 「ああ。その役割を頼みたいが…頼んでもいいか?」

 

 「…分かりました。どちらにせよ、零さんが必要でしょうから」

 

 「すまないな…くれぐれも無事に帰ってこい、いいな」

 

 「分かりました!」

 「俺達はサポートに回るから、サリエールは零を頼む」

 

 「はい!」

 

 そう言ってサリエールは基地を飛び出し、走りながらデバイスをかかげた。

 

 「トランス・オン!」

 

 サリエールは青色の光に包まれ、一瞬で変身を完了し、ガディサイトの基地へと飛び立った。

 

 

 ガディサイトの基地は空中に浮かぶ要塞であり、中の構造がとても入り組んでおり、サリエール自身も全てのルートを把握している訳ではなかった。

 

 『サリエール、聞こえるか?』

 

 「はい、玲司さん」

 

 サリエールは通信機に手を添えて言った。

 

 『こちらでは要塞の中の解析が全て完了した。零の正確な居場所はまだ分からないが…おそらく最深部にいると思われる。気をつけていくんだぞ』

 

 「はい!」

 

 サリエールはそう言って要塞の下部に近付き、鎌を使って壁を切り裂いて穴を作り、その穴から中へと侵入した。

 

 『おそらく今サリエールがいる場所の真上に零がいる…が、突き破っていこうものならすぐにでも居場所がバレてしまう。通路を使って零を探せ。こちらでも解析作業は続けていく』

 

 「分かりました。そちらの方もよろしくお願いします」

 

 『ああ。健闘を祈る』

 

 サリエールは足音を立てないように飛行しながら通路を移動し始めた。

 

 

 

 「やあ、零くん、ご機嫌いかが?」

 

 ガディサイトは磔にされた零に近付きながら言った。

 

 「…」

 

 「…まあ、あれから十五年、お前もそろそろ死期が近付いて目を覚まず事も出来なくなったか…」

 

 「…」

 

 零は俯いたまま、何も言わない。

 

 「安心しろ。お前が死んでも、お前の代わりは私がいる。そのままゆっくり死ぬがいい」

 

 そう言ってガディサイトは部屋を後にして、扉を閉めた。

 

 「…さて、そろそろ起きた方が良いかな…」

 零は目を開け、周りを見回した。

 

 「流石に飽きてくるよな…でもこの言葉が来るってことはそろそろ修正が…ん?」

 

 通気口の蓋が外れ、その穴の中からサリエールが降りてきた。

 

 「お前は…ここにいたやつじゃねえか。なんでそんなとこから来るんだよ?」

 

 「ちょっと色々ありましてね…今はここを出ましょう」

 

 そう言ってサリエールは零の拘束を解き、ゆっくりと零を下ろした。

 

 「悪いな、助けに来てもらってよ」

 「いえいえ、そう言う任務なので」

 

 「そうか…とりあえずここを出よう。ここを出れなきゃ話にならないしな」

 

 「ええ」

 

 零とサリエールは通気口に入り、来た道を戻って下に下がって行った。

 そして、要塞の下に来たところで通信が復活し、サリエールの耳に玲司の声が聞こえた。

 

 『サリエール!良かった!無事か!?』

 「はい、無事です」

 

 「俺もピンピンしてるぜ。結構退屈だったけどな」

 『!?その声…零か!?本当に生きてたんだな!』

 

 「ああ。しばらくの間に自分の力は何とか取り戻した。五年ほど経ったら自然と戻ってきたぜ」

 

 『それは本当か?なら、俺達も…』

 

 「ああ。おそらく元に戻ってるはずだ」

 

 『そうか…何はともあれ、生きていてくれて本当に良かった。サリエールと一緒に戻ってきてくれよ』

 

 「All Right.任せときな。準備運動にはちょうどいいぜ」

 

 そう言って零とサリエールは通路に出て、ゆっくりと地面に降り立った。

 

 「さてと…こっからは俺に任せな!」

 

 そう言って零は数秒だけ軽く準備運動を行い、サリエールを脇に抱えて音速の速さで駆け出した。

 

 「えっ!?ちょっ!?えっ!?」

 

 「喋ったら舌噛むぜ!」

 

 零は通路に仕掛けられた無数のレーザー銃の光線をものともせずにかわし、階段の手すりに乗って滑りながら降下して一番下の階に降り、サリエールが開けた穴から一気に飛び降りた。

 

 「ひゃっほー!やっぱり新鮮な空気は美味い!」

 

 「そんなこと言ってる場合じゃないでしょー!落ちてる!落ちてるううううう!」

 

 零はサリエールの心配をよそに綺麗な着地を決めた。

 

 「ふう…暗いから適当に着地したけど…ここは?」

 

 零は辺りを見回しながらサリエールを降ろした。

 

 「ここは…どうやらガードナーの基地の屋上みたいですね」

 

 「が、ガードナー?何だそれ?」

 

 零は首を傾げながらサリエールに聞いた。

 

 「道中お話しますよ。とりあえず着いてきてください」

 

 「そうか、ありがとな」

 

 零はサリエールについて行きながらガードナーのことを聞いた。

 

 「…つまり、怪獣とか、災害とか、色んなことから人間や生き物を守る組織…ってことか?」

 

 「そうです。他の詳しいことは玲司さんから聞いてください」

 

 「おう。ありがとな」

 

 そう言って二人は第一会議室に入った。

 

 「よう、戻ってきたぜ」

 

 「零!本当に戻ってきたのね!」

 

 「もちろんだ。…待たせてごめん、百合」

 

 そう言って零は強く百合を抱きしめた。

 

 「やっと…やっと会えたんだね…」

 

 そう言いながら涙を流す百合の涙を零は指で拭ってやった。

 「ただいま、百合」

 

 「おかえり、零」

 そう言って二人はもう一度抱き合った。

 

 「なあ、玲司、とりあえず風呂入っていいか?あと、ご飯も食べたいんだけど良い?」

 

「ああ、構わない。基地の中に大浴場があるから、そこを使ってくれ。案内するよ」

 

 「おう。ありがとな」

 

 「皆はご飯を用意しといてくれ」

 

 「分かりました」

 

 「任せて!」

 

 百合は生き生きとした表情で袖をまくって言った。

 

 「私も頑張るわ!」

 

 「よし、じゃあ、着いてきてくれ」

 

 「ああ」

 

 零は玲司について浴場まで向かった。

 

 「しかし、俺がいない間に何があったんだ?ガードナーもそうだし、あの要塞の中にいたサリエール?って子もいつの間にかこっちにいるし…」

 

 「まあ、それも含めて話すぜ」

 

 零は玲司にこれまでの事を全て話した。ガードナーのこと、ブレイダとサリエールのこと、ヒカリノチカラとヤミノチカラのこと、そして今ブレイダが大変だったと言う事も余すことなく全て話した。

 

 「そうか…そんなことが…あの時助けた子供が…」

 

 「ああ。お前が助けた子供がお前に恩返しをしたんだ」

 

 「そっか…ま、助けてくれた事だし、俺もまたその恩を返してやらないとな」

 

 「出来そうか?」

 

 「ああ。時空を司る神の力は移動手段だけじゃないって事を見せてやるぜ」

 

 そう言って零はサムズアップして笑って言った。

 

 「助かるぜ」

 

 「良いってことよ。世界のピンチだしな」

 

 

 

 風呂を上がり、夕食も済ませた零は早速ブレイダの元に来た。

 

 「お前があの時の子供なんだな…お前が…ブレイダがいてくれたお陰で俺はもう一度百合の元に戻ってこれた。だから、今度は俺がお前を戻してやる番だ」

 

 そう言うと零の身体が眩い光に包まれ、時空神レイへと変わった。

 

 「待ってろ。すぐ終わる」

 

 そう言うとレイはブレイダの頭に手を当ててブレイダの記憶を全て吸い出した。

 

 「さて、これで大丈夫だな。次で終わる」

 

 レイはブレイダの記憶を頼りにブレイダの脳が強い衝撃を受ける寸前まで脳の時間を巻き戻し、ブレイダの脳を安全なまま今の時間にまで戻した。

 

 そして、最後にブレイダの記憶を全て戻した。

 

 「これで大丈夫だ。時期に元に戻る」

 そう言ってレイは人間の零に戻って集中治療室を出た。

 

 「記憶がちゃんと定着するまでに時間がかかる。一晩も経てば元気になるさ」

 

 「そう…良かった…」

 

 百合はそう言って胸を撫で下ろした。

 

 「しかし、養子って言うか…自分達の子供って思うと中々複雑な気持ちだな…」

 

 「あら?どうして?」

 

 「大したことじゃないんだけど、ブレイダの成長過程を見たかったなって思ってな」

 

 「そう…まあ、それでもいいじゃない。まだまだこれからよ」

 

 「…そうだな、一緒に見守っていこう」

 

 そう言って百合は零と腕を組んで集中治療室を後にした。




今回はここまでです!

やっと零さんが帰ってきたよ~!長かった~!

宜しければ感想と評価よろしくお願いします!


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心からの叫び

間開けてごめん!!!

そして長くなってごめんなーー!!!!

とりあえずつべこべ言わずに本編じゃ!


「百合~!!」

 

「零~!!」

 

 百合と零の二人は笑顔で手を繋いでぐるぐる回りながら笑っていた。

 

 「百合さんあんなに元気だったんだね」

 

 「い、いや、元気すぎて逆に怖いんだけど…」

 

 「でも、百合さん、零さんが帰ってきてから前より元気になったよね」

 

 「うん。それに、零さんのおかげでわたしも元通り元気になれたしね」

 

 そう言ってブレイダは無邪気に笑い、サリエール、橘、相川の三人も釣られて笑顔になった。

 

 「しかし、お前もお前だよな。治った途端一分も経たない内に目を覚ますんだから」

 

 「うんうん。本当にびっくりしたよ。でも早い内に目が覚めて良かった」

 

 玲司と神凪の言葉に相川はうんうんと頷いた。

 

 「そんなに早かったの?」

 

 「それはそれはもう早かったよ。零さん達が出てきて、私達が様子を見に行ったらもう目が開いてるんだもん」

 

 「そう言われてみると早いね…」

 

 「まあ、零も戻ってきたし、ブレイダも元気になったしで何よりだな」

 

 「うん…ところで、あの二人はいつまで回ってるの?」

 

 神凪に言われて玲司は二人の方を見た。

 

 零と百合の回れ回れメリーゴーランド状態は終わる気配がなく、玲司と神凪は半分呆れていた。

 

 「…まあ、あの二人はほっといて、これからどうするかが問題だな」

 

 あの二人は放置してブレイダ達は会議室の椅子に座った。

 

 「ガディサイト本人も力を失った訳じゃないし…」

 

 「オマケに俺や零、百合の力も持ってる訳だからな。本当に厄介な奴だな…」

 

 「ふむ…未だに疑問なのだが…何故ガディサイトはサリエールやガディナの様な子供達を作っていたんだろうか…」

 

 「確かに…なんでアイツ作ってたんだろうね?」

 

 「うーん、ロリコン…とか?」

 

 「それはないな。ガディサイトは地球人には興味はない」

 

 「じゃあ、それこそ何でだろう…?」

 

 「…」

 

 サリエールは黙って机に肘をつき、口の前で手を組んでいた。

 

 「サリエール、お前はどう思う?」

 

 「…え?ええ、そうね…」

 

 不意をつかれてサリエールは慌てて口を開いた。

 

 「…確か…ガディサイトはずっと一人だったって言うのは以前聞いた事はあるけど…」

 

 「劇団?」

 

 「ひとり?」

 

 「そっちじゃない」

 

 そう言いながら橘は相川とブレイダの頭にチョップを入れた。

 

 「…ええ、詳しくは聞いたことがないけれど、ずっと一人ぼっちだった…と」

 

 「一人ぼっちか…確かにそりゃ辛いよな…」

 

 「でも一人ぼっちだった過去と女の子達を作ることに何の意味が?」

 

 いつの間にか椅子に座っていた零と百合が言った。

 

 「お前らの復帰早いな…」

 

 「いつまでも浮かれてられねえからな」

 

     「うんうん。で、本当になんで女の子なんて作ったんだろうね?」

 

「ふむ。家族が欲しかったのであれば、母星にも同じ種族がいるはずだが…彼の家族がもういなくなってしまった、あるいはその星の種族がなんらかの原因で滅んだ、など、彼の周りに同じ種族がなんらかの理由でいなくなってしまったのであれば、彼が寂しさを覚えるのも無理はないだろう」

 

「そっか…」

 

「だが、それならば女の子だけではなく男の子も作れば良いだろう。何故ガディサイトは女の子にこだわったんだ?」

 

「そこだけが分からないね~。アイツがロリコンってのもあながち間違いじゃないかもよ?」

 

「とは言えども、惑星間での価値観はかなり変わる。美的感覚も違えば、何を良いと感じ、何を悪いと感じるかも変わってくる。一概にこれだ!と言うのは現時点では出せないな」

 

そう言ってレイジが締めくくった。

 

「まあ、そうだよね。今日は帰ろっか」

 

「うっし。じゃあ帰るべ帰るべ」

 

「おう。お疲れさん」

 

「じゃあ、わたし達も帰ろっか」

 

「ああ」

 

そう言って一同は各々の家に帰って行った。

 

 

 

パジャマに着替え、布団に入っていたブレイダは、ガディサイトの生い立ちについて色々考えていた。

 

(もしもガディサイトが…わたしと同じような生い立ちだったら…わたしと同じように、誰かに家族や身近な人を奪われていたら…わたしも同じように家族となるような人間を作ろうとしたのかな?)

 

すると、部屋のドアがノックされ、ブレイダは布団から出てドアを開けた。

 

「よっ、寝てるとこ起こして悪いな」

 

部屋の前に立っていたのは零だった。シャワーを浴びてきたのか、ほのかに石鹸の香りがしていた。

 

「ああ、零さん。良いですよ、まだ寝れなかったところですし」

 

「すまねえな、ブレイダ…ちゃん?」

 

「ああ、わたしのことはブレイダと呼んでもらって良いですよ!家族なんですから」

 

そう言ってブレイダは笑って見せ、零もにっと笑い返した。

 

「ありがとな、ブレイダ」

 

「いえいえ。立って話ってのもなんですし、入ってください」

 

「おう。わりいな」

 

そう言って零は部屋の中に入って電気をつけ、ブレイダはベッドに座り、零は床に座り込んだ。

 

「それで、どうしたんですか?」

 

「ん?ああ、ここ最近いろんな事があったし、ブレイダと色々話してみたいなって思ったんだ」

 

「そういう事ですか。…零さんが十五年前のあの日、わたしの事を助けてくれたんですよね?」

 

数秒の沈黙の後に、ブレイダが口を開いた。

 

「ああ。本当は他の人達も助けたかったけど、ブレイダだけしか助けられなかった…。例えブレイダの友人ではなくとも、家族ではなくとも、大切な命だった…」

 

「それは零さんのせいじゃ…」

 

「それは分かってはいる。分かってはいるんだけど…あの日の後悔が未だに心に残ってる…っと、悪いな、こんな暗い話をしてしまって」

 

「いえ…その時はわたしもまだ小さな子どもでしたし…」

 

覚えていない、と言えばそれは嘘になる。

 

あの日のことが十年以上経った今でも鮮明に夢に出てくるのだから。いや、正確には出てきてしまう、と言う方が正しいだろうか。

 

ずっと前の事だとは言え、心のどこかで零を許せないブレイダがいた。

 

「…零さんは、一度死んで生き返っているんですよね」

 

「ああ。自分の命を粗末に扱って、わずか十三年で死んだ」

 

そう言う零の表情は心做しか暗く見えた。

 

「今でも自殺して良かった、って思う事はあるんですか」

 

「生き返った当初はずっとそう思っていた。一度死ねば凄い力が手に入るんだって。でも、大切な存在が出来て、色々な世界で色々な人と巡り会って、気付いたんだ。ありふれた言葉だけど、皆短い命を一生懸命生きてるって事を。それに、一度死んだらもう大切な人達に自分の思いを伝えられなくなるんだ、って思ったんだ」

 

「…!」

 

「子供の時から好きだった子にも、ずっと遊んでたアイツにも、大人になった姿でもう一度会えないってのが凄く悲しいし、凄く寂しい。身体も成長しなくなったし、未来の自分に会うってことが出来なくなったのが一番悲しいね」

 

「…そんな模範解答みたいな事言って…」

 

「これが模範解答なのかどうか俺は分からない。だけど、自殺して色々考えてたら、こんな結論に辿り着いたって訳だ」

 

「でも、でも…零さんが見殺しにした人達の分を生きれる訳じゃないでしょ!」

 

「…!」

 

ブレイダは言ってしまってからはっとした。

 

「ごめんなさい…その…」

 

「良いんだ、ブレイダ。こればかりは言い返せる言葉がないからね。むしろ、ブレイダだけにしか言えない言葉だっただろう。俺も手が届くのに手を伸ばさなかった。だから、救える人を救えなかった。救えたはずの命を救わなかったんだから、当然の報いだ」

 

「零さん…」

 

「もしも、ブレイダが心のどこかで俺を許せない、許しておけないと思っているのなら、そのままでいい。それが力を持つ者が救える者を救わなかった戒めだから。それを忘れてしまっては大切なものさえも失くしてしまうかもしれないから」

 

「…」

 

「しかも、俺は敵に力を与えて、それでブレイダ達を苦しめていたんだ…ブレイダやサリエール、そしてレイジ達に恨まれてても仕方ないのかもしれない。ましてや百合は十五年も放ったらかしにされてるんだから、一番恨んでいるとしたら百合だろう」

 

「…零さんは、わたしに何を言いたいの?」

 

「ブレイダには未来をちゃんと生きてて欲しい、って事かな。それくらい」

 

「今を生きる…」

 

「今の現状を招いたのはこの俺だ。だから、俺は自分の手で責任を果たして、ブレイダ達にはヤミマジュウと戦わなくてもいい、誰とも争わなくて良い未来でずっと暮らしてて欲しい」

 

「零さん…」

 

「綺麗事になっちゃうけど、綺麗事で済ませられるような世の中ならいいと思う。誰とも喧嘩なんかしなくて、色んな人と手を取り合えるような世界。何かを一丸となって排除したり、倒したりするんじゃなくて、どんな人とも分かり合える世界。俺はそんな世界でブレイダに生きて欲しいんだ」

 

「…零さんはその世界で、わたし達と一緒に生きたい…と?」

 

「願うことならば一緒に生きていきたい。だけど…俺のように大きな力を持つものがいる限りその願いは叶えられないかもな」

 

「…それじゃ、零さんは…」

 

「全てが終わったら、俺達の使命は終わり、元の世界に帰る。百合や奈央は悲しむかもしれないが…それがルールであり、俺達の宿命だ」

 

「…そんなのって…」

 

「こればかりは守らないといけないんだ。使命を終えてやるべき事が終われば、世界は辿るべき道を辿ってあるべき姿の歴史になる。俺達みたいに歴史の外部から来たものは、出ていかなくちゃいけない」

 

「…零さんは寂しくないの?」

 

「そりゃあ寂しいよ。生きるか死ぬかの瀬戸際を共にしてきた仲間達と離れるのは本当に寂しい…だけど、俺がそういう風にまた生まれちゃったから…」

 

そう言う零の目には涙が溜まっていた。

 

「零さん…」

 

「いつかまた死ぬ時が来るのなら、後悔しないように死にたい。俺はこれで良かったんだって、死んだ後でもそう思えるようにしたい」

 

「…」

 

「…最後に聞いておくか。ブレイダ、君は俺達と一緒に生きていきたい?それとも…」

 

「…今はまだ、出せません。その答えは、まだ出したくない…」

 

「そっ…か。わかった。その答えが聞ける時を待ってるよ。おやすみ、ブレイダ」

 

そう言って零は立ち上がってブレイダの頭を撫で、部屋を出た。

 

バタン、と言う扉の音と共に部屋には暗闇が訪れた。

 

「…この選択が間違ってるのは分かってる…だけど…私は…!」

 

 

 

次の日の朝、校門でブレイダ達四人は如月先生に会った。どうやら今日は如月先生の当番らしい。

 

「おはようございます、如月先生」

 

「おう、おはよう!」

 

「おっはー!」

 

「おはよう!やっぱ元気な挨拶は気持ちがいいな!」

 

「おはようございます」

 

「おう!おはようさん!」

 

「おはようございます…」

 

「おはよう、どした?柊。元気ないな」

 

「ええ…ちょっと…後で相談に乗ってくれますか?」

 

「ああ。お昼休みにでも職員室に来てくれ。今日は体育は午前中だけだし、ゆっくり相手出来るぞ」

 

「ありがとうございます…」

 

そう言って四人は校門をくぐって校舎の中へと入っていった。

 

「どしたの?ブレっち」

 

「昨日零さんと色々話してね…とにかく訳は後で話すよ。お昼休み一緒に来て…」

 

「あ、ああ。分かった」

 

サリエールと相川は顔を見合わせて首を傾げた。

 

 

 

昼休み、ブレイダ達は如月先生の元へと訪ねた。

 

「ひとまず相談室に行くか。職員室じゃ話しにくいだろうしな」

 

「ありがとうございます、先生」

 

「ああ。いつも明るい柊がそんな顔をするって事はかなり大事な話だしな」

 

そう言って五人は職員室の向かいにある相談室へと入り、五人は適当な椅子へと座った。

 

「早速本題に入るが、何があったんだ?」

 

「…ええ。その前に…。サリエールちゃん、言ってもいい…かな」

 

ブレイダは不安そうな表情でサリエールの方を見て言った。

 

「良いよ。如月先生なら大丈夫」

 

サリエールもブレイダの方を見て強く頷いた。

 

「…分かった。ありがとう」

 

ブレイダもサリエールに頷き返し、再び如月先生の方を向いた。

 

「…実は…」

 

ブレイダは今までの事を全て打ち明け、そして、零の事を話した。彼はいつか消えてしまうが、一体何が自分の本心なのか分からないと言うことを如月に打ち明けた。

 

「そっか…その零さんにも助けられたけど、お父さんもお母さんも助けて欲しかった…か。うーん…」

 

「わたしは…本当は…零さんと過ごしたい。でも、零さんの顔を見る度に憎んでしまうんじゃないかって…すみません、こんなに自分勝手で…」

 

「いいや、柊は自分勝手なんかじゃない。もしも俺が柊と同じ立場だったら同じように零さんの事を恨んじまう。俺だけじゃなくて、周りの皆も助けてくれ!って言っちゃうな」

 

「先生…」

 

「もちろん、零さんや今のお母さんが頑張ってたのも知ってるんだろ?」

 

「まあ…」

 

「だからと言って、それでチャラになるもんじゃないもんな。だから、こうやって相談に来てるんだろ?」

 

ブレイダはコクリと頷いた。

 

「なら、その恨みや憎しみってやつを全部零さんと今のお母さんに言ってやるんだ。それで、その後にその反対の事も全部言ってやる。もちろん、どっちも自分が気の済むまでだ。それで、残った本心を素直に伝えてやればいい。俺が柊ならそうする。家族だからとか、家族じゃないとかじゃなくて、大事な人だからこそ、ましてやもうすぐいなくなってしまうなら、ちゃんと伝えるべき事は伝えられる内に伝えた方がいい」

 

「伝えられる内にって…如月先生…」

 

「ああ、俺の両親は子供の頃に交通事故で亡くなった。ちゃんとお礼も言えてなくて、今でも心のどこかに後悔が残ってる。だから、俺のダチにはそんな思いはさせたくないんだ。今日帰ったあと、じっくり話してやるといい。柊の言葉で、包み隠さず全てをさらけ出すくらいでな」

 

「先生…!はい!ありがとうございます!」

 

ブレイダの目には涙が溜まっていたが、ブレイダはそれを拭いさり、輝くような笑顔を見せた。

 

「そうそう、その顔だ。やっぱ柊には笑顔が似合ってる」

 

そう言って如月も笑い返した。

 

「どうだ、上手くやれそうか?」

 

「はい!とにかくやってみます!」

 

「そっか!分かった!結果を楽しみにしてるぜ!」

 

「はい!先生、ありがとうございました!」

 

「おう!頼ってくれてありがとな!またいつでも聞くぜ!」

 

「はい!」

 

そう言って五人は椅子から立ち上がり、相談室を出た。

 

「よし、じゃあ教室に戻るか。教室にいる先生も授業を始めてるかもしれないしな」

 

「大丈夫だよ、次は自習だし、やることもないし」

 

「?」

 

「今日終わらせるべき課題をもう終わらせてしまって、おまけに今日来るはずの先生が熱を出して来れなくなってしまったそうです」

 

「そういう事だったか。まあ、それならそれで俺が自習教室の監督をやるよ。ある程度の事なら答えてやれるしな」

 

「ありがとう、如月先生」

 

「気にするな。じゃあ、行くとするか」

 

そう言って五人は教室へと向かった。

 

 

 

 

その夜、ブレイダは百合と零に話を始めた。

 

零と百合は正座をしてまっすぐとブレイダの方を見ていた。

 

「…零さんにも、百合さんにもお父さんとお母さんを助けて欲しかった。例え死んでいたとしても、取り戻して欲しかった」

 

「…」

 

「ブレイダ、あのね…」

 

百合がなにか言おうとするのを零は手で制し、百合もそれを見て察した様に口を閉じた。

 

「…もちろん、仕方ないのは知ってる。零さんと百合さんが頑張って皆を、わたしを助けてくれたのも分かってる。だけど、だけど…本当はわたしだけじゃなくて、わたしの家族も助けて欲しかった」

 

俯いているブレイダの目は見えなかったが、ブレイダの目元からは涙が流れていた。

 

「そんなことしてる場合じゃなかった事も知ってる。もちろん、わたしだけじゃなくて他にも身近な存在がいなくなった人がたくさんいるのも知ってる…けど、それでもわたしは家族を助けて欲しかった!神様なんでしょ、ならわたしの家族も助けてって!今だったら言っている…。なにも出来ないわたしの代わりにわたしの家族を助けてって!叫んでる。…でも、分かってたんだ!そんなのは無理なんだって!ヤミマジュウには誰も勝てないんだって!助けられない命もあるんだって!」

 

声を荒らげながら、ブレイダは心に閉じ込めていた思いを叫んだ。

 

「ブレイダ…」

 

「こんなのわたしのわがままだから…これを言ったら百合さん達を困らせちゃうって思ってずっと言えなかった…ううん、言わなかったんだ…言っても出来やしないって分かってたから…」

 

「…」

 

「だけど…だからこそ、わたしは零さんと百合さんを、お父さんとお母さんと呼びたい!これからもずっと一緒にいたい!わたしが結婚してもずっと皆と一緒にいたいの!!離れ離れなんていや!戦いが終わったら、皆で海に行って海水浴したり、プールで遊んだり、山を登ったり…これからやりたい事が沢山あるの!それをやれずに別れるなんて絶対いやだ!!わたしはずっと零さんと百合さんの…お父さんとお母さんの子供でいたいの!!」

 

そう叫んでブレイダは大声で泣き出し、零と百合は立ち上がってブレイダを二人で抱きしめた。

 

「ごめん…ごめんねブレイダ。ずっとあなたの気持ちに気付けなかった。こんな情けない母親でごめんね…」

 

「俺もごめん…一番辛いのはブレイダだったのにな…ブレイダに寄り添えなくてごめん…」

 

ブレイダは二人の服の裾を掴み、嗚咽を漏らしながら大粒の涙を流していた。

 

「戦いが終わっても、皆で一緒にいようね」

 

「戦いが終わったら、色んなところに旅行に行こうぜ。地球で行ってない場所なんてないって言うほどな」

 

「…うん」

 

ブレイダは泣き顔のまま頷いた。

 

「そんなに泣いてちゃ可愛いのが台無しだぜ。俺達の娘には、笑顔が一番だ」

 

そう言う零も、笑いながらも涙を流していた。

 

「お父さんのカッコイイ顔も泣いてちゃ台無しだよ」

 

そう言うブレイダの顔には、いつも通り明るい笑顔が戻っていた。

 

「これでこそ、私達ね」

 

そう言って百合は静かに笑った。

 




今回はここまでです。

作る日がバラバラなのでちゃんと話になってるかどうか分かんねぇ
あと今回変身してねぇ

そしてコミケで「ブレイダちゃん読んどるで!」って言ってくれた人がいたのはめちゃくちゃ嬉しかった。

また感想、評価よろしくお願いします!


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Don't lose your fate

はーじまーるよー!!


「あら、零じゃない。どうしたの?」

 

  夜遅くに仕事を終え、帰ろうとしている百合は廊下の途中で零に出会った。

 

  声をかけられ、考え込んでいた零は我に返って百合の方を向いた。

 

  「ん、ああ、百合か。お疲れ」 

 「お疲れ様。一体どうしたの?」

 

 「今後の事に考えててな」

 

 「もう終わった後の事を考えてるの?」

 

 半ば呆れながら笑って百合は言った。

 

 「違うよ。ガディサイトをどうやって誰一人犠牲を出さず倒せるか…ずっと考えてた」

 

 「え…」

 

 その言葉を聞いた百合から笑顔が消えた。

 

 「奴は俺や百合、さらには玲司の力も持っている…恐らくだが、ブレイダやサリエールでも勝てる相手ではない…」

 

 「じゃ、じゃあ私達が合体して戦えば…」

 

 「あの時は完全に力を取り戻した状態で、敵も同じ位の力量だったから勝てたんだ…だけど、今回はそういう訳じゃない。強さも、その次元も何もかもが違うんだ…」

 

 「そんな…それじゃつまり…」

 

 「ああ。どう考えても戦えるメンバーの誰か一人は必ず死ぬか、あるいは消えるかだ。最悪…ブレイダもサリエールも、そして俺達も…」

 

 「…何か、アイデアは無いの?」

 

 「…あると言えばあるが…正直言ってこいつは賭けだ」

 

 「賭け?」

 

 「上手くいけばガディサイトを圧倒できる。だが…失敗すれば命の保証はない…」 

 

 「ちょ、ちょっと待ってよ。それはいったい誰にやらせる気なの?」

 

 「それは…」

 

 すると、外で地響きが鳴り、零と百合は窓から外を見た。

 

 「ヤミマジュウ…!」

 

 「しかも二体!?」

 

 二体の巨大な人型のヤミマジュウは悲鳴のような鳴き声を発しながら街に迫っていた。

 

 「急いで司令室に行くぞ!」

 

 「ええ!」

 

 二人は廊下を駆け出して司令室へと向かった。

 

 まだ玲司と神凪は来ていないらしく、零は急いでインカムを取ってブレイダとサリエールに連絡を取り、百合はモニタリングを開始した。

 

 「ブレイダ!サリエール!聞こえるか!二体のヤミマジュウが現れた!至急現場に向かってくれ!」

 

 『もう向かってます!』

 

 『こんな時間に来るとは思いませんでしたけどね』

 

 画面を切り替えると、ブレイダはブライトサークルに乗り、サリエールと並んで飛行している様子が見えた。

 

 「オオオオオオ…」

 

 「アアアアア…」

 

 二体のヤミマジュウは男のような声と女のような声を発しながらまっすぐブレイダ達のマンションに向かっていた。

 

 「街を壊さないで向かっている…?」

 

 「どういう事…?」

 

 ブレイダとサリエールは顔を見合わせて首を傾げ、ヤミマジュウの元へ近寄った。

 

 ヤミマジュウは二人に気付いていないのか、目もくれずマンションの方に一目散に向かっていた。

 

 「と、とにかく呼びかけてみよう」

 

 「ええ」

 

 二人はヤミマジュウ二体の顔の前に向かい、ヤミマジュウの前で停止してヤミマジュウ二体の動きをとめた。

 

 「さあ、ここまでよ。一体何のつもりか知らないけど、ここらで止まりなさぶっ!」

 

 サリエールの言葉を聞かず、一体のヤミマジュウはサリエールを腕で叩き落とした。

 

 「サリエールちゃん!っ!」

 

 サリエールの心配をする間もなく、ヤミマジュウはブレイダの眼前に迫り、二体とも両腕を広げていた。

 

 「!!」

 

 ブレイダは両腕で顔を覆い、目を瞑った。

 

 「オ…オオオオ…」

 

 「アアアア…アアア…」

 

 「へ?」

 

 ヤミマジュウ二体は両腕でブレイダを抱きしめていた。

 

 「ど…どういうこと…!?」

 

 サリエールは呆然としながら瓦礫の欠片を落としながら立ち上がってブレイダの方を見て言った。

 

 「ちょ、ちょっと!離して!」

 

 ブレイダは力一杯ヤミマジュウの腕を引き剥がし、ブライトサークルを素早く足元に出現させ、手を伸ばした二体のヤミマジュウから離れ、浮かんできたサリエールと合流した。

 

 「近くに寄るのは危険ね…」

 

 「どうしようか…」

 

 すると、ヤミマジュウ二体はブレイダの方に向かって走り出した。

 

 「オオオオー!オオオオー!」

 

 「アアアアアアアー!」

 

 「敵はブレイダ狙い…ブレイダ!貴方は囮になって誰もいない所へ誘導して!私は街の人達の避難をさせるから!」

 

 「分かった!」

 

 ブレイダとサリエールは二手に分かれ、サリエールは地上近くへ降下して近隣住民の避難の呼びかけを始めた。

 

 「こちらです!急いで!」

 

 人々はサリエールの言葉に従い、ヤミマジュウがいる逆方向へと向かっていった。

 

 「オオオオー!」

 

 「アアアアー!」

 

 二体のヤミマジュウはサリエールの読み通りブレイダの方に向かって走り出した。

 

 「おーにさーんこーちらー!手ーの鳴ーるほーうへー!」

 

 「オオー!」

 

 「アアアアアー!」

 

 ブレイダはヤミマジュウが追ってきているのを確認し、前傾姿勢になりながらブライトサークルに乗ってなるべく人がいない所へ誘導を始めた。

 

 「オオオオー!」

 

 「アーアアーアアー!」

 

 「それにしても…あの鳴き方、他のヤミマジュウとは違う様な…」

 

 ブレイダは耳元のイヤホンに手を添えながら言った。

 

 『こちらでも音声や音波の解析をしているが…法則性が全く読めねぇ。一体何が元となってこのヤミマジュウは生まれたんだ…?』

 

 『ヤミマジュウと同じ体構造や特徴を持ってるから、ヤミマジュウと見て良いんだろうけど…オレンジ色や白に反応するような動物なんているかしら…?』

 

 『何にせよ、ヤミノチカラを叩き出せば分かる事だ。さっさと倒してしまうんだ』

 

 「はい!」

 

 

 零達との通信を切り、街の外れにある広野にヤミマジュウを誘導した。

 

 「よし!ここなら人も動物もいないはず!」

 

 そう言ってブレイダは一つの岩山の上に移動してブライトサークルを消し、岩山の上に立った。

 

 「オオオオ…」

 

 「アアアア…」

 

 ヤミマジュウ二体はブレイダの方に走り出し、両腕でまたブレイダを捕まえようとした。

 

 「もう捕まらないよ!とうっ!」

 

 ブレイダは岩山を蹴って強く飛び上がり、ヤミマジュウ達の後ろの岩山に乗り移った。

 

 「オオオ!オオオ!」

 

 「アアアアアアアー!」

 

 「本当に何言ってるか分かんないや…」

 

 そして、ブレイダの横にサリエールが避難指示から戻り、ブレイダの横に立った。

 

 「さてと…サリエールちゃんも戻ってきたし、終わりにするよ!」

 

 「一気に決める!」

 

 二人は武器を握りしめ、オレンジと青のオーラを放ち始めた。

 

 「「フルパワー解放!!!」」

 

 二人の武器はエネルギー充填を開始し、二体のヤミマジュウの周りに無数のブライトサークルが出現した。

 

 だが、ヤミマジュウはお構い無しにブレイダに迫った。

 

 「え!?」

 

 「何っ!?」

 

 突然のことに呆気に取られた二人はエネルギー充填を止め、ブレイダはブライトサークルを消そうとした時だった。

 

 「オオオオー!」

 

 「アアアアー!」

 

 ヤミマジュウはブレイダを握り潰すかの様に両手で強く掴んだ。

 

 「が…っ!」

 

 「ブレイダ!」

 

 「オオオオオー!」

 

 ヤミマジュウはブレイダをそのまま体内に取り込み、二体のヤミマジュウは両手を繋いで一体のヤミマジュウに合体した。

 

 「オアアアアー!!!」

 

 男の声と女の声が混ざったような鳴き声が辺りに響いた。

 

 「そんな…」

 

 「…いいことを教えてやろう、サリエール」

 

 「!!」

 

 声が聞こえ、後ろを振り向くとガディサイトが立っていた。

 

 「ガディサイト!貴方一体何を!」

 

 そう言ってサリエールはガディサイトに武器を向けた。

 

 「ヤミノチカラとヒカリノチカラは相対するもの…お互いに打ち消し合う性質がある。ブレイダとか言うガキはヒカリノチカラで、ヤミマジュウはヤミノチカラで…ここから先は言わなくても分かるよな?」

 

 「…!!」

 

 全てを察したサリエールは目を見開いた。

 

 「さっさと助け出してやらないと、まずいかもな」

 

 そう言ってガディサイトは高笑いしながら夜空に消えていった。

 

 「ブレイダ…!待ってて!すぐ助けるから!」

 

 そう言ってサリエールはヤミマジュウに向かって飛んでいった。

 

 

 「本当に良いのかなぁ…せっかく親子が十数年ぶりに出逢えたと言うのに…」

 

 ガディサイトは遥か上空からヤミマジュウを見下ろし、ニヤリと笑いながら言った。

 

 

 「オアアアア!!!」

 

 サリエールは空を駆ける矢の様にヤミマジュウに向かって高速で飛行していた。

 

 「ブレイダ!!返事をして!」

 

 ヤミマジュウの中にいるブレイダは気絶しているのか、目を閉じて力なく身体の中で浮いていた。

 

 「ブレイダ…」

 

 

 「…」

 

 ブレイダはゆっくりと目を開き、周りを見渡した。

 

 「ここ…は?」

 

 辺りを見渡すと、周りは焼け野原になり、人々は悲鳴をあげながらヤミマジュウから逃げ回っていた。

 

 「ヤミマジュウ…!」

 

 ブレイダはポケットに手を入れ、デバイスを取り出そうとした。

 

 「…!デバイスがない…!?」

 

 よく見ると、自分の身体も縮んでおり、あの時に戻っているようだった。

 

 「ダーク・デイ…!」

 

 「ブレイダー!ブレイダー!!」

 

 「ブレイダー!」

 

 すると、自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、ブレイダは声が聞こえる方を向いた。

 

 「ブレイダ!良かった!無事だったのね!」

 

 「さあ、逃げよう!」

 

 ブレイダの前には優しそうな青年と金髪の女性が立ってブレイダに微笑みかけていた。

 

 「…お父さん!お母さん!」

 

 ブレイダは涙を流しながら二人に抱きついた。

 

 「怖かったよね…寂しかったよね…」

 

 「父さんと母さんが来たからもう大丈夫だ。さあ、逃げよう」

 

 「あ…」

 

 言葉を返す暇もなく、ブレイダは母に抱きかかえられ、ブレイダの両親は走り出した。

 

 その直後に、自分が今さっきまでいた場所にヤミマジュウが放った火炎弾が落ちるのが見えたを。二人が来るのがもう少し遅ければきっと火だるまになっていたのだろう。

 

 「遅くなって本当にごめんね。今まで本当に怖かったでしょう」

 

 ポケットに手を伸ばしかけていたブレイダは慌てて手をひっこめた。

 

 「う、ううん。ちゃんとお父さんとお母さんが来てくれたから、もう大丈夫」

 

 「良かった。さあ、このまま一緒に行こう」

 

 「うん!」

 

 ブレイダは行く先を見ないまま、母に抱きかかえられてどこかに向かった。

 

 

 「ブレイダー…!」

 

 突然、ブレイダの身体に異変が起きた。ブレイダの身体が脚から徐々に紫に染まり始め、ヤミマジュウと同化を始めている。

 

 『闇の世界に引き込まれ始めている!早くしないと手遅れになるぞ!』

 

 「はい!」

 

 しかし、ヤミマジュウはサリエールを近づけまいと四本の腕で暴れており、依然として近付く事も叶わなかった。

 

 『…仕方ない!サリエール、ヤミマジュウの腕を切り落としなさい!それしかないわ!』

 

 「分かりました!」

 

 サリエールはヤミマジュウの真上に移動し、鎌を頭の上で振り回しながら強く握って構えた。

 

 「フルパワー解放!」

 

 サリエールは青色のオーラを放ち、鎌に素早くエネルギーを充填しながらヤミマジュウに近付いた。

 

 そして、ヤミマジュウが攻撃しようとするのを見切り、カウンターで切り伏せ、左の上の腕を切断した。

 

 「オアアアアァァァァァ!!!」

 

 ヤミマジュウの悲鳴が響き渡り、サリエールは素早く後退して間合いを取った。

 

 

 

 「うわあああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ヤミマジュウの攻撃が父の左肩に当たり、父の左腕が跡形もなく消し飛んだ。

 

 「お父さん!」

 

 「ぼ、僕は大丈夫だ…。は、早く逃げよう」

 

 父は笑顔を崩すことなく、先に進み始めた。

 

 「ええ!急ぎましょう!」

 

 「…ヤミマジュウ…絶対許せない…!」

 

 

 すると、ブレイダの身体の同化のスピードが少し早くなっており、既に足首から下が見えなくなりかけていた。

 

 「そんな…!」

 

 『くっ…!』

 

 『…こうなったら完全にブレイダが同化する前に腕を全部切り落として助け出すしかない!今はそれが最善策だ!』

 

 「でも私のスピードじゃ…」

 

 『まだこいつは試作段階でぶっつけ本番だが…やるしかない!サリエール!今からそちらにアップデートプログラムを送る!アクセスコードは RIZING AXCELだ!』

 

 「分かりました!」

 

 サリエールは素早くコアクリスタルを外し、デバイスを操作してアクセスコードを打ち込み、胸に再度装着した。

 

 すると、サリエールの衣装が変化し、腰に着いたマントはサリエールの足に巻き付き、腰と腕に着いた青い装置は薄く伸ばされ脇から横腹まで装着され、腕に着いたマントは首から胸までの部分を覆い、流線型の様に靱やかで人魚を思わせる様な姿へと僅か0.00001秒で変化を終わらせた。

 

 「これは…」

 

 『名付けてライジングアクセルフォーム。ブレイダのオーバーブーストとは対照的にパワーではなくスピード特化だ。装着者の技量や身体の負荷がどこまで掛けられるかにもよるが、今のサリエールなら通常の最大五千倍の速さまで出しても耐えられるだろう』

 

 「五千倍!?」

 

 『いつもはマッハ1行くか行かないかくらいだ。それに最大だから、無理にそこまで出さなくても戦える相手なら大丈夫だろう』

 

 「分かりました!」

 

 そう言ってサリエールは岩山を蹴って飛び出し、ヤミマジュウへと向かっていった。

 

 『AXCEL START!』

 

 「一気に行くよ!サウザンド!」

 

 『Thousand AXCEL!』

 

 すると、サリエールの頭のアクセサリが全身にバリアを張り、空気抵抗を受けないようにした後、千倍の速度でヤミマジュウに向かって行き、武器を構えてエネルギーを貯めた。

 

 「刈る!」

 

 サリエールはヤミマジュウの攻撃を見切り、残りの腕を全部切り落とすと共にヤミマジュウの身体に九百九十七回もの斬撃を浴びせた。

 

 「オアアアア!!!」

 

 『AXCEL OUT』

 

 サリエールの体からバリアが解除され、サリエールは岩山に降り立った。

 

 「はぁ…はぁ…これが千倍…!」

 

 サリエールは息を整えながらヤミマジュウの方へと向いた。

 

 「後はブレイダだけ…!」

 

 そう言ってサリエールはライジングアクセルを解除し、ブレイダの元へと向かい、ヤミマジュウの中へと入った。

 

 

 「うわあああ!!!」

 

 「きゃあああ!!!」

 

 父の右腕と母の両腕がヤミマジュウの攻撃によって切り落とされ、二人の身体はヤミマジュウの攻撃でズタボロにされ、その場で倒れてしまった。

 

 「お、お父さん!お母さん!しっかりして!」

 

 ブレイダは二人の元へと駆け寄った。

 

 「ブレイダ…ごめんね…やっぱり私達は…あなたを助けられないみたい…」

 

 「早くブレイダだけでも向こうへ走るんだ…!」

 

 「で、でも…!」

 

 「大丈夫。私達は必ず追いつくから…」

 

 「僕達の事は良いから早く!」

 

 「…!」

 

 泣き出しそうなのをぐっと堪え、ブレイダは走り出した。

 

 

 「…!ここは…!」

 

 気付けば、周りは火の海になっており、ヤミマジュウがそこかしこで暴れ回っている場所に来ていた。

 

 「ヤミマジュウがこんなに…!今は分からないけど倒すしかない!」

 

 『RIZING AXCEL』

 

 「フォーサウザンド!」

 

 サリエールは素早くライジングアクセルフォームに変わり、四千倍の速さで周りにいるヤミマジュウを全て切り伏せ、ヤミマジュウを倒してライジングアクセルフォームを解除した。

 

 「ブレイダはどこに…あっ!」

 

 サリエールは小さなブレイダが闇の中へ入ろうとしているのを見つけ、走り出そうとしたブレイダの腕を掴んで走り出そうとしたのを止めた。

 

 「離して!わたしは逃げるの!」

 

 逃げようとする小さなブレイダをサリエールは両手で捕まえ、強く抱き締めた。

 

 「大丈夫…もう大丈夫だよ…」

 

 「でもお父さんとお母さんが…!」

 

 「…!そうね…貴方にとってはこっちの世界の方が良いのかもしれない…だけど…これはきっとブレイダが思い描いていた夢…あなたのお父さんもお母さんも必死にあなたを守ろうとしてた…本当なら二人もいる方が良かった…だけど!今貴方がここを受け入れてしまったら皆に合わす顔がないのよ!まだまだあなたには辛いことが待ってるかもしれないけど…あなたは決して一人なんかじゃない。私がいる!」

 

 すると、小さなブレイダは暴れるのを止め、ブレイダは元の姿へと戻った。

 

 「…サリエールちゃん…ごめんね…ごめんね…!」

 

 そう言ってブレイダは大粒の涙を流した。

 

 「良いんだよ。だって、親友じゃない」

 

 「…うん!」

 

 そう言って、サリエールはブレイダを連れて闇から引き離し、上空に斬撃を放って世界にヒビを入れ、元の世界への出口を作った。

 

 「さ、行こう」

 

 「うん!」

 

 ブレイダは差し出された手を掴み、サリエールはしっかりとその手を掴んで出口へと向かって飛び出した。

 

 「…」

 

 ブレイダは父と母の姿を上空から交互に見下ろした。

 

 

 サリエールとブレイダはヤミマジュウの体内から脱出し、近くの岩山へと降り立った。

 

 『…ブレイダ!大丈夫か!?』

 

 「…はい。もう大丈夫です!」

 

 『よし!では終わらせるんだ!』

 

 「「はい!フルパワー解放!!」」

 

 再び二人は武器にエネルギーを充填し、ヤミマジュウの周りには無数のブライトサークルが出現した。

 

 『BANNICING SMASH!』

 

 『FATAL END!』

 

 「「だぁぁぁー!!」」

 

 二人は同時に飛び出し、ブライトサークルの間を反射しながら最高速度まで速度を上げ、強烈な一撃をヤミマジュウへと叩き込んだ。

 

 「オオオオ…アアアア…アオアアア…」

 

 男のような声が聞こえ、そして女のような声が聞こえ、そして最後に二つが混ざったような声が聞こえ、ヤミマジュウから二つのヤミノチカラの水晶が飛び出すと共にヤミマジュウの元となった生物が、いや、生物だったものが落下した。

 

 「…!あれは…!」

 

 「そんな…嘘だよ…嘘だって言ってよ…」

 

 ブレイダとサリエールは一目散にヤミマジュウの元となっていた生物だったものへと向かい、抱き上げた。

 

 「…どうして…お父さん…お母さん…」

 

 両腕の代わりに無数の切り傷が身体にあるその遺体は間違いなくブレイダの両親のものだった。

 

 「まさか…最初からずっと…」

 

 己の愚かさにようやく気がついた。

 

 この二人はわたしをずっと求めていたのだと。愛しい子供を親が抱きしめるように、この二人もずっとそうしたかったのだと。だけど、それに気付くのが遅すぎた。

 

 「…私のせいだ…私が…両腕を切り落としたばっかりに…」

 

 「…サリエールちゃんは何も悪くない…何も悪くないよ…わたしが…わたしさえちゃんと気付いてあげていれば…」

 

 二人の間を冷たい夜風が通り過ぎた。

 

 「…まさか、戦ってる相手がお父さんとお母さんだなんて思わないよ…」

 

 「ブレイダ…」

 

 「…ごめん、サリエールちゃん。今は…一人にさせて…」

 

 「…」

 

 そう言ってブレイダはサリエールに背を向け、母の遺体と父の遺体をブライトサークルに載せ、自分もブライトサークルに乗って基地へと向かった。

 

 サリエールのコアクリスタルの点滅音が辺りに虚しく響き渡っていた。




今回はここまでです。
人の心がないのかって言われたら否定できねぇ

感想、評価よろしくお願いします!


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Dear my friend

友達っていいよね。


「ブレイダ…」

 

 「…」

 

 両親の遺体をブライトサークルに乗せ、先程まで自分を抱きしめていた四本の腕を抱きかかえてブレイダはブライトサークルに乗り、基地に向かっていた。

 

 「あっ…」

 

 サリエールもブレイダを追って基地に向かった。

 

 

 

 「…」

 

 基地にいた零達も口を開くことはなかった。

 

 百合と神凪は二人に声をかけようとしたが、零と玲司はそれを制し、何も言わずに首を振った。

 

 「…ごめん…一人にさせて」

 

 そう言ってブレイダはコアクリスタルを机に置いて帰路に着いた。

 

 「ブレイダ…ごめん…。すみません、私も…一人にさせてください…」

 

 サリエールもコアクリスタルを机に置き、基地の休憩室に行った。

 

 「…」

 

 「…誰が悪いかとか、そんなのは今はよそう。俺達までバラバラになれば本当にお終いだ」

 

 玲司が口を開き、その言葉に一同は頷いた。

 

 「…今日は帰ろうか…」

 

 「…ええ」

 

 「はい…」

 

 零達もそれぞれの帰路についた。

 

 

 次の日、ブレイダとサリエールはベッドから出ようとしなかった。

 

 「…ブレイダ…」

 

 百合から顔を背けたまま、ブレイダは部屋の中で布団を被っていた。

 

 「…朝ごはん、置いておくから…好きな時に食べてね」

 

 そう言って百合は扉を閉めた。

 

 その後に、玄関の扉を開ける音が聞こえ、足音が遠ざかっていくと共に扉が閉まる音が聞こえ、辺りには暗闇が訪れた。

 

 「…ごめん。百合さん…わたし、今どうしていいか分からないの…」

 

 

 「二人はどうした?」

 

 「さあ?二人仲良く風邪でもひいたんじゃない?」

 

 通学路を歩きながら橘と相川はいつもの調子で話していた。

 

 「重い病気じゃないと良いが…」

 

 「まあまあ、帰りにお見舞いに行こうよ。プリンか何か買ってさ」

 

 「そうだな。早く元気になって欲しいしな」

 

 そう言って二人は学校の教室の中へと入っていった。

 

 「おはようございます、如月先生」

 

 「おっはー!」

 

 「おう、おはよう、二人とも。そうだ、柊と二階堂について何か知らないか?」

 

 「ブレっちとサリっちの事?」

 

 「いえ…私達も特には…」

 

 「そうか…ならいいんだ。悪いな、呼び止めて」

 

 「いえ…何かあったんですか?」

 

 「それが、二人の親御さんからしばらくの間休むって連絡が来たんだ。理由も言ってくれないから、心配になってな」

 

 「そういう事でしたか…分かりました。今日お見舞いに行くんで、休む理由も聞いてきます」

 

 「おう。二人によろしく言っといてくれ。何か力になれるなら俺も出来ることはするからよ」

 

 「ありがとう如月せんせー!」

 

 「おう!何か力になれることがあれば言ってくれ!」

 

 そう言って如月は笑顔で職員室へと向かっていった。

 

 「私らも私らでやれることやんないとね。二人もきっと頑張ってるしさ」

 

 「そうだな。今やれることをやらないと」

 

 そう言って二人は教室に入り、それぞれの机に鞄を置いて席に着いた。

 

 

 

 そして、学校が終わり、二人はコンビニに寄ってデザートコーナーを物色していた。

 

 「どれがいいかな~」

 

 「ふむ…これなんかどうだ?」

 

 そう言って橘は一つのプリンを手に取った。

 

 「じゃ、私もそれを持ってきますかね」

 

 相川も同じプリンを取ってレジに持って行った。

 

 

 

 「ブレっち~?」

 

 相川はブレイダの元へ、橘は相川の元へと向かい、それぞれの部屋へと入った。

 

 「あれ、鍵が空いてる…」

 

 相川はドアノブを回し、部屋の中へと入った。

 

 テーブルの上には手付かずの朝食がおかれ、どの部屋にも電気が灯っていなかった。

 

 「ブレっち~、出ておいで~」

 

 相川はブレイダがいる部屋の扉を開け、暗闇の中に一筋の光を差し込ませた。

 

 「…ああ、翔子ちゃん…ごめん、今だけは一人にさせて」

 

 「おや、珍しい事もあるんだね。でもさせない」

 

 そう言って橘は暗い部屋の中に進み、ブレイダがいるベッドに腰掛けた。

 

 「…なんで…」

 

 「なんでってそりゃあわけもなく休んだら心配になるでしょうよ。それで?今度は一体何をやった訳?」

 

 「…言いたくない…」

 

 「あっそう。じゃあ言ってくれるまで帰らないわ」

 

 「…」

 

 相川はビニール袋からプリンとスプーンを取り出し、蓋を開けてビニール袋の中に放り込んだ。

 

 「ブレっち、ちょっと顔出しな」

 

 そう言って相川はブレイダの方に呼びかけた。

 

 「…?」

 

 ブレイダはおそるおそる布団から顔を出し、相川の方を向いた。

 

 それと同時に相川はプリンが乗ったスプーンをブレイダの口の中に入れた。

 

 「…プリン…?凄く美味しい…」

 

 「そ。多分あんたの事だから何も食べてないんでしょ?それに、最近甘いものも食べてなかったからさ、買ってきたんだ」

 

 ブレイダの目の前には、笑顔でプリンをすくう制服の相川がいた。

 

 「…正直、ブレっちやサリっちが何をして、どんな悲しいことや苦しい事があったかなんて私達には分かんない」

 

 「翔子ちゃん…」

 

 「でも…全部は分かってあげられなくても、支えてあげることは私達にしか出来ないと思うんだ。伊達に二年付き合ってないしね」

 

 「…ありがとう…」

 

 少しだけブレイダに笑顔が戻った。

 

 「礼なんて良いよ。力になりたいから来たってだけの、私らのわがままだから」

 

 「…」

 

 「サリっちみたいに、一緒にヤミマジュウと戦うことも出来ないし、零さんや百合さん達みたいに後ろからバックアップする事も出来ないけどさ。ブレっちが辛い時や苦しい時、悲しい時は呼んでくれればいつだって寄り添うよ。愚痴だって、ブレっちが嫌という程聞く。私はいつだってブレっちの味方だよ、もちろん咲も。何もない時だって遊びに行くし、一緒に遊びたいんだ」

 

 「どうして…」

 

 「ん?」

 

 「どうしてそこまでしてくれるの?」

 

 「そんなの言うまでもないじゃん。私達、友達でしょ?」

 

 その言葉を聞いて、ブレイダははっとすると同時に涙が溢れ出した。

 

 「翔子ちゃぁぁん…」

 

 泣きながらブレイダは相川に抱きついた。

 

 「よしよし。いっぱい泣きな」

 

 そう言って相川はブレイダを抱きしめ、頭を撫でた。

 

 「プリン食べる?」

 

 「…うん。ありがとう」

 

 そう言ってブレイダは相川からプリンを受け取った。

 

 「…いつもありがとうね、翔子ちゃん」

 

 「ん?どしたの急に」

 

 「思えばさ、私が高校に入って初めて声をかけてくれたのは翔子ちゃんだったよね」

 

 「そうだったね。まあ、あの時は私も一人も友達がいなくってさ。友達を作ろうと必死だったんだ」

 

 「そうだったんだね」

 

 「うん。中学校の時の友達は、こんな危ないとこいられない!って言って皆離れちゃったからさ…凄く寂しかったんだ」

 

 「翔子ちゃん…」

 

 「それで、高校入ったら絶対友達作る!って決めたんだ。んで、入ってみたらブレっちがいた。綺麗な髪色をしてて話しかけたら…」

 

 「咲ちゃんも一緒に話しかけて来たんだっけ。あの時は笑っちゃったな」

 

 「そうそう!あん時三人でめっちゃ笑ったんだよね!」

 

 「ふふふ。翔子ちゃんも咲ちゃんもぎこちなくってさ。皆どう話していいかもわかんなくて…全員一斉に黙っちゃったもんね」

 

 「あったあった!それで全員吹き出してさ~!本当に笑ったなぁ」

 

 「それがあの時無かったら、こんな風に関わり合う事もなかったんだね」

 

 「だね~。いやぁ…こっちこそ、ありがとうブレっち。いつも守ってくれて」

 

 そう言って相川はニッと笑った。

 

 「翔子ちゃん…」

 

 それに釣られてブレイダも少しだけ笑った。

 

 「さてと、白雪姫の目も覚まさせたところだし、私は行きますかね」

 

 相川はそう言いながら立ち上がって伸びをした。

 

 「あ、そうだ。ブレっち」

 

 「?」

 

 「ゆっくり落ち着いてからでいいから、学校一緒に行こうね。もうすぐテストもあるし、サリっちとも一緒に勉強会しようよ」

 

 「…うん!」

 

 ブレイダにはまたいつもの明るい笑顔が戻った。

 

 「お父さんもお母さんも本当にいなくなっちゃったけど…翔子ちゃんも、咲ちゃんも、サリエールちゃんも…皆がいるから大丈夫。明日からは学校行くよ」

 

 「…そっかそっか!よかった!じゃあ、また明日!」

 

 「うん!また明日!」

 

 そう言ってブレイダは玄関から相川を見送り、相川もブレイダに手を振りながらマンションから出た。

 

 

 「もしもし?そっちはどう?」

 

 『ああ、こちらも何とか元気を取り戻してくれた』

 

 「よかったよかった。それじゃ、また明日ね~」

 

 『ああ。また明日』

 

 そう言って相川は電話を切り、鞄の中にスマホをしまって帰路についた。

 

 「また明日…ね」

 

 相川は落ちて行く夕陽を眺めながら呟いた。

 

 「お母さん、明日に会おうね。それまで泣かないから」

 

 相川はそう呟いて家に向かって走り出した。




という訳で今回はここまでです。

思えば、僕も友達や仲間がいるから今こうやって生きているんですねぇ。

いつもありがとな!…なんて、こんな所でお礼を言ってみたり。

ではまた次回でお会いしましょう!


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最終章第一章ー恐怖の融合ー

最終章突入!
残すところこれ含めて二回!


ブレイダの両親が死亡し、お通夜、葬式も終えて一週間も経った頃、ブレイダは学校に顔を出した。

 

 「もう平気なの?ブレっち」

 

 「うん。いつまでも落ち込んでいられないから」

 

 「…あんまり、無理しないでね、ブレイダ」

 

 サリエールはブレイダの顔を見て心配そうに言った。

 

 「わたしはもう大丈夫。それに、無理しないのはサリエールちゃんもでしょ?」

 

 「ええ…それはそうだけど…」

 

 「じゃあ、それでいいんじゃない?」

 

 「え?」

 

 「今度はわたしがサリエールちゃんが無理しないように支えるから、ね?」

 

 そう言ってブレイダはいつもと変わらない明るい笑顔をサリエールに見せた。

 

 それを見て、サリエールも安心したように微笑んで見せた。

 

 「それに、サリエールちゃんに辛い思いをさせてたのはわたしも同じだからさ。ごめんね、わたしのせいで」

 

 「ううん。ブレイダが元気ならそれで良いよ」

 

 授業開始時間が近くなり、ブレイダ達が席に着こうとした時だった。

 

 突如、辺りの空が鉛色に染まり、大きな地響きと地震が起きた。

 

 「な、何!?」

 

 「とにかく机の下に!」

 

 「早く!」

 

 生徒達がパニックになりながらもブレイダとサリエールは焦ること無く周りの皆に指示を出し、生徒達は指示に従って机の下に潜り込んだ。

 

 その直後に着いていた蛍光灯が落下して机の上で粉々に割れ、それに驚いた生徒達が悲鳴をあげた。

 

 「一体何が起こってると言うの…?」

 

 程なくして地震は収まり、駆けつけてきた如月先生の指示でブレイダ達は校庭に避難した。

 

 『C区でヤミマジュウが出現しています。C区にお住まいの方は至急避難してください。繰り返します、C区でヤミマジュウが出現しています。C区にお住まいの方は…』

 

 「サリエールちゃん、今の聞いた?」

 

 「ええ。急ぎましょう!」

 

 ブレイダとサリエールはデバイスを取り出し、人気のない場所で二体のバジンを呼び出した。すると、待ってましたと言わんばかりに二人の前に二体のバジンが凄まじい速度で降り立ち、その直後にバイクへと変形した。

 

 二人はバイクにまたがり、ヤミマジュウの元へと急いだ。

 

 

 

 「「トランス・オン!」」

 

 二人はバイクに乗りながらデバイスを胸に装着し、身体が一瞬銀色に染まったかと思うと、体表にヒビが入り、ガラスが割れるみたいに体表の銀色部分が粉々に砕け散り、変身を完了し、二人の手には武器が握られた。

 

 「百合さん達から連絡が来ないけど…今は急ごう!」

 

 「ええ!」

 

 二人はバイクの速度を高め、C区へと急いだ。

 

 (何か嫌な予感がする…早めに倒して百合さん達の元へ行かないと…!)

 

 

 

 C区へと辿り着いた二人はバイクから降り、四足歩行で暴れ回るヤミマジュウの前へと立ちはだかった。

 

 「シャァァァァァ!」

 

 ヤミマジュウは雄叫びをあげ、二人に前足を振り下ろして襲いかかった。

 

 「はっ!」

 

 「たっ!」

 

 二人は地面を蹴って大きく飛び上がり、ブレイダはブライトサークルに乗り、サリエールもそのまま飛行してヤミマジュウの横へと回り込んだ。

 

 「左右から叩こう!」

 

 「分かった!」

 

 二人はヤミマジュウの顔に一直線に突っ込んで強い一撃を与え、ブレイダは新しいブライトサークルを斜め後ろに作りながら今乗っているブライトサークルをヤミマジュウに向けて蹴り飛ばし、その反動を利用して別のブライトサークルへ乗り移った。

 

 ヤミマジュウは怯むことなく口から怪光線を放ち、サリエールはブレイダの前に割って入ってヤミマジュウの光線を斬撃で切り裂き、その後ろからブレイダは空中でムーンサルトをしてサリエールを飛び越え、ヤミマジュウの頭に一撃加え、その反動を利用して大きく飛び、飛んだ先とヤミマジュウの周りにブライトサークルを作って、再びヤミマジュウに飛んだ。

 

 『BANNICING SMASH!』

 

 「フルパワー解放!だあああああ!」

 

 ブレイダはヤミマジュウに攻撃しながらブライトサークルの間を何度も反射し、最高速度になったところでブレイブレードにもエネルギーを溜め終わり、ヤミマジュウに最大火力の一撃を叩き込んだ。

 

 ヤミマジュウはひとたまりもなく、口からヤミノチカラの水晶を吐き出すと共に小さな動物へと戻ってしまった。

 

 「はぁ…はぁ…」

 

 「ふぅ…」

 

 二人は息を切らしながらゆっくりと地面に降り、動物とヤミノチカラの水晶を手に取ったその時だった。

 

 ガードナーの基地から爆発音が聞こえ、二人はその方を向いた。

 

 「…まさか!」

 

 「急ぎましょう!」

 

 再びバイクにまたがり、ガードナーの基地へと急いだ。

 

 

 

 「あれ?柊と二階堂は?」

 

 「そういえばいないな…」

 

 「まだ学校の中に残ってるのかな…」

 

 橘と相川の周りの生徒達は二人が居ないことに気付き、騒ぎ出し始めた。

 

 「ねえ橘さん、二人を知らない?」

 

 一人の女子生徒が二人に聞いた。

 

 「え、えっと…」

 

 すると、学校の外からアクセルの音が聞こえ、三人はその方を向いた。

 

 そこには、バジンにまたがってガードナー基地へと向かうブレイダとサリエールの姿があった。

 

 「あれって…」

 

 「柊と…二階堂だよな…」

 

 「なんで二人が…?」

 

 「…それは…」

 

 「いや、きっと見間違いだよ。気が動転してそう見えてるだけだよ」

 

 相川が上手くフォローを入れ、橘を助けた。

 

 「…本当に…見間違いだったら良かったんだけどね…」

 

 そう言う相川の顔は戸惑いと哀愁が混ざったような顔だった。

 

 

 

 『OVER BOOST!』

 

 『RIZING AXCEL!』

 

 二人の身体は雷と共にオレンジの光と青黒い闇に包まれ、オーバーブーストフォームとライジングアクセルフォームへと変身した。

 

 「皆…!無事でいて…!」

 

 二人はバイクから飛び出し、バジン達もバトルモードへ変形して空から基地へ近付いた。

 

 「あれは…!」

 

 「ガディサイト!」

 

 基地に光弾で攻撃をしているガディサイトを見つけ、二人は武器を構えた。

 

 そしてガディサイトもこちらに気付き、二人の方を向いた。

 

 「ほう?あのヤミマジュウをもう倒して来たか…では、そのヤミノチカラをこちらに渡せ」

 

 「そんな事絶対しないよ!」

 

 「そうよ!もうあなたなんて怖くないわ!」

 

 「フン…愚か者め…貴様らはあの時の失態を忘れたとでも言うのか?」

 

 「何!?」

 

 そう言うと、ガディサイトは巨大な闇の球体を手のひらに乗せた。

 

 「あれは…!」

 

 「零さん!百合さん!」

 

 「玲司さん!神凪さん!貴様ぁ!」

 

 球体の中には零達が閉じ込められており、それを見たサリエールはガディサイトを睨んだ。

 

 「下手に抵抗すれば…分かるな?さあ、そいつを渡すんだ」

 

 「く…!」

 

 サリエールは仕方なくヤミノチカラの水晶を手渡した。

 

 「物分りが良くて助かるよ…さあ、次は他のヤミノチカラの水晶も渡してもらおうか」

 

 「そんな!約束が違うじゃない!」

 

 「別に良いんだぞ?こいつらを消すことなんざやろうと思えばいくらでも出来るんだ…」

 

 そう言うとガディサイトは球体を徐々に縮め始めた。

 

 「…くっ!少し待ってなさい!」

 

 そう言ってサリエールは基地の中に入り、ヤミノチカラの水晶を十三個持ってきた。

 

 「ふむ、確かに。ご苦労さま…では、最後の段階に移ろう」

 

 「これ以上何を…」

 

 「するつもりなの…?」

 

 そう言ってガディサイトは基地の上空に飛び上がり、空中で制止してヤミノチカラを取り込んだ。

 

 「ガディナ…!貴様の力を貰うぞ!」

 

 そう言ってガディサイトはガディナが使っていたデバイスを胸に装着し、巨大な闇のオーラを出現させると共に変身を完了させた。

 

 「ウオオオオオオオ!!」

 

 『Process nine teen! Process twelve!Process…』

 

 ガディサイトは尚も進化を続け、その体はもはや人と怪物の区別がつかない肉体へと変貌していた。

 

 「あれが…ガディサイト…!?」

 

 「もう原型を留めてない…!」

 

 二人は呆然としながらガディサイトを見つめていた。

 

 「見たまえ人類よ!新たなる完全な神の誕生だ!フハハハハハ!!」

 

 そう言ってガディサイトは高笑いをし、片腕を空に掲げ、手のひらから黒い雲を発生させた。

 

 「新たなる神には新たなる世界が必要だ…よって、この世界を作り替える。闇だけが支配するこの世をなぁ!」

 

 雲はみるみるうちに日本、そして地球を闇で包んだ。

 

 「さあ…最後に粛清だ…。この神に叛逆しようとする愚か者をこの場で処刑してやろう…我自身の手で!」

 

 そう言うとガディサイトはゆっくりと二人の方に腕を向けた。

 

 すると、どこからともなく触手が現れ、二人の四肢を拘束した。

 

 「な…!?」

 

 「う、動けない…!」

 

 「神の裁きを受けるがいい!」

 

 ガディサイトがそう叫ぶと、空から血のような色をした真っ赤な三又の槍が二人のコアクリスタルに突き刺さった。

 

 「うああああっ!」

 

 「きゃぁぁぁぁっ!」

 

 二人の身体に大量の電流が流れ、力尽きると同時に変身が解除され、その場から瓦礫の山の中へと落下して行った。

 

 「神に平伏せぬ愚か者には罰を…神に逆らうものには裁きを!これがあるべき姿の世界だ!」

 

 ガディサイトの高笑いはいつまでも響いていた。

 

 

 

 「そんな…嘘だと言ってよブレっち…サリっち…」

 

 「サリエール…ブレイダ…」 

 

 体育館のテレビでライブ映像を見ていた相川と橘は両手で地面をついた。

 

 何も出来ない自分に腹が立って、悔しくて、自然と涙が溢れ出てきた。

 

 「なあ、あれって、三年の柊と二階堂じゃね?」

 

 「ああー。ヤミマジュウが出てきた時によく居なくなってた二人か」

 

 「やっぱりアイツらじゃ無理なんだよなー」

 

 「ガードナーとか言う無能集団、本当に使えねえ」

 

 「本当にアイツら、何やってんだよ。こういう時に動けよなー」

 

 二人と同じようにテレビでライブ映像を見ていた一般生徒達は皆思い思いの言葉を口にしていた。

 

 「クソっ、あいつら…!」

 

 「よせ…翔子。今は喧嘩したって何にもならない」

 

 喧嘩をしに行こうとする相川を橘が制止した。

 

 「く…うっ…くっ…!くそう!」

 

 翔子は力に任せて床を殴った。

 

 「…今は悔やんでいても仕方がない。あの二人を探しに行こう」

 

 「うん…」

 

 二人が体育館から出て行こうとした時だった。

 

 「うわっ!」

 

 二人の前に二体のバジンがブレイダとサリエール、そして零達が入った球体を抱えて降り立った。

 

 そして、球体を地面に降ろすと同時に零達を覆っていた闇が消え、四人はその場に倒れ込んだ。

 

 身体中にたくさんの傷跡があり、それほどになるまで抵抗していたのだろうか、呼吸をするのが精一杯の様だった。

 

 「あなたは…」

 

 バジン達は二人の腕にブレイダとサリエールをゆっくり渡し、二人はブレイダとサリエールの身体を慌てて抱き抱えた。

 

 「…この二人はまだ生きてるのか?」

 

 『…微弱な生命反応を二つ感知』

 

 ファイズバジンがそう言うと、ブレイダとサリエールは呻き声を漏らしながら目を覚ました。

 

 「ここは…?」

 

 「…学校?」

 

 「…良かった、目を覚ましたんだな」

 

 「如月せんせー!二人とも目を覚ましたよー!」

 

 相川は如月を呼び、如月は光女医と共に二人の元へ駆けつけた。

 

 如月は体育館にあるもので簡易的なクッションを作り、光は一人ずつそのクッションの上に寝かせた。

 

 「今はここで安静にしていなさいね」

 

 「…はい」

 

 二人は壊れたコアクリスタルを見て、己の無力さを嘆くことしか出来なかった。




今回はここまでじゃあ!
続きは来年!待て!!!


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最終章第二章ー光と闇が交わる時ー

待たせちまったなぁー!

多分終わったあとに誰がここまでやれと言ったとか言われそう


コアクリスタルが壊れ、零達の意識も無い中、ブレイダとサリエールの二人は傷だらけの身体を休ませてやる事しか出来なかった。

 

 「強かったね…」

 

 「ええ…私達とは次元そのものが違った…勝ち目なんて無いって思わされたわ…」

 

 そう言いながらサリエールは光の灯っていないコアクリスタルを見た。

 

 「それに、この状態じゃ戦うことも…」

 

 「大丈夫」

 

 二人のベッドの横から男の声がし、身体を起こして声のした方を向いた。

 

 そこには、一人の青年が笑顔でサムズアップをして立っていた。

 

 「あなたは?」

 

 「俺、こう言う者です」

 

 そう言って青年は手作りの名刺を二人に渡し、二人はそれを受け取った。

 

 「2000…じゃない、1999の技を持つ男…」

 

 「五代雄介さん?」

 

 「うん。君達は…ブレイダちゃんとサリエールちゃんだよね。よく弦太郎から話は聞いてるよ」

 

 「五代さんは如月先生と知り合いなんですか?」

 

 「知り合いどころか親友だよ。な、弦太郎」

 

 そう言って五代は後ろを振り返った。

 

 「ああ。俺の最高のダチだ!」

 

 そう言って如月は白い歯を見せて笑った。

 

 「五代さんは何のお仕事を?」

 

 「俺は世界中を旅して現地の人達と触れ合ったり、ガードナーとして支援したりしてる。それで、たまに弦太郎に呼ばれて世界の話を日本でしに来たりするんだ」

 

 「て事は今日も世界の話をしに?」

 

 「そうだよ。もうそれどころじゃなくなっちゃったけどね」

 

 そう言って五代は優しく笑いながら言った。

 

 「それより二人とも、身体は大丈夫?」

 

 「は、はい。身体は大丈夫ですが…」

 

 そう言って二人は壊れたコアクリスタルを五代に見せた。

 

 「もう戦うことは出来なくなってしまって…」

 

 「それでも生きてたんだから良かったんじゃないかな」

 

 「でも…もうこれじゃ打つ手が…」

 

 「大丈夫。俺達が諦めない限り必ず勝てるさ」

 

 そう言って五代はサムズアップをした。

 

 「それに、そんなに難しく考えなくても良いんじゃない?過ぎたことを考えるより、これからどうするかだよ」

 

 そう言いながら五代は地面にしゃがみこんで二人に目線を合わせた。

 

 「…」

 

 「二人がずっと皆を守ってたから、守れなかった時には凄く後悔しちゃうし、責任も感じちゃう。本当に一番辛くて悔しいのは君達なんだから、守れなかった事でも誰も責めることなんてしないよ」

 

 「五代さん…」

 

 「何かを考える時は、焦って答えを出そうとするよりも、原っぱに寝転んで雲でも眺めながら考えるくらいが良いんだよ。二人も重い荷物を枕にして寝る、そんな感じでゆっくり考えてみるのが良いよ」

 

 「五代さん…ありがとう」

 

 「私達、少し気負い過ぎたのかもしれないわね」

 

 「うん。じっくり考えてみよう」

 

 それを聞いて五代はにこりと笑い、立ち上がって弦太郎の肩を二回ポンポンと叩いてから避難してきた子供達の方に歩いていき、弦太郎もそれを笑顔で見送った。

 

 

 

 「…ここは…」

 

 零は目を覚まし、痛む身体を起こして周りを見渡した。

 

 横には百合達三人が簡易的なベッドに寝かされており、零自身も同じベッドで寝かされていたようだ。

 

 「あ、気がついたんですね。良かった」

 

 零の元に光が駆け寄ってきた。

 

 「ああ、助かったよ。あんたが運んできてくれたのか?」

 

 「いえ、こちらに運んできたのは二台のバイク?でした。とても酷い怪我だったので応急処置は施しましたが…」

 

 そう言われて服の下を見ると、幾重にも包帯が巻かれていた。

 

 「…改めて礼を言う。ありがとう」

 

 「どういたしまして」

 

 零は笑顔で言い、光も笑顔で返した。

 

 「さて…」

 

 零はベッドから立ち上がり、ブレイダとサリエールの元へ駆け寄った。

 

 「よう。二人とも無事だったんだな」

 

 「あ、零さん。うん、なんとかね」

 

 「でも、コアクリスタルが…」

 

 「…まあ、仕方ねえさ。それよりも、二人とも身体は動かせるか?」

 

 「え?うん、普通に動かせるよ。サリエールちゃんは?」

 

 「私も大丈夫。何も支障はないわ」

 

 「よし。なら大丈夫だな。二人とも、コアクリスタルを出してくれ」

 

 「?」

 

 そう言われて二人は壊れたコアクリスタルを差し出し、零はそれに向けて両手をかざした。

 

 「…はっ!」

 

 零は自分の残っていた力を全てコアクリスタルに注ぎ、二つのコアクリスタルに光が戻った。

 

 「コアクリスタルが…!」

 

 「…恐らくこれが最後の戦いになるだろう。この世界にとっても、俺にとっても…それを全てを任せてしまってすまねぇ。けど、ブレイダとサリエールならきっと大丈夫だ」

 

 「零さん…」

 

 「…分かりました。後は任せてください」

 

 零はそれを聞いて強く頷いた。

 

 すると、修復が完了したバジン達が三人の元へ飛んで来た。

 

 「バジンの修復、終わったよ」

 

 「これでいつでも行けるぜ」

 

 「今度はもう壊されないようにしっかり装甲を分厚くしといたから、大丈夫!」

 

 「…お前ら、本当に最高だぜ」

 

 零は百合、玲司、神凪にサムズアップをし、三人もサムズアップで返した。

 

 「でも、お前ら力は残ってるのか?」

 

 「それはあんたには言われたくないっつーの」

 

 そう言って百合は零の額を指で押した。

 

 「…見てましたのん?」

 

 「お前が自分の光をコアクリスタルに入れるとこからずっとな」

 

 「自分だけカッコつけるのはナシだよ、零くん」

 

 「はぁ~…あんたって奴はいつもそうだよ。大事なとこで全部背負おうとするんだから…今回の主役はあんたじゃなくて、この子達でしょ?」

 

 百合がそう言って四人はブレイダとサリエールの方を見た。

 

 「だから、私達は持てる力を全部サポートに回すのよ。ブレイダとサリエールがちゃんと帰ってこられるようにね」

 

 「…ああ。百合の言う通りだな」

 

 「なら良いわ。さあ、そうと分かれば最後の準備よ」

 

 「おう。急がねえとな。二人はゆっくり休んでてくれ」

 

 そう言って四人はバジン二台の最終調整に入った。

 

 「…ねえ、サリエールちゃん」

 

 「ん?」

 

 「この戦いが終わったら、何処に行く?」

 

 「えっ?どうしたの急に…」

 

 「まあまあ良いから」

 

 「そうね…それじゃあ、最初に四人で行ったあの喫茶店にもう一度行きたいな」

 

 「分かった。じゃあ、約束」

 

 そう言ってブレイダは小指を出し、サリエールも小指を出して交わらせた。

 

 「おっ?なになに?」

 

 「二人で内緒の話か?」

 

 「あ、翔子ちゃん、咲ちゃん。二人も明日、あの喫茶店に行かない?」

 

 「え?うん、良いよ。行こうよ」

 

 「四人で行ったあそこか…良いな」

 

 「よし、決まり!今から楽しみだね」

 

 「…ねえ、ブレイダ…あなた…」

 

 「ん?」

 

 「…いえ、なんでもないわ。頑張りましょうね」

 

 「…うん!」

 

 その夜、ブレイダ、サリエール、橘、相川は布団を並べていた。

 

 「四人でこういうのって初めてだよね。なんか凄く新鮮」

 

 「そうだな…色々あってこういうことも出来なかったからな」

 

 「私は友達と寝ることも、遊ぶことも凄く新鮮だよ」

 

 「そうだよね。でも、これで終わりじゃない。まだまだ、青春は始まったばっかだよ」

 

 「おやおや?中々らしくないことを言いますなぁ~ブレイダさん?」

 

 「そ、そうかな?」

 

 そう言ってブレイダは頭を搔いた。

 

 「…そうだな。ここで終わらせちゃいけないな」

 

 「だよね。まだ終わっちゃいけない。…私達も、二人と一緒に戦いたい」

 

 「なんとか出来ないか?」

 

 「うーん、バジンに武器は積んでないしなぁ…」

 

 「そう言うと思って、用意しといたよ」

 

 四人の前に神凪が玲司に車椅子を押されながら武器を二つ持ってきた。

 

 神凪はそれを橘と相川に渡した。

 

 「これは?」

 

 「橘ちゃんのは弓道部の弓矢を模して作った武器で、相川ちゃんのは剣道部の竹刀を模して作った武器。あなた達が戦うって言い出した時用に作っておいて正解だったね」

 

 「でも、この武器って…」

 

 「大丈夫。エネルギー切れを起こすことはないわ。私達がいる限りね」

 

 「…神凪さん…玲司さん…」

 

 「頼んだぜ、二人とも」

 

 その言葉に二人は強く頷き、玲司と神凪もそれを見て安心した様に笑った。

 

 翌朝、バジンの最終調整が終わり、四人と二台は、先生達や他の生徒が見守る中、避難所である体育館の外へと向かった。

 

 そして、お互いに顔を見合わせて頷き、コアクリスタルと武器を構えた。

 

 「「トランス・オン!」」

 

 「ウェポンスイッチ、オン!ブレード!」

 

 「ウェポンスイッチ、オン!アーチャー!」

 

 ブレイダとサリエールは光に包まれ、橘と相川の武器からもビーム状の光の矢と刃が出現し、ブレイダはオーバーブーストフォームへ、サリエールはライジングアクセルフォームへ変身した。

 

 四人はそっと後ろを振り返り、先生やクラスメイト、そしてサポートの体制に入った零達の顔を見て、前を向いた。

 

 「…絶対に帰ってこいよ」

 

 如月の言葉を背に受けながら四人は外へと走り出し、相川はファイズバジンへ、橘はカイザバジンへ乗り込んでヘルメットを装着し、ブレイダとサリエールは空を飛んでガディサイトの元へ向かった。

 

 「行くよ!」

 

 「うん!」

 

 「ええ!」

 

 「おー!」 

 

 四人は猛スピードでガディサイトに近付き、ガディサイトもその接近に気付いたのか、大量の小型のヤミマジュウを生み出して四人にけしかけた。

 

 「くっ!」

 

 四人は自分の周りのヤミマジュウを倒すので精一杯だった。

 

 すると、四人の後ろから大量の光弾が飛び出し、飛んでくるヤミマジュウを次々と殲滅していった。

 

 「ここは任せて!」

 

 後ろを振り返ると、百合が大量の境界の穴を開けてそこからガトリングの用に大量に光弾を発射していた。

 

 Vの字をしたようなものや、虹色の光弾、様々な色の細長い光弾など、色々な世界から引っ張って来ているようだ。

 

 「ファンネルとかビクトリーエスペシャリーとか色々あんね…」

 

 「感心してる場合か!行くぞ!」

 

 ブレイダとサリエールは身体を右に左に捻りながらヤミマジュウを躱し、橘と相川もバジンを操ってヤミマジュウを避けながらガードナー基地の前にいるガディサイトの前へと立った。

 

 「性懲りも無くリベンジに来たか…愚か者め…」

 

 「もうあなたの神様ごっこは終わりよ、ガディサイト。どれだけ凄い力を手に入れても神にはなれない」

 

 「ふ…何を言い出すかと思えば…やはりお前には分からんようだな。我の崇高さが…」

 

 「そんな化け物みたいな姿の神様なんてやだなぁ」

 

 「貴様のような低俗な人類にはわからぬよ」

 

 「てっ、低俗だとぉう!?」

 

 「まあ落ち着け…悪いが、私もあんたみたいなやつを神だと認めたくはないね」

 

 「ほう…ならば見てみるか?我の圧倒的な神の力を」

 

 そう言うとガディサイトは静かに手を翳し、強力な気合い砲で橘を吹き飛ばした。

 

 「うああああ!!!」

 

 「咲!くっ!」

 

 『Thousand AXCEL!』

 

 サリエールは凄まじい速さでガディサイトに向かって鎌を振り下ろした。

 

 しかし、ガディサイトは身一つたじろぐことなくその鎌を掴んで引き寄せ、サリエールの身体を掴んで地面に叩きつけた。

 

 「だぁぁぁっ!」

 

 「えりゃああ!」

 

 ブレイダと相川は同時にバットのように剣を振り、ガディサイトを吹っ飛ばした。

 

 「よっしゃァー!見たかゴラァ!」

 

 「この程度…!」

 

 二人の後ろから三本の矢が飛び出し、ガディサイトに直撃した。

 

 「咲ちゃん!」

 

 「咲!」

 

 「タダでやられるか…!」

 

 「サリエールちゃん、大丈夫?」

 

 「ええ、大丈夫。同時に行くわよ!」

 

 「うん!」

 

 ブレイダとサリエールは同時に飛び出し、剣と鎌をガディサイトに同時に振り下ろした。

 

 「ぐっ!」

 

 ガディサイトは太い腕で二人の斬撃を受け止めた。

 

 「今だよ!」

 

 「おりゃあ!」

 

 「はっ!」

 

 ガディサイトに近付いていた橘から五発の矢が飛び、相川も懐に入ってガディサイトに全力の斬撃を食らわせた。

 

 「どうでぇ!」

 

 「この我が…人間如きに…!」

 

 「まだまだぁ!」

 

 相川は間髪入れずにガディサイトに何回も斬撃を食らわせ、怯んだところをブレイダとサリエールはガディサイトを蹴り飛ばした。

 

 「ぐぅぅ…!」

 

 「どうする?降参する?それともまだ続ける?」

 

 「何故私が勝てぬ…何故だ!」

 

 「神様のくせにそんな事も分からないのか。そんなんじゃ神失格だな」

 

 「なんだと…?偉そうなことを…!良いだろう!今すぐにでも貴様らを消し去ってくれる!」

 

 そう言うとガディサイトは飛び上がり、両手を空に向けて巨大なエネルギー弾を作り出した。

 

 「これで…終わりだぁぁぁぁ!!」

 

 ガディサイトは巨大なエネルギー弾を四人に向けて放った。

 

 「なんて大きさだ…」

 

 「デカすぎる…とても無理だ…」 

 

 「…くっ!」

 

 三人が絶望する中、サリエールは一人飛び出し、巨大な弾へと向かっていった。

 

 「サリエールちゃん!」

 

 「せめて…皆だけでも…私が守る!」

 

 「無茶だよ!」 

 

 「やるしかない…!私が…守るんだぁぁぁぁぁぁ!」

 

 すると、サリエールの身体が眩い光を放ち、その光はやがて巨大なエネルギー弾をかき消した。

 

 

 「…ここは…」

 

 白い空間にいるサリエールの前には、サリエールにそっくりなあの少女が立っていた。

 

 少女は巫女の様な衣装を纏って立っていた。

 

 「久しぶり、サリエール」

 

 「あなた…消えたはずじゃ…」

 

 「ええ。あの時、私は本当に消えた。だけど、あなたの大切な人を守りたい想いがあなたの中にヒカリノチカラを産み、私を生き返らせたの」

 

 「私の中に…ヒカリノチカラが…?」

 

 「ヒカリノチカラとヤミノチカラは相対するものだけど、決して相容れないものではない。もちろん、交わる事も出来る」

 

 「で、でも、お互いにかき消し合うんじゃ…」

 

 「それはあくまでそう言う使い方もあるというだけ。元々消し合うことなんてないわ。お互いがあってこそお互いが存在出来るんだもの」

 

 「そういう事ね」

 

 「ええ。これで二つのチカラがあなたの中にも存在する様になった」

 

 「…何が言いたいの?」

 

 「…今のあなた達ではガディサイトには勝てない。けれど、二つの存在が交われば、必ず勝てるはずよ」

 

 「…つまり、合体するってこと?」

 

 「そうでなければ勝てないわ。あなたの中で両方のチカラを出せば、ブレイダのヤミノチカラも現れるはず。そうすれば合体出来るはずよ。さあ、早く!」

 

 「…分かったわ!頼むわよ、聖光士ガイテ!」

 

 そして、サリエールは目を閉じてもう一度目を開き、元の世界に戻った。

 

 「はぁぁぁぁ…!」

 

 サリエールの身体からヒカリノチカラが解き放たれ、それに呼応するようにブレイダの身体からもヤミノチカラが解き放たれた。

 

 「これは…」

 

 「な、なんだ…!?」

 

 ブレイダはサリエールの近くに飛び、二人の光と闇を交差させた。

 

 そして、二人のコアクリスタルが二人の身体から離れ、二人の周りを高速で回りだし、二人の身体は眩い光に包まれた。

 

 「くっ…なんだ?」

 

 『FUSION EXCEEDS!!』

 

 光はやがて一人の少女の形になり、その姿を露にした。

 

 そして、ゆっくりと開いたその眼は、右がオレンジ、左が水色の瞳をしていた。

 

 髪はロングヘアーになり、白い髪は途中から水色に変わっており、上半身はブレイダのスーツがベースに、下半身はサリエールのスーツをベースになっており、腰からローブのようなマントがついていた。

 

 「な、なんだお前は…」

 

 「わたしはブレイダでもサリエールでもない。私は、貴様を倒すものだ」

 

 そう言って少女はガディサイトに指をさしてニヤリと笑った。

 

 「くっ…!ほざけっ!」

 

 そう言ってガディサイトは少女に向かって巨大な拳を振り下ろした。

 

 「はぁぁっ!!」

 

 少女はガディサイトの拳を避けて腕を掴み、頭上で振り回して勢いよく投げ飛ばした。

 

 「どうした?こんなもんか?」

 

 「凄い…ガディサイトをあんなに軽々と…」

 

 「しかも凄く強いよ!名前は…何がいいかな?」

 

 「うーん…ブレイダとサリエールが合体してるから…」

 

 「「ブレイエール!」」

 

 「ブレイエール?なるほど、二人の名前が合体してるんだな」

 

 「この小娘がァァァ!」

 

 ガディサイトは三人の元へ凄まじい速度で向かってきた。

 

 「よし!!こっからは私に任せな!あとはわたしがケリをつける!!」

 

 そう言って少女改めブレイエールはガディサイトの元へ向かっていった。

 

 




今回はここまでです。

もしよろしければ感想、高評価よろしくお願いします!

合体シーンは最強のフュージョンを流してお読みください。


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最終章第三章ー君がいるからー

最終回です!!!




ブレイダとサリエールが合体したブレイエールはガディサイトの元へと飛んだ。

 

 「着いてきな!!」

 

 ブレイエールはガディサイトよりも遥かに速いスピードで風を切りながら飛び、ガディサイトはそれを追うように光弾を連発してブレイエールを追った。

 

 「よーし!!行くぞ!!はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 ブレイエールは途中で止まって光弾を数発弾き飛ばして気合いを入れ、更なるパワーアップを行った。

 

 『RIZING BOOST!!』

 

 「はぁぁーっ!!」

 

 ブレイエールの体が光に包まれ、そして破裂するように光が弾け飛び、その光の中から更に洗練されたライジングブーストフォームへと変身したブレイエールが姿を現し、ガディサイトが振り下ろした拳とブレイエールが繰り出した拳が激突し合った。

 

 「ぐぅぅぅぅ!何故だ!我は進化の果てにこの境地までたどり着いた!なのに!」 

 

 「すぐに分かるさ」

 

 「何い!?」 

 

 そう言ってガディサイトはブレイエールに何度も攻撃をしかけるが全てかわされ、カウンターで返されていた。

 

 「数えきれない進化をした…なのに何故…何故貴様一人に勝てん!」

 

 「まだ分かってないようだから教えてやろうか?お前は一人で、こっちは二人だ。だけど、これはわたし二人の力じゃあない。友達がいて…家族がいて…守りたい皆がいて出来る力だ」

 

 「そんな小さな力の集まり如きが…我を超えるだと…?」

 

 「お前…まだ分からないらしいな」

 

 「フン…仲間だの家族だの…バカバカしい戯れ言ばかり並べおって…そんなものまやかしでしかない!」

 

 そう言うとガディサイトは大きく飛び上がり、先程よりも巨大なエネルギー弾を作ってブレイエールに放った。

 

 「我が…最強だぁぁぁ!!!」

 

 「どうやら馬鹿は死ぬまで治らんらしいな…はぁっ!!」

 

 ブレイエールは勢いよくとびあがり、エネルギー弾を蹴り飛ばして上空で爆発させた。

 

 「なんだと…!?」

 

 「そんなもんか?」

 

 ブレイエールは自信満々の様子でニヤリと笑い腕を組んでガディサイトの前に立っていた。

 

 「どうした?来ないんならこっちからいくぞ!」

 

 ブレイエールはガディサイトの目の前から消えたと思うと同時に後ろに回り込み、ガディサイトの身体を上から蹴り飛ばして地面に叩きつけ、すかさずガディサイトが弾んだところを掴んで空中に投げ飛ばし、それを追いかけて一瞬で追いつき、ガトリング銃の如く早くて重い連撃をガディサイトに浴びせ、腹部を肘打ちして怯ませ、身体を捻った遠心力を利用し、ガディサイトを蹴り飛ばした。

 

 「ぐああああ!!!」

 

 「フフッ。まだまだいくぞ!」

 

 ブレイエールはブレイブレードを召喚して掴み取り、矛先からサリエールの鎌の特徴であるエネルギー状の青い刃を身長の二倍ほど長くして出現させ、エネルギーを貯め始めた。

 

 「はぁぁぁぁぁぁ…!!!!」

 

 ブレイブレードの刃が水色、オレンジと二色に光りだし、ブレイエールは空高く飛んで剣を上に構え、地球を包んでいた暗雲はブレイエールのいる場所から消え始め、辺りには日光が差し込み、ブレイエールは太陽を背にして立っていた。

 

 「な、何をする気だ…!?」

 

 「決着をつけるんだよ。お前と…私達の運命に!!はぁぁ!!!!」

 

 ブレイエールは更にブレイブレードにエネルギーを貯め、ブレイブレードは更に輝きを増し、虹色の光へと進化した。

 

 「良いだろう…!我が全てを終わらせてくれる!!!」

 

 ガディサイトは太く巨大な腕に自身のエネルギーを集中させ、妖しく紫色に光らせた。

 

 「正面から叩く!!だああぁぁっ!!」

 

 ブレイエールはブレイブレードを振り回し、強く掴んで剣を構え、足元にブライドサークルを作って強く蹴って飛び出し、リアクトキューブを展開した。

 

 「捉えた!!」

 

 「我が…最強だぁぁぁ!」

 

 『BANNICING FATAL END!!』

 

 「バニシングゥゥ!!フェイタルゥゥゥゥ!!!!エンドォォォォォォ!!!!!!」

 

 ブレイエールはガディサイトの拳をかわし、ガディサイトの身体を虹色に輝く剣で横に斬り裂き、着地してゆっくりと立ち上がった。

 

 「…完了」

 

 ブレイエールが静かにそう言うと同時にガディサイトは断末魔と共に爆発、四散した。

 

 「勝った…良かった」

 

 ブレイエールは静かに笑い、青空の中に煌々と光る太陽を見上げていた。

 

 すると、ガディサイトがいた要塞から無数の光の粒が飛び出し、やがて人の形となってそれぞれ居るべき場所へ帰っていった。

 

 「なんだ…?」

 

 橘の元には一人の女性が、相川の元には一人の男性が降りてきて、周りを見渡していた。

 

 「…お母さん!」

 

 「お父さん!」

 

 「…咲?咲なのね!?」

 

 「翔子か!?翔子!」

 

 二人は自分の母親と父親に抱きつき、再会を喜びあった。

 

 「…」

 

 ブレイエールは満足気に笑い、合体を解除して元の二人に戻った。

 

 「さあ、帰ろっか」

 

 「ええ。百合さんも、零さんも待ってるわ」

 

 そう言って二人は手を繋いで歩きだそうとした時だった。

 

 「おーい!」

 

 「ブレイダー!サリエールー!」

 

 二人を探して走っている百合と零の姿が見え、二人は大きく手を振った。

 

 「零さーん!百合さーん!」

 

 「ここですよー!」

 

 二人もブレイダ達に気付き、零と百合は二人に駆け寄って強く抱きしめた。

 

 「…勝ったんだな。ガディサイトに」

 

 「うん!」

 

 「本当に凄いわ!あなた達は本当に凄いことをしたのよ!」

 

 「…ありがとうございます」

 

 サリエールは少し照れながら言った。

 

 「さてと…これでようやく全部終わったな…」

 

 「ええ。もうこの世界で私達の役目は終わったわね」

 

 すると、二人の身体が光に包まれ、二人の体内から青と緑の光の粒が飛び出し、空高く舞い上がって花火のように散り散りになって消え去った。

 

 「…そうか…ゼノ細胞も力を失ったか」

 

 「…」

 

 百合は試しに手を横に翳してみたが、何も起きなかった。

 

 「…これで、やっと普通の人生が送れるのね」

 

 「そうだな…少し寂しいけど、もう戦うこともなくなるんだ」

 

 「え?それじゃあ…」

 

 「零さんと百合さんは普通の人間に?」

 

 「ああ。もう前みたいに時間を操ることも境界を出すことも出来ない」

 

 「二度とね」

 

 そう言う二人の顔は寂しそうながらもどこか嬉しそうだった。

 

 「もうこれで、俺達は本格的にやれる事も無くなっちゃうかな~」

 

 そう言いながら零は伸びをして、空を見上げた。

 

 「そうね。もう昔みたいに色んな世界へ行くこともないみたいだし」

 

 「零さん…百合さん…」

 

 「ま、そうお前達が心配する事じゃないよ。別にあれがなくたって世界は守っていけるさ」

 

 「そういう事。また次が無いとも限らないから、やれることをやらないと。ね?」

 

 「…うん。わたし達で守っていかなきゃ」

 

 「ええ。私達が力を合わせて、ね」

 

 サリエールは駆け寄ってくる橘と相川を見ながら微笑んでいた。

 

 「さ、帰ろう。俺達の家へ」

 

 ブレイダ達六人は横に並んで学校の体育館へと歩いて向かった。

 

 

 

 そして、一年余りの時が経った…。

 

 『こちら相川!B区の避難、終わったよ!』

 

 『こちら橘。C地区も避難完了だ。心置き無く戦え!』

 

 「了解!行くよ!サリエールちゃん!」

 

 「ええ!」

 

 「グオオオオオ!」

 

 二人はヤミマジュウに向かって飛び出し、剣と鎌にエネルギーを貯めて強烈な一撃を放った。

 

 ヤミマジュウの体内からヤミノチカラの水晶が飛び出し、ヤミマジュウだった動物も元の小動物に戻った。

 

 「ふう…ガディサイトはいなくなったけど、まだまだヤミマジュウは出るんだね」

 

 ブレイダは小動物を抱きかかえながら水晶を拾っているサリエールの方を見て言った。

 

 「ガディサイトの主としていたヤミノチカラの欠片が色んな所に飛び散ってしまったから、まだヤミマジュウが出るのね」

 

 「まあ、気長にやってこうよ。この仕事、案外好きだし」

 

 「…そうね」

 

 『ブレイダさーん?サリエールさーん?イチャつくのは戻ってから二人っきりでやってねー?』

 

 インカムから相川の声が聞こえ、二人は顔を赤らめた。

 

 「「いちゃついてませんっ!!」」

 

 ブレイダとサリエールはファイズバジンとカイザバジンに乗り込み、ガードナーの基地へと戻って行った。

 

 

 「ただ今戻りました!」

 

 「お疲れさ~ん。ほれ」

 

 基地の作戦室に入ったブレイダとサリエールに橘と相川はスポーツドリンクを渡した。

 

 「あ、ありがとう」

 

 二人もそれを受け取り、ドリンクを喉へと流し込んだ。

 

 「二人は休憩室で休んどきなよ。後はやっとくからさ」

 

 「その小動物はまた神凪さんの元に引き渡しておこう」

 

 「いつもごめん、翔子さん、咲さん」

 

 「これくらい気にするな。また今度一杯やろうじゃないか」

 

 「…ええ。喜んで」

 

 「お、なになに?呑みに行くの?私達も誘ってよ~」

 

 「ああ、勿論だ。四人で行こう」

 

 「私達もいーい?」

 

 作戦室の扉が開き、そこには零と百合が立っていた。

 

 「あ、お父さん、お母さん」

 

 「流石に職場で父さん母さんはキツイな…」

 

 そう言って一同はどっと笑った。

 

 「もちろん構いませんよ。皆で行きましょう」

 

 「おう、サンキューな」

 

 「あ、そうだ百合さん、最近ブレイブレードとブルーヒートの調子が悪いのでまた父さんに調整をお願いして貰ってもいいですか?」

 

 「分かったわ。後で玲司に渡しておくわね」

 

 ブレイダとサリエールはコアクリスタルを百合に渡した。

 

 「それにしても…ガディサイトを倒してもう一年も経ったのか…」

 

 「色々あったわねぇ。あんた達四人は第七部隊に仲良く入って、私達も部隊長と副部隊長になって…」

 

 「試験とかめちゃめちゃ大変だったけどね」

 

 「内定貰うまでドキドキでしたよ…」

 

 「ブレっちとサリっちは元々所属してたようなもんだったと思ってたけど、違ってたもんね」

 

 「ちゃんと給料を貰えるようにするには正式に就職しないといけなかったからね、仕方ないよ」

 

 「それで私達も私達で総入れ替えをして担当場所とか色々変わったもんだから…いやー、慣れるまでが大変だったわ…」

 

 「大変だったな…もう二度と入れ替えは無しにして欲しいぜ…」

 

 「まあ、色々あったけど、全部丸く収まって良かったな」

 

 「そうだねー。私達のお父さんとお母さんも戻ってきたし、他の部隊の人達も戻ってきてるし、あの時に比べりゃ大分落ち着いてるよね」

 

 「そうだな。まだまだ戦闘はブレイダ達に任せっきりだけど、人々の避難や事後のケアは他の部隊の人達がやってくれるから、本当に良くなってるよ」

 

 「だね。よし、それじゃあ、ブレイダとサリエールは身体を休めて次の出動に備えて。零くんは上に報告をお願い。相川ちゃんと橘ちゃんは報告書をお願いね」

 

 「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

 

 「ね、サリエールちゃん」

 

 「ん?なあに、ブレイダ」

 

 二人は、休憩室の椅子に座ってテレビを眺めていた。

 

 「今日の晩御飯どうする?」 

 

 「そうね…今日はカレーが食べたいかな」

 

 「カレーね。わかった、帰りにスーパー寄ってから帰るよ」

 

 「了解。楽しみにしてるね」

 

 そう言ってサリエールはブレイダに笑いかけ、ブレイダも笑い返した。

 

 二人の薬指の銀色の指輪は光を反射して輝いていた。




超光戦姫ブレイダちゃんはここまでです!

ここまでありがとうございました!

そして皆様に大事なお知らせ!なんと続編の制作が決定しました!

4月頃にまた新しく始めたいと思いますのでまた応援よろしくお願いいたします!

もちろん、零さんや百合さんの物語も終わりません!

今後ともよろしくお願い致します!

よろしければ感想、評価よろしくお願い致します!

ブレイダちゃんのお話を書けて良かったです!

改めて、ありがとうございました!


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