転生して大魔導師になった男がTS転生して奴隷メイドになる話 (息抜き用@匿名希望)
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設定資料

備忘録を兼ねた設定資料集です。随時追記。
読まなくても大丈夫です。


人物設定

 

アルシュトリア

性別 女

本作の主人公の今生の名前、通称リア。前世の名前はアルスヴェインで150年以上前に亡びた都市国家フェルミの最初で最後の王様。国王としての執務があまりに忙しく、それにより頭の狂った魔法実験を行うこととなり光となって消滅、TS転生することになる。また、アルスヴェインの更に前の生ではサブカルが大好きでちょっとイっちゃってる残念理系男子学生だった。

 

 

 

アウレール・イルディアナ

性別 男

伯爵家の長男であり、次期当主予定。リアの御主人様。父親譲りの黒髪に母親譲りの瑠璃色の瞳を持つ美形。父親の様な柔らかい雰囲気を纏っている。

 

 

 

ディルク・イルディアナ

性別 男

伯爵家の次男。長男とは1歳差の年子で主人公リアと同い年。母親譲りの茜色の髪に父親譲りの緑眼を持つ。髪は少し硬質でツンツンしており、ヤンチャな気のあるイケメン顔。性格も見た目の通りである。

 

 

 

フィリーネ・イルディアナ

性別 女

伯爵家の長女であり末っ子。長男からは4歳、次男やリアからは3歳離れている。両親それぞれの色彩を淡くしたような色を持っており、髪はピンクゴールドで瞳はシャンパンゴールド。お姉さんの様なリアの事が大のお気に入り。

 

 

 

ハーロルト・イルディアナ

性別 男

伯爵家現当主。リアの直接の雇用主。艶やかな黒髪にエメラルドの様な濃い緑の瞳を持つ優しげな青年であり、美人さん。領地を確りと治め、発展をさせており領民からの信頼も厚い。愛妻家である。

 

 

 

ユリアーネ・イルディアナ

性別 女

伯爵様の妻であり、よき理解者。茜色の豊かなウェーブがかった髪と夜明けの空の様な瑠璃色の瞳を持つ。華美な色彩に負けない華やか美人でその肢体もイメージ通りにグラマラス。今でこそ御淑やかに振る舞っているが昔は色々やらかしていたらしい。子供好きで自分の子供達だけではなくリアのこともとても可愛がっている。

 

 

 

ベネディクタ

性別 女

イルディアナ家のメイド長を務めている初老の女性。かなり厳しいがその分、確りと指導もしてくれる。もともとは若き日のハーロルトの専属メイド兼教育係りであった。そのせいか今でもハーロルトは微妙にベネディクタに対し頭が上がらないところがある。

 

 

 

 

 

 

国・地域設定

 

魔導都市国家フェルミ

150年以上前に亡びた都市国家であり理論派魔法使いが集まり、日々研鑽を積み魔法の発展を支えていた魔法国家でもある。大陸中央に広がる秘境に存在していた。その優れた魔法技術によって産み出された魔法道具を輸出することで発展をしていた。その技術力は驚異的なものであり、亡びてから一世紀以上たった今でも理解できないものがほとんどである。それらを総じてアーティファクトと称し、各国が集め大切に管理している。

 

 

 

アーヴェルス王国

魔王との大戦以前より存在していた歴史ある国家であり、魔王との決戦でも重要な役割を果たした大国である。フェルミとも国交があり、数多くのアーティファクトを抱えている。現在主人公のリアが住んでいる国でもある。



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序章
プロローグ1(説明回)


「うわああぁぁああぁ!!仕事がぁ終わらんっ!!」

 

 このみっともなく喚き散らす男、何を隠そう転生者である。

 

「儂だって、儂だってぇ!魔法の研究が、したいのじゃぁっ!!」

 

 そして世界最高峰の魔法使いであり、この都市国家フェルミの国王でもある。

 

 

 

 

 

 

 何故この様な状況になったのか説明しよう。

 

 そもそもこの男、前世では平和な日本のごく普通の家庭に産まれた一般人であった。

 ただ男の家の近くにはサブカルチャーを取り扱う店が多くあり、物心がついたときにそれらは身体の一部になっていた。

 そのなかで大部分を占めていたのは魔法や竜といった超常のものが存在する世界を旅するファンタジーもの、そして宇宙や平行世界等を旅する未来の世を描いたサイエンスフィクションである。

 そういった文化にどっぷり浸かりつつ自らの知らない世界や技術に空想し男の小学生時代は過ぎていった。

 

 そして出会ってしまったのだ、空想を科学する読本に。

 如何せん時期が悪かった。中学二年生、所謂厨二病が発症する時期である。

 そして男は物語は物語として楽しみつつ、それとは別にその世界の法則を解析して楽しむという面倒臭い存在に成り果てたのだった。

 

 そのまま男は矯正されることもなく中学校、高校を卒業し、そのまま理系大学へと進んだ。

 科学から物理、物理から量子論、そして数学へと男の興味は尽きることなく、卒業論文もそれらを用いたものだった。

 そして卒論を書き上げ、提出した帰りに転生トラックによって地球の輪廻から弾き出されたのだった。

 

 

 

 男が転生したのは勇者や魔王、竜や魔法、冒険者ギルドといったものが存在する、日本人向けにローカライズされたこてこてのRPG型ファンタジー異世界だった。

 

 男はその世界に産まれて直ぐに両親に捨てられ、冒険者ギルドが経営する孤児院で幼少期を過ごすことになった。

 名も貰えなかった男はたまたま孤児院を視察に来ていたその地区のギルド支部長によってアルスヴェインと名付けられた。仰々しいが響きだが、かつて魔王を討伐し世界に平和をもたらした勇者の名にあやかったものらしい。

 

 男は生まれ変わり、両親に捨てられるという境遇にあって冷静だった。

 燃え尽き症候群というものだろう。

 自分の好きなことに全力で取り組み、卒論という形を遺すものを書き上げたので思い残す事は何も無く、現世に留まるはずも無い。

 

 しかし男はアルスヴェインとして生を受け、ある存在と邂逅することになる。そう、魔法だ。

 

 アルスヴェインは狂喜乱舞した。

 前世で夢にまで見た魔法だ。アルスヴェインはギルド所属の孤児としての立場を最大限に利用し魔法に関する情報を現役の冒険者やギルドが所有する書物から集めて回った。

 

 そして落胆した。

 この世界の魔法は全く体系化されておらず、それぞれの魔法が独立独歩の状況で基礎研究すらままならない状態だったのだ。

 

 現役の魔法使いに聞いても

「理論?なんだそりゃ?魔法ってのはこう、燃えろーって思って、ふんっ!てやればできるもんだろ」

 等といったフワッとしたイメージでもって行われていた。

 

 その時アルスヴェインはこう思ったという。

 駄目だこいつら…早くなんとかしないと…。

 アルスヴェインは前世の時から論理的では無いものが大の苦手であった。

 止めておけば良いものを、ファンタジーの代表格であり憧れでもあった魔法と、この世界の定義されていない曖昧な魔法との差に耐えられず全魔法の体系化に着手してしまったのだ。

 

 理想は誰が行っても同じ条件で同じ工程をたどれば同じ結果が発現する魔法で、尚且つ論理的に説明できて他の魔法と理論に矛盾が無い体系化されたものだ。

 

 男の長く険しい道のりの始まりだった。

 

 

 

 先ずアルスヴェインはそれぞれの魔法の発現までの工程を調べあげ数式化した。

 そしてそれらの数式をの間違いを関数でもって洗い出し、矛盾を無くしていった。

 偉い人は言いました、基礎なくして応用発展はあり得ない、と。

 

 アルスヴェインは途方もない工程を病的なまでの熱意でもって推し進めた。そして数十年後、冒険者として第一線に立つ頃にはほぼ全ての魔法を1つの理論、数式でもって矛盾なく説明できるまでになっていた。

 ついでに未発見の素粒子であったマナ(アルスヴェインにとって馴染み深い名前をつけた)を数式上で予測し、実際に発見、観測までしている。

 

 ここまで来るとただのクレイジー魔法バカである。

 

 

 そんなアルスヴェインを周囲は変人として見ていたが特に害は無く、街の冒険者としても役立っていたため特に問題は起こらなかった。

 ただ、アルスヴェインが提唱した理論を理解できる者はおらず、理解しようとする者もまた、いなかった。

 

 

 そんな異端者であったアルスヴェインは基礎を固めた事で発展へと手を伸ばす。

 前世のサブカルで出てきた技の再現である。

 好き勝手に研究したいがために辺境へと移り住んだアルスヴェイン、先ず再現したのはどこぞの弓兵で英雄の王様である金ぴか野郎の技である。

 その為だけに収納魔法を産み出し、空間魔法という新たな魔法体系をぶち建てた。

 射出する武器もただの鋼の剣では味気なく威力も足りないと魔法を用いた物造りであり、新たな技術体系でもある錬金術を産み出し魔法の剣や擬似的な宝具等を造り出した。

 

 この男、やり過ぎである。

 

 

 魔法の武具といった形の残る結果を目にした周囲の人間も流石に男の非凡さに気付いた様で、アルスヴェインの周りには志を同じくする者達が集まり始めた。数少ない理論派魔法使い達だ。

 アルスヴェインは魔法の神秘に取り憑かれ、魔法の深淵を探求する自らと同類を快く受け入れ、教化していった。

 

 いつしかアルスヴェインが住み着いた辺境の地は魔法使いの住まう街となり、魔法を研究する最先端の街へとなっていた。

 そして人が多く集まればどうなるか?答えは争いである。

 神秘の探求者等と言えば聞えは良いがその実ただの自己中の世捨て人である。魔法、特に自らの研究分野にしか興味を示さず他人などどうでもいいと考えている奴等が集まったところでろくなことはない。

 そんな状況を産み出してしまったアルスヴェインはその罪悪感と責任感から街の魔法使いを管理するルールを造り施行した。

 それを契機としてあれよあれよという間に街の代表を押し付けられた。

 

 魔法使いが集い研鑽する街として有名になってしまった事で他国からの干渉を受ける事になる。支配下に収まれだのなんだのと。もし頷いてしまえば好きに研究など出来なくなるに決まっている。

 何年か前に傍迷惑な勇者様が魔王を倒してしまったせいで協力しあっていた国家間の同盟が失効し、世界的に不安定になっているのだ。そんな世情でどこぞの配下になろうものなら軍事研究を強制されるに決まっている。研究自体は吝かではないが強制されるのは言語道断である。

 魔法研究の独立性を保つために外交、交易を一手に担い、綱渡りをしている内に内外から国王と目される様になった。

 そんな状況でも自分以外の魔法使いどもは自らの研究に明け暮れ、協力など何もなかった。

 

 

 そうして産み出されたのが最初の叫びである。

 




書いてて思い出したけどどっかで同じ様な設定のネット小説読んだことあるわ。何年も前に。やっぱデジャブかもしれない。


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プロローグ2(二度目の転生)

 

 

「このままではやりたい事をやりきる前に寿命が尽きてしまいそうじゃ…」

 

 この男、一見50歳か60歳といった年齢に見えるが無茶な魔法実験をしたいがために身体を鍛え、更に魔法でもって五感と肉体を強化保持しており、実は100歳をとうに越えている。

 因みに五感及び肉体強化の魔法も無茶な魔法を試したいがために新たに造り出したらしい。

 

「といっても国の運営を放り出す訳にもいかんしの…」

 

 国民は魔法馬鹿で使い物にならず、雇い入れようにも国外の者に行政を任せるのは怖い。孤児を拾い育ててみても例外なく魔法馬鹿に育ってしまう。

 

「どうしたものか…」

 

 どうでもいい話だが孤児も最初から魔法馬鹿だったわけではない。孤児達を元気付けるためにアルスヴェインが即興で見映えのする魔法を使ったことで孤児達が魔法に興味を持ち、そして求めるものには門戸を開かんと魔法の素晴らしさ、その深淵を教え込んだせいだ。

 アルスヴェインの完全なる自爆である。

 

 執務室で一人悩むアルスヴェイン。

 

「国の運営を行っているのは儂一人のみ、そして儂以外の者は誰もそれに携わろうとはしない…」

 

 どうしたものかと腕を組み頭を悩ませる……しばらくそうしていたかと思うと唐突に立ち上がった。

 

「そうか…儂が二人になればよかったのじゃな!交代制にすれば好きな事をしつつ国を維持できる!我ながらナイスアイデアじゃっ!!」

 

 やはりこの男頭おかしい。

 

 

 

 方向性が定まったアルスヴェインの動きは早かった。執務の間や寝る前等の僅かな時間で既存の魔法を組み合わせ、世界に自らを複数存在させる魔法を造り上げた。

 その期間僅か半年である。

 既存のものの組み合わせという事で少々術式に無駄は在るものの、1からそれ専用の術式を組み上げるのと比べれば圧倒的に早かった。更に枯れた技術の組み合わせであるため技術的に信頼性が高く、問題点の洗い出しも容易であった。

 

 世界に対する改変であるため、その術式は大規模で使用するマナも莫大なものとなっていた。

 もともとこの地は全ての属性の魔力が多く集まる場所であり、それを目当てにこの地に街を作ったため時間をかければ足りない分の魔力の収集は可能だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして更に数年後、とうとう魔法に必要な魔力を集め終え、星の並びも最適の日時を迎える事となった。

 周りには新しい魔法だとして見学に来た魔法馬鹿共が集まっている。

 

 

「終に…終にこの時がやってきた!」

 

 興奮の余り少々テンションがおかしくなっているアルスヴェイン。

 

「儂が新たな存在へと昇華される日が!!」

 

 長い時間をかけ魔力を集め、その間に術式にも改良を加えており当初の物と比べて更に大規模で複雑なものとなっていた。

 

 もともとアルスヴェインの分身は日本の神々の分霊から着想を得たもので、術式もそれを再現するためのものに変化していた。畏れ多くも神の如き存在へと至るための術式に…。

 

 

 

 

「術式始動っ!」

 

 しかしアルスヴェインは極当たり前の事を失念していた。世界を改変し、その事象を世界に焼き付けるために必要となる力の大きさにただの一生命体が耐えられる筈がないことを…。

 

「ぬっ!?これはどういうことだ?……そうか!儂としたことがこんな初歩的な事を忘れていたなんてっ!―――ぐぅ、ぬあぁぁぁああぁっ!!」

 

 

 こうしてアルスヴェインは光の粒子となり国民達の目の前で蒸発した。

 

 

 

 

 因みにこういった事故はこの国において日常茶飯事だったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはいったい……?

 

 思うように動かない手足、そんな自分を抱き抱える女性。

 

 これでも鍛えていたためかなり体格は良い方なのにどういうことだ?

 

 その女性は泣きながら何かを呟くと身に付けていた首飾りを自分に握りこませた。

 

「ご――ん―さ―。わ―――ゆ―して……」

 

 耳の聞こえが悪い。何かを喋っているが酷く不明瞭だ。

 

 そうしていると女性は儂を地面へと下ろした。そして何かを振り切る様に足早に立ち去っていく。

 

 

 ふむ…サイズ感から考えるに儂は赤子の様な状態になってしまっているようだ。

 

 これからどうすべきだろうか?

 

 しばらく周りの状況を確認しようと気を張っていたが、抗い難い眠気に襲われそのまま儂は意識を失ったのだった。

 

 

 




短い。そしてアルスヴェインって名前長いわ。TS転生後はもっと短く呼びやすい名前にしよう。

それと説明回なのでナレーションとか色々入ってましたが次からは普通に主人公の一人称視点で進めようと思うので作風に若干変化があると思います。
また、ストーリーも特に決めていないため日常系のフワッとした短話が続いていくと思います。ご了承を。


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1話 儂、現実を知る

 

 生まれ変わってから何日かが過ぎ、解ったことがいくつかある。

 

 先ずこの世界は前の世界と同じ、もしくは極めて近い世界だということ。

 

 これは漸くまともに音を捉えることができるようになり、周囲の人間が喋る言語が前世の共通語とほぼ同じであることが分かりそう推測した。

 また、宙を漂うマナの性質が前世の物と変わりがないこともそう考えるに至った要因である。

 

 次に自分が住んでいるこの場所は孤児院かそれに近いものであるということ。

 周りからは絶えず子ども達の声が聞こえてきており、前の前の生における幼稚園、若しくは小学校を彷彿とさせる。

 

 2回続けて孤児とは運が悪すぎやしないか?まぁ、活気があるように感じるしそう悪い様にはならんだろう…。

 

 そして最後は、性別が変わっているという事だ。

 おしめを換えられている時や風呂に入れられていると時に確認した。

 最初の生や次の生では男のままだったのでこの生でも無意識に男なのだと思っていたがどうやら間違っていたらしい。

 自らが観測した事実を否定するのは研究者としてどうかと思うが、初めは混乱して年甲斐もなく泣き叫んでしまった…。

 

 ついでに名前はアルシュトリアというらしいが、長いせいか皆、リアと呼んでくる。

 

 

 こんなところだろうか。

 

 

 あぁ、また眠気が―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで何年かが過ぎた――。

 

 

 

 そして新たに分かった事がある。

 

「ここ、孤児院じゃないやん…」

 

 子供達に活気があり、教育も受けていた事から初めはどこぞの大貴族様が慈善事業としてやっている孤児院かと思っていたが、そんな優しいものじゃなかった…。

 

 

「儂、奴隷じゃったのかー…」

 

 

 生まれ変わってから7年、アルシュトリア7歳にして新事実発覚である。

 

 生まれ変わってから今日まで辛いことが無かったと言えば嘘になる、しかし異世界ファンタジーでよくある奴隷の様に理不尽に使われることも無ければ鞭で打たれることも無かった。

 また、リアが前世で治めていた国、フェルミとは流石に比べるべくもないが、その時代のそこそこ大きな国の平民と同程度の暮らしはできていた。

 リアが勘違いしてしまうのも無理も無い。

 

 

 

 

 数えで7歳になるわけだが、どうやら今年から座学の勉強が入ってくるらしい。

 今までは掃除や畑の草むしり等簡単なお手伝いが主な仕事で、後は昼寝や他の子供達に混じり遊んで過ごしてきた。前世は連日デスマーチだったこともあり、もう少しこのほのぼのとした生活を続けたい。

 しかし現在の魔法技術や世界情勢も知りたい、涙を飲んで授業を受けることとしよう。

 

 




久しぶりなのにギリギリ1000文字。
頑張ろう。


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2話 リア、世界情勢を知る

 

 更に1年、もうすぐ8才になるわけだが授業を受けた甲斐あって知りたいことは大体知れた。

 教師からしてみれば授業に関係無い事や皆より進んだことを聞いてくるクソガキがったかも知れないが、今まで掃除やお手伝いをさぼらず、しっかりとこなしてきたこともあり、少々知識欲が強い子供という評価で落ち着いている。

 

 

 そして魔法技術や世界情勢、今自分の身がどの様な状況に置かれているか等だが、色々と状況が絡み合い離して考えることができないので順を追って説明しようと思う。

 

 

 

 先ず前世でリアが治めていた魔法都市国家フェルミだが、結論から言えば既に亡んでいる。

 

 

 全てはリアの前世、アルスヴェインの死から始まっていた。

 

 

 アルスヴェインが都市の運営を一手に担っていた事の弊害でアルスヴェイン亡き後、幾許も経たない内に都市機能は停止し、国家として機能不全を起こした。

 

 それによって最も大きな被害を受けたのは商人達、特に魔法技術を錬金術を利用して創られた商品を取り扱っていた者達だった。

 食糧品等の輸入に関しては特に何かあるわけではないが、魔法道具の輸出は国からの許可、つまりアルスヴェインの許可が必要だったのだ。

 

 それもそのはず、フェルミで製造される魔法道具は世界一般から考えると有り得ないほど高性能であり、どの国もその性能から他国に先んじて手に入れたい物である。

 勿論自国で生産しようとする動きも有ったが、魔法を技術として捉え理論的に構築できる魔法使いなどフェルミにしか居らず、その全てが失敗に終わていった。

 技術を独占し、世界にとって無視できない存在である都市国家フェルミ。どこの国もフェルミとは同盟を組み、その技術のおこぼれにありつきたいと考えていた。

 

 そんな状況で何も考えずに魔法道具を売り捌くなど愚か者のすることである。

 

 どこかの国に肩入れすればそれ以外の国々がその技術力の差から危機感を持ち、協力してその国を滅ぼしにかかるだろう。最悪世界大戦である。

 そういった事態を防ぐためにもアルスヴェインが輸出の可否を決め、国同士の争いが起きないよう平等に分配していた。

 

 そんな状況でアルスヴェインが居なくなれば全ての魔法道具の輸出が停止するのは必然であった。

 商人達も何とか商品を手に入れようと掛け合うがアルスヴェイン亡き今、自己中どもの巣窟であるフェルミからまともな返答などなく、商人達は途方に暮れることになった。

 最終的には諦め自国に戻り、その事を所属している商会やギルドに報告した。やがてそれらは国の上層部にまで届く事となった。国としてもフェルミの魔法道具は必要であり、国としてもフェルミに掛け合った。しかし梨の礫である。

 

 そうしている内に上層部は1つの結論を出す。

 それは『フェルミは他国と同盟を組み、我が国を潰そうとしているのではないか?』というものである。

 

 奇しくも他の国々も同じ結論に至り、それぞれが出兵を決めるのであった。

 

 

 突然だがフェルミが存在している場所は辺境であるが、それはその地域の魔物や地形が人にとって厳しすぎたがゆえの辺境であり、位置でいえば大陸のほぼ中央であった。

 

 それゆえ多くの国々との国境を有しており、フェルミの周囲ではこの大陸の有力国の軍が一同に会する事態となった。

 

『やはり他国と同盟を結んでいたか!』

 

 それぞれの軍の司令官達はそう思っただろう。

 軍を派兵したら他国も軍を展開していた、もしくはその逆でフェルミに睨みを効かせていたら他国が軍でもって介入してきたのだからそう考えるのも無理もない話しである。

 

 それこそ世界大戦が勃発しそうな状況であり、事態は膠着状態に陥った。

 

 そのまま何日か睨み合いを続けるが肝心のフェルミの動きが全く無かった。

 軍を展開することもなく声明を出すこともない。更には人々の営みである竈の煙さえ街からは立っていなかった。

 

 これはおかしいとある一国が使者を送り国々をまとめ、状況の擦り合わせをおこなった。

 

 そこで国々はどういった事態に自分達が陥っているのか知ることとなる。

 

 そして次に思った事も皆同じである。

 

『フェルミはどうなっているのだろうか?』

 

 その実態を明らかにするためにそれぞれの軍から小規模の部隊を集め連合としてフェルミに突入することとなった。

 

 

 そして突入した面々が眼にするのは人っ子一人いないフェルミの街並みであった。

 

 その異常事態は大陸中を駆け巡った。

 

 誰にも気付かれる事なく、全ての国民が消えていたのである。

 いくら調査をしてもなんの成果も得られず、原因は解らず終いだった。

 

 

 しかし、リアはその事を教師から聞いた瞬間何が有ったのかを理解した。なんの事はない、やつらは面倒臭くなったから逃げただけだろう。

 

 

 だが当時の人々にとっては理解できない出来事であった。

 その事から国々は危機感を持ち、魔王討伐後不安定になっていた世界情勢は再び纏まり、魔王が人類の敵として存在していた時以来の大陸全ての国々が参加する大同盟が組まれる事となった。

 

 

 それがおよそ150年前の事であり、その同盟は今日まで続いている。

 

 そしてそれ以来手に入らなくなったフェルミの魔法道具はアーティファクトと呼ばれる様になり国が大切に管理、保管している。

 

 

 

 

 歴史として語られていないことも多く、いくつかは当時の事を知るリアの予想も含まれているが概ね間違ってはいないだろう。

 

 

 外から見れば歴史的な大災厄であるが、中を知る者からしたら面倒臭くなった自己中どもの大規模な夜逃げである…。

 

 

 長い平和な時代は国を富ませ国民総中流ともいえる状態にまでなっていた。相変わらず魔法技術はクソの一言ではあるが…。

 

 

 

 どうしてこうなった…っ!

 

 




また暫く空きます。


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3話 リア、就職先(売り先)が決まる

 

 現在の世界情勢を理解したところで最初に戻る。

 リアの奴隷としての身分についてだ。

 

 

 先ず長い平和な時代が続いた事で社会に余裕が生まれた。そしてその余裕は道徳心の成長を促し、社会的弱者に手をさしのべられるほどにまで成長していった。

 社会的弱者、つまり奴隷の様な下級の身分の者達の事だ。

 特にリアの住むこの国、アーヴェルス王国は魔王との大戦以前から大国として続いている歴史ある国であり、フェルミとも交流のあった裕福な国である。

 

 そういった状況も後押しし、数代前の仁君とも讃えられる国王によってこの国の法や社会制度、特に奴隷制度は大きく変わることになった。

 大きなものとして私奴隷の禁止がある。全ての奴隷は国有となり国によって管理される事になった。

 孤児や破産者を悪辣な資本主義者に管理させるのではなく、国が介入して保護及び職の斡旋を行い早期の社会復帰を目指した。

 またそれに伴い法整備も同時に行われ、他の国々が変われないなか、この国の奴隷制度は社会からこぼれ落ちてしまった弱者を救済するための制度へと変わっていった。

 

 特に孤児を集めた施設では幼い頃より教育が施され、一定の年齢になった後、国の末端事業に動員された。また、低賃金ながらも給与も支払われていたため地方経済の活性化の一助ともなり、国力増大の一端を担った。

 

 ちなみに国有事業への動員の場合、契約時に決められた年数の経過や金によって自身を買い取れば自由になることもでき、その後も国と本人の同意の下で継続雇用も可能であった。

 更にある程度の職業の自由も認められ、身元が確かな事業主への労働力として相互同意の下で派遣や身売りされることもあり、そこで発生する金によってこの施設の運営費や孤児の養育費が賄われていた。

 

 

 長々とした説明になってしまったが何が言いたいかというと、儂リアことアルシュトリアは現在、売られそうになっている。

 

 多少の職業選択の自由があるとはいえよっぽどな条件でなければ蹴ることもなくそのまま契約する場合がほとんどだ。

 そんなよっぽどなものは娼館くらいなもので、他は国に認められている事業者のため従来の奴隷としての扱いをせれることなどない。もっとも娼館は娼館でその実入りの良さからある一定の人気はあるようだが…。

 

 大抵12~15歳の間に職が決まる事ががほとんどで、まだ9才であるリアが職を得るのはもう少し先になる予定だった。また本人もそのつもりで暮らしており、後数年間はスローライフを続けるつもりであった。

 そんななかで突然湧いて出た今回の話にリアは少々困惑しており、あまり乗り気になれなかった。

 しかしながら日頃からお世話になっている親のような存在である職員達の勧めはとても断り辛い。

 

 どうしたものか…。

 

「どうだい、受けてくれるかな?」

 

 目の前の優しげな青年がそう聞いてくる。どうでもいいがムカつくくらいに美形である。黒髪に緑眼でイケメンというよりは美人さんだ。

 

 元々過ごすつもり満々だったスローライフ数年間を今更捨てるというのもなぁ…。

 しかしながら今回提示された条件は奴隷としては破格のものである。

 住み込みで個室ではないが寝床があり、一日三食で夜勤手当てもある。給与も出るため計画的に貯めていけば天引きされる分と合わせて十数年もすれば自由の身になれるだろう。流石は御貴族様である。

 そう、貴族である。この国の伯爵家の当主様であり、この街を含む周辺地域一帯を治める御領主様でもある。

 今回はもうすぐで10歳になるという長男に、部下の扱い方などを教える教材として、歳の近い奴隷をお付きのメイドとして雇いたいという事らしい。

 そこで歳が近く聞き分けも良い、落ち着きがあり年下の子供達の面倒も見ている等の理由から儂が抜擢されたらしい。まぁ、なりは幼女でも中身はジジイだからなぁ…。

 

 よし……。

 

「わかりました、お受けします。これからどうぞよろしくお願いします!」

 

 本当はこのように元気な性格ではないが、子供っぽさをアピールしておけば扱いもそれ相応のものになりなにかと楽になるだろう。そんな打算もありつつ返事をする。

 

「あぁ、良かったよ。こちらこそよろしく」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 こうしてリアは伯爵家当主である様に雇われ、その長男付きのメイドとして働く事になった。

 

 

 因みにリア本人には知らされていないが伯爵が示した条件は息子と歳が近く、知識やマナーなどの教育が一通り終わっており、落ち着きがある。更には隣に置いても問題ない程度に見目の整っている者というものだった。

 リアは前提条件には問題なく、容姿も銀髪ストレートに黄金の瞳と白磁の様な白い肌という淡く美しい色彩を持っており、顔立ちも可憐で愛らしかった。つまりリアは伯爵の提示した全ての条件を数段飛ばしで楽々クリアしていたのであった。




そこまで説明する必要も無い設定を長々と書いてしまった。7割その場の思いつきをそのまま書いたけど筆がのってしまったのだからしょうがないよね。


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4話 馬車に揺られて

 ドナドナドーナードーナー

 

 

 ―――うむ、やはりこの歌、一度位は口ずさんでみたくなる。

 対象が自分でさえなければの…。

 

 まぁ、乗っているのは荷馬車などではなく、美しく磨かれた木目と黒を基調としたシックな高級馬車だ。キャリッジと言うんだっけか?偏見ではあるが貴族といえば豪華絢爛なイメージがあったが御主人様であるハーロルト・イルディアナ様はこういった落ち着きのあるものが好みのようだ。

 サスペンションが備わっているのか道が良いのか、もしくはその両方か、それなりの速度が出ているはずなのにあまり揺れない。座席の座り心地も良く、リアの薄い尻でも痛くなったりはしていない。

 

 前世で冒険者をやっていた頃は馬車の揺れに慣れるまで大変だった…。いざ目的地に着いても長時間の旅で身体が思うように動かずクエストを失敗したり。若い頃は経験が全く無かったせいでむやみやたらと突っ走り色々な無茶をしたものだ…。

 

 御主人様もそういった経験をしたことがあるのだろうか?

 目の前で書類に目を通す領主としての姿に自分の国王時代が重なる。自分よりは幾分ましだろうが苦労話で盛り上がれそうだなぁ…。

 

 というかなんで同じ馬車の中で対面して座ることになったのか?日頃から綺麗にしているとはいえこの座席に座るのは場違い感があって少し緊張する。国王時代にもっと豪華な王座に座っていた記憶もあるのだが、ほとんど執務室に籠っていたせいでぶっちゃけどんな椅子だったかすら覚えていない。

 そもそもこの地域の領主様のはずなのに付人が少な過ぎじゃなかろうか?馬に乗った若手の騎手様一人に御者をしているセバスチャンだかアルフレッドだか執事っぽいのの二人だけ。自らが治める領地だとしても不用心だろう。まぁこの街自分みたいな子供が一人で歩いても大丈夫なくらい治安はいいけど…。

 そういった事実と自分がこの街を治めているっていう自負が有るからこそ出来るんだろうな。立派なもんだ。

 

 そうやってチラチラと御主人様を盗み見しているとそれに気付いたのか御主人が話しかけてきた。

 

「リア、大丈夫かい?疲れた様なら休息にするが」

「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です、これからの事を考えて少し緊張してしまっただけですので…」

 

 この人ホントに貴族なのだろうか?前世の貴族にはろくなやつがいなかったが、うちの御主人様は聖人かなにかなのだろうか。

 

「ふむ、確かにまだ詳しい話はしていなかったね。いい機会だし少し説明しようか」

 

 どうやら御主人様自らが詳しい話もしてくれるらしい。

 

「前にも言った通り君には私の息子であるアウレールの専属メイドとして働いてもらいたい。元々専属のメイドはいたのだが結婚することになり実家の方に返ってしまってね、代わりの者を探していたんだよ。歳は君より一つ上で10歳になる。君も息子もまだまだ子供だ、メイドとしてだけではなく友人としても息子を支えてやって欲しい」

 

 ふむ、要は子守り兼使用人といったところか。施設でも同年代以下の子供達の相手をしていたし特に問題はないだろう。やんちゃな子もいたが子供は嫌いじゃない。知らないことを知ろうとする純粋な知識欲は相手にしていて気持ちの良いものだった。

 御子息様も伯爵家の跡取りとしてそれなりの教育を受けているはず。他の貴族どもならともかくこの人の息子ならば大丈夫だろう。無理難題を吹っ掛けられたりたりはしないはずだ。

 

「それからまだ次男とその下に娘もいてね、そちらの方とも仲良くしてくれると助かるよ。外に出る機会をあまり作ってやれなかったせいか、どちらも他人との付き合い方をよく解ってないんだ。娘フィリーネはまだまだ幼い。成長すれば問題ないだろうが次男のディルクは少々やんちゃに育ってしまってね…。まぁ直接の雇用主は私だ、何が言われても気にせず叱ってやって欲しい」

 

 この人が言葉を濁す程とは…。次男坊はなかなか問題がありそうだ…。叱ってもよいと言付けをいただいたことだし、まぁ上手くやることとしよう。

 

「わかりました。精一杯やらせていただきます」

 

 

 

 少々早い門出になってしまったが、流石は貴族。給与もそれなりにあり、通常よりは早く自由になれそうだ。

 職場環境が良いようなら自由になった後も継続雇用して欲しいものだ。給与が全額支給されればまとまった金もできるし、それを元手に魔法の研究と洒落込みたい。

 前世と違い魔道具の有用性も周知されている。失敗作であっても市場に流すのは不味いだろう。それらを売って生計を立てようものなら面倒な事になりそうだ。

 前世の様に魔法研究の協同体を造るつもりはない。他から身を守るのには有用だろうがその運営のために魔法研究が出来なくなるというのは本末転倒だ。そもそもこの時代では協同体が大きくなる前に国から介入されそうで、余程上手くやらねばすぐさま囲い込まれてしまうだろう。

 といっても一度きりで効果が無くなるような物ならこの時代でも流通しているはずだ。魔剣の様な複雑なプロセスを踏むものならともかく使い捨ての御守りなら問題ないだろう。研究衝動は全く解消できそうにないがそういったもので小金を稼ぎつつやっていこうか。

 

 

 

 馬車が止まる。

 

「旦那様、屋敷に着きました」

 

 セバスチャン(仮)の声がして扉が開く。若干の眩しさに目を細めつつ外を見る。

 ここが、これから自分が生活する所…。目の前にある歴史を感じさせる宮殿を眺める。

 

「リア、手を出しなさい」

「…はい」

 

 何故か御主人様にエスコートされて馬車を降りる。

 

「先ずは顔合わせとして私の家族と会ってもらおうかな」

 

 その言葉に頷き、一歩を踏み出す。

 

 これから自分の新しい生活が始まるのだと、未来を思い描きながら。

 




主人公の口調がブレブレ過ぎてヤバい。


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5話 リア、メイドになる

 

 

 御主人様に連れられ玄関をくぐると広々とした玄関ホールがあった。高い天井にきらびやかなシャンデリア、正面には幅広の階段があり、そこにはめ込まれた大きな硝子窓からは中庭からの柔らかな光が差し込んでいる。

 美麗ながらもどこか神殿の様な厳かな雰囲気のある見事な造りだ。

 流石は歴史あるアーヴェルス王国の中でも初期から続いている伯爵家、下手な公爵や侯爵の屋敷よりも余程立派だ。

 イルディアナ家は昔から国に重用されおり、初期から変わらずにこの領地を治めて続けている。その領地運営の手腕は今の街を見ても明らかだ。長く安定した時代が続いたのだろう。大きく発展していながら道も効率的に張り巡らされており、市場等の重要な場所には広い道が通っており交通の不全からくる経済的ロスも少なくなっている。その経済規模はそこらの国の王都や首都にすら匹敵するだろう。

 何故未だに伯爵の地位に甘んじているのか、逆に謎でもある。

 

 そういった物事に思いを馳せながら惚けていると、ホールに控えていたメイド達の中から初老のメイドが進み出てきた。

 

「旦那様、お帰りなさいませ」

「あぁ、ただいま。この子が今日から働くことになるリアだ」

「リア、この人が家のメイド長をしているベネディクタだ。仕事の詳しい内容などはベネディクタに聞くといいだろう。挨拶を」

「初めまして、アルシュトリアといいます。リアとお呼びください」

 

 御主人様の言葉に続いてメイド長に自己紹介をする。

 一本芯の通っているかの様なその佇まい、歴戦の猛者の様な此方を見定めんとする鋭い眼光、柄にもなく少し緊張してしまう。

 

「……ふむ、まあいいでしょう。着いてきなさい」

「旦那様、奥様以外は皆様集まれる状況ではありません。この子の紹介は皆様が集まれる食事の時分がよろしいかと…。それまでにこの子の身なりも整えておきます」

「――確かにそれもそうだね、ベネディクタに任せるよ」

「リア、また後で」

 

 御主人様に深くお辞儀をした後、メイド長であるベネディクタの後ろに着いていく。

 後ろから見ていてもその確りとした姿勢とぶれることの無い足取りはメイドとしての矜持と年期を感じさせる。

 ……逆らったら怖そうだ。

 

「そうですね…先ずは貴女の部屋に案内しましょう。こちらです」

 

 表の顔である迎賓館を通り抜け奥の使用人用のエリアへと進んでいく。そこは流石に表と異なり装飾等は必要最低限で実用性を考えた造りになっていた。そのまま厨房や食堂、リネン室等を案内された後、使用人が寝泊まりするエリアの一室で足を止めた。

 

「この部屋が貴女の暮らす所になります。ここは相部屋で二人で一部屋を使っています。同室の者は今は仕事で出ていますのでまた後程紹介しましょう」

「貴女の仕事ですが先ずは同室の者に付いて共に作業しつつ一連の流れを覚えて下さい。一定の技術が身に付いたら、その後側仕えとしての仕事や身の振り方などの教育を受けてもらいます。何か質問はありますか?」

 

 想像していたものと大きな違いは無い。概ね想定通りだ。

 

「仕事については大丈夫です。…その、ベネディクタ様のことは何とお呼びすればいいですか?」

「それでしたらメイド長と呼んでください。皆もそう呼びます。あぁそれと、ハーロルト様のことは御主人様ではなく旦那様と呼ぶように。貴女の立場からいえばそれでよいのでしょうが、貴女もこのイルディアナ家のメイドの一員となったのです、呼び方は統一しておいた方が良いでしょう」

「はい、わかりましたメイド長」

「よろしい。では仕事着に着替えましょうか。着方は分かりますか?」

 

 そう言ってメイド長は部屋に備え付けられている簡素なクローゼットから一着のメイド服を取り出す。見た目はごく普通のメイド服だが特別に誂えたのか、過去に自分と同じ体型のメイドがいたのか、二次成長も始まっていない小さな子供の身体でも着れそうなサイズであった。

 けしてみすぼらしいわけでは無いが、貴族の館で働くには不足な簡素なワンピースを脱ぎ、受け取ったメイド服を身に纏う。

 所々でメイド長から指摘が入ったが、修正しつつ何とかまともな形に着こなすことができた。少し大きいだろうか、若干袖が余る。まぁ、これから成長することを考えれば態々直す程でもないか…。

 

「着付けですが慣れない内は同室の者に手伝ってもらうといいでしょう。決してみっともない格好で人前に出ないよう、注意するように」

「はい、わかりました」

 

 

「さて、そろそろ旦那様方がお食事を取られる時間ですね。貴女を紹介しますので着いてきてください」

 

 いつの間にか、かなりの時間が過ぎていた様だ。挨拶回りを兼ねた施設の案内で結構時間を使ってしまったのもあってか、外も大分暗くなってきている。

 これから御主人様、いや旦那様か…の家族に会うことになるのか。やはり初めての人と顔を会わせるのは緊張する。前世ではいくらでもその様な機会はあったし、なんなら会ってすぐに舌戦を始めた事すらあった。だが自らの始まりが日本人なこともあってか、良い悪いは置いておいて、役を演じる様に自身をその時々の型に当てはめて動いてしまう。

 何が言いたいかというと、国王を経験していたとしても今の自分の立場は奴隷であり、その慣れない条件下ではどうやっても不安になるということだ。

 

「準備はいいですね?」

「……はい!」

 

「では……」

「旦那様、リアの準備が整いました、紹介させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「あぁ、入って来てくれ」

 

 そうして大きな扉が開いていき、中の様子が見える様になっていく。

 リアは深呼吸をしてからその光景に向かって歩き始めた。

 

 




一家との対面まで進めたかったけど内容が思い浮かばなかったのでとりあえずここで切ります。

そういえば同じ人物が連続して喋る時に途中からその話相手が変わる場合や話題が変わった場合、以下の内どれが分かりやすいでしょうか?今は暫定でAを採用しています。

A
「☆☆☆」
「★★★」

B
「☆☆☆」「★★★」

C
「☆☆☆。―★★★」



最後になりましたが、誤字報告ありがとうございました。助かります。


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