ケツアゴ作品番外及び短編集 (ケツアゴ)
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従者が金ピカと青タイツと半裸だったら…… ①

ハグレ悪魔バイサー討伐の為、柳は見学のヴァーリと共に廃工場を訪れていた。

 

 

 

「ぶるぁああああああああああああっ!! 何処ぉだぁ。何処ぉに居るぅ?」

 

「……なんで彼を連れてきたんだい? 後始末が大変だろう?」

 

「……ついて来たんです。舎弟の面倒を見るのも親分の勤めだからって……。いや、気持ちは有難いんですよ。でも、彼らに任せると周りの被害が……」

 

これから行われるであろう惨殺によって生じる被害と、その後始末を考えて柳が頭痛を感じた時、彼の未熟なマントラにバイサーらしき気配がかかった

 

「後ろです! ……あっ!」

 

「あ~あ、やってしまったな」

 

「美味そうな匂いが……ヒィッ!」

 

柳達を哀れな獲物と思って出てきたバイサーの顔はすぐさま恐怖に塗りつぶされる。身の毛のよだつほどの威圧感を感じさせる程の巨漢が片手で自分を持ち上げていたのだ

 

「俺の背後に立つんじゃねぇ!!」

 

「うぎゃぁぁぁぁぁっ!! に、逃げ……」

 

部屋の入り口付近まで投げ飛ばされたバイサーは床に激突した衝撃で血潮をぶちまけながらも這いずって逃げようとした。勝てない相手から逃げる。確かにそれは間違っていない。敵対しているのがバルバトスでさえなければの話だが……。

 

「男に後退の二文字はねえ! 絶望のシリングフォール! ぶるぁあああああああああああああっ!!」

 

「ギャァァァァァァァァッ!!」

 

「ハグレ悪魔バイサー! 貴方を滅しに……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 

「……今、誰か巻き込まれませんでした?」

 

「……俺は何も見ていない。赤い髪をした女に率いられた集団がバルバトスの術に巻き込まれた所なんて見ていない」

 

「……うん。何も起きていませんね!」

 

 

「今日の俺は紳士的だ。運が良かったな。ぶわっはははははははははははっ!!」

 

柳とヴァーリが現実逃避をする中、バルバトスの高笑いが木霊した……。

 

 

 

 

「……それで、説明して貰えるかしら? 貴方達は誰なのかしら?」

 

あの後、怪我をしたリアス達を治療した柳は部室に呼び出されていた。最初は動向を渋った従者達であったが

 

「へえ~、ご飯いらないんですか? ずっと臭い服のままでいいんですね?」

 

家事の全てを握っている柳には逆らえず、同席している。ちなみに、バルバトスと柳はソファーの後ろに立ち、ギルガメッシュとエネルがふんぞり返っているのだが、神嫌いの英雄王と空島の神では相性が悪く、肘で啄きあっていた。

 

「おい、雑種。王に向かって無礼であるぞ。まぁ、良い。名乗ってやろう。我が名はギルガメッシュ。この世で唯一の真の王だ」

 

「我が名はエネル。我は神なり!」

 

「ぶるぁあああああああああああつ!! バーバババーババ、バルバトス・ゲーティアだっ!」

 

「わ、私は柳、この人達の」

 

「コイツは我の家臣だ」

 

「いや、我の下僕だ」

 

「俺の舎弟だ」

 

「……こんな関係です」

 

自己紹介に割って入り、勝手な事を言い出す三人に対し、柳は疲れた顔を見せ、リアスは同情した視線を送っていた……

 

 

その後、三人の茶々が入るも柳がリードして順調に話が進んだが、リアスの発した一言に場の空気が凍りつく

 

 

 

 

 

「ねぇ、貴方達。私の眷属にならない?」

 

 

 

 

 

 

「……雑種が、身の程を知れいっ!」

 

「……不届き」

 

「……屑がァ」

 

「……嫌ですね。貴女程度の下に付くなんて」

 

その言葉を聞き、三人からは極大の殺気が発せられた……

 

 

 

 

 

駒王学園の校庭では一触即発の空気が流れていた。原因はリアスの言葉である。眷属への勧誘を断られたリアスはせめて柳を監視対象に入れようとしたのだが……

 

 

「はぁ? ここは私の領地だから勝手な真似はさせない? ここは日本ですよ。貴女達三勢力の言う縄張りなんて、ヤクザが言う、此処はうちの組のシマ、っていうのと変わらないじゃないですか。領地を主張したいなら冥界でどうぞ」

 

っと、再び断られ、それでもしつこく食い下がるリアスに対し、我慢できなくなった柳が提案したのだ

 

 

「じゃあ、私達と戦って、二勝できたら入りますよ。ただし、出来なかったら不干渉でお願いしますね。あっ、組み合わせはこちらが決めて良いですか?」

 

「望むところよ! 私の眷属の力、見せてあげるわ!!」

 

所詮、相手は相手は人間。悪魔には敵わない。リアスはそう考えていた。直ぐにその考えを覆されると知らずに……

 

 

一戦目 柳 vs 小猫

 

二戦目 エネル vs 祐斗 一誠

 

三戦目 バルバトス vs 朱乃

 

四戦目 ギルガメッシュ vs リアス

 

 

 

 

 

「……手加減しません」

 

「手加減して貰うのは貴女の方では? それと、子供はもう寝る時間ですよ。後でオネムだから負けたって言わないで下さいよ」

 

初戦は柳と小猫の戦い。油断なく構える小猫に対し、柳は余裕を崩さず、挑発まで仕掛けていた。それを見て、リアスが得意げに口を開く

 

「あら、小猫の駒は戦車よ。戦車の特性は頑丈さと攻撃力。人間が耐えられる攻撃じゃないわ。降参するなら今の内よ」

 

「早く始めてくれませんか? 見たいテレビがあるんですよ」

 

「くっ! じゃあ、始め!」

 

「……吹っ飛べ」

 

柳の挑発に青筋を立てたリアスが開始の合図をすると共に小猫は柳に突っ込んでいき、拳を振るう.小猫の武器は戦車の特性だけでなく、極めてきた格闘技術だ。今も無駄のない拳が放たれ

 

「マントラ」

 

「なっ!?」

 

柳はそれを軽々と交わす。まるで動きを完全に読んでいるかの様に……。リアス達が驚愕の顔を浮かべる中、仲間である三人は不満そうな顔をしていた

 

「まだまだマントラが甘いな。修行が足らん」

 

「あの程度ならミリで避けんとなぁ。未熟者めがぁ」

 

「我の家臣ならもっと強くならねばならん。修行内容を練り直すぞ」

 

 

 

 

「……嫌な寒気が。さて、もう終わらせますか」

 

「……避けるばかりじゃ私には勝てません」

 

先程から一発も攻撃が掠りもせず、小猫は苛立っていた。柳はそんな彼女の顔を見て馬鹿にしたように指さし、

 

 

「カルシウムが足りていませんよ。だからイライラするし、背も小さいんですよ」

 

「……殺す」

 

禁句を言われ小猫は突っ込んでいく。それが柳の罠とも知らずに……。小猫の拳を避けた柳はその攻撃の勢いが収まらない内に指を二本突き出す。小猫の両目に向かって……

 

「ッ!」

 

咄嗟に後ろに体を逸らし回避した小猫だったが、大きく体勢を崩し、その隙に柳は後ろに回り込んでいた。

 

「これで終わりです」

 

そのまま小猫の右腕と後頭部を掴んだ柳は足を払い、勢いよく小猫の顔面を地面に叩きつけ、右腕を掴んだまま体を大きく捻る

 

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「……うるさい」

 

肩の外れる音と小猫の悲鳴が校庭に木霊した。そして、まるで耳障りだと言わんばかりに不機嫌な顔をした柳は小猫の頭を力を込めて踏みつける。小猫が回避しようとしてもその移動先を読んで、何度も、何度も。そして、やがて子猫は気絶して動かなくなり、校庭には血だまりが出来ていた。

 

「さぁ、次の試合にしましょう」

 

柳は自分を睨めつけるリアス達の視線を気にした様子もなく、優しい笑みを浮かべ、そう言った……。

 

 

 

 

 

「おい、柳! 幾ら何でもやりすぎだろうがっ! どうしたんだよ!? こんなの、お前らしくねぇ」

 

普段見知った友人の豹変したとしか思えない行動に対し一誠は声を荒げるが、柳はなぜ怒鳴られているのか理解できないという顔をした

 

「はぁ? これ、戦いですよ。それはそちらも了承したでしょう? レーティングゲームなんて戦いモドキを楽しむのが悪魔なんだから、この程度で文句言わないで下さいよ。それとも、貴方方の言う戦いとは、一方的に相手を痛めつける事を言うのですか? それは、それは、まさに悪魔の所業ですね。ああ、それから、私らしくない? 貴方が知っている私も、今の私も、私の一面に過ぎませんよ」

 

柳はそう言うとまだ何か言おうとしている一誠を無視し、その場から離れていった

 

 

「ヤハハハハ。次は我の出番だな。……余興だ。1分の猶予をやろう。その間は我は動かん。倒せるものなら倒してみよ」

 

エネルは一誠達を馬鹿にする様な態度でそう言うと、その場にに座り込む。その態度に一誠だけでなく、普段冷静な祐斗さえも青筋を浮かべていた。そして、一層怒りをあらわにしたリアスは二人に激を飛ばす。

 

「二人共。貴方達をバカにした報いを受けさせなさい。小猫の敵、頼んだわよ!」

 

「「はい、部長」」

 

二人はは怒りと気合をみなぎらせ、エネルへと向かっていった……。

 

 

 

 

「フンッ! エネルめ。悪い癖を出しおって。さっさと倒してしまえば良いものを」

 

「くだらんなぁ。戦いに余興は不要だァ。雑魚を相手にするのは時間の無駄ァだからなぁ」

 

「まぁまぁ、これが終わったら何時もの様に禁手を使いますから其処で戦ってください。それより、終わったらコンビニで何か買っていきませんか? 少し小腹が減ってしまいまして」

 

「コンビニだと? 王の夜食にふさわしくないわっ! 貴様が作らんかぁ! ……期待しておるぞ」

 

三人がのんきに話をする中、祐斗と一誠の猛攻は続いていた。エネルに一撃も与えられぬまま……。

 

 

「くそっ! なんで当たらねえんだ!?」

 

「……何かの神器かい?」

 

何度二人が攻撃してもエネルの体を通過し、攻撃が通らない。二人が焦る中、エネルはむくりと立ち上がり、首をコキコキと鳴らした。

 

「さて、もう一分だ。2000万Vヴァーリー!!」

 

エネルが瞬時に二人の目前まで迫り、その顔を掴むとその手からとてつもない電流が放たれ、二人は膝から崩れ落ちた……。

 

 

「柳よ、我はラーメンが良い。帰ったらすぐに作れ」

 

「……買い置きあったかな?」

 

「麺から作れ。我は麺類は厳の店の蕎麦か貴様の手打ち以外認めん」

 

倒した二人に対してなんの感情も示さず、そんな会話を続けている柳達に対し、リアスと朱乃の我慢の限界が訪れようとしていた。そんな二人を見てバルバトスとギルガメッシュは愉快そうに笑う。愉快な道化を見るとうに……。そして、ある事を提案した……。

 

「どうせなら2対2の戦いをせんか? どちらかがやられたら眷属でも何でもなってやろう」

 

「それとももう辞めておくかぁ? もっとも、先に喧嘩を売ったのはそっちだぁ。逃がしはせんがなぁ」

 

 

 

「……あの二人って殺し合いばかりしている割には仲良いですよね。まぁ、ギルさんは神嫌いですからエネルさんに良く喧嘩を売りますが」

 

 

 

 

「……もう、許さない。私の下僕の敵、存分に取らせてもらうわ!」

 

「うふふふふ、覚悟ををしておいてくださいね」

 

リアスは無残に敗れ去った一誠達の姿に涙を流し、怒りで赤いオーラを全身から溢れさせている。朱乃もまた、笑ってはいるものの手からは電流が溢れ出しいた。しかし、普通なら上級悪魔でも恐怖するその光景でも対戦者の顔からは余裕が消えていなかった

 

「何をグダグダ言っておる。貴様の下僕が貧弱なのが悪いのであろう」

 

「貴様っ!」

 

ギルガメッシュの一言についに激高したリアスは開始の合図も待たずに滅びの魔力を放ち、ギルガメッシュは鼻を鳴らしてマントで簡単に打ち払う

 

「ほほぅ、貴様が我の相手だな。中々の美貌だ。ゆっくり相手をしてやりたいが、我は忙しいのでな。せめて、散り様で我を楽しませよ。雑種。ゲート・オブ・バビロン!」

 

「なっ!?」

 

ギルガメッシュがそう叫んだ途端、空間が歪み、そこから無数の剣が現れる。一つ一つから放たれるオーラにリアスが驚愕した時、その全てがリアスに向かって放たれた

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

すぐに魔力で相殺させようとするも、滅びの魔力はあっさりと剣に貫かれ、無数の剣はリアスに向かって降り注いだ……。

 

 

 

 

 

「あれって、生きてますよね? 死んだら魔王が出てきそうなんですが……」

 

「ヤハハハハ、安心してマントラを研ぎ澄ませろ。生きておろう。ギルも貴様の前だから張り切っているだけだ。……さて、問題はあの小娘の方だな。奴の琴線に触れなければ良いのだが……」

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、クッ、ここまで力の差があるなんて……」

 

「ぶるぁあああああああああああああっ!!」

 

朱乃の放った雷はバルバトスの斧の一撃で霧散し、更にその斧を振るった衝撃だけで朱乃は吹き飛ばされていた。距離を取ろうにも相手の方が素早く、甚振るかの様にジワジワと追い詰められていく。その時、朱乃はあることに気づいた

 

 

「……あの人、先程から大地の魔法と接近戦しかしてませんわ。ならっ!」

 

朱乃はバルバトスの攻撃を躱し、攻撃が届かない上空まで飛行する。そして、そこから力を貯めた一撃を放とうとし

 

 

「貴様に俺と戦う資格はねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 

バルバトスの斧から放たれた赤い光に飲み込まれ、意識を手放した……。

 

 

 

「……あ~あ、やっちゃいました」

 

そして、柳はその光景に哀れんだ視線を送っていた。

 

 

 

 

 

 

ギルガメッシュの財宝を使い、リアス達の応急処置をした柳は何か言われる前にその場を去った

 

「不干渉と言いましたが、何かありましたらご依頼ください」

 

一誠がよく知る、人の良さそうな笑顔でそう言い残して……。

 

 

 

「あ~、クソ、ギルさんめ。コンビニのスィーツが食べたくなったから買ってこい、だなんて。……お気にいりのシャンプーに脱毛剤入れましょうか? いや、あの人には効かなさそうですね」

 

エネルのマントラでその呟きを聞かれ、ギルガメッシュに伝わっているとは露知らず、柳はコンビニの袋を下げ、夜道を歩いていた。すると、とあるアパートの前を通りかかった時に違和感を感じ、よく集中すると人払いの結界が張ってある。何時もなら無視する所だが、柳のマントラは最近知り合った人物の気配を捉えていた。

 

「アーシアさん……」

 

最近出会い、道案内をした少女、アーシア。彼女は柳の死んだ妹にどことなく似ていたのだ。気になった柳が詳しく探ると、死人らしき気配と恐怖したアーシアの気配。そして、激昂している男の気配があった。

 

「ちっ! 仕方ないですね」

 

柳は舌打ちをすると、そっとアパートの一室に近づいていった。

 

 

「こんな事間違っています! 悪魔に魅入られたからって人を殺すなんて!」

 

「あ~ウザってぇ。殺すなって言われているけど、犯すくらいは良いよな。っていうか、其のくらいしないと気が収まらねぇ」

 

フリードの助手としてアパートの一室についてきたアーシアが見たのは無残な惨殺死体。あまりのことにショックを受けたアーシアがフリードに詰め寄ると、フリードは激高してアーシアに襲いかかった。修道服に手をかけ、強引に破ると下着が顕になる

 

「きゃあ!」

 

とっさに手で胸をかばい蹲ったアーシアにフリードは襲いかかろうとし

 

 

「その辺にしてください」

 

「あぁ? 誰だ、テメ……うおっ!?」

 

 

突如現れた柳に腕を捕まれ、止められる。フリードが柳に向かって文句を言おうとした瞬間、足を払われ、バランスを崩され、顔面を掴まれた。

 

「……沈め」

 

柳はそのままフリードを床に叩きつけ、後頭部を強く打ったフリードは悲鳴も上げずに気を失った。あまりの光景に呆然としていたアーシアだったが、ふと我に返り、自分の格好を確認する。服の胸部が破け、ブラが露出していた

 

「きゃあ!、見ないでください」

 

「……これをどうぞ」

 

柳は顔を逸らしながらながら上着を差し出し、アーシアはそれを着る事でなんとか落ち着くことができた。

 

「あの、なんで柳さんが此処に?」

 

「怪しい結界に気付きましてね。好奇心を出して正解だったようです。お怪我はありませんか?」

 

「あ!すいません、お礼を言うにを忘れていました。助けてくださり、有難うございました。貴方に主のご加護があらん事を」

 

その言葉を聞いた柳の脳裏に浮かんだのは金ピカの神嫌いと半裸の自称神、そして、青タイツの英雄殺しの姿だった。こんな奴らが育ての親では神の祝福は受けられそうにない。

 

「……無理だろうなぁ~。育ての親が神嫌いと自称神だからなぁ~。後、グミが嫌いな戦闘狂ですし。……堕天使の気配が近づいてきますね」

 

「そんな! すぐ逃げてください。私は大丈夫ですから」

 

「いえいえ、そうはいきませんよ。それとも、こんな事をする者達と一緒に居たいんですか? 多分これも堕天使の指示ですよ。……どうします?」

 

「……嫌です。こんな事をする人達と一緒に居たくありません!」

 

「じゃあ、逃げましょう。貴女は兎も角、スィーツを守りきる自信はありませんからね」

 

その返事を聞き、柳は満足げに笑い、アーシアの手を取って部屋から駆け出した……。

 

 

 

 

「さて、力ずくでも連れて帰るとして、横の人間は邪魔だな。目撃者だろうし、死んでもらうか」

 

ドーナシークは残酷な笑みを浮かべ、右手に光の槍を発生させ、投擲の構えを取り、柳目掛けて投擲しようとしたその瞬間、

 

 

 

 

「ほぉ、誰に死んで貰うというのだ?」

 

若い男の声が聞こえ、ドーナシークの腕が消し飛ぶ

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

激痛に絶叫をあげ、血が止めどなく溢れる腕を押さえた彼の前には、電信柱の上に立つ金色の鎧をまとった男だった

 

「雑種の分際で我の家臣に手を出そうとはなぁ。喜べ、王自らが始末してやる」

 

その瞬間、空中に無数の剣が現れる。ドーナシークは、その剣に宿る力に気づく間もなく全身を刺し貫かれて死に絶えた。それを見て鎧の男はつまらなそうに鼻を鳴らすと、短剣を一本手に取り、柳に投擲する

 

「王の手を煩わせた罰だ。甘んじて受けるが良い」

 

 

 

 

「や、柳さん! 大丈夫ですか!?」

 

「な、何とか。……ギルさんですね。あの人が動きましたか。……後が怖いなぁ。あの人容赦ないからなぁ」

 

突如飛んできた短剣を辛うじて躱した柳だったが、破壊されたブロック塀の破片をくらい、血を流していた

 

 

アーシアに治療してもらいなんとか帰宅した柳を出迎えたのは半裸の男。男はアーシアを見ると愉快そうに笑う

 

「ヤハハハハハハハハハハ! 貴様が女連れで帰宅とは珍しい。帰りが遅いと思ったらそういう事か。避妊はしたのだろうな? おっと、女。名乗りが遅れたな。我が名はエネル。我は神なり!」

 

「えっ? えぇっ!?」

 

「アーシアさん、落ち着いください。ただの冗談ですよ。エネルさんもからかわない。貴方なら分かってるでしょう?」

 

柳がそう言って嘆息を吐き、アーシアが顔を真っ赤にする中、今度は家の中から筋骨隆々の男が出てきた。青髪を振り乱し、褐色の肌をしたその男はいかにも好戦的といった感じだ

 

「ぶるぁああああああああああ!! 柳ィ、こんな時間までどこで何をしていたんだァ? すこぉしぃ、お仕置きだァ」

 

「え?ちょっと、バルバトスさん!? 落ち着いて。ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

バルバトスは家の奥に柳を引きずっていき、家中に柳の悲鳴が木霊した……。



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従者が金ピカと青タイツと半裸だったら…… ②

「……了解した。アイツ等は好きにしてくれ。約束の品は後で送る」

 

「当然だ。我の家臣に手を出そうとしたのだ、本来なら貴様も殺している所だが、貢物に免じ、許してやろう。ありがたく思うが良い」

 

「……すいません」

 

アザゼルに対しレイナーレ達の事を確認した柳達は、彼女等を始末する事、迷惑かけた侘びとして神器を幾らか差し出す事をギルガメッシュの独断で決定させ、話し合いが終わった。偉そうながらも過保護な所のある従者三人の怒りを買っている事にアザゼルは冷や汗を流し、柳はあまりに失礼な態度に居た堪れなくなっていた……。

 

 

 

 

 

「……本当に、友達だと思って良いんですね?」

 

ギルガメッシュの提案という名の命令により、レイナーレをおびき寄せる囮となった柳は、そんな事を知らないで楽しそうにしているアーシアに内心謝りつつ、街中を散策していた。そして、公園の池を眺めていた時、アーシアは柳に話した。自分の過去を。ずっと友達が欲しかった事を……

 

それに対し、柳は少し寂しそうにため息をついていった

 

「やれやれ、私の中では貴女は友達の積もりだったのですが、思い過ごしだった様ですね」

 

その一言にアーシアは驚き、喜びのあまりに涙しながらも手を差し出す。初めて出来た友達と握手をしようと。しかし、背後から無粋な声が聞こえてきた。

 

 

「アーシア。やっと見つけたわ。さぁ、帰りましょ。貴女は今夜の儀式に必要なのよ。……友達を殺されたくないで……がっ!?」

 

柳を殺すと脅し、アーシアを連れて帰ろうとしたレイナーレだったが、言葉を言い切る前に中断させられた。

 

「鬱陶しんですよ。空気読んで出てくるな、羽虫がっ!」

 

「や、柳さん!?」

 

 

レイナーレの顔面に飛び蹴りを叩き込んだ柳はバク転で地面に降り立つと、公園に設置されていたベンチを持ち上げ、レイナーレに投擲する。不意を打たれて動揺していた彼女は避けられず、ベンチごと池に沈んでいった。

 

「アーシアさん。雷は平気ですか?」

 

「えっ!? 苦手ですが……」

 

「そうですか。じゃあ、こっちで耳を塞いで蹲っていてくださいね」

 

柳に促されるまま離れた所に移動したアーシアは、突如聞こえた水音に振り返った。池に沈んでいたレイナーレが殺気をまき散らしながら池から出ようとし

 

「エネルさん。懲らしめてあげなさい」

 

特大の雷に打たれ、声もなく息絶えた……。

 

 

「ふぅ~、スッキリしました」

 

 

その時の柳の顔は最近溜まっていたストレスを発散したというような晴れやかな物で、アーシアは先程までの言動を無かった事にした……

 

 

 

 

柳とエネルがレイナーレを始末し、その間にバルバトスが廃教会を強襲してハグレ悪魔祓いと残った堕天使を皆殺しにし、ギルガメッシュが優雅にワインを飲み終え、やがて、夜が来た。

 

柳達はアーシアのこれからを話し合い、とりあえず一時的に柳の家に住み、今後の身の振り方を話し合う事になった。アーシアが寝静まった頃,柳はギルガメッシュに呼び出されていた。普段は傲慢な顔を見せるギルガメッシュは何処か不機嫌そうな様子で口を開く。何時もならホンの僅かだけ向ける優しさも感じさせずに……。

 

「さて、どう言う積もりだ? 雑種」

 

「え、いや、雑種って。懐かしい呼びかたです……うわっ!?」

 

何時もなら名で呼ぶギルガメッシュに雑種と呼ばれた柳は茶化すように話すが、その言葉は途中で遮られる。彼が足元に投げた短剣によって……。

 

「王が問うてやっているのだ。すぐに答えんかっ! ……なぜ、あの小娘を助けた。普段の貴様なら、よくある事と見殺しにしているであろう? 弱いのがいけないとな」

 

「それは……」

 

「そういえば、あの小娘は似ておるよなぁ。貴様の死んだ妹に。……妹と重ねたのか? 雑種」

 

「……」

 

ギルガメッシュの言葉に柳は無言で答える。それを肯定と受け取ったギルガメッシュは心底呆れたという風に大げさに溜め息をつく

 

「……貴様のやっている事はあの小娘にも、妹にとっても侮辱だ。いくら有象無象の雑種に過ぎんでも、そいつはそいつしか居らん。今回は見逃してやるが、次はどうなるか分かっておるよなぁ?」

 

「……はい」

 

「フンッ! ならば良い。せいぜい、あの小娘にどう接せば良いか悩むのだな。もう夜も遅い。我はもう寝るが、朝餉の支度が遅れればどうなるか分かっておるよな? 柳。その短剣はくれてやる。せいぜい励めよ?」

 

「……イエス、マイロード。英雄王の御心のままに……」

 

 

 

 

深々と頭を下げる柳に満足したのかギルガメッシュは笑みを浮かべながら自室へと向かっていった。彼が自室の前に着くと、彼が嫌う神を名乗る男が立っていた。

 

「王の寝所の前に立つとは、警護の積もりか? 良い心がけだな、雑種」

 

「ヤハハハハハ。そんな訳なかろう。なぜ神である我がそのような事をするのだ? ……ご苦労だったな。あの馬鹿に言い聞かせれるのは貴様だけだからな。我やバルバトスでは荷が重い」

 

「当然だ。我に出来ぬ事はないからなぁ。さぁ、其処を退け」

 

ギルガメッシュが寝室に入り、エネルも寝室に入った頃、部屋の中から話を立ち聞きしていたバルバトスは呟いた

 

「あれがぁ、ツンデレという奴なのかぁ?」

 

その疑問に答えてくれる者は誰もいなかった……。

 

 

 

「初めまして、アーシア・アルジェントといいます。アーシアとお呼びください」

 

柳達との話し合いの末、アーシアは柳の家に居候する事となった。何か言うかと思われたギルガメッシュも文句を言わず、それどころか言語の魔法と同様の効果のある宝具まで貸し与えるなど、柳を驚かせた。その人柄からすぐにクラスと馴染んだアーシアは今、柳と弁当を食べている。

 

「柳さんって、何を作られても美味しいんですね。今度教えてくださいませんか?」

 

「別に良いですが、ギルさんは味に五月蝿いですよ。なにせ王様ですから」

 

「が、頑張ります。陛下は怖いけど、柳さんの為に私も作れる様になりたいですから」

 

柳から神器の事と三人の素性を聞かされたアーシアは最初は驚き戸惑ったものの、すぐに受け入れ。ぎこちないながらも家に馴染んでいた。

 

(……それにしても、すぐに馴染みましたね。私なんて何度も死にかけたのに……)

 

この時、柳は気づいていなかった。三人がアーシアとすぐに馴染めたのは自分の存在があったからだと……。

 

「あの~、柳さん。お願いしておいてなんなんですが、本当に大丈夫だったのでしょうか? ここを支配している悪魔さん達とはあまり関係が宜しくないって聞いていますし、生活費や学費は大丈夫ですか?」

 

自分の我が儘のせいで恩人である柳に迷惑を掛けているんじゃないか。そんなアーシアの悩みを柳は破顔一笑する。

 

「ああ、お金なら大丈夫ですよ。ギルさんが稼いでいます。黄金率ってすごい能力で通帳の金額がやばい事になってますから。それと、悪魔側とは話がついていますよ。……この街の自称領主の身内の魔王とは別の魔王に知り合いが居ますから……」

 

知り合いの話に移った途端、柳の顔が暗くなる。アーシアは慌てて話を切り替え、二人は時間ギリギリまで談笑を続けていた。そして、その放課後。柳の手は玄関の扉に手を掛けた所で止まった。

 

「……私の直感が告げています。今日はホテルに泊れと……」

 

「ホテルですか!? ど、どうしましょう!? 私達、まだ会ったばかりですし。でも、柳さんとなら……って、私は何を!?」

 

「……泊まるのは私だけですよ。それに遅かったようですね。あの人に気づかれました……」

 

「やっなぎちゃ~ん♪ 久しぶり~☆」

 

柳がそう言った途端、玄関の戸が勢いよく開き、中から一人の少女が飛び出してきた。まるでアニメの魔法少女の様な格好をした少女は柳に飛びつき、地面に押し倒すと激しく頬擦りをしだした

 

柳は少女を引き剥がそうとするも、力強く抱きつかれ、引き剥がせない。その時、あまりの事態に呆然となっていたアーシアが我に返った

 

「だ、誰なんですか!? 貴女は!」

 

「私? 私は柳ちゃんの将来のお嫁さんだよ☆」

 

「……え? えぇ~~~~~~~~!?」

 

アーシアの驚愕の声が近所中に響き渡る中、キスを迫る少女の頭を柳は力強く握り締める。気を使い、身体能力を強化して……。少女の頭からミシミシと音がしてきた

 

「あいたたたたたっ!! 柳ちゃん、愛が激しすぎだよっ! それに、そういうプレイは寝室で……」

 

「……自称少女は黙っていてください。アーシアさん。この方が昼に話した知り合いの悪魔。正確には魔王レヴィアタンです」

 

「やっほ~☆ 魔王のセラフォルー・レヴィアタンだよ♪ よろしくね!」

 

「……あ、はい。宜しくお願いします」

 

驚きが一周して逆に冷静になったアーシアは普通に挨拶を行った……。

 

 

「柳さんっ! この人とはどういった関係なんですか!? み、未来のお嫁さんってっ!」

 

「……ただの知人ですよ。ちょっとした事で知り合って、その時に料理をご馳走したら気に入られまして。ちょくちょくご飯をタカリに来るんですよ。この人の発言は九割がたが脳を通さずに出ていますので、お気になさらずに」

 

「ひっど~い! ギルガメッシュさん以外が泊まりがけで釣りに行って、家に居ないから様子を見に来てあげたのに~」

 

「さ、家に入りましょう」

 

柳の発言に膨れ面になって文句を言うセラフォルーを無視し、柳はアーシアを連れ、家へと入った。

 

 

 

 

 

「……どうしてこうなった」

 

ソファーに座る柳の両隣にはごセラフォルーとアーシアが座っている。二人共腕に胸を押し当てる形になっており、柳としても振り払う気にはならなかったが、非常に居心地が悪かった。

 

「ふ~ん、最初は恋人を連れ込んだと思ってたけど、家族扱いだったんだ♪ 良かったよ、恋人枠が空いてて。柳ちゃんとは仲良くやってるの? 家族として……」

 

「はい、柳さんとは仲良くやっていますよ。今日も一緒にお昼を食べましたし。二人っきりで」

 

口調も穏やかだし、表情も笑顔だったが、二人の間では火花が散っていた。そんな中、先程から愉快そうにその様子を見ていたギルガメッシュが口を開く。火に油を注ぐ為に……。

 

「おい、柳。先程から鬱陶しいぞ。さっさと二人を抱いてしまえ。そうすれば解決するだろう」

 

「なに、言ってんですかっ!? 二人も本気にしないっ!」

 

ギルガメッシュの発言にに淫らな妄想をし、真っ赤になりながら呟きだした二人に柳は辟易し、時間は過ぎていった。そして、その日の夕食時……。

 

 

 

「……勧誘された? グレモリーにですか?」

 

「はい。もちろん断りましたけど、どうやら私の事や柳さんの事を調べたらしいですよ」

 

アーシアの言葉を聞き、柳は途端に不機嫌な顔をする。以前勝負した時に不干渉と決めていたはずなのに、約束を破られたからだ。

 

「……どうせ、アーシアさんはあの時居なかったからだとか、調べたのは私の家族や10年前の事件についてだとか言う積もりでしょうが……。ギルさん。今晩抗議してきますので宝具を貸していただけますか?」

 

「別に構わんぞ。家臣の忠誠に報いるのも王の勤めだ。我の広い心に感謝するのだな。しかし、貴様の過去が知られたとなると、あの女が関わってくるかもしれんな。悪魔としてでなく、幼馴染としてと言って」

 

「姫島先輩でですか? あの人なんてどうでも良いですよ。ギルさんも知っているでしょう? 私が悪魔が嫌いだって事。そして、堕天使も……。だから、彼らに協力しているのですよ」

 

 

 

 

「……何の用かしら? こっちは忙しいのだけど」

 

「おやおや、私が何の用で来たか分かっているのでは? 契約破りの次期公爵殿」

 

 

その日の夜遅く、柳は当事者であるアーシアを連れ、オカルト研究部の部室を訪ねた。部室内の空気はお世辞にも歓迎しているとは言えず、ピリピリとした空気が流れてる。特にボロボロにされた小猫は今にも殴りたいのを堪えている様に見えた。そんな空気を無視し、柳が構わずにリアスにイヤミを言っている中、朱乃だけは何かを言いたげにモジモジしていた。当然柳は無視し、リアス達に警告をした後、帰ろうとした。しかし、その時、部室内にグレモリーのものとは別の魔方陣が出現し、そこから炎が吹き出す。

 

「熱っ!」

 

その火の子がアーシアに降りかかった時、柳のこめかみが僅かにピクリと動いた……。

 

……どうでも良い。魔方陣から出てきた男、ライザー・フェニックスとリアスの会話を聞いていた感想はそれだった。噂で聞いた話や、今回聞いた話を要約すると、自由結婚をしたいと言っている公爵令嬢と、ハーレムのまま婿入りしたいという貴族の子息の言い争いだ。しかも、元々の話よりも婚約が早まった、という事が事態の悪化に拍車をかけている。

 

 

(バカバカしい。アーシアさんに怪我させた事を怒ろうと思いましたが、……関わりたくないですね。あの程度ならすぐ治せますし)

 

 

柳の冷めた視線に気づかず、泥沼の話し合いは続く。そして、ついにはレーティング・ゲームで決着をつけるという事になった。そんな中、先程から黙っていたアーシアが小声で柳に話しかけてきた。

 

「あの、レーティング・ゲームってなんですか?」

 

「ああ、悪魔社会で流行っている模擬戦闘みたいな物ですよ。大怪我したら直ぐに医療室に転移されて、死ぬ可能性なんて、まず無くて、死ぬような技は禁止されています。まぁ、生温いお遊びですね。全く、好戦的なくせに臆病なんですから」

 

世界を渡る力を持つバルバトスによって様々な世界を渡り、死ぬ様な思いをさせられた柳にとって、レーティング・ゲームは児戯程度にしか感じていなかった。そんな中、一誠がライザーご自慢の眷属を見て悔し涙を流し、それを見たライザーは馬鹿にする様に眷属達とディープキスをし始めた。

 

「あの~、柳さん? どうして目を塞ぐのでしょうか?」

 

「……見ちゃいけないものだからです。あ~あ、イッセーは馬鹿ですね。殴りかかって反対に……っ!」

 

アーシアに悪影響を与えない様に彼女の目を塞いでいた柳だったが、急にアーシアを抱きかかえると、その場から飛びのく。その瞬間、先程まで二人がいた場所に一誠が飛んできた。

 

「……周りの迷惑も考えてくださいよ。全く、これだから鳥頭は……」

 

「……聞こえたぞ、人間風情がっ! 誰が鳥頭だってっ!」

 

「おや、誰も貴方とは言っていませんが? 私はそこで伸びている間抜けに言ったのですよ。でも、反応するという事はご自分でも鳥頭だと思ってらっしゃるのですね。ああ、知っていますか? 鳥って体を軽くする為に、骨も脳もスカスカで、糞をボロボロ巻き散らかすんですよ。まぁ、貴方は子種を巻き散らかしている様ですがね」

 

柳の発した言葉にリアス達は思わず吹き出し、ライザーは怒りで顔を真っ赤にし、叫んだ!

 

「ミラっ! この男を殺せっ! 後ろの連れの女もだっ!」

 

「はい、ライザー様っ!」

 

「ライザー!? ちょっと、待ちな……」

 

リアスの制止も聞かず、ライザーは柳に向かって先程一誠を倒した少女をけしかける。彼女の持っている棍が柳へと迫り

 

 

 

 

「あっ! それっ! 一度振ったら、風を呼ぶっ!」

 

「きゃあっ!?」

 

 

柳が懐から取り出した扇をひと振りした途端、巻き起こされた暴風により、後ろの仲間と壁ごと何処か遠くへと吹き飛ばされていった……

 

「便利ですねぇ、芭蕉扇の原典は」

 

「貴様っ! 俺の眷属に何をしやがったっ!?」

 

「……先に手を出されたのは此方です。登場の時に出てきた炎でアーシアさんが火傷を負ったのですよ」

 

二人は暫し睨み合い、同時に仕掛けた。ライザーは炎の翼を出現させ、柳を骨ごと焼き尽くさんとし。柳は腰に下げたバックから取り出した何かの革でその炎を防ぐと、鎌を取り出してライザーに斬りかかった。そして、鎌の先端がライザーの手に突き刺さり

 

 

 

 

 

 

「おやめください。これ以上の争いは見過ごせません」

 

銀髪のメイドが間に入ることによって戦いが止められた。柳もライザーも彼女の説得によって渋々引き下がり、ライザーは帰っていった。

 

 

 

「おい、貴様もゲームに出ろ。絶対に逃げるなよ」

 

「結構ですよ。ですが、私には利益がないので、こちらが勝った場合、貴方が得る収入の半分を10年間払って頂きますよ」

 

「良いだろう! どうせお前が勝てるわけないのだからなっ!」

 

ライザーはそう捨て台詞を吐くと、魔方陣の中に消えていった。床に傷口から流れ出した血の跡を残して……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは数年前、夏休みのある日の事だった。パズルゲームの対戦で、柳がギルガメッシュに30連勝していた時の事だ。

 

「柳ぃ~。貴様もぉ、基礎は出来てきたぁ。今日から実際に戦うぞぉ」

 

「あ、良いですよ」

 

惨敗したギルガメッシュの機嫌がマッハで拙い事になっており、手加減して負けてもバレるだろうから面倒くさいなと思っていた柳は、ギルガメッシュが王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を発動する前にバルバトスの異世界転移で逃げていった。

 

これはその日々の合間に書いた日記の一部である。

 

 

8月○日

 

今日、バルバトスさんの思いつきで異世界に行く事になった。どうやら私に実戦経験を積ませたいらしい。異世界の料理が楽しみだ。風景も楽しみたいと思う。ただ、ギルさんの宝具を幾つか拝借した物が入った袋があるのが不安ですが……。

 

 

 

「柳ぃ、着いたぞぉ。俺は手を出さぁんからなぁ。貴様だけで何とかしろぉ」

 

「……この状況をですか?」

 

バルバトスさんに連れられて、着いた所はお城だった。しかも、獣人の皆さんが警戒心丸出しで睨んでいる。……獣ベースの犬の獣人さんには、できればモフらせて欲しかったですね……

 

 

 

 

 

「有難うっ! 君は命の恩人だっ!」

 

 

力尽くで私が敵ではないと分かって貰った後、先ほどの毛並みの良い獣ベースの獣人が、人間ベースの獣人になり、少しガッカリでした。(犬耳の美青年って誰得なのだろう? まぁ、得する人は居るのだろうが……)

 

だが、少し調べると彼にとんでもない呪いが掛けられいる事に気づき、事情を聞いてみる事にした。それによると、彼らは異世界から召喚された存在で、召喚獣と呼ばれ、獣同然の扱いを受けているらしい。この城はそんな扱いから逃げ出した者達の隠れ家だったっとか。そりゃ、人間の私が現れれば警戒しますよね……。

 

彼に掛けられていたのは凶暴性を増す術でした。どうやら闘技奴隷だったらしいです。

 

とりあえず、ギルさんの宝具の中にあった、ルールなんちゃらとかいう短剣の原典で呪いを解除。皆さん唖然としていましたが、すぐに我を取り戻し、感謝の宴の招待されました。感謝の宴には獣人さん達の他に妖怪の類や、妖精、ロボットまで居たのは驚きでした。ああ、召喚の話を聞いた後、私が異世界人である事を話したら、警戒心がすっかり無くなりました。……ちょろすぎませんか?

 

その後、連ドラとかいう将軍や、月九とかいう博士など、人間の方々とも話をし、最後に姫と呼ばれている女の子に出会いました。どこか儚げで守ってあげたくなるような、とても好みだった事は私だけの秘密です。ただ、赤髪のメガネの探るような視線が鬱陶しかった事を覚えています。

 

その後、引き止められましたが修行の為と断り、旅に出ました。街の外では野生化した召喚獣が襲って来ましたので返り討ちにし(私が召喚したわけでもないのに襲ってきたのだから、仕方ありませんよね?)、時に人攫いを懲らしめ、料理大会に出場し、おさげ髪の女性が作ったラーメンや、白髪の少女の作った餃子に対抗すべく、激辛麻婆豆腐丼を作り、なんとか優勝する事ができました。彼等とはまた勝負がしたいですね……。

 

 

 

この世界での最終日、私はふと思った疑問をバルバトスさんに聞いてみました。私が神器で彼らを呼び出したのと、この世界の住人が召喚術を使い、召喚獣を無理やり従えるのと、違わないのではないかと……。その問いにバルバトスさんは

 

「気にするなぁ。貴様と過ごした日々は悪くなぁい。二人もそう思っているはずだぁ」

 

ただ、それだけ言ってくださり、私はそれを聞き、少し泣きそうになりました……

 

 

 

 

8月×日

 

今回訪れた世界で最初に目にしたのは巨大なテーマパークでした。入場料を払わずに入ってしまった!? っと心配しましたがそんな物は要らず、どうやらテーマパーク風のダンジョンで、宝は好きに持って帰っても良いとの事です。まだ入れない塔からは不愉快な力の波動を感じ、きな臭い感じはしましたが、修行になるから、と一人で行かされました。バルバトスさんはメロンを食べながら待つそうです。他にも挑戦者は居て、ミノタウロスを連れた武闘家のお姉さんや、珍獣を連れた魔道士のお姉さん。そして、茄子やノミに

 

「お前が欲しい」

 

と言いながら魔法で攻撃する謎の剣士。……あれが特殊性癖と言う奴でしょうか? バルバトスさんに聞いた所

 

「……早く次の世界に行くぞぉ」

 

と言われ、来て早々に旅立つ事になりました。お茶が好きな骸骨や、泣き虫な人魚のお姉さんなど、仲良くなった方々も居たので少し寂しかったですが、変態に関わりたくないので何も言いませんでした。何か言ってもう少し残る事になったら大変ですから……。

 

なお、ここで手に入れた物をギルさんに見せた所、

 

「貴様は我の与えた物を使っておれば良いっ!」

 

っと、同じ効果で上位互換のものを幾らか頂けました。これがツンデレと言うものかと呟いたら殺されかけました。理不尽だ……

 

 

8月△日

 

きょ、今日が最後らしいです。今まで大変でした。赤い服着たツンツン頭の二刀流とけん玉を武器にするハーフエルフの攻撃魔法の使い手、手枷をつけた蹴り技の使い手に札を使う精霊召喚士にバルバトスさんが勝負を仕掛け、私まで相手をさせられました。なんとか敗走させましたがキツかったです……。

 

他には鍵を体に突き刺して武器を出す人達や、ずっと手を繋いでいる男女、ゴミを木に変える力の持ち主や、剣や鎧を自由自在に装着する赤髪の美人、無口で食いしん坊な天下無双の武将など、強者と戦わされ、負ける度に基礎訓練の時間が延びていきました。そして、最終日。最後の相手は英霊でした……。

 

 

「……奏者よ。あの少年が戦うのか? どう見ても後ろの男がサーヴァントであろう!? というより、明らかにバーサーカーの類ではないのか!?」

 

「セイバー、落ち着いて」

 

私が勝負させられたのは私よりも小柄な少女。だが、ギルさんから聞いた事がある。彼女のクラスはマスターらしきお兄さんが言った通り、セイバー。最優のサーヴァントは油断できない相手。油断できない相手でした。

 

「やっ!」

 

私の防御はセイバーの速度重視の攻撃に砕かれ、

 

「打ち砕くっ!」

 

私の速度重視より、セイバーの力任せの攻撃の方が早く、

 

「無礼なっ!」

 

私の威力重視の攻撃はセイバーの防御を崩せれず、に終わり……

 

 

「受けるが良い!」

 

 

気合の入った攻撃によって吹き飛ばされました。私の意識が途切れる中、最後に目に映ったのは、私が全然歯が立たなかった赤いセイバーをバルバトスさんが一撃で葬る姿で、最後に聞いたのは、

 

「基礎のやり直しだなぁっ!」

 

という死刑宣告でした……。ああ、並行世界の私が憎い。あんな美人を従者にして。私も(ここで日記は途切れている)

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとっ! 人の話を聞いているの!? 貴方もゲームに参加するのなら山での修行に参加して貰うって、さっきから言ってるでしょっ!」

 

「はっ! ……すいません、修行と聞いて悪夢が蘇っていました……」

 

ライザーと柳がひと悶着起こした次の日の朝早く、柳はリアスの訪問を受け、山で修行と聞いた途端、婿足の修行の日々が頭に蘇り、意識を飛ばしていた。憤るリアスを適当に宥め、柳は修行の支度をすると家を出た。本来なら柳は修行を断る所だが、嫌な思い出が蘇ったので三人にしばらく会いたくなくなったのだ。ただ、朝夕と食事を作りに帰るのだが……。

 

 

ちなみに、あの三人と一緒にしたら命が危ないとしてアーシアも修行に同行することになった。集合場所に向かいながら柳は思う。あのセイバー。皆、男装と言っていましたが、どこが男装なのだろうか? っと……。



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従者が金ピカと青タイツと半裸だったら…… ③

舗装もされていない険しい山道を一誠は大荷物を背負って登っていく。大粒の汗を垂れ流し、息も絶え絶えで今にも死にそうだ。そんな中、彼の横を仲間はスイスイと通り抜けていく。

 

「部長、山菜を摘んできました。夕食の食材にしましょう」

 

「先輩、お先に失礼します」

 

学園のイケメン代表である祐斗は山菜を採る余裕があり、一誠より小柄な後輩の小猫に至っては一誠よりも多くの荷物を背負って登っていった。

 

「……俺より後は人間の柳とアーシアさんだけかよ……」

 

一誠がそう呟いて後ろを振り返ると、当の柳が凄い勢いで追いついてきていた

 

「アーシアさん。少し速度を上げますが大丈夫ですか?」

 

「は、はいっ! 大丈夫です……」

 

柳は一誠よりも多くの荷物を背負い、それどころか腰に結えられたロープ先は大量の岩が括りつけられている。そして、その両腕ではアーシアお姫様抱っこで抱き抱えていた。ちなみにアーシアは真っ赤になっており、その瞳は恋する乙女のソレである。

 

「あ、お先に失礼します。いや~、重りに丁度いい岩がなくて困りましたよ」

 

「わ、私も重りですか?」

 

「いやいや、アーシアさんをそんな扱いはしませんよ。こうして運んでいるのは貴女が不慣れな山道で怪我しない為ですよ。あなたは鍛える必要がありませんしね」

 

汗すら流さず、一誠を易易と追い越していく。その時に見せた笑みは一誠には、勝ち誇ているように見えた。

 

「……どちくしょぉぉぉっ!!!」

 

一誠は大粒の涙を流しながら一気に山道を駆け上がっていった……。

 

 

 

「さぁ、皆! 張り切って始めるわよ。各自練習メニューをこなしなさい。今日は夜まで頑張るわよっ!」

 

「さぁ、アーシアさん。のんびり修行と行きましょう。私はあのヘタ……戦闘初心者に付き合いますから、アーシアさんはそのノートに書かれている法力の扱いを練習してください。大丈夫、疲れるまでで良いですし、分からない事があったら私に聞きに来てください。……本当に修行に参加して大丈夫ですか?」

 

「は、はい! 私も柳さんのお役に立ちたいですから。法力のコントロールが上手くなったらバルバトスさんが術を教えてくださる人をご紹介して下さると言って下さいましたし」

 

「あの人の知人かぁ。どうせ、異世界のどうしようもない人なんだろうなぁ。困ったらすぐ私に言ってくださいね? すぐに助けますから」

 

「柳さん……。私、頑張りますっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女達っ! イチャついていないで修行なさいっ!」

 

リアスの声が辺りに響くまで、二人の会話は続いた……。

 

 

 

 

 

 

眷属の中で一番弱い一誠の修行は他の者と一緒に行われていた

 

レッスン1 リアスとの基礎トレーニング

 

「ほら、イッセー。動きが止まっているわよ」

 

「は、はいっ!」

 

今やらされているのはリアスと岩を背中に乗せての腕立て伏せ。リアスのお尻の感触や岩の重さで集中できない一誠であったが、一番集中できない理由は隣で鍛えている柳だった。彼も暇だから一誠とトレーーニングを受けると言いだしたのだが、一誠が受けるような内容でな生ぬるいと、より過酷なトレーニングを始めてしまった。

 

 

 

 

「1998、1999、2000っ! 次は左手っ!」

 

片手で逆立ちした状態で腕立て伏せを行っている。さらに、その足に一誠の背に乗っているものより大きな岩を乗せているにも関わらず、バランスは崩れておらず、一誠よりもペースが速い。さらに、その顔にはまだ余裕が見えた。

 

 

 

「あの~、柳さん。この法力を全身から集めるのって、どのようなイメージで行ったら宜しいのでしょうか?」

 

「あ、それですか? 私は血液と一緒に流れているイメージでやっていますよ。血流によって法力が集まってくる様子をイメージしてください」

 

 

 

 

「イッセーより過酷なトレーニングをしながら他人へのアドバイスまで……。イッセーっ! 負けてられないわっ! あなたのトレーニングもハードにするわよっ!」

 

「そ、そんなぁぁぁぁぁっ!」

 

リアスの言葉を受け、一誠の悲鳴が山中に木霊した。

 

 

 

 

レッスン2 木場との剣修行

 

レッスン3 小猫との組み手

 

この二つを受けた一誠は既にボロボロだった。つい最近まで普通の高校生だった彼にとって、正中線を狙え、や、相手の剣だけじゃなく、周囲全体を見ろ、など言われても実践できるはずも無く、気持ちの良いくらいにボロボロにされたのだ。そんな二人だが今は柳の相手をしていた。

 

 

 

「……当たってください」

 

「てやっ! はぁっ! ……当たらないね」

 

柳は左手で小猫の攻撃をいなし、右手に持った剣で木場の剣を防いでいる。二人がどのように攻めても柳には攻撃は当たらず、防がれ、避けられている。そして、木場の剣が疲労から鈍った瞬間、柳が一気に決着を付けに来た。

 

「漢の振り上げぇ!」

 

「うわっ!?」 

 

木場の懐まで一気に接近した柳は強烈な振りあげを放つ。木場はその威力を防ぎきれず、宙高く舞上げられた。その背後から隙有りとばかりに無言で襲いかかった小猫だったが、柳は背中に目があるかのようにそれを察知、拳が届かないギリギリ間で身を躱し、小猫の拳が伸びきり、脱力した瞬間位その腕を掴むと、着地しようとしていた木場に投げつけた。

 

「くっ!」

 

「むぅ!」

 

着地寸前を狙われた為に避ける事ができず、木場は小猫ともども後ろの木に叩きつけられた。なんとか立ち上がろうとした二人だったが、少し離れた所で柳が剣を高く構え、一気に振り下ろす

 

「殺・魔神剣!!」

 

その瞬間剣から放たれた地を這う衝撃波によって二人は吹き飛ばされ、そこで意識を失った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう! 柳さんたらやりすぎですっ!」

 

「……はい。深く反省しております」

 

その後、二人を治療したアーシアによって柳は地面に正座させられ、説教を受けていた。しばらく説教を続けていたアーシアであったが、最後に顔を真っ赤にして付け加えた。

 

「で、でも、格好良かったですよ。柳さんてやっぱり、お強いのですね」

 

「アーシアさんだって一日で法力のコントロールが上手くなりましたよ。まさに天才ですね」

 

「そ、そんな事ないですよ。柳さんの教え方がお上手なおかげですよ。本当に柳さんって凄いですよね。お強いし、優しいし、お料理もお上手ですし、そ、それに格好良いですし」

 

「私はアーシアさんも魅力的な女性だと思いますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方達っ! イチャつくなら向こうでやりなさいっ!」

 

二人の掛け合いを見せられたリアス達のSAN値は、ガリガリと削られていった……。

 

 

 

 

 

合宿初日も夕暮れ時を迎え、一誠達は夕食をとっていた。なお、柳は家族の夕食の準備があるからと、アーシアと一緒に一旦家に帰って行っていた。アーシアを残さなかったのは、リアス達を信用していない、という無言のアピールだろう。

 

「美味い! 美味いっすよ、部長っ!」

 

「前より、数段腕を上げましたね、部長、朱乃さん。前食べさせて頂いた時より遥かに腕が上がっていますよ」

 

一誠と祐斗は料理を褒め称え、小猫は無言で料理を掻き込んでいる。先程から何度もお代わりをしており、既に鍋の半分ほどが彼女の腹に入っていた。

 

「しっかし、柳も、もったいない事しますね。こんな美味しい料理を食べられないなんて。アーシアさんが可哀想っすよ。あれ? 部長、なんでさっきから無言なんすか?」

 

一誠の言葉に対し、リアスは複雑そうな顔をし、朱乃に至っては黒い笑みを祐斗に向けていた。

 

「……この料理を作ったのは柳よ」

 

「あらら、そういえ祐斗さん、腕が数段上がったとか、私達が以前作って差し上げたものより遥かに美味しいって言ってましたね? 少し、宜しいかしら?」

 

朱乃は笑いながら祐斗に、にじり寄って行く。その時の朱乃の手は放電していた。

 

 

 

 

 

そして、リアス達は柳とアーシアの掛け合いにSAN値をガリガリと削られながらも合宿を終え、ついにゲーム開始の日がやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤハハハハ! 悪魔が作ったにしては中々趣味が良い。褒めて使わすぞっ!」

 

「エ、エネルさん!? 駄目ですよ、そんな事を言っては」

 

今回特別参加の柳の関係者として特別に観覧席への入場を許されたエネルとアーシアは観覧席へ入ったのだが、エネルは内装を見るなり、偉そうな態度でそう言い放った。当然、周囲の悪魔達はエネルを睨み、一緒に来たアーシアは慌て出す。そんな中、一人の赤い髪の男性がエネルに近づいてきた。

 

「やぁ、君が今回特別参加する、神田 柳君の関係者だね? 内装を気に入ってもらえたようで何よりだよ。ああ、名乗るのが遅れたね。私は、サーゼクス・ルシファー。魔王の一人だよ」

 

「ほほぅ、悪魔にしては、なかなか礼儀正しくて結構だ。良いだろう、我も名乗ってやろう、心して聞くが良い。我が名はエネル! 我は神なり」

 

エネルがその言葉を発した途端、周囲から殺気が放たれ、サーゼクスも顔を顰めた。

 

「……その言葉の意味を君は理解しているのかい?」

 

「当然だ! 神とは恐怖そのもの。人は神を恐るのではない。恐怖こそが神なのだ。故に、我こそが神なのだ」

 

「やれやれ、どうやら、考えに相違があるようだね。さぁ、もうすぐゲームが始まるから席に着いた方が良いよ。そういえば、君の仲間はあと二人いると聞いたけど、今日は来ていないのかい?」

 

サーゼクスの問いに対し、エネルは詰まらなそうに鼻を鳴らして答えた。

 

「ふん! このような結果が分かりきった児戯など、我も見に来たくはなかったわ。この小娘がどうしても行きたいと言うので、仕方無しに付き合ってやっただけだ」

 

「す、すいません! どうしても柳さんの活躍が見たくって」

 

「結果が分かっている? 君はライザー君とリアスのどちらが勝つと思うんだい?」

 

「何を馬鹿な事を聞いている。柳が味方した時点で貴様の愚妹の勝利は決まったような物だ。……おい、小娘。柳が10人以上撃破できたら何か褒美をくれてやれ。そうだな、頬にキスでもしてやれば良い」

 

「キ、キス!? や、柳さんとキス?」

 

エネルの発した冗談にアーシアが赤面する中、リアス達は最後の作戦会議を開始していたのだが、その場の空気はピリピリした物となっている。原因は祐斗だ。彼の視線は憎悪に染まっており、その視線は柳が腰に下げた二本の剣の内、一本に注がれていた。

 

 

 

 

 

「……柳君、その剣は聖剣だね? 何処で手に入れたんだい?」

 

「これですか? ああ、ギルさんから貸して頂きました。有名な聖剣の原点らしいですよ。エクスカリバーの名くらい聞いた事が……」

 

「やめなさい、祐斗っ!」

 

エクスカリバー。その名を聞いた途端、祐斗は魔剣を創り出し、その剣に向かって振り下ろした。だが、当然の様に柳に避けられ、腹を蹴り飛ばされ、壁に激突した。

 

「……いきなり何するんですか。って、聞こえてないませんね。気絶してますし」

 

「……私の下僕が失礼したわね。この子はエクスカリバーに人生を狂わされたから、エクスカリバーを憎んでるのよ」

 

「この剣は彼が憎んでいるものとは別でしょうに。……その理論で言ったら私は貴女方に切りかかっても良い事になりますよ。それにしても困りましたね。彼が気絶して使えないとなると」

 

柳は少しの間思案し出し、何かを思いついた様に手を叩いた。

 

「ああ、そうだ! 私が相手の眷属の、戦車、騎士、僧侶、兵士を全て倒しますから、貴女方は女王と王を倒してください」

 

「ちょっとっ! 幾ら何でも無理よ! 相手をなめ過ぎだわっ!」

 

「え~、少しは働いてくださいよ。分かりました。女王も私が倒します。でも、あくまで貴女の戦いなのですから、ライザーは倒してくださいね? 手傷くらいは負わしますから。では、もう開始時刻ですので、当初の予定通り私は単独行動させていただきますね」

 

「ちょっと! 待ちなさ……」

 

リアスの制止の言葉も聞かずに柳は本陣から出ていった。



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従者が金ピカと青タイツと半裸だったら…… ④

「さて、最初の敵は此処ですね」

 

柳の目の前にある建物は体育館。互の陣地の中心地にあるこの建物は手に入れられればゲームを有利に進められる。だが、既に敵が数名入っている事を、柳はマントラで感じ取った。通常なら仲間を呼ぶか、裏口からでも侵入し、様子を伺うだろう。だが、柳のとった行動はどちらでもなく

 

 

 

「断罪の……エクスキューション!!」

 

 

バルバトス直伝の術で建物ごと敵を葬り去るというものだった。真下とその後方上空から噴出する闇のエネルギーによって体育館は半壊し、中にはボロボロとなって倒れている少女達がいた。なお、この術に、断罪の、という言葉は本来付かないはずなのだが、柳は師匠であるバルトスの影響により、元々付くものと思い込んでいた。

 

『ライザー・フェニックス様の『兵士』3名、『戦車』1名リタイア』

 

「さ、終わりましたね。……まだ私も修行が足りない。バルバトスさんなら体育館は欠片も残らず、眷属は生きていなかったのに……。 !」

 

多大なダメージを受けて転送されていく彼女らには目もくれず、柳は先に進もうとし、咄嗟に後ろを向くと剣を交差させ、飛来してきた魔力を防ぐ。柳の視線の先にはライザーの女王、ユーベルーナが宙に浮かんでいた。

 

「……女王自らやって来るとは、私も注目されていますねぇ」

 

「お黙りなさい! 貴様のせいで私達はライザー様に叱責を受けましたわ! その借り、きっちり返してさしあげます!」

 

「ああ、芭蕉扇で吹き飛ばされたの恨んでいるんですね? あの後、何処まで飛ばされましたか?」

 

「ええ、飛ばされた所は牧場で、親切なお爺さんにミルクとパンを頂いたのですが……美味しかったなぁ。って、違う!」

 

取れたてのミルクと焼き立てのパンの味を思い出していたユーベルーナだったが、冷めた目で見つめる柳に気づき、我に返る。誤魔化しとばかりに柳に魔力を放とうとした彼女だったが、横合いより放たれた電撃により、気を逸らされた。

 

「あらあら、貴女のお相手は私ですわ。柳さん、私が此処を引き受けますので、貴方は先に行ってください!」

 

柳とユーベルーナとの間に割り込んだ朱乃は電撃を放ってユーベルーナを牽制し、柳に先に行くように促す。眷属全員を倒すつもりだった柳だが、彼女が頑固なのは幼い頃の経験で知っていたので素直に先に行く事にした。

 

 

 

 

 

「あ、木場くんは目を覚ましました?」

 

「……ええ、まだ意識が朦朧としているようですが、何とか大丈夫ですわ」

 

朱乃はそう言うとユーベルーナとの戦いに集中する。今のところ戦いは互角に進んでいるが、実力は朱乃の方が一歩リードといった所だろう。だが、柳は先に進みながらも首を傾げていた。

 

 

「……なんで雷光を使わないのでしょうか? まぁ、どうせ、アイツと同じ技を使いたくないという理由でしょうけど……」

 

 

その後、柳は森の辺りを見回っていた兵士三人を瞬殺し、敵の本拠地の新校舎まで進むと、様子を伺っている一誠と小猫の姿があった。

 

 

 

 

 

「あらら、まだこの様な所に居たのですね。先に進まないのですか?」

 

二人は柳が話し掛けると一瞬びっくりした様だったが、相手が誰か分かると落ち着きを取り戻した。最も,コ小猫は未だにけいかいのう

 

「……校庭にどれだけ敵がいるか分かりませんので」

 

「とりあえず、木場が来るのを待とうと思ってるんだ」

 

「この先には『戦車』『騎士』『僧侶』が一名ずつ、居ますよ。では、私はお先に」

 

柳はそう言うと後ろで制止してくる二人を無視し、校庭へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく来たな! 私の名はカーラマイン、ライザー様の『騎士』なり! その腰のふた振りの剣。貴様も剣士と見た! いざ尋常に勝負!」

 

「あ、断ります」

 

「うわっ!? 名乗りの途中に攻撃するなど卑怯な! 貴様、それでも剣士か!」

 

柳が校庭に正面から入ると、短剣を持った『騎士』らしき女性が名乗りを上げ、柳に決闘を申し込んできた。隣に居る『戦車』らしき女性は、何時もの事なのか呆れたような顔をしている。ここで相手が剣士だったのならばその申し出を受けたのだろうが、相手が悪かった。カーラマインが名乗りを上げている途中で投げられた短剣をなんとか身を捻って避け、柳に向かって叫ぶ。だが、非難されたにもかかわらず、柳は飄々とした態度を崩さなかった。

 

「あ、私は別に剣士じゃありませんよ? 剣も使うだけです。あ、それと、後ろに気をつけた方が良いですよ」

 

「ふん! その程度の嘘に騙される私では、ふげっ!?」

 

柳の言葉を嘘と判断し、切りかかろうとしたカーラマインだったが、先ほど柳が投げた短剣が地面に突き刺さった瞬間、その場所が爆ぜ、その衝撃で彼女は背後から迫った爆風に吹き飛ばされ、頭から校庭に突きさり、間抜けな姿を晒している。なお、『戦車』は爆発をモロに受けた事によって消えていった。

 

「……うん、目の保養になりますね。……うっ! 寒気が」

 

その格好からスカートが捲れ上がり、その中身が丸見えになったカーラマインを見つめていた柳だったが、嫌な寒気を感じ目を逸す。その頃、観覧席ではアーシアが黒い笑みを見せており、その笑みを見た者達は、エネルでさえも軽い恐怖を感じていた。

 

『ライザー・フェニックス様の『戦車』一名リタイア』

 

「ああ、名乗るのが遅れましたね。私の名は柳。空島の神の下僕であり、英雄殺しの反英雄の舎弟であり、かって世界を掌握した、世界最古の英雄王の家臣です。ちっぽけな冥界の、取るに足らない貴族の三男坊の眷属などとは格が違うのですよ」

 

柳はそう言うと未だに立ち上がれないユーベルーナ目掛けて剣を振り下ろし。その体を切り裂いた。

 

 

『ライザー・フェニックス様の『騎士』一名リタイア』

 

「さてと、貴女達も出てきたらどうですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「……気付いてましたのね。それにしても恐ろしい力ですわ。貴方、本当に人間ですの?」

 

そう疑いの目で柳を見ながら近づいてきたのは金髪の巻き毛の少女。その後ろには着物を着た少女と、猫の獣人の双子らしき少女ら、そして、大剣を背負った女性がいた。お前は人間か? という質問に対し、柳は肩を竦めて答える。

 

「ええ、私は人間ですよ。いつの時代だって、悪魔やドラゴンは人間に倒されてきたじゃないですか。悪魔が人間に倒される事の何が不思議なのです? フェニックス家の長女、レイヴェル・フェニックスさん」

 

柳がそう言って腰に携えた鎌を抜くと、レイヴェルト呼ばれた少女の顔が強ばり、他の眷属達は彼女を守るように立ちふさがる。明らかに柳が手に持った鎌を警戒していた。

 

「……その鎌、お兄様の手に傷を残したという物ですね? それに警戒せよと言っておられましたわ。それにしても、よく私の事を知っていましたね」

 

「……いや、戦う相手の事を調べるのは当たり前でしょう? どこぞの慢心王じゃあるまいし。それに、あなたのお兄さんは有名ですよ。妹をハーレムに入れた生粋の色ボケだって。まぁ、私の後ろの変態には負けるでしょうが……」

 

「うっせぇ! 誰が変態だ!」

 

「イッセー先輩です。神田先輩、私たちも加勢致します」

 

「これで5対3ですか。本来なら私は戦いませんが、そんな事言ってられる状況ではありませんね」

 

「レイヴェル様、お下がりを! 私が貴女の分まで戦います!」

 

ようやく駆けつけた一誠と小猫の姿を見てさらに警戒を募らせたレイヴェルは戦闘態勢を撮り、他の眷属達も同様に構える。その場に一触即発の空気が流れる中、柳の声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、この程度の相手なら私が倒しますので、貴方達は焼き鳥の所に行ってください。っていうか、貴方方が居たら邪魔です。早く行かないと、リタイアして頂きますよ?」

 

柳はそう言うと聖剣を抜き、一誠達に向ける。その表情や、戦った時の容赦のなさから本気だと悟った二人は慌てて新校舎へと向かっていった。当然、レイヴェル達は止めようとするが、その間に柳が立ちふさがる。

 

 

「さて、ここから先は行かせませんよ」

 

「……貴方、幾らなんでも舐めすぎじゃありませんこと? こっちは五人ですわ。勝てると思って?」

 

その言葉を聞き、柳は納得したような表情になり、鎌をしまい、剣を鞘に戻した。

 

「いや~、すいません。五人でも勝てる自信がないなんて、貴女方の弱さを舐めていました。不死の貴女は兎も角、他には武器は使わないでおきますね」

 

「なっ! ななななななな」

 

あまりの挑発行為にレイヴェル達は言葉を失い、怒りに震える。そして、柳は止めの言葉を言い放った。

 

「さて、こういう時はあの人の言葉をお借り致しましょう。精々散り様で私を興じさせてくださいよ? 雑魚共」

 

 

 

 

 

「殺せ! 貴女達、あの男を殺しなさい!」

 

「「「「行意!」」」」

 

怒りの余に上品な言葉使いも忘れ柳の抹殺を命じるレイヴェルの言葉に対し、四人は一斉に柳に向かっていった。まず、双子の獣人が左右から襲いかかるも、柳は後ろに身を逸らし、その攻撃を避け、二人の頭を掴み、両者の頭をぶつけ合っう。そして、二人が怯んだ瞬間、腹部に蹴りを入れて吹き飛ばした。

 

 

「よくも、ニィ、リィを!」

 

大剣を背負った少女、ライザーの『騎士』であるシーリスは柳に向かって剣を振り下ろすも柳は横に避ける。その瞬間、彼が今までいた場所を衝撃波が通り過ぎた。

 

「いやはや、マントラが無ければ喰らっていましたね。いや~、危ない、危ないなっと!」

 

柳は言葉とは裏腹に余裕そうな態度でシーリスの剣を避け続ける。その背後から残った少女、『僧侶』の美南風が魔力を放ってくるが、まるで背中に目があるように避け続ける。そして、再びシーリスの剣を避けた時、柳は彼女の懐に入り込み、指を彼女の目に突き刺した

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

両目を潰されたことで思わず剣を離し、両目を押さえたシーリスに向かい柳は彼女の胸ぐらを掴み、放り投げる。レイヴェルが柳をシーリスごと葬る為に放った炎へと……。

 

 

「いや~、仲間を倒すとか、非道な事をいたしますね。ああ、恐ろしい」

 

柳はそう言いながら残った双子を剣で串刺しにした。

 

『ライザー・フェニックス様の『兵士』二名 『騎士』一名リタイア』

 

「くっ! よくもぬけぬけとっ!」

 

柳の小馬鹿にしたような態度にレイヴェルが憤る中、再びアナウンスが流れる。

 

『リアス・グレモリー様の『女王』一名リタイア』

 

そのアナウンスを聞き、レイヴェルと美南風の顔に余裕が戻った。

 

「これでユーベルーナが直ぐにやってきますわ! 幾ら貴方が強くても、彼女には……」

 

「あ~、やっぱり倒されたか。まぁ、本気出していませんでしたし、当然ですね。……なんかやる気無くなったなぁ。三男坊の収入の半分の様な端金の為に、張本人達が本気を出さない戦いを続けるなんて、馬鹿らしくなってきましたね。しょうがない、先に引き受けた仕事だけでもこなしますか」

 

柳はそう言うと剣を抜き放ち、美南風の方へと振るう。ただ、それだけで大地は割れ、校舎が切断され、美南風の右腕が宙を舞う。そのような事をしたにも関わらず、柳は困った様に剣を見つめるだけだった。

 

「むぅ、やはり今の私ではグラムを使いこなせんませんか。少し右にズレちゃいましたね」

 

『ライザー・フェニックス様の『僧侶』一名リタイア』

 

「ズ、ズレたってあのままズレていなかったらあの子は死んでいましたわ!」

 

「いや、貴女も私を殺すように言っていたじゃありませんか。おあいこですって」

 

柳はそう言ってレイヴェルにツカツカと近づいていく。後ずさりして逃げようとしたレイヴェルだったが、壁際に追い詰められる。彼女が恐怖から目をつぶった、その時、空中から声が響いた。

 

「レイヴェル様ぁ! 今、お助け致します!」

 

「ユーベルーナ!」

 

仲間が次々とやられている事から急いで本陣まで戻ってきたユーベルーナはレイヴェルのピンチに間に合う事ができた。頼りにしている相手が来た事により、彼女の瞳に余裕が戻る。だが……。

 

 

 

 

「よっと」

 

「……え?」

 

柳はレイヴェルの胸ぐらを掴むとユーベルーナと自分の対角線上になる様に彼女を放り投げ、エクスカリバーを構える。すると、エクスカリバーから赤いオーラが溢れ出し、

 

 

 

「ジェノサイドブレイバー!!」

 

 

柳が剣を振るった瞬間、聖剣のオーラを纏った赤い波動が、二人に向かって一直線に放出された。

 

「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

二人はなす術なく波動に飲み込まれ、ユーベルーナは転送され、レイヴェルは石像となって校庭に落下する。そして、復活することなく転送されていった。

 

『ラ、ライザー・フェニックス様の『僧侶』一名『女王』一名リタイア』

 

この光景に冷静なアナウンスを行っていたグレイフィアさえも動揺した声を出す。だが、当の本人である柳は気にした様子もなく新校舎へと向かっていった。

 

「さて、ライザーに手傷を負わせますか」

 

「待ちなさい! 貴方はもう良いわ。……せめて、此処から先は私たちがやらなくちゃいけないわ」

 

柳が鎌を出して新校舎へと向かおうとすると、リアスに呼び止められた。

 

「……良いんですか? 貴方方だけでは負けますよ?」

 

「……それでも、私達だけで戦わないといけないのよ。貴方に眷属を全て倒して貰っておいて、言う事じゃなないけど、私達にも意地があるわ」

 

「はぁ、まぁ良いですよ。すみません、リタイアさせてください」

 

『リアス・グレモリー様の『助っ人』一名リタイア』

 

リアスの決意を聞いても、何も感じなかったような表情を見せた柳はリタイアを宣言し、転送されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「柳さ~ん!」

 

柳は特に怪我もないので転送された先から帰ろうとしていた。会いに来たサーゼクスに、ゲームの結果が気にならないのか?、と聞かれたが、

 

「興味ないので」

 

っと、一言だけ言って帰えろうとすると、廊下の向こうからエネルに連れられてアーシアがやって来る。さすがにあんな試合を見せた後だから、怖がられてりいるだろうな、と思っていた柳だったが、アーシアは真っ直ぐに柳に向かって行き、抱きつくと、その頬に軽くキスをした。

 

「柳さん! 凄く格好よかったですよ!」

 

「……あんな戦いを見ておいて、私が怖くないのですか?」

 

柳の質問に対し、アーシアは柳の目を見据えながら、軽く首を振っって言った。

 

「……はい、少し怖かったです。でも、そもそも柳さんが戦いに参加した理由は私が原因ですし、それに、柳さんは大切な人ですから! だから、私は貴方の全てを受け入れます」

 

「……有難うございます。さぁ、帰りましょう」

 

仲良く手を繋ぎながら帰っていく二人の背中を見てエネルは呟く。

 

「やれやれ、これが息子に女が出来た時の親の心境か。まさか我がこんな物を知る事になろうとはな……」

 

その声は少し寂しそうだったが、同時に、何処か嬉しそうだった。このあと、柳はゲームの結果を知らされた。一誠が片手を犠牲にして一時的な禁手に至り、何とかライザーを倒したと。最も、柳はそれを聞いても興味無さそうにしていたが……。



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従者が金ピカと青タイツと半裸だったら…… ⑤

「……要件は何でしょうか? 魔王ルシファー殿」

 

「そんな嫌そうな顔しないでくれないかい? 今日は依頼に来ただけだよ」

 

その日、柳はとても不機嫌だった。ゲームの映像が広まったのか、柳への勧誘が急増したのだ。ある時は気の強そうな大公家の息女からの勧誘が有り、

 

「貴方、私の眷属になる気はないかしら? 待遇は応相談よ」

 

またある時には、最強の神器を持っていると語る青年から勧誘が有り、

 

「やぁ、俺の仲間にならないかい?」

 

またある時は同世代に子持ちがいるのに少女と名乗っている痛い知り合いから求婚され、

 

「聞いたよ、柳ちゃん! 勧誘で困ってんだって!? なら、私の眷属になって、そのまま夫婦になろうよ!」

 

その後も、しつこい勧誘や、高圧的な勧誘、力ずくで眷属にしようとしてきた者達が居たが、態度が悪くなかった大公家以外は力ずくでお帰り頂いていた。ゲームの後から落ち着かない様子のギルガメッシュが切り札を使おうとしたり、機嫌の良いエネルが巨大な雷雲を落とそうとしたり、平常運転のバルバトスが世界破壊の技を使おうとした時は流石に止めていたが、それ以外では手加減などせず、対応し、アーシアに対しては、人質や彼女の能力を狙った輩に捕まらないよう、

 

「アーシアさん、(勧誘が来たら厄介なので、出来る限り)ずっと私の傍に居て下さいませんか? (そっちの方が守るのが楽なので)」

 

と言った途端、アーシアは顔を真っ赤にして頷き、柳はなぜそんな反応をしたのか分からず、首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、依頼とは?」

 

「ああ、君に妹の護衛を頼みたいんだが……」

 

「あ、断ります。て、いうか、公爵家の次期当主なんだから護衛くらい置いときましょうよ。変に意思を優先させて、会えなくなったら、ただのアホですよ。……要件はそれだけですね? では、お帰りください」

 

「つれないなぁ。まぁ、駄目ならしょうがないか。グレイフィア、帰るよ」

 

さほど残念だという様子も見せず、サーゼクスはグレイフィアを連れて帰っていった。すると柳の後ろにあったドアが開き、アーシアがオドオドしながらリビングに入ってきた。どうやら魔王の訪問に緊張してしまった様だ。

 

「あ、あの~、お帰りになられました? あの方が魔王さんなんですよね? セラフォルー様と雰囲気が違いましたが……」

 

 

「ええ、あれは魔王ですよ。というより、あの自称少女がおかしいんです。それにしても、緊張していますね。まぁ、昨日、画面越しにミカエル様と会話した時よりはマシですが……本当に大丈夫ですか? あんな事を知ってしまって」

 

心配そうにそう尋ねる柳に対し、一瞬、表情が固まったアーシアであったが、次の瞬間には笑顔に戻り、柳の隣にそっと座った。

 

「……昨日はショックで眠れませんでした。でも、今朝、陛下に言われたんです。”阿呆が、貴様の信仰心が不足しててなかったという事であろうが。それに追放されたからこそ、柳に会え、友が出来たのであろう? それとも、聖女のまま暮らしていた方が良かったのか?”、って……。追放された時は辛かったですが、私、今とても幸せです!」

 

「それは良かったです。ギルさんがポロっと洩らしてしまった時はどうなるかと思いましたが、杞憂だったようですね。……ところで、今日は三人が居ないので、貴女が料理をするって言っていましたが、その格好は?」

 

柳の視線の先にいるアーシアはエプロンを着ている。いや、エプロンしか着ていなかった。所謂、裸エプロンという奴だ。純情な彼女が自分からする格好とは思えず、質問した柳であったが、質問されたアーシアはキョトンとしていた。

 

「あれ? これが日本の常識だって、桐生さんから聞きましたよ? 男性に見せたらイチコロだって言っていました。陛下達も柳さんだけしか居ない時に見せたら喜ぶって言っていましたよ。……こうしていたら、だんだん恥ずかしくなってきました」

 

桐生というのは柳とアーシアのクラスメイトの女子で、兎に角、エロい。まさに女子版変態三人組の様な女子だった。二人が同じ家に住んでいる事に対しては、友人達と三人で暮らしている遠い親戚にお世話になっている、と嘘をついていた。ちなみに、柳の親戚がバルバトス、アーシアの親戚がエネルという事になっている。

 

「……その方が良いと思います。それと、桐生さんには他に何を教わりましたか? ちなみに、その格好の事は嘘ですよ」

 

男所帯で育った柳には流石に刺激が強かったのか、柳は顔を逸らしながら訊き、そんな反応に釣られて恥ずかしくなったのか服を着だしたアーシアの顔も真っ赤になっていた。

 

「え~と、お風呂に一緒に入る裸の付き合いというものがあると……それも嘘ですか?」

 

「まぁ、正確には同性同士の事が多いですね。異性同士の場合もありますが……」

 

「じゃ、じゃあ、私と裸のお付き合いをしてください! 私、柳さんともっと仲良くなりたいです!」

 

「落ち着いて下さい! 貴女は極端すぎますよ。純情な貴女は何処に行ったのですか!?」

 

その後、なんとかアーシアを落ち着かせた柳であったが疲労困憊し、その日は死ぬように眠っていた。

 

「……私はどちらかと言うと、裸ワイシャツ派です。当然、下は履いてる派で……」

 

そんな寝言を言いながら……。ちなみに、添い寝しようと部屋に入ってきたアーシアにバッチリ聞かれ、再び騒動となるのは別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? 次の時間に提出する、数学のノートがありませんね……ああ、イッセーに昨日貸したのでした」

 

数日後、昼食前に次の授業の準備をしようとして提出物のノートを探していた柳は一誠に貸した事を思い出し、気配を探り、途端に嫌そうな顔をした。

 

「……アーシアさん。私は旧校舎に用があります。此処なら大丈夫でしょうから、一人で何時もの場所で待っていてくれますか?」

 

「良ければ私もご一緒しても宜しいですか? ……出来るだけ柳さんと一緒に居たいですから」

 

シツコイ勧誘をしてくる馬鹿も、公爵家の領地では自粛するだろうと判断した柳はアーシアに待っていて貰おうと思ったが、本人の希望によって同行することにした。ちなみに、その様子を見て、元浜と松田は血の涙を流していたという……。

 

 

 

 

柳達がオカルト研究部の部室の前に行くと中から声が聞こえてきた。話しているのは一誠と他の男子のようだ。柳が戸をノックし招かれた先にはオカ研メンバーの他に生徒会の面々がいた。先程、一誠と話していたのは、最近入ったばかりの書記で、匙という少年だったようだ。匙は柳を見ると訝しそうな顔をする。

 

「リアス先輩。招きいれたって事は、神田も関係者だったんですか? まぁ、関係者といっても、『兵士』の駒を四個消費した俺には、兵藤同様劣るでしょうけど。あ、アルジェントさんも関係者だったんだね」

 

匙は女子に人気がある柳には敵意を放ち、アーシアには馴れ馴れしい態度で接する。その態度に柳が動こつとした時、生徒会の一人から叱責の声が上がった。

 

「サジ。お止めなさい。今日は新人悪魔同士の顔合わせに来たのですよ。それに、貴方では兵藤くんどころか、神田くんには絶対に勝てません。フェニックス家の三男を倒したのは兵藤くんで、神田くんはその眷属全員を一人で倒しました。それも、無傷でです。……神田くん。先日の姉の事といい、サジの事といい、ご迷惑おかけしています」

 

「いえいえ、お気になさらずに、ソーナ・シトリー殿。ああ、学園では支取生徒会長と呼んだ方が良かったですね。アーシアさん。この方が学園の生徒会長である支取蒼奈生徒会長こと、上級悪魔ソーナ・シトリー殿です。ちなみに、あの魔法少女の妹ですね」

 

「ええ!? じゃあ、この方も年齢詐称してらっしゃるんですか!?」

 

「ね、年齢詐称……。アルジェントさん、そんな事しているのは姉だけです。それに、神田くん、なにか要件があったのでは?」

 

ソーナに顔を引きつらせながらそう尋ねられた柳は要件を思い出したかの様に手を叩くと、一誠の方を向いた

 

「一誠。昨日貸したノートを返してください。次の授業で提出ですからチェックしておきたいのですよ」

 

「あ、わりぃ! ノート忘れちまった」

 

「……イッセー。今すぐ取りに帰るか、焼き鳥の妹のように石になるか、お好きな方を選んでください。大丈夫。今すぐ行けば昼食を抜くだけで済みますし、石になっても金さえ積めば治してあげますよ」

 

「今すぐ取ってきます!」

 

この後、一誠は語った。余りの迫力に逆らえなかった、と……。その後、球技大会でリアスとソーナがテニスで魔球対決をしたり、部活対抗のドッチボールで一誠が男の急所にボールを食らったり、木場が殺気全開で睨んできたりした。もっとも、柳にとってはどうでも良い事ばかりだったので、無視していたが。

 

 

 

「……おや、来たようですね。お茶をお入れしますので、少々お待ちください」

 

数日後、庭で石像を片していた柳は来客に気づき、いそいそと準備をしに家に戻っていった。



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従者が金ピカと青タイツと半裸だったら…… ⑥

「さて、エクソシストのお二方。依頼内容は伺っておりますよ。聖剣の奪還のお手伝いでしたね? さぁ、コーヒーでもどうぞ」 

 

「ああ、貰おう」

 

「あの~、砂糖は無いのかしら? 私、ブラックはどうも……」

 

柳は訪ねて来た二人にコーヒーを出しながらそう告げる。砂糖が入っていないブラックコーヒーを躊躇いなく飲むのは青髪の少女、ゼノヴィア。砂糖を欲しがったのは栗色の髪の少女、イリナ。だが、柳は彼女のことを無視し、自分もコーヒーを飲みだした。

 

「ああ、やはりコーヒーはブラックに限りますね。砂糖を入れるんなんて邪道! 貴女もそう思いますよね? え~と、イリナさん?」

 

「え、ええ。そうよね」

 

イリナは笑顔でそう言い切る柳から発せられる迫力に押され、仕方なくコーヒーに口を付ける。そして、依頼について話を進めていた時、キッチンの方から芳醇なカレーの匂いが漂い、その途端、部屋の中に腹が鳴る音が響き渡った。音の主はイリナとゼノヴィアの二人。思わず腹を押さえて赤面する二人に対し、柳は笑みを浮かべながら告げた。

 

「さて、そろそろ夕食時ですし、お二人もどうぞ。今日は私特製のマーボーカレーですよ」

 

 

 

 

 

 

 

「旨い! 旨いぞぉ!!! おかわり!」

 

「あぁ! 幸福が全身を駆け巡るわ! おかわり!」

 

ゼノヴィアとイリナの二人はカレー皿を掴み、中身を必死で掻き込んでいる。彼女らが夢中になっているのはマーボーカレー。柳がバルバトスから教わったこの料理は体力を回復させる奇跡の料理。かって食事に招かれたミカエルとガブリエルが最後の一杯を巡り、危うく堕天しかねた程の絶品だ。瞬く間に食べ終わった二人はすぐにお代わりを要求し、柳は笑顔で新しいカレーを注いでいく。そんな様子を見てアーシアは唖然としていた。そんな中、ようやく満足したらしいゼノヴィアが彼女に声をかけてきた。

 

「さっきから気になっていたが、君は『魔女』アーシア・アルジェントか? まさかこのような場所で……」

 

「いえ、彼女は『只の』アーシア・アルジェントですよ。とある堕天使に殺されかけてましてね、縁が有ったから助け、今もお世話をさせて頂いています。……それにしても彼女は運が良いと思いませんか? 本来なら死んでいたのに、たまたま私と出会って助かったのですから。これも彼女の信仰深さの現れですね」

 

ゼノヴィアが言った魔女という呼び名にアーシアが身をすくませた時、ゼノヴィアの言葉に柳の言葉が割って入る。最初は顔を顰め、何か言おうとしたゼノヴィアだったが、アーシアの顔を見て何かを考え、すぐに表情を柔らかいものへと切り替えた。

 

「……そうだな。どうやら人違いのようだ。職業柄、信仰心がある者は分かるのだが、彼女からは強い信仰心を感じる。さて、アーシアさん。主も貴女を見守っていらっしゃるだろう。その信仰心を忘れない事だな。君に主の導きがあらん事を祈るよ」

 

「は、はい! 貴女にも主のお導きがありますようお祈りします」

 

「……ところで、君の仲間は三人いると聞いていたんだが、何処に居るんだい?」

 

「……旅行です」

 

 

 

 

 

とある旅館の一角で、ギルガメッシュ達はがマッサージチェアを使い寛いでいた。ちなみに旅費を全額出しているのはギルガメッシュだが、彼はどこか落ち着かない様子で貧乏揺すりを繰り返している。

 

「むぅ、やはり柳達を二人きりにすべきではなかったか? だが、……」

 

「そう心配するな、ギルよ。あの二人が簡単に間違いを犯すものか。なぁ、バルバトス?」

 

「ぶるあぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ……柳を育てたのは俺達だろうぉ。少しは息子を信じてやれぇ」

 

「しかしだな! しかし此処の料理は食事はイマイチだったな。やはり、奴の料理で肥えた舌では、この程度の旅館の食事では物足りんな。まぁ、我の宝物庫には事前に作らせた料理を収めておるがな。旅行前の深夜に起こして作らせたら、禁手に閉じ込めて、飯で釣ったゼノンとシドーをけしかけてきよった……あの時は流石の我も死ぬかと思ったぞ。魔王って……、破壊神ってお前……」

 

そう語るギルガメッシュの顔は平静を装ってはいるが少し青ざめ、体は小刻みに震えていた。そして、そんな彼を二人は呆れてような目で見ている。

 

「いや、それはお前が悪いだろぉ。当然、俺等の分もあるのだろうなぁ?」

 

「まぁ、柳の事だから、当然多めに作っておるのだろうが……さて、英霊らしき気配が集まりだした。そろそろ開幕したようだぞ。第四次聖杯戦争がな」

 

エネルがそう告げるなり、三人は表情を切り替え、部屋に戻ると浴衣から着替えた姿で外へと出ていく。その手にはビデオカメラが収められていた。

 

 

 

 

 

事の発端は数日前の酒宴まで遡る。バルバトスの失恋話でエネルとギルガメッシュが大いに盛り上がっていた時、料理を運んできた柳がふと思い出したように漏らした。

 

「そういえばギルさんも、求婚した相手にフラれた上で負けたんですよね? 第五次には終わり頃に参加したらしいですし。第四次の時は圧倒的だったって言ってましたが……」

 

「……何だ、その疑うような目は! 良いだろう、今すぐ我の居た世界の過去に行って戦争の様子をビデオに撮ってきてやる! バルバトス! 今すぐ我を過去に飛ばせ!」

 

「ふむ、面白そうだ! バルバトス、たしか過去に干渉しても並行世界が増えるだけで、今は変えれんのだったな? なら、英霊とやらと戦うのも一興。ヤハハハハ!」

 

「……この、戦闘狂共めぇ。柳、お前はこうなるなよぉ」

 

「……いや、貴方が言う権利ないと思いますよ。異世界回って英雄達と戦ってきたんでしょう? では、私は残りますので行ってらっしゃい」

 

「ああ、行って来る。それと、何かあった時はこの携帯電話を使え。異世界だろうが過去だろうが通信可能だ」

 

そう言ってギルガメッシュは携帯電話を柳に渡すと旅行の支度をし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぅ、やっとる、やっとる。あの小娘が貴様をフッた女か。ヤハハハハ、中々の美女ではないか!」

 

「……頼むからその話は止せ。さて、征服王が来たという事は……。ってバルバトスはどこへ行った!?」

 

「ヤハハハハ! 英雄殺しの奴が英霊を前に黙っていられる筈がなかろう? ほれ、戦闘に乱入しておる」

 

エネルが指差した先では槍兵と剣を持った少女に対し、斧を振りかぶるバルバトスの姿があった。

 

「あの馬鹿者が! 彼処には過去の我が……いや、奴なら丈夫か。過去の我ごとき、バルバトスの敵ではない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶるあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「くっ! 何だ此奴は!? この気迫に狂気じみた目……バーサーカーか!」

 

「狂戦士めが、一騎打ちを汚しおって! ただで済むと思うなよ!」

 

突如乱入してきた巨漢にセイバーとランサーは押されていた。一騎打ちの邪魔だとばかりに二人から振るわれた一撃は、確かに目の前の男に命中したにも関わらず、男は気にした様子もなく向かってきている。バーサーカーだから傷を気にせずにかかって来ているのかと思ったが、その体には傷一つ無い。そして、男が斧を振り下ろした衝撃により二人が吹き飛ばされた時、彼を観察していたライダーのマスターから驚愕の声が上がった。

 

「あ、あいつ、サーヴァントじゃない!」

 

「……確かか? 小僧。 しかし、人間がサーヴァントを圧倒するとは……おや? 彼処の男はそろそろ我慢が出来なくなったみたいだな」

 

ライダーが見つめた先にいるのはアーチャー。この時代のギルガメッシュである。不快そうに顔を歪めた彼の背後には無数の空間の歪みが現れ、そこから様々な武器が出現する。

 

「……目障りな、雑種め。これで消えるが……っち!」

 

そして、その武器を男目掛けて射出しようとした時、何かに気づいたかの様に立っていたポールから飛び退く。その瞬間、轟音と共にポールに雷が落ち、太鼓を刺した半裸の男が舞い降りた。

 

「ヤハハハハ! そうカリカリするな、ギルガメッシュよ」

 

「ギルガメッシュだって!? って、またサーヴァントじゃない奴が乱入してきた!?」

 

ライダーのマスター……ウェイバーがそう驚愕の声を上げ、ギルガメッシュの名前に残りの面々も動揺を隠せないでいる中、アーチャーの顔が怒りに歪む。

 

「貴様ァ、王の中の王たる我の名を気安く呼ぶとは……楽に死ねると思うなよ!」

 

アーチャーがそう叫んだ瞬間、先程展開されたのとは桁違いの数の武器が現れる。その一つ一つが彼の財であり、宝具だ。その数に一同が動揺する中、エネルは耳をほじり、バルバトスはアクビをしている。アーチャーから何かが切れる音がした……。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

そして、その宝具全てがエネルとバルバトスに向かって放たれた。その一つ一つが命中すればサーヴァントでも即死しかねない威力を秘めている。そんな物が無数に放たれたのだから、その場に居た者達はふたりの死亡を確信した。だが……

 

 

「……遅いな。それでは蠅が止まるぞ」

 

半裸の男は目を瞑ったまま全ての宝具を避け、

 

「ジェノサイド……ブレイバァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

巨漢の斧から放たれた赤い波動が向かってきた宝具を吹き飛ばす。そして、その波動は勢いそのままにアーチャーに向かって行き、その体を包み込む。波動が通り過ぎた時、アーチャーは片膝をつき、自慢の黄金の鎧はヒビが入っている。その光景に誰もが唖然とする中、反対側から彼の声が聞こえてきた。

 

 

「……二人共、その辺にしておけ。さて、騎士王に征服王。そして、英雄王よ。我の仲間が邪魔したな。ああ、取るに足らん雑種もいたか」

 

「ア、アーチャーが二人ぃ!? ど、どうなってんだよ!?」

 

「黙れ、小僧。……さて、いきなり現れたのだ。王の御前である、貴様ら名を名乗れ。それと、我らの戦いに水を差した訳も言ってもらおうか?」

 

「王? それがどうした? 我が名はエネル。我は神なり! 不届きなるぞ、面を下げい!」

 

「ぶるあぁぁぁぁぁぁっ!! 俺の名はぁ、バーババ、バーババ、バルバトス・ゲーティアだぁ!」

 

「……やれやれ、我も王だと言っておろうに。我が名は英雄王ギルガメッシュ。……まぁ、この時代のではないがな。貴様らの戦いに乱入した理由? そのような事、暇つぶしに決まっているだろうが。さて、そろそろ腹も減った事だし、我達は帰らせてもらう。さらばだ!」

 

「待て! 貴様ら、その様な理由で……」

 

セイバーの制止の声も虚しく、三人は光に包まれて消えていった。

 

 

 

 



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従者が金ピカと青タイツと半裸だったら…… ⑦

聖杯戦争中に突如現れた謎の三人組に参加者達が騒然となる中、更なる知らせが教会から届く。

 

『異常殺人者がマスターとなってキャスターと共に暴走。二人を始末せよ。なお、あの三人についてはそれぞれの陣営に判断を委ねる』

 

何故かセイバーをジャンヌ・ダルクだと思い込んだキャスター、ジル・ド・レェは贄とするべく子供を誘拐していると言う。その事に義憤を募らせる者、報酬目当てぬ動く者、興味ないと傍観を決め込む者と三者三様の動きを見せている。そして、その事件を思い出したギルガメッシュは

 

 

 

 

「わ~、このお船、空を飛んでる。すっご~い」

 

「こら、危ないから走るな! おい、其処! オシッコはトイレでしろ! あ~、もう! 身を乗り出すな!」

 

さっさと二人を始末し、子供達を預けるべく教会へと向かっていた。救出された子供達は空を飛ぶ船、ヴィマーナから見る景色に興奮してはしゃぎまわっている。比較的大人しかった柳と違い、騒ぎ回る子供らに振り回されて辟易としているギルガメッシュは自分の袖を引く赤毛の少年に気づいた。

 

「何だ、雑種。貴様の遊び相手になる気はないぞ」

 

「違うよ。助けてくれて有難う。ねぇ、オジさんは正義の味方なの?」

 

「いや、我は我の家臣と民の味方だ。貴様らを助けたのは気紛れに過ぎん」

 

少年の問いにギルガメッシュはそう答えたが、少年()には彼の姿に紛れもなく『正義の味方』に見えていた。その後、魔術の秘匿の為に記憶を消されながらも彼らの心の奥底には黄金の英雄の姿が刻み込まれた。そして、この世界の未来には正義の味方として人々を守る者達が現れる。彼らは仲間というわけではなく、掲げる正義や信念はバラバラだったが共通する事がある。出身地と世代、そして黄金の衣装であった。

 

 

 

 

 

 

なお、今回彼が子供らを助けたのは、目当ての店の主人が子供を攫われた為に仕事が出来なくなっていたからだけであり、彼が単独で助けたのはジャンケンで負けたからである。

 

 

 

 

 

「キャスターとそのマスターが始末された!? それも、もう一人のアーチャーに!?」

 

「ええ、そうですわ切嗣。子供全員を無傷で救い出した彼は子供達を教会に預け、そのまま何処かへ消えたそうよ。足取りを追ったんだけど見つからなくて……」

 

「……もう一人のアーチャーに謎の男二人。しかも戦闘能力は最優の英霊たるセイバーと最速の英霊たるランサーを凌駕するか。しかも、残りの二人の戦闘力は不明。……厄介な奴らだ。暇つぶしと言っていたが、何が目的なんだ……」

 

セイバーのマスターである衛宮切嗣は得体の知れない者達に警戒を募らせ、対策を練りだした。

 

 

 

 

 

 

「時臣! まだ我の偽物達の所在は分からんのか!」

 

「はっ! 使い魔で探索してはおりますが未だ見つからず……」

 

傷の癒えたアーチャーは苛立ちを隠そうともせずにマスターである遠坂時臣を怒鳴りつけた。彼が力任せに握り締めたグラスは割れ、酒が床を濡らす。自分にソックリの者が現れ、雑種と見下していた相手に宝具を破壊されたばかりか、逃走せざるを得ない状況まで追い詰められた。かって世界をその手中に収め、王の中の王を自称する彼にとってそれは耐え難い屈辱だったのだ。時臣は彼の怒りを買わぬようにただ平伏すばかりであり、彼には対策を考える余裕などなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガハハハハハハ! まさか手柄を横取りされるとはな。しかし、子供らを迅速かつ安全に救出する手際といい、あの強さといい、何としても吾輩の軍門に下らせたくなったわ!」

 

「何言ってんだよ、ライダー! お前だって見ただろ!? あの大男だけでもセイバーとランサーを一人で圧倒しただけじゃなく、アーチャーの無数の宝具を真正面から破ったんだぞ! 他にも変な奴やもう一人のアーチャーも居たし、幸いサーヴァントじゃないなら無理に戦わなくていい相手なんだ。変に刺激するような事すんな」

 

「坊主も分かっておらんのぅ。困難だからこそ挑みがいがあるのだろうが。……ふむ、奴らを勧誘する前に他の王の器を見定めるか。よし! 酒を買ってくるぞ」

 

「……また変な事思い付いたのかよ」

 

豪快に笑って何処かへ出かけていくライダーの背中に向かってウェイバーは疲れきった声でそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

「ケイネス殿! 何とぞ私めにあの三人の討伐をご命じください! この槍に誓って必ずやあの三人の首をお持ち致します!」

 

「……セイバーと二人掛りでロクな手傷も負わせられなかったのにか?」

 

「ッ! し、しかし!」

 

「それに、あれだけの力の持ち主がサーヴァントを狙っているなら好都合。我らが姿を隠していれば勝手に競争相手が減るではないか。話は以上だ」

 

ランサーのマスターであるケイネスはランサーの申し出を無視し、用件だけ告げると背を向けた。その事にランサーが歯噛みした時、彼らが居た屋敷の門が吹き飛んだ。

 

「ぶるあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 探したぞぉ! さぁ、来いよ! 俺の乾きを……癒せぇぇぇぇぇっ!!」

 

バルバトスの叫びと共に屋敷の空気が震えガラスが割る。放たれる闘気にケイネスどころかランサーさえも息苦しさを感じて冷や汗を流した。

 

「ケイネス殿! 数秒間だけ時間を稼ぎます! 奥方様と共にお逃げください!」

 

「……ランサー。此処は頼む。残った令呪をすべて使って命じる。全力で奴を打ち破れ! ……これは命令だ。必ず生き残って我に聖杯を捧げよ!」

 

「……ケイネス殿」

 

ケイネス・アーチボルトは今までランサーの事を信用していなかった。元々疑り深い性格であり、特に裏切りの伝承を持つ己のサーヴァントには強い不信を抱いていたのだ。それゆえにランサーがいくら彼に忠誠を誓っても彼らの間には信頼関係が生まれる事はなかった。そう、この瞬間までは。命の危機に瀕した時に交わされたやり取りにより、確かに二人の間には信頼関係が生まれようとしていた。だが、遅すぎた。バルバトスの前では一瞬の判断が生死を分けるのだ。

 

「……俺様を前にしてペラペラと……余裕かましてんじゃねぇ!! ヘルヒート!!」

 

バルバトスから計32発の赤き炎の弾丸が放たれる。全ての弾丸はランサーの最高速度を遥かに超える速度で二人に向かっていった。

 

 

 

 

破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルク)ゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

ランサーはその凶弾から主を守るべく宝具を解放する。触れた物の魔力を打ち消す其の長槍の力は術への対処法としては最適だっただろう。だが、その術は英霊たる彼の力量を持ってしても対処できる存在ではなかった。一発の弾がランサーの足に命中し、その部分は炭となって崩れ落ちる。もう一本槍を杖代わりに体勢を整えて対処するも今度は長槍を持った右手が炭化。術に対処する為の槍は床に落ち、数発の弾が彼に命中した。

 

「ケイ…ネス殿…。申し訳…御座いませんでした…」

 

力なく倒れるランサ-に容赦なく弾が襲いかかり、やがてランサーは光となって消えていく。彼が最後に願ったのは主であるケイネスの生存だった。

 

 

 

 

 

「……ランサーの反応が消えた。くっ!」

 

ランサーが稼いだ僅かな時間を使って屋敷から逃げ延びたケイネスはランサーの死を悟り歯噛みする。そんな中、彼に近づいてくる足音があった。振り向いた彼の後ろに居たのはバルバトス。逃げる暇もなく首を掴まれ、片腕だけで持ち上げ合れる。そんな苦しい体勢からでも彼はバルバトスに向かって魔術を放つが、正面から食らったに関わらずバルバトスにはかすり傷一つもなかった。

 

「言い残すことは有るかぁ? 今日の俺は紳士的だ。ちゃんと聞いてやるぞぉ」

 

「……ランサー、今まですまなかったな」

 

 

最後に彼が残した言葉は命乞いでもなく謝罪。その言葉を聞いたバルバトスは彼の首に掛けた手に力を込め、一気にへし折る

 

 

 

 

かと思いきや、その手を離す。落とされた時に腰を打ち、先程まで掴まれていた喉を押さえて咳き込む彼にバルバトスは視線を向ける。

 

 

「今日の俺は気まぐれだぁ。特別に生かしておいてやる」

 

そう言ってバルバトスは消えて行き、その場所にはケイネスのみが残された。

 

 

 

 

 

 

一方その頃、切嗣の拠点では三人の王による聖杯戦争ならぬ聖杯問答が行われようとしていた。騎士王であるセイバーの元に酒を持ってきた、征服王ことライダーは街中で誘ったアーチャー、英雄王にも酒を渡す。だが、その酒が気に入らなかったアーチャーは自分の財の一つである極上の酒を提供する。そして、今まさに酒盛りが行われようとした時、新たに別の二人が現れた。

 

「おお、やっとるな。さて、我らも混ぜて貰うぞ。ちゃんと土産は用意してきた。我が家臣に作らせた、魔王すら魅了する極上の馳走だ」

 

「ヤハハハハ! そういえば我も王だったな。その問答に混ぜて貰うぞ!」

 

かくして、5人の王による問答が行われようとしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、極上の馳走とは?」

 

「……直ぐに出すから待っておれ。腹ペコ王よ」

 

「腹ペコ王!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~オマケ~ アサギ・妲己・つけもの編

 

 

ゲームセンターに新入荷したシューティングゲームの周りには人集りが出来ていた。彼らが注目しているのはひと組の男女。彼らは難易度が高い事で有名なそのゲームをやっており、完全に息の合ったプレイをしていた。二人の銃は次々に敵を倒していき、一つのミスもなくゲームを進めていく。やがて、終盤へと差し掛かり、目を合わせて頷いた二人は同時に引き金を引く。最後の敵を倒した時、画面にはパーフェクトの文字が表示されていた。

 

「……こんなもんね。次行きましょ。私、新しい服欲しいな」

 

「ええ、良いですね。行きましょう」

 

二人は他の客の注目を気にした様子もなくゲームセンターから出ていった。

 

 

 

 

 

 

「いや~、ありがとね柳。下着まで買って貰って」

 

「いえいえ、お気になさらずに。……流石にランジェリーショップの近くで待つのはキツかったです」

 

服を買った後、二人は街中を散策していた。アサギは柳の腕に抱きつき、柳もそれを気に下様子もなく歩いている。美男美女のカップルという事もあり二人はとても絵になっていた。

 

「それにしてもゲーセンでは注目されたわね。まるで主役になったみたいで嬉しかったわ」

 

「……そうですね」

 

嬉しそうなアサギに対し、柳はどこか機嫌が悪そうだ。それを見たアサギは不満げに頬を膨らませる。

 

「なによ、私が注目されるのが不満? 良いじゃない、私だって主役になりたいのよ」

 

「……アサギさんには皆に注目される主役より、私だけのヒロインになって欲しいんですよ」

 

柳は顔を真っ赤にしながら顔を背け、それを聞いたアサギの顔も耳まで真っ赤になった。

 

「……馬鹿。ねえ、帰ったら買って貰った服を着てみせるから見てくれない?」

 

「……下着もですか?」

 

「仕方ないわね。……柳のスケベ」

 

アサギはそう言うとより強く柳に抱きついた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い森の中に怪物の叫び声が響く。地面にはどす黒い血が撒き散らかされ、グチャグチャになった怪物達の死体が転がっている。此処で死んでいるのはハグレ悪魔の群れ。最低でも中級クラス、群れのリーダは最上級クラスという大規模な群れだったのも関わらず、ほぼ全滅していたる。今生き残っているのは群れのリーダーだけ。それの命も、もう直ぐ尽き様としていた。腕は乱暴に引きちぎられ、足はありえない方向に折れ曲がっている。そして、その正面にはこの惨状を作り出した人物……柳がいた。

 

「た、助け……」

 

「煩い」

 

柳は命乞いを無視して怪物の顔に蹴りを入れる。怪物の顔は熟れたトマトの様に潰れ、怪物は息を引き取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらん、おかえりなさぁい♡」

 

「……なんですか、その格好」

 

家に帰ってきた柳を出迎えた妲己は素肌の上から小さめのエプロンだけを着ており、豊満な胸が横からはみ出している。口では呆れている様子を見せる柳だったが視線はしっかりとその姿を捉えており、その事に気付いている妲己は悪戯そうに笑った。

 

「お仕事ご苦労様。アサギちゃんは明日の朝に戻るそうよ。つけものちゃんも例の組織に潜入中で、さっき中間報告があったわ。……それで、ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ・た・し?」

 

「……じゃあお風呂と妲己さんで」

 

「あらん、昨日もアサギちゃんとお楽しみだったのにお元気ねぇ。……『改造』の効果かしら? さ、行きましょう♡」

 

 

 

その後、風呂場では柳の体を妲己が自分の体で洗っている内に興奮して押し倒そうとし、逆に押し倒されるという場面が繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

「……いい、柳ちゃん? 女の子はもっと丁寧に扱うものよん。貴方がそこまでなのは私の『改造』のせいもあるんでしょうけど、毎回毎回気絶したり泣き叫ぶまで攻め続けるなんて……。二回に一回にしなさい」

 

「あ、それ自体は別に構わないんですね」

 

風呂場で足腰が立たなくなった妲己は暫くしてやっと回復し、今は自室のベットに座り、柳を床に正座させて説教をしている。なお、柳はパンツ一丁で彼女は未だに裸のままだ。数十分程過ぎた所で満足したのかそっと右手の甲を差し出し、柳は無言でそこに口付けをする。何度もしているかの様に慣れた動作でそれをし終えた時、柳の鼻腔を甘い香りが擽る。

 

「しまっ……」

 

柳がそれに気付いた時には遅く、彼の瞳から焦点が失われ、熱に浮かされている。何時の間にか妲己が纏っている布の名は傾世元禳(けいせいげんじょう)。仙人が使う宝具(パオペエ)と呼ばれる道具の一つで魅了の効果がある。普段の彼なら抵抗できるが、コトを終えた後の為に油断していたのだ。その様子を見た妲己はうまく行ったと言わんばかりにほくそ笑む。

 

「うふふ♡ これで普段はできない事をして貰おうかしらん。さて、まずは足をお舐めなさい」

 

「……はい」

 

妲己がそう言って足を投げ出すと柳はそれをそっと掴み、舐め出す。その感触に妲己は思わず身悶えた。

 

「あっ…。いい…。くっ…、クセになりそう……♡。……もう良いわん。これ以上は後戻りできなくなりそう。次は口づけよん♡ 優しくね?」

 

「……はい」

 

柳はそう返事をすると妲己の肩に手を置き、一気にベットに押し倒す。いきなりの事態に妲己からは何時も絶やさない余裕の色が消えていた。

 

「えっ? ちょっ!? 魅了は効いてるはずじゃない。何で押し倒して……」

 

「……そりゃまぁ、直ぐに解けますって。何故すぐ解けたって? 私が既に貴女に魅了されてるからですよ。普段からされているんですから耐性も付きますって。じゃあ、頂きます」

 

「……優しくねん♡」

 

その後、暫くの間ベットの軋む音と、艶っぽい女性の喘ぎ声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レオナルド、神器の訓練は上手くいってるかい?」

 

「……うん」

 

「そうか。これからも頑張れよ」

 

レオナルドと呼ばれた幼い少年に声をかけた青年は満足げに頷くと訓練場から出ていった。訓練場に残ったのは少年一人。彼は人目がないのを確かめ、そっと髪に手を置き

 

 

「……ふぅ」

 

 

変装を取って本当の姿を現す。少年の正体はつけものだった。ようやく一息付けた彼はホッとする。だが、いつの間にか目の前に黒い服を着た幼女が立っていた。

 

 

 

「我、オーフィス。お前、なにもの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つけものです」

 

 

 

その瞬間幼女の手が彼の体を貫き、つけものは天に召された……。



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従者が金ピカと青タイツと半裸だったら…… ⑧

食卓に並べられた料理の山は見る見る内に無くなって行く。もはや言葉を発する時間も惜しいといった様に女性達は料理を胃に詰め込み、男性陣は遠慮がちに料理を口に運んでいた。

 

「美味い! 美味すぎる! 今この時、私の体は主の愛よりもこの料理を欲しているぞ!」

 

「ゼノヴィア、それは問題発言よ。でも、その気持ち分かるわ! ああ、彼を教会に勧誘したいけど、そんな事したら教会全体が暴食の罪を犯してしまう!」

 

「……勧誘はお断りしています」

 

イリナ・ゼノヴィアの二人組と柳は協力する事にはなったものの、お互いにやり方があるという事で情報だけ交換し合う事で話がついたはずだった。だが、イリナが間抜けな事に活動資金を変な絵につぎ込んでしまい、再び柳の家で食事をとる事になったのだ。二人に話があるという事で訪ねて来た一誠と小猫、そして匙達も序だからと招待したのだが、後からやって来た女性も加わって食卓を囲んでいた。

 

「……美味しいです」

 

「ホント柳ちゃんってお料理上手だよね。あっ、マーボーカレーおかわり♪」

 

エクソシスト二人に負けないペースで食べ勧めているのは小猫。その横で楽しそうに笑っている魔法少女のコスプレ少女はセラフォルー。……一応魔王である、最も此処にいる者の中でそれを知るのは柳だけであり、言ったら面白そうだが面倒事にもなりそうなので彼は黙っている。そして、彼女らが満足したのを見計らい声を掛けた。

 

 

「それでなにか要件があったのでは? 私は皿を洗って来ますのでその間にどうぞ。アーシアさん、セラフォルーさん、手伝ってくださいますか?」

 

「あっ、はい。お手伝いします」

 

「柳ちゃんと食器の片付けなんて、まるで新婚さんみたい✩」

 

「……柳さんの妻は私。柳さんの妻は私。柳さんの妻は私」

 

皿を抱えた柳の後ろをついて行くテンションの高いセラフォルーと黒いオーラを放つアーシアの背中を見ていたゼノヴィアは、ようやく一誠達に話しかけた。

 

「それで、何の用だい?」

 

「ああ、聖剣の破壊に協力したい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばセラフォルー…様と柳さんって何時出会ったんですか?」

 

「聞いてくれる!? ふっふ~ん、私と柳ちゃんの馴れ初めは二年前……休暇で人間界に来た私は人の入らない山奥でハイキングしてたの。そうしたら、何とかブレイバー!!って聞こえてきて赤いエネルギーの波動が私を飲み込んだの。力なく倒れてしまった私を介抱して、その上美味しい手料理までご馳走してくれて♡ その時感じたの.私とこの子は運命の赤い糸で結ばれてるって……きゃっ♪」

 

「……それから家を突き止められて、ちょくちょく訪問されてるんです。……ブレイバーに対してはノーコメントで」

 

「……はい」

 

顔を赤らめてイヤンイヤンと首を振るセラフォルーを他所に、柳とアーシアの脳裏にはとある人物が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶるあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 宴会場は何処だぁぁぁぁぁぁぁっ!! 八つ当たりの……ジェノサイドブレイバァァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これは! まさか宝具ですか!? ぜひ、エクスカリバーと交換を!」

 

「……落ち着かんか、腹ペコ王。剣は騎士の魂であろうが。まだあるから好きなだけ食うが良い」

 

「かたじけない、偽アーチャーよ!」

 

「……偽。いや、別に良いが、何だかなぁ……」

 

セイバーは熱々の唐揚げにかぶりつきながらそう叫ぶ。大粒の唐揚げはカリッカリの衣に覆われ、一口噛むと肉汁と旨みがジュワリと口の中に広がる。しっかりと熟成されたタレに漬け込まれた肉には濃厚な味付けがされており、既にご飯を八杯食べている。続いて彼女が手にとったのはチキン南蛮巻き。とある世界では取得経験値が二倍になる料理である。一口かぶりつくと口の中に甘酸っぱいタレと肉の旨味、自家製のタルタルソースに混ぜられた野菜の酸味が広がり、思わず笑みが浮かぶ。セイバーは普段の凛とした雰囲気はどこかへ行き、まるで年頃の少女のような笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

「……我の偽物でありながら宝物庫に飯をしまうとは何事だ、と思ったが、まぁ悪くはない。この出来なら我が財に加えるのに相応しい」

 

「なぁに、気取ってるおるのだ英雄王よ。さっきからバカスカ食っておいて、今更格好付けるでないわ。それにしても貴様の酒は極上だが、この料理もそれに劣らん出来栄えよなぁ」

 

そう言いながらライダーは豚の角煮に手を伸ばす。あまりの柔らかさに箸で取ろうとすれば簡単に切れてしまい、何度かやってようやく取り皿に移す事ができた。一口口に含むと歯で噛み切る前に崩れ、甘辛いタレと豚肉の旨みが口いっぱいに広がる。すると隣に座っていたエネルがご飯を大盛りについだ丼をそっと差し出し、ライダーはそれに角煮を乗せると一気に掻き込む。濃厚なタレが米に絡み、豚肉・タレ・米の三種の味が見事に調和している。あまりの旨さに天を仰いだ彼の瞳からは涙が溢れていた。

 

「吾輩は世界征服の野望を抱き、今までやってきた。だが、今この瞬間はそんな事どうでも良い! 我が心にある言葉は、旨い!……ただそれだけである!」

 

 

 

 

 

 

「……くだらんな。王とあろう者が馳走の一つで涙を零したり、あまつさえ剣を手放すだと? やはり、この世に王は……ふむ?」

 

セイバーとライダーを見下したような目で見ていたアーチャーの視線がある料理に止まる。その料理を見た途端、サーヴァントには無い筈の食欲が刺激され、先程までかなりの量を食べたにも関わらず腹が鳴った。知らず知らずの内にアーチャーはその料理に手を伸ばし、大口を開けてかぶりついていた。彼がそのキツネ色の衣を噛んだ途端、カリッっという音と共に辺に刺激的な匂いが漂う。アーチャーは急に立ち上がり、われも忘れて叫びだした。

 

 

「ななななな、何とぉ! 一口噛めば口内に広がる辛味と旨み! 頭の先から足の先まで迸るこの衝撃はまさにスパイシー! 旨い! 旨すぎるぞぉぉぉぉぉ! このカレーパンこそまさに最高の至宝! 世界全ての宝に匹敵する、まさに究極の宝! このカレーパン。ただのカレーパンではないな!?」

 

「ヤハハハハハ! そのカレーパンの正式名称はマーボーカレーパン。そして、ギルガメッシュが出しているのがマーボーカレーだ! ……暗殺者共よ、貴様らも食うか?」

 

「是非にっ!!」

 

本来命令に忠実なはずのアサシンさえその匂いから発せられる誘惑に抗えず、王のあり方を問う筈の宴会はバーサーカーを除く残った全てのサーヴァントによる大宴会になっていた。

 

 

 

 

 

「……まさか気ままな英雄王どころかアサシンまで誘惑に勝てんとは……王よ、その料理を……はっ! 私は令呪を使ってまで何を!?」

 

「落ち着け、時臣どの」

 

普段の言葉使いも忘れ、綺礼は目の前の人物にツッコミを入れる。彼の胃はキリキリ傷んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「ぷっはぁ! 食った食った! それで、貴様らの正体は何なのだ?」

 

満足そうに腹を叩いたライダーは横で酒を飲んでいたギルガメッシュにそう尋ね、他の者達も彼の言葉に耳を傾ける。ちなみにアサシンはマーボーカレー最後の一杯をめぐり、壮絶な戦いを繰り広げていた。

 

「我らか? 青髪の筋肉ダルマが居たであろう? あいつが魔術師共が言う第二魔法の使い手でな。我は二十年後のアーチャーだ。ついでに言うと、異世界からやってきた。理由はこの馳走を作った部下に昔の我の強さを見せる為だ」

 

「第二魔法!? あのバーサ-カーもどきの脳筋そうな奴が!?」

 

その言葉にアーチャさえも固まる中、ウェイバーは分け与えられたマーボーカレーの食べ滓を口元に付けたまま立ち上がり叫ぶ。すると、後ろから現れたバルバトスが彼の頭を掴んで持ち上げた。

 

「どぅわれぇがぁ、のぉうきんどぅわってぇ? ……むぅん! 我の分が残っておらぬではなぁいかぁ! ……一発で沈めてやるよ!! 覚悟はできたか!? ワールド…」

 

「「落ち着け、馬鹿者!」」

 

バルバトスが怒りに震えて斧を振り上げた瞬間、その場にいた者達は世界が終わったような錯覚に囚われる。そしてバルバトスが一気に斧をふり下ろそうとした瞬間、無数の宝具と雷撃が彼を吹き飛ばした。だが、吹き飛ばされた先から後頭部をポリポリと描きながら平然と出てきた彼には傷一つ無い。その様子を見ていたライダーは豪快に笑いだし、三人に声を掛けた。

 

「気に入った! この料理を作った家臣共々我の軍門に降らぬか?」

 

それを聞き、彼のマスターであるウェイバーは絶望で固まる。あの宝具と雷撃を放った二人。そしてそれに耐え切ったタフさと放とうとした何か。あの三人を敵に回したらあっという間にライダーは消える。彼はそう確信していた。だが、目の前の未来のアーチャー……ギルガメッシュがとった態度は彼の予想に反するものだった。

 

「クックックック、ハッハッハッハ! やはり貴様はそうでなくてはな、征服王! さて、此処にいる全員と我らと我らの家臣で一つ勝負をせぬか? なぁに、貴様らにはリスクのない場所を用意してやる。勝負方法は各サーヴァントと我らと我らの家臣の戦い。勝った陣営にはこれを使う権利をくれてやろう」

 

そう言ってギルガメッシュが取り出したのは黄金の杯。一目見ただけでそれが何かを理解したライダー達は言葉を失い、固まった。

 

「これは我が所有する聖杯の原点だ。これを使えば受肉だろうが過去に戻る事だろうが思いのままだ。この世全ての悪なんぞに汚染されている今の聖杯より使えるであろう? ……あっ、言ってなかったな。今の聖杯はアンリ・マユとやらのせいで願いが殺戮や破壊に繋がるぞ」

 

「……へ? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

辺に全サーヴァントとマスターの間抜けな声が木霊する。宴の様子を見ていた切嗣や時臣達も同じ様な間抜け面をしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ところで、この料理を作った家臣を私の婿に……」

 

「誰がくれてやるか、腹ペコ神め! っというか、空気を読めい!」

 

「ラ、ランクアップ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……嫌な予感が。まぁ、またギルさん辺りが勝手に変な予定を入れたのでしょうが。それでアーシアさん、イリナさんの容態は?」

 

「あっ、はい。柳さんが血まみれの彼女を抱えてきた時には驚きましたが、今は大丈夫です。……私を差し置いて、柳さんに抱っこされるなんて。柳さんに抱っこされるなんて」

 

「……さて、彼女を助ける際にコカビエルに彼女のエクスカリバーを奪われましたが、まぁ何とかなるでしょう。それより今はアーシアさんだな。……アーシアさん。今度遊びに行きましょうか」

 

「はい!」

 

先程までの黒アーシアは何処かへ行き、アーシアは天使の様な笑顔を柳に向けた。

 

 

「……まっ、最悪、魔王少女の力を借りればすぐでしょう。今日は泊まるって言ってましたし、宿泊代として……今晩、襲われませんよね?」

 

「だ、大丈夫です! あの人が襲って来ても私がお守りします! むしろ、柳さんが私を襲ってください! こ、今晩と言わず今からでも」

 

「貴方は落ち着いてください! ……バルバトスさ~ん、早く帰ってきてください。ツッコミが足りません……」

 

アーシアにツッコミを入れる柳の胃は綺礼同様キリキリと痛み出していた。

 



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従者が金ピカと青タイツと半裸だったら…… ⑨

聖書に記されるまでした歴戦の堕天使コカビエル。教会からエクスカリバーを強奪した彼は聖剣計画の首謀者とハグレ悪魔祓いと共に駒王学園にてエクスカリバーを完成させようとする。彼の目的は戰爭をひこ起こす事。そして今、その野望は潰え様としていた……。

 

「ぐっ! ま、まさかセラフォルーがこの街に居ようとは。そ、それに小僧。貴様何者だ!?」

 

コカビエルの半身は凍りつき、右腕と左の羽は砕けている。そして、残った部分も柳の猛攻によってズタズタに切り裂かれていた。完成したエクスカリバーは仲間の魂を引き継いだ祐斗の禁手によって破壊された。残ったコカビエルは圧倒的な力でリアス達を追い詰めるも、あくまで依頼はエクスカリバーの奪還だと戦いを傍観していた柳がコカビエルに挑み、柳の部屋に忍び込んでシーツの匂いを嗅いでいたセラフォルーも異変を察知して参戦。そして、今に至る……。

 

「ふふん! 私と柳ちゃんの愛の力を見た? ……あ痛たたたたたたたたっ!! 柳ちゃん、そういうプレイは二人っきりの時に……ぎゃぁぁぁぁ、冗談冗談!」

 

柳は無言でセラフォルーの顔を掴むとギリギリと締め上げる。セラフォルーの顔からはメキメキという音がしていた。セラフォルーは必死で顔を掴む柳の手を退けようとするもビクともせず、ようやく離した時には涙目になっていた。その光景を見たリアスは呆然として呟く。

 

「す、すごい! セラフォルー様にあんな事ができる人間が居るなんて……」

 

余りに自由すぎるも、その力から誰も文句を言えない魔王セラフォルー・レヴィアタンを涙目で謝らせる人間。そんな希少なものに目を奪われていたリアス達は気づかなかった。コカビエルが残った腕で光の槍を生成し、

 

 

 

 

 

 

 

「ぶるあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 柳ぃ! ちょっと、来ぉい!!」

 

その上からバルバトスが降ってきている事に……。バルバトスは踏みつけたコカビエルを邪魔だと言わんばかりに放り投げ、コカビエルは飛んでいった先で白い鎧と激突して二人揃って落ちていった。

 

「……やっぱりカンが当たりましたか。では、行きましょうか。ゼノヴィアさん、聖剣は取り戻しましたし構いませんよね?」

 

「あ、ああ。構わないさ」

 

「神の不在とか急に言われてショックでしょうが、人生は気の持ちようですよ、まっ、気が向いたら、また何かお作りします。……セラフォルーさんも今日は助かりました。今度お礼でもしますよ」

 

「柳ちゃんがデレた!? キャッ♡ きっとこれから二人のラブコメが始まるんだ。偶然私をベットに押し倒しちゃって、そのまま二人は……私、柳ちゃんに調教されて、柳ちゃん無しじゃ生きられない体に……」

 

「……神田くん。料金は後払いでお願いします」

 

「……分かりました。断罪の……エクセキューション!!」

 

顔を紅潮させながら体をくねらせて妄想に耽るセラフォルーに対し、様子を見に来たソーナは冷めた目で柳に目の前のアホをどうにかしろと頼み、柳はセラフォルーに向かって上級クラスの術を発動する。上下から噴出された闇のエネルギーがセラフォルーを包み込む。

 

「ああ、私は柳ちゃんの性奴れ……はぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「……では、ごきげんよう」

 

プスプスと煙を上げて倒れるセラフォルーを無視し、柳はバルバトスと共に何処かへと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何があったのかは知りませんがとりあえず謝っておきます。ごめんなさい」

 

深々と頭を下げた柳の目の前にいたのは酒盛りに参加していたメンバーの他に簀巻きにされた時臣と綺礼、そして切嗣だった。他にもバーサーカーのマスターである雁夜と義理の姪っ子である桜は服が多少こげ、頭がチリッチりになっている。まるで感電でもしたかの様に……。

 

 

「……エネルさん?」

 

「ヤハハハハハ。なぁに、ちょっとした余興の為に迎えに行ったのだが、其奴らの体に不快な虫がおってな、我の電撃で皆殺しにしてやったわ! ……まぁ、そ奴らの心臓も止まったが蘇生したから構わんだろう?」

 

「マジ、すいまっせんしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ははは、構わないよ。バーサーカは死んで、僕たちもビックリしたけど、むしろ助かったし、……爺も始末してくれたからね」

 

土下座して謝る柳に対してそう言って笑いかける雁夜を見て綺礼は思った。あの人、ホント良い人だと。

 

 

 

 

 

 

 

「……話は分かりました。そこに居る赤毛の方と昔の貴方と腹ペコそうな方との戦いの場を作れば良いのですね?」

 

「腹ペコそうな人!? そんな事より貴方があの料理を作った方ですね!? ぜひ、私と……」

 

柳に対し、求婚しようとしたセイバーだったがギルガメッシュに突き飛ばされ、セイバーは数メートルの距離を顔からスライディングしてようやく止まった。

 

「やめい、究極完全体腹ペコ神アーサー! さて、皆の者にも紹介しよう。我が家臣の柳だ」

 

「あっ、どうも。神田 柳と申します。……ウチの三人がホントご迷惑おかけします。……ところで、私と彼らの関係は……」

 

「おう! 英雄王より聞いておるぞ! なんでも神が宝具の様な物を人に宿している世界から来たとか! ……ちなみに吾輩の軍門に降る気はあるか?」

 

ライダーは何時もの恒例とばかりに柳を勧誘するライダーだったが柳は平然と首を横に振った。

 

「お断りします。私の王は英雄王のみであり、神はエネルさんだけであり、親分はバルバトスさんだけですから。……では、皆様揃ってご招待します。禁手(バランス・ブレイク)!!」

 

その瞬間、その場にいた全員は見慣れぬ場所に移動していた。近代的な作りの部屋であり、中央には椅子とテーブル、壁には大型のモニターがついてある。そして、テーブルの中央にはガラスケースに入った聖杯が置かれていた。

 

 

 

 

 

「では、マスターの皆様はこのクジをお引きください。なお、戦闘フィールドはランダムとしています。なお、この試合では死ぬ事はありませんが、負けた方には罰ゲームを受けていただきます」

 

 

 

 

柳が説明を続けようとした時、部屋の中を興味深そうに眺めていた時臣が近づいてきた。

 

「……それにしてもこれは固有結界の様な物かね? 君の世界の神は恐ろしい。このような物を人に与えるのだからね」

 

「あっ、貴方は時臣さんですね。ギルさんから聞いますよ。ギルさんを呼び出して、最終的には綺礼さんとギルさんに裏切られて死んだとか。後、私がこれを完成させる為に行ったのは、英雄王と戦闘訓練、72時間戦えますか? です」

 

「そ、そうかね。……おや、こちらの相手も英雄王か」

 

柳の受けた修行内容に引いてしまった時臣は自分の末路を知らされたのも忘れ、哀れんだ視線を送り、クジを引いた。彼の引いたクジに書かれていたのは、『南京錠みたいな耳飾りの人』だった。

 

「……ほほぅ? 貴様、それでよく我だと分かったな?」

 

「え、英雄王!? いや、これは……」

 

「貴様もだ、柳。誰の耳飾りが南京錠だと?」

 

「……てへ✩」

 

ギルガメッシュ達はそれぞれの相手を引きずり、どこかへ連れて行く。他の者たちは二人の悲鳴を聞かなかった事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、次は僕だね。……一つ聞いても良いかい? 彼らは好き放題に暴れているが、君はそれについて何も思わないのかい?」

 

次にクジを引くのは切嗣だ。いつの間にか復活した柳はクジを差し出し、切嗣はその顔をじっと見て口を開いた。

 

「いえいえ、彼らにはそうやってストレスを発散していただかないといけませんから。おや、『半裸』ですからエネルさんですね。……え~と、貴方が衛宮切嗣さんで間違いないですよね? そこの腹ぺこさんはアーサー王であってますか?」

 

「……ああ君の所のギルガメッシュは未来から来たんだったね。それで合ってるよ」

 

「なる程。やはり其処の方がギルさんの初恋の方ですか」

 

「お、おい! 柳!?」

 

顔を真っ赤にして止めようとするギルガメッシュだったがバルバトスとエネルに邪魔されて柳に近づけず、柳はそのまま言葉を続けた。

 

「いや~、第五次でギルさんを倒したのがそこのセイバーさんと、当時高校二年の貴方の息子さんと聞いていましてね。息子さんは確か、冬木市に住んでいるとか?」

 

「……へぇ。切嗣、ちょっとお話いいかしら?」

 

「ア、アイリスフィール!? ぼ、僕には心当たりが……」

 

黒い笑みを浮かべながら引きずられていく切嗣を見た柳は二人には聞こえない様に呟く。

 

「……まぁ、養子なんですけどね」

 

すると、突如セイバーが話しかけていた。その顔はどこか呆れているようだ。

 

「……先程から悪戯が過ぎませんか? 彼らに何か恨みでも?」

 

「時臣さんの方は最終的にはギルさんを裏切ろうとしてましたし、切嗣さんの方は先程の質問が気に入らなかったので。それに、未来の貴方は敵マスターになったあの二人の娘さんを殺そうとしたらしいですよ? では、ライダーさんは残ったバルバトスさんですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、バーサーカーさんとアサシンさん達はどうしました?」

 

「バーサーカーはエネルとやらが始末したらしい。アサシンは最後のカレーを狙ったバルバトスとやらに切り飛ばされておったぞ。ほれ、あやつがマスターだ」

 

「……まぁ、私も戦わなくて良かったと思いましょう」

 

ライダーが指差した先には目が死んでいる綺礼の姿が有り、柳はその姿に何か感じるものがあった……。

 

 

 

 

 

 

 

その後、何とか復活した切嗣達から試合を始める事となり、エネルとセイバーは転移装置で移動していった。戦いの場はシンプルなコロシアム.中世を思わせる石づくりの闘技場の真ん中で二人は向き合う。エネルは黄金の槍を構え、セイバーは不可視の剣を構えた。

 

『では、第一試合 (ゴット)エネルvs騎士王セイバーの試合を始めます。 始め!!』

 

アナウンスが流れた瞬間、セイバーは矢の様な速さでエネルに迫り、黄金の槍を切り飛ばした。

 

 

 

『おおっと! 序盤からセイバーが攻める! 解説の柳さん。この試合どうなると思いますか? なお、実況は麻婆神父こと言峰綺礼が行わさせて頂きます』

 

『そうですね。武芸の腕はセイバーさんの方が一枚上手といった所でしょうか。ですが、私はエネルさんの圧勝だと思います』

 

『しかし彼は武器を壊されていますが、何故でしょうか?』

 

『直ぐに分かりますよ。おそらく、武器の件もお遊びでしょうね』

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

セイバーは大上段に構えてエネルに接近し、一気に振り下ろす。セイバーの剣は確かにエネルを捉えていた。

 

(勝った! これで我が故郷を……!)

 

勝利を確信した彼女だったが持ち前の直感が働いてその場から飛び退く。そしてエネルの姿を見た彼女は驚いたような表情を見せた。確かに切ったはずのエネルには怪我一つなかった。

 

「ヤハハハハ! 相性が悪かったな、セイバーよ! 我は雷人間。自由自在に雷になれるこの体には物理攻撃など効かん」

 

 

 

『雷人間とはどういう事でしょうか? 柳さん』

 

『ええ、彼の居た世界には悪魔の力を宿した実があるらしのですが、彼はそれを食べて自分の体を雷に変え。でっ、さらに雷を自由自在に操る力を得たらしいです。また、彼はマントラという相手の動きを察知する力と実の力を合わせ、支配していた空に浮かぶ島の国民全員の会話を常時監視し、逆らう相手には制裁を行っていたらしいですよ』

 

『恐ろしい話ですね。なるほど、彼が自らを神と呼ぶのは伊達ではないというわけですね。おおっと! セイバーの猛攻に対しエネルは身動ぎもしない! 攻撃が全てすり抜けています! 剣技主体のセイバーでは相性が悪いようです!』

 

その言葉を聞いたセイバーの表情には焦りが見えたが、すぐに顔を降ると剣を上段に構える。いつの間にか剣は見える様になっており、神々しい光を放っていた。

 

「……ならば! 約束された(エクス)……勝利の剣(カリバー)!!」

 

振り下ろした剣から放たれるのは全てを飲み込む光の波動。アーサ王の代名詞とも言うべき聖剣の一撃はエネルを飲み込み消し飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

「ヤハハハハ! マントラで読んでなかったら危なかったな」

 

「なっ!? あの一撃を避けた!? くっ!」

 

無傷で自分の後ろにいたエネルに切り掛ろうとしたセイバーだったが、先ほどの大技の消耗から膝をつく。すると、エネルは笑い顔をやめ、急に真面目な顔となった。

 

「さて、其方が大技を出したのだから此方もそれに答えよう。 雷迎(らいごう)!!」

 

エネルが作り出したのは巨大な雷雲。膨大なエネルギーを持つ雷と乱気流が渦巻くそれはまっすぐにセイバーへと落ちていき、辺を稲光が包み込んだ。

 

 

『……まさか此処までとは』

 

『第一試合 勝者エネル! なお、セイバーさんと切嗣さんには罰ゲームルームに行っていただきます』

 

そのアナウンスする柳の笑は凶悪なものだった……。

 

 

 

 

 

 

「な、なんだこの格好は!? 私を王と知っての所業か!?」

 

「アイリスフィール、頼むから私を見ないでくれ……」

 

目が覚めたセイバーが纏っていたのは某国民的子守ロボットのキグルミ。彼の顔の部分に穴があり、そこからセイバーの顔が覗いている。その隣で切嗣は幼稚園の制服を着ていた。二人が居るのは観覧席とガラス越しにある部屋だ。その為、今の格好に対する他の面々の反応が丸見えだった。

 

「クックックック、ハッハッハッハッハ! 良い格好だな、騎士王よ! いや、今は騎士えもんとでも呼ぶべきか?」

 

「クックック、英雄王よ。なかなか面白い事をおっしゃる」

 

 

『あっ、ちなみにこの罰ゲームはその人がアホだと思う格好です。ちなみに時臣さんはアーチャーさんの格好みたいですよ』

 

「……ほほぅ。我の鎧をアホっぽいと思っていたのか、時臣?」

 

「まぁ、成金ぽいなぁとは……はっ!」

 

アーチャーは時臣を引きずって行き、時臣の絶叫が響く。観覧席に残った者達は聞こえないふりをしながら出された料理に舌鼓を打っていた。

 

 

 

 

 

 

 

『さて、第二試合は英雄王同士の戦いとなりましたが、どう見ますか? 解説の柳さん』

 

『そうですね……って! 開始の合図前から宝具が飛び交っています! まるで、雑種の号令など知らん! と言わんばかりです!! ……まぁ、試合の流れは明らかにアーチャーの不利ですね。あっ、お二人にご忠告です。エアを使われたら死亡防止の効果が発揮できませんのでお気を付けを』

 

柳が見つめる先ででギルガメッシュがアーチャーが打ち出した宝具と同じ物をぶつけて弾きあっている。二人の英雄王の宝具はちょうど真ん中でぶつかり合い、地に落ちていた。二人が戦っているのは溶岩に浮かぶ岩の上。弾き飛ばされた宝具は溶岩に沈んでいった。試合を見守る者達はアーチャーの不利を悟る。そう、ギルガメッシュはアーチャーが出した法具をなにか見極めた後で同じ物を出し、両者の真ん中で相殺していたのだ。これが示すことは唯一つ。ギルガメッシュの射出スピードがアーチャーのそれを上回っているという事。その事実にアーチャーの表情からは余裕が消え、焦りが見えだした。幾ら相手も自分とはいえ、王の中の王である自分が負けるわけにはいかない。たとえ、未来の自分を殺してでも……。そう考えたアーチャーは切り札を使う決意をする。

 

「……やはり、我自身が相手では遊んでいられんな。こうなったら!」

 

アーチャーが取り出したのは巨大な鍵のような剣。これを使って取り出す剥離剣エアの真名開放は彼の切り札である対界宝具・天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)をだ。彼がそれを捻ると円柱状の刀身を持つ剣が現れ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅い! 天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!」

 

鍵を使わずにエアを取り出したギルガメッシュは至近距離で真名開放を行う。森羅万象全てを崩壊させる宝具の力を間近で受けたアーチャーは消え去った。本来ならフィールドに掛けられた死亡防止の効果で負けたら罰ゲームルームに送られるはずが、部屋がエアの影響で崩壊しかかった為に発動せず、この世界からアーチャーの存在は完全に消え去った。

 

「戯けが! 同じ我なら二十年の差がどれほど大きいか察せなんだのか?」

 

 

 

 

 

 

 

『……まさか過去の自分を消し去るとは。柳さん、彼には影響がないのでしょうか?』

 

『はい。バルバトスさんの話では過去に戻って歴史を変えても並行世界が生まれるだけで、過去は変えられないらしいです。……聞いていますか? セイバーさん。貴女が聖杯に祖国の滅びの運命の改変を願っても、貴女が救えなかった人達は救えないんですよ』

 

「……」

 

辛辣な柳の言葉に黙りこむセイバーであったが、格好が格好な為にシリアスさが台無しだった。そして、最後の試合はライダーvsバルバトス。その試合を前にライダーはマスターであるウェイバーに問うていた。家臣として自分に仕える気は有るか、と。その問いに彼は泣きながら答える。

 

「貴方こそ僕の王だ。貴方について行く。どうか僕を導いて欲しい」

 

 

 

そして、最後の試合が行われる。試合の場所は一面の銀世界。足場の悪い場所にも関わらず二人は斬り合っている。しかし、ライダーの刃はバルバトスに届かず、反対にライダーの体には無数の切り傷ができ、溢れ出す血が雪を赤に染めていく。だが、それでも彼の顔からは笑が消えていなかった。

 

「ガハハハハハハハハ! 愉快愉快! まさか此処まで力の差があろうとは! 一つ提案があるのだが、吾輩の切り札を使わせてはくれんか?」

 

ライダーの提案に対し、バルバトスは無言で斧を地面に置く事で肯定の意思を示す。

 

「……かたじけない。では、使わせてもらうぞ! 我が軍勢を!!」

 

その瞬間、ライダーから光が放たれ、銀世界は一面の砂漠となっていた。そして、ライダーの後ろに無数の軍団が現れる。これこそがライダーの切り札、王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)だ。その正体は英霊の超連続召喚。彼に付き従う近衛師団の面々は全て強者である。それを感じ取ったのかバルバトスは舌なめずりをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『驚きましたね。まさか私の空間を侵すとは』

 

『これは流石に彼でも危ないのでは?』

 

『……いえ、それはないでしょう。彼は三人の中で最強です。たとえあの二人が同時にかかっても彼には勝てませんから……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Aaーーーlalalalalalalalalaie!!!」

 

ライダーは召喚した愛馬に乗り、無数の軍勢を率いてバルバトスに迫る。対するバルバトスは斧を振り上げ、一気に振り下ろす。

 

 

 

 

 

「ワールド……デストロイヤァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

その瞬間、ライダーの視界は闇に覆われ、世界が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、皆さん。聖杯の事はお任せします。この世界の事はこの世界の皆さんで何とかしてくださいね。……では、私達は此処で」

 

「ふんっ! せいぜい足掻くのだな、雑種共」

 

「中々楽しかったぞぉ」

 

「ヤハハハハハ! また会おうぞ!」

 

こうして聖杯戦争に乱入した四人は去って行き、参加者達は聖杯の汚れへの対処を考える事となった。残ったサーヴァントはライダーとセイバーのみ。これからこの世界がどうなるかはまた別の話である……。

 

 

 

 

 

なお、ライダーはピンク色のフリルのついた魔法少女の衣装を着ており、ウェイバーは等身大のタラコを着ている。すると、彼にセイバーが近づき、

 

 

 

 

 

 

「……そのタラコ。美味しそうですね」

 

『いい加減にしろ! 腹ペコ王!!』

 

「ハモった!?」

 

その時、敵同士だった彼らの心は一つになり、一斉にセイバーにツッコミを入れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰った時、柳は思い出した様にギルガメッシュに問いかける。

 

 

「王は過去を悔やまないんじゃなかったんですか? 今回の貴方はまるで過去の自分の悪行を止めたい様でしたが……」

 

「阿呆が! 王である我は過去を悔やまん。だが、この世の全ては時の果てまで我のものだ。たとえ我自身が相手でも、我の所有物を傷つけようとしているのを見過ごす訳にはいかん。……ただ、それだけだ」

 

そう答えた彼の顔はどこか恥ずかしそうな表情を見せていた。セイバーとの戦いと柳と過ごした10年間は彼を変えるのに十分だったのだろう。それは、過去の自分を許せないほどに……。



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従者が金ピカと青タイツと半裸だったら…… ⑩

「やぁ、今日も世話になるよ」

 

「……いや、気が向いたら何か作るとは言いましたが」

 

コカビエル討伐から数日後、神の不在を知ったせいで教会から追放されたゼノヴィアは毎日の様に柳の料理を食べに来ていた。家事能力がない彼女には自炊は無理だったようだ。柳は呆れながらもゼノヴィアは家に招き入れ、それを見てどこか不機嫌になるアーシアのご機嫌取りに邁進し、それを愉悦であるかの様に眺めているギルガメッシュに苦心しつつ柳の朝は過ぎていった。

 

そんなある日である。ゼノヴィアの口からとんでもない言葉が飛び出したのは。

 

 

 

 

 

「そういえば貴女、悪魔になったんですね」

 

「……ああ、信じていた神の不在を知ったショックでな。それでヤケになって悪魔になってしまった」

 

「分かります! 私も主の不在を知らされた時はショックでした!」

 

アーシアはゼノヴィアナに同調し、二人は手を取り合う。そんな中、柳は『グレモリーの眷属になったのなら不干渉の対象になりますよね。まぁ、食事の後にでも切り出しますか』、と考えながら味噌汁を口に運んでいた。そんな時である、ゼノヴィアは真剣な顔で柳に向かて口を開いたのは。

 

 

 

 

 

「モノは相談なのだが、私と子供を作らないか?」

 

「……は?」

 

「……私にとって夢や目標というものは、子供の頃から神や信仰に絡んだ物だった。だから悪魔になって、それらを見失ってしまったんだ。だからリアス部長に相談したら、『悪魔は欲を、持ち、与え、望む者。好きに生きてみなさい』、と言われてな。そこで考えたんだが、今まで捨てていた、女としての自分を取り戻そうと思ったんだ」

 

「……ああ、それで子供が欲しくなり、どうせなら強い子供が良い、てなってコカビエルとの戦いで見た私を選んだんですね?」

 

柳はそう言いながら近くの二人に視線で助けを求める。だが、アーシアは不機嫌そうに頬を膨らませて横腹を抓ってきており、ギルガメッシュは今にも吹き出しそうなのを堪えている。明らかにこの状況を楽しんでいた。

 

「安心しろ、子は私が育てるさ。ただ、子供が父親の愛情を欲しがったら相手をして欲しい。子供には親の愛情が必要だからな」

 

「だ、駄目です! 柳さんの子供は私が産みます! それに、私はプ、プロポーズされてるんです! 柳さんは言いました、『ずっと私の傍に居て下さい』って!」

 

「……え?」

 

その言葉を聞いた時、柳は目が点になり、ギルガメッシュは表情が固まっている。あまりの状況に男性陣がついていけない中、女性二人は火花を散らしながら睨み合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いじゃないか、子供の一人くらい。強いオスが複数のメスを囲うのは自然の摂理だろう?」

 

「柳さんは人間です! 動物と一緒にしないでください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……柳よ。したのか? 求婚。我は初めて聞いたぞ」

 

「いや、勧誘が鬱陶しかったので、人質や神器目当てに無理やり悪魔にされないように傍に居て下さいとは言いましたが……言葉が足りなかった様ですね」

 

「……うむ、貴様が悪い。それに貴様も我の家臣なら、そろそろ女を知っておけ。我が許可する! 二人共、せいぜい可愛がってもらうと良い!」

 

「「はい!」」

 

「……バルバトスさん(ツッコミ役)、早く帰ってきてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃のバルバトスとエネルだが……、

 

 

 

 

「ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「よし! ホームランだ! やっぱゲーティアさんとエネルさんをチームに誘って良かったな!」

 

近所の草野球チームに所属して試合で活躍していた。大分世の中に馴染んできている様だ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、疲れた。とりあえず後でギルさんがやり込んだゲームのデータを消しておきましょう。栄光装備全種? 知った事じゃありませんよ」

 

あの後、何とか二人を落ち浮かせた柳は滲んだ汗を流す為に浴室に向かっていた。柳の家の風呂は王であったギルガメッシュとエネルが満足いくように作られており、休日に朝風呂に入るのが柳の楽しみなのだ。浴槽にはギルガメッシュの宝具で常に温泉が蓄えられている。『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』は実に便利な宝具であった。

 

 

柳は脱衣所で服を脱ぐと浴室の戸を開けようとして手を止める。浴室からは聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

 

「……」

 

柳はタオルを腰に巻くと戸を開け、中に居た人物は柳に気づいて振り返る。浴室に侵入していたのはセラフォルーだった。体を洗っている最中だった為に何も纏ってはおらず、かろうじて大切な部分は泡で隠されている。もっとも、泡越しにうっすらと見えていたし、その泡も体を伝い落ちようとしていたが。

 

 

 

 

「あっ! 待ってたよ、柳ちゃん♪ さぁ、来て♡」

 

「……分かりました」

 

セラフォルーはそう言うと両手を突き出し柳を向かい入れる格好を取る。その動きのせいで泡が流れ落ち、隠すべき部分が完全に露出してしまった。柳は無言でセラフォルーに飛びかかる。空中で両膝を曲げた彼はセラフォルーに接近した所で一気に膝を伸ばす。柳が腰に巻いたタオルの中身に注目していたセラフォルーは対処が遅れドロップキックが見事に命中した。

 

 

「ふげっ!?」

 

セラフォルーは可憐な見た目に似合わない声を発しながら浴室の床を滑っていった。」だが、直ぐに何事もなかったかの様に立ち上がると高速で柳に抱きつき、そのまま押し倒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁん♪ 柳ちゃんったら、だ・い・た・ん♡ 私から誘ったとは言え、朝から特殊プレイがしたいなんて。……キャッ!」

 

「いえ、不法侵入者に対する制裁です。……丈夫になってますね。一撃で気絶させてゆっくり風呂に入ろうと思ったのですが……」

 

「そんなの簡単だよ! どSの君の為に頑張ったんだ。私って、良妻の鏡でしょ?」

 

「……もう、手遅れですね」

 

柳がセラフォルーの更生を諦め、どうやって状況を打開しようかと悩んでいた時であった。急に戸が開き、一糸纏わぬ姿のアーシアとゼノヴィアが入ってきた。

 

 

 

 

「柳さん! お背中お流しします。学校で桐生さんから聞いたんです。日本には裸の付き合いというものがある…と…」

 

「むぅ、どうやら他の女に先を越された様だな。あれは確か魔王だったか? 魔王よ、頼みがある! 私にも柳の子種を分けてくれないか!?」

 

 

いきなり現れてとんでもない事を口走ったゼノヴィアに対し、セラフォルーは暫し渋顔で悩みだした。

 

「う~ん、あの子はリアスちゃんの所の新人さんだったよね~。まぁ、悪魔は一夫多妻オッケーだから別に良いか! 分かったよ! でも、先に私がっ!? 痛たたたたたたたたたたたたたたたぁっ!?」

 

ゼノヴィアに気を取られていた為かセラフォルーの力が緩み、その隙に柳は彼女の頭に手を伸ばし全力で掴む。そのまま柳は立ち上がり、アイアンクローで持ち上げられたセラフォルーの頭からは絶対にしてはならない音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いい加減にしてくださいよ。私は並行世界の私ほど頭のネジが外れてはいませんが、それでも限度というものがあります。浴室が壊れたなら後で直せば良いし、ギルさんの薬を使えば死んでなければ大丈夫ですね」

 

柳はそのままアーシアとゼノヴィアに近づくと、セラフォルーをゼノヴィアに投げつけ、アーシアには後ろに回るように手で指し示す。

 

 

 

 

 

「……アーシアさんは後で正座でお説教とデコピン50回です。……断罪の……エクスキューション!!」

 

 

「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」

 

上空から降り注いだ闇のエネルギーは二人を飲み込み、後にはピクピクと痙攣する姿があった。柳が手加減したのか生きてはいるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっ、浴室は無事ですから私は入っていきます。アーシアさんはそれまでリビングで正座していて下さい」

 

「は、はい!」

 

 

アーシアは柳の迫力に逆らえず、彼が風呂から上がるまでリビングで正座を続けるのであった……。




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従者が金ピカと青タイツと半裸だったら…… ⑪

補足 柳とアーシアは一誠とは別のクラスです


それは深夜の事。就寝中の柳の部屋に忍びいる影があった。その影、アーシアは枕を小脇に抱えて足音を殺しながら柳へと近づいていく。

 

「し、失礼しま~す」

 

 

 

 

 

そして、ベットの中に入り込み、柳に抱き着こうとした所で彼と目があった。

 

「……何やってるんですか、アーシアさん?」

 

柳はムクリと起き上がり、訝しげな目でアーシアを見つめる。本来柳は深夜に起こされるのを嫌い、ギルガメッシュでさえも起こすのを躊躇する程なのだが、アーシアは幸いな事に無事だった。

 

「や、柳さんと一緒に寝ようと思いまして。桐生さんにどうやったらもっと仲良くなれるかと相談したら、一緒のベットで寝るのが一番だとおっしゃたので……駄目ですか?」

 

アーシアはそう言ってモジモジしながら柳を上目遣いに見上げる。その時、柳の脳裏を死んだ妹の姿がよぎる。彼女の今の動作は妹がしていた姿とそっくりだった……。

 

 

 

 

 

『お兄ちゃん、どうしても駄目?』

 

 

 

 

 

 

「……仕方ありま……」

 

死んだ妹の姿を思い出した柳はアーシアの願いをきこうとした。だが……。

 

 

『貴様のやっている事はあの小娘にも、妹にとっても侮辱だ。いくら有象無象の雑種に過ぎんでも、其奴は其奴しか居らん』

 

再び彼の脳裏を過ぎったのはギルガメッシュの言葉。柳は先程までの自分の考えを振り払うかのように静かに首を振った。

 

 

「……駄目です。大体、アーシアさんは危機感が無さ過ぎです。貴女の様な美少女がそんな事を言ってご覧なさい。誘っていると思われますよ」

 

「誘う……って何にですか?」

 

柳の言葉にアーシアは首を傾げる。柳の家で暮らしだし、ある程度の知識は身につけたが未だ不十分。未だ目の前の少女には危機感が足りないと判断した柳は少々乱暴な手に出る事にした。

 

「やれやれ、本当は分かっているんでしょう? こんな夜分に男のベットに入り込むんですから」

 

「キャッ!?」

 

 

柳はアーシアの肩を掴むとそのままベットに押し倒して顔を近づける。二人の唇が触れそうで触れない距離まで迫り……、

 

 

 

 

 

 

 

「っとまぁ、こういう事になりかねません。私も男ですから我慢の限界もあります。……聞いてます? って、なんで恥ずかしそうに目を閉じてるんですか!? 初めてなので優しくしてくださいってなんですか!? ちょ、アーシアさん!? んっ!?」

 

軽く脅して危機感を身に付けさせようとした柳だったが、アーシアは顔を真っ赤にしながらも柳の背に手を回して軽く抱き寄せる。その時に二人の唇が触れあった。唇を離したアーシアは少々照れくさそうにはにかむ。

 

 

「えへへ、ファーストキスを捧げちゃいました。分かりました! 柳さん以外の男性には注意致します!」

 

「……アーシアさん」

 

柳が困ったような顔をした時、寝室のドアがガラッと開き……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁにをしているぅ?」

 

般若の様な顔をしたバルバトスが立っていた。彼の目の前にはベットの上でアーシアを押し倒している柳の姿。どうやっても言い訳ができない状況だと判断した柳はふっと溜め息を吐く。

 

 

 

この後、正座での説教は朝まで続き、二人は寝不足で学校に行く事となった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ほぅ、授業参観があるのか。良かろう。この我が行って……」

 

ギルガメッシュが手にとったのは授業参観のお知らせのプリント。上から目線で言ってはいるが、どうやら行きたいようだ。だが、現実は非常であった。

 

「あっ、保護者として登録しているバルバトスさんに来て頂く事になっています」

 

「なっ!?」

 

柳に非常に切り捨てられたギルガメッシュは口をあんぐりと上げ、まるで『ガーン』っという効果音が聞こえてきそうな有様だ。だが彼には我こそ王の中の王という誇りがある。すぐに余裕を取り繕うと今度はアーシアに視線を向けた。

 

「ふ、ふん。ならば小娘の保護者として……」

 

「アーシアさんの保護者にはエネルさんを登録していますけど……」

 

「……我は少しの間、旅にでる」

 

地に手を付き膝を折って項垂れたギルガメッシュはいそいそと旅支度をすると何処かへ行ってしまった……。なお、彼が保護者でないのは三人の中で一番社会性が無かったからだ。空島の王座を手下と共に奪い取ったエネル。裏切ったとは言え元軍人のバルバトス。すっかり世の中に馴染んだ二人は草野球に参加するほどの社会性を身に付けていたのだ。そして、授業参観当日……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……グレモリー配下のクラスは騒がしかったですね。バルバトスさんもエネルさんも不機嫌そうでしたよ」

 

「確かに五月蝿かったですよね。あれ? 彼処で人集が出来ていますが……あの人ですか」

 

午前の授業も終わり、一誠のクラスから聞こえてきた競りのような声に不機嫌になった二人から放たれたプレッシャーで気絶する者が続出する中、耐え切った二人が廊下を歩いていると何やら人が集まっていた。遠巻きに見ていると生徒会の匙が注意しに行きギャラリーを追い払った時、生徒会長のソーナも騒ぎのもとに近づき、その人物が目に入った。魔王セラフォルー・レヴィアタンである。

 

 

「あっ! 柳ちゃん!」

 

ソーナに抱きついていたセラフォルーであったが柳を見つけた途端、彼に向かって走り出してルパンダイブで飛びかかる。そして、あと少しで柳に抱き付くという所まで行き、

 

 

 

 

 

 

「ふんっ!」

 

「あっ、バルバトスさん」

 

横から出てきたバルバトスによって顔面を掴まれて宙ずりにされる。そしてバルバトスは開いた窓を見るとセラフォルーを振りかぶり、

 

 

 

 

「ぶるぁぁぁぁぁぁあああああああああああああっ!!!!」

 

そのままセラフォルーを外目掛けて投げ飛ばす。

 

「あひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? ぶぎゃっ!」

 

セラフォルーは悲鳴をあげながら外に飛び出していき、地面に激突して妙な声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お姉様……。匙、行きましょう。生徒会の仕事が残っています」

 

「えっ!? いや、セラフォルー様が……」

 

「何を言っているのです。お姉様が来ている訳ないでしょう」

 

まだ何か言おうとしようとした匙であったがソーナの迫力に負けて黙り込み、その場を去っていく。だが、その時外から得意げな声が響く。一同が外を見るとセラフォルーがポーズを取りながら空中に浮かんでいた

 

 

「ふっふっふ! 甘い甘い! あの程度で私はやられないよ」

 

「アーシアぁ。この前教えたの術だぁ」

 

「あっ、はい! エアプレッシャー!」

 

「ひょげぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

上空より放たれた空気の一撃によってセラフォルーは再び地面に突き落とされ、地面に人型の穴を開ける事となった。近くに居たリアスは思わず咎めようとしたが

 

 

「どうかしましたか?」

 

さもスッキリしたと言わんばかりの満面の笑みでそう言ったアーシアに何も言えず、そのまま柳達は去っていった……。

 

 

 

 

 

 




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仕事中思いついたフェイトゼロのサーヴァント変更 これだったらどうなるだろうか?


セイバー あえてそのまんま

アーチャー シスター(荒川アンダーザブリッジ)

ランサー アザゼルさん (よんでますよアザゼルさん)

ライダー サンレッド   (天体戦士 サンレッド)

バーサーカー 獅子目言彦 (めだかボックス)

アサシン 音速のソニック (ワンパンマン)

キャスター ティキ(ムヒョとロージー)



オジさんの早死には確定

本編の柳くんとこっちの違い

本編 大切な人以外は死のうが気にしない でも常識や平穏を引きずる

コッチ 所詮この世は弱肉強食  平穏に拘りません 他人は気が向いたら助けるよ でも、並行世界の自分よりはマトモ 保護者の不始末は私が後始末します


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従者が金ピカと青タイツと半裸だったら…… ⑫

「やぁ、君が神田くんだね? 初めまして、私の名前はサーゼクスだよ」

 

「人違いです。じゃあ、急いでいるので」

 

授業参観から幾日かたったある日、アーシアと買い物に出かけていた柳はサーゼクスと出会った。後ろにはグレイフィアと一誠が織り、一誠はアーシアとデートしていると思って嫉妬の念を送ってきている。そして、柳はサーゼクスに対して嫌悪を隠そうともせず、話したくないとばかりにさっさと離れていった。しばし呆然としていたサーゼクスだが慌てて柳を追いかける。

 

「いや、人違いじゃないよね!? 君に頼みがあるんだけど、今度の三勢力会談に出席して欲しいんだけど」

 

「その事でしたら既にアザゼル総督やミカエル様からご依頼を受けています。貴方に頼まれるまでもありませんよ」

 

柳は素っ気ない態度でそう告げるとアーシアの手を引いてその場を離れていった。、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って訳で会談に出席しますが何方かお一人について来て頂こうと思います」

 

その日の夜、柳は夕食の席で三人にそう告げる。するとエネルが首を傾げながら聞いてきた。

 

「なぜ一人なのだ? 三人共行けば良いではないか」

 

「いや、貴方方全員を連れていったら明らかに過剰戦力じゃないですか。それで空気が悪くなって会談がご破産になったら今後の仕事に差し支えます。仕事に見合った報酬しか寄越さない悪魔が滅びようが別に良いですが、今後の付き合いも含めて多めに報酬を出してくださる堕天使やボッタクリ価格で販売しているから高く転売できるアイテムをくださる天使に何かあったら事です」

 

「その程度のこと何を気にする必要がある? 我の黄金率があれば生活には困るまい。雑種どもに気を使う必要など何処にもないではないか」

 

「いや、スキルに頼ってばかりだとダメ人間になりそうなので。……それに父親の臑齧りみたいで嫌ですよ」

 

「……フン」

 

柳の言葉にギルガメッシュは興味なさげに鼻を鳴らすがその口元はわずかに緩んでいる。どうやら父親呼ばわりされたのが嬉しかったようだ。その様子を横から見ていたエネルとバルバトスはニヤニヤしながら口を開いた。

 

「なら、我が共に行ってやろう。貴様の『心綱』は未熟だからな。余計な真似をするバカがいてもすぐに察して排除してやろう。ヤハハハハハハハハ!」

 

「フン、何を言っているぅ? 護衛なら軍隊経験のある俺が適任だろぅ」

 

「あっ、ならお二人の何方にお願いしますね。ギルさんはアーシアさんと一緒にお留守番お願いします」

 

「なっ! お、おい、我を連れていかんのか……?」

 

柳の言葉にギルガメッシュは明らかに狼狽し、その様子を見た柳はバレないように口元を緩ませる。バルバトスやエネルも同じようにしている事から共謀して彼をからかっている様だ。

 

「お気を使っていただかなくて結構ですよ。王を名乗る有象無象共の所になんて行きたくないでしょう? アーシアさんも危険ですから残っていてくださいね。多分妨害が入りますから」

 

「わ、私は柳さんと一緒に居たいです!」

 

「……駄目です」

 

「わ、私だって戦えます! 今日だってグランヴァニッシュを覚えたんですから!」

 

「……わ、私が覚えるのにドレだけ掛かったっと。クソゥ、これが才能の差か。兎に角駄目です。……何か一つだけお願い聞きますから我慢してください」

 

その時、アーシアの目が輝く。それは獲物を前にした肉食獣の目だった。

 

「あっ、なら今夜から一緒に寝て下さい。……駄目ですか?」

 

今度は小動物独特の瞳。更に上目遣いでモジモジしながらというコンボだ。その仕草に思わずドキリとした柳はバルバトスの方をチラリと見る。すると嘆息を吐きながらもサムズアップを返してきた。ただし、羽目を外すなよっと目で語りかけながら……。

 

「……仕方ありませんね」

 

「本当ですか!? ふ、不束者ですが宜しくお願いします!」

 

「いや、結婚を申し込む訳では……いや、しかし、いい年こいて同衾しておきながら……あっ、会談の時にはギルさんに来て頂きますね」

 

「……我は留守番ではなかったのか?」

 

一人だけ頼りにされず、あまつさえ途中で放って置かれた事により拗ねたしまったギルガメッシュはプイッと顔を背ける。その声には鳴き声が僅かに混じっていた。

 

「いえいえ、貴方を差し置いて王を名乗る不届き者共に真の王の姿を見せてやってくださいよ、英雄王」

 

「……仕方ない。態々我に足を運ばせる非礼を働くのだ。当然その晩は我が所望する物を作るのであろうな?  満漢全席だ。それ以外は認めん!」

 

「ええ、お任せ下さい。英雄王である貴方が自らの宝物庫に入れるに値するとまで褒めたたえた私の料理の腕、しかとお見せ致しましょう」

 

「そうか、せいぜい励めよ。さて、我は少し散歩に行ってくる。共は要らんぞ」

 

ギルガメッシュはそう言って立ち上がるとそそくさと出かけていく。本人は隠しているつもりだが、柳たちの耳にはしっかりと彼の鼻歌が聞こえていた。

 

 

 

 

「……やはりアヤツはチョロイな」

 

「甘すぎだぁ」

 

「チョロ甘ですね♪」

 

 

 

「……アーシアさんも染まりましたねぇ。可哀想に、もう戻れませんよ」

 

「大丈夫です! 柳さんと一緒ならたとえどんなになっても平気です。私、貴方の事が好きですから」

 

「……そうですか」

 

満面の笑みで告白してくるアーシアに対し、柳は恥ずかしそうに顔を背けながら返事をする。その光景をバルバトス達はニヤニヤしながら見ていた。

 

 

 

「ヤハハハハ! 青春だな。ところで貴様は好きな相手は居たのか?」

 

 

「他の奴に取られたぁ」

 

「……すまん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその晩、ベットの上にはウキウキとしているアーシアと落ち着かない様子の柳の姿があった。男所帯で知識はあっても女性に免疫のない柳と教会出身で知識が皆無な為に反対に行動に枷がないアーシアという二人は態度こそ違うも相手を意識していた。

 

 

「それじゃあもう夜も遅いので寝ましょうか」

 

「あっ……」

 

柳はそう言うなりアーシアに背を向けて寝転がる。それを見たアーシアは表情を僅かに曇らせるもそのまま電気を消し、そのまま柳の背中に抱きついた。

 

 

 

 

「ちょっ、アーシアさん!?」

 

「……柳さん。私は貴方に助けて頂いて死なずに済み、今もお世話になています。最初は恩と行為が一緒になっていたのかもしれません。でも! 今まで貴方と一緒に過ごしてやっぱり貴方が好きだと気付きました!」

 

そう言ってアーシアは抱きつく力を強め、柳は背中越しに彼女の鼓動を感じていた。

 

「……私も貴女が好きです。一緒に過ごす内に貴女の事ばかり考えてる時がある事に最近気付きました」

 

「じゃあ、こっちを向いてください」

 

「……恥ずかしいので嫌です」

 

「なら、私が背を向けるので貴方が抱きしめてください。……駄目ですか?」

 

「……分かりました」

 

柳は赤面しながら了承し、今にも折れてしまいそうな程華奢なアーシアの体を優しく抱きしめる。その時、アーシアは赤面しながら柳の方を向き口を開いた。

 

「あ、あのお願いが。……まだ私は世間知らずで男性への警戒心が少ないので、男性が女性に対してどういう事をしたがっているかを教えて頂けませんか? 私、柳さんに教えて頂きたいです。……駄目ですか?」

 

アーシアが瞳を潤ませながらそう尋ねた時、柳が彼女の向きを変えて抱きしめて口付けをした。

 

「……まだ学生の身ですから途中までです。それで良いですね?」

 

「……はい。……あの、優しくしてくださいね?」

 

アーシアは少々不満そうだが了承し、柳はパジャマの下から手を入れて彼女の体をまさぐる。アーシアはそれに応えるかの様に彼を強く抱きしめた。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝に起こしに来たバルバトスに途中までした事が明らかなその姿を見られ、こっぴどく叱られたのは言うまでもない

 

 




次は赤髪にしようかな?

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思いついたネタ 舞台はハイスクールdd

①神様転生で強力な悪魔の力を欲したら、「よんでますよ、アザゼルさん」の悪魔の力だった 結構チート?

② ソウルクレイドルの例の黒剣(ギグ封印中)を手に入れた気弱な少女 なんだかんだ言って甘いギグに甘やかされつつ平和に生きるが色々巻き込まれる 「ギグが居れば大丈夫…多分」 『多分ってなんだよ多分って!? しっかりしろよ相棒』


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従者が金ピカと青タイツと半裸だったら…… ⑬

「……まさかこの様な殺風景な場所に我を呼び出すとはな。我に態々足を運ばせた非礼をどう詫びる気だ? 雑種共」

 

「まぁ、学園で行うんだから仕方ありませんよ。有りもので済ませようとする辺りせこい気がしますが、彼らの能力では他の場所で行う場合、警備が大変なんでしょう。組織をちゃんと纏めれてないですから」

 

三勢力会談当日。会場に入ったギルガメッシュは会場に入るなり傲岸不遜な態度でそう告げ、柳もそれに続く。その言葉にリアスや警備の者達が顔を顰め敵意を送るも、彼や後ろに控えている柳は気にした様子もなく進んでいった。

 

「なんだ、この椅子は。王の中の王たる我にこのような粗末な椅子に座れと?」

 

ギルガメッシュは不快そうに用意された椅子を睨む。その椅子はサーザクスやアザゼルなど各勢力のトップの椅子と同じものだが彼には気に入らなかったらしく、宝具から煌びやかな玉座を取り出すと其処に腰を下ろし、柳はその後ろに控え、その様子にセラフォルーは首をかしげる。

 

「あれ? 柳ちゃんは座らないの?」

 

「いえ、今の私は英雄王の従者として来ていますので」

 

その言葉にセラフォルーは納得したように座り、会談は何事もなく進められた。そして和平が結ばれることが決まり、今度は柳達に話が向けられる。話を振ったのはこの中では一番親しく、ギルガメッシュが唯一認めている男だ。なんでも自分の欲に忠実なところが気に入ったらしい。

 

「んでよ、お前らはどうすんだ? お前らは世界をどうしたい?」

 

アザゼルのその問いにギルガメッシュは腕を組み、踏ん反り返った態度で口を開く。

 

「どうしたいも何もこの世界は時の果てまで我の所有物だ。それを貴様らが勝手に領土やなんやらと決めておるのだろう。どうしようと貴様らの知った事ではない」

 

その時であった。ギルガメッシュの達の発言に我慢できなくなった一部の悪魔が立ち上がり魔力を込めた手をギルガメッシュ達に向ける。

 

「先程から大人しく聞いておれば! 下等な人間ごときが調子に乗るな!」

 

「その減らず口、閉じさせてやる!」

 

「止めろ! 此処は会談の場だぞ!」

 

その悪魔達はサーゼクスが止めようとするも聞かず魔力を放とうとする。対するギルガメッシュは殺気を向けられ、侮辱されているにも関わらず平然としていた。そして悪魔たちが魔力を放とうとしたその瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無礼者がッ! 誰の許可を得て英雄王に歯向かっている!」

 

柳のその叫びと共に悪魔達は聖剣で切り裂かれ声も上げずに浄化されていく。柳は剣に付いた血を払うとギルガメッシュに一礼した。それに対しギルガメッシュは満足気な笑みを浮かべる。

 

「大儀であった。……さて、王に刃を向けた不届き者を片付けるのは後ろに控える家臣の役目。なら、狼藉を働いた家臣の不届きの責任を取るのは王の努めよなぁ?」

 

そう言ってギルガメッシュが卑下したような笑みを向けたのはサーゼクスとセラフォルー。会談の席で部下が犯した客人への不届きに二人の顔色は悪くなった。

 

「……申し訳ない。今回の賠償については後日改めて……」

 

「っと言いたい所だが、あいにく悪魔には王が不在だったな。堕天使を纏めるアザゼルや亡き主の代わりを必死で務める忠節見事なミカエルと違い、貴族共の顔色を伺いながら出ないと政権を纏めれない貴様らは王には値せん。責任を取るべき者が居ないのでは仕方ない。今回は不届き者共の死をもって免じてやる。精々感謝せよ」

 

その言葉は現魔王への否定。その発言にサーゼクスさえも眉を動かし、直情型のリアスなど今にも飛び出しそうだ。アザゼルはアチャ~っとばかりに右手で顔を覆い、ミカエルはどうなるかとハラハラしている。そんな時、会場の時が停まった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……フン。例の雑種の神器か」

 

「……どうやらテロのようですね。このままだと夕食遅くなりそうです……」

 

ギルガメッシュと柳が眉をしかめた時、校庭に魔方陣が現れ無数の魔術師らしき集団が転移してきた。その様子を見たアザゼルは嘆息を付く。その時、ギルガメッシュが椅子から立ち上がり、校庭を見下ろす。

 

 

 

 

 

 

「地を這う虫けらごときが我のいる場所にテロを仕掛けるだと? その無礼、万死に値するぞッ!」

 

その叫びと共に空を金色の空間の歪みが覆い尽くす。そして其処から無数の刀剣が発射される。それは一本一本が至高とも言うべき力を持っており、瞬く間に全ての魔術師達を殺傷した。それが止むと見るなり次の集団が現れるも同じように殺され、ボロボロの校庭にに残ったのは肉片と血の跡だけだった。

 

「……アーシアさんを連れてこなくて正解でした」

 

その光景に一誠が吐き気を催す中、柳は特に気にした様子もなくそう答える。彼が三人から学んだ事は『弱肉強食』。一般人なら兎も角、裏の世界に身を置いたのなら、死んでも弱い奴が悪い。その考えから魔術師たちの死に彼は何も感じていなかった。

 

 

 

 

「……相変わらずスゲェな。っと、雑魚共がやられて漸くお出ましになったか。おい、赤龍帝。お前らはハーフヴァンパイアを助けてこい」

 

アザゼルはそう言って神器をコントロールする腕輪を投げ渡す。そうこうしている内に会場内に現れた魔方陣から一人の女性が現れた。キツイ釣り目にメガネという、どこの理事長だよ!っと言いたくなるような見た目だ。

 

「ごきげんよう、現魔王のサーゼクス殿」

 

彼女は旧魔王レヴィアタンの血を引く者、カテレア・レヴィアタン。彼女は自分から魔王の座を奪ったセラフォルー達に敵意を向け、恨みを口にする。その様子をギルガメッシュは愉快そうに眺めていた。

 

 

 

彼女達の目的は一度世界を壊して新世界を作り、其処を自分達が治める事。その為に各勢力の離反者達が手を組んだのだ。世界最強のドラゴンである『ウロボロス』オーフィスを象徴とし、やがて北欧のオーディンにも動いて貰う。其処までカテレアが言った時、先程からニヤニヤしていたギルガメッシュがついに吹き出した。

 

 

「民から王と崇められた者の血を引き、自分こそ王に相応しいと言っておきながら最後は他人任せ? それで新しい世界を作って其処を統治するだと? ・・・・・・くっくっくっくっくっく、はぁ~っはっはっはっはっはっはっ! 見事な道化っぷりだ! 此が笑わずにいられるか! おい、女! 我に道化として仕えぬか?」

 

ギルガメッシュは心底可笑しそうに笑い、カテレアの表情は怒りで引きつっていく。

 

「殺す! 貴様は私が殺してやる!」

 

「さて、我を存分に笑わせてくれた礼だ。その無礼な発言。我自ら裁いてくれる」

 

怒りのまま向かってきたカテレアに対し、再び椅子に腰を下ろしたギルガメッシュは余裕のある表情で宝具を射出する。その衝撃でカテレアは校庭まで吹き飛ばされ、其処めがけて無数の宝具が放たれた。

 

「精々散り様で我を楽しませよ、雑種」

 

 




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従者が金ピカと青タイツと半裸だったら…… ⑭

イッセー達が覗きしても退学にならず進級できたのって、共学にして少しの間にそんな問題が明らかになったら不味いから、もみ消されたのかな?

悪魔化後は眷属だからっで庇っても、人間の時には庇う理由がない


「ふははははははははははは! 踊れ踊れぇ!」

 

「がぁっ! かぁっ!」

 

ギルガメッシュは豪奢な椅子に腰掛けたままカテレアを追い詰めていた。宙に浮く彼女の周囲に宝具を出現させ、体を掠める程度の勢いで発射する。その一つ一つから悪魔の弱点となる聖なるオーラが放たれおり、普通の悪魔なら既に死んでいる所だが彼女が受け継いだ魔王の血統による高い実力がそれを防いでいた。もっとも、ギルガメッシュが彼女を甚振る為に手加減しているだけであったが。

 

「……アレはえげつねぇな。なまじ力があるばかりに苦しみが長引いてやがる」

 

アザゼルは同の篭った視線をカテレアに送る。その視線の先では一本の短剣がカテレアの足を切り飛ばし、そのオーラで消滅させていた。

 

「……もう勘弁してあげてくれないかい? 私達現魔王は旧魔王との対話を望んでいるんだ。君なら殺さずに捕らえれるだろう?」

 

先程から黙って戦闘を見ていたサーゼクスだが、ついに見かねたのかギルガメッシュに話しかける。先程からカテレアの姿を見て愉悦に浸っていたギルガメッシュだったがその言葉を聞いた途端、その表情は一変した。

 

「……奴は我に敵意を向けた。それは万死に値する。それとも何だ。そのような些事の為にこの英雄王に剣を収めろと?」

 

「……頼む。冥界の民の為にも此処は引いて欲しい。この通りだ」

 

「サーゼクス様!?」

 

サーゼクスはギルガメッシュに頭を下げ頼み、その行為にグレイフィアは驚愕の声を上げる。今この場にいるのは同盟が決まったとは言え敵対していた組織の長たち。故に彼のした行為は彼が侮られるだけでなく、冥界での彼の立場にも関わる。サーゼクスはそれが分かっていて尚、旧魔王達との平和的解決の為に頭を下げたのだ。そしてそれがギルガメッシュにも理解できており、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「断る。我の温情にあやかれるのは我の臣下と民だけだ」

 

「ッ!」

 

それで尚、彼はその頼みを断る。彼にとって自分の財以外に何の価値もないのだ。柳もまた一連の出来事を退屈そうに見ており、ギルガメッシュの手前アクビを噛み殺しているだけだ。そんな中、カテレアの魔力が急激に跳ね上がった。

 

「ハァ…ハァ…。ここからが本番です! オーフィスの蛇を飲んだ今の私なら貴方如き……」

 

 

 

 

 

「ほぅ、ならば少々難易度を上げても構わんだろう?」

 

そして、カテレアを囲む宝具の数も質も大幅に増大する。カテレアの心はこの時点で完全に折れ、ギルガメッシュが一斉に射出しようとしたその時、ヴァーリが手に魔力を込めてギルガメッシュに向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ~にやってんですか。まぁ、どうせ裏切ったんでしょうが」

 

その腕は柳によって蹴り上げられ、魔力は見当違いの方向に飛んでいった。

 

「此処に来て裏切りか、ヴァーリ」

 

「悪いね。やっぱりアチラ側の方が楽しめそうと思ったんだ。じゃないと本気で戦ってくれない奴も居るしね」

 

ヴァーリの行動にアザゼルは苦々し気な表情を浮かべ光の槍を投擲する。それを避けたヴァーリは好戦的な笑みを浮かべ柳に視線を送った。この世界が彼の初恋相手のいる世界だったら周囲の人物の違いから彼は仲間を大切にし裏切らなかっただろう。だが、この世界は正史の世界同様であり、彼にとって柳は友ではあるものの本気で戦いたい相手だった。

 

 

「……ギルさ~ん」

 

友人の戦闘狂っぷりに臣下としての態度も忘れ何時もの態度で話しかける。するとカテレアへの攻撃と同じ速度で一本の剣と丸められた布が飛んでくる。柳は剣を躱すと前を通り過ぎる前にキャッチし、布は下から蹴り上げて勢いを殺す。すると布は広がり宙に浮いていた。

 

「空飛ぶ絨毯に龍殺しの聖剣アスカロンの原典ですか。では、行って来ます!」

 

柳は絨毯に乗ってヴァーリへと接近する。ついに全身を剣に貫かれ消滅していくカテレアの隣を通り過ぎ、ヴァーリの間近まで来た瞬間、柳は上段に構えた剣を振り下ろした。

 

 

 

 

「殺・魔神剣っ!」

 

「ちっ!」

 

柳の剣から放たれたのは特大の衝撃波。それは絨毯の上を通ると前方のヴァーリ目掛けて飛び出していく。柳がバルバトスから教わったこの技の威力はヴァーリも存じており、即座に避ける。しかし微かに掠ったのか鎧の右手の部分が砕け、血が滴り落ちていた。

 

『ヴァーリ、注意しろ! 只でさえ厄介な技が龍殺しと聖剣のオーラまで纏っている!』

 

「分かっているさ。此処は一気に決める!!」

 

『haif dimenision!』

 

「やばっ」

 

その音声がヴァーリの鎧の宝玉から発せられた瞬間、宝玉が強く輝く。そして柳が今の場所を移動したのに一瞬遅れヴァーリの手が其処に向けられ、辺りの木々が半分の大きさになった。

 

「惜しかったな。まぁ、手の内を知っているのはお互い様だから仕方ないか」

 

ヴァーリはそう言って楽しそうに笑い、柳は剣にオーラを込めて構える。

 

「……ジェノサイドブレイバァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

「甘い! 俺の成長を見せてやる!」

 

ヴァーリは柳から放たれた赤いオーラに手を掲げる。本来なら半減してもダメージはデカいのだが、

 

 

『diivide divide divide divide divide divide』

 

ヴァーリは連続で半減の力を発動して大幅に威力を殺す。やがて大幅に威力を殺されたジェノサイドブレイバーをヴァーリは片手で受け止め、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成長したのは貴方だけではない! 今死ね! 直ぐ死ね!! 骨まで砕けろ!!!!」

 

自ら放った技の陰に隠れて接近した柳によって切り裂かれる。

 

「くっ! がっ! がぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

放たれたのは炎を纏った斬撃に風の刃を込めた切り上げ。そして止めの叩きつけ。当然その全てに龍殺しと聖剣のオーラが篭っており、地に落ちたヴァーリは大量の血を吐き出した。

 

 

「……三連殺か。まさか習得しているとはね。なら、俺も全身全霊を込める! 行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

「ジェノサイドブレイバァァァァァァァ」

 

ヴァーリは退却の事など考えず全力の魔力を放ち、柳も全力の一撃を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「迎えに来たぜ、ヴァーリ。って、ギャァァァァァァァァァァァ!?」

 

 

そして、突如現れた男がその間に挟まれ悲鳴を上げて墜落していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、やる気を無くした二人の戦いはグダグダのまま終了。見逃したことにリアスが食ってかかるも、

 

 

 

「自分の部下の不手際の尻拭いしかしていない人が偉そうですよ。それに私の仕事は参加するだけです」

 

柳にそう言われ黙り込む。そして正式に協定が結ばれた会談は集結し、柳は次の戦場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

満漢全席を作る為、台所という名の戦場に……。

 

 

 

 

 

 

 

「私もなにかお手伝いを……」

 

っとアーシアは言うが今の彼女と柳では調理技術が隔絶しており何の役にも立たない。料理を運ぶのもギルガメッシュが台所に開けた宝物庫の入り口に料理を入れ、それを取り出したほうが早いので彼女も大人しく食べている事となった。食卓はやがて酒宴の席となり、勧められたアーシアを含む酔っ払い達の声が台所まで響いてくる。そして柳が最後の料理を作り終えた時には三人とも酔いつぶれて眠ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

そう、三人。柳がやっと自分の食事を始めようと食卓に向かうと一人で酒を飲み続けるアーシアの姿があった。最も酔いつぶれていないだけで目が座っていたのだが。

 

「あれ~、柳しゃん。ちょっとこの部屋暑くないでしゅか~?」

 

「……しっかりしてください。そんなに飲んでハメを外しすぎです。あまりハメを外さないように。ん?」

 

アーシアに説教しようとした柳の顔になにか暖かい布がかけられる。手にとってみるとそれはブラジャーだった。

 

「ハメを外さず、ブラ外し~♪」

 

「……頭痛がしてきました。さぁ、もう寝ましょう」

 

このまま目の前の酔っぱらいを放置していてはいけないっと判断した柳はアーシアの手をとって寝室まで連れて行く。そしてベットまで連れて行ったその時、突如アーシアに抱きつかれ、唇を奪われた。

 

「へへ♪ キスしちゃいましたァ~♪ あの、柳しゃん。ゼノヴィアしゃんから分けてもりゃったんでしゅがこれの使い方を教えてくだしゃいませんか?」

 

そう言ってアーシアが部屋に置いていたカバンから取り出したのはゴム製の避妊具。コンドームと呼ばれるそれをアーシアは恥ずかしそうに柳に見せる。

 

「……無理です。て言うか、酔い覚めてません?」

 

「……な、何の事ですか?」

 

誤魔化しながらもその目は宙を泳いでおり、彼女が既に正気なのは明らかだ。何とか辞めさせようと考えた柳だったが、急に足元がふらつくのを感じた。それは彼が昔、ギルガメッシュに酒を飲まされた時に似ており、先程のキスの時にわずかに口に残った酒と酒臭さで柳は酔っ払ったのだ。

 

「柳さん!」

 

それを見抜いたアーシアは柳をベットに押し倒し、キスで口を塞ぐと彼の手を撮り自分の胸へと持っていく。そして唇を離すと潤んだ瞳で上目遣いに口を開いた。

 

 

 

「柳さん。私を貴女のモノにしてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、柳が目を覚ますと隣には裸のアーシアの姿があり、周囲の使用済みの物や匂い、シーツのシミから事後である事は明らかだった。そして続いて目を覚ましたアーシアは昨日のことを覚えているのか顔を真っ赤にしながら柳にくっ付く。彼を見上げるほほは少し膨れていた。

 

「もう! 私初めてだったのに激しすぎです! ……次は優しくしてください」

 

その発言に柳はドキッとしながらも冷や汗を流す。

 

「……アーシアさん。将来絶対結婚しましょう」

 

「はい!」

 

アーシアは嬉しそうにそう返事を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、急いで片付けをした事と、二日酔いの影響でバルバトスにはバレず、説教は回避された。なお、三人より酒を飲んだアーシアには一切二日酔いが現れなかった……。




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バルバトスにはバレてません には……




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従者が金ピカと青タイツと半裸だったら…… ⑮

冒頭はR18のと同じですが今後の内容に関わるので載せておきます 別にここは日常パートだし


自称・崇高なる血統のカテレアがギルガメッシュに弄ばれている頃、神田宅の庭では剣術の訓練が行われていた。

 

 

「えぃやぁ!」

 

 

アーシアの剣が訓練用の人形に当たるとポフっといった音がして人形が僅かに揺れる。本人はいたって真面目にしているつもりなのだが、傍から見ると可愛らしいごっこ遊びにしか見えず、教官役のバルバトスも頭が痛そうに押さえている。

 

「全然ダメだぁ。やはり貴様に剣の素質はなぁい」

 

「はぅぅぅ」

 

何故彼女が剣の訓練をしようとしているかと言うと、自分も柳に守られてばかりではなく戦いたいと思ったからだ。なお、既に敵も気ずつ付けられないという弱点的優しさはバルバトス式ブートキャンプ(柳が子供の頃に受けたのよりソフトバージョン)によって克服し、先日セラフォルーにエアプレッシャーを放った時のような事が可能になった。

 

「……やはりお前は晶術を中心にしろぉ。まぁ、合気道などの力がいらん武術は覚えておくがいぃ」

 

「あっ、この前に連れて行って頂いた異世界で仲良くなった方から教えてもらった武術があるんですよ!」

 

「……やってみろぉ」

 

アーシアは訓練用の人形を睨むと駆け寄っていき、拳を振り抜く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは金的!」

 

全体重を乗せた右腕が人形の股間に当たり、後ろへ大きく揺らす。そして今度は左手を振り抜き、

 

 

 

「続いて金的!」

 

又しても美しいフォームで放たれた拳が股間に直撃。そしてアーシアは後ろへ向かってダッシュし、勢いつけて人形に駆け寄ると無駄のないフォームからの全体重を乗せた完璧な蹴りを放つ。

 

 

「それでこれがトドメの金的!!」

 

当然、股間にだ。最後に彼女は自分が一番イケていると思う(ダサい)ポーズを取り、声高々に叫ぶ。

 

 

 

 

 

「これがキャスターさん秘伝の奥義! 一夫多妻去勢拳!! 素敵な旦那様が浮気をした事を想像し、愛情を怒りに変えて拳に乗せて振り抜くべし!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、飯ができたぞ。……どうした?」

 

料理中の為、例の虫を気にしない為に心綱を切っていたエネルが庭に出ると顔を青ざめてアーシアを見ているバルバトスの姿があった。

 

 

 

「恐ろしい技だぁ……」

 

 

なお、エネルの格好は何時もの格好の上からエプロンを纏っていた。いったい誰得だと言うのだろうか?

 

 

 

 

その後、その話を聞いたギルガメッシュは大笑いしながら宝具の一つである、とある騎士の剣の鞘の原典をアーシアに授け、それは彼女の体の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夏休みに旅行? ……また修行の旅ですか?」

 

「たわけ。観光をしてその土地の名産品に舌鼓を打つ普通の旅行に決まっておろう」

 

「疑わしいですよ。今までもそう言って戦わされたじゃないですか」

 

それは夏休みも目前というある日の事、食卓の席でギルガメッシュから告げられた提案に柳は不信感丸出しの反応を示す。今まで旅行と聞かされて向かった先は歴史上の有名武将が全て女性になっている古代中国や正義の魔法使いを名乗る魔法使いたちがいる世界。他にもバルバトスさえも一撃で倒すハゲがいる世界にも行き、実戦訓練を行わされた。

 

「……そう言えば恋さん達は元気ですかねぇ、うぐっ!?」

 

修行の時に食事を作ったら仲良くなったアホ毛が特徴の少女の事をふと思い出した時、脇腹に痛みが走る。横を見ると満面の笑みで柳の脇腹をつまむアーシアの姿があった。

 

「……また女の人ですか。ゼノヴィアさんといい、セラフォルーさんといい、随分おモテになりますね。ふふふふふ」

 

「ご、誤解です! それに私が彼女に会ったのは十一の時ですよ。バルバトスさんに連れられていった修行先で知り合って、大規模な反乱が終わった頃までお世話になってただけですって!」

 

「……確か、勝手に呼ぶと首を刎ねられても文句が言えない程大切な二つ目の名前を呼ぶ許可を貰っていたなぁ。それも、殆どが女だったぁ」

 

「……少し戦闘訓練に付き合って頂けますか? 大丈夫。手加減致しますから」

 

「お、落ち着いて! まずは話し合いましょう!」

 

「ええ、お話しましょうしましょう。……拳で」

 

アーシアは肝の冷える笑いを浮かべながら柳の襟首を掴んで何処かへ引きずっていき、バルバトスはそっと手を合わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……所で旅行は何処へ行くのだ?」

 

「冥界だ! 我がオーナーを務めるレジャー施設『わくわくざぶ~ん』の開園も間近なのでな。それに、カジノやホテルも我の所有物が冥界にあるぞ。まぁ、ホテルはサーゼクスとやらのホテルの株を買い取って我好みに改修しただけだがな。そして勿論今回の旅費は全て我が出す! 感謝するが良い、貧乏人どもよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして夏休みが始まり八月頃、ついに旅行の日がやってきた。アーシアは白のワンピースといった普通の格好だが、ギルガメッシュは何処のホストだと言いたくなるような金ピカのスーツ。バルバトスはサングラスにアロハシャツとハーフパンツと海が似合う格好をしており、エネルはマトモな姿をしていた。

 

「では、行くぞ!」

 

ギルの宝具である空飛ぶ船『ヴィマーナ』に乗り込んだ一行はバルバトスの能力で時空の壁を渡り冥界へと向かった。本当なら乗り物に乗る必要はないのだが、ギル曰く『形式美だ。それとも我に徒歩で旅行に赴けと?』らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、リアス達も冥界に向かっていた。彼女達が乗っているのはグレモリー家所有の列車だ。その列車にはアザゼルも同行していた。

 

 

 

 

「そういや柳達も冥界に旅行に行くんだとよ。向こうで会うかもな」

 

「……私は会いたくないわ。お兄様達へのあの態度はなんなの!? 朱乃、貴女もそう思うでしょ?」

 

リアスはギルガメッシュの発言に憤慨しながら朱乃に話を振る。しかし彼女は何か考え事をしているのか上の空で返事をしようとしなかった。

 

「朱乃さん。どうかしたんですか?」

 

「……え、ええ! 少し考え事をしていまして。実は昔のアルバムを見てたら懐かしい写真が出てきましたの。初恋の男の子と一緒にとった写真なのですが」

 

朱乃がそう言って大事そうに取り出した写真。其処には朱乃とみられる幼女と幼い少年が写っており、朱乃はその少年にベッタリくっついていた。そして少年の隣には何処かで見た事のあるような幼女も写っており、朱乃に対抗するように少年に抱きついている。

 

「ぐぐぐぐぐっ! この歳でモテモテかよ……」

 

流石に朱乃の大切な写真なので握り締めはしなかった一誠であるが表情は少年への嫉妬で歪む。それを見たリアスは嘆息を吐くと一誠を後ろから抱き寄せた。

 

「はいはい、嫉妬しないのイッセー。……この男の子、誰かに似てない?」

 

リアスは写真を覗き込んでそんな疑問を口にする。すると、朱乃は少し言いにくそうに口を開いた。

 

「……実は昔の日記にこの二人の事が書いてありまして、なぜか忘れていた名前を思い出しましたの。女の子の方は桜ちゃんと言ってこの男の子の妹なんですの。大のお兄ちゃんっ子で何時も後を着いて来てましたわ。そして、男の子の名前は……柳。神田 柳といいました……」

 

『!?』

 

その言葉を聞いてリアス達は写真の男の子をジッと観察する。言われてみれば先ほど話題にしていた少年を幼くしたらこうなるだろうっという容姿だった。すると先程から黙って話を聞いていたアザゼルが近づいてきて口を開く。その顔は真剣そのものだった。

 

 

 

 

 

「……そいつは確かにあの柳だ。それで、それを聞いたお前はどうするんだ?」

 

「やっぱり! 少し前からもしかしてとは思っていましたが、あの方が『やっくん』でしたのね!」

 

アザゼルの言葉を聞いた朱乃は嬉しそうな顔をして写真をそっと抱きしめる。彼女の頭の中にあるのは次ぐ次々に思い出される幼い頃の思い出。だが、その表情をみるアザゼルの顔は複雑そうだった。

 

「こうしてはいられません! 向こうであの方に会ったら昔の話を致しませんと。ふふふ、懐かしいですわ」

 

朱乃は楽しそうにそう呟く。その顔はまさしく恋する乙女のそれであり、彼女の中には幼い頃の恋心が蘇っていた。思い返すのは幼い頃の夢のような時間。朱乃は昔の思い出に浸り、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止めとけ。多分ロクな結果にならねぇ」

 

「……え?」

 

アザゼルの言葉によって現実に引き戻された。

 

 

「ちょっと、アザゼル! ロクな事にならないってどういう事!? そりゃ、柳は悪魔が嫌いっぽいし、もう恋人がいるけど、幼馴染と昔話くらい……」

 

「……そういう事じゃねぇんだ。アイツが悪魔が嫌いなのは家族をハグレ悪魔に殺されたからなんだが……。いや、やめておこう。別に口止めされてねぇが。朱乃、お前には辛い内容だ」

 

「どういう事ですの!? 構いませんから教えてください! じゃないと納得いきませんわ!」

 

「……アイツの家族を殺した悪魔はアイツの家に行く前に一人の堕天使と遭遇し、子供の姿だったのを利用して見逃して貰ったんだ。そしてその後、アイツの家族はその悪魔に喰われた。……そしてその堕天使の名はバラキエル。お前の親父だ。分かるだろ? アイツにとってお前は幼馴染であると同時に、家族の死因となった奴の娘なんだ。……だから、アイツとはあまり関わんな。お互いに辛いだけだ」

 

「そんな……」

 

「朱乃!? しっかりしなさい!」

 

アザゼルの言葉を聞いた朱乃は顔を青ざめヘナヘナとその場に崩れ、そのまま気を失った……。

 

 

 




意見 感想 誤字指摘お待ちいたしてます

本編ではリアスと一誠と祐斗がまともで他は魔改造でしたが、こっちではアーシアが大変な事に

ギルの宝具に鞘みたいに最高ランクの英霊のは入ってないよ ってツッコミの受付期間は過ぎました。


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従者が金ピカと青タイツと半裸だったら…… ⑯

今冥界で注目されている施設がある。スポーツ施設からゲームセンター、各国の料理を揃えたレストラン街。そしてエステや宿泊施設までも有る総合レジャー施設だ。そして一番の目玉は温水プール。流れるプールやスライダーなどが充実し、家族連れからカップル、少し寂しいけど一人でも楽しむ事ができる。その施設の名前は『わくわくざぶ~ん』。……テスト入場者は『施設名以外は素晴らしかった!』っと絶賛していた。

 

娯楽の少ない冥界の住人はこぞって押し寄せ、施設は連日満員となっている。悪魔達は挙ってチケットを求め、売り場には長い行列ができている。そんな中、スタッフ用の出入り口から平然と入場する5人組の姿があった。その格好はどう見てもスタッフではないが従業員は誰も咎めない。

 

「やれやれ、冥界の者達は暇人ばかりのようだな。遊ぶだけの為によく彼処まで並ぶものだ」

 

「並んでる施設のオーナーが言いますか……。あっ、何処から周ります?」

 

「私は貴方と一緒なら何処でも良いですよ」

 

そう、この施設はギルガメッシュがオーナーを務めているのだ。それどころか施設周辺のホテルやバス等交通機関も彼の所有物である。ビバ、黄金率!

 

 

 

「それでは我達は別行動するぞ。貴様らだけで行ってくるが良い」

 

「あっ、はい。それでは約束の時間に入り口に集合という事で。では、行きましょうアーシアさん」

 

「はい!」

 

 

柳とアーシアは手をつないで三人から離れていき、その姿が見えなくなった時、ギルガメッシュ達は一斉に変装をする。どうやら二人のデートを尾行する気のようで、ギルガメッシュの手には最新式のデジカメが握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、こんな事をしても良いのかぁ? 少々無粋だろぉ」

 

「ククク、そう言うなバルバトス。息子のデートを覗き見するのもまた愉悦だ。エネル、奴の心綱はドレほどの程度だ?」

 

「それほど広くはない。精々2kmと言った所だ。だが、害しようとする行動には敏感だな。……どちらにしろ修行が足らん。アーシアに至っては目の前の相手の行動が何となく分かるといった位だな。だが、近づきすぎると察せられるぞ。っと言うより、心綱を取得している柳に変装が何の意味を持つのだ」

 

「……ふむ。此処は我の財の出番だな」

 

変装の言いだしっぺのギルガメッシュは目を逸らしながら、気配を完全に消して姿も変える力を持つ財宝を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいから答えろ。変装に意味はあるのかと訊いている」

 

「……ごめんなさい。何も考えていませんでした」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん。こう沢山有ると目移りしますね。アーシアさんは何が食べたいですか?」

 

一頻りゲームセンターで遊んだ二人はレストラン街を散策していた。施設内の店はギルガメッシュ好みの高級店から手頃のな値段お店もあり、先日彼が買い取った有名ハンバーガーチェーンまである始末。この施設の他にも様々な店を展開しており、もはや冥界の経済にギルガメッシュはなくてはならない存在となっているのだ。

 

「~♪」

 

そんな中、アーシアは先ほど撮ったプリクラを鼻歌を歌いながら眺めていた。ゲームセンター内では柳がいるにも関わらず行われた強引なナンパや人間という事で絡んできた者が居たが柳の手によって撃退。そしてその時に、

 

「この人は私の恋人です。手出しはさせません」

 

 

っと言って貰えたのだ。あまりの嬉しさにアーシアはプリクラを撮る時に横から抱きつき、柳の頬にキスをしてしまった。その後カーテンが有るのをいい事に正面から抱きしめられてキスをされ、その場面が偶然撮られてしまい慌てたのも良い思い出になりそうだとアーシアは幸せを感じていた。

 

 

「……聞いています? 何が食べたいですか?」

 

「は、はい! 柳さんが食べたいです! っじゃなくて柳さんの料理が食べたいです!」

 

「……やっぱり聞いていませんでしたか。夕食は別荘で調理いたしますので今は適当な店に入りましょう」

 

柳はそう言うと目に入った店に入っていった。その姿を離れて眺める人影が三つ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バレてないと思ったか、痴れ者めが! 流石に最近の奴は弛み過ぎではないか?」

 

「そろそろ戦いに駆り出すか。ヤハハハハ!」

 

「緊張感が足りなさすぎるぅ。……もう少し慎みある男女交際をさせるべきだぁ。男所帯だから難しい」

 

 

独身中年三人はテイクアウトのハンバーガーを食みながら二人の後をつける。なお、ギルの宝具によって一部始終を見られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……我に少し良い考えがある。面白そうな話を耳にしてな……」

 

ギルガメッシュはテリヤキバーガーのタレを口元に付けながら笑みを浮かべて言った……。

 

 

 

 

 

なお、彼らが食べているのはギルガメッシュが会社を買い取った記念に作った新メニュー『ギルギルテリヤキバーガー』お値段一個10万円の品である。当然誰も買わない上に材料費ばかり嵩むが黄金率のおかげで何とかなっていた。スキルの無駄使いである……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(カップル用のジュースかぁ。でも、柳さんは甘いの嫌いですし……)」

 

アーシアの目にとまったのはカップル用のジュース。ハートの形をした吸い口が二つあるストローを差した多めのジュースだ。他のテーブルではカップルらしき二人組がそのジュースを飲んでいた。アーシアはその光景を見て羨ましそうにするも、残念な事に柳は甘味嫌い。無理に言ってもし嫌われたらと思うと頼みたいとは言えないでいた時、定員がお冷を持ってきた。

 

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」

 

「……じゃ、じゃあ、ナスのミートスパゲティにします」

 

「私はカツ丼をお願いします」

 

「かしこまりました。お飲み物はどう致しますか?」

 

アーシアは一瞬だけ先程のカップル用のジュースに目をやり、

 

「……じゃあ、この『ラブラブ✩ジュース』で。以上です」

 

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……聞いたか? あの柳がジュースを頼みおったぞ!? 生ビール追加」

 

「恐らくアーシアが先程から気にしていたからだろうがぁ……。あっ、メロンパフェとメロンソーダを追加だぁ」

 

「ヤハハハハ! 『好きな人の為ならこの位我慢しますよ』など言っているぞ! フルーツパフェ」

 

遠くから二人の様子を覗き見していた三人はエネルの優れた心綱で会話を盗聴する。……野暮な親父達である。そんな中、実況中継していたエネルは急に顔を顰める。

 

 

 

 

「……どうやら野暮な奴が居るようだな。久々に神罰を行うとするか」

 

遠くから二人を覗いている者に気付いたエネルは不快そうにそう言い、彼の体がパチリと放電した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事はどうでも良いから続きだ続き! この前のデートの時に何をしたのだ!?」

 

「ぬぅ! 互いに食べさせあっているだとぅ!? ……俺達も野暮の極みだぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「……何とか」

 

二人は食事を終えた後、目玉である室内大型温水プールにやってきた。柳はトランクスタイプの紺の水着を履き、アーシアはフリルのついたピンクの水着を着ている。だが、折角のプールにも関わらず二人は泳ごうとはしなかった。原因は柳の不調。やはり無理して苦手な甘味を口にしたのが良くなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、見ろよ。その娘可愛いじゃん」

 

「そうだな。ツレは一人だし強引に連れて行って物陰で……フヒヒヒヒ!」

 

そんな二人を遠巻きに下衆な目で見ている男達がいた。どうやら質の悪いナンパ師のようで、発言に似合った下衆な表情で二人に近づいていく。そして、

 

 

 

「「へ? がぼっ!?」」

 

急に水中から伸びてきた手に足首を捕まれプールに引きずり込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔者は消したぁ。……しかし柳の奴、少し情けないのではないかぁ?」

 

エネルはレストラン街で気付いた相手を尾行しに行き、邪魔者二人を放り投げるとバルバトスはデートの観察を続ける。この施設のオーナーであるギルガメッシュは酒を飲んでいた為にプール内への入場を拒否された。

 

 

 

 

 

「此処は我の施設であるぞ! 雑種めが! 雑種めが! 雑種めがぁぁぁぁぁぁぁっ!! あっ、セイバー人形」

 

憂さ晴らしに入ったゲームセンターで自分が手がけるアニメのフィギュアを見つけたギルガメッシュはクレーンゲームにコインを投入する。結果は……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……手に入らぬ物程美しい」

 

 

推して知るべし。これからはもう少し小銭を持ち歩こうと心に誓ったギルガメッシュであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は此処で少し休んでいます。アーシアさんはお好きな所に行ってきてください」

 

柳はまだ気分がすぐれないのか休憩用のベンチに腰を下ろす。それを見て少し悩んでいたアーシアであったが、

 

「はい♪ じゃあ、好きな所に行きますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言って笑顔で柳の隣に腰を下ろした。柳は何か言おうとしたがアーシアの人差し指で口を塞がれる。

 

「私が一番好きなのは貴方の隣です。……まぁ、ベットの上で話しは変わりますけど」

 

「それ以上は此処では辞めておきましょうね!? ってか、なに言ってんですか!?」

 

二人がそんな風にイチャついていた時、一人の青年が近づいてきた。年の頃は柳より少し上。金髪を短く切り揃え、穏やかそうな目をしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだね、アーシア」

 

「え? 貴方誰ですか?」

 

「僕だよ。ほら、この胸の傷」

 

青年はそう言って胸にある痛々しい傷跡を指し示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え? 貴方誰ですか? あっ、ナンパなら止めてください。私、恋人がいますので」

 

「いや、僕だよ!? ほら、数年前に僕らは会ったじゃないか! アレから君を探していたんだ! 」

 

必死に食い下がる男だったがアーシアは首を傾げ、柳は不審そうに男を見る。

 

「……悪質なストーカーですね。ちょっと失礼しますよっと」

 

「きゃあ♪」

 

柳はアーシアの腰と膝の後ろに手を回して持ち上げ、アーシアは此処ぞとばかりに抱きつく。そのまま柳はアーシアをお姫様抱っこしたままその場から素早く消えていった。後に残された男は視線で周囲の者を追い払うと表情を一変させて毒づく。

 

「クソ! 下等種族が高尚な純潔悪魔の僕の邪魔をしやがって! アーシアを手に入れる為に僕がどれだけ苦労したと思っているんだ。この傷だってワザワザ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぅ、その傷がどうかしたのか? それに面白い事を言っておったな」

 

「お、お前はあの男のっ!」

 

「ああ、別に今すぐ答える必要はない。後でギルガメッシュに良く効く自白剤を使わせるからな。ヤハハハハハハ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、顔面をボコボコに殴られて腫らし、全裸で逆さ釣りにされた男の姿があり、その股間にはこう書かれた張り紙が貼られていた。

 

 

 

 

 

 

 

『私は聖女フェチの変態ストーカーです』

 

その後、彼の家の者が助けるまで彼は吊るされっぱなしであり、なぜか何があったのかという彼の記憶は綺麗に消え、目撃者もゼロだったという……。




ラスボスはいま文章まとめているから待っていてください 一気に書かないと落ち着かないんです


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従者が金ピカと青タイツと半裸だったら…… ⑰

アーシアのストーカーをギル・バル・エネの三人が懲らしめた日の夜の事、柳が作った料理を食べていたギルガメッシュがフォークをアーシアに向けながら言った。

 

「おい、アーシア。昼間にストーカーと会ったであろう。奴は貴様が教会を追われる要因となった怪我した悪魔だ」

 

「……あっ! 思い出しました。確かにあの時の悪魔さんです」

 

「……所でなんで知っているんですか? もしや、付けてました?」

 

折角のデートを尾行されていた事を察した柳はギルガメッシュをジト目で見るが、ギルガメッシュはフンっと鼻を鳴らすだけだ。それの何が悪いのだ、とでも思っているのであろう。他の二人も同じ意見のようで、

 

「馬鹿めぇ。気づかぬ方が悪いのだぁ」

 

「ヤハハハハ。心綱が甘いぞ。もう少し範囲と正確さを上げろ」

 

っとの事だ。反論できないと察した柳は溜息を吐いて黙り込む。この三人の理不尽さには出会ってからの十年ですっかり慣れていたのだ。アーシアも大好きな柳と一緒なら別に気にはならないようだ。

 

「それで、その悪魔がどうしたんですか? 態々AUOが口にする程の事でもないでしょう? アーシアさんは私が好きで、私はアーシアさんが好き。そしていま一緒に居るんですから、過去に出会ったストーカーがどうだと言うんです」

 

「や、柳さん……」

 

「クハハハハ! 中々言うではないか。だが、本題はこれからだ。小娘、貴様ハメられていたぞ。貴様の追放は奴が仕組んだシナリオだ」

 

「……え? 今、何て……?」

 

「王の言葉を聞き逃すとは不敬な事だ。だが、特に許そう。もう一度言うぞ。聖女フェチのやつは貴様を手に入れる為にワザと怪我をして貴様の前に現れた。当然、見つかるのを計算してな」

 

その瞬間、突如席を立ち上がったアーシアは別荘のリビングから走り去っていった。

 

「ギルさん! いくら何でもそんな言い方はっ!」

 

「……誰に向かって意見している? どうせ奴は小娘に最高のタイミングで告げるはずだったのだ。ならば、今の内に知っておくべきであろう。さて、柳よ。我に食ってかかる暇があるのなら今すぐ追い掛けんかっ!」

 

「……はい!」

 

ギルが放つ威圧感に一瞬たじろいだ柳であったが、直ぐにアーシアを追っていく。その後ろ姿を見た三人は苦笑していた。

 

「ぶるああああああ! 情けない奴だぁ」

 

「貴様らの教育が間違っていたのではないか? 惚れた相手なら力尽くで組み伏せて嫌な事など忘れさせれば良いものを」

 

「いや、それは流石にどうなのだ? まぁ、我も神時代は好きなだけ召し上げていたがな!」

 

肉食系三人組は相変わらずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、柳さん」

 

柳がアーシアに追い付くと、彼女は目を泣き腫らしながら振り返った。彼女は例の悪魔を助けたことで協会を追放された事は辛かったが、それでも助けたことを一度も後悔した事はなかった。しかし、その全てが下衆な策略によるものだと知り悲しみがぶり返してきたのだ。フラつく足取りで柳に近付いたアーシアはそのまま抱き着いて胸に顔をうずめる。柳はその体をそっと抱きしめた。

 

「……好きなだけ泣いてください。私はずっと傍に居ます」

 

その後暫くの間アーシアは泣き続け、泣き疲れて眠った彼女を柳はベットまで運ぶ。そして部屋から出ると、其処にはギルガメッシュが腕を組んで立っていた。

 

「……泣き止んだか?」

 

「ええ、何とか」

 

其れだけ聞くとギルガメッシュはその場を立ち去るかに見えたのだが、再び立ち止まる。

 

「あの小娘のケアは貴様の仕事だ。既に手を出しているのだから最後まで責任を取れ。……それと、貴様もいい加減向き合ったらどうだ。昼間、あの男の娘が貴様に近づこうとしていたが素早く逃げていたであろう? 我らの目は誤魔化せぬぞ」

 

そのままギルガメッシュは立ち去り、柳は暫くの間立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、柳が寝苦しさに目を覚ますとアーシアの顔が間近に有り、その体は柳の上に乗っていた。

 

「……お早うございます」

 

「ええ。お早うございます。それで気分は晴れましたか?」

 

寝ている柳にキスをしようとしていた所で目覚められたアーシアは耳まで真っ赤になり、柳は相変わらずのニコニコ顔だ。彼女の行為に特にコメントする事なく挨拶を仕返し、そのまま抱き寄せて唇を奪った。暫く唇を合わせていた二人であったが、アーシアは真っ赤になりながらハッキリとした口調で言った。

 

「……私、今でもあの時の事を後悔していません。だって……こうして柳さんと一緒に居られて幸せですから!」

 

「ええ、私も貴女と一緒にいられて幸せですよ。貴女は私にとって七人目の家族です」

 

「え~と、家族と言いましたが……お、お嫁さんという事でしょうか?」

 

「ええ、その通りです」

 

二人は見つめ合い、互いの体を抱きしめると再び唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……遅い。王の朝食を遅らせるとは呆気者がっ!」

 

「まぁ、そう言うなギルガメッシュ。朝っぱらからとは中々やるではないかっ! ヤハハハハ!」

 

「……今日は外で食うかぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥界の旧首都ルシファード。そこで開かれる若手悪魔の顔合わせに柳達も招待されていた。柳達が会場に到着するとサーゼクス自らが出迎える。

 

「やぁ、よく来てくれたね」

 

「ふん。不敬が過ぎるぞ。王である我を態々呼び寄せたのだ。宴の一つでも用意しておくのが礼儀であろうに。まぁ、頭にカラを似せたヒヨコ共の青臭い夢を聞くのもまた一興だ。許してやるから感謝せよ、雑種?」

 

最初は来る気のなかった一行だが、若手の夢を聞くという事を耳にしたギルガメッシュが興味を示し、行くのを承諾したのだ。

 

「……なんで私まで」

 

ちなみに柳は無理やり連れてこられていた。なお、バルバトスとエネルは興味がないらしく、アーシアはストーカーを刺激しないために来ていない。

 

「何たる不敬っ!」

 

「人間ごときがっ!」

 

「地を這う虫けらごときが誰の許しを得て我に近付いている?」

 

ギルガメッシュの物言いに腹を立てた貴族達が二人に食ってかかるが、ギルガメシュが放った黄金の剣を足元に刺されその場に尻餅をついた。

 

「おい、雑種。アレらは貴様の臣下なのであろう? 臣下を纏められぬ者に統治者たる資格はないぞ。……しかし、悪魔は実力主義と聞いたが、柳ならあの程度打ち落とせるぞ」

 

ギルガメシュは不快そうに鼻を鳴らすと奥へ向かって行く。そして、若手の顔合わせが開始し、ソーナが夢を語る場面となった。彼女の夢は上級悪魔だけでなく、下級悪魔でも通えるレーティングゲームの学校を作ること。

 

 

 

 

そして、浴びせられたのは賞賛でなく、嘲笑だった。笑っているのは壇上の老人達。そして、その場の誰よりも可笑しそうに笑っている者が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クハハハハハハハ! 笑わせてくれるな、小娘! やはりカテレアとかいう雑種といい、貴様といい、コウモリの女は道化の才能が有るらしい。喜べ、英雄王たる我自らが褒めてつかわすぞ!」

 

ギルガメッシュはその場の誰よりも高らかに笑い、ソーナの夢を馬鹿にしていた……。

 




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従者が金ピカと青タイツと半裸だったら…… ⑱

「おい! 今なんて言いやがったクソ野郎!!」

 

ギルガメッシュの言葉に真っ先に反応したのは匙。彼はギルガメッシュを睨みながら立ち上がる。だが、次の瞬間には柳によって床に叩きつけられていた。

 

「……何のつもりだ? 柳」

 

「英雄王。この者に貴方の宝具を使う程の価値は御座いません。なので私が処罰いたしました。下らなき事で宝具をお汚しになるのはお止め下さい」

 

ギルガメッシュの背後では空間が歪み、其処から無数の刀剣が姿を見せる。柳は匙を押さえつけながらギルガメッシュを見据え、ギルガメッシュがつまらなさそうに鼻を鳴らすと歪みが消えた

 

「……今日はビーフシチューだ」

 

「了解いたしました、英雄王。……この者に王が何故笑ったのか説明しても?」

 

「良いぞ。特に許す。だが、もし間違っていた場合、王の意思を曲解して伝えた罰を与える。覚悟しておけ」

 

「はっ!」

 

柳はギルガメッシュに一礼し、匙を押さえつけたままソーナの方を振り向いた。

 

「さて、ソーナ・シトリー。何故貴女の夢が冥界の重鎮達に否定されたか、お分かりですか? 身分の低き者にチャンスを与えるのが無駄だと思っているから? いえ、違います。冥界の発展の為には埋もれた才能を発掘し全体の底上げをする必要がある事など彼らも理解しています。ただ、怖いだけですよ」

 

柳は最初にソーナの夢を笑った者達を指さし、嘲笑を向ける。それを見た彼らは怒鳴ろうとするが首元に無数の剣が出現して黙り込むしかない。柳達が場の空気を支配し他の者達が黙り込む中、柳は再びソーナの方を向いた。

 

「もう一度言います。貴女の夢を最初に笑った者達は怖いのですよ。生まれた身分は低いが実力はある者に今の立場を脅かされるのがね。貴女はチャンスが極端に少ない事に嘆き、そのチャンスを与える場を作りたいと言いましたが、なぜチャンスが少ないままなのかを深く考えていませんでした。……そして匙元士郎。貴方の迂闊な行動は主の夢の達成を遠ざけましたよ」

 

「俺の行動で会長の夢がっ!?」

 

「そもそも、彼らが其処まで下の者の躍進を危惧するのは自分達の様な古き家系の者の面目の為。だが、下の者を育てようと言う若手の下僕は生意気にも自分達に歯向かった。下僕がこれなら、作った学校の生徒も自分達を敬わないだろう。そう思われて当たり前ですよ。……英雄王。何か不備はございますか?」

 

「……及第点はくれてやる。今後も励めよ」

 

そう言いながら投げ渡されたのは小振りな片手斧。どうやら褒美のつもりらしい。先程までソーナに向けられていた怒りの視線は全て柳達に向けられているが柳は微塵も気にした様子もなく席に戻る。それを見届けたサーゼクスが咳払いをして自分に視線を集めた。

 

 

「さて、実は若手同士のレーティング・ゲームを企画しているんだが、リアスとソーナ君でどうだい? 二人は幼馴染だし、面白いゲームになると思うんだが」

 

二人には文句はなく、他のゲームの決定する。もう話し合いは終わりかと思われた時、セラフォルーが両手で抱えれるくらいの箱を取り出した。箱の上部には手を突っ込めるくらいの穴が空いており、ボールの様な物が入っているのがうっすらと見える。

 

「実はさ、柳ちゃん達がゲームのゲスト出場してくれる事になったんだ☆ 全員が引いたらボールに名前が浮き出るようになってるから順番に引いてね♪」

 

いきなりの事に柳と若手達は驚き、サーゼクスは静かに笑みを浮かべている。やがてセラフォルーに急かされるように順番に引いて行き、ボールに名前が浮き出た。

 

 

リアス (バルバトス)

 

ソーナ (エネル)

 

シークヴァイラ (柳)

 

ゼファードル (ギルガメッシュ)

 

他二名 (スカ)

 

 

 

 

 

 

「……ゼファードルさんのご冥福をお祈りするとして、お久しぶりですねアガレス嬢」

 

柳は高確率で”その首、何故付いている?”という事になりそうなゼファードルの絶望的な未来を想像しながらシークヴァイラに一礼する。シークヴァイラも軽く会釈を返してきた。

 

「お久しぶりね。私の眷属になる気はないかしら? バイト感覚で良いわ」

 

「いえいえ、貴女はお得意様ですが、それとこれとは別ですよ」

 

リアスとの違いは何なのか。丁寧に断る柳とシークヴァイラの間に険悪なムードはなくそのまま別れる。途中、”我が直々に刎ねてやろう”と言いながら金色の斧を取り出したギルガメッシュを引き摺りながら柳は帰路に着き、家に帰るなり夕餉の支度に取り掛かる。その間ギルガメッシュ達は酒宴を開いていた。

 

 

 

 

「しかし、俺と貴様が戦うのは何時以来だぁ?」

 

「……ふむ。暇潰しに戦いはしたが、本気で戦うのは数年ぶりになるか?」

 

「まぁ、柳の実践訓練には丁度良い。……それより賭けをせぬか? 彼奴が対象だ」

 

ギルガメッシュが指差したのはアーシア。指差された本人は困惑した様子で手招きに応じてギルガメッシュの隣に座った。

 

 

 

 

「此奴が産む柳の子が男か女かだ」

 

「えぇ!? バ、バレてましたっ!? 一緒に寝てるだけだと言ったのにっ!?」

 

「安心しろ。心綱は働かせておらん。我が子の情事を覗く親が何処に居る?」

 

「……流石に感心はせんがなぁ!」

 

「さて、事の最中の体位によって男女の出来やすさが違うと聞くが……‥。しかし、我と奴では好みが正反対だな。おい、貴様達の好みはどういうのだ?」

 

「……アトワイトは冷静な女だったぁ」

 

「……貴様は振られたのであったな。……許せ」

 

「ほぅ。ギルガメッシュは謝るとは珍しい事もあるものだ。そういえば貴様も振られたのであったな、ヤハハハハ! 我は見た目が良ければ其れで良い!」

 

ちなみにギルガメッシュは誰かの助けを必要としない高潔な処女……を屈服させるのが好きらしい。ちなみに金髪碧眼が好みだがアーシアは性格が正反対なので興味を持たなかった。

 

「柳は小娘のような庇護欲を誘う女が好みだったか? ……まぁ、妙な女に好かれやすいが」

 

この世界で柳に好意を持っているのはセラフォルーとゼノヴィア。朱乃は幼馴染としての思い出を引き摺っている感じなので今の柳に好意を持っているとは言い兼ねる。

 

 

 

 

「……ああ、別の世界に送った時もそれなりの数の女に好意を持たれていたな」

 

「……その話、もう少し詳しく」

 

その時のアーシアの気迫は凄まじく、エクスカリバーを間近で振り下ろす時の騎士王に匹敵していたとギルガメッシュは語る。

 

 

 

 

 

 

その晩の事……。

 

 

「あの、柳さん。私の事をお嫁さんにして下さいませんか?」

 

「あれ? 私はそのつもりでしたよ?」

 

「柳さん!」

 

アーシアは柳に抱きつき、そのままベットに押し倒した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふふふ、今度のゲームで邪魔なアイツを殺してアーシアを僕の物に。やっぱり、処女を奪う時はシスター服を着せて向こうから捧げさせるにが良いかな?」

 

 

ちなみにとっくに失っている……。 

  

 

 




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柳の特技 餌付け



is アニメは見てるし浮かんだ奴を短編でチラシ裏で投稿してみようかな? この事へのコメント有ったら前回の活動報告にお願いします


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従者が金ピカと青タイツと半裸だったら…… ⑲ 

「良いかぁっ! キサマらに足らぬものは相手をぶっ殺す殺意だぁっ!! ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 レーティング・ゲームでリアスチームの助っ人になるバルバトスは一同を集め叫ぶ。その気迫にリアス達の中に口を開けるものはいなかった。

 

「戦いで負けても獲れるものは有るぅ? くだらぁん! 負け犬の遠吠えに過ぎぬぅ! 強いて言うならばぁ、敗者が獲れるのは負ければ払った犠牲が全て無駄になるという知識、それだけだぁっ!! 勝てば負けた時に得られるものなど敗者の姿を見ることで手に入るぅぅっ! 殺せ! 殺せ! 敵は徹底的に殺せぇ! 蹂躙し尽くすのだぁぁぁぁぁっ!! ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

バルバトスは背負った斧を抜くとリアス達に向ける。斧からは膨大なエネルギーが発せられ今にも爆発しそうだ。そしてバルバトスは斧を振り上げる。

 

「良いぜ、鍛えてやるよぉっ!! 死にたくなけりゃ死んでも走れぇぇぇっ!! ジェノサイドブレイバァァァァァァァァアアアアアアアアアッ!!!!!!」

 

 放たれた光は山々を貫通し吹き飛ばしながら地平線の向こうへと消えていく。そして次の瞬間には衝撃で真空状態になった空間に空気が一気に入り込み上昇気流が発生しリアス達を飲み込んでいく。

 

「何処へ逃げるぅっ! テメェらに……俺に鍛えられる資格はぬえぃぃぃぃぃぃぃいぃぃっ!!!!」

 

 再び放たれた光は遥か上空へと向かい、大爆発を起こす。偶々上空で偵察していた旧アスモデウス家の末裔と黒髪無表情ロリっ子の服が消し飛んだ。

 

「……むぅ。我、帰る」

 

 

 

 

 

 

 

「さて、我がキサマらに教える事などないな。と言うより、期間が短すぎる。心綱(マントラ)は一朝一夕で身につく物ではないしなぁ。よし! 此処は柳にさせていた訓練だな!」

 

「彼にさせていた訓練ですか……お願いします」

 

 ソーナは寝転んだままリンゴを齧るエネルに対して頭を下げる。匙は何かを言おうとしたがソーナに手で制された。

 

「やめなさい、サジ。彼に鍛えられれば私達は必ず強くなれます」

 

「でも、会長っ!」

 

「……夢の為に私達は強くならなければなりません。文句は言わせませんよ」

 

「さて、話は終わったか。では、早速始めよう」

 

 立ち上がったエネルは黄金製の三叉槍を手に取ると放電し、姿を消す。次の瞬間にはソーナの横面を逆立ちした状態で蹴り飛ばし木に叩きつける。怒って殴りかかった匙の頭に手を置いて跳び箱を飛ぶように後ろに回ったエネルは椿姫と仁村に手を向ける。

 

「三百万V放電(ヴァーリ)!!」

 

「「きゃぁぁぁぁぁああああっ!!」」

 

 エネルは匙の背中を殴り飛ばし、残ったメンバーを槍で薙ぎ払うと首に手を当てコキコキと鳴らす。その目は虫螻を見る目であった。

 

 

「弱いな、キサマら。大方”悪魔だから最初から強い”と今まで鍛錬を怠っていたのではないか? 悪魔家業と学業と生徒会、そして鍛錬の四つを全てこなして強くなれるとでも? ヤハハハハハハ! 愚かな事よなぁ」

 

「ま…まだです!」

 

「このままやられてたまるかよっ!」

 

 エネルは立ち上がってくるソーナ達を見て口角を僅かに釣り上げると片手で槍を回転させる。舞い上がった土煙が払われエネルは腰布に付いた汚れを手で払う。

 

「さて、準備運動は終わりだ。今からキサマらには柳が十歳の時にしていた訓練をして貰うぞ」

 

 

 

 

 

 

 

「おい、雑種。さっさと酒を注がんか」

 

「は、はい!」

 

 ズタボロのゼファードルは膝を地につけながらギルガメッシュの手に収まった黄金の酒盃にワインを注ぐ。ギルガメッシュが助っ人になった彼だが出会い頭に侮辱して両手両足を消し飛ばされ、少々甘くなったギルガメッシュの気紛れで復活させて貰った。そのあとはキレて殴りかかり返り討ちにされて今に至る。

 

「ほれほれ、速く走らないと死ぬぞ雑種ども。死ぬ気で走らぬと死ぬぞ」

 

『ぎゃぁああああああああっ!!』

 

 眷属達は上空から降り注ぐ聖剣の原典に追われるように必死に逃げる。一番後ろの者の背中ギリギリを掠めるように降り注ぐ聖剣は先程から降り注ぐ頻度が少しずつ上がり、一番後ろの者が先頭に行くと先程まで後ろから二番目だった者の背中を掠める。そして偶に正面の者の数メートル先の空間に剣が出現して高速で飛んで来ていた。

 

「……やれやれ情けない事だ。柳なら九歳の頃にはその倍速をこなしていたぞ」

 

「アンタ九歳児に何してんのっ!?」

 

「ククク、良いリアクションだ雑種。そのリアクションに免じて先ほどの不敬は特に許す」

 

 ギルガメッシュは酒を煽ると宙に手を翳す。空間に歪みが生まれテーブルと皿が出現した。

 

「さて柳の料理と雑種共の苦しむ光景を肴に至高の酒を……む?」

 

 皿の上には料理はなく綺麗に洗われているのでどうやら既に食べた後らしい。酒盃が握り潰されギルガメッシュはプルプルと震える。彼が徐に立ち上がると座っていた黄金の玉座も消え失せた。

 

「あ、あの、英雄王、何方へ?」

 

(オレ)は帰る。英雄王たる(オレ)が食べようとしていた物が食べられぬとは気に入らん。今すぐ帰って柳に何か作らせる。キサマらは勝手にしていろっ!」

 

 理不尽な理由で激高しているギルガメッシュはヴィマーナに乗って飛び立っていく。向かったのはアガレス大公家の領地だった。

 

 

 

「ディオドラの眷属はウィザードタイプが多いようですね。それも物心着いた頃から戦っている生粋の戦士ではなく聖女が殆どですか。コチラは元からの人外が多いですし地力では勝っています。後は戦略が大切ですね」

 

 朝の訓練を終えたアガレス陣営は柳と共に彼の料理を食べながら戦略を練っていた。シークヴァイラは一流の専属シェフを超える腕に驚きつつも冷静に食し優雅さを崩さない。だから眷属におかわりをされても彼女は出来なかった。

 

「あの、シークヴァイラさん。私がディオドラを倒してはいけませんよね?」

 

「ええ、当然ですね。今回のゲームは実力を見るものですから助っ人ばかりに活躍されては評価に関わります。今回貴方方は緊急時の指揮能力を計る為に参加していますので。……しかし貴方が戦いたがるとは珍しい。何か理由でも?」

 

 シークヴァイラが尋ねた時、柳は笑顔でテーブルにフォークを突き刺す。分厚いテーブルをフォークが貫通していた。

 

「奴は私の恋人を狙っています。しかも、くだらない理由で。……二度と近づけないようにズタボロにして後継としての価値をいろいろな意味で喪失させてやりたいんですよ。ほら、潰したり切り落としたりして」

 

 この後、重圧に耐えきれなくなったシークヴァイラは柳の申し出を許可した。

 

 

 

 

 




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死神憑きの少女

とあるマンションの一室で一人の少女がまどろんでいた。ウェーブの掛かった艶のある髪にそれほど大きくはないが形の良い胸。綺麗というより可愛いという言葉が似合う中々の美少女だ。彼女の枕的に置かれている、目覚まし時計の針は数十分前にセットされており、彼女が寝坊しているのは明らかだ。にも関わらず彼女は起きようとしない。

 

「ふみゅぅ……」

 

窓から差し込む朝日に彼女は眩しそうに眉をひそめ寝返りを打つ。その時、彼女しか居ない部屋に若い男の声が響いた。

 

『おい、起きろ相棒! 遅刻すっぞ!』

 

その声の主は部屋におらず、なぜか少女から聞こえてきた。別に彼女が男の声を出しているわけでも、人面瘡がある訳でもないのに確かに彼女から男の声がしたのだ。そしてその声を聞き、彼女は漸く目を覚ました。

 

「……おはよう、ギグ」

 

『おう! おはよう相棒! って、呑気に挨拶している場合じゃねぇぞ! 早く支度しろ! 遅刻すっぞ!』

 

「……分かった」

 

少女は眠そうな目を擦りながらベットから這い出る。着崩れたパジャマから下着が覗いていても彼女は気にする事なく寝室から出た。彼女が部屋から出ても家族からの朝の挨拶が聞こえてこない。部屋の隅には仏壇があり、そこには彼女の両親らしき二人の遺影があった。

 

 

 

彼女の名は神無月 理沙。死神に憑かれた少女である。そしてただ今一人暮らしの真っ最中だ。

 

 

 

 

なぜ彼女が死神に憑かれたか。それは彼女が幼い頃まで遡る。友達とツチノコを探しに入った山奥で彼女は不思議な女性に出会った。話す杖を持っているその女性は少女のような話し方をしたかと思うと突如鬼軍曹のような話し方へと変貌した。そんな彼女から理沙は一本の黒い長剣を渡されたのだ。なんでも理沙の体質がどうとか言った彼女は、異世界の神から盗んできた死神が封印されているという剣を渡すなり何処かへと消え去り、その剣を理沙が手に取った瞬間、建が彼女の体に吸い込まれていき、彼女の体から声が聞こえてきたのだ。

 

 

 

『あぁん? 此奴が贄か? まだ餓鬼じゃ……って! おい、クソババア! どこ行きやがった!? ……まぁ、良いか。おい、餓鬼。超抜無敵な俺の名はギグ様だ。覚えておきな。あ・い・ぼ・う』

 

ギグが言うには自分は三体の巨人を操って世界を破壊していたがレナという女に封印された。俺がお前に力を貸したら徐々に体の支配権が移るからジャンジャン力を使いな。っという事らしい。

 

 

 

なお、一般人の彼女にはそんな力など使う機会など無く、ギグの声も彼女が許可しなければ他の人には聞こえないので特に問題がなかった。そして何年か一緒にいたら情が移ったのかギグはあっさりデレた。両親も怪物に殺されたのではなくただの事故死であり、祖父だという任侠の世界の老人の援助もあって彼女は普通の生活を送っている。祖父とはたまに会うだけらしい。こっちの世界に引き込まない為っと言われたからだ。

 

 

 

なお、

 

『相棒がのんきに生活してたから俺が丸くなっただけで、本当の俺は残酷なんだからな!』

 

 

っとギグは言ったが、世界救済の旅でも世界破壊の戦いでも彼は結局デレる。

 

 

 

 

 

 

 

『おい、相棒! 寝癖はちゃんと直せ! 全くそんなんじゃ嫁の貰い手がねぇぜ?』

 

「……ギグに貰ってもらうから別に良い。感覚共有しているからお風呂もトイレも見られてるし……責任とって」

 

『ば、馬鹿野郎! からかうんじゃねぇよ!』

 

登校中、寝癖をそのままにして外を歩く理沙に対し、ギグが苦言を呈するも帰ってきた返事に照れくさそうな声を上げる。なお、理沙は直接ギグの姿を見たことはないが、彼の昔の所業を夢で見た事がある。そのため彼の姿は知っていた。なお、丁寧な言葉を使う、ヴィジランスと呼ばれているギグの姿も見た事があるが、

 

「キモイ」

 

っと一蹴して終わった。

 

 

彼女が学校に向かって歩いていると友人の姿が見えてきた。

 

「……おはよう、元ちゃん」

 

「ん? 理沙か。おはよう」

 

彼の名は匙 元志郎。理沙とツチノコを探しに行った幼馴染である。そしてギグの事を知っている唯一の人間。いや、人間だったっと言うべきであろう。彼は今は人間をやめ、悪魔になっているのだ。

 

「そういや会長が言ってたんだがよ、グレモリー先輩がお前に会いたがってたらしいぞ。お前を眷属にしてぇんじゃねぇの?」

 

「……面倒くさい。ギグはどう思う?」

 

『ケx! ゴミ虫が俺と相棒を良いように使おうってか? そんときゃ皆殺しにすれば良いじゃねえか。まぁ、無視だ、無視!』

 

「分かった。そうする」

 

そんなこんなしている内に予鈴のチャイムが鳴り、匙は慌てて走り出す。理沙も小走りに走り出すと匙をアッサリと追い抜き、校内に入っていった。

 

 

 

 

「……おはようございます。あの、放課後部室に来るように部長が言ってました」

 

「……行かない。今日は早く帰って時代劇の再放送見るから」

 

一時間目の科目は体育。更衣室で着替える理沙に一人の少女が話しかけてきた。彼女の名は塔城小猫。先程言っていたグレモリーの眷属悪魔である。なお、理沙と彼女は二人揃って小柄な美少女な為、学園のマスコット扱いされていた。彼女の誘いを断って着替えをする理沙であったが、ギグにも見えていることなど気にせず他の女子生徒の着替えから視線を逸らさない。あまり他人に興味がないようだ。そんな時、彼女の耳にギグの声が聞こえてきた。

 

『おい、相棒! あの空きロッカーの中! 覗かれてんぞ!』

 

「……うん」

 

すると彼女はカバンに入れていた痴漢撃退用のスプレーを手に取るとロッカーの中に吹き付ける。すると中から変態三人組と呼ばれる二年生達が飛び出し、他の生徒にボコボコにされていた。理沙は彼らを無視して着替えを終え部屋を出ようとし、その背中に小猫の声がかかる

 

「……着替えたし、早く行こ」

 

「……今日のお菓子は駅前の一日限定二十個のワッフル」

 

「行く」

 

『相棒!?』

 

どうやら甘い物にに弱いようだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後、理沙は旧校舎にあるオカルト研究部に向かった。案内に祐斗という女子に人気の男子を付けるっと言われたが、

 

 

「キモいギグに話し方が似てるから嫌」

 

っと断った。彼女が部室に入ると中に部員が集まっていた。その中には変態三人組の一人である兵藤一誠の姿もある。今朝のスプレーの影響か両目が赤く腫れ上がっていた。そして彼らの中心にいるのは紅髪の少女、リアス・グレモリー。理沙を呼び出した張本人である。

 

「……変態がいるから、オヤツ食べたら帰って良い?」

 

とりあえずダメ元で聞いてみた……。



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死神憑きの少女 ②

「もきゅもきゅ」

 

オカルト研究部の部室では理沙が美味しそうにワッフルを頬張っている。。その姿はまるでリスのようであり、見ていて癒されるものがあった。彼女は最後のひと欠片を飲み込むと朱乃がいれたお茶を飲み込む。その姿を見たリアスは口を開いた。

 

「……もう良いかしら?」

 

実は先ほど食べている途中に話しかけ、

 

『いま相棒が食べてる途中だろうがっ! 話しかけんじゃねぇ、ゴミ虫野郎!』

 

っとギグからお怒りの言葉を貰い、苛立ちながらも黙る事にしたのだ。

 

「……うん。いいよ」

 

「そう。それじゃあ単刀直入に言うわ。私は貴女の力に興味があるの。異世界の神の力ってどんなのか教えてくれないかしら?」

 

「よく分からない。ギグ、どんなのだっけ?」

 

『またかよ相棒……。ったく、しっかりしてくれ』

 

リアスの言葉に理沙は首を傾げながら答え、それに対してギグから呆れたな声が上がった。もう何年も前から何度も説明しているにも関わらず覚えないのだ。

 

『……ちょっと待て。そもそもなんで俺様の力の事を教えなきゃいけねぇんだ? 帰るぞ相棒』

 

「うん」

 

「ちょっ!? 待ちなさい! 少しくらい……」

 

理沙はそう言うなり立ち上がって部室から出ていこうとする。それを止めようとリアスが声をかけた時、理沙がクルリと振り向く。その手には黒い剣が握られていた。

 

「……鬱陶しいなぁ。ギグは嫌だって言ってるでしょ?」

 

その瞬間、彼女から発せられる殺気によってリアスの身は竦み、気の弱いアーシアなどは息が苦しそうにさえしていた。

 

『おい、相棒。その変にしておいてやれ。じゃねぇと後々面倒だ。こういうゴミ虫どもは仲間の仇だ、メンツだ、とか何とかうっせぇからな。まぁ、そん時は特別に無償で力を貸してやっても良いけどよ……』

 

「分かった」

 

だがギグが諌めた途端殺気は綺麗に消え去り、そのまま理沙は部室から出て行った。なお、これまで何度か理沙は力を借りているが、毎回特別に無償で力を借りている。もう、無償で貸すのが普通になっていた。人はソレをツンデレという。なお、ギグの場合は0.1:9.9である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数日後、理沙は駅前の噴水で人を待っていた。まだ相手は来ておらず、先程からナンパ目的の男達が話しかけてきている。

 

「ねぇ、俺達と遊びに行こうよ」

 

「嫌」

 

「まぁまぁ、そんな事言わずにさ!?」

 

そして遂に一人が強引に連れて行こうと彼女の腕に手を伸ばす。そしてそのまま力尽くで連れて行こうとするも何故か動かすことができず、彼らが困惑した時、後ろからドスの効いた声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイ、アンちゃん達。俺の孫に何か用か?」

 

「ひっ!?」

 

男達が振り返ると其処に居たのは、明らかに任侠の世界の大親分といった感じの大柄な老人。その後ろにはサングラスを掛けたガラの悪い男達が睨みを効かしていた。

 

「まぁ、何だ。別に此処辺でナンパをするなとは言わねぇ。だがな、俺の可愛い孫娘に手ェだそうってんななら……少々社会勉強して貰う事になるぜ?」

 

「ご、ごめんなさ~い!」

 

老人に脅しを受けた男達は逃げ出して行き、周囲の人達も恐れをなして逃げ出す。すると老人は後ろの男たちの方に振り返った。

 

「おい、テメェら。もう帰って良いぞ。ってか、隠居した爺に何時までも付き纏ってんじゃねぇ」

 

「「ウッス! では失礼させていただきます! お嬢もお元気で!」」

 

「……私、お嬢じゃないんだけどなぁ」

 

理沙のその呟きは誰の耳にも届く事はなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、行くか。なんか食いてぇモンはあるか?」

 

「……ファミレスの新メニュー。あと抹茶パフェ」

 

老人は先程までとは違って柔らかな笑みを理沙に向ける。彼の名は剛田次郎吉。先程のやり取りから分かる通り、ヤのつく組織の先代であり、理沙の実の祖父である。彼女の父親が一度勘当した彼の息子なのだが、彼の死後孫を見つけたものの、堅気の世界を望んだ孫娘のために離れて暮らし、こうしてたまに一緒に出かけているの家族連れも多くくる店という事で用意していた車は帰らせ、二人は目的の店に向かって歩きだした。

 

 

 

 

その時である。二人の視界に異様な光景が飛び込んで来たのは。

 

 

「えー、迷える子羊にお恵みを~」

 

「どうか、天の父に代わって哀れな私達にお慈悲をぉぉぉぉ!!」

 

そうやら異国の少女二人が街中で物乞いをやっているようだ。その異様な光景に通行人は唖然としながら逃げるように避けていく。やがて二人の会話は物騒なものになっていった。

 

 

 

 

 

「こうなったら通行人を脅して金を奪うか?」

 

「そうね! 異教徒相手なら主も許してくれるわ!」

 

どうやら二人は空腹がピークに達しているらしく正常な判断ができなくなっているようだ。そんな時、二人の後ろから声がかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、嬢ちゃん達。物騒な話じゃねぇか。この辺をウチの組の縄張りとしってそんな事しようってのか? それにな、神さんが許してもお巡りさんが許しちゃくれねえぞ」

 

声を掛けたのは次郎吉。彼は財布から万札を数枚出すと彼女達が地面に置いた箱に放り投げた。

 

「腹が減ってんならソレで何か食いな。無駄使いするんじゃねぇぞ」

 

「「あ、ありがとうございます!」」

 

そう言って通り過ぎた時にかけられた二人のお礼の声に対し次郎吉は振るリ向かず手だけ軽く振ってこたえた。なお、今までの会話は英語で行われており理沙にはチンプンカンプンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前もよく食うが、あの嬢ちゃん達もよく食うなぁ……」

 

その後、次郎吉の視線の先には大量の料理を掻き込む二人の姿。そして目の前には彼女達二人の三分の二程の量の料理を食べている孫娘の姿があった。

 

「?」

 

「あ~もう。いいから好きなだけ食いな。ちゃんと爺ちゃんが支払い済ますから。……まだなんか頼むか?」

 

「うん♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なぁ、相棒。最近変な気配すっからよ、警戒しておけよ? そろそろ新しい人形作っとけ』

 

「うん。そうする」

 

数日後、ギグの忠告を受けた理沙は机に向かった。机の上にあるのは3×3マスの台座とその上に置かれた人形。人形は兵士のような物からドラゴンやグリフォンのようなもの。ドラグソボールの主人公の変身した姿のようなものまである。そして理沙が手を翳すと杖を持ち仮面を被った魔術師の様な人形が出来上がった……。

 

「……上手くいった」

 

『相棒それ好きだよなぁ……。それで何体目だよ?』

 

理沙はその人形を手に取り満足げに笑う。そしてギグの呆れたような声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……確か十五体目。大丈夫、私が一番好きなのはギグだから」

 

『俺も相棒が好きだぜ!』



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死神憑きの少女 ③

「……眠れない」

 

理沙は不機嫌そうにベットから起き上げる。窓を開けた彼女は駒王学園の方をジッと睨んでいた。ギグと融合して既に十年以上が経った彼女は超常的な力の察知能力が過敏となっており、たとえ結界で覆われていても魔力や何やらの力を感じ取る事ができるのだ。彼女は知る由もないが、学園ではエクスカリバーを強奪した堕天使幹部コカビエルとその手下を打倒すべくリアス達が戦っていた。そしてその戦いのせいで理沙の安眠が妨害されてしまったのだ。

 

『あ~あ、怒らせちまった。眠るのを邪魔された相棒は怖ェぞ』

 

ギグは原因となった者達に少しだけ同情の念を送った。

 

「ギグ。五月蝿いの黙らせに行こ?」

 

『……へいへい。このままじゃ街もヤバイしな。相棒は俺が守るけど、駅前のパン屋のアップルパイが食べれなくなるのは惜しい。んじゃ、行こうぜ』

 

ギグがそう言うなり理沙は窓から学園めがけて飛び立っていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くっ、そろそろ結界が」

 

リアス達が校庭で戦っている頃、ソーナ達はコカビエルが逃げ出さないように結界を張っていた。しかしコカビエルの力の余波で結界は軋み、元々一般人が中心の眷属達には限界が訪れていた。特に魔力も少なく経験の浅い匙は大量の汗を流しながらこらえている。このままでは援軍の到着まで持ちそうにない、そうソーナが判断した時、すぐ後ろにパジャマ姿の理沙が現れた。

 

「元ちゃん。こんばんわ」

 

「おう、こんばんわ。って!? 何でこんな所に居るんだよ!? さっさと帰れ!」

 

『うっせぇぞ、ゴミ虫! 幼馴染だからって相棒に指図すんな!』

 

「……さっきから五月蝿くて眠れない。五月蝿い奴らこの中だね?」

 

理沙はそう言うと匙を無視して剣を振り上げ、結界を容易く切り裂くなり中に飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……所詮はこの程度か。期待はずれだったな」

 

コカビエルは煙が上がる腕を前に差し出した格好のまま残念そうに呟く。一誠の神器によって力を大幅に上げたリアスの滅びの魔力も防がれ、ゼノヴィアの聖剣や祐斗の禁手で作り出した聖魔剣も防がれてしまう。

 

「雷よ!」

 

「鬱陶しい!」

 

そして朱乃の雷も指先で払われ霧散してしまう。コカビエルはその光景を見て心底失望していた。教会から派遣されたエクソシストも、魔王の妹や伝説のドラゴンを宿した転生悪魔。そして戦友の血を引く娘。少しは楽しめると思っていたのに結果は腕に少々の傷をつけただけ。はっきり言って期待はずれも甚だしい。

 

「(そういえば異界の神に憑かれたという小娘が居たのだったな。だが、どうせ雑魚だろう)」

 

もうリアス達に興味の失せたコカビエルはリアスの仲間を殺し、リアスを犯してから殺す事で魔王の怒りを買うという目的を果たそうと光の槍を作り出し、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サンダーロッド」

 

「!? がぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 

 

 

 

突如聞こえたその声とほぼ同時に途轍もない規模の雷に襲われ地面へに叩きつけられた。全身を黒焦げにしながら立ち上がると背後に居たのは日本の龍を模した様な仮面をつけた魔術師らしき男。彼が杖を振るうとコカビエルの足元に魔方陣が出現した。

 

「(何か知らんがこれはヤバイ!)」

 

培われた経験によってそれの危険を感じとったコカビエルは直ぐに脱出しようとし、足元で起きた爆発によって吹き飛ばされた。

 

 

 

「『ダメージサークル』。下手に動けば危険じゃぞ。まぁ、動かんでも危ないがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おのれぇぇぇっ!!」

 

ボロボロになりながらも魔方陣から脱出したコカビエルは相手が魔術師なら接近戦に弱いはずっと判断し、次に行動される前に殺しにかかる。だが、又しても突如現れた男によって防がれる。紫色の髪を逆立てたその男はコカビエルを片手で受け止めるとそのまま宙に投げ飛ばし両手を向ける。そしてその両手から無数の気弾が放たれた。

 

「欧米!」

 

その技の名は『絶斗連弾』。その見た目は某野菜王子の得意技のごとし。すべての直撃を受けたコカビエルは自慢の羽が全てボロボロになり、息も絶え絶えだ。そしてその背後に黒い剣を持った理沙が立っている。

 

「……貴方のせいで夢から覚めた」

 

その言葉と共にコカビエルの右側の翼が全て宙を舞い、

 

「せっかく良い夢だったのに……。ギグとの結婚式の途中だったのに……」

 

次に左側の羽が鮮血と共に宙を舞う。

 

『おい、相棒! コイツもゴミ虫の中では少しはできやがる。今回は無償で力貸してやっからさっさと決めろ!』

 

前も書いたがギグは一度も代価を受けとていない。今回は、ではなく今回もっと言うのさえ馬鹿馬鹿しい。

 

「……ギグパワー大注入!! 殺・神・遊・戯!!!」

 

その瞬間、理沙の力が増大し、理沙はコカビエルを四方八方から斬り付ける。そのスピードは既に祐斗を超えていた。そして理沙の体が黒いオーラに包まれ、剣と一緒に宙に浮く。

 

「もっと…もっと力を……」

 

『……おい、相棒。そのセリフは辞めてくれ。何か寒気がしやがるんだ』

 

やがて理沙の髪が灰色に染まり、両肩に宙に浮く黒と赤の肩当てが出現する。そして剣を横薙ぎに振るうと赤色に包まれた黒いオーラが彼女を包むと同時に無数の矢となってコカビエルを貫く。そしてそのオーラはコカビエルの体に留まり、理沙は先程までとは比べ物にならないスピードで残像を残しつつコカビエルを何度も斬りつけた。やがてオーラに包まれた剣は巨大な赤い鎌となり、

 

 

 

 

「……消えなよ」

 

 

コカビエルの体を真っ二つに切り裂いた……。

 

 

 

 

 

 

 

「……眠い」

 

「ちょっ、ちょっと待って!」

 

元の姿に戻った理沙は眠そうに目を擦りつつ校庭から出ようとする。その時、リアスが大声で呼び止めた。

 

「……何? 私早く帰って寝たいんだけど……」

 

理沙から放たれたのはコカビエルに向けられたもの以上の殺気。彼女にとってコカビエルもリアス達も安眠妨害の犯人でしかなく、むしろ終わったと思った所を呼び止められた事に怒りを募らせていた。

 

「……ちょっと聞きたいだけよ。先まで居た彼らは誰? どこへ行ったの!?」

 

「……私は質問ばかりする人が嫌い。対価も払わずに相手が何でも答えてくれると思っているから……」

 

さらに強まる殺気にリアスは怯み、アーシアは息すらままならなくなる。その時、小猫がそっと近づいていった。

 

「……駅前の屋台のタイ焼き全種十個ずつ」

 

『はっ! その程度で今の相棒が……』

 

「ギグの力で創ったお人形。いつもは部屋に置いているけど呼んだら出てくる。……たこ焼きも付けて」

 

理沙はそう言うと家に帰って行き、後からやってきた堕天使組織の使いである白龍皇は気まずそうにコカビエルの死体を回収していった……。あと、エクソシストの片方が悪魔になった。




基本ヴァーリはオチ担当

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欧米!


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死神憑きの少女 ④

ドラゴンボールでブロリーは超野菜1に負けたからそんなに強くないって最強考察では下の方だけど、サイヤ人にはあの特性があるから二番目の登場の時はパワーアップしてるよね?


「アイツについて訊きたいって、あの馬鹿、また何かしたんですか!?」

 

コカビエル襲来から数日後、リアスとソーナが同席する部屋に呼び出された匙は理沙について聞きたいと言われ、開口一番にそう叫んだ。どうやら昔から彼女が頻繁に何かをやらかし、匙が巻き込まれてきたらしく、彼は頭を押さえ込んでいる。

 

「サジ、落ち着きなさい」

 

「何もやってないわ。ほら、あの子がコカビエルを倒したでしょ? 魔王様方にあの子の事を報告しなきゃいけないのよ。あの子ってどんな子なの?」

 

「変な奴です。付き合い長いですけど未だに何を考えているか分からないんですよ」

 

匙は真面目な顔で即答した。

 

 

 

 

 

「……まぁ、良いでしょう。それであの剣はどうやって手に入れたものなのですか?」

 

「あ~、アレは当時の俺がアイツととツチノコを探しに行った時のことっすね」

 

匙はしみじみと幼い頃の話をし始めた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逸れたアイツが、魔女の幽霊から貰った、って言いながらあの剣を持って来ました」

 

「「それだけ!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

匙が二人に呼び出されている時、理沙は一人で昼食を摂っていた。これは別に彼女がボッチという訳ではなく、ギグと話をしながら食事をする為だ。だが、なにか様子がおかしい。先程からギグの必死の叫びが響いていた。

 

『や、やめろ相棒! 喰うな! 喰うんじゃねぇ!』

 

「……嫌。お腹空いた。食べたい」

 

『相棒ぉぉぉぉっ……』

 

ギグの必死の懇願を却下した理沙はゆっくりと口に含んだ物を咀嚼して飲み込んだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ~、すっぺ~! 止めてくれって言ったじゃんかよぉ。酷いぜ、相棒』

 

「ギグって本当に梅干嫌いだね」

 

理沙はそう言って次のオニギリに手を伸ばす。今度の具はギグも好きなツナマヨだったので特に何も言われずに済んだ。理沙とギグの感覚の共有。普段は困らないが今回のように嗜好が違う時には困った事になる。普段はギグ第一の理沙ではあるが、食べ物に関しては決して譲らない。その後も黙々と食べ続け、重箱の中のオニギリをすべて食べ尽くした理沙は微睡みに身を任せる。

 

「……お休み、ギグ」

 

『おう。お休み、相棒。予鈴が鳴ったら起こしてやっからゆっくり眠りな』

 

ギグは理沙のみに向ける優しい声でそう囁き、理沙の意識は静かに沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……俺はアイツを幼い頃から見てきたんっすよ。だから俺はアイツを守りたい。会長の眷属になったのもその為です」

 

その頃、匙は真面目な顔で小っ恥ずかしい事を語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうやったらギグを外に出せるのかなぁ」

 

『俺は今に十分満足してるって言ってんだろ? それとも相棒は今の状態が嫌なのかよ?』

 

「……嫌じゃないけど」

 

その夜、理沙はベットに入りながらそう呟いた。二人は常に一緒に居るし話もできる。まさに一心同体の二人だが、互いに顔を合わせる事も、互いの体温を感じる事もできない。理沙は溜息をつくと電気を消し、そっと目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「剣の中の子を出す方法が知りたいの? なら、私が教えてあげようか?」

 

「貴方は……」

 

そこには理沙に剣を渡した魔女、ルジュが微笑みながら浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……授業参観かぁ」

 

『あん? 爺さんにでも来てもらえば良いじゃねぇか』

 

数日後、授業参観のお知らせのプリントを渡された理沙は複雑そうな顔で帰宅していた。ギグは気楽に言うが理沙の祖父はヤクザの先代組長であり、両親が死んだ今もそちらの世界に巻き揉まない為に生活費を毎月振込み、たまに会うだけにしている。

 

「……お祖父ちゃんは駄目。あの人見た目が怖いから、他の来た人に怖がられたら可哀そう」

 

『……そうか。なら、俺が代わりに見ててやるよ』

 

「……有難う、ギグ」

 

普段あまり表情が変わらない理沙だが、この時の彼女はかすかに微笑んでいた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……忘れてた。組員の人の子供も通ってるんだった」

 

「祖父ちゃんに隠し事なんて水癖ぇじゃねぇか、理沙ちゃん」

 

授業参観当日、教室に居た祖父を見て理沙は溜息をつきながらも内心は喜んでいた。やはり彼と彼の息子である叔父と従姉妹を除いて彼女には身内がいない。故に祖父である次郎吉が参加してくれたのが嬉しかった。次郎吉も何時もの着物ではなくTシャツにジーンズという服装で多少強面の老人にしか見えず、理沙が当初心配していたような事もなく授業は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今夜は何食べに連れてってやろうか?」

 

「……中華」

 

「おう、任せとけ! 良い店知ってんだよ。北京ダックが自慢の店でな……なんか騒がしいな」

 

午前の授業も終わり昼休みになった頃、理沙と話をしていた次郎吉は騒ぎに気付いて其処に視線を向ける。何やら騒いでいる集団があり、其処には彼が見知った少年もいた。

 

「……彼処にいんのは元坊じゃねぇか。ああ、確か生徒会に入ってんだったか?」

 

「うん。多分会長に惚れてるんだと思う。……お昼行こ。お祖父ちゃんの分もお弁当作ってきたから」

 

「おお! すまねぇな。いや~、楽しみだ」

 

騒いでいる孫娘の幼馴染より孫娘の手料理を優先した次郎吉はそのまま騒ぎから離れていく。その二人の背中を見ている者舘がいた。

 

「……あの子が死神憑きの少女か」

 

「なんか思っていたより普通だね✩」

 

二人の名はサーゼクスとセラフォルー。冥界を支配する魔王である……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……会談に出て欲しい? 面倒臭い」

 

「そ、そこを何とかならないかしら?」

 

理沙は頼みを速攻で断り、リアスは顔を引きつらせながらも食い下がる。コカビエルの襲撃を機におこわなれる今回の会談には彼女の出席が望まれているのだ。その為リアスは必死に頼み込み、つにに堪忍袋が破れた。

 

 

 

 

……ギグの。

 

『……しつけぇよ、ゴミ虫が! おい、相棒! 今回は代価無しで良いから暴れっぞ! ギグパワー全注にゅ……』

 

正確に言うと今回もだ。

 

「駅前の老舗和菓子屋の桜餅十個!」

 

「……わらび餅も十個」

 

「構わないわ。……匙君に聞いたとおりね」

 

だが、理沙はお菓子で釣られ出席を承諾する。あと少しで全力を出す所だったギグは不完全燃焼に陥り、モヤモヤした気持ちに包まれた。

 

 

 

 

 

 

『そりゃねぇぜ、相棒ぉぉぉぉぉぉぉ! ……栗むし羊羹もつけろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、ギグはお腹いっぱい食べて眠そうにしている理沙に怪訝そうに話しかけた。

 

『……なぁ、相棒。なんで会談の事を承諾したんだよ? いくら甘いもの好きのお前でも。……まさかあの魔女が言ってた事信用してんじゃねぇだろうな?』

 

「……ギグが外に出られる可能性があるなら、私はそれに縋りたい」

 

 

 

 

 

 

 

ルジュは理沙にこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中に居る豚を出す方法? 下らんな! その程度の事など簡単だ。その剣の力で魔王クラスの奴を沢山喰らって、その力をその豚に渡せば良いだけだ!」




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クレスがセラフォルーの息子だったらってやつ、もしかしたら書くかも

ヒロインは気弱系のヴァーリの妹にしたり 眷属一新して……


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悪魔の力を手に入れました……

青年は気づくと白い空間にいた。辺りには何もなく、目の前に机と紙と鉛筆が有るだけだ

 

「ここは? 私はベットに入ったはずですが……これが明晰夢という奴でしょうか?」

 

青年が首を傾げながら紙に目をやると、急に文字が浮き出た

 

「……やっぱり夢ですね。何何、おめでとうございます?え~と、あなたは厳選なる抽選の中、転生者に選ばれました。つきましては下記の項目にご記入ください。なお、転生先はランダムです。ただし、ファンタジー系の世界になっています。……二次創作の読みすぎですね。これはまたお約束な。まぁ、せっかくの夢なんだから楽しみましょう。ここは一つ、真面目に答えてみますか」

 

『質問①前世の記憶はどうしますか?』

 

「要りませんね。子供からやり直すのも抵抗がありますし。うわっ!?」

 

青年が記入した途端、質問①は消え、次の質問が現れた

 

『質問②特典はどうしますか?ちなみに、原作には関わります』

 

「それを最初に言ってくださいよ。じゃあ、ファンタジーという事で悪魔の力で……」

 

青年はそう言って『悪魔の力』と記入した。すると、その質問も消え、穴の空いた箱と共に次の質問が現れる

 

 

『3枚引いてね♥ キャンセルはできないよ♪』

 

「……うざっ!」

 

青年は渋々といった様子で三枚の紙を引く。その紙に書かれていた名前を読んだ瞬間、青年の顔は引きつった……

 

「……幾ら何でもこれは。いや、夢ですし、仮に現実だったとしても行く世界によっては、いや、しかし……」

 

腕を組み頭を悩ませる青年だったが、突如、足元の床が抜け

 

「こんな所までお約束ですかぁぁぁぁぁぁ!」

 

暗闇の中へ落ちていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから二十数年後。一人の青年が大量の書類をこなしていた。彼はもの凄い速さで書類をこなしているが机の上にはまだまだ書類の山が積み上がっている。ついに限界を迎えたのか青年お手がピタリと止まった。

 

 

「支取さ~ん。この書類いくらあるんですか?」

 

「それで最後です、芥辺先生」

 

彼の質問に答えたのはメガネを掛けた真面目そうな女子生徒。彼は駒王学園という高校で生徒会の顧問をしており、目の前の彼女は生徒会長の支取蒼那という生徒だ。彼女の返答を聞いた彼――芥辺 薫は溜息をついて書類の山を見上げた。

 

「……明らかに生徒会以外の仕事も入っているのですが何故でしょう? この書類なんて理事長の仕事じゃないですか……」

 

「それは先生が優秀だからです。他の先生方は貴方に期待なさっていらっしゃるのですよ」

 

「……これは単に押し付けられているだけでは? 私は貴方達悪魔と違って人間だから体力の問題があるというのに……」

 

そう、彼の言った通り生徒会長は、いや、生徒会のメンバーは彼以外悪魔なのだ。それどころか理事長なんて魔王でもある。なぜ彼がそんな事を知っているかと言うと、それは彼の少年時代にまで遡る。

 

 

 

 

 

「……なんだこりゃ?」

 

それは田舎の祖父の家の蔵に入った時の事だった。突如棚の上から落ちてきたのは一冊の本。中に書かれているのは彼が知らない文字にも関わらず何故か内容が理解できた。そして彼がその本のことを理解した時、その本は彼の体の中に吸い込まれていった……。

 

 

 

 

 

 

 

「(……あれから大変でしたよね。本を狙う奴らに襲われて悪魔やらの事を知っってしまいましたし)」

 

彼は昔を思い出しながら書類を片付ける。その速さは某悪魔の執事のようだった。彼は昔から何かとスペックが高いのだ。もっとも、薫と某執事では体力やらの差がありすぎて頭で分かっているのに体が追いつかず、とても敵わないが。そして薫が何気なく本を出した時、生徒会のメンバーが一斉に青ざめてその場を飛び退いた。

 

 

「先生! その本を出さないでくださいと何度も頼んだではないですか! 私達悪魔がもし触れてしまったらただでは済まないんですよ!?」

 

「あ、すいません」

 

薫は慌てて本を仕舞う。実はこの本に悪魔が触れてしまった場合、とんでもない厄災がその悪魔を襲うのだ。その為、彼を狙う者達は多い。悪魔の敵対者や本を危険視する悪魔達。最も、本は破壊できず使用者が死んだら次の使用者に移るようになっているので、理事長とは違う彼の知り合いの魔王は彼を監視する意味合いも兼ねて生徒会に入れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその夜、薫はとある廃屋にいた。明らかに血の匂いを漂わせる女性に誘われて廃屋に入った途端、彼女が怪物になったのだ。

 

「ヒヒヒ、美味ソウダ」

 

怪物は上半身は女性の裸体。下半身は獣の様になっており、両手には槍を持っている。そして怪物は薫を踏みつぶそうと足を振り下ろす。

 

 

 

 

 

「……『暴虐』」

 

だが薫が本を出してそう唱えた途端、彼の腕が膨れ上がり怪物の足を受け止める。重量によって床がヒビ割るも彼は平然とした顔をしていた。

 

これが薫が本で手に入れた力の一つ『暴虐』。最もこの怪力は副産物に過ぎず、真の力は別にあるのだが。薫は片手で怪物を投げ飛ばすと目を見開く。

 

 

 

「『暴露』!!」

 

その瞬間、腹の鳴る音と共に怪物は腹を押さえて悶えだした。

 

「ハ、腹ガ痛イ!?」

 

「ふふふふふっ! これが『暴露』の力の一端! 強制脱糞! ……何格好つけて言ってるんでしょうか。では、トドメです! ソード……」

 

 

 

 

 

「出てきなさい、ハグレ悪魔バイサー……って芥辺先生?」

 

「ああ、今晩わ、グレモリーさん。部のメンバーと一緒という事は貴女の獲物でしたか?」

 

「え、ええ。先生は何で此処に?」

 

突如乱入してきたのは赤髪の少女。彼女の名はリアス・グレモリー。彼女も悪魔である。後ろには同年代の少年少女達がいた。

 

「私はアイツに誘われましてね。明らかにヤバそうだったので一般人に被害が出る前にと思ったのですが貴女の仕事でしたらお譲りしますよ。さっ、どうぞトドメを」

 

「……あの職能を使いました?」

 

「……ええ」

 

リアスは哀れむような目で怪物――バイサーを見る。そして溜息をつくと掌からドス黒い魔力を放出した。

 

 

「せめてひと思いに殺してあげるわ……」

 

その魔力はバイサーを包み込んで消し去る。消しさられる際にバイサーは言った。

 

「……アリガトウ」

 

どうやら腹痛に耐えながら嬲られるよりは何倍もマシだと思ったようだ……。リアスは一息つくと薫がいた方を振り返る。

 

 

「では、先生。詳しい話を……てっ、居ない!?」

 

リアスが振り返ったときには薫の姿は綺麗に消え去っていた。これが彼の力の一つ『隠匿』である。

 

 

「さっ、話は面倒くさいし早く帰って寝ましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

薫の能力

 

① セバスチャンの事務等の能力(身体能力除く) 黒執事

 

② グリモア及び悪魔の職能(モロクの怪力やルシファーの口からの光線など職能中に悪魔の力を得る。自分へのグリモアの罰則なし) よんでますよ アザゼルさん これは本を手に入れた時に手に入れた

 

③ 魔界戦記ディスガイアの超魔王バールの技(sp不要) こっちも本と同時に手に入れた

 

 

 

 

続かない

 

 

 

 

 




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悪魔の力を手に入れました…… ②

細かいツッコミは無しの方向で! (*´∀`*)


「悪いが旧校舎まで案内してくれないか」

 

その日の放課後、宿直当番が回ってきた薫は夕御飯を買いに学園を出ようとした所で二人の少女に呼び止められた。少女らは白いフードをかぶって顔を隠しており、非常に怪しい。当然のごとく薫は警戒した顔で二人を見た。

 

「……何方でしょうか? 部外者を簡単に学園に入れる訳にはいかないのですが、入学希望の方……っという訳では無いようですね」

 

「怪しい者ではない。リアス・グレモリーに用があるだけだ。一般人は下がっていてくれ」

 

「不審者は『私、怪しい者です』なんて言いません。……一般人? ああ、貴女方が教会の方ですか?」

 

「……貴様、悪魔の手先か! 私達の事を知りながら足止めするとは良い度胸だ!」

 

薫はソーナから教会の使いが来ると言われていた事を思い出し、そう呟く。すると今度は二人が薫に警戒心を向けてきた。片方の青髪の少女など手に提げた包みに手をかけている。包みの上からでもそれが剣だと解った。だが、殺気を向けられているにも関わらず薫からは余裕が感じられる。

 

「違いますよ。私はちょっと変な本に選ばれた悪魔を知っているだけの一般人です。その本に興味を持って近づいてきた魔王と知り合いになってコネで此処に就職しましたけどね。貴女達の事は関係ないから忘れてただけですよ。じゃあ、ご案内いたします」

 

不機嫌な少女達を尻目に薫は飄々とした態度で旧校舎までの案内役を請け負った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君達、正座」

 

「え、いや、これは……」

 

「正座」

 

「……はい」

 

その日の夜、校庭の方から違和感を感じた薫は一誠によって小猫とアーシアの服が弾け飛ぶのを目撃。すぐに上着とワイシャツを二人に着せ、今度はグリモアを出現させて行われていた戦闘行動を止めた。今は宿直室でリアス達を正座させている所だ。

 

 

 

 

 

 

「……生きていても良い事なんてない」

 

「……主は私達なんてお救いにならないわ」

 

「……死にたい」

 

 

 

 

「あっちの絶望している三人は放っておくとして……グレモリーさん。なんで校庭で戦闘なんてことになったのかな? いや、確かに此処は裏では君達の領土という事になってるよ?  でも、学園には一般人も通ってるよね? 修繕とかで迷惑受けるのは彼らなんだよ? そこの所解ってる?」

 

「……反省してます」

 

「次は兵藤くんね。あの技は何? あの戦いで使うべきだったの? 一応訳があって戦いになったんだよね? じゃないと試合形式の戦いなんてしないよね? そんな戦いで欲望優先するなんてどうなの? ……一ヶ月程不能になってみる?」

 

「ご、ごめんなさぁぁぁぁぁぁい! それだけはご勘弁をっ!!」

 

薫の表情は笑顔で口調も穏やかではあったが、言い表せれぬ恐怖を感じた一誠達は素直に説教を受け続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……妙に宿直が続くと思ったらこういう事ですか。臨時ボーナスに釣られた私が馬鹿だった」

 

そう言って溜息を吐く薫の目の前には十枚の羽を生やし、宙に浮かぶ堕天使の姿があった。彼の名前はコカビエル。聖剣エクスカリバーを強奪し、三勢力間の戦争を再び巻き起こそうとしているのだ。轟音に驚いて様子を見に出てきた薫の視線の先には砕けたエクスカリバーと血を流して倒れる白髪の少年神父と老人の死体。そして傷ついた生徒達の姿だった。どうやらこの事態を想定して宿直の仕事が連続して入れられたと理解した彼は痛む頭を押さえる。コカビエルはそんな彼を興味深そうに見ていた。

 

 

 

「おい、人間。貴様がブックマスターだな? 名を名乗れ」

 

ブックマスター。それはグリモアを使う事から薫に付けられた異名である。なお、本人は厨二臭いと嫌がっている。

 

「芥辺 薫。ですよ。あ~……」

 

「俺の名はコカビエルだ。おい、単刀直入に言うぞ。貴様の持つ本の力は興味深い。なんせ悪魔を力量にかかわらず触れただけで殺せるのだからな。どうだ、俺の手下にならんか?」

 

コカビエルはそう言うと薫に近づき、勧誘をする。薫は数秒考え込んだ後に口を開いた。

 

「あっ、良いですよ」

 

『なっ!? せ、先生!?』

 

薫の返答にリアス達は驚愕する。彼は生徒思いとして知られ、裏切るような人ではないからだ。

 

「いやぁ~、コネでここに就職したのは良いんですが、ブラックでしてね。生徒会の顧問だけでなく、理事長の仕事も押し付けられているんですよ。あっ、そっちの待遇はどうですか?」

 

「三食昼寝付きでどうだ? 当然、残業代も払うぞ。何なら女をあてがってやっても良い」

 

「最高ですね! ……あっ、一つ聞きたいんですが良いですか? 私は部下を見捨てるような奴の下につく気はありません。貴方は私の為に死んでくださいますか?」

 

「フハハハハ! 当然だ!」

 

この時コカビエルは薫が本当に自分の手下になる気だと思い、その場限りの出任せを口にする。それを聞いた薫が微かに笑っているとも気づかずに。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、私の為なら今すぐ自害だってしてくださいますね?」

 

「ああ、当然だ! 今すぐ死んでやる!」

 

「なら、死んでください」

 

その時であった。薫は空中で何かを掴むとコカビエルの体に押し当てる。その瞬間、コカビエルは光の槍を自らの心臓に突き立てて死に絶えた。

 

「私の生徒に手を出すな……。『革命』。相手自身が口にした言葉なら、相手の思想信条をその通りに塗り替える最悪の職能。できれば使いたくなかったんですがねぇ。……今思えば『怠惰』で動きを止めれば良かったような」

 

薫はそう自嘲したように呟くとリアス達の方に近づいていった。この後、白い鎧を身に纏った少年がやってくるも便所に数時間篭る羽目になったという……。




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悪魔の力を手に入れました…… ③

「焼き鳥5人前と生大ジョッキお待たせしました!」

 

もうすぐ夏休みといった頃、久しぶりに残業がなかった薫は友人二人と共に飲みに来ていた。既にテーブルの上は大量のジャッキやグラスで覆い尽くされており、三人が大酒飲みである事を示していた。

 

「それにしてもかー君と飲みに来るのは久しぶりだね、ちーちゃん」

 

「……いい加減かー君は辞めてください。私は今年で23ですよ? 貴女達もっ!?」

 

同い年でしょうっと言おうとしたその時、薫の脳天に肘が打つ込まれる。年の話はするなっという事らしい。先ほど薫をカー君と呼んだのはどこか浮世離れした感じの女性。肘を打ち込んだのは見るからに厳しそうな女性だ。なお、二人共ナイスバディの美人であり、相手の居ない男性陣からは薫に殺気が送られていた。

 

「それにしても、まさか私達三人とも教師になるとはな。……束が対人の仕事を選んだのが一番驚いたぞ、あっ、芋焼酎もう一杯」

 

「飲みすぎですよ、千冬。体育教師が二日酔いで動けないなんて情けないザマを晒さないでくださいね」

 

「……ふん。貴様らこそ飲みすぎじでなないのか? 貴様は朝一で数学の授業だと言ってたではないか。束も明日は実験があるのだろう? 薬品の調合ミスをするなよ」

 

そう言って千冬と呼ばれた女性はカクテルを一気に飲み干す。束と呼ばれた女性は彼女の言葉に頬を膨らませており、年相応の落ち着きが無さそうな印象を与えた。

 

「ひどいよ、ちーちゃん! この天才の束さんがそんなミスする訳無いじゃん!」

 

「……高校生の時に貴女から貰った特性の栄養ドリンクが私を何日下痢にさせたと思ってるんですか。っと、もうこんな時間ですね。明日も生徒会の会議があるので此処で失礼します」

 

薫はそう言って席から立ち、財布から自分の飲んだ料金より少し多めに金を出すとテーブルの上に置く。だが、行こうとしたその手を束が掴んだ。

 

「え~! もうちょっと良いじゃん! もっと一緒に飲もうよ~! もう二三件ハシゴしようよ~! そのあとホテル行こ……痛たたたたたたたたた!? ごめん、冗談! 許してちーちゃん!!」

 

「この馬鹿には私からちゃんと話をしておくから行け。また暇ができたら電話しろ、何時でも飲みに付き合うぞ」

 

「ええ、それでは」

 

千冬のアイアンクローで束の頭から変な音がしだす中、薫は居酒屋から帰路に着いた。その途中、一人の男が彼を呼び止めた。

 

 

 

 

「よう! お前がブックマスターか?」

 

中年くらいの和服を着たその男性を見て薫はすぐ人間でないと感じ取る。グリモアの影響かそういう気配に敏感になっているのだ。すぐさま本を取り出した薫に対し、男性は笑いながら戦う意志がないと言うように両手を上に挙げた。

 

 

「そう警戒すんなって。ちょっとコカビエルを倒し、ヴァーリに呪いをかけた奴の顔を見に来ただけだって」

 

「……ああ、彼の身内ですか」

 

薫が突如現れた不審な鎧の男性に『暴露』の力で強制脱糞の呪いをかけた時、彼は窓ガラスを破ってトイレに駆け込んだ。当然夜勤の薫が後始末や面倒くさい説明をしなくてはならず、つい大人げない制裁をしてしまったのだ。

 

 

 

 

「……流石にアレはやりすぎでした」

 

薫はやった事。それはバケツの水を上からかけてトイレットペーパーを使い物にならなくし、電気を消した上で彼が知るトイレの怪談を延々と聞かせた事だ。途中どこからか現れた赤い服のおかっぱ頭の少女に、

 

「大人げないよ」

 

っと言われるまでそれは続き、薫が振り返ると少女はいつの間にかいなくなっていた。

 

 

 

 

 

「……っぷ。いや、気にすんなって。誰でも敵の増援だと思うだろ。それに呪いに掛かったアイツがワリィんだ。にしても思い出しただけでも笑えるぜ。クックック。おっと、名乗るのが遅れたな。俺の名はアザゼルだ」

 

そう言って男性は背中から十二枚の黒い羽を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……先生の所にも現れたのですね? 聞けば兵藤君にも依頼人として何度も接触があったとか」

 

「アザゼルの名はアジュカから何度か聞きましたが……私のグリモアって神器じゃないですよね。彼の興味の対象外なんじゃ……」

 

翌日、薫がアザゼルと会った事をソーナに話した所、彼女は真剣な顔つきで悩みだした。

 

「いえ、先生の持つ本は悪魔なら触れただけで死ぬ事すらあります。恐らく勧誘ではないでしょうか? しかし、そんな事をすれば悪魔と敵対しますっと言っているようなものですし……」

 

「まぁ、事が起こってから考えましょう。それよりも来週の授業参観についてですが……」

 

まだ目的が分からない以上、行動のしようがないっということで話は生徒会の業務へと移っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……コスプレ撮影会?」

 

「ええ、そうなんっすよ。とりあえず注意しに行きましょう」

 

授業参観当日、生徒会役員の匙から報告を受けた薫は彼に案内されてその場所に移動する。すると魔女っ子のコスプレをした少女がカメラを持った男性達に囲まれてポーズをとっていた。

 

 

「……なんででしょう。知り合いと同じ属性の気がします。……っと、匙君。どうやら悪魔のようです。それも純潔ですね」

 

「いぃ!? マジっすか!? ……グレモリー先輩の所は赤髪が特徴らしいから……」

 

彼の脳裏をよぎったのは不思議の国のアリスのような格好を好む幼馴染の顔。もう一人の幼馴染と彼女に彼は振り回されてきた。そして目の前の少女も同じような人間に見えたのだ。そして彼女が純潔悪魔らしいと香るから聞かされた匙はそれが誰か察した。

 

「……とりあえず解散させましょう」

 

「……っそうっすね。ほらほら、解散解散!何を騒いでるんだ!今日は公開授業の日なんだぜ!」

 

匙は周りの人を追い払うとコスプレ少女にオズオズと尋ねる。

 

「あの~、会長のお姉様でしょうか?」

 

「そうだよ✩ 私がソーナちゃんの姉のセラフォルー・レヴィアタンだよ! レヴィアたんって呼んでね♪」

 

あまりの事態に匙は固まり、薫も言葉を失う。そんな二人の様子にも気づかずセラフォルーは再びポーズをとっていた。

 

 

 

 

「……とりあえずここは学園ですのでそのような格好はお控えください」

 

「え~!? これが私の正装だよ✩」

 

「お着替えください」

 

「だから~」

 

「お着替えください」

 

「……うわ~ん!!」

 

無表情で言葉を続ける薫にしばし抵抗したものの、ついに堪えきれなくなりセラフォルーは泣きながら逃げていった。

 

 

「何事ですか?サジ、問題は簡潔に解決しなさいといつも言って……」

 

「……会長のお姉様が魔女っ子のコスプレ撮影会をしてて、先生が格好を注意したら泣いて逃げ出しました」

 

「……何も異常ありませんでしたね。先生も匙も何も見てませんね?」

 

「「は、はい!」」

 

ソーナのあまりの迫力に逆らえず、二人は脳内メモリからセラフォルーの事を消し去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ? 同年代の同僚に子供いるんですよね? だったら彼女も子供が居てもおかしく無い歳なんじゃ……」

 

「誰の事ですか?」

 

「……イエ、ナンデモアリマセン」




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薫は途中で『絶望』の力を使い精神をガリガリ削りながら怪談を続けました


アンケートはまだやってます!!


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悪魔の力を手に入れました…… ➃

「「「「かんぱ~い!」」」」

 

とあるマンションの一室に四つのジョッキをぶつけ合う音が響く。その部屋には薫の他に束と千冬、そしてオカッパ頭の小柄な青年が集まり小宴が開かれていた。

 

「いや~、まさかウー君が助教授に就任するなんてね。私も幼馴染として鼻が高いよ♪」

 

「いや、お前はその年で教授じゃないか。まぁ、礼は言っておくよ。有難う……」

 

青年は照れくさそうに礼を言うとジョッキに注がれたビールを一気に煽り、中身を飲み干すと口についた泡を手で拭った。

 

「ったく、あの教授め。何が『君如きでは一生助手のままだよ』だ。馬鹿にしやがって、馬鹿にしやがって、馬鹿にしやがって! アイツが奥さんを寝取られた上に銃撃受けて教授職を退いたら直ぐに助教授になれたじゃないか!」

 

「そう騒ぐな。酒が不味くなる。……おい、薫。ツマミはまだか?」

 

「はいはい、すぐ持っていきますよ……って! なんで毎回私の部屋なんですか!? 毎回後片付けさせられるし!」

 

「え~、だって私、家事できないしぃ、家汚いしぃ」

 

「私も苦手だな」

 

「ぼ、僕も母さんに任せっきりだから……」

 

どうやらこの四人で飲む場合は薫の部屋を毎回使い、後片付けも彼に任せっきりらしい。とりあえず鍋をテーブルに置いた薫は自分の分のビールを一気に煽った。

 

「……おい、束に千冬にウェイバー。少し正座しなさい」

 

「……うわぁ、久々にかー君がキレた」

 

「むっ、これはいかんな」

 

「此処は大人しく従った方が良いよな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「だが、断る!」」」

 

「……いい度胸ですねぇ」

 

どうやら三人とも既に出来上がっているようで、床にはチューハイの缶が散乱している。ふと薫が目をやるとお気に入りのワインの瓶が転がっていた。かなり高価でまだ一口しか飲んでいないとっておき。それを乾杯前の調理作業中に飲み干してしまったらしい。薫の堪忍袋がブチブチと音を立てて破れたその時、入り口の方からチャイムと共に妙な気配が漂って来た。

 

インターフォンに取り付けられたカメラを見ると見知らぬ巨漢の男が映っており、ただものではない雰囲気を漂わせている。明らかに裏の世界の住人だった。

 

「……三人共、少しの間コンビニでも行ってきてください。ちょっと知り合いが来ました」

 

「知り合い!? アイツどう見てもカタギじゃないだろ!? って、何するんだよ二人共!?」

 

薫の言葉に不信感を抱いたウェイバーは彼を心配して残ろうとするも千冬に襟首を掴まれベランダへと引っ張られて行き、束もその後に続く。そして出て行く際に薫に近づいてきた。

 

「かー君なら大丈夫だと思うけど気をつけてね✩ それにしてもどうでも良い存在の癖にウー君の助教授就任祝いを邪魔するなんてさ」

 

「すいません。私のせいで……」

 

「メッ! かー君は悪くないから謝っちゃ駄目だよ? じゃあ、終わったら電話してね」

 

そう言うなり束は千冬達の後を追いベランダへと走って行く。ベランダでは暴れるウェイバーを千冬が片手で取り押さえていた。

 

 

 

 

「おい! 何で薫一人残すんだよ!? 何かあってからじゃ……」

 

「奴なら大丈夫だ。忘れたのか? 高校二年生の文化祭の時の事を……」

 

彼ら四人が高校生だった時に隣町の不良に絡まれたウェイバーを千冬が助けたのだが、それを逆恨みした不良達が仲間と共に文化祭中の高校に乗り込んできたのだ。その時に執事・メイド喫茶をやっていた束が不良達に捕まり千冬が袋叩きにされそうになった。しかし、

 

 

「……あの時のアイツは凄かった。まさかカラトリーセットで金属バットや改造エアガンと渡り合う等とは……」

 

カラトリーセットを手にした薫が全員撃退。無傷で束を救い出したのだ。ちなみにその時の格好は当然執事服でウェイバーは冗談でメイド服を着せられていた。

 

「ワイヤーアクションでも見てるようだったよな。……翌日筋肉痛で寝込んでたけど」

 

 

 

 

「やっぱり私への愛の力だったんだよ! それで限界以上の力を出したんじゃないのかな? さっ、行こ?」

 

「そうだな。束の戯言は放っておいて行くか」

 

千冬は束とウェイバーを持ち上げるとベランダの手すりに足をかけ、そのまま飛び降りた。かなりの高さにも関わらず抱えられた二人に少しも衝撃が無いように着地した千冬はその場から平然と歩き始めた。

 

「よし、酒を買いに行くぞ。束、金は有るか? 私は今月ピンチなんだ」

 

「あっ! 財布忘れた」

 

「なぁに、この近くの酒屋なら薫にツケておいて貰える」

 

 

 

 

 

 

 

 

「頑張れよ、薫。……色んな意味でな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、何の御用ですか? ……こんな物しか有りませんが」

 

「……毒なんざ入ってないよな?」

 

「一般人が毒なんか持っているわけないじゃないですか」

 

薫はそう言っていきなりやって来た男にジュースを差し出す。その中には毒は入っていないが、台所の排水口に溜まったドロドロの汚れを入れておいた。ささやかな嫌がらせである。男は何の警戒もせずに、若しくは毒など効かない自信があるのかそれを一気に飲み干した。

 

「単刀直入に言うぜ。俺達の仲間になりな!」

 

「いや、俺達のっと言われても答えようがありませんよ。ちゃんと、どういう集まりなのか説明頂かないと。と言うより貴方誰ですか?」

 

「あぁ? 一々煩ぇな。俺の名前はヘラクレス! 英雄ヘラクレスの魂を継ぐ者だ。んで、『禍の団』っていう組織の英雄派ってのに所属している。まぁ、簡単に言うと悪魔やら何やらと敵対する組織って訳だ」

 

「……ああ、私の本の力が目的ですね?」

 

薫の言葉に鬱陶しそうにしながらも組織の概要を話したヘラクレスに対し薫は溜息を吐く。ここまで話したからには断ったら殺す気だな、と。それを察したのかヘラクレスはテーブルを殴りつけ、その瞬間テーブルが爆発した。

 

 

「どうだ! これが俺の神器『巨人の悪戯』の殴った物を爆発させる力だ! テメェも自分やダチをテーブルと同じ目に合わせたくなかったら……」

 

その言葉を聞いた時、薫の雰囲気が豹変した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、どういう風になるんですか? テーブルは無傷ですが?」

 

「なっ!?」

 

確かに粉々にしたはずのテーブルは傷一つなく、それに驚愕するヘラクレスに薫は本を手にしたまま近づいていく。

 

「……いえね、私へと降りかかる火の粉は自分で払うから良いんですよ。でも……仲間に手出しするって言うのなら容赦致しません。……ねぇ、知ってます? 灼熱の炎の中を長い間落ち続けた後、牛に舌を踏まれるって地獄があるそうですよ。まぁ、私は其処まではしませんがね」

 

「な、何言って!? うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

急に雰囲気の変わった薫を警戒したヘラクレスが後退りした時に足元に違和感を感じたその時、ヘラクレスは遥か下へと落下していく。何時の間にか周囲に何もない空間に移動させられ、床も天井も見えず、彼は落ちる事しかできなかった……。

 

 

「『隠匿』の力はただ閉じ込めるだけじゃないんですよ……」

 

薫はそう呟くと本をパタンっと閉じた。

 

「さっ、三人を呼び戻しませんと。……何か嫌な予感がしますから即急に!」




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薫くんは常連となっている酒屋に行き、驚愕する事となる! 請求された金額は……

四人目の幼馴染ウェイバー君 日本育ちのヘタレ


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悪魔の力を手に入れました…… ⑤

篠ノ之束。彼女は二十三歳で教授として数々の実績を上げている天才だ。もっとも、その才能は学術のみに向けられていたが……。

 

「呆れましたね。研究のし過ぎで食事を忘れ、何か食べようにも冷蔵庫の中は空。そのうち死にますよ、束」

 

薫が緊急の呼び出しを受けて彼女の研究室兼自宅に行くと空腹で倒れている束の姿があった。人間嫌いの彼女は幼馴染である薫・千冬・ウエイバーの三人以外には心を開かず、助手の一人も居ないのだ。

 

なお、家事は壊滅的にダメである。

 

「えへへ~♪ だったらかー君が毎日ご飯を作ってよ。ほら、私ってお買い得だよ?」

 

束は塩味が効いた中華風味のお粥を啜りながら自分の顔を指差す。薫は溜息を吐きながら差し出された空のお椀を受け取るとお粥を並々と入れた。

 

「……それも良いかもしれませね。っていうか、束は私かウエイバー位しか結婚相手の候補がいないでしょう」

 

「ぶぅ~! 私は三人以外しか興味ないんだって。……今、なんて言ったの? それも良いって? やったぁぁぁぁ! ねぇねぇ、式はいつ上げる?」

 

「食べてる時は立ち上がらない! ……あくまで、良いかもしれない、です。じゃあ、私は行きますね。今日は会議があるんですよ」

 

薫は食べ終わったお椀と鍋を洗うと数日分のオカズを冷蔵庫に入れ、学校へと向かう。その日は三大勢力の会談の日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(しかし、私って場違いですよね)」

 

薫は魔王や大天使といった異常な存在が平和について話し合っているのを見ながらそんな事を考える。コカビエルを討伐したのは彼だから仕方のない話だが、普段は理事長であるサーゼクスの仕事を押し付けられくらいしか裏の世界に関わってないので実感が湧かないのだ。そんなこんなしている内に会談は進み、同盟が結ばれる事となった。

 

「……んじゃブックマスターに質問と行こうや。なぁ、お前はその力を使ってどう生きる気だ?」

 

「この本の力を使ってですか?」

 

薫は急にアザゼルから話を振られ、思わずグリモアを取り出す。すると、悪魔達は一斉に壁際に飛び退いた。本に触れた悪魔はその実力に関わらず重い罰を受ける。腕が捻じれ、体中から血が噴き出し、時には五臓六腑を辺りにブチまける。

 

悪魔は本能的にグリモアに対する恐怖心を持っており、サーゼクスやグレイフィアでさえも顔が引きつっていた。

 

「……すみません。ああ、私の望む生き方に本は必要ありませんよ。普通に働いて、たば……好きになった女性と結婚し、生まれてきた子供を見守り、歳をとったら孫に囲まれ、自宅で静かに息を引き取る。そんな普通の幸せが私の望みです。それを邪魔するというのなら本の力を使いますけどね。それ以外では極力使いません。……まぁ、仕事を押し付けてくる理事長は息子さんの前で脱糞させてやろうかと思ってますけど」

 

満面の笑みを浮かべた薫に対し、サーゼクスは冷や汗をダラダラと流している。その時、学校内の時が停まった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん? さっき何か有ったような」

 

「お、少し遅かったけど復活したか。やっぱ本のおかげか? テロだよ、テロ」

 

薫が復活したのは時が停まってから数分後、校庭では魔法使いっぽい格好をした集団と木場達が戦っている。そして、会場内に魔方陣が出現した。

 

「旧レヴィアタンの紋章……」

 

「首謀者のお出ましって訳か」

 

魔方陣が光り輝き、中から一人の女性が出現する。彼女は胸元を大きく開け、深いスリットを入れている服を着ていた。

 

「ごきげんよ―――」

 

「取り敢えず『暴露』」

 

その瞬間、校庭中の魔法使いと自信満々に挨拶をしていた女性が腹を押さえて蹲った。

 

「……お前、えげつねぇな」

 

「いや、敵の前で隙を見せる方が悪いと思いますよ?」

 

「……サーゼクス様。早く捕らえて……トイレに行かして差し上げませんか?」

 

「……うん、そうだね」

 

微妙な空気の中、今回のテロの首謀者が捕まり、襲撃してきた魔法使い達も捕らえられた。裏切ろうとしていた奴が居たが……何か裏切ったら社会的に死にそうな気がしたので辞めたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、和平協定は正式に結ばれ、学園の名前を取って駒王協定と名付けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、今日から同僚だな!」

 

「……なんで貴方が?」

 

数日後、宿直明けで帰宅しようとしていた薫はアザゼルと出くわす。話を聞くと一誠達の指導の為に教員となったらしい。

 

「失礼ですが教員免許は持っていませんよね?」

 

「まぁな。ソーナに仕事を頼んだら教員しか残っていなくてよ。ま、女子高生でも食いまくるとするぜ」

 

「……そうですか。では、私はこれで」

 

薫は少々眉を顰めながらその場を立ち去る。アザゼルから見えない場所で本を出し、『淫奔』と呟きながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其れから暫くの間、アザゼルのアレは役に立たなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

if・もしヴァーリが裏切っていたら……。

 

 

 

「うわっ!?」

 

薫は身の危険を感じて咄嗟に伏せる。先程まで彼の頭があった場所を強力な魔力が通過した。

 

「……このタイミングで裏切りか、ヴァーリ!」

 

アザゼルは薫に魔力を放ったヴァーリを睨む。だが、白い鎧を身に纏った彼は薫の方をジッと見て、アザゼルには反応しなかった。

 

「その本の力は厄介だ。そして、戦って楽しい部類の力じゃない。だから君には此処で死んで貰うよ」

 

「暴…ッ!」

 

ヴァーリに腹痛を起こさせて無力化しようとした薫であったが、ヴァーリが放った魔力を避けるので精一杯で呪文が唱えられない。

 

「フハ、フハハハハハ! 何だ、結構動けるじゃないか! それもグリモアの恩恵かい? その本にはどれだけの力が隠されているんだろうね。いやはや、君に少しは興味が湧いてきたよ」

 

「いえいえ、この力使うと後でキツいんですよ。君の力は敵の弱体化でしたっけ? ……な~んだ。弱い敵としか戦えないんですね。臆病者のヴァーリちゃんは自分を主人公にした主人公最強物の小説でも書いていてくださいよ。どうせ敵を弱くしてからの”俺ツェェェェェ”しかできないんですから。ププッ!」

 

「……何だと?」

 

『その言葉、俺への侮辱と取るぞ人間! ヴァーリ、覇龍だっ!!』

 

ヴァーリは額に青筋を浮かべ、体中から本気の魔力を放つ。そしてアルビオンも怒り出し、ヴァーリは呪文を唱えだした。

 

「我目覚めるは……」

 

「暴露」

 

当然、隙だらけなので薫は呪文を唱える。

 

「ふぐっ! 覇の理に全てを……」

 

すかさずヴァーリの腹を下した薫であったが、ヴァーリは歯を食いしばりながらも呪文を唱える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、暴露暴露暴露暴露、最終奥義ファイナルビックベン!! ついでに寝て下さい、誘惑!」

 

続け様に強制脱糞の力を喰らい、トドメとばかりに睡眠への誘惑を受けたヴァーリは呪文を唱えるのを辞め、

 

 

 

 

 

……精神的と社会的に死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、傍観していた貴方達も後で何か掛けて良いですか? バトル漫画じゃないんだから数で潰しましょうよ」

 

この後、薫の預金残高が大幅に増え、サーゼクス達の精神的と社会的な死は回避された。



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悪魔の力を手に入れました…… ⑥ 

 夏休み前の生徒会室では薫達が激務に追われていた。机の上には書類の山また山。匙などは先程から虚ろな目でペンを走らせ、ソーナでさえ疲れが見える。薫も押し付けられた(任された)仕事を必死にこなしていた。そして開始から数時間後、ようやく最後の書類の記載が終わった。

 

「皆、お疲れ様です。芥辺先生もお疲れ様でした」

 

「しかし、この書類の多さはどうにかならないのでしょうかね。設備や部活関連の申請書が多い上に、例の変た……問題児三人組への文句が多く。……ちっ、被害者が過剰な暴力を振るっていなけりゃ即退学に出来てたのによ。暴力事件も覗きも隠蔽しなけりゃいけねぇとは」

 

「芥辺先生、性格が変わっています」

 

 ソーナ達生徒会役員に任された仕事は多岐に渡り、中には学園に通う異能力者やそれに関係する事件や能力を使った揉み消し作業に関する報告書など。そろそろサーゼクスを殴りたいという衝動を抑えながら薫は一息ついた。

 

「そういえばシトリーさん達は夏休みに冥界に行くんでしたね。私達教員は夏休みも仕事ですよ。……私も子供の頃は教師は夏休みとか休みが多くて良いな、とか馬鹿な事を思っていましたけどね……」

 

「そ、そうですか。では芥辺先生は夏休み中の予定は特にないのですか?」

 

「いや、休日が重なる日に友人達と泊まり掛けて海に行く予定です。ああ、それとアジュカに友人として呼ばれていますね」

 

「……先生はアジュカ様とはどの様にしで出会ったのですか? 正直、接点が無いように思うのですが」

 

 魔王であるアジュカ・ベルゼブブとグリモアに選ばれただけの人間である薫。とても友人になる様な関係ではないにも関わらず二人の間には親交があった。

 

「ええ、グリモアに興味を持った彼が私に近付いて来ましてね。その件で色々あって仲良くなりました。さて、片付けは私がしておきますので皆さんはお帰り下さい」

 

「いえ、私達も後片付けを……」

 

「駄目ですよ? そろそろ最終下校時間です。ここは教師に任せておきなさい。では、お元気で」

 

 薫は有無を言わさずにソーナ達を帰し一人で後片付けを始める。途中、オカッパ頭の小学生くらいの少女が現れたり、踊り場に普段はないはずの鏡が現れたり、誰も居ない音楽室からピアノの音が聞こえてくるも特に問題なく片付けは終わり薫は帰っていった。

 

 

 

 

「そ~れ!」

 

 束は砂浜で飛び跳ねるとボールをネットの向こう側に向かって放つ。何処かの同姓同名で見た目が同じな天災と違って頭脳オンリーな彼女のボールはフヨフヨと宙を舞い、亀の様な速度で薫の元へと向かう。

 

「せいやっ!!」

 

 そして異様な身体能力を持つ薫に見事スパイクで返される。そのままボールは砂を舞い上げながら跳ね上がり、見事のボディを惜しげもなく晒している束の布面積が足りていない水着の肩紐を掠めて見学していたウェイバーの顔面に直撃した。ウェイバーが倒れると同時にキチンと結んでいなかったのか束の水着の紐が解け、彼女は慌てて胸元を押さ付けた。

 

「きゃっ!? ……かー君のエッチ。上手く結べないから罰として結んでね」

 

「いやいや、千冬に……って居ないっ!? 何時の間にあんな所にっ!?」

 

 気絶したウェイバーは千冬によって離れた場所にあるパラソルの下に連れて行かれており、薫は束の連れて行かれるがまま岩陰に向かう。そしてそのまま紐を結び終わった時、束が振り返り薫の顔を覗き込んできた。

 

「ねぇ、かー君疲れてる? クマが出来てるよ。お仕事忙しいの?」

 

「まあ、私の勤め先は色々(・・)有りますから。でも、私は頑丈ですから大丈……」

 

 ”大丈夫です”、そう言うとした薫は束が抱き着いて来た事によって言葉を止める。少し潮の香りが混じった髪の香りが鼻をくすぐり、薄布越しに変形する胸の感触が伝わって来る。

 

「ねぇ、覚えてるかな? 私達が大人になったら結婚しようっていう約束」

 

「ええ、覚えていますよ。その場面を千冬とウェイバー(二人)に見つかってしまいましたよね」

 

「あははー! ウー君もちーちゃんも酷いよね。私の一世一代の告白だったのにさ♪ ……私、あの約束は今も有効だと思ってるよ。かー君はどう?」

 

「……ええ、私も有効だと思っています。……ですが、もう少し待っていてください。私は今の四人の関係が好きで、束には話せないゴタゴタに巻き込まれそうなんです。ですから、私の気持ちを伝えるのは……」

 

「うん、待ってる。でも、私が綺麗な内にお願いね♪ ……じゃないと女しか使えない最強兵器を作って世界を変えちゃうかも✩」

 

「……善処します。束が言うと冗談に聞こえないですからね……」

 

 既に互いの気持ちに気付きあっていた二人は気持ちを最確認しあうと岩陰を後にする。浜辺では酔っ払った千冬にドラゴンスープレックスを掛けられているウェイバーの姿があった。

 

 

「……昼間は酷い目にあった」

 

「いや、本当にスマン」

 

 その日の夜、早々に酔いつぶれた束をホテルのベットに寝かせた三人はホテル近くのバーに来ていた。ウェイバーはまだ体が痛むのかあちこちを摩り、千冬は素直に謝りながら酒を煽る。既にテーブルの上には摘みの皿や空のコップで溢れていた。

 

「なあ、気付いているか?」

 

「……ああ、勿論さ」

 

 千冬はメニューに載っているカクテルを全制覇し、最後の一口を飲もうとコップを傾けながら視線を後ろにやる。ウェイバーも顔を動かさずに視線だけ変え、濃厚な殺気を放って来ている男達に意識を向けた。

 

「では、この辺で帰りましょう」

 

 薫も彼らに気付かないふりをしながら会計を済ませ店を後にする。男達はその後ろからついて来ていた。そして人気のない場所まで来た時、目の前にも男達が現れ悪魔の翼を広げる。其の後ろには怒りに満ちた表情のカテレアが立っていた。

 

「お久しぶりね、ブックマスター」

 

「ああ、ウンコ垂れのカテレアさん。脱獄したのですか?」

 

 薫はグリモアを呼び出して前後に注意を払う。こうなっては誤魔化せず、後で”忘却”を使っても記憶がないのは酒のせいだと思うだろうと考えての行動だ。そしてカテレアは薫を敵として見てているが、やはり何処か侮っている。そしてカテレアとその部下は同時に蛇を飲み込んで力を増大させた。

 

「グリモアは使わせないわっ!」

 

 カテレアと部下達は同時に襲い掛かり薫が即座に対処しようとした時、何処かから放たれた龍のオーラによって跡形もなく消し去られた。

 

「い、一体何がっ!?」

 

「おい、薫。お前何か知って……」

 

「”忘却”」

 

 即座に二人の記憶を食い切った薫は二人を抱えてホテルへと戻った。なぜ今の攻撃が自分達に向く事に警戒しなかったのかは彼自身にも分からない。ただ、何故か安心してよいと感じたのだ。

 

 

 

そして一人ホテルの部屋に残っていた束は窓から外を見ながら呟く。その表情から感情が感じられないにも関わらず、、彼女を見た人は怒っていると感じられるだろう。

 

「……何しに来たの、オーフィス?」

 

「姉、久しい」

 

 前面が大きく空いたドレス姿の少女は無表情で束に話しかけた。

 

 

 




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悪魔? いいえ、付喪神です(嘘)

神様転生―――まぁ、ネットの二次小説ではよく見るジャンルだろう。神のミスで死んだ主人公が漫画とかの力貰って漫画とかの世界に行く。というものだ。

 

「……まさか自分が体験するとは」

 

そう、俺は今まさにそれを体験していた。先ほどトラックに轢かれ、見知らぬ空間で神を名乗る爺さんから力を貰い、今はその力を使いこなす為の修業中だ。

 

「おらぁっ! 何サボってんだぁ!」

 

目の前にいるのは青色のプルプルとした謎生物。存在自体が巫山戯ている彼の名前は『ところ天の助』。そう、俺が貰った力は『ボボボーボ・ボーボボに登場した真拳全般』だった。

 

「……だけど、なんで指導者がコイツなんだよぉぉぉぉぉっ!?」

 

別に栄養とかは大丈夫だけど腹が減るから飯は必要だ。そして既にお分かりの方も居るとは思うが3食全てトコロテンだった。しかも寝具の模様も当然『ぬ』。……まぁ、魚雷ガールとかよりはましだったけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうお前に教える事は何もない。今すぐ山を降りろ」

 

「ここ、山じゃないけどね!? ……お世話になりました」

 

修行も終わり、俺は殆どの真拳を使えるようになっていた。まぁ、プルプル真拳等の一部の技は無理だったけど、体の問題だから仕方がない。そしてランダムで行く世界が決められるという段階になって天の助は思い出したように言った。

 

「あっ、向こうではランダムで体が決まるから」

 

「そ、それを早く言えぇぇぇぇぇっ!!」

 

「メンゴ♥」

 

テヘペロっと反省した様子もない様子の奴を見て思った。コイツとの別れを惜しんだ先ほどの自分をぶん殴りたい! と……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むぅ、夢か……。懐かしいのぅ」

 

俺は……いや、儂はベットからゆっくり置き上がって呟く。この世界に来てから早数十年、肉体に精神が引っ張られてか性格や口調も変わってしまった。まぁ、そのような事などどうでも良い。過去は過去、今は今じゃからな。

 

「おい、朝じゃぞ。早く起きんか!」

 

「ん……。後、十分……」

 

「バカモンがっ! ……足の裏真拳『即死し……』」

 

「! お、起きるさ」

 

儂が足を同居者の小僧に向けた瞬間、奴は飛び降りる。……やれやれ、手間のかかる小僧だ。この小僧を拾ったのは数年前。親に虐待されていたらしく死にかけていたのを気紛れで拾ったのだ。その後、儂の弟子になりたいと言ってきたので弟子にしてやった。

 

 

 

 

 

 

「全く、朝の修行の時間に遅れるところじゃったぞ、ヴァーリ」

 

「すまないね、マスター・ハンペン」

 

そう、儂の新しい肉体は旧毛刈り隊Aブロック隊長のハンペンだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の獲物はどんなのだい?」

 

「雑魚じゃ雑魚。欲望のままに人を食うだけの獣と同じじゃな」

 

その日の夜、儂はヴァーリと共に廃屋に入り込んでいた。儂の仕事は請負人。今回の仕事ははぐれ悪魔バイサーの討伐だ。まぁ、この前に会った奴のように仕方ない理由があって主を裏切った奴ではない事だし、容赦は無しで良いじゃろう。強い奴との戦いが好きなヴァーリは儂の言葉を聞いて興味を無くしておる。やがて儂らに気付いたのか獲物がやって来た。

 

「不味そうな匂いがするぞ。美味そうな匂いもするな。……お前、何者だ?」

 

現れたのは人間の上半身の獣の下半身を持ち、両手に槍を持った異形。コヤツが今宵の獲物のバイサーだ。奴は儂を見て戸惑っているようじゃ。まぁ、頭がデカいハンペンで出来ている奴を見たらそうなるじゃろうなぁ。

 

「なんじゃ、見てわからんのか? 練り物じゃ」

 

「……いや、アイツはそういう意味で言ったんじゃないだろう」

 

……分かっとるわい。この場面でこう言うのはお約束じゃろうに……。そんな呆れた様な目で見るな。まぁ、良い。早く終わらして寝るかの。

 

「無視するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

儂がバイサーに背を向けていると怒ったのか襲いかかってきた。

 

「オナラ真拳『皐月』!」

 

「ぐっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

儂の尻から出た屁が奴を吹き飛ばして息の根を止める。ヴァーリは不快そうに鼻を押さえていた。

 

「……相変わらず下品な技だな」

 

見るな! そんな目で儂を見ないでくれ!

 

儂がヴァーリの避難するような目を避けようとしたその時、若い女の戸惑った声が聞こえてきた。……ちっ、ここを管理しとる悪魔のようじゃな。

 

「これはどういう事かしら? それにこの異臭は何?」

 

……儂の屁ということは黙っておこう。ん? ヴァーリの奴がつまらなそうな顔をしておるのぅ。

 

「どうした、ヴァーリ」

 

「……いや、宿命のライバルを見つけたのは良いんだが、余りにも雑魚過ぎて」

 

ヴァーリの視線の先に居るのはいかにも一般人といった感じの小僧。この状況につ入れ行けずにオロオロしており、身のこなしも弱者といった感じじゃな。あの小娘、もしや……。

 

「……ヴァーリ。あの白い小娘なんじゃが」

 

「ああ、分かっているさ。色気の欠片もない、ぐへぇ!?」

 

「ボケとる場合か! ……すまんの。して、何用かな? 言っておくが討伐は早い者勝ちじゃぞ」

 

全く、どうしてこのような奴になったのか。……教育、間違ったかのぅ。儂の言葉にやって来た小娘はたじろぎながらも睨んできた。

 

「ここは私の縄張りよ。悪いけど話を聞かせてもらうわ。抵抗するなら拘束させて貰うわよ」

 

……不快じゃの、なぜ儂がこんな小娘の言う事を聞かなければならぬのやら。力の差も分からぬのか小娘の周りの剣士らしい小僧と黒髪の小娘、そして白髪の小娘は臨戦態勢を取った。愚かじゃなぁ。

 

「師匠。ここは俺が……」

 

ヴァーリはそう言って神器を出す。ヴァーリの背中に儂の顔同様に真っ白な翼が出現した。奴の神器は『白龍皇の光翼』。その威圧感に小娘達は飲まれてしまっていた。

 

「俺の神器は神滅具の一つ『白龍皇の光翼』。命とプライド、どちらが大切か考えてから掛かってくるんだな」

 

「……行きなさい。最後に聞かせて、貴方、何者?」

 

「練り……」

 

「言わせないよ! 彼の名はハンペン。ハンペンの付喪神して至高の武術家さ」

 

……ふむ、分かっとるの。此処で戦っても勝敗は明らか。ヴァーリは天性の才能と神すら殺せる神器。そして儂が仕込んだ、あの真拳があるからの。儂らはその場がら去ると拠点へと転移していった……。

 

 

あと、ヴァーリ。ギャグくらい言わせて欲しんじゃが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おう! ご苦労だったな』

 

拠点にあるモニターにははぐれ悪魔の討伐を依頼した男が映っていた。奴の名はアザゼル。堕天使の総督じゃ。

 

「今回は雑魚じゃった。次はもう少し強い相手をよこしてくれんか?」

 

「俺も強い奴と戦いたいな。……折角ライバルと会ったのにあの程度とはな。悪魔になってあの程度とは」

 

ヴァーリがそう言った途端、アザゼルは眉をしかめた。

 

『……ちょっと待て。赤龍帝と会ったのか? 報告ではまだ殺してないはずだぞ。悪魔になったという報告も受けてねぇしよ……』

 

ほぅ、どうやらあの小僧は抹殺対象じゃったか。まぁ、危険な神器を宿してる奴が暴走すると厄介じゃからな。……だが、部下に不審な動きがあるのか。

 

『悪ぃが調べて来てくれるか? 報酬は弾むぜ』

 

……仕方ないのぅ。さて、もう一人の居候が帰ってきたら向かうとするか。




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悪魔? いいえ、付喪神です(嘘) ②

霊感を期待の皆様すみません 午後から霊感の執筆に入ります ……感想沢山くればやる気アップするかも


不審な行動をしている堕天使共の調査を依頼されたワシとヴァーリは奴らが拠点としている廃教会に侵入する事にした。もう一人の弟子は帰るのに時間が掛かるそうじゃからな。待っとれんわい。

 

「ねぇ、師匠。本当にこんな格好で大丈夫なのかい?」

 

「ふふふ、ワシを信じよ。この格好こそが侵入に最も適した服装じゃ!」

 

ワシとヴァーリは風呂敷を顔に巻きサングラスをかけて顔を隠す。こうする事で顔を完全に隠す事ができるのじゃ! ふははははは! これなら見つかっても逃げた先で顔を晒せばバレルまい!

 

「良いか? 見つかったらこう言えばいいのじゃ。 いえ、自分スパイっすから」

 

「流石です! 師匠ぉぉぉぉおっ!!」

 

さぁ! 侵入開始じゃ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの~、貴方達は?」

 

「クッ、見つかったか!」

 

いきなり見つかった!? ぐぬぅ、まさか侵入して一分で見つかるとはぁ。ヴァーリも慌てておるの。安心せい。ワシがついておる。

 

 

「いえ、自分スパイっすから」

 

「あっ、そうなんですね。お疲れ様です。では、私は」

 

ワシらを見つけた金髪のシスターはペコリと頭を下げると遠ざかっていった。ふむ、いい子じゃのぅ。ヴァーリ達も幼い頃は良い子じゃったんじゃが……。

 

「……まさか本当に通じるとは」

 

信じとらんかったんかい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、もう少しで私は至高の堕天使になれるわ。上を騙してまでアーシアを呼び寄せたかいがあったわね」

 

「そうですな。アーシアもレイナーレ様に神器を捧げてて死ぬのですから本望でしょう」

 

……なるほどのぅ。先程の少女の神器を奪う為にこの街に留まっておるのか。さて、一旦引くかの。しかし、此処は埃ぽくて適わん。ク、クシャミが……。

 

「……師匠。こらえてください。クシャミなんかしたら……ブアックション!!」

 

「! 誰!?」

 

み、見つかってしもた! えぇい! こうなったら……。

 

 

「パ、パォ~ン」

 

「なんだ象か……」

 

ご、誤魔化せたか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んな訳無いでしょう!!」

 

その瞬間、ワシラが隠れていた扉に向かって光の槍が飛んでくる。ふん、この程度の攻撃ワシの体で受けるまでもない。ワシはヴァーリの体を掴み、

 

 

 

 

「弟子ガード!」

 

そのまま盾にした。頑丈なヴァーリの体は槍を通さなかったが、少々衝撃は通ったようじゃ。

 

「ぶはぁっ!?」

 

「「えぇ!?」」

 

ふぅ、助かったの。無事で良かった(ワシが)。うん? どうしたのじゃ? ヴァーリ。

 

 

「……師匠。あんな奴らを許しては置けません。少々痛めつけましょう。あの奥義で……」

 

プルプル震えながら立ち上がったヴァーリはワシの後ろで拳を構える。ま、まさか!?

 

「協力奥義! ハンペンマグナム!!」

 

「「「ぐはぁっ!」」」

 

ヴァーリの拳はワシの顔を打ちぬき堕天使共へと飛ばす。ぐはぁぁぁぁっ!! や、やりおったな!?

 

「さっ、ここは一旦引くよ。アザゼルに報告しなきゃ」

 

「うむ。そうじゃな」

 

ワシらは気絶している堕天使達を放って廃協会を後にした。アーシアとかいう少女を助けるべきかとは思ったがワシらは所詮傭兵。勝手な行動をしては今後の仕事に差し障る。……それが分からん愛すべき阿呆もいるのじゃがな。故にワシらは二人だけで拠点に戻り、アザゼルに報告を済ませた。

 

 

「……マジかよ。よりによって魔王の妹が二人居る街で勝手な真似しやがって。あ~、くそ。これが俺が討伐隊を派遣したら余計な刺激を与えちまうし……頼めるか? アーシアの救出と馬鹿共の討伐を依頼したい」

 

「任されよ。……むっ?」

 

奴からメールが入ったの。

 

 

『悪魔の領地で悪魔がエクソシストに殺されかけており、それを止めに入ったアーシアという名のシスターが殴られそうだったので止めに入りました』

 

「……ちょうど良い。 『その娘は保護対象じゃ』っと。思ったより早く来たの」

 

 

 

 

 

 

 

                ★               ★

 

 

 

「やれやれ、女の子に暴力とは感心しないな。神様だってお怒りだよ?」

 

「あぁん? 俺の前で神の名を出すんじゃねぇ!」

 

な、何だってんだ!? いきなり現れたこの男は……。

 

 

 

俺の名前は兵藤一誠。最近悪魔になったばかりの高校生だ。今起きているを簡単に言うと、

 

① 契約を取りに行ったら依頼者が殺害されている。

 

② 犯人が白髪のエクソシストで俺まで殺されそうになったら、この前知り合ったシスターのアーシアが助けに入ってくれた。

 

③ 怒った白髪がアーシアを殴ろうとしたら韓服を着た少年(イケメン)が止めに入った。

 

全く訳がわからないぜ!

 

 

 

「さて、先生から君を保護するようにと言われているんだ。ちょっと大人しくしていてくれるかい?」

 

「わ、私を保護ですか!? は、はい!」

 

イケメンはアーシアを部屋の隅に避難させると白髪の方に向かって拳を構える。

 

「危ねぇ! そいつ銃を持ってるぞ!!」

 

「はん! 今更教えても遅いんだよ! 死ねぇぇ!」

 

白髪はイケメン目掛けて引き金を引く。俺は思わず目を閉じたが何時まで経ってもイケメンの悲鳴も倒れる音も聞こえてこず、恐る恐る目を開けるとイケメンの手には光り輝く槍が握られていた。

 

「甘いね。その程度なら打ち落とせるんだ。さぁ、この最強の神滅具である『黄昏の聖愴(トゥルー・ロンギヌス)』を恐れぬならばかかって来い!」

 

「ち、ちくしょう!」

 

白髪はヤケになったように光の剣を構えるとイケメンに飛びかかって行き、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「米真拳奥義! 米突き!!」

 

イケメンの拳がその腹に突き刺さると同時に……米が出たぁ!? ど、どうなってんだ!? 何で米が!?

 

 

 

 

 

「さ、行こうか? そこの悪魔君にも迎えが来たようだし、逃げさせてもらうよ」

 

「……は、はい!」

 

イケメンの槍を見てから心此処ににあらずといった様子のアーシアだったが、槍が消えた途端に正気に戻る。そして、イケメンに抱き抱えられ真っ赤になりながら去っていった。……畜生!

 

 

「イッセー! 大丈夫……どういう状況?」

 

部屋には足から血を流す俺と惨殺死体。そして米に埋もれて気絶している白髪の姿があり、助けに来てくれた部長達も状況が飲み込めないようだ。……ですよね~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                   ★       ★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、悪かったな嬢ちゃん。俺の部下が酷い事してよ」

 

「い、いえ」

 

ハンペンのアジトに連れて替えられたアーシアは画面越しにアザゼルと会話をしていた。その後話し合われたのは今後の彼女の事。普通ならこのまま堕天使の組織に残るという選択肢を取るのだろうが、ハンペンは一つの提案を出してきた。

 

「のぅお主、ワシの弟子にならんか?」

 

「えぇ~! わ、私が弟子ですか!?」

 

「うむ! ワシの見立てではお主にはとある真拳の素質がある。ワシも師範として一つでも多くの真拳を伝承せねばならぬからの」

 

今回の事で流石に堕天使の組織にいるのが怖くなったらしいアーシアは迷いだすが、ハンペンはさらに囁く。彼はアーシアが助けて貰ったことで自分の弟子に惚れたという事を見抜いたのだ。

 

「お主を助けたワシの二番弟子……曹操とも一緒に居られるぞ。それに堕天使の組織と違って神への信仰をとやかく言う奴もおらん。どうじゃ?」

 

「よ、よろしくお願いします、先生!」

 

こうしてハンペンに新たな弟子ができた。だが、全ての真拳を伝え抜くにはまだまだ弟子が足りない! 頑張れハンペン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~おまけ~

 

そして、アーシア引き抜きの条件としてレイナーレ達の処分を無償で引き受けさせられたハンペンとヴァーリは教会前に来ていた。そこには殺気立った堕天使達が待ち構えており今にも襲いかかって来そうだ。

 

「アーシアを攫ったのは貴方達ね? さぁ! 命が惜しかったら返しなさい!」

 

「ふん! 誰が返すものか! それに、ワシらは今、アザゼルにキサマらの処分を依頼されて来ておる。ほれ、この通りにな」

 

「う、嘘よ! 私は完璧に上を騙して……」

 

ハンペンはそう言って依頼書を見せ、それを見たレイナーレ達は狼狽し出す。もはや自分達に帰り場所はない。そして絶望して立ち尽くす彼女達に同情するほどハンペン達は甘くなかった。

 

「行くぞ! ヴァーリ!!」

 

真紅の手品(レッドマジック)真拳奥義! ナイフの魔術!」

 

『ギャァァァァァァ!!』

 

ヴァーリがナイフを投げると堕天使や手下のエクソシスト達は上に引き飛び、ハンペンは両手の人差し指と親指でコの字を作り、他の指は立てた状態で真っ直ぐ突き出す。

 

 

「吹き飛べ! W・ハンペン承!!!」

 

ハンペンが放った長方形の衝撃波は全ての者達を飲み込み、塵も残さずに消し去った……。

 




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ヴァーリは真紅の手品真拳 曹操は米真拳 アーシアは……

なお、ヴァーリはアホ化してます

ギャグは難しい!


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悪魔? いいえ、付喪神です(嘘) ③

 誰かが言った。上質の出汁で煮込まれたオデンの具が並々と溢れる「オデン(セン)」があると。世はグルメ時代。未知なる味を求めて探求する時代(じだぁい)

 

「って! 原作が違うわっ! いや、インフレが激しいのは同じだけどっ!」

 

「……師匠?」

 

ヴァーリはガンモドキを頬張りながら突如叫んだハンペンの方を見る。その横では曹操の口に竹輪麩を運んでいるアーシアの姿があった。

 

「はい、曹操さん。あ、あ~ん」

 

「あ~ん」

 

アーシアがハンペンの弟子になって早数ヶ月が経った。その間になんやかんや有って曹操とアーシアがくっつき、一人者のヴァーリは涙で枕を濡らす毎日。育ての親が本来とは違ったので性格も違う彼はライバル同様に非常に残念な性格をしていた。

 

「……なあ、アルビオン。愛情も半減できるかい?」

 

『知るか』

 

「さて、そろそろ次の仕事に行かなければならぬが……」

 

ハンペンは二枚の依頼書を懐から取り出す。片方は堕天使、もう片方は悪魔からの依頼書だった。

 

「コカビエルが馬鹿やったから止めに行ってくれ、か。確かに堕天使の幹部が行ったら余計に揉めそうだし、人間の構成員では力が足りない。俺が行こう……あの二人を見ているのは辛いし」

 

「うむ! なら儂が曹操と悪魔からの依頼である”はぐれ悪魔の群れの討伐”に行ってこよう。……あの二人、見ていてムカつくし」

 

こうして相手の居ない喪男二人の手で愛し合う二人が引き裂かれ、再び付喪神(嘘)とその仲間達は赤い龍を宿す少年達と関わる事になった。

 

 

 

「おやおや、アーシアちゃんじゃあ~りませんか!」

 

「フリード神父!?」

 

そして数日後、コカビエルが潜伏している駒王街に舞い戻ったアーシアはヴァーリとの別行動中にフーリドと再開する。フリードの手には盗まれた聖剣が握られており、足元には神父の死体が転がっていた。

 

「貴方もコカビニールエチレンさんの仲間なんですか!?」

 

「ああ、俺っちはコカビエルの旦那に雇われててね。……さて、あん時出来なかったレイ○の続きでもしてからぶっ殺すとしますかねっ!」

 

フリードはアーシアの服を剥ぎ取ろうと手を伸ばす。だがアーシアが屈んだ事でその手は宙を掴み、顎に衝撃が走った。

 

 

 

極悪斬血真拳(ごくあくざんけつしんけん)奥義! ギョラ連撃!!」

 

フリードをアッパーで打ち上げた後、足を上にしてジャンプしながら連続蹴りで更に打ち上げ、最後に頭から腹に体当たりを食らわせる。咄嗟に盾にした聖剣はへし折れ、フリードは吐血しながら地面に叩き付けられた。

 

「え、え~と、こんな時はどうしたら良いんでしょうか? 確か……」

 

① 警察に通報

 

② 拘束して尋問

 

③ 性犯罪者は去勢

 

 

 

暫し考え込んだアーシアの手には身長程もある鋏が握られていた。

 

「ちょん切ってから拘束して情報を吐かせた後で警察に放り込めば良いですよね♪ 極悪斬血真拳奥義! ガボ…」

 

 

 

「アーシア……?」

 

「此方に居たかっ! むっ!?」

 

その時、騒ぎを聞きつけた一誠達と聖剣奪還任務を受けてやって来たゼノヴィアとイリナが駆けつけ状況が飲み込めず呆然とする。神父の死体にコカビエルの共犯者であるフリードが気絶している姿。そして折れた聖剣。祐斗などはそれを見た放心した顔で膝を折る。

 

「……二人共。おそらくあの神父が命と引き換えにしてエクスカリバーを破壊したのかと」

 

「そ、そうだよな! まさかアーシアが破壊したって事は……」

 

「え? 私が破壊しましたよ?」

 

認めたくなかった現実。目の前の可憐で華奢な少女が聖剣を破壊したという事実に一誠の気が遠くなる。ゼノヴィアとイリナはアーシアの顔を見て何やら考え込んでいた。

 

「……貴女、もしかして聖女アーシア?」

 

「確か追放された後、何処かに消えたと聞いていたが……」

 

「あ、はい。私は元・聖女で極悪斬血真拳伝承者アーシア・アルジェントです」

 

「……真拳? たしか一つの事を究極まで極める事で習得できる武術の事だったな。……極悪斬……いや、考えるのはよそう。それより君は此処に何しに来たんだ? まさか聖剣を狙ってきたのか?」

 

「お仕事でフルカビキラーさんを止めに来ました。聖剣については先生から何も言われていませんし知りませんよ?」

 

「フルカビ? ……ああ、古カビ(コカビ)って事か。では、エクスカリバーは私達が持っていこう」

 

ゼノヴィアが折れたエクスカリバー達に手を伸ばした時、空から光の槍が無数に飛来する。その矛先は無防備なゼノヴィアの背中に向かっていた。

 

 

 

「極悪斬血奥義! デスサイズ・カッター!」

 

アーシアが鋏を振るうと無数の斬撃が発生して槍を全て破壊する。槍が放たれた方向には興味深そうにアーシアを見ている堕天使の姿があった。

 

「貴方は誰ですかっ! 何が目的なんですっ!」

 

「俺か? 俺はコカビエル。堕天使の…」

 

「話が長いっ!」

 

アーシアが投擲したフリードはコカビエルの股間に激突し、その場に居た男達は思わず身を竦ませた。

 

「全く! 話が長すぎですっ!」

 

「いや、自己紹介を始めたばっかりじゃ……」

 

「……小娘、覚えていろ」

 

さすがにこの状態での戦闘続行は無理だと判断したのかコカビエルはフリードを担ぐとフラフラしながら逃げていく。ゼノヴィアとイリナ、そして祐斗は後を追い、一緒に追いかけようとしたアーシアは携帯の着信に気付いて足を止めた。

 

「曹操さん! 何か御用ですか?」

 

「いや、君の声が聞きたくなってね」

 

「私もです! あ、あの、この仕事が終わったらデートしませんか?」

 

「ああ、良いね」

 

騒ぎを聞きつけたリアス達が到着するまでアーシアは曹操との通話を続け、やがて夜がやって来た。コカビエルはリアス達を駒王学園に呼び寄せ、フリードは統合されたエクスカリバーで祐斗を圧倒する。だが、聖剣の因子から解放された仲間の言葉により彼は新しい力を覚醒させた。

 

「僕は剣になる! 仲間を守る剣に! 禁手化(バランスブレイク)! 双覇の(ソード・オブ)…」

 

「真紅の手品拳奥義! 火薬の手品!!」

 

そして突如乱入した空気読めない喪男(ヴァーリ)によってエクスカリバーは完全に破壊されフリードは吹き飛ばされた。

 

「さあ! 真打の登場だっ!」

 

KY(ヴァーリ)さん。空気読みましょう」

 

ヴァーリが周囲を見回すとコカビエルでさえ頷いており、先程まで天に昇っていた子供達も降りてきて頷いていた。

 

 

「……さて、勝負の続きと行こう」

 

それから先は神が死んだとか色々話し、空気の読めるアーシアは傍観して一誠達がコカビエルに挑むも歯が立たない。そろそろ出番と判断したヴァーリがコカビエルに向かっていった。

 

「くははははは! 面白い! まさか白龍皇を宿す者と赤龍帝を宿す者の二人と同時に出会うとはなっ!」

 

「ふっ! 俺は神器の力など使わないさ。師匠から継承された真拳で十分だっ!」

 

『……そろそろ死のう』

 

ヴァーリがコカビエルを圧倒する中、アーシアは何処かに電話をかけていた。

 

「あ、はい。軍艦一隻お願いします。支払いは先生の現金一括払いで」

 

突如時空が歪み、其処から巨大な軍艦が出現する。何時の間にか司令室にはアーシアの姿があった。

 

「極悪斬血真拳奥義! フォーリン魚雷2004!」

 

巨大な砲身から放たれたのは無数の魚雷。爆炎が晴れた後には黒焦げになって痙攣する二人の姿があった。このあとアーシアはヴァーリを治し、コカビエルとフリードを担いで帰っていった。

 

 

 

 

 

 

「……ふむ。奴も成長しているようじゃの」

 

その頃、ハンペンは一人の若手悪魔の噂を聞いて満足そうな顔をしていた。その男の名はサイラオーグ。

 

 

『ラブリーマジカル真拳』の伝承者であり、ついでに若手ナンバーワンの実力者でもある。




アーシアはボケ要員


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悪魔? いいえ、付喪神です(嘘) ④

しかし、作品が増えるとキャラ考えるのも苦労しますね 私はすぐに新しいのに浮気するから考えるのが大変だ


 サイラオーグ・バアルの人生は幸福なものではなかった。貴族の頂点であるバアル大王家の長男として生まれながら一族の特徴である”滅びの魔力”を持たずに生まれた為に母親共々僻地で貧しい生活を強いられていた。魔力もなく気弱な正確だった彼が若手ナンバーワンにまで上り詰めた理由、それは母親の為に努力した事、そして一人の人物(?)との出会いだった。

 

「お主、腹が減っておるのか? なら儂の顔を食べるが良い」

 

 其れは何時もの虐めの一環として弁当を奪われ、腹を減らしながら歩いていた帰り道の事。不気味な生物が妙な事を言ってきた。押し付けられた顔の匂いを嗅げば美味しそうな魚系の香り。そして思わず噛み付いた。

 

「痛いわボケっ!」

 

「あべしっ!?」

 

 その瞬間、サイラオーグの顎に謎の生物の一撃が打ち込まれ、彼の体は宙を舞う。地面に叩きつけられた彼の体を謎生物が抱きかかえた。

 

「しっかりしろっ! 誰にやられたっ!?」

 

「お…お前……」

 

「証拠隠滅っ!」

 

 再びサイラオーグの体を襲う衝撃。気が付くと既に真夜中になっており、彼は茂みに隠されていた。そして、体の上には一つの教本とメモ。

 

「貴様の記憶は真説鼻毛真拳奥義”やわらか記憶術”で読ませて貰った。そして前は今日からこの教本の内容と体術の特訓をするが良い。そうすれば貴様は最強になれる」

 

 何故か洗脳されたようにメモ通りに修行を重ねたサイラオーグは実家に戻り、滅びの魔力を持つ弟を倒して時期当主の座に返り咲いた。しかし、その時に教本の内容は使っていない。

 

「あの程度、俺の真拳を使うまでもない」

 

 彼は心の底から真拳を誇りに思い、使うべき時でなければ使わない事にしていたのだ……。

 

 

 

 

 

 そして色々あって原作で言う所の四巻。え? 三巻はって? やだなぁ。傭兵に過ぎないハンペン達が三すくみの会談に出席するなんて面倒くさ……立場的にありえないじゃないですか。という事で強引に四巻、つまり学生が夏休みの頃、ハンペン達はアジトにいた。

 

 

「海、ですか?」

 

「ああ、行ってみないかい、アーシア。君は行った事がないって話だし……水着も見てみたいしね」

 

「……曹操さんのエッチ」

 

 相変わらずラブラブでウザ……微笑ましい曹操とアーシア。それを見たハンペンはとある事を決めた。

 

「よし! 今年の夏は冥界(海の無い所)で過ごすぞ」

 

「賛成賛成大賛成!」

 

 こうして非リア充二人(ハンペンとヴァーリ)によって『初めての海! ドキドキ・二人の仲急上昇イベント♥』は阻止された。いや、未成年が行き過ぎないためだよ? けっして妬みとかじゃないから。

 

 

 

 嫉妬とかしていないからっ!

 

 

「ふぅ、漸く着いたな」

 

 使える限りのコネ全てを使って冥界に入ったハンペン一行はシトリー領にやって来ていた。この領地は医療が盛んであり、過ごす予定の都市は娯楽よりも医療設備や学問を中心としたカップルに優しくない場所。この為に色々と時間を費やし、寝食を削って調べ上げたのだ。

 

「師匠、曹操の置き手紙だ」

 

『二人でデートしてきます。九月頃にまたお会いしましょう』

 

「……ヴァーリ」

 

「ああ、分かっているさ」

 

 二人は徐にハッピに着替え、御輿を担ぐ。その神輿には『リア充討つべしっ!』と書かれた旗か飾られていた。

 

「「リア充は何処だぁー!! 二人だけで旅行を楽しんでいる愚か者共はどこだぁぁっ!!!」」

 

 二人は絶叫しながら冥界中を駆け回り、やがて非リア充達と合流して大パレードとなった。その祭りは三日三晩続き、そして四日目の昼の事、全員揃ってグレイフィアに正座させられていた。

 

「……でっ、誰が首謀者なのかな?」

 

『はい! 全員であります!!』

 

「あっ、儂とヴァーリはお祭りだと思って参加しただけだから」

 

「じゃあ、俺達は此処で……」

 

 二人は信者達をあっさりと切り捨てるとその場から去ろうとする。だが、二人の目前に氷の壁が出現した。魔王少女セラフォルーの仕業だ。

 

「行かせないよ☆」

 

「……師匠、パンツ見えていますね。……ハッ!」

 

「下らん。パンチラの何かが分かっておらぬ。あんなモロ見え邪道じゃ」

 

「出てくるなりダメ出しっ!? ……ま、まあ良いや。二人共、悪いけど調べは付いているんだ☆」

 

「わ、儂がアイドルデビューする事がかっ!?」

 

「いや、俺が米よりも心太を主食にしたい系の美男子という事だろう」

 

「違うからねっ!? ……お願いがあります」

 

 セラフォルーは大勢の前だというのに突如土下座をして言った。

 

「私に”ラブリーマジカル真拳”を伝授してください!」

 

「……悪いがそれはできぬ。貴様にあの真拳の才はない。じゃが、別の真拳なら伝授しよう。……”CDの蓋がカパカパする真拳”をなっ!」

 

「あっ、別に良いです」

 

「な、なら、”ブヒっとね真拳”か”レロレロ真拳”はどうじゃっ!?」

 

「グレイフィアちゃん、私帰るね☆」

 

「お気を付けて」

 

 その後、全員揃って豚箱に入り、出てこれたのは曹操とアーシアがストーカーを倒して序でに色々と卒業した十日後の事だった。

 

 

 

 

「解せぬ……」

 

 




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従者が金ピカと青タイツと半裸だったら…… 恋姫番外

今回は番外編

中学生の柳くんの冒険です


W月Q日

 

気が付いたら見知らぬ荒野に居ました。昨日はバカ魔王もといセラフォルーさんがやって来て宴会が始まり、『柳ちゃん、不純異性間交友しようよ~!』っとか戯言抜かして抱きついて来て、胸で顔を塞がれた所までは覚えているのですが……気持ち良かったのは覚えています。

 

暫く歩きましたがどうやら日本ではないようです。おそらくまたバルバトスさんに異世界に送られたのでしょう。……とりあえず麻婆カレーは暫く禁止です。二人も連帯責任という事で諦めて頂きましょう。

 

この世界がどんな所かは把握完了。黄色い布を被った盗賊を返り討ちにしたら槍を持ったお姉さんとその仲間と出会いました。なんと、彼女達は三国志で有名な武将だったのです。

 

……武将女体化とか何処のギャルゲー? とか思いつつ、『子供一人では大変だろう』っと同行を申し出てくれたのを断り、一人で旅をする事にしました。これも修行ですからね。

 

あれ? あの飴舐めてたのも私より年上?

 

W月E日

 

懐を良く見るとギルさんの財宝と思しき短刀と金貨があったので屋台を購入。短刀を包丁がわりに料理開始です。そういえば盗賊から奪った怪しい本は何だったんでしょう?

 

 

まぁ、焚付に燃やしましたが。

 

 

最初の客様は黒髪のちょっと馬鹿っぽ……熱血そうなお姉さんでした。どうやら高給取りらしく、持ち帰り用の料理を沢山買っていただいたのでサービスしておきました。

 

『甘い物はないのか?』と訊かれましたが、

 

 

 

 

 

甘い物など絶対に作ってたまるものですか! たとえギルさんの頼みでも作りませんよ、私は!

 

 

 

W月R日

 

此処の所、毎日大繁盛です。大きな食堂の人が食べに来て私をスカウトしようとしますが、ギルさんたち以外に仕える気はないので断っておきました。それにしても迎えは何時来るのでしょう?

 

あ、あの黒髪のお姉さんは今日も来ました。なんか『私の事は春蘭と呼ぶが良い』とか言ってましたが、なんか餌付けした気分です。

 

 

 

取り敢えず帰ったら激辛麻婆豆富ですね。この世界の中華鍋は脆すぎますよ。それと、この前貰った宝具ランクB? とかいう鍋は途中で穴が空いたので、もっと上質な中華鍋を出して頂かないと……。

 

 

 

それにしても『馬鹿なっ!? もしやあの麻婆豆腐はEX宝具レベルの威力なのか!?』時ってましたがどういう事でしょう? 宝具ランク?

 

 

ちなみに激辛料理以外は文句なしにEX相当だと褒めて頂いていますが基準が良く分かりませんね。激から美味しいのに……。

 

 

 

W月U日

 

今日は厄日です。売上狙ってきたチンピラを懲らしめたら金髪の少女に目をつけられました。どうやらお偉いさんらしく、私の料理を気に入って通って頂いていたのですが、戦う所を見て部下にしたくなったようです。

 

……あの程度の雑魚20人を料理しながら倒しただけで大げさな話です。

 

『貴方、私に仕えなさい』

 

金髪の少女はそう言い、春蘭さんも誘ってきます。どうたら私の料理を三食食べたいようですね。

 

 

しかし、この少女結構なカリスマです。人間としては最高峰かもしれません。

 

 

 

まぁ、ギルさんに比べたら月とスッポン。TV版のスネ○と映画版ジャイア○位の差がありますね。

 

 

 

 

取り敢えず『私には既に主が居ますので』と断ったら春蘭さんが怒って向かって来ましたので撃退。いや、確かに動きは早いですが心綱があれば簡単に読める動きでしたので顎を蹴り抜いたら気絶しました。

 

 

あれ? あの程度、バルバトスさんなら蚊が刺した程度なのですが……。

 

 

取り敢えず金髪の少女(なんと驚くべき事に曹操でした)の目が更に興味深そうに輝いたので今晩中に逃げる事に決定。お得意様もできたのに残念ですが面倒事は懲り懲りです。

 

 

 

ちなみに曹操さんは私より年上らしい。はっきり言って武将女体化より驚きでしたね。

 

 

 

W月O日

 

山中でご飯を作っていたら赤髪のお姉さんと遭遇。料理をジッと来ていたのでお裾分けしたのですが……この人良く食べる食べる。私の分まで食べた事に気付き、『……ごめん』撮誤す姿や先程までの食べる時の姿は小動物を彷彿させ眼福でした。

 

 

 

あ、お姉さんの名前は呂布でした。この人が後に部下に裏切られて斬首されるとは驚きです。

 

 

 

 

W月P日

 

呂布さん……恋さんにお詫びとして連れてこられたのは大きな屋敷。其処で私はどストライクの人に会いました。あの小柄で気弱そうで儚げな顔。まさに庇護欲を誘う美少女!

 

 

 

……かと思いきや、やっぱり年上でした。あ、この人は董卓さんらしいです。

 

 

もうどんなのが来ても驚きませんよ!

 

 

あ、サラシを巻いた痴女っぽいお姉さんの張遼さんと脳筋ぽい華雄さんには警戒されましたが酒のツマミを作ったら仲良くなりました。

 

 

 

あれ? やっぱり餌付けしてる?

 

 

 

W月D日

 

体が鈍ったらいけないのでエネルさん持込の槍術の訓練をしていたら華雄さんと遭遇。『中々やるようだな! よし軽く揉んでやるから掛かってこい!』と言われ、

 

 

 

 

 

 

秒殺しました。うん、この人動きが単純すぎます。……この時私を見るメガネの人の目が不愉快でした。あの品定めするような目。

 

 

全くチビッ子軍師は料理で簡単に仲良くなれたというのに

 

あ、あのちびっ子も私より年上でしょうか? 私今14ですし。

 

 

 

W月K日

 

この日、ギルさん達以外に初めて負けました。心綱とバルバトスさんから教わった術や奥義は目立つからと使わなかったのですが、それでも恋さんの強さは異常です。勝負を挑まれたのは朝焼け始まる頃、終わった頃には鍛錬場が私たち二人の血で染まり、夕日が沈みそうな空と同じ赤色でした。

 

『まさか恋と互角だなんて……』

 

メガネはそう言ってましたが、私の負けですから互角ではありません。……やはり私は慢心していたのでしょうか? あの三人に鍛えられて天狗になっていた様です。

 

 

 

この日、私に四人目の師匠が出来ました。必死に頼み込み弟子入りが叶いました。

 

『……ご飯作ってくれるなら良い』

 

だそうです。

 

 

 

W月M日

 

私の年齢を聞いた皆さんが驚いていました。……私って老けているんでしょうか?

 

『ありえないわ! あの歳で恋と互角だなんて……』

 

とかメガネの人が現実逃避……。

 

後私の料理を皆さんが沢山食べるので食糧危機らしいです。今後は私が作る日を減らすそうです。

 

 

 

それを聞いた恋さんが雨に濡れる子犬の様な悲しげな目をしていたのは胸が痛みましたね。それと、親の事を聞かれたので、

 

 

『自分以外を有象無象と言い切る大金持ち』

 

『半裸の元王様』

 

『ぶるぁぁぁぁぁぁ』

 

と言いましたが皆さん理解できなかったみたいです。……解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 




日記形式はむずい

そのうち需要があれば続きを書きます

この時に既に料理の腕は、騎士王に唐揚げとエクスカリバーと交換してくれとまでいわれ、更に求婚されるレベル

詳しくは前の話を参照


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従者が金ピカと青タイツと半裸だったら…… 恋姫番外 ②

今回 蜀アンチがあります。蜀好きでアンチ嫌いな人はご注意を


W月B日

 

昨日の敗北が悔しかったので今日は一番得意な斧で恋さんと模擬戦を行いました。結果は圧勝。メガネの人だけでなく、霞さんも唖然としていました。

 

 

……しかし! まだ槍では一日中戦って結局負けています。恋さん曰く『……柳の槍は変。まるで切られても平気な戦い方』だそうです。……あ、そういえばエネルさんは基本的に無敵でしたね。心綱で相手の動きを読みつつ被弾を気にせず攻め立てる柔の槍があの人の槍で、柔剛組み合わせたどこか本能任せなのが恋さんの槍。

 

……私も少し取り入れるべきでしょうか? あ、野生云々ならバルバトスさんの方が上か……。

 

 

あと、この時代では毎日お風呂には入れないのは仕方ありませんが、時間がもったいないからって私が入っているのに霞さんや恋さんが入ってくるのは困ります。いや、私が子供だから気にしてないんでしょうが思春期には色々とキツイです……

 

 

 

 

W月V日

 

今日はかゆうま……華雄さんに戦いを挑まれました。なんでも同じ斧使いとして恋さんに勝った私に勝つ事で自分が最強だと示したいそうで。

 

……鬱陶しかったです。これだから井の中の蛙は……。

 

兵を率いての訓練でも挑発に弱かったですし、明日の約束ですから叩きのめしましょう。

 

 

あと、今日も小動物のごとく私の料理を頬張る恋さんが可愛らしかった。董卓さん……月さんも美味しそうに食べていました。……癒される。

 

 

 

 

W月C日

 

……やりすぎました。ギルさん直伝の挑発⇒バックスナイパーからの三連擊の後にギルさん直伝の罵倒。攻撃は全て心綱で避けて更に挑発、と繰り返していましたら……目覚めました。

 

『もっと罵ってくれ!』

 

あかん、メガネの人からジト目で見られてますし……あと、値踏みするような目が今まで以上に露骨になって不快です。

 

 

……なんか最近客人って立場を忘れてるような。まぁ、従っている訳ではないから良いですね! ……たぶん。

 

 

 

 

W月X日

 

そういえば黄巾の乱ってどうなったんでしょうか? ゲームの知識だけなので詳しくないんですよね。こっちに来た時にボコった盗賊さん達は黄色い布を頭に巻いていましたが……。

 

そういえば街に遊びに行った時にアイドルもどきの旅芸人姉妹と会いましたが……イマイチですね。演出も歌も二流。これがもっと下手なら道化として笑えるんですが。

 

 

歌と言えばギルさんは絶対に忘れられない程の音痴と戦った時があるそうです。なんでも宝具でさらに悪夢が倍率ドンっだったそうで……しかし、録音したのを聞きましたが素晴らしい歌でしたけどねぇ?

 

 

 

 

 

 

 

W月Z日

 

今日は走ったほうが早いので馬に乗らずに恋さんと散歩にいきました。すると、少女を追いかけている悪漢達の姿を発見。少女を助けてみたらなんと私より年上でした。……あんびりばーぼぅ。

 

 

あ、少女の名前は諸葛亮孔明だそうです。どうやら友達と逸れたそうで……あ、月さんの所に仕官することになりました。文官として優秀だそうでメガネさんが喜んでました。

 

 

 

W月A日

 

今日、魂レベルの友人ができました。全身傷だらけのお姉さんで仲間二人に振り回されている苦労人。名を楽進、真名を凪という人です。立ち寄った飯屋で激辛麻婆豆腐に辣油をドバドバかけていたら目の前の席の彼女が同じ様にしていました。

 

目があった瞬間、私達は分かり会えました。

 

 

 

 

 

 

あ、彼女らも仕官しました。これで仕事が楽になるそうです。私は料理作って模擬戦するだけなので関係ありませんが……。

 

 

 

 

 

W月S日

 

今日は気に入らない連中が仕官してきました。劉備・張飛・関羽。桃園の三兄弟……いえ、こっちは三姉妹ですか、が孔明さん……朱里さんの友達を一緒でした。どうやら客将として士官したいようで。

 

 

てか、友達も見た目少女ですね。とても私より年上には見えませんでした。

 

 

暇なので私が腕試しをする事になりましたが関羽さんは不満そうでした。まぁ、此処では女性の方が優秀だし私は子供ですからね。……まぁ、私の武を侮辱するという事は鍛えて下さった三人を侮辱するという事。

 

 

 

 

……凪さんも気弾を撃ちますし、私もジェノサイドブレイバー(極弱)を撃ちました。

 

 

 

 

 

あ、結局私の圧勝でしたが、張飛さん(こっちもチビッ子ですが私より年上)が霞さんと戦って実力を示しましたので仕官が叶いました。

 

 

 

……劉備さんはオマケです。二人の主らしいので文官扱いで雇いました。

 

 

 

W月D日

 

劉備さんは『皆が笑える世界』を作りたいそうですが……どうやって作る気でしょう? 犠牲を出したらその時点で『皆』ではないですし。何というか彼女の理想は彼女が持つ人をひきつける魅力……いえ、魔性と合わさって『装飾のされた泥船』というふうに感じました。

 

見た目は綺麗で多くの人が乗れますが、進んでいる内にだんだん溶け出し,気付いた時には海の真ん中で手遅れ、といった感じです。せめて諌める人がいれば良いのですが、信頼の厚い二人は完全なイエスマン。

 

 

……あれでは諌める言葉を聞き入れないんだろうなぁ。

 

 

大体、ギルさんでさえ不可能だろう『全員救済』をあの程度の人が出来る訳がありません。

 

 

……ただ、それを信じる人がいるのが不安です。

 

 

 

 

 

 

とりあえず恋さんと月さんは今日も可愛かった。あと、ギルさんとエネルさんの協力の下なら出来るかもしれませんね。

 

 

 

 

 

他の人の日記 

 

 

呂布

 

 

W月O日

 

……今日から日記を書く事になった。面倒くさい……。 あと、すごく美味しい屋台があるらしい。旅をしているらしいから一度食べてみたいと思う……。

 

 

 

 

 

 

W月U日

 

……今日、任務の帰りに山を歩いていたら美味しそうな匂いがしたから行ってみた。男の子が鍋の前にいた。分けてくれたから食べたけど、美味しすぎて全部食べちゃった。……反省。

 

とりあえず城まで案内する事にした。明日には城に着くと思う……。

 

 

 

 

 

W月P日

 

今日、城に着いた。男の子は柳って名前らしい。……変な名前。真名も無いし……。とりあえず昨日のお礼に恋のをお教えておいた。

 

 

霞達は警戒してたけど、柳の料理食べたら仲良くなってた。「ちきんなげっと」? とかいう料理らしい。美味しかった。

 

あと、月の方をしばらくボゥっと見てたけどなんで?

 

 

 

 

W月K日

 

柳と槍で戦った。気が付いたら日が暮れてて二人とも血まみれだった。戦った後のご飯が美味しい。

 

 

……勝負には勝ったけど不満。柳、まだ何か隠してる

 

 

 

 

 

W月M日

 

柳はまだ14だったらしい。驚き。後育ての親が三人らしい。

 

『ぶるぁぁぁぁぁ』って何だろう?

 

……あと、柳のご飯食べ過ぎて食費が拙いから作る日減らすって言われた。悲しい。

 

 

 

 

 




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ラスボス番外編 もし呼んだのがラスボスでなかったら 歌姫と標的編 ①

「柳、起きる。ご飯作って」

 

小柄な少女が寝ている柳の上に跨って顔をペチペチと叩く。暫くそれを続けるも柳は起きず、少女が腕を振りかぶって拳を顔面に叩き込もうとした時、少女の姿が消えた。

 

 

 

「ニュルフフフフフ。いけませんねぇ、オーフィスさん。起こす時は優しく、ですよ?」

 

「むぅ。分かった」

 

何時の間にか少女……オーフィスは黄色いタコの様な生物に抱き抱えられていた。タコは触手をティッシュに伸ばすと紙縒りを作って柳の鼻に入れる。

 

「ハ、ハックション! ……何するんですか、殺せんせー」

 

柳は謎のタコ……殺せんせーに不機嫌そうな視線を向けながら起き上がる。少々体が凝り固まっていたのかコキコキと音を立てながら手足を動かし、洗面台で顔を洗うとキッチンに立った。

 

「さ、ご飯にしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

これは転生前の柳が特典にラスボスと付け加えなかった物語……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、口にソースがついてますよ」

 

「んっ」

 

柳はオーフィスの世話を焼きながらも食事を続ける。殺せんせーは流しで鍋やフランパンを洗いながら椅子に座って食事を取っている。彼の最高速度はマッハ20。故に分身紛いの事ができるのだ。

 

「……所であの二人はまだ寝ているんですか? 折角の朝ごはんが覚めちゃいますよ」

 

「仕方ありませんねぇ。昨日遅くまでゲームをしていた様ですよ」

 

柳と殺せんせーは二つの空席を呆れたように眺める。その席の主達は今だし就寝中なのだ。

 

 

 

 

なお、二人共家事が全く出来ないので調理中は起きてなくても問題がなかった。

 

「柳、お代わり」

 

子供用の椅子に座ったオーフィスは口元にご飯粒を付けながら可愛らしいキャラクター物のお茶碗を突き出し、柳はそれに大盛りのご飯を盛って渡した。

 

「あ、オーフィス。今日は顔を出さないと言っておいて下さい」

 

「分かった。……それも食べて良い?」

 

無表情で頷いたオーフィスが指差したのは起きてきていない二人のオカズ。柳は暫し考え、片方をそっと彼女の前に差し出した。

 

「まぁ、朝ごはんは一緒にって約束を破った罰です。今朝はフリカケで我慢して頂きましょう」

 

悪戯げにウインクしながら柳がもう一人のオカズに手を伸ばすも消失し、殺せんせーの手の中に移動していた。

 

「ニュルフフフ……。今朝の鹿肉とキノコの猟師風オムレツ特製ソースは絶品ですからねぇ」

 

「……何時もは絶品じゃないとでも?」

 

「いえいえ、そんな事はありませんよ? おや、もう帰った様ですね」

 

何時の間にかオーフィスの姿は消え、流しに彼女の使った皿が置かれている。二人が彼女が来た当初はしなかった片付けという行為に感心していると、階段をドタドタと駆け下りる音が聞こえてきた。

 

「この香りはオムレツだな! 流石だ奏者よ! 其方のオムレツは余の好物だからな!」

 

「あ、殺せんせーが食べました。もう残ってませんよ」

 

「ニュルフッ!?」

 

駆け下りてきたのは小柄な金髪の少女。オムレツがないと聞いた瞬間に世界の終りのような悲壮な顔をし、次の瞬間には鬼の形相で装飾がされた剣を抜く。

 

 

 

だが、既にマッハ20のスピードで逃げた後だった。

 

 

「って、居らぬ!? ……のぅ、奏者よ。余は其方が……ゴホンッ! 其方のオムレツが食べたい。作ってはくれぬか?」

 

柳を見る少女の顔はまるで捨てられた子犬。瞳を潤ませ上目遣いでジッと見てきていた。

 

「……分かりました。ただ、鹿肉は隣の駒王町まで行かないとありませんのでお昼で良いですか? とりあえず朝ごはんは適当に食べて下さい」

 

「あ~もう! 愛い奴め♥ どうだ、今から余の部屋で……」

 

「じゃあ、買い物に行ってきますね。……く・れ・ぐ・れ・も! 通販で無駄遣いしない事! 買いたい物が有る時はまず相談! ……分かりましたか?」

 

「……むぅ。余は詰まらぬ……。分かった分かった」

 

少女は不満そうだが頷き、冷蔵庫を漁り出す。柳が出かけて後に仕舞い忘れていた殺せんせー秘蔵のハムを見つけ、分厚く切るとナイフとフォークを使って優雅に食べだした。

 

「……どうも最近扱いが悪い気がするのぅ。うむ! また歌でも聞かせてやるとするか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉ! 超美人じゃん!」

 

「ねぇねぇ、カラオケでも行かない?」

 

「(あらあら、困りましたわ)」

 

その日、朱乃はナンパをされて困っていた。話しかけてきたのは金髪鼻ピアスのチャラい男達。部活の後輩同様に彼女の体を舐め回すように見ていた。

 

朱乃は同世代の男子に興味がない。いや、正確に言えば幼い頃の初恋の相手が忘れられないのだ。彼女が実は人間ではないっと言う事を知っても受け入れてくれた彼は父親によってその時の記憶を消されたが、朱乃は事細かに覚え、それが大切な宝物だった。

 

「さ、行こう行こう!」

 

男達は遂に朱乃の手を掴んで強引に連れて行こうとする。周囲の者達は見てみないふりをし、ニヤニヤいやらしい笑いを受かベた彼らに嫌悪感を感じた朱乃は男達を適当にあしらおうとした。

 

しかし……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ痛たたたたたたたっ!」

 

「……女性に対してその様な態度はどうかと思いますよ?」

 

朱乃の手を掴んだ男は一人の少年に腕を捻り上げられ痛みから朱乃の手を掴んだ手を離す。もう一人の男が殴りかかったが、足を払われて無様に転ばされた。

 

「……まだやりますか?」

 

「くそっ! 覚えてやがれ!」

 

三流悪役の捨て台詞を吐いて男達は逃げ出し、少年は明野に笑いかけた。

 

「お怪我はありませんか? 困りますよね、ああいう人達って」

 

その笑顔を見た瞬間、朱乃の脳裏に初恋の相手の顔が蘇る。

 

「……やっ君? すみません、貴方は神田 柳君ではありませんか?」

 

「確かに私の名前はそうですが……お会いした事ありましたっけ?」

 

目の前の少年、柳こそ朱乃が十年以上忘れられない初恋の相手だった。

 

「私です! 昔よく遊んだ姫島 朱乃です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……部長。朱乃さん、妙に機嫌が良くないですか?」

 

それから少し後、駒王学園のプールにやって来たオカルト研究部のメンバーは上機嫌の副部長に戸惑っている。何時も笑顔を絶やさない朱乃ではあるが、今の彼女は浮かれて地に足がついていない、と言っても過言ではない。

 

 

 

 

「私も変だと思って聞いてみたんだけど……初恋の相手に再会したらしいのよ。しかも、シツコイナンパから助けて貰ったんですって。……イッセー?」

 

「ぐぎぎぎぎぎぎっ!」

 

リアスから朱乃が機嫌の良い理由を聞かされた一誠は嫉妬から歯噛みする。それを見たリアスは嫉妬しないの、と言いながら彼を抱きしめた。

 

 

「仕方ないでしょ? あの子にとって大切な思い出なのよ。昔聞いたんだけど、急に引っ越して行ったらしいわ。後で知った事なんだけど朱乃のお父さんが命乞いされて見逃したはぐれ悪魔にご両親と妹さんを殺されたらしくって……」

 

「あれ? ならなんで其奴は生きているんですか? それに引っ越して行ったって……」

 

「……確かに妙ね。後で詳しい話を聞いてみようかしら」

 

しかし、朱乃は柳から連絡先も住所も聞かされておらず、悪魔のネットワークを持ってしても居所が分からなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただ今帰りました。うわっ!?」

 

柳が玄関のドアを開けた瞬間、鞭の様な物が叩きつけられる。慌てて避けると目の前に赤い髪をした少女が立っていた。ただ、普通の少女ではない。その頭には捻れた角、先ほど叩きつけたのは龍の尻尾で、体の其処らに龍の鱗がある。

 

「遅いじゃない! 私が起きた時はモーニングティーと……あ、朝のチ、チューをする約束でしょ!?」

 

少女は顔全体を真っ赤にし、湯気を出しながら叫ぶ。ただし、凶悪な槍を突き付けながらだが……。

 

「いえ、私は了承していませんよ?」

 

「わ、私がしろって言ってるんだからすれば良いじゃない! むきー!」

 

赤髪の少女は癇癪を起こしたかのように地団駄を踏み鳴らす。柳は溜息を吐くと彼女に近づき、

 

「じゃあ、ただ今のキスで」

 

っと彼女のほほに軽く口付けをする。その瞬間、少女は更に顔を赤らめ、

 

「きゅ~」

 

目を回してその場に倒れてしまった。

 

 

「……さ、昼ご飯の下拵えしなきゃ」

 

少女をリビングに寝かせた柳は台所に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数日後、駒王学園では三大勢力の会談が行われ、案の定テロが行われる。時間を停めていたハーフヴァンパイアが助けられ裏切ったヴァーリが一誠と戦いだした瞬間、会談の会場となった部屋にニつの影が現れた。

 

 

 

 

 

 

「初めまして、無能な統率者の皆様。私達は厨二臭い組織名の『禍の団(カオスブリゲート)』の一員です。……あれ? 二人は?」

 

現れたのは柳と殺せんせー。何故か一緒に来ているはずの二人の姿が見えず、キョロキョロと柳が周りを見渡した時声が掛けられれた。

 

「な、なんで!? やっ君がどうして……」

 

「おや、朱乃さんも来ていましたか。まぁ、どうでも良いです。今はあの二人が……」

 

「柳君、どうやら彼処に居るようですよ」

 

殺せんせーが指さしたのは旧校舎の屋上。まさにバカと何とかは高い所が……っという奴である。そして、赤髪の少女が槍を振り回して床に叩きつけた瞬間、アンプで出来た城が現れた。

 

「な、何だ!?」

 

「……くっ! おい! あれを辞めさせろ!」

 

急に現れた物体にアザゼルは首を傾げ、テロの首謀者であるカテレアは顔を青褪める。それに対し、柳と殺せんせーは首を捻った。

 

 

「え? どうしてですか? せっかく絶世の歌姫二人のデュエットが聞けるのに」

 

「ほら、アレですよ。旧魔王派は美的感覚が……」

 

「おかしいのはお前達だ!」

 

 

カテレアが怒鳴った瞬間、少女達はマイクに口を近付け……。

 

 

 

「さぁ、行くわよ! エリザベート・バートリーと!」

 

「ネロ・クラウディウスが贈る新曲!」

 

 

 

 

                 「「暴君と竜の恋愛戦争!」」

 

 

 

 

後に彼らは語る。この時の事は思い出したくないと……。

 

 

 

 

なお、柳と殺せんせー、そして小猫だけは絶賛していた。




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ラスボス番外編 もし呼んだのがラスボスでなかったら 歌姫と標的編 ②

「じゃあ、続いてのナンバー行くわよ!!」

 

三大勢力の会談はテロによって中断され、テロ級の音痴によって阿鼻叫喚の場へと変貌していた。今無事なのは歌っている二人と柳と殺せんせー。そして小猫のみだ。

 

「良いですよー! よっ! トップアイドル!」

 

「ピューピュー♪」

 

「ぶらぼー」

 

柳はどっから出したのか応援旗を振り回し、殺せんせーは指笛を吹き、小猫は拍手を送る。そしてほかのものは死屍累々といった様子だ。

 

「ねぇ、柳。アイツ等寝てるけど、どうしてかしら?」

 

「うむ! 全く失礼な奴らだ!」

 

自分達が無差別破壊テロ級の超絶音痴である自覚がない二人は不機嫌そうに頬を膨らませる。その姿は年相応でとても可愛らしかった。

 

「ええ、恐らくお二人の歌がとても素晴らしいので昇天したのではないでしょうか? または人外だからお二人の歌の素晴らしさが理解できない、とか? あ、帰りに食事でもしていきません? 曹操が良い店教えてくれたんですよ。二天龍より強い店主がやってる蕎麦屋なんですけどね……」

 

っと其処まで言った所で柳は身を逸らす。その横を消滅の魔力が通り過ぎていた。放たれた方を見ると、一誠とアーシアとゼノヴィア以外のグレモリー眷属がフラつきながらも立ち上がっていた。

 

「……甘かったわね。小猫が居るから音痴には慣れてるのよ!」

 

「っ! 部長っ!」

 

リアスが叫んだ瞬間、彼女の上に影ができる。祐斗がリアスを抱えてその場から飛び退いた瞬間、先程までリアスが居た場所にエリザベートの槍が叩きつけられた。

 

「……音痴? 私達が音痴ですって? 子リスの分際でっ! 悪魔の分際でっ! ゴミの分際でっ! あ~、もう! 頭が痛いじゃないっ!」

 

「な、何っ!?」

 

エリザベートは突如癇癪を起こしたように叫びだし、リアスはその様子に唖然とする。

 

「部長、今ですっ!」

 

「そ、そうね!」

 

祐斗の言葉に我に返ったリアスはエリザベートに向かって滅びの魔力を放ち、その魔力は槍で簡単に振り払われる。槍には傷ひとつ付いていなかった。

 

「何それ? 本気でやってる? あ~あ、ぶっ殺したなるわねっ!」

 

エリザベートはそのままリアスに向かって槍を突き出し、祐斗が咄嗟に間に入って剣で防ぐも、

 

「本気でやってる?」

 

あっさりと吹き飛ばされた。

 

「……退屈ね。ねぇ、もう帰らない? 紅茶が飲みたいわ」

 

エリザベートは退屈そうに欠伸をし、柳は何処から出したのかティーポットとティーカップを用意すると暑い紅茶を入れる。受け取ったエリザベートは美味しそうに紅茶を飲みだした。

 

「はいはい、あと少し我慢していて下さいね。今日は英雄派を代表して宣戦布告をしに来たんですから」

 

「そうだぞ、エリザよ! それに此奴は余の(・・)奏者に手を出しおった! その報いを受けさせるまでは……」

 

「……ちょっと待ちなさい。柳が誰の、ですって? あの子は世界一の歌姫である私の付き人で、一番のファンなの!」

 

何時の間にか二人の間に険悪なムードが流れ出す。再びチャンスだと判断した祐斗が剣を構えるも、突如周囲を複数の殺せんせーが囲んでいた。その手には先程まで祐斗が握っていたはずの剣がある。

 

「駄目ですよ? 今日の我々は宣戦布告だけをしに来たんですから。おっと、申し遅れました。私は……殺せんせーと呼ばれております。禍の団(カオス・ブリケート)英雄派の特別教師をやっていますよ。ニュルフフフフフ。どうぞ宜しく」

 

「くっ! 分裂かっ!」

 

「いえいえ、タダの超スピードです」

 

警戒した祐斗に対し、殺せんせーの顔はナメた時の色になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むむっ! 其処まで言うのなら何方の方が奏者とラブラブが競い合おうではないかっ! まぁ、余に勝てるはずがないがなっ! 聞いて驚くなっ! 余は一昨日奏者に背中を流して貰ったのだっ!」

 

「な、なによっ! 柳が入っている所に突入して貞操を寄越すか背中を流すか迫られたって聞いたわよ!  は、裸を見られたからって偉そうにしないでよ! わ、私なんて子供がどうやったら出来るかを勘違いしているからって……」

 

エリザベートは其処で顔を真っ赤にする。心なしか湯気が出ているように見えた。

 

「な、なななっ!? 何をしたのだ、奏者っ!? まさか此奴を抱いたのかっ!?  違うと言ってくれ。泣くぞ? 余は本気で泣くからな?」

 

「……抱いていませんって。ただ、ジュースと間違ってワインを飲んでしまって酔っ払った勢いで悪乗りしてしまい……。膝に乗せて尻尾と胴体を抱きしめた上で殺せんせー秘蔵の無修正物を最後まで……」

 

「ニュルフェェェェェェッ!? ま、まさか隠していたDVDが粉々になっていたのは……」

 

「わ、私が砕いたわっ! 此れだから男って嫌っ! あと、柳! 私を辱めた責任は取りなさい! ぐ、具体的に言うと……キャッ!」

 

エリザベートは真っ赤に染まった顔を両手で覆い、顔をブンブンと振っている。柳がどう返せば良い物かと迷っていると、突如ネロに胸ぐらを掴まれガクガクと揺らされた。

 

「奏者ぁぁっ!! どういう事だ!? 余は膝の上に座らせて貰った事などないぞっ!? ええぃっ! 今晩座らせて貰うからなっ! ……あと、耳掃除も頼む。ついでに今晩も背中を流せっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ! イケメン死ねっ!」

 

「うぅ、頭がガンガンしますぅ」

 

この時になって最近漸く小猫の音痴に慣れてきた一誠とアーシアが復活する。なお、他の者はまだ悶えている。一誠はこんな場所でラブコメを繰り広げている柳に嫉妬し、背中のブースターを吹かせながら突撃した。

 

「っ!」

 

柳が気付いた時にはすぐ目前まで一誠が接近しており、柳の顔面向かって拳を振り抜く。辺りに鮮血が散った。

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ、ビックリしましたね」

 

「がっ……」

 

無傷の柳は汗を拭い、脇腹から血を流した一誠はその場に倒れこむ。強固な赤龍帝の鎧は柳が手にした槍によって簡単に貫かれていた。

 

『ば、馬鹿なっ! 大丈夫か、相棒!? それにしてもあの槍が触れた瞬間、その箇所だけ鎧が……まさかっ!』

 

「気付いた様ですね。私の槍の名はゲイ・ジャルク。魔法や異能を消し去る力を持つ槍です。まぁ、本来は長槍ですが、殺せんせーが短槍にしてくださいました。もう一つの武器を扱う為に……なっ!? 桜?」

 

一誠を回復させようと慌てて寄ってきたアーシアの姿を見た柳は固まる。瓜二つとまでは言わないが、アーシアは死んだ妹に似ていた。

 

 

 

「しっかりせぬか、奏者! あやつは貴様の妹ではないっ!」

 

「はっ!」

 

柳を我に返したのはネロの叫び。柳は迷いを振り払うかの様にに顔を振り、サーゼクス達の方を向いた。彼らも漸く回復してきたのか、頭を押さえな型も立ち上がった。

 

 

「……そろそろ時間ですね。オーフィスがお腹を減らしてやって来る頃合いですし要件を告げます。我々、英雄派の目的は貴方達、三大勢力から人間を解放する事。悪魔の駒や神器とかでいい加減迷惑しているんですよ。では、私達はこれで。……殺せんせー」

 

「はいはい、分かっていますよ」

 

何時の間にか殺せんせーの手には柳達が抱かれており、次の瞬間には結界をブチ破って遥か彼方に消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……奏者よ。幼馴染や妹に似た少女と戦うのが嫌なら戦わずとも良いのだぞ? 其方は余が守る」

 

「そうよ。貴方は私達の中で一番弱いんだから無理しなくて良いのよ?」

 

ネロとエリザベートは柳を心配して気遣うが、柳は顔を横に振った。

 

「いえ、私も戦います。貴女達ばかりに戦わせられませんよ。……家族ですから」

 

「流石だ、奏者よ! ええぃ、愛い奴めっ! 余の婿に来ると良い♥」

 

「ちょっと、いい加減にしなさいよ! 此奴は私の彼氏なのっ!」

 

柳の両脇で二人は睨み合い、殺せんせーは、青春ですねぇ、と言って笑っている。そんな時、チャイムの音が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

「やぁ、柳。ソッチはどうだった? 俺とジークは神器の違法研究施設から子供達を助けてきたよ。……とりあえず何か食わせてくれ。昨日から何も食べてないんだ」

 

「まったく! 曹操は食事を与えられてなかった子供達に持っていた食料を全部上げたんだよ。地中海で立ち寄った街でも、貧しい子供達が売ってる花を全部買って路銀を使い果たすし。……僕も限界だ」

 

「我も、お腹減った」

 

「はいはい、今から蕎麦を食べに行きますから一緒に行きましょう」

 

やってきたのはオーフィスと青年二人。彼らの名前は曹操とジークフリード。柳の大切な仲間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、自分の歌に自信満々だった小猫はリアスに音痴と言われたショックでずっと項垂れていて参戦できなかった。




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ラスボス番外編 もし呼んだのがラスボスでなかったら 歌姫と標的編 ③

今回はラブコメ回 cccルートに入るからセイバー分を供給して我慢しなくては うっかりエンディングについて知ってしまった


「う~、酷い目にあったぞ」

 

「我、死にそう。でも、アレならグレートレッド倒せる」

 

蕎麦屋の帰り、ネロとオーフィスはそれぞれ柳と曹操に背負われていた。和やかな外食帰りの筈なのに、なぜ二人がこのような状態にあるのか。その原因は柳が注文した裏メニューにあった。

 

「大げさですね。あの程度の辛さで」

 

「いや、無限龍が倒されるほどだからねっ!?」

 

曹操はキャラ崩壊も気にせずツッコミを入れる。柳が注文したのは『激辛炎獄鍋焼蕎麦』。柳が美味しそうな食べるのを見たネロも食べたがり、柳の手で口に運ばれた瞬間に今の状態になった。オーフィスも興味を持ってこっそり食べた瞬間に今の有様だ。こんな料理を作る蕎麦屋に驚けば良いのか、その料理に耐え切る皿や鍋に驚けば良いのか、それとも美味しそうに食べれる柳に驚けば良いのか、全く謎である。

 

「兎に角、こんな状態のオーフィスを他の奴らに見られる訳にはいかない。英雄派の基地で落ち着くまで寝かせるよ」

 

「では、また明日」

 

柳達は曹操達と別れ、そのまま家へと帰って行く。家に帰ってもネロは調子が戻らずソファーに寝転んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「ネロ。お風呂空いたわよ」

 

一番風呂を堪能したエリザは湯気を出しながら浴室から出てきた、。そのまま冷蔵庫から牛乳を出すと一気に煽る。半分以上残っていた牛乳は彼女の胃の中に収まった。なお、この家では女性陣から先に入浴する事なっており、柳と殺せんせーは最後にお風呂掃除をする事となっていた。

 

「ニュルフフフ。その様子では一人では入れそうにないですねぇ」

 

「え~と、今日は我慢して明日の朝に入りますか?」

 

柳は気を使ってそう言うがネロは不満そうに頬を膨らませると両手を柳へと向けた。

 

「嫌だ、余は今から入りたい! 柳よ、入浴を手伝ってくれ!」

 

「ちょ、ちょっと! お、お風呂を手伝うって事はお互い裸で……・駄目よそんなのっ!」

 

エリザベートは顔を真っ赤にしながら反対する。彼女の脳内では浴室でのアハンでウフンな光景が繰り広げられていた。

 

「むぅ、なら、お主が手伝ってくれるか、エリザ?」

 

ネロはニヤニヤしながらエリザの方を向く。もちろん、貴族出身の彼女に他人の入浴を手伝うスキルなどあるはずもなく、柳の幼少時には殺せんせーが主に世話を焼いていた。

 

「さ、流石にお風呂は……」

 

恥ずかしがって断ろうとした柳だったが、その首元に赤い剣が突きつけられる。剣の持ち主であるネロは怖い笑みを浮かべていた。

 

「余がこうなったのは誰の責任だったかの?」

 

「……お手伝いします」

 

「うむ! それでこそ余の奏者♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、まずは上着から頼むぞっ!」

 

「……はいはい、大人しくして下さいね。では、バンザイしてください」

 

ネロが着ているのは赤いワンピース。足が丸見えのネロお気に入りの一着だ。柳は目をそらしながら脱がせようとするが、ネロによって無理やり前を向かされた。

 

「皇帝の服を脱がす時に顔を背けるものが居るかっ! 手抜かりがないように前を向いて行え!」

 

「りょ、了解しました!」

 

余りの迫力に柳は思わず敬礼をしてしまい、仕方なく顔を真っ赤にしながらワンピースを脱がす。すると小柄な体躯に似合わない豊満な体付き、トランジスターグラマーと呼ばれる物だ。最近お気に入りにしているピンクのブラを外すと胸がプルンっと揺れる。最後にパンツの紐を解くと生まれたままの姿となる。雪のように白い肌にほのかに赤みが差しており、ネロも少々恥ずかしい様だ。

 

「で、では入るぞ!」

 

「え、ええ。……あれ? それだけ元気なら一人で入れるのでは?」

 

「……ああ、まだ視界がふらつく。余は辛い……。誰かのせいでな」

 

「……分かりましたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ、もう少し力を入れて洗わぬか!」

 

その後、柳はネロの背中を流し、

 

 

 

 

 

 

「さ、流石に前は」

 

「何を恥ずかしがる理由がある? 余の裸体は至高の芸術品。其方に邪な思いがなければ平気なはずだ!」

 

仁王立ちしたネロの前面をのぼせ上がりそうになりながら洗う。体を洗い終えて浴室から出てきた頃には柳はフラフラになり、鼻にティッシュを突っ込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……酷い目に会いました。いや、美味しい思いはしましたが……」

 

その夜、自室で先程の出来事を思い出した柳は顔を真っ赤にする。その時、部屋をノックする音が聞こえてきた。扉を開けると入ってきたのはエリザベート。何やら不安そうな顔をしている。

 

「ねぇ、柳。豆電球が切れちゃったの。暗いのは怖いのっ!」

 

エリザベートは既に元の世界で死んだ存在。その最後は光の差さない石牢での死亡。故に彼女は暗闇を極度に嫌い、寝る時は豆電球がなければ眠れないのだ。

 

「……困りましたね。今、豆電球は切れてましたし」

 

「そんなっ! 私、暗い所じゃ一人で眠れないのにっ!」

 

柳の言葉にエリザは絶望したような顔をする。しかし、何かを思いついたような顔をした。

 

「なら、今日は私の部屋に来てっ! 多分、手をつないでてくれたら眠れると思うから……駄目?」

 

エリザベートは不安そうな瞳をしながら柳を上目遣いに見る。その瞳に柳は逆らえず、エリザの部屋までついていった。

 

「所で今日だけ私の部屋と交換するというのは?」

 

「……私と手を繋ぐのは嫌なの? わ、私、貴方に嫌われてた!?」

 

「いえいえ、言ってみただけですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリザに部屋にあるベットは天蓋付きの高級品。柳が使っている普通のベットとは寝心地が段違いだ。エリザが寝転がると柳はベットの端に座り、そっと手を繋ぐ。リモコンで電気を消した時にエリザベートは身を竦めるも、柳の手をギュッと掴むと安心したように寝息を立て出す。

 

 

 

「こうして見ると可愛らしいんですがねぇ」

 

「……んん。柳、有難う……」

 

エリザベートの表情には時折見せる残酷さやう何時も見せる傲慢さの欠片もなく、年相応の少女の寝顔だった。握られた手の力は強く、もし部屋に戻った後で目を覚ましたら怖がるだろうと思った柳は今晩だけはずっと此の儘でいる事にした。

 

 

「……流石に座ったままはキツイですねぇ」

 

「なら、奏者も一緒に眠れば良いであろう!」

 

「いや、それは流石に起きた時が怖いって、ネロさんっ!?」

 

「うむ! 奏者がエリザと一夜を過ごすと殺せんせーから聞いてな! それならばと余も駆けつけたのだ! っという訳で……」

 

ネロは柳の足を払うとベットの中に押し込むそして柳の空いた手を握ると自分もベットに入った。

 

 

「たまには三人で寝るのも良かろう! 文句は言わせぬぞ、奏者!」

 

「……はいはい、美女二人と同じベットで眠れて私は幸せものですね」

 

「……うむ」

 

その夜、同じベットで寝た三人はそれぞれ良い夢を観ることが出来た……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやいや、青春ですねぇ」

 

マッハ二十のスピードで豆電球を買って来ていた殺せんせーはドアの前でしみじみと呟いた……。




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ラスボス番外編 もし呼んだのがラスボスでなかったら 歌姫と標的編 ④

他のを期待していた諸君、すまん! 従者は少しずつ出来ている 本編は……聞かないで


 カーテンの隙間から差し込む日光にエリザベートは目を覚ます。何時も抱き抱えて寝ているヌイグルミは床に置かれ、目の前に柳の顔があった。しかも、エリザベートの手をしっかりと握った状態だ。たちまちエリザの顔が真っ赤に染まり、その場から飛び退くと尻尾が振るわれる。

 

「ち…痴漢~!!」

 

「あ痛ぁっ!? エリザさん、落ち着いてっ!」

 

 痛みで目を覚ました柳は咄嗟にエリザベートの尻尾を掴んだ。なお、尻尾はかなり感度良好で逆燐も存在する。たちまちエリザベートは腰砕けになり、どこか色気を感じさせる声まで出した。

 

「あ…っ。だ…だめ……。うぁっ……」

 

「……これは」

 

 柳はその反応が面白かったのか尻尾を更に刺激する。エリザベートの反応は更に激しさを増し、柳の手の動きは更に早くなる。

 

「……何をしているのだ、奏者よ?」

 

 そして、怒れる皇帝がは柳の手を掴んだまま、余った手で柳の肩を掴む。その顔は笑っているが、瞳は笑っていなかった。

 

「お、お早うございます」

 

「うむ。良い朝じゃな。……それで、何をしていたのかと聞いておる」

 

 肩を掴む手の力は徐々に強くなり、柳はエリザの尻尾から手を離す。すると立ち上がったエルザベートは拳をポキポキと鳴らしながら近づいて来た。

 

「あ…朝からあんな破廉恥な事するなんてっ!」

 

「じゃあ、昼や夜なら良いんですか? じゃあ、今夜にでも……」

 

 そこまで言った所で柳はゆっくりと後ろを振り向く。ネロは柳の手から手を話すと胴体に手を回していた。

 

 

「ええい! なぜ貴様はエリザにばかりそういう事を言うのだっ! 余にも何か言うが良い!」

 

「いや、だってエリザさんが一番からかって楽しいですから。ネロさんに言うと、そのまま食われそうなので」

 

 柳が指差す先には先程にまして顔を真っ赤にしたエリザベートの姿。それを見たネロは納得したように頷いた。

 

「うむ! あの顔が可愛いのは認めよう。余も寵愛を与えたいくらいだ。だが! 奏者よ。余は其方にも寵愛を与えたいのだぞ?」

 

 ネロは指を柳の顔に這わせ、ゆっくりと顔を近づける。後退りしようとした柳だが、背中から化物じみた怪力でホールドされた。

 

 

「逃がさないわ。わ…私に恥をかかせたんだから、貴方も恥をかきなさいっ! ……ネロが終わったら私だから」

 

 

 エリザベートは恥ずかしそうに呟き、ネロはそのまま柳の唇を奪う。その後、ズボンとパンツを脱がせようとしたが、エリザベートが真っ赤になって止めたのでなんとか奪われずに済んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は休日ですし、どこか遊びに行きますか?」

 

 殺せんせーは目立つので論外として、エリザは角と尻尾を幻覚で何とかすれば気付かれず出歩ける。だが、二人は残念そうな顔をして一枚のチラシを見せた。

 

「……うむ。それなのだがな、今日は此処に行く予定なのだ」

 

「もう入会申込も済ませちゃったのよ」

 

 二人が見せてきたのはテニススクールのチラシ。エリザベートはテニスウェアに既に着替えていた。

 

「……に、似合うかしら?」

 

 その場で一回転すると短いスカートが翻り、アンスコがチラリと見える。思わず目がいった柳の姿をネロがジッと見ていた。

 

「……随分追い越されたのぅ」

 

「……そうね」

 

 二人は寂しそうな声で柳に近づき、背丈を比べるように頭に手を置く。三人が柳に喚び出されたのは約十年前。その頃は一番小さかった柳だが、今や殺せんせーの次に大きくなっていた。

 

「まったく、あの頃の素直な奏者は何処に行ったのだ! 風呂も寝所も一緒だったというのに、今は別々とは」

 

「……昔は”お姉ちゃん”って言って甘えてきたのにね」

 

「……まぁ、私は人間ですから。でも、お二人も少し伸びてきたじゃないですか」

 

 柳の言う通り、最近まで全く成長しなかった二人に体は成長し始めていた。禁手の中で二人と同じ様な存在だったギルガメッシュから聞いた所、神器が強化されて受肉を果たしたのだろうとの返答を貰った。

 

「……まぁ、成長できるのは嬉しいけど、老けるのはちょっと……」

 

「まぁ、余もその気持ちは分からぬでもないが、柳に置いてけぼりにされるよりはましであろう?」

 

「まぁ、私もお二人が美しい大人の女性になる所も、年を取っていく所も見たいと思いますしね」

 

 二人は柳の言葉に嬉しそうに照れ、その両手をギュッと握りしめた……。

 

 

 

 

 

「ニュルフフフフフ。青春っていうのは見ていて清々しいものですねぇ」

 

殺せんせーはビデオカメラでその姿を撮影し、バレた瞬間には地球の裏側まで逃げていた。

 

 

 

 

 

 

 

「面白そうですし、私も見学していきますよ」

 

 二人と共にテニスサークルまでやって来た柳は見学者として入り、二人は指導を受けている。二人共人外じみた身体能力を持ち、ネロは皇帝特権で大体の事を熟せるので順調に進んでいた。

 

 

 

「あっ! テメェはっ!」

 

「……あの素晴らしい歌声の人達の仲間ですよね」

 

「……やっ君」

 

 同じテニスサークルに見学に来た一誠と小猫と朱乃に出会うまでは、の話だが。一誠は生徒のテニスウェア姿に鼻を伸ばし、小猫は絶対零度の目でそれを蔑む。朱乃はその二人を見てクスクス笑っていた。そんな時、三人と柳はバッタリ出会ったのだ。

 

 

「あ、どうも。良いお天気ですね」

 

 柳は睨んでくる一誠を無視し、一向に知人に会っただけの様な挨拶をすると、その場から去ろうとする。だが、一誠は引き止めようと手を伸ばしてきた。

 

 

「逃がすかよっ!」

 

「……こんな所で戦う気ですか? まったく、最弱の赤龍帝は頭も最弱ですか」

 

「なんだとっ!」

 

 激高した一誠は殴りかかり、柳はその腕をあっさりと掴むと、その場に組み伏せた。

 

「ほら、弱い。赤龍帝の籠手がなければ貴方はただの雑魚悪魔なんですよ。いや、そもそも神器を持っていなければ人間のままでしたっけ? 貴方も不幸ですね。凡庸で平和で何よりも素晴らしい人生を手放したんですから」

 

「ぐっ……。俺は今の生活に十分満足してるよっ!」

 

「……本当にそうですか? ほら、よく考えてみてください。貴方、悪魔になる前に人の形をした生き物を殺せましたか? 人でなくて動物でも構いません。そして、人の形をしたものをあっさり殺す相手に恐怖を感じませんでしたか? 貴方が今の生活に満足しているのは、悪魔になって感覚がおかしくなっただけですよ」

 

 柳は其処まで言って飛び退く。先程まで彼の頭があった場所を小猫の拳が通り過ぎていた。

 

「……さて、二人も可哀想に。折角通い始めたというのに、もう辞めなければならないとは。……よく考えてみて下さい。貴方は、貴方の両親は人や人にしか見えない生き物を殺すことに抵抗を感じなかったか。……もしかしたら、悪魔の駒には洗脳効果があるのかもしれませんよ? 貴方の気持ち、本当に本物でしょうかね?」

 

 柳はそう言うと一瞬で姿を消す。何時の間にかネロとエリザベートの姿も消えており、住所を書いている書類もパソコンのデータも綺麗に消えていた……。




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 ラスボス番外編 もし呼んだのがラスボスでなかったら 歌姫と標的編 ⑤

押し寄せる白波、照りつける太陽。潮の香り漂う浜辺に英雄派の姿があった。

 

「まあ、一部の人は居ないんですがね」

 

「誰に言ってるんだ? 柳」

 

「いえ、画面の前の皆様にご説明を」

 

「? まあ、良いか」

 

へラクレスは首を傾げるも、どうでも良くなったのか視線を先程まで向けていた方向に向ける。其処では女性メンバーがビーチバレーを行っていた。

 

「それ!」

 

ネロがスパイクを打つとボールは見事に砂浜に打ち込まれ大きく跳ねる。ついでに殆ど紐といって良い様な赤い水着で隠された胸も激しく揺れていた。続いてジャンヌがサーブを打つとエリザベートが拾い、ネロがスパイクをジャンヌ目掛けて打つとジャンヌに直撃して水着の紐が解けた。

 

「きゃあっ!?」

 

「……見ました? ピンクでしたね」

 

「ああ、勿論だぁっ!?」

 

「こ、この、変態共ぉ~!!」

 

二人に向かって無数の聖剣が飛来し、二人は必死に走って避ける。途中、釣りをしていたアーサーを盾にしつつ何とか逃げ延びた。

 

「危なかった……」

 

「ああ、死ぬかと思ったぜ。……しっかしよ、お前はああいうの何時も見てんだろ? ネロなんざ何時も色仕掛けを仕掛けるじゃねぇか」

 

「まあ、そうなんですが、迫られると気恥ずかしくって。いや、エリザさんは反応が可愛らしく面白いのでセクハラしがいがあるんですが、ネロさんの場合はそのまま食われそうで」

 

「なあ、殴って良いか? 神器有りで殴って良いか?」

 

ヘラクレス、彼の神器は殴った対象を爆発させるというものである。

 

「……しっかしよ、本当に俺達だけで遊びに来て良かったのか? 曹操や殺せんせーは仕事をしてるってのによ」

 

「仕事をする時には仕事をして、遊ぶ時には思いっきり遊んで心を休ませる。良い仕事をする秘訣ですよ? おや、どうかしましたか?」

 

柳が手を引っ張られたのに気付いて後ろを振り向くとジャンヌが選んだ真っ当な水着を着たオーフィスの姿があった。

 

「……お腹減った」

 

「はいはい、今直ぐ何か作りますよ」

 

柳は張り切って用意していた鉄板で焼きそばを作り出す。漂う香りに誘われて他のメンバーも集まり、巻き込まれて海に落とされ潮に流されたアーサーが捕まえてきたサメのフカヒレも豪快に焼かれ、特製のソースをかけて食べる。オーフィスも無表情ながら夢中になって食べていた。

 

「しかしさ、オーフィスも変わったわね。昔は何にも反応示さなかったのに、今じゃご飯作ってくれとか、遊びに参加してきたりとかさ。私達の目標も一歩前進って所かな? 神器や眷属化で苦しむ人を救い、オーフィスにコッチの世界に興味を持って貰って次元の狭間を諦めてもらうっていう計画のさ」

 

「にゅふふふふ、きっと上手く行きますよ。ああ、柳君。ソースは少し塩を利かした方が私は好きですねぇ」

 

「おや、終わりましたか。それで首尾はどうでした?」

 

「上出来ですよ。ちゃんと不戦協定を結んできました」

 

殺せんせーの触手の先には複数の神話や勢力との不戦協定の書類があった。

 

「俺達の目的はあくまで人間を救う事。それ以外は考えてない事が伝わったのさ。まあ、オーディンの糞爺からは死後に何人か英雄として引き取るという契約を結んだがね」

 

「いや、そういうのは私達と話し合って……いえ、リーダーの貴方に従うとしましょう」

 

「我、イカ焼き食べたい」

 

「ほら、その前に口にソースが付いていますよ」

 

「ん」

 

柳はオーフィスの口元を拭うとイカ焼きを作り出す。甲斐甲斐しく世話を焼くその姿をヘラクレスは訝しげに見ていた。

 

「なあ、アイツってもしかしてロリコンか? ここ最近、オーフィスの世話を焼き通しじゃねぇか」

 

「何を言うか! 奏者は余の事が大好きなのじゃぞ!」

 

「はいはい、その辺にしておきなさい。私が昨日抱き抱えられた時に聞いたんだけど、グレモリーの眷属に死んだ妹に似ている子が居たらしいわよ。私の尻尾を撫でながら寂しそうに言ってたわ」

 

「あの子は脆い所がありますからねぇ。私も色々とサポートしてあげたいですが、心の問題ばかりは何とも……」

 

 

 

 

 

「……綺麗な星ですね」

 

その日の夜、他のメンバーがホテルで眠る中、柳は一人で夜の浜辺に来ていた。空には星が輝き、体に当たる潮風が心地よい。マットの上に寝転んで空を眺めていると両隣に座る者達が居た。

 

「うむ! 良い星じゃな」

 

「まあ、トップアイドルの私の輝きには劣るわね」

 

二人は昼間同様に赤いヒモ同然の水着にスクール水着だ。そのまま梁後の隣に寝転ぶと同じように空を眺め出す。

 

「どうかしましたか? 夜更しはお肌の大敵と何時も言っているでしょう?」

 

「誤魔化そうとするな、奏者よ。お主、悩みがあるだろう?」

 

柳は誤魔化すようにネロから目を逸らすが、逸らした先ではエリザベートが真剣な眼差しで見つめて来ている。逃げ場なしと悟った柳は観念した。

 

「仲間なら何でも話すべきなのでしょうが……」

 

「いや、それは違うぞ。確かに余はお主の事なら性癖や異性の好みまで全てを知りたい。じゃが、話したくない事まで話させたいとは思わん」

 

「仲間なら何でも話しておくべきなんて小学生の道徳の授業じゃないのよ? 私やネロ、殺せんせーにだって貴方に話してない秘密があるんだし、吐き出したくなった時に話してくれれば良いし、話したくないままだったら話さなくて良いわ」

 

「ちなみにエリザさんの性癖は?」

 

「私? 私は、って危なっ!? も~! 良いシーンでセクハラかますの止めなさいよね! 其処は”……有難う”とかでしょ!」

 

「いや、そういうシーンは他でやってますので。……さて、気も晴れましたし部屋に戻りましょう。お二人も早めに戻った方が良いですよ」

 

エリザベートの尻尾を慣れた動作で避け続けながら柳は砂浜を駆け巡り、業を煮やしたエリザベートは龍の翼を広げて追いかける。

 

「待ちなさ~い! このセクハラ男~!!」

 

流石に飛んだ方が早いのか直様柳に追いつき手を伸ばしたその時、柳は振り向くと背中を反らして回避する。そして自分の真上をエリザベートが通り過ぎる瞬間、反対に抱きついた。

 

「捕まえましたっ!」

 

「……あ、あぅ~」

 

手足を使ってホールドされたエリザベートは恥ずかしさから飛び続ける事ができず墜落する。それでも柳はホールドを解いていなかった。

 

「シャンプー変えました? ああ、新しく買った高い奴ですね。いい匂いがします」

 

「は、放しなさいよぉ。ば、馬鹿ぁ……」

 

恥ずかしさからからかエリザベートは持ち前の怪力を発揮できずに成すがままにされている。柳も調子に乗って尻尾を撫で回し、その腕を掴まれた。

 

 

「奏者ぁ? 何故、余には構わんっ!? 余が何度お主を誘惑したか分かっておるのかっ!? なのに毎度毎度エリザにばっかり! 泣くぞ? 余は泣くからなっ!」

 

「……ねえ、この馬鹿にお仕置きするわよ。べ、別に昨日偶々見つけて読んだ官能小説に影響されたからじゃないんだからねっ!」

 

ちなみに殺せんせーの私物である夜の浜辺を舞台にした野姦物である。エリザベートの精神は十四歳で止まっており、最近になって漸く成長しだしたばかり。そろそろ気になり出す年頃になっていた。

 

「エリザよ。あそこに丁度良い岩陰があるぞ! さて、柳よ。精力の貯蔵は十分かっ!」

 

「またネタに走りましたねぇ。って、本当に引きずられて……」

 

 

そして次の日の朝。

 

「うむ! 昨日は良かった。余は満足だ! 今夜も頼むぞ柳よ!」

 

「む、無理! あんなの無理! 見るだけでも恥ずかしいっていうのに! でも……」

 

「柳、何かあったのかい?」

 

「……ええ、有りました」

 

ツヤッツヤのネロに対し顔を真っ赤にしたエリザベートがブツブツ呟いてネロと柳から目を逸らし、柳は遠い目をしていた。

 

 

 

 

「オーフィス! 摘み食いはダメですよ! 貴方には後で作ってあげますから殺せんせーと遊んでいてください」

 

数日後、任務で悪魔のパーティを監視している黒歌と美猴への差し入れを作っていた柳は唐揚げに手を伸ばしたオーフィスの手を叩くと料理に戻る。彼が後ろを向いた瞬間に伸びてきた触手を包丁で切り裂くと衣を付けて揚げ、触手の持ち主の口に放り込む。聞こえて来る悲鳴を無視して料理を重箱に詰め終えると綺麗に包んだ。

 

「さて、届けに行きますか。オーフィス。この前教えた通りに片付けられたら好きな物を作ってあげますよ。残った物は全て食べて良いですから皿も洗ってくださいね」

 

「分かった。我、頑張る」

 

子供用エプロンを着たオーフィスはリスの様に食べ物を詰め込みながら後片付けを始める。殺せんせーは未だに痙攣していた。

 

 

「にゅるぅ~。先生は猫舌なんですってぇ」

 

「ではゲオルク。送ってください」

 

柳の体を黒い霧が包み姿が消え失せる。次の瞬間には冥界の森の中にいた。

 

「……良い匂いです」

 

「ああ、貴方は学園に居た黒歌さんの妹の……」

 

そして目の前には白髪の少女が居た。

 

 

 

 

 

「しかし退屈じゃな。カラオケセットでも使うとするか?」

 

「良いわね。思いっきり歌いましょ」

 

「にゅふふふふ。楽しみですねぇ」

 

オーフィスは逃げ出した。

 

 

 



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悪魔と秘密道具

とある所に一人の天才が居た。彼女は物心着くころには人生設計を終え、十代になる頃には全ての学問を極め切った。彼女は知識欲の方が三大欲求より強く、人間らしい感情など無い……筈だった。そう、とある男性に出会うまでは。

 

「驚いた? 私、魔法使いなの」

 

今までの価値観を崩壊させる出会いをした彼女は彼と恋に落ち、やがて一人の子を成した。子供の名は己道 因果(おのれどう いんが)。この話は両親の才能(と悪い所)を受け継いだ彼の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

此処は駒王街の一角にある研究所。此処には所長に雇われた助手は居ない。理由は簡単、足手纏いにしかならないからだ。その研究所内のとある研究室、電気を消されて真っ暗になった部屋にスポットライトが灯る。ライトで照らされているのは白衣を着た一人の少年。その後ろには白衣を着た黒髪の女性と小柄な白髪の少女が控えていた。

 

「……完成だ! 完成したぞ! やはり私は天才だっ!」

 

「博士、今回の発明品はどんなのにゃ?」

 

「ふふふ、聞いて驚くでないぞ? 名づけて『タイムふろしき』! 包んだ物の時間を最大五分間戻し、あるいは進める事が出来るのだ! はっはっはっ! どうだ? 凄いだろう!」

 

「……これお願いします」

 

少年、因果は時計の模様が書かれた風呂敷を自慢げに掲げる。すると小柄な白髪頭の少女が進み出る。おして、その手に持っていた食べかけの冷えた肉まんを包んで少し待つと、一口も囓られていないホカホカの肉まんが其処にあった。

 

「……久し振りのまともな発明ですね」

 

少女はモキュモキュと肉まんを頬張りながら褒め、因果は不満そうな顔をする。

 

「何だ、その言い方は。私の発明品に文句でもあるのか、白音?」

 

「……夢確かめ機、おしり印の吉備団子、苦労味噌」

 

白音に呼ばれ少女は淡々とい最近の発明品を上げていく。夢かどうか確かめる為に頬を抓るマジックハンド(キャタピラ付き)や巨大な動物にすら効く強力な下剤団子、そして舐めたら舐めるほど苦労する味噌。どれも役に立つとは思えない。

 

「く、苦労味噌は凄いだろう。運勢に干渉するんだぞ!?」

 

「役に立ちません。むしろ使ったら迷惑なので無い方が良いです」

 

「にゃはははは! 白音は相変わらずにゃ。まぁ、因果の発明品は魔法を一切使っていないのよ?」

 

黒髪の女性は笑いながらフォローを入れる。彼女の言う通り、因果の発明品は魔法を一切使っていないにも関わらず魔法に匹敵するような効果を持っている。それが彼が天才たる所以。父から習った魔法の理論を天才的頭脳によって再現したのだ。

 

「流石は黒歌だっ! よく分かっているじゃないか!」

 

「にゃん♪」

 

二人はガシッと抱き合うが身長差から因果の顔は黒歌の巨乳に埋まる。その様子を白音は不満げに見つめ、肉まんを握りつぶす。中から丸々一個入っていたホタテの貝柱がこぼれ落ちた。

 

 

 

 

 

 

「……白音。それ、私が中華街から取り寄せた高級肉まんじゃ……」

 

「……にゃん」

 

 

 

 

 

所でこの二人は何者なのか? それは因果の幼少期まで遡る。両親と旅行に行った先で因果は二匹の衰弱した子猫を発明品の実験体にする為に拾った。それによって助けられた二匹の正体は猫の妖怪である猫又で、魔法使いの父の勧めと母の知的好奇心を刺激した事もあって居着く事になったのだ。

 

なお、とある悪魔が二人を引き取りたいと言い出し、断った時に強引な手段に出たが、研究所内に微生物が一匹増えただけに終わった。

 

 

なお、その日の前日に因果の母親は『進化・退化光線銃』なるものを発明していたが、三日後に危険すぎるということで父親の手によって封印されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ちなさい、変態共~!」

 

「「「うわぁぁぁぁぁっ!!」」」

 

今日も彼が通う駒王学園では追走劇が繰り広げらている。追われているのは兵藤・松田・元浜の通称変態三人組。追っているのは学園の体育教師で因果の父親である己道 摂理(おのれどう せつり)。その見た目はモジャモジャ頭にケツアゴのオカマだ。ジャージが何故か囚人服風で、一撃で怪人を倒すヒーローの漫画に出て来そうな見た目である。なお、体力馬鹿に見えるけど超一流の魔法使いだ。

 

「……相変わらずですね」

 

「……変態共には気を付けろよ? もし何かされたら色々な意味で抹殺してやるから」

 

なお、白音と黒歌は同居している従姉妹という設定になっており、因果が二年生、白音が一年生だ。なお、黒歌は大学部に所属しており、放課後となれば三人で寄り道をしたりしている。なお、既に海外で飛び級で大学を出ている因果であったが、インスピレーションの足しに、と普通の学園生活を送りたがり、一番家に近かった所に今通っているのだ

 

 

 

 

 

 

「あら、朝から会うなんて奇遇ね。ちょっと話でもしない?」

 

そんな中、話しかけてきた女子生徒が一人。彼女の名はリアス・グレモリー。この学園の三年で二大お姉さまと呼ばれている美少女だ。彼女が通り過ぎれば男女問わず振り返るほどの美貌なのだが、因果と白音は明らかに迷惑そうにしている。

 

「また勧誘か? それに何が奇遇だ。待ち伏せしておいてよく言う」

 

「……眷属にも部員にもならないとも言ったはずです」

 

実は彼女は悪魔で、二人を下僕として悪魔にしたいと何度も勧誘を繰り返しているのだ。やれ、上級悪魔になれば下僕が持てる、やれ、悪魔は長寿、やれ、貴方達は強い力を持っているから管理を任された者として放っておけない、等だ。そしてせめて彼女が部長をやっているオカルト研究部に入部しろとも迫っている。

 

 

はっきり言って二人にとって迷惑だった。

 

「あら、そんなに嫌わなくたって良いじゃない。此処を管理する悪魔として、貴方達は気になるのよ」

 

「……私達は正式な手段で入学しました。兎や角言われたくありません」

 

「大体、それを言うなら悪魔が人間の世界に来ないで貰いたい。小競り合いに巻き込まれて迷惑だ。……それと、私達一家が貴様の兄がやっている事業の筆頭株主だという事を忘れないように。そして、母の伝手で国家運営の異能者組織にも顔が利く。……あまりしつこいと潰すぞ?」

 

因果はまるでピストルを突きつけるかの様にリアスの眉間に指先を突きつける。それにリアスがたじろいた隙に二人はさっさと校舎に入っていった。

 

 

 

 

数日後、変態の一人である兵藤が彼女が出来たと騒いでいた。

 

 

 

 

 

「あの彼女、堕天使だな」

 

「……そうですね。神器が目的でしょうか?」

 

「ん~、危険な代物が一般人に宿ってたら拙いから殺す気かにゃ? 異能者の組織に知らせとく?」

 

「……不確実過ぎて動かないだろ。まぁ、同じ学園の生徒も遠国の病人も同じ人間だ。私は直接関わっていない相手なら、死んでも精々可哀相としか思わない。実際に何かできるのはごく少人数だ。……しかし、話し出したら気になって来た。……閃いた!」

 

三人は自室でスナックとジュースを囲みながら駄弁っている。暫く考えていた因果だが、突如立ち上がると研究室に向かい、三十分後にマルとバツの形をした何かを持ってきた。

 

「……スイッチオン」

 

白音が呆れた様子で壁のスイッチを押すと同時に因果はその二つを掲げる。

 

「○×占い~!!」

 

そして効果音が鳴り響いた。

 

「……どういう効果ですか。まぁ、予想は付きますけど」

 

「聞きたいにゃ~」

 

黒歌はノリノリで反応してくれ、因果は特捜に胸を張る。

 

「ふふふ、これはあらゆる問いにマルがバツで答えてくれるという道具だ! その正解率100%!」

 

「……相変わらず凄いですね。ネーミングセンスは無いですけど」

 

因果はその言葉に落ち込み、立ち直るのに要した時間は三十分。それから堕天使の目的を調べる事にした。

 

「堕天使の目的は強力な神器を持った兵藤を殺す事?」

 

『ピンポンピンポ~ン』

 

床に置かれたマルが飛び上がり、正解のファンファーレが鳴り響く。

 

「……リアス・グレモリーは彼が命を狙われている事を知っている?」

 

『ピンポンピンポ~ン』

 

再び鳴り響くファンファーレ。既にリアスは堕天使が彼を殺そうとしていること知っている事を知り、白音は不快そうな顔をする。

 

そして、最後の質問。一応するが不正解だと思いながらされた質問だ。

 

「この街に侵入した堕天使の目的は兵藤を殺す事だけ?」

 

『ブッブー!!』

 

 

するとバツが飛び上がり、三人は顔を見合わせた。




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悪魔と秘密道具 ②

この作品は徐々にアンチが強くなります 二巻だとリアスとグレイフィアに罵詈雑言吐く予定


その日、画期的は発明をした発明家を表彰する式典が開かれていた。その中でも表彰式の常連となっている女性科学者が一人居る。彼女の名は己道 束(おのれどう たばね)。人類最高の知能を持つ……社会不適合者だ。

 

「え~、では次の受賞者は己道 束博士ですが……今、居られません」

 

「……またか」

 

「……この所ずっとですね」

 

今回彼女が発表したのはあらゆる言葉を理解し、相手に聞こえる言葉も自動翻訳するというコンニャクと雨雲を作り出す機械の二つ。魔術的な現象を科学の力で再現した二つによって彼女は最優秀者として表彰される事になったのだが、毎年の如く表彰式に出席していなかった。

 

彼女は興味のない相手には全く関心を示さず、一円の価値すら見出さない。故に旅行とパーティのご馳走目当てにやって来たものの、途中で面倒臭くなって何時も抜け出しているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしもし、ひねもす? あ、白音ちゃん? 因果ちゃんかダーリン居る? ついでに黒歌ちゃんも」

 

そして、会場を抜け出した彼女はホテルのスィートルームのベットでゴロゴロしつつスナックを齧りながら電話を掛けていた。

 

「はい、居ます。でも、今用事がありまして。それで何か伝言でも?」

 

「うん! お土産は何が良いか聞いて欲しいのと、今晩九時に迎えに来て欲しいって伝えといて」

 

「分かりました」

 

「それでさ~、聞いてよ。有象無象が私に式に出席しろって五月蝿いんだよ。なんで私がそんな事しなきゃいけないのかな? パーティに出席してあげるだけでも感謝して貰わなきゃね✩ あ、君にもお土産買って帰るから楽しみにしといて」

 

束は楽しそうに笑いながら電話を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、因果と黒歌は偵察用の機械であるスパイ衛星で堕天使の様子を探っていた、魔術的なものに反応する結界はあっても機械は通し、電波を妨害する魔術も因果の発明品の前には無効化される。衛生は難なく教会内部に侵入し本体の画面が内部を映し出す。其処には堕天使らしい女性二人と少女一人が映っていた。

 

 

 

「此処のお風呂って狭いから嫌ね」

 

「あ~あ、本部の広いお風呂が恋しいわ」

 

「にしてもウチら大丈夫なんすかね? 危険な神器所有者の抹殺のついでに貴重な神器を手に入れるてヤバくないですか?」

 

三人は今後の計画を話し合っている。……それも風呂場でだ。衛星が侵入した頃を見計らって画面を付けた途端、三人のあられもない姿が映し出されていた。

 

 

 

そして、そのタイミングで白音がお茶を持ってきた。

 

「……覗きですか。最低です」

 

「いや、違うが? 偶々この画面が映っただけだ。……しかし興味深いな」

 

「背中を凝視してますね。背中フェチですか?」

 

「いや、奴らは翼を隠しているだろう? その術をなんとか応用できないものかと……閃いた!」

 

因果は突如叫ぶと研究室へと走って行き、後には黒歌と白音が残された。

 

「……結局、堕天使の目的は何だったんですか?」

 

「なんか回復系の神器を宿す子を騙して呼び寄せて神器を抜き取る気らしいにゃ。とりあえず異能者の組織には連絡したら、不法入国で逮捕した後に勧誘するって言ってた」

 

「殺しのターゲットにされてる人はどうするんですか?」

 

「忙しくて不正確な情報は動けないから放っておくそうよ。まぁ、因果は実験材料が欲しいって言ってたから手を出す気みたいだけど。……それより、白音。因果が堕天使の入浴シーン見てるの知って嫉妬したでしょ? ねぇ、悪戯しない?」

 

黒歌はニヤニヤ笑いながら白音の耳に何やら囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……風呂。なにか風呂に入りながら使える発明品は……」

 

その夜、因果が風呂に入りながら考え事をしていると扉が開いて黒歌と白音が入ってきた。

 

「にゃはははは! 風呂ではゆっくりしろって言われたでしょ?」

 

「……姉様、バスタオルが落ちそうです」

 

体に巻いたタオルがズレ落ちそうでも気にじていない黒歌と顔を赤らめながら因果の方を見ている白音はそのまま因果の隣に座る。因果は二人の体をジロジロと見ていた。

 

「……あまり見ないでください。恥ずかしいです」

 

「良いじゃない。私の体なら触っても良いわよ、因果」

 

「……いや、姉妹なのに肉付きに差があるな、と思ってな。こうして見るとハッキリ……」

 

その瞬間白音の拳が因果に放たれ、因果はそれを正面から受け止める。が、流石に種族の差からか力負けして手が痺れていた。白音は突き出した手を戻すと自分の真っ平らな胸を見ながら拗ねたような顔をする。

 

「……大人になったら姉さまの様になります」

 

「なら、今すぐなってみるか? 取り寄せバック~!!」

 

因果が取り出したのは距離を無視して目的の物を取り寄せられるバック。もっとも、因果特性のスタンプでマーキングをしておかなければいけないが。ちなみにそのバックを何処から取り出したかは秘密だ。そしてそのバックからは青と赤の二つのスイッチのついたロープが出て来た。

 

「ふふふふふ!」 

 

因果が笑いながら指を鳴らすと電気が消え、ロープをスポットライトが照らす。

 

「このロープこそ、人類の夢である若返りを叶える発明品! その名も、年の泉ロープ~!」

 

「どんな効果なのにゃ、博士?」

 

「ふはははは! このロープを繋いでボタンを押すと水が泉の如き湧き出る。そして、赤い水を百ml飲むと、一年歳を取り、逆に青い水を百ml飲むと一年若くなるのだ! ふはははは! では、試しにジョッキで飲んでみろ」

 

「……はい」

 

小猫は風呂から上がるとジョッキで一気に水を飲み干す。すると体がムクムクと成長し姉の黒歌と同程度まで成長した体になった。

 

「……どうですか? 姉様と同じ位……」

 

その瞬間、白音は足元にバスタオルが落ちているのに気付く。急成長前には軽く巻いているだけで良かったのだが、成長後は緩すぎて擦れ落ちたのだ。しかも成長した姿を見せ付ける為に因果の前で仁王立ちしており、色々見えている。流石の因果もモロに見たので顔を赤らめ鼻を押さえていた。

 

「キ、キャァァァァァ!!」

 

白音の蹴りが顔面に命中し因果は気絶する。その後、因果の父である摂理の手によって封印指定にされた。彼曰く、まだ人類には早すぎる、だそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「組織から連絡が有ったわ。例の少女を保護したそうよ。殺されそうになった事を聞かされて随分怖がっていたみたいだけど、今は落ち着いているんですって。組織に所属するかはまだ答えがでないそうだけど……あら? そろそろハニーを迎えに行く時間ね」

 

「ああ、分かっているぞ父さん。……どこでもドア~」

 

転移の術を参考に空間歪曲現象を利用して作った其のドアを開くと、空港に着いたばかりの束のすぐ前に繋がった。

 

「ただいま、ダーリン!」

 

「うふふ、お帰りなさいハニー!」

 

因果達の前にも関わらず二人はガシッと抱き合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒歌、醤油取ってくれ」

 

「オムライスに醤油? 其処はデミグラスソースでしょ!」

 

「……ケチャップこそ至高です」

 

仲は良いが味覚の好みはバラバラの三人であった。そして数日後、兵藤一誠と初めて出来た彼女(彼を殺そうとしてる)のデートの日がやって来た。

 




父親は ぷりぷりプリズナー 母親は篠ノ之 束 一応母親似です(笑) なお、因果はとある魔王を心底嫌悪しています。 さて、誰でしょう(笑)

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悪魔と秘密道具 ③

一誠が彼の命を狙っている堕天使とデートする日の前日の夜、因果はとある男と電話で会話をしていた

 

「ああ、分かった。君の希望を尊重しようその代わり、分かっているね?」

 

「当然だ。私がそのような事くらい分からぬはずがないだろう。十で良いな?」

 

「十五だ」

 

「……了解した」

 

因果は苦虫を噛み潰したような顔をし、電話の先の男はニヤニヤ笑っている。因果が腹立たしそうに電話を切ると背中に柔らかい双丘が触れる。

 

因果(い~んが)♪ 電話が終わったのなら早く寝るにゃ。明日は私とのデートなのよ?」

 

「バスタオル一枚で廊下を歩くな、バカ猫」

 

呆れたような声で溜息を吐く因果だが、その視線は深い谷間にチラチラと注がれている。もちろん黒歌は気付いており、ニンマリ笑うと因果の頭を抱き寄せて谷間に押し込んだ。

 

「む~!?」

 

急に口と鼻を塞がれた因果は脱出しようとするも、鼻には良い匂いが漂い顔全面を柔らかい肉が包む

 

「ほらほら、因果の好きなおっぱいにゃ♪ んっ、ほら、触る時はもっと優しく……痛っ!?」

 

何とか脱出しようとした因果だが、胸を押しのけようと力を込める度に指は胸に沈み、呼吸はますます苦しくなるばかり。黒歌はそのような事など気付かずに因果をますます強く抱きしめ息を荒げ出す。そんな時、白音が黒歌の後頭部に手刀を入れた事でようやく因果は解放された。

 

「……姉様、因果さんが窒息しかけています」

 

「……あ」

 

ようやく解放された因果はフラフラになりながら壁にもたれ掛かる。それを見た黒歌に目が妖しく光り、彼女は因果を抱き上げる。

 

「じゃ、寝室までまで連れて行くね。白音は先に寝てて」

 

「因果さんを寝室に連れて行くだけですよね? どうして遅くなるんですか?」

 

「それはまぁ、若い男と女が一緒の部屋でする事と言えば……はいはい、分かったわよ。私は明日デートだかラ譲るわ。でも、貴女はまだHしちゃ駄目よ?」

 

何処か泣きそうな顔をしている妹の顔見た彼女は肩を竦め因果の鳩尾に一撃を入れて気絶させると白音に渡した。その小柄な体格からは想像もできない力を持つ彼女は機嫌良さそうに寝室まで運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……朝か。黒歌の奴め、覚えていろ。寝る前の構想時間が無くなったではないか」

 

昨日一撃れらて気絶させられるまでの記憶のある因果は不機嫌そうに呟きながら起き上がろうとするも、何故か体が起こせない。よく見ると猫のイラストがプリントとされた可愛らしいパジャマを着た白音が因果を抱き枕にしており、普段は隠している猫の耳と尻尾がピコピコと動いていた。とても可愛らしく、その手の趣味の人にはたまらないだろう。

 

「おい、起きろ白音。全く子供ではないのだから布団に潜り込むな」

 

もっとも、因果は見慣れているので特に反応しなかったが。なお、彼はベットより布団派である。

 

「……ん、ふにゃあ」

 

白音は因果に起こされても寝ぼけたまま因果に強く抱きつく。

 

「起きろと言っているだろう。惰眠は脳の働きを鈍らせるぞ」

 

「にゃぁぁん」

 

「……仕方ない。……いい加減に起きんか、馬鹿者!」

 

因果は白音の臀部付近に手を伸ばし、尻尾を強く掴む。白音の絶叫が響きわたった。

 

「にゃ、にゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お早う御座います」

 

「あら、今日は遅かったわね。因果はどうしたのかしら?」

 

白音がリビングに行くと摂理が朝食の準備をしており、束はウツラウツラしながら椅子に座っている。シャワーの音が聞こえる事から黒歌は浴室だろう。

 

「……まだ寝ています」

 

「も~、情けない子ねぇ。それとさっき凄い声が聞こえたけど大丈夫だった? あの子に襲われそうになったらすぐに言いなさいね。いずれは貴女か黒歌ちゃんをお嫁さんにって期待してるけど無理強いはしないわ」

 

「……お嫁さん」

 

白音は因果との結婚接活を想像して顔を真っ赤にする。その姿を見た摂理は嬉しそうに微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、束さんは二人共因果ちゃんのお嫁さんになっても嬉しいな✩ っていうか、他の有象無象が嫁になるなんて私は認めないよ!」

 

「ほらほら、食卓で暴れちゃダメよ、ハニー」

 

急に立ち上がって宣言し出す束に対し、摂理は困ったように笑う。その頃、因果はボディに良いのをもらって気絶していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、行ってくるにゃ」

 

「夕飯は多分要らないから食べててくれ」

 

黒歌と因果は二人揃って出掛けていく。この日、一誠のデートを尾行し、殺されそうになったら助ける為に二人も出かける事となったのだ。白音はお小遣い目的で倉庫の整理をする約束をだいぶ前にしており残念そうにしながら二人を見送る。束などは何処其処のホテルが良い、などの情報を黒歌に教えようとするも摂理に止められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの堕天使、退屈なのを隠しているな。笑顔に違和感がある。あれは作り笑いの時の表情筋の動きだ」

 

「……よく分かるわね」

 

二人はオープンカフェでデートしている一誠達を観察しながらデートを続ける。黒歌はクリームパフェ、因果はハラミ茶漬けを食べており、かなりの美女である黒歌に男達の視線が注がれていた。そんな時、黒歌はペフェを掬うと因果へと差し出す。

 

「はい、あ~ん♪」

 

因果は素直に口にし、今度はスプーンを受け取った因果が黒歌に差し出す。そのまま二人はパフェを食べさしあい、その後も尾行を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、一誠君。お願いがあるの……死んでくれないかな」

 

堕天使レイナーレの計画は大いに狂っていた。本当なら回復系神器を持つアーシア問少女を騙して神器を奪う計画だったのだが、彼女が不法入国で逮捕されその後の足取りが掴めていない。仕方ないので本来の任務に取り掛かることにした。人間の時の偽名は夕麻。一誠を夕日の中で殺そうと思ってつけた名だ。レイナーレハ黒い翼を羽ばたかせ、動揺している一誠めがけて光の槍を投擲する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バン!」

 

「なっ!?」

 

だが、突如響いた声と共に光の槍は弾かれる。声のした方向を見たレイナーレだったが猫の子一人いない。

 

「……まぁ、良いわ」

 

レイナーレが気にせずに一誠を殺そうとした時、突如銃声が響き渡り彼女の体が風船のように膨らむ。そのままレイナーレは風に運ばれ何処かに飛ばされていった。当然一誠は混乱している。彼女に黒い羽が生えて殺されそうになったら、今度は相撲取り以上のデブになって飛んでいったのだから無理がないだろう。

 

「どどど、どうなってんだよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、私が説明しよう。因果君達も出てきたまえ」

 

「ああ、分かっているさ。新発明の実験も終わった事だしな」

 

何時の間にか一誠の後ろには中年男性が立っており、地面からはまるで水中から浮かび上がるかのように同級生の因果と、美女として有名な大学部の黒歌が這い出てきた……。

 




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悪魔と秘密道具 ④

今回 グレイフィアへの暴言があります ファンの方はバック推奨


「さぁ、乗りたまえ」

 

一誠は初対面の中年男性に促されるまま、テレビでしか見た事のないような高級外車に乗り込む。彼の後ろの座席にはクラスメイトの因果とナイスバディな大学生である黒歌が並んで座っていた。

 

「あの、これから何処に行くんっすか? てか、夕麻ちゃんの背中に生えた黒い羽とか、地面から現れた後ろの二人とか、そもそも貴方誰っすかっ!?」

 

「ああ、その質問には後で答えよう。とりあえず自己紹介だけしておこう。私の名は殺生院 我道(せっしょういん がどう)。因果の母方の叔父だ」

 

我道は雨を見たまま名前を名乗り、そのまま車は街を出て暫く行った先にある建物に入っていった。外から見ると何かの研究所のように見える。そのまま一誠は部屋に通され、因果と黒歌は応接室で待機する事になった。

 

 

 

 

 

「ねぇ、どの位かかると思う?」

 

「悪魔や堕天使について話し、神器や魔法を見せて信じさせるとして……三十分程度だな」

 

黒歌は因果に擦り寄り体を密着させる。そのまま二の腕を胸の谷間に挟み込んだ時、一人の少女がに見ものを持って入ってきた。

 

「二人共、飲み物持ってきた……お邪魔だった?」

 

「いや、この馬鹿猫が発情期なのは一年中だ。それより久し振りだな、ジャンヌ」

 

「レオも元気にしてるかにゃ?」

 

「ええ、元気よ。まぁ、制御訓練の時にドラ○エのモンスターを創り出して暴走させた罰として、一週間おやつ抜きになったから落ち込んでるけどね」

 

ジャンヌはケラケラ笑いながら二人の向かいの席に座る。そのまま二人より早く茶菓子に手を伸ばした。

 

「それで、今回はどんな発明をしたのかしら?」

 

「打たれた相手が風船のように膨れて飛んでいく『フワフワ銃』と地面の中に水のように沈む事ができる『ドンブラ粉』の二つだ」

 

「……相変わらず意味不明な物作るわね。本当に魔法使ってないの?」

 

「当然だ。私の技術と知能があれば、科学の力で魔法を超える事が出来るからなっ!」

 

因果は得意そうにに胸を張り、ジャンヌは適当な時間で部屋から出ていく。それから数分後の事、一誠は悪魔や堕天使の存在を知らされ、魔法などを見せられる事によってそれを信じていた。

 

 

 

 

 

「さて、私達の組織である『八咫烏』は人外から人間を守るのを仕事としている。それと、神器持ちの保護もね。君にも危険な神器が宿っているみたいだし制御訓練を受けて貰うよ。もし受けてくれるのなら私達から堕天使に話をつけ、君が狙われないようにしようじゃないか」

 

「……お願いします。流石に殺されかけるのはもう懲り懲りですから……」

 

一誠は初めてできた彼女が自分を殺すために近づいて来たのだと知り、流石にショックの色を隠せないようだ。我道は立ち上がり、彼の肩を軽く叩くと電話を取り、応接間の因果に説明が終わった事を報せる。そのまま一行は魔法陣が床に書かれた部屋に入っていった。

 

 

「さて、兵藤君。この上で一番強いと思う者の真似をしたまえ。ああ、別に実際の人物じゃなくても構わない。一般人の君では強いと思う相手とは早々知り合わないだろうからね」

 

「じゃあ、ドラクソボールの空孫悟で……え、本当にやるんですか?」

 

「さっさとやれ、兵藤。この部屋に来た未発動の神器持ちは誰しも通る道だ」

 

「じゃあ……ドラゴン波! って、何じゃこりゃぁぁっ!?」

 

一誠は恥を捨てて主人公の必殺技の真似をする。次の瞬間には彼の腕に赤い籠手が装着されていた。

 

「……龍の手? いや、そんなありふれた物で狙われるはずが無い」

 

「……もしかして、もしかすると貴重な研究材料が手に入ったかもしれんな!」

 

その籠手を見た我道はブツブツ呟きだし、因果は嬉しそうに笑う。一誠はついて行けず困惑し、黒歌は顎に手を当てながら呟いた。

 

「……まさか赤龍帝の籠手? もしそうなら、危険だから命を狙われても仕方ないわね」

 

「え、あの、その赤龍帝の籠手てそんなに危険なんですか?」

 

一誠に質問された我道は我に返り、彼に向き直る。その額には少々冷や汗が流れていた。

 

「……極めれば神や魔王すら倒せるという程の危険物だ。悪いが訓練は予定より過酷なものになるぞ。ご両親にも説明したほうが良いだろう。はっきり言って、身内にまで危害が及びかねん」

 

「……それとグレモリーが知ったら勧誘してきそうだな。眷属にってな。……ああ、眷属についても教えておこう。甘い言葉に騙されないようにな」

 

因果は一誠に対して悪魔の眷属について説明し出す。そして話が上級悪魔になれば眷属を持てるというところに差し掛かると彼の表情が変わった。

 

「……それってハーレム作れるって事だよな? それなら悪魔になっても……」

 

「? 女子に嫌われてる貴様がどうやって女性の眷属を集める? 言っておくが無理やり眷属にしたら、この組織の抹殺対象にされるぞ。……それと、貴様は豊臣秀吉は知っているな? 貴様が彼のように織田信長に仕えたとして、彼のように出世できると思うか?」

 

「そ、そんなに難しいのか!?」

 

因果の言葉に顔を青ざめる一誠を見て我道は苦笑しだした。

 

「いや、因果の話は大げさすぎる。だが、難しいぞ? そもそも、今出世しようとしたら先程説明したレーティングゲームで活躍するしかないが……君は他人を気絶するまで殴ったり、刃物を持った相手と戦ったりできるのかね?」

 

「……無理です」

 

「それで良いのよ。アンタは一般人なんだから、戦う覚悟なんか持たないで良いわ。それと、眷属に対する扱いって結構悪いわよ? 上層部は純血以外を見下してるし、無理やり眷属にされたのも多いのに魔王は防止策すらロクに取ってないにゃ。……そして、逃げたら殺されるわ」

 

殺される、その言葉を聞いた一誠はカタカタと震えだす。今になって殺されかけた恐怖が蘇ってきたのだ。そして因果は最後にこう言った。

 

「それと、グレモリーは貴様に近づいて来たのが堕天使だと知ってる様だったぞ。その目的も大体見当が付いてただろうな。……言っておく。悪魔になるのは絶対に辞めておけ」

 

その言葉に一誠はコクりと頷き、その日の内に彼が組織で制御訓練を受ける事が堕天使の組織であるグリゴリに伝わり、レイナーレ達に帰還命令が発せられた。

 

 

 

 

「……っという事だグレモリー。兵藤への勧誘がしたければ、組織の者の立会いの下に行え」

 

「……分かったわ」

 

そしてリアスにも連絡が行き、その後勧誘しようとするも、一誠は悪魔になることを拒んだ。その後、施設で訓練に励む一誠は新しく組織に入った元聖女の少女等と仲良くなり、本格的に組織に加入するか両親と相談中との事だ。

 

 

 

 

 

……そして暫く経った日の夜、研究を済ませそろそろ寝ようとした因果の家に誰かが転移してこようとし、トラップが発動し、侵入者用の能力封印の結界が張られた収容房に送られる。因果が顔を見に行くと、下着姿のリアスが居た。

 

「……こんな夜中に親しくもない男の部屋にそんな格好で来ようとは……貴様、痴女か」

 

「失礼ね! ……丁度良いわ、因果。私を今から抱きなさい」

 

「貴様は阿呆か。誰が好き好んで面倒事になるのに首を突っ込む。男が欲しければ木場にでも抱いて貰え。俺は寝る」

 

「祐斗は紳士だし、ほかに頼れるのが貴方しか居ないのよ」

 

「勝手に頼るな、痴女。後、私は紳士でないとでも?」

 

因果がそのまま自室に戻ろうとしたその時、リアスと同じ様に銀髪のメイドが転送されてきた。

 

「……またか。人様の家に土足で上がろうとは……」

 

「グレイフィア! ……間に合わなかったわね」

 

「間に合うも何も、貴様なんぞに手を出すのなら、とっくに黒歌を抱いているわ、阿呆」

 

「お嬢様。この様な手段で破談に持ち込もうとは……。それに、この様な下賤な輩に純潔を捧げるなど、サーゼクス様や旦那様が悲しまれますよ」

 

その瞬間、因果の中で何かが切れる音がした。

 

「……こんな夜中に人に家に侵入し、好き勝手要求した上に下賎だと? それに貴様に言われたくないぞ、阿婆擦れがっ! 主を裏切って敵の英雄に体で取り入り、追放を免れた売女風情が、どの口で人を下賤と貶めるかっ!」




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悪魔と秘密道具 ⑤

俺屍2購入! そして感想 タコとムカデ。またお前らか!


「あらら~、因果もキッツイ事言ってるわね~♪」

 

「……珍しいですね。因果さんが彼処まで嫌悪感を露にするなんて……」

 

「いや、あの女達って因果が嫌うタイプじゃない。そんなのに侮辱されたらキレるにゃ」

 

侵入者収監用の結界房は家から中の様子を見る事ができ、一触即発の房内の様子を黒歌と白音は眉にシワを寄せながら眺めていた。

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと因果っ!? グレイフィアに対して言い過ぎよっ!」

 

「はっ! 魔王の妻としての勤めも、メイドとしての勤めも中途半端な無礼者に対して言葉を選ぶ必要など無いだろう? 知っているぞ、そいつはメイドの時も主を叩いたりしているのだろう? 使用人としては及第点すら与えられん。メイドプレイは寝室だけにしろ、吐き気がするわっ! 第一、貴様に呼び捨てにする権利を与えた覚えはないぞ、馴れ馴れしい!」

 

因果は嫌悪感に染まった瞳で二人を睨む。リアスは思わず怯み、グレイフィアは不機嫌そうに睨み返した。

 

「……確かにこちらが無礼だったのはは認めましょう。ですが、お嬢様の身分を知った上での、その言葉は見過ごせません」

 

「ふん! 人間を拉致し奴隷にする事を黙認している貴様ら悪魔に払う敬意など無い! 貴様らが我々人間を路傍の石コロ程度の扱うのだから、こちらが貴様らに対してどの様な態度をとっても文句を言われる筋合いはないわ! ……これ以上貴様らの顔を見るのも腹立たしい。駒王学園の旧校舎に転送してやるから、二度と来るなっ!」

 

因果は相応なり振り返らずに部屋から出て行き、リアスとグレイフィアは旧校舎に転送されていた。

 

 

 

 

 

 

「何故お前らが俺の部屋に居る? ……ああ、房の様子を見ていたのか」

 

因果が部屋に戻ると黒歌と白音がベットに腰掛けていた。二人共下着で、黒歌は黒の下着を着ており、もはや隠すというよりも、より扇情的に見せている。横の白音は……将来に期待といった所だろう。

 

「……因果さん。あの女の下着姿を見ましたよね」

 

「その様な目で睨むな。あの様な女の下着姿を見ても何も感じんから、嫉妬などしなくて良い」

 

「ま、私達は因果が好きだから、他の女の下着姿を見られるのは腹立たしいのよ。で、私達も同じ格好をして印象を塗り潰そうとしたんだけど……無駄だったみたいにゃ♪」

 

因果はスタスタとベットまで歩くと、そのままフカフカのベットにダイブする。

 

「……俺は寝る。添い寝するなり好きにしろ」

 

「襲っちゃ駄目?」

 

「駄目。……その内相手してやるから寝かせてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、帰るぞ白音」

 

次の日の放課後、退屈な授業を終えた因果は荷物を纏めると一年の教室まで向かう。彼が来た途端、一年の女子生徒達が騒ぎ出した。

 

「あ、己道先輩よ! 今日も知的で素敵だわ!」

 

「白音ちゃん、お迎えよ! あ~、私もあんな格好良い人に毎日迎えに来てもらいたいなぁ」

 

既に飛び級で海外の大学を卒業し、母親同様に様々な発明をしている因果は知的で格好良いっと女子の間で噂されていた。……なお、彼の父親がマッチョオカマだという事は誰も知らない。

 

「……相変わらず騒がしいな。よく知らぬ相手に対して、何故彼処まで騒げるのだ?」

 

「……分かりません。私が好きなのは、よく知っている因果さんですから」

 

彼女たちの騒がしさに辟易とした表情を見せながら校庭を歩いていた。その横を歩く白音は平然と告白をし、周囲のモテない男子生徒達は悔し涙を流す。

 

「クソ! イケメン死ね! なぁ、元浜」

 

「いや、こう考えるんだ、松田。己道は女顔だから百合に見えるっとな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、呪い系の発明品でも考えるか」

 

「止めておいた方が良いですよ。我道さんは身内だからと手加減する人じゃありませんから」

 

「……そうだな。それを口実に組織の外部協力者から正式職員にされかねん。我が叔父ながらあの外道には恐怖すら覚えるよ。外面と本性の差があり過ぎだ。……帰りにカラオケでも行くか? クーポンが今日までなんだ」

 

発明品で儲けている因果だが、発明に掛かる費用はその中で自由に使えるも、遊びに使う費用は父である摂理によって制限されていた。彼曰く”子供にあまり大金を持たす訳には行かないわ”との事だ。二人が黒歌も誘おうと大学部の方に向かおうとしたその時、背後から声が掛けられる。

 

「やぁ、己道君。部長が昨日の事で謝罪と説明をしたいそうだから、部室まで来てくれないかい?」

 

声を掛けて来たのはリアスの騎士である木場祐斗。イケメン王子と呼ばれている美少年だ。

 

 

 

「久々にデュエットでも歌うか? 言っておくが今日は持ち合わせが少ないからあまり食うなよ?」

 

「……私も出しましょうか?」

 

「いや、俺が出そう。身内とは言え男女で行くのだから、男の俺が出すべきだ」

 

「えっ!? いやっ、ちょっと待ってくれないかい!?」

 

二人は彼を無視してスタスタと歩いて行き、木場は慌てて二人を追いかけた。しかし二人は止まらず、木場に前に回り込まれた時には不機嫌さを隠そうともしなかった。

 

「理由などどうでも良い。謝罪も結構。貴様らとは関わりたくない」

 

「……用事がある方がアポを取った上で来るべきです。その程度常識ですよ」

 

二人は再び彼の頼みを断ると校門から出ていく。木場もリアスから絶対に連れてくるようにと言われているので、慌てて追いかけると肩に手を伸ばそうとし、見えない壁に激突した。

 

「うわっ!? 結界!? でもそんな気配は……」

 

「貴様は馬鹿か? 普通、このような場所で結界を使う奴など居ないだろう。科学の力によるバリアに決まっているではないか」

 

「……因果さんってたまに一周回って頭悪いですよね。普通はバリアも使いませんよ」

 

「なっ!? この私に頭悪い……だと? この『バリアーポイント』を作り出す程の私がかっ!?」

 

因果はショックでその場で固まり、白音は彼を引きずって去っていく。暫くそのやり取りを呆然と見ていた木場が我に帰って追いかけるも、二人の姿は何処にもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……姉様は友達とボウリングに行きましたし、私達だけで行きましょう」

 

白音は何処か上機嫌な様子で鼻歌を歌い、因果の腕に出来ついている。これで彼女が小柄じゃなかったらカップルに見えるのだが、小学生程度にしか見えない今の体格では仲の良い兄妹程度にしか見えない。

 

「……数年経ったら彼処まで成長するのにな」

 

「……でしたら数年後まで待っていてください。彼方の方が好みですよね? 彼処まで成長できる体で良かったです」

 

「まぁ、その容姿も大事だが、中身が気に入らん奴や、よく知らん奴はいくら見た目が良くても何にも感じないがな」

 

二人はそのままカラオケ店に行き、存分に歌った後に店を後にする。するとチンピラに絡まれている男女が目に入って来た。

 

 

 

 

 

 

「分っかんねぇかな。テメェらみたいなのより、俺の方が其奴らを楽しませれるって言ってんだろ?」

 

「だからアーシア達はお前に付き合わないって言ってんだろ!」

 

「ちょっとシツコイわよ、貴方」

 

絡まれているのは一誠とアーシア、そしてジャンヌとレオナルドだ。そして絡んでいるにはホスト風の金髪の男性。放つ雰囲気から彼が悪魔だという事が感じ取れた。

 

「あ、あの私達は八咫烏の関係者です。あまりシツコイと、じょ、上司に報告しますよ!」

 

「はっ! たかが人間の組織程度がどうしたよ! 俺はフェニックス家の三男だぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

「……確かライザー・フェニックスだったか? ああ、あのビッチの婚約者だったな。……あれとの婚約を破棄する為に私を利用しようとしたのか。……とりあえず顔見知りは助けるか。……取り寄せバック~!」

 

「一々名前を言わないといけないんですか?」

 

「形式美だ。……白音、これを使え」

 

因果はニヤニヤ笑いながら発明品を取り出す。出したのはお尻を模した物体と手袋と指輪だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、行こうぜ……あ痛ぁぁぁぁぁぁっ!? し、尻がぁぁぁぁっ!?」

 

「……痔?」

 

最終的にライザーはジャンヌの手を掴んで連れて行こうとし、急にお尻を押さながら飛び跳ねる。近くの建物の影では手袋の上から指をを付けた白音が尻状の物体にアイアンクローモドキを決めていた。

 

「……力を大幅に上げる『パワー手袋』、指の力を数千倍に上げる『ウルトラリング』、離れた相手の尻に攻撃できる『マジックお尻』。この組み合わせは作った私でも恐怖を感じるな……」

 

ちなみに白音はウルトラリングを薬指に、しかも因果に嵌めて貰うように頼んでいた。




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悪魔と秘密道具 ⑥

己道家の研究所の地下深くの工房。其処で無数の作業用ロボットが作業をしていた。高度な人工知能にマジックアームによる精密な動作など、使われている技術のドレもコレも世に出回っていない新技術で、中には特許使用料だけで大企業の年間利益を遥かに超えるものが複数使われている。

 

「……完成したな」

 

「うん、完成だね」

 

そのロボット達を監督しつつ、緻密な作業を進めていた束と因果は完成した発明品を眺め、ハイテンションでハイタッチした。

 

「「いえ~い♪」」

 

若作りな束と母親似の因果では親子と言うよりも姉妹にさえ見える。そのまま手を握り合ってくるくると回りだす二人の正面には巨大なロボットが直立していた。機体色は白と赤と青で所々に黄色が使われている。高度な人工知能と高機動性を持ち合わせたこの一体だけで小国の国家予算程の値段が付くだろう。当然、世に出ていない技術がふんだんに使われている……。

 

「さて、此奴の名前はどうするのだ、母さん? 私はジュドという名を思いついたのだが……」

 

「う~ん、私はクリスマスの時期から造り始めたから、ザンダクロスが良いかな?」

 

二人はああでもない、こうでもない、とロボットの命名論議を続ける。そして束の付けた名前で決定した時、空中に映像が映し出される。まるで高画質のテレビの様に鮮明な映像には我道の姿が映っていた。

 

『やぁ、束と因果。久しぶりだね』

 

「あ、お兄ちゃん! も~! 私と因果ちゃんの共同作業の途中だったんだよ。邪魔しないでよ~」

 

『はっはっはっ、まぁ許したまえ。……所で私達の組織と寄生ちゅ……悪魔達との交流試合の事なんだが人手が足りなくてな』

 

彼が支部長を務める異能者集団『八咫烏』は神器所有者の保護や危険な人外の討伐などを行っており、舐められないようにと各勢力に若手の実力を示す為の試合を行っているのだ。そして、今回は悪魔との戦いが決まっていた……のだが。

 

『若手が忙しくてね。出られるのはアルジェント君や最近正式加入した兵藤君以外には若手ナンバーワン候補の彼しか居ないんだ。……対戦相手はフェニックス家の馬鹿息……三男だ。新発明の実験相手には丁度良いだろう?』

 

「……封印指定の道具を試す良い機会か? 口実には十分だな」

 

「……むぅ。因果ちゃんに危ない事させる気なら怒るよ?」

 

束は不満げに画面を見つめるとリモコンのような物を取り出す。スイッチを押した途端に我道の顔以外の映像が切り替わり、サンバ衣装(女性用)で踊っている体に我道の顔がくっついていた。

 

『……どうかしたかい?』

 

映像がどうなっているのか分からない我道は首を傾げ、二人は必死で笑いを堪える

 

「ぷっ! い、いや、何でもないよ」

 

「くくく……似合ってるぞ」

 

『……まぁ、良いとしよう。あっ、何故かグレモリーの馬鹿娘と組む事になったから』

 

そのまま一方的に通信が遮断された……。

 

 

 

 

「……今から拒否したい」

 

「……駄目。お兄ちゃんとの約束を破ったら後が怖い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ! 今日から十日間の強化合宿よ!」

 

「帰れ」

 

次の日の朝、妙に気合を入れたリアスは大荷物を持って家の前に現れ、起きたばかりで機嫌の悪い因果は半眼で睨む。その後ろでは白音が箒の向きを反対し、塩を撒いていた。

 

 

「だいたい、学校はどうするのだ?」

 

「あら、学校なら大丈夫。公欠扱いにするわ」

 

実はリアスの家が学園を支配しているのだ。平然とその事を言い、因果の彼女を見る目は段々冷え切っていく。

 

「……屑が。俺は学校に行く。試合には出てやるから会いに来るな」

 

リアスの足元に唾を吐いた因果は呆然とするリアスを放って家に中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……非常に不快だ」

 

「どうしたのかしら、因果? はい、味噌汁」

 

不機嫌そうに朝食を食べる因果に味噌汁を差し出した摂理は自分も朝食を食べだす。因果は受け取った味噌汁を一気にすすった。

 

「グレモリーの事だ。叔父さんが言うには、今回の試合であいつらが勝ったら縁談は破棄らしい。その為の訓練をする為、家の力で公欠にしたらしい。義務は嫌だが家の力は使い放題か……はっ!」

 

「貴族としての義務を果たしたくないから、家の力を使ってズル休みして特訓? ……私が領民なら憤慨ものね」

 

摂理も呆れたような顔になる。その日、因果は普通に登校した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はひ~! ま、まだ着かないんっすか~?」

 

「も、もう限界です」

 

一誠とアーシアは急な山道に耐え切れずその場に座り込む。組織の一員としての訓練を受けてはいるが、まだ新人の二人は訓練期間が短く大した成果は出ていないのだ。

 

「……やれやれ、仕方ないな」

 

そんな中、大荷物を持った青年が二人に近づいていく。服装は二人が来ているのと同じ八咫烏のジャージ。青年は二人を担ぎあげると平然と山道を登っていった……。

 

「す、すいません先輩」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「気にするな。……頂上に着いたら俺が鍛えてやるからな。くくく、超ハードコースが良いか?」

 

青年は嗜虐的な笑みを浮かべ、二人は顔を真っ青にしながら震えている。リアス達は青年の姿を興味深そうに見つめていた。

 

 

「凄いわね。あの大荷物に人間二人を担いて山を登るなんて……眷属に欲しいわね」

 

「あらあら、只者じゃありませんわね」

 

「あの身のこなし、かなりの手練のようです」

 

 

 

 

 

 

 

リアス達が頂上に着いたのは青年が頂上に着いた十分後。青年はペンションのような建物の前で訝しげな顔をしていた。

 

「……おい。まさか此処に泊まるつもりか?」

 

「ええ、そうよ」

 

「……そうか。おい、二人共帰るぞ」

 

「えっ!? ちょ、ちょっと待ちなさい! 訓練はどうするの!?」

 

青年は一誠とアーシアを担ぎ上げるとそのまま山を降りようとする。慌てて追いかけたリアスだが、青年は彼女に侮蔑の視線を送り、そのまま止まらずに歩き続ける。

 

「建物に寝泊まりするなら山でやる意味がない。野営によって鍛えられる物があるから山篭りすると思ったのだが……所詮は貴族のお嬢様か。野営をしないのなら専門のトレーニング施設を使った方が効率が良い。それとも君達はその方面の専門知識があるのかい?」

 

「え? ないけど、この山で十日間きっちり訓練すれば強くなれるでしょ?」

 

「今回の試合の目的は勝つ事だ。それに訓練なんて漠然とすれば良いというものじゃない。……修行ごっこに付き合う気なんかないよ」

 

青年はそのまま山を降りて行き、リアスたちは三人だけで修行を行う。そして十日後、試合の日がやって来た……。

 

 

 




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悪魔と秘密道具 ⑦

我道のイメージは暗殺教室の理事長です(笑)


「さて、今回はゲームの申し出を受けて頂き、有難うございます」

 

我道は通された観覧席でサーゼクスに手を差し出す。内心では妹の婚約がかかった茶番(ゲーム)と一緒に行われる事を憤慨していたが、そのような事など少しも感じさせない笑顔だ

 

「……あれが八咫烏の鬼将か」

 

「……忌々しい」

 

観覧席に居た貴族達は彼に侮蔑の視線と殺気を送る。その原因は彼が支部長を務める八咫烏の業務にあった。有能な神器持ちの勧誘や保護。此れによって優秀な眷属が集めづらくなっている。そして、もう一つ理由があった。

 

 

 

「いやぁ、それにしても先月は大変でしたよ。優秀な人間を無理やり眷属にしようとする者が多くてね。おかげで上級悪魔を七匹も駆除(・・・・・)する事になったよ、はっはっはっ!」

 

貴族達が彼を嫌う最大の理由。それは八咫烏が人間に危害を加えようとした上級悪魔を抹消するっというもの。既に四大魔王達を弁舌で丸め込み了承させており、表だって組織に攻撃を仕掛けられない。そしてそんな彼らから更に戦う意志を削ぐ為に悪魔との若手同士の戦いを行うことになったのだ。

 

「駆除…ですか?」

 

「何か問題でもあるのですか? さて、そろそろゲーム開始の時間ですね」

 

周囲の貴族達から送られる殺気を気にした様子もなく我道は人の良さそうな笑みのまま画面に目をやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいか、二人共! 俺達八咫烏は人外から人間を守る為の防波堤だ! 俺たちが無様な姿を晒す事はさらなる犠牲者をうむ事に繋がる。俺達は此処に試合をしに来たんじゃない。圧勝しに来たんだ!」

 

「「はい!」」

 

青年の演説に一誠とアーシアは返事をし、因果は持ってきた道具の最終調整を行っている。リアスは四人を作戦会議に誘うも断られ、眷属二人と作戦を練っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お時間になりました。制限時間は人間界の夜明けまで。それでは、ゲームスタートです』

 

「さぁ、私の可愛い下僕達。準備はいいかしら?相手は不死身のフェニックスだけど関係無いわ。消し飛ばしてあげましょう!」

 

「「はい!」」

 

リアス達は気合を入れる。眷属でない四人はそのまま陣地から出ていこうとしていた。

 

「あ、言い忘れておった。貴様らは邪魔だから自陣から出てくるな。間違ってやられたらゲームが終わってしまう」

 

「なっ!? いくら貴方の発明品が凄くても、人間が十六人もの悪魔を倒せる訳ないじゃない!」

 

「もう一度だけ言う。足手纏いだ、何もするな」

 

因果は三人にピストルを向けると引き金を引く。銃口から放たれた白い物体が命中し三人を床に貼り付けた。

 

「瞬間接着銃~! この銃から放たれる接着剤は下級の龍の成体程度なら動きを封じられる。暫くそうしていろ」

 

「あ、あの~、あんな事して大丈夫なんですか?」

 

アーシアは不安げな顔をしているが、青年はその肩にポンッと手を置いた。

 

「何、気にする事はない。ライザーはゲームで味方を囮にしたりしているんだ。それが許されるなら暴走しがかねない王を縛り付けるのも良いはずだ。最も、俺達は部下ではないけどね。君のような犠牲者を出さない為だ。さぁ、行くぞ」

 

青年に促されたアーシアはそのまま本拠地から出て行き、そのまま因果、一誠とアーシア、青年といった三組に分かれた。

 

 

 

 

 

 

「さて、此処から気配がするな。重力調節機~!」

 

相手と自分達の陣地の中間地点にある体育館は重要拠点になる場所で、既にライザーの眷属が入り込んでいるようだ。因果は体重計のようなものを取り出すとメモリを最大にする。その瞬間、辺りの木々がへし折れ、体育館が地震にでもあったかのように崩れる。ただし、因果の周囲だけは無事だった。

 

「熱線銃~!」

 

続いて腰に下げた取り寄せバックから取り出したのはスナイパーライフル。その引き金を引くと体育館は一瞬で煙に変わった。

 

『ラ、ライザー・フェニックス様の『兵士』二名 『戦車』一名リタイア』

 

解説役のグレイフィアもその威力に動揺しており、観覧席の悪魔達も唖然としている。その様な中、がどうの拍手が鳴り響いた。

 

 

 

「いやぁ、素晴らしい威力だ。我が甥っ子ながら恐れ入る。どうですか、皆さん? 優秀な悪魔でも一瞬であの威力は出せないでしょう? 出したとしても暫くは同じ力は出せない しかもあれは道具だ、誰にでも扱えるし、疲れない」

 

「……八咫烏はあれを導入する気ですか」

 

サーゼクスも少々顔を強ばらせながら尋ね、我道は笑顔で返した。

 

「ええ、そのつもりです。我々人間は脆弱ですからね。その分、強くなることに手段は選ばない。その一つが強力な武器です。今回のゲームで色々試させて頂きますよ」

 

我道は大げさな動作で自分を睨む貴族達に振り返った。

 

「貴様っ! 悪魔を侮辱する気かっ!」

 

その時、一人の悪魔が彼に近づいて来た。その手には人間一人殺すのに十分な魔力が握られている。

 

「人間如きが先程から口が過ぎる! 貴様も、あの小僧共も殺してくれるわっ!」

 

「やめっ……」

 

サーゼクスが慌てて止めようとするも間に合わず、その貴族は魔力を放つ。放たれた魔力は我道へと向かって行き、その貴族ごと切り裂かれる。我道の手には聖剣が握られていた。

 

聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)。それが私の神器だ。……所でルシファー殿。奴は私と彼らを殺すと発言し、実際に襲いかかって来た。殺したが問題あったかね?」

 

「……いや、無い」

 

「サーゼクス様っ!?」

 

「結構。私達八咫烏と全面戦争になれば君達が最終的に勝つだろう。だが、全体の七割は削ってみせる。そうなれば君達悪魔は……詰みだ。後は他の勢力に皆殺しといった所だな」

 

周囲の貴族達は驚愕するが、サーゼクスは苦虫を噛み潰したような表情でそう言うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、アーシア。本当に大丈夫なのか? 無理に戦わなくてもサポートに回ってくれれば……」

 

「いえ、わ、私も戦います!」

 

一誠は戦いに向いていない性格のアーシアを心配してサポートに回るように提案するも、アーシアはそれを拒否する。なぜ彼女がそのような結論に至ったのか。それは数日前、支部長室での事……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、相手を傷つけたくないんだね?」

 

「……はい」

 

アーシアはたとえ悪人相手でも相手を傷つけるのは嫌だと我道に告げる。彼は相変わらず人の良さそうな笑みを絶やさずアーシアに近づき、こう囁いた。

 

「その分、味方が傷つくことになるけど良いんだね? 君が倒せたのに倒さなかった敵に味方が傷つけられ、手を汚さなかった分だけ仲間が手を汚す。それでも君は敵を傷つけたくないと。おかしいねぇ。君が敵を傷つけなくても仲間がその分傷つけ、仲間は余計に傷つく。君の優しさは仲間を傷つける為のものなのかい?」

 

「……そ、それは」

 

この性格こそが因果が叔父である我道を恐れる理由。普段は聖人君子の様に振るまい、その笑顔のまま相手の心を蝕む毒を吐く。その性格と知能、そしてたぐいまれな戦闘能力により彼は三十代で組織の幹部まで上り詰めたのだ。しかも、悪魔や神器の事を知ったのは十代後半に関わらずだ。その事から彼はこう呼ばれている。

 

 

 

『鬼将』、と……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、たった二人で来ましたのね」

 

二人が敵の本拠地である新校舎まで向かうと、金髪ロールが率いる計五人が待ち構えていた。

 

 

 

「……アーシア。作戦は分かってるな?」

 

「はい。フェニックス家の長女は傷つけない方法で倒し、残りは此方を傷つけさせずに倒す、でしたよね」

 

「何をブツブツ言っているのかしら? さぁ、やってしまいなさい!」

 

金髪ロールが指示を出すと四人が一斉に向かってくる。連携の様子が見られないが、人間だからと侮っているのだろう。一誠は四人に指を向ける。そして、

 

「バン! バン! バン! バン!」

 

四人は見えない弾丸に弾き飛ばされて気を失った。

 

『ライザー・フェニックス様の『騎士』二名 『戦車』一名 『僧侶』一名リタイア』

 

「な、何が起きてっ!? か、体が動かないっ!?」

 

呆然とする金髪ロールは体の異変に気付く。強い力で縛られたかのように体が動かないでいた。そして、アーシアは先端に指を突き出した手がついた帽子を被っている。

 

「四人を吹き飛ばしたのは『空気ピストルの素』。そしてアーシアが被っているのは『エスパーぼうし』だ。……今すぐリタイアしてくれ。じゃないと俺達は君を苦しめなきゃいけない」

 

「ふ、ふんっ! 私はフェニックス家の者。貴方方には倒せませんわ!」

 

「……知ってるよ。事前に調べたら簡単に分かった。公式のゲームに出てるから当然だよな。……ごめん」

 

一誠は懐からドライバーを取り出すと金髪ロールに当て、そのまま捻る。次の瞬間には体がバラバラになっており、彼女は頭だけで表情を変えていた。

 

 

「ななななっ!? 何ですの、その道具はっ!?」

 

「『分解ドライバー』。物だろうが生物だろうがバラバラにできるドライバーだ。中心に当てる必要があるけど、アーシアが押さえていてくれたから簡単だったよ。……アーシア」

 

「は、はい。この『らくらくシャベル』があったので楽に掘れました」

 

シャベルを持ったアーシアの足元には魔法を使って水を溜めた穴が空いており、一誠は無言で金髪ロールの頭を掴む。彼女はその瞬間、何をされるのか理解した。

 

「ちょ、ちょっと待って……」

 

「……俺は警告した。こんな状況で見逃していたら、何時か見逃した敵に殺される。見逃す理由になる前例を作りたくない。……ごめん」

 

一誠はそのまま彼女の頭を穴に投げ込んだ。暫くの間泡が出ていたがそれも次第に収まっていく。

 

 

 

 

 

 

 

『ライザー・フェニックス様の『僧侶』一名リタイア』

 

 

 

 

 

 




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悪魔と秘密道具 ⑧

「ねぇ、ヤバくない? 私達以外で残っているのはユーベルーナ様とライザー様だけよ」

 

「大丈夫でしょ。あの二人が居れば勝てるわよ。それより、まさかリアス様達が此処まで奮闘するとはね。レイヴェル様は飽きたからライザー様にリタイアさせて貰ったんだと思うわ」

 

一誠がレイヴェルを倒した少し後、青年はライザーの『兵士』六人に囲まれていた。彼女達は人間である因果や一誠が此処まで自分達を追い込めるとは思っていないらしく、リアス達の活躍だと思い込んでいるようだ。ちなみにそのリアス達は今で拠点で接着剤によって貼り付けにされている。

 

「やれやれ、敵を前にお喋りなんて、俺も舐められてるな」

 

「はっ! 人間程度なんか敵扱いすらする必要ないわ」

 

自嘲気味に呟く青年に対しライザー眷属達は得物を構えながら見下した笑みを浮かべ一斉に飛びかかる。

 

 

そして、青年が放った光によって一瞬でリタイアになった。

 

 

「おっと、名乗りが遅れたな。俺の名は曹操。三国志の英雄である曹操の子孫だ。そして俺の神器は最強の神滅具である黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)だ。まぁ、もうリタイアしたから聞こえていないだろうけどね」

 

『ライザー・フェニックス様の『兵士』六名リタイア』

 

曹操は槍の絵で肩を軽く叩きながら微かに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!? 聖槍だとっ!?」

 

「馬鹿なっ!? 何故、彼処まで強力な人材が揃うのだっ!?」

 

曹操の戦いを見ていた貴族達は一斉にざわめき出す。そんな中、我道は何時もの人の良さそうな笑みを浮かべながら画面を見ていた。

 

「……さて、計画成功まであと少し」

 

そして、その瞳は浮かべた笑みとは裏腹に邪悪極まりない濁りを見せていた。

 

 

 

 

 

 

「くそ! まさかリアス達が此処までやる!」

 

今秋のゲームは自分の勝ちが決定していると考えてたライザーは自陣のソファーで『女王』であるユーベルーナと楽しんだ後に軽いうたた寝に入り、先に起きたユーベルーナに漸く起こされた時には残っているのは二人という劣勢状態だった。

 

「……出るぞ。人間もリアスの眷属達も焼き尽くしてやる!」

 

ライザーはソファーから飛び起き、彼の自陣である新校舎にミサイルが降り注いだ。

 

『ライザー・フェニックス様の『女王』一名リタイア』

 

 

 

 

 

「はっはっはっ! 見たか、私と母さんの合作であるザンダクロスの力を!」

 

因果は巨大ロボットであるザンダクロスのコックピットで高笑いを上げる。その横には目を輝かせている一誠と曹操、そしてどう反応して良いのか分からないアーシアの姿があった。

 

「すっげぇ! ロボだっ!」

 

「……これは封印指定なんだろ? だったら今の内に俺にも操縦させてくれないかい?」

 

「あ、先輩ズリィ! 俺も操縦したい!」

 

「あ、あの~。ライザーさんはまだリタイアしていませんから喧嘩は其の辺りで……」

 

アーシアも言葉の通り、瓦礫まみれの巨大なクレーターとなった新校舎後から炎が吹き出し、ライザーが飛び出してきた。その体に出来た怪我は見る見る内に再生していく。

 

 

 

「く、くそ! 貴様ら八咫烏だなっ!? リアス達はどうしたっ!?」

 

 

「そういえばフェニックス家には不死の特徴があったな。……曹操、これを使え」

 

ライザーの叫びを無視した因果は、面倒臭そうな顔をしながら曹操に何かを投げてよこした。

 

「これは?」

 

「サイコントローラー。それを持ってザンダクロス(此奴)が動いている所を想像したら、その通りに動く」

 

「あれ? ハンドル持ってなかったっけ?」

 

「馬鹿か、貴様。ロボットの操縦席に座っておきながら、無駄だという理由だけでハンドルを握らない訳がないだろう。大体それを言うなら、コイツは自立思考とが可能なのだぞ。スイッチを入れれば勝手に考えて動く」

 

因果はヘルメットと二枚のマントを身に付け、靴下を履いて手袋をはめるとコックピットから飛び出す。外では先程からザンダクロスに炎を浴びせるも全く効果がなく、疲れの色が見え始めたライザーが居た。

 

「ノコノコ出て来やがったな、人間が!」

 

彼らの一族の持つ不死の特性を破るには魔王クラスの力で一気に吹き飛ばすか、精神がすり減るまで攻撃を続けるかだ。口で言うのは簡単だが実際に出来る者は少なく、故にライザーは今回のゲームで慢心していた。

 

「さて、なんで人間が空を飛べるかは知らんが……」

 

「ああ、私が空を飛んでる理由は二つの発明品によるものだ『スーパーマント』と『変身セット』と言ってな……」

 

「がはっ!」

 

因果が口を開いた次の瞬間には彼の姿は掻き消えライザーの眼前に現れる。そして彼が反応するよりも早く因果の拳はライザーの腹部に叩き込まれ、そのまま貫通していた。ライザーの口から大量の血が溢れ出し、傷も治ってきてはいるが再生スピードは常時より遥かに遅い。今の位置が気は魔王クラスの魔力による一撃にあと少し届かない、といった所だったようだ。

 

「この通り、空を飛べ力も上がる。まぁ、スピードを上げる『イナズマソックス』と力を上げる『パワー手袋』も身に付けているがな」

 

「くそっ! こうなったら!」

 

ライザーは一時撤退しようと距離をあけるそれに対し因果は我道に似た凶悪な目を彼に向けた。そしてその手には団子を玉替わりにしたパチンコが握られている。

 

「これを試したかったんだ。この『絶対必中パチンコ』をなっ!」

 

因果がパチンコを放つと団子はライザーの口の中にすいkまれるように飛んで行き、そのまま胃に収まる。次の瞬間、ライザーは腹を押さえてうずくまった。

 

 

「は、腹がぁぁぁ! き、貴様何をしたっ!?」

 

「『お尻印のキビ団子』。強力な下剤団子だ。後、舐めると苦労する『苦労味噌飴』を仕込んでいる。大勢の貴族の前で漏らして社会的な死を味わうが良いっ!」

 

「し、死ねぇぇぇ!!」

 

「させるか! 

 

ライザーが苦し紛れに放った炎は曹操が操るザンダクロスによって防がれ、ライザーの腹痛はピークに達する。あと少しでも動けば漏らしそうだ。

 

「リ、リタイアだっ! 俺の負けで良い! だから早くトイレに行かせてくれ!」

 

涙目のライザーが必死に叫ぶも試合終了のアナウンスが流れない。実は不慮の故障で試合フィールド内の声が審判に届かなくなっていたのだ。おそらくこれが苦労味噌の効果だろう。

 

 

「兵藤! 最後の仕上げだ!」

 

「はい!」

 

『Transfer』

 

今回の目的は勝つだけではなく圧勝し、自分たちと敵対する事の愚かさを知らしめる事。故に因果達に手加減する子はなく、大幅にパワーアップした因果に対し、一誠は最大まで高めた力を贈与する。道具の力で頑丈さが上がっているため因果の体はその力に易々と耐える事ができた。

 

「ま、待て! 今回の婚約が悪魔社会にとって……」

 

「知らん! 文句があるのなら、私達との試合を妹の婚約がかかった試合と一緒にしたルシファーを責めろ! 現当主も修行に協力していたし、グレモリー側は破棄を望んでいたのだろうよ!」

 

この時になって漸くフィールド内の声が届くようになり、貴族達は一斉にグレモリー家現当主を見る。そして因果の一撃はライザーを地面に叩き落とし巨大なクレーターを作り上げた。衝撃で何もかもが舞い上がり空が闇で覆われる中、試合終了のアナウンスが流れた。

 

「ライザー・フェニックス様の投了を確認。この試合、リアス・グレモリー様の勝利とします」

 

こうしてリアスの望みは叶った。フェニックスを中心とした貴族達とサーゼクスやグレモリー家の間に大きな溝を作る、という我道の計画の成就と共に……。

 

 

 

なお、気絶したライザーからは強烈な便臭が漂い、転移装置の故障でその姿を大勢の貴族の前で晒す事となった。

 




3巻は1話で終わる予定

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ザンダクロスはスモール⇒取り寄せ⇒解除 です


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悪魔と秘密道具 ⑨

その日因果が起きたのは何時もより遅い時間で、既にキッチンには黒音と白音の姿があった。

 

「お早う二人共。……父さんと母さんは居ないのか?」

 

「……お早うございます。お二人はデートだそうです。あの、朝食が出来上がりました」

 

その日の白音は『年の泉ロープ』を使ったらしく大人の姿だ。黒歌と並ぶと体型がソックリで姉妹だということが良く分かる。

 

「そんな事よりも因果ぁ。この格好、どう?」

 

黒歌はノリノリで、白音は少し恥ずかしそうにしながら今の格好を見せびらかす。全面はフリルの付いたピンクのエプロン。背中側を見せると白い肌と引き締まったお尻。そして黒と白の尻尾が丸見えだった。簡単にいうと裸エプロンだ。

 

「まぁ、悪くはないな。私も年頃だ。朝から目の保養になって良い」

 

「……喜んで貰えたのなら、幸いです」

 

「にゃはははっ! じゃあ、もっと良い思いさせてあげよっか? ほら、白音も」

 

黒歌は座った因果の横から抱きつくと首に手を回して体を密着させる。白音も反対側からそっと抱きつく。

 

「ねぇ、今日は休日だし、二度寝しようか?」

 

「……お二人は今日は遅くまで帰って来ないそうです。あの、この体なら問題なく……」

 

二人は因果の腕を胸で挟みながら立ち上がらせ、そのまま寝室へと運んでいく。その時、因果の携帯が鳴り響く。着信音は我道からである事を示していた。

 

 

 

 

「……二人共、放せ。どうやら仕事のようだ」

 

「……はい」

 

「じゃあ、気分が削がれちゃったしまた今度ね。……この埋め合わせば朝風呂で背中を流す事で我慢してあげるにゃ。まぁ、因果が我慢できなくなくなったら先に進ませてあげる」

 

「もしもし、叔父さん。何の用だ?」

 

因果は黒歌の言葉を無視して電話に出る。電話の向こうからは愉快そうに笑う我道の声が聞こえてきた。

 

「いやいや、休日の朝から済まないね。もしかして黒歌君と白音君と不純異性間交友でもしていたかい?」

 

「……要件を話せ」

 

盗聴器も隠しカメラも設置していないのに、まるで見ていたかの様に察してきた叔父に薄ら寒いものを感じた因果は手早く電話を済ませることにした。

 

「ああ、簡単だ。熱線銃などの武器を大量に生産してくれ。そっちにコカビエルが侵入した」

 

「そうか。あの戦争狂、魔王の妹どもを犯した上で殺して戦争でも引き起こす気か?」

 

「まぁ、そんな所だろうね。教会からエクスカリバーも盗んだらしいよ」

 

「確定だな。あの無能どもは……気付いているはずがないか」

 

因果は苦笑しながらラボに向かっていった。

 

 

 

「……しかし面倒臭いな。一個を二個にする道具でもあれば……」

 

因果はブツブツ呟きながら、ふと鏡を見て立ち止まる。そして何やら慌てた様子でラボに駆け込んだ。

 

「……また何か思いついた様ですね」

 

「さて、お風呂の用意しに行こうかにゃ」

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これから会議だ」

 

その日、八咫烏の会議室に呼び出された一誠は戸惑っていた。この場にいるのは若手ナンバーワンの曹操や将来を期待されているレオナルド。暴走しがちな二名の抑え役のジャンヌなど、実力者揃いだ。一誠も最近になって譲渡の力と禁手の足掛かりが掴めてきたが。、それでもまだ訓練生。本来ならこの場に呼ばれる存在ではない。

 

「さて、各自資料は行き渡ったかい? 単刀直入に言う。教会からエクスカリバーが強奪され、駒王町に持ち込まれた。主犯の名はコカビエル。十中八九、戦争を引き起こす気だ」

 

「……厄介な。また関係ない人間が巻き込まれるな」

 

曹操が苦々しげに言う通り、戦争になれば戦力補給の為に無理に悪魔にされる者が増えるだろう。元々悪魔や堕天使に協力している者や教会のエクソシストが死ぬのは別に構わないが、関係ないものが巻き込まれるのは気に食わない。他の者達も同じ様な顔だった。

 

「あの、支部長。教会側はなんと?」

 

「いや、今回の件は我々の独自の情報源から手に入れたものだ。その後、潜入するだろう場所を張っていた所、駒王町に侵入した事が分かった。……教会側からは何も聞かされていない。まぁ、私達とは仲が宜しくないからね」

 

八咫烏と教会の仲はかなり悪い。教会側が悪魔を全て殺そうとしているのに対し、八咫烏は無理に悪魔にされた者や迫害されているハーフの保護も行っている。その他にも聖遺物である曹操の神器が自分達以外の手にあるのも気に入らないらしい。

 

「さて、今夜襲撃をかける。兵藤、譲渡は何回できるかい?」

 

「ご、五回が限度です。五回譲渡すると倒れてしまって」

 

「……十分だ。さて、そろそろ頼んでいた物が届いた頃だね」

 

我道の背後のモニターにはどこでもドアを通って支部内に入ってくる因果の姿が映っていた。

 

 

 

 

 

「……私は武器を頼んだはずだが。いや、この鏡が何かあるのかね?」

 

我道は顎に手を添えながら考え込む。目の前にあるのは名の変哲もない縦に長い鏡。だが、持ってきた因果は自信満々だ。

 

「ふふふ、よく聞くが良いっ! この鏡こそ、私の発明品に中でもトップクラスの出来を誇る物っ! 名付けて……フエルミラー」

 

「ああ、なるほど。写した物を増やすのか。では、使い方を教えてくれたまえ」

 

我道は何事でもないように発明品の内容を言い当て、その内容に曹操たちが驚愕しているにも関わらず平然と操作説明を受ける。間違いなく世紀の大発明なのだが、我道にとっては便利な道具程度の認識しかなかった。

 

 

 

 

 

 

「さて、エクスカリバーの性能実験が済み次第計画に映るぞバルパー」

 

その日の夜、コカビエルはアジトで酒を飲みながら協力者と話を進める。その時、アジトに何者かが侵入した。エクスカリバーを取り戻しにエクソシストでも侵入してきたと思ったコカビエルは暇つぶしに出向き、そこで奇妙な生物達を発見する。なんとも形容しがたい人型の生物で、手には爆弾の様な物を持っている。そしてコカビエルが反応するよりも早くアジト内を爆発が襲った。

 

 

「まだ息があるぞっ! 撃てっ!」

 

コカビエルがボロボロになりながらも飛び出すと、アジトの周囲を囲んでいたヤタガラスのメンバーが一斉に熱線銃を発射する。ビル一つ消し去る熱線を受けたコカビエルは地面に墜落し、

 

 

「お前には死すら生温い。消滅しろっ!」

 

曹操の聖愴によって完全に消滅した。

 

 

「お、終わったぁ」

 

曹操とレオナルドに力の譲渡をくり返し行った一誠はその場に膝をつく。今秋の作戦中、周辺住民には不発弾の処理と銘打って退避させており、幻覚も使っているので目撃者は居ない。こうして大戦争に発展しそうな事件は一晩の内に解決した。

 

 

 

 

「何っ!? コカビエルがやられたっ!? ……よりにもよって八咫烏にかよ」

 

コカビエルの行動に頭を痛めていた堕天使の総督であるアザゼルは報告によってますます頭を痛める。自分達を敵視する組織に大きな借りを作ってしまったからだ。

 

 

 

 

 

「あ、はい。日本に到着いたしました。……はっ!? 今すぐ帰って来いっ!? ……もう解決したっ!?」

 

「えぇっ!? どうなってるのよっ!?」

 

そして次の日、聖剣奪還の為に飛行機で日本にやってきたエクソシスト二人は到着の報告を終えるなり本部に帰る事となった。

 

 

 

 

 

 

「そういえば昨日、不発弾の暴発があったそうよ」

 

「あらあら、怖いですわね」

 

リアス達には未だ何も教えられていない……。




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悪魔と秘密道具 ⑩

「さて、これは臨時ボーナスのようなものだ。受け取り給え」

 

 その日、支部長室に呼び出された一誠達は、我道から聖剣を一本ずつ渡された。ジャンヌが貰ったのは荒々しいオーラを放つ聖剣。一誠は少し嫌な感じのする聖剣を渡された。

 

「……え~と、この剣は? エクスカリバーに見えんですが……」

 

 聖剣の見た目はコカビエルから取り返したエクスカリバーそのまま。ただし、放つオーラは段違いだ。

 

「ああ、エクスカリバーにアスカロンやデュランダルを混ぜた物だ。言うならば”デュランカリバー”に”エクスロン”といった所かな?」

 

「……は? いやいや、なんでそんな物が!?」

 

「この間、因果が送ってきた”フエルミラー”でエクスカリバーを増やし、教会に返す条件として一日だけ研究の為にと借りたアスカロンとデュランダルも増やしたんだ。ああ、聖剣の因子なら問題ない。そっちもコピーしてジュースに入れてあるから飲みなさい」

 

 一誠達は言われるがままにジュースを口にする。この日、八咫烏の隊員の装備に聖剣が追加された。一誠達の様に戦闘能力上位や強い神器持ちにはデュランカリバーやエクスカロンを、他の隊員にはエクスカリバーを支給し、全員に因子を挿入した。聖剣計画関係者が知ったら涙目である。

 

「ああ、レオナルドには其処のサブマシンガンをあげよう。聖剣を鋳潰して作った弾丸を撃ちだすから魔獣に使わせるといい。悪魔や堕天使には効果的だよ」

 

 

 

 

 

 

 

「……曹操さん、ジャンヌさん。支部長って……」

 

「……慣れろ。あの人はあの二人(束と因果)の身内だぞ」

 

「じょ、上司として見れば最高でしょ? 気前良いし、手柄には報いるし。……絶対に敵に回したくない人だけど」

 

 

 

 

 

 その日の夜、一誠とジャンヌと曹操は聖剣の訓練も兼ね、はぐれ悪魔の群れの討伐の任務を言い渡された。調査によると元から悪魔で保護検討の余地のない悪魔達の為、一誠もなんの迷いもなく任務を受ける。基礎訓練は済ませておいたので特に問題なく任務は終わり、

 

 

 

 

 

「エクスカリバー!」

 

同じはぐれ悪魔を退治しに来たリアス達と鉢合わせした。祐斗は一誠達が持っている聖剣を見るなり目の色を変え、曹操は面倒な事になりそうだと内心で舌打ちをする。

 

「……グレモリー。そこの狂犬を躾ておく事だ。今にも飛びかかって来そうじゃないか」

 

 そう言って帰ろうとする曹操の足元に魔剣が刺さる。振り向けばリアス達が押さえているのにも関わらず、今にも飛び掛って来そうな祐斗の姿があった。

 

 

「……渡せっ! 怪我をしたくなければエクスカリバーを置いて立ち去れ。僕はその剣に復讐しなければならないんだっ!」

 

それを聞いた曹操は大袈裟に溜息を吐き、黄昏の聖槍の切っ先を祐斗に向けた。

 

「……これが最後の忠告だ。次、手を出してきたら消す。おい、グレモリー。下僕を消されたくなければ手足を消し飛ばしてでも止める事だ」

 

「ッ! 朱乃!」

 

 リアスの声と共に朱乃は祐斗の首筋に雷を流して気絶させる。それを見た曹操は一誠達を連れてその場から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

「……授業参観? 母さん、来るのか?」

 

「うん! 因果ちゃんと白音ちゃんが授業受けるとこ、見てみたいし♪ ダーリンも授業するし、最新式のカメラを開発しないとね」

 

 買わないとね、と言わないあたりが束らしいだろう。そして数分後、全く新しい技術を使ったカメラが束の手で作り出された。

 

 

 

 

「言っておくけど、学校には何時もの不思議の国のアリスっぽい服は着てきちゃダメよ?」

 

「え? 別に良いじゃん」

 

「え? 駄目なのか、父さん?」

 

「……駄目に決まっているでしょ」

 

 これが己道家で数少ない常識人の日常である。彼自身も巨漢のオカマで魔術師という非常識っぷりだが、嫁と息子と将来の娘候補達の前には薄れてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして授業参観当日。何が彼女を其処までさせるのか、因果達以外には普通の服装に見える様に服を改造した束は何時ものフリフリドレスで学校にやって来る。途中、何処かの会社役員や研究員が名刺を渡そうとするが、

 

 

 

「はぁ? お前らなんかに興味ないんだよ。あっち行け」

 

っと露骨に嫌悪感を顕にして追い払った以外は平和に過ぎていった。

 

 

 

 

 

「やぁ、因果。授業の方は順調かい?」

 

「うげっ! お兄ちゃんっ!?」

 

だが、その平和は我道の出現で脆く儚く崩れ去る。どうやら一応の保護者としてアーシアの授業を見学に来た、という名目で学校に入り込んだらしい。本当の目的は、直ぐ其処までやって来た。

 

 

 

 

「ソーナたんの馬鹿ぁぁぁ!」

 

 見ると向こうからやって来るのは魔王セラフォルー・レヴィアタン。魔法少女のコスプレをしながら廊下を走り、後ろからは生徒会長で妹のソーナが追いかけて来ていた。

 

「やぁ、久しぶりですね、レヴィアタン殿」

 

「あっ! 八咫烏の支部長の……我道さんだっ!」

 

 我道はセラフォルーの服装を上から下まで眺め、ニコリと人の良い笑みを受かべる。その笑みを見た因果と束の背筋に寒気が走った。

 

 

「……あ~あ。やっちゃった」

 

「……弱み、見せちゃったな」

 

 

 

「いやいや、素晴らしい格好ですね。……実に信用に値しない格好で.TPOも守れない者が王とは。はっはっはっはっはっはっ!」

 

 

「?」

 

 我道がなぜ笑っているのか分からないセラフォルーは首を傾げる。それを見ていたソーナの顔は青ざめていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……三すくみの会談? それに八咫烏が何の関係が? ……そうですか。面倒な」

 

数日後、我道からの電話受けた因果は不快そうに眉を顰める。その後ろではアイスを持った白音が首を傾げていた。

 

「どうしましたか? ……一口どうぞ」

 

「ああ、寄生虫共がこの間の一件のついて話をする気らしいが、その席に八咫烏にも第三者として

出席して欲しいと依頼が来たんだ。しかも、本部に正式な手続で申し込んで。……ああ、貰おう」

 

 因果は既に口を付けている所を齧り、白音は再びその場所に口を付けようとし、後ろから黒歌に取り上げられた。

 

「へへ~♪ 因果との間接キスは貰ったにゃ♪」

 

「……むぅ」

 

「痛い痛いっ! ごめんにゃあぁぁぁぁっ!」

 

 白音は黒歌の脇腹に肘を打ち込み続け、黒歌は悲鳴を上げながら逃げていく。逃げていった先では姉妹組んず解れつする音が聞こえ、向こうの部屋で黒歌の着物が宙を舞った。

 

 

 

 

 

 

「見に行きたいのかい? まぁ、君も年頃だ。見てきたまえ」

 

「……だから貴方はどうしてこっちの様子が分かるんだ?」

 

「其のくらい出来なくては支部長など務まらんさ」

 

 

なお、見に行った因果は黒歌の全裸を目撃し、流石に刺激が強すぎて鼻を押さえた隙を狙って押し倒され、あと少しで卒業する所だった……。

 

 

 

「……大丈夫ですか?」

 

「……何とか。だが、黒歌は良いのか? ピクリとも動かないが……」

 

「黒歌? 誰の事ですか?」

 

「いや、お前の姉の…」

 

「誰の事ですか? ……お疲れの様ですね。早く寝てください。添い寝します」

 

「……何でもない。それと添い寝はい…らん」

 

「……ちっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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悪魔と秘密道具 ⑪

カテレアってアニメに出るまではヒロインのssを見かけたのに、出てからは見かけなくなったww 理事長っぽいからかな? 熟女っぽいしアレにスケベな視線送った一誠は見境無し


コカビエルの一件から開かれる事となった三すくみの会談。一歩間違えれば戦争になる会場では警備の悪魔。天使・堕天使達がピリピリとした空気を醸し出す。そんな中、場違いに見える集団が会場に入ってきた。先頭を歩くのは日本の対人外組織『八咫烏』の支部長で鬼将の称号を持つ殺生院我道。数年前まで一般人だったにも関わらず今回の重要な案件を一任された男である。その後ろを曹操やジャンヌなどの支部でも指折りの実力者が歩き、他の者達も聖剣を手に一糸乱れぬ動きで動く。

 

「さて、全員揃ったようだし会談を始めようか」

 

ネクタイの歪みを直した我道は人の良さそうな笑みで椅子に腰掛ける。見下している人間が自分達のトップと同等に振舞った事に警備の者達から殺気が送られるも涼しい顔を崩さず参加者の顔を見回した。

 

 

「さて、今回の会談は参加者全員が聖書の神の死を知っているという前提条件で始めます」

 

トップ陣の顔に緊張が浮かぶ中、我道は特に気にした様子もなくニコニコとしている。その様子に天界のトップであるミカエルは恐怖さえ覚えていた。

 

 

「それで我々天界は……」

 

会談は揉める事なく進み、堕天使のトップであるアザゼルへの質問が始まった。

 

「今回の件はコカビエルの独断行動だ。奴が馬鹿やって八咫烏に消された、それだけだよ。報告書にもそうあっただろ?」

 

「説明としては最低の部類ですね。では次の質問ですが、ここ数年で神器所有者を集めだした様ですが戦争を行いたいと思われても仕方ありませんよ。何の理由があるのですか?」

 

「研究だよ研究。何なら資料を渡そうか? ……ったく、俺の信用は三すくみ最低か」

 

「ハッハッハ、それは仕方ないさ。君達堕天使は欲望のままに主を裏切ったのだからね。旧魔王を追放した現魔王同様に信用できないだろう?」

 

我道の言葉に堕天使陣営と悪魔陣営のから殺気が送られる。流石にトップ陣営は殺気を送らないが少し不快感は感じているようだ。

 

「……そういうお前の所がどうなんだよ。神滅具持ち数人に超一級品の聖剣を何本も持ってやがんじゃねぇか」

 

「私達の目的はあくまで人間を君達人外から守る事。君たちが戦力増強を行っているのだから私達も同じようにするしかないさ。何せ我々はか弱くて寿命も短い下等な人間だ。まあ、その人間に寄生しなければ生きていけない君達よりも上等な生物だがね。さて、無駄話は此処までだ。本題に入ろう」

 

「……ああ、そうだな。んじゃ、提案だ。和平を結ぼうぜ」

 

アザゼルのその提案に天使や悪魔陣営のトップからも賛成が上がり、我道は笑顔で拍手を送る。彼が指を鳴らすと後ろで控えていた隊員も拍手を贈っていた。

 

「いやはやめでたい事だ。これで君達の縄張り争いに巻き込まれる人間が減る。今まで悪魔を殺せ、堕天使を殺せ、と教育され、その為に死ぬなら本望だと洗脳されたまま死んだエクソシストも喜んでいるだろうね、ミカエル殿。はっはっはっはっはっ!」

 

「……その事については言い訳のしようがありません。彼らへの説得は困難でしょうが……」

 

「ああ、エクソシストを辞めたくなったら私達の所に来るように言っておいてくれるかな? 私達は天界と違って彼らを裏切ったりはしないからとも言っておいてくれると有難い。さて、和平が決まった所で我々人間からの要望だ」

 

我道の後ろではスクリーンに三すくみへの要求が映し出される。悪魔には過去に遡って理不尽な眷属化や契約を行った貴族を駆除する権利と今後眷属を増やす際はその地を管轄する八咫烏及び対人外組織の審査を受ける事。堕天使には危険な神器持ちは殺さずに八咫烏の保護を受けさせる事と構成員を増やす際は悪魔同様に審査を受ける事。天界には宗教が絡むので他国の対人外組織と会談が終了次第要求を行う、という事だ。

 

「……まあ、俺の所は問題ねぇよ」

 

「私達の所もです。ですが……」

 

アザゼルとミカエルが視線を送ったのは悪魔陣営。会談に参加しているサーゼクスやセラフォルーは困惑した顔をしていた。この要求を飲むと大勢の貴族から反発が起こる。彼らが把握しているだけでも対象になる貴族は大勢いるのだ。

 

「随分迷っているようだが目先の危機にばかり目をやっていたツケが回って来ただけだよ。君達が今迄きちんと管理していれば私達も此処までの要求を出さなくても良かったのだが。……ふむ。ならば後押しをしようか」

 

次に映し出されたのは宇宙の映像。画面の中央には大きな星が見える。

 

「これは実際の映像だ。私の甥っ子の発明した転移装置で遥か遠くの星が見える所まで来ていてね。さて、確か冥界はあの星と同様に地球と同等の大きさだが……始めろ」

 

次の瞬間、大爆発が起きて星は粉々になる。破片が映像を撮っているカメラの方に向かってくるも見えない壁によって防がれた。

 

「『地球破壊爆弾』、これを造った妹はそう名付けたよ。冥府には影響がないように出来るし、既に冥府からの許可は取り付けている。なに、三勢力が力を合わせれば反乱した貴族など取り押さえられるさ」

 

我道はあくまで人の良さそうな笑みを崩さずサーゼクス達の顔を見る。悪魔は要求を飲むしかなかった……。

 

 

 

そしてその頃、因果の目の前には重傷を負った女性悪魔が倒れていた。彼女の名はカテレア・レヴィアタン。旧魔王の末裔である。

 

「……中々手ごわかったです」

 

「ま、仙術無しでのハンデ戦ならこんなもんかにゃん♪」

 

「やれやれ、助かった。私は頭脳労働専門だからな。流石に魔王の血族の相手はできん。二人共怪我はないな?」

 

「……足を挫きました。オンブしてください」

 

「私も足が痛いにゃん。白音はオンブで私はお姫様抱っこをして欲しいわね」

 

先程まで元気だった二人は急に蹲ると足を押さえる。そして因果をチラチラと見てきていた。

 

「どちらかと言うと黒歌の方をオンブしたいのだが。白音では背中に当たってもあまり嬉しくない」

 

「……真顔で言う事ですか?」

 

「じゃあ、早速♪」

 

黒歌は因果の背中に抱きつき、白音は照れながらも抱っこをしやすい体勢を取る。三人が居るのは自宅の庭。玄関まで数メートルの場所だった。

 

 

 

「我、オーフィス。グレートレッド倒すのに力貸して欲しい」

 

「ふ~ん。大変ねぇ」

 

己道家のリビングでは休日で家に居た摂理はゴスロリドレスの幼女を持て成していた。なぜか壁にセロハンテープが貼られ壁があるべき場所には地平線が広がっている。

 

「じゃあ、彼処の先に良い物があるんだけど自由に持って行って良いわ」

 

「分かった」

 

オーフィスは素直に地平線の向こうに向かって行き、摂理がテープを外すとオーフィスが居る空間は世界から完全に切り離された。

 

「さて、ハニーは徹夜だったみたいだし、夕飯は胃に優しい物でも作りましょ」

 

摂理は鼻歌を歌いながらキッチンに向かい、卵を切らしていた事を思い出した……。




活動報告でも言いましたが誰かからの助言が欲しいです メッセージとかでご助言欲しいです

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霊感フェイト編 メンバー少し変えてゼロ編とか・・・・・・ 英雄王は強敵


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悪魔と秘密道具 ⑫

「さて、説明をしてもらおうか」

 

その日、八咫烏の幹部集会に出席した我道が着席するなり他の支部長の一人が開口一番にそう言った。

 

「説明とは? 私には何の事かサッパリなのだが」

 

「巫山戯るなっ! 魔王との交渉を任されたからといって勝手な条約を作りおって! 特に悪魔との条約が問題だっ! 貴様、悪魔を敵に回す気かっ!?」

 

「おやおや、貴方は悪魔が我々人間の敵ではないと思っていたのですか? 全く、これだから平和な支部を任されている者は困る。今回の条約、重要拠点近くの支部長は全員賛成したのだがね。さて、此処で資料を見て貰いたい」

 

唾を飛ばして叫び今にも飛び掛ってきそうな他の支部長の男性に対し我道は沈着冷静に挑発めいた発言をする。男性は怒り心頭といった有様で乱暴に資料を開き、顔を青ざめた。

 

「お分かりかな? 貴方が進めてきた対応と私が進めてきた対応による人的被害数の動向だが、被害数の減少が著しいのが私の考えに賛同した支部周辺、貴方方穏健派の支部周辺は……おやおや、少し増えて来ているね」

 

「……これから減らす。三大勢力も和平に入り戦力の増強の必要性は前よりも減ったはず。ならば対話によって歩み寄れるはずだ。種族が違っても絆は結べるのだ」

 

男の発言について来ていた隊員や他の穏健派の幹部達も頷く。それを見た我道はあくまでにこやかにしながら肩を竦めた。

 

「まあ、私の甥と居候達の件もあるから少しは認めよう。だが、奴らとは文字通り住んでいる世界が違う。私達に必要なのは奴らと絆を結ぶ努力ではない。奴らを害する努力だ。……さて、納得できないようだが、二分ばかり貴方方の所の隊員と一緒にさせて貰えないかい?」

 

「……良いだろう。彼らは友好を結ぶ事の大切さを貴様と違って理解している。たった数分で篭絡できると思うな」

 

穏健派の幹部達は隊員を残して退席し、我道に賛同する幹部や隊員も出ていく。部屋には穏健派の隊員と我道のみが残された。

 

「さて、少し話をしよう」

 

そして二分後、穏健派の隊員達が部屋から出てきた。

 

 

「悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す悪魔殺す堕天使殺す天使殺す……」

 

「コレが貴方達の言う大切な絆とやらだ。たった数分で消え去るとは随分儚いものだね。では、会議の続きと行こう」

 

我道は緩んだネクタイを締め直し、絶句して固まる穏健派達を尻目に笑いながら椅子に座り直す。穏健派達は彼の背後に巨大な百足がいる様な錯覚に襲われた。

 

 

 

 

「はっはっはっ。流石ですね、叔父さん」

 

「なぁに、君のおかげだよ」

 

その日の夜、己道家に来ていた我道は因果と言葉を交わす。彼が苦手な黒歌と白音は退席しており、摂理は苦笑し束は爆笑している。

 

「もう、お義兄さんは厳しいわねぇ」

 

「あはははははは! お兄ちゃんだから仕方ないって」

 

「さて、そろそろお暇しよう。明日も朝イチで会議があるのでね。今回の事で支部長が退職した支部の管理を他の支部で管理する事になったんだ。例の条約によって上級悪魔の駆除作業も本格的になったし、全く身が休まらなくて困るね」

 

我道は邪悪な笑みを浮かべながら迎えの車に乗り込む。その時の笑みは某・自称新世界の神が計画通りにいった時の笑みだった。

 

 

「多分、全部お兄ちゃんの計画どおりだったんだろうね」

 

「まあ、叔父さんだから仕方ない」

 

「……やっぱりこの二人、お義兄さんの血縁者よねぇ」

 

摂理は愛する妻と息子を見ながらしみじみ呟いた。

 

 

 

 

 

「さて、この状況をどうしたものか……」

 

それから数日後、家族旅行に出かけた己道一家は別荘付きのプライベートビーチで遊んでいる所を襲撃された。因果達を取り囲んでいるのは大勢の悪魔。中には貴族らしき悪魔も数名おり憎悪の篭った視線を向けている。

 

「貴様らの身内のせいで私の子は死んだっ!」

 

「それも人間を有無を言わせず眷属にしたという程度でだっ! 断じて許せんっ!!」

 

貴族達は涙を流しながら因果達を取り囲み、黒歌や白音は因果を庇う様に進み出る。だが、摂理がそれを手で制した。

 

「貴方達が子を殺されて悲しむ気持ちは理解できるし、お義兄さんの身内であるアタシ達に怒りをぶつけたい気持ちも分かるわ。でもね、身内を失った気持ちは無理やり眷属にされた子達の家族も同じなの。帰って貰う訳には行かないかしら?」

 

「巫山戯るなっ! たかが人間と私たち悪魔が同等な訳がないだろうっ! 男達は殺し、女共は此処に居る全員で犯し尽くした上で惨殺してくれるわっ!」

 

最後まで説得しようとした摂理に対し貴族達は殺意で応える。そしてその言葉は摂理の怒りを買うに十分だった。

 

「……そう。此処まで言っても駄目なのね。アタシ暴力は嫌いだけど、家族に手を出されると言われて黙っている訳にはいかないの。ハニーは大切な奥さんで因果は大切な息子。黒歌ちゃんと白音ちゃんは大切な息子の将来のお嫁さん達。それに手を出すって言ったわよね?」

 

怒りで震える摂理の体は徐々に大きくなり、急激に肥大化した筋肉によって着ていた水着が敗れる。その姿を見た束は黄色い歓声を上げた。

 

「ダーリン格好良いっ!」

 

「……さて、どうしよう」

 

「取り敢えず目を瞑っておけば良いと思うにゃん」

 

「……甘いですね。私は最初から目を瞑っています」

 

目を輝かしている束の視線の先では魔法力で強化した拳で大勢の悪魔相手に無双する摂理の姿が有り、因果達は目を瞑って全裸のムキムキオカマが大暴れする光景を見ないようにしていた。

 

 

 

その頃冥府では若手同士の顔合わせが終わり、対決が決まって互いに闘争心を燃やしているソーナとリアスの前に八咫烏の隊員達の姿が現れた。

 

「すまないがディオドラ・アスタロトは何処に居るか教えてくれるかい?」

 

「人間が僕に何の用……アーシアっ!」

 

会話が聞こえたのかディオドラは訝しげな顔で返事をし、アーシアの姿を見るなり笑顔で近付いて行く。

 

 

「悪いが君には死んで貰うよ。ああ、正確に言えば君には死んで貰うけど悪いのは君だ、かな?」

 

「あ……」

 

そして曹操が持つ量産型上位聖剣のエクスカロンによって胸を貫かれる。当然辺りは騒然となり、会場に来ていたサーゼクス達が飛び出してきた。

 

「これはどういうつもりだい! 彼はアスタロト家の次期跡取りで……」

 

「その次期跡取りを駆除する許可をくれたのは貴方だ、魔王ルシファー。彼は聖女とかの教会関係者マニアなんだが大勢の聖女を誘惑して……ああ、これはどうでも良い。彼女達に関しては自己責任としている。日本での話じゃないしね。だが、彼女達に接触する時に邪魔な人間を手に掛けてるんだ。さて、こういった奴らを駆除する許可は貰っている。それとも他の神話体系、それも君達が同盟を結んだばかりの天界に色々と恨みを持つ勢力に結んだ条約を直ぐに反故にすると思われても良いのかい?」

 

”それならそれで良い。戦う気なら相手になる。”そういう様に聖剣を構えた八咫烏のメンバーにサーゼクスは何も言えず、そのまま黙って帰すしかなかった。




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悪魔と秘密道具 ⑬

「さて、神は泥から最初の人を作った。つまり、泥を生命に変えたという事だね」

 

 我道は巨大なゼンマイをヌイグルミのライオンに当てて回す。するとライオンは本当に生きているかの様に、いや、本当に生きているので動き出した。

 

「さて、布と綿から出来たヌイグルミはこの通り生き物となった。ちなみにそしてキリストは石をパンに、水をワインに変えたというが……発泡酒とグラタン」

 

 我道は次にテーブル掛けをした机の前で料理の名を言う。すると本当にその料理が現れた。

 

「これは空気と酸素などを好きな料理に変えているんだ。そして最後にこれは絶対に他人に話さないで欲しいものだが……」

 

 我道は最後に床に置いた機械のスイッチを入れる。すると機械の中央が開き、中には宇宙が広がっていた。

 

「神が世界を作るのに約一週間の時間を掛けた。さて、これも一週間かけて地球を作る機械だ。まあ、子供でも作れる様になっているんだけどね。ははは、これ全部で制作費用が約三百万、正確には二百九十七万七千五百二十三円らしいよ。さて、私は君達を歓迎しよう。此処は君達の信仰を否定しないよ」

 

 我道は三大勢力の同盟を受け、自分達の行く末を悲観して八咫烏に入ってきたエクソシスト達に笑顔を向ける。満面の笑みの我道に対し、神が起こしたとされる奇跡を簡単に模倣した機械に驚き信仰心を折られていた。

 

 

 

 

「うわ~、やってますね。私も初日で心を折られました」

 

「……私もよ。ほら、私ってジャンヌ・ダルクの魂を受け継いでるじゃない? でも、アレはキッツイわぁ~」

 

 自分達も彼らと同じように死んだ目になった事を思い出し笑うアーシアとジャンヌ。その視線の先では我道による洗脳(教育)が行われていた。

 

 

「ジャンヌ先輩、今日は何にしますか? 私は親子丼の気分なんですが、ピザも食べたいんですよ」

 

「あ~、私もそのドッチかね。どうせなら両方頼んで半分こしない?」

 

 その日の訓練も終わり、食事を用意してくれる家族が居る者を除いたメンバーは食堂へと向かっていた。八咫烏の食堂は好きな物を頼んで良く、因果の発明品による料理なので料金は無料だ。アーシアとジャンヌはピザの種類を何にするか話し合いながら食堂へと向かう。すると後ろから声が掛けられた。

 

「すまない。食堂は何処だろうか」

 

 話し掛けて来たのは青い髪の少女。エクソシストを辞めて八咫烏に入って来た新入りの一人だ。

 

「私達も今から食堂に行くから付いて来て。あ、私はジャンヌよ」

 

「私はアーシア・アルジェントです」

 

「む、その名前は……いや、今の私の変わらんか。私はゼノヴィアだ。よろしく頼むよ、先輩達」

 

 そのまま三人は食堂に向かい、直ぐに意気投合した。

 

 

 

 

「さて、今回の一件、どう責任を取るつもりですか? 身内の贔屓目を考えても束と因果は今の世界にとって重要な人材だ。それを条約違反で身内が罰せられた憂さ晴らしに殺そうとは。ああ、この件は既に北欧やギリシアの神々に通達済みだけど、上手く同盟を結んで貰えると良いですね」

 

「……誠に申し訳ございません。此方で話し合ってしかるべき賠償を致します」

 

 先日の己道一家への襲撃について呼び出されたサーゼクスは我道に深々と頭を下げる。すると我道はテープを一個取り出した。

 

「これは”地平線テープ”といって、これを壁に貼ると何処までも地平線が続く空間に繋がるが、其の世界に襲撃犯と先日襲撃してきた旧魔王のカテレアも閉じ込めているらしいですよ。なお、これを使わないとその世界とは絶対に行き来できないんだそうです」

 

「では、それを使って彼らを迎えに……」

 

「だが、其処にはオーフィスも閉じ込めている。どうやらテロリストの親玉らしい。さて、どうしましょう? このままだとオーフィスは兎も角、食事が必要な彼らは餓死するしかない。でも、彼らを助けようとしてオーフィスをこちらに戻す訳にもいかない。では、三日以内で結論を出してください」

 

 貴族悪魔達はどう足掻いても見捨てるしかない状況に追い込まれ、それでも見捨てれば他の貴族の反発を買う。サーゼクスの胃がキリキリ痛み出した。

 

「それはそうと、若手同士のレーティングゲーム、楽しみにしていますよ。ああ、でも一人足りないんでしたね。なら、こういうのはどうでしょう? 私達の代表者数名が死んだディオドラ君の代わりに出るというのは。私達も支援者の皆様や同盟が決定した神々に力を見せておく必要が有りましてね。宜しければ同盟の申し込みの際の口利きでも致しましょうか?」

 

「……はい。お願いします」

 

 それは実質的な脅しであり、サーゼクスはその条件を飲むしかなかった。八咫烏のメンバーは毎回変更し、ディオドラと戦うはずだった若手が相手をするという条件で双方が合意する。そしてゲームの当日、招かれた神々は他の若手のゲームは観戦せず、八咫烏の試合だけを観に来た。

 

 

「ふぉっふぉっふぉっ。さて、八咫烏の若造共はどのような戦いをするのかの」

 

「オーディン様っ! どさくさに紛れて私のお尻を触らないでくださいっ!」

 

「HAHAHA! おい、オーディン。お前の所はどんな贈り物貰ったんだ? 俺は”グルメテーブル掛け”と”自在に夢見る機”って奴だ」

 

「儂の所は”自在に夢見る機”と”ケロンパス”じゃな。渡されたリストの中でその二つが興味を引いたのでな」

 

 オーディンと帝釈天は八咫烏の相手であるシーグヴァイラ・アガレスを紹介する映像には目もくれず談笑する。そしていよいよゲーム開始の時間がやってきた。

 

 

「ふむ。今回のゲームは短期決戦か、もしくは私達を確実に潰す為に一部の貴族が暴走したか。……どちらにせよ都合が良い」

 

「……な~んか嫌な感じっすね、支部長」

 

今回のゲームフィールドは逃げる場所も隠れる場所もない室内。全面を壁と天井に囲まれた半径五百メートルほどの円形の部屋の両端に両チームが転移している。そして今回ゲームに参加するメンバーは支部長である我道と一誠だけであった。

 

『それでは只今よりゲーム開始です』

 

「では、プランCで行こう」

 

「はい! 禁手化(バランスブレイク)っ! 赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)!!」

 

 一誠は本来ならば禁手化までの時間が必要にも関わらず瞬時に全身鎧に変化する。それを観ていたアザゼルは口をアングリ開け、隣りのヴァーリは楽しそうに見ていた。

 

「おいおい、どうなってんだ? てか、あいつが神器に目覚めたのは最近だろ」

 

「……面白いね。興味がわいたよ」

 

 

 

「……帝釈天殿。例の”グレードアップ液”とかの影響かの?」

 

「だろうな。惜しい事したか?」

 

 高速での禁手化の理由に思い当たる節のある二人は小声で話しモニターを見詰める。フィールドではシーグヴァイラが勝負に出ようとしていた。

 

 

「長引いては拙いですっ! 上司であるあの男の方が王でしょうから即効で倒しますよっ!」

 

 一誠を数人で足止めし他の主力メンバーで一気に我道を倒す。確かにそれは良い作戦であっただろう。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!! 』

 

 一誠の実力が彼女の予想を遥かに超えるものでなかったら、の話であったが。計十五回。一誠の力は八咫烏の訓練によって三万二千七百六十八倍もの倍加を可能とし、

 

『Transfer!』

 

 其れが我道へと譲渡される。部屋の壁と天井と床一面に魔法陣が出現し、数百数千数万の聖剣が豪雨の様に放たれ続けた。

 

 

『シ、シーグヴァイラ・アガレス様の『女王』一名 『戦車』 二名 『騎士』 二名 『僧侶』二名 『兵士』八名 リタイア。そしてシーグヴァイラ・アガレス様の投了を確認しました』

 

「さて、帰ったらミーティングだ」 

 

「は、はい……」

 

 四方から降り注ぐ聖剣全てを一本の聖剣だけで叩き落とした我道は涼しげな顔で乱れたスーツを直す。その横では作戦を知っていながらも腰を抜かしてしまった一誠の姿があった。




気になった事が トリコのネイルガンって体内で衝撃を受け流されないための技でしたよね? でも、ネイルガンのダメージを体内で受け流されたって……未完成? 呟きたかった


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霊感少年 Fate編

番外編なので移転しました


冬の美味し食べ物といえば、焼き芋に肉マン、そして鍋だろう。大晦日の昼間、兵藤家のコタツの上に置かれたカセットコンロの上では美味しそうな鍋がグツグツと煮えていた。

 

「ひっく! 何奴も此奴も年末進行、年末進行、五月蠅いってのよ。玉藻~、熱燗もう十本追加~」

 

友人は殆どが既婚者か仕事で忙しく、年末を一緒に過ごす相手が一誠達以外に居ないメディアは兵藤家に上がり込み、鍋を突く。彼女の前には空になった徳利やビールの空き缶が散乱しており、かなりの量を飲んでいる事が伺える。その正面では物凄い勢いで鍋を掻き込んでいる一誠と、彼の肩を枕にウツラウツラしているベンニーア、それを羨ましそうに見ながらも小猫の世話を焼く黒歌の姿が有り、先程行われたゲームでイカサマがバレた玉藻は一人給仕に勤しんでいた。

 

「ひ~ん! 折角の鍋パーティなのに何で私だけ給仕なんですか~!?」

 

「イカサマするからだよ。イカサマってのはバレないようにしなくちゃ意味ないんだからさ。ほら、玉藻の分は取ってるから熱燗の用意が出来たら食べなよ。にしてもアンコウ鍋って美味しいね」

 

一誠は玉藻の分のアンコウや野菜を器に入れ、そのまま自分の分を食べだす。メディアもアンコウをタップリ盛ると美味しそうに食べだした。

 

「アンコウにはコラーゲンがたっぷり入ってるから明日はきっとお肌プリップリよぉ♪ ……まぁ、私有幽霊だから関係ないけどね」

 

「だから肉体を作ろうかって言ってるじゃん。オリンポスに所属しなくても提供するよ?」

 

「別に良いわ。永遠に若いままなんて最高じゃない。この世に飽きたら坊やに成仏させて貰うしね。……にしてもこの味付け絶品ね。玉藻が作ったんでしょ?」

 

「うん、そうだよ。俺の自慢のお嫁さんだからね」

 

一誠が惚気けた様に言うと左右の二人が膨れ面で腕に抱きついてきた。

 

《あっしは自慢にならないんですかい? 散々あっしの体を堪能しておいて酷いでやすねぇ》

 

「私も違うのかにゃ? 夜中にあれだけご奉仕してるのに酷い夫にゃ」

 

「いやいや、二人共も自慢だよ? ほら、機嫌直して」

 

一誠が二人の肩を抱き寄せると二人共直ぐに機嫌を直して一誠にしなだれかかる。そんな中、メディアが注文した熱燗を持った玉藻がジト目で戻って来た。

 

「ぶぅ~! いくら別ゲームだからって、本妻差し置いて側室達とイチャつくなんてどうかと思いますよ?」

 

「まぁまぁ、給仕もひと段落着いたし座りなよ」

 

一誠はそう言いながら膝を指差す。次の瞬間には玉藻が膝の上に座っていた。

 

「えへへ~♪ やっぱ此処、良いですよね」

 

「そういえば狐の時から俺の膝の上が好きだったよね。……今夜は君が上になる?」

 

「きゃあ✩ 今年最後の子作りですね! ついでに姫初めの相手も致しますよ、ご主人様♪」

 

「ちょっと! 年初めは三人同時って約束だったでしょ!」

 

《抜けがけは許さないでやんすよ!》

 

たちまち修羅場がまい起こり、最後には三人共一誠に甘え出す。その光景を恋人が居ない二人(小猫とメディア)は疲れたように見ていた。

 

「……爆発すれば良いのに」

 

「……全くだわ。気が合うわね、ウチの子にならない?」

 

「……なりません」

 

 

 

 

 

 

 

「でさ、年越し蕎麦の具はどうする? 俺は後乗せサクサク天ぷら派」

 

「私はジューシーお揚げ派ですねぇ♪」

 

《月見が一番でやんす》

 

「肉こそ至高っ!」

 

仲の良い四人だが食の好みはバラバラのようだ。其々が好みの具の良さを語っていると、廊下から慌ただしい足音が聞こえ、マユリがリビングに入って来た。

 

「おい、ちょっと協力してくれたまえ。なぁに危ない目には合わせないヨ」

 

「……信用できない」

 

「信用できませんねぇ」

 

「信用できる訳ないにゃ」

 

《絶対危ないでやんす》

 

「絶対嘘ね」

 

「?」

 

即座に疑いの視線を向ける五人に対し、小猫だけは首を傾げる。そんな中、マユリは得意そうな顔で書類を取り出した。

 

「今回は本当に安全だヨ。装置に適合する者の分身を異世界に送るだけで、本体には影響はないヨ。私の学者生命を賭けようじゃないか!」

 

「……まぁ、そこまで言うなら」

 

一誠達は顔を見合わせ相談を始め、協力する事にする。そして適合者試験は他の者に対しても行われ代表者八人が決定した。

 

 

 

「じゃあ、始めるヨ!」

 

装置に取り付けられた椅子に座りヘルメットを被った被験者は体からなにか抜けていくような感覚に襲われる。数秒後、その感覚は収まり全員装置から解放された。

 

「……所で、どんな世界に送ったの?」

 

「ふふふ、なんと願いを叶える聖杯ってのがある世界だよ。どうやら魔術師がマスターとなって英霊の類を呼び出して戦うらしくネ、君達の内一人がマスターで、残りはその英霊……サーヴァントになって貰ったヨ。おい、ネム」

 

「はい、マユリ様。……皆様、この画面をご覧下さい。此処に戦いの様子が映し出されます」

 

ネムが運んできた大型のモニターには人形同士の戦いと、その後ろに立っている小さな少女の姿が映っていた・・・・・・。

 

 

 

彼らが送り込まれたのは月で開催される殺し合い。魔術師達の思惑が飛び交う中、紛れ込んだイレギュラー達は何をなすのか。

 

 

霊感少年の幽雅な日々・『Fate/EXTRA』編 プロローグ 終

 

 

 

 




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霊感少年 Fate編 ②

とある場所に建てられた、とある高校の校舎の玄関。其処で一人の少女が倒れていた。足元近くまである紫の長髪に白衣を着た美少女だ。時刻は放課後で、帰っていく生徒は大勢居るものの、見るからに様子のおかしい彼女を気にかける者は居らず、踏み越えていく者までいる始末。明らかに異常な光景が繰り広げる中、彼女に話しかける者が居た。

 

「お姉ちゃん、だいじょうぶ?」

 

「あ…貴女は?」

 

「わたし、ありす! 保健室までつれて行けばいい?」

 

其処に居たのは高校の校舎に似つかわしくない幼い少女。そのまま倒れていた少女を小柄な体格からは考えられない力で持ち上げると保健室まで連れて行った。

 

 

「有難う、ありすちゃん。おかげでだいぶ楽になりました」

 

「うん! お兄ちゃんが”困ってる人が居たら、損しない範囲内で助けなさい”っておそわったの!」

 

「へ…へぇ、変わったお兄さんですね。あ、そうだ。ありすちゃん、お茶でも飲んで行きませんか? 良い茶葉が有るんですよ」

 

先程倒れていた少女……桜はありすをお茶に誘うが、ありすは首を横に振った。

 

「ううん。早くお兄ちゃんの所に行きたいから。ねぇ、お姉ちゃん。せいはいせんそー、って何処に行けばいいの? 教えてもらったの忘れちゃって」

 

「……そっか。此処に居るって事は参加者ですよね。あのね、この部屋を出て左に行って、突き当たったら右に行くの。そうしたら入り口が見つかるから」

 

「ほんと! ありがとう、お姉ちゃん。またね!」

 

ありすは桜に眩しい笑顔を向けながら保健室まから出ていく。桜は自分に手を振って廊下を走って行き少女にの姿をジッと見ていた。

 

「……あの子、知らないんでしょうか? お兄さんも参加してるって事は何時か……」

 

 

 

 

 

 

「わぁ、不気味な人形」

 

ありすが桜に教えられた場所に行くと、一体の人形が置かれていた。聞こえてきた何者かの説明によるとこの人形を護衛にして進め、という事だ。奥にある扉の先には長い長い道が続いていた。

 

「……歩くの面倒くさい! ジャバウォック!」

 

ありすは頬を膨らませるとジャバウォックを呼び出し、片方の肩に自分、もう片方に人形を担がせると奥を目指して走らせ始めた……。

 

 

 

 

一方その頃、一誠達は気付くと知らない部屋に移動していた。

 

「此処が異世界か。……なんか変な感じだね。記憶や自我があるけど自分が偽物ってのはさ」

 

「気にする事はないですよ、主。難しく考えるより楽しみましょう。……私なんて新婚だったんですよ?」

 

ランスロットは遠い目をしながら天井を見つめる。ロスヴァイセには適正がなかったので彼女の分身は造らず、ランスロットだけ分身を異世界に送る事となったのだ。他のメンバーがどう声をかけていいか戸惑う中、幼い少女の声が聞こえてきた。

 

「お兄ちゃ~ん! 終わったよ~!」

 

「あ、漸くありすが来たみたいだね」

 

「……しかし、貴方を差し置いて彼女が主とは……」

 

「いやいや、そうでもしないと全員同じ勢力に出来なかったでしょ? マユリンも其の辺考えてくれたんだよ、きっと」

 

一誠が扉を開けて出て行くと、大勢に人が倒れている部屋に通じており、その部屋の中心にありすの姿があった。

 

「あっ! お兄ちゃん!」

 

ありすは一誠の姿を見るなり飛びつき一誠もそれを受け止める。しばらく一誠に甘えていたありすだが、急に瞼が重くなるのを感じた。

 

「あ…れ…?」

 

「ああ、大丈夫だよ。目が覚めたら戦争が始まるから、今はゆっくりお休み」

 

一誠のその声を子守歌にする様にありすは目を閉じ、やがて深い眠りについた……。

 

 

 

 

「起きたみたいだね、ありす」

 

ありすが目を覚ますと其処は先ほど桜を運んだ保健室のベットの上。隣には椅子に腰掛けた一誠の姿が有り、死神としての服装をしてフードで顔を隠している。

 

「おはよう、お兄ちゃん」

 

「ああ、おはよう。あ、そうそう。少しこのままお話をしようか。聖杯戦争についてなんだけど……」

 

一誠がありすに掻い摘んで説明した内容を纏めると、

 

①一週間毎に一対一のトーナメント形式で行われる。全部で七回戦

 

②互いに英霊(サーヴァント)の情報を探り合う。

 

③ダンジョンに潜り、決戦の場への鍵を手に入れる。その時相手と遭遇する可能性有り

 

④決戦の場以外での戦いは原則禁止

 

「ってな感じなんだけど……どうせ七人居るんだから、一人一回戦ごとに戦おうよ。……そっちの方が相手が混乱しそうだし」

 

この戦争では情報線が鍵となる。自分で手に入れるだけでなく他人が漏らした情報も重要となる中、相手の対戦相手から手に入れた情報と連れている英霊に違いがあったらどうなるか。一誠はそれを見越してこの提案をしたのだろう。

 

「そのイタズラおもしろそう! やろうやろう!」

 

アリスも直ぐに賛同し、決定する。二人の会話が終わった頃、一人の少女が近づいてきた。

 

「どうやら体調は問題ないようですね」

 

「あれ? さくらお姉ちゃん?」

 

「あ、はい。私は桜ですが……ああ、そういう事ですね。私は聖杯戦争を円滑に行うために用意されたA・Iですので、貴女が会ったのが別の桜だと思います」

 

「ふ~ん? ……ま、いっか。お兄ちゃん、行こ?」

 

アリスはよく理解していないのか首を傾げて保健室から出ていく。一誠も霊体化して姿を消しながら後に続いた。

 

 

 

「おや、君も参加者ですか? これは可愛らしいお嬢さんですね」

 

「お兄ちゃん、だれ?」

 

ありすが参加者に与えられたマイルームがあるという二階に上がると金髪の少年が話し掛けて来た。少年は赤い制服を身に付けており、何処か気品を感じさせる。ありすに名を問われた少年は笑顔を見せた。

 

「おや、これは失礼しました。僕はレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ。レオとお呼び下さい。そして彼が僕のサーヴァントの……」

 

レオが後ろを指し示すと白い鎧を着た青年が現れる。

 

「クラス・セイバーの……」

 

「あっ! ガウェインおじさん!」

 

「ガウェ……なっ!?」

 

レオが自らのサーヴァントとして紹介しようとしたのは紛れもなく北欧に所属しているガウェインだった。だが、レオばかりか、当の本人であるガウェインも名前を言い当てられた事に驚きを隠せない。レオはもともと圧倒的な自信から自分のサーヴァントの名を隠すつもりは無かったが、人前に晒すのは今回が初めてなのだ。にも関わらず目の前の少女は名を言い当てた。

 

「……リトルレディ。なぜ私の名を?」

 

「あれ? 前会ったよね? へんなおじさん! おなかすいたから、もう行くね」

 

ありすはそのままマイルームへと駆けて行く。その姿をレオは興味深そうに眺め、ガウェインと影から見ていた黒髪の男は警戒した眼差しを送っていた。

 

 

 

「……恐らくこの世界のガウェインでしょう。だから貴女の事を知らなかったんですよ。もしかしたら私やメディア殿もサーヴァントとして呼ばれているかもしれません」

 

マイルームに到着するなり姿を現した一行は、殺風景な部屋の改造を唯一ネットに精通したグレンデルに任せ話をしていた。手始めに用意されたソファーを円形に並べ、一誠の膝の上にいち早く座ったありすはランスロットの話を大人しく聞いている。

 

「ふ~ん。ありす、よくわからない。……ねぇ、お兄ちゃん。わたし、何か食べたい」

 

「では、私が何か買ってきましょう。確か地下に購買がありましたね」

 

「じゃあ、財布渡すから適当に買って来て。あ、ドリンクバーは既に作ってるから飲み物は別に要らないよ」

 

グレンデルのハック技術により、電脳空間に作られたマイルームがどんどん豪華な外装になって行く。予定では今居る大部屋以外に一人一部屋まで空間を広げる予定らしく、グレンデルは内装やインテリアのバランスに悩んでいる。そんな元邪龍に後を任せたランスロットは購買に向かっていった。

 

 

 

 

 

「……ランスロット? サー・ランスロットではないですか!?」

 

「はぁ、確かに私はランスロットですが……貴女は?」

 

そして、本日最後の一個となったカツサンドを買おうとし、手が重なったアホ毛の生えた金髪の少女に話しかけられた。

 

 

「そんな!? 私の事が分からないのか、友よ!」

 

「(……いや、本当に誰でしょう?)」

 

悲壮感に包まれた表情をする彼女を尻目に、ランスロットは本気で誰か分からなかった……。

 

 

 

 




さて、アホ毛の少女は誰なんだ~?(笑)

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霊感少年 Fate編 ③

今更だけどナルトの螺旋手裏剣って使いすぎると自分も術が使えなくなるってリスクは何処に行ったんだろう? 伏線?


かつて滅びかかったブリテンを救ったのは一人の高潔な騎士だった。聖剣に認められ王となった騎士は騎士王と呼ばれ、その近くには円卓の騎士を名乗る勇猛果敢な騎士達が数多く居た。その中でも最強と呼ばれ騎士王から最も信頼された騎士。その名は―――。

 

「……まだ…まだ私を憎んでいるのですか、ランスロット!?」

 

「いや、ですから貴女は誰でしょうか? 申し訳ございませんが全く思い出せないのですが……。申し訳御座いませんが主が待っていますので私は此処で……」

 

ランスロットは少女と同時に手をかけてかつサンドを買い物かごに入れると会計へと持っていく。その姿を少女は涙を浮かべながら見ているだけしかできなかった。

 

「……私なんて王になるべきではなかった。故にお前なんて知らない、そういう事なのですね……」

 

 

 

 

「ふ~ん、知らない人に話しかけられたんだ」

 

「ええ、向こうは私の事を知っているようでしたが、私にはサッパリで……」

 

「はい、お兄ちゃん。クリームパン半分あげる」

 

ランスロットがマイルームに帰ると既に改築は終わっており、窓から見える風景はスイッチ一つで四季折々の風景を映し出し、今は桜が咲く見事な日本庭園を映し出している。ランスロットは紅茶を飲みながら先程の事を話し、ありすは興味がないのか食べるのに夢中だ。そんな中、買ってきた食パンと食材を使ってピザパンを作っていたグレンデルが話に入ってきた。

 

「なぁ、もしかして此方の世界のアーサー王だったんじゃねぇの?」

 

「はっはっはっ! まっさかぁ。王は男でしたし、大体それならモードレッドはどうなるんです? 流石にモルガン達が男ならウーサー王も自分の子を後継にするなんて出来なかったでしょう」

 

「いや、ガウェインやお前が偶々見た目が同じってだけで、その辺の流れは少し違うんじゃねぇの?」

 

「……ねむい」

 

ランスロットやグレンデルが話を進める中、お腹が一杯になって眠くなったありすはコクリコクリと船をこき始める。一誠はありすを抱き上げると彼女の部屋まで連れて行った。部屋に入るとグレンデルの手製のものと同じヌイグルミで溢れたファンシーな部屋で中央に子供用の可愛らしいピンクのベットが設置されている。

 

「……うわぁ、これデザインしたのグレンデルなんだよね? 正直言って……」

 

『邪龍とは一体何だったんだ?』

 

「まぁ、ロリショタ皇ホモペドンよりはましじゃない?」

 

『誰だ、それ?』

 

アルビオンの事などすっかり記憶の彼方に追いやったドライグは心底疑問といった声を出し、一誠は退屈なので散歩に出かける事にした。

 

 

 

 

 

「ふんふんふ~ん♪」

 

死神の服装で素顔を隠した一誠は調子外れの鼻歌を歌いながら校舎を散策する。この学校では何故か戦いがあるというのに授業があるのだが、今は昼休みなので廊下に生徒の姿がチラホラと見える。そんな中、一人の少女が一誠の目にとまった。ウェーブのかかった長髪をした女生徒で、その魂は何処か妙だ。

 

「やぁ、こんにちは!」

 

「……こんにちは?」

 

一誠にに話しかけられた女生徒は戸惑いながらも挨拶を返す。やはりサーヴァントに話しかけられた事に動揺しているらしく、何処か挙動不審だ。

 

「ねぇ君、名前は?」

 

「岸波…白野」

 

「我が奏者から離れろ、下郎」

 

少女…白野が名乗ったその時、彼女のサーヴァントが姿を現した。小柄な少女で赤いドレスを着ており、スカートはスケスケで半ケツだ。

 

「うはは! 痴女だ! 痴女のチビが居るっ!」

 

「ええい! 其処になおれ!」

 

「落ち着け、セイバー。ここで戦ったらペネルティを喰らう」

 

少女のサーヴァントであるセイバーは一誠にに切りかかろうとするも、白野の静止でなんとか止まった。

 

「……むぅ。しかしだな奏者よ。相手は敵のサーヴァントだぞ。敵マスターである其方を狙ってないとも限らん。もう少し警戒をだな……」

 

「え? その子マスターなの? いや、N…」

 

「と・に・か・く! これ以上奏者に関わるな! あと、もう一度余の事をチビと言ったら絶対に切るからな!」

 

セイバーはプンスカ怒りながら白野と一緒に去っていった。

 

「……気付いていて無いんだな。ま、どうでも良いや」

 

一誠も直ぐに白野から興味を失い、その場から去っていく。次に屋上にたどり着くと赤い服を着た少女がお弁当を食べていた。

 

「サーヴァント!?」

 

「……うわぁ、人の姿見た途端に驚くなんて失礼だなぁ」

 

「……マスターが近くに居ないしアサシンかしら? いや、アーチャーという可能性も……」

 

少女は何やらブツブツと呟きだし一誠をジロジロ見出す。そのままお弁当に手を伸ばし、うっかり引っ繰り返してしてしまった。

 

「無能姫といい、この子といい、さっきのセイバーといい、俺と敵対する赤い服装の女って変なのばっかり……」

 

流石にお弁当が七割ほど残っている時点で引っくり返してしまった事に同情した一誠は残ったパンを投げ渡した。

 

「あげる」

 

「あ、ありがと。って、どういう魂胆かしら? 敵に食べ物を与えるなんて。さっき会った白野ってこといいあなたといい、聖杯戦争がどういう物か分かってるの?」

 

「暇潰し」

 

「なっ!?」

 

一誠の返答に少女は驚きを隠せずに固まっている。

 

「俺や俺のマスターは暇潰しの為に参加したんだ。……何か文句ありそうだね。霊体になって姿を隠している青タイツを俺に嗾けてみる?」

 

「……ランサーの事を見抜いた!? 貴方、何者っ!?」

 

「いや、これは戦争なんだから情報与える訳無いじゃん。じゃあね!」

 

一誠はフェンスを飛び越え、屋上から校庭へと飛び降りる。その姿を赤い服の少女は警戒した眼差しで見つめていた。

 

「……特に厄介なのはレオやユリウスだと思ってたけど、アイツも厄介ね」

 

その後、一誠は色黒の少女や五月蝿い宗教家、ピエロの姿の女性と出会い、何か嫌な感じがしたので尼僧っぽい女性を消去してマイルームに戻って来た。

 

「ただいま~」

 

「お帰りなさい、あ・な・た♥ ご飯にする、お風呂にする、それとも……あ・た・し?」

 

「いや、ご飯はさっき食べたでしょ、黒歌」

 

一誠は裸エプロン姿の黒歌の横を通り過ぎ、後ろから抱き抱えると部屋まで運んでいく。黒歌は空中に向かって叫んだ。

 

「にゃははははは! この映像を見ている本物の玉藻とベンニーア! 一誠を独り占めできるの羨ましいかにゃ?」

 

 

 

 

 

《……ムカツクでやんすねぇ》

 

「コピーがご主人様を独り占めしてるし、本物は今晩不参加という方向にしましょう」

 

「ぎにゃっ!? い、いや、あれは私であって私じゃ……」

 

 

そして次の日、掲示板に対戦カードが表示された。

 

 

 

 

一回戦 レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ対ありす

 

「あ、昨日のお兄ちゃん!」

 

「おや、一回戦の相手は貴女ですか。……大丈夫。貴女の犠牲は無駄にはしませんよ。行きましょう、ガウェイン」

 

「はい、レオ。あの少女が私の事を知っていた事は気になりますが、些細な問題ですね」

 

レオとガウェインは既に勝ちが決まったような口振りでダンジョンへと向かっていく.その後ろし型を見るありすは頬を膨らませた。

 

「勝つのはわたしだもん!」

 

ありすも急いでダンジョンへと向かっていく。その後ろをコート姿の男性が尾行していた……。




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霊感少年 Fate編 ④

BBについて調べたら、この時点でキアラが死んでもccc編に入る条件は達成ししてるみたいなんだよな…。ありすが助けたし……無理!


ユリウス・ベルキスク・ハーウェイ。ハーウェイの裏側を担当する暗殺者でレオの異母兄である。デザインベビーとして生まれ、失敗作の烙印を押された彼は不必要どころか存在してはいけない、とまで言われ、人間として扱われなかった。そんな彼を唯一人間扱いしたのがレオの母であり、レオの地位を盤石とする為に彼女の命を奪ったはユリウスである。彼はレオの為にと言いながら行動するが、彼の全ての行動理由はレオの母と交わした『レオの事をお願いね』、という約束だけである。

 

彼のサーヴァントはクラス・アサシンで真名は李書文。周囲の気を探知して己の存在を消す『圏境』の使い手で、魔術的な探知能力では絶対に発見不能だ。そしてサーヴァントの切り札たる宝具の名は『无二打』。敵を必ず一撃で仕留めたという彼の生前の異名である『二の打ち要らず』がカタチとなったもので、実力を問わず相手を一撃で葬る技だ。

 

ユリウスはガウェインの真名を見抜いた(と思っている)ありすを危険視し、レオと同じダンジョンに入る前に仕留めようと封鎖空間に入れて襲撃する。

 

 

 

 

 

「グッ…まさか儂がこの様な所で終わるとはな。……呵々(かか)、見事だ……」

 

「……その技は見事。だが、あいにく体臭までは消せないようだ。拙者は鼻が利くのでな」

 

そして、立ち塞がった(犬飼ポチ)によって李書文はズタズタに切り裂かれて消えていく。ユリウスも敗者として消えかけていた。だが、彼は耐え難い苦痛が体を襲っているにも関わらず必死で抵抗する。全てはレオの母との約束の為に。

 

「……消える訳にはいかない。まだ、こんな所で……がっ!?」

 

「悪いけどさ、敵の最後の足掻きを許すほど甘くないんだ」

 

そして、その足掻きは後ろから一誠に腹を貫かれた事で止まり、そのまま静かに消えていった……。

 

 

 

 

 

「おや、もう見つかりましたね」

 

その頃、一足先にダンジョンに入っていたレオは決戦の場に行く為の鍵『トリガーコード』の片方を手に入れていた。これ以上は用はないし、ガウェインも幼い子供の上に女であるありすと戦うのは気が引けるそうなので脱出用アイテムである『リターンクリスタル』を使おうとする。だが、何故か発動せず、それどころか周囲の風景が変わっていった。

 

 

「これで良かったのかしら、わたし(アリス)?」

 

「異世界のとはいえ、知り合いと直接戦いたくないから、これで良かったのよ、あたし(ありす)

 

二人は入り口で『名無しの森』を発動させるとガウェイン達に魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)で創り出した魔獣達を送り込む。無論、聖剣に耐性の有る魔獣をだ。ガウェイン達も必死で抵抗するが、徐々に記憶と共に存在が消されて行き、やがて数に敵わず魔獣の波に押し潰されて消えていった。

 

こうして生まれながらの王は、敗北がどの様な物か噛み締める間も無く短い生涯を終える事となった……。

 

 

「終わったね、わたし(アリス)。お兄ちゃんは褒めてくれるかしら?」

 

「終わったのよ、あたし(ありす)。お兄ちゃんは褒めてくれるわ」

 

二人は手を繋ぎ、スキップをしながら迷宮を後にした。

 

 

その帰りの事である、ありすは今からダンジョンに入ろうとしている白野と正面からぶつかってしまった。

 

「おっと、すまないな。大丈夫か?」

 

「うん、大丈夫。そっちこそ大丈夫? 変なお姉ちゃん」

 

「おい、少女。余の奏者が変とはどういう事だ!」

 

ありすの言葉が気に入らなかったらしく、セイバーはご立腹といった感じだ。だが、ありすは首を傾げるだけだった。

 

「だって、そのお姉ちゃんって、せいはいせんそーに人間じゃないのに出場してるじゃない」

 

「人間じゃ…ない…?」

 

「うん! あの保健室のお姉ちゃん達と似てるよ。……あ、早く帰らなきゃ」

 

「おい、どういう事…」

 

セイバーが止めようとするも捕まらず、ありすはそのままマイルームへと帰っていった……。

 

 

 

 

「ねぇ、貴女がありす? 一回戦からレオだなんて不運だったわね」

 

次の日の昼の事、初めてのお使いとして昼食を買いに来ていたありすは一誠と話した赤い服の少女…凛に話しかけられた。

 

「? 変なの。強いなら、勝ち進んでいけばいつか戦うじゃない。そんな事もわからないの?」

 

「ぐっ! 可愛くない餓鬼ねぇ。あんな強いのといきなり当たったから助言でもしようと思ったのに」

 

この言葉は嘘では無いが、本選に出るほどのマスターなら自分の助言を受ければレオのサーヴァントの情報を少しは手に入れてくるかもしれず、子供なので聞き出すのは簡単、そう言う魂胆も混じっていた。

 

「レオお兄ちゃんなら、きのう倒したわ」

 

「……はぁ!? ちょっと、昨日誰を倒したって!?」

 

「あのレオナルド・ピスタチオ・バームクーヘン? ってお兄ちゃん。それと、変なコートを着たオジさんが襲ってきたから(ポチが)倒した」

 

凛はそういえばと思い出す。確かに今日は朝からレオの姿を見ていない。ふたりの会話を聞いていた他の出場者達が騒めく中、キザったらしい声が聞こえてきた。

 

「何だ、ハーウェイも大した事無いじゃないか。そんなチビに負けたんだろ? なら、優勝はアジア圏のゲームチャンプである僕だな!」

 

「うるさいわ、ワカメ。アナタ、私より年下じゃない。……八歳くらいかしら?」

 

「なっ!? どうして僕の年齢を知ってるんだ!?」

 

ワカメ呼ばわりされた少年…シンジは思わず言葉を溢してしまった。

 

「へぇ、君って八歳だったんだ。まぁ、それなら幼い言動にも納得がいくわね」

 

「う…煩いぞ、遠坂! バーカバーカ、あと、バーカ!」

 

凛のからかう様な言葉に対し、シンジは幼い返しをする。その間にありすは買い物を済ませマイルームへと戻っていった。

 

 

 

「……八歳、か」

 

「……気にするでない、奏者よ。奴も参加者なら、他の参加者の屍を踏み越えてでも聖杯を欲しておるのであろう。ならば、其方も気にせず戦え。……それとも、昨日の言葉が気になっているのか? えぇ~い! あのような戯言気にするでない!」

 

購買での会話を聞いていた白野は対戦相手であるシンジが八歳と知り、動揺を隠せない様子だ。セイバーも元気付けようとするが、彼女の顔は暗いままだった……。

 

 

 

一回戦 レオナルド・B(ビスタリオ)・ハーウェイ 対 ありす

 

 

勝者 ありす

 

 




決勝戦の相手やCCCで活躍してても容赦なし!

今の所の判明してるメンバー

1 ありす (マスター)

2 一誠 (キャスター?)

3 グレンデル (?)

4 犬飼ポチ (?)

5 ランスロット (?)

6 黒歌 (?)

7 アリス (キャスター)

8 ?

玉藻とベンニーアは参加していない……


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霊感少年 Fate編 ⑤

「ふぃ~! やっぱ温泉は良いなぁ」

 

「そして雪を見ながら温泉に浸かって飲む酒は格別にゃ」

 

万能の(一応)邪龍グレンデルの手によってマイルームに併設された温泉は山中で眺める満天の月や、小雪が舞う北国などの壮観な景色が楽しめる作りとなっており、一回戦を初日で終わらせた一誠達は余暇をのんびりと過ごしていた。

 

今は黒歌と一緒に風呂に入り雪を眺めている。黒歌は温泉に浮かべたタライの中に徳利と盃を入れて雪見酒を楽しんでいた。

 

「ねぇ、イッセー。お酒飲む?」

 

「……そうだね.でも、盃は一つだし口移しで頂戴」

 

「オッケー♪」

 

そのまま二人は抱き合い唇を合わせようとする。その時、脱衣所に続く扉が開いた。

 

「お兄ちゃん、たいへん! お化けがいたの! わたし、ドッペルゲンガーにあっちゃった!」

 

「いや、ありすもお化けだからね?」

 

「あ、そうか。……わたし(アリス)とゲームでもしよ! グレンデルが新作を作ったの」

 

そう言うなりありすは出ていった。

 

 

 

「……流石グレンデル。ゲームまで作るか」

 

 

 

 

そして最初の七日間が過ぎ、次の殺し合い(二回戦)の時がやって来た。

 

 

 

「……はぁ」

 

「あまり気に病むな、奏者」

 

白野は何度目かになる溜息を吐く。何時もは十個だろうが二十個だろうが食べられるカレーパンも今日は八個食べた所で限界が来た様だ。

 

彼女の心に突き刺さっているのは一回戦の対戦相手であるシンジの事だ一誠(謎のサーヴァント)が言った通り彼は八歳だったらしく、最後の最後まで敗者が死ぬとは信じていなかった。そして白野はシンジを殺したことに思い悩まされているのだ。

 

「どんな理由であれ聖杯戦争に参加したのならば、死ぬとは思っていなかった、まだ子供、などは言い訳にもならん。お主は自分が生き残る事だけを考えよ」

 

「……うん」

 

セイバーが励まそうとするも白野の表情は曇ったままだ。そんな時、場違いな程明るい声がかけられた。

 

 

 

「やっほー! ひっさしぶりだね!」

 

「……何の用だ? 奏者も余も貴様等に関わっている暇はない。早々に立ち去るが良い!」

 

セイバーは怒気を顕にして一誠を威嚇するが、一誠は子猫が唸っているとさえ感じていないような表情でニヤニヤ笑っている。

 

「いやいや、御免ね? 自分が生き残る為に相手を犠牲にする事を気に病んでるみたいだけどさ……それ、無駄だから。どうせ最後は俺達(・・)が皆を殺しちゃうんだしさ。……それと、生き残る為って言い訳は意味ないよ。どうせ君は優勝しても消されるんだからさ」

 

「!? どういう事だ!?」

 

「貴様、何を訳の分からぬ事を! ……っち、消えたか」

 

動揺する二人に対し、一誠はニヤニヤ笑いながら姿を消した。

 

 

 

 

 

「……さぁて、次の組み合わせわっと」

 

一誠は対戦表が表示される掲示板の前まで移動して次の対戦相手を確かめる。その時、向こう側から駆けてくる者が居た。

 

「こんにちわ、お兄ちゃん」

 

「どうしたの、ありす?」

 

他人行儀な態度を取るありすに対し一誠は首を傾げ、ありすは驚いたような顔をしている。

 

「えぇ!? なんでお兄ちゃんは私の名前をしってるの?」

 

「……何故って……ああ、そういう事か。目つきの悪い神父さんから聞いたんだ。今度見つけたら、ロリコン神父さん、って呼んであげて。きっと喜んでお菓子をくれるよ」

 

「本当?」

 

「うん、本当。できるだけ多くの人の前で言うんだよ?」

 

「うん!」

 

ありすは元気よく返事をすると駆け出して行き、急に姿を消す。それを見送った一誠は自分側のありすの対戦相手の名前を探した。

 

 

二回戦 ありす 対 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン

 

廊下の向こうから騎士の誇りと王の風格を兼ね揃えた少女と白い髪をした少女が歩いて来た。

 

 

「あら、次の相手は噂のあの子なのね」

 

「……ガウェインを初日で倒した彼女ですか。むっ! 貴方もサーヴァントのようですね」

 

一誠の姿を見た騎士は警戒するが少女が手でそれを制した。

 

「止めておきなさい、セイバー。ここで騒ぐとペナルティを喰らうわ」

 

「了解しました、イリヤ。其処の貴方、クラスは何かしら? まぁ、私のセイバーの敵じゃないだろうけど」

 

「……俺? まぁ、別に良いか。キャスターだよ」

 

一誠は大嘘(自分のクラス)を言うとその場から去っていった。

 

 

 

「ランスロット。次の相手もセイバーみたいだし、君が出る? ちゃんと戦わせてあげるよ」

 

「はっ! 必ずや主に勝利を捧げてみせます!」

 

ランスロットは一誠の前に膝ま付いて騎士の構えを取る。それを見ていた一誠は何か思いついたように手を叩いた。

 

「あ、そうだ! 相手の前では能力使ってね? ありす。ランスロットの事はバーサーカーって呼ぶんだよ」

 

「はーい!」

 

ありすは一誠の言葉に素直に返事をする。その間、ランスロットは少し葛藤していた。

 

「バ、バーサーカー。いや、主の命令ですし能力的にも。ですが、ロスヴァイセが戦いを見ている……」

 

「……まぁ、頑張れや。暴走しつつもカッコ良い所見せたらイイじゃねぇか」

 

「そうですね! 有難うございます、グレンデル殿!」

 

 

 

 

 

「アレが次の相手か。随分と隙だらけなこった……」

 

緑の外套に身を包んだアーチャーは対戦相手である白野をジッと観察していた。そして弓を引き絞ると毒を塗った矢を白野めがけて放つ。

 

 

 

「はい、スト~プッ!」

 

「なっ!?」

 

だが、その矢は横から伸びてきた手によって掴まれて捨てられる。一誠はニヤニヤ笑いながらアーチャーを見ていた。

 

「オタク何? あの女が気に入りでもしたの?」

 

「うん! 弄ったら面白そうだから気に入ったんだ。え~と……アーチャー君?」

 

「敵に君付けされたくねぇな」

 

アーチャーは足元に唾を吐き捨てると外套を翻してその場を去ろうとする。だが、次の言葉を聞いた瞬間、驚いて振り返った。

 

「毒矢に緑の外套……ああ、そうか。君の真名はロビンフットか」

 

「!?」

 

真名は絶対に隠し通すべきもの。知られれば伝承を調べられて対策を練られ、弱点や宝具の予測すらされてしまう。その真名をあっさり看破された事に何時もは冷静なアーチャーが動揺してしまった。

 

「っち! よく見破りやがったな」

 

「まぁ、確信があったって訳じゃないけど? 伝承からして宝具は姿を消すのと毒矢、かな? ……あれは俺が見つけた暇つぶしの道具なんだ。つまんない手で殺す気なら君の真名を触れ回るよ。別に真正面から戦えば文句は言わないからさ」

 

「おいおい、俺から不意打ち取ったら何が残るんだよ」

 

アーチャーは流石に焦り、至近距離で一誠を狙ってくる。だが、弓を構えた手を上に蹴り上げられてしまった。

 

「じゃあ、代わりにセイバーの真名を教えてあげる。暴君ネロだよ。後は君次第。楽しみにしてるよ、同類さん」

 

一誠はそのまま消えて行き、アーチャーは汗を拭う。

 

 

「……ああ、分かったぜ。アイツを一目見た時から感じてたのは嫌悪だ。アイツは俺と同類。同族嫌悪って奴だな。……とりあえず旦那に相談だ。説明が面倒くせぇな……」

 

そのまま緑衣のアーチャーはマスターの下に帰っていった……。




原作設定は無視です

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あと、最近オリジナル始めました。気が向いたらこの後に読んでください


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霊感少年 Fate編 ⑥

「ねぇ、セイバー。次の対戦相手の事、貴女はどう思うかしら?」

 

 それはイリヤが迷宮を探索中の事、徘徊しているはずのエネミーが一匹も見当たらないのに退屈したイリヤは何の気なしに話しかける。それに対しセイバーは難しそうな顔をしていた。

 

「そうですね、やはり強敵ではないかと。彼女の一回戦の相手は最有力優勝候補のレオナルド・B・ハーウウェイ。そしてサーヴァントのガウェインの実力は私に匹敵……いえ、昼間なら彼の方が強い。にも関わらず一日目で倒したという事は……」

 

「反則級に強いサーヴァントか、よほど厄介な能力を持っているってあたりでしょうね。それにしても、”ありす”なんて聞いて事がないのよね」

 

 無名にも関わらず底知れぬ実力を感じさせる”ありす”にイリヤが眉を顰める中、二人は開けた場所までやってきた。

 

 

「あ、いらっしゃい。ようこそありすのお茶会へ。ラン……バーサーカー。お茶のしたくをおねがいね」

 

『aaaaaaaaaaaaa!』

 

 其処ではお茶会の仕度がされており、ありすの横には黒い魔力に包まれて姿がよく見えないサーヴァントが控えていた。

 

「……セイバー。呑気に茶会なんかしてる暇はないわ。戦って情報を得るわよ」

 

「はい!」

 

 セイバーは剣を構えるも、ありすは少しも慌てず、お茶を飲みケーキを食べる。バーサーカはマスターであるはずのありすが指示も出していないのに剣を構えセイバーをジッと見ていた。

 

 

「行くぞっ!」

 

 セイバーは魔力を放出して速度を上げながらバーサーカーに迫る。その剣は不可視で、バーサーカーは一瞬固まったが、すぐに剣を構える。するとセイバーの剣を受け止めた剣が姿を変え、まるで蛇が獲物を絞め殺すかの様に絡みつく。

 

「くっ!」

 

 

 セイバーはバーサーカーを蹴りつけて距離を取ろうとするが、バーサーカーは右手で剣を持ち、左手でセイバーの足を掴んだ。なお、セイバーはスカートなので当然中が見えそうになる。

 

 

 

「あ~! ランスロットオジさんのスケベ~!」

 

「!? ランスロ……」

 

 ありすの口から発せられたランスロットの名前に気を取られたセイバーの首に伸びてきたアスカロン・ミミックの切っ先が突き刺さり、勝者と敗者を区切る壁が出現した。

 

 

 

 

「……申し訳ありません、イリヤ。まさかこの様な所で負けるとは…」

 

「ううん、気にしないでセイバー。それより、話したい相手がいるんじゃないの?」

 

 イリヤの言葉に頷いたセイバーはランスロットの方を見た。

 

「サー・ランスロットですね? なぜバーサーカーの真似事など? 購買で会った時は正気だった貴方がバーサーカーな訳はないでしょう」

 

「ええ、まぁ、主の趣向でして。バーサーカーのふりをしろと頼まれたのなら従うしかありません。……所で、本当にどちら様でしょうか?」

 

「……忘れてしまったのですか? 私です、友よ。ア…」

 

 そのままセイバーは消えて行き、最後まで名前を言うことが出来なかった……。

 

 

 

 

「……本当に誰だったのでしょうか?」

 

 

 

 

 

「おやおや、また一日目で対戦相手を倒してしまうとは。少しは自重して貰いたいものだがね」

 

 ありすがアリーナから出ると、監督役のNPCである言峰が苦言を呈してきた。多分、ロリコン神父呼ばわりされた仕返しではなく、七日目の決戦を執り行うためだろう。

 

 

「え~! ありす、セラフのかいにゅう前にまける方がいけないとおもうの」

 

「……ふむ、それを言われるとこちらも反論出来ん。まぁ、次からは決戦の場で倒してくれたまえ」

 

「またね! ロリコンしんぷのおじさん!」

 

 

 

 

 

 次の日の事である、一誠が保健室に暇つぶしに行くと岸波白野がベットで眠っていた。どうやら対戦相手であるアーチャーの毒矢を受けてしまったらしい。いま保健室には他に誰も居らず、一誠はグレンデルに渡す為にお茶菓子のデータがないか探し出す。すると、白野のすぐ側に緑衣のアーチャーが迫っていた。

 

「あれ? 暗殺?」

 

「……ちっ!」

 

 アーチャーは一誠に気付いていなかったらしく、声を掛けられるなり舌打ちしながら振り向き、短剣を向けてきた。

 

 

「あ、別に邪魔する気ないからどうぞ続けて」

 

「いや、アンタ、この娘っ子が面白いからって狙撃邪魔しただろ、説得力ねぇよ」

 

「その時はその時。今はお茶菓子のデータ探してるからさ。ほら、人を誂うより、お菓子探す方が重要でしょ。玩具は別に探せば良いし……あ、ごめん。邪魔者が入っちゃったみたいだね」

 

 

 

「其処までだ、外道共がっ!」

 

 赤い服を着たセイバーが二人目掛けて斬りかかった。一誠はヒラリと躱すとそのまま窓から脱出し、アーチャーはセイバーに短剣を向ける。その時、アーチャーのマスターが入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(……にしても、あの野郎。俺と同類と思ったが、それ以上の外道だぜ。ありゃ、身内以外には何の価値も見出していないって感じだな)

 

 

 

 

 

 そして他のマスターは戦い合い、中にはトリガーを手に入れられずに絶望の中七日目を迎える。そして白野とセイバーはアーチャーを下し、三回戦の出場を決めた。

 

 

 

「……それにしても、ありすって子。何者かしら?」

 

「イリヤって子も優勝候補だったのだろう? かなりの実力者なのだろうな」

 

 偶々会った凛と一緒に歩いていた白野は掲示板の方が騒がしいのに気付き、覗き込む。一人目の名前は”ありす”となっており、

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

三回戦 ありす 対 ありす

 

もう一人も”ありす”だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、キャスターさん。つぎの遊びあいてもありす(あたし)なんだって。遊んでくれるかなぁ?」

 

「そうね、ありすちゃん。楽しく遊べると良いわね」

 

 もう一人のありすの側に居るローブの女性はありすの頭をそっと撫でた……。

 

 




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霊感少年 Fate編 ⑦

第三回戦の対戦表を見た一誠達はマイルームで相談を始めた。

 

「次の対戦だけど、誰が出る?」

 

「う~ん。流石に此の世界のありすと戦うのは気が引けるにゃ」

 

 今まで敵とあらば情け容赦なく殺して来た一行だが、流石に仲間とほぼ同一人物の子供を殺すのは気が引けるようだ。あくまで自分達は分身であり、この戦いを本体が暇潰しに観戦する為に送り込まれただけに過ぎない。その思いが一行の決断を鈍らせていた。

 

「なんなら俺が戦おうか?」

 

「……拙者が殺ろう。たとえ別人でも、殺せば観戦している本体は気不味くなるで御座る。なら、その汚れ役は拙者が引き受けるで御座るよ」

 

そんな中、一誠の提案を却下しながらポチが立ち上がる。一誠が何か言おうとしたが手で制し、そのままありすと共にマイルームから出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、キャスターさん! あたしの相手もあたし(ありす)なんだってね!」

 

「ええ、そうね。……どういう事かしら?」

 

 その頃、対戦相手のありす達もアリーナに向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「遅いっ!」

 

向かってきたエネミーはポチが刀を振るだけで分解されて消えていく。ありすはその後ろでアクビを咬み殺す。その手にはトリガーコードが握られていた。

 

「これを集めないといけなかったのね。今までの相手が弱かったから初めて見るわ」

 

「いや、今までの者がルールを破って一日目に戦いを挑んだので御座ろう……」

 

ポチも敵が弱すぎて暇なのか大アクビをする。困った事にリターンクリスタルを忘れ、出口まで行かないといけなくなっていた。

 

「あたし、疲れた! ポチさん、オンブ!」

 

「……仕方のない童だ」

 

ポチは溜息を吐きながらもありすを背負い、風を切る様に出口へと進む。途中、襲ってきたエネミーは足で一蹴し、出口が見えてきた頃、もう一人のありすの姿も見えてきた。どうやら先に入っていたらしく、その隣には見知った者の姿がある。

 

 

「あっ! メディアさん!」

 

「なっ!? ……ありすちゃん、下がってなさい」

 

もう一人のありすのサーヴァントの正体は此方の世界のメディア。フードを被っているにも関わらず正体を看破された事に警戒し自分のマスターを下がらせる。

 

「どうしたの、メディアさん?」

 

「……あ~、ありすちゃん二人を並べて着せ替えしたいわねぇ。其方のムサ苦しい侍が貴女のサーヴァントかしら?」

 

「うん! 今回のサーヴァントはポチさんなの!」

 

「……今回は?」

 

ありすの言葉に違和感を覚えたメディアは少し考え込み、直ぐ様後ろに居たありすを抱えてアリーナから脱出していった。

 

「想定外の事が起こったら直ぐに退避……やはり厄介で御座るな」

 

「あれ? メディアさん、もう帰ったの?」

 

「……あれは此方の世界のメディア殿。つまり、敵で御座る」

 

「? あたし、よく分からない! メディアさんは、メディアさんでしょ?」

 

「……なんと説明すれば良いのか」

 

ポチは困りながら脱出用のゲートを潜った。報告を受けた一誠達は更に戦いにくくなったと困るが、ポチはそれでも戦うと言い張った。

 

 

「彼方は彼方、此方は此方。全くの別人で御座る。そして、此方の仲間(群れ)を守るのが拙者の役目。それならば、別世界の仲間だろうと切り捨てる」

 

「……うん。君の言うとおりだね。俺は何を悩んでいたんだか。……ポチ、次会ったら二人を噛み殺して良いよ」

 

「御意っ!」

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、あたし(アリス)。また決戦の場には行かないのかしら?」

 

「また決戦の場には行かないのよ、わたし(ありす)

 

 

 

 

 

そして次の日、退屈だった一誠は白野とセイバーをオチョクリに行く事にした。二人の対戦相手は変なピエロだ。

 

 

 

 

「やぁ!」

 

「……貴様か。何の用じゃ」

 

「君達を馬鹿にしに来たんだ」

 

「……いっそ清々しいな」

 

「いやぁ、照れるなぁ。それで勝ち目はあるの? 向こうの方が君達より強いよ。……あ、そうだ! 君達が勝ったら君の正体に関する質問に答えてあげる。頑張ってランサーのヴラド公を倒してね」

 

一誠はそれだけ言うとその場から立ち去った。

 

 

 

 

「……相手の情報、教えに来てくれたのか?」

 

「そのよう、じゃな」

 

 

 

 

 

 

「あっ! その格好、どう見ても男装じゃないよねっ! 黄金劇場の客がすぐ帰ったネロさん!」

 

「……あやつ、余の真名を大声で叫びよって……。やはり馬鹿にしに来たのではないか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャスターの本領発揮、といった所で御座ろうか?」

 

ポチがアリーナに入るなり、無数の竜牙兵が襲ってきた。ありすを背負ったポチは竜牙兵を蹴り飛ばしながら奥へと進む。すると特大の魔術が雨霰と襲いかかってきた。

 

「ちぃ!」

 

ありすを背負っているために刀を抜けないポチは魔術を避けながらメディアに接近する。

 

「これで吹き飛びなさいっ!!」

 

そして、ポチの視界は津波のように押し寄せる魔術に覆い尽くされた。

 

「……逃げられたわね。ありすちゃん、トリガーコードは手に入れた?」

 

「うん!」

 

「そう。なら、帰ってご飯にしましょう」

 

メディアはありすと手を繋ぎながらアリーナの出口に向かう。それを見届けたポチは物陰から出て来た。

 

「……痛い」

 

ありすの腕には掠り傷が出来ており血が滲んでいる。それを見たポチの目は鋭くなり、牙が怪しく光った。

 

 

「……許せぬ。よくも拙者の仲間に怪我を負わせたなっ!」

 

とたん、ポチの毛が逆立ち、四つん這いになったポチの体は獣へと変貌する。やがて変化が終わるとポチは人狼からフェンリルへと変化していた。

 

「……此処で待っていろ。すぐ終わる」

 

ポチは風の様に走るとメディア達を追って行き、ありすの四回戦進出が決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして別の対戦では凛とラニが戦い、ラニの自爆で重傷を負いながらも凛が四回戦進出を決める。白野は殺し合いの中で出来た友人を一人失い、失意の中四回戦に挑む事となった。

 

 

「……奏者よ、気に病むな。残るのが一人な以上、何時か死ぬ運命にあった。今は自分が生き残る事をかん挙げよ」

 

 

 

 

 

 

「まぁ、たとえ優勝しても君は消えるけどね」

 

「……どういう事だ?」

 

「うん。約束だから教えてあげるね。君は人間じゃない。NPCが偶然マスターの資格を持ったイレギュラーに過ぎないのさ。だから、優勝してもイレギュラーを許さないムーンセルは君を排除する。君には過去も未来もないんだ。……まぁ、信じるも信じないも君次第だけどね」

 

一誠が立ち去った後も白野は立ち尽くし、掲示板には次の対戦カードが表示される。

 

 

 

 

 

ありす 対 ウェイバー・ベルベット

 

ありすの次の対戦相手は大柄のライダーを連れた少年だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふむ。次は私が出るヨ」

 

 




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霊感少年 Fate編 ⑧

「Aaーーーlalalalalalalalalaie!!」

 

アリーナの中を二頭の牛に引かれた戦車が疾走する。現れるエネミーは踏み潰さえれ、もしくは放たれる電撃によって消滅していった。

 

「お、おいライダー! 何でこんなに飛ばしてるんだよっ!?」

 

「何を言うか! 征服王たる余がチマチマ歩を進めれる訳がなかろうっ! このままトリガーコードを探すぞっ!」

 

「こ、こんな速度で探せるかぁっ! バカバカバカぁ!」

 

ライダーの破天荒ぶりに未だ振り回されているウェイバーは戦車にしがみつきながら周囲を見回す。そして怪しい宝箱を見つけたその時、戦車が急に止まった。

 

「わぁっ!? い、いきなり止まるなよっ!」

 

「そう言われてもなぁ。ほれ、敵さんのお出ましだ」

 

ウェイバーの目の前には不気味な顔の装飾がされた上に刃が三叉に分かれた剣を持っている男と対戦相手のありすが立っていた。

 

「……ふむ。相手はライダーの様だネ」

 

「そういう貴様はセイバー……いや、アサシンだな」

 

ライダーが見つめる先にある剣からは煙が上がっており毒が仕込まれていることが伺えた。

 

「ククク。さて、どうだろうネ。では、戦う前に名前を聞いておこうか。でないと君を解剖した後で入れる瓶に貼るラベルに何と書けば良いか困るからネ」

 

「あれ? 倒されたら消えるんじゃなかったかしら、マユリ?」

 

「そうさせないのがワタシだヨ。サンプルの一部は本体に送られるようになっている。では、始めようか」

 

「良いだろう! 我が名は征服王イスカンダル! 暗殺者ごときに遅れは取らんわい!!Aaーーーlalalalalalalalalaie!!」

 

イスカンダルは手綱を引くとマユリ達へと向かっていく。マユリはありすを抱えて飛び退くと片方の牛の前足を切り裂く。牛は切られたもののマユリの体勢が悪かったのか傷は浅く問題なく動ける状態……のはずだった。

 

「ぬっ!? これはどうした事だっ!?」

 

イスカンダルが再び突撃しようとするが攻撃を受けた牛の四肢の動きが止まっていた

 

「……麻痺毒か」

 

「ほぉ。筋肉ダルマにしてはよく気付いたね。でも、違うヨ。この剣がワタシの宝具『疋殺地蔵(あしそぎじぞう)』。切った対象の四肢の動きを停止させる力を持っている。ああ、もちろん停止させるだけだから……痛みは毛ほども消えはしないヨ!」

 

疋殺地蔵が動けない牛に突き刺ささると牛は苦悶の鳴き声を上げる。イスカンダルが剣を振り上げて切り掛かるが間に現れた壁によって防がれた。

 

「忘れていたようだネ。アリーナでの戦いは禁止されているよ」

 

「ふんっ! これまでアリーナで敵を仕留めてきた奴らが何を言うかっ!」

 

「ワタシに言われても困るのだがネ。……さて、目的は果たしたし帰るとしよう」

 

ありすの手には既にトリガーコードが握られており、そのままリターンクリスタルで脱出する。イスカンダルはその姿を苦々しげに見送っていた。

 

「むぅ。中々厄介な敵だのぉ。吾輩の宝具が生き物の姿をしているのがアダとなるとは。だが、宝具が分かったのは儲け物だな、小僧」

 

「でもよ、疋殺地蔵なんて聞いた事がないぞ? 名前からして日本の英霊っぽいけどよ。ていうか、毎回毎回自分から真名を明かして何考えていやがりますかぁぁぁぁっ!!」

 

「なら、帰ってから調べれば良かろう。それと、吾輩が名を隠さねばならぬ理由がどこにあるというのだ? それに分からなくとも問題ないわい。アレを使えば良いだけなのだからなっ!」

 

「いや、魔力供給するのは僕なんだぞ?」

 

イスカンダルは豪快に笑うと戦車から降りて歩き出す。ウェイバーもその背中を慌てて追っていった。そして数日が経ち、たまたま時間が合わさらなかった二人は決戦当日まで会うことがなくトリガーコードを手に入れた。

 

 

「やれやれ、ようやく君の試合が始まるのか。普通なら一回戦から始まっているべきなのだがね」

 

「別にいいじゃない、ロリコンおじさん」

 

「その呼び名は訂正して欲しいのだが……」

 

「わかったわ! ロリコンおにいさんっ!」

 

根本的な所で気持ちが伝わらず、ありすはそのまま決戦の場へと続くエレベーターに乗り込む。半透明の壁で隔たれた向こう側にウェイバー達の姿のあった。

 

「……なあ、お前みたいなチビがなんで聖杯戦争に参加したんだ?」

 

「え~とね、暇つぶし!」

 

「暇つぶしって……負けたら死ぬんだぞ? 怖くないのかよ……」

 

「あたしはもう死んでるよ? でも、お兄ちゃんが助けてくれたから大丈夫だけど」

 

「いや、何を言ってるんだ?」

 

ありすの言葉に疑問符を浮かべるウェイバーに対しイスカンダルはマユリをジッと見つめている。

 

「お前さん、何処の英霊だ? 全く調べがつかんかった」

 

「わざわざ教えるバカはいないヨ。それを聴くお前は大馬鹿だネ」

 

「何、物は試しというではないかガハハハハ!」

 

「……やれやれ、ウチの脳筋組の同類のようだネ」

 

マユリが呆れたような眼差しを向けた時、漸くエレベーターが到着する。二組はゆっくりと外に出ると互いに向かい合った。

 

「……ライダー。あの剣を一撃でも食らったらまずい」

 

「分かってるわい。短期決戦で決めるぞ」

 

「ねぇマユリ。これが終わったら甘い物が食べたいわ」

 

「ワタシに言うんじゃないヨ。グレンデルにでも頼むんだね」

 

最初に仕掛けたのはイスカンダル。動けるようになった戦車の最高速度でマユリに突っ込み引き潰そうとする。すぐに飛んで避けたマユリがイスカンダルに剣を振り下ろすも大剣で受け止められ弾き返される。宙に浮いたマユリがら耳を触ると中から鎖鎌が現れイスカンダルの腕に巻き付いた。

 

「ぬっ!? 奇っ怪な奴め」

 

イスカンダルは着地したマユリを引っ張ろうとするがビクともせず反対に引き摺り落とされそうになった。素早く鎖を断ち切ると再びマユリに突撃を開始する。だが、足元から吹き出した炎によって戦車のバランスを崩され、その隙に二頭の首が切り落とされた。

 

「あれ? 牛さん消えちゃった。今日はステーキかと思ったのに」

 

「アレは宝具だからね。お前の神器で出した魔獣と同じと思えば良いヨ」

 

「……お前さんら、さっきから妙な事を言っておるの。がっ、気にしてる場合でもなさそうだ」

 

「おいおい、どうするんだよライダーっ!? あの宝具を使う暇なんて……」

 

「いや、使って良いよ。むしろ使って貰えわねば此方か困る。情報は多いほうが良いからネ」

 

マユリの言葉に驚いて固まったウェイバーだが、即座に大量の魔力を供給する。イスカンダルはその魔力を受け、奥の手を切った。

 

「集え我が同胞よっ!」

 

イスカンダルから突如強烈な光が放たれ光が晴れた時、四人は先程までの場所は違う砂漠の真ん中に居た。心象風景の具現化。固有結界と呼ばれる大魔術である。そしてイスカンダルの背後には彼と戦場を共にした数多の仲間。その全てが英霊だ。この瞬間、ウェイバーはイスカンダルこそが最強だと確信した。

 

「さて、ここは吾輩が生前駆け抜けた大地。余と仲間たちが等しく心に焼き付けた景色。率いるはいずれも強者。この世界を具現化できるのはこれが我ら全員の心象であるからだ。彼らとの絆こそが我が至宝! 我が王道! イスカンダルたる余が誇る最強宝具『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』なりぃぃぃぃぃ!!」

 

イスカンダルの背後で英霊達が武器を構えてマユリ達に狙いを定める。

 

「蹂躙せよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

そして愛馬であるブケファラスに乗ったイスカンダルの掛け声と共に押し寄せた。

 

 

 

「……ふぅ。全く、ワタシは学者だというのに面倒な。おい、ありす。毒に強い魔獣を出せ」

 

「うん!」

 

ありすの影が広がり中から無数の怪物が出現する。どれもこれも巨大でイスカンダルは一瞬動揺の色を見せるがすぐに振り払って突撃していく。そしてマユリは疋殺地蔵を構えた。

 

「……卍解『金色疋殺地蔵』」

 

現れたのは赤子の様な頭を持つ巨大なイモムシ。その口から紫色の霧が吐き出された。霧はまたたく間に周囲を覆い尽くし、イスカンダルと背後の軍勢達を包み込む。そしてそれを最初に吸った兵士がその場に倒れこんだ。その体には無数の痣の様なものが出現し、他の兵士の体にも現れていく。当然、イスカンダルやウェイバーの体にも現れていた。

 

「小僧っ!」

 

「分かっ…てる」

 

ウェイバーは薄れいく意識の中、毒消し効果のあるアイテムを使う。イスカンダルの体から毒が消え去り、毒で倒れたブケファラスから飛び降りた彼は単身マユリに向かっていった。振るわれる魔獣の拳を避け、履きつけられる炎に焼かれながらも進む。そして金色疋殺地蔵の胸部から生えた無数の刃を避けて剣を振り下ろそうとして赤い壁に阻まれた。

 

「……少し遅かったか」

 

背後では毒が完全に回って死亡したウェイバーが倒れておりイスカンダルの体も崩れ始める。

 

「惜し…かったな…」

 

やがてイスカンダルの体は完全に消滅し、靄となってマユリが手にした小瓶に吸い込まれていった。

 

「中々のサンプルが手に入った。では、帰るヨ」

 

既にこの場に興味をなくしたマユリはエレベーターに乗り込み、ありすも後に続く。こうして四回戦目にしてありすの最初の決戦は幕を閉じた。

 

 

 

 

「ふせんしょう?」

 

「ああ、相打ちで終わった組みが居てね。厳選な抽選の結果、君が不戦勝となった」

 

そして五回戦は戦わずして勝利し、いよいよ六回戦。残るマスターは四人。岸波白野もラニⅷの自爆で本調子でない遠坂凛も生き残っている。

 

 

そして、ありすの対戦相手が発表された。

 

 

 

ありす 対 遠坂凛

 

「……非常に拙いわね」

 

未だ本調子でないにも関わらず、相手は優勝候補筆頭を初日で倒したダークホース。凛は焦燥感に襲われていた……。

 




広範囲の固有結界は脳が破壊されるとかの設定は無視してくれ!

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霊感少年 Fate編 ⑨

「……正直言って無理ね。でも、何もせずに負ける気はないわ」

 

ラニの自爆によってダメージを受けた凛は辛うじて五回戦を突破する事が出来た。だが、代償として二つ残った令呪を一個を残して使い、残る一個の使用は失格を表す。そして次の対戦相手は優勝候補のレオを倒した謎のマスターありす。何故か二人居たがそのような事はどうでも良く、いま彼女が考えているのは、どう負けるかであった。

 

「おい、嬢ちゃん。諦めんのか?」

 

「仕方ないでしょ? 今の私じゃコードキャストもロクに使えないし魔力供給も全快時の六割。宝具なんて令呪を使わなきゃ発動できないわ。でも、ただ負けるのは嫌。せめて道連れか……最悪、岸波さんに提供できる情報でも取得して倒させるわ。私にだって意地があるもの。其のくらいはしなきゃ」

 

「はっ! どうせだったら何が何でも七回戦に出場する……いや、聖杯を手にしてみせるって言ってみたらどうだい? 俺を信じろよ。俺が絶対に嬢ちゃんに聖杯を捧げてやるぜ! ……にしてもよ、あの嬢ちゃんが勝つって信じてんだな」

 

深刻なダメージで弱気になっている事を察したランサーは必要以上に強気な態度を取る。だが、彼自身も自分のダメージが深刻なものである事に気付いていた。

 

 

 

「さて! 対策会議を始めます! 議題は”主が面白半分にした約束について”です。皆様もご存知の様に主は例の少女に次勝ち抜いたら正体に関する質問に答えるとお約束いたしましたが……やっぱりこういうのは決戦時にバラしてこそ面白いというもの。彼女が負けても別の相手に知られる可能性があります。さて、なにかご意見は御座いますか?」

 

最近、すっかり一誠に染まってきたランスロットは演出の為の議題を提案する。張本人である一誠はまさか彼女が勝つとは思っていなかったので困っていた。

 

「はい! あたし、会わなければいいと思う!」

 

「下らんネ。シラをきれば良いヨ」

 

「いや、ここは正直に話すべきではないで御座ろうか。約束は約束で御座るよ」

 

「にゃははは! とりあえずイッセーには私からお仕置きしとくにゃん」

 

「わたしはどうでも良いわ」

 

そして凛と戦う予定のグレンデルは台所でクッキーを焼いていた。

 

『明日俺が倒してから残った二人にばらす方向で良いんじゃね? 勝ち抜いても絶望が待ってる的な方向でよ』

 

全員一致でグレンデルの案が採択され、いよいよアリーナに入る時間がやって来た。

 

 

 

「……やっぱり待ち伏せしてるわね」

 

「どうする? 此方から仕掛けるか?」

 

凛とランサーの前にはありすとフードを着たグレンデルの姿があった。ありすは新しい玩具を見る目を二人に向け、グレンデルは濃厚な殺意を送っている。ランサーは兎も角、凛はその殺意に飲まれそうになっていた。

 

「ランサー! ムーンセルの介入があるまで逃げの一手! 守り優先で行くわよ!」

 

「了解っ!」

 

ランサーはクラス特有の速度でグレンデルに向かていく。そして牽制とばかりに槍を突き出すもグレンデルは避けようと見せず顔面に向かっていく。

 

「とったっ! なにっ!?」

 

ランサーの槍は確かにグレンデルの顔を捉えた。だが喉奥に差し込まれそうになった槍の先端はグレンデルの鋭利な牙で挟まれビクともしない。そしてグレンデルは被っていたフードを取って顔を顕にした。

 

「ドラゴンッ!?」

 

「ねぇ、グレンデル。ドラゴンが出てくるのっておかしいの? お兄ちゃんは言ってなかったよ?」

 

『まあ、旦那は詳しく知らねぇってだけだろ。っていうか俺様の正体バラすなよ』

 

「グレンデルですってっ!? でも、伝説でも残忍な巨人だったはずじゃない!」

 

「嬢ちゃん、そんな事気にしてる場合じゃねぇぞ。アレ見ろよ」

 

退避したランサーがグレンデルを指さすと空間を歪ませその中からトンファーを取り出すグレンデルの姿があった。

 

「なんで北欧やイギリスの怪物がトンファーを持ってんのよぉ~!?」

 

『んなもん、特注で作ったからに決まってるだろっ!』

 

ズレた返答をするグレンデルの攻撃を避けるランサーだが徐々に追い詰められる。そしてグレンデルが振り下ろした一撃が足に当たり動きを封じた。

 

『じゃあなっ!』

 

「……令呪を持って命じる! ランサー! 宝具を持って敵を貫きなさい!」

 

「よし来たぁっ!! 刺し穿つ(ゲイ・)

 

凛とランサーは捨て身の一撃を放とうとする。だが、運命は二人に非常だった。道連れの一撃はムーンセルの介入による壁に阻まれ、その壁はそのまま勝敗を分かつ壁となった。

 

「途中で介入があるの忘れてたぁぁぁぁっ!!」

 

「おいおい、こんな時まで”うっかり”かよ。アッチも同じだとしたら、あの弓兵も苦労したんだろうなぁ」

 

凛は脈々と受け継がれる欠点を発揮し、ランサーは苦笑いしながら消えていく。その姿を見たグレンデルはつぶやいた。

 

『俺の出番、これで終わり?』

 

納得できなくても終わりは終わり。ありすは最終戦である七回戦進出を決め学園に戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

「セイバー、大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だ奏者よ」

 

同じくアリーナから戻った白野は対戦者のアーチャーらしきサーヴァントから受けた矢傷を押さえている。相手は視認できるギリギリの距離から狙撃を行い、動き回るセイバーに的確に当てていた。かろうじて矢の形やチラリと見えた姿から日本の英霊という事は分かったのだが……。

 

 

「流石に候補が多すぎる。ただでさえあやつのせいで余の真名はバレているというのに」

 

一誠がセイバーの真名を人前で呼んだ事によって相手には此方の真名がバレており、此方はまだ殆ど情報を得ていない。仕方なく、一旦夕食を取る為に購買に向かうと既に対戦相手の少女が座っており、白野の方など見向きもしない。それは学園内での戦闘が禁止されているとか白野を軽視しているなどという理由ではない。白野も対戦相手より目の前の光景に釘付けになっていた。

 

 

 

『おいおい、お菓子は一人一個までつったろ?』

 

「これは大きいけど一個は一個よ。ねぇ、あたし」

 

「そうよ。これは一個よ、わたし」

 

「さて、焼きそばにするか焼きうどんにするか」

 

「私は激辛麻婆丼にでもしようかしらにゃん?」

 

「秋刀魚の塩焼き弁当一つ頼むヨ」

 

「拙者は焼肉弁当……玉ねぎが余計で御座るな」

 

「はいはい、次の対戦相手候補が揃ったよ」

 

目の前に居たのは何度も絡んできた謎のサーヴァントと謎のマスターであるありす。そして六騎ものサーヴァントだった。

 

「馬鹿なっ! なぜ此処までサーヴァントが残っておるっ!?」

 

セイバーの言葉に白野も隣の対戦相手も頷き、現れたアーチャーも警戒している。そんな中、一誠はニコニコしながら四人に近付いていった。

 

「さて、約束の質問はそれで良いかな。俺のクラスは”ネクロマンサー”。宝具名は霊群(レギオン)って所かな? つまり、俺はサーヴァントを宝具として従えたサーヴァントなのさ。……精々楽しみにしているよ。君達の何方かが七騎ものサーヴァント相手にどう戦うのかをね。……あっ! 俺は丼もの全部ね」




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霊感少年 Fate編 終

 月の中枢へと続く長い長い道を一誠は歩いていた。その背にありすを背負い、その気になれば短時間で行ける距離をゆっくりと進む。彼の目的はあくまで暇潰し。ならば一度しか見れないであろう光景をゆっくりと眺める事にしたのだ。

 

 赤き暴君と死神の戦いは特に記すべき激闘もなく終わった。本来なら最弱から最強へと上り詰めるはずだった少女も、最強の更に上をゆく化物七体には敵わず、最終戦一日目で終わりを告げた。ただ、暴君の名誉の為に記すとしたら、彼女は自らの主を最後まで守り抜いて命を落とした、という事だろう。その姿に湖の騎士と人狼の侍は敬意を払い、死神の少年も何一つ声を掛けなかった。

 

「……見えてきた」

 

 死神達の視界の先に観測機である聖杯らしき物体が現れ、その周囲には墓標を思わせる物体が散らばっている。その一つの上に白衣の男が居た。

 

「やぁ、よく来たね」

 

「え~と、あたし達が消えたら本体とゆうごうするんだっけ?」

 

「そうだよ。さて、ムーンセルとかの中はどうなってるのかな?」

 

「いや、話を……」

 

「あたし、帰ったらチョコケーキが食べたい!」

 

「さて、イレギュラーなマスターよ私の話を……」

 

「じゃあ、帰ったらグレンデルに作って貰おう。俺はチョコよりカスタードクリームの方が好きだな」

 

「あの~、すいません……」

 

「じゃあ、レッツゴー!」

 

 一誠とありすは白衣の男を無視して階段を上り始める。後ろから啜り泣く声が聞こえてきた。

 

「……お兄ちゃん。かわいそうだよ、あのオジさん」

 

「こらこら、知らないオジさんに話しかけられても相手しちゃダメだよ? 特にこんな所でさも意味ありげに待ち構えている怪しい人にはさ。きっとマユリンの同類だよ」

 

「そっか! なら、無視だね!」

 

「……仕方ない。説得より先に戦って話を聞くしかない状態にしよう」

 

「……聞いた? ありすみたいな小さな子を痛めつけてお話したいんだって」

 

「へんたいだ、へんたいだぁ!」

 

「くっ! 来てくれ……キャスター(・・・・・)!!」

 

 変態はついにキレたのか大声で叫び、一誠は身の危険を感じてありすを担いで飛び退く。先程まで二人が居た場所に着物姿の狐耳(・・)の女性の蹴りが命中していた。

 

「頼んだよ、キャスター」

 

「お任せ下さいご主人様」

 

 其処に居たのは露出強の女性。その姿は正しく玉藻であった。一つ違う所はツインテールではなくポニーテールな所だけだろう。

 

「あっ! オバさまだっ! なんであの変態のオジさんと一緒に居るの? ねぇ、浮気?」

 

「誰がオバさまですかっ! それと私はまだ未婚ですっ! チクショー! この餓鬼、マジ殺すっ! あっ、アッチの英霊は結構イケ魂かも?」

 

「……いや、君がそういうキャラだというのはうすうす勘付いていたが、できたら私の前ではそのキャラを出さないで欲しいかな?」

 

「はっ!? ……何の事ですか、ご主人様」 

 

 キャスターは慌てて変態の前で取り繕う。だが、時すでに遅し。ありすはキャスターを指さしてケラケラ笑っていた。

 

「あはははは! オバさん、ザマァ!」

 

「きーっ! ああ、もう! 貴方も英霊ならどうにかして下さいっ!」

 

「はぁ? なんで俺が君の言う事を聞かなきゃいけないの?」

 

 一誠は不機嫌そうに返事をすると鎌を構える。その構えには容赦の欠片もなかった。

 

「お兄ちゃん? あれ、オバさまだよ?」

 

「い~や、別だよ? ほら、メディアさんと同じ。此方の世界の玉藻だよ」

 

「……どうやら君の真名がバレている様だな。話はよく分からないが油断しないようにね」

 

「はっ!」

 

 キャスターは武器である鏡を構え宝具を発動させようとする。だが勝負は一瞬で着き、キャスターは一誠によって上半身と下半身を切り分けられた。

 

「……でもさ、やっぱり心情的なものもあるし、玉藻が殺されるとしたら俺以外の手っていうのは有り得ないんだよね。その逆もしかり」

 

 玉藻の頭に鎌を突き立ててトドメを刺した一誠は鎌についた血を拭うと変態の方を見た。変態はキャスターが圧倒された事に驚いて固まっている。その襟首をグレンデルが摘んで持ち上げた。

 

「んま、旦那に大将っぽいのを殺させた罰だ。……じっくり消化してやるよ」

 

「ま、待て……」

 

 変態は其の儘飲み込まれ、グレンデルの中でゆっくり消化され出す。マユリの改造によって時間をかけてジワジワ消化されだした変態の悲鳴がグレンデルの喉の奥から聞こえてきた。

 

「……あっちゃ~。此れだったら来るんじゃなかったな」

 

「……すまないネ。つまらん物を造ってしまった」

 

「いやいや、行くって決めたのは僕だからさ……。さ、消えようか? ……この記憶は本体に行かないようにしてね」

 

「了解したヨ」

 

 マユリが手元のボタンを押すと一誠達の姿が消え出す。体が消えいく中、一誠は空を見上げ呟いた。

 

 

「あ~あ、退屈な結末だったな」




さて、最後の最後で好き勝手し過ぎたしっぺ返しを喰らいました。気が向いたらお供変えてccc編するかも?

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不死鳥の王と収集家の戦車 ハイスクールDD×植木の法則

思いついたのに書かないと落ち着かないから投稿!


「探せっ! 何としてでも見つけ出すんだ!」

 

「くそっ! よりによって一番能力の高い008号が脱走するなんて! この施設の事がバレたら俺達は終わりだぞ!」

 

とある山奥の秘密の研究所。その中を研究員らしき男達が慌しく走り回っている。会話の内容からして、男達はどうやらバレたら非常に拙い事になる研究を行っているらしく、十字架を下げた胸元から拳銃のようなものが覗いているような者も居る。

 

「……」

 

そんな中、幼い少年が空調ダクトの中で息を潜めながら男達の様子を伺っていた。やがて少年は空調ダクトの中を這いながら進み外に出る。施設の外にも警備員らしき男達がいて少年を探し回っている。少年は息を潜め、身を屈めて見付からない様に逃げていく。漸く施設が微かに見える所まで逃げ出した少年は最後に一度だけ施設を振り返った。

 

「皆…ごめん……」

 

少年は涙を流しながらそう呟くと先を急ぐ。まだ此処まで追っ手は来ていないが、マゴマゴしていると見つかる恐れがあるからだ。少年は疲れでフラつく体に鞭を打ち一歩でも先に進もうとする。だが、暫く歩いた時、後ろから唸り声が聞こえてきた。振り返ると其処に居たのは牙を剥き出しにした山犬。

 

「う…うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ガルルルルルル!!」

 

少年は必死に逃げ出し、山犬はその後を追っていく。やがて目の前に崖が見えた時、少年は迷わず崖から飛び出し、山犬は崖ギリギリで止まる。折角見つけた獲物に対し山犬は諦めきれない表情で崖下を見つめ、猛烈な勢いで地面に叩きつけられた薄れゆく意識のなか見たのは先程まで自分が居たハズの崖の上に居る少年だった。

 

 

 

「(……もう、どれだけ歩いただろう? 水を飲んだのは二日前に雨が降った時。何か食べたのは不味くて吐きそうな味の葉っぱ。もう、此処で死ぬのかな? ……嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!!)」

 

空腹と脱水症状、そして疲労で少年は限界を迎え地面に倒れ込む。やがて意識は薄れて行き、少年の魂は体から離れようとしていた。

 

「ん? 誰だ、コイツ?」

 

「死に掛けの人間の子供、ですね。 どうしてこの様な所に?」

 

その時である。ガラの悪い金髪の少年が少女と共に倒れた少年の近くを通りかかる。最初は興味無さそうに通り過ぎようとしていた少年だったが、ふと思い付いたかの様に小箱を取り出す。中にはチェスの駒が入っていた。

 

「あら? この子を眷属にするんですか? 男の様ですが……」

 

「まぁ、俺のハーレムに男は要らんが、肉盾や捨て駒、引き立て役には成るだろ。精々兵士の駒一個……おいおい、マジかよ」

 

「……兵士八個使っても転生できず、戦車を二個使ってようやく転生可能ですか。少なくても駒九個分の価値が有る、という事ですね」

 

「……仕方ねぇ。いい拾い物したと思って諦めるか。気に入った女が出来たら母上かレイヴェルと交換して貰えば良いしな。……ま、それまで俺の為に生きな」

 

 

そして十年以上の月日が流れ、とある貴族の屋敷の中を一人の少年が歩いていた。中性的な顔立ちのスラっとした体格の長身で、女性の服を着ていれば女性と見間違える程だ。すれ違うメイド達と挨拶を交わしながら少年は廊下を進む。その手には何故かお玉とフライパンが握られており、たどり着いた部屋の前には困った顔をしたメイド服の少女が立っていた。

 

「あ、ケリィさん。お早う御座います。あの…ライザー様なのですが……」

 

「……聞いてるわ。また、なんでしょ? アタシが起こすからモーニングティーの支度をしてくれるかしら?」

 

言いにくそうに口篭る少女を見て溜息を吐いたケリィは、部屋の主を起こす為に部屋のドアを開ける。すると独特の匂いが漂ってきた。

 

「……全く、婚約者が居るってのに」

 

広い部屋の中央にある大きなベットの上には部屋ぬぬしである金髪の少年と十人近くの少女達が裸同然で眠っている。その体は汗やら何やらで汚れており、匂いと合わせれば昨日何があったか丸分かりだ。

 

「ほら、ライザー様、起きなさい」

 

「……う~ん」

 

ケリィはまず部屋の主であるライザーに声を掛けるが起き様としない。それを何度化繰り返したケリィはフライパンとお玉を頭上に上げ激しくぶつけ合わせだした。

 

「秘技! 亡者の目覚め!! 起~き~な~さ~い~!!!」

 

「うわっ!?」

 

「ひゃっ!?」

 

ケリィの大声と騒音にライザーと少女達は目を覚まし、ベットの端っこにいた少女などは驚いたはずみにベットから転落してしまう。ようやく全員が起きた所でケリィはフライパンとお玉を下ろした。

 

「ほら、もう朝よ! お嬢様以外の方々はもう朝食をお食べになってるわ。ライザー様も貴女達も体を綺麗にして朝食にしなさい!」

 

少女達はあられもない格好をしていると言うのにケリィにも少女達にも同様は見られず、中には寝癖をとかして貰っている少女まで居る程だ。

 

「……ったく、ウルセェな。おい、お前ら、風呂行くぞ」

 

「……聞こえてるわよ。それと、どうせ一緒に風呂に行ったら朝から始める事になるんだから男女別! ライザー様は一族用の風呂で、他は使用人用の風呂を沸かして貰ってるから行って来なさい! ほら、ミィ、ニィ。まだ目ヤニ付いてるわよ。顔くらいちゃんと洗いなさい。ユーベルーナも顔色が悪いわよ。また飲みすぎたのね。カーラマイン! 寝る前に髪は乾かせって言ったでしょ!」

 

ケリィはまるで全員の母親のように世話を焼いて行き、少女達は言われるがままに行動していく。そんなこんなでケリィが一息付けたのは全員が朝食の席に着いた時だった。

 

「ほら、人参残さない! スープは音を立てないで飲みなさいって何時も言ってるでしょ? こ~ら、一口三十回は噛みなさい」

 

いや、ケリィは食事中も目を光らせ注意していく。そして食事が終わるとライザーの近くに行き懐からメモを取りだした。

 

「今日の予定はどうなってんだ? 俺は可愛い眷属達にプレゼントを買いに行きたいと思うんだがよ。あ、お前は優秀だけど可愛くない眷属な」

 

「アタシまで可愛いと言い出したら末期よ。そっちの気は無いんだから冗談でも勘弁して頂戴。それと却下よ。今日は午前は旦那様からの命令で大量発生した魔獣退治……はアタシが行くとして、リアス様を訪問する予定よ。仕事は後始末を手伝って貰う為に何人か連れて行くとして、女王であるユーベルーナは連れて行くべきね。午後からは今度あるゲームに向けた練習よ」

 

「……へいへい、了解。そうだ、風呂場で会った父上が朝食が終わったら執務室に来なさいって言ってたぞ」

 

「あ、そうなの? ……ユーベルーナ! 今晩行く予定のカラオケはパーティルーム取ってあるし、ゲームの練習場の予約も済んでるけど、一応確認だけしておいて!」

 

ケリィはそれだけ言うと急いでライザーの父親の下まで向かっていった……。

 

 

 




主人公の能力は……まだ秘密 分かっても言わないで(人∀・)タノム

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ケリィ オネェ口調のオカン系主人公


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不死鳥の王と収集家の戦車 ②

今回、ケリィの能力が判明します


ケルベロス。地獄の番犬の異名を持つ三頭の犬の魔獣で、その戦闘能力は中級悪魔を凌ぐ。口からは火球を吐き、唾液には猛毒が含まれていて、その唾液からトリカブトが生まれた、とまで言われるほどの猛毒だ。

 

「大体二十頭って所かしら? この場合は六十頭かしらね?」

 

そのケルベロスが大量に集まって群れを作っているので退治して来る様に、殿名を受けらケリィは岩陰から群れの様子を伺う。数は大体二十頭程度で、中央に年老いたリーダーらしきケルベロスが鎮座していた。今ケリィが居るのは風下だから気付かれないが風の向きが変わったら気付かれるだろう。ケリィは空間を歪ませると中からエアガンを取り出し引き金を引く。弾を入れ忘れていて不発だった。

 

「え~!? 嘘ぉん! しまったわぁ!」

 

『!』

 

ケリィが思わず発した声にケルベロス達は反応し、唸り声を上げながら近づいてくる。一番若い一頭がケリィ目掛けて飛びかかり、頭を三つとも光の槍で貫かれて地面に落ちた。

 

「あ~あ。久々に思いっきり暴れられると思ったのに残念だわぁ。早く終わらせてスィーツでも食べに行きましょ」

 

ケリィの影が盛り上がり、巨大な人型(ヒトガタ)になって行く。数分後、無残に吹き飛ばされた荒野にケルベロスの死体が散乱していた……。

 

 

 

「あら、帰ってましたのね、ケリィ」

 

「ええ、さっき帰ったばっかりよ、レイヴェル様」

 

屋敷に帰って一休みしているケリィの近くに金髪ロールの少女が近づいてきた。彼女の名はレイヴェル・フェニックス。ケリィの王であるライザーの妹だ。レイヴェルはそのままケリィの隣に腰を下ろした。

 

「お兄様達の世話って大変ではありません事? 私が肩でも揉んであげましょうか?」

 

「いやいや、流石に其処までして貰う訳には行かないわ。いくら昔から一緒に居ても、私は中級悪魔で貴女は上級悪魔。他の人に見られたら示しが付かないでしょ?」

 

「あら。だったら貴方が私の眷属になりませんこと? 私、一人も眷属いませんし眷属と主のコミュニケーションなら問題有りませんわ」

 

ケリィの返答に不満そうな顔をしたレイヴェルは次の提案をして来る。それに対しケリィは困ったように笑った。

 

「気持ちは嬉しいけど、アタシって他の眷属の面倒も見なきゃならないのよね。基本皆ライザーを甘やかすばっかりだから叱る役目も必要だし。……この前、お母さんみたいって言われたわ」

 

「あら、知りませんの? 使用人の間では『偉大なる母漢(グレートマザーガイ)』って呼ばれてますわよ?」

 

「……そう。まぁ、良いわ。眷属の件だけど、ライザー様と相談して頂戴な。そうそう、来月から人間界の学校に通う事になったから貴女の眷属候補を探しましょうか?」

 

「ええ、お願いするわ。……今、人間界の学校に通うって言いませんでした?」

 

「ええ、そうよ。任務の前に当主様から頼まれたの。眷属を代表してライザー様の婚約者であるリアス・グレモリー様の所でお世話になりなさい、だって。ほら、あの方嫌われてるから、繋ぎとなる者が要るのよ。で、他のメンバーは嫌われてる要因の一つだからアタシしか居ないって訳。……まぁ、皆の世話の都合上、頻繁に帰って来るんだけどね。……あれ?」

 

ケリィの隣に居たはずのレイヴェルは何時の間にか姿を消しており、ケリィは話に飽きてどこかに行ったのだと判断した。

 

「仕方の無い子ねぇ……」

 

 

 

「お父様!」

 

「おや、どうしたんだい、レイヴェル?」

 

フェニックス家当主が執務室で仕事をしていると娘であるレイヴェルが慌ただしい様子で飛び込んでくる。娘に甘い彼は仕事の手を止めて娘に顔を向けた。

 

「私も来年から人間界の学校に通わせてください!」

 

 

 

 

「フェニックス家からの客人ですか?」

 

数日後の事、ライザーと家同士が決めた婚約者であるリアス・グレモリーはフェニックス家から送られてきた書類を見て眉を顰める。其処に乗っていたケリィについてのデータが載っていた。彼女の女王である姫島朱乃は書類を興味深そうに覗き込む。

 

「……ケリィ・ロックベル。わずか十三歳で中級悪魔に昇進した転生悪魔。ライザー・フェニックスのゲームでの快進撃に大いに貢献しており、MVPに何度も選ばれた選手ですわね。確か異名が『千の技の男(サウザントアーツ)』でしたわね。どうも様々な異能を扱うとか」

 

「……そう。どちらにしても断る訳にはいかないし、一度会ってみるわ。気は進まないけど……」

 

リアスは大きく溜息を吐くと書類を封筒にしまった。

 

 

「……ふ~ん。雷光のバラキエルの娘にSS級はぐれ悪魔・黒歌の妹。それに強力な神器を宿したハーフヴァンパイア。……あら? 聖剣計画の生き残りまで居るのね。……できれば全部収集したいわ」

 

その頃、ケリィも独自のルートで手に入れたリアス達の情報を纏めた書類を見ていた。一通り見終わると書類を燃やし、待ち合わせの場所であり通う予定の駒王学園に向かっていった。

 

 

「お初にお目にかかりますわ。アタシはケリィ・ロックベル。ライザー・フェニックス様の戦車(ルーク)よ。此れからお世話になりますわ♪」

 

「リ…リアス・グレモリーよ」

 

リアスがケリィに抱いた第一印象は、得体が知れない、だった。紫がかった黒髪を後ろで括り、前髪で片目を隠している。中性的な顔立ちにスラットした高身長の体。そして何より目に付いたのは彼の目だった。今まで彼女を見る男の目は容姿や家しか見ておらず、例外として眷属や家族が親愛などの感情を向けていた。だが、目の前の男は其れのどれとも違う物が宿っている。その事にリアスは不気味ささえ感じていた。

 

「お茶でもお入れしますわ」

 

其れはリアスの眷属達も感じており、女王の朱乃だけでなく、戦車の塔白小猫や騎士の木場祐斗も警戒した様子だ。そんな彼らの感情を感じ取っているにも関わらずケリィは少しも臆した様子もなくお土産まだ出して来た。

 

「……そうそう。貴方を受け入れる身としては貴方の力を知っておきたいんだけど。貴方、異能持ちなんでしょ? どんな能力を持っているのかしら?」

 

「そうねぇ、教えたいのは山々なんだけど……。グレモリー家に仕えてる友人から聞いたんだけど、リアス様ってレーティング・ゲームのタイトル制覇が夢なんでしょ? だとしたら将来的にぶつかる事になるし、あまり言いたくないわねぇ。……そうだ!」

 

リアスの言葉に腕組みをして悩んだケリィは使い込まれたチェス盤を空中から取り出した。

 

「チェスで決めようっていうのね。良いわ、貴方強いらしいし、相手にとって不足なしよ」

 

リアスはケリィについてのデータを思い出す。其処にはケリィがフェニックス領で行われるチェス大会のチャンピオンである事が書かれていた。

 

「…じゃあ、決まりね。アタシも一応チャンピオンだし特殊ルールでいきましょ。二十四時間耐久でチェスをするの。そっちは交代有りで、二十四時間の間に一回でも勝てたら能力を全て教えるわ。レーティング・ゲームは相手の情報を集める事から始まってるの。強豪チームのエースの情報が手に入るんだから良い条件でしょ?」

 

「……良いわ。どうせ明日は休みだし、その条件でやりましょう。貴方が勝ったら情報は要らないわ」

 

リアスはケリィの出した条件を飲みゲームを開始する。第一戦目はリアスが惨敗し、悔しがった彼女は十回負けるまでゲームを続け、疲れた彼女がソファーで仮眠を取っている間に朱乃や祐斗、そしてわけあって隔離されている僧侶が電話越しに相手をするも惨敗。そして、リアスが五十回目の惨敗をした所で二十四時間が経過した。

 

「ま…負けた。……約束通り能力は教えなくて良いわ」

 

リアスは疲労困憊といった様子で机に突っ伏す。他のメンバーもリアスの気迫の押されて部屋から出ていけなかったので気分的にも疲れているようだ。そんな中、唯一元気なケリィは半場寝かけてソファーから落ちそうだった小猫を元に戻し、懐から携帯電話を取り出した。すると途端にメールの着信音が鳴る。

 

「折角だし、私の能力を一つ教えるわ。……え~と何々”甘いものが食べたいです。出来たらチョコパフェ”ですって」

 

「……なんで私の考えている事が?」

 

「これが私の能力の一つ『相手の思考を電子メールに変える能力(ちから)』よ」

 

「能力は教えたくなかったんじゃなかったの?」

 

リアスの問いに対し、ケリィは笑顔で返した。

 

「ええ、最初はそのつもりだった。でもね、チェスの腕を競い合った貴女達に好意を持ったみたいなの。……ライザー様には秘密よ?」

 

その返答にリアス達も笑みを溢し、彼に対する悪感情も薄れていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ええ、手に入れたわ。滅びの魔力と魔剣を創る能力をね。雷光や仙術は異能と違い一種の技術だから無理だったけど停止結界の邪眼の能力を手に入れたのは儲け物だったわ。ま、雷光は光を操る力を手に入れてるから同じようなのを再現してみせるわ。……にしても面倒ね。私の本当の能力である『相手の能力を自分の能力に変える能力』は二十四時間もの間、相手の半径二十メートル以内に居ないといけないんですもの」

 

その夜、ケリィはライザーに首尾を報告しながら凶悪な笑みを浮かべていた……。

 

 

 

 




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不死鳥の王と収集家の戦車 ③

ケリィの容姿は一応描写しましたが、敢えて言うならサモンナイト3のスカーレルがモデルです


ケリィが人間界に来て約一年が経とうとした頃、彼が住んでいるマンションの一室に荷物が運び込まれていた。天蓋付きの寝具や安楽椅子、勉強机など、何れも此れも最高級の品だ。そしてその部屋のドアに取り付けられたネームプレートには新しい住人の名前が書かれていた。レイヴェル、と。

 

「レイヴェル様を私のマンションに住まわせる? また急な話ね」

 

数日前、ライザーに定期連絡を入れたケリィはレイヴェルをマンションに同居させて欲しいと頼まれた。どうやらフェニック家の現当主も了承しているようだ。

 

「いやな、アイツってお嬢様育ちだし、料理は出来ても掃除や洗濯は一人暮らし出来るレベルじゃないんだ。……何だかんだ言って甘やかしてるから我侭だし」

 

「……其処でアタシに世話をさせる気なのね。ま、アタシにとってもあの子は妹の様なものだし、構わないわ。……所でライザー様」

 

「な…何だっ!?」

 

ライザーはもっと前に父から伝えるように頼まれていたのに伝え忘れていた事がバレているのかと内心焦る。だが、ケリィの声は穏やかなものだった。

 

「ちゃんとご飯食べてる? アナタ、他の事に夢中になって食事を忘れる事が有るじゃない。それと、度を越して飲み過ぎてない? 暖かくして寝てる? 遊びも良いけど、将来に向けて領地経営の勉強もしなきゃダメよ? 他の皆にも宜しくね」

 

「……分かった」

 

予想とは違い投げ掛けられたのは慈愛に満ちた言葉。ライザーは電話を切った後、シミジミと呟く。

 

「……母上に親孝行したくなったな」

 

 

 

 

 

 

「ケリィ、此れから宜しく願いしますわ」

 

「ええ、此方こそお願いするわ、レイヴェル様」

 

にこやかに挨拶をし返したケリィだったが、レイヴェルは何処か不満そうだ。ケリィがその事に首をかしげると、ツカツカと歩み寄って来て顔に人差し指を突きつけた。

 

「ちょっと、ケリィ! 様付は止めなさい! 呼び捨てで構いませんわ!」

 

「う~ん、そういう訳にも……ああ、そういう事ね」

 

貴族の学校なら兎も角、これから彼女が通うのは一般人の学校だ。なのに様付で呼ばれていたら浮いてしまい気恥ずかしいのだろう。そう判断したケリィは一人で納得した。

 

「一応、当主様にも確認取るわね?」

 

ケリィは当主に確認を取り、大きな溜息と共に、公式の場以外なら可、と告げられた。

 

「じゃあ、改めて此れから宜しくお願いするわ、レイヴェル」

 

「ええ、宜しくお願いしますわ、ケリィ」

 

そして、数ヶ月が経ちレイヴェルは駒王学園の新入生となり、ケリィと同様にリアスが部長をしているオカルト研究部に入部した。

 

 

 

 

「へぇ、兵藤を眷属にしたのね。……また物好きな」

 

「兵藤って、あの変態三人組の一人ですわよね? グレモリー家の家名に傷が付きませんか?」

 

ケリィはリアスから新しい眷属を手に入れた事を聞き、レイヴェルと共に眉を顰める。その理由は新しく眷属にした兵藤一誠の素行にあった。彼は容姿は悪くないのだが極度のスケベで、友人二人と共に覗きをしたり学校に卑猥なものを持ち込んだりと退学になっていないのが不思議な位なのだ。なお、ケリィは最近まで女子高だったので、直ぐに女子に対して問題行動を起こした男子を退学にしたという事になると、やはり共学にしなかった方が、という意見が出るからかもしれないと考えていた。

 

「そ…その点は私が言い聞かせるわ。堕天使に殺さた時にチラシで呼び出されたから眷属にしたのだけど……早ま……いえ、大丈夫よ」

 

「いくら強力な神器を持っているかもしれないからって、選ぶべき物は有るわ。世界中で死にかけてるのが彼だけって訳じゃないし、救わなくても部長は悪くないわよ」

 

「これも巡り合わせだと感じたのよ。まぁ、躾はちゃんとするわ」

 

リアスも一誠の所業をケリィの口から告げられて少し冷や汗を流す。口にこそ出していないが瞳が告げていた。グレモリー家の眷属悪魔である一誠がフェニックス家の令嬢であるレイヴェルにセクハラを働いたらどうなるか分かってるわね?、と。

 

「あ、アタシは此処で失礼させて貰うわ。今日は契約した魔法使いと会う日なのよ」

 

ケリィは腕時計を見て慌てて立ち上がる。その顔はウンザリといった感じだった……。

 

 

 

「やぁ! よく来たね、待っていたよ!」

 

ケリが転移した先に居たのは二十代前半の青年。少しクセ毛が目立つ灰色の髪をしており、爽やかに笑っているが瞳は濁りきっていた。

 

「久しぶりね、ミリオン。お望みのフェニオックスの涙は用意してるけど、研究成果はどうなのかしら?」

 

ある程度の年齢に達した上級悪魔と眷属は魔法使いと契約する事になっている。悪魔と魔法使いの契約は言ってみれば研究者への投資に似ており、相手の望むものを与えたり後ろ盾になる代わりに研究成果を見返りにする。魔法使いが大成すれば契約した悪魔の評価に繋がり、反対に駄目なら評価が下がる。そして、ケリィが契約した魔法使いは大成すると思われる魔法使いだったが。

 

「……相変わらずエグい研究ね」

 

もっとも、成果気には余りにも難が有ったが。彼の緩急は主に医学や生物学に基づいた魔術の研究で、主な実験体は主を裏切って逃げ出すなどした眷属悪魔、通称はぐれ悪魔だ。研究報告書には、そのはぐれ悪魔を使った研究の成果が書かれていた。

 

「そうかい? どうせ処分される運命だし、最後くらい誰かの役に立てたのだから、彼らも光栄だと思うよ」

 

ケリィの契約相手…ミリオンはケラケラと笑いながらケリィが差し出したフェニックスの涙…フェニックス家の者のみ生成できる秘薬を受け取る。ケリィがこの質の悪い魔法使いとの契約を切らない訳、それは彼が有能なのは確かだし、何より野放しにするよりは見張れる場所に置いておいた方が良い、そう判断したからだ。

 

「もうこんな時間か。夕食でも一緒にどうだい? たまには年寄りのお話し相手になってくれても良いと思うよ? どうせなら君の主の妹も一緒にどうだい?」

 

「……アンタみたいな変態爺をウチのお嬢様に会わせられるわけ無いじゃない。アタシ達の関係はあくまで契約のみ。そういう約束でしょ」

 

「……つれないなぁ。ま、良いや。気が向いたら一緒にに食事でもしよう」

 

ケリィの素っ気ない対応に対し、ミリオンはあくまで柔かに対応し、手を振って見送る。その手が急に皺だらけになるも、一瞬で皺一つない手に戻った。

 

 

 

そして数日後、今日になって漸く一誠に自分が悪魔だと教えると聞かされたケリィはレイヴェルと共にオカルト研究部の部室に来ていた。

 

「ケリィさんの髪って相変わらず綺麗ですわね。何処のトリートメント使っていますの?」

 

「褒めてくれて有難う。アタシは行きつけの『ヘアサロン愉悦』で買ってるの」

 

「そこって確か会員制でしたわね。……羨ましいですわ」

 

「なら、今度紹介するわ。近くに美味しいケーキ屋が有るから、部の皆で一緒に行きましょ」

 

「……行きます」

 

「ちょっと、ケリィ! おいしいケーキ屋があるなんて聞きいてませんわよ」

 

「あら? レイヴェルはダイエット中でしょ? 私に態々ダイエットメニューを作らせておいて……。おかげで二キロも痩せちゃったじゃない」

 

ケリィが部の女子達と話に花を咲かせていると、リアスが時計を見て立ち上がり、部屋に設置されたカーテンの後ろに移動する。それを見たケリィは部屋から出て行き、丁度一誠達がやって来た。

 

「は~い、ストップ。早かったわね」

 

「やぁ、ケリィ君。入れない理由でも有るのかい?」

 

「もう少し後に来ると思ってたから、部長がシャワーを浴び出したのよ。こういう時は男は待つものよ。……兵藤、聞き耳を立てるのも駄目」

 

「うっ!」

 

二大お姉さまとして有名なオカルト研究部部長のリアスがシャワーを浴びていると聞いた一誠はだらしない顔で聞き耳を立てケリィに注意される。その時のケリィは笑っていたが、一誠はまるでナイフを首筋に突きつけられているような感覚に陥った。そして数分後、部屋の中から声が掛かったので三人は部屋に入る。リアスは正面にあるソファーに座っていた。

 

「急に呼び出して悪かったわね、兵藤一誠君。私達は貴方を歓迎するわ……悪魔としてね」

 

「!?」

 

リアスから告げられた言葉に一誠は訳が分からないといった表情をする。その時ケリィは……、

 

 

 

 

 

「(夕飯は豆腐ハンバーグで良いかしら? いや、今日は寒いから鍋も良いわねぇ)」

 

夕食のメニューを何にするか考えていた。

 

 

 




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不死鳥の王と収集家の戦車 ④

「頑張ればモテモテの人生を送れるかもしれないわよ」

 

リアスから告げられた言葉に一誠は歓喜する。彼の今の地位は下級悪魔だが、努力と時間を重ねれば上級悪魔になって爵位を持ち、眷属を所有できるというのだ。

 

「エ、エッチな事をしてもっ!?」

 

「ええ、自分の眷属なら構わないんじゃない」

 

そして、その会話を聞いているケリィとレイヴェルは内心冷ややかだった。

 

「……ねぇ、ケリィ。リアス様がお兄様を嫌ってる理由って、女癖の悪さじゃなかったかしら?」

 

「……思いっきりハーレム容認してるわね。それに、眷属を持てるのと、女の子のモテるのは別の話。どうやって好みの子を集める気なのかしら?」

 

ケリィの主であるライザーは他の眷属をハーレムメンバーとしているが、眷属達からもきちんと好意を寄せられている。一誠は女の子を眷属にしてハーレムにする気だが、どうやって集めるかが頭から抜け落ちていた。

 

「ま、さっきの会話を聞いたんだから、結婚を嫌がる理由にライザーの癖の悪さを上げた時に反論できるわね」

 

二人が小声でそのような事を話しているのに気付かないリアスは一誠の中に眠る神器を調べる事にしたようだ。一誠を魔法陣の上に立たせ、一番強いと思う者の真似をさせる。

 

「ドラゴン波ッ!」

 

一誠がしたのは漫画のキャラの真似。彼が一般人である事を考えれば強い者なんてそう簡単に浮かぶものではないので仕方ないが、何とも言えない空気が流れる。そして彼の腕には赤い籠手が装着されていた。

 

 

(……あの子の転生には兵士の駒を八個使ったって言ってたわね。……ああ、そういう事)

 

ケリィは一誠の神器を見て一人納得するが、その場では何も言わなかった。

 

 

「部長、部員全員が部長の眷属なんですか?」

 

「ええ、そうよ。あの二人を除いてね」

 

「え、この学校にまだ悪魔がいるんっすか?」

 

一誠はケリィとレイヴェル、正確にはレイヴェルの胸を中心に眺める。ケリィは椅子から立ち上がるとレイヴェルを自分の体で隠すようにしながら一誠に微笑みかけた。

 

「言い忘れてたわね。此方はフェニックス家の令嬢であらせられるレイヴェル・フェニックス様。そしてアタシはリアス様の婚約者であらせられるライザー・フェニックス様の眷属よ」

 

「こ、婚約者っ!? 部長に婚約者がいるのかっ!?」

 

「……私は認めていないわ」

 

リアスは不快そうに顔を背け、ケリィは目を細める。

 

「あら、リアス様が否定しても変わらないわ。貴女がグレモリー(貴族)である以上、家の決定は絶対よ」

 

静かに微笑むケリィだが、背筋がゾッとする様な威圧感を放っていた。

 

 

 

 

 

 

その晩、ケリィはライザーに連絡を入れていた。

 

「ライザー様。ちゃんとご飯は食べてる? 度を越して飲みすぎてない? 婚約者が居るんだから少しは落ち着かないと駄目よ?」

 

「……連絡するなり早々、オカンがお前は。ああ、大丈夫だ。最近はお前の影響か他の眷属も煩くなってな。それっとユーベルーナが新技を開発したぞ。……完全にネタだが強力だ。……それよりも本題に入れ」

 

「紅髪の姫の下に赤い龍が降臨したかもしれないわ。……まぁ、貴方と同類な上に戦闘に関しててんで素人だけどね。……例の変態の一人よ」

 

「……そうか。厄介だな。龍は戦いを呼ぶというし……」

 

「……ねぇ、ライザー様。例の婚約、今となってはやめた方が良いかもしれないわ。……リアス様、新しい眷属に対してハーレムを容認したのよ。……貴方との婚約は嫌がってたけどね。ミリキャス様が居らっしゃる以上、貴方は分家になるわ。その時、もし男の子が生まれたら……」

 

「……俺にその気がなくても周囲の貴族が持ち上げて、か……。その話じゃリアスとの関係の改善は難しいだろうし、下手すれば俺対グレモリー家って事になるかもな。それでは魔王の妹とするメリットがないし、いくら美女でも俺を好きになりそうにない相手ではな……。新人の事もあるし、破談して別の家の者と結婚した方が良いかもしれん。だが、一度決まった婚約をこちらから断る訳にもいかないだろう? 向こうの方が家柄が上だしな……」

 

「……ライザー様がプライドが少しの間傷つくのを我慢するのなら良い方法があるわ。あくまで此方は相手の顔を立てている様に見せ、それでもって責任を押し付けれる方法がね。……当主様にも相談してみて」

 

 

 

 

 

 

 

「はわっ!?」

 

数日後、学校帰りのケリィは道端で転でいる少女を見掛ける。その少女はシスター服を身に纏っていた。

 

(……この街には廃教会、しかも何処の勢力の管轄でもないのしか無かったはず。何らかの行事でやって来たか……最近やって来た堕天使の手下かしら? でも、神器持ちを狩りに来たのにこのタイミングで増援を呼ぶかしらね?)

 

シスターを不審に思ったケリィは助けるふりをして探りを入れる事にする。手を貸して起き上がらせたのは金髪碧眼の可愛らしい少女だった。

 

「有難うございます」

 

少女は汚れのない笑顔を向けてお礼を言い、ケリィはその笑顔にダメージを受ける。

 

(い、痛いっ! アタシの汚れ切った心にグサリと突き刺さるわっ!)

 

「あ、あの、どうかなされましたか? あ、申し遅れました。私はアーシア・アルジェントと申します。アーシアとお呼び下さい」

 

「……そう.貴女、アーシアっていうの。アタシはケリィ・ロックベルよ。ケリィでいいわ」

 

和やかに名を名乗るケリィだが、内心ではアーシアの事を警戒していた。

 

(……聞いた事があるわ。悪魔を癒して魔女として追放された聖女の名前ね。……追放されたのも関わらずシスター服。堕天使の仲間かしら? それとも、別の組織?)

 

「あのケリィさん、この街の教会が何処にあるかご存知でないですか? 地図を見てもよく分からなくって……」

 

「ええ、知ってるわ」

 

(……決まりね。この子は何者かの手引きでこの街に侵入。回復系の力を持つ神器って話だから長期戦を見越しているのかしらね。……あとは利用されてるのかどうかだけど……)

 

ケリィはアーシアの方をチラリと見る。見るからに純粋で人を騙したり戦ったりする様には見えないが、それが演技という可能性もある。その場合、心を読むでもしないと見破るには難しいレベルだ。

 

「ねぇ、アーシア。この街の教会って十年前くらいから廃教会だったと思うけど、本当にこの街で合ってるの?」

 

(相手の思考を電子メールに変える力)

 

「ええっ!? あ、でも確かにこの街だと地図に書いていますよ」

 

そして、ケリィにはその手段がある。彼の能力は神器や魔法とは別系統である為、それらへの対策では防げない。送られてきた電子メールにはアーシアの思考が書かれていた。

 

(”この街に自分を招いたのは堕天使のレイナーレ。自分の力を必要としている”、ねぇ。……決まりね)

 

途中、怪我をした男の子をアーシアが神器で癒すなどあったが、二人は教会が見える所までやって来た。これ以上教会に近づくのは拙いと判断したケリィは再び能力を発動して携帯に電子メールを送る。

 

「あら、ごめんなさい。バイト先から忙しいから来てくれってメールが来たの。もう見えるし、真っ直ぐ行けば着くから大丈夫でしょ?」

 

「あ、はいっ! 有難う御座いましたっ!」

 

アーシアはケリィに頭を下げると教会に向かっていき、ケリィはその場から立ち去る。

 

 

ケリィが使った相手の思考を電子メールに変える力は相手の考えを全部変えるのではなく、”次の攻撃は?”、等、ある程度選択できる。今回はケリィをどう思ったかをメールに変え、メールは感謝の気持ちで一杯だった。

 

「……いい子ねぇ。悪魔を助けて追放された、か……。同じ教会の被害者として思う所があるわね。しかも、あの子、自分が助けた悪魔に嵌められてるって知らないのね」

 

ケリィはアーシアが助けたという悪魔に心当たりがあった。魔王ベルゼブブの身内でアスタロト家の次期当主ディオドラ・アスタロト。アーシア追放と同時期に彼が人間界で怪我をしたという話は聞いていたし、彼の眷属や屋敷で囲っているのは元教会関係者や聖女と呼ばれていた者達だ。そして悪魔が聖女が居るような所まで行くのは不審すぎる。

 

 

(……全てが芝居ね。すぐに眷属にしない所を見ると何か企んでいるのかしら? 例えばピンチに陥った所を助けて惚れさせるとか? 助けて貰ったお礼って口実もあるし。……ああ、そういう事。アーシア(あの子)、堕天使に殺されるかもしれないわ)

 

 

「……もしもし、部長?」

 

ケリィは不愉快そうな表情のままリアスに連絡を取った……。

 




少し察しが良すぎる気もしますがご勘弁を(笑) 情報源が優秀なんで情報が多いんです

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不死鳥の王と収集家の戦車 ⑤

「……そうか。厄介そうな話だな」

 

 ケリィから方向を受けたライザーは頭痛を覚える。ケリィが根拠としてあげたのは、レイナーレは一誠を殺したと思っているはずだし、まだ殺すべき神器持ちが居るとしても回復役を呼び込む必要が分からない、という事。

 

 もし抹殺対象が強いのなら、悪魔や堕天使を回復できる貴重な神器持ちを派遣するよりも最初から強い堕天使を派遣している。戦争を起こすのが目的だとも考えられるが、総督のアザゼルは戦争反対派だし、一部の暴走にしてもレイナーレ達の動きはお粗末だ。故にケリィは上を騙してこの街に残って貴重な神器を手に入れるのが目的だと推察したのだ。

 

「もし本人を本部に呼んだら、神器を抜き取るにしても手に入れるのは別の優秀な者でしょうね。だからこっそりと手に入れる必要があるわ。あとは囮かしらね? 油断させておいて、本命がズドン。魔王の身内を殺せば流石に戦争は避けられないわ。……ねぇ、ライザー様。妹の所に兄が遊びに来るにはおかしくないわよね?」

 

「そうだな。そろそろレイヴェルの顔が見たい。……リアスには報告したのか?」

 

「ええ、堕天使の手下らしい怪しいシスターを探った、とは報告したわ。それだけで十分でしょ? あとは何かあった時になって電子メールで知った事にすれば良いだけだしね」

 

「くくく、違いない。お前が何を考えたなど、一々報告する物でもないしな」

 

 電話先でライザーで笑う後ろからは、ユーベルーナの、”これが本当の追い鰹!”という声が聞こえてきた。

 

「なぁ、ケリィ。その聖女様は器量良しか?」

 

「……ライザー。流石にこれ以上増やすのは駄目よ? まぁ、美少女の部類に入るでしょうね。普通のよりも性能が良いみたいだし、レイヴェル様の眷属にしたいくらいだわ」

 

「お前は能力が欲しいだけじゃないか? まぁ、王は不死で眷属は回復系神器の持ち主なら、だいぶ強力なチームになるだろうな。長期戦に強そうだ。……もっとも、聖女のくせに悪魔を癒す甘さはどうかと思うが……」

 

「……悪魔を癒した件についてはアタシも同感。エクソシストが命懸けで戦ってるのは何か分かってるのかしらねぇ? ……所でライザーさま。その最悪のパターンの場合、例のアレ(・・・・)、使って良いでしょ? アレを使わずに試したんだけど、コピーした不死の特性があっても死ぬ所だったわ 」

 

「……良いだろう。出来れば使わせたくないが、アレを使わないとレイヴェルと自分を守れない時は使え」

 

「ええ、そうするわ。……アタシも使いたくはないのよ。他人の努力を嘲笑うにも程があるもの」

 

「そうか。それでこそ俺の眷属だ。……所でユーベルーナの事なんだが……」

 

「あ、そろそろ切るわね。煮物は煮る時間が重要だもの」

 

 ケリィは電話の先から聴こえてくる”鰹の叩きっ!!”という叫び声を聞いた途端にライザーを無視して電話を切った。

 

 

 

「……彼女(ユーベルーナ)も大概ね」

 

 

 

 

 

 数日後、新人の仕事であるチラシ配りを終えた一誠は契約の仕事を始めるが、、魔力が足りずに魔法陣が使えず、自転車で契約相手の所まで向かう。ケリィもフェニックス家が縄張りにしているところでん契約を済ませ、時間が余ったのでコンビニに寄っていた。

 

「さぁて、今週の料理雑誌は……有ったわね。……コンビニは便利だけど、雑誌類以外はスーパーで買うより高いから困っちゃうわ。お金が有るからといってお金を使わない努力をしないのはどうかと思うし」

 

 丁度殺虫剤が切れていたので買おうと思ったケリィだが、高いので手を伸ばすのを躊躇う。その時、外を歩いている少年が目に入った。黒髪の目付きの悪い少年で、なぜか神父服を着ている。ケリィはその少年に見覚えがあった。

 

「……フリード?」

 

 その少年はケリィが自分だけ脱出して見捨てた仲間の一人によく似ていた……。

 

 

 

 

 

「……貴様、はぐれ悪魔祓いか」

 

「そうだよ~ん。俺っちはクソ神の手下じゃなく、その敵対者の堕天使の仲間だ。君を殺しに来たっちゃ」

 

 その少年が向かったのは潰れた会社の倉庫。彼の目の前に馬の胴体と人の上半身を持つケンタウロス型のはぐれ悪魔が立っている。少年はヘラヘラ笑いながら光の刀身を持った剣を取り出し、はぐれ悪魔は後ろ足で床を蹴って突進する。その速さは見た目通り、かなりの高速だ。

 

「なら、死ねっ!」

 

 少年は剣を構えたまま立ち尽くし、悪魔の鋭利な爪が襲いかかる。

 

 

 

 

「……――を――に変える力」

 

 次の瞬間、はぐれ悪魔は血まみれで倒れ、無傷の少年はその場から立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

「あれ? ケリィさんじゃないですか?」

 

 数日後、使い魔を自分に変身させて堕天使を探していたケリィは街でアーシアに出会った。

 

「あの、今日は学校ですよね?」

 

「アタシ、夜間学校に通ってるの。アーシアはお出掛けかしら? 教会の用で出かけてるのなら道案内するけど?」

 

「あ、いえ、今日は街を散策しようと思いまして。……こっそり抜け出して来ちゃいました」

 

「……悪い子ねぇ。まぁ、それならアタシとデートでもしない? 色々と案内するわよ」

 

 そのまま二人は一緒に遊ぶ事になり、ケリィは娯楽施設にアーシアを連れて行く。その二人を遠くから見はる人物がいた。

 

 

 

「……ちっ! 下等な転生悪魔ごときが僕のアーシアに近づいて。彼女を手に入れる為に僕がどれほどの労力をしたと思ってるだ。わざわざ教会の敷地内に入った上に傷跡まで残したんだぞ」

 

 彼の名前はディオドラ・アスタロト。アーシアが教会を追放される原因となった悪魔で、それはケリィの予測通り彼の罠だった。このまま堕天使に殺された所を転生させ、感動の再会を演出するつもりだったのだが、此処に来て予定が狂い始めたのだ。

 

「……アイツは厄介だ。こうなったら騙し討にでもして……」

 

ケリィの強さを公式戦の映像で知っている彼はどうやって排除しようか思案し出す。その肩に手が置かれ,肩の骨を砕かんばかりの力で握られた。 

 

 

「……ふん、やはり罠だったか。だが、そういう事はどうでも良い。俺の眷属をどうするって? なぁ、ディオドラ」

 

「ラ、ライザー……」

 

拙い所を見つかったと思ったディオドラは何とか誤魔化そうとするが言い訳が思いつかず、そんな事をしている彼の耳にライザーが囁いた。

 

「今の発言は録音した。……教会にまで行って聖女を手に入れようとするか。さて、大した醜聞だな。俺の眷属を騙し討ちにするとも言ったし、バレたらどうなるかな? ……此処は見逃してやるから家に帰れ。それとも今すぐ広められたいか? フェニック家は財政豊富でな、マスコミにも顔が利くんだ」

 

ライザーが懐から取り出したボイスレコーダーには先程のセリフが録音されていた。それを聞かされたデイォドラは歯噛みする

 

「ぐっ! お、覚えていろっ!」

 

ディオドラは捨て台詞を履いて去っていく。

 

「……さて、覚えておけと言われたし、この件は覚えておこう。とりあえず最高にタイミングで広めるか。帰ったら広めないとは言っていないもんな。……貴族社会で情報は武器になる。さ、どう使うか楽しみだ」

 

 ライザーは意地の悪い笑みを浮かべると二人の追跡(デバガメ)に戻った。

 

 

夕暮れの公園に来た二人は貸しボートがある池を見ながら話をしていた

 

「……ケリィさん。私、ずっとこういうのに憧れていたんです。友達と一緒に買い物をして、お喋りをして……」

 

「……聖女時代に友達が居なかったから? 教会ってのは腐ってるから、聖女様には友達なんて必要ない、とでも思ってたんでしょ」

 

「な、なんでその事をっ!?」

 

驚愕するアーシアに対し、フッと笑ったケリィは悪魔の翼を出した。

 

「そう、アタシは悪魔。そして、元は人間よ。そして教会が行った超人計画の犠牲者なの。隠しておこうと思ったけど、やっぱり駄目ね。友達には隠し事は出来ないわ」

 

「友…達…? 私が…ですか?」

 

「ええ、そうよ。……迷惑だったかしら?」

 

少し寂しそうにするケリィに対し、アーシアは顔を横にブンブンと降る。それを見たケリィは嬉しそうに微笑んだ。

 

「ふふ、敵対していても友情は築けるわね」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

「あら、無理よ」

 

アーシアが満面の笑みを見せた時、冷たい声が響く。そこには一人の堕天使が立っていた。一誠を殺した堕天使、レイナーレである。

 

「探したわよ、アーシア。さぁ、帰りましょう」

 

レイナーレはアーシアに手を伸ばす。だが、その手はケリィによって掴まれた。

 

「ねぇ、聞かせてくれるかしら? この街に留まる理由は何?」

 

「汚らわしい悪魔が私に触れるなっ!」

 

レイナーレはケリィの腕を振り払おうとするが出来ず、携帯を見たケリィは口角を釣り上げる。

 

 

 

「……そう。やっぱり上を騙して滞在してたの。だったら此れはよくある小競り合いで済むわ」

 

「ぐふっ!?」

 

ケリィの拳はレイナーレの顔面に突き刺さり、そのまま池まで殴り飛ばす。呆然とするアーシアを尻目に携帯でリアスに連絡を入れた。

 

「……部長。例の堕天使だけど、上を騙して滞在してたみたい。本当はこの街の管轄を任された貴女に任せる所なんだけど、ライザーが襲われたの。不死の特性で大丈夫だったけど、舐められて終わる訳にはいかない。……始末は任せて貰えるかしら? 」

 

『……分かったわ。でも、代わりに全トッピング乗せを奢ってもらうわ。あと、ライザーに顔を出すなって伝えておいて』

 

「了解よ♪」

 

ケリィはそのままライザーに連絡を入れる。そしてその日、街にあった廃教会が全焼した……。

 

 

 

 

 

 

 

「……アーシアの様子はどうかしら?」

 

次の日の夜、アーシアをマンションに泊めたケリィは様子を見に行ったレイヴェルに尋ねた。

 

「よく眠っていますわ。……しかしケリィもとんでもない事をしますわね。正式じゃないとは言え、堕天使の部下を私の眷属に誘うなんて。しかも親切ぶって」

 

「あら、心外ね。私は”コレからのあなたが心配”って言ったり、”出来れば友達とは一緒に居たい”って言ったりしただけよ。後は、レイナーレがしようとしていた事をバラしただけ。悪魔になるかどうかの選択を下したのは彼女自身よ」

 

「……ふぅ。分かってて言っているのかしら?」

 

ニコニコ微笑むケリィに対し、レイヴェルは深い溜息を吐いた……。

 




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不死鳥の王と収集家の戦車 ⑥

「ほら、起きなさい。もうすぐ朝ご飯出来るわよ」

 

「ふわぁ~い」

 

 それは取る日の早朝の事。心地よい睡魔に身を任せていたアーシアはケリィによって揺り起こされた。アーシアが欠伸を噛み殺しながら起き上がると、ケリィは手早く寝癖を直す。既に制服の準備もされており、ブラッシングも完璧だ。リビングに向かうと自家製の焼きたてパンの良い香りが漂ってきた。

 

「あら、起きましたのね。お早う御座いますわ、アーシア」

 

「あ、お早う御座います、レイヴェルさん」

 

 レイヴェルはケリィが入れた紅茶を飲みながら新聞を手にする。すると新聞はケリィに取り上げられた。

 

「ほら、早く顔洗ってらっしゃい。その間に卵を焼くわ。目玉焼きの焼き加減は半熟で良いのよね?」

 

「あ、はい。お願いします」

 

「ケリィ、私は……」

 

「はいはい、分かっているわ。両面にしっかりと火を通すのでしょ?」

 

「あら、分かってますわね」

 

 やがてアーシアも食卓につき、その日の朝食が開始された。

 

「ほら、ちゃんと三十回噛んでから飲み込みなさい。それと三角食べをする事」

 

「あのレイヴェルさん。ケリィさんってお母さんみたいですね」

 

「……身近に手間の掛かる子供(お兄様)が居ますから」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、ケリィ。お前、アーシアさんの風呂とか覗いてないだろうな?」

 

「嫁入り前の子のお風呂を覗く訳ないでしょ。それよりも神器は使用できるようになったの?」

 

 レイヴェルの眷属になったアーシアは駒王学園に入学。オカルト研究部の所属となった。一年生のレイヴェルだけでなく、アーシア登校した事で男子から妬みの視線を送られたケリィだが、その性格や話し方で女子とは仲が良くなっており、それが抑止力となって特に手出しされないでいた。

 

 

「……まだだ」

 

 未だ自分の神器の本当の名も発動のさせ方も把握していない一誠は気不味そうな顔をする。そんな時、ふと思いついた様な顔を見せた。

 

「そういえばよ、お前の主が部長の……こ、婚約者なんだろ? どういう奴なんだ?」

 

「お調子者のシスコンハーレム野郎よ。妹に悪い虫が寄り付かないようにって眷属にして。アタシとレイヴェル様以外の眷属全員をハーレムに入れてるわ。後は才能豊かね。……それと、もうすぐ婚約者じゃなくなるわ」 

 

それを聞いた一誠は嬉しそうな顔をする。どうやらハーレムを作ったのが原因で婚約解消になったと思い込んだようだ。

 

「うっしっ! やっぱ部長みたいな美女にハーレム野郎は……ああ、フェニックスだから焼き鳥野郎は似合わないぜっ! 婚約解消されて当然だな」

 

「……ああ、違うわよ。婚約は部長が大学卒業後って話だったけど、急に早まったのよ。それと、今のセリフはフェニックス家に報告させて貰うわ。ハーレム願望とハーレムを容認する主を持った下級悪魔さん。……とりあえずその事で部長の機嫌が悪いから、暫く部室はお休みするわね」

 

 ケリィは一誠の足を踏み付けると校門の方に歩いていく。既にアーシアとレイヴェルが待っており、そのまま三人で帰っていった。

 

「くそっ! 美少女二人と下校かよ。イケメン爆発しろっ! ……さっきのは不味かったか」

 

 

 

 

 

 

「ケリィさん。今日の晩御飯は何ですか?」

 

「あらあら、今から餡蜜を食べに行くのに晩御飯の話? アーシアは本当に食べるのが好きね。今日はすき焼きよ。もちろん割り下も手作りで。肉は最高級のミノタウロスなの」

 

「あら、仕方ありませんわ。ケリィのご飯は美味しいんですもの。ほんと、貴方と結婚できる相手は幸せですわね」

 

レイヴェルはケリィの腕に抱きつきながらチラチラと視線を送り、アーシアは何かブツブツつぶやきながら赤面している。

 

「あらあら、アタシは上級悪魔になっても主夫なわけ? まぁ、家事は好きだから良いけど」

 

ケリィはそれに苦笑しながら応えた。

 

 

 

 

 そして数日後、オカルト研究部部室に険悪な空気が流れていた。その場にはリアスとその眷属。リアスの兄であるサーゼクスの女王であるグレイフィア。そしてライザーと眷属達とアーシアだ。結婚式場を下見に行こうというライザーにリアスは反発。彼とは結婚しないとまで言い出した。ライザーはそれでもヘラヘラしていたが、ついに我慢の限界が来たのか力尽くでも冥界に連れて帰ると言い出し、それを止めたグレイフィアによって両家当主からの提案が伝えられた。

 

「レーティング・ゲームで決着を付けたらどうか」

 

 ライザーは先日、タイトルを取った程の実力者で、リアスはゲーム未経験。無理やりでも納得させようとさせていると激怒したリアスはそれを了承した。

 

「へぇ、了承しちゃうんだ。……ふむ、ただ勝つだけじゃ詰まらないな。ハンデとして特訓期間を十日間と……そうだっ! こういうのはどうだろう」

 

 ライザーが提案したのは三種類の試合形式。まずは王を除く眷属で一対一の試合を行い、引き分けでもリアスの勝ち。次はリアス以外の眷属とケリィのみとのゲーム。最後にライザー対ランダムで選ばれた代表者二人との戦い。制限時間内にライザーが敵を倒せなければライザーの敗北とする。それで一回でもリアスが勝ったら婚約破棄で言いと言うのだ。

 

「……舐めているのかしら、ライザー? ケリィがどれほど強いかは知らないけど、私の眷属全員とだなんて」

 

「そっちこそタイトルホルダーを舐めているのか、リアス? それと、ケリィは俺より強い。君と一緒でも過剰戦力なくらいさ」

 

「あらん、褒めすぎよぉ」

 

「はわわっ!? ケリィさんってそんなに強かったんですかっ!?」

 

「ええ、そうよ。これでも次期最強の戦車候補の一角に数えられてるの。……まぁ、ホントの切り札がライザー様に使用禁止されてるけどね」

 

 最後の台詞は誰にも聞こえないように呟くケリィ。そしてリアスは悔しそうにしながら申し出を受け入れた。

 

 

 

 

 

 

「うまく行ったわね、ライザー様。後は貴方次第よ」

 

「ああ、分かってる。上手い事やるさ。お前も頑張れよ。上級悪魔昇進試験の受験生に選ばれそうだって聞いたぞ。後は観客にどうアピールするかだな」

 

「ええ、そうね。ねぇ、知ってるかしら? 魔王クラスの最上級悪魔である元龍王のタンニーン様のブレスって、隕石の衝撃と同じくらいらしいわ。怖いわねぇ」

 

 ケリィはクスクス笑いながらライザーが持ってきた包みを開ける。中には特注のエアガンであるスナイパーライフルとガトリングガンが入っていた。

 




今週中にスーパーモデルになるのが夢のちびっ子の能力を知っていても、感想で黙秘ですからね!
(笑)


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レベル2 いろいろ考えるのは大変だ


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不死鳥の王と収集家の戦車 ⑦

ライザーとのゲームに向け、リアス達は学校を公欠してグレモリー所有の山で修行を開始した。その中で一誠の神器が赤龍帝の籠手である事が判明。ゲーム勝利の鍵となるとし、一誠を中心に作戦を立てる事となる。

 

 そしてケリィは修行に関する情報を手に入れ、ほくそ笑んでいた。これで破談時に此方(フェニックス家)が有利になる、と。直ぐに影響下にあるマスコミに手を回し、着実に準備を続ける。

 

 

 

「さて、戦車戦はアタシが出るわ。追い詰められれば鹿も龍に角を突き立てる。小猫ちゃんが使いたくない仙術を使わないとも限らないわ」

 

「随分と慎重ですね、ケリィさん」

 

「ふふふ。もしもの想定ってのは、やり過ぎなくらいが丁度良いのよ、ミラ。ほら、貴女の要望通りの武器が届いたから扱いに慣れておきなさい。もしかしたら赤龍帝の籠手を覚醒させてるかもしれないし、十秒以内に倒すつもりでいなさいよ?」

 

「分かっています。十秒ごとに強くなるのなら、十秒以内に倒せばいいだけですからね」

 

 ライザーの兵士であるミラは、ケリィから受け取った棍を手にしながら笑った。

 

 

 

 

 

「……これが本当の守りタイ? ……いや、少し無理があるような」

 

 

「……え~と、あれは良いんですか?」

 

「しっ! 関わっちゃ駄目」

 

 

 ユーベルーナがギャグ要員となる中、最初のゲームの日がやって来た。

 

 

「皆、一勝した時点で私達の勝ちよ。此方を舐めた事、思い知らせてあげなさいっ!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 

 

 

「へぇ、気合が入っているじゃないか。ケリィ、大丈夫か?」

 

「あらあら、笑いながら言う事じゃないわよ。とりあえず参考にって私達のゲーム映像を送っておいたわ。……これでこっちの情報は漏れてないわね。プライドの高いお姫様ですもの。あんなの送られたら逆に見ようとしないわ」

 

「まぁ、知られても問題ないがな」

 

 

 

『皆様、これよりライザー・フェニックス様とリアス・グレモリー様のゲームを開始致します。まず最初の組組み合わせは……『女王』です』

 

 いきなり女王の出番とあって会場が騒めく。朱乃は何時もの笑い顔を浮かべ、ユーベルーナは何やら呟いたかと思うと吹き出す。二人が魔法陣に乗ると転移され、岩場を模したバトルフィールドに移動していた。

 

 

 

 

「あらあら、お手柔らかにお願いしますわ、爆弾王妃(ボムクィーン)さん」

 

「あら、私の手は柔らかいわ。え~と、貴女の異名ってなんでしたっけ? どうでも良いから忘れちゃたわ」

 

 ユーベルーナは手を柔軟に曲げながら馬鹿にした視線を送る。朱乃の額に青筋が浮かび、舌戦はユーベルーナの勝利に終わった。

 

『それでは開始してください』

 

 そのアナウンスと共に朱乃は強烈な雷を放つ。だが、ユーベルーナの周囲に出現した球状の魔力が直前で爆発して相殺した。朱乃は連続して雷を放つが全て相殺される。そして舞い起こった爆煙の中から何かが飛び出してきた。

 

「……魚?」

 

 それは魚型の魔力。詳しく言うのなら鰹だ。その周囲には鯛の形をした魔力が寄り添い、まるで水中を泳ぐかのように朱乃へと迫った。

 

「こんなものっ!」

 

 朱乃は雷で全て撃ち落とそうとするが、鯛が鰹を庇うかのように飛び出して雷を相殺する。そして朱乃がどれほど避けようとしても鰹はしつこく追跡して来た。

 

「ほ~っほっほっほっ! その鯛は鰹を守ります。これが本当の”守りたい()”。そして鰹は貴女を何処までも追っていく。これが本当の”追い鰹”! 私はこのギャグを言いたくって技を開発しましたわっ!」

 

 得意げにユーベルーナが笑う中、ライザー達は頭を押さえる。全員の心中は一つ。

 

「……何でどうしてああなった?」

 

 そんな中、朱乃はユーベルーナへと急接近する。昔から追跡する技に対する対処法は一つ。使い手に急接近して技を当てる。だが、朱乃が直前で緊急回避しようとした瞬間、ユーベルーナの手に巨大な鰹が握られていた。

 

「鰹の叩きっ!」

 

 鰹は叩きつけられた場所が爆発し、朱乃を地面へ叩き落とす。其の後を追い鰹が追って行き、朱乃は最大級の雷で鯛ごと撃ち落とそうとする。その時、岩陰から小さな魚影が飛び出す。それは鯵の形をしていた。

 

 

「ふふふっ! 最初の爆煙の時に隠していましたの。それは敵が近づいたら飛び出す罠。これが本当の……」

 

「……隠しアジ()? きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「オ、オチを言われたっ!?」

 

 ユーベルーナが涙目になる中、朱乃は鯵と鯛と鰹の爆発を食らってリタイアした。

 

 

 

 

次の試合は騎士同士の試合。魔法陣へと向かう祐斗に声援が送られる。

 

「頑張って、祐斗。朱乃の敵、頼んだわよ」

 

「焼き鳥野郎の眷属なんてぶっ飛ばしちまえっ!」

 

「……応援しています」

 

「見ていてくれ皆。僕が終わらせてくる」

 

 祐斗はリアス達に微笑みかけると颯爽と魔法陣に乗る。着いた先は石づくりの闘技場。相対するライザーの騎士の名はシーリス。大剣を背負った戦士風の女性だ。

 

「……グレモリーの騎士よ。最初に警告しておこう。痛い思いをしたくなければ直ぐにリタイアしろ」

 

「悪いけどそういう訳にはいかないんだ。部長の望みだからね」

 

「……王の行いが王足らぬのなら、逆らうは不忠にあらず。今回の婚約を破談にする事が真にリアス様の為になると思っているのか?」

 

『それでは開始してください』

 

 アナウンスと共に祐斗が走り出す。彼は騎士の特性を活かしたスピード主体の剣士。対するシーリスはパワー主体の騎士だ。祐斗は無数の剣戟を浴びせかけ、シーリスは大剣を盾にして防ぐ。一見すると祐斗優勢の状況にリアス達からは歓声が上がった。

 

「よしっ! そのまま行けっ!」

 

「勝ちなさい、祐斗っ!」

 

 リアス達は気付いていない。全く表情の変わらないシーリスに対し、祐斗の表情が焦りと疲労に染まり出している事に。

 

「……どうした? 息が上がって来ているな。そして、足元がお留守だっ!」

 

 踏み込んだタイミングを狙われて腹に蹴りを食らった祐斗は体勢を立て直す為に後ろに飛び退く。その着地の瞬間、シーリスは地面に大剣を突き立てた。大剣から発せられた衝撃波によって足場が大きく崩れ、祐斗は瓦礫に足を取られる。その隙を狙ってシーリスが斬りかかり、避けようとするが足場の悪さに思うように動けず、瞬く間に切り裂かれた。

 

 

 

 

 

 

「くそっ!」

 

 祐斗の敗北を受けて一誠は壁を叩く。叩いた壁は固く、手に痛みが走った。そして次の対戦を決めるクジが引かれ、次は兵士同士の戦い。一誠の相手は棍を持った小柄な少女、ミラだった。

 

 

 

『それでは開始してください』

 

「もう女の子だからとか気にしねぇっ! 即効でぶっ飛ばしてやるっ!」

 

『Boost!』

 

 一回目の倍加と共に一誠は駆け出していく。そしてミラ目掛けて拳を振り上げ、そのまま鳩尾を突かれて後ろに吹き飛ばされた。

 

「短期戦はこっちが有利。だから、即効で決めるっ!」

 

 ミラは一誠に向かって駆け出すと、棍を大きく振り上げる。。一誠は後ろに飛んで避けようとするが、棍の先端が外れ、中から鎖が飛び出す。外れた先端は鎖と繋がっており、避けたつもりの一誠の腕に絡みついた。

 

(仕込み武器っ!? だけど、もうすぐ二回目の倍加だ。そうなったら振り回してやるぜっ!)

 

 一誠がそんな事を思った時、ミラはもう片側の先端を外して一誠に向ける。先端を蓋の様に外した部分からは砲身が覗いていた。

 

「ファイヤー」

 

「そ、そんなの有りかよぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 発射された弾は着弾と同時に爆発し、一誠は黒焦げになりながら消えていった。

 

 

 

 

 

「ユーベルーナの魔力を封じ込めた仕込み砲、結構使いこなせてるじゃない」

 

 ケリィは感心したように呟き、最後の試合をすべく魔法陣の上に乗る。砂漠を思わせるフィールドには既に小猫の姿があった。

 

「私、負けません」

 

「あら、無理よ。貴女はアタシには勝てないわ」

 

『それでは開始してください』

 

 アナウンスと同時に小猫は飛び蹴りを放つ。ケリィは余裕綽々といった様子で背を向け、小猫の足が迫った瞬間、小猫の視界からケリィが消える。

 

 

 

「後ろよ」

 

 ケリィはそのまま小猫を捕まえ、右腕でヘッドロックを決め、左腕を小猫の両腕に巻きつける。そのまま寝転がると両足で胴と足を締め出した。

 

「な、なんで後ろに……」

 

「ふふふ、ひ・み・つ。まだ公式で発表してないの」

 

 やがて小猫はダウンし、第一回目のゲームは終わった。

 

 

 

 

「次は三日後でしたっけ? フェニックスの涙もあげるし、大盤振る舞いね」

 

「なぁに、強者の余裕だ。それに、相手も言い訳のしようがないだろ? ……にしても最後の試合だが、犯罪臭かったな」

 

 ライザーの言葉に他の眷属も頷いた……。

 

 

 

 

 

「わ、私はそんなこと思ってませんわよっ!?」

 

「わ、私もです! ケリィさん、素敵でしたよ」

 

「……ありがと」

 

 

 

 




全体的に強化されたライザー眷属 そして次回、朱乃用に持たせた能力が登場です


分かっても秘密ですよ?


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不死鳥の王と収集家の戦車 ⑧

一誠が才能ないって割には強いと思うが、仮に十六回倍加したらベジータ編天津飯がフリーザ様最終形態に並ぶ戦闘力に。やっぱ装備がチートすぎる(笑) さらに真女王とかでパワーアップする量が上がってるのに

あと、DBで映画やGTでかめはめ波でクウラやベビーを太陽に押し込んで倒しているのに。かめはめ波を食らった太陽は無事。昔の劇場版では兵器を使って破壊しようとした吸血鬼がいましたが……無理だったんじゃ(笑)


「お見合い? アタシに?」

 

 一回目のゲームの祝勝会の準備をしていたケリィはライザーの言葉を聞き返し、レイヴェルとアーシアは聞き耳を立てる。他のライザー眷属は料理が出来るのをジッと待っていた。

 

「ああ、そうだ。ほら、ケリィって結構評価高いだろ? 旧七十二柱以外の貴族が上級悪魔になったら見合いをしないかって話を持って来てるんだ」

 

「……興味ないわぁ。適当に誤魔化しておいて頂戴」

 

 本当に興味無さそうにするケリィを見てレイヴェルとアーシアは安堵し、ライザーは了承しながら苦笑する。

 

「なぁ、所でレイヴェルやアーシアの事、どう思うんだ?」

 

 そして、爆弾を投下する。ケリィは暫し悩み、レイヴェル達は食い入るようにその姿を見つめる。

 

「そうねぇ、可愛い、かしら? ほら、二人って子犬っぽいじゃない。まるで小さな子犬が尻尾振って寄ってきてるみたいで、見てて和むのよ。ほら、それよりも支度が終わったわ。すき焼き鍋を運んで頂戴。三つもあるから持ちきれないわ」

 

「わ、私が持っていきますっ!」

 

「私はガスコンロを運べば良いかしらっ!?」

 

 その後、すき焼きを楽しんだ一行であったが、アーシアとレイヴェルはケリィを挟むように座ると、何かと理由をつけて密着してきた。最後には事故を装おって入浴中に浴室に入り、一緒に入ろうと言い出したところで流石に怒られてしまった。

 

 

「もうっ! 嫁入り前の娘が簡単に肌をさらすものじゃないわ。恥らいを知りなさいっ!」

 

 

 

 

 

 

 そして三日の猶予期間が終わり、ケリィとリアス眷属のゲームの日がやってきた。

 

「……皆、分かってるわね? 小猫の背後に一瞬で回り込んだ秘密」

 

「場所の入れ替え、ですよね?」 

 

 前回のゲームの映像を手にれたリアス達はケリィの動きを見て一瞬で場所を入れ替えたと理解した。そして、対策としてケリィには同時行為撃はせず、入れ替わった瞬間を狙うという作戦も立てた。そして、いよいよゲーム開始時間。魔法陣に乗ると、そこはオカルト研究部の部室内。今回のゲームは駒王学園全体を模したフィールドが舞台のようだ。

 

「では、僕は罠を仕掛けてきます」

 

 祐斗はケリィが本陣に来た時のために周囲に罠を設置する。リアス側の敗北条件は全滅となっており、まずは眷属最強の朱乃が様子見に出陣し、戦闘になったら残りが戦闘場所に向かう、という作戦だ。

 

 

『それではゲーム開始です』

 

 グレイフィアのアナウンスが流れる中、ケリィは陣地がある新校舎の屋上でスナイパーライフルを構えていた。

 

 

 

「BB弾を隕石に変える能力()

 

 そして朱乃が出陣する同時に引き金を引き、魔王クラスのドラゴンのブレスに匹敵する一撃が放たれた。

 

 

 

『リアス・グレモリー様の『兵士』一名『騎士』一名『戦車』一名リタイア』

 

 旧校舎は一撃で壊滅し、呆気なく崩れ去る。だが、まだゲームは終わっていない、朱乃は怪我一つない状態で近付いて来ていた。ケリィもすぐに接近し、先手必勝とばかりに風の魔力を放つ。朱乃も雷を放つも少し押し切られてしまった。

 

 

 

 

 

「いやはや、見頃ですな、フェニックス卿。まさかあそこまでの一撃を放つとは」

 

「ええ、ケリィはライザーの眷属のエースですから。あの能力はゲームが詰まらなくなると禁止されていたのですが、今回のゲームでは使うようですな」

 

 会場ではケリィの放った一撃を見た貴族達がざわめく。自然とケリィの評価は上がって行き、それを見たフェニックス家当主はほくそ笑んだ。

 

 

 

 

「……中々やりますわね」

 

 冷や汗を流しながらも余裕が有るように笑みを見せる朱乃に対し、ケリィは大アクビで返す。朱乃の額に青筋が浮かんだ。

 

「貴女は大した事無いわね。雷の巫女だったかしら? 静電気の巫女に改名したらどう?」

 

「……そうですか。なら、私の最大電撃を食らって下さらない?」

 

「出すなら出してみれば? 力を貯めるまで待っててあげるから」

 

 朱乃は怒りでプルプルと震え、それを会場から見ていたリアスは笑みを浮かべる。

 

 

「この勝負朱乃の勝ちね、ライザー。いくらケリィでも彼女の最大の一撃は防ぎきれないわ」

 

「いや、そうでもないぞ? ……もっとも、ケリィには雷を防ぐ必要などないがな」

 

 ライザーが意味深に返答した時、朱乃がケリィへと雷を放つ。それに対しケリィは右手を前に突き出した。

 

 

 

 

 

「電気を砂糖に変える能力()

 

 次の瞬間には雷の魔力は砂糖に変わり、朱乃の支配から逃れる。そのままケリィが放った風の魔力は砂糖を全て取り込み、朱乃を球状の風の檻に閉じ込めた。そのままケリィは奇妙な踊りを踊りだし、

 

 

「も~と~に~も~ど~れっ!」

 

 頭の上で手を叩いた瞬間、風の檻の砂糖が全て雷に戻った。荒れ狂う風の音の中朱乃の悲鳴が聞こえ、風を消すと朱乃がボロボロになって落下していく。

 

 

『リアス・グレモリー様の『女王』一名リタイア。このゲーム、ライザー・フェニックス様の勝利です』

 

 

「ま、少しは楽しめた方かしら?」

 

 ケリィは余裕綽々といった態度で笑った。

 

 

 

その晩の事。契約を済ませたケリィが寝ようとすると、寝室のドアがノックされ、其処にはレイヴェルが立っていた。寝巻きとして下着の上からワイシャツを羽織り、パンツが覗いている。

 

「……こんな夜更けにそんな格好で男の部屋に来るなんて、襲ってくださいって言ってるみたいなものよ」

 

「……別にケリィなら構いませんわ」

 

 レイヴェルはふてくされた様子で部屋に入ると無断でベットに腰掛けた。

 

「……ケリィ。私の気持ちには気付いているのでしょう? それとアーシアの気持ちにも」

 

「……まぁ、鈍感系主人公じゃあるまいし、彼処までやられたら気付くわよ。でもね、アーシアの気持ちは吊り橋効果的なものよ。初めての友達で命の恩人。恋に恋する年頃の子なら惚れて当たり前よ。……それと、レイヴェルとアタシは身分が違いすぎる。いくら家族のように付き合っていても、貴女もいつかは貴族の義務を果たす事になるわ。余計な気持ちは捨てておきなさい」

 

「……私は、諦めませんわ」

 

 レイヴェルは泣きそうな顔で部屋を出ていき、乱暴にドアを閉めた。

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ。ライザー様に怒られるかしら?」

 




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不死鳥の王と収集家の戦車 ⑨

「……おい、大丈夫か?」

 

朱乃達とケリィのレーティング・ゲーム終了後、誰よりも先にケリィの転移先にやって来たライザーは少し怒った様に訊ねる。BB弾を発射したエアガンの銃口は衝撃で破壊されており、ケリィの右腕はダラリと垂れ下がっていた。

 

「ちょっと大丈夫じゃないわね。フェニックスの涙五十個分の金をつぎ込んで実際の隕石と同等の弾速を出せるようにしたけど、使い捨てにするには高すぎるわ。力の消費も多いし、まだ使い物にならないわね」

 

「そんな事はどうでも良い! 早く肩を治せ!」

 

ケリィの肩は炎に包まれ、直ぐに普通の状態に戻った。未だ不機嫌そうなライザーに対し、ケリィは困ったようにため息を吐いた。

 

「何を怒っているのよ、ライザー? 貴方がワタシの他人の能力を自分の能力に変える力(本当の能力)はできるだけ隠せって言ったんじゃない。だから衝撃で肩の骨が砕けてもフェニックスの不死を使わなかったのよ?」

 

「お前、馬鹿か? ……今度からはバレても良いから直ぐに治せ。王としての命令だ」

 

ライザーがそう言った所でレイヴェルや他のライザー眷属達がやって来た。

 

「さて、それじゃあ帰ってご飯にしましょうか」

 

 

 

 

 

 

テーブルの上にはケリィの手料理が並べられている。ライザー達がそれを夢中になって食べる中、ケリィは台所に釘付けになっていた。

 

「あ~、もう! 今日戦ったのはワタシなのに、なんでワタシが料理当番なのよぉ」

 

「仕方ないだろ、お前以外料理できないんだから」

 

「でも、本当にケリィさんの料理って美味しいですよね。フェニックス家の食堂のメニューも考案しているって聞きましたが、何が人気なんですか?」

 

「唐揚げとハンバーグとカレー。焼きそばや炒飯や肉ジャガも人気よ。まさにおふくろの味」

 

「私、男なのにねぇ……」

 

そして数日後、いよいよリアスとライサーの最後の決戦(茶番)の日がやって来た。ゲームのルールはリアスに有利なもので制限時間内に倒されなければ勝ちというもの。更に前日にクジで決まったパートナーとして一誠と共にライザー一人と戦う事になっていた。

 

「ねぇ、ライザー。もしかしてとは思うけど、リアス・グレモリーに未練ある? 有るなら諸々の問題を何とかしてみせるけど?」

 

「いや? これっぽっちも。じゃあ、精々慢心でギリギリ負けてくる」

 

二人は悪い笑みを浮かべながら顔を見合わせるとゲラゲラ笑い出す。そのままケリィは観覧席へ、ライザーはフィールドへと向かっていった。

 

 

 

 

「おやおや、誰かと思えば俺の眷属に手も足も出なかった赤トカゲ君か。リアス、運がなかったな」

 

「……好きに言っておきなさい。今すぐ貴方を吹き飛ばしてあげるわライザー!!」

 

「さて、出来るならやってみるが良いさ」

 

『それでは開始して下さい』

 

アナウンスが響くと同時にライザーは炎の翼を広げて飛び上がる。それと同時に空を飛べないはずの一誠も飛び立つ。その体に赤い鎧を纏っていた。

 

「其れは禁手っ!? 馬鹿なっ!」

 

「ああ、右手を代償に手に入れた力だっ!」

 

一気に最大値まで倍加した一誠がライザーに殴りかかり、ライザーはその拳に手を沿え拳を受け流した。

 

「なっ!?」

 

「おいおい、何を驚いている? フェニックスだからただ攻撃を受けるとでも思っていたか? 攻撃しても受け流され、当たっても不死の力で倒せない。最強だろ、俺? ……十字架か?」

 

一誠の拳を受け流したライザーの腕に痛みが走る。それは聖なる物に触れた時の痛みだった。ライザーはリアスから放たれる滅びの魔力を避けながら内心笑う。

 

(ああ、これは都合いい。まさに予定通りだ)

 

観覧席で試合を見ているケリィ達は同じように内心で笑う。ここまでの全てに流れが予測取りで予定通りだった。

 

 

 

『相棒! 時間がない早く決めろっ!』

 

未熟な一誠では腕を代価にしても十秒間が限度。加えて二回目は無理。故に短期決戦を狙っていたのだが、ライザーに思わぬ格闘技術があり制限時間は迫るばかりだった。

 

「くそっ! 俺は絶対にお前が部長と結婚するなんて認めねぇっ! 俺は皆の意思を託されたんだ。負けてたまるかよっ!!」

 

「ははははは! いい覚悟だな、小僧! だがな、実力が伴わなければ意味がねぇぜっ!!」

 

ライザーは一誠の挑発に乗るように正面から殴り合う。一誠は力を譲渡した十字架を握った拳で殴りかかるが、ライザーは今度は手首に手を添えて受け流す、体制が崩れた所に蹴りを入れようとするが滅びの魔力が飛んできたのでバックステップで避けて炎を飛ばす。リアスを庇った一誠は炎をモロに受け、それと同時に禁手が解けてしまった。

 

「……もう諦めろ。見ていて痛ましいぞ」

 

「うる…せぇ。俺は…まだ負けて…ねぇ」

 

「もう止めてイッセー」

 

「リアス!」

 

リアスが立ち上がろうとした一誠を止めようとした時ライザーの怒号が響く。ライザーの怒りは頂点に達していた。

 

「……お前、此処まで家を巻き込んで、さんざん眷属に戦わせときながらリタイアするまで戦わない気なのか? 王なら! 仲間が全て敗れても最後まで戦うべきだ! それが自分の為に傷ついた仲間への礼儀であり義務なのだから! お前に王の資格はない!」

 

ライザーの体を包む炎は更に激しく燃え上がり、ジリジリとリアス達に歩み寄る。もはや意識さえ定かでない一誠は言葉を話せる状態ですらないのにライザーに立ち向かい殴り合う。そしてついに腹に一撃を食らって意識を手放した。

 

「……ナイスファイトだった。すまんな、茶番に付き合わせて」

 

その呟きは誰の耳にも届かず、唇を読んだケリィは溜息を吐く。

 

(馬鹿ねぇ。誰かに聞かれたらどうするのよ……)

 

「さあ! お前も王なら気概を見せろ、リアス!」

 

ライザーは威力の弱まった滅びの魔力を片手で弾き、リアスに近づく。

 

『制限時間が過ぎました。この試合、リアス・グレモリー様の勝利です』

 

そして当初の計画の通り、ライザーは最後の最後で圧倒しておきながら勝ちを逃し、リアスとの婚約は解消となった……。

 

 

 

 

 

 

「では、作戦成功を祝して乾杯!」

 

ケリィの声に合わせて他の眷属達もグラスを突き出す。ライザーは最後に余計な事を言った罰として宴に参加させて貰えず、代わりにフェニックス卿が参加していた。

 

「さて、皆よくやってくれた。今回の試合で此方が失ったのはライザーの評価が少し。だが、眷属への評価上昇とグレモリー家及びサーゼクス様への貸しを手に入れられたのは大きい。今日は存分に呑み喰いしてくれ。……それとケリィ。お前に渡す物がある」

 

ケリィは渡された封筒を開けて中身を取り出す。中に入っていたのは上級悪魔昇進試験の案内状だった……。

 




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不死鳥の王と収集家の戦車 ⑩

 アーシアが寝静まった深夜の事、ケリィはベットの上で仰向けに寝転がるレイヴェルに跨っていた。レイヴェルは顔を羞恥に染めながらもケリィから視線を外さず、ケリィもまたレイヴェルから視線を外さない。

 

「じゃあ、脱がすわよ?」

 

 レイヴェルが無言で頷くよりも少し早くケリィの指は寝巻きのボタンに掛かり、上から一個一個順番に外していく。三番目のボタンを外すと今まで押さえつけられていた胸が布地を押しのけて姿を現す。呼吸と共にわずかに上下する胸は青いブラに包まれており、ケリィは指を左右の乳房を包んでいる布の中央の下に潜り込ませると風の魔力で布を切り裂く。

 

「ぁ……」

 

 さらけ出された肌で梅雨独特の湿った空気を感じたレイヴェルの羞恥心は更に増し、期待と不安で鼓動が高鳴る。ケリィはそのまま胸を押さえる役目を果たせなくなった下着をレイヴェルから剥ぎ取ると自分も上着を脱ぎ逞しい上半身を曝け出す。

 

「好きよ、レイヴェル」

 

 そしてそのままレイヴェルの上にゆっくりと覆い被さっていく。上から感じる重みと肌と肌とで感じ合う体温に心地よさを感じたレイヴェルは目を瞑ると両手をケリィの背に回し、強く抱きしめた。

 

 

「私も…私も好きですわっ!!」

 

 

 

 

 

「あ、あの、私、女の人はちょっと……」

 

 目を覚ますと既に時刻は七時を回っており、レイヴェルの腕の中にはアーシアがいる。レイヴェルは布団を跳ね除け、寝起きで起こしに来たのか寝癖が付きパジャマが少し乱れたアーシアに抱きついてベットに引き摺り込む形になっていた。

 

開いたドアの向こうからは朝食を作り終えたケリィが起きてこないレイヴェルに文句を言いながら近付いて来ており、腕の中のアーシアは真っ赤になっている。アーシアはレイヴェルを揺り起こそうとしたのか手を伸ばしており、アーシアがレイヴェルを押し倒し、レイヴェルがそれに応え互いの唇が触れ合う寸前で止まっていた。

 

「ほら、早く起きな……今日は風邪で欠席って連絡しておくわ。いや、まさか身内に百合に目覚める子が居るなんてね。ライザーに言っておいたほうが良いのかしら?」

 

「こ…これは誤解……」

 

「そ…そうですっ! 私はレイヴェルさんに引きずり込まれただけで……」

 

「こらこら、それだったら寝惚けて貴女に抱きついたレイヴェルが同性愛者みたいに聞こえるわよ。さ、早く朝食を食べて身嗜みを整えなさいな」

 

 ケリィはフライパン片手にキッチンに戻ると朝食の支度を追え、二人が身嗜みをする準備を終え、昨日の内に作っておいたオカズと朝食の片手間に作ったオカズを弁当箱に詰める。その頃になって漸く二人がやって来た。

 

「ほら、顔は洗ったわね? 洗ったなら早く席に着きなさい」

 

 テーブルの上には少し遅くても大丈夫な様、サンドイッチ等の食べやすい物で統一され、ケリィもエプロンを洗濯機に入れると食卓についた。

 

「じゃあ、いただきます」

 

「「いただきます!」」

 

 今日も三人の食卓は平和である。なお、レイヴェルはパニックになって忘れていたが、二人が百合に目覚めたのかと勘違いしたはずのケリィは状況をしっかり把握していた。

 

 

(……あれ? ケリィさん、レイヴェルさんが寝ぼけて抱きついた事を理解していた様な。……言わない方が良いですね)

 

 徐々にケリィに染まっているアーシア。もう戻れないだろう。

 

 

 

「やっほー♪ 皆さんお元気ねっ!」

 

「……ケリィ、部室に行くのは良いけどもう少し何か有るでしょう。私達、リアス様達と戦ったばかりですのよ」

 

 その日の放課後、オカルト研究部に何の躊躇いも無く入ってきたケリィは何時もの席に座る。レイヴェルとアーシアは恐る恐る座り、リアス達は戦ったばかりのケリィに対して普通に接してきた。

 

「そんなに固くならなくて良いわよ。貴女達は婚約がなくなったからとは言っても客人なんだから」

 

 リアスは一誠の隣に座りながら微笑む。一誠が自分の為にボロボロになりながら戦う姿を見たリアスは彼に惚れ、両親もその恋を認めているのだ。リアスは今一誠の家で暮らしているという情報も入ってきている。

 

(……貴族としてはどうなのかしらね。一場面の印象だけで決めると大変よ)

 

 内心冷ややかになっているのを隠したケリィはレイヴェル達と共に談笑し、話題はオカルト研究部の部活動に関する事となった。

 

「来週の火曜なんだけどイッセーの家で部活動を行うわ。ケリィ達はイッセーの住所を知っていたかしら?」

 

「ああ、その日は無理よ。アタシ、上級悪魔の昇進試験があるから」

 

「へ? お前、上級悪魔になるの? ま、まさかライザーの様にハーレム作る気じゃっ!?」

 

「まだ合格した訳じゃないわ。それと、合格しても眷属には興味無いのよね。だってこれ以上世話を焼く子が増えたら大変じゃない」

 

「あう~、ケリィさんにはご迷惑ばかりおかけしています」

 

「あらあら、構わないわ。他人の世話を焼くのも結構楽しいもの。……其れとイッセー。貴方、もうライザーとは敵対してないんだから呼び捨ては辞めなさい。今は良いけど、そういうのは公の場では偉い方々の不評を買うわ。部長も王ならば眷属を甘やかすだけじゃなくって処世術も教えなさいな」

 

「……そうね。ちゃんと考えておくわ。そうそう、そろそろソーナが来るんだけど」

 

 リアスがそういった時、ドアがノックされて生徒会長であり偽名で通っているソーナ・シトリーが新人眷属を連れて入ってきた。

 

「失礼しますよ、リアス」

 

「か、会長っ!? なんで会長が?」

 

 

 

 

「はんっ! 俺は最近悪魔になったばかりだが変態のお前なんかに負けるかよっ!」

 

「辞めなさいな、みっともない」

 

「あぁっ? 何ならお前から相手を……」

 

「あら、相手になるわよ? 会長、三秒だけ彼を借りても良いかしら?」

 

「……仕方有りませんね。サジ、相手をして貰いなさい」

 

「うっすっ!」

 

 ソーナは溜息を吐くと匙に許可を出す。ケリィの事を知らない匙はソーナに良いところを見せようと向かっていき、一撃で沈められた。

 

「三秒どころか0・5秒持たなかったわね。喧嘩慣れしてるみたいだけど喧嘩と戦いは違うのよ? じゃあ、アタシは昇進試験の勉強があるから失礼するわね」

 

 アーシアとレイヴェルもアーシアが匙の治療を終えるなり部室から出て行く。

 

 

 

 その晩、ケリィは昔の夢を見ていた。耳と鼻と目を封じられた状態で戦い合い、どちらかが死にまで戦う事への恐怖と生存本能から無理矢理能力を覚醒させるという実験だ。

 

(死にたくない死にたくない死にたくないっ!!)

 

「其処までっ!」

 

 死への恐怖から相手を滅多刺しにしたケリィは終わりの合図を聞いて安堵する。そのまま目隠しが外されたケリィの目には彼が勝った事に落胆する研究者と、絶命した姉の姿が映っていた……。

 

 

 

 

 




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if 霊王の子と乳龍帝 上

注意 この作品には他の二次の主人公の子供とか出てきます。苦手な方はバックを!


それはDD結成から数日後の事。一誠の家に住む女子達の殆どが留守のある日、アザゼルが又しても奇妙な機械を造ってきた。

 

「おい、イッセー。実験台になりやがれ」

 

「嫌っすよっ! アザゼル先生の発明品って、碌な事になった試しがないじゃないっすか」

 

「いい加減にしてくださいっ! 生徒を実験台にしようだなんて……」

 

 何度も被害に遭っている一誠は拒否し、近くに居たロスヴァイセと小猫も止めようとする。そんな中、黒歌が部屋に入ってきた。

 

「相変わらず外は寒いわね。あれ? 何この機械? ひゃっ!?」

 

 黒歌が機械に触れた瞬間、強い光が部屋を包み込む。一誠は思わず黒歌に手を伸ばす

 

「黒歌っ!」

 

やがて光が収まると一誠は黒歌に馬乗りになり胸を鷲掴みにしていた。一誠の手に極上の感触が伝わり鼻血が激しく吹き出す。その姿を小猫はジト目で見つめ、ロスヴァイセは憤慨している。機械はウンともスンとも言わなかった。

 

「……最低です」

 

「ひ、昼間から破廉恥なっ!」

 

「……おかしいな。失敗か?」

 

 アザゼルが弄っている機械は公衆電話程度の大きさの箱に色々と機材がくっついているという物だ。やがてアザゼルは機械から興味を失い、その頃になってリアスの声が玄関から聞こえてきた。

 

「イッセー居るー? お茶にしましょう」

 

「……しょうがねぇ。後で壊すか」

 

 失敗作だと判断したアザゼルは一誠達と共に部屋から出ていく。その数秒後、箱の中から声が聞こえてきた……。

 

 

 

 

 

そして世界は平行世界に移り、冥府にある歴代最強最低の赤龍帝兵藤一誠の城の一室。豪奢なベットに寝転がり、スヤスヤ寝息を立てる少年が一人。年の頃は十七歳程で頭に生えたネコミミがピコピコと動いている。彼の名前は兵藤黒無(くろな)。一誠と黒歌の間に生まれた兵藤家六子にして次男である。そして、気持ちよく眠る彼に忍び寄る影が一つ。小柄な体格に狐耳に狐の尻尾の幼い少女だ。少女は黒無にそっと近づいていき、

 

 

 

「お兄ちゃん、朝だよー!」

 

 腹の上に飛び乗った。だが、掛け布団がフカフカな為か、少女が小さくて軽いからか黒無は動じた様子がなく寝続ける。少女は頬を膨らませ、黒無の上に寝そべると手足をバタつかせ出した。

 

「お~兄~ちゃ~ん! 今日はハイキングに行く約束だよ~!!」

 

玉章(たまずさ)様、そんな事をしたら駄目ですよ? 若様も起きてください」

 

 少女の名は玉章。玉藻の娘で、今年五歳になる末っ子だ。玉章を抱き上げたのは紫銀色の髪をした女性。年の頃は十九程で、服の上からでも分かる形の良さの大きな胸を持ち、顔も少々気弱そうだが美しい。女性に声を掛けられた黒無はようやく目を覚ました。

 

「ふわぁあ。お早う、玉章、ローラ」

 

「おはよー」

 

「はい、お早う御座います、黒無様」

 

玉章は手を挙げて元気に挨拶をし、ローラは深々と頭を下げた。今日は他の兄妹達は用があり、黒無は玉章と一緒にピクニックに行く予定となっていた。

 

 

 

「まずはお祖父ちゃん達の家に顔出して、近くの河原でお弁当食べるからな。其の後はデパートにでも行くか?」

 

「うん! グレンデルがお弁当作ってくれるんだよね? お母さんも作ってくれるって言ったけど、グレンデルの方が美味しいよね」

 

「こ~ら。そういう事は言っちゃダメだぞ。……叔母さんの料理よりはマシだろ? 玉藻母さんも料理上手だし」

 

「……母上よりは遥かにマシです。父上は本音トークが苦手ですから私と弟達しか文句を言えませんが、言おうとしたら笑顔で背後に魔法陣を出現させるんですよ」

 

ローラは顔色を悪くしながら溜息を吐いた。なお、彼女も戦闘時には父から貰った魔剣を手にして弾幕を張りながら向かって行くのだ。どっちもどっちだろう。

 

 

 

 

『ほれよ。三人前の弁当だ。おい、玉章。ピ-マン残すなよ』

 

「……はーい」

 

「任せとけ。俺が見張る」

 

 グレンデルから十段重ねの重箱を受け取った黒無は妹の顔をジッと見て、玉章はさっと目を晒す。どうやら残す気マンマンだった様だ。そんな時、周囲を漂っていた霊達が静まり返り、まるで道を作るように左右に分かれる。廊下の向こうからは一人の死神が向かって来ていた。

 

「やぁ、お早う黒無、玉章、ローラちゃん」

 

「お父さん、おはよう!」

 

「お早う、父さん」

 

「い、一誠様、お早う御座いますっ!」

 

親子だからかラフな挨拶をする二人に対し、ローラは畏まった態度で頭を下げる。一誠はそれを見て笑いながら近づいた。

 

「やだなぁ。ローラちゃんには黒無が世話になってるんだから、そんなに畏まらなくて良いんだよ? 俺としては君が黒無のお嫁さんになる日が楽しみなんだからさ。黒無、ローラちゃん泣かしたら俺もランスロットも黙ってないからね?」

 

「俺、信用ない?」

 

「まぁ、俺の息子だもん」

 

「息子だったら信用しろよっ!」

 

 

 一誠はケラケラ笑う居ながら仕事に出掛け、黒無達も出掛ける準備を始めた。そんな時、ローラが立ち止まって話しかける。

 

 

「あの、黒無様。本当に私もご一緒しても宜しいのでしょうか? 兄妹水入らずの方が……ほら、黒無さまっていうか、他の方々もシスコンブラコンのお集まりですし」

 

「……ローラはランスロットと性格を足して二で割ると良いと思うぞ。それと…」

 

「きゃっ!?」

 

黒無はローラを抱き寄せ、頬に軽く口付けをする。ローラの頬は瞬く間に真っ赤になった。

 

「俺はさ、お前とも一緒に居たいんだぜ? ほら、俺達って恋人じゃん」

 

「……はい」

 

ローラが俯いてモジモジしだした時、黒無の背中に衝撃が走る。準備を終えた玉章が黒無の肩に飛び乗っていた。黒無は先程から立ち上がており、幼稚園程の体格しかない玉章が飛び乗るのは普通は難しい。もっとも、血筋からして普通ではないのだが。

 

 

「はいはい、肩車だな」

 

「うん! じゃあ、れっつごー!」

 

玉章は尻尾を盛大に振りながら前を指さし、黒無は飛び乗った事に対して一言も注意せずに素直に進む。そして、もう直ぐ一誠の実家に直行する魔法陣の有る部屋にたどり着くといった時、三人は強い光に包まれた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、くそっ! マユリの仕業か?」

 

「あ、あの黒無様。お手が胸に……」

 

気付けば狭い箱の中。外も出ようと辺りを触っていた黒無の手はローラの胸を鷲掴みにしていた。

 

 

「あ、うん。わざと触っている。……蹴破るか」

 

肩に似せている(玉章)から強烈なプレッシャーを感じた黒無は壁を蹴破る。メキメキという音と共に部品をばら蒔きながら壁が飛んで行き、部屋の壁に激突した。

 

「きゃっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今、誰か居ましたね」

 

「誰かいたー」

 

ローラはジト目を黒無に向け、玉章は頭をペチペチ叩く。黒無がそっと顔を覗かせると白髪の小柄な少女がコチラをジッと見ていた。

 

 

「……誰ですか?」

 

「あれ? 叔母さん……だよな? 魂が叔母さんだよ」

 

「あっ! ちっちゃいけど白音叔母さんだっ!」

 

「どうして此処に? にしても小さいですね。小学五年生の黒芽(くろめ)様さえもう少し身長と胸がありますよ」

 

 

 

 

「だから、貴方達誰ですか……」

 

 

 

 

 

 

 

「ところで先生。あの機械ってどういう物だったんですか?」

 

「ああ、未来から対象の子供を呼び寄せるって物だったんだ。おっ! ヴァーリも来たか」

 

「ああ。……何か嫌な気がする」

 

『……俺もだ。何やら精神が崩壊しそうな予感が……』




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今日は訂正忘れてた 明日二章訂正 霊感のレイナーレとの関係は無しにしました


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if 霊王の子と乳龍帝 下

「そういえば、あの機械ってどういう物だったんですか?」

 

「……また変な物作ったの、アザゼル?」

 

「うっせぇな。……平行世界の子供を呼び出すって機械だったんだが……」

 

買い物から帰ったリアス達は一誠達と共に午後のお茶を楽しむ。兵藤家に住み着いているオーフィスも黙々とお菓子を口に運んでいたが、ジーッと天井を見ていた。

 

「……変な気配」

 

「変な気配? そういえば白音が部屋から戻ってこないわね……」

 

「木場っ!」

 

一誠は祐斗と共に機械のあった部屋に向かい、他のメンバーも後に続く。騎士の祐斗とゼノヴィアが真っ先に部屋にたどり着いた。

 

 

 

「小猫ちゃん! ……やはり侵入者か」

 

「……リゼヴィムの仲間か? まぁ、捉えてから吐かせれば良い話だな」

 

二人は黒無達の姿を見るなり剣を抜いて向かっていく。だがローラの背後に無数の魔法陣が出現し、無数の魔術が放たれる。二人はそれを避けようとしたが体が動かない。何時の間にか二人の影には針が刺さっていた。

 

「ようじゅつ・カゲぬい!」

 

「あの子供かっ!」

 

二人が玉章の仕業だと気付いた頃には魔術が直ぐ其処まで迫っていた。しかし次の瞬間、ロスヴァイセが張った障壁が二人の前方に出現する。しかし魔術を防ぎきれず障壁は砕かれ、魔術は三人の方へと向かっていく。三人は思わず目を閉じるが衝撃はやってこず、前を見ると魔術が空中で止まっていた。

 

 

 

「母上!?」

 

「あ~! ロスヴァイセさんだぁ」

 

「いや、何でアンタが此処に? 今日は仕事だろ?」

 

 

 

「小猫ちゃん!」

 

「白音!」

 

 

「あっ! お父さん! クロカお母さんも!」

 

「いや、何で父さんと母さんが居るんだっ!? まさか、あの箱はマユリの発明品かっ!?」

 

 

「はぃ?」

 

「ひぇ?」

 

「ほぇ? ……え~と、貴方達はその機械から出て来たのよね? 母さんって、私の事?」

 

「いや、そうに決まってるだろ。ほら、その証拠」

 

黒無は普段は隠している尻尾を出しネコミミを立てる。なお、普段隠している理由は”男の猫耳とか誰得だよ”という事らしい。ちなみに長兄にも狐の尻尾と耳が生えており、同じ理由で普段は尻尾は隠している。

 

 

 

 

 

 

「……あ~、リアス。この騒動、俺の責任か?」

 

「決まってるでしょっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……成る程。何時もと気配が違う気がしたんだが、平行世界の父さん達だったか」

 

「……え~と、お前は俺と黒歌の息子って事で良いんだよな?」

 

「ああ、俺の世界のアンタと母さんの息子だ。ちなみに母親が同じ姉と妹が一人ずつ」

 

リビングで事情を説明された黒無は少し思案しながら話し、玉章は黒無の膝の上で眠そうに目を擦っている。ローラは椅子に座らずに黒無の後ろで控えていた。

 

「貴女は座らないの? え~と、ロスヴァイセの娘の……」

 

「ローラです。私はあくまで黒無様達の護衛ですから」

 

「あら? 貴女はイッセーの子供じゃないの?」

 

「はい。私の父の名はランスロット。一誠様にお使えする騎士で御座います」

 

「まぁ、此奴みたいに少し頭の固い人でさ。俺とローラは公認の恋人なんだから、もう少し軟化してもいいと思うんだけどよ。まぁ、デートの時とかはベタベタ甘えてきて可愛いんだけどな」

 

「く、黒無様ぁ」

 

「……ラブラブね」

 

「好きな相手を褒めるのは当たり前だろ? 気持ちも伝えず他の奴に取られたら馬鹿だぜ?」

 

二人が醸し出す空気にリアス達女性陣は羨ましそうな顔をし、先程からローラの胸をガン見していた一誠は嫉妬のこもった視線を向けてリアスに脇腹を抓られる。アザゼルは黒無が破壊した機械の修復に駆り出されていた。

 

 

「……にしても、俺の知る歴史とは随分違うな。ソーナ・レヴィアタンの眷属のゼノヴィアが取り潰しになったグレモリー家の眷属だったり、玉藻母さんが居なかったり、ロリショタ皇ホモペドンが生きてたり」

 

「……ちょっと待て。なんだ、その不愉快な名前は」

 

「あ、気にしないでくれ。俺の世界のアンタは歴代最強最悪の赤龍帝の父さんに連戦連敗の口だけの戦闘狂な変態だったらしいから。アルビオンはあまりのショックでボケたらしいぜ?」

 

「ヴァーリ……」

 

「お、俺をそんな同情のこもった目で見るな! ……くそっ! 嫌な予感ってのはこの事かっ!」

 

ヴァーリが胃痛を感じる中、小猫が恐る恐る手を挙げた。

 

「……あの、先程気になった言葉が」

 

「何だ、叔母さん? ああ、レヴィアタンは先代の妹が継いだんだ。若手同士の勝負で全勝したのが評価を上げたらしい」

 

「いえ、其処じゃなくて……」

 

「じゃあ、玉藻母さんの事か? 父さんの正妻で腹心の部下だけど? ついでに言うと兄弟の中で一番上の玉兎兄さんと一番下の玉章の実の母親。まぁ、他の子供にも我が子同様に接してくれるけど」

 

「……ちょっと待って。今、イッセーの正妻って言ったけど、私達はイッセーと結婚してないのっ!?」

 

リアス同様に他の女性メンバーも不安そうな顔をする。ロスヴァイセはローラが目の前にいる手前、残念そうな顔を控えていた。

 

「まぁ、別に良いだろ? あくまで平行世界なんだ。……そろそろ時間だな」

 

黒無が時計を見るとちょうど昼ごろ。先程からスヤスヤと寝息を立てている玉章を揺り動かした。

 

「ほら、起きろ。グレンデルの弁当食べるぞ」

 

「……うみゅ?」

 

「グレンデルの弁当っ!? あのグレンデル!?」

 

「ああ、万能の家政龍(パーフェクト・ハウスワーク・ドラゴン)グレンデルだ」

 

「……多分名前が同じだけね」

 

「昔は邪龍だったらしい」」

 

「合ってたっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……にしてもよ、弱いなアンタ」

 

「……俺?」

 

ストレスから吐血して倒れているヴァーリを心配そうに見ていた一誠は黒無に声を掛けられて自分を指さす。黒無は黙って頷いた。

 

 

「こっちのお父さん、私より弱い~」

 

「こら! 幾ら雑魚でも正面から言っちゃダメだろ? 平行世界とはいえ、五歳の娘より弱いなんて!」

 

「……そっちの俺、そんなに強いの?」

 

「歴代最強って言われてる。俺と同じ年の頃には自己流の覇龍、更に発展系を取得し、部下と共にオーフィスさえも倒したらしいぞ」

 

「我、イッセーに負けた?」

 

「あ、此方の無の……リアス・グレモリーもオーフィスを匿ってるのか」

 

「今、無能って言おうとしなかったっ!?」

 

「言ってない言ってない。被害妄想じゃないのか? 直しとけよ」

 

「……疲れるわね」

 

「ちなみにイリナさんは父さんからの同じ様な扱いが板に付いて、今じゃ一流のリアクション芸人。副業で天使やってる」

 

「あ、私はさん付けなんだ。てか、芸人扱いっ!?」

 

「はい。見ていて笑えます。黒無様、一応天使が本業です」

 

「まさかの肯定っ!? うわぁ~ん! あっちのイッセー君はロクでもない性格してそうだよぉ!」

 

「あ、我が父ながらそう思う」

 

 

 

 

 

そんなこんなしている内にアザゼルが修理を終えたと言いに来て、三人は元の世界に戻る事となった。

 

 

「まぁ、色々と楽しかったぜ。イリナさんのリアクション芸が久し振りに生で見れたし」

 

「白音叔母さん、お姉ちゃんより小さかったんだね」

 

「……小さいは余計です。あの、私が聞きたかったのはグレモリー家の取り潰しについてです……」

 

 

 

 

 

「聞かないほうが良いぜ? 俺の知ってる歴史と此方の歴史は違う。ドッチも互いにとって最善の状態ならそれで良いだろ?」

 

「私達は私達。貴女達は貴女達です。……それにしても、今日はピクニックが台無しになってしまいましたね。今日は疲れました」

 

「わたしも~!」

 

「まぁ、埋め合わせは俺がするよ」

 

「……あの、なら今夜、お部屋に行っても宜しいでしょうか?」

 

「あ、良いぜ。ゴムは有るから手ブラで来いよ」

 

「じょ、上半身裸でですかっ!? ……黒無様が望むなら」

 

「いや、違うからな? 俺其処までに思われてる?」

 

「はい」

 

「ローラお姉ちゃん遊びに来るのっ! トランプやろ、トランプ!」

 

「そうですね。では、他の方々も呼べるだけ呼びましょう」

 

「やったー!」

 

 

 

 

 

「……あの三人、仲が良いな。なぁ、イッセー」

 

「何だ、ゼノヴィア?」

 

「今夜あたり、子を作ろう」

 

それから先は何時ものドタバタが繰り広げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヴァーリさんや、儂の朝ご飯はまだかのぅ?』

 

「ぐふっ!」

 

 

今回の被害者・ヴァーリとアルビオン



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聖女と麻婆聖女 氷の覇王の番外編

リククエスト二つ目 昨日の後半は今後追加


償うのも良い。悔やむのも良い。だが、許されたいと思ってはいけない。

こんな感じのセリフだけ思いだしまして…何のセリフかな? もしかしたら二次かも


しかし、いくらなんでも倍加の力って強すぎだと思う ラグナロクの時に14回の倍加で一万六千二百五十倍


ラディツに殺されたオッサンが戦闘力五 ギニュー戦時の悟空の界王拳不使用時が最大九万

九万を一万六千二百五十で割ると約5.5……( ゚д゚)


その物体は果てしなく真っ赤だった。煮え滾る様は灼熱の溶岩に等しく、漂う刺激臭は兵器の如し。そして、其れの完成を待つ者達は期待に満ち溢れていた。その物体の名は――『激辛麻婆茄子』。

 

 

 

「わぁ、美味しそうですね!」

 

 アーシアは取り皿を食卓に並べながら匂いを嗅ぐ。常人ならば悶絶して気絶する程の刺激臭を持つ麻婆茄子だが、それが大好物の彼女達からすれば良い匂いでしかない。その日は夏休みに入ったばかりのとある日。時刻はそろそろ昼前といった所だ。

 

「さて、私は副菜の用意をしよう。アーシアはイリアを起こしてきてくれたまえ」

 

「えぇっ!? まだ寝てるんですかっ!?」

 

「まったく、仕方のない奴だ。昨日はパンドラと飲み明かしたらしく、帰ってきたのは早朝なのだ。やれやれ、我が姪ながら情けない。……おや、そのカメラは?」

 

 クロードの目に止まったのは一台のカメラ。ただし、レンズが右側面からも出ており、下を見るとパンドラのマークが刻まれている。クロードは即座にカメラから手を離した。

 

「触らぬ神に祟りなし、だな。いや、神は死んでいたか。くっくっくっ。これはウッカリしていたな」

 

「そうですよ、叔父さん。……パンドラさんの発明品なら碌な事になりませんね。あの人、天才だけどマッドですから」

 

 神が死んだ事を平然と話す元聖職者二人。この二人にも一応信仰心はあったのだが、”死んだ者に何時までも縛られるのは馬鹿らしい”、と気持ちをあっさり切り替えていた。とりあえずカメラが誤作動しないように別の場所に置こうとした時、ようやくイリアが起きてきた。クセ毛の目立つ金髪は更に跳ね回り、アルコールとニンニクの匂いをプンプンさせている。普段は尻尾を振って駆け寄るベンも今日は離れていた。

 

 

「ふわぁ~。おはようッス」

 

「もう昼だ。早くシャワーを浴びて食卓につきなさい」

 

「姉さんっ! 幾らんなんでもだらし無さすぎです。私にソックリなんですから恥ずかしいです」

 

「いや、ボクが先に生まれたんだから、アーシアがボクにソックリなんッスよ?」

 

「いや、原作キャラ私の方が先に決まっているじゃないですか」

 

「……メタ発言はよしたまえ。それなら私は金ピカの世話をする事になるぞ。正義の味方を目指す少年と戦う事になるが良いのかね?」

 

「叔父さんのもメタ発言ッスからねっ!? ……ありゃ? そのカメラなッスか? はい、チーズ」

 

イリアはカメラに手を伸ばし、何の躊躇いもなくシャッターを押す。レンズの先はアーシアに向いており、麻婆茄子の大皿を持っていたアーシアはそのまま決めポーズを取る。その瞬間、アーシアの姿が掻き消え、側面のレンズの先にアーシアが出現した……。

 

 

 

「……ほぇ? 此処は?」

 

 現れたアーシアは状況が飲み込めないらしく周囲を見渡している。そんな時、イリアの携帯が鳴る。着信先はパンドラだ。

 

『イリアさん、私の新発明知りませんか? 対象にレンズを向けてシャッターを押すと、並行世界の其の人を召喚出来るんです。しかも、そんな凄い装置なのに軽さはカメラと同じなんですよっ! ……ふふふ! 私の科学力は世界い……』

 

イリアは途中で通話を切った。

 

「……面倒な事になったッスね」

 

「パンドラの発明品なんだ。厄介な事になるに決まっているだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして此処はアーシアがひ弱な少女で赤龍帝でもなく、人間の時点で上級悪魔をボッコボコにも出来ない世界。この世界も夏休みに入ったばかりで一誠の家に眷属の殆どが住んでいる。そして、一誠の家にアザゼルがやって来ていた。中央には大掛かりな機械、左右に椅子を乗せた台座が付いている。そして、その右側にアーシアが座っていた。

 

「ちょっと、アザゼルっ!? アーシアに何する気っ!?」

 

「心配すんな。ちょっと平行世界のアーシアを呼び出すだけだからよ。いやぁ、適性があるの此奴だけでよ。……副作用はないから安心しな」

 

「……平行世界のアーシアかぁ。てかっ、見てみたいとか思ってる場合じゃねぇっ!」

 

一誠は慌てて止めようとするがアザゼルがスイッチを押す方が早い。装置は直ぐに発動し、左側の台座にもう一人のアーシアが出現する。

 

「おぉっ! まさか本当に成功するとは……ありゃ?」

 

それと同時に右側に居たアーシアの姿が掻き消えた。その光景に其の場に居ない祐斗とギャスパー以外の眷属とアザゼルは固まり、漂ってきた刺激臭に全員が鼻を押さえる。その刺激は凄まじく、歴戦の戦士であるアザゼルさえも苦痛に顔を歪ませた。

 

「は、鼻が痛いっ!? くっ! 新手のテロかっ!?」

 

「くそっ! アーシアは一体……」

 

「あの~、皆さん、どうしたんですか? あっ、此の儘だと麻婆茄子が冷えちゃいますね」

 

そんな中、刺激臭の発生源を持ったアーシアは麻婆茄子が冷える事を心配していた……。

 

 

 

 

 

「……つまり、パンドラが危険な発明品を飲み屋に持って行き、イリアが酔っ払って持ち帰った事が原因なんだな?」

 

 クロードから連絡を受けたリゼルは頭痛を堪えながら状況を聞き出す。その隣のレイヴェルも頭が痛そうにしていた。そんな中、アーシアはというと、

 

 

 

「あ~ん! コッチのアーシアも可愛いッスね~♪ 少し小さい所とかキュートッス。特に色々とハッチャケて無さそうな所とか」

 

「ひゃうんっ!?」

 

イリアに抱着かれ、色々と弄られていた。やがて見かねたのかクロードが引き剥がしアーシアに笑みを向ける。その笑みにアーシアは恐怖を覚えた。

 

「え、え~と。この世界の私の…叔父さん…で良いんですよね?」

 

「ああ、私は此方の君の母方の叔父だ」

 

「ボクは実のお姉ちゃッスよ」

 

「お姉…ちゃん…?」

 

 アーシアは実の親に捨てられて施設に入ったので本当の家族の顔を知らない。だが、こちらの自分には本当の家族が居る事を知り、少し羨ましくなった。

 

 

「う~ん。やっぱ、昔みたいな呼び方も良いッスねぇ。可愛い妹にはさん付けじゃなく、ちゃん付けで呼んで欲しいッスよ」

 

「……やっぱり少し羨ましくないかも」

 

 

「……話は済んだか? さて、アーシア・アルジェント。俺は此方の世界のお前の王のリゼル・シトリーだ。此度の事申し訳ない。馬鹿共には厳重な処分を下そう」

 

「……馬鹿? 少し聞き捨てなりませんね」

 

「パンドラ、黙る。パンドラは天才だけど、馬鹿」

 

「……さて、パンドラの解析によると今日の夕方には両方とも戻れるらしい。それまでゆっくりしていてくれ」

 

「あ、はい。……あの、シトリーという事は生徒会長の?」

 

「ああ、ソーナ・シトリーは俺の叔母だ。……一つ聞きたい。母上……セラフォルー・レヴィアタン様はどの様な格好をしている?」

 

「魔法少女ですけど。……えぇ!? 母上っ!?」

 

 リゼルは地に手を付き膝を折る。平行世界でも母は魔女っ子だった。その事に胃がキリキリ痛み頭痛が増す。その肩にポンッと手が置かれた。

 

 

「リゼル、元気出す。多分、アッチには子供居ない」

 

「……つまり、此方は子供が居るのに子がいない時と変わらないって事だぞ」

 

「どんまい?」

 

 

 

 

 

 

「……気を取り直して話を進めよう。此方は昼時だが、そっちは昼食は済んでいるか? まだなら何かご馳走しよう。それとも行きたい所は有るか?」

 

「あ、はい。お昼は済んでいます。皆さん食べていないのならお食べ下さい。……あの、行きたい所はありませんが、会ってみたい人は居ます。此方のイッセーさんにお会いしてみたいです」

 

「イッセー? ……ああ、退学になった兵藤一誠か。なんで彼奴に会いたいのだ?」

 

「え? イッセーさんが退学にっ!? ど、どうしてですかっ!?」

 

「覗きをしてクロードに捕まったからだ」

 

「……あ」

 

「……其方の兵藤一誠も覗きをしているようだな。さて、どうしてその様な者と会いたいのだ?」

 

「イ、イッセーさんは私の初めての友達ですし、レイナーレ様の所から助けようとしてくれました」

 

「む? あの程度の堕天使なら楽に倒せるだろう? ……それと、ゼノヴィアとは友達にならなかったのかね?」

 

「え?」

 

「え?」

 

両方のアーシアの辿ってきた道は余りにも違い過ぎる。それが何とも言いようのない空気の原因となった……。

 

 

 

 

 

 

「え~と、此方の大掛かりな装置のせいで平行世界に来てしまった、って事で良いんですよね?」

 

「……そうだけど、妙に冷静ね」

 

「はい。グダグダ悩んでも仕方がありませんし。あっ! 此方のゼノヴィアも部長の眷属なんですね」

 

「あ、ああ」

 

一方、もう片方のリアス達はアーシアの空気に押されていた。自分達のアーシアと違い、今居るアーシアは活発的で、

 

「……大きいわね」

 

「大きいっすね」

 

 リアスの視線はゼノヴィアと同程度の身長に。一誠の視線はゼノヴィアと同程度の胸に注がれている。そんな時、アーシアが一誠の方を向いた。

 

「あの、此方の方は誰でしょうか?」

 

「……え? あの、アーシア? あっ! アーシアと呼ばせて貰うわね。貴女の世界にはイッセーが居ないの?」

 

「あ、イッセーさんというんですね。はい、一度も会った事のない方ですよ」

 

「……あの、アーシア先輩。だったらどうして悪魔になったんですか?」

 

「私を連れ去ろうとしたので返り討ちにした悪魔が私の死んだお母さんが魔女として追放されたエクソシストだったってバラしたせいで教会を追放されて、何か企んでそうな堕天使が近づいて来たので探ろうと騙されたふりをして、悪魔になっていた生き別れの叔父さん兼育ての親と再会したので堕天使をボッコボコにして悪魔になりました」

 

「ワイルド&アグレッシブッ!? ラ、ライザーと私の婚約は?」

 

「え? ライザーさんってレイヴェルさんのお兄さんですよね? リゼルさんとレイヴェルさんが婚約の何方かを選ぶ事になって、部長との方は破談になったって聞きましたけど?」

 

「……え~と、貴女の所も夏休みなのよね? コカビエルの一件や三すくみの会談でのテロは?」

 

「コカビエルさんは再会した姉さんと叔父さんが倒しましたよ。そして会談でヴァーリさんが裏切りましたけど、私が赤龍帝としてボッコボコにしておきました♪」

 

「……ねぇ、イッセー。世界が変われば色々と変わるものねぇ……」

 

アーシアの話を聞いたリアス達はすっかり疲れ、一誠などは目が虚ろだ。それほど目の前のアーシアは自分達が知るアーシアと違いすぎた。

 

「は、はい。もう、彼方と此方では別人ですよ。……あの、アザゼル先生。此方のアーシアは何処に行ったんですか?」

 

「ああ、それなんだがな。どうも同じように平行世界に飛ばされたみてぇなんだ。まぁ、何時頃か分からねぇが、今日中には帰ってくるからよ。……所で今、アーシアが赤龍帝って言わなかったか?」

 

「あ、はい。堕天使の……レイナーレでしたっけ? レイナーレさんが抹殺対象から抜き取ったけど、雑魚だから要らないと倉庫に放り捨ててたのを回収したんです」

 

「其方の俺、死亡っ!?」

 

「そして、これが私が独自に進化させた『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』改め、『赤き麻婆龍帝(ウェルッシュ・マーボー・ドラゴン)』です!」

 

『……さて、此方の俺……羨ましいだろうっ! 自由に動ける体だぞっ!』

 

『ぐっ! くっくぅ。う、羨ましいぃぃぃぃ! だが、なんだその名前はっ!?』

 

『名前なんて飾りです。偉い人には其れが分からんとです。……相棒、燃料が切れかけだ。新しい麻婆を……って、それは勘弁してく、あぎょべぇぇぇぇぇぇぇっ!?』

 

 激辛麻婆茄子を口に流し込まれたドライグは泡を吹いて悶絶し、アーシアはその麻婆茄子を美味しそうに食べだした。

 

 

 

「……ご飯が欲しいですね」

 

 

その後、ようやく冷静さを取り戻したアザゼルがアーシアの神器を調べたがるも、丁度時刻は夕方。パンドラの解析通りに二人のアーシアは元の世界に戻って行った。

 

 

 

 

 

「おかえり、アーシアぁぁぁっ!!」

 

「ふぇっ!? み、皆さんっ!?」

 

アーシアの姿を見るなりリアス達は抱き着く。此方のアーシアは模擬戦でデュランダルを真剣白刃取りしたり、拳圧で朱乃の雷を吹き飛ばしたり、禁手状態の祐斗と一誠を同時に相手にし、禁手を使わずに勝つ様な事は出来そうになかった……。

 

 

 

「……お姉ちゃん、か。やっぱり、羨ましいなぁ」

 

 その後、アーシアは偶にリアス達をウッカリして”お姉ちゃん”と呼ぶ事があった。




アンケートで霊感一行が行く世界候補の提案があったディスガイア系とのクロス(1の魔人のオリキャラをレイナーレの元にいる時のアーシアが召喚してしまう)や、氷の覇王がゼノヴィア×ギャスパーになりそうなので、そのr18(ギャスパー攻め)とか浮かんできた(笑)


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暴虐の魔人 (お試し)

この魔人はディスガイア無印の魔人(最高ランク)だと思いください


 世界と世界の間にある”次元の狭間”。その中を一枚の紙が漂っていた。紙には魔法陣と奇妙な文字が記されており、何かの契約書のようだ。

 

「?」

 

 その紙を一人の少女が手に取り無表情で眺める。少女が引っ張っても破こうとしても紙はビクともせず、興味を失った少女は紙を捨てる。その時偶々空間に穴が空き、紙はその穴に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

「……イッセーさん」

 

その少女、アーシアが兵藤一誠と言う少年と友達になったのはつい先程の事。だが、彼女の上司である堕天使レイナーレによってアーシアは教会に連れ戻され、今は儀式の準備が終わるまで自室で待機している。そして、儀式の末にはアーシアは死ぬ。逃げ出そうにも外には見張りが居て、そもそも逃げる気力すら残っていない。アーシアは大きく溜息を吐いた時、背後から何か軽い物が床に落ちる音が聞こえてきた。振り向くと其処に有ったのは先程の紙。

 

 

「これ、なんでしょうか……きゃっ!?」

 

アーシアが触った途端に紙に書かれた魔法陣が輝き、中から一人の男が現れる。鎧のようなコートを羽織り、逆立つ髪に鋭い眼光。そして、人とは思えない皮膚の色と威圧感を発していた。

 

 

 

「俺を喚んだのは貴様か? 虫ケラ」

 

「は、はひぃっ!?」

 

男から発せられる威圧感に耐え切れなかったアーシアは腰を抜かし呂律も回らない。男はそんな彼女の姿を見て見下す様に鼻を鳴らすと紙を拾い上げた。男は新たに紙に現れた文字を眺め、不機嫌さを隠そうともせず髪を握り潰す。放たれる威圧感は益々増し、アーシア排気すら満足に出来ず壁にはヒビが入り始めた。

 

 

 

「……契約内容は”助けて”か。随分と漠然とした願いだな。……っち! 虫ケラが死ぬであろう八十年間の警護となっている。まぁ、良い。契約は契約だ。おい、虫ケラ」

 

「わ、私の事でしょうかっ!?」

 

「この場所に貴様以外に誰が居る。……貴様、もしかして俺を喚びたくて喚んだ訳ではないな? ふん! 無償で契約せねばならぬ上に、相手がこの様な小娘とはな。さて、まずは此処を出るか」

 

男は一方的に話すとアーシアを片手で担ぎ上げ、壁に向かって拳を振るう。それだけで壁は吹き飛び、直線上に居たはぐれ悪魔祓い達は赤い霧になって風に飛ばされる。

 

「貴様っ! 何も…」

 

「黙れ羽虫」

 

教会内に居た堕天使ドーナシークが光の槍を出して襲いかかるが男が掌を向けると光弾が放たれ、着弾した場所が半径五メートルに渡って吹き飛びドーナシークは影すら残っていない。アーシアはただ恐怖し黙っている事しかできず、そのまま男が宙に浮かんだ事で浮遊感に襲われる。男はアーシアの状態など気にした様子もなく指先を教会に向けた。

 

「クール」

 

協会の敷地全体が凍りつき音を立てて砕け散る。教会の廃材に混じって人の体の様な物がチラホラ見て取れた。

 

「ひっ!?」

 

「黙れ殺す……ああ、出来ないのだったな。まったく、酒の席とはいえ馬鹿な物を作った物だ。おい、虫ケラ。俺の名はゼオン。特別に名で呼ぶ事を許してやる」

 

「は、はい。私は…」

 

「虫ケラの名など覚えん。故に貴様が名乗る必要はない」

 

ゼオンはアーシアに一方的に言葉を告げ、そのまま地面に降り立つ。彼が指を鳴らすと宙に穴が空き、ペンギンのヌイグルミもどきが飛び出してきた。

 

「おい、プリニー共。金が無いか探せ。一時間以内だ」

 

「ラジャーッス!」

 

ペンギン、プリニー達はゼオンに敬礼すると瓦礫をひっくり返し始める。ゼオンは木を背にして居眠りを始め、三十分程経過した頃に一匹が金庫を持ってきた。ゼオンは金庫の中身を全て取り出して小さな袋に全て入れるとアーシアの襟首を掴んで歩き出す。

 

「あ、あの、ゼオンさん? そんな小さい袋に何であれだけのお金が? それと、今から何処に行くのでしょうか?」

 

「腹拵えだ。……それと言っておくぞ虫ケラ。俺は契約で貴様の身を守るが、従者になった訳ではない。精々肝に銘じておけ。寸の間しかない人生を謳歌したければな」

 

その声を聞いいた瞬間、アーシアは生きたまま心臓を引き抜かれるかの様な感覚に襲われた……。

 

 

 

 

 

 

 

「二人共、サンキュ!」

 

その日の夜、堕天使に殺されそうなアーシアを救う為に一誠は教会に乗り込む事を決意し、同じ眷属のメンバーである小猫と祐斗も助力を申し出る。

 

 

 

 

 

 

 

「……何の騒ぎでしょう?」

 

教会が見える場所にあるハンバーガー屋の近くまで来た時、小猫は教会の方を指差す。その場所から見えるはずの教会は見えずパトカーが集まっている。そして、近くに有るハンバーガー屋では百個を優に超す量のハンバーガーをハイペースで食べ進む強面の男と金髪でシスター服の少女の姿があった。

 

 

 

「アーシアっ!?」

 

一誠は慌ててハンバーガー屋に飛び込みアーシアに駆け寄った。

 

 

 

「アーシア! 無事だったのかっ!」

 

「イッセーさん! はい! この通り無事ですっ!」

 

二人は再会を喜び合い、途端に寒気に襲われる。ゼオンが不快そうな視線を送っていた。

 

 

「黙れ虫ケラ共。今は食事中だ」

 

放たれる殺気に一誠は震え、一般人である店員や他の客は気絶する。実戦経験のある祐斗や小猫でさえ顔を青褪める中、残ったハンバーガーは全てゼオンの腹の中に収まった。

 

 

「おい、行くぞ」

 

ゼオンはアーシアを連れてその場から立ち去ろうとし、漸く我に帰った一誠達が立ち塞がった。

 

「待てよ! テメェ、堕天使の仲間か? っていうか、アーシアを何処に連れて行く気だっ!」

 

「悪いけど、貴方をこのまま黙って行かせる訳にはいかないんだ。ついて来て貰うよ」

 

「あ、あの、皆さん。この人は……」

 

アーシアは途中で言葉を切る。ゼオンからは濃密な怒気が放たれ、一誠達はその場に膝を付いて喉を抑えていた。強烈なプレッシャーに耐えられなかった三人は呼吸が出来ずに苦しそうな顔をしている。

 

 

 

「……先程から耳元をブンブンと飛び回りおって。やはり、虫ケラは巣ごと駆除せねばならぬか。おい、虫ケラ。貴様は俺の直ぐ傍に来い。この街を吹き飛ばす」

 

「そんな!? なんでそんな酷い事をっ!?」

 

「黙れ虫ケラ。弱き者には生きる価値など無い。故に俺が殺す。それの何がいけない?」

 

ゼオンの周囲は崩壊を始め、天に向けた手の先には巨大な魔力の塊が浮かんでいる。それが言葉の通りに街を吹き飛ばす事が出来る威力を持っている事をアーシアは本能で悟った。そしてゼオンはアーシアの服の裾を掴むと強引に引き寄せ魔力を放とうとする。その時、空に穴が空き、中から巨大な赤い龍が出現した。

 

 

「……アレと殺りあってみるか」

 

ゼオンは嬉しそうな顔をすると龍に向かって飛び上がり、ゼオンが龍を穴に蹴り入れると穴は塞がる。その場に静寂が訪れた。

 

 

 

「……た、助かったのか?」

 

「……その様ですね」

 

「そうだ! アーシア! 部長の所に行こう! 何か知恵を出してくれるはずだ!」

 

ゼオンが消えた事に安堵した一誠達はアーシアを連れて旧校舎まで向かう。出かけていたリアス達も戻っており、アーシアから事情を聞き出した。

 

 

 

 

 

 

「……そう。多分それは契約用のチラシね。多分、他の家のチラシが何らかの理由で私の管轄地に紛れ込んだんだわ」

 

「でも、部長。ゼオンなんて聞いた事がない名前ですわ」

 

「多分新人の転生悪魔じゃないかしら? 強力な神器を持っていて得意になってるのよ。実家の方に連絡して罰して貰うわ。……それよりアーシア。貴女、行く場所がないんでしょ? 私の眷属になる気はないかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

「それは困るな。護衛が面倒になる。……あの龍、少しは楽しめたな」

 

リアスがアーシアを勧誘しようとした時、天井からゼオンが降り立つ。その服には少々の返り血が付いているが、ゼオン自体には傷一つ見受けられなかった。

 

 

 

「……此処はグレモリー家の管轄地。貴方、それを知っていて侵入したのかしら? 悪魔の様だけど、誰の下僕なの? 家間のルールくらい知ってるわよね?」

 

「下らん! 力無き悪魔が違う悪魔に全てを奪われるは世の摂理。弱肉強食こそが悪魔の全てであろう? 詰まらんルールなど口にするな、虫ケラ」

 

「……そう。敵と言う事でいいのね?」

 

「何を馬鹿な事を言っている? 羽虫が龍の敵になれる訳がないだろう?」

 

「巫山戯ないで! 馬鹿にしているのっ!?」

 

「至極真面目だが馬鹿にはしているな」

 

直後、ゼオン目掛けて滅びの魔力と雷撃が同時に放たれる。その結果、ゼオンは無傷で佇んでいた。

 

「……今ので攻撃したつもりか? 実に下らん。これならプリエの兵の方が百倍強いぞ。この世界の悪魔は随分と弱いのだな」

 

「その言葉、貴方が別の世界から来たように聞こえけど?」

 

目の前の相手には敵わないと悟ったリアスは情報だけでも引き出そうとする。対するゼオンは目を丸くして驚いていた。

 

「……いや、世界が幾つもあるのは常識だろう? ……本当に知らんのか?」

 

「……世界って冥界と人間界と天界の三つでしょ?」

 

 

 

 

 

「……違うな、貴様の言った冥界、悪魔の棲む魔界は俺が知っているだけで数百万は存在する。無論、魔界によって強さはバラバラだがな。俺はその中の一つからやって来た……魔人だ」

 

 




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暴虐の魔人 ②

一誠ってヴァーリ初戦で約43億倍になってるんだよね 以降これが出来てたら傷つかなかった仲間もいるし、仲間をもっと守れていたはずだよね?

真女王とかに入れるまでは精々が15回で三万倍ほど (・3・) アルェー?

両親や仲間や友人の夢を守る為で出せない力がリアスの胸を守る為には出せたって。アーシア助ける時もフェンリル戦という圧倒的強者との戦いの時も出せず。胸の大きさの時は出せる

……カーッ(゚Д゚≡゚д゚)、ペッ


一誠がアンチされる訳だよ いや、戦闘中の出来事なんだからギャグ描写で済ませたらいけないと思うな。実際それでヴァーリを追い詰めたんだし


「……別の世界から来たって。まさか冗談でしょ?」

 

「ふむ。やはり無知な虫ケラに信じさせるには実際に見せる必要が有るか。小娘に渡す物もあるしな」

 

「うわっ!?」

 

ゼオンから告げられた言葉に対しリアスは信じられないっと言った顔で笑う。それに対しゼオンは少し考え込むと腕を振り、部室内にいた全員は浮遊感に襲われる。直ぐに衝撃がやって来て、ゼオンと光の壁に包まれたアーシア以外のメンバーは床に転がった。そして窓から外を見ると、

 

「あの、部長? 外に見慣れない生物がいるんですが……」

 

「……私もあんな生物なんて見た事がないわ」

 

窓の外には見慣れない風景が広がっており、奇妙な生物が飛んでいる。そして見渡す限り一面荒野になっており、すこし先に城らしき建物があった。

 

「さて、これで理解できたか、虫ケラ? 行くぞ、小娘。貴様らもついて来たくばついて来い」

 

「へ?あの、ゼオンさん? きゃっ!?」

 

ゼオンはアーシアの襟首を掴んで担ぎ上げ、壁を蹴破って城へ向かって歩いていく。リアス達もそのあとに続くがゼオンの歩みは早く、直ぐに置き去りにされてしまった。

 

「……血の匂いが充満しています」

 

小猫は鼻を押さえながら呟く。リアス達の鼻にも濃厚な血の臭いが漂ってきており、一行は鼻を押さえ顔を顰めながら城にたどり着く。どうやら話は済ましているらしく門番らしい首なし騎士(デュラハン)の同族はリアス達を黙って通した。

 

 

その頃、城の中を担ぎ上げられたまま移動するアーシアに無数の視線が注がれる。カボチャ頭にナイフを持った異形や切り株に顔がついた怪物。中には裏側にトゲがビッシリ生えた服を着ている男も居て、その耳は尖っていた。

 

「人間……?」

 

「……少し昔に来た地球勇者以来か?」

 

「しかし、余りにも弱い。何故あの様な雑魚を?」

 

アーシアに送られるのは侮蔑と奇異な物に送られる視線。それを感じたアーシアが居心地の悪さを感じていた時、反対側から龍の頭を持つ石像(ガーゴイル)が近づいてきた。

 

「ゼオン様、その人間は?」

 

「……例の契約書を発動させた小娘だ。此奴を八十年ポッチとはいえ守らねばならぬからな、何か適当な装備を持って来い」

 

「はっ! では、『堕天使の杖』『ホーリーオーブ』『武神ジャケット』『テスタメント』では? 全てレベル百で御座います」

 

「構わん。どうせ此奴の居る世界の悪魔共は雑魚だ。それで十分だろう」

 

ガーゴイルはゼオンに一礼すると倉庫らしき扉に向かって行き、その頃になってリアス達が追いついて来た。

 

「や、やっと追い付いたわ。……どうやら貴方の言った事は本当のようね。……それにしても、此処は異常ね。最上級悪魔クラスの上位に入りそうな魔力の持ち主がゴロゴロ居るんですもの」

 

「……貴方は魔王でしたか?」

 

「魔王の座などには興味ない。先代魔王のクリチェフスコイと共に魔界を統一し、俺は大公の地位を貰った。さて、小娘の装備を受け取ったら帰るぞ。……契約で小娘が暮らすのは元の世界となっているからな」

 

ゼオンは腕組をしながら指を動かして腕を叩く。明らかに不機嫌そうな態度にリアス達は何も言う事ができず、アーシアは戻ってきたガーゴイルから渡された装備品を身に付ける。全て装備した時、アーシアからはリアスの兄である魔王を越す力が放たれていた。

 

「さて、かなり脆弱だが髪の赤い虫ケラが幅を利かす程度の世界なら問題あるまい。帰るぞ」

 

「ちょ、ちょっとっ!? なんなの、この子が装備してる物はっ!? 一個一個が途轍もないわよっ!?」

 

「知るか。この世界ではそれ程貴重な物ではない。ああ、貴様ら虫ケラにとっては貴重なのか。……むっ」

 

リアスを見下す様に鼻を鳴らすと、ゼオンは再びアーシアを担ぎ上げて窓から飛び降りようとする。その時、廊下の向こうから一人の女悪魔が近付いて来た。肌を隠す機能を殆ど持っていない淫靡な服装に色香漂う肉体。頭に映える角や背中の羽やお尻の尻尾は悪魔をイメージさせるものだ。彼女の種族は夜魔女性ばかりの種族で異性を誘惑して精気を吸い取る能力を持つ。

 

「うふふ。ゼオン様ったらイケズですわね。折角帰っていらっしゃったのに、もうお出かけになるのですか? まったく、気紛れであの様な契約者をお作りになるだなんて……」

 

「……ああ、そうだ。暇ができたら相手をしてやるから我慢しろ、リリネット」

 

リリネットと呼ばれた夜魔はゼオンの腕を豊満な腕で挟み身をすり寄せる。その姿に一誠は鼻血を流し、祐斗でさえ鼻を押さえながら前屈みになっていた。

 

「あ、あの、ゼオンさん? この方は?」

 

「私とゼオン様の関係? セフレよ、セフレ♪ 私は沢山ご奉仕して、ゼオン様は上質で濃厚な精力を下さって、互いに気持ちよくなる関係。あっ! 色気も汁気も足りない小娘には分からないか。じゃあ、近い内に……」

 

リリネットはゼオンに軽く口付けすると城の奥に向かって歩いていく。その際、アーシアと小猫の胸を見て鼻で笑っていた。

 

「……ムカつきますが、私では絶対に勝てません」

 

「いや、小猫ちゃんみたいな体型でも需要はあると思うよ? ね? 兵藤君」

 

「そ、そうそう。世の中にはロリコンって種族が……」

 

「……体型ではなく力の事ですが?」

 

小猫が祐斗と一誠を見る目は絶対零度すら生温く、リアスと朱乃はそれを呆れた様に見つめている。そんな中、アーシアの場違いな声が響いた。

 

「あの~イッセーさん。”セフレ”って何でしょうか?」

 

「……さ、さぁ。俺には分からないな」

 

一誠は仲間に視線で助けを求めるが一斉に目を背けられる。ゼオン以外の全員がアーシアの純粋無垢な瞳に耐えられず、本当は分かっているのに誤魔化すしかなかったのだ。

 

「と、所で何で急にそんな事を?」

 

「は、はい! 先程の方が気持ち良くさせるって仰っていましたし、これからお世話になるなら。私もゼオンさんの”セフレ”になった方が良いのかと思いまして」

 

全く意味を理解していないアーシアはとんでもない事を口にし、ゼオン以外の意味を理解していた面々は顔を赤らめる。教えた方が良いのか教えない方が良いのか迷う中、ゼオンが空気を読まずに口を開いた。

 

「貴様の様な小娘を犯す趣味はない。そもそも誰が事の最中に死んでしまいそうな脆弱種族と交わるか馬鹿者」

 

「え? 犯す? ……あの~、もしかしてエッチな事をする関係って事でしょうか?」

 

アーシアは周囲の空気からそれが正解だと気付き、あまりの羞恥心から気絶した……。

 




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ラスボス番外編 ラスボスだけじゃなかったら 毛玉と魔女とマザコン

さて、この話の前に一話追加してます 11・7 22;28


 早朝の事、セットされた時間までまだ少し有り、部屋の主はベットの中で眠っていた。すると部屋のドアがそっと開けられて一人の少女が入ってくる。少女は部屋の主が眠っている事を確かめると服を脱ぎ、起こさないよう静かにベットに潜り込んだ。

 

 

「うわぁああああっ!?」

 

そして目覚ましの音で目を覚ました部屋の主はベットの中の少女に気付いて大声を上げ、少女は眠そうに目を擦りながら起き上がった。

 

「うふふ。お早う御座います、やっくん」

 

「お、お早う御座います、朱乃さん」

 

部屋の主の少年である柳は恥ずかしそうに顔を逸らしてはいるが、チラチラと視線を朱乃の方に向けている。勿論その事は気づかれており、朱乃はイタズラッポイ笑みを浮かべるなり柳に抱きついた。その時である。ドアが開いてエルフ耳の女性が顔を覗かせたのは。

 

「ちょっと、柳。早朝から騒がない…の……避妊はするのよ?」

 

ドアはゆっくり閉じられ、鍵が勝手にかかる。防音の魔法まで掛けられ、部屋でナニをしようとも外には漏れなくなった。

 

「メディアさん公認という事で……優しくしてくださいね?」

 

「母さんっ!? ちょ、誤解ですすってばっ! 朱乃さんも朝から色仕掛けは止めてくださいってばっ!」

 

「……夜なら良いんですね? では、今晩お邪魔しますわ♪」

 

少女…朱乃はクスクス笑うと服を着て部屋から出ていく。後に残された柳はドッと疲れた顔をしていた。

 

 

 

 

「おや、お早いですね。……色々な意味で」

 

「……お早う御座います、マザコン(兄さん)

 

柳が部屋から出てくると平安貴族風の装束を身に纏った青年が挨拶してくる。品の良さそうな笑みを浮かべているが朝から下ネタを言ってくる彼に柳は満面の笑みで返した。

 

「おはよう、柳兄さん、晴明兄さん」

 

「ええ、お早う御座いますベクトール」

 

柳達の後ろから近付いて来たのは西洋人の少年。ニコニコと無垢な笑みを浮かべながら二人に近づいてくる。彼の名前はベクトール。柳と青年…安倍晴明の弟の様な存在だ。そして柳の部屋にやってきた女性…メディアを合わせた四人は家族の様な関係を築いていた。

 

 

 

「貴方達、今日は仕事や学校が休みだからってノンビシし過ぎちゃ駄目よ」

 

「ええ、分かっていますよ母さん。取り敢えず今日は魔術工房の作成を試してみようかと思います。兄さん、手伝って下さいますか?」

 

「良いですよ、柳。そうだ、ベクトール。今日は午後から遊園地にでも行きますか?」

 

「本当っ!? やった! 幸せだなぁ…シアワ…セ…」

 

嬉しそうな顔をしたベクトールの体は徐々に変化し出し、やがて巨大な毛玉の化け物のような姿になっていく。鋭い牙が生え目は血走り、明らかに正気を失っていた。しかし三人は少しも慌てず、とりあえずこぼさない様にと味噌汁を飲み干すとジャンケンを行い、負けた柳が額を蹴り飛ばすと先程までの姿に戻った。

 

「えへへ、またやっちゃった」

 

「母さん、どうにかなりませんか?」

 

「そうね。ベクトールの場合感情が高ぶると怪物化するけど、感情を抑える訳にもいかないし……」

 

「まあ、私達が押さえつければ良いだけですよ」

 

「「「「ははははははは!」」」」

 

生まれた国や種族が違う四人だが、今は上手く家族をやっている。ある日突然家族を失った柳、半霊として生まれ母親に捨てられ我慢をし続けて生きてきたベクトール、夫に裏切られ自ら産んだ子を殺したメディア、そして不死の体で苦しみながらも母の愛を求め続けた安倍晴明。無くした物、求めた物の代わりを見つけた四人は互いに支え合い、今では本当に血が繋がった家族のようになっていた。

 

 

四人が暮らしているのは堕天使の組織グリゴリの本部近くに建てた家。先ほど柳に朝這いを行った朱乃も親子三人で暮らしている場所だ。彼女の父であるバラキエルのミスが原因で家族を失った柳だが、生きていく上では妥協も必要と諭され堕天使の保護を受け入れた。流石にバラキエルには蟠りがあるのだが幼馴染の朱乃とは上手くやっており、彼女の家が強襲された時も母親の朱璃と仲の良いメディアと遊びに来ており刺客を退けたのだ。

 

 

 

 

「そういえば言ってたっけ? 赤龍帝が目覚めたよ。しかも、転生悪魔」

 

「ヴァーリもハーフ悪魔ですよね。神の遺産が悪魔の手に渡るとは皮肉な話ですが、今度は剣呑な話にならなけらば良いのですがね」

 

「あの子も戦闘狂だから困ったものだわ。下手すれば三すくみの戦争になりかねないし神器との接続を断とうかしら?」

 

メディアの手には歪な形をした短剣が握られており魔女を思わせる笑みを浮かべている。その時、本部からの電話が鳴り響いた。

 

 

「コカビエルが聖剣を奪ってグレモリーに縄張りに? ああ、彼にも霊根を付けているので煉を全て奪い取らせて始末すれば良いのですね? え? 違う?」

 

総督のアザゼルからの電話を終えた柳は面倒臭そうな顔を三人に向けた。

 

「生け捕りにしたいので私達に言って欲しいそうです。ヴァーリだと赤龍帝との戦いが起きるかも知れないからだそうですよ。ついでに四人で遊んで行きましょう」

 

「わーい! お出かけだぁ!」

 

「駒王街よね? 何か良いお店はっと……」

 

皿の片付けをしだす柳に外出を喜ぶベクトール。そして雑誌を手に取るメディア。マトモなのは晴明だけ。

 

「皆さん、緊張感が有りませんね」

 

今日も胃がキリキリと痛む晴明。不死の体が恨めしいとある日の事だった。

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ終わりにするか」

 

そして数日後、コカビエルは領地を任されているリアス達を追い詰めていた。力を譲渡されたリアスの渾身の魔力も防がれ打つ手が無くなったその時、学園の屋上から声がかけられる。

 

「ひと~つ! 人の生き血を吸い!」

 

「ふた~つ! 不埒な悪行三昧!」

 

「みっつ! ……なんだっけ?」

 

「……みっつ! 醜いこの世の鬼を退治してくれよう、ですよベクトール」

 

「あっ、そうか」

 

なんとも締まらない台詞で現れた柳達はケーキ屋の箱や話題のお惣菜店のコロッケ。それと少なくなっていたトイレットペーパーを入れた袋を下げていた。

 

「キサマら、何をしに来た?」

 

「見て分かりませんか? 貴方を捕まえに来たんですよ」

 

「何処がだっ! どう見ても買い物がメインだろう!」

 

「いや、貴方如きなら買い物後で済みますし。……少し買い物に夢中になり過ぎてましたけど。さて、観たいテレビもあるし終わらせましょう」

 

柳はコカビエルに向かって飛び蹴りを放つ。コカビエルは反撃しようとするが、ベクトールの手が消え去り、突如コカビエルの周囲に現れて体を拘束した。柳の蹴りはコカビエルの眉間を捉え校庭に叩き落とす。

 

「えへへ~♪」

 

「では私達は同時に行きましょう」

 

「ヒット数が少ない方が明日のトイレ掃除当番よ、晴明」

 

何とか立ち上がったコカビエルに二人の術が降り注ぎ、後には虫の息のコカビエルだけが残った。

 

「では、母さん。深夜にやる映画を録画してないので早く帰りましょう」

 

「ちょっと! ウチで機械が得意なの貴方だけなんだから録画は任せてたはずでしょ! ああ、もう! 早く帰らなきゃ!」

 

メディアが手を軽く振るとコカビエルと四人を魔法陣の光が包み、リアス達が何か言う前に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、新聞昨日のでした。レンタルしてませんしどうします?」

 

「……主演の子役が好きだから楽しみにしてたのに。トイレ掃除変わって貰うわよ? 柳」

 

 




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前世マフィアで今ドラゴン?

イタリアのとある繁華街の一角にその一家(ファミリー)の拠点があった。一家の名前は『ドラクル・ファミリー』。イタリア全土の裏社会に影響力を持つマフィアである。二代前までは弱小マフィアであったが、先代の力によって一気に勢力を拡大。その事から引退した今でも先代のボスの影響力は色濃く残っている。そしてその拠点を一人の老人が訪ねていた。白髪頭に口髭を生やした彼の眼光は鋭く、彼が廊下を通ると男達は立ち止まって一礼する。そして彼はそのままボスの部屋にノックもせずに入った。

 

「仕事中に酒か? 随分偉くなったな」

 

「こ、これは先代っ! 何か御用でしょうかっ!?」

 

酒を飲みながら書類仕事を行っていたファミリーのボスは老人の姿を見るなり立ち上がって一礼する。会話から分かる通り老人はファミリーの先代ボスであり、今のボスよりも遥かに強い影響力を持っていた。

 

「いや、孫へのプレゼントを買いに出かけたついでに立ち寄ったのだが……お前をボスにしたのは間違いだったようだな。聞いた話では随分と新顔に舐められているらしいじゃないか。私が引退してから五年になるが、あまりにも情けない話だ。直ぐに幹部に連絡をして次のボスを決める。まったく、お前の野心を見込んでボスの座を譲ったが、私の判断力も落ちたものだ」

 

「ま、待ってください! 今のボスは私です。いくら貴方でも其処までする権利は……」

 

「無いとでも? 私が一言発せば貴様の横に居る男達は直ぐに貴様の頭を撃ち抜くのだが?」

 

彼が目で合図を送ると護衛らしき男達は今のボスである男に銃口を向ける。それを見た男は黙り込むしかなかった。

 

 

(くそっ! 忌々しい奴めっ!!)

 

 

 

「あら、父さんお帰りなさい」

 

「ああ、今帰った。私の愛しいレイシアは何処だ?」

 

「あの子ならリビングでテレビを見ているわ。全く、アニメばかり見て……」

 

「まあまあ、良いじゃないか」

 

彼がリビングに向かうと十歳になる孫娘が熱心にテレビを見ていた。この時間は日本のアニメをやっており、何やら白い怪物と赤い服を着た男二人が戦っていた。

 

「あっ! お祖父ちゃん、お帰りなさい」

 

「ああ、ただいま。ほら、欲しがっていた絵本だよ」

 

「有難うっ!」

 

彼は孫娘から頬へのキスを受けるとソファーに腰掛ける。アニメはEDテーマが流れており、その映像に出てくるキャラの姿には見覚えがあった。

 

「おや、ドラゴンボールかね。読んだ事は無いが知っているよ」

 

「うん! これはドラゴンボールGTっていってね……」

 

孫娘がそこまで話した時、窓ガラスを突き破った入ってきた物が床を転がる。それが手榴弾だと気付いた彼は咄嗟に孫娘を庇い、背中に衝撃を受けた所で彼の意識は途絶えた。

 

 

 

 

「……此処は地獄か? やれやれ、殺風景な所だな」

 

彼が目を覚ますと見慣れぬ場所に立っており、周囲には草木一本もない。今までの自分の行いから天国には行けないと思っていた彼は地獄だと判断し、ふと自分の手を見て驚く。それは高齢にも関わらず鍛えていた小麦色の腕ではなく、それよりも太く、そして真っ白な異形の腕だった。

 

「死人は見た目が変わるのか? 悪人が死ねば悪霊や悪魔になる事があると聞いた事があるが其のたぐいかもしれんな」

 

彼は特に慌てる事もなく、このまま此処に居ても何だからと思って歩き出そうとしてふと思った。自分は飛べるのではないか、と。なんとなく体が覚えているかの様な力の入れ方をすると簡単に飛ぶ事ができ、まるで早送りのように景色が過ぎ去っていく。少しの間飛んでいた彼だが喉の渇きを感じ、ちょうど綺麗な川があったので飲みに降りる。そして川に今の姿が映った。龍と人を合わしたかの様な異形の顔に全身から生えた刺。胸には七つの珠が埋め込まれている。

 

「おや、この姿はアニメに出てきた奴と似ているな。名前は聞いていなかったが……いや、私にはこの顔の名が分かる。……一星龍(イーシェンロン)だ」

 

そして、自分の名前は思い出せなかった。

 

「まあ、此処が地獄や夢の中なら有り得るだろう。……さて、乾きも潤したし進むとするか」

 

長年マフィアのボスの座に君臨し長い時を生きていた彼はこの程度では動じず、再び空を飛んで周囲を見て回る。かなりの高度を高速で飛んでいるにも関わらず地上の様子がハッキリと見え、人間らしき姿を見つけた彼は地上に降りたった。

 

「……なんだ貴様は。ドラゴン……のようだが」

 

「なに、私はただのくたばった爺に過ぎんよ。スマンが此処が何処か知らんか?」

 

「私か? そうだな。ヤフウェとでも呼んで貰おう。貴様の真似をするなら全てを作った神に過ぎん、といった所か? もっとも、貴様の様な物を作った覚えはないがな。さて、次の場所に行かなくては……」

 

彼、一星龍が出会った男は忙しそうにしながら去っていく。

 

「地獄で神に出会うとはおかしな事も有るものだな。いや、ただの神を語る悪魔か?」

 

一星龍は再び飛び立ち周囲を見回す。何処にも人の姿がない事を疑問に思いつつ彼は飛び続け、腹が減ったら果物や獣を狩り、何故か出せると分かっていた雷で焼いて食べる。そんな暮らしを続け、やがて気の遠くなるような月日が流れた。途中、妙な場所に迷い込み、そこの主らしき龍に襲われ返り討ちにし、暫く経って同じ場所に迷い込むと主が巨大な赤い龍に変わっているなどがあった。

 

「いや、あれは私が追い出したせいか?」

 

「どうしたの? ボス~」

 

「なにかあったの? ボス~」

 

「いや、何でもない。気にするな、ドライグ、アルビオン」

 

一星龍の周囲を小さな龍二匹が未熟な翼を羽ばたかせて飛び回る。この二匹はサマエルという龍の天敵に親を殺されたのを気まぐれで拾ったのだ。ちなみにサマエルは一星龍にも襲いかかり力を吸い出したが、一星龍が一気に力を込めると爆散して肉片が周囲に散らばった。どうやら許容量を遥かにオーバーしたのが原因らしい。数日は少し体にダルさが残ったが今ではすっかり治っている。

 

「あ~! またドライグを先に呼んだ~!」

 

「へへ~ん! ボクの方が何時も先だね!」

 

「単に先に呼びやすいだけだ。つまらん事で喧嘩をするな。……さて、また鬱陶しい奴らがやって来たな」

 

一星龍の視線の先には彼を危険視した神の兵が向かっており、彼ら目掛け一星龍の手から無数のエネルギー弾が放たれる。

 

「秒殺魔光弾!!」

 

貫通力と破壊力に優れたエネルギー弾は神の兵を全て消し去り、余波で地上に巨大なクレーターが出来る。

 

「さて、食べ物を探しに行くぞ」

 

「わ~い」

 

「おにく~!」

 

一星龍は全く関係のないはずの二匹を見捨てる気が起きず今も世話を焼いている。やがて同じ様に彼についてくる者が一人、また一人と増え、長い年月の末に一勢力と化していた。

 

 

 

 

「あの馬鹿共が封印された?」

 

書類を片付けていた一星龍は部下からの報告を受けて溜息を吐く。昔から喧嘩ばかりのドライグとアルビオンは一星龍が作り上げた組織『ドラクルファミリー』の幹部にも関わらず喧嘩が絶えず、一度決着を付けさせる為に放り出した結果、悪魔、堕天使、天使の三勢力の戦争に乱入した結果封印されたというのだ。

 

「どうしますか、ボス? 神器の中に封印されたらしいですが……」

 

「その程度なら何時でも助け出せる。だが、少し仕置をする必要があるから放っておけ。気が向いたら助けに行く」

 

結局、気が向く事は長い間無く、ドライグとアルビオンは神器所有者を巻き込んで何度も戦いあった。そして人間の社会は発展し、一星龍が生きていた頃まで技術が追いつく。その頃になると”ドラクルファミリー”も拡大し、様々な訳ありが集まっていた。

 

 

「で、俺達に用ってなんだい、ボス?」

 

「おい、ヴァーリ! ボスに対してなんだよその態度は」

 

一星龍の前に立っているのは父に虐待されて逃げ出した所を保護した少年”ヴァーリ”と凶暴なはぐれ悪魔に両親を殺された所を助けた少年”兵藤一誠”。それぞれアルビオンとドライグを宿している。昔から二匹を封印した神器の所有者同士は殺し合いをしているが、この二人は仲が良かった。

 

 

 

「お前達、高校に通え」

 

「「はいっ!?」」

 

だから一星龍の言葉に同時に間抜けな声を出した。

 




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前世マフィアで今ドラゴン? ②

”駒王学園”。数年前まで女子高だったが最近になって男子も受け入れ出した名門校。表向きは普通の学校であるのだが、魔王が理事長を務め、魔王二人の妹達や異能力者が多く通っているのだ。

 

「其処に俺達が通えと? 何でまた」

 

「傘下の組織からの報告でな。どうやら各勢力の過激派がキナ臭い動きを見せている様だ。そして狙われるとすれば重要人物の身内が居るにも関わらず腕利きの護衛がいない其処といった訳だ。奴らが争うには構わんが、商売に影響が出るのは敵わん。少し調査して来い」

 

「ああ、それで潜入しやすい俺達にしたんっすね。実力もそれなりで、年頃も丁度いいから」

 

二人はて合わされた資料を見ながら納得する。資料には通っている悪魔や異能者、そして二人が通う際の経歴が書かれていた。

 

「力を隠してたらバレた時に面倒になる。とりあえず私の顔の一つが指導者を務める魔術組織の一員として話を通しておこう。神器はありふれた物としておけ」

 

「分かったよ、ボス」

 

「了解しました、ボス」

 

二人は一星龍に一礼すると部屋から出ていく。荷物を纏める為に廊下を歩いていると組織の先輩二人が前から歩いて来た。女性の方が男性の腕に抱きついており、一誠は嫉妬から聞こえない様に舌打ちしつつも笑顔を向ける。

 

「サイラオーグさん、帰ってたんですね」

 

「ああ、任務が昨日の深夜に終わってな。報告して直ぐに寝室に向かって今起きた所だ」

 

「うふふ。でも、疲れてる割には凄かったにゃん♪」

 

男性の名前はサイラオーグ。悪魔貴族で最も上の大王であるバアル家に生まれながらも特徴である滅びの魔力どころかまともな魔力を殆ど持って生れず、長男でありながら僻地で貧しい暮らしを強いられていたという過去を持つ。そして彼を疎ましく思う父親によって母親もろとも偶々発生した(・・・・・・)土砂崩れで事故死(・・・)にされそうになっていた所に通りかかった一星龍によって保護されたのだ。一応それを察して魔王の配下が助けに来たが死体は埋もれて行方不明扱いになっている。ちなみに今では肉体を鍛え上げて若手でもトップクラスの実力になっていた。

 

「二人は今から任務?」

 

女性の名は黒歌。猫の妖怪で親を亡くして妹共々彷徨っていた所を幹部の一人によって保護されたのだ。ちなみに非常に色っぽい彼女はサイラオーグの恋人でもある。

 

「ええ、魔王の妹が通う高校に行く事になって、俺は設定はそのままで、ヴァーリは母親は母親が貴族に妾として攫われて冷遇された挙句に産まれた自分共々捨てられたって設定です」

 

「そうしておけば多少力を見せても眷属に誘われにくいだろ? まあ、ドライグさんやアルビオンさんの力はバレない様に使う事になっているんだ」

 

本来なら相棒なので呼び捨てにする関係の二人と二匹だが、同じ組織の一員で二匹は初期メンバーで幹部だからヴァーリは二匹に敬称を付けて呼んでいた。

 

「にゃはは! そういえばヴァーリってこの前アルビオンさんが寝てる時に”ドライグさんの方が良かった。弱くした敵に勝っても嬉しくない”って言ってたにゃん」

 

『……ほう? 面白い事を言うな、ヴァーリ』

 

「く、黒歌さんっ!? それは秘密って約束じゃ。ア、アルビオンさん……すいませんしたぁぁぁぁぁっ!!」

 

組織において上下関係は絶対。ヴァーリは幼い頃から血の掟としてそれを教え込まれていた。それはもう、骨の髄まで。

 

 

そして数日後、魔王の妹であり学園を夜と昼に分けて支配するリアス・グレモリーとソーナ・シトリーに魔術組織に所属する二人のデータが実家から送られていた。

 

「部長。その二人が例の?」

 

「ええ、最近勢力を伸ばしている組織の二人ですって。どうも社交性に欠けるから高校に通わせるそうよ。力はそれなりみたいだけど神器はありふれた物らしいわ。……経歴を見たけど接触はやめた方が良さそうね」

 

「まあ、必ずしも会わなければならないという訳でもありませんし、この過去からして下手に刺激するのもいけませんしね」

 

ソーナもリアス同様に二人に必要以上の接触はしない事にし、他の異能者同様に干渉せずに学園生活を送っていた。

 

 

そんなある日の放課後、与えられた住まいに帰っていた一誠は一人のシスターと出会った。彼女の名はアーシア・アルジェント。一誠は其の名前に聞き覚えがあった。

 

(確か、”聖女”だったっけ? 聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)の持ち主だよな。それもドラクル・ファミリー(ウチ)に居る所有者達のより強力な奴)

 

「あ、あの、私の顔になにか付いていますか?」

 

「いや、なんでもないって。それより、探していた教会は直ぐ其処だぜ」

 

どうやら街の外れにある教会に赴任して来たらしく、日本語が分からず迷っていた所を一誠に会い、悪魔が使う『翻訳』を模倣した魔術で会話をこなした一誠は観察の為に案内する事にしたのだ。

 

(そういや、目的地の教会は廃教会で堕天使が来てるって話だよな。一人殺されて悪魔になったって話だし。この子、その仲間か? にしては無用心だしな……)

 

先程も怪我した子供を人前で神器を使って治しており、一誠はもしかしたら抗争の援護の為に呼ばれた人員かと思ったが、その考えにも疑問を持つも、もしかしたら一誠の事を人外の世界の住人だと見抜いた上での演技かも知れないと疑心暗鬼に囚われた所で目的の教会に到着した。

 

「じゃあ、俺は此処で」

 

「あ、待ってください。お礼にお茶でも」

 

「そうしたいのは山々だけど、もうすぐスーパーのタイムセールがあるんだ。貧乏学生は特売以外の肉を中々食えなくてな。んじゃ、機会があったらまた会おうぜ」

 

「はい! またお会いしましょう!」

 

一誠は中を調査しようとして直前で思い止まる。彼の視線の先には白髪頭の少年神父が立っていた。

 

(おいおい、なんで教会の例の戦士養成施設の奴が居るんだよ。こりゃ、連絡してからでないと拙いな)

 

白髪頭は教会が極秘裡に管理している訓練施設の一員の証。そして教会からは三人の下級堕天使と一人の中級堕天使の気配がする。危険な神器を持っている一般人を殺すにしては戦力過剰と判断した一誠は怪しまれる前に退避する事にした。

 

 

 

「アーシアが知らない男と一緒にいた?」

 

「まあ、動きも素人くさいし、話を聞く限りじ道案内を引き受けたお人好しみたいっスよ」

 

「そう。なら、放置しておきなさい」

 

この時、一誠を用心してアーシアを連れて本部に帰っていれば彼女の未来は変わっただろう。だが、彼女は役に立つ神器の持ち主を連れて帰ったという手柄よりも更に上を目指してしまった……。




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前世マフィアで今ドラゴン? ③

匙元士郎は中学時代荒れていた。だが更生し、今では名門校に通っている。ただし、悪魔として……。

 

「……大丈夫ですか?」

 

「ああ、何とかな」

 

匙は契約の仕事として喚ばれた先ではぐれエクソシストのフリードに襲われ、今は先輩である朱乃に心配されている。最近初めて出来た彼女に殺されリアスに下僕悪魔として転生させられたのだ。悪魔は人間よりも強い。だが、やはりたかが不良であった彼が対悪魔の訓練を受けたフリードに敵うはずもなく、紙袋を被った二人組によって助けられ、リアス達が駆けつけた頃には二人は消えていた。

 

「しかし、あの二人誰だったんだ?」

 

 

 

その頃、一誠とヴァーリは用意された家で寛いでいた。ゴミ箱には昼間買ったパンを入れていた紙袋に穴を空けた物が二つ入っている。

 

「しかし驚いたな。堕天使は戦争を起こす気か?」

 

「ボスは”戦争になりそうな時だけ関わって、それ以外は関わるな”とだけ言っていたし、調査だけしておこうぜ」

 

一誠はヴァーリと話しながら一人の少女に事を考える。数日前に出会ったアーシアは匙が殺されそうになっている事に気付いて駆けつけたヴァーリがフリードを止める為に放った威圧に当てられて気絶していた。威圧前に聞こえてきた会話ではアーシアが匙を助けようとしていた様だ。

 

「……言っておくが彼女は堕天使側の人間だ。下手な感情移入はやめておけ」

 

「……分かってるよ」

 

一誠は自分が所属する組織がそれほどの影響力を持っているかを知っており、下手に自分が介入したら争いの種になる事も分かっている。だから動きたくても動く訳にはいかなかった。

 

 

 

 

そして次の日、使い魔を自分に変身させて街で調査を進めていた一誠は昼食でも食べようとハンバーガー屋に立ち寄り、其処で言葉が通じず困っていたアーシアに遭遇した。

 

 

「あうう~、助かりましたイッセーさん」

 

「言葉が通じないんだから仕方ねぇって。ほら、こうやって食べるんだぜ」

 

アーシアは今まで教会暮らしであった為にハンバーガーの食べ方が分からず、一誠は一緒に食べながら何気ない会話をする。その時のアーシアはとても楽しそうだ。

 

「……なあ、アーシア。俺が街を案内してやろうか?」

 

「はい! お願いします!」

 

あくまで調査の為、自分にそんな言い訳をしながら一誠は提案しアーシアはそれを喜んで受けた。二人はゲームセンターでヌイグルミを手に入れたり街を散策して楽しい時間を過ごす。楽しい時間は直ぐに過ぎ、時刻は夕方。二人は公園で池に映る夕焼けを眺めていた。

 

「イッセーさん、今日は有難うございました。こんなに楽しかった日は初めてです。……私、夢があるんです。友達を沢山作って、今日みたいに遊んだりして。おかげで今日は友達が出来たな気がしました」

 

「そんな寂しい事言うなよ、アーシア。俺はとっくに友達だと思ってたんだぜ?」

 

「……私、日本語も話せませんし、迷惑をおかけしますよ」

 

「それなら俺が勉強に付き合う!」

 

「……本当に、友達だと思って良いんですね?」

 

「ああ、当然だっ!」

 

一誠は立場を忘れ本心から頷く。その言葉にアーシアは涙を流して喜び、二人の背後から拍手の音が聞こえてきた。

 

 

「はいはい、美しい友情ね。でも、それは無理よ。さっ、帰るわよアーシア。……其処の人間を殺されたくはないでしょう?」

 

「レイ…ナーレ様……。わ、私は行きませんっ! だって貴女は私を……」

 

廃教会を拠点とする堕天使のリーダーであり匙を殺した張本人であるレイナーレの姿を見たアーシアは恐怖で固まりレイナーレは一歩一歩ゆっくり二人に近づき手を差し出す。アーシアは一瞬一誠の方を見て震えながらその手を取った。

 

「……さようなら、イッセーさん。私なんかと友達になってくださって有難うございました……」

 

最後にアーシアは一誠の方を見る。その瞳は助けを求めたいのを必死に堪えている瞳だった。

 

「アーシア! 待っていてくれっ! 絶対に助けるからっ!」

 

アーシアが消え去った方向を向いて一誠は叫ぶ。その背後から数名のはぐれエクソシストが近寄ってきた。

 

「さぁ~って! 聖女様を誑かすゴミを処分すると…ぶへぇっ!?」

 

「邪魔だ」

 

そして更に後ろから近づいてきた老人に数人纏めて殴り飛ばされ纏めて池に叩き込まれた。

 

「ボ、ボスっ!? なんで此処にっ!?」

 

一誠の前に居るのは白髪頭の西洋人の老爺。服装は映画のマフィアを思わせ、黒いステッキ持っていた。そして一誠の言葉の通り、この老人こそが一星龍だ。

 

「この辺で新しい店を出すから視察に行くと言っていただろう。……さて、私が言っていた以上の介入をやろうとしている様だが言い訳は有るか?」

 

見た目は痩せた老人であるにも関わらず一星龍からは途轍もない威圧感が放たれる。それだけで地面にヒビが入り池には波紋が広がる。一誠は息すらロクにできない状態に陥いった。

 

 

「……お願いしますっ! アーシアを助けに行かせてくださいっ!」

 

そして、そんな状態であるにも関わらず地面に額をこすりつけて懇願する。

 

「あの小娘とは出会ったばかりだろう? 争いの火種になると分かった上での行動か?」

 

「どんな責任でも取りますっ! 俺はアーシアに助けると誓ったんですっ! 男が一度決めた誓いは貫き通せ、俺は貴方からそう教わりましたっ! だから、お願いしますっ!!」

 

一誠が額を強く擦りつけた地面がひび割れ破片が額に付く。一星龍は一枚の書類を一誠の前に投げるとその場から立ち去った。

 

「……これは?」

 

「堕天使達に関する報告書だ。どうやら先輩達の調査じゃレイナーレとかいう堕天使達は上を騙して居座り続けているらしい」

 

「つまり、助けに行っても問題なしという事にゃん♪」

 

「……従姉妹と会う前に済ませたい。早く行くぞ」

 

一誠が顔を上げると其処にはヴァーリと黒歌、そしてサイラオーグの姿があった。

 

 

 

 

 

「ふふふ、もう直ぐよ。もうすぐ私は至高の堕天使に……」

 

レイナーレの目的。それはアーシアの持つ神器を奪い取り自分の物にするという事。神器を抜き取られた者は死んでしまうが彼女にとってはどうでも良い。レイナーレは自分の事しか考えていないのだ。

 

 

もっとも、仮に神器を手にして本部に帰ったとしても命令違反や戦争を起こしかけた事を理由に神器を没収されて処罰されるだけだろうが。

 

 

「さあ、そろそろ儀式の準備を……!?」

 

突如起きた振動にレイナーレは体勢を崩し床に倒れ込む。起き上がったレイナーレは自分の目を疑った。教会は半壊しアーシアは赤い全身鎧を着た人物に抱き抱えられていた。

 

「……大丈夫か、アーシア?」

 

「イッセーさん?」

 

「……ごめん。俺は君を騙していた。俺は君の過去を知ってたし、人外の世界で生きてきてんだ」

 

一誠の後ろではレイナーレの手下の堕天使やはぐれエクソシスト達がヴァーリ達によってやられており、残ったのはレイナーレだけだ。既に勝敗は決している。それは誰の目にも明らかだろう。

 

「……舐めるな。私は至高の堕天使になるのよぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

だが、レイナーレはそれを認めない。自分の野望の為に一誠に襲いかかる。

 

「レイナーレ。テメェはやりすぎた。罪には罰だ。……だろ?」

 

一誠の手から龍の気と彼自身の気を練り合わせた一撃が放たれ、レイナーレは塵も残さずに消え去った。

 

 

 

 

 

「……やれやれ、派手にやりおって」

 

その光景を遠くから眺めていた一星龍は呆れた様に呟く。だが、その両頬は嬉しそうに緩んでいた。

 




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前世マフィアで今ドラゴン? ④

「……では、今日から此処はお前の家だ。一誠、空き部屋に案内してやれ」

 

 アーシアを助けた翌日、ドラクルファミリーの本部まで連れて行かれたアーシアは一星龍に面会し、組織に入る事を了承した。表向きは一誠達が所属している事になっている魔術師の組織の一員とし、ある程度の常識を学ばせたら学校で社交性を身に付けさせる予定になっている。

 

「ボスって一誠さんが言っていた通り、見た目は怖いけど悪い人じゃないんですね」

 

 一誠はアーシアに組織の事を少し話し、”ボスは悪い人じゃない”、と伝えた。確かに悪い”人”ではない。本来の歴史の一誠と違ってこの世界の一誠は嘘を身につけている。もっとも、嘘が苦手なのには変わりないが。

 

『小娘。此処には一誠の様に危険な神器を持っていたり、特殊な力を危険視されたりとまっとうに生きれない奴ばかり集まっている。だから変えられぬ過去など気にするな』

 

「はい! ドライグさん」

 

 アーシアは笑顔を浮かべながら一誠と共に与えられた部屋まで向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

「不発弾?」

 

「ええ、警察が慌ただしくしていたわ。魔力は感じなかったし間違いなさそうですわよ」

 

 リアス達は管轄地である街の外れの教会が吹き飛んだのは不発弾のせいだと知って一先ず安堵する。調べてみれば教会はどこの勢力の所有地でもないらしく何も問題はないだろう。安堵したリアス達は優雅にお茶の時間を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「ヘ~、あの姫さん結婚するのか。まっ、貴族なら当たり前か」

 

「いや、どうも我が儘を言って婚約を撤回させようとしたらしい。”私は私を私としてみてくれる人と結婚する”とか”結婚相手は自分で決める”、とか言っていたらしい。貴族として豪奢な生活をして育ち、家から多額のお小遣いを貰い、家の地位を散々利用し、家の力で人間界の学校に通っていながら……」

 

 そして二ヶ月ほどした頃、一誠はリアスが結婚したとヴァーリから聞かされた。お相手はライザー・フェニックス。どうも婚約破棄をかけたレーティング・ゲームで負けたらしい。

 

「まあ、組織の商売に関わらないなら別に良いか。所でアーシアの転入が延期って本当なんすか?」

 

 アーシアの学校だが組織で特に仲の良い一誠達に面倒を押し付ける事が決定した。アーシアは驚く速さで勉強を進めていただけに延期を聞いた時は落ち込んでいたらしい。

 

「どうも教会がエクソシストを任務でこの街に派遣したらしくてね。ほら、彼女って教会を追放された身だし狂信者共に絡まれたら危険だろう? 俺達もあまり力を見せる訳にはいかないしね」

 

「しょうがないっすよね。……何かお土産でも持って励ましに行くか」

 

「俺も付き合うよ。可愛い後輩の為だからね」

 

 二人は周囲の人には別の会話に聞こえるようにしながら校門を目指す。あと、BLの噂が流れないようにもしていた。そして二人が校門を潜ろうとした時、不審人物二人とすれ違う。

 

「……一誠君?」

 

「え~と、誰? 悪いけど俺は用があるから行かせて貰うから」

 

 不審人物の片方が一誠の顔を見て驚くも一誠はそそくさと去っていく。おそらくこの不審人物達がエクソシストだろうし関わらない方が吉だからだ。背中に掛けられる声を無視して一誠は早足でその場から離れていった。

 

 

「……良いのかい? 多分組織に入る前の知り合いだったみたいだったが」

 

「今の俺はドラクルファミリーの一誠ですし、過去を思い出したくないですから」

 

「そうか。……よし、帰りに焼肉でも行こう今日は俺が奢ってやる」

 

 

 

 

「エクスカリバーが堕天使に奪われた?」

 

「ああ、そうだ」

 

 リアス達の下を訪れたのはゼノヴィアとイリナという少女二人。話を要約するとコカビエルという堕天使幹部にエクスカリバーが奪われ、この街に入り込んだから行動させろ、というものだった。彼女達はその後は不干渉を要求。悪魔と堕天使が手を組む事を危険視し、もし手を組んだら魔王の妹でも滅ぼすとまで言って来た。リアス達はこれを渋々了承する。だが、眷属の一人である祐斗が帰ろうとした二人を呼び止めた。

 

「悪いけど君達が持っているエクスカリバーを置いて行ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の事を聞いてきた?」

 

「ええ、イリナって女の子なんだけど」

 

 翌日、家の前でリアスにイリナが一誠について聞いてきた事を聞かされた一誠は必死に記憶をたどる。そして小学生になる前の友人を思い出した。

 

「ああ、イリナですか。……俺の親が悪魔に殺される前に仲良くしていた奴っすよ。短髪で活発だったから男だと思ってたけど女だったんっすね。別れたのが親が殺される前でしたから覚えてなかった」

 

 親が殺された、の件は多少嫌味ったらしく言いながら一誠は質問に返答した。

 

「……そう。態々悪かったわね。そうそう、堕天使が来ているみたいだから気を付けた方がいいわ」

 

「どうせ三すくみのゴタゴタっすよね? 力や後ろ盾のある俺達は兎も角、この街で暮らしている一般人や力の無い人外は迷惑なんっすよね。あんたらの生まれた世界は此処じゃないってのにコッチで争ってさ」

 

 一誠は明らかに不機嫌そうにいうとリアスが何か言う前に家の中に戻っていった。

 

 

 

 

 そして一誠から話を聞かされた一星龍は部下に詳細を調査させ、静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 

「目障りだ。……消せ」

 

 

 

 

 

 

 

 




実際、悪魔以外の人外や異能力者が居るんですよね でも三巻では避難のための連絡や協力要請をした様子は・・・・・・

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俺の眷属がこんなに変人ばかりなはずがない 

 二次小説には神様転生というジャンルがある。簡単に説明すると神が人間を間違って殺し、好きな能力を貰って漫画や小説の世界に行く、という物だ。そして俺はそれを体験した。ただ、神様なんてものには会っていないのだが……。

 

『コンパの罰ゲームで管轄世界の人間を転生する事になった。神からすれば人間も細菌も変わらないし、お前も細菌を殺してきたんだから文句言うな。大体の事が上手くいくって特典だってくれてやったんだから』

 

 気付いたら赤ん坊の姿で知らない両親らしき美形夫婦に抱かれており、こんな声が聞こえてきた。一から人生をやり直したり、前の年齢+今の年齢とか気が狂うとか思ったけど気持ちの切り替えは”上手くいった”。どうやらハイスクールD×Dの世界で俺は男になったリアスらしいが不安の除去や努力も”上手くいった”。これから自分がこなす事が神から貰った特典のおかげだという事に対する開き直りも”上手くいった”。多分これからも上手くいくと思えば不安はない。

 

『あ、少し変人増やしたけど、罰ゲームの内容でそれに対する心労は自分でどうにかするしかないから』

 

 ……非常に不安である。

 

 

 

 

 時は流れ俺は高校三年になり、原作開始から数日後の事。バイサーって奴がはぐれ悪魔になったらしいから最近眷属になった一誠がアーシア・アルジェントに会う頃だろう。

 

「この! ギャスパーが! 負けるはずがない! URYYYYYYYYY(ウリイイイイイイイイイ)!!」

 

「……この世全ての悪を封印した左手が疼かなければ私が勝っていました。それに第三の目を解放したら私の圧勝だった……」

 

 

俺は今自宅のマンションにいる。目の前では小猫とギャスパーが同じゲーム会社のキャラが共演する対戦アクションゲームの中でも類似品を押しのけて好評を博しているシリーズで対戦している。そう、ギャスパーは封印されていない。神器とか完璧にコントロールしてるから。余りにもウザイからって吸血鬼が、プライドの高いあの吸血鬼が頭を下げて引き渡してきたのだ。それと、小猫……いや、白音は中二病だ。眷属になった経緯は原作と同じだが、”真名を知られるという事はダークデスダーク帝国に魂を掴まれるという事です”、とか言って偽名を名乗りだした。ダーク二つも付いてるよ。

 

「……ふっ。苦労しているようだなリアス」

 

「テメェはそろそろ敬語使え。俺、主だぞ?」

 

「やれやれ、器の小さい事だ。主と言うならば主に相応しい立ち振る舞いをしたらどうかね? だいたい君はプライベートでは直ぐに化けの皮が剥がれる。そんな事では貴族社会を渡っていけるのか不安だな」

 

 祐斗は昔は原作通りだったのだが、”その神器って実在の魔剣の模造品とか創れないのか?”とか巫山戯ていったばっかりに! 俺の馬鹿!! 本当にやりやがった上に吹っ切れたのかエクスカリバーなんてどうでも良くなった上に、直ぐに禁手に至って『無限の剣製(アンリミデットブレードワークス)』とか使い出し、某エミヤでシロウな正義の味方っぽい性格になちゃうしっ!! 俺の馬鹿!

 

 

「あらあら、うふふ。これ、素晴らしいですわぁ♪」

 

「朱乃。俺の部屋にその手の雑誌を持ち込むなと言っただろう?」

 

 朱乃は朱乃でドSじゃなくてドMになってるし! 今もSM雑誌を見ながら興奮している。ちなみに服の下はSM用の縄で亀甲縛りにしていると教えられた。そんな情報は要りません! 

 

「あぁん。リアスが私を蔑みの目で……興奮しますわぁぁぁぁぁ!!」

 

 駄目だ此奴、何とかしないと!

 

 

「……リアス様?」

 

「あ、ああ、なんだレイヴェル?」

 

 おっと、いけない。一番厄介な奴を忘れていた。本来のリアスはライザーが許嫁だったが、俺は男なのでレイヴェルが許嫁だ。まあ、可愛らしいしスタイルも良いから文句はない。家事もできて性格も良い。……ただ、スイッチさえ入らなければ、だが……。

 

「うふふふふ。御免なさいませ。私ったらリアス様が他の女に意識を向けたからって嫉妬したいましたの。あの女達はリアス様の眷属ですし、眷属になった経緯も同情からで恋愛感情など一欠片も存在しないって事くらい前から……いいえ、生まれる前から知っていましたのに。そう、私はリアス様を愛するために生まれ、リアス様も私を愛する為に生まれてきましたもの。御免なさい。私たら今更言うまでもないことを態々言って。でも、愛し合う者同士が何度も愛を囁くのは不思議ではなありませんし、私も何度も愛を囁き、何度も囁かれたいから構いませんですわね? そうそう、リアス様が私以外、ああ、家族は別ですわよ? リアス様に限って絶対にありえませんが、私との愛の結晶である子供に愛を注がないって事があったら悲しいですもの。あら、ごめんなさい。私ったら何を馬鹿馬鹿しい事を。リアス様に失礼な事を申しました。嫌いにならないでくださいませ。ああ、リアス様が私を嫌いになるはずなんてないし私もリアス様をずっと好きなままに決まってますわね。それは火に油を注いだら燃え上がるくらい当然な事ですもの。でも、私だって嫉妬くらいしますのよ? そうして嫉妬させて拗ねた顔を見たいって少し意地悪なことを考えて……私ったらまた失礼な事を。私の全てを知りたいって気持ちが意地悪なわけがありませんものね。私は頭の先から足の先まで全て晒し増したが、リアス様に見せていない顔があると知ったら驚きますか? ああ、リアス様は私に対する絶大な愛で私の全てを知り尽くしていますからその必要はありませんわね。でも、知っている部分を何度も見たいって気持ちも分かりますけど、私時々不安になりますの。もしかしたらリアス様に嫌われてしまうんじゃないかって。でも、無駄な心配って事は分かっていますわ。そんなの石を蹴飛ばしたら宇宙の果てまで飛んでいったってくらい馬鹿馬鹿しい話ですものね。そうそう、子供で思い出しましたが早く欲しいですわね。私もリアス様も二人の間の子なら男の子でも女の子のどちらでも良いですが、やはり家督やこれからの悪魔社会を考えると、ああ、誤解なさらないでください。私はリアス様を子供を作るためだけの相手だなんて思っていませんわよ? まあ、周りが煩いとリアス様と二人っきりの時間が減りますから。でも、子供は明日にでも作りたいですわね。ああ、今からでも仕込みますか? 私はリアス様以外の視線なんて気になりませんし、リアス様も私が目の前にいればその他なんて路傍の石ころ程度にしか思えませんわよね。ああ、リアス様。私のあなた様への思いは他の者が使い古した言葉程度で伝いきれませんし、貴方の私への思いも同じですわよね?」

 

「……うん」

 

「嬉しい!」

 

 そう言って先程から向き合う形で俺の膝の上に座っていたレイヴェルは強く抱きついてくる。ああ、それと彼女とは同棲している。ちなみに同棲開始から二日目の朝に卒業しました。最初は迫ってきたのに対して学生だからと宥めていたが、朝でアレがアアなった所を見計らって俺が覚醒前(一部は起きてるが)を脱がし、あとは腰を少し落としたら互いに卒業ってタイミングで俺を起こし、ディープキスと共に卒業さされた。

 

 

 ……スイッチさえ入らなければ良い子なんだけどなぁ。ちなみに俺への愛とフェニックスの不死をフル活用して週末の夜には毎回初めてを捧げてくる。いや、べつに無理しなくて良いんだよ? なんでも俺に傷付けられる喜びを俺に罪悪感を抱かせずに味わう為、らしい……。

 

 

 

「押っ忍! 不肖この兵藤一誠、私用にかまけて遅刻してしまいましたぁっ!!」

 

 あ、原作主人公は応援団の副団長です。服の下にはサラシを巻いていて、気合と根性で倒木を持ち上げて下敷きになった犬を助けたり、部活帰りに襲ってきた堕天使を一撃で倒したりしてます。なお、レイナーレには反撃せずに殺されました。

 

「俺はデートをする内に彼女に惚れました。なら、相手がどんな奴であろうと一度惚れた女に手をあげるのは漢の風上にも置けません! 押っ忍!! そしてアニキは俺の命の恩人! 一生ついて行きます!!」

 

 なお、気合と根性で禁手どころか覇龍に目覚め、気合と根性で体への負担をかき消しているらしい。

 

 

 

 これが俺の眷族達だ。残っている駒は騎士と僧侶が一個ずつ。ちなみに朱乃が戦車でレイヴェルが女王だ。それと俺は部活はやっていない。……眷属以外の変人と関わりたくないからだ。

 

 

 

 あ、ちなみにライザーは友人です。よく効く胃薬を送ってきてくれる親友です。

 

 




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そろそろr18書きたい 採光で八坂が攻めの奴を


最近原作でアーシアの扱いが雑なような ~した、とか事後連絡。1巻ではリアスとともにメインってような事を作者が言ってたのに

あと、ゼノヴィアは男でも違和感がなかったような(笑) 彼女単独ヒロインのも書きたいが案が出ない 活動報告でアンケート実施中。


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俺の眷属がこんなに変人ばかりなはずがない ②

 貴族としての教育を受けている俺は学校帰りに寄り道などは基本しない…のだが、婚約者であるレイヴェルに放課後デートをお願いされれば断る訳にはいかない。まあ、何だかんだ言って俺も彼女にベタ惚れな訳で……。

 

「はい、あ~ん♥」

 

 この様に人目があるオープンカフェで差し出されたスプーンも素直に口をつける。この前偶然通りかかった祐斗に見られた時は”フッ”っと笑うだけで通り過ぎていったのは気不味かった。そうこうしているウチにパフェも食べ終わり、後は家に帰るだけ。今日は眷属達との集まりは夜中まで無いのでレイヴェルと二人っきりだ。

 

「……」

 

 もう、その気になってるのかレイヴェルは俺の腕を胸の谷間で挟みつつ歩く……ええ、気持いいです。その顔は耳まで真っ赤に染まり、俯いたまま無言で歩いていた。まあ、この後ナニがあるかは想像にお任せしよう。ただ言わせて貰うならば、俺達は欲望に忠実な悪魔で次期当主なんだから問題はない、という事だ。

 

「あ、あの、もうそろそろ我慢が……」

 

「あと少しだけだから我慢してくれ。……君の肌を他の奴に見せたくない」

 

 二人っきりでエレベーターに乗ったレイヴェルは俺に抱きつきながらモジモジしだす。そのまま急いで自分の部屋に入り鍵を閉めたかと思うと唇を奪われた。

 

「んちゅく…んっ、れろ……」

 

 発情しきった顔で舌を絡めてくるレイヴェルの絹の様な手触りの髪を手で梳き腰に手を回す。そのままキスをした状態で寝室まで運ぶと俺と同じ赤い髪をした美女が全裸で待機していた。

 

「はぁいリアス♪ 久しぶりね」

 

 この人の名はサーゼクス・レヴィアタン。四大魔王の一角であり、俺の姉だ。あ、グレイフィア・ルキフグスが普通?にこの人と結婚して、子供も二人いる。え? 女同士でどうヤったって? アルトリア・ペンドラゴンが異母姉妹との間に息子()を作った方法と同じですが何か? ちなみに甥っ子と姪っ子ですげぇ可愛い。あ、二人共両親は同じだが父母は違う。……意味は分かるな?

 

「あら、ごめんなさい。私、裸じゃないと落ち着いて眠れなくって。……3Pする?」

 

「一人でヤっててください」

 

 ちなみにこの人は極度のレズの上に極度のブラコンです。あ、レイヴェルがヤンデレモードに入りそうなのでこの人は無視して浴室にでも連れ込もう。あそこなら鍵をかけられるしな。……なんか俺も大概な気がしてきたが気のせいだな、うん。あれ? 祐斗達からメールだ。

 

 

『気のせいでは無いと思うのだがね、マスター』

 

 次は小猫、

 

『邪眼が疼きます。左手の封印がぁぁ』

 

 ギャスパー、

 

『WRYYYYYYYYYYYYYYY』

 

 ……朱乃

 

『罵って下さい』

 

 ……さて、誰か眷属丸ごとトレードしてくれないかな? あ、レイヴェルは別ね。女王一個を除いて誰か交換してくれないかな? ちなみに朱乃が戦車なのは”頑丈になってあらゆるプレイに対応する為”と言って無理やり持って行かれたからだ。

 

 

 

 

 

「つれないわね。昔は一緒にお風呂に入ってくれたのに」

 

「俺はもう高校生ですよ、姉上。それで今日は何のごようですか? クレーリアさんからは何も聞かされていませんが」

 

 あ、言っておくけど俺はこの街の管理者じゃない。八重垣とクレーリアさんは出会った瞬間に恋に落ち、すぐに信仰を捨てて眷属になったからだ。ちなみに今は赤ん坊が出来ちゃったので一時的な管理を部下に任せて産休を取っている。

 

「んもう、久々に可愛い弟とエッチスケッチワンタッチ……いや、ハンドレットタッチでも良いかしら? をしに来ただけよ」

 

「そんな事実は一切ねぇよ、ボケ。一回もしてねぇし、これからもしねぇよ」

 

「こ~ら! そんな口の利き方したらダメでしょ? まあ、今日は顔を見に来ただけよ。……できれば下も見せて欲しいけど。元気なところなら尚良し」

 

「帰れ!」

 

 ……疲れた。本当に疲れた。あ、レイヴェルは二時間くらい 激しく可愛がったので今は寝てるから大人しい。あいつ、この馬鹿(姉上)に対しても病むから厄介なんだよな……。

 

 

「じゃあ、帰るわね。今日明日は休みだから三人目を作らなきゃ。あ、四人目も一緒に作ろうかしら?」

 

 グレイフィア・ルキフグスは原作のように真面目な人だ。……性癖さえ、あの性癖さえなければ!

 

 

 

 ちなみに寝室に戻ったら復活していたレイヴェルに押し倒され、また二時間ほど絡み合う事になりました。

 

 

 

 

 

 

 

 押っ忍! 俺の名は兵藤一誠! 駒王学園二年生にしてリアス・グレモリーの兄貴の舎弟だ! ちなみに兄貴分や姉御にあたる祐斗の兄貴や小猫の姉御とも仲良くやっている! 俺は実は悪魔なんだが、今はシスターの少女の道案内をしていた。なぜ道案内をしているかって? 旅は道づれ世は情け、義理を忘れりゃこの世は廃れる! 困っている奴は敵だとしても見捨てられねぇ! 義を見てせざるは勇無きなり、だ!

 

 

「いやいや、済まないねぇ。アンタも用事があったんだろう?」

 

 彼女の名はアーシア・アルジェント。可憐な見た目に反して気風の良い美少女だ! 先程も転んで泣いている子供に対し、

 

「男がそのくらいでピーピー泣くんじゃないよ! 泣いて良いのは生まれた時と親が死んだ時だけに決まってんだろ!」

 

 っと、一括して泣き止ませた。押っ忍! さて、しかし教会には敵対している奴らが居る可能性があるが、嘘を言って去るのは漢じゃねぇ! だが、世話になってるリアスの兄貴にご迷惑をお掛けするのは……。俺がそんな事でウジウジ悩んでいやがったのを察したのだろう。アーシアはコチラを見てフッと笑った。

 

「もう見えてきたし此処まででいいよ。事情は知らないが、教会に近づきたくないんだろ? 良いよ良いよ、世話になったねぇ。んじゃ、またご縁があったら会おう!」

 

 そのままアーシアはケラケラ笑いながら去っていく。くっ! この時ほど俺は自分の不甲斐なさを悔やんだ事はねぇ! よし! 帰ったら修行だ! 歴代所有者の先輩方と組手をしなきゃな! 押っ忍!

 

 

 

 

 

 

 

『おお! 赤龍帝が眷属になったのかよ! すげぇな! そうだ! 今度模擬戦をしねぇか? 実践はいい経験になるぜ!』

 

「ああ、頼むぜ、ライザー」

 

 俺は友人の一人であるライザーとの電話を終える。え? ライザーって下衆じゃないかって? 原作主人公だって大勢の前で告白してすぐに他の女子とお風呂に入ったり、各勢力の有力者が自分の娘を喜々として愛人にさせようとしてるけど、大勢の眷属と仲良くやってるからって下衆にはならねぇだろ。むしろ大勢と仲良くやれるってことは気が効いてるんだろう。

 

 原作リアスだって貴族としては愛してくれているって感じていたし、アイツは貴族社会と無縁の原作一誠と違って貴族育ちだぜ? なのに下級悪魔の奴が生意気言って殴りかかってきたのを一撃だけですませ、去り際にアドバイスをし、結婚式に殴りこんできたのに”お前は強くなるから俺が鍛えてやる”って言えるほど器が大きいけど? しかも、昔ながらの伝統を大切にしながら転生悪魔の台頭も容認してるし、むしろ下衆とは真逆だろ。

 

 

「……俺は誰に言っているんだ? っと、そろそろ……」

 

 俺の上で必死に腰を振るレイヴェルに対し、本日何十回目かになる愛情やその他諸々を注ぎつつ俺は溜息を吐いた。……疲れてんのかな?

 

 




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俺の眷属がこんなに変人ばかりなはずがない  ③

「……気に入らないねぇ」

 

 おっといけない、つい愚痴を零しちまったよ。此方は世話になる身便なんだから多少は我慢しないとね。アタシは顔に出かけていた不満を抑える。どうやら目の前のはぐれ悪魔祓いには聞こえなかったようだどうもアタシが世話になってる堕天使達は何か企んでいるようだし、怪しいよ。……にしても、退屈だねぇ。

 

 アタシの名前はアーシア・アルジェント。これでも少し前までは『聖女様』とか呼ばれてたんだ。ま、ムズ痒くって仕方なかったが、人助けになるってんでお偉いさんに利用されるのも我慢してたんだよ。でもさ、ある日それが一変しちまった。大怪我をして現れた悪魔、どう考えても怪し事この上ないんだけど、それはあくまでアタシが生きてきた狭い世界での常識の範囲内。もしかしたら本当に危ないのかもしれない。だから見捨てれなかった。悪魔祓いの皆さんにゃ悪いと思ったけどアタシは悪魔を助け、『魔女』として追放されちまったんだ。

 

 でもま、アタシはアタシの信念に従ったまで。最後まで貫き通した信念に偽善も偽悪も存在しない、ってのがアタシが世話になっていた孤児院の先生の言葉だからね。別に後悔はしちゃいないさ。……そういや先生の名前って何だったんだろうね。キャプテン・ベラボーとか名乗ってたけど。

 

「おーい、アーシアちゃん。ちょ~っと仕事に付き合ってほしんだけどさ」

 

 アタシに頼んできたのは白髪頭の少年神父。名前はフリード・セルゼン。先生から聞いたんだけど、あの白髪は特殊な訓練施設の出身の証らしい。先生が若白髪なのもその為だって言ってたけど、少々異常なコイツを見ていると異常な所だったのが伺えるねぇ……。

 

「はいよ。飯代くらいの仕事はさせて貰うさ」

 

「……なあ、君って本当に元聖女?」

 

 はっ、此奴もまだまだだねぇ。アタシも一人前には程遠いけどさ。人間ってのは話を聞くだけじゃなくって自分で見聞きしてから判断しなきゃいけないよ。

 

「アタシはアタシさ。聖女なんてお偉いさんが付けた宣伝文句に過ぎないよ」

 

「・・・・・・そんなもんかい?」

 

 フリードは呆れながらアタシを目的地まで案内する。どうやら悪魔との契約の常習犯を懲らしめるから結界を張っておいて欲しいんだけど、どうも焦臭いね・・・・・・。案内されたのは小さいアパートの一室。待っているように言われたアタシがこっそり覗くとフリードの奴が一人の男に切り掛かろうとしていた。

 

 

「なぁに、やってんだい!!」

 

「ぶべっ!?」

 

 アタシが跳び蹴りを食らわすとフリードは壁に激突して気を失う。ったく、これでも手加減した方なんだけど情けないね。アタシはフリードが本当に気絶しているのを確認すると殺されそうになっていた男の方を振り向く。怯えきった男の足下には魔法陣の描かれたチラシが落ちていた。

 

「……ウチのモンが悪さして済まなかったね。でもさ、アンタがよく呼び出してる悪魔には此奴や私みたいに堕天使の手下やってる人間やて神様に仕えてる悪魔祓いもいるんだ。……だからさ、こういう事は控えな。世の中、悪魔と契約しないで生きてる奴がいくらでもいるんだ。危ない橋は渡らなくて良いのなら渡らないほうが良いんだよ」

 

 アタシの言葉に男は黙ってコクコクと頷く、どうやら恐怖から口がきけない様だけど大丈夫そうだ。っと、ここに勘付いた悪魔が来る前に帰らないとね。アタシはフリードを担ぎ上げると本拠地の教会まで帰っていった。

 

 

 

 

「どういう事だよ、アーシアちゃん!」

 

「……黙りな」

 

 目を覚ましたフリードがアタシに食って掛かってきたが、反対に腕を掴んで捩じ伏せる。今のアタシは機嫌が悪い。腕を捻りながら目の前の馬鹿の背中を強く踏みつけた。

 

「アンタが悪魔や天使を殺そうと、それはアンタが生きてきた世界がそうだった、それだけの話さね。平和な国で両親に愛されて育った餓鬼と戦争中の国で孤児として育った餓鬼の価値観が違うのは当たり前。アタシにそれを否定する権利はない。でもさ、堅気のモンを殺すのは違うだろっ!」

 

「痛い痛いっ! アーシアちゃん、腕が折れるっ!!」

 

「……その辺にしておきなさい、アーシア」

 

 アタシが力を入れた時、横合いから止めに入る声が一つ。この教会のリーダーであるレイナーって堕天使で、一応アタシを保護してくれた恩人だ。……ま、コッチを見る目が所属してた教会のお偉いさんと同じに見えるから警戒しちまうけどね。

 

「まったく、あまり騒ぎを起こさないで欲しいわ。今、悪魔と揉めるのは面倒だもの」

 

「確かこの街を縄張りにしてるのはクレーリア・ベリアル、だったかい?」

 

「ええ、そうよ。もう直ぐ計画を実行に移すから、それまで大人しくしてなきゃいけないっていうのに……」

 

 どうも急な妊娠発覚、それも下級悪魔との間ってんでゴタゴタが起こって、その隙に前起きた揉め事で管理者が居なくなった廃教会に侵入したらしいけど……どうも怪しいよ。アタシは怪しみながらも笑顔を取り繕う。ま、なる様に成るだろうさ。そうそう、噂じゃ子供は無事生まれることになったらしい。あくまでも赤ん坊が生まれてくる事を望まれないなんて悲しいからねぇ。

 

 

 

 さ、そろそろコッチも計画を実行にに移すとするか。

 

 

 

 

 その夜、66のベラボー技の一つ”ベラボータヌキ寝入り”で監視者を騙したアタシは商に合わないけど、もし勘違いでレイナーレ達が良い奴だった時の為にコソコソ隠れながら調査する事にした。台所に向かうと明かりが漏れており、中からレイナーレの手下の声が聞こえてくる。

 

「で、アーシアの神器は何時抜くの?」

 

「ああ、三日後が一番時期的に良いらしい」

 

 さて、尻尾巻いて逃げるに限るね。此処でアイツ等全員を相手にするのは別に構わないんだが、騒ぎを聞きつけた堅気のモンが巻き込まれるかもしれないし、悪魔まで駆けつけたら大変だ。……流石に裏切ったとして堕天使から狙われ、悪魔からも敵として狙われるのは面倒だからね。さて、どうしたもんかねぇ。

 

 

 悩むアタシの脳裏を過ぎったのは数日前に出会った親切な悪魔。……仕方ない。レイナーレ達が勝手に行動してるって保証はないし、堕天使の本部も分からない。……それに、裏切ったのは向こうが先だ。

 

 アタシはそのまま気配を殺しながら教会から一目散に逃げ出した。シスター服? んな目立つ格好は変えてるし、髪だって塗料を使って染めたよ。だって、髪が痛むよりも発見される方が嫌だろう?

 

 

 

 

 

「……それで、連れて来たと」

 

「仕方ないだろう? マスター。一誠はこういう馬鹿者だ。だが、そういう部分を気に入っているのは君ではないか」

 

 あ、はい。リアスです。今、目に前にはアーシア・アルジェントを名乗る女傑が立ってケラケラ笑っています。どうやら一誠と祐斗が組手をしている所にやって来て投降を申し出て来て……。

 

「アンタが一誠の主かい? ふ~ん、中々強そうじゃないか」

 

「頼みます! 彼女の投降を認めてやって下さい」

 

 この後、代理で管理しているクレーリアさんの眷属に連絡したら別に良いって帰って来たので眷属にしました。あ、一応原作通り『僧侶』です。レイナーレ? アーシアに囮になってもらって調べたら独断行動だって直ぐにわかったので小競り合い扱いできるからクレーリアさんの眷属が始末をつけました。

 




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赤龍帝の兄は魔獣の王 ① 

書いてみたけど筆が進まない


それは新聞配達の人達が置き出す早朝の頃、一人の男が目を覚ました。年齢は二十代後半でボサボサの黒髪に鍛え上げられた肉体、ツリ目の三白眼と鋭い犬歯は凶暴そうなイメージを駆り立てる。彼の名は兵藤零観(ひょうどうれいかん)。この家の長男である。彼は大アクビをしながらベットから起き上がると隣室のドアをノックもせずに開けた。

 

「オラッ! さっさと起きろや、一誠! モテる為に体鍛えるって言ったのオメーだろがよー!」

 

「……まだ早すぎだろ。あと五分だけぇっ!?」

 

「さっさとジャージに着替えやがれボケが」

 

 弟である一誠の頭に鉄拳を落とした彼は一誠をベットから引き摺り出すとまだ肌寒い外に放り出した。

 

「とりあえずランニング五キロ。帰ったら腕立て・腹筋・スクワット各百回ずつな」

 

「うげっ!? な、なぁ、兄貴。もう少し軽く……」

 

「何? その倍やりたいだと? 良い根性だな、一誠!」

 

「いや、俺はそんな事……」

 

「あぁん?」

 

「はい! 頑張ってやらせて頂きます!!」

 

 こうして軽い気持ちから始まった朝のトレーニングは地獄と化し、一誠は昨日の自分を呪いながら重くなった足を必死に動かして走り続けた。やがて両親が置き出す頃には腰に手を当てて牛乳を一気飲みする長男と、全身汗だくでゼィゼィ言っている次男の姿があった。

 

「零観。そろそろ出かけないと遅れるんじゃないの」

 

「おー、もうそんな時間か。んじゃ、行ってくるわ」

 

 零観は似合わないスーツに着替えると家から出ていく。彼の勤め先は駒王学園。弟の一誠が通う高校の体育教師が彼の職業だ。

 

「兵藤先生、お早う御座います」

 

「おう、支取か。今日もご苦労なこった」

 

 校門の前では生徒会長の支取蒼那率いる生徒会が抜き打ちの持ち物検査をしていた。変態二人組と呼ばれる松田と元浜が捕まっている。ちなみに弟の一誠も変態になりかけたが、おっぱいを題材にした紙芝居に通おうとした所を鉄拳制裁し止めさせた。ちなみに紙芝居のおじさんは警察に捕まったらしい。

 

 

 

「ん? なんだオメーも帰りか一誠。……どーかしたのか?」

 

 その日の放課後、仕事が早く終わって帰路に着いていた零観は道端で呆然と立ち尽くす一誠を見付けて話しかける。だが話し掛けても一誠は固まったまま動かず、朝同様に頭に鉄拳が落とされた。

 

「いてぇっ!? って、兄貴っ!?」

 

「ったく、道端で何ボーッとしてんだ気持ちわりぃ」

 

「俺はボーッとしてるだけで気持ち悪いのかよっ!? ……なあ、兄貴。俺、告白されちまった」

 

「ああ、立ったまま寝てやがったのか。オメーも器用な奴だな」

 

「違うからねっ!? って、何すんだよ」

 

 零観は一誠が苦労してセットした髪をグシャグシャと掻き回しゲラゲラ笑う。

 

「まだ時間あるし何処か寄ってくか?」

 

「んじゃ、キャバクラ!」

 

「アホかオメーは。んな所は自分で自分の世話が焼ける様になった一人前が行く所だ。餓鬼が行けると思うなアホ。ラーメン食いに行くぞ、ラーメン」

 

 零観は一誠の背中を乱暴に叩きながらお気に入りのラーメン屋に向かう。そして数日後、告白してきた少女とデートに向かった一誠は何時の間にか帰って来ており、周囲の人間から彼女に関する記憶が消えていた。

 

 

 

「ああ? オメーの彼女だろ。覚えてるに決まってるじゃねぇか」

 

「だ、だよなっ!? でも、誰も知らねぇって言うんだ」

 

「苛められてるんじゃねぇのか? オメーも二人程じゃなくても変態だしよ」

 

「それが兄の言い草かよっ!?」

 

 

 

 周囲の人間の中で唯一記憶が消えていなかった零観は今回の事態に首を捻りながらも、どうでもいーか、と気にしない。そして更に数日後の飲みに出かけた帰り、上機嫌で帰っていた彼の目の前に今にも殺されそうな一誠の姿が映った。

 

「下等なはぐれ悪魔よ。これで消えて…あごっ!?」

 

「俺の弟に何やってんだよクソヤロー。いっぺん死ぬか、あぁん?」

 

「兄貴っ!」

 

 一誠に槍を向けていた男は後頭部に蹴りを食らってブロック塀に頭から激突する。悶えている男の後頭部を掴んだ零観は乱暴に地面に叩きつけると頭を何度も踏みつける。やがて男はピクピク痙攣しながら気を失った。

 

「おいコラ一誠。こんな時間に何してんだよオメーはよー。校則違反だろが。明後日までに反省文十枚な。……テメーもだ、グレモリー。てかオメー、何処から出て来たんだ?」

 

 零観が振り開けると其処には三年生のリアス・グレモリーの姿。先程まで居なかった筈なのに何時の間にか立っていた。

 

「あら、気付いてたのね先生。詳しい話しは明日使いを出すから部室でしましょ」

 

「それよりもオメーも反省文十枚な。遅れたら一日毎に五枚追加だから頑張れよ」

 

「……はい」

 

 リアスは魔法陣の中に消えていき、零観は手品か何かかと考えながら帰路に着いた。

 

「そういや一誠。血ぃ出ってっけど大丈夫か?」

 

「あ、ああ、なんか痛むけど歩ける」

 

「そっか。んじゃ、一応病院行くぞ。あのオッサンもケーサツに……っていねぇっ!?」

 

 男も何時の間にか消えており、二人は病院に急患窓口を利用した後で帰路に着いた。

 

 

 

 

「……随分妙な装飾品だな、おい。部費じゃ足りねぇんじゃねぇか? てか、なんでシャワーが付いてんだ?」

 

 翌日、リアスが部長を務めるオカルト研究部の部室がある旧校舎まで向かうと其処は異様な部屋だった。魔法陣やオカルトちっくな装飾品、極めつけはシャワーだった。

 

「まあまあ、気にしないでください先生。許可は取ってますから」

 

「……な~んか納得いかねぇな。まあ、今日はそんな話しに来たんじゃねぇ。……あの手品…いや、手品じゃねぇよな?」

 

「ええ、そうよ。兵藤一誠君…イッセーって呼ばせて貰うわね。私達は貴方を歓迎するわ。悪魔としてね」

 

「ああ、これが厨二病か、やっぱオカルト研究部ってのはそういうのの集まりなのか?」

 

「違うわよ! ほら、悪魔の羽!」

 

 リアス達オカルト研究部の部員は背中から蝙蝠の様な羽を出現させる。

 

「コスプレか。って、制服から出てんじゃねーか! 制服の改造は禁止だぞ、おい!」

 

「……朱乃。私帰っても良いかしら?」

 

「……気持ちは分かりますが落ち着いて下さい、部長」

 

 その後、いろいろ説明する事で零観達に悪魔の事を信じさせる事ができ、三すくみの事や一誠が悪魔に転生した事、神器の事も説明した。

 

「じゃあ、貴方の神器を調べるからこの魔法陣の上で自分が一番強いと思う者の真似をしてちょうだい」

 

「……知る中で一番強い。……ど頭かち割るぞ三下がぁっ!!」

 

「おー、俺の真似か。中坊ん時にヤーさん五十人くらいぶちのめした時のセリフだな。んで、その赤い籠手がテメーの神器って奴か」

 

「此処まで来たんだし、先生もやってみたらどうかしら?」

 

「そーだな。結構面白そうだ」

 

 零観は魔法陣の上に立つとしばし考え出す。

 

「ど頭かち割るぞ三下がぁっ!!」

 

「あの先生、知る中で一番強い者の真似ですが……」

 

「俺の知る中で俺より強い奴は居ねぇ。……出ねぇな」

 

「先生に記憶削除が効かなかったのは偶々耐性があっただけの様ね」

 

「んじゃ、俺は帰るわ」

 

 零観はそのまま部室を後にした。

 

 

 

 

 

(……にしても妙な言葉が浮かんだな。”魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)”ってよー)

 

 

 

 

 




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魔道士世界の不死者の王 

「さて、どうしようか?」

 

「敵の様ですし、全滅させればよろしいのでは?」

 

 一誠は腕組みして頭を傾げ、すっかり染まったランスロットは事も無げに言い放つ。彼らは今、悪魔に囲まれていた。

 

「我々の根城に乗り込んでくるとはその対価、おいくらかおいくらか!」

 

「え? 入場料いるの? もしかしてテーマパーク? あっ! 警備員まで特殊メイクしてるんだ。そりゃ怒るわ。え~と、団体割引ある?」

 

「違うっ!」

 

 こうなった原因は数時間前に遡る。

 

「異世界に分身送る機械が完成したから試そう」

 

 と、マユリが言った。以上で回想終了。ちなみに大勢が一誠と共に異世界に行き、イキナリ宙に放り出されたかと思えば空飛ぶ妙な乗り物に降り立ち悪魔に囲まれたのだ。

 

「……流石に此処で彼らを殺すのは心が痛む、かなぁ?」

 

「良いんじゃねーですか? ご主人様。向こうはどうも殺る気みたいですしぃ。氷天よ、砕け!」

 

 玉藻は襲いかかってきた一体を凍り付けにする。なんか”不死の~”とか名乗っていたが芯まで凍らされては動けないようだ。だが、幹部っぽいのが負けたにも関わらず悪魔達に大して動揺は見られない。逆にニタニタ笑っていた。一誠がふと不死のなんちゃらに目をやると黒い霧の様な物になっていた。

 

「我らは冥王との契約により何度でも復活する。だが、キサマらには我らには向かった報いを受けて貰おう」

 

「え? 君以外も復活するなら”不死”の異名は意味ないんじゃ?」

 

「これが何か分かるか? 魔障粒子だ。魔道士が吸い込めば深刻な病を引き起こす」

 

「あ、ガンスルーだ。ねぇ、其処の仮面のお姉さん。他のも蘇るのにこの人なんで”不死”とか名乗ってるの?」

 

「愚かな人間め。なぁっ!?」

 

 幹部の一人であるキョウカは一誠の言葉を無視して話そうとし、驚愕の声を上げる。魔障粒子は球体状の結界に包まれて遥か上空に登っていった。

 

「コノママ宇宙マデ上ゲテオクヨ」

 

「……貴様ら何者だ?」

 

 どうやら目の前に現れた奇妙な姿をした者が結界を創り出したと判断したキョウカは下手に飛び掛らないように仲間達を手で制する。その時、何処からか声が響いた。

 

『マルド・ギールは其奴らと話がしてみたい。案内しろ』

 

「……だそうだ。ついて来い」

 

 キョウカは一瞬迷ったあとで部下を引かせ、一誠達を案内した。

 

「え? 一人称がマルドギール(名前)なの? ……ノーコメントで良いか。それにしてもこの拠点面白いね。生き物でしょ?」

 

「無駄口を叩くな。……失礼の無いようにな」

 

 キョウカが一誠を連れてきた部屋には一人の青年が座っており、手に持った本からはそれなりに強力そうな力が放たれていた。

 

「では、お言いつけの通り私は此処で」

 

 キョウカは青年”マルド・ギール”に言われた通りに部屋から出ていき、マルド・ギールは一誠達をしげしげと眺める。

 

「マルド・ギールは知りたい。お前らは何者だ?」

 

「異世界の最上級死神とその部下。ちなみに上司の名は冥王ハーデス」

 

「ふむ、やはり異世界の存在か」

 

 マルド・ギールは疑わず、逆に納得した様な表情になる。どうやら何か根拠となる物を感じていたらしい。そして彼が立ち上がった瞬間、拠点が本性を現し一誠達を取込もうとした。それと同時に無数の茨が一誠達を締め上げる。

 

「あれ? これは何のつもり?」

 

「マルド・ギールは計画の邪魔になる存在が嫌いだ。キサマらは全員がマルド・ギール並みの力を持っている。だから今此処で消す」

 

「あっそ。えいや」

 

 そして一誠達は特に力も入れずに脱出した。

 

「力抑えすぎてたね。……だからこんな雑魚に舐められる。皆、力開放しても良いよ」

 

 その力を感じ取ったマルド・ギールは明らかに狼狽し出し、なにか言葉を発する前にランスロットによって一刀のもとに切り伏せられた。

 

アスカロン・ミミック(聖剣)のオーラは悪魔の魂を完全に消滅させる。そして……」

 

 真上に向けられたアスカロン・ミミックの刃は天井を貫き遥か上空まで伸びていく。そしてランスロットが縦横無尽に剣を振るうと一誠達が居る場所を除いてマルド・ギール達の拠点は完全に破壊される。そしてアーロ・ニーロは曹操を取り込んだ時に手に入れた黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)を向け、そこから放たれた聖なる光が運良く生き残った悪魔を全滅させた。

 

 

 これが黒魔道士ゼレフが生み出した悪魔の集団”冥府の門(タルタロス)”の最後である。同時刻、遠くを旅していた青年が憂いに満ちた顔をしたが、直ぐに何処かへ旅立っていった。

 

 

「じゃあ、何か美味しいものでも食べに行く?」

 

「ん~それは構いませんがお金がありませんよ?」

 

「……あいつらから奪えばよかったかな? どうせ殺すしお金なんて必要なかったよね」

 

 地面に降り立った一誠達は偶然その近くにいた坊主頭で頬に傷のある男が隠れて見ているのも気にせず話を続ける、その時、遠くから竜の気配が近付いて来た。

 

「……俺が戦うか?」

 

「いや、俺が戦うよクロちゃん」

 

「クロちゃんと呼ぶな」

 

 クロウクルワッハが不満そうな顔をした時、一匹の竜が舞い降りる。全身真っ黒で放たれる力は魔王よりやや下程度。

 

『我、目覚めるは覇の理を求め、死を統べし赤龍帝なり』

 

『無限を望み、夢幻を喰らう』

 

『我、死を喰らいし赤き冥府の龍となりて』

 

『死霊と悪鬼と共に、汝を冥府へと誘わん!』

 

魂を喰らいし(ヘル・ジャガーノート・ドライブ)冥覇龍(・ソウルイーター)

 

 つまり、一誠の敵ではない。竜の名はアクノロギア。黙示録に記された恐怖の象徴。そしてアクノロギアは一誠の覇龍に恐怖を感じて一目散に逃げ出した。

 

「あれ? 何処に行く気かな? ……殺意丸出しで向かって来ておいてさ、逃がしてもらえると思ってたの?」

 

 一誠はアクノロギアの尻尾を掴んで動きを止めるとそのまま地面に叩きつける。そして動き出す前に右の翼を掴むと簡単に引きちぎる。アクノロギアは吐血と共に悲鳴を上げ、左の翼も引きちぎられた。ドクドクと血」が流れる中、一誠の拳がアクノロギアの体にめり込み、その度に骨が砕け肉が弾け飛ぶ。それでも死なないのは一誠が手加減しているからだ。

 

「あはははははは!」

 

「……もうその辺にしておけ。相手を甚振るのはお前の悪い癖だ」

 

 そしてアクノロギアはクロウクルワッハの一撃で頭を潰されて絶命した。

 

 

 

 

 その一ヶ月後、冥府の門(タルタロス)の壊滅とアクノロギアの死滅で評議会が慌ただしくなる中、さらに彼らの頭を痛める報告が上がる。その両方を成し遂げた化物(・・)が魔道士ギルドを設立したというのだ。ギルド名は『不死者の王(ノーライフキング)』。とりあえず貫禄があるからとハンコックがマスターを押し付けられたそのギルドはマグノリアに設置された。

 

 

 時は784年。ララバイの強奪事件が終わった数日後の事だった……。

 

 

 




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魔道士世界の不死者の王 ② 

やっつけ感がする……


 それはエルザとナツが評議会の牢屋から帰った翌日の事、ギルド内は一つの話題で持ちきりだった。

 

「おいおい、見たかよ。あの新しいギルドのマスター。すっげぇ美人。もうボンっ!キュっ!ボンっ! って感じでよ!」

 

「他にも美人が沢山居るらしいぜ。ロキがその内の一人をナンパしたんだけど振られたってよ。ざまぁ見ろってんだ、ギャハハハハハ!」

 

「なあ、じっちゃん。何の話してんだ?」

 

 ナツが近くに居たマカロフに尋ねると週間ソーサラーを渡される。そこには新規ギルド”不死者の王(ノーライフキング)”についての特集をやっていた。

 

「ほれ、この前噂になってたじゃろ。バラム同盟の一角である冥府の門(タルタロス)を潰し、黙示録に記された竜”アクノロギア”を倒したって魔術士が作ったギルドじゃ」

 

「……ああ、そんな噂あったな。まっ! 俺の力なら同じ事が出来…る…」

 

 ナツは何時もの根拠のない自信を出しながら週間ソーサラーをパラパラと捲る。そしてメンバーの集合写真を見た所でギルドから飛び出していった。

 

「こら、扉を壊すなっ! ……なる程」

 

 エルザは床に落ちた雑誌を拾い上げてナツが見た写真に目を留める。其処にはグレンデルとクロウクルワッハ(二匹のドラゴン)の姿が写っていた。

 

 

 

 

 

「おい! 写真の竜は居るかっ!?」

 

 数分後、街の人にギルドの場所を聞いたナツは不死者の王のギルドに飛び込む。仕事に行っているのか殆ど人がおらず、何人かが座っている程度だ。カウンターの中ではランスロットがグラスを磨きながらナツを見ていた。

 

「あの二匹ならば今は居ませんよ。仕事に行っていますので帰りは何時になるか・・・」

 

「ならお前は二匹から何か聞いてねぇかっ!? 俺、イグニールって竜を探してんだっ!」

 

「おや、貴方もですか。そちらのお二人も同じ目的で居らしていますよ」

 

 ランスロットが指さした先には不機嫌そうにテーブルに座るガジルと居心地が悪そうにしているウェンディの姿があった。

 

「あん? テメェも来たのかよ。妖精のケツの火竜さんよぉ」

 

「あぁ? テメェはファントムの奴だな。ケツじゃねぇ、尻尾だ」

 

「あ、あの、お二人共。人のギルドで喧嘩は良くないですよぉ~」

 

 元々二人のギルドは仲が悪く睨み合う二人の間に挟まる形になったウェンディはそそくさとその場を離れる。そしてナツとガジルが喧嘩を始めようとしたその時、横から伸びてきた足に蹴り飛ばされた。

 

「五月蝿いなぁ。食事時に他人のギルドで喧嘩しないでくれる?」

 

「ごしゅ……ダーリンの食事を邪魔するとは許せません。即・天・罰! きゃっ✩ 私、ダーリンって呼んじゃいましたぁ♪」

 

 一誠と玉藻に蹴り飛ばされた二人はギルドの外まで飛んで行き、ナツは面倒事を起こさないようにと迎えに来たエルザに受け止められた。

 

「むっ。どうやら遅かったようだな。ウチの者が迷惑を掛けたようだ」

 

「……ふ~ん、君面白ろいね」

 

「ダーリンっ!? ままま、まさか新しい女を作る気ですかっ!? くっそぉぉぉぉぉ!! よし、ぶっころ✩」

 

「いや、違うよ? ……俺のこと信じられない?」

 

「ぐっはっ!? ももも、申し訳ございません」

 

「うん、分かってくれれば良いんだ。……でも、少し怒ったからお仕置きね。さて、家に行こうか」

 

「きゃっ✩ どんなお仕置きか楽しみです♪」

 

 

 

 

 

「……え~と、帰るか」

 

 存在を忘れられ甘甘空間を見せられたエルザはナツを引き摺って帰ろうとする。その時、上空から巨体が舞い降り土煙を舞い上げた。降りてきたのはグレンデル。魔法によって二メートル程に縮んだ彼が現れた瞬間、ナツとガジルは目を覚ました

 

《グハハハハハ! 楽勝だったぜ!》

 

「おいお前っ! イグニールって竜の事知らねぇかっ!?」

 

「メタリカーナって竜の事もだ」

 

「あ、あの、ぐらんディーネって竜について知っていたら何か教えて頂きたいんですが」

 

《何にも知らねぇな。俺はこの大陸の竜じゃねぇから答えれることなんか何もねぇよ》

 

 グレンデルは三人に素っ気ない態度を取るとギルドの中に入っていく。納得できないナツであったがエルザに諭され一旦帰る事にする。ガジルも帰り出し、ウェンディも迎えに来たシャルルと一緒に帰ろうとした時、グレンデルがギルドの窓から顔を出した。

 

《テメェラが言っている竜かは知らねぇけどよ、目と鼻の先に三匹居るぜ》

 

「本当かっ!? まさかこの街に居るのかよっ!?」

 

《ああ、今、街に居るな。後はテメェらで探しな》

 

 グレンデルはそう言うなりギルドの奥に引っ込み、ナツ達は育ての親の竜を探すために街を走り回った。だが、当然のごとく見つからず、そのまま数ヶ月が過ぎた。その間、ファントムと妖精の尻尾の抗争やラクサスが起こした騒ぎ等があったが不死者の王は傍観を決め込み、やがて闇ギルドの一つ六魔将軍(オラシオンセイス)を討伐する為に五つのギルドが手を組む事となった。

 

 

 

 

 

「……来ていないのは”不死者の王”の者共。……二人だけと聞いているがどの様な奴らが来るか分からんな」

 

「あっちも二人だけっ!? 彼処は本当にヤバイのが来そう……」

 

「ああ。最近、討伐系の依頼は殆ど持って行かれているそうだ。ギルド間の調整の会合にも彼処のマスターは出ねぇらしいぞ。……にしても遅過ぎだろ」

 

 グレイが不機嫌そうに時計を見上げたその時、強風による衝撃で集合場所の別荘が揺れる。襲撃かと思い一同が外に出ると巨大なドラゴン(クロウクルワッハ)が建物の前に立っていた。

 

「……なる程。あちらは竜を出してきた訳か。これは心強い」

 

「おい! お前はイグニールの事知らねぇかっ!?」

 

「知らんが竜の気配はすぐ傍からするな。距離にして一キロ以内といった所だ。……それと参加者は俺ではない。二人と伝えているだろう? 俺は送り届けに来ただけだ」

 

 クロウクルワッハはそう言うなり背中に手を回し乗せていた二人を地面に下ろす。二人の少女は手を繋いで彼の手から飛び降りた。

 

「こんにちわ。あたし、ありす!」

 

「こんにちわ。わたし、アリス!」

 

「では俺は帰ろう。夕食前には迎えに来る」

 

 余りにも幼い少女二人の登場に一同が固まる中、クロウクルワッハは飛び立っていく。数秒後、回復した青い天馬の一同が二人に近づいてきた。

 

「こんにちわ、お嬢ちゃん達」

 

「君達可愛いね。双子?」

 

「てか、可愛すぎだろ」

 

「ん~、いい香り(パルファム)だ」

 

 自分達を取り囲む彼らに対しありすとアリスはヒソヒソ話を始める。

 

「ねぇ、この変なオジサン(・・・・)達、”ろりこん”って奴かな?」

 

「しっ! ”ぺどふぃりあ”の変態オジサン達は相手をしたら喜ぶから構っちゃ駄目。あそこのハゲのオジさんの後ろにでも隠れましょ」

 

「……容赦ねぇな」

 

 青い天馬一同は心を折られ地に手を付いて項垂れている。その光景をグレイは引いたようにしながら見ていた。

 

「あっ! あそこにも半裸のへんたいだぁ~!」

 

「駄目よ、ありす。露出狂は見られて喜ぶんだから。きっと全裸になって追いかけてくるわ。わたし達みたいな子に裸を見せて興奮するのよ、きっと」

 

 グレイも心を折られた。

 

 

「にしてもあんな小さな女の子二人って……」

 

「……いや、侮らぬほうが良い。あの二人、只者ではないぞ。もしかしたら儂達全員を相手に出来る程かもしれん」

 

 

 そして作戦が決まり決行しようとした時、六魔将軍から襲撃を掛けてきた。だが、

 

 

 

「「おいで、ジャバヴォック!」」

 

 討伐隊には最凶の幼女達が居る事を彼らは知らなかった……。

 

 




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死神姫と邪龍の聖杯戦争 

”メディア”、コルキスの王女にして魔女であった。キューピットの矢によってイアソンに猛烈な恋心を抱いた彼女は叔父である王を裏切って国宝をイアソンに渡し、自分を慕って着いてきた弟を殺して死骸を囮にして共に国から逃げ出した。だが、最後にはメディアの熾烈さに恐れをなしたイアソンに裏切られ、彼との間に出来た子供二人を殺したメディアは何処かへと旅立っていった。

 

 そしてメディアは今・・・・・・、

 

 

 

『本日の邪龍クッキングは”牛タンシチュー北欧風”だ。季節の野菜を・・・・・・』

 

「あら、明日の夕ご飯に作ろうかしら」

 

 自宅のリビングでテレビを観ていた。メディアがジグソーパズルをしながらテレビを観ていた時、玄関の戸が開き一人の少女が家に入ってくる。メディアが玄関まで向かって出迎えると背中にはランドレスを背負い、髪の毛はメディアに似た紫色の髪をしていた。

 

「お母様、ただいま!」

 

 少女はメディアの姿を見るなり抱きつきメディアもまた彼女を抱きしめる。

 

「お帰りなさい、アイル。明日から夏休みだけど、お父様が、”約束していたキャンプは海と山のどっちにするか決めておくように”、って言っていたわよ。其れとお祖母様が来ているから手洗いうがいしたらすぐに挨拶なさい」

 

「うん!」

 

 アイルは元気に返事をすると洗面台のある方へと駆けていく。メディアは其の姿を愛おしそうに眺めていた。

 

「・・・・・・まさか私にこんな幸せな日々が訪れるなんて思ってもみなかったわ。可愛い娘に最愛の旦那様、時々怖くなるくらいね。この生活全てが夢で、ある日目覚めたらあの子達を殺して逃げている途中だった、なんてことになりそうで・・・・・・」

 

「お母様~! 石鹸が切れてるよ! 新しいの何処~?」

 

「はいはい、一寸待ってて」

 

 メディアは先程浮かべて不安そうな表情から何時も娘に向ける笑顔に切り替えると洗面台に向かっていった。

 

 

 

 

 これは一誠と玉藻の間に子供が生まれてから数十年後の物語。二人の間に生まれた子はやがてメディアに恋をし、紆余曲折あって二人は結ばれた。第一子の名はアイル。今は小学校三年のメディア夫婦の最愛の娘だ。

 

 

 

 

「お祖母様、こんにちわ!」

 

「ええ、こんにちわ。三日ぶりですね、アイル」

 

 玉藻はかつての様な露出度の高い服装ではなく上物の着物で肌を隠した上品な装いだ。座布団の上で正座をしており、初孫であるアイルに向かって静かに微笑む。其の姿からはかつてのぶりっ子のような姿は予想できず、アイルも祖母のその様な姿など知らなかった。

 

「本当なら一誠様も来るはずだったのですが、マユリがまた珍妙な発明を致しまして、監督責任があるので実験に同伴しなくてはならなくなったのですよ。……そうそう。アイルが好きなケーキをおみやげに買ってきていますから後で一緒に食べましょう」

 

「本当! お祖母様、有難う!」

 

 アイルは玉藻に抱きつき、玉藻はそっと孫の頭を撫でる。その姿は上品で、

 

 

 

 

 

(やっべぇっ! 可愛いなチクショー! あ~んもう! ナデナデした後はぁ、抱き枕にして添い寝したいなぁ ♪ 糞っ! 玉兎(バカ息子)のヤローが”メディアの望む平凡な幸せを味あわせてあげたい”、とか言ってこの家から仕事に出かけなけりゃ毎日愛でれるのにっ! ……まあ、”平凡な幸せ”、て気持ちは分かりますし、冥府の城に住んでいたら無理だとは思いますから仕方ありませんけどね)

 

 などと全く昔と同じキャラでいる事など予想はできなかった。

 

 

 

 

 

「ねぇ、お祖母様。私がお祖父様に会いに行くのは駄目?」

 

 コクンと首をかしげなら聞いてくる姿に玉藻のテンションは上がり、メディアは魔術を使って気付かれないようにしながら転げまわっている。

 

 

(可愛いよ可愛いよ! 目がクリッとしていて何時も元気で素直で。……よし! 新しい服はゴスロリにしましょう。ありすちゃん達が小さい頃に来ていた服みたいなのを!)

 

「……勝手に歩き回りませんか?」

 

「うん!」

 

「なら、良いですよ。向こうに連絡を入れておきますので都合のいい時間帯に向かいましょう。メディアさんも別に宜しいですね?」

 

「ええ、構わないわ。アイルの事、お願いしますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え? アイルが来るのっ! イヤッホォッ!」

 

「……主、落ち着いてください」

 

「父さん、嬉しいのは分かりますが甘やかし過ぎない様にお願いしますね」

 

 孫が来ること聞いてテンションが上がる一誠に対しランスロットと長男(玉兎)は彼を落ち着かせる為に書類の山を執務室の机の上に積み重ねた。

 

 

 

「さて、マユリの発明に関する書類です。リゼヴィムの様な輩に悪用されない為にも厳重に管理致しませんと」

 

「並行世界に行く装置、ですか。分身を送る装置は作りましたが、まさか本人が行く装置まで造るとは……」

 

「……まあ、クロウクルワッハに警備を任せたから大丈夫だと思うよ。機械が暴走でもしなけりゃね。……そうそう、ランスロット。うちの次男と君の所の長女の結婚式の準備どうなってるの?」

 

 一誠は若い頃と変わらずケラケラ笑いながら書類を片付けていく。その時、執務室にフリードが飛び込んできた。

 

 

「おい! 例の装置が暴走してアイルとクロウの旦那が吸い込まれたっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、マユリの発明品には困ったものだな」

 

「私、帰れるのかな?」

 

 クロウクルワッハは何処からか傘を取り出しアイルに差し出す。降りしきる雨が彼の体を濡らすが気にした様子はない。一方アイルは不安から泣きそうになっていた。

 

「安心しろ。マユリはマッドだが天才だ。……ちょうど奴からメールが入った」

 

『装置は直したヨ。そっちの時間で十日後には帰れるネ。金塊(今年の経費全部)を送っておくから資金にしてくれたまえ』

 

「……取り敢えず雨宿りができる場所に……」

 

 二人はその場を離れ雨宿り出来る場所を探す。その時、反対側から女性が一人向かってきた。

 

 

 

 

(……もう、終わりね)

 

 聖杯戦争において最弱の英霊とされるキャスターとして召喚された彼女は、彼女の魔術師としての力に嫉妬した主に魔力を制限された事で主を見限り殺害した。そして今、彼女は魔力の限界が来て消え去ろうとしている。

 

 

「大丈夫?」

 

 そんな時である。途轍もない魔力を秘めた少女がキャスターを心配そうにしながら話し掛けて来た。反応した彼女は僅かに顔を上げ、それによって被っていたローブがずれてキャスター顔が顕になる。

 

 

 

「お母…様?」

 

 キャスターの真名はメディア。並行世界のアイルの母親である。

 

 




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死神姫と邪龍の聖杯戦争 ② 

 メディア(キャスター)が目を覚ますと其処は見慣れぬ部屋のベットの中。自身の体からは生前の彼女に匹敵する程の魔力が満ち溢れており、その魔力の持ち主であろう少女はベットの横の椅子に座ってでスヤスヤと眠っていた。

 

「……この子が助けてくれたようね」

 

 だがメディアはすぐにアイル(少女)を信用しない。生前裏切られ続け、また裏切り続けた彼女は容易には人を信用しない。どうやら魔術師らしいし、英霊である自分を利用するつもりだろう、そう思った時、アイルの寝言が聞こえてきた……。

 

「ん…お母様…好き…」

 

「……そういえばこの子が私の顔を見て”お母様”って呼んだような……!」

 

 メディアは背後から感じ取った気配に身を竦ませる。それは幻獣種の頂点であり、彼女が知るどの様な存在よりも遥かに巨大で邪悪な力の持ち主。全身から汗が噴き出し体が恐怖で震えそうになるもキャスターは矜持から平静を装って振り返る。

 

 

 

 

「目が覚めたか、メディア」

 

 其処にはヒヨコのイラストが描かれたエプロンを着ているクロウクルワッハ(人型)の気配があった

 

「ぶほぉっ!?」。

 

 もはやプライドとか何処かに飛び去って吹き出したキャスターに特に反応を見せないクロウクルワッハはオムライスとサラダとプリンを乗せたトレイをテーブルに置くとアイルの体を揺り動かした。

 

「起きろ。夕御飯だ。今日は中々上手く出来たぞ。……グレンデルには負けてられん」

 

「ん~。……オムライス!」

 

「あの、貴方達は一体……」

 

「説明は夕食を食べ終えてからだ。……むっ、お前も必要だったか?」

 

 クロウクルワッハは自分もオムライスを口に運びながら訊き、メディアはを横に振る。なんか非常に疲れた顔をしていた……。

 

 

 

 

 

 

「……要するに貴方達は異世界の存在で、この子はそっちの世界の私の娘って訳ね」

 

「記憶を少し読ませたんだ。確認する必要などないだろう?」

 

「無茶苦茶すぎて信じたくないのよっ! なんで邪龍が家事全般が得意なのよっ!? っていうか、幼児の時から知っている子の子供と結婚って、そっちの私何やってるのっ!?」

 

「長寿種になったんだ。別に年の差など気にする必要などないだろう。」

 

「……ああ、なんかドッと疲れたわ」

 

 叫び続けるキャスターと全くテンションの変わらないクロウクルワッハ。ちなみにアイルは夕食後の勉強をしに別の部屋に行っている。なお、この家は金の力とアイルによる魔術での催眠で買った空家だ。既にクロウクルワッハの手で整備が整っており、電気ガス水道だけでなくネットも完備している。

 

 

 

 

「お母様…じゃなかった、キャスターさんとのお話終わったの?」

 

「いや、まだだ。勉強は終わったのか?」

 

「喉が渇いたの」

 

 アイルはクロウクルワッハが沸かした後で冷やした麦茶を二つのコップに注ぐと一つをキャスターの前に置いた。

 

「はい」

 

「私には必要ないわよ? ……まあ、せっかく入れて貰ったから頂きましょう」

 

 キャスターは麦茶のコップを傾けると一気に飲み干す。彼女が麦茶を飲む間、クロウクルワッハは何やら考え事をしていた。

 

 

 

 

「……それで聖杯戦争はどうするのかしら? 私はできれば”故郷に帰る”、という願いを叶えたいのだけど」

 

 メディアはこの少しの間にアイルの才能と膨大な魔力を感じ取り、最弱の英霊と呼ばれるキャスターの自分でも勝機があると感じていた。だが問題は目の前のクロウクルワッハだ。少しだけ読み取った記憶では会うたびにアイルの世話を焼き、仲間からは”姪っ子に甘いオッサンみたい”、とまで呼ばれている彼だけに危険な目に合わせるとは思えない。第一、キャスターには彼を御しきれる自信はない。

 

 

「ねぇ、クロウさん。私、参加したい!」

 

「……お嬢ちゃん。私としては嬉しいけど危険よ?」

 

 ほんの少しだけ読取った記憶で異世界とは言え自分の娘だと知ったからか、それとも殺した我が子に似ていたのかキャスターはアイルが参加すると言い出したことに迷いを覚える。横のクロウクルワッハもしぶ顔だ。

 

「……参加する理由は?」

 

「お母様とお父様がね、”何事も中途半端はいけません”、って何時も言っているの。一度助けたのに後は知らないって放ったらかしにするのは良くないと思うし……もうすぐお母様の誕生日だから聖杯をプレゼントにしたいの」

 

「ず、随分と豪華なプレゼントね……」

 

 キャスターがアイルの発言に若干引く中、クロウクルワッハは溜息を吐いて立ち上がるとアイルの頭にそっと手を乗せた。

 

「……俺がやってやるのはお前の護衛と食事の用意だけだ。その他は知らん。そして帰れる日が来たら帰るぞ。……其れで良いな」

 

「うん!」

 

 

 

 アイルは元気に返事をし、キャスターは安堵する。こうしてキャスター陣営の聖杯戦争が始まった。

 

 

 

 

 

 ……のだが、此処で問題が起きた。アイル自体が規格外な強さを持ち、さらに上を行く規格外が守っているのでマスターを守る必要は無く、魔力も過剰に集まっており竜牙兵もアサシンにやや劣る程度の強さを持たせることができる。だが、流石に三騎士クラス相手にキャスター一人で戦うのは無理があり、拠点を移動するというのは却下された。

 

 

「あくまで此方は協力しているだけだ。戦闘は其方で何とかしろ」

 

 本来なら消えいく運命(正確には枯れ果てた殺人鬼と出会う運命だったのだが知る由もない)だったので諦めるしかなく、裏技的な方法を取る事にした。

 

 

「素に天空と大地。 礎に太陽の子と大海の娘。 祖には我がコルキスの守護神ヘカテー。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 本来ならば魔術師しかできない英霊召喚。だがキャスターは”魔術師”であり、規格外の魔力と規格外の力を持つ触媒(アイルがクロウクルワッハに頼み込んで元の世界から送って貰った物)を使って召喚を可能にしていた。

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

 クロウクルワッハ(邪龍)色々な血(伝説の龍の力を持つ)を引くアイル(死神と太陽神と神代の魔女)の血を混ぜた塗料で描かれた魔法陣に魔力が徐々に注がれていく。

 

              

「Anfang――――――告げる。――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 魔法陣の近くには触媒として一本の剣が設置されている。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 

 そして今、キャスターの手によって英霊が呼び出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――問おう。アナタが私のマスターか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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死神姫と邪龍の聖杯戦争 ③

 一誠の城には先程から何度も長い廊下を行ったり来たりしている人物が居た。メディアである。我が子を心配する彼女はアイルが異世界に行った日からずっと城に泊まり込んでいた。

 

「メディア、少し休んだ方が良いですよ。落ち着かないのは分かりますが、あの子が帰ってきた時に貴女が倒れていたら心配しますから。……大丈夫。アイルは私達の娘です。無事に帰ってきます」

 

「……そうね。なら、少しだけ仮眠を取らせてもらうわ。でも、私が寝ている時に帰ってきたら……」

 

「ええ、必ず起こします。さ、部屋に行きましょう」

 

 夫である玉兎に連れられて部屋に向かったメディアは疲れていたのかベットに入るなり寝息を立てる。それを見届けた玉兎は装置のある部屋へと向かっていった。部屋には既に一誠や玉藻を始めとした親族が数人揃っており異世界へのゲートが開くのを見守っている。

 

「玉兎。メディアさんは眠りましたか?」

 

「ええ、先程眠りました。下の二人の世話はグレンデルに任せましたし、メディアにはちゃんと休んで貰わないと。それでクロウクルワッハからの連絡は有りましたか?」

 

「うん。どうやら向こうのメディアさんに協力して聖杯戦争に参加する気らしいよ」

 

「……はいっ!?」

 

 

 

 

 

「・・・・・・所で馬鹿息子。何故二人の世話を私に任せねーのですか? 赤ん坊の世話を祖母でなく邪龍に任せるとは気が利かない奴ですねぇ」

 

「いや、経験からして母さんに任せたら悪影響が出ると判断しましたので。ああ、上の妹達に任せても良かったでしょうか。下の弟妹の世話をしていましたし、反面教師が居たので母さんよりマシでしょう」

 

「・・・・・・娘達、よく見てなさい。必殺の新奥義を教えて上げましょう。まずは金的!」

 

 

 

 

 

 

 熱せられた鉄板の上で餃子が焼けている。その上から小麦粉を溶いたお湯を注ぐと蓋をして暫く待つ。その間に中華鍋に米と卵と調味料が投入されパラパラの炒飯が出来上がった。

 

「出来たぞ」

 

 クロウクルワッハはアイルが用意した人数分の皿に盛るとテーブルまで持っていく。其処には待ちかねている者が、

 

「わーい!」

 

「頂きましょうっ!」

 

 二人(・・)居た。クロウクルワッハの方を見るのはアイルと……キャスターが呼び出した”セイバー”だ。本来食事を必要としないはずの英霊にも関わらず彼女は食事を必要としていた。

 

 

 なお、”食事は魔力補給の為に取る必要があります”などと真面目な顔をしていたが、

 

「……おかわりを所望します」

 

「私も~!」

 

 等と言っている辺り食べるのが大好きなのだろう。その姿を眺めるキャスターは今にも鼻血を流しそうな様子だ。

 

「可愛いわぁ~。アイルちゃんと並べてゴスロリ? それともメイド服? フワッフワのドレスなんて良いわねぇ」

 

 

 

 

「……この世界の王族には普通の奴は居ないのか? 何故か”パンツ履かない征服王”とか”AUOキャストオフ!”、とか頭に浮かんで来たぞ……。ああ、馬鹿魔王や醤油くさいマントの冥王とかあっちの世界もマトモな王が居なかったか……」

 

 セイバーの真名は”アルトリア・ペンドラゴン”。かの有名なアーサー王であり、し、アイル達の世界では召喚に使った聖遺物であるコールブラントを巻き上げられたアーサーの先祖である。

 

 

 

 

 

「所で教会に監督役が居るのだろう? 報告に行かなくて良いのか?」

 

「そうですね。マスター、どうしますか? ……私達はルール的にどうなのでしょう」

 

 セイバーは自分達の契約が不正ではないかと心配する。本来はマスター一人に英霊一人なのだが、セイバー達はキャスターのマスターとしてアイル、そしてセイバーにマスターはキャスターだ。だが、アイルは呑気にテレビを見ながら言った。

 

 

「なら、こうやったら良いんだよ」

 

 アイルからキツネ耳が一対と尻尾が二本生えキャスターは”巫女服も良いわねぇ”、と母親であるメディアと同じ事を言っている。セイバーも可愛いものが好きなのか見とれている。そして尻尾を振るとアイルは二人に増えていた。

 

 

「お祖母様に教えてもらったの。これで片方がセイバーお姉ちゃんのマスターになったらいいんだよ。でも、一日しか持たないからすぐにキャスターさんに返すけど」

 

「……あの、アイルちゃん。私の事も”お姉ちゃん”って呼んで欲しいかなぁ」

 

「マスター、無理があります」

 

「無理があるな」

 

「あの、無理があるんじゃないかな……」

 

 この後、拗ねたキャスターの機嫌を直すのに時間がかかり、一行が教会に向かったのは夜中になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや、保護者同伴で聖杯戦争に参加とは。お遊戯会では無いのだがね」

 

 教会にいた監督役の言峰綺礼はクロウクルワッハと一緒にやって来たアイルを見るなり皮肉げに笑う。何故かセイバーは教会に入りたがらず教会の近くで待機し、一緒に入ってきたキャスターは彼の態度に腹が立ったのか眉間に皺を寄せていた。

 

「随分と失礼な男ね。アバラ骨をこじ開けられたいのかしら?」

 

「おやおや、それは怖い。さて、登録は済ませた。早く帰りたまえ。子供は寝る時間だ」

 

 アイルは二人とも眠そうに目を擦っており、クロウクルワッハとキャスターがそれを背負う。そして一行が帰った時、金色の鎧を着た男が現れた。

 

 

「ククク、面白い奴らが来たな綺礼。気付いたか? あの小娘と男、人間ではなかったぞ。……そして奴らも我に気付いていたようだ」

 

「ああ、気付いていたとも。さて、中々面白くなりそうだ」

 

 

 

 

 

 

「……終わりましたか」

 

「ああ、今終わった所だ。キャスター、明日の朝にはマスター権を変更しておけ。貴様がアイルから貰った魔力をセイバーに使おうが構わんが、セイバーのマスターになるのは契約外だからな」

 

「分かっているわ。私はちゃんとお約束を守るわよ。……っと、どうやらお客さんのようね」

 

 帰る途中、一行の前に赤い服を着た二人組が現れた。一人はツインテールの少女。もう一人は褐色の肌に白髪の青年だ。

 

 

「アーチャー! 敵よっ!」

 

「分かっているさ、凛……っ!?」

 

 アーチャーはセイバーの顔を見るなり一瞬固まる。それは予想外の事態が起きた時の顔だった。

 

「アーチャー?」

 

「……いや、何でもない。さて、始めようか」

 

 アーチャーの両手には双剣が出現しセイバーが不可視の剣を構える。そしてクロウクルワッハは……、

 

 

 

「俺達は先に帰るぞ。このままだと体を冷やすからな」

 

 アイルを連れて先に帰った。

 

 

「……あの少女がマスターなのではなかったのか?」

 

「貴方に話す事では有りません」

 

 セイバーの剣とアーチャーの双剣がぶつかり合って火花を散らす。剣戟の音が響く中、キャスターは凛と対峙していた。

 

 

「キャスターが陣地から出ている内に叩けるのは幸いね」

 

「あら、たかが魔術師がキャスターと戦えるとでも思っているのかしら?」

 

 凛が時間稼ぎの為にキャスターと相対しようとしたその時、乱入者が現れた。

 

 

 

「よっ! 俺も混ぜてくれや」

 

 現れたのは青い全身タイツの男。そして彼が赤い槍を振るおうとした時、

 

 

 

「伝え忘れていた。明日のカレーは辛口だからな。朝から仕込みをするから文句を言うなよ」

 

「ぐへっ!?」

 

 戻ってきたクロウクルワッハに踏み潰された。

 

 

 

「「むにゃむにゃ、ランサーが死んだ、この人でなし……」」

 

「ああ、俺は人ではなく(ドラゴン)だ。……何か踏んだようだな」




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格闘料理伝説D×D

さて勢いで書いてしまったが……ソフトがあってもGBAが見付からないから記憶と攻略サイト頼みだっ!


 定食屋『トウチンケン』、駒王街の商店街の外れにあるこの店は部活帰りの学生や家族連れで賑わう人気店だ。厨房に篭って姿を見せない店長の考えから雑誌などの宣伝は断っており、営業時間である朝の10字から昼の六時三十分まで馴染みの客を中心に満員御礼だ。

 

「……ビーフカレーとあんみつとクリームソーダを三つずつお願いします。全部大盛りで……」

 

「じゃあ、私はダイエット中だし海老ピラフの小をお願いするわ」

 

 この日も常連の一人である小猫が主であるリアスを連れてやって来ていた。リアスは和洋中エスニック各種を取り揃えたメニューに驚きながらも注文をし、暫く待つと少々無表情なウエイトレスが料理を運んできた。

 

「……お待たせしました」

 

「じゃあ、食べようかしら。……!?」

 

 そして一口食べた時、リアスの体に電撃が走る。その海老ピラフはもう海老ピラフと言って良いレベルではなかった。

 

「こ…これは……」

 

 その海老ピラフが海老ピラフだというのなら、今までリアスが口にした海老ピラフなど米と具材を適当に混ぜ合わせた生ゴミ同然でしかない。気付いた時、既にリアスの皿は空になっていた。リアスは公爵令嬢としての教育を受けており食事のマナーもキチンと身に付けているにも関わらず夢中で掻き込んでいたのだ。そして、それなりの量だったにも関わらずリアスの舌と胃はもっと食えと要求していた。

 

「……すみません。海老ピラフの小を三皿……いえ、大盛りを五皿お願い!」

 

「私はカレー全品大盛りを三皿ずつ……」

 

 結局、リアスはダイエット中にも関わらず腹が妊婦のようになるまで海老ピラフを食べてしまった。

 

 

 

 

「ふぅ~、食べた食べた。もう、こんな良い店があるのならもっと早く教えてくれれば良かったのに」

 

「じゃあ、また皆で来ましょう」

 

 それはもうすぐリアスが三年生となる春間近の事であった。

 

 

 

 

 

「店長、今のお客で最後です」

 

「うん、そっか。もうオーダーストップの時間だし今日は終わろうね。……今日は金曜日だしさ」

 

「分かったわ。じゃあ、皆にも言ってくる」

 

 先ほどの無表情なウエイトレスは食材のチェックをしていた店長に近づくと皿を洗い出す。その近くではオカメみたいな化粧をしたオバさんが食器の整理をしており、双子の兄弟が帳簿のチェックをしていた。

 

 

 

 

 

 『トウチンケン』には裏の顔がある。普段は普通の定食屋なのだが、第二第四金曜の深夜のみ得別な店へと変わる。時計の針が十二時になった途端に店の空間が歪み内装が変化する。それと共に店長は金庫に入れていた包丁を取り出した。真っ白な仮面の中央に目玉の模様がある仮面を付けた彼は食料庫の扉を開く。其処には人間界の食材ではないモノまで入っていた。

 

「アヤメちゃん、本日のお客様は?」

 

「帝釈天様御一行、シャルバ・ベルゼブブ様御一行、オーディン様御一行、ハーデス様御一行、そしてサーゼクス・ルシファー様御一行です」

 

 月に二度、この店は高い地位に立つ人外の客専門で、五組限定完全予約制の店へと変貌する。此処での一番重要なルールは『喧嘩御法度』。もし破れば二度と入店する事が出来ず、敵対関係にある勢力同士が鉢合わせしても争いが起きない。それほどまでにこの店の料理は彼らの心を掴んでいたのだ。

 

 

 

「……アレは」

 

 シャルバ・ベルゼブブはすぐ後ろの席に座ったアジュカ・ベルゼブブに気付いて立ち上がろうとするのだが、同行したカテレア・レヴィアタンとクルゼレイ・アスモデウスに睨まれて大人しく座った。

 

「止めなさい、シャルバ。この店に二度と来れなくなったら……殺しますよ?」

 

「くっ……」

 

「敵対している知り合いに会っても知らないフリをする、それがこの店のルールだ」

 

「お待たせしました。ミノタウロスのタンシチューとネクタルです」

 

「来たかっ!」

 

 

 シャルバは忌々しそうな顔から一変、顔を綻ばせ夢中でシチューを口に運ぶ。その顔はまるで誕生日プレゼントをの包みを開ける時の子供の様な笑顔だ。

 

 

 

「ハーデス様、今宵のスペシャルで御座います」

 

 トウチンケンにはひと組にだけ出す特別メニューがある。毎回四組目に予約を入れた者だけが注文する事が出来るそのメニューは全部で六種類でどれになるかはランダムだ。他の客はこの時だけは食べるのを忘れて立ち上がった。

 

「今回の特別メニューは”スパイスレシピ”となっております」

 

《おお、待ちわびたぞ》

 

 

 

 どの勢力の権力者もまるで誘蛾灯に誘われる蛾のように店に引き寄せられ、薬物中毒者が薬を求めるかの様にこの店の料理を求める。そして何故其処までの腕にも関わらず誰かのお抱えになっていないのか、それは本人にその気がなく、勧誘する側も彼を勧誘すれば他の勢力から纏めて狙われるという事が分かっているからだ。

 

 

 

「それでは皆様、またのお越しをお待ちしております」

 

 莫大な代金を受け取った店長は帰っていく客の頭を下げると片付けを始める。朝日が昇る頃には店から人の姿が消えていた。

 

 

 

 

 

 それから暫く経ち、店が休みのとある日の深夜の事。廃屋に一人の男性の姿があった。逞しい体つきをした三十代の男性で、顎鬚を生やし髪を後頭部で括っている。

 

「お前、不味そうだな。でも、別に良いか」

 

 彼の前には獣の下半身と女性の上半身を持つ巨大な化物が立ち塞がっており今にも男性を殺して食べようとしている。対する男性はその場から動かず、化物は恐怖によるものだと思っていた。

 

(……参ったね、これは。血の匂いがするから来てみればはぐれ悪魔なんてさ……)

 

 だが男性は冷静に状況を判断しており、怪物に恐怖など感じていない。その指の間には一枚のカードが挟まっていた。

 

「まあ、人を食べるなら見過ぎせないか。……来い”いかメッシー”」

 

「なっ……」

 

 怪物の眼前に現れたのは自身の倍の大きさを持つ怪物。そして怪物が何かするよりも早く、長い触手が怪物を叩き潰した。建物中に振動が走り窓ガラスが割れて壁にひびが入る。よく見れば天井が少し崩れていた。

 

「やりすぎた、参ったな……ナツメちゃんに怒られる」

 

 男性が困ったように腕を組んだ時、後ろの方から駆け足の音と声が聞こえてくる。声の主達はすぐに男性がいた部屋に入って来たが、男性は間一髪窓から飛び出して茂みに隠れていた。

 

「はぐれ悪魔バイサー、覚悟しなさい! ……あれ?」

 

「……部長、アレ」

 

 どうやら先程の怪物を退治しに来たらしい集団は建物内を捜索した後に諦めて帰っていった……。

 




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とある悪魔祓いの憂鬱

イリナ回で思ったこと 迷惑かけてる自覚はあるけど重要施設を置きすぎて今更移転できない? 最初から予想しろ! 先見の目も計画性も無い奴ラ! ・・・トップとしては


 ふぁ~あ、っとすまねぇ。どうも飛行機ってのは退屈でかなわねもんでな。狭ぇ所で何時間もジッとして、全く人間ってのは妙なもんを拵えるもんだ。え? 俺は誰だって? なぁに、ただのくたばり損ないの爺いだよ。でもよ、そんなくたばり損ないをま~だ働かせようてんだから教会の連中ってのは本当に人間かね? 俺からしてみりゃ、奴らの方が悪魔に思えてくるよ……。

 

『まもなく当機は日本に到着致します』

 

 やれやれ、漸くか。俺は狭いゲージの中で何度目かの欠伸をすると横たえていた体を起こす。ああ、言い忘れていたな。俺はあんたら人間が『犬』って呼ぶ生き物だ。

 

 

 

 

 

 

「ご苦労様、マーロゥ。早く行きましょ」

 

「確か動物が泊まれる宿は……」

 

 飛行機から下ろされてう漸くユックリ出来ると思っていた俺を連れて歩き出したのは栗毛の嬢ちゃんと青髪の嬢ちゃん名前はイリナとゼノヴィアってんだ・。どっちもそれなりの実力者とされているが俺から見ればまだまだヒヨっ子だな。頭にカラが乗ってらぁ。

 

 

 

 

 

 俺が生まれたのは今から三十年以上前。ああ、犬がそんなに生きれるはずがないって意見はわかる、まぁ、年寄りに話は最後まで黙って聞きな。まだ耄碌はしてねぇから同じ話は繰り返さねぇよ。

 

 

 俺の飼い主は……犬からすれば群れの仲間でしかないんだが、そちらさんに合わせて飼い主と呼んでおこう。飼い主は教会所属の悪魔祓いだったんだ。んで、俺の親と兄弟どもを育ててたんだが、どうも天使ってのと恋に落ちたらしくってな……教会に所属してる奴ってのは神様と結婚してるんじゃなかったのかい? え? 宗派によって違う? 教会所属なのにそんなことも知らないのかいって? おいおい、俺は犬だぜ? 宗教ってのは人間とかだけのもんだ。犬には関係ねぇよ。ただおマンマを食いっぱぐれねぇために言うこと聞いているだけさ。

 

 っと、話が逸れたな。んで、その天使との間に餓鬼が産まこんとき既に俺は爺だったんだが、縄張りの見回りに行った先の森で変な猿と仲良くなってな、そいつに仙術ってのを教えて貰ったんだ。そしたら人間共は長生きして妙な力を使える様になった事に対して神の奇跡だとかんだとか言い出して俺を更に扱き使うようになりやがった。ったく、神様の恩恵ってのを受けてるって思ったのなら爺を働かせるなってんだ。

 

 

 

 

 

「ねえ、悪魔に会う前に寄りたい所があるのだけど」

 

 イリナ嬢ちゃんが言う事には幼馴染ってのがこの街に住んでるらしい。ゼノヴィア嬢ちゃんも許可したし俺は面倒くさいからホテルで待ってるって言ったんだが、ホテルに行く前に連れて行かれちまったよ!

 

 

 

「……あれ? なんで犬が?」

 

 ああ、此処の奴が帰って来やがったか、流石に家の中には上がれないので庭先で寝ていた俺を見て近づいてくる餓鬼が二人居た。まあ、年頃からして龍の気配を持つ雄が幼馴染だろうな。

 

 

「あれ? マーロゥちゃん?」

 

 !? おいおい、なんでアーシア嬢ちゃんがこんな所にいやがるんだ? 確か追放されたって聞いてたけどよ。まあ、悪魔になってるみてぇだが俺には関係ねぇな。犬からすれば人間も悪魔も天使も堕天使も自分達以外の生き物で適当に媚びてりゃ食物にありつける便利な存在でしかねぇよ。

 

『よう、久しぶりだな。そっちの坊主はダチかい?』

 

「犬が喋ったっ!?」

 

 俺が一応挨拶すると坊主の方が驚いてやがる。正確には頭の中に直接話し掛けてるんだが、まぁ、どうでも良い。

 

「はい! お久しぶりだね」

 

 嬢ちゃんは何度か会った事があるので俺が頭の中に話しかけても動じやしねぇ。それどころか頭を撫でできやがる。やれやれ、別に嬉しくもねぇんだがな。喜ぶのは触れ合って楽しいっと感じる相手だけだ。俺はどうなのかって? 俺は一匹でのんびりする方が良いねぇ。

 

『にしても悪魔になってるとは驚きだ。ちょうど教会のモンが幼馴染を訪ねて来てるんだが……そっちの坊主の知り合いかい? イリナって言うんだがよ』

 

 俺の言葉にアーシア嬢ちゃんは少し顔を強ばらせるが、そういう感情はよく分からねぇな。群れから追い出されたけど住む場所や新しい仲間がいるみてぇだし、何を悩んでるんだ? これだから人間は分からねぇ……。

 

「ああ、俺の幼馴染だ」

 

 坊主……確かイッセーとか言ったか? は慌てて家の中に入っていく。アーシア嬢ちゃんはどうもはいりづらいようだ。

 

「あの、マーロゥちゃん。私……」

 

『あ~、グダグダ悩んでぇじゃねぇよ。教会にいた頃より生き生きしてんだし、今が楽しんだったら其れでいいじゃねぇか』

 

 ……俺なんざ老骨に鞭打ってガキ二人のお守りだぜ? やれやれ早く隠居させて貰えねぇかね? 神様さんよぉ、居るってならこのちっぽけな願いくらい叶えてくれや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして悪魔祓いさん達。……その犬は? どうもタダの犬じゃないみたいだけど」

 

 俺達が向かったのはガッコって犬からすれば何の為にあるのか分からねぇ建物。そこにこの地を管理する悪魔が居るってんだ。

 

「彼かい? 彼の名はマーロゥ。こう見えても一流の悪魔祓いさ」

 

 此処から先は特に話すことはねぇ。さっきからコチラを睨んできてる餓鬼は気になるんだが、まぁ簡単に言うとエクスカリバーってのが盗まれて、犯人が此処に逃げ込んだから此方で対処する。だから手を出すなって言いに来たんだ。んで、向こうさんも其れを了承したんだが、

 

 

「……さっきから気になってたんだが、其処に居るのはアーシア・アルジェントか?」

 

 ったく、こちとら早く眠りたいってのにゼノヴィア嬢ちゃんが喧嘩売りやがった。神を信じてるなら今すぐ神の所に送ってやるとか……こっちは縄張りに入り込んで無理言ってんだぜ?

 

 

 

 

 

 んで、売った喧嘩を向こうさんも買って、今から決闘の真似事って訳だ。

 

「……行きます」

 

 な~ぜか俺まで駆り出されてな。俺の相手をするらしいのは猫だか悪魔だか分からねぇ嬢ちゃん。ああ、面倒臭ぇ。ちなみにこの戦いは三対三って形式にして貰った。何故かって?

 

「それでは始めっ!」

 

 そりゃ簡単だ。そっちの方が早く済むからな。俺はイリナ嬢ちゃんの手元から奪ったエクスカリバーを口に咥え、三人が同時に瞬きした瞬間に走り出す三人が目を開けた時、それは三人が崩れ落ちた時だった。何をしたって? 視認できねぇ速さで動いて急所避けて切っただけだ。悪魔は聖剣に弱いらしいからな。

 

 

『おう、悪魔の嬢ちゃん。これで終わりだ。帰って良いかい?』

 

「え、ええ……」

 

『じゃあ帰るぞ、嬢ちゃんら。俺は早く眠りたい』

 

 さてと、悪魔が呆然としてる間に帰るとしますかね。明日から忙しくなるからな……。

 

 

 俺は二人を引き連れてホテルへと帰っていく。嬢ちゃんらが風呂に入れようとしたが眠ったふりで誤魔化した。勘弁してくれ、俺は風呂が嫌いなんでねぇ……。

 




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自由な大熊猫の聖杯戦争 ㊤

とある深い森の中に其の怪物は住んでいた。誰も近付かない魔法の木を日がな一日守り続ける彼の名はシアバーン。単眼で手足が一本ずつしかない巨人族である。

 

「ねえねえ、シアちゃん。また木の実貰って良~い?」

 

 たった一人で暮らす彼にも友人といえる存在がいた。どうも異国のパンダとかいう熊の仲間らしいが何故か喋り、木の実を食べようとしたのを邪魔する為に戦ったら強かった。結局木の実は幾つか盗まれたが、何故か気に入られたらしく何度も土産を持って遊びに来るうちに仲良くなったのだ。

 

「……またか。お前は食べ過ぎだ。というより、若返りの効果があるその実をあれだけ食べて見た目が変わらん? ……一個だけだぞ」

 

「僕はシアちゃんよりもず~っと長生きしてるからね。世界が一つだった頃の王様とも友人だったんだよ?」

 

 アンノウンは何の遠慮もなしに一番大きくて熟している物をもぎ取ると齧り付いた。

 

「そうそう、暫く他の国に行くけどさ、お土産持ってくるから楽しみにしててね」

 

「そうか。期待しないでおこう」

 

 流石は友達といった所かシワバーンのアンノウンに対する信用は限りなく零に近いようだ。そして帰る際、アンノウンはふと思い出したように言った。

 

「あっ、最近この辺りに女連れの騎士が逃げて来たらしいけど、気をつけてね。強いらしいし、人間ってのは強欲で執拗で姑息で自己弁護が上手いからさ。特に若返りなんて事を漏らしちゃ駄目だよ?」

 

だがしかし、心優しかった巨人は騎士団に追われている二人に同情して匿い、うっかり木の実の効果を漏らしてしまう。そして、木の実が欲しくなった女は絶対に手を出さないという約束を破り、怒った巨人は騎士の手で殺された……。

 

 

 

 

 

 

 そして騎士はやがて裏切りの報いを受け死に、アンノウンは森の動物から巨人の死を知らされた。

 

「……そう。その男は死んだんだ。でも、女は生きてるんだね。だったらさ、僕がシアちゃんの仇を取るよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時計塔、それは魔術師達の学び舎の名門。其処の教授であるケイネス・アーチボルト・ロードエルメロイは

教え子のウェイバー・ベルベットにアレキサンダー大王のマントの切れ端を盗まれる。だが、彼の用意した聖遺物は其れだけではなかった。

 

「クソッ! 忌々しい事だ!! ……だが、アレさえあれば」

 

 本命のマントこそ盗まれたものの、まだ予備の聖遺物は用意している。ケイネスが厳重に隠してあった金庫の戸を開けると、

 

 

『なんか面白そうだからこれ貰うね。誰の聖遺物か知らないけど、他に良いのが見つから無かったんだ』

 

 というメッセージとパンダのイラストが書かれたメモが入っていた。

 

 

「あら、どうしたの? ケイネス。さっきこの部屋にパンダが居たけど。まあ、『魔術師の学校に居ても変じゃないパンダ』って名札付けてたから気にならなかったけど」

 

「……そうか。ならば気にする必要はないな。誰だ、私の聖遺物を盗んだ奴はっ!!」

 

 どう考えてもそのパンダだろう。

 

 

 

「地を這う虫けら不在が誰の許しを得て面を上げる? 貴様は俺を見るに能わぬ」

 

 

 そして数日後、日本の冬木市で聖杯戦争が始まった。公式での初戦は遠坂邸での黄金のサーヴァント(アーチャー)捨て駒(アサシン)の戦い。その戦いはキャスター陣営以外が見ており、ランサー陣営以外は使い魔を通してその戦いを見ていた。

 

 

 

 

「やっほー! 久しぶりギルギル!」

 

 そしてアンノウンは普通に自ら見に来ていた。アサシンが結界を破壊した庭園に入り込むと屋敷の屋根の上に立つアーチャーに馴れ馴れしく手を振っている。その手にはマスターの証である令呪が刻まれていた。

 

「……ほぅ。まさか貴様も参加しているとはな。久しいな、も……」

 

「あっ! 今の僕は正体不明(アンノウン)って名乗ってるから。そうそう、喧嘩したからって宝物盗んでごめんねー」

 

「ふん。気にせぬとは我は怒ってなどおらぬ。……さて、久々に酒でも酌み交わしたいが日が悪いな。では、今宵は帰れ。また日を改めて会うとしよう」

 

 そう言いながらアーチャーは消えていく。その口元は僅かに緩んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「……王よ。あの喋る奇妙なパンダとお知り合いですか」

 

「ぬっ? 時臣、貴様は我の物語を知らんのか? 奴は我たった二人の友の片方だ。……その顔からすると知らんのではなく記録に残っておらぬようだな」

 

 アーチャーはマスターである時臣の反応を見ると不快そうに顔を顰めた。

 

「……聖杯に願う事ができた。奴が我の友として記録に残っておらぬのは気に入らんからな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとっ! 喋るパンダとなっ!?」

 

「あ、ああ。なんか嬉しそうだなライダー」

 

 その頃、アレキサンダー大王をライダーとして喚びだしたウェイバーは先程の戦闘の様子を話した途端に上機嫌になったライダーに困惑していた。

 

「なぁに、そのパンダは恐らく吾輩の朋輩だ。それにアーチャーの真名も分かったぞ。アンノウンから話を聞いておったからの! まさか英雄王と武を競えるとは思わなんだ! ……しかし、そうなるとちと惜しくなったな」

 

 ライダーは顎に手をやると何やら企み出す。その姿を見たウェイバーは嫌な予感しかしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……喋るパンダ。それもアンノウンと名乗ったのですね?」

 

 マスターである切嗣の妻アイリスフィールから話を聞いたセイバーは怒りを顕にしてブルブル震えだした。

 

「セ、セイバー? どうかしたの?」

 

「……いえ、少し昔の恨みを思い出しまして。くくく、あの時の屈辱、果たさせて貰うぞアンノウン!!!」

 

 

 

 

(……何を怒っているのか知らないが、これはプランの練り直しが必要だな。まったく、これだから騎士って連中は嫌になる……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして数日後、湾岸倉庫でセイバーとランサーの戦いが始まっていた。最初は互いに様子見で互角だった戦いだが、徐々にランサーが押し出す。その理由は供給される魔力量の差。ランサーに供給される魔力は令呪によるブースターよりも大量に注がれ出したのだ。

 

「此処までだな、セイバー」

 

 そして不治の呪いを掛ける必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)がセイバーの腕を深く切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『舞弥、ランサーのマスターはあのパンダ……で良いんだな?』

 

『ええ、おそらく……』

 

 切嗣は隠匿の魔術を掛けてもいないアンノウンに戸惑いながらも……そもそもパンダが喋ってマスターをやっていたら流石の彼でも戸惑うだろうが、それでも何とか狙撃を行う。だが、何発頭に打ち込んでも効いた様子はなかった。

 

 

 そこから先は原作通りなので省略。ライダーが二人の間に割り込んで戦闘の邪魔をし勧誘。あとはアーチャーが挑発に乗って出てきて、

 

「ほぅ。貴様も奴の友か。……苦労するな」

 

「なぁに、あれはあれで楽しかったぞ。……胃は痛くなったがな」

 

 互いに哀れんだ以外は特に変わらず、バーサーカーが現れてアーチャーが下がり、バーサーカーがセイバーに襲いかかったのをランサーが止めた場面まで飛んだ。

 

 

 

「其処までにしておけ、狂犬。そこのセイバーとは俺が先約を入れている」

 

「いや、良い加減にするのは君だよ、ランサー。あっ、イスカン久しぶり! ……君さぁ、騎士道とか言った割には挑発に負けて主の奥さんに手を出したり、仲間を殺したり、さんざん外道な事しておいて、更には主の為に倒すべき敵を助けるとかさ」

 

「主っ!?」

 

 そして何時の間にか出てきたアンノウンは珍しくランサーを責め立てていた。

 

「アンノウンよ、お主にしては刺々しいの」

 

 ライダーは驚いた様子で尋ね、アンノウンは頬を膨らませてランサーを指さした。

 

 

 

「だってさ、此奴って僕の友人を殺したんだよ。しかも恩仇な理由だよ。命の恩人の宝に手を出して、怒ったら殺すなんて強盗殺人だよね、腐れ外道だよね、犬畜生にも劣るよね! ……あっ、イスカン。ギルギルと今度会う約束したんだけど、君も一緒に酒盛りでもしない? じゃあ、ランサー。適当に戦ったら戻ってきてね」

 

 好きなだけ言ったアンノウンは項垂れるランサーを無視して風船に付いた紐を腕に結び、空気を抜いて何処かに消えていった……。

 

 

 

 

 

 

 

「……話に入る隙がなかった」

 

 忘れられていたセイバーであった……。

 




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自由な大熊猫の聖杯戦争 ㊦

ディルムッドにとって聖杯など興味がなく、願いは生前果たせなかった主への忠義を貫くという騎士道に基づく物であった。

 

「わーい! 成功だ成功だ~」

 

 だから、召喚したのがどう見てもパンダであったとしても忠義を貫く気でいた。ディルムッドは体に流れ込んでくる膨大な魔力に驚きながらもこちらを無視してクルクル回りながら燥ぐアンノウンに向かって頭を垂れて跪く。

 

「ところでさ、君の真名ってなんなの? 勝手に持ってきた触媒で召喚したから分からないんだ」

 

「はっ! 我が真名はディルムッドに御座います、主よ」

 

「……ディルムッド?」

 

 その名を聞いた途端、黒子や他のキグルミが楽器を奏でる中で歌舞伎を行っていたアンノウンの動きが止まる。マイナーな自分の名前を知っていた事に驚くディルムッドは裏切りの騎士である事にアンノウンが心配したのだと判断した。

 

「ご安心下さい。この双槍にかけて忠義を貫くと誓います」

 

 そしてアンノウンの瞳を見た瞬間、ディルムッドはある人物を思い出す。アンノウンが向けた瞳はかつての主であるフィンが死ぬ寸前の自分に向けた物と同じである事に。

 

「……主?」

 

「僕ってさ、これでも長生きしてるんだ。君が生きていた時代に丁度君が騎士としていた国に滞在しててね・・・・・君に殺された森の巨人シワバーンは僕の友達だった」

 

「ッ!」

 

「だから、僕は君なんか信用しない。遊びで参加したこの戦争だけど目的が出来たよ。主を裏切り、恩人を恩仇な理由で殺した君のご大層な騎士道ってのがどんな物か見せて貰うね~」

 

 最後の方は巫山戯たようにいうアンノウン。だがディルムッドはまるで大蛇に睨まれた蛙のように体が固まるのを感じ、其れと同時にアンノウンがどれだけの化け物なのか理解してしまった・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「って事があったから令呪三つ使って”『寝盗り騎士でございます! 輝く美形のディルムッドどぇす!』って言いながら裸踊りで市内十周”って命令しておいた。まあ、僕って優しいから例のホクロは無効化して同じ騎士のセイバー陣営には見えなくしてあげたけど」

 

「……ふむ。一度辞書で『優しい』を調べるべきだと思うがな。のぅ、アーチャー」

 

「我が知るか。此奴に人間的考えを求めるでない」

 

 ランサーとセイバーの決闘の翌日、約束通りに酒盛りをしに集まったアンノウン、アーチャー、ライダーは適当に選んだアインツベルン城の庭で知恵の実などアンノウンが各神話から勝手に持ち去っていった物をツマミにアーチャーの用意した酒を飲んでいた。

 

「しかし、令呪を使ってしまってはマスター権を失うのではなかったのか?」

 

「大丈夫、大丈夫。さっき百均で買ったクレヨンで上書きしたら使える様になったから」

 

「んなわけわるかぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 この時、ライダーのマスターであるウェイバーは思わずツッコミを入れてしまった。その場の全員の視線がウェイバーに集まり、彼は拙かったかとたじろいだ。

 

「小僧……アンノウンのやる事に一々たじろいでいては身が持たんぞ。特に胃がな」

 

「なぁに、我も同様に散々ツッコミを入れさせられたのだ。ならば仕方あるまい。逆に我ら二人が諦めて言わなかった事を言ったのだ。褒めてやるぞ、雑種」

 

 何故かアーチャーからの評価が上がったウェイバー。その頃になってセイバーが帰って来た。

 

 

 

「だからですね、ジャンヌ似のセイバー殿とそのマスター。貴殿達も仏門にお入りなさい」

 

「そうだぜ、そうだぜ。仏様の教えはとてもCOOLなんだぜ」

 

 何故か剃髪して法衣を身に付けたキャスターとそのマスターと共にだが……。

 

 

 

「アンノウン、これは貴方の仕業だっ!」

 

 仕業ですか、でも無く、仕業ですね、でもない。だが、アーチャーもライダーも同じ事を思っていた。

 

「酷いっ! 僕はただ精神汚染していた彼らを洗脳して記憶を弄って、あらゆる興味を仏の教えに向けさせただけなのにぃ~!」

 

「充分悪いだろぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 ウェイバーは腹の奥から叫ぶ。この時、彼の胃はセイバー同様にキリキリ傷んでいた。

 

 

 

 

 

「……ったく! おい、ライダー。私にも酒をっ!」

 

 数分後、酒宴に加わったセイバーはガブガブと酒を飲み続ける。そのスピードは早かったが、アーチャーが用意した酒を飲む瞬間、アンノウンの手によってライダーが強奪してきた酒と入れ替えられていた。

 

「そうそう、ギルギル。僕、本篇で正体バラしたからこっちでも正体バラシ解禁ね」

 

「随分とメタな発言だな。まあ、いい。此処で騎士王と呼ばれる小娘の絶望した顔を肴にしたかった所だ」

 

「僕の正体は黙示録の獣でギルギルの最大宝具や君のエクスカリバーでも痒いくらいにしか感じないんだよ」

 

「貴様がバラすのかっ!? ……ああ、疲れる」

 

「とりあえずお代わり! 酒の肴ももっと用意しろっ!」

 

「じゃあ、この激辛麻婆豆腐」

 

「頂こうっ! ……辛ぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 セイバー脱落。

 

 

 

 

「……舞弥。僕は正義の味方になりたかったんだ。あっ、このヒーロー変身ベルトを買おうかな?」

 

「切嗣、しっかりして下さい!?」

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、旦那。俺は自首してくるぜ。最高にクゥゥゥゥゥゥゥゥゥル! な説法を振りまきながらの自首をなっ!」

 

「では、私は心静かに英霊の座に帰りますね」

 

 キャスター陣営脱落。

 

 

 

「……あっ! 自害しよ。俺ってランサーだし」

 

 ランサー自害。

 

 

 

 

 

 

「でさ、やる事なくなったからどうしようっかな?」

 

「私に聞かれても困るな」

 

 ランサーを失ったアンノウンは規定通り聖堂教会に保護を求めた。はっきり言って無駄なのだが。神父も聖書に記された神の敵なので殺したいがアーチャーさえも勝てないと言い切るアンノウンには挑めなかった。

 

「とりあえずお酒でも飲んで漫画でも読も~っと。あっ! 聖杯って僕の友達のアンラマユ君に汚染されてるから気を付けてね。使ったら世界滅びるかも知れないから~」

 

 そのままアンノウンは与えられた部屋に向かっていく。途中、帰りに買った麻婆豆腐で同じく保護された神父と意気投合して彼の酒を飲み尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それは出来ない。僕は生きろと命じられた」

 

「忠道大義である! その生き方を忘れるな」

 

 ライダー陣営、原作通りに脱落。

 

 

 

 

 

 

 

「は~い。貴方はだんだんマトモになる~マトモになる~」

 

「よし! 儂はこれまでの罪を償う為に自害するぞ!」

 

「私は狂化が解けたけど願いがもう無駄なので自害しますね」

 

「俺も勢いに任せて旅に出るぞ! なんか体も元に戻ったし」

 

「……じゃあ、私も」

 

 バーサーカー陣営、そろそろ終わりなので脱落。

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず聖杯から溢れた泥は水で薄めたから大丈夫だよ~。じゃあ、ガンバっ! それとさ、英霊って最後自害させないと聖杯が完成しないから。僕は用事があるから帰るね」

 

 アンノウンは暇潰しが終わったから帰っていく。その際、アーチャーの宝物庫から酒とか高く売れそうなものを適当にちょろまかして行った。

 

 

 

 

 

「あっ! もう終わりなので私達も自害しますね」

 

 アサシン陣営脱落。

 

 

 

 

 

「さて、我も暇潰しに受肉して遊び尽くすか」

 

 アーチャー受肉。

 

 

 

 

 そしてステイナイトに……続けられるはずがない。



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もしオバ もしもアンノウンがオーバーロードの世界に行ったら

体感型RPGユグドラシル、かつての人気も衰え最終日を迎えたその日、ゲームの中で大騒ぎが起きていた。

 

「待ちやがれー!!」

 

「よりにもよってこんな日にー!!」

 

「此処までおいでー!!」

 

 無数のプレイヤーから逃げているのは絵本の泥棒のような格好をしたパンダ。この日彼は世界に一つずつしかない貴重なアイテムを計百八十九個や神器級という創りだすのに非常に手間のかかるアイテムを各ギルドから盗み出し、今逃走しているのだ。

 

 なお、名前はアンノウン。毎度おなじみパンダのキグルミ(正体黙示録の獣)である。毎度のように散歩感覚で異世界に行ったアンノウンは漫画や小説でお馴染みのゲームを発見して何処から出てくるのか分からない謎の財力を駆使してユグドラシルで最強の称号を手にしていた。

 

「今だ! パ・ン・ダ・ビィィィィィィィム!!!!!」」

 

 全く意味のないコサックダンスをしながら目から放たれたビームは着弾と同時に爆発。追ってきたレベルカンストのプレイヤーを一撃で仕留めたのだが、彼は何度も運営にお願いが出来るワールドアイテムを手にしてはレベル上限を上げてもらい今やレベル六百六十六。呆れた運営に『ワールドデストロイヤー』というあまりに強すぎてボツになって実装されなかった職を特別に貰っていた。

 

 

「あっ! もうすぐ終了だ。最後にはナザリックに戻ろうかなぁ」

 

 ちなみに『オーバーロード』の二次なのでテンプレ通り至高の四十一人の一人(一匹?)である。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてシーンは大幅に飛ばされ異世界転移後、最後に一人で過ごしたモモンガは階層守護者を集めて確認を行っていた。

 

「最後にお前達にとって私はどのような存在か聞かせてもらおう。最初に……なんだ?」

 

 地面が突如盛り上がり、地中から出てきたのはモグラ型のロボット。操縦席にはヒーローっぽいのが乗っている。他にも空からアホウドリ型のロボットや闘技場の壁を乗り越えてスカンク型、ワニ型、エリマキトカゲ型の巨大ロボットが出現してもちろん中には誰かヒーローっぽいのが乗っている。

 

「行くぞ合体だっ!!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 アホウドリ型ロボットを先頭に飛び上がったロボット達。登場順に胴体頭右腕左腕右足左足と変形していき、巨大ロボットになって地面に降り立つ。その手に持っているのは芝刈り機だ。

 

『魔獣機神ナザリーン!』

 

 背後で爆発が起きて地面が弾けとぶ。ナザリーンの口が光ると光の階段が現れ、モモンガの直ぐ傍まで伸びてきた。やがてナザリーンの口が開き階段の輝きが増した時、闘技場の入り口を通って普通にアンノウンが入ってきた。

 

 

「プレアデスから聞いて急いできたよー! 僕、種族ペナルティーで指輪が装備できないから困った困った」

 

 そのまま何処からか走ってきた車に轢き飛ばされて空の彼方へと飛んでいくアンノウン。車が何処かに去っていくとモモンガの服の裾をめくって中から這い出してきた。

 

「じゃあ、話を進めようか」

 

「何処から出てきたの!?」

 

「え? モモッチの服の中からだけど?」

 

 ちなみにワールドデストロイヤーのスキルには周囲の者に対し『完全なる狂騒』というアイテムと同じ効果を与える物があるのでモモンガの精神強制安定は無くなっていた。 

 

 

 

 

 

「ふーん異世界かぁ。何か美味しいものあるかな?」

 

「いや、それドコロじゃないですってアンノウンさん。これからどうします?」

 

「お腹が減ったから何か食べて眠いから寝るねー!」

 

 ナイトキャップを被り抱き枕を片手にしたアンノウンはマイルームに向かって駆け出していった。

 

 

 

「あの~。私達はどうすれば?」

 

 巨大ロボの操縦者達はずっと話が終わるのを待っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

「しかしどうやってこの世界に来たんだろうね? 所で前にモモッチが眠たそうにしている時に偶々来ていたるし★ちゃんにダブやんにウルルンと一緒に多数決で採決した十一階層の守護者達は呼ばなかったね」

 

「聞いてないし存在自体知らなかったっ!? リストにも載ってませんよ!?」

 

「ワールドアイテムでギルド長が階層に入るまで表示されなくしたんだ」

 

 何か色々疲れたモモンガはアルベドを連れ、隠し通路と言ったら此所でしょ!、とアンノウンが豪語するとおりに玉座の後ろの隠し会談を下って十一階層に辿りつく。

 

「凄い・・・・・・」

 

 其所はまさしく天国のようであった、蜘蛛より高い場所に浮かぶ神殿と神殿を通路が繋ぎ、植えられた木には鳥が止まっている。其の光景に言葉を失って見とれていたモモンガの視界に人影が入ってきた。

 

 

 

「はじまめしてぇん。モモンガ様と守護者の中で二番目(・・・)にお美しい統括さん。第十一階層『天空神殿』階層守護者にして守護者で最も美しいアクイラよぉん」

 

 声はアイテム嫌いの某英雄殺しや華麗なるVの魔物の子と同じ、身長199㎝の黒光りする肌の厳つい筋肉達磨、美しい黒髪が腰まで伸びている。何か非常に見苦しかった。

 

「・・・・・・負けた。完膚無きまでに負けた」

 

「何処がっ!? 二メートルはある化けモンじゃん!?」

 

「ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!、誰が身長2メートルの巨人ですってぇぇぇ、ワタシの身長は199㎝よぉ!!」

 

 

 だがアルベドが即座に負けを悟った。

 

 

 

 

 

「所でモモッチ。闘技場に居た巨大ロボットってなぁに?」

 

「まさかの無関係っ!?」

 

 

 

 

 

 その後、カルネ村を襲った騎士達を宴会芸をしながら紅白に出る為の歌の練習で倒したり森の賢王を丸呑みにしたり殺人狂を時給二百五十五円で雇うなどしたアンノウンは帝国に味方して王国の軍隊と戦う事になった。

 

「パンダビィィィィィィィィィィィム!!!」

 

 戦闘開始からわずか数秒で王国軍はオマヌケ面白やられ役三人組のようなドクロ型の煙を上げながら敗退した。ちなみにガゼフが某ネコ型ロボットに世話を焼かれれる少年と同じ声のキャラのポジションである。あと泥棒の神はラナー姫。アンノウンに『オーバーロード』最終巻までと四次元ポ○ットをプレゼントされた彼女はうまく立ち回っていた。最終的にはもしもボ○クスを使ったようだ。

 

 

 

 

 

アンノウン

 

カルマ値 五百(極善)

 

レベル六百六十六

 

種族

 

ビーストマン(大熊猫) 15

 

キメラ 合成獣   10

 

シンジュウ  神獣 5

 

アポカリプティックビースト 黙示録の獣 5

 

職業

 

ワールドチャンピオン 5

 

ワールドデストロイヤー 5

 

 

 

種族レベル 35 職業レベル 六百三十一

 

 

カルマ値についての抗議は受付終了いたしました

 

 

 

 

 

 

 

 



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もしオバ もしもアンノウンがオーバーロードの世界に行ったら 2

ユグドラシルから異世界に転移したモモンガは悩んでいた。家族も友も居ない世界に何れ程の価値があるのかと。

 

(あれ? そういえばアンノウンさんはどうなんだろう?)

 

 まだメンバーが揃っている時に聞いた話だが、それなりに大きい組織のナンバー2だったと言っていて覚えがある、トップは実質的にお飾りなので他の者が指揮を取っている、とも言っていた。

 

(あの人は戻りたいって思うんだろうな……)

 

 そんな事を考えながらアイテムを使ってナザリック周辺の様子を探るモモンガ。すると騎士風の者達に襲われる村を発見した、しかし、人が殺されている様子を見ても何も思わない。

 

(心までアンデッドになってしまったのか。見捨てよう。助ける義理も価値もない……)

 

 そのまま何の気なしに動かすと少女二人に襲い掛かる騎士達と前方から大量のバナナを担いで自転車を漕ぐアンノウンの姿が映し出されていた。

 

「なっ!? 何をやっているんだ、あの人はっ!」

 

「モモンガ様、恐れながら申し上げます、あのお方は人ではなく熊、正確に言うならば大熊猫(パンダ)で御座います」

 

 隣に居たセバスは冷静な声でそう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

(せめてこの子が逃げる時間だけでも稼がないとっ!)

 

 突如村を襲った騎士達から妹を守る為に逃げ出したエンリだが、直ぐに追いつかれ背中を切り付けられてしまう。焼け付くような痛みに足が縺れ、そのまま妹を庇う様に蹲った彼女に剣が振り下ろされようとした時、調子外れな歌声が聞こえてきた。

 

「アン、アン、アンノウン! アアンア、アアンア、アンノウン!」

 

 左前足で大量のバナナを抱え、右前足でそれを口に運びながら近付いて来たのは奇妙な乗り物に乗る奇妙な熊のような姿の獣姿勢を正した状態で体を左右に揺らしながらもバランスを崩さず、そのままバナナの皮をばら蒔きながらエンリ達に近付いて行き、そのまま横を通り過ぎた。

 

「アレはなんだったんだ?」

 

「さぁ?」

 

 その奇妙な姿に唖然とした騎士達は直ぐにエンリに意識を戻し切りかかろうとしてバナナの皮で足を滑らせて転び、頭を打って気絶した。

 

「え?」

 

「……迂闊に行動しすぎだ。早く後を追わないと」

 

「アインズ様、お待たせ致しました」

 

 

 

 あまりの事態に呆然とするエンリの背後の空間が歪み、今度は骸骨が現れる。骸骨は気絶した騎士達を見て何が起こったのか訳が湧かないという風に振る舞い、その背後から全身鎧の女性らしき人物が現れる。

 

 

 

 そして二人もバナナの皮で足を滑らせて気絶した。

 

「え? えぇーーーーーっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ! 安いよ安いよ! この何処かに行ける『何処だかドア』が今なら金貨三枚っ! ほらほら試しに入って入って!」

 

 ある者は生きたまま世界の外側に連れて行かれ、形容しがたい者に捕まった。装備を代金替わりに取られたのでパンツ一丁であった為に下着の中に何か入ってきた。

 

「ほーら、お客さん。この汚染されきった泥、お肌が真っ白になるよ」

 

 またある者はこの世全てもアクを押し付けられた村人によって汚された聖なる杯に溜まった泥の泥パックを無理やりさせられて全身から血の気が消え失せた。

 

「お金っ! お金をあげますから助けてください」

 

「じゃあ、五百ペソ。今すぐ!」

 

「ペソ?」

 

「くれないんだったら……宇宙旅行をプレゼントっ!」

 

 そしてある者は騎士達の鎧兜とバナナの皮に残った繊維を組み合わせて作った有人ロケットに乗せられ、この世界で初めての宇宙飛行士になる。後に帰還した彼はこう語った。

 

『この世界はパンダ色だった』

 

 

 

 

 

 

「戦士長、見えてきました!」

 

 夕暮れになった頃、王国戦士長ガゼフ率いる一団が襲われていたカルネ村に到着する。すると其処では驚きの光景が広がっていた。

 

 

「竹輪いかがっすかー?」

 

「ハリキリムカツクー!」

 

「ワテは名古屋県民だぎゃあ」

 

「吾輩、楽しかったであります! ……なーんちゃって」

 

 カルネ村では村人全員参加の肝試し大会(ただし全員お化け役)が開かれていた。その中心となるのは白黒の奇妙な熊。逆立ちをしながら鼻からカレーを食べる彼の姿にガゼフ達は感激し万雷の喝采を送る。其の音は迫っていたスレイン法国の本隊にまで届き馬の足を止めさせた。

 

 

「貴方ならこの村を任せられる、どうかお願いします」

 

「まっかせてー!」

 

 

 そして何だかんだあって村の恩大熊猫(パンダ)となったアンノウンと漁業権について話し合ったガゼフは大食い対決の末に竜王国に大量の沢庵を送りつける事で合意し、近所の広場で拾ったレアカードの所有権がアンノウンに移る。

 

 しかし彼らはこの時知らなかった。このカードが原因で数百年の時を生きる吸血鬼とナザリックが世界の覇権を賭けたしりとり対決の末に第十五ラウンドでシャルティアが決めたアッパーカットがカッパ巻きを打ち砕くなど……。

 

 

 

 

「全員突撃っ! 奴らの喉笛を噛みちぎってやれっ!!」

 

 大根片手に天使の群れに向かっていくガゼフ達。普通ならばその様な物で戦える相手など、龍を殺す者の英雄伝説のボス達くらいだ、だが、この大根はチョコレートでコーティングしていた。瞬く間に撃退されていく天使達。だが、一人の魔法が戦況を一変させた。

 

炎の雨(ファイヤー・レイン)

 

 たった一発の火の魔法でチョコレートのコーティングが溶け、ただの大根は砕け散る。瞬く間に窮地に陥ったガゼフ達。だが、彼らを助ける為にヒーローが立ち上がった。

 

「行くぞ合体だっ!!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 アホウドリ型ロボットを先頭に飛び上がったロボット達。登場順に胴体頭右腕左腕右足左足と変形していき、巨大ロボットになって地面に降り立つ。その手に持っているのは芝刈り機だ。

 

『魔獣機神ナザリーン!』

 

 それはナザリック内部に出現した謎の戦隊ヒーロー達。彼らが操るロボから放たれたビームはガゼフ達を助けようと飛び出したアンノウンに命中し爆発炎上。黒焦げになったアンノウンは倒れたまま前足を伸ばす。

 

「お、弟よー!!」

 

 アンノウンを中心に爆発が起き、声優の無駄使いな隊長とその部下は巻き込まれて全滅する。後には山の向こうから走ってきた巨大なアンノウンと肉襦袢を着込んだガゼフだけが残り、巨大ロボは違法駐車でレッカー移動させられていった。

 

 

 

 

 

「ってな訳で解決して来たよ。一期だと出てきた意味が見いだせないコンビ(コキュートス&デミウルゴス)。あっ、出迎え有難うね、チョイ役双子(マーレ&アウラ)。そしてラスボス」

 

「わたしだけ包み隠さずストレートっ!?」

 

「あれ? モモっちとED詐欺(アルベド)は?」

 

 

 

 まだ気絶していた……。

 

 

 

 



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FATE/ zero 空気読めない狐と読んだ上で好き勝手に振舞う大熊猫 上

万能の願望機を巡る何人の魔術師と英霊の闘い『聖杯戦争』。これは始まりへと至る物語―――が紛れ込んだイレギュラーによって無茶苦茶でカオスになる話である。

 

 

「……マスターをしなくて良い?」

 

 聖杯戦争で優勝する為にアインツベルンの当主が雇った魔術師殺し衛宮切嗣は突如告げられた内容に戸惑う。彼の目的は聖杯を使って恒久的な世界平和を実現させる事。ゆえにアインツベルンにサポートをして貰った上での計画を数年かけて立てていたのだ。

 

「ああ、急遽協力すると言ってきたのでな。お前には奴のサポートを頼む」

 

「それで代わりのマスターは?」

 

 切嗣が次の策を練りつつ尋ねた時、廊下からコツコツという靴音が聞こえてきた。やがて足音の主がドアの前に立つとノックの音が響く。アハト翁が入室を許可した時、スイカを持ったパンダが窓から飛び込んできた。

 

「タッチダーウン! からのぉ……トライフォーポイントキックショーット!!」

 

 真上に蹴り上げられたスイカは天井を突き破り、空の彼方の星を一つ破壊。この日、優雅さを家訓としている顎鬚の私室に隕石が飛来した。

 

「奴の名はアンノウン。……聞いた事位はあるな?」

 

 無論切嗣は知っていた。その名は旧約聖書にも登場し、知恵の実を食い尽くし謎の生物の名前であり、アダムとイブに知恵の実を食わせたサマエルの友人と記されている。だが、それだけではない。世界中の神話や伝説にもその名は登場し、ギルガメッシュ叙事詩にはギルガメッシュの友の片割れ、ケルト神話ではフィオナ騎士団の所属する国を滅ぼし、ギリシャ神話では王女時代のメディアやゴルゴン三姉妹のペット、そしてアーサー王伝説では選定の剣に悪戯をした犯人であったとされている。

 

 歴史的資料にもその存在を示す記述は多く、聖女ジャンヌ・ダルクや暴君ネロやアレキサンダー大王の友として知られている。分かっているのは白黒の熊のような生物というだけであり、正体不明を現すアンノウンという言葉の語源でもある。

 

 そして、封印指定永久除外対象という肩書きも有していた。ただ、理由は何故か語られていない。ただ、奴には関わるな、とだけ伝わっていた……。

 

「……まさかパンダだったとはな」

 

 何処から取り出したのかビーチチェアに寝転んでビーチパラソルの下で暖かい青汁を飲むアンノウンの姿を見ながら切嗣は呟いた。

 

 

 

 

 

「……ツッコミは入れないのか?」

 

「ツッコミを入れたら負け、と誰かか囁いてきたからね」

 

 

 

 

 

 

 

「みったせ、みったせ、てっきとうにみったせー」

 

 鼻の穴両方に吹き戻し(くじ引きのハズレ賞品で有りがちな、咥える部分を吹くと音と共に先端が伸びるアレ)を突っ込んでコサックダンスを踊るアンノウンはちゃんと呪文を唱えようともせずに煎餅を齧る。召喚の為の魔法陣は激しく輝き、召喚が正常に働いているのが伺えた。

 

「満たせー、満たせー、適当に満たせー」

 

 その横では切嗣の一人娘であるイリヤが謎の着ぐるみ集団の担ぐ神輿の上で召喚の為の触媒である料理の乗った皿を掲げながら呪文を繰り返す。アンノウンからの要請なので切嗣は断れず、妻のアイリスフィールは楽しそうにその姿を眺めていた。

 

(……意味が分からない)

 

 触媒のクジだと言って差し出された箱に突っ込んだ切嗣の右手は納豆臭くなっており、納豆しか入っていない其の箱はアハト翁の私室に乱暴に放り込まれて中身を床にぶちまけている。やがて光は最高潮に達し、何者かの声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

「うふふふふ。感じましたイケメン魂。貴方が私の……」

 

 現れたのは着物を着崩した露出強(誤字にあらず)の狐耳の女性。彼女はアンノウンの姿を見て固まり、次にイリヤの持つア()()()()()シの皿を見てポンッと手を打つ。

 

「お…おっぎゃぁああああああああああああああああああっ!? なんでテメェがいやがるんですかぁ、アンノウンっ!? ってか、アンタが私のご主人様ぁっ!? マスター交代っ! マスター交代プリィーズ!!」

 

「あっ! 紹介するね。僕の玩具(友達)で本体は太陽神の玉ちゃん。尻尾は二本だからそこそこ強いよ。……三本以上にするのは集中に飽きたから止めた」

 

「……成る程。玉藻の前か。しかし、キャスターとは……」

 

 最弱の英霊とされるキャスターである事に残念さを覚える切嗣だが、そもそも目の前のパンダは神が居た時代に神を虐殺したとされる存在。英雄のコピーである英霊が敵う存在ではない事を思い出した。

 

「まぁ、特に問題にはならないか」

 

 

 

 

 

 

「ちょいっと! 此奴にツッコミをっ! 私? 疲れるから拒否ですよぉっ!」

 

「……僕も余計な労力は使いたくないんだ」

 

 最初は英霊などと話す気のなかった切嗣だが、同情したので話をしてあげる事にした。

 

 

 

 

 

「所でアンノウン。イリヤが参加する意味はあったのかい?」

 

「特に意味はない。ノリでやった。反省はした事ない」

 

 

 

 

 

 

 そして、他の陣営も順調に英霊を召喚していた。

 

 

「勝ったぞ、綺礼! この戦争、我々の勝利だっ!」

 

 最終的にギルガメッシュを裏切る予定で召喚した遠坂時臣は臣下の礼を彼に対してとる。跪いた彼の頭頂部は隕石が掠って禿げており、最終的に英霊を自害させる気、と文字になる様に毛が残っていた。

 

「くくくくく。奴がまだ生きていたか。……面白いっ! 今度こそ我が勝つぞっ!」

 

「……王よ。どうかいたしましたか?」

 

「なぁに。我の友が貴様が我を裏切るつもりだと知らせてきただけだ」

 

 ギルガメッシュは唖然とした後に青ざめて言い繕う時臣を無視し、昔アンノウンから貰った知恵の実を齧る。この瞬間、彼は肉体を得た。

 

 

 ただし、全裸だ。

 

 

 

 

 

「ほぅ。あやつ、この戦争に参加する気か」

 

 ライダーのクラスで降臨したアレキサンダー大王ことイスカンダルはマスターであるウェイバーに声を掛ける前に空に浮かぶ星を見てニカッと笑う。星を破壊して砕けたスイカの種は散らばって他の星も破壊し、新たな星座『パンダ座』が出来上がっていた。

 

「面白いではないかっ! 今度こそ奴を屈服させてやるぞっ! ……まぁ、その前に酒を共に飲むのも良いな」

 

 

 

「……アレは」

 

 アサシンとして喚ばれたハサンは教会の庭に降り注いだ隕石群で描かれた模様を見て納得する。

 

「その状態で一つの肉体に一人格だし、受肉で良くない? か。なるほど、奴らしい」

 

 

 

「「何故か嫌な予感がするな(します)……」」

 

 セイバーとランサーは直感を発動させていた。なお、この日は殺人鬼がこの世から一人減ったらしい……。



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ネルガル君をアカメが斬る!に入れてみた

ダンまち二次のオリ主を少し変更を加えてアカメが斬る!に入れてみました


『ねーさま! ごけっこんおめでとうございます!』

 

『ふふふ、未だ結婚はしてないわ。婚約しただけよ』

 

 此れは僕の幸せだった頃の記憶。父様がいて、母様がいて、姉様がいて、何不自由ない幸福な時の記憶。

 

 

 

『……お願い。私を連れて逃げて』

 

『お嬢様……』

 

 此れは私が過ちを犯した時の記憶。生涯忠義を貫くと誓ったお方を裏切り、淡い恋心に身を任せてしまった時の記憶。

 

 

 

『……これより私の全てを賭してお仕え致します』

 

 此奴が居たから僕は全てを失った。何を今更言っているんだ! ……いいよ、其処まで言うんだったら仕えさせてやる。お前を利用して使い倒してやろうじゃないか。そう……

 

 

 

『お前が居たからだっ! お前が居なければ僕は幸せだったのにっ!』

 

 私のせいで此の方は全てを失った。ならば残る我が人生は全てこのお方に捧げよう。たとえこの誇りが血にまみれ、憎まれ続けたとしても命を賭して守り抜こう。そう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  『『永遠に』』

 

 

 

 

 帝国が始皇帝によって建国されて早千年程が経ち、滅亡への道を歩んでいた。幼い皇帝を傀儡にする大臣を始めとした役人の腐敗に多民族との抗争。何時しか国を変えようと革命軍が立ち上がり、ナイトレイドと名乗る暗殺者集団が国に巣食う悪人達を裁いていた。無論帝国はナイトレイドを悪人として手配、多くの構成員が捕まるも未だ壊滅には至らなかった。

 

 

「……見つけたぜ」

 

 首切りザンク、元々処刑人であったが多くの者の首を刎ねている内に狂い、今では辻斬りだ。この日も夜中に一人で歩いている少年を発見し、誰も居ない所で襲いかかった。

 

「駄目だぜぇ、坊や。こんな日は首切りが出るからなぁ」

 

 目の前の少年が首を切られた時の顔を想像して溢れてきた涎を拭う。怯えているのか立ち尽くしている少年の表情は影になっていてよく見えないが、きっと恐怖に染まっているのだろうと想像しながら襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……遅かったか」

 

「一体誰が……。軍人に負けたなら死体は回収されるはずだし」

 

「多分帝具使いの仕業だろうが……」

 

 ナイトレイドの一員であるアカメとタツミはザンクを狩る為に夜の帝都を捜索し、この死体を見つけた。体中を貫かれて息絶えたザンクの死体である。そして其の体には彼が持っているはずだった帝具、始皇帝が作らせた超常的力を持つ四十八の秘宝は消え去っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……詰まらん。ロクな奴が居ないな」

 

 ザンクが死んでから少し経ち、ナイトレイドの仕業と判断されて事件には終止符が打たれた。この日は将軍であるエスデスが自ら開いた武術大会を見学しており、討伐したナイトレイドの鋏型帝具の適合者候補を探していた。だが彼女が気に入る選手はおらず、あと数試合で大会が終わろうとしている。

 

「東方! 剣術道場師範コザノダタ!」

 

「西方! 旅芸人ネルガル!」

 

「って、どう見ても子供じゃないですかっ! 止めましょう隊長!」

 

「知るか。子供のくせにこの大会に出る彼奴が悪い」

 

 次に試合が始まった時、会場がざわつく。エスデス直属部隊イェーガーズの一員であるランが訴えるもエスデスは止めようとしない。その理由、それは西方の選手は精々が十歳程度の少年だったからだ。相手は刃物を持っているにも関わらず臆した様子は無い。素手の子供に舐められていると思ったのか相手は剣を大上段に構えて切り掛っていた。

 

 誰しもがネルガルが血に塗れて息絶える姿を想像し気の弱いものは意識を手放しそうになる。エスデスは詰まらなさそうに鼻を鳴らし、次の瞬間目を見開いた。

 

「しょ、勝者ネルガル!!」

 

 勝負はたった数秒。相手の懐に潜り込んだネルガルは膝蹴りを顎に叩き込み、仰け反った相手の頭を掴んで逆立ちの状態になると腕力だけで飛び上がって空中で上下を元に戻すと顔面を踏み付ける。ゴキリという()()()()()()()()が響いた。

 

「ねぇ審判さんっ! これって相手が死んでもお金は貰えるんだよね?」

 

「あ、ああ……」

 

 首がねじ曲がった死体を前にしてもネルガルは勝った事で嬉しそうに笑う。その笑顔は行いからは想像も出来ない程に無邪気な物だった。

 

 

 

「……見付けた」

 

「帝具使いの候補ですね」

 

「ああ、それもあるが……」

 

 徐に立ち上がったエスデスは階段を下りてユックリとネルガルへと歩み寄っていった。

 

 

 

 

「ネルガルといったな。見事な試合だった。褒美をやろう」

 

「本当!」

 

 エスデスが胸元に手を入れたことで予め聞かされていた見事な試合への褒美かと思ったネルガルだが、次の瞬間後ろに跳ぶ。エスデスの手には鎖が着いた首輪が収まっていた。

 

「どういうつもり?」

 

「ほほぅ、見事な動きだな。即戦力になりそうだ」

 

 次の瞬間、ネルガルの首にエスデスが持っていた首輪が付けられていた。

 

「光栄に思え。お前を私の物にしてやろう」

 

「……えっと、オバ……お姉さんってショタコン? 僕、十歳なんだけど」

 

 オバさん、と呼ぼうとしたネルガルだが本能で危険を察して言い換える。エスデスには聞こえなかったようで顔は上機嫌なままだ。

 

「大丈夫だ。愛さえあれば年の差など気にならん。此処は邪魔が多いから宮殿に行くぞ」

 

「愛とかないからっ!」

 

 ネルガルはジタバタと暴れるもエスデスにズルズルと引き摺られて行く。その姿を遥か上空から見詰める目があった。

 

 

 

『ケケケケケ。なーにやってんだ、あの阿呆はよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長。流石に十歳の子供を無理やり入れるのは正義としてどうかと……」

 

「私も同感ですよ。まだ子供じゃないですか」

 

「知るか。私が此奴を隊に入れると決めた。貴様らの意見を聞く気はない」

 

 ネルガルを部下にする事に対しイェーガーズの隊員である六人中四人から反対意見が出るもエスデスは聞く耳を持とうとせず、膝の上に無理やり座らせたネルガルの頬を突く。ちなみに反対しなかった二人は興味無さそうにしているか彼の体を舐め回すように眺めていた。

 

(……困ったなぁ。流石に七人全員この場で殺すのは無理っぽいや。この人なら仕込んだナイフで殺れるかな? 可能性は低いからやらないけど)

 

 この様な物騒な事を()()()考えているネルガルだが殺気に敏感な筈のエスデスはピクリとも反応しない。あえて反応しなかったのではなく、殺気を全く放たずに殺す事を考えていたからだ。

 

「其れに此奴は只の子供ではない。なぁ、ネルガル。お前、どこで実戦を経験したんだ?」

 

「何処でって普通に戦場。僕、六歳の時から『ブケファラス』って傭兵団に所属していたから」

 

「……ほぅ」

 

 その傭兵団の名には聞き覚えがあった。遠くの国で革命軍に協力した後、あからさまな濡れ衣を着せられて壊滅に陥ったという事。そして帝具三つと帝具を作ろうとして生み出された臣具と呼ばれる物を一つ所持していたという事。壊滅後捜索が行われたがそれらは見つかっていないとも聞いていた。

 

「……なあネルガル。お前、帝具と臣具の在り処を知っているのか? 教えてくれたらご褒美をやろう」

 

「それなら僕と僕の道具が持ってるよ。三つの内二つは僕の荷物の中で……」

 

 突如上空から何かが飛来する音が響き、イェーガーズとエスデスは直ぐに武器を構える。そして音の発生源が窓の外に姿を現した。

 

 

 

 

 

『ケケケケケ! 性格キツそうなババァに怪しいガスマスクに平胸に頭が軽そうな女、後はヘタレっぽいのと腹黒っぽい奴たぁ愉快そうなメンツだなぁ、おい!』

 

「若っ! ご無事ですかっ!?」

 

「あっ、紹介するね。あのちっこい龍が『暴虐龍王/ザハク』。完全自立の生物型最強の帝具で、逆さまに吊り下げられているアレが臣具の使い手だよ」

 

 

 




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ネルガル君をアカメが斬る!に入れてみた 2

 ギョガン湖の周辺に砦を拵えた山賊の討伐、其れが今回イェーガーズに与えられた任務だ。

 

「なんで僕まで?」

 

「お前は今日からイェーガーズの一員だから当然だろう。安心しろ、私が守ってやる。どうだ? 頼もしいだろうっ!」

 

 胸を張って自己アピールするエスデス。ウェイブ達は少し離れた場所でヒソヒソと話していた。

 

「なぁ、やっぱ隊長って……」

 

「ショタコンですかね」

 

「……うわぁ」

 

「あの子、磨けば光る玉みたいだけど……」

 

「趣味は人それぞれですけど……」

 

「困った人ですよね」

 

 そんな仲、少し離れた場所に立っている青年が一人。黒髪を短く切り揃え目元に黒子がある彼の相貌は美しく光り輝く様だ。『D』と名乗る彼は赤い長槍を手に持ち、其の頭の上では小さな竜(ザハク)がグースカ眠っていた。

 

「私は若様より忌々しい名を隠すように命じられています。Dとお呼び下さい」

 

 等と畏まった体勢で言ってきた彼だが不審者扱いされてエスデスに殴られた顔には大きな青痣が出来ていた。本来ならば侵入者として始末される所だが、ネルガルの知り合いという事で無罪、そのままイェーガーズに入る事になった。

 

「此所までの移動に疲れただろう? よし! 私が抱っこしてやろう!!」

 

「あの、その辺りで……」

 

「……ねぇねぇエスデス隊長! 僕が先陣やって良~い? ……このままだと五月蠅いのが居るし」

 

 流石に抱き抱えて頬摺りまで始めたエスデスを見かねて止めに入るDであるが、其の声を聞いた途端にムスッとしたネルガルは今度は上目遣いでエスデスを見詰める。

 

「良いぞ! お前の帝具の力も見たいしな」

 

 胸がキュンと高鳴ったエスデスは赤らめた頬に手を当てて悶えており、ネルガルは彼女に見られないように『此奴チョロ!』っと言うような顔をしていた。

 

 

 

「……ん? 餓鬼……?」

 

「ふぁーあ。眠いしさっさと終わらせよっと。串刺城塞カズィクル・ベイ」

 

 見張りの男がネルガルを発見した時、槍の矛先が地面に刺さり、彼の視界が上に移動する。地面から出現した無数の槍が山賊達を貫いて体を持ち上げていた。自らの体重が槍に掛かって深く刺さる。ジタバタ暴れるほどに傷は広がり、()()()()()は直ぐに死ねたが()()()()()()()()()()は苦しみ続ける。そんな中の一人の目の前にネルガルが近寄って行った。

 

「わぁ! 凄いねお兄さん。其の様子だと内臓貫いてるでしょ? 生命力有る~」

 

 凄い凄いと拍手をしながら向ける笑みは年相応の無邪気な物。もう一度槍で地面を突くと槍が消えて山賊達は地面に叩き付けられる。栓の役目をしていた槍が消えた事で周囲を血の香りが漂うがネルガルは靴が汚れるのを気にするだけ。ウェイブはたった数秒で行われた残酷な行為と無邪気な子供を思わせる姿のギャップに言い表しようのない不気味さを感じ取っていた。

 

「おいおい、どんな人生送ればあんな顔してあんな事が出来るんだよ……」

 

「……偶にあんな子がいる。まともな人格のまま狂っているの」

 

 クロメは感情を読み取れない瞳でジッとネルガルを見つめる。其れとは正反対にDの表情からは自責を中心とした様々な感情が読み取れた。

 

 

 

 

 

 

「陛下も将軍の影響か恋愛に興味を持たれたようで。……あと数年もすれば美食と酒と女でより扱いやすく成りますな」

 

「成人病にはご注意を」

 

 数日後、エスデスと大臣の会食の席では本人にはとても聞かせることが出来ない内容の会話がなされていた。元々二人には幼い皇帝を敬う気持ちなど無く、只自分の目的さえ果たすことが出来れば良いだけだからだ。そんな中、大臣には珍しく言いにくそうにしながら尋ねる事があった。

 

「……所で将軍。恋の相手が見付かったとか」

 

「ああ! まだ十歳だが才能溢れる奴でな、今の時点でクロメより少し下位の強さを持って居るんだ。……言っておくが帝具は渡さんぞ」

 

「ほっほっほ、分かっていますとも。文献には詳しいことは書かれていませんでしたが、どうも適合者が見付かりにくいようで。ならば扱える者に持たせておくべきでしょう」

 

 彼は隠しているがネルガルが持つ帝具の内、二つには更なる記述があった。曰く、幼くして狂った者にしか使えない、と。エスデスの下にいるのならば関わらないようにする方が良いと思う大臣であった。

 

 

 なお、ショタコンと言う言葉が浮かんだのも秘密である。

 

 

 

 

「でね、此所が警備隊の詰め所で、彼処が服屋。墓地はこの路地を先に進むと見えてくるから」

 

「……」

 

 セリューの案内で不慣れな帝都を散策するネルガルは少し眠そうだ。その原因はエスデスにある。将軍の権力をフルに使ってネルガルを自分の部屋に住まわせベットで抱き枕にしているのだ。慣れないフカフカのベットと抱きしめられている為に寝返りが打てない事、そして耳元で吐かれる寝息が五月蝿かった。

 

「少しお腹減ったし、私が甘い物でも奢ってあげる。……あっ! 彼処が貸本屋だよ」

 

「貸し本屋かぁ」

 

「興味ある? じゃあ、私は近くのお店で何か買ってくるからその間覗いてきて良いよ。行くよ、コロ」

 

 セリューは幾人か並んでいるクレープの屋台に向かっていき、ネルガルは貸本屋に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「でよ、あの時の餓鬼、どうもエスデスの部下になったらしいぜ」

 

「マジかよ!? ……おいおい、まだ子供だろ」

 

 先日の武闘大会を見学していた貸本屋の店員であるラバックは、仲間のタツミと共に雑談を行っていた。この貸本屋の隠し部屋にはナイトレイドの秘密基地が存在し、この二人も組織に所属している。タツミは子供を殺す事になるかもしれないと不安になり、ラバックは大会での姿で警戒しているが何処か子供だからと侮っていた。

 

「っと、そろそろ昼飯買ってくる」

 

「んじゃ、頼んだぜ」

 

 この時、タツミが出ていくのがもう少し遅ければ、あるいはネルガルが貸本屋に入るのがもう少し早ければ、そうすれば結末は変わっていたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、お兄さん。推理小説は何処にあるの?」

 

「推理小説? それなら……うげっ!」

 

 職務中にエロ本に夢中になっていたラバックは相手の顔を見て思わず吹き出す。先程まで話題にしていたネルガルの姿が目の前にあったからだ。

 

「僕の顔に何かついてる?」

 

「……いや、なんでもねぇ。案内してやるからついて来な」

 

 この時ラバックが普通に接客をしていれば彼の結末は変わっただろう。だが、彼はその選択肢を選んでしまった。

 

 

(……とっ捕まえて情報を聞き出す)

 

 目的の本棚まで案内したラバックは本を選ぶのに夢中になっているネルガルに忍び寄る。糸の帝具である『千変万化クローステール』で喉を締め上げようとしたその時、突如ネルガルが振り返る。その顔に赤い液体が着いていた。いや、赤い液体が付着しているのは其処だけではない。本棚や床にも赤い液体……手首から先をネルガルが持つナイフによって切断された事で溢れ出している血が付着していた。

 

「ふぅ。ナイフ持ってきて良かった。敵意むき出しにして背後から忍び寄ってくるんだもん、ビックリしちゃった。……帝具持ってるし、敵で良いよね?」

 

 まるで傘を持ってきて良かったとでも言うような口ぶりでラバックの両手を切断したネルガルは、其の儘ナイフをバラックの心臓に突き刺して息の根を止め、クローステールを回収するとそのまま店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだよ、これ……」

 

 ネルガルが貸本屋を出てから僅か一分後、買い物を終えて戻ってきたタツミは床に出来た血の海とラバックの死体を発見し、混乱のあまり固まってしまっていた……。




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ハーレム系オリ主になろうとしたら聖女の祖父でした

 神様転生、二次小説でしか知らないそれを俺は実際に体験する事になった。トラックに轢かれたはずなのに俺が居るのは白い部屋で目の前には籤引の箱が置かれていて、箱の前には紙が置かれている。俺が拾い上げて書かれている事を読んだ所、『神が事故で死なせた。隠蔽の為に創作物の世界に転生させるが文句は受け付けない。たかが人間如きに特典やる手間を省くのだから感謝しろ』、との事だ。

 

「……一個目は行く世界か」

 

 流石に世紀末な世界とかは勘弁して欲しい思いつつ引いたのは『ハイスクールD×D』。好きな作品だし、手放しで喜べる。更に! 強ければモテるから……おっと涎が。残りは能力など。此処で強いの、例えばAUOの宝具とステータスとか引ければと願いつつ俺は籤を引いた。

 

「介入しても事態が悪化しない。教会組との強い接点っ!」

 

 よし! テンプレ展開来たー!! 俺、あの三人が好きなんだよね。幼馴染として格好いい所見せておけばきっと三人とも……。そして次に引いたのが戦闘関連の才能と適応能力。……キター!! これ、決定じゃねっ!? 俺の薔薇色の人生決定じゃねっ!?

 

 他にも色々引いた俺はついに転生の時を迎える事となった。待ってろ! 俺のハーレムメンバー達っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っと、夢か」

 

「こーんな時に眠るなんて呑気な事だね。まっ、落ち着かなくってウロウロされるよりはマシだけどさ」

 

 横合いから聴こえてくる声は先程から廊下を落ち着かない様子で行ったり来たりしている男へも向けられているのだろう。それなりの歳のくせに衰えを感じさせない其の声で其奴はソワソワしながらも椅子に腰掛ける。全く情けない奴だ。しかし、懐かしい夢を見たな。

 

 儂が二度目の人生を得てから七十年。無論、儂は七十歳。ハーレムなど築いておらんし、今では興味もない。長年連れ添ったカミさん居るし、娘は可愛いし。……娘の夫はどうでも良い。兎に角、殆ど覚えていない原作(何十年も読んでないんだから当然。小さい頃に読んだっきりの絵本のキャラの名前を正確に言えるか?)等に介入する必要など感じんしな。それに、今日は我が人生で最高の日。初孫の出産予定日だ。既に愛娘の陣痛は始まっており、後は生まれるのを待つだけ。そして遂に……。

 

 

 

 

 

「お祖父ちゃんですよ〜」

 

「おい、コラ! 怖い顔を急に近づけんじゃないよっ! この子が怯えたらどうすんだいっ!」

 

 儂、其れなりに頑丈なのに婆さんの一撃は結構痛いのは何故だ? それにしても、まぁ何と可愛いことだ。紅葉のような手で儂の指を握ろうとしてくる姿といったら……。ちなみに女の子。初孫で孫娘だから可愛くって仕方ない。

 

「其れで名前は決まってるのかい? 早く申請しなきゃ駄目だろ」

 

「ええ、決まってるわ母さん。この子はアーシア。アーシア・アルジェントよ」

 

 ……いやいやいやっ! 未だ名前だけ一致してるだけだし……いや、長年掛けて身に付けた儂の勘が告げている。この子は原作ヒロインのアーシアだと。……させん! させんぞ! 原作では確か捨て子の孤児だったが、色々と変わって家族が居る! ならば更に頑張って原作の様な寂しい人生も遅らせんし、何よりハーレム主人公なんぞに可愛い孫娘をくれてやるものかぁっ!! この子が結婚するのは、この子さえ居てくれれば良いと心の底から思ってくれる奴じゃっ! 

 

 

 

 忘れて居ったが儂の名はルーク・ジェラキュール。歴代最強やら拳帝(けんてい)やら呼ばれておる。

 

 

 

 

 

「先生! 宜しくお願いしますっ!」

 

「ああ、宜しく頼むぞ」

 

 数年後、儂は未だ現役を貫きつつも後進の育成にも力を注いでいた。戦士育成機関の必要性を共に説いたヴァスコの奴は出世したが少々衰えてきたな。まあ、儂が歳のくせに元気すぎるというのも有るんだがな。ちなみに儂は現場で働くの好きだし、上の政治的判断が気に入らんかったから出世はしとらんが現場からの信頼は厚いし、戦友が其れなりに上層部に食い込んでいる。まあ、これでアーシアが聖女として孤独な思いをするのは防げるだろうな。

 

「お祖父ちゃ…先生! 其の子が新しい子ですか?」

 

「ああ、そうじゃよアーシア」

 

 っというよりも、悪魔祓い見習いだしな。記憶が朧気じゃし、儂一人で全ての事件を解決できるはずがない。儂のような者の身内ならば狙われるし、神器も儂関連で調べとるしな。だからまあ、戦える力が有った方が良いじゃろう。娘夫婦も関係者だから分かってくれたし、この子の気持ちも確かめた上での決定だ。嫌だというのなら儂が守る気だったが、この子が頑張ると決めたなら応援する。ちなみに弟子は皆、子や孫みたいなもんなので訓練中は祖父と孫ではなく先生と生徒、特別扱いはせん。

 

「私、イリナ。宜しくね!」

 

「ア、アーシアです! 宜しくお願いします!」

 

 早速仲良くなれたようで結構結構。儂、大満足。こうやって友が増える姿を見ているとヴァスコと儂の時を思い出すな。……その日に殴り合いの喧嘩になったな。黙っておこう。

 

 

 

 

 

 そして更に数年が経過、儂は更に多くの戦士を鍛えたり、自傷による傷を負って教会の敷地に入ってきた貴族悪魔を捕まえたり、聖王剣コールブラントを持つペンドラゴン家の小倅との手合わせの際、素手で剣にヒビを入れてしもうたりもしたが元気でやってるし、アーシアも今では立派な悪魔祓い。イリナとゼノヴィア(何処かで聞いた名前のがするが何処じゃったかな?)とトリオを組んで任務に出ている。

 

 

 ……そう言えば聖剣計画という異端レベルの人体実験をしている奴が居たから阻止したが、首謀者には逃げられた。だがまあ、後数分遅ければ残りの被験者まで殺されていた。助かったのはおよそ数人と、そして何時か絶対捕まえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「エクスカリバーが三本も盗まれたじゃと?」

 

「ああ、そうだ。しかも盗んだのはコカビエル。しかも日本にあるグレモリー家が管理する街に逃げ込んだ。厄介な事だ……」

 

 ヴァスコも苦労しとるの。メンツは大事じゃから極秘裏に進める必要がある。大がかりな人員配備無理だしな。

 

「儂が行けば良いのか?」

 

「ああ、頼んだ。……大丈夫だとは思うがコカビエルに集中できるよう、エクスカリバーの相手は他の者に任せることとなった。バルパーも噛んでいるようなので保険だ」

 

「して、誰が付いてくるんじゃ?」

 

「お前の弟子のイリナと儂の弟子のゼノヴィアに一本ずつ残った剣を持たせ、サポートにアーシアを付ける」

 

「……まあ、妥当じゃな」

 

 さて、儂は特典で神の死を知っておいても大丈夫なようになっとるが、朧気ながら覚えている。この任務で神の死が知らされると。信仰心のない儂だから仲間のために戦ってきた。今回も其れだけじゃ。神の死を知る前に倒す!

 

 

 

 そして遂に日本にやって来た儂はグレモリーの小娘と会うこととなった。ちなみにイリナの幼馴染みでイッセーとやらも悪魔になっているようなのだが……何故か無性に警戒心を煽る名の気がするのぅ。

 

 

「ルーク・ジェラキュール!? とんでもない大物が来たわね」

 

「知っているんっすか? 部長」

 

 やはり警戒しとる様じゃが、イッセーとやらはポカンとしとるの。そんな顔を見たせいかイリナが前に出て自信ありげに胸を張って鼻を鳴らす。

 

「知らないのなら教えてあげるわ、イッセー君。この世に聖剣は数有れど、その鋭さ故に、振れば天地をも切り裂くという最強の聖剣。それは、歴代最強の悪魔祓いたる先生の手刀なのよ。だから敬意を持ってこう呼ばれているの『拳帝』ってね!」

 

「……本当に人間?」

 

 悪魔に言われたくはないな……。




次回未定!!


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悪故に悪を成そう 

 彼が目を覚ますと其処は真っ白な部屋――ただし、真っ黒と言われれば真っ黒のような気がするし、赤一変色と言われれば赤い部屋に思える―――だった。

 

『やれやれ、やっと起きたか』

 

「おいっ! 何処だよ、此処っ!? お前誰だよっ!?」

 

 彼は真っ当な人生を送って来た者ではない。普通に日本に生まれ、普通の家庭で普通に愛情を注がれて生きてきたのだが、彼自身の意思で堕落し道を踏み外して生きてきた。この日も近所のスーパーでゲーム感覚で万引きを下後、小学生から脅し取った金で漫画喫茶に入ったのだが、何時の間にか今の場所に居た。

 

『言葉使いが汚いな。まぁ所詮はロクな人間ではないし、気にする事ではないか』

 

 其処に居たのは高圧的な男――もしくは低姿勢の老爺、または礼儀正しい少女――だった。来ている服も身長も、誰かが何かと言えば誰しもがそうだと思う、そんな不思議な相手だ。

 

『お前は死んだ。私が気紛れに殺した。何か力をやるから異世界に行け。貴様の知る『ハイスクールD×D』の世界だ』

 

 普通ならば頭を疑う内容だが、不思議と彼はそれを信じた。それこそ欠片も疑う事すらなく、常識として知っている事を態々聞かされた様な風に。

 

 彼が渡された紙に書いているのは欲しい能力の要望欄。ある程度の変更は可能だとして三つの欄があった。一つは基本的な能力。二つ目は肉体に掛かっている魔法や技術、最後は使える技や魔法。知っているの全てなどは不可能であり、何かしらの作品から、其れも全て別の作品からというのが条件だ。

 

 

「……よし! 一つ目は『僕のヒーロアカデミア』のオールフォーワンの能力をくれ。神器からも奪えるように頼む」

 

『他人から力を奪って生きるのか。まあ能力を奪われて無力化した相手を一方的に叩きのめすのは貴様の好みだろうな』

 

「二つ目は『ドラゴンクエストⅣ』の進化の秘法。ただし小説版の奴を完成した状態で、見た目の変化や黄金の腕輪は無しでも機能するように頼む!」

 

『相手の絶望する顔が見たいのか?』

 

「三つ目は『ドラゴンボール』の魔人ブゥが使ってた対象をお菓子にしたり自由に変えれるビーム!」

 

『やれやれ強欲此処に極まれり。悪役の能力ばかりだな。まあ転生先で欲を満たす気でしかないから仕方がないか……』

 

 パチンと指を鳴らす音と同時に彼の目の前に門が出現する。其れを潜れば己の欲望を満たせる世界に行けると確信した彼は喜び鼻歌交じりで進もうとし、急に足が動かなくなった。

 

 

 

 

『ああ、言い忘れていたが……貴様の人格は塗り潰させて貰う。訓練した兵士でさえ戦場では精神をやられるんだ。サービスだよ、サービス』

 

「あがっ!? あがぁああああああああああああああああっ!?」

 

 自分の中に何かが入ってくる感覚、自分が消え去っていく感覚。浮かれていた気分は一気に恐怖に塗り潰され、やがてその恐怖を感じる心さえ消え去る。

 

 

 

 

『じゃあ、早く行け。伝え忘れていた侘びとして、その内何かしらのプレゼントをくれてやろう』

 

 その声は彼だった者への嘲笑、または同情、若しくは愛情、それか無関心、其のどれか、もしくは全てが込められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと何かしらの液体が入った機具の中だった。粘度の高い感触が気持ち悪く、手を伸ばせばガラスの壁に触れる。軽く力を入れただけでヒビが入り、次の瞬間には音を立てて割れる。液体と共に外に出ると真っ赤ないサイレンと共に耳障りな警報が鳴り響き、周囲を見れば自分が入っていたような容器に入った子供達の姿。

 

「はははは! なんたる狂気! なんと悪辣! これだ! これこそが私の生き方だ! そうだ!」

 

 この時、彼は此処が異能者を作り出す為の研究所であり、転生者である自分の存在の帳尻合わせに世界に改変を加えて出来た場所だと理解した。自分は唯一の成功例で、他の失敗作は攫われて来た、若しくは親に売られた結果此処に来た子供を材料にしている事を理解した。

 

 湧き上がってきたのは怒りでも後悔でも絶望でもなく……歓喜! 正しく悪と呼ぶべき所業に対し心の底から歓喜していた。

 

 

「ああ、何たる事だっ! 私に植えつけられた人格は狂人ではないか! ははは! ははははは! 貴方が神という存在かどうかは知らないが、此処は便宜的に神と呼ばせてもらおう! 偉大なる神よ感謝しよう! 私を狂わせてくれて有難う!!」

 

 耳を澄ませば聞こえてくるのは研究者たる悪魔達。彼がこの世界に存在する理由として改悪を押し付けられた者達だ。

 

「さて、今は大人しくしていよう。・・・・・・・だが、何れ」

 

 数ヶ月後、違法研究所に踏み込んだ者達が見つけたのは無残に殺された悪魔達の死体。あえて時間を掛けて殺されたと分かる陰惨な現場からは犯人の残虐性が伺え、サーゼクスは危険視して犯人の捜索を命じたが手掛かりは見つからず、参考になりそうな研究資料は全て焼き払われていた。

 

 

 

「さて、懐も暖かくなった事だし何か食べに行くとしよう」

 

 この日、幼い孫娘と遠出した老夫婦が殺害された。互いの悲惨な最期を見せつけるかのような残虐性から研究所の犯人と同一犯と思われたが手掛かりは残されていない。抜き取られた財布は中身を取り出した後で溝に捨てられ、生き残った、生き残ってしまった幼い少女は何も話せない。

 

 其れは精神を病んだ訳でもなく、彼女は正気のままだった。腹を切り裂かれ臓腑を剥き出しにされた活け作りの姿のまま、死ぬことも狂う事も叶わず、情けとして受けた殺すための傷は瞬時に癒える。其れはサーゼクスの全力の一撃を受けるまで、興味を持った悪魔に散々実験され終わるまで続いた・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「魔獣創造か。・・・・・・思わぬ掘り出し物だったな」

 

 この日、人間界のとある村が壊滅した。住民全てが張り付けにされ、死因は殆どの者が餓死。一部の者は生きたまま猛禽類や肉食獣に喰殺された。

 

 犯人は空に向かって語る。神器の気配が有ったから奪いたくなった。この惨状は序でに引き起こした、と。

 

 

 

 

「お前、何者?」

 

「おや? ああ、四巻までは其の姿だったか。初めまして、無限の龍神」

 

 突如現れた老爺に深々と頭を下げ、顔に浮かべるのは狂気の笑い。今の自分には絶対に無理だが、目の前の存在の顔を絶望に染めたらどれほど面白いかと、そう思ったのだ。

 

「お前、我のこと知ってる? なら、力貸して欲しい。我、グレートレッド倒す」

 

「断る。グレートレッドを倒すのは非常に興味が有るがね」

 

「何故?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「故郷に帰りたい、など余りにも真っ当過ぎる理由だからだよ。幾ら世界が滅びるとはいえ、力を貸す気にはならないな。私の助力が欲しいなら誰もが悪と断ずる理由を見つけたまえ」




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悪故に悪を成そう ②

 出来損ない、才能のないゴミ。それがサイラオーグ・バアルが父親から向けられ続けた言葉だ。大王バアル家の長男として生まれたにも関わらず特性である滅びの魔力を持って生まれなかった彼は普通の魔力も殆ど持っておらず、母親もろとも僻地に追いやられた。

 

 父方の親類が引き取ると言い出すも、他家に嫁ぎながら類稀なる滅びの魔力を長男に受け継がせた彼女を憎む彼は決してサイラオーグを渡そうとしない。そして、待っていたのは貴族の華やかな生活とはかけ離れた貧しい暮らしと壮絶な虐めだった。

 

 悪魔は実力主義。其れ故に力を持たないサイラオーグは蔑まれ、恐らく貴族に対する鬱憤もあったのだろう、サイラオーグは何時も泣いていた。そんな彼の数少ない味方が母だ。貴族令嬢として何不自由ない生活を送り、大王家の正妻になった彼女には今の生活は辛いはずなのにサイラオーグを責めもせず、厳しく優しく育ててくれた。

 

「やーい、やーい! 無能!」

 

「才能ないから捨てられたー!」

 

 其の母親がある日急に姿を消した。彼への虐めは更に壮絶なものとなり、父はそのような事など知った事ではないとばかりに助けようとはしない。唯一の味方であった母に捨てられたと思ったサイラオーグの心と体は徐々に弱っていった。

 

 

「……大丈夫かい? ああ、私は君のお母さんを知っている者だ。君のお母さんは君を捨てていない。私がそれを保証しよう」

 

「……本当?」

 

 本来なら見知らぬ其の男性を無条件で信じはしなかっただろう。だが、弱りきった心に其の言葉は染み渡り、初めて笑顔で頭を撫でてくれた彼をサイラオーグは信じた。いや、信じたかったのだ。彼を疑うという事は、母が自分を捨てていないという言葉さえ疑う事になるのだから……。

 

 

「よく聞きなさい。君のお母さんは、君を不幸にしたい奴に消された。すまない。私は其れを止める事が出来なかった」

 

「……母上が死んだ? 僕を不幸にしたい人に?」

 

 直様思い浮かぶ男が一人。自分を不要だと、居てはならないと捨てた父親の顔。サイラオーグの中にドス黒い感情が湧き出してきた。だが、それも直ぐに消え去る。今までの人生で得た劣等感が恐怖を増大させ、復讐など無理だと思わせたのだ。

 

 

 

 

「君が不幸になったのはこの世界が間違っているからだ。何故君がそのような不幸な目に遭っているのに、他の物は家族でヌクヌクと暮らせる? 力がなかったと言うだけで、どうして不幸にならないといけない? 君は今のまま不幸なまま終わりたいかい?」

 

「……嫌だ」

 

「なら、復讐だ! 世界を壊してしまおう! 今あの世の中を作り出した、君を不幸にした奴らを、今の君より幸福な奴らを不幸のどん底まで引き摺り落とすんだ! 大丈夫。私なら君に力を与えられる」

 

 再びサイラオーグの頭に置かれた男の掌から何かが入り込んで来た。今まで無かった物が体に入り込んできた違和感。それと同時に欠けていたパーツが嵌め込まれた様な感覚をサイラオーグは感じ、無意識のまま目の前の気に魔力を放つ。同年代の下級に比べても劣るはずの彼の魔力。

 

 

「滅びの魔力!?」

 

 だが、彼が今撃ったのは紛れもなく滅びの魔力だった。まるで大人の力を無理やり子供が使ったかのような不安定さはあるものの、それはサイラオーグが持っているはずの力。そして、誰がその力を与えてくれたか、サイラオーグは直ぐに理解した。

 

「私だけが君の味方になってあげられる。その力の扱い方だって教えてあげよう。だから付いてきなさい。ああ、私の事は”先生”と呼ぶように」

 

「はい、先生!」

 

 だから、差し出された手を何の躊躇もなく取った。目の前の男がどの様な存在か知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、そうだ。甘い物は好きかな? 滅多に口にできなくって辛いだろう。ほら、チョコでも食べなさい。……おふくろの味、という奴だ」

 

「有難うございます、先生!」

 

 最早サイラオーグにとって男は絶対的な存在であり、疑うという発想自体浮かばない。だから彼の言葉の奇妙な所に気付かなかった。差し出されたのは綺麗な板チョコ。高級品にも劣らない其の味は普通に考えて家庭で出せる味ではなく、『おふくろの味』というのは妙な話だ。

 

 甘いチョコを食べながらサイラオーグは幸せな気分になる。その味は母親の愛情のように優しい味だった…‥。

 

 

 

 其れから暫くしてサイラオーグの失踪が知らされたが、既に他の後継がいる現当主からすれば興味もなく、むしろ死んでいてくれた方が、見つからない方が都合が良い。だから彼は捜索隊に手の内の者を忍ばせ、見つけ次第事故に見せかけて殺すようにと命じた。

 

 だが、一向に死体すら発見されず捜索は打ち切られる。それから数年後、バアル家の者全てが何者かに殺害されるという大事件が起きた。目撃者によると犯人は滅びの魔力を使っていたという……。

 

 

 

 

最初に異変が顕在化したのは堕天使だった。本人達は恥だとひた隠しにしていた事が誰かの口からか漏れ、それがアザゼルの耳に入ったのだ。最初は彼も本気で信じはしなかった。

 

 

 

 

 光力を失う者が続出している、等と。それが信じざるを得なくなったのは情報が入ってから一週間後、光力を失う者が多く住む街がネズミの大量発生で危機に陥っていると聞いたアザゼルは救援部隊を派遣。其の後報告を受けたのだ。鼠を退治しようとした痕跡はあるが、一切光力が使われていないと。

 

 それからが大変だった。本当なら一大事と念入りに行われた検査で光力の消失が明らかになり、原因も不明。少なくても何らかの術で封印されている様子はなかった。

 

「新種の病気か? それとも……」

 

 もしやミカエルが何か『システム』の機能を編み出したのか、そう怪しむアザゼル。天才的頭脳を持つ彼でも何があったかの予想がつかず、光力を失った者達を隔離施設に入れるという処置しか出来ない。

 

 堕天使陣営の足元から正体不明の恐怖がジワジワと這い寄って来ていた。

 

 

 

 

 

 

「……なんと」

 

 バルパー・ガリレイはエクスカリバーに憧れていた。だが、彼に其れを使う才能はなく、せめて自らの手でエクスカリバー使いを作り出そうと思い、狂気に落ちた。この日も多くの子供に過剰な実験を行い、そろそろ何人か死ぬかも知れないといった時、目の前に彼が現れた。

 

 

 

「エクスカリバーを扱える気分はどうかな、バルパー?」

 

「……最高だ! 最高の気分だ!!」

 

 バルパーの手には光り輝くエクスカリバーが、その力を発揮したエクスカリバーが握られている。本来ならば有り得ない光景だ。

 

「……さて、エクスカリバーを使えるだけ良いのかな? 憧れた英雄のようにエクスカリバーを振るいたいと思わないかい?」

 

「もちろんだ! だが、私の歳では……」

 

「大丈夫だ。私の指示に従うのなら……悪魔が使う若返りの方法を与えよう。それまで計画は続けなさい」

 

「ああ、勿論だとも」

 

 暫くした後、教会の重要人物が死体で発見される。エクスカリバーの正式な所有者だった彼の死は伏せられ、一部の者以外は知る由も無かった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「原作を終わらせるのは簡単だ。下級悪魔一人居ないだけで滅びる世界を葬るなど、余りにも容易い。……だが、それでは面白くない。私が勝つにしても負けるにしても、正義とされる側が居なくては悪は成り立たない。……さて、私を楽しませてくれたまえ、主人公」

 

 暗い部屋の中、縁日の屋台で売られている様な安物の、其れも悪役のお面を被った男は呟く。その背後に人影が一つ存在した……。




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悪故に悪を成そう ③

 此所はロンドンのとある屋敷の中、歴史を感じさせる建物の廊下を彼は歩いていた。古びた床がきしきしと音を立てる中、彼が辿り着いたのは食堂へ続く扉。其れを開けようと手を伸ばし、扉のすぐ横に設置された鏡を見て手を引っ込める。

 

「おっと、これはしまった」

 

 少し慌てた様子で鏡に顔を写して頭に付けた狐のお面のずれを直した彼は扉を開けて食堂へと入っていった。

 

「やあ、待たせたね」

 

 彼が姿を見せると長テーブルに座っていた五人の内、三人が立ち上がろうとしたが、彼はそれを手で制する。

 

「遅れてきたのは私だ。その儘で居れば良い」

 

「そうだぜ、皆。そんな事より僕ちゃん腹ペコだ」

 

「そうそう。早くご飯にしようにゃん」

 

 立ち上がらなかったのはニヤニヤと笑う老悪魔に着物を着崩した猫耳の女性。二人も彼と同様に熊と蠍のお面を、いや、此処に居る全員が何かしらのお面を付けていた。

 

「では、頂くとしよう」

 

 彼が座ると食事前の挨拶などせずに各自食べ始める。行儀が良いとは言えないが、この場では其れで良しとされていた。

 

 

「……先生。現地のスタッフから連絡がありました。例の地域の食料品のシェアは全て独占したそうです。他の店舗は全て潰れ、食糧事情は全て握りました」

 

「ああ、それは結構だ。後は領主の悪魔と揉めて即時撤退するだけだね。白音、報告ご苦労」

 

「……」

 

 白髪の少女は報告を済ませると黙々と食べ進める。彼女は頭に付けていた豚のお面を邪魔とばかりに外して置いていた。

 

 

 

 

「さて、バルパーからも連絡があった。聖剣計画だが、上層部によって潰されたらしい。……実に素晴らしいね」

 

「あはははは! だよねー。大勢の子供を犠牲にし手に入れた技術だけ利用して、後ろめたい事は責任者にぜーんんぶ押し付けるんだからさ」

 

「ああ、実に素晴らしい悪だ。エンヴィー。君もこれから忙しくなるが頑張ってくれ」

 

 血の滴るレアステーキを切らずにフォークを突き刺し、そのまま口に運ぶ蛇の面の少年は実に愉快そうに笑う。特に大勢の犠牲が出た事を語るときは活き活きとしていた。

 

 

 

 

 

「さあ! 存在自体が間違った世界を我々に都合が良い様に改変しよう。不幸に見舞われた諸君には其の権利がある。己の欲望のままに生きて構わない。他人を踏み躙っても大した事ではない。悪意を持って悪を成そう。もとより我々は悪なのだからね」

 

 これは正義の味方による王道の物語でも、ダークヒーローによる救世の物語でもない。悪意に塗れた者達による破滅の物語である。

 

 

 

 

 

 

「あっ、醤油取ってくれるかい? 其れとワサビ」

 

「先生、掛け過ぎです」

 

「体に悪い物ほど美味しいんだよ。それに私なら大丈夫だし」

 

 

 

 

 

 

 

「サーゼクス様。例の暴動ですが、誰かが裏で手を引いているようです」

 

「……そうか」

 

 とある領地で発生した民衆の暴動。元々評判の良くない領主で、この領地で商売をするには彼への心付けが必要となる。元々貧しく大した産業も観光地も存在せず、金にならないからと商人が寄り付かないので食糧事情は厳しかったが、数年前に参入した商社によって食糧事情は解決。雇用も拡大するなど民衆にとって無くてはならない存在となった。

 

 ……のだが、賄賂を拒否した為に領主の嫌がらせを受けた其処は即時撤退。参入前に食料生産を行っていた者達も給料の多い其処に就職していた為に更に景気は悪化。今回の暴動に繋がったのだが、何者かが武器を流している為に事態は悪化し始めていた。

 

「領地を経営する悪魔からは救援要請がありますが……」

 

 無論、魔王という立場からして救援を出さない訳にも行かないが、今回の件は領主が悪いとマスコミが騒ぎたて、それを黙らせようと上層部が動いた事で他の領地でも貴族への不満の声が上がっている。そして今回の件でそれは更に加熱するのは火を見るよりも明らかだった。

 

「……援軍を送ってくれ、グレイフィア」

 

 だが、今の冥界は魔王の独断で動けない。上層部の意を汲む必要があり、下級悪魔を見下す彼らは間違いなく援軍を送るように催促するからだ。

 

 

 

 

 

「しかしまぁ、教会も親切だね。異端者達を君の様に追放するだけで殺さないんだから。だから教会でしか生きれない者は絶望の中で野垂れ死にするしかないし、悪党の命を奪うのを躊躇った為に……数万以上の善良な命が失われるんだ」

 

「ああ、全くだ。教会も下らん組織だったよ。汚れているくせに綺麗なふりをしている」

 

 彼とバルパーが山の上から見下ろしているのは惡魔が住む小さな町。堕天使の領地と近く、何かあったら戦場となる場所だが、今は冷戦状態なので貧しさから活気はない。

 

 

「さて、お見せしよう。先生から頂いた聖剣の適正と長年の研究成果、そして神が作った道具の共演をな」

 

 バルパーは被っていたライオンのお面の位置を正すと両手を広げて叫ぶ。彼の影が広がり、まるで炭を溶かした水のバケツを倒した様に周囲の地面が黒に染まり、其処から手が伸びてきた。

 

 

 其処に居たのは正しく騎士。純白の鎧を身に纏い全身を隠した屈強な騎士。誇りを持って掲げるは聖なる武器。其の輝きは正しく聖剣、聖槍、聖弓と呼ぶのに相応しい神秘なる輝き。神聖なる存在に忠義を誓う正義の騎士と呼ぶに相応しい佇まいだ。

 

 

「粛清騎士達よ。……殺れ。ただし、一人では生きられない程に弱った老人は残せ」

 

「其の方が面白いからね。ああ、親子連れの場合はい親を先に殺したら駄目だけど、兄弟なら構わない。でも、弟妹を連れて逃げる子は後で殺す事。幼い方が優先だよ」

 

 だが、其れが動く動機は純粋な悪意。この日、悪魔の町の住民の九割以上が死体も残らない方法で殺された。

 

 

 

 

 

「はあ!? 悪魔と天界側で争いが起きそうだっ!?」

 

 この日、アザゼルは起き抜けに部下から受けた報告に対しワインを吹き出してしまう。トップ陣が戦争を嫌っている為に辛うじて起きていなかった戦争だが、悪魔貴族の間で戦争の再開を唱える者が続出し、中には教会に独断攻撃を仕掛ける者まで出始めたのだ。

 

 今は魔王やミカエル達が必死に抑えているが、何かの切っ掛けで崩壊するだろう。

 

 

 

「ったく、何やってるんだ。……まさか例の組織が絡んでいやがるのか?」

 

 堕天使側からどうにか介入して戦争を阻止できないかと思考を巡らせるアザゼル。その時、古くからの友人であり幹部であるバラキエルが飛び込んで来た。

 

 

 

「アザゼル! コカビエルの奴が教会からエクスカリバーを強奪したぞっ!!」

 

 

 

 

 

 

 その頃、彼はとある廃教会に居た。足元に転がるのは堕天使四人の死体。

 

「白音君。何が食べたい?」

 

「……ポテチでお願いします。味は勿論コンソメで。この前食べたフェニックスを使ったビスケットも捨てがたいですが、今はポテチの気分です」

 

「ああ、味はサワークリームオニオン限定だ。それ以外は認めないから」

 

「……ちっ!! それで此処に来る前に抜け出してた人はどうしますか? アーシア、でしたっけ?」

 

「どうでも良いよ。成るようになるからね。あの子は欲しくない。余りにも詰まらないからね」




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悪故に悪を成そう 終

アンパンマンは頭がアンパン

バーガーキッドは頭がバーガー

天丼マンは丼の天丼を抜き取られても・・・・天・・丼マン? 


「そう言えばさ、うちの組織って組織名ないの?」

 

 それは平和なお昼どき、焼肉屋に集合と聞かされて一人先に行ったものの誰も来ず、皆が別の店でスキヤキを食べている間、ずっと待っていた黒歌が会議室で口にした疑問だった。

 

「あっ、組織名に関してならこの間決めましたよ、姉様。私と先生とサイラオーグさんとバルパーさんとリゼヴィムさんとエンヴィーさんで」

 

「私除け者っ!? 私も幹部なんだから参加させてっ!?」

 

「取り敢えず今は決めない事にしました。まだ表舞台に立っていませんし、正式に存在を表明した後、私達をどう呼ぶか向こうが勝手に決め、それが浸透した辺りで全く別の名前を名乗ろうって先生が言いました」

 

「……うわ〜」

 

 性格悪いと思ったが今更なので言わないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「和平反対! 和平反対!」

 

「奴らは敵だぁぁ! 皆殺しにしろー!」

 

 魔王領を中心に行われているデモは戦争継続を支持する貴族や反魔王派の介入で激化し、今や数万人規模の民衆が魔王が執務を行う屋敷を取り囲んでいた。聖剣を使う騎士や堕天使と思しき集団による悪魔領への襲撃事件は連日のように行われ、対応が後手後手に回る魔王への不満は貴族の息がかかったマスコミによって激化の一歩を辿っている。

 

 この様な状況下でも既得特権を守ろうとする貴族によって悪魔は徐々に衰退へ進んでいた。そんな中、更にデモを激化させる要因となったのが数日後に控えたトップ会談。そこで魔王が和平を結ぶ気だとマスコミにリークがあり、民衆の怒りが爆発した。

 

 堕天使は堕天使で副総統と内密に恋に落ちていた悪魔が子供と共に悪魔に殺害され、更にはリアスの眷属である朱乃が堕天使幹部であるバラキエルの娘であることが冥界中に広められた。連日のようにバッシング的な報道がなされ、これを機に悪魔や堕天使を撲滅しようと教会の戦士が騒ぎ出す。

 

 

 

 

「うひゃひゃひゃ。所詮は薄氷の上に築かれた平和。僕ちゃんが少し扇動すれば容易いぜ」

 

 前ルシファーの息子として行方不明になった今でも強い影響力を持つリゼヴィムは協力者である貴族達への手紙を書きながら笑う。彼らが望むルシファーの息子に相応しい文章を送るだけで簡単に今の政権を裏切る貴族達は彼にとって都合の良い玩具であった。

 

 

 

 

 数日後、会談の結果が新聞の一面を飾る。だが、その内容はサーゼクス達が当初望んでいた物とは懸け離れていた。

 

「三すくみ間での戦闘行為の厳禁。破った勢力は残りの勢力二つで袋叩きだってさ。どうだい? 君の望んだ物とは違うけど」

 

「……殺せ」

 

 冷たく湿った地下牢の中、翼と手足をもがれ光力を全て奪われたコカビエルは自分を閉じこめ力全てを奪った彼を睨む。エクスカリバーを奪い魔王の妹たちを殺して戦争を再開させるという彼の野望は桁外れの悪意の前に踏み潰されていた。

 

「嫌だね、面倒くさい。なんでわざわざライバルキャラの噛ませ犬の殺処分をしなくてはならないんだい? そんなことよりも今日みたいに君が嫌がりそうな話を聞かせる方が楽しいじゃないか。じゃ、もう行くよ。君は聖剣を強奪したまま行方不明になったし、皆に不安を振りまいてくれて助かるよ。何時動くか分からない奴って怖いからね」

 

 

 

 

 

戦争が起きそうでおきないという不安の中、綻びは少しずつ悪魔社会を蝕んでいった。

 

 戦中の需要を狙って商人が食料や生活必需品を買い溜めた。だから物資が不足して物価が上がった。

 

 ちょっとした事故が発生した。他の勢力の仕業ではないかと噂が立った。

 

 ピリピリとした状況の中、諍いが起きやすくなった。

 

 欲望のままに生きることを良しとする歪な社会。権力が二つの派閥で分散し、振り回される民衆には不安ばかりが広がっていく。明確な敵が目の前に居たのならば力のある魔王の元で結束しただろう。だが、今のような戦闘力が役に立たない事態では……。

 

 

 

 

 

「……リアスが結婚か。まあ、こんな情勢だからな」

 

 サイラオーグはトイレで新聞を広げながら呟く。幼い頃に会ったっきりの()()()()()()()()()の婚約が早まり、大規模な報道の元で披露宴が行われようが興味は然程ない。精々が結婚相手であるライザーは親類縁者が全滅して(クッキーは美味かった)実権を全て握った彼の所にリアスが嫁ぐ形になろうが、自分がかつて成りたかった魔王の有力候補だったミリキャスが次期次期当主から正式に次期当主になって魔王になれなくなってもどうでも良い。

 

 

 

 

 

 

「眷属が一人、貴族に逆らったから処刑か。見せしめだろうな、それか身の丈に合わない良い神器でも持っていたか?」

 

 大っぴらに強い神器を手に入れれば他の勢力を刺激するが、処刑する際に抜き出して黙っておけばそうはならない。

 

「……紙がない」

 

 ケツ出した状態でトイレから出た時、丁度白音と出会した。

 

 

 

 

 

 

 

「……戦争か。起きたら良いのにな。なあアルビオン」

 

『俺は赤いのとの戦いの方が興味があるな』

 

 堕天使領地でヴァーリは戦争が起きればと願いながら修行を行っていた。そんな時、窓から紙飛行機が飛んでくる。何か書かれているので開いてみると……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変だ、アザゼル! ヴァーリが抜け出した。修行して赤龍帝の籠手を装備したサーゼクスに勝負を挑むそうだ!」

 

「はあっ!?」

 

 突然の知らせにアザゼルは久方ぶりの酒の入ったグラスを取り落とす。最近は忙しくて酒を飲む余裕もなかったが、この日は仲間が気を使って酒の時間を使ってくれた。だが、それは知らせに来たバラキエルの手の中の紙飛行機に印刷された写真と知らせの内容で終わってしまう。

 

 赤龍帝の籠手を装備したサーゼクスの姿はアザゼル達に危機感を与えるに十分であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、ヴァーリ君が組織を抜けてから早一ヶ月……脆いね。あまりに脆すぎる。手を抜き過ぎたと思っていたのに」

 

「ははは! 僕を散々働かせといてよく言うよ。……楽しかったなぁ。ミカエルに息子を殺されたルシファーや、自分の父親に犯された時の元堕天使の小娘の顔とかさぁ……最高だよねぇ!!」

 

「いやはや、私と同じ施設の生き残りを発見した時は肝を冷やしたが、君のような最悪の性格で良かったよ」

 

「性格最悪は先生だろ? 僕は二番目さ」

 

 

 不戦条約はたった数ヶ月しか持たなかった。元々殺し合いをしていた仇敵で、トップ数名が手を合わせたからといって下の者もそうなるはずがない。オーフィスを神輿に据えたテロリストが殆どが三時のオヤツに消えた今、元々の敵が明確な敵に変わった……ただそれだけだ。

 

 

 

 きっと疲弊した三すくみは何処かの神話に何かしらの口実で滅ぼされるだろう。オーフィスもその内自ら動き出すだろう。龍殺しの力を何者かに奪われたサマエルは役に立たないだろう。神の奇跡を起こす力を奪われた槍は青年の夢を叶えることは出来ないだろう。

 

 

 

 

 そんな中、悪は悪を為すために動くだろう。理由は簡単。悪故に悪を成す、只それだけだ。

 

 

 

 




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兵藤家のバグキャラ長男

浮かんだから書きました 不定期です



結晶を使うためのQpが足りない 今まで所詮一レベって侮ってサボってきたから・・・・ 


あと、マシュと嫁セイバーの種火 マシュは明日頑張れば間に合うか


「やっぱ兄ちゃんは凄ぇな! まるでヒーローだよ」

 

 昔、弟が木の上から降りれなくなった事がある。腰掛けている枝はミシミシと音を立て、多分友達が呼びに行った大人も間に合わない、そう思った俺は弟の所まで登ると背負って下ろしてやったんだ。木の上で震えていた弟だけど俺が助けに行ったら安心した顔になって、絶対に助けてやらなきゃって思った。途中。俺の身長の数倍の高さから飛び降りる事になったけど、弟にも俺にも怪我がなくて本当に良かったって今でも思う。

 

「ああ、兄ちゃんはお前のヒーローだ。だから困った時は助けを呼べ。俺が絶対に守ってやるから」

 

 別に高い所が強くなかった訳じゃない。痛い思いをするなんて好きじゃない。テレビのヒーローみたいに全く恐怖を感じずに勇敢な行動が出来るとは思っていない。

 

 でもよ、もっと嫌な事がある。俺が怖がったせいで、誰かが痛い思いや怖い思いをするのは我慢できないんだ。だから、強くなりたいって思った。世界中の人を救える程とは言わないけど、山程の人を助けられるくらいに強くなりたいって餓鬼の頃から思っていたんだ……。

 

 

 

 

(……今のが走馬灯って奴か? 本当に見るんだな)

 

 聞いた話じゃ命の危機を乗り越える為に脳が必死に今までの記憶を手繰って助かるヒントを探しているらしい。実際、役に立った。あの時の経験から空中で身を翻し、上手く受身を取れたと思う。

 

「ヤー! 今ので生きてるとはビックリしました! アナタ、結構強いから力加減間違えたのデース」

 

 まさか人が豆粒に見える高さまで投げられるとは思ってもみなかった。受身を取ったものの体中の骨がバラバラになった様な激痛が襲ってくる。意識は朦朧とし、直ぐに手放してしまいそうだ。指先一つ動かせる気がしない。

 

 そもそもどうしてこうなったんだ? 朦朧とする意識の中、俺は数日前まで記憶を遡った……。

 

 

 

 

 

「早く綺麗な布をっ。煮沸消毒用の湯を沸かしてくれ」

 

「教授! 言われた茸と虫を採って来たぜっ!」

 

「ああ、暮尾君に指示を出しているから作業を手伝ってくれるかい?」

 

 俺の名は兵藤零観(ひょうどう れいかん)、親しい奴にはレーカンって呼ばれている大学生だ。担当教授である平和男(たいらかずお)――学生の間じゃピースマン教授で通っている――の助手として南米の遺跡の調査に向かったんだが、俺と教授と暮尾派虎(くれお はとら)部雄狼(べお うるふ)の四人は道に迷い、途中濁流と化した川に攫われていた餓鬼を俺が飛び込んで救出した縁で村に行ったんだが……。

 

 

 

「お礼がしたいから直ぐに来て!」

 

 俺が助けた餓鬼の名はシータって言うんだが、平教授が医者でもあるって言った途端に無理にでも連れて行こうとした時に皆理解したね……医者が必要なんだって。

 

 

 

「……こりゃヒデェな」

 

 部雄が呟いた通り、村に向かってみれば酷い有様だった。古い小屋に何人もの病人が寝かされている。教授の見立てじゃ熱病らしい。

 

「この村は医者は居ないのかい?」

 

「私…だ…。私がこの村唯一の……」

 

 医者だと名乗った老人は俺にも手遅れだと分かる程に衰弱していて、シータが教授を連れて来たがった理由がよく分かる。あの爺さんが最後の希望だったんだな。若い奴はシータみたいな子供を除けば出稼ぎに出ていて、ジャングルを越えて医者を呼びに行ける健康な奴は居ない。

 

「一定期間ごとに外からやって来る人は居るが……」

 

 まだ其の日ではなく、このままでは大勢の死人が出る、と……。俺達は教授に視線を向ける。所詮俺達は教授と違って大した医療知識も技術も持っていないからな。

 

「……私達には他にやる事がある。この村には偶々来ただけに過ぎない」

 

「そんな……。先生に出て行かれたら……」

 

 村の奴らは希望を奪われた顔になるが、仕方ない。まさに教授は降って湧いた希望だ。だが教授からすれば急な事態で危険性も高い。俺達学生の安全も関わってくるからだ。俺個人からすればなにか力になってやりたいが、俺に何が出来るかっていうと……。

 

  こんな時、俺は自分の無力さを噛み締める。目の前で困ってる人の力になれないんだからな……。

 

 

 

 

 

 

「だから直ぐに全員治す。片っ端から診ようじゃないか」

 

 この日から数日の間、俺達は教授の指示に従って村人の治療に専念した。教授の判断は若しかしたら非難される物なのかも知れない。だがよ、困ってる人を助けたいって想いは間違いじゃないよな。

 

 

 

 

 

 

「あら、随分と大量なのね。じゃあ、手伝ってくれるかしら? 茸は傘をとって千切りにして、それから……」

 

 暮尾は擂り鉢で薬草を磨り潰しながら俺に顔を向けてくる。ミス・キャンパスに選ばれた此奴は噂ではふくよかな体型の奴と付き合っているらしい。聞いた話じゃ彼氏は昔は痩せてて美形だったらしいが……まぁ、どうでも良い。

 

 少し高飛車だが根は良い奴で、少し抜けている所がある、そんな奴で俺の友人、大切なのは其れだけだ。

 

 

 

「……そう言えばシータちゃんだけど、どうして川で溺れていたか聞いた? どうもこの先にある遺跡に行こうとしたらしいわよ」

 

 作業をしながら聞いた話じゃアステカ神話の神、マヤ文明ではククルカンと呼ばれる文化神・豊穣神のケツァル・コアトル、メキシコの部族の中には神官や部族長が名乗る名前だったとか。それを祀ってる神殿だったらしいが、その最上階の石像に嵌め込まれている宝珠には凡ゆる病気を癒す不思議な力があるって伝説が有るとか……。

 

 

 

「村の事を思っての事だろうけど、やっぱり子供ね。そんなの出鱈目に決まってるし、向かう途中で川に落ちて死に掛けてちゃ世話無いわよ」

 

「だけどよ、その結果俺達が村に来て何とか病が治まり出している。彼奴の行為は無駄じゃなかったぜ。……あの子の母親は危ない状況だけどな」

 

「……それでもよ。あの子が病人にまで心配かけたのは許せないわ。にしてもケツァル・コアトルだったっけ? 翼のある蛇、ドラゴンの類なのでしょうけど、そんなの居る訳ないのに。……そう言えば今日は姿を見てないわね」

 

 どうも俺達は懐かれた様で――部雄だけは言葉が通じないのでイマイチ仲良くなっていない。顔も怖いしな――この村に来てから何度も顔を合わせているのに、今日は朝から姿を見ていない。

 

 

「……まさか、また遺跡に行ったのか? ドラゴンは居なくても猛獣は居るぞ」

 

 俺は飛び跳ねるように立ち上がる。昨日猛獣が村に来た時は部雄と俺が威圧して追い払ったが、流石にあの子一人でジャングルで遭遇したら……。

 

 村の人に話を聞き、遺跡に向かったようならば探しに行こう。俺がそう思った時、森の方からシータの悲鳴と今まで聞いた事のない生き物の鳴き声が聞こえてきた。

 

 

 

 

『ギュアアアアアアアアアアアア!!!』

 

「誰か、誰か助けてー!!」

 

「な、なんだよ、アレはっ!? ドラゴンっ!?」

 

 俺の視線の先に居たのは必死に逃げるシータと、其れを追いかける体長二メートル程の生物。翼竜の類を思わせる肉体を持つが、俺の知識にあんなのは存在しないし、何より生き残ってる訳が無い。どちらかと言うと映画やゲームに出てくるワイバーンに近く、居るはずのない生物だ。がだが、確かに其れは存在した。

 

 

「ったく、誰か琥珀から復活させたのかよっ! カエルのDNAは使ってねぇだろうなっ!」

 

 人間の肉体など容易に引き裂けるであろうカギ爪がシータに向けられる。必死に走って生きたのだろう、シータの足が縺れ、間一髪の所でカギ爪は宙を切る。だが、転んだ彼奴が追撃を避けられるはずがなく、酷く興奮した様子のワイバーン(仮定)は鋭い牙で肉を噛み千切ろうとした。

 

 

 

 

 

「らあっ!!」

 

 迷っている暇はない。其の姿を見るなり駆け出していた俺は地面を踏みしめ一気に跳躍。ワイバーンの胴体に飛び蹴りを叩き込む。返って来たのはまるで砂鉄が詰まった革袋を蹴りつけた様な感触。

 

 

 

 

 

『グギャアッ!?』

 

 つまり、何一つ問題はないって事だ。ワイバーンは地面を何度もバウンドし、よろめきながら起き上がる。その目は明確に俺を敵と認識しているが、次の行動に移るよりも前に俺の爪先が顎を蹴り上げた。

 

「顎が揺れれば脳も揺れる。……ファンタジーの生物っぽくても一緒だろ」

 

 鉄の塊を蹴り砕いたかのような感触と共にワイバーンは仰向けに倒れピクピクと痙攣している。どうやら起き上がる様子はないな。

 

 

 

 

「レーカン君っ! シータちゃん!」

 

 さてと、暮尾も駆け付けて来たし、この妙な生物の事を教授に相談しなくちゃな。まだ居て村を襲われたら少しヤベェ。部雄と俺が居ても病人守りながらだと精々十匹が限度か……。いや、パニックになることを考慮したら七匹だな。

 

「……ったく、面倒だ。なぁ、シータ。彼奴は何か知ってるか? 流石にこんなのが襲ってきてたら村は持たねぇだろ」

 

「し、知らない。急に襲ってきたの」

 

「ってか、村滅ぼせる奴を蹴倒した貴方は……今更ね。このデタラメ人間の万国ビックリショー」

 

 暮尾が何か失礼なこと言ってるが無視してシータを見る。怖がらせねぇ様に視線の高さを合わせ、笑みを見せてやった。

 

「そうか。よく逃げ切れたな。偉いぞ」

 

 頭を撫でてやろうと手を伸ばした時、上空から羽ばたく音が聞こえてくる。シータを背に庇うようにしながら見上げると、上空に居たのは五メートルを越えるワイバーン。上空を飛んでいて、その背中には女が立っていた。

 

 

 

 

 

 

「とうっ!」

 

 十階建てのビルの屋上に匹敵する高さから飛び降りた其の女は軽やかに着地。まるで猫のようなしなやかな動きで少しも動じた様子がない。

 

 

「ハーイ! 今日は。ワタシ、ケツァル・コアトル。アナタ達二人のお名前は?」

 

「兵藤零観だ」

 

「く、暮尾葉虎です」

 

 女は神の名を名乗った。普通だったら何処かの部族か冗談の類だと思うだろう。だが、俺達は違った。目の前の女が神であると、一目見ただけで確信したんだ。

 

 ケツァル・コアトルは俺達二人を興味深そうに見詰め、次にシータに視線を送る。ビクッと体を震わせた所を見ると何かあるな。

 

 

 

 

「その子、私の神殿から宝を盗もうとしたのデース。まぁ綺麗なだけの宝石ですし未遂ですが、配下の翼竜達が怒りましてネ。お仕置きするからコッチに渡してくれマスカ?」

 

 ったく、そういう事かよ。やっぱり、あの伝説を本気にしてたんだな。俺は冷や汗が流れるのを感じていた。ケツァル・コアトルは生贄を不要と言い出した善神と伝わってるが、神様ってのが人間が思うような都合の良い存在だとは限らねぇ。むしろ……。

 

 

 

「お願いします! 私はどうなっても良いから村の病気を治して下さいっ!」

 

「……ンー! あまり自然の成り行きに口出しするのはポリシーに反しますが……条件付きで良いですヨ?」

 

 ケツァル・コアトルが指先をビシッと向ける、その先に居るのは俺だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アナタ、私と勝負しなさい。もし私に認めさせる事が出来たら叶えてあげましょう」

 

「分かった。でも、約束は守ってくれよ」

 

 正直言って神様と闘うなんて怖い。神話の英雄じゃあるまいし、俺みたいな一般人に神殺しや怪物退治なんて出来ないと思う。でも、出来る出来ないじゃねぇ。俺は今、此所で此奴に立ち向かわなきゃいけないんだ。

 

 

 

 

 この時、俺には慢心はなかったはずだった。相手は神様で、人間なんて矮小な存在でしかない。其れを分かっている……積もりだった。分かっているとか言っている時点で俺は相手を侮っていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふむ。君には前から驚かされてばかりだが、まさか神様に挑むなんてね。ああ、死んだらレポートの提出はしなくて良いよ」

 

 相変わらず教授の声には少しも感情の上下が見られない。だが、無駄が嫌いなこの人が止めないって事はこの闘いには意味があるって事だな。

 

「……ちょっと正気? 神様に勝てるはずがないじゃない」

 

「おう! お前が負けたら次は俺が挑ませて貰うぜ」

 

 暮尾は普通に心配してくれてて嬉しい。部雄はまぁ、信頼の証だな。

 

 

 

 

「じゃあ、そろそろ始めましょう」

 

 教授達と村の代表者としてシータ、この四人と共に俺は神殿の屋上にやって来た。リングを作る為、目の前で巨大な岩を運んできて手で削るケツァル・コアトルの姿を見ると不安になる。いや、俺以上にシータが不安そうだ。

 

「……ごめんなさい。私のせいで……」

 

「気にすんな。……それに俺が負けたって決まった訳じゃねぇ」

 

 こんな時こそ俺は笑う。笑って自分を鼓舞し、見ている奴らから不安を拭い取る。だって……ヒーローは笑うもんだ!

 

 

 

「じゃあ、行くよ!」

 

「おうっ!」

 

 言葉と同時に俺は駆け出していく。リングの中央で組み合い、まずは力比べだ。

 

「あははははははっ! 強い強い! アナタ、本当に一般人?」

 

「ぐっ! 余裕ありそうなアンタに褒められても嬉しくねぇな」

 

 はっきり言って強い。同世代の奴には負けないつもりだったが、流石神だ。完全に力負けしているぜ。ギリギリと押され始め、俺の体勢が崩れる。いや、技術と力で崩されたんだ。そして崩した後には……大技が来る!

 

 

 

「行っくよーーーー!!」

 

 背後から俺の腰に腕が回され持ち上げられる。そのまま浮遊感が襲って来て天地が逆さまになり、頭から岩のリングに叩き付けられた。

 

「……終わっちゃった?」

 

「まだだ。まだ負けてねぇっ!!」

 

 追撃をせず俺を開放した相手を睨みながら俺は立ち上がる。結構いいのを貰っちまってクラクラするが俺は負ける訳には行かないんだよっ!!

 

 

 

 

 そして、勝負開始から丸一日が経ち、場面は冒頭へと移る。旋回バッグドロップから上空に放り投げられた俺は受身は取ったがダメージが大きく、立ち上がれそうになかった。

 

 

 

 

 

 そう。立ち上がれ()()()()()。立ち上がれない訳じゃねぇ。体がバラバラになったみたい? 本当にバラバラになった訳じゃないだろ。指先一つ動かせそうにない。知るか、根性で動かせ。

 

 

 痛みは我慢する。意識は気合で繋ぎ留める。なんだ、まだまだ余裕じゃねぇか!

 

 

「……凄いわね。たった一人で神に挑んでいるのに諦めないなんて」

 

「一人…じゃねぇ。勝利を信じていてくれる奴らが居るから何度でも立ち上がれる。力が湧いてくる。それが仲間の力じゃないって言うんなら何なんだっ!!」

 

 俺は叫びながら拳を振り上げ向かっていく。狙うはカウンターによる強烈な一撃。もう、勝利云々じゃねぇ。此処まで一方的にやられているんだ。やられっぱなしは俺の趣味じゃねぇんでなっ!!

 

 

 

「……うん。やっぱりアナタ、気に入ったわ」

 

「其奴はどうも!!」

 

 二人の腕が射程範囲内に相手の頭を入れ、同時に振り抜かれる。ヤベッ、アッチの方が速い。これじゃあカウンターは…。

 

 

 

 

 

「勝てっ!!」

 

 

 其れが誰の声だったのか、俺は覚えていない。だが、その言葉が俺に最後の力を絞り尽くさせた。さらなる踏み込みと同時に俺の拳は加速し、ケツァル・コアトルの拳は頬スレスレを通り過ぎて行く。クロスカウンターが完璧に決まった、それを感じると同時に俺の足は崩れ落ち、受け止められた。

 

 

 

「合ー格! アナタの事、認めてあげる。村の事は任せなさい」

 

 一つ気付いた事がある。俺は戦っている最中に……。俺を受け止めた戦士の肉体の意外と良い匂いと柔らかさを感じながら俺は其れを確信した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……此処は天国か? いや、親より先に死んだんだから地獄か?」

 

「違う違う。此処は私の神殿よ。アナタ、あれから丸一日寝てたの」

 

 目を覚ますと知らない天井と見慣れた顔。丸一日以上戦い続けた相手の顔が直ぐ傍に有り、膝枕をされている事を知った。

 

 

「一応治療はしたけどもう少しこうしていなさい。お姉さんからのサービスと治療の効率化の為よ。暫くは立ち上がれそうにないわ」

 

「……ああ、確かに腹が減って動けそうにないな」

 

 全身打撲とかのダメージや疲労はネタから回復したが、エネルギーの消費だけはどうにもならねぇ。肉だ、肉が食いてぇ。出来たら炭火で焼いたタン。

 

 その事を伝えると呆れたような驚いたような顔をされた。曰く、俺は本当に人間なのかって。神様なら俺がただの人間だって分かりそうだがな。

 

 

 

 

「普通の定義が何か……ああ、そう。アナタ、そうなのね。……しかし人間は凄いわね。アナタの友達とか、あの村の子とか。久しぶりに人間に関わりたくなったデース。まぁ、何時か……」

 

「何時か、なんて日はねぇぞ。何時にするか、自分で決めないと絶対にやって来ねぇ」

 

 俺の言葉にケツァル・コアトルは目を丸くし、次の瞬間には吹き出す。……いや、唾かかったぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あははははははははははっ! そうね。じゃあ、何時にするか決めましょう。今直ぐよ。アナタ、私と結婚しない?」

 

「まずは結婚を前提にしたお付き合いからだな。宜しく、ハニー」

 

 戦いが終わった時、俺は気付いてしまった。俺は心底目の前の女神様に惚れちまったんだってな……。

 

 

 




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兵藤家のバグキャラ長男 ②

コアトルピックアップ コアトルどころかジャガーマンすら出ない 二十数回で玉藻キャットと庵メアが出たよ。初期の初期に比べえば凄い引きだけど・・・。 もうすぐメンテ明け 報酬の石で出てくれ せめてアベンジャー!! もしくは聖女の寄り代


 子供はヒーローに憧れる。俺も勿論テレビのヒーローに憧れて、自分も同じようになりたいって無邪気な夢を持っていた。

 

 だけど、俺にとって一番の憧れで身近なヒーローは兄貴だ。兄貴は何でも――ただし、音楽を除いて――出来た。運動も勉強も出来たし、家事や多趣味の対象も人より優れていて――但し、音楽関係にはその分の逆補正が掛かっている――、俺はヒーローみたいだから兄貴に憧れたんじゃなくって、兄貴に似てるからテレビのヒーローに憧れたんだ。

 

 なあ、俺にとって兄貴がヒーローなんだ。俺は強い兄貴に守られてたから、兄貴みたいに誰かを守れる強さが欲しかった。その為に必死に体を鍛えたさ。でも、どれだけ頑張っても兄貴には届かない。その事で悩んだ事もあったけど、兄貴の言葉で立ち直ったよ。

 

 

 

『テメーは今までの頑張りに誇りを持ってるんだろ? なら自分を他人と比べて落ち込んでないで胸張っとけ』

 

 

 兄貴は大学進学と共に家を出て、俺は高校に入学した。エロ仲間の元浜や松田と違って覗きとかはしないけど、やっぱ男だから猥談が好きだし、おかげで二人程ではないけど変態扱いされて女子からは嫌われている。その事もあってイケメンは憎いな、うん。

 

 しかし、どうして兄貴はモテないんだ? いや、女から嫌われてはない。それどころか女友達は多いんだ。俺の知り合いだけでも、盛道麗人(もどう れと)さん、惠瓜由愛(えうり ゆあ)さん、有寺(あるてら)さん、玉木夜兎(たまき やと)さん。藤村たい・・・は忘れよう。皆美人だけど、嫉妬する気が起きない程に兄貴とは『友達』なんだ。

 

 

 あれだな。先に彼女作って一つでも勝利してやるぜ!

 

 

 そんな事を企んでいた俺だけど、結局二年になっても一向にモテる気配がない。だけど、そんなある日転機が訪れた。いや、本当人生の転機だったぜ……。

 

 

 

 

 

「お願いがあるんだけど……死んでくれないかな?」

 

 ある日俺に告白してきた天野夕麻ちゃん。初めての彼女だから大切にしようと思い、男の意地で兄貴には相談せずにデートプランを考えた。そして初デートの終わりごろ、夕日の綺麗な公園で黒い羽を生やした夕麻ちゃんは俺を殺そうと襲いかかって来たんだ。

 

 

「悪魔、いや、堕天使?」

 

「知ってる、な訳ないか。娯楽作品の知識ね」

 

 兄貴が神話とかを調べるのが好きな関係で俺もその手の知識は読み齧った程度にはある。だから堕天使のコスプレをしてワイヤーか何かのトリックで空を飛んでいるだと思ったけど、咄嗟に避けた物を見て違うって直ぐに分かった。

 

「へぇ、避けるのね。……生意気よ!!」

 

 僅かに服を掠めて地面に突き刺さたのは光の槍。掠った部分が焦げてるから熱を持っていて、直ぐに消えたから立体映像とかじゃないっ! 拙い、と思った俺は夕麻ちゃん目掛けて駆け出した。彼女は確実に俺を殺そうとしている。直ぐに逃げ出す? いや、俺を舐めていたさっきの槍の速度でさえギリだったのに、怒った今じゃ確実に避けられないし、巻き添えが出るかもしれない。だったら、ぶっ倒す! それしか無い!!

 

「うぉおおおおおおおっ!!」

 

 叫びながら駆け出した俺にさっきよりもずっと速く槍が投げ付けられる。横に軸をずらしたけど右肩を掠めた。焼き鏝を当てられたみたいに痛ぇっ! だけど、こんな所で俺は諦めねぇ!

 

「無駄な騰きは死に様を穢すわよ。潔く死になさい」

 

「巫山戯んなっ! 生きる事を諦めるのが一番格好悪いだろがっ!!」

 

 俺は次の槍に対し右手を盾にする事で致命傷を避け、一気に飛び掛る。勿論届かないし大きな隙を晒す。でもな、兄貴みたいになる前に死んでたまるかってんだっ!

 

 俺の背中目掛けて放たれた槍。其れは俺が街灯を蹴りつけて跳んだ事で地面へと刺さる。

 

「これでも食らっとけっ!!」

 

 駆け出す時、咄嗟に拾った石を予想外の事態で固まっていた夕麻ちゃんの顎目掛けて振るう。だけど、当たると思った瞬間、俺の脳裏にデート中の楽しそうな彼女の顔が過ぎった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ふん。人間風情が驚かせちゃって」

 

 決定的な隙を晒した俺は腹に穴を開けて地面に横たわっている。夕麻ちゃんは俺を一瞥すると去っていった。もう痛みはなくて寒いとしか感じない。……俺がこのまま死んだら、お袋やオヤジや兄貴は泣くんだろな。元浜や松田はどうだろう? ああ、嫌だな。死ぬのも嫌だけど、死んで皆を悲しませるのはもっと嫌だ。

 

「……たい。生きたいっ!」 

 

 俺が叫んだ時、デートの待ち合わせの時に貰ったチラシが光り輝いた……。

 

 

 

 なあ、兄貴。俺、悪魔になっちまった。アレから数日後、夕麻ちゃんの事なんて皆の記憶から消え去って、悪夢だったのかとさえ思っていた時、元浜達とのエロDVD鑑賞の帰りに光の槍を持ったオッサンに襲われて、何とか撃退した時に現れた三年のリアス・グレモリー先輩に案内された旧校舎のオカルト研究部で俺は悪魔社会の事を教えられて、自分が悪魔になった事を知ったんだ。

 

 俺が襲われた理由、其れは神様が人間に与えた神器(セイクリット・ギア)ってのを危険視したらしい。魔法陣の上で兄貴の真似したら出てきたのは籠手。どうも有り触れたもんだったらしいけど……。

 

 

 それから魔力が絶望的に足りない事を知ったり、チラシ配りをしたり、変な人達との契約(中には兄貴の知り合いが居た)をしたりと忙しい中、俺はある少女と出会ったんだ。

 

 アーシア・アルジェント。癒しの神器を持つシスター服の美少女。彼女を教会まで案内した俺はグレモリー先輩こと部長にこっぴどく叱られた。もう会うなとも言われ、会えないと思ってたけど、契約先ではぐれ悪魔祓いってのに襲われて苦戦していた時に再会したんだ。

 

 

 

 この時、俺は自惚れ出していたんだと思う。堕天使を撃退して、悪魔になって力も上がったし強くなれたと思い込んでいたんだ……。

 

 

 

 

 

「……だったら、今日から君と俺は友達だっ!」

 

 次の日、忘れ物を取りに学校を出た時、俺はアーシアと出会い、寂しそうな彼女を放って置けなくて一緒に遊んで、彼女の事を聞いた。聖女と崇められ、悪魔を癒して魔女として追放された彼女はずっと友達が欲しかったんだ。だけど、俺は同情とかじゃなくって本当に友達だと思ったんだ。だからまた一緒に遊ぼうと約束したんだけど……。

 

 

 

 

「あら、其れは無理よ。探したわ、アーシア」

 

「レイナーレ様……」

 

 彼女が、夕麻ちゃんがアーシアを連れ戻しに現れた。本当の名前をレイナーレていうらしい彼女は俺に手を出さない代わりにアーシアに大人しく付いてくるように要求して、アーシアは其れに従おうとした。

 

 

 

 

 

 

「……待てっ! アーシアはそんな奴の所に戻らなくて良いっ! もう君は我慢しなくていいんだっ!」

 

 色々理由はあったけど、一番の理由はアーシアが助けを求める顔をしていたからで、其れを見た瞬間には考えるよりも先に体が動いていた。

 

 

 

 

「このっ! いい加減死になさいっ!」

 

 やっぱりレイナーレは強くて俺は傷だらけになりながら必死に食らいつくのがやっと。だけど思っていたよりもダメージが大きくて、俺は膝から崩れ落ちてしまう。レイナーレは笑いながら光の槍を投擲して……アーシアが刺し貫かれた。俺は守ろうとしたアーシアに庇われて、最後にこっちを見て笑いながらアーシアは死んだ。

 

 

「良かった、イッセーさんを守れて……」

 

「アーシアっ! アーシアァァァァッ!!」

 

 この時、俺は完全に頭に血が昇ってしまった。レイナーレが上を騙してとか叫んだり、時間ごとに急激に力が上がるのにも気付かずに戦って、気付けばボロボロの俺の前でレイナーレが気絶していた。

 

 

 この後、駆けつけた部長がレイナーレを尋問したり、彼女の時の演技のまま命乞いして来たのを見て怒りさえ消え失せて一発殴って二度と姿を見せないように言ったりと色々あったけど、そんな事はどうでも良かった。

 

 

 

 

 

「イッセー…さん?」

 

「アーシアァァァッ!!」

 

 俺と同じようにアーシアも部長が悪魔に転生させて蘇らせた。俺は困惑してる彼女を抱きしめてワンワン泣いた。声が枯れるまでずっと泣き続けたんだ……。

 

 

 

 それから部長の婚約者とレーティング・ゲームをしたりして、最後には意識が朦朧としながらも殴り続けたら勝っていたりして、何故か部長まで俺の家に住みだしたりした。

 

 

 あ〜、兄貴驚くだろうな。色々凄い人だけど一般人だもん。

 

『お前の話を聞く限りでは一般人とは思えんが?』

 

「いや、兄貴が凄いのは小さい頃からだし普通だろ?」

 

 俺の神器に宿っていた凄いドラゴンのドライグはこう言うけど、兄貴は一般人だよ。そりゃ複雑骨折が数日で完治したり、小学生の頃に猪の突進を正面から受け止めたり、バイクと正面衝突してバイク側だけが損傷したりしてるけど、普通の人間だぜ?

 

 

『相棒。一度”普通”を辞書で調べろ』

 

 変な奴。それより今日は兄貴が帰ってくる日だって聞いてる。どうも大切な話があるって事だけど……。




次回未定 感想来ないが書くのは楽しい


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兵藤家のバグキャラ長男 ③

取り敢えず思いついていた所まで 次回からは未開発領域


 神は基本的に人間が好き。かつては神と人は身近な関係で、恋に落ちたりもしていた。でも、今は違う。人は神の助けを必要としなくなったから、私達はそっと見守る道を選んだの。

 

 転んだ時、そっと手を差し伸べるのが優しさなら、一人で立ち上がれると信じて見守ってあげるのも優しさ。だから神話同士で話し合って極力人間には関わらないって事になったわ。其の取り決めの中には”女神は代償なしに人に力を貸しては駄目”ってのも有って、必死に祈られても力を貸せないのは歯痒かった。

 

 でも、何時までも私達が人間に干渉していては駄目だって分かってた。あの好き勝手にしていたギリシア神話の神々も干渉をしなくなったし、聖書の陣営に関してはあくまで人間同士の争いだと関わらないようにしていた。下手に神々の争いになりにでもすれば被害が拡大するからって分かっていても、正義の神からすればモヤッとすることも多かったですけど……。

 

 

 

「……ごめんね。私にはどうにもできないの」

 

 今日も神殿の近くの村の住民が捧げる祈りが私に届く。でも、病気が広まるのも自然の摂理。だから私が気軽に治すわけにはいかない。あの聞き分けの悪かった聖書の陣営でさえ聖女ジャンヌ・ダルクの時のような関わり方は長い間していない。神器を勝手に宿しているけど、人間を襲う存在が居るからって私達は何も言わないで居た。

 

 

 本当は私も昔のように人間と関わりたい。”何時か”そんな日が来たら良いと思っていたわ……。

 

 

 

「何時か、なんて日はねぇぞ。何時にするか、自分で決めないと絶対にやって来ねぇ」

 

 だから、その言葉を聞いた時は身体に電流が走った気分だったの。そうよね。自分で何時やるか決めないとそんな日はやってこない。簡単な話じゃない。

 

 最初に其の存在に気付いたのは偶々だった。川に流されている子が居たから何か理由を付けて川の流れを変えて助けようと思ったのだけど、まさか迷わず飛び込んで助けちゃうなんて。

 

 私はこれでも神としては最上級クラス。だから直ぐに分かった。彼は―――だって。きっとオーディンやギリシア神話の神も彼を見れば直ぐに分かるでしょうね。その日は何時かやって来る。

 

 

「仕方ないデース」

 

 自分の管轄地の子を助けたからという理由を付けて私は彼を”保護”しようと思った。と言っても私が先に見付けたって印を付けるだけ。そうすれば彼に手が出し辛くなるから。そんな風に侮っていた。

 

 

 

 ……うん。まさか手加減しているとはいえ私相手に丸一日闘い続けるなんて予想外。しかも闘ってみて分かった。私、彼の輝きを見誤っていたわ。

 

 最初は神としての興味。でも、闘ってみて其れは変わった。私、彼に恋をしていた。

 

 

 

 

 

 

「ヤー! 此処がレーカンの祖国なんですネ」

 

 神と人間の価値観は違うから行き成り求婚しちゃった結果、取り敢えずお付き合いからって話に。実は彼も私に恋しちゃったんだって。うふふふ。幸せってこんな事を言うのね。

 

 え? 人間への不干渉はどうしたって? あくまで個人として関わるなら黙認されるわ。彼に神の力で力を与えたり、彼を王にしようとかしなかったらセーフよ。

 

 だから、日本について来ちゃった。勿論体験を共有している分霊でだけど。流石に最高位の神である私の本体が国を出るわけにはいかないもの。管轄している日本神話に話を通したら、基本的に来るもの拒まずだしオッケーが出たわ。

 

 さて、これからご両親にご挨拶。私は戦いやら火や風を司る善神だけど、こういった事には慣れていない。でも、そんな私の不安を察したのかレーカンがそっと手を握ってくれた。

 

「安心しろ。俺の両親だ」

 

 ……そうね。何を不安になってたのかしら。彼を育てた人達なら善人に決まってマース。そう考えると嬉しくなって、思わず彼に抱きついていた。少し背が高めの私だけど、彼は更に頭一個分高い。だから自然と頭を胸で受け止められる形になった。

 

「おいおい、あまり人前でくっつくなよ、ハニー」

 

 少し恥ずかしがっている声を出しながらも引き離される様子はない。もう少しこのままで居たいと思った時、話し掛けてくる人が居た。

 

 

「あれ? レーカン?」

 

 

 

 

 

 

 

「ヤッ、凄い数だったね.流石私のダーリン。人気者ネ」

 

「只のダチだよ、ダチ。気があっただけで人気とか関係ねぇよ」

 

 あの後、レーカンに向かう途中で何度も彼の友人に会った。

 

 

「ふはははは! 久しいな。帰国したのか!」

 

 やたらと偉そうな斬亀秀(ぎるがめ しゅう)

 

「ほぅ、貴様が恋をするとは……何か悪いものでも食べたか?」

 

 同じように偉そうな小路満照明日(おじまん であす)

 

「……これはチャーミングな! え? 貴方の彼女? それは失礼」

 

 真面目そうだけど多分ムッツリの藍守呂飛(らんす ろと)

 

 

 

 兎に角他にも個性的な友達と会ったけど、彼は皆に好かれていた。きっと彼の持つ物に惹かれ……いえ、彼という個人に惹かれて集まったのね。女の子も多いのは少し嫉妬しちゃうけど……。

 

 

 

 

「ワオ! 大きいわね」

 

「……いや、増築したとは聞いてたけど……有り得ないだろ」

 

 レーカンの家を私は驚きながら眺める。レーカンもまた豪邸になった実家に驚いていた。あっ、悪魔の仕業ね。家に住みだした女の子が居るって聞いてたけど、悪魔の気配がするもの。

 

 

 

 

「さっ! 行きまショウ!」

 

「そうだな。些細な事だ」

 

 そんな事は後で考えれば良いし、今はご挨拶が優先ネ! 私はレーカンの後に続いて家に入り、其の儘リビングに通される。

 

 

 其処でレーカンは包み隠さず全てを話した。私が神である事や、一日中戦った事。どうやら悪魔になっていたらしい弟さんもご両親も直ぐには言葉が出ないのか固まっていた。だから少し不安になったんだけど……。

 

 

 

 

 

(おっどろ)いた〜。まさか兄貴が恋人連れてくるんだもんな」

 

「女の子の友達は多いのに浮いた話はないから心配してたのよ」

 

「しかも女神様とか凄いな。イッセーが美少女二人を連れて来た時よりビックリだ」

 

 流石は彼の家族。私が神であると知らせても驚いた様子はない。むしろ私が驚かされた方。どんな子供時代を過ごして来たのかしら?

 

 

 

「……でだ、此処からが本題なんだけど……大学を出たら俺は日本を出る。向こうで此奴と一緒に暮らす積もりだ」

 

 だからこそ、そんな家族から彼を引き離す事に今更ながら良心が痛む。いくら個人的な関係ならオッケーでも、私がこの国でずっと暮らすのは許されない。精々が彼が私と結婚するまで。

 

 私の恋は彼から家族やあんなに多くの友達を奪う事になるってこの時まで気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうか。なら、行ってこい。子供は何時か親の元を去るもんだ。女神様と結婚するなら心配は要らないしな」

 

「そうよ。私達は今まで貴方を精一杯愛した。だから胸を張って出て行きなさい。あっ、でも孫の顔を見せに帰って来なさいね? ……えっと、子供は生まれるのかしら?」

 

「え、ええ。生まれます……」

 

 

 

 ああ、私は何を心配していたのだろう。人間が好きって言っておきながら何も分かっていなかった。例えどれだけ離れても家族は心で通じて居るって、私は今日知った……。

 




取り敢えずソロモンが聖夜の晩餐になりそう すごいペース


意見 感想 誤字指摘お待ちしています バルバトス復活求む 心臓欲しい


弓魔神の即死でまさかの苦戦でした 四体落とされたから


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兵藤家のバグキャラ長男 ④

グランドオーダー 楽しかった

ラスボス戦、海賊姉御が優れた星生産能力と吸収力で礼装で強化されたクリ連打

強化切れるまでフレヘタクレに攻撃来なかった くそぅ NP貯まらない

最後は二十万ほどを邪ンヌ一人で削りきりました

ジャンヌは七章では大活躍だったけど、鯖が少ない最終章ではねぇ 火力不足ですし

柱や絆を曜日クエスト化求む


 久々に帰って来た実家は随分と様変わりしていたが、まぁ結構なこった。賑やかなのは悪くないしな。

 

「あ、後から辛さが一気に来ます。で、でも美味しいです!」

 

「その麻婆豆腐も美味しいけど、こっちの唐揚げも……。少しも油っこくないのにカリカリの衣を噛み切ったら肉汁と旨みが一気に溢れ出して……」

 

「このスープも絶品デース。フワフワの卵にトロミをつけた鶏ガラ出汁が絡んで……」

 

 今日のメニューは中華。お袋に久々に帰るなり晩飯を作るように言われたので張り切って作ったが、ハニー達はお気に召したようだ。育ちが良い様なので少し心配したが杞憂だったようだな。

 

「お代わり沢山有るから落ち着いて食いな。誰も盗りゃしねぇよ」

 

「兄貴は昔から何でも出来るんだよ。……音楽以外は」

 

「本当によく出来た息子よ。……どうして彼処まで音痴なのかしら?」

 

「万能な分、他の才能のツケを払わされているとしか。……音楽の神様に呪われてたりしてるのだろうか?」

 

 身内共が褒めてんのか貶してんのか分からねぇ事を言ってくる。一誠は後で拳締めの刑にでもしてやろうかと思いつつ、ハニーの皿にスープの追加を注ぐ。ああ、惚れた女の幸せそうな顔見るのは幸せなもんだな。

 

「本当に美味しいわ。……でも、少し食べ過ぎたかも」

 

「私も……」

 

 あ〜、暮尾もそうだけど、この年頃の奴ってそういうの気にするんだよな。細っこいのに随分食べるなとは思ったが、其れでも気にしつつ箸を止めないのは関心だ。お残しは許しませんってな。

 

「カロリーは計算してるから気にすんな。でも、気になんのならデザートの杏仁豆腐は止めとくか?」

 

「「食べます!」」

 

 かかっ! 素直で結構。人間、……悪魔か? まぁ、同じこった。人間、欲求に素直なのが一番だ。ただし一誠、オメーは駄目だ。お袋から話は聞いた。もー少し性欲自重しろ、ど阿呆。

 

 

 

 

 

 

「落ち着かねぇ。広すぎだろ」

 

 俺は大学進学にあたって家を出たんだが、ハニーが日本で暮らすにあたって家に戻る事にした。あの二人が同居してから少しの間は元の家だったんだが、色々と物を置いている俺の部屋に住まわせる訳にはいかないからって先に住みだしたアーシアちゃんと後から住みだしたリアスちゃんを同室にしたら、ある日家が豪邸になってたらしい。

 

 まっ、別に良いんじゃねーの? 俺の部屋も広くなってたからもっと物置けるしな。

 

「取り敢えず悪魔とは話付いたデース。その内ご両親に悪魔って話すから、今は互いに人間って思ってるって事になったネ」

 

 ハニーは何時の間にか俺に部屋で寛ぎながら隠されえていたエロDVDのパッケージを眺めている。……なぁっ!? おいおいおいおいおいっ!? 俺はそういったもんは部屋に置きっぱなしにゃしてねぇぞっ!?

 

「穢された白衣……こういうのが好きなの?」

 

「いや? どーせ一誠の阿呆が俺の部屋に隠したんだろ。ほれ、年頃のが二人居るしな」

 

 ったく、仕方ねぇ奴だよ。大体、俺はナース物よりも教師物……ただし、あの人は範疇外。色気の欠片もねぇからな。俺は一瞬頭に浮かんだ年上の幼馴染の姿にゲンナリし、ハニーも疑う事無く笑っていた。

 

「うーん。だったら防音はちゃんとするとして、夜中は……」

 

 更に何か考え出した時、ノックの音が聞こえて来る。ドアを開けると少し浮かない顔の一誠が立っていた。

 

「……取り敢えず使ってねぇ部屋行くか。其れ共散歩でも行くって言って出かけるか?」

 

「いや、家の中で良い……」

 

 こういった時、俺は此奴がどうして欲しいのか大体把握している。何やら企んでいるのか凶悪な顔芸してるハニーに不安を覚えつつも俺は部屋を後にした。……大丈夫だよな?

 

 

 

 

 

「ほれ、話せ。何があった?」

 

 前置きはこの程度でいい。俺は使っていない部屋の椅子に腰掛けると缶ビールの蓋を開ける。一誠にも適当に選んだジュースの缶を投げ渡したし、話を聞くにはこれで十分だ。ってか、畏まった場だと此奴は逆に話しにくくなるからな。

 

 

 

「俺、全然駄目な奴だなって思ってさ……」

 

 気持ちを押し殺したような似合わねぇ顔で一誠は悪魔になった経緯と今まで起きた出来事を話しだした。全く、俺が居ない間に随分と経験したじゃねぇか。……傍に居てやれなかったのは少し残念だな。じゃねぇとここまで追い詰められて無かっただろうによ。

 

 ……違和感は久々に会った時から感じていた。あの二人と仲良くやってる姿を見て、嬉しい半面、違和感は確信に変わっていた。

 

「……助けるって言ったのに、逆にアーシアに助けられた! ライザーとのゲームの時、俺の目の前で小猫ちゃんも木場もやられたっ! 俺は兄貴に近付こうと頑張って強くなったつもりだったのに、全然強くなってなかったんだっ!」

 

 今まで話を聞いて、今の様子を見て俺は確信した。確かに他の眷属やら主やらの事を仲間だと思ってんだろ。頼りにしてるし便りにされているんだろうよ。……だが、此奴は腹の中に溜まったモンを話せないでいる。信用していないわけじゃないが、話せないでいるんだ。

 

 ……まぁ、なら俺が聞いてやりゃ良いだけだ。小学校の道徳の時間じゃあるまいし、仲間なら何でも話すべきなんざ馬鹿馬鹿しい。互いに全部さらけ出さなくても其れで上手く行ってんならそれで良ーんだよ。

 

「俺は成長すれば何でも出来るって思ってたんだっ! 迷いも悩みもなくて失敗もしない完璧な奴になれるって信じて疑わなかったっ! なのに俺は弱いままだ! 皆は俺が強いって言ってくれるけど、本当の強さってのは相手を殴り飛ばして地面に叩き付けるモンじゃなくって、誰かを守れるって事なのにっ! 全然駄目なままなんだよっ!」

 

 堰が切れたみてーに一誠は感情を溢れ出し嗚咽を漏らす。意地か格好付けか仲間の前では弱さを見せねぇようにしてたんだろうな。ったく、世話の掛かる弟だよ。

 

「……阿呆()だら。何時か完璧になるヤローなんざ居るかよ。もっと迷え、もっと悩め。失敗したって良い。全部引っ括めてオメーなんだからよ」

 

 馬鹿の髪をグシャグシャと掻き回した後で軽く叩くと俺は部屋から出ていく。

 

「……兄貴、サンキュ」

 

 まだ一つあるけど吐き出したくなった時に

 

 

 

 

 

「へいへい。……あっ、忘れてた。テメー、俺の部屋に何隠してんだ。ハニーに誤解される所だっただろうがよー」

 

 振り返り、拳を鳴らしながら一誠に近付いて行く。さて、コブラツイストかドラゴン・スープレックスかパロスペシャルか選びやがれ。

 

「げっ! あ、兄貴、落ち着いて……ぎゃあああああああああああああっ!! 降参降参っ!」

 

 この後、騒ぎを聞きつけたアーシアちゃんが止めに来たが、これが日本の兄弟の正しいスキンシップだと言ったら信じやがった。……大丈夫なのかよ、アレ?

 

 

 しっかし赤い籠手から十数回妙な声がなっていたけど、少し力が上がったか、彼奴? まぁ俺には敵わねぇけどよ。ハニーと丸一日戦って長いこと寝てから調子が良いんだ。超回復って奴だなっ!

 

 

 

 

 

 

「さて、風呂も入ったし……寝るかっ!」

 

 寮でないから何時もより早く起きる必要があるし、俺は背中からベッドに倒れこむ。知らない天井だった。

 

「……おっふ」

 

 いや、俺はこの天井を知っている。ハニーと婚約を結んだ日の晩、夕食を食わせて貰った後で連れ込まれた部屋だ。

 

「ハーイ! 本体が直接行けませんので、夜だけこっちに来て貰いマース」

 

 声に振り向けば毛布に包まっているハニーの姿。髪飾りも付けていねぇし、薄い毛布の上からでも体のラインが分かる。

 

「アレか? あん時と同じ事する気か?」

 

 正直に言おう。その晩、俺は押し倒された。抵抗はしていない。魔法とかを使っての魅了ではなく、女神の美しさに魅了されたからだ。

 

 ……ちなみに俺は女友達は多いが、ハニーが初恋の相手だ。何が言いたいかは……言いたくねぇ。恥はかかなかったとだけ……。

 

 

「……うーん、其れも良いですケド、私ばかり攻めっていうのも面白くありまセーン」

 

 俺の問いにハニーは笑い、毛布を放り投げると誘うように手を伸ばしてくる。当然、服は着ていない。少しも隠そうとしない美しい裸体は目を離させず、俺は又しても魅了されていた。いや、既に俺は此奴に惚れていて、とっくに魅了されている。

 

 

 

「据え膳食わぬは何とやらよ? さあ、来て……」

 

 甘く囁かれる其の言葉に対し、当然の様に俺は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うふふふ。可愛くって愛しい人。また強くなってるわね。きっとこれからも強くなる。それこそ私を守れる程に。其れまでは守ってあげるわ」




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石手に入るたびに回すが来る気配なし ピックアップ礼装すらマトモに出ないコアトルガチャ 縁が無いな、これは

連打系には普通は微妙なダメージカット礼装有効だよね 何故かコアトルでジナコ来たよ、アンメアと玉キャットも 計40回回してジャガーマンが一枚

七章と最終章 最近来たばかりのジャックと邪ンヌ大活躍 孔明は殿堂入り


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兵藤家のバグキャラ長男  ⑤

福袋でコアトル狙って好きな声優の太陽王ゲット

心臓足らず、代わりに男必殺下姉様育成 心臓足りない


仕方ないのでアンメアレベルマフォウマ 嫁セイバー育成中 ランタン取りに冥界行ってきます。 種火は集まるが素材がQPがぁ


「起きて、起きなさい」

 

 微睡みの中、体を揺り動かされて目を覚ます。見慣れぬ寝台の中で驚いたが、よーく考えりゃハニーの神殿の中だったな。もう朝かと窓の外を見て見りゃまだ暗ぇし、どうしたってんだ?

 

「まだ早くねぇーか? 其れとも・・・・・・・続きか?」

 

 昨晩は・・・・・・・まぁ凄かったな。今でも事の最中のハニーの姿が頭に浮かぶし、続きってんなら歓迎だがよ。

 

「うーん、レーカンがそっちが良いなら私も歓迎ですガ、見せたい物が有るのデース」

 

「そっか。なら起きるとするか」

 

 少し照れた笑顔で”どうする?”、と訊いてくるハニーは魅力的だが、誘惑を振り払って起き上がる。・・・・・・・あっ、パンツどこだ? 寝転んだままベッドの下に手を伸ばし手探りで下着や服を探した俺は直ぐに着替えると起き上がった。

 

「良いの?」

 

「ハニーがわざわざ見せてくれるってんだ。見なきゃ駄目だろーがよ」

 

 不意に肩を抱き寄せられキスをされる。普段は年上ぶってる癖にこういう甘えてくる所も良い女なんだよな。

 

「えへへ、お早うのキスデース」

 

「朝から愛しの女神様の祝福たぁ景気が良いな。こりゃ良い日になりそーだ」

 

 まぁハニーが居る時点で最高の日、其れも上限が日々限界突破してるがな、と言ってみたらまた照れ顔で笑うハニー。どーも急いでるみてーだから俺からも一回だけキスするだけで止めといた。

 

 

 

 

 

「もう直ぐ着くわ。本当に凄いんだから」

 

 そろそろ朝焼けが大地を包みだす頃、目的の場所は少し遠いからと飛龍に相乗りして進む。どーも慣れておく必要があるとかで手綱を俺に握らせ、ハニーは背後から手を回して補助してくれてんだが、密着してるから背中にダイレクトに感触が伝わってくる。ああ、俺もイッセーの奴同様に胸が好きだ。だからまぁ、練習は苦にはならねぇ。

 

「んで、どんな所なんだよ?」

 

「焦っちゃ駄目よ。着いてからのお楽しみデース」

 

 耳に息がふっと吹きかけられ背筋がゾクリとする。流石に手綱を放すようなみっともねぇ真似は出来ねぇから必死で掴む。そうこうしてる内に言われていた目印の岩が見えてきた。

 

 

「・・・・・・・すげぇ」

 

 自分でも月並みな感想だと思ったけどよ、其の光景を見てそう言うしか出来なかったんだ。飛龍が降りたったのは猫科の猛獣に似た岩の直ぐ側。丁度顔が向いている方向で其の光景が広がりだした。

 

 切り立った崖の下に澄み切った綺麗な湖があって、岩山の向こうから朝日が射し込むと曇り一つ無い鏡のように反射してキラキラ光ってやがる。まるで太陽がもう一つ有るみたいで、俺は見惚れて立ち尽くしていた。

 

「この辺りは岩山の影響か気流が安定しなくってヘリも近付かないから、この場所を知っている人間は少ないわ。どう? 綺麗でしょう?  私のお気に入りの場所だから、貴方にもみせたかったの」

 

「ああ、綺麗だ。今までこんな綺麗なモン見た事ねぇよ」

 

 湖に現れたもう一つの太陽。其の光は空の太陽の光と一緒に大地を照らし、其の光を受けたハニーはこの世の何よりも美しいと、そう思った。・・・・・・・流石にこっぱずかしいから口には出さねーけどな。

 

 

 

 

「そうそう。こういったシチュエーションで婚約者に言うこと無いかしら?」

 

「お前も綺麗だぜ、ハニー」

 

「もー! こういう時は"お前の方が綺麗だぜ”、位言うものですネ!」

 

「お前の方がずっと綺麗だ。抱きしめて良いか、ハニー?」

 

 恥ずかしいとは思ったが、求められてんなら言わなきゃならねーだろ。だから素直に言うとハニーは恥ずかしそうに頷く。まっ、本当に言うとは思ってなかったんだろーな。それにしても・・・・・・・やっぱ此奴は最高の女だって、そう思うよ。

 

 

 

 

(やっぱり貴方は素敵ね。私、この光景こそが何よりも美しいと思ってたけど、其れよりもずっと・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!」

 

 部長の意思で増築したイッセー君の家、其の地下には本格的なトレーニングルームが有る。前から彼が思いっきり体を鍛えられる場所が欲しいって言ってたから造られた其の場所で、僕とイッセー君は彼のお兄さん相手に模擬戦を行っていた。

 

 何度目の一撃、踏み込みも剣を振るうモーションも全て僕が出しうる最高の一撃。其れをイッセー君を片手で投げ飛ばした時に向けられた背中に放つ。勿論歯引きはしているけど、悪魔の身体能力で放つ特別頑丈に創った魔剣の一撃だ、普通の人間に対処できる筈が無い!

 

 

 ・・・・・・・無いんだけどさっきから避けられたり逸らされたり真正面から受け止められたりしてるんだよね。あっ、僕の方を向かないまま叩き込まれた肘鉄で魔剣が砕かれたや。部長が彼やイッセー君の家系を調べたけど、特別な血も引いてないし、異能とも縁がない。それどころか神器すら持っていない正真正銘の一般人なんだ。

 

 

『武術経験? 有るぞ。ダチが飽きた通信教育の教材を色々借りたり、テレビや雑誌でそーいう特集見て真似たりしたんだよ』

 

 お兄さんの言葉を思い出しながら思う。一般人ってなんだろうって。数秒後、振り向きざまに掴まれて投げられた僕は壁に思いっきり激突した。

 

 

 

 

「行くぜ、兄貴!」

 

「おっ! 力がまた上がったか。さっきの6倍って所だな。なら、十倍気合い入れてねじ伏せる!!」

 

 あんなお兄さんを普通だと言い切るイッセー君も普通じゃない。彼に憧れて鍛えていたそうだけど、其れでも一般人だった彼がいくら強力な神器を持っていて、その上本当にギリギリとは言えライザー・フェニックスに勝っちゃうんだから異常な成長速度だ。

 

 でも、お兄さんと比べたら普通だ。最初、イッセー君一人でも神器を活用すれば食らいつけた、僕とのコンビネーションも次第に磨きが掛かって追い詰めていた時も有ったんだ。

 

 でも、もう勝負にならない。今も最大まで倍加したイッセー君が正面からの力比べで押し負けている。お兄さんの強さだけど、戦っていて分かった。ただ単純に剛く、堅く、疾く、そして巧い、其れだけだ。たった其れだけで種族の差なんて簡単に覆し、途轍もない速度で成長を続けている。

 

 ・・・・・・・普通ってなんだろ? 考える方が馬鹿馬鹿しくなって来たや。コアトルさん(そう呼ぶように言われた)は何か知ってるみたいだけど・・・・・・・。

 

 

 

 

「兄貴、もう一回だ! まだマトモに一撃も入れてねぇ!」

 

 僕はもう体がガタガタなのにイッセー君は元気だなぁ。まだ戦えるって膝が笑っているのに言っているや。

 

 

 

 

「あっ、悪ぃ。アーシアちゃんに菓子作り教える約束してんだわ。・・・・・・・アプフェルシュトゥルーデルは流石に早いからタルト・タタンから始めっかな」

 

 あっ、お兄さんのお菓子は腕に自信があった部長が自信を失うレベルで美味しかった。ついついたべちゃうんだいよね。・・・・・・・翌日、体重計から降りた部長とアーシアさんが青ざめていたらしい。

 

 

 しかし、笑い顔が獅子舞やナマハゲの類みたいだったりキャラの濃い人だと思う。たぶん、彼くらい濃い人とは二度と会わないんじゃ無いかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時、僕はそう思っていた。二人の幼なじみの女教師と会うまでは・・・・・・・類は友を呼ぶって本当なんだね。




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兵藤家のバグキャラ長男 ⑥

見られたら気まずい電子書籍を家族に見つかるという悪夢を見ました


そろそろイベント欲しい 心臓、カーミラ強化クエで手に入ったが未だ三個必要




「つ、疲れた……」

 

 悪魔よしてまだまだ未熟な俺には課題が山積みだ。まずは魔力量。身体能力は悪魔だからか、人間に比べてグングン上がって行くけど、魔力はそうはいかない。そもそも魔力量がカスの俺では成長率も低いんだ。まぁ気長に伸すしかないな。

 

 だけど、早急に習得すべき事がある。飛行だ。本来悪魔は飛べるけど、俺は最近になって漸く浮けるようになってきた程度。泳ぎで言うならば水に入っても何とか溺れないでいられるけど、前には進めないって感じか? 悪魔は飛べて当たり前だし、使える手段が少ないって事はもしもの時の選択肢が狭められるって事。今辛い目に遭うことで皆を守れるようになるのなら苦じゃないぜっ!

 

「あっ、お疲れ様です、イッセーさん!」

 

 く〜! 相変わらずアーシアの笑顔には癒されるぜ。今も俺にタオルを手渡してくれるし、兄貴に習ってお菓子作りの勉強も進んでるんだよな。まぁ兄貴が

 

『誰かに食べて欲しいと思って作るなら、美味しそうに出来たから食べて欲しい、じゃなくて、美味しく出来たから食べて欲しい、にしな。じゃねーと自己満足だ。食べて貰う事を喜ぶんじゃなくって、相手が食べて喜ぶ姿を喜びな』

 

 って言ったからってまだ食べさせて貰ってねぇんだけどな。……ちなみに兄貴は先生だからって味見をしてアドバイスをしているらしい。コアトルさんとの仲を見る限りじゃアーシアとはそういう仲にならないだろうけど、何だかチクショー、とってもチクショー。

 

「今日のデザートはシャルロット・オ・ショコラだってお兄さんが言っていました。楽しみですね!」

 

 兄貴のお菓子に夢中のアーシアは本当に嬉しそうだ。兄貴、コアトルさんが甘いの好きだからって毎晩のようにデザート作ってるからなぁ。俺も甘いの嫌いじゃないし嬉しいけどな。

 

 

 この時、俺は知らなかった。これが地獄の幕開けだという事に……。

 

 

 

 

 

「兄貴、夕食要らねぇの?」

 

 今日の夕食は兄貴特製のタンシチュー。友達の伝手を使って取り寄せた牛たんをコトコトじっくり煮込んで作った絶品で、家族内でも一二を争う人気メニューだ。当然の様に部長やアーシアも美味しそうに食べている。

 

 この日、兄貴は急に誘われた飲み会にコアトルさんと一緒に行ったとかでデザートは古くなる前に食べてくれって事だ。余ったのは二個だから俺も食べたいけど我慢我慢、此処は部長とアーシアに譲らねぇとな。

 

 

 

「ん〜! これも最高ね。彼をうちのシェフとして雇いたいくらいだわ」

 

「でも、最近食べ過ぎて体重計に乗るのが怖いです。今日もお腹一杯食べたのにデザートを二個も食べちゃって……」

 

「……言わないの、アーシア。甘いものは別腹よ」

 

 そう言えば兄貴が帰ってくる前よりも二人の食べる量って増えてるよな。兄貴の料理が美味しいのが駄目なんだけど、そんなに気にする事なのかな?

 

 

 

 

 まぁ俺って昔から兄貴のお菓子を沢山食べているけど太った事ねぇしな。それはそうと別腹って事は、料理を食べ過ぎて太った分と甘いものの分で二倍太るって事……殺気っ!?

 

 俺はレイナーレとの戦いやライザーとのゲームで殺気を受けた時の感覚を知った。この肌がチリチリするような寒気の原因は……部長っ!?

 

 

 

 

「……えっと、今の口に出てました?」

 

「ええ、昔から甘い物食べてるけど太った事がないのくだりから二倍太るの辺りまでね。……後で私もトレーニングをするわ。貴方も()()()()付き合いなさい」

 

「あ、あの、私も明日からイッセーさんの早朝ランニングにお付き合いします」

 

 アーシアは涙目になりながらもお菓子を口に運ぶ。ああ、可愛いなぁ。現実逃避をしながら俺はアーシアの可愛さに夢中になっていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても貴方に恋人が出来るなんてね。一向に私に恋する様子がないから、恋愛に興味がないのだと思っていたわ」

 

「はっ! 鼻垂れの時からテメーの性悪具合をよーく知っているんだ。どう間違ったら恋に落ちるってんだよ、なぁ、江戸門(えどもん)

 

「全くだな。俺達()()は幼児の時からの友人だが、其れ故に貴様の性格は把握している。むしろファンの連中に未だにバレていない事の方が驚きだ」

 

 ダチの一人である江戸門男輝(えどもん だんて)が経営するバーを貸し切っての飲み会、其処には当然のように何時も出席している恵瓜(えうり)も来ていやがった。姉貴と一緒に人気モデルをやってるんだが……性悪だ。ものすげー性悪だ。江戸門と此奴と少し年上のを入れての俺達四人は幼稚園の年少組からの付き合いなんだが、何故友達を続けているのかたまーに首を傾げる。まぁ、ダチで居ることなんざ理屈じゃねぇんだがな。

 

 ちなみに妹が二人のマネージャーをやってるって聞いてる。昔からこき使われてるが仲は良い。

 

「っとハニーは……」

 

 キョロキョロとハニーを探すとデけぇから(俺の方がでかいけど、でかいって言ったら怒るから本人には言わない)直ぐに見つかった。

 

 

「アハハー! 日本のお酒も美味しいデース!」

 

「おっ! いい飲みっぷりじゃねーか! だが俺様の方が上だ!」

 

「その自信を破壊させて貰う。私の方が上だからな」

 

 見ると盛道(もどう)有寺(あるてら)暮尾(くれお)と飲み比べをしていた。あの三人、ザルって言うよりはワクなんだよな。横で酔い潰れてる部雄(べお)嵐優(あらし ゆう)と合わせてこの五人は小学生の時からの付き合い。

 

 あとは中学生の時からのダチで大手企業の御曹司だったけど高校卒業と同時に独立して会社を立ち上げ、たった数年で親の会社に匹敵する企業のトップになった斬亀(ぎるがめ)小路満(おじまん)も別のテーブルで(あの四人には絶対に勝てないが、それを見せ付けられるのも認めるのも悔しいから)飲み比べしてやがる。

 

 

 

 

「……濃いな」

 

 しっかし、まぁ此処まで濃い連中が集まったもんだ。何かとは言わねぇが店内の濃度が急上昇中だな、おい。

 

 

 

 

「その濃い連中を引き合わせた共通の友人の貴様が言うか?」

 

「うっせーよ。大体なんだよ、その話し方。中二病かってんだ。店名も『巌窟王』とか意味わかめだしよ」

 

「……近頃では普通の店では客が入らないんだ」

 

「……悪い」

 

「……謝るな、惨めになる。雑誌に取り上げられてから親は連絡してくれなくなったし、恋人にはふられたがな……」

 

 江戸門が言うには変なキャラ付けしたら客が集まりだしたらしく、今更普通に出来ないんだとさ。……悪い事言ったな。

 

 

 

 

 それから何事もなく日々は過ぎていく。まぁ創作物の世界じゃあるめぇし簡単に大事件が起こって堪るかってんだ。女神と婚約したのは最高だが、弟が堕天使に殺されて悪魔になったとかあったてのによ。……レイナーレとかいうアマはイッセーが一応の決着は付けたから俺は何も言わねぇ。だが、アザゼルとやらは何時かぶん殴らなきゃ気が済まねぇな。

 

 なんせ、野郎のせいでイッセーは……。

 

 

 兎に角、ハニーと公園でデートしたり、講義受けたり、ハニーと新しいカラオケボックスに行って出禁食らったり、幼馴染の所でバイトしたり、ハニーのダチである他の太陽神と会ったり、ピースマン教授が元婚約者に結婚詐欺師処刑砲とかいう技を食らったり、ハニーとヤったり、組手でイッセーと木場をボコったり、スサノオとか言う神と仲良くなったり、レポートがギリギリで焦ったりと充実したごく普通の毎日を送ってたんだが、ある日ハニーにこう言われた。

 

 

「……暫くは無闇に外出しないでね。関係ない人は私が守るけど、そういう世界に生きてる相手の面倒は見ないから」

 

 どーも個人としてのみ付き合うって事に接触するからって詳しくは俺にさえ言ってくれなかったが、どうもキナ臭ぇ事が起きてそうだぜ。

 

 

 

 そんなある日、買い物帰りに妙な二人組を見掛けた。砂漠にでも行くような顔も肌も完全に隠したフード付きのマントみてぇな怪しい奴らで、メモを見ながらキョロキョロ周囲を見渡している。……スゲー目立ってるな。

 

 

「……あれ? もしかしてレーカンお兄ちゃん?」

 

「知り合いか? イリナ」

 

 ……イリナ? 何処かで聞いた名前だし、向こうはこっちを知っているようだと記憶を辿る。すると思い出す前に片方がフードを取って嬉しそうにしながら駆け寄ってきた。

 

 

「私、私! イリナ、イリナ!」

 

「……ああ、思い出した。大きくなったじゃねーか」

 

 そうそう、イッセーと仲良くなって家にも遊びに来ていた紫藤イリナだ。俺もよく遊んでやったら二人して俺の後を付いて来たっけな。あの頃はショートヘアで男みたいだったんだがな。

 

 

 

 

 

 

 

「家で昼寝した時に寝小便した布団後始末してやったりしたっけな」

 

「そ、それを言わないでよ〜!!」

 

 ポカポカと殴ってくるイリナ。……なーんか随分と戦闘慣れした感じがすんな。歩き方とか軸がぶれてねぇ所とかよ。

 

 俺が二人を怪しんでいたその時、風が吹いてマントが翻る。マントの下は水着みてぇな格好だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……まぁ、なんだ。服装はテメェの自由だけどよ……」

 

 弟の幼馴染は服装の趣味ががアレだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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兵藤家のバグキャラ長男 ⑦

皆さん 種火は集まった? 成長は出来た? 修練場半減解放されたし高難易度来たら嬉しいな 心臓がね 足りなくておじまんと下姉が二と三で止まってるんだよ

浪漫砲台アンメア砲と嫁王とキャスギルを成長させ種火は沢山貯蔵 あとは心臓!

キングハサンは趣味じゃないなぁ ジャックいるしクラス特性で常時発動スキル関連で宝具威力は底上げできないだろうし、フレが育てるだろうしww

あっ、マテリアル三冊とも元値で注文できて嬉しい 楽天で見かけて数分で売り切れて落ち込んだが、別のサイトで二月上旬に入るのを入金済み あとは待つだけ

しかしほかサイトだと数倍とか転売屋が・・・


 紫藤イリナことイリナちゃんはイッセーの幼馴染みであり、俺も昔から世話してやっていた。小さい時の二人は俺にベッタリで、他のダチと遊ぶときも着いて来ようとしたのを覚えている。泣かせるのもアレだから着いてこさせてたが、皆には迷惑だったかもな。まぁ、俺のダチには文句を口にする奴はいなかったし、寧ろ積極的に世話焼いてた奴も居たくらいだ。

 

 そうそう。その世話焼いてた奴なんだが、イッセーがあまり話題にしたくない理由として……。

 

 

 

 

「趣味じゃなくって仕事着ねぇ。変わった職場だな」

 

「・・・・・・・あ~、うん。少し普通じゃ無い所なの。守秘義務が有るから詳しくは言えないけど」

 

 どーもイリナちゃんと片方の子、ゼノヴィアちゃんが言うには支給された制服みてーなモンらしいが、路上を水着かレオタードみてーな格好で歩かなきゃならねーなんざ妙な所だぜ。芸能界かなんかで番組の企画か、動きが素人じゃねー所見るとレスラーかなんかだろうな。

 

 まあ本人達も恥ずかしいみてーだし、追求は止めとくか。

 

「まっ、話したくなきゃ話さなくたって結構だ。それより道に迷ってる見てーだが、案内いるか?」

 

「うん! 仕事で街に来たから久々にレーカンお兄ちゃ・・・・・・・レーカンさんやイッセー君に会おうと思ったんだけど、家が見つからなくって」

 

「イリナの曖昧な記憶だとこの豪邸の場所らしいんだけど、流石に違うだろう? まあイリナの記憶力に期待していなかったけどね」

 

「酷い! 私だって必死に思い出したんだもん!」

 

 呆れた顔のゼノヴィアちゃんと泣きそうなイリナちゃん。ったく、泣き虫は何時まで経っても変わらねぇな。昔も直ぐに泣いては俺が慰めてたの憶えてるぜ。

 

 

 

「此処が俺んちで合ってるよ。どーも最近増築したらしくってな。俺も帰ってきたら驚いた」

 

「えぇ!? 増築ってレベルじゃないよね!? 一体何があったの!?」

 

「イッセーの野郎が大金持ちのお嬢様に惚れられたらしくってな、家に住みたいからってこうしたらしい」

 

 あ、うん。二人とも唖然としてやがるな。まー嘘くさい話だ、俺なら信じねぇ。

 

 

 

「イッセー君がモテるなんて嘘よっ!?」

 

 そっちかよ!? いや、彼奴に惚れてたよな?

 

 

 

「とても寝てる時にキスしてたテメーの言葉とは思えねぇな、おい」

 

「なんとっ! イリナ、お前寝込みを襲っていたのかっ!?」

 

「人聞きの悪いこと言わないで! ……否定は出来ないわ」

 

 さて、相変わらず弄ると面白いが、そろそろ泣くかもしれねーから終わりにするか。俺は二人を招き入れ、作り置きのアップルパイと紅茶を振舞う。……余分な量は作ってないけど、まあ俺とイッセーの分を無くしゃ良いな。

 

 

 

「美味しい! レーカンさん、相変わらずお菓子作り上手ね」

 

「……これは凄いな」

 

 家に帰るとハニーとお袋は買い物で留守。ハニーの服が南国風のしかねぇから買いに行くらしい。支払いは後で俺に請求だとよ。まあ惚れた相手に服くらいは買ってやりてぇけど、どうせならデートのついでに服を選びたかったねぇ。

 

「紅茶のお代わりは要るか? 態々イギリスから取り寄せた一級品だぜ」

 

 そんなこんなしている内に時間は過ぎ、そろそろイッセー達が帰ってくる時間帯だが……二人の表情が変わった。さっきまで甘いもんに夢中の年相応の顔だってのに、弓道の大会中の衛宮や食事中の藤村みてーな顔つきだ。

 

「……ゼノヴィア、この気配なんだけど」

 

「ああ……」

 

 二人は言葉を交わし目配せすると俺の方を見る。玄関の方からはイッセー達の声が聞こえてきたし、気配ってのはアイツ等の事だろーな。

 

 そして俺の事を気にしたり、気配云々言いながら何時でも動けるような体勢になるって事は……。

 

 

「兄貴! 大丈夫かっ!? ……誰?」

 

「もしかしてイッセー君? 変わらないわね。私よ、イリナ。……うーん。変わらないって言ったけど、大分変わっちゃったかな? 其処に居るのがご主人様?」

 

「明日の放課後に会いに行く予定だったが……手間が省けたな、リアス・グレモリー」

 

 

 間違いねぇ。この二人悪魔に敵対する組織の戦士だわ。リアスちゃんは警戒したように構えてやがるし、イッセーも籠手を出現させている。一触即発の雰囲気だ。

 

 

 

「教会の戦士が私の下僕の家に何用かしら? 会うのは明日の筈でしょう?」

 

「なぁに、相方が幼馴染に会いたいって言ったから家に寄ったまでさ。……ところで、彼は君側の人間かい?」

 

 返答次第では敵とみなすとばかりに俺の方を見るゼノヴィアちゃん。包みから取り出した剣の切っ先を俺に向けて来た。

 

 

 

 

 

 

「刃物を人に向けるな、ど阿呆」

 

「っ!?」

 

 取り敢えず殴っておくか。顔ぶん殴るなら兎も角、戦士で刃物向けてきたんだし構わねぇよな。拳を固め、ゼノヴィアちゃんの正面に移動すると脳天目掛けて振り下ろす。予想以上に良い音がした。

 

 

 

 

 

「今、ゴンッ! じゃなくってドゴンッ! って聞こえたわね」

 

「悶絶してますね」

 

「おい、お前らも無関係じゃねーぞ? 取り敢えずアーシアちゃん以外正座」

 

 指先を床に向け顎をしゃくる。リアスちゃんやイリナちゃんが何か言おうとしたけれど睨んだら黙った。いやー、人間話し合いが一番だな。

 

 

 

 

 

 

「テメーらがどんな関係かは知らねぇし口出す気はねぇ。だが、此処は無関係な親父とお袋の家でもあるんだ。喧嘩だったら他所でやれ、他所で」

 

「いや、兄貴、これはだな……」

 

「あっ? イッセー、テメー何時から俺に文句言える様になったんだ?」

 

「いや、文句って訳じゃ……」

 

「あぁん?」

 

「すいませんしたぁっ!」

 

 イリナに頼まれてやって来た幼馴染とやらの家、其処への道中で会った時から只者ではないと思っていたが……どうも正解だったようだね。歩き方からして一般人でないし、何よりも話しているだけで強者だって分かった。だから悪魔に関係していると判明した時に剣を向けたんだが……痛かった。ひたすら痛かった。今でも少し涙目だよ。

 

 いや、違う。幼い頃から戦士としての訓練を受けて多くの異端者や悪魔を屠ってきた私が全く反応出来なかったんだ。何時の間に頭に拳骨を落とされたとかじゃなく、拳骨を落とせる距離に移動した瞬間さえ見切れなかった。

 

 イリナは一般人だと言っていたが……。

 

「次はテメーだが……まぁ拳骨落としたし説教は勘弁してやる」

 

「ずりぃ! 俺は落とされたのに」

 

「そりゃテメーが余計な口を何度も挟むからだろ。其れにヤローと女を一緒にすんな、どアホ。ほれ、んな事よりもさっさと立って茶でも飲め。じゃねーと落ち着かねぇだろ」

 

 いや、自分が正座させたんじゃ……等とは怖くて言えなかった。あと、紅茶は美味しかった。

 

 

 うん! 悪い奴ではないな!

 

 

 

 

 

 

「ヤー! お客さんが来てたのね。え? 二人の幼馴染? 私、レーカンのフィアンセのケツァル・コアトル。宜しく頼みマース」

 

 この後、再びピリピリしたムードが帰って来た女に変えられて、私とイリナは今日は一旦帰ることにした。

 

 

 

 

「この服、どうですか?」

 

「ああ、似合うぜ。まさに美の女神だ」

 

「ワオ! お上手ね。これ、お礼デース。ん〜!! ……一回じゃ足りないデース。ムーチョ、ムーチョ、もっとネ! 今度はレーカンからお願いしマース」

 

 って言うか、帰らずにいられるか! 居づらいにも程があるっ! どうしてあの連中は平然としているんだっ!?

 

 

 

「それにしても綺麗な人だったね。”友情フラグ製造機、ただし恋愛フラグ自動へし折りマシーン”て呼ばれてたレーカンさんの婚約者なだけあるわ」

 

「その渾名、長すぎないか? しかし、あの女性も只者ではなかった。本当に人間か? いや、まさかね……」

 

 他所の神話の女神がこんな信仰の廃れた国に来るわけないし、考えすぎだな。それよりも今日の宿を決めなくては。予算は出てるが限りはある。大切に使わなければな……。

 

 

 

 

 

 

「……って思ってんだがな」

 

「うぅ……ゼノヴィアが養豚場の豚を見る目で見てくるよぅ……」

 

 あれから時が過ぎ、支給された大切な予算は短時間で底を尽きた。あ…ありのまま起こった事を話そう。

 

『私は日本語が出来ないからイリナに買い物を任せてたんだが、赤くふくよかな男から絵を買って来て予算全て使い切った』

 

 

な…何を言っているのかわからないと思うが、私も相方が何をやらかしたのか直ぐには分からなかった。

 

 

頭がどうにかなりそうだった…。悪魔の誘惑だとか主の試練だとかそんなチャチな……いや、主の試練はちゃちじゃないな、うん。兎に角、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったんだ。

 

 

 

 

「この世に一枚しかない貴重な絵が今なら七割引だって言われたんだもん。聖人様の絵だって言ってたんだもん」

 

「どちらかと言うと『聖人』というよりは『異星人』の絵だぞ、コレは……」

 

 話を聞く限りでは赤い男は嘘は言っていない。ただの口車で法的には問題なく金を巻き上げ、返金要求に行った時には姿を消していたんだ。

 

 それにしても小さい体に大きな頭に目玉に触角。……あっ、グレイって奴だ。本当に聖人じゃなくて異星人の絵じゃないか。しかも下手だ。多分素人か適当に書いた絵だな。量産してないから確かに世界に一枚だ。

 

「それでどうするんだ? 腹が減ってきたんだが」

 

 人はパンのみに生きるにあらず、とは言ったものの、空腹では戦えない。イリナは寺を襲えばいいとか言っていたが、教義的に問題なくても人道的には拙いだろう。

 

 ああ、此奴も空腹で追い詰められているのか。窮するれば鈍するという言葉が有るらしいが、まさに今の我々だな。

 

 

「……アレだ。期待できないが信仰心に縋ろう。こういった時、日本語ではどう頼むんだ?」

 

「”右や左の旦那様〜。哀れな乞食にお恵みを〜”……は違うわね。”ピアノ売ってちょーだい”……でもないわ」

 

 慣れない日本語を練習し、何とか今日の昼食台だけでも稼ごうとした其の時、救世主が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

「「あれ〜? もしかしてイリナちゃんじゃなーい? おっひさー!」」

 

 

 




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蛇? 洒? 邪? ……貰雅!


ジャンプでクリスマスとか正月記念の四コマなかったね どうしたんだろう?


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兵藤家のバグキャラ長男 ⑧

毎月のようにフェイト関連の漫画が出る 誰か助けて

マテリアル三冊で4800円 サイトによっては二冊で10000円 転売屋めぇ

元値で注文できて良かった 入金したし待つだけだ


 弟に色々うるさく言っている俺だが、まだまだだと思い知らされる事が結構有る。ハニーとの組み手では1%の力を出されただけで一分程度で惨敗だし、悔しいぜ。

 

「私、これでも神の中でも強い方デース。気にしないで、レーカン。貴方は絶対私より強くなれるから」

 

 聞いた話じゃ昔はハーデスとかと互角だったとか。だけどよ・・・・・・・男なら惚れた女くれぇ守りたいじゃねーか。頑張って強くならねーとな。

 

 

 

 

「ンー! やっぱりレーカンの料理は最高ネ。いくらでも食べられるヨ!」

 

「そーかい、そりゃ結構だ。好きなだけ食べな。俺はハニーの食べる姿も好きだからよ」

 

 休日はダチと遊ぶかイッセー達の相手をしてやるか、こうしてハニーとのデートに使うかが殆どだ。この前は映画館でハニーが観たがったラブロマンス観て、その前はハニーのお気に入りの湖で泳いだっけな。

 

 俺しか居ねぇからって素っ裸で泳ぐハニーについつい見惚れちまって、視線に気付いたハニーが手で胸を隠しながらスケベとか言ってきたりと楽しかった。あー、うん。照れてるハニーも最高だな。

 

「・・・・・・・そーいう事、他の女の子にも言ってない?」

 

「ん? 惚れた女はハニーだけなのに何で言う必要が有るんだ?」

 

 知り合いの女は大体ダチだし、ダチにはそういうこと言わねーだろ、普通。

 

「馬鹿・・・・・・・」

 

 ハニーは俺の肩に顔を押し付けて隠しながらペチペチと叩いてくる。なーんか変な事言ったかねぇ。惚れた相手に惚れただの好きだの言うのが恥ずかしい事か? イッセーだってチビの時、彼奴に告白してたしよ。・・・・・・・今はヘタレだがな。

 

「ねぇ、お願いが有るのだけど。・・・・・・・膝の上に座って良い?」

 

 俺が無言で膝を指さすとハニーはぎこちない動きで足の間に座り込む。背が高い野を気にしてるハニーはこういうシチュエーションを小説やらドラマで知って憧れてるんだっけな。まあ俺の方がデケェから何の問題もない。

 

 

「今の私の顔、絶対に見ないでね。真っ赤になって酷くなってると思うから・・・・・・・」

 

 俺はそんな程度で気にしたりしねぇんだが、ハニーが見て欲しくねぇんなら我慢しますかね。直ぐ近くにいるのに顔が見られねぇのは残念だがな。

 

 

 

 

 

 あの後、お返しにってハニーの膝枕で昼寝したり、ボートに乗ったりしたんだが、帰りに急に雨が降り出しやがった。予報では降る確率は低かったのによ。

 

 

「折りたたみ傘持ってきて良かったネ」

 

 相合い傘をしながらゆっくりと歩く。二人の肩が触れあう距離で、俺は傘を片手に家を目指していた。しっかしハニーは準備が良いな。でも、少し小さいか?

 

 ハニーが濡れないように傘を傾ける。俺の肩が少し濡れるが、まぁ構いやしねぇ。・・・・・・・でも、ハニーはお気に召さないようだ。不機嫌そうな顔を向けて来やがった。

 

「もー! レーカンは乙女心が分かっていないデース! こういう時は他にも方法が有りマース! 肩を抱き寄せるとか・・・・・・・こうするとか」

 

 ハニーは俺の腕に抱きつくと肩に頭を乗せるようにして密着してくる。腕に伝わる胸の感触やら鼻孔を擽る良い匂いやらで俺は胸が高鳴るのを感じていた。勿論、俺の分だけじゃなくて・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・そーいやハニーって雨と風の神だったよな。

 

 

 

 

 

 

「あの、イッセー先輩。本当に大丈夫なのでしょうか・・・・・・・」

 

 心配そうに訊いてくる小猫ちゃんに多分大丈夫と少し情けない顔で笑いかける。これから俺達がやろうとしているのは、限りなく黒に近いグレーな行為。言い訳は出来るけど、絶対部長は怒るだろうな・・・・・・・。

 

 

「堕天使の幹部コカビエルが教会からエクスカリバーを強奪してこの街に侵入した。此方の要求は一つ。悪魔は今回の件に関わるな」

 

 久々に会った幼なじみのイリナと、其の相方のゼノヴィアは教会からの使者として俺達時にそう告げた。口元にアップルパイの食べ滓が付いていたが、余りに一方的な言い分に俺達は指摘が出来ず、部長は要求が気に入らないのか不機嫌に言い返す。だけどあっちは悪魔がエクスカリバーを教会から奪う事で特をするからと手を組む可能性を指して話を一方的に切り上げた。

 

 帰る時、アーシアに何か言おうとしたゼノヴィア。多分アーシアが元々聖女って呼ばれて崇められていたからだろうけど、兄貴に拳骨落とされた部分が痛んだのか、兄貴が消えたドアを一瞥して帰って行ったんだ。

 

 本当は部室で話し合う予定だったけど、向こうが俺の家が分からずに迷った事と兄貴手製のアップルパイと紅茶でのんびりしていたから、アップルパイ目当てに早めに帰った部長と遭遇して話し合いが始まったからって木場と小猫ちゃんには夜に部室で話したんだけど・・・・・・・木場の様子が一変した。

 

「僕は復讐の為に生きてきた。エクスカリバーを破壊する事だけが生きる理由なんだ」

 

 部長が止めたにも関わらず二人に戦いを挑みそうだった木場は朱乃さんの雷で気絶させられ、頭を冷やすためにって謹慎を言い渡されている。そして、俺は木場の過去を聞かされた。エクスカリバーの適合者となるべく集められて、失敗だからって処分されたって過去を。

 

 ・・・・・・・聖書の神様ってのは何をしてるんだよ! アーシアだって悪魔を癒やす力が有ったから癒やしたんだし、其の実験だって教会の人間がやったそうじゃねぇか! 偉そうに崇められてる癖に、人を不幸にする口実にしかなってねぇ神様なんている意味有るのかよ!?

 

 

 

 

 

「・・・・・・・おい、木場。聞いてるか? お前の復讐に力を貸させろ」

 

 次の日、俺は木場のマンションまで小猫ちゃんと一緒にやってきた。部長には嘘ついて合い鍵借りて、椅子に座って死んだような顔してる木場に告げたんだ。

 

「君達には関係ないよ。これは僕の問題だ」

 

 木場がそういうのも分かる気がする。特に俺はレイナーレに殺されて転生するまで一般人として平和な国で呑気に生きてきた。だから苦しんできた此奴の気持ちなんて分からない。・・・・・・・いや、そもそも自分の苦しみは自分にしか分からない。だから俺は思う。

 

 どんな辛い目にあったって、怨み続けるより耐え抜いて前に進もうって。だからレイナーレを殺さなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「勘違いすんな。俺は俺の為に力を貸すんだ。エクスカリバーの話を聞かされた時、お前は本当に辛そうだった。・・・・・・・俺はもう悪魔だ。両親や兄貴に守ってもらってりゃ良いだけの学生じゃない。だから、本当はお前を止めなきゃならねぇんだろよ。でもな、木場。俺は仲間にあんな顔させる奴を絶対に許せねぇんだ!」

 

 

 

 

 木場は俺達に力を貸させてくれることを承諾して、俺は他に力を貸してくれそうな奴に連絡を入れて待ち合わせ場所で待っていた。

 

「其れで作戦は有るのかい? 闇雲に探しても部長や教会の妨害にあうだけだよ」

 

 木場も小猫ちゃんも心配そうに俺を見てきている。はっきり言って無茶だと思うけど、目的の物はちゃんと見つけているんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「この先の店に神父服、っぽい服を売ってる店が有るんだ。俺達はこの街に住んでる訳だし、あくまで似ている服を着て街を散歩するだけだ。其れで襲ってきたのを撃退しても約束を破った事にはならねぇよ」

 

 自分でも屁理屈の悪知恵だと思うけど、屁理屈も理屈で悪知恵も知恵の一種だ。最初は悪魔の力じゃなくって伝説の龍の力を貸すって二人に近付く予定だったけど、聖書の陣営って其れまで神聖な扱いが多かった龍を悪役にしたりしたって兄貴から聞いたのを思い出したし、そもそもドライグ自体が結構やらかしたから無理だっただろうなぁ・・・・・・・。

 

 

 

 

「・・・・・・・幾ら何でもザル過ぎやしないかい?」

 

 あっ、やっぱり? 仕方ないのでもう一人が来てから作戦を考えようってなった時、そいつがやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

「待たせたな、兵藤。そうそう、さっき妙な二人組の美少女が神の僕に御慈悲をって物乞いしてたんだけど、ガラの悪いオッサン達連れた双子っぽい美人に連れて行かれてたぜ」

 

 呑気に話すのが協力者候補の匙。俺は間違っていてくれと願いながら尋ねた。

 

「・・・・・・・其の双子、タイガーとかジャガーとか呼ばれてなかったか?」

 

「よく分かったな。栗毛の方にそう呼ばれてたぜ。知り合い?」

 

 

 

 ああ、知り合いだよ、畜生!!




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タブレットでかいていると予想外の所に入力されているときが・・・・・・・何故? 指先が触れていたかな


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兵藤家のバグキャラ長男 ⑨

何時も隠し味を入れているシチューやカレー、昨日入れていないのを食べたら物足りない気分に


皆さんは隠し味入れてます?


 初恋の思い出は甘酸っぱいとか聞いた事あるけど、俺の場合は苦酸っぱいと思う。いや、あの人達の事は嫌いじゃないんだ。少しテンションがおかしいけど悪い人達じゃないし、むしろ善人だ。人間としては好感が持てる。

 

 ただ、俺の封印したい記憶に大きく関係していて……。

 

 

 

「イッセー先輩、二人を連れて行った人達の事を知っているんですか?」

 

「あっ、うん。まぁね……」

 

「じゃあ、その人達に二人の様子を訊いて下さい」

 

 木場の為にズボラな計画で始めた聖剣破壊の為のメンバーは俺と木場と小猫ちゃんと、あとは生徒会の匙。その匙がヤクザみたいな人達に教会からやってきたイリナ達が連れて行かれたって聞かされて、俺達は今後についての話し合いを喫茶店でしていた。

 

 そのヤクザらしい人達って言うか、ヤクザの人達は俺の知り合いだ。兄貴や俺の幼馴染で当時のガキ大将をやっていた双子の姉妹。その姉妹の祖父が組長を務めるのこそこの街一体を取り仕切る『藤村組』。昔の任侠映画――観た事はないけれど――みたいに義理人情を重視し堅気には迷惑を掛けないようにしている所なんだ。

 

 その双子の内、姉の方が俺の苦い思い出の対象なんだけど、今後の二人の動向を知る為にも話を聞かなければならないってのは分かってる。あくまでこれは俺の個人的な感情だからな。

 

「えっと、じゃあ……向こうで電話してくるね」

 

 せめて話している時に余計な事を聞かれないように俺は皆から離れ彼女達に――藤村大河と藤村砂河(さが)――通称タイガーとジャガーの家に電話を掛けた。携帯? 兄貴だったら知ってるだろうけど俺は知らない。

 

 

 

 

 

「もー! あんな所で寄付を募ったら駄目じゃなーい! 街頭での募金活動には許可が要るのよ?」

 

「それにしてもイリナちゃん、綺麗になったわねー。さっ、どうぞどうぞ。お腹減ってるんでしょう?」

 

 イリナによる経費を使っての絵画購入という悪魔祓いに有るまじき行為によって窮地に陥った私達。空腹は限界を迎え冷静さが失われていく。このままでは仲間割れにさえ発展しかねないといった時、目の前の二人から救いの手が差し伸べられた。

 

「あー! ウニは私が狙ってたのにー! ゼノヴィアはさっき食べたじゃない!」

 

「ふっ! 食事とは闘争なのさ。其れに予め取り決めをしていなかっただろう?」

 

 私達の目の前には寿司、それも特上というらしい豪華な物だ。お吸い物とかいうスープも旨いし、食が進む。私達は我先にと寿司に手を伸ばしていった。

 

 

「それにしても変わった格好ね。映画の撮影か何か? でも、そんな話は聞いてないわよねー」

 

「うぐっ!?」 

 

 あの男からも言われたが、私達の格好――教会からの支給品――はこの国では……いや、認めよう。大体の場所で明らかに奇異に映る。いや、そもそも体のラインが分かる上に手足が露出しているから防具としてはイマイチなんだ。一応マントがあるけれど剣を使う時は邪魔になるし……いや、どうしてこんな服装なんだ? 水着とか規制をかけるのに……。

 

「ま、まぁ今は守秘義務があるっていうか事前の情報公開は駄目って言うか……頂きっ!」

 

 まぁ、そんな訳で言葉に詰まると同時に寿司を喉に詰まらせてしまった私は慌てて胸元を叩いてお茶を流し込む。熱いっ! それとイリナ、その隙に玉子を独り占めするな! っていうか甘い玉子はデザートだろ!

 

 

 

 

「大河お嬢、兵藤の所の小僧から電話ですぜ」

 

「はーい! じゃあ、ちょっと外すわね」

 

 せめて最後の大トロだけでも頂こうと箸を伸ばすもイリナも同時に狙い、私達は箸でせめぎ合う。そんな事をしている間に人相の悪い黒服に呼ばれた大河さんは消えていった。

 

 

「小僧ってことはイッセーかー。懐かしいなぁ。そうそう、イリナちゃん。あの事覚えてる? ほらほら、貴女達連れてピクニックに行った時の事」

 

「ぶふぅっ!! ププッ、だ、駄目ですよ、砂河さん。あ、あの爆笑エピ…可哀想なエピソードを話したら」

 

「そっかー! そうよねー!」

 

 話したら駄目だと言いつつも笑いを堪えながら私の方を見てくる二人。……あっ、これは私が疎外されてるから仕方なく話すって流れにしたいのだな。すぐに理解した私は……。

 

 

 

 

 

 

「話したら駄目な話なら聞くのは辞めておこう。それよりも手が止まってるぞ、イリナ!」

 

 見事大トロを手にした。……旨いっ!

 

 

 

 

 

 

「良い天気だな、ハニー。お前の次に空が綺麗だ」

 

「もー! そう言う恥ずかしい事をサラっと言わないで欲しいわね。でも有難う、嬉しいわ」

 

 今日は講義も午前で終わり、午後は川辺の原っぱでハニーとデートだ。弁当食た後は膝枕で一休み。女神様の膝枕は格別で何よりだ。あー、眠くなってきやがった。目蓋が重くなり、意識が徐々に途絶えていく。幸せってこういうのを言うんだろうな。

 

「少し眠らせて貰うぜ、ハニー」

 

「じゃあ、私はゆっくり貴方の寝顔を見させて貰うわ。夜中はゆっくり見る暇なんてないもの」

 

「ん? なら今夜はゆっくり寝るか? ()()()()()()()は休みにしてよ」

 

 ニヤニヤ笑いながら言うと無言で頬を抓られる。あーはいはい。意地悪が過ぎたな。痛ぇ痛ぇ。女神様を怒らせるとロクな事にならねぇのは昔から変わりませんなっと。

 

 

 

 

 

 いや、マジで痛ぇっ! 頬を抓る力は物凄い勢いで強くなって行き、ハニーの目は笑っていねぇ。……やべぇ、マジで怒らせたっ!?

 

 

 

 

「ちょっと待て、ハニー! 悪かったっ! 反省してるってっ!!」

 

「……そう、反省してるのね。今後は年上のお姉さんを誂うのは控えなさい。……丸呑みにしちゃうから」

 

 怖っ! 顔芸怖っ!

 

 

 

 

 

「あっ、その顔も素敵だぜ、ハニー」

 

「あーん! そういう所も素敵よ、レーカン」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そーいやイッセー、最近街中でウロチョロしてるみてぇだけど何してるんだ? タイガーから連絡あったぞ」

 

「ちょっ!? 兄貴!? しー! 今はしー!」

 

 ハニーの顔芸見てから数日後、どーも街中でウロチョロしたりタイガーの所に電話したりとか怪しいから飯食いながら聞いてみたんだが……不味かったか?

 

 

「あら、イッセー。最近怪しいと思ったけどやっぱり何かしてるのね」

 

 後で話せ、リアスちゃんの目がそう語ってやがる。あー、ヤバいヤバい。

 

「駄目よ、リアスちゃん。束縛ばかりしてたら男の人は逃げていくんだから」

 

「あら、そうなの?」

 

「……って、雑誌で読んだわ。レーカンともっと仲良くなる為に色々勉強してるの。所でタイガーって?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセーが餓鬼の時に初めて告白した奴。ちなみに初恋は別の奴な」

 

 




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迷宮都市の三姉弟  (ダンまち)

 迷宮都市オラリオ、間違いなく世界の中心地たるこの場所には世界から多くの者が集まる故にそれ程審査は厳しくないが、この日の検問所の控室には三人の姿があった。

 

「……おい」

 

 その中の一人、ソファーで腕を組んで寝ている少年。金髪で髪を短く束ね、寝ているので表情は分からないがどこかクールな印象を受ける。半小人(ハーフパルゥム)らしく同年代のヒューマンに比べればやや小柄な体格で、腰には短杖を下げている。その彼に先程から呼びかけているのはアマゾネスの少女だった。

 

「審査が終わったぞ、起きろ。……おい」

 

 散切りにした髪の色は黒く針金の如し。三白眼で鋭い、鋭い八重歯が見えており、同種族と比べ肌の露出は少ない。動きやすい半袖の上下を着ており、褐色の肌には引き締まった筋肉がついていた。三度目の呼びかけにも目を覚ます様子を見せない少年に対し彼女の額には青筋が浮かび、次の瞬間、彼女の右手が彼の顔面を掴んで頭より高く持ち上げただ。

 

「起きろつってんだろうがぁああああああっ!!」

 

 猛獣の雄叫びの様な怒号が響き渡って部屋を揺らす。少年の顔面を掴んだ少女はドスの利いた声を出しながら指に力を込める。ミシミシと人体から響くべきでない音が聞こえてきた。

 

「なあ、私も寝るなたぁ言わねぇよ。だがな、私が起きろつったら起きろ」

 

「……五月蠅い」

 

 漸く目を覚ました少年は眠そうな眼と声で告げると再び目を閉じる。少女の額に更に青筋が浮かび、拳が構えられるが横合いから鞘に収められた刀が差し込まれた。

 

「……姉ちゃん、ストップだ。問題起こしたら通るのが遅くなる」

 

 刀を持った金髪の少年。大人しそうな表情を浮かべた彼は破壊されたソファーを見ながら苦笑する。背後では検問に携わるガネーシャ・ファミリアの団員が慌てた様子で此方を見ていた。

 

 

 

 

 

「軽いお説教だけで済んで良かったよ、全く。姉ちゃんもリゼロも自重してくれよ? 只でさえファミリア無所属のLv.3って事で目立ってるんだからさ」

 

「うっせぇぞ、リゼル。中々起きねぇこの馬鹿が悪い」

 

 何とか都市に入るのが許されたのはあれから少し後、不機嫌そうな少女は欠伸をかみ殺しながら歩く少年、リゼロの頭を軽く小突く。検問所での騒ぎが伝わっているのか、はたまた彼らが検問所で止められた理由である、外で到達できる限界値とされる領域まで達しているのが伝わったのか、先程から感じる視線も不機嫌そうな理由の一つだろう。

 

「取り敢えず宿を探して飯に行くぞ。ファミリア探しはそれから……」

 

 適当な宿に決めようとした時、彼女の横を真っ赤な少年が走り去っていく。彼が通り過ぎた後の街路には赤い液体が残り、生臭い香りが血、それも人間以外の物だと告げていた。

 

「……ミノタウロス。あの速度だと倒したのは彼奴じゃない」

 

 その血液を指先で拭って鼻先に近付けたリゼロ。ギルドの建物に興奮した様子出で掛けていく彼を見ながら呟いた。

 

「他の誰かに助けられたってか? どーでも良い話だな、おい」

 

 微塵も興味がない、声色と表情で告げる彼女は二人を先導するように目に付いた宿へと向かっていく。宿をとった後、三人が向かったのは冒険者を管理するギルド。雑踏の中、多くの冒険者が向かう建物へと入る寸前、彼女は舌打ちと共に不意に立ち止まった。

 

「どうしたんだ、姉ちゃん?」

 

「……どうもさっきから鬱陶しくってな」

 

 振り向き、睨んだ先に在るのは天高く聳えるバベル。その最上階に視線を向け、中指を立てた後で親指を立てて下に向ける。リゼルが何事かという顔を、リゼロがどうでも良いという顔を向け、彼女は少し満足したという顔でギルド内へと入っていった。

 

 

 

「エイナさん、大好きー!」

 

 先ほどミノタウロスの血を周囲に撒き散らしながら走っていた少年がアドバイザーに大声で告白まがいのことをしている横を通り過ぎ、リゼル達は内部を見回す。中に居るのはギルド職員と冒険者、そして数名の神だ。

 

「それでファミリアについて聞くんだよな? 叔父さんの話じゃ中立だって話だし、何処が良いとか教えてくれるかな?」

 

「馬ー鹿! こっちが条件を提示して合致する所を教えて貰うに決まってんだろ。取り合えずガタガタ抜かす野郎共がいる所は無しだ。弱小どころか誰一人居ない所が都合が良いんだが、そんな所は……在ったな」

 

 

 

「誰かオレのファミリアに入ってくれませんかぁああああああああっ!?」

 

 ギルドの隅、邪魔にならないようにと言われたのか縮こまる様にして必死に勧誘を続ける神が居た。もう神としての威厳や誇りなど感じられず、追い詰められた必死さすら感じさせる。当然、此処に来ているのは他のファミリアに所属している神や、入るなら少なくても設立すらしていない弱小ファミリア以外と思っている者ばかり。少なくてもこんな所で必死になっている神の眷属になりたいとは思わない。それこそ、余程の物好きでもない限りは

 

 

 

 

 

「よう、神様。全部で三人だ。今すぐホームに案内しな」

 

 そしてこの三人はその物好きの部類に入る。端から見れば気の弱い神様がアマゾネスに絡まれて居るようにしか見えないだろう。ギラギラ光る瞳に極悪な笑みと唇から覗かせる鋭い八重歯。何事かとギルドがざわつき、話し掛けられた神は顔を青くして涙目になっている。

 

「こらこら、姉ちゃん。そんな怖い顔したら駄目だってさ。すいません、神様。他に団員居ないみたいだし、俺達三人が入りますよ」

 

 慌ててフォローに入るリゼル。何はともあれ、これが彼らのファミリアが誕生した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

「……すぅ」

 

 尚、リゼロはこの短時間で壁を背に見事に熟睡しており、アイアンクローで無理に起こされる事になる。

 

 

 

 

「えっと、じゃあ自己紹介しようか。オレはチェルノボーク。一応死神だ。君達は?」

 

 今からリンチにでもされるのかと怯えていた彼だが、念願の眷属志望者と知ってホッと一安心。三人が宿をキャンセルした後でホームとはとても言えない風呂すらない借家まで案内した彼は神であるにも関わらずに真っ先に名乗った。

 

 

「リジィ・ディムナ、見ての通りアマゾネス。ついでに言うと長女だ」

 

「……リゼロ・ディムナ。半小人(ハーフパルゥム)で長男……すぅ」

 

「リゼル・ディムナ。小人(パルゥム)で次男です。宜しくお願いします」

 

 あっ、次男はマトモだ。チェルノボークが抱いた印象はこうだった。第一印象が最悪の長女や今も眠りだしている長男と違い普通に挨拶をしてきたリゼルに彼は好印象を持っても仕方がないだろう。怖くて口には出せないが……。

 

 

 

 

 

 

「所で姉弟で種族が違うのはどうして……」

 

「あぁんっ? 人の家の家庭環境を探ろうとすんじゃねぇよ」

 

「すいませんしたぁっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんながあった次の日、既にランクアップを果たしているとはいえダンジョンに潜るのは初めての三姉弟。専属アドバイザーになったミィシャ・フロットに基本的なアドバイスを受けた後では時間が足りず、生活用品の買い出しで日が暮れてしまう。

 

「お祝いに今日は奢るって言ってたけど……」

 

 チェルノボークの提案で豊穣の女主人という酒場までやって来たものの、養ってくれる眷属が不在だった為か最低限度の生活をしていた様子の主神の懐を心配するリゼル。そう、心配してるのは彼だけであり、二人はそんな素振りすら見せなかった。

 

「これから私達が稼げば良いだけだろ。心配してばかりだと、禿げるぞ? ……っと」

 

「……あれは」

 

 先に来て注文を済ませておくと言ったチェルノボークを店の前で探そうとした時、一人の少年が飛び出してくる。リジィと、半分眠りながら歩くリゼロの間を駆け抜けていく彼を視線で追ったリゼロ。だが、直ぐに興味を失って店に入ると狼人の青年が縛り上げられていた。

 

 

 

「やあ。こっちこっち!」

 

 彼を縛り上げている集団から距離を取った席に座っているチェルノボークが手を振って三人を呼ぶと数人の視線が集まり、その中の一人、小人(パルゥム)の少年らしき見た目の人物が少し驚いた様子で近寄ってきた。

 

 

 

「もしかしてリジィちゃんかい? 暫く見ない間に大きくなったね。美人になったよ。それに二人も……」

 

「なんや、フィン。もしかしてお前のコレかいな?」

 

 親しげに話し掛ける彼を見て小指を立てる男神の様な女神。その言葉を聞き逃せなかった人物が一人。フィンと呼ばれた彼の隣に座っていたアマゾネスの少女だ。酒が入っているのもあってひどく興奮した様子で彼の胸ぐらを掴んで揺さぶった。

 

 

「団長っ! アマゾネスだからって私のアプローチをスルーしてた癖にぃいいいいいいいっ!」

 

「ご、誤解だ、ティオネ! 姪っ子っ! 故郷の兄弟の娘だからっ!」

 

 ギリギリと首が締まっていく中、絞り出すように叫んだ言葉のおかげかフィンは解放された。余計な事を言った女神にジト目を送り、再びリジィ達に親戚としての笑顔を向ける。

 

 

「少し噂になっていたからもしかしてとは思ったけど、やっぱり君達だったか。兄さんは相変わらずかい? ……っと、連れが居るんだったね」

 

「まあな。んじゃ、叔父さん。つもる話は日を改めて話すとして……彼奴は何で縛られてんだ?」

 

「ああ、実は僕達のミスで逃がしたミノタウロスに襲われた冒険者を彼が馬鹿にして、それを使って仲間を困らせたからなんだ」

 

 何時の間にか完全に縛られて吊されている先程の彼を指差せばフィンは溜め息と共に答える。あえて口にはしないが襲われた彼が助けた少女を見るなり逃げ出した事を聞かされた団員の多くが笑い、副団長に一喝された所だ。おいっこ姪っ子への見栄なのかわざわざ話すことはしなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ、昨日ミノタウロスの血を頭から浴びていた奴か。泣きながら店から出て行ったから何があったのかと思えば」

 

 店の入り口を向きながら呟くリゼロ。場の空気が一瞬で冷え切った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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迷宮都市の三姉弟  (ダンまち) ②

本日二回目の更新 朝に別のを更新してます


『ゴォアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 何でこんな事にと、サポーターとしてダンジョンに潜っていたリリルカことリリは物陰で固まっていた。三人組の明らかにダンジョン初心者といった絶好の鴨に同行したのが運の尽き。何とLv.3だった上に行け行けドンドンと奥へ奥へとモンスターを蹴散らしながら猛進し、只今第十七階層嘆きの巨壁前。階層主のゴライアスが陣取っていた。

 

「おっし! んじゃ行くとするかっ!」

 

 リーダーにして三姉弟の一番上であるリジィは好戦的な笑みを浮かべ手甲を装備した拳をぶつけ合う。ナックルガードの突起部が金属音を奏でる中、ダンジョン内にも関わらず緊張感が見られなかった長男リゼロが杖を構えれば足元に魔法円が現れた。

 

「炎よ、傷を癒し活力の光と化せ『ホワイトホワイトフレア』」

 

 超単文詠唱から発動したのは白く輝く炎の魔法。それがリジィとリゼルの身体を包み込むと同時にゴライアスが本能から来る人への絶対的な敵意によって片足を振り上げ、踏み潰さんと迫って来る。魔法を発動するなりリゼロはリリルカ同様に後方に下がり、リゼルは前方に、リジィはゴライアスの頭めがけて一気に跳んだ。

 

「ちょ、ちょっと正面からって……」

 

「んっ、大丈夫……ふぁ」

 

 場所が場所だけに見捨てて退散も出来ず、彼女には二人が巨人を撃破する事を祈るしかない。隣でリゼロが脳天気に欠伸をする中、柄に手を掛けたリゼルがゴライアスの軸足の真横をすれ違うと同時に抜刀、着地と同時に納刀。鍔鳴りに続いてゴライアスの足から血が吹き出した。

 

「テメッ! 両断しとけ、ボケがっ! 出来んだろ、オメーならよっ!」

 

「いやいや、無茶言うなよ、姉ちゃん」

 

 軸足を深く切り裂かれ体勢を崩したゴライアスの肩に飛び乗ったリジィは罵声と同時に拳を振り上げ、巨人の横面に叩き込む。重厚な打撃音が響くと同時に体格体長体重共に圧倒的に上の筈のゴライアスが殴り飛ばされ壁に激突、頭から地面に叩き付けられる。その眉間に向かって落ちていくリジィが詠唱を開始するも、ゴライアスは怒り狂いながら両手で掴み掛かった。

 

「ほいっと。……ごめん。もう斬り慣れた」

 

「……無理。させないから」

 

 ゴライアスの右手の指は手の甲に飛び乗ったリゼルが斬り飛ばし、左手は突如出現した黒い三つの玉に引っ張られ地面に衝突、再び上げようとするも上がらない。

 

「我が目指すは武の極地 偉大なる武人の御技の再現『サンシシムラマツリ』!!」

 

 リジィの両腕に魔力が集まり、ゴライアスの顔に着地した瞬間、巨人の顔に恐怖が浮かぶ。八重歯を見せて笑う彼女はモンスターでさえも化け物だと感じる凶悪さだった。

 

 

 

 

「『五輪』!! 堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 剛打強打重撃、拳が雨霰と叩き込まれ続き一撃ごとに地面がひび割れゴライアスの悲鳴が響きわたる。返り血で全身を赤く染め上げながらリジィの猛攻は止まず、最後の一撃で巨人の頭蓋骨が砕けた。ゴキゴキと首を鳴らし巨人の頭から飛び降りた彼女は十八階層へ続く道を親指で示し歩き出す。

 

「臭ぇから水浴びてくる。悪いけど魔石を取り出しといてくれ。んじゃな」

 

 返事も聞かずに手をヒラヒラ振りながら向かっていく彼女の背を眺めた弟達は慣れているのか肩を竦めるだけであった。

 

 

 

 

 

 

「しかしダンジョンのモンスターは外とは段違いだな。……にしても姉ちゃん、階層主にさえビビられてたよな」

 

「……仕方ない。あの人、モンスター以上に凶暴だから」

 

 ゴライアスの皮膚も肉も強靭でリリルカでは魔石を取り出せないので二人が取り出しているのだが、その様子を眺めながらすこしあせっていた。

 

(……流石にちょっと拙い人達ですね)

 

 先ずランクが違い過ぎるので荷物の持ち逃げは難しい。もう一つ厄介なのは名字が同じだったので冗談で身内かと聞いてみたら本当に勇者(ブレイバー)の親戚だったという事。公私混同するかは別として都市でも有数のファミリアの団長に目を付けられるのは勘弁だ。

 

 

 

「……実はダンジョンの奥から出てきたモンスターとか」

 

「あははははっ! 確かにあり得る」

 

 魔石を取り出し灰になったゴライアスの死骸からドロップアイテムを取り出した二人が鬼の居ぬ間にと散々悪口を言う中、さっさと水を浴びて戻って来ていたリジィとリリルカの目があった。

 

 

 

 

 

「んじゃ、四等分な。ほれ、持ってけ」

 

 ゴライアスの魔石にドロップアイテム、その他のモンスターから手に入れた金額は多額だった。サポーターとしての相場を貰おうと思いつつも何時もの様に渋られると思ったのだが、リジィは一切の躊躇無く四分の一を投げ渡して来た。

 

「お、お待ち下さいっ!?」

 

「少ないってか? おい、リゼロ。お前の分から半分寄越せ」

 

「違います、多すぎるんですよ」

 

「なら問題ねぇだろ。ダンジョンで色々教えて貰ったから授業料だよ、授業料。ほれ、もう行って良いぞ」

 

 面倒臭そうに手でリリルカを追い払うとリジィはヴァリスの詰まった袋を手にして歩き出した。

 

「んじゃま、ホームで待ってる主神様の所に帰りますか。リゼル、今日はお前が飯当番な」

 

「はいはい。マスタードダックを作るよ。デザートは茸ブリュレな」

 

「……茸がどうブリュレなんだよ。デザートは私が作るから……」

 

 姉弟で一番マトモなリゼルだが、何故か料理だけはマトモでなかった……。

 

 

 

 

 

 

「……あっ、どうも」

 

「えっと剣姫さんだよね。こんにちは。他の皆さんもどうも」

 

 ホームに戻り食材を買いに出たリゼル。目的の品を買い求めた後にじゃが丸君の屋台に並んでいる先日会ったばかりのアイズ達と出会う。他にティオネ・ティオナ姉妹、レフィーヤの姿もあり、ショッピングの帰りだというのが見て取れた。

 

「えっと、フィンの甥っ子の……」

 

「俺はリゼルだよ。ああ、そう言えば叔父さんはオラリオではどんな様子? 手紙は偶に送って来てたけど近くに居る人達に様子を聞きたいな。お礼に奢るから……」

 

「小豆クリーム味」

 

「あっ、うん。俺、その味食べた事ないし同じのにしようかなぁ?」

 

 即座に味の指定をするアイズに多少押され気味のリゼル。尚、それなりに好みの味だった様だ。

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ。ティオネさんは叔父さんが好きなんだ」

 

 ある程度フィンの話を聞いたリゼルだが、現在は攻守が交代して質問に答える側になっていた。主に質問しているのはティオネである。

 

「ええ! それで身内しか知らない情報とかないかしら? 好みとか性癖とかっ!」

 

「うーん。父さんなら知っているかも……」

 

「あっ! 気になってたけど、どうしてロキ・ファミリアに入ろうとしなかったの? フィン、手紙で誘った事があるって言ってたよ」

 

「姉ちゃんが、下から這い上がって見下してた奴ら踏んづけて上り続けるのが最高じゃねぇか。お前達は黙って私について来い。最高の景色を見せてやる、って言ってきてね」

 

 叔父からの誘いを断った理由を苦笑しながら述べるリゼルを眺めながらアイズはフィンの言葉を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

『僕が同族の希望の柱の後継者にするなら僕の子供が望ましいけど、第二候補はリゼルかな? 昔、里帰りの時に幼い彼に稽古を付けた時に感じたよ。……あの子の剣の才能は僕が知る誰よりも上だってね』

 

 だから強さを求めるアイズは我慢できずに口を開いた。

 

 

 

「お願いがある。(剣の稽古に)付き合って欲しい」

 

 ただし、言葉が足りなかったようだ。当然、ビックリした様子のティオネ達姉妹とショックを受けた様子のレフィーヤ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いよ。木刀で? それとも真剣での手合わせ? ロキ・ファミリアのホームでやるのかい?」

 

 でも、リゼルには通じた模様である。



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FAIRY TAIL 魔導王の後継者  

思い付き!


 ぼくには おとうさんも おかあさんも いません。ふたりとも ぼくのことをしりません。だから、ずっとひとりでいきてきました。おなかがへったら たべものをぬすんで ねむくなったら きのかげでねます。あのひとにあったのは あるひのことでした。

 

「やあ、こんにちは。僕は君の叔父さんなんだ。僕と一緒に来る気は無いかい?」

 

 そのひとは とっても ()()()()()()()()でした。やさしそうにわらってるけど、うさんくささが ふくをきてる。そんなひとに ぼくはついていくことにしました。

 

 

 

 

 

「きゃー!」

 

 昼過ぎ、縁側で微睡んでいた私は突如聞こえてきた娘の声に目を覚ます。懐かしい夢に昔を思い出しながら声のした方に視線を向ければフリルのついた服を着た孫の姿を娘が嬉しそうに写真に撮っていた。

 

「もー! どうしてこんなに可愛いのかしらー! ほらほら、次はこんな服なんてどうかしら? お母さんの新作よ!」

 

「スカートは嫌だからね……」

 

 またしても女の子が着るような服を手に興奮した様子の娘だが、孫は男の子だ。姿だけは知っている母を更に幼くさせ髪型をポニーテールにをした見た目でよく女の子に間違えられるが、男の子だけあってフリルの付いた服は嫌な様だな。だが、母親の頼みだからと強く断れず、母の背後に立つ私に視線で助けを求めている。

 

「……その辺りにしておけ。サツキはお前の着せかえ人形ではないのだぞ」

 

「えー? だって可愛いんですもの。父さんだってサツキちゃんの写真は沢山残しておきたいでしょ?」

 

 思わず溜め息が出そうになる。我が娘は魔法研究者として親の贔屓目を加えても優秀なのだが、どうも我が子に可愛い服を着せるのが好き過ぎのだ。私とて孫の写真を撮りたい気持ちは分かるが、娘はちょっと行き過ぎの部類だろう。控えろ、と言って聞く質ではないのは我が子故に嫌でも理解していた。

 

「……程々にしておけ。サツキとて他にしたい事も有るだろう?」

 

「うん! お祖父ちゃんと遊びたい」

 

 私の問いに元気よく返事をする孫の姿に思わず笑みがこぼれる。父母の愛は知らない私だが、こうして我が子や孫と共に暮らすのは本当に幸せだ。まだ父母への未練が無いわけではないのだが。正直、一目だけでも顔を見たいとは思っている。

 

「ふむ。ではサツキは貰っていくぞ」

 

「あっ! ちょっと、父さ……」

 

 娘が反応するよりも前に孫を抱き上げて瞬間移動する。後が五月蠅そうだが仕方ないだろう。……まあ、娘の気持ちも分かる。もう直ぐ別の町で暮らすことになるのだからな。私は自分を見上げてニコニコ笑う孫の頭を撫でながら今後について考えを巡らせた……。

 

 

 

 

 

「やあ、よく来てくれたね。サツキも元気そうで何よりだよ」

 

 子供は限度を知らない。体力の限界まで遊んだ孫を昼寝させ、私は師の元へ向かう。私よりも若く見えるが四百年以上を生きる魔導士。名をマーリン。我が叔父にして育て親であり魔法の師。恩義はあるし、感謝はしている。娯楽の為とはいえ、魔力の高さから捨てられた私を育ててくれたのだからな。

 

 ローブ姿に杖という如何にも魔法使いといった感じの彼は相変わらず軽薄で胡散臭い笑みを浮かべており、私は跪きながらも師がしてきた提案に眉間に皺を寄せる。まだ親の庇護下にいる年頃の孫を魔導士ギルドに入れろと、そう言って来たのだから。それも、自分の娯楽の為だ。

 

「……師よ、本当にあのギルドに?」

 

「ああ、僕が君を拾った時点で本来の流れが変わった。ハッピーエンドに辿り着くのはそれしかないんだ」

 

 師は……いや、この男は予知能力……いや、その様な生易しいものではない力を使い、あらゆる可能性の未来を見ている。その魔法の名は『千里眼』。過去現在未来、その全てを己の好みに導くのが何よりの娯楽なのだ。

 

「しかし、あのギルドには……」

 

「大丈夫大丈夫。あの子は強い子だからね。……それと、これを着けるのを忘れないように言っておいてくれ」

 

 私がそれでも苦言を投げかけようとするも相変わらず軽いノリで邪魔をされる。私は彼に感謝をしている。恩義があるのは確かだが……。

 

 彼が差し出したのはリボン。何かしらの力は感じる。それも途轍もない力だ。私がそれを受け取った途端、彼の軽薄な笑みが消えて真剣な眼差しが現れた。

 

 

「これを付け、道具を使う限りあの子の魔力は隠蔽される。彼の……ゼレフから受け継いだ黒い魔力をね」

 

 母から白い魔力を、父から黒い魔力を受け継いだ私の魔力はどちらでもなく、娘は妻の普通の魔力と白い魔力を受け継いだが、孫が受け継いだのは黒い魔力。完全に曽祖父の影響であり、間違いなく厄災を引き寄せるだろう。だからこの贈り物は本当に有難い。

 

 私は何時までも守ってやれる訳ではない。願わくば我が孫が己の身を守れる程に強くなるまで傍に居られる事を願うまでだ。

 

「感謝いたします、師よ」

 

「構わないさ。あの子は私の子孫でもある事だしね」

 

 私は敬服の念を込めて再び膝をついた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所であの子は男の子ですが、何故リボンなのでしょうか?」

 

「いや、そっちの方が反応が面白いからに決まってるじゃないか」

 

 ……私も耄碌したものだ。目の前の男はこんな性格だったのを忘れていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まったく、毎度毎度飽きもせずに……)

 

 儂の名はマカロフ。魔導士ギルド『フェアリーテイル』の三代目マスターじゃ。今日もギルドであるボロ酒場でガキ共が騒ぎ、何時もの様に乱闘に発展しておる。そろそろ一喝して止めようと杯をテーブルに置いた時、扉が開き入ってくる者がいた。七歳程と酒場に似つかわしくない年頃じゃが、メンバーの何人かは同じ年頃で入ったのでそれ程場違いでもないのだが、儂はその姿を見た途端に固まってしまった。

 

「初…代……?」

 

 そう。入ってきたのは髪型や男物の服を着ているなど違いはあれどギルドの設立メンバーの一人にして初代マスターであるメイビスに瓜二つであった。

 

「あの、すいません。僕、このギルドに入りたいんだけど……駄目ですか?」

 

 カウンターに居た看板娘のミラの所まで来た少年は用件を告げ、酒場にいたメンバーの視線が集まるも動じた様子はない。左手に装着した無骨な籠手の手の甲の部分には特別製と思われる魔水晶(ラクリマ)が嵌め込まれ、髪に結んであるリボンも恐らくはマジックアイテムじゃが、何よりも本人からこの場の誰よりも巨大な魔力が感じ取れた。

 

「あの子は一体……」

 

 儂が呟いた時、再び扉が開いて新たに入ってくる者が居た。

 

 

「先に行かないで、と言った筈です。人の話は聞きなさい」

 

 見た目は十四歳ほどの少女だが竜の尻尾に翼を持ち、頭から角を生やしたゴーレムらしき存在。じゃが、明確な意志を感じられる言葉を吐きながら少年へと近寄って行き、儂の方に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、マスターマカロフ。私はメイガス・エリザベート・チャンネル。メカエリチャンとお呼び下さい。このギルドに入りに来ました」

 

「僕はサツキ・ドラグニルです。よろしくお願いします」

 

 ドラグニル、ギルドの一員であるナツと同じ名字じゃが、メカエリチャンの存在感にその様な事は皆の頭から吹き飛んでいた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら? それならメガエリチャンじゃないの?」

 

「いえ、誰が何と言おうとメカエリチャンです」

 

 ただ一人、ミラことミラジェーンだけは別じゃったが。




母親はどこの魔女がモデルだろうか……

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オラリオに魔界から罪人が来るのは間違っているッスか?

 夜の闇よりも暗く、海の底よりも深い場所。欲望渦巻く悪魔共の住まう世界『魔界』。幾多も存在するその中の一つの王が住む魔王城に俺は住んでいる……ッス。

 

「ゼットー! ゼェッート!! 早く来ぬかー!!」

 

 昼食後、特別に与えられている個室で魔法薬の実験に勤しんでいた時に自分を呼ぶ声が聞こえて手を止める。いや、今は手じゃなくて羽だけど気にしない気にしない。え? どんな姿をしているかって? ウエストポーチを付けた黄色のペンギン、但し足は棒。それが俺、ゼットの種族であるプリニーの姿ッス。

 

 さて、早く行かないと怒られるッスね……。

 

 

 

「遅い! 俺様が呼んだら五秒で来ぬかっ!!」

 

「いや、七秒で来たんだから勘弁して欲しいッスよ、殿下ー」

 

「陛下と呼べ、陛下と! ったく、エトナといい貴様といい、何時までも殿下殿下と……」

 

 この怒ってる半裸の少年こそ魔王ラハール様ッス。まだ千三百そこそこの子供だけど先代のクリチェフスコイ様が饅頭を喉に詰まらせて死んだ……事になってるので僅か千三百そこそこで王に就任したッスよ。

 

「それで何用ッスか? 俺、今日はオフッスよ、オフ。雑用なら普通のプリニーに任せれば良いじゃ……そう言えば他のプリニー達が居ないッスね」

 

 二十時間労働で休日無しが城での待遇ッス。俺は先々代の頃から仕えていて既に貯めるべき金額は数千年前に貯まっている事もあって待遇は違うッスけど、流石にアレは無いッス。プリニー界にでも逃げたのかと思いきや話を聞けばどうも違う様子。側近のエトナ様が全員連れて他の世界に行ったそうで……。

 

 

「たかがプリンを食べた程度で出て行くなどあの大馬鹿者めっ! 帰ってきたらただじゃおかんっ!」

 

 ……帰って来るッスかね~? 二人共千そこそこのお子ちゃまッスし、意地になって相手が謝るまで喧嘩が終わらない気がするッスよ。

 

「じゃあプリニーの教育施設に連絡入れて追加を派遣して貰うッスよ。……やれやれ、言っておくけど俺は雑用はしないッスからね? 魔法研究室室長って地位は先代から貰った物ッスし……」

 

「違う違う。貴様に任せるのは別の仕事だ。どうも親……中ボスの城の辺りで時空の歪みが起きてるそうでな。分かるのは時空ゲートの管理者と管理者代行のお前位だろ。早く行ってこい」

 

「……休日ッスし、適当に調べて手当ては貰うッスからね?」

 

 どうせ拒否しても五月蠅いだけなので何か言われる前にさっさと出掛けると知っている俺は、途中でローゼンクイーン商会魔界支店で適当に食べ物を購入した俺は装備は一応揃えて中ボスの城ことバイアス城に向かったッス。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そして現在に至るッス」

 

 発見した時空の歪みが急激に膨張して、そこに吸い込まれた俺は見知らぬ洞窟っぽい所に居たッス。どうも知らない世界っぽいし、座標を確認しないと帰還は難しいッス。出来れば愛読している週刊誌の発売日までに帰りたいんッスけど……うん? 向こうから武装した集団が来たッスから取り敢えず出口の方向を聞いてみるッスね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとお訊ねするけど入り口はどっちッスか?」

 

「なんだ此奴、新種か?」

 

「ってか喋ってる!?」

 

「なんか縫いぐるみみたいな見た目だね」

 

 どうも俺に対して友好的な感情を抱いていない人ばっかりで喋ってる事に驚きながらも武器から手を離さない。中でも金髪の女の子は風を纏って切りかかって来たッス。いや、当然切れる筈もなく簡単に皮膚に弾かれたッスけどね。

 

「……嘘!?」

 

 どうも信じられないって顔ッスけど、精々レベル五十程度の雑魚がレベル千八百の俺にダメージを与えられる筈が無いッス。さて、此処で皆殺しにするのは簡単だけど世界について調べないといけないから選択は慎重にするべきッス。よく見れば何人か怪我してるみたいだし、さっきの女の子も体を痛めてるみたいだから……。

 

 

「ヒール……ッス」

 

 体を包む淡い緑の光を警戒する集団。でも一瞬で怪我が治った事でざわめきだした。

 

「モンスターが魔法を使った!? それに詠唱も無しにこの広範囲の回復魔法は……」

 

「これでこっちに敵意がないって分かったッスね? 事を荒立てる気は無いッスから話を聞いて欲しいッス」

 

 さて、両の翼を上げて無抵抗を示しながら一番立場が上っぽい少年……いや、多分そんな種族……だろうに話し合いを求める。武力行使に出るかどうかはあっち次第ッス。まあ、よっぽどの何かが無い限りは世界ごと吹き飛ばすって手も有るッスけどね……。

 

 

 

 

「神であるウチには分かる。確かに此奴の中身は人間の魂やし、さっきから言っとる事に嘘は無い。……アカン、頭痛くなって来た」

 

「そんなんじゃ魔王神とか宇宙最強魔王とか超魔王とか来たら身が持たないッスよ? 幼い娘に魔王の座を奪われたから支配する世界を探してる魔王も居るッスし、新天地を求めて一度魔界を征服しに来た人間の世界も有るッスよ」

 

 あの後、さっきの回復魔法のようにノータイムで数ランク上の攻撃魔法も使えるって正直に教えたら苦虫を噛み潰した様な顔で外に連れ出して話し合いの席を用意してくれたッス。やっぱり誠意を持って正直に交渉するのが一番ッスよね。殿下とか直ぐに戦いに持ち込むんだから困り物ッス。

 

 取り敢えず新種のモンスターを手懐けたって事にして都市……オラリオの住民には説明して拠点まで来たら神が居たッス。男っぽいけど多分女で封印してるけどレベルは千位ッスね。レベルは俺が上だけど基本値が違うから複数で来たら拙い。だから正直に全部話した上で忠告までして好感度を稼ごうとしたんッスけど……。

 

「なんか不吉なキーワード来たっ!?」

 

 思った以上のリアクション。これは楽しい世界に来たみたいッスね~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いけど君を信用した訳じゃない。見張りを付けさせて貰うよ?」

 

「別に良いッスよ。強者が弱者に警戒されるのは当然ッスから」

 

 あの後、座標が特定できるまで居候させてもらえる事になったけど警戒されている様子。あの風を纏った女の子や胸部以外は似ている双子が側に立って俺を見張っているけど、此処は理解を示しておく。親交の第一歩は相互理解ッス。何故か不機嫌な顔を向けられたけどどうしてッスかね?

 

 こうして与えられた部屋で過ごしていた時、風を纏った女の子……アイズちゃんが口を開いたッス。

 

「……一から其処まで強くなったって聞いた。どうやって強くなったの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「経験値増加屋を入れた装備を身に付けてひたすらアイテム界に潜る事ッスかね?」

 

 え? アイテム界を知らない? 武器や薬の中のダンジョンで、潜れば潜るほどに敵とアイテムが強くなる上に階層の敵を全滅させればボーナスで金やアイテム、経験値が貰えるッス。……え? 潜ってみたい? 仕方ないッスね~。




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オラリオに魔界から罪人が来るのは間違っているッスか? ② 

 どうも、プリニー(ランクはプリニー神)のゼットッス! 今現在、アイズちゃんの希望でアイテム界に潜る準備の真っ最中。案内人の俺を入れて十人までなので取り敢えずお試しで幹部総出で弱いアイテムに潜る事になったッスよ。

 

 え? お前は警戒されていたのに信じられるのが展開的に無理がある? 勿論怪しまれたッスよ? でも、ちゃんと正論で潔白を主張したら文句は出なかったッス。

 

「いや、俺のレベルってこの世界で言うなら百八十ッスよ? 巨人が瀕死の蟻を潰すのに策は弄さないッスし、俺に雑魚中の雑魚を弄ぶ趣味は無いッス」

 

 ちゃんと嘘じゃないってロキが言ってくれたし、何か言いたいことがありそうな顔だけど納得してくれた様子。明日はお祭りなので今日中に帰って来るのが目標ッス。

 

 ってな訳で近くの店で買ってきたじゃが丸くん(小豆クリーム味)界に出発ッス。

 

 

 

 

「……まさか本当にダンジョンが有るなんて驚きだよ」

 

「フィン君は疑い深いッスね。まあ、千年も前のことをウジウジ引きずってる種族らしいっちゃらしいけど……おっと、これがこの階層のボーナスッス」

 

 俺が右の羽を前に翳すと空中に文字が現れる。どうやらフィン君達にも読めているっぽいッスね。因みに俺はプリニーになって十万年近いのでアラフォーだろうが君付けッス。

 

「経験値、ヘル……ってのは悪魔の通貨で一万ヴァリスが1ヘルだったっけ? 五百ヘルだから……五百万ヴァリス!?」

 

 アマゾネスの貧乳の方がリストを見て驚いてるッス。お金もそうだけど、経験値が貰えるのが驚きなんて……。いや、俺もこの世界の経験値のあり方には驚いたッス。慣れた相手や格下だと会得経験値が下がる上に格上を倒さないとレベルアップしないなんて。神ってのは面倒なシステムを作るッスね。

 

「このゲージが例のジオパネルとジオシンボルで貯まるのか……」

 

 リヴェリアちゃんが言っているジオシンボルってのは大地の力が具現化した物で、ジオパネルって力を流す為の場所に置く事で効果を発揮する上に壊せば対応する色に変える効果が有るッス。上手く何度も色を変えたりして一気に消滅させればゲージが増えてボーナスが貰えるのがアイテム界の良いところッス。

 

 

 え? 普通のフィールドにも有るだろうって? オリジナル設定ッスよ、都合上の! 細かい事は気にするなッス! 気にして良いのは店員の横柄な態度とホラーゲームのプレイ動画の大袈裟でわざとらしい悲鳴だけッス。

 

 

「因みにフィールドの九割にに赤のパネルが敷き詰められているけどシンボルは何個も有るッスから消滅が最後に消せばゲージは貯まるッス。でも、都合の良いことに今回は消滅のジオシンボルが一番端で青いジオシンボルがすぐ横に有るッスから……」

 

「……アレをぶっ壊せば良いんだな」

 

 俺の説明途中で動いたのは実力主義のベート君。だから俺の言葉に怒りを感じながらも余計な事をしない物分かりの良い子ッス。俺を嫌ってるのは丸分かりッスけど」

 

 

 

 

「あっ、色変化する時にパネルの上に乗ってたら生命力の二割を削られるッスよ」

 

 言い忘れていた事を思い出しつつパネルの上から飛び退く。その瞬間にシンボルが破壊されて連鎖が発生したけど、俺がちゃんと教えたから誰もダメージは食らわなかったッス。

 

 

 

 

「……おい、他に言い忘れていること無いよな?」

 

「パネルの効果によっては数秒乗ったら死ぬくらいのダメージを受けることも有る位ッスかね?」

 

 無事に第一階層の敵を全滅させて到着した第二階層。此処はパネルもシンボルも無いので次の階層へのゲートに誰かが乗るか全滅させるだけッスけど、動き出す前にベート君が訊ねて来たッス。命の恩人に対する態度じゃ無いッスけど寛大な心で許してやるッスかね?

 

 

 

 

 

「ああ、それと……敵はモンスター型だけじゃ無いッスからね」

 

 足音が聞こえてきたので皆が見上げれば斧を構えた金髪のエルフ耳が襲い掛かって来る。咄嗟に避けたベート君が蹴り飛ばしたッスけど全滅させなきゃボーナスは出ないッスし、倒さなきゃ経験値は貰えないッスよ?

 

 

 

 

 あー、でも見た目が人ってだけで忌避感を覚えるんじゃぶっ殺すのは無理っぽいッスね~。

 

 

 

 

 

 

 

「……君は元々人間なのに人の姿をした相手を殺して平気なの?」

 

「プリニーになるのは大概が人殺しや強盗……後は自殺者とかッスし、悪魔には人型もモンスター型も居るッスからね。ぶっちゃけヒューマンと亜人の違い程度の認識ッス」

 

 結局、人型の命を奪うのは抵抗があるとかでモンスター型だけを倒して進んだからボーナスが貰えた階層は極僅か。それでも自動で換金されたヴァリスが数億ある上に三十階層まで進んだ結果、何人かはランクアップを果たしたっていうのに。

 

 俺はアイズちゃんの問い掛けに適当に答えて食堂で酒でも飲もうと思ったッスけど、面倒な問い掛けが続いたッス。

 

 

「……君の罪は何?」

 

「知ってるッスか? 人は怪物に殺され、怪物は英雄に倒され、英雄は人に排される」

 

「……知らない」

 

 アイズちゃんは首を傾げる。……ああ、この世界は平和じゃ無かったッスね。英雄ってのは平和が来ない内は必要ッスからね。モンスターに邪神の類とその眷属。

 

 ああ、何時まで英雄が英雄と扱われるんッスかね~。モンスターとの戦いに決着が付いたとして、神が一斉に居なくなりでもしない限りは悪神と眷属に対抗するために恩恵は残さなきゃ駄目だし、目下の驚異がなくなれば戦争や賊の被害が起きるだけ例え恩恵が消えたとして、本当に消えたのかって疑念は持たれる。

 

 

 

 

「俺が人間だった頃に居た世界にもモンスターを支配する人類の敵が居て、神のお告げで唯一対抗できる英雄に選ばれた奴が居たッス。同じ年頃の子供と遊ぶ事も親と手を繋いで何気ない話をすることも知らず、戦って戦って戦って戦って……遂に敵を倒したんッス。……その後、人間達は思ったッス。彼奴はもっとも危険な化け物なんじゃないか、って。後はさんざん利用した英雄を殺そうとして、英雄に多くの人間が逆に殺された末に予言をした神が英雄を始末した。……そんなくだらない三流の物語があったッス」

 

「……その英雄って君?」

 

「さあ? 俺が人間だったのは十万年以上の昔ッスから」

 

 面白くもない話をして喉が渇いたので早くお酒を飲もうと思った時、ロキとは別の神の気配が近付いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺がガネーシャだっ!」

 

「……プリニーッス」

 

 

 

 

 

 

次回予告!

 

 

「オラリオで連続下着窃盗事件が発生! 遂にアイズちゃんのパンツまで奪われたッス!」

 

「アイズさんのパンツっ!? 羨ま……絶対に許せませんっ!!」

 

「ある日、容疑者として拘束されたのは同じファミリアのレズエルフレフィーヤ!」

 

「私っ!?」

 

「そんな時、天才的知能を持つ探偵が立ち上がる! 見た目は子供、中身は大人、その名はフィン!」

 

 

 

 

「次回! 擬少年探偵フィン第三話! 拘束、ツンデレ狼人! 次回も見て欲しいッス!」

 

「あの人が犯人だったんですか!? 絶対許すまじ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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今日は鍛冶師も更新 活動報告で募集中


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