拳を極めしメイドさん (塞翁が馬)
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新たな鏡面海域

 明石がシナリオ的にどんどん便利キャラになっていくな…。まあ、戦闘システム的にも高難度マップではほぼ必須キャラになってるから問題ないのかもしれないけど。


一瞬千撃 抜山蓋世 鬼哭啾啾 故豪鬼成

 

 

 

 

 

「―――報告は以上となります」

 

 とある基地の執務室において、メイド服を身に纏った美しい女性が目の前の机に座っている男性に書類を差し出す。恐らくは、先ほど口にした”報告”についての資料なのだろう。

 

「新たな鏡面海域と、そこで救助した少女…か。ベルファスト、君の考えを聞かせて欲しい」

 

 資料を受け取り、一枚一枚をゆっくりと確認しながら、男性はメイド服の女性…ベルファストの意見を聞く。

 

「そうですね…。以前より、鏡面海域には異世界なるところから来訪者がくる事例が少数ながら存在しています。あのような場所に、普通の人間が入り込める可能性はほぼゼロに等しいので、恐らく今回救助した少女もそれらと同様なのでは」

 

 ベルファストの言葉に、男性もコクリと頷く。鏡面海域とは人類の敵たる”セイレーン”が時々作り上げる異次元空間の事だ。そんな場所にいる生物と言えば、セイレーンかそれを撃退するために進軍してきた者達、そしてセイレーンが興味を持って連れてきた生物だけだ。

 

 更に、セイレーンが興味を持つのは何かしらの特別な力を持つ者が大半を占める。つまり、今回救助した少女も何らかの”特別”を秘めている可能性が非常に高いという訳だ。異世界人だと決めつけるのは、流石に早計かもしれないが…。

 

「現在、明石に依頼して少女の身体を検査しております。その結果次第で今後の作戦に影響を及ぼす可能性も…」

 

「確実に影響を及ぼすにゃ! 間違いないにゃ!!」

 

 つらつらと語るベルファストの後ろから突然響く大声。男性とベルファストがその方向へと目をやると、緑色の髪に、袖が余りまくっている服を着ている少女が己の存在を主張するか゚の様に右手を高々と上げていた。

 

「…明石。入室するならせめてノックくらいしてくれないか?」

 

「そんな事を言っている場合じゃないにゃ! あの少女の体内から、セイレーンからも感じた事が無い程の信じられないくらい禍々しいパワーを検知したにゃ!! そのパワーを感じただけで、殺されるかと思ったほどにゃ!!!」

 

 明石の行動に苦言を呈する男性だったが、そんなものは意にも介さず緑色の髪の少女…明石は顔を真っ青にしながら懸命に訴えかけてくる。

 

「禍々しい力…ですか。どうやら、今までこの世界に来た者達とは根本的に違うようですね…」

 

 そんな明石の訴えに、ベルファストは顔を顰め顎に手を当てて考え込んでしまう。

 

「…殺されるとは少し妙な表現だな。艦船の力をその身に宿す君達には”殺す”というより”沈む”という言葉の方が死のニュアンスには近いのでは?」

 

 一方、ベルファストと同じく眉間にしわを寄せる男性だったが、明石の言葉に違和感を感じたのか、その様な事を明石に質問してしまう。

 

「確かに、明石達からすれば”撃沈される”事が死と同義で、無意識に出てくるのもこっちの方だけど、あのパワーを感じた時だけは殺される!!! …って感じちゃったんだにゃ!!」

 

「ご主人様。何か気になる事でも?」

 

 大仰な身振り手振りを交えてその時の心情を説明する明石。そして、そんな質問をした男性に、ベルファストも少し怪訝そうに視線を男性に向ける。

 

「いや、些細な事だとはわかっているんだが、どうにも気になってな…」

 

 対する男性も、少し困惑気に視線を下に向けた。どうやら、自分の感じている違和感を上手く言葉に出来ない事を歯がゆく思っている様だ。

 

「分かったにゃ! それならば、指揮官が気にするその辺りを重点的に調べてみるにゃ!!」

 

 そんな男性…指揮官を見て、明石は表情を引き締めて表明する。

 

「調べるって…顔を真っ青にするほど恐ろしいパワーを体験して、まだ調べられるのか?」

 

「大丈夫にゃ! 正直に言えば凄く怖いけど、それに負けないくらいの興味もまた湧いてきているにゃ! という訳で、早速新たな調査に取り掛かるにゃ!!」

 

 言うや否や、心配そうにする指揮官とベルファストを他所に、明石は執務室を飛び出してしまった。

 

「…大丈夫でしょうか?」

 

「まあ、この基地においてああいう活動に一番向いているのは明石だからな。信じるしかないよ…」

 

 いろいろと不安そうな仕草を見せるベルファストに、指揮官は諭すような物言いで答える。しかし、その言葉はベルファストに向けると同時に、己にも向けている様にも見えた。

 

「さて、調べ物については明石に任せるとして、件の少女の処遇なのだが…」

 

 そうして意識を切り替えた後、改めて話を切り出す指揮官。そして、その言葉にベルファストの表情がほんの微かにだが強張った様に見えた。

 

「―――ベルファストの率いるロイヤルメイド隊の傘下に入れて貰えないか?」

 

「やはり…そうなりますか…」

 

 少し言いづらそうに低頭して頼み込む指揮官。ベルファストもそう来るだろうとは予測していたらしく、微かな諦念が込められた言葉を呟く。

 

 ロイヤルメイド隊とは、この世界の国家の一つである”ロイヤル”の艦隊が誇るメイドの使命を負った艦船で結成された隊だ。礼儀作法を重んじるロイヤルにふさわしく、所属している者達は皆、己が主と認めた者に絶対の服従を示し、軍船の本懐である戦闘は勿論の事、私生活においても主が不便なく仕事をこなせる様に様々な世話をする、ある意味では選ばれたエリートのみが就ける由緒ある部隊なのだ。

 

 当然、その格式に見合わない者がおいそれと身を寄せられるような場所ではない。では何故、指揮官がその様な提案をしてきたのかというと…。

 

「まあ、明らかにロイヤルっぽいメイド服を着ていたうえに、箒まで握りしめていたらしいからなぁ…。多分、メイドとしての仕事は一通りは出来るんじゃないか? と、思うんだ。勿論、それとロイヤルのメイドに相応しいかは別問題というのも理解はしているけど…」

 

 答えは単純、救出した少女は明らかにメイドさんだったからだ。

 

「…いいでしょう。主の期待に添うのもメイドの務め。もし、ロイヤルのメイドに相応しくないというのなら、相応しくなるように教育いたします」

 

「ああ、頼むよ。だけど、無理はしなくていい。明石の言っていた禍々しいパワーという件もあるし、もしメイド隊だけで抑えられそうになかったら、長門やエンタープライズにも助力を仰いでくれ。彼女達にもそれとなく例の少女を観察するように伝えておくから」

 

「お心遣い痛み入ります。それでは、私は教育のための準備に取り掛かりますので、これにて失礼いたします」

 

 そういうと、恭しく一礼をしてから静かに退室するベルファスト。そして、その後姿を眺めていた指揮官も、扉が完全に閉まると再び手にしていた資料に目を通し始めた。



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驚愕する少女

 基地内には艦船入渠用のドックの他に、人間用の緊急治療室もある。主な目的は、戦地にて保護された一般人を本格的な病院へ運び込む前の応急処置を施す為であり、また基地に従事する人間の為(といっても、これは殆ど指揮官ご用達の様になっているが)にも使われる。

 

 そして、例の鏡面海域で救助された少女もここで治療を受けていた。と言っても、特に外傷はない。しかし、発見当時から気絶していたのだが、何故か一向に目覚めなかったのだ。

 

 まるで、死んでいる様に眠る少女を前に、明石と手伝いに来ていた夕張、不知火…そして、彼女を教育すべく準備を整え終えたベルファストは様々な目を覚ます方法を議論していた。

 

 本来の明石達ならば、思いついた方法は直ぐに試しただろう。しかし、少女から確認された凄まじく強大な謎の禍々しいパワーが、どんな反応を示すか分からないという事が明石達の試すという行為に二の足を踏ませていた。

 

 なにしろ、普段はどんな危険そうな実験にも、恐怖より好奇心が打ち勝つはずの明石ですら、怯えて震えあがったほどだ。そして、一度芽生えた恐怖は中々払拭する事は出来ない。

 

 そうして、喧々諤々としてはいたが、進展は一歩もないまま時間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

「……む………ぬぅ……」

 

 呻き声を上げながら、ゆっくりと目を覚ます少女。そして、視線を周囲へと向ける。

 

「―――何処だここは…?」

 

 誰もいない室内を警戒心を滲ませながら見回す少女だったが、唐突に室外へと続いていると思われる扉が開いたので、即座に身構えた。

 

「あ、き、気が付いたみたいにゃ!」

 

 その扉の向こうから、少女を指差して叫ぶ緑髪の女性と、その後ろで静かに佇みながら少女を注視する銀髪の女性…明石とベルファストの二人が顔を出す。

 

「わ、私は明石だにゃ。それで、その……うう……」

 

 小走りで少女に近づき自己紹介をしようとした明石だったが、その自己紹介は尻すぼみに終わってしまう。その可愛らしい顔からは想像もできない程の威圧的な視線で、少女から舐り回す様に全身を見回されてしまったからだ。

 

「お初にお目にかかります。私はベルファストと申します。この基地に奉公しているメイド隊の長を務めている者です」

 

 少女の視線を遮るように、少女と明石の間に割って入り自己紹介をするベルファスト。当然、少女の威圧的な視線はベルファストへと注がれる事となるが、冷や汗こそ垂らしながらも表面上は様子を変えない辺りは流石といえるだろう。

 

「失礼ですが、貴女様の名前をお聞かせ願えますか?」

 

 続くベルファストの質問に、少女は視線をベルファストの双眸に合わせる。少しの間、お互いの視線が交錯するという緊張感のある場が続いたが、

 

「豪鬼」

 

 不意に、少女は短く口を開いた。

 

「ゴウキさん…ですか。何となく重桜っぽい名前ではありますが…」

 

「確かに、重桜にはそういう名前の人もいるけど、それにしてもゴウキなんて名前は普通男の子に付ける物であって、女の子でゴウキは非常に珍しいにゃ」

 

 少女の名前を聞いたベルファストが真後ろにいる明石に意見を仰ぐように視線を向ける。対して、ベルファストの言葉を肯定しながらも、吐いた台詞通りに珍しそうに少女…豪鬼を見つめる明石。

 

(…女の子だと?)

 

 一方、豪鬼の方も明石の言葉に違和感を覚える。が、残念ながらその違和感を確認する時間は豪鬼には与えられなかった。

 

「もう一つだけお聞きしますが、ゴウキ様は…メイドなのでしょうか?」

 

 何故なら、次に発せられたベルファストのこの質問に、豪鬼自身も一瞬思考が停止してしまったからだ。

 

(メイド…? ―――冥土の事か?)

 

 何分聞き慣れない単語に、豪鬼の脳内は自分の感覚に合った単語に、ベルファストの言葉を書き換えてしまう。

 

 確かに、豪鬼は今まで幾度の死合を望み、その極めた拳を持って数多の強者達を粉砕し滅してきた。そういう意味では、豪鬼そのものが冥土というベルファストの言葉もあながち間違いでは―――。

 

「何か凄い勘違いをされているようですが…。私が言っているのは”メイド”です。重桜で言えば”女中””家政婦””女性の使用人”…と、言ったところでしょうか」

 

 急に難しい顔をして黙り込んでしまった豪鬼を見て、思考がぶれている事を正確に読み取ったベルファストが、己の言を正す。

 

「女中…だと? 我が何者かに縛られているというのか? 下らん」

 

「誇り高き事は立派な事ですが、では何故貴女様はロイヤルのメイド服を着ているのですか?」

 

 ベルファストの説明を受けた豪鬼はつまらなさそうにそっぽを向くが、ベルファストはあくまで冷静に豪鬼の服装について突っ込みを入れる。

 

「なに…?」

 

 ベルファストの言葉を聞き、自らの身体を確認する豪鬼。そして、

 

「―――なんだこれは?」

 

 流石の豪鬼も思わず目を見開いていしまうが、それも致し方ないだろう。

 

 今豪鬼が着ている服は、いつもの漆黒の道着と首に付けている数珠ではなく、どこかの国のメイドが着る様なひらひらの服装だったからだ。

 

 それだけではない。筋骨隆々としていた己が両腕は女性の様にほっそりとしたものになっており、逆に胸元には不自然な膨らみが二つほど…。

 

 と、ここでベルファストから手鏡が差し出される。それで自分をよく確認して欲しいという事だろう。

 

 受け取った豪鬼はその手鏡で自分の顔を映し出す。鏡に映ったのは、視線の鋭さ、厳しさこそ以前のままだが、それ以外は何とも可愛らしい顔立ちをした女性の顔が鏡には映っていた。

 

「―――なんだ、これは?」

 

 あまりに自分とは思えない今の自分の姿に、思わず同じ台詞を吐いてしまう豪鬼。そして、驚きが大きすぎたせいかその台詞を最後に硬直してしまった。恐らく、堂々巡りな思考の世界へと旅立っていったのだと思われる。

 

「…にゃ。どうやら、この子はこの子でいろいろあるみたいにゃ」

 

「そのようですね。では、私は今も研究室で議論している夕張様と不知火様、そして報告を待ち侘びているであろうご主人様に、ゴウキ様が目覚めた事と、現時点で得た情報を報告に行ってまいります」

 

 戸惑い気味に固まってしまった豪鬼を見遣る明石を尻目に、ベルファストは恭しく一礼してから部屋を退室しようとしたが、

 

「ちょ、ま、待って欲しいにゃ!! この子と二人っきりなんて怖くて嫌にゃ! 明石も連れて行くにゃ!!」

 

 明石も慌ててベルファストの後を追うのだった。




うたわれキャラ全員揃った。成し遂げたぜ!


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腹の探り合い

 豪鬼が目を覚ましたという報を受けた指揮官。意識ははっきりしており、受け答えも問題なく出来るという事で、指揮官は早速豪鬼との対談を希望する。

 

 そして、豪鬼側もこれを承諾した。多くは語らない豪鬼ではあったが、その少ない言葉の端々から察するに、どうやら現在自分が置かれている状況を確認したいようだ。

 

 お互いに相手側の情報が欲しいという指揮官からしたらうってつけの状態…ではあるのだが、やはり未知の相手という事もあり、指揮官の護衛は必要だ。

 

 しかし、ここでとある問題が起きる。謎の強大なパワーを持ち、尚且つ強烈な威圧感のある相手との対談となると、それを抑える実力の無い者、あっても気の弱い者では向かないのだが、ベルファストは配下…と言う名目の僚艦を引き連れて遠征に出ていたクイーン・エリザベスの帰還の出迎えにメイド隊と共に赴いてしまい、不知火と夕張は長々と続けていた議論による疲労でダウンしてしまっている。勿論、既に恐怖にのまれている上に、そもそも戦闘艦ではない明石は論外だ。

 

 そして、他の候補に挙がりそうな艦も大体出撃していたり(新たに現れた鏡面海域が未だに規模を保ったまま存在している為、これの調査に多数の艦が取られている)遠征に出ていたりしていた。

 

 そんな中、上記の条件を満たしており、尚且つすぐさま動けそうな艦は、赤城、加賀、ローンの三隻なのだが…。この三隻…特に赤城とローンは、実力的には全く問題ないのだが、性格面に問題がある事で有名だ。とはいえ、他にいないのだからこの三隻を起用するしかない。

 

 かくして、指揮官は問題児達と共に謎の相手との対談に臨むのであった。

 

 

 

 

 

 執務室は今、筆舌に尽くしがたい程に重苦しい重圧感に包まれていた。

 

 豪鬼が執務室に入室したと同時に、豪鬼が普段から放っている殺気に赤城、加賀、ローンの三人が瞬時に反応し、瞬く間に室内は気の弱い者ならこれだけで殺せそうなほどの強烈な殺気の応酬合戦となってしまったのだ。

 

「……こいつ……っ!」

 

「………ふ……ふふ……」

 

「この、私が…。―――許せない……っ!」

 

 三人がかりでやっと互角という事態に、加賀は冷や汗を垂らし、赤城は暗い笑みを漏らし、ローンに至っては早くも爆発寸前の様だ。

 

 そんな敵愾心剥き出しの三人に、しかし豪鬼は平然とそれらを受け流し、椅子に座る指揮官を値踏みするように見下ろしている。

 

「ははっ、凄いな君は。この三人に睨まれて平然としているなんて、並の人間には不可能な事だよ」

 

「うぬこそ、この雰囲気の中でそんな軽口が叩けるとは、軽薄が極まっている様だな」

 

 そんな豪鬼に賞賛の言葉を贈る指揮官だったが、返ってきたのは痛烈な皮肉。瞬時に赤城がいきりたつが、一歩乗り出したところで指揮官に手で制せられていた。

 

「この喋り方が気に入らないというのなら悪かった。なにせ、周りは女の子ばかりなんでね。ただ、今更治そうなどとはサラサラ思わないから、申し訳ないけど少しだけ我慢してもらうよ」

 

「ふん…」

 

 そして、あくまでも冷静に…しかし強い口調で自分の意志を押し通す指揮官。それを受け、豪鬼は鼻を鳴らしはしたがそれ以上の行動はとらなかった。

 

「さてと…。こちらからも聞きたい事はあるけど、多分君の方が聞きたい事は多いんじゃないかな? まずは君から質問をどうぞ。答えられる事なら、何でも答えるよ」

 

 そう言って、手のひらを豪鬼に向けてくる指揮官。その何らかの意図があるのは見え見えの行為に、豪鬼の顔色には警戒の色がありありと浮かぶ。

 

「おや、どうしたんだい? 黙りこくってちゃ、こちらからは何も話せないよ。それとも、さっきの勢いは虚仮(こけ)で、実は臆病な性格だったとか?」

 

 黙り込んでしまった豪鬼に対し、指揮官はあくまで物腰の柔らかい笑みを崩さずに、先ほどの仕返しとばかりに分かりやすい挑発を投げかけてくる。線が細く、人当たりの良さそうな雰囲気を発している割には、なかなかどうして食えない人物の様だ。

 

「―――ここは何処だ?」

 

 挑発なのは分かっているが、何も聞かなければ埒があかない。そう判断した豪鬼は、おもむろに口を開いた。

 

「ここは対セイレーン用の前線基地だ。名前通りに、セイレーンの行動を監視、牽制し、必要とあらばセイレーンを撃沈するのがこの基地の役目だ」

 

 すると、指揮官は事細かに豪鬼の問いに答えた。答えられる事には答えるという指揮官の言葉には偽りは無いらしい。

 

「セイレーン…? なんだそれは?」

 

「寝ぼけているのか貴様。セイレーンを知らぬなどそんな訳が…」

 

 続く豪鬼の質問に、加賀が若干声を荒げて割り込んでくるが、これも指揮官が手で制止て強引に止める。

 

「少し昔に、突如として海の向こうからやってきた謎の軍団だ。通常の兵器では傷一つ付けられない難敵で、奴らと戦えるのは、艦船少女と呼ばれている者達だけだ。因みに、今俺の両隣にいるこの子達も、その艦船少女だ」

 

 そして、丁寧に答えていく指揮官。その中で、ほんの微かにではあるが、赤城、加賀、ローンを解説している時に、誇らしげな表情になったのを豪鬼は見逃さなかった。

 

 視線を上げ、指揮官の左右を固めている三人を一瞥する豪鬼。入室した時から只者ではないのは豪鬼も気付いてはいたが、何やら特殊な事情がある様だ。

 

 しかし、今はそれは置いておく。それよりももっと大事な用件が豪鬼にはあるのだ。

 

「何故、我はこの様な姿をしているのだ?」

 

 再び視線を指揮官の方へ向け、改めて問い質す豪鬼。己の道を極めるのに性別などは関係ないが、体格が以前と全然違うというのはやはり問題だ。最悪、戦い方を根本から見直す必要すらあるのだから。

 

「うん…? 質問の意味が分からないな。それが君の姿じゃないのか?」

 

 だが、豪鬼の質問に指揮官は渋い顔をする。どうやら、豪鬼の身体が女性化している件についてはこの基地は無関係の様だ。

 

「ただ、君は突如現れた鏡面海域から救出されている。そして、その海域を作ったのは先ほど言っていたセイレーン達だ。もし今のその姿に違和感があるのなら、セイレーン達を問い質せば何かわかるかもしれない。まあ、素直に教えてくれるとは思えないけどね」

 

「ならば、そ奴らから強引に聞くまでだ」

 

 そう言って、指揮官に背を向ける豪鬼。

 

「次にそのセイレーンとやらが見つかった時は我にも知らせろ。この拳で、洗いざらい吐かせてやる」

 

 それだけを言い残すと、豪鬼はさっさと執務室を出て行ってしまう。その後姿を、指揮官は興味深そうに、赤城と加賀は訝し気に、ローンは憎々し気に見つめ続けるのだった。




アズレンにドルフロ、花騎士にスマブラSP。そして小説執筆。やりたい事は一杯あるけど仕事の疲れもあって、その全てに手が付かない…。


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