Fate/zero×バオー来訪者 ネタ (蜜柑ブタ)
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SS1  寄生

雁夜おじさん、寄生される(させられる?)。


 

 その男は、死にかけていた。

 体の半分が死人のように朽ちており、白髪。なぜいまだに生きているのか不思議なくらいの有様だが、だが今にも、その息吹が途切れかけていた。

 

 聖杯戦争。

 

 この男がいる土地で行われている、願いを叶えることができる聖杯と呼ばれる存在を賭けた魔術師同士の戦いがあった。

 魔術師達は、サーヴァントと呼ばれる、英霊達をそれぞれ召喚し戦わせるのだ。

 男もそれに参戦する一人で、サーヴァントでももっとも強いクラスと呼ばれるバーサーカーの主人であった。

 しかし、バーサーカーは、強い反面、主人の魔力を凄まじく消費する諸刃の剣であった。

 そして男は知らない。男にバーサーカーの主人になるよう勧めた異形の老人の思惑を……。

 男は、騙されているのだ。いや、事実は間違ってないのかもしれないが、利用されているのだ。

 男は、ある女性を愛していた。その女性はすでに結婚しており、二人の女の子を産んでいる。

 その内の次女である少女がいたのだが、あろうことか異形の老人の元へ養女に出されてしまった。結果、少女は女性としての喜びを奪われ、傷つき、感情を喪失した。

 男は、かつて少女が養女に来た家を飛び出した経歴がある。

 間桐。

 それが、その家の名だ。

 おぞましい蟲を使う魔術師の家で、男が愛した女性が嫁いだ魔術師の家・遠坂とは、同盟関係にある。

 男が愛した女性の娘であるその少女・桜が、おぞましい間桐の家に行ったことを知ったのは、一年前だ。

 それを知った男は激怒し、そしてあれほど嫌っていた間桐の家に帰ってきた。

 そして現当主である、異形の老人・間桐臓現から、聖杯戦争のこと、そしてそれに勝てれば桜を解放してやると言われ、あれほど嫌っていた蟲の魔術を身につけるために自らの身を、命を削り、そして半分死人の体になってやっと、聖杯戦争に参加する力を手に入れた。

 やっとの思いでバーサーカーを召喚し、最初の聖杯戦争の戦いを終えたばかりで、すでに男は虫の息となっていた。

 こんなところで、こんな始まりの時に死ぬわけにはいかないと分かっていても、体が言うことを聞かない。

 体を蝕む、蟲が、そしてバーサーカーに吸い取られる魔力の量によって、男の体は限界を超えつつあった。

 早く帰らなければ、自分が帰らなければ、勝たなければ、桜が酷い目にあってしまう……。

 そう思うのに、体が動かない。

 神にも縋る思いで、立ち上がろうとする男に、場違いな声が聞こえた。

 

「……ねえ。生きたい?」

 

 声色からするに、若い少女の声だった。桜よりは年を取った。少し低めで聞きようによっては、少年の声にも聞こえる。

 道路に突っ伏している男は首を動かしたが、見えたのは、誰かの足だった。しかも、すでに失明した目が上を向いていて、顔を確認することも出来ない。

 

「ねえ…? どうしたい?」

 

 さらに声の主は尋ねてくる。

 

「このままじゃ、死ぬよ?」

 

 そんなことは、言われなくても分かっている。だがここで死んだら……。あの少女が…桜が…。

 

「助けてあげようか?」

 

 思わず、男は、はあ?っと声を漏らしていた。

 この声の主は何を言ってるのだと……、まず思ってしまった。

 

「ねえ……、その代わり……ーーー…。」

 

 男は途中から声が聞こえなくなった。

 不意に目の前が暗くなって、意識が沈みそうになったのだ。

 

「……ね…。」

 

 意識が闇に沈みそうになった直後。

 男の意識が一気に現実に戻されるほどの衝撃と、凄まじい激痛が走った。

 男は、のたうった。

 おぞましい蟲蔵で陵辱された時を遙かに超える、苦痛に。

 体の内にいる、蟲たちが騒ぎ立て、それが余計に苦痛となった。

 

「がんばって。」

 

 少女の声の励ますような、声に、男の中の何かがキレた。

 

 フザケルナフザケルナフザケルナフザケルナ!

 

 実際に声に出せたのかは分からない。だが、男はあらんばかりに声の主に向かって罵声を浴びせた。

 

 ナニガ、がんばれダ!

 こんな、こんな…、痛み! 誰が望むか!

 俺は、まだ死ねない! 死んでたまるか!

 彼女の元へ! あの子を帰さなければならないのだ! そう誓ったのだ!

 

「誰に向かって?」

 

 それは……。

 

「その女の人? それとも、その子? それとも……、“自分”?」

 

 ああ! そうだとも、自分に誓ったんだ!

 

 

 

 

「あの子を…、桜ちゃんを助けるんだあああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 ついに立ち上がった男の叫び声が夜の闇に響き渡った。

 その頃には、男の体は大きな変化を遂げていた。だが男が、そのことに気づくのは……、まだ少し後。




この時点じゃ、男の名前すら出してませんが、雁夜おじさんです。


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SS2  駆逐

蟲ジジイ。死す。


 

 

 おぞましい形状をした蟲たちが蠢く、蔵の中。

 その中に、しわくちゃの老人と、無表情の少女がいた。

 老人は、笑い声を上げていた。

 少女は、黙って聞いていた。

「桜よ。残念な知らせじゃ。」

 老人は、笑いを堪えながら、告げる。

「雁夜の中の蟲が死に絶えおった。つまり…、雁夜は死んだということじゃ。」

「……。」

「残念じゃったのう。」

 

 嘘つき…。

 

 少女は、いまだ笑っている老人の声を聞きながら心の中でポツリッと思った。

 

 異形の老人…、間桐臓現は、間桐雁夜に言った。

 聖杯戦争に勝利すれば、少女…桜を解放してやると。

 だが、臓現が言うとおり、彼の中の蟲が死んだということは、彼を生かすと同時に苦しめていた蟲は、彼…雁夜の死を臓現に告げたのだ。

 雁夜という男にバーサーカーを勧めたのは、この異形の老人・臓現だ。

 すべては、間桐の新たな母体となるべく“教育”していた桜の“教育”材料にするため、あえて消耗が激しいバーサーカーを召喚させたのだ。

 つまり、初めから臓現は、桜を解放する気などなかったのだ。

 桜が冷え切り、傷つききった心の中で思った、『嘘つき』という言葉が、果たして、臓現に向けられたのか、それとも死んだ雁夜に向けられたのかは分からないし、桜はすでに幼いながら諦めてしまっていたので、考えようともしなかった。

 そして、やがて笑いに笑った臓現が、桜に命令する。

 

 蔵の中に蠢く、おぞましい蟲たちの中に飛び込めと。

 

 桜は、表情の無い顔で、蟲の海を見つめる。

 結局、雁夜は、誓いを破った。

 結局、自分を救う者は誰もいない。

 二度と、あの幸せだった家族の元へ帰ることも、あの頃に帰ることも二度と出来ないのだと。

 桜は、蜘蛛の糸のように脆い雁夜の誓いに縋った己を捨てるように、蟲の海に向かって一歩進もうとした。

 

 その時だった。

 

 

「むっ?」

 

 臓現が、何かを感じ取り、しわくちゃな顔を歪めた。

 桜はそれに気がつき歩を止めた。

「なんじゃ? 蟲共が……、これは…?」

 蔵の出入り口を見つめ、臓現は、呟く。

「な、…何事じゃ? ……死んでおる? 蟲共が…、わしの…!」

 臓現の声が徐々に焦りの色を浮かべはじめた。

 すると、桜の背後にある蟲の海が騒ぎ出した。

 まるで何か……、自分達よりも圧倒的に恐ろしい……何かを恐れているかのように。

 

 バルバルバル……

 

「なんじゃ? この…声は?」

 

 臓現は、外にいる蟲たちが聞き取る声に耳を傾ける。

 

 バルバルバルバルバルバルバル!

 

「近づいておる! ここに!」

 汗をかいた臓現がそう叫んだ直後、

 桜と臓現は、ハッキリと聞いた。

 

 

 

『バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

 

 

 その咆吼ともいえるような声と共に、蟲蔵の出入り口が爆発するように破られた。

 

 暗い闇だというのに、ハッキリとそれは、二人の目に見えた。

 

 青白くひび割れた皮膚。

 重力に逆らうように揺れる、同じ色の頭髪。

 瞳のない目。

 両腕にある刃のようなモノ。

 

 それは、“人(ヒト)”ではなかった。

 

「なんじゃ、貴様は!」

 汗をダラダラとかく臓現が杖を突きつけ、叫ぶ。

 だがその“来訪者”は、全く答えることなく、二人を見つめているだけだった。

 蟲蔵にはこびる蟲たちが忽ち、臓現の意思によってその来訪者に襲いかかる。

 だが、その蟲たちは、何か細いモノに撃たれ、そして落ち、燃えた。

「き、貴様……、何者なんじゃ! 答えぬか!」

 臓現は、唾を散らしながら叫び、蟲たちを襲わせる。

 だが、燃やされるか、腕にある刃で切り裂かれて死ぬ。

 その謎の来訪者が、ゆっくりと歩を進め始めた。

 臓現は、焦り、蟲たちに命令する。来訪者を殺せと。

 だが、すべて無駄に終わる。

 桜は、自分に向けられている、来訪者からの視線に、不思議な優しさを感じていた。

 そして、横で焦っている臓現やどんどん数を減らしていく蟲がまるで他人事のように…まるで別世界の事のように思えるほど、冷静に、来訪者を観察していた。

 服は、腕の部位が破れ、隆起した筋肉などでパンパンになっているが……、その服装には見覚えがあった。

 

「……おじさん?」

 

 無意識に呟いた桜の言葉に、臓現が大きく目を見開いた。

「かり…や? じゃと……?」

 臓現が、桜の方を見た直後、距離を詰めた来訪者が、杖を握っていた臓現の手を杖ごと握った。

「!? は、離せ!」

『ウォーーーーム、バルバルバルバル!』

「ぎ、ぎぃぃやああああああああああああああああ!?」

 溶けた。文字通り。

 臓現の手が杖ごと、来訪者の握った部分から溶かされたのだ。ドロドロに。

「か、雁夜! 貴様…! わしにこのようなことをして…!!」

『バオオオオオオオオオオオオオオオ!』

 腕を抑えて下がる臓現の言葉など通じるはずがない。

 なぜなら、来訪者……雁夜は、“人間”ではないからだ。

 臓現は、思い知る。真に人間ではないモノには、理屈だのといったへったくれも通じないのだと。

 だが、それでも臓現は叫ぶ。

「例えココにいるわしを殺しても無駄じゃ! なぜなら、桜に、わしの……。」

『バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 雁夜の体が放電を始めた。

 それは、暗い蟲蔵を照らし、周囲にいた、そしてまだ残っている小さな蟲の海を痺れさせる。臓現を形作る蟲たちも形を崩していった。

 桜は、ボーッとその光景を見つめていた。

 

「さっ、あなたは逃げないと。」

「っ、…誰?」

「話は、あとで。」

 

 十代半ばくらいのボーイッシュな少女が桜の手を掴み、そして軽々とその体を抱き上げられて、桜は、蟲蔵から脱出させられた。

 桜が、謎の少女に抱えられた状態で、蟲蔵から数メートル離れた直後、蟲蔵が、内部から発生した凄まじい電撃によって爆発し、粉々になって炎上した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 謎の少女に地面に下ろされ、桜は、燃えている蟲蔵を見つめた。

「…おじさん……。」

「だいじょうぶ。彼は、死んでないから。」

 そう謎の少女は言った。

 数秒してからだろうか。燃える蟲蔵から、燃える瓦礫を吹っ飛ばして雁夜が飛び出した。

 高く跳躍した彼は、地面に着地し、桜と謎の少女の方を見ると、歩いてきた。

「ん?」

「?」

 謎の少女が、桜を見おろし急にしゃがんで、桜の胸の辺りを見つめた。

 すると、変わり果てた姿となっている雁夜が二人の傍に来た。

 雁夜の表情は変わらないが、何か言いたげである。

「…ねえ…、君…。」

「? なに?」

「何かに寄生されてない?」

 そう言われて、桜は、ピクッと震えた。

 寄生されているとか言われると、思い当たるのは、蟲蔵の蟲だ。あれだけの蟲に陵辱されてきたのだ、何匹かには寄生されているかもしれない。

「ねえ…。分かってるでしょ。あなたも。」

 謎の少女は、雁夜を見上げて問うた。

 すると、雁夜は、自分の手のひらを、鋭い爪で切った。

 あふれ出る血が手のひらに溜まる。

 それを桜の前に差し出した。

「? 飲めって…こと?」

 桜は、言われずともなんとなく雰囲気で察した。

 雁夜は、桜の言葉に返答しない。

 桜は、雁夜と雁夜の手のひらの上の血を交互に見た。

 そして、両手を差し出されている雁夜の手に添えて、溜まっている血に口を近づけた。

 チュッと、血を吸い込み、コクリッと飲み込む。

 十秒ほどして……。

「っ!」

 桜は突然胸を押さえ、へたり込んだ。

「うぇぇ…!」

 急な嘔吐感を堪えきれず、地面に吐き出した。

 吐き出したモノは……、一匹の蟲だった。

 蟲は、粘液にまみれ、ビクッビクッと痙攣している。

 すると、雁夜がその蟲を手で掴んだ。

 ギギギギ!っと鳴く蟲を、雁夜は、手から分泌される特殊な溶解液によって溶かし、握りつぶした。

「だいじょうぶ?」

「……うん。」

 謎の少女に背中を摩られ、桜は、口元を手で拭いながら頷いた。

 その直後、ドサッと何かが倒れる音がしたので、見ると、雁夜が倒れていた。

「おじさん!」

 変異していた雁夜の体がみるみるうちに人間の形に戻る。

 そして完全に普通の人間の姿に戻った時には、あの半分死人のようになっていた体が以前の体に戻っていた。

「ふう…。とりあえず、上手くいったみたい。」

「…あなたがやったの?」

「ん?」

「おじさんに…何をしたの?」

 桜が少女を見て聞いた。

「……分けてあげたの。」

「なにを?」

「力を…。」

「ちから…? あの姿を?」

「そう。」

「あなたは、何者?」

「……私の名前は、ツツジ。」

 

 やがて、雨が降り出し、ツツジと名乗った少女が軽々と雁夜の体を背負って、桜も続いて家の中に入った。

 蟲蔵の火災は、雨によってやがて消えた。




最初の段階から、電撃放ってますが、雁夜おじさんの体が危篤状態だったこともあり、浸透速度は、おそらく育郎以上に速かった…っということにします。

バオーの体液で、桜の中に埋め込まれていた蟲ジジイの本体を駆除できたのは、捏造です。実際出来るかは分かりません。


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SS3  自己紹介

オリキャラ・ツツジさん、自己紹介。
ただし、事情はほとんど話さない。


 雁夜は、目を覚ました。

 まず見えたのは、和式作りの天井だった。

「…ここ…は?」

「おじさん。」

「さ…、桜ちゃん?」

 すぐ横で桜の声が聞こえたので見ると、桜がチョコンッと座っていた。

 雁夜は、ようやく自分が布団に寝かされているのだということに気がついた。

「?」

 しかしなにかおかしいことに気づく。

 まず視界だ。

 半分無くなっていたに等しい視界がいやにクリアだ。

 そして桜を見つけたときに咄嗟に起きようとした時に感じたもうひとつのおかしいこと。

 それは、感覚を無くし、死体も同然の状態になっていた半身に感覚が戻っていたことだ。

 さらにあれほど苦しかった…というか、危篤同然の体の体調がすっかり治っていた。体の中に蠢いていた蟲の感触もない。

 

「起きた?」

 

「…君は?」

 ふすまが開いて入ってきた少女の姿に、雁夜は驚きつつ聞いた。

「覚えてない?」

「? 君とは初めて会うけど…。」

「そっか、まあしょうがないよね。私は、ツツジ。初めまして、間桐雁夜さん。」

「なぜ、俺の名前を?」

「この子から聞いたの。」

 そう言ってツツジと名乗った少女が桜の隣に座った。

「ところで、間桐さん。」

「…雁夜でいい。苗字は嫌いなんだ。」

「じゃあ、雁夜さん。体の調子はどう?」

「……すこぶる良いよ。」

「半分死んでたもんね。」

 そう言ってニコッと笑うツツジ。

「俺は、いったい…? 何があったんだ?」

「桜ちゃん。鏡持ってきて。」

 ツツジが桜に手鏡を持ってこさせた。

 そして桜が雁夜の顔を鏡に映す。

 それを見て雁夜は、目を見開いた。

「ば、馬鹿な!」

「驚いた?」

「髪が…顔が…。」

 半分ただれていた顔も、白く染まってしまっていた髪も、急拵えの魔術師になる前の状態になっていたのだ。

 雁夜は慌てて、服をまくるなどして、体の方も確認した。体の方も顔と同じように元通りになっていた。

「ツツジさんが…、助けてくれたんだって。」

「そうなのかい? 桜ちゃん…。ツツジ…さんだったな、君は俺に何をしたんだ?」

「寄生させたの。」

「…は?」

「これを。」

 そう言ってポケットから出したのは、一枚の写真。

 差し出されたのを見ると、そこには、何か…見たこともない、寄生虫のような虫が映っていた。

 先端が吸盤になっており壁に張り付いていて、体部分はムカデのように節があり、吸盤のところが頭なのだろうか、そこから細い糸のような触手が一本生えた奇妙な虫だ。

「きせい? …これを? この写真に載っているのをか? 冗談だろ?」

「冗談じゃないよ。今、この寄生虫は、あなたの脳の中にいるわ。」

「だから、冗談を言うなら、もう少しマシな…。」

「……雨もやんだね。ちょっと外に行って、見て。あなたが、昨晩やったこと。」

「?」

 ツツジがそう言って立ち上がる。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 桜と共にツツジの後を追って外に出て、そして雁夜は呆然とした。

 

 あのおぞましい蟲で満ちていた蟲蔵が、黒焦げの瓦礫と木材だけを残して完全に倒壊していたのだ。

 

「あれは、あなたが、やったんだよ。」

「俺が? は、ハハハ…、嘘だろ?」

「本当だよ。ねえ、桜ちゃん。」

「……。」

「桜ちゃん…?」

 戸惑っていた雁夜の手を、桜が握ってきた。

「雁夜さん。あなたが、この子を救ったんだよ。」

「俺が…? ……あのジジイは…?」

「死んだ。あなたが、殺した。」

「俺が? 俺が、あのジジイを? 俺にそんな…力…、っ?」

 桜に握られていない手を見た時、雁夜は気づいた。

 自分の手の皮膚が一部、青白くただれていることに。

 このただれ方は、蟲の陵辱を受けて出来たものじゃない。

「だいじょうぶ。それは、ちょっとした最初の症状みたいなものだから。馴染んでくれば…、消えるよ。」

「君は、俺に何をしたんだ?」

「だから、さっきも言ったけど。あの写真に載ってた寄生虫を寄生させたの。」

「そんなことで…、あの魔術師のジジイを殺せるわけが!」

「それが、できるんだよ。」

 ツツジがニッコリと笑った。

 その笑顔に、雁夜は、なぜか背筋がゾッとした。

「まだあなたは、あなたに与えた力を使えないけど…、日が経つにつれて、自分の力を使えるようなる。その力は、日が経つにつれて、より強くなる。きっと、あなたが魔術師だったのがよかったんだね。桜ちゃんから聞いたけど、あの変な蟲って、魔術で作られたんだって? それじゃあ普通の方法じゃ殺せなかった。」

 ペラペラと、よかったよかったと言わんばかりに喋るツツジに、雁夜は、軽いめまいを覚えた。

「おじさん、だいじょうぶ?」

「あ、ああ…、だいじょうぶだよ、桜ちゃん。」

「ところで、雁夜さん。約束したことなんだけど。」

「は? 約束?」

「覚えてないの? そのために助けてあげたのに…。」

「そんな約束、いつしたんだ?」

「道ばたで倒れてたとき。」

「知らないぞ」

「私に協力してもらう代わりに、助けてあげるって。」

「知らん! そもそも協力って何だ!?」

「私、どうしても滅ぼしてやりたい連中がいるの。そのためには、戦力がいるから。」

「だから、知らんって!」

「雁夜さん、すっごい未練が強そうだったから、寄生させても生き残れるだろうって思ったの。その代わり、私に協力してって聞いたよ。許可は取ったよ。」

「許可した覚えはない!」

「えー? じゃあ、狙われるよ?」

「何に!?」

「部屋に戻って話そう。」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 部屋に戻り、三人は座って、ツツジが話を始めた。

 

 曰く、この世界の裏の闇の世界を牛耳る、秘密機関ドレスという組織が存在すること。

 曰く、そのドレスが作ったのが『寄生虫バオー』であること。

 曰く、その寄生虫バオーの幼体をツツジが死にかけていた雁夜に寄生させて生きながらえさせたこと。

 曰く、寄生虫バオーは、宿主が危険に陥ると、凄まじい力を与えること。その力であの魔術師・間桐臓現を殺したのだと。

 曰く、ドレスが雁夜に寄生虫バオーが寄生していると知れば、徹底的に殺しにかかってくるだろうと。

 

「…つまり、ツツジ…、俺を巻き込んだのか?」

「まあ、一言で言ってしまえばそうなるかも。」

「迷惑だ! つまり、俺のことがその組織にバレたら、桜ちゃんまで危険な目にあうってことだろ!?」

「そうだね。」

「そうだね、じゃねぇぇぇぇぇぇ!! どうしてくれるんだぁぁぁぁぁ!?」

「もちろん、タダじゃないよ。私は、ドレスを壊滅できればそれでいい。そのために力を貸してくれれば、私は、雁夜さんに力を貸すから。」

「はっ?」

「あなたが、聖杯戦争をやっている間、桜ちゃんを守ってあげるから。」

「…信用できない。」

「私は、ドレスを倒すために魔術師の力が欲しくてこの市に来た。願いを叶える聖杯は、雁夜さんの自由にすればいいから。」

「…いいのか? ツツジは、聖杯のことを知っているんだろ? ドレスを倒したいなら、聖杯に願うことだってできるはずだ。」

「でも、それは、魔術師じゃないとできないんでしょう? 私は魔術師じゃないからできない。それに……私がドレスを倒したいのは…。」

 そこまで言ってツツジは、急に口をつぐんだ。

「? どうした?」

「秘密にしておく。」

「はあ? ここまで喋っておいて?」

「名前だって本名じゃないかもしれないよ?」

「なっ……。なんだそれ! そんなの不公平だぞ!」

「言わなーい。」

「言えよ!」

「言わなーい。」

「くっそ……。」

 言わないととぼけるツツジに、雁夜は舌打ちをした。

「だいじょうぶよ。おじさん。」

「桜ちゃん…?」

「この人…、信用していいと思う。」

「でも…。」

「たぶん…だいじょうぶ。」

 桜は、雁夜の左腕に寄り添ってきた。

「だから…、おじさんは安心していいと思う。」

「……分かったよ。桜ちゃん。」

「どうする? 雁夜さん? 私に協力してくれる?」

「……まだ完全には信用したわけじゃないが、桜ちゃんを守る約束を守ってくれるなら、俺も力を貸す。」

「ありがとう。」

 ツツジは、微笑みを浮かべた。

 

 

 こうして、ツツジという謎の少女と組むことになったのだった。




秘密機関ドレスがあるというのも捏造です。
pixivにて、先にバオー来訪者のクロスオーバーをあげてらした方の設定を一部用いました(※パクってもいいと書いてありましたので)。

桜は、直感でツツジが信用できる相手だと感じました。


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SS4  従順

バーサーカーのことを素で忘れてた雁夜おじさんがいます。注意。


 間桐の屋敷の縁側に雁夜は座っていた。

 ツツジから告げられた事を考えていたのだ。

 間桐の蟲とは全く異なる寄生虫バオーなるもの。

 それを作ったドレスという闇組織。

 ドレスにバオーを寄生された(というか寄生させられた)自分の存在がバレれば、自分の命のみならず、身近にいる人間も危険だということ。

 ツツジが言っていた寄生虫バオーのことは、まだよく分からないし、蟲蔵と間桐臓現を自分が破壊し、殺したという実感も無い。

 ツツジは、己のことと話そうとしないし、名前だって偽名の可能性がある。

 表面上は、ドレスを潰すことに協力する代わりに、桜の身の安全を守るってもらうと約束したが……。

 

「……勢いで言ったが、あいつにそんなことできるのか?」

 

 よく分からないが体を治してもらったらしいし、桜から聞いた話によると、臓現を殺す直後に蟲蔵から桜を脱出させたのはツツジらしい。

 そもそも、寄生虫バオーという異種を扱っているのだ。おそらく素人ではないだろう。そして、どれほどの規模なのかは不明だが、秘密機関ドレスを滅ぼすと言っていたあの顔も声も本気だと感じ取れた。

 その問題のツツジは、今、桜と一緒に食事を作りに台所に行っている。さっきから、ほんのりと、和食特有の出汁と醤油の匂いが小さな風に乗って鼻をくすぐる。

 ……まともな食事を摂るのは、いつぶりだろう?

 ここ数ヶ月、まともな食事を取れた記憶がない。だが生きていた。いや、ギリギリの状態で生かされていた。

 前は、吐き気はあれど、食欲が湧くことはなくなっていた。だが、今は体が治ったおかげか、匂いを嗅いだだけで口の中に唾が湧いてくる。

 献立はなんだろう?っと少し胸を躍らせていた雁夜は、ふと気づいた。

 

 なんか……、黒いモヤがいつのまにか自分の横にいる。

 

「!?」

 まさか襲撃か!? それとも臓現がまだ生きていたか!?っと身構えて横を見て、雁夜は、すべてを思い出した。

 

 バーサーカー。

 己が喚んだ、サーヴァント。

 黒い鎧を全身にまとった、狂戦士。

 

「あ…。」

 なぜ忘れた。っと雁夜は、アホな自分を恥じた。

 しかし、すぐに異常に気づく。

 バーサーカーは、その特製故に、狂化によってステータスを大幅に強化された代わりに、理性などをを奪われている。

 つまり、戦闘に特化しており、大人しくさせるのはよっぽどの魔術師でないとできない。即席の魔術師である雁夜には、制御が困難だったはずだ。

 そんなバーサーカーが、なぜか自分の横で、実体化せず大人しくしている。

 あと、急激に吸われていた魔力の感触もない。体調は相変わらずすこぶる良い感じだ。

 まさか…っと思いつつ、雁夜は、バーサーカーに命令した。

「姿を見せろ。」

 すると、黒いモヤのような姿だったバーサーカーが庭の方に移動し、忽ち黒い騎士の姿になって雁夜の前に跪いた。

 その形になりすぎてるくらいの美しい跪きに、雁夜は、ポッカーンとしていた。

 

「わっ、なんかいる。」

「あれが、サーヴァントだよ。」

 

 そこへ、ツツジと桜がやってきた。

「おじさん。ごはんできたよ。」

「あ、ああ…。」

「へ~、それが噂で聞いたサーヴァント…英霊か。すごく禍々しいけど?」

「そりゃ、バーサーカークラスだからな。」

「強いの?」

「ああ。バーサーカーは、サーヴァントでももっとも強いんだ。狂化のおかげで、すべてのステータスが高くなってて。」

「その代わり、マスター殺しって言われるほど燃費が悪いの…。」

「へ~。じゃあ、雁夜さん、だいじょうぶ?」

「ああ…。おかしいぐらいなんともないんだ。これもバオーの力なのか?」

「違うと思う。でも、雁夜さんを支える生命力を与えているのはバオーだよ。」

「そのバオーだが…、そもそもそれが俺の体を治したんだよな?」

「そうだよ。」

「……あのジジイを殺す力をどこから出してる? どうすれば扱える?」

「それは…。」

「ねえ。ご飯冷めちゃう。」

「えっ? ああ、そうね。雁夜さん、食卓に行きましょう。」

「分かった。バーサーカー。消えてろ。」

 実体化していたバーサーカーに命じて、バーサーカーが消えてから、雁夜は、二人と共に食卓に行った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 白ご飯、鶏の照り焼き、ほうれん草のおひたし、味噌汁…。

 普通の食事が食卓に並んでいる。

 手を合せて、久しぶりに食べた固形物を噛みしめ、味わって、飲み込んで雁夜は思わず涙ぐんだ。

「美味しくなかった?」

「ち、違うんだ…。すごく美味しいよ。美味しくって…。」

 少し心配そうに言う桜に、雁夜は涙を手の甲で拭って慌てて言ったのだった。

「おじさん…。ずっとお粥しか食べれてなかったから…。」

「ほとんど全部桜ちゃんが作ったんだよ。」

「そうなのか? 美味しいよ、桜ちゃん。」

「……ありがとう。」

 桜が小さく照れくさそうに微かに頬を染めて微笑んだのだった。

 雁夜は、桜のその表情の変化に驚き、そしてダーッと泣き出した。

「ちょっ、雁夜さん!?」

「桜ちゃんが…桜ちゃんが……!」

「分かった、分かったから、とりあえず、ご飯冷めるから先に食べよう、ね?」

「うう…。美味しい美味しい…ちょっとしょっぱい…。」

「それ涙のせい。」

 ツツジにツッコまれつつ、泣きまくりながら、美味しい美味しいとご飯を食べ続ける雁夜であった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 お腹がいっぱいになり、そして泣き止んだ雁夜は、色々と試したいと言って庭に出た。

 ツツジと桜に見守れながら、姿を消しているバーサーカーを呼び出す。

 あっという間に姿を現わした黒い騎士は、雁夜の前に現れると、またも美しく形になりすぎている跪きを見せた。

 その姿だけで、『さあ、命令を…』っと言っているように見えるぐらいだ。

 バーサーカークラスとは、こんなにも従順だったか?っと首を捻りつつ、色々と命じてみる。

 言葉を喋ることは出来ないが、例えば近くにあった植木を切れとか、足元にある小石を拾えとか、投げたモノを持ってこさせるとか……、犬猫じみた簡単な命令はしっかりと聞いて実行してくれた。

「……なんか、犬みたい。」

「それを言うな。」

 っと、率直に言ってのけるツツジに、雁夜がそう返した。

 雁夜は、バーサーカーに視線を戻し、顎に手を当てて考える。

 これだけ従順なバーサーカー…、そしてこれだけバーサーカーを動かしてても魔力を消耗しているという感覚がない。

 それもこれも全ては、ツツジに寄生させられた寄生虫バオーによるものだろうか?

「……分からん。」

「雁夜さんが分からないことは、私にも分からないよ。」

「ツツジには、聞いてない。」

「おじさん。魔力回路が開いてるんじゃないの?」

 そこに助け船。まさかの桜である。

 言われて雁夜は、ハッとした。

 確かに自分は、一応はこの間桐の家を継ぐ権利を持っていたうちの一人だ。

 実際、桜を解放する取引として、自分の間桐の血肉を提示したのだ。修行こそしていないが、閉じていた回路が寄生虫バオーのおかげで開いたのなら、つじつまが合うかもしれない。

「寄生虫バオーは、宿主に危険が迫れば助けてくれるよ。」

「それは、人間の潜在能力も引き出すことができるってことか?」

「たぶん。筋肉や骨を異常に強化して、怪我も回復できるから。もしかしたらその魔力回路っていうのも活性化させた可能性は高いよ。そもそも私は、魔術師については何も知らないから、桜ちゃんの方が詳しい?」

「うん。」

「そういえば、聞いてなかったな。どうすれば、あのジジイを殺したり、蟲蔵を破壊する力を使えるんだ?」

「それは……、今の状態じゃ、ピンチになるほど怪我しないと使えないかも。」

「なんだそりゃ。」

「バオーは、まだあなたの中に住み着いたばかり。日が経てば経つほど、バオーの力はあなたに浸透していく。時間が経てば経つほど強くなる。そのジジイって人と、あの蔵を壊したことを雁夜さんが覚えてないのは、バオーが雁夜さんの意識を完全に乗っ取ってたから。あなたの代わりに、“敵”を排除するために動いたから。」

「つまり…、俺の意思じゃその力を使えないってことか?」

「時間が経てば、自分の意思で使えるようなるはずだよ。それまで少し辛抱して。」

 ツツジは、そう答えた。

 雁夜は、歯がみした。自分の意思であのおぞましい老人を殺したという手応えや記憶が無いのは、惜しかったが、自分の意思でやるよりも“人間ではない”寄生虫バオーの意思でやった方がよっぽど良かったのかもしれない。なぜな、人間でないものには、人間でないものをぶつけた方がよっぽどいいだろうから……。

 だが……。

「俺は……、人間じゃなくなったってことだな…。はは…ハハハハ。」

 あれほど妖怪だのと罵ってきた老人をも越える力を望まず(?)に手にしてしまったのだ。

 あれほど嫌っていた魔術師になるよりも恐ろしくおぞましいことではないか。

「おじさん。」

「…桜ちゃん。おじさん、もう人間じゃないんだってさ。」

 いつの間にか自分の傍に来ていた桜から離れようと雁夜が動こうとした。

 すると、桜は手を伸ばし、雁夜の服の端を握った。

「桜ちゃん…。触っちゃダメだ。おじさん、人間じゃないんだぞ?」

「……。」

「桜ちゃん。桜ちゃんは、帰るんだ。あの家に…、葵さんのところ…、っ?」

 そう言っていた雁夜だったが、桜は、俯き首を横に振っていた。

「桜ちゃん? どうしたんだい? まさか…、帰りたくないなんてこと…。」

「いっしょがいい……。」

「えっ?」

「おじさんと……いっしょがいい…。」

「だ、だから、桜ちゃん…、おじさんは…。」

「それでも、いい。」

 桜は、そう言って雁夜の服を握る力を強くし、顔を上げた。

「桜ちゃん…?」

「おじさんも…私を捨てるの?」

「そんなことない! そんなことするはずがないじゃないか! 何を言ってるんだ!?」

「じゃあ…離れないで…。」

「桜ちゃん…。」

 桜が微かに震えていることに気づいた雁夜は、膝を折って、桜の小さな体を抱きしめた。

 

 

「……あなたは、どう思う? って答えられないんだよね?」

 ツツジは、黙って二人の様子を眺めているバーサーカーに問いかけたが、答えは返ってこなかった。




なんとなく、現段階で、すでに桜の中のヒエラルキーの上位は、雁夜おじさんです。
桜→雁夜?



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SS5  最悪

オリキャラ・ツツジが、キャスター陣営に気づく。

頼まれた雁夜おじさんが、キャスター陣営を襲うが……?

原作小説で犠牲になった少女の描写により、グロ注意。内蔵が…。



最後若干ギャグ?


「…ツツジさん?」

 桜がツツジに話しかける。

 ツツジは、部屋の中で目を閉じて座っているだけだ。

 朝からだろうか、ずっとこんな状態だ。

 

「………最悪な、“匂い”…。」

 

 ソッと目を開け、そう呟く声は、嫌悪感に満ちている。

「におい?」

「ん? 桜ちゃん、別にここが臭いわけじゃないの。ただ……、遠くからね…。」

「とおく?」

「そういえば、雁夜さんは?」

「呼ぶ?」

「……うん。呼んできて。ちょっと、話があるから。」

「分かった。」

 

 

『ひぃ…。ぎぃ……』

 

『よぉし、じゃあ“ミ”はここ、と…』

 

 

「……本当に…最悪だ。」

 その“声”すらも、そして、その声が発せられている場所で行われていることすらも“匂い”として感じ取っているツツジは、桜が雁夜を呼びに行った後、そう吐き捨てるように呟いたのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 桜に呼ばれてきた雁夜が、部屋に入ると、ツツジは、少し難しそうな顔をして雁夜を見た。

「雁夜さん。あなたは、魔術師の倒し方を知ってる?」

「急になんだ? 藪から棒に…。」

「もし知ってるなら…、教えて欲しいな。」

「どういうつもりだ? 聖杯戦争には、俺の代わりに桜ちゃんを守ってくれても参加はしないんだろ?」

 顔をしかめる雁夜に、ツツジは、困ったように自分の頬を指で掻いた。

「…消してしまいたい…、匂いが気になって仕方なくて…。」

「におい? どういうことだ? それに、消すだって?」

「雁夜さんは、まだ日が経ってないから分からないね。分かるようなったら……、きっと、あなたが殺したジジイとか、蟲のいた蔵以上に最悪な匂いを感じるかもしれない。」

「……ツツジ…、君は…。」

「で、教えてくれる? 魔術師を倒す方法を。」

「……俺が行こうか?」

「えっ?」

「相手が魔術師なら、同じ魔術師で対抗した方がいいんじゃないか? ツツジは、魔術師じゃないんだし。」

「その方が、いいと思う。」

「桜ちゃんまで…。いいの?」

「ああ。いずれにしても俺は、時臣…、桜ちゃんのお父さんに…用があるから、このまま聖杯戦争は続けるつもりだったんだ。体調も良いし、バーサーカーの制御も出来てるし、肩慣らしついでと言っちゃなんだが、やっても構わない。」

「ねえ、ツツジさん……。なにを感じてたの?」

「それは…。」

 桜の問いかけに、ツツジは口ごもった。

 ツツジは、思わず自分の手で自分の口を塞ぐようにした。

 言うべきか…、言わざるべきか…。この最悪な“匂い”を言葉として二人に伝えて良いのだろうかと。

 

 十字架に磔にされたいたいけな少女が、簡単には死ねぬように処置され、腹を割かれてその中の腸をピアノの鍵盤のようにして、その腸を刺激すると悲鳴で音を鳴らすという外道極まりない行いを、濃厚な血のにおいをまとった男が立案し、そして実行。そんな彼のアイディアを高く評価する…、おそらくは、サーヴァント。

 

 目を閉じれば鮮明に感じ取っている匂いが脳内で光景となって現れる。

 こんな行いが平然と行われるのが、聖杯戦争なのか……。っという、疑念が湧く。

 バオーの、武装現象(アームドフェノメノン)を最初に発動した雁夜を追って、やってきた間桐の屋敷で最初に感じ取った蟲や蟲たちの操り手だったらしい雁夜の言うジジイとやらの匂いも最悪だったが、磔にされた少女に恐ろしい仕打ちをしている男とサーヴァントも別の意味で最悪だ。どっちが上か下かとかじゃない。どっちも最悪。

 早く…、早くこの匂いを消したい…!

「…ツジ…、ツツジ。」

「……ハッ。」

 声をかけられ、雁夜に左肩を揺すられてツツジは、ハッと我に帰った。

「そんなに…、嫌な“匂い”なのか?」

「……うん。雁夜さん……お願いします。この匂いを消して…!」

 ツツジは、左肩に触れていた雁夜の手首を握ってそう懇願したのだった。

 ツツジの剣幕に驚いた雁夜だったが、よっぽどのことなのだろうと感じたのか、頷いた。

 桜は、無表情だが、どこから心配そうに二人の様子を見ていた。

 

 

 そして、ツツジは、冬木市の地図を持ってきて欲しいと頼み、だいたいの場所を示してそこへ雁夜がバーサーカーを連れて向かったのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ツツジが示した場所の近くまで来たせいか、雁夜は、嫌な感じがした。

「……におい…?」

 そう例えるなら、その感覚だろうか。

 これが、ツツジが言っていた“匂い”なのか。確かに、この“匂い”は、不快だ。汚物の匂いとも違う、全身の五感を刺激する…異様さ。

 しかし、ふと思う。

 

 なぜ、ツツジは、“匂い”として遠くの出来事を感じ取ることが出来るのかと。

 

 今までの話を総合すると、匂いを感じ取るのはバオーの特性らしい。

 しかし、ツツジは……。

「ツツジ……、まさかな…。」

 それは、帰って問い詰めよう。

 そう考え直した雁夜は、不快な“匂い”を辿って、用水路に入っていった。

 いつでもバーサーカーを実体化できるように用意して、暗い…中を進んでいく。

 しばらく歩いていると、濃厚な血の匂いと共に、微かに声が聞こえた。

 よ~く耳を澄ませる。それは、子供のすすり泣く声だった。

 少女だろうか。若い声だ。

 

『はーい。それじゃあ、ワンス・モア・タァーイム』

 

 男の声が聞こえ、その後に少女の泣く声が苦悶の悲鳴変わった。

 まさか!っと雁夜は、叫びかけて慌てて口を手で塞いだ。

 

『ん、ん~? 気のせいか? んじゃ、改めて…。“ド”、“レ”、“ミ”』

 

 気づかれそうになったが、なんとかごまかせたようだ。

 だがその後、またも少女の悲鳴が聞こえてきた。

 この濃厚な血の匂いといい、この悲鳴といい…、少女がどんな目に遭っているのか…想像したくもない。

 ツツジが、あんな必死に“匂い”消してくれと言っていた理由が分かった…。

 この惨劇を止めるべく、雁夜は、バーサーカーを実体化させようとした。

 その時……。

 

「不届きなネズミが!」

 

「!?」

 背後から男の声が聞こえ、ハッと振り返った雁夜の顔に向かって、男の大きな手がすぐそこまで迫っていた。

 その手を、一瞬にして実体化したバーサーカーが止め、相手の男に拳を振りかぶった。

 相手の男は、ローブの布地を宙に浮かせながら、人間とは思えぬ動きで飛び退いた。

「青髯の旦那? ん? 誰?」

「ちっ!」

 雁夜は、気づかれたことに舌打ちしつつ、後ろの方に現れた別の男に体当たりして吹っ飛ばし部屋に転がり込んだ。

「!」

 そこで見たモノは……。

「う、ぐ…、これは!? おまえがやったのか!?」

 その惨状を見て、雁夜は吐き気を堪えつつ、倒れて呻いている男に向かって叫んだ。

「イデデ…、な、なんちゅー馬鹿力だよ、ちくしょう…!」

 男は、雁夜の体当たりのダメージが予想以上に大きかったらしく、起き上がらない。

「我が領域に踏み込んだ不届きなネズミめ! そこな子供のように、腸を引きずり出してくれるわ!」

「っ…! バーサーカー! その子を…!」

「! ああー!」

 雁夜は、バーサーカーに命じて、惨い状態で生かされている少女にトドメを刺した。途端、床に転がっていた男がオモチャでも壊された子供のように悲鳴を上げた。

「バーサーカー? …おや、つまり、貴様はこの聖杯戦争に参ずるマスターということですか。ならば、ちょうどいい。貴様と貴様のサーヴァントを、私を選んでくれた聖杯の供物とし、その首を我が聖処女に捧ぐとしましょう。」

「簡単に殺せるとは思うなよ?」

「あ、青髯の旦那…。コイツ…、あそこで戦ってた奴の一人じゃね? サーヴァントだったっけ? その二人相手にして暴れてた黒い奴じゃんか。ヤバくね? ってか、なんでここが分かったわけ? ってゆーか、勝手に俺のオルガン壊すなっつーの。」

「おる、がん…?」

 さっきまで惨たらしい有様で生かされていた少女をオルガンだと言うのか、この男は…!っと、雁夜の中に怒りがこみ上げてきた。

「バーサーカー! こいつらを殺せ!」

 怒りのままに命じると、バーサーカーは、うなり声のような声を上げ、剣を抜いて青髯と呼ばれている男に斬りかかった。

「愚かな…。」

 青髯と呼ばれている男が、吐き捨てるように呟いた直後、雁夜の背中と胸に衝撃が走った。途端、バーサーカーが止まった。

「がっ…。」

「ありゃりゃ、あっけねー。」

 ようやく起き上がった男が、胸から大量の血を流す雁夜を見て、芝居がかった大げさな仕草と声で言った。

 雁夜を襲ったのは、ヒトデに似た海魔だった。青髯と呼ばれる男が召喚していた、この場所を警護していたモノだ。

「ここが我が領域だと言うことを失念していましたね。呆気ない幕切れですが、バーサーカーを先に潰せたのは良いことです。」

 胸からの出血を両手で押さえながら、へたり込む雁夜。

 

 し、死ぬ? こんなところで? せっかく健康な体を取り戻し生きながらえたというのに!

 

 雁夜は、あふれ出てくる血を口から流しながら、悔しさに歯を食いしばった。

 

 そして、変化は……突然起こった。

 

「………ーーーーム…。」

「?」

 青髯と呼ばれていた男も、もう一人の方も目をぱちくりさせた。

「ウォォォォム…! バルバルバルバルバルバル!!」

 雁夜の意識が一瞬にして切り替わった。

 そして、変化が始まった。

 

 見る見るうちに変色し、ひび割れていく肌。

 変色し、ボリュームを増す髪の毛。

 背中に突き刺さっていたヒトデのような海魔がグググッと、筋肉に押し出され床に落ちた。

 

「うわわわ! 何コレ!? 何コレ!?」

「これは!?」

 二人は、雁夜の変化に驚きを隠せていなかった。

「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 バオー・武装現象(アームドフェノメノン)へと変化を遂げた雁夜が、咆吼をあげた。

「マズい…、非常にマズい!」

「うげっ、だ、旦那、なにす…?」

「逃げますよ、リュウノスケ。この場所は捨て置きます。」

「ええー!?」

 リュウノスケと呼ばれた男の後ろ首を掴み上げ、青髯と呼ばれていた男は、この場から逃げようとしたのだった。

 だが逃げようとすると、背後にいつの間にか回り込んでいたバーサーカーが立ちはだかる。

「我が聖処女を取り戻すまで、私は死ぬわけにはいかないのです!」

 凄まじい数の海魔が天井や壁、床から現れる。

 バーサーカーは、剣を振ってそれを邪魔だとばかりになぎ払う。

 雁夜も、腕に刃を出現させたり、変形した髪の毛を針のように飛ばして海魔を燃やしてどかしていく。

 すべての海魔を退けたときには、リュウノスケという男も、青髯と呼ばれていた男も姿を消していた。

 しかし、雁夜は、海魔にも、牢に残っている子供たちにも目もくれず、用水路を移動し始めた。

 バーサーカーは、雁夜の後ろに続いて移動した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「ハアハア…、あんだよ、アイツ! 変身ってアリかよ!? 仮面ライダーじゃあるまいし!」

 

 ウオーーーーーム! バルバルバルバルバルバル!!

 

「ん…、この声…、ましゃか……。」

「足を止めてはなりません! リュウノスケ!」

「ゲッ!?」

 用水路の先、自分達がさっきまでいた場所の方向から、ソレが、やってきた。後ろにバーサーカー付きで。

 青髯と呼ばれていた男が素早く海魔を召喚する。

「ど、どうすんだよ!?」

「とにかく、距離を! 奴に補足されないほどの距離を取るのです!」

「逃げるってこったな!」

 物量のものを言わせるほどの凄まじい数の海魔で、用水路そのものを塞ぐようにして、二人は逃げ出した。念には念を入れて、とにかく分厚く何段階にも厚みを作っておき、そう簡単には破られないようにしておいた。

 そうして、用水路から脱出した二人だったが、傍にあった廃屋の壁に背中をもたれさせようとしたリュウノスケの真横から、ボコッと青白く鋭い爪の手が生えてきて、あわやリュウノスケがその手に捕まる寸前になったりもした。

 そんなギリギリの追いかけっこがしばらく続くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で……、結論から言うと…、結局リュウノスケこと、雨生龍之介(うりゅうりゅうのすけ)と、青髯…あらためキャスターは、バオー化している雁夜とそれに従うバーサーカーの追跡から命からがら、超ギリギリで逃げおおせたのだった。

 敵を逃してしまい、バオー化が解けた雁夜は、しばらく何が起こったのか分からず放心していた。

 その後、ツツジからの連絡で、キャスター達が拠点としていた用水路の奥の牢屋から子供達を助け出したのは、別の話である。




この襲撃で、キャスター陣営は、バオー化した雁夜おじさんにトラウマ植え付けられました。

ツツジがなぜバオー特有の匂いによるすべての認識ができるのか……。それは、明かさないことにしていますが、もう分かる人には分かるかな?


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一応、設定 話が進むと増えます

一応、キャラ設定など。

話が進むごとに増やす予定。



2018/12/29
アーチャーの設定に少し追加。


◇大まかキャラ設定

 

・間桐雁夜(まとうかりや)

 聖杯戦争序盤戦後に、倒れて死にかけていたところに、寄生虫バオーを埋め込まれる。

 バオーに乗っ取られかけるが、桜を救いたいという精神力により打ち勝ち、バオーを支配して死にかけの身体を復活、魔術師回路が開き(バーサーカーの制御)、かつ地上最強の生物の力を手に入れる。

 桜の身の安全と、秘密機関ドレスの壊滅を取引材料に、オリキャラからバオーの情報提供をしてもらう。

 臓現が死んだことで、心にかなり余裕ができ、時臣に対する一方的な殺意が失せ、桜を間桐にやった理由次第じゃ全力でぶん殴るぐらいにとどめている。一方で桜にかなり懐かれてしまい、葵のもとへ返せなくて困っている。

 SS26の頃には、葵への初恋を過去の物としてケジメをつけ、彼女の無知もまた桜を地獄に落とす一端を担ったと考えて、時臣と共に断罪することにする。

 SS27で、アーチャーの乖離剣エアによって発生した時間の歪みをも超越する進化を遂げ、時間の歪みで動けないでいたアーチャーの首を切り落とす。

 その後SS28では、匂いで聖杯の汚染を感じ取り、令呪を二つ使ってバーサーカーに聖杯の破壊を止めるよう命令したが、セイバーのエクスカリバーの力によりバーサーカーもろとも聖杯を破壊され、泥の流出を止めることに失敗する。

 

 

 

・間桐桜(まとうさくら)

 遠坂の次女。

 魔術的に特異な体質であったため、身の安全のために父・時臣により同盟を結んでいる間桐家に養子に出されたのだが、間桐家の当主・臓現により次世代の間桐の母体とされるべく蟲による陵辱を受けてしまい感情を喪失してしまった。

 バオーの力を手にした雁夜により臓現が倒され、また心臓に埋め込まれていた臓現の本体である刻印蟲をバオーの体液を取り込むことで除去され自由の身になる。(※臓現完全に死亡)

 無理矢理に間桐の魔術を体に仕込まれたものの、遠坂の血ゆえか、ある程度は使いこなし、また雁夜の力になりたいという想いから間桐家にある魔術書の解読などを行い、魔術に疎いバーサーカー陣営において、魔術に関する知恵をもたらす。

 SS26で親である遠坂夫妻に決別を言い渡し、ため込んでいた感情を爆破させその反動で感情を取り戻した。

 

 

 

・バーサーカー(ランスロット)

 雁夜が召喚したバーサーカークラスのサーヴァント。

 セイバーを見るとマスターである雁夜の命令を振り切るなど、言うことを聞かなかったが、雁夜が寄生虫バオーを寄生され、すべての魔力回路が活性化したことや、地上最強の生物の力を手に入れたことで、驚くほどに従順になった。

 SS22で、やっと真名と正体が発覚する。

 SS23にて、セイバーの涙と自分に向けられる感情の叫びに反応し、我慢の限界を超えてセイバーを攻撃しようとして雁夜を自らの剣で刺してしまうが、流れ出た血を触媒に自らがまとう怨嗟の魔力を雁夜が吸収したことでバーサーカーが何かを伝えたがっているのに雁夜が気づく。そしてバオー化を制御しつつあった雁夜がパスを通じて自らの魔力を総動員させ、なおかつバオーの力による電撃を使って強引に狂化の呪いの術式を書き換えることで狂化が解かれる。

 そのおかげで喋れるようになり、セイバーからの断罪を求めたが、ツツジに阻まれ、時臣を捕まえるまで断罪されるのを赦してもらえなくなった。

 SS24にて、実は完全には狂化の呪いが解けてなかったことが分かり、自分の意思で自由に狂化ができるようになった。

 SS28で聖杯の汚染に気づいた雁夜から聖杯を守れと令呪二つを使って命じられるが、同じく令呪の強制力により無理矢理エクスカリバーの力を放ったセイバーに消滅させらた。しかし、最終話で、雁夜の令呪が1個残っていたため、パスを通じて半年かけて復活。その後、雁夜からの頼みで秘密機関ドレスを壊滅させるため、変身能力を使うことを承諾する。

 

 

 

・ツツジ

 オリキャラ。

 道ばたで死にかけていた雁夜を見つけ、寄生虫バオーの幼体を植え付けた張本人。

 偽名なのか、本名なのかは不明だが、そう名乗った十代半ばくらいの少女。

 バオーのことに詳しく、また秘密機関ドレスを壊滅を目論んでいる。

 ある日、聖杯戦争の存在を知って魔術師の力を求めて冬木市にやってきた際に、死にかけた雁夜を見つけ、死にかけている彼に取引を持ちかけ強い未練を持っていることを確認してから寄生虫バオーの幼体を埋め込んだ。

 一見すると、凜々しい顔立ちをしたボーイッシュな少女だが、バオーの武装現象並の人間離れした身体能力を持つ。感覚も鋭く、桜の心臓に刻印蟲が埋め込まれているのを一目で見抜くなど色々と謎が多いが、自分のことを語ろうとしない。

 雁夜の留守中、桜を守ることを約束する。

 

 

 

 

・雨生龍之介&キャスター

 SS5にて、ツツジに、居場所と自分達が行っていた残虐な犯行を“匂い”で知られてしまい、ツツジに頼まれた雁夜とバーサーカーに襲撃される。

 経験が浅い雁夜に即座に致命傷を負わせるもそれが仇となり、雁夜をバオー化させる結果となってしまった。

 そしてバオー化した雁夜と、雁夜に従順になっているバーサーカーに追われ、拠点としていた用水路を放棄する結果となる。

 超ギリギリで逃げおおせたため、バオー化した雁夜には、トラウマを植え付けられたしまった。

 SS15にて、巨大海魔を召喚し、自らと同化させたキャスターだったが、F15を乗っ取ったバーサーカーによる攻撃で心臓の役目を果たしていた己がいる海魔の中心部まで露出させられてしまい、他のサーヴァント…、特にセイバーに首を切られて死んだ。最後までセイバーをジャンヌと誤認したままだった。

 なお、龍之介は切嗣に殺害された。

 

 

 

・衛宮切嗣&アイリスフィール&セイバー

 SS6にて、SS5でのバオー化した雁夜とバーサーカーが、キャスター陣営を追い回している現場を偶然見てしまう。

 正体が雁夜だとは知らないまま、死徒ではないかと勘違い。

 SS6では、とりあえず教会には伝えず様子見をすることに。

 SS8、SS9で、キャスター戦中に切嗣がアインツベルンの城から雁夜を狙撃しようとするも、SS8では二発とも弾丸の軌道を見られてしまい失敗。その後、キャスターが出した血の煙幕の中で雁夜の心臓を狙撃で撃ち抜き、結果、バオー化させてしまう。

 SS11にて、雁夜を抹殺すべく舞弥と共に間桐邸に襲撃をかけるも、ツツジと桜に阻まれ失敗する。この際、切嗣は、右手をツツジに溶かされかける。

 SS20にて、時臣から同盟の書状を送られ、対談で雁夜から桜を取り戻すため雁夜を抹殺するのに協力して貰えないかと頼まれるが、セイバーからしたらアイリスフィールと舞弥の傷を癒やしてくれたなどの恩があったため、セイバーとアイリスフィールは断った。だが、すでに間桐から当主が消えていることと、時臣が実の娘を取り戻したいといいう気持ちは本物であることは感じており、陣営内で相談中。

 SS27で、さらわれたアイリスフィールを取り戻すため雁夜達に協力を求める。その後SS27から、SS28の間にそれぞれアーチャーと綺礼を相手に戦い、その果てに聖杯の汚染に気づいた切嗣の早計により、令呪を使われたセイバーが、バーサーカーもろとも聖杯を破壊してしまい、溜まっていた汚染された魔力が泥となって冬木市を燃やす結果をもたらしてしまった。

 

 

 

・遠坂時臣(とおさかときおみ)

 SS7にて、SS5でバオー化した雁夜とバーサーカーが、キャスター陣営を追い回している現場をアサシンを通じて知った綺礼から報告を受ける。ただし、その正体が雁夜であることはこの時点では知らなかった。(アサシンの追跡を雁夜が振り切っていたため)

 その後、SS13でのアーチャーの独断による雁夜襲撃事件を経て、雁夜が謎の死徒であることを知り、綺礼に調査を依頼。

 SS15にて、雁夜と対峙し、間桐の魔術を知らなかったことが窺える言葉をうっかり口にしてしまったため、雁夜にぶん殴られて、顔が半分潰れる重傷を負うが、雁夜の血(バオーの体液)で全快。その後ツツジに気絶させられるなど踏んだり蹴ったりだったが、蟲蔵に運ばれる前にアサシンにより助けられこの時点では無事で済む。

 SS18とSS19にて、負傷した綺礼からアサシンの全滅の報告を受け、重傷を負っていた綺礼を保護して治療。

 その後、SS20にて綺礼から事情を聞き、臓現がすでに雁夜に殺されて死んでいることをなんとなく察し、桜を間桐に置いておくわけにはいかないとして、セイバー陣営に雁夜の抹殺に協力してもらおうとしたが、セイバーとアイリスフィールには雁夜に恩があったため、断られた。

 SS24にて、間桐邸で雁夜と戦闘。やることなすことが上手くいかないことから憎しみと絶望で雁夜を逆恨みし、殺そうとするも、結果惨敗に終わり、綺礼に担がれてアーチャーの舟で退却させられた。

 SS25で鶴野を人質にバーサーカー陣営に手紙を送って教会に来るよう要請。葵も連れて行き、桜の奪還を企てるが、桜から拒絶されてしまい、なおかつ自らのサーヴァントであるアーチャーと弟子である綺礼に裏切られ、廃人のようになってしまった。

 

 

 

・言峰綺礼(ことみねきれい)

 SS7にて、SS5でバオー化した雁夜とバーサーカーが、キャスター陣営を追い回してる現場を、アサシンを通じて知り、時臣に報告。

 ただし、途中でアサシンの追跡すら振り切っているため雁夜がその正体であることを、SS15辺りまで知らなかった。

 バオー化した雁夜を謎の死徒として抹殺対象として決めつける。

 SS9にて、バオー化した雁夜と戦闘。戦闘能力を見誤って右耳と右腕を負傷し、危うく感電死させられる寸前までいった。

 SS19にて、アサシン全員を使って間桐邸を襲撃。また雁夜に凄まじいダメージを負わせるも、寄生虫バオーが脳内にいることを知らなかったため殺しきれずバオー化を許してしまう。その後、バーサーカーを含めバオー化した雁夜と戦い、黒鍵を使って電撃攻撃を中和して脳を狙おうとしたが、直後に桜を取り返して戻ってきたツツジに横腹を蹴られ肋骨を折り肺をやられ、トドメとばかりにさらに威力を増した電撃を食らったがその耐久力によりなんとか生きて帰り、SS18の最後にアサシンの全滅を時臣に伝えた。

 SS26までの間に吹っ切れ、アーチャーと共に時臣を裏切って決別し、アーチャーとサーヴァントの契約を結んだ。

 SS28で原作通り復活。

 

 

・アーチャー(ギルガメッシュ)

 SS12にて、時臣を無視して、自分にとって不快な存在である“ゲテモノ”の雁夜を殺すべく、間桐邸を襲撃する。

 SS13で、雁夜とバーサーカーのコンビと対決し、天の鎖(エルキドゥ)で雁夜の首を折り、ゲートオブバビロンでトドメを刺そうとするも、電気の放電によって財宝の金属が磁石の要領で止められてしまいバオー化を許してしまう。またその直後、マスターである時臣の魔力が切れたためやむを得ず帰還しようとした直後にバオー化した雁夜に喉を切られて大量出血を起こす大怪我を負わされた。

 その後は、しばらくだんまりを決め込んでいたが、SS21でやる気を取り戻し、ツツジと桜に雁夜とバーサーカーを連れてこいと脅迫するも、ツツジのずば抜けた戦闘能力に翻弄され、また時臣の魔力を食い潰し強制的に霊体化せざる終えなくなる。

 SS26にて、前々から誘いをかけていた綺礼と共に時臣を裏切り、時臣の右手を切断(※後で雁夜によりくっつけられた)して、綺礼とサーヴァントの契約を結んだ。

 SS27でセイバーと雁夜とバーサーカーと決戦を行い、自身の最強の宝具である乖離剣を使うも、乖離剣が発生させた時間の歪みすら超越した雁夜に首をはねられ死亡。

 SS28で、最後に原作通り受肉。

 番外編にて、SS21とSS26でツツジにボコボコにされたため彼女に対して無意識に苦手意識が働くようになり、綺礼の分析でツツジが天敵になっていると呟かれる。

 

 

 

・ライダー(イスカンダル)

 SS14にて、間桐邸に単独でやってくる。

 そして聖杯戦争に参加する理由を雁夜達に問いかけ、弱い理由に落胆したが、桜の気丈さを気に入り、時臣への報復という戦いの理由が終わるまで休戦することを約束する。ただし、別の理由が出来て報復をしないとか、報復が終わっても聖杯を求めるのならば、容赦せず戦うとも言う。

 SS27で、切嗣達からの手紙でアーチャーとの戦いで倒されたことが判明する。

 

 

 

・ランサー&ケイネス&ソラウ

 SS16にて、ソラウは、右手を舞弥によって奪われ、切嗣により人質に取られるが、ツツジの偽善により、右手を元通りに治されるも、ケイネスと共に切嗣と舞弥に撃たれて意識の無いまま死亡。

 ケイネスも、セイバーの呪いを解くことを取引に提示されながら、せっかくツツジに体を治してもらったのに恩を仇で返して雁夜の心臓を潰してしまいバオー化を許してしまうなどの失策を重ね、最終的にソラウと共に切嗣と舞弥に撃たれて重傷を負い、ランサーに勝手にしろと最後の命令をして死亡する。

 ランサーは、二人の主を失い、涙を流しながら、セイバーと決着をつけるべく最後の戦いに挑み、セイバーに敗北して消滅した。

 

 

 

・アサシン

 言峰綺礼をマスターとしていた、個にして群、群にして個のサーヴァント。

 原作小説では、王について語らっていたセイバー達がいたアインツベルンの城を襲撃して、ライダーに殲滅させらるが、このネタでは、襲撃していないためSS19時点まで生存していた。

 SS18にて、負傷した綺礼からアサシンの全滅を通信で時臣に伝えられる。

 SS19にて、綺礼の命により間桐邸を全員で襲撃するが、桜を攫った結果雁夜の怒りを買い、それに同調したバーサーカーに殲滅させられ、最後の一人となった桜を攫った個体もツツジにより首を切断され死亡した。

 

 

 

 

 

 

話が進むと増えるかも。

 

 

 




実は…、つい最近まで間桐(まとう)を、マキリだと思ってました。
お恥ずかしい!


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SS6  勘違い

キャスター陣営を追い回していた、バオー化していた雁夜おじさんを、たまたま見かけたセイバー陣営が、死徒だと勘違いするの巻。


 

 雁夜がキャスター陣営を襲いに行き、致命傷を負ってしまってバオー・武装現象を発動させ、逃げるキャスター陣営をバーサーカーと共に追っていたとき、それを目撃していた者達がいた。

 そのことは、寄生虫バオーに意識を完全に乗っ取られた状態だった雁夜も、狂化により理性のないバーサーカーも知らない。

 

 

 

「な……なんなんですか? アレ…は…。」

 

 先頃の戦いで左腕を負傷しているセイバーが、自分が目撃したモノの正体が分からず唖然としていた。

「バーサーカーが後ろに控えていたわ。まさか……。」

「いや、両方ともバーサーカーという可能性がある。……違うか。あの青白い怪物の方は、死徒かもしれないな。」

 そう会話を交わす夫婦は、女性はアイリスフィール、男性は衛宮切嗣(えみやきりつぐ)。

 女性は、アインツベルン家という魔術師の家系が錬成したホムンクルスであり、切嗣は、魔術師殺しと呼ばれる魔術師だ。

 タバコに火を付け、フーッと煙を吸って吐いた切嗣が、バオー・武装現象を発動してバーサーカーと共に、キャスター陣営(と思われる二人を)を追い回していたのをたまたま見かけて、雁夜を死徒ではないかと思い言葉にした。

 

 死徒とは、吸血鬼全般を指し、聖堂教会側の敵であり、種類は真祖と死徒に別れるのだが、切嗣が言う死徒とは、後者である。

 真祖と違い、後天的に吸血鬼化・あるいは、魔術により改造されるなどした者を指す。

 

 切嗣は、バオー・武装現象により、異形へと変じている雁夜の姿を見て、その死徒ではないかと勘違いしたのだ。

「……そうかもしれないわ。」

 ホムンクルスであるアイリスフィールですら、あんなのは見たことがないので、夫である切嗣の言葉に同意した。

「では、死徒があのバーサーカーのマスターであると?」

「まだ断言は出来ない。だがキャスターを追っていたことや、バーサーカーを従えていたことが、どうも変だ。」

「メチャクチャ必死そうでしたね。」

「捕まったら殺される!って…、状態よ、きっと。」

 追われていたキャスターともう一人の男の必死そうな状態を遠目に見たのだが、よっぽどヤバい状態に追い込まれていたのだろうと想像が出来た。

 セイバーをジャンヌと誤認し、妄言を吐いていたあのキャスターの姿が嘘みたいに本当に…逃げるのに必死な状態であったのだ。

 あのままあの死徒(※違う)が、バーサーカーと一緒にキャスターを葬り去ってしまえばよかったのにと、切嗣は心の中で思っていた。

「このことを教会に知らせますか?」

「いや…いい。」

「でも…。」

「まだ死徒だと断定できたわけじゃない。もう少し様子を見よう。」

「分かったわ。」

 切嗣達…、セイバー陣営は、勘違いしたまま様子を見ることにしたのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 間桐の屋敷の縁側で、雁夜は暗くなっていた。

「おじさん…。仕方ないよ。」

「ううん…。おじさんがもっと早く行っていれば…。」

 そう雁夜の心に暗い闇を落としているのは、キャスター達が潜伏していた場所に閉じ込めれていた子供達や、すでに手をかけれて手遅れになっていた者達のことだ。

 子供達は、11人。そのうち3人は、壊れかけ…という言葉が合う状態にされていた。

 そして、キャスターともう一人の男…おそらくはキャスターのマスターであろうもう一人の犯行だろうか、酷たらしい死体や、“オルガン”にさせられていたあの少女のように辛うじて生かされていた者達も見つけ、せめて死体を人目に付かぬよう処分し、生かされていた者達にはトドメを刺して死という安息を与えた。

 もっと早く行動に移しいていれば……、彼らを救うことが出来たかもしれない。そんな後悔が暗い闇となって雁夜の心に重くのしかかっていた。

 なお、生き残っていた子供達は、公園に連れて行って、匿名で通報して警察に保護してもらった。警察が来る前には、雁夜はバーサーカーと共に姿を消した。

 子供達の多くは、桜とそう変わらない年齢だったり、それ以上に幼かったりした子供もいて、雁夜の後悔の念に拍車をかけていた。

「怪我を治すだけなら、バオーの体液でもできたよ。」

「! なんでそれを早く言わないんだ!」

「……ごめんなさい。でも、さすがに、“人間の形”を無くしてるモノまでは…。」

「………いや、俺も悪かった。怒鳴ってすまない。」

 俯くツツジに、勢いで怒鳴った雁夜は、落ち着こうとして頭を振ってから、そう謝罪した。

「おじさんの判断は、きっと間違ってない。」

「桜ちゃん…、ありがとう。」

 雁夜の横で、雁夜の袖を握って、そう慰めてくれる桜に、雁夜は微笑んで見せた。

 それから、雁夜は、顔を前に戻し、庭の地面を睨み付けるように見つめ、思う。

 後で分かったことだが、あれが今回の聖杯戦争で喚ばれたサーヴァント・キャスターだった。おそらく一緒にいた男はそのマスターだろう。

 あんな惨いことを平然と、ほとんど隠すことなく行っていることは、同じ人間として許せない。

 意識がないままキャスター達を追っていたらしく、逃がしてしまった後、冬木市の路地裏で呆然としていたことが悔やまれる。

「ツツジ。頼む。」

「ん?」

「俺に…、バオーの力の制御を!」

「前にも言ったけど、それは時間が解決してくれるよ。自力でどうとかじゃないの。」

「……そうか。」

「許せない気持ちは、分かる。でも、そのキャスターって奴ら、ものすごい怖い思いはしたよ。なにせ地上最強の生物に追い回されたんだもの。」

「? バオーは寄生虫だろ?」

「その寄生虫バオーを宿して力を授かった生物はみんなそうなるの。だから、今、雁夜さんは、この地上で最も強い生物になったの。」

「……なんだかなぁ。自覚も実感もないからな。」

「そのうち分かるよ。」

「そればっかりだな。いい加減、具体的に何ができるのか教えて欲しいもんだよ。」

「……うーん。それは、自力で変身できるようなれば自然と身につくから。あ、でも……、無呼吸状態になるのだけは気をつけて。」

「どういうことだ?」

「無呼吸になる…、例えば水の中に沈んじゃうとか。そうなると仮死状態になって自力じゃ起きれなくなるから気をつけて。あと、寄生虫バオーは脳の中にいるから頭を潰されるのだけはダメ。それ以外なら、例え手足をちぎられてもくっつければ治るから。」

「なるほど…。心臓を潰されるのは?」

「胴体に風穴開けられても、途端にバオーが再生させるからだいじょうぶ。」

「分かった。頭さえ無事ならなんとかなるんだな。」

「気をつけてね。スナイパーとかいないことを祈るよ。」

「さすがにそこまで用意周到な魔術師は……。」

「まだ寄生されてそんなに経ってないから、危機感知能力は自力じゃできないから。本当に気をつけてね。…あなたが死んだら、桜ちゃんは…。」

「分かってる。俺は、死なない。」

 雁夜は、そう力強く答えた。

 二人の会話を聞いた桜は、雁夜の服の袖を掴む手に、僅かに力を込めたのだった。




フラグを立てるツツジさん。
話を聞いてた桜は、いや~な予感がしています。

それにしても、Fateの世界観は、複雑すぎてメチャクチャ大変。


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SS7  勘違い その2

前の話でバオー化した雁夜おじさんをセイバー陣営が目撃してますが、変身が解けた姿を見てないので、雁夜だとは知られてません。

今回は、時臣と綺礼が、バオー化していた雁夜おじさんを死徒勘違いする。
でも正体が雁夜だとは、知りません。


 

 言峰綺礼(ことみねきれい)は、アサシンクラスのサーヴァントからの報告を受け、そのことを師である遠坂時臣(とおさかときおみ)に通信機で報告した。

『青白い化け物?』

「先頃、セイバーの陣営と接触したキャスターとそのマスターらしき人物を、その青白い怪物がバーサーカーと共に追い回しているのを目撃したとのことです。」

『バーサーカーと共に? ……ありえんな。』

「しかし、深夜の夜道を歩いていた冬木市の住民も、目撃しているらしく。すでにネット上などで、噂が流れているようです。情報隠蔽のため、工作中です。」

 聖杯戦争は、一般民に知られないようにする。それも戦争に参戦する魔術師達と教会側のやることだ。

 アサシンの調べによると、キャスターは、就寝中の子供達をところ構わず誘拐し、時に発見されれば家族を皆殺してまで犯行に及んでいたこと、さらにその犯行そのものが魔術を惜しまず使っており、隠してもいなかったこと。ところが、翌日その誘拐された子供の大半が、なぜかとある町の公園で警察に保護されたというのが新聞を飾った。行方不明になっていた子供のうち、三人は、いまだ不明のままだが……。

 綺礼の調べで、キャスターのマスターが、いま評判の連続殺人犯と同一人物ではないかと見ており、またキャスターのことを青髯と呼んでいたことから、時臣は、青髯の真名が、ジル・ド・レェ伯ではないかと見た。

 サーヴァントに選ばれる英霊は、その知名度とや伝説の行き渡り具合などで選ばれる。

 ジル・ド・レェ伯も、錬金術と黒魔術で知られる人物なだけあり、今回の聖杯戦争で喚ばれたのも頷けるほど有名である。

 しかし、その存在はキャスターという英霊としてのクラスとは真逆で、怨霊と呼ぶに相応しいかも知れない。

 分からないのは……。

『問題は、そのジル・ド・レェ伯とマスターと思しき殺人犯を追っていた、バーサーカーと共にいた化け物だ。もし死徒であれば、教会としては、放っておくわけにはいくまい?』

「ええ。ですから、今アサシン達に、その行方を追わせています。追って調べが付き次第、お伝えします。」

『キャスター達の件といい……、此度の聖杯戦争は、イレギュラーが多いようだな。』

 魔術師とは縁のない(※実際には陰陽師の血を引いている)が、自覚の無いままサーヴァントを召喚し、そして暴走するサーヴァントを律することなく、むしろ一緒になって一般市民を苦しめる。

 魔術師同士の戦いで一般市民が犠牲になることは、決して珍しくない。表沙汰にならなければ、黙認されるのだ。

 だが、身勝手な、聖杯戦争に関係ない殺戮が行われているのは、決して良いことではない。それも堂々と隠すことなく行われていては……。

 よって、時臣、そして、教会の代行者である綺礼は、キャスター陣営を聖杯戦争の妨げになる障害として認定し、その討伐をすることとした。

 相手がサーヴァントであるため、毒をもって毒を制すと言うように、サーヴァントにはサーヴァントをぶつけるしかないとして、他の陣営に伝え、その排除、そして排除が叶えば恩賞を与えることとした。

 つまり……、キャスター以外のサーヴァントを動員して、キャスター陣営を潰すのだ。

 聖杯戦争には、ルールがある。そのルールを破りすぎれば、排除されるのは当たり前である。

 しかし、まだ問題は残っている。バーサーカーと共に、キャスター達を追い回していた青白い怪物のことだ。

 アレがもしも、死徒に分類される者であるならば、聖堂教会の代行者として、綺礼は、アレを処分しなければならない。聖杯戦争に、死徒が関わっているなら、バーサーカーの陣営も怪しまれるだろう。場合によっては、バーサーカーの陣営もまた排除される対象になりえる。

「……次に現れれば、無用で排除します。」

 綺礼は、青白い人型の怪物……、雁夜が変じた者を次に見つけたらすぐに殺すと決めた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 マズいことになった。っと、雁夜は思った。

 っというのも、教会から招集がかかったのだ。

 間桐の当主だった臓現は、自分が(意図せず)殺した。なので、実質間桐は、雁夜のものだ。……非情に遺憾であるが。

「どうしたの?」

「ん…、ああ…ちょっとな。」

 ツツジに尋ねられ、雁夜は口ごもった。

「おじさん…。なにかあったの?」

「えっと…。ごめん。桜ちゃんには関係ないことなんだ。」

「ほんとう?」

「ああ。」

「で? 何があったの?」

「…教会から招集だ。」

「きょうかい? しょうしゅう?」

「ああ。キャスター達がやっていたことが目に余るから、キャスター以外のサーヴァントで、キャスターを潰すから詳しいことは追って説明するから教会に集まれって。」

「あー…。なるほど。行くの?」

「いや。マスターが無防備で行くなんてあり得ない。だから使い魔を行かせる。他の陣営もそうだろう。」

 雁夜は、そう言い、使い魔に臓現が使っていた蟲を使うことにした。

 あの晩…、キャスター陣営を潰せなかったのが、いまだ歯がゆい…。っと、雁夜は思っていた。

「おじさん…。また行くの?」

「桜ちゃん…。だいじょうぶだ。俺は死なないよ。」

「また…、戦うの? 桜を置いて…。」

「仕方がないんだ。桜ちゃんを危ない目に遭わせるわけにはいかないんだ。だから、ツツジと一緒にここで待っててくれるかい?」

「……必ず、帰ってきて。」

「分かった。約束するよ。」

 キュッと上着の裾を握ってくる桜の頭を、雁夜は撫でた。

 

 そして、使い魔を教会に行かせ、知覚共有で教会の神父からの言葉を聞いた。

 

 まず、キャスターのマスターが巷を騒がせている連続殺人犯だと分かったこと。

 教会は、監督役としての権限を持って聖杯戦争のルールを一部変更し、いったん聖杯戦争そのものを止めて、キャスター陣営の殲滅をした者には、または、共闘して殲滅してくれたら、予備令呪というものをあげるということになった。

 令呪は、雁夜の手の甲にもある模様で、これでサーヴァントを制御するため、三度だけ、絶対服従させるという力そのものだ。まあ、言ってしまえば、聖杯戦争に参加するマスターの証である。

 つまりその三回しか使えないサーヴァントの絶対服従させる力を、増やすことが出来るのだ。マスター側としては、願ったり叶ったりだろう。特に、すでに消耗している者にとっては。

 

 聞き終わり、使い魔を戻した雁夜は悩んだ。

 バオーの力によって自分の体が健康になったことで、すっかり従順になってるバーサーカーがすでにいる。

 今更、絶対服従させるのもなぁ……っと、思うところがある。

 しかし、キャスター達の行いは個人的に許せない。意識が無いまま、しかも取り逃してしまったこともあり、余計にそう思う。

 

「ねえ、雁夜さん。」

 ツツジの声で、雁夜は我に帰った。

「なんだ?」

「キャスター達が、移動してる。あれは……、誰かを強く求めてる“匂い”。」

「……ツツジ。聞くの忘れてたが、君は…。」

「ごめんなさい。それは、言えない。」

「またそれか。正直俺は、君を完全には信用してないんだぞ?」

「分かってる。でも、言えない。」

「……だいたい把握はしてるつもりだ。」

「それで十分。私は、約束通り、桜ちゃんを守るから。あなたは、存分にやって。あなたの戦いを。」

「……分かった。」

 ツツジの嘘偽りの無いまなざしを受け、雁夜は頷いた。

 桜は、二人の会話や、様子をジッと伺っていた。




キャスター陣営を殲滅のため、聖杯戦争、一時中断。
雁夜おじさんもバーサーカーと共に参じます。

雁夜おじさん、臓現がすでにいないことがバレてないかちょっとヒヤヒヤしてます。


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SS8  共闘?

オリジナル展開。

アインツベルンの森で、キャスター戦に参加する雁夜おじさん。


 冬木市には、こんな噂がある。

 西にある人里離れた森には、おとぎの城があるという噂だ。

 

 実はこの噂……、魔術の結界により隠されている、アインツベルンの別荘である城が実際にあるのだ。

 

 切嗣は、キャスターがセイバーをジャンヌダルクと誤認しているのを利用し、戦いのためアインツベルンのこの城を使おうと画策した。

 セイバーは、切嗣のやり方に最初から猛反発していた。騎士道を重んじる、アーサー王である彼女には、あらゆる手段を使って敵を葬ることを厭わない彼のやり方が受け付けないのだ。

 曰く、切嗣は、英霊を侮辱していると。

 サーヴァントとは、犠牲を最小限にするため、万軍に代わる一騎として命運を背負い勝敗を競うものだと。

 なのに切嗣ときたら、ランサー陣営を速攻でマスターごと殺すために、ホテルひとつを爆破したり(ランサー陣営、無事)、今現在もキャスターをおびき寄せるために、本来は戦わせるための駒であるセイバークラスのサーヴァントである彼女を利用し、さらに本当の狙いがキャスターを狙ってくる他の陣営達を一網打尽にするときたものだ。

 そんな作戦について、セイバーが怒らぬはずがない。

 セイバーから向けられる怒りにも、切嗣は、まるで仮面でも被っているかのように冷淡な顔をしていた。

 そんな切嗣の人間性を理解しているアイリスフィールは、今回の作戦以外のことを口にして話を変えた。

 教会が提示した、キャスターを潰すまでの間の一時的な他の陣営との休戦についてどうするのかと。

 切嗣は、罰則について言われてないから、構わないと言った。しらを切ればいい話だから。

 そしてアサシンのマスターを隠していることもあり、今回の監督役である教会側が信用できないからだと言った。

 遠坂もグルの可能性があるから、裏を見せない限りは疑ってかかるべきだと言ってのけた。

 これについて、セイバーは怒りに震え、アイリスフィールは、複雑な想いを胸にして黙った。

 

 セイバーが黙殺された後、部屋を出て行った切嗣を追って、アイリスフィールは、夫である切嗣と会話を交わした。

 やがて、結界内に侵入者がやってきたのを感じ取り、遠見の水晶で確認した。

 

 敵が……、キャスターがやってきたのだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 森に入った雁夜は、バーサーカーと共に進んでいて、感じた。

 いや、“匂い”を嗅ぎ取った

 十数人に及ぶ、幼い子供達の恐怖と絶望の感情……、それが匂いという形で雁夜に流れ込む。

「っ! なにが起こってるんだ!? 行くぞ、バーサーカー!」

 雁夜は、バーサーカーと共に森の中を走り抜けた。

 走ってる最中、森の木の根でこけたのか、子供が泣いているのを見つけた。

「どうしたんだい? どうしてこんなところに?」

 泣いてる子供を助け起こして、尋ねる。

 子供は錯乱しており、まともに答えられなかったが、魔術による暗示の痕跡があることに気づいた。

「まさか……!」

 雁夜は、用水路の牢屋に閉じ込めれていた子供達のことを思い出した。

 キャスターは、また同じ事をやっていたのだと理解した。

 すると遠くから子供の悲鳴が聞こえた。そして、匂いとして、子供が無抵抗に死の恐怖と絶望を味わった瞬間を嗅ぎ取った。

 雁夜は、立ち上がり、子供をひとまずその場において、バーサーカーと共に、匂いを辿ってキャスターのところへ急いだ。

 木々を越えた先で、ついに雁夜は、キャスターを見つけた。

 キャスターの周りには、潰され、無残な姿で地面に横たわる子供達の死体があった。

 そして、キャスターと距離をそこそこ離して立っているのは、セイバーだった。

「むっ? 貴様は…、あの時の……。」

「バーサーカー!?」

「ーーーーっ!」

「よせ! バーサーカー! まずは、キャスターだ!」

「っっ!!」

 セイバーに襲いかかろうとしたバーサーカーは、雁夜の制止を聞いて止まり、剣の矛先をキャスターに向けた。

 最初に遭遇したときの、自分に向けられていた圧倒的な狂気と禍々しさなどが失せ、マスターである雁夜の言うことを聞いているバーサーカーの姿に、セイバーは驚いていた。

「キャスターを倒したら、好きにしろ! ただし、子供は殺すな!」

「バーサーカーのマスター!」

「今だけは、共闘する! コイツ(キャスター)をぶっ殺すぞ! セイバー!」

「貴様も我が聖処女を惑わすか!」

「貴様も妄言もここまでだ、ジル・ド・レェ!!」

「……おお、我が名を呼んでくださいますか、ジャンヌ。しかし……。」

 周りにあった子供達の死体が蠢いた。

 いや、肉が、骨が、内臓が…別の物へと変わり始めていた。

 それは、海魔だった。

 生け贄として連れてこられ、殺された子供達を媒介にして数十ものおぞましい海魔が出現した。

「言ったでしょう? 次に会うときは、相応の準備をすると。」

「貴様ぁぁぁぁぁ!!」

 雁夜は、匂いで感じ取ってしまった、先ほど助け起こし、あの場に残していった子供までも海魔によって内側から食い破られて死んだのを。

「よせ、バーサーカーのマスター!」

「殺せ! バーサーカー!!」

「邪魔ですよ!」

 海魔達が、一斉に雁夜とバーサーカーに襲いかかる。

 バーサーカーが剣を一振りしただけで、その剣圧で十何匹もの海魔がなぎ払われて死んだ。雁夜の背後に迫った海魔ももれなく倒される。

「冷静になるのだ! バーサーカーのマスター!」

「……くっ。」

 セイバーも剣を振って海魔を斬り殺しながら、雁夜に近づいて肩を掴んで正気に戻した。

「す…すまない。」

「今は、キャスターを…。っ!?」

 セイバーは、気づいた。

 バーサーカーとセイバーが斬り殺した海魔から、新たな海魔が現れ始めたことに。

「持久戦か…。おまえのマスターどこだ、セイバー?」

「……。」

「…無粋な質問だった。すまん。」

「いや…、私こそ。」

「頼むぞ、バーサーカー…。好きなようにやれ。そして必ず、キャスターを殺せ!」

「! それは、いけない!」

 バーサーカークラスが凄まじい魔力を消費することを知っているセイバーは、雁夜に制止をかけた。

「だいじょうぶだ。体調はすこぶるいいんだ。それよりも、そっちの左腕は?」

「……。」

「無理か…。」

 バーサーカーは、強い。セイバーも強い。だがセイバーは、先の戦いで左腕に呪いを受けてしまっている。

 二体のサーヴァントが戦い続ければ、いかに強大な魔力を持つキャスターでもいつかは魔力が枯渇するだろう。だが、それまでセイバーが持つだろうか。それに自分だって今はだいじょうぶでも急にブレーキがかかるかもしれないのだ。油断は許されない。

 セイバーは、セイバーで歯を食いしばっていた。

 両腕が使えたら、自らの法具である『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』で、海魔とキャスターを灰にすることができたのに…と。

 雁夜は、戦況が膠着していることに焦りを覚え始めた。

「このままじゃ…。」

 せめて自分の中にいるバオーの力を自力で扱えれば……っと思うが、念じても体は反応しない。応えてはくれない。

 まだなのか…? まだ時間が足りないのか?っと考えるも状況が好転するわけもない。

 その時だった。

 

 閃いた赤と黄の稲妻が、海魔の群れをなぎ払った。

 

「無様だなセイバー。」

「ランサー!?」

「何者だ!?」

 セイバーと雁夜よりも、キャスターの方が数段驚いていた。

「誰の許しを得ての狼藉か? そこなセイバーの首級は我が槍の勲。横合いからかっ攫おうなどとは、戦場の礼を弁えぬ盗人の所行だぞ。」

「たわけ! たわけたわけたわけたわけたわけぇぇぇ!!」

 キャスターは、頭をかきむしり、目を剥いて奇声を張り上げる。

「ランサーだって…?」

 雁夜は、敵が増えてしまい、焦るが、逆に考えた。

 教会が提示した聖杯戦争の一時休戦の中だ。今だけは、救援とみるべきだろうと。

「しかし驚いたな。あのバーサーカーが、あの時と違ってえらく従順になってるじゃないか、バーサーカーのマスター? あの時の戦いもちゃんと御してくれたらよかったのに。」

「……色々とあるんだ。」

 あの時は、まだ寄生虫バオーを寄生させられてなかったのだ。死にかけの体で、暴走するバーサーカーを制御するなど無理だった。

 ハァッと雁夜が、ため息をひとつ漏らした時、雁夜は、ハッとした。

 途端、すべてがスローになった。

 目線だけを斜め上に向けると、一発の銃弾がこちらに向かって飛んできているのが、ゆっくりと、退屈になるぐらいのスピードで飛んできていた。

 あまりにもスローで、けれど、自分の体が思うようには動かない状況で、ただ思考だけを巡らせることができた。

 敵は…、自分の頭を狙って撃ってきたのだと。理解した。

 そう理解した瞬間、雁夜は、首を僅かに横にずらした。

 その瞬間、雁夜の背後にあった木に銃弾がめり込み、穴が空いた。

 空いた穴からプスプスと小さな煙を出す木の幹を視線だけを動かして見て、そして視線を戻したとき、またも銃弾が飛んでくるのが見えた。

 雁夜は再び首を横にずらして避けた。

 銃弾が飛んできた方向を見る。今度は飛んでこなかった。

 風に乗って、遠距離射撃を行ってきた相手が焦っている“匂い”を感じ取った。

「おい、ボーッとすんなよ、バーサーカーのマスター。」

「あ…。」

 ランサーの声で我に帰った雁夜は、キャスターとの戦いに専念した。




最後の方の狙撃は、バオー来訪者の漫画を参考にしました。
ケイネスが襲撃する前に、雁夜を殺そうとした切嗣の仕業です。
二発とも避けられて、しかも明らかに弾丸を見ていることに気づいて焦りました。

さあ…、キャスターとの決着…、どうつけようかな?


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SS9  発覚

雁夜が、バオー(※死徒だと勘違いされてます)だということバレる。

あと、綺礼との戦闘。
……綺礼が弱いというか、バオーをちょっと強くしすぎたかも?


2018/12/06
ランサーの口調をちょっとだけ変更。
ご指摘ありがとうございます。
でも、これでも合ってるかどうか分からない…。


「う…。」

 雁夜は、口を手で押さえた。

 泥沼とかしているサーヴァント達とと、キャスターの海魔の群れとの戦いにより生じる海魔の臓物臭が肺を侵した。

 生身の人間では、この濃すぎる臓物臭を吸っただけで肺が腐って死に至りかねない。それほどに酷いものとなっていた。

 ツツジから聞いていないが、バオーのもたらす力は、こういう毒に強いとは聞いていない。

 即席の魔術師として、バーサーカーを使うためだけに体を酷使しただけに過ぎない素人の魔術師である雁夜には、結界を張るといった能力は皆無だ。

 だが、このままこの場を離れたとて、先ほどの狙撃をしてきた相手がこちらに来ないとは限らない。未知数のバオーの力と、バーサーカーとのつながりがあるとは言え、身の安全のためには離れるわけにはいかない。

 刻印蟲による魔術回路の開発よりも、一夜漬けでもいいから魔術の技を身につけるべきだった…。っと後悔しても後の祭りである。

 しかし……。

 さっきから、内側からザワザワとするような感覚がある。蟲に内側から食われている感覚とも違う、強いて言うなら、まるで凍った池の氷が割れるような音だ。

 もしや、この毒と化した臓物臭に、己の内にいる寄生虫バオーが反応しているのか?

 この場にたちこめる毒を、分解して無毒にしてくれているのなら大助かりだが……、物には限度がある。早く決着を付けないと寄生虫バオーがもたないだろう。

 すると、セイバーとランサーが何か話し合っているのが見えた。

 声は聞こえないが、何か突破口を開こうとしているのはなんとなく察した。

 ……賭けてみるか?

 セイバーとランサーが突破口を開き、この状況を好転させた機を狙って、バーサーカーにキャスターを殺させられないだろうか?

 バーサーカーの攻撃力は高いが、物量で圧倒してきているキャスターのこの海魔の群れをすべて倒すには至らない。観客のように離れた安全地帯にいるキャスターに剣が届かない。

 正直、教会が提示した恩賞はいらないが、キャスターのやったことは個人的に許せない。だから、ここへ来たのだから。

 雁夜は、悟られぬよう、セイバーとランサーの動向を伺った。

 やがて、セイバーが動く。

 騎士王たる彼女が放つ、ただ一撃にして、必殺の秘剣が解き放たれた。

「風王鉄槌(ストライク・エア)!」

 密集していた海魔達は、その凄まじい一撃をもろに受けることになる。

 風が…、その突風というにはあまりにも威力のある、万軍を吹き飛ばすほどの破壊力がある。

 だがその破壊の突風も、キャスターに届く頃には、彼のローブをはためかせるだけの風になるほど威力が落ちた。

 だが、それこそが狙い。

 その風によって作られた…穴…、そこへランサーが飛び込む。

 それは、速さを武器とするランサーでなければできない芸当だった。

 そして、ランサーのゲイジャルグ(破魔の紅薔薇)が、絶望し悲痛な悲鳴を上げているキャスターの法具である本の表紙を切った。

 その瞬間、生き残っていた海魔達が魔力のつながりを絶たれて、たちまち姿を消し、地面に触媒となっていた子供達の血と肉と骨が散らばった。

 キャスターの法具は、即座に先ほどまで海魔の群れを維持していた魔力炉としての機能を取り戻し、傷つけられた表紙を直す。

 だが、キャスターは絶望している。

 なぜなら、また先ほどの海魔の群れを作ろうものなら、三体のサーヴァントの妨害を受けてしまうのだ。つまり…、いまやキャスターは、たった一人なのだ。

「貴様ぁっ! キサマ、キサマ、貴様、キサマキサマキサマぁぁぁぁ!!」

 キャスターは、絶望のあまり白目をむくほど顔を歪め、口から泡を吐くほど喚き散らした。

「……参ったな…。」

 雁夜は、これから先、自分が相手をしなければならない敵の強さを目の当たりにして、思わずそう呟いてしまったのだった。

 いまだ絶望によって錯乱しているキャスターに、セイバーとランサーがそれぞれ武器を向ける。

 このまま、二人に勝負を譲っても良いかもしれない。そんな気が起きた雁夜は、バーサーカーを下がらせようとした。

 その時だった。

「なっーーー!?」

 ランサーが突如、森の向こうを向いた。

「ランサー!?」

 セイバーが驚いた瞬間だった。

 錯乱していたキャスターが、法具である本から魔力がほとばしらせた。

「っ! 悪あがきを!」

 しかしそれは、攻撃ではなかった。

 わざと未完成で終わった召喚によって発生した血が沸騰し、辺り一面に霧状になって拡がった。

 煙幕だ。

 さすがにキャスターも、三体のサーヴァントを相手に、何の策も講じず戦うなどという愚かなことはできないというちゃんとした思考を取り戻しており、捨て台詞すらも残さず、その場から離脱したのだった。

 キャスターにとって幸運だったのは、セイバーが霊体化するという選択しがなかったことと、ランサーがマスターの窮地に陥っていたことと、雁夜がキャスターを……。

「バーサーカー! 逃がすな!」

「ちいぃぃぃ!」

 血の煙幕すらまったく気にしない、一番厄介なサーヴァントが逃げるキャスターに迫った。

 ところが……。

 バーサーカーの剣がキャスターを捉えようとした時、一瞬止まった。

「?」

 その不自然な動きにキャスターが、驚いたが、これはチャンスだとばかりに、キャスターは急いでその場から離脱しようとして……。

 

「ウォォォォォム……、バルバルバルバル!」

 

 聞いた。聞いてしまった。

 自分とマスターである龍之介にとって、トラウマとなっていた、あの声が…!

 

 セイバーが風王結界(インヴィジブル・エア)を使って、清浄な風を吹かせ、血の霧を吹き払った時に、その異常の原因が判明する。

 

「ば、バーサーカーのマスター!?」

 セイバーが驚愕する。

 アインツベルンの城の方を見ていたランサーも、その異変に気づいてそちらを見る。

 背中から、一発の狙撃によって心臓を撃ち抜かれてしまった雁夜の体が、見る見るうちに変化を遂げた。

「そ、その姿は!」

「知ってるのか?」

「あの時…、キャスターを追っていた、死徒!?」

 

「バオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 心臓への一撃で、バオー・武装現象を発動した雁夜が、森を揺るがすような咆吼をあげた。

「ひ、ひ、ひひいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 おそらく、森の中を逃げている最中のキャスターの悲鳴が聞こえた。

 雁夜は、クルッと、セイバーとランサーに背を向け、森の中を走って行った。バーサーカーもその後に続いた。

「待て!」

「追う必要はない。」

「しかし!」

「……マスターには悪いが、キャスターは、奴に任せていいんじゃないか?」

「どういうつもりですか?」

「…いや、奴とは…、関わり合いにならない方がいいって、そう感じただけだ。」

「?」

「……あれは…、そんじょそこらの死徒より厄介だ。って…思うが?」

 ランサーは、冷や汗をかいていた。

 セイバーは、その様子に絶句していた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……今の声は…?」

 アイリスフィールと、久宇舞弥(ひさうまいや)を倒した綺礼は、森の向こうから聞こえた謎の咆吼を聞いて、顔を僅かにしかめた。

 その声は、聞き覚えがある。

 確か…、アサシンを通じて聞いた、キャスター陣営を追い回していた、あの青白い…。

 すると、アサシンから念話が来た。

 この森に、キャスター陣営を追い回していた、あの謎の青白い怪物が現れたと。

 しかも、それが、バーサーカーのマスターらしき人物が変身したと。

 やはりバーサーカー陣営だったかと、綺礼は確信し、動こうとすると、倒れている舞弥が綺礼の足を掴んだ。

 どうやら彼女は、綺礼が切嗣のところへ行こうとしていると思ったらしい。

「……別件ができた。安心するがいい。」

「…な、に?」

 満身創痍のアイリスフィールも舞弥も、綺礼のその言葉に驚いていた。

 

 ウオーーーーーーーーム!

 

「むっ!」

 

「バルバルバルバルバル!! バオオオオオオオオオオオ!!」

 

 森の茂みから飛び出してきたのは、青白い人型。

 ソレは、跳躍で降りてきながら腕の刃を、綺礼に向けて振り下ろそうとした。

 綺礼は、舞弥の手からすぐに逃れながら後ろに跳んで避けた。

 しかし避けきれなかったのか、神父服の上着が僅かに切れた。

「…えっ…?」

 アイリスフィールも舞弥も、突然の乱入者に目を剥いた。

「自ら裁かれに来るとは……。」

 綺礼は、黒鍵を出し、構えた。

 青白い怪物……、バオー・武装現象を発動している雁夜は、ジッと綺礼を見ている。

 綺礼は、ピクリッと眉を動かした。

 おかしい…っと思ったのだ。

 コイツ(雁夜)が死徒ならば、舞弥のような若い女の血に反応を示さないはずがない。しかし、雁夜は、まったく興味を示していない。

 死徒は死徒でも、血を必要としない改造されたタイプなのか? しかしアサシンからの念話では、バーサーカーのマスターが突然変身したと言っていた。

 よーく見ると、服の胸のところに小さな穴が空いている。位置からして心臓だ。しかも出血の跡もある。

 もしかしたら切嗣に攻撃されて、死に瀕し、それで身を守るために変身したのではないかという見立てが脳内に浮かんだ。(※実は正解)

 だとしたら、なぜ切嗣の方ではなく、こちらに来たのかが分からない。

 大量出血による補給のために若い女の血の匂いを辿ってきたというのなら、舞弥とアイリスフィールに興味を示すだろう。だがそれをしていない。

 よく分からない、謎の死徒…。それが印象だった。

 だが死徒であるならば、聖堂教会の代行者として、コイツ(雁夜)を葬らなければならない。それが使命なのだから。

 次の瞬間、雁夜の頭部で揺れる肌と同じ色の髪の毛が不自然に動いた。

 綺礼は、ハッとし黒鍵で、飛んできた髪の毛の針を防ぐ。

 しかし、一本腕に刺さった。

 そして少し時間を置いて、ボッと腕に刺さっていた一本の髪の毛の針が燃えて、袖に火がついた。

「くっ。」

 腕を振って火を払うと、一瞬にして距離を詰めてきた雁夜が腕の刃を振るってきた。

 それを黒鍵で迎え撃つ。

 バキンッと黒鍵と、雁夜の腕の刃がぶつかり、ギリギリとつん張り合いになる。

 綺礼は、黒鍵の隙間から、雁夜の顔を見た。

 そして驚く。

 雁夜の目には、白っぽく光っているものの、そこに意思と呼べるようなものがなく、綺礼を…“見ていない”のだ。

 次の瞬間、綺礼は、横へ体をずらした。

 直後、彼の右耳に、数本、雁夜の髪の毛の針が刺さっていた。あと一歩遅かったら、顔に何十本もの針が刺さっていただろう。

 少し間を置いて、ボッと針が発火し、綺礼の右耳を燃やす。

 右耳を手で押さえ火を払う綺礼は、それと同時に黒鍵を投擲した。

 雁夜は、まったく動じることなく黒鍵を腕の刃で弾く。

 弾いた隙に、綺礼が雁夜の懐に飛び込み、その胴体に拳を振るった。

 だがその拳がめり込む前に、腕と体を弾き飛ばされた。

「!?」

 右腕が…痺れる!

 見ると雁夜の体が放電していた。

 目に見えるほどの電量がほとばしり、辺りを照らす。

 雁夜が咆吼する。

 雁夜自身の中にある魔力回路により、常人にははない魔力という力が混ざって増幅された威力を誇る、バオーの最大の必殺技・バオー・ブレイク・ダーク・サンダー・フェノメノンが、まるでこれから黒焦げにされる綺礼に見せつけるように電量を増していく。

 綺礼は、負傷した右耳の痛みと、先ほど電流が流れて痺れ焼かれた右手の痛みをジクジクと感じながら、その光景を見ていた。

 右に逃げようが、左に逃げようが、後ろに逃げようが、あの電量による攻撃を避けることは出来ないだろう。

 かといって、アイリスフィールや舞弥を人質にしたとて、あの意思のない目をしていては、意味を成さない。“人間”でないものに、道徳だの理屈だのへったくれもないのだから。

 どうやら己は、敵の強さを見誤ってしまったらしい……。っと綺礼は、腕をだらりとさせて突っ立った状態になりながら思った。

 そして、間もなく膨れに膨れた電力が放たれる直後になって、綺礼は、まるで断罪を待つ罪を自覚している死刑囚のように目を閉じた。

 

「アイリスフィール!」

 

 その時、セイバーの声が近くでした。

 その瞬間、雁夜の体が破壊の突風により、横に吹っ飛んだ。

 綺礼は、電気の光が消えたのをまぶたの上から感じ、目を開けた。

 さっきまでそこにいた雁夜の姿はなく、残されたのは、瀕死の舞弥とアイリスフィールだけだった。

 綺礼は、キョトンッとしたが、やがて走ってくるセイバーの気配を感じ、踵を返して、その場から去って行った。

 駆けつけたセイバーは、現場を見て目を見開いた。すると、吹っ飛ばされ、木を数本を倒して倒れていた雁夜が起き上がり、歩いてきた。

「貴様が…、貴様がやったのか!?」

 セイバーが雁夜に剣を向けた。

「せいばー…、ち、違うわ…。」

「アイリスフィール! 喋ってはいけない!」

「彼じゃない…。違うの……。」

「アイリスフィール! っ!? なにを…。」

 いつの間にか近くに来ていた雁夜が、右手を差し出し、拳を握った。力を込めたことで爪によって手のひらが切れ、血が垂れる。その血は、重傷を負っていたアイリスフィールの傷口に入った。

 すると、みるみるうちにアイリスフィールの傷が癒えていった。

「これは!?」

 雁夜は、答えず、倒れている舞弥の方に行き、同じように血を垂らした。そして傷が癒えた舞弥が起き上がった。

「…バーサーカーのマスター……、あなたは…?」

 セイバーの問いかけに、しかし雁夜は答えない。答えられないのだ。

 今の雁夜は、寄生虫バオーに支配されている。それゆえに、自分が嫌だと思った匂いを消す以外には興味を示さない。

 切嗣の方ではなく、綺礼の方に来たのは、キャスターが霊体化して速攻で森から逃げたことや、自分を攻撃した遠くにいる切嗣より、近くにいた女性達を瀕死の状態に痛めつけた綺礼の匂いに反応したからだ。もし、切嗣がこちらの方に向かってきていたなら、速攻でバオーは、切嗣の“匂い”を消しにかかっていただろうが……。

 これは、宿主である雁夜の深層心理が、バオーに働いてそうさせたことである。

 雁夜が、動こうとした。

 すると、何が起こったのか分からず呆然としていた舞弥がハッとして、雁夜を掴んだ。

「舞弥さん?」

「切嗣のもとへは行かせない!」

「!!」

 舞弥の言葉で、アイリスフィールは、気づいた。

 この怪物(雁夜)は、切嗣のところへ行こうとしているのだということを。

「セイバー! 止めて!」

「アイリスフィール…。しかし、彼は…。」

「この怪物は、切嗣を殺す気よ! お願い、止めて!」

 雁夜は、ズルズルとしがみついている舞弥を引きずりながら、歩く。

 セイバーは、迷った。彼は…バーサーカーのマスターたる雁夜は、重傷を負っていたアイリスフィールと、舞弥を救った。だが一方で、自分と相容れないマスターである切嗣を殺そうとしているらしい。

 アイリスフィールの懇願に答えなければならない。だが……、同時に恩人である彼の恩を仇で返すことは自分の信条に反する。

 やがて、舞弥が銃を拾って、雁夜の頭を狙おうとすると、雁夜は、立ち止まり舞弥の手を銃ごと握った。

 そして……。

 

「待って。おじさん!」

 

 場違いな幼い少女の声が聞こえ、途端、雁夜が止まった。

 すると、木の間から、十歳にもならない少女と、十代半ばくらいのボーイッシュな少女がやってきた。

 幼い少女が、走ってきて、雁夜の足に抱きついた。

 雁夜は、少女を見おろし、舞弥から手を離した。

「雁夜さん。帰ろう?」

 ボーイッシュな少女が語りかける。

 雁夜は、ビクンッと震え、やがて、人間の姿へと戻っていった。

「? 俺…は…。」

「おじさん。」

「桜ちゃん! どうしてここに!? ツツジ、どういうことだ!」

「桜ちゃんが、どうしてもって…。」

「これじゃあ約束が違うぞ!」

「ごめん…。」

「ツツジさんを怒らないであげて、桜がいけないの。」

「…帰ろう。雁夜さん。」

「……分かった。」

「バーサーカーのマスター…。」

「すまなかったな、セイバー。それと、セイバーのマスターも…。」

「いいえ。あなたな、恩人ですから。戦わずにすんでよかった…。」

「……でも次はないからな。」

「ええ…。」

 お互いに本来は敵同士であることを認識し合い、雁夜は、桜の手を握って、ツツジと共に森から去って行った。




桜ちゃんが来たことにより、命拾いした舞弥でした。もうちょっと遅かったら手が銃と一体化させられてました。

雁夜おじさんが、魔術師なので、魔力も入ってバオーの電撃攻撃が育郎のそれよりも強くなっています。現段階では、コレだけど、時間が経てばもっと強くなるので……。
ハッキリ言って、電撃が出来るので接近戦もダメですよね…。たぶん。
あと、雁夜は、まだアイリスフィールがセイバーのマスターだと思ってます。序盤の戦いでのこともあるので。

綺礼とは、一戦させようと思ってたので、城にいる切嗣よりも近くにいる綺礼を狙ったという流れにしました。


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SS10  思考

蟲ジジイが死んで、心に余裕が出来た雁夜おじさんが、色々と考えて……?


あくまでも筆者の出した結論なので、ご注意を。


 冬木市で起こっている、連続児童誘拐事件は、凄まじい勢いで広がり子を持つ親達を恐怖に陥れた。

 使い魔をやって念のため遠坂の家の様子を伺った。

 遠坂の家は、時臣により、どうやら葵と凜(りん)を避難させているらしい。

 まあ、妥当な判断だとは思う。

 雁夜が、狙撃によって二発、頭を狙われ、その後血の霧の中、隙を突かれて胸を貫かれたように、手段を選ばない魔術師がいる以上、身内を安全圏に置いておくのは当然だ。

 なのだが、キャスターは、また同じことを繰り返そうとしているらしく、あろうことか、桜の姉である凜が狙われたようだ。

 魔術師の血筋だから狙われたとかじゃない、単に無差別に子供を攫っているのだろうが、魔術師の子がもしキャスターの手に落ちたなら、あの森での圧倒的な物量戦以上の恐ろしいことが起こりかねない。

 なにより許せなかったのは、時臣の妻であり、凜と桜の母である葵は、雁夜にとっては幼なじみであり、初恋の相手の子に手を出したことだ。

 そんな彼女を悲しませたくないから、間桐の家に養子に出された桜を救うと決めて聖杯戦争に身を投じたのだ。

 自分が好いた相手を奪ったうえに、悲しませる男…時臣が許せず殺すために……。

 だが、臓現が死んだことで、雁夜は、かなり余裕が出来ていた。

 まだ完全に信用は出来ていないが、ツツジという協力者のおかげで魔術師を越える力を望まずして手に入れたのもあるが、冷静に……、物事を考える余裕ができていた。

 まずやるべきこと。凜がキャスターに奪われる前に凜を運ぶ海魔を倒して凜を奪い返す。

 バオーがもたらす、すべての物事を“匂い”として感じ取る能力のおかげで、凜を運んでいる海魔を早々に発見できた。

 その後、葵達が匿われている場所から三十分ほどもかからない場所の公園に凜を運び、駆けつけてきた葵に保護させ、自分は葵に会わずに姿を消した。

 なぜ葵の前に現れなかったのか……。

 それは、単純に合せる顔がなかったからだが、会ってしまうと揺らぎ始めている戦いの理由がまたおかしな方へ行きそうだったからだ。

 時臣は、たしかに憎いが……、葵は、彼を愛してるのだ。それを初恋を奪われたからと奪っていいわけがない。

 初恋は初恋…。自分は……、これから先の、未来を考えなければならないのだと。余裕が持てた心がそう訴える気がした。

 秘密機関ドレスを潰すという、ツツジとの約束もあるし、臓現が死んだことで自由の身になったはずの桜が、なぜか自分から離れたがらないのも問題だ。

 母である葵の元に返すと約束したのに、これでは本末転倒だ。

「ねえ…桜ちゃん…。本当に帰りたくない? お姉ちゃんの凜ちゃんやお母さんの葵さんだっているんだよ?」

「……。」

 縁側で、もう何度目かになる質問を投げかけても、桜は答えない。

 なんとなく、雰囲気で……、そんなのもうどうでもいいから…って感じ取れるのが……。

「おじさんといてもしょうがないよ?」

「いや。」

 これについてだけは、即答されるのだ。雁夜は、ハア~~~~っと、長い息を吐いて、ほとほと困ったと頭を抱えた。

 そうすると、必ず。

「おじさん…。桜のこと嫌い?」

 っと、顔をのぞき込まれて聞かれるのだ。

「そ、そんなわけないじゃないか!」

「…よかった。」

 慌ててそう言うと、桜はほとんど表情を動かさないが、安心した雰囲気を醸し出すのだ。

 もしかしたら、桜にとって、雁夜は、精神を正常に保つための支柱にされているのかもしれない……。

 もし自分が彼女の前から姿を消せば、忽ち精神崩壊を起こすかも知れないのだ。それは、なんとしてでも避けなければならない。だが、このままだと桜はいつまで経っても葵のところへ帰れない。

 ……どうしろと?

 時臣を殺す気は失せたが、時臣と葵から恨まれかねない状況ができあがってしまった。

「ねえ、雁夜さん。桜ちゃんを引き取るって選択肢は?」

「いや、そういうわけには……。葵さんのところに帰すって約束したし…。」

 桜の隣にいるツツジがそう語りかけてきたので、雁夜は弱々しい声で答えたのだった。

「実の家族のところに帰りたがらない理由も考えてあげたら?」

「っ!」

「そもそもどうしてこの家に養子に出されたのか……。その理由だってあるんじゃないの? この子……、私が言うのもなんだけど、体質的にちょっと普通の子供と違うと思うけど。」

「それは、魔術師の血を引いてるからだろうな。遠坂は…、あれでもかなりの歴史がある家だ。」

「……でも、それだけかな?」

「どういうことだ?」

「雁夜さん。あなたにとって、時臣という人がどういう人なのかは私には分からない。だけど、自分の子供を余所にやるのに、もう一人の子供と奥さんを避難させているのに、何も感じていないなんておかしいと思うけど。」

「……それは、魔術師のしきたりのせいだ。」

「っというと?」

「魔術師は、一子相伝だ。つまり子供が二人いれば、もう一人は余所へやる…。遠坂は魔術師としては優秀だ。だから仕来りにも厳しい。だから、素質のある凜ちゃんを残して、桜ちゃんを間桐の家に……。」

「……なるほど。でも、なんでわざわざ間桐だったの?」

「なんだと?」

「魔術師としての素質が無いなら普通の家に養子に出せば良い。ただそれだけでしょう?」

「それは…遠坂が間桐と同盟を…。」

「それに、あなたが殺したジジイって人も、桜ちゃんには何か期待してた。そうだよね? 桜ちゃん。」

「っ、おい!」

「……桜はね…。間桐に新しい“胎盤”だって。言われた。」

「たいばんって…、要するに…子供を産まされること前提で…。」

「おまえはもう口を開くな! 桜ちゃん、気にするな。もう思い出さなくていいんだ。」

「あの人が……、時臣さんが…、部屋で独り言言ってるの聞いた。桜を守るにはこれしかないって。」

「さくら…ちゃん…?」

 桜の口から出たのは、衝撃の言葉だった。

 時臣を父ではなく、さん付けで呼んでいたこともだが、それ以上に、時臣の独り言を聞いており、それが桜を守ることであったという事実に。

 桜は嘘を吐いていない。それは確信できた。

「ねえ、雁夜さん。気は進まないだろうけど……、一度、聞いてみたら? その時臣さんって人に。桜ちゃんのことを。」

「それは……。」

「たぶん、奥さんには、話してないんじゃないかな?」

「うん。お母さんは、魔術のこと全然ダメ。」

「だってさ。」

 ツツジの言葉に、雁夜は悩んだ。

 葵を魔術師同士の戦いに巻き込みたくないが、彼女は魔術師の妻として嫁いだ身だ。魔術師については疎くても、おそらくは、時臣が魔術師として家を空けていることは理解しているだろう。

 桜が帰りたがらないのには、間桐に養子として出された理由以外にあるのだとしたら……。

 自分は、ひょっとして最初の段階でとんだ勘違いをしたのではないか?

 そう思った瞬間、雁夜は、とてつもない脱力感に襲われた。そして、縁側の床に倒れた。

「俺がやろうとしたことは、無駄だったのか……。」

「まあ、人生、そういうこともあるよね。」

「うるせぇぇぇぇぇぇ!!」

 バオーを寄生される前、自分の余命を捨ててまでやろうとしたことが、実はとんでもなく無駄な行いだったと思い知って雁夜は、勢いのまま絶叫したのだった。




こういうのを書くのに、オリキャラは便利。なんというか、核心を突いていくのにいいので。

雁夜おじさんも、葵さんもなんで桜が養子に出されたのか、本当の理由を知らないから、桜自身も幼いからという理由とかで知らされていないと思ったので、時臣に直接聞こうということにしました。
おそらく雁夜おじさんが出奔しなければ、時臣は雁夜に理由を告げていたと思うのですが……。

心に余裕ができた雁夜は、今後時臣を殺すって気は失せました。けど、その代わり、理由次第じゃ……、全力でぶん殴るぐらいはするかも。って状態。

桜ちゃんは、もう家族のところには帰りたくないって感じ。帰っても、また余所に養子に出されるだけだってなんとなく予感しているので。


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SS11  脅し

雁夜を危険視した切嗣が、間桐邸に襲撃を仕掛けようとするが……?

桜ちゃんが、えらく強くなったような……。


 

「ツツジ……。」

「ん? なに?」

「なに、じゃない。それは、どうした?」

「ああ。家の中を覗いてたから、泥棒かと思って…。」

 そこには、死んだ鳥の死体があった。

 無残にも頭を打ち砕かれ、地面に羽と血を広げている。

「本当に泥棒だったらどうする気だったんだ? 殺す気だったのか?」

「さすがに殺さないよ。けど…、この鳥って、普通じゃなくない?」

「はっ? ……使い魔か。」

「やっぱり。あなたが使ってた蟲の使い魔にちょっと似てたから、ついね。」

「下手に他の陣営を刺激しないでくれ。戦うのは、俺だぞ?」

「魔術師といっても、あくまでも人間しょう? だったら私でも倒せなくもないわ。」

「……ツツジ。おまえ一体なんなんだ? 人間…じゃないだろ?」

「内緒。」

「またそれか! おまえは、人に信用してもらうってことをしろよ!」

「ごめん…。でも言わない。」

「おじさーん。」

「どうしたんだ、桜ちゃん?」

 そこへやってきた桜が、次に放った言葉に、愕然とすることになる。

 

「蟲蔵がもう一個あったの。」

 

「はあああ!?」

「あれ? あの蔵って、まだあったんだ。」

「うん。地下にあったの。たぶん、餌がなくて、それで出てきたんだと思うけど、それで分かったの。」

「いますぐ処分しに行くぞ!」

「いや、待って。雁夜さん。」

「どうしてだ!」

「……制裁を加えるって気はある?」

「は?」

 するとツツジが、雁夜の耳元でボソボソと囁いた。

 それを聞いた雁夜は、ギョッとしてツツジを見た。

 ツツジは、無言で親指を、グッと立てた。

「おまえ……、なんて恐ろしいことを……。ああ、でも、分からせるには殴るよりかはいい…か?」

「じゃあ、見つかった蔵の処分は、ちょっとの間だけ保留ってことで。」

「どうするの?」

「あのね。桜ちゃんの痛みを、あなたのお父さんに分からせてあげようって思って。」

「おおおおいいいい!!」

 しゃがんで桜と目線を合わせて、ニッコリとそれそれは良い案だと言わんばかりに言うツツジの頭を、雁夜が引っ張ったいた。

「桜ちゃんのトラウマを引っ張り出すんじゃねぇよ!!」

「……あの人…、分かってくれるのかな?」

「桜ちゃん!?」

「よーし、じゃあ決まり。桜ちゃんのお父さんを、いつのタイミングでとっ捕まえるか決めよう。」

「遠坂の魔術師は、すごく強いから…。」

「うーん。じゃあ、雁夜さんに聖杯戦争を続けてもらって、引っ張り出せば良いか。」

「そうだね。おじさん、頑張って。」

「……えー…?」

 ノリノリなツツジと、無表情だがノッてるらしい桜の会話と決定事項に、雁夜は唖然としたのだった。

 ちょっとだけ…、ほんのちょっとだけ…、これから蟲蔵で制裁される予定の時臣に同情したのだった。

 とりあえず、地下にあったもう一つの蟲蔵に、餌を放り込んでおいて、蟲が外に出ないように処置はしておいた。じゃないと、周囲に被害が出るからだ。

 

 一方で、問題の時臣であるが、まるで背中に氷でも入れられたようにゾゾゾゾッ!っと悪寒がしていたのだった。

 その時の間抜けな様を、アーチャーに見られて、アーチャーが内心で、間抜けって思い、より時臣から心が離れたのは、別の話である。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 切嗣は、使い魔との交信が途絶えたことに眉間にしわを寄せた。

 セイバーと、アイリスフィールと舞弥からの報告で、バーサーカーのマスターが、前日キャスター達を追いかけ回していた死徒らしき怪物だったことが分かった。

 そのため、バーサーカーのマスターである間桐雁夜を監視し、隙あらば殺すべく使い魔をやったのだが、その使い魔が黒髪のボーイッシュな少女らしき人物を補足した途端、そこで交信が途絶えた。

 間桐邸に用心して使い魔を忍ばせたのに、それを見つかったとあれば、使い魔の死体を調べれば魔術の痕跡からこちらの存在を割り出すことが出来るだろう。

 マズいことになったっと切嗣は、己の迂闊さを悔やんだ。

 バーサーカーの特殊能力は、いまだ謎であり、かつ雁夜は、あの姿に変じた状態でアイリスフィールと舞弥を叩きのめした綺礼を圧倒したというのだから最強のセイバーを有していてもまったく安心できない。

 いまだ不可解な法具を持つアーチャーと、穴熊を決め込んで沈黙している遠坂を牽制する意味でも、この両者の力を測る必要がある。

 しかし、あの綺礼を負傷させ、あと一息で殺すところまで行ったらしいので、もしかしたら、戦闘能力的には、バーサーカーの陣営が上なのかもしれない。

 綺礼が、変身している雁夜の戦闘能力を見誤ったという可能性もなくはないが、あれだけ強い男(※例えば、ワイヤーで縛られてなお、後ろの木を素手で打ち倒すほどの打撃力を持つ)を、圧倒したのだ。やはり、今警戒すべきはバーサーカーのマスターである雁夜であるかもしれないと、切嗣は考えた。

 ならば取るべき行動はひとつである。

 アインツベルンの城がある森では仕留め損ねたが、今度こそキッチリと片を付けてやる。

 切嗣は、舞弥と共に間桐邸へ向かった。無論、セイバーには悟られぬよう秘密裏に。

 間桐邸は、さすが歴史ある魔術師の家らしく大きい。

 大きいが、一方で住んでいる者が少ないため酷く静かだ。

 夜なのもあって、寝静まっているのか、気配がほとんどない。

 聖杯戦争中だというのに、あまりにも不用心すぎないか? それともあえて誘い込んでいるのか?

 っと、警戒心を抱かせたが、近寄れば近寄るほど、その警戒が杞憂だったと思い知る。

 本当になんの罠も、結界もしていないのだ。強大な魔術師の家ではありえない。

 確か、この家の当主の名は、間桐臓現といったはずだ。とつてもない長い年月を生きた老人だったはずだ。そのような人物が何もせず侵入者を入れるなどありえない。

 まさか…?っという予感が過ぎった。

 間桐雁夜は、こちらの調べでは、最近になって突然実家である間桐邸に戻ってきたらしい。

 何のために戻ってきたのかは分からないが、長らく出奔していた。

 魔術師の家には、ありえないこの異様な静かさと無防備さ……。

 まさか、雁夜は、臓現を殺したのか?

 だとしたら、長らく魔術から離れていて、素人である雁夜が管理している間桐邸がここまで不用心なのも頷ける。

 間桐邸の裏口から、切嗣が、舞弥が、塀から入って中に侵入した。

 裏口から入った直後、武器を握る切嗣の右手を、ヌッと暗闇から伸びてきた手が握った。

「!?」

「しー…。」

 ギョッとして横を見ると、そこには、ボーイッシュな少女が指先を口に当てて、静かにするよう示してきた。

 切嗣は、ドッと汗をかいた。

 っというのも、まったく気配がしなかったのだ。それと、あまりにも場違いな笑顔を少女が浮かべているのもある。

「あなた、誰?」

「……。」

「もう一人いるね。そっちは、桜ちゃんが対応してくれてると思う。お願いだから、帰って。もう一人の人と一緒に。」

「……そうはいかない。」

「雁夜さんが狙いでしょ? 知ってるよ。」

「っ…。」

「このまま、令呪がある手を無くしたい?」

「ーーっ!」

 その直後、握られている右手に痛みが走った。いや、熱……、違う…溶けている!

 僅かに皮膚の表面を溶かされたことに驚く切嗣は、このまま従わなければ数秒とせず右手を骨ごと溶かされると直感し、小さい声で言った。

「……分かった。今日のところは帰る。」

「うん。よかった。」

 切嗣の言葉を聞いた少女は、切嗣の右手から手を離した。

 切嗣は、溶かされかけた手を触って確認した。表面の皮膚が焼けて溶けただけで、支障はない。帰ってアイリスフィールに直してもらえば跡も残らず治せるだろう。

「ツツジさん。」

「あ、桜ちゃん。」

「連れてきたよ。」

 そう言ってやってきたのは、十にもならない、幼い少女だった。

 幼い少女の隣には、かなり大きな虫が数匹飛んでおり、その虫が気絶している舞弥を運んできていた。

 切嗣は、舞弥の体を抱き留め、裏口から出て行った。

 そして、間桐邸から、数キロ離れたところで、舞弥を路上に下ろし、隣に座り込んで、タバコを吸った。

「う……。」

「気がついたか?」

「あ…、私は…。そうだ、女の子が…。」

「どうやら、僕らは敵を見誤ってたらしいな。」

「っと、いいますと?」

「……とんだ守護者(ガーディアン)が、あの死徒モドキの男に二人も付いてたってことさ。」

 切嗣は、夜の闇に、タバコの煙を浮かせながら、額の汗を腕で拭ったのだった。

 

 

 なお、狙われていた雁夜は、暢気に、グーグーと安らかに寝ていたのだった。

 




桜ちゃんじゃなく、桜様(?)ですねぇ…。
ツツジもツツジで容赦ないけど、多少は手加減してるので切嗣の右手が無事でした。
ケイネス達を殺すためだけに、ホテルひとつ爆破した切嗣だから、間桐邸そのものを燃やすとか考えましたがやめました。
雁夜おじさん、暢気の寝てますが、バオー寄生させられる前の苦労を考えたら、安らかに眠ることすらできなかったでしょうから。

切嗣の口調がよく分からないので、違ったら教えてください。


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SS12  脅威

前半は、切嗣のツツジに対する回想。

後半は、アーチャーによる、間桐邸に襲撃。

金ぴかアーチャーの言葉遣いが迷子だし、バオーのことをなんと呼ぶか分からなかったので、とりあえず“ゲテモノ”と呼ばせています。


「切嗣……、あなたという人は!」

「……。」

 アインツベルンの城に帰った切嗣と舞弥を待っていたのは、怒り心頭のセイバーだった。

 セイバーは、切嗣が雁夜を殺しに行ったことをアイリスフィールから聞き出したのだろう。セイバーにとって、雁夜は、負傷していたアイリスフィールと舞弥を救ってくれた恩人だ。だから怒っているのだ。

 切嗣は、アイリスフィールに、ツツジという少女に掴まれ、皮膚を溶かされ、ただれてしまった右手を治療してもらいながら、セイバーからの怒りの言葉を聞き流していた。

 そして治療が終わった右手を確認する。

 令呪は、ちゃんと右手の甲にあり、ただれた跡も残っていない。

 しかし…、薄らと、掴まれた時の手形が赤く残っていた。

「時間が経てば消えると思うわ。」

 そうアイリスフィールは言った。

 しかし、切嗣には、これがあのボーイッシュな少女……確かツツジと呼ばれていた少女の…、の呪いのように思えた。

 彼女からは、魔術師の気配はしなかったし、むしろそれ以上に恐ろしい存在に見えてしまった。

 この手形の跡は、おそらくは警告だ。雁夜の命を狙うのならば、殺すという意味だ。

 殺しに行ったのだから、相応に殺される覚悟はもっていた。だが、それ以上に……あのツツジという少女が恐ろしく見えたのだ。

 なんと言ったらいいのか…、それは、第六感という見えない感覚によるものなのか。よく分からないが、とにかく戦いになればタダではすまないと思ってしまった。

 実際、切嗣ですら気配を感じ取ることが出来ず、あろうことか令呪がある右手を掴まれて、危うく骨ごと溶かされかけてしまったのだ。

 何をやって溶かしのかは分からないが、掴まれた時点で終わっていたのだと感じた。だからすぐに向こうからの言葉に応じて、帰ると言ったのだった。

 ……真っ先に殺すべき相手を間違えた。名前こそバレてないが、顔を見られたのも痛い。

 切嗣は、己の判断ミスを悔やんだ。しかし、こればかりは実際に目の当たりにしないと分からないことだ。

 結論からいくと、バーサーカー陣営には、二人…死徒モドキらしき者達がいる。その戦闘能力は、あの言峰綺礼を越え、ある意味でサーヴァントを越えるかもしれない。

 つまり真っ先に潰すべきだが、戦闘能力が計り知れないため、攻め入ればこちらも甚大な被害を被る可能性が高い。ゆえに、下手に手を出すのは危険。

 いまだ宝具が謎のアーチャーとぶつけ合わせて、隙を突く……。いや…それは危険な賭だ。だいたい、アインツベルンの森でキャスターと戦っていた雁夜を狙撃しようとして二発とも弾道を目視されて失敗したではないか。敵は、弾丸の軌道を目で追えるほどの感覚の鋭さを持つのだ。また、おそらくではあるが、遠くからの殺意にも敏感だ。だから狙撃がバレたのだろうか?

 ……どちらにしても、事を急いでバーサーカー陣営を襲ったのは間違いだった。それが切嗣が出した答えだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「…っくしゅん!」

「ツツジさん、風邪?」

「……誰かに噂されたかも。」

「お前の噂話なんて、誰がするんだよ? ……ああ、昨日の夜来たっていう襲撃者か?」

「名前は聞いてなかったけど、ヒゲの生えた男の人だったよ。」

「しかしお前も危機感無しだな…。もし相手がサーヴァントだったらどうしたんだよ? 相手がサーヴァントのマスターだったから、令呪のある右手を人質にできたけど、左手だったらどうしたんだ?」

「令呪が見えたから右手を掴んだだけで、左手だったら顔を掴む予定だったよ。」

「……おおぅ…。」

 いくらもっさい男でも、顔を溶かされるなんてされたらたまったもんじゃないだろう。襲撃者は色んな意味で命拾いしたのかもしれない。

 そもそも…。

「おまえ…、やっぱり人間じゃねぇだろ。」

「それは今更でしょう?」

「掴んだ端から人を溶かすなんて聞いたことがないぞ。」

「おじさんも、溶かしてたよ?」

「はっ?」

「……お爺さまの手を掴んで杖ごと溶かした。」

「俺が? 本当かい?」

「うん。」

「もしかして…、溶かす力ってのは、バオーの力か?」

「そうだね。バオーの武装現象の基礎みたいなものだよ。皮膚からあらゆるものを溶かす分泌液を出すのは。」

「威力はどれくらいだ?」

「数秒とせず、人間の頭なり手なり足なり、掴んだ部分をドロドロに溶かせるくらいかな。例えば、何か握ってたらそれごと溶かして一体化させちゃうとかできるし。例えば銃とかも、グニャグニャのグシャグシャ。」

 ツツジからの説明を受け、雁夜は知らず知らず息をのんだ。

 そんな威力のある溶解液を出すことが可能な体になってしまったのかと…、少し戦慄したのだ。

 まだ実感はないが、改めて、自分が臓現以上の恐ろしい生物になってしまったのだと思った。

「おじさん…。」

「桜ちゃん。おじさんに触らないで。」

「いや。」

「桜ちゃんを溶かしちゃうかもしれないぞ?」

「……それでもいい。」

「ちょっ、桜ちゃん!? それはいけないから!」

「おじさん、桜から離れてどこか行っちゃうの?」

 ギュッと服の裾を掴まれ、泣きそうな弱々しい声で聞かれて、雁夜は、グッと言葉に詰まった。

 力の制御方法が分からない状態で、桜といたら、桜に何かしら影響が出るかも知れないという考えが浮かんだが、桜がどうしても離れそうにない。ここで突き放したら、取り返しがつかなくなりそうで、それが怖くなった。

「ど、どこにも行かないよ…。桜ちゃんを置いていかないから。」

「本当?」

「本当だよ。」

「よかった。」

 桜は、雁夜に抱きついた。

「でも、お留守番だけはできるようになろうね? 桜ちゃんのお父さんを捕まえるためにも、雁夜さんには頑張ってもらわないと。」

「うん。分かってる。でも、ちゃんと帰ってきてね。」

 ツツジの言葉に、桜はそう言って、雁夜を見上げた。

「……う、うん。」

 桜からの視線に、雁夜はタジタジになりながら、とりあえず頷いたのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方その頃…。

「無様よのう。綺礼。」

 時臣のサーヴァントであるアーチャーが、右耳と右腕を負傷し、治療跡が残っている綺礼を嘲るよう言った。

「貴様…、死徒のような“ゲテモノ”なんぞに、後れを取るか? しかも、聞くところによると、貴様、そのゲテモノから与えられる死を受け入れようとしたそうだな?」

「…代行者たる私が不覚を取ったことは認める。」

「そういう問題ではない。貴様は、“愉悦”を知らずして、目の前に置かれた死という俗な終わりの安らぎなんぞを選ぼうとしたことが愚かだと言うのだ。」

「アレ(※バオーの電撃)を避けるのはどうあがいても無理だったのです。」

「そうであっても、貴様は死という安楽を求めたのだぞ、綺礼。」

 アーチャーの血のように赤い目が鋭く細められる。

 綺礼は、ただ俯き表情を動かさない。

「……まあよい、過ぎたことよ。貴様に問う。そのゲテモノについて、どう考えている?」

「得体の知れない…。死徒でもない。何かだ。」

「…死徒…、吸血鬼でもない…か。」

 アーチャーは、不機嫌そうに椅子に座り直し、ワインを飲んだ。

「ふん。だが所詮は、雑種をちとばかり弄くっただけのゲテモノよ。そんな物がこの戦争に参加しているだと? 世迷いも甚だしい。」

「だが、事実なのだ。」

「言わんでも分かっておるわ!」

 アーチャーは、乱暴にワインの入ったグラスを机に置いた。

「時臣は、関わり合いにならぬことを望んでおるが、我が直々に駆除してくれよう。」

「よいのですか? 王よ。」

「聞けば聞くほどに、まったく、首筋がむず痒くなるのよ! 早々に駆除せねば我は不愉快でならん!」

「そこまで……。」

 アーチャーの不機嫌ぶりに、綺礼は、ちょっとだけ愉悦を感じていたのだった……。

「では、間桐邸に?」

「この我が自ら足を運んでやるのだ。女子供であろうとも、間桐の当主であろうとも、出てくるのならば、あのゲテモノを庇うならばゲテモノ共々殺すまで。」

 アーチャーは、そういうと椅子から立ち上がった。

 綺礼は、アーチャーの不機嫌により、巻き込まれることになった間桐の家を思い……、愉悦を感じた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 アーチャーが、雁夜を殺すために間桐邸を目指そうと決めた頃……。

 ツツジは、目を閉じ、その“匂い”を感じ取っていた。

「雁夜さん。」

「ん? どうした?」

「桜ちゃんを避難させた方が良いかも。」

「どういうことだ?」

「ここに…、サーヴァントが一人来ようとしてるみたい。」

「なんだって!?」

「狙いは、あなた。相手はすっごい不機嫌みたい。」

「…分かった。桜ちゃーん。」

「なーに?」

「どうしようか…。間桐邸の地下に……。桜ちゃん悪いけど、地下室に…、蟲蔵じゃないところに隠れててくれるかい?」

「…おじさん。何か起こるの?」

「この家が吹っ飛ばされるかもしれないんだ。頼む、桜ちゃん。」

「…分かった。鶴野(びゃくや)おじさんは?」

「あいつは、放っておけ。」

 鶴野は、雁夜の兄である。だが魔術師としての才がなく、臓現に命じられるまま桜を蟲蔵に放り込んでいた人物だ。罪悪感により、酒に溺れており、また臓現を雁夜が殺したことを感じ取ったのか、こちらに関わろうとしていないので今までずっと放っておいたので、間桐邸が吹っ飛ぶ事態が起ころうとしていても放っておくことにした。

「ツツジも地下室に行けよ。」

「私も戦えるよ?」

「いや、サーヴァントが相手だ。なら、バーサーカーのマスターである俺とバーサーカーが相手をする。」

「……分かった。でももしものことがあったら…。」

「その時は、桜ちゃんを頼む。」

「あなたが死んだら、桜ちゃんは、もたないよ。それを忘れないで。」

「分かってる!」

 その時だった。

 バーサーカーが雁夜の指示無しに実体化した。

「バーサーカー? っ!?」

 すると、間桐邸の一角から爆発音というか破壊音が聞こえた。

「来た。」

「クソッ! 霊体化して移動してきたか! 行くぞ、バーサーカー! 頼むぞ、ツツジ!」

「分かった。行こう、桜ちゃん。」

「うん。おじさん、負けないで。」

「…分かってるよ。」

 ツツジに手を引っ張られながら、雁夜に手を振る桜に、雁夜は微笑んで見せたのだった。




いきなり、ラスボス戦みたいになりそう…。(自分が書いたんだろうが)

あっちこっちの二次で使われてる有名なゲートオブバビロンって……、結局のところ、金属入ってますよね?(フラグ)
まあ、宝物庫の物によるだろうけど、多くは…?

なんか、書いてて、桜→雁が強くなってきたような気がしてきた…。あれ?


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SS13  血飛沫

書けたら、あげる。これで行ってます。

VSアーチャー。

時臣召喚のアーチャー(ギルガメッシュ)が、果たしてここまでやれるのかどうか分かりませんが、とりあえず、ここまで書きました。


 一部倒壊した間桐邸の瓦礫を踏みつけ、アーチャーは、腕を組み、フンッと鼻息を漏らす。

「出てこい、ゲテモノ! 我が直々に来てやったのだ。出てこなくば、この邸をすべて吹き飛ばしてくれようぞ!」

 

「それは困る。やめろ。」

 

 雁夜がバーサーカーと共に、走ってきた。

 雁夜を見たアーチャーは、不機嫌に歪めていた眉間を、ますます歪めた。

「雨風を防げないと、生活するのに困るからな。」

「そんなことでか……。俗よのう。」

「全身金ぴかの成金みたいな野郎に言われたかないぜ。」

「我が財を愚弄するか? ゲテモノが!」

「バーサーカー!」

 雁夜が命じると、バーサーカーが前に出た。

「ほう? 飼い主にえらく従順になっているではないか? 令呪…ではないな。」

「俺にもよー分からん。だがマスターもいないおまえが、勝てると思うなよ?」

「ふんっ。貴様のみを滅すならば、赤子の手を捻るよりも簡単なこと。」

「俺をゲテモノ呼ばわりしておいて、簡単に言ってくれるな。」

「ほう。ゲテモノがよくほざく。」

「ゲテモノって言うな! バーサーカー!」

 命じられたバーサーカーがうなり声をあげながら、アーチャーに迫った。

「貴様には用はないは、狂犬!」

 アーチャーの後ろから、無数の宝具が現れ、投擲される。

 それは、すべてバーサーカーの後ろにいる雁夜を狙っていた。

 バーサーカーが跳び、全ての武器をその手で掴む。すると、血管のように赤い筋がアーチャーが投擲した武器に走った。

 それを見てアーチャーは、ますます顔を歪めた。

「また…その汚らわしい手で我が宝具を…!」

 その様を見て雁夜は確信する。

 このアーチャーに自分のバーサーカーは勝てると。

 しかし、アーチャーが黙っているわけがない。そして、攻撃も単調ではないのだ。

 アーチャーの後ろから投擲されていた宝具の出現位置が雁夜とバーサーカーの周囲に変わり、一斉に飛んでくるそれをバーサーカーが奪い取った宝具ですべてたたき落としていく。

「うわっ!」

「ほう? 運の良い奴よ。」

 次の瞬間、足元から伸びてきた剣の刃を雁夜は咄嗟に避けたので、アーチャーは、少し感心したように呟いた。

 次々に足の下から、伸びて飛んでくる武器をステップを踏むように避けていた雁夜だったが、このままでは埒があかないと、バーサーカーの背中に抱きついた。

「行け! バーサーカー!」

 バーサーカーが背中に雁夜を貼り付けた状態で走り回り、地面から次々に出てくる武器を避けていく。

 腰に手を当てて、武器を投擲することに集中していたアーチャーに向かい、バーサーカーが走る。

「ええい! ちょこまかと!!」

 自分の背後からの投擲に変えたアーチャーが宝具を更に展開し、投擲を行ってきた。

 バーサーカーは、それを手にしている武器ですべて弾き飛ばしていく。

 眼前にバーサーカーが迫ったとき……。

 アーチャーは、口元を僅かにあげたのだった。

「言ったであろう? 赤子の手を捻るより簡単だと。」

「っ! ぐぇっ!?」

 次の瞬間、雁夜の首に後ろから伸びてきた鎖が絡まり、バーサーカーの背中から剥がされた。

 そして、アーチャーは、円を描くように周囲に宝具を展開し、自らは、高く跳躍して間桐邸の屋根の上に上がった。

 バーサーカーは、周囲から飛んでくる宝具を弾きながら、鎖に捕われている雁夜を救うべく武器を振ろうとする。

 雁夜は、ジタバタと暴れ、鎖から、そして四方八方から飛んでくる宝具から逃れるために体を捻るなどした。

 だんだんと呼吸が出来ず、目の前が暗くなってくる。

 それに伴い、バーサーカーの動きも悪くなってきた。

 その直後、足元から鎖が飛んできて、雁夜の片足に絡まった。

 そして鎖がグンッと、上から下から引っ張られ、ゴキッという嫌な音が聞こえた瞬間、雁夜は、ガクンッと首をあり得ない方向に垂らして口から血の泡を吹いた。

 雁夜が、ダラリッと動かなくなって数秒後、鎖は消えて雁夜の体が地面に落ちた。

 それと同時にバーサーカーが力尽きたように膝をついた。

「フッ…、たわいもない。」

 そう嘲りの笑みを浮かべながら、間桐邸の屋根から飛び降りたアーチャーであったが、すぐにその笑みを消した。

 ピクピクと僅かに痙攣していた雁夜の体から、確かな…何かが動いたのを感じたのだ。

「“ソレ”か……、ソレが我を不快にさせるのだ!」

 アーチャーは、宝具を展開し、倒れている雁夜に向けて投擲した。

 だが宝具は、当る直後で、止まった。

 それを見たアーチャーは、不愉快そうに眉を寄せた。

 背中の力だけで起き上がった雁夜の動きに従い、浮いていた宝具も動く。

 バチ…バチッと、音が鳴る。

 力尽きたように膝をついていたバーサーカーが弾かれたように動き出し、雁夜の前で止まっていた宝具をすべて弾いた。

「ウォォォォォォォム! バル…、バル、バルバルバルバルバル!!」

 死に瀕する痛手を負わされた雁夜が、バオー・武装現象へと変じた。

 アーチャーの顔が不機嫌で歪む。

「なんたる醜い姿よ! その姿を我の前にさらすな!」

 死ね!っと、号令をかけるように今まで以上の凄まじい数の宝具が展開された。

 しかしその宝具が消える。

「おのれ…、時臣め、真(まこと)につまらん男だ!」

 時臣からの魔力吸収が限界に達し、アーチャーは、不機嫌のあまりに悪態を吐いて消えようとした。

 その直後、雁夜が一瞬にして距離を詰めていた。

「あ?」

 アーチャーが一瞬その速さに呆けた瞬間、アーチャーの喉が綺麗に切れて、大量の血の雨が雁夜に降りかかった。

 アーチャーの血が雁夜を完全に赤く染める前に、アーチャーは霊体となり、消えた。

 

 アーチャーが消えた後、雁夜は、顔や上半身をアーチャーの血で赤く染めた状態で、咆吼をあげたのだった。

 その咆吼の意味が、敵を取り逃した事による悔しさによるもなのか、痛手を負わせることができたことによる勝利の物なのかは、寄生虫バオーに支配され、自我意識がない雁夜には分からないことだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 綺礼は、魔力切れで倒れている時臣を見つめていた。

 アーチャーが勝手な行動を取っていることは、時臣も知っていたが、まさか戦いが発生し、そして魔力が切れて死にかけるほどだとは予想外だったらしい。

 視覚共有もしていなかったため、アーチャーが何と戦っていたのかは分からないが自分のアーチャーがこれほどまで苦戦するのだ。相当な強敵だったのだろうと想像できた。

 綺礼に介抱され、霊体となって戻ってきたアーチャーの状態を見て、時臣は別の意味で大きなめまいを感じた。

 ギリギリで死んではいないが、アーチャーの首は、無残にも切り裂かれ、大量出血の跡がある。

「王よ…。一体…何があったのです?」

 しかしアーチャーは、答えない。喉を切られたため、言葉が出せないし、出す余裕も無いのだ。

「まずは、魔力の回復と、王の治療を。」

「分かっている…!」

 綺礼に言われなくても、そんなことは時臣自身が一番分かっていることだ。

 魔力を少しでも回復させるため、常備している霊薬を飲ませてもらい、なんとか動けるようなってから、アーチャーの治療を始めた。

 治療され、なんとか口がきける状態まで回復したアーチャーは、時臣からの質問に答えず、不機嫌丸出しの顔で、どっかりと座り込んでしまった。

「王よ、せめて…血の跡だけでも拭きましょう。」

 そう言って濡れタオルを渡そうとしても、アーチャーは、動かない。

 これ以上話しかけても無意味だと判断した時臣は、ここに置いておきますとテーブルに濡れタオルを置いておき、綺礼と共に部屋を出た。

「…単刀直入に聞く。綺礼。何があった? アーチャーは、何と戦っていた?」

 少々早口で、時臣は、綺礼に聞いた。

「死徒です。」

「しと? 馬鹿な。王たる彼が“そんなもの”に後れを取るはずが…。」

「ただ死徒ではありません。そもそも死徒なのかすらも、分からぬ存在です。」

「それは、死徒だと呼べるのか?」

「……おそらくは人為的に、何かしらの方法で後天的に人ならざる力を得た者でしょう。それ以上でもそれ以下でもありません。」

「ならば、死徒とそう変わらないだろう。だが、なぜ、その程度の者が、サーヴァントと渡り合える?」

「それは、おそらく、彼の者が、魔術師であるからです。生物として外れていながら、魔力を使いこなすため、サーヴァントにもその力が通じるのではないかと。」

「それは…、綺礼、おまえに怪我を負わせた青白い怪物のことではないのか? アーチャーは、それと戦っていたのか?」

「彼の者の名は…、間桐雁夜、です。」

「かりや…だと?」

 時臣は、その名を聞いて、複雑な心境になった。

 時臣にとって雁夜は、同じ魔術師の家に生まれ家督を継ぐはずだった者だったが、なぜか11年前に魔術の道を捨てた愚か者だった。

 間桐の魔術の現状を知らない時臣にとって、魔術の道を捨てることは、愚かで、虫けら同然の落伍者のすることだったのだ。

 アーチャーに言わせれば、骨の髄まで魔術師である時臣にとって、雁夜はそう映ったのだ。

「雁夜…、どういうことだ? なぜ彼が戻ってきた? なぜ、そんな怪物に?」

「それは、まだ分かりません。」

「……綺礼。早急に調べろ。雁夜が本当に、アサシンと君が見た青白い怪物なのかどうかを。どうやってそんなモノになったのかを。そして、この聖杯戦争に加わる理由を。」

「はい…。」

 額を押さえてそう命じる時臣に、綺礼は一礼しながら返事をした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……じさん。おじさん。」

「…………ハッ!」

 目を覚ました雁夜は、飛び起きた。

 傍らには、桜がいて、心配そうに見ている。

「やっと起きたね。」

「ツツジ…。俺は…?」

 雁夜は、自分の顔や上半身に赤黒く変色した血がかかっているのに気づいた。

「家がちょっと壊されたけど、それ以外はだいじょうぶ。あなたは、勝ったんだよ、雁夜さん。」

「勝ったのか…。いや…、勝利と言っていいのか?」

 雁夜は、再び意識を支配されてしまったことを理解し、頭を押さえた。

「勝ちは勝ちだよ。」

「そうだよ。おじさん、勝ったんだよ。」

「……そうか。」

 雁夜は、自分が時臣のサーヴァントであるアーチャーに勝ったのだと、そう思うことにした。

「なあ、ツツジ。いつになったら俺は自分の意思でこの力(バオー)を使えるようなるんだ?」

「うーん。それは個人差があると思うから…。」

「なんだそれ。つまり場合によっては一生使えない可能性もあるってことだろ?」

「そういう見方も出来るかも。」

「おまえな!」

「ねえ、おじさん。お風呂で血を洗い流そう。ね?」

「…分かった。ツツジ、風呂入った後で話の続きするからな。」

「分かってるよ。」

 三人はそう話し合って、ちょっとだけ壊れた間桐邸に入ったのだった。




果たして、天の鎖(エルキドゥ)が、ピンポイントで首を狙えるかどうか分かりませんし、ここまでゲートオブバビロンを展開し続けてだいじょうぶなのか?っていう疑問がありますが、序盤の戦闘でバーサーカー相手にかなり武器を投擲しているようだったので、たぶんだいじょうぶかな?って思ったのでこうしました。

あと前回の後書きで書いたフラグで、電気による磁石効果で宝具の剣やその他金属製の武器を防ぐに至ってますが、原作漫画でも育郎が爆弾(手榴弾)を防いでますから、可能かな?って思って書きました。

アーチャーが霊体化直後に首切られてるのは、彼の慢心とか油断ですね。完全に。まさか一瞬で距離詰めてくるとは思わなかったから…です。


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SS14  理由

感想欄であった、ライダーこと、征服王イスカンダルとの会話です。

征服王の性格とか、言葉遣いもちゃんと把握できません。
間違ってたら教えてください。



2018/12/12
※征服王の言葉遣いの違いをご指摘して頂いたので、修正しました。


 雁夜は、この場の、自分が置かれた状況に困惑していた。

 

「粗茶ですが、どうぞ。」

「お菓子もどうぞ。」

「おお、すまんのう。」

 

 目の前には、ライダークラスこと、征服王イスカンダル。序盤の聖杯戦争で、聞いていた真名だ。

 ツツジと桜が、お茶とお菓子を持ってもてなしている。

「まあ、そう構えるな。バーサーカーのマスター。」

「えっと……その…。」

「緊張するなって言っても無理そうだな。」

 ガハハハっと笑いあぐらをかいているライダーに、緊張でカッチンコチンになっている雁夜は、正座で汗をかいている。

 完全に油断していた時に突然のライダーの訪問……。

 これについてなぜ言ってこなかったとツツジに詰め寄ったものの、ツツジは、敵意特有の嫌な“匂い”がしなかったのだと答えただけだった。

 しかもあろうことか家に上げてしまった。

 家に上がった瞬間、敵意を出したらどうする気なんだと思ったし、止めようとはしたが、ライダーの豪快さというか、そういう雰囲気に飲まれてしまいズルズルと行ってこの状況だ。

 何をしに来たんだと言いたいが、言葉が出ない。

「征服王にしてイスカンダルたる余が何をしに来たんだと言いたげだな?」

「うっ…。」

「ちょっとばかり気になった。」

「はっ?」

「ようするに気まぐれよ。だからそう硬くなるな。」

「は、はあ…。」

「まあ、無理なモノは無理か。しかしお前とてこの聖杯戦争に参加する身。たかがサーヴァントを前にしてそのような有様でどうするのだ?」

「っ…。」

「……余は、近頃マスター共の間で噂になっているお前自身について、気になったのだ。分かるな?」

「それは…。」

 つまりライダーは、バオーの力を振るう時の変異について聞きに来たのだ。

 雁夜は、思わず部屋の隅で控えているツツジに目線を送った。

 寄生虫バオーのことを話すべきか、否かを問うために。

 ツツジは、プルプルと首を横に振った。

「……それは秘密…です。」

「だろうな。お前自身もよく分かっとらん。そうだな?」

「うぐ…。」

 雁夜は、寄生虫バオーのことをすべて知っているわけではないし、まだ寄生されて数日しか経っていないので自力でコントロールすらもできていないのだ。どうやら初めから尋ねてきたものの、答えは見透かされていたらしい。

「そこな、小僧に見える娘の方が知っておるようだが、口を開く気はなさそうだから今は置いておこう。」

 ライダーは、寄生虫バオーについてツツジの方が詳しいことも見抜いていた。

「バーサーカーマスターたるおまえに問う。この聖杯戦争にいかなる願いを?」

「それは……、俺は…。」

 最初は、桜を間桐家から解放するために聖杯を持ち帰ると臓現に約束したことだ。そしてそのついでに時臣を殺そうとした。

 だが今は……。

 返答に困っている雁夜の姿に、ライダーは、フンッと鼻息を吐いた。

「理性もなき英霊に、理由無きマスターか…。なあ、お前…、なぜ生きている?」

「えっ?」

「人間とは良くも悪くも欲深いもの。余とて単なる威勢で征服王などと名乗ってはいない。だが、お前はどうだ? 理由も無く、なぜ、あらゆる願い叶える聖杯を手にせんと参加しているのだ?」

「それは、……それは…。」

「遠坂時臣を引っ張り出すためだよ。」

 言葉に詰まっていた雁夜の代わりに、ツツジが答えた。

「娘、お前には聞いていないぞ。」

「そういうわけにはいかない。なぜなら、遠坂時臣…、ここにいる桜ちゃんって女の子のお父さんに、どうして間桐の家に桜ちゃんを養子に出したのか。その理由を聞くことと、桜ちゃんが受けた痛みを教えるため。そのために、私達は雁夜さんに戦って欲しいって頼んだの。だから私が答える。」

「……報復か。」

「そういうことです。」

 ツツジがキッパリと言うと、ライダーは、腕組みをし、フーンっとつまらなさそうにした。

「あんたに……、征服王たるあんたには、つまらない理由だろう…。だが……、俺達には俺達なりに戦う理由なんだ。」

 ツツジの言葉のおかげで緊張がほぐれた雁夜がようやくまともに喋った。

「時臣に報復したら、俺は……この聖杯戦争を降りるつもりだ。」

「自ら、目の前の宝を捨てるということか?」

「そうだ。俺にとって聖杯なんて、単なる理由付けに過ぎない。……取り合いは、あんた達が勝手にやってくれ。」

「ほー。」

「何度も言うが、征服王たるあんたにはつまらない理由であることは承知している。だが…、それ以上でもそれ以下でもないんだ。」

「では、そこな小娘の負った傷を治すという願いすらも捨てるということか?」

「……!!」

 思い至らなかった聖杯戦争に参加する理由を出され、雁夜は驚愕し目を見開いた。ライダーは一目で桜が何かしらの虐待によって酷く傷ついていると見抜いたのだ。

 ライダーは、大げさにヤレヤレと肩をすくめた。

「その程度のことも考えつかんとは、器が知れるわ。」

「くっ……。」

「……いいの。」

 悔しさに歯がみする雁夜。すると黙って座っていた桜が言った。

「桜は、このままでいい。」

「桜ちゃん…。でも…。」

「おじさんが死んじゃうかもしれないなら、このままでいい…。」

「桜ちゃん!」

「いいのか、小娘? その身に受けた痛みも屈辱も、その幼き心身に抱えて生きる気か?」

「私は、いい。それよりも、おじさんがいなくなるほうが、怖い……。」

 桜がそう言うと、ライダーは、大笑いした。

「これは参った。その小ささで悟るか、小娘。清き身を取り戻すより、そこな器の小さき男を選ぶか!」

「はい。それと、おじさんのことを悪く言わないで。」

「参った、参った。少々虐めたことは詫びる。すまんかったな、バーサーカーのマスター。」

「あ…、いえ…。」

「いや~、参ったな。では、こうしよう。」

 するとライダーが改まったように言い出した。

「余は、お前達のすることには邪魔立てはせん。これでどうだ?」

「はいぃ?」

「つまり、私達の報復を邪魔しないってことですね。」

 困惑する雁夜の代わりにツツジが言った。

「そうだ。帰ったら、うちの小僧にもよーく言っておく。お前達は、お前達の戦いをしろ。余は、お前達とは戦はせん。」

「そ、それで…いいのか?」

「征服王たる余が誓ってやる。ただし、お前がもしも聖杯を求めると気を変えたならば……。」

「容赦はしない…か…。」

「その通りよ。あくまでもお前達の遠坂時臣とやらへの報復を止めんし、そのための戦いを傍観するが、それを違えるならば余は、余の理由によってお前達と戦をするだけのことよ。」

「分かった…。ありがとうございます…。」

「礼などいらん。礼を言うならば、気丈にもすべてを受け入れ生きると決めた、そこな小娘に言うのだな。」

「分かりました。…ありがとう。そして、ごめんね、桜ちゃん…。」

「謝らないで、雁夜おじさん。」

「では、余は帰るとしよう。」

「あ、お見送りを…。」

「いや、結構。そこそこ面白かったぞ。では、な。」

 ライダーは、霊体化して、消えた。

 ライダーが去った後、雁夜は、ヘナヘナと力尽きた。

「死ぬかと思った……。」

「よく頑張りました。」

「おじさん、お疲れ様。」

 二人に労われ、雁夜は、起き上がったのだった。

 

 こうして、ライダー……、征服王イスカンダルとの約束が交わされたのだった。




桜に免じてバーサーカー陣営との戦いを休戦することを約束した、征服王でした。
なぜ勝手に決めたとウェイバーが五月蠅そうですが、黙らすでしょう。

桜を間桐に行く前の状態に戻すという願いを理由にするというのも考えたけど、今の桜がそれを拒んだとという流れにしました。
若干ヤンデレ(?)かな? もう雁夜おじさんだけいればいいみたいな。
だけど、あの汚染された聖杯では、絶対に願いは叶わないからなぁ……。

ライダー(征服王イスカンダル)との関係はこんな感じなりました。いかがだったでしょうか?


2018/12/12
しっかし、難しいわ! Fate!


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SS15  退治

バーサーカーが支配したF15の攻撃が、もしキャスターが召喚した巨大海魔に向けられていたら、これくらいはできたんじゃないかな~って考えながら書きました。


 ウェイバーは、ただただ呆れた。

 ライダーが、勝手にバーサーカー陣営に対して休戦を約束してしまったのだ。

「どういう風の吹き回しなんだ!」

「なぁに、ただの気まぐれよ。」

「この戦いは負けられないんだぞ! 勝手に休戦を持ちかけるなんてありえない!」

「しかしのう、小僧。彼奴らは聖杯なんぞいらんと言っておったのだぞ。」

「そんな馬鹿な!?」

 ウェイバーは、信じられないと声を上げた。

「しかし事実よ。この征服王イスカンダルが言うのだぞ?」

 ウェイバーは、ただただ呆然とした。

 ありえないっという思いで頭の中がグルグルしていた。

 キャスター陣営が聖杯戦争を無視して暴走しているのは知っていたが、まさかバーサーカー陣営までも聖杯戦争に興味を持っていないとは思わなかった。

 ならば、なぜバーサーカーを四人のサーヴァントが集結していた場に寄越したのか?

 もしかしたら何かしら理由があったのだろうが、途中でその理由が変化したのか、そもそも最初から戦う理由自体が聖杯とは無関係だったのか……。

 あれこれ考えても、ライダーがバーサーカー陣営と戦ってくれないのは変わりない。ウェイバーは、ため息を吐いた。

 

 

 その後、ウェイバーとライダーは、街に出るなどして買い物をするなどして楽しみ、マスターとサーヴァントとして会話を交わしたりした。

 

 そして、異常な魔力を感知することになる。

 

 異変は、河の方で起こっていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その異変は当然だが、すべてのマスター達が感知していた。

 バーサーカー陣営である、雁夜達も異変にすぐに気づいて、雁夜はバーサーカーと共に異変が起こっている現場へ急いだ。

 先に到着していたセイバーが、河にいるキャスターと何か会話している。

 そして、河の中から巨大海魔が現れ、キャスターを包み込み…そして、同化した。

 それは、まさに、汚肉(おにく)。

 おびただしい数の触手と、膨大な肉によって形成された、島…だった。

 そのおぞましい光景を呆然とみていると、姿を消してしまったキャスターの狂った演説の声だけが聞こえた。

「…んな…馬鹿な…。嘘だろ?」

 その圧倒的な物量に、雁夜は、ふるふると信じられないと首を振った。

 そんな中、“匂い”によって、離れた場所にいるセイバーと、アイリスフィールの会話を感じ取れた。

 要約すると、あの巨大な海魔は、キャスターの制御下にないこと。

 魔力と門さえあれば、呼び出すこと自体は容易なこと。

 数時間もせず、街一つ食らいつくされること。

「クソッ! なんてこった! どうしたら…、どうしたらいいってんだよ!?」

 雁夜は、頭を抱え、何か打つ手は無いかと考えるが、いくら攻撃力に突出したバーサーカーがいるとはいえ、あの巨大な海魔は、倒せないだろう。かといって、自分の中に秘めたるバオーの力を持ってても勝てる見込みはないだろう。それほどに圧倒的な敵なのだ。

 すると、横にいたバーサーカーが、チョンチョンと指先で雁夜の肩をつついた。

「なんだ!?」

 顔を向けてきた雁夜に、バーサーカーが空を指さした。

 そこには、戦闘機…F15が飛んでいた。

「はっ? おい、バーサーカー…まさか、アレを?」

 バーサーカーは、頷きもしない。どうやらあの巨大な海魔に対抗しうる強大な武器として、F15を認識したらしい。

 雁夜は、うーーんっと唸りながら頭を抱えて悩んだ。

 そして。

「……よし! バーサーカー、やるぞ!」

 戦闘機乗りと、お国には申し訳ないが、拝借することにしたのだった。

 許可を得たバーサーカーが動き出す。

 あっという間に戦闘機が飛ぶ飛行高度まで跳んだバーサーカーが、翼に乗り、パイロットを驚かせる。

 風防を無理矢理こじ開け、パイロットを引っ張りだし、雁夜が視覚共有で指示を念話で伝えながら翼に接触しないよう、遠くに放り捨てた。

 放り捨てられたパイロットは、狂乱しながらも咄嗟にパラシュートを出し生還した。

 パイロットがいなくなった戦闘機が、瞬く間にバーサーカーの支配を受け、赤い血管のような筋が全体に走った。

 そして機体の矛先を、河にいる巨大な海魔へと向けた。

 海魔は、体全体にある目玉をギョロギョロと動かし、飛んでくる戦闘機を補足した。

 触手が蠢き、戦闘機をたたき落とそうと振られる。

 その触手の群れの間を紙一重で、ありえない動きで避けながらバーサーカーは、F15の機関銃を目玉にぶち込んでいく。

 ブチュブチュと、正確に、表面にあった目の多くが潰され、巨大な海魔は、おぞましい悲鳴をあげた。

 ジェットエンジン音を残しながら、いったん空へと上ったバーサーカーが操るF15は、一回転して、目玉を失った海魔の頭頂部にミサイルを撃ち込んだ。

 ただの人間が作り出した兵器も、バーサーカーの力が加われば、瞬く間に魔道兵器と変わる。

 ゆえに、いかに強大な魔術によって呼び出された巨大な海魔といえど、ひとたまりもない。

 ミサイルによる大爆発が、海魔の巨体を焼き、爆ぜさせ、中心を…浮き彫りにした。

 心臓としての役割を果たしていた中心で海魔と同化しているキャスターが、悲痛な、狂ったような悲鳴をあげた。

 あまりの光景にうっかり呆然としてしまった他のサーヴァント達が、その声でハッとして、それぞれ武器を手に、海魔の中心にいるキャスターめがけて襲いかかった。

『じゃ…んぬ…!!』

「私は、騎士王…、アルトリア・ペンドラゴンだ!!」

 セイバーの剣が、キャスターの首を切断した。

 ランサーが、槍で海魔を維持している魔力の根源である宝具の本を破壊した。

 河に陣取っていた巨大な海魔は、己を維持する力を失い、やがて消滅した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 巨大な海魔が消えたのを見て、雁夜は、その場に力尽きたように座り込んだ。

「…やった……。よくやったぞ、バーサーカー…。」

 うれし涙がこみ上げ、雁夜は、袖で目をこすった。

 

「雁夜。」

 

 すると、そこへ、喜びを吹き飛ばす、男の声が聞こえた。

「……時臣…!」

 雁夜は、慌てて立ち上がった。

 時臣は、アーチャーを連れていなかった。気配もないので、本当に時臣が一人で来ているのだと分かった。

「どうしてここに?」

「あれだけの魔力を感知して、ここに来ぬマスターがいないはずがないだろう?」

「……それだけじゃないだろう?」

 雁夜は挑むように聞いた。

 そんな雁夜に、ピクリッと時臣の眉が動いた。

「どういうつもりだ、雁夜。」

「どうとは?」

「なぜ、今になって間桐に戻った?」

「それを聞いてどうする?」

「君は、11年前…、家督の相続を捨てて出奔した。落伍者だ。」

「ああ…。そうだな。」

「その君がなぜ、今になって戻ってきた? しかも…、人ならざる異形の力を得て!」

「……知ってたのか。」

「私の弟子と、サーヴァントをよくもあれだけ痛めつけてくれたものだ。よーく聞いているよ。君が得た力の恐ろしさを。」

「ちょっと事情があって、半ば無理矢理に手に入れた力だ。それよりも、時臣。お前に聞きたいことがある。」

「なんだね?」

「なぜ、桜ちゃんを間桐の家に養子に出した?」

「? なぜそんなことを聞く?」

「お前は…、間桐の魔術を知っているのか?」

「間桐の魔術は、蟲を使うとは聞いている。それがどうした?」

「……お前は…何も知らないのか? そうなんだな?」

「御三家である間桐の家督を捨てた落伍者になど分かるまい。むしろ、新たな家督となる魔術師の素質のある者を養子として迎えさせたのだ。むしろ感謝してもらいたいも…っ!?」

 時臣は、最後まで言葉を発せなかった。

 雁夜に殴られたからだ。

 バオーにより筋力が強化された雁夜のパンチ力により、時臣の体は大きく吹っ飛び、建物の壁に叩き付けられた。

「何も調べずに……何も分かろうとせずに…、自分の娘を差し出したのか!! てめぇは、ど畜生だ! 父親失格だ!! おい、聞いてるのか、時臣!!」

「待って雁夜さん。」

「ツツジ!? なんでおまえ……、って桜ちゃんまで!」

「時臣さん…、顔が潰れてる。」

「えっ? わわわ!?」

「ほら、早く、血をあげれば治るから。死ぬ前に急いで。」

「わ、分かった…!」

 顔が半分潰れてしまった時臣に大慌てで、自分の血を飲ませ、回復させた。

「うぅ…。わ…私は…? …桜? 桜なのか?」

「お久しぶりです。時臣さん。」

 起き上がった時臣は、雁夜の腕を掴んで寄り添っている桜を見て驚いた。

「どういうことだ? なぜ、桜がココに?」

「桜ちゃんが、どうしてもって…。」

「君は?」

「私は、雁夜さんの協力者です。単刀直入に言います。あなたをこれから捕まえて、制裁します。」

「…なっ…。」

「…悪いな時臣。桜ちゃんの痛みを知ってもらうにはこれしかないんだ。」

 雁夜が、ガッと時臣の肩を掴んだ。

「待て、雁夜、何をする気だ!?」

「ごめんなさい。間桐邸に帰るまでの間、寝てください。当て身。」

「グフッ!」

 ツツジの容赦のない当て身を受け、時臣は気絶した。

「よーし、あとは、蟲蔵に運ぶだけだね。」

「そうだね。」

「……本当にいいのかな…。」

「今更でしょ? 殺すよりはマシだよ。」

「いやその……。」

 殺してくれた方がマシなんじゃねぇのか?っと言いたかったが、口に出せなかった雁夜だった。

 ツツジが軽々と時臣を肩に担ぎ、雁夜は、桜の手を握って、三人は間桐邸に帰ることにしたのだった。

 ……ところが。

 周囲に黒装束と、仮面を被った者達が突如現れた。

「なに?」

「こいつらは…、この魔力は…、サーヴァント!?」

「えっ? サーヴァントって、一体じゃないの?」

「そんなの知るか! とにかくこいつらはサーヴァントだ!」

「桜ちゃん!」

 ツツジが桜の安全を確保しようと気絶している時臣を道路に捨てた。

 ジリジリと、凄まじい数のサーヴァント達が迫ってくる。

 その時、空から機関銃の雨が来て、サーヴァント達を撃ち抜いた。F15にいまだ乗っていたバーサーカーによるものだった。

「逃げよう!」

「おい、時臣はどうすんだ!?」

「たぶん、このサーヴァントの人達の狙いは、時臣を私達に奪われないようにするためだよ。なんか、そんな“匂い”がする。」

「……チッ。」

 時臣を連れていくのを諦め、三人はバーサーカーが開いた道を走った。

 サーヴァント達は追って来なかった。ツツジの言うとおり、彼らの狙いは、時臣を自分達に奪われないようにするためだったらしい。

 雁夜は、時臣を捨て置かなければならなかったことに、歯がみしたが、同時に、一瞬でも時臣が受けるはずだった蟲による陵辱を受けるよりは殺してくれた方がマシだったなんて考えた自分に驚いていたのだった。




原作小説での雁夜と時臣の会話で、時臣マジ分かってねぇ!って思いましたよ。はい。

本当は、この時点で蟲蔵まで運ぶ予定でしたが、もうちょっと先延ばしにしました。
次の話で、時臣の根性無しとか、なさけな~い姿を晒させる予定でしたが、変更しました。なんか違うなって思って。

なぜ時臣が一人だったのか……、アーチャーが動いてくれなかったのと、綺礼がいたけど助けてくれなかったのと、あーでもアサシン使って一応は助けてますからね。
雁夜の時臣に対する憎しみは、もうだいぶ薄れてます。

ここで書いてないけど、龍之介は、切嗣に殺されてます。

ここで解かれるはずだったセイバーの左腕の呪いだけど、まだ解けてません。


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SS16  偽善

ソラウの右手を元に戻してやろうとするツツジだったが……?


ケイネスのキャラが掴めておらず、迷子です。
間違ってたら教えてください。


 キャスターにトドメを刺したのは、セイバーとランサーだったが、キャスターの勝利に大きく貢献したのは、戦闘機F15を乗っ取ったバーサーカーだった。

 近代兵器を知らない英霊達は、その威力に驚き、マスター達は、バーサーカーを強く警戒することになる。

 彼らの噂となっているバーサーカーのマスターである間桐雁夜の得体の知れない力もだが、バーサーカーそのものの能力を侮っていた。

 バーサーカーの能力をもってすれば、古代にはなかった圧倒的な殺戮兵器すらも己が物として使えてしまうのだ。それは、F15のミサイル攻撃でハッキリした。もしあれがキャスターではなく、自分達に向けられていたら……、っと思うとゾッとしてしまう。

 

 ランサーのマスター、ケイネスの許嫁である、ソラウは、離れた新都のセンタービルの屋上から、その光景を見ていた。

 セイバーがキャスターの首級を取ったが、巨大海魔の維持に使われていた宝具を破壊したのはランサーだ。

 目撃証言もたくさんあるし、教会からの恩賞の予備令呪も貰えるのは間違いなく、令呪を消耗していたランサー陣営としては願ったり叶ったりだ。

 アインツベルンの城で、切嗣に魔力回路をズタズタにされ、下半身不全となってしまい、なおかつランサーへの魔力供給すら危うくなったケイネスから、半ば強奪する形で令呪を半分自分に移して魔力供給を共有したソラウは、ランサーとの繋がりである右手の令呪を撫でた。

 ランサー陣営の今の目標は、聖杯を使ってケイネスの体を元通りに治すことだ。

 ソラウは、ランサーとの確かな繋がりに、安堵を感じていた。

 彼女は、ランサーこと、ディルムッドの魔貌に魅了されているのだ。

 これは、ランサークラスとして召喚されたディルムッドの固有スキルによるものだが、ソラウは、これを弾く能力がありながらそうはせず、初めて湧き上がった激情であったため、それが正しいことなのかはどうでもよく、己の中の至宝としてそれに従うようなってしまったのだ。

 間違ってもソラウは、別に婚約者であるケイネスを嫌っているのではない。しかし、一度狂ってしまった歯車は…、元通りにはならないのだ。

 そして彼女は、油断した。

 センタービルの屋上の風の音もあったが、ランサーとの繋がりに酔いしれていたことが油断となった。

 ソラウは、忍び寄っていた舞弥により、令呪を刻まれている右手を奪われる。

 右手を奪われたという痛手以上に、ソラウを絶望させたのは、ランサーとの繋がりのある令呪を失ったことだ。

 令呪がなければ、ランサーに構って貰えない、最悪令呪を使って自分を愛せとも命じられない。

 だから彼女は、大怪我を負いながら必死に失った右手を探した。

 しかし、ソラウの望みも空しく、右手は見つからず、やがて彼女は意識を失ったのだった。

 

 

 

 その後。

 舞弥により、重傷を負わされながらも生け捕りにされたソラウが運ばれた後、ビルの屋上に空しく残った彼女の右手をツツジが拾った。

「…酷いことするね。」

 哀れむようにそう呟きながら、ハンカチでソラウの右手を包み込み、懐にしまったツツジは、ビルから飛び降りた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 サーヴァントの群れから逃げる最中、ツツジが急に方向転換して、まるでヤモリのようにビルの壁を手で登り、ビルからビルへと移動して、しばらく待っていたら戻ってきた。

「おい、どうしたんだ? 何があったんだ?」

「ん…。別に。」

「嘘吐け。匂うぞ。」

「なんのことでしょーか。」

「とぼけるな。血の匂いがする。」

「だいぶ感覚が鋭くなってきたね。雁夜さん。」

 降参だと手を上げた後で、ツツジが懐から出したのは、ハンカチに包まれた令呪が刻まれた女の右手だった。

「っ、どうした、それ? まさかお前が?」

「違う。」

「桜ちゃんの前で、そんなエグい物出すな。」

「それ、誰のお手々?」

「桜ちゃん…。冷静すぎる。」

「さあ? 誰のだろうね。行ったときにはもういなかったから。でも、匂いは辿れる。」

「令呪があるな…。それ令呪か? ってことは、誰かのマスターが…。」

「うーん。なんかちょっと複雑な匂いがする。…例えるなら、三角関係的な?」

「それどーなんだ?」

「ねえ、桜ちゃん。令呪って分割できるのかな?」

「えっとね…。うん。出来ると思う。」

「確かに…、教会が恩賞で予備令呪を出せるくらいだからな。令呪を分割するくらいわけもないだろうな。どうする気なんだ? ツツジ。」

「…右手を返してあげようかなって思って。」

「おいおい、そんなことできるのかよ?」

「こうやって…、血をあげれば…。」

 ツツジは、拳を握って自分の血を女の右手にかけた。

「これで細胞は死なない。くっつけるときにもう一度血をあげればくっつくはず。」

「おまえ、実は……。」

「それは内緒。」

 そう言うツツジに、雁夜は額を押さえてため息を吐いたのだった。

「ねえ、雁夜さん。悪いんだけど、今夜辺り留守にするけど、いい?」

「…俺も行こう。」

「ええ? それは悪いよ。私の気まぐれなのに。」

「サーヴァント同士の戦いは、サーヴァントとマスターがするものだ。バーサーカーを行かせれば牽制ぐらいにはなるさ。」

「みーんなビビってたもんね。バーサーカーに。」

 

 っというわけで、女の右手…、ソラウの右手をソラウ本人に戻してやる作戦が決行されることになった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 新都地区、おそらくはかつて製材所の跡地か何かであろう場所で、ランサーとセイバーが相対した。

「我が主の許嫁がいま何処にいるか…、セイバー、よもやお前に心当たりはあるまいな?」

「知らないが…。それが何か?」

「いいや。忘れてくれ。」

 セイバーにそう聞いたランサーは、安堵のため息を吐いた。

 まさか好敵手たる彼女が今更人質などという姑息な手段をとるとは到底考えられなかったので、思った通りの答えが返ってきて安堵したのだ。

「ところで、左腕は相変わらずか?」

「……。」

「我が槍の呪いには、苦労しているようだが、よもやそれだけのことで、このランサーに後れを取るお前ではあるまい?」

「無論だ。」

「それはよかった。ならば今度こそ、おまえの首級を我が主に捧げるとしよう!」

「雌雄を決するぞ、ランサー!」

 

 互いに武器を抜き、今まさに対決の時となった瞬間だった。

 

 覚えのある気配を感じ、二人は止まり、そちらを見た。

 

 そこには、F15の機関銃を二人に向けて構えているバーサーカーがいた。

 まさに、今動けば撃つと言わんばかりに、赤い血管が巨大な機関銃に走っている。

 キャスターが召喚したあの巨大な海魔に、痛手を負わせた強力な武器だ。いくら二人が強力なサーヴァントとはいえ、魔道兵器と化した近代兵器をまともにくらって無事では済まないだろう。

 セイバーは、知らず知らず息をのんでいた。

 ランサーもランサーで、ひとすじの汗をかいていた。

 ミサイルじゃない分まだいいかもしれないが(よくない)。それでも十分すぎるくらいの火力が今自分達に向けられている。二人は動けずバーサーカーの出方を待った。

 こうなってしまって困っているのは、何も二人のサーヴァントだけではない。

 廃工場の中に身を隠す、車椅子に乗ったケイネスとて、焦っていた。

 戦闘に突入前に、散々ランサーを詰っておいて、いざ戦いの場でバーサーカーの接近などに自分が気づけなかった。

 もしかしたら、あの噂になっているバーサーカーのマスターがこの近くに来ている可能性があるのだ。焦らずにいられない。

 令呪の半分を持って行って、行方不明になっている許嫁のソラウのことも気がかりだ。

 その時、奥の方の暗がりから、『ぐぇっ』というカエルが潰されたような男の声が聞こえて人が倒れる音が聞こえた。

 恐る恐る暗がりの方に方向転換して見ると、その後ろから手が伸びてきて、ケイネスの肩を掴んだ。

「っ!?」

「シッ! 静かに…!」

 そこにいたのは、一人の男だった。

 切嗣ではない。見たところ、魔術師には見えない風貌だった。

「バーサーカーが今、二人を止めてる。あんたもジッとしててくれ。」

「貴様…、まさかバーサーカーの?」

「そうだ。」

 二人は息を潜めて会話をした。

 ケイネスは、令呪を使ってランサーを呼ぼうとしたが。

「待って。」

 廃工場の奥の方から、少し低めの少女の声が聞こえた。

 見ると、ソラウを抱きかかえた状態で運んでくる、十代半ばくらいのボーイッシュな少女がやってきた。

 ソラウの右手は、血がついているが繋がっている。

「ソラウ…!」

「だいじょうぶです。生きてますよ。」

「お前達は…、どういうつもりだ?」

 ケイネスは、ただただ訳が分からないと声を漏らした。

「……偽善です。」

「なに?」

「ただの気まぐれから来る、偽善です。手負いの相手と全力で戦ってもつまらないでしょう?」

 そう言われて、微笑まれ、ケイネスは、呆気にとられた。

 馬鹿なのか?っという疑問がまず浮かんだ。

 わざわざ敵を助けるために、戦いを邪魔をして、あろうことか敵精力の婚約者を救うなど……。

 馬鹿なのか? 大馬鹿者なのか?

 こんな連中が聖杯戦争に参加していたなどとは思わなかったと、ケイネスは呆れた。

「頼みがあるの。」

「……なんだ?」

「セイバーの呪い…解いてあげて。」

「なに?」

「あれじゃあ、二人とも全力で戦えないでしょう?」

「馬鹿なことを…。」

「その代わり…、あなたの怪我を治してあげる。」

「……はっ?」

 それを聞いたケイネスは、今度こそ言葉を失った。

「そんなこと、できるわけが…。」

「出来るよ。あなたの許嫁さんの右手をくっつけることができたんだから、あなたのボロボロの体だって治せる。どうする? その代わり、セイバーの呪いを解いてあげて。」

「……。」

 目の前に提示された希望に、ケイネスは思わず縋りそうになって、精神力で堪えた。

「それができないなら、私達は帰る。」

「ま…待て。」

「聞いてくれる?」

「……分かった。セイバーの呪いを解かせる。その代わり、私の体を治せ。」

「…よかった。」

 少女がそう言って嬉しそうに微笑むと同時に、顎を掴まれ、上を向かされた。

 そして無理矢理開かされた口に、少女の拳から垂れてきた血を入れられた。

 ジタバタと懸命に暴れるケイネスだったが、顎を掴む手はとんでもなく強く、やがて口に入っていた血を飲み込んでしまった。

「!!」

 すると、体の中が凄まじい勢いで変化していくのが分かった。

 まるで壊れて、デタラメに繋がっていたあらゆる部位が元通りに繋ぎ合わさるような感覚をしっかりと感じた。

「どう?」

 やがて少女がケイネスから手を離した。

 ゲホゲホとむせたケイネスは、自分の足が動いたことに驚いた。

「治ったね。じゃあ、セイバーの呪いを解いてあげて。」

「……言うとおりにすると思ったか?」

「あっ。」

 次の瞬間、ケイネスの周りに水銀が浮き、少女を貫こうと動いた。

 少女は素早い身のこなしでそれを避けると、車椅子から立ち上がったケイネスが水銀を周囲に浮かせた状態で構えた。

「ああもう、馬鹿! だから止めろって言ったのに!」

「だって…。」

「だってじゃねぇ!」

「貴様は逃さんぞ、バーサーカーのマスター!!」

「ぐあっ!!」

「雁夜さん!」

 雁夜の心臓を、水銀が貫いた。

 大量出血をして倒れる雁夜を見て、ケイネスは、にやりと、口元を歪めた。

「ソラウを救ってくれたことと、私の体を治してくれたことは、素直に感謝する。だが大馬鹿者の末路としてはふさわしかろう?」

「…それでいいの?」

「今更だろう? この聖杯戦争にはあまりにもイレギュラーが多すぎる。魔術師としてあるまじき外道な衛宮切嗣といい、キャスターといい、そこで呆気なく死んだバーサーカーのマスターといい……。大馬鹿者ばかりだ! ならば、私がそれらをすべて粛正するのが筋というものだ!」

 

「ウォォォォォム……。」

 

「? なんだ?」

「あのね。それでいいのっていうのは、あなたを心配して言ったの。だって……。」

 少女が、大げさに腕をすくめた。

「せっかく、健康無事な体になったのに……、今度こそ死んじゃうかも知れないんだよ?」

「バルバルバルバルバルバル!!」

「なっ、なっ…!?」

 あっという間に、バオー・武装現象へと変じた雁夜が、ケイネスへと飛びかかった。

 その直後、廃工場の出入り口から、一本の槍が飛んできて、雁夜の体に突き刺さった。

「主っ!!」

 ランサーだった。廃工場からの騒ぎを聞いて、飛んできたのだ。

 一度膝をついた雁夜だったが、すぐに体に刺さった槍を掴み、引き抜いた。一瞬出血するもすぐに傷口は塞がった。

 ランサーは、三重の意味で驚いた。車椅子でまともに動けぬ体になっていたケイネスが五体満足になっていたことと、行方不明になっていたソラウが倒れていることと、槍をまともに受けて平然としている雁夜の姿に。

「ランサー! こ…これは…、バーサーカーのマスターか!?」

 遅れて駆けつけてきたセイバーが、雁夜を見て驚いた。

 雁夜が握る槍…ゲイ・ボウ(必滅の黄薔薇)が、ギリギリとメキメキと音を当ててる。

「槍が!」

 そして、ついに、ランサーの槍が粉々になった。

 それと同時に、セイバーの左腕の呪いが消えた。

 すると、後ろの方で、ガチャンッという音が聞こえた。

 ハッとしたランサーとセイバーは、その場から飛び退き、ランサーは、ケイネスとソラウを抱えて飛び退いた。

 直後、二人がさっきまでいた場所に、F15の機関銃の弾が当った。

 バーサーカーである。

 ケイネスとソラウを建物の端に移動させたランサーは、もう一本の槍を出現させた。

「お逃げください、主!」

「ランサー! バーサーカーのマスターの首を取れ! 必ず殺せ!」

「…承知した。」

 令呪を使わず命じられたランサーは、槍の矛先をバオー化している雁夜に向けた。

 するとセイバーが雁夜の前に来て、ランサーに剣を向けた。

「どういうつもりだ? セイバー。」

「…彼は、恩人なのです。まだその恩を返せていない。だからこの場で返そうと思う。」

「セイバー…さん、だよね? どいた方がいいよ?」

「えっ? わっ!」

 ボーイッシュな少女がそう言った瞬間、後ろにいた雁夜がセイバーを掴んで横にどかし、ランサーに向かって歩き出していた。いや…、ケイネスの方に歩き出していた。

「バーサーカーのマスター! ダメです!」

「無駄だよ。今の雁夜さんは、雁夜さんじゃないから。」

「どういう意味で…?」

 困惑するセイバーが少女を見ると、少女は首を横に振った。

「あっ…。」

 その直後、少女がハッとして声を漏らした。

 その時には、ケイネスと、ケイネスが支えて抱えていたソラウが撃たれていた。

「き、切嗣!!」

「余計なことを…。」

 廃工場の奥の方から、腹を押さえた切嗣と、舞弥が足を引きずりながらやってきた。その手には、機関銃や拳銃が握られていた。

「ぐっ…、き、りつぐ!!」

「あの場で殺しておくべきだったよ。」

 また判断をミスしたと言わんばかりに、切嗣の銃がケイネスの頭を貫こうと放たれた。

 それを防ごうとランサーが動くよりも早く、雁夜が動き、その身に銃弾を受けた。

「っ! 間桐…雁夜!!」

「バオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 瞬く間に腕から刃を出した雁夜が、切嗣に迫った。

 その間に、ツツジがソラウを抱えてへたり込んでいるケイネスに近寄った。

「ソラウ…。」

「待って。今治すから。」

「どういう…つもりだ…。」

「…偽善だよ。」

「……必要ない…。」

「どうして?」

「大馬鹿者の慈悲など、これ以上いらん…!」

「しかし、主!」

「好きにしろ…、ランサー…。セイバーと決着を付けるのも、もう勝手にしろ……。私はココで、彼女と…朽ちる。それまでの時間内でなら、おまえは十分に決着を付けられるだろう。私の…願いは…、そこの女が…叶えた…。」

「主…。」

「……勝手にしろ…。偽善者共め……。」

 そこまで言うと、ケイネスの手と頭が垂れた。

 まだ完全には死んでいないが、いずれ死ぬだろう。

 立ち上がったランサーは、槍の矛先をセイバーに向けた。

 その目には、大量の涙が浮かんでいた。

「ランサー…。」

「決着を付けよう。セイバー…。それが、主からの最後の命だ!!」

「ランサーーーーー!!」

 二人が同時に駆け、武器がぶつかり合った。

 

 

 

「……ごめんなさい。」

 ボーイッシュな少女、ツツジが、もう動かないケイネスとソラウに、手を添えて、項垂れた。

 血は使わなかった。

 

 

 セイバーとランサーの決着は……、夜明けと共についた。

 槍が落ち、魔力の供給がなくなって消えていくランサーは、目を閉じ、項垂れていながら満足そうな顔をしていた。

 結局、切嗣と舞弥は、バオー化した雁夜から逃げるのに必死で、ツツジの制止と、セイバーからの援護がなければ、危うく死ぬところまで行っていたのだった。




聖杯戦争って、偽善じゃどうにもならないかも……、だってあんなドロドロしてるし……。
最初は、ケイネス達生存を書こうとしましたが、その後の展開が思いつかなかったため、ケイネスが拒んだという流れにしました。(苦手な物が愚か者ってなってたし)

これだと、完全に雁夜さん、とばっちりを受けただけですね…。ごめんなさい。
切嗣と舞弥は、ギリッギリッで死なずにすみました。
なお、ソラウを助けたとき、ツツジに鳩尾を殴られて倒れてました。

ランサーの最後ですが…、なんとなく、戦士としてしっかり戦ってから果てて欲しかったので、こういう流れにしてしまいました。果たしてこれで彼が戦士として好敵手と認めたセイバーと決着を付けることができたかどうか……。


2018/12/13
後書きをちょっと書き換えました、報われてないですね。願いが叶ってない時点で。
感想欄でご指摘があり、書き換えました。言葉を間違えましたね。


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SS17  再始動

今回は、戦闘無し。

会話のみ。


雁夜おじさんの初恋とか、それ以外についてツッコミとか。

あと、桜ちゃんが、親に対してあまり良い感情をもってません、注意。

恋愛観とか、そういうことについては、筆者は経験が無いため、あくまで筆者の考えとか突発的な何かです。ご注意を。


 間桐邸の縁側で、雁夜とツツジは、お互い一メートルほど距離を置いて座っていた。

 二人は、空を見上げてたり、縁側から眺められる、草木を見つめていたりした。

 二人の心に影を落とすこと……、それは、ランサー陣営を救えなかったことだ。

 結局、ツツジの偽善も、雁夜のその偽善への手助けも、意味を成さなかった。

 分かっていたはずであった。この聖杯戦争というものが、どれほどに理想を掲げようとも、結局は血塗られていて、愚かで、欲望にまみれ、多くの悲劇を生み出すのだということを。

「……だから、魔術師は嫌いなんだ…。」

 黙っていた二人だったが、やがて雁夜が独り言を呟いた。

「自分達の研究だとか、理想だとか、願望のためになら、どんなことだってするんだ。そして、そのためなら差し伸べられる手すら振り払う。」

「……大馬鹿者って言われたもんね…。」

「平気で自分の子供すら間引きし、お家のためなら、いかなる残虐な行いすらも平気で行う。そういう奴らだ。」

「…雁夜さんは、間桐の魔術が嫌いだったんだよね?」

「そうだ。そうだよ! 俺は恐ろしくかったんだ! あのジジイが!! 魔術が!!」

 雁夜は、頭を抱え喚いた。

「資格を捨てた、たったそれだけで、ジジイも時臣も! 俺を落伍者だと言いやがった!! だからぶっ殺してやるって決めてたんだ……、決めて…たんだ…。」

 大声で喚いていた雁夜だったが、最後の方は弱々しい呟きに変わっていった。

「なのに……、ツツジ…お前に助けられてから、俺は分からなくなった。ジジイは死んだ。時臣を殴ってやった。……そのせいか、あれほど殺してやりたいって思ってた時臣に対する憎しみの気持ちが薄らいでいるのが分かるんだ。俺は、どうしたらいい? 何を理由に戦えばいいんだ?」

「…まだ時臣さんに、思い知らせてないよ。桜ちゃんの痛みを。」

「それについだが…、実は、あんな目に遭わせるなら殺してやった方がマシなんじゃないかって、慈悲なんだか同情なんか分からん感情があるんだ。」

「なるほど。」

「桜ちゃんが受けたことを思い知らせるのは、確かに殴るよりも、殺すよりももっとも良い方法だと思う。それを後悔しながら死んでくれりゃ…、なんて、以前の俺なら喜んで受け入れただろう。なのに…。」

「時臣さんって、雁夜さんにとって、どういう関係?」

「…間桐が遠坂と盟約を組んでたから、ある意味じゃ幼なじみだ。あと、葵さん…の夫になった男。」

「その葵さんって、雁夜さん、もしかして好きだった?」

「ブッ!」

 ずばり言われ、雁夜は吹き出した。

「だって、桜ちゃんを葵さんのところに帰すって言ってたし、時臣さんへのその感情も、もとを辿れば、葵さんって人にあるんじゃないかって容易に分かるよ。何かしら愛情とかそういうのを葵さんって人からもらいたかった。あわゆくば、旦那さんの座を時臣さんから奪いたかった。違う?」

「そ、そこまでじゃねーよ! 何が嬉しくて間桐の魔術を知らせるなんてこと…。」

「なるほど。間桐の魔術に巻き込みたくなかったら、身を引いたわけだね。で…、あなたは、そういう色恋沙汰が上手くいかなかった腹いせとか、そういう人間味ある感情が時と共に、身を引くきっかけになった魔術…、魔術師、そして魔術師である時臣さんへの憎しみに変わった。ああ、あとジジイって人にも。」

「うぅ…。」

「あなたが、どんな気持ちで身を引いて、その後、どう生きてきたかは分からないし、知らない。赤の他人の私が言うのもなんだけど……、空回りしすぎじゃない?」

「ぐはぁっ!!」

「まあ、それが人間として普通っちゃ普通なんだろうけど。だいたい、そんな特殊な環境で、まともな感性持った人間が耐えられるとは到底考えられないし。」

「……それは、俺が弱いって言いたいのか?」

「それを弱さって言ったら、他の普通の人間が、みーんな弱いって事になるよ。あなたは、恐ろしいことに好きな人を巻き込むくらいならって、ちゃんと考えて行動した。私が言うのもなんだけど、それはよく頑張ったと思う。けど、皮肉なことに、その人の娘さんが、恐ろしいことに巻き込まれてしまった。そのせいで、あなたの中でくすぶっていた、好きだった葵さんへの思いが変な形で再熱してしまった。ある意味で、桜ちゃんを利用して…、葵さんって人に近づこうとしたんだ。」

「……ああ。そうだな…。そうだったのかもな。」

「私は、まだ誰かを好きでいるという経験がないから、あなたの恋に対する思いは分からないし、知らない。……なんて言ったらいいんだろうね。その恋心をうまく捨てられたり、うまく過去の物として昇華できたらよかったのに。けど、たぶん、そういう気持ちって、簡単にはどうこうできないんだろうね。器用とか不器用とかいう以前に。ドラマみたいに、やたらご執心したり、逆にキッパリ諦めたりなんて現実じゃ無理だと思うよ。」

「俺…、11年以上も引きずってんだぜ? ほんと、どうしたらよかったんってんだよ?」

「……そうだ。」

「ん?」

「葵さんって人も、立ち会ってもらおう。」

「はぁぁぁぁぁ!? お前何言ってんの!?」

「蟲蔵で、間桐の魔術がどんなものだったのか、そしてそんなど畜生に愛娘を放り込んだ夫さんの所行を知ってもらう、一番の近道だよ。雁夜さんの言い分から察するに、その葵さんって、人、魔術については全然っぽいしね。桜ちゃんがどうして間桐に行ったのかだって全然分かってないんじゃない?」

「で、でも! でも!」

「よし、決まり。辛いだろうけど、現実を分からせるのも良いことだよ。」

「あの人に余計なトラウマ植え付けるのはぁぁぁぁぁ!!」

「それ、良い考え。」

「桜ちゃん!?」

「あれ? 聞いてた?」

「うん。」

「桜ちゃん、賛成?」

「うん。賛成。」

「そっか…。」

 するとツツジが、頭を抱えている雁夜に近づき、その耳にヒソヒソと話しかけた。

「たぶんね…。桜ちゃんの怒りとか憎しみとかそういう感情……、あなたは考えてなかったかも知れないけど、すっさまじいよ?」

「!?」

「どうする? 昔の恋を優先するか…、今を生きている桜ちゃんの復讐に加担するか。」

「何だ、その究極の選択!?」

「今更、桜ちゃんを捨てるの?」

「いや、それは…。」

「おじさん…。私のこと、嫌い?」

「さ、桜ちゃん…。」

 言葉を詰まらせる雁夜に、桜の顔が僅かに曇った。

「やっぱり…、嫌いなんだね。お父様とお母様のこと嫌いな桜のこと…。」

「桜ちゃん…、そこまで…。」

「私も、魔術師なんて嫌い。だって、痛くて苦しくって、どんなに泣いたって喚いたって、助けてくれないんだもん。」

「……ごめん。ごめんよ、桜ちゃん!」

 雁夜が桜に駆け寄ってその小さな体を抱きしめた。

「ごめん。おじさん、全然桜ちゃんの気持ち…考えてなかったよ。いっつも自分の気持ちばかり優先して…、桜ちゃんを理由に、あの人の気持ちを…。それ以前に、結局こんなことになるなら……。おじさん。酷い人だ。桜ちゃんは、そんな俺の傍にいちゃいけない。」

「ううん。おじさんのせいじゃない。だから…泣かないで。」

 嗚咽を漏らしながら、桜の肩に顔を埋めて震えている雁夜の頭を、桜は撫でた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その後、雁夜は、時間をくれと言って、部屋にこもってしまった。

 

 

「ねえ、ツツジさん。」

「なぁに?」

 夕飯の用意を二人でしながら、会話を交わした。

「ツツジさんは、どうして私達に協力してくれるの?」

「私には、私なりの理由がある。それは詳しくは言わないけど、二人に協力する十分な理由だからだよ。理由の大きさの大小って、結局その人の都合とかそういうことだと思うし。」

「ふーん。そうなんだ。でも、よかった。ツツジさんがいてくれて。」

「そう?」

「だって、おじさんの気持ちとか、どうして聖杯戦争に参加したのか、それが分かったんだもの。」

「…雁夜さんに失望したりした?」

「ううん。…むしろ……。」

 桜はそれ以上は言わなかった。しかし、手元で野菜の皮を剥くピーラーの動きが速くなった。

「頑張ろうね、桜ちゃん。もし、あなたの報復が終わったら……、その先のことをちゃんと考えようね。」

「うん。」

「だって、桜ちゃん。まだこんなにちっちゃくって、しかもメチャクチャ可愛いんだもん。きっと将来、すっごい美人になるだろうし、すべてを受け入れるほどの器のでかい、いい男の人見つかるかもしれないし?」

「桜…、おじさんがいいなぁ。」

「あらぁ…、そう来る?」

 こりゃ帰る気ゼロだなぁ、っとツツジは思ったのだった。




桜→雁夜が、どんどん強くなってきているような?

臓現が死んだとかで圧力がなくなり、蟲蔵にも放り込まれなくなったから、桜は桜で色々と考えるようなりました。結果、自分を間桐にやった親に対してあまり良い感情を抱かなくなってしまいました。また親に選ばれた姉の凜に対しても……。

時臣さん、ちゃんと理由はなさいと、確実に殺されるより恐ろしい目に遭いますよって、状態。


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SS18  苦悩

雁夜と時臣、それぞれの苦悩。それぞれの環境の違いによる、発散の違い。

時臣って、魔術師としてあろうとするあまりに、色々とため込んでそうですね……。
そんな感じで書きました。


 再び、縁側。

 月夜の空を見上げ、雁夜は、ボーッと座り込んでいた。

 呼ばれても部屋から出なかったので、部屋の前にお盆に載った夕食を置いてもらっていて、それを食べた後、桜達が寝入った頃になって、足音を殺して縁側まで来た。

 ツツジに散々、葵に対する未練とか、そういうのをツッコまれ、桜にそのことを知られた。桜を救うなどと誓っておきながら、その本心が結局は初恋の相手の想いを自分に向けさせるためだったということを知られ、けれど許され、思考がまとまらず思わず部屋にこもってしまった。

「俺は…、これからどうしたらいいんだ?」

 まだ桜を葵のもとへ返せていない。だが桜は、帰ることを拒んでいる。そしてなぜか自分と共にいることを望んでいる。

 これでは、葵との約束を反故にしてしまう。かといって、桜の意思を曲げたくはない。

 桜は、もしかしたら、自分の居場所があそこにはないと思っているのかもしれない。痛みと屈辱を負わされたこの間桐の家にいまだに残って自分の傍にいるのも、そのせいなのだろうか?

 また、一方で雁夜は、ツツジから授かった寄生虫バオーの力…、いまだ自力で制御できないが、最近……、少しずつだが普通の状態でも異常が少しずつ表面化しているのを感じている。

 例えば、握りしめたコインをグニャグニャに握りつぶせるほどの怪力。間桐邸の中にある手すりに何気なく手を添えていたら、表面を溶かしていたりもした。

 時と共に、バオーの力は増す。それは、最初の頃、ツツジから聞いていたではないか。だが実感すると、恐ろしくなる。支配された状態で、キャスター(と龍之介)を追い回してたり、衛宮切嗣達を追い詰め殺す寸前まで追い詰めたこと、それらが自力で、自覚した状態で可能になること、それは、あの妖怪と自分が形容していた臓現をも越える怪物になったことを受け入れなければならないということだ。(※綺礼を負傷させたことは聞いてない)

 暴走する理性無きサーヴァント・バーサーカーをも従順にさせているのも、バオーのおかげなのだろうが、その時点でもすでに臓現を越えていたのかもしれない。

 一時は、バオーのこの力を制御できたならと望んだが、いざ制御できるようなり始めると力に対する恐ろしさが増した。

 なんて、臆病なのだ! 結局自分は、落伍者か! 恐ろしい恐ろしい!

 だが、もはや後戻りすら許されない。葵に近づくために桜を理由に、自身の命を捨ててこの聖杯戦争に参じ、望まずしてツツジから与えられた力を受け入れさせられたことで、知らず知らずにあの妖怪のジジイを殺せた時点ですべてが、もう、何もかも手遅れなのだと。

 ライダーに問われたではないか。なんのために戦うのかと。あの時は、ツツジの言葉に乗じて聖杯などどうでもいいと答えた。だがすぐにライダーから桜の心身を清い状態に戻すという願いを叶えるという案があったことを突かれた。そんなことも思いつかなかった己を恥じた!

 そして……、桜が自らすべてを受け入れたうえで生きると宣言したことで、ライダーを納得させた。ずっと年上の自分が、本来加護者でなければならない大人の自分が、幼い少女に救われてしまったのだ!

 結局…、結局自分は…!!

 雁夜は、顔を手で覆って嗚咽を漏らした。

「俺は、結局何も…、できてないじゃないか!! くそったれ!!」

 

「……何も出来ないなんて、ことはないよ。」

 

「っ!?」

 ツツジの声が聞こえたのでそちらを見ると、ツツジが立っていた。

「……誰も責めてないでしょう?」

「けど…、俺は…。」

「あなたは、よくやってると思う。私が言うのもなんだけど、あのキャスターっていうサーヴァントを倒すのに一番貢献したのって、結局雁夜さんだったじゃん。他のサーヴァント達もみんなびっくりしてたでしょ? あなたは、すごいんだよ。」

「俺は…、自分本位の人間だ…。桜ちゃんを助けるなんて言っておきながら…、俺は…本心じゃ…。」

「でも、桜ちゃんは、あなたを責めてない。むしろ、希望をくれた、そして救ってくれたあなたに感謝しているよ?」

「…嘘吐くなよ。」

「嘘じゃないよ。」

「……ハハ…ハハハハ…。」

「雁夜さん?」

「俺は結局桜ちゃんに助けられてばっかりだ! だいの大人がだぜ? 女の子一人助けるどころか、助けられるなんて…、なんて情けねーんだ。」

「人間は…、一人じゃ生きていけないと思うよ。例えそれが、どれだけ年の差があってもね。雁夜さん、あなたは、独りぼっちじゃないよ。」

「お前みたいなガキ(小娘)が知ったようなことを言うな!」

「うん。そうだね。でも言わせて。…あなたは、独りぼっちじゃない。」

「ちくしょう…、ちくしょう、ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう!!」

 雁夜は、頭をかきむしり喚いた。

 しかし、やがて静かになり、俯いた。

「俺は、ただ……情けなくって……。守りたいのに、守ってやりたいのに……。どうして守らなきゃいけない側に助けられてばっかりなんだろうって…。」

「強くてごめんねー。」

「それを言うな、あほぉぉぉぉ!!」

「でも雁夜さん。生きて傍にいてくれるだけで、助けになるって事もあるよ。現に桜ちゃんにとって、あなたが生きて傍にいてくれることが一番の助けになってるんだよ。」

「……そうか。」

「時臣さんに、報復をした後のこと…、これからのこと……、私は、あたなに力と命を与える代わりに、秘密機関ドレスを一緒に潰すことを約束してもらった。それも忘れないでね。」

「分かってるよ。」

 ハアッとため息を吐いた雁夜が顔を上げてヤレヤレといった調子で言った。

「…なんか大声出しまくったら、ちょっとすっきりした気がする。」

「それはよかったね。」

「……ありがとう。ツツジ。」

「ん?」

「君がいてくれて…、よかった。俺一人だったら、耐えられなかったかもしれない。」

「……こちらこそ。ありがとう。」

 ツツジは、そう言って笑顔になった。

 

 二人が笑い合っていると、間桐邸の周囲に、無数の魔力が出現した。

 それにいち早く反応したのは、霊体化していたバーサーカーだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その夜。

 雁夜がツツジと共に会話を交わしていた一方で……。

 時臣もまた別の意味で苦悩していた。こちらは、たった一人で。

 顔が半分へしゃげるほどのパンチ力で雁夜に殴られ、薄れた意識の中で、喚かれた雁夜の言葉を思い返していたのだ。

 

 『何も調べずに……何も分かろうとせずに…、自分の娘を差し出したのか!! てめぇは、ど畜生だ! 父親失格だ!!』。

 

「……なぜ私は…。」

 自分の価値に則って、落伍者だと断じていた、家の盟約相手の家の男。間桐雁夜。

 彼は、魔術師としての資格を捨てたあげく、聖杯に縋るために人ならざる力を手に入れた、最悪の存在ではないかと考えていた……。だが考えれば考えるほどに、心のどこかで、否、だという訴えが聞こえてくる気がした。

 本当にそうなのか? 彼は本当に、聖杯に対して未練がましく縋るために戻ってきたのか? それとも何か別の理由があるのか? そう…、あの時殴られた後に言われたあの言葉の羅列のように…。

 しかしっと、時臣は、首を振った。

 二人の娘…、凜と桜には、最初から、産まれたときから選択の余地がなかったのだ。

 凜は、全元素・五十複合属性。桜は、架空元素・虚数属性。

 どちらも、奇跡に等しい希有な資質を持っていたのだ。

 この両者は、望む望まないにかかわらず、日常の外側…つまり怪異と呼ばれるこの世ならざるモノをところかまわず引き寄せる。そして、それを防ぐには、自らが意図して、そちら側との繋がりを保つ魔道を極めるしかないのだ。

 特に問題だったのは、桜だ。

 桜の持つ資質は、その存在を魔道の家の加護がなければ、魔術協会によってホルマリン漬け確定だった。それほどに珍しい資質だったのだ。

 そんな運命を、骨の髄まで魔術師などと影で揶揄されている時臣であろうが、苦悩しなかったなどといったら、確実に嘘である。

 苦悩の日々の中で、盟約を結ぶ間桐から来た養子の件は、まさに天恵に等しいモノだった。片方の娘を犠牲にせずに、なおかつ一流の魔術の道を極められる。これは願ってもないものだった。

 だから、応じたのだ。

 桜を…、救うために。

 なのに……、雁夜は、そんな時臣の苦悩と喜びを、畜生だと罵った。

 時臣は、知らず知らず歯を食いしばった。

 貴様(雁夜)に何が分かると。

 すでに痛みも後遺症もないが、殴れた箇所が疼く気がした。まるで、雁夜からの呪いのように。

 何が分かるのだと? 自分が何も考えず娘を差し出したと思ったのかあの落伍者は!っという怒りがこみ上げる。だが残念なことに、時臣の不幸は、それをぶつけられる相手がいなかったことだ。赤の他人であろうとも、共有できる相手がいなかったことだ。自らを魔術師として律しすぎるがために、最愛の妻にも娘にも、弟子である綺礼にも、自分のサーヴァントであるアーチャーにも、吐き出すことが出来なかった。

 自室の机で、時臣は、思考の袋小路に入る。

 そうして、自分の中に押し込めて、教え込まれてきた魔術師としてのあり方で己を律して、問題に目を向けない……。

 時臣は、自ら孤独という袋小路に入ってしまっていることに気づかない。

 

 

 その後、どれくらい時間が経ってからだろうか。

 綺礼からの通信で、辛そうな息づかいが聞こえ、そして、綺礼のサーヴァントであったアサシンが全滅したという知らせが入った。




赤の他人でも、吐き出せる相手がいる、いないじゃ全然違うと思って……。

実は、アインツベルンの城にアサシンを差し向けてなかった設定にしました。突発的に思いついた展開です。
そして、間桐邸にアサシンの群れが襲撃。

次回は、戦闘です。


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SS19  怒り

戦闘回。

アサシンの群れと、綺礼との戦闘。

流血、残酷表現注意。


 

 綺礼が時臣に通信をする前。

 時は、少し遡る。

 

「バーサーカー?」

 いきなり実体化したバーサーカーに雁夜が驚いていると、ツツジが叫んだ。

「雁夜さん。何かいる。いっぱいいる!」

「なに!?」

 雁夜が周囲に目を配ると、暗闇から、白い仮面が無数……。

 その数は…、十人? それ以上…、数十人?

「匂いがおかしい。これ…、サーヴァント?」

「さあな! だが、サーヴァントは、一人につき一体のはずだぞ?」

 

「我らは、アサシン。群にして個のサーヴァント。されど、個にして群の影。」

 

「そんなのアリかよ! 何の用だ!?」

「この家に、遠坂の娘がいよう?」

「!?」

「お前の首…。」

「そして、そこな娘の首…。」

「それらを渡せば…。」

「遠坂の娘の命だけは…。」

「取らぬ。」

 無数のサーヴァント、アサシンが口々に言った。

「桜ちゃんをどうする気だ!? 事と次第じゃ、容赦はしない!」

「……交渉は決裂とみた。死ぬがいい。」

「バーサーカー!!」

 アサシン達がそれぞれ武器を手に、襲いかかってきた、バーサーカーが前に出て剣を一振りする。たったそれだけで、数名のアサシンが吹き飛び、体が真っ二つになった。何人かのアサシンは、飛び退きその攻撃を避けた。その素早さに驚かされる。

 すると、バーサーカーは、F15の機関銃を出現させ、弾を発射しながらグルッと体を回転させた。

 魔道兵器と化した近代兵器の弾の嵐が、凄まじい数のアサシン達を撃ち抜く。

 その時、『キャー』っという悲鳴が聞こえた。

「! 桜ちゃん!?」

 ハッとして上を見ると、桜を抱えたアサシンの一人が、屋根から塀の方へ飛ぶのが見えた。

 慌てて走り出そうとした雁夜を、ツツジが手で制した。

「私が行く。雁夜さんは、戦いに専念して。」

「ツツジ!」

「安心して。必ず取り返すから。」

「…無事でいろよ!」

「雁夜さんも。」

 お互いの拳を合せ、そして、ツツジがその体からは想像も出来ないスピードでアサシン達の群れをかいくぐり、高い塀を飛び越えていった。

 それを見送った後、アサシンがクナイのような物を投擲してきた。

 それを雁夜は素手で掴み、止める。

 アサシン達がそれを見て驚く。

「……桜ちゃんに手を出したこと。地獄で後悔しやがれ!」

 それと同時に、バーサーカーの斬撃と銃撃がアサシン達を襲った。

 まるで雁夜の怒りに同調するかのように凄まじく、アサシン達は逃げる間もなく殺されていく。

 あっという間に、庭はアサシンの血の海になった。

「こ、これほどバーサーカーを操ってなお…魔力が尽きんだと!?」

 アサシンの一人が驚愕していた。

 バーサーカーは、使えば使うほどマスターの魔力を食い潰す。それは確かな情報だし、これまでの聖杯戦争での歴史を振り返ればそうなって当たり前なのだ。

「おい!」

「ひぃっ!」

 足を撃ち抜かれて動けないでいたアサシンを捕まえ、仮面を被っている顔をガッと雁夜が掴んだ。

「お前らのマスターの居所を言え…。あぁん?」

「い、言えるわけがないだろう! 我らには我らの…、ぎ、ぎやあああああああああ!!」

「おら、顔全部溶かさないでやるから、ちゃっちゃと吐け。」

 アサシンの一人の顔をジワジワと溶かしながら、尋問をする雁夜は、アサシンの群れに紛れて背後に回り込んできた一人の男に気づかなかった。

「……あ?」

 “匂い”の変化に気づいた雁夜が振り返ったとき、黒鍵の一本が雁夜の片目を貫いた。

 

「この魂に憐れみを……。」

 

 とんでもない速度で振られる無数の黒鍵が、雁夜の首をかき切った。

 大量の血を噴出し、後ろへ倒れる雁夜に追い打ちをかけるように、心臓に無数の黒鍵が突き立てられて、貫通して地面に縫い止められた。

 雁夜が倒された直後には、雁夜に捕まっていたアサシンは、ピクピクと顔を押さえて虫の息だった。

 雁夜を倒した者…、言峰綺礼は、動かなくなった雁夜を見おろし、そして、他のアサシンをすべて殺し終え、自分に襲いかかろうとするバーサーカーの攻撃から身を翻して逃れた。

「うぉぉぉおおおおおおおム…。」

 背後でその声が聞こえて、綺礼は、ハッと雁夜の方を見た。

 

「バル……、バルバル、バルバルバルバルバルバル!!」

 

 起き上がった雁夜から、刺さっている黒鍵が筋肉によって押し出されて抜け、地面に落ちた。

 瞬く間に雁夜がバオー・武装現象を発動し、傷が癒えた。そして、片目に刺さっていた黒鍵を掴んで引き抜き、黒鍵を地面に捨てた。

 綺礼が雁夜のその変化を見て、わずかに目を見開いた直後、ガチャンッと音がした。バーサーカーがF15の機関銃を構えたのだ。

 発射された直後、綺礼は跳躍し、屋根の上に上った。すると雁夜も同じく跳躍していて、綺礼に向けて手を伸ばした。

 綺礼は、その手を素手で弾く。

「っ!」

 すると、綺礼の手が僅かに溶けて焼けた。

「素手で触れるのは…、危険か。」

 瞬時に雁夜の素肌が溶解液にまみれていることに気づいた綺礼は、距離を取る。

 距離を取れば、雁夜が距離を詰める。やがて、間桐邸の屋根の端まで綺礼は追い詰められた。

 その足を下からよじ登ってきたバーサーカーが掴む。それでふらついた直後、雁夜の手が綺礼を掴もうとして……。

 直前に綺礼が蹴り上げた屋根の瓦が雁夜の顎にクリーンヒットし、雁夜が後ろにのけぞった。それによって完全に体制を崩した綺礼が、バーサーカーと共に、下に落ちた。

 バーサーカーの手がいまだに綺礼の足を掴んでいたが、掴まれたまま器用に体を回転させた綺礼は、バーサーカーの頭に一撃入れた。

 綺礼の凄まじい打撃は、サーヴァントにも通用する。

 鎧の上から頭を揺さぶられ、バーサーカーは、綺礼から手を離した。

 雁夜が脳しんとうから回復し、屋根から飛び降りてくる。

 綺礼は、振り下ろされてきた腕の刃を転がって避け、地面に刺さっている黒鍵と、転がっている黒鍵を拾った。

「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 咆吼と共に、雁夜の体が放電を始めた。

 綺礼は、雁夜の周囲に黒鍵を投擲して地面に刺した。

 すると放電が黒鍵に吸われるように散る。

 一本の黒鍵を残していた綺礼が、放電のために集中していた雁夜に接近し、その顔を…、目を…、脳を狙った。

 

「やらせないよ。」

 

 雁夜の目を黒鍵が貫こうとした直後、綺礼の横からツツジが跳び蹴りがして、綺礼が吹っ飛び、間桐邸の塀に突っ込んだ。

 ツツジは、脇に桜を抱えていた。

「おじさん!」

 ツツジに地面に下ろしてもらった桜が、雁夜に駆け寄った。

 ガラガラと崩れる間桐邸の塀から、綺礼が起き上がった。

 蹴られた脇を押さえ、ゴホッと血を吐いた。折れた肋骨が肺を刺したのだ。

 雁夜が咆吼をあげる。強さを増した放電が周りで避雷針の役割を果たしていた黒鍵を吹っ飛ばす。

 ツツジが慌てて桜を抱えて逃れ、その直後、雁夜は、バオー・ブレイク・ダーク・サンダーを綺礼に放った。

 魔力により威力を増した莫大な電量による爆発が起こり、塀がえぐれた。

 もうもうと上がる土埃が晴れたときには、綺礼の姿はなかった。

「……倒したの?」

「ううん…。逃げた。」

 抱えていた桜を下ろしながら、ツツジは、首を横に振った。

 綺礼を追おうとしてか、雁夜が動こうとしたので、ツツジが雁夜に向けて片手をかざした。

 すると、ビクンッと雁夜が震え、みるみるうちに元の姿に戻った。

「…う…うぅ…。俺は…、ツツジ?」

「おじさん…。」

「桜ちゃん! よかった…。どこも怪我はない? だいじょうぶか?」

「うん。だいじょうぶ。おじさん…、血がいっぱい…。」

 駆け寄ってきた桜を抱きしめ無事を確認してから、離すと、桜は、雁夜の服の破れ具合と出血の跡を見て心配した。

「おじさんは、だいじょうぶだよ。ツツジ…。」

「桜ちゃんを攫ったアサシンだけど……、あれでちゃん死んだのかな? 一応念入りに首を切り落としておいたけど。」

「おまえ! エグいことするなぁ!? その場に桜ちゃんいただろうが!」

「えっ? ダメだった?」

「いや…、サーヴァントは、首と心臓が弱点なんだ。潰した箇所としては適切だ…。けど、もうちょっとやりようがあっただろうし、桜ちゃんがいるところでやるなよ…」

「だって…、桜ちゃんから目を離したら、また攫われるかもしれなかったし…。ごめん。」

「ツツジさん、すっごく強かったんだよ。」

「そうか……。サーヴァント相手に五体満足でいられるんだから、ホントすごいな。」

「…どうも。」

「ともかく…、桜ちゃんを助けてくれてありがとう、ツツジ。」

「どういたしまして。」

 雁夜の近くに来たツツジは、雁夜と拳を合せ、お互いに微笑んだ。




バオーに支配されているため、桜が傍にいても電撃を止めなかったんです。それよりも綺礼の不快な匂いを消すことを優先しました。

なんか戦友っぽくなってきた、雁夜とツツジの関係。
実は、今朝ぐらいにツツジとの関係を恋愛まで進めようかという案が浮かびましたが、それは無い!って思い直して、戦友にしました。
書いて思ったけど、やっぱり恋愛にしなくてよかった…って思いました。
綺礼は、電撃食らいましたが、前回の最後で通信しているように、ちゃんと生きてます。


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SS20  盗聴?

今回は、平和(?)回。いや、不穏か…。

時臣と綺礼の会話。

時臣が他の陣営に対談を持ちかけたのを、盗聴(?)しているツツジと桜の話。


 

 綺礼は、目を覚ました。

「気がついたか?」

「…はい。」

 体中を包帯で巻かれた状態でベットに寝かされた綺礼が、ベットの傍らで自分を見おろしてる時臣に答えた。

「なぜ、アサシンを使った…?」

 時臣は、ベットの傍に置いてある椅子に座りながら聞いた。

「死徒…のような存在と化しているバーサーカーのマスター…、間桐雁夜のサーヴァント・バーサーカーへの足止めのためです。」

「だが、その結果はどうだ?」

「……申し訳ありません。」

「謝罪など必要ない。私が言いたいのは、そこまでして、なお、なぜ雁夜を殺せなかった?」

「……申し訳ありません。通常の死徒ならば、首をかき切り、多くの血を失わせ、心の臓を潰せば死ぬので、そうしたのですが、どうやら心の臓を潰したところで死なず、脳を潰さねば死なないということに気づくのが遅れました。」

「そこまで気づいていてなぜ失敗した?」

「あの者…、雁夜という男には、協力者がいます。肋骨と肺の傷は、その者にやられました。」

「その者とやらも、死徒か?」

「分かりません。しかし、アサシンの一人を無傷で倒し、殺すほどの実力は持ち合わせているようです。」

「魔術師か? それとも君と同じか?」

「それは、まだ分かりません。」

「ふむ……。」

 時臣は、顎に手を当て、考え込んだ。

 あの落伍者の雁夜に好き好んで協力するようなお人好しがいるのか?っという疑問が浮かぶが、そういえば、雁夜に殴られた時に、自分を気絶させた少年っぽい少女がいたではないか。おそらく綺礼に一撃を与えたのも、アサシンの一人を殺したのも、あの少女なのだろう。それほどの力が、あの十代半ばくらいの少女に備わっているとは到底思えない。

 その時、ふと脳裏を過ぎったのは、桜の顔だった。

 そんな怪物達の巣窟に、自分の愛娘を託しておくわけにはいかない。

 そして何より、間桐の当主の影がまったくないのも気になる。

 まさか…っと、時臣は思った。しかし雁夜が殺したとは思えなかったが、その時点で人じゃない力を手にしていたなら可能ではないかとも思った。

 もしそうならば、間桐に娘の桜をやっておく理由はない。

 魔術の道を捨てた雁夜が、桜を導くことなどできるはずがないのだから。

 しかし…っと、わずかなためらいが起こった。

 あの時、雁夜に殴られた後、見た桜の自分に向ける目が……。そしてまるで雁夜しかこの世で頼れる者はいないのだと言わんばかりの雁夜への寄り添い方も、かつて遠坂にいた頃からは想像も出来ない変わりようだった。

 桜の髪は、元々凜と同じ黒髪だったはずだ。あの時見た桜の髪は…、紫色になっていた。もしかしたら間桐の魔術の影響かもしれないが、それは置いておこう。問題なのは、例え遠坂に連れ戻したとて、桜が魔術の道をきちんと歩んでくれるかどうかだ。その身を守るためにはどうやっても避けられないのだから、なんとかして魔術の道を歩ませなければならない。。

 ならば、自分が取るべき道は、ひとつ。

「綺礼。私は、アインツベルンに書状を送ろうと思う。」

「…つまり同盟を?」

「ランサーも潰え、バーサーカーと拮抗しうるサーヴァントを有するのは、そこだけだろう。ライダーは……、宝具の力がどの程度かによるが、おそらくは動かぬだろう。」

「……アーチャーにはこの件を?」

「一応は伝える。どう動くかは様子見だ。」

 アーチャーは、だんまりを決め込んでおり、キャスターとの最終決戦でも動かなかった。そのため、時臣は令呪をもってキャスターの巨大海魔を討たせようともしたが、それでは彼との絆を潰えさせると我慢した。喉の傷はすでに完治しているのだが……。

 そうして時臣は、早速と、部屋を出て行き、自分の研究室で、書状を書き、使い魔である翡翠の鳥に送らせた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 朝ごはんを食べ終え、部屋で座り込み、瞑想をするように目を閉じているツツジの傍らに桜が座っていた。

 桜が読んでいるのは、間桐に置かれていた魔術書だ。

 ほとんどは分からないし、かつて父だった男の研究室にあった本を、姉の凜と一緒になって盗んで一緒になって解読していたことを思い出しながら、少しずつ読み進めていた。

「……桜ちゃん。それ読んでて分かるの?」

「…ちょっとだけ。」

 ふいにツツジから聞かれ、桜は答えた。

「私達、魔術に関しては素人だから、桜ちゃんに頼りきりでごめんね。」

「そんなことないよ。桜、頼ってもらって嬉しいよ?」

「そっか。」

 そして会話が途切れる。

 時々、パラ…、パラ…っと、時々桜が魔術書のページをめくる音が聞こえる。

「……あぁ…。」

「どうしたの?」

「桜ちゃんのお父さんが困っている匂いがする。」

「ふーん…。」

「興味ない?」

「どっちでも…。」

「そっか。」

 そしてまた会話が途切れる。

 しばらくして。

「……断られちゃって、困ってるみたい。」

「ふーん。」

「雁夜さん、なんだかんだで恩を売ってるから、そういうのを重んじる人には裏切れないんじゃないかな?」

「そうなんだ。」

「どうも…、他のサーヴァント持ってる人に頼んで、一緒にここに攻め込もうって話みたいだね。」

「えっ?」

「……なんか勘違いされてるのかも。桜ちゃんが怪物のお家に監禁されてるって。」

「……。」

「それで、桜ちゃんを取り返すのを手伝ってくれって頼もうとして、他の人に断られてるみたい。」

「…あの人…何考えてるんだろう?」

「興味出た?」

「ううん…。でも勘違いされてるのも、嘘言われてるのもヤダ…。」

「嘘は言ってないけど、本当のことでもないからね。時臣って人、たぶん分かってない。桜ちゃんが自分の意思でここにいるのに。」

「……ツツジさん。」

「なに?」

「私…、おじさんと離れたくない。」

「…そっか。じゃあ、私、頑張らないとね。二人が離ればなれにならないように。」

 目を開けたツツジが、桜の頭を撫でた。




時臣について無関心気味の桜ちゃんです。

詳しい内容は不明だけど、時臣が、他の陣営(セイバー陣営)に桜救出のために雁夜を殺すことを持ちかけたらセイバーから恩があるから断られたのを、ツツジが匂いで感じ取っています。
けど、苦悩の末に託した娘が怪物が住む家に監禁されている(※勘違い)と聞いて、セイバー達ならたぶん食いつくとは思いますが、雁夜がそんなことをする悪人だとは思えないので、どうするかは悩むと思います。
ライダー陣営は、言わずもがな。一応休戦することを約束しているから。


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SS21  失策

雁夜と時臣の心境状況が、逆転しているというのを書きたかったんですが……、ただ時臣のキャラが崩壊しただけになりました。

なので注意。

2018/12/17 20:22
※感想でセイバーの言葉に誤りがあったので、一部修正。


 時臣は、家訓である優雅さを一瞬忘れ、動揺した。

「な…なぜだ?」

「申し訳ないが、彼には恩があるので、討ち滅ぼす協力は出来ない。」

 セイバーが心底申し訳なさそうに、言った。

「私も、同様です。」

 アイリスフィールが言った。

「なぜだ!」

 たまらず時臣が声を荒げた。

「君らとてすでに知っているだろう! あの醜悪な力を持つ者を! この聖杯戦争にあんなモノは、不必要だということを!」

「それならば、私とて同じになりますわ。」

「な…、そうか…、ホムンクルス…か。」

「そうです。私は、アイツンベルンが創造せし、人の形をした異形なのです。生まれながらに人ですらない私と、後から人じゃなくなった間桐雁夜と、何が違うのです?」

「こうは言っては何だが。遠坂の当主よ。あなたは、まるで彼が“悪”でなければ、落ち着かないように見える。」

「私は…、ただ娘を…。」

 セイバーにそう言われ、時臣は、僅かに目を泳がせた。

「私には、彼がそのようなことをする悪人だとは到底思えないのです。あなたの娘を、当主を失った家に監禁しておくなど。」

 セイバーは、キッパリと、雁夜は“悪”ではないと断じた。

「そもそも、あなたの話では、あなたはその娘・桜を間桐に養子に出したのでしょう? なぜ今になって連れ戻すと?」

「それは…、雁夜では、あの子を導くなど出来ないからだ。」

「なぜ、そう言えるのです。」

「娘の身の上については黙秘させてもらう。他言できないのでな。」

「なるほど、魔術師としての魔術の秘法の機密ですね。」

「申し訳ない…。だが、あの子を守るためには、なんとしてでも雁夜から取り返さなければならないのです。」

「そして…、今度はどこへ養子に出すおつもりで?」

「それは…、まだ…。」

「なら、もしも、その桜というあなたの娘があなたの元へ帰ることを拒んだらどうするのです?」

「なっ…。馬鹿な? そんなことが…。」

「一度は、余所の家に送り出しているのですよ? 自分がいらない子だと、その子が思わないとでも?」

「っ…。」

 アイリスフィールにずばり言われ、時臣は、言葉を詰まらせた。

 その瞬間、脳裏を過ぎったのは、自分に向けられた桜の冷たい目だった。到底、十にもならない子供が出来ような目じゃない、あの目だ。

 そこで時臣は、ハタッと思いついた。

「もしかしたら、桜は暗示をかけられている可能性がある。」

「なぜそう言い切れると?」

「そうでなければ、あそこまで雁夜に懐くのはおかしい。……確かに以前から雁夜とは、妻が親しかったが…。」

「ですが、仮にも始まりの御三家の血筋でしょう? 暗示に対する抵抗力はあるはずよ?」

「あの子には、まだ魔術とはなんたるか…、そういう基礎を何も教えていないのです。」

「まあ…。」

 アイリスフィールの問いに、時臣は少し苦しそうに答えた。

「それなら、まだ可能性は…無くはないかもしれないけれど…。」

「アイリスフィール!」

「分かってるわよ。セイバー。」

 声を上げるセイバーを、アイリスフィールが制した。

「遠坂の当主。…間桐雁夜との会話の場を設けるということはしないのですか?」

「……人ならざるモノに、話し合いの余地などない。」

「ならば、私とこうして話し合うこと自体、意味はありませんわ。帰りましょう、セイバー。」

「はい。」

「ま、待ってくれ!」

「私は…、アイリスフィール・フォン・アインツベルンとして、そして一人の娘の母として言わせて頂きますが…、あなたは本当に自分の娘の現状を憂いているのですか?」

「なっ…!」

「単にあなたが怖がっているだけなのではないですか? 間桐雁夜という存在に…。」

「馬鹿な! 私が…、あのような落伍者になど…。」

「そうして彼を見下し、そうして恐れて、同じ共感を得られる仲間が欲しかった。違いますか? ライダーではなく、私達に話を持ちかけたのも、そのためではありませんか? あなたが魔術師として己を律する態度を悪いとは思いませんが、今一度……考えてはどう?」

「では、あなた方は恐れないというのか? 間桐雁夜という存在を!」

「ええ。まだ、得体が知れないとは思いますが、そこに恐れはありませんわ。」

「私も同様です。」

「っ…、もし…、もしあの人ならざるモノの力が、一般の人間に向けられたとは考えないのか?」

「彼は、その力を力無き者達に向けるような外道ではないと、私は考えています。」

 苦し紛れに出した可能性について、キッパリと言うセイバーに、時臣は今度こそ言葉を失った。

「確かに、何度も彼のサーヴァントであるバーサーカーに阻まれたりもしましたが…。私は、アインツベルンの領地の森で見た間桐雁夜という人間からはそのような外道な行いをする気配は感じなかったのです。そして、彼はバーサーカーを見事制御し、キャスターが召喚した巨大な海魔を打ち倒す大きな痛手を負わせました。キャスターの討伐においての実際の大きな功労者は間違いなく、間桐雁夜とバーサーカーでした。そのように、正しきことに力を振るう者を、なぜなじることができるのです?」

「お話は以上ですわね。では、失礼します。」

 アイリスフィールが椅子から立ち上がって、セイバーと共に去って行った。

 残された時臣は、二人が去った後、目の前の机を両手の拳で叩いて、ワナワナと震えた。

「……なぜだ…、なぜなのだ! なぜ雁夜を…あの落伍者をなぜ! 人にも劣る狗が! 私は間違っていない! 間違っていないのだ! 私は、私は私は私は私は私は私はぁあぁあああああああああああああ!!」

 一度せき止めを失い、流れ出た激情は、止められず、たった一人の対談の場に空しく響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

「こういうのって…、ざまぁって、やつ?」

「……ちょっと前の俺なら、泣いて喜んだだろうな。」

 昼食中に、ざっくりとだが、ツツジから、時臣の失策の過程を聞かされた雁夜は、どう反応したいいか分からず半笑いだった。

「今は?」

「…なんか微妙な気分。心が晴れるでもないし、胸くそ悪いとも違う。」

「おじさん。お代わりいる?」

「あ、お願いするよ。」

「最近、食欲増したね。」

「ああ、なんか異様に腹が減るんだ…。まさかこれもバオーの影響か?」

「うーん。膨大なエネルギーを消耗するって意味じゃ、栄養分が必要だけど、もしかしたらバーサーカーとの繋がりで消耗してるからじゃないかな? ご飯食べて回復できるなら、健康になってる証だよ。」

「はい。おじさん。」

「ありがとう、桜ちゃん。」

 受け取った茶碗のご飯を、雁夜はガツガツと食べた。

「食欲旺盛なのはいいけど、そろそろ冷蔵庫が空になりそうだから、買い出しに行かなきゃ。」

「この近所じゃ商店がないからな…。」

 間桐の影響かは不明だが、近所にはそういう商店は存在しない。ちょっと遠くに行かないといけない。

「ご飯の後で、買い出しに行ってくるよ。桜ちゃんも一緒に。」

「待てよ。俺も行くぞ。荷物持ちぐらいする。」

「雁夜さん、他の魔術師に狙われてるんだから、隠れてた方が良いよ。またアサシンみたいなのが来ても困るし。」

「あの夜全滅させただろ?」

「もしも…のことがあったら、それじゃあ手遅れなの。だから、ごめんね。」

「ちぇ…。」

「お金は?」

「あっ。」

 桜の一言で、二人は声を揃えた。

「……ジジイの懐の金使おう。」

「どこにあるのか知ってるの?」

「……悪い…。」

「桜、知ってるよ。」

「桜ちゃん、ナイス!」

 二人は揃って桜に親指を立てた。

 

 その後。

「じゃあ、いってきまーす。気をつけて。」

「そっちこそ、桜ちゃんを守れよ。」

「分かってるって。」

 雁夜に見送られ、ツツジは桜と共に買い出しに行ったのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 二時間後……。

「ふう、これだけあれば十分だよね。」

「桜、喉渇いた…。」

「じゃあ、そこのフルーツ屋さんで買おうか?」

「うん。」

 二人は、スムージーを売っている果物屋でジュースを買った。

 そしてカップに刺さったストローからチューチュー吸っていると(結構吸う力いる)……。

 

「おい、そこな小娘共。」

 

「……誰のことだろうねぇ? 桜ちゃん。」

「分かんない。」

「貴様らだ、貴様ら! 我が直々に声をかけたというのになんだその態度は!」

「……逃げようか。」

「うん。」

「こら、逃げるな!!」

 ツツジが桜を抱き上げ、買い物袋を全て腕にぶら下げて、猛ダッシュ。

 その後ろを、金ぴか鎧ではなく、私服姿のアーチャーが追いかけた。

 そしてしばらく走って、誰もいない寂れた公園に二人が入って立ち止まった。

 ツツジは、桜を下ろし、公園の端にあるベンチに買い物袋を置いてから、ゼーハーゼーハーっと、息を切らしているアーチャーに向き直った。

「サーヴァントなのに、体力無いんだね。」

「やかましい! 時臣の馬鹿者が我への魔力供給を制限しているせいだ!!」

「この間、食い潰しかけたから?」

「……まあ、いい。雑種共、いや一方はアレと同じ“ゲテモノ”か。……アレよりも醜悪のようだがな。」

「失礼な人。」

「失礼なサーヴァント。」

「黙れ。しかし、アレと狂犬はどうした? まさか怖じ気づいて、あの邸にこもっているのか?」

「ううん。違う。私がお留守番を頼んだだけ。」

 速攻で返されアーチャーは、一瞬言葉に詰まった。

 だがすぐに息を整え、キリッと表情を整えて偉そうに腕組みした。

 普通の人間なら笑えるところだが、アーチャーほどの美しい存在ならば、なぜか絵になる。しかし、ツツジと桜は興味が無かった。

「今すぐに、アレと狂犬を呼ぶがいい。」

「雁夜さんとバーサーカーを? どうして?」

「さもなくば、貴様らの首をあの邸の門に飾ることとなろう。そうなりたくなければ、大人し…、ゲフッ!!」

「わー、ツツジさん、つよーい。」

 アーチャーがすべてを言い切る前に、距離を詰めたツツジによる、真空飛び膝蹴りがアーチャーの顎にクリーンヒットした。

「き、貴様…小娘! 王たる我にこのようなことを!」

「あー、さすが英霊。頑丈。」

「なっ、グッ、ガハッ、グワっ! やめんかーーーー!!」

 アーチャーは、自身の自慢の宝具を発動する前に、ツツジに散々殴られ蹴られ、それは最後にアーチャーが魔力解放を行ってツツジを吹っ飛ばすまで続いた。

 ツツジは、吹っ飛んだが、宙で回転して体制を整えて地面に着地した。

「ようするに…、この間、雁夜さんに負けたから、挽回するためにもう一回勝負したいってことでしょう?」

「黙らんか、ゲテモノ小娘!! その口を引き裂いてくれるわ!」

 アーチャーが王の財宝を展開し、ツツジに投擲した。

 しかし無数の武器の群れを、ツツジは軽々と避けた。

「ゲテモノが! ちょこまかと!」

「適当に投げてちゃ当らないよ。」

 ツツジは、そう言いながら、ヒョイヒョイと余裕で全ての攻撃を避けた。

 やがて、攻撃が止まった。見ると、アーチャーの姿が消えかけていた。

「チィっ! 真(まこと)につまらん男よ! 時臣め!!」

「じゃあね。サーヴァントさん。」

「我は、アーチャーぞ!!」

 ヒラヒラと手を振るツツジと桜に、カッとなったアーチャーが叫んだ。

「じゃあ、アーチャーさん。このことは、ちゃんと雁夜さんに伝えておくから、準備が出来たら家に来るといいよ。」

「うるさ……。」

 アーチャーは、最後まで言えないまま、霊体となって消えた。

 アーチャーが消えたのをしっかりと見届けてから。

「じゃあ、帰ろうか。」

「うん。」

 二人は買い物袋をもって、間桐邸に帰ったのだった。




セイバーが雁夜のことを評価しすぎているかな?

時臣は、最後にあんな最後を迎える前に、一回、自分が落伍者だと断じた相手に負けたらどうなんだ?って感じで書きました。
何事も優雅にな時臣はログアウトしました……。はい。

ツツジにボコボコにされたアーチャーですが、ツツジにもしも魔術回路があったなら、殴り殺されてたと思います。


2018/12/17 20:23
※感想でのご指摘ありがとうございます。言葉って難しいですね…。
人格者を、外道に変えました。


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SS22  正体

バーサーカーの正体が明らかに。
でもあんまり意味ないか?

雁夜おじさんが元気すぎて、序盤ちょっと空回りしてます。


 

 雁夜は、その場にしゃがみ込んで、頭を抱えていた。

「おまえな……。」

「なに? 何か問題あったかな?」

「問題ありだ、馬鹿!」

 急に立ち上がった雁夜が、冷蔵庫に食品を詰めているツツジに向けて叫ぶ。

「実質、アーチャーとの決闘を約束したようなもんだろうが! なんでそんなことしやがる!」

「ああでも言わないと、ずっとつけられそうだし、私と桜ちゃんの首を門に飾られるよりは……。」

「よし。アーチャー。殺す。」

「切り替え、早いね。」

 っというわけで、雁夜は、アーチャーへの殺意を固めたのだった。

「おじさん…、戦いに行くの?」

「だいじょうぶだ、桜ちゃん。ちゃんと帰ってくるから。」

 トトトッと近寄ってきた桜に目線を合わせ、雁夜が微笑んだ。

 桜は、俯き、キュッと雁夜の服を掴んだ。

 雁夜は、その手をやんわりと離させ、立ち上がった。

「じゃあ、ちょっと行ってくる。」

「今日の夕飯。カレーだから。」

「おまえは、マイペースだな。ツツジぃ…。」

「無事に帰ってきたら、トンカツ乗せるよ。」

「そういうのは、食わせてからにしろ。」

 などと軽口を言い合いながら、お互いに笑い合い、雁夜は、ツツジと桜に見送られて出発した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 さて、出発したはいいが、雁夜にアーチャーの居場所が分かるわけもない。

 なので、バオーの能力である、“匂い”を探知する能力を使うことにした。

 すると、近場にサーヴァントらしき匂いがいるが分かった。

「近いぞ! バーサーカー!」

 かなり近距離だったため、バーサーカーを実体化させ、雁夜は走った。

 そして曲がり角で歩いてくる人影二つを見つけ、一息吸って叫んだ。

「来たな、アーチャー! 俺に喧嘩を売ったことを後悔……って…。」

 しかし、雁夜の口上は最後まで続かなかった。

 

 曲がり角から現れたのは、セイバーとアイリスフィールだったのだ。

 

 お互いに、お互いの姿を見て、固まったが、その空気をぶっ壊したのは、バーサーカーだった。

 バーサーカーは、セイバーを認識するや否や、襲いかかった。

「バーサーカー、よせ! 止まれ!」

「ーーーーーっ!!」

 セイバーの眼前でバーサーカーは止まった。

 そして後ろから雁夜が、兜に付いている毛を引っ張ってセイバーから引き離した。

 ハーッと息を吐いた雁夜だったが、すぐにセイバーとアイリスフィールの視線に気づき、赤面した。

「さ…、さっきのは忘れてくれ……。」

 顔を両手で押さえて背中を向ける雁夜であった。

 セイバーとアイリスフィールは、お互いに顔を見合わせてから雁夜を見た。

「いきなりですまないが、話をしませんか? 私達はそのために来ました。」

「はっ?」

 顔をあげた雁夜は、キョトンッとした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その後、間桐邸から離れた場所にある公園に来た。

「間桐の家でも構いませんのに…。」

「いや…、ついさっき行ってきますって言ったばっかりだったから…。」

 出発したばかりですぐに帰るのが気まずかったので、雁夜がそうしたのだ。

「で? 話ってなんだ?」

「単刀直入に聞くわ。あなた…、桜という女の子を匿っているわね?」

「…それが、なにか?」

「今日、遠坂から同盟を求められたわ。」

「知ってる。」

「あら? 盗聴でもしてたの?」

「いや…、家にすごい地獄耳がいて…、そいつから大体のことは聞いた。」

「バーサーカーのマスター。あなたは、桜という娘を監禁しているわけではないのですね?」

「そんなことするわけがないだろ。」

 セイバーの問いに、雁夜は心外だと言わんばかりに答えた。

「桜ちゃんは、帰りたがってないんだ。何を今更……。」

「まったくもってその通りね。」

「はあ?」

「遠坂の当主は、桜という子を連れ戻すつもりよ。あなたを殺してでも……。」

 アイリスフィールは、ヤレヤレという調子で言った。

「時臣が何を考えているのか分からないし、分かりたくもないが、桜ちゃんを渡す気はないぞ。」

「私達は、その子を連れて行くつもりはないわ。」

 僅かに身構える雁夜にアイリスフィールが安心してくれという意味で言った。

「ただ、あなたと話をしたかっただけです。バーサーカーのマスターたる、間桐雁夜。」

「…はあ。」

「それともう二つ……。」

「なんだ?」

「一つ目、あなたは、この聖杯戦争において、何を願うのかしら?」

「それは……。」

 それは、ライダーからも問われたことだ。

 だが、今の雁夜は、ライダーと対談した時よりも意思はハッキリしていた。

「何もない。」

「まあっ。」

 アイリスフィールが意外だと声を漏らした。セイバーも驚いて目を僅かに見開いている。

「俺は、時臣に聞かなきゃならないことがある。そして、桜ちゃんが、時臣に対して報復を望んでいる。俺は、その助けをするだけだ。聖杯の取り合いは、あんた達だけで勝手にしてくれ。」

「……それで、本当にいいの?」

「構わない。俺達は、俺達の戦いをして、時臣を引っ張り出すだけだ。それが終われば、俺はこの戦争から降りる。」

「なるほど。分かったわ。じゃあ、最後にひとつ……。あなたは、バーサーカーの真名を知っているかしら?」

「…いや。俺は知らない。バーサーカーは、見ての通り、狂化で言語がほとんど喋れないんだ。だから真名はおろか、他のことだって分からないんだ。」

「初めの戦いの時からずっと気になってたのよ…。どうしてセイバーを見た瞬間、急にセイバーだけを狙ったのかを。」

「それは、俺にも分からない。……さっきから、セイバーを見て襲いかかりそうな状態だしな。」

 雁夜は隣にいるバーサーカーが、プルプルプルと震えて命令通り止まっているのを見た。

「……バーサーカーのマスター。私から頼みがあります。」

「なんだ?」

「バーサーカーと戦わせてくれますか?」

「はあ!?」

「セイバー? 何を言っているの?」

「バーサーカーの、憎悪と殺意でまみれたこの魔力…、これは私に向けられているモノです。だから、確かめたい。そして、なぜこれほどに憎しみを私に向けるのか、憎しみに囚われているのか知りたい。」

「……間桐雁夜。騎士王の頼み。聞いて頂けますか?」

「………分かった。けど、ここじゃマズい。場所を変える。」

「分かったわ。行きましょう、セイバー。」

「はい。」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 そして、雁夜は、間桐邸に二人を連れて帰ってきた。

「おかえりー、雁夜さん。あれ? お客さん?」

「雁夜おじさん、おかえりなさい。」

「ただいま……。ちょっと離れの庭の方で、一戦するから、近づくなよ。」

「ん? もしかして……。」

「ちょっとな…。」

「ところで、バーサーカーのマスター。」

「なんだ?」

「この…良い匂いはなんですか? 腹の底に響く…。」

「? カレーの匂いだけど…?」

「カレー…、なんとも魅惑な響きを感じます。」

「あ、じゃあ、戦いが終わったら、一緒に食べます?」

「おおい、ツツジぃぃ…。」

「まあ、いいのかしら? 急に押しかけたのに…。」

「たくさん作ってるから、だいじょうぶ。」

「まあ、そうなの? ありがとう。セイバー、聞いたでしょ?」

 桜と目線を合わせたアイリスフィールが、セイバーの方に顔を向けて言った。

「ええ…。では、速やかに用事を終わらせ、カレーを食しましょう!」

「なんか、目的変わってないか!?」

 カレーという魅惑の存在に期待を膨らませている様子のセイバーに、雁夜はたまらずツッコミを入れたのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 そして、決闘をする場所を、アーチャーによっておあちこち破壊された部分の庭にした。

「ずいぶんと、荒れてますね…。」

「アーチャーにやられたんだ。」

「アーチャーが?」

「いきなり襲撃してきたんだ。おかげで、家も一部壊された。」

 雁夜は、壊された間桐邸の部分を指差した。

「色々とあったようですね……。では、始めてもいいですか?」

「ああ。バーサーカー! 戦っても良いぞ。」

 その瞬間、バーサーカーがすぐに動いた。

 セイバーが手にする剣と、バーサーカーが手にする剣がぶつかる。

 そして両者の凄まじい剣戟がぶつかり合う。

 それは、まさに英霊達にしかできない、この世ならざる戦いの光景だった。

 剣戟の最中、バーサーカーが体を回転させた間際にF15の機関銃を出現させた。

 セイバーは、そのスピードで、放たれてる機関銃の弾を避け、身を低くし、F15の機関銃を手にするために防御が疎かになったバーサーカーの頭部めがけて、剣を振った。

 バーサーカーが後ろにのけぞり、剣を避けようとしたが、避けきれず頭を覆う兜に接触した。

 ピシリッと、バーサーカーの兜に亀裂が入った。

 バーサーカーは、F15の機関銃を捨て、その辺に落ちていた瓦礫の棒を拾った。瞬間、ただの瓦礫の棒に過ぎなかった物が、魔力を帯び、宝具となる。

 二刀流となったバーサーカーが凄まじい攻撃をセイバーに繰り出した。

 セイバーは、それを両手で握った一振りの剣で迎え撃つ。

「その武練…、さぞや名のある騎士と見込んで問わせてもらう!」

 お互いにいったん距離を取った瞬間、セイバーが声をあげた。

「この私をブリテン王アルトリア・ペンドラゴンと弁えた上で、挑むのなら、騎士たるものの誇りをもって、その来歴を明かすがいい! 素性を据えてまま挑みかかるは、騙し討ちに等しいぞ!」

「ーーーーっ!! ぁぁあ……。」

「バーサーカーが…。」

 セイバーの口上に反応したのか、バーサーカーが声を漏らした。

 すると、バーサーカーは、剣の柄で自らの鎧の兜を砕いた。

 

 そして現れるのは、長い黒髪。

 凄まじい美貌。

 しかしその美貌は、いまや、憎しみと殺意によりやつれ果てている。呪詛の果てに全てを失った、まさに生きる亡者の顔だった。

 

 その顔を見て、セイバーは、剣を落としかけた。

「貴方は……、そんな…!」

「セイバー?」

「そんなにも、貴方は……。」

 震え、崩れ落ちそうになる膝を叱咤して立ち上がる。

「そんなにも私が憎かったのか! 朋友(とも)よ……、そんな姿になり果ててまで! そうまでして私を恨むのか、サー・ランスロット!!」

 

 バーサーカーの正体…それは、湖の騎士にして、裏切りの円卓の騎士、ランスロットだった。

 

「ランスロット!?」

 雁夜とアイリスフィールの声が重なった。

 それなら合点がいく。アーサー王たるセイバーに執着していたのも。

「ぁぁぁああ、さぁぁあ……。」

 狂化により狂い、そして抱えている怨嗟によって濁った声が、セイバーの名を呼ぶ。

 ビクリッと震えたセイバーは、棒立ちになった。

「セイバー? セイバー!? しっかりして!」

「バーサーカー、やめろ! 止まれ!」

「ぐぅぅぅ…。あぁぁあ、さぁぁああ…。」

 棒立ちになっているセイバーに向けて剣を振ろうとしたバーサーカーが、雁夜に命じられてすんでの所で止まった。

「うぅ…うううう!」

「セイバー…。」

 剣を握る手をダラリとさせ、地面に膝をつくセイバーの呻きに、アイリスフィールは心配そうに声を漏らした。

 そして、まるでセイバーの涙の代わりのように、ポツポツと雨が降ってきた。

「……決闘は中止だ。バーサーカー、霊体化してろ。…家に入ろう。」

「ええ。セイバー…、行きましょう。」

「……。」

「セイバー、立つのよ。泣くのはその後でいいわ。」

「………アイリスフィール…、私は…。」

「いいからセイバー。今は雨宿りしましょう。」

「……はい。」

 セイバーは、なんとか立ち上がり、アイリスフィールと共に間桐邸に入った。




腹ぺこ王の片鱗が……って感じで書きました。
でも、バーサーカーの正体を知った時の衝撃には食欲は敵わなかった……。

原作小説のように、途中で雁夜が尽きないのでセイバーがやる気無いと一方的に負けるだけなので止めさせました。
けど、このままだとバーサーカーの狂化がそのままなので、どうしようかな?


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SS23  正気

サブタイトル通り、狂化が解けます。

あと、自分ところの女子達(桜&ツツジ)に弱い、男達(雁夜&バーサーカー)。


あと、バーサーカーが雁夜おじさんをブッ刺しちゃいます。
注意。


 ガツ…、ガツガツガツガツ…

 

「……おい。」

「…お代わりを……。」

「はいはーい。」

 

 ガツガツガツガツ…

 

「おい…。」

「…お代わりを……。」

「はいはーい。」

 

 ガツガツガツガツ…

 

「おい…!」

「…お代わりを……。」

「はいはーい。」

 

 ガツガツガツガツ…

 

「…おかわ…。」

「食い過ぎだーーーーーーー!!」

 雁夜がついにキレて絶叫した。

 バーサーカーが朋友ランスロットだったという事実に凄まじいショックを受けていたセイバーが…、間桐家の夕飯のカレーを食べ続ける様に、どうしてこうなった!?っと雁夜は、頭を抱えた。

「サーヴァントって、飯必要ないだろ!? 魔力供給がしっかりしてるなら! それともなにか? もしかして魔力が切れ気味なのか!? さっきバーサーカーと戦ったからか!?」

「落ち着いて、間桐雁夜。」

 まくし立てる雁夜に、落ち着くようアイリスフィールが言った。

 さっきからガツガツとセイバーは……、ごはん特盛り&ルーたっぷり&トッピングの具(揚げ物や茹で野菜など)たっぷり乗せたカレーを、延々と食い続けていたいたのだ。その細くて、ちょっと小柄な体からは想像も出来ない食欲である。何があったと言わずしてどうするっというぐらいの勢いだ。

「だいじょうぶだよ、雁夜さん。雁夜さんの分はちゃんと取ってあるから。」

「ああ、そうかありがと。って、そういうことじゃない!」

「まあ、落ち着いてくださいな。間桐雁夜。それにしても初めて食べる味だわ。とっても美味しい。」

「ありがとうございます。」

「……もういい! ツツジ、俺にもカレーお代わり! トンカツ乗せて!」

「あ、トンカツ無くなった。セイバーさんに取られちゃった。」

「俺の験担ぎーーーー!! てめぇぇぇ、セイバーーー!!」

 まだトンカツを食べてなかった雁夜が泣いて怒った直後、霊体化していたバーサーカーが実体化した。

「おーい! 待て! 敵じゃない! 敵じゃないから、やめろ!」

 食卓ごとセイバーを切ろうとするバーサーカーを止めるのに必死になり、その後エビフライまでセイバーに取られることになった雁夜だった(※大皿に盛ってあって各自取るようにしてた)。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「ふう…、ひとまず落ち着きました。」

「お粗末様で…。」

 結局、数日分あったカレーのほとんどを食い尽くしたセイバーだった。

 場所を客室に移し、食後のお茶と共に会話に移った。

「しかし…、まさか、あんたと縁のあるサーヴァントだったとはな…。どうする? これから?」

「ランスロットが、なぜこの聖杯戦争の召喚に応じたのか…、その内容によると思うわ。間桐雁夜、ランスロットの狂化は解けないの?」

「……すまない。死んだジジイなら分かっただろうが、俺には解き方は分からないんだ。」

「令呪は?」

 すると桜が言った。

「あ、そうか。令呪を使えば……、って、バーサーカー?」

 なら早速と、令呪を使おうとしたら、いきなり実体化したバーサーカーに右手を掴まれて止められた。

「な、なんだ? 狂化を解かれたくないのか?」

 っと聞くと、バーサーカーは、ブンブンと首を縦に振った。

「狂化って…、言葉通り理性を吹っ飛ばすんなら、今の状態ってだいぶ狂化が解けてるんじゃないの?」

「犬猫程度じゃ、理由は聞けないぞ?」

「あ、そっか…。じゃあ、バーサーカーには、狂化を解いて欲しくない理由があるんだろうね。例えば…、なんていうか…自分で自分を狂わせたかったとか?」

「自分からあえて狂ったって事か?」

「なるほど…、そういう見方も出来るわね。そうやって、ひとつずつ解いていけば、彼がなぜバーサーカーのクラスに収まったのか分かるかもしれないわ。」

 ツツジの言葉に、雁夜とアイリスフィールは、なるほどっと納得した。

「…でも、やっぱり本人の口から喋らさないといけなさそうね。いくら騎士王の元忠臣とはいえ、なぜ狂化した状態で戦いを挑んできたのか。」

「おい、セイバー、おまえ心当たりは……、あ、すまん。聞かない方がよかったか。」

 セイバーを見た雁夜は、思わず謝った。

 セイバーは、キノコ生えそうほど、ズーーンっと暗くなっていた。こっちもこっちでまともに口がきけそうにない。

「私は……、救いたかった。」

 すると、セイバーが口を開いた。その声は、威厳を失っており、騎士王たる彼女からは想像も出来ない弱々しい物だった。

「だが、そのあり方は……間違いだったか…。」

 それからセイバーは、ランスロットとの間に起こった、悲運と結末を語った。

 それは、アーサー王の物語においてよく語られている、アーサー王の妻・ギネヴィアを交えたランスロットとの間に起こった不義が、自分が王として性別を偽っていたことがすべての軋みだったとも語った。

 信じていたと言った。朋友であるランスロットだから、責任を背負って分かち合えると信じていたのだと。事実、ランスロットは、正道を踏み外す苦悩に身を焦がしつつ、陰ながらギネヴィアを支え、王である自分を支えてくれたのだと。

 しかし、そのことが醜聞として暴露され、二人は袂を分かつしかなくなり、ランスロットは、愛する女性を見殺しに出来ず、そして王であるセイバー…ことアルトリアは、断罪するしかなかったのだと。

 誰も間違ってなかったのだと、誰も正しくあろうとしたが故の悲劇だったのだと、そう思えばこそ、最後まで王として自分は戦えたのだと語った。

 だが……、現実はどうだ?っと…。

 今や雁夜のバーサーカーとなったランスロットが纏う、怨嗟の魔力と、アーサー王が握るエクスカリバーと対を成す剣、アロンダイトが、黒く、そして血管のような赤が入った有様を。

 そしてその剣が自分に向けられる。

 狂化によって狂い、その狂気に身を委ね、貴様が憎い…、貴様を呪う…、そうむき出しの感情を込めて振られていた、朋友の…完璧なる騎士のなれの果ての剣。

 自分は、その剣を否定することも、打ち砕くことも、できないっと、セイバーは、肩を震わせて語った。

 

 救うばかりで、導かなかった

 道を失った、臣下を捨て置いて、自分だけが聖者であろうとした

 貴方は、人の気持ちが分からない

 

 それはアーサー王たる、セイバーを苦しめる誰かの言葉。

 そして聖杯を求める理由。

 正しい道を貫いて、正しい結末に至らぬとしたら、齟齬があったのだとしたら天の運気だと。

 ならば、願望機(聖杯)の奇跡さえあれば、その運命を覆せると。

 そう信じるから今まで戦ってこれた、誇りを貫けた。

 だが、その信じてきた自らの誇りが、そして国体が、誰よりも志と理想を懐いたはずだった朋友を、このような姿(バーサーカー)に堕としてしまうほど怨嗟を持たせてしまった。

「ランスロット。貴方にだけは解って欲しかった。貴方こそが理想の騎士だったのだから。私の在り方を正しいと。是非もないと頷いて欲しかった……!」

 

「あぁぁぁぁああぁああああさあぁぁああああああああああああああ!!」

 

「バーサーカー! やめろおおおおおお!!」

 セイバーの嘆きを打ち破るように、バーサーカーが、雁夜の命令を振り切って、セイバーに襲いかかった。

 そして、セイバーの顔に大量の血がかかった。

「ぐっ…。」

「間桐雁夜!!」

「雁夜さん!」

「おじさん!」

 バーサーカーの手にする剣が、雁夜の胸を貫き、雁夜はバーサーカーに抱きつくような形になった。

 セイバーは、目の前で起こった事に呆然とした。

「うぅ…ぐぅ…。」

 ギリギリと鋭くなっていく爪でバーサーカーの胴体の鎧をひっかくように掴み、更に強く抱きついた。

 すると、ジワジワと、雁夜の体にバーサーカーの鎧がまとう黒い魔力が染みだした。

「い…言いたい…こと…が……ある…んだ、ろ?」

「ぁぁぁあああぁぁぁあ…。」

「だ、った、ら…!」

 バリ、バリ…っと、雁夜の体から放電が走った。

「目の前に…、いる、んだから……! 狂って…、逃げ…ずに…、喋ればいいだろぉぉぉおぉおおおおおおおおおお!!」

 強い魔力を帯びた放電が、バーサーカーの黒い魔力を吹き飛ばすように強く輝いた。

 客室のふすまが吹き飛び、放電の爆発により煙が晴れていく。

「……スター…、マスター!」

 聞き覚えがあるが、響きが違う男の声が聞こえた。

 魔力を帯びた放電による輝きの眩しさに、腕で顔を隠したり、目を閉じるなりしてた、全員がそれを見た。

 見ると、そこには、兜が取れたバーサーカーが、胸に剣が刺さって倒れた雁夜を介抱していた。

 その顔は、セイバーとの決闘の時に見せた怨嗟によって歪みきったものではなくなっていた。

 ぐったり動かない雁夜は、うめき声を漏らしながら、口から血を垂らしていた。

「バーサーカー! いや、ランスロットさん? どっちでもいいや、早く剣を抜いてあげて!」

「しかし!」

「だいじょうぶ! 抜いてあげた方がいいってことは、あなた、何回も見てるでしょ! 心臓ぐらいじゃ死なないから!」

「は、はい!」

 ツツジに急かされ、バーサーカーは慌てて雁夜から剣を抜いた。一瞬大量の血があふれるが、すぐに傷が閉じた。

「…うぅ…。し、死ぬかと思った…。」

 雁夜は、口元の血を腕で拭いながら上体を起こした。

「なんてムチャなことを!」

「そうよ! 普通だったら死んでたわ!」

 正気に戻ったセイバーと、アイリスフィールが怒った。

「あ、すんませんでした…。ほら、バーサーカー、いや…、ランスロット、喋りたいことあるなら言えよ。ほら、アーサー王が目の前にいるんだから。」

「っ!」

 雁夜に促され、バーサーカーがビクッと震えた。

「朋友よ…。」

「……このような形で、再びお顔を合せてしまったことを、お許しください…。」

「なぜ、そういうのだ? 私は…。」

「私がなぜ、バーサーカーとして座からこの地へ参じたのか…、その理由を…お話します。」

 バーサーカーは、セイバーの前に跪いて語り出した。

「私は、貴方の手で裁かれた。王よ…、他の誰でもない、貴方の怒りによって、我が身の罪を問われたかった。」

 それが、ランスロットがアーサー王たるアルトリアを狙い続けた理由。真っ先に剣の矛先を向け続けた理由。

「貴方に裁かれていたならば、貴方に償いを求めていたならば、きっとこんな私でも、贖罪を信じて、いつか私自身を赦すための道を、探し求めることができたでしょう。王妃もまた……、そうだったはずです。」

「ランスロット…。」

「どうか。どうか私に裁きを…、その剣(エクスカリバー)で、私を罰してください!」

「そんなこと…!」

「どうか、どうか、お願いします! 我が王よ!」

「こらっ。」

 シリアスな空気を一刀両断したのは、ツツジだった。

 ツツジが、ペシーンっと、バーサーカーの頭を後ろから手で叩いたのだ。

 途端、場の空気がシーンっとなった。

「つ……ツツジ! 何やってんだよ!?」

「罰して欲しいってことは、死にたいってことでしょ? 殺されたいんでしょ?」

 ツツジは、雁夜の言葉を無視して言葉を綴った。

「え、ええ…。そ、そうですけど…?」

「まだ、死んじゃダメ。」

「えっ!?」

 ズイッと顔を近づけられ、睨まれたバーサーカーは、ツツジの迫力に困惑の声を漏らした。

「まだ、桜ちゃんのお父さんを引っ張り出せてない。サーヴァントと戦うのは、サーヴァント。桜ちゃんのお父さん、時臣さんのサーヴァントのアーチャーが残ってるんだよ? 一応形だけとはいえ、あなたと雁夜さんのタッグで戦うって約束もしてるんだし。あなたがいなくなると、こっちはとっても困るの。」

「は…、はあ…。」

「気持ちは分かる。とっても分かってるつもり。あなたの気持ちを尊重はしたい。でも、今、死なれちゃ困るの。ねえ、桜ちゃん。」

「うん。とっても困る。だから、死んじゃダメ。」

「えっ…。そ、そんな…。」

「もちろん! 時臣さんを見事に捕まえられたなら、あなたの好きにしていいから! 煮るなり焼くなり、死ぬなり、好きにしていいから!」

「おーい…、一応、俺がマスターなんだけど…。」

「雁夜さ~ん。まさか今この場で死んでもいいぞって言わないよね?」

「……い、言わない…。」

「そんな! マスター! 後生です! どうか、どうか、私に、王に罰せられる権利を!」

「…やらんぞ。」

「王!?」

 するとセイバーが泣きそうだった顔をキリッと改めて、ドッシリと座り込んで、腕組みしてキッパリと言ったので、雁夜に泣きついていたバーサーカーがセイバーを見た。

「ランスロット…。貴方の気持ち…しかと聞きました。ですが、まだ約束した戦いが残っている以上、貴方はマスターたる雁夜殿達のためにその剣を振るうべきです。」

「そ、そんな…!」

「貴方は、一応は雁夜殿の呼びかけに応じてバーサーカーとして、この聖杯戦争に参じた身でしょう! ならば、理由はどうあれ、ちゃんと相応に戦うのです!」

「ですが!」

「ですもだってもありません! しっかりと! 雁夜殿達の戦いに応えてから! 私に正々堂々挑んできなさい! じゃないと、私は貴方に剣を向けませんよ!」

「……はい…。」

 セイバーからのお叱りを受け、バーサーカーは、正座して俯き、小さくなりながら弱々しい声で返事をしたのだった。

「ごめんな、バーサーカー…。俺みたいなのが、マスターだったばっかりに……。」

「……いいえ…、貴方のせいではありません、マスター…。その前に…、私の狂化の呪いを解いてくれて、こうして王との話し合いの場を設けてくれたこと、感謝します…。」

「ほんと、ごめんな…。」

 大きな図体を小さくしているバーサーカーの背中を、雁夜は、慰めるようにポンポンと叩いた。

 俺じゃあ…、ツツジと桜ちゃんを止められないんだ…っと、密かに心の中で雁夜は、泣いたのだった。




バーサーカーの狂化を解いて、バーサーカーがなぜバーサーカーになり、なぜセイバーを狙っていたのか、その理由を知るにはどうするか…。それを考えながら書いたらこうなりました。
なにせ、雁夜おじさんが元気すぎるから魔力が尽きて狂化が解けることがないので、バオーの力プラス雁夜おじさん自身の魔力を使って強制的に無理矢理、狂化を解かせました。

剣で胸を貫かれてもバオー化しなかったのは、雁夜がバオーの制御を自力でできるようになり始めている証…かな?

感想欄でもあったけど、バオーより目立つ、二人(桜&ツツジ)。強いのがいけなかったかな…?
アーチャー対策のためもあるので、今ココで死なれちゃ困るというのを言わせたかった。


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SS24  衝突

今回は、時臣と対決。

雁夜と時臣。この二人の心境状況が逆手しているのを書きたかったのと、戦闘能力の差が大きく開いてしまったことを書きたかった……。

ただの時臣のキャラ崩壊になってしまったかも。注意。

あと、感想欄で指摘があった、バーサーカーからの謝罪がなかったことについて、前半でしてます。


 ジャパニーズ・DO・GE・ZA。なんて言った人はすごいと思うなぁ…っと雁夜はしみじみ思った。

 目の前には、狂化が解けてるバーサーカーことランスロットがきれーーーーいに自分に向かって土下座している。

「マスター…、貴方の心の臓を我が剣で刺し貫いてしまい…、申し訳ありませんでしたああああああああああああ!!」

「いや…、あの、もう治ったし…、顔あげろよ。もういいから。」

「いいえ!! ツツジ殿に言われるまで気づかなかった私は貴方に顔向けなど!!」

 実は、この土下座の図……、ツツジがふいに。

「ところで、雁夜さん、剣って言っても、サーヴァントの宝具に心臓刺されてたけど、だいじょうぶ?」

 って言ったことから、ハッとしたバーサーカーが、残像が見えるほどのスピードで披露したものだ。

「だから、もういいって。俺、怒ってないからさぁ。」

「いいえ! いいえ!」

「だー、もう! 令呪使ったろうか!?」

「おじさん、さすがにそれはもったいないと思う。」

「いいえ! いっそ令呪をもって私を罰してください! 私を狗以下の存在と詰ってください!」

「おまえ、全力で、ガチでそういうことを言うな! なんか俺が変な性癖のある奴みたいになる!」

「あの~、アーサー王様…、元忠臣の人がこんな状態ですけど、どう思われます?」

「……言葉が…見つからない。」

「セイバー…。」

 ツツジから聞かれ、別の意味でうまく言葉が出ないでいるセイバーに、アイリスフィールが同情のまなざしを向けた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その後、しばらくして、セイバーとアイリスフィールが帰って行った。

「ん? おまえ、なんで狂化してんだ!?」

 二人を見送った後、隣にいたバーサーカーを見たら、また黒い魔力を纏って兜をしっかりと被った状態…、まあつまり狂化状態に戻ったバーサーカーがいた。

 しかし、バーサーカーは、身振り手振りで何か伝えようとしてくる。

 すると、なぜだか。

「は? この方がステータスがグンッと上がるから…って…、なんで解るんだ、俺!?」

「うーん。ってことは、狂化の呪いが完全に解けたわけじゃなかったのかもね。」

「すっごく強引に解いたもんね。」

「うっ!」

 あんなやり方で強引に解いたのが、こんな形で残るとは思わず、言われて雁夜は呻いた。

 狂化を操れるようなったなら、それはもうバーサーカークラスと言えるのか?っとは言えない…。

「まあ、バーサーカーとしては、さっさと私達の戦いを終わらせて、セイバーさんに罰してもらいたいんだろうけど。」

「……そう思ってんのか? えっ、違う? まあ、確かに…、あのアーチャーに対抗するためには、狂化によるステータスアップは必須だけど、いいのか? は? いいって? んー、じゃあ、頼むわ。」

「あ、違うんだ。じゃあ、よろしくね。」

「バーサーカー、これからもよろしくね。」

 二人からよろしくと言われ、バーサーカーは、コクリッと頷いた。

 ……これじゃあどっちがマスターなんだか…っと、雁夜はちょっとだけ思った。

 その時。

「!?」

 強烈な敵意の“匂い”を感じ取った。距離はある。だがそれが近づいている。

「ツツジ!」

「匂うね!」

「?」

 匂いとして物事を感じ取れるようなっている雁夜とツツジに対して、そういうことができない桜はキョトンッとした。

 二人の様子に反応したバーサーカーが臨戦態勢になる。

「ツツジ! 桜ちゃんを避難させろ!」

「……空…。空から来る!」

「分かってる! 早く行け!」

 雁夜がバーサーカーを連れて走った。

 そして雁夜とバーサーカーは、かつてアーチャーを迎え撃った壊れた庭の方へ行った。

 すると、雁夜とバーサーカーを大きな陰が覆った。

 

「来てやったぞ。ゲテモノと狂犬。」

 

 それは、舟だった。

 黄金とエメラルドで形成された、この世ならざる代物だった。

 その舟の船首に片足を乗せ、自分達を見おろしているのは、アーチャーだ。舟に負けないほど、その美貌と黄金の鎧が輝いて見える。ハッキリ言って趣味が悪いように思えるが、これほど美しい存在の持ち物ならばなんとなく納得がいってしまえるのだから不思議だ。

 アーチャーが降りてくる前、アーチャーの後ろの方の下にあった物を左手で掴んで、それと共に飛び降りてきた。

「時臣!?」

 アーチャーが掴んでいたのは、時臣だった。後ろの襟首を掴まれている。

 パッと手を離され、尻餅をついた時臣は、ゆらりと立ち上がった。

 幽鬼を思わせる、なにやら不穏な気配に雁夜は、思わず息をのんだ。

 すると、時臣が手にしていた杖をいきなり雁夜に向け、方陣を発動し、火炎を発生させて放った。

「なっ!?」

 驚く雁夜。するとバーサーカーが盾となり、火炎を防いだ。

「おい、時臣。今回は、ゲテモノの相手は貴様に譲ってやろう。我は暇つぶしにでも、狂犬の相手だけはしてやる。」

「…ありがたきお言葉。」

「おい、時臣? どうした、お前…?」

 俯いていた時臣がやがて顔をあげた。

 その顔は、やつれているように見え、その目にも暗い影がさしている。

 優雅さを家訓としていた彼からは想像も出来ない。憎しみや絶望でやつれたような……、そんな顔だ。

 そんな時臣の変わりように、雁夜は一瞬引いた。

「……貴様が…。」

「はっ?」

「貴様がすべてを狂わせたのだ、雁夜!!」

 優雅さとはかけ離れた叫びと同時に、虚空に描かれた攻撃の魔方陣から凄まじい炎が発生した。

 バーサーカーが前に出る。

 すると、アーチャーが時臣の後ろから王の財宝を発動した、鎖を出してバーサーカーの腕に絡めて引っ張り、そのままアーチャーの後ろの方へ放り投げた。

「バーサーカー!」

「雁夜ぁぁぁああああああああああああ!!」

「!?」

 火炎を纏った杖を手に、時臣が雁夜に向かって突撃してきた。

 すんでの所で、雁夜は、炎の杖を躱したが、服に僅かに炎が着火した。

「っつ! てめ、時臣!」

「ガント!」

「うわっ!」

 パンパンと炎を払うと、直後無数の宝石が、魔力を纏って弾丸のように飛んできたのでこれも躱す。

 距離を取ろうとすると、時臣が執念の塊のようなって距離を詰めてくる。しかし、身体能力が寄生虫バオーにより強化され、普段の姿でも武装現象が表面化しだした雁夜の身体能力にはついていけず、やがて距離が空く。

「話を聞けよ! おい!」

「死ね!!」

 ゴウッと炎が勢いを増し、瞬時に虚空と足元に描かれた方陣が強く輝いた。

 デカい一撃が来ると感じた雁夜は、背後の間桐邸から離れるため、横に移動した。すると炎を発生させ続けかき集めていた時臣の体も、釣られて雁夜の方を向く。

「時臣! てめぇには、聞きたいことがあるんだ! なんで桜ちゃんを間桐に養子に出した!?」

「死ね…、死ね死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!! 雁夜ぁぁあああ!!」

「おい、聞けよ!!」

 時臣は、聞かず、憎しみを込めて魔術の詠唱を続け、やがて巨大な炎の蛇のようなモノが雁夜に向かってきた。

 雁夜は、走り、間桐邸に炎が行かないよう移動しつつ、時臣に向かって行った。

 しかし炎の蛇のスピードは早く、やがて雁夜を飲み込んだ。

「ふ…、フフ、フハハハハハハハ!!」

 炎に飲まれて姿を消した雁夜を見て、時臣が狂ったように笑った。

 直後。ボンッと炎の中から、無傷の雁夜が飛び出し、時臣に飛びかかろうとした

 すると事前に時臣がかけていた、防御陣が発動し、炎の壁が発生するが、そんな炎など構わず雁夜は、飛び込むように跳び、体勢を整えて、ドロップキックを時臣に食らわした。

「聞け、っつってんだろうが!!」

 キックをくらったせいか、炎が消え、吹っ飛んで倒れる時臣に向かって雁夜が怒鳴った。

 倒れていた時臣がゆらりと立ち上がる。しかし、さっきの一撃が効いたのか、ガクッと片膝をついた。

「時臣、悪いが、おまえじゃ俺には勝てないぞ!」

 雁夜は、時臣からの攻撃や、先ほどのドロップキックで確信した。自分と時臣との戦闘能力の差を。そして拳を握って開いて、実感した。バオーの力。これがいつも自分を支配していた時に発揮されていた、寄生虫バオーがもたらした力なのだと。

「か、り…や…!!」

「動くな、時臣!」

「桜は……、かえして…もら…う、ぞ!!」

「それは出来ない!!」

「かり、やああああああああああああ!!」

 再び時臣が炎を発生させた。だが、勢いが先ほどより若干弱い。

「桜ちゃんは、お前のところには帰らないって言ってんだよ!!」

「嘘…だ…。」

「本当だ! むしろお前を憎んでる! 間桐に養子に出されたことをな!!」

「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ、嘘をつくなぁぁぁぁあああああああああああああああ!!」

「てめぇは生かして捕まえる! それが約束だからな!! それで罰を受けろ! 桜ちゃんが受けた、痛みと屈辱をその身をもって!!」

「雁夜ああああああああああああああああああ!!」

「ときお…、っ!?」

 炎が放たれる直後、遠くから投擲されてきた黒鍵が、雁夜の背中に刺さった。

 炎が雁夜を包むが、それを身を振って払う。

 黒鍵を筋肉の萎縮で強引に抜いて前を見ると……。

「お前…!」

 そこにいたのは、言峰綺礼だった。

 ぐったりとしている時臣を抱えて、アーチャーの方に行き、アーチャーの舟に飛び乗った。

「待て!」

「待てと言われて、待つ奴はおろんわ。」

 アーチャーは、鎖で全身をこれでもかと、がんじがらめにされているバーサーカーを残して、自身も舟に乗った。

 そして舟が浮き上がり、空へと猛スピードで飛んでいった。

「っ…、くそっ!!」

 舟が去った後、悪態を吐きながら、雁夜はバーサーカーを拘束している鎖からバーサーカーを解放するため、バーサーカーの傍に走ったのだった。

 バーサーカーを拘束している鎖をひとつずつ千切りながら、雁夜は考えた。

「……桜ちゃんに、なんて言って伝えたら良いんだよ…?」

 時臣のあの変わりようをどう伝えるか…、悩んだのだった。




結局、強引なやり方で狂化を解いたけど、完全には解けていなかったという風にしました。自分の意思で狂化を解いたりできるようなったという、バーサーカークラスとしては、それどうなの?って感じにしました。
……すみません。単純に、バーサーカーの本来のしゃべりが小難しいので、喋らさない方が楽だったからです。

時臣は、やることなすことが上手くいかないことを雁夜のせいにして、逆恨みをしています。
アーチャーも綺礼も、時臣が雁夜に負けることは見越していました。そのため落ち着いてたし、死なない程度か、あるいは拘束されそうになるまで傍観に徹していました。

時臣の炎の魔術がどの程度強いのか分からなかったので、この程度にしてますが、もし、もっと強いのなら書き換えも検討します。でも…、バオー化を制御しつつある雁夜に負けるけどね。


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SS25  手紙

サブタイトル通り、後半で手紙が届きます。

その差出人と内容は……。


 

「まったく…、あれほど殺すと息巻いておいて、あの程度とはな…、時臣。」

「……。」

 アーチャーからの嘲りを受けても、時臣は黙っていた。

 しかし、やがて時臣を嘲るのに飽きたアーチャーが、部屋を出ていった。

「しかし、ゲテモノの奴、自身に宿るおぞましき力を自我意識がある状態で扱えるようなっているとはな。あれは、もはや死徒などという範疇では収まるまい。」

「完全無欠な生物などこの世にはいない。心臓を潰してもダメなら、脳を潰せばおそらく死ぬ。」

 アーチャーが部屋の外に待機していた綺礼に話を振ると、綺礼はそう答えた。

「それをしようとして、アサシンを使い潰し、小娘共に邪魔をされただけで、雷撃(らいげき)を受けて死にかけたおまえが、今度こそできると?」

「あれはもはや人間ではない。ならば、その魂を速やかに救済し、魂に安楽を与えることは、代行者たる私の務めだ。」

「ほう? この期に及んで、己に課された責務を全うしようとするか?」

 アーチャーがおかしそうに笑った。

「表面上は、死んだ父に代わり、私が教会を取り仕切っているのだ。無視していては、聖堂教会から何を言われるか分かった物じゃない。」

「ほう? てっきりアレだけのイキの良い…、いや、しぶといゲテモノを嬲り殺すのが楽しいのかと思ったぞ?」

「確かに、殺しがいはあるが…。」

「ならば、アレの目の前で、時臣の娘を殺してやったらどうだ? さぞや怒り狂い、そのゲテモノたる本性を露わにするだろうて。」

「……あのツツジという少女がいる限り、それは無理だ。」

「………………………………アレか……………。」

 アーチャーにしてみれば、ゲテモノ呼ばわりしている雁夜以上に忌々しい記憶が残る人物だ。

 自分を散々殴り、蹴り、王の財宝の攻撃を軽々と躱し続けた異常な身体能力の持ち主。殴る蹴るの攻撃がしつこかったため、うっかり感情にまかせて魔力解放を行ってしまった相手だ。もし彼女に魔術師の才能があったなら、アーチャーは、彼女に殴り殺されていたかもしれないのだ。

「我の見立てだと、ゲテモノをゲテモノに仕立て上げたのは、あの娘だろう。ゲテモノ以上に、醜悪なモノが宿っている。」

「はあ…。」

「なんだ? その反応は? 我の見立てを否定する気か?」

「いいえ、違う。ただ……、私はあの娘を始末するのは後回しにしたいと考えている。なぜだか分からないが…。」

「ほうほう。綺礼。お前はそう考えるのか?」

「えっ?」

「ゲテモノを生み出すモノを…、放っておくということは、つまりそういうことだ。なんだ? 言われないと分からんか?」

 クックッと笑うアーチャーに、綺礼は黙った。

「お前は、あの娘が生み出すゲテモノを殺すことに楽しみを見いだしているのだ。あの間桐雁夜というゲテモノが死ねば、あの娘は次のゲテモノを作るだろう。そうすれば、次から次に…、お前は代行者という任のためと称して、ゲテモノとなった雑種共を殺せる。ゲテモノは、そう簡単には死なんし、妙な芸(※雷撃など)までするからなぁ。お前としては、これ以上に手応えのある獲物もいまい。」

「っ…!」

「我としては、あの娘をゲテモノ同様に始末しておきたかったが。気が変わった。お前のために取って置いてやろう。」

「……ありがとうございます。」

 綺礼は、アーチャーに一礼した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「…っくしゅん!」

 雁夜とツツジは、二人同時にくしゃみをした。

「おじさん、ツツジさん、風邪?」

「んー。なんか今…。」

「噂されたような?」

 雁夜とツツジは、顔を見合わせた。

 二人は、見合わせていた顔を逸らし、話の続きをし始めた。

「…で、まあ、なんていうか、時臣の奴がおかしくなってたんだよ。」

「……。」

 おかしくなっていた時臣のことについて話し合っていたのだ。桜は、無表情で黙って聞いていた。

「桜ちゃん…。どうする?」

「どうするって?」

「いや……。ああ、いいや。ごめん。」

 どうやら桜にとっては、時臣がおかしくなったことについてはどうでもよかったらしい。

「地下室に隠れてて、匂いを感じたけど……、逆恨みしてるんだね。時臣さん。」

「俺に? なんでだよ? どういう心境の変化だよ?」

「私がバオーをあげる前の自分をよーく思い出したら? ああいう心境だと思うよ。」

「ぶはっ! おまえ!」

 もはや雁夜にとっては、黒歴史となっている、時臣への逆恨みしていた頃を掘り返され雁夜は吹いた。もしちょっと昔の余命一ヶ月だった彼ならば、確実に吐血していただろう。

「けど、本当にどうしたんだろうね? 何があったのか気になるところだけど。もしかして、セイバーさん達との対談が上手くいかなかったとか、雁夜さんに殴られたこととか…、自分が雁夜さんを見下してるのに負けてるの悔しいのかな?」

「それ…どーなんだか。」

「ま、とにかく、何をするか分からないから気を抜かない方がいいと思うよ。下手すると桜ちゃんにまで危害を与えるなんてこと…。」

「あいつ、桜ちゃんが自分のところに帰りたがってないって言ったら、メチャクチャ否定してたもんな…。マズいな…、あの様子じゃあり得なくない。」

 あの骨の髄まで魔術師だった男が、あそこまで動転していたのだ。下手をすると言うことを聞かないからと桜に何かしらの罰を与えようとするかもしれない。

 それだけはなんとしてでも防がなければ!っと、雁夜は焦り、そして守らなければと決意した。

 ふと気がつくと、桜が雁夜の傍に来ていて、雁夜の服の袖を掴んでいた。そして、雁夜の顔をジッと見上げていた。

「桜ちゃん。だいじょうぶだからな。俺達が君を守るから。」

「うん…。」

 雁夜が安心させるように微笑むと、桜は俯き小さく頷いた。

 雁夜の服の袖を握っている手が微かに震えていた。

 コレ…、もし父親にまで手を上げられたら、本気で二度と立ち直れないほどぶっ壊れないか!?っという危機感を、雁夜とツツジは感じた。

「雁夜さん!」

「ツツジ! 絶対に時臣に勝つぞ!」

 雁夜は、桜に掴まれてない方の手でツツジと拳を合せて誓い合ったのだった。

 その後、フルフルと小さく震えている桜をなだめるために抱きしめたり、撫でたりしてたら、部屋の窓が割れた。

「なんだ!?」

「…鳥だ。ん? 鳥? あれ? 宝石で出来てる?」

「翡翠でできた鳥だって?」

「なんか足に縛ってある。手紙かな?」

 部屋の中に侵入してきた、その異様な鳥が運んできた手紙をツツジが取って広げた。

「……ねえ、雁夜さん。」

「なんだ? 何が書いてあった?」

「これ…、時臣さんからだよ。」

「はあ!?」

「………教会に、桜ちゃんと来いって。」

「何考えてやがんだ! 無視だ、無視! こんな時に!」

「……続きがある。もし来ないのなら、お前の兄を殺すって…。」

「アイツ(鶴野)…、いつのまに…。」

 完全に忘れていた存在が、いつの間にか時臣の手に落ちていたことに驚いた。

「どうする?」

「……。」

「……桜ちゃん?」

 すると桜がクイクイッと雁夜の服を引っ張った。

 見ると桜は雁夜をジッと見つめてきていた。

「……行く…のか? 行ってもいいのか? 本当に?」

「…うん。私、直接、話がしたい。」

「でも、アイツ……。」

「そしたら…、守ってくれるよね?」

「! 当たり前だ!」

「…よかった。」

 強ばっていた桜の雰囲気が、和らいだ。

「私は、どうしたらいい? 手紙には、二人に、来いってしか書いてないけど…。」

「教会の外で待機しててくれるか? 来るなっとは書いてないんだろ?」

「うん。分かった。」

「よし。じゃあ、準備して。行くぞ!」

「決戦だー!」

「おー。」

 三人は、オーッ!と手を上げた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 そして、準備を整えた三人は、教会にやってきた。

 ツツジは段取り通り、教会の外で待機し、雁夜は、桜の手を握って教会の扉の前に立った。

「……桜ちゃん。もう一度聞くけど、本当にいいんだね?」

「…うん。」

「もし何かあったら…、おじさん、時臣を…。」

「分かってる。」

「そうか…。じゃあ…、行こう。」

 雁夜は、空いてる手で教会の扉を押した。

 キイッと音を立てて開いた扉。

 中は、薄暗い。

 二人は、周りを警戒しながら、ゆっくりと教会の中に入った。

 

「桜!」

 

「……えっ?」

 そこに響いたのは、雁夜にとって、聖杯戦争に加わることになった大きな理由…、その人の、声だった。

 声がした方を見ると、桜の母・葵が、時臣と共に祭壇前に立っていた。




葵さん登場。
時臣は、死んでません。
葵を連れてきたのは、桜を連れ戻すためです。母親になら心を開くと思ったからです。
でも……?

次回で、アーチャーが裏切る。


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SS26  決別

遠坂夫妻と、雁夜と桜の会話。

アーチャーが綺礼と組んで裏切ります。

その際に、時臣が右手を切断されてしまうので、グロ注意。


 

 雁夜は、予想外の人間の登場に、固まった。

 固まっていた雁夜だったが、ふいに片手を引っ張られて、ハッと我に帰った。桜が正気づかせたのだ。

「雁夜くん…。」

「葵…さん…。」

「桜…、こっちへ来なさい。」

 一瞬見つめ合った二人だったが、前へ踏み出した葵は、桜にこちらに来るよう言った。

 しかし桜は動かない。

「桜! 聞こえないの? こっちへ…。」

「イヤ。」

 桜は、ハッキリと、拒絶した。そして、雁夜の後ろに隠れた。

「時臣さん…、どういうつもり?」

「桜…。」

 桜は、いまだ祭壇の前の方に立っている時臣の方を見て、冷めた声で聞いた。おおよそ十にもならない子供が発する響きじゃない。

 その背筋をゾッとさせるような冷めた少女の声に、時臣は、表情を崩しかけた。

「桜? どうしたの? どうしてお父さんのことを、名前で…? 雁夜くん…、まさか、あなた桜に…。」

「違う…。俺は何もしていない!」

「だって、時臣さんが、もしかしたら雁夜くんに暗示をかけられてるかもって!」

「違うよ。お母さ…、いえ、葵さん…。」

「さく…ら…?」

「暗示なんてかけられてないよ。桜が嘘言ってるって思ってるの?」

「そんなことないわ! でも…。」

「私がここに来たのはね…。あなた達に、お別れを言いに来たの。」

「桜!?」

「私は…、二度と遠坂には帰らない。あそこは、姉さんの居場所だもの。私の居場所なんてない。」

「そんなことないわ! どうしてそんなこと言うの!?」

「じゃあ、どうして私を間桐の養子にしたの?」

「それは…、だって時臣さんが…。」

「あなたは、何も知らないでしょう? 遠坂と間桐の盟約なんて…。」

「めいやく?」

「それがあるから、私は余所に出された。だから、間桐の家に連れて行かれた。そのせいで私は……、何もを奪われ、踏みにじられた!!」

 桜がひときわ大きな声で叫んだ。

 これまで感情を抑制されていた彼女からは想像も出来ない激情だった。

「気持ちの悪い蟲の中に放り込まれて、どんなに痛くて苦しくて、泣き叫んでも、あなた達は助けてくれなかった! 私を助けてくれたのは、雁夜おじさんだけだった!! 私を踏みにじった、あの家の主人を殺して私を解放してくれたのも!! 全部、全部!! 雁夜おじさんだった!!」

「桜…。時臣さん…、どういうこと?」

「葵……。」

「気持ちの悪いムシって…、なに? 桜が行ったところは…、桜を守るために…、じゃなかったの?」

「そうだ…。桜は、魔術師として凄まじい才能があった。だから、盟約を結んでいた間桐で花咲かせようと…。」

「間引きしたわけじゃなかったのか!?」

 それを聞いて今度は雁夜が驚いた。桜は、決して魔術師の才能が無かったから間桐に養子に出されたのではないのだと分かったからだ。

「そうだ。そうだとも! だが、雁夜! お前のせいで、桜の才能は…!!」

「ふざけんな! ジジイは、臓現は、桜ちゃんを魔術師になんかする気なんてこれっぽっちなかったんだぞ!」

「なに!?」

「それどころか、次世代の間桐の子を産ませるための、“胎盤”だって言いやがったんだ!! お前は、あのジジイの甘言にまんまとは嵌められたんだ!!」

「そんな…、馬鹿な! 嘘を吐くな!!」

「嘘なわけあるか! そのために桜ちゃんは、無理矢理、蟲の魔術で施術されて、この通り…髪の毛の色が変わって、女の子としての……幸せだって…。」

「黙れ! 嘘を吐くな、雁夜あぁぁぁああああああああああああああああ!!」

「嘘じゃねぇっつってんだろうがあああああああああああ!!」

「もういい!!」

 二人の言い合いは、桜の叫び声で止まった。

 話が見えず、オロオロしていた葵は、その叫び声で固まった。

「もういい。分かった…。もう分かった…。」

「さ、くら…?」

「呼ばないで。気持ち悪い。」

 桜の名を呼んだ時臣に、バッサリと桜が拒絶した。

 時臣は、その瞬間、弾かれたように駆けだし、桜の手を掴んで引っ張り、もう片手を振り上げた。

 その手が振り下ろされようとしたが、雁夜がその手首を掴んで止めた。

「時臣! 今…、桜ちゃんを叩こうとしただろ!?」

「わ……わた…しは…。い、ぎっ!?」

 ワナワナと震えている時臣の手首を握る力を、雁夜は強めた。

「このまま右手を溶かしてやってもいいんだぞ?」

「な…。」

 雁夜は、桜から手を離し、その手を教会に並ぶ長椅子のひとつに乗せた。

 すると、椅子の一部がグジュグジュに一瞬で溶けた。

「!?」

「……こうなりたいか? あぁん?」

「か、り…や…!」

「やめ、て…、やめて、雁夜くん!」

 固まっていた葵がやがて我に返って、青ざめながら悲鳴じみた制止の声をあげた。

 雁夜は、不思議と葵の訴えが心に響かなかった。もし少し昔の自分なら、狼狽えていただろう。

 しかし今の雁夜には、葵のことはすでに心になかった。

 すでに初恋は初恋だと、知らず知らずのうちにケジメを付けていたのだ。

「時臣。てめぇに…、選択させる。生きて、罰を受けるか。このまま、右手を無くして芋虫みたいに生きながらえるか!」

「…なっ。」

「桜ちゃんが受けた痛みと屈辱をその身をもって味わう罰を受けるか、この場で令呪ごとサーヴァントを失うか、選べっつってんだよ!」

「やめて、やめてぇ!! 雁夜くん、お願い、やめてーーー!!」

「葵さん。あなたも付き合ってもらうからな。」

「…えっ…?」

「桜ちゃんが、間桐でどんな仕打ちを受けていたのか…、それをその目でしっかりと見てもらうから。例え、あなたが魔術について何も知らなくても赦さない。あなたの無知も、時臣に対する忠節も、全部が桜ちゃんを地獄へ堕とすことになったんだから!」

「ひっ…!」

 雁夜の自分に向けられる怒声に、葵は怯み、短い悲鳴を上げた。

 

「無様よのう。時臣。真(まこと)つまらん、男だ。」

 

 その声が教会内に響いた瞬間、雁夜が掴んでいた時臣の手首と腕の中間が切れて、離れた。

 何が起こったのか、それは、右手を失った時臣も、切り離された時臣の手首を掴んだままの雁夜も、桜も葵も分からなかった。

「が…あああああああああああああああああああああああああ!?」

 失った手首を押さえ、その場にへたり込んだ時臣が驚きと苦痛で絶叫した。

 

「おお。つまらんくせに、中々よい悲鳴をあげるではないか。」

 

 そこへ、現れたのは、アーチャーだった。

 アーチャーは、心底愉快そうに笑っている。

「お…王…? まさか…、そんな…あなたが…?」

 吹き出る血で体を汚しながら、信じられないという顔でアーチャーを見る。

「まったく、なんだその間抜けな顔は。そんな顔も出来るのだな?」

「な、ぜ…?」

「ここまでされて、まだ分からんか? 間抜けめ。」

「時臣! 失血するから見せろ!」

 ハッと我に返った雁夜が、掴んだままの時臣の右手を持ったまま、自分もしゃがんで強引に時臣の右腕を掴み、そこに自分の拳から垂れさせた血を垂らして、離ればなれ手になっている時臣の右手と腕をくっつけさせた。

「ほう? ゲテモノが、そんなこともできるのか? まあ、パスは、さっきのことで切れてしもうたし、新たに繋ぐとしよう。綺礼。」

「はい。」

 そこへ、陰から綺礼が現れ、サーヴァントの再契約をその場で行った。

 右手が繋がり、感覚が戻った時臣は、自分の右手の令呪とアーチャーとの繋がりが消えたことに目を見開いた。

「綺礼! おまえがなぜ!? なぜお前に令呪が!?」

「やれやれ…、もう少し面白いモノが見れると思ったが、とんだ番狂わせだったな? なあ、綺礼。」

「ええ。まったくだ。」

 アーチャーに同意する綺礼に、時臣は、信じられないという顔をますます歪めた。

「なぜだ…、なぜだ綺礼! 君は私の…。」

「ええ、弟子です。ですが、私はこれより先、貴方を師事することはないでしょう。」

「綺礼?」

「私は、私の生き方に沿って生きるのみですから。」

 そう言って笑った。

 初めて見る綺礼のその笑顔は、酷く歪で、歪んで見え、時臣は、背筋がゾッと寒くなるのを感じた。

「初めから、結託してたってことか?」

「おお、ゲテモノの方が物わかりが良いようだな? だが、少しばかり間違いがある。初めからというわけではないぞ? 我が誘いをかけたのだ。“愉悦”というものがなんであるかを、この男がなにを求めてるのかを教えただけのこと。」

「馬鹿な…。そんな馬鹿なことが…。」

「時臣…。」

「なぜこんなことになった? 私は間違って等ない…!」

「その通りよ。お前は、魔術師としては間違ってはいなかった。間違いがあるとしたら、その生き方に実直すぎた。愉悦を切り捨て、骨の髄まで魔術師であろとしたことぞ。見ろ、綺礼。あれほどつまらんかった男が、この世の全てに否定されたとばかりに嘆いておるぞ! どうだ? お前の感想としては。」

「……まあ、予定通りだったかと。」

「ハーハハハハ! そうか、そう…、っ!」

 次の瞬間、横から凄まじい速度で教会内にある長椅子のひとつが投げられてきた。それを王の財宝で防ぎ、壊れた椅子の瓦礫が散らばった。

「ツツジ!」

「ごめん。気づくのが遅れちゃった。」

 たった今何か大きなモノを投げましたっという姿勢で、ツツジが教会の出入り口に立っていた。

「ちぃ、良いところを、ゲテモノ娘が…、がっ!?」

「ゲテモノゲテモノ、五月蠅いよ、金ぴか成金サーヴァント。」

 悪態を吐いたアーチャーに、一瞬で距離を詰めてきたツツジが顔面跳び膝蹴りを食らわして吹っ飛ばした。

 ガラガラゴン!っと、鎧を纏っているためあちこちぶつけながら教会の端まで転がっていったアーチャー。

「こら! 綺礼! 貴様、なぜ我がやられているのに応戦しない!?」

「…まさかこれほどとはと思わなかったから、つい見とれてしまった。」

「雁夜さん、桜ちゃん! 逃げよう!」

「おい、時臣! 葵さんも! 立って、逃げるぞ!」

「逃がすと思うてか!」

「やらせるか!」

 その瞬間、雁夜の額が、バリッと割れた。

 そして、あっという間に、自身の意思でバオー・武装現象を発動し、飛んでくる王の財宝の武器を放電で止めた。バーサーカーも実体化し、止まっている武器を奪い取って自らの宝具にした。

「雁夜くん? かりや…く、ん?」

「いいから、早く走って。」

 雁夜の変化に驚愕する葵を引っ張り、ツツジは、時臣を担いで桜も連れて教会から脱出した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 教会から逃げ出して、結構な距離を進んだところで止まった。

「……おじさん。だいじょうぶかな?」

「だいじょうぶ。雁夜さんも、私達が十分距離を逃げたことを“匂い”で感じてから退却したわ。」

「よかった…。」

 ホッとする桜。

 ツツジは、フウッと息を吐き、ふと、時臣の方を見た。

 時臣は、ツツジが下ろしてから座り込んだまま、廃人のように俯き、呆然としていた。葵がその傍らで泣いていた。

 この様子では、これから蟲蔵に連れて行って、罰を与えてもあまり効果は無いだろう。

「せっかく捕まえたのに、これじゃあ…。」

「ううん。いいの。」

「桜ちゃん?」

「元気になってから…、放り込めばいい。」

「わぁお。」

 元気になってから地獄に落とすのか、この子は…。どうやら実の父親を赦す気は一切ないらしい。

「桜…、この期に及んで…そんなことを言うの? 実のお父さんに?」

 信じられないと桜を見て言う葵の目から涙が引っ込んだ。

 そんな葵を、桜は冷たい目で見る。

 その目に射貫かれ、葵は、ヒッと悲鳴を上げた。葵は、桜が本当に自分の娘なのかという疑問が湧いた。実の娘が自分を…母である自分をこんな目で見るわけがないと。

 桜は、そんな葵から見切りを付けるように顔を余所へ向けた。

「桜ちゃんのお母さん。何を言っても無駄ですよ。」

「違う…。」

「ん?」

「…桜じゃない…、桜なはずない…。あの優しい、あの子であるはずが…。」

「現実逃避してもしかたないのに…。」

 ついに現実逃避を始めた葵に、雁夜は呆れたのだった。

 

 その後、しばらくして雁夜がバーサーカーと共に帰ってきて、時臣と葵を運んで間桐邸に撤退した。




今まで感情を喪失していた桜が、感情を爆破。これにより、感情を取り戻します。
そして、親に対して容赦なし。蟲蔵に突き落とす気満々。
葵さんは、桜が自分の娘なのかという疑問を持って現実逃避。髪の色が変わっているのせいもある。
そしてサーヴァントと弟子の裏切りで廃人に近い状態になっちゃった時臣。元気になったら、蟲蔵が待ってるぞ……。

そろそろ話も終わりに近づいてるかな。原作小説の時間軸もそろそろ終わりに近いし。
実は、この時間軸、雁夜が綺礼に嵌められて時臣殺害容疑を葵さんに抱かせてしまうイベント頃のつもりです。


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SS27  決戦

セイバー陣営と共に、アーチャー達と決戦。

vsアーチャーだけど、3対1という状況ですが、アーチャーならおそらく恐れることなく戦いをすると思って……。

あと、首切断、表現有り。注意。


 

 間桐邸に撤退した後、葵の証言で鶴野の居場所が分かり、今まで時臣が穴熊を決め込んでいた隠れ家にバーサーカーを行かせて気絶していた鶴野も一応連れ戻した。なお、目を覚ました彼は、雁夜の姿を見るなり悲鳴を上げて自室に逃げ込んだのだった。

「あの人、きっと雁夜さんがバオーだってこと気づいてるね。」

「見てたのか?」

 まあどうでもいいが、っというのが二人の感想だ。

「おじさん。鳥が来てるよ。」

「えっ? 使い魔か? また…。」

 時臣は、すでにこちらの手の中だ。ならば別の陣営が送ってきたのだろう。

 ついさっき時臣を裏切ったアーチャーと綺礼ではないだろう。ならば、残るは、セイバー陣営とライダー陣営だ。

 ふすまを開け、縁側にいる鳥の使い魔を出迎える。

 鳥の足には手紙がくくりつけられていた。

 ツツジがそれを取って広げ、三人で手紙の内容を見た。

「……ライダーが…。」

 そこに書かれていたのは、ライダークラスこと、征服王イスカンダルがアーチャーに倒されたという知らせと……。

「あの女の人…、さらわれたんだ。」

 綺礼に襲撃され、アイリスフィールを奪われたことが記されていた。

「えーと…、聖杯の器たる彼女を取り戻すため、協力願う…か。」

「せいはいのうつわ? あの人、人間じゃないってこと? まあ、ちょっと変わった匂いがしてたけど。」

 いきなりの救援要請に、三人はウーンっと悩んだ。

「…よし。」

「どうするの?」

「…助けに行くぞ。」

「いいの?」

「ああ。バーサーカーの朋友だぜ? 彼女に死なれたら、バーサーカーの悲願は叶わない。時臣もこうして捕まえられたし、とりあえず葵さんと一緒に地下牢にでも閉じ込めておいて、行こう。あ、もちろん蟲蔵じゃないところに。」

「ますたぁぁぁ…!」

「こら、抱きつくな、硬い。」

 実体化したバーサーカーが雁夜に抱きついて泣いた。

「おじさん…。行っちゃうの?」

「ごめんな。桜ちゃん…。」

「…いいよ。でも、必ず、帰ってきてね?」

「もちろんだよ。」

 桜の頭を雁夜は撫でた。

「私は、どうしたらいい?」

「あー、戦力としてお前には来て欲しいところだが…、桜ちゃんを守るのと、時臣達の見張りのために留守番よろしく。」

「りょうかーい。」

 悩みながらそう言った雁夜に、ツツジは、敬礼しながら返事をした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 手紙に指定されていた場所に、雁夜はバーサーカーを連れて、待っていたセイバー達と合流した。

「誰だ?」

 雁夜は、切嗣と面識がないため、思わずそう聞いてしまった。

「ええっと…、あなたは知らなかったでしょうが…。」

「衛宮切嗣。セイバーのマスターだ。」

「はっ?」

 つまりセイバーのマスターは、アイリスフィールではなく、衛宮切嗣という男だったのだ。

 聖杯戦争において、マスターである自身を隠すのは、まあ常套手段だろう。雁夜は知らないことだが、ケイネス達が、ケイネスとソラウでランサーの令呪を分割して管理していたように他の陣営が策を講じていないのはおかしい話であった。

 雁夜は、先ほどから切嗣から自分に向けられる視線に、居心地を悪くした。

 かなり隠しているようだが、自分に対する敵意の濃い匂いも感じる。

「…セイバーから話は聞いてないのか?」

「聞いてる。お前達は、聖杯戦争を降りるつもりらしいな。」

「時臣は捕まえた。だから俺達には、聖杯戦争に加わる理由はなくなった。本当ならその時点で降りるつもりだったが、うちのバーサーカーの朋友の頼みだ。付き合ってやるよ。」

「ランスロット…。すまない。」

「いいえ。王よ。あなたへの贖罪になるのならば、私はこの剣を振るいましょうぞ。」

「んっ?」

「あー、今のバーサーカーは、狂化を自由に解いたりかけたりできるんだ。」

「それは、もはやバーサーカークラスといえるのか?」

「それについてはツッコむな。俺にだってよく分からん。」

 さすがにツッコんできた切嗣に、雁夜は聞くなという風に答えた。

 そして、今までのことをお互いに話した。

 セイバー達は、切嗣の助手だった舞弥を殺され、セイバーがアイリスフィールをさらった綺礼を追ったものの、ライダーを倒して戻ってきたアーチャーに妨害され、追跡に失敗したことを語ってくれた。

 切嗣は、アイリスフィールをさらった綺礼達の居場所をある程度は特定していた。

 

 冬木市民会館。

 ここだと。

 

 魔術的な要素など配慮されず作られたコンサートホールだが、奇しくも冬木における、第四の霊脈となっている場所だ。

 そこから魔術信号が打ち上げられたのだそうだ。魔術に疎い、バーサーカー陣営は気づかなかった。

「なるほど…。それで、俺達は何をすればいい?」

「セイバーと共にアーチャーを攻撃してもらいたい。」

「あんたは?」

「僕は、僕のやるべき事をする。」

 その言葉に、雁夜はなにか違和感を覚えた。

「なあ、衛宮さんよ、あんたあの女の人を助ける気はあるのか?」

「あるが?」

 なぜだろう?

 この例えようのない違和感。

 そして風に乗って匂う、微かな死の匂い……。

「まさか…。」

「どうした?」

「いや、なんでもない。」

 雁夜は嫌な予感を振り払うため首を振ってから答えた。

 

 そしてアーチャーを抜いた、残る二つの陣営が動き出した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 冬木市民会館にたどり着くと、まず屋上に目が行った。

「来たか。」

 そしてアーチャーが、フワリッと飛び降りてきた。赤きマントをなびかせ、夜の闇の中で、コンサートホールから漏れる光を浴びて輝きを増す黄金の鎧を纏って。

「アーチャー! アイリスフィールを返すのだ!」

「おお、セイバー。よくぞ参った。待ちかねていたぞ。」

 アーチャーは、それはそれは美しく笑った。

「こっちのことは無視かよ…。あっ。」

 っという間に、切嗣が走り出し、アーチャーの横を駆け抜けていった。アーチャーは、まったく眼中にないのか無視していた。

「どういうつもりなのです?」

「アレについては、綺礼に任せる。そういう手はずだからな。」

「バーサーカー!」

 バーサーカーが剣を抜き、アーチャーに迫った。

「狂犬。貴様の首を贄として聖杯に捧げ、我とセイバーの婚儀のための祝杯にしてやろう。」

 向かってきたバーサーカーの攻撃を身を翻しながら避けつつ、アーチャーが言った。

「なにを!?」

 セイバーがいきなりのアーチャーからの婚儀の言葉に惑った。

「セイバー! 我が妻となれ!」

「断る!」

「ふっ、そう言うと思っておったわ。だがな、セイバー…、お前はなにゆえ聖杯に縋る?」

「決まっている! 私は、あの時の敗戦を覆すため…。」

「そんなことにいかほどの価値があるというのか?」

「なんだと?」

「国など、いずれは尽きうる夢のような物。なにゆえそれに縋る? なにゆえ執着する? そこの狂犬…、かつてお前を裏切った忠臣の醜態を見てなお立ち上がる?」

「貴様になど騎士の本望など分かるまい!」

「ああ、分かるぬなぁ。我はもとより王であるがためにな。そもそも、お前はこの聖杯戦争がいかなるものか分かっておらぬだろう?」

「なに?」

「そもそもこの冬木の儀式はな、七体の英霊の魂を束ねて生け贄とすることで、“根源”に至る穴を空けようとする試みだ。“奇跡の成就”という約束も、英霊を招き寄せるための餌でしかない。その餌にまつわる風聞だけが一人歩きした結果、今の聖杯戦争という形骸だけが残ったのだ。」

「馬鹿な!?」

「信じられられんか? だがお前のマスターと大事にしていた人形は知っていることぞ?」

「切嗣とアイリスフィールが?」

「これは、遠坂の当主たる時臣を師としていた言峰綺礼からの確かな情報だ。間桐、遠坂、アインツベルンとそれに連なる者達のみ許された秘密ぞ!」

「嘘をつくな、アーチャー!!」

「そこなゲテモノは、知らんかったようだが…、ゲテモノに始末された間桐の当主は知っていたはずだ。」

「あのジジイ……。」

「では…、初めから切嗣は…。」

「我もお前も…、そしてお前のかつての忠臣たる狂犬も、始まりの御三家の魔術師が求める根源へ至るための贄だったということぞ。」

「っ…!!」

「セイバー! 剣を落とすな!」

 セイバーが構えていた剣を握る手を下ろし、膝をついたため、雁夜が叱咤した。

「騎士王と名乗るお前の誓いと願いとやらも、しょせんはその程度ということだ。セイバー。そんなものに縛られる必要はない。」

「あぁぁぁ、さあぁぁぁ!」

「ランスロット…、私は…私の願いは…。」

「違うぅ!!」

「ランスロット?」

「本当に…困った方だ。」

 バーサーカーは、狂化を解いて語り出した。

「あなたと懐いた…、あの誓いも理想もすべては淡雪の夢などではありませんよ。たかだか、王の中の王を名乗るだけの半神などの言葉に惑わされ、消える理想ではありませんでしょう!」

「ランスロット…! そうだ、私は!」

「ええい! 忌々しい犬が! 我の前で自らの力を高めていた狂化を解いたことを悔いるがいい!!」

 王の財宝が発動された直後、バチンッ!と放電が走り、王の財宝が全て弾き飛ばされた。

「……俺を忘れるなよ? 自称王様さん?」

 雁夜の体かほとばしる放電。

 たちまち雁夜の姿が、武装現象へと変異した。

「雑種に劣る…ゲテモノが…!」

 アーチャーの手に剣が現れた。

 だがそれは、剣というには異様だった。

 柄があり、鍔があり、刃渡りはおおよそ長剣の程度。だが肝心の刀身にあたる部分が刃物として形状を逸脱しすぎている。

 三段階に連なった円形と、その切っ先はらせん状に拗くれた鋭い刃、三つの円形は挽き臼のようにゆっくりと、交互に回転を続けている。

 それは、“剣”という概念が現れるよりも前のモノだ。

 それは、ヒトより以前に神が創り出した神の業の具現。

 その武器からほとばしる魔力の量は…、あり得なかった。

「この我が、これを貴様のような凡俗に向けることとなろうとはな…。」

 だが、その武器…、『対界宝具』が本来の威力を発揮することはない。

 なぜなら、先頃のライダーとの戦いで一度放たれていたからだ。

 この宝具には、膨大な魔力を必要とするうえ、本気の本気で完全出力で放とうものなら、地球どころか宇宙とかも含めて世界に大ダメージがある。それほどに強力だが、神秘が失われつつあり、源であるエーテルが少なくなった現在ではその完全出力での放出はほぼ不可能である。だが、それでもライダーの固有結界である軍勢を全滅させたほどの威力はあるのだ。

「まずい…、アレは解放されてはならない!」

「王…。」

「ランスロット…。雁夜殿!」

 セイバーが自らが手にするエクスカリバーを握り直し、雁夜に話しかけた。

 匂いでセイバーが言わんとしていることが分かった雁夜は言葉を発さず、頷いた。

 セイバーが剣を掲げる。そこに凄まじい光が膨らんでいく。

「ほう、エクスカリバー(約束された勝利の剣)で、我に太刀打ちしようとするか?」

 聖剣の輝きによって照らされるセイバーの美しさに、ほぅっと…息を漏らすアーチャーの頬を、投げられた、剣の刃が切った。

 途端表情を一変させたアーチャーが、かつてバーサーカーに奪い取られた宝具の剣を投げたバーサーカーを睨んだ。

「どこまでも…、我を怒らせる天才よのう、狂犬!」

「エクス…カリバーーーー!!」

「エヌマ・エリシュ!」

 セイバーが放った聖剣の光の破壊を、乖離剣エアで迎え撃つアーチャー。

 二つの巨大な力がぶつかり合う。

 光と光がぶつかりあった瞬間の、白…。その中から、青白い腕が伸び、肉薄になっていたアーチャーの首を捉えた。

 

 ぁ…が…!

 

 ズズッとゆっくりと…っと錯覚しているだけかもしれないが、雁夜の腕の刃が、アーチャーの首を切り裂いていく。

 

 お…の……れ…!

 

 心の中ではそう悪態を吐きたかった。さらに反撃することが出来なかった。なぜなら首を落とされるまでの時間が、乖離剣エアにより歪められ、ゆっくりと体感する状態に陥っているのに、自身はそれについていくことができない。だが雁夜は、その中で動いている。

 雁夜の中に潜む寄生虫バオーが、魔術師という不確定要素を手に入れた結果、普通の人間に寄生したのではあり得ない段階へと成長した証だった。しかし、そのことを雁夜自身も、誰も知るよしもない。なぜなら、この段階を必要とする敵は…、今まさに葬られるのだから。

 首があと少しで切り落とされるところまで刃が食い込んだとき、最後にアーチャーが思ったことは…。

 

 最後に、セイバーの姿を、この目に焼き付けておきたかった…。

 

 で、あった。

 

 アーチャーの首が落ちたとき、狂っていた時間が元に戻り、白かった景色が色と景色を取り戻した。

 アーチャーの胴体がうつ伏せに倒れ、首から流れる血が道路を染めた。

「……やった。」

 大きな力を解放し終えたセイバーが剣を杖にしてふらついた。

 やがてアーチャーの死体が消えていった。

 

 ドクンッ

 

 雁夜は、ビクッと震えた。

「雁夜殿?」

 その大げさな反応にセイバーが訝しんだ。

 その直後、雁夜は、弾かれたように走り出し、市民会館に入って行った。

「雁夜殿!?」

「マスター!」

 セイバーと、バーサーカーもその後を追った。

 

 

 コンサートホール…、であった場所。

 そこには、黒い泥と、炎の中に浮かぶ、黄金の杯があった。

 

 それが聖杯だと、理解したときだった。

 セイバーの頭に切嗣の声が聞こえた。

 

 

 聖杯を破壊しろ…と。




アーチャーのセイバーへの揺すりの言葉は、メチャクチャ悩みました……。
結局、この聖杯戦争に呼ばれた理由が根源を求める魔術師達による企みで、最初から願いを叶えてやるつもりはなかったのだということを材料にしました。
ランスロットの励ましも悩みました。私の執筆力ではこの程度です……。

あと、アーチャーとの決着をあっさりにして申し訳ないです。
でも、あのとんでもない一撃を乱発されたら、セイバーが倒される可能性があるし、バーサーカーじゃ防げないし、バオーでも無理だから、二つの力がぶつかった瞬間の歪みに乗じて、魔術師という不確定要素により進化したバオーの新たな力により、時間の歪みの影響をほとんど受けず、アーチャーの首を切り落とさせました。
まあ、もっとも、この新しい力については、ギルガメッシュほどの強敵が現れない限りは使われないので、おそらくこれっきりでしょうね。


次回、回避できない悲劇の運命が動き出す…予定。


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SS28  聖杯

活動報告でも書きましたが。

運命は変えられない……。

っというのが、筆者が出した結末です。


「なっ!?」

 その命令が下されたと同時に、セイバーが自分の意思に反して、剣を握り振り上げようとしていた。

 必死になってそれに抵抗する。

 これは、令呪による絶対的な服従。その強制力は凄まじい。

「王!?」

「イヤだ…。聖杯は…、あなたの悲願では!? 切嗣!!」

『バーサーカー!』

 すると、念話に近い形で、雁夜がバーサーカーに語りかけた。

「マスター?」

『セイバーに、聖杯を破壊させるな!』

「えっ?」

『急げ! あれから、とんでもない恐ろしい“匂い”がしている!! アレを破られたら、この地がどうなるか分かったものじゃない!!』

「は、はい! 王よ…、申し訳ありません!!」

「ランスロット! 私を止めろ! 雁夜殿! 私を…!」

 聖杯を破壊しろという令呪の命令により、狂化が解けているバーサーカーが吹っ飛ばされ、聖杯の近くに倒れた。

 炎を揺らす泥に触れたとき、バーサーカーは、そこにある“とてつもない悪意”を感じ取った。

「これは…!」

『バーサーカー! 令呪をもって命ずる! 聖杯を守れ!!』

「っ!!」

 令呪の強制力を受け、狂化したバーサーカーが立ち上がり、聖杯に迫ろうとするセイバーの前に立ちはだかった。

 雁夜が、腕の刃をもってセイバーに躍りかかる。

 令呪の命令に操られているセイバーが剣で迎え撃った。

 

 宝具にて、聖杯を破壊せよ

 

 重ねて命じられた令呪による強制力により、セイバーが魔力解放を行い、雁夜を吹っ飛ばした。

 そしてエクスカリバーを振り上げ、エクスカリバーに力を溜め始めた。

『ば、バーサーカー! 重ねて命じる! 聖杯を守れ!!』

「ぁぁぁあああ、さぁぁああああ!!」

「ランスロット!!」

 力の放流に逆らい、バーサーカーが一歩また一歩と、泣いているセイバーに近寄り、止めようとする。

 セイバーの魔力解放で吹っ飛ばされ、全身の骨をたたき折られた状態から回復した雁夜は、気づく。ボス席にいる、傷ついた切嗣が、その右手の最後の令呪を使おうとしていることを。

「第三の令呪をもって…、重ねて命ず!」

 雁夜の刃が切嗣と捉えるよりも早く、切嗣の右手にある最後の令呪の一画が消えようとしていた。

 

「セイバー! 聖杯を破壊しろ!!」

 

 途端、雁夜の後ろの方で、エクスカリバーによる力の解放が起こった。

 眼前でエクスカリバーの力をもろに受けたバーサーカーが、光の中に消えていく……。

「ランスロットォォォォオオオオ!!」

「申し訳…あり、ま、せ…ん……王……。」

 バーサーカーが頭に被っていた兜が、まず砕け、その下にある顔が露わになり、泣き叫ぶセイバーに向かって微笑みを浮かべながら、バーサーカー…、ランスロットは、エクスカリバーの力の放流に飲まれて完全に消えた。

 バーサーカーを飲み込んで、消し去って、なお止まらない光の束は、聖杯を直撃した。

 聖杯は、静かに閃光の灼熱の中に消えていった。

 それだけでは終わらず、エクスカリバーの力は、市民会館の上階を破壊し、雪崩のように瓦礫が崩れてきた。

 そして露わになった夜空……。そこに浮かぶのは、孔(あな)。

 深山街西端にある円蔵山の地下に秘められた『大聖杯』の魔方陣とを結ぶ、空間のトンネル。

 六十年に亘り、地脈のマナを貪り続け、今また更に六人の英霊(マレビト)の魂を受け止めた大聖杯の内にある肥大化した途方もない魔力の渦。

 それが黒々とうねっている。

 

 止められなかった…

 

 雁夜は、その光景を見つめながらそう思った。

 これから起こるであろう、恐ろしく残酷な悲劇を……匂いとして感じていながら、止めることができなかった己の無力さを痛感した。

 そして、切嗣の失策を……痛恨のミスを思い、ボス席にもたれている切嗣を見た。

 

 切嗣は、破壊すべき対象を間違えたのだ。

 本当に破壊すべきは、空に空いている、あの孔の方だったのだ。

 聖杯は、あの空にある孔の中にある“それ”をせき止めておくための、制御装置に過ぎなかったのだ。

 それを失えばどうなるかなど、火を見るよりも明らかだ。

 

 そして、孔…、黒い太陽…、黒い魔力の渦が溶け出す。

 『この世全ての悪(アンリマユ)』の呪詛を受け、染まった黒い泥。

 すべての生命を焼き、裁く、破滅の滝が市民会館の上に降り注いだ。

 膝を突き、静かに泣いていたセイバーが泥に触れた瞬間、分解され泥と一体化した。

 泥は川となり、周囲一帯へと流れ出た。

 その頃には、雁夜は、切嗣を置いて高所へ逃れていた。

 自分を追ってくる泥から走って、高所から高所へ飛び、逃れる。

 

「おじさん!」

 

 高所から、周囲一帯を飲み込み、生きとし生きるモノ全てを飲み込み、殺していく様を、眺めていたときだった。

 そこに桜の声が聞こえたので、そちらを見ると、反対側の高所に時臣と葵と鶴野をヒモでくくって担いでいるツツジと、その傍らでピョンピョンと跳ねて雁夜を呼ぶ桜がいた。

 どうやら、あちらも泥から逃れため避難してきたらしい。

 雁夜は、そちらの高所へ跳んで移動した。

 そして、雁夜は、武装現象を解いた。そして、力が失せたように両膝をついた。

「おじさん? どこか痛いの?」

「………止められなかった。」

「こんなの…、たった一人でどうにかするって方が無理だよ。」

 ツツジが、すべてを焼き払う火災を発生させる泥を眺めながら、そう言った。

 やがて、孔は閉じた。

 だが泥が残した火災は、広がりに広がっていき、勢いを殺すことなく、逃げ惑う人々を黒い炭にしていった。

 雁夜達は、ただ見ていることしかできなかった。

 後に残されたのは、紅蓮の地獄。

 生きたモノの気配の匂いがほとんど残っていない…、焼け野原と、焼けて壊れた家の瓦礫の山。

 阿鼻叫喚の声が、匂いとなって、感じ取れる。

 雁夜は、耳を塞ぎ、震えていた。

 桜はそんな雁夜の傍らに寄り添っていた。

 ツツジは、黙ったまま、耐えるように目を閉じていた。

 

 夜の闇を爛々と照らす紅蓮の炎は、夜が明ける頃には、ようやく勢いを失っていった。

 

 

 炎が舞あげる、焼けた空気に乗って、ツツジは、受肉したアーチャーと、復活した綺礼と、生存していた切嗣の匂いを感じ取った。

 雁夜は、自ら感覚を閉ざそうと躍起になっているため気づいていない。

 雁夜に捨て置かれた、この惨状の原因を起こしてしまった者……、衛宮切嗣は、たった一人で炎に焼かれた景色の中を、文字通り抜け殻のようにゆっくりと歩いている。

 綺礼達は、そんな切嗣を見つけたようだが、もう気にもとめる必要もないと判断したらしく、その場から去って行った。切嗣の方は、綺礼達に気づいていなかった。

 どれくらい時間が経っただろう…、やがて、小さな生存者の匂いを、濃厚すぎる焼けた死の匂いの中から見つけ出し、その小さな生存者を切嗣が見つけた。

 そして切嗣は、涙と共に、こう言っていた。

 

 ありがとう。っと。

 

 

「……可哀想…。」

 それは、誰に向けて言ったのか。思わずそう呟いたツツジにも分からなかった。




色んな結末を考えて……、でも、あの汚染された聖杯を残しててもヤバいし、かといってどうすればいいかも思いつかなかったしで…、こんな結末になってしまいました。

セイバーに殺してもらいたかったバーサーカーだけが、得した?
でもマスターである雁夜の命令を守れなかったから、ダメか……。

切嗣さん…、焦ってたのと、聖杯がヤバいのに気づいたのはいいけど、もうちょっと……なんていうか、あーもう…。


もうすぐ最終回かな……。



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最終話  旅路

もう、一気に終わらせることにしました。

時臣達の断罪については、R18になっちゃうので、読者のご想像にお任せしますわ。
決して面倒くさかったわけじゃないので、お願いします。


感想欄でもありましたが、秘密機関ドレス壊滅のため、旅に出た雁夜達の最後の物語です。

微グロ注意。


 

 美しい月の光が窓から入ってくる。

 その豪邸の部屋の隅に、一人の男が、今まさに死の淵に立たされていた。

「うぐぐ…。」

「痛い?」

 そんな男の前には、男を見おろす、場違いな声色を発する、少女がいた。

 凜々しい顔立ちは、ともすれば少年のように見える中性的なこの少女こそ、目の前で尻餅をついて呻いている男を死に追いやろうとしている張本人だ。

「でもね……、もっともっと痛い思いをした人達がいるんだよ?」

「わ、私は…、確かにドレスに研究資金を、提供していた!」

 男は血を流しながら許しを請うように叫びだした。

 この男は、秘密機関ドレスを支えていた研究資金などの金を提供していた者の一人であった。

 寄生虫バオーなどの生物兵器を生み出した、霞の目という科学者すらその正体を知らなかった仮面の男であるが、なぜかその正体を知られていて、そして、今、断罪を受けていた。

「だ、…だが、だが! 私は、誰も殺してはいないぞ!」

「あなたは、自分の手を汚してないけど。あなたの出したお金が、たくさんの命を奪ったことは知ってたはずだよ?」

「私は、私は! 関係ない! ただ金を出しただけだ!」

「地獄で、あなたの仲間のヒトと一緒に裁かれなさい。」

「ま、待て! 私をここで殺せば、貴様もただでは済まんぞ!?」

「みーんな、そう言うよね。でも、あなたは、知らないでしょう? そもそも、あなた、他の資金提供者がもうこの世にいないことだって、知らないでしょう?」

「な…!?」

「何をやったのかなんて、教えない。何も分からないままでいい。」

「待て、待ってくれぇぇぇぇ!!」

「だから、死んで?」

 喚き散らす男の顔に少女が手を添えると、男の顔が頭ごとジュッと解けて、ドロドロになった。

 男が絶命したのをしっかりと匂いで確認してから、少女は手を離した。

 フウッと腰に手を当てて背筋をただし、息を吐く。

 

「終わったのか? ツツジ。」

 

 そこへ、やってきたのは、雁夜だった。

 その傍らには、幼い少女が一人。

 彼女は、桜である。

 そして、二人の後ろから、ちょっと遅れて現れたのは……、先ほどツツジが殺した男だった。ただし無傷で。

「うん。終わったよ。ありがとう、ご苦労様、雁夜さん、桜ちゃん。」

「バーサーカー。もういいぞ。」

 先ほど死んだ男に姿を変えていたサーヴァント、バーサーカーが変身を解いた。

 この変身能力は、バーサーカークラスであるランスロットの、他人に扮して武勇を重ねたという伝説から得られた能力だった。対象の姿を完璧にコピーする。

 ツツジが、先ほど殺した男に話した、他の仲間がすでにこの世にいないことを男が知らなかったのは、このバーサーカーの能力を使って変身させてすり替わり、更に桜が使う魔術の催眠などによる情報網の操作で本物を闇に葬ったからだ。

 ……なぜ、あの時冬木の市民会館でエクスカリバーの力で葬られたはずのバーサーカーがいるのか。それは、雁夜の右手に残った最後の令呪によるものだ。

 冬木市で起きたあの惨劇の日から、少し経った頃、右手に残った最後の令呪と、バーサーカーがまだパスが繋がっていて、消えたバーサーカーが少しずつ復活していることに気づいた。そして、半年後、バーサーカーは、戻ってきたのだ。

 バーサーカーがこの世界にいる理由はもうないので、あとは令呪を適当に使って雁夜のマスターとしての権限を失わせれば、バーサーカーは消えるはずだったが、雁夜が、バーサーカーのこの変身能力に着目し、秘密機関ドレスを壊滅させるため、少しの間でいいから手伝ってくれと頼んだのだ。

 バーサーカーはこれを受け入れ、こうして変身能力を使って、秘密機関ドレスの資金源だったスポンサー達を次々に秘密裏に暗殺する手助けをした。

 匂いで感じ取っていることだが、秘密機関ドレスは、バーサーカーが扮したスポンサー達が資金提供の打ち切りを言い出したことに混乱し、資金繰りに困り果てているようだ。

 科学の力でその地位を築き上げてきたドレスは、魔術という不可解な力には疎かったらしい。

 ツツジは、魔術師の力を求め、冬木市で聖杯戦争参加者から魔術の力を求めようとしたことが、こういう形で成功につながったことを喜んだ。

「ありがとう、雁夜さん。」

「なんだ、急に?」

 最後のスポンサーを殺し終えて、現場から退却する途中で、ツツジがお礼を言った。

「あなたに会えて…、本当によかった。」

「何言ってんだよ。まだ終わってないだろ? スポンサーは潰したが、肝心のドレスがまだ健在じゃないかよ。」

「うん。分かってる。」

「ねえ、ツツジさん。」

「なぁに?」

「どうして、あなたは、ドレスをそんなに倒したがってるのか…、もう教えてくれてもいいでしょう?」

 夜道を走る車の中で、桜がツツジにそう尋ねてきた。

 実は、まだ全然自分のことを話していなかったツツジだった。

「内緒。」

「なんだよ、ここまで来て、まだ話さない気か? けど…、前のスポンサーの奴がなんか言ってたな…。お前…、誰かにそっくりだってな。……い………なんちゃらって言ってたような?」

 うろ覚えであるため、そのスポンサーだった者が、ツツジが誰に似ているのかと言っていたことを覚えてなかった。

「フフフ…。」

 ツツジは、ニコニコ笑った。

「……こんなこと、きっとあの人達は、望んでいなかったと思うから、これはあくまで私の自己満足なの。」

「っと言うと?」

「私は、私の自己満足のために、力を欲して、結果、雁夜さん達を巻き込んだ。こんなことに巻き込んだ私は、きっとあなた達から殺されても仕方ないと思ってる。」

「……馬鹿言うなよ。」

「そうよ。」

 ツツジの自虐の言葉に、二人は否定の言葉を吐いた。

「俺は感謝してるぞ? 俺が今ここで桜ちゃんと生きているのは、お前のおかげなんだからな。」

「私も感謝してるよ? ツツジさんと出会えたこと。」

「……ありがとう。じゃあ…、ちょっとだけ、昔話でもしようか。」

「おっ?」

「私はね…。親の顔を知らないの。生まれたときに、もう孤児院にいたから。でも、たったひとつだけ…、親に関する情報があった。それは苗字だった。孤児院の院長さんから、聞いて直感した。これが、お父さんの名前だって。それからかな? 私が他の人と生まれた時から違うんだって理解し始めたのは……。そして、秘密機関ドレスとの深い因縁も……。きっと、私の中に、生まれたときからずっと一緒に育ってきたモノが教えてくれたんだ。」

 ツツジは、車の窓から見える美しい月を眺めて、懐かしむように目を細めた。

「『マザー・バオー』。最初に出会ったドレスの奴らは、私をそう呼んでったっけ。」

 

 三人、プラス、サーヴァント一体を乗せた車は、夜の長い道を、走り抜けていった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 それから、更に、五年後……、秘密機関ドレスは、決してその存在を表沙汰になることなく、闇の世界にいるまま、滅んでいった……。

 その滅びの裏で、暗躍していた三人と一体の英霊の存在もまた、永遠に表沙汰になることはなかった……。

 そして、時を同じくして、長らく明かりが消えていた寂れかけた間桐邸に、住む者がいる証である明かりが点ることになる。

 そこには、何年経っても、容姿を変えていない男が一人と、十代半ばから同じく姿を変えていない少女と、美しく成長しつつある少女がひとり。立場や年齢を超えて、仲良く暮らしていたいう。




勢いのまま終わらせないと、グダりそうだったので、最終回にしました。

序盤で殺されてたドレスのスポンサーは、バオー来訪者の漫画で仮面を付けてた人です。犬バオーを見学してた。

ドレスが、霞の目に替わる科学者を立てて、魔術師という人種の研究も始めていたという捏造も書こうかな?って思いましたが、それだとややこしくなりそうだったので止めました。この捏造設定だと、魔術協会とかも絡んでて全面戦争なんて起きそうだったので。それは、それで面白そうだが…、魔術によって隠蔽されていたことが表沙汰になると世界が大混乱になりそうだったし……。主に願望器がらみで。


一ヶ月弱で、終わりましたが、たくさんのお気に入り、感想、評価までしていただきありがとうございました。


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番外編1 復讐

R15程度にもならない、蟲蔵編。

R18を書こうと思ったけど、想像したらエグかったので、無理でした。

その代わり、最初だけちょっとギャグ調。
捏造設定で、時臣さんが、虫嫌いです。


 

 ギチギチ、ガサゴソ、カサカサ、ミーミー、ピーピー……。

 聞く人によっては、ゾワゾワってなりそうな音と共に、変な甲高い鳴き声が聞こえる薄暗い地下の蔵。

 ここは、間桐臓現が生産して飼育していた、間桐の魔術に欠かせない蟲達がいる場所だ。まあ、蟲蔵というやつだ。

 蟲の海と言って良いほど埋め尽くされた部分を見渡せる段差の上は、開けており、そこでは……。

 

「どうした、時臣?」

「……勘弁してください。」

 

 雁夜に向かって綺麗に土下座している時臣と、その隣で座り込んで腰を抜かしている葵がいた。

 この後すぐに葵から聞いた話だが、なんと時臣、虫の類が嫌いだったらしい。特に芋虫系。

「ハーーハッハッハッハッ! 残念だったな時臣! 間桐の魔術の施術で使われるのは、お前のでぇ嫌いな芋虫系ばっかなんだよ! しかも見ろ、このデカさ!!」

「キャーーーーーーーー!!」

 雁夜が一匹持ってきて、ビチビチと暴れるそれを土下座している時臣の横顔に押しつけると、男の甲高い悲鳴を時臣があげて、ズザザザっと、蔵の端の方に逃げていった。

「だが安心しろ! 魔術的な施術はしない!(※というかできない。調整役の臓現が死んでるため) かじられて、舐め回されて、穴という穴に入り込まれて蠢かれる程度の苦しみで済ませてやるから!!」

「いやあああああああああああああああああ!!」

 葵の悲鳴ではない。時臣の悲鳴だ。

「やめて、お願い、許して、雁夜くん…。」

「ダメ。」

 許しを請う葵を、ばっさりと桜が切り捨てた。

「さ、さくらぁ…。お願い…、私達を許して…!」

 ついに何度目かの泣きに入る葵。

「ダメ。」

 しかしそれをばっさりと桜はまた切り捨てた。

「ただし! 期間は限定する! 桜ちゃんが、この間桐の家に来て、蟲蔵に放り込まれてから、俺がこの家に戻ってくるまでの間だ!!」

「年単位…。」

 腕組みしてそう告げる雁夜と、同じく腕組みして桜がトドメを刺す。

 ついに時臣と葵が滝のように泣き出す。

「とりあえず、まずは! 1時間程度頑張ってみようぜ! 死にそうだったらすぐに引っ張り上げるからよぉ!! 修行無しで俺だって一年は耐えれたんだから、きっとだいじょうぶだ!!」」

「いやあああああああああああああああ!!」

「やめてえええええええええええええ!!」

「ダメ。」

 ドンッと、桜が二人を蹴って突き落とした。

 

「わぁお。」

 

 蔵の出入り口から見てたツツジは、おっかないとばかり口を手で押さえていた。

 久しぶりの人間が放り込まれてきて、ざわめく蟲の音と、二人の悲鳴のBGM。

 その後、1時間が経過するまで上に上がり、お茶をしたのだが、雁夜は、笑いながら泣いてるし、桜は鉄仮面のように無表情だしで……。

「復讐って、空しいねぇ…。」

 自分も人のこと言えないけど…っと、ツツジは呟いたのだった。




たぶん……、養子に出されてから一年くらいは経ってるのかな?
それぐらいは、頑張ってもらうという期間限定の罰です。

桜ちゃんが、もはや桜様(?)。

初恋の人を間桐の魔術に染めたくなかったから身を引いたのに、結局桜のために初恋の人の葵を間桐の蟲の中に放り込むことになったので、雁夜は一時的に気がおかしくなって泣き笑いしています。
桜は、過去にやられたことを思い出してしまい、感情喪失状態に一時的に戻ってしまう。

復讐って……、きっと必要なら必要だけど、やる方もやられる方もダメージデカいよね。きっと……。


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番外編2 天敵

時間軸は、最終話の最後。

三人が秘密機関ドレスを滅ぼし、間桐邸に帰ってきた頃。

ギルガメッシュは、無意識にツツジが苦手という話。


 秘密機関ドレスが、闇の世界で人知れず滅ぼされて一週間後くらい……。

 間桐邸に帰ってきた三人は、ゆっくりと戦いとは無縁の日々を過ごしていたが……。

 

「あれ? 成金金ぴかサーヴァントだ。」

「っ…。」

「人の顔見て、なにその反応?」

「失礼なサーヴァント。」

 ライダースーツ姿で歩いていた、アーチャーことギルガメッシュを、買い物中だったツツジと桜が見つけて話しかけたら、ギルガメッシュは、心底気分を害されたと美しい顔を歪めた。

「我は…、もはや人に使われるマレビトではないわ。」

「でも英霊は、英霊でしょ? 実体化したって。」

「…知っているのか?」

「あの日…、あなたが実体を持ったのを匂いで感じた。綺礼って人も復活したのもね。」

「…ふん。」

「ねえ、なんで目を合せないの?」

「我の目を欲するなど、片腹痛いわ。」

「私のこと嫌いでしょ。」

「ああ、そうだ…。コラ! 何を言わせるか!」

 カッと怒ったギルガメッシュが、とうとう顔をツツジに向けた。

「安心して。私も、あなたのこと嫌いだから。」

「貴様、我に向かって堂々と言ってくれるな?」

 ギッと、ギルガメッシュがツツジを睨む。普通なら獅子も怯えすくむほどの睨みだが、ツツジは平然としている。むしろギルガメッシュの反応を楽しんでいるようだ。その態度に、ギルガメッシュは、ますます不機嫌になる。

 そしてとうとう王の財宝を背後から展開した。

「わぁお。気に入らないとすぐそれだね。それって、後で知ったけど王の財宝なんでしょ? ずいぶん散財するんだね? 大盤振る舞い?」

「その口…、今すぐ閉じろ! でなければ、その腹立たしい笑みを浮かべている顔をズタズタに引き裂いてくれるわ!」

「やだよぉ。」

「死ね!」

「やめろ。ギルガメッシュ。」

 王の財宝を発射寸前のところで、ギルガメッシュは、後ろから綺礼に殴られた。

「綺礼! 貴様、止めるな!」

「事後処理のことを考えろ。ここは町中だ。こうして、おまえが王の財宝を展開したことに関する記憶を消して廻るだけで手間なのだぞ?」

「じゃあね~、自称王様。」

「自称ではない!! 殺す!!」

「やめろ。気持ちは分かるが。」

 ギャーギャーと騒ぐギルガメッシュをなだめる綺礼を残して、ツツジは、買い物袋をもって桜と一緒に間桐邸に帰って行ったのだった。

 

「ふむ…。あのゲテモノの娘…、神話の王をここまで怒らせるとは、中々面白い。まさに天敵か……。」

 

 ぷんすか怒りながら教会に帰っていくギルガメッシュの後ろをついて行く綺礼は、ふむっと顎に手を当ててそんなことを呟いたのだった。




ツツジ相手に空回りして、ぷんすか怒るギルガメッシュが書きたかっただけです。

受肉したギルガメッシュ相手だと、攻撃を避けるだけで周りが大惨事でしょうね。

実は、ツツジが刻印蟲を食って魔力を取り入れ、雁夜とは違う意味で即席魔術師になって一時的にサーヴァント相手にダメージを与えられるようなるというチートを考えましたが、ここではまだその方法を実行していません。


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番外編3 IFのIF? もしも偽善がなかったら……

番外編の短編。突発ネタ。







 もしも、SS16『偽善』で、ツツジがソラウを助けるなどの手を出さなかったら?というIFのIF?


 ランサーこと、ディルムッドが復讐の悪鬼と化し、汚染された聖杯に選ばれてしまい令呪を与えられた子士郎をマスターにする話。


 匂いで、知っていながら助けに行かなかったことを後悔するツツジ。
 一応回収していたソラウの右手を悪鬼と化したディルムッドに見せ……?


 ディル→子士郎? オチ無し。
 士郎は、名前すら出てない。



そもそも、士郎でやる意味あったのか?って感じです。注意。


 

 鬼。

 

 意味合いは、様々だが、大体の場合、あまり良い意味を持たない。

 頭に角がある架空の妖怪として描かれることが多く、生まれながらにそうであるとか……、時に地獄において罪人を裁く側である場合もある。

 この島国において、鬼とは、良い意味を持たない。

 その理由のひとつとして、人に対して略奪を行うとか、人を食らうとか……。

 

 そして……、人間が強すぎる憎しみで変化してしまった姿だともされるからだ。

 

 この島国で、四回目となる、英霊、あるいはサーヴァントと呼ばれる、伝説上の強力な魂達を呼び寄せ、殺し合わせる儀式が行われている。

 

 そこに、ランサークラスと呼ばれる、槍を操る騎士のサーヴァントがいた。

 

 彼の真名は、ディルムッド。

 

 ケルト神話に描かれる、フィオナの騎士団の随一の戦士である。

 

 しかし、彼は、異性を魅了してしまう呪いを持っており、それゆえに異性をめぐる争いの末に見捨てられて死んだという話が残っている。

 生前、つまり英霊の座に座る前の不義と後悔の念により、主(マスター)に仕え、忠義を果たすことを目的にこの聖杯戦争と呼ばれる儀式に参じたのだ。

 ディルムッドには、聖杯に託す祈りはない。だが、彼の目的を達するためには、聖杯は不可欠という矛盾を抱えていた。

 そして、その矛盾と、マスターとその婚約者の間に走ってしまった亀裂は、最悪の形でディルムッドを敗走させる形になってしまった。

 ディルムッドの魔貌に魅了されてしまった、マスター・ケイネスの婚約者ソラウが、切嗣との戦いの末に下半身不全となってしまったケイネスから強奪する形で、ランサーとを繋ぐ令呪を自分自身に移してしまったのだ。それまでは、令呪を分割して管理することで、聖杯戦争を戦い抜こうとしたケイネスの策により、半分だけがソラウにあったが、すべての令呪を一度にソラウが奪った。ちなみに、その後、新たな令呪を教会の聖杯戦争の管理者からもらい受けたケイネス。

 結果、ソラウは、切嗣の策略により令呪を刻んでいた右手を切り離され、意識のないまま人質にされて、ケイネスは切嗣の要求に従い、令呪を全て使い、ディルムッドを自害させたのだ。

 切嗣は、聖杯戦争の勝者となるため、完全無欠な形で勝利を収めようとしたのだ。その結果が…、どのようなことをもたらすかも知らず、まさかそんなことになるなどとは考えず……。

 

 

 

 

「貴様らは…、そんなにも……。

そんなにも勝ちたいか!?

そうまでして聖杯が欲しいか!?

この俺がたったひとつ懐いた祈りさえ、踏みにじって、貴様らは!

何ひとつ恥じないというのか!?

赦さん!!

断じて貴様らは、赦さん!!

名利に憑かれ、騎士の誇りを貶めた亡者ども!

その夢を我が血で穢すがいい!

聖杯に呪いあれ!

その願望に災いあれ!!

いつか地獄の釜に落ちながら、このディルムッドの怒りを思い出せ!」

 

 

 

 

 美しい顔を憎悪に歪め、血涙とともに、吐き出された呪詛。

 それは、彼を“鬼”へと変えるには十分すぎた。

 令呪の強制力により、自らの誇りである槍で、自らの手で自らの心臓を貫かされた神話の英霊は、このときをもって、堕ちた……。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「っ……。」

 ツツジは、庭にこっそりと埋めようとした、ソラウの右手を見つめた。

 綺麗な手。若い女性の手。その手の甲に、まるで呪いのように刻まれた令呪。

 魔術師ではない、ツツジにはどうすることもできない、ただの宝の持ち腐れでしかないモノ。

 ツツジがソラウの手を拾ったのは、気まぐれだった。

 すぐ近くに連れて行かれる瀕死のソラウがいた。

 だが、何もしなかった。

 匂いで、感じていた。

 ランサー達がいかなる形で、残酷な最後を迎えたかを。

 マスターたる二人の魔術師がいなくなり、その跡地に、誰もいなくなったあと、朝の夜明けと共に、一人の悪鬼が現れたのを。

 だが、感じていただけで……、ツツジは何もしなかった。

 何か行動を起こしていれば、あの結末を変えることは、少しは出来たかも知れない…。だがそれは、魔術師ではないツツジが手を出していいことではない。だから何もしなかった。見ない振りをしていた。

 そして、見ない振りをして、隠すように拾ったソラウの右手をこっそりと埋めて葬ろうとした。

 匂いで感じた。

 悪鬼となった、かつての英霊は、新たなマスターを得て、動き出そうとしているのを。

 その新たなマスターが、純粋無垢、桜と同じぐらいの歳の子であることも。

 放っておけば……、まず間違いなく、バーサーカーを抱えているこちらにも被害は多少なり出るだろう。

 まだ、雁夜は気づいていない。彼は、まだ成長の途中過程だ。だからツツジほど匂いを感じていない。

 ツツジは、ハンカチでソラウの右手を包み直し、懐にしまって音もなく間桐邸から出た。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ディルムッドは、夜の闇に紛れ、幼い新たなマスターを腕に抱えて移動しようとして立ち止まった。

 走り抜けようとした道の先には、凜々しい顔立ちをした……少年、いや、少女がいた。

 時間帯的にも、十代中頃の少女が出歩く時間じゃない。

 もちろん……、ディルムッドが十にもならない幼い少年を抱えて戦いに行こうとするのもおかしい。

「ランサー…さん。ですね?」

 自身の召喚された時のクラスを、少年のような少女にしては少し低めの声で言われ、眼前にいる少女がただ少女でないことをすぐに察した。

 つい最近、自身の心臓を貫いていた赤い槍を握り、もう片腕で抱えている少年を抱え直して、ディルムッドは、眼前にいる少女を睨んだ。

 相手の少女は、辛そうに、眉を寄せた。

「気づいてないの?」

 小首を傾げ、少し悲しそうに聞く。

「…なんのことだ?」

 思わず問い返した。

「気づいてないんだね。その顔……。すごく酷い。」

「それが…、どうした?」

「よく、その子に怖がられなかったなぁ、って思って。」

 少女は、ディルムッドが抱えている、意識のない幼い少年を指差した。

「……俺の新たなるマスターは、快諾してくれたのだ。」

 ディルムッドは、夜の闇に隠れている顔をうっとりと、歪めた。

「あの憎き怨敵の首級を取るために…、俺はここで立ち止まるわけにはいかない。娘、そこをどいてくれ。」

 すると、少女は首を横に振った。

「こうしている間にも、あの怨敵は、誇りを踏みにじり、その穢れた手で、今なお聖杯を求めているだろう。あの怨敵に聖杯を手にさせてはならない。」

「知ってる。あなたが、どんな風に殺されて…、そんな有様になったのか、全部…。」

「知っている? ならば、なおのこと、道を譲ってもらいたいな。」

「これ。」

 すると、少女は懐から血濡れたハンカチにくるまった何かを取り出し、ハンカチを取った。

 それを見た時、ディルムッドの目が大きく見開かれた。

「それは!」

「拾ったの。」

 それは、ディルムッドにとって、忘れようもない令呪。女の手。

「ねえ、無駄だって分からないかなぁ? 貴方が怨敵と定めた敵を倒しても、貴方は永遠に報われないってこと。」

「それを…、渡せ…。」

 ディルムッドの声色が恐ろしい響きのあるモノに変化した。

「貴方にとっての、前のマスターとの関係については、私は、知らない。けど、そんな小さな子をマスターにしてまで戦いたい?」

「返せ……。」

 ディルムッドが、ジリッと少女に近寄った。

「何かの意図を感じない? それとも、もう……、そんなことも分からないほど壊れちゃった?」

「が、え…せええええええええええええええええええ!!」

 ゴウッとディルムッドが、槍を突き出して突進してきた。

 そのスピードは、普通の人間では決して避けられないほどだ。

 だが、少女は、諦めたように目を閉じ、ヒラリッと横へずれて突進を避けた。

 避けた直後、少女は、ディルムッドのもう片腕から、幼いマスターを奪い取った。

「なっ!?」

「隙だらけだよ。そんなんじゃ…、怨敵には勝てない。」

 少女は、幼いマスターを抱きかかえ、ディルムッドから離れ、塀の上へ跳躍し、家へ屋根へ跳んで走った。

「待てぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええ!!」

 少女は、後ろから、かつて美しい騎士にして、この聖杯戦争に呼ばれた伝説上の英雄達の魂から、悪霊…悪鬼と化してしまった英霊・ディルムッドが追いかけてきても、恐れることなくディルムッドの新しい小さなマスターの少年を抱えたまま跳んで、跳ねて、走った。

 永遠に続くような凄まじい追いかけっこは、やがて終わりを告げる。

「ここだよ。」

 とある土蔵の近くに着地した時……。

 

「ランサー!?」

 

「ぁ…、あぁぁぁぁああああああああああああああああああ、せい、ばぁぁぁぁぁ!!」

 土蔵の出入り口を守っていたセイバーを見て、ディルムッドが咆吼する。

 セイバーは、戦慄した。

 

 かつて、魔貌とまで言わしめるほど美しかった顔を凄まじすぎる憎悪で歪ませ、血涙のあとを生々しく残し、目を赤く血走らせたディルムッドの有様に。

 

「セイバー?」

 すると、土蔵から、衛宮切嗣が姿を現わした。

 すると、ディルムッドがピタッといったん止まった。

「は…、ハハハハハハハハハハハハ!! 見つけた、見つけた、みつけたああああああああああああ!!」

 切嗣を認識したディルムッドは、今度は狂ったように笑い出した。

「…ら、ランサー…だと? 馬鹿な…。」

「ねえ、貴方。」

「はっ?」

 土蔵の横に立っている少女に声をかけられ、そちらを見た切嗣。

 直後、セイバーが動き、切嗣に襲いかかろうとしたディルムッドを剣で止めた。

「コレ……、貴方のせいだからね?」

「なにを…。」

 少女は、ディルムッドの新しいマスターを片腕で抱えたまま、もう片手を伸ばして、ディルムッドを指差した。

「始末は、ちゃんとしなきゃ……、貴方はもっと酷いことをすることになるよ?」

「君は…、なにを…。」

「だから、ちゃんと後始末はして。」

 その直後、カランッと音が鳴った。

「あ…。」

 見ると、いつの間にか目を覚ましていた幼いマスターが、何かをディルムッドの方に投げたらしい体勢になっていた。

「それは!?」

 セイバーが、見覚えのあるソレを見て、驚いた。

「おお…、おおおおお! 我がマスターよ!!」

 ディルムッドが飛びつくように、ソレを拾い上げ、手で確かめ、しっかりと握った。

 

 それは、キャスターを倒すため、セイバーの左腕の呪いを解くために自らが折った、ゲイ・ボウだった。だがよーく見ると、微妙に本物とは違う。なぜなら、この槍は、何者かの意思に動かされ、知識を与えられた幼いマスターの少年が創り出した模造品なのだから。

 だが、そこに宿る力は、本物とさほど変わらない。違うのだとしたら、槍を創った少年が本物を見たことがなかったために、微妙に形が創作となってしまった部分だけだろう。

 

「……ホントに…、後始末はちゃんとしてよ。」

 これから始まる泥沼の戦いを思い…、少女・ツツジは、辛そうに目を閉じた。

 

 

 

 

 

※オチはない




pixivで、ディルムッドを従える士郎の話見て、自分で書きたくなったのに……、なぜこうなったのか、分からない。(自分で書いといて)

結局、ツツジもなにがしたかったのか分からない…。悪霊(悪鬼)化したランサーという後始末をちゃんとしろと、切嗣のところに持ってきて始末を付けさせようとしたら、聖杯を汚染しているアンリマユに投影魔術の知恵を与えられ、夢遊病みたいな状態で操られた子士郎が、セイバーを苦しめた呪いの槍ゲイ・ボウを復活させてしまったため、セイバーが倒させる可能性が浮上して、あ、やべ…ってなってしまったみたいな…。


なんだ、コレ…?
最初は、ツツジが偽善を発揮しなかったら、ランサーが原作通り呪詛を残して死んだことを後悔する話だったのに……。


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