魔法科高校の無信仰者 (苺ノ恵)
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プロローグ

 

 

 

『久しいな。冒涜者よ』

 

「…何時ぞやの邂逅以来だな、存在X。何だ?私を見て嗤いにでも来たのか?ご苦労なことだ。自称:神は有意義な時間の過ごし方の発想さえ儘ならないらしい。全知全能という素敵なアイデンティティも実際には不合理の集合体、いや宝物庫のゴミ漁り同然といったところか?存在X」

 

『貴様が今更何をほざこうと我には関りの無い事だ。しかし、貴様の信仰心が欠片も芽生えておらん事には些かこちらにも不都合が生じる』

 

「経営戦略(ビジネスプラン)に問題があるのなら、現実的な見積もりを前以って行うべきだと言った筈だが?即断即決は、確かに成功者に備わっている重要な素質だ。しかし、使い方を誤れば蛮勇、所謂賊軍に成り下がる。ハッ…やはり存在Xか」

 

『我は以前、貴様に言った。次の転生は無いと』

 

「存在X。私は、ターニャ・デグレチャフという女はたった今死んだ。死因は糖尿病。まさか、人生最大の敵は銃を構える敵兵でも、世論を操作する政府でもなく、懐に隠した甘味だとは…我ながらくそったれな理由だと言わざるを得ない。だが、私は何も後悔などしていない。なぜなら存在X、私はお前の目論見通りにはならなかった。私に信仰など必要無かった。お前の呪いに屈することなど万に一つも無かったんだ。私はお前に勝利したのだ。存在X。勝ち逃げで申し訳ないが私は今の私で充分に満足している。ほら、さっさと消し去るがいい。勝者が敗者に語ることなど無いのだから」

 

『__貴様は一つ勘違いをしている』

 

「……は?今更何をほざいて__』

 

『肉体の死が終焉だと一体誰が言った?』

 

「………どういうことだ?」

 

『貴様にとっての死とは__信仰に目覚めることだと言っている』

 

「………可笑しいな?それでは存在X、お前はこう言いたいのか?__無信仰者に死ぬ価値などないと?」

 

『その通りだ。冒涜者よ』

 

「悪質な出来レースへの強制加入をどうもありがとう、存在X。詐欺容疑で死刑を求刑するとしよう___さっさとくたばれ…!」

 

『死(救い)が欲しいのなら神に祈るがいい。奇跡に縋るがいい。信仰に目覚めるがいい。___さて、いつ貴様が敬虔な信者と成り果て、その奇跡でも抗うことのできぬ敵に蹂躙され、そして失意の淵で朽ち果てるのか。楽しみにしていよう』

 

「存在Xウウウウウウウウウウウっっっっっっっ!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 魔法大学付属第一高校。

 

 厳かな雰囲気の中、入学式のプログラムは恙無く進行されていく。

 

 新入生代表の少女が降壇して数瞬、司会進行を務めていた男子生徒が幕内にいる私に視線で合図を送ると同時に、進行表に付属された原稿を読み上げる。

 

「___それではこれより、新任の外部講師から新入生に向けてお祝いのお言葉を頂戴させて頂きたく存じます」

 

 私が歩みを進めると会場が若干の騒々しさを発露させる。

 

 まあ、この見た目なら仕方のないことか。

 

 これも仕事だ。

 

 私の身長に合わせてマイクスタンドの高さを調節してくれた、本校の生徒会長の少女に皮肉たっぷりの謝辞を送り、私は登壇する。

 

 さて、存在Xよ。

 

 お前がどういう意図で私をこの世界に送ったのかは、この際どうでもいい。

 

「Все лучшее. Студент различных CN.(ごきげんよう、生徒諸君)」

 

 二度目の転生だ。

 

 流石の私も、こうも非現実的な現象を二度も体験させられては折れざるを得ない。

 

 認めよう存在X。

 

 お前はどうやら皆がいうところの神というものらしい。

 

 だからこそ、ここに宣言しよう。

 

 存在X___死ぬのは貴様の方だと。

 

 さて、自己紹介がまだだったな?

 

 私は___

 

「ターニャ・デグレチャフだ」

 

 

 

 

 

 

 これは、世界を欺き、神を冒涜する、無信仰者の物語___

 

 

 

 

 



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episode1.

 

 

 

 

 血と肉が焦げ付き、硝煙に巻かれた匂いが鼻を衝く。

 

 千切れかけた四肢を懸命に動かして這いずるも、数秒後に脳漿をぶちまけて赤黒い花を咲かせる戦友の最期。

 

 死が常に蔓延る戦場の空気に中てられた模範的士官は、狂乱の門徒と成り下がり気色の悪い笑い声を挙げたのを最後に砲弾の弾着音に消える。

 

 幾多の死線の先にあったのは、抗いようのない運命の収束点。

 

 私はまた、繰り返すのだろうか。

 

 私は死したまま生かされるのだろうか。

 

 生きたまま殺されるのだろうか。

 

 この理不尽が蔓延る非生産的世界で。

 

 私が私である、私という存在を否定されながら。

 

 それでも、私は____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 通信端末と接続されたイヤーカフが私の耳管を叩く。

 

 開いた瞼に覗く碧眼が写すのは過去の情景などではなく、燦燦と降り注ぐ太陽光を反射し私の網膜を焦がす広大な雪原風景だった。

 

 つい手持ち無沙汰になり、要らぬ構想を巡らせていた自身の非生産的行為を心の中で叱責しながら通信の内容に耳を傾ける。

 

「___少佐。ご報告いたします。A地点並びにC地点、制圧完了。D地点、未だ交戦中とのこと。ですが、我が軍が優勢。制圧までそう時間はかからないかと」

 

 戦況把握は上官が行う業務の中でも重要な役割を果たす。

 

 これを怠ると後の業務成績に関わるのは勿論のこと、サービス残業に突入する始末になりかねない。

 

 残党狩り、もしくは部下の死体の処理を残業として行うなど私の労働者倫理に反する。

 

 非効率など最も忌むべき概念だ。

 

 私は業務の遅れを意識して、早まった脳血流を眉間の皺で押さえ込みながら口を開く。

 

「…ふん、グランツの隊か。どうやら奴は後で熱烈なご指導を賜りたいらしいな?この私とマンツーマンを所望とは良い度胸だ」

 

「きゅ、救援は如何されますか?」

 

「そうだな。救援要請など出したら私が直ちに貴様らを消し炭にしてやると伝えてやれ」

 

 数瞬置いて、私の副官であるヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ少尉(略してヴィーシャ)が恐る恐るといった声音で通信を再開する。

 

「…デグレチャフ少佐、何か怒ってませんか?」

 

「はあ?」

 

「い、いえ!なんでもありません!!」

 

 別に委縮させるつもりなど毛頭なかったのだが、些か声に怒気が混じってしまったようだ。

 

 やれやれ、部下のケアも業務の内だというのにこの体たらくだ。

 

 よし、たまには身体を動かしてリフレッシュでもしておくとするか。

 

「__セレブリャコーフ少尉、これより貴官に一時的に指揮権を継承する。第一中隊の指揮は任せたぞ。そら、あのバカの加勢にでも向かうといい」

 

「えっ!?ですが少佐!今回の相手は__」

 

「悪いが通信はここまでだ、少尉。D地点制圧後は所定の位置に帰投せよ。以上だ」

 

「少佐!!まっ______」

 

 通信機器の電源を落とす。

 

 

 

 

 そして____突如、轟音が襲い掛かる。

 

 私は強烈な圧迫感から逃れるように雪原へと身を投げ出した。

 

 受け身を取り素早く戦闘態勢に戻った私が見たのは、つい先ほどまで私が身を隠していた木々がなぎ倒されている光景だった。

 

 そして、それを成したのはただ一人の人間だということ。

 

 「___申し訳ない。待たせてしまったかな?」

 

 岩石のような体躯に肉食動物のような相貌。

 

 風を纏い本能のまま襲い掛かるその姿はまさに猛獣。

 

「お詫びといっては何だが、君には極上の肉を用意しよう。焼き加減と味は保証しないがね。何しろ__虎への火入れは初めてなものでな」

 

 私は射撃型CADを構えて敵の名を口にする

 

 

 

 

 

 

  ___【人喰い虎】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 新ソビエト連邦(The Federal Republics of Soviet)通称:新ソ連は、ロシアがウクライナとベラルーシを再吸収して出来た国家である。

 

 急激な寒冷化に伴う地球の変化から各国の食糧事情は悪化の一途を辿り、広大な土地がありながら予てより食糧難に窮していた祖国には最早、他に選択の余地などなかった。

 

 国民に銃を握らせる決断を迫るには、地面に張った薄氷を踏み砕くよりも容易なことであっただろう。

 

 斯くして、尊い犠牲のもと…いや、狂気的剪定の結果により、祖国は国家の崩壊という結末から毛先ほどの距離を置くことができた。

 

 国力の再生化と称し、隷属はさせないことを条件に周辺諸国を統合することで祖国は新ソ連として新たな体制を築き上げてきた。

 

 しかし哀しいかな、自分たちと同様の政策を選択した他国があったとしても何も不思議は無いわけで、寧ろ最も考えられる事態の一つだろう。

 

 深淵を覗く__というやつだ。

 

 問題なのはその国が祖国のお隣様だということ。

 

 人にはパーソナルスペースというものが存在するが、それは国家にも言える。

 

 領土、領空、領海___いつの時代も、国の官僚達は自分たちの権力が及ぶ範囲を少しでも増やそうと、他国と苛烈な堂々巡りの押し問答を繰り広げてきた。

 

 苛烈な…ね。

 

 そして、その皺寄せに奔走することになる末端の人間。

 

 それが___

 

 

 

「軍人というものなのだろうな…」

 

 

 斯くして、私___ターニャ・デグレチャフは、二度目の転生後の就職先に軍人というそれはそれは素敵な職場を斡旋されていた。

 

 ああ神よ、豚の餌となれ。

 

 

 

 



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episode2.

 

 

__新ソ連軍参謀本部 特別作戦指揮局 第一会議室__

 

 ガガーリン発射台、スヴォボードヌイ宇宙基地、プレセツク宇宙基地、ボストチヌイ宇宙基地、バイコヌール宇宙基地etc…。

 

 嘗ての祖国が宇宙開発に尽力していたことはその筋でない人間でも多少は認知していることだろう。

 

 しかし、第三次世界大戦が勃発し宇宙ロケットの打ち上げに使用されていた神聖な施設は、人類の作り得る限りで最悪の惨劇を引き起こす【核】の発射台としてその姿を変え、軍人たちの指を地獄のトリガーに掛けさせる悪魔の象徴となった。

 

 それでも引き金を引くに至らなかったのは人類が下した最大の英断といえるだろう。

 

 この戦争が熱核戦争にならなかったのは、一重に魔法師の台頭が大きいと言われているが、正直なところ核で戦争に勝とうと、役に立たない土壌を手に入れるだけで腹の虫を収めることは敵わず、根本的な解決にならないまでか逆に核を撃ち込まれるリスクを負うだけのハイリスクノーリターンな戦法だったためだ。

 

 俗に言う、身体は正直だというものか。

 

 現在、カザフスタンに建設されていたガガーリン発射台は既に解体され、核撤廃の証として記念碑が建てられており当時の面影はどこにも存在しない。

 

 変わって、スヴォボードヌイ宇宙基地はロシアのアムール州スヴォボードヌイの北方にあったロケット打ち上げ基地で1996年から使用された。元々はICBMの打ち上げの為に建設され、ソ連解体後、カザフスタン領となったバイコヌール宇宙基地の代替として計画されたが資金難の為中止された。

 

 半世紀の時を経て、某施設は連邦政府主導のもと魔法師育成のための軍事拠点と改変され数々の有力な魔法師を輩出してきた。

 

 祖国が9人もの戦略級魔法師を抱えているのも頷けるというものだ。

 

 魔法への取り組みに関しては、近年までは魔法式そのものの改良に重点を置いていたが、ここに来てエレクトロニクスを利用した魔法工学技術の軍事利用へ急速に傾斜してきている。

 

 新ソ連軍参謀本部所属 戦務参謀次長 ハンス・ゼートゥーア准将は切れ長の双眼から三白眼を覗かせ、基地の一室から新兵の軍事教練を観察しつつ某基地の成り立ちを掘り起こしていた。

 

「___失礼致します。ゼートゥーア准将殿」

 

 新ソ連軍参謀本部所属 参謀将校 エーリッヒ・レルゲン中佐が入室する。

 

 優秀かつ極めて常識的で将来を嘱望された青年将校はまさに軍人のお手本とも言える敬礼をもって自身の存在をその場に刻み込む。

 

「人事後で時間の無いなか申し訳ないな。レルゲン中佐、貴官の席は既に本部に手配済みだ。そう引継ぎを急がずとも良い。体調管理も任務の内だぞ?」

 

「ご高配を賜り誠に恐縮であります」

 

「掛けたまえ」

 

「失礼します」

 

「__それで、例の件はどうだね?」

 

「ハッ、元ベラルーシ領でのアンティナイト密売の首謀者と関係者の特定は滞りなく。現在、南西地区で大亜連合の反魔法師団体と第二〇三魔法師大隊が交戦中。遅滞戦闘を展開している敵軍の指揮を鑑みるに今回の侵攻は陽動作戦で間違いないかと」

 

「ふむ…大方予想通りといったところか」

 

「………」

 

「何か不満かね?レルゲン中佐?」

 

「いえ、そのような…ただ…」

 

「ただ、何かね?」

 

「…本当に彼女を【日本】へ送り込むのですか?」

 

「日本の文化と言語を独学で学び、魔工技師としての地位も確立している彼女ほど、今回の任務に適している者を私は知らないが?」

 

「おっしゃるとおり、確かに彼女は有能な軍人で在り研究者です。しかし、恐れながら申し上げます。彼女の人間性について以前ご報告させていただいたのですが…」

 

「士官時代の件か」

 

「はい、率直に申し上げて彼女は異質です。日本で何か事を起こされてからでは遅いのです」

 

「つまり?」

 

「准将も既にお気づきのことでしょうが敢えて申し上げます。彼女は人間ではない。アレは幼女の皮を被った___」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ____【化け物】です

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 呂 剛虎(ルゥ ガンフウ)は大亜連合軍特殊部隊のエースにして、陳祥山が最も信頼する部下。白兵戦での殺人術では大亜連合随一と呼ばれる使い手で、「人喰い虎」の異名で「イリュージョンブレード」の千葉修次と並び称されている。

 

 そんな彼は現在困惑していた。

 

 道教系の古式魔法と中国武術を組み合わせた堅固な守りは、鉛玉は疎か魔法による攻撃さえ貫くことを許さない。

 

 それがどうだろうか。

 

 戦場に立つのが不釣り合いなほどの愛らしさを持つ齢10にも満たないような幼女が、その鉄壁の守りを打ち砕いたのだ。

 

 それも、ただの狙撃用のライフルで__

 

 打ち抜かれた左上腕部遠位端に走る痛みと共に動揺を抑え込みながら、彼はいつの間にか幼女の瞳が金色に変化していることに気付く。

 

 そして、目の前の幼女は呟く。

 

 

 

 

 

 

 

「主を讃えよ その誉れ高き名を___」

 

 

 

 呂 剛虎は理解した。

 

 その幼女(バケモノ)はきっと、神に愛されているのだと___

 

 

 

 

 



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episode3.

【閲覧注意】以下にはメタの成分が含まれます。苦手な方は本文までスキップして下さい。






やあ、諸君。

初めましてかな?

新ソ連軍参謀本部 戦務参謀直轄部隊 第二〇三魔法師大隊所属 ターニャ・デグレチャフであります。

…何?私のことはよく知っていると?

ふむ…貴官らとはどこかで面識があったかな?

………なるほど、帝国の時代からよく知っていると。

なるほど。

よし、理解した。



ブタ箱は向こうだ、さっさと失せろこの蛆虫どもが。



__失礼、少々取り乱してしまったようだ。

何分、前書きと後書きを書けという存在Iからの理不尽な指令を受けて気が立っていてな。

それに、存在Iが言うには口汚く罵った方が読者である貴官らは喜ぶのだろう?

存在Iもそうだが頭でも沸いてるのか?

ありがとうございます__か。

…もういい、さっさと仕事を済ませるぞ。

時間外労働など経営戦略の欠陥を露呈するだけの最悪の所業と知れ。

さて、状況を整理しよう。

現在、我々第二〇三魔法師大隊は南西地区にて反魔法師団体並びに大亜連合魔法師部隊の混合部隊と交戦中。

敵軍の戦力を鑑みるに、領土侵攻が目的ではないことは明白だ。

遅滞戦闘の構えだが非魔法師の装備品に対魔法師用ハイパーライフルが装備されており、我が隊にも数名負傷者が出ている。

生半可な魔法障壁ではハイパーライフルの餌食となるから当然だ。

それでも、D地点を残し反魔法師団体の制圧は滞りなく終えた。

目下の案件は敵軍最優戦力である呂 剛虎の対処にある。

目的は恐らく魔法師の鹵獲と技術奪取にあると考えていいだろう。

小柄な少女である私など、相手から見ればカモ同然だろうな。

餌にされるのは気に喰わないが、それでも件の虎は見事に釣れた。

ここまではよろしいかな?

今回、存在Iから出された指令は【呂 剛虎との戦闘報告の詳細説明】だ。

何が悲しくて自分の書いた報告書を朗読しなければならないのだ。

いかんいかん。

ここは冷静にだ、冷静に。

「素敵なお仕事をありがとうございます。___地獄に堕ちろ存在I」










 

 

 

 

 

 この世界における魔法とは、事象に付随している情報体に対して「状態の定義」を改変し作用を発生させるものでしかなく、事象そのものを作り出すことはない。

 

 例を挙げると、紙の分子の運動エネルギーを魔法で改変させて燃やすことは可能であるが、紙自体を何もない空間から魔法で作り出すのは不可能で、紙を全く別の物質へ変化させることもできないのだ。

 

 魔法は物理法則の埒外であるが無関係ではなく、物理法則に逆らわない形で発動された魔法であるほど、そうでない魔法に比べ、少ない力による大規模な事象改変が容易となる。

 

 また、物理法則に反しているか否かに関わらず、事象改変の規模や干渉度が大きくなればなるほど難易度の高い魔法であり、魔法師に大きな負担をかける。

サイオンを活性化させたターニャは、呂 剛虎が古式魔法を展開したのを確認し不敵な笑みを浮かべる。

 

(実に私好みな作用機序だ。特に物理法則など、観察と体系化の到達点ではないか。【奇跡】などという俗物とは当に対極)

 

 CADへサイオンが送られる。

 

 CADが返したサイオンの信号を起動式として読み取り、変数と共に魔法演算領域へ入力し、魔法式として出力する。

 

 ターニャが選択したのは、八種の系統魔法の一つである加速系統の術式。

 

 通称、自己加速術式。

 

 魔法演算領域で構築した魔法式がイデアを経由してエイドスの状態の定義を書き換え、事象を改変する作用が発生する。

 

 呂 剛虎が一歩目を踏み出すタイミングで自己加速術式が発動する。

 

 景色が色彩の傍線と成り果てた後、すぐさま次の魔法を発動する。

 

 収束と発散による空気弾だ。

 

 空気中に生じた大気圧により圧縮された空気は、魔法式によって書き換えられた事象改変により、指向性をもって標的に襲い掛かる。

 

 12発の空気弾が弾着し辺りを雪煙が包みこむ。

 

 自己加速術式により呂 剛虎に対して右後方に距離をとったターニャは、敵の出方を伺う。

 

 その数秒後、雪煙の流れに不自然な揺らぎが生じた。

 

「___っ!!?」

 

 瞬間、凄まじい風圧と共に剛腕が繰り出される。

 

 当たれば即死は必至。

 

 かわそうとも身に纏った風に触れれば皮は裂け、肉は削ぎ落されることになるだろう。

 

 ターニャは素早く展開した魔法障壁によって呂の攻撃をいなし硬化魔法を発動させる。

 

 硬化魔法の定義内容は物質間の相対位置を固定する魔法である。

 

 ターニャはその魔法を足元の雪に発動し、呂 剛虎の脚を雪原に固定する。

 

 世界からの復元力によって魔法式の改変効果は永続的にはならず、元の状態に戻ってしまう。

 

 長い時間対象に魔法を作用させるには魔法式の掛け直しを継続的に続けなければならない。

 

 そのため、ターニャは呂 剛虎が魔法を掛け直すその一瞬を狙って、ブーツと雪の相対位置を固定したのだ。

 

 いかに古式魔法といえども世界からの復元力に抗うことは許されない。

 

 コンマ一秒を争う魔法戦闘中にそれをなせるターニャの技能・胆力は流石としかいえない。

 

 足止めを喰らった呂 剛虎を傍目に移動魔法により跳躍したターニャは、振動系統の魔法を使用する。

 

 一辺10mの立方体を二つ構成し、一方の立方体内の分子運動を減少させる。

 

 そうして、分子を運動させていたエネルギーは世界からの復元力によりもう一つの立方体内の分子運動を増加させるエネルギーとして付加される。

 

 ある魔法師は「魔法とは世界を欺くもの。世界にとって自分たちは巧妙な詐欺師でなければならない」と述べた。

 

 その言葉の通り、確かに世界の復元力は分子に運動エネルギーを戻した。

 

 ただし、その返還先を欺いた。

 

 その証拠に、分子運動の減少した空間は外気温を急激に低下させ、空気中の水分は結晶化していく。

 

 一方、分子運動の増加した空間は膨大な熱量を発生させ、炎として具現化する。

 

「焼き時間は30秒といったところか?私は焼き目がこんがりとした方が好みだからな」

 

【氷炎地獄(インフェルノ)】が発動し、空間内の温度を極寒と灼熱に二分する魔法が

呂 剛虎に襲い掛かる。

 

 しかし_____

 

「らあああ!!」

 

「ちっ!野蛮人がっ!」

 

 対象を焼却する前に熱で雪が融解し、相対位置の固定の定義内容に反故が生じたため、硬化魔法の持続時間に狂いが発生した。

 

 その結果、氷炎地獄の熱は呂 剛虎の表皮の一部を焦がすのみとなってしまった。

 

 炎の渦から飛び出した勢いそのままに、呂 剛虎はターニャへと肉迫する。

 

 手指貫徹。

 

 白兵戦ならば誰にも負けないという誇りか。

 

 怒涛の勢いで近接戦闘を仕掛けていく呂 剛虎には得物を狩る猛獣のような獰猛な笑みが浮かんでいた。

 

 その気迫に圧されてか次第に、ターニャの魔法障壁に綻びが生じ始める。

 

 そして___

 

「っっっガハッ!!」

 

 障壁が突破され、防御のために咄嗟に掲げたCADは主を守ることと引き換えに、その

真っ二つにして雪原に転がるオブジェに成り果てる。

 

 衝撃を殺せず後方に弾き飛ばされたターニャは、基礎単一工程の移動魔法を発動し辛うじて着地する。

 

 しかし、これでターニャはCADを失い魔法の発動スピードは大幅に低下する。

 

 対して、氷炎地獄により負傷はしているものの未だ動きの精彩さが衰えることのない、古式魔法師である呂 剛虎。

 

 ターニャのCADを破壊したことにより勝利を確信した呂 剛虎は、彼女の意識を奪い捕縛するため、ゆったりと、しかし確実に互いに空いた距離を近づけていく。

 

 その時、呂 剛虎はターニャが背中に背負っていた一丁のライフルを構える様子を捉える。

 

 今時、非魔法師でも使用しないような古びた銃身に、木製のフレーム。

 

 アンティークとしての価値しかないような武器で、それでも抗おうというのか。

 

 呂 剛虎にはそんな少女の姿が、祖国を守って死んでいった仲間たちの姿と重なった。

 

 しかし、ここは戦場である。

 

 既に非情に徹している呂 剛虎の眼に迷いなど無かった。

 

 少女が引き金を引く。

 

 魔法は疎か、サイオン光すら発生しない稚拙な攻撃。

 

 呂 剛虎は古式魔法によりその銃弾を弾き飛ばし、早めに意識を刈り取ってやろうと、払いのけるようにして左手を振る。

 

 魔法によって生み出されたその風は、旧型の兵器如きに貫けるものではない。

 

 左手の甲が銃弾を捉える。

 

 そして___手の甲を貫通した銃弾が左肘の関節を破壊する感触と共に左腕が後方に大きく飛ばされた。

 

「___!!?ぐうおおおおお!!!!???」

 

 衝撃で左肩を脱臼し、遅れてやってきた激痛を傷口を抑えることで耐える呂 剛虎は、金色の虹彩を突きつける彼女から咄嗟に距離をとる。

 

 ありえない。

 

 アンティナイトも術式解体も魔法もなしに、ただのライフルで自身の魔法による装甲を貫いた。

 

 呂 剛虎は今の現象に対する理解が出来ぬまま、ただ本能が危険だと警告を発するためそれに従った。

 

 果たして、それは正解であったと呂 剛虎は後に気付くことになる。

 

 

◇◇◇

 

「主を讃えよ その誉れ高き名を___」

 

 私は血を吐くかのような思いでこの言葉を口にしては歯を軋ませる。

 

 以前の転生では、この呪いにも似た神への祈りで爆発的な力を得た私だが、この世界でもそれは同様だったようだ。

 

 しかし、そんな私へのプレゼントとでもいうのだろうか。

 

 あの忌々しい存在Xはもう一つ、ある力を私に押し付けていった。

 

 

 

 

 ___魔導

 

 

 

 

 それが何なのか、説明する必要も無いだろう。

 

 私は奇跡の力を自らに備わった力で否定するかのように、震える引き金にそっと力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 




報告は以上だ。

…なんだその不服そうな眼は?

苦情は存在Iにでも言うといい。

台本の執筆者は奴だ。

私は失礼させてもらう。

………ああ、そうだったな。

それではまた戦場で___これで満足か?


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episode4.

 

 

 

 

 

「レルゲン中佐。貴官は【奇跡】をどう捉える?」

 

 突然の問いかけに数瞬思考の空白が生まれたが、准将殿の問いに含まれた意図を最大限抽出するよう努めつつ返答する。

 

「一般的な意味であれば、宗教や信仰に結びつきが深いもので人間が超自然を観測した際に感じる驚きを言語化した表現と考えます。また、我々軍人からすれば【魔法】こそが、奇跡の在り方に最も近しいものだと愚考致します」

 

 私の返答に満足がいったのか。

 

 准将殿は珈琲の淹れられたカップを置き、懐から一冊の本を取り出す。

 

 今時珍しい紙媒体の記録に若干の好奇心を感じつつ、表紙に書かれた英語を読解する。

 

「これは…聖書でありますか?」

 

「書庫の整理をしていた際に偶然見つけて目を通してみたが、なかなかに興味深い内容でな」

 

「は、はあ…」

 

「合理的に考えるのならこの蔵書はただの戯言をまとめた紙の束でしかないが、別の視点から考えるのならこれは間違いなく信仰者にとっての聖書なのだろう」

 

 私は努めて准将殿の言わんとしていることを洞察するが、その心意が見えない。

 

「この聖書には【奇跡】とは、不思議な業、しるし、などと書かれている」

 

「と、おっしゃいますと?」

 

「【魔法】こそが奇跡の在り方に最も近しいという貴官の仮定には、私もおおいに賛成だ。しかし、魔法は我々魔法師が物理法則に働きかけることで発現する現象であって、どれだけ超能力だの異能だのと揶揄されるような効果であっても、引き起こされる結果はどこまでいこうと【自然な現象】でしかない」

 

「つまり、准将殿は【奇跡】と【魔法】は根本的に異なるものだとお考えなのですか?」

 

「一つの考察としてだがね」

 

 准将殿の言わんとしていることには察しが付いてきた。

 

 だが、それでも、この話がどうデグレチャフ少佐の話と繋がるのか皆目見当もつかない。

 

 私は乾き始めた舌先を湿らせるため、そっとカップに口を付ける。

 

「この二つの相違点は【過程】にあると私は考える」

 

「確かに我々はCADを用いて起動式を展開し魔法式によるエイドスの書き換えから目的の事象を引き出しております。だとすると、【奇跡】とは__」

 

「【結果】のみが発現する。それも、物理法則に拘束されない、まさに【不自然な現象】だ」

 

「____まさか、許可したのですか?あの欠陥品の使用を!?」

 

 准将殿は浮かべていた笑みを更に深めると、切れ長の眼から三白眼を覗かせる。

 

「欠陥品か。はたまた宝具となるか。それは彼女が答えるだろう」

 

 果たして彼女の業は、奇跡(しるし)足り得るのか___賽は投げられた

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 人間の代謝率というのは同年齢・同性という条件下において体表面積に比例する。

 

 単純な話、小柄な少女の身体である私は体温の低下が異様に速い。

 

 戦闘中に何故このような考えを浮かべているのかは、私がライフルを構えてかれこれ、即席食品を作って食べ始めるだけの時間が過ぎていることにある。

 

 今回、我々二〇三魔法師大隊に課せられた任務は自国防衛。

 

___という表向きの理由の裏にある二つの極秘任務。

 

 一つはアンティ・ナイトの密輸先の特定と誘導。

 

 現在、港には第二中隊から次席指揮官のヴァイス中尉と他数名による偵察班を送り、海路に乗り出す貨物船の積載物把握と乗組員の情報採取を行わせている。

 

 そのためのミスディレクション(視線誘導)として、我々二〇三魔法師大隊は反魔法師団体とのお遊戯に真摯に付き合って時間を稼いでいるわけだ。

 

 適度に魔法障壁を破らせて苦戦しているように見せかけろと指示を出したのが間違いだったのか、我が隊に負傷した輩が数名いた。

 

 誰が怪我をするまで手を抜けと言った?マニュアルバカはここにもいたのか?

 

 公務災害扱いになんてさせんからな?

 

 貴様等は勝手に転んで少し肩に弾丸がめり込んだり裂傷の等々の軽傷を負っただけだ、いいな?

 

 さて、二つ目の任務だが…これは私に課せられた任務と言うべきだろうか。

 

 現在、私の胸元には首から下げたペンダント式の演算制御装置がある。

 

 an arithmetic and control unitの頭文字からとって3Acu__と記憶に残り辛い呼称のため私は見た目から、また前世でも呼ばれていた名称を付けた。

 

 

 

 

【演算宝珠】と____

 

 

 

 

 

 




◆閲覧注意◆以下の文章にはメタのre)

すまないな【人食い虎】。

どうやら存在Iは眠気で力尽きたらしい。

次回の更新まで私たちはこのままの姿勢で待機ということだぞ?

…フム、分かった。私から伝えておこう。

存在Iよ、永遠に眠れ


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episode5.

存在I「ヒャッハー!!仕事納めだ~~!!このテンションで書きまくってやるぜ!!」




 

 

【魔術】【魔導】

 

 それは、人が持つ魔力を燃料に用いて世界の理に干渉し、超常の現象を発現させる行為並びに現象。

 

 基本的にこの世界の一般認識で言う魔法に近い。

 

 魔術を行使できるものを魔導師と、かつての世界では呼んでいた。

 

 それまで奇跡とされていた過去の超能力・異能の類を化学の力によって効率よく再現出来るようになったこの世界では、すべての超常現象は【魔法】の一言で片づけられてしまうらしい。

 

 一部の機関では「魔術なるものは何でもできるほど万能でもなく、近代以降の科学技術の発達と比較して特別有利なわけでもない」とし、過去の遺物として迫害されていたわけだが、新ソ連での評価は異なった。

 

 曰く、魔法に並び立つ有用な技術。

 

 曰く、魔法師の存在を再定義する概念。

 

 曰く、神の御業。

 

 信仰心に犯された科学者共の盲目的観念には、生理的嫌悪を禁じ得ない。

 

 

【干渉術式】

 

 

 それは、すべての魔術の根幹となる技術だ。

 

 この世界で言われている起動式に近い存在で、魔法式を構築する際に重要となる魔法力3種の内の【干渉強度】を彷彿とさせる。

 

 一つ確認をしよう。

 

 二人の魔法師が互いに同じ座標へ同種の魔法を行使したとする。

 

 その場合、どちらの魔法が発動するのか?

 

 答えは__【干渉強度】に依存する__事象干渉力の強い魔法師の魔法が発動する。

 

 これは、腕相撲をしたら力の強い方が勝つ、くらいには簡単な話だ。

 

 ただし、どれだけ事象干渉力が強かろうと、魔法式によって干渉できないものが一つある。

 

 それは魔法式である。

 

 魔法式は魔法式に干渉できない。

 

 これも魔法師なら誰もが認識している共通解で間違いないだろう。

 

 リンゴが木から地面に向かって落ちるくらいには普遍なことだ。

 

 アンティ・ナイトを用いてサイオン波の嵐を引き起こし、魔法式の構築を阻害する【キャスト・ジャミング】

 

 有線回線を通して、電子機器に侵入し、ソフトウエア自体を改ざんするのではなく、電気信号に干渉し、これを改竄しCADなどの電子機器の動作を狂わせる性質を持つ【電子金蚕(でんしきんさん)】

 

 圧縮したサイオンの塊をイデアを経由させず、砲弾のように対象物へ直接ぶつけて爆発させ、そこにある起動式や魔法式を吹き飛ばす【術式解体(グラム・デモリッション)】

 

 いずれも、魔法の対抗手段として生み出された技術ではあるが、その本質は魔法の無力化や阻害にあり、干渉することではない。

 

 話を戻そう。

 

 結論としては___【干渉術式はあらゆる事象に結果として干渉し得る】

 

 例を挙げるとするなら今回、呂の左腕を狙撃したターニャの【貫通術式】が適切だろう。

 

 魔法によって銃弾の貫通力を上げるのであれば、弾丸の速度、回転数、強度の増加、または空気抵抗の減少など、様々な細工を施すことが必要になるがその威力は言わずもがな。

 

 しかし、魔法障壁などの強度によっては弾かれる可能性を否定できない。

 

 対して、魔術・魔導ならばただ【進み続けること】を弾丸に定義するだけで良い。

 

 物理的な壁があろうと、魔法障壁があろうと、如何なる障害があろうと、弾丸はただ進み続ける。

 

 様々な要素・事象を組み合わせる事によって目的の結果を引き出す【魔法】がボトムアップ型のシステムと仮定するのなら、結果を定義することで様々な要素・事象が顕現する【魔術】はトップダウン型のシステムと言えるだろう。

 

 原典ここに極まれり__

 

 干渉術式によって再定義された対象は、愚直にその定義内容を執行する。

 

 ただし、対象に対して複数の干渉を同時に行うことはできない。

 

 この世界には【魔法の並行使用(マルチ・キャスト)】なる技術があるが、魔術である干渉術式は対象に一つの定義を付与することしかできない。

 

 【弾丸を加速させ障壁を貫通させる】といった2つの干渉を同時に行うことはできないのだ。

 

 今回、もしもターニャが【弾丸を加速させる】ことで狙撃の威力を高めていたとしたら、呂の障壁によって弾丸が弾かれていた可能性は十分にあった。

 

 旧兵器のライフルで魔法障壁が貫けるわけがない。

 

 そんな慢心にも似た魔法師の矜持なる確固たる自信が、弾丸を回避するという選択肢を呂の脳内から抹消していた。

 

 考えてもみて欲しい。

 

 白兵戦に秀でた魔法師が、たかだか音速を超える程度の銃弾の速度に後れを取るのか?

 

 答えは否である。

 

 知覚外からの狙撃ならまだしも相手は真正面の知覚内。

 

 銃口の向きや呼吸、引き金を引く指のタイミングからなにまで把握していたのだ。

 

 だからこそ、魔法障壁を貫かれたことに驚愕したわけだが。

 

 実際、高速化された魔法戦闘を主としている呂の眼には射出された弾丸の軌跡がしかと捉えられていた。

 

 それが貫通術式の弱点である。

 

 あらゆる弾丸への事象の干渉、つまりは相手の防御を無効化することと引き換えに、弾丸の威力は銃の性能に依存する。

 

 干渉術式はその性質上、一つの定義内容が執行されない限り次の術式を連続行使できない。

 

 つまり、回避されたら終わりである。

 

 それが「魔術なるものは何でもできるほど万能でもなく、近代以降の科学技術の発達と比較して特別有利なわけでもない」と言われる所以の一つでもある。

 

 また、魔術を行使する【魔導師】は絶対数が少なく、いずれも古式魔法の一つとして認識される程度であった。

 

 数年前までは。

 

 ターニャ・デグレチャフは魔術の根幹である干渉術式の起動に必要な魔力に、プシオンと同系統の波動パターンが存在することを発見した。

 

 サイオンと同じく、心霊現象の次元に属する非物質粒子のプシオンは思考や感情の活性化に伴う粒子と考えられているが、はっきりした事実は判明しておらず、プシオンが精神そのものであるという仮説もある。

 

 ただし、ターニャは知っている。

 

 エレニウム九五式。

 

 総称:エレニウム工廠製次期試作演算宝珠を使用後の精神的な疲労度と倦怠感を。

 

 かつての経験から、魔力(ここではプシオンと同義と仮定する)が精神に何らかの影響を及ぼすというのがターニャ・デグレチャフの論である。

 

 演算宝珠の開発により魔導師の適性のあるものは、徐々に干渉術式の体系化を可能としていった。

 

 それが、第二〇三魔法師大隊の隊員である。

 

 現在、急ピッチで【飛行術式】の開発が進められているがこの件についてはまたの機会に。

 

 今回、ターニャが下された任務はエレニウム九七式の実践運用である。

 

 演算宝珠に宝珠核(CADでいう感応積石)を2つ同調搭載した双発型のデバイスは、従来の演算宝珠を圧倒する性能を有している。

 

 既に構想としてエレニウム九五式の図面はあるのだが、ターニャは何時ぞやのマッドサイエンティストの顔が浮かぶ故に、謎の言語を呟きながら図面をシュレッダーにかけようとしては副官のヴィーシャに止められたものだ。

 

 何事にも段階付けは重要なのである。

 

 斯くして、エレニウム九七式の実践運用は成功である。

 

 ただし、ここである問題が発生した。

 

 呂はターニャは神に愛されていると表現したが、こうも言えるだろう。

 

 ターニャは神に哀されていると___お後がよろしいようで

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 さて、仕事(実験)は終了だ。

 

 定時で帰宅したいのは山々なのだが…

 

 私は魔力を演算宝珠に流す。

 

 すると___

 

(っ!!加減を誤ったか。やはり九十五式とは感覚が違う!!)

 

 干渉術式が思うように展開できない。

 

 できてあと一回、不完全な術式といったところか。

 

(マズイな…。宝珠が使用できないとなると私の武装では人喰い虎には歯が立たん。果物ナイフ一本でサファリパークの猛獣エリアに突入した原住民の気分だ…!)

 

 私は動揺を相手に悟られないよう表情筋に力を籠めつつ、互いに硬直状態になるよう仕向ける。

 

(幸い、奴は追撃を警戒して距離をとったままだが…止血をする素振りがないのは困る。このまま両者の体力が落ちると、奴は勝負を決めに距離を詰め寄られかねない!!どうする!!?)

 

 私は氷炎地獄の余波による低体温症の危険性を頭に置きつつ状況を打開するため、行動を起こす。

 

「この銃が気になるかね?人喰い虎」

 

 私が大亜連合の母国語を話したことを、または銃口を外し銃の側面を見せるように銃を掲げたことを意外に思ったのか、奴は驚いたように眼を開いた。

 

「貴様は…一体何者だ?貴様ほどの魔法師を我が国が認知していない筈がない!」

 

 語気は荒げようとも思考は冷静に。

 

 なるほど、さり気なく魔法により止血を行っているあたり、流石は名前付き(ネームド)といったところか。

 

 私は蜘蛛の糸の上を綱渡りするかのように次の言葉を紡ぐ。

 

「例外は何事にも存在するのだよ。君が私のことを知らなかったように。私も君たちの本当の目的など知らないのだから」

 

 私の言葉の意図を把握したのか、今日一番の動揺を見せる。

 

 なるほど。

 

 ネコ科とは案外可愛らしいものなのかもしれない。

 

 …いや、やっぱりないな。

 

 私は得意気にイヤーカフに指を置くと数回カフを叩いて、全て知っているぞ?というジェスチャーを行う。

 

「…まさか、この奇妙な戦況は…貴様の仕業か」

 

「私の部下が世話になったね。謝礼として技術の一端を提供したかったのだが、残念ながら基準を満たした実験体は君だけだったものでね?今回は両者痛み分けということで手打ちにしてもらえると有難い。___お互いに痛い腹は突かれたくないだろう?」

 

 数瞬の静寂の後、奴から闘気が収まるのを感じ取った私は銃の引き金から指を離し、これ以上の戦闘継続を望まない意を伝える。

 

「………貴様、名を何という?」

 

「名前?そうだな____【白銀】とでも呼んでくれ」

 

「白銀___覚えておこう」

 

 自己加速術式を使用したこの場から呂が立ち去る。

 

 しばらくしてから警戒を解いた私は小さく息を吐きだした後、振り返って木々の一点を見つめる。

 

「さて…少尉。何故貴官はここにいるのか、命令違反を覆すだけの言い訳をするか。低体温症寸前の私の肩を支えて合流地点に戻ることで恩を売り、命令違反を不問にするか。貴官はどちらがいい?」

 

「全力で抱っこさせていただきます!!!」

 

 光学迷彩で姿を消していたセレブリャコーフ少尉が姿を表し、素早く私の元に駆け寄る。

 

 可笑しいな。

 

 何故コイツは若干嬉しそうなんだ?

 

 前世での従順で聞き分けのいい貴官はどこへ行ったのだ?

 

 私は彼女の謎の圧力に、一歩分後ずさりながら顔を逸らしつつ片手を差し出す。

 

「…やはり、汎用型CADだけ貸せ。貴官の予備があっただr___」

 

「では行きます!!」

 

 私の発言を揉み消すかのように、私の身体を抱き上げる少尉。

 

 おい。

 

 何故、新郎が新婦を持ち上げるような持ち方なんだ!!

 

 せめて肩を支えるだけにしろ!!

 

 おい、冗談じゃないぞ!!

 

 本当で待て!!

 

「まて、冗談だろ!?降ろせ!降ろせ~!!」

 

 合流地点で私を迎えたのは、微笑ましい目で此方を見つめる隊員の野郎どもと、若干肌の艶々した少尉の再度の熱烈なハグであった。

 

 ああ…私の威厳が…。

 

 私は戦闘で破損したCADの始末書と今回の実験の報告書作成をまとめつつ、空を見上げて一人呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてこうなった…」

 

 

 

 

 

 

 

 




存在I「冷静になって考えてみたら私はこの貴重な休日に何をしているのだろうか?……よし、とりあえず寝よう」

深夜のテンションで書いたので内容がぐちゃぐちゃですがご容赦を。


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episode6.

 

 

 風呂は素晴らしい。

 

 文明が生み出した、いや、大地というリソースから人類が生み出した娯楽の一つといえよう。

 

 両手で椀の形を作り、ゆっくりと鼻先に近づける。

 

 指の間から零れた湯が、心地よい流麗感と共に水面に波紋を生む。

 

 寒空の吐息に中てられた華奢な体躯を隅々まで解す様に、湯気の白さが頬を朱色に染める。

 

 不意にこのまま湯の中に全身を浸からせてみるのも悪くは無い、そんな子供じみた発想をするほどに私の思考は湯の魅力に蕩けきっていた。

 

 ふうぅ…と、小さく息を吐き出すと全身がより脱力し、瞼を開く筋力すら奪われるような錯覚を覚える。

 

 私はそのまま数瞬の時を快楽に委ねた。

 

「___お隣、失礼しますね」

 

 どの程度、瞳を閉じていたのか。

 

 気がつけば、無駄に有能な副官が隣にいた。

 

「珍しいですね。少佐が此方の浴場を使用なさるなんて」

 

 セレブリャコーフ少尉は実に女性らしい仕草でタオルに纏め切れなかった髪を耳に掛ける。

 

 シャンプーにリンスと、髪の手入れを念入りに行っていたのか。

 

 既に彼女の肌には若干の朱が差していた。

 

 普段は拝めない婚約適齢期女性の香気したうなじの何と艶めかしいことか。

 

 だが、悲しいかな。

 

 元は男性だった私も、女性としての一生涯を体験したせいか、女性に対する劣情の類を感じることは疎か、動揺することさえなくなってしまった。

 

 それどころか、女性に対して妙な対抗心を覚えてしまう始末だ。

 

 コレだから理論に感情を交えてしまう女性脳は煩わしいことこの上ない。

 

 余談だが、チラリと見えたヴァイス中尉の腹筋に心臓が若干跳ねた時は自分の心臓に爆炎術式を掛けてやりたくなったほどだ。

 

 …シックスパックだったな………死にたい…。

 

 と、無駄な独白に思考を働かせたお陰で幾分か脳が再起動してきた。

 

「私がいては部下である貴官らは気が休まらないだろう?兵士にとって休息は重要な任務の一環だ」

 

「少佐のお心遣いには感謝の念が堪えません。ですが、もうちょっとだけ隊員との距離を近づけてもよろしいのではないですか?」

 

「本音は?」

 

「少佐がキチンとお肌と髪の手入れを成されているのか心配なのです!」

 

「そんなことだろうとは思ったよ…」

 

「私だけではありません。メアリーだって少佐の髪の手入れをしたいといつもボヤいているのですよ?」

 

「スー二等兵か…。私はどうにも彼女が苦手だ…」

 

「確か少佐が大尉に昇進前、孤立した部隊の救援戦でメアリーのお父君である現場指揮官だったスー大佐に気に入られてからですよね?メアリーに懐かれ始めたのは」

 

「あれは懐いているというのか?どこの部隊に上官に向かって誤射する馬鹿がいる?」

 

「あはは…メアリーってサイオン量も事象干渉力も桁違いなのに、なぜか射撃だけは壊滅的なんですよね」

 

「まあ、魔法障壁の強度と波状攻撃だけならば既に彼女は私を超えているからな。作戦行動中に彼女の誤射で殉職しないよう、精々気を付けるとするさ」

 

「___ところで少佐、私にお話とは?」

 

 彼女が居住まいを正し私を正眼に捉える。

 

 背筋を伸ばしたせいで彼女の凶悪なまでの女の魅力が強調される形になり、私は若干胸の内にどす黒いものを感じたが、既に思考は切り替わっている。

 

「喜ぶといい、セレブリャコーフ少尉。___バカンスだ」

 

「バカンス…!?私と少佐がですか?」

 

「詳細は後日伝えるが、あと一名加えても良いそうだ」

 

「なるほど、それで行き先は?」

 

 私は勢いよく立ち上がりのぼせ始めた瞳で高らかに宣言する。

 

 

 

 

 

 

 ___【日本】だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「お久しぶりです。九島閣下。ご壮健そうでなによりです」

 

『何とも懐かしい顔じゃないか。ゼートゥーア。君とは北方でワインを酌み交わして以来かな?』

 

「憶えていていて下さるとは嬉しい限りですな」

 

『私はうまい酒と有能な人材には目が無くてね。特に、君のような手の読めない戦略家は実に好物だ___して、要件を訊こうか?』

 

「私としても閣下とワインを酌み交わしたいのは山々なのですが、無駄に年を重ねるといらぬ役職まで就かされる。複雑な心境です。そこで今回、我が秘蔵のボトルを閣下に献上させていただきたく思い、こうしてお目通り願った次第です」

 

『ふむ…して、その中身は?』

 

「ターニャ・デグレチャフ」

 

『!?』

 

「近々、飛行魔法の体系化に踏み出すようでしてな」

 

『なるほど、【トーラス・シルバー】への橋渡しか』

 

「此度の共同開発が成功すれば、互いの魔法技術、誣いては軍事力はより強固なものとなるでしょう」

 

『条件はなにかね?』

 

「多くは望みません。ですが、お渡しする秘蔵のボトルを開けることはオススメしかねます。なにしろ___今開けては、せっかくの熟成期間が台無しですからな?」

 

『___いいだろう。私から軍の方に話は通しておくとしよう』

 

「ありがとうございます」

 

『なに、君と私の仲だ。今度は君に日本酒をご馳走するとしよう』

 

「楽しみにしております」

 

 

 

 

 

 

 

 レルゲン中佐の筆文書より抜粋____




新年あけましておめでとう。

どうも、ターニャ・デクレチャフであります。

存在Iの変わりに近況報告を少々。
先日、劇場版幼女戦記を鑑賞してきたが素晴らしい出来だったと言わざるを得ない。

緻密な設定に壮大な音楽。

そして、戦争の狂気に飲まれた登場人物達の勇敢な姿。

そして___メアリー・スー

おっと、これ以上は無粋だな。

精々、私は存在Iが興行収入の贄となるよう手を尽くすとしよう。

それではまた戦場で




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episode7.

 

 

 

 

「あああああああああああああああああああああああ!!!!死ぬううううううううううウウウウウウウウウウウ!!!!」

 

『踏ん張れグランツ!!あと少しで6000mだ!!死ぬ気で飛べ!!』

 

「嫌です!!!俺は!!死ぬのならせめて地上がいい!!」

 

『大丈夫だグランツ!!___死ぬときは一緒に【墜落死】だ』

 

「嫌だあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

俺の名前はヴォーレン・グランツ。

 

階級は少尉で、どういうわけか軍内有数のブラックな部隊、第二〇三魔法師大隊に所属している軍人だ。

 

大隊長ターニャ・デグレチャフ少佐は若干9歳で銀翼突撃章などの様々な功績を誇る当に軍人の鏡であり、隊員の中に大隊長殿の実力を疑う者など一人もいない。

 

そう、疑うことなど許されない。

 

それは死よりも過酷な目に遭うことと同義だからだ。

 

その証拠に、あの天使みたいな見た目からは想像もつかないような命令を幾度となくされてきた。

 

ある日は、三日三晩砲弾が降り注ぐ中、スコップ片手に必死で簡易的な塹壕を掘り、その中で寒さに凍えながら身を縮こませて震えながら耐え抜いた、陣地防衛訓練。

 

雪山を軍用犬に追い回された挙句、雪崩に巻き込まれて一瞬幽体離脱した、長距離移動訓練。

 

屋外でいきなり衣類を剥がれ、耐えがたい苦痛に晒された、対拷問訓練。

 

因みに俺はベッドの下に隠してたお宝を大隊長にゴミを見る目で一字一句違わず朗読された…。

 

そんな数々の試練を潜り抜けてきた俺達は最早、ちょっとやそっとのことでは動揺することのない、鋼の精神を身に着けていた。

 

しかし、しかしだ。

 

どんな人間にも弱点は存在する。

 

冒頭の情けない声で分かるだろ。

 

そう、俺は____高いところがダメなんだ!!

 

 

 

 

 

ここまでに至った経緯を簡単に説明する。

 

先ず、大隊長殿に俺と次席指揮官のヴァイス中尉が呼ばれて技術開発局に足を運んだ。

 

そこでよく分からないまま、全身にハーネスを付けられ、右足に謎のブーツを嵌められ、これまた謎の箱のような物を抱えさせられ、貨物輸送用のジェット機に乗せられた。

 

ジェット機に乗って数分後、突然緊急脱出口が開いて機内から突き落とされた。

 

落下し始めて数秒後、装着していたイヤーカフから大隊長より指令が下る。

 

『喜ぶといい。貴官ら二名は【飛行術式】のテスターとして選ばれた者達だ。優秀な貴官らの実力であれば術式の展開は造作もないことだろう?ただ、どうにも地上でのテストだと性能の限界値を図りかねる。そこでだ、貴官らにはこれより高度6000mまで上昇したのち、極めて実践的な高度順応訓練を行ってもらう。ああ、心配するな。事前に私が1万メートルまで行ってみたが何も問題は無____ああ…私としたことが大事なことを伝え忘れていた。【パラシュートは予算の都合上装備できなかったため飛ばなければ死ぬ】以上だ。死にたくなければ、精々死ぬ気で飛ぶと良い』

 

 

 

 

 

ふざけんなって思った。

 

幸いにも魔力を通せば飛行術式は問題なく作動したようで、気がつけば俺は宙に浮いていた。

 

俺は世界で初めて、いや大隊長の次だから二番目に飛行魔法を使用した人物になったわけだ。

 

間違いなく、魔法師の歴史を変える出来事。

 

でもな____今はそんなことどうでもいい!!!

 

正直に言って高度6000mまで飛ぶ前に意識が飛ぶ。

 

換えのパンツ用意してないのにどうしてくれんだよ。

 

股間がフワっとなる感覚に色々な箇所を縮ませながら、一刻も早く地上に戻ろうと、命令を無視してゆっくり降下していく俺。

 

遠くの方でヴァイス中尉が必死に何かジェスチャーで伝えようとしているが、それを読み取る余裕は今の俺にはなかった。

 

だからこそ気付くのが遅れた。

 

金色の妖精が____死神のような笑みを浮かべながら上昇してきていることに

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「___以上、隊員による試験飛行の結果からも高度6000mで3h以上の作戦遂行が可能になり、我が隊の機動性は飛躍的に上昇すると愚考致します」

 

「…いや、驚いたよ。デグレチャフ少佐。貴官に飛行術式の開発を指示して一年足らずでここまでの成果を出すとは…流石としか言いようがない」

 

「身に余るお言葉、光栄にございます。レルゲン中佐。全ては今回の開発案をゼートゥーア閣下に具申してくださった中佐殿のお陰であります」

 

「一つ気になるのだが…テスターの一人が病院送りになったとの報告を受けているのだが?」

 

「その一人は高所恐怖症でして…何度も止めたのですが、初の飛行術式の運用を前に気が動転し過失していたのやもしれません。ですが、ご安心を。作戦運用に支障が出ないよう、念入りに教育しておきますので」

 

「そ、そうか。ほどほどにしてやれ?」

 

「了解致しました」

 

「___ただ、それ故に此度の日本との共同開発にはリスクが伴う」

 

「なにしろ、BS魔法師の私が先天的に飛行術式を享受しており、それを現代魔法における魔法式として【ターニャ・デグレチャフ】が解読・変換する。それを元に、かの有名な【トーラス・シルバー】が起動式、魔法式の最適化を行い、魔法師による飛行術式の体系化を実現する___そのような筋書きですからね」

 

「各国がこぞって技術奪取に走ることが目に見える…」

 

「が、争いのフィールドは日本。その間に祖国はより力を蓄えることができる」

 

「戦乱の只中に在る貴官の提言だ。無粋なことは言うまい。ただ、これだけは訊いておく。デグレチャフ少佐。___貴官は日本で何をするつもりだ?」

 

目の前の幼女は蕾の綻ぶように可憐な幸せそうな笑顔でこう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神様を殺したい___なんて言ったら嗤いますか?」

 

 

 

 

 




沢山のお気に入り登録・評価ありがとうございます。

感想のほうもお気軽に書いていただけるとありがたいです。

誤字脱字のご報告、誠にありがとうございます。

次回の更新も頑張ります。

それではまた戦場で


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episode8.

 

 

 

 

 

 考えていたことがある。

 

 嘗て私は、存在Xによる理不尽な転生の結果、ターニャ・デグレチャフという女児として帝国という軍事国家の檻に囚われていた。

 

 孤児としてその世界に生を受けた私が日々の生活を繋ぐには、軍に志願するという道以外、他になかった。

 

 魔導士としての才能を認められた私は士官学校を首席で合格し、紆余曲折あり予てより希望していた安全で快適な後方勤務とは程遠い最前線で身を粉にして奮戦する破目になったことは記憶に新しい。

 

 全てはあの忌々しい存在Xによるものだ。

 

 どれだけ私が世界の為に尽力しようと、世界は私の存在を否定するかのように動き続ける。

 

 だが、何も悪い記憶だけではない。

 

 最期の時まで、軽口を叩きながらも私に付いてきてくれた戦友たちには少なからず感謝している。

 

 叶うなら、もう一度彼らに背中を預けて闘いたい…そう想わせるほどには。

 

 だからこそ、この世界で彼らと再会した際には自分の眼を疑った。

 

 私は夢でも見ているのかと。

 

 無駄に優秀な副官にマニュアルバカと部下達。

 

 嘗て私が命を奪い、私を殺しうる力を持った軍人の娘である復讐者。

 

 マッドサイエンティストに勝利に飢えた老害共。

 

 私を取り巻く世界の差異はほんの微々たるもので、それは私に安堵と同時に恐怖を植え付ける引き金となった。

 

 どうしようもない予感があった。

 

 私はまた繰り返す。

 

 私が私である限り、この地獄は終わらない。

 

 逃げて逃げて逃げてにげてにげてにげてにげてにげてニゲテニゲテニゲテニゲテ___

 

 私はいつか神に死を乞い願うのだろう。

 

 神を信じて疑わない敬虔な信徒として神の御許に抱かれるのだろう。

 

 幸せそうに。

 

 心の底から微笑んで。

 

 両の手を優しく組合せ。

 

 嬉し涙を溢しながら。

 

 神に祈りを___

 

 

 

 

 

 

  

  冗談ではない!!

 

 

 アレに祈りを捧げるだと?

 

 奴に私が与えるとするならば、それは【死】以外あり得ない。

 

 奴の眉間に銃口を突きつけ、恐怖の感情に飲まれながら許しを請い、なんの意味もなく羽虫のように撃ち殺す…ああ!!考えただけでも達してしまいそうだ!!

 

 私は、お前を殺すぞ。

 

 存在X。

 

 次にお前と逢えるのが楽しみでならない。

 

 ああ、早く_____

 

 

 

 

 

 

 

  ____お前を殺したい

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

~FLT本社 CAD開発第三課~

 

 

 季節は秋。

 

 残暑、などという概念は最早なく、冬の足音は確実に数を増していた。

 

 土曜日、中学の授業は午前中で終了し、深雪を自宅に送り届けた後、俺はその足でFLTを訪れていた。

 

 納品の期日が迫っている依頼が数件あったため、それを消化するためいつも通り無心でキーボードを叩いていた。

 

 作業を開始して数時間経ったのち、休憩がてら珈琲を飲もうと個室を出ると廊下で、開発室の責任者である牛山さんに呼び止められる。

 

「御曹司。ちょっといいですかい?」

 

「牛山さん、どうかされましたか?」

 

「社長から例の件はもう伺ってますかね?」

 

「親父から?いえ、発注依頼の確認以外では何も」

 

「そうですか…。いやね、妙にぶっ飛んだ内容のメールが届いたもんで」

 

「どちらからでしょう?」

 

「【国防軍】からです」

 

「…伺いましょう」

 

 彼の端末には秘匿回線で何重にもセキュリティを施されたファイルが送付されていた。

 

(これは…やはり藤林少尉からか。いや、それにしても…)

 

「飛行術式の開発…ですか」

 

「まさかウチのどいつかが外部に漏らしたんじゃ…!」

 

「いえ、俺の方から懇意にしている軍の関係者には伝えてあるのでその心配はしなくとも問題ありません。問題は…」

 

(その軍の方に情報漏洩の可能性があるということ。真田大尉がここまでの事をしでかすというのは考え辛い…。風間少佐も同様だ。…だとすれば)

 

「おっ、開きやしたぜ御曹司………って、コイツはっ!!?」

 

「……驚きました。まさか自分よりも早く今回の件に結論を導き出しているとは__」

 

 俺は開示された文面を読み、送付された資料に目を通すと、自然と上がる口角を意識しつつ発案者の名前を唱えた。

 

 

「ターニャ・デグレチャフ氏。貴女でしたか」

 

 

 

 

 

 因果の交差路は、もうすぐそこまで近づいていた

 

 

 

 

 

 




悦ぶと良い、読者諸君。

存在Iは高熱のため力尽きたようだ。

実に滑稽だな。

…まあ、諸君らも体調には気を付けるんだな。

それではまた戦場で


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episode9.

 

 

 

 

 

 

「___ヴィーシャ、起きて下さい。着きましたよ」

 

「ん……ふああぁ………むー…?」

 

「ん~~~!!可愛すぎますターn…ヴィーシャたん!!」

 

「むぎゅ!?」

 

 起きたらスー二等兵にチョークスリーパー(ただハグされただけ)を掛けられた、解せぬ。

 

 それにしてもセレブリャコーフ少尉?

 

 私のことをヴィーシャと呼んだか?

 

 寝ぼけているのか貴様、私は………あ~、なるほど、そうだったな…。

 

 私はスー二等兵の拘束から縄抜けのように逃れると、機内の窓から外の景色を覗き込み、努めて9歳児らしい口調でセレブリャコーフ少尉に訊ねた。

 

「お姉ちゃん、ここが日本なの?全然雪が無いんだね」

 

 私の演技に露骨に頬をひきつらせたセレブリャコーフ少尉は必死に平静を装って私の質問に答え始める。

 

「寒冷化の影響で気候が変わっても、日本は四季の豊かな国ですからね。今は…晩秋頃でしょうか」

 

「ばんしゅう?Aventure(アバンチュール)?冒険でもするの?」

 

「うふふ。そうかもしれませんね。日本でヴィーシャにとって大切な人ができるやもしれません」

 

「大切な人?」

 

 コテンと首を傾げて9歳児らしさを全力でアピール。

 

 …心なしか私が演技をするたびにセレブリャコーフ少尉の顔がだんだん青白くなっている気がするのだが気のせいだろうか?

 

 今からでも修正すべきかと思案していると、スー二等兵が口を挟んでくる。

 

「だ、ダメです!!ヴィーシャたんは私と結婚するんです!!他の男には渡しません!!」

 

「お前は黙っていろ」

 

「ヴィーシャたんが辛辣すぎる!?」

 

 いかん、いかん。

 

 つい何時もの口調で話してしまった。

 

 だが、本音なのだから仕方がない。

 

「ダメですよヴィーシャ。女の子がそんな言葉遣いをしては。女の子はお淑やかでなくてはね。メアリー、貴女もですよ?ここが公共の場であることを自覚してください」

 

「はい…ごめんなさい」

 

 割と本気で反省してるスー二等兵。

 

 だが悪い。

 

 いい気味だとしか思えない、許せ。

 

 そんなコントのような三文芝居をしていると一人の女性がセレブリャコーフ少尉に声を掛けた。

 

「日本へようこそ、デグレチャフ氏。私たちは貴女方を歓迎します。日本国でのエスコートを仰せつかりました。藤林響子と申します」

 

「ご丁寧にどうも。私はターニャ・デグレチャフの通訳として同行しております。ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフと申します。長いのでヴィーシャと呼んでください。こちらは侍女件護衛のメアリー・スーです。この度はお世話になります」

 

「い、いえ。こちらこそ」

 

「?どうかなさいましたか?」

 

「通訳の方が同行なさるとは伺っておりましたが、てっきりメアリーさんの方かと…申し訳ありません」

 

 藤林殿が驚くのは無理もない。

 

 何せ通訳だと豪語しているのは外ならぬ私、ターニャ・デグレチャフ。

 

 若干9歳の幼女なのだから。

 

「ああ、そういうことですか。慣れているのでお気になさらず。メアリーも日本語は理解できますが円滑なコミュニケーションを取るにはまだ支障がありますので。片言で宜しければ問題はないのですが…」

 

 言外に話は私を通せと伝える。

 

 彼女は私の意を組んでくれたようで、その後の細やかな伝達事項の確認もスムーズに行われた。

 

「___了解いたしました。今後はヴィーシャさんを通してデグレチャフ氏への連絡をお願いしたいのですがよろしいですか?」

 

「はい。お手数をお掛けして申し訳ありません。今後ともよろしくお願いいたします」

 

「こちらこそ」

 

 藤林殿が握手を求めてきた。

 

「『ターニャ、握手をお願い』」

 

 セレブリャコーフ少尉が私の指示の通り藤林殿の手を取る。

 

「ヨロシク」

 

「はい。精一杯務めさせていただきます」

 

 ファーストコンタクトは成功。

 

 その後は軍の所有するホテルに案内され、今後のスケジュールや警備など諸々の説明を受けたのち眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

~日本軍 陸軍一〇一旅団 独立魔装大隊 駐屯地某所~

 

 

 

 

 

 

「藤林少尉。貴官から見て彼女たちの様子に不審な点はあったかね?」

 

 陸軍一〇一旅団・独立魔装大隊隊長 風間 玄信少佐が会議の口火を切る。

 

 モニターには機内でのターニャ達の会話や様子が映し出されていた。

 

「いえ、マナーも行き届いており、所作からもそれぞれが良心を持った人格者であることは窺えました。強いて言うならば…ヴィーシャさんがあまりにも幼かったことですかね」

 

「とは言っても、達也君を見てきている僕らからすれば彼女の理路整然とした口調は想定の範囲内で収まるんじゃないかな?」

 

「真田大尉。私は一般論で語っているのですが?大体、達也君の方が異常なんですから、彼を比較対象とするのは止めてください」

 

「それは失礼。藤林君にとって達也君は特別と___」

 

「セクハラで訴えますよ?」

 

「柳君はどう思う?」

 

 真田大尉が藤林からの糾弾から逃れるように、柳 連大尉に話を振る。

 

「…あの9歳児を含めて全員、足音を出さないように歩行している。それだけで、ただの一般人でないことは容易に想像がつく」

 

「なるほどね」

 

 体術と魔法の連動によって、組手では達也と互角の実力を持つ柳は、彼らしい身体的視点をもって自身の考察を述べた。

 

「ターニャ・デグレチャフは影武者である可能性が高い」

 

「確かに、彼女は軍に所属しているとはいえ、戦場の舞台は机上の端末の筈。純理論畑の箱入り娘にあそこまでの体捌きができるとは、到底思えないね」

 

「あくまで彼女の公開されているパーソナルデータを信用するなら…ですけどね。___如何されますか、風間少佐?」

 

「今回の飛行術式の共同開発は、新ソ連との友好関係の締結を期待されている。あちらが本人だと言っているのであれば、我々はそれに対して首を縦に振ればいい。ただし、魔法技術の奪取が目的であるのなら話は別だ。諜報員である可能性は最大限考慮して事に当たるべきだろう」

 

「了解いたしました」

 

 

 

 

 

  ___藤林少尉のボイスレコーダーより抜粋

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「____うっ!!」

 

 キリキリと胃が捻じれる様な痛みが腹部を貫く。

 

 最近、増加してきた胃薬の消費量に辟易しながら、眼鏡の位置を元に戻す。

 

 昨日、何か傷んだものでも口にしたか?と思えていた頃が懐かしい限りだ。

 

 例の問題児は既に日本に到着した頃だろうか?

 

 もうそのまま二度と帰ってくるなという思いと、頼むから何も問題を起こさずに帰って来てくれという思いが綯交ぜになり、意味の分からない不安感に吐き気すら催してきた。

 

 彼女から『日本に行きたい』という希望を聞いた時、私は自分の耳を疑った。

 

 あの狂気的なまでの愛国者がそのようなことを口にするとは思えなかった。

 

 まるで幼い子供のように、我儘を言うかのように。

 

 いや、確かに彼女は幼いが…。

 

 まさか!?_(コンプライアンス)_か!?

 

 …どれだけ考えようと、私には彼女の真意を知ることは敵わぬのだろう。

 

 思えば、私は彼女のことを書類上でしか知らない。

 

 孤児という境遇からその才気のみで這い上がり、銀翼突撃賞を持つ天才魔工技師。

 

 我々に戦争の勝ち方を説いた、幼女の皮を被った化け物___

 

 分からない。

 

 分からないが、可笑しいな。

 

 私は、ここにはいない私ではない私は、彼女のことを知っている。

 

 そんな気がする…。

 

「ハッ…馬鹿馬鹿しい」

 

 思考は常に理論的かつ合理的に。

 

 それが正しい軍人の在り方だろう。

 

 私は懐から煙草を取り出し火をつける。

 

 久方ぶりに肺を満たした紫煙はどこか懐かしい香りと共に宙を揺蕩った

 

 

 

 

 

 




(コンプライアンス)

劇場版を見に行けば分かる

それではまた戦場で


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episode10.

*閲覧注意* 以下にはメタ(re



ヴァイス中尉「総員、傾注!!大隊長より、訓示!!」

デグレチャフ少佐「諸君、由々しき事態だ。本作【魔法科高校の無信仰者】のお気に入り登録数が1000人を突破した」

グランツ少尉「1000人!?そんな馬鹿な!!」

モブA「4.5日前まで300人足らずだったというのに!!」

モブB「敵の陽動作戦では?誤報の可能性は!?」

デグレチャフ少佐「残念ながら、優秀な観測士からの入電だ。誤報の可能性は低いだろう」

グランツ少尉「クソッ!!何故このような事態に…!」

デグレチャフ少佐「気持ちは分かるが落ち着け、グランツ少尉。冷静さを欠けば敵の思う壺だ。奴らは待っているのだよ。我らが穴倉から出てくる、その時をな」

グランツ少尉「しかし大隊長殿!!このままでは調子に乗った作者が今後、とんでもない駄作に走るやもしれません!!」

モブA「そもそも、閲覧数が伸び始めたのが我らの戦闘シーンではなく大隊長殿の入浴シーンというのが可笑しな話なのです!!」

モブB「その通りです、大隊長殿!どうせならもっとセレブリャコーフ少尉の入浴の様子を詳細にリポートしていただかなければ!!」

モブC「何でいつもヴィーシャだけ!?私を誘ってくださらないとはどういう了見ですか大隊長殿!!私、ずっと大隊長殿のお部屋のお風呂で待ってたんですよ!お陰でのぼせて、身体を冷やしたら湯冷めして風邪気味です!責任とって私に添い寝しながら看病してください!」

デグレチャフ少佐「セレブリャコーフ少尉。そこのストーカー痴女を摘まみだせ」

セレブリャコーフ少尉「はっ!!」

デグレチャフ少佐「諸君らの意見はよく分かった。諸君らの言う通り、作者を調子に乗らせぬよう、今の内に奴の性根を完膚なきまでに叩いておく必要がある。___我々の行動は全世界に覗き見られている!その軍服に刻まれた祖国の意思に今一度の忠義を捧げよ!ペンを手に取れ!間食のチョコレートを切らすな!!活字に飢えた物語の亡者共に、創作の愉悦というものを叩きこんでやれ!!!」

隊員一同「「「「「ハッッッ!!!」」」」」





ターニャ・デグレチャフ「待たせたな、兵士諸君____【読書】の時間だ!」





存在I「どうしてこうなった…」





 

 

 

 

 

 

「お兄様、お帰りなさいませ」

 

「ああ、ただいま。深雪。戸締りはちゃんとしていたか?」

 

「もう!お兄様は私を子供扱いし過ぎです!」

 

「すまない。だが法律上、俺たちはまだ義務教育を終えていない子供だからな」

 

「その子供を放任しているあの人たちに比べればお兄様はずっと大人です。高校に通い始めれば今の環境も変わります。そうすれば、お兄様を煩わせる人たちも…!」

 

「深雪」

 

「…すみません。直ぐにお夕飯のご用意をしますね」

 

「手伝うよ。この食器をテーブルに配膳すればいいかな?」

 

「そんな、お兄様の手を煩わせるなんてこと…!」

 

「俺がそうしたいんだ。深雪、俺に手伝わせてくれないか?」

 

「………お兄様はズルいです…」

 

「人が悪いからな」

 

「ふふふ…【悪い人】ではありませんでしたか?」

 

「ふっ…そうだな」

 

「それではお言葉に甘えて___」

 

 

 

 

 

 

_________________________

 

 

 

 

 

 

 夕食を終えて暫く深雪と談笑していた俺は、スクリーンに例のメールを映し出し、事の顛末を説明した。

 

「飛行術式…ですか?」

 

「ああ、以前から構想は練っていて、漸く開発に着手しようと考えていた矢先にこの依頼が来た」

 

「国防軍からの依頼ということは、国は今回の件を公にするということなのでしょうか?」

 

 深雪は整った眉を顰めながら、俺が国交問題に対する道化を演じさせられる事態を懸念したのか、幾分か機嫌を損ねた声音で問う。

 

「勿論、今回の件を公にすれば新ソ連との友好関係を結びたがっている連中にとって、これほど美味しい話はないだろう。世論だってその方向に靡く筈。だが、心配はいらない。今回道化を演じるのは、この開発案を提案した方らしい」

 

 コントロールパネルを操作しスクリーンの画面をスクロールする。

 

「ターニャ・デグレチャフ___エレクトロニクスを併用した魔法開発の技術的権威だ」

 

「ターニャ・デグレチャフとは…あの【ポケット・マギクス】の開発者ですか?」

 

「そうだね。ターニャ・デグレチャフの研究理念はいつでも【公平である】ことにある。嘗て市民平等を謳った社会主義を皮肉った演説は、今でも有名だ」

 

 プロフィール画面に添えられたデータを目で追っていた深雪は、あるフレーズに目が止まったように、パネルに置いていた指を離した。

 

「『嘗て人類はみな等しく魔法師だった。だからこそ平等という概念は私たちから等しく魔法を奪っていった』…。魔法を使用できない方が自衛のために一次的に魔法を使用できるようにする…。デグレチャフ氏の研究は、自身の思いに反しているように私には感じられるのですが?」

 

「俺は社会主義を皮肉った彼女の背景には、共産主義に対する強い嫌悪があるように思える。しかしそれは同時に、資本主義への陶酔を意味することではない。それが【公平である】という彼女の研究理念に則った成果なのだと俺は思う」

 

「人の心は儘ならない…ということでしょうか?」

 

「そうかもしれないね」

 

 俺に人並みの心があれば理解できたのかもしれない。

 

 ただ、その言葉を口にはできない。

 

 それはただの他人に傷を舐めさせる行為だ。

 

 俺はそれを望まない。

 

「案外、ターニャ・デグレチャフという女性は面倒な性格をしているのかもな?」

 

「お兄様?この世に面倒でない女性などいませんよ?」

 

「…そうだな」

 

「今、私を見ませんでしたか?」

 

「見てない」

 

「本当に?」

 

「本当だ」

 

「見て下さい、許しませんよ?」

 

「どうしろと言うんだ?」

 

 深雪は悪戯が成功したというような無防備な笑顔を振りまいて俺の手をとった。

 

「お兄様。私は…深雪だけは、何があってもお兄様の味方です。私のことを煩わしく思われても、私は気にしま___いえ、気にします。すごく悲しんで、いっぱい泣くと思います。それでも…深雪はお兄様に付いていきます。なぜなら深雪は、お兄様よりも素敵な方を知らないのですから。___今回の研究が成功することを心よりお祈りしております」

 

「ありがとう、深雪」

 

 俺は深雪には敵わない。

 

 改めてそう思わされた。

 

 今回深雪に共同開発の件を伝えたのは相談ではなく、事後承諾という面が大きい。

 

 俺の目的を成就させるのなら、今回の件は渡りに舟だ。

 

 研究の成果を出すのは早いに越したことは無い。

 

 しかし、それが深雪に害を与えるものなのだとすれば、俺はそのこと如くを消し去るだろう。

 

 繋がれた手に少しだげ力を籠める。

 

(だが、今だけは…)

 

 この平和な日常に、もう少しだけ浸かっていたい。

 

 互いの熱を伝え合うかのように俺たちはそっと肩を寄せ合った。

 

 

 

 

 

 




存在Iは何を考えているのだ?

前書きで完全に息切れを起こしているではないか?

まあ、たまには私も非番を貰わねばな。

貴重な休日だ。

大いに羽をのばそうではないか。

それではまた戦場で


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episode11.

 

 

 

 

 円を描くようにグラスを揺らす。

 

 グラスの内面に薄く惹かれた葡萄の紅は、芳醇な香りを迸らせながら、ワイナリーで眠ってきた歴史の深さを重層的に表現する。

 

 グラスに口を付け、ワインを少量舌に落とせば言いようのない幸福感と共に日々の疲労を泡沫の夜へと誘ってくれる。

 

「___美味いな」

 

「珍しいな、ゼートゥーア。お前がこの程度の酒に感想を述べるとは」

 

 新ソ連軍参謀本部所属 作戦参謀次長 クルト・フォン・ルーデルドルフ准将は、男盛りの精悍な軍人らしい豪快さで、注がれたワインを一度に煽る。

 

「酒の価値など些末なことだ。特に、今日のような気分のいい日に美味いと思える酒を飲めるのなら、これ以上のものはない」

 

「ふん。孫娘の晴れ舞台とあっては、流石のお前も人の子に戻るか」

 

「私は人間を辞めたつもりはないがね?」

 

「どの口がいうのか…」

 

 空いたグラスに互いにワインを注いでいく。

 

 栓を三本ほど抜いたところであろうか、ルーデルドルフが話の流れを変える。

 

「___そろそろ動く頃合いか?」

 

 それを聞いたゼートゥーアは、未だ飲み切っていないグラスにワインを少しずつ注いでいく。

 

「右から左。左から右へ。いくら軍の予算案が年々通り易くなっているとはいえ、あの程度では焼け石に水も同然。今回実施した商人の真似事にしては思った以上の収穫だな」

 

「アンティ・ナイトを他国に渡すと聞いた時は肝を冷やしたが、これを読んでいたというのなら、私はやはりお前を人外と表す他ないな」

 

「我が国の魔法技術はエレクトロニクスを併用しているが故の弊害に悩まされる。それを、ただ石を左右に転がすだけで解消できるというのは何とも痛快なことだ。___だが、最後は我々の手の内に収まっていなければ話にならん」

 

 注がれたワインが表面張力を突き破り、テーブルに朱い鏡を広げる。

 

「美味い酒、ではなかったのか?」

 

 ルーデルドルフの問いかけに、ゼートゥーアの笑みが深まる。

 

「美味いとも___作戦成功の報が届く時、それは何より甘美だろう?」

 

 勝利の美酒は、勝者にのみ、その杯を渡される。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

『___以上を持ちまして、入学式の全プログラムを終了いたします。来賓の方々がご退席されるまで、生徒の皆さんは____』

 

 入学式が終了し、しばらく座席で待機していると、緊張の解かれた雰囲気に中てられた生徒は各々に先ほど紹介された、異国の魔法師のことについて口走っていた。

 

「なあなあ、あの通訳の子可愛くないか?つーか何歳だよ。俺の妹より小さかったぞ?」

 

「お前いつから幼女趣味になったんだよ?俺は断然デグレチャフ先生派だね。大人の魅力が溢れんばかりのあの美貌、最高!」

 

「デグレチャフ先生って軍の所属なんだよね?」

 

「そうそう。最初の自己紹介の時、本物の軍人さんみたいな口調だったから驚いたけど、通訳の子のジョークだって分かってからは、とっても柔らかい口調になったもんね。…私もいつかあんな風になれるかな?」

 

「んー…アンタはどっちかって言うと通訳の子の方じゃない?」

 

「まな板ですいませんでしたね!」

 

 それぞれ、学生らしい意見が飛び交う中、俺の隣に座っていた少女。

 

 千葉エリカと柴田美月は神妙な顔で、二人の去っていった舞台袖を注視していた。

 

「二人とも?どうかしたのか?」

 

 俺の問いかけにエリカは頤に触れていた指を離しながら口を開く。

 

「達也君気付いた?あの通訳の子、相当やるよ?」

 

「そうだな。あの年齢で日本語をアレだけ話せるんだ。他に数か国の言語を操っていても不思議は無い。俗に言う、天才というやつなのだろう」

 

「…本気で言ってる?」

 

「…初対面なんだ。相手を疑うなとは言わないが敵意は隠しておいた方がいい。ここは日本だ。彼女たちにどんな力があろうと、それを無秩序に振るえば即国際問題に発展する。それを向こうが分かっていない筈がない。そうだろ?」

 

「………そうだね。ごめん、ちょっと熱くなってた」

 

「気にするな、とは言わないでおく」

 

「それはそうと…美月?どうかした?」

 

「____」

 

「美月?おーい?」

 

「__あ、エリカちゃん?な、何?」

 

「何って、それはこっちのセリフだよ。いきなりぼーとしてどうしたの?人にでも酔った?」

 

「ううん、大丈夫。ちょっと寝不足なだけだから…」

 

「あ、もしかして美月って、次の日に遠足とかあると楽しみで眠れない派でしょ?小学生の時いたなあ。バスで紅葉を観に行ったのに、結局バスで寝過ごしちゃってた子」

 

「ち、違うよぅ。私そんなにドジじゃあ…」

 

「大丈夫大丈夫。ドジっ子は立派なステータス。女の子の魅力なんだから!ね?達也君?」

 

「入学式当日に端末を持って来ずに道に迷っていたエリカも大概だがな」

 

「__達也くーん?」

 

「おっと、出られるようだぞ?行こうか」

 

「ちょっと待ちなさいよ!今のどういう意味!?」

 

「エ、エリカちゃん…!もうちょっと声抑えて」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お疲れさまでした。デグレチャフ先生。セレブリャコーフ先生。この後は、各教室で簡単な挨拶を予定しております。それまでは、応接室でご休息ください』

 

『ありがとうございます。Mr.ツヅラ。それと、この子のことはどうかヴィーシャと呼んであげてください。教員免許を持っているとはいえまだ10歳にも満たない子供なので』

 

『む。おねーちゃ…デグレチャフ先生?私も立派な教師です。子供扱いは止めて下さい』

 

『そのようなボロが出るようではまだまだ子供ですよ?すみませんMr.ツヅラ。私ともどもご迷惑をお掛けします』

 

『いえいえ。デグレチャフ先生のような偉大な研究者にお会いできて、僕も誠に光栄です。生まれた国は違っても、魔法で世界を良くしたいという気持ちは僕も同じです。未来を担う本校の生徒たちのことを、どうかよろしくお願いいたします。勿論、セレブリャコーフ先生…いや、ヴィーシャ先生も』

 

『こちらこそ、精一杯務めさせていただきます』

 

『一年で生徒全員にロシア語を完璧にマスターさせてみせます!』

 

『ふふ。それでは、時間になりましたらお呼び致しますので、どうぞごゆっくり』

 

 Mr.ツヅラが退室したの見計らって、魔法により防音空間を作ったセレブリャコーフ少尉は、物凄い勢いで私に頭を下げてきた。

 

「し、失礼致しました!!デグレチャフ少佐!!演技とはいえ人前で大隊長殿の頭を撫でるなど…!」

 

「………ふん。確かに不愉快極まりないがこれも仕事だ。多少のボディタッチ程度であれば私は気にせん」

 

「寛大なお心に感謝いたします…!」

 

「問題はあの暴走娘の方だがな…」

 

「メアリー、入学式の際には大人しくしていましたが、教室で会った時が不安ですね…」

 

「まあ、アイツの演技には期待してはおらんからな。返って素の方がいいのかもしれん」

 

「…機密情報をペラペラと喋ったりしませんよね?」

 

「その時は奴の口にカイエンペッパーをぶち込んでやる」

 

「私も気を付けます」

 

「___さて、セレブリャコーフ少尉。魔法大学付属 第一高校への潜入は滞りなく成功した」

 

「めちゃくちゃ目立ってましたけどね…」

 

「猜疑心に冒された眼はそのままアリバイの実証に繋がる。此方から事を起こさん限り問題はない。だが、心しておけ?相手はあの【十師族】だぞ」

 

「バカンス…ではなかったのですか?」

 

「うるさい。それは京都で済ませただろう?」

 

「紅葉も全部散ってましたけどね…」

 

「京料理を片っ端から食い散らかしていたのは何処のどいつだ?…休暇が終わればまた仕事だ。給料分の仕事はせねばなるまい」

 

「…了解しました。___それでは今週末は三人でお花見に行きましょう。親睦を深めるのもお仕事ですよ?ヴィーシャ先生?」

 

「…ふん。___貴女も言うようになりましたね?デグレチャフ先生?」

 

 その後、私たちはそれぞれの教室をまわり挨拶をして回った。

 

 その際、案の定、暴走娘がやらかしたが大したことはなく、挨拶は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 取り敢えず、その日の暴走娘の夕食は『ナカモトのラーメン』になったとだけ言っておく。

 

 

 

 

 




ふう…これに懲りて暫くは存在Iもあのような前書きは書くまい。

ふっ、いい気味だ。

漸くタイトル通りの展開になってきたな?

期待せずに次回を待つと良い。

それではまた戦場で


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episode12.

 

 

 

 

 速く、速く、速く、速く!

 

 逸る鼓動と反比例するかのように、網膜が切り取る世界は異なる時間軸を生み出す。

 

 インカムによって塞がれた耳が、籠った風の音と背後から光の線となって襲い掛かる銃声を捉える。

 

 そんな戦場には似つかわしくないクリアな音源が数瞬のノイズの後に流れる。

 

『___こちらマスター・コントロール。セイバー1、状況報告』

 

「こちらセイバー1…!隊員5名撃墜、負傷者2名、予備弾薬に不安アリ。これ以上の戦闘は…」

 

『戦線後退は許容できない。各自遅滞戦闘を心掛けよ』

 

「くそ!!」

 

「ヴァイス中尉!俺が囮になります!!その間に体勢を!!」

 

「馬鹿を言うなグランツ!弾切れでどうするつもりだ!黙って後退していろ!」

 

「ですが!このままでは…」

 

「今は耐えろ。必ず…活路はある…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「___そうだ、それでいい」

 

 

 

 

 

「っ!?中尉___」

 

 突如飛来した散弾銃の雨に、グランツともう一名の隊員の反応が消失する。

 

「グランツ!!セオ!!…くっっ!!」

 

 射線から敵の位置を予測し威嚇射撃を行う。

 

 しかし、それは長くは続かなかった。

 

「惜しかったな。ヴァイス中尉」

 

 俺は後頭部に押し当てられた銃口の固さに、脳髄を麻痺させたかのように引き金から指を離す。

 

「……どこから読まれていたのですか?___スー大佐」

 

「読んでいた…というより、転がしていたというところか?」

 

 その答えに、自分でも驚くほど腑に落ちてしまったことに若干の悔しさを滲ませながら、スー大佐に向き直る。

 

「…なるほど。少佐殿ですか…」

 

「本当に、彼女は人間なのかと疑わしくなる。いっそ、機械仕掛けの妖精だとでも言われた方がしっくりくるな」

 

 俺が銃を降ろしたのを見て、大佐殿も銃を降ろす。

 

「悪魔の間違いでは?」

 

「いいのか?当の本人にでも聞かれたら事だぞ?」

 

「少佐殿は我々の考えを規制されるような方ではありませんからね__降参します」

 

「捕虜の投降を許可する。実践演習終了___今日も中尉の奢りだな?」

 

「演習終了、了解致しました___勘弁してくださいよ…」

 

 12戦全敗…それが今まで俺が演習で積み重ねてきた黒星の重積だった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 飛行術式。

 

 エレニウム96式と補助装置による常駐型重力制御機構により、我々魔導師は、重力という檻から解き放たれた。

 

 少佐殿に強制スカイダイビングを命じられて以来、周期的に今回のような演習が行われてきた。

 

 現在、少佐殿は日本という異国の地で、魔法師による飛行術式の体系化に取り組んでおられる。

 

 その間、臨時の大隊長として選抜されたのが、アンソン・スー大佐。

 

 我が隊の数少ない女性士官であるメアリー・スーのお父上である。

 

 自ら先陣に立ち、前線で味方の指揮を執るその姿はまさに軍神。

 

 経験値の量だけでいえば少佐殿も敵わない程であろう。

 

 まあ、その経験値を逆手にとって敵の行動を完璧に予測し切る少佐殿も、我々からすれば十分に軍神だ。

 

 今ではグランツも何の躊躇もなく飛べるようになったことだし、少佐殿の敏腕振りには敵わない。

 

 話を戻そう。

 

 スー大佐はとても気さくで、誰とでも分け隔てなく接してくださる、我々の兄貴分のような方だ。

 

 飛行術式もセレブリャコーフ少尉に次ぐ練度で、自在に空中戦を操っている。

 

 少佐殿が大佐殿を推した理由がなんとなく分かる気がする。

 

 だが、俺は___

 

 

 

 

 

「___お?ヴァイス中尉、ここにいたのか?」

 

「…大佐殿」

 

 コテージのベンチに座って遠方に見える夜空に浮かぶオーロラを眺めていたら、ウイスキーのボトルを片手にスー大佐が歩み寄ってきた。

 

「一服いいか?」

 

「ええ、どうぞ」

 

 お前もどうだ?と一本煙草を差し出されたが、自分はどうにも煙草を楽しめないと辞退した。

 

 暫く何も話さず夜空を見上げていると、ポツリとスー大佐が言葉を溢す。

 

「ヴァイス中尉はどんな軍人になりたい?」

 

「は?…私が、ですか?私は…軍務に殉じられる、立派な軍人になりたいと__」

 

「すまん。言い方が悪かったな。お前はどうしたい?」

 

「どう、とは?」

 

 スー大佐は肺に燻ぶった紫煙を吐き出し、俺に封の空いたボトルを差し出す。

 

「大隊長、任されたかったんじゃないのか?」

 

「!?」

 

 不意にボトルを握ってしまい、ボトルは強引に押し付けられてしまった。

 

「俺とお前の間にある差なんて経験だけだ。もう俺も若くはない。これが最後の実践に出られる機会だと思っている」

 

 大佐殿は携帯灰皿に煙草を落とすと立ち上がり、背中越しに俺に問いかけてくる。

 

「ヴァイス中尉。相手をどれだけ大きく見積もってもいい。リスク管理は隊を預かる者として備わっていて当然のスキルだ。だがな、勝手に自分のことを小さく見てしまうのはやめろ」

 

「………」

 

「お前にとってその劣等感は、ただお前を弱くするものだ。もっと肩の力を抜け。思ったことは思い切りぶちまけろ。理性が邪魔するなら酒の力に頼れ。酔ってさえいれば全部酒のせいにできる。多少軍機を乱したって文句を言うやつは、この隊にはいないからな__さあ中尉、お前はどうしたい?」

 

 それだけ言うと、スー大佐はドンチャン騒ぎしている隊員の輪の中に戻っていった。

 

 問いかけようにも、もうその相手はいない。

 

 手には一本のウイスキーだけが残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「大佐殿!!見て下さい!!俺の秘儀!腰振りシェイカー!!」

 

 女性がいないのをいいことに、酔っぱらった野郎どもが下品な芸を披露しては爆笑する。

 

 馬鹿だなと思いつつ、悲しいことに俺も馬鹿な男だ。

 

 女に最低と言われることのほとんどは大好物。

 

 俺も参戦しようと新しいボトルの栓を開けようとしていた時___

 

 バンッッッ!!!

 

 木製の開き戸が勢いよく開けられる。

 

 いきなりの轟音に、シンとした静寂が場を覆う中、扉を開けた本人は両手の中指を立てながら吠えた。

 

「えんしゅーぜんしょうだからってチョーシこいてんじゃねーっぞエロオヤジが!!おれがホンキだしたらイッパツだからなテメー!!いまにみてろよ!!おまえをぶったおして大隊長になるのはこのおれだ!!!」

 

 顔を真っ赤にして、完璧な酔っ払いと化したヴァイス中尉は、先ほどとは打って変わって清々しいほどのムカつく笑顔でガンを飛ばしてきた。

 

「上等だコラ!!どっちが大隊長にふさわしいかここで白黒はっきりつけてやる!!」

 

「いったなエロオヤジ!!ちょうどいい、てはじめにそのこしふりシェイクでなぶりごろしにしてやる!!としよりはさっさとぎっくりごしでベッドとイチャついてな!!」

 

「ほざけ、童貞!!既婚者の黄金の腰遣いを見せてやる!!」

 

「あ…じつはおれメアリーさんと…その…」

 

「今すぐそこに跪け。一撃で楽にしてやる」

 

 そんなこんなで、第二〇三魔法師大隊の夜は更けていく。

 

 だから、気に掛けることは無いデグレチャフ少佐。

 

 貴官は貴官の成すべきことを成してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「『PS.娘のことをよろしく頼む』___だそうだぞ?スー二等兵」

 

「………気持ち悪い…」

 

 何をどうしてそのような結論に至ったのか分からんが、このビデオメッセージから観察できるシェイカーの中身は生クリームの基か?

 

 …ダメだ。もう嫌悪感以外の感想を抱けない。

 

「我々も精々、男には気を付けるとしよう」

 

「…うちのお父さんが…ホントにすみません…」

 

 以降、親子の間に大きな溝が生じることとなり、スー大佐がヴァイス中尉に相談を持ち掛けるようになったのは、また別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 




ただの人生の恥部の暴露大会だったな。

酒は飲んでもいいが飲まれてはならないという格言は本当だったようだ。

さて、そろそろ敵が動き出す頃か。

私も備えることとしよう。

それではまた戦場で


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episode13.

スー二等兵「少佐?こちらは?」

デグレチャフ少佐「これは前書きというやつだ。私の変わりに適当に書いておいてくれ」

スー二等兵「え?ですが何を書けば?」

デグレチャフ少佐「日記でも書いておけ。私はこれから仕事だ。頼んだぞ」

スー二等兵「え、ちょ、ちょっと少佐!…行っちゃった…。どうしよ…。____あ!そうだ」


 

 

 

 

 

 

 はじめまして、私はメアリー・スー。

 

 敬愛するターニャ・デグレチャフ少佐の右腕になるべく日々頑張っている高校一年生です。

 

 ヴィーシャから日記を貰って、こうして初めて文章を手書きしてはいるのですが、そもそも日記に自己紹介は必要なのでしょうか?

 

 それでも、いつか誰かに読まれちゃうこともあるかもしれませんのでこのまま書き進めます。

 

 私の一日は少佐の寝顔を拝見する所から始まります。

 

 少佐は起きてるときはホントに私より年下なのかな?と思うほどに達観していて、滅多に隙を出すことがないのですが、眠っている時はホントマジ天使で可愛すぎるんです!

 

 何故かというと___

 

 

(約三万字の文は割愛)

 

 

 ___ということです。

 

 つまり、少佐が寝静まってから私が同衾するのは自然な流れということです。

 

 ただでさえ少佐は幼児特有の高い体温で、手に触れるだけでアロマ効果があるのに、私が布団に入ると寒いのか私に抱き着いてくるんです!!

 

 ありがとう神様!ビバ幼女!!私、幸せです!!

 

 幸福を噛み締めながら眠りにつき、そして朝目覚めると、天使の寝顔が目の前でおはようです。

 

 ありがとうございます、ありがとうございます。

 

 はじめの頃は、布団に入る前にバレて大目玉をくらっていたのですが、最近では意識しなくても気配を周囲に溶け込ませられるようになり、気付かれることなく少佐のお布団に入れるようになりました。

 

 継続は力です。

 

 残念ながら少佐の朝は早いです。

 

 朝5時には起床されるので、私はたったの一時間しか少佐の寝顔を拝見できません。

 

 いくらショートスリーパーの私でも徹夜で少佐の寝顔を眺めていてはお肌が荒れてしまいます。

 

 そんな顔を少佐に見られたくありません。

 

 だから一時間で我慢してます。

 

 私は我慢強いんです。

 

 少佐の寝顔を部屋から出るまで目に焼き付けたら、自室に戻って急いで身支度を整えてから朝食の準備をします。

 

 少佐は朝は決まったものしか口にしません。

 

 目玉焼きとソーセージとスクランブルエッグにジャガイモのポタージュ、そしてトースト。

 

 サラダをお出ししてもいつもプチトマトだけは残してしまいます。

 

 一度、夕食のスープにこっそりトマトを使ったのですが少佐は一口も手を付けてくれませんでした。

 

 あーんして食べさせようとしたら次の日はテーブルにも近寄って来なくなって私は泣きました。

 

 そうしたら、その日の夕食のハヤシライスを嫌そうな顔をしながらも少しだけ食べてくれました。

 

 感激した私が少佐を見つめていると、チラリと此方を見た少佐はプイッとそっぽ向いてしまいました。

 

 好きです少佐、結婚してください。

 

 ちょっぴり好き嫌いが多い少佐も愛らしくて素敵です!

 

 朝食を終えると少佐は必ず珈琲を召し上がります。

 

 私には理解しがたいのですが、少佐はいつも珈琲をブラックで嗜みます。

 

 私はどうしても苦いものが苦手なのでコーヒー牛乳にして飲んでいたら少佐に鼻で笑われてしまいました。

 

 少し怒った私は次の日からデザートに出していたチョコレートのお菓子の種類を換えました。

 

 私、知ってるんですよ?

 

 少佐が甘いもの大好きだってこと。

 

 お部屋の右から二番目の戸棚の隠し冷凍棚に、限定品のチョコレート菓子があることを。

 

 その日に出したチョコ―レートケーキは本当に美味しかったですね?

 

 ヴィーシャも喜んでました。

 

 少佐も余程美味しかったのでしょう。

 

 目を泳がせ、身体を震わせながら一口一口噛み締めながら召し上がってました。

 

 その次の日から、私がコーヒー牛乳を飲んでいても少佐は何も言わなくなりました。

 

 少佐?オイタは程々にですよ?。

 

 食器の洗浄をHAL(自動家事人形)に任せて、私は少佐の髪を梳かします。

 

 少佐は放っておくと無造作に髪を後ろで結ぶだけです。

 

 お風呂でも平気で髪をお湯に浸けてしまいます。

 

 そんなことしたら髪が痛んじゃいます、枝毛にでもなったらどうすんですかまったく。

 

 私が小言を言うと、少佐はいつも不機嫌そうに逃げてしまいます。

 

 それでも、髪を梳かしている時だけはそんな少佐も大人しく従ってくれます。

 

 フフフ、髪を梳かされるのは気持ちいいですからなね。

 

 私のテクで少佐もイチコロです。

 

 さて、準備を終えたら登校です。

 

 私たち三人が纏まっている所を見られると少し言い訳に苦労するので、登下校時は私だけ別行動です。

 

 ヴィーシャ、ズルい!私と変わってよ!!

 

 それでも任務なのでこればかりは仕方ありません。

 

 少佐にご迷惑をおかけしたくないのでグッと我慢です。

 

 1-Aの教室に入ると皆さんが挨拶をしてくれます。

 

 最近、私にもお友達が出来ました。

 

 北山雫さん、光井ほのかさん、そして____司波深雪さん。

 

 それと、森崎くんという男の子がよく話しかけてくれますが、言葉の端々からプライドの高さが滲み出ていて、個人的にはちょっと苦手な人です。

 

 ですが、そのおかげでクラスメイトの方々と円滑にコミュニケーションを取れているので、そのことに関してだけは感謝しています。

 

 さて、今日の授業に私の所属するクラスで、少佐の担当している外国語の授業はありません。

 

 …帰ろうかな。

 

 一気にやる気が無くなりましたがこれも仕事です。

 

 少佐に認めて頂けるように私、頑張ります。

 

 少佐のいない長い長い授業が終わると、私は先生に頼まれた資料を職員室に提出し一目散に校門へと向かいます。

 

 すると、そこには道を塞ぐように森崎君たちが、二科生の生徒と言い争っているのが見えました。

 

 一触即発の場面で皆がCADを取り出しているのが見えました。

 

 間に入って制圧すべきか迷っていると、三年生の先輩が介入して、一問答あった後解散となりました。

 

 一瞬、司波さんの隣にいる男子生徒が何かをしようとしたようですが、未遂に終わりました。

 

 このことは当然、少佐に報告しました。

 

 少佐は「そうか。ご苦労」とだけ言ってましたが、顔は悪い人の笑い方でした。

 

 ああ…少佐、カッコいい…!!

 

 このような形で今日は終わりです。

 

 明日からも頑張って書いていきます。

 

 …取り敢えず、この日記は少佐にバレないように隠さないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブランシュ…漸く動いたか」

 

 私たちが一校に潜入して早数週間が経ち、今の生活に馴染んできたところ、遂に状況が動いた。

 

 夕食後、アフターのコーヒーを嗜んでいたところ、学生として情報収集に当たっていたスー二等兵が、興味深い単語を口にした。

 

「はい、二科生を中心に差別撤廃を目指した学内勢力が活発化してきているようで、その後ろ盾にブランシュの存在があるとのことです」

 

「なるほどな。ただでさえ、一科と二科との間に溝がある現状だ。幼稚な脳味噌で身体だけが成長した人生の劣等感を嘆く愚か者どもにとっては、十分すぎるほどに魅力的なマニュフェストだ」

 

 はあ…と、私がため息を吐くとセレブリャコーフ少尉も賛同するように口を開く。

 

「確かに、一科と二科の生徒に魔法力の差が出てしまうのは仕方のないことだと思います。ですが、それだけが個人の価値を図る指標ではない筈です。今いる一科の生徒の一体何人が、社会に貢献でき、または戦場で生き残れるのでしょうね」

 

「一科の生徒は二科の生徒を足蹴にして、二科の生徒は一科の生徒を自分たちのフィールドに引き吊り降ろそうとする…。私たちが何のために魔法を学んでいるのか、偶に分からなくなる時があります」

 

「もちろん、メアリーの言うそれが一部の声だって言うのは私も分かるよ。でも、そういう声って、どうしても大きく聞こえちゃうから…」

 

「ヴィーシャ…」

 

 元々、素養のあったセレブリャコーフ少尉は性格的にも教師という役柄に向いているのだろう。

 

 生徒たちの現状に頭を悩ませるその気持ちは私も分からないわけでは無い。

 

 人としての成長を望むのならそれは正しいことなのだろう。

 

 しかし、私たちは軍人なんだ。

 

「セレブリャコーフ少尉。…あまりのめり込み過ぎるなよ?」

 

 少尉は瞠目した後、何かを押さえつけるかのように声を絞り出した。

 

「…はい…、失礼しました」

 

「スー二等兵は今後も情報収集を行い、逐一私に情報を集約しろ。アジトの特定が可能ならスパイ活動などの行動も許可する。ただし、魔術の使用はくれぐれも慎重にな?」

 

「了解しました」

 

「私とセレブリャコーフ少尉は予定通り、十師族のデータを集めていく。今回の戦場は【情報の災禍】だ。各員、記録データの持ち運びにはくれぐれも留意しておけ。…特にスー二等兵」

 

「はい?………えっと……その……」

 

 私がとあるノートを差し出すと、スー二等兵の眼がこれまた嘸かし泳ぐ泳ぐ。

 

「私の部屋にコレを隠してどうする?もう一度言うぞ?___情報管理は厳に、留意しておけ」

 

「…はい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず___お前はこの物件出禁だ」

 

「すみませんでした!!もうしませんからそれだけはどうか!!」

 

 私は未だ嘗て、これほどまでに美しい土下座を見たことが無かった。

 

 日本の伝統文化を、色褪せた記憶から掘り起こしては懐かしみつつ、私はそっとカップを傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 




スー二等兵「大隊長殿、拝命した任務、滞りなく遂行致しました!」

デグレチャフ少佐「ご苦労だったな___と言いたいところだが、まさか本気で日記を書くとは…」

スー二等兵「?どうかされましたか?」

デグレチャフ少佐「いや、なんでもない。ところで、今日の夕食のメニューはなんだ?」

スー二等兵「ミートソースたっぷりのパスタです!」

デグレチャフ少佐「やはりお前は出禁にする」

スー二等兵「何で!?」


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episode14.

 

 

 

「ようこそ、おいで下さいました!私がここの開発主任を担当しております、牛山と申します!」

 

都内近郊某所。

 

FLTの門を潜って数刻、厳重なボディチェックを受けた私とデグレチャフ少佐は、待合室に顔を出したツナギ姿の男性の独特な圧に、若干気圧されながら右手を差し出した。

 

『ターニャ・デグレチャフです。貴方にお会いできて光栄です。Mr.トーラス・シルバー』

 

私の右手を見た彼は、何度も自分のツナギに手を擦りつけた後、私の手を握ってきた。

 

「こちらこそ、よろしく頼んます!すいません。こちとら根っからの機械オタクなもんで、女性の扱いには疎いんですが、なるべく失礼のないよう気をつけるので。何か不快なことがあればいつでも言ってやって下さい」

 

『いえいえ。人間関係や礼儀作法に疎いのは私も同じですから。失礼があったらおっしゃって下さいね?』

 

「そう言っていただけるとありがたい限りです。___ところで、そちらの嬢ちゃんが通訳ですかい?随分と可愛らしいですなあ」

 

牛山さんが少佐の頭を撫で始めました。

 

ああ…生きた心地がしない。

 

私は少佐の堪忍袋の緒が切れる前に、牛山さんの蛮行を止めます。

 

『ヴィーシャと言います。彼女はまだ幼いですが実力は確かです。今も私の研究室で助手をしてもらっているので。…あまりちょっかいを出すと怒っちゃうので程々にしてくださいね?』

 

「おっと、これは失礼」

 

牛山さんに頭を撫でられている間、少佐は終始笑顔でしたが…。

 

明日のニュースにトーラス・シルバー死去の文字が並ばないことを祈るばかりです。

 

『__ところで、そちらの男性は?』

 

私は牛山さんの後ろに控えていた男性に視線を向けます。

 

『ご挨拶が遅れました、自分は司波達也と申します。牛山さんの助手を務めております。入学式でのご挨拶は、非常に興味深い内容でした』

 

『…驚きました。第一高校の生徒さんだったんですね。それにまだお若いのにロシア語も堪能で…。人前に出るのは慣れてないので、あんな稚拙な挨拶でお恥ずかしい限りです』

 

『自分は二科生なので、デグレチャフ先生の講義を受けられる機会はありませんが、妹は顔を合わせる機会も多いと思うので、どうぞよろしくお願いいたします』

 

『妹さん?…ああ、新入生総代の司波深雪さんですか?彼女には舞台袖で声を掛けて頂いたので凄く印象に残っています。授業がなくても教師と会うことを禁止されているわけではありません。だから司波君も、私に何か力になれることがあったらいつでも呼んでくださいね。あ、でも、いやらしいことはダメですよ?』

 

『分かりました。機会があれば伺わせて頂きます』

 

『はい、お待ちしてますね』

 

「___それじゃあ、おんz…達也はヴィーシャちゃんの相手を頼めるか?」

 

「それは構いませんが…牛山さん、ロシア語は大丈夫なんですか?」

 

「舐めるなよ。この日のために駅前留学してきたし、いざとなったらこの翻訳機でバッチリだ!」

 

「…そこはかとなく不安ですが、頑張ってきてください」

 

「おうよ!」

 

『それでは私も行ってきますねヴィーシャ。ちゃんとお利口にしているのですよ?』

 

『子供扱いしないでよ。はい、さっさと行ってらっしゃい』

 

『はいはい。___それではMr.牛山、行きましょうか?』

 

「はい、こっちでさぁ」

 

先を促されて歩き出す私たち。

 

チラリと振り返り視界に映った少佐の顔は、どこか愉しそうな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___さて、お互い面倒なままごとの時間は終わりとしようか。なあ?トーラス・シルバー。いや、Mr.シルバーとでも呼んだほうがいいかね?」

 

「白銀の二つ名を持つ君に呼ばれるなら光栄な限りだ」

 

「ふん、その減らず口も変わらぬままだな。彼女に嫌われるぞ?」

 

「生憎、青春を謳歌するには時代が遅すぎる。もう百年早ければそのような悩み事も許されただろうな」

 

「物は言いようだな。魔法学の歴史を数百年進めた張本人に言われるとは、これほど腸を煮えくり返される皮肉は他にない」

 

「俺はまだライセンスも持っていないただの学生だ。騒いでいるのは物の本質を捉えられていない社会的盲目者だけだろ?」

 

「あ?誰が盲目者だと?私が君よりも劣っていることは重々承知の上だが、老眼になるような年齢ではないはずだ。何かを普通と定めればそれ以外は異常と捉える社会の膿と同義の考えだぞ、君のソレは」

 

「俺は事実を伝えるだけだ。実際に見えていないのだから仕方がないだろ。人は見たいものしか見ないのだから」

 

「そういう所だけ同感なことに自分でも驚くほど腹が立つ…!」

 

「同族嫌悪じゃないか?」

 

「やめろ私は人間だ。お前みたいな人外と同じにするな」

 

「___なにはともあれ、こうして顔を合わせるのは初めましてだな、ターニャ・デグレチャフ」

 

「ふん…、できれば文書のみのやり取りでこの関係を終わらせたかったよ。タツヤ・シバ」

 

「着眼点や発想の転換はタイムリーに記録するのが一番だ。…まあ、君の年齢を考えるとそうしたくなかったという感情も分からなくはない」

 

「分からなくはないというのなら、もっと表情筋を動かしてから言え」

 

「…こうか?」

 

「エチケット袋を頂けるかな?ああ、三枚ほどあれば足りるだろう」

 

「どれだけ昼食を摂ったんだ?」

 

「皮肉に乗ってくるな…君と話すのはただでさえ疲れるんだ」

 

「それならば尚更良かったのか?牛山主任と二人にして。あの女性が副官なんだろ?セレブリャコーフさんだったか?」

 

「人間、考えることは皆同じだな。まあ、だからこその共通認識か。___このことはMr.トーラスには?」

 

「牛山さんは器用に嘘を吐ける人柄ではない。化かし合いをしていれば、確実にボロを出していただろうな」

 

「ウチの副官も同様だ。二人には悪いが、暫くは費用対効果の最底辺を歩んでもらうとしよう」

 

「随分と愉しそうだな?」

 

「自分よりも下の人間を見ると安心しないか?」

 

「やはりお前は人間のクズだな」

 

「光栄だ」

 

 

 

 

 

神の化身など呼ばれるよりも何倍もマシだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____とある日常の一幕より

 

 

 

 

 




存在Iはただいま引継ぎの作業で脳死状態らしい。

趣味の最中に仕事のことを思い浮かべる等、まさに愚の骨頂。

さて、休暇の次は出勤日だ。

相手先は…なるほど。

これは少しばかり、荒々しいことになりそうだ。

それではまた戦場で


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episode15.

 

 

 

 

 

 出会いは一つの電子掲示板から始まった。

 

 数々の魔法大学で教授達の頭を悩ませてきた難問を組合せ、その解の法則性から得られるパスワードを手に入れることができた者だけが立ち入ることを許される電子の砂城。

 

 片や、完全記憶能力という頭の可笑しい能力を最大限に用いて、軽々とその門をこじ開けたとある日本の青年。

 

 片や、知性の合理化と称し、人生というリソースを社会の有能な歯車として機能すべく狂気的効率化を徹底することで、天才共のちっぽけな努力を嘲笑ってきた、幼女の皮を被った化けもの。

 

 そんな、およそ人らしからぬ二人が出会うのは、もしかしたら必然だったのかもしれない。

 

 青年は、魔法師が兵器としての役割以外の居場所を社会に生み出そうとした。

 

 幼女は、魔法を凡庸なものとして、狂気的なまでの公平さを社会に浸透させようとした。

 

 道は違えど、従来の魔法師の在り方に疑問符を唱える両者は互いの思想を尊重し、また尊敬の念を送り合った。

 

 しかしてこの時、日本にて二人の悪魔的技術者が顔を合わせることと相成ったわけで、その光景は以下のようになった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 紙コップに淹れられた安物のコーヒーの香りに、露骨に顔を歪めた私はデスクに腰掛けた青年を見やると、おもむろにとある二つの記録媒体を差し出した。

 

「既に聞き及んでいることかもしれんが、一応の形式として渡しておく」

 

「ブランシュの件か?」

 

 一切、席を立つ素振りが窺えなかったため、一番受け取り辛い正中線から利き手側の方向に、当てつけのように記録媒体を放り投げる。

 

 何の苦も無くそれを受け取ったタツヤは、流れる様な手つきでハードを立ち上げ、記録を端末に同期させていく。

 

「ふん…。私の職場を嗅ぎまわりゴミに集っては、ぶんぶんと耳障りな音を発てる蝿共か。確かに気に喰わない連中に違いないが、今回は別件だ」

 

 画面に映し出された文字の羅列を、信じられないほどの速度でタツヤは読み込んでいく。

 

 全てを読み終えたタツヤの表情は、無表情の中に一種の怒りという感情を携えているように思えた。

 

「………どこでこれを?」

 

「四葉のご当主様、とでも言えば納得するかね?」

 

「それを証明するものは?」

 

「ない。だが、これを君に見せるという事実が、何よりの証拠になると思えないか?」

 

「言っておくが、俺にとって四葉家は利用するものであって、後ろ盾となるような存在ではない。例え俺を懐柔したところで、四葉の力を手にすることなど不可能だ」

 

 私は渡されたコーヒーにミルクと砂糖をこれでもかと投入していく。

 

 これは最早コーヒーではなく泥水に近いものだ。

 

 それでも、安物の香りに舌と鼻腔が侵される前に、甘みという味覚を使って、コーヒーのような液体を一思いに胃の中へと流し込む。

 

 喉に残る甘ったるさを押さえ込みながら、私は次の言葉を紡ぐ。

 

「知っている。アンタッチャブルで世界的に有名な魔法師の家系だ。それに手を出すなど、スズメバチの巣に両手を突っ込んだ方がまだ安全だろう。私が欲しいのは君だよ。タツヤ・シバ」

 

「…断ると言えば?」

 

「これは勧誘ではない。最後通牒でもなければお願いですらない。ただ、君は私の計画になくてはならない存在。ただそれだけのことだよ」

 

「話にならないな。この文書…【常駐制御型熱核式融合炉】のプロトタイプ運用実績記録書を見るに、まだまだソフト面に関する欠陥が多い。これではまだ魔法師に掛かる負担量が許容範囲外だ。そもそも魔法師を装置の部品として据えている時点でこの構想はナンセンス極まりない」

 

「だが、装置の稼働は実証され日本で採算も獲れるよう大まかな見積もりも既に協議済みだ。後はこれを改良し、大々的に世間に公表すれば君の名声と巨万の富は約束されたも同然だぞ?お得意のループキャストシステムで元素の循環システムをアップデートすれば、それだけで装置の可動性は飛躍的に向上する。その時得た君の権力を、四葉殿は果たして無碍に扱うことができるだろうか?」

 

「そこまで理解しているからこそ俺には君が理解できない。何故、自身の研究成果を他人に、しかも俺に譲る?君にとって本研究は価値あるものではないのか?」

 

「価値はある。あるだろうが、これを世に生み出したのは君でなければならないのだよ。タツヤ・シバ。かの有名な絵画のひまわりに価値があるのは、ひまわりという絵が素晴らしいからではない。ゴッホが描いたひまわりだからこそ、あの絵には価値があるんだ」

 

「ならば、ゴーストライターを演じることになる君はどうなる?俺は一人の研究者として、今回の話を受け入れることはできない」

 

「それならば問題ない。なぜならこの装置を作ったのは私ではない、別の者だからな。しかも、その者はもうこの世におらず、この記録書の存在を知るのは私と君の二人しかいない。____ゴーストライターは生きている人間が代わりに物語を書くからこそ成立する。なら、名前も知らぬ、存在さえ認知されていない本物のゴーストが物語を書いたとして、その想いを代わりに世に知らしめてやることは、果たしてそんなに罪深いことなのか?」

 

「君は本当に人間なのか?」

 

「ああ、人間だとも。私ほど人間らしい人間は他にいまい」

 

「………」

 

 タツヤは短い黙祷の後、記録媒体を懐にしまうと私の前まで歩み寄り私に右手を差し出した。

 

「気がついていないようだから先に言っておく。君は間違いなく化け物の類だ」

私は椅子から飛び降り、タツヤの手を取ると清々しい嗤い顔で首を傾げる。

 

「その言葉、そっくりそのまま返しておく」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 魔法大学付属第一高校。

 

 その施設の一角では、一科生に対する二科生からの処遇改善に関する物議が醸し出されていた。

 

 二科生の代表者が恫喝に近い意見を一科生の生徒にぶつけ、それを懇切丁寧に一つ一つ反論の余地もないほどの容赦のなさで、圧倒的演説力を見せつける生徒会長。

 

(…大隊長殿の予想だとそろそろ来る頃合いなんだけど…)

 

「___雛鶴(ひなつる)君?雛鶴君?どうかしたかい?」

 

 私が窓の外に視線を向けていたことを不思議に思ったのか、風紀委員の先輩である沢木先輩が私に問いかけてくる。

 

「いえ…ちょっと、今日は交通量が多いなと思いまして」

 

「ん?ああ、あれは機材のメンテナンスをする魔法師協会の車両だね。…でも、可笑しいな?予定だと来週末の筈なんだが_____」

 

 

 

 どーーーんっっっ!!!!

 

 

 

 会議堂に途轍もない轟音と衝撃が響き渡る。

 

「何だ!?何があった!?」

 

(来た来た来ました!ミッション開始です!!)

 

 私は騒音の鳴り響いた方向に走り出す。

 

「私が様子を見てきます!沢木さんは渡辺委員長に報告を!」

 

 私に制止を訴える沢木さんの声を背に私は屋外に向かい駆けだした。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「___少尉」

 

「はい」

 

 少佐の合図と共に、私は演算宝珠を起動させ光学系術式により少佐の幻影を生み出す。

 

「今後の行動はブリーフィング通りに。例の物の回収を忘れるなよ」

 

「了解しました。少佐、ご武運を」

 

「よし___作戦開始だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ____対ブランシュ戦 開戦____

 

 

 




存在I「残業ゥ…概念ごと消え去って下さい頼むから」

投稿頻度が圧倒的に減ってますが、ちまちまと書いているので、暇なときにでも覗きに来てくだされば幸いです。

取り敢えず私は上司と戦争してきます!

社会人の皆様が定時帰宅できることを心よりお祈りしております。

それではまた戦場で


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episode16.

後書きにて重大発表あり


 

 

 

 

 

 

「レオ!ここは任せたぞ」

 

「おうよ!!___さあ、来い!!」

 

 銃声と剣戟。

 

 戦闘の円舞曲が鳴り響く校内で、ここに一人の二科生徒が躍動する。

 

 硬化魔法を逐次展開することで、魔法の重ね掛けによる処理落ちを起こすことなく、遺憾なく硬化魔法の利点である強固な白兵戦を展開する男子生徒の名は西城レオンハルト。

 

 実技等へ向かった達也達に追ってが掛からぬよう一人残り、その恵まれた体格を生かし、ブランシュの残党数十人を相手に大立ち回りを演じていた。

 

 序盤こそ、魔法師のアドバンテージを活かし魔法による掃討を行っていたが、物量とは案外馬鹿にできないもので、徐々に戦線の後退を強制され掛けていた。

 

(ちっ!こいつ等、大した強さじゃねえが、如何せん数が多い!!ダメだ、抜かれる!!)

 

 仮に数人取り逃がしたとしても、あの程度の輩に達也達が後れを取るとは全く思わない。

 

 それでも、自分はこの場を任されている。

 

 友達(ダチ)にそう頼まれて、すみませんできませんでした、じゃあ自分で自分が許せなくなる。

 

 しかして、そんなレオの心情を嘲笑うかのように現実という名の敵は次々と押し寄せてくる。

 

「…クソっ!!」

 

 小太刀を振りかぶり襲い掛かってきた二人の敵の攻撃を、硬化魔法により防ぎつつカウンターを放つことで意識を刈り取る。

 

 しかし____

 

「死ねッ!!」

 

(しまった…!)

 

 二人の陰に隠れていたもう一人の敵が懐に潜り込み、サバイバルナイフをレオの心臓を目がけて突き出す。

 

 魔法の再発動時間(インターバル)を狙った敵の連携は見事の一言。

 

 レオは魔法の発動が間に合わないと判断するや否や急所を守るために、左腕を自身の胸の前に引き寄せる。

 

 レオが刺傷による痛みを覚悟した時、不意に柑橘系のような爽やかな香りが鼻腔を凪いだ。

 

「___そんなの持ってたら危ないですよっと!」

 

 透き通るような真っ白な肌をした細腕が、サバイバルナイフを持った敵の手首を掴んだ瞬間、その敵はサバイバルナイフだけをその場に残し、慣性の法則を無視したような動きを見せながら側方に吹き飛び、カエルが踏まれたような声を出して地面に衝突し、そして動かなくなる。

 

 一瞬の出来事に目を白黒させたレオは、今しがたの現象を引き起こした人物の相貌を捉える。

 

 その人物、いや少女は自身の左腕に付けられた腕章を、奪い取ったサバイバルナイフの柄で指し示しながら言った。

 

 

「風紀委員の雛鶴アリスです!!私も微力ながら加勢させていただきます!!」

 

 朗らかな笑みを携えながら戦場に立つその姿は、現代のモードレッドのようにも思えた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 どうも、私はメアリー・スー………違いますね。

 

 メアリー・スー改め雛鶴アリスです。

 

 今回の任務中はこの名前で呼称するので私も間違えないように注意しないといけませんね。

 

 さて、現在の状況を簡単にまとめると、敵が攻めてきています、以上です。

 

 私が少佐から言い渡された命令は実技棟に一定数以上の敵を近づけないことです。

 

 命令が実技棟を死守しろ、ではなかったことが少々疑問ですが、少佐のお考えなら異論などありません。

 

 少佐の命令は絶対なんです。

 

 ということで、二科生の男子生徒が刺突され掛けていたので割って入りましたが余計なお世話でしたでしょうか?

 

 ですが、私が用があったのはサバイバルナイフを持っていた男性の中指です。

 

 どれどれ?……うん。これですね!

 

 切り取った男性の中指は、魔法により灰にして、残った指輪をポケットにしまいます。

 

 これを沢山集めれば少佐がご褒美をくれるそうなので私、頑張ります!

 

 おっと、ちょっと興奮しすぎて男子生徒の存在を忘れていました。

 

 仕方ありません。

 

 ここはワザとらしく自己紹介でもして、先ほどの私の奇行を不問に伏していただくことにしましょう。

 

 

「風紀委員の雛鶴アリスです!!私も微力ながら加勢させていただきます!!」

 

 笑顔もサービスです。

 

 さて、任務を継続しましょう。

 

 

 




……………。

…ああ、来ていたのか?

わざわざこんな場所にご足労頂いて感謝の極みだが、生憎と今、貴官を歓迎する気分には到底なれなくてね…。

端的言うと、そうだな____










存在Iが我々の作成した報告書(文書データepisode16~21)を紛失したそうだ。

憤慨ものだよ。

現在、我が隊の人員を総動員して紛失物の探索・復旧作業にあたっている。

デスクトップは…さながら地獄らしい…。

それではまた戦場で



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episode17.

 

 

 

八王子郊外の更に辺境。

 

時代の移り変わりを感じさせる廃工場には、かつての賑わいとは異なる禍々しくも活気づいた裏世界の人種がその場に名を連ねていた。

 

「予定通り、第一高校への突入を開始しました」

 

報告を受けたブランシュのリーダー 司一(つかさはじめ)は、部下から渡された端末に目を通しつつ、横に引かれる頬を隠すかのように眼鏡の位置を正す。

 

「ご苦労。それで?首尾はどうなっている?」

 

「既に内部協力者の誘導によりデータバンクへのアクセスは成功したようです。後は時間を稼ぎさえすれば、本作戦は成功と言えるでしょう」

 

「魔法大学の情報を欲しているクライエントの数は少なくない。それが、秘匿されたインデックスに載るほどの魔法式であれば猶のこと。本作戦で大口の資金源が得られれば、我々は更に戦力を増強できる」

 

「ただ…こちらの戦力の損耗も激しく、既に投入した三割が捕縛されたと…」

 

「ほう、子供とは云え流石は魔法師の卵と言ったところか?」

 

「やはりある程度此方の武装を持たせるべきだったのでは?」

 

「金で雇った傭兵にそこまでしてやる義理は無い。今回は拠点の制圧が主の目的ではなく、騒ぎを起こして状況を遅滞させることこそ主眼とすべきだ。囮は囮らしく、精々大いに騒いで注目を集めてくれることを願おう」

 

作戦の成功を確信した司が、念には念をと手首に装着された汎用型CADの再確認を行っていると、部下の一部が騒いでいることに気がついた。

 

「___おい!どういうことだ!?」

 

「どうした?騒がしいぞ?」

 

「すいません!すぐに対処して__くそ!」

 

廃棄された情報室の一角、有線で繋がれたハードを動かしていたエンジニアの一人が、悪態を吐きながらも必死にキーボードを叩く。

 

司は状況を確認するため、エンジニアの後ろに立っている部下に状況説明を求めた。

 

「状況報告だ。何が起きている?」

 

「どうやら通信システムにバックドアが仕掛けられていたようで…こちらが本作戦で得た情報の一部と位置情報を知られてしまい…」

 

「なるほど。相手の尻尾は掴めたのか?」

 

「それが…どうやらハッキング元はその第一高校内からのようでして…」

 

「…我々の狙いが魔法大学の機密文書にあると見抜いたとでも?この短時間で?___まさか、第一高校には電子の魔女に並ぶエンジニアがいるとでも言うのか?」

 

「司様、どうなさいますか?」

 

「………今回得た情報は敵の欺瞞情報である可能性が高い。通信された記録の分析は後回しだ。機密情報をコピーした記録媒体の回収を急がせろ。位置情報を知られたというのなら好都合、直ちに迎撃態勢を整える。魔法師の卵であるモルモットのご来場だ。アンティナイトの試験運用にはお誂え向きな舞台。売り物となる者は私が勧誘する。その他は今生からご退場願おう」

 

「了解!」

 

 

 

彼らはまだ知らない。

 

二人の悪魔が、着々と彼らの首元まで手を伸ばしているということを。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「そこまでだ」

 

おおよそまともな開き方ではない扉の解錠に、バラバラに分解された記録媒体。

 

「誰もが平等で等しく幸せな世界。もしそんな世界が現実にあるのだとしたら、それは人類がみな等しく冷遇された世界だ」

 

テロリストを手引きした私、壬生紗耶香(みぶさやか)はその声の主に激情をぶつける。

 

己の弱さを。

 

己の醜悪さを。

 

己の劣等感を。

 

ただ、共感して欲しい。

 

認められなくいてもいい。

 

慰めてなんて欲しくない。

 

ただ自分のこの思いが間違いなんかじゃないって、そう思い込んで安心したいんだと。

 

「魔法の才能だけが貴女を量る全てだったのですか?」

 

分からない。

 

魔法の才能に恵まれた貴女に何を言われても、私にはただ蔑まれているようにしか感じられない。

 

「壬生!指輪を使え!」

 

煙幕が立ち込め、視界を塞がれながらも私は扉の方向に駆ける。

 

司波君は私を捕らえようとも、呼び止めようともしなかった。

 

そのことがどうしてか、私には凄く悲しく思えた。

 

君は強いね。

 

同じ劣等生なのに…全然違う。

 

「二年生の壬生先輩ですよね?」

 

私は君みたいに…強くはなれない。

 

「それじゃあ、真剣勝負を始めましょうか」

 

___魔法の才能だけが貴女を量る全てだったのですか?

 

うるさい。

 

ちょっと魔法が上手に使えるからって。

 

ちょっと綺麗だからって。

 

司波君の妹だからって。

 

偉そうなこと言わないで。

 

「先輩は誇ってもいいよ。千葉の娘に本気を出させたんだから」

 

負けた。

 

でも、びっくりするくらいスッキリしてる。

 

折れた腕は叫びたくなるくらいの痛みを訴えているのに。

 

この胸の痛みを消してくれるのなら、身体の痛みも不思議と心地よかった。

 

「無駄なんかじゃありませんよ。先輩のこの一年間は」

 

だからやめてよ…。

 

「ちょっと、そのまま動かないで」

 

これ以上私に___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___貴方を想わせないで

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

中国、戦国時代の話。

 

【趙】(BC403~BC228 戦国時代に存在した国。戦国七雄の一)が【燕】(BC1100~BC222 周・春秋・戦国の時代に存在した国。現在の北京周辺の土地を支配した。戦国七雄の一)を討とうとしていた。

 

蘇代という遊説家が燕のために、趙の恵文王の元に赴きこう説いた。

 

「今回こちらに来る途中、易水(河北省を流れる川)を渡りました。そこに蚌(はまぐり)が出てきて、鷸(シギ)がその身をついばみました。すると蚌は鷸の嘴くちばしを挟みこんでそのままぴたりと口を閉じてしまいました。鷸は___

 

『今日も明日も雨が降らなければお前は死んでしまうだろう』

 

 と言いました。蚌も負けずに___

 

『そっちこそこのままなら死んじまうだろう』

 

 と言い返しました。

 

 両者はお互いに譲ろうとはしません。

 

 そこに漁師がやってきて鷸と蚌の両方を捕まえてしまったのです。

 

 今、趙は燕を討とうとしていますが、燕と趙が争って民衆が疲弊すれば、強大な【秦】(BC778~BC206 周・春秋・戦国の時代に存在した国。BC221に中国を統一したが、BC206に滅亡。首都は咸陽)が乗り出し『漁夫の利』をかっさらってい

きはしないでしょうか?どうか大王様、ここはぜひともよくお考えください」

 

 これを聞いた趙の恵文王は「なるほど」と言って燕攻めをやめた。

 

 この話が元となり「漁夫の利」という故事成語は世に残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蘇代は偉大なり。人間とはどうして利益を前にするとこうも笑みを堪えきれないのか」

 

 記録媒体を差し込む。

 

 バックドアから得た、ブランシュエンジニアの手法をアップグレードし、さもブランシュが情報を盗み取ろうとして、それを阻止されたかのように細工する。

 

「分散進撃、欺瞞情報、穴倉からの誘因…賢者は歴史に学び愚者は経験に学ぶのだとしたら、私はどうしようもなく愚者の素質があったらしい」

 

 エンターキーを叩く音を最後に、記録媒体に情報がコピーされた電子音が鳴る。

 

「首領突破おめでとう。Mr.シルバー。私もようやく___賢者の素質に恵まれてきたようだ」

 

 漁夫の利を得た幼女は一人、化け物らしい可憐な微笑を浮かべた____

 

 

 

 




諸君、久しいな。

残念ながら紛失した文書データの捜索活動は断念することと相成った。

今すぐ存在Iの頭蓋骨を切り開き、海馬に電極を突き刺して記憶を根こそぎデータ化してやりたいが…どうやら時間のようだな。

それではまた戦場で





PS.水上風月中尉、藤丸ぐだ男中尉、貴官らの助力に感謝する。以上だ。


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episode18.

 

 

 

 

 私が実技棟を後にする頃には、日の傾きと共に辺りを包んでいた喧騒も過去のものとなっていた。

 

 乾いた地面にこびり付いた血痕と傷跡を視認して戦闘痕から現場の記録を読み取ると、想像以上に環境的被害を考慮した戦い方だと一人感心する。

 

「__貴官も随分と頭を使って戦えるようになってきたようだな?スー二等兵」

 

 静かなエンジン音が近づく。

 

 バイクを停めてすぐさま私にヘルメットを手渡してくる二等兵は、満面の笑みで私との再会に歓喜する。

 

「総隊長!ご無事で何よりです!」

 

「貴官も与えられた任務を十全にこなせたようでなによりだ。それで?そろそろ時間か?」

 

「はい!十文字家次期当主を交えた一行は九重氏からの情報通り、先刻、ブランシュのアジトに出立しました」

 

「ご苦労。では、我々も向かうとしよう」

 

「了解!」

 

 茜色の光がバイクの影を伸ばす。

 

 その影は次第に小さくなり、市街道路の消失点へと消えた。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

「___なあ?エリカ?お前、雛鶴アリスって子知ってるか?」

 

「はあ?雛鶴?…確か将棋界初の女性プロ棋士になった人がそんな名字だったと思うけど、どうしたの?」

 

「…いや、なんでもねえよ。少し気になることがあってな」

 

「ふーん」

 

「…んだよ。その目は?」

 

「まあ、可能性はゼロじゃないから頑張れば?綺麗に砕け散った方があんたらしいしね」

 

「何を考えてるか大体想像つくが、今はそういう馬鹿話をしたい気分じゃねえんでな」

 

「それはそれでつまらないわね___達也くんと十文字先輩、もう制圧しちゃったかな?」

 

「一人も残党が出てこねえもんな」

 

「___まあ、今回はそれで良かったのかもね?」

 

「何がだよ?」

 

「あんたが闘わなくて良かったって思って」

 

「あ?」

 

「その雛鶴って子が原因か分かんないけど、今のまま闘うとあんた___死ぬわよ?」

 

「っ!?…お前は死なねえってか?」

 

「強さと生き残る力は別なのよ。まあ、私もあんたに偉そうなこと言える立場じゃないけど」

 

「俺は弱えってか?」

 

「手札がないって感じ?一撃必殺の技があるのとないのじゃ、実戦での生還率は雲泥の差よ。現場に出た家の門下生がそうだったから」

 

「チッ…なら、このどうもやるせない気持ちはどうしたらいいんだかな」

 

「さあね。強くなれば解決するんじゃない?」

 

「簡単に言ってくれるな?」

 

「実際、私たちの魔法師としての才能はそんなにあるわけじゃない。でも、それが強さとイコールじゃないのなら、私たちも捨てたもんじゃないのよ」

 

「随分と楽観的なんだな」

 

「前向きって言ってよ。ウジウジとしょうもないことで悩んでるムサ男よりマシでしょ?」

 

「…ああ、そうだな」

 

「___それにしても……暇ね」

 

「暇だな」

 

 車輛を硬化魔法により強化し、バリケードを突破した後、表口と裏口に強襲した私とレオ以外の面々を見送って数刻。

 

 断続的に銃声や魔法の戦闘音が耳に届くが、逃亡してくる敵はみられず、私たちは廃工場正門前で文字通りの待ちぼうけを喰らっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『それなら、少し付き合ってくれる?』

 

「「っっっ!!?」」

 

 物音も気配すらなく、背後からいきなりかけられた声に、私達は咄嗟に距離をとる。

 

 ヘルメットをかぶり、その肌は黒いライダースーツに覆われてはいるが、身体のシルエットからして相手は女性なのだろう。

 

 起伏に富んだ体を揺らしながら近づいてくる相手に、私たちはそれぞれのCADを構える。

 

「あんたもブランシュの仲間なの?」

 

『違う。けど、貴女たちの味方でもないかな』

 

「…敵じゃないなら、闘う理由はないんだけど…そうもいかないみたいね」

 

 前方から発せられる威圧感に冷や汗を滲ませつつ私は再度、CADを握り直す。

 

『そうだね。殺しはしないけど、怪我はするかもだから気を付けてね』

 

「ご丁寧にどうも___レオ!」

 

「おお!!」

 

 側方から回り込んだレオに視線が映ったのを感じとった私は、自己加速術式により相手の懐に踏み込む。

 

(一撃で意識を刈り取る!)

 

 私は袈裟切りに武装一体型CADを振り下ろす。

 

 しかし___

 

『うん、速いし巧いけど___ちょっと素直過ぎかな?』

 

「ガハッ!?」

 

(な、なにが?)

 

 CADを振り下ろした次に私の瞳が写した景色は茜色の空だった。

 

 身体を地面に叩きつけられた衝撃で肺の空気が全て吐き出される。

 

 肋骨が軋みを上げて、呼吸する毎に身体が痛みを訴える。

 

「エリカ!?くそっ!!」

 

『うん、やっぱり貴方もちゃんと強いね』

 

 ストレート、フック、アッパーにボディブロー。

 

 硬化魔法により威力を増した拳が、相手を襲う。

 

 だが、その全てが届かない。

 

 レオの腕に手を添えるように、すべての攻撃の軌道を読み切って受け流している。

 

「おおおお!!!」

 

『大振り』

 

「なっ!?」

 

 右腕を振りぬき身体前方へ伸び切った所で、レオの右ひじをはたくように下に押す。

 

 それだけでレオはバランスを崩し、地面に膝をついた。

 

『はい、ガードして』

 

「_____!!!?」

 

 膝をつき頭部の下がったレオへ、相手から中段蹴りが繰り出される。

 

 両腕をクロスさせ防御したレオだが、あまりの衝撃に身体ごと吹き飛ばされ正門の塀に叩きつけられる。

 

 鋭く、重く、あまりにも正確な蹴り。

 

 加速・加重・移動系統の魔法をマルチキャストした一撃は、不気味なほどに洗練されていた。

 

 相手は納得したように頷くと、私たちから視線を外し、廃工場のほうへ足を向ける。

 

『あなた達はきっと強くなれるよ。強くなったら、またやろうね』

 

「ま、待ちなさい…!」

 

 意識が遠のく。

 

 この記憶が途切れる寸前、最後にレオと彼女が話す姿をみた私は、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 氷の世界。

 

 生きたまま氷漬けにされるというのは、どのような気分なのだろうか?

 

 それを成した自分がこのような疑問を持つなんて筋違いもいいところなのだろう。

 

 しかし、彼らは侵してはならない禁忌に触れた。

 

 敬愛する兄に刃を向ける。

 

 それだけで、その者の命に価値などなくなる。

 

___ほどほどにしておけ。そいつらに、お前の手を汚させるほどの価値はない。

 

「いいえ、お兄様。価値ならあるのです」

 

 お兄様への蛮行を命を以て償う。

 

 その価値が。

 

『失礼。司波深雪嬢で違いありませんか?』

 

 大きなサイオンの波長を感じてはいたが、実際に視界に留めるとその強大さに改めて舌を巻く。

 

「ええ、相違ありません。そちらから貴女がいらしたということは…」

 

『ご心配ありません。貴女のご学友は無事です。ただ、少し眠っていただいているだけですので』

 

「そうですか」

 

 二人が無事なようで何より。

 

 だが、それよりも今は、こちらの女性の相手が先決。

 

『深雪嬢。私は貴女と闘うことを望みません』

 

「なら、どうしてここへ?」

 

『司波達也殿への伝言を仰せつかっております』

 

「その内容は…私には教えていただけないと?」

 

『申し訳ありません』

 

「そうですか、残念です」

 

 すでにこの空間内の分子運動は外部のそれと比べて減衰している。

 

 今なら通常よりも更に早く氷結の魔法を発動できる。

 

『どうしても、戦闘を避けることはできないのでしょうか?』

 

「__貴女を拘束します」

 

『そうですか…』

 

 魔法式の構築が完了する。

 

 数秒後には彼女も氷像と化す。

 

 私が右手の手の平を前方に向けると、相手も同じように左手を私に向かって開く。

 

 そして____

 

術式破壊(グラムデモリッション)

 

 魔法が発動する寸前、敬愛する兄と同じ技で、私の魔法は無効化された。

 

 しかし、私は動揺を押さえ込み次々と魔法式を展開していく。

 

 術式破壊はその性質上、大量のサイオンを消費することになる。

 

 圧縮したサイオン弾を連射するということは、全力疾走でマラソンをするような、ペース配分を無視した戦闘を強いられる。

 

 どちらが先に息切れを起こすのかは火を見るよりも明らかだ。

 

『………っく!』

 

 ヘルメットで表情は窺えないが、快調…なんて訳は無いないでしょう。

 

 サイオン切れで相手が膝をつく。

 

 私は最期通牒として問う。

 

「お兄様への伝言の内容、教えていただけますか」

 

『ハア…ハア…』

 

「分かりました。では___おやすみなさい」

 

 私は再度、広域振動減衰魔法を発動する。

 

 彼女を氷が覆っていく。

 

 光が差し込んだアイフェイスから覗いた彼女の眼は、何処か笑っているように感じた。

 

 それに気付いた時、彼女の姿は私の視界から消えていた。

 

 氷の中にあるのはヘルメットと黒のライダースーツのみ。

 

「…どういうこと?」

 

 自分は非物質体と闘っていたのだろうか?

 

 誰かに答えを問おうとも、答えるのは氷像の奏でる静寂のみだった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 時が止まる。

 

 そのような現象はフィクションの中だけの話かと思ったが、どうやら俺の見識にはまだまだ改善の余地があるようだ。

 

 桐原先輩が司一の腕を断った瞬間、血しぶきの一滴一滴が視認できるほどには、俺以外の全ての世界が停止した。

 

(これは…思考の加速?ならば身体が動くのはおかしい。精霊の瞳も使用できない。サイオン波も感じられない。どういうことだ?)

 

 突然の現象に身動きが取れずにいると不可解な現象が起こる。

 

 司一の瞳と口だけが動き始める。

 

 そして司一の姿をした何かは俺に問いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

【神の寵愛を受けし子よ。汝は____神を信じるか】

 

 

 

 

 

 










それではまた戦場で


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episode19.

 

 

 

 

 

【神】

 

 信仰の対象、もしくは世界の創造主とされる偶像の類。

 

 不可解な現象を現実として処理する理性と、自身の価値観を貫き反旗を上げる己が本能。

 

 天秤にかけて振れたのは、何処までも現実主義を貫いてきた己の経験だった。

 

「___」

 

 情報は得るものであって掠め盗られるものではない。

 

 眼前の相手の情報も読み取れない現状を鑑みても、こちらからアクションを起こすのはリスクが高すぎる。

 

 よって、俺が選択したのは問いに答えることではなく、早期の現状把握と現有戦力の確認だった。

 

 再度、精霊の眼により司一のエイドスの変更履歴を遡ろうとするが、処理落ちを起こしたハードのような機能しか果たさない。

 

(遅すぎる…。情報の過多か?それとも俺の未知の記録形態が影響している?)

 

 目の前の脅威に注意力を裂きながらの作業となると、現在の俺の処理能力ではこの辺りが限界だ。

 

 身体は動く。

 

 呼吸も問題ない。

 

 サイオン波やサイオン光の感覚には乏しいが、CADの起動は可能。

 

 フラッシュキャストであれば即時魔法の発動が可能なようだが…、分解の魔法が封じられているのは痛い。

 

 分解の魔法を行使するにあたって必要になるのは、相手を構成する物質の分析と座標の把握だ。

 

 精霊の眼の使えない現状では分解するべき物質情報も位置情報も魔法式に入力できない。

 

(何より気がかりなのはこの空間だ。全ての空間内の時間を停滞させる…そんな時空操作のような人外染みた魔法など現代の科学技術では再現不可能なはず。タイムリーム能力は実在するとでも言われた方がまだ理解な)

 

 俺は地面に散らばった実弾銃に精霊の眼を向ける。

 

(無機物の情報は問題な解析できる…ならば、この空間内の有機物質は何らかの固定因子を付与されていて、それが精霊の眼の情報解析を妨げているのか?)

 

 マガジンとフレームを分解し、右手の座標に再生の魔法を行使する。

 

 相手には何も無かった空間にいきなり銃が現れたように見えるだろう。

 

 俺が銃口を向けても、司一の姿をしたソレは俺の存在を見透かすように一切の感情が消えた瞳を向け続ける。

 

 片腕を断たれた痛みに歪んだ顔とは相反するように、平坦な口調でソレは宣う。

 

【ふむ、汝の信仰の対象は別にあるということか…。あの信仰心が欠如した冒涜者とは少し異なるようだな】

 

(弁舌戦に付き合う気はないが、深雪の存在を示唆してというのならば話は別だ)

 

 確かに、仮に俺が神なる絶対の存在を定めるとすれば、俺にとってその対象は必然と彼女になる。

 

 ならばこそ、俺は彼女を害するこの世すべてにおける存在を許さない。

 

「読唇術…でなければメンタリズムか?イビルアイを詐称するだけあって、人を欺くのが随分とこなれているらしい」

 

 カマを掛けられているのは重々承知の上だ。

 

 相手の目的は未だ見えないが、ここでの黙秘は相手の主張を肯定しているようなものだ。

 

 俺は引き金に掛けた指を数センチだけ折り曲げる。

 

 殺気を飛ばそうと、ソレの反応に変化はない。

 

【対話は必要ない。一部を除いて感情で事象を判断しない汝の思考は既に神の領域に足を踏み入れているのだから。歓迎しよう、我が同胞よ】

 

(俺に人として欠陥があることを知る人間は限られる。…ならばこれは伯母上の差し金?だが、なんのために?…デグレチャフからの情報といい、俺を取り巻く環境はどうしても俺の慌てふためく顔が見たいらしいな)

 

 妹以外のことで感情が逆立つことなどほとんどない自分が怒りに近い感情を覚え始めていると、ソレは更に口を動かす。

 

【我が同胞よ。あの悪魔を討て】

 

【信仰を忘れた知性在りし獣に絶望を】

 

【終わりなき孤独と渇きに信仰の救済を】

 

【デウス・ロ・ウルト___神がそれを望まれるのだ】

 

 壊れたラジオのように、感情の伴わない声音を溢し続ける。

 

 何かのメッセージなのか?

 

 悪魔とは何を指している?

 

 信仰の救済?

 

 神がそれを望む…?

 

(いや、耳を貸すな。相手はただ言葉を発するだけのスピーカーのような存在だ。それに、何があろうと俺の最優先事項は変わらない)

 

 これ以上の思考は無駄だと切り捨てた俺は、この不可解な現象を打破するための糸口を見つけるため、引き金に力を籠める。

 

(こいつの息の根を止めれば何か変わるか?)

 

 銃弾が射出される直前、不意に足元から声がかかる。

 

【汝は覚えているはずだ。大切なものが自らの手から零れ落ちてゆく感覚を】

 

「!?」

 

 足首を掴んだものに向けて銃弾を放つと、眉間に穴の開く司の部下だったモノ。

 

 いつまで経とうと血の流れない銃痕に嫌悪感を感じ、足首の拘束を振りほどき後方に飛び退く。

 

(これは幻術なのか?ここまでの精神魔法を俺は知らない…!)

 

 相手の系統外魔法の術中に嵌った可能性に思い至った俺は銃口を構え直す。

 

 視線の先にあるソレはすでに物を言わず、さらに別方向からの声が聞こえた。

 

【汝は繰り返すのか?必ず守ると約束したのだろう?】

 

【そのための力ではないのか?】

 

【汝は既に恩寵を授かっているのだぞ?】

 

【それが汝の運命なのだ】

 

【ならば撃て】

 

【敵を排除するために】

 

【眼前に迫る脅威を取り除くために】

 

【汝の目的を果たすために】

 

【汝を通して世界が信仰で満たされるために】

 

【その右手を行使せよ】

 

 次々と多方向から発せられる言葉。

 

 そして再度、瞳の動いた司に俺は問う。

 

「お前は…一体何なんだ?」

 

 俺の問いに、ソレは答えではない解を応える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【あの悪魔に___ターニャ・デグレチャフに死の救済を】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>>>>>>>>>>>>>>>

 

 

 

 

 

 

「___?」

 

「____ああああああっ!!??ううう…!!」

 

 突然、場面が切り替わったかのように世界が動き出す。

 

 噴き出した血液が床を濡らす。

 

 室内を満たす絶叫が、傷口の焼ける匂いで止む。

 

「その辺にしておけ桐原」

 

 十文字会頭がCADを操作し、司一の傷口を止血する。

 

 その際、俺は司一の肩に先ほどまでは無かった銃痕があることに気がついた。

 

「司波。これで全部か?」

 

 十文字会頭が情報の集約を行う中、俺は精霊の眼で写し取った氷像に分解の魔法を行使する。

 

「…ええ、こいつで全てです」

 

「そうか。ここから先の事後処理は当家の者に任せてもらう。お前たちは先に学園へ戻れ」

 

 十文字会頭の指示を余所に俺は別の事について頭を回していた。

 

 先ほどの怪現象と現在。

 

(何だったんだ…今のは)

 

「ん?司波兄、お前実弾銃なんていつの間に持ってたんだ?」

 

「…ああ。それは敵の複数人が____?」

 

 アンティ・ナイトを装備していた。

 

 桐原先輩に応対しているとき、新たな事柄に気がつき更なる疑問に襲われた俺は、咄嗟に言葉を濁した。

 

 その後、十文字家による現場処理が行われ二つ不可解な謎が生まれた。

 

 一つは女性のライダースーツが取り残されていたこと。

 

 そして、もう一つは____司を始め数人の指が欠損していたことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の話は昨日投降したepisode19.を加筆修正して再掲したものになります。

前回の話はプロット段階のもので、誤って投降してしまったものです。

急な話の差し替えをおこなってしまい申し訳ありません。

次回はターニャちゃんがいっぱい話すので許して下さい。

それではまた戦場で


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episode20.

よう…一か月ぶりだな(震え声)

短い文章で恐縮ですが、暇つぶしに見てやってください。


 

 

 

 

 

「いいか。スー二等兵。貴官の役割は正門に居座る生徒二名の無力化と司波深雪嬢の足止めだ」

 

 戦闘音がある程度収まったのを確認した私は二等兵と最後のブリーフィングを行う。

 

 スー二等兵はアイフェイスを下げると変音機を調整しながら私に問う。

 

「腕の一本程度は折ってもよろしいでしょうか?』

 

「貴官が単身で四葉家と戦争に臨みたいというのであれば私は止めないが?」

 

 私の返答にハハハと乾いた笑い声を溢した二等兵は胸元に右手を置いて、私たち魔導士の生命線を指し示す。

 

『…宝珠の使用許可をお願いします』

 

 珍しく二等兵を緊張感が襲っているようで、日頃の能天気さは影を潜め、軍人独特の冷え切った感情が彼女の周囲を覆っていた。

 

「無論だ。流石の私も彼女を相手に武器を隠して戦えとは言わん。___相手は振動系統、特に氷結系の広範囲魔法を得意としている魔法師だ。極力、彼女の魔法を無力化し、拘束される前に離脱するよう心掛けろ。任務遂行時間は2分、行けるな?」

 

『当然です。なんたって私は貴女のメアリーなんですから』

 

 お互いに背を向けて駆け出す。

 

 

「___スケープゴート作戦、開始!」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 アンティナイトは有用な軍事物資である。

 

 その効果は魔法師ならず魔法に関心のある者ならば誰でも知っていることだろう。

 

 不規則なサイオン波を意図的に乱立させ、魔法式の構築を阻害する対魔法装置。

 

 その価値は国にもよるが、とある国では戦車の制作費用に匹敵する額とも言われている。

 

「経済の基本は損得勘定だ。いかにコストを抑え、最高のリターンをいただくか。輸送料が相手先持ちならこれほど美味しい話はないな」

 

 今回のアンティナイト密売は仕組まれていたことだ。

 

 密輸業者、犯罪組織、ブローカー…etc

 

 警察組織への情報提供で得た謝礼額も相当なものだ。

 

 我々軍は潤沢な資金力を。

 

 警察組織は優良な昇進材料を。

 

 市民にはさらなる平穏の享受を。

 

 まさに歓喜万来。

 

「まあ…それもこれも、ここで私が失敗すれば全て水の泡。上層部の古狸どもは、文字通り皮算用する羽目になるのか…それはそれで悪くはないがな」

 

 悪態を吐きつつ私はスー二等兵が去ったのを確認してから、サイドパックに装備していたポケットマギクスを四つ取り出す。

 

 指の間に挟み込んだポケットマギクスに宝珠を経由して魔力を流し込む。

 

【利け。神を自称する醜悪の恢塊よ。ここに貴様の御業は地に伏した】

 

 私の言葉に演算宝珠が黒い光を帯びる。

 

 それはまるで神の怒りに触れた象徴のようで___

 

【なれば私がこの地を統べる存在に座す】

 

 どこまでも美しく視界を覆う夜空のような___

 

【これが人。これぞ人。ここに人間こそがこの世の統治者たる所以を示す】

 

 それは悲しい悲しい___

 

 

 

 

 

【封絶】

 

 

 

  _____冷たい光

 

 

 世界が黄昏色に染まる。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

『___遂にあの冒涜者は禁忌を犯したか』

 

 全にして無。

 

 無にして全。

 

 時空の概念すら超越した場所にその存在は座していた。

 

『何故だ。何故神を信仰しない?祈りを捧げない?救いを求めない?』

 

 故にその存在は理解できない。

 

『人間よ。何故貴様らは___【生】を、苦しみ続けることを望むのだ?』

 

 理解できないからこそ悍ましい。

 

 生という苦しみを受け入れ、在ろうことか我が子に、未来に負の遺産を送る狂った種族。

 

 どこまでも罪深いその在り方を。

 

『我は正さねばならない』

 

 その存在は跳ぶ。

 

 行き先は、標す必要もない事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

【封絶】

 

 存在Xの使用していた時空歪曲による空間制御の究極系。

 

 それを神の冒涜による奇跡の暴走と、自身の心象風景の具現化モジュールにより、極めて精巧な【偽物の空間】を生み出す。

 

 黄昏色に染まった世界を視認し、無事術式の発動を終えたことに安堵した私は、魔力光をカーソル上に展開し対象の物質をロックしていく。

 

「空間座標…把握、対象数リード…____【回帰】」

 

 ボトボトッ…。

 

 指輪の付いた数十の指が私の足元の地面に落ちる。

 

「……まさかこれほど上手く行くとはな」

 

 物体の相対位置を固定し、中点を軸に頂点の空間に付随した物質を移動させる術式。

 

 心象風景を具現化しているこの中ではイメージがそのまま現象として現れるような全能感を憶えてしまう。

 

「___だが、これはばかりは予想外だぞ?貴様はどこまで私のプライベートな空間を踏みにじる気だ?」

 

 私は懐のホルスターから小銃を引き抜き構える。

 

「存在X」

 

 

 

 

 

 そこには、十師族の中でも鉄壁の守りを誇る___

 

 

 

 

 

 十文字家次期当主____十文字克人の姿があった。

 

 

 

 




次回、ターニャVS十文字(存在X)

8月中旬投稿!!














………予定(小声)

それではまた戦場で


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episode21.

中旬の定義。

私はそんな当たり前の事実から目を逸らした____

戯言を失礼しました。




 

 

 

 

 巨人の足音が脳髄を震わせる。

 

 そんな錯覚を覚えるほどには私の神経回路は眼前の異常性を正しく認識できていた。

 

 一辺、1m弱の四方形が確かな殺意と共に頭上から降り注ぐ。

 

 世界最高レベルの魔法障壁【ファランクス】は遺憾なくその本領を発揮し、私の身体を土と同化させようと意気込んでいる。

 

 既に私の衣服は雑草と土の色が染み付き、軍服の迷彩振りに拍車がかかり涙が出そうだ。

 

 しかし、私もただやられているわけではない。

 

 魔法による自己加速術式を展開しつつ、魔術による貫通術式を弾丸に付与する。

 

 回避行動の際、魔法再発動のインターバルに鉛玉を脳天目がけて撃ち込んでいるのだが、多重装甲型の障壁を前に、ただ小さな花火を上げるだけに終わっている。

 

 すまない、君には何の罪も無いのだが、何も理由を聞かずに死んでくれると助かる十文字少年。

 

 額を伝う汗が障壁による空気の高速移動で吹き飛ばされる感覚を、悪態を吐くことで黙認する。

 

「ぐッ…!!」

 

 バックステップした先に物理障壁。

 

 運動エネルギーを付与されていない壁の役割など防御を除けば足止めの罠以外あり得ない。

 

 私は追撃のファランクスを避け切れないと判断し一種の賭けに出る。

 

 魔法障壁の発動。

 

 十文字家のファランクスに真っ向から力比べを挑む。

 

 常時の私なら疎かだと唾棄した戦法だろうが状況が状況だ。

 

 多少のミスもご愛嬌というもの。

 

 全く以って予想通り。

 

 見積もりの甘さが響き、私の身体は一瞬で宙へ浮き建物の窓を物の見事に突き破る。

 

 空中に散らばったガラスの破片ごと叩きつけるように床へ手を突き体勢を立て直す。

 

 手のひらに小さな障壁を展開することで手が血まみれになることは防ぐ。

 

 図らずして遮蔽物に身を隠すことができた私は、存在Xの死角から狙撃するためフラッシュグレネードのピンを犬歯で咥えてひと思いに引き抜く。

 

 小さな太陽を窓の外に投げ込んだ後、自身に掛かるリスクケアのため口を開き目と耳を塞ごうとした時、左目だけ閉じた私は見た。

 

 宙で物理法則を無視した動きで此方に跳ね返ってくるグレネードを。

 

(くそったれ!!!!地獄に堕ちろ存在X!!!)

 

 私は咄嗟に【回帰】を発動し、窓の奥に見えた木の枝とグレネードの位置を入れ替える。

 

 閃光と共に炸裂音が響き渡る。

 

 すぐさま銃口を窓の淵から覗かせ引き金を引く。

 

 しかし、既にその場に存在Xの姿はない。

 

(何処に…?___まさか!?)

 

 私は扉を蹴破り隣接する一室へ転がり込む。

 

 次の瞬間、天井が崩落を始め一秒前に私がいた場所へ破城槌が降り注ぐ。

 

 土埃が舞い視界が遮られる中、威嚇射撃を敢行する。

 

 だが、鳴り響くのは鉛玉がアスファルトの壁を叩く音だけ。

 

 マガジンを換装し銃弾を装填する最中、瓦礫を踏む音を捉えた私は咄嗟に片手で引き金を引く。

 

 これが悪手だった。

 

 銃の反動により体幹が軽度後傾した瞬間、狙い澄ましたように右手の銃を掠め取っていくファランクス。

 

 右手を守るために銃を放したのは正解だ。

 

 手中から取り溢した小銃をきっぱりと放棄した私は、演算宝珠に魔力を通し魔力障壁を展開する。

 

 断続的に襲い掛かる視えない壁の暴力は、私の理不尽な奇跡の暴力と拮抗し合い、そして相殺された。

 

 左手を大仏のように突き出したままの存在Xは、何を思ったのか攻撃の手を止める。

 

 私は半身の体勢のまま右手を身体で隠しつつ、存在Xとの不愉快な雑談に興じる。

 

「盾で槍投げの真似事とは。随分と酔狂なことを思いつくものだな?」

 

【貴様は一度、大地の神に抱かれたほう良い。貴様の薄汚れた血と思想は大地の神が清き色に浄化することだろう。何とも素晴らしく、実に喜ばしいことだ。そのためにはお誂え向きな趣向だと思わないかね?】

 

 存在Xの言葉に、私は徐々に自分が笑顔になっていることに気付く。

 

 無理もない。

 

 私が殺したくて殺したくて殺したくて殺したくてたまらない。

 

 そんな、夢に出るほど待ち焦がれた相手が目の前にいるのだから。

 

「ああ、思うとも。___その血が貴様の血なら最高に愉快だよ!!」

 

 私は私という座標と存在Xの背後の座標を相対位置として固定し、中点を軸に頂点を入れ替える。

 

 空間転移魔法【回帰】を発動する。

 

 高速で半円の軌道を描くのではない。

 

 ただ、相対位置にある空間を交換するだけ。

 

 初めからそうであったと世界に承認させる。

 

 心象世界を具現化しようとも、もとの世界から完全に外れているわけでは無い。

 

 だが逆を言えば、もとの世界から外れかけているともいえる。

 

 世界による復元力が弱まるこの世界では、抑止力となりうるのは己の理性、心意のみ。

 

 サバイバルナイフに貫通術式を発動する。

 

 あらゆる障害を無効化する干渉術式による一撃は、ファランクスの重層的な守りを、まるでバームクーヘンにフォークを突き刺すような滑らかさで貫く。

 

 そして私は存在Xから溢れる血を歓喜の表情で迎え入れる___

 

 

 

 

 

 ___はずだった。

 

 

 

【卑しいな、人間】

 

「っ~~~~~~!!?」

 

 刹那、ナイフの刃の部分が砂の城を崩すかのように消失する。

 

 存在Xの手が私の手首から先を覆い尽くすように掴み取る。

 

 冷や汗が噴き出し、左手で右腕を引き抜こうとするが遅かった。

 

 そのままナイフの柄ごと右手を握り潰された私は、喉の奥から漏れ出そうになる悲鳴を、奥歯を噛み砕くことで抑え込み更なる追撃に備える。

 

 手の甲から肌を破って突き出した骨と血の感触に、言いようのない嫌悪感を味わいつつ私は必死に手を引き抜こうとする。

 

 私の抵抗を嘲笑うかのように腕を掴んだままの存在Xは、私を吊るし上げ痛みに苦悶する表情を愉しむかのように私の顔を覗き込む。

 

【貴様の思考をなぞるなど悍ましいことこの上ないが、貴様を信仰心で満たすためならばいた仕方あるまい】

 

「ふざけるな!誰が貴様のような変出者を信仰なぞするものか____ガッっ!!!」

 

 まるでゴミを放り捨てられるように屋外へ投げられる。

 

 ご丁寧位に右肩の関節を外すような投げ方をしてくる。

 

 ゴッ とおよそ人の身体から聞こえてはならない音が自分の肩から響いたと思った時には既に激痛が脳髄を駆け抜けた。

 

 受け身など取る余裕などなく、私にできる唯一の抵抗など悲鳴を上げないよう歯を食いしばることくらいだった。

 

 痛みに思考を阻害される中、存在Xの不愉快な雑音が私の耳管を犯す。

 

【これぞ神。これこそが神。分かるか?創造主とは偉大なものなのだよ、冒涜者。だからこそ貴様の蛮行を見逃すわけにはいかん。選べ。死したまま惨めに生きるのか?生きながらに死を享受するか?それとも______我が信仰に目覚めるか?】

 

「……黙れ」

 

 私は外れた右肩に左手を添える。

 

【信仰は素晴らしいぞ。祈るだけで人間は救われる。安らかになられる。幸福になれる。福音を授かるのだ】

 

「…黙れ」

 

 無理やり骨頭を関節腱板内にねじ込む。

 

 痛みは無視する。

 

 いや、それよりも。

 

【そのような痛みに悩まされることなど無い。苦しみも悲しみもない。満ち溢れた世界が__】

 

 

 

 

 

 

『黙れと言った』

 

 

 

 

 私の思考はこの不愉快な声をどうやって消し去るか、その方法を見つけだすことで埋め尽くされていた。

 

 武器は既にない。

 

 あるのはこの首から下げた宝珠と手首に装着した汎用型CAD。

 

 そして、瞳の色を変えるほどの熱量を発している、この脳のみ。

 

 色彩感覚が消え、雑念は沈まり、思考のみが加速していく。

 

 心象世界が塗りつぶした世界である【封絶】の空間が私の心意に呼応するかのように、その色を変えていく。

 

 カチリッ。

 

 歯車が噛み合ったような音を脳が発する。

 

 私は拉げた右手の親指を立てる。

 

 そして____

 

「自称神よ。話し相手が欲しいのなら初めからそう言ってくれ。あまりにも惨めで可愛そうで私の良心が傷んで仕方がない。どれ、私が慰めてやろうか?___よちよち、神ちゃま上手におしゃべりできてまちゅねーすごいねー!

お可愛いこと(嘲笑)

 

 GO TO HELL.

 

 皮肉たっぷりに最高の笑みを送る。

 

 さて、仕上げといこうか。

 

「見せてやろう、自称神。これが人間の、人間にしかできない___戦い方だ」

 

 

 

 

 

 




次回で入学編終了するといいな…。

何とか夏休み中に九校戦を…!!

ターニャや達也君の水着回を!!

私は描き続ける___睡魔に屈服するその時まで!!←寝落ちまで秒読み

それではまた戦場で


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