希望の星 (まくランド)
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希望の星 前編

小説投稿二作目です。
前回より長くなってしまったので前後編に分けて投稿する予定です。独自解釈がふんだんに盛り込まれていますが、楽しんで頂ければ幸いです。


ああ!嘘だ!嘘だ!!

お前達は何をしているのか分かっているのか?その御方が一体何をしたというのだ?

彼女は私たちを救った。それなのに何故こんな目にあわなければならない?

 

悲痛に顔が歪む。

だが私にはどうすることもできない。

今すぐにでもこの場の者全てを八つ裂きにして彼女を助け出したい。

しかし、彼女がそれを望んではいない。

 

「この先私に何があっても手出しは無用です。貴女は貴女の使命を果たしなさい」

 

彼女の言葉を思い出し、必死で自分を抑える。

 

仲間達の危機だというのに私は一体何をしている?

 

彼女らもまた、私に助けられることを望んではいない。

 

だからなんだ?私の立場がそんなに大事か?

 

こうなっては仕方がない。大事なのはこの先どうするかだ。

 

彼女たちを失って先も何もあるものか。こういうときのために力を授かったのではないのか?私には友を救う権利さえないのか?

 

歯の擦れ合う音が次第に大きくなる。握った拳から血が流れる。

 

彼女はこちらを見た。

言ってくれ。たった一言でいい。

「助けてくれ」と

そうすれば私は貴女を助けられる。

その力があるのだ。

頼む、たった一言でいいんだ。

言え、言ってくれ。

 

だが、彼女は私を見て微笑むばかりであった。

 

何故?何故!何故!!

 

こんな状況で貴女は笑っていられる?

私の思いを知った上でなお、耐え忍ぶというのか。

 

「毘沙門天様、邪悪なる僧侶はもうすぐ封印されます。こうなってはもう逃げられないでしょう」

 

私をその名で呼ぶな。私に希望の眼差しを向けるな。彼女は邪悪ではない。何故人ならざる者の味方をしただけでこんな仕打ちを受けるのだ。そもそも私とて人間ではない。なのに、何故私だけ助かっている?いや、それどころか恩人を封じようとするこいつらの希望として祭り上げられている。ふざけるな、私は、私は、私はーーー

 

結局、私は何もすることができなかった。恩人と同胞が封印されゆくのを眺めていただけだ。封印が終わると、彼女らがいた場所には何もなかった。魔界へ送られたのだという。

 

「偉大なる神、毘沙門天様。我らに加護を与えてくださり、感謝しております」

人間の長らしき男が言う。

 

何が神だ、救いたい者を救えぬ神などいるものか。私は唯の不忠者だ。

 

「かの者たちは二度と現世に現れることはないでしょう。魔界とは、この世ともあの世とも異なる地、不浄の者たちが生きたまま落ちゆく場所なのです」

男は自慢気に話す。

 

「そうか、よくやった」

私はそれだけ言うのに精一杯だった。仲間たちを不浄呼ばわりしたこの男を今すぐにでもあの世へ送ってやりたかったが、人間の希望として崇められている私が人間に牙を剥くわけにはいかない。

 

 

封印が終わると、人間たちは人里の方へ戻っていった。

静かになった寺の中で私は一人呆然としていた。何度も、何度も、後悔が頭を巡る。

あのとき、恩人の願いに背いてでも彼等を止めていれば、せめて彼女だけでも逃がすことができていれば・・・

思考は何度も同じように巡る。暗闇の中に落ちていく。

先日まで門徒たちで賑やかだった寺の中は今は私しかいない。いやに広くなったものだ。

 

「ご主人、いつまでそうしているつもりだい?」

伏せた頭の上から声が聞こえた。

顔をあげると、毘沙門天代理を務める私の部下ーーというよりはお目付役といったほうが正しいがーーであるネズミの少女が目の前に立っていた。

「ああ、ナズーリン、貴女は無事だったのですね」

「当たり前だろう。私は毘沙門天様の使いだぞ。私に手を出せばそれは神への背反だ」

「ならば、手を貸してくれても良かったのではないですか?貴女はただ見ていただけですか?」

声が荒くなる。彼女には聖を助ける義理は無いことは分かっている。それに、見ていただけというなら私も同じことだ。それでもやり場のない思いが語気を強める。

「私が守り従うように命じられているのはご主人、貴女だけだ。だが、まあ、あの僧侶は嫌いでは無かった。自分を律し、人妖に平等に接する姿は尊敬に値する。できることなら私も助けたかったが、当人がそれを望まないのであればどうしようもない」

少女は淡々と応える。

 

そうだ、聖は自分が助かることを望んではいなかった。仲間たちもそうだ。聖の思いに賛同するかのように皆封印される道を選んだ。妖怪である私たちが抗戦すれば、まず人間などに負けはしなかっただろう。だが、それで人間を殺してしまっては人妖の溝を一層深くしてしまう。自分が封印されるなら誰も死ぬことはない。

頭では彼女の考えは分かっているつもりだ。だが、気持ちの整理がつかない。残される者の身にもなってほしい。

 

「それで、どうするんだい?」

今度はナズーリンが私に問いかける。

「どうする、とは?」

私は質問の意味が分からず、聞き返す。

「やれやれ、ご主人は代理とはいえ神なのだぞ、このままここで寝ているわけにもいかないだろう」

彼女の言う通りだ。神は信仰無くしては生きられない。信仰を得るためには人々に恩恵をもたらさなければならない。

だが、私は恩人を封じた者たちに手を差し伸べる気にはならない。

「私は・・・」

答えられない私を見かねた彼女が口を開いた。

「魔界に行く方法が無いわけではない」

 

私は目を見開いた。

彼女がいま発した言葉は俄かには信じられないものだったからだ。

「ナズーリン、いま、なんと・・・?」

 

「魔界に行く方法はあると言ったのだ。たしかに魔界は、この世ともあの世とも違う。そう簡単に行き来できないし、封印されるにしてもこちらからあちらへの一方通行で戻ってくることはできない。封印が切れれば別だが、そもそも神であるご主人が人間に封印されるなどあってはならない。だが、ご主人が神であるからこそ、可能性がある。神は信仰を失えば存在できないが、逆に信仰を多く得ることでその力を増す。今のご主人には到底扱うことができないので黙っていたが、毘沙門天様の扱う神器に宝塔と呼ばれるものがある。その力を十分に使いこなせれば、魔界へ行き、封印を解いて戻ってくることも可能なはずだ」

 

世界が、蘇ってくる。

希望が、見つかったのだ。

虚ろだった目に光が灯る。

 

「本当に・・・?聖を助けることが可能なのですか・・・?」

震える声でもう一度聞く。

「そうだ。だが、そのためにはご主人、貴女は十分な信仰を得て、毘沙門天様に認められ、宝塔を扱えるようにならなければならない。それには長い時間を要するだろう。それこそ数百年などあっという間なほど、それでもやるかい?」

彼女は再び問いかける。答えは分かりきっているという顔だ。

当然、答えは一つしかない。

 

「やります。どれほどの時間がかかっても、私は彼女たちを助け出す。それが今の私の使命なのです」

迷いはない。彼女を救うためならば、私はどんな道でも進む。覚悟はできている。

 

こうして、私とナズーリンとの旅が始まった。

 

 

私たちは、この国の至るところを回った。仏の教えを伝え、貧している者を救い、導いた。

私の財宝を集める能力とナズーリンの探し物を見つける能力があれば、多くの人の悩みを解決することができた。

私は、人の役に立つという充足感とともに、信仰によって自らの力が増していくのを感じていた。

 

「正直なところ、ご主人がここまで根気強いとは思っていなかった」

とある茶屋で休んでいるとき、ふいに彼女が言った。

「なんですかそれ、自分が提案しておきながら酷くないですか?」

「いやいや、ご主人は今は毘沙門天代理とはいえ、元は妖獣だろう?妖獣は本能に忠実だからね、すぐ投げ出すのではないかと心配だったんだ」

「だとしたら、これが私の本能なのでしょう。恩人を助けたいという。今も昔も私は本能のまま動いているだけですよ」

「まあ、よく物を失くすところは理知的とは言えないね」

彼女がからかい気味に言う。この旅で彼女とは、上下の関係だけでなく、友人然とした関係を築くことができた。今では、お互い気兼ねなく接することができる。

 

それから、幾度もの季節が流れた。

 

「ご主人、朗報だ、毘沙門天様から宝塔を扱う許可が降りた」

彼女が、いつもより高揚しながら帰ってきた。

ナズーリンは私のお目付け役として、定期的に毘沙門天様へ報告に行っている。その度に、宝塔を扱うための許可を求めていたのだが、今回やっと認められたということか。

「おお!ついに!これで聖達を助けに行くことができますね!」

私は長年の思いがようやく報われるのだと、ここ数百年ないほどに歓喜していた。

しかし、彼女の口からは思ってもいなかった言葉が出てきた。

「すまない、ご主人。宝塔だけでは、魔界に行くことはできないそうだ」

申し訳なさそうにそう言った。

「・・・え?」

一瞬、思考が止まる。

「飛倉と呼ばれる物が必要なんだ。魔界へ行くために、とてつもない力を秘めた命蓮寺の秘宝だよ」

 

飛倉なら知っている。私も何度か目にしたことがある。聖の弟である命蓮の力が込められた神器級の代物だ。だが、それはーーー

 

「飛倉は聖白蓮の封印に使われ、今は村沙や一輪たちとともに地底に眠っている。彼女らの封印が解けなければ飛倉も手に入れることができない」

目の前が真っ暗になりそうだ。やっと、やっと恩を返すことができる、彼女を、聖を救うことができると思っていた矢先に、新たな難題を突きつけられたのだ。普通ならここで折れてもおかしくない。

 

だが、彼女は、寅丸星は諦めなかった。

毘沙門天代理として多くの徳を積み、人々の信仰を得た彼女はもはや本当に神と名乗れるほどの力と精神を身につけていた。

 

「地底に、行きましょう」

決意に満ちた表情でそう言った。今更、引くことなどできるものか。

 

「だめだ。地底は地上で忌み嫌われた者たちが集う場所。そこには規律も何もなく、荒くれ者たちが好き勝手に跋扈していると聞く。いくらご主人が力をつけたからといって、そんな危険な場所に行って無事でいられるとは思えない」

確かに、地底は無法者たちが住むという。そんなところに行けば、命の保証は無いだろう。だがーー

「この旅は、初めから安全なことなんてなかったでしょう。もともと賭けで始めた旅なんですから、今更危険がどうのだと言うのは不粋というものです。私には力がある。自由に動く事ができる。魔界や地底に封じられて幾百年がたった仲間たちを救うのに、今更、何を恐れるというのでしょう。ナズーリン、お願いです。地底へ行かせてください」

私は全力で懇願する。

ナズーリンは大きなため息をついた。

「やれやれ、しょうがないな、ご主人は。いや、ご主人の頼みを断れない私も同類か。分かったよ、行こう」

こうして、地底へ飛倉を探しに行くことが決まった。



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希望の星 中編

前後編だといったな、あれは嘘だ。
戦闘描写に挑戦してみました。また、キャラが若干増えています。楽しんで頂ければ幸いです。


地底へ続く穴は、妖怪たちの住む山を越えたところにある。

山には、天狗や河童などの妖怪が社会組織を作っている。そのため、彼等は山に入ってくる者にはあまりいい顔をしない。それどころか、問答無用で追い返される場合もある。

地底に行く前でも、安全では無いということか。

山の中腹までついた。ここまでは特に誰とも遭遇していない。

案外、すんなりいけるだろうか。

そんなことを考えていると突然、風が強く吹いた、目の前に天狗が立っている。

「いつまでたっても入山禁止の立て札が見えなかったかしら?」

天狗は優しく問いかける。が、その目はいつでも戦闘態勢に入れるように隙がない。

 

「待ってくれ、私たちは山を通り抜けたいだけだ。地底に用があるのでね」

ナズーリンが説得を試みる。

「あやややや!?あんなところに行きたいだなんてどうかしてますよ。まともな者がいくところじゃない」

地底、という言葉を聞いたとたん、天狗は驚いた表情を見せ、慌てた様子で言った。

 

「でしょうね、私たちはだいぶ前からまともではありませんよ」

「いやいや、まともじゃないのはご主人だけだろう」

「えぇ・・・」

相方の突然の裏切りに顔が引き攣る。ここは同調すべきところでは無いだろうか。

 

「面白い方たちですねぇ。できれば通してあげたいですが、これも規則なのでね」

風が一層強くなる。

「どうしても通りたいというのなら、私を倒して行きなさい。大丈夫、手加減はしますから、全力でかかってきなさい!」

どうやら、戦闘は避けられないようだ。

天狗は右手に持つ団扇を振りかざした。

突風が吹く。と同時に身体に無数の切り傷ができる。

「ご主人、鎌鼬だ!」

鎌鼬、旋風の中に生まれる真空波によって体が切り裂かれる現象だ。

「どうしました?この程度で面食らっているようでは、到底地底では生きていけませんよ!」

鎌鼬の嵐が容赦なく私たちを切りつける。それほど深い傷がないのが救いか。

しかし、このままではジリ貧だ。

「くっ・・そ!天狗風情が調子に乗るな!」

ナズーリンがロッドを構える。このロッドは探索に使われるものだが、戦闘時には魔力弾を射出する媒介になる。

ロッドの先からペンデュラムが出現する。

ペンデュラムが規則的に回転する。そこから無数の小さな弾が発射される。鎌鼬は粒弾とペンデュラムに当たって消えていく。

「ふーむ、少しはやるみたいですね。では、これはどうでしょう」

天狗は団扇を天高く突き上げた。同時に竜巻が発生する。

無茶苦茶な能力だ。こんなのに巻き込まれたらひとたまりもない。

竜巻は5秒ほどで収まった。長い時間は持続しないらしい。再び天狗が団扇を突き上げると、またもや竜巻が発生した。しかも今度はさっきより速い。

迷っている暇はない。やらなければこちらがやられてしまう。

私は独鈷杵を構える。これを回転させ、光線を作り出す。光線に撃ち抜かれた竜巻は一瞬で消滅した。

「おっと、これも凌ぎますか。意外と見所がありますねぇ。では次が最後です。これに耐え切ったら、通り抜けていいですよ!」

言い終わった瞬間、彼女の姿が消えた。

一瞬困惑した。瞬間移動の類か?いや、所々で砂埃が舞っている。これは高速移動だ。天狗は目にも止まらぬ速さで私たちの周りを縦横無尽に移動しているのだ。さらに、天狗は動きながら小さな魔力弾を撃ってきている。こちらは速さこそないが数が多い。

まずい、下手をすると天狗と弾の挟み撃ちでやられてしまう。

「一か八か、試してみましょう」

私は宝塔を掲げた。と、宝塔は眩いばかりの光を放った。宝塔を中心に、光の円が作られる。すると今度はその円から不規則な軌道で光が飛び出す。光線が、不規則な軌道を描きながら辺りに拡散する。

「ええ!?えええ!??」

天狗の声が聞こえる。どうやらこの動き回る光線の軌道を読めずに戸惑っているようだ。

「ちょ、こんなの初見で見切れるわけなーー

 

ズドン!

不規則な光線の一つが天狗を撃ち抜いたようだ。

天狗は自身の慣性と光線に撃たれた衝撃で明後日の方向へ飛んでいく。

ドカッ!

岩場にぶつかり、天狗の体がその場に落ちる。

「まさか・・・死んでませんよね?」

冷や汗が伝う。天狗の縄張りである山の中で天狗を殺したとあっては一大事だ。地底に行くどころではなくなる。

恐る恐る様子を伺う。

どうやら気絶しているだけのようだ。取り敢えず一安心。

ナズーリンが水を汲んできて、乱暴にぶっかけた。

私怨も混ざっているのだろう。天狗は咳き込みながら目を覚ます。

「ゲホッ、ゴホッ、いやぁひどい目にあいました。まさかあんな奥の手を持っていただなんて・・・」

「約束通り倒したぞ。これで、山を通り抜けていいのだろう?」

「仕方ありません。これも約束ですからね。他の者達には私から口利きしておきましょう」

そういうと、天狗は風とともに颯爽と去っていった。

 

その後、山の中では何事も無く進むことができた。あの天狗のお陰だろう。少々鼻につくところもあったが、割といい人?なのかもしれない。

地底に続く大穴が見えてきた。

 

穴は非常に大きい。命蓮寺の本堂が丸々収まるほどだ。そして、底が見えない。石を投げ入れても反響音すら聞こえない。飛べない者が落ちたら悲惨だろう。

私たちは、意を決して飛び降りた。

 

地底の住民の歓迎はなかなか手荒いものであった。つるべ落としに首を持っていかれかけ、土蜘蛛の巣にかかりそうになり、橋の上を通るときなど、嫉妬の情念が湧き上がり、そこらにいる人に襲い掛かりそうになった。後で知ったが、これも妖怪の仕業だったらしい。旧都では鬼に絡まれ、酒を飲む羽目になってしまった。鬼の酒量は凄まじく、私は二日間寝込むことになった。頭が痛い。

だが、その時に酒に付き合った礼として、地底に詳しい者の情報を手に入れることができた。

地霊殿と呼ばれる屋敷に住む主、名をさとりというらしい。

「地霊殿に行くなら気をつけな。さとりは相手の心を読む能力を持ってるからね。アタシらみたいな奴は大したことないが、アンタは色々抱えてるみたいだからねぇ。ま、機嫌を損ねてトラウマでも弄られなきゃ大丈夫だろう」

 

二日酔い、いや、三日酔いから醒めた私たちは地霊殿へと向かうことにした。

地霊殿は旧都の奥の方にあるらしい。

広い旧都の中を迷いながらもなんとか地霊殿までたどり着くことができた。なかなかに立派な屋敷である。

 

どう入ったものかと思案していると、入り口の横に荷車を引いた少女がいた。どうやら彼女はさとりのペットであるらしい。

「さとり様に用事かい?なら、あたいが部屋まで案内してあげるよ」

地底の住人というのは、初対面でも割と寛容らしい。

大層な扉を開け、中に入る。さとり妖怪の住処というだけあって、かなり異様な雰囲気が漂っていた。エントランスには、様々な装飾がなされており、中には形容しがたい奇異なものも混ざっていた。

「この辺にあるのはこいし様の趣味だよ。あまり深く考えない方がいい。あの方の考えは誰にも読めないからね」

こいしというのはさとりの妹らしい。妹がこんなに悪趣味だと少々不安が募る。

エントランスを抜け、廊下を真っ直ぐに進んでいくと、執務室と書かれたドアがある。

私たちを案内してくれた少女ーーお燐というらしいーーお燐は軽くノックして、ドアを開けた。

 

部屋の中は殺風景で、仕事をするのに最低限のものしか置かれていなかった。

そして、私たちが会いたかった人物は正面のデスクに向かっていた。紫の癖毛が目立ち、水色の服を着ている。体に巻きついている眼が特に印象的だ。

 

「あら、またお客さんかしら?」

彼女は作業中の書類から目を離さずに言う。

「ええ、実はお聞きしたいことがありましてーー」

「話さなくてもいいわ、貴女の言いたいことは全部わかりますから。ふむ、地底に封じられた飛倉と仲間たちの居場所が知りたいと。どうやら先刻の者たちと違って戦闘の意思はないようね」

驚いた。心を読まれることは知っていたがこうも正確に読まれるとは。

「結構便利なんですよ。この能力。相手の言いたいことも言いたくないことも全部わかりますし、何より言葉を持たない者たちとも会話ができる。他にも、こんなこともできます」

と、彼女のもう一つの眼が閃光を放つ。

「・・ッ!」

あまりの眩しさに目を瞑る。

 

光が止んだ。目を開けると、そこにはあの日の光景が広がっていた。

封印されゆく仲間たち、それをどうすることもできずに見ている自分。

なんだこれは、私は夢でも見ているのか?だとすれば、随分な悪夢だ。さとりの仕業か?そういえば、トラウマを弄るとか言っていた。

なるほど、私は試されているのかーー

恩人が封印される。私にとってこれ以上ないほど悲痛な光景だ。それでも私は目を背けない。これを乗り越えなければ先はない。一瞬も目を逸らさずに一部始終を見届ける。見届けなければならない。あの時犯した私の罪を。

 

封印が終わる。と同時に夢から解放される。

「ふむ、トラウマを想起されても毅然としていますね。素晴らしい」

さとりは感心したように言う。

「いえ、お陰で、私の使命を再確認することができました。ありがとうございます」

嘘ではない。本心だ。それ故にさとりは少し驚いた表情を見せた。

「貴女を試したことを謝罪します。半端者に優しくしてあげるほど私はお人好しではないのでね。でも、貴女はどうやら立派な精神をお持ちのようです。いいでしょう。情報を与えます。この地霊殿の裏から行くことのできる灼熱地獄跡へと向かいなさい。そこに貴女の望む物があるはずです」

「ありがとうございます」

「また、困ったことがあればいつでも相談に乗りますよ」

彼女が優しく微笑みながら言う。どうやら、気に入られたようだ。

 

私たちは地霊殿を裏から抜けて灼熱地獄跡へと向かう。お燐は私がトラウマを見ている間にいなくなっていた。

 

「全く、いきなり動かなくなるから心配したよ」

「はは、すみません、でも、もう大丈夫です」

「だいたい、ご主人はいろんなものを抱えこみすぎるんだ。鬼との宴会だって、私よりも遥かに呑んでいたじゃないか。少しは私に負担を分けてもいいんだぞ」

少し不満げな声で言う。

「いえ、ナズーリン、貴女はそうやって私の至らないところを指摘してくれる大事な部下であり友なのです。あの時だって、貴女が希望をくれなければ、私はずっと独りで塞ぎ込んだままだったでしょう。私が道を歩き、貴女が導く、それで良いと思うのです」

そう、彼女は優秀な部下であり、大事な友人だ。彼女には何度助けられたか分からない。

「そうかい、ご主人がそれでいいというのなら止めやしないさ」

素っ気ない態度を装っているが、内心嬉しそうなのが分かる。私はそれに笑って応えた。

 

しばらく歩いていると、周りの温度が急激に上昇した。ここが灼熱地獄跡か。やはり灼熱というだけあって相当な暑さである。

大きな爆発音が聞こえた。どうやら遠くで誰かが戦っているようだ。

ふと周りを見渡すと、ここから少し離れた場所に人影が見えた。まさか、あれはーーー

「一輪!!」

人影はこちらに気がついたようだ。一際大きな影も見える。間違いない、雲山だ。

気持ちが昂ぶる。間違いなく彼女だ。

「星?星じゃないの!なんでここに?」

「一輪たちを探しに来たのですよ。ああ、よかった!どうやら、無事だったようですね」

「まあ無事では無いけど・・・しかし、わざわざ地底まで乗り込んでくるとはねぇ。あんた、前と変わったね。神様らしいよ」

何百年ぶりかの再会に、私も一輪も顔がほころぶ。

と、再び爆発音が響く。

「ああ、そうだ、こうしちゃいられない。星、ナズーリン、向こうで村紗が地底を脱出するための船を用意しているから、急ぎましょう」

村紗も無事なようだ。私は数百年ぶりの再会に思いを馳せながら駆け出す。

 

「あれ?星?久しぶりね」

村紗は軽い口調で話しかける。数百年も会っていないというのに、相変わらずだ。

「久しぶりどころでは無いと思いますが・・・息災で何よりです。ところで、何をしているのですか?」

「ああ、最近になって、ここらで間欠泉が頻繁に吹き出すんだ。それに乗って、地上へ脱出する計画を立てていたんだ」

村紗たちも封印から逃れるために色々やっていたらしい。

「ちょっと待った、我々は君たちの封印を解く他に、飛倉を探しにきているんだ。それを見つけられないと地上へ戻るわけにはいかない」

ナズーリンが言う。そういえばそうだった。旧友に再会したことですっかり忘れていた。やはり、こういうところで頼りになるのだ。

「ああ、飛倉ね。実は、そいつも間欠泉にもってかれてね、どうやら地上に散らばっちゃったみたいなんだ。今持っているのは船を作った分しかない」

事はそううまく運ばないらしい。再び地上へ戻り、飛倉の破片を探さなければならないようだ。

その時、大きな地響きがした。

「おっと、そろそろだ。さあみんな、聖輦船に乗って!地上に飛び出すよ!」

私たちは船に乗り込んだ。

地鳴りが大きくなる。

と、地面から勢いよく間欠泉が吹き出す。

物凄い衝撃だ。飛倉の力がなければ木っ端微塵になっていただろう。

 

私たちは地上へ飛び出した。飛倉の破片を見つけ、聖を救うために。



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希望の星 後編

寅丸星の聖を助ける旅の、最終章です。
星蓮船の裏側をイメージして書きました。なるべく原作の流れに沿って書きましたが、オリ展開も少しあります。
では、楽しんでいただければ幸いです


ーーあらあら、とても怯えているようね。怪我をしているわ。

大丈夫、私はあなたの味方です。

私は、人間と妖怪の共存できる世界を目指しています。

あなたを救うことは私の悲願の一歩でもあるのです。

ですから、どうか、この手を取り、共に理想の世界を目指しませんかーー

 

 

 

 

 

夢を見ていたようだ。

あの時、私は妖獣として目覚めてまだ幼かった。無謀にも人里に降り、迫害されて傷ついたところに彼女が現れたのだ。

彼女の言葉は忘れたことがない。私はあの言葉に救われたのだ。彼女が、聖が、右も左もわからなかった私に、人間に追い詰められ、死にかけていた私に、生きる意味をくれた。

彼女を助けるためならどんな苦難も大したことではない。

そう思ってここまできた。

そう、あと一歩だ。今の私には仲間がいる。独りぼっちだったあの時とは違う。今度は私が貴女を助ける番だ。

だというのにーー

「なんだってぇ!?宝塔を失くした?いつ?どこで!?」

ナズーリンが半ば怒ったように問い詰めてくる。

村紗と一輪も呆れたような可笑しいような表情で見ている。

我ながらとんでもないことをしてしまったと思う。だから、えーと、もう少し手心を加えてくれませんか?

「お、恐らく、地底から飛び出した時の衝撃で落としたのだと思うのですが・・・」

私はしどろもどろになりながら、なんとか答える。

「まったく、私の能力が物を探す能力だったからよかったものの、そうじゃなかったらどうするつもりだったんだい?」

滅相もございません。

「仕方がない、私が探しに行くよ。村紗達は引き続き飛倉の破片を探しながら魔界を目指してくれ」

ナズーリンは急いで出かけていった。

やはり持つべきものはダウザーの友である。

一輪たちの視線が痛い。

「まあ、やっちゃったものは仕方がないし、私たちは私たちの仕事をしましょう。魔界に着く前にはナズーリンも追いつくはずよ」

村紗が笑いを堪えながら言う。

「そうね、済んだことを気にしてはいられないわ。飛倉もまだ集まってないし、できることをやっていきましょう」

一輪はため息まじりにそう言う。

「あの、本当に申し訳ありません。私のせいで、余計な手間をかけさせてしまって・・・」

本当に、情けなくて泣いてしまいそうだ。

「気にしなくても大丈夫だって!それと、その台詞はナズーリンに言いなよ。彼女が宝塔を持って帰って来た時にさ」

村紗はいつものような軽い調子で言う。

「それに、星の能力も飛倉を探すのに不可欠なんだ。十分役に立ってるんだから、落ち込むことはないよ」

そう言って貰えるとありがたい。

「わかりました。謝罪は聖を助けた後でたっぷりします。今はとにかく自分にできることを精一杯やります」

 

再び、飛倉を探して聖輦船は進む。

 

 

まったく、ご主人にも困ったものだ。

よく物を失くすのは癖だと思っていたが、そういう星の下に生まれただけなのかもしれない。

結局、いつも私が探す羽目になるのだが。

しかしまあ、こういう役回りも悪くはない。

私はいつからか、ご主人の役に立てることを嬉しく思うようになっている。

あの方はどんな者の声も聞き届ける誠実さと、それを可能な限り実現する有能さを併せ持ち、毘沙門天様の代理として、恩人を迫害した人々の希望となり、導いていく強い使命感も持っている。

結局のところ、私はあの方を尊敬し、敬愛しているのだろう。

「それにしても、一体どこを探せばいいのやら」

間欠泉は、物凄い勢いで吹き出し、まるで天まで届きそうなほどだった。あれで落としたというのなら、あの付近には落ちてはいないだろう。

どこへ行こうか考えを巡らせていると、聖輦船へと向かう一つの影が見えた。

なんだあれは?明らかに客人という雰囲気ではない。ちょっと確かめてみるか。

 

「狭い狭い幻想郷。そんなに急いでどこに行く?」

これが、私たちの長い、長い旅の、終わりの始まりだった。だが、その時私はそんなことなど、知る由もなかった。

 

 

飛倉集めは割と順調だ。

私の財宝が集まる程度の能力により、それほど労せずに見つけることができる。

以前より能力が強くなっている気がするが、まあいいだろう。

「これなら、ナズーリンが戻り次第、すぐにでも聖を助けることができそうですね」

もうすぐだ。もうすぐで悲願を達成できる。

「そうだね。でも、魔界では何が起こるかわからない。油断は禁物だよ」

そうだ、魔界は私たちにとって未知の領域だ。

最後まで何が起こっても不思議ではない。再び気を引き締める。

と、その時、船内が急に騒がしくなった。なにかあったのだろうか。

「何?侵入者?宝船がどうのと言って船内を荒らしている?この船にはそんなものないというのに、どこの馬鹿者だ、まったく・・・。それで?今は一輪が交戦中なのか。彼女は飛倉を保管している宝物庫の番をしていたはずだ。万が一あれが奪われてはまずい、私も応援に行こう。星はここで待機していてくれ」

やはり、すんなりとはいかせてくれないらしい。

だが、彼女たちに任せれば、大抵の相手ならなんとでもなるだろう。

私は私の役目に集中しよう。

 

一輪が戻ってきた。なんだかボロボロだ。まさか、やられたんじゃないだろうか。

「いやあ、あの人間、強いわ。雲山と私のコンビネーションが全く通じないなんて」

なんだって?

一輪ほどの実力者でも歯が立たないというのか。これは、村紗でも厳しいかもしれない。

私も出るしかないか。

「待って、あの人間はかなりの数の飛倉を持っていたわ。うまく利用して、封印を解く手助けをしてもらいましょう」

人間が飛倉を集めて、何が目的なのだろうか?

まあいい、向こうから持ってきてくれるなら、好都合だ。

あとは、ナズーリンが帰ってくるのを待つだけだ。

村紗も戻ってきた。

侵入者は、じきにここに来るという。

どうやら、一輪にうまく誘導するように頼まれていたらしい。

 

「まったく、世話をかけさせるご主人だよ」

ナズーリンが戻ってきた。

手には宝塔を持っている。

本当に優秀な部下である。

「ありがとうございます。貴女にはいつも助けられてばかりですね。本当になんと言ったらいいやら」

「まあ、それはいいとして、とんでもなく強い人間がこちらへ向かっているが、どうする?先程、宝塔の力を少し借りて相手をしたが、難なく突破されてしまった」

「彼女は飛倉の破片を持っています。魔界まで共に行き、封印を解く手伝いをしてもらいます」

しかし、宝塔の力を退けるほど強力なのか。

これは、気を引き締めなければ。

そして、私たちは魔界へと突入した。

ほどなくして、紅白の姿をした人間が現れる。

彼女は幻想郷の異変解決のプロである博麗の巫女だ。

なるほど、それならば強い力をもっているというのも頷ける。

「宝船だと思ったのに、中身は空っぽじゃない!」

どうやら、この船に宝が載っているものだと思い、乗り込んできたようだ。この船には宝など乗っていないのだが・・・

「じゃあ、あんた達を倒して行くわ!」

やれやれ、随分と好戦的なようだ。だが、飛倉には興味がないらしい。ならばなぜわざわざ集めているのか疑問だが・・・

まあいい、勝てば飛倉を奪えばいいし、負けても譲ってもらえるだろう。

 

「良いでしょう。私と戦うというのなら、相手になります。ただ、もし貴女が道を誤っているのであれば、魔界にありてなお輝き続けるこの法の光ーーこの毘沙門天の宝塔の前にひれ伏すことになるでしょう!」

戦闘が始まった。

私は最初から宝塔を掲げ、全力で攻撃する。

不規則な軌道を描く光線が巫女を貫くーー

と思ったが、紙一重で避けられる。

まさか、一発で対応されるとは思わなかった。 驚愕の表情を隠せない。

「どうしたの?この程度の弾幕、今までに何度も見てきたわ!」

どうやら、今までの相手とは別格らしい。

巫女が針を放つ。

刺さりはしなかったが、掠っただけでも結構痛い。封魔の力があるようだ。まともに食らえば何発も耐えられないだろう。

「くっ・・これならどうだ!」

宝塔を中心に四方八方へ光を放つ。

その光から新たな魔力弾が発生する。

だが、これも難なく避けてくる。恐ろしいまでの勘と身のこなしだ。

あっけにとられていると、目の前に針が迫る。避けようと身を翻す。だめだ、反応が遅れた分、何本かまともに食らってしまった。

全身に激痛が走る。

なんの、これくらい大したことじゃない。

「どうしたの?もう終わりかしら?」

息一つ乱れていない。このまま終われるか。

「毘沙門天より授かりし宝塔よ、今一度力をお貸しくださいーー!」

宝塔が光輝く、と同時に巫女を縦横からの光線が取り囲む。

さらに、先程と同じように光線から弾が発生する。しかし、密度はさっきより遥かに上だ。

「くっ、意外とやるじゃない!」

捉えた!今度こそ、逃げ場はない!

そう思った。だがーー

「スペルカード!夢符《対魔符乱舞》!!」

巫女の背後から大量の札が勢いよく放たれる。それらは、魔力弾も光線も貫いて一直線に私へ向かってくる。

ああ、これはだめだ。避けられない。ここまでかーーー

大きな音を立てて札弾が炸裂する。

私は後ろへ大きく弾き飛ばされる。

勝負はついた。

「流石ですね、飛倉を集めただけのことはある。しかし、私を倒してどうするというのです?」

「ほら、この玩具が必要なんでしょ?譲ってあげるわ」

私は目を丸くする。どういうつもりだろうか。

「封印されてる奴に興味が湧いたわ。どんな奴か確認してあげる。さっさと封印を解きなさい」

こちらとしては有難い申し出だ。当代の博麗の巫女は気まぐれだと聞いていたがここまでとは。行動がまるで読めない。それが彼女の強さの秘密なのだろうか。

「ありがとうございます。では、早速封印を解く準備にかかりましょう」

「ふん!その封印されてる奴も私が倒してあげるわ!」

うーむ、本当に大丈夫だろうか?

不安と期待が入り混じりながら作業をすすめる。

いよいよだ、ようやく報われる。多くの回り道をした。ここまで来るのに千年もの月日を要してしまった。

この封印の向こうに聖がいる。

もうすぐ、長かった旅も終わり、あの日常が戻ってくるはずだ。

封印を解く鍵が完成した。

大きな音を立てながら、封印が消滅していく。博麗の巫女は、もう待てないというかのように中へ飛び込んだ。

私たちも聖輦船で後を追う。

中はかなり広いが、宝塔が行くべき道を示してくれる。

あの巫女は大丈夫だろうか?

まあ、仮に迷ってたとしても助ける義理はないだろう。

 

宝塔の光が強くなる。目的地はもうすぐだ。

遠くの方で閃光が走る。

どうやら、もうおっ始めていたようだ。

聖は大丈夫だろうか。

 

ようやく閃光の元へたどり着く。

ああーーやはりーー彼女だ。

千年経とうとも変わらないその姿。

私を救ってくださった時と変わらぬ御姿。

長らく待ち望んだ者が、聖白蓮が、今、目の前にいる。

しかし、さすがといったところだろうか。聖はあの巫女と互角の勝負を繰り広げていた。

しかし、徐々に戦況が傾く。

聖の最後のスペルカードが発動する。

高密度の札弾が巫女を襲う。

だが、彼女はそれを全て紙一重で避けていく。

「これで終わりよ!」

巫女の体が光り出し、無数の光弾が発射される。それは周囲の弾を飲み込み、聖に向かって一点に収束する。

大きな爆発音が響く。

「聖!」

気がつけば飛び出していた。

聖はーーよかった、無事なようだ。

「星・・・来てくれたのですね。この千年、貴女には大変な思いをさせてしまったようですね」

「そんなことはありません!私は、ただ、あの時、貴女を救えなかったことが、許せなかった。貴女が封印されるのを、見ているしかできなかった!だから、貴女を助け出し、私のできうる限りの謝罪を、贖罪を行おうとーー」

聖の手が私の口を塞ぐ。随分と荒れた手だ。

彼女もまた、魔界で生きるのに必死だったのだろう。

「自分を責めてはいけません。それに、貴女は私のわがままを聞き、手を出さないでくれました。謝る必要はありません。よく我慢しましたね。ありがとう」

その言葉を聞いたとたん、私の中で様々な思いが溢れ出し、抑えきれずーー

「あ、ああ、うあああああああああ!!」

ーー涙となって流れ出した。

「お、おか、おかえり、なさい、聖」

「はい、ただいま、星」

 

 

 

 

 

しばらくして、聖輦船に戻った私たちは、飛倉が力を失ったことに気づいた。

しかし、聖が再び法力を込めることで、魔界を脱出する分のエネルギーは賄えるらしい。

相変わらずとんでもない力だ。

 

こうして、私たち+博麗の巫女は魔界を脱出し、幻想郷へ帰った。




とりあえず、星の旅はこれにて終了です。
ハッピーエンドですね パチパチ
原作のセリフをちょこちょこ入れるのが好きなんです。
後日談も投稿していきたいと思います。
ではまた。


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希望の星 終編

聖を助け出した後のお話です。
主に寺の様子やナズ星のその後を想像して書きました。
まあ短めですが、楽しんで頂ければ幸いです。


あれから、一年が経った。

私たちは、聖輦船から作り直した命蓮寺で修行を積んでいる。

今では、一輪や村紗たちに加えて、封獣ぬえと、二ツ岩マミゾウという妖怪も新たに門徒となった。

巫女が飛倉を集めていたのは、ぬえが原因らしい。

なんでも、ぬえには正体を分からなくする能力があるらしく、その能力を飛倉に使うことで、巫女はそれを別のものだと勘違いしたそうだ。

あれほどがめつい巫女ならば、財宝にでも見えていたのだろうか。

まあ、とにかく、私たちは新しくなった命蓮寺で日々己を磨いている。はずなのだがーー

「一輪、また酒を飲みましたね。仏の教えに不飲酒戒というものがあります。酒に溺れていては、いつまでたっても悟りを開くことはできませんよ」

「村紗、貴女は人を溺れさせているようですね。それが貴女の性質である以上、仕方のないこととは分かっていますが、それを自律することこそ、妖怪として新たな境地に立つために必要なのですよ」

厳格な仏教徒である聖は身内にも容赦しない。どうやら、聖に情報を流した者がいるようだ。まあ、大体の見当はつくが。

「まったく貴女たちは・・・星を見習ったらどうですか?彼女は特に問題も起こさず、真面目に修行しているでしょう」

「でも聖、星は貴女を助ける時に、毘沙門天様から授かった宝塔を失くしていましたよ」

ちょっ!村紗さぁん!?

「本当ですか?星」

聖はにこやかに聞いてくる。声のトーンは全く表情にそぐわないが。

嘘をつけるような雰囲気でもない。

「あ、いや、まあ、そのー、はい」

「ちょっと詳しく聞きたいですね。そこに座りなさい」

観念して私も村紗たちの仲間入りをする。

彼女らがニヤついた顔でこっちを見ている。

あとで覚えておいてくださいね?

 

聖は最近復活した仙人と競い合っているようだ。村紗たちの情報を流したのはおそらく彼女だろう。好敵手がいることはいいことである。最近は少し仲良くなっているようにも見える。微笑ましい。

 

ナズーリンは、今は命蓮寺にはおらず、無縁塚に住んでいる。

聖を救出した後、彼女と話をした。

 

「ついに目的を果たしたね。ご主人」

「そうですね。これも全て貴女がいたからこそです。本当にありがとう、ナズーリン。それで、貴女はこれからどうするのですか?」

「ご主人の目的は果たしたし、毘沙門天様も、ご主人の働きを認めて、もうお目付けの必要はないと判断されたようだ。お寺で修行するのも性に合わないし、私はお宝でも探しながらのんびり過ごすよ」

「そうですか・・長い間支えてくれた貴女と離れるのは寂しいですが、仕方のないことですね」

「まあ、気が向いたら寺にも顔を出すさ。お宝が見つかったら山分けしてもいい」

「そうですか。では、また物を失くしたら貴女に依頼するとしましょう」

「ご主人・・・まだ懲りていないのかい?言っておくが、次宝塔を失くしたら、今度こそ毘沙門天様に報告するからね」

「あっはい。気をつけます」

「まあ、そうなったらまた私がお目付け役として、ご主人をより厳しく監視してあげるよ」

お互いに顔を見合わせて笑う。本当に、良い友人を持ったものだ。

「じゃあ、もう行くよ」

彼女は聖輦船から降りて、無縁塚の方へ飛んでいく。

「ナズーリン!貴女がいなければ聖を助けることはできませんでした!貴女には感謝しかありません!!ありがとうございます!!!」

私はありったけの声で叫んだ。

彼女はそれに、腕を振って応えた。そして、雲の向こうへと消えていった。

 

彼女はまだお寺には来ていない。お宝探しがあまり捗っていないのだろうか。

まあいい。

彼女とは千年の間苦楽を共にしたのだ。

数百年経ってもこの絆は変わらない。

 

 

 

あの日、彼女が私に希望をくれた。

それから私は、人々の希望として笑っていこうと決めた。

そして今、私は本当に心の底から笑って過ごすことができている。

ーーありがとう。

私は、誰に言うでもなく、一人呟いた。

空は雲ひとつなく、光に満ちていた。




希望の星、これにて完結です。
聖が封印された後、村紗や一輪と違って星だけは封印を免れたらしいですが、聖らを見殺しにしたことを後悔していたようなので、その葛藤を想像して、それを文にしてみた次第です。
また、星とナズーリンの関係性が複雑で、面白いと思ったのもあります。社長と、会長直属の部下といったところでしょうか。
書いててなかなか楽しかったですが、読んでくださった方々は楽しんでいただけたでしょうか。執筆を始めて日が浅いので、至らない点があれば、ご指摘くださるとありがたいです。
ではまた。


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