そして魔鎗のシャルロット (希望光)
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〜Start〜 非日常への入り口
以前から書く書くと言って書きあがっていなかった『やがて魔剱のアリスベル』のSSの方が書きあがったので投稿させていただきました。
前置きはこの辺にして、どうぞ!
——新鑓——
———面倒ごとは嫌いだ。
下手に首を突っ込んで自分を危ない方向に持って行ってしまうかもしれないからだ。
だから、中学時代は特に何かしたわけでもない。成績は至って平凡かそれより少し上ぐらい。部活も文化部で特に目立った活躍はしていない。
だが、俺は武偵という職業を目指した。幼い頃からの夢だからだ。
でも、俺は知っている。武偵がどれほど危ないものか。だから武偵高に入るために腹を決めた。
しかし、何故だろう。
それでも俺は、何かを守りたい。その一心で武偵を目指した。
だけど今の俺は、別のものとしてあいつを……でも、己の中の全てを出し切ることも嫌なんだ。
昔とある人に言われたんだ。『目をつけた奴に欲しがられてしまうかもしれないから気をつけろ』って。
この面倒ごとに巻き込まれてしまったのはやはりあいつ……後に、そして魔鎗のシャルロットと呼ばれる同級生のせいなのか?
結局のところ俺はどうしたいのやら——–
——シャルロット——
———私は戦わなければならない。友———親友であるアリスベルのために。そして、自分自身のために。私は今まで、沢山の者と戦ってきた。ほとんど1人で。そんな私の元に彼は現れた———。
正直私は彼のことをどう思っているのかがわからない。ただ言えることは、彼は勇敢だ。
初めて会った時の彼の行動には正直驚いた。まるでスイッチが付いていて、ONとOFFが切り替わったようだった。目の前の敵が何かもわからないのに、ただただ立ち向かっていった。
その時の行動はまるで私を守るように……か、勘違いなさらないようにお願いします!
間違っても私は彼の事がす、好きとかそんな風な感情を抱いてはいないのだから……。ソーゼツになるかもしれませんが繰り返します。そんな感情は持っていません。
これは断言しておきます———
——出雲——
———あれからどれくらいの時間が経ったのであろう。
ほとんど忘れてしまったが、恐らく60年程空腹であった。
長く辛い———あんな物がこの世に存在していたなんてな……。
他の不幸が小さく見えるほどだったな。
我の名は、
想いを食し、戦の武具を産み出す、妖の官女。
漸くシャルロットの想いを食べ、満たされた我が産み出した武具で戦うのだ。これから起こることのために———
——新鑓——
———中学時代は、特に何か変わったこととかは無かったな。
周りと同じように学校に通い、周りと同じように部活をやって過ごしていた。勉強面でも、特段秀でた科目も無く平凡だった。
ただ一つ、夢を追いかけてはいた。周りに馴染みながらも密かに夢を追いかけていた。
それがこの俺、中村
そんな俺は、高校に入学する3日前に学校の変更を言い渡された。
そして、変更された進学先があるのはここ———神奈川県横須賀市、居鳳町。
住宅地、学校、公園、コンビニ、ショッピングセンター、何でも一通り揃っているせいなのか、どこか閉鎖的な町である。なんとなく好きにはなれないな。
入学式を明日に控えた俺は、事実上の中学最後の日を謳歌することと———気分転換のために、国道の側の浜を訪れていた。
(この海は何となく穏やかで好きだな)
満月を映し出した海面は、街灯と学校によって輝いて見えた。
すると突然、水面に映っていた街灯の光が消えた。
(……なんだ?)
俺は上にある国道を見上げた。
……フッ、フッフッ、フフフッ……
国道沿いにある街灯が流れるように消えて行く。
停電……にしてはおかしいな。
身の安全を考えて家に帰るか、と思った瞬間……
俺からは崖によって死角となっている場所で銃撃のような音がした。
(何の音だ? 銃の音にしては変だし……)
そう思い近づこうとした瞬間、俺の後方が爆発した。
(な、何だ?!)
砂とともに無数の鉄片が飛んできた。
俺は身の安全を確保するたに階段へと走った。
階段へと辿り着いた俺は振り返り、辺りの様子を伺う。
そこには、海面に立つ少女の影とそれに対峙するかの様に立つ少女の姿が見えた。
砂浜に立つ少女の手には……ありえない、何かの間違いではないのか?
だが、見間違える筈もない。その手には、
「水は全ての源……貴方の攻撃は、私には届かない」
海面に立つ少女がそう言うと、少女を囲う様に水柱が発生した。
「ポイントレス。今のは見せかけ程度。最先端科学に勝てるはずがない」
……何故だ、何故そうも平然としていられる? 目の前ではあり得ないことが続々と起きているのに……!
「
砂浜に立つ少女が抑揚の無い声でそう発すると、砂の中から無数の金属が現れ、二足歩行の機会となり少女の身に纏われた。
そして、少女は水面を滑るようにして移動した。
それを迎え討つかの様に水柱の中から少女が現れる。
即座にヤバイと感じた俺は自転車に手をかける。
すると先程までは微塵も無かった人影があった。
それは少女であった。
若干茶色っぽい黒髪を、肩より長いくらいのツインテールにしていて、その手には暗視機能付きの双眼鏡を握っている。
呆気にとられていた俺は海の方を見やる。
そこでは、あの
「ミクル、貴女のこの機械、マニュピレーターが弱すぎるわよ」
そう言ってもいだアームを両手で軽々と抱えていた。
「ポイントレス。そもそもこれは分離式。リンに捥がれた訳ではなく切り離しただけ」
ミクルと呼ばれた少女は抑揚の感じられない声で答えた。
「ふーん。まあ良いわ。それよりも———シャルロット、貴女もこの場に来ていたなんてね。正直意外だわ」
リンと呼ばれた少女はもいだアームを持ったまま、俺の視線の先にいる少女———シャルロットと呼ばれた少女へ言った。
「まあ、良いわ。折角だし———あなたも参加していきなさい、よッ!」
その言葉とともにリンは自身の身長の1.5倍程あるアームを、軽々とシャルロット目掛けて投げつけた。
シャルロットはそれを見て動じなかった。
マズイ……! このままだと、あいつに当たる!
そう思った瞬間、俺の身体は動きはじめていた。
その時の俺は自分の意思とは関係なく、飛んでくるアームの速度や彼女に当たる時の入射角などを即座に割り出していた。
「この———ッ!」
自身の自転車を掴むとそれを持ち上げ、飛来するアームへと投げつけた。
そして、スローと同時に俺は叫んだ。
「伏せろォォォ!」
俺の叫びで漸くこちらに気づいたらしいシャルロットは、こちらを向いて驚いていた。
「……何故ここに人間が?」
彼女は伏せようとしない。
俺は走り出した。多分嫌でも走り出していたのだと思う。無我夢中で走った。彼女を助けるために。
俺はシャルロットへと飛びかかった。
その背後では、俺の自転車とアームが衝突する音が聞こえた。
そして、彼女の肩を斜め下へ倒れる様に軽く押した。
それにより彼女は態勢を軽く崩して後ろへゆっくりと倒れた。
それを見届けてホッとしていた瞬間、グシャッ!
「……?!」
グロテスクな音と共に激しい痛みが全身を貫いた。
どうやら体を先ほどのアームが貫いたらしい。
痛いと思ってはいたがそれは直ぐに痺れて感じなくなった。
感覚が麻痺してしまった俺は、そのままアームの勢いに流され地面の上を摩擦で止められるまで滑った。その途中、足が捥げてしまった気がした。
この時直感で悟った。
(あ、俺死ぬんだな———)
徐々に薄れていく意識の中で、ゆっくりと目を開いてみた。
そこには瞳に涙を浮かべたシャルロットが映った。
「何故、何故私なんかを助けたんですか?」
震える声で彼女は言った。
———何故?
「理由は……ない」
「え?」
俺の受け答えに彼女は驚いていた。
「理由なんて……ない」
「じゃあ、なんで……」
彼女は俺から目を逸らした。
「なんでって……そんな……助けるのに……理由が……必要か?」
俺の言葉を聞いた彼女は今にも泣きそうな声で言った。
「普通は……助けませんよ。見ず知らずの人を。ましてや……私なんかを」
……なるほどな。
「普通……なら……な。でも……俺は……困ってる奴を……放っては置けない……んだよ」
俺は昔から困ってる人を放っておく事が出来ない奴なんだ。だから、今もこうして体が自然と動いてしまった。
「それに……この世に……役割の無い人間なんて……居ないと思う。さっき……『私なんか』って……言ってたけど、それは……違うと思う。存在している以上……役割は……必ずある」
シャルロットは理解が追いつかないと言った顔をしていた。
「つまり、貴方は私にどうしろというのです?」
それか。お前がわからないのは。
俺は残り少ない力でシャルロットの肩を掴むと、上体を若干起こしつつ軽く自分の方へと引き寄せた。
「……生きろッ! 今はまだ何もないかもしれないが、いつか必ず見つかる。だから生きろ。そして自分だけの答えを見つけろ!」
そこまで言って俺の力は無くなってしまった。
駄目だもう起き上がることが出来ない……。
俺はそっと、視線をシャルロットに向けた。
彼女の顔は赤くなっていた。
そして俺と目が合うと、少しわたわたした後、周囲をキョロキョロと見回していた。
「出雲、出雲? いませんか?」
シャルロットはしきりに誰かの名前を呼んでいた。
「呼んだか、シャルロット?」
突然シャルロットの後ろに人影が現れた。
すらっとした長身で、金の掛かった銀色の髪をポニーテールにしていた。
「あ、出雲。はい、この人私を助けてくれたのですが、助けることはできませんか?」
すると出雲と呼ばれた女性は少し怪訝そうな顔をした後ハッとした表情になった。
「そうか……もしや?」
すると出雲は背中をこちらに向け何かをし始めた。
「おぉ……やはりか。……うむ、中々美味い。分かったシャルロット。なんとかしよう」
出雲は背中越しにぶつぶつと呟いた後、振り返って言った。
「礼を言うぞ少年。名は何と言う?」
出雲は、顔のみをこちらに向けた見返り美人図の様な体勢で言った。
「中……村……新鑓……」
俺は、朦朧とする意識のまま自分の名前を言った。
「新鑓か。良い名前だ。新鑓、この礼はしっかりと返させてもらうぞ!」
その言葉を最後に俺の意識は途切れた———
———夢……? はぁっ?! 今のが夢かよ?! 最悪だなぁ、オイ。全く、今日から高校生活だってのになんて夢見てるんだか。
ベットから起き上がった俺は、パジャマを脱ぐと学校の制服に着替える。
着替えながら夢の中で穴の空いた胴体や、捥げてしまったと思われた足を確認してみたが何の異常も無かった。
どうやら夢だったらしいが生々し過ぎるだろ。
そんな事を考えながらも、俺は部屋を後にした。
この時の俺は知らなかった。俺の日常は既に
今回はここまで。次回は入学式あたりですかね。
まあ、気長にお待ちください。ではこれで。
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