あまり関わりが上手くない提督が鎮守府に着任するお話 (木啄)
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その1 春は出会いと別れと艦娘と

 さて、お久しぶりです、木啄です。
今回からも再び投稿を始めていきたいと思いますが、以前のような投稿ができない可能性もありますので、のんびりと書いていけたらいいなと思っております。

よろしくお願いします


 四月というのは、新しい人生の門出を祝う季節でもあり、反対に別れの季節でもある。

 

 何故、同じ月の中でこうも両極端な二つが向かい合って存在しているのだろう・・・などと思ってしまうのは仕方のない事かもしれない。

 

 ・・・しかし、そんな四月の春を漂わせる心地よい風は、とても気持ちが良いいものでー。

 

「・・・」

 

 桜の木々はまさに桜花繚乱。桜の雨あられとも言わんばかりの美しさに、一人の男性がベンチに腰をかけ、特になにをすると言うわけでもなく、ただただ、木々を眺めているとー

 

「ったく・・・どこにいきやがっ・・って、そんなところに居たのかよ・・”提督”探してたんだぜー?」

 

 少し離れたところから声がするとおもうと、徐々にこちらへ近寄ってくる足音がする。

 

 ”提督”と呼ばれた男性は、声の主の方向に顔を向けることなく口を開いた

 

「どうした、天龍」

 

 ”天龍”と呼ばれた彼女は、すこし面食らった表情をするものの、大きくため息を吐き出す

 

「”どうした、天龍”じゃねーよ! 探してたんだよ!チビ共がお前を呼んでんぞー?”司令官はどこでしょうか!!!”ってな」

 

 

 やれやれ全く。と言わんばかりの様子に提督は苦笑いを浮かべつつ、ベンチから腰をあげ、天龍のいる方向へと顔を向けてみると、どうやら少しばかり疲れた表情をしていた。

 

(・・・まぁ、無理もない。か)

 

 

 天龍よりも更に幼く、元気ある子たちを相手にするのは、やはり流石の天龍でもくたびれてしまうかもしれないな、などと考えているとー

 

「しれーかーーーん!!!みっつけましたよー!!!!!」

 

 遠くから元気な声がする。一方の天龍は”諦めろ”といった感じの表情で

 

「そうだな、彼女たちの元にいくとするか」

 

「おう」

 

 ”提督”と天龍は、大きく手を振っている彼女達の元へと歩み始める。

 

「どうせこのあとどんちゃん騒ぎだろうさ、覚悟しろよ?提督」

 

「・・・お手柔らかに頼む」

 

 提督がそういうと、「どうだろうな!」と元気な笑みを浮かべる天龍を見て、提督の足は重くなるかと思っていたが、その足取りは変わらず軽い

 

 

「司令官!!!大潮達と一緒にお花見しましょう!!!間宮さんや鳳翔さんお手製のお弁当もありますよー!!!」

 

 二人が近寄ると、大潮と呼ばれる子が元気よく提督に声をかける。その隣に居るサイドテールの女の子は少しばかりムスッとしているが

 

「ほーら、かすみっちーも司令官とご飯たべたかったんでしょう?」

 

「かすみっちーっていうな!!霞よ!か・す・み!!それになんでこんなクズと!」

 

「いい加減提督のことをクズはやめておけよな・・霞。」

 

 

 提督の事を時々お前呼ばわりする天龍も大概だぞ、などと思いはするものの、ここは敢えて言わぬが花だろう。

 

「ふ、ふん!!来たんならさっさといくわよ!!私たちの食べる分がなくなるじゃないの!」

 

「それもそうですね!!!大潮まだお弁当あんまり食べていませんから!!司令官も天龍さんもいきましょう!!」

 

「はいはいわかったから、俺もいくから落ち着け大潮」

 

 

 常に太陽のような大潮の相手をする天龍は、なんとも頼りになるお姉さんのような雰囲気があるが、これを言うと物凄い慌てて全否定してくるため、こちらも同様に言わないでおく

 

「ほら、いこうぜー

 

 提督を見つめる3人の視線に、提督は「あぁ」と返事をして、再び歩みだした。

 

 

 

 これはそんなちょっと不器用な提督と、そんな提督についていく艦娘達のほのぼのストーリーである・・・?



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その2 提督になる?

 はい。今晩和です。木啄です
前作の主人公の優月くんをこの作品に少し出すか出さないかちょっぴり悩んでいますね

今回は提督になるきっかけみたいなのを書きました。



「なぁ・・お前も聞いたか?」

 

「あぁ、聞いたよ。例の鎮守府の提督、解任されたんだろ??」

 

 大本営に突如呼び出しを受け、いったい何事だろうかと思いつつ彼は大本営の中に足を踏み入れたところで、何やら物騒な会話をしている職員の会話が耳に入ってくる。

 

基本的な事ではあるが、艦娘に対して何かしらの強制的行為や、不正、及び犯罪行為を犯さなければ提督解任という事は滅多にない。

 

 というのも、提督になれる人物というのは限りなく少なく、常時広報部が募集をかけているが、提督になれる素質を持つ人物が非常に少ないという現状で。

 

(今回は・・一人・・だったか)

 

 彼は、そんな職員等の会話を特に気にする事もなく、奥へ奥へ、幹部等のエリート達が牛耳る場所へと足を進めていく、その目的地はー

 

・・・。

 

・・・・・。

 

 重厚な木製の扉の前、彼は大きく何度も深呼吸をしてから、その部屋のなかにいるであろう存在の名前を心のなかで何度も復唱し、失敗がないように、と気合いをいれたところで、扉を軽く叩くと、中から声が聞こえてくる

 

”「あぁ、わかっているとも、満場一致で彼がなるべきであると決めたからな。上にもそう申告

している。許可は私が取っている。問題はないだろう・・と、すまないな、例の人物が来たよ

うだ、・・あぁ。あとは私が彼と話し合ってみよう。うむ、すまない。それでは」”

 

 

 カチャンと電話の音が切れる音と共に、「あぁすまない。入ってくれ」という声が聞こえ、彼はゆっくりとドアノブを握りしめる

 

「失礼します・・”元帥”」

 

彼はそう言うと、海軍トップに君臨する人物の執務室へと、足を踏み入れる。

 

 

 

 「待っていたよ。こうして君と話すのも久しぶりじゃないか・・?神楽暁(かぐら あかつき)くん」

 

 わざわざフルネームで彼の・・暁の名前を呼ぶ元帥の表情は、どこか嬉しそうだ。

 

「は・・っ。閣下も御変わり無く。安心しました」

 

 暁の言葉に、「ははは!私もまだまだ現役よ!!」と快活に笑うこの初老の人物こそ、この

海軍を率いるリーダーでもあり、海を守る要でもあるこの大本営、鎮守府に着任している提督等の総指揮官でもある。

 

「いやぁ、相変わらず君は本当に真面目な男だ。」

 

「・・・は。閣下。失礼を承知でお伺いしてもよろしいでしょうか・・?」

 

 暁が言うと、元帥はその言葉を静止させるように手を挙げる。皆まで言うな、ということなのだろうかー?などと思っていると

 

「まぁ待ちたまえ。あせる気持ちもよーくわかるが、すこしリラックスしたらどうかな?」

 

 先程から肩が物凄い固いではないか!と面白そうに笑う元帥に、暁は少しばかり戸惑うような視線を向ける。

 

・・他所からみれば完璧にいじられている。が、そんな事を考える余裕は彼にある筈もなく。

 

そんな冗談めいた?元帥の言葉に。

 

「は・・・はぁ。」と暁が言うと再び元帥が楽しそうに笑い、これは違うんだと楽しそうに元帥は両手を振っている

 

「いやぁ・・ははは。ほんとうに君は・・はは、面白い男だ。・・ふう、よし。それじゃあ本題に入るとするか・・」

 

 すると再び肩に力が入ってしまう暁を見て、やれやれと元帥は苦笑いを浮かべる

「全くお前と言う男は。だからこそ信頼するに値する人物なのかもしれないが」

 

 褒められているのか貶されているのかよくわからない言葉を言う元帥に、暁は口を閉ざしたまま、その先を無言で促す。

 

「さて、暁くん。世間話とまではいかないが、最近の様子はどうかね。各海軍基地での活躍は、めぼしいと聞くが」

 

「私が・・ですか。いえ、そんなことは。どれも仲間達が居るからこそ成せるもので、私一人の成果でも、ましてや活躍でもありません」

 

 そんな暁の言葉に、やれやれと元帥は肩をすくめて見せる。

 

「そうかしこまるな、大本営の幹部等も、お前の評価は高いものだ。私が言うのもなんだが、これでも君を一役買っているのだよ」

 

「は・・・はぁ。」

 

 

 突然呼び出されていったいなにがどうなって。頭のなかで整理をしつつ、暁は元帥の次の言葉を待つ

 

「・・・更には、お前も私も、同じ力がある。そうだろう?」

 

「力・・ですか」

 

 

 そう言うと、元帥は机の上に視線を向ける、するとそこではー

 

「なんだかまじめなムードですなー」

 

「おっぺけーでありますか」

 

「たんそーほうおいしいですか?」

 

 可愛らしい小人達。・・もとい、”妖精さん”達が楽しそうにお菓子をおっぴろげて妖精さん達のお茶会ならぬ菓子会?をしている最中で。

 

「そう、この子等を可視できるか否か・・だ。お前も聞いたかもしれないが、先日、某鎮守府にて不正に軍資金を服用していた提督が解任、逮捕された。・・なんでもリンゴがどうしてもほしくて・・だそうだ。よく分からないが」

 

そのリンゴは恐らくとてつもなく魅惑のあるものだったのだろうな・・と考えていると

 

「お陰さまで憲兵等が各鎮守府でそういった不正使用がないか・・とどの鎮守府も大騒ぎでな、深海悽艦の大規模な進撃はないものの、防衛力が一時的に低下してしまっているのも事実なのだ」

 

 駆逐艦にちょっかいをだす提督を逮捕することがが主な仕事のような存在が、まともに仕事をしているのだな、と、内心で皮肉めいた事を呟いてみる。実際に言える訳もないが

 

「そこで、だ。お前にその部分をカバーして欲しいと言うわけではないが、放棄されている一部鎮守府の昨日を取り戻したく、お前も提督として戦ってはもらえないだろうか?」

 

 元帥の言葉に、暁は目を丸くする

 

「私が・・提督・・ですか?」

 

 

 

 それは、これから起きるであろう様々な出来事を示唆しているような、そんな衝撃でもあったー

 



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その3 提督として

 こんばんわです。木啄です。

最近かなり冷え込んできましたね、皆様お体かわりなく生活できていますか??

私の最近ですと、楽器をひとつ購入しまして、その練習に熱が入ってしまい

なかなか投稿が遅れるという事態に、いやはや

というわけで今回も鎮守府に提督が着任する流れになります、よろしくお願いします。


 

 元帥の仰る言葉の意味を、理解できずに数秒間の間が流れる。そして暁は口を開く

 

「お・・お言葉ですが、私は・・」

 

 彼はもうとっくに理解してくれている筈だ。彼がなぜ、そこまで提督として着任

することを躊躇っている、その「理由」をー。

 

そんな暁の言葉を遮るようにして、元帥は「分かっている」とそのまま此方をじっと見つめながら、元帥はゆっくりと言う。そんな彼の表情を見たとき、暁は息を呑む。

 

・・その表情はとても真剣なもので、元帥の視線を交じり合わせるかのように、二人の視線は交差している。

 

かつて、艦娘と共に同じ海で戦い、様々な海域に艦娘と共に出撃し、見事勝利を納める他に、

 

深海悽艦・・及び深海悽姫が出没するであろう危険海域にまで艦娘と共に足を進ませ、撃沈したりするなどという様々な伝説・・偉業とも呼べる戦歴を叩き出したまさに歴戦の英雄。

 

まさに、”凄まじき存在”がそこにはいる訳で

 

「・・・なぁ。暁くん」

 

重々しい空気のなかで、元帥はゆっくりと口を開く。そんな元帥の言葉に。

 

「・・・はっ」

 

暁はゆっくりと、返事をする。

 

・・・そこから再び間が流れ・・いや、世間ではこれを天使が通ったという洒落た風に言うらしいが、今現在天使が通過しまくっている今。

 

この通路の先で天使が渋滞を起こしていなかなどと妙な事を考えだそうとしていたその直後。

 

「・・・はない。」

 

「・・・・?・・・はっ・・申し訳ありません元帥。もう一度・・よろしいですか?」

 

なにかを言った。それを微かに聞こえはしたものの、もしかしたら聞き間違えという可能性もある、と暁は無理矢理納得させる。

 

聞き間違えであってくれ。そう心のなかで祈りながらー

 

・・・そんな無理矢理の内容が一体どんなものなのかというとー・・。

 

「なぁに、案ずるな。艦娘を嫁に取る男は・・そう少なくはない」

 

”よくあることじゃ”と、元帥は満足そうに、暁を見ながらそう言ったのであった。

 

・・・・・。

 

・・・。

 

 

「・・・・はぁ・・・・」

 

盛大な溜め息を、車のなかで吐き出す。すると運転していた若い軍人らしき男性はなにかを察したのか、ハンドルを握り、視線を前に向けながら声をかけてくる。

 

「なにかお困りの様子ですね。暁提督」

 

 

いけない。こんな若者にまで心配をかけさせるわけにはいかない、とすぐに表情を戻す。

 

「あぁいや・・すまない。余計な心配をかけさせてしまった」

 

「そうですか。少しおつかれの様子ですし、まだ鎮守府までかなり距離もありますから、少しお休みになられては如何ですか?」

 

 

 随分と優しいな、と内心思いつつ、「あぁ。そうする」と短めに会話を切り上げ、窓の外に視線を向ける。・・そこには、先程まで居た大本営が見えた。

 

・・・・。

 

「・・・あの。お言葉ですが元帥・・私は」

 

「ははは!!!なぁに!!”英雄色を好む”というだろう??気にするな!男ならそれぐらいがつんといかねば、ましてや軍人だからな!」

 

 

いや、軍人ならば反対に礼節を重んじる事が道理ではないでしょうか元帥。などと心のなかで異を唱えて見るものの、やはりやめておこう、と諦める。

 

”もはやてをつけられない”という表現が正しいのかどうかはさておき、元帥は実に楽しそうに暁を見ながら笑っている訳でー。

 

「期待しているぞ暁くん!!きみもまた、我々の勝利の灯火になってくれることを祈っている!!!!!」

 

「・・拝命します」

 

 

 本当に上手くいくのだろうか。自信はおろか、いま現状、不安しか抱だけない状況のなか。暁・・もとい提督は、新しい一歩を踏みだそうとしている。

 

・・・。

 

(・・・元帥。私は、貴方の言う信頼に値する男かどうか・・は分かりかねます・・が)

 

走る車内。車の駆動音とエンジン音が車のなかを支配するものの。提督の視線だけは、新たに着任するであろう鎮守府に関する書類に目を向けていてー。

 

(・・私の、出来うる限りの事を。やっていこうと思っています。元帥)

 

今はとりあえず。前を向いて進むしかあるまい。そう、考える提督であった。

 

 



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その4 提督が着任しま・・した?

 新年明けましておめでとうございます。木啄です。
更新大変遅れてしまい申し訳ありません・・というのも、私が普段書かせてもらっているのがPCなのですが、そのPCが壊れてしまい、今現在端末で書いているというのもあり、かなり時間がかかっている現状です。

失踪している訳ではないので・・そのあたりだけよろしくお願いします。


 

 大本営からかなり離れた海に面した小さな町に・・・「それ」は存在した。

 

・・なぜ、「それ」と言っている理由はとても単純なもので。かなりの長い間放置されてしま

 

っているのだろう、草や木などが門の大半を囲い、もはやそこが軍の所有物なのかどうかも不

 

明といっても過言ではないからだ。

 

「・・・ふむ・・これは・・」

 

 

ーとてつもなくひどい。 それが暁の感想だった。

 

 

・・・・。

 

 

 

 敵深海悽艦による襲撃を恐れて、漁業を営んでいたであろう漁港は既に荒れ放題。そこに連

 

なる町もとことこ寂れ果て、最早ゴーストタウンなのかこれはと言わんばかりの状況である湊

 

町や港を抜けた先に、この門があるからだ。

 

「・・・・・」

 

 大本営の・・というより元帥の話によれば。少ない艦娘が今現在も鎮守府温存の任務に着い

 

ており、鎮守府としての機能は失われていないはず”だろう”という見解を持っていらっしゃっ

 

たが・・・。

 

 

 これは本当に無人かもしれない、と暁は一人、溜め息を吐き出す。

 

本当に人がいるかどうかも不明。と、いま時点でそう判断をするその理由としては

 

あまりにも”陰湿”すぎる、からだ。

 

 なんと言えば良いだろうか、人の手が加えらなくなってから雑草等が好き勝手に生えまくっ

 

た無人の民家を連想してくれるといいかもしれない。・・まさにそれだ。とはいえー

 

 

 

 ここで引き返す訳にもいかない。と、暁はうなずき、その門を越えて、歩み始める。

 

いまここにいるのは、海軍屈指の男。その精神力は伊達ではない。

 

「さて・・」

 

いくとしよう。提督はそう呟き、その足を一歩。また一歩と、歩み始めたー。

 

・・・・。

 

 進む先に必ず鎮守府がある、と頭の中で理解していたとしても、かつて道だったであろう場

 

所を進んでいく度に、提督の心の中の一抹な不安が少しずつ、ゆっくりと大きくなっていく。

 

・・今現在歩いているここが、本当に軍の所有物なのだろうかと、誰かに訪ねたくなるぐらい

 

の静けさが、この空間を支配していた。

 

 それから少しまた歩く・・といってもかなり長い間歩いている訳ではなく、振り替えるとま

 

だうっすらと門が遠くに見えている程度だが

 

”・・・・ザァ・・・ザァー・・・”

 

 

「・・・これは・・・」

 

 潮騒の音・・?どこかに海が近いということだろうかー?

 

提督はそのまま足を進ませ、少し先がゴールですといわんばかりに開けており、提督はその先へ、一歩足を踏み出すとー。

 

「・・・ふむ・・ここが」

 

 

 静かな波の音。大本営から見える海とはまた違った印象を放つ・・静かな海。

 

開口一番、なにかを考えるかのような言葉を放ちつつ、暁は一人、・・いや、たった一人なの

 

は元々だが、そのまま回りを見渡してみる。

 

 他の鎮守府と比較すれば小さいが、それでもなお存在感を示している軍港に、その対に存在

 

し、潮風による多少の塩害を受けつつも、その建物は静かに存在を示している。

 

「あれが鎮守府か・・」

 

 

 他人が見れば、それは寂れたぼろ屋敷に見えなくもないが、暁からすれば、それは立派な鎮

 

守府である。と心の中で頷いて見せる。とはいえー

 

(建物全体がどこか・・・薄暗いような・・寂しい印象だ)

 

 

 先程の港を見てきたからもしれないが、やはりそれでも寂しいものは寂しいものだ・・そん

 

なことを考えながら、暁は鎮守府の口とも言える入り口へと足を進ませた。

 

 先の門構えとは違い、この辺りはかなり綺麗にされており、人の手が確実に加えられているということが目視にて確認できる。

 

「・・ということは」

 

(やはり人がいる・・ということなのだろうか?)

 

 

そんなことを考えていると

 

「・・あの。すみません、ここは海軍の所有です。海軍に関する関係者以外は基本立ち入りを禁止されています。なにかこの鎮守府にご用でしょうか」

 

 ふと、背後から声をかけられ、暁はくるりとその声の主を確認するように振り返ると・・。

 

そこには凛とした表情。そして堂々とした姿勢で、暁の前に静かに立ちふさがっている一人の女の子だった。

 

・・・。

 

・・・。

 

 目の前に一人の少女。暁から一切目線を動かす様子もなく、彼女は再び口を開く。

 

「・・聞こえていましたよね?この鎮守府に何かご用でしょうか?」

 

 その少女は、少女から見ればかなりの大男だろう暁に、一切臆する事もなく、かの憲兵とま

 

ではいかないものの、それ相応の凄みを微かに感じ、暁は内心驚いて見せる。

 

「・・・すまない。今日付けでこの鎮守府に着任することとなった、神楽暁だ。」

 

 

 暁がそういうと、彼女は首をかしげて見せる。

 

「・・・新しい・・司令官・・ですか?」

 

「・・・あぁ。大本営直令だが・・。」

 

 ・・・それから少しの間沈黙が流れたと思いきやー

 

「っ!!し、失礼しました!!新しく着任される司令官に対し、出すぎた真似を」

 

 慌てて敬礼し、そのまま硬直。先程とはうって違い、どこか瞳も揺らいでいる。

 

「いや、そこまで固まらなくてもいい。直してくれ」

 

「はっ!」

 

 彼女はそのまま敬礼を解除。びたーん!!!という表現が似合うといっても過言ではないく

 

らいのピンとした姿勢のまま待機してしまっている。

 

「・・いや、もう少し力を抜いてくれて構わない。・・しかし、大本営からの通達は受けていないのか・・?」

 

 彼女は若干姿勢を崩しつつも、暁からの質問に対し、真剣な眼差しで首を縦に振る

 

「申し訳ありません。今現在この鎮守府の管理を任されているのは”私一人しか居ません”なので、大本営からの連絡も一切いただけませんでした・・」

 

「・・・連絡が来ていない?」

 

「は、はいっ」

 

 

 連絡がしっかりと行き届いていない事に対し、あの元帥め、何か非常事態が発生していたら

 

どうするつもりだったんだ。と内心毒づきつつも、いまここでこの少女の前で元帥に対する不

 

満を口にするわけもいかない。

 

「・・ところで、ええと。」

 

「・・はいっ!私になにか・・?」

 

 

彼女の真剣な眼差しに、暁は言葉がでなくなる。

 

・・そう。彼は非常に残念なことに、軍人としては非常に優秀な男であることは間違いないのだが、それ以外に関してはてんでダメな・・残念な男なのだ。

 

「あ・・いや・・その・・なんだ。」

 

「・・・・??」

 

 先程とは全く違う暁の様子に、彼女は首をかしげているとー

 

「・・その。君の名前を、聞いてもいいか・・?」

 

 

 単純に名前を教えてくれと言えばいいのに、なぜこの男はそんなにももったいぶるかのよう

 

にしているのだろう。と誰かが見ていたらきっとそう思ったに違いないでしょう。恐らく。

 

 しかしそんな残念な男に対しても、彼女は元気よくうなずき、再び敬礼をするとー

 

「はいっ!!朝潮型駆逐艦一番艦!!!朝潮です!!司令官!!!!」

 

 元気よく、名前を名乗るこの朝潮という少女の前に、暁は若干うろたえるもー

 

「そ、そうか。あ・・朝潮・・だな。これからよろしく頼む」

 

 ・・たった二人から始まろうとしているこの鎮守府運営。果たして上手く行くかどうかは今現在の時点では不明・・しかし。

 

「はい!!よろしくお願いします!司令官っ!」

 

 この・・目の前にいる娘と共に、進めるだけ、進み、やれるたけの事をやろう。

 

暁は・・いや、”提督”は、帽子を深々とかぶっては、この鎮守府の未来を見つめるかのように、海にも負けない・・この青い、青い空を。

 

眺めて見せたー

 



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その5 鎮守府運営、始めました

最近寒すぎではないですかね。木啄です。
新年明けましておめでとうございます。今年も是非よろしくお願い申し上げます。

というわけで、今回も更新です。
やはり端末でなので文字数が少し短めです、許してください、なんでもしませんけど。……冗談です

今回は朝潮視点です


 司令官がこの鎮守府に着任してから数日。

現在鎮守府に所属している艦娘私一名、なんとも言えず、ちょっと寂しいです。

 

寂れたこの鎮守府の運営を、早くもスタートさせる私と司令官

 

「・・・」

 

 司令官が始める鎮守府運営、はじまり、です。

 

朝、朝礼というなのお話も終わり、各自お仕事を始めている現在です。

 

「・・すまない」

 

「はいっ。なんでしょうか?司令官」

 

珍しい司令官から仕事以外でお声がかかりました。何かあるのかもしれないと思って返事をしてみます……が

 

「あ、ああいや。何でもない。気のせいだったようだ」

 

 最初の課題・・それは司令官のコミュニケーション能力の低さに伴う私たち艦娘との信頼構築に関して不安な現状……です。

 

 「そうですか・・。えっと、なにかあればお呼びください司令官。朝潮も頑張りますから」

 

「あぁ。すまない、ありがとう」

 

結論、もう少し私を頼ってくれてもいいような気がします。

 

 というのも、この数日の司令官の動きを、この「朝潮」、実はこっそり観察をしていました、こっそりです。

 

「この鎮守府の耐久に関して言えば問題は無いのだろうが・・ふむ・・・資材も厳しいから早急になんとかなせねば・・」

 

 仕事に関して言えば優秀の秀、でしょうか?ですが、割とお昼もお仕事をしてらっしゃる姿も見られるので、

 

少し改善の余地有りかもしれません。

 

「あぁそうだ・・こほん。朝潮」

 

「はいっ」

 

 珍しく司令官が私に声をかけます。何か任務でしょうか??

 

「大本営から書簡が届いた。どうやらこの鎮守府にのみ、極秘で妖精部隊を派遣するらしい・・」

 

「妖精部隊って・・あの妖精さんですよね」

 

「恐らく、な」

 

 妖精さん。私たち艦娘の認識で言えば、神様のような類いの存在

 

それで、実は司令官の選抜も、妖精さんが見えるか見えないかによって決まるという話を聞いています。

 

「一体なにをするのでしょう…?」

 

「私にも不明だ。しかし、その妖精達はかなり”デキル”らしい。元帥の仰る事があまり理解出来ないが」

 

仕事の内容に関してはかなり積極的にこの朝潮にも話しかけてくれます。

 

(普段もこんな感じなら良いのですけど、難しいのでしょうか?)

 

「ここが少しでも賑やかになれば、嬉しいものだ、なあ朝潮?」

 

「は、はいっ。そうですね!」

 

そう言い終えてから、再び司令官は執務に戻られました。

 

(私も負けてはいられません)

 

この鎮守府の保守を司令官から任せられているこの身、もし他の艦娘の方々が此処に来られたとき、がっかりさせないようにしなれければいけません!

 

(……となると門の付近の草木をなんとかしなければいけませんね……)

 

 しかし私一人では限度もあります。こうなったら勇気を振り絞って司令官に打診してみる他にありません!!

 

 

「あ、あの。司令官」

 

「……む?どうかしたのか?」

 

「あのですね・・」

 

……。

 

……。

 

「私も初めは驚いたものだが…やはり…なんとかしなければな」

 

 司令官と私、二人で鎮守府の”顔”とも言える門付近に生い茂っている雑草や枯れ木などの伐採を始めます。

 

伐採とはいっても、簡単に鋸を使ってかれた木々を切り落としたりというもの。

 

シンプルとはいってもまさかその労働を1海軍の拠点の長たる司令官と、その部下である私がしているとは、予想もしないでしょう。

 

「・・・割りと簡単に切れるものだ・・な・・っ!」

 

 切り落とした木の枝を袋に積め込んで台車の乗せる。単調な作業ではありますが、疲れもしますし、汗もかいてしまいます。

 

 

「司令官。ご無理はなさらないでください。なにか飲み物でも持ってきます」

 

「あぁいや。私も行こう。少し休むとしよう」

 

「はいっ。それではその・・一緒に!」

 

私と司令官は、一緒に鎮守府へと戻ることになります。

 

・・恐らく、一緒に何かを成すという行為そのものが、今日はじめて行われたのかもしれません。

 

そう考えれば、司令官と共にこの鎮守府を更に輝かせることも、夢ではないかもしれません。

 

「・・あの、司令官」

 

 タオルで汗を拭いながら横を歩く司令官に、私は声をかけてみます。

 

「どうした、朝潮」

 

少し不思議そうに、だけれどしっかりと「私を」見てくれています。

 

「これからもよろしくお願いしますっ!司令官っ!」

 

私と司令官の鎮守府運営、始めました!

 

 

 

 

 

 



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その6 妖精部隊。着任する、です

お久しぶりです・・本当に、お久しぶりです。木啄です。はい、失踪(?)していました、嘘です。パソコンは手元に届いたので、以前書いていた作品などの復元などをしていて、ようやく投稿できるまでいけました・・。

というわけで、かなり距離が開いてしまいましたが、最新話投稿です。
今回は・・いろんなキャラが出てきますね


本日の鎮守府も変わることなく空はのんびりとしていて、海はとても穏やかな表情を、この鎮守府に見せてくれています。

 

大本営からかなり離れたこの鎮守府。そんな場所に駐屯している人数は司令官である暁提督と、部下の朝潮型駆逐艦一番艦である朝潮の1人だけ。

 

鎮守府の内装や外装の一部も、時間が空いた時間を使っては補修、家具なども大本営から中古で取り寄せたりと、徐々に機能を取り戻しつつある今現在。

 

しかしそれでも、まだまだというのが現状でー

 

そんなある日の事でした。

 

「はい。本日、ですか?」

 

なんとも珍しく大本営から直々に連絡が入ります。

 

ずっと使うこともなく埃を被り放置されていた可哀想な電話機。

 

数日前に綺麗にしてからも、使う事が無いだろうと思っていたら、鳴動が突如司令室に鳴り響いたのであります。

 

その内容というのはー

 

……。

 

『件の妖精部隊が、本日そちらに向かっているとの事で』

 

は、はあ、また随分と急な話だなと思いつつ、提督は電話対応をしている訳なのですが。

 

“「本来ならせめて昨日にでも此方に連絡を入れるべきなのでは?」”

 

などと内心、思いはするものの、そんなことをくよくよと電話の向こうの見ず知らずの相手に言うのもあれだろう、と半ば諦めます。

 

そもそもあの元帥が頂点に立つ以上、部下も何となく元帥に似るのかもしれない、などと思ってはいけない。思いましたけれど、

 

「了解しました。それでは部下の方にもそのように伝えておきます。ええ。それでは」

 

フックスイッチを軽く押しながら電話を切り、受話器を戻しては、椅子に腰掛けながら再び書類に目を通します。

 

(とにかく、朝潮にも伝えておかなければならないなー)

 

そんな朝潮は現在、 鎮守府付近の海域の哨戒任務に出ており、あともう少しで帰投する筈、と時計を見ながら考えます。

 

一人でも艦娘としての任務を全うしたいですという朝潮の強い意志に、提督もまた、彼女から学ぶべきことが沢山あると思っていたのでした。

 

……。

 

……。

 

とある港町近海域、海上を滑る2人の艦娘と、その頭上には沢山の妖精さん。

 

「やれやれ、やーっと目的地付近か。くたびれんなあ」

 

頭上の左右に電探らしきものを取り付け、腰には立派な刀、左目を眼帯で隠している紫色の髪の毛の少女は、欠伸を噛み殺します。

 

「ファイトですよー、ぼくら長くは飛べないですから、ごめいわくかけます」

 

「わーってるって、そんなに申し訳なさそうな顔……してねえな。」

 

「燃料もまだありますし!このままゴールまでイケイケですよ!!天龍さんっ!」

 

そしてもう一人、頭に帽子をちょこんと被り、髪の毛をツインテールでまとめた元気そうな女の子。

 

服装に関しても、朝潮と似たような着衣を身につけているので、姉妹であると容易に判断出来る格好の女の子、その名もー

 

「イケイケだなイケイケ。ほら行くぜ大潮。そろそろだ」

 

「はい!!」

 

 二人はそのまま海上を滑るようにして進んでいく。その先は間違いなく、あの鎮守府。

 

数年ぶりに再開出来るということもあってか、大潮は一人、任務そっちのけで姉に会える喜びを噛み締めていると、前方から慌てて水飛沫を上げながら2人へと接近する朝潮の姿がー

 

「そこの艦娘、止まってください。これより先は鎮守府警戒域です。何か御用件でしょうか」

 

真剣な眼差しで居たと思いきや、天龍の背後に立っていた妹の姿を見て、目を丸くさせます。

 

一方の天龍は、何か嫌な予感を感じ取ったのでしょう、すかさずー

「大潮、焦って姉に飛びつくなよ?」

 

などと釘を刺そうとしたものの・・・。

 

「朝潮ねえーーーー!!!」

 

「っておい、人の話…って、あーあ。」

 

「えっ!?きゃ、きゃあ!!」

 

予想外の出来事に、朝潮も対応を遅れ、更に不幸な事に、大潮の頭に乗っていた妖精さんたちもまた、水浸しになるという不幸な結果を招いてしまったのでした……。

 

 

「お、おたすけーーっ」

 

 

 気の毒な事に、悲鳴にも近い妖精さんの声が海上に響き渡り、その報告を聞いた提督は、やれやれと言った感じに頭を抱えたという。

 

 



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その7 妖精さん、かんむすをつくる

 こんばんわ。木啄(きたたき)です。
また更新度を上げていきたいと思いつつ連続での投稿になります。

これからもよろしくお願いします。




 潮風が漂う海辺にて、艦娘たちが演習をしている最中、提督は工廠へと呼び出しを受け、廊下を一人歩いている今現在。

 

 潮風と共に、海の方から演習を行っているのであろう砲撃音が時々聞こえてきては、天龍の声が聞こえきたりと、相変わらず元気だ、などと思いつつ、先ほどあった出来事の一つをぼそりと呟きます。

 

「ふうむ・・・工場長・・か」

 

 ”工場長”、その言葉の意味は先程の出来事が関係していました

 

ー。

 

 さて、そんなある日の司令室。

 

 普段は秘書艦ぐらいしかあまり入ってこない部屋ですが、珍しい事に提督は机の上でわいわいと嬉しそうに報告?をしてくれている3人の妖精さんに襲撃を受けていました。

 

 

「お待たせしました提督さん。いよいよ僕たちの出番ですはい」

 

「おまたーおまたー」

 

「ふっふーん。提督さんはかわいいねー」

 

 

 わいのわいの。

 

 先週からこの鎮守府入りをした妖精さん達は、楽しそうに提督の執務机の上ではしゃいでいてとても楽しそうなんですが、そのせいで提督はお仕事ができない現状ということを彼女たちは知る由もありません。

 

 なのである意味襲撃なのです。

 

 

 

「あ、あぁ・・。それで、出番というのは?」

 

 このままでは埒があかない、そう感じた提督はすかさず妖精さん達に話しかけます。

 

 提督も提督で、彼女たちの対処法をひそかに勉強・・している訳ではありません。

 

 何故なら妖精さんとの遭遇のほとんどが彼女達の気まぐれみたいなものなのです。

普段は工廠に引きこもっていたりします。

 

「あ、そうでしたそうでした。工廠がいよいよ活用可能になりましたですはい」

 

「これでかんむすさんつくれるー」

 

「ふっふーん。提督さんはかわいいねー」

 

 (あぁ、もはや一番最後の君のその発言はまったくもって関係ないだろう・・)

 

 などと思っても決して口に出してはいけません。なぜなら、もしもそう言ってしまったが最後、彼女たち・・妖精さん達は

 

 ”「うわーそれはないわー」”のような信じられないといった表情でこちらをじっと見たと思ったら

 

 ”もう二度と動きませんが?”といった感じの不動の決意のようなものとともに

不貞腐れてしまうので、対処に困ってしまうことがしばしば。

 

 正直かなりめんどくさいと思ったりしますが。それも禁句です。

言ってしまえば最後だということを提督はわかっていました。悲しき学習です。

 

 

 

 ー”妖精さん”。

 

 ・・それは今現在の科学でも解明できない不思議な存在で

深海棲艦が現れたと同時か、その前後に出現を確認されており、もしかすると大昔から

存在していたのでは?なんていう所説もあったりと、割と不思議な存在なのです。

 

 そんな妖精さんの事も気になるけれど、その前に彼女達が言った言葉に、提督はぴくりと反応していました。

 

「”かんむすさんつくれる”とは・・?艦娘は適性検査によって選ばれると聞いている。違うのか?」

 

 提督は疑問を投げかけると、彼女たち3名は提督の言葉を真面目に・・聞いている・・はず。多分。そして

 

 

「ぼくたちでもわからんです、はい。」

 

「かんむすさん、ぼくらよりふしぎー」

 

「きっとかみさまかもしれないです?」

 

・・などと申しており。

 

 

「・・ふむ」

 

 人間にとって不思議な存在の妖精さん達が口を揃えて不思議というのだから、艦娘はそれ以上に不思議な存在なのかもしれない。いや、それは強ち間違いではないのだが。

 

 というのも、彼女たちが身に着けている”艤装”は、一般の人間には到底重すぎて装備することなど出来ず、訓練された兵士ですら不可能。

 

 しかし、何故か提督だけは不思議と艤装に触れてもそこまで重いとは感じない・・なんていう実証もされていたりと。

 

”もしかすると艦娘と提督の深いつながりが関係しているのかもしれない?”

 

 という海軍の間の暗黙の了解などが既に存在している。それ以外に立証しようが無い、というのが彼らの現状だそうでー。

 

 そんな艦娘は、生身の人間による潜在的な能力や、何かしらの因果関係などによって

艦娘になるならないが決まっているらしく、その確率もかなり低いとか低くないとか。まちまちだそうでー

 

「神様・・か、しかし、艦娘を作り出す機械とは・・工廠にあるのか?」

 

「こうじょうちょーさんが工廠にいるです。」

 

「詳しい話はこうじょうちょーに」

 

「むーぶいーん」

 

 3人の妖精さんたちの言う”工場長さん”というのは、妖精部隊の隊長さんである彼女の事でしょう。多分

 

 そんな彼女は妖精さん達のリーダー的存在・・には見えませんが、彼女たちには彼女たちなりのリーダーの取り決めの方法などが存在しているのかもしれません、恐らく。

 

 

 

・・・というわけで、今現在提督は一人、工廠へと続く道を歩いている訳で。

 

「ふうむ・・・工場長・・か」

 

 思い出すのは、先週のびしょ濡れになり、かなりしょげていた彼女の後ろ姿ですが、今現在どうなっているのかは、実は提督もあまり知らないというのが現状です。

 

 そのため、この鎮守府に着任している艦娘、および妖精さんの事もとりあえずは把握しておきたい、というのが提督の思惑ですが。

 

 悲しいかな、神出鬼没、そしてフリーダム。まさに自由を象徴するかのような自由の女神的存在の妖精さんは、気づくとお菓子をどこからともなく取り出してはおっぱじめ。

 

 どこからかお酒を取り出しては酔っ払い、どこからか変な機械を作っては大変なことをしでかす、なんていう報告も受けており、本当の敵は深海棲艦ではなく妖精さんだ、という噂もあるとかないとか。

 

 とまぁそんな感じに、妖精さんは自由に生きているわけで。

 

 ”考えていても仕方ない”。

 

 提督はいったん思考を切り替え、徐々に近づいてくる工廠の扉を目前に、一度足を止めて、覚悟を決めようとしたときー

 

 

 「こら朝潮!お前また砲身が下がってやがるぜ!!そんなんじゃ当たる弾もあたんねーぞ!!!」

 

 「は、はい!!!」

 

 「ファイトですよ!!朝潮姉!!」

 

 「おめーもだ!!!!大潮!!!」

 

 「どーーーんっ!!!」

 

 

 新たに加わった二人の艦娘を含めた総勢3名の艦娘が、今現在演習を行っている真っ最中で、天龍が主に二人を指導しており、戻る頃には朝潮と大潮がボロボロになっていることがしばしばで、提督に至っては「大丈夫だろうか・・」と若干心配になったりします。

 

 恋人もいないのに父性だけが出始めている。これは何となくピンチかもしれない提督

 

 しかし残念ながら、提督にその自覚は皆無。ある意味残念な提督なのかもしれません、多分。恐らく、きっと。

 

 「ふう、やれやれ・・む?おやおや、提督さんじゃないですか。待ちしておりました」

 

 「・・む、あぁ。すまない、待っただろうか」

 

 突如工廠の扉が開いたと思うと、そこから一人の妖精さんが出てきます。

 

 その手にはスパナを握り、服の所々が汚れていて、今まで作業していましたよというオーラが物凄くにじみ出て居る妖精さん。

 

 「-”工場長”」

 

 工廠から出てきたと思うと、服をぺしぺしと叩き、ほこりなどを払っている様子を見つつ、提督は彼女に声をかける

 

 「いえいえ、大丈夫ですよー。ボクらもようやくセッティング完了したとこです」

 

 「あぁ・・ええと。例の艦娘を作る・・というものか?」

 

 提督が尋ねると、妖精さん・・もとい工場長は首を縦に頷く

 

 「ですです。ご覧になられますか?レシピがあればすぐにでも取り掛かれます。はい」

 

 「レシピ・・?ふむ。とりあえず見せてもらっても構わないか?」

 

 「ぜひぜひ」

 

 

 こっちこっちーと、工廠の扉の間からほかの妖精さんも手を振っています。

 

 どうやら提督になついてくれた・・のでしょう。一人と一匹は工廠の中に姿を消し、後に残るは潮風と、心地よい太陽の日差しだけでした。

 

ー。

 

ー。

 

「ほう、これが・・・」

 

 工廠の中に入ると、直感でこれだ、というものが目の前に設置されていた。

 

「ようこそ提督さん、ぼくたち妖精ファクトリーへ」

 

「「妖精ファクトリーへーー!!」」

 

・・・・いつの間にか工廠が妖精ファクトリーに変わっている。どいうことでしょう。

突っ込んだら負けですか?そうですか。

 

「・・・よ、妖精ファクトリーというのか。ふむ」

 

 しかしそこは提督、たとえ妖精さん達が妙なことを言い出しても、それを理解しようと必死になるところがまた妖精さんたちから好印象を得ている・・という風のうわさ。

 

「この水槽みたいな所からかんむすさんが出てきます。ちなみにこれが材料を入れる所と・・レシピを決める入力装置です。タブレットみたいなものです。入力してから素材を充填、すると時間が表示されて、その時間が経過するとかんむすさんが出てくる仕組みです」

 

 つまり、レシピ。というものを回すと、艦娘が完成する。という仕組みらしい。

その構造は機密事項で、知ってしまうと大変なことになるらしく、触らぬ神に祟りなし、とでも言いたいのかもしれませんし、単純に妖精さんも理解していないのかもしれません

 

 そんな時、ふと提督は疑問を浮かべる。

 

「む、しかし、朝潮や、天龍、大潮達は・・?彼女たちはその・・造られたのか?」

 

「彼女たちは”オリジナル”です。言わば人からの転生でしょうか。提督さんでいう適正というやつですね。潜在的に組み込まれている艦の記憶で、ここから出てきたかんむすさんがもしも同じ型のかんむすさんであれば、それは姉妹である、と認識します。」

 

 なんとも難しい話だ。と提督は考えながら、工場長の話を聞く。

 

 

 要するに、オリジナル・・もとい、適性検査によって造られる艦娘は、精神的に脆弱なところが多く、精神的なダメージなどといったもので、直ぐに精神病院へ入院する・・といった案件が起きているらしく、そんな少女たちを出したくはないという思いから、海軍では密かに妖精さんとともに艦娘を作り出す・・といった研究をしていたらしい。

 

 というのも、もともと艦娘になる存在的な力の源は”海底”に存在しているらしく。それを妖精さんが偶然にも見つけて”艦娘”を作り出した、というのが艦娘の起源でー。

 

「そうですねぇ・・艦の記憶とでも言いますか、残留する思念といいますか。そういった形ある思いが結晶化されたものをもとに戻す・・というのが近いのかもしれません。だから私たちも、どんなかんむすさんが出てくるのかわからないんです」

 

 レシピもある意味それに近いもので、つくるというよりは儀式に近い、と工場長は語る

 

「まっ。百聞は一見に如かず!早速つくってみましょう、提督さん」

 

「そ、そうか。わかった。とりあえずやってみるとしよう」

 

 

 真剣な表情を浮かべる提督と、わくわくといった感じの緊張感がまるでない工場長。

なんともいえないアンバランス、だがそれがいい。

 

 などと周りの妖精さん達は思っていたー。

 

 



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その8 提督、艦娘を作る

 こんばんわ、木啄です。
今日も今日とて更新しておりますが、作っては更新なので、正直誤字あたりの修正が
毎度毎度追い付いていないような気もします。

少しだけ間をあけてためて作ったほうがいいのだろうか?なんて思ったりもしています。
そのあたりはまた調整することにします。

それでは、本日もまた、新しいキャラが出てくる・・・かもです



 入渠を終えた軽巡が一人、ソファーの上でくつろいでいると、二つの足音が近づく

 

 「ん・・おう、疲れお二人さん。今日も頑張ったんじゃねーの?」

 

  入渠を無事に済ませてから、談話室で一人くつろぐ天龍を前に、今さっき出たばかりでまだ少し髪の毛が濡れている朝潮型二名が姿を見せる。

 

 「本日も演習のお相手ありがとうございました、天龍さん」

 

 「お疲れ様です!天龍さん!」

 

 礼儀正しくお辞儀をする長女の朝潮とは相反するかのように

元気よく手を振る次女の大潮。

 

 大潮とは若干の付き合いがあるのでしょう、その元気の良さには天龍も既に流石に慣れたようで、手のひらをひらひらと動かしています。

 

 「しっかしここはほんとに誰もいねえなぁ。まぁしゃーねえか」

 

 まだ鎮守府としての機能を完全に取り戻せてはいないので、未だに封鎖というよりか

使えない施設が幾つか存在しているのも事実で。

 

 ・・・まだまだ寂しい感じが消えないのは仕方ないのかもしれません。

 

 「ですが、これからもっと沢山の仲間を増やして、いつかは私たちも海域を取り戻す作戦に参加出来たらいいと思います。大潮はどう思いますか?」

 

 「はい!同意見です!!私も朝潮姉に賛成です!」

 

 牛乳パック片手に元気のいい大潮に、そんな妹を見て少しばかり微笑んでいる姉の朝潮。

 

(妹・・ねえ)

 

 艦娘による適性検査によって艦娘になった”天龍”は、もともとが一人っ子というのもあり、姉妹という存在に今一どういった感覚なのかわからないでいる。

 

(ー俺にも居るんだろうな。妹ってやつだ)

 

 会ったことはない。しかし知識だけでは知っている姉妹艦のもう一人の存在。

名前は確かー・・たつー・・

 

「っと、そんなことはどうでもいい・・・って、そういえば提督の姿見えねえな?」

 

 普段であれば演習が終わったぐらいに一度顔を出してくるのがこの鎮守府の長たる提督・・もとい、”神楽暁”という男なのです。

 

 様子を見にと言ってはいますが、実際は”3人の安否確認をしに来ているなんていうのは知る由もないでしょう。

 

「こちらから様子を見に行ってみましょうか。本来であればたちのほうから報告をするべきかもしれませんし、どうでしょう?」

 

 流石はしっかり者の朝潮。もとい提督の秘書艦でもあります。そんな彼女の意見に二人は頷いて、早速行動に取り掛かります・・といっても、ただ単に司令室に行くだけですけど。

 

「しっかしまぁ、あの提督いっつもなんかしてるよなぁ。

ちゃんと休息とってんだよな?」

 

「はい。私が居るときには休憩をとってもらっています。時々無茶をしてずっと職務にとりかかっているなんてこともありましたから。」

 

 まじかよ、といった感じの表情を浮かべる天龍です、無理もありません。

 

 天龍の性格上。時間があれば”さぼる、寝る、食う”の基本3行動、ある意味妖精さんみたいな性格です。

 

「うっひゃあ・・すっげえなぁ。真面目の真面目、くそ真面目ってやつじゃね?」

 

「司令官に対してその言いぐさは少し問題かもしれませんが

実際のところはそうですね」

 

「司令官は頑張り屋さんですからね!!たまには休んでもらわないといけません!!」

 

 えぇ、そうですね。と朝潮は頷きながら、司令室の前に止まる。すると天龍は首をかしげて見せる。

 

「・・・ん?音がしねえぞ。いないんじゃねーの?」

 

「そうですね・・何か物音がしてもおかしくありません」

 

 流石は艦娘といったところでしょう。

 

人の数倍、気配を感じ取り、物音を聞いたりと、艤装がなくてもある程度の能力はそのまま体に潜在的能力として存在しているようです。

 

「とりあえずノックして入ってみましょうかー???司令官、居ますかーっ?大潮ですーっ入りますよー???」

 

 元気よく扉を叩いてから、ガチャリと扉を開ける。するとそこには誰もいません。

 

 何故なら今、提督は工廠に居て、その事をこの3名に伝えていないため、どこにいるのかも知る由がないのですがー

 

「・・ん?おい、妖精さんがいるぞ」

 

 偶然?にも、司令室の提督の机の上でお菓子をむしゃむしゃと食べている3名の妖精さんがそこに居て、なにやら楽しそうにパーティーを開いています。

 

 しかし本来であればそこは作業机。

 

 もしここに提督が居たのであれば、苦笑いを浮かべながらどうしたものかと頭を悩ませているに違いありません。と3名は頭の中で考えています

 

「あのっ、すみません妖精さん」

 

 朝潮が声をかけると、3人の妖精さんは「いったいなあにー」と言いたげな様子でこちらを見ています。少しめんどくさそうな感じです。

 

「提督を見ませんでしたか?この時間帯は普段、職務をしている筈なのですが」

 

「提督さん提督さん。どこいったっけなぁ」

 

「あそこだあそこ、妖精ファクトリーだ」

 

「んだんだ、提督さんかわいいねー」

 

 相も変わらず3人目は提督のことを愛でています、余程気に入ったのでしょうね。

 

 それはさておき、妖精さんの”妖精ふぁくとりー”という物が一体なんなだろうかと思い、今度は大潮が尋ねてみます

 

「その”妖精ふぁくとりー”ってどこにあるんですかー?」

 

「どこだったけなぁ」

 

「あそこだあそこ、こーしょー」

 

「んだんだ。提督さんおいしそうだ」

 

「旨そうには見えねえだろ流石に」

 

 流石に我慢ならなかったのが、すかさず天龍が突っ込みを入れています。ナイス突っ込み、なんて言いはしませんが、大潮は内心そう思って・・顔に出ていました。

 

「まぁいいや、提督は工廠にいんだろ?」

 

「しかしまだ工廠は閉鎖されていますよね?工作艦が来ていないからという理由で」

 

「何か用事かもしれませんね!先程の”妖精ふぁくとりー”っていうやつかもです!」

 

 ”とりあえず工廠に行ってみよう”

 

 天龍を旗艦に?朝潮と大潮がそれに続いて鎮守府内を歩き始めます。

 

 窓から差し込む午後の日差しも暖かいもので、もしも可能ならばこのままお昼寝したらとても気持ちがいいのかもーなんて、3人の艦娘は考えます。

 

 しかしまずは提督の捜索が大優先。いま、提督がもし居なくなったら

未曽有の危機に瀕してしまうからです・・!

 

 それだけはなんとしても防がなくてはいけないー

 

 などと何故か提督が行方不明扱いにされ、何か事件にでも巻き込まれたのではないのだろうか、というどうしてそうなった状態になりつつあります。しかし止める人はいません。

 

「ったく、めんどくせえ事になってねえといいけど・・」

 

 天龍がぼそりと呟き、二人も黙ってその言葉に頷いたのでした。

 

ー。

 

 一方、まさか自分が突如行方不明になり、もしかしたら拉致監禁そして何か事件に巻き込まれてしまったんじゃないかと心配されているとも知らない提督といえば

 

「・・・む?何やら時間が表示されたな」

 

 タブレットには20分と表示されていて、これが0分になると、中から艦娘が出てくるとのことで一体どういう仕組みなのか再度聞いても、工事長は内緒とウインクするだけであった

 

「レシピや、投下する材料の違いによっても、もしかすると違うかんむすさんが出てくるのかもしれませんなぁ、まだこれが1回目なので、なんともいえませんが」

 

「ちなみになんだが、そのレシピというのはどこかに書いてあるのか?」

 

 提督が尋ねると、工場長はひとしきりうなったあとー

 

「W●kiを使うといいかも「それいじょうはいけない」

 

 何か言ってはいけないような事を言い出したので、提督は何故か体が勝手に工場長の口をふさいでいた、恐るべし無意識。

 

「実はもう一つ、同じような水槽を作っております。そっちはまだ未完成でして」

 

「ふむ、上手くいけば同時に二つ回せるかもしれない・・というところか」

 

「まぁ、そうなります」

 

 少し言い直したような感じがあるものの、工場長はどこか楽しそうに、今現在建造中の水槽をじーっと眺めているとー

 

「失礼するぞー、提督はいるかー・・ってうお。なんだありゃ」

 

「失礼します。朝潮です、提督はいらっしゃいますか??」

 

「大潮でーす!!わあ!!すごいですね!!」

 

 3人の声が響き、途端に工廠の内部がにぎやかになる。

 

 それまではほかの妖精さんの声もしてはいたものの、比較的静かだったため、提督は直ぐにあの3人だろうということに気が付いたのだ

 

「あ・・!!居ましたよ朝潮姉!!天龍さん!司令官です!」

 

「ん?おぉ、マジだ。生きてたか」

 

「司令官!ご無事で何よりです・・!!」

 

 3人の表情は何故か”物凄い心配していたんです” といった感じで、提督は若干困惑する

一体何があったのだろうか。と

 

「む、すまない、何かあったのだろうか?」

 

「む、すまない、じゃねーって、どこで道草くってんのか心配して探してたんだぜー?」

 

「は、はい。司令官の姿が見えませんでしたので・・・」

 

「3人で探していましたー!でも見つかってよかったです!えへへ!!」

 

 朝潮、大潮、天龍。3名の言葉に、提督はすまない、と頭を下げる。

 

 ・・恐らく入渠後に普段様子を見に行くのが最近の恒例だったためか、今日は見当たらないということで恐らく心配になってしまったのでしょう。

 

(だがしかし何故工廠にいっているだけでここまで大騒動になったのだ・・?)

 

 提督は知らないのです。まさか3人の妄想に近い想像でここまで事が大きくなってしまっていたということを知る由もないのでしょう・・。

 

「提督さん。そろそろ時間が、もうじき解放されますよ」

 

 工場長の言葉に、提督は頷いてから、再び視線を水槽の方へと向ける。

 

「恐らく、これが人類初めての作戦かもしれません。ボクら妖精と、提督さん含めた人間さんの協力によって。」

 

 史上初の、艦娘が出来上がるのですからー。

 

「史上初の艦娘ってなんだ・・?こっから出てくんのか・・?」

 

「私たち艦娘が・・?」

 

「それって物凄いんじゃないですか・・?っ」

 

 画面に表示されている数字が、カウントダウンを始める。

 

「さ、提督さん。あなたがこの鎮守府の長であり、かんむすさんのリーダーでもあります。

だから、まずは提督さんが見届けてあげてください。」

 

 ”かんむすさんの誕生を”

 

 工場長の言葉に、提督は無意識に唾を飲み込み、じっとその機械を見つめるー。

 

 大きな音とともに蒸気が上がったと思うと、モーターのような駆動音・・そして。

大きな扉が、ゆっくりと開かれー

 

「・・・・」

 

「・・・・ん・・んん・・」

 

 開かれた扉の先に居たのは、小柄な女の子だった。

 

「おぉ・・まじか・・」

 

「わぁ・・・!」

 

「すごいです・・」

 

驚きの声を上げる3名の艦娘と、その声を耳に届いてはいるも、不動の姿勢でじっと、その少女を見つめる提督。そんな提督の視線に気が付いたのか、”少女”は提督をじっと見つめたと思うとー。

 

「あなたが・・司令官?」

 

 ゆっくりと開いた口から、言葉が漏れる。そんな彼女の言葉に、提督は「そうだ」と返事をする。するとー

 

「・・こほん。私は・・”暁”。特型駆逐艦の一番艦、暁よ。・・よろしく、司令官」

 

 そう言うと、”暁”はゆっくりとお辞儀をしたー。

 



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その9 鎮守府のおやすみ その1

 最近非常に寒いですね、冬に逆戻りな気もします、木啄です。

”お気に入り件数が60越え”になっていて驚きました、私なんかのと言ってはあれかもしれませんが、それでも見てくださっている方々がいらっしゃるというのは素直に喜ばしく思い、これからも頑張って更新していこうという気持ちがより一層強くなれました。

これからもよろしくお願いします。

では、本日ものほほんとやっていきましょう



 本日の鎮守府は珍しくお休みです。

 

 というのも、大本営から定期的に送られてくる内部情報文・・シンプルに言えば各鎮守府などで起きている出来事や問題などをいちまいの新聞のような形で各鎮守府に送られてくる訳なのですが、そこにとある問題提起がされていました。

 

 それはー

 

 ”艦娘の休日が圧倒的に少ない鎮守府が存在する”というもの。

 その文章を見て、提督は

 

「本来であれば艦娘達によって海が守られている、何故上官である提督がそれを理解しない・・これは我々の鎮守府でも何れ起きる可能性もある・・ふむ」

 

「しかし司令官。私たちの鎮守府は艦娘の数が4名と、未だ少ない状況の中、一気に全員を休ませる・・というのは、少し危険ではありませんか??」

 

「だがしかし・・」

 

 提督が珍しく口ごもる。

 どうやら本気で他の鎮守府の艦娘達の事を含め、考えてくれているというのが目に見て分かり、そんな提督を見て天龍は

 

「提督の気持ちはありがてえけどよ、俺たちの事ももっと信頼していいんじゃねえの?

たまには少しぐらい俺たちを無理させてもいいと思うぜ?」

 

「天龍さんの意見に賛成です司令官!普段から司令官は大潮達を大切にしてくれてるのはよーくわかっていますから!!ねっ、”暁”ちゃんっ!」

 

 先日から新たに加わった新しい艦娘”暁”は、提督をじーっと見ては

「そうねっ」と頷く

 

「司令官は見た感じレディーを大切にしてくれそうだしっ、悪くないと思うわよ」

 

「ふ、ふむ・・”暁”もそうなのか・・?」

 

 暁・・つまりは同じ名前、だけど性別は正反対。

 そんな”暁”がそういうのであればそうなのだろうか、など何処か戸惑う提督。

 

 仕方ありません、艦娘が突然”暁ちゃん”と呼ばれたら、同じ”暁”である提督は一瞬鳩が豆鉄砲を食ったようにきょとんとするのも無理はないと思います。

 

 とはいえ、いい加減この状況にも慣れ始めてきた提督、流石はその対応能力の高さ。

 あの妖精さんたちとも、最近では流暢とまではいきませんが、楽しそうに?会話をしているところを時々朝潮や天龍が見ていたりします。

 

 しかしー

 

”「おーい提督」”

 

”「・・・む、天龍か」”

 

 ・・と、対人になると途端に表情が固くなるのは、やはりまだ完璧には慣れていないのかもしません。

 

 千里の道も一歩から。

 焦らずゆっくりと艦娘達とのコミュニケーション能力を高めていきたいと思う提督は、こっそりコミュニケーションの本を先日購入しました。

 

 役に立つかどうかは・・謎ですが。

 

 それはさておき、半ば提督の強引な決断により試験的に導入された全員お休みの日。

 

 普段からにぎやか・・ではありませんが、それでもやはり静かな鎮守府というのも最近では少し珍しいと感じるこの頃で、朝潮と提督しか居なかったあの時は、いつもが静寂みたいなものだったのを考えると、うれしい進展かもしれません。

 

(普段から騒がしいというわけではないが、やはり活気があるほうが民間の目から見ても悪くないという気もするしな)

 

 そのため、早いところ人員に関して問題解決を図らなければ。

 

 自室を簡単に掃除機でゴミを吸い取り、バケツに汲んできた水を雑巾に浸して、水拭きを始める鎮守府の顔でもある提督。

 

 ”心の清掃は部屋の掃除から”、とまではいかないかもしれないがー

 

 それでもやはり、掃除をすることで常に清潔感が保たれるというのは、部屋にとっても悪くはないだろう、というのが提督の考え方で。

 

 一方の艦娘達はというと、外出許可証の届け出があり、今現在は恐らく4人で親睦会でも開いているのかもしれない、と提督は考えている。

 

 何れは戦場に赴く彼女達。

 お互いに良い関係を築くことで、ここぞというときにお互いの力が発揮されることだって多々あるということ、この提督が一番よく理解しているからです

 

「さて・・と、こんなものか」

 

 元々睡眠と着替えだけにしか使っていない自室、その為あまり目立つ汚れは無く、基本的に綺麗なままではあるものの、やはり気分的にも気持ちが良くなることはとても大切で。

 

「ふむ・・これからどうするべきか」

 

 時間はむしろ有り余っている・・ならばー。

 

・・・・。

 

 一方艦娘4人組といえば

 

「しっかしまぁ、港町だってんのにこんなに賑やかだなんて驚きだな」

 

「割とこの町は観光的にも人が多く訪れる場所なのかもしれません。司令官も何れは町との交流も考えていきたいと仰っていました」

 

「ふーん、そうなのね。司令官もこればよかったのに、何してるのかしら?」

 

「きっとお部屋のお掃除ですよっ!!司令官は真面目ですからっ!」

 

 ”・・それを言ってしまうと大潮、貴方は不真面目に聞こえてしまいますよ。”

 

 なんて一瞬考えはしたものの、口にするのは野暮というもの。

 

 朝潮はそっと胸の奥に言葉をしまって、これからの事を考えます。

 

「ですが、天龍さんの突然のひらめきには驚きました。司令官も外出許可の手続きを快くしていただいて、感謝しかありませんね」

 

「まぁなー。だってあいついつも一人なんだろ?たまにはわいわい賑やかになんかやんねーとな・・っと。それ重いだろ、暁、持つぜ」

 

「へっ??だ、大丈夫よ!レディーはこれぐらいへいきよっ」

 

 身長が一番小さい暁。しかしその両手には重そうな袋を二つ持っていて、本人はいいのかもしれませんが、見てるほうはだいぶ苦しそうに見えます、そんな暁をみて

 

「ほらよ、こっち持てよ」

 

「ふぇ?あ・・ありがとう。」

 

 天龍の持っていた軽いほうを手渡し、暁の重たい袋を片方交換すると、再び鎮守府へと歩き始める艦娘一行、その手には食材や飾り付けに雑貨など、日常品も含めた様々な物を購入していました。

 

「特別給与って訳じゃねえけど、提督から金ももらってたしな、ありがたいもんだぜ」

 

「はい、ですが今回の買い物で殆ど使い切ってしまいました・・大丈夫でしょうか?」

 

「仕方ありませんよ朝潮姉っ。暁ちゃんのお部屋とかのインテリアも考えないといけませんし!ねっ!暁ちゃん!」

 

「う、うん。」

 

 まだここにきて数日、それでも必死に仲良くしようと頑張る暁と、そんな彼女を迎え入れた3人の間では、確かにゆっくりと、そして確実に絆は深まっていることでしょう。

 

「さーて早いとこかえってぱーっとやろうぜ!!」

 

「そうですね、私たちの腕の見せ所ですし」

 

「暁だって頑張るわっ」

 

「大潮もお手伝いしますからねー♪」

 

 4人は元気よく、そして笑顔で、彼女たちの家でもあり拠点でもある鎮守府へと足を進ませるていきます。

 

 ・・ちなみに袋の中は、お菓子や白菜やおネギなどなど、一体何を作るのかは、彼女達の秘密、そんな4人が楽しそうに買い物を終えて、帰路についている最中、提督は一体なにをしているかというと。

 

・・・。

 

 「新しい艦娘の作成ですか?ですが今日は休日なのでは?」

 

 妖精ふぁくとりー、もとい工廠にて、提督は私服のまま足を運んでいました。

 

 「まぁな。だがやはり今現在の問題を解決しようと思っていたら・・ついな。」

 

 ”ははぁ、提督さんは頑張り屋さんですなぁ”と、工場長も若干呆れを見せていました。

 

 「あまり根詰めすぎもよくありませんよ提督さん。貴方が倒れてしまったら、守る人がいなくなってしまいますからねー」

 

 「う、うむ。肝に銘じておくことにする・・」

 

 とはいえ、ボクも実は気になっていたんですけどね、と。

 工場長は少し恥ずかしそうにちっちゃいながらに体をくねらせています。

 

 「さーて、それじゃあレシピを開きましょう。どんな数値で建造しますか?」

 

 機械の起動音と共に、あの大きな水槽らしき機械が動き始める。

 その間に工場長は手際よく手元にあるタブレットを提督に差し出します。

 

 「ところでこのレシピなんだが、資材を多く入れたら入れるだけ何か変化があるのか?」

 

 提督は前回の事を思い出しながらタブレットを受け取るも、少しばかり頭を捻り、手元の資材の量などなど確認しています。

 

 「運といいますかなんといいますか。これは一種の儀式、言わば降霊術みたいなもので、艦の記憶や、そこに宿る魂をボクらの技術で融合させて新しいかんむすさんを生み出す、みたいなものなので、どれだけ投入すればこれが出てくる・・というのはありません。」

 

 「なるほど・・ならばこれから模索しなければならない訳か・・」

 

 「とはいえ、海軍の大本営さんと以前から準備をしていましたからね。

とりあえずこれだけ投入するとこういうのが作れるかも~みたいなものはあります。

信憑性は無いですが」

 

 なんとなく何が言いたいのかわかってきた提督、それは前話を参照するとわかるかもしれません、恐らくですが。

 

「いや、それはいい。遠慮しておくとしよう・・」

 

 提督は苦笑いを浮かべながら、とりあえずこれくらいかといった感じに数値を入力していくと、工廠に設置されてあるクレーンが動き出し、それぞれの資材がこの大型装置へと投入されていきます、そしてー

 

「お、出てきましたよ提督さん。”2:00:00”です。どうやら交信が成功したみたいです」

 

「ふ、ふむ。そうなのか・・それなら良かった」

 

 少しばかり緊張していた表情も、普段の冷静な顔に戻・・いや、普段から冷静というか、滅多な事で慌てふためいたりはしませんが、なんとなく工場長からみた感じそういう風に見えていたようです、実際のところはわかりません、提督のみぞ知るもの、です。

 

「さて、どうしましょうか?あと他にやることもありませんし、おしゃべりします?」

 

「私と話していて楽しいのか・・?」

 

 提督は苦笑いを浮かべると、周囲にいた妖精さん含めて皆がうんうんと頷いています。

 ”堅物なのがいじりがいあるです”と、一人の妖精さんが言うと、再び周囲の妖精さんが一斉に頷いていて、なんだかそれはそれで複雑な心境になる提督でした。

 

 

 



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その10 鎮守府のおやすみ その2

 こんにちは、木啄です。

 更新が遅れて申し訳ありません、少しばかり現実世界が忙しく、なかなか執筆ができなかったという現状です。


 未だ回復中というわけで、また回復しだい投稿速度を上げていきたいと思っています。
 よろしくお願いします。

 「鎮守府のおやすみ」 次のお話でラストです

今回も後半にて新しい子が出てくるそうです。
前回の時間を見たら誰が登場するのかお察しかもしれません

それでは



昼下がりの午後、提督と工場長は工廠で他愛もない会話をしています。

 

というのも、やれ武器の整備はこうしていきたいという他に、これからの艦娘の運用に関して等々、これからの鎮守府の進め方を吟味しあっている様子です。

 

「とはいえ、数をいきなり増やしすぎても、運営体制が整っていない以上、徐々に増強していく・・というのが無難なところでしょうね」

 

「あぁ、その為、今回の建造が成功すれば、海域の出撃任務等も行っていきたいと考えてはいる・・此処は”鎮守府”だからな」

 

 そう、深海棲艦によって奪われた海域を、再び人間の元へと戻す為に戦っている。

 

 表面的に穏やかな生活をしているかもしれないが、今現在、遠い海で戦っている同胞がいるということを忘れてはいけない。

 

「しかし提督さん。そんな気難しい顔をかんむすさんたちの前ではあまりしてはいけません。せっかくの休日、怖がらせてしまいますからね」

 

 さり気ない工場長の言葉に、思わず固い表情をしていた提督は面食らったかのように若干申し訳なさそうな表情をして、視線を下に向ける。

 

「・・・時々、彼女たちの期待に私は不安になることがある。」

 

「期待ですか?」

 

 あぁ、と提督は頷いて、窓から差し込まれる光をじっと見つめながら、提督はゆっくりと・・何処か言葉を模索するようなそぶりを見せながら口を開く

 

 

「あの子たちは、深海棲艦と戦う為に生まれてきた存在、彼女達は常に死と隣り合わせ、下手をすれば轟沈してしまう可能性もある。」

 

 だからこそ、提督という存在が、彼女たちを導いてやる必要性がある訳で。

 

「・・だが、私は所詮生身の人間しか扱ったことがない・・というと語弊があるかもしれないが、所謂軍人だ。幼い女の子たちと接したことなど無くてな・・」

 

 しかし侮るなかれ、艦娘はその辺の男たちよりも力を持っています。

 見た目は可憐、力は怪獣とまでは行きませんが、怪力。

 

 薔薇には棘があるものです。

 

「大丈夫ですよ。あなたなら、彼女たちは信頼してくれています。このボクが言いますから、間違いはありませんよ。」

 

 ”妖精さん”である工場長がしきりに頷くものの、提督は今一理解出来なかった。

 何故妖精さんに懐かれるから艦娘に信頼されるのだろうかというのを。

 

 

「その・・なんだ、工場長、妖精さんに懐かれる事と、艦娘に信頼されるということは・・何か関係でもあるのか?」

 

 提督が質問すると、再び工場長があの意味深なウィンクをします。

 

「そのうちわかりますよ、分からなければその都度お教えします。」

 

 ”今はそれで我慢してください、提督さん”と、工場長は楽しそうに笑う。

 

 そんな妖精さんをみて、提督は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

・・・。

 

「さーてと、鎮守府にご到着っとお。」

 

一方、買い物袋を沢山持った4人の艦娘は、食堂に一先ず買ってきた荷物を下ろして、それぞれ休憩を取り始めます、と言っても。

 

「中々に大漁でしたね!大潮、また行きたいです!」

 

「はい、そうですね大潮。このような買い物をするというのも久しぶりかもしれません」

 

「買い物・・・ね、中々レディーみたいな感じで悪くなかったわね」

 

買い物袋の中身をそれぞれ出しながら他愛もない会話を始めるというのが、彼女達の所謂休憩みたいなものです。

「そう言えば天龍さん。」

 

「ん?どうしたよ、暁。」

 

  買い物袋から野菜を取り出しながら不思議そうに首をかしげつつ、暁は尋ねてみます。

 その内容というのはー

 

「”天龍さんって料理出来るの?”」

 

 数秒の間、沈黙が空間を支配します。

 

 因みに、会話が突如途切れて、沈黙が訪れることを、人は「天使が通る」と言うようで、今現在きっと天使が彼女達の間を通り過ぎて行ったのでしょう、多分。

 

「あ・・えーと、俺?あー・・朝潮とかどうだ。」

 

 朝潮に対して無茶ぶりをする天龍、しかし、朝潮も今一といった表情を浮かべています。

 

「すみません天龍さん。私は・・その、料理の経験がとても乏しくて・・ちなみに大潮も確か・・だめでしたよね?」

 

 ”私がだめなんだから妹の大潮も恐らくダメでしょう”という発想に、大潮は一瞬

”えっ!?”となってしまいますが考えてみると実際料理と呼べるものが出来ないのも事実。

 

「はい・・大潮も出来ません・・しゅん」

 

 と、正直なんとも言えない胸のもやもやを抱きつつも返事をする大潮、しかし、姉の無茶ぶりにも正直に答えてくれるのが大潮の良さでもあり、この後こっそり大潮のところに詫びのお菓子をプレゼントする姉の朝潮でした。

 

「ま・・しゃーねえ、なんとなるだろ・・!!提督がいる訳だしよ!」

 

「そういえば司令官がいらっしゃいませんね。お部屋でしょうか?」

 

「かもしれないわねっ。お願いしてみる・・?司令官なら料理できるのよね?」

 

 暁の言葉に頷く朝潮、というのも、二人きりの時は基本調理は提督が行って・・いや、今現在もそれはあんまり変わらず、ついでに妖精さんが来てくれたので、多少楽にはなっているらしく、提督と艦娘、そして妖精さんが朝昼晩のご飯を担当している。

 

 ちなみに主に補佐してくれるのは朝潮と大潮で、基本的にお野菜を切ったり、洗ったりというサポートをしてくれていて、その二人に続いて暁もお手伝いをするようになってきているとかなんとか。

 

 暁曰く「これもレディーのたちなみ!!!」だそうです。

 

 天龍は二人の演習の教官をしている疲れからか、ご飯まで仮眠をとることがしばしば。

 起きているときは提督の料理しているところを見に遊びに来たり来なかったり・・というのが3人の間でのやりとりらしいですが。

 

 実際の所は、明日の演習や訓練内容をどうしようかといったところを考えていたり、提督の所に相談をしに行ったりしているようですが、それを朝潮、大潮、暁の3名には秘密にしていたりしています。

 

「それじゃあ行くとしますか・・!」

 

 ”おーーっ!!”と元気よく3人が返事をして、司令室の隣に設けてある私室へと足を運ぶ4名

 

 その一方で提督は、新たな艦娘が誕生する所を目の当たりにしようとしていました。

 

「提督さん、ポッドから生命反応です。そろそろ誕生します!」

 

「あ・・あぁ。」

 

 無機物な物から、新しい命が生まれるという事実に、未だ戸惑いを隠すことは出来ない。

 

 だけどもし彼女がそれを受け入れてくれるのであれば、きっと素晴らしい仲間になることに変わりはないだろうー

 

「圧力そーちかいじょー。かんむすさん、くるですー」

 

「まもなく扉がひらくです。こうじょうちょー」

 

 部下?の妖精さんたちがえっさほっさと動き回る中、工場長はまっすぐとこちらを見る。

 

「・・本来であればこの儀式も、以前大本営で行った時は、すべて失敗していました」

 

「・・失敗?」

 

 工場長はその可愛らしい表情から読み取れはしないものの、真剣に話をしているということは提督にも理解できた。

 

「何が理由だったのかも不明です。作られた物体はすべてごみの山で、かんむすさんとよべるものはありませんでした」

 

 工廠の中が騒がしくなる中だというのに、この二人の間に取り巻く空気だけは、とても静かなものでー。

 

「ですが、元帥さんがこう言っていました。あいつなら出来る。と」

 

「・・私なら・・?」

 

「はい。」

 

 工場長はゆっくりと頷き、笑顔になる。

 

 ”どうやら、その答えは本当のようだったみたいです”と、工場長は笑うとー

 

「パッチひらきまーーす」

 

 妖精さんの声と共に、あの大型の機械の扉から蒸気が吹き出しては、ゆっくりと扉が開かれていく。

 

「だからこそ、刮目しなければなりません。

 彼らでさえ成しえなかったことを、今、私たちはしているのです。」

 

 工場長の言葉と同時に、濃い蒸気の中から、その姿は現れる・・それは

黒い髪の毛、後ろで一つに纏められ、凛とした佇まいをする彼女。

 

 落ち着いたその表情、そして背中には大弓を携え、左腕には艦載らしき物を身に着け、口元は若干の笑みを浮かべながら。

 

 白い、青い海に映えるかのような雲のように白い軍服を身に着けた鎮守府のリーダーたる提督である神楽暁を、その純粋な瞳がじっと見つめる。

 

「・・艦載母艦、”鳳翔”と申します。小さな艦ではありますが・・よろしくお願いしすね」

 

ー”提督”。

 

 そう言うと、暁の時とは全く違う雰囲気の”鳳翔”は、ゆっくりと、そして礼儀正しくも

提督に頭を下げている。

 

「さ、提督さん。新しいかんむすさんにご挨拶ですよ!」

 

「む・・・うむ。分かっているとも」

 

 帽子を再びしっかりと被りなおして、今まで話したことが絶対ないであろうタイプである鳳翔という人物と会話をする為。

 

 提督の決断は迫られる。

 恥ずかしがらずに、しっかりと挨拶ができるのか・・それもできないのかをーーー

 

「私は・・暁、この鎮守府の提督をしている・・神楽暁だ、鳳翔さん」

 

「あら・・ふふっ。私も・・何となくですが・・貴方が提督なのではないかと・・無意識のうちにそう思ってしまいました。お間違いなくて良かったです、提督・・あとそれと。」

 

 鳳翔はいったん言葉を止めて、困ったような笑みを浮かべながら提督をじっと見つめる。

 

「私の事は”鳳翔”とお呼びください・・提督。私は貴方の艦ですから」

 

「む・・ううむ・・そ、そうか・・それでは・・その・・」

 

 なんてまどろっこしいんだあのヘタレ提督は、なんて言ってはいけません、これでも努力を重ね、そして日々イメージトレーニングを行い、朝潮と会話を交わして少しずつであるものの対話するコミュニケーション能力を上げています。

 

 今大切なのは羞恥心を捨てることである、そう判断した提督は、真っ直ぐ鳳翔を見つめ、気が付くと彼女の無意識にそっと掴んでー。

 

「よろしく頼む、鳳翔」

 

「あ・・・はいっ・・ふふ。頑張ります♪」

 

 どこか頬が桜色に染まる彼女を見て、”落ちたな”とつぶやく一部妖精さん。

 慌てふためく提督と、そんな提督を見て楽しそうに笑う鳳翔を遠目から見つめる工場長、そしてふと、工廠に誰かが入ってくる気配を感じ取り、誰だろうかと視線を向けると、再び工場長の口元がにんまりと笑顔になった。

 

「やーーっぱりここに居たぞー!!!」

 

「流石天龍さんですね!!司令官の事ならなんでも分かっていそうです!」

 

「あ、朝潮だって工廠にいらっしゃるのではないかと思っていました・・!」

 

「おなかすいたぁー暁はご飯が食べたいの!司令官!」

 

 4人の騒がしい声と共に、更に騒がしくなる工廠。

 

「む!?もうそんな時間なのか・・!」

 

「あらあら・・私でよければお手伝いしましょうか・・?」

 

 軽いパニックになっていた提督もハッとするように時計を見ると、もう夜になろうとしている事に気付く。

 

「そいつあ助かる・・ってうお・・!新しい艦か?」

 

「おおおー!!!凄いじゃないですか司令官!!!これはぱーっとあげあげですよー!」

 

 朝潮や暁もそこに加わり、今日はぱーっとパーティーでも開きましょうという展開になりつつある今現在。 

 

 まだまだ鎮守府のおやすみが終わることがないでしょうなぁ、と楽しそうに笑う妖精さんであったのでした。

 



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その11鎮守府のおやすみ その3

 こんばんわ、木啄です。

 お久しぶりですか?そうでもないですか?いえ、お久しぶりかもしれません。
 更新が遅れて申し訳ありません、理由は以前書かせていただいた内容と殆ど同じで、今回もなんとか時間を見つけて書いていったので、もしかすると文章に違和感がある可能性があるかもしれませんが、その都度直していけたらいいなと思っています。

さて、それでは「鎮守府のおやすみ」編?ラストです



 一人で食べる食事より、親しい人達と食べる食事が暖かいように、この鎮守府でも皆で囲んで食事をするのが何となくあたりまえになってきている今現在、新たに鳳翔さんが加わることによって、更に賑わいを見せるのかもしれない、なんて思っていたら。

 

「本当に申し訳ない・・着任した直後にこのような事をさせてしまうとは。」

 

 厨房にて、提督は手際よく包丁で白菜やネギといった野菜を切ってはボールの中へと入れていく中、鳳翔も同じように野菜の下処理を行っていて、時々提督を見ては楽しそうに笑っています。

 

「もう、提督、謝りすぎですよ・・?私は気にしておりませんし・・それに。」

 

 「皆さんのお役に立てることは嬉しい事ですよ?」と、

笑って見せる鳳翔を提督は見てー。

 

「そう言ってくれるのは助かる・・これからも何か・・いや、ううむ。」

 

「あらあら、提督ったら。」

 

 再び楽しそうに笑う鳳翔を見て、何か妙な事でも言ってしまってはいないだろうか、と不安になってしまう提督がここに一人・・そして、そんな二人を遠回しにじーっと見つめている人物が居てー。

 

「なーんかさっきから良い雰囲気じゃね?」

 

「はい!なんというか、アイーンの呼吸?でしたっけ!!そんな感じがします!!」

 

「大潮、それをいうなら阿吽ですよ。アイーンは顔が白い人がしていたような気がします」

 

「あ・・あいーん・・?」

 

 完全にスルーする天龍と、二人の会話を聞きながら一人戸惑っているちっこい・・ではなく、暁が一人、食堂から厨房に立つ二人をまじまじと見つめているわけで。

 

「司令官、なんだか楽しそうですねー?」

 

「んー?まぁいつも料理作ってんの提督一人・・じゃねえか、お前たち手伝ってるもんな」

 

 天龍が3人に尋ねると、3人は可愛らしくこくこくと頷いている。

 

「ふーん・・やっぱりあれかねえ・・おとしやかというか・・なんつーか。」

 

「私たちとはどこか違う雰囲気ですよね!鳳翔さんって!」

 

「はい、朝潮もいつか・・鳳翔さんのような立派な艦娘になりたいです」

 

「わ、私だって鳳翔さんみたいな立派なレディーになるもん!!!」

 

 まさか調理をしている最中、こちらに向ける視線の大半・・?一部?がライバル視みたいな類の視線を向けられているとは一切知らないであろう二人。

 

「・・ところであの4人は何故こっちを見ているのだ?」

 

「さぁ・・もしかするとおなかが空いてしまっているのかもしれませんよ・・?♪」

 

 となると早く彼女たちの所に”これ”を持っていかなければならない、と提督は一人

何やら意志めいた物を見せては、その表情が真剣なものへと変化していく。

 

「ていとくさんほんきもーどでありますか」

 

「んだんだ、ていとくさん本気出すとすごい」

 

「かわいいねー」

 

 そんな二人の近くで、こっちはこっちで楽しそうに妖精さんたちがわーわーと騒いだり二人を遠回しに茶化していたりと、なんとも自由気ままな事をしていたりします。

 

「ですがていとくさんせいだいなかんちがいをしているかと?」

 

「そんなざんねんなところがまたよきだなー」

 

 わいのわいの、そんな妖精さんを遠回しに見ては

 

”「一体何をはしゃいでいるのだろうか?」”なんて思っているとー。

 

「提督、出来ました。あとはしばらく火を通せば完成ですね」

 

「・・む、すまない、ありがとう。鳳翔」

 

 鳳翔の言葉と共に再び思考を此方へと戻し、目の前でぐつぐつと煮込んでいる鍋が目の前にあって、蓋の隙間からこれでもかというとほど蒸気が噴き出しています。

 

 そこから漂う良い匂いに、鳳翔はどこか嬉しそうに微笑みながらも、はっとするかのように視線を提督の方へと向けながら、少しばかり不安そうにしています、それはー。

 

「あの子達も気に入ってくれると良いのですが・・」

 

 天龍、朝潮、大潮、そして暁の事だろうかと提督は思いながら、提督は首を横に振る。

 

 一応だが、彼女たちに好き嫌いアンケート(工場長立案)を出してみた結果、基本的に嫌いな食べ物はないという結果が分かっているので、提督も食事に関しては特にこれといって問題視している所はないそうでー。

 

基本的に好き嫌いは無かったはずだし、問題は無いだろう。

と提督は腕組をしながら考えていると。

 

「なんかすっげーいい匂いするな!今更だけど俺たちもなんかすることある?」

 

「待っているのも退屈でしたので来てしまいました。司令官、鳳翔さん、何かご命令を」

 

「大潮も手伝っちゃいますよー!!!もう大半終わってるかもしれませんけど!!!」

 

「私もお手伝いするわよ?」

 

 

 話すネタが尽きてしまったのでしょう、退屈を持て余す彼女達は提督の元へと詰め寄り、なにかやることはないかと尋ねてきています。

 

「む・・?ふむ・・そうだな、それじゃあ取り皿と茶碗と箸を、各人数分頼む」

 

「了解しました!」

 

「オッケー、んじゃいくとしますか」

 

「はい!天龍さん!」

 

「あ、暁も行くわっ!」

 

 4人の楽しそうな後ろ姿を見つめつつ、こちらもこちらでまだ準備が終わったわけではない為、あと残っている工程を済まさなければ・・と、提督と鳳翔は二人で最後の下準備を始める。

 

「ですけど・・ふふっ、嬉しいです。」

 

「む・・?」

 

 大根おろしや刻みねぎなどなど、所謂(いわゆる)「薬味」という物を準備していると、鳳翔はふと、楽しそうに笑い、そんな彼女を見て提督は首をかしげて見せます。

 

「私はまだここに・・・いえ、建造・・でしたっけ?されてからまだ数時間・・ですが」

 

 視線を手元から動かすことなく、鳳翔はそのまま言葉を紡ぐ。

 

「提督や・・天龍さん、朝潮ちゃんに・・大潮ちゃん・・そして暁ちゃん。

皆さんがこうして出迎えてくださって・・私を仲間として認めてくださって・・とっても嬉しいんです」

 

 建造という特殊な技法によって生まれたからこそ、暁や鳳翔を化け物として扱われてしまう可能性だって少なからず存在する。

 

 人から艦娘へ・・ではなく、海の底に漂っていた艦の想いから、形を作り、艦娘として生まれた、しかし提督はそれを認め、仲間として出迎え、こうして今、共に料理を作っているわけで。

 

 他人から見れば、なんて奇天烈な・・と思うかもしれません。

 

 それでも提督や工場長は、それを笑うことなく、真剣に彼女たちを受け入れようとしていて、そんな鳳翔の言葉に、提督は普段より少し柔らかい口調で

 

「・・当たり前ではないか。」

 

「・・当たり前・・ですか?」

 

 あぁ、と、提督は頷き、視線を楽しそうにお手伝いをしているあの4人組へと向ける。

 

「姿形、生まれに思想・・それは人それぞれだ。それに、暁や鳳翔は私の判断で・・その、・・作られたわけだ。」

 

 提督はそのまま続けて

 

「私は誰一人として、不必要などとは思わず、それぞれがそれぞれの役割を担い、この鎮守府を支えていけるのではないだろうかと思っている・・だからこそ、天龍、朝潮、大潮、暁・・そして鳳翔。」

 

ー私は、君たちの力が私は必要なんだ。

 

 

 初めて微笑む提督の笑顔。

 

 そんな表情を見て、鳳翔の頬はたちまち桜色に変わるー。

 

「・・・そ、そうなんですねっ。ありがとうございます・・て、提督・・っ」

 

 突然慌てふためく鳳翔に、提督は再び疑問符を浮かべているとー

 

「あ・・っ、そろそろですよ、提督。」

 

 時計を見ながら鳳翔は時間を促し、それを聞いて提督はゆっくりと火を消し、やけどをしないようにミトンで鍋を持ってー

 

「よし、あとは任せる。鳳翔」

 

「はい、提督」

 

 

 大きな鍋を持った提督を見て、食堂には歓声が広がっていく。

 無邪気にも近いはしゃぎ声に、鳳翔はまた一人、くすりと笑うー。

 

「ほーしょーさんほーしょーさん」

 

 一体どうしたことでしょう?一人の妖精さんが鳳翔に近寄り、その肩にちょこんと座って声をかけているではありませんか。

 

「あら・・はい?どうしましたか・・?」

 

「ていとくさん、いいひとでおすし?」

 

 その表情から一体何を伝えようとしているのかは定かではありません、しかし、提督がとても心優しい人でしょうと伝えているのは何となく彼女にも伝わっていてー。

 

「・・えぇ。とっても」

 

「そうですかそですかーー」

 

「こりゃええねー」

 

「ぱんぱかぱーん」

 

 鳳翔の言葉に満足した妖精さんは、肩から飛び降りると再び妖精さんずの元に戻っては何やら楽しそうにおしゃべりを始めたと思ったら、今度は大潮の声が響き渡ります。

 

「鳳翔さーーん!!!はやくお鍋食べましょうーー!!!!」

 

 厨房に向けて元気よく手を振る彼女をみて、あらあら、と笑う。

 

「俺たちで先に食っちまうぜー?」

 

 どこか意地悪そうに、そしてどこか楽しそうに笑う天龍、そして

 

「天龍さん、それに大潮も!もう少し待つということをですね・・!」

 

 そんな二人を見て、呆れたように朝潮が立ち上がり、咎めているところを、暁も頷き

 

「そーよー?レディーならしっかりしなきゃ・・・!じゅるり」

 

 朝潮と同じように注意しようとしているのでしょうが・・しかし、その手にはがっちりとお箸が握られておりました。

 

「ははは・・」

 

 

 そんな4人のやり取りを見て苦笑いを浮かべる提督がそこには居て。

 

「・・さ、鳳翔。鍋をいただこうじゃないか。」

 

 まだまだ他の鎮守府に比べたら小さい鎮守府、しかし、どこの鎮守府よりも暖かい何かが此処にはある・・そんな気がしてー。

 

「はいっ・・鳳翔、直ぐに参ります・・♪」

 

 ゆっくりと彼女たちの元へと歩いていく鳳翔の後ろ姿に、寂しさなんてものはなくて、

まるで暖かい輪の中へと入っていく・・そんな風にも見えたという妖精さん達のお話。

 

 

「おい!それは俺の肉だぜ!?」

 

「ふふーん!!もらったもん勝ちですよー♪」

 

「大潮?慌てて食べなくても鍋は逃げませんから・・暁ちゃん。お野菜も食べましょう」

 

「わ、分かってるわよ!レディーだもの!」

 

「提督、お飲み物のおかわりを注ぎますね?」

 

「む、す、すまない」

 

 明日から再び普段の空気に戻ることだろう・・しかし、それでも、この温もりだけはなんとしても守っていけたら良い。

 

 楽しそうにはしゃいで・・そして嬉しそうに食事を堪能する彼女たちを見てはふと、提督はそんな風に思ったとか。

 

 

 

 

 彼女たちの賑やかな声が、静かな夜に響いていく。

 

 どこまでも、どこまでもー。

 

 



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その12 新しい風

 お久しぶりです・・木啄です、はい、本当に。

失踪はしていません、現実世界の任務が長期に渡り多忙だったのでハーメルン更新がかなり遅れてしまっています、申し訳ありません。

 更新頻度がかなり遅れてしまいますが、頑張って作品を更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。

 今回は戦闘描写一部有りですが、うまくできているかどうかといったところです。




 本日も鎮守府は平常運転、各艦娘達はそれぞれの任務を全うすべく、海域を進行します。

 

 太陽の光に海はキラキラと光り、そんな上を彼女たちは進んでいる訳で。

 

「おーしっ、お前らついてきてるかー?」

 

 天龍を旗艦として、大潮、暁、そして鳳翔の4名は、鎮守府の近域の海域に生息している

であろう敵深海棲艦の現状を把握する為、索敵を主とした任務を現在遂行しています。

 

「はい!大丈夫です!暁ちゃんも着いてきていますよー!」

 

 鳳翔の後ろを必死に付いてきている暁は、まだ足元が少しおぼつかないものの、艦隊を乱すことなく頑張っているようで。

 

「ま、任せなさいっ!!暁はやればできるんだから・・!!」

 

「あらあら、あまり無理してはいけませんからね・・?暁ちゃん」

 

 鳳翔の艦載機による空の目と共に天龍率いる艦隊による海上からの索敵なども行い、もし敵深海棲艦を発見した場合は、その場で対応できるのであれば戦闘、敵性因子の排除を行い、もしも厳しければ敵の様子を確認したのちに提督へ報告し、大本営に報告するという形になっています。

 

(つっても・・)

 

 天龍はそんな中、鳳翔へと周囲を警戒しながらも視線を移す。

 

”(暁はさておき、鳳翔の奴・・つい最近出てきたなんて言われてもわっかんねーぐらい動きがスムーズだよなぁ・・)”

 

 そう、驚くべきなのは人から艦娘になる所謂”転生組”という者と、今現在機密で行われている艦娘建造による”建造組”の戦闘能力が大差無いということ。

 

”(やっぱり艦の記憶っつー奴だから・・俺たちとは違うのかねえ)”

 

 などと言っては見るものの、それでも仲間であるという事実は変わらず、同じく昼夜共にする存在であることには違いは無く、今現在の任務もこうして共に遂行している事も真実であるということは、天龍が一番理解している。

 

 (提督が信じるって言ってるんだし・・俺が信じてやらねーとだめだよな)

 

 信じるという言葉の重み、それはつまり、貴方にこれから背中を預けると言っているようなもので、もしも蓋を開けた際に寝返る事があった場合、提督は真っ先に轟沈するであろう可能性だって否定できない。

 

 天龍は心の片隅でこれを危惧していた、それはつまりー。

 

”本当に彼女たちを信頼しても大丈夫に値する存在なのか否か”ということ。

そんなことを考えていると、後方から続いていた鳳翔が声を上げる

 

 「・・!索敵に反応有り、です。この先敵深海棲艦らしき艦影が」

 

 その刹那、天龍と大潮の雰囲気は一気に変わる。

 

 「陣形維持!!単横陣のまま戦闘海域に突入する!!!いいな!!」

 「了解!!!」

 

 

 (提督がこの海の先に居る、俺たちの初陣にミスは絶対許されねえ。)

 

 戦場で油断していい事など一つもない、たとえそれが雑魚の深海棲艦であろうと。

 

 「・・暁、怖くなっても俺たちの傍を離れんなよ・・一人になった時が終いだ」

 「へ・・平気よ・・!!暁だって・・戦うんだから・・!!」

 

 ”その意気だぜ、暁”

 

 天龍がニヤリと笑みを浮かべながら、鳳翔からの報告があった海域に突入する。

 

 「全員警戒!!!油断すんじゃねえぞ・・!!」

 「「了解!!!」」

 

 

 空高く鳳翔の飛ばした索敵機が上空を支配する、あとは俺たち海からの砲撃のみ。

 

 その数秒後、明らかに敵深海棲艦と見受けられる姿を発見、天龍は高々と叫びにも近い声を上げるーー。

 

「敵艦、見ゆ・・ッ!!!!」

 

 その刹那、天龍の艤装から赤い火花が飛び出す。

 

「良いか!!!こいつぁ訓練じゃねえ・・・!下手すれば死ぬ、いいな・!!このまま進撃する!敵をよく狙って撃ちやがれ・・!!情けなんてかけるんじゃねえぞ・・!!」

 

 腰に備え付けてある自慢の刀を抜刀、水面すれすれに刃先をこすり合わせるようにして進攻していく。

 

「頑張って・・あなた達・・」

 

 初の戦闘だというにも関わらず、鳳翔は凛とした表情のまま、矢筒から矢を一本抜き取っては、水平線の先を見据え・・構え・・矢を上空へと放つ。

 

 空を飛ぶ鶴の如く、矢は上空を飛び、その瞬間赤い炎と共に艦載機が現れる、中に乗っているのは・・妖精さんだ。

 

(へえ・・やるじゃねえか・・)

 

「暁の砲撃始めるわ・・!!見てなさい・・!!!」

 

 真っ直ぐに構えた単装砲を器用に扱い、敵深海棲艦に向けて砲弾を放つ。

 

 その真剣な表情、仲間たちを守るという強い意志にも近い何かを天龍は悟った。

 

「あの子たちを残して先にへましちゃったけど・・次はそんなことしないんだから・・!!」

 

「-暁・・」

 

 それは間違いなく、”艦の記憶”そのものなのだろうかー?

 

「鳳翔、暁に遅れを取るわけには行かねえよな・・!大潮!!!」

 

「はい!!!大潮っ!!撃ちますよー!!!!!!どーーーーーーーん!!!」

 

 敵からの砲撃を天龍の刀が弾き・・砲弾を斬り、仲間たちを守る、その瞬間を狙うようにして大潮、暁が砲撃を浴びせ、敵の進攻を防ぐように鳳翔の放つ艦載機の攻撃が深海棲艦を襲う。

 

 まだまだ粗が多い連携であることに違いはない、しかし今現状で最高の連携であろうと天龍は考える、慢心はいけない、しかしこいつらならばきっと乗り越えられる。

 

 心の中にあった一抹の不安など砲撃と共に消え、今心に有るもの・・それはー。

 

”誰一人欠ける事無く仲間と共に鎮守府に帰る事”だけだった。

 

「・・ククッ・・硝煙の匂いは最高だなぁ・・!!おい!!」

 

「天龍さん、油断してはいけませんよ」

 

「あぁ・・わぁってるって!!」

 

ー作戦を無事成功させて、俺達は帰るぞ!!!

 

 

 

・・・。

鎮守府、司令室にて。

「司令官、報告です。」

 

「続けてくれ、朝潮。」

 

 敵深海棲艦との交戦が始まる直前に飛ばした鳳翔からの連絡を最後に、10分以上の間、司令室には緊迫した雰囲気に包まれている。

 

 秘書艦である朝潮は仲間からの通信を聞きながら、その情報を素早くメモに取り、その内容を目にしたとき、一瞬何か揺らぎみたいなもの、そして・・ほっとしたような、安堵に近い表情へ変わったとき、提督は全てを察した。

 

「・・旗艦天龍による第一艦隊、軽傷。作戦は成功、今現在鎮守府に帰投中との事です。やりました、提督。」

 

「・・・あぁ。そうか・・」

 

 例え戦果としては小さいものなのかもしれない・・しかしー。

 

「朝潮、彼女たちが直ぐに戻ってきたらドックに入渠出来るよう工場長達に連絡をして貰っても構わないか」

 

「はい!直ぐに行ってきます!!」

 

 提督は朝潮の残したメモを見つめながら・・何時間もため込んでいたのかと錯覚するくらいの大きな・・安堵に近い溜息を吐きだしてはー

 

”「・・よかった。」”・・そう呟いて見せた。

 

 ・・・例え、大本営からしてみればこの戦果は小さなものなのかもしれない

しかし、しかしそれでも彼女たちは戦いのけた、敵深海棲艦との交戦を。

 

「・・さて、私も出向かなければ」

 

 彼女たちの凱旋を、そしてこの目に焼き付けておかなければならない。

 

 この鎮守府のリーダーである私が、彼女たちの安らげる場所を、人々の安住の地を守らなければならないのだから。

 

・・・。

・・・。

 

 夕方に染まる赤い海、その水平線の彼方から4人の姿が此方へとやってきている。

「大潮・・皆・・無事でよかった・・」

 

「あぁ・・そうだな、朝潮」

 

 提督の隣でじっと海を見つめる朝潮の視線の先には、こちらに元気よく手を振る大潮と、そんな大潮を見て私もやったほうがいいのかしらと迷っている暁・・そして、そんな二人を見て笑顔の鳳翔、そしてー。

 

 そんな仲間たちをまとめ上げ、無事に鎮守府へと導いた天龍の姿が、そこにはある。

 

 

 そんな二人の間を海風が通り抜ける・・それは今まで感じたどの海風よりも心地よく、これから更に輝くであろう彼女たちを祝う海からの贈り物とすら感じたー。

 

 



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その13 艦娘たちのおやすみ 【夏休み編その1】

お久しぶりです。木啄です。失踪してました、嘘ですごめんなさい。

少しばかり現実が多忙だったので、時間の間を見つけては創作に取り掛かってはいましたが、なかなか。

これからも不定期ではありますが、頑張って作品続行を頑張ります、よろしくお願いします。


海洋に囲まれた日本という島国では、夏になるとじめっとした湿度の高い空気が流れ始める。

 

 というのも、温帯湿潤気候に日本は含まれるため、どうしても夏場になると湿度の高い空気が流れてしまうのだ。

 

 これは最早仕方がなく、この鎮守府もまた、夏場のじめーーっとした湿度の高い気温に、暁提督を含めた艦娘達はすこしばかりへばってしまっていた。

 

 「大本営からの指示により、冷房設備の解禁があと1週間先延ばしとは・・ふう、暑いな」

 

 暁提督、もとい神楽暁提督は、タオルで汗を拭いつつも執務に励む。

 

 秘書鑑である朝潮も、暁提督同様に、提督の補佐を務めるものの、やはりその顔は少しばかり暑さに参ってしまっているようだった。

 

 「司令官、大丈夫ですか??飲み物をお持ちしましょうか」

 

 「・・・そうだな、私の分だけではなく、朝潮の分も持ってきなさい、倒れでもしては、大変だからな」

 

 「・・!!はいっ!わかりました!直ぐにお持ちします!!」

 

 提督と朝潮の関係・・というとなんだか勘違いを受けてしまいそうな感じではあるが、先の戦闘からまた少し打ち解ける事に成功しました、これはとても喜ばしい事です。

 

 朝潮に対しても、初対面の時と比較すれば、多少は「まぁマシになったのでは?」と言える位までは周囲から見ても進展?したようです。

 

 鳳翔や暁、天龍に大潮達も、以前と比較してもお互いの信頼関係はさらに構築され、堅い絆で結ばれている事でしょう。

 

 そんな風に提督は考えていました。

 

・・・。

 

・・・。

 

 唯一の避暑地とも呼べる楽園、兵器や艤装といった装備開発を主に行っている場所「工廠」。

 

 熱で設備が壊れでもしたら大変だ、という各鎮守府の工廠に駐在している艦娘や妖精さん等の要望によって、ここは冷房が許可され、そのため休み時間ともなると艦娘達が集まり、涼んでは任務に励むそうです。

 

 この鎮守府の工廠・・もとい、彼らでいうところの「妖精ふぁくとりー」でも、他の鎮守府と似たような状況になっています。

 

 「しっかし暑いなー・・マジで、昨年の平均気温を軽く上回る暑さだとさ・・やれやれ。」

 

 「あらあら・・、みなさんが倒れてしまわないようにしないといけませんね・・・。」

 

 転生組、建造組問わず、やはりあまりにも暑いと倒れてしまうので、注意が必要だ、と天龍は頷きます。

 

そんな2人を見て

 

 「暁はレディーだもの!暑さなんかに負けないんだから!」

 

 「大潮も!暑さに負けませんよーー!!!!」

 

 駆逐艦組も負けじと気合いを入れている、というか今はそんなことよりお前達のオーラが少し暑苦しい、、、なんて天龍は心の声でボヤきます。

 

 とにもかくにも、夏の暑さにも負けぬ、丈夫な体を持ち、彼女たちは鎮守付近海の海や、敵深海棲艦討伐に向けて、更なる気合いを引き締めていました。

 

 そんな彼女たちが気合いを引き締めている同時刻にて、司令室では

 

 「はい、えぇ・・。え・・?いやしかし・・はぁ・・」

 

 普段滅多に使われることがない電話機が鳴動したと思うと、そのお相手は案の定大本営からで、その内容を軽くメモを残しながら、提督は電話を切る。

 

 「ふーむ。」

 

 電話を終えるとともに、なにやら考え込みを始める提督をみて、朝潮は「なにがあったのでしょう?」と首を傾げて見せました。

 

 「朝潮。」

 

 「はい!司令官!」

 

 彼女の名前を呼びながら、提督はその走り書きに近いメモを朝潮に手渡し、簡単に内容を説明する。

 

 「大本営から連絡があった、この鎮守府に着任している艦娘全員にこの内容についてアンケートをとってほしい。」

 

その内容とは、朝潮は首を傾げているとー

 

 

「我々は、夏の長期休暇に出かけるぞ。」

 

 提督はそう呟いてから、口元に笑みを寄せたのでした。

 

 

 

・・・。

 

 

・・・。

 

 

 

 基本的にこの鎮守府は海軍に付属する、もちろん、日本各地、様々な海に面している部分にこういった軍の施設は存在し、長期休暇を取る際などは、ローテを組んで休んだりする事があるそうです。

 

 艦娘が属している鎮守府では、彼女たち団体行動で休暇にどこかへ行くというのが主流らしく、海軍が保有しているレジャー施設などでよく見かけたり、提督同士がはち合わせ、なんて事も。

 

 「ほらよーおまえら整列ー、点呼するぜー」

 

 「といっても大潮達5人しかいませんけどね!」

 

 

 「まぁなんだ、気分だよ気分!!」と、天龍は少し気恥ずかしそうにしながらも、全員を確認後、提督に視線を向ける。

 

 「全員、居るぜ。提督」

 

 「人数確認ご苦労、ありがとうな、天龍。」

 

 あの提督からあのような言葉が出てくるのか・・!?などいうつっこみをその場に居た妖精さん含めた艦娘達は心の中でつぶやいたりしています。

 

 「お、おう!気にすんな!・・ところでよ、長期休暇ー・・つったっけ?なんで急に?大本営の奴等だって忙しいだろうふに。俺たちだって任務ー」

 

 「その件に関しては、大本営からの指示でもある。この近海付近に駐留していた深海棲艦部隊・・といっても小隊だと思われるが、どうやら撤退、他の鎮守府の部隊に発見され、撃沈したという報告を受けている。」

 

 この近海にて、放置同然だった鎮守府が再稼働したことにより、撤退を図ろうとしたのだろう、生憎こちらの攻撃を受けて全滅したそうだが。

 

 「少なくとも、私たちの活躍により、というところのご褒美みたいなものだ。大本営からの厚意をありがたく受け取るとしようと思ってな」

 

 

 「なるほど・・そういうことでしたか・・。あの・・提督?御質問よろしいでしょうか」

 

 「鳳翔さん、何でしょう」

 

 「はい、ええとー」

 

 

 

それで、どちらに向かわれるご予定なのでしょうかー???

 

鳳翔の問いに対し

 

「それはだなー・・・。」

 

空は青く、白い雲は青い空という大海に佇む船のようだ。

 

 まだまだ暑い夏は続く、セミは鳴き、これから始まるであろう夏休みという言葉に、少なくとも彼女たちは、どこか心躍らせていたー。

 

 



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その14 艦娘たちのおやすみ 【夏休み編その2】

 お久しぶりです、木啄です。

明けましておめでとうございます。申し訳ありません、スタックしていたデータがすべて死んでしまい、やる気が死滅してしまい、モチベーション復活まで時間を要してしまいました。

相も変わらず仕事が繁忙期のため、まだまだ厳しい現状ですが、これからもなんとか続編を仕上げていきたいと思います

よろしくお願いします


木啄より


 「空調設備が整った空間って…ほんっとうにさいっこうだわ・・」

 

 「あらあら、天龍さんたら、まだバスに乗ったばかりですよ?」

 

 鎮守府を出たバスは、艦娘達一行を乗せて、照り付ける夏の日差しによって熱くなったアスファルトをものともしないように走っていきます。

 

 向かっている先は大本営が運営している大きなレジャー施設で、夏になると一般開放し、宿泊施設として、冬になると艦娘等による大規模演習といった軍事などに用いられたりする場所で、艦娘達はもちろんのこと、提督も今回初めて、というわけでー。

 

 「いやだってよぉ・・鎮守府あっついんだよ・・冷房設備の解禁が出先から戻ってきてからようやくだろ・・?もうちょっと俺たちを労わってもいいと思うんだよなぁ・・」

 

 天龍の言うことに無理はない、と提督は苦笑いを浮かべます。

 

 先の天龍の言う通り、今現在全鎮守府において、冷房設備の使用を一部制限、工廠といったごく一部の最小限にとどめるようにとの通達が来ており、その事情というのはー

 

 「電力不足だって言われてもよー、俺達だって結構節制してるよな?」

 

 「はい、司令官の執務室でさえ、明るい時間帯は電気を使っていませんし、私たちの部屋もなるべく電気をつけっぱなし・・などはしてません、そうですよね?大潮」

 

 「もちろんです!!司令官にご迷惑をおかけするわけにはいきませんからね!!暁ちゃん!」

 

 「ふぇっ?私・・?も・・もちろんよっ!暁も天龍さんも、鳳翔さんもみんな我慢してるわ!司令官に迷惑をかけるなんてレディーにあってはならないことだもの!」

 

 ふふーんと言わんばかりにどや顔している暁を見て、提督は「そうか・・」と心打たれる。

 

 「あぁいや・・皆。すまない、いつも助けられているな・・本当に」

 

 「気にすんなって提督。助け合いはお互い様だろ?俺たちだって提督に助けられてるんだしな」

 

 「はい、私も天龍さんと同意見です、司令官。」

 

 はじめはボロボロだった鎮守府も、提督が何度も大本営に掛け合っては改修工事に必要な資金等の調達を行い、他の鎮守府に劣るかもしれないけれど、それでも胸を張って「ここは鎮守府ですよー!」と言えるぐらいまで改善されたのは、提督の努力の賜物です。

 

「これからも皆には迷惑を掛けるかもしれない、よろしく頼む。」

 

 少し照れくさいような、どこか心がくすぐったいような、不思議な感覚に見舞われながら、提督を含めた鎮守府一行を乗せたバスは走っていくのでしたー。

 

 

・・・。

 

 夏の心地よい風が、サービスパーキングエリアに止まったバスを、ようこそ御出ました、と歓迎するかのように、提督を包み込み、きっと海から近いのでしょう。

 

ほんのりと鎮守府近海の海とはまた異なる磯の香りがしてくるようです。

 「近くには港町があるみたいです、司令官。」

 

 「あぁ、そうみたいだな・・朝潮。」

 

 数年前までは海に出る事さえ死にに行くような物とすら言われていた現状が、”彼女達”の活躍によって少しずつ、少しずつ改善されている現在。

 

 「また昔のように、沢山の人が海に出られるように・・朝潮、頑張ります。司令官」

 

 どこか決意めいたその強い瞳に提督はゆっくりと頷いた。

 

 「お前ひとりじゃないぞ、朝潮。」

 

 ゆっくりと、その視線の先を彼女たちに向ける。

 自販機前で楽しそうにはしゃいでいる艦娘達を見つめ、朝潮もまた、笑みを浮かべながら

 

 「・・はいっ!!」

 

 そう、頷いたのでした。

 

 



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その15 艦娘たちのおやすみ 【夏休み編その3】

 こんばんわ、こんにちは、木啄です。

 本日も私の小説を読んでいただき、ありがとうございます、本当に嬉しいです。


 
 ・・さてm
最近は色々巷を様々な出来事が騒がせています、皆さまはお元気ですか?

 
 皆様の武運長久を祈って、今回のあいさつはここまでに致しましょうか。


 まだしばらく夏休み編は続くと思います。


 よろしくおねがいします。                木啄


 海というのは子供大人問わず、自然と笑みを作り出す魔法のような物、というのは大袈裟かもしれませんが、それでもやはり、自然と幼いころの子供時代、未知の冒険をしている時のような、ドキドキやわくわくといった心が蘇るような・・そんな場所だと、提督は考えています。

 

 「うおーーーついたぜ~~・・!!!よっしゃ!チェックインしようぜ!提督!」

 

 「うふふ、お疲れさまでした天龍さん。他の皆さんも忘れ物しないようにしてくださいね」

 

 はしゃぐ天龍を横目に、しっかりと周りを確認する鳳翔のサポートに心の中で感謝の言葉を呟きながら、提督も荷物を持ってバスを降りる。

 

 「本日はここまで送ってくださりありがとうございました。」

 

 深々とバスの運転手に頭を下げると、それを見ていた艦娘達もー

 

 「「ありがとうございました!!!」」

 

 同じように、頭を下げる。

 

 「ははは、いえいえなんの。こちらこそありがとうございました。ゆっくりと楽しんでいってください」

 

 とても快活に笑う男性だ、と提督は再度頭を下げ、ゆっくりと施設の方へと体を向ける。

 

 「なぁなぁ提督、これって所謂ペンションってやつか?海軍の施設にしては小さくねえか?」

 

 「む・・?あぁ、こういった建物がこの付近に多く点在している、夏は一般にも開放しているという話だからな、子連れのファミリー向けなのかもしれないな」

 

 あぁなるほど、と天龍は頷く。

 

 見た目は木造2階建ての茶色いペンションで、内装は白い壁に木造の床に、階段で2階に上る一部が吹き抜けとなっており、降りながら下の様子を見る事ができるようになっているらしい。

 

 家具はクラシック調の高級感ある椅子や机、どれも海軍の上層部が選り好みしそうなもので、提督はなるほどな、と周囲を見回す。

 

 「客室は自由に使っていいそうだ、食事に関してはこの近くに海軍が運営しているホテルがあり、そこで食事をする事も出来るらしい、各自自由に行動していいぞ」

 

 「すっごくいいところですね~~!!!!司令官!!大潮わくわくします!!!」

 

 「司令官、早速暁たち海に行きたい!水着に着替えていいかしら!」

 

 「お!!いいねぇ、海行こうぜ!!鳳翔もどうだ!」

 

 「あ・・あらあら、それじゃあ皆で行きましょうか?提督もいかがですか?」

 

 「わ・・私もか??そうだな」

 

 それじゃあ、行くとするかーー。

 

 

 提督の言葉に、艦娘全員は「おーーっ!!」と結託したように手を上げ、早速行動が始まる。

 

・・・・。

 

「ていとくさんていとくさん、ぼくらもお手伝いするです」

 

「おまたーーおまたーー」

 

「わいのわいのーー」

 

 一体どこから湧いて出てきたのだろうか、先ほどまで全く姿を見せなかった妖精さん達が提督の頭の上や肩の上、提督が持つ荷物の上などに座って楽しそうにはしゃいでいるではありませんか。

 

「荷物に隠れていたのか?」

 

「えぇ、一応我々一般人には見えないんですが、それでも注意する事に越したことはありませんからねえ」

 

「今は・・いや、それは野暮というものか。”工場長”」

 

「それはもう、ボクらもさまーばけーしょんですよ提督さん」

 

 可愛らしい水色やピンク、黄色といった色とりどりの水着に着替えた妖精さん達は、楽しそうに海へと走り出し、一部は提督の荷物の中に入り込んで日焼け対策を講じていたりしている妖精さんも存在する。

 

「夏は楽しみませんと、提督さん」

 

「ふむ、確かに言われてみればそうかもしれんな」

 

「それではボクも失礼して」

 

 提督の手の上でぺこりと頭を下げると、ぷわぷわと空中を漂うと思っていたら、浮き輪がどこからか飛んできて、それにキャッチして海へと飛び込んでいきました。

 

 そんな妖精さんを見つめ名がら、提督はふと小さな疑問を浮かべるのであった。

 

 

「・・泳げるのか?」

 

 

 泳ぐというより、まるで海上に漂う流木のような雰囲気すら感じさせる妖精さん達の”泳ぎ”に、提督は苦笑いを浮かべながら、持ってきたパラソルを砂浜へと打ち込む作業を始める。

 

 固い地面とは異なり、砂の中にペグを打ち込み、固定させる際はスクリューペグを使う事を推奨している。

 

 しかし、垂直に差し込むと直ぐに抜けてしまうため、斜めから深く差し込むのがポイントだ。

 

 一般的なペグを用いてしまうと、直ぐに抜けてしまうため、砂地ではスクリューペグが一番便利で、雪上に用いる際も使えなくはない。

 

 そんなこんなで無事にパラソルを固定することに成功した後は、簡単にブルーシートを敷いて、あとは簡単なタオルや水筒といった手荷物を上に置いて、その場に座る。

 

「さて・・。」

 

 彼女たちは着替えに苦戦しているのかどうか不明だが、先ほどからまだ姿は見えていない。

 まさか迷子になったわけではないと思うがー。

 

「なんだかそわそわしてるー」

 

「きになるー?」

 

 パラソルの日陰でお菓子を頬張る妖精さんは、こちらをじーっと見つめています。

 

「あぁ・・。何もないといいんだが」

 

 件の施設からここまで徒歩数分と近い場所にある、その為迷うことはないだろうという提督の、神楽暁の考えだったがー。

 

「戻って様子を見にいってみるとするか・・」

 

 

 提督が立ち上がろうとしたその時。

 

「おっすー提督ーー、待たせて済まねえな!」

 

「お待たせしました、司令官!」

 

 

 彼女たちの声が聞こえ、提督はほっとしたようにその声の主の方向へと視線を向けていく。

 

 するとそこには、夏の日差しにも負ける事無く、この海を守る守護者とは思えないような、可愛らしい水着を身に着けた少女たちが立っていました。

 

「よっ!提督!」

 

 元気よく声をかける天龍は全体的に白と黒色の、如何にも天龍らしいカラーリングの水着で、その隣にちょこんと立っている朝潮は紺色のスポーツビキニと呼ばれる物を身に着けていて、とても身軽そうだ。

 

「司令官!大潮の水着どうですかーー!!」

 

 向こうから走って来ては、提督の隣で楽しそうに笑う大潮。

 

 お披露目と言わんばかりに両手をうえにあげて提督に見せつけています。

 

「あぁ、大潮らしい・・、元気の良さが此方にも伝わってくる。よく似合っているぞ」

 

 上は朝潮とお揃いなのだろう紺色の水着で、下はレディースタイプのサーフパンツ、うまい具合に自分の元気の良さといった特徴を掴んでいるなと感心する。

 

「えっへへーー!!ありがとうございます!!司令官!!!」

 

 となりで朝潮がよかったですね、と笑顔で大潮の頭を撫で、そしてまた大潮はふにゃ~と表情を和らげ、その様子を眺めているとー。

 

「司令官!暁はどうかしら!れでぃーでしょ!」

 

 黒と白のふりふりのフリルビキニタイプの暁は、その場でくるりと回って見せる。

見た目はなんとなくセーラー調のもので、やはり制服を意識したものなのだろう、暁らしいと提督は頷く。

 

「よく似合っているぞ、暁」

 

 提督が褒める、すると暁は顔を少しだけ赤くさせて俯きながら、「そ、そうよねっ!!大人の・・!レディーだもの!!」となにやら呟く暁を不思議そうに見つめつつ、提督は彼女たちを再度見回します。

 

「さて・・あとは鳳翔だけか、見当たらないようだが・・」

 

 きょろときょろと辺りを見回してみると、最後の一人である鳳翔だけが見当たらず、同じように朝潮や大潮達も「何処にいったんでしょうかー?」と見回していると、天龍が見つけたように木の陰に向かって手を振っています、どうやら見つけたようです。

 

「ん?あそこに居るぜ、おーーい、鳳翔そこでなにやってんだー?」

 

「は・・はい、ええと・・その・・」

 

 見つかってしまいましたか・・と困り眉毛で、どこか気恥ずかしそうに木陰から現れる。

 

 普段から和装に身を包んでいるからか、水着姿の鳳翔は一体どのようになるのだろう?と大潮達も思っていたらしく、少しずつその全体像が見えてくると、おおーと感嘆の声が上がる。

 

 普段から身に着けている赤色に因んで、赤色のホルターネックタイプのビキニで、やはりそのままでは恥ずかしかったのかもしれません、水着の上からパーカーを羽織り、麦藁帽子をかぶって提督の元まで歩いてきました。

 

「あらあら・・やっぱり恥ずかしいですね・・こういうものは・・・」

 

 結んだ髪の毛も解いては、少しばかり手持無沙汰なのか、サンダルで砂を蹴ったり、髪の毛を弄ったりするその姿が普段とはまた違う雰囲気を醸し出していてー。

 

「よく似合っている。鳳翔」

 

 提督の言葉に、鳳翔はぴくりと体を震わせてー

 

「・・ありがとうございます、提督」

 

 口元に手をあて、頬を紅潮させつつ、その潤んだ視線はじっと提督を見つめ、提督は少し戸惑いながらも

 

「あ・・あぁ、気にしないでくれ」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

 突如やってきた何とも言えない無言タイムに、他の艦娘達はなんだろうこれは状態。

 

そんな雰囲気を天龍が咳払いで取り払う

 

「こほん!!!提督と鳳翔の惚気はこれぐらいにしてだ!ほら海だぜ!海!!」

 

「はーーい!!大潮!いきまーーす!!」

 

「朝潮も!出ます!」

 

「朝潮も大潮も!!暁を置いてかないでよー!!まってー!!」

 

 鳳翔と提督の二人だけが取り残されてしまい、その様子を遠くから妖精さんが眺めているだけの状態。

 

「全くあいつ等も好き勝手言うものだな・・なぁ、鳳翔」

 

 惚気とはなんだ、惚気とは。

 

「は・・はいっ!!提督!!そうですね・・!!」

 

 どこか慌てふためく鳳翔に、どうしたものやら、といった感じに頬を指で掻きつつ空いている片方の手を鳳翔に差し出しました。

 

 ・・このまま一人おいていくのは何処か可哀そうだ、と提督は判断したのでしょう、その様子に鳳翔はじっと提督を見つめています。

 

「とりあえずパラソルのところまで行こうか、ここだと日が照って日焼けしてしまう」

 

「・・・はい。提督」

 

 

 提督の手をそっと握り、提督は鳳翔を連れて行くようにして歩き出します。

 

「折角の休暇だからな、我々も楽しもう、鳳翔」

 

「・・はい♪提督っ」

 

 

 そんな二人の様子を妖精さん達は眺めてはー

 

「あっまーーーい」

 

「なんですかあれ、どろあまです」

 

「ごうちんーーなむなむーー」

 

「はよけっこんしれ」

 

 そんなとんでもない発言をしているとは、提督も鳳翔も、気づかないのでした。

 

 

 

 

 



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その16 艦娘達のおやすみ【夏休み編その4】

 こんにちは、こんばんは。木啄です。

お元気ですか?まだまだ寒い日が続き、最近はテレビでもあまりよくない情報が多く流れていては、少々不安な先行きだなぁと感じる事がしばしばあります。

 これを読んでくださる皆様がご健康である事を祈って、前書きはここまでといたしましょう。

あともう少しでなつやすみ編がおわるかもしれません、もうしばらくお付き合いくださいませ


 さんさんと降り注ぐ太陽の日差しの下で、元気よく走り回る彼女達を、提督と鳳翔はパラソルの下で眺めています。

 

 あれから数時間が経過しているというのに、疲れる様子が一向に見られず、これも普段から厳しい訓練や、任務に励んでいるからなのだろうか、と提督は考えているとー。

 

「ふうーーあっちぃ~~つーかあいつら元気過ぎんだろ・・」

 

 最初にダウンしたのはなんと、遠征から出撃まで、艦隊の旗艦を務める天龍でした。

 

「お疲れさまです、天龍さん。お茶でも如何ですか?」

 

きゅぽんっ。と可愛らしい音と共に水筒の頭の部分が外れて、コップ代わりになるタイプの水筒で、トクトクトク・・・と子気味良い音と共に麦茶がコップに注がれていく。

 

「ん、さんきゅーだぜ」

 

くいっと一気飲みに近い形でお茶を口へと運んでいき、ぷはーーっと気持ちよさそうな声を上げる。

「ふぅ・・やっぱし冷たい麦茶が最高だぜ・・」

 

 その様子をみて、鳳翔はくすくすと笑いながら再び水筒を傾けてます。

 

「おかわり、しますか?」

 

「ん!貰う!」

 

 天龍は頷き、再びそのコップに麦茶が注がれる様子を提督は眺めながら、視線を駆逐艦達の居る海へと視線をゆっくりと向けてみます。

 

「どーーーん!!!あははは!お二方!どうですかー!!」

 

「わっぷ・・!!ちょっとぉ!!暁にも被弾したじゃないの!!それ!!えいっ!!くらいなさいっ!」

 

「やりましたね大潮!私も本気で行きますよ!」

 

 普段は、重たい艤装を身に着け、その手には武器を携えているであろう彼女たちが、今は何処にでもいる普通の女の子のように遊んで、笑って、はしゃいでいる。

 

「・・なぁ」

 

 突如提督が口を開き、鳳翔と天龍は提督に視線を向けます。

 

「いかがなされました?提督」

 

 鳳翔の声に、提督は「うむ・・」と少し何かを考えるような間と共にその目線を朝潮達に向けつつ

 

「いつか・・遠い未来かもしれないんだが」

 

 提督の言葉を、二人は何も言わず、その先を促す。

 

「私は、彼女達を普通の人間として、この社会に解き放ちたいと思っているんだ」

 

「・・はい、提督」

 

「おう」

 

 遠くから蝉の声が聞こえ、提督はゆっくりとその声に耳を傾けるように目を瞑る。

 

 しかし、考えているのは彼女たちの事だ。

 

 ゆっくりと、ゆっくりと、言葉を探すように、そして脳裏に浮かぶは先程の天龍や鳳翔、そして朝潮達の可愛らしい笑顔だ。

 

「それまでは、私が君たちの親のような存在になれればいいと思っているのだが・・」

 

「「・・・・。」」

 提督の言葉に、天龍と鳳翔は顔を見合わせる。

 

「妙、だろうか?」

 

 提督は真剣な眼差し二人に向けます、するとなんということでしょうかー

 

「ぷっ・・はははははは」

「ごめんなさい提督・・くすくす・・・ふふふっ」

 

 二人は突如笑い出し、提督は真面目な顔から一変して困惑の表情へと早変わり

 

「な・・なにかおかしな事を言ってしまっただろうか・・?」

 

 先ほどまで真面目な雰囲気が漂っていたパラソル一帯が、突然明るい陽気な雰囲気に変わり、二人の笑い声を聞いた駆逐艦達も、何があったのでしょうとこちらを海を泳ぎながら見ています。

 

「い・・・いや、だってよ、提督が父親っていうのは・・くくっ・・まぁいいんじゃねえの??俺は面白いと思うぜ、なぁ鳳翔」

 

「提督は時々変わったことをお考えになられますから・・私もびっくりしてしまって・・ふふふ、失礼しました・・提督、突如笑ってしまって、許してください」

 

「い・・いや、それは構わないんだが・・むう」

 

 やはり突然の事でおかしな事を言ってしまった事は自覚しているようで、その様子を見ていた妖精さん達はげらげらと笑っています。

 

「ですが・・そうですね、皆さんを守ってくださっている提督は・・確かにお父さん・・のような存在なのかもしれません」

 

「ちょっと頼りねえけどな」

 

「ていとくさんたよりないですか?」

 

「そんなことないかと!りっぱなぼくらのりーだーですたい」

 

「なむあみー」

 

 

 天龍の言葉に反応する妖精さん達に対して、鳳翔はあらあら、と笑みを浮かべていると。3人の足音が近づいている事に気が付き、視線を妖精さん達から、海へと向けるー。

 

「さっきから何を話してるの?暁も混ぜて!」

 

「大潮も楽しいお話したいです!!!」

 

「任務のご内容でしたらこの朝潮、是非お教えください!!」

 

 元気のいい駆逐艦組も集まり、提督は少しばかり困り眉毛。

 

「ていとくさんはおとうさんになるですか~」

 

「おとうさんおとうさん」

 

「おとうさんっておいしいですか?」

 

・・・最後の質問だけ妙に違うような気がする、と提督は心の中でつっこみを入れながら周囲を見回してみると、ぼちぼち人が減りつつあることに気が付く。

 

「そろそろ夕方になるだろー?飯でも食いに行こうぜ~」

 

「あぁ、もうこんな時間か・・そうだな」

 

 提督はカバンからスマートフォンを取り出しては、今現在の時間を確認しています。

 

「大潮もおなかすきましたー!!」

 

「暁はレディーだけど・・お腹はすくものね、仕方ないわ!」

 

「朝潮も同意します、司令官。」

 

「それでは提督・・?」

 

 鳳翔の声掛けに、提督も頷く。

 

「よし、それでは各自荷物を持って一旦施設に戻り、シャワー等で体を綺麗にしてから1階に集合するとしようか」

 

 

「おう!それじゃあ行くぜ!」

 

「「はーーい!!」」

 

 天龍の声掛けに、元気よく答える暁と大潮、そしてそんな二人を楽しそうに見つめる朝潮と、提督の荷物をこっそりフォローする鳳翔一行は、夕暮れ時の海を後にするのでしたー。

 

-。

 

ー。

 

 

 というわけで、海から一旦宿泊施設へと戻り、各自着替えや簡単なシャワーを済ませた後、1階の談話室で提督や妖精さん達はのんびりと彼女たちを待っていると。

「ところで提督さん」

 

「む?」

 

 机の上で熱心に何かの手記を見ていた妖精さん代表”工場長さん”は、提督の手の平に止まり、じっと提督を見つめます。

 

「このお休みが終わった後、再び建造等はお考えですか?」

 

「ん・・そうだな、確かにそれもいいかもしれない。」

 

 というのも、提督が率いる艦隊には未だ人材不足・・というよりかは艦娘不足、という言葉がいいかもしれませんが、圧倒的に戦力が足りていない現状。

 

 そのため、そろそろ建造をすべきか否か、と提督は執務の休憩中に漏らしたのを、妖精さん達が聴いていたのでしょう、それを工場長に伝えたという経緯があるそうです。

 

「なるほど・・」

 

「建造でしたらお任せください、以前より多少グレードも上がりましたし、即戦力として活躍できる”艦”達も応えてくれるかもしれません」

 

 以前も説明していた建造に関することをふと思い出します。

 

 それは以前、工廠・・もとい妖精ふぁくとりーで言っていた工場長さんの言葉ー。

 

 

 

”「そうですねぇ・・艦の記憶とでも言いますか、残留する思念といいますか。そういった形ある思いが結晶化されたものをもとに戻す・・というのが近いのかもしれません。だから私たちも、どんなかんむすさんが出てくるのかわからないんです」”

 

 

 というもの。

 

「とりあえずこの休暇が終わった後稼働させてみよう、その時は頼む、工場長」

 

「任せてください、ぼくたち妖精さんの力でなんとかしてみせます」

 

「あいあいさーー」

 

「まっかせてよーーていとくさーーん」

 

 机の上でくるくるくるくる、提督にお願いされたのが余程嬉しかったのか定かではありませんが、何故か喜びの舞?をしているのは見受けられます。

 

 

 

 

「お待たせしました司令官!」

 

 一番最初に降りてきたのは朝潮で、提督を見つけた瞬間に敬礼を行い、提督はすこしだけ考え込むようにしてから頷いてから

 

 

「私たちはオフなのだから、そんなに固くならなくても大丈夫だぞ?朝潮」

 

 提督の予想外の言葉に、朝潮は一瞬びっくりするように目を丸くさせながら、慌てて口を開きます。

 

「で、ですが司令官。朝潮は艦娘で、司令官は上官で・・えっと・・」

 

「つまるところ、俺みたいになればいいんじゃねえの?肩の力抜けってな、待たせたな提督」

 

 吹き抜けから声が聞こえ、降りてきたのは天龍、そのあとに続いて鳳翔と暁、

そして大潮の残り全員が下りてきています。

 

「天龍さんは抜けすぎなのよっ!」

 

「あらあら」

 

 暁の突っ込みに、天龍は「へいへい」と軽く流しながら提督の隣に座り、ぞんざいな扱いをされた暁は

なによなによー!!!と”ぷんすか!”状態です。

 

「ほらほら暁ちゃん、可愛らしいお顔が台無しですよ・・?」

 

「だって・・!天龍さんが暁の事無視するんだもの!!」

 

「悪かったって・・ほらほら、許せよ暁~」

 

 ほっぺんつんつん、そして天龍のお顔はすこし意地悪そうににやにやしてます。

 

「も、もぉ~~!!!暁のほっぺつんつんしちゃだめなんだから~~!!!」

 

 そんな様子を見て大潮が困ったような笑みを浮かべながら提督に視線を向けつつ

 

「あらら~また始まっちゃいました~~」

 

 

 

 最早恒例行事、天龍が暁にちょっかいを出して、暁がそれに対してぷんすか!そしてそれを見て天龍は更ににやにやするという悪循環です。

 

「ほらほら、天龍もそこまでにしてやりなさい、暁もお腹が空いているのだろう?そろそろ行こうじゃないか」

 

 提督がわざとしびれを切らすように立ち上がり、二人に声をかけます。

 

「っとそうだった、へへっ!飯行こうぜ!飯!」

 

「もう!都合いいんだからー!!」

 

「暁さんも司令官と一緒にご飯しましょう、ね、大潮」

 

 流石は長女と言わんばかりに暁をそっとフォローし、そのまま大潮に声をかけることで連携を行います。

 

「はい!!行きましょう~!!アゲアゲですよ~!!!!どーん!!!」

 

「ひ、ひっぱらなくても暁はついてくんだから~!!大潮ちゃん~!!!!!」

 

 本当に賑やかですねえ、と提督の肩の上で艦娘達を見つめる工場長。

 

 その言葉を聞いて提督は口元に笑みを浮かべてー

 

「本当にいい子達だ、私が提督で申し訳ない程にな」

 

 提督の言葉に工場長は軽く首をふるふる横に振って、ちょこんと可愛らしく立ち上がります

 

「何を仰いますか提督さん。」

 

「うん・・?」

 

「提督さんだから彼女たちは着いて行っているんじゃありませんか」

 

 これもあなたの人徳ですよ、提督さん。

 

 妖精さん、もとい工場長はにこーっと可愛らしく笑い、再び提督の肩に座る。

 

(やれやれ・・)

 

 こういう時、彼女達ならばどのように反応するんだろうかー。

 

 

 

 夏の夜に浮かぶ月が、提督達を優しく照らし、その先を示す航路はとても静かな道、けれどもそれはとても暖かい道で。

 

 提督もまた、彼女たちのぬくもりに触れて、その心は次第に彼女たちの色に染まっていくのでした

 

 

 

 

 



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その17 艦娘達のおやすみ【夏休み編その5】

こんにちは、こんばんは。木啄です

さて、ゆっくりなペースではありますが、更新です。

今回で夏休み編は終了です。

次回からはまた鎮守府辺りの物語に戻ります


あと実はこっそり前作の主人公の名前を入れました、機会があればこちらの話にも織り交ぜていけたらいいなと思います


よろしくおねがいします


「それでは、こちらでお待ちください」

 

 施設の職員によって案内された部屋に入ると、そこは10人程度がくつろげるであろう広々とした和室で、高級料亭などによくある大きな四角い机と、おいしそうな料理が置かれています。

 

 窓に視線を向けると、そこには海が映っており、昼は綺麗な青い海が、夜は夜でまたどこか神秘的な雰囲気を醸し出しています。

 

「ひえ~・・・すっげえなぁ・・流石大本営の運営する施設っつーか・・」

 

「暁どこに座ればいいのかしら?」

 

各々中に入ると驚きの声をあげながらも、きょろきょろと、初めてこういった場所に来たのかもしれません、

慣れない様子であちらこちらと見回しています。

 

「どこでも構わないぞ、座布団は人数分置かれているようだしな」

 

 恐らく向こうでこちらの人数を事前に把握していたのかもしれないな、と考えつつ、提督もまた、端の方に座ろうとしたときだった。

「おおっと、俺たちの大将が隅っこに座るってどういうことだよ、堂々と真ん中座れよ!真ん中!」

 

 となりから突然提督の腕をつかんだ天龍が、半ば強引に席の真中へと座らせ、その様子を見てほかの人たちはうんうんと頷いています。

 

「司令官が隅っこじゃあ暁司令官の隣にすわ・・すわ・・えっと・・座ってあげてもいいのよっ!」

 

「あらあら、暁ちゃんたら、提督の横がいいんですか?困りましたね・・」

 

「大潮司令官の隣がいいです!!!」

 

「あ、あの、朝潮は秘書艦なので、司令官の横が・・(?)」

 

「もってもてだな提督よぉ~!」

 

「む・・なぜ私の横がいいのかよくわからないが・・ううむ」

 

 てんやわんやの提督を見ながらけらけらと笑う妖精さん達を、工場長がぺしっと頭をたたいていたりしているそんな和やかな雰囲気(?)の中、突如艦娘達は真剣な眼差しで手を前に出し始める。

 

「いいかお前ら、じゃんけんだぞ。勝ち負けの残酷な世界だが、これが手っ取り早い。」

 

「はい!!!大潮頑張ります!!」

 

「え・・ええと、私も参加するんですね」

 

「もちろんよ!!みんなで勝負するんだわ!」

 

 困り眉毛の鳳翔さんですが、その表情はどこかまんざらでは無さそうで、一方の提督はというと。

 

「・・工場長、彼女たちは大丈夫だろうか。何か喧嘩でも始めなければいいんだが・・」

 

「む・・?あぁ、大丈夫でしょう、しかし提督さんはもてますねえ」

 

「もて・・・?」

 

 一体何を言っているんだろうか、といった表情に。

 

「・・・はぁ~~~」

 

 

 わざと、お前それわざとだろうと言わんばかりにおおきな溜息を、とても大きなため息をしながら。

 

「うわぁ~提督さんどんかんですねえ」

 

「ていとくさんはどんかんさん」

 

「ていとくはうどんさん」

 

 そして続けざまに周囲の妖精さんからの理不尽な言葉攻め、というか最後の妖精さんのそれは絶対関係ないでしょうという提督の心の呟き。

 

「まぁとりあえずですよ。ほら、じゃんけんの勝敗が着いたようです。」

 

「ん・・?」

 

 

 そういえばじゃんけんの勝敗はどうなったんだろうか、ふと思い視線を彼女たちに向けるとー。

 

「あ・・あらあら・・私が勝ってしまいました」

 

「俺が勝ったか、まぁ勝負は勝負!これも日ごろの行いってやつだな!」

 

(鳳翔さんに関していえばわかりますけど・・・)

 

「それじゃあ失礼するぜ~♪」

 

「ん?天龍か。」

 

 (((日ごろの行いに関していえば一番ひどいのは天龍さんだと思いますけど)))

 

 

 なんだか納得がいかないといった感じの天龍に対する駆逐艦ずの視線でした。

 

・・・。

 

 てっきり京懐石かなにかと思っていたら、その予想を遥かに超えて。

 

「ひゃっはー!!肉だ肉!!しゃぶしゃぶだぜ!」

 

「これはまた凄い量だ・・」

 

 

 近くで野菜や飲み物などをしている施設の人間に声をかけてみると

「おかわりもございますので、お気軽にお申し付けください」

 

(艦娘は人によっては大量に食事をすると聞く・・こういう対応が当たり前ということなのか・・)

 

一番多く食べる・・というより、食べっぷりがいいのは天龍で・・。

 

「はむ・・あつっ・・ふうーー・・ふうーー・・」

 

「はむはむもぐもぐ・・ふぉれおいひいれふひれいはん!!(これおいしいです司令官!)」

 

「こら、大潮。ちゃんとお口のなかをからっぽにしてから喋らないと朝潮は怒っちゃいますよ?」

 

「そうよ!レディーはおとなしくごはんを食べる物よっ♪・・あちちちちっ!!い、いまのは違うわよ!ちょっと熱かっただけよ!」

 

「あらあら暁ちゃんも、ゆっくりでいいんですよ」

 

 鳳翔さんはゆっくりと、落ち着いた様子でお肉や野菜を口に運び、少しだけ頬を緩ませながらおいしそうに食べています。

 

「・・・あ・・・えっと・・提督?なにか私の顔に着いていますか・・?」

 

「あぁいや、すまない。こうして改めて皆とそろって食事をするのもなんだか以前の食堂での出来事を思い出してな」

 

 

 それは鳳翔が仲間として加わったときの会の事で、鳳翔もまた、嬉しそうに笑みを浮かべ、そんな二人を見ながら天龍達も笑った。

 

「まっ、あれからしばらく経つし、大分俺達も馴染んできたよな」

 

「はい!大潮も皆さんと仲良くできて、とっても幸せです!!」

 

「朝潮も、大潮と同意見です」

 

「あはふひもおんなひ・・もぐもぐ・・おんなじよ!!」

 

 先ほどまでレディーといっていた口が大潮とおんなじことをしている事に気が付かないんだろうなぁ、と提督と鳳翔は苦笑いを浮かべてしまいます、とはいえー。

 

「あぁ、こうして君たちと共に同じ飯を食い、共に戦い、共に生き抜く。だがしかし、私は君たちに支えられている面が多いのは事実だ」

 

 だからこそー。

 

「だからこそ、私はもっと君たちと共に、この海を守っていけるよう役に立てる努力をしていく。こんな不甲斐無い提督だがー」

 

 

「そんなことないぜ、提督。言ってるだろ?お互い様ってな」

 

 天龍がその先を言わせないぜというばかりに口を開き

 

「えぇ、そうですよ提督。それに・・役に立つ、立たないというお話ではありませんよ提督?」

 

「私たちの司令官は、暁司令官ですからね!」

 

「はい!」

 

「そうよっ!」

 

 各々声を上げる中、再び提督は言葉を失い、そんな提督の肩にー

 

「もういいではありませんか提督さん。あなたの言葉、あなたの気持ち、彼女たちに十分伝わっています。

あとは行動で示すのみ、ですよ」

 

 彼女たちの言葉をフォローするかのように工場長が肩にちょこんと座り、うんうんと頷いています。

 

 そんな工場長の言葉にすっかり気をよくした天龍は、箸で器用に火を通した肉をつまんでー

 

「へへっ!そういうこった!・・・っと、ほらほら食おうぜ!!俺があーんしてやろうか~?」

 

 天龍の言葉に朝潮と大潮がびくっと反応、そしてー

 

「!!!!大潮やりたいです!!司令官にあーんします!!」

 

「私も・・え・・ええと・・司令官に・・朝潮も・・」

 

 

「あらあらあら・・ふふふ」

 

「と、とりあえず落ち着きたまえ天龍。私は自分で食べるから問題ない・・!」

 

 慌てる提督を見て、工場長含めた妖精さんたちは再びけたけたと笑い、なんとものどかな雰囲気の夕食会が進んでいくのでした。

 

 

・・・。

 

 

 さて、そんな楽しい夕食も終わり、今現在。

 

「ふぅ~・・」

 

 提督は一人、ペンションに備え付けられている露天風呂に浸りながら、夜空を見上げて今日の出来事をゆっくりと思い出しながら目を瞑る。

 

「なんだか大変な1日だったが・・」

 

 悪くない1日だった、そんな風に思える。

 

 

 海軍に入りただひたすら前だけを向いて走っていた自分が、今こうして艦娘である彼女たちを従え、鎮守府という場所の頭となり、海を守る戦いをしていること・・

 

 

 その為ならばどんな事があろうと、自らを犠牲にしても構わんとすら思っていた自分が、寧ろ彼女たちに大切にされているという事実ー。

 

 男として情けない話かもしれないが、それはそれでお互いに信頼関係を構築していると・・

 

「思っていいのだろうか・・」

 

 そんな独り言にー

 

「いいんじゃないんですかねえ」

 

 提督の近くで、工場長が答えます。

 

「!??」

 

 突然の声に驚き、はっとするようにあたりを見るとー

 

「こんばんは~提督さん、いいお湯ですねえ」

 

「やほやほー提督さーん」

 

「いいおうどんですねえ~」

 

 

 またもや現れた妖精さん達、そして最後のその妙な言い回しをする妖精さんは先程の?

 

「工場長か・・突然で驚いた」

 

「ははは、それはまたご無礼を。」

 

 ぱしゃぱしゃとお湯を叩いてみたり、つんつんとつついてみたり、色々な妖精さんがいますが、よく見ると全員水着をしっかり着用しており、そのあたりはやはりエチケットなのでしょう。

 

 案外しっかりしているものだな、と提督は驚きます。

 

「彼女たちは間違いなく、貴方の事を信頼しています。これは僕の目から見ても・・そうでしょうなぁ」

 

「ふむ・・わかるものなのか・・?」

 

 えぇそれはもう、と妖精さんはどや顔でこちらを見てきます。

 

 別にどや顔しなくてもいいんですけどね。

 

「私も彼女達とは似たような存在。なのでなんとなくわかるんですよ」

 

”あなたは信頼に足る男だ”ということを。

 

「だからこそ元帥殿も、貴方を提督として任命したのではないでしょうか」

 

「・・・そうなのだろうか」

 

 湯気が空を舞い、じっと空を見つめると、星が一つ一つキラキラと煌めき、月が世界を照らす。

何とも言えない心温まるような、そんな世界に目を向けつつ、提督は工場長の言葉に耳を傾けます。

 

「きっとそうですよ。・・そういえば提督さんと同じように、まだまだ新参者ですが、小さな鎮守府に着任した風変わりな提督さんも居ると‥名前は確かー・・」

 

「柊優月君のことか」

 

 提督はふと誰かの名前を漏らし、工場長はそれですそれですと頷いた。

 

「彼は私達妖精さんの波長がとても良いらしく、艦娘とも直ぐに仲良くなったとの噂で・・。」

 

「噂には聞いている、試験の際に会話をしていたと・・」

 

「えぇ、ずばり、彼のような素質ある人物も重要ですが、他にも重要なことがあります。」

 

「重要な事・・?」

 

 工場長の言葉に、提督は視線を工場長へと向ける。

 

「ずばりそれは・・繋がり、縁ですよ」

 

「つながり・・つまるところー」

 

 艦娘達と仲良くすること。

 

 更に砕いて表現すると、それはコミュニケーションということになります。

 

「ふむ・・彼女たちと仲良くする・・ということか・・」

 

「今の僕から見ると・・あぁようやく氷が溶けてきたのかなぁ、といった感じです。」

 

「氷・・というのは私の事か?」

 

「えぇ、貴方と、貴方の心です」

 

 その声は先程とは違い、どこか真面目な。工廠・・もとい妖精ふぁくとりーで作業をしている時と同じ声。

 

「そのまま、溶かしていってください。そして、心の花を咲かせ、もっと僕たちや、彼女たちと仲良くしてください」

 

 

ーあなたと彼女たちのつながりが強ければ強いほど、彼女たちは強くなります。

 

 工場長の言葉に、提督は目を丸くする。

 

 見た目素振りに関しましては、なんともあどけなく、そしてかわいらしさを感じますが、いまの工場長から感じ取れるものは。

 

(まるで元帥と話をさせていただいたときと同じ雰囲気だ・・)

 

「・・ふぅ~ちょっと真面目な話をし過ぎてしまいました」

 

 そんなオーラはどこへいったのやら、今はもうすっかりいつも通りの工場長で。

 

「・・本当に不思議な事ばかりだな」

 

 

 提督はどこか苦笑いを浮かべながら、視線を工場長から再び空へと向ける。

 

 

(いまは夜、そしてもう少ししたらきっと、太陽が空を照らすだろう・・)

 

 そして視線を月は静かに照らす夜の海へと向けるー。

 

(いつかこの海にも・・平穏を取り戻すその日まで)

 

 

「・・取り敢えず今は・・ゆっくりするか」

 

「えぇ、えぇ。ゆっくりしましょう」

 

 

 例え軍人といえど、人間ですからね。

 

 工場長はそう呟くと、ぷかぷかと浮きながら

 

「はあぁ~・・温泉は最高ですねえ・・」

 

 なんとも親父臭い事を言う。

 

 

 しかし提督は笑うことなく

 

「あぁ・・。そうだな」

 

 工場長の言葉に、提督も頷いたのでした。

 

「おんせんおんせんえいえいほー」

 

「いやぁ温泉さいこーですねえ」

 

「これはうどんもゆがけそうですねえ」

 

「こーら君たち、うどんをこの中に入れてはいけませんよ、普通のお湯にしましょう」

 

 

 いや突っ込むところそこなのか工場長。

 

 なんとも言えない、先ほどまでの空気はどこへやら、提督は表情を崩して、やれやれといった感じに目を瞑り、妖精さん達のはしゃぐ声と、遠いところで聞こえる潮騒に耳をすませてー。

 

その体を暖かい温泉に包むのでした。

 

・・・・。

 

 

「おっしゃああ!!!!俺の勝ちぃ!!!!」

 

「も・・むううーー!!!強すぎなのよ!!天龍さん!!!」

 

「あ~・・また大潮ババ抜きでドべさんです~~」

 

「私は3位ですね・・」

 

「あらあら、天龍さんお強いですね♪」

 

 温泉から上がって少ししてから、天龍は一体どこから持ってきたのかわからないトランプでババ抜きをはじめ、今現在ババ抜きで連勝中とのことでー。

 

「ふっ・・俺に任せりゃこれぐらい余裕のよっちゃんだぜ」

 

「うわっ!!その表現古いですよ!!天龍さん!!」

 

「にゃにおう!!!」

 

(こっちはこっちで賑やかなものだな・・)

 

 彼女たちは彼女達で先程のじゃんけん同様、勝負ごとに燃えているようで。

 

「おっ!!提督戻ってきたぜ!!!」

 

「おかえりなさい!司令官!!」

 

「おかえりなさーーーい!!司令官!!大潮待ってましたーー!!」

 

「おかえりなさい、司令官。」

 

「おかえりなさい、提督。お風呂いかがでした?」

 

「あぁ、ただいまみんな。中々いい湯だった。悪くないものだな」

 

 各々の言葉にまとめて返事をした後、提督の裾を大潮がひっぱる。

 

「司令官も大潮達とトランプで遊びましょう!!楽しいですよー!!」

 

「む・・?私も参加するのか?」

 

「それはいいわね!!暁たちと遊ぶのよ!」

 

「む・・、皆が良ければ」

 

「ふっ・・!!俺様のトランプバトルに勝てるかな!!」

 

「あ・・あらあら」

 

 

 

 そんな和気あいあいとした様子を遠くから眺める妖精さん達。

 

「・・・あの様子では、もっと早く氷は解けるかもしれませんなぁ・・提督さん」

 

 

・・・・。

 

「よし、あがりだ」

 

「なっ・・嘘だろ・・」

 

「ふふふー!!大潮2番!あがりです~!!」

 

「朝潮は3番です」

 

「あら・・私もあがりました」

 

「暁もあがり!!どべは回避ね!!」

 

「お・・おいっ!?まじかよぉ!!??」

 

 

 先ほどまでの威勢どこへやら、天龍の手元に残った大量のトランプとジョーカー。

 

「くっっそおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

 天龍の悔しそうな声と同時に楽しそうに響き渡る笑い声。

 

「ちきしょう!!もっかいだ!!もっかい!!!」

 

その声は夜が更けた後も絶える事無く、静まり返ったのはもう少しで朝が来るであろう時間帯との事でしたー。

 

 

 

 



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その18-1 艦娘達の鎮守府運営

こんにちは、こんばんわ。
木啄です。

今回は1話にまとめるのもかなり長いと思ったので二分割にして投稿します。


皆様はしっかりと食事睡眠とっていますか?

今回はそんな提督達のお話です。


 その日、鎮守府内に天龍の声が響き渡る。

 

「ぬぁああああああああああああああんだってええええええええええええええええ!?」

 

 突然の天龍の叫び声にも近いそれに、妖精さんも思わず手に持っていたお菓子を落としてしまう程の大声です。

 

 

「おいおいおい!!提督ぶっ倒れたってまじかよ!!!」

 

「まじです、原因は過労で、大潮もびっくりしました!そして天龍さんの声にもびっくりしました!」

 

 

 

 

 食堂室にて、現在鳳翔率いるご飯作る隊(鳳翔、暁、朝潮)がご飯を作っている間、軽巡洋艦である天龍、そして朝潮型駆逐艦2番艦である大潮が提督の事に関してお話をしています。

 

「はぁ~~・・・どうせあれだろ・・?”私ばかり休んでいてはいけない(キリッ)みたいなやつだろ・・?」

 

「まさしくそれみたいです。先ほど朝潮姉がそれに関して大変おこおこの様子でした~・・宥めるの大変だったんですよ~~」

 

「ったくよぉ・・はぁ・・んで、いまの艦隊の指揮は誰がやってんだ?」

 

「とりあえず朝潮姉が今現在の総指揮権を持っています。提督から無理やり言わせたらしいです」

 

・・・。

 

「こほ・・っ・・しかし・・私が・・やらねば・・」

 

「いいですか司令官、今ここで、朝潮に全艦隊運営の指揮権を朝潮に任命すると仰って下さい」

 

「なっ・・けほ・・しかし、それは」

 

「はい?」

 

「いや・・・だからだな・・」

 

「はい??」

 

「だから・・その・・」

 

「何か仰いましたか????」

 

「いえ・・・なんでもありません・・わかった・・」

 

「はい♪」

 

(恐ろしいな・・)

 

・・・。

 

「またおっかねえことしやがるぜ・・・」

 

「どうも朝潮姉、司令官の考えてることとか手に取るようにわかるようになっちゃいまして」

 

「まぁ・・秘書艦やってればそうなる・・のかね?」

 

 ううむ・・と天龍はうなり声をあげつつ、大きく溜息を吐く。

 

「まぁ・・あれだな。とりあえず提督にはいい薬だろ」

 

「そうですねえ~~、無理は禁物。ということがわかりますね!」

 

「だな」

 

 

ーというわけで。

 

 

「本鎮守府の艦隊運営、および鎮守府近海に関する警備などの緊急会議を開こうと思います」

 

「まぁ・・そうなるな」

 

「提督が体調不良の今ですからね・・なんとかしないと」

 

「暁も全力でサポートするわよっ!任せて!」

 

「大潮も!あげあげですよー!!」

 

「気合引き締まっているとこ申し訳ないんですが・・僕がここに呼ばれた理由はなんででしょう?秘書艦」

 

 近くまでホワイトボードを持ってきて、大きく”艦娘による緊急鎮守府運営会議”と書かれたボードの前で、何故か工場長が座らされている現状。

 

「工場長はここの工廠の総責任者です。」

 

「まぁ‥確かに・・というより、妖精ふぁくとりーです」

 

「確かそのような名前でしたね、なので、ここに居る義務です」

 

「な・・なるほど・・」

 

 朝潮の普段とは違うオーラに、流石の妖精さん代表である工場長も言葉が出ないようです。

 

というのも、怒ると怖い朝潮、忠犬でありながら、最近はその鋭さに磨きがかかってきたと提督がお墨付きを出すぐらいでー。

 

 というよりそのお墨付きは一体なんのお墨付きなんだ、という工場長の突っ込みです。

 

「とりあえず、です。工場長さんには工廠の運営の大半を任せていますし、連携が極めて重要、ということです、なので、お力を借りたいと」

 

「まぁ、ふむ・・そうですね、ごもっともな意見ですね。わかりました、この工場長、皆様に役立つならひと肌脱ぎましょう」

 

「ありがとうございます、では工場長の言葉もいただけましたし、本題に移ります」

 

 まるで言質を取りました、次に行きますといった完璧な流れに、工場長は内心してやられたと思っています、はい、思っています。

 

「まずは資材のローテですね、これは主に鎮守府近海の遠征任務に関してですが、正直手が足りません、エラー猫の手も借りたいという状況です」

 

・・・ん?エラー猫?

 

「エラー猫はやべえぞ朝潮、とりあえず猫だけにしておけ」

 

「・・・それもそうですね、それでは猫の手も借りたいということで」

 

 

 いや、いまのやり取りは必要なの?という工場長の再度つっこみ。

 

「というわけで、工場長には新しい艦の作成を依頼したいのです」

 

「ま、待ってください秘書艦。流石に創造艦ともなると、提督のお力がー」

 

 新しい艦娘の生成・・つまり、艦の記憶を海底からすくい上げ、人の形にするという事。

 

その機能を備えた設備が工廠、もとい妖精さん達で言うところの妖精ふぁくとりーにあり、簡単に言ってしまえば妖精さんだけでも艦娘は作れたり作れなかったりするということになるものの・・。

 

最終的な決定権を持つのは提督であるというのは変わずというものでー

 

 

「”レシピ”を投下するだけですよね?」

 

「え・・えぇ、まぁ大雑把に言いますと・・」

 

「それは、朝潮でもできますよね?」

 

「ま・・まぁ?できると思いますし、更に言えば同じ艦娘である彼女の心に反応する艦も少なからずある可能性は高いです」

 

 朝潮型という存在の長女たる彼女の・・”朝潮”に反応する魂が存在しないとも限らない。

 

「同じ艦・・ふむ・・なるほど・・それでは後程工廠に行くとしましょう、とりあえずそうですね。

遠征は後回しにして、鎮守府近域の警備を最低限行いましょう。鎮守府内の警備は私がまとめて引き受けます。」

 

「りょーかい、んじゃぁ旗艦は俺だな。とりあえず装備編成は俺に任せろ」

 

 天龍の言葉に、朝潮は「お願いします」と軽く頭を下げる。

 

「任務開始時間は定刻も過ぎてますし、この会議が終わり次第出撃してください、何かあれば直ぐに連絡を」

 

「おう!」

 

「任せてよね!」

 

「大潮がんばりまーーす!!いつもより!!あげあげ!!ですよお!!!」

 

「皆さんのカバーができるように、私も精進しますね」

 

 各自気合の入った声を聴いて、朝潮は安心したように微笑む。

 

(流石司令官、こういう時も皆さんの士気は下がっていません)

 

 

 これもきっと、司令官が普段頑張っている賜物なのでしょう。

 

「では、緊急会議はこれにて終了します、各自行動を開始してください」

 

「「「はい!!!」」」

 

 

 

 こうして、提督が熱で倒れ、提督不在の中、艦娘達による艦娘達の鎮守府運営がスタートしたのでした

 

・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな最中

 

「ううむ・・・」

 

 

 

 

 ー果たして彼女たちはうまい事やってくれているだろうか。

 

 自分自身の体調不良等そっちのけで、彼女たちの事を心配している病人がここに一人。

 

「しかし・・」

 

 睡眠時間や食事の時間を削り鎮守府復興及び大本営から資材を工面してもらえないだろうかといった様々な工作を行っていただけでこの様とは。

 

(情けないな・・私という男は・・)

 

 過労による熱によって体が赤ランプを灯しているからかは定かではないが、視界が少しばかりぼやけたまま天井の蛍光灯をただ無言で見つめていると

 

「やぁやぁ提督さん、お身体の調子いかがですかな」

 

 突然虚空から現れ、ひょいと提督の枕元にちょこんと座り、こちらを可愛らしい顔でじーっと見つめているその正体は言わずもがな。

 

「・・工場長か。一体どうした?」

 

「はい、ちょっとした報告に参りまして・・これはお見舞いですよ」

 

 提督の枕元に置かれた茶色い小さな瓶、何やら白いラベルなどが貼られた飲み物?のような物で、ちらりとその名前を見るとー

 

 ”ようせい印のげんきの素ですが?”

 

 ・・いや、なぜ疑問形なのだろう、誰かが突っ込んだのだろうか、これはなんですか?と。

きっとその時、彼らは伝えたのでしょう

 

ーようせい印のげんきの素ですが?と・・、いや、二度もタイトルコールのように言う事もない、と提督は頭の中で一人漫才をしていることをいざ知らず。

 

「飲むと元気になります、我々からのささやかなプレゼントですよ、提督さん」

 

「・・有難くいただくとしよう・・」

 

 むくりと起き上がり、はいどうぞと言わんばかりに工場長は丁寧にキャップを外し、提督の手元へと持っていきます。

 

「あぁ、すまない・・ん・・っ」

 

 ひょいと持ち上げ、勢いよく口の中へと運びます。

 

 苦かったり甘すぎたりするのだろうかと思っていたが、自分の体調不良に合わせて調整されているのでしょう、栄養ドリンクにもにた甘さを仄かに感じるものの、苦も無く飲み干せる味でした。

 

「よし、これで一晩しっかり休めば明日には快調ですよ」

 

「あ・・あぁ、ありがとう」

 

 何だかんだ面倒見がいいのがこの工場長という存在で、何か困ったときや手持無沙汰な時にひょいと現れては提督の相手をしたりするので、案外一緒にいる時間帯は秘書艦には劣るかもしれませんが、中々といったもので

 

「こほん、ところで・・報告だったか」

 

「あぁ、そうでした。実はですね」

 

 

 

 

 

 

・・・。

 

「ふむ・・艦娘のレシピを回すという事か」

 

「えぇ、彼女・・朝潮ならば悪用はしないとは思いませんが、やはり提督さんのお耳にも入れたほうがいいと思いまして・・」

 

 ”司令官の体調が回復するまで、緊急案件以外は伝えないようにしてあげてください”という朝潮の命令を無視した工場長の行動に、提督は静かにうなずく。

 

「最終決定権は今なお提督さんが持ってますし、即刻中止となれば止める事も出来ますが・・」

 

「・・いや、そのまま続けてくれ。」

 

「わかりました、それでは引き続き稼働させておきます。」

 

「あぁそうだ、少しいいか」

 

「はい、なんでしょう?」

 

 

 先ほどの報告内容に入っていた、朝潮という艦に反応してという言葉に、提督は気になる所があったのでしょう、それはどういう意味なのだろうかと尋ねてみると、工場長はその可愛らしい顔のまま真面目なオーラを醸し出し始めます。

 

「1943年のとある海戦について、提督さんはご存じでいらっしゃいますか?」

 

「あぁ、知っている」

 

「その際に散っていった駆逐艦朝潮の記憶、そして、その朝潮が沈んでいる海底で、同じように眠っている”彼女達の繋がり”や、”朝潮型による姉妹の繋がり”が反応するかもしれないということです」

 

「ふむ・・」

 

「彼女たちはのつながりは途絶えているようで途絶えていない。その見えない線は未だ海底で燻っていて、提督さんや、彼女たちの心に反応するかのようにその線は繋がり、艦娘として生まれ変わる・・なんてこともあるんですよ」

 

 その暗き海底で眠る想いは、決して美しいものとは呼べない負の感情だって存在する。

 

 「深海棲艦と呼ばれる存在は、そんな感情から生まれた、などと噂されている事もあるほどに、想いや気持ちという力は、底知れぬパワーを秘めているのですよ、提督さん」

 

「あぁ、私もそれは信じている」

 

 だからこそ、彼女たちを信頼しているのだから。

 

 

「さて、今は提督さんが病に伏している状況で、長話をしてしまうとお身体に障りますので、僕はそろそろ」

 

 

「あぁ、わざわざすまない工場長」

 

「いえ、提督さんは早い復帰を・・と言いたいところですが、ゆっくり休むという事も覚えるべきでしょうなぁー」

 

 工場長はそう言い残すと、ふわりと宙に漂うと思えば、いつの間にか姿は消えていました。

 

 そして再び訪れた静かな空間。

 

「・・・」

 

 

 ”お互いの繋がり”かー。

 

 

 

 提督は心の中でその言葉を呟きつつ、次第に意識は薄くなり、そのまま目を瞑るのでした。

 

 

 

 

 

 

ー。

 

 

「やぁ朝潮さん、状況はいかがですか?」

 

 提督とのやりとりを終えてから、工場長は工廠へと戻り、普段提督が捜査しているタブレットを逐一チェックしながら資材等の確認をしている朝潮に声をかけます。

 

「はい、ええと・・そうですね。私が何か急いで対応するということはなさそうです。殆ど全て。・・これは司令官がスケジュールを組んでいるのでしょうか?」

 

 

「時折僕とも打ち合わせをしたりしますが、そうみたいですねえ。この鎮守府に着任した当初から、色々どうしたものか、と考えていたようですし」

 

「やっぱり・・朝潮達にも教えていただけたらお手伝いするのですが・・」

 

「まぁまぁ、その辺りは僕からお伝えしておきましょう・・それよりもレシピを回す件ですね」

 

 タブレットに表示されたレシピに関する内容についてご説明します、と工場長は朝潮の肩に座る。

 

「そこに表示されている数値をある程度選択していただいて完了を押すだけです、あとはこの機械が自動的に動きます、ポッドの内容は企業秘密ですね!」

 

「・・・なるほどです」

 

 

 海軍に企業も無いでしょうという突っ込みはしない方がいいのでしょう、と朝潮は頷きます。

 

「さて、この時間が0になったとき、このポッドから新しい艦娘さんが出てくるのですが・・正直なところ、我々にもどんな艦が出てくるのかはわからないのです」

 

「そうなのですか?」

 

「はい」

 

 工場長は手元にある資料らしきものをぺらぺらとめくりながら、ふーむと可愛い唸り声をあげます。

 

「こればかりは機械の気分と、あとはどの艦の記憶が応えてくれるのか・・なので」

 

 

「そうなのですね、わかりました・・それでは・・そうですね、時間になるま一先ず執務室で秘書艦の任務をこなしてきます」

 

「えぇ、時間が経過しましたらこちからお伝えしますので」

 

 

 工場長の言葉に、「おねがいします」と、朝潮は頭を軽く下げてそのまま工廠を後にし、

そんな彼女の後姿を見えなくなるまで見続けた後。

 

「・・さて」

 

 くるりと視線を再びポッドへと向けます。

 

「何がでるかなー」

 

「わくわくでっすねえ」

 

「ふふふのふーん」

 

 妖精ふぁくとりー(工廠)でえっさほっさと色々な妖精さん達が働く最中、工場長と妖精さんの一部は提督不在の中で稼働しているポッドをまじまじと眺めながら

 

 

「さて、今度は何がでるのやら」

 

「かっこいいのがでるといいですか?」

 

「おいしそうなお菓子もすてがたいですねえ」

 

「ふふふのふーん」

 

「お菓子も捨てがたいですが、きっと出てくるのは艦娘さんだよ」

 

「つっこまれましたぁーあいええー」

 

 ・・という、なんとも気の抜けるような会話をしている妖精さん達。

 

 そんな妖精さんの一人が、工場長に視線を向けます。

 

「こうじょーちょー、ていとくさん元気になるですか?」

 

「それぼくもきになってましたぁー」

 

「ふふふふんふーん」

 

「あぁ、それはもう、我々ようせい印の”あれ”を飲ませたので、直ぐに元気になるんじゃないかなと」

 

「おぉーーあれですかぁーー・・ところであれってなんですかあ??」

 

「それはもうあれしかないでしょう」

 

「「「”ようせい印のげんきの素ですが?”」」」

 

 

 ・・・・。

 

 

 

 

 

 さて、鎮守府内部は普段よりも少しばかり妖精さんや、艦娘達の動きが慌てふためいているところが見受けられるものの、艦隊運営に支障は出ていない様子。

 

 それは海上も似たようなもので

 

「んー・・いまのところ敵深海棲艦はゼロって感じだが・・鳳翔なんか反応あるかー?」

 

 

 索敵機を飛ばし、敵深海棲艦や不審な敵影が居ないかどうかを空からの目で監視しているものの、特に不審な点は無し。

 

「特にあの子たちからの反応もありませんね」

 

「大潮も異常なしですね~」

 

「暁も同様に異常なしねっ、私たちに恐れをなしたのかしら!」

 

「とりあえず陣形崩すなよ、油断もするなよー?」

 

「「はいっ!!」」

 

 二人の可愛らしい元気な声に、鳳翔もあらあらと笑顔になる。

 

「おっしゃ、このままポイントを回るぜ~」

 

 海上を滑るようにして4人は進んでいき、その上空を鳳翔の索敵機が飛んでいきます。

 

 聞こえる波の音も心地よい物で、このまま戦闘が起きなければいいのに、と願う4人の艦娘達。

 

「司令官はちゃんと休んでくれているでしょうかー?」

 

 大潮はすいすいと進みながら、提督の話題を出してみます。

 

「流石に司令官も朝潮のきっつーーいお説教に従うしかないと思うわ!時にはレディーの言葉に従うのも、紳士のたしなみよ!」

 

 それは紳士の嗜みなのか・・?などと天龍は考えつつ。

 

「・・っと、前回深海棲艦と戦闘した海域に入る。周囲警戒!」

 

「・・はい!」

 

「はい!」

 

「はい」

 

 それぞれ返答をしながら、辺りに不審なものが無いかどうか目を配っていきます。

 

 一般人と比較しても、艦娘の視力は非常に優秀で、海上ではその視力の良さを活かして、敵が侵入してきていないかどうかの警備が行えるというわけです。

 

 

 

 

「んー・・特に不審な点は見当たらねえなぁ・・」

 

「油断は大敵ですね、このまましばらく様子を見ましょう!」

 

「えぇ、そうねっ」

 

「索敵機の方も反応無し、このまま上空を哨戒させます」

 

 

 他の海域に比較すれば安全海域ではあるものの、それでも尚時折はぐれの深海棲艦や、こちらの勢力を視察するような動きを見せる敵深海棲艦も時折発見、戦闘が発生したりしている。

 

 実際に前回の鎮守府近海警備の際、はぐれ深海棲艦2艦と戦闘が発生、敵深海棲艦撃破、こちらの損害は特にないという結果ではあるもの。

 

(実際に戦闘は起きたし、なんたって今は提督不在だからな・・敵からすれば攻めるのにうってつけっていう状況だ・・)

 

 なるべく集中力を切らすことなく、辺りに目を光らせ。鎮守府近海のエリアを転々としていきます。

 

「大潮、暁、敵の様子はあったか?」

 

 天龍の言葉に、二人は「ありません!」と大きな声で返事をします、続けて鳳翔さんにも声をかけると

 

「いえ・・敵深海棲艦らしき敵影は無し・・といったところでしょうか」

 

「よし分かった、それじゃあそろそろ時間だ、いったん鎮守府に帰還するぜ」

 

「「「はい」」」

 

 素早い返事と共に陣形を再び組みなおし、天龍達は来た道を戻る準備をします。

 

 そらからゆっくりと鳳翔の元に戻ってくる索敵機を眺めながら

 

「まっ、平和が一番だよな」

 

 天龍はぼそりと、独り言のようにつぶやくと

 

「えぇ、そうですね」

 

 天龍の声が聞こえたのでしょう、鳳翔は頷き、無事全索敵機を戻したところで、彼女たちは鎮守府方面へと足を運び始めます。

 

 

「よっしゃあ、そんじゃあ朝潮の所に戻るぜ」

 

「「おーー!!」」

 

 二人の元気な声は響き渡り、鎮守府近海の警備、異常なし、という無線が朝潮の元に届いたのでした。

 

 

 



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その18-2 艦娘達の鎮守府運営

投稿が少し遅れました。すみません

最近はちょっと忙しいので、また投稿ペースが下がりそうですが、少しずつ書いて書いてをしているので、また失踪(?)することは無いと思います。

それでは、続きです。


朝潮に無線を送った後、数刻して天龍達は帰投。

 

「というわけで、鎮守府近海敵影は無し、今のところは安泰ってところだな」

 

 鎮守府に帰還後、デブリーフィングを行っていた軽巡洋艦の天龍と、秘書艦である朝潮型駆逐艦の朝潮二名は、司令室にてそれぞれの情報共有を行っています。

 

「取り敢えず、今現在は深海棲艦による襲撃の確率も低いと考えてもよさそうですね」

 

「あぁ、提督が現場に復帰するまでは荒事が起きないことを祈るばかりだ」

 

 二人の視線はゆっくりとはめ込み窓の外に見える青い海へと向けられます。

 

 「・・数か月前まで、この鎮守府の管理を任されていたのは私で、その後正式に司令官が着任、それから戦力強化の為に大潮や天龍さんが配属されました。」

 

 続けて、妖精さん達の力も借りて暁や鳳翔もこの鎮守府に加わり、少しずつではあるものの確実に成長しているこの鎮守府を支えているのは、あの神楽暁という人物の努力の賜物であることは、全員が知っている事でもあります。

 

「ですが、私は・・朝潮は、もっと司令官の役に立ちたいのです。」

 

 胸に手を置き、目を瞑る。

 

 瞼の裏に映るその人物は、神楽暁という男。

 

 あの背中に、いつか追い付いて、その隣を歩きたいという朝潮の密かな願い。

 

 けれどもそれは、とても険しい道のりであるということは、彼女自身がよくわかっていてー

 

「・・ま、俺もお前の気持ちはよく理解しているつもりさ。朝潮」

 

「天龍さん・・」

 

「俺だって、あの提督の背中を追っかけてるばっかじゃなくてよ、こう・・なんていえばいいんだろうな・・、俺たちは艦娘だしな、提督やほかのやつらを守るのが、俺達の任務だしな!」

 

 そう言って少し照れくさそうに笑う天龍を見て、朝潮は目を丸くさせます。

 

(・・そう、そうです)

 

-そう、司令官の隣を歩くだけではいけません。その先に立って、敵として此方に刃を向ける深海棲艦の魔の手から、司令官や港に住む人たちを守る、これが私たちの最重要任務。

 

 そして私は、誇り高き朝潮型駆逐艦の一番艦、ですがー。

 

「天龍さんは凄いです。朝潮が思いつかない事を考えたり、他にもいろいろアドバイスなどもいただいたりしますし・・戦闘も上手です」

 

「ん?別にそんな事無いぜ?俺は普段自由に行動させてもらってるし・・まぁ戦闘はなんだ、暇なときに剣振り回したりしてっから・・つうか、俺からすりゃあ朝潮の方が凄いと思うぜ」

 

「私・・ですか?」

 

「おう、こうして今も、提督の為にって頑張ってる、それは十分にすげーことだと俺は思ってる。似た者同士なのかもしれないな」

 

「え、ええと、それは一体どういうーって、天龍さん・・?」

 

 そういうと、天龍は悪戯っぽい笑みを浮かべながら、そそくさと扉を開き、こちらを手招くように

 

「ちょっくら提督の様子見に行こうぜ!お前も心配なんだろ?」

 

「で・・ですが」

 

「さっきからお前そわそわしっぱなしじゃねえか、さっきというか朝から、まるでご主人様が居なくなってそわそわしてるわんこみたいだぜ?」

 

 

 わんこ、と言われて顔を少し赤くなる朝潮がここにはいます。

「ち、ちがいますっ!!朝潮は・・その・・司令官が心配なだけです!」

 

「はははは!!冗談だよ冗談、ほらほら、もうすぐ夜になるし、おかゆでも作って持っていったら、きっと提督喜ぶんじゃねーの?」

 

 

 最初からそう言えばいいんです!!!と、朝潮の心の中は珍しく乱れています。かわいいねっ!

とまぁ、冗談はさておき、もう少しで日暮れとなり、この鎮守府に夜が訪れます。

 

 鎮守府の台所を担っているのは鳳翔さんを中心としたメンバーで、基本的に大潮がサポートをしていて、天龍は予め提督の体調も含めて、今晩はおかゆでもどうだとアドバイスをしていたりと、何だかんだ仲間想いで、そのくせ口には出さずに色々と手を回す系の艦娘だったりします。

 

「はいどうぞ♪提督によろしくお伝えください、天龍さん、朝潮ちゃん」

 

「ありがとうございます鳳翔さん。この朝潮、司令官にしっかりとお伝えします!」

 

「さんきゅーな!っと、それじゃあいこうぜ」

 

 厨房に置かれていた提督の晩御飯を朝潮は大切に持ちながら、その隣を天龍が歩きます。

 

「提督の奴、ちゃんと休んでるかねえ」

 

「はい、私が今朝方すこしきつめに・・その、言ってしまったので」

 

「なるほどな、まぁいいんじゃねーの?こういうのは言われないと理解できないもんもあるだろうしな・・っと」

 

 

 恐らく休まれているかと思います、と、どこかばつが悪そうな顔をする朝潮を横目に、天龍達は提督の私室の前で足を止める。

 

「んじゃ。入るぜ」

 

「はい、お願いします」

 

 

 軽くノックをする、中からもぞもぞと人の動く気配、そしてー。

 

ガチャリと開かれた扉の前に立っているのは、少しばかり疲れた顔をした提督が立っていました。

 

「・・朝潮?」

 

「は・・はい!その・・ごはんをお持ちしました!その、天龍さんと」

 

何故か慌てふためく朝潮を見ながら、もうひとりの姿を見ようと提督は辺りを見回してみますが。

「・・天龍は居ないようだが」

 

「・・あれ?ええと・・おかしいですね、今先程まで・・」

 

「まぁ・・なんだ、中に入るか?」

 

 どこか困ったように立ち尽くしていた朝潮を見て、何か思った提督は中へと促し、朝潮はそのまま部屋へと入り、近くの机の上に御粥を置いて、提督の方へと振り向きます。

 

「すまないな、わざわざ持ってきてくれたのか・・」

 

「いえ・・!これぐらいの事は当然です。あの・・それより司令官は今日一日、しっかりお休みになられましたか?」

 

「む・・?あぁ、まだ少し熱があるようだが・・朝に比べたら多少は良くなっているとは思う」

 

「わかりました、それではまずお食事にしましょうか」

 

 朝潮の言葉に、提督は頷き、厨房からもってきた蓮華を提督に手渡す。

 

「天龍さんが、提督はまだ重たい物は厳しいだろうと、鳳翔さんに頼んでおかゆにしてもらったんです、それなら司令官もしっかり食べられるだろうって」

 

「なんだか手間をかけさせてしまったようだな・・いただきます」

 

 普段と比べ弱々しい手つきで蓮華を手に、おかゆを口に運ぼうとする。その時

 

「・・っと・・」

 

「!!大丈夫ですか!?司令官!」

 

 蓮華の中のおかゆが少しこぼれてしまい、朝潮は急いで服に落ちたお粥を拭い、提督の手に握られた蓮華を一度手に取ります。

 

「この朝潮が、司令官のお食事をお手伝いします!」

 

「む・・いや、しかし・・」

 

「何を仰いますか、今だっておかゆこぼしちゃったじゃないですか」

 

 こんな時ぐらい、朝潮を頼ってくださいと言わんばかりに提督を見つめ、提督は困り眉毛になりつつも、頷きます

 

「・・どうですか?熱くありませんか?」

 

「あぁ、大丈夫だ。しかし・・美味いな、これは」

 

「鳳翔さん曰く、出汁をしっかりとってから作っているそうです。ご飯も食べやすいように土鍋で炊いたものを」

 

 随分と手が込んでいるのだな、これはー。と、提督が驚きつつも、朝潮が運ぶおかゆを口に運んでいきます。

 

「司令官はもっと御自分をご自愛ください、じゃないと、この朝潮、心配で夜も眠れません」

 

「あぁ、そうだな・・こうして朝潮やほかの皆にも心配をかけてしまった」

 

「暫くはお昼も朝潮と一緒に食べましょう!そしたら私達は安心します!」

 

「な・・む・・うむ。。」

 

 彼女の半ば強引な決定に、提督はやむを得ないような形で承諾し、その言葉に朝潮は大潮達には見せないような笑顔で提督の口元へと蓮華を運び、無事完食。

 

「ご馳走様でした、・・とてもおいしかった」

 

「はい、よかったです!それじゃあ食器は片づけてきますからー」

 

 朝潮はそのまま立ち上がろうとしたとき、提督はそっと朝潮の頭に手を置いて

 

「今日は一日、鎮守府の運営に関して・・よく頑張ってくれた。」

 

「司令官・・?」

 

 ありがとう、朝潮。

 

 目を細め、とても大切な存在を見るかのようなその笑みを朝潮は見てー。

 

(あ・・あれ?おかしいですね、朝潮・・どうしたのでしょうか)

 

 普段は滅多にこんなことをしない提督が、もしかしたら熱の影響もあるのかもしれません、

誰かに触れるということを、この時初めてしたのです。

 

「あ・・の・・司令官、もう少しだけ・・続けてもらっても宜しいでしょうか・・?」

 

 そんな未知の経験をしてしまった朝潮は、もっと提督を独り占めしたいという独占欲なのか、それともこの不思議な感覚をもっと感じていたいのか、定かではありません。

 

「ん・・?あぁ、いいぞ」

 

 しかしー、そんな提督の事を受け入れる彼女は、そこに居て。

 

(なんだか不思議な気持ちです。でも・・悪くありません・・なんでしょう・・これは)

 

 優しくそっと、宝物に振れるように頭の上に手を置いて、よしよしと撫でる提督と、そんな提督の愛撫に、目を閉じて嬉しそうにする朝潮の、二人だけの静かな時間。

 

 

 そんな出来事があった翌日には、すっかり提督の体調も回復し、朝潮は再び秘書艦として、鎮守府運営にいそしみます。

 

 

「熱も引いた、今日から再び私が指揮権を持つことになる。よろしく頼む、朝潮」

 

「はい!司令官。この朝潮、司令官についていきます!」

 

「・・なぁ、昨日と比較してどうだ、あの姉は」

 

「すっごいキラキラしてますね!!!かっこいいです!!朝潮姉!!」

 

「なにかいいことでもあったのかしら?」

 

「あらあら・・♪」

 

 

 いつもよりどこかキラキラしている朝潮を見て、天龍含めた他艦娘達は頭の上にはてなマークをつけたり、うふふと笑ったりしていますが、その真相は闇の中。

 

 

その答えは、朝潮だけが知る、朝潮だけの、秘密。

 

「それでは、本日の朝礼を始めましょう。司令官」

 

「あぁ、そうだな」

 

 こうして始まる提督による鎮守府運営、司令室の窓から見える海は青く煌めき、その先に見える水平線は、いつもより輝いて見えるのでした。

 

 

 

 



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その19 姉妹

暁提督が体調不良の最中に行われた艦娘の建造が完了しましたよ! と工場長からの連絡が入って、提督である私は秘書艦である朝潮に執務室で書類のダブルチェックを任せて、一人工廠…もとい”妖精ふぁくとりー”へと足を運ばせていく。

 

私、神楽暁は道を歩きながら、ふと建造について考えてみる 

 

(艦娘の建造は、記憶や思いといった思念を汲み取り、そこから妖精さんの技術によって人としての形によみがえらせるという技術)

 

例えると、この神楽暁という男に対して思念を抱いているのではなく、提督という存在に対して何か思っていた艦としての心や、その艦に搭乗していた人々の思念も含まれているのではないだろうか、ということ。

 

つまり艦娘とは、思いの結晶や思いの力。そういった不可視的な力を備えた存在という事になる。

 

(ならば、朝潮や天龍に大潮も…)

 

彼女たちの潜在的な思いに応えるように、艦娘としての力を開花させたという事になるのだろうか。

 

 

人と人との交わりに、人の抱く思いの強さにはまだまだ分からない事が沢山ある、そんなことを考えつつ、工場長の待っている工廠へ辿り着いて、中に入るや否やー

 

「きましたきました、提督さんきました」

 

「ふっかつー提督さんふっかつしたです?」

 

「やっぱりあのおくすりはききますねえ」

 

 いつもの元気な妖精さん達に出迎えられながら、奥でぷらんぷらん足を動かしのんびりしている工場長がこっちに手を振っています、もうここまで出迎えるという事もせず、あぁおかえりみたいなニュアンスなんでしょう。

 

 提督としての威厳が無いのだろうかと若干複雑な心境を抱きながら、装置の近くに歩み寄って

 

「はーいよくきてくれました提督さん!妖精ふぁくとりーへようこそ!」

 

「あぁ。今日もよろしく頼むよ、工場長」

 

 恒例行事となりつつあるこのやり取り。流石の提督も慣れてきたのでしょう、軽く会釈をするように手を動かして、装置に視線を向ける。

 

「大分我々も慣れてきましたね、提督」

 

「どうだろうな…。まだ私も半人前だ、君たちのように達観している訳ではないさ」

 

「ふふー、そうですねえ。ボクも何もかもを見通しているわけじゃあありません。この装置だってまだまだ可能性がありますし、どうやって改造していこうかまだまだ模索している段階。」

 

 なので、”ぼくたち”も提督さんとあまり実は変わらない心境だったりするんですよー。

そんな風に言う工場長の表情は、どこか凛々しさを感じて。

 

「…さて!それじゃあさっそく御開帳としますか?気になるでしょう?今回は提督さんではなく、秘書艦の朝潮が行った建造になりますからね。ぼくたちもどんな結果になるのか分からんのです」

 

あぁそうか、いつもは私自らが行っている為、どの艦娘と邂逅を果たすのかは不明だが、”提督”という存在とつながりを持つ艦娘が建造される可能性が高いという事。

 

ならば今回は?

 

「朝潮型の可能性もある。ということか?」

 

「十中八九そうだとは言い切れませんが、可能性としては高いでしょうなぁ」

 

「なるほど」

 

提督がそう言うと、妖精さん達は集まって、装置の操作を始めていくー。

 

「ロックかいじょー げんあつかいしー」

 

「ぷしゅっと蒸気解放ー空気圧正常ー」

 

「艦娘さん反応かくにん。パッチひらきまーす」

 

激しいモーターの稼働音と共に、重厚な機械の扉が開かれて、中から海水が零れるようにしてそとに流れていく。

 

「さぁ、でてきました。あなたの新しい仲間です。ていとく」

 

「…ん…んん…」

 

その制服はどこか朝潮や大潮と似たような物、髪の毛は銀色の美しい毛並みで、閉じられた瞼がゆっくりと開かれて、その瞳は真っすぐとした意思を感じられる、彼女の名前はー。

 

「…私は、霞。朝潮型駆逐艦よ。」

 

 

一体何の因果なのかは分からない、しかし彼女もまた朝潮型の一人。その面影は確かに長女と似ているものがある

 

「私は暁、神楽暁。この鎮守府の提督をしている…。よろしく頼む」

 

「あなたが司令官ね?ふぅん。…まっ、よろしく頼むわ」

 

こうして、新しい姉妹と、そして。朝潮にとっては懐かしい妹との邂逅

 

 

ー。

 

「さて、という訳でまた一人新しい仲間が来てくれたわけだ」

 

「…朝潮姉、なのよね。」

 

工廠から執務室に場所を移し、そこに艦隊メンバーを招集。

 

朝潮や大潮含めた朝潮型と、暁に天龍、そして鳳翔が居る。

 

「…はい。私です、霞。何でしょう…とても懐かしいような、そして貴女に会えて"心"がとても嬉しいって言ってる…ふふ、またこうして一緒に居られるんですから、嬉くない訳ありませんね」

 

にこっと笑みを浮かべる朝潮に、表情がどこか硬い霞が反応するように表情を和らげ、安堵の表情を浮かべながら朝潮や大潮に歩み寄る。

 

「…!…そ、そうよね。んんっ!また朝潮姉さん達と一緒に戦えるんだもの!私も嬉しいわ!」

 

「えへへ!大潮も嬉しいです…!とても、とっても嬉しいですっ!あげあげです!あげあげ!」

 

「も、もうっ、大潮姉さんたら、大げさよ…ふふっ」

 

 

 

ガンガンついてきなさい!! そういって彼女は姉妹達と懐かしくもそして新しい出会いを果たす。

 

皆がそれぞれ嬉しそうに笑っている中、どこか寂しそうな目をしている艦娘が一人だけ、そこには居たー。

 

「…?」

 

・・・・。

 

・・・・。

 

お祝いと称して簡単ではあるものの食事会を開き、皆でわいわいしている最中、少し外の空気を吸おうと外に出ると、空を眺める天龍がそこに立っていて、提督を見て軽く手を挙げると、提督は天龍の隣までやってきて。

 

「…よっ、提督。楽しんでるか?」

 

視線を空から提督に向けてそう言うと、提督もまた頷きながら返事をする。

 

「まぁな。天龍、君はどうだろうか」

 

ーぼちぼちかな。

 

そう言う天龍の表情はどこか憂いを帯びるような、楽しそうに笑っていた先と比べて、どこか儚げで寂しそうな眼をしていて。

 

「…何かあったのか。さっきもそんな目をしていたな」

 

「…別になんでもねえさ、って、見てたのかよ…。」

 

少しだけ驚くさまを見せながら、これは隠し事できねえなと苦虫をかみつぶしたような表情をしたと思うと、また視線を伏して…。

 

「ただ…なんだろうな。あいつらを見てると、俺にも妹が居るんだよなって…思ってさ」

 

 

天龍型軽巡洋艦二番艦"龍田”。おそらく天龍は彼女の事を言っているのかもしれない。

 

「野暮な質問だが…天龍も会いたいか、その…妹に。」

 

提督の質問に対して、少しの沈黙の後、んー…と声を漏らす。

 

「んー…どうなんだろうな。俺はほら、もともと人間の転生組で、人としての記憶もある。だからこう…言葉では言い表せないけどさ、やっぱり会いたいと思う。これは俺の意思でもあるし、俺の”心”の意思でもある」

 

「…そうか。」

 

人としての心、艦としての心。二つの心を持つ彼女故の気持ちの表れなのかもしれないと提督は感じた。

 

「…へへ、妙だよな。こんなこと話すの初めてなんだよ。俺、変なのかもな」

 

「…変じゃない」

 

 へへっと笑う天龍に、きっぱりと否定の言葉を放つ提督の表情はとても真剣なもので。

 

「君の心を聞く事が出来て、私はとても嬉しい。その気持ちはとても大切な物、人の思いも…艦としての思いも、とても大切な物だと思っている…、だから、だから私は…。天龍、君の”心”を心から尊重する。」

 

普段のかたぐるしい表情とは変わって、とても柔らかい笑みを見せる提督を見て、天龍は目を丸くする。

 

あぁ、こんなところにきっと他の奴等も心奪われるのかもしれないな、そんなことを考えている自分に驚いた天龍は慌てて髪の毛をかきむしるような仕草をして

 

「…あーもう!お前と話していると顔が熱くなるんだよな!!!お、俺もう戻るぜ!!」

 

「む…!?そ、そうか?わかった、また後でな。天龍」

 

「お、おう。あんまり外に居んなよな、寒いしさ」

 

そう言い残して扉の前まで駆けてい行き、開けようと取っ手に触れてから数秒の間が流れる。

そんな様子の天龍を見て、不思議に思っていると。

 

「…ありがとうな提督。俺、すごく嬉しい。これからも頑張るからさ。いつか絶対俺にも会わせてくれよ!可愛い妹にさ!!」

 

くるりと振り返り、ありったけの笑みを浮かべてから中に入っていく天龍を見てー

 

提督は一人「もちろん」と答えた。

 

 

…その後、何気なく建物の中に戻ると、先よりも明るく、元気な天龍がそこに居て。

 

そんな天龍に感化されたのだろう、他の艦娘達も嬉しそうに笑っていて…霞はまだどこか戸惑っているが。

 

しかし、そんな彼女たちを眺めながら、提督は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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