アールバーサス (TRY)
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1話 継承

―1999年7月、物質の記憶や記録を引き出す力を持つ”リアライザー(Realizer)”が勢力を伸ばしていた。

その野望を打ち砕かんと、3人の勇士、”リベレイター(Liberator)”が立ち上がった。-

 

 

 

草1つ生えない荒漠とした大地、戦闘スーツを纏った三勇士はオーロラ色に輝くヒトガタ―リアライザーの首領との戦いが行われていた。

彼が手をかざすと天から稲妻が轟き、大地からは鋭い氷の棘が突き出る。

 

青色の三勇士、”リベレイター バレッジ”は携えたライフルから雨のように光線を放つ。

 

しかし、突如現れた光の壁が光線をことごとく乱反射させる。

それは光の嵐の様相。

 

嵐の中から飛び出す黄色の影。それはリベレイター中、最強の攻撃力と防御力を持つ黄色の三勇士”リベレイター アース”。

後数メートルまで肉薄し拳を振りかぶるが、地面から生えてくる蔦に絡めとられてしまう。

 

飛び出す影はもう1人。炎の剣を突き出す赤色の三勇士”リベレイター フォース”。

だが、再びの決死の一撃は拳を掴まれて受け止められる。

 

そんな絶望的な状況でもリベレイター フォースのバイザーの奥の双眸はまだ闘志を失っていない。

彼の背部から炎を吹き出し、弾丸のように切っ先がオーロラの体躯を突き破った―――。

 

 

 

―――この戦いによって首領を失ったリアライザーは散り散りとなった。それから20年、リベレイター フォースである興亜和真(コウア・カズマ)はリアライザーの残党やリアライザーが生んだ異形の怪物”エンボディ”との戦いを続けていた。

 

 

 

―とある山奥―

草木をかき分けて進んだ先に人気のない倉庫が現れる。

リアライザーの残党の基地と思われるこの場所に和真は足を踏み入れた。

入り口は放棄されたのか半開きになっていた。

 

「完全に放棄されているな・・・」

 

和真は湿ったコンクリートの壁に手を当て、意識を集中させるとぼんやりとした映像が再生される。

これは元の場所の記憶。物の記憶を読み解くこの能力はリベレイターとなる前から持っていた能力だ。変身せずとも存分に使用できる。

 

空間の記録は陽炎のようにぼやけている。更に深部まで記録を読み込んでいくと、段々と輪郭が定まっていく。

 

白衣を着た男達が紙を歓喜の表情で見てとれた。

 

その口元はこう動いていた。

 

 

楠木市、と。

 

 

「楠木市、そこで何かが起ころうとしているのか・・・!」

 

 

 

数週間後、楠木市―――、

 

―彩連高校―

 

1年B組の教室はザワザワと浮足立っていた。

 

丸太のように太い腕が教室の戸を開け大柄な男性-担任の藤堂卓(とうどう・すぐる)が入ってくる。

 

「おーぅ、楽しそうだな。明日からゴールデンウィーク。しかも10連休だもんなぁ」

 

ざわめきがより一層大きくなる。そう、今日は2019年4月26日。数日後、平成から新しい年号に切り替わる。そのため、10連休という長期の休みになるのだ。

 

「休みだからって、羽目を外しすぎるなよ。お前たちの知っても通り、巷では無差別連続テロ事件が起きてるからなぁ」

 

この町では人気のない路地裏などで周囲にクレーターができていたり、人が倒れていたりすることが1っか月ほど続いているのだ。目撃者は誰もおらず、操作も一向に進んでないという噂だ。

 

「特に、輪島(わじま)ぁ。お前が1番心配だ」

 

跳ねる髪の明るい茶髪の少年、輪島綾翔(-あやと)に眼を合わせる。くすくすと笑い声が周囲から漏れ出る。

 

「えっ、俺ですか?」

 

自分を指さしながら、キョトンと眼をしばたたかせる。

 

「夜遅くまで、高架下でスケボーしてるだろ。お前が一番そういうのに巻き込まれやすいんじゃないかぁ」

 

苦虫を噛みつぶした表情になる綾人。

 

「うっ、ちゃんと夜遅くなる前に帰りますって」

 

誰もが無理だなと思いつつ、ホームルームが終了した。

 

 

―――――

 

 

「よっしゃー、終わったー。10連休だぜー」

 

スケボーをするのは当然として、何をしようかと思いを巡らせるように顔を上げる。

黒髪をポニーテールにまとめた幼馴染の竹内沙耶(たけうち・さや)が呆れた表情で見下ろしていた。

彼女の身長は俺の頭1つ分以上高く、かなりの威圧感だ。

 

「綾翔、あんた、マジで気を付けてね。これが幼馴染と交わす最後の会話だったとか、シャレにならないわよ」

 

「心配性だなぁ。今まであやしい人影は見たことないし、大丈夫だって。ちょくちょく人、通るしさ。まぁ、だからあのゴリラに見つかったんだけど」

 

あれはヤバかったと思い出す。先生たちの飲み会の帰りに出くわして、こっぴどく怒られた。

 

「全く、楽観的なんだから。おじさんとおばさんに何か言われないの?」

 

「親父たちは、一昨日から旅行に行っているから、何も言われないぜ」

 

沙耶は切れ長の大きな瞳をさらに大きくして、唖然とした表情になる。

 

「嘘でしょ?!野放しじゃない。家遠いけど、私んちに来なさい!」

 

ミスった!内緒にしてたのに言っちまった!

 

「えー。おじさんたちに迷惑がかかるし、すぐに説得できないだろ?」

 

「だったら、今日中に父さんたちを説得するから。今日は8時には帰る事。いい?」

 

「今時8時って・・・。殺気立つなって。わかったからさ」

 

「絶対わかってないわね。もし帰ってなかったら、あんたのスケボーコレクション、全部売るから」

据わったような目つきで恐ろしい言葉が聞こえてくる。

 

「げっ。それは勘弁してくれ」

 

「あんたは熱中しすぎて周りが見えなくなっちゃうからね。特にスケボーに関してはね」

 

うぅ、否定できない。

 

「スケボーチャンピオンになるのは俺の夢だかな」

 

「いつからこんなこと、言い始めるようになったんだっけ?」

 

 

 

―――19:30

 

「げっ、もうこんな時間かよ!」

 

早く帰らないと、アイツ家まで来そうだ。

 

コースから降り、スケボーのまま夜の街を走らせる。

 

この時間になると、1つ路地に入るだけで聞こえてくるのは風の音だけ。

進む道は路地を縫う最短コース。下り坂を活かして速度を殺さないように進んでいく。

 

「半分まで来たな」

 

難しい幅2m以下の最も狭い路地に差し掛かる。ここが1番難しいポイントだ。

何度も通ってきたが、最速で行くのは初めてだ。恐怖を押し殺すように息を整える。

 

「この逆境を突破してやるぜ!」

 

フッと世界が急に狭くなり、顔にかかる風が強くなる。

成功した!っと、小さくガッツポーズ。だが油断は禁物。少しでも斜めにいけば、壁に追突してしまう。

 

慎重に進むと視界が開け、広い場所に出た。

 

「よしっ!抜けたぁ!」

 

 

 

直後―――、

 

ドォン!!

 

 

地響きが起こり慌てて止まる。

 

「何の音だ?!」

 

辺りを見渡すと2メートルくらいの巨体と赤色のスーツを纏った人の姿が視界に入った。

 

巨体はこちらに気づき、振り向く。

 

腕につけた身の丈以上の大きさの杭を振りかぶるその姿は明らかに人間ではない。

咆哮が轟く。

 

「怪物・・・!」

 

死がすぐそこまで迫っていた。

 

 

―――――

 

 

「子供?!」

 

和真―"リベレイター フォース"は想定外の出来事に血の気がサッと引いた。

 

楠木市に来てから1月、”エンボディ”と呼ばれる怪人と戦ってきた。

 

この日もエンボディと戦っている最中に起こったイレギュラー。

 

こちらへの注意がそれた瞬間に蹴りを叩きこみ、壁へ吹き飛ばす。

 

「少年!早く逃げるんだ!」

 

体を硬直させていた少年は慌ててスケートボードを走らせる。

 

だが―――――、

 

ドッゴーン!

 

爆音とともに杭が少年に向かって打ち出される。

 

「まずい!」

 

気付くと俺は少年を護るように杭の斜線上に飛び出した。

 

 

―――――

 

 

怪物から逃れようとしたときに爆音がしてドン、と衝撃が走った。

 

痛っ!壁にたたきつけられたのか。

何とか体を起こすと信じられない光景が広がっていた。

 

「なんだよ、なんなんだよ、これは!」

 

赤色のヒーローが倒れていた。その脇腹から血だまりが広がっていた。その血がべたりと手にこびりつく。その感触が否が応でもこの光景が現実であると突きつけていた。

 

「すまない、君だけは逃がそうと思ったのだが」

 

ぜぇぜぇと苦しそうな声が聞こえてきた。

 

「俺がこんな時にこんな場所に来るのが悪いんですよ。アンタの足を引っ張っている。ああくそ!こんなトコであきらめてたまるかよ!」

 

その間にも怪物がのしのしと、にじり寄ってくる。

 

「・・・君は強い子だな。1つだけ助かる可能性がある」

 

そう言うとヒーローは変身を解くと、腰の機械を差し出した。

 

「この機械にはあの怪物の力を抑える力がある。それを奴に当てて上のボタンを押すんだ」

 

受け取ったソレはずっしりと重たい。

 

「わかりました。だけど、もう1つ方法がありますよね。俺があんたみたいになればいい!」

 

要はこいつは変身アイテムのはず。すぐさま自分の腰に当てる。

 

「待て!君ではそれは扱えない。そいつを使うにはいくつか条件が必要だ!」

 

「上等だ!その逆境を突破してやるぜ!」

 

ボタンを押すと赤色の光が全身を包み込む。

 

 

『Earle Change System Recognition・・・』

 

 

漏れ出た電気が肌に刺さり、肌を焼く。その衝撃に意識が飛びそうになる。

 

赤色の光は段々、橙色に変わっていき、痛みが引いていく。

 

 

『Authentication Completion』

 

 

橙の光は視界を覆うほどの奔流となり全身を包みこむ。

 

 

『Name:" RIBERATOR TOPPA" Ignition!』

 

 

“リベレイター トッパ“?英語はよくわからないけど突破ね。俺らしい良い響きだ。

 

 

「まさか、変身できたのか・・・!」

 

両腕を見るとオレンジを基調とした自分の姿。右腕には腕輪も装着されている。

 

ギュッと拳を握りこむと力が無尽蔵に沸いてくるのを感じる。

 

「うぉおおお!」

 

気合とともに怪物に渾身の拳を叩きこむ。

 

怯んだのを逃さず、膝蹴り、肘鉄とラッシュを叩きこむ。

 

奴も対抗するように杭を突き刺そうと構える。動体視力も強化されていて、その動きははっきりと捉えることができた。

 

「見えているぜ!」

 

キックをかまし、その反動を使ってミドルレンジまで距離をとる。

 

「まだ倒れないのかよ!」

 

「パワーが足りていないんだ、くっ!」

 

ゴホゴホとせき込む青年。

パワー、もっと勢いが必要なのか。すぐ隣にはスケボー。これなら!

 

「やっぱ、こいつがなきゃなぁ!」

 

スケボーに右足を載せるとビリっと足からスケボーに向けて電流が奔る。

 

 

『WEAPONIZE』

 

 

スケボーにブースターが付き、右足を固定するようにスケボー全体に装甲が付く。

直後、スケボー改め、"ランドスピーダー"の情報が流れ込む。

 

「これなら・・・!」

 

強化された脚力によって弾丸のように怪物に突っ込む。

 

カウンターとばかりに杭が打ち出される。

 

わずかに重心を移動することによって紙一重でやり過ごす。それはスケボーで培った技術。

 

「これで決める!」

 

『EARLE BURST IMPACT』

 

ブースターからバーナーのように火炎を吹き出し、強烈な加速とともにキックが叩き込まれる。

 

その攻撃を受けたエンボディは爆発して床に倒れこむ。その黒くなった体から灰が風に飛ばされると足袋をはいた工事現場の作業員みたいな人が倒れていた。

 

爆発していたけど生きているのかと変身を解いて、駆け寄る。

ぱっと見、ケガはなさそうだ。その時、光る物体が見えた。

 

「なんだこれ?」

近づいて手に取ってみるとそれは掌よりも小さい黄色のL字型のブロック。。

そのタイミングで自分を助けてくれた青年+が脈をとっていた。

 

「脈拍と呼吸は正常だ。エンボディは倒されると人に戻るんだ。今までも無事だったから彼も無事だろう」

 

「良かった。ところで、あなたはもう動いたも大丈夫なんですか」

 

「左腕と内臓がやられているが、命の危険はない。すまないな。君にこんな戦いを押し付けてしまって」

 

「そうだ。これをお返しします」

 

腰の機械を外し、差し出す。

 

「それは君が持っていてくれ。骨折しているし、数日間は戦うことができないだろう。俺はこれから彼と病院に行く。そうなったら、この"リベレイトギア"は隠せない」

 

「・・・わかりました」

 

「君には今日のことを話す必要があるから、また連絡をしてほしい。これが俺の連絡先だ」

 

そう言って、名刺を差し出す。

 

「興亜修理屋 興亜和真・・・さん。明日、そこに連絡します」

 

自分の名前を伝えた後、明日電話することを伝えた後別れ、家に向かった。

 

興奮冷めやらない中、夜道を進む。リュックに感じるリベレイトギアの重みが夢でないことを告げていた。

 

 

―――――

 

 

 

「ギリギリ間に合ったか。しかし、アイツまだ来ねえな。やっぱ、親父さんたちが止めてんのかな?」

 

結局、自宅に着いたのは20時ちょっと前だった。

汗をかいた服を洗濯機に漬け、着替える。

 

沙耶からは一向に連絡がこない。連絡してみるか、とスマホを取り出す。

 

「20時に来るって言ったけど全然こねぇのかよ」

 

『仕方ないじゃない、みんな止めるのよ!』

 

「そりゃそうだろ」

 

『まぁ、初日だし大丈夫だったでしょ』

 

「まぁ、さすがにな」

 

嘘だけどな!

 

電話を切って、ベッドにどさりとうつ伏せで倒れこむ。

 

今日は大変だったなぁ、と眼を閉じると、睡魔がやってきた。



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