「にゃ~...」
アズリールは悩んでいた。
空白にその身体能力を
アヴァント・ヘイムの上はこの体で生活するには大変どころではなかったが、それでも通常の人間と違い食事や排泄が不要な体であることから都市の隙間に落ちても登れないこと以外は特に問題なかった。
「やっぱり...嫌われてるのかにゃあ」
そう、今まさに都市の隙間に落ちて3日が経過してた。
前回のように足を滑らせたと同時に「あ(笑)」という声は聞こえたし、真上を誰かが通過して行くときに「プッ(笑)」という声まで聞こえた。
ひとしきり叫び助けを請うたが、何の返事もなく床に転がったまま人から嫌われているかどうかを一人で延々と考えていた。
もういっそのことここで果てようかと思考が行き着いた時に、アズリールの顔に影が射した。
「先輩、またこちらにいらしたのですか。狭いところがお好きなのは理解しましたが、せめて登る手段を用意してからにしてください」
呆れ顔で話しながらアズリールを伴って
「ジ……ジブにゃ~ん!」
3日間放置されたことや最愛の末妹に助けられたことで押し寄せた感情の波にジブリールへ泣きながら飛びつくも、あっさりと避けられてしまう。
前回とほぼ同様のやりとりだが、よほど放置されたのが効いたのか避けられたことを気にした様子はなかった。
「先輩。これ、お返しします」
そういって差し出されたのは、一冊の本。前回落ちた時にジブリールが探していた古代
「にゃ?もういいのかにゃ」
あのスクラップの問題が解決したのかと言外に含み尋ねる。
「ええ、マスターの手腕によりもう解決致しましたのでしばらくは読まないかと思い配達のついでにやってきました」
配達?と首をかしげるが、当のジブリールは答える気がないのか代わりにといくつかの本を見繕い借りていきますねの一言と共に空間転移を....
「ちょっとまってにゃジブにゃん」
する前に呼び止めた。
「...私は忙しいのですが、なにかご用件でも?」
「ジブにゃんは空達の観察日記をつけてるにゃ」
「はい、それがどうかいたしましたか?...あ、最新刊はもう少しまってくださいね」
もうすぐ発行いたしますから。といいまた飛ぶ体制に入ったジブリールに。
「違うにゃ、うちも日記をつけてみたいなって思ったんだにゃ」
自分も読む側から書く側へ。そう思ったアズリールは手始めに日記をつけてみたいと思っていた。
しかし、日記どころか書き物をしたことがなかったので、何を書いてよいのかわからずいまだ手つかずとなっていた。
「どうやって書いたらいいのか、聞きたかったんだにゃ」
その言葉を聞き、話の途中に本気で転移しようとしていたジブリールはアズリールへと向き直り。
「普通の日記でありましたら、その日あった出来事を書き記せば良いでしょう?」
「そのあった出来事が問題なんだにゃ、うちはあまりここからでないにゃ」
だから書き記すことがない。
そう言ってみたが、今度はジブリールが首を傾げた。
「ならば外に出てみては……あ!そうでした、先輩はいまや
テヘペロ♥️と付け加えるジブリール。
そう、今や誰かに背負って貰うなりしないと自分はここアヴントヘイムから出ることさえ叶わない。
元より全翼代理の自分はあまり勝手な行動をするわけにもいかない。
そういうこともあり、考えてみれば外に出たのは本当に少なかった。
「ねえジブにゃん、お姉ちゃんとしてお願いがあるに「嫌です」」
良い機会だ、外をこの体で歩いてみるのも悪くない。
そう思って頼んでみたが、ジブリールの即答により拒否された。
「にゃ、にゃんでにゃ!?ちょっと一緒に
「嫌ですよ、迷子になられても面倒ですし回収したくありません」
「へにゃ!?ジブにゃんはうちが迷子になると思ってるのかにゃ!」
「はい、勝手の違う
迷子になる要素の欠片もないのだ。
しかし、それらの一切を縛られたアズリールは迷子にならずに外を歩くなど到底できそうに思えないジブリール。至極当然と言えた。
「しょ、証明してみせるにゃ!お姉ちゃんは迷子にならないと!」
だからお願いにゃ~と泣きながら縋り付く。
これでダメなら大人しく他の子に頼もう、最近はあの二人に付きっきりなジブリールと少しでも一緒にいたいと思っていたが、それで嫌われては元の子もない。
「はぁ……わかりました。あまり騒ぎなどは起こさないで下さいね」
観念したようにジブリールため息を一つ吐き、次の瞬間には人の瞬きよりも早く景色が転換する。
上手くいった自分に称賛の声を上げようとして、視界に入った光景に表情を固める。
そこには
港町だからだろうその人種の多さと活発さは、アズリールを驚かせるには充分だった。
「それでは私はマスター達の所へと戻りますので…それと、これを」
そう渡されたのは一冊の本とペン。表紙はシンプルで、中身は白紙だ。
これは?と視線で訴えると、ジブリールは呆れ顔を返して。
「紙も持たずに日記を書こうとするなんて、流石にボケが過ぎるかと思いますよ?」
それもそうかと皮肉を言われながらアズリールは、この本がジブリールの持つ聖典と色違いの同じ本だということに気が付いた。
「ジブにゃん…これ」
「私からの餞別です、まあ無理だとは思いますが、精々面白い日記をつけてくださいね」
そう言い残し、
「……さて、行くかにゃ」
姉妹お揃いの日記帳だ。その内容は誰に見せても恥ずかしくないよう充実させなくてはならないだろう。
そう確信したアズリールは、喧騒の激しい街中を歩き始めた。
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