人形西部劇-ドルフロウェスタン- (neocy)
しおりを挟む

プロローグ「雨の日の出来事」

申し訳ない、西部劇要素は次のエピソードからなんだ。


ここは荒野のウェスタン、2062年。

 

その晩は珍しく雨の強い日だった。

大粒の雨が叩きつける音はあらゆる物音を掻き消してしまうようだった。

 

寂れたハイウェイのそばに立つ無人のプレハブに、その晩は灯りがあった。

数年前までは近くに掛かる鉄橋の保安事務所として使われていたが、新しい道路ができたお陰で鉄橋は封鎖、それに合わせて人の出入りも途絶え、今では朽ちるのを待つだけの存在であった。

 

「奴さん、今日も絶好調だねぃ」

「何でもセルゲイのところのヤクを使ってるって話だ。あれなら後3日は無休で動くんじゃねぇか、コール」

「勘弁してくれよ、商品の女をぶっ壊されるのはゴメンだぜ、レイズ」

その晩、プレハブの一階では堅気とは縁遠い風貌の男3人が酒とつまみを持ち寄りカードゲームに興じていた。

彼らは「配送業者」。都市の風俗サービス店従業員の送迎を任せられている、いわゆる雇われの護衛である。

 

「それにしても戦術人形だったか?あのライフル持ってた自律人形。キレイな顔して大の男よりも強いってなると俺達の立つ瀬がねぇってもんだよ、フォールド」

「うちの組織も事務関係は徐々に人形任せになってるってマリア婆さんがボヤいてたぜ。そのうち俺たち現場の人間もお払い箱さ、コール」

「世知辛ぇけど、時代の流れってやつさ。これからは二階の指揮官様みたいな奴らが活躍して、俺達旧世界の人間はゆっくりと朽ち果てる、このプレハブみたいにな、チェック」

「なんでぇ、随分と詩的じゃねぇか…ん、ちょっと待て」

 

親役の男が伏せ札を公開しようとしたその時、プレハブの扉を叩く音が聞こえた。

その晩初めての来訪客であった。

 

親役の男が残り二人に目配せをすると、一人はホルスターの拳銃をテーブルに出し、もう一人はテーブルの下に備え付けた二連散弾銃のトリガーに指をかけた。

 

「すいません!誰かいませんか!道に迷ってしまったんです!」

親役の男が扉に手をかけようとした瞬間、雨音に負けじと振り絞ったような大声が上がった。

「アンタ、何もんだァ!」

騙し討ちを警戒した男はドアから離れ、来訪者に訪ねた。

「宅配屋です!グリフィンタウンに向かってたんですが鉄橋が封鎖されてておまけにこの雨でほとんど道が分からなくなってしまいまして!おまけに燃料がカラッ欠で立ち往生してるんですわ!」

 

男は来訪者の言葉を吟味していた。確かにグリフィンタウンは鉄橋の先にある開拓都市だ。しかし今では鉄橋は封鎖されている為、最新のナビシステムを使っていれば新しいハイウェイで向かう事になる。

 

「どう思う?」

「ナビの更新を怠けたマヌケか古いナビを買わされたマヌケだろう」

「宅配屋ってのは間違いなさそうだぜ。外にでけえトラックが止まってる」

 

二人の男は来訪者がマヌケの配送屋だと結論を出した。

そして親役の男も僅かな違和感を覚えていたが、概ね二人と同意見である。

何故ならここには金になるものも人もいない。

デリヘル嬢とその客と護衛、送迎役の配送業者。これだけである。

だからこそ彼は扉を開け、来訪者を迎えた。

 

「いやぁー助かりました!ありがとうミスター、それにムッシュ、セニョールも。私はアレハンドロ・ペトロチカ、フォレスト通販サービスの宅配員です」

アレハンドロ・ペトロチカと名乗った営業スマイルを浮かべる宅配屋の印象は率直に言って怪しい奴である。確かに通販大手「フォレスト通販」の作業服を纏ってはいるが、労働者とは思えない小奇麗に整えられた髪と髭のせいで不信感が募る。

「あんた、人を馬鹿にしてるのか?」

「私があなた方を?もしや、この髭と髪型でご不快にさせてしまいましたか?何と大変失礼いたしました!ついこの前までは勤務医だったのですがリストラに遭ってしまいまして、これらはその名残なんです。確かに今の同僚たちからも不評だったんですが成程、勉強させていただきました」

 

一を聞いたら十どころかそれ以上を喋りそうなこの男について、三人組はうんざりして、警戒心も緩んでいた。

「わかった、アンタの髭と髪型の事情にはこれ以上口は出さない。で、何が目的だ」

「おぉ、話が早い。先ほども申し上げました通りグリフィンタウンに向かっていたのですが、近道をしようとしたらどうやら道を間違えたようでして。大変図々しい要求なのですが予備の燃料などありましたら分けてもらえませんでしょうか?あとは雨が上がるまで雨宿りをさせていただけるとこれ以上に嬉しいことはございません」

すると、三人組の一人、散弾銃に手をかけていた男が宅配屋に尋ねた。

 

「あんた、何処かで見た顔だな。それもここら辺で」

その言葉に残りの二人も宅配屋に注目する。その直後、二階から破裂音が一つ上がる。

それに合わせて三人組の注意は宅配屋から二階に向けられる。しかし、宅配屋は違った。

「ちょっと早すぎたな」

ヒップホルスターから小型拳銃を引き抜いた宅配屋は、テーブルに置かれていた拳銃を撃ち落とし、ドアのそばにいた男を銃底で殴り気絶させる。

二階に気を取られていた二人が銃声に気が付き、再び宅配屋に目を向けると既に銃口が自分たちを向いている事を認識した。

 

「さて、お二人ともゆっくりと机の上に両手を出して。言う通りにすれば足元で伸びている彼を含めて手荒な真似はしないと誓おう」

宅配屋の降伏勧告に従い、二人は両手をテーブルの上に出した。

目の前の男の優位性は揺らがないだろう。そして二階では破裂音の後から争うような音と罵声が聞こえてくる。

つまり、目の前の男には仲間がいて、あくまで狙いは客のいけ好かない傭兵指揮官なのだろう。

二人は宅配屋の言葉に従う限り命が保障されると思い、少しばかり安堵した。

 

「あぁ、それとだね。私も君の顔は覚えているよ。着任した時に手配書に君の顔があった。生死不問でね」

そういうと宅配屋の手元から破裂音が起き、額を撃ち抜かれた散弾銃の男が力なく崩れ落ちた。

「野郎、殺さねぇって約束だったじゃないか!」

「撃ち合いになるのを避けたかっただけさ。この制服も借り物なのでね。……ふむ、どうやら上も片が付いたようだな」

残った一人から銃口は外さず、宅配屋は階段へと近づく。

「あぁ、これはいらないアドバイスかもしれないが、二階から降りてきた私たちを殺そうなどとは思わない事だ。外にはライフルを構えた仲間がいるからね。大丈夫だと思うがそこの彼が気が付いたら同じことを伝えておくように」

 

宅配屋が階段を上りきると一体の戦術人形が廊下の壁にもたれかかっていた。

取っ組み合いになったのか服は破け、所々に裂傷と殴打痕、おまけに毛髪がごっそりと引き抜かれており、元の容貌を知ることはできない。

「強い衝撃が加わって意識が落ちたって感じか……」

その戦術人形が室内から吹っ飛ばされたのであろうことを語る、粉砕されたドアを潜ると3つの人影があった。

「オイオイオイ、派手にやったねぇM590。ケガはしてないな?」

宅配屋が一つの人影、戦術人形に声をかけた。銀髪褐色の彼女はM590。IOP製の高性能戦術人形であり、彼の相棒である。

「えぇ、彼女の反撃は受けましたがかすり傷程度です。ここはターゲットの無力化、そして民間人を保護しました。そちらは?」

「無事制圧だ。ついでに運良く強姦魔の賞金首でボーナスもゲット」

「やりましたね。これで暫くは無添加水素スープとはオサラバです」

「それじゃあご本命様のご尊顔を拝見しようかね」

宅配屋はロープで拘束された下着一枚の男を見やり、懐から一枚の紙を取り出した。

 

「おい貴様!俺を誰だと思ってやがる!これが本部に知れればただじゃ済ま―――」

「アンドレイ・ペトロフスキー・スモレンツェフ、29歳。首都の一流大学を卒業後、米国系PMCコヨーテ&クルツ社に就職、戦術人形部隊指揮官として数多くの功績を出し続ける同社期待の新人」

宅配屋が読み上げたのは下着男のプロフィールだった。そして彼はさらに続けて読み上げる。

「右目元の泣き黒子、口元から左顎にかけての火傷跡が特徴。連邦司法局及び企業連合法務局が認定した以下罪状により指名手配とする。物資横領、民間人への脅迫、違法薬物の売買、業務妨害、脱税、密輸、自律人形の権利を侵害した罪……すごいな、この暗さじゃ読めないが細かい字で残りの罪状もびっしり書かれてる。よくバレなかったもんだ。懸賞金は3000万、ただし生きたままの捕縛が条件。ではミスター・スモレンツェフ、何か言いかけてたみたいだが……」

宅配屋は紙―懸賞金ポスターをしまうと足元の男に尋ねた。尋ねられた男は青褪めた顔で目を見開き、口をパクパクさせていた。

「特に無いみたいです」

「そりゃそうだろう。これまでパーフェクトに事を運んできた本人の知らぬところで悪事全てがいきなり表に出てきたんだ。パニックとストレスで声が出ないのさ」

そしてふと思い出したように、彼はベッドの上にいた人影、賞金首の相手をしていたであろうデリヘル嬢に声をかけた。

「それと君、夜が明けたら下で待っている男性に送ってもらうように。あぁ、こんな辺鄙なところまできて手ぶらでは格好がつかないな。取り敢えずこの男の財布を預けておこう。カード以外は何に使おうが問題ないだろう」

宅配屋はその場に脱ぎ捨てられていたズボンから財布を抜き取ると毛布にくるまって震えていた彼女に投げ渡した。

「それじゃあ失敬するよ。M590、彼を丁重に扱うように。戦術人形もIOPに引き取ってもらうから後で運んでくれ。俺は下の階から死体を運ばにゃあいかん」

「了解です、腰に気を付けてくださいね?」

「ぬぐぐ……言うようになったなお前」

宅配屋と賞金首を担ぐM590が階段を降りようとした時、デリヘル嬢が思い出したかのように尋ねた。

「あ、アンタ達、何者なんだい……?」

訪ねられた宅配屋は振り返り、答えた。

 

「グリフィンタウンの新米保安官とその相棒さ。詳しいことは町の保安官事務所で聞いてくれ」




▼登場人物
・保安官(宅配屋)
主人公。ドルフロの指揮官ポジ。アレハンドロ・ペトロチカはその場で考えた偽名になります。
保安官になる前は警察に所属していましたが、中央の腐敗が嫌になり、M590と西部に活動場所を移し、グリフィンタウンに行き着きました。
そんな彼がなぜ賞金首を追いかけていたのか、その理由は次回明らかになります。

・M590
保安官の相棒。褐色銀髪好き。最高。
警察出身の戦術人形でその頃から保安官の相棒です。
とても温和な性格ですが、時と場合によっては銃よりも先に躊躇なく鉄拳を振るいます。

・三人組の男(ミスター、ムッシュ、セニョール)
モブ。命名は保安官。
ちなみに殴られたのがミスターで撃たれたのがムッシュ、懸賞金200万。セニョールは詩的なセリフを言った人です。

・コヨーテ&クルツ社の指揮官(3000万の賞金首)
モブ。かなり頭の回る男で、世が世なら国際規模のフィクサーとして君臨できたであろう逸材。
そんな彼の悪事がいきなり明らかとなり、保安官に捕捉されてしまったのか、そこらへんも次回明らかになります。

・ボコボコにされた戦術人形(犯人はM590)
RFタイプの戦術人形という設定しか無い名無しの人形。ある意味オリジナル人形では?
指揮官の副官兼護衛であり、倫理観を狂わせるウィルスを仕込まれていたという裏設定持ち。(今後活かせるかは作者次第)

・デリヘル嬢
モブ。今後出番はないと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話「グリフィンタウンの一番おっかない女」

カルカノ姉をお迎えできたので初投稿です。
この物語の中においては「彼女」はおっかない枠です。


ここは荒野のウェスタン、2062年。

 

その晩、変な夢を見た。

「ほーら※※※、お前の大好きなコーラだぞー。今日はたくさん飲んでいいからなぁー」

「わーいコーラだぁ☆※※※、コーラだーいすき☆アムアムアムアム……」

「バッカおめぇ、コーラを缶ごと食うやつがあるか!ペッしなさい!ほら、ペッ!」

 

……な、変な夢だろう?

 

「確かに変な夢ですね……。念の為、頭の病院に行ったらどうです?」

「お!辛辣ゥー!」

「辛辣もなにも、心配してるんですよ。保安官のこと」

その晩の夢の内容を話したら、M590にもの凄く心配された。

 

3000万の賞金首を捕まえてから数日後、連邦司法局の職員から懸賞金を受け取った俺達は開拓都市「グリフィンタウン」に戻っていた。

都市なんて言えば聞こえはいいが、普段は砂埃が酷く、雨が降れば泥濘で四駆でも脚が取られてしまう悪路の「自称メインストリート」と、「自称上等な建物」の改造コンテナやプレハブ建屋、「自称住宅街」と言う名のトレーラーパークが町の南にある程度の片田舎、いや西部の辺境である。

町を興した退役軍人の現町長が私財を投じたお陰で最低限のインフラが確保されている分、他の開拓都市に比べれば幾分かマシと言うところだ。

 

そして俺たちが寛いでいる建物はプレハブ造りとは思えない程の立派な内装で知られる町一番の酒場、その一室であった。

「お待たせしましたわ。確かにきっかり3000万頂戴しましたですわよ」

そう言ってホクホク顔を浮かべながら部屋に入ってきたのはスプリングフィールド、野良の戦術人形でありながら、この酒場「サルーン•ド•スプリングフィールド」を切り盛りしている敏腕経営者である。

「それでは保安官事務所の権利書と鍵をお渡ししますわ。保安官のお仕事頑張ってくださいね」

スプリングフィールドは手にしていた書類と、この町の保安官事務所の鍵を微笑みながら俺に渡してきた。

 

なぜ彼女が保安官事務所の鍵を持っているのか。

それについては、俺が保安官として就任する前の出来事を説明しなければならない。

 

ある日、グリフィンタウンの保安官(前任者)が死んだ。

なんでも町近郊の砂漠で蛇に噛まれたのが原因だそうだ。

 

彼は典型的な人形差別主義者であった。確かに保安官としての責務は全うしていたそうだが、彼は常に人間びいき、人形軽視の選択をとっていた。

ある日、彼はスプリングフィールドの店でトラブルを起こした。

給仕の自律人形に無理矢理手を出し、あろうことか暴力を振るったのだ。

これに対しスプリングフィールドは正式な謝罪と法の定める内での賠償を保安官に要求するが、保安官はこれを無視するどころか「人間への反逆である」と罪をでっち上げようと脅迫しだした。

これに業を煮やしたスプリングフィールドは保安官に不満を抱いている住人を煽動し、保安官事務所の焼き討ちを決行。

火炎瓶、手投げ弾、機銃、ロケット砲を持ち出して徹底的に破壊行為に及んだ。

流石に肝を冷やしたのか、保安官は命からがら逃げだすも、先述した通り、蛇に噛まれて死んでしまった。

「正直ヤり過ぎましたわ」

そう言って反省の色を見せたスプリングフィールドは巨額の私財を投じて保安官事務所の修復を行う事で咎を受けずに済み、俺たちがやってくるまでの間、鍵の管理をしていたのである。

 

「それにしてもあっという間だったのですね。戻って来るまでに一週間はかかるんじゃないかと予想してましたのに」

「普通なら捜査込みで一週間は必要だろうさ。だが、あそこまで無防備な奴なら朝飯前だ」

「私も驚きました。あの男性、護衛の人形をつけていたと言え、全く警戒心が無かったものですから」

そう、3000万の賞金首、アンドレイ某は無防備その物だった。あれ程の悪事をやってきた男だ。足跡の消し方も一流かと思いきや見つけてくれと言わんばかりに痕跡を残しているし、現場でも戦術人形一個小隊との交戦の可能性も考えていたが、箱を開けてみればデリヘルの従業員と不運な自律人形のみとお粗末なものであった。

今思えば異常としか言いようがない、まるで自分が狙われているという自覚が無いほどの無防備っぷりだった。

 

「おまけ3000万なんて、海賊漫画の影響を受けてるんじゃないかって金額の掛かり方も可笑しなもんだ。スプリングフィールドさん、この話を俺達に持ってきたあんたなら何か知ってるんじゃないか?」

「さぁ、なんの事でしょうかねー、オホホのホー」

 

試しに問いただしてみると、スプリングフィールドはワザとらしく誤魔化す。

しかし、それだと「あなたのご想像通りでしてよー、オホホのホー」って言ってるのと変わらないだろう。

 

これは俺の想像ではあるが、アンドレイ某はスプリングフィールドのビジネスに悪い意味で関わったに違いない。

恐らく町の外でスプリングフィールドが手掛けているビジネスのシマに手を出し、その報復として賞金を懸けられたのだろう。

しかし、スプリングフィールドと言えど個人で懸けられる賞金にも限度がある。それにあれだけの罪状、明らかに司法局やその手の団体に情報をリークして「賞金を懸けさせた」ものだろう。仕上げに巨額の賞金首の情報が漏れないように独占すればマッチポンプの準備は完了となる。

 

この仕掛けを整えるには高度な情報収集能力とコネクションが必要なはずだ。

この話自体も、彼女は「保安官としての資質を見定める個人的なテスト」と言っていたが、もしかしたら俺たちが町に来ることすらも計算の内で、このマッチポンプを実行に移したのではないだろうか。全く油断できない相手だ。

 

「………!……!」

「……!……!」

スプリングフィールドの手腕に一人感心していると、にわかに外が騒がしくなっていた。

「酔っ払い同士の喧嘩でしょうかね?」

「俺が仲裁に入ってこよう、保安官としての初仕事だ」

そう言ってドアを開けた先には大声で喚く一人の男と彼を複数掛かりで抑える酒場の給仕がいた。

「ミズ•スプリングフィールド!頼む、後生だ!やつの落とし前で足りないならアンタが望むだけの額を支払う用意はある!だから頼む!あれだけは、アレだけは勘弁してくれぇっ!」

「落ち着いてください、ミスター•カッポネ!オーナーは現在取り込み中ですので、今しばらく別室でお待ちください!ミスター、落ち着いて!ミスター!ステイ!」

 

喧嘩ではなさそうだし仲裁も不要と判断した俺はドアをそっと閉じた。

「すみません保安官。何ともお見苦しいものをお見せしてしまって……」

「カッポネって、アルベルト•カッポネか?暗黒街の帝王の?一体何だって……、いや、説明は結構。好奇心は時として人をも殺すと言うしな」

アルベルト•カッポネ、裏社会に通じるものならだれでも知っているビッグネームだ。

そんな大物がどうして都会から遠く離れた辺境の町にいるだろうか、いやいるわけがない。

たぶんそっくりさん、物まね芸人の地方営業だろう。いやー、裏社会の有名人の物まねとか度胸あるなー。最高だ、きっと大物になれる。こんなところで燻ってちゃダメだ。

 

「ほ、保安官。そろそろ事務所に行きませんか?私、新装されたという事務所の中を確認したいなーって思うのですが」

危うくスプリングフィールドの暗部に踏み込もうとしてたところでM590が助け舟を出してくれた。

「お、そ、そうだな。じゃあスプリングフィールドさん、とても有意義な時間であったが、俺たちは事務所で仕事の準備をするのでお暇しよう、逃げだしたという保安官補たちも探さないといけないしな。M590、事務所の書類はきちんと持ったな」

「えぇ、保安官。スプリングフィールドさん、今日はありがとうございました」

「いいえお気になさらず。私も有意義な時間を過ごせて楽しかったですわ。良ければ保安官事務所までご案内しましょうか?」

 

「「いいえ、ご心配なさらず」」

 

暗黒街の帝王ですら震え上がらせる女、スプリングフィールド。

この日学んだのは、彼女はこの町で一番おっかない女である事だった。

多分ガチでキレたM590よりもおっかないだろう。

「あの人だけは敵に回したくないですね」

「あぁ、全くだ。彼女を敵に回すくらいなら正規軍相手にドンパチやったほうがマシだな」

「流石にそれは言い過ぎじゃ……。ところで保安官、あの人と私、どちらがおっかないかなんて考えてませんよね?」

「え、あ、あはは。ばっかお前、そんな事考える訳……」

「へぇ……」

「……すいません、ちょっと考えました。やっぱあなたがナンバーワンです」

この後無茶苦茶折檻された。




M590に折檻されたい……されたくない?
先生!西部劇要素さんの容態が悪化してます!このままじゃ怪文書になります!

本作では第三次大戦やらで失われてしまった旧世界の物資を回収したり、文字通り開拓を行うグリフィンタウンのような都市が点在しているという設定になります。
こうした都市に流れ着くのはスプリングフィールドのような山師や保安官(主人公)のように中央での生活に嫌気がさした人、居場所を失い新天地を目指す人など様々です。

▼登場人物
・スプリングフィールド
みんな大好き☆4戦術人形。カスタムマッチ弾装備で世界が変わる。
半〇直樹の如く、やられた分はn倍返し(ただしnは自然数とする)でやりかえす。
「お金が好き」というよりは「儲かる過程を楽しむ」ゲーム感覚で商売をやっている。

・前任者の保安官
本作を書くにあたって必ず死亡する事が決まっていたモブ。
ドルフロの世界には武力行使する反戦団体や過激な人権団体がいるので、人間優位を唱える「人形差別主義者」なるものがいてもいいのでは?と思った。
本作ではこの手の人間が犠牲になることが多いと思います。

・暗黒街の帝王
シカゴ在住梅毒王とは何の関係もない2062年存命のオーガニックギャングスタ。
スプリングフィールドの盛り立て役として適当に登場させたが、使い切りは勿体なさそうなので、今後もどこかで登場させたい。
多分碌な目には合わない。

・※※※
「保安官ンンンンン!!!コーラは好きかぁーーーー?????」

・蛇
学名「テッケツツインテ―ルゲーマー」
噛まれると死ぬ。
一緒にゲームをしてやると機嫌が良くなり見逃してくれる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話「コーラ☆モンスター」(前編)

私は今月もネゲヴを製造できなかった敗北主義者です。
(ひとまず切りの良いところまで書けたので前後編に分けて投稿です。の意)


ここは荒野のウェスタン、2062年

 

あ奴の事か?

うむ!もちろん知っているぞ!

まぁ、話せば長いんじゃがな。

 

ところで知っておるかの?強い人形は3つに分けられるのじゃ。

性能に恵まれた人形

経験を積んだ人形

自我に生きる人形

この3つじゃ。もちろんわしは経験豊富な老兵じゃぞ!

え、わしの話はいいからあ奴の話をしろ?

と、年寄りはもっと大事に扱うのじゃあ!

はぁ……、まぁそうじゃな。あ奴は……

 

あ奴は自我〈コーラ〉に生きる人形じゃった……

 

「うんうん、わかったよおばあちゃん。このアメちゃん持って行っていいからお家にお帰り」

「な、なぁ!?お主ら逃げた保安官補たちを探しておるんじゃろ!?だったら情報提供者は大事にするんじゃあー!」

「俺も人形の専門家じゃないからわからないけどな、流石にコーラに生きるってのは無いと思うぞ?」

 

グリフィンタウンの保安官事務所での仕事が始まって数日が経った。

荷解きを終えた俺たちは、町のパトロールなどの通常業務を行う傍らで逃げた保安官補たちの捜索を続けていた。

元々グリフィンタウンには5人の保安官補が居たが、スプリングフィールドによる焼き討ち事件に乗じて暇を取り、行方をくらましているのだ。

しかし、そのうち1人はすぐに見つかった。

リー•エンフィールド、狙撃担当の戦術人形である彼女が居たのは隣町の留置所であった。

隣町の保安官曰く、酒場で働く彼女の料理を食べた住人がひとり残らず気を失ったので、事件性の確認する為身柄を拘束していたのだという。

結果、彼女の料理からは毒性や違法薬物の類は検出されず、只々クソ不味いだけの料理と判断された。

そして町の利益にならないという理由から、古巣のグリフィンタウンに引き取って欲しいとの要請がでたのである。

また、リー•エンフィールドと町に戻って来ると、町中が阿鼻叫喚に包まれ、あのスプリングフィールドが酒場の入口に武装した給仕とバリケードを構えて出禁通告をするという珍百景を見る事ができたのは、彼女のメシマズが今に始まったことではないという証左だろう。

 

その最中に事務所を訪れたのが目の前にいる戦術人形、通称「ナガンばあちゃん」だ。

 

「保安官、まずは話を聞いてあげてはどうですか?ちょうどお茶を煎れたところですから、ナガンさんもどうぞ」

「おお、かたじけないなM590。全く、こやつには過ぎた相棒じゃな」

「へいへい。じゃあ前置きは短めで頼むぞ」

 

ナガンばあちゃん曰く、保安官補の中でも一番の腕を持つガンスリンガーの知り合いが町の北で野盗狩りをしているとの事だった。

ガンスリンガーの名はコルトSAA。グリフィンタウン創成期から知られる有名人であり、多くの伝説を残しているそうだ。

6発の弾丸で10人を倒したり、物陰に隠れた悪党を跳弾で狙撃したり、一度に3人を相手にした早撃ち勝負に勝利したり、と枚挙に切りがない。

 

「まるでダイムノベルのカウボーイだな」

「あー!信じておらんな保安官!あの鬼畜で知られた前任者ですら、あ奴の前では顔色を変えてコーラを1ダース献上しとったんじゃからな!町のものに聞けばみんな首を立てに振るぞ!」

「あの、さっきも気になったんですが何故コーラとコルトSAAが結びつくのですか?」

「え?何故かって、そりゃコルトSAAだからじゃろ?」

「「いやその理屈はおかしい」です」

 

M590とリアクションがちょうどハモったところで、緊急事態を知らせる警鐘が事務所内に鳴り響いた。

『保安官!町の北で救援要請を知らせる信号が上がりました!武装援助を求める赤の信号弾です!』

俺が受話器を取るとリー•エンフィールドの切迫した声が鳴り渡る。

「了解した、こっちはすぐに出動の準備にかかる。お前が降りてきたら出発だ。ナガンばあちゃん、今は一人でも助っ人が欲しいところだ。歴戦の老兵の手を貸してくれないか?」

「がってん承知じゃ!久々に腕が鳴るぞ!」

「ありがたい。ついでにコルトSAAが現場にいた時は、彼女の説得も頼みたい」

「なるほどのぅ。であれば秘密兵器を持ってこねばならんな」

そう言うと、ナガンばあちゃんの目が微かにキラりと光った。

 

ような気がした。

 

M590、リー・エンフィールド、ナガンばあちゃん、そして俺の4人は信号弾の上がった地点を目指して四駆を走らせた。

先任のリー・エンフィールドと地元民のナガンばあちゃん曰く、該当地域は先の大戦で生じたクレーターや雨風で浸食した地形が入り組んでおり、ギャングの襲撃を受けやすいためほとんどの隊商や旅人が避けることで有名なポイントなのだという。

 

『保安官、信号弾が打ち上げられたと思われる地点を発見しました。大型トレーラー1台と護衛車両が複数。人間の傭兵が多数確認できますが、目視できる範囲に自律人形の姿はありません。これから座標情報を送ります』

偵察の為に降車したリー•エンフィールドから報告が入る。

「わかった。引き続き観測を行ってくれ。……だそうだ、連中はクロかな?」

「演習中にトラブルが発生した正規軍の線もありそうですが……、恐らくクロかと」

「ううむ、自律人形を引き連れてないとなると人形狩りの連中かもしれんな。最悪銃撃戦は免れぬやもしれん」

「どちらにせよ都会のチンピラ以上の厄介者である可能性が大って事か……腹ぁ括るぞ」

改めて気を引き締めると、送られてきた座標を目指し運転を再開した。

 

運転を再開して1時間、信号弾の打ち上げられた地点に到着した。相手はこちらを警戒しているのか、物陰から殺気を放っていた。まずは車載スピーカーを使って所属と目的を明らかにする。

『こちらはグリフィンタウン保安官だ。武装救援を要請する信号弾を確認し、当地域に出動している。そちらの責任者を出して欲しい』

すると間もなくして相手側から返事が返ってきた。

『保安官殿、私は隊商責任者のブラウンだ。先程の信号弾は部下の操作ミスで発射された物だ。大変申し訳ない。御足労のところ悪いがこちらにはトラブルは無いので、お帰りいただいて問題ないですよ』

『ミスター•ブラウン、隊商の責任者である貴方ならご存知の通り、救援不要の判断は現場の法執行官またはレスキュー隊責任者が下すものだと遭難救助法に定義されている。これから臨検要員とともにそちらに向かう。すまないがそちらの人員を下げてもらいたい』

ここまでは予定通りの展開だ。念の為ナガンばあちゃんに町に来る隊商か確認すると首を横に振った。どうやら彼らは余所者らしい。

 

『了解だ保安官、こちらの人員は引かせよう。ただこちらの予定もある。手早く済ませてくれ』

『ご協力感謝するミスター。手早く終えられるよう努力はしよう』

ブラウンと名乗る隊商責任者から返事を受け取った俺は一度無線を切った。

 

「さて……、とりあえずM590は俺と来てくれ。で、ばあちゃんは合図をしたらこのスイッチを押してくれ」

「わかった。それで合図はどうするんじゃ」

「ドンパチで賑やかになりそうになったら大声でジェロニモーって叫ぶ。それと、リー。聞こえてるか?」

『聞こえてます、なんでしょうか?』

「そこから見る限り伏兵の状況はどうなってる?」

『先程の呼びかけで殆どは引いてますが、それでも左右の高所に観測手付きで二組残っています』

「わかった。交戦が始まったら、まずは狙撃手を無力化してくれ。そしたらこっちに移動して近接援護だ、頼んだぞ」

『了解です!通信終わり』

 

リー•エンフィールドの元気な返事を受け取ると、相手側から臨検を受ける準備ができた旨の信号が上がった。

「それじゃ、本格的な初仕事と行きますか」

今一度アサルトライフルとバックアップのリボルバーを確認し、隊商の臨検を開始した。




ようやく緊張感ある話が始まるといったところで、後編に続く!

■登場人物
ナガンばあちゃん
みんな大好きな☆2戦術人形。
公式アンソロのばあちゃんいいキャラしてたね。
ばあちゃんのドヤ顔とか好き。

リー•エンフィールド
大正義英国長銃戦術人形。
メシマズ設定はダウンロード時の4コマ漫画より。
本人的には「気を失うほど旨い」らしい。(絶対ウソだゾ)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話「コーラ☆モンスター」(後編)

おまたせしました。
コーラ☆モンスター、ついに終幕!


結論から言おう。

このブラウンという男、クロだ。しかも間抜けのボンボンと来た。

旧世界の掘り出し物専門のディーラーというカバーストーリーは中々良い線を行っていたが、偽装の仕方が杜撰だった。

書類関係は法改正前の書面を使い回し、

ハイウェイの走行記録もリアルタイム照会で速攻看破、

おまけにバレバレの二重壁とコンテナ内部に落ちていた人工毛髪がブラウン一味の正体を物語っていた。

 

彼らは人形狩り集団。

旧世界で言うところの「白頭巾同好会」(クー・クラックス・クラン)とどっこいどっこいの人間至上主義者たちの集まりだ。

都会にいた頃は1週間のうち3,4日はこいつら絡みで出動する事が多かったので、人権団体の温床特有の過激派だとばかり思っていたが西部に来てまでもこいつらと関わるとは思ってもみなかった。

 

信号弾は恐らくこいつらではなく、つまり二重壁の向こうに監禁されているであろう自律人形が打ち上げた可能性が高い。

臨検中にざっと見たところ、一味は高台の狙撃手と観測手を除いて50人。対してこちらは4人。うち1人は保安官補ですらない。

ナガンばあちゃんは自らを歴戦の戦術人形と言ってはいたが、流石に拳銃だけではこの数を捌き切れないだろう。

リー・エンフィールドは前任者の代で狙撃手を担当していたからとはいえ、こちらに来るには時間がかかるはずだ。

ここでかち合うには圧倒的に不利だ。

 

「どうですか、保安官殿。何か見つかりましたかね?」

ブラウンがニヤニヤしながら訊ねてくる。こちらが手を出せないと分かっているみたいだ。

「保安官……」

M590がブラウン達に聞こえないように耳打ちで囁く。

「あぁ、わかってる。無理はしないさ。心配してくれてありがとうよ」

俺はサムズアップでM590に応えた。

 

俺たちは法に仕える者として、ワイルドバンチやボニー&クライド(アウトロー)の様に死ぬことは許されない。

俺たちが死んで喜ぶのは悪党だけ。だからこそ死なないように訓練を積んできた。

 

状況は不利だが、この程度の事、都会じゃよくある事だ

今回も何とかなるだろう。

 

「ミスター•ブラウン、協力ありがとう。臨検は終わりだ」

「こちらこそご迷惑をお掛けしました保安官殿」

俺とブラウン、互いに本心を隠して握手を交わす。

「では保安官殿、こちらをご迷惑をお掛けしたお詫びに受け取ってください」

ブラウンはそう言うと、部下に持たせていた小袋を差し出してきた。

念押しの口止め料のつもりだろうか、流石にカチンときたが段取りを守るため何とか抑える。

 

「申し訳ないが法執行官の立場なのでね、気持ちだけ受け取っておこう。ただお返しとして、旅行者の安全を祈る言葉を一つ送ろう」

「ほぅ、なんですかな?」

「私の祖父が教えてくれたものでね、大きな声でこう言うんだ。ジェ――」

 

「敵襲!敵襲!鉄血人形どもだ!ここを嗅ぎつけられた!」

ブラウン一味の側から警戒の声が上がり、場がどよめきだった。

そして何を勘違いしたのか、ブラウンが俺に食って掛かってきた。

 

「そうか、保安官、てめぇ鉄血とグルだったな?俺たちをハメやがったな!」

「何を勘違いしてるかわからんが、漸く化けの皮が剥がれたなクズ野郎、ジェロニモーッ!」

 

俺が攻勢の合図を上げた瞬間、四駆に取り付けた6つ擲弾筒から煙幕弾が放たれ、ブラウン一味を襲った。

「M590、牽制射を続けつつ車両まで後退!ナガンと合流したら敵の無力化を開始しろ!あと鉄血とは可能な限りかち合うな。2方面作戦はゴメンだ!」

「了解です!」

「リー、予定通り狙撃手を無力化したらこっちに合流。現場は乱痴気パーティー状態だ、高所からみんなをサポートしてくれ!」

『了解しました!』

 

 

「クソ!クソ!撃て、撃ち続けろ!奴らを取り付かせるな!」

「こ、こんなの給料外だ!俺は逃げ……ギャアッ!?」

「スナイパーだ!頭を上げたら殺られるぞ!」

ここは荒野のウェスタン、食うものと食われるものしか存在しない弱肉強食の園。

人形狩り集団の持つ装備は銃火器からブーツの紐に至るまで一流品が揃えられていた。しかし、それを扱う側の人材についてはピンキリとしか言いようが無い。

多くは不自由無い生活に退屈し、スリルを求めてやって来た無謀な都会っ子。実際に軍事訓練を受けてきた軍人崩れは少なく、実戦経験者は更に少ない。

これまでは食う側の立場である彼らも、鉄血人形のギャング相手では分が悪かった。

 

鉄血ギャング、人類よりも早く西部に進出した鉄血人形の集団はELIDのような脅威を除けば非常に強力な武装集団である。

開拓都市は鉄血ギャングの縄張りを侵犯しないように設置されており、多くの都市は不干渉を徹底しているが、協力関係を築く都市も少なからずある。

当然、都会の人間である人形狩り集団の面々や着任したての保安官は知らない事であった。

 

「保安官、ご無事ですか!?」

M590達に指示を出してから間もなく、岩陰で様子をうかがっていた俺のもとにM590とナガンばあちゃんが四駆を移動トーチカ代わりにして合流してきた。

四駆はラジエターパネルやドアパネルに防弾ベストが括り付けられていた。

「あぁ、さっきから流れ弾がビュンビュン飛んできやがるがなんとか無事だ。それにしても鉄血ってのはおっかねぇな。きっとアパッチやコマンチの生まれ変わりに違いない」

「冗談言っとる場合か!ここら辺りは奴らの縄張りじゃなかったはずじゃ。ここまで出張って来るのであれば原因はあの人形狩りどもにあるはずじゃな。もしかしたら共闘関係を築けるかもしれん」

「それは名案ですねナガンさん。とりあえずコーラを手土産に交渉してみますか?」

「むむっ、顔に似合わずなかなか辛辣なことを言うのぅM590」

「漫才やってる場合か!二人とも、一番おっかなそうなのが近づいてきてる。あそこの装甲車まで移動するぞ」

一番おっかない鉄血、いわゆるハイエンドモデルと呼ばれる個体が接近しているのを確認した俺は自然な流れで漫才を始めている二人を引きずって装甲車の近くまで移動するのだった。

 

「誰一人も逃がすな!ひとり残らずだ!ひとり残らず血祭りに上げろ!」

鉄血ギャングのハイエンドモデル、処刑人(エクスキューショナー)は激怒していた。

あろうことか同胞に危害を加えた極悪非道の人形狩り集団(クズ)に裁きの鉄槌を下さんと気炎をあげていた。

処刑人には難しいことはわからぬ。

処刑人は頭目のひとりである。

大頭目の代理人に日頃から不要な衝突は避けるようにと言われていたが、人一倍義侠心にアツい彼女は独断で精鋭部隊を引き連れて襲撃を仕掛けたのである。

「処刑人、偵察狙撃部隊からIOP製人形を連れた第3勢力が紛れているとの報告があります。クズ共とは敵対しているようですがいかがしましょう?」

「なんだって?……わかった。オレ直々に見定めてやる。クズの同類であればその場で叩き斬ってやる……!」

 

『保安官、不味いことになりました。鉄血の頭目、処刑人がそちらに近づいてきてます』

「なんだって!?あぁクソっ!こっちはこっちでブラウンの私兵と戦闘中だ!ばあちゃん、残りの火炎瓶は何本だ!?」

「さっき投げたので看板じゃあ!あとはコーラぐらいしか残っておらんぞ!」

「おべべの立派な案山子ばかりかと思いきや、野郎、虎の子の部隊を隠し持ってやがったか…!M590、残弾は?」

「バックショットが30発、スラッグが10発です。どちらにせよジリ貧ですね……、どうします保安官?」

 

交戦が始まって1時間、人形狩り集団は悉く鉄血ギャングに蹂躙されていたが、ブラウン本人と最後の取り巻き達は未だ健在だった。

あえて逃げ道を立つことで狙撃されるリスクを減らし、装甲車両2台をトーチカにした籠城戦の構えだ。

奴らにとっては簡易的な砦だろうが、現状の装備で攻略するのは至難の業だ。

 

「鉄血の注意がむこうに向いたままなら漁夫の利を得られたんだろうが……そうだ、この装甲車で突破でもするか!」

ネガティブな空気を少しでも軽くしようと弾除けに使っていた車両を強めに叩くと、中から反応が帰ってきた。

『ちょっと!外に誰かいるの!何が起きてるのか教えてよ!』

「んんっ?その声、コルトSAAじゃな!そんなところで何をやっておるんじゃ!?」

いち早く声の主の正体に気がついたのはナガンばあちゃんだった。

『コーラが切れたところを捕まったんだよぉー、ナガンー、ここから出してぇー!』

「おぅ、ちぃと待っておれ!……保安官、この車の中に西部でも超最高のガンスリンガーがおる。どうじゃろ、ここは一つ奴にかけてみるというのは?」

「リボルバーだけでライフルやマシンガンで武装した集団を討れるっていうのか?」

賭けと言うには無謀な提案に当たり前の疑問を投げかけると通信機の向こうからリー・エンフィールドが答えた。

『保安官、以前の同僚としての立場からも腕前は保証します。コーラを飲んだ後の彼女は暴走中のマンティコアよりもおっかない。相手にすると思っただけでもゾッとします』

マンティコアという喩えは大げさに思えたが、リー・エンフィールドの言葉には真剣さが滲んでいた。

コルトSAAに纏わる伝説が与太話か否かは別として、今は一人でも増援が欲しいのは事実。迷いようもなく、俺は決断を下した。

 

第三勢力と目された一団を目にした瞬間、処刑人達はあっけに取られていた。

「んぐ、んぐ……ぷはーっ、おかわり!」

「まだ飲むんですか?これで最後ですよ」

「M590!SAA!早くしてくれぇ!弾幕が持たねぇ!ナガンばあちゃん!弾、弾持ってこーい!」

コーラを飲む人形と飲ませる人形、人形の代わりに銃手を担当する人間とサポートする人形がいた。

「なんだこれ……」

処刑人を始め、彼女が引き連れてきた多くの鉄血ギャングが抱いた感想はその一言に尽きた。

唯一人を除いて。

「ほぅ、天然物のコーラですか……たいしたものですね」

処刑人のすぐそばにいた鉄血人形がメガネを持ち上げながら感心していた。

「おい、一体何の話を……ん?お前メガネなんてかけて無かっただろ?」

「昨今の主流となっている人工甘味料のコーラに比べ天然物のコーラはエネルギー量が高く、戦闘前に愛飲するコルトSAAも多いとか」

「シカトかよ!」

メガネの鉄血人形が憤慨する処刑人を尻目に、散乱しているコーラの空き瓶と専用のボトルケースに目をやっていると、別の鉄血人形が口を開いた。

「でもよぉ、相手は籠城中の一個部隊だぜ?」

それに反応したのか、再びメガネの鉄血人形が語り出した。

「それに高級志向の銘柄を1ダース分、コルトSAAの最大効率を発揮させるには十二分と言える量です。それにしても辺境の地だというのにあれだけのコーラを調達できるのはグリフィンタウンの人間(・・・・・・・・・・・)だからだとしか言うほかならない」

突然出てきた「グリフィンタウン」という言葉について問い詰めようとした処刑人だったが、その前にコルトSAAが上げた雄たけびに振り返ってしまった。

 

「コおぉぉぉラあぁぁぁぁ!!!」

1ダースのコーラを飲み切って一息ついたかと思うや否や、コルトSAAは突如雄たけびを上げ、目にもとまらぬ速さで飛び出した。

「大丈夫なんですか……」

「言ってる場合か!M590、コルトSAAの攪乱に乗じて向こうの装甲車まで前進だ。シールドを展開して俺とナガンばあちゃんを援……」

その瞬間、4発、遅れて2発の銃声が上がり、それまでけたたましく唸っていた機関銃の銃声がやんだ。

「……どうやら終わったようじゃな」

「終わったって、何が」

「わからんのか。まぁいい。実際見るのが早いじゃろう。ほれ、鉄血のも一緒に来たらどうじゃ?」

まるで見物に誘うかのようなノリで物陰に隠れていた鉄血ギャングの面々に声をかけるナガンばあちゃん。

これには流石の処刑人(鉄血の頭目)も予想外だったのか、声につられて出てくる形となり、その流れで皆揃って様子を見に行くことになった。

 

そこに広がっていた光景は、何となく想像できていたが、それでも信じがたいものだった。

俺たちを寄せ付けまいと唸りを響かせた機関銃は暴発によるものであろう、どれも銃身が引き裂かれ花弁のように広がっていた。

俺たちが顔を覗かせようとすれば仕掛けてきていた狙撃手は利き腕とライフルを撃たれ再起不能に陥っていた。

そしてコルトSAAは(自らの分身)をブラウン一味に突き付けていた。

そう、コルトSAAは文字通り単身で一味を制圧してしまったのだ。

付け加えて言うならば6発の銃弾で。

「クソ……クソォッ!誰でもいい、あいつを撃て!たった一体だ、何を怯えてやがるっ!?」

まず静寂を破ったのはブラウンだった。

だがそれに応えて撃ち始めるものはおろか、構えるものすらいなかった。

「早死にしたくなきゃ私に銃口を向けない事、さもなきゃ45口径ロングコルト(.45LC)がアンタらの脳ミソをテキサスまでぶっ飛ばすよ?」

そう言い放ったコルトSAAは古き良きファニングショットの構え(カウボーイスタイル)で対峙していた。

構えて、狙い、撃つ。射撃に必要な3動作の内1つを済ませ、人間以上の反射神経を持った戦術人形を相手取るヒーロー気取りは誰一人としていなかった。

だがこれ以上緊張状態を長引かせる訳にもいかず、M590とナガンばあちゃん、遅れてやって来たリー・エンフィールドを引き連れて介入する事にした。

「グリフィンタウン保安官だ。ミスター・ブラウン、貴方たちを公務執行妨害、誘拐、暴行、人形の権利を侵害した罪の現行犯で逮捕する」

 

一番の働きを見せたコルトSAAの手柄を横取りするような形になってしまったが、これで西部でのはじめての大仕事は幕を閉じた。

 

------------

後日談

「保安官、スプリングフィールドさんから請求書を預かってきたので確認おねがいします」

「請求書?あぁ、コルトSAAのコーラ代か。どれど……れ?」

M590から受け取った請求書を見た俺は背筋が急激に寒くなるのを感じた。

多いのだ。思った以上にゼロの数が。

「M590、四駆の修理はしばらく無理だわ」

「えぇ……」

コルトSAA。

数々の伝説を打ち立てた西部一のガンスリンガー。

その戦力と燃費の悪さは正しく「怪物級(モンスター)」であった。




コルトSAA登場の描写少ない……少なくない?
細かい描写を書いては削ってってやってたらこうなってしまった。

次回の「ホワイトマンティコアを追え!」ではそうならない様に気をつけるんで!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。