落第騎士に転生した話 【完結】 (VISP)
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落第騎士に転生した話

 皆さんは「落第騎士の英雄譚」をご存知でしょうか?

 

 まぁラノベの一種なんですが、要は才能の無い主人公が周囲の妨害と偏見に負けず努力・友情・勝利!するお話です。

 主人公の黒鉄一輝君はそりゃもう善人で、努力家で、ちょいとドM過ぎない?って思う位には不屈でトラウマとかも持ってるという「あー確かに主人公だなー」と思う程度には得意分野では高スペックな少年だ。

 所でさ、よく転生憑依ものとかあるじゃん?

 その中で主人公始めその登場人物になってしまうとか。

 それで転生特典とかオレTueeeeeeee!とかやりたがるけどさ、ちょっと待ってほしい。

 

 誰が好き好んで艱難辛苦を味わいたがるのだろうか?

 

 「一輝、お前に才能は無い。黒鉄家のために何かをする必要はない。」

 「じゃぁ、それ以外は好きに生きて良いの?」

 「あぁ。伐刀者以外の道ならな。」

 「ん。じゃぁそれ以外で生活するね。」

 

 こうして、原作主人公(中身別人)が不在のまま、物語が進むのであった。

 

 

 ……………

 

 

 妹を含む誰にも特に挨拶も何もする事もなく、手提げ鞄一つだけと身軽すぎる荷物を持って、父との会話の翌日には一輝(偽)は出て行った。

 黒鉄家から出た一輝(偽)はそのまま引っ越し、一人暮らしをしながら中高と国内の伐刀者とは特に関係の無い学校へと進学したのだった。

 とは言え、全てを止めた訳ではない。

 只でさえきな臭い国際情勢で第三次世界大戦が起こる確率が高いこの世界、戦う力が無いのは不利にしかならない。

 となれば、あれこれと逃げ回るためにも鍛えておいて損は無い。

 まぁ魔力ランクFなので、早々簡単に何かが出来る訳ではないのだが。

 

 (こんな事なら桐原一矢の方が良かったかなぁ。)

 

 原作での噛ませ犬役を思い出す。

 彼の伐刀絶技はステルスだった。

 完全展開に時間はかかるし、対象の五感からは感知されなくても第三者やカメラ等からは見えてしまうものの、その能力はこと生存性に関しては素晴らしいものがある。

 どうせならそっちの方が良かった、と一輝(偽)は思う。

 しかしまぁ、この状況も考えてみれば悪くない。

 

 (何せFランクとは言え、「連盟の課す義務に縛られない」んだし。)

 

 無論、無許可の霊装の展開及び伐刀絶技の発動は禁止されている。

 しかし、「ばれなければ犯罪じゃない」のだ。

 

 (と言う訳で、気配遮断及び基礎体力、後は魔力制御による魔力の迷彩かなー。)

 

 そんな事を考えながら、一輝(偽)は平和な学校生活を楽しむのだった。

 

 

 ……………

 

 

 「やはり、回避は不可能か…。」

 

 現日本国総理大臣である月影 獏牙は苦悩を顔中で表わしながら、苦み走った呟きを漏らした。

 彼もまた伐刀者であり、嘗ては教鞭を取る立場だった。

 しかし、彼の持つ「月天宝珠」による過去視、そして時折垣間見る未来視によって見てしまった東京壊滅を防ぐために教師から総理大臣となった異色の人物だった。

 そんな彼が今悩んでいるのが、おそらく東京壊滅の直接的原因となるであろう第三次世界大戦に関してだった。

 

 (分かってはいたが、第三次大戦そのものを回避する事は出来ない。)

 

 10年前から始まった彼の足掻きは、しかし行き詰っていた。

 

 (このままでは日本が滅ぶ…!)

 

 状況は劇的に悪化する事は無いが、しかし確実に負の方向へと向かっていた。

 獏牙の政策で経済等は上向きだし、何とか即座に破綻する事態は回避しているが、一向に好転する事が出来ない。

 

 (なんだ、何が足りていない。)

 

 まるでパズルにおいて、重要なピースを忘れたまま完成を目指している様な、そんな暗中模索の状況に、獏牙は頭を悩ませ続けるのだった。

 

 

 彼は知らない。

 この世界の主役となる者が欠けてしまっている事を。

 その人物が今後も表舞台に出るつもりが無い事も。

 彼は知らない。

 この世界には既に、ハッピーエンドになるための道筋が無い事を。

 彼はまだ、知らなかった。

 

 

 ……………

 

 

 4年後、日本国内某山中

 

 「んー、今日も良い天気だなー。」

 

 のんびりとした様子で、山中にある目立たない様に迷彩塗装された小屋の前で、一輝(偽)が太陽の光を目一杯浴びながら伸びをしていた。

 一応電波も通っているし、ネットも完備、電力は川からの水力と風力に日光で、緊急用の発電機や蓄電器等その辺りも抜かりはない。

 高校時代からのバイト代と例年の副業で稼いだ金で、一輝(偽)はこうして俗世から離れて(=孤立して)心穏やかに過ごす事が出来ていた。

 世間では第三次世界大戦の勃発やら、解放軍の首領の復活やら、魔人の存在がどーたらと言っているが、アニメさえ放送してくれていたら一輝(偽)としては文句は無い。

 

 「さってと、畑仕事に行くかなー。」

 

 鍬とバケツに如雨露と、いつもの農作業具一式を担いだ一輝(偽)はのんびりとした足取りで畑へと向かうのだった。

 

 

 ……………

 

 

 一年前、日本国内大阪某所

 昼間は七星剣武祭に沸くこの街だが、夜には各国各勢力の工作員がそれぞれの思惑のために跋扈する無法地帯となる。

 そんな魔都と化した夜の大阪のとある路地裏は今、凄惨な有様になっていた。

 

 「…………。」

 

 そこは10人以上の死体が転がっていた。

 その全てが鋭利な刃物で首を一撃で綺麗に落とされ、絶命していた。

 今この事態を作り出した者、量販店で買えそうな安物の黒い雨合羽とマスク、それにサングラスを付けた下手人はごそごそと死体の懐を漁り、財布を取り出していた。

 

 「お、ひのふのみの……10万円とは幸先が良いな。」

 

 ほっこりしながら使い古しのそれらを懐へと収め、もう満足したのかそれとも漁り終わったのか、気配を殺して周辺の空気と同化して姿を隠す。

 彼は夜の七星剣武祭が始まる頃、毎年会場となる街に訪れ、夜に各工作員らが集まり出すと、こうして狩りをして荒稼ぎしていた。

 血濡れ仕事(ウェットワーカー)をする者達にとって、ここ数年の七星剣武祭は死と=であり、誰もがこの街に来る事を嫌がった。

 日本の警察にしても、開催期間中は入国記録のない外国人工作員不特定多数の死体を一々見分しなければならないので、イベント中の治安維持もあって仕事に忙殺されていた。

 無論、連盟から多数のプロの伐刀者達が派遣されているのだが、彼らの努力を嘲笑うかの様に深夜の殺戮劇は例年の様に続いていた。

 

 「くそ、ここもか!」

 

 そこに一人の警察官がやってきた。

 

 「こちら加藤!○丁目の路地裏でも確認!見える範囲でも10人はやられている!至急人を寄越してくれ!」

 (お仕事ご苦労様です。)

 

 内心でそう呟きながら、雨合羽の下手人=一輝(偽)はその場を去っていった。

 ここ数年、彼にとって七星剣武祭の夜はこうして副業に勤しむ日となっていた。

 何せ相手は非合法工作員であり、幾ら血祭りに上げた所でばれなければ狙われる事も無いし、何より何をした所で良心が咎める事も無い。

 また、一般人では有り得ない程の金を持っているので、実力とか背後関係を除けば物取りの対象としては実に美味しいのだ。

 

 (ま、それもこれも圏境を習得できたからなんだけど。)

 

 日々の気配遮断を常態とした上での修行、そして目立たぬからと続けていた瞑想。

 そして何よりこの世界の理の外にある魂を持っていたが故に、一輝(偽)は剣術に加え、並のアサシンを遥か彼方に置き去りにする程の気配遮断技能、即ち「圏境」の習得を可能としたのだ。

 

 (さーて今夜はこんな所でおさらばおさらば。)

 

 この頃は相手も警戒して集団でいる事も多く、一瞬で気付かれずに音もなく全員の首を落とすのが難しくなっている。

 その上、今夜は既に30人程ヤッたので、これ以上の収穫は無理だろう。

 

 (じゃ、また明日ー。)

 

 こうしてまた一歩、一輝(偽)は楽隠居生活へと近づくのであった。

 

 

 彼は知らない。

 自分の不在がどんな状況を招くのかを。

 彼は知らない。

 自分の能力が既に限界を突破して魔人の領域にある事を。

 彼は知らない。

 魔人であるのにその気配遮断によって、他のどの魔人にも知られていない事を。

 習得した燕返し、三段突き、抜刀術、遠当て、戻し切り、空間切断に概念切断等。

 習得した己の数多の技が、人知を超えた魔技である事を。

 

 彼は何も知らない。

 知らないまま、この世界の片隅でひっそりと生きている。

 

 

 

 



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落第騎士に転生した話 その後

 東京が壊滅したってさ → へー。

 アニメ会社や出版社にテレビ会社も壊滅! → うん?

 だからアニメも放送できないって! → は?(威圧)

 

 なので、久々にガチ切れした一輝(偽)はそれをやらかした同盟と解放軍の東アジア方面の主力部隊を根こそぎ「誰にも気づかれず全員暗殺」した後、その次の日にはその上層部の人達を滅っ!したのでした。

 後、首相が同盟よりだからって反乱かましてた国内の連盟派の騎士さん達も邪魔だったのはおまけに滅っ!された模様。

 

 しかし、アニメは戻ってこない。

 それはつまり、晴耕雨読+修行の日々が帰ってこないという事。

 

 ネットも東京周囲の回線やサーバーが壊滅したためにネットゲームは出来ず、通販も同様。

 辛うじて地方の局やサーバー、運輸網は無事だったものの、嘗ての楽隠居状態に戻るには今暫しの時間がかかる事だろう。

 え?そうなる前にどうにかしとけって?

 断る。(きっぱり)

 何が悲しくて魔導騎士なんて面倒なものになった挙句国の飼い犬(=公務員)になってデスマーチ業務に参加せなあかんのよ?

 お金も特に困ってないし(強盗殺人三桁)、衣食住も同様(放置された山に勝手に居住+建築)、アニメさえあれば良し(通信料各種はしっかり払ってる)。

 そして何よりインフレしまくりつつも強さこそが尊ばれるこの世界、自分の強さが判明して面倒事を引き寄せるのは確定的に明らか。

 なので楽隠居してたんだけどさー。

 

 「頼む、君の力を貸してほしい!」

 

 まさかのまさか。

 自分の下までやってきて土下座してまで助力を乞われる日が来るとは思ってなかった。

 このおじさんの名は月影獏牙。

 偶にはニュースも見る一輝(偽)も当然知っている現日本国総理大臣だ。

 この人、元々同盟側への所属を表明して被害を少しでも食い止めようとしたんだけど、国内の連盟派の騎士達が反乱起こして内乱状態になった所を解放軍がしっちゃかめっちゃかにして結局東京壊滅させてしまった人だ。

 が、現状選挙なんて出来る状態でもないので、この戦争の後処理の目処が立つまでは続投させられてる苦労人だ。

 まぁ、この人の悩みを何割か増やしたり減らしたりした身としては、ちょっとだけ罪悪感を感じてしまうのだが。

 

 「君の生まれも、この場所に好んで隠遁している事も知っている!その生活の邪魔をする事を承知して頼む!何とかこの国に助力してくれないだろうか!」

 

 一目見て分かる。

 絶望して立ち上がって苦労して挫折してそれでも立ち上がって、自分の寿命も何もかも擲って頑張ってきた社畜のオーラがこの総理大臣から立ち上っていた。

 ここで一輝(偽)が断った所で、彼はまたいつもの様に頑張り続け、走り続け、そして死ぬまでそんな感じなのだろう。

 

 (それは少し嫌かなー。)

 

 珍しく真っ当な善人と言うものを見たせいか、ナチュラル外道で基本他人を意識しない一輝(偽)には極めて珍しく仏心が湧き出した。

 

 「んー、日本国首相じゃなく、月影獏牙さん個人の頼みなら聞くよ。オレに問題が無い範囲で。後、給料お願いね。」

 

 この時から、それなりに長くなる二人の関係が始まった。

 

 

 ……………

 

 

 そこから話は迅速だった。

 

 何せ人類史上最強のアサシンとの直接契約なのだ、色々と話は楽に進んだ。

 先ず各勢力の主だった魔人達が死んだ。

 同盟も解放軍も連盟も関係ない。

 各国・各勢力の魔人達が死んだ事でパワーバランスが変わり、何処も決め手に欠ける様になってしまったのだ。

 これは軍事を伐刀者と言う個人戦力に頼っていた弊害でもあった。

 十分な訓練と装備さえあればある程度は戦力としてカウントできる通常兵力と違って、伐刀者は千差万別にして玉石混交であり、戦力化にやたら時間がかかるのだ。

 元々国力の高い同盟側は兎も角、元々小国の集まりだった連盟側には致命的だった。

 結果として発生したのは戦線の停滞と混乱。

 加えて、既に戦力化可能な伐刀者が払底状態だった所に旗頭となる魔人の喪失である。

 とは言え、通常兵力だけでは第二次大戦よろしく敵方の伐刀者に蹂躙されるのみ。

 最早どの勢力も大規模攻勢を行える状態ではなかった。

 

 これこそが好機だった。

 

 この事態に対し、日本は結局助けてくれなかった同盟を実質見限り、加盟こそしているものの活動の縮小を宣言した。

 要は名前だけ載せてる状態となり、連盟派との内乱と首都荒廃を理由に戦力の派遣の中止を宣言したのだ。

 なお、この時点で実力行使に出た連盟派の騎士達は全て一輝(偽)によって滅っ!されている。

 困ったのは同盟だった。

 彼らからすれば漸く念願叶った西太平洋最大の経済国家の参加なのだ。

 確かに色々出遅れたが、此処で一抜けされたら困る。

 それは連盟にしても同じだった。

 今の首相になる前は元々連盟加盟国であり、高錬度の伐刀者を多く保有する日本に抜けられたらアジア方面の戦線が完全に瓦解するからだ。

 故に両勢力は日本を引き込もうと硬軟織り交ぜた外交攻勢に出た。

 この状態を好機と見た月影首相は両勢力から首都復興のための多大な支援を捥ぎ取り、逆に脅迫したり実力行使しようとする輩には狂犬(=一輝(偽))を解き放つ事で対処した。

 こうして始まった復興は日本人特有のスクラップ&ビルドにより、嘗てを超えるべく新たな都市計画が策定され、巨大規模の公共事業が始まった。

 これには連盟派への(個人による)粛清に巻き込まれず、同盟側だが戦力化の終わってない伐刀者らも多く駆り出され、多大な活躍をする事となる。

 結果、僅か3年で壊滅状態だった東京は何とか首都としての機能を回復し、15年で全ての工事を終えた時にはすっかりアジア地域最大の経済都市として新生していた。

 無論、そうなるまでには多大な妨害が入ったものの、その多くはたった一人の剣客によって表に出る事なく切り捨てられた。

 こうして、日本はまた経済大国にして娯楽大国として復活したのだ。

 この様子に各国は「また日本が頭おかしい真似して成功してる」と言うのだった。

 

 

 ……………

 

 

 さて、復興も一段落して月影首相も仕事を終えたとして政界からほぼ引退した頃。

 

 「一輝君、最近落ち着いてきたんだし、家政婦でも雇わない?」

 「何です、藪から棒に。」

 

 一輝(偽)の小屋にちょくちょく顔を出す元首相の言葉に、一輝(偽)が頭を傾げた。

 

 「いやね、君に会いたいって子がいてね。事情が事情だし、一度会ってみないかなと。」

 「……お見合いとかは無しですよ。」

 「無論、君の嫌がる事はしないさ。」

 

 しかしまぁ、ここ何年か忙しかったので、そろそろゆっくり積んだプラモやゲーム、ラノベを消化したいとは思っていた。

 そんな時に家政婦の話である。

 色々と助かるが、勘ぐるなと言われても困る。

 

 「取り敢えず、一度だけ会ってみてくれ。駄目なら駄目で良しとするから。」

 「お願いしまーす。」

 

 そういう事になった。

 

 

 この時、一輝(偽)は知らなかった。

 自分が連盟派の中心人物だった黒鉄厳及びその親戚一同をそうとは知らず(顔も忘れてた)切り捨てていた事を。

 ついでに解放軍で魔人化してた王馬もさっくり暗殺していた事を。

 ただ、妹の珠雫だけは年齢を理由に後方の比較的安全な場所へと送られて生き延びていた事を。

 そして、珠雫は嘗て剣術の基礎を厳しく指導してくれた次兄に対して初恋をしていた事を。

 行き場もなく、家族も死に絶え、友人の殆どもいなくなって孤独な珠雫に同情し、結局は家政婦役として一緒に住む事になる事を。

 そんな状態で生き残った唯一の兄からの優しさにトゥンクした珠雫が原作以上のヤンデレ発揮して一輝(偽)の貞操を狙い始める事を。

 二年後、ついうっかり強い酒(媚薬入り)を飲まされてしまい、二人が禁断の一線を越えてしまう事を。

 死んだ目になりながらも、何だかんだ子宝にも恵まれた上に孫の顔まで見る事になる事を。

 

 まだ、この時の一輝(偽)は知らなかったのだ。

 

 

 

 

 

 後年、老いた彼はこの時の事をこう回顧している。

 曰く、「昔の自分に会ったら、助走して蹴り入れてでも止める」、と。

 

 




珠雫「大勝利」

ステラ姫?学園長?合法和ロリ?
一輝(偽)の魔人狩りで全員死亡してます。
他主要キャラも殆どが戦争or暗殺で死んでます。
一輝本人にはアンチとかヘイトとかは一切なく、「邪魔だから殺した」だけ。


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落第騎士になった話リトライ

 気づいたらラノベの主人公にまた転生しました☆

 

 ……………嘘だと言ってよバーニィ!

 前世では折角楽隠居できてたと思ったら、最大の趣味であるアニメの放送が東京壊滅で無期限中止されてしまった挙句、出版社やプラモ等の会社も軒並み無期限営業停止にされたんで激怒して敵勢力の主力と首脳部を根切りしてさぁまた隠居と思ってたのにさぁ…。

 何か過去視(時々未来視)できる首相に土下座で頼み込まれてあちこち行脚してアホを切り捨てる日々。

 それは良い、そこまでは良い。

 何だかんだで趣味の時間も鍛錬の時間もあったしね。

 問題はその後だ。

 

 何が悲しくてこっちの世界の実妹と禁断の関係にならなあかんのや(白目)

 

 確かに他の親族一同斬り殺したのはオレだけどさ? ← 後から思い出した

 身寄りがないのが可哀想だと思ったのも本当だけどさ? ← 今更ながら罪悪感が湧いた

 だからって初恋拗らせた挙句ヤンデレメンヘラ発揮して媚薬仕込んで押し倒してくるとか予測不可能やろ?(震え声) ← 初めてが実妹からの逆レ

 再会させた首相もこれには茫然自失するわなそりゃ。

 しかもばっちり狙ってたからうっかり子供も出来ちゃったしね!(白目)

 気づいた時には既に遅く、すっかり堕胎可能な時期は過ぎてました…。

 一応回復系の伐刀絶技持ちなら何とか出来るかもだけど、堕胎させるのにそんな人達を雇うのも、無益な殺生も避けたかった。

 ので、元が付いた首相の最初の大仕事は戸籍の偽造でした。超ごめんなさい…!

 そんで、正式に住んでた山の権利の購入とか一人暮らし向けの家を家族向けに立て直しとかてんやわんや。

 そうこうする内に生まれた第一子は健康そのものな女の子でした。

 初産の時は不安で胃が捩じ切れそうだったものの、やはり赤ちゃんは、自分の血を引く我が子とは可愛いもので。

 こうして、オレの世捨て人生活は終わりを告げてしまったのでした…。

 そっからは表に出せない要人警護や暗殺を生業としながらも元妹現嫁と娘のために頑張る日々。

 今思えば、まぁ最後はそれなりに穏やかな人生だったかもしれん。

 まぁその後も元妹現嫁がやらかして何だかんだ子供が合計4人も出来た事は流石に我ながらやり過ぎだったとも思うが。

 倫理観吹っ飛んだ&もう一回やったんだから後はもうえぇじゃないと思ったのが悪かったな、うん(目逸らし)

 まぁ最後は子供たちがちゃんと独り立ちして結婚して家庭築いたのまで見届けたんだし、良しとしておこう。

 

 で、広くなってしまった山の中の家の縁側で日向ぼっこしてたら大往生して、気づいたらまた転生してました。

 

 えぇ加減にせいや(激怒)と思ったものの、あれ?今度こそ自身の望んだ楽隠居生活を最後まで完徹する事ができるんじゃね?と思い至り、内心でガッツポーズを取る。

 よし、今度こそのんびりすんべ!と思った一輝(偽)は相変わらず魔力だけは無い身体で自己鍛錬に向かうのでした。

 

 

 ……………

 

 

 そんな彼が3歳の頃、既に周囲の黒鉄家の人間は彼に近寄らず、ネグレクトを訴えられても仕方ない状況の中、妹である珠雫と出会った。

 今回は前回の様な事にならないように意図的に接触を取っていなかったのだが、彼女は何故かにっこりと微笑んで、その場から直ぐに去ろうとした一輝を呼び止めた。

 何故か常に彼女の回りを固めている筈の護衛達はいない。

 そんな状況で彼女の言った一言は、彼にとって何よりも重たく頑丈な鎖となって縛り付けた。

 

 「またお会いしましたね、“旦那様”。」

 「マジかよ。」

 

 そのたった一言に相手が誰なのかを悟った一輝(偽)は天を仰いだ。

 この世に神はいねぇ。

 もしいても斬り捨ててやる。

 抱き着いてきた現妹元嫁を抱き締めてその頭を撫でながら、彼は信じてもいない神様を罵倒した。

 

 

 ……………

 

 

 そこから先は早かった。

 以前よりも早いタイミングで一輝は黒鉄家を出て行く事となったからだ。

 原因は珠雫の一輝への懐き具合が以前よりも更に酷くなっていたからだ。

 親族一同もこらあかん(滝汗)と思ったのか、丁度養子を探していた人物に里子に出される事となった。

 その名前が当時は未だ議員の一人であった、月影元首相。

 

 「やぁ探したよ。またよろしく頼むよ。」

 「それは良いけどさ、妹もこっち来てんねん。」

 「Oh……。」

 

 再会時の会話からしてこれである。

 後は勝手知ったる間柄。

 とは言え、一応親子となったので、諸々の手続きを恙無く済ませた上で、中学卒業程度認定試験を受ける事となった。

 

 「いや何でですか?」

 「君、数学とかは色々抜けてるだろう?その辺は元教師としては見過ごせなくてね。」

 「ぬぬぬ…。」

 「取れれば高校入学までは好きにしてもらって良いから。」

 

 と言う訳で家庭教師雇ってもらって頑張って勉強しました。

 で、丁度一か月後にあったので無事に合格もらって自由の身に。

 その間、世界中を旅してくる事にしました。

 ……国内だと清姫も斯くやのヤンデレメンヘラ妹に追いかけられるからね、仕方ないね。

 

 「所で、何で高校入学?」

 「正確には、私の方で国立の伐刀者育成学園への入学だがね。」

 「あー暁学園でしたっけ?」

 「うむ。君にはそこで最大の見せ札になってもらう。」

 「へ?良いんですか?」

 

 言っては何だが、一輝(偽)の存在は正に鬼札だ。

 どんな所でも潜り込めるし、どんな相手でも暗殺できるし、どんな軍勢であっても殺し尽くす。

 剣士や騎士、侍としての矜持等持たないからどんな汚れ仕事も必要とあらば幾らでもこなす。

 そんな存在が完全に秘密裏に存在している。

 即ち、警戒も対策も罠も反撃もない。

 勿論、嘗ての実妹のやらかしによって毒物にまで耐性を獲得してみせた一輝(偽)に対して徹底的に対策をした所でどうしようもないのだが、それでも隠しておいた方が分かる範囲でのメリットは大きい様に見える。

 

 「あぁ。どうやら、君を見せ札にした場合、東京壊滅を防げる可能性がとても高いようでね。」

 「やりましょう。」

 

 即決である。

 異論なんてない。

 オタクにとって東京壊滅とか絶対に許されざる事態、断固として拒否する。

 そんな鉄の意志が感じられた。

 

 「その言葉が聞きたかった。と言う訳で、高校入学の半月前には日本にいてほしい。」

 「分かりました。それまではあちこちほっつき歩いてますね。」

 

 取り敢えず、そういう事になった。

 

 

 ……………

 

 

 それからの5年間は刺激的ながら楽しい時間だった。

 元首相現義父に頼んでパスポートと旅費を用意してもらってからは、世界中をほっつき歩いた。

 先進国も、途上国も、大国も、小国も。

 そして同盟、連盟、解放軍も。

 定期的にアニメ放送してる国に寄っているのはオタクとしての習性だから仕方ないが、それ以外は本当にあちこち寄った。

 まぁ某半島の国は飯も不味いし治安も悪いしアニメもパクリばっかなので行かなかったが。

 道中、本家で何度か見かけただけの兄?が喧嘩売ってきたのでダルマにしたり、魔力の糸で人形を操るピエロがからかってきたので三日かけて本体まで追い縋って両断したり、因果干渉が暴走状態で何をしても成功するというお嬢さんの因果を切断したり、剣聖(笑)とか言うのが喧嘩売ってきたので唐竹割したり、同盟がこっちを勧誘してきて断ると指名手配してきたので逆にそれを決めた連中を全員輪切りにしたり、勧誘してきた連盟を無視してたら現れた合法ロリが拘束しようとしてきたので相手の伐刀者としての力を斬って(手加減したんで一週間で戻る)丁度一人旅も飽きてたから一緒にあちこち旅して、途中良い雰囲気になった&酒飲んでムラムラしたのでうっかりお手付き(隠喩)したりしたけど……まぁ些細な事だよね!

 一番驚いたのは、現首相兼義父が「やっぱりなー」って顔しながら色々事後処理してくれた事だけどね。

 ねぇねぇ義父さん、あんた絶対にトラブル起こる事分かっててオレを旅に出したよね?ね?

 

 「そりゃねぇ。君みたいな逸般人が旅して何か起こらない訳が無いし。」

 「何か老獪ぶりに拍車かかってません?」

 「二周目だからねぇ。」

 「処で某合法ロリに関して一言。」

 「君、ロリコンだったの?」

 「ちゃうんや(震え声)。胸の大きさよりも全体のバランス重視なんですよワイ。」

 

 確かに珠雫も全体バランスがほっそり引き締まってて良かったけどさ!

 でも客観的には全く言い訳できねぇ!

 

 「彼女、未だに君を探してるからね。」

 「やっぱり?」

 「そりゃねぇ。」

 

 そろそろ高校入学のための準備あるから帰っておいで、と現首相兼義父の連絡で帰る時、合法ロリこと西京寧音は適当な事言って置いてきたのだ。

 なお、その時の会話だが…

 

 『あ、父さんがそろそろ帰ってこいって。』

 『ふぇ!?じゃ、じゃぁ私も準b』

 『じゃ、後は達者でね。縁が有ればまたねー。』

 『え、ちょ』

 

 直後、縮地&圏境で離脱。

 まぁ仮にも魔人なんだし、早々死ぬ事も無いよね!

 

 「いい加減彼女も適齢期だから、貰ってくれない?」

 「国内で魔人大戦起きるかもですが?」

 

 ヤンデレメンヘラストーカーな清姫系実妹兼元妻な珠雫もあの一度目の世界では最終的に魔人へと到達した一人だった。

 それは彼女が一輝(偽)の下で修業してからの事。

 ナチュラルに過酷過ぎる鍛錬をしている一輝(偽)に釣られて修行した結果だった。

 

 「君なら問題なくどっちも鎮圧できるでしょ?」

 「出来ますけどねー。」

 「ま、君自身が撒いた種なんだし、頑張ってね?」

 「合法ロリは兎も角珠雫は…。」

 「被害の補填はこっちでやっておくから、ね?」 ← 目逸らし中

 

 そんな訳で、一輝(偽)は暁学園へと入学したのだった。

 

 「何これ高校の数学ってこんなムズイの!?」

 「今まで遊んでたんだし、これ位はね。」

 「チックショー!!」

 

 最初に始めた事は、授業についていくための勉強だったが。

 まぁ学校だからね、柵はあるから仕方ないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どこ……おにいさま……どこ……しずくはずっと、おにいさまが……。」

 

 

 「どこ……いっき……もうおこんないから……ひとりはやだ……いっき……。」

 

 

 

 



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落第騎士になった話リトライ その2

 「貴様、よくもオレの前に顔を出せたな…ッ!!」

 「あれ、誰だっけ?」

 

 解放軍からの雇われ&月影首相が招いたメンバーとの顔合わせの場は、一輝(偽)の一言により凍り付いた。

 

 「あー一輝君、王馬君は出奔したとは言え君の実兄だよ?」

 「………………………………………………あぁ!」

 

 ポンと拳を手に当てて思い出す一輝(偽)。

 どうやら素で忘れていたらしい。

 和装の王馬、作務衣の一輝(偽)。

 激怒する兄とのほほんとした弟は実に対照的だった。

 

 「貴っ様…!!」

 

 対して、ぎりぎりと歯ぎしりしながら今にも抜刀しそうな王馬の周囲からは被害を警戒した他の人員が速攻で距離を取る。

 誰だって台風には近づきたがらないのだから当然だ。

 

 「貴様がオレにした事、忘れたとは言わさんぞ!!」

 「そーいえば前会った時も喧嘩売られたから斬ったけど、その時も途中で兄だって思い出してダルマにするだけで終わらせたんだっけ。」

 

 あーそんな事もあったなー、と一輝(偽)は完全に昔の話、過去の事として語っている。

 が、対面している王馬の顔色は怒りの余り真っ赤を通り越して青黒くなっている。

 

 「そー言えばワタクシともお会いしておりますよね?」

 「あ、100km先から人形操ってた人。駄目だよ、あんないたずらしちゃ。」

 

 オルゴール内蔵の道化師の人形、今は平賀 玲泉と名乗っているその操り手は嘗て一輝(偽)にちょっかいをかけてえらい目にあった一人だった。

 

 「ははは、まさか100km先まで追ってくるとは思っておりませんでしたよ、えぇ。」

 

 偶々滞在先でアニメ映画を鑑賞していた一輝(偽)の妨害をしたがために一撃で人形を破壊され、しかも糸の先にいる本体目掛け追跡され、3日間延々と追い回され、追い詰められた果てに下半身と上半身が泣き別れさせられた事があった。

 普通なら実力者であっても100km先と言う凄まじい遠距離からならば大抵は諦めるのだが、この一輝(偽)は基本自分の趣味を邪魔する者は容赦しない。

 身内を除けば一回殺さない限りは絶対に許す事はない。

 故に100km先で悠々としている馬鹿の位置を圏境の応用である世界への溶け込みによる気配探知で探り当て、目的地まで縮地&圏境で駆け抜けたのだ。

 無論、霊装である糸によって一輝(偽)が追跡に移った事を辛うじて悟った平賀は驚きつつも何とか逃げ出そうとしたのだが、移動手段(電車・車・飛行機その他)の悉くを両断され、這う這うの体で逃げ回るも三日間無休憩無補給では如何に伐刀者であっても限界がある。

 結果、彼は体力・魔力が限界になった所でさっくりと輪切りにされたのだった。

 まぁ自身の糸で縫合して何とか一命を取り止めたのだが。

 

 「流石に懲りましたので、私から貴方の方に手を出す事はありませんよ。」

 「ん、了解。取り敢えずよろしくね。」

 「では挨拶も終わった所で横をご覧下さい。」

 「んー?」

 

 そこには無視されて怒りのボルテージが上昇してすっかり顔色が黒くなった王馬君の姿が!

 

 「表に、出ろ。」

 「あいよ。」

 

 そういう事になった。

 現首相兼義父?

 平静なままに医療班の手配してましたよ。

 

 

 ……………

 

 

 「貴様に与えられた屈辱、オレは決して忘れなかった。」

 

 暁学園の訓練場、そこで王馬と一輝(偽)は立ち会っていた。

 それを見るのは雇われた解放軍の面々及び手隙だったこの暁学園の関係者(=連盟の方針に思う所がある連中&面倒見切れないとされた問題児で構成された関係者各位)の姿があった。

 

 「貴様を打倒するため、新たな鍛錬を積んできた。最早無様は晒さん…!」

 「じゃ、何時始めるー?」

 

 怒り心頭の状態からやや平静さを取り戻した王馬の言葉を、しかし一輝(偽)は意に介さない。

 “多少”鍛えて固くなった程度である事を既に見抜いていたからだ。

 また、魔力量は増えていないし、足運び及び筋肉の付き方から想定される身体能力も相変わらずの剛剣では、自分に触れる事すら出来ない。

 そして、今周囲に気付かせない様に渦巻いている大気の流動も、以前よりは素早く精密だが、その程度でしかない。

 

 「無論今だ!」

 

 王馬の言葉と同時、一輝(偽)を中心とした周囲の大気が回転、局所的な竜巻が発生してその中心の大気が上空へと飛ばされ、中心の気圧が瞬間的に低下した。

 低気圧の場所は通常よりも大気が薄く、それ故に周囲から大気が流入してくる。

 だが、その際に流入してくる大気が高分圧(=混合気体において、ある1つの成分が混合気体と同じ体積を単独で占めたときの圧力)のほぼ純酸素であればどうなるだろうか?

 局所的な竜巻で身動きを抑えられ、しかも毒ガス同然の気体を周囲へと流し込まれる。

 大凡初見ではどうしようもないそれは、王馬が頭を捻って試行錯誤した技の一つだった。

 

 「はい、お疲れ様。」

 

 しかし、竜巻の中に一輝(偽)の姿は無く、その声は王馬の後ろから響いていた。

 

 「な」

 

 王馬は自身の風による探知をすり抜けた事に驚いて振り向き、しかし、身体に力が入らず、そのまま仰向けに倒れ込んだ。

 そして、倒れ込んだ彼の視界に入るのは、鮮血を吹き出す自身の下半身だった。

 

 「ばかな」

 

 入りも抜きも見えなかった。

 だが、確かに自分の弟は自分が探知するよりも早く動き、斬られた側に気付かせぬ程の技巧と速さを以て自身の胴体を両断した。

 常人の50倍の筋・骨密度を持つ自分の体とそれを上から覆う風の鎧兼ギプスごと。

 

 「次は技も鍛えなよ。」

 

 そういう一輝(偽)の手に得物の姿はない。

 必要な時、必要なだけ使い、それ以外の時は決して出さず使わない。

 己のためなら何であっても斬り捨ててきた彼なりの、それが戦の時以外の信条だった。

 無論、対策の阻害及び正体の隠蔽のためでもあるのだが。

 そんな彼は珍しく斬り捨てた相手を忘れる事なく声をかける。

 それはきっと、幼少時に彼を迫害しなかった数少ない者への礼儀だったのかもしれない。

 

 

 ……………

 

 

 「とっても素敵でしたよ一輝さん!」

 

 医療班に王馬を任せ、誰もが唖然とする中で一輝(偽)は顔合わせも済んだ事だし、と学園内に用意されたという自身の部屋へと向かう事にした。

 先程の初対面の時と同様に既に強者としての気配は完全に消えている。

 だが、誰も声をかけてくる事はない。

 王馬は彼らの中でも確かに実力者であり、その彼がああまで一方的に瞬殺されたのでは、警戒が先立つのも仕方ない。

 そして、一瞬だけ漏れ出た格上に過ぎるその気配、勘の良い者はその隔絶した実力に冷や汗をかいていた。

 彼らが束になった所で瞬殺され……否、斬られた事すら気づかずに死ぬだけだと漸く気づいたのだ。

 そんな中、喜色満面で駆け寄ってきた者が一人いた。

 以前伐刀絶技が暴走状態であった所を助けた少女だった。

 名を紫乃宮 天音、『凶運』の二つ名を持つ中性的な少女である。

 

 「ん、天音か。どうした?」

 「どうしたもこうしたも挨拶ですよ!こんにちは!お久しぶりです!」

 

 元気いっぱい、天真爛漫。

 嘗てはその内側に邪念を抱いていた彼女は、しかし一輝(偽)によってその原因を斬り祓われ、すっかりと丸くなり、年相応(よりも一見して幼く)になっていた。

 

 「おう、久しぶり。元気そうでなによりだ。」

 「はい、一輝さんのお陰です!にしても、一輝さんって月影首相の息子さんだったんですね。似てませんけど。」

 「うん、養子になったんだ。忙しいけど、とても良い人だよ。」

 

 内心でほっこりとしながら、一輝(偽)は天音と連れ立ってその場を後にした。

 

 

 …………… 

 

 

 翌日

 

 「すぅ…すぅ…。」 

 「」

 

 よし、先ずは確認しよう。

 盛大に焦りつつも、自室のベッドの上で天音と共に横になった状態で一輝(偽)は内心で呟いた。

 

 

 

 さて、昨夜あった出来事を説明しよう。

 ここ数か月、入学試験のために家庭教師と共に缶詰になって勉強していたせいで、気晴らしがしたかった一輝は部屋にお酒を持ち込んでいた。

 とは言え、度数の軽いものしかなく、つまみと一緒に録り溜めしていたアニメを見ながら晩酌する予定だった。

 そこに夕飯も一緒だった天音が酒を持参して現れ、以前布教した事もあり、晩酌しながらアニメ鑑賞を共にしていたのだ。

 話が拗れたのはそこからで、天音が一輝(偽)の酒を気に入ったらしく全て飲んでしまったのだ。

 そして、お詫びにと持参した酒を一輝(偽)に勧めたのだ。

 その多くは口当たりの良い飲みやすいワインかジュースみたいなカクテル類だったのだが、そもそも酒自体がそこまで得意ではない一輝(偽)は必然的にカクテルの方を好んで飲んだ。

 飲んでしまったのだ。それらが所謂レディーキラーと言われる“女性でも飲み易いが度数が高くて酔い易いカクテル”だと知らず。

 後はアニメに夢中になっている一輝(偽)にどんどん酒を注ぎ足していくだけで良い。

 内心を一切表に出さずに輝く程の笑顔でこの策を実行した天音は、内心で笑いが止まらなかった事だろう。

 そして前後不覚に陥り、最近のあれそれで欲求を解放していなかった一輝(偽)を誘惑する等、中性的な美少女であり、一輝(偽)自身には直接効かずとも常に最適な行動を提示してくれる伐刀絶技「過剰なる女神の寵愛」の使い手にとっては実に容易い事だった。

 大恩人であり、初恋の相手であり、そして何よりも欲した人。

 伐刀絶技を封じられた自身に害を成そうする有象無象の全てを切り伏せた、自分にとってのただ一人のヒーロー。

 そんな人を手に入れるのに、手段なんて選んでいられなかった。

 

 

 

 そして、気づいたらご覧の有様である。

 

 「……。」

 

 そっとタオルケットを捲り、その下を確認する。

 すると、やっぱりと言うか全裸の自身と全裸の天音、更に情事後特有の生臭い匂い。

 そして何よりも昨夜零れたであろう小さな血痕が雄弁に語っていた。

 「お前、また手を出したんやで」と。

 

 「ふわぁ……あ、一輝さん。」

 

 ぽっと頬を染めた天音がシーツを手繰り寄せて体を隠す。

 如何にも初心な乙女の仕草だったが、見る者が見ればその全てが計算尽くである事が分かっただろう。

 しかし、今の茫然自失した一輝(偽)は気づけない。

 戦闘時なら一瞬で虚偽に気付くと同時に敵を切り捨てる彼も、プライベートでは基本的にただのオタクのあんちゃん(大往生しても性根が変わらなかった)でしかない。

 

 「その、不束者ですが、よろしくお願いしますね?」

 「」

 

 羞恥に包まれながらも止めの言葉を告げる天音に、一輝(偽)は真っ白となって燃え尽きた。

 

 

 ……………

 

 

 暁学園の設立宣言、そして破軍学園への襲撃決行の日。

 予定通り破軍を手抜きしつつも壊滅させた暁学園のメンバーは、潜入していたメンバー二名を回収・帰還した後、作戦成功を祝って有志での宴会を開いていた。

 

 「お兄様、はいどうぞ。」

 「一輝さん、はいこれ。」

 

 そして宴会の行われている食堂の一角、そこでは今回のMVPとその身内二人が殺気混じりの状況でにこやかに睨み合っていた。

 

 「紫乃宮さん、さっきからお兄様に近づき過ぎではありませんか?」

 「黒鉄さんこそ、さっきから一輝さんにべたべたし過ぎじゃない?」

 

 ギシィ!と空気が軋む音が聞こえてきそうだった。

 そんな美少女二人に挟まれた色男は、死んだ目で目の前の料理をつついていたが、あれではたとえ三ツ星シェフの料理であっても味なんて分からないだろう。

 

 「私は妹ですもの。お兄様に甘えたって問題なんかありませんわ。ですよねお兄様?」

 「そっかー。でもそんなにべたべたしてたら、一輝さんが動き辛くないかな?」

 

 二人とも、何故そこで私に振るのでせうか?

 一輝は己が身の不徳の成す所とは言え、そんな事を思ってしまった。

 

 「いや、二人とも邪魔じゃないよ。」

 

 今自分の笑顔が引き攣っていないかどうか、一輝(偽)には自信が無かった。

 

 「もうお兄様ったら。正直に言って良いのですよ。この男女が邪魔だと。」

 「一輝さんも本当の事言って大丈夫だからね。このブラコンが面倒だって。」

 

 ギチィッ!!と再度空間が軋む音が周辺の者達にも聞こえた。

 風使い故に耳が良すぎて全部聞こえていた王馬は頭が痛そうに額を押さえていた。

 

 「先程からの暴言は聞き流すとして……紫之宮さん、貴女はお兄様の何ですか?兄妹間のスキンシップを邪魔しないでほしいのですけれど。」

 

 目障りな女をさっさと排除するべく、珠雫は話を進める。

 しかし、その言葉を聞いた天音はにっこりと花が綻んだ様な笑みを浮かべた。

 もっとも、そこに込められた意味を読み解けば、それは嘲笑なのだが。

 

 「私は一輝さんの恋人ですよ。ねー一輝さん♪」

 「あ゛ぁ?」

 

 ビキキキキィッ!!

 空間が罅割れる音を聞いた全員が、三人から一斉に距離を取った。

 どころか、一部の者は食堂から素早く脱出していく。

 そんな者達に一輝(偽)は羨望の視線を向けるが、彼が爆心地から逃げ出す事は出来ない。

 何故なら彼は当事者であり、これは彼の撒いた種でもあったから。

 

 「外へ出ようぜ…。」

 「久々に、キレちまったよ…。」

 

 微妙に一輝(偽)の布教活動の弊害が見える二人は、勢いよく立ち上がる。

 轟々と魔力を滾らせる二人を見て、一輝(偽)は全力で隠遁しようかなぁと心を明後日の方向へと飛ばすのだった。

 

 

 

 

 

 

 




次回、七星剣武祭編!


なお、ヒロインは後二人います。


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落第騎士になった話リトライ その3

 暁学園による破軍学園襲撃当日。

 出張で遠方にいた新宮寺理事長と西京教師の二人は、何とか学園まで後10kmと言う地点に辿り着いていた。

 

 「おっし、もうちょいだ!へばんなよ黒!」

 「誰に言ってる誰に!それと重力加速はもうちょい加減できなかったのか!?」

 「あたしの制御知ってんだろ!あれ以上は無理だ!」

 

 事前の工作により空港で足止めを食らっていた二人だが、西京の重力操作によって二人の体を打ち上げ→大体の方向の目星をつけて加速と言う荒業で学園から30kmの地点へと墜落する事に成功したのだ。

 そう、墜落である。

 生憎と広範囲を適当にぶっ潰すだけなら兎も角、自分ともう一人を重力障壁で守りつつ、同じ所まで飛ばすには寧音の制御能力では足りない所の話じゃなかったのだ。

 幸い、国外から戻ってきた寧音が改めて修行を重ねた故にここまで無事だったが、もししていなかったら新宮寺は途中でミンチになっていた可能性があった。

 

 「全く、鈍っていた私よりもお前の方が鍛えるべきじゃないのか!?」

 「絶賛再修業中だって…止まれ!」

 

 学園目指して全力で駆けていた所を、不意に寧音が制止の声を上げる。

 その顔は何か信じられないものを見つけたと言う様に引き攣っていた。

 直後、急停止した二人の目の前を、何かが通った。

 

 次の瞬間、二人の眼前に広がる森が「斬れた」。

 

 その斬撃は丁度二人の眼前で停止し、届く事は無かった。

 しかし、斬り拓かれた森の先、一人佇む作務衣姿の少年を目にした時、二人の総身が粟立ち、全身からどっと汗が噴き出てくる。

 気配は薄く、殺気は感じられない。

 町中で出会えば特に注目する事もなく素通りしていただろう。

 だが伐刀者としてだけでなく、戦闘者としても優秀であるが故に新宮寺は理解した。

 あの少年の形をした怪物は、自分達とは全く異なる領域の存在であり、本当なら今の一撃で死んでいたのだと言う事を。

 そしてもう一人は(何やってんだあの馬鹿ー!?会いたかったけどこんな形じゃねーよ!)と内心で絶叫していた。

 

 「黒、お前が先に行け。」

 「ロリ!?」

 

 寧音の言葉に新宮寺が驚いてつい昔の仇名が出てしまう。

 しかし今は一人だけでも学園に行くべきだった。

 

 「その呼び方懐かしーなおい。足止めは私がするから、お前だけでも先に行きなよリア充。」

 「……死ぬなよ。」

 

 そして、新宮寺はその場から全速で離脱した。

 既に己が『手負い』である事も知らずに。

 

 「さってと、待たせたな。」

 「いや、構わないよ。」

 

 そして、残った二人はと言うと、旧来の友人の様に普通に話し始めていた。

 

 「今回のは短期の仕事か?」

 「いや、かなり長期。少なくとも、寝返るつもりは無いよ。」

 「マジかー。」

 

 元々この一輝(偽)を勧誘するために接触して共に何年も過ごしてきた寧音は、この男がどんな思考回路で動いているかは把握している。

 基本的に、趣味が絡まなければちょっと酒に弱いだけの気の良い普通の少年だ。

 そして、己から誰かを裏切るような真似は(趣味が絡まなければ)しない。

 故に、このエーデルワイスと同等かそれ以上の近接戦闘のプロであるこの少年は、今回もまた決して寧音達からの勧誘に応えないという事だ。

 

 「……なんで、私を置いてったんだ?」

 「寧音は連盟の騎士だ。お師匠さんとも仲が良いのだし、連れてく訳には行かなかった。」

 

 西京寧音は連盟に所属する日本では三人しかいない魔人の一人だ。

 世界各国に大体数人ずついる魔人だが、その存在は伐刀者を軍事力の要とする現代において機密中の機密であり、その保有数は伐刀者のそれ以上に重要視される。

 その一人を引き抜いたとなれば、それは大騒ぎになる事は必定だ。

 また、彼女は自身の師匠を敬愛しており、決して裏切る事は無いだろう。

 故にこそ、多少未練はあれども一輝(偽)は彼女を勧誘する事は無かった。

 してしまえば、彼女に苦悩を齎すと分かっていたから。

 

 「だとしても誘ってほしかった。」

 「ごめん。」

 

 俯く寧音に、短くも確かに謝罪する一輝(偽)。

 互いに極普通なんて置いてきた生き方しかできないが、それでも確かに思いを交わしたのは事実で、互いが大事なのも本当だった。

 ただ、それ以上に優先すべきものを互いに持っているというだけで。

 

 「取り敢えず聞くけどさ、今日の仕事は何なんだよ?」

 「デモンストレーション目的での破軍学園の襲撃。死人は一人も出してない。オレの役目は予想よりも早く来た二人の足止め。」

 

 一輝(偽)に触発されてか、寧音もまた更に成長を重ねていた。

 原作通りだったのなら、とてもではないが重力操作による長距離移動など出来なかっただろう。

 

 「そっか、足止めか。なら、暫く時間はあるよな?」

 「? あるけど。」

 

 にっこりと、明らかに作った笑みで尋ねてくる寧音に、素直に返答してしまう一輝(偽)。

 何するつもりかな?と一輝(偽)は思うが、何をした所でこの距離ならば確実に殺せるため、特にどうする事も無い。

 

 「よっと。」

 

 寧音が霊装である鉄扇を振るうと、二人を中心に50m程の範囲が黒い球体に覆われ、可視化する程の重力の歪みが発生し、周辺とこの場を物理的にはほぼ完全に断絶させる。

 そして、一輝(偽)にゆっくりと歩み寄りながら、普段から着崩している着物を更に崩し…どころか帯を解き、着物を地面に落とす事も構わず脱ぎ始めていく。

 

 「おい おい。」

 「半年ぶりなんだ。野暮な事言うなよ。」

 「でもなぁ…。」

 「馬鹿。嫌じゃないなら文句言うな。」

 

 やがて二人の距離がゼロになると、本格的に好いた男女同士の逢瀬が始まった。

 暁学園から連絡の入る三時間後まで、誰の目もない場所でゆっくりと、だが熱烈で情熱的な時を過ごした。

 

 

 ……………

 

 

 (くそ、何なんだあれは!?)

 

 必死に森の中を走り続けながら、新宮寺黒乃は思考を巡らせる。

 急ごうにも先程から妙に魔力の巡りが悪く、お得意の時間操作による加速も出来ていない。

 それもこれも、先程受けてしまった肩への斬撃のせいだった。

 殿にと残った寧音は疎か、黒乃自身にすら暫くの間気付かせなかった遠当の斬撃。

 それは肩を僅かに斬っただけのものだが、その斬撃はまるで毒の様に黒乃の体内の魔力の流れを乱し、その使用を妨害していた。

 

 (これは、間に合わんか…。)

 

 ゆっくりとだが、魔力の乱れは回復しつつある。

 しかし、完全に回復するには半日はかかるだろう。

 今は体内時間の加速により、所要時間の短縮に努めているが、効果が出るまで今暫くはかかる。

 これでは現在進行形で窮地にあるだろう学園に到着した所で戦力になる事は出来ない。

 

 「頼むから無事でいろよガキ共…!」

 

 それでも教師として、先達として、戦士として、母として、未来ある若者達のために黒乃は走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 自分の腐れ縁の親友が男とイチャコラしてるとは露知らず。

 

 

 ……………

 

 

 暁学園開設記念の宴会後

 

 「一輝君、どうしてそんなやつれてるんだい?」

 「周辺被害が出かねなかったんで、二人を気絶させて『夜戦』して主導権を握りました…。」

 「Oh…。」

 

 ゴッド、この子が何をしましたか? ← ナニをしました。

 確かにやらかす系の子ですが、決して悪ではないというのに…。 ← 前世で万単位で暗殺。

 どうかこの子に祝福のあらん事を。 ← 可愛い子にモテてるよ!やったね!

 月影首相は義息の未来を思って、自業自得である事を理解しつつも祈る事しか出来なかった。

 

 (流石に寧音に絞られてから二人相手はきつかった…。)

 

 なんて内心を知ったら流石に説教不可避だったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あぁ、やっと会えましたね…。」

 

 その陰で、最後のヒロインがアップをしていた。

 




Q あれ?一番ヒロインしてるのって…
A それ以上いけない

Q 最後のヒロインって…
A バランスの素晴らしい美人で独身の人って言ったらね?
  なおフラグは一周目で立てた模様。


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落第騎士になった話リトライ その4

 七星剣武祭。

 前回よりも暁学園(内、何名か解放軍所属)や留学中の皇女を加えた今回は、大荒れに荒れる事が予想されていた。

 その中において、ただ一人だけFランクの選手がいる事は、当初何かの冗談扱いとされた。

 が、その選手の苗字が月影、つまり現日本国首相にして暁学園の理事長の義息子となれば、何かしらの理由(=権力)があるのだと考えられた。

 非公式の賭博でも大会初日一回戦目での月影選手のオッズは対戦相手の桐原選手と比較して150:0.05となっており、彼を知る者を除けば誰しもが侮りを抱いていた。

 それが覆ったのは、試合が始まってからだった。

 

 「全く、Fランクを参加させるなんて、暁学園は人手不足なのかい?」

 

 侮りを一切隠さず、才能とプライドを凝り固まらせた桐原は嘲る様に、相対した一輝(偽)に尋ねる。

 返事を一切期待せず、ただ己の常識だけでものを語る。

 

 「心配しなくても、君は負けるさ。別におかしい事じゃない。がっかりする事はないさ。」

 

 『それでは第一試合、開始!』

 

 (さて、いつも通り行こうか!)

 

 その言葉と共に、桐原は伐刀絶技「狩人の森」を発動、霊装を出しもせずにそのまま佇む一輝(偽)から距離を取ろうとバックステップを踏もうとして…

 

 べしゃり

 

 「へぇあ?」

 

 その上半身だけが、下半身を残して後ろへと転がった。

 

 「あ、ぁ?」

 

 一拍置いて下半身から血が噴き出ても、誰も何が起こったのか理解できない。

 観客も、選手達の多くも、観客に被害がいかない様に備えていたプロ達も、誰一人として一輝(偽)が何をしたのかを理解できなかった。

 否、正確には目撃できなかっただけで、大凡理解できた者達はいた。

 だが、誰が認める事が出来るだろう。

 魔力なんて無いも同然のFランクの少年の「単なる剣術」だけで、対人戦闘を得意とする学生騎士が瞬きの間もなく斬り捨てられた等と。

 幸い、今大会から高速戦闘向けに最新のハイスピードカメラを配備して記録されているので(多分1000分の1秒位なら残像が残っていると思われ)、きっと多くの者も最終的には理解できる事だろう。

 常識を遥かに凌駕した「単なる剣術」のみを引っ提げて、七星剣武祭に参加した少年が現れた事を。

 

 「………。」

 

 そして、一輝(偽)はその場から背を向けて出入り口へと戻るべく歩いていく。

 その姿からは、相手が既に戦えない事を理解しているのがありありと分かった。

 

 「ッ、月影選手の勝利!」

 「医療班急げ!初日から死人を出させるな!」

 

 審判の声と共に、控えていた新宮司理事長の時間操作により、桐原選手の時間が停止・巻き戻り始める。

 直後、一分としない内に医療班が駆け込んで一命を取り止める事には成功した。

 この試合の所要時間は0.003秒。

 日本の七星剣武祭だけでなく、公式戦では全世界レベルで最速の記録となった。

 この一件により一輝(偽)を侮る声は殆ど消え、畏怖と恐怖の視線を向けられる事となる。

 

 

 ……………

 

 

 その後も、一輝(偽)の戦いは圧倒的だった。

 全ての試合で1秒を切るという破格の記録を出し続け、一切の停滞なく、ストレートに準決勝まで勝ち進んだ。

 他の暁学園のメンバーの内、王馬と天音も合わせて3名が準決勝まで勝ち進み、暁学園の優秀さが知れ渡り知名度が大きく跳ね上がった事もあり、首相の目論見の大半は叶ったと言える。

 途中、天音と珠雫による「チキチキ☆お兄様との今夜の添い寝権獲得勝負~ポロリ(首や臓物)もあるよ~」が開催されたものの、魔人化した珠雫の「襲い来る災害その他を自己回復してやり過ごしつつ水で攻撃」と言う奮闘空しく天音に撃破されてしまった。

 そんなこんなで添い寝+αした後の準決勝当日、またも暁学園の選手同士がかち合う事となった。

 対戦相手は前日の添い寝の相手である天音だ。

 

 「貴方相手でも手加減なんて一切しませんからね、一輝さん!」

 

 ふんす、と鼻息荒く告げる天音に、一輝(偽)は苦笑する。

 

 「あぁ、全身全霊で来るようにね。」

 「じゃぁ5秒程待ってくれます?」

 「良いよー。」

 

 その言葉に関係者を除いた多くの者があんぐりと顎と目を限界まで開いて驚く。

 挑発を始め相手選手からの言葉に一切耳を貸さず、秒殺どころかフレーム単位で瞬殺し続けてきた一輝(偽)の、年相応かつ気の抜けた会話に会場中が度肝を抜かれた。

  

 「出でよ我が過保護な女神!今こそ一輝さんにリベンジですよ!」

 

 天音の言葉の直後、彼女の背後から滲み出る様に黒い靄が現れ、丸盾と槍を持った巨大な戦女神の形を取る。

 

 「これぞボクの新しい伐刀絶技。その名も『過保護なる女神の嫉妬/ネームレス・ルーイン』!」

 

 女神が槍を向けると、その瞬間に穂先を向けられた試合会場の床が砂の様に砕け散る。

 

 「成程。破滅…いや、終わりの因果の押し付けか。攻撃力と言う点では確かに強化されてる。」

 

 しかし、一輝(偽)は既にそこにはいない。

 ちょっと呆れた表情のまま、別の場所に立っていた。

 

 「だがまぁ、お前の最大の長所は『理不尽さ』だ。それを捨てた時点で対処しやすくなってるのは減点だな。」

 「でも、前よりは頑丈だよ。」

 

 その一点においては、確かに現状の方が良かった。

 天音にとって厄介の種であり盾にして鉾であった「過剰なる女神の寵愛」は、一輝(偽)によって斬り捨てられた。

 その一撃は一輝(偽)が多くある業を対人戦に特化するために整理して纏め、名付けた業の一つ。

 対人特化の壱の太刀に威力特化・防御無視の弐の太刀。

 それに続く、概念・因果干渉に対抗するために編み出された技だ。

 これも他の業同様に純粋な剣技であり、修練の果てに概念・因果を切断するに至った斬撃。

 この一太刀の前では、如何な運命や摂理であっても斬り捨てられる。

 それはこの世界の万物を縛る黒い鎖であっても、例外ではない。

 

 「じゃぁ、前と同じで。」

 「うん、お願い。」

 「分かった。『隕鉄』。」

 

 すぅと、宙から滲み出る様に、初めて一輝(偽)の霊装が白日の下に晒される。

 それは一切の光を反射せず、刃と峰の区別すら出来ない程に黒く、宙に墨を流した様な、星明かりすらない夜空の様な暗黒さを持った、この世のものとは思えない刀だった。

 それもその筈だ。

 その銘「隕鉄」が示す通り、それはこの星に、この世界に属するものではないのだから。

 

 「じゃ、行くよ。」

 

 その瞬間、最新のハイスピードカメラを以てしても、この映像を見ていた世界中のあらゆる伐刀者達の目を以てしても、一輝(偽)の腕は霞んで見えなかった。

 直後、ずるり、と巨大な戦女神の体が斜めにずれた。

 やがて数秒とせぬ内に女神の巨体は霧散し、残ったのは霊装である西洋剣「アズール」が真っ二つにされて倒れ込む天音の姿のみ。

 今回は瞬殺とはいかなかったものの、それでも早すぎる決着だった。

 

 「『過剰なる女神の寵愛』の理不尽さをそのままに、もっと範囲や効果を伸ばしていくべきだったな。」

 「参の太刀『運斬/さだぎり』……だっけ?ふふ、本当に敵わないなぁ…。」

 

 結構無理ゲなアドバイスを言いながら、倒れ込んだ天音を一輝(偽)は優しく抱き上げる(所謂姫抱きで)。

 

 「ふ、ふふふふふふ……試合に負けても勝負には勝てたよ……。」

 「分かった分かった。分かったから黙って休んでろ。」

 

 妹と合法ロリ、そして身に覚えのないもう一人と大勢の男性観客からの嫉妬の視線を感じつつ、一輝(偽)は腕の中の少女を気遣いながら悠々と去っていった。

 

 

 

 

 そしてもう一つの試合会場では、龍として目覚めた皇女が風の剣帝相手に逆転し、決勝へと駒を進めた。

 

 

 ……………

 

 

 翌日午前、遂に大荒れ続きだった七星剣武祭の決勝が始まる。

 

 「ねぇ、一つ聞いても良いかしら?」

 「どうぞ。」

 

 伐刀者としての才能と社会的立場に恵まれ続けたステラ・ヴァーミリオンは、そのどちらも人生の過半で全く恵まれなかった少年を前にして、一つの問いを投げ掛けた。

 

 「どうして諦めなかったの?」

 

 一輝(偽)の人生には、普通なら挫折する様な困難が続いた。

 伐刀者でありながら魔力が無く、名家の生まれながら排斥され、遂には妹のためにならぬと里子に出された。

 絶望して心折れても仕方ない境遇だ。

 

 「うん?斬り捨てたからだけど?」

 「は?」

 

 だからこそ、そのおかしな返答にステラは呆気に取られた。

 

 「そういった部分は持ち続けても面倒しかないからね。斬り捨てたんだ。」

 

 続けられたその言葉に、間を置いて正確に理解したステラは眼前に立つ少年の異常さを正確に認識した。

 

 「あの参の太刀で、自分の弱い部分を切除したって言うの!?」

 「別に参の太刀はいらないよ。自分の心一つ切り貼りする位、少し意志の強い人間なら出来る。」

 

 確かに、強い意志で自制すれば、大抵の弱さはどうにかなる。

 しかし、それが出来るのは本当に極一部の強靭な精神力を持った者だけであり、彼らにしても自分の心と現実と必死に戦っているのだ。

 だがしかし、一輝(偽)にはそれがない。

 修行を厭う怠惰も、邪魔になる過剰な恐怖も、人命を尊ぶ慈悲も、孤独や悲しみも、強い怒りさえも。

 必要が無いからと斬り捨てたのだ。

 それはプログラムの修正に似ている。

 いらない部分を削除し、目的に最適な形に修正していく。

 その対象が人間の精神と言うだけで、理には適っていた。

 

 「成程ね。あんた、マジモンの化け物って訳。」

 「いやードラゴンな君より人間だと思うよ。」

 「いや正直ないわ。」

 

 ステラの言葉に、会場中の全員が頷く。

 たとえ精神がどれ程超克しようとも、肉体は普通それに追いつかない。

 だと言うのに、この少年の形をした怪物はそれを成した。

 無謀かつ殆ど独学の鍛錬と数多の戦闘経験の果てに、彼は嘗て世界最強の剣士にして暗殺者となった。

 それは世界最強と言われた三大勢力のTOPとその主力、そして何処にも所属せぬ「比翼」を殺害した時点で確定した。

 そして、この様子を見ていた世界中の者達は思った。

 

 “どっちも化け物だよ“

 

 そんな人々の感想を余所に、ドラゴンと刀と言う名の人の形をした化け物達は、遂にその手に霊装を構えた。

 

 「取り敢えず、あんたをぶん殴るわ。人間としてね。」

 「いつも通りさ。ただ斬るのみ。」

 

 こうして、どんな結果になっても各勢力の人類には大き過ぎる課題が残される戦いは始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あぁ、本当に素晴らしい。あの霊装そのものの、生きた刀の様な方。今にも斬りかかりたいです…!」

 

 そして一人、試合会場に立つ一輝(偽)に熱い視線を向ける者がいた。

 

 




うーむ、時間がなくて不完全燃焼。
次は決勝戦の描写及びラストヒロイン登場の予定。
それさえ終われば完結できる。


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落第騎士になった話リトライ その5

 「七星剣武祭決勝戦、始めェ!!」

 

 生憎の曇り空の下、決勝戦開始の合図が告げられると同時、

 

 「壱の太刀。」

 

 そんな静かな声と共に、炎龍の皇女は一切の反応を許されずにその柳腰を両断された。

 

 

 ……………

 

 

 分かっていた結果を見て、珠雫はしかし一欠けらも安堵していなかった。

 壱の太刀「天翔/あまがけ」は対人特化の太刀だからだ。

 圏境に縮地、無拍子に零の領域を重ね掛けつつ、超神速の抜刀術によって一切の反応を許さず標的を斬殺する。

 先の先を求めた、最速にして無駄の無い一太刀であり、飛天御剣流抜刀術の奥義を一輝(偽)が自分なりに解釈して改良を重ねた結果がその正体だ。

 これに反応出来たのは今までただ一人だけであり、その一人もこの壱の太刀によって弾かれた空気の乱流と発生した真空の領域に捕らわれ、続く弐の太刀によって死亡している。

 しかし、この技には重大な欠陥がある。

 

 (早いけどそれだけ。他の太刀との併用が出来ない。)

 

 生半可な伐刀者では霊装ごと斬り捨てられるが、高位の伐刀者が全力で防御を固めていたり、再生系の伐刀絶技を発動させていた場合には殺し損ねる場合があるのだ。

 無論、この業が入った時点で全伐刀者の9割以上が即死するのだが、中にはそんな変わり種もいる。

 そして何より、これら番号を振り分けられた太刀は突き詰められたが故に併用が利かない。

 壱の太刀と参の太刀で言うと、最高位の隠形と踏み込みをしながら超神速の抜刀術で概念切断を放つ事は出来ないのだ。

 そして、相手は人ではなく、産声を上げたばかりとは言え西洋の竜、ドラゴンである。

 山程の巨体に強靭な生命力、城をも砕く膂力と莫大な魔力。

 翼による飛翔、炎の吐息、時には猛毒すら持つ。

 財宝や美姫等の価値あるものを集める強欲と執着、多くの英雄達をして強敵であると認められてきた人々の天敵にして神話や伝承における最悪の敵。

 そんな存在が、対人特化の業で殺し切れるとは思えない。

 

 (でも、お兄様はそれを知って敢えて止めを刺し切っていない。)

 

 初撃で決着をつけるつもりなら、間違いなく参の太刀によってその魂を、その命を斬り捨てていた。

 それをしなかったのは何故か?

 珠雫には大凡の予想は付くが、妹にして嫁一号としては心配でならなかった。

 

 (お兄様、早く勝ってくださいませ…。)

 

 珠雫は一人、握り拳を作りながら試合を見守るのだった。

 

 

 ……………

 

 

 「何時まで続ける?」

 

 未だ隕鉄とその鞘を消さずに持っていた一輝(偽)は、両断され、明らかに失血死寸前のステラへと声をかける。

 途端、彼女を中心とした半径10m程が炎に包まれた。

 

 「ったく、油断位しなさいよね。」

 

 その手に霊装である大剣「妃竜の罪剣/レーヴァテイン」を握り、制服の裾を強制的に詰められて下腹を晒しながら、ステラが立ち上がる。

 先程まで両断されていた筈の身体は繋がり、その動きには一切の翳りは見られない。

 

 「竜退治するのに、油断慢心なんてしてられないだろ?」

 

 一輝(偽)は、既に炎の範囲外にいた。

 その挙動は誰にも見えない程に高速であり、ステラ自身は当然として試合会場にいた全員がただ一人を除いて見えてはいなかった。

 

 「今度はこっちから行くわよ!」」

 

 轟、と炎が蠢き、7頭の竜の頭の形を取る。

 

 「『煉獄竜の大顎/サタンファング』!」

 

 7頭それぞれが独自の軌跡で一輝(偽)へと迫る。

 この一撃だけで並の伐刀者数人分の魔力が込められており、更に言えば追尾機能がある。

 迎撃か防御か、少なくとも何がしかの一手を消費できる…

 

 「邪魔。」

 

 筈だった。

 気付けば、7頭の炎の龍は全て霧散して、ステラの目の前には死神がいた。

 

 「逆鱗断。」

 

 気づけば、股下から頭頂へと、ただ一刀の下に斬られていた。

 

 「か」

 

 半分にされた脳髄と身体では、まともに思考出来ない。

 そもそも絶命していなければ生物としておかしい。

 また、先程の様にドラゴンとしての本性を解放する「竜神憑依」の効果の一つである再生能力が発揮されない。

 それも当然だ。

 今の一撃は龍神の逆鱗を絶つ一太刀。

 対龍特効の業であり、龍神の力の源でもあった逆鱗に対する斬撃の瞬間、体内の魔力循環経路(=経絡)へと自身の魔力を流す事で乱し、その力を阻害・封印する。

 もし人体に対して行えば、間違いなくショック死か運よく生きていても何らかの後遺症か伐刀者としての人生を絶たれる事だろう。

 当然、殻を破ったばかりの竜の幼生体では、千を優に超える齢の龍神すら斬断するこの一太刀を防げる訳もない。

 

 「つ、月影選手の勝利です!」

 

 余りにも余りな惨劇に、勝利宣言されたと言うのに会場は静まり返っていた。

 Aランクの、それも同じAランクを圧倒する程の実力を持ったステラ・ヴァーミリオンが、成す術もなく惨敗した。

 その結果に、十分予想されていたと言うのに、今までの常識との余りの乖離に、観客達は理解が追いつかなかった。

 だが、一輝(偽)の実力を知っている者達からすれば「うん、知ってた(白目)」な事態だった。

 そんな静寂を破ったのは、誰であろう一輝(偽)だった。

 

 「何時まで続ける?」

 

 それはさっきと全く同じ状態で同じ言葉だった。

 

 「このまま倒れているのなら、お前の国を斬りに行くぞ。」

 

 分かり易い挑発で、ブラフで、フェイクだった。

 この状況では既に意味もないし、そもそも無駄だ。

 それは余りにも荒唐無稽だった。

 それは余りにも非常識だった。

 それは余りにも無道だった。

 だと言うのに、観客の誰もが思ってしまった。

 するしないではなく、この男ならそれが出来る、と。

 

 「いい加減、本性を晒せ。」

 

 故に、その結果は必然だった。

 轟々と、ステラを飲み込む形で炎が広がる。

 ステラの体内、そこで毒の様に経絡を乱している一輝(偽)の魔力が圧倒的な魔力の奔流によって強引に押し流され、急激にその体を修復していく。

 そして会場内の何もかにもが燃えていく中、ソレは現れた。

 炎の海、それが一か所に寄り集まり、一つの形を成していく。

 鋭い鉤爪を備えた力強い四肢が会場の床を融解させながら踏み締める。

 横幅10mを優に超える翼が敵対者を逃がさんとばかりに広がる。

 轟々と、炎が意思を以て一つの形へと結実する。

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■--ッ!!」

 

 鋭い牙を備えたドラゴンの顎から、鼓膜を破らんばかりの咆哮が響き渡る。

 生きた炎で構成された、全長50mにも達するレッドドラゴン。

 ステラ・ヴァーミリオンと言う人間の殻を破り、その中身が姿を晒した。

 

 「なんだ、ちゃんと出来るじゃないか。」

 

 炎の海が広がる中、斬り拓かれた唯一の安全地帯で(審判の首根っこを持って避難させながら)一輝(偽)は愉快そうに笑っていた。

 

 「Grrrrruu………。」

 

 ドラゴンは考えた。

 人の理性ではなく、獣の本能で最適解を導き出した。

 それは即ち、自身の性能を最大限活かし、相手の特性を殺す策。

 炎のドラゴンはその両翼を羽ばたかせて飛翔する。

 生まれて初の己の翼での飛翔に得も言われぬ爽快感を感じながら、ものの10秒程で試合会場の上空500mへと到達する。

 

 「Ghruuuu……!」

 

 そして、己の持つ全てを注ぎ込んだ一撃を放たんとその口内に全ての保有魔力を収束させていく。

 原理だけならば伐刀絶技「暴竜の咆吼/バハムート・ハウル」と同じだが、今のこれは其れ処の威力ではない。

 放てば、ただ全てを燃やし尽くしてクレーターしか残らないだろう。

 小さな街を焼き尽くす処ではなく、全てが焼却されてしまうだろう。

 そんな一撃を、大都市の中の更に人口密集地で放とうとしている。

 推測されるその威力に、会場の警護に当たっていたプロの伐刀者達すら顔を青くする。

 展開されている防護障壁では濡れた障子紙程度の期待しか持てないだろう威力に、心が折れてしまったのだ。

 

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!!」

 

 

 自身の生命維持すら危うい程に魔力を注ぎ込んで、その一撃は放たれた。

 首都にでも放たれれば、小さな国ならそのまま滅亡するだろう対国家規模の圧倒的熱量を孕んだ熱線。

 大凡人類の技術では未だ防ぐ事の叶わない災害が、天より降り注がれた。

 

 「うん、やっぱりこれ位じゃないとね。」

 

 それを向けられてなお、一輝(偽)は普段通りに笑っていた。

 彼としては、そもそも弱い者いじめをした所で何の鍛錬にもならないからと七星剣武祭の参加には消極的だった。

 しかし、快適なオタク生活のためには必要だと義父に説得されて渋々だが此処に来た。

 そして、予想通りに大会はつまらないものだった。

 だからこそ、彼としては決勝戦位は盛り上がってほしいと態々らしくもない挑発をしたのだ。

 それと言うのも、劇的な決勝戦を演出し、ドラゴンと言う古今東西の英雄が求める首級を上げるためだった。

 

 「じゃ、終わらせようか。」

 

 今まで無構えだった一輝(偽)が、黒塗りの太刀である隕鉄を頭上に真っすぐ、大上段に構える。

 

 「弐の太刀『空断/からだち』。」

 

 動作だけで言えば、ただ空へ向かって刀を振り下ろしただけ。

 だが、その一撃は人類最高峰の剣の才覚と経験を併せ持った唯一無二の魔人が成したもの。

 その刃の振るわれた先にあるものは、天空の支配者たる赤き竜と放たれたブレス。

 

 それらが、更にその先にある分厚い曇り空と共に、ズレた。

 

 大都市すら焼却する熱線と赤き竜は霧散し、数日続くとされた曇天はただの一撃で斬り拓かれ、その先に雲一つ無い青空を覗かせた。

 対し、辛うじて本体であるステラは左肩から右脇までを両断された状態で上空から落下しながらも、西京寧音の重力操作によって回収され、新宮司黒乃の時間操作により応急処置を加えられ、医療班の頑張りによって一命を取り止める事となる。

 

 「次はもう少し手加減しようかなぁ。」

 

 雲まで斬ってしまったからか、圧縮されてしまった雲が大粒の雨となって大阪の地を濡らしていた。

 弐の太刀「空断/からだち」。

 それは空間切断による切断力及び広範囲・長射程の破壊を目的とした一太刀だ。

 斬撃の延長線上にある空間を含む全てを斬り捨てる剛の太刀。

 概念干渉系の能力でも余程特殊なものを除き、空間切断による切断力及びその圧倒的な範囲の広さと長射程を持った斬撃は、あらゆる物理的・魔術的防御を確実に切断する。

 対人ならば壱の太刀の後に放ち、対多数ならば遠距離から一方的に放つ。

 一切の魔力の消費も反応もなく放たれる広範囲・長射程・貫通斬撃を防げた者は今まで一人もいない。

 

 

 一輝(偽)に最後の最後まで一切の魔力を使用させる事も出来ず、史上最大にまで荒れ狂った七星剣武祭はこうして幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さぁ首相、お約束の時間ですよ。」

 「分かっているとも。しかし、良いのかい?」

 「えぇ、良いのです。私は所詮剣だけが取り柄の女。ならば、剣で語るのみです。」

 




・逆鱗断
命名元はスパロボから。季書分先生の无二打+急所狙いの技。无二打だけなら前に黒乃理事長に超手加減ばーじょんで使ってた。

・伐刀絶技「竜神顕現」
その名の通り、炎の竜そのものとなる。
が、燃費はお察しで「竜神憑依」よりも更に悪い。



 次回、ラストヒロイン登場


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落第騎士になった話リトライ その6

 黄昏時の七星剣武祭の試合会場。

 決勝戦において散々高熱に晒され、直後に降り注いだ雨に鎮火されたとは言え、荒れ果てた状態だった。

 既に職員も一般の観客もおらず、夕暮れに赤く照らされ、影が長く伸びたその場所で。

 今、二人の剣士が見えていた。

 

 「お久しぶり、ですね。」

 「そうだね。」

 

 片や腰に夜が如く暗い太刀を差した、作務衣姿の少年。

 片や両腰に美麗な双剣を差した、白い修道服を纏った女性。

 どちらも普段は柔和な顔つきで、穏やかな雰囲気を漂わせている。

 しかし、今ここにおいて、二人は周囲のあらゆるモノを切り裂かんばかりの剣気を滾らせていた。

 

 「貴方に勝つために、もう一度会うために、ここに来ました。」

 

 

 ……………

 

 

 元々、彼女は戦う理由が無かった。

 鍛え始めた理由がそもそもダイエット(兼糖尿病対策)だったし、自国に侵攻してきた同盟と連盟の二大勢力を蹴散らした時も自身の故郷と生活を守るため以上の意味は無かった。

 故にこそ騎士道や武士道に愚直に生きる者達が羨ましかった。

 故に頼まれれば、十分な理由になると判断すれば、割と誰にでも手を貸す。

 あの最後の時、解放軍に手を貸していたのもそうだった。

 

 そして、僅か二太刀で斬り伏せられた。

 

 完全に知覚外の距離から、一切知覚できない完璧な隠形のまま、音を遥か彼方に置き去りにする踏み込みによって、超神速の抜刀術が放たれる。

 今でも思う。

 あの時、あの一太刀目を防げたのは間違いなく奇跡だった。

 その一太刀を凌ぐだけで霊装の片割れである左の剣は斬られ、発生した真空と大気の乱流によって動きを阻害される。

 そして、霊装の破壊による精神への衝撃に意識を朦朧とさせながら、残り一太刀で相手の次撃を凌ごうとして、空間ごと霊装と身体を両断された。

 残ったのは、泣き別れさせられた上下半身と、空間切断の余波で壊滅した解放軍の面々。

 そんな惨状を一瞬で作り上げた作務衣の男は、斬り捨てた者を一顧だにする事なく、霊装である刀をしまってその場を立ち去っていく。

 男を除けば生者のいない場所だと言うのに、男の気配は変わらず希薄に過ぎたが、死に行くエーデルワイスには辛うじて男の姿が見えていた。

 その男に、エーデルワイスは柄にもなく声をかけようとした。

 しかし、当然ながら出来ない。

 世界最高峰の超人的実力者である彼女だが、流石に上下半身が両断され、肺が二つとも両断された状態では声を上げる事すら出来ない。

 既に五感も曖昧で、直に完全に意識を失って死ぬだろう。

 だが、それでも彼女は自分を正面から破った彼に、一度だけで良いから声をかけたかった。

 賞賛とも、焦燥とも、驚愕とも、愛情ともつかない思い。

 ただただ激情としか言いようがないソレを、彼女は暗くなっていく視界の中で彼に届けたかった。

 だが、不可能だった。

 彼女はそのまま、覚めぬ眠りに就いた。

 その筈だった。

 しかし、奇跡は起こった。

 

 気付けば幼児の頃になっていた。

 

 精神が、記憶だけが子供の頃の自分へと上書きされた状態で、日付等も巻き戻っていた。

 やり直せる。

 そう気づいた時は喜んだが、しかし、問題があった。

 どうやったら彼とお話できるのだろうか?

 そして、彼女は旅に出た。

 探して、探して、探して、心折れかけて、故郷に再びやってきた軍勢を蹴散らして、また探し続けて……

 

 漸く、意中の彼を見つける事が出来た。

 

 彼の存在を、この世界での実在を知って心は歓喜に包まれた。

 その時見つけた彼は未だ若く、しかし将来は間違いなくあの男になる事がエーデルワイスには分かった。

 しかし、接触する事は出来なかった。

 こんな変な体験、聞いた事もないし、何て声をかければ良かったのか分からなかったのだ。

 そうやってまごついている内に、彼はあっと言う間に消えてしまった。

 慌てて探してももう遅い。

 手がかりはなく、しかも当初の目的を叶える千載一遇の機会を羞恥と動揺から逃す等言い訳もしようもない。

 久々に故郷に戻り、どずーんと落ち込んでいると、日本国首相の使いと言う人物が現れ、勧誘を受けた。

 当初こそ断ろうと考えたものの、しかし渡された資料の中にあるあの少年の写真に、速攻で掌を返してYesと電話口に叫んでいた。

 その場であの少年と出会う約束を首相に取り付けて、こうして世界最強の犯罪者にして剣士として名高い「比翼」のエーデルワイスは日本へとやってきたのだ。

 

 

 ……………

 

 

 しかし今、二人はこれ以上の言葉を交わすつもりはなかった。

 共に、剣のみに生きるにあらずとも、それでも剣と共に生きてきた者達。

 万感の思いを語るには、己の言葉にならぬ激情を伝えるには、言葉よりも雄弁なものがある。

 

 「「 」」

 

 音にすらならない小さな呼気、それが二つ。

 それと共に両者から全く同じ軌道・速さ・タイミングで斬撃が走り、

 

 斬、と

 

 試合会場が両断された。

 

 

 ……………

 

 

 「あれがお兄様の本気……。」

 

 本来前衛ではない珠雫がその戦闘風景を見る事が出来たのは、偏に水の操作による癒しを応用した自己改造・自己強化によるものだった。

 自己改造・自己強化によって得たリソース、それを動体視力に全て割り振る事で、彼女の目は漸く思い人の姿を影のみだが捉える事が出来る。

 そこまでしてもなお、珠雫の目には二人の残影しか見えない。

 そして、二人の振るう剣腕に関しては全く見えない。

 二人の腕が消える度、試合会場には斬撃痕が増えていく。

 回避や相殺する度に起きる鋼同士の擦過音と火花、そして鎌鼬にも似た事象に、先程から観客席にいる各勢力の伐刀者達にも被害が出ている。

 昼間は会場を守っていた防護力場等が今はないし、そんなものはあの二人には意味が無いからだ。

 その気になれば己の剣気のみで対象を切断できる一輝(偽)と彼相手に互角に戦うエーデルワイスにとって、観客への被害さえ除けばこの場所は無人の野とそう変わらない。

 

 (これが世界最強の戦い。あの人が見ている光景。)

 

 ここまでしたのは珠雫が一度として兄にして最愛の人の全力の戦闘というものを見た事が無かったからだ。

 それは当然だ。

 一輝(偽)は家庭においては穏やかで温厚で放任で、しかし必要とあらば嫌われたとしても必ず躾をし、本当に必要ならば断固として処断する父だった。

 過剰な暴力等を振るう事はない。

 そんな彼が唯一本気で殺そうとしたのは、長男が厨二病を拗らせて解放軍のプロパガンタに傾倒し、参加しようとした時位だろうか。

 その時ばかりはガチで9割殺しまで行き、そのまま止めという所で他の兄弟姉妹達が参戦して説得&時間稼ぎして辛うじて誰も死なずに済んだのだが…

 

 (今、あの子達がいたら、何て言うのかしら?)

 

 未だ生まれていない嘗ての我が子達。

 父も母も愛したあの子達が、父の剣士としての本当の姿を見た時、どう思うのだろうか?

 一輝(偽)の振るう剣は、殺人剣だ。

 人を殺すという意味ではない、そんなものは剣術においては当然だから。

 その真意は「己を殺す」事にこそある。

 己の我を殺し、術理こそを最上とし、それに合わせる。

 謂わば滅私の精神だ。

 これは一輝(偽)が平和な世で育った中の人の精神では剣が振れないと考え、それ故に不要と判断した心や感情を斬り殺し、そして創作の中とは言え他者の剣技の模倣へと至らせた。

 それは単に肉体面だけでなく、その精神性すら瞑想の果ての自己暗示とキャラクターへの共感という形で同一化させる。

 無論、完全にとはいかない。

 故にこそ、他の業と組み合わせて再現し、その上で己の肉体にとって最適な形へと改善し、更に必要とあれば改めていく。

 そんな自分自身の心を好き勝手弄る精神的自己改造こそが、表に出ない一輝(偽)の本当の異常性なのだ。

 

 (そんな人が、自分と漸く打ち合える人を見つけた…。)

 

 今この瞬間も、瞬きの間に十を超え百に届かんとする斬撃が応酬されている。

 互いに分かっているのだ。

 目の前の相手が、この星で今たった一人己と戦える相手だと。

 他の全てを有象無象と斬って捨てる二人が見つけた、この世でたった一人の相手。

 それはつまり、麻薬にも似た昂ぶりに互いを晒しているという事。

 ここまで来ては、自分の死すら己を止める理由にはならないだろう。

 

 (でもま、一輝さんですし、大丈夫でしょ。)

 

 と、珠雫は元夫現兄への愛と嘗ての夫婦生活を理由に、心底信じてる旦那の雄姿を目に焼き付ける作業に移った。

 

 

 ……………

 

 

 (あぁ、何と甘美な時間でしょうか。)

 

 音速を遥か彼方に置き去りにし、既に真空に近い領域の中で、両者はまるで舞を舞っているかの様だった。

 幾ら斬撃を放っても、相手に反応しきれないという事がない。

 今まで見えてきた多くの敵、否、的達ではただ斬られるがままだったというのに。

 

 (ここまでの相手、死合った事がない。)

 

 そして確信する。

 この相手だけが、己の剣に合わせる事が出来る世界でただ一人の相手だと。

 

 「ここまでだな。」

 

 言葉と共に、場が静止する。

 直後、斬り散らされていた大気が真空となっていた場所へと強風と共に戻っていく。

 その圧にも小動もせず、二人はただ相手を見据えて微動だにしない。

 

 「これ以上は、加減できません。」

 「あぁ。」

 

 既に試合会場は建て直した方が早い程に斬り裂かれ、斬り飛ばされ、斬り刻まれていた。

 常人には、そこらの伐刀者には決して見えない領域での超高速・連続戦闘の余波だ。

 実力のほぼ等しい二人の伯仲の戦闘は、容赦なく二人のスタミナを削り続け、今の二人の体力は万全の際の6割程度だろうか。

 本来なら7割程度で仕切り直すつもりが、予想以上に興が乗ってしまってこうまで長引いてしまった。

 

 「珠雫、天音!義父さん達を連れて今直ぐにここから逃げろ!」

 

 それはこの戦いが始まって今まで見向きもしなかった家族への警告。

 彼なりの思いやりの形だった。

 一応二人共社会不適合者ではあるが、良識は持ち合わせている。

 故にこそ、今に至るまで観客には一人の死者も出ていない。

 だが、此処から先は分からなかった。

 

 「分かりました!ご武運を!」

 

 最愛の人の邪魔にならないように、珠雫達は急ぎ避難を開始し、それに釣られる様に他の物好き達も避難していく。

 人数が少なく、全員が伐刀者である事もあり、会場はものの数分で二人を除いて無人となった。

 

 「すまん、待たせた。」

 「いえ、この位なら。」

 

 実直な謝罪を、柔和な笑みで許す。

 

 「では」

 「始めましょう。」

 

 そして、駆けた。

 距離にして大凡10m。

 それが刹那の内に零となり、両者の刃が鍔競り合う。

 その停止の瞬間に、エーデルワイスが双剣の片割れで手首を落とさんと初速にて最速の妙技を発揮…

 

 「喝ッ!」

 

 する前に、鍔競り合っていた残りの一刀で一輝(偽)を弾いていた。

 十分の一秒未満の僅かな停止、その瞬間に一輝(偽)が一喝の声と共に剣気を発する。

 そうして放たれた指向性を持った剣気は全くのノーモーションで刃の延長線上にあるあらゆる物体を斬断した。

 これぞ「蜻蛉切」の逸話を彼なりに解釈した業だ。

 強いて名付けるならば、気斬とでも言うべきか。

 弐の太刀に比べれば射程も切断力も劣るが、振る必要が無く、精神集中すれば放てるという一点は優っている。

 初見殺しと言っても過言ではないこの業を、しかし比翼は肩を浅く斬られるだけで生き残り、剰え反撃さえしてみせた。

 

 「お見事。」

 「そちらも。」

 

 見れば、一輝(偽)の手の甲に僅かな傷が付いている。

 薄皮一枚程度のそれは、一輝(偽)が今生で初めて負う外傷だった。

 

 「今度はこちらが。」

 「来い。」

 

 会場とその周辺を順調に瓦礫の山にしながら、人類史上最上位の剣士達の斬り合いは続く。

 

 

 

 




くそ、完結できんかった!
次、次で完結! ←フラグ


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落第騎士になった話リトライ その7 完結!

 もう間もなく日が落ちるという、そんな時間帯。

 試合会場は辛うじて原型を保っている事が奇跡かと思える程に、斬り傷塗れにされていた。

 

 「…………。」

 「…………。」

 

 そんな瓦礫の山の中、二人の剣士は傷だらけになりながら静かに相対していた。

 片や世界最強と言われながらも、そうではない事を知るエーデルワイス。

 片や最強とかどうでもよいのに、自分の幸せな(オタク)生活を守るためにそうなってしまった一輝。

 そんな全く異なる出自と経緯の二人は今、先ほどまでの剣戟の応酬は鳴りを潜めて見つめ合っていた。

 

 「お見事です。」

 

 先に口を開いたのはエーデルワイスだった。

 

 「いや、そちらこそ。」

 

 それに一輝は謙遜でもなんでもなく、ただ事実を返す。

 実際、一周目のあの時、エーデルワイスは一輝に二太刀で敗北した。

 しかし、今の彼女は一輝相手に4桁近い剣戟の応酬をして互いに傷だらけになりながらも、それでもなお五体満足で立っていた。

 

 「でも、このまま斬り合えば私の負けですね。」

 

 エーデルワイスは悔しそうに、でもほんの少し嬉しそうに事実を告げる。

 二人の差、それは経験に他ならない。

 戦争を経験し、敗北から更なる修練を積んだエーデルワイスに対し、生涯の多くを剣と共に過ごし、生涯無敗を貫いた一輝とでは戦闘の経験値に差がある。

 そして、元から特異な修行によって悟りを得た高僧にも近い精神構造を持ち、更には老境まで生きた経験を持つ一輝に対して、思い人に再会できたエーデルワイスは余りに若く、奔放だった。

 それこそ、己の全てをぶつけようとする彼女に対し、一輝の根底の部分はあくまでも平静だった。

 故にこそ、その差はスタミナという余力となって現れる。

 

 「その通りだ。君は負ける。」

 「えぇ、分かっていましたとも。」

 

 細かな無数の傷を負いながら、息を切らす所か一切荒げていない一輝は冷徹に事実を告げる。

 対して、息も荒く、同様に無数の細かな傷を負っているエーデルワイスはそれを受け入れる。

 このまま続ければ、スタミナと精神力の差で、勝つのは一輝の方である事実を。

 

 「ですので、一つ提案を。」

 「む?」

 「以前見た貴方の奥義。それで決着をつけてくれませんか?」

 

 故に彼女は、そんな提案をしてきた。

 たとえ対策を練ったとしても、人類では到底超えられない領域にあるそれぞれの奥義の連続使用。

 それを使ってほしいという、余人が聞けば処刑方法を選ぶ様な言葉に、一輝は僅かに目を瞠った。

 

 「……………。」

 

 返礼は言葉ではなく、行動で以て示された。

 隕鉄をこれまた黒塗りの鞘に納刀し、足を肩幅よりもやや広く構え、腰を深く落とし、左手で鞘の根元近くを、右手で柄をそれぞれ握り、眼光は鋭く前を見据える。

 典型的な抜刀術の構え。

 同時に、今まで波紋のない湖面の様だった剣気が、先程よりも更に静かに感じ難くなり……遂には目の前に立っている筈の一輝の気配すら曖昧になって消えていく。

 肉眼で捉えている筈なのに、そこにいると感じられなくなる。

 これぞ壱の太刀「天翔/あまがけ」の準備段階だった。

 

 「ありがとうございます。」

 

 それに対するエーデルワイスは感謝の言葉を告げると、総身から力を抜いていく。

 脱力し、脱力し、脱力し、突けば倒れる様な、今にも双剣を取り落としてしまいそうな程の脱力に次ぐ脱力。

 しかし、その見開かれた双眼の力強さだけは彼女が勝負を捨て去った訳ではなく、勝ちのためにそうしている事を告げていた。

 

 「………。」

 「………。」

 

 ピリリと、呼吸する事すら辛い緊迫が二人の周囲に満ちる。

 殺気でも剣気でもない。

 それを外に漏らす程二人は未熟ではない。

 互いが互いの隙を見出すための極限なまでの意識の集中が、物理的な圧力すら感じさせているのだ。

 それに気圧されて、全ての生物は生来からの直感だけでこの二人の下から逃げ出していた。

 そんな時、二人の間に一陣の風が吹いた。

 

 それが合図となった。

 

 心臓の鼓動すら感じ取れる極限の集中状態では、鳥の囀り一つすらこの二人には騒音となる。

 互いにそう感じ、僅かながらも意識を割かれてしまったからこそ、それは相手の隙となるとも理解した。

 動いたのは完全に同時であり、しかし、剣速そのものが早かったのは一輝(偽)だった。

 それもそうだろう。

 鞘を走る刀身は、鞘の中を走る段階で既に音速を彼方へと置き去りにし、超越していたのだ。

 壱の太刀は彼が先の先を取って仕留めるためだけに編み出した業。

 反応できる者は、この世界においては目の前の彼女を除けば一切いない。

 雲耀の太刀と言う示現流の奥義があり、そちらの最大剣速は秒速30万mを超える。

 しかし、こちらは魔力と鍛錬双方によって極限まで強化された肉体によって成されるのだ。

 その最高速度は、先行放電の9割にまで匹敵する。

 普段は衣服がボロボロになるのでここまでの速度は出さないのだが、一度敗れていながら再度己の前に立ったエーデルワイスへと敬意を示すために最大速度で繰り出したのだ。

 

 「………!」

 

 そして、エーデルワイスも然る者。

 この二度目の生で弛まず積んだ鍛錬は彼女を裏切らなかった。

 辛うじて、本当に辛うじて彼女は迎撃が間に合った。

 脱力に次ぐ脱力、不要な力の一切を抜いたが故の最速の太刀筋は確かに天魔の業へと届いた。

 

 「………ッ」

 

 左下段から右上段へと振り抜かれた居合は、ほぼ同じ軌跡で以て放たれたエーデルワイスの右の双剣の斬撃によって迎撃された。

 だがしかし、天魔の業は単なる超速の斬撃ではない。

 迎撃に成功したものの、その瞬間に右の双剣は大きく刃毀れした。

 嘗ては一合で折られた事を思えば格段の進歩だが、それだけで勝てる訳が無い。

 故に、伸び切った右腕を戻すのと入れ替わりに左の双剣が己が最速で以て突き込まれる。

 それに対するは、一輝(偽)が左手に逆手で握った鞘だ。

 双龍閃として放たれる事もあるその鞘は、突き込まれる剣先を垂直に受け、完全に静止する。

 普通なら、そのまま表面を滑らせて指を切られてしまう所だが、生憎とこの二人は互いに普通ではない。

 

 「「………!!」」

 

 言葉なく、二人は互いの鞘と左の剣から指向性を持った剣気を放出、相手からの剣気を相殺し、その場で爆砕する。

 全身を無数の小さな刃傷で切り裂かれながら、その反動で前のめりだった互いの上半身が後ろへと反らされる。

 気斬と言う、ついさっき一輝(偽)が見せた技を、エーデルワイスは小一時間とせぬ内にあっさりと習得してみせたのだ。

 そして本来なら剣でやる隠し技を即座に応用して鞘で放ってみせた一輝(偽)もまた、規格外と言えるだろう。

 

 「 ッ 」

 

 崩れた上体、しかし右腕だけは先程の気斬の瞬間に引き戻し済だ。

 しかし、互いに相手を斬るために剣戟に最適化された肉体は多少の不利など踏み潰して駆動する。

 放たれるのは空間切断による圧倒的切断力と射程距離を持った弐の太刀。

 そして、それを防がんと放たれた斬撃もまた、大小はあれど同じ力を有していた。

 

 「がッ!」

 

 僅かな呼気と共に放たれた空間切断の一撃は、先程の焼き直しの様に互いを相殺……できなかった。

 エーデルワイスの右の剣から放たれた一撃は、より上位の一撃によって斬られたのだ。

 そして、その延長線上にあった右腕自体も肩口まで開きにされていた。

 

 「私は…!」

 

 だが、未だエーデルワイスは死んでいなかった。

 先程の弐の太刀が同種の斬撃と食い合ったがため、その威力の多くを減じていたのだ。

 故にこそ、一輝(偽)は一切の油断なく、その状態から最速となる太刀筋で追撃する。

 だが、一輝(偽)は失念していた。

 彼と違って、エーデルワイスには高い魔力があり、その伐刀絶技もまた規格外である事を。  

 

 「『私は、勝つ!!』」

 

 双剣テスタメント。

 使用する「無欠なる宣誓/ルール・オブ・グレイス」はテスタメントの前で誓いを立てた者の心臓に楔を打ち込み、契約に反した者の命を奪う因果干渉系の伐刀絶技だ。

 滅多に使う機会もないために仕方ないと言えるのだが、今この時、彼女は初めてこの伐刀絶技を進化させた。

 未だ名もないその伐刀絶技は、自身に誓約を課す。

 それを果たす代価として、一時的に自己の限界を超えた力を発揮させる。

 しかし、その誓約を果たせねば、死ぬ。

 

 (構わない!)

 

 だが、それがどうした。

 この人に、勝ちたい。

 己の全てを出し尽くし、己を認させ、その上で勝ちたい。

 ただそれだけのために、この第二の生を使い尽くしてきた。

 今更、己の命一つなんだと言うのか?

 右腕を開きにされ、己の鮮血で盛大に身を汚しながら、それでも彼女は折れなかった。

 その執念が彼女の人生において最速の太刀となって、一輝(偽)の太刀を弾いた。

 

 (見事だ。)

 

 神速の領域においてなお速くなる比翼の剣士に、一輝(偽)は珍しく素直に感心していた。

 だが……

 

 (だからこそ、惜しい。)

 

 この場で摘んでしまう事が、とても惜しい。

 もしかしたら、完全に己を上回る可能性もあった。

 故に、この場で確実に殺し切らねばならない。

 後の禍根を断つためにも、此処で確実に斬らねばならない。

 

 「参の太刀。」

 「ッ!」

 

 放たれるのは、斬れぬものを斬る太刀。

 参の太刀『運斬/さだぎり』。

 因果を操る相手には最適であり、これならばエーデルワイスが如何に因果に干渉しようとも、それごと断ち切る事が出来る。

 対するエーデルワイスもまた、それを知っている。

 だがしかし、それならば更なる最速で以て斬るだけである。

 

 

 「「  !!」」

 

  

 放たれたのが同時なら、着弾するのも同時。

 エーデルワイスは動かせる左の刺突、一輝(偽)は右からの袈裟懸けの振り下ろし。

 しかし、速さは兎も角威力という点において、エーデルワイスは一輝(偽)に劣ってしまう。

 結果、先程の焼き直しの様に打ち負けたエーデルワイスの左腕は、根本から斬り飛ばされた。

 

 (しまった!)

 

 だが、一輝(偽)はこの時、明確に己の失敗を悟った。

 エーデルワイスの先程開きにされた右腕。

 魔力を糸状に操り、粘土等を操作するのは、伐刀者の基礎的な鍛錬方法だ。

 しかし、人形使いの類でもないのに、魔力の糸で開きにされた己の腕を縫合し、その状態で自身の限界を超えた斬撃を繰り出してくる等、想像すら出来なかった。

 

 (獲った!)

 

 だからこそ、エーデルワイスは勝利を確信し、

 

 「………。」

 

 だが、この期に及んでなお、一切の絶望も恐怖も見せない一輝(偽)の眼光に、背筋を凍らせた。

 構えも崩れ、刀を持つ右腕も伸び切っている。

 それでも心折れないのは、未だ逆転の手段があるから。

 

 (それ、でも…!)

 

 だが、此処で止まった所で、斬られる事に変わりはない。

 ならば、せめて前のめりに。

 既に括った腹のまま、エーデルワイスはボロボロの右腕で、その二度の人生において最速の一太刀を見舞い……

 

 「四の太刀」

 

 気付けば、袈裟懸けに斬り捨てられていた。

 ぶしゃり、と左肩から右脇までの盛大な傷から、血が噴き出す。

 

 「今の、は……?」

 

 白い美貌の全てを鮮血に染めて、右腕がズタズタに、左腕を斬り飛ばされ、エーデルワイスはそれでも口を開いた。

 

 「時逆/ときさか。」

 

 天を翔け、空を断ち、運命すら斬った果て。

 遂には時にすら逆らってみせた、一輝(偽)の奥の手。

 過去か未来か、こことは異なる時間軸からの回避不可能にして防御不可能の一太刀。

 これぞ四の太刀、時逆/ときさか。

 

 「使ったのは、貴女が初めてだ。」

 

 ずしゃり、とエーデルワイスが膝を突く。

 

 「誇ってくれ。それが手向けだ。」

 

 限界を超え、誓約を破った代償として命を落としたエーデルワイス。

 一輝(偽)にしては極めて珍しく、初めて死者へと言葉を送った。

 チン、という納刀の音が、まるで晩鐘の様にその場に響いた。

 

 

 ……………

 

 

 一か月後、暁学園にて

 

 「こんにちは。」

 「」

 

 仮設会場での式典諸々をサボタージュした一輝(偽)の下へ、エーデルワイスがやってきた。

 

 「いやぁ、我ながら良い仕事をしたよ。んじゃ、後はよろしく頼むよ七星剣王様♪」

 

 にやりと笑い、白衣を翻しながらDr.キリコはその場を去った。

 

 「では、不束者ですが、よろしくお願いしますね。」

 

 頬を僅かに朱に染めながら、エーデルワイスはぺこりと頭を下げる。

 その身を簡素ながらもウエディングドレスに包んだ元世界最強の剣士は、ただ一人の女性として押し込み嫁入りにやってきたのだ。

 

 「」

 

 どうしてこうなった。

 あんぐりと口を開けながら、一輝(偽)は天を仰ぐのだった。

 

 

 

 



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落第騎士になった話リトライ 後日談

 その後の結末は、一度目とそう変わらなかった。

 

 単体で三大勢力の全戦力を圧倒できる怪物の出現。

 それがどの勢力にも属さず、それでいて自身の感知する範囲での騒ぎを許さないという理不尽。

 そんな存在に対し、嘗てのエーデルワイスと同じ様に反発を覚え、無謀にも謀殺を企んだ者達は多い。

 

 だが、その全てが何時の間にか斬殺されていた。

 

 たった一太刀で、苦痛も恐怖も容赦もなく、複数の肉体や命を持つ者、異空間を構築する者や時間干渉が可能な者、不死を謳う魔人を含む全てが斬り殺された。

 それこそ地球の反対側であっても、秘匿回線による会合であっても、その日の内に彼へと害意を抱いた者は遍く一切の例外なく斬られた。

 中には公衆の面前で新たなる世界最強に言及し、その危険性を主張し、罵倒した結果、生中継する報道陣の目の前で首を落とされた政治家もいた。

 約一か月、それで世界は新たなる世界最強を受け入れ、諦めた。

 彼とその身内の殺害及び彼が生きている間の三大勢力の大規模な衝突を引き起こす事を。

 嘗てエーデルワイスに行ったそれよりも遥かに厳重に、世界は新たなる世界最強たる暗殺者の存在を認知した。

 

 

 ……………

 

 

 義父にして元日本国総理大臣、月影 獏牙

 

 「いやぁ、完全に辞めるのはお願いだからやめてって泣き付かれちゃいまして。」

 

 首相の任期終了後、管理不可能伐刀者対策室(と言う名の連絡役)の初代室長に就任。

 以後、生涯に渡って一輝(偽)関連の問題を担当するも、孫に囲まれて幸せな余生を送る。

 

 

 国際魔導騎士連盟日本支部長、黒鉄 厳

 

 「我が家はあれと一切関わりはない。」

 

 跡継ぎいないと思ってたら、色々悟った長男が戻ってきて後継者になってくれて実はほっと一安心した。

 次男?長女?私のログには何もありませんな、と言って生涯無関係を貫く。

 もし何か言ってたら一族郎党斬殺されてたのに、殆ど被害を負わないというファインプレーを出す。

 余生は良き理解者である嫁さんと共にのんびり過ごす。

 

 

 国際魔導騎士連盟日本支部長(次代)、黒鉄 王馬

 

 「真の強者に怪物も何もない。ただ強いだけなのだ。それだけを悟るのに、随分と遠回りしたものだ…。」

 

 色々悟った結果、心折れて漂白され、それでも鍛錬だけは欠かさず行い、父の後を継ぎ、立派に黒鉄家の役目を果たした。

 弟?妹?オレのログには何もないな(棒)。

 順調に母方の親戚筋のお嬢さんと見合いして結婚、元気で才能ある娘を儲ける。

 が、血筋なのか嫁と娘によすがられたり取り合いされたりして胃がキリキリしている。

 

 

 覇軍学園理事長 神宮寺 黒乃

 

 「あのロリがなぁ……。ま、何はともあれ良しとしよう。」

 

 大過なく仕事を完遂し、何度か産休を取りながらも仕事&夫婦生活した。

 時々悪友と会ってわいわい騒いだり飲んだりする。

 

 

 闘神 南郷 寅次郎

 

 「いぃぃよっしゃああああああああああ!!よくやったぞ寧々!!」

 

 とっくに現役引退したけど、まだまだ元気なおじーちゃん。

 待望してた愛弟子の子供にハイテンション。

 時折土産買ってやってくるファンキーなじいちゃんとして子供達に人気。

 

 

 天才画家にして漫画家 サラ・ブラッドリリー

 

 「ダメ。彼の存在は私では表現し切れない。自分の未熟を恥じるばかり。」

 

 実は一周目でも二周目でも解放軍の中で生き残った稀有な存在。

 一輝(偽)が解放軍で唯一傷つけない様に注意していた人物。

 クリエイターには敬意を払うオタとしての習性により生き残り、利用しようとする者も本人が気づかない内に斬られていた。

 晩年、漸く父の遺作を完成させるも、その半年後に急逝した。

 

 

 ……………

 

 

 「一輝さん、一輝さん。」

 

 その言葉に、他所に飛んでいた意識が戻る。

 害意を感じればその時点で斬っているが、そうでなければ眠る事もぼうっとする事もある。

 

 「ごめん、ぼうっとしてた。」

 「ふふ、もう時間ですからそろそろ行きましょうか。」

 

 超人ではあるが、超越者ではない。

 しかし間違いなく世界最悪の危険人物である一輝(偽)に対し、好いてくれる女性が4人もいる。

 その一人であるエーデルワイスが普段とは全く異なる純白の衣装を着て、傍に侍っていた。

 

 「あ、まだここにいたの二人とも。」

 「お兄様、早く来ないと神父さんを待たせてしまいますよ。」

 

 紫乃宮 天音と黒鉄 珠雫。

 この場の全員が、純白の衣装に身を包んでいる。

 白いタキシード、そして花嫁衣裳。

 今日は一輝(偽)とその花嫁達の結婚式だった。

 

 「おーい、そろそろ皆行くぞー。」

 

 そこに、すこしだけお腹の膨らみ始めた西京 寧々もやってきた。

 彼女もまた純白の花嫁衣裳に身を包み、その手に花束を持っていた。

 

 「あぁ、今行くよ。」

 

 普段無表情の一輝(偽)も、この時ばかりは少しだけ微笑んで、4人の花嫁と共にヴァージンロードへと歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 世界最強の暗殺者とその花嫁達

 

 「まさか4人も出来るとは思わなかった。」

 「嬉しいけど、ボクは愛人枠でも良かったのになー。」

 「ふふふ、まさか私が結婚できるとは思っていませんでした。」

 「うぐぐ、でもお兄様が幸せそうですから認めます。」

 「だよな。結局、私らが幸せかどうかが大事なんだよ。」

 

 生涯暗殺と謀略で狙われるも、その全てを撃退&過剰報復しつつ、敵から金品巻き上げてたので経済的には物凄く裕福に暮らせた(犯罪)。

 住んでる山は日本政府から公式に主権の及ばない独立地として放棄された。

 子供は合計15人を超し、ビッグダディと愉快な奥様方と子供達と世間では認知されてる。

 趣味に理解ある妻子達に囲まれ、時々発生する馬鹿を斬りつつ、生涯幸せに暮らした。

 夫婦円満の秘訣は皆平等に扱いつつも、寝室で主導権を取り続ける事だそうな。

 なお奥さん達が先に逝った後、この一輝(偽)は御年112歳で逝去する直前、世界各国が自分が死んだ後に子孫一同を皆殺しにする計画を立てたのを知って三日程で関係者一同を残さず斬殺した後、二日程曾孫達と名作ゲーム&アニメを楽しんだ後に普通に寝て、翌朝死亡してるのが確認された。

 この一連の行動に子孫一同は多いに納得した後、手厚く葬ったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『次、逝く?』

 「逝くー。」

 

 これにて今度こそ完結

 



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落第騎士になった話リトライ 主人公設定

 月影 一輝 (旧姓:黒鉄)

 

 伐刀者ランク:F 攻撃力:A 防御力:D 魔力量:F 魔力制御:A 身体能力:A 運:G

 

 原作殆ど知らない転生主人公。

 原作一輝の様な善性ではなく、中立中庸の極N‐N。

 何処の誰相手であっても、自分の在り方を曲げない神域そのものの冠位指定暗殺者。

 

 その精神性は誰が相手でも基本的に公平で中立で客観的だ。

 冷酷ではなく基本的に自分以外はどうでも良く、しかし例外として自分の不利益になる者に容赦しない。

 彼の奥さんsに対しても「自分にとって有益であり、自分の行いの結果で関係を持ってしまったから責任を持つ」というスタンスである。

 が、徐々に絆されて彼なりの愛情を持ってはいる。

 通常は無害なのだが、彼のオタ引きニート生活を邪魔する者と明確な害意や敵意を表明した者には一切の躊躇なく斬断する。

 そこには血縁も、善悪も、老若男女も関係ない。

 曰く、「敵は斬るもの。敵となる事を選択した時点で、それ以外の選択肢は無い」。

 たとえ地球の裏側でも、一時間以内に殺害する程度には高い探知力も相まって、三大勢力全てにとって死神扱いされた。

 が、何もしないなら何もされないため、その点を理解さえしてしまえば付き合い方は簡単である。

 更に話し合いを選んだ者に対しては、その者に悪意や害意、私利私欲さえ無ければ割とあっさりと応じるし、協力もしてくれる。

 こうした人格・精神性は先天的なものではなく、剣の修行をしていく内に「引きオタニート生活をする上で余分な感情」を削ぎ落とし、斬り捨てていった結果培われたものである。

 

 原作主人公の持っていた柵を全て捨てた事で世捨て人化、同時に周囲からの妨害も無くなり、人類最高峰の剣の才能を思う存分伸ばした結果チート化した中身オタクでヒキニート転生者な冠位指定級暗殺者。

 自分の不利益にならない程度に法律を守り、税も納め、自分に責があると納得すれば謝罪も行う。

 だが、不利益な存在に対してはたとえ肉親であっても例外はない。

 

 通常の剣術だけでも戻し切りに燕返し、神速の抜刀術や零の領域、無拍子に遠当て、概念切断等の多くの業を極め、更にはそれらを突き詰めた奥義を持つ。

 その他に体術も凄まじく、気配遮断(圏境)に縮地に甲冑組手、剣気だけで敵に死を錯覚させたり斬断したりする刃牙も斯くやのチート性能を持つ。

 剣術以外の能力を見れば、道教における天人合一(天・人を対立するものとせず、本来一体のものであるとする思想、あるいはその一体性の回復を目指す修行、または一体となった境地)を己が体術のみで実現しているため、地球上である限り、一切の物理的制約に当て嵌らない。

 

 落第騎士の世界一周目では持ち主も忘れ去ってる無人の山に勝手に住み着いてヒキニートオタク生活をしていたのだが、第三次世界大戦発生時に「楽しみにしていたアニメ放送や漫画・ラノベの出版が東京壊滅によって中断された」事でガチギレし、気配遮断で一切気付かれずに三大勢力のアジア方面軍並び首脳陣全員と魔人達(原作最強の比翼のエーデルワイス含む)を暗殺し、結果的にだが世界に平和を齎した。

 その後、月影首相に雇われて火消しに奔走する。

 その最中、一輝(偽)によって家族一同皆殺しになった実妹の珠雫を引き取るも、幼い頃の初恋を拗らせてヤンデレメンヘラ化した彼女にアルコールに弱いのに強い酒(媚薬入り)を飲まされ、ヨスガられて童貞を奪われ夫婦となる。

 何だかんだ孫も出来て大往生する。

 

 二周目においては前回の後半で雇われていた月影首相に幼少期に養子に出され、それから世界各地を転々とするが、その最中に喧嘩売ってくる各勢力を半殺しにしたりしてた。

 その最中、妹とよく似た体形の成人女性であり重力操作の魔人でもある西京 寧音と出会い、二周目の嫁一号にする。

 また、その前にはボーイッシュで中性的な美少女である紫乃宮 天音と出会い、彼女が己の伐刀絶技「過剰なる女神の寵愛」によって苦しんでいると知り、さくっと斬って解決した事で惚れられる。

 日本に帰還後は暁学園へと所属し、珠雫(二週目)とも再会する。

 その後、その年の七星剣武祭にてほぼ全ての対戦相手を無傷かつ一太刀で下し、優勝する。

 なおこの時、決勝戦で原作メインヒロインを三度「見せられないよ!」状態にした。

 更に決勝戦後、前世の記憶を引き継いでより成長した比翼のエーデルワイスと決闘、後一歩まで追い詰められるも、奥義たる四の太刀によって勝利する。

 が、後日エーデルワイスが押し掛け女房してきて本編完結。

 最後は実妹と合法ロリと中性ボーイッシュとバランス系姐さん女房の4人を嫁とし、今度は第三次大戦を事前に防ぐべく火消しをしながら生涯を過ごした。

 なお、火消しの方法は「第三次大戦を起こそうとするあらゆる勢力の斬滅」であり、こいつ一人により三大勢力の保有する伐刀者の3割以上と多くの政治家や企業家が証拠もなく、気付かれる事もなく、斬殺された。

 この事から一輝(偽)を指して「人類史最強の人斬り」、「人類史上最も多くを殺害した個人」と非公式に呼ばれていた。

 

 その後、御年100歳オーバーまで生きた上、死の一週間前に「そろそろ寿命だろw一族郎党暗殺計画練るべw」とかやった軍人とその部下と後援者達を全て斬殺し、家に帰って孫達と遊んだ翌日に眠る様に息を引き取った。

 

 

○FGO的スキル

 

 心眼(偽&真)

 透化(偽)

 圏境A

 縮地A

 天地合一

 無冠の武芸

 天性の肉体(偽)

 人斬りEX

 

 

○剣技

 

 一の太刀「天翔/あまがけ」

 皆ご存知天翔龍閃を改良した技。

 圏境による最高位の気配遮断と縮地による超音速の踏み込み、そして超神速の抜刀術の合わせ技。

 大抵の敵は斬られた事にすら気付かず死亡する。

 が、時折概念干渉や再生能力特化の伐刀者が極々稀に生き残る事もあった。

 

 弐の太刀「空割/からだち」

 要は超広域・超射程の空間切断。

 対象を空間ごと斬断する剣技であり、その射程は認識可能な全ての場所となる。

 その性質上、対象の防御力は無意味となり、防ぐには同質の攻撃による相殺しかない。

 

 参の太刀「運切/さだぎり」

 概念切断、要は斬れぬものを斬る技。

 概念干渉系への対策として編み出された技であり、対象を因果や魂ごと切断する。

 極めて応用が利き、因果に魂、記憶や人格のみを斬る事も可能である。

 

 四の太刀「時逆/ときさか」

 空間切断・概念切断・時間遡行の複合された、唯一のカウンター技。

 距離と因果、時間すら斬った果ての境地であり、一輝(偽)が危機に陥った際に「今とは異なる時間軸から一切の気配無く放たれる回避不能・防御不可の斬撃」である。

 これが放たれるのは一輝(偽)にとっての危機であり、対象が一輝(偽)に止めの一撃を見舞う瞬間、即ち最も防御を考えていない隙だらけの瞬間となる。

 

 

 

 

 

 




次回、番外編でFGOクロスものの予定。


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落第騎士(偽)が逝くFGO

冠位暗殺者について独自解釈あり〼。


 人類史が焼却したってさ → へー。

 アニメ会社や出版社にテレビ局も全て壊滅! → うん?

 だからオタ生活もできないって! → は?(威圧)

 

 これが落第騎士世界で天寿を全うし、他所の世界でてきとーに転生してまたオタ&剣客生活してた一輝(偽)が滅亡した人類史を救済し、原因となった人類悪達を討伐するに至った動機である。

 彼が斬り殺すだろう人類悪達が聞いたら遺憾の意を表明する事間違いなしであるが、事実である。

 

 

 ……………

 

 

 一輝(偽)は政治が分からない。

 何せ知識は無駄にあるが、勉強や試験となるとギリギリ高校生レベル程度だ。

 加えて、本人が自分に才能あるのは剣だけと諦めているからだ。

 故に、彼は自身の身に火の粉が降り掛からない限り、安易にその刀を抜く事はない。

 明確な一線、それが彼と他の多くの実力者を分けるものだった。

 故にその日、人里からちょっと離れた山の庵(違法建築)にて相変わらずのオタク生活を満喫していた彼を、否、彼がいた時代そのものを焼き払う熱波が吹き荒れた時、彼はあっさりとそれを斬り裂き、生き延びた。

 とは言え、唯では済まなかった。

 彼の住んでいた庵は焼け、中にあったオタグッズの類は全て焼却されてしまった。

 この様な暴虐、許してはおけない。

 そう決意した彼だが、しかし悪意や殺気を辿れても、遠すぎて行くのがちょっと面倒だなーと思わせる程度に距離と時間が離れているのはすぐに分かってしまった。

 また、場所が宇宙空間っぽいのも問題だった。

 必要とあれば物理法則すら斬り変えられるが、それは結構な手間であり、更に言えば元に戻せるように斬らないといけないので、余計に神経を使うのだ。

 はっきり言うと面倒臭い。

 自分に仕掛けてきた下手人には腹が立つが、しかし最悪この世界から別の世界へ引っ越しすれば良いと考えている一輝(偽)としては今現在、面倒だが報復ルートと見逃して引っ越すルートで悩んでいた。

 それに目を付けた者がいた。

 

 「やぁ一輝!ボクと契約して人理を救ってよ!」

 

 というブラック詐欺系似非マスコットではなく、

 

 『我と契約し、人類の守護者となれ。』

 

 皆ご存じ社畜生産機構ことアラヤーンだった。

 

 「お宅と契約すれば、永遠にオタク生活できる?」

 『可能。代価としてその死後を貰い受ける。』

 「おk。」

 

 こうして、あっさりと契約は締結された。

 が、その程度の繋がりなどその気になれば斬れる一輝(偽)にとって、この契約はものっそい軽いものだったりする。

 即ち、もしもアラヤが契約を反故しようものなら、即座に切断して返す刀でアラヤそのものを斬りかねないのだ。

 しかし、人類存続のための概念存在たるアラヤはそれに気づいても、目の前の超級の暗殺者を逃す事は出来ない。

 既にアラヤにそんな余裕など無いのだから。

 

 『該当クラスを検索…アサシンが該当………出身世界にて冠位級の条件を達成、冠位霊基での召喚を許可。』

 「よく分からんけどありがとう?」

 『任務内容を通達。人類史消滅を目論む全勢力の殲滅。終了までバックアップを継続。』

 「ほうほう、結構な魔力で。では行ってきまーす。」

 

 こうして、極NN系グランドアサシンが解き放たれてしまった。

 

 

 ……………

 

 

 第一特異点フランス

 第二特異点ローマ

 第三特異点オケアノス

 第四特異点ロンドン

 第五特異点アメリカ

 第六特異点キャメロット

 第七特異点ウルク

 

 それら全ての特異点は、誰も気付かないままに修復された。

 

 数少ない例外は、特級の千里眼を持ったグランドキャスター達だ。

 彼らはこの異常事態に気づき、しかし特に行動しなかった。

 賢王は自分のするべき事をするだけだし、花の魔法使いは興味無い内容となった時点で興味を失う。

 堕ちた魔術王は必死に手駒を動かすが、それは余りに遅すぎた。

 そも、相手は彼らの目すら掻い潜る暗殺者の極致たる存在。

 如何に彼らでもあの暗殺者を後から止める事は出来ない。

 最適解は「相手に行動させない事」だが、魔術王にはそれが出来ない。

 人類史最高峰の暗殺者たる資格を持つ者達の条件として、最上位の千里眼から逃れる事が可能というものがある。

 この暗殺者もまた、その例に漏れず、千里眼から逃れ切った。

 だが、ただ逃れ、特異点に存在する脅威を排除するだけでは意味がない。

 魔術王の持つ七つの聖杯、それらを集め、最後の一つに登録された魔術王の玉座へと辿り着き、魔術王を弑する事によって、この人理焼却は覆される。

 だが、そうやって魔術王の玉座の座標を観測する事は即ち、魔術王からも観測される事に他ならない。

 

 「という訳なんだけど、彼には意味なんて無いよねぇ。」

 「であろうな。アレはその程度ではどうにも出来ん。」

 

 ウルクにて、未だ現界を保っていたマーリンが賢王たるギルガメッシュと会話していた。

 

 「あれの本質は確かに暗殺者だろうさ。生前、誰にも悟られずに殺し続けたあの男にとり、ウルクを除いた特異点等生温い程だったろうよ。」

 「だが、彼はそれだけの存在じゃない。」

 

 二人は魔術王と同じくグランド・キャスターだ。

 故に、一度目の彼は兎も角、二度目の暗殺者ではない彼の姿を観測する事は可能だった。

 それがたとえ異世界の出来事でも、この世界の存在として適応された彼相手なら可能だった。

 

 「剣技においても最上級。如何なる戦士も、如何なる不死も、彼の前には意味がない。」

 「文字通り、世界の理そのものを斬る者を相手に如何なる契約も、魔術式も意味がない。」

 

 彼が辿り着いた時点で、魔術王は詰んでいた。

 圧倒的格上に喧嘩を売った結果、当然の様に憐憫の獣となった魔術王は破滅する。

 

 「ま、その後に関してはまた別の話だけどね。」

 「仕方あるまい。が、それは未来に生きる雑種共の仕事だ。」

 

 

 ……………

 

 

 「何故だ。」

 

 魔術王の玉座、終局特異点ソロモン

 自身の宝具たる玉座においてソロモンは、否、その遺体を乗っ取った72の魔術式、憐憫の獣、七つの人類悪の一つ、魔神王ゲーティアは呟いた。

 

 「何故、」

 

 その声には、激しい感情が込められていた。

 

 「何故、我らが玉座にて追い詰められている!?」

 

 どうしようもない現実に対する憤り。

 72の魔神から成る集合知は、分からないと叫びを上げた。

 

 「何故だ、何故だ、何故だ!!」

 

 無数の光線を、無数の魔弾を、無双の拳撃を放ちながら喚き続ける。

 だが、それらはただ一つとして当たらない。

 掠る事すらなく、往なされ、流され、切り払われる。

 ただただ無為になっていく。

 

 「………。」

 

 それを成すのは人類最高峰の暗殺者にして、最高峰の剣士だ。

 彼の剣技は一方的に魔神王の不死性を、特権を、異能を斬り裂いていく。

 本来なら如何なる攻撃を受けても即時再生し、無尽蔵の魔力を操り、あらゆる脅威を事前にその千里眼で観測して対処可能な魔神王。

 しかし、機能を果たせずに魔術式として壊れる事で主観を、人格を入手して劣化した事で、彼らには自身の脅威をあるわけがないと思い込んでしまい、結果として窮地を招いていた。

 彼らが何も考えずに、眼前に立つ脅威への対処をしていれば、何とか間に合った筈だった。

 だが、もう遅すぎる。

 既に彼らの死神は目の前に立っていた。

 

 斬、と

 

 彼らの結束の核となっていた、ソロモン王の肉体が遂に斬り殺された。

 

 「何故だ…」

 

 ボロボロと、バラバラと崩れていく中、それでも残った魔神達は問いを口にした。

 

 「何故、貴様は我らを討つ?人類は、救済されねばならんと言うのに…。」

 

 斬、と。

 止めを刺す最後の一太刀が放たれた。

 

 「死ね。」

 

 簡潔にして、混じり気一筋も無い純然たる殺意。

 最早人とは思えない程の純粋な感情の発露。

 そんな外敵に対する極々当たり前の対応に、魔神王は漸く納得した。

 

 「成程。敵を殺す事は、当たり前か…。」

 

 まるで機械、まるで本能。

 命ある者が命を脅かすものへ行う、当たり前の反応。

 この剣士は、それを実行したに過ぎない。

 ただ、それだけの事だった。

 

 (こんな愚かしくも純粋なモノ、我らの手に余る。)

 

 それを最後の思考として、魔神達は消滅した。

 

 

 ……………

 

 

 「ふんふんふーん。」

 

 後日、一輝(偽)は鼻歌交じりに最近発売されたラノベを読んでいた。

 彼の経験からすればスリルなんて無いだろうに、それでも彼はそれを最高の娯楽の一つとして愛していた。

 先日までは随分面倒な仕事が続いて趣味の時間が取れなかったが、それらを片付けた今はただのんびりと平穏を謳歌していた。

 だがしかし、彼の平穏が長く続く事は無かった。

 

 『契約者よ、仕事だ』

 

 不意に、彼の脳裏にそんな言葉が走った。

 

 「どしたの?」

 『異星よりの侵略者だ。目的は地球全土の漂白、然る後に選び抜いた文明による地球人類史の再構築。』

 「それ、どんな文明?」

 『神代のギリシャ、それが21世紀まで続く形となる。』

 「よし殺そう。」

 

 こうして、一輝(偽)はまた出陣する事となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Q 末期の言葉位聞いてやれよ!
A 話し合い選ばず一方的に殴ってきた敵の戯言なんて聞く必要無いだろJK

こんな思考回路(善悪でも秩序でも混沌でもない中立中庸)で、第一部も第二部も容赦なく斬り捨てていく一輝(偽)の話でした。


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落第騎士(偽)が逝くFGO 鯖版 嘘予告風 修正

 とある微小特異点、そこでカルデアは彼と遭遇した。

 

 

 「おや、遅かったな。」

 

 

 何処にも属さない歴史の中の染みとして現れたそこに、異聞帯の攻略での消耗を押して出撃した。

 

 だが、そこはカルデア唯一のマスターたる藤丸立香にとって極々普通の都市部の光景が広がっていた。

 とは言え、差異が無い訳ではない。

 より具体的に言えば、秋葉原と祭典開催中の東京ビッグサイトが悪魔合体した上に合体事故を起こした様な、ルルハワによく似た感じになっていたのだ。

 

 

 「あ、貴方は?」

 「あ、どうも。この特異点?異聞帯?の主です。」

 「えぇ…。」

 

 

 立香の困惑した声に、そのサーヴァントはカラカラと笑った。

 麹塵色の作務衣に柄から鞘まで漆黒に彩られた刀を佩いた日本人と分かる青年。

 

 

 「まぁゆっくりしていってよ。」

 

 

 そう言ってカラカラ笑う姿には何の邪気も無く、立香は拍子抜けした様に脱力した。

 

 

 「「「「……………。」」」」

 

 

 だが、生前に多くの戦いを経験したサーヴァント達は、皆一様に警戒を露わにしたままだった。

 

 

 「俺は…まぁ無名のアサシンだ。用があるなら郊外の山にある家に来ると良い。」

 

 

 それっきり作務衣のアサシンは消え失せた。

 その余りに完成度の高い気配遮断と離脱は、山の翁達に彼らの尊敬する初代を想起させる程だった。

 

 

 「取り敢えず、ここを見て回ろう。それから決めよう。」

 

 

 ギャグ路線ならそれで良い。

 しかし、そうでないのなら、あの圧倒的実力を持ったアサシンを相手取るしかない。

 早々にその確信を得た立香はこの閉じた世界を探索する事にした。

 

 

 「日本、だよね?」

 「えぇ、確かに先輩のよく知る日本の、極一部の光景かと。」

 

 

 祭典にやってきたオタ達の放つ熱量。

 ルルハワを思い出させるそれは、サーヴァント達よりも遥かに多い人数もあって、天井知らずに気温を上昇させ続けていた。

 誰も彼もがサブカルチャーへと熱狂し、各々の作品を持ち合い、或いは作品への愛を語っていた。

 その他にも己こそがアイドル、己こそが作家であると歌に漫画に小説、果ては映画や演劇にゲーム等、大よそ全てのオタク的娯楽が集結していた。

 それに乗りの良いサーヴァント達も以前の経験を活かして参加し、大いに楽しむ中、それに混ざらない者達もいた。

 

 

 「う~ん。これはどうにも…。」

 「……………。」

 

 

 人のまばらな位置から、作家サーヴァントの二人はその光景を微妙な表情で見つめていた。

 

 

 「どったの、二人とも?」

 「あぁマスター殿。この狂騒、吾輩にはちょっと合わないなーと思ってた所です。」

 「どゆこと?」

 「端的に言えば、この馬鹿騒ぎには不自然な所がある。」

 

 

 こうして、作家サーヴァント二人とマシュを伴にして、立香はこの奇妙な特異点の調査を開始した。

 そして、徐々にこの特異点の歪さを明らかにしていった。

 

 

 「ここはな、意図的に祭りの瞬間を切り取られている。謂わば写真の類だ。」

 

 

 祭典を楽しむオタク達の熱狂。

 秋葉原の住人達の趣味への情熱。

 そうした瞬間のみを切り取られ、固定され、祭りの一週間前から終わりまでを繰り返し続ける。

 それはルルハワによく似た、しかし致命的な差異のある特異点。

 

 

 「ここはたった一人を楽しませるための箱庭だ。恐らく、最終的にはここが壊れてもどうでも良いと思ってるのだろうよ。」

 「でしょうな。でなければこんな杜撰な作りにはしないでしょうし。」

 「どういう事?」

 

 

 作家二人の言葉に、立香は先を促した。

 

 

 「あの月でも二人といない傍迷惑女も似た様な事をやったが、アレはあいつなりにお前達を慮ってやらかした事だ。が、ここは違う。」

 「そう、その通り!これはあくまでここの住人達が作り上げるモノを楽しむためだけに作られた特異点!純粋に娯楽のための図書室と言った方が良いでしょうか。」

 「でも、それなら存続した方が良いのではないでしょうか?」

 

 

 マシュの言葉に、しかし作家二人は否を示す。

 

 

 「いえいえ、あくまでここの主は読まないまま部屋に積んでた本を消化する感覚でこの特異点を作ったのでしょう。現に繰り返す10日間の中では、新たな作品が生まれていないのです。」

 「生まれてしまってはさっぱり消化が追いつかないだろう?要はそういう事だ。そして、消化し終えればここは用済みになる訳だ。」

 「それは、また……。」

 

 

 立香としては困惑しきりだ。

 特異点を実験室や使命のための舞台にする者、或いは通常の人類史では実現できない願望を叶えるために特異点を利用する事例はあった。

 しかし、最初から使い捨てる予定で特異点を形成する者がいるとは思いも寄らなかった。

 いやまぁ新宿みたいな特異点全体が罠という例はあるが、それは兎も角。

 

 

 「では、この特異点を形成したのは、やはりあの無名のアサシンさんで宜しいのでしょうか?」

 「あぁ。奴には嘘偽りは感じられなかった。」

 「アラフィフ殿並の嘘つきなら自分すら騙している可能性はありますが、あの御仁はどちらかと言うと…。」

 「アサシンの方のエミヤと柳生何某を悪魔合体させた感じだ。」

 「何それ怖い。」

 「目的のためには常に平静かつ手段を選ばない。尚且つご本人も搦め手含めてとてもお強いという事でしょうか。」

 

 

 こうして、この特異点の性質を突き止めたカルデア一行は、一路郊外の山の中にある家へと向かうのだった。

 

 

 「うん、正解だ。」

 

 

 カルデア一行の推理を聞いた無名のアサシンはあっさりと認めた。

 

 

 「最近の娯楽作品の生産速度は速すぎて追い切れなくてね。一度ちゃんと追い付こうと思ってこの特異点を作ったんだ。」

 

 

 以前聖杯を入手した事があったからね。

 そう言って懐から出したのは、彼らも見覚えのある見事な黄金の杯だった。

 

 

 「さて、それを知ってどうする?」

 

 

 そして、先程までの穏やかな雰囲気を捨てて、抜き身の刃の様な気配を放ち始めた。

 同時、近接戦闘でも最上位の面々は立香と無名のアサシンの間に立ちはだかる。

 

 

 「この特異点を閉じてもらいます。」

 「どうしても?」

 「どうしても、です。」

 

 月のない夜、波一つ立たない湖面の様に感情の感じられないアサシンの問いに、立香は頷いた。

 

 

 「確かにこの特異点はオレにとっても馴染み深くて楽しい。でも、こういった事に没頭するのは、今じゃなくても良い。それは、貴方も同じ事だと思うから。」

 

 

 それはこの繰り返す10日間の中で、立香が得た結論だった。

 確かにこの特異点は平和そのものだ。

 祭りの時期であるためやや気性が荒くなっている所はあるが、それ以上に穏やかな気質の人々が多いため、大抵の問題は話し合いで解決する。

 日本生まれの日本育ちの純粋な日本人である立香からすれば、余りにも懐かしい光景だった。

 しかし、この特異点は閉じている。

 まるで引きこもりの様に、するべき事から目を逸らし、無理にでも娯楽に没頭している様な、そんな感覚がするのだ。

 それは正常な人類史の復活を目的とするカルデアに所属し、多くの戦いを経てきたからこその感覚なのかも知れない。

 しかし立香には、人類最後にしてカルデア唯一のマスターには、ここで立ち止まるという選択肢は存在しなかった。

 それは今まで打倒してきた、犠牲にしてしまった全てに対しての侮辱だと理解しているから。

 

 

 「そうか。じゃぁこの特異点は閉じよう。」

 「へ?」

 

 

 その覚悟が伝わったのか、無名のアサシンはあっさりとそう宣った。

 

 

 「とは言え、条件付きだ。」

 「あ、なんかヤな予感。」

 

 

 ここまで来ればもうお分かりであろう。

 

  

 「オレに勝って、我こそは人類史を再生させる者だと示してくれ。勝利の暁にはこの聖杯とこの特異点の娯楽作品全てのデータをプレゼントだ。」

 「乗った。」

 「先輩、決断が早過ぎます!」

 

 

 マシュの悲鳴染みた突っ込みを黙殺しつつ、立香は更に声を上げた。

 

 

 「おまけに貴方を召喚する権利もプリーズ!」

 「よしよし、勝てたらこの聖晶石30個もあげちゃおう。」

 「ヒャァ我慢デキネェ!」

 「先輩ー!?」

 

 

 こうして、この特異点最後の戦いが始まるのだった。

 

 

 「あ、言っておくけどオレ無敵貫通(3T)で殆ど常にクリティカル出すからね。」

 「アイエエエエエ!?サムライ、サムライナンデ!?」

 「先輩ぃぃぃぃぃぃ!?」

 

 

 この後なんとか令呪三回と石二つ使って勝ちましたとさ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一輝(偽)のFGO的ステータス

 

 筋力C 耐久D 敏捷A+ 魔力E 幸運E 宝具???

 

 カード構成…QQQAB

 

 スキル

 心眼(偽・真)…回避状態を付与(1T)+クリティカル威力UP(3T)+防御力UP(3T)

 無冠の武芸…NPを獲得+自身のスター発生率UP(3T)+自身のクリティカル威力UP(3T)

 天地合一…自身のHPを大回復+自身の状態異常を解除+自身に状態異常無効化状態を付与(3T)

 

 宝具

 「参の太刀・運切り/さだぎり」

 自身に無敵貫通効果を付与(3T)・敵の強化状態を解除・敵単体に超強力な防御力無視攻撃(OCで威力UP)。

 

 絆礼装

 「四の太刀・時逆/ときさか」

 無名のアサシン装備時のみ、自身にガッツ状態を付与(1回)+ガッツ発動時、敵全体に超強力な無敵貫通・防御力無視攻撃を行う。

 

 

 解説

 常にクリティカルするスター生産マン。

 常にジャック以上に星を安定生産する上、その星を活かしたクリティカル攻撃を連発してくる。

 更に宝具を使えば無敵貫通が付く上、強化解除で中ボス程度なら間違いなく即死させてくれる。

 問題はスター集中系がない事だが、それが問題ない位には大量の星生産職人なので問題はない。

 が、反面HPが低く打たれ弱いので、長期戦を強いられる状態なら回復役と組み合わせよう。

 Qコンボを狙うなら、ジャックちゃんとスカディがお勧めである。

 NPに関してはガンガンクリティカルしてくれるので、余り心配はない。

 宝具に関しては貯めるのも手だが、積極的に使用して無敵貫通を利用していこう。

 また、絆礼装は一度限りとは言え極めて強力であり、ボス戦でもイベントでも非常に役立つだろう。

 

 

 



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