彼女たちの生き様を見届けて―転生緋衣四葉伝― (粒餡)
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プロローグ
まだ屍になりたくなかったです
――とある男の死に際の思考
雲一つない青空が広がる天気のことをいい天気だという人は多いだろう。まあ俺だって流石にこれがいい天気ではないとまでは言わない。
だが、あえて言わせてもらう。今の天気のように白い雲がいくつか浮いており、その間から青空が広がっている。これこそが真のいい天気というものではないだろうか。
夏であれば太陽が雲で隠れれば嬉しいし、冬であれば雲が太陽で隠れれしまえば早く太陽が出て欲しいと願うもの。
そういうふうに一喜一憂できるのに対し青空が広がる天気といえばそんなものはなく、暑い時は暑く、寒い時は寒いだけだ。そんなのなんの面白みもない、変わっていくものが人生であり人なのだからもしかすると青空が好きな人間はそういう何の変化もない人生を願って青空が好きなのではと妄想し――
「お兄ちゃん! ちょっと、聞いてるの?」
俺がそうやって自分の世界に入っていると、その世界に突然乱入者が入り込んでくる。そう、
「……んだよ、折角詩人になって人間の心理というものを考えていたのに。お前どうするんだよ、これで将来世界的に有名な詩人になるかもしれない俺の才能が途切れしまったら」
「……何わけわからないこと言ってるの」
おっと、軽く引かれてしまった。まあ自分でもよくわかんないこと考えてたからしょうがないが。これが夏の魔力というものなのだろうかね。
まあこのままだと最悪妹から母さんへの伝言ゲームで俺の言動が伝わり家族から一生温かい目で見られるという生涯を過ごすことになってしまうかもなので仕方なく俺は縁側で寝ていた体を起こす。
「冗談だよ。で、何のようだ?」
「お兄ちゃんってたまにガチなのか冗談なのかわからない発言するよね……まあいいか、いつものことだし」
どうやら俺はこいつからよく変なことを喋る変人だと認識されていたらしい。二十年間という短い人生の中でもこれは十三番目ぐらいの驚きに入るだろう。
「というか、やっぱり聞いてなかったのね……買い物行ってきてって何度も言ってたんですけど」
「すまん、全く聞こえてなかった」
「はぁ……その様子だと、私が帰ってたのにすら気付かなかったんじゃない?」
そう言われてみれば、こいついつ帰ってきたのだろうか……そう思って改めてこいつの体を見てみると、服装は制服で、まだ頬に汗が滴り、若干乱れた髪を見るに帰ってきてからそう時間は経っていないらしい。
そんなことをぼんやりと認識していると、急に自分の体を腕で覆い始める……こいつ何勘違いしてんだ。
「……お前が何勘違いしてるんだか知らねえけど。とりあえずそのポケットからはみ出てるアイスのゴミは母さんに見つかる前に捨てておけよ。あの人のことだ私の分も買ってきて~とか言い出しかねんぞ」
「……確かに言いそう」
そう言って妹ははみ出していたアイスのゴミをポケットの奥にねじり込む。
「まあ、それはいいとして、買い物行ってきて」
「なんで俺が……」
「久しぶりに家に帰ってきたんだから、家の仕事ぐらい手伝ってよ、こういうのはいつも私の役目なんだからね。いい訓練になるからちょうどいいでしょって」
「言いそうだな。まあたまにはいいか、何の材料買ってくればいいんだ?」
「お兄ちゃんの好物」
「肉じゃがね、了解」
となると、材料はいつもどおりの物でいいだろう。とりあえずさっさと済ませて家に戻ってこよう。外は俺には暑すぎる。
「……そう言えばお兄ちゃん」
「なんだよ」
そう思って俺が立ち上がった瞬間、話しかけてくる妹。こいつ俺を買い物に行かせたいのか行かせたくないのかどっちなんだよ。
「一人暮らしは慣れた?」
「まあな、母さんが生活の知恵とかが書かれたノートくれたし。お前こそどうなんだよ最近。今年が最後なんだろ? 陸上の大会」
「んー……まあそこそこ、ってところかな。良くもないし悪くもない、って感じ」
「そうか、頑張れよ」
「言われなくても頑張るよ。じゃ、いってらっしゃーい……あ、帰りにアイス買ってきてアイス!」
「腹壊しても知らねえぞ……行ってきます」
俺が玄関まで行くと、微かに妹が扇風機に向かって声を出してるのが聞こえてくる。まあ夏の風物詩とも言えるし、俺もやってるから何も言わねえけどな。ガキっぽいとは思うが。
「あー重い。非力な俺にこんなもの持たせるなんてどうかしてるぜ……」
特に何の問題もなく買い物を済ませ家に戻る。アイスが溶けなきゃいいが……まあ十中八九溶けるだろうが、せめて形はある程度は保っていて欲しいしなるべく帰路を急ぐ。
「しかし母さんの肉じゃがを食うのも久しぶりだなあ……やっぱり自分で作るとどうも違うっていうか……やっぱりあれかね、愛が入ってないからか?」
横断歩道に差し掛かるも、ちゃんと青であることを確認してから渡る。別に急いで入るが信号無視をするほど急いではいない。
「いやだけどあれは愛とかそういうレベルで味が違うんだよなあ……思い出補正か、はたまた母さんがわざとあのレシピに調味料を一つ書かずに置いたか……まあ、今日食べてみればわかるか」
そんなことを考えながら歩いていると、横目に明らかに見えてはいけないものが見えてしまい、思わずそちらを振り向く。
「――え」
その瞬間、俺の体に衝撃が走る。全てのものが遅く見えた。俺に向かってきていたのはトラックで、俺の手から買い物袋が離れていき、中身のじゃがいもなどが空中を舞う。そして、確かに横断歩道の信号は、青だった。
「……ん、お兄ちゃん?……気のせいか、早く帰ってこないかなあ……久しぶりに帰ってきてくれたんだしゲームとかして遊びたいのに」
……一体、何秒、何分、何時間眠っていたのだろうか……俺が目覚めると、俺はどうやら地面に転がっているようだった。そして、何やら温かいものが体中を包んでいる。それを何とか気だるい体で確認すると、それは。
血だった
……ああ、そうか。俺、轢かれたんだった。そう認識すると今度は俺の聴覚が周りの喧騒をわずかに捉える。何とか体を動かそうとするが、無理だった。腕や足の感覚どころか、本当に自分の体なのかという感覚すら覚える。俺、死ぬのかな……何故俺は轢かれたのだろうか、信号は青だったし、誰かに殺そうとまでの恨みを買われた覚えもない。となると、居眠り運転か、運転手の不注意か。
やっぱり、青空の方が良かったのかね。そうすれば陽が当たってこうならずに済んだかもしれないのに。
それを最後に、俺の思考は途切れた、何も考えず、何も感じず。ただ、死を待つだけだった。
沈丁花
花言葉
「栄光」「不死」「不滅」「永遠」
和名: 沈丁花(ジンチョウゲ)
別名: 瑞香(ズイコウ)、輪丁(リンチョウ)
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こうして俺は踏み出した
――天界の2番目の力を持つ神のお告げ
「……ん……あ、れ?」
……俺の意識がまた戻ると、やはり俺は倒れていた。だが、前のとは少し地面の感触がコンクリート特有のザラザラした感触ではなく、ツルツルとした床だった。何より、先程まで手足の感覚どころか体の感覚すらなかったのに、そういった感触も感じることもできるし。ちゃんと呼吸もできている。
「……ということは、俺。助かった、のか?」
だが、そうだとしたらおかしい。何故俺は病院のベッドの上で寝ていないのか、百歩譲ってどこかに寝かされているとしてもまさかトラックに轢かれた人間をうつ伏せで地面に置く人間はいないだろう。
とりあえず、まずはこの状況を確認するため、体を起こす。
「……起きましたか?」
「――うおわっ!?」
そこには、俺が今までに見たことないほどの美しい女性がこちらを見ていた。あまりにも美しすぎたために、一瞬思考が停止してしまい、数秒経った後に後ろに仰け反る。
「え、えっと……ナースの方、でございましょうですか?」
「なーす……というものがよくわかりませんが、違います」
思わず変な口調で喋ってしまった俺に対して、彼女は冷静に否定する。
「じゃああなたは誰ですか……? 少なくとも、俺の親戚にあなたのような美人さんはいなかったと記憶してるんですが……」
「そうですね、私はあなたの親戚などではありません。更に言うのであれば、あなたたちとは違う存在でもあります」
それはあれだろうか、顔面偏差値的な意味で言ってるのだろうか。
「私は、大照天 夕子。あなたたちの世界で、所謂神と呼ばれているものです」
「……」
え、いきなり何いってんのこの人……もしかして俺は今夢を見ているのだろうか。
「……まあ、困惑するのも無理はないでしょう。ですが、あなたに詳しい説明をしている暇もないのです。ですから、単刀直入に言います」
そう言って、神と名乗った女性は一拍置き、再び口を開いた。
「輪花 撫、あなたは死にました。なので今後の事は私の指示通りに動き、行動してください」
――だが、そこから発せられた言葉は先ほどの神と言った事を凌駕するレベルで、とんでもないことだった。
「……何、言って」
「あなたも覚えはあるでしょう。あなたは現世で死に、そしてここに来た」
「た、確かに。俺はトラックに轢かれた、死ぬとは思った……け、けど! 俺はこうして生きてるじゃないか!」
俺が詰め寄り自分でもわかるほど強い口調で聞いたが、それでも彼女は冷静に俺に告げる。
「あなたがここで存在しているのは、本来ありえないことなのです。あなたは本来であればこのまま極楽か地獄に行くかを定められ、どちらかに行くはずだったのです……しかし、私たちはあなたに用があり、特別にこうして呼び出したのです」
「……用って、何だよ」
俺はなんとか冷静になるように心がけながら、その言葉をゆっくりと吐き出す。
「あなたには、これから行く事になる世界に行ってもらい、ある一族の朱点討伐に協力して欲しいのです」
「……それはあれか、異世界転生ってやつか」
「いせかいてんせい……というのがよくわかりませんが、言ってしまえば輪廻転生のようなものです。まあ少々違うのですが。あなたの魂をあちらのものに憑依させ、そこから実体を作り出す……いわば付喪神のようなものですね。勿論、朱点討伐を済ませたあとはその世界で好きに過ごしてもらっても構いません」
つまり、目の前の女が言っていることはこういうことだった、死んじゃったけど新しい世界に転生させてあげるから一族の朱点討伐とやら手伝ってあげてねっ、そのあとは知らない!……と。
「……ふ、ふざけんじゃねえよ! なんで俺がそんなことしなくちゃならねえんだよ! 俺は、俺はまだやりたいことがたくさんあったし! まだ保育士になる夢だって叶えてねえし、妹とも、まだ遊び足りねえし……親にも、まだ全然今まで苦労かけた分も返してねえし……まだ、まだ……まだやらなきゃいけねえことがたくさんあるんだよ!! そんな変なことに付き合ってる暇はねえんだよ!!」
言いたいことを言い尽くして、少しくらくらする頭に酸素を送り込むために、必死に呼吸を繰り返す俺に対して、やはり目の前の女は冷静に告げる。
「……あなたの言い分は分かりました。確かにこちらとしても少々酷なことを言ってしまいました」
「……少々ってレベルじゃ、ねえよ」
「なら、こうしましょう」
そう言って、初めて。目の前の女は少しだけ、少しだけ感情を込めて俺に言う。
「今からあなたが行く世界で一族の朱点討伐に力を貸しなさい。そうすればあなたの人生をもう一度やり直させてあげましょう」
「どういう、ことだ?」
「もし、あなたがその一族をちゃんと手助けし、その一族が見事朱点討伐を果たすことができた、そのときはあなたのいる世界の、あなたが生まれたその時の時間にあなたを送り返し、人生をもう一度歩みなおすのです。流石に死をなかったことにはできませんが、そうすることならできます」
「……死をなかったことにするのと俺が生まれる時間に送り返すのがどういう難しさの違いなのかよくわからねえが……つまり、俺は、帰れるのか?」
「あなたがちゃんと責務を果たした、そのときは必ず」
「……分かったよ、そういうことなら……やってやるよ、朱点とやらが何なのかもわからねえし、俺に何ができるのかも分からねえけど……それで、それで帰れるっていうなら、やってやるよ……!」
「ありがとうございます」
そう言ってお辞儀をするが、声はまた感情のない、冷たい声に戻ってしまった。正直この声は少し苦手だ。
「では、あなたが行く世界について、あなたの役目について話しましょう」
「できるだけ手短にな」
そして、彼女は喋りだす。
俺の
あいつらの
あいつの
神々の
それぞれの思惑が入り乱れた、本来入るべきではなかった異物を抱え、どこにどうやってたどり着くかも分からない、歪な道を突き進む。物語のプロローグを。
「――緋衣の血を継ぐ子、四葉よ。目覚めなさい」
ムシトリナデシコ
花言葉
「罠」「未練」
和名:虫取り撫子
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第一章 幸運の章
緋衣家
冗談、冗談ですから!
――とある主従の会話
時折風が吹き、その度に花びらが散る。そんな庭にある桜の木を眺めながら何度目かもわからないため息をつく。
「……桜、きれいだねえ」
「綺麗ですねえ」
「……はぁ、ねえイツ花。まだ?」
縁側に座ったまま、イツ花に対して問いかける。私は現在、鹿島 中竜様との間にできた子(と言っても自分で産んだわけじゃないけどね)をイツ花とは違う天界の使者が送ってきてくれるのを待っているのだ。
自分の母親が普段していたというおさげを弄りながら、イツ花の話をぼーっと聞く。
「まだですねえ、きっと途中で買い食いでもなさってるのでは? というか四葉様、前に聞いてからまだ三分も経ってないですよ? ちょっとは落ち着いたら――」
「なっ、この母親の私より先に我が子と……!? ちょ、ちょっと探してくるぅ!!」
イツ花が何か言っていたが、それは『買い食い』という言葉を聞いてすべて吹っ飛んだ。この私を差し置いてまだ見ぬ我が子とそんな親睦を深めるなんて……絶対に阻止、後に私がやらなければ!! そう思って立ち上がり、縁側から庭に駆け下りて、塀に向かう私をイツ花が必死に止めてくる。
「離してイツ花ぁ!」
「ちょ、落ち着いてください四葉様! 冗談! 冗談ですから!! 大丈夫ですよ、ただやっぱり天界からここまでとなるとやっぱり時間がかかるものでして。それで遅れてるだけですから!」
「……本当?」
「本当です」
「ほんとの本当?」
「天に誓って、本当ですよ」
その言葉を信じて、私は再び縁側に座る。おかしいな……私の寿命は短いはずなのに、一秒がとても長く感じる。これが走馬灯ってやつか。
「ふぅ……ああもう、早く来てくださいよぉ、ナデさん何やってるんですか……」
「……ねえ、まだ?」
「まだですって!」
その瞬間、後ろの襖が開く音がした。
「……しっかし、本当にひどいな」
俺はあのあと、色々説明を受けた。俺の主な仕事はイツ花という俺とはまた違う天界の使者と一緒に一族のサポート。イツ花は主に家事を、俺は戦闘面及び雑用のサポートという分担をもらった。正直この分担が必要なものなのかという疑問もあるが、まあこれさえ終われば俺はまた向こうの世界に戻れるのだ。それを思えばいくらでも頑張れる。
さて、それはともかくとして俺は現在俺がサポートする一族、緋衣一族と神の間にできた子どもとともに歩いている、途中で何かしら買ってやろうかと思ったが、それができないということは、ここに来てすぐにわかった。
「そうですね……ひどいことをしますね、鬼たちは……」
答えたのは俺が現在送っている子ども、まだ名前は付けてもらっていないらしい。見た目は、まず目を引くのがその赤い髪である、恐らく母親の遺伝なのだろうがその黒い肌と相まってかなり活発なイメージを持つが、ここに来るまでに会話を交わした結果、とても優しい子だということは既に分かっている。だが、一番奇妙な点、それはやはり彼がまだ生まれてから四ヶ月ぐらいしか立っていないということだろう。
彼はもうそこらへんで遊んでいるような子どもと同じぐらいの背で、きっと何十年化したら立派な青年になるんだろうという風格をしていたが、恐らく数年もしないうちに、彼は俺の目の前からいなくなるのだろう。
「(……短命の呪い、か)」
短命の呪い、それは朱点童子が一族の復讐を恐れ、一族にかけた呪いである。その呪いのせいで一族の人間は常人とは比べ物にならない速度で成長し、そしてあっという間に死んでしまう。実際現在当主である緋衣四葉という少女も、もう高校生ぐらいの見た目らしいが、一歳にもなってないらしい。
「(哀れなものだな……)」
一瞬そう思ったが、その考えを俺は即座に首を振り消し去る。それが彼にとって失礼なものだと思ったからだ。
そして、俺は気を紛らわすように京の様子を見る。その子が言うとおり。京というのだからてっきりもっと栄えてるものだと思っていたが、その光景は悲惨などという言葉では表せないほどひどい有様だった。
まず、まともな家というものが見当たらない。大体はボロボロで、家と呼べるものは数件しかない。そして京の人々らしき人も、またボロボロな服装で誰もかしもが何をするわけでもなく、ただぼーっとしている。
「何とか、しないとですね……」
そう言ってその子は何かを決意するように拳を握る。
「……なあ、なんで君は、そんな風に思うんだ?」
「え?」
「あ、いやほらさ。何でそんな何とかしなくちゃとか思うのかなって、ここに来たのもこれが初めてなんだろう?」
気になって思わず聞いてしまったが、聞いた瞬間しまった、と思い、何とか言い訳を口にしたが結果さらに奇妙になってしまった。
「なんでって……それは……僕が、お母様の息子だからです」
「……それはどういう――」
「ナデさんは」
俺がその理由を訪ねようとしたら、それを遮るように質問される……恐らく、聞いて欲しくないんだろうな。
「ナデさんは、何で僕たちを助けることにしたんですか?」
「何でって……」
「僕がここに来たのが初めてなように、僕がナデさんにあったのも、それこそ一週間前ぐらいじゃないですか」
「……」
そう聞かれて、俺は少し黙って考え、言葉を紡いでいく。
「……俺のために。だな」
「ナデさんのため……?」
「ああ、俺と神様はある約束をしててな、お前らが朱点を討伐したとき、俺の願いも達成されるってわけだ。それまでお前らのサポートをするっていう約束が前提でな。だからそれが一番の理由だ」
「……そうですか」
「……お、あれじゃないか? 緋衣家っていうのは」
「あ、ああ確かにそれっぽいですね」
何となく気まずい空気になってしまいさてどうしようと思っていたら、ちょうど目的地について助かった。そこは元は立派な屋敷だったのだろうが、今ではボロ屋敷となっている。が、少なくともここの家々の中では一番立派とも言えるのではなかろうか。
「ここが、今日から俺が住む家か……頑張らなきゃ」
「ナデさん、早く行きましょうよ!」
「はいはい、お母さんに会いたいのはわかるがそう急かすなって、すぐ行くから」
「そ、そんなんじゃありませんよ!」
急かす彼をからかうと、彼は自分の髪の色と同じように顔も赤くして反論する。
「(そりゃそうだよな、いくら体がでかくたって、やっぱりまだ子どもだもんな。母親に会いたいのは当然か……)」
「早く早く!」
「はいはい」
俺の腕を掴んで家の方へと引っ張る彼をなだめながら、俺たちは門を潜り、敷地内に入り家の中に入っていく。
「んじゃ、まず俺が挨拶しに行ってくるから少し待っててくれ。俺にも立場ってもんがあってな」
「分かりました……」
そして、ここの当主様とやらがいる部屋の襖を開ける、とりあえずさっさと挨拶して仕事に入らなきゃ――。
「うおおおお! 待っていたぞ我が息子よおおおおお!」
俺が襖を開けるとずっと出待ちしてましたと言わんばかりに即座に何者かに飛びかかられ、抱きしめられる。
「しかしでかいな! 私よりでかいんじゃね!?」
「……えっと、当主様」
「そんな他人行儀な呼び方しなでよ! 家族なんだからさ!」
「えーと、四葉様。その人、違いますよ?」
「え?」
イツ花さんに言われ、その何者か……恐らく彼の母親、つまり俺が仕える当主である彼と同じ髪色をした、緋衣四葉はそちらを振り向く。
「その方は私と一緒にこの家に来ることになったナデさんです。恐らく奥に居る子どもがそうかと……」
「……え?」
「そういうことですので当主様、離してもらえるとありがたいんですが――」
「え、え、あ。うおわああああああああ!!」
こちらに振り向き直したあと、俺の顔をまじまじと見つめ顔がどんどん紅潮してくかと思ったら突然奇声をあげながら。
「ああああああ!」
俺の右頬にとてもいい右フックを出してきた。
緋衣 四葉 緋衣家:本家 性別:女性
初代緋衣 四葉。
心の水と土が高く、優しくも、堅実な性格で当主向きな人物。
が、その行動は破天荒な性格で、また割とがめつい。
家族を第一に考え、自分のことは第二に考える節がある。
名前の由来
緋衣草、サルビア。花言葉は家族愛
から緋衣
四葉のクローバー、クローバー。花言葉は幸運、復讐
から四葉。
このゲームの要素を凝縮した名前、サブタイトルも合わせて中々のお気に入り。
心 技 体
火 低
水低 低 低
風 低
土低 低
(何もない場所はステータスバーが文字から出ていないところ、低は半分を超えていないところ、中は半分ぐらい、高は半分以上 超はほぼカンスト)
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この家の力関係
――とある親バカ当主の言葉
「……私悪くないもん」
そう言って俺たちが暴れたせいでとっちらかった部屋の隅で体育座りをしながらうちの当主様(笑)がほざく。
「ふざけんな0:100でそっちが悪いわ」
「そりゃ確かに最初に手を出したのは私だよ! だけど、普通女の子をその勢いで庭まで投げ飛ばす!?」
「俺は男女平等の主義なんだよ。つうかお前だって反撃してきたじゃねえか、あれでお相子で終わせればよかったのになあ?」
「そりゃ投げ飛ばされたら反撃するでしょ!」
「なんでそっちから仕掛けてきてんのに反撃する必要が――」
「お二人共?」
イツ花の言葉で俺たちは一瞬にして黙り込み、イツ花の方をゆっくりと振り返る。
「確かに喧嘩するほど仲がいいと申します。そういう点で見てみれば主と従者、仲がいいのは結構なことです」
そう笑いながらイツ花は言うが明らかに目が笑ってない、いや微笑んでいて目はあまり見えないのだがわかる。確実にイツ花は怒っている。
「ええ、結構なことです。ですが……ナデさん」
「は、はい!」
「相手はあなたが仕える人なのですよ、それを投げ飛ばしあまつさえそのまま喧嘩をするなんて、これを昼子様になんて報告すれば……」
「い、いやそのあの本当にすみません! 本当に今後は気をつけますんで!」
流石にこんな理由で俺の現世帰りが白紙にされてしまっては困るので俺はその場で即土下座をしてイツ花に謝る。
「……で、そこのナデさんを笑っている四葉様?」
「! は、はいなんでしょうか!」
どうやらあのアマ俺を見て笑っていたらしい、謀反でも起こしてあの子を当主にしてやろうか……
「ナデさんの言い分もまた正しいのですよ? 先に手を出したのは四葉様なんですから」
「で、でもその後投げたりしてきたし……私当主だし……」
「あなたは今日から母として子どもを育てていかなくてはならないのですよ? でも、四葉様がそんなのでは私が代わりに母として……」
「すいませんでしたあああ! なのでどうかその子は私に育てさせてくださいいいいい!」
そう言って当主である四葉ですらイツ花に土下座をした。どうやらこの家の力関係が判明してしまったようだ……
「……はあ、お二人共、反省していますか?」
『はい、とても深く反省しております!』
「もう、今回だけですよ?」
イツ花の声がいつもどおりの明るい声に戻ると、俺たちはほぼ同時に顔を上げる、するとそこにはいつもの笑顔が戻っていた……もうイツ花は怒らせないようにしよう……
「では、四葉様! 少々遅れましたが、天界からあなた様の子どもが来ましたよ!」
イツ花がそう言うと、となりの部屋の襖が少し開き、あの子がこちらをチラっと見てくる。そしてイツ花をチラっと見て、イツ花が頷くとそのまま襖を開け、こちらの部屋に入ってくる。
「うおおおお! 我が息子よおおお!」
その瞬間、先程と同じように凄まじい勢いでその子に抱きつく。こいつ全く反省してねえな……
「か、母様、苦しいですよ……」
「あああああやべえええかわいいいいい!! 髪! 髪の色同じ! ああでも髪型! 髪型は中竜様と同じ! あの人ね! いつもはすっごいさらさらなのに寝起きとか、普段は髪ぼさぼさなんだよ!」
「……はぁ」
すっごい勢いで自分の子どもを愛でる当主様を見て何だか毒気が抜かれてしまった。素はいいやつなんだろうな……
「……当主様」
「……む、なによ」
そしてしばらくその様子を見ていたが、頃合を見て話しかける。どうやら完璧に機嫌を損ねてしまったようだ、まあ出会いが出会いだし仕方ないが。
「いつまでもご子息様と戯れているのもいいですが、とりあえず。名前、つけてあげましょう。いつまでも我が息子、と呼ぶわけにもいかないでしょう?」
「む、確かにそうね……たまにはいいこと言うじゃない、ナデ!」
たまにはってなんだ、まだ会って一時間も経ってねえだろ。
「さて、名前だけど、勿論考えてあるわよ!」
そう言って懐から紙を取り出す。
「四葉様、だいぶ考えてましたからねえ……」
「もちのろんよ! なんてったって私の息子の名前だからね! んで、名前だけど……」
そう言うと全員から見える位置に移動して、紙を広げる。するとそこには。
「『奏太』! 奏でる太郎と書いて、奏太よ!」
「……案外まともだな」
「何て名前付けると思ったのよ!」
光宙とか無とかそんな感じのキラキラネームをつけると思っていたが、わりかしまともなネーミングでびっくりした。
「奏太……奏太……! ありがとうございます、僕。とても気に入りました!」
「そうでしょうそうでしょう! なんてたって、この私がつけた名前なんだから!」
「ところで四葉様、何か意味などはあるのでしょうか?」
「もっちろん! ほら、私って意外とうるさいでしょ?」
どこが意外となのか全くわからない、そう思っているとこちらを睨んできたので俺は目をそらす。
「……んで、逆に奏太には楽器を弾くように綺麗に、しかし力強い、そんな子に育ってほしい、そういう意味が込められてるのよ!」
「そんな意味が込められてるなんて……さすが母様です!」
そう言って奏太はキラキラした目で母親である四葉を見上げる……中々どうして、懐いているようだ。
「さて、じゃあ奏太よ! 来たところ早速で悪いけど出陣よ! 私たちにある時間は少ないのだから有意義に使わないとね! というわけでこの母の勇姿をしかと見るといいわ!」
「の、前にぃ」
気が早いことに早速出陣をしようとした四葉をイツ花が呼び止める。止まろうとしたらしいが、どうやら勢いがつきすぎていたらしくそのまま四葉は転ぶ。
「もう、何イツ花! 私もう訓練は飽きたのよ! 毎日毎日人形への切り込み切り込み! 私の剣は鬼を斬るためにあるんじゃないわ! 鬼を斬るために存在するのよ!」
「ですが四葉様、奏太様は訓練はおろか、まだどんな武器を扱うのかすら決めてないではないですか」
「……確かに」
どうやら納得したのか、四葉はその場であぐらをかいて座る。
「奏太ー、ここに来なさい、ほら。母さんの膝の上!」
「はい!」
そして奏太を呼び寄せると、膝の上に座らせる、どうやらかなりぴったりらしい。
それを微笑みながら見ているイツ花は「少々お待ちくださいな」と言って蔵の方に行く。そしてしばらくするとイツ花は三冊の本を持ってきて、彼女たちの目の前に置く。
「まず、我が緋衣家には三冊の指南書が存在します。まずは剣士、これは四葉様、そして源太様の職業ですね。常に先頭に立ち、鬼を切り払う、そんな職業でございます。剣は重いものが多いですが、その分力は強く、攻撃力はもう凄まじいものであります!」
「確かに、力は強かったな」
「それほどでも……」
「褒めてねえよ」
こいつ皮肉も通じねえのか。
「母様の職業……! 僕、剣士になりたいです! 母様と一緒に戦いたいです!」
「ふうん! そっかそうかあ! 私と同じ職業になりたいのかあ! もう可愛いなあ!!」
「ふふっ、まあそう焦らずに、次に、薙刀士。お輪様がついていた職業でした。こちらは剣士と比べてあまり相手に深手を与えられませんが、その代わりに前線にでればその射程の長さから相手の前線にいる鬼をまとめて斬れる! 後ろに下がっていても一体ぐらいでしたら届くのです!」
「……そして、本来緋衣家は剣士と薙刀士の家系でした。本来ならその技術というのは門外不出。ですが、前当主である源太様、その奥方であるお輪様が朱点討伐に行った際に大江山で討ち死にした三十三間会が落としたとされる、弓使いの指南書を獲得なさったのです」
「……」
それを聞いて、今まで緩けた顔をしていた四葉も表情を引き締める……俺は彼女の両親は知らない、彼女も恐らく顔をわずかに覚えている程度だろう。だが、それでも彼女が自分の両親を愛しているのだろうとわかる。
「ま、こんな暗い話は置いといて、早速弓使いの説明に入りましょうか!」
「でも、拾ったんならその人たちに返さなくちゃなんないんじゃないの?」
と、奏太が正論を吐くが。
「そんなの関係ありません! 拾ってしまえばそれはもうこちらのもん! 返す義理なんてございません!」
と、屁理屈でイツ花が返す。一族が強くなってくれれば俺だって助かるから口出しはしない。
「さて、弓使いですがその射程距離はとてつもなく広く、たとえ後ろにいる鬼たちであっても簡単に打ち抜くことができるのです! ただ、やはり弓を扱うには重い装備など着ていてはいけませんのでその分装備は薄いものに、まあそこを補うのが仲間であり家族なのです! さあ、四葉様、奏太様を一体どの職につかせてあげますか?」
そうイツ花が問うと、四葉はしばらく考え込むような表情をしたあと。
「……ねえ、奏太は一体どんな職業につきたい?」
「え?」
「やっぱり、やるからにはその職業を極めなければならない。そうなれば中途半端なことは許されない。だから、どの職になりたいかは、できるだけ奏太に決めて欲しいの。まあ決められないなら私と同じ剣士でもいいけどね」
そう言って四葉は笑いかける。そして奏太は床に置かれた三つの指南書を眺めて、しばらく経つとその内の一つを手に取る。
「……僕は、薙刀士になります」
「……何で?」
「だって、母様のお父様とお母様は、剣士と薙刀士だったんでしょう? だったら、きっとそれには理由があったんだと思います……僕は、まだ何も知りません。だから、母様のお父様とお母様の考えを学べるように、母様が剣士ならば、僕は薙刀士にと……ダメ、でしたか?」
「……ダメなんてことはないよ、むしろそんだけ考えていられるんだから偉いよ、奏太は、将来は大物だね、こりゃあ」
「えへへ……」
さっきとは打って変わって優しく奏太の頭を撫でる四葉の姿を見て、俺は安堵していた。内心こいつが無茶して奏太に無茶させるんじゃないかと思っていたが、どうやらそれは杞憂だったようだ。
「……さて、では奏太様の職業も決まったことですし、早速四葉様、奏太様、ナデさん、そして私たちによる、親睦を深めるのもかねて初の共同作業を行いましょうか!」
「おおいいねえ! なになに? そこらへんの道場に殴り込みかける?」
「ぜってえに俺は参加しねえからな」
「えー、ナデ絶対素質あるって、一緒に闘おうよー」
「ふざけんな、俺はインドア派何だよ」
「いんどあ?」
「あー、何でもない。んで、イツ花。その共同作業っていうのは?」
つい横文字を口にしてしまったため少し違和感が生まれてしまったためごまかすように俺はイツ花に問う。
「それはですね……この荒れた部屋の掃除です!」
『あ』
そこで改めて周りを見た。そうだった、ここは俺たちが暴れたからめっちゃ散らかってたんだった……
「なあに、全員ですれば直ぐに終わりますよ。終わったら早速奏太様の訓練と行きましょうか」
そう言ってイツ花は元気よく腕を上げると。
「それでは、バーンとォ!! やっちゃいましょうか?」
いつもの口癖とともに掃除の開始を宣言した。
緋衣 奏太 緋衣家:本家 性別:男性
初代緋衣 四葉の初の子ども。
心の水が高く、母に似て優しいのが分かるが、母親ほどの危機管理能力はなく危ういところも。
基本的にお母さんっ子であるが、ナデにもなついている。イツ花には最初の出会いが出会いので少々恐怖感を抱いている。
心 技 体
火
水低 低 低
風
土 低
(何もない場所はステータスバーが文字から出ていないところ、低は半分を超えていないところ、中は半分ぐらい、高は半分以上 超はほぼカンスト)
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挨拶回り
――とある道具屋のお転婆娘の心境
「はぁ……」
「何よ、ため息なんてついちゃって。京一番の看板娘が台無しよ?」
「京一番って言ったってねえ……張り合う相手が奈々ぐらいしかいないじゃない……」
「他にもいるでしょ……ええっと、ほら! 茶屋のお絹さんとか!」
「おばあちゃんじゃない……」
ボロボロになった椅子に座りながら友人である奈々に愚痴をこぼす。そんな私は十六歳の花の乙女、この錦道具店の看板娘こと紫ちゃんですっ! 最近のお悩みは何か朱点童子とかいう鬼のせいで京がそこらへんのボロ寺の方がまだマシなレベルでの廃墟になってしまい、かっこいい男の子が少なくなってしまったことなのです……一応知り合いに男子がいるといえばいるけどあんなへちゃむくれどもは……ねえ?
「いやいや、あの人あれで中々いい女よ? 何せあんな歳になってもまだ現役貫いてるんだから。さぞ昔は美人さんだったでしょうねえ……」
「もー奈々ちゃん何か年寄り臭いよ?」
「私なんか紫に比べたらおばあちゃんよ」
「いや同い年なんですけど……」
そんな私の隣で私の愚痴に付き合ってくれているのが、奈々ちゃん。うちの隣で……何だっけ、亜倶世鎖璃衣? っていう装飾品屋さんの看板娘であり私のライバル! ちょっとおばあちゃんっぽいのがまた魅力な女の子!
「あー……運命の出会いってないもんかなあ……」
「何よ、急に」
「だってさあ、私たちの周りにいる男何てへんてこりんばっかじゃん?」
「いやさすがにそこまでいうのは……ま、まあへんてこりんまではいかないんじゃない?」
「いやいや、行くって。しかも今の京の現状じゃあ新しい男が入ってくるのも夢のまた夢。ああ私の晴れやかな結婚生活はどうなってしまうの……」
「まあもう十六だからねえ……あ、でも最近緋衣家っていう武士の人のお屋敷に男の人が男の子連れて入っていくの見たってお絹さん言ってたよ!」
「っへ、どうせ幻か何かよ」
「どうしてあんたはそうひねくれてるのよ……」
仮に見間違いなどではなく本当に入っていったとしても、どうせろくな男ではない。多分そこの人の財産狙ってとかでしょうけど。お生憎様、どうせ今の京じゃ金持ちなんてせいぜい帝くらいなもんよ。
「おーっす、クソアマども」
「兄者、さすがにクソアマどもはねえだろ……」
そんな乙女談義に花を咲かせていると、ちょうど私たちの周りにいる男代表二人が店の中に入ってきた。
「えーぴったりだと思うんだけどなあ……」
「また半殺しにされても知らねえからな……」
入ってくるなり私たちに暴言を吐きかけてきたのは武具屋の双子の兄の方である金助。自分より美しくない女はすべからずクソとか妄言垂れ流しているアホだ。現在武器専門の鍛冶屋として修業中らしい。
「それでもまだいいようがあるだろ……男という肥溜めに群がるハエとか……」
「お前本当にさらっとひどいこと言うよな……」
そして、兄よりもひどいことを抜かした、少し天然が入っていそうな男は武具屋の双子の弟の方の銀助。大体は兄である金助の突っ込み役だが正直根はコイツの方が腐ってるのではないかというのが私の見解だ。ちなみにこっちは防具専門の鍛冶屋として修業中だ。
「てめえら揃いも揃って何? ぶっころすぞ」
「紫……あんたそんなんだから結婚相手見つからないのよ……」
「ぶっころしますわよ?」
「そういうことじゃなくてだね……」
「おうおうお前ってやつは本当に何で女に生まれてきちまったんだ? そんな足開いてお母さん悲しいよ……」
「頼まれたってお前の股から出てきてやるもんか。それに、私が女に生まれてきた一番の理由は、かっこいい男の人と結ばれるためよ!」
「駄目だこいつ、頭の中までハエに占有されてるらしい」
「よーっし待ってろ、今包丁持ってくる」
「おい待て話せばわかる! というか俺たちはこんな会話しに来たんじゃないんだよ」
「じゃあなに? 道場破り?」
「誰がするか、客だよ客。何でも朱点討伐に向かうから、今後お世話になる俺たちに挨拶に来たんだとさ。当主様直々に来てくれたんだぜ?」
「……朱点討伐、ね」
正直そんな連中はまだ京がこんなになる前には腐るほど見てきた。『朱点を倒したら結婚してくれ!』『俺、帰ったらあの子に告白するんだ……』『ちょっと大江山の様子見てくる』と言って、意気揚々と行ったものはいるが、大抵は帰ってこないか、帰って来れたとしてももう到底朱点討伐にはいけないほどの重症を負うかのどちらかだ。だから期待なんてしない。どうせ今回の客だって――
「こんにちはー!」
「お前はもう少し威厳ってものを持てないのか……つうか、世話になるから挨拶に回ってるんだからちゃんとしろよ……」
「まあいいんじゃないですか? それに、こいつに気を使う必要なんてありませんよ、なあゆか――」
「どうぞどうぞ! ここに座ってください! あ、今お茶と茶請け持ってきますね! お饅頭でいいですか?」
「あ、いえ。そんな長居する予定では――」
「いやいやいや、何を言ってるんだいナデくん。ここで彼女の気遣いを跳ね除ける方が失礼ってもんよ」
「いやお前饅頭食べたいだけ――」
「そうですよ! ほらほら遠慮なさらず!」
「ほらほらほら!」
「……はぁ……少しだけだからな」
「っしゃ、っしゃ!」
運命だった、それはまごうことなき……運命だった。ぶっちゃけ私は運命の相手というものを望んでいながら運命というものを信じていなかった。だってそんなん非現実的だし? だけど、今この瞬間から私は神様なんかより運命の方を信じる! 何としてでもここで仕留めてみせるわ……! 何か変な付属品ついてるけどそんなもの無視よ無視!
「おお……紫が狩人の目をしている……!」
「ありゃどちらかといえば獣の目だろ。ついでに俺もご馳走になろうっと」
「てめえはそこらへんの雑草でも食ってろ」
「おやおやおやぁ? いいのかなあそんなこと言っちゃって! じゃあ俺はそこらへんの雑草でも食べながら紫ちゃんの過去話でも――」
「なあに言ってるのよ! 私たち友達じゃない、ほら食べていきなさいよ!」
「ゴチになりまーす!」
「はっはっは、いくらでも食べていきなさい!……あとで殺す」
「兄者……墓は立ててやるからな……」
「俺は今が楽しけりゃあなんでもいいのだ!」
さて、とりあえず邪魔者は買収もとい友情のチカラで黙らせた……!ここからは私のお嫁力を最大に活かして……!
十分後
「でさあ、もううちのオヤジったらもうべろんべろんに酔っちゃって、裸で腹踊りしだしたのよ!」
「懐かしいなあ……うちのオヤジも一緒にやってたっけ?」
「あっはっはっは! なにそれ面白いじゃない! ちょっと、ナデも今度やりなさいよ!」
「お前の顔でもう十分面白いから鏡でも見てろ」
「よーっし表出ろ今日こそ決着つけてやる」
「お? やるか? お?」
「いやあ、あいつ十分も持たなかったな」
「まあ紫だし」
「そりゃそうか、それにしても……ああこの饅頭うめえ。ただで食らう饅頭うめえ」
「……ねえ、金助」
「あ? 何だよ、言っておくけど饅頭はやらんからな」
「いらんわ。そうじゃなくて……あの人たち、どう思う?」
「……どう、って?」
私は今も楽しそうに話している紫たちを――緋衣家の人間だという人たちを見ながらいう。
「……私ね、一度だけ緋衣家の人、見たことあるのよ。そうしたら、夫婦っぽい人たちが赤ちゃんを抱えてたわ、そりゃあもう宝物のように大事に扱いながら」
「あー、そういや何か生まれたって話あったな」
「……んで、あの子。緋衣家の当主だっけ?」
「……ああ」
「おかしいでしょ。私その後あの家で赤ちゃんが生まれたなんて話聞いたことないわよ」
「……どっかの分家の人間なんじゃねえの?」
「そんな情報を私のお父さんが掴んでないとでも?」
「お前の親父さんが町一番の情報通たって知らねえことはあるだろ」
「……」
「……」
「……」
「……ああもう分かったよ、俺も変だって思ってたからんな目でみんなって」
私が何も言わず、ただジッと見つめていると。金助は勘弁してくれといった様子で白状する。コイツはいつもこうなのだ。
「……あの子なあ、うちの方にも来たんだわ」
「挨拶回りでしょ?」
「そうなんだけどよぉ……あの子もさ、やっぱり鬼退治に出るらしいんだわ」
「まあ、でしょうね。そんなの今時珍しくもないわ」
「焦んなって、んで。その子なあ……剣士らしいんだよ」
「……で?」
確かに、珍しくはあるが、別にないわけではない。緋衣家は確か剣士と薙刀士の名家だと聞いたことがあるので別段おかしなことでもないだろう。
「だから焦んなって、それでよう。あまりにも喜んでるもんだから俺の中にちょっと悪戯心っつうもんが湧いて、うちの店で一番重い剣を持たせてやったのよ、小鉄って言うんだけどよ」
「それってあんたの最高傑作だっけ?」
「そう、ただ如何せん重くてなあ……オヤジにもこれじゃあまともに振れないって言われて放置してたんだわ。勿論ちゃんとしてあったし、たまに磨いたりしてやってたから新品同様だったけどな」
「……んで、それをあの子に持たせたの?」
「うん、面白いかなって」
「あんた最低ね、死ねばいいのに」
「ねえ何で急に辛辣になるの?」
「冗談よ」
「君たちそういえば俺がなんでも許すと思ってるでしょ?」
「違うの?」
「……違わねえけどさあ」
そして、こちらから目を逸らし。金助もあっちの方を眺めながら、呟く。
「……あの子さあ、振ったんだよ」
「……え?」
「軽々と、しかも武器に使われてるって感じじゃなくてちゃんと扱ってたんだよなあ……あれ、大の大人でも振れないって言われてたのに」
「……それで?」
「あげた」
「へ?」
「だから、あげたって」
「あげたって……その剣を?」
「うん」
「……あんたの最高傑作じゃなかったの?」
「別に俺剣に思い入れとかねえしなあ……それに、使われた方が剣も喜ぶだろ?」
「あんたって貧乏性のくせにそういうところだけ思いっきりいいわよね……」
「ほっとけ……まあ、俺が変だなって思ったのはそんぐらいさ。別にあのナデって男の方も変な風には思わなかったし」
「ふうん……」
「……さてと、ではここらへんでもうそろそろお暇させてもらいます」
「えー、もう?」
「だから挨拶しに来ただけっつってんだろ……それに、このあとも装飾品屋に用があるんだから。あ、あとで、イツ花というものがこの店に来ますので。またそのときはよろしくしてあげてください」
「……もう来ないんですか?」
「へ?……あー……そうですね。まあ普段はイツ花が来ることにはなると思いますが、大体はイツ花かと……何か不都合なところでも?」
「あ、いやそんなのはもちろんないんですけどね……」
「ん? 惚れたから毎日来て欲しいって話じゃ――」
「おほほほほほ! なあに言ってんのかなあこいつったら! そ、それじゃあここらへんで!」
そう言って慌ただしく銀助を連れて裏へと引っ込む紫。あいつ普段は元気いいくせに、意外と乙女みたいなところあるじゃん。
「じゃ、私もここらへんで。ねえ、ナデさん、うちにも来るんでしょ? じゃあ案内してあげるよ」
「ということは、あなたは……」
「装飾品屋『亜倶世鎖璃衣』の看板娘……ってことになってる」
「アクセサリー……」
「変な店名でしょ? じゃあ行きましょうか。紫ー、ご馳走になったわよー!」
「んじゃ、俺も撤退しますかね。このままここにいたんじゃ次の犠牲者は俺になっちまう。ごっそうさーん」
そう言って立ち、こちらにそそくさと金助が駆け寄ってくる。
「じゃあ、案内してもらえませんか?」
「はい」
「いやあ、紫ちゃんも銀助も面白いね!」
「だろ? これでも俺たちこの京一番の芸人としてかなり有名なんだぜ?」
「そんなの組んだ覚えないんですけどねー」
「あれ? そうでしたっけこれは失礼、では私が馬となってこのまま御殿へと送りましょうか?」
「わたしゃ殿様か」
「なるほど、面白いね! 今度芸とか見に行こうかなあ」
「本気にしないでよ……」
キラキラとした目でこちらを緋衣家当主……四葉が見てくる……来た時間的におかしい子ではあるけど、悪い子ではない……のかな?
「あ、そうだ。当主様、ちょっと忘れ物してきてしまったので取りに行ってきてくれませんか?」
「私当主なんだけど?」
「後で何か買ってやるから」
「部下の不始末は私の仕事よ!」
そう言って道具屋にまた戻っていく四葉。ああいうがめついところは少し紫に似ていて何だか親近感が沸いてくる、そして四葉が離れると。急にナデさんがこちらに振り向く。
「……当主様は……いや、四葉は、普通の女の子だよ。ちょっと騒がしいけどよ、まあ仲良くしてくれや」
「……!」
「……どうやら、そのようで。まあ少なくとも悪い奴ではなさそうですしね」
「いや、悪い奴ですよ。あいつ出会い頭にいきなり従者にいい拳を叩き込んできますからね」
「本当に悪い奴ならそんな直接的な方法は取りませんよ。もっとえげつないことしてきますって」
「……そうですね」
そして、しばらくすると四葉が帰ってくる。どうやら忘れ物はなかったらしい。というかそもそもどんなものかすら聞いてなかったからそりゃ見つかるわけもない。ナデさんは平謝りをして、また私に案内を促してくる。
「うっかりじゃ済まされないでしょこれは、当主を雑に扱ってさあ!」
「すまんて」
「奏太とイツ花にもお土産買ってくからね! 勿論ナデの自腹!」
「まじかよ……」
……普通の女の子、か。ナデさんと口喧嘩する四葉は、確かに普通の女の子に見えて……仲のいい、兄妹にも見えた。
ナデ 緋衣家:従者 性別:男性
緋衣家に仕える従者。イツ花とは分担していろいろな雑用を行っているが、正直家事もそこそこできるためもうひとりイツ花が増えたようなものである。
本来の世界でまた同じ家族の元に生まれ変わるために緋衣家の手伝いを行っているため、そんなに一族に思い入れはないが、それでも多少の親しみは感じている(尚当主)
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初出陣
――とある当主様の初出陣前の確認
「ねーイツ花!」
「はいはい、どうしました? 四葉様」
私が縁側に腰掛け、奏太の訓練風景を見ながらイツ花を呼ぶ。現在はナデによる訓練の真っ最中だ。と言ってもナデが実際に戦うわけではなく、体の使い方や、術の使い方などを教えているだけなのだがそれでも効果はあるだろう。
「奏太何だけどさ、まだまだだけど、戦えるようにはなってきたからそろそろ出陣してみたいんだけど……」
「おっと、そうでしたか」
とある昼下がり、私は奏太がそこそこ戦えるようになってきたため、イツ花に出陣の提案をした。
「では、まず四葉様。この京の周りには四つの迷宮が存在しています。これは朱点童子の力の影響で迷宮化したものから元々そういう場所であった。というところも存在しているのです」
「ふーん……」
「それで、まず一つ目、これは四葉様もご存知でしょう……大江山です」
「……私のお父さんとお母さんが討ち死にした場所だよね」
「はい。大江山は帝の命によって、十一月と十二月しか出陣することを許されていないのです。これはたとえ緋衣家であっても同じなのです」
「なんで? 別に一年中いつでも行けていいと思うんだけど」
「勿論四葉様のご指摘もごもっともですが、理由は簡単です。単純に鬼が強すぎて一年中出撃を許可していたら人が何人いたって足りないのです」
「……それ別に十一月と十二月でも変わらないと思うんだけど」
「それが変わるのですよ……大江山は昔神が降臨した聖地ともされていて、実際神様たちも、その十一月と十二月だけは大江山にその力を振るうことができるのです。と言っても鬼を弱体化させるぐらいで、それも生半可の武士程度ではかないもしませんけどね」
「へー……神様も意外とケチなんだね。その二月しか力を使ってくれないなんてさ」
「まあ、きっと神様たちも考えがあるのですよ!」
イツ花は無邪気な笑顔でそういうが、私は到底そうは思えない。そもそも神たちは私を救ってやると言って、利用してくるような連中なのだ。完全に信用はできない、まあ神たちと子孫たちを利用して両親の仇を取ろうとしている私が言えたことではないが。
「さて、では次ですが。九重楼という場所です。文字通り九つの階からなる建物でして、最上階にはある罪で封じられている二柱の神がいる、という話ですが。真偽は定かではありません」
「ある罪……っていうことは、その神様たちは悪い神様なの?」
「さあ……私もそこらへんはあまり詳しくないものでして」
「そっか、んで。そこにはどんな鬼がいるの?」
「ここには、やはり最上階にいる神様たちの影響なのかなんなのか、力が強い鬼もいれば、術に強い鬼など様々いて恐らく大江山の次に制覇が難しい迷宮かと」
「んー……少なくとも、今行くべき場所ではないね、せめて後一人二人いないと厳しそう。いくとしてもほかの迷宮かな」
「ですね。ですがその分戦闘経験はほかの迷宮より積めると思うので十分力を着けてきたと思ったら行ってみるのもアリかと」
「それでは、次の迷宮ですが、鳥居千万宮、という迷宮です。ここは少々特殊な場所でして、四季の影響を一番受けやすいところのようで、奥に進むには四季によって違う色の鳥居を潜る必要があるそうです」
「鳥居……ってことは、そこは元々神社だったの?」
「はい。奥にある、お稲荷御殿ではキツネに取り憑かれてしまい、鬼に転じてしまった哀れな女の霊の影響により迷宮化し、そのキツネの力によって本来神の影響が強い場所のはずが逆に利用されてしまっている、という感じですね。この迷宮は術を使う鬼が多く、現在では少し厳しい場所かと」
「まあ、私たちはまだまだ全然弱いもんね……と、なると。後ひとつの迷宮に行くしかなくなるんだけど」
「はい。最後の迷宮は、双翼院。心無い人に我が子を奪われた天女の負の感情が転じて鬼となりその建物に宿っている、と言われる迷宮です」
「天女から我が子を奪う……って、中々すごいことする人もいたもんだね。殺されちゃったりしちゃうんじゃないの?」
「まあ神様といってもその力は一長一短があるもので、相当強い人たちか、下劣な策でも用いられたんでしょうね。ちなみに双翼院の名前の由来は本殿から奥の院に続く通路が翼が開くように左右に二つあるから、だそうです。ここに行ってみた武士の方々の報告によると右の通路は強い鬼がいるらしく、左の通路がおすすめ。らしいです。ここはそこそこ鬼も弱く、初陣ならばここがいいでしょう」
「んじゃ、そこにしよっか。イツ花、出陣は明日にするから、ゆかりんのとこ行ってきてくれない? 私たちまだ回復術を使えないからね、若葉ノ丸薬を買ってきて欲しいんだ。とりあえずこの袋にちょっと隙間が空くぐらいの量ね」
「分かりました!」
私がお使いを頼むと、イツ花は早速ゆかりんのところにいくらしく、玄関に向かった……本来なら、私が行きたいところなんだけど。明日の出陣に備えて私は奏太の調子を確かめておかないといけない。あの子はやる気があるのはいいけど体が少々弱いらしく、下手に出陣を繰り返したらまずいことになってしまうかもしれないからだ。
「ナデ。奏太の調子はどう?」
「ん。ああ、順調ですよ。あれだけ体を動かせれば少なくとも全く歯が立たない、ということはないでしょう。勿論油断大敵、ですけどね……というか、当主様、裸足で出ないでくださいって言ってるじゃないですか……」
「こっちのほうが楽だし」
私がそのまま中庭に出て、ナデに話しかけると少々柔らかい口調でナデが話しかけてくる。まあ主人と従者の扱いなのでそれが当然といえば当然なのだが、少し寂しくもある。
「奏太様が真似しますよ……ったく。それで、出陣明日なんですって?」
「聞こえてたの?」
「まあ、奏太様は訓練に集中していて聞こえていないでしょうが、基本的に自主訓練ですからね」
「……そっか」
「……不安なのか?」
「へ?」
私が奏太の様子を見ていたら、突然いつもの口調でナデが話しかけてきてしまい、少し変な声を出してしまった。
「どうせ、奏太をちゃんと守れるかなとか考えてたんだろ? だとしたら愚問だ。あの子はちゃんと戦える、ちゃんと母親の……お前の力になってくれるさ」
「……そっか、私の力に、か……うん、ありがとね。ナデ」
「別に。戦いになったら現在の主力はお前なんだ、それで不安だから変な失敗されて奏太に怪我をされても困るからな」
「失敬な、さすがにそんなことはないよ……多分」
「どうだか」
「でも、励ましてくれて本当にありがとね」
「……どういたしまして」
私がナデの顔を見ながら、改めて礼を言うと恥ずかしいのか顔を逸らして反応してくる。わりかし可愛いところはあるんだよね、こいつ。
「でも当主である私にそんな口調で話しかけたから後でイツ花に言いつけておくね」
「ちょ、まじでそれはやめ、あ、いや。やめていただけたらなって!」
「あははは! 冗談だって、ていうかイツ花もさすがにそんな怒ったりしないでしょ」
「万が一ってことがあるだろ!」
「ないってー」
「ふぅ……あれ、母様! 見ていたんですか?」
「まあねー、奏太偉いじゃん! 赤玉使えるようになったんだって?」
「はい! あ、でもまだ花乱火はまだ使えなくて……」
「いやいや、花乱火とか私も使えないし、そんだけできていればいいよ、向上心があるのも尚良し!」
私が奏太を撫でてあげると、奏太は嬉しそうに目を細めながらやめてくださいよーと形ばかりの抵抗をする。もう本当に可愛すぎてやばい。
「それじゃ、今度は私が相手になってあげるから、模擬戦みたいのやろっか」
「はい!」
奏太にちょっと待っててねといい、私は剣を取りに行く。金助からもらった剣だが、これが中々使いやすく私のお気に入りの一品である、どうやってしごいてやろうかと考えながら、私は蔵へと向かった。
「武器よーし! 防具よーし! 道具よーし! よし、完璧だね! 奏太、覚悟は出来てる?」
「はい、母様!」
「うん。いい返事だ! それじゃあイツ花、ナデ。行ってくるね!」
「はい、いってらっしゃいませ四葉様、奏太様! お夕飯はお二人の好きな物を用意して待ってますね!」
「おお、そりゃあいいね!」
「奏太、気をつけるんだぞ。四葉が危うかったらいつでも当主の座狙いに行っていいからな。俺は応援してるぞ!」
「は、はあ……?」
「私の応援もしろ私の応援も!」
「あーはいはい、ばーんと頑張ってくださいね当主様」
「ばーんに気持ちがこもってない! イツ花、見本!」
「はいはい、それでは。四葉様、ご出陣!! バーンとォ!! いってらっしゃーい!!」
「いってきまーす!!」
私のむちゃぶりにも答えてくれたイツ花たちに手を振りながら私たちは、双翼院に初の出陣に向かった。
イツ花 緋衣家:従者 性別:女性
緋衣家に仕える従者。ナデとは分担して家事、お使いなどを担当しているがあまり違いはない。
怒らせると怖く、たとえ当主であってもイツ花には逆らえない。
口癖の「バーンとォ!!」は、恐らく全プレイヤーにとって最大の癒しだと思われる。
一応昼子の巫女という設定で、姿も昼子に似ているが、本人曰く昼子様のファンなので同じ姿をしているだけ、らしい。
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