しまりんの幼馴染は、なでしこの飼い主になりました (通りすがりのキャンパー)
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初キャンプ

唐突だが、今日からキャンプデビューすることになった。

 

きっかけは些細なことだ。

 

いつも通りの休みの日。

 

俺は自室で積みに積み上げた本を消化しようと読書に勤しんでいた。

 

お気に入りのコーヒーとお茶請けのクッキーを準備し、早速本を読もうとしたその時だった。

 

勢いよく、部屋の扉が開けられた。

 

何事かと思い部屋の扉を見るが、俺の部屋をノックなしに開けてくる奴を、俺は一人しか知らない。

 

そこには、腰まで伸ばした髪を頭の上で大きな団子状に結った小柄な少女が立っていた。

 

彼女の名前は、志摩リン。

 

俺の幼馴染だ。

 

そのリンから、「これから本栖湖までキャンプに行く。カイも来い」と言われ、俺は抵抗空しく、初キャンプすることになった。

 

普段は一人でソロキャンプを楽しんでるリンが、突然俺をキャンプに誘った理由はわからないが、折角の誘いを断るのもなんだし、付いていくことにした。

 

こうして、俺、月見里(やまなし)海淵(かいえん)は、現在自転車に乗りつつ、リンに言われた最低限の荷物だけを持ち、リンの後ろに付いて行ってる。

 

トンネルを抜け、目的地まであと一息と言った所で俺の耳に何かが聞こえた。

 

よく聞くと鼾だった。

 

どこから聞こえてくるのかと思い、音が聞こえてきた方を向く。

 

すると、そこにはベンチに寝っ転がりながら鼾をかく少女がいた。

 

(女にしては、中々にはしたない鼾だな。てか、この季節だと風邪ひくんじゃ………)

 

そんなことを考えていると、リンはさっさと自転車を走らせる。

 

(え?放置でいいの?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、キャン場近くの管理場に着き、リンが手続きをしてくると言い残して管理場へ向かい、俺は一人、スマホを弄る。

 

すると、某無料通信アプリに一件の通知があった。

 

俺とリンの共通の友人、斉藤恵那からだった。

 

斎藤『今何してる?』

 

それを見て、俺はササっと返信をする

 

『リンに誘われてキャンプしに来てる』

 

斎藤『おおっ!カイもとうとうキャンプデビューか』

 

『行き成りのことで少し驚いたが、まぁ悪くない機会だし、ちょっとキャンプを体験してくるよ』

 

斎藤『楽しんできてね~』

 

斎藤『あっ、土産話、期待してるから』

 

「カイ、行くよ」

 

ちょうど斎藤とのやり取りに区切りが付いた所で、リンが帰って来た。

 

「ああ、わかった」

 

自転車を手で押し、キャンプ場に向かう。

 

キャンプ場に着くと、まず目に入ったのは、本栖湖と富士山だった。

 

残念ながら、雲がかぶさり富士山は帽子を被ってる状態だった。

 

「すごい光景だな」

 

「だろ?」

 

「ああ。………しかし、人はやっぱりいないんだな」

 

「シーズンオフだしな。でも、ほぼ貸し切り状態。やっぱりシーズンオフ、最高」

 

そういう楽しみ方もあるのかと納得していると、リンが自転車から荷物を下ろす。

 

「この辺にテントを張るぞ」

 

「張るのはいいが、俺はキャンプ初心者だから、何も分からないぞ」

 

「大丈夫。私が慣れてるから、やり方教える」

 

リンからやり方を習いつつ、二人でテントを組み立てる。

 

ものの数分程度でテントは完成した。

 

「結構時間かかると思ったんだが、そうでもないんだな」

 

「まぁ、そういうテントもあるけどね」

 

「てか、本当にいいのか?一緒のテントで寝るなんて」

 

「……別に。私は気にしない。それに、二人ぐらいなら何とか入るし」

 

そう言って、リンは持ってきた椅子の組み立てを始める。

 

そう言う意味じゃないんだが…………

 

普通に考えて、幼馴染とは言え年頃の男女が同じテントで寝るのはどうかと思うぞ。

 

まぁ、これも一つの信頼の形として受け取っておくか。

 

そう心の中で呟き、俺も持参した折り畳みの椅子を出す。

 

寛ぐ為の準備が整うと、リンはカイロを取り出す。

 

「ふぅ……温かい……」

 

「焚き火はしないのか?」

 

「これでも十分温かい。それに面倒だし」

 

(絶対、面倒ってのが本音だろ)

 

そう思いつつ、俺もカイロを取り出し、持って来た本を読み始める。

 

そして、僅か数分後。

 

俺の隣で、リンはガタガタと震えていた。

 

「やっぱ、カイロだけじゃ無理があったか」

 

「みたい」

 

「諦めて焚き火した方がいいんじゃないのか?」

 

「でも、火を起こすの面倒だし、煙臭くなるし、火の粉で服に穴あくし………」

 

「だからと言って、風邪引いたら元も子もないだろ。手伝うから、焚き火しようぜ」

 

「……わかった」

 

リンに連れられて、林に向かう。

 

「薪を拾えばいいのか?」

 

「そうだけど、その前に……おっ、あった」

 

そう言って、リンが拾ったのは松ぼっくりだった。

 

「松ぼっくり?」

 

「着火剤代わり。傘が開いていて、乾燥してる奴がいい。薪も同様、乾いてる奴がいい」

 

「なるほど。わかった」

 

リンに言われた通り、松ぼっくりと薪を拾う。

 

少々拾い過ぎたかと思ったが、リンが「まぁ、よし」と言うので、よしとしておく。

 

拾った薪は、太い奴は鉈で縦に割って細くし、そこそこ長い奴は真っ二つに折って長さを調節する。

 

「これでよし……ちょっと、トイレ行ってくる」

 

「あ、俺も行く」

 

リンに付いていき、先ほどの管理場近くのトイレに向かう。

 

すると、先程のベンチに、あの寝ていた女の子はいなかった。

 

(流石にもう起きたよな)

 

そう思って、トイレに向かい、用を足し、リンが出てくるのを待っていると、また鼾が聞こえてきた。

 

「まさか………」

 

少し移動してみると、先程の女の子はベンチから落ち、そのまま転がって移動したのか、ベンチから少し離れた地面で寝ていた。

 

「いや、流石にそうはならないだろ……」

 

などと思いながら、リンが戻ってくるのを待つ。

 

流石に声をかけた方がいいかと思ったが、下手に声をかけて痴漢と思われたりしたら嫌なので放置することにした。

 

まぁ、流石に暗くなる前には起きて、帰るだろう。

 

先程の位置に戻り、しばらく待つとリンが戻ってきた。

 

そのままキャンプ場に戻り、リンから火の起こし方を習い、俺が焚き火を起こす。

 

見事火が点き、俺もリンも炎の温かさを噛みしめ、再び読書を再開する。

 

俺とリンは本を読みつつ、火の勢いが弱くなると、交互に薪を足して行き、本を読むを繰り返していた。

 

読書に耽っていると、時間はあっという間に過ぎ、気づけば日は沈んでいた。

 

「リン、そろそろ、飯にしないか?」

 

「あ、もうこんな時間か。そうだな。……その前に、トイレ」

 

リンはそう言い、LEDランタンを手に取る。

 

「危ないから、俺もついていくよ」

 

「いい。すぐ戻るから、待ってて」

 

リンはそそくさと移動し、俺はその場に取り残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しまりんSIDE

 

トイレに向かいつつ、私は溜息を吐いた。

 

「結局、いつも通りだった」

 

今回、私は初めて幼馴染の月見里海淵、またの名をカイをキャンプに誘った。

 

今まで何度か誘おうかとしたが、流石に恥ずかしくて誘えずにいた。

 

すると、斎藤の奴の「今度、カイ君をキャンプに誘わなかったら、この前撮ったリンの恥ずかしい写真、カイ君に送るから」と言う脅しに屈し、カイを誘った。

 

何を隠そう、私はカイが好きだ。

 

幼馴染と言うことを抜きにしても、カイが好き。

 

このキャンプに誘ったのも、告白しようとしたからなのだが、気づけばいつも通りの展開になってしまった。

 

「…………まぁ、告白は次回と言うことで。次から本気出す」

 

誰に言うわけでもない決意表明をして、ようやく今の自分の状況に気づく。

 

考えたら、暗い夜道をランタンの光だけで進むって滅茶苦茶怖い…………

 

そう言えば、こんなシチュエーションのホラー映画を昔、カイと見た記憶がある。

 

確か、夜の山道をランタンの明かりだけを頼りに歩いてる女性が、殺人鬼に襲われるって奴だ……………

 

「やっぱり付いてきてもらうべきだった」

 

少し前の自分を全力で怒りたくなった。

 

少し急ごう。

 

歩くスピードを速め、トイレへと向かう。

 

無事にトイレに着き、用をたし、カイの所に戻ろうとした時だ。

 

「そう言えば、アイツどうしたかな?」

 

アイツとは、この近くのベンチで寝ていた女の子のことだ。

 

ここに来た時から気になりつつも面倒だったから関わらなかったが、流石に今でも寝てたらまずい。

 

そっと覗き込むが、そこには誰もいなかった。

 

「流石に帰ったか」

 

そう呟き、振り向いた瞬間だった。

 

私の眼前には、目、鼻、口から様々な液体を垂らした髪の長い女が立っていた。

 

「う、うわああああああああああ!!?」

 

その瞬間、私は脱兎の如く逃げ出した。

 

「ま゛っ゛て゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」

 

背後から聞こえる言葉も無視して……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイSIDE

 

リンがトイレに行き、数分が経った。

 

「流石に遅いな……迷ってるのか?」

 

やっぱり付いて行くべきだったかと思ったその直後だった。

 

『うわああああああああああ!!?』

 

突如、叫び声が聞こえた。

 

「リン!?」

 

その声の主が、リンだと気づき、俺は慌て声の方に走り出す。

 

道を走っていると、向かいから何かが見え始める。

 

そのシルエットに、見覚えがあった。

 

あれは間違いなくリンだ。

 

「リン!」

 

「か、カイ!」

 

リンは俺に抱き付く様にぶつかると、そのまま急いで俺の後ろに隠れた。

 

何があったのか聞こうとした瞬間、ドンっ!という衝撃が、俺の体に走る。

 

前を見ると、俺の胸に顔を埋める様にぶつかってきた誰かがいた。

 

その誰かはゆっくりと顔を上げ、俺を見る。

 

「ひ゛ど゛か゛い゛た゛ぁ゛……………」

 

涙声になりながら、俺の服を鼻水と涙でベットベトにしたのは、ベンチで鼾をかいていたあの女の子だった。



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なでしことの出会い

なでしこのほっぺの柔らかさと、マシュマロの柔らかさを比べつつ、なでしこの口の中にマシュマロ突っ込みたい


あの後、リンを落ち着かせ、泣いてる女の子にハンカチを渡して、俺たちは焚き火のところまで戻った。

 

女の子に事情を聴くと、女の子は涙ながらに話してくれた。

 

「えっと……つまり、今日静岡から引っ越して来たばかりで」

 

「うん……」

 

「それで、自転車に乗って富士山を見に来た」

 

「うん……」

 

「で、来たはいいけど、疲れて横になったら、そのまま寝て、気が付けば夜だったと」

 

「へぶぅ……」

 

なんと言うか、話を聞けば聞くほど、この子はアホなんじゃないかと思えてきた。

 

しかも、家族に何も言わず、突如思いついたから行動に移した為、誰もここまで来てることを知らないと来た。

 

「あっちは下り坂だし、トンネル使えばすぐに下まで行けると思うけど」

 

「むりむりむりぃっ!怖すぎるよ!」

 

まぁ、俺も明かりなしに、夜の明かりのないトンネルを使うのは嫌だ。

 

「なぁ、携帯は持ってないのか?家に連絡して、迎えを呼べばいいんじゃないか?」

 

「あ、そっか!」

 

女の子は、慌てて自分のコートのポッケを探り出す。

 

「スマホスマホ、最近買ったスマホ。スマホスマホスマホスマホスマホス~マホス!」

 

そう言って、彼女が取り出したのはトランプのケースだった。

 

俺たちの空間を静寂が襲った。

 

「…………ババ抜き、する?」

 

「してる場合か?」

 

「だよね~…………」

 

女の子はしょぼんとしながら、トランプケースをしまった。

 

「私のスマホ、貸すからこれで家に電話かけたら?」

 

「来たばっかで、家の電話番号わかりません」

 

「なら、自分の携帯電話番号なら分かるだろ?」

 

「記憶にございません」

 

いや、流石に自分の携帯電話番号分からないのはまずくないか。

 

こうなったら最終手段だな。

 

「リン、この子、俺が下の方まで送ってくる」

 

「え?」

 

「いくら暗いトンネルでも、二人ならそこまで怖くないだろ?下まで行けば、帰り道はわかるか?」

 

「多分……」

 

「じゃあ、そうしよう。リン、悪いけど、少し一人で待っててくれ」

 

リン一人を残すのは、ちょっと気が引けるが、まぁ、ソロキャンしてたぐらいだし、一人でも大丈夫だろう。

 

そう思った瞬間、突然、女の子の腹から、空腹を訴える音が聞こえた。

 

思わず、そちらを向いてしまった。

 

女の子は、恥ずかしそうに俯いていた。

 

「ラーメンあるけど、食べる?」

 

すると、リンがリュックからカップのカレー麺を取り出す。

 

「くれるの!?」

 

女の子は勢いよく、顔を上げ、よく見ると、口の端から涎が出ていた。

 

「1500円」

 

リンがそう言うと、女の子は自分の財布を取り出し、中を見て青ざめ、震える手で100円玉を出した。

 

「じゅ、15回払いで勘弁して下さい」

 

「嘘だよ」

 

100円を持つ手を押し返し、リンはお湯を沸かし始めた。

 

この子を送るのは、飯の後だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お湯が沸くのを待っていると、女の子は焚き火の方が気になったのか、聞いてきた。

 

「ねぇ、あっちの方でやらないの?」

 

その辺のことはよくわからないので、リンの方を向く。

 

リンは溜息を吐くと答えた。

 

「できなくはないけど、焚き火でやると煤で真っ黒になっちゃうから」

 

「そうなんだ!なんか、プロみたいだね!」

 

((なんのだよ?))

 

きっとリンも俺と同じことを思ったに違いないだろうな。

 

伊達に幼馴染やってない。

 

ちなみに、流石に女の子を地面に座らせるのはどうかと思うから、俺の椅子を譲って、俺は手ごろな薪を椅子代わりに使ってる。

 

「はっ…くしゅん!」

 

すると、女の子が突然くしゃみをした。

 

よくよく考えたら、長時間寒空の下で寝てたんだ。

 

体が冷えていてもおかしくない。

 

俺は薪を何本が焚き火に加え、鞄の中からまだ使っていないブランケットを彼女に渡した。

 

「これ、まだ使ってない奴だし、洗い立てだから使いな」

 

「うわ~!ありがとう!」

 

女の子はお礼を言い、ブランケットに包まる。

 

しばらくすると、お湯が沸騰し、リンがカップ麺にお湯を注いでいく。

 

待つこと、3分。

 

「どうぞ!」

 

「ありがとう!カレー麺!カレー麺!いただきます!」

 

女の子は手を合わせ、勢いよくラーメンを啜った。

 

ずるる、ずるるる、と気持ちのいい音を響かせ、ラーメンを啜り、カレースープを、ずずっと飲む。

 

同じものを食べてるはずなのに、彼女が食べてる方のラーメンがうまく見えてくる。

 

(うまそうに食うな………)

 

「ん~!ぷはぁ!口の中火傷した!」

 

そう言う彼女は、すごくいい笑顔だった。

 

何が楽しいんだが………

 

でも、彼女を見てるとこっちまでなんだか幸せになってくる。

 

「ねぇ、あなた何処から来たの?」

 

「わたし?ずっと下の方。南部町って所」

 

「南部町!?ここから、40km近くも離れてるぞ」

 

すぐ近くに住んでるかと思えば、まさかの南部町に住んでたとは思わなかった。

 

流石にその距離を一人で帰らすのはな………

 

かと言って、南部町まで送ってやる時間もないし…………

 

そんなことで悩んでると、またリンが口を開いた。

 

「よくここまで来たね」

 

「『本栖湖の富士山は千円札の絵にもなってる』ってお姉ちゃんが言っててさ。それなのに、長い坂上ってきたのに、曇ってて全然見えないんだもん」

 

「見えないって、アレが?」

 

「えっ?」

 

「あれ」

 

「あれって……あ」

 

そう言うリンが指さす先には、富士山が出ていた。

 

雲が晴れ、月明かりに照らされ、富士山が輝いてるように見えた。

 

「……見えた」

 

先程までのテンションの高さが嘘みたいになくなり、彼女は富士山を見つめていた。

 

「あっ!私、お姉ちゃんの番号知ってた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うちの馬鹿妹が、本当にお世話になりました!」

 

あの後、リンのスマホを借り、彼女は姉に連絡を取った。

 

彼女の姉はすぐに車で迎えに来て、車から降りるや否や、彼女の頭を三発殴り、ガミガミと叱りつけた。

 

彼女はと言うと、頭を押さえて泣いていた。

 

一通り叱り終えると、お姉さんは俺とリンに頭を下げてお礼を言ってきた。

 

「いえ、そんなお気になさらないでください」

 

「そんな大したことは」

 

「いえいえ、そんな。これ、お詫びです。どうぞ」

 

そう言って、お姉さんは俺たちに沢山のキウイが入った袋を渡してくる。

 

「あんたねぇ!持ち歩かなきゃ携帯とは言わないのよ!ほら、さっさと乗れ!豚野郎!」

 

お姉さんは彼女の首根っこを掴み、車の中に放り込み、おまけに足蹴にしながら、押し込む。

 

「ちょ、ちょっと!イテッ!イテテッ!お腹は、止めっ!カレー麺、出るッ!」

 

彼女を押し込み終えると、お姉さんも車に乗り込み、エンジンをかける。

 

「それじゃあ、おやすみなさい!風邪ひかないようにね!」

 

お姉さんはそう言って、車を発進させた。

 

「なんて言うか、すごい姉妹だったな」

 

「だね。……ラーメンがキウイになった」

 

「デザートができたな。それじゃ、戻るか」

 

「うん」

 

キャンプ地に戻ろうとしたその時

 

「待ってー!」

 

すると、彼女が車から降りてきて、俺たちに近寄る。

 

「これ!私の電話番号!お姉ちゃんに聞いたんだ!後ね!私の名前!各務原なでしこって言うの!カレー麺、ご馳走様!」

 

メモを俺たち二人に渡し、彼女、各務原なでしこは急いで車へと戻る。

 

「今度は、ちゃんとキャンプやろーねっ!じゃーねー!」

 

途中で振り返り、手を振りながら、そう言い車へと戻った。

 

車が見えなくなるまで見送ると、俺とリンは手渡されたメモ用紙を見る。

 

そこには走り書きされた電話番号と、各務原なでしこと書かれた文字があった。

 

「初対面の人とキャンプをする約束とか……ヘンな奴」

 

「おまけに異性にまで不用心に電話番号渡すもんな」

 

リンと顔を見合わせ笑う。

 

「ま、登録ぐらいはしといてやるか」

 

「一応な」

 

笑い合い、キャンプ地に戻ろうとしたその時だった。

 

「あっ、ブランケット、貸したまんまだ」

 

早速、電話番号を使う時が来たようだ……………

 



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野クルの仲間たち

謎の迷子少女、各務原なでしこと出会った日から二日が経った。

 

今日は学校がある日なのでリンと登校した。

 

残念なことに、俺とリンはクラスが別のため、いつも途中で別れることになる。

 

放課後になり、リンのいる教室に向かおうとした時、俺は一人のクラスメイトに呼び止められた。

 

「お~い!月見里!今日、ミーティングあるから顔出せよなー」

 

「大垣か」

 

大垣千明。

 

彼女とはこの高校に入学してからの付き合いで、所謂リンとの共通の友人ではない友人だ。

 

「大垣、なんで俺がミーティングに顔出さないといけないんだ?野クルには、名前だけ貸してる帰宅部だぞ、俺は」

 

実をいうと、俺はとある部活に所属している。

 

もっとも、所属と言っても名前だけを貸してるに過ぎない。

 

今年の四月に大垣が「キャンプがしたい」と言い出し、大垣が設立した、野外活動サークル。通称:野クル。

 

それが俺が所属する部活だ。

 

正直、リンと帰る時間が減るのが嫌だったのだが、名前を貸すだけでいいからと言う大垣の必死さと、入学した時、助けられた恩があったので名前を貸すだけと言う結果に落ち着いたのだ。

 

「まぁまぁ、固いこと言うなよ、ちょっとくらいいいだろ?」

 

「はぁ~……仕方ないな。ちょっとだけだぞ」

 

「あーだこーだ言いつつも、結局は参加してくれる辺り、月見里って優しいよな」

 

「人はそれをお人よしというんだよ」

 

とりあえず、大垣と別れてリンに部活に参加することを伝えようと、リンの教室に向かう。

 

「おーい、リン」

 

「ん?カイか。どうした?」

 

トコトコと俺に近づき、リンが見上げてくる。

 

「いや、ちょっと部活に顔出さないといけなくなったから、悪いけど今日は一人で帰ってくれ」

 

「部活?参加してたのか?」

 

「本当は名前だけ貸してるだけなんだが、部長に参加してくれって懇願されたんだよ」

 

「お人よしかよ」

 

「部長曰く、俺は優しいんだとよ」

 

「まぁいいぞ。私も図書委員の仕事があるしな」

 

「そうなのか?じゃ、ミーティングが終わったら図書室まで行くよ」

 

「ん」

 

「じゃ、後でな」

 

リンに手を振って、部室棟へ向かう。

 

部室棟の入り口前まで来ると、俺は見知った背中を見つけ、声をかける。

 

「犬山」

 

「あ、月見里君」

 

彼女の名前は、犬山あおい。

 

俺と大垣の共通の友人だ。

 

彼女もまた野クルの一員で、太眉と八重歯が特徴的な、茶目っ気のある奴だ。

 

「そっちも今来たばっかか」

 

「せやで。ちょうど、ビバークの新刊が出とったから、図書室で借りてきたんや」

 

「ビバーク?」

 

「う~ん、簡単に言うと、キャンプ関連の雑誌や」

 

「そんなものまであるのか、うちの図書室」

 

うちの図書室のジャンルの幅の広さに驚きつつ、犬山と部室に向かう。

 

階段を上りつつ、談笑していると、見知った姿が目に入った。

 

大垣だ。

 

「あ、アキ~!ビバークの新刊借りてきたで~」

 

姿を見るや否や、犬山がそう言うがすぐに静かになった。

 

何故なら、部室の前で大垣は中を伺うように中腰で覗いていた。

 

その姿は、さながら覗きのようだった。

 

「まさか友人が、覗きをするような人やとは思わんかったわ~」

 

「いや、違うぞ!部室に怪しい奴がいてだな!」

 

必死に弁明する大垣に近づき、俺は部室の中を確認する。

 

そこにいたのは……………

 

「「あ!」」

 

「あの時の迷子」

 

「ブランケットの人だ!」

 

そう、この前の迷子少女こと各務原なでしこだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、月見里の知り合いとはな」

 

「世の中狭いもんやね~」

 

「知り合いと言うか、保護したと言うか………」

 

各務原への誤解?が解け、一同部室の中に入り、話をする。

 

「この前はブランケットありがとうね!これ、ちゃんと洗濯してあるから!」

 

そう言って各務原は俺にブランケットを渡してくる。

 

「悪いな。洗濯までしてもらって。正直、もう会えないと思ってたから半ば諦めてたんだ」

 

礼を言い、ブランケットを鞄に仕舞う。

 

「ところで、各務原はどうしてここに?」

 

事情を聴くと、この前の迷子の一件以来、すっかり各務原はアウトドアもといキャンプに興味を持ったらしく、この学校にアウトドア系部活があると知って来たらしい。

 

「そうなのか。でも、悪いけど、今、部員は募集してないんだ」

 

大垣がそう言うと、各務原は悲しそうに俯いた。

 

そんな各務原から離れ、俺は大垣に近寄る。

 

「どういうことだ、大垣。お前、部員欲しがってただろ」

 

「いや、だってこれ以上人数増えたら部屋狭くなるし」

 

「でも、人数が増えてサークルから部に昇格すれば、広い部屋貰えるかもしれんよ?」

 

「あ、そっか。………部に昇格するのに、必要な人数って何人だっけ?」

 

「確か、5人以上」

 

小声でそんなことを話していると、大垣はすぐに各務原の肩を掴んだ。

 

「ここだけの話、我々は君のような人材を待っていた。ようこそ、我がサークルに」

 

「いいの!?やったー!」

 

手の平クルックルだな。

 

「取り合えず、自己紹介やね。うちは犬山あおい。ほんで、こっちが大垣千秋」

 

「よろしくな」

 

「この前は言わず仕舞いだったが、改めて。俺は月見里海淵。月見に里で、やまなしって読む。よろしくな」

 

「うん!私は、各務原なでしこって言います!よろしくね!」

 

「「野クルへようこそー!」」

 

「ありがとー!」

 

大垣と犬山の二人が両手を振って歓迎すると、大垣の腕が犬山の顔に当たり、その衝撃で、犬山の脚が俺の脇腹に入り、そして、俺もまたその衝撃で、俺の膝が大垣の側頭部に直撃する。

 

「だ、大丈夫?」

 

それぞれ顔と脇腹と、側頭部を押さえる俺たちを見て、各務原が聞いてくる。

 

「大丈夫だ……狭い部室だとこう言うことがあるんだ」

 

「そう言えば、どうしてこの部室ってこんなに狭いの?」

 

「元々は用具入れの部屋だったんだよ」

 

「人数もうちら三人しかおらんかったしな」

 

「問題はないぞ、各務原」

 

側頭部を押さえて悶絶していた大垣が立ち上がり、窓の外を指さす。

 

「部室が狭かろうか、我々の活動の場所は外だ!」

 

とりあえず、部室は狭いので、一旦外に出て、野クルの主な活動内容を説明することになった。

 

「普段はどんなことしてるの?」

 

「落ち葉焚きしてるな」

 

「校内の落ち葉とか集めて、コーヒーとか飲んどるんよ」

 

「後、偶に焼き芋とかもしてるな」

 

そんな会話をしながら、校庭に出るが落ち葉は一つも落ちてなかった。

 

「落ち葉、ないね」

 

「まぁ、ついこの間やったばっかだしな」

 

結局することもないので、また部室に戻る。

 

「折角やし、これでも読んどる?」

 

そう言って犬山が渡したのは、キャンプグッズ関連の雑誌だ。

 

雑誌を受け取るや否や、各務原は楽しそうに雑誌を読み始めた。

 

「ねぇねぇ、このテントの自立式と非自立式ってどう違うの?」

 

すると、雑誌に書いてあったことが気になったのか、各務原が聞いてくる。

 

「自立式はフレームが入っとって、ペグや張り綱がいらんけど、非自立式はペグや張り綱が必要なんよ」

 

犬山が説明をし、各務原は「へ~」と言って雑誌を眺める。

 

「お前ら。テントは見るもんじゃないぞ。テントは張るものだ」

 

そう言って、大垣は部室にあるテントを出す。

 

「それって、夏休みにキャンプしようとしたけど、9月に届いて以来、ずっと放置してた激安テントだろ?」

 

「確か税込み980円や」

 

「ね、値段は関係ないだろ!大事なのはいかに長く使うかだ!そもそも、その雑誌に書いてあるテントの値段を見てみろよ!」

 

犬山に言われ、各務原が値段を確認する。

 

俺も、テントの値段とかよく知らないので、折角だから見ることにした。

 

まぁ、高くても1万とか2万ぐらいだろ?

 

「えっと、39000円、45000円、55000円、66000円、82000円……!目がチカチカしてきた………!」

 

「テントって、こんなにも高かったのか………」

 

予想外の値段に戦慄した……………

 

その後、ジャージに着替えて、中庭まで移動し、テントを張ることになった。

 

ちょうど図書室から見える位置だったので、図書室の方を向くと、リンと目が合った。

 

どうやら斎藤に髪形を弄られてる最中らしい。

 

(おい、助けろよ)

 

(諦めろ)

 

目でそう会話し、俺はテントの設営をする。

 

設営は順調に進み、後は畳んであるポールを伸ばし、入れるだけになったが、ここで苦戦した。

 

ポールをテントの上部にあるスリーブに通し、四隅の穴にポールを指して固定するのだが、長さが合わないらしく、ポールの先端が穴に固定できなかった。

 

「大垣、一旦ポールを抜いてやり直した方が………」

 

そう言った瞬間だった。

 

ポールがベキッ!っと言う音を出して折れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リンSIDE

 

カイから部活に顔を出すと聞いた私はすぐに図書室に向かった。

 

図書室に着くと、ビバークを持った女生徒がおり、すぐに借りに来たのだとわかった。

 

すぐに貸し出しの手続きをし、私は本を読み始める。

 

本を読み始めて数分後、斎藤がやってきた、カウンター内に入ってくる。

 

「それで、どうだったの、キャンプの方は?」

 

私の髪を弄りながら、斎藤が聞いてくる。

 

「別に。いつも通りに過ごしただけ」

 

「じゃあ、告白してないんだ」

 

「いいだろ。私には私の進め方があるんだ。それと、キャンプには誘ったんだから、あの写真、消せよ」

 

「分かってるよ。(進展無しか……、まぁ、リンのヘタレは今に始まったことじゃないか)」

 

髪を散々弄られまくり、ちょっと鬱陶しく感じていると、ジャージ姿のカイが窓から見えた。

 

何かを肩に担いでいる。

 

あれは、テントか?

 

すると、カイがこちらに気づき、手を振ってきた。

 

私も軽く手を挙げ、振り返す。

 

(おい、助けろよ)

 

(諦めろ)

 

ついでに助けを求めるが、あっさり断られた。

 

まぁ、知ってた。

 

すると、今度は三人のジャージを着た女子が現れ、カイと何かを話し、一緒にテントを組み立て始めた。

 

あれがカイの参加してる部活?

 

てか、カイ以外全員女子じゃないか……………!

 

てか、よく見たら、女子のうち一人はこの前の迷子じゃないか。

 

同じ高校だったのか………

 

「あの子たちが気になるの?」

 

すると、斎藤が話しかけてきた。

 

「……別に」

 

「愛しのカイ君が、自分の知らない所でハーレム作ってて悲しい?」

 

「…………別に」

 

「…………幼馴染って、意外と異性に見られにくいって言うよね」

 

「おい、やめろ」

 

斎藤が不吉なことを言い出すので、黙ってもらうように言う。

 

「はーい、黙ってま~す。できた、熊ヘアー」

 

そう言って私の髪を弄るのをやめる。

 

きっと私の頭の団子は、クマの形になってるはずだ。

 

「おい、やめろ」

 

髪を元に戻してもらっていると、突然、テントのポールが折れ、カイたちが慌てだす。

 

「あ、折れちゃったね。ああ言う時ってどうするの?買い替え?」

 

「まぁ、そう言う場合もあるけど、メーカーに送って修理かな。一応、こんなパイプがあれば応急処置もできるけど」

 

スマホに画像を出し、斎藤に見せる。

 

「こんなの?」

 

そう言って斎藤が出してきたのは、紛れもなく補修用のパイプだった。

 

「なんであるんだよ?」

 

「ねぇ、リン。こういうの得意だよね。持って行ってあげたら?」

 

「ゔぇ~………」

 

「嫌そうだね。じゃあ、私が持ってくよ」

 

「うぃ~」

 

パイプを手に斎藤が図書室を出ていくのを見送り、私は本を読みつつ、中庭の方を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイSIDE

 

ポールが折れてしまい、途方に暮れる俺たち。

 

「どうしよ~。折れちゃった~……」

 

各務原は折れたポールを持ち、涙を流す。

 

「こ、これってどうすればいいんだ?」

 

「買い替えやろか?」

 

「いや、メーカーに送れば修理とかしてくれるんじゃないか?」

 

などなど色々話していると、声をかけられた。

 

「お~い、そこの4人さん」

 

振り向くと、声をかけてきたのは斎藤だった。

 

「斎藤、どうしたんだ?」

 

「その棒、折れちゃったんだよね。このパイプで直せるらしいよ」

 

言われた通り、折れたところにパイプを通り、そのままガムテープで固定し、ポールを設置し直す。

 

今度はしっかり固定でき、やっとの思いでテントの組み立てが終わった。

 

各務原はうれしさのあまり、テントに潜り込んでいた。

 

「助かったよ、斎藤」

 

「いいのいいの、それに直し方を教えてくれたのはリンだしね」

 

「リンって誰?」

 

テントから顔を出し、各務原が聞いてくる。

 

「ああ。この前、俺と一緒にキャンプしてた女の子がいただろ。あの子の名前だよ。ほら、あそこにいる」

 

俺はリンがいる図書室を指さす。

 

各務原はテントから出て来て、俺が指さす方向を見る。

 

「ああ、本当だ!あの時の子だ!」

 

「名前は志摩リンって言うんだ」

 

「しまりん?」

 

「志摩リンだ。志摩が苗字で、リンが名前な」

 

「リンちゃんか!リンちゃ~ん!」

 

すると各務原はいきなり走り出す。

 

「リンちゃん!この前はありがぶへらっ!?」

 

窓ガラスに気づかず、各務原は窓とぶつかり、そのままずるずると地面に落ちた。

 

「おい、各務原!大丈夫か!」

 

慌てて、駆け寄り助け起こす。

 

「アイテテ……うん。鼻がちょっと痛いけど、大丈夫……」

 

赤くなった鼻を押さえつつ、涙目になってそう言う。

 

「お、おい。大丈夫か?」

 

すると、窓を開けてリンも安否を気遣ってくる。

 

「あ、リンちゃん!」

 

各務原は、リンの姿を見ると痛みも忘れ、リンに近寄る。

 

「この間はありがとう!あ、そうだ!ねぇ、リンちゃん!私たちと一緒に、野外活動サークルや……ろぉ………」

 

リンを誘おうと声をかけるも、リンの嫌そうな顔を見て、各務原の声が徐々にか細くなった。

 

嫌なのはわかるが、流石に誘ってきた本人を前にしてその顔はやめなさいよ…………



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現れるはなでしこ

「お待たせ」

 

「ああ」

 

週末、俺はまたしてもリンとキャンプに来ていた。

 

今日こそは積み本を消化しようとコーヒーを準備していたら、今度は玄関から大声で呼ばれた。

 

そして、結局キャンプに付いて行くことになった。

 

管理場で、リンが諸々の手続きを終えると、俺たちはキャンプ場に向かう。

 

「しかし、2千円か」

 

「学生の身で、2千円は結構な出費だな」

 

「そう思うと、リンは凄いよな。キャンプに掛かる費用、全部自腹だもんな。俺なんか、小遣いから出してるだけだし」

 

「いや、月の小遣い3千円で、一ヵ月どころか三ヵ月やり繰り出来るカイも相当だからな」

 

「小遣いなんて、殆ど自分のためでしか使わないし、あまり使う機会がないだけだ。まぁ、俺もそろそろバイト始めるかな……」

 

そんな話をしながら、キャンプ場につくと、ちらほらと人がいた。

 

「へ~、シーズンオフでも、意外といるもんだな」

 

「まぁ、有名キャンプ場だからな。さて、この辺に張るか」

 

前回と同じ手順でテントを張り、準備を終える。

 

「さて、それでは今日のキャンプご飯ですが、インスタントではない、アウトドアご飯を作る!」

 

「おお……そりゃスゲェ」

 

「…………と思っていたが」

 

そこで言葉を切り、リンが袋から出したのは、前回と同じカップ麺だった。

 

「途中でスーパーがなかったので、結局コレですわ」

 

「………まぁ、うまいからいいだろ?」

 

「次から本気だーす」

 

「それ、本気出さない奴のセリフだから」

 

椅子に座り、本を読もうとしたその時、スマホが鳴り、取り出す。

 

見ると、斎藤からのメッセージだった。

 

ただし前回と違い、俺個人のトークではなく、俺とリン、斎藤の三人で作ったグループトークにだ。

 

斎藤『リン、カイ、今週はどこ行ってんの?』

 

リン『富士山の目の前の麓キャンプ場ってとこ』

 

『てか、なんで俺がリンに同行していること前提なんだ?』

 

斎藤『なんかそんな感じがして』

 

斎藤『それより、写真撮ったら送ってねー』

 

リン『うぃ』

 

斎藤『ついでにお昼ゴハンも買ってきてねー』

 

リン『くたばれ』

 

『買ってやる義理はない』

 

斎藤『辛辣すぎるぜ、ダチ公共』

 

斎藤『仕返しだ。貴様らのいるキャンプ場に熊と虎とチワワ100匹放った』

 

リン『うわっ、何をするくぁwせdrftgyふじこlp』

 

『俺の喉元をチワワが!?』

 

リン『死んじまったじゃねーかバカヤロー』

 

『チワワに食い殺されるとは思わなかったぞバカヤロー』

 

斎藤『こっちも空腹で死んじまったぞこのやろー』

 

そこでメッセージ遊びをやめ、スマホを仕舞う。

 

「なんでチワワに殺されてんだよ?」

 

「そっちこそ、なんでスマホで、くぁwせdrftgyふじこlpって打てるんだよ」

 

「なんで発音できてんだよ」

 

そこで一息入れ、リンがキャンプ場の地図を出す。

 

「薪は一束500円。ここ直火NGだから、やるなら焚火台も借りなきゃな」

 

「焚火台?」

 

「うん。こう言う芝生のキャンプ場だと、火が燃え移るから、台でやらないとダメなんだ。一日で薪三束は使うし、台もレンタルすると合わせて2500円」

 

「利用料と合わせると4500円か」

 

かなりの出費だ。

 

「………寒くなったら寝袋被るか」

 

「だったら、今日は本じゃなくて散歩でもしたらどうだ?」

 

「散歩?」

 

「歩けば温まるだろうし、それに、斎藤に写真送らなきゃだろ?」

 

「ん~………そうだな。初めて来た所だし、2000円も払ったし」

 

「じゃ、行くか」

 

立ち上がり、リンと並んでキャンプ場を散歩する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、犬だ」

 

「お、犬だな」

 

写真を撮りつつ、散策していると、犬を見つけた。

 

二匹の犬は、俺たちを見るや否や、元気に走ってきた。

 

だが、残念ながら、俺にタックルしようとした犬は首輪に繋がれており、俺にぶつかる直前で進めなくなった。

 

その光景に、俺は思わずドヤ顔をした。

 

そして、リンに向かって走ってきた犬も、首輪に繋がれていた。

 

だが、縄がもう一匹のより長く、進める範囲も伸びており、その犬のタックルを、リンは正面から受けた。

 

「ぐふっ!?」

 

「……大丈夫か?」

 

「あ、あんまり………」

 

腹を抑えながら立ち上がろうとするリンに手を貸し、その後で犬を撫で繰り回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に、俺たちが見つけたのはキャンプ場、入り口にある二体の動物の像だ。

 

片方は色的に虎だとわかるが、もう片方はよくわからなかった。

 

何故かこっちだけ塗装されていなかった。

 

ライオンっぽくも見えるが、どうなんだろう?

 

「あ~……」

 

リンはと言うと、そのライオンっぽい像の前に立ち、像と同じように口を開けていた。

 

何してんだ?

 

取り敢えず、可愛かったので正面から、素早く写真を撮った。

 

「おい!なんで今撮った!?」

 

「悪い。可愛かったからつい」

 

「か、かわっ!?」

 

「折角だし、俺のスマホの待ち受けにしてやる」

 

「やめろー!」

 

俺のスマホを取ろうと、手を伸ばしてくるリン。

 

そんなリンにスマホを取られないように手を高く上げる。

 

身長のせいで、リンの手は俺の手に届かず、ずっとぴょんぴょんとジャンプするだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一通り見回った後、テントまで戻り、本を読み始める。

 

流石に散歩だけじゃ時間は潰せなかった。

 

「クシュン!」

 

リンのくしゃみで俺は本から目を離した。

 

気が付けば、もう夕方だった。

 

時間は16:30か。

 

「リン、ちょっとトイレ行ってくる」

 

「いってらー」

 

リンに見送られ、トイレに向かう。

 

用を足し終え、ハンカチで手をふきながら、トイレから出る。

 

「さて、戻るか」

 

カイくーん!

 

「………ん?なんか、各務原の声が聞こえた様な………気のせいか」

 

カイくーん!

 

「いや、気のせいじゃないな」

 

確信を持ち、振り返る。

 

「カイ君!」

 

「うおっ!?」

 

振り向くと、そこには目の前いっぱいに広がる各務原の笑顔があった。

 

まさか、こんな至近距離にいるとは思わなくて、驚いた。

 

「やっぱりカイ君だった!」

 

「各務原、お前、どうしてここに?てか、その大量の荷物どうしたんだ?」

 

各務原の腕には何故か野菜の入った袋があった。

 

「斎藤さんが教えてくれたんだ。後これは、この前のお礼だよ」

 

「お礼?」

 

「リンちゃんも一緒だよね。カイ君、三人でお鍋しよ!」

 



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戦慄のしまりん

九か月ぶりの投稿

遅れて申し訳ありません


「と言う訳で!お鍋やろう!」

 

「と、言うことらしい」

 

「いや、どういうことだよ?」

 

突然現れた各務原を連れて、テントまで戻り、リンにそう紹介した。

 

やはり、予想通りの返しが来た。

 

「てか、なんで鍋?」

 

「餃子鍋だよ!冬はやっぱりお鍋だよ!外で食べたらきっとすっごく美味しいよ!」

 

そう言い各務原は持参したシートを敷き、その上に携帯用ガスコンロを置き、土鍋を置く。

 

そして、鼻歌を歌いながら食材を次々と取り出す。

 

「何か手伝おうか?」

 

その光景を見ていると、リンがそう言った。

 

「いいよ!二人はゆっくりしてて!それに、お鍋なんて切って、ぶち込んで、煮るだけだから!」

 

((スゲー不安……))

 

そんなことを思いながら、各務原が鍋の準備をするのを眺める。

 

「そう言えば、ここまで自転車で来たの?」

 

「南部町からだと40kmあるし、これだけの荷物でソレはないと思うぞ」

 

「うん!お姉ちゃんに送ってもらったんだ!」

 

俺の言葉に、各務原が肯定して言う。

 

「今日は私も最後までキャンプするよ!でも、テントはないから車で寝るけどね。布団も持って来たんだよ」

 

「そう言えば、お姉さんは?」

 

お姉さんが居ないことに、リンが訪ねる。

 

「富士宮の方に行ってるよ。友達と遊ぶんだって」

 

友達と遊ぶ前に、40kmも走ったのか。

 

「優しいんだな、各務原のお姉さんは」

 

「うん!でも、怒るとすっごく怖いよ。この前なんか、頭のてっぺん拳でぐりぐりってされたし」

 

「多分だが、そうなった原因は各務原にあるんじゃないか?」

 

「うん!」

 

元気のいい返事だこと……………

 

「じゃあ、お姉さん、後で戻ってくるの?」

 

「こっちには9時ぐらいに戻ってへっぶし!」

 

突然、各務原が可愛くないくしゃみをした。

 

鼾と言い、この子は所々に女子っぽくない部分があるな。

 

「う~、やっぱり寒いね」

 

「あ、貼るカイロあるけど使う?」

 

「いいの?ありが、はっ!」

 

リンが差し出したカイロを受け取ろうとしたが、各務原の手が止まる。

 

そして、震えながら訪ねてきた。

 

「せ、1500円………?」

 

「リン、お前のジョークで各務原にトラウマ出来てるぞ」

 

「それはもういいよ」

 

カイロを受け取り、各務原は一旦料理する手を止めて、カイロを貼る。

 

ちなみにカイロは、首の付け根や鳩尾、肩甲骨の間などの太い血管がある場所に貼り、その上からマフラーやダウンを着ると効果的だ。

 

「う~……背中に貼れないよ~」

 

背中に手をまわし、背中にカイロを貼ろうとしてるがうまく行かず、各務原は必死に手を伸ばす。

 

「手伝ってやろうか?」

 

「すまないねぇ、おまえさん」

 

「それは言わない約束でしょ、おとっつあん」

 

ノリで寸劇を行いつつ、俺はカイロを受け取る。

 

各務原は俺にカイロを渡すと、そのまま背中を俺に向ける。

 

「めくるぞ」

 

「うん、いいよ~」

 

そう言い、俺は服を捲ろうとした。

 

「ちょっ!待て!」

 

すると、リンが大声でそれを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しまりんSIDE

 

「手伝ってやろうか?」

 

なでしこがカイロを貼るのに苦戦していると、カイがそう言い出した。

 

確かに背中に貼るのは一人では難しいだろう。

 

そして、そんな場面に遭遇したら、カイなら絶対手伝う。

 

アイツはそう言う奴だ。

 

「すまないねぇ、おまえさん」

 

「それは言わない約束でしょ、おとっつあん」

 

二人がノリで寸劇をし、なでしこがカイにカイロを渡す。

 

そして、なでしこがカイに背中を向ける。

 

「めくるぞ」

 

はっ?今なんて言った?

 

めくる?

 

何を言ってるんだ!?

 

そんなこと許される筈が―――

 

「うん、いいよ~」

 

許されちゃったよ!?

 

男が女の服を脱がすとか何考えてるんだ!(*脱がすとは言ってない)

 

そして、なでしこも!

 

なんで平然と男に服を脱がされるのを良しとしてるんだ!(*脱がすとは言ってない)

 

って、まずい!

 

カイがなでしこの服に手を掛けた!

 

服を脱がすなんて、そんなこと神様や斎藤が許しても、私が許さんぞ!(*脱がすとは言ってない)

 

「ちょっ!待て!」

 

我ながら驚くほどの勢いで止めてしまった。

 

二人は驚き、私を見ていた。

 

「どうした、リン?」

 

「リンちゃん?」

 

「いや、その……私がカイロ貼るから」

 

「え?なんで?」

 

なでしこが首を傾げて聞いてくる。

 

「いや、普通に考えて男が女の服めくるとかダメだろ?」

 

「?だが、リンだって、よく俺に背中にカイロ貼る様に頼むじゃないか?」

 

「ソレはソレ!コレはコレ!」

 

そう言い、カイからカイロを引っ手繰り、なでしこをテントの中に連れ込む。

 

「あのなぁ、なでしこ。少しは危機感を覚えろ」

 

「へ?危機感?」

 

「だから、男に服をめくらせるとか………」

 

「でも、カイ君優しいし、いいかなって」

 

「優しいからって……まぁ、実際優しいけど……」

 

なでしこの危機感の無さに呆れつつ、カイロを貼る。

 

「とにかく、ああ言うことはそう簡単に男にやらせちゃいけないんだ」

 

「はーい。でもさ、カイ君ならいいかなって思うんだよね」

 

………………え?

 

「じゃ、お鍋の続き作ってくるね」

 

「あ、ちょ!?」

 

混乱する私を残し、なでしこがテントを出る。

 

「カイならいいって………どういうことだよ………」

 

まさか、新たなライバル登場か!?

 

一人戦慄し、私も後を追う様にテントを出る。

 

……………大丈夫だよな?

 



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二人のお陰

テントから各務原が出てくると、各務原はいつもの笑顔で鍋の調理を再開した。

 

その後に出てきたリンは何かぶつぶつと呟きながら俯き気味に俺の隣に座った。

 

………心なしか距離がいつもより近い気がする。

 

まぁ、リンにもそういう気分になる日があるんだろう。

 

「できたよー!」

 

そう思ってると、各務原から声が掛かった。

 

「リン、鍋できたってよ」

 

「え?……あ、うん」

 

どこか上の空気味のリンを揺すり、意識を覚醒させる。

 

「はい!坦々餃子鍋だよ!」

 

各務原が楽しそうに土鍋の蓋を取ると、赤いスープに餃子や野菜が浮き、グツグツと音を立てていた。

 

「おお、赤い……」

 

「辛そうだな……」

 

「辛そうで辛くない。少し辛いお鍋だよ、お客さん」

 

「実演販売か」

 

「はいはい、たーんとお上がり」

 

「今度は田舎のおばあちゃんかよ」

 

そんなことを言って、各務原からお椀を受け取る。

 

お椀からは湯気が昇り、辛そうな匂いが鼻を刺激する。

 

「それじゃあ、いっただっきまーす!」

 

「い、いただきます」

 

「いただきます」

 

三人で手を合わせると、レンゲを使い、餃子とスープを掬う。

 

軽く息を吹きかけ冷まし、口の中にゆっくりと入れる。

 

程よい辛さのスープが口いっぱいに広がり、餃子を噛むと中から肉汁が溢れ、スープと絡まり、更にその美味しさを増した。

 

「うまい」

 

口から湯気を吐き出しながらリンがそう言った。

 

「ああ、驚くほどに美味いな」

 

それに同意し、俺も頷く。

 

俺達がそう言うと、各務原は嬉しそうに笑ってガッツポーズをした。

 

「どうじゃ?体の底から温まるじゃろ?」

 

「田舎のおばあちゃん……気に入ったのかよ」

 

その後は特に喋ることはせず、黙々と餃子鍋を堪能した。

 

冬の寒空の下、餃子や野菜を食べる咀嚼音とスープを飲む音、はふはふと口の中で冷ましきれなかった熱々の餃子を冷ます音だけが響く。

 

「「「暑いっ!!」」」

 

体が温まり、暑さに耐えかねて俺達は上着を脱ぐ。

 

本来なら寒さに身震いする所だが、今は火照った体を冷ますのにこの寒さはちょうどいい感じがした。

 

「あっ!」

 

すると、いきなり各務原が大声を上げた。

 

「どうした?」

 

「〆のご飯忘れた!」

 

「いや、あってももうそんなに食えんから」

 

これだけ食ってまだ食べるのか。

 

各務原の胃は底なしなのか?

 

そう思ってると、リンが何か言いたそうに各務原を見ていた。

 

「リン、ちょっとトイレ行ってくる」

 

「あ、うん。いってらっしゃい」

 

「それと、言いたいことは早めに言うのがいいぞ」

 

立ち上がる直前に、リンの耳元でこっそりとそう言いトイレへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しまりんSIDE

 

「それと、言いたいことは早めに言うのがいいぞ」

 

耳元でそう言われた。

 

お見通しかよ、この野郎。

 

去っていくカイの後姿を見送り、心の中でお礼を言う。

 

(ありがとうな、気を利かせてくれて)

 

そして、目の前でまだ鍋の残りを食べてるなでしこを見る。

 

「……あのさ、この間はごめん」

 

「ん?この間って……なんだっけ?」

 

なでしこは覚えがないのか、首を傾げる。

 

「サークルに誘ってくれたのに、なんていうか……凄く嫌そうな顔したから」

 

そう言うと、なでしこは思い出したのか「あー」っと言って、少し申し訳なさそうな顔をした。

 

「私もなんだかテンション上がってて無理に誘ってごめんなさい。あの後ね、あおいちゃんに言われたんだ。リンちゃんはグループで、ワイワイキャンプするより一人で静かにキャンプするのが好きなんだって」

 

「それは……そうだけど」

 

「だから、またやろうよ!お鍋キャンプ!それで、気が向いたら皆でキャンプしよう!」

 

なでしこは笑顔でそう言った。

 

「……分かったよ」

 

自然と私も笑顔になり、そう答えていた。

 

…………考えてみると、なでしこがカイに対して恋慕の感情を抱いているとは思えない。

 

きっとあの言葉も、深い意味はないんだろう。

 

「その時はカイ君も一緒にね!」

 

………前言撤回、警戒ぐらいはしておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リンと各務原から離れてキャンプ場を軽く回り、数分程度で戻った。

 

帰ると、鍋の中は空になっていた。

 

俺が離れた時、鍋の中はまだそれなりに残っていた。

 

それなのに、俺が離れた数分で鍋の中は空っぽ。

 

いや、早過ぎね?

 

そう思いつつ、後片づけを済ませ、寝る時間までのんびりすることにした。

 

三人でラジオから流れる音楽を聴きつつ、夜空を楽しんだりする。

 

「夜の富士山も綺麗だね」

 

「この辺は明け方に霧がよく出るから、早朝は朝日で幻想的に見えるらしいよ」

 

「へー。霧の富士山かぁ……見てみたいなぁ~」

 

「まぁ霧がよく出るのは春夏だけどね」

 

「一応冬でも出ることはあるし、早起きしてみるのもいいんじゃないか?」

 

「そうだね。日の出って何時ごろ?」

 

「6時ぐらいかな?」

 

「起きれるかな?」

 

「私は寝る」

 

「俺も寝てるな」

 

他愛もない話をしてると、丁度そこで各務原が欠伸をし、リンも船を漕ぎ始め、二人の眠気がそろそろ限界に近いことが分かった。

 

「早起きするならもう寝ないとな。各務原、お姉さんのところまで送るからもう寝ろ。リン、各務原を送ってくるから先寝ててくれ」

 

「ん、分かった」

 

リンはそう言って立ち上がり、欠伸をしてテントへと入る。

 

「行くぞ、各務原」

 

「ふぁい」

 

ふら付きながら立ち上がる各務原を支え、キャンプ場の駐車場へと向かう。

 

途中、何度か各務原が倒れそうになり、最終的に手を繋ぐ形で送ることにした。

 

駐車場に着く頃には、各務原は完全に立ちながら寝てしまい、口を利ける状態じゃなくなった。

 

幸いにも見覚えのある車が止まっていたので、俺は各務原を引っ張って車へと近づく。

 

すると、ドアが開き、中から各務原のお姉さんが出て来た。

 

「こんばんは、お姉さん」

 

「こんばんは。悪いわね、なでしこを送ってくれて」

 

「いえ、大丈夫です。ほら、着いたぞ」

 

「んあっ?……うん」

 

「まったく、この子ったら」

 

そう言ってお姉さんは助手席の扉を開け、座席を後ろへと倒す。

 

「ほら、乗りなさい」

 

「ふぁい」

 

お姉さんに手を引かれ、各務原が車に乗る。

 

「それじゃあ、俺はこれで。おやすみなさい」

 

「ええ、おやすみなさい」

 

寝る挨拶をして帰ろうとして、俺はあることを思い出し止まる。

 

「そうだ、お姉さん」

 

「ん?」

 

「各務原……なでしこなんですけど、早朝の富士山を見たがってたので朝起きないようだったら、起こしてもらってもいいですか?」

 

「ああ、そう言うことね。何時ごろがいい?」

 

「6時前ですかね」

 

「わかったわ。じゃ、おやすみなさい」

 

「はい、おやすみなさい」

 

最後にもう一度挨拶をし、俺はテントへと戻った。

 

テントでは既にリンが寝袋で寝ており、俺はその隣で寝る。

 

横になるとすぐに欠伸をし、俺はそのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ!

 

「ん?なんだ?」

 

何かが隣に倒れ込む音で起き、俺は音の正体を確認する。

 

まだ眠い目を擦りながら体を起こし、隣を見ると、そこには俺とリンの間に挟まれる形でなでしこが寝ていた。

 

時間を確認すると、時刻は6時を少し超えていた。

 

「朝日を見に来て、そのままここで寝た感じか」

 

流石に三人は狭いので、俺はそのまま起きてテントから出る。

 

丁度朝日が目に差し込み、まだ寝ぼけ気味だった俺の脳が覚醒していく。

 

そして、朝日に照らされる富士山が見えた。

 

「おお……これは凄いな」

 

そう呟き、写真を一枚とる。

 

中々の出来に、一人で感心する。

 

「見る気はなかったけど、良い物が見れたし、撮れたな」

 

もう一度テントに戻り、入り口から中を覗く。

 

そこには気持ちよさそうに寝るリンとなでしこがいる。

 

リンがここにキャンプに誘ってくれたから、なでしこが偶然とは言え日の出に起こしてくれたからこの景色を見ることが出来た。

 

二人のお陰だな。

 

「二人には感謝だな。ありがとうな、二人とも」

 




次回からオリジナルストーリーをしようかと思います。

お楽しみに


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よしゅキャン

ある日の放課後。

 

「野クルが四人になった!と言う訳で、本格的に冬キャンの準備を始めるぞ」

 

大垣がそう言った。

 

放課後、今日はリンがバイトの日でバイト先まで一緒に付いて行こうと思ってたら、いきなりクラスに各務原がやって来た。

 

そして、「部室に行こう!」と叫んで俺を連行した。

 

例によって、リンに拉致られたことを連絡し俺はそのまま部室へと向かった。

 

今は校庭で落ち葉拾いをし、その集めた落ち葉で焚火をしつつ珈琲を淹れている

 

「部長!いつキャンプやるんですか?」

 

各務原が元気な声で、手を挙げて発言する。

 

「今週は厳しいから、来週だな」

 

「部長!どこでキャンプするんですか?」

 

「それは今から決めていくぞ」

 

「部長!キャンプご飯は何にしますか?」

 

「それも今から決めるぞ。落ち着け」

 

「部長!おやつは「お前、ちょっと黙ってろ」ん!………………………部長!」

 

本当にちょっとしか黙らなかったよ。

 

「てか、俺も行くの確定なのか?」

 

珈琲をカップに注ぎ、三人に配りながら訪ねる。

 

「当たり前だろ?幽霊部員とは言え、お前も立派な野クルの一員だ。誘う理由にしては十分だ」

 

「仮にも男だぞ?」

 

「それはアレだ。一種の信頼の形として受け取っておけ」

 

リンと言い、大垣と言い、最近の女子はそう言ったことには大らかなのか?

 

まぁ、何かあった時のことを考えると付いて行くのも吝かではない。

 

「分かった、受け取っておくよ」

 

「それじゃ、持って行く物のチェック始めるで~」

 

「「お~!」」

 

「……おー」

 

各務原と大垣に合わせて、俺も拳を上げそう言う。

 

そして、全員でキャンプに必要なものをチェックしていく。

 

テントは部室に980円の奴があり、更にもう一つ新しいのを購入してあるので問題は無し。

 

カセットコンロも各務原が使用したものがあり、ランタンも大垣の家にある物があるのでよし。

 

粗方の物はOKだったのだが、一つだけ問題があった。

 

それはシュラフだった。

 

「他のモンはOKなんだが………」

 

「シュラフは夏用のコレしか持っとらんしねぇ」

 

「夏用だとどうなるの?」

 

「低体温症で死ぬ」

 

「死ッ!?」

 

「それは最悪の場合の話だ」

 

「シュラフ特集のキャンプ本あるで。読む?」

 

犬山が持ち出したキャンプ本を読み始めると、各務原が疑問を口に出した。

 

「これさ、化学繊維とダウンの二種類あるけど、どう違うの?」

 

「冬用は暖かくする為、中綿がもっさり入っとるんやけど、それだと嵩張るから冬は圧縮に優れたダウンの方がええんやけど、同じ耐寒温度で化繊の物より二、三諭吉お高いんや」

 

「化繊の物でも安くて5千円だし、安くないよなぁ」

 

俺はリンのお祖父さんが使っていた物のお古を貰ったから知らないが、シュラフもテントと同じで結構値段するんだな。

 

今度会ったらお礼しないとな。

 

「いっそのこと、シュラフに頼らずに寒さをやり過ごすのもアリだな。朝まで焚火したり。他には………」

 

「使い捨てカイロ」「湯たんぽ」「温泉」「激辛スープ」「おしくらまんじゅう」「乾布摩擦」「プロレスごっこ」

 

「思いつかないなら無理に出さんでもいいわ」

 

「そう言えば、リンから聞いたんだがシュラフカバーってのがあるらしいな」

 

その時、俺はリンから聞き覚えのあった言葉を思い出し言う。

 

「ああ、あれな。でも、アレって化繊の奴と値段変わらないらしいぞ」

 

「じゃあさ、それっぽいので代用とかできないかな?」

 

各務原のその発言で、俺達は再び外に出てシュラフカバーの代わりになりそうな物を探し、実際に使用し、その感覚を調べてみることにした。

 

まず、夏用シュラフに大垣が入り寒さを調べる。

 

「普通に寒い」

 

次に、マフラーとニット帽を着用する。

 

「全体的に満遍なく寒い」

 

次に、シュラフの上から非常用の銀シート、所謂サバイバルシートを巻く……のだが、そんなものはないので各務原が理科室までひとっ走りして借りに行った。

 

「お、さっきより暖か………やっぱよくわかんね?」

 

次に、ネットで調べた知識として空気の層を作ると断熱効果が得られると言うことなので、またしても各務原が事務室にひとっ走りし梱包用のプチプチシートを借りに行った。

 

「あ、これなかなか暖かいわ」

 

最後に、断熱効果のある段ボールを再度各務原が貰いに行き、それを巻く。

 

「おお!!これマジで暖かいぞ!」

 

「「ほんとっ!?」」

 

「…………暖かいのはいいが、それ、トイレ行きたくなったらどうするんだ?」

 

「「「…………あ」」」

 

考えていなかったか。

 

途中から何となく気づいていたが、面白そうだったから黙っていたのがいけなかったな。

 

「………ていうか、ばっちり梱包されてあたしはこれからどこへ搬送されるんだ?」

 

その姿があまりにも面白かったので、そのまま部室に持ち運び、何処から出したのか「割れ物注意」や「生もの」、「荷物伝票」などの宅配便とかで使うシールを貼り、その姿を各務原がリンに送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言う訳で、シュラフは各自冬用の物を購入しよう」

 

結局、冬用シュラフを買うことになりキャンプ準備の話は終わった。

 

「それでだ。私たちははっきり言って、キャンプ初心者だ。テントの貼り方だってままならない。そこでだ」

 

大垣は腰に手を当て、高らかに宣言した。

 

「今週末予習キャンプ。略してよしゅキャンをすることにする!」

 

「「「よしゅキャン?」」」

 

聞きなれない単語に、思わず俺達は聞き返した。

 

「学校側に頼んで、今週末に学校内でのキャンプの許可をもらった。と言う訳で、学校キャンプ、するぞ!」

 




夜の学校

女三人に男一人

果たして、しまりんはどうするのか…………


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