我が名は“兇手”。其は、貴方を殺す者の銘也。 (兇手に惹かれし者)
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我が名は“兇手”。其は、貴方を殺す者の銘也。

気が付いたら書いていた。それだけ。
反響があったら続く⋯⋯かも知れない。


 □とあるマスターの主観

 

「⋯⋯マスター殿、お命頂戴致します」

 

 気が付いた時には、全身黒づくめのその女は俺達パーティーの前に居た。顔は、影の角度で見ることは出来ない。

斥候(スカウト)】のジョブも齧っている俺に、全く気が付かせることなく、ソイツは俺達に刃を向けていた。

 

「⋯⋯ティアンの暗殺者(アサッシン)か⋯⋯」

「左様。貴方方に恨みはありませぬ。されど、これも仕事故。大人しく、首を差し出してくだされ。さすれば、痛き目を見ることもございませぬ」

「⋯⋯それなら、何故? 何故、俺たちを狙うんだ?」

 

 そいつは、赤い手形の付いた黒い仮面を付けると、ナイフを構えた。

 “兇手”。職業そのものの名を冠する暗殺者。

 その存在を、その仮面をつけたティアンの暗殺者についてを、噂程度にだが聞いたことがある。

 

「貴方方は、ティアンを見殺しにして効率よく狩りを行った。それ自体に、(せつ)が異議を唱えることはございませぬ。ですが、我が雇い主の少年が、貴方方の命を求めました」

「少年?」

「これ以上の情報提示はしかねます」

 

 そう言って、ティアンの女“兇手”は刃を構える。

 

「それでは、参ります」

 

 俺達も、退くわけにはいかない。相手がティアンとはいえ、暗殺者風情だ。殺しても指名手配もされない。犯罪じゃないんだから、いつも(・・・)となんら変わらない。

 

 俺は、仲間に声を掛けようとして、後ろを振り向き絶句した。

 

 

「プローイ⋯⋯助け⋯⋯て」

 

「な、なんで⋯⋯!?」

 

 

 俺のパーティーメンバーであった数人のマスターが、投擲されたナイフにより喉元を貫かれ、死亡していたのだ。

 

 有り得ない。俺達は上級職のパーティーだぞ?それが、こんな簡単に⋯⋯!

 そう思う反面、この目の前に立つ存在が、噂に違わぬティアンで、暗殺者であるなら、この惨状も納得出来てしまった。

 

「貴方はこのパーティーのリーダーとお見受け致しました。貴方には、こちらの武器で死んで頂きます」

 

 そう言って女が取り出したのは、一本の直剣。鞘から抜き放ち、自然体で構えたその姿は、流石はティアン(この世界に生きるもの)といったところ。マスターよりかは余程板に付いている。

 だが、ここまでされて引き下がれるわけもない。絶対に殺す。

 

「分かったよ、ぶっ殺してやらぁ!!」

「⋯⋯なるほど、マスターならば斯様な判断も容易、と。まだまだ学ぶことは多い」

 

 余裕の雰囲気を崩さず、女は俺を見据える。その余裕、いつまで続くか、見ものだ。

 俺は、己の獲物であるTYPE:アームズのエンブリオ、【雷鳴戦斧 バアトチャク】を顕現し構える。

 

「いざ⋯⋯参る」

「行くぞ! 必殺、《振り割く雷鳴(バアトチャク)》!!」

 

 上級職【蛮戦士(バーバリアン・ファイター)】の膂力に任せ突撃、バアトチャクを振り下ろす。これが俺のエンブリオが誇る必殺スキル、《振り割く雷鳴》。今まで、これを食らって死ななかった奴はいない。

 それは、雷を伴って暗殺者を襲った。戦斧の一撃が地面を引き裂くかのように抉り取り、さらに空から雷が追撃する。

 これを喰らえば、ティアン最高峰の暗殺者と名高い“兇手”様も死ぬに決まっている。

 

 

「では、次は拙の番でございますれば⋯⋯その腕、頂戴致します」

 

「は?」

 

 しかし、暗殺者は死んでいない。

 いや、それどころか全くの無傷であった。

 “兇手”は、バアトチャクを握る俺の右腕を直剣で斬り捨て、俺を蹴り飛ばした。

 

「ぐぁぁあ!?」

 

 訳が分からない。どうして、死んでいない。何故、無傷なんだ。俺と俺の上級エンブリオなら、NPC如き余裕で殺せるはずなのに!

 

「クソがァあ!!」

 

 俺は、半ば狂乱しながら、アイテムボックスよりジェムを五つ取り出す。これなら、こいつを消し去ることも容易だ!

 

 

「くそくそくそ、死ね!! 【ジェム-《クリムゾンスフィア》】!!」

 

 

 解き放ったのは、絶大な火力を誇る《クリムゾンスフィア》。それを五つ。

 それは、忌まわしい“兇手”を目がけて襲い掛かり、着弾。紅炎と爆発を起こした。

 

 爆煙が晴れると、そこには人の影はおろかすっきりとした平地が広がっていた。

 

「や、やったか?」

 

 俺は、警戒も払わずにその一点を見詰める。

 ⋯⋯ふう、やっと死んだか。

 今日は、疲れた。さっさとログアウトし

 

 

「いえ、拙はまだ死んでおりませぬ」

「ッ!?」

 

 

 その声に驚き振り向いた瞬間、

 

 

「──《兇手(デッドハンド)》」

 

「かひゅっ⋯⋯!?」

 

 

 俺の首はズタズタに切り裂かれていた。

 

 何が起こったのか理解出来ないまま、俺は死亡した。

 

 

【致死ダメージ】

【パーティ全滅】

【蘇生可能時間経過】

【デスペナルティ:ログイン制限24h】

 

 

 

 

 

 □皇都ヴァンデルヘイム 【兇手】ラ・モール=クリステア・デッドハンド

 

「⋯⋯他愛もない」

 

 刃を一振し、鞘に納める。この剣は、我が依頼主である少年の物。返却せねばなるまい。折らずに済んで良かったと言えよう。

 

「⋯⋯かふっ⋯⋯」

 

 未だ、拙には血統特殊技能(スキル)《兇手》は荷が重い。

 仮面を外し、裏側に付着した血液を服の袖で拭う。

 

「⋯⋯我が父よ。クリステアは、ラ・モールに、デッドハンドの名を冠するに相応しい娘となれるでしょうか⋯⋯」

 

 いや、ならなくてはいけない。この【兇手】の務めを授かり、《兇手》を受け継いだからには、拙はこの命尽きるまで、業を磨かねばならないのだ。

 

 そろそろ夜も更ける。ひとまずは、我が依頼主の元へ赴くとしようか。

 拙は月明かりに照らされた皇都を、民家の屋根伝いに駆け抜ける。

 

 

 

 ──我が名は“兇手”。遊戯者(マスター)を殺す者也。




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