赤龍帝の転生譚 (かきなぐり)
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ここはどこ? 俺は一誠

一輝、一誠ってややこしいね。
でも、しょうがないね。


 兵藤一誠には前世の記憶があった。

 その記憶の中での自分はしがない20代の公務員で、それなりの給料のためにそれなりに働いて、仕事を終えて家に帰ったらゲームやラノベに没頭する。そんな男だった。

 そんな前世の記憶が彼の頭の中に甦ったのは、まだ一誠が幼い頃のこと。

 

「ドーラーゴーンー波ーー!!」

 

 小さな子がアニメのヒーローの真似をする。そんな何処にでもありそうな風景。

 ただ、そこで少し違ったのは、ある日まだ幼かった一誠がそれをした瞬間、彼の腕を赤い籠手が覆ったこと。

 そして、それと同時に前世の記憶が蘇ったこと。

 

 

「名前が兵藤一誠で、赤い籠手って……。え、もしかしてハイスクールD×D?」

 

 彼は寝込んだ。

 まさかのおっぱいドラゴン憑依転生なのかと。

 何もしなければ堕天使に殺される。仮に原作通り悪魔に転生して生き返ることができても、そこから先はインフレバトルまっしぐら。

 あの原作の一誠のようなおっぱいパワーなしには到底乗り切ることなど出来そうもない。

 そして、前世で彼女も作らず2次元でいいやとなあなあやってきた男には、あれほどまでのパワーはない。

 

「レイナーレさえ、アレさえやりすごせたら、後はどうにかなる……か?」

 

 男の中にある原作知識は13巻ぐらいまで。その先、あの物語がどうなったのかを彼は知らなかった。あのあたりまでなら、赤龍帝がいなくてもどうにかこうにかなんとかなったのではないだろうか。

 少なくとも人間としてひっそりと暮らしていく分にはどうにかなっていたはず。

 その先の彼の知らないところで、人類が絶滅するような大規模戦闘などがあるのかもしれないが……。

 分からない。どうしよう。死にたくない。でも、おっぱいドラゴンは無理。

 どうにかして引っ越すか? いや、それをしてグレモリーのいないところで襲われたら余計にどうなるか分からない。

 いっそこっちからリアスに接触して、保護下に入れないだろうか。

 

「いや、でも、それは地獄へのロード。冥界だけに……」

 

 男は独り言をブツブツと悩み、そして両親に相談した。

 

「あら、一誠! それってもしかして《固有霊装(デバイス)》じゃないの!」

「デバイス?」

 

 もじもじと話しかけてきた幼い息子に、母は言った。

 世の中には《伐刀者(ブレイサー)》という、人でありながら人を超えた奇跡の力を持った人々がいるのだと。

 そして一誠もまたその《伐刀者(ブレイサー)》なのだと。

 

「テレビでやってるわよ」

 

 一誠はテレビを見た。特撮ではない、本物の魔法使い達による戦いを見せる興行。

 魔力を用いて異能を操る千人に一人の特異な存在たちのとんでもバトル。

 最高位ともなれば時間の流れすら操り、重量をねじ曲げ、武道も近代兵器も寄せ付けない超常決戦。

 

「スゲー……。でも、あれ《神器(セイクリッド・ギア)》? じゃない? あれ? ん?」

 

 転生憑依な一誠は混乱した。

 いや、たしかにハイスクールD×Dの世界にも魔法使いなどはいたし、神器使いの人間もたくさんいたが、それらは闇の住人扱いで、こんな風に思いっきり表立って目立ってはいなかったはずなのだ。

 

「母さん、俺って兵藤一誠だよね?」

「当たり前でしょう? なに、どうしたの?」

「ここって、どこ? 俺は一誠だけど」

「どこって、家でしょう?」

 

 イッセーは、母親に「ああ、うん」と生返事しながらここはなんの世界なんだろうかと頭をぐるぐるとさせた。

 

「もしかしてハイスクールD×Dじゃないの!? デバイスってアレか? リリカルななのはさんなのか!? これからヴぃヴぃっときちゃうの!?」

「ちょっと、一誠!? どうしたの!? おとーさん! おとーさん、ちょっと来て! 一誠が!!」

 

 




一巻での《総魔力(オーラ)量》の話

ステラ(平均の30倍)>>>新入生平均>一輝(平均の10分の1)=一誠(魔法陣転移も出来ない)

300倍ぐらいいかないとステラさんに届かないから……
2→4→8→16→32→64→128→
妃竜さまに追いつくにはちょっと時間がかかりますね




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エピソード0

 人の身に、人を超越した力を宿す伐刀者(ブレイザー)は人類の宝だ。

 その伐刀者の所属する国家の重要な戦力であり、彼らを立派に鍛えることは当然のこと。

 警察も、軍隊も――戦争も伐刀者なくして立ち行かない。

 犯罪を犯す伐刀者や敵の伐刀者に対抗できるのは、やはり同じ伐刀者だけ。最高クラスの異能者などは時間や因果などというものまで操るのだから、非伐刀者ではどうにもならないのだから仕方がない。

 

 そして、そんな超人とでも呼ぶべき伐刀者たちに、その手に持った大きな力の扱い方と、それに伴う責任を教育し、社会の為に役立ってもらおうというのが《魔導騎士制度》である。

 国際機関の認可を受けたばっとう伐刀者専門の学校を卒業した者のみが、その異能を振るう『免許』を与えられ、『魔導騎士』という社会的立場を得られるのだ。

 

 ただ、異能を振るう『免許』は学校で学んで()()ものであはあるのだが、学ばなかったからと言って、異能を行使することが出来ないわけではない。

 超常の力――それは生まれ持ったモノなのだから。

 だからこそ、一般の人々は恐れる。隠れた超常の能力者を、教育を受けず己が欲望のままに凡人には対抗不能は暴威を振るう犯罪者を。

 いくら伐刀者にとって最重要のステイタスである《総魔力(オーラ)量》が最低ランクだといっても、それは伐刀者の中での話。それ以外の力なき人々からすれば、やはりどうしようもない強者であることに違いはない。

 

「ちゃんと力の扱い方と心構えを勉強してきて」と言われるのは当たり前。

 

 そんなわワケで、周囲からの有形無形の圧力を受け流すことが出来なかった一誠は、『免許』を持った『魔導騎士』となるべく日本に7校ある『騎士学校』のひとつである『破軍学園』の入試に望んでいた。 

 7つの学校の中から、一誠が破軍学園を選んだ理由は単純だ。

 まずは、実家から近いからである。

 全寮制なので通う必要はないのだが、それでも遠いよりは近い方が良い。

 さらに、破軍学園は試験に受かって入学さえすれば衣食住の保証と全額学費免除の特典があるのだ。

 ついでに、仮に落ちたところで他の学校に通えば良いだけ。他の学校では学費などが必要だが、入学試験など基本的になく、伐刀者としての素質がありさえすれば誰でも入学可能。

 盤石の滑り止めがあるのだ、これで学費やもろもろの費用免除を狙わない手はない。

 

 一誠の伐刀者としての基礎的なステイタスは低い。恐ろしく低い。総合的なランクが最低クラスのFなくらい低い。

 魔力量は平均の10分の1以下のミジンコ。それに合わせて魔力によって強化される攻撃力や防御力なども最低値。伐刀者である以上――警察か軍隊か分からないが――どうせ荒事は避けられないだろうと身体は鍛えてきたので身体能力はそこそこ自信があるが、それも「まあ普通に町道場で頑張ってきましたね」レベルである。

 血反吐を吐くような訓練など、元貧弱一般人なメンタルで出来ようハズもなく……。

 繰り返すが、一誠は基礎的なステイタスは最低のFランク。

 破軍学園の一般的な新入生のランクはほとんどがそれより上位のDランクとEランク。Cランクは250人の人数内に5人もいれば良い方で、その年にBランクがいるかどうかは運次第というのが一誠が事前に調べたところだ。

 

 それでも一誠は破軍学園の入試について心配していなかった。

 

「頼むぞ――《赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)》」

 

 こっそりと顕現させた赤い籠手を撫でる彼の目には、自分が落ちるわけがないという自信が満ちていた。

 一誠自身はたいしたことのないヤツだが、彼の《固有霊装(デバイス)》がもたらす能力は凄まじいのだから。

 《赤龍帝の籠手》の持つ異能は、《倍加》。彼の《力》を2倍にするという単純なもの。ただそれだけならば、それほどたいしたものではない。最低ランクのステイタスを倍にしたところで、ひとつ上のEランクの伐刀者にも届かない可能性が高い。

 だが、一誠の霊装の《倍加》は一度では終わらない。発動から10秒経過するごとに、さらに倍々に力を増加させて行くのだ――際限なく。

 2倍が4倍に、4倍が8倍に……時間さえあれば、現状最高の総魔力量を誇るとされているどこぞのAランク伐刀者をも上回る。

 それが一誠の霊装。赤い龍の帝王という、暴力の権化の概念を宿した籠手。

 この力を最大限――一誠が()()()()()耐えられる範囲で――解放すれば合格できないはずがないのだ。

 

 

 

 

      ◆

 

 

 

 

 試験会場で、一誠は倒れ伏していた。泡を吹いて、白目をむいて第六訓練場に転がる多数の脱落者たちの1人となっていた。

 彼よりも前の順番の受験生が、病弱系美人試験官に喧嘩を売った結果がこれである。決闘を申し込むとかなんとか言い出したヤツの巻き添えである。

 

「《血染めの海原(ヴァイオレットペイン)》。一定範囲内にいる全ての人間に、わたしの病んだ肉の痛みを、朽ちた骨の軋みを、膿んだ臓物の疼きを、すべてを等しく強要し、コンディションを強制的に絶不調へと追い込む伐刀絶技。効力の程は御覧の通りよ」

 

 全身を苛む圧倒的な苦痛を前に、凡夫メンタルが耐えられるハズもなく……。

 「先生、試験が受けたいです……」一誠はそう言う事さえできなくされたのであった。

 

 

 

 

 

 

 





転生貧弱パンピーメンタルで折木先生に勝てるはずがない。巻き込まれただけでこの有様。
一誠君は能力増強系バフが得意だけど、先生は範囲バステてんこもり散布なんで、対策してないとどうにもね。


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ルームメイトはFランク

「ごめん……黒鉄。俺はお前と仲良くできそうにない」

 

 寮の自室。ルームメイトのその言葉に、黒鉄一輝は目を丸くした。

 なぜこの場面でそんな言葉がでてくるのだろう、と。

 

「俺はひきわり納豆を選ぶヤツとは仲良くしないことにしているんだ」

「でも、小さいのが良いって言わなかった?」

「ああ、でも小粒とひきわりとの間には深くて広い谷が広がっている」

 

『破軍学園』は全寮制。そして、その寮の部屋は2人部屋でなんとか入試を突破した黒鉄一輝のルームメイトとなった彼の名前は兵藤一誠。

 兵藤の伐刀者としてのランクは、一輝と同じFランク。おそらく、そんな理由で同室になったのだろう。

 料理の出来ないヤツだった。掃除もあまりマメにしない。なんだかんだで面倒見の良い一輝は、ついつい甘やかしてしまって初日に決めたはずの分担を越えてやってしまっていた。

 その上、今のこれである。買い物を任せておいてのこの仕打ち。黒鉄は怒っても良い。

 だが口から出て来たのは「ごめん、次からは気を付けるよ」という言葉。

 これまでの苦労が黒鉄をこんな性格にした。幼い頃から家族からいらない者として扱われ、家を飛び出してからは武者修行に無茶な日々。それらに比べたら、ルームメイトが少々だらしないことなど別になんてこともない。

 それに、黒鉄はこのルームメイトが嫌いではなかった。むしろ、「俺の精神年齢は、たぶん20代半ばくらいのはずなんだ」などとよく分からないことを言い、黒鉄に兄貴風を吹かしてくるところが、実はそこそこ好きだったりするくらいだ。

 黒鉄としては、そんな自分の気持ちをこれまでの反動なのだろうかと思っている。

 

「味噌汁は赤だったよね?」

「合わせと交互が理想だよなー」

「贅沢すぎる」

 

 入学してから少しの間は、そんな風に穏やかな日々があった。

 

「そういえば黒鉄、あれやった?」

「あれって?」

「ほら、この前やってみろって言ったゲーム」

「ああ、一応ちょっとは進めてみたけど……。ああいうのは、僕はあんまり」

「ゲームする暇があった鍛錬鍛錬修行三昧って?」

「あー、まあ、そうなるのかな」

「なんというストイック野郎……。あ、でもちょっとやってみたんだよな?」

「うん、まあ」

「じゃあさ、あのゲームの中のヒロインだったらどの子がタイプよ?」

「え、えっと、うーん」

「照れるなよ、ただのゲームだし、適当に言ってみなって」

 

 そう言われて黒鉄が口にしたキャラクターは兵藤によると「なるほど、リアス部長系が黒鉄のタイプなワケか。お嬢様で髪が赤系で長くて、スタイルもプライドも抜群って、そういう欲望に忠実な」

 

「いや、別にそんなんじゃ、適当にって言われたから選んだだけで」

「照れない照れない。分かる。うん、分かってるから」

「じゃあ、兵藤はどの子がいいんだよ」

 

 なにやら恥ずかしい思いをさせられた黒鉄は、兵藤のタイプを訊ねることによって話題を少しずらそうと試みた。

 

「うーん、俺は実は小猫ちゃん系がタイプなんだよね……。いや、あくまで二次元の話なんだけど」

 

 言いながら、兵藤は話題となっているゲームのパッケージを持ち出し、そこに印刷された一人のキャラクターを指差して見せた。

 

「子猫? ああ、この子か……。え? 兵藤っていわゆるロリコ……」

「それ以上言うな! あくまでも、そう悪魔でも二次元の話だから」

「分かったから、分かったから。でも髪が白っぽくて、小柄で、素直になれなくてちょっと毒舌な感じがねぇ……。なんだか、誰かを思い出すかな」

「え、マジで? 知り合いにそんな子いんの?」

「知り合いって言うか、しばらく会ってないから今はどうなんだろう……」

「写真とかあるか?」

「ある……けど。これ、だいぶ前のだけど」

「おお、かわいい……。誰? この子どこの子? 紹介して!」

「僕の妹……」

「マジで!? お願いします、お義兄様!」

「え、イヤだけど?」

「いや、冗談だってホント。なんだよ、黒鉄、そんなマジな顔するなよ。こわっ」

 

 楽しい学校生活。それは本当に少しの期間だけだったが……。

 

 

 

    ◆

 

 

 

総魔力(オーラ)量が一定値以下の生徒は実戦授業に出たらダメっておかしいだろ!?」

 

 寮の部屋で怒り狂う兵藤に、黒鉄は頭を下げた。

 

「僕のせいだ……。巻き込んでごめん」

「別にお前に怒ってるわけじゃねーから。……謝んなよ」

「うん、でも……やっぱり、ごめん。僕の事情のせいだから」

 

 騎士学校で育てられる魔導騎士は、国家の戦力だ。当然のように戦闘能力を求められる。

 だから、その授業の中に実戦に臨むための内容が組み込まれているのもまた当然のことだった。

 だというのに、この学校は――入学を許しておきながら――ごく一部の生徒に対して実戦に関する授業への参加を禁止してきたのだ。

 能力値が低いため危険だから、と。

 

「だから、お前が謝ってもどうにもなんねーだろ。そもそも謝ることねーし。他の学校に行った知り合いに聞いてみたけど『実戦強化を受講する最低能力水準』なんて決まりないらしいぞ」

「うん、だから……ごめん」

 

 





木場くんポジなのかもしれない


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