IS×A.T (u160.k@カプ厨)
しおりを挟む

Trick:01

以前投稿していたモノですが、リハビリに復活させました。


 俺が生きるこの世界には人に空を飛ぶ『翼』を与えてくれる二つの大きな力がある。

 

 一つはインフィニット・ストラトス、通称・ISと言うパワード・スーツだ。

 10年前にその姿を見せた時は宇宙開発を主眼に置いたモノだったが、最初は見向きもされなかった。

 だがISは『とある事件』をきっかけに『あらゆる兵器を超越した最強の力』として今や世界中で研究や開発が進んでいる。

 

 しかし俺のISに対する興味はかなり薄かった。その理由は三つ。

 

 まずISは女の人にしか使えない。つまり、男の俺には最初から縁がないモノなのだ。

 次に俺には姉がいるのだが、その姉はISの第一回世界大会で優勝していたりする。

 その姉からISの事について知る事を厳しく止められていたのだ。

 

 そして第三にして最大の理由。

 俺が何よりも心惹かれ、自らの意思で手を伸ばしたのが『もう一つの力』だったからだ。

 

 この世界にISより少し前に姿を現したその力の名前はA.T(エア・トレック)

 別称『自由への道具(エア・ギア)』と呼ばれるソレは特殊モーターを内蔵したインライン・スケート型のシューズで、その力は原付きくらいのスピードを軽く弾き出す程のモノだ。

 しかしA.T の最大の魅力はそのスピードではなく、あらゆるモノを『道』にして装着したヤツに『空を飛ぶ』事を実感させてくれる事。

 そんなエア・トレックを装着し、空へと到る為に爆走するヤツらを人は『暴風族(ストームライダー)』と呼んだ。

 

 ―――――――――。

 

 しかし、なんの因果か俺は先に述べた『IS』の為の人材育成機関『IS学園』にいた。

 

「……どーしてこーなった?」

 

 IS学園の制服を纏った俺の溜息は空へと消え、相棒のA.Tも当然答えてはくれない。

 

 思い起こせば数週間前、俺は高校受験の為に多目的ホールにいた。

 そこで偶然入った部屋に置かれていたISに気まぐれで触れたのが運の尽き、『世界初のISを起動させた男』として受けるつもりも無かった女の子しかいないハズのIS学園に強制的に入学決定と相成ってしまったのだ。

 

 ふと気が付けばもうすぐ自己紹介の順番が俺に回って来る。

『教師もクラスメイトも周囲は全員女の子』な状況に内心頭を抱えている場合じゃないな。

 

「では次、織斑君。織斑一夏君」

「ウッス!」

 

 副担任のちょっと幼い感じの眼鏡美人・山田真耶先生に呼ばれて席を立つ。

 ちなみに俺の席は中央列の一番前、教卓の真ん前と言う超目立つ所にあるのでさっきからクラスメイト達の視線が背中に突き刺さっている。いや、視線に質量がなくて良かった。

 

「織斑一夏15才。ISの事は何も知らないから色々迷惑かけると思うけど一年間よろしくッス!」

 

 当たり障りのない自己紹介にクラスメイト達は満足していないのだろう『もっと何か聞きたい』と目が言っている。『目は口程に物を言う』って諺は本当だったんだな……まぁ、確かに俺の言いたい事はこれからだったからいいけどネ。

 

「ちなみに趣味と特技、っつーか好きな事はA.Tで飛ぶ事ッス!」

 

 俺の趣味を聞いてちょっと驚いているらしい事がクラスメイト達の表情から窺える。

 

「え、A.Tですか!? それにそのバッジ……もしかして織斑君……」

 

 制服の衿に着けた銀バッジを見つけ、俺の言いたい事を予想したらしい山田先生。

 ついでに言うとこの銀バッジは『族章(エンブレム)』と言う俺達暴風族の、チームの誇り(プライド)であり、チームそのものだ。

 まぁ、詳しい説明はまた今度。

 

「ウス。一、暴風族(ストームライダー)ッス!」

 

 そう言い切った瞬間、頭に頭蓋骨が粉砕されたかと思う程に強烈な衝撃が落ちてきた。

 

「自己紹介くらいもう少し静かに出来んのか、この空っぽ頭(エア・ヘッド)

 

 聞き覚えのある声と脳細胞が一気に消滅しそうな無双の威力に振り向くとそこには武神がいた。

 

「お館様ァアァーッ!!!!」

「誰が甲斐の虎だ」

「ぎゃふん!!」

 

 俺の頭に再度強烈な一撃が叩き込まれた。

 しまった。『お館様』違いで桃色なパラドックスの魔王様の方が中の人的に良かったか?

 ……中の人ってなんだ?

 ちなみに俺は天覇絶槍な彼のあの熱さと爆走具合が好きだ。

 

「痛ぇ……って、なんで千冬姉がここにいんだ?」

 

 職業不詳のハズだった実姉・織斑千冬様に素直に疑問をぶつける俺。

 しかし、返って来たのは三度目の衝撃だった。

 

「織斑先生と呼べ空気頭。……さて諸君、私が君達の担任である織斑千冬だ。君達弱冠15才を16才になるまでの一年間で鍛え抜き、使い物になる操縦者に育つように指導する事が仕事だ。逆らってもいいが、私の言う事は聞け。いいな」

 

 我が姉の目茶苦茶な自己紹介にクラスメイトの女の子達は困惑どころか歓喜と供にヒートアップしている。

 

 うーむ、この娘達の将来が心配だ。

 

 ―――――――――。

 

 そんなこんなでSHRは無事終了した。

 この後、入学式の日からいきなり授業があるのも国の未来を背負うエリート達の通う進学校なのだから当然だろう。

 しかし『クラスメイトからの一撃を白刃取りで防ぐ』と言うワケの解らない状況は一体何なのだろうか。

 

「……随分面白いマネしてくれんな。どーゆーつもりか説明してくれないか、篠ノ之箒=サン?」

「それはこちらのセリフだ! 何故A.Tなどと言う不良の道具を履いている織斑一夏!」

 

 屋上に呼び出した上で竹刀でいきなり切り掛かってきたクラスメイト、篠ノ之箒は俺の幼なじみだったりする。

 コイツは幼少時に千冬姉と一緒に通っていた剣道場の師範の娘で、互いに切磋琢磨し合った仲だ。

 小四の終わりに家庭の事情で箒が引っ越してから約六年ぶりの再会なのだ。

 

「A.Tは不良の道具じゃねぇし!! ってか竹刀を丸腰相手に振り回す方が不良の所業じゃないかと思うんですけど!?」

「貴様自分の事を棚に上げて私を不良呼ばわりするか! あまつさえチームに入り臆面もなく『自分は暴風族だ』などと……何故そこまで腐った!!」

「別に腐ってないっつの!」

 

 箒がこんな風にお冠なのには理由がある。

 A.Tは壁や手摺り、鉄柵から『街』と言う名の空間全てを『道』として疾走し、自分の『走りの記憶』を『傷』にして残す。それがライダーの誇りにもなるのだが一般人からしてみればそれは『器物破損』でしかないのも事実だ。

 それ以外にライダー中にはA.Tの力を悪用する輩もいて、犯罪の増加が社会問題になっている。

 それと『暴風族』にはチーム同士の抗争、『(バトル)』と言うモノがあるのだが、その中で最悪の場合死亡事故になる事もある。

 それらを取り締まる為に『暴飛靴新法』と言う条例やそれに伴い設立された『マル風Gメン』なる警察組織まで存在する。

 A.Tのそんな負の一面しか知らない箒のような人間は先の解釈しかしない。

 

「テメェは一昔前の『バイクは不良の乗り物』とか言ってるおばあちゃんか!」

 

 箒のような意見の人間(ヤツラ)に対する個人的な解釈は俺的にそんな感じだ。

 基本的に俺や中学時代からの親友・五反田弾を含めてライダー達の多くはA.Tで『飛ぶ』事や、誰かの『(トリック)』に魅せられた感動から自分の、自分だけの『空に到る道』を極めるべく街を疾駆するヤツの方が多い。

 それにA.Tは世界的プロスポーツにもなってるし、特撮なんかにも使用されていたりもする程にシェアがあったりするのだ。

 更にA.Tは老若男女問わずユーザーがいて、日本だけでなく世界中で様々な技術応用が研究されたりもしているので一概に箒の言う『不良の道具』なんかでは決してないのだ。

 

「似たようなモノだろう! それに誰がおばあちゃんだ!!」

「全然違うわ! MAMURASAKI SPORTSとかでパーツ売ってんの見たトキとかNFAぐれー知ってんだろ!!」

 

 NFAってのは『National Foot Air-League(ナショナル フット エアリーグ)』の略で、A.Tを使ったスポーツのプロリーグ。アメフトにも似ているそのスポーツは一部では熱狂的な人気を誇り、俺自身も応援しているチームがある。

 

「知らんわ、そんなモノ! それよりも貴様のA.Tを出せ、そんな物は捨ててやる!!」

「っざけんな! 寝言は寝て言え!!」

「黙れ、空気頭(エアヘッド)!」

空っぽ頭(エアヘッド)言うな!」

 

 六年ぶりの幼なじみとの再会(ケンカ)は休み時間が終わっている事にも気付かぬ程に熱く盛り上がり、俺達の頭に千冬姉の出席簿アタックが叩き込まれるまで収まる事はなかったのだった。

 




〈キャラ紹介〉
織斑一夏
本作の主人公。小学生の頃、とあるA.T使い(ライダー)の『走り』や(トリック)に憧れてお小遣いやお年玉をはたいてA.Tを始める。
原作では朴念仁の難聴系シスコン主人公だが、本作では思考の9割がA.Tに占められているA.Tバカ。
『超獣』の二つ名を持つライダーの庇護下にいたが、今でもそのライダーとチームメイトを尊敬している。
『王』かどうかは現在不明。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Trick:02

ぶっちゃけ彼女の暴言って、束さんが聞いてたらどうなってたんでしょう?

……まぁ、愛国心? なにそれ美味しいの? な彼女はむしろ一夏君に上等かますことの方に不快感を示してイロイロやらかしそうですね^^;

聞かれてなくてよかったネ(白目)



「ちょっとよろしくて?」

 

 二時間目も無事(?)終了した後の休み時間、俺は金髪ロールのお嬢様風な外人さんに話しかけられた。

 ちなみにこのIS学園は世界中から生徒が集まる為に外人さんも多く、このクラスの生徒も約半数が外人さんだったりする。

 

 俺、日本語しか話せねーけど大丈夫か?

 

「……誰だっけ?」

 

 思い切りずっこける外人さん。入学初日の数時間しか経過してない状況で名前と顔をすぐに覚えられるヤツなんているのかね?

 だからこの人の名前を覚えてなくてもしょうがないよな?

 

「あ、貴方自己紹介を聞いてませんでしたの!?」

「ワリィ、ワリィ。で、アンタ誰? 俺とA.T談議でもしに来てくれたのか?」

「違います!」 

「なんだ、ツマンネ」

「まぁ、なんですのその態度!? この私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度と言う物があるのではないかしら?」

「……」

 

 なんか、めんどくせーのに絡まれたよコンチクショー。

 今の世の中は完全に『女尊男卑』の風潮に染まっている。理由は当然ISの存在だ。

 ISは世界最高戦力の座に君臨し、他の軍事兵器は全て鉄屑と化した。『男と女性が戦争したら男陣営は三時間で制圧される』とも言われている程にだ。

 そうなると『ISは女性にしか扱えない』と言う絶対条件が『女性=偉い』及び『女性>男』と言う等式を成り立たせ、『男=奴隷または労働力』なんて事がまかり通る世界になってしまった。

 故に街ですれ違っただけの見ず知らずの女性に男がパシらされている光景が珍しくない。 目の前のこの外人さんもそんな風潮に染まった『今時の女子』だった。

 

 正直こーゆーヤツ苦手なんだよ。

 

「私を知らない? イギリス代表候補生にして入試首席のこのセシリア・オルコットを!?」

「あー、そういやそんな名前だったな」

 

 代表候補生ってのは俺的解釈ならオリンピック候補生のIS版みたいなヤツだ。

 でもよほどの情報通でもなけりゃそんな事を知ってる方が不思議じゃね?

 箒と言い、このオルコットと言い……あれかね? 今日の俺は女難の相でも出てんのかね?

 

「で、そのエリート様が何か御用でしょうか?」

「そう、エリートなのですわ! 本来なら私のような選ばれた人間とはクラスを同じくすることだけでも奇跡……幸運なのよ。その現実をもう少し理解して頂ける?」

 

 鼻に着きそうな距離で突き付けて来るんじゃねーよ。ついでに自分に酔ってねーでさっさと用件言えよ、この金髪トルネード。

 

「大体、初日から授業に遅れたりする上にISの事を何も知らない貴方がよくこの学園に入れましたわね? ……唯一男でISを操縦できると聞いてましたから少しは知的さを感じさせるかと思っていましたけど……期待ハズレですわね」

「ハッ、こちとらISに関する知識なら小学生並しかねぇぞ。恐れ入ったかコラ」

「何を自慢気に言ってるんですか!? まぁ、私は優秀ですから貴方のような人間にも優しくしてあげますわよ?」

 

 ……コイツの態度が優しさなら俺のセカンド幼なじみは天使、いやそれすら超えて慈愛の女神だな。

 そーいや元気かな、アイツ……後で電話してみるか。

 

「ISの事で解らない事があれば、泣いて頼むなら教えて差し上げてもよくってよ? 何せ私は入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

「へぇー、入試ん時の教官になら俺も勝ったぞ?」

「は?」

 

 実際には突っ込んで来た教官を避けたら壁に激突、そのまま気絶しただけなのだが。

 

「わ、私だけ。と聞いてましたが?」

「俺だって詳しくは知らねぇよ、女子では〜とかってオチじゃねーの?」

 

 丁度その時三時間目開始の本鈴が鳴り、オルコットとの話にもオチがついた。

 

「また後で来ますわ! 逃げない事ね! よくって!?」

 

 そう叫んでオルコットは自席へと戻って行った。うん、別に来なくていいよ。

 

 ―――――――――。

 

 三時間目の授業は結構重要な事らしく千冬姉が教壇に立ち、山田先生までノートを手に持っていた。

 

「さて、授業の前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める」

 

 クラス代表。簡単に言えば学級委員長みたいなモノで、そのクラス代表が出る対抗戦とは各クラスの実力推移を測るモノらしい。

 千冬姉の説明をなんとか俺が理解した所でクラスメイトの一人が手を挙げた。

 

「はい! 織斑君を推薦します!!」

「は?」

「私もそれがいいと思います!」

「って俺かよ!?」

「他にはいないか? いないのなら無投票当選だぞ?」

 

 突然の推挙に戸惑う俺をよそに淡々と事を進める千冬姉。

 正直、俺としてはかなり微妙だ。だってメンドk……ゲフンゲフン、A.Tの練習時間が減る。

 物心ついた頃から学校、中学からはそれにバイト以外の時間はずっと仲間達とA.Tの練習に充てて来た俺としては戴けない。

 しかしIS学園(ココ)にいる以上ISの技量を高めないといけないワケだ。

 しかもクラス代表になれば実戦に事欠かないらしく、生来『身体で覚える』タイプの俺としてはかなり助かる……かもしれない。

 そんな事を考えていた俺の思考をこれまた突然甲高い声が遮った。

 

「待ってください! 納得がいきませんわ!!」

 

 机を思い切り叩いて立ち上がったのは先刻のオルコットだった。

 

「そのような選出は認められません! 男がクラス代表なんていい恥晒しですわ! 私に、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

 そこから始まるオルコットのバリゾーg……じゃなくて罵利雑言の嵐。

 人を猿、日本を島国呼ばわりしたり、文化を後進的と批判したり……とにかく言いたい放題だった。

 普通なら怒るのかもしれないが中学の頃『A.Tをやっている』と言うだけで不良扱いされ、教師達から罵倒されていた俺には蛙の面に水ってヤツだ。言いたいヤツには好き勝手言わせとけばいいのだ。

 

 だがヒートアップしたオルコットの次の一言は俺の導火線に火を着けた。

 

「大体、A.Tなんて玩具に現を抜かし、暴風族などと言う不良集団……犯罪者予備軍を堂々と名乗る輩にクラス代表など任せる事がオカシイ事が何故わかりませんの!?」

「オイ、今何つった?」

 

 ―――――――――。

 

 教室内の空気が変わった。セシリア・オルコットは確かにそれを感じ取った。

 

「今さ、なんつったのかって聞いてんだよ……答えろ」

 

 空気を変えたのは確実に自分に視線をぶつけるIS学園唯一の男子生徒。

 つい先程まで何を言ってもどこ吹く風とでも言うような態度だったその男は今や抜き放たれた刀のような雰囲気を放っている。

 一夏の隣の席の女生徒や山田教諭は既に涙目になっている。一応武道の心得がある箒でさえも背中に冷たい汗が流れる。だが、そんなモノに飲まれるセシリアではなかった。

 

「そうですが何か間違ってますの!?」

「俺をバカにすんのは別にいいさ……けどな自分だってISの経験積まなきゃいけねーのにそれを譲った上に、同じ学校のヤツラと馴染めるようにって気ぃ使ってくれたクラスメイトや、知りもしない他のライダーを罵倒したりするのがイギリスの礼儀なのか?」

「貴方私の祖国を侮辱しますの!?」

「先に人とA.Tの事侮辱したのはテメェだろ!」

「決闘ですわ!」

「上等だ!」

「いい度胸ですわね。その代わり、わざと負けたりしたら私の奴隷にしますわ!」

「ハッ、ナメんな。真剣勝負(ガチンコ)で手ぇ抜く程腐ってねぇっつの!」

 

 そんなこんなで話が着いた所を千冬が『勝負は一週間後の月曜日、第三アリーナで行う』と締めくくり、ようやく三時間目の授業が開始されるのだった。

 




〈キャラ紹介〉
篠ノ野箒
第一の幼馴染みヒロイン。剣道部の幽霊部員な侍巫女。
原作では色々伏線がありそうだけど、他のヒロインに食われt(斬首
本作ではA.Tに嫌悪感を持ち、一夏のそれを捨てさせ、更正させようとしている。

セシリア・オルコット
第二お嬢様ヒロイン。原作では一夏に男を魅せられた結果墜ちたのでチョロインと言われているが本作ではどうなるか不明。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Trick:03

ネタバレ:ヒロイン登場。


 オルコットと戦う事が決まったその後は特に何事もなく授業を終えた。

 話は変わるが俺がISを使える事は世界的ニュースになったらしく、教員から生徒まで学園関係者は全員俺の事を知っているらしい。

 朝からずっと廊下に他のクラスの生徒だけでなく、二、三年の上級生まで集まって人だかりが出来ているのはその為だろう。

 

 俺としてはできるなら『ISを使える男』としてじゃなくA.T使い(ライダー)として注目を浴びたいのが正直な話だったりするのだが……ここじゃ難しいかもしれない。

 

 そう言えば先の休み時間、オルコットに絡まれている時に思い出したセカンド幼なじみ。

 アイツは俺がA.Tを始める事を認めてくれた初めての相手だった。

 携帯を開くと待受画面に弾達A.T仲間とチームを結成した時に撮った写真が表示される。

 その中で俺と肩を組んで笑ってる二人。

 一人は親友にして悪友の五反田弾。その逆サイドにいるツインテールが印象的な少し小柄な女の子。写真の中ではない、本物のソイツの笑顔になんだか会いたくなった。

 

 アイツは小五の頃に転校して来て、中二の終わりに家庭の事情で引っ越して行った。

 確か引っ越し先は母方の実家の中国だったか?

 そこでISの適性が高かったとかでISの勉強をしてるとか言ってたっけ……。

 

「今頃何してんのかな……アイツ」

「アイツって誰の事?」

「俺の二人目の幼なじみだよ。よく一緒にA.Tで走ったりしてたヤツでさ、今は中国でISの勉強してるらしーんだ」

「……気になるの? その娘の事」

「まぁな。アイツとは大事な約束もあるし……ん?」

 

 今、俺は誰と喋ってんだ?

 微妙に聞き覚えがある声なような……。

 

「ふ、ふーん。そーなんだ……帰って来た甲斐があったかもね♪」

 

 俺の前から聞こえるその声は確かに覚えがある。

 ソイツと初めて会ってから五年間、ほぼ毎日聞いていた声だ。

 

「……鈴?」

「うん。ただいま、一夏」

 

 携帯から視線をずらした先、そこには会いたかったセカンド幼なじみ、凰鈴音(ファン・リンイン)の笑顔があった。

 

「けど……」

「へぐっ!?」

 

 鈴の声質が変化したと思いきや背後に一瞬で移動した上にチョークスリーパーホールドをキめて来た。

 笑顔なのに額に青筋が浮き上がってたのは見間違いじゃなかったか。

 

「いくら別のクラスだからって会いにすら来ないってのはどーゆー了見かしら〜!?」

「ぐほっ!? り、鈴! ……ちょ……マジ入っ……」

 

 鈴の細い腕は上手く俺の首を絞めあげ、俺は苦しさからその腕に(多分)ダメージを与えない程度の強さでタップするが絞める力は緩む兆しすら見えない。

 

「それだけならともかく何女の子に囲まれて鼻の下伸ばしてんのよ! それに誰よ、あの黒髪女!? 黙ってないでキッチリ説明しなさいよね!!」

 

 黒髪女ってのは多分箒の事だろう。しかし、俺はいつ鼻の下なんか伸ばしたんだ?

 それよりも今最も重要な事がある。鈴にはそれを伝えるのが先決だ。

 

「……鈴、話を……」

「何よ、変な言い訳で私が納得すると思わない事ね!」

「ち、違……」

「じゃあ、何よ!?」

「オマ……胸……やわっこいのが当たって……」

 

 チョークスリーパーホールドとは背後から腕で相手の首を絞める技だ。それを見たり、かけられたりされた事があるヤツなら解るだろう。

 そう、さっきから鈴の(俺好みサイズの)ポニョポニョしたのが俺の背中に当たっているのだ。

 正直スリーパーをかけられていなければずっと堪能していたい位キモチイイのだが、大分息苦しくもなって来たので断腸の思いでその事実を伝える事にした。

 

「はぁ!? そんなワケの……」

 

 最初は抜け出す為の俺の嘘と判断していた鈴はふと自分の状態を客観視しているようだ。

 そして……気付いたらしく、慌ててスリーパーを解いて離れる。ちょっと、いや……かなり残念。

 

「……っ!」

「っくはっ!……ゲホッ……ハァハァ……あー、死ぬかと思ったぞ。ちょっとは手加減しろよ、り……ん?」

 

 ようやく解放された俺の視界には片手は胸を隠すように抑え、そしてに片手の拳からは某東照権現の特殊技発動時並の波動を放っている鈴の姿。

 さっきまでの笑顔は消え、俺を射殺さん程に睨むその涙目と羞恥に赤く染まった表情は何故かそそるものがあったが今はそれ所じゃない。

 

「……一夏」

「な、なんだ?」

「遺言は言わせない。私も……聞けなかったから」

「凶王!? じゃなくって、落ち着け鈴! 言わせなきゃ遺言なんざ聞け……」

「この……変態大人(ヘンタイターレン)ッ!!」

「それキャラが違、くぎゅぅうぅぅぅうぅぅっ!?」

 

 鈴のその鉄拳は『サイクロプス・ハンマー』の異名を持つライダーのパンチを軽く越えていた気がした。

 

 ―――――――――。

 

「ほら一夏、さっさと帰るわよ!」

 

 放課後の教室で鈴から帰宅のお誘い。一年ぶりだがかなり久々な感じだ。

 

「ま、途中までだけどな」

「え、なんでよ?」

 

 不思議そうな顔で俺を見る鈴。

 

「俺は来週までは自宅からの通学なんだよ。個室も用意出来るまで一月くらいかかるらしくてな」

 

 設備とかも女子用のしかないだろうし、何より年頃の男女が一緒の部屋ってのはマズイだろう。

 

「そう言えばそうよね……でも……」

 

 なぜか急に言い淀む鈴。顔まで赤くしているが何を考え込んでるんだ?

 

「でも?」

「な、なんでもない! さっさと帰るわよ!」

「お、おう」

 

 良かった。『私は相部屋でも構わないけど』なんて言われてもどうしたらいいかわかんねーし。

 

 つーか話は変わるけど『男子三日会わざば刮目して見よ』って良く言うけど女の子も絶対そうだろ。

 あの後一緒に昼飯食ったりしたけど鈴の何気ない仕草とかに何度も目を奪われた。

 それだけじゃなくて『コイツこんなに可愛かったか?』とこの数時間で何回思った事か。

 つーか今も目ぇ奪われてるし思ってる。

 昔から鈴は可愛かったけど今はもっと……。

 

「……一夏、もう……一夏ってば!」

「っとと……ワリィ。な、なんだ?」

「なんだ? じゃないわよ、何人の顔じっと見てんのよ?」

「な、なんでもねーよ」

 

 チクショー。なんでこんな心臓がバクバク言ってんだよ、なんか顔も熱いし……ホント、ワケわかんねーっつの。

 

「あ、織斑君、まだ教室にいたんですね。良かったです」

「山田先生?」

 

 帰ろうとした所に現れた山田先生。

 先生の話ではどうやら俺は政府からの指示で今日から学生寮に入る事になったらしく、まさに寝耳に水な話だった。

 

「そーなんすか、なら荷物取りに帰らねーとな」

「それなら私が用意しておいた、有り難く思え」

「ち、千冬さん!?」

「織斑先生と呼べ」

 

 山田先生の後ろから現れた千冬姉。

 今朝もいきなり現れたけどこの姉は忍者かなんかなのか?

 ちなみに鈴も千冬姉がここの教師だと知らなかったらしく、いきなり現れた事も含めて驚いている。

 

「まぁ、着替えと携帯の充電器だけあれば十分だろう」

「ウス! あざっす!!」

「礼ぐらいちゃんと言えバカ者」

 

 普通に頭を下げて礼を言ったハズなのに千冬姉からゲンコツを頂いてしまった。何故だ?

 それに千冬姉ってばもしかしなくても俺の部屋を勝手にいじくったって事か?

 いや、小遣い(バイト代)は殆どA.Tに注ぎ込んでるから疚しいモノとかはないから別にいいけど。

 

 ちなみにA.Tの整備用工具やある程度の交換用パーツはA.Tを収納するバッグに入れていつも持ち歩いてたりするので無問題だったりする。

 

 山田先生から食堂の利用時間とか大まかな説明を聞いた後、千冬姉達と別れた俺と鈴は寮へと向かう事にした。

 

 そこでまたとんでもなく面倒な事があるとも知らずに……。

 




〈キャラ紹介〉
凰鈴音(ファン・リンイン)
2組に所属する中国代表候補生にして一夏君のセカンド幼馴染み。
酢豚が得意なので味噌汁プロポーズをするも結果は……
一夏君をぶん殴りたいと思った最初のイベントでした。
他にも色々と原作者様からの扱いがヒドイ不憫な娘。

拙作『俺嫁日記』では唯一無二の一夏の嫁のヒロインであることからおわかりのように僕の推しキャラです。
鈴ちゃん可愛いよ、鈴ちゃん

本作では一夏君の理解者であり、A.T使い(ライダー)でもあります。
ただ、王なのか、どの系統の道を走るのかは現在不明。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Trick:04

「山田先生に貰ったメモの通りならここだな」

 

 IS学園学生寮の1025号室、俺が三年間世話になる(であろう)学生寮、その一室に入るべく鍵を差し込むが手応えがなかった。

 

「おろ? 鍵開いてら」

「別にいいじゃない、さっさと入りましょ?」

「だな」

 

 鍵が開いていた事を不思議に思いながらも部屋に入る俺と鈴。

 一応言っとくけど一年ぶりに再会したから折角なので部屋で寛ぎながら互いの話でもしようとなっただけなので鈴を部屋に連れ込んで変なコトをするつもりは決してない。ないったらない。

 

「おぉ! スゲェ、高級ホテルみたいだ!!」

「入った事あるの?」

「うんにゃ、ねーけど」

「……そうでしょうね」

「ってかなんだコレ!? スッゲェふかふかだ!」

「全く……一夏ってばホントお子ちゃまね」

 

 部屋の豪華さについはしゃいでベッドにダイブしてしまう俺とそんな俺を『しょうがないなぁ』と苦笑しながら鈴もベッドの端に腰掛けた。

 

「あー……寝心地いーぞ、このベッド」

「ホント、さすが国立ね」

「だなー」

 

 つい羽毛布団の魔力で気の抜けた返事になってしまうが鈴の言葉には同意だ。

 

「誰かいるのか?」

 

 疲労と布団の魔力により誘発していた眠気は不意に響いた第三者の声に吹き飛ばされた。

 

「あぁ、同室になった者か。一年間よろしく」

 

 部屋の奥にあるドアが開くとそこから誰かが出て来る気配。

 

 ……ヤな予感がするのは気のせいだと思いたいのだが……。

 

「こんな格好ですまないな、シャワーを使っていた。私は篠ノの……」

「……ほう……き?」

 

 ヤな予感ほど的中するとはよく言ったモノだ。

 

 気配の正体は今日再会したファースト幼なじみの篠ノ之箒(風呂上がりVer)でした。

 

「いつまで見てんの、この……ド変態ッ!」

「とかちっ!?」

 

 突然の事に完全に固まっていた俺は本日二度目の鉄拳制裁を頂戴した。

 

 ―――――――――。

 

 一先ず胴着に身を包んだ箒に射殺さんばかりに睨みつけられながらの質疑応答に『山田先生からの、と言うか政府からの指示でこの部屋に割り当てられた』と正直に答えた。だが、結果は火に油を注いだだけだった。

 

「男女七才にして同衾せず! 常識だ!」

「いつの時代の常識よ、ソレ? ついでに言っとくけど部屋割を決めたのは先生か寮長だろうし、一夏の意思じゃないわ」

「ん? オイ一夏! 誰だ、この女は!?」

 

 激昂する箒にツッコミを入れ、俺には助け舟を出してくれたのは鈴だった。

 紹介するには丁度いいタイミングだな。

 

「あぁ、コイツは凰鈴音。箒が転校した後に知り合ったんだ」

 

 ちなみにA・Tを始めたのもこの頃で、理解と興味を持ってくれた鈴と一緒に走り回ったのはいい思い出だ。

 

「で、こっちが篠ノ之箒。昔通ってた剣道場の師範の娘で鈴と会う前の幼なじみだよ」

「ふーん、この子が……」

 

 二人の幼なじみに互いを紹介する。ちょっと珍しい状況なんじゃないか?

 

「篠ノ之箒だ。よろしくな」

「こっちこそ、これからよろしくね」

 

 ……今二人の背後の技影(シャドウ)が火花を散らしたような……いや、鈴はともかく箒はA・T使い(ライダー)じゃないし……笑顔がなんか恐いのも気のせいだろう……多分。

 

「あ、あー……そうだ箒。そう言やオマエ剣道の大会で優勝したんだってな、おめでとさん」

「……なんでそんな事を知ってる?」

「新聞に載ってたからな、中坊にもなりゃ新聞位読むだろ。ついでに言うと今朝教室に入った時すぐに箒がいるって判ったぞ、髪型が昔と同じだしな」

 

 箒は長い黒髪を一本に纏めたポニーテールと白いリボンが特に印象的だった。

 

「……よく覚えているものだな」

「幼なじみだからな、そりゃ覚えてるだろ」

 

 そう言ったら思いっきり睨まれた。何故だ?

 

「ね、ねぇ一夏!」

「あん? どったの?」

 

 鈴が何か慌てるように話に入って来た。

 

「わ、私との約束も……覚えてる……よね?」

 

 何かと思いきや突然小学生位の時に交わした約束の事を聞いてくるどこか不安そうな鈴。

 フッ、千冬姉に『空っぽ頭(エアヘッド)』と呼ばれているが『約束は忘れない事』がモットーの俺にそれは愚問と言うモノだぜ。

 

「あぁ、『毎日鈴の作った酢豚を食べさせてくれる』ってヤツだろ?」

「な!?」

「……覚えててくれたんだ」

 

 鈴はそう言って嬉しそうに笑ってくれた事にまた心臓が大きく跳ねた。

 

『笑ってる女の子はそれだけで奇跡』

 

 こんな女尊男卑の世の中で特に酷い扱い(自業自得な部分は多々あるが)をされてる『あの人』が言ってた言葉を俺は今漸く理解出来たような気がした。

 

「い、いやー俺ってば、その約束を『鈴が俺の所に嫁に来る』とかって深読みしちまってさ」

「「よ、嫁!?」」

「そーなんだよー、我ながらとんだマセガキだよなー」

 

 まぁ、それもあって忘れないでいられるんだけど、これは黙っていよう。

 

「笑っちまうよなー……って、あの……鈴? 箒?」

「……」

「……」

 

 なぜか急に黙り込んでしまう二人。

 なんか悪い事言ったかな、俺。

 

「……あのー」

 

 数分の沈黙の後、先に口を開いたのは鈴だった。

 

「……篠ノ之さん、だっけ?」

「あ、あぁ。なんだ?」

 

 ハッとして身構える箒に対して鈴の口から出たのはとんでもない要求だった。

 

「部屋替わって」

「……は?」

「いやね、篠ノ之さんは男と同室なんて嫌なんでしょう? その辺アタシは平気だし、替わってあげようかと思って」

「べ、別に嫌とは言ってない! それに……」

「一夏! 一夏もアタシと一緒がいいよね?」

「ふざけるな!」

 

 話し掛けておきながら自分の言葉を遮り、今度は俺と話し始める鈴の態度に怒りを覚えたらしい箒。

 荒げ始めた声から察しなくても機嫌が悪くなって来ている。

 

「だって約束通りご飯作ってあげなきゃだもんね」

「さっさと自分の部屋に戻れ!」

「ねぇ、さっそくだけど今夜は何が食べたい?」

 

 箒が激昂するのもお構い無しに楽しげに、かつ一方的に話を進める鈴。ちなみに俺はまだ一言も発してなかったりする。まずい。箒が竹刀を手に取ったぞ!?

 

「えぇい、無視するな! こうなったら力ずくで!!」

「え?」

 

 とうとう堪忍袋の尾が切れた箒は怒りのままに切り掛かる。

 

 くそっ、間に合うか!?

 

 ―――――――――。

 

 炸裂音が室内に響いた。

 

「な!?」

「……危機一髪ってか? 鈴、大丈夫か?」

「う、うん……」

 

 私の視界には竹刀を蹴り止め、(ファン)を守るように抱き寄せた一夏の姿が映っていた。

 

「こら、箒。いくらなんでも生身の人間に竹刀を振り回すヤツがあるか! 危ないだろ!」

「う……」

 

 一夏に正論を説かれた私は思わず顔を背ける。

 

「……ふぅ……鈴も箒もこの部屋がいいなら二人ともこの部屋に入ればいいだろ」

「……は?」

 

 突拍子もない事を言い出した一夏に思わず間の抜けた声が出てしまう。

 

「だから、三人でルームシェアってのをすればいーんじゃねーか? ベッドは箒と鈴が使えばいいよ。俺はどうせ一月もしたら個室に移動する予定だし、ソファーで寝るからさ。だからオマエら少しは仲良くしろよ?」

「う、うむ……」

 

 怒りに任せて自制心を無くした手前、反論の出来ない私は渋々だが納得せざるを得なかった。

 

「よし、決まりだ! ま、三人で仲良くやろーぜ! 鈴もそれでいいだろ?」

「……」

「……鈴?」

 

 返事がない事に一夏は首を傾げるが、それも仕方がない。

 何故なら、私の一撃から守る為に抱き締められる格好となり、そのまま一夏の腕の中に凰はいる。

 

「あれ、鈴?」

「……キュウ」

「……なんだよ、寝ちまってら」

「いや一夏、それは寝ていると言うより気絶しているのではないか?」

 

 いや、正しくは『ときめいて死んでいる』、もとい『ときめき過ぎて気絶している』、であろう。

 私は凰は確実に自分と同じく一夏に恋い焦がれていると確信した。

 

 そんな凰が一夏に守られ、しかも抱き締められたりすれば気絶するのも当然だろう。

 一方、一夏は凰を片方のベッドに寝かせるとドアの方へと歩き出した。

 

「一夏、どこへ行くのだ?」

「ん、あぁ。鈴寝ちまったろ? 食いっぱぐれたら可哀相だし、俺と鈴の分の夕飯取りに行って来んだよ。ちょっと鈴の事頼む。……あ、ちゃんと箒の分も貰って来るから安心しろな」

「え!? あ、オイ一夏、待っ……」

 

 私の制止も聞かずに一夏は部屋を出て行ってしまった。

 

「えへへ〜……いちか〜♪」

「……」

 

 凰の嬉しそうな寝顔と寝言にため息を吐く。

 初恋の相手と同じ部屋なんて嬉しいハズなのにどこか腑に落ちない私の感情に構うことなく、入学初日の夜は更けていった。

 




原作では『鈴は二組なのでいない。』とされてしまう。

ならば寮室くらいは一緒でも良いでしょう?
それが二次創作の特権だ(某全裸大佐風)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Trick:05

「昨日も思ったけど美味しいわね、ここの料理」

「おぉ、学生寮の食堂ってレベルじゃねーぞ」

「……」

 

 翌朝、俺達三人は仲良く(?)朝ご飯を食べていた。

 メニューは三人揃ってサンバルカ……じゃなくて朝食セットAだ。

 

 それにしても一晩経ってもやっぱり落ち着かないのは周囲の女子の視線があるからだろうか?

 今も『彼が噂の男子だって』とか、『千冬お姉様の弟らしいわよ』とか興味津々らしい女生徒の皆さん。

 

 俺は珍獣でもUMAでもない、普通のA.T使い(ライダー)なんだけどねぇ……お、この焼き鮭ウマイ。

 

「おりむー、お隣いーい?」

 

 間延びした喋り方に振り向くとそこにはクラスメイトののほほんさん(本名は布仏本音さん)+女生徒二名がいた。ちなみにその二人は俺をクラス代表に推した人達だったりする。

 

「構わねーぜ、座んなよ」

「おー、ありがと、おりむー♪」

「ところで『おりむー』ってなんだ?」

「ん〜とね、おりむーは私が考えたおりむーのあだ名だよ〜」

「さよけ。ま、好きに呼んでくれ」

「わ〜い♪」

 

 だがそのあだ名、氷タイプの某携帯獣を思い出すのは俺だけか?

 

「織斑君本当に大丈夫なの?」

「なにが?」

「あの代表候補生との決闘の話だろう。実際、どうするつもりだ?」

「あーアレね、別にそんなん問題じゃねーよ。A.Tとライダーをバカにした事のオトシマエはキッチリ付けて貰うだけよ」

 

 それにあのまま言わせといたら俺が推されたのに対して代表候補生の自分を誰も推さない事の八つ当たりを始めたかも知れない。そんなん見てるこっちがムカつく。

 

「ま、元々俺にコナかけて来やがったんだ。勝負になったのも俺を叩き潰す大義名分を手に入れたワケで、(やっこ)さんには渡りに舟ってヤツだろ」

 

 だがそれは俺とて同じ事だ。

 A.T(スキなモノ)をバカにされて黙ってられる程、俺は利口で紳士な大人じゃない。

 真っ向から打ち砕かせて貰う。

 

「ねぇ、話が見えないんだけど」

 

 隣にいた鈴が話に入って来る。なんで若干機嫌が悪くなってんだ?

 

「え? えっと……」

 

 『誰?』と言った表情のクラスメイトに鈴の事を紹介しておこう。隣のクラスなら一緒に授業を受ける事もあるだろうし。

 

「あぁ、コイツは俺の幼なじみの凰鈴音。中国の代表候補生で二組のクラス代表、そんでもって親友以上嫁未満の関係」

「「「「えぇ〜っ!?」」」」

「ほぇ〜」

 

 食堂中の女子の反応としっかり聞き耳を立てていた事にこっちがビックリしたぞ、コンチクショウ。

 

「……残念ながら最後のは冗談デス」

 

 食堂中の女生徒がズッコけた。

 まぁ、俺はまだ自分の事で手一杯だし、彼女とかまだ早いだろう。

 

「あ、朝から変な冗談言ってんじゃないわよ!」

「みんごすっ!?」

 

 いつも通り俺をド突く鈴の鉄拳制裁。

 けど今のはいつもより軽く、表情もどこか嬉しそうな感じだったのは何故だ?

 それにしても本当に残念な事に鈴はクラスが違うのだ。一緒のクラスなら楽しそうだったのに……誰だクラス編成したヤツ、会ったら文句言ってやる。

 

「イテテ……まぁ簡単に言うとイギリスの代表候補生とクラス代表を賭けてケンカする事になった」

「はぁ、なんでよ?」

 

 昨日のオルコットとのやり取りを説明すると、鈴は呆れたように笑っていた。

 

「……納得。アンタってホントA.Tバカよね」

「よせよ。そんなにホメるな、照れるじゃねーか」

「別に褒めてないわよ、おバカ」

 

 鈴の一言に凹んだ所に再び話し掛けて来るクラスメイト(確か谷本さん)。

 

「話を戻すけどいくら織斑君がISを使えるって言っても男が女より強かったのって大分昔の話だし、代表候補生は専用機まで持ってるんだよ?」

 

 確かにこの10年で完成してしまった『女尊男卑』の世界は女性の強さを示している。

 国家代表と代表候補生は国や企業から様々な支援を受けているのだが、その最大の恩恵が自分専用のISを与えられている事だろう。

 ISの心臓部・コアは世界で467個しかなく、その貴重なコアを個人に渡すなんてソイツが余程優秀でない限りありえない。そう考えると俺とオルコットのレベルがどれだけ違うのか嫌でも解ってくる。

 

「それに代表候補生ともなればISの搭乗時間は300時間は超えてるよ?」

「そうね、ISは稼動時間がモノを言う。一夏は入試の時少し乗っただけだからざっと20分位?」

 

 谷本さんは不安げな表情を浮かべ、鈴は勉強して得た知識を情報として提示する。

 

「大体そんなモンだろ……けど俺は負けるつもりはねーよ、こっちは小坊ん時からA・Tで走りまくってんだ」

 

 300時間? ンなモン小五の夏休み中に消化したわ!

 ISの基礎なんかは鈴や箒に教えて貰えばなんとかなるだろう。

 

「え、A.TとISは全然違うと思うよ? 織斑君……」

「全くだ! 大体、ISを動かせるだけのオマエが勝てる相手か!?」

 

 激昂する箒を宥めつつ、クラスメイトの言わんとする事を推測する。

 

「……確かに相手(オルコット)は格上かもな。だからハンデでも貰えって?」

「う、うん……」

「何を軟弱な!」

 

 気まずそうに頷くクラスメイトとさらに激昂する箒。

 確かにクラス内でなら確実に上位は確実であろうオルコットと比べれば、ISに関する俺の実力(レベル)はおそらく最下位、A.Tでの(バトル)である〈パーツ・ウォウ〉で言えば最初のランクであるFクラス。

 月とスッポンもいい所だろう。その〈パーツ・ウォウ〉でも『Fクラスのライダーが上位クラスのライダーに勝つ確率は1%』と言われている。

 

「まぁ、99%負けが決まっているような勝負は避けるかハンデを貰うのがお利口さんかもな」

 

 だがそれでいいのか?

 

「そうだよ、今からでも……」

「けどな……」

「え?」

 

 いいワケねぇだろ。

 

「このケンカは織斑一夏(オレ)個人の意地だけじゃない……一、A.T使い(ライダー)としての誇り(プライド)が賭かってんだよ。その勝負にハンデ貰って戦うなんざ死んでもゴメンだね」

「何をバカな事を……勝手にしろ。私は先に行くぞ」

「おー、また後でなー」

 

 A.T嫌いな箒はやっぱり俺がA.T使い(ライダー)である事が気に食わないのだろう。席を立つとそのまま食堂を出て行った。

 

「でも……ま、それでこそ一夏よね。よし、私がISについて教えてあげる」

「マジか!? サンキュー鈴! オマエがいりゃ千人力だぜ!!」

「桁が一個足りないわよ。早速今日の放課後からね」

「よろしく頼むぜ師匠!!」

 

 話が纏った所でのほほんさん達も交えてご飯の続きに入った。

 暫くすると食堂内に手を叩く音が響いた。

 

 どうやら寮長さんが生徒達を急かしているらしい。しかしまたしても聞き覚えのある声なような気が……。

 

「いつまで食べている! 食事は迅速に効率よく取れ! 遅刻したらグラウンド十周させるぞ!」

 

 寮長はなんと千冬姉だった。余り家に帰って来なかった理由はこれか。

 

 ちなみにグラウンドは一周五キロある。……冗談じゃねぇ。

 

 ―――――――――。

 

 学生寮から校舎までの通学路を俺と鈴は走っていた。無論、A.Tでだ。

 

「それにしても鈴とこーして登校すんのも一年ぶりだな!」

「そうね……って、昨日の帰り道も似たような話したじゃないのよ」

「バレたか、さすがだな金田一君!」

「なーにアホな事言ってんのよ」

 

 中学の時もこうやってバカ話しながら走っていた俺達。あとは弾や数馬、弾の妹の蘭。

 今は少し離れてはいるものの、また皆で集まって楽しく走り回れるだろう。

 来週の日曜か近くのGW辺りの予定を今から考える俺だった。

 




〈キャラ紹介〉
織斑千冬
主人公・一夏の姉。世界大会優勝者で現役を退いた後でも作中最強と目され、尊敬の念を集めるカリスマのあるブラコン。
二次創作ではマダオ(マジでダメなお姉ちゃん)かクソキャラ化されることが多い残姉さん。
本作ではA.Tに傾倒していた弟がISに適合していることに内心悩んでたりする。
A.Tには興味はないが、もし始めたりしたら原作の野山野梨花と同等かそれ以上のA.T使い(ライダー)になるのではないかと推測される。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Trick:06

戦闘開始(バトルスタート)


 なんだかんだで一週間はあっと言う間に過ぎ去り、オルコットとの決戦当日となった。

 オルコットと決闘が決まった翌日、俺は千冬姉から学園が専用ISを用意する事を聞かされた。勿論その後、オルコットに再び絡まれたのは割愛する。

 

 状況が状況とは言え俺の特別待遇にクラスメイト達には羨ましがられたけど実際は体のいい実験体(モルモット)だと思った。

 実際ISが使える事が判った時、マスコミと一緒にどこぞの研究員が『解剖させてくれ』とか寝言をおほざきになるので『道』にしてやったけど。

 

 まぁ、それはいいのだが……肝心の機体が未だ届いていないのが問題だ。

 

「あ〜っ! いつになったら来るのよ一夏のISはーっ!!」

「一応、訓練機は用意したが、これでは……」

 

 焦りと苛立ちから鈴が吠える。隣の箒もどこか落ち着きなくソワソワしている。

 用意された訓練機は防御力重視で刀型の近接ブレードを装備した日本製の量産型IS『打鉄』。性能は低くはないのだがワンオフ機相手には分が悪い。

 

「間に合いそうにないならシールドエネルギーとバリアと絶対防御のパーツぶち剥いでA.Tで戦るか」

「無理に決まってるだろ!」

「やっぱダメか」

「当たり前でしょ!」

 

 半分本気の考えに息の合ったツッコミを入れる二人。

 この一週間なにかとケンカ腰になってたのにコイツらいつの間に仲良くなったんだ?

 そんな事を考えていた俺の耳に最近よく聞く声が届く。

 

「織斑君、織斑君、織斑君っ!」

 

 俺の名を叫びながら走って来る山田先生。転ばないか心配だ。

 

「来ました! 織斑君の専用IS!!」

 

 決戦当日、しかもギリギリになって到着した事には肝を冷やしたが世界初の男用ISと言う事で様々な調整を施したらしいので仕方ないと言えば仕方ない。

 

 そして俺はようやく『俺専用IS』と対面した。

 

「これが俺の専用機、ってヤツッスよね?」

「え、えぇ、そのハズです……」

 

 俺の問いに何故かうろたえるように答える山田先生。

 ちなみに鈴と箒も俺の専用機を見た瞬間から固まって微動だにしない。

 

「織斑、アリーナを使用出来る時間は限られているからな。さっさと装着してぶっつけ本番でモノにしろ」

「押忍!」

 

 千冬姉に促され俺専用のISを装着する。

 

「時間がないから初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)は実戦で済ませろ」

「できなきゃ負け、って事ッスよね……上等、なんだか面白そうだ」

 

 『白式』と言う名前の割には鋼色の機体を()()()()()()()()()()()

 

「一夏、大丈夫か?」

 

 ISのセンサーを通して聞こえる千冬姉の声がいつもと違い少し心配していると言った感じだ。

 

「問題なし。いける!」

「そうか」

 

 安心したような声。こんな事が解るのISのセンサーってのは本当に凄いみたいだ。

 

「千冬姉、鈴……行ってくる!」

「フッ、織斑先生と呼べと言っているだろう……行ってこい」

「一夏、頑張ってきなさい!」

 

 二人の激励にサムズアップで応え、俺は初めてパーツ・ウォウに参加した時のキモチを思い出しながらアリーナの空へ飛んだ。

 ちなみに箒はフリーズから復帰すると怒ってどこかへ行ってしまってここにはいない。

 

 この勝負、鈴と箒に教わった事を上手く生かせば『1%の壁』を越えられるハズだ。

 もう一度この一週間の特訓を思い返す。

 毎日のようにケンカする鈴と箒を仲裁したり、

 隙あらばA.Tを捨てようとする箒と死闘を繰り広げたり、

 俺専用ISの納入が遅れた上に訓練機が借りれず、『IS勝負は体力勝負』との事でひたすら走り込みで体力増強を計ったり、

 箒がISの開発者の篠ノ之束の妹と判明した事で盛り上がったクラスメイト達に怒鳴ってしまった事のフォローに四苦八苦したり、

 オルコットとそのISについて情報収集した後、鈴と戦略を考えたり、

 俺とオルコットの勝負の噂を聞いたらしい先輩が『ISについて教えてくれる』と言う申し出を鈴が『アタシは中国代表候補生よ』、箒が『私は篠ノ之束の妹だ』との理由で断ったり、

 箒が『俺の性根を叩き直す』と言って剣道勝負してボコボコにされたり……、

 

「……ってISの事なんざホントに基礎しか教わってしてねぇじゃん!」

「あら、逃げずに来ましたの……ってなんですのあなた!?」

 

 驚愕の事実に気付いた所で俺のではない驚愕の声が聞こえた。

 空中で制止し、そこから俺を見下ろす『蒼』。

 中距離射撃型IS『ブルー・ティアーズ』を纏ったセシリア・オルコットがそこにいた。

 

 ……腹括るしかないな。

 

「貴方、ISの試合に()()()()()を着けてくるなんてどう言うつもりですの!?」

「はぁ? 何言ってやがる、テメェの目ン玉は飾りかっつの!?」

 

 解り易いように俺の『足元』を指差す。

 

「貴方こそ何を言って……嘘……」

 

 ISのセンサーによると観客席に座る生徒達も俺の『IS』に驚いているらしい。

 

 エア・トレック型IS、白式

 

 確かに普通のISとは()()()()違うかもしれないが俺はコイツを見た時、思わずガッツポーズしそうになった。確かに剣や銃は魅力的だ、しかし俺はA.T使い(ライダー)。A.Tこそが力であり、最大の武器なのだ。

 

「……ま、まぁ、いいでしょう。そんなモノで私に挑む貴方の無謀さに免じて最後のチャンスをあげますわ」

 

 そんな気更々ない癖に良く言うモノだ。

 証拠にオルコットが手にしたレーザーライフル『スターライトMk-II』にエネルギーが充填されているのをハイパーセンサーが教えてくれる。

 

「『謝るなら許す』ってチャンスなら遠慮するぜ? それより……」

 

 戦場(アリーナ)に開戦を告げる風が吹く。

 

「賭けろよ、誇り(エンブレム)を」

 

 暴風族(ストームライダー)流の宣戦布告。

 

「ならば……お別れですわね!」

 

 オルコットは手にした(ライフル)のトリガーを引いた。

 

 ―――――――――。

 

 ライフルから放たれた閃光は一夏にヒットする事なく、アリーナの地面を吹き飛ばしただけだった。

 

「消えた!?」

 

 自分の狙いは正確に一夏を捉えていた。

 例え回避されても初心者である一夏相手なら装甲やシールドエネルギーを多少は削れるハズだったその一撃は『完全回避』と言う形で覆された。

 

 だが動揺するのは一瞬、すぐにセンサーで一夏を探すセシリアだがその必要はなかった。

 

「レディーファースト。確かに先手は譲ったぜ?」

「なっ!?」

 

 セシリアの攻撃を跳躍で回避した一夏は彼女の頭上にいた。

 そして一夏の蹴りが一閃する。

 

「オラァッ!」

「くっ!」

 

 なんとか防御(ガード)するセシリアだが威力までは防げずに吹き飛ばされる。しかし即座に姿勢を制御し、臨戦態勢を取るセシリアの技量も並ではない。

 ファーストコンタクトの後、再び対峙する蒼と白。

 

「来いよ、一流(エリート)……俺の走りを止めてみな!」

「!?」

 

 その時、セシリア・オルコットと試合を見ている者達は皆、一夏の背後に『紅蓮の毛並を持つ豹』の影を見た。

 

 それは〈影技(シャドウ)〉と呼ばれるA.T使い(ライダー)の『道』と闘志を示す幻影(ヴィジョン)

 しかし、セシリアは気圧される事など誇り高き貴族にあってはならないと自分を叱咤し、己もまた闘志を示す。

 

「い、いいでしょう……ならば踊りなさい、私セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!!」

 

 セシリアのレーザーライフルが再び光を放つが、一夏はそれを白式の機動力で難無く回避する。

 

「A.Tを始めてから色んなヤツと戦って来たけど銃使うヤツは初めてだな……けど『コイツ』なら!」

「そんなモノで私とブルー・ティアーズに挑むなど……笑止ですわ!」

「ハッ、今に吠えヅラかかせてやるよ!」

 

 一夏と白式は更に加速。アリーナの地面を滑走し、セシリアの射撃をターンや急停止を駆使して回避し続ける。

 

「少しはやるようですわね、ですが……行きなさい、ブルー・ティアーズ!」

「射線が増えた!?」

 

 セシリアはフィン状のビット兵器『ブルー・ティアーズ』を展開し、豪雨の如き射撃を一夏に浴びせ掛ける。

 

「私の愛機、ブルー・ティアーズは特殊武装『ブルー・ティアーズ』を搭載したBT兵器実戦投入一号機、貴方はどの位耐えられますかしら?」

「チッ、ご高説ありがとよ……けどな!」

 

 一夏は白式のA.Tを持ってアリーナと言う空間を『道』にして疾走し、飛び、ISを使えるライダーとして己の持つ(トリック)を放つ。

 

 アリーナの壁を駆け上がり、空中で旋回しながらの鉄槌の如き踵落としはビットの一つを粉砕し、爆散させた。

 

「私の『ブルー・ティアーズ』が!」

 

 驚愕するセシリアに対し、一夏は不敵な笑みを見せる。

 

暴風族(ストームライダー)、ナメんなよ?」

 

 ―――――――――。

 

「二十七分。初見でここまで耐えたのは貴方が初めてですわ」

「へー、ソイツは光栄だ」

 

 正直侮っていた。

 確かに相手がA.Tの扱いに優れてはいるらしく、その上使い馴れたモノが専用ISの武装であったとしても代表候補たる自分と第三世代ISである愛機の敵ではない……筈だった。

 

「ですが、アリーナを使用出来る時間は限られています」

「……らしいな」

 

 だが敵は多少被弾しているもののシールドエネルギーはほとんど削れておらず、実体ダメージも微々たるモノ。

 

「ですので……」

 

 全ては織斑一夏の反応速度と武装A.Tによる高速機動によって自らの計算は崩された。

 

「そろそろ、閉幕(フィナーレ)と参りましょう」

 

 ならば次の行動はただ一つ。

 

「その脚、いただきますわ!」

 

 セシリアはこの試合数回目のトリガーを引いた。

 

「なめんな!」

 

 一夏はその一射を回避すると同時に『自分の死角にあった』二つめのビットを撃破した。

 

「くっ、またしても……!」

「このビットは毎回オマエが命令をしないと動かない。そしてそれはかなりの集中力が必要で命令中は他の攻撃が不可能、だろ?」

「……!」

「沈黙もまた肯定、ってな……(ついでに言えば今みたく死角となる隙を狙って来るのも確実、ならばそこを作って誘導してやればいい……ビットの攻略はこんなモンか)」

 

 あとは近接しつつ格闘戦に持ち込みたい所だが、中距離射撃型とはいえ近接装備や未だ見せていない手札(カード)がないとは言えない。

 

「けど『前に出ない者に勝利の女神は微笑まない』……なら!」

 

  意を決し、一夏は自分の間合いに捉えるべく疾駆した。

 

 ―――――――――。

 

「あ、あれが本当にISに乗ったのが二回目の子の動きなんですか?」

 

 ピット内のリアルタイムモニターを見ながら山田真耶が感嘆の息を漏らす。

 

「アタシが基礎を教えたましたし、しかも普通の靴より長く履いてるA.T型の専用機!」

「アレなら『これぞ水を得た魚だ』と言うかもな」

 

 誇らしげに胸を張る鈴の隣に立つ千冬も最初の頃よりは大分マシと言った表情である。

 

「へぇ、さすがご姉弟ですね!いいそうな諺までわかるなんて仲が良くて羨ましいです」

「ま、まぁ、あんな空っぽ頭(エアヘッド)でも一応私の弟、いや生徒だからな……」

 

 珍しく照れた千冬をからかったが為に真耶がヘッドロックを喰らっている間に試合は大きく動いた。

 

 ―――――――――。

 

 残る二つのビットを蹴落とし、セシリアを間合いに捉えた一夏は一撃が届くまでに距離を詰めた。

 

(捉えた!)

 

 その瞬間オルコットの口元に笑みが浮かんだ。

 

「かかりましたわ」

「ッ!」

「お生憎様、ブルー・ティアーズは六機あってよ!」

「やっぱりまだ手札(カード)隠してやがったか!」

 

 ブルー・ティアーズのスカート状の装甲が動き、そこから二本の円筒状のモノが顔を出す。

 

「切り札は最後まで取って置くモノでしてよ!」

 

 先に墜した射撃型ではない『弾道(ミサイル)型ブルー・ティアーズ』が一夏に向かって飛来する。

 回避も防御も間に合わない絶妙のタイミングで放たれた一撃に誰もが『やはり男が勝てる訳がない。しかも代表候補相手には何人も敗北を免れない』と確信した。

 

 だがセシリアは、いや試合を見ている者全てが我が目を疑った。

 

「……『見えてたぜ』」

 

 一体誰が予想するだろう?

 超高速で飛来するミサイルを鷲掴みにして止めるなど。

 

 そして、掴んだミサイルを相手に文字通りに『叩き返す』など。

 

「返す!」

 

 瞬間、アリーナの空で炎の華が咲いた。

 

「キャアァァァァーーッ!!!!?」

 

 アリーナ内に爆発とセシリアの悲鳴だけが響く。

 観客席の生徒や箒は勿論、鈴を始めとする代表候補生や真耶ら教師達。果ては千冬でさえも驚きの余り目を見開くしか出来なかった。

 確かにISの生体補助機能は宇宙空間での活動を前提にした上、スポーツとは言え戦闘に使用する。その為人のそれより遥かに優れてはいる。だがしかし、格闘戦の間合いで、しかもほぼ零距離から放たれたミサイルを回避や防御ならともかく、IS戦闘に関しては素人同然の一夏が鷲掴みにして止めるなど誰が予測出来ただろうか。

 

 そしてセシリア達は更に予想外の事態に遭遇する。

 

「くっ、なんなんですの、無茶苦茶ですわ!?」

 

 姿勢を制御し、混乱した意識を戻すように頭を振るセシリアの耳に高周波のような金属音が届く。

 見上げてみれば一夏のISが光の粒子となり分解され、再び形を成していく。

 

「なんぞこれ?」

「ま、まさか……一次移行(ファースト・シフト)!? 貴方、今まで初期設定の機体で戦っていましたの!?」 

「まぁ、コイツが届いたの試合開始の直前だったしな」

 

 先程までセシリアによる傷が刻まれていた鋼色の装甲は傷一つない『白』となり、機体は真の姿。完全たる『織斑一夏専用機』となった。

 そして、そのISで何より変わったのはその武装だった。

 

 《戦闘用車輪(ホイール):雪片・空我》

 

 『白式』の名前通りに純白に染まったそのA.T型ISは先までのソレより鋭さを見せる。

 更にISの世界大会『モント・グロッソ』、その初代優勝者『ブリュン・ヒルデ』こと織斑千冬とその専用ISが振るった刀型近接特化ブレード『雪片』と同じ名前の一夏の『力』にセシリアは戦慄を覚えた。

 

 ―――――――――。

 

 思えば俺はずっと誰かに守られていた。

 千冬姉や自らの体を『檻』にして雛鳥達を守ってくれていた『超獣』の異名を持つ『あの人』。

 千冬姉はその『翼』で、あの人は己が『牙』で戦ってくれた。

 

 その背中を追い掛けるだけだった俺はようやく自分の『力』を手に入れた。

 

「これでようやく戦える……」

 

 自分が進むと決めた『空』を目指す『道』。

 その他の誰でもない俺だけの『道』を進む為の『力』。

 その『力』を『翼』でも『牙』でもない、それを超えたその先へ昇華させる。

 

 それが出来なければ千冬姉やあの人を越えるなんて到底不可能だ。

 

 それに弟の俺が不出来だったら千冬姉の格好がつかないし、あの人の誇りを汚す事にもなる。

 

 世界で最高にイカしてるあの人達が俺のせいで格好つかないなんてそんな事許せるか?

 

「許せるワケねーだろ、そんな事……あぁ……許せるワケがねぇ!」

「な、何の話ですの!?」

「俺の覚悟の話だよ!」

「何の覚悟かは知りませんが、私は貴方が敗北する覚悟と取ります! 御逝きなさい!!」

 

 再装填したミサイルを放つオルコット。しかし、『遅い』。

 

 ―――――――――。

 

 またしても一夏の姿が消え、同時に放ったミサイルビットが爆散する。

 

「オォォオォォォォォッ!」

 

 空を疾駆する一夏は獣の如き咆哮と供に蹴りを放つ。

 

「まだです!!」

 

 たかが蹴りの一発でセシリアの戦意は折れない。

 『蒼』の装甲を足場に飛び、空中で回転。再度加速した蹴りを迎撃すべく彼女は『白』を見る。

 

 そして一夏の、白式の走る『道』の『炎』に『魅せられた』結果、勝敗は決した。

 

『試合終了、勝者。織斑一夏』。

 

 静寂が試合会場内に満ち、そして次の瞬間に声が爆発した。

 

「キャーッ!やった!!一夏ってば勝っちゃった!!ハラショー!!」

「ふぁ、凰さん!? お、落ち着いてぇぇぇ〜」

 

 歓喜のあまり抱き着く鈴に慌てふためく山田教諭。

 その横で千冬は静かに微笑んでいた。

 




〈IS紹介〉
白式
織斑一夏専用機。原作と異なり倉持技研ではなく、()()()()()が作成した《エア・トレック型IS》。
外見は白いエア・トレックで、待機状態は族章(エンブレム)に似た白いピンバッジ。
武装に《戦闘車輪(バトル・ホイール):雪片・空我》を備える。
一夏が実力のあるA.T使いであるため相性がとても良い。さらにA.Tに必要となる『調律』を白式が自ら常時行うので、一夏のコンディション次第で発揮するパフォーマンスの結果に直結する。
また、一夏はスピード型のA.T使いであることも含めた最適化(フィッティング)が成されているため、現存するISの中でも最高速度はトップクラス。
なお、一夏の普段使いのA.Tの調律にも応用できる。
戦闘スタイルは蹴りをメインとした格闘戦とA.Tの(トリック)を用いる。
弱点としては原作同様遠距離武器がないこと、防御力が他のISより格段に低いこと。
しかし後者については、某赤い彗星よろしく『当たらなければどうと言うことはない』と問題として捉えていない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Trick:07

 オルコットとの試合が終わった後、ピットに戻った俺は千冬姉に新しい相棒の注意点について聞かされていた。

 キッカケは白式の車輪(ホイール)の名称に聞き覚えがあった鈴の質問だった。

 

「ちf……織斑先生、雪片ってもしかして……」

「あぁ、恐らくそうだろうな……織斑、オマエの白式は己の攻撃によってのシールドエネルギーが同時にゼロになる可能性があるから注意しろ」

 

 俺の自身の攻撃でエネルギーを使い切る?

 

「理由はオマエの武器、雪片に備わっている能力だ」

「雪片の?」

「あぁ、まずISバトルは相手のシールドエネルギーをゼロにすれば勝ちだ。シールドを超えた攻撃のみが実体にダメージを与えるのだが、その時搭乗者を守る為に絶対防御が発動するのは知っているな?」

「確かISの判断で発動するかどうか決まって、それが発動するとシールドエネルギーを著しく消耗するんでしたっけ?」

「そうだ」

 

 鈴に教わっておいて助かった。これで答えられなかったら俺の(シールドエネルギー)をゼロにされていたかもしれない。

 

「そして雪片にはエネルギー残量とシールドを無視して本体に直接攻撃を与えられる『バリア無効化能力』を持っている」

 

 つまり相手の絶対防御を強制的に発動させてエネルギーを大幅に削れるって事だ。

 要は遊○王OCGの直接攻撃が可能な効果を持つモンスターや魔法カードみたいなモノって事か。

 そうなるとこの能力はIS相手にはかなり有効じゃないのか?

 

「だがその能力は自らのシールドエネルギーを攻撃に転用して発動する欠陥機だ……いや、そもそもISは完成していないのだから欠陥と言うのは語弊があるな」

 

 千冬姉の話を聞いてあの人の持っていた『玉璽(レガリア)』みたいだ、と俺は思った。

 

 『玉璽(レガリア)』。

 

 ソレは全ての暴風族(ストームライダー)が目指す『天空(トロパイオン)の塔』とその先にある空に到る『道』の頂点に君臨する八人の『王』。

 その証である特殊なパーツ、またはA.Tの事だ。

 

 その中でもあの人の持つ『牙の玉璽』は全てを破壊する『牙』を放てる半面、その『牙』を生み出す為に『飛ぶ』事を著しく犠牲にしていた。

 

 『王の証』を意味するその名を付けられていたとしても完全無欠の力なんてない事を俺はその時に知った。

 

「えーっと……俺のISとその武装は他のIS(ヤツ)より攻撃特化型って事ですか?」

「大体そんな所だ。しかしその威力は私が知る中でも全ISの中でもトップクラス。私がかつて世界一に立てたのもこの雪片の能力によるものが大きい」

 

 さらりと言うけど、千冬姉のISの武装も雪片のみだった。

 いくらその能力が『IS殺し』とは言え刀一本で世界最強とか……千冬姉の背中は遠いなぁ……。

 

「まぁ、余計な事を考えるより一つの事を極めろ。その方がオマエには向いているさ……何せ、私の弟だ」

 

 その後、山田先生から広辞苑並の『IS起動に関するルールブック』なるモノを頂き、ちゃんと読むように念を押されてから解散となった。

 

 ―――――――――。

 

 制服の襟元につけられた族章(エンブレム)に似た白のピンバッジ、これが俺のIS白式の待機状態らしい。

 ちなみに隣を歩く鈴の愛機『甲龍(シェンロン)』も右手首にブレスレットを待機状態として控えている。

 

 ソレにしても『シェンロン』か……鈴も愛機を『ナタク』って呼んだりするのかな?

 字が違うからないか……ってそんなアホな事考えてないで先に言わなきゃいけない事があるだろう。

 

「あー……なぁ、鈴」

「ん?」

「その……鈴も色々勉強とかしなくちゃいけない、って理解してる上でこんなこと頼むの心苦しいんだけどさ……その……」

 

 なんて言っていいのか判らず、言い淀む俺。

 

「ISの事、もっと教えてくれるか?」

「そんなの当たりま「うぉっほん!」……何よ?」

 

 突然大きく咳ばらいしたのはいつの間にやら合流していた箒だった。なんでそんなご機嫌ナナメ?

 

「前々から思っていたがオマエは二組だろう、敵の施しは受けん。一夏には『私』が教える」

 

 鬼のような剣幕で『私』を強調しながら鈴を睨みつける箒。

 つーか100均で買ったスリッパとバイクのオモチャをくっつけただけのニセモノを観念したフリして渡したら『ようやく真人間に戻る気になったか』とか言って満足そうに捨ててたヤツがISの事とかホントに教えられんのか?

 ぶっちゃけ鈴と二人で笑いを堪えるのに超必死だったんだぞ?

 まぁ、翌朝A・Tで登校して半殺しにされたけど。

 

「なによ、一夏『が』アタシ『に』頼んでるの。それにアンタはこの一週間ジャマしてただけじゃない!」

 

 確かに今日の試合前の事を踏まえても確かに箒にISについて教わった事は何もない。

 ただA・Tを捨てさせまいと抵抗する俺に箒は竹刀を振り回して攻撃して来たのでそれによる回避訓練は役に立ったのではあるが……。

 

 結果、鈴の意見を肯定した俺は箒にシールドエネルギーをゼロにされたのだった。

 

「回天○舞!」

「あおしっ!?」

「……つーかそれ刀じゃなくて小太刀の技でしょうが」

 

 ―――――――――。

 

(……おりむら……いちか)

 

 勝負の際、セシリアは一夏に対して言い知れぬ胸の高鳴りを覚えていた。

 

「今まで会った事のないタイプの方ですわ……」

 

 自らを『暴風族(ストームライダー)』を名乗り、それを誇りとした唯一の男性IS使い。

 誰にも屈しない強さと英国代表候補生にして専用ISを持つ自分を相手にしても動じない精神を持ち、誰にも媚びる事ない眼差し。

 

 そして何より自分の『道』を貫く覚悟と強い意志を秘めたあの瞳……。

 

 一夏の存在はセシリアの中をまさしく『暴風(ストーム)』の如く席巻していた。

 

 されどその『暴風(かぜ)』はとても熱く、甘く、切なくも嬉しい感情の奔流だった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Trick:08

「と、言うワケで一年一組クラス代表は織斑一夏君に決定しました。あ、なんか一繋がりでなんかいい感じですね」

『そーですね!』

「い○ともか!?」

 

 俺とオルコットの決戦の翌朝、SHRを進める山田先生の発言にノリノリで答えるクラスメイト達。

 朝のSHRはいつからグラサン司会者のお昼の番組になったんだ?

 

「おりむー、ないすツッコミー♪ サー・ツッコミ伯の称号をあげましょー♪」

 

 のほほんさんからなんかよく解らない称号を与えられたが貰えるなら貰っとこう。

 

「そいつはどーも」

 

 ノリノリな山田先生とクラスメイト達の発言通り、昨日の試合に勝利した俺は恙なくクラス代表に就任。

専用機がA・T型ということもあり、辞退する理由もなくなったので可能な限り努力することにした。

 ちなみに鈴も二組のクラス代表に就任したらしい。

 

 それにしても青いメダルを核にしてそうな甲高い声をした昨日の対戦相手、セシリア・オルコットの変化には少なからず驚いた。

 

「一夏さんに謝罪させて頂きたいんですの」

 

 教室に入った俺にいの一番で挨拶もそこそこにオルコットは本題を切り出してきた。

 

「謝罪? ってか一夏『さん』?」

「はい、先日は大変失礼致しました。貴方やA・Tを愛好する方々をよく知りもしないで罵倒するなど貴族として……いえ、人としてあるまじき行為でしたわ」

「え? あ、いや、俺もつい熱くなっちまったし、こっちも悪かった」

 

 昨日までとは真逆な態度で頭を下げるオルコットに戸惑いながらも俺も謝った事で互いに手打ちとなり、オルコットはクラス代表を辞退したことを俺につげた。

 

「私を打ち倒す程の実力を持つ一夏さんになら安心してクラス代表をお任せできますし、ISは実戦経験がなによりの糧です。少しでも経験を積んで頂く為の機会を譲るべく辞退致しましたの」

 

 オルコットの意見はクラスメイト達に大いに受け入れられた。俺も客寄せパンダになる宿命を受け入れるしかなさそうだ。

 しかし、『他のクラスに情報も売れる』とか言った人!

 ……分け前下さい。

 

「そっか……ま、やるだけやってみるよ」

 

 どこまでやれるかは判らないけど任された以上、責任持って遂行させて貰う。

 ところでなんでオルコットは頬が赤くなってんだ?

 

「そ、それで……ですわね。それに当たって私がISについて教えて差し上げ……」

「おっと、悪いケドそれには及ばねぇ」

 

 ―――――――――。

 

 一時間目の後の休み時間、アタシと一夏は廊下で話し込んでいた。

 

「……で、なんで断ったのよ?」

 

 内容は一組の朝のSHRでの事、一夏がセシリアのコーチを断った所だ。セシリアの一夏への態度は変わったのは判った。

 しかし自らがエリートである事の自負は変わらないハズで、実際にISの操縦に関しては優秀である事も事実。

 それ故に言い出したであろうISのコーチの申し出を断られるなど夢にも思わなかっただろう。

 

 どんな理由があるのかなんてアタシじゃなくても知りたくなる。

 

「理由は昨日の試合、一応は勝てたけど実際は俺の負けだと思ってる」

 

 引き締まった一夏の真面目な表情。

 ……なるほどね、大体わかった。

 

「あの子……セシリアは一夏を完全に侮ってたし、試合中の一次移行(ファースト・シフト)や《雪片・空我》とかの不確定要素が無かったら、相打ちに持ち込めたかすらも解らない……だから実力での勝負ならほぼ確実に負けていただろうと結論着けた、ってトコかしら?」

「……よくわかったな」

「まぁね、一夏ってすぐ顔に出て解りやすいもん」

 

 それだけじゃない。

 

 アタシがどれだけ一緒にいて、一夏の事見て来たと思ってんのよ?

 一夏の考えくらいすぐに解るつもり。

 

「まぁ……けど俺は負けっぱなしでいるつもりは毛頭ねぇ、修行し直してもう一回勝負を挑む」

「あの娘を目標とした上で『次は勝つ、オマエを倒すのはこの俺だ』とでも言うつもり?」

「その通り!」

 

 自信満々に答えた一夏の眼には先日、食堂で試合の話を聞いた時のような刺々しさはなく、互いに切磋琢磨した先の再戦を心底楽しみにしているように輝いていた。

 

「……はぁ、アタシは頭痛がして来たわよ……」

 

 一夏の発想にアタシは呆れ返った。

 

 けど、キライじゃない。

 

 むしろ一夏らしくて……。

 

「ちなみに理由はもう一つある」

「そうなの?」

「おう、オルコット達には言ってねーけど、むしろこっちが重要だ!」

 

 A.Tバカで、基本単純思考に定評のある一夏が物事に複数の理由を持つ事は珍しく、少しビックリした。

 

「へぇ、なによ?」

「俺には鈴がいるからな!」

「……は?」

 

 丁度そこに休み時間終了の予鈴が鳴った。

 

「っと、教室戻んなきゃだな。じゃあ鈴、また後でな」

「え? あ、うん……」

 

 今、なんて一夏は言った?

 

『俺には鈴がいるからな』

 

 い、いや、おち、落ち着きなさい凰鈴音!

 あの鈍感朴念仁の一夏がそんな事をそのままの意味で言うなんてありえないわ!

 ……けど……、

 

「そっか……一夏にはアタシがいるんだ……ヘヘ♪」

 

 ちょっとは……期待してもいいよね?

 

 ―――――――――。

 

 俺達は千冬姉の指導の下、ISの実機訓練の授業を受けていた。

 

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑とオルコットはISを展開、試しに飛んでみせろ」

「ウス!」

「はい!」

 

 俺の族章(エンブレム)とセシリアの左耳のイヤーカフスが待機状態を解除され、己が搭乗者の身体に装着される形で展開して行く。この間わずか0.7秒。

 

「よし、飛べ」

 

 千冬姉の号令に従い、即座に急上昇する二つの機影は遥か上空で制止した。

 

「何をやっている、白式のスペック上の出力ならもっと速いハズだぞ」

「ウス!」

 

 通信で千冬姉からのお叱りを受ける。

 昨日の授業で『前方に角錐を展開させるイメージ』で行うとか習ったけど俺は『大ジャンプ系の(トリック)』をイメージしている。その方が解り易い、と言うか『イメージなんて自分のやり易い方法を考えたらいいのよ』と鈴にアドバイスを貰ったのでかなりやり易くなった。

 後は俺がもっと白式(コイツ)性能(チカラ)を引き出せるように精進するだけだ。

 

「さすがA.Tを使い熟す運動神経のよさもあって、ISの扱いもかなり上達してますわね」

「そうか? サンキュな」

 

 隣のセシリアからお誉めに預かる。

それにしてもセシリアの試合翌日からの変貌ぶりには驚かざるを得ない、入学初日の態度と違い過ぎて本人かどうか疑うくらいだ。メダルが九枚揃ったのか?

 

「次は急降下と完全停止をやってみろ、目標は地標10センチだ」

「了解です。では、お先に」

 

 そう言うとセシリアは地上へ向かって飛んだ。その様はまるで鯱が水中を泳ぐように速く、その後の完全停止もソツなく決めていた。

 

「よし、やってみっか」

 

 身体を反転させて頭を地上に向け、空を足場にするように蹴って駆け出す。

 空を駆け、地上10センチの足場に着地するイメージを頭に描く。

 

 『イメージがしっかり出来ていればISはその通りに動く』。

 

 鈴のその言葉通り俺は地上10センチで完全制止の課題をクリアに成功した。

 

 ―――――――――。

 

「次は武装の展開だ。オルコット、やって見せろ」

「はい」

 

 一瞬の閃光の後、その手には『スターライトMk-』が握られていた。

 ちなみに白式の武装は常時展開中の『雪片・空我』だけで、俺にはどうにも出来なかった。

 

 ちなみにセシリアは展開の速さはともかく、武器を横に向けて展開してしまう癖について注意を受けたり、近接武器の展開が苦手な事が露見した。

 しかし、それを『貴方のせいですわよ!』とかって怒るのは理不尽じゃね?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。