まる子、戦争にいく。 (はせがわ)
しおりを挟む

はじまり。

 

 

『はーい皆さん、この教科書の〇〇ページを開いてみて下さいね~』

 

 これはあたしの過去の記憶。あたしの目の前で、当時の音楽の先生が皆に向かって指示を飛ばしている所。

 

『ちょっとこの教科書に、間違った事の書かれた余分なページがありました~。

 ですので今から配る紙を、そのページにノリで張り付けてくださいね~』

 

 そういって女の先生は、前から順番に白紙を配っていく。

 この紙を教科書に張り付けて、その間違ったページを見えなくしてください。隠してしまって下さいと指示を出した。

 突然の図画工作めいた作業に、クラスのみんなはワイワイと騒ぎながら白紙を張り付けていく。

 特に疑問を抱く事もなく、あたし達は先生に言われるがままに、音楽の教科書からそのページを消した。

 

 不思議な事に、その“教科書の不備“は、ただの一度きりでは無かったように思う。

 学年が変わり、音楽の教科書が新しくなる度に、毎年のように音楽の先生は私達に白紙を配っていた記憶がある。

 いつもとてもにこやかな笑顔で「このページを消して下さいね」と指示を出した。これはそんなよくある事だったのだ。

 当時は特に気に留めていなかったし、教科書にも間違いってあるんだなぁと、ただ可笑しく感じていただけだったけれど。

 

 あたし達があの時、「白紙を張り付けろ」と指示されたページが、いったい何だったのか。それに気が付くのは、もっと後になってからの事。

 学校を卒業し、あたし達が大人になってからの事だ。

 

 不意に気が付くのだ。

 TVのオリンピック中継や、ボクシングの世界戦なんかを観ている時に。

 

 

 そういえば自分が、“君が代“の歌詞を知らなかった事に。

 一度たりとも、学校で教わった記憶が無い事に。

 

 

 

………………………………………………

 

 

 小学校2年生の時、初めて“道徳“の授業で戦争の映画を観せられた。

 それは広島の人達が、原子爆弾によって醜く焼けだたれている姿を描いた映画。

 

 全身に大やけどを負い、それでも生き残った広島の人達が、まるで幽霊のように手を前に出しながら、列をなして炎の中を逃げまどっていた。

 BGMはおどろおどろしく、おばけ映画や恐怖映画のよう。まるであたし達子供の心にショックを与える事をこそ目的としているようだと、あたしは感じた。

 

「可哀想だろう?」

「惨いだろう?」

「お前は、こうなりたくないだろう?」

 

 そんな声が、映像から聞こえてくるかのようだった。

 

 映画を観終わったその後、あまりのショックに放心しているあたし達に向かい、熱っぽく興奮気味に先生が語る。

 

『戦争は駄目なんだ!』

『絶対にしてはいけないんだ!』

 

 20分も30分も、たっぷりと時間をかけて熱弁していった。

 凄惨で残酷な映画を観せられた後、教師である大人にハッキリとそう言われる。

 では今から感想文を書いて下さいなどと言われた所で、あたし達子供が書く事など、そんなのはもうひとつしか無い。

 

「戦争はいけないと思います」

 

 あたしも、みんなも、そう作文に書いた。

 

 

 その後もあたし達は学校でたくさんの戦争映画を観せられた。そのどれもが悲惨で、残酷で、恐怖心を煽る類の物だ。そしてその度に「戦争はいけない」と作文を書いた。

 たまに映画をちゃんと観なかったり、おちゃらけて作文を書く男子がいたけれど、その子達は本気で先生に怒られていったので、次第に誰もやらなくなった。

 

 文化祭では、戦争写真の展示会を行った。

 原爆で黒焦げになってしまった人達の写真、日本兵に首を切り落とされる捕虜の写真、自分で墓穴を掘らされた後に生き埋めにされてしまう兵士の写真。

 そういった物を小学2年生のあたし達は展示し、来場者の方々を迎える。

 

「日本はこんなに酷い事をしましたよ」と、小学生のあたし達が、来場した大人達に説明していった。

 

 

 学年が上がっていく度に、こういった“教育“や催しはだんだんと増えて行った。

 2年生の時、あたしはクラスの劇で、白雪姫の小人の役をやった。

 でも5年生の時は、原爆にやられて炎の中を逃げまどう人の役をやった。

 

 週に二度は反戦についての授業があり、その度に広島や長崎の事、そして戦争の事を教えられていった。

 その度にあたし達は授業の感想文を書かされていたのだけれど、一度あたしの書いた感想文が皆の前で取り上げられ、印刷されて配られた事がある。

 いわゆる“素晴らしい感想文“を書いたという事で、取り上げられたのだ。

 

 まるで「これが正しい感想ですよ」と。「ちゃんと“戦争反対“と言えるさくらさんはエライですね」と。

 みんなも見習いましょうねとばかりに、あたしの書いた作文が読み上げられたのだ。

 

 その時に感じた気持ちを、今も憶えている。

 あたしは先生に対して「してやった」と、そう心の中でほくそ笑んでいたのだ。

 

 ようは、「こういうのを書いたら良いんでしょ?」と思い、狙って書いてみた作文だったのだ。

 戦争はいけない事だと、ただそう熱っぽく書けば、それで褒めて貰えるんでしょう?

 こういうのを書いて欲しいんでしょうと、先生が“喜びそうな文章“を想像して書き上げたのが、まさにその作文だったからだ。

 

 あたしの書いた“戦争反対“の作文を誇らしげに読み上げている先生の姿を見て、それをどこか間抜けに感じていた。

 思えばあたしゃ、大変にひねた子供だったなぁと思う。

 

『わが校は、素晴らしい反戦教育を行っている学校だとして、

 全国的にも有名なんだ』

『みんなもこの小学校の生徒として、自覚と誇りを持つように』

 

 先生はいつも馬鹿みたいに、そう誇らしげに語っていたから。

 それに対し、反発心もあったのかもしれない。

 

 

 

………………………………………………

 

 

 6年生になったあたしは、広島へ修学旅行に行った。

 主に原爆資料館に行ったり、被爆者の方から戦争体験の聞き取りをする為に。 

 

 正直な所、あたし達は最初から楽しみでも何でもなかった。せっかくの修学旅行だというのに、みんな口を揃えて「行きたくなーい」と言い合っていたものだ。

 でもまあ正当な理由でもない限りは行かなければならないし、それを先生に言うワケにもいかない。だから渋々といった感じで出かけて行ったのを憶えている。

 原爆資料館などに行った所で、今更何だと言うのか。被爆者の写真や死体の映像など、低学年の頃から飽きる程あたし達に見せてきただろうに。

 良かった事と言えば「お土産に貰ったもみじ饅頭が美味しかった」

 あたし達にとって良い思い出など、そんな事くらいしかない。

 

 

 ただ、今でもあたしは、その修学旅行での事をよく思い出す。

 何か戦争についての本を読む度に、TVでそういった番組を観る度に、あの広島にある老人ホームへと、戦争を体験した方々に聞き取りをしにいった時の事を。

 小学生のあたしに自らの戦争体験を語ってくれた、あの時のおじいさん。

 ふとした瞬間に、あのおじいさんの姿を、よく思い出す。

 

 

 おじいさんは高齢で、とてもじゃないが、もうまともに会話など出来はしなかった。

 声は呟くように小さかったし、あたしには話の大部分を聞き取る事が出来なかった。正直な所、おじいさんが何を話してくれたのかなど、まったく分からない。

 それでもあたしは、真剣におじいさんの話を聞いていた。

 

 時折話の中で、単語だけではあるけれど断片的に言葉が分かった。

 おじいさんはなんとかあたしに伝えようとするように、振り絞るような声で「悲惨」と言っていたのをよく憶えている。

 あたしはその言葉を、ただただ黙って聴いていた。

 

 

 あたしの目の前に座り、自らの戦争体験を話してくれていたおじいさん。

 今思えばおじいさんは、一度もあたしの目を見なかった。最初から最後まで、小学生であるあたしの目を見て話す事を、決してしなかったと思う。

 そんな事に、後になって気が付いた。

 

 

 あたし達は普段学校で「昔の日本人は悪い事をした」と、ただただそう教えられている。

 “とにかく“昔の日本人が戦争を始め、沢山の悪い事をし、そのせいで空襲や原爆で国を焼かれてしまったのだと。

 だからこのような事は、二度としてはならないのだと。二度と繰り返してはならないのだと教えられてきた。

 意味もわからないままに死体の写真を見せられ、残酷な映像を見せられ、ただただ「戦争は嫌だと言え」と教育されてきた。

 しかしその“昔の悪い日本人“であるおじいさんは、いったいどんな気持ちで、あたしに自分の話をしてくれていたのだろう。

 

 今の人達に「悪い事をした」と言われ続け、そしてこの修学旅行では、自身の戦争体験を子供達に聞かせてやってくれと頼まれたおじいさん。

「子供達の為に」と、「二度と繰り返さない為に」と、そんな大義名分を先生達に言われた事だろう。

 子供達に対し「自分の“罪“を話せ」と、そう教師に言われていたのだ。

 

 

 おじいさんは俯き、呟くような小さな声で語ってくれた。

 下を見て、ずっとあたしの目を見れないまま、自らの戦争体験を話してくれた。

 

 その姿を、まるで懺悔のようだと思った。

 おじいさんの姿は、まるで罪人のようだったと――――――今にして思う。

 

 

 なぜあのおじいさんは、そんな目に合わなければならなかったのか。

 戦場へと赴き、国の為に立派に尽くし、必死で生き延びて帰ってきてくれたのに。それなのに何故、おじいさんは子供に対して罪人のように項垂れなくてはならなかったのか。

 それが今でも、あたしには分からない。

 

 あのおじいさんの姿が、今も忘れられない。

 

 

 

…………………

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 きっと風邪をうつされたのだと思う。

 現在あたしの身体は大変に熱っぽく、なにやら頭はポ~っとしているのだ。

 

 実は先日友人達と共にカラオケなどに行ってきたのだが、その中の一人が「なかなか風邪が治らないのよ~」などと愚痴っていたのだ。

 だったら最初からカラオケ来ないでよ。うつさないでよと思いはするのもの、所詮は後の祭りだ。あたしの身体は今、すでに病に侵されているのだから。文句を言ってもしょうがない。

 

 現在夜の11時。氷枕や冷えピタなどを駆使しながら布団に横たわってはいるものの、頭に浮かぶのは過去の事。それも良くない事ばかり。

 この茹った頭ではロクな事を思いつかない。

 あたしが小学校の時に感じた嫌な気持ち、そして妙な思い出ばかりが頭に浮かんでくる。

 あたしゃ小学校の頃は、それなりに楽しい事が沢山あったハズなんだけどねぇ。おかしな話だよまったく。

 

 このような状態で眠る時、観るのは決まって悪夢だ。

 きっと過去最悪を記録するような、ロクでもない夢を観るに決まっている。今からそんな確信めいた予感がある。

 

 それに、さっき読んでいた本の内容も悪かった。

 もうハッピーエンドどころか、結構どころじゃなく胸糞の悪い系の話だったし、もしその本の内容が夢に出ようモノならば一体どうしようかね?

 あたしゃ、夢の中でとんでもない目に合ったりしないかしらん?

 

 ただそうは言っても、布団に入ったからにはもう眠るしかない。

 もう時刻は23時。眠らなければ風邪だって治ってくれないのだ。大変遺憾な事に。

 あたしは目を瞑り、じっと睡魔が訪れるのを待ち続ける。ある種の覚悟を胸に抱きながら、しかしそれさえもやがて忘れてしまう。

 そんな、己を“無“にするような眠りが、あたしの元へ訪れた。

 

 熱に侵され混濁する意識の中、あたしの意識がどこかへと飛んでいく。

 連続して浮かぶ断片的なイメージ。あたしの意識が形を無くし、段々あたしじゃなくなっていく。

 

 紅茶、信号機、さっき読んだ本。

 洋服、紫陽花、ラーメン、お姉ちゃんの顔。

 

 えんぴつ、原稿用紙、インク、九九式小銃。

 

 汽車、軍艦、ブーツ、家畜、火の着いた民家。

 

 悲鳴、銃声、赤――――

 

 

 

 あたしは今、夢をみている。

 

 これは夢なのだと、ハッキリそう自覚している。

 

 でも、その境目は分からない。

 

 あたしと“このあたし“の境目が、段々曖昧になっていく。

 

 

 あたしは、さくらももこ。小学三年生。

 ちびだから「ちび」、そして女の子だから「子」。そこに「ちゃん」をつけて『ちびまる子ちゃん』なんて呼ばれている。

 

 お父さんとお母さんの家に生まれ、クールだけどたまに優しいお姉ちゃん、そして大好きなおじいちゃんとおばあちゃんがいる。

 そんな家族を守る為、この国に尽くす為に。

 あたしは今日、遠くへと出かけていくのだ――――

 

 

………………………………………………

 

 

 

「ほら~。まるちゃん急いで~! 戦争いくよ~」

 

 

 遠くに、汽車の出入り口から顔を出した“たまちゃん“の姿が見える。あたしの名前を呼んでくれている。

 軍服に身を包み、肩から「祝、穂波たまえさん、御出立」と書かれたタスキをかけている。

 そしてそれと同じ物が、あたしの肩にもかけられていた。

 

「おーぅたまちゃーん! 今いくぅ~!」

 

 待って待ってと、あたしは汽車の方へと駆け出していく。

 乗り遅れないように、置いて行かれないように。あたしはたまちゃんの乗る汽車の入り口へと飛び込む。

 そして二人で手を取り合い、「えへへ」と笑い合ってみたりする。

 これから遠くへ行くけれど、たまちゃんと一緒なら安心だ。二人ならきっと、どんな事だって出来る。

 

 遠くから、万歳の声が聞こえる。

 街の人々が、そして家族が、あたし達の無事と健闘を願って声をあげてくれている。

 

「お父さーーん! お母さーーん!

 いってきまぁーーーす!!」

 

 席に移動してすぐに、あたし達は窓を開け放ち、おもいっきり手を振る。

 街の人々に、大好きな人達に、私達の笑顔を憶えていてもらえるように。

 

「おじいちゃぁーーん! 行ってくるねーー!!」

 

 もうオイオイと泣き崩れてしまっているおじいちゃんに向かって、あたしは生まれて初めての敬礼を贈る。

 

 ビシッと、バシッと、カッコよく。

「あたしは大丈夫だよ」と、おじいちゃんに示すようにして。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ちゃくにん。

 

 

 ここは戦地へと向かう船の中。

 現在あたしとたまちゃんは、自分達に割り当てられた部屋で歌を歌ったり、おしゃべりに花を咲かせたりしている。

 遠い異国の地へと赴く事にはなるが、そこにはたまちゃんという親友をはじめとして、数多くの友達が一緒の小隊に居てくれる。それをとても心強く思うあたしである。

 

「それにしてもたまちゃん? フィリピンっていったいどんな所なのかな?

 バナナとか沢山あったりするのかねぇ?」

 

「まるちゃん……今から戦争に行くっていうのに、食べ物の事を……?

 どうなんだろうね。バナナはわからないけど、

 元々はサトウキビがたくさん採れる国だったらしいよ」

 

 若干たまちゃんの額に、「どよーん」みたいな線が入っているのがわかる。少し呆れられてしまったかもしれないけれど、これは仕方の無い事だと思うのだ。

 だってあたしはフィリピンなんて国、今まで名前くらいしか知らなかったのだから。

 あたしが脳内でサトウキビを齧る想像をしていると、同じ部屋にいた長山くんが会話に加わってきてくれた。

 長山くんはメガネにおかっぱ頭の男の子で、クラスで一番の秀才だった物知りな男の子だ。

 

「そうだね、日本がアメリカの植民地支配から解放する前までは、

 フィリピンはココナッツやサトウキビの原産地だったんだ。

 それで沢山の利益を上げていた、アジアでも有数の豊かな国だったんだよ。

 もっとも日本が来てからは、主に綿花を作ったり、

 銅を採ったりするようになったらしいけれど」

 

「え、なんで綿花なんか作るのさ?

 ココナッツやサトウキビの方がいーじゃん! 美味しいじゃん!」

 

「あはは……。日本は戦争を始めてから、

 よその国から綿花を輸入出来なくなったからね。

 それでサトウキビ畑を潰して綿花を栽培しようとしたんだけど、

 風土の違いもあってか、なかなか上手くはいかないんだって」

 

 だったら尚更サトウキビ作ってたらよかったじゃないかとあたしは思うのだが、これは言っても仕方の無い事なんだろう。

 でも今まで頑張ってサトウキビを作ってたフィリピンの人達は、畑を潰されて、いきなりやった事も無い綿花の栽培をさせられ、しかも上手くはいかなかったのか。

 きっとすごく怒った事だろうなと思う。あたしなら怒るもん。

 

「フィリピンは何百年もの間スペインの、そしてこの40年は

 アメリカの植民地だった国なんだ。

 だからキリスト教とかの欧米文化が浸透してるし、

 同じアジアと言っても、日本とは全然文化の違う国だと思うよ」

 

 同じアジア人でありながら欧米の文化を受け入れ、西洋の服を着る。これは自分達日本人からしたらとんでもない事だ。

 なにせ自分達にとってアメリカは敵国。鬼畜米英だのなんだのと言われている存在なんだから。

 それに今でこそ日本軍が解放したとはいえ、フィリピンという国は常にどこかに支配されてきた国だという事。

 言葉も、文化も、資源も。その全てを他国によって好き勝手にされ続けてきた。

 それが一体どういう事なのか、日本人のあたしには想像する事しか出来ない。

 

「僕らがフィリピンへ行くのは、

 またアメリカが上陸してくる時の為の備えだね。

 陣地構築や、フィリピンの治安維持なんかが主な任務になると思うよ」

 

「治安維持、かぁ~。

 あれだろ? 銃剣持って住民が悪さしないよう見張ったりするんだろ?

 せっかく兵士になってお国に尽くせると思ったのに、

 まーだ戦ったりは出来ねぇんだな。つまんねぇ!」

 

 あたし達の会話に、関口も参加してきた。

 気が付けば一緒に遊んでいたのであろうはまじやブー太郎といった面々も、ウンウンといった風にこちらを見て頷いている。

 

「俺はアメリカ兵をたくさんブッ殺して、いっぱい手柄を

 立ててくるってかーちゃんと約束してきたんだよ。

 命令だから仕方ないけど、フィリピン人のお守りなんてしたくねぇな」

 

「そうだブー! フィリピン人なんて欧米かぶれのヤツら、

 どうだっていいんだブー!」

 

「ちょっとあんた達っ! 何いってんのさっ!!」

 

 さすがに聞き捨てならないと、あたしは声を荒げる。

 

「なんだよまる子、お前あんなヤツらの肩もつのかよ。

 アイツらアジア人の誇りも持たねぇで白人に尻尾振ってたんだぞ。

 しかも、せっかくアメリカの支配から解放してやったっていうのに、

 アイツら俺達に対して、ゲリラ仕掛けて来てるって言うじゃねぇか!」

 

「そーだよ、守ってやる価値なんかねーよ、そんな恩知らず。

 俺達が必死でアメリカと戦ってるっていうのによ?

 アジアの国みんなで白人の支配に立ち向かおうって時によ?

 一緒に頑張るどころか、アイツら足引っ張ってきてんだぞ。

 恥ずかしくねーのかって話だろ」

 

「ブー! そうだブー!!」

 

「 あっ…………あんた達ぃぃぃーーーーーッッ!!!! 」

 

 

 気が付けばあたしは、関口に飛びかかっていた。

 胸倉を掴み、後ろに押し倒し、ワケのわからないままにドッタンバッタンと暴れる。

 はまじはあたしの肘が当たって鼻血を出すし、ブー太郎は何かに股間を強打されたらしくブーブー呻きながらうずくまっているし。

 あたしの髪の毛をひっぱる関口を止めようとたまちゃん長山くんが奮闘し、なんにもしていないハズの山田が何故か泣き出し始め、それを永沢と藤木のコンビが我関せずといったようにただ見守っている。

 そしてこれは、騒ぎを聞きつけた丸尾くんがオロオロと部屋に駆けつけて来るまで続いたのだった。

 

 

………………………………………………

 

 

「ちょっとぉ、さくらさぁん?

 下手したら私たち全員が連帯責任で懲罰だったのよ?

 ちゃんと分かってるのぉ?」

 

「……ご、ごめんなさい。みぎわさん」

 

 

 あれから三十分ほどの時が過ぎ、現在あたしは船の甲板にて、みぎわさんにお説教を頂いていた。

 あたし達の隊……通称“三年四組小隊“の隊長は、士官学校を出て少尉となった丸尾くん。その中でみぎわさんは、あたしやたまちゃん野口さんといった女子勢の代表として指名されていた。

 思えば小学校時代も、彼女は丸尾くんと共に学級委員長をやっていたものだ。

 

「まったく、いい迷惑よ。私が居なければ今頃どうなってた事か。

 次からはもっと良く考えて行動して頂戴。小学生の時とは違うのよ?」

 

「め……めんぼくないです……ごめんなさい……」

 

 迷惑もかけてしまったし、実際みぎわさんのおかげで懲罰も回避出来たし、もうあたしは平謝りする事しか出来ない。

 思えばついカッとなって掴みかかっていったものの、あたし最近までフィリピンの事なんか何にも知らなかったじゃないか。それなのに私はいったい何に対して怒っていたと言うのか。

 フィリピンの人達を悪く言われて、腹が立った。でもあたしはフィリピンの事をよく知らないし、まだ会った事も無い。

 それならば口汚かったとはいえ、まだ自分の意見をしっかりと持っていた関口たちの方が、よほど真っ当に思える。

 あたしはよく知りもせず、ただ「気に入らない」って気持ちだけで突っかかっていった、ただのバカ者なのだ。反省する他ない。

 

「ま、男子の言ってる事なんて気にする事ないわ。

 アイツら馬鹿で子供だしね。まともに相手するだけ無駄よ」

 

 ションボリと項垂れるあたしを気遣ってか、さり気なく慰めの言葉をくれるみぎわさん。別にあたし達二人は仲が良いというワケでもないし、気が合うワケでもないのだが、こういった所があるからあたしは彼女を憎めないでいる。

 これこそが今まで、なんだかんだと友達としてやってきた理由であるのだ。

 まぁ今目の前で「花輪くん以外の男子はみんなクズよ」みたく愚痴を言っている事には閉口するしかないが。彼が私たちの小隊に居なくて残念なような、よかったような。微妙な心境である。

 

「……ただ、フィリピンの人達の事だけどね?

 正直な所、少し覚悟をしておいた方がいいかもしれないわ。

 私は現地から送られてきた報告書なんかを読ませて貰ったりしてるけど、

 お世辞にも、“良好な関係“とは言えない物だから」

 

「えっ……」

 

「はまじ達も言ってたでしょう、ゲリラの事。

 ……あれは本当よ。本当にフィリピンの人たちは、

 日本軍に対して凄く大規模なゲリラ活動をしてる。

 あの国の若者の大半が、皆こぞってゲリラに参加してるって程にね。

 何十万という数のゲリラ達がフィリピンにはいるの」

 

「なっ……なんで!?」

 

 思わず叫んでしまうあたし。だってぜんぜん意味が分からないのだ。

 日本はフィリピンを欧米から解放したんでしょう!?

 何百年も続いた植民地支配から解放したんでしょう!? それなのに何故敵になるのか!? 

 

「さぁ? あちらにもあちらで、なにか思う所があるんじゃない?

 日本は“八紘一宇“を掲げ、大東亜共栄圏という大義を持って戦争をしてる。

 欧米の植民地支配に代わり、アジアの国々がひとつになって共存共栄していこうってね。

 でもその戦争継続の為に、フィリピンから沢山の資源を調達しているし、

 形だけは独立国家にさせたとはいえ、実際のフィリピンは日本の傀儡政権よ。

 よく“三割自治“だなんて言われてるしね」

 

「………………」

 

「フィリピンは元々裕福な国だったけれど、それは全部アメリカのおかげよ。

 “解放軍“だと言って日本軍がやってきてからというもの、

 あちらでは通貨経済が崩壊し、食料は不足し、餓死者すら出たらしいわ」

 

「アメリカはフィリピンを植民地として支配していたけれど、

 代わりに教育や文化、タバコやチョコレートを与えた。

 国が豊かになればなるほど、その分アメリカが取れる利益も増えるもんね。

 けれど貧乏で戦争継続に必死な日本は、フィリピンに何もあげる事が出来ない。

 ただ貰うだけ。搾取するだけになっているのでしょう」

 

「八紘一宇も、大東亜共栄圏も、フィリピンの人達にとって知った事じゃない。

 何百年ものあいだ白人に支配され続けてきたフィリピン人は、

 東洋民族の誇りも、守るべき文化も持ってはいない。

 白人もアジア人も関係ないの。ようは“どちらがマシか“って事なのよ。

 アメリカに支配されてた時は裕福だった。でも日本が来てから生活が苦しい。

 ……きっと、そういう事かもしれないわね」

 

 頭を、ガンッと殴られたような衝撃だった。

 相づちを入れる事も出来ず、私はただ黙り込んで、話を聴くばかり。

 

 アメリカの支配から解放し、「アジアの家族として共存共栄していこう」と手を差し伸べた日本。

 しかしそのやり方は、フィリピンの人達にとって良くない物だったのは分かる。

 やっている事は同じ植民地支配で、しかもアメリカのそれよりも酷い物だったからフィリピンの人達は怒ったのだ。

 そして今フィリピンの若者たちはゲリラとなり、武器をとって襲ってくる。日本人を殺す。

 

 しかし、あたしの胸に今、とても黒い感情が渦巻いているのが分かる。

 日本が悪かったんだ、やり方を間違えてしまったんだとそう言いたいのに、どうしても割り切れない何かが胸の中にある。

『白人もアジア人も関係ない。ようは“どちらがマシか“って事なのよ』

 この言葉が、どうしても頭から離れない。あたしの言葉を詰まらせてしまう。

 

「関口たちが言っていたように、日本人はフィリピン人をとても軽蔑しているのよ。

 アメリカ人に道路や自動車を与えられ、ジャズや映画で享楽主義を植え付けられ、

 東洋民族の誇りも魂も奪われてしまったヤツらだとね」

 

「私たち日本人は“進め一億火の玉だ“と言って、国民最後の一人になるまで

 アメリカと戦う覚悟を持ち、この戦争をしてる。

 アジアの国々を白人から解放しよう、そんな大義を掲げて戦っているわ。

 そんな私たちから見たら、フィリピン人の姿というのは、とても悲しい物よ。

 怒りを感じてしまう事もあるでしょう」

 

「現地からの報告書なんかを読んでいるとね? そりゃもう酷いモンよ?

『比島人は個人主義にして、愛国心なし』とか『怠惰にして労働を蔑視する』とか。

 こいつらは東洋民族ではなく、色が茶色いだけの欧米人だ~なんて言葉もあったわ」

 

「その様をまるで“犬畜生“だと、日本兵はフィリピン人を軽蔑し、横暴を重ねる。

 フィリピンの人達は更に憎しみを募らせ、ゲリラ活動は活発になっていく。

 同じ東洋民族の私たちに向かって手榴弾を投げてくるのよ。

 支配者たる白人に対しては、機嫌よく尻尾を振っていたというのにね。

 そんな悪循環よ」

 

 ずっと遠くの方を、地平線を眺めながら言葉を紡いでいたみぎわさん。今その彼女はこちらに向き直り、ふぅっと静かにため息を吐いた。

 

 

「それがフィリピン。私たちが今から向かうトコロ。

 ……どうかしらさくらさん? どう思う?

 関口くん達は、お母さんに自慢できる手柄を立てられそうかしら?」

 

 

 静かな声で、悲しそうにみぎわさんが笑う。

 

「……ふふ、冗談よさくらさん。

 ちょっと脅かしてみただけだから、あまり気にしちゃダメだからね?」

 

 何気なく眼鏡を外し、みぎわさんが再び遠くの方を見つめる。

 編み込んだ二つのおさげが、潮風に揺れている。

 

「それに、私達は兵士。

 皇軍の一兵として、ただ任務を遂行していくのみよ、さくらさん。

 たとえそれが、どんな任務であろうとも。

 ……ふふっ、天皇陛下万歳ってね」

 

 

………………………………………………

 

 

 あの星明りに照らされた船の甲板で、ふたり話をした、すぐ後の事。

 みぎわさんは、死んでしまった。私たちの中で一番先に。

 

 あたし達が現地に到着し、司令部のある街へと向かう道中。突然朗らかな笑みを浮かべながら「オー日本ノ友達。シガレットサービス」と言いながら近づいて来たフィリピン人によって、手榴弾で吹き飛ばされたのだ。

 たまたまあたし達の案内役だった大人の男の人の、一番近くに居た。

 たったそれだけの事で、みぎわさんは死んでしまった。

 

 上半身が吹き飛ばされ、もうみぎわさんだとはワカラナイ、奇妙な形になった。

 

 

………………………………………………

 

 

 フィリピンに赴任したあたし達。

 初年兵のあたし達“三年四組小隊“に任されていた任務は、荷運びや警備といった雑務が主だった。

 

 関口はまじなどの男子たちは、みぎわさんの事があってからずっとピリピリしている。やっぱりフィリピン人は信用できねぇと、更に不信感を強めたようだった。

 それだけでなく、こうして雑務に勤しんでいる日々の中でも「どこどこの小隊がゲリラに襲われた」「誰々がゲリラの待ち伏せに合い殺された」などといった話が、いつも絶え間なく聞こえてきていたのだ。

 それほどまでに、ここフィリピンの状況は酷かった。

 

 たとえ銃剣を携えたあたし達であっても、常にひとりになる事無く、いかなる時でも二人三人といった集団で行動する事が推奨された。

 そうしなければ、あっという間にゲリラにやられてしまうから。

 街に居る時も、田舎道を歩いている時も、建物の中にいる時にでも。常に警戒を怠ってはいけない。相手が女や老人であっても気を抜いてはいけない。

 そんな気疲れと息苦しさを、いつも感じていた。

 

 あれから山田は笑う事をしなくなり、長山くんは何かを考え込んでいる事が多くなった。

 山根はいつも胃が痛そうにしていたが、それを口に出して言う事はせず、ただじっと我慢するばかり。

 カラ元気でみんなを鼓舞する丸尾くんの声が、どこか寒々しく聞こえていた。

 

 

 ……そんな中あたしが考えていた事と言ったら、申し訳ないけれど、もうひたすら遊ぶ事ばかりだ。

 もう暇さえあれば、隙さえあれば「よっしゃ!」とばかりに地元の子供達をとっ捕まえ、一緒に遊んでいた。あたしは筋金入りの怠け者なのだ。

「警備をしろ」と言われてここにいるにも関わらず、知った事かとばかりにひたすら遊ぶ。これは軍務において非常に重要な、地域住民との交流なのであります!

 

 要らなそうな紙を取って来ては子供達に渡し、それで紙飛行機の作り方を教えてあげたり。いらない木材を削ってみんなで独楽を作って遊んだり。

 みんなとても喜んでくれたし、色々な遊びを知っているあたしを気持ちよく尊敬してくれた。ロクに言葉は分からずとも「おねえちゃん、おねえちゃん」と慕ってくれているのが分かる。それがとても嬉しい。

 

 そんなあたしの姿に呆れながらも、子供達の為にと、一緒に大縄跳びを回す役をしてくれるたまちゃん。

 たまにあたし達の所にフラッと顔を出しては、メンコ遊びで子供達相手に無双し、何も言わずに去っていく野口さん。

 遠い異国の地に来たけれど、あたしの周りには沢山の笑顔があった。

 フィリピン着任の当初、そんな風にあたしは楽しく過ごしていた。

 

 

………………………………………………

 

 

 そんなある日の事、雑務に従事していたあたし達三年四組小隊は、突然呼び出しを喰らった。

 なんでも「ゲリラとおぼしき数人を憲兵隊が引き渡してきたので、お前達が行ってくるように」との事だった。

 そう命令されたあたし達の小隊は、いそいそと現地へと移動する。

 

 

 

「おぉ来たかお前達。こいつらを見てみろ」

 

 あたし達がやってきたのは、街のはずれのヤシの林。そこに今、目隠しをされた状態の十人ほどの男が立たされている。

 土にまみれ、ボロボロになった服をきたフィリピン人の男達。言われるがままにその姿を見つめる。

 

「もう尋問は済ませたし、自分で穴も掘らせた。あとは“処分“をするだけだ」

 

 横一列に並び、顔をこわばらせるあたし達に向かい、上官が言い放つ。

 

 

「――――お前達はまだ人を殺した経験が無い。役に立たん新兵だ。

 故に度胸をつける為、今から刺殺訓練を実施する」

 

 

 ドキンと、心臓が跳ねたのが分かった。

 当然視界が真っ白になり、身体が固まってしまったように動かなくなる。

 それでも、目の前の上官の言葉は止まる事無く続いていく。

 

「各自、着剣して一人づつアイツらの後ろに着け!

 どいつの後ろでも構わん!」

 

 その声を聞いた途端、ハッとあたし達は我に返る。そして急いで銃剣を取り付けていく。

 上官の命令をきかなくては――――その身体に染み付いた意識だけで、腕を動かしていく。

 

「……ッ! ……ッ!!」

 

 隊長である丸尾くん、そして関口たちの行動は速かった。瞬く間に銃剣を装着し、男達の後ろへと立った。

 ……しかし、たまちゃんはそうはいかなかった。

 

「……ッ! …………………ッッ!!」

 

 銃剣を付けられない。何度やっても、上手く装着する事が出来ない。

 だってその手は、ひどく震えていたから。カチャカチャ、カチャチャと、必死な音だけが鳴る。

 その姿を、みんながじっと見つめる。目を潤ませながら銃剣を着けようとするたまちゃんの姿を、何も言わずに見ている。

 上官も、ただそれを見守る。もたついているたまちゃんを咎める事も、怒鳴りつける事もせずに、ただ黙って終わるのを待った。

 あたしはその姿に、優しさではなく「決して止めさせない、逃げさせない」という意志を感じた。

 

 ……やがてなんとか着剣したたまちゃんが、ゲリラの後ろへと立つあたしの隣にやってきた。

 ここに居るゲリラの数は十人。それに対して、あたし達の小隊は十二人いる。故にあたしとたまちゃん、長山くんと山田は、一人の男にふたりで当たる事になったのだ。

 

「…………まっ、……まるちゃん……っ!」

 

 上官に気づかれないよう、ピタリとたまちゃんに寄り添うようにして立ち、その手を握る。

 

「……まるちゃん……! ……まるちゃん……っ!」

 

 何も出来ない。何を言ってやる事も出来ない。

 ただ黙って、手を握ってあげる。それだけが、崩れ落ちそうなたまちゃんに対して、あたしが出来る唯一の事。

 

「では中尉殿! この丸尾末男、任務を遂行致しますっ!」

 

 そう言い放ち、丸尾くんが敬礼をする。脚はガクガクと震え、声は上ずっている。それでも男の方に向き直り、銃剣を構えた。

 

 獣のような掛け声を出した。

 それで何かを振り切るように、丸尾くんが銃剣を突き出した。

 

 へっぴり腰で、不格好で、とても士官学校で学ぶような綺麗な突きでは無い。それでも丸尾くんは、しっかりと男の背中を突き刺した。

 倒れ込んだ背中に向かって、もう一度、二度、三度。万が一にも仕損じる事のないように、しっかりととどめを入れていく。

 目を見開き、歯を食いしばりながら、その使命を果たす。

 その姿はまるで自分自身に対して、必死に何かを言い聞かせているかのようだった。

 

 きっとそれは、「わたくしは隊長なのだ」という意志。

 みんなの代表、みんなの手本。だから自分が一番先に示さなければならないのだという、丸尾くんの気持ちが見えるかのような姿。

 

 皆がその光景を見守る中、やがてゲリラの男は完全に動かなくなった。

 それを見届けた後、次々とみんながゲリラ達を“処理“し始めた。

 

 ドスッ、ガスッ、ドシャッと、慌ただしい音が辺りに響く。

 はまじも、藤木も、山根くんも、次々に銃剣を突き刺し、殺していく。

 震えながら、涙を流し、獣みたいな声をあげて。

 

「……せーのっ……」

 

 そんな小さな掛け声の後、長山くんと山田が、同じ標的に向かって銃剣を突き出す。

 倒れ込むゲリラの男。銃剣を突き出したままで固まっている山田。長山君は目を瞑りながらも、必死にとどめを入れていく。動かなくなるまで。

 

 あの穏やかで優しかった長山君。彼のそんな姿を見た時に、あたしの身体は動いた。

 あたしはたまちゃんの手を放し、腰を少しだけ落として、銃剣を構えた。

 

「……ッ! ……まるちゃん……ッ」

 

 たまちゃんが、息を呑んだのが分かった。

 ダメだ、やめてと、縋りつくような目であたしを見ているのが分かる。

 けれど、それを聞く事は出来ない。決して止める事は出来ないんだ。

 

「……いい? たまちゃん?

 あたしの銃剣を、一緒に握って」

 

 たまちゃんが、目を見開いていて、あたしを見ている。

 ホントはこんな事させたくない。あたしが全部……ぜんぶやってあげたい。

 でもたまちゃんに“やらせない“って事……、それはきっとその場凌ぎの、何の意味も無い行為。

 

 だから――――

 

 

「いっしょにやろう、たまちゃん。

 ……さぁ手を添えて。

 あたしの手を、握ってるだけで良いから」

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

「「 うーたを歌うならぁ~♬ ぼくらに~♬ まかせろぉ~♬ 」」

 

 

 いつも手を繋ぎ、仲良く学校まで歩いた。

 そんな風に歌いながら、笑い合いながら、ふたりで歩くのが好きだった。

 

 バカなあたしは、いつもたまちゃんを困らせていた。沢山たくさん振り回してしまってたと思う。

 でもそんなあたしの話を、たまちゃんはいつも楽しそうに聴いてくれた。いっぱい相談にも乗ってくれた。

 いつもいちばんの味方でいてくれた。いつでもあたしの事を、助けてくれた。

 

 そんなたまちゃんに何か恩返しをするとして……、あたしにはいったい何が出来るだろうか?

 ……残念ながら、なにも思いつかない。

 バカなあたしがたまちゃんにしてあげられる事なんて、なんにも浮かんではこない。

 ただ、あたしはたまちゃんの事がだいすきだから、いつもいっしょに居たいと思ってる。

 一緒に遊んで、一緒に給食たべて、一緒に歌を歌ったりなんかしたいと思ってる。

 

 もしたまちゃんが困ってる事があれば、とにかく真っ先に飛んでいくよ。

 

 もしたまちゃんの悪口を誰かが言ったりなんかしていたら、あたしはそいつをおもいっきりひっぱたいたげる。

 

 そして寂しい時は、あたしがそばに居てあげる。ぜったいたまちゃんをひとりになんかしないよ。

 

 

 たまちゃん、だいすきだよ。

 ずっといっしょにいようね。

 

 

 あたしたちは親友。ずっとともだち。

 

 ふたりならきっと、なんだって出来る――――――

 

 

…………………

………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドスッっという感触が、手に伝わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

 その後の事は、はっきりとは憶えていない。

 ゲリラ達を殺し、穴に放り込み、土を被せたのだろうけど、その時の記憶がイマイチはっきりしないのだ。

 

「うむ、お前達は非常に優秀だ。

 普通はとてもこうはいかん。皆最初はガクガクと震えるばかりでな。

 この調子で、これからも励めよ」

 

 そんな風な事を言われたような気がするが、あたしはきっと、もうそれどころじゃなかったのだろう。 

 気が付いた時には夕方で、あたしは銃剣構えて街角にボケッと突っ立っていた。

 なんか言われるがままに、警備の仕事をしていたらしい。

 

 

 

『 まるちゃん! もういいの! もう死んでるからッ!! 』

 

『 さくら! しっかりしろ! もう止めろってッ!! 』

 

『 あああああああぁぁぁぁぁぁぁあああああああッッ!!!! 』

 

 

 

 

 ……そんな誰かの声と、叫び声を聴いたような気がする。

 それが耳にこびりつき、いつまでも頭の中を反芻している。

 だが不思議と、その事を考えるのを、頭が拒否でもしているかのよう。

 頭はボンヤリとし、何も考えられなかった。

 

 夜になり、当てがわれた部屋へと戻ってくると、なにやら赤いのでバリバリに固まったあたしの服が置いてある。

 それを何気なしに桶に放り込んで、あたしはグースカと眠った。

 

 

………………………

………………………………………………

 

 

 それからもあたし達は、ここフィリピンで雑務の日々を送った。

 ある日、なんちゃって警備の仕事から帰って来たあたしの所に、関口が嬉しそうにして声を掛けてきた。

 

 

「今日な、俺たち上官に連れられて、街でゲリラ狩りをしてきたんだぜ。

 そこで密告にあった、学校の教師だっていう男を捕まえてよ?

 木に吊るし上げて、白状するまでブン殴ってやったんだよ」

 

「アジトはどこだ、リーダーは誰だって訊いたんだけどよ?

 そいつ強情で……、なかなか口を割らねぇんだよ。

 上官が『斬るぞ』って感じで軍刀抜いてから、やっと話しだしたけど、

 それでも『今は旅に出ている』とか言って、散々粘りやがってよ」

 

「何食わぬ顔して仲間のゲリラに情報流しといて、

『私は日本軍に協力してきたつもりだ』とかよ。

 うっとーしーったらなかったぜ」

 

 

「………吐かせた後か?

 もちろん後腐れの無いように、殺したよ」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゲリラ。

 

 

 なんだか冴えないな~と、あたしは感じている。

 なんというか……いま無気力なのだ。身体に力が湧いてこない気がしてる。

 

 ついこの前までは、こうやって歩哨に立たされていたらば、隙をみて遊ぶ事ばかり考えていた。それなのに今は何もやる気が起きないでいる。

 その結果、こうして言い付け通りに此処で突っ立っていたりするワケだ。ただ目の前の街の風景を眺めながら、何を考えるでもなくボケッと立っている。

 ただ目の前の任務に従事するという意味では、あたしは今とても模範的な兵士なのかもしれない。こんなアホ顔をしている事を除けば、だけれど。

 

 おねえちゃんは今、何してるんだろう?

 お母さんもお父さんも、ちゃんと元気にしてるのかな?

 

 何気なくそんな事を考えるも、まだここに着任して来てから一か月とたっていないじゃないかあたしは。

 故郷を懐かしむのは、まだまだ早い。

 ここで立派に任務を果たし、お国に尽くす。それを果たすまでは決して帰るワケにはいかない。あたしは皇軍の兵士なのだから。

 

 でもふいに、あの出立の日の、おじいちゃんの涙を思い出す。

 ぼろぼろと泣き崩れ、手で顔を覆ってしまっていた、おじいちゃん。

 そんな大好きな人に向かって「泣かないで、大丈夫だよ」と手を振ったあの日の事を。

 

 ……ズキリと、ふいに胸が痛んだ。

 ほんとうに何気なしに、いつものようにおじいちゃんの胸に飛び込む、そんな光景を想像してみた時……、ふいにあたしの心に、黒い感情が染み出したのだ。

 

 ――――――でもあたし、もう人殺しちゃったしなぁ。

 ――――――今のあたし、おじいちゃんにギュッてしてもらってもいいのかなぁ?

 

 ……そんな考えが頭に浮かび、思わず苦笑する。

 なに言ってんだかあたしは。こんなの今考えたって、しょうがない事だろうに。

 確かに今、あたしは少しばかり無気力かもしれない。ちょっとだけ元気じゃないかもしれない。

 でも、それでもあたしが挫ける事はありえない。

 仲間がいて、身体は十全。陛下から頂いた銃もあるのだから。

 

 

『私達は兵士。

 皇軍の一兵として、任務を遂行していくのみよ、さくらさん。

 たとえそれが、どんな任務であっても――――』

 

 

 あの日聞いた、みぎわさんの言葉。決意。

 それが今も、あたしの胸から離れない――――

 

 

………………………………………………

 

 

 山田が居なくなった。

 そう言って長山くんがあたしの所に駆けてきたのは、その日の昼の事だった。

 

「ぼくと一緒に歩哨をしてたんだ!

 でも交代を言いに山田くんの場所にいったら、居なくなってて!

 どれだけ探しても見つからないんだ!」

 

 汗をたくさん流し、パニックになりながら長山くんが言う。

 バカな山田がフラッとどっかに行ったというのなら良い。あたしと一緒で、どっかでサボッてるのなら叱るだけですむ。

 でもこれがそんな事態じゃないのはすぐ分かった。ここは“フィリピン“。あたし達にとって、何があってもおかしくない場所なんだ。

 

「いったんみんなの所に帰ろう!

 みんなに話して、一緒に探してもらわなきゃ!!」

 

 あたしと長山くんは、急いで仲間の所へと走って行った。

 

 

………………………………………………

 

 

「こ~んな顔したヤツなんです! どこかで見ませんでしたか?!」

 

「今日そこでずっと立ってたヤツです! 見ませんでしたか?!」

 

 仲間たちと何人かの通訳の人を引き連れ、あたし達は再び街へと飛び出した。今は皆手あたり次第に街の人達へ訊いてまわっている。

 

「仲間なんです! どこに行ったか知りませんか?!」

 

「見かけたらすぐ教えて欲しいんです! お礼もしますから!」

 

 山根も、永沢も、ブー太郎も、皆が汗を流して走り回った。

 バカだしワケのわかんないヤツだけど、あたし達は山田がだいすきだったから。いつも元気に笑ってるアイツの事を、すごく大切に想ってたから。

 

『――――最近、歩哨を立てておくと、すぐいつの間にか消えてしまうんだ』

 

 そんな上官の言葉が、あたしの脳裏をよぎる。

 

『昨日、食料調達に行った奴らが、ゲリラの待ち伏せに合ってな。

 十五人いた兵隊のうち、二人を残して皆殺しにされてしまった』

 

『現在、至る所で小人数の日本軍がゲリラに襲われ、殺されている。

 お前達も十分に気を付けておけ』

 

 上官に聞かされていた言葉、頭に浮かぶ良くない想像、それを全部振り切るようにして必死に駆けずり回った。

 

「……ぼくのせいだ。……もっとよく、山田くんを見ていなかったから」

 

「ちょっと長山くん! 何いってんのさ!!」

 

 あたしと一緒にいた長山くんが、その身を震わせて俯いた。

 

「長山くんのせいじゃないでしょ!

 あいつあんなんだから、フラッとどっか行っちゃったんだよ!!

 まったく山田ったら、こんなに心配かけて!

 見つけたらとっちめてやるんだから!!」

 

 手を引っ張り、無理やり二人で駆け出していく。

 今は考える事より、動く事。それが大事なんだと自分に言い聞かせて。

 

 長山くんは誰よりも頑張った。英語でしゃべって沢山の人に訊きいて回っていった。

 でも日が暮れて、夜になっても、ついに山田が見つかる事は無かった。

 

 

 フィリピンの人は、誰も彼も山田を見ていないと言った。

 誰に聞いても「知らない」、どんな風に訊ねても「わからない」

 

 まともに話を聞いてくれる人も、ちゃんと顔を見てくれる人すら居ない。

 みんな、足早に立ち去っていくばかりだっだ。

 

 

………………………………………………

 

 

 山田が居なくなってしまってから、あたしは出来るだけ長山くんの傍にいるようにしていた。

 任務で一緒になるとは限らないし、むしろあたし達は離れて動き回っている事の方が多い。それでも食事の時や、任務から帰って来た後は、必ず長山くんの所に顔を出した。

 

 別にあたしは気の利いた事を言える方じゃないし、むしろ頭は良くない。どちらかと言えば普段みんなを振り回している方だ。

 それでも、きっと誰にだって、誰かに傍にいて欲しい時があるハズ。

 あたしが落ち込んでいる時、いつもたまちゃんがそうしてくれるように。

 

 無言でも何でもいい。嫌がられたっていい。

 長山くんに元気が出るまでと、時間の許す限り一緒にいた。

 

 

 

「つーかよ? 藤木のいびきがうるさくて眠れねぇんだよ。

 いくらお互い様っていってもよ? あれちょっとおかしいんじゃねぇかな?」

 

「……あんたぁ。そんな事言ったら藤木が可哀想じゃないのさ。

 耳に土でも入れて眠ればいーじゃん。グリグリ~って」

 

「こえーーよ! なんか病気になったらどーすんだよ俺!

 まぁいざとなったら、芋の切れ端でもつっこんで寝るけどぉ~」 

 

 芋かい。食べ物粗末にすんな。そんな事を言いながらあたし達は歩く。

 今日はあたし、はまじ、そして長山くんでの任務だった。今はその帰りで、三人なかよく田舎道を歩いている所。周りは一面の田んぼである。

 

「でも地鳴りだぜありゃ。普段そんな声でかい方でもねーじゃん藤木は。

 どっからこんな音出してんのかなって思う。

 あいつ歌でも歌ってみたらいいのに」

 

「歌わせてみればいーじゃん、“麦と兵隊“とか。

 すなぁ~ぐぅ~♪ すなぁ~ぐぅ~を~♪ ってさ。

 朝礼の時に歌わせて、才能発掘しようよ」

 

「……あはは」

 

 あたし達のバカ話をきいて長山くんが苦笑する。呆れられたのかもしれないけど、それでもあたしは嬉しい。

 

「歌手の人は“腹式呼吸“というを使って歌声を出しているんだけど、

 実は僕らも寝ている時は、みんな自然に腹式呼吸をしているんだ。

 ……えっと、だからどうってワケでも無いんだけど、

 そんな大きな音を出せるんなら、もしかしたら藤木くんも……」

 

「おおスゲェ! じゃああいつ、歌手になれるかもしんねぇじゃん!!」

 

「冴えない男だとばかり思ってたのにねぇ~。

 こりゃあ、とんだダイヤモンドが眠ってたもんだよ!」

 

 さっきまで迷惑者だったのに、いつのまにかダイヤモンド認定される藤木。長山くんが言うなら間違いないと、なにやら興奮してきた。長山くんの説得力は凄い。

「俺があいつの才能見つけた!」「いやあたしが!」「あはは……」と、やいのやいの言い合うあたし達。

 今日帰ったら藤木に教えてやろう。「あんた歌手になれるかもしんないよ?」って。今から楽しみだった。

 

 

 

 やがて歩いて行くうち、あたし達の向かいの方から、女の人と子供が寄り添って歩いてくるのが見えた。

 きっとお母さんと、そのお子さんなんだろう。果物の入った篭を抱えながら、楽しそうにおしゃべりしているのが分かる。とても幸せそうな親子に見えた。

 

「こんちわーす」

「こんにちは~」

「こんにちはー」

 

 そう笑顔で会釈するあたし達。今はあたし達だけなんだし、堅苦しいのは抜きだ。子供さんに手をフリフリしてから、傍を通り過ぎていった。

 外国語なんて分からないけれど、ハローくらいは言ったら良かったかな?

 フィリピンの言葉で「こんにちは」は何て言うんだろうと、後で長山くんに訊いてみようと思った。

 

 ――――その時、あたし達の背後から銃声が鳴る。

 

 血を吹き出した長山くんが、前へと倒れ込んでいくのが見えた。

 

 

「おっ……お前ぇぇぇええええーーーーっっ!!!!」

 

 はまじが即座に後ろへと駆け出して行く。

 振り向くとそこには、未だ煙を出すピストルを握っている“さっきのお母さん“の姿があった。

 

「うおおおぉぉおおおおおッッ!!!!」

 

 駆けていくはまじに向かい、また銃声が鳴る。でもはまじの勢いにビックリした為なのか、それは当たりはしなかった。

 女の人は銃を叩き落とされて、はまじにより地面に組み伏せられる。

 長山くんは右耳の辺りを抑えてうずくまっている。決して浅い傷じゃないけれど、それが致命傷じゃ無い事だけはなんとか確認できた。

 

 何故だったのかは分からない。

 あたしはその瞬間、子供に向かって駆け出していた。

 

 はまじと取っ組み合いをしているお母さんの姿、それを傍で見ていた子供を抱きしめるようにして、必死にしがみついた。

 一刻も早く、この場から離さなければ、争いからこの子を守らなければ――――

 とっさに、そんな事を考えてしまったのかもしれない。

 

「大丈夫っ! だいじょうぶだからねっ!!」

 

 もう自分でも何を言ってるのか分からない。それでもあたしは必死に逃がそうと、こんな光景を見せないようにと、子供を抱きかかえた。

 

「……ぁ」

 

 ガバッと抱き上げられた事で、この子が持っていた篭が手から離れる。それがゆっくりと地面に落ちていくのを見て、この子が小さく声を出したのが分かった。

 

「………………えっ」

 

 次の声は、あたしのだった。

 地面に落ちてしまい、篭から飛び出した物を見た事で、喉から出た。

 

 

「……あっ。……あれっ……?」

 

 

 ドサドサと果物が落ちる音に、何故かいくつかの“重い音“が交じっていた。

 ゴトゴトと、まるで金属が地面に落ちたような音が聞こえてきたのだ。

 

 地面にはバナナや、よく知らない果物。その中に交じって、いくつもの手りゅう弾があった。

 

 アメリカ製の手榴弾。

 この子はそんな物を、果物の篭に隠し持っていた。

 

 

………………………………………………

 

 

「アメリカはゲリラに武器や物資を供給してるんだよ。

 こっそりと潜水艦でやって来るんだ」

 

 長山くんは医療施設へと運ばれていった。

 命に別状はないから帰っては来られるだろうが、銃弾に削がれて右耳が吹き飛んでしまったと聞いた。

 そしてその日の夕食後、あたしは山根に話を聞いていた。

 

「だから良い銃を持ってるし、手りゅう弾だって持ってる。

 山の中に隠れてる連中だけじゃないよ?

 今日さくらが見たように、女性や子供までが隠し持ってる。

 誰が敵で、誰がそうじゃないのか……僕らには分からないんだ。

 いつだって撃たれた後に、“敵だった“って分かる」

 

「嫌な話ばかりが飛び込んで来るよ。

 親日派で、すごく軍に協力的だった医者の男が、

 調べてみたら実はゲリラの幹部だった、とか。

『水を飲ませて欲しい』と言って民家を尋ねたら、

 後ろから首を切られてしまった……とかね」

 

「この前僕が一緒に居た上官も、女性にピストルで撃たれた。

 色っぽい女の人が僕らに近寄って来て、いきなりズトンと撃ったんだ」

 

 静かな声色で、何気なく自分の胃の辺りを擦りながら、山根は苦笑する。

 

「それだけじゃない。この前ゲリラから押収した物の中に、

 アメリカ製のチョコレートやタバコを見つけたんだけど……、

 それにはみんな、こう書かれてあるんだよ。

 “I'll be back“って」

 

「私は戻って来る……。マッカーサーの言葉だよ。

『もうすぐアメリカが助けに行くから、それまで頑張れよ』って。

 ……ゲリラ達へのメッセージなんだ」

 

 自分の肩を抱き、山根は俯いている。

 まるで周りの怖い物すべてから、必死で自分を守ろうとしているかのように。

 

「だからみんな、いつもピリピリしてる。

 早くゲリラをなんとかしなきゃって、躍起になっているよ。

 アメリカがやって来る前に――――」

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

 

 銃を携えて、立っているあたし。

 本当はお空でも眺めていたかったけれど、今は前を見ていなきゃいけない。そしてしっかり周囲を警戒していなければ。

 

 今日あたし達三年四組小隊は、珍しく揃って行動をしている。

 夜になり、密告にあった“ゲリラとおぼしき人物“を捕まえに、皆でやってきたのだ。

 現在あたしとたまちゃん、そして怪我をしている長山くんは家の前へと立ち、辺りを警戒している最中だ。

 もしかしたら家の中から誰かが飛び出してくるかもしれないし、周辺だって油断は出来ない。今この中にいるみんなが安心して任務を果たせるようにと、あたし達も真剣に警戒にあたっている。

 

「長山くん、もし辛いようだったら、すぐに言ってね?」

 

「そうだよ長山くん。無理したらダメだからね?」

 

「ありがとうさくら、たまちゃん。

 でも大丈夫。みんな頑張っているし、僕も役に立ちたいんだ」

 

 そう言って優しく笑ってくれる長山くん。

 耳に巻かれた包帯は未だ痛々しいけれど、しっかり栄養を摂って清潔にしていれば大丈夫だと言っていた。

 後は彼が無理だけはしないよう、しっかり気を付けておかなければ。そうあたしは決意を固める。

 

 しかしながら、長山くんが早く良くなるようにご飯を食べて欲しいというのに、昨日の出来事には心底腹が立った。

 私たちがいつも使っている炊事場に、何者かが汚物を投げ捨てていたのだ。

 それだけじゃない。軍で購買済みだった沢山の野菜が、集団で盗みに入られた。全部持って行かれた。

 そんなとても陰湿な嫌がらせに合っているのだ。

 

 ……いつもゲリラの事を考える時に感じるのは、やるせなさだったり、悲しさだったりするけれど。

 しかし、これに関してもう、ハッキリとした怒りだ。

 いったい何をしてくれているのか。長山くんに栄養を摂ってもらわなきゃいけないこんな時に……!

 あたしゃもう人知れず怒り狂ったものだ。巻き割りもすんごくはかどったからね!

 

「……まるちゃん、昨日からすごく機嫌悪いよね……」

 

「……ブー太郎もすごく怖がってたよ。『今のまる子には近寄りたくない』って」

 

 そんな二人の声も聞こえないまま、あたしはギラギラした目で周囲を警戒する。

 来るならこい! 出来たら野菜盗んだヤツ来い! おもいっきりひっぱたいてやる!

 

「それにしても……特に中から音は聞こえないね。

 何事も無かったんなら良いけど……」

 

 たまちゃんは心配そうな顔でため息を吐く。

 もし中で争いでもあれば怒声が聞こえてきそうなものだし、最悪の場合は銃声が鳴る場合もあるだろう。しかし今の所はだけれど、そんな雰囲気は感じない。

 

「僕らが来る前に逃げてしまったか、どこかに隠れてしまったか……。

 それもあるかもしれないけど、皆が来るまで油断せずにいよう」

 

 そう三人で頷き合い、あたし達は警備を続行する。たまにあたしが「ちょやぁー!」と拳法の真似なんかをしているのを、長山くんもたまちゃんもクスッと笑ってくれた。

 

 

………………………………………………

 

 

「……長山、ちょっといいかい? 中に入ってくれ」

 

 しばらくすると、何故か山根がひとりで家の中から出てきた。

 

「歩哨は僕が代わる。みんなの所に行って来てくれるかい」

 

 そう山根は長山くんに促す。けれど「おーそっかそっか」とついて行こうとしたあたしは、何故か山根に止められる。

 

「……ん? え、長山くんだけなの? なんでさ?」

 

「………………」

 

「ちょ……なんなのさ山根!? なんで!?」

 

「………………」

 

 山根は俯いたまま、何も言わない。

 その何か変な雰囲気を感じ取った長山くんは、あたしとたまちゃんの方に向き直る。

 

「じゃあちょっと行ってくるから、二人はここで待ってて。

 すぐに戻って来るからね」

 

 そう言い残し、足早に去っていく長山くん。「心配しなくて大丈夫だよ」という優しい気持ちがすごく伝わって来た。

 

「山根、中で何かあったの!? なんなのさ!?」

 

 そう問い詰めても、山根は下を向いたまま顔を上げない。

 

「……後で、話すよ。

 みんなが帰ってきたら、そこで話すから」

 

 

………………………………………………

 

 

 それから少しの時が経って、家の扉が開いた。

 あたし達が待っている此処へと、みんなが帰ってきてくれたのだ。

 

 でも一様に、家から出てくるみんなの顔が俯いている。誰もあたしと目を合わせてくれない。あたしの顔を見てはくれない。

 

「ちょっと! はまじ! 丸尾くん! いったいどーしたっていうのさ!?

 ゲリラは? 居なかったの!? 長山くんはどこ!?」

 

 そう掴みかからんばかりのあたしから、はまじも丸尾くんも目を逸らす。

 やがて最後まで残っていた永沢と藤木、そして長山くんも家から出てきてくれた。

 

 ――――でも、長山くんの様子がおかしい。

 だって長山くん、泣いてる。泣いてるじゃないかっ!!

 

「ちょっ…………ながや……

 

「行くな、さくら!」

 

 関口があたしの肩を掴み、この場に押し止める。

 もうワケも分からずに暴れようとするあたしを、はまじや丸尾くんも加わって。

 

 何があったんだとみんなを見渡すと、なぜか永沢と藤木が“大きな布に包まれた物“を二人で持っているのに気が付いた。

 白い布に包まれているそれは、ちょうど人の大きさ。ちょうど人の形のようにも見えた。

 

「……えっ、……人? 誰かの遺体なの?

 中で誰か……亡くなってたの?」

 

 あたしの声に、誰も答えようとはしない。

 誰もあたしに、教えてくれようとしない。

 

「 ……ちょっと山根ッ!

  あんたさっき、『みんなが来たら話す』って言ったでしょ!?

  教えてよ山根!! 何があったの!? なんでみんな黙ってんのさ!? 」

 

 あたしは拘束を無理やり振りほどき、キッと山根を睨みつける。

 

「 長山くん泣いてるじゃん! 何で泣いてるのっ!?

  なんで、なんであたしとたまちゃんだけ!! なん…… 」

 

「………………山田だ」

 

 あたしの怒声を遮って、山根はボソリと呟いた。

 

 

「“山田なんだ“、その遺体は。

 ……さくらや穂波には、とても見せられないと思った。

 だから…………長山だけ呼んだんだ」

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………

 

 

 

 頭が、真っ白になった。

 

 身体の感覚が無い。山根の声が遠い。

 

 まるで世界から、あたしが分離してしまったみたいに。

 

 

「家には誰も居なかったんだ。

 そこら中を探したけれど、ゲリラはどこにも隠れてなかった。

 でも僕が洋服ダンスを開けたら、その中に山田が入れられてた。

 戸を開けたら、崩れ落ちてきた」

 

「もう死んでた。きっともう、ずっと前に死んでたんだ。

 長山が来た後で、すぐに布で包んでやった。

 ……きっとお前達二人には、見られたくないだろうから。

 だから……、このまま焼いて、みんなで埋めてやろう」

 

 

 

 きこえない。何も聞こえない。

 視界がぼやけて、山根の顔が見えない。

 

 なにもわからない。

 

「……ッ!? おいさくらッ! 何してんだ!!!!」

「やめろっ! やめろってさくら!! やめろぉッッ!!!!」

 

 山田。やまだ。やまだ。

 山田の顔を見せて。 見せて。 見せろ! そこにいるんでしょう!!??

 

「まるちゃん!! まるちゃんッッ!!」

「まる子ッ! ダメだっ!! 見るなッッ!!」

 

 布が少しだけはだけた。山田の顔が少しだけ見えた。

 でもなんで山田の顔は汚れてるの? なんでこんなにグチャグチャになってるの?!

 

 

「 ねぇ!! 山田の指が無いッ!!!!

  山田の指が全部なくなってる!! なんでっ!?!? 」

 

 

「 何で無いの!? 5本とも無いよ!? 全部ないッ!!!!

  誰が切ったの!? 誰が山田の指を切ったのっっ!? どうしてッッ!?!? 」

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

とうばつ。

 

 

 立派な兵士になりたい。

 あたしはいつも、そう思い描いていた。

 

 

 お国に尽くし、立派に戦い抜き、故郷の家族を守る。みんなの為にがんばる。

 それが、あたしの願い。あたし達の決意。

 

 たとえ死ぬ事になっても、自分には仲間たちがいる。

 おんなじ学校を出て、おんなじ釜の飯を食い、「死ぬ時は一緒だ」と誓い合った友達がいる。

 靖国神社で、会える。

 

 だからあたしは、何にも怖くなんてないんだ。いつか死んでしまうとしても、きっと誇らしい気持ちで死んでいける。

 立派に戦って散った事を、きっとお父さんもお母さんも褒めてくれる。おじいちゃんもあたしを抱きしめてくれる。

 ならば、恐れる物はない。何にも怖くなんてないよ。

 

 

 兵士として役目を果たす事。

 それが今の、あたしの全て。

 

 きっと何だって出来るって、そう思ってたんだ。

 

 

 

 

…………………

………………………………………………

 

 

 

1、最近のゲリラの跋扈の状況に鑑み、兵団は警備地区内の“徹底的討伐“を実施する。

 

2、善良な住民とゲリラとの判別がつかないので、現住民は“総てゲリラと見倣す“。

 

3、皇軍に協力する証拠の顕著な者以外は、たとえ婦女子といえども容赦なくこれを殺し、全警備地区内を“無住民地区“とし、以って戦闘を容易ならしむ。

 

4、十人以上殺した者は中隊長、三十人以上の者は大隊長、五十人以上殺した者は兵団長がそれぞれ褒奨する。

 

 

 

 ………………その内容を理解するのに、一体どれだけの時間がかかった事だろう。

 しばらくの間、あたし達はバカになったみたいに、その場で立ち尽くしていた。

 

 みぎわさんに続き、山田が死んでからも、ゲリラによる被害は日増しに増えていった。

 二日前にも「第○中隊長を含む五名がゲリラの待ち伏せに会って殺された」という話を聞いたばかり。

 その中隊長は満州時代からのベテランだとして、とても皆に頼りにされていた人物だったらしい。

 そんな状況の中、夜になり部屋に集められたあたし達の小隊は、上官である中尉殿より命令を伝達された。

 

 司令部より発せられた、ゲリラ粛清命令。

 通称“無人化作戦“と呼ばれる、明日から行われる討伐作戦の概要を。

 

 頭の中にいくつも疑問符が飛び、たった今説明を受けたハズの事を、上手く飲み込む事が出来ずにいる。

 まるで「パンは食べ物じゃないから捨ててしまえ」などと、そんな意味の分からない事を言われてしまったみたいに。

 ぜんぜん理解が追いつかず、現実感が持てないでいる。

 

「……な、なんて命令を出すんだ……」

 

 あたし達に作戦概要の説明を行い、中尉殿が部屋を去って行ったその後……、長山くんがボソリと呟く。

 

「この地域のフィリピン人たちを……、全て殺してしまえって事だ。

 男だけじゃなく、女も子供も老人も……みんな」

 

 

………………………………………………

 

 

 一月、ついに米軍はルソン島リンガエン湾へと上陸してきた。

 その際に、日本軍は前方からアメリカ軍、そして後方からはゲリラ達の襲撃に合い、大変な苦境に立たされたらしい。

 

 今回のゲリラ討伐作戦は、その手酷い目に合った戦訓による物。

 ようは『アメリカと万全に戦えるよう、背後および周囲を無人化しろ』という事だった。

 

 現状のまま推移すれば、対米戦を待たずして自滅に至ると、司令部は考えている。

「ゲリラ達を殺さなければ敗戦に追い込まれ、自分たちは殺されてしまう」、そんな強迫観念にかられていたのだと思う。

 

 

 

「先に手を出して来たのはアイツらの方だろ。ならやっちまえば良いんだ」

 そうみんなを鼓舞する関口。

 

「わたくし達は軍人として責務を果たす、ただそれだけです」

 そう真剣な目をして話す丸尾くん。

 

 何かを振り切るようにして声をあげる子。じっとその場で押し黙っている子。その様子は様々。

 しかし、この場の誰ひとりとして反対の意見、「間違ってる」と発言する子は居なかった。

 

 みんなの胸の内は、分からない。

 だけどあたし達が決してそう口にしないのは……、それがぜんぜん“意味の無い事“だからだ。

 

 だって、あたし達は“兵士“だから。

 大本営や司令部で発案され、陛下から下される“命令“。それに対する拒否権など、あたし達にはありはしないから。

 

 たとえ今どんな意見を出し合ったとしても、あたし達は明日、必ず人を殺す。

 フィリピンの住民たちを、この手で殺していく。これはもう、“決まっている事“。 

 

 それがわかっているからこそ、誰も何も言わない。

 

「こんな事はダメだ」「間違ってる」「やりたくない」

 

 そう口にする事に、何の意味も無かったんだから。

 

 

 

 やがて話し合いも終わり、早朝からの作戦に備えて寝床に入ろうとした頃……事件が起こった。

 藤木のした事というのは、ひとつの答えだったと思う。

 きっとこれが陛下から下された命に逆らう、たったひとつの方法なのかもしれないと思った。

 

 突然の銃声に表へ飛び出したあたし達が見たのは、血に染まった地面。そして地面に倒れた藤木に泣きついている、永沢の姿だった。

 

 その夜、ピストルで自分の頭を撃ち抜き、藤木は自害した。

 

 

………………………………………………

 

 

 

「……怖いよ、まるちゃん。……わたし、怖くてたまらないよ……」

 

 みんなで藤木の遺体を埋めてやり、寝床に入った時、わたしの隣に眠るたまちゃんが語り掛けてくる。

 あたしの手を握り、今にも消えそうな震えた声で。

 

「お国の為にがんばろうって、立派な兵隊さんになろうって思ってきた。

 辛くても怖くても頑張らなきゃって、そう思ってきた……」

 

「……でも明日の作戦は、本当に正しい事なの……?

 何もしてない人達を殺す事が、お国の為になるの……?」

 

 あたし達には、善良な住民とゲリラを見分ける術なんてない。

 いつも撃たれた後で“敵だった“と分かる――――そう山根が言っていたように。

 ……だから、フィリピンの人達を全て殺す。

 米軍と戦う為に、この地域の住民達を皆殺しにしなければいけない。

 

「戦う覚悟は……、してきたつもり。

 死ぬ覚悟だって、ちゃんとあるよ? みんなと一緒なら怖くなんてないの。

 でも私……、何もしてない人達を殺す覚悟なんて……、してないっ……!」

 

 あたしもたまちゃんも、すでに人を殺している。

 あの刺殺訓練の日から、憲兵隊から引き渡されてきたゲリラの幾人かを、この手にかけている。

 

 銃剣で人の身体を突き刺す。……その度にあたしの心から、何かが切り取られていくような気がした。

『この人はゲリラなんだ。仲間を殺した敵なんだ』

 そう自分に言い聞かせて人を殺す度……、いつくもいくつも、あたしの心が切り取られていった気がする。

 

 ……でも、明日あたし達がする事は、それとはまったく意味の違う事。

 敵ではなく、“民間人を殺す“。

 良い人も、何もしていない人も。あたし達は殺さなくてはいけない。

 

「立派な兵隊さんになりたかった。お国の為に尽くしたかった……。

 でもこんな事……、立派な兵隊さんがする事じゃないよっ……!」

 

 たまちゃんは声を殺し、さめざめと泣く。

 あたしの手を握りしめ、胸に引き寄せるようにして泣いている。

 

 きっと“理由“がいるんだと、あたしは思う。

 お国の為。家族や仲間たちの為。そして信念の為……。

 あたし達が戦うには、そんな理由がぜったいに必要なんだ。

 ……そうじゃなきゃ、人が人を殺したりなんか、絶対に出来ないんだから。

 

 でも、今のあたし達には、それが無い。

 

 殺さなきゃいけないのに、絶対にしなくてはいけないのに……、その“民間人を殺す“理由が、あたし達には無いから。

 だから、何にも縋る事が出来ない。行為の全てが、自分自身に跳ね返ってくる。

 

 立派な兵士は、民間人を殺したりなんかしない――――

 こんな事をしても、家族は喜んでくれたりなんかしない――――

 

 ……ならばあたしの信念は、決してあたしを守らない。

 

 ただ“無くなっていくんだ“。 あたしの心から。

 

 あたしが信じて守ってきた物は、全部あたしの心から、無くなっていくんだ――――

 

 

 

「――――たまちゃん、よく聞いてね?」

 

 あたしはたまちゃんの手をギュッと握り、顔を突き合わせた。

 

「もしたまちゃんがどうしても『出来ない』って言っても、

 あたしはたまちゃんを責めない。ずっとたまちゃんの味方でいるよ」

 

 暗闇の中、たまちゃんの目を見つめてあたしは語り掛ける。

 もうあたしは、色々な物を無くしてしまったと思う。……でも最後にこれだけはと、そう決意を固めて。

 

「もし逃げてしまいたいなら、あたしも一緒に行く。

 もし藤木のようにしたいなら、あたしも一緒にやるよ。

 だからたまちゃんには……、よく考えて欲しいの」

 

 任務を放棄して逃げれば、銃殺だ。加えてその罪は、あたし達の家族にも行く。

 自害は通常なら“戦死“として扱われる。これは何より“軍の名誉“の為にそうされる事が多い。

 

「あたしが決めてあげる事は出来ない。

 嫌な事からぜんぶ……、守ってあげる事も出来ない」

 

 あたしは、たまちゃんと約束する。

 命令でもなく、使命でもない。でもこれだけはあたしは…………、最後まで守る。

 

 

「ごめんねたまちゃん……。本当にごめん。

 でもあたしは、ずっとたまちゃんの傍に居る。

 どんな事になっても……、ずっとたまちゃんの、味方でいるから――――」

 

 

…………

…………………………

………………………………………………

 

 

 

 

 

 翌日、あたし達がいるこの場所に、最初のトラックがやって来た。

 

 朝になり、大きな協会へと一同に集められた、村中の男達。

 そこから10人ほどづつがトラックに乗せられ、順にこの場へと運び込まれてくる手筈となっている。

 あたし達の待ち構える、この“粛清場“へと。

 

「降りろ。ひとりづつだ」

 

 そう指示を出し、あたし達は地面に降りた男達を後ろ手で縛る。布を巻いて目隠しをしていく。

 そして男達を、その場にある大きな家の中へと入れていった。

 

 ――――一斉に、ドスッという音が鳴る。

 

 男達を床に跪かせた後、丸尾くんの合図の下に、あたし達が銃剣を突き刺す。

 勢いよく後ろから突き刺した銃剣は、胴体を貫通して脚まで刺さる。それでも人間の身体はとても強くて、一度ではとても殺し切れない。

 だから、二度三度と、息絶えるまで銃剣を突き刺していった。

 

 殺した男達を部屋の隅に押しやった後、すぐに次のトラックがこの場に到着した。

 あたし達は家の外へと出て、やってきたトラックの下へと向かう。

 

「降りろ。ひとりづつだ」

 

 そうして再びあたし達は男達を縛り、家の中へと連れて行く。

 丸尾くんの合図で銃剣を突き刺し、息の根を止める。終わったら隅へと押しやっていく。

 またすぐここへやってくる者達に、少しでもスペースを開けておく為に。

 

 

………………………………………………

 

 

 住民たちは日本兵に「通行証を渡す」と言われ、村にある教会などへと集められていた。

 戦時中で余所の村への行き来も制限されていたから、住民たちは皆喜んで集まって来たらしい。

 

 トラックでこの場へと来て、なにやらただならない雰囲気を感じた者の中には、必死に逃げ出そうとする者もいる。

 そんな者達を、あたし達は容赦なく銃で撃って殺していった。

 

 この場合は仕方ないが、基本的に“粛清“には、出来るだけ銃剣を使って殺す事が推奨されていた。

 銃声が鳴る事を嫌ったのか、または“沢山殺すので弾など使っていられない“という事情からなのか、あたしには分からない。

 ただ力の限りに、あたしは銃剣を突き刺していく。刺しては足を使って抜き、また突き刺しては抜く。

 ザクリザクリと。完全に息絶えてくれるまで、それを繰り返した。  

 

 やがて一階が住民の死体で埋まり、次は二階にと丸尾くんが指示を出す頃には、みんなの動きはとてもスムーズになっていたように思う。

 最初は一刺しごとに掛け声を出していた山根や野口さんも、数をこなしていく内、もう声を上げずに刺すようになった。

 殺すまでのスピードも、格段に速くなっているのが分かる。

 あたしも、はまじも、そしてたまちゃんも――――みんなが手際よく住民を殺し、とどめを刺せるようになっていった。

 

 それでもこの場には、次々とトラックが到着していく。

 やってもやっても、絶え間なく住民達が、送り込まれてくる。

 

「おい、どんどん来てるじゃねえか! 間に合わねぇよ!

 いちいち銃剣使ってらんねぇよ!」

 

 そう言って関口は、縄を使って住民を殺し始める。

 跪かせた首に縄をかけて、足で背中を押しながら思いっきり後ろに引っ張る。そうやって首を絞めれば時間をかける事無く、百発百中で殺す事が出来たんだ。

 銃剣なら何度も突き刺して生死確認をしなければいけなかったけど、その手間も省けるとして、みんなが真似する事にした。

 

 ズルリという銃剣が突き刺さる感触や、断末魔の声。

 それらを感じたり聞かなくて済むようになったのは有難い事なんだろうけど、そんなのはもう誰も気にしていない。

 ただこっちの方が、手早く確実に殺す事が出来る。それを心底有難いとだけ感じた。

 

 

 ……やがてお昼が過ぎ、夕方、夜になるまで、あたし達はこの“粛清“任務に従事した。

 

 最後のトラックが去っていく頃には、この場にあったいくつかの大きな家の中は、すべて住人の死体で埋まる。

 そしてもうトラックがやって来ない事を確認した後……、あたし達は手分けをして、家に火をつけていった。

 

 

「………………」

「………………」

 

 ゴゥゴゥと燃え盛る家々。

 任務を終え、炎に照らされているみんなの姿を、まるで幽鬼のようだと思った。

 

 そんな中で、あたしとたまちゃんは手を繋ぐ。

 

 二人言葉を交わす事無く、ただ二人、炎を見つめ続けた。

 

 

………………………………………………

 

 

 その翌日、男達が居なくなってしまった村へと、銃剣を持ったあたし達が押し入った。

 家を一軒一軒周り、住民を殺して周っていく。

 

 最初は、家に向かって機関銃を掃射する。

 そしてそれに驚いて家の外へ出てきた住人を、あたし達が討伐していくという方法をとった。

 いきなり家に入れば、もしかしたらピストルを持った住民に殺されるかもしれない。だからこういう方法を取るのだと丸尾くんが説明してくれた。

 

 家を見つけては物陰に隠れ、関口が機関銃で撃っていく。

 そして悲鳴、時には泣き叫びながら外に出てきた住民たちを、あたし達が殺していく。

 弾で、銃剣で、軍刀で。出来る限り手早く仕留めていった。

 

 一度、機関銃で撃ったにも関わらず、決して家から出てこようとしない一家があった。

 あたし達がいくら大声で「出て来い!」と呼んでも、いくら撃っても決して家の中から出てこようとはしない。

 その高床の家に、あたし達が火を着けた。すると女の人が手だけをニュッと出して、必死にその火を消し止めた。

 あたし達が火を着ける。するとまた手だけを出して消し止める。そんな事が二度三度と続いた。

 やがて火が身体から髪に移った後、その人は火に包まれて焼け死んだ。

 

 そんな風にして何件かを周っていく内、当然の話だけれど、そこにはあたしの見知った顔もあった。

 そういう場合、あたしはみんなを押しのけて、自分でその人を手にかける。

 あたしを見て驚いた顔をする人、信じられないような目であたしを見る人、そのすべからくを銃剣で殺していった。

 一度だけ、たまちゃんが辛そうにあたしを見たのが分かったけれど、その後すぐにたまちゃんはクッと歯を食いしばって、あたしと一緒に銃剣を構えた。

 

 

「……ガキだ。どうすんだよ丸尾」

 

 そして当然、家から飛び出してくる住民の中には、子供の姿もある。

 あたし達より幼い子供、中には母親に抱かれた乳児もいる。あたしが紙飛行機や独楽を作ってあげた子供の姿も、ある。

 

 丸尾くんは銃剣を構えたまま、押し黙っている。

 軍の方針は“無人化“。子供であっても生かしてはおかないという方針は、この作戦の前に全員に伝えられている。

 けれど、いざとなった時、必ず良心が顔を出す。

 中には幼い兄妹がいる者、そして兵士の中には子供がいる者だっている。

 誰もがその時になれば迷い、また「自分には出来ない」と、泣きながら許しを請うのだ。

 

 

「――――どいて」

 

 

 あたしははまじ達を押しのけ、銃剣を一突きする。

 それは喉へと突き刺さり、その子がゆっくりと崩れ落ちていった。

 

「……おっ……お前っ……!」

 

 はまじが一瞬、あたしに詰め寄ろうとした。けれどすぐに言葉を飲み込んで、顔を背けたまま歩き去っていく。心底悔しそうな顔をして。

 あたしはその後姿を、ただじっと見送っていた。

 

「…………さくらさん。貴方は、任務を果たしたのです」

 

 少しだけ俯き、歯を食いしばった丸尾くんが、あたしに告げる。

 

「わたくし達は、あの子の親を殺した。周りの大人達も全て。

 たとえここで見逃そうとも、もうあの子が生きていく事は、出来ないのだ」

 

「……そしてこれは、皇軍である我々の使命。

 ごめんなさい、さくらさん。……もうわたくしは、迷ったり致しません」

 

 そう言い残し、銃剣を構えた丸尾くんが、次の家へと向かって行った。

 

 

………………………………………………

 

 

 死体を、井戸に放り込んでいく。

 ズルズルと引きずり、よいしょと持ち上げ、次々と投げ入れていく。

 

 こちらの井戸は日本とは違い、とても横に広い形だ。だから300、400人と入れても、まだ全然底の方。

 見知った子供も、子供を抱いていた母親も、知らない老人も。あたし達は区別する事なく次々に井戸へと投げ入れていった。

 

 あの子は、キョトンとした顔であたしを見ていた――――

 喉を銃剣で突かれても、じっとあたしの顔を見つめ続けていた――――

 

 きっと何も、理解出来なかったんだと思う。

 紙飛行機を作ってくれたお姉さんが、自分に何をしたのか。それを分からないままで、あの子は地面に倒れていった。

 

 そんな事を考えながら、あたしは身体を動かしていく。

 延々と、死体を井戸に放り込んでいった。

 

 

 ふと横を見れば、あたしと同じように、たまちゃんが死体を引きずっているのが見える。

 

 たまちゃんも、あたしと一緒に沢山殺した。一緒に縄跳びをやった子供達も。

 

 

 ……あの夜、たまちゃんは逃げ出さなかった。自害を選ぶ事もしなかった。

 あれから言葉を交わす事も無く、あたし達はただ手を握り合い、朝を迎えたのだ。

 

 なんとなくだけど、あたしはたまちゃんの気持ち、分かるような気がする。

 そしてそれは、きっとあたしとまったく同じ気持ちなんじゃないかって、そう思ってる。

 

 逃亡兵として家族にまで罪がいくのは、論外としても。あの時自害をするという選択肢は、確かにあたし達にはあった。

 けれど、自害を選ばなかった理由。

 それは、『とても無責任な事だ』と、あたしは感じていたからだ。

 

 ……藤木の行動は、責められない。あたし達にはその気持ちが、痛いほど分かるから。

 卑怯だの何だの言われたって、藤木は根は、すごく優しいヤツだったから。

 

 けれど、もしあたしが自害をしたら、きっとあの子供を“はまじが殺す事になってた“。

 あたしが殺すハズだった人々を、あたしが「やりたくない」と跳ね除けた事を……、全部仲間に押し付ける事になる。

 

 あたしにはそれが、どうしても我慢出来なかったから。

 

 

 関口やブー太郎のようには、割り切れない。

 丸尾くんのような、責任感もない。

 そして“立派な兵士になる“という夢も、すでに無くなってしまった。

 もうあたしの中に大切な物は、何も残ってはいないんだと思う。

 

 ……だから今、あたしにあるのは“仲間“だけ。

 

 たまちゃん、長山くん、野口さん――――

 そして丸尾くん、関口、ブー太郎、はまじ、永沢、山根――――

 

 そんな仲間だけが、今のあたしを支えている物の、全て。

 

 

 だから押し付けたり出来ない。

 自分だけ、逃げたりなんか出来ない。

 

 今のあたしにある、たった一つの大切な物。それが友達。

 

 大事にするよ。最後まで一緒にいるから。

 だからどうか、あたしと一緒にいて欲しい。あたしの手を、握っていてほしい。

 

 

 

 もし、生きて帰れたとしたって。

 

 きっとお母さん……、もうあたしの事“まる子だ“って、分かんないから。 

 

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

 討伐は、約一か月ほど続いた。

 毎日毎日、住民がひとりも居なくなる時まで。あたし達は、ひたすらに殺し続けた。

 

 300人ほどの住民を家の中へと押し込め、爆弾で家ごと吹き飛ばした事もある。

 あたし達が連れて行った者達は二度と戻らなかったから、次の日に女や子供たちがやってきて『夫を帰して!』、『子どもを帰してくれ!』と、一日中責められた事もある。

 殺してしまったと本当の事を言うわけにもいかず、しらを切って、じっと我慢していた。

 

 兄妹のいるブー太郎は、最初泣いた。山根はみんなに黙って、こっそりと逃がそうとした。

 でも最後はみんな、分け隔てなく子供も女も殺していくようになった。

 

 誰だって最初は、嫌々やるんだ。

 出来ない、許してと言いながら、それでも仕方なしに殺していくんだ。

「これは良い、これは駄目」、そんな風に少しずつ自分の心を殺していきながら。

 

 最初は男、次は女、その次に老人で、最後は子供――――

 そうやって順番に、だんだんと殺せるようになっていくんだ。

 

 でもそうしていく内に、途中から何も感じなくなる。最後はハエでも潰すかのようにして、人を殺せるようになっていく。

 それを、兵士としての成長と言うのか、はたまた麻痺と呼ぶのかは、あたしには分からない。

 

 ただ分かってるのは、逃げられないぞ(・・・・・・・)って事――――

 

 たとえ今は何も感じなくても、人を殺したって事実からは、決して逃げられないって事だけだ。

 それだけは、今のあたしでも確信を持って言える。

 

 いつか戦争が終わり、日本に帰る事が出来ても、あたしはもう以前とは、まったく違う人間だ。

 それを今だけは、忘れられているだけ。

 

 ここにいて、仲間たちと共に居る、この時だけ。

 あたし達は、それから逃げる事が出来る。

 

 

………………………………………………

 

 

 ある日、すでに討伐を終えた村の中を見回りしていた時。

 前日あたし達が死体を放り込んでいた井戸の下へと、桶で食べ物を送ろうとしていた老婆がいた。

 それを見つけたあたしと永沢は、生かしてはおけないと、その老婆を殺す。

 

 後で井戸の中を覗き込んでみると、そこには息をする為に、必死に積みあがった死体にしがみついている女性の姿があった。

 銃剣で刺され、井戸に放り込まれても、生き残ってしまった人だった。

 

 

 それを見た永沢は、キョロキョロと辺りを見回した後、一抱えほどもある大きな石を持って戻って来る。

 そして何気ない仕草で、永沢は石を井戸の中へと落とす。

 頭を砕くゴシャっという音が、ここまで聞こえてきた。

 

 

 永沢は、表情を変えない。

 そしてそれは、あたしも同じ。

 

 

「もうここら辺は大丈夫だ。

 さくら、みんなの所にもどろう」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハミングが、きこえる。 

 

 

 あたしは、夢を観ている。 それを今、ハッキリと自覚している。

 

 何故ならあの“粛清“の後から、いきなり私の観ている映像が、映画のシーンのようにブツ切りになっていったからだ。

 

 あたしが寝る前に、読んでいた本。

 それがフィリピン戦の話ではなく、あくまで“フィリピン人討伐“についての本だったからかもしれない。

 

 もしくは、この後の事なんて“語るまでもない事“だったからかもしれない。

 

 

………………………………………………

 

 

 あの後すぐ、あたし達は上陸してきた米軍と戦い、そして壊滅した。

 あれだけの民間人を“ゲリラ“だと言い張って殺したのに、結局あたし達は、米軍に勝つ事が出来なかった。

 

 ジリジリと後退していき、最後は山の中へと逃げ込んでいったのだけれど、そこを待っていたかの如く、ゲリラが私たちを食い散らかしていった。

 

 そして最後は、ゲリラの情報提供を受けた米軍の爆撃機が、山ごとあたし達をナパーム爆弾で焼き払って、それでおしまい。

 あたし達皇軍は戦いに破れ、アメリカはフィリピンを取り戻してみせた。

 

 その後も生き残った日本兵たちは各地で細々と抵抗を続け、それは終戦の頃まで続きましたよ、というのがあらましだ。

 

 

 あたしが知っている知識としてだが、マッカーサーはフィリピン人との約束を守り、日本軍を追い出して見せた。

 フィリピンの人達からは“解放軍“だとして、それはもう大変な歓迎を受けたそうだ。現地にはマッカーサーの像が立っているんだってさ。

 

 けれど、アメリカの目的は決して人道的な物では無く、あくまで“利益を取り戻す事“。

 フィリピンを取り戻してからマッカーサーが行った事は、あくまでフィリピンの経済を戦前にまでに戻す事。利益を戻す事。それを重視した政策であったらしい。

 

 日本軍が去り、何十年の月日が経っても。

 フィリピンの人達は、ずっと貧しいまま――――

 

 戦後、あたしが読んだ本を書いた作者はフィリピンへと赴き、現地の人達へと沢山のインタビューを行った。

 そしてそのどれもに共通している“ある言葉“がある。

 

 それは、日本人であるあたし達に、経済的な援助を求める声だ。フィリピンの人達は皆、口を揃えて、こう言っていた。

 

 

「私は日本人を許せない。私たちの国を荒し、家族を奪ったのだ」

 

「兵士たちは“命令“だから仕方なかったと言っている?

 私たちを殺しておいて、そんな理屈が通るもんかぃ」

 

「しかし私はキリスト教徒だから、

 貴方たちの罪を許してもいい。私は温厚な人間なのだから」

 

「だから日本人に謝罪の気持ちがあるなら、ぜひ私に援助をして欲しい。

 職を与え、経済的な援助をして欲しい。

 いつでも門を開いているよ」

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

『 クタバレ! ヒトゴロシ! ドロボウ!! 』

 

 柵に群がったフィリピン人達が、石を投げている。

 

『 ハジシラズ! バカヤロウ!! シネ!! 』

 

 そうフィリピンの言葉で叫びながら、トラックの荷台に乗せられたあたし達に向かって、石を投げつける。

 

 米軍に敗れ、逃げまどっていた所をゲリラに捕獲された、あたし達。

「アメリカに引き渡せば金になる」という、そんな理由であたしとたまちゃんは、殺されずに済んだ。

 

 あたし達と一緒に乗せられていた人の中には、フィリピンの人達が群がって来たのを見て、手を振ろうとした人がいた。

 恐らくなのだけど、彼はあたし達のように島の南部に配属されたのではなく、きっと別の所にいた兵士なのだろう。

 彼は現地のフィリピン人達と良い関係を築き、そして自分達の事を彼らが見送りに来てくれたのかと、そう思ったんだと思う。

 しかしあたし達に浴びせられたのは、感謝の言葉ではなく、口ぎたない罵声。

 彼がすごく驚いた顔をし、そして慌てて頭を守っていたのを、よく憶えている。

 

 今、トラックを警備しているアメリカ兵たちが、必死に石を投げるのを止めさせようとしている。

 そんな米兵達に向かい「なぜやらせないのか。なぜ殺さないのか」と、フィリピン人達が詰め寄っていく。

 

 

『 シネ! クダバレ! ハジシラズ! 』

 

 

 あたしはたまちゃんの身体を、ギュっと抱きしめる。

 

 必死にたまちゃんの頭を抱き抱える。飛んでくる沢山の石から、たまちゃんを守ってやれるようにと。

 

 そんな“あのあたし“の映像を、映画のような視点で、ただ見つめていた。

 

 

………………………………………………

 

 

 あたしが今、米軍の捕虜収容所に入っていった。

 いまは米軍のお医者さんに、怪我の治療を受けているのが見える。

 

 

 今度のあたしは、戦犯として裁判にかけられるようだ。

 一番上の兵団長はすでに死んでしまったので、上官たちは皆、罪の擦り付け合いに必死だ。

 

 

 次のあたしの映像は、もうすぐ戦争犯罪人の調査が始まるので、その前に上官から“方針“の説明を受けている場面。

 

 

 一、方針

 

    戦犯被害者を、最少限度にくいとめる事。

 

 二、対策

 

  1、討伐に参加したことを、極力否定する事。

 

  2、止むなく参加を認めざるを得なくなった場合は、以下の通りに答弁する事。

 

  (イ)○○大尉らがこれを指揮し、その命令に基いて行動した。

  (ロ)処刑実施部隊はリパ航空隊〇〇中尉、及びMG小隊〇〇准尉の部隊である。

 

   ※注 〇〇大尉、〇〇中尉、〇〇准尉は、何れもバナハオ山で戦死している。

 

  (ハ)兵団命令で●●中尉が指揮して実施した事実を、決して暴露しない事。

 

 

 …………というような、非常に身勝手な内容の指示だった。

 

 ようは口裏を合わせて嘘をつき、裁判の被害者を減らそうという指示。

「皇軍の名誉にかけても、討伐の事実は無かった事にせよ」という、そんなもっともらしい事も散々言われていた。

 

 ●●中尉は部下達にこう指示を出し、そして裁判の席では、部下へと責任を押し付けた。

 そして見事に、自分だけは戦争責任を回避する事に成功した。

 

 

 あれだけ民間人を殺させられ、

 戦争には破れ、

 最後にあたし達は、上官に裏切られる。

 

 夢の中、死んだ目のあたしが、その中尉の姿を見つめていた。

 

 

 

 …………その後十数年ほど囚われた後、恩赦で釈放されたあたしが、ようやく日本へと帰ってくる。

 

 生きて祖国の土を踏む事に、大した感慨も無いようだった。

 ただ、どんな風な顔をして、家族と会えば良いのだろう――――

 そんな事ばかりを、考えているように思えた。

 

 

 戦争はとっくに終わり、時が流れていく。平和な世の中に今、あたしが生きている。

 

 戦争の事、軍の事。 そして自分が戦地でしてきた事。

 その全てに、口に噤んだまま。

 

 家族にも夫にも、誰にもそれを話す事の無いまま、あたしが老いていった――――

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

 この“夢の中のあたし“の姿を観て、あたしは今、何とも言えない気分でいる。

 

 人によって、世代によって。きっとその感想はまったく異なる物になるんじゃないかと思う。

 けれど、あたしにとってこの“戦ったあたし“の姿は、なんだかとても切ない物のように映った。

 

 善悪。

 正しさ、間違い――――

 

 “このあたし“の戦った戦場に、そんな物はひとつも、ありはしなかった。

 ただ、自分の思う物の為に戦い、大切な人の為に、戦った。

 

 

 あたしにあったのは、ただ、それだけ。

 

 悲しいくらい――――それだけだったんだ。

 

 

 

………………………………………………

……………………………………………………………

……………………………………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 憶えている――――ここはあの時の場所だ―――

 

 あたしは今、“あの老人ホーム“にいるんだ――――

 

 

 

『フィリピンの方々に、申し訳ないという気持ちはありますか?』

 

 

 いま周りからは、子供たちのガヤガヤとした声が聞こえてくる。

 ここはあの小学校の時、あたしが修学旅行でやってきた老人ホーム。

 あたしがあのおじいさんに、戦争の話を聞かせてもらった場所。

 

 

 ――――ないよ。 あたし達は、戦争をしていたんだから。

 

 

 今あたしの目の前には、おかっぱ頭の女の子が座っている。

 赤い吊りスカートに、白いシャツ。桜色のほっぺをした女の子が。

 

 その子があたしに、質問を投げる。 あたしはその質問に、答えていく――――

 

 

『ゲリラではない住民たちまで殺していったのに、

 それが正しい事だったと、言えるのですか?』

 

 

 女の子の眉が、醜く歪む。

 口をへの字にして、あたしに問いかけてくる。

 

 

 ――――正しい、間違っている、じゃないんだよ。

 ――――――あたし達はあたし達なりに考えて、生きる為にそうしていったの。

 

 

 女の子は、さらにグムムっと眉を歪ませていく。

 そんなの言い訳じゃないか、勝手じゃないかと、そうあたしを責め立てる。

 

 

『ならゲリラなんか出来るハズない子供まで、なぜ殺す必要があるのですか?』

 

 

 ――――ゲリラに情報を流すからと、子供でも生かしておかない方針だったの。

 ――――――小さい赤ちゃんまで殺したのも、それが軍の方針だったからだよ。

 

 

 もう女の子はプンプン腹を立て、あたしを睨みつけんばかりの勢いだ。

 けれど、あたしにはこう言う事しか出来ない。

 この子が納得出来る正しさ、道理。

 そんな物……、あたし達には無かったんだから。

 

 

『フィリピンの方々に、謝罪したいとは思いませんか?』

 

 

 ――――出来ないよ。 あたし達は陛下の命で、軍の下で戦っていたから。

 ――――――あたし個人がフィリピンの人たちに謝る事は、出来ないよ。

 

 

『人をたくさん殺したのに、悪いとは思わないのですか?』

 

 

 ――――――思わない。 あたしは軍人として、職務を遂行していたから。

 

 

 

 …………………自分で言っていても、酷い言い草だと思った。

 しかも話は堂々巡りしているし、あたしの返答はいつも『軍が』『戦争だから』という物ばかり。

 全部が「自分のせいじゃない」と言っているように聞こえる、……そんな物ばかりだ。

 

 でも、それが分かっていても、それ以外の言葉が出てこない。

 あたしの返答は、いつも短い、端的な物ばかり。

 

 本当は、言いたい事がいっぱいある。

 ……なのにそれを口に出す事が、どうしても出来なかった。

 

 

 

 当時、あたし達が感じていた想い。 必死にしがみついていた物。

 

 それを今この子に言っても……、きっと“仕方がない“。

 

 本当に悪いけど、申し訳ない事だけど。

 だからこそ、これを口に出す事は、出来ないと感じていた。

 

 

 ……あたし達兵士が思っていた事なんて、言葉にしてしまえばきっと、すごく薄っぺらい物に聞こえると思う。

 この子も、いやきっと今の誰が聴いても、ただの自己弁護にしか聞こえないつまらない言葉になるだろう。

「やっぱりただの言い訳じゃないか!」とか、そんな風に言われてしまう気もしてる。

 

 実際、あたし達はとんでもない数の人間を殺したしね。

 この子のような若い世代の人達が、あたし達の罪を“断罪する“。

 それは至極当然の事かもしれないって、あたし達も思っているからね。

 

 

 ただ、あたしは自分の想いを、上手に伝える自信が無いんだ――――

 

 あの頃の気持ちを言葉にし、それを分かってもらえるなんて、到底思えないから――――

 

 だから……あたしの言葉は、短くなる。

 気持ちじゃなく、想いでもなく、ただハッキリしている事柄だけを、あたしは返答していくから。

 

 それを聞いて、この子が眉をしかめてしまうのも……、もう“仕方がない“。

 あたし達は人を殺した。だからあたし達は“悪い“。

 この子の言う事に、何一つ間違いなんか、ないんだから。

 

 

 もし、あたしが胸にある想いを語るとしたら……、それはきっと、友人たちにだけだ。

 共にあのフィリピンの戦場を戦った、友人達にだけなんだと思う。

 

 たまちゃん――

 はまじ――

 丸尾くん――

 長山くん――

 野口さん――

 

 きっとあの友人たちだけが、私の想いをぜんぶ、共有出来る。

 あの時感じていた事を、彼らだけが全部、分かってくれるんだろう。

 

 

 

 だから、あたしは喋らない――――

 

 誰にも、家族にだって、自分の事は語らない。

 

 あたしだけじゃなく、みんなも。

 そうやって口を、つぐんでいったんだと思う。

 

 

 ……卑怯者だと言うなら、言え。

 人殺しのくせにと罵るならば、罵るといいんだ。

 

 でもどうか……どうかこれだけは、許して欲しいのだ。

 

 

 

 赤い吊りスカートの女の子。

 その頭を、そっと撫でてみる。

 

 仏頂面をしたこの子に「ごめんね」と、そんな精一杯の気持ちを込めて。

 

 

 

 

 このあたしに残った、たったひとつの……、大事な気持ち――――

 

 それを口にしないまま死んでいく事を……、どうか、どうか、……許して欲しい。

 

 

 

 そうやって口をつぐみ、誰にも言わないまま―――

 

 そんな風にあたし達は、みんな消えていくんだろうなって、そう思う――――

 

 

 

………………………………………………

……………………………………………………………

…………………………………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長い夢から目を覚まし、ベッドから飛び起きたあたしが、最初にした事。

 

 それは、あの友人に『よくも風邪なんか移してくれたね!』と、文句のメールを打つ事だった。

 

 そして、どうやら寝ている間に流していたらしい、涙をぬぐう事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――fIn――

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

設定、裏話など。

 

 

 まる子だよ!

 

 この度は当作品“まる子、戦争にいく“をお読み下さいまして誠にありがとうございました!

 今回は、少しだけ“裏話“的な事をさせてもらおうと思って、キーボードをカタカタしているよ!

 

 

 本来なら、「作中で全て表現しろ」と言った想いが自分の中にあるのですが……。

 ただその心情はともかく、今回書きました物があまりにも“アレ“でありましたのでね……。

 そういうワケで今回、この当作品を書く事となった経緯や、軽い裏事情的な物を書かせて頂けたらと思います。

 

 もちろんこれはお読みにならずとも、全く問題はありません。ご心配なく!

 

 もしお時間がございましたらば、お付き合い頂けますと幸いに思います♪

 

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

 さて、まず最初にこの作品を書く事となった経緯。

 それはズバリ、一度この“第二次大戦のフィリピン戦“を自分なりに書いてみたかった、という想いから来ております。

 

 私個人と致しまして、ですが……。

 このフィリピンの戦場というのは、大戦で日本軍が戦った戦場の中でも“かなり稀“な、そして特殊な事情を持った戦場だという印象があります。

 

 例えば戦争映画や漫画などでは、カッコ良かったり、惨かったり、ただ悲惨な状況を描いた物だったりはよくお見掛けしますが、こういったテーマの物をまともに取り扱っている作品はあまり見ない気がします。

 

 ……まぁ商業作品で当作品のような内容の物は“書けるワケない“ですし、また沢山の人目に触れる映画などでこれをやると、色々な思想を持つ方々から袋叩きに合って興行的にも大失敗しちゃうでしょうからねw

 またこのテーマで作品をわざわざ作るという“意義“にも、少々疑問があります。

 

 ただ、私にとってこのフィリピンの戦場という物は、とても鮮烈な印象のある物でした。

 今までにいくつかの本を読み、資料や映像を漁っていた時でも、私にとってとても考えさせられる内容の戦場でした。

 そしてただただ、「書いてみたい」

 これをテーマに作品を作ってみたいという想いが、まず一番最初にあったのです。

 

 ゆえに、もう書く意味とか意義とかは「作ってから考えよう!」と思いましたよw

 そんな物は全部後からついてくるさ、そんな想いを持ち、そして勢いのまま書き上げてしまったのが当作品となります。

 ある意味……意外とクリエイター(?)としては真っ当な想いで作ったのかもしれませんね……。

 

 私にはプロ作家のようなしがらみは何もありませんから、書きたい物を書きました。と言える作品ではあります。

 ……まぁ、それには(だが面白いとは言っていない)というカッコが付属されていますけれども……。

 

 

………………………………………………

 

 

 そして次はキャスティングのお話。

 

 当作品ではまる子が主演をし、そしてアニメ“ちびまる子ちゃん“のキャラクター達に演じて頂きましたが……。正直これは皆さまも恐らく思っていらっしゃる通り、自分でも「なんでまるちゃんやねん」みたいな想いがあったり致します。

 自分でも正直、すんごくありますよ!w

 

 最初「誰に演じてもらおうかな~」と、色々な方々へとお話を持っていったのですが……。

 碇シンジくんには断られ……、西住みほさんにも断られ……、挙句の果てにのび太くんにも断られた末に、最終的にまるちゃんが抜擢されたという経緯がございますw

 

 まるちゃんに主演をやって頂いた理由としては、彼女が怠け者ではあるけれど凄く正義感の強い子であった事。

 また私たちにとって、凄く身近な存在であった事が主な理由です。

 それに親友のたまちゃんの存在や、小隊での物語を書く上で“三年四組“のみんなの存在があった事が大きかったです。

 

 本来ならば、小学生であるまるちゃんが戦争に行くという事は、あり得ません。

 また皆様もお感じになられている通り、こんな愛すべき子供たちを戦場に送って物語を書くという事など、質の悪い悪ふざけと取られても全く仕方の無い事です。

 そういったご意見も、もちろん覚悟の上。しっかりと受け止めさせていただく所存でおります。

 

 ただ、実際に私は子供の頃に、「もし自分が戦争に行ったらば?」という事をよく想像し、夢の中にもその光景が出てきておりました。

 学校で大人達から過剰ともいえる“反戦教育“を受けていた頃、そのショックやトラウマからそういった事を考える事は、小学生の頃の私にとって、ごく普通の事でしたよ。

 小学生の自分が日本刀で首を切り落とされる、また原爆で吹き飛ばされる夢、などなど……。たくさん観ていた物です。

 

 ……まぁだから何だ? という話にはなりますが。 言い訳にはなりませんねw

 

 純粋にまるちゃんが好きで、彼女のキャラクターが凄く自分にとって書きやすかったから、という事であります。

 

 重ねて申し上げますが、如何なるご意見ご批判なども、全て作者は覚悟の上です。

 どうぞ皆様には、当作品にはご自分のお感じになられたままのご感想、ご評価などをして頂けましたらば幸いです。

 

 

………………………………………………

 

 

 最後に、当作品を書いてみての私の感想。

 

 これは正直、自分は今、複雑な気分でおります。

 

 心から「書いてみたい!」と思って書いたテーマでありましたので、完結まで書き上げた事に達成感があったのがひとつ。

 これについては、言うまでもない事です。

 

 しかしもう一つありますのは、私が“この内容で作品を書いた“という事によって、『お読みになられた皆さまが何をお感じになられるだろうか?』という心配、危惧がある、という事です。

 

 正直やりたい放題に書いたドきつい内容でありますので、皆さまの胃腸的なご体調を心配してもおるのですが……それとは少し違った部分の心配でありまして……。

 

 

 

 私はこの作品を、純粋に「書いてみたい!」という想いから書き上げました。

 

 ただその内容が……過去の日本軍の悪行について、数多く触れている物だという事。

 そして登場人物たちが、辛い環境に置かれて心が擦り切れていく様を描いた作品であるという事です。

 

 ……正直に申しますと、当作品をお読みになられた方々が、『これは反戦をテーマとした作品なんだ』『作者はそう主張しているんだ』とお感じになってしまうのではないか? ……という危惧があるのです。

 こんなものを書いてしまっていて何を、と思われるかもしれませんが、それを今非常に心配している自分がいるのです。

 

 

 ハッキリと申し上げます。

 この作品は“反戦“、または“戦場の悲惨さを伝える“、という意図の作品では御座いません。

 私が当作品で書きましたのは“まる子の物語“。

 もしまる子が戦場へ行ったら? そこでまる子が何を思ったのか? という“物語“であります。

 

 この作品には、いかなる作者個人の“主張“も御座いません。一切入っておりません。

 そこをどうか、ご理解頂きたく思います。

 

 

 これには私自身が小学生の時分に強烈な反戦教育を受け、そして物を考えずにただ『戦争はいけない!』『絶対にやってはいけないんだ!』と声高々に言っているだけの者達を“非常に軽蔑“している、という事もあるのです。

  第一話にもあります通り、ただ子供たちにショックな戦争の映像を見せ続け、戦争を戦った方々を“悪人“だと断じ、そしてステレオ的に「戦争反対」と言わせようと教育する行為を、私は心から軽蔑しています。

 

 今回当作品で戦争をテーマに取り扱って物語を書きましたが、あの大人達と同じ行為をするつもりは毛頭ありません。

 ゆえにこれは、“反戦を訴える為の物語“では決して御座いません。

 そんな物に、私は一切の価値を認めておりません。

 

 

 ……ただ、そんな私が今回、フィリピンの戦場での“日本軍の悪行“であったり、“戦場の残酷さ“を描いている。

 読むと嫌悪感を催すような戦争を、描いてしまっている。

 

 その行為に対する葛藤が、私の中で凄くあるのです。

 

 有り体に言えば「私はいったい何をやっているんだ……」という事です。

 

 

 

 もちろん、私が普段映画や本に触れ、そしてそれに自分なりの感想を持つように……。

 私が書いた物をお読みになった皆様が、そこで何をお感じになるか? それは皆さまの自由なのです。

 ですので、それに対して作者の私が何かを意見したり、また反論をする事は決して御座いません。

 どうぞお感じになられたままのご意見を頂けたらばと、そう思っております。

 

 ただ私の書いた物“だけ“をお読みになり、それだけで「戦争は悪い!」「戦争ってこんなのなんだ!」とお思いになられる事だけは、決してしてはならない事だと言わせて頂きたいのです。 

 これは“フィリピンの戦場“という、数ある大戦の戦地の中でも非常に稀な、そして特殊な状況下にあった戦場のお話です。

 これだけで戦争の何かを語る、また判断する事は出来ません。

 またもちろんフィクションの物語ですので、むしろなんの判断材料にもならない類の物です。

 

 もし当作品をお読みになり、少しでもあの戦争の事にご興味を持って頂ける方がいらっしゃいましたら、それこそが本当の意味で作者の本懐です。

 学校や教科書で学ぶ知識ではなく、どうぞご自分であの戦争の事を調べてみて頂けたならば、これに勝る喜びはありません。

 

 

 

 あの大東亜戦争、太平洋戦争と呼ばれる戦い。

 私はあの戦争を“大儀があった“と感じている人間であり、そして“不回避の必然“であったと考えている人間です。

 

 軍部内の軋轢、無謀な作戦、兵站と人命の軽視……。

 日本軍にはそんな様々な問題がありましたが、それでも私はあの大戦を戦って下さった自分の先祖の方々に、心から敬意をはらいたい。そう考える人間です。

 

 あの小学校を卒業し、自分なりに戦争の事を学び直し、そしてこのフィリピンの戦場の事を始めとする様々な事を知った今でも、その想いは決して揺るぎません。

 

 

 そして私がこの作品で描きたかった物……、それはまさに、“自分達のおじいちゃん達の事“。

 

 様々な想いを抱え、命を賭してあの戦争を戦って下さった方々の想いこそを、私は書いてみたい。

 そう思い、今回この作品を執筆させて頂きました。 

 

 

 大切な物を守る為、命を賭けて戦ったにも関わらず……。

 教師たちから「昔の悪い日本人」と、ただただそう教育された現代の子供達から、「人殺し」と呼ばれる。

 

 そうして誰にも自分の胸の内を語る事無く、やがて皆、静かに消えていく。

 

 そんな兵士たちのお話。

 それが当作品【まる子、戦争にいく。】です。

 

 

 

 当作品は、純粋にそんな“兵士の物語“として執筆致しました。

 それ以外の一切の意図、主義主張は、当作品にはございません。

 

 しかし大した作品ではありませんでしたが、もし当作品が皆様にとって、戦争の事を考えるきっかけ、そしてあの戦争を戦ったご先祖様たちの事を考える、何かのきっかけとなって頂けたらば、作者にとってこれに勝る喜びはありません。

 

 当作品をお読み頂き、まことにありがとうございましたっ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。