ハイスクールGEED (メンツコアラ)
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旧校舎のプリミティブ
プロローグ


キャラ設定

朝倉 陸

呼び名:リク
好きな物:特撮番組『爆裂戦記ドンシャイン』
嫌いな物:英語

駒王町にある小さなアパート『星雲荘』に相棒の黒歌と一緒に住む、ごく普通の高校一年。星雲荘の一階にある駄菓子屋『銀河マーケット』でバイトをしながら生活している。
兵藤 一誠とは幼馴染み。
赤ん坊の頃に捨てられていたため、両親のことは一切知らない。



黒歌

皆さん御存知、あの黒歌。
怪我をして、空腹で倒れそうになっていたとき、小学生の陸と出会い、その時から一緒に暮らしている。
普段は猫の姿で、陸の鞄の中に入っているが、星雲荘では人の姿になる。




 ウルトラ戦士。それは宇宙の平和を守る、正義の戦士(ヒーロー)たちのことである。

 

 しかし、そんな戦士たちの中に、唯一闇に染まった者がいた。その者こそ、最凶最悪の戦士『ウルトラマンベリアル』。

 一度はウルトラマンの一人、『ウルトラマンゼロ』に敗れ、消滅したが、時を経て復活。再び、ウルトラ戦士たちとベリアルとの激しい戦いが始まった。

 その戦いの舞台となったとある宇宙は狂乱の渦中に巻き込まれてしまった。

 

 そんな中、科学者でもある『ウルトラマンヒカリ』は、この戦いに終止符を打つべく、ウルトラマンの力を宿した『ウルトラカプセル』を開発する。その掌サイズの小さなカプセルはたった一個で戦況を覆す程の可能性を秘めていた。

 

 

 しかし───

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 その(ちきゅう)は、今まさに阿鼻叫喚の地獄と化していた。

 建物のほとんどが燃え、崩壊し、コンクリートの地面の殆どがひび割れ、午前中でありながら空は黒く染まっている。

 

 そんな中、日本のとある町で光を纏った巨人たち『宇宙警備隊』と闇を纏った巨人『ウルトラマンベリアル』が戦っていた。

 

「ベリアルッ! これ以上、てめえの好きにはさせねえッ!」

 

 ウルトラ戦士の一人、所々がひび割れた白銀の鎧を纏った、青と赤の体を持った双角の戦士『ウルトラマンゼロ』がベリアルを指差して叫ぶ。

 互いにボロボロ。しかし、数では此方が有利。

 だがしかし、ベリアルは突然笑い出した。

 

「フハハハッ! 俺を追い詰めたつもりだろうが、それは違うな」

 

「なんだと・・・ッ!?」

 

「今からその意味を教えてやる───超時空消滅爆弾、起動ッ!」

 

 ベリアルが、手に持っていた両端に金砕棒がついた棍棒状の武器『ギガバトルナイザー』を天に掲げる。すると、ギガバトルナイザーの両端から紫電がほとばしり、上空の空間に次元の穴を開ける。

 

「せいぜい足掻くがいいッ! フハハハハハハ───

 

 その言葉を残し、ベリアルは炎の中に消えていった。

 

 その時、次元の穴から落ちてきたのは、ウルトラマンたちの2~3倍はありそうな金属の塊。

 それを見た瞬間、ウルトラ兄弟やゼロ、レオ等の歴戦の戦士たちは理解した。

 

 『あれ』はヤバい。この宇宙が終わると・・・。

 

 その戦いを見ていた『ウルトラマンキング』は即座にウルトラ戦士たちをその星から離脱させた。

 唯一、ゼロが星を守るために飛び込もうとしたが、それを彼の父親『ウルトラセブン』が止める。

 

「離せ、親父ッ! このままじゃ、あの星が・・・ッ!」

 

「行くな、ゼロッ! この宇宙はもう・・・」

 

「そんな・・・」

 

 目の前で地球が爆発し、崩壊していく。それによって出来た次元の断層はその宇宙全体に広がり、周りの星々を消滅させた・・・

 

 

   ───かに思われた。

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 201X年4月中旬。日本の駒王町にある小さなアパート『星雲荘』の一階にある駄菓子屋『銀河マーケット』では、店長兼アパートの家主『久米 晴雄(ハルヲ)』がふ菓子を片手にとあるテレビ番組を見ていた。

 

『深読みサイエンスの時間です。今日はあの未曾有の大災害「クライシス・インパクト」を徹底解析していく為、宇宙学者の宇佐波(うさわ)教授に来ていただきました。

 本日はよろしくお願いします』

 

『よろしくお願いします』

 

『早速ですが宇佐波教授。あなたは一般的に知られているクライシス・インパクトの原因は間違っていると主張されていますが、それはどういうことでしょうか?』

 

『ええ。クライシス・インパクトは一般に巨大隕石が原因とされていますが、違います。この写真を見てください』

 

 そう言って、宇佐波教授は一枚の写真をカメラに向けた。そこには炎に包まれ、崩壊した町、そして、つり上がった赤い瞳の黒い人影が写っていた。

 

『当時のデータは全て無くなったとされていますが、これはクライシス・インパクトが起こった当時の写真です。この中心の人影を見てください。

 彼の名はウルトラマンベリアル。私はこの彼こそがクライシス・インパクトの原因ではないかと考えています』

 

「ウルトラマンベリアルねぇ・・・」

 

 モシャモシャとふ菓子を食べる晴雄。

 そんなとき、鞄を片手に持った学生たちが四人、店にやって来た。

 そのうちの一人、星雲荘に住む黒髪の青年『朝倉 陸』が挨拶する。

 

「ただいま、店長」

 

「お帰り、リク。なんだ? 今日はイッセーたちも一緒か?」

 

「うん。実は───」

 

「「聞いてくださいよ、ハルヲ店長ッ!」」

 

 陸が何かを言おうとしたとき、彼の後ろから坊主頭の青年『松田』と眼鏡の青年『元浜』が涙を流しながら晴雄に詰め寄った。

 

「ど、どうしたんだよ? そんなに涙を流して・・・」

 

「これが泣かずにいられますかッ!」

 

「あのイッセーに・・・ッ! あのイッセーに・・・ッ!」

 

「おいおい。イッセー、何かしたのか・・・て、なんだ、その顔は?」

 

 晴雄の視線の先、先ほどから『イッセー』と呼ばれている茶髪の青年『兵藤 一誠』の顔は誰が見ても『キモい』と言いそうなほどニヤけていた。

 

「フフフ・・・実はですね。俺、ついに彼女が出来ましたッ!」

 

「ふーん、彼女がねえ・・・て、え? ええええええええッ!?」

 

 晴雄が驚くのも無理はない。何せ、彼らが通う学園『駒王学園』では変態のレッテルを張られているのだ。そんな彼に彼女が出来るなど誰が考えられるだろうか?

 一誠の言葉が信じられず、晴雄は陸に本当かどうかを問う。

 

「イッセーの彼女本人から挨拶してきたんで、間違いじゃないです。それで、今日はイッセーのお祝い+置いてかれた松田先輩と元浜先輩の慰め会をここでしようってことになって・・・」

 

「そうか・・・よしッ! 今日は俺の奢りだッ! 好きなジュースとお菓子かアイスを一つずつ持ってけッ!」

 

「「「「ゴチになりますッ!」」」」

 

 陸と一誠は笑顔で、松田と元浜は涙を流しながらお礼を言う。その時、陸の鞄から『ニャ~』と鳴き声が聞こえ、僅かに開けた鞄の口の中から一匹の黒猫が頭を出した。

 

「お? 黒歌じゃないか。またリクの鞄に潜り込んで、学園に行ってたのか?」

 

「ニャッ」

 

「よし。お前には昨日の夕飯の刺身の残りをやるぞ」

 

「ニャア~♪」

 

 

 彼らはそれぞれジュースとお菓子、もしくはアイスを奢ってもらい、店の裏で一誠を祝い、また松田と元浜は互いを慰めあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方。一誠たちと別れた陸は星雲荘の二階にある自分の部屋に帰った。扉を開け、中に入り、肩に下げていた鞄を下ろす。

 すると、黒歌が鞄の中から這い出てきた。次の瞬間、黒歌の体が光に包まれ、猫耳と尻尾が生えた扇情的な和服姿の女性になった。

 

 そう。黒歌は普通の猫ではない。この猫・・・いや。彼女は猫又、その中でもとりわけ力の強い『猫魈(ねこしょう)』である。

 

「うーん・・・やっぱり家が一番だニャ」

 

「ちょッ!? 急に戻るなよ。誰かに見られてたらどうするんだ?」

 

「大丈夫。人避けの結界を張ってるから。あ、今日はカレーだったよね? 中辛でお願い」

 

「猫って、刺激物いけたっけ?」 

 

「猫じゃないもん。猫又だもん」

 

「とりあえず、作ってるからテレビでも見ててよ」

 

「はーい」

 

 そう言って、黒歌はテレビをつける。

 

『───であるからして、クライシス・インパクトはベリアルが引き起こしたと言えるのです』

 

『確かに、当時は謎の巨人が多数いたと噂がありますが・・・』

 

『はい。ですが、偶然見つけたこの写真以外、何もデータが残ってないとは奇妙なんですよ。まるで誰かが隠したみたいに───』

 

「うわぁ・・・まだやってるニャ」

 

 テレビの音声は台所に立つ陸にも聞こえていた。

 

「・・・ねぇ、黒歌。本当にいるの、ウルトラマン?」

 

「うーん・・・私も直接見たわけじゃないけど、確かに存在していたとしか言えないニャ。けど、あのクライシス・インパクトからは一切確認されてない」

 

「そうなんだ・・・あ、黒歌。今日はチキンカレーでいい?」

 

「オッケー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが彼、朝倉 陸のごく普通(端から見れば、少し変わっている)日常。

 

 だがしかし、この時の彼は思いもしなかっただろう。

 

 これから起こる、逃れることの出来ない自分自身の運命に・・・

 




重要単語

【クライシス・インパクト】
二十年前に地球規模で起きた未曾有の大災害。一般的に『巨大隕石の落下』が原因とされているが、その時のデータが何故か残っていないため、調べることが出来ずにいる。




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はい。今回はここまで。
『ハイスクールGEED』改めて、『ハイスクールG×D』の始動です。
『戦士開眼シンフォギアゴースト』も同時に頑張っていくので、応援をよろしくお願いします。




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黒い翼の男

『海咬神威龍』さん、『ぼるてる』さん。この作品を評価していただき、誠にありがとうございます。

 はい。それでは、本編どーぞッ!
 ・・・と、その前にこの作品のキャラ設定。



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塔城 小猫

陸と同じ、駒王学園に通う高校一年生。その高校生とは思えないほど小柄な体格から、学園内ではマスコットとして慕われている。
基本的には無口だが、陸に対しては口を開くと毒舌がとぶ。しかし、それでも親しそうにする二人の姿から『二人は付き合ってるのでは?』と噂が立つほど。
余談だが、銀河マーケットの常連客である。




兵藤 一誠

駒王学園では松田、元浜と合わせて『変態トリオ』と呼ばれているほどスケベな高校二年生。
陸とは幼稚園の頃からの付き合いで、一誠は陸のことを弟のように思っている。
四月始めに念願の彼女が出来てハイテンションになっている彼だが・・・。



伊賀栗(いがぐり) 令人(れいと)

駒王学園に通う、これといった外見的特徴がない、ごく普通の高校一年生。
幼い頃に両親を無くし、今は五つ年上の姉と幼稚園の妹と一緒に生活している。
家計を支えている姉を少しでも助けるため、バイトをいくつも掛け持ちしている。そのため、学校でも内職をする令人の姿が確認されている。




 一誠のお祝い会から週をまたいだ月曜日の朝。

 陸は欠伸を噛み締めながら登校していた。。

 

「眠い……」

 

「自業自得ニャ。遅くまでテレビ見てたリクが悪いニャ」

 

「それはそうだけどさぁ……」

 

 通学路を歩くなか、脇にはさんだ鞄の僅かに開いた口から頭を出す黒歌と小声で話す陸。しかし、黒歌が周りには自身の声が聞こえないようにしているため、端から見ればブツブツと独り言を言っているように見える。

 そんなときだった。

 

「…おはようございます」

 

「「うおッ!?」」

 

 突然の背後からの声に驚く陸。黒歌も声をあげ、すぐさま鞄の奥に潜り込む。

 陸が振り替えると、そこには白髪の小柄な女の子が絶っていた。

 

 彼女の名前は『塔城 小猫』。陸と同じ、駒王学園に通っている。学年は陸と同じ一年生で、クラスも同じだ。

 

「お、おはよう、塔城さん」

 

「…どうも。朝から道中で独り言とか、キモいですよ」

 

「あははは……ごめんなさい」

 

「…謝るなら気を付けてください。早く行きますよ」

 

 そう言って、歩き出す小猫。陸はそのあとを追う。

 どうやら彼女は星雲荘の近くに住んでいるらしく、よくこうやって一緒に登校している。

 

「……そういえば、知っていますか? 新発売されたチョコ菓子」

 

「チョコ菓子? 店長が今日から新しい商品を並べるって言ってたような気がするけど」

 

「・・・10本ほど、置いといて貰えますか?」

 

「了解。言っておく」

 

 道中、そんな会話をしながら二人は学園に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 十数分。教室に入った陸は自身の席の前に座る眼鏡の少年『伊賀栗 令人』に話しかけた。

 

「おはよう、令人」

 

「おはよう、リクくん。今日も塔城さんと一緒にかい?」

 

「途中で会ってね。それで、令人はいつもの?」

 

「うん。SHRまでに五十本は作ろうと思っててね」

 

 そう言って、令人は手に持った造花を見せる。彼の机の上には材料と、既に出来た造花が積まれていた。

 

「手伝おうか?」

 

「ありがとう。でも、大丈夫だから。

 それよりも、さっき兵藤先輩が来てたよ」

 

「イッセーが?」

 

「君を探してたみたい。なんか、焦っているようにも見えたけど……」

 

「分かった。時間がある時に行ってみるよ」

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

「し、失礼しまーす……」

 

 暫くして、陸はSHRが終わったあと、一誠がいるであろう二年生の教室に向かった。だがしかし、やはり抵抗があるのだろうか。陸は開いた扉に隠れながら中を覗いた。

 

(イッセーは……いたッ! けど、なんか様子が……とりあえず、呼んでみよう)

「イ、イッセー」

 

「───ッ! リクッ!」

 

 陸が来たことに気付いた一誠は、すぐさま彼の元に行き、彼の腕を掴んだ。

 

「へ? どうした───」

 

「説明は後でするから、黙って来てくれ」

 

「え、ちょ、イッセーッ!?」

 

 一誠は戸惑う陸を連れて、一階と二階を繋ぐ階段の踊り場まで行く。一限目が始まる前だからか、そこに人気は無かった。

 一誠は陸の腕を離し、次に彼の両肩をガッシリと掴んだ。

 

「きゅ、急になんなんだよ、イッセー? それに顔が怖いよ」

 

「……陸、ものすごく奇妙な質問をさせてくれ。お前、()() ()()()って名前に聞き覚えはないか?」

 

「あ、天野夕麻? それって、イッセーの彼女さんの名前だよね」

 

「───ッ! お、お前、夕麻ちゃんのこと覚えているんだなッ!? 俺の幻想とか幻覚とか妄想とかじゃなくて、夕麻ちゃんは実在していたんだよなッ!?」

 

「お、落ち着いてよ、イッセー。話が見えてこないんだけど、一体何があったのさ」

 

「……覚えてないんだ、誰も…誰も夕麻ちゃんのことを覚えてないんだよッ!」

 

「はい?」

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 一誠の話はこうだ。

 昨日、彼はデートの終わり、彼女である『天野 夕麻』に殺されるという悪夢を見た。その事を松田、元浜に話したとき、彼らは言った。

 

 ───『誰だ、それ?』と。

 

 始めは何かの冗談かと思った。しかし、彼らは全く覚えていなかった。むしろ、一誠が寝ぼけているのでは、と言ってくるほど。そんな彼らに、一誠は天野 夕麻の写真を見せようとした。しかし、ギャラリーに納めていた彼女の写真、そして、電話番号を始めとしたアカウントなど、彼女に関する情報が全て無くなっていた。

 

 

 陸は一誠の言葉が信じられず、松田や元浜に声をかけ、天野 夕麻について聞いてみた。しかし、返ってきた答えは『知らない』のみ。晴雄にも電話をかけてみるが、彼も天野 夕麻を覚えていなかった。

 陸と一誠は放課後、彼女の着ていた制服を使っている学校を訪ねてみた。しかし、彼女に関する情報が手にはいることはなかった。まるで最初から彼女という存在が無かったかのよう……。

 

 夕方。暗闇に包まれた歩道を二人は肩を落としながら歩いていた。

 

「結局見つからなかったね……」

 

「…やっぱり、夕麻ちゃんは俺の夢だったのかな?」

 

「それ、僕がイッセーと同じ夢を見てることになっているんだけど」

 

「だよなぁ……」

 

 深いため息を吐く一誠。

 そんな彼を見ながら、陸は鞄の中にいる黒歌にそっと話しかけた。

 

「黒歌、どう思う?」

 

「………………」

 

「……? 黒歌、聞こえてる?」

 

「……ん? ああ、ごめんごめん。ちょっと考え事をしてたニャ」

 

「うん。実は────」

 

 そのときだった。陸の隣を歩いていた一誠が、急に足を止めたのだ。

 

「どうしたの、一誠? 急に足を止めて」

 

「いや、あの人・・・」

 

 そう言って、一誠は自分達が歩くを指す。陸も一誠の指す方向を見るが、夜の闇でうっすらと輪郭が見えるだけだった。

 

「よく気付いたね。目を凝らさないと見えないのに」

 

「そうか? 俺には十分に見えるぞ」

 

「いやいや。さすがにここまで暗いと誰も見えないから。……で、目の前の人がどうかしたの?」

 

「いやさ……なんか、雰囲気が夢に出てきた夕麻ちゃんにそっ───」

 

 『───くりでさ』と、そう続くはずだった一誠の言葉が途切れた。普段の陸なら『どうしたの?』と問い掛けるが、それができなかった。

 何故なら、今二人は動くことが出来なかったからだ。その目の前の人物が放つ異様な殺気で。

 

「これは数奇なものだ。都市部でもない地方の市街で貴様のような存在に出会うのだからな」

 

 目の前の人物がゆっくりと近づいて来る。そして、陸たちから3メートルほど離れた所で止まった。

 ようやく分かった、目の前の人物の姿。黒いシルクハットを深く被った、黒いコートの男。普通なら『ちょっと怪しいおっさん』で済むかもしれないが、その男が放つ気配は普通ではない。

 男の気配に気圧され、二人は数歩後退った。

 

「逃げ腰か。主は誰だ? こんな所に拠点を構える奴だ。よほどの変わり者か、階級の低い奴だろう」

 

 ジリジリと近づいて来る謎の男。そんなとき、僅かに開いた鞄の口から、中にいる黒歌が小さな声で話しかけた。

 

「……ク。……リク」

 

(───? 黒歌?)

 

「…そのまま聞いて。ここは私がどうにかするから、リクは私の合図でこの鞄を目の前の奴に投げつけて、すぐに逃げて。大丈夫。私がこんな奴に負けるわけないニャ」

 

「……分かった」

 

 陸は本当にすべきか悩んだが、黒歌とは互いを相棒と認め会うほどの仲だ。だからこそ、彼女を信じた。

 

「今だニャッ!」

 

「イッセー、走ってッ!!」

 

 鞄を投げつけ、すぐさま後ろに走り出す陸。一誠も始めは戸惑ったが、すぐさま陸の後ろを追いかけた。男は突然のことで避けることが出来ず、陸の鞄を顔面で受けてしまった。

 だがしかし、陸たちはそれを確認すること無く、一目散に走り続けた。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

「チッ……あのガキが…ッ!」

 

 陸の鞄を顔面で受け止めた男、『ドーナシーク』は顔を押さえながら、陸に対して悪態をつき、鞄を塀に投げつけた。口のファスナーが壊れていた鞄は、塀にぶつかると中身をぶちまけながら地面に落ちた。

 本来、ドーナシークは彼を殺すつもりなど無かった。しかし、陸がしたことはドーナシークを怒らせた。

 

「殺してやる…隣にいた悪魔共々、殺して───」

 

「そうは問屋が許さないニャ」

 

「───ッ!?」

 

 突然の第三者の声に、ドーナシークは身構え、声の聞こえた方を向く。そこには月明かりに照らされた、塀の上に立つ黒歌の姿があった。

 

「まったく……お前が鞄を塀に投げつけるから、チャックを壊して出ないといけなくなったじゃない。後でリクに謝らなきゃ」

 

「……貴様、いつからこの場にいた?」

 

「始めッからニャ。もっとも気配を消してたから見つけられなかったみたいだけど………で? あんた、リクを殺すって言ってたわね」

 

「それがどうした? あのガキはこの俺に対してそれだけのことを───」

 

「───させるかよ」

 

 次の瞬間、黒歌の爪がドーナシークの右腕を切り飛ばした。

 ドーナシークは右腕が繋がっていた場所を抑え、声にならない叫びを上げる。黒歌は手についた血を払い、地面に膝をつくドーナシークを問い掛けた。

 

「さてと……殺される前に答えな。何でテメェみたいな奴がここにいる? 目的はなんだ?」

 

「クッ……誰が貴様のような───」

 

「はい、さいニャら」

 

 黒歌は右手を一閃し、ドーナシークの首を切り裂いた。

 血を流し、コンクリートの地面に倒れ込むドーナシークの死体。黒歌はため息を吐きながら、自分の手についた血を拭った。

 

「……はぁ、やっちゃったニャ。この死体、どうしよう? 仙術で処分したら、あの子に気付かれちゃうからニャ~……早く、リクのところ行きたいのに……」

 

 黒歌はとりあえず、人目のつかないところに運ぼうと死体を掴み、移動を開始した。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 一方その頃、陸たちは町外れにある小さな公園で休憩をとっていた。

 

「はぁッ、はぁッ…もう、追ってきて、ないよな?」

 

「うん……そう、みたい……」

 

「だあぁぁッ…つっかれた……」

 

 ドーナシークが追ってきてないことを確認したイッセーはその場にしゃがみこんだ。

 

「なんだったんだよ、あのおっさん……殺されるかと思った……」

 

(追ってこないところをみると、黒歌が勝ったのかな……?)

「まぁ、逃げ切れたから良かったじゃん」

 

「そうだなぁって、ここは……」

 

 何かに気付いたのか、一誠はある場所を見つめた。

 

「どうしたの?」

 

「いや、今さら気付いたんだけどさ……あそこの噴水、夢の中で夕麻ちゃんに殺された場所なんだ……」

 

「えッ………?」

 

 一誠は目の前にある噴水のすぐ側を暗い顔で見つめる。そんな彼に、陸は『ごめん』と辛いことを思い出させたことに謝ろうとした。

 

 ───しかし、

 

「ほう? それはそれは……あなたがここに来たのも、運命かも知れませんねぇ」

 

「「───ッ!?」」

 

 突然背後からかけられた声に驚く陸と一誠。あの男……つまり、ドーナシークが来たのかと振り替えったが、そこに立っていたのは人間ではなかった。

 悪魔を思わせる頭部に光る赤い眼。ずんぐりとした黒い体には、青い模様が描かれたシルバーの鎧を纏った異形。

 

「なっ、なんなんだよ、お前ッ!? あ、あの男の仲間なのかッ!?」

 

「フム……あの堕天使のことなら、一時的な協力関係でしかない、としか言えませんねぇ。ああ、それと私は貴方に用はありません。あるのは……朝倉 陸。貴方です」

 

 名前を言われた陸は少し戸惑ったが、すぐに逃げる体勢を整えた。隣にいる一誠も、いつでも逃げられるように身構える。

 

「ぼ、僕になんのようだッ!?」

 

「なに…単純なことですよ。───貴方を試させて貰います」

 

「へ? それって、どういう───」

 

 次の瞬間だった。

 

「リクッ、危ねえッ!」

 

 一誠が陸を突き飛ばした。突然のことで驚きを隠せない陸だったが、その驚きはすぐに消え去った。

 なにせ、転ぶなかで彼が見たものは、一誠の左足が光の弾丸に貫かれる瞬間だったのだから。

 

「ぐ……ああああああッ!?」

 

「イ、イッセーッ!?」

 

 陸はすぐさま一誠に駆け寄る。

 一誠は撃ち抜かれた右足を抑えて、地面に踞っていた。

 

「愚かな者がいたものですね。無関係にも等しいのに、態々関わってくるのだから」

 

「……よくも……よくもイッセーをッ!」

 

 陸は黒い異形を睨み付ける。しかし、当の異形はそれを見て小さく息を吐いた。まるで『期待外れだ』とでも言いたげに。

 

「あの御方の遺伝子を持っている貴方を試すつもりでしたが、まだ覚醒には至ってないようですね。怒りでは覚醒しないのか……または単純に怒りが足りないのか……いやはや、どうすればいいのやら───おや?」

 

 突然、黒い異形が言葉を止めた。陸は『何故?』と思ったが、その理由はすぐに分かった。

 

 

「あなた、私の領地で何をやっているのかしら?」

 

 

 後ろから聞こえた女性の声に振り返る陸。

 そこに立っていたのは、駒王学園の制服に身を包んだ紅髪の女性だった。紅髪の女性はゆっくりと陸たちの前に出る。

 その女性が持つ妖艶な魅力に、陸は思わず見とれてしまった。

 黒い異形はその女性に対して、軽く御辞儀をした。

 

「これはこれは。まさか、あなた様がここの領主でしたか」

 

「……彼、傷を負っているようだけど、あなたがやったのかしら? だとしたら、これ以上は許さないわよ」

 

 紅髪の女性が黒い異形を睨み付ける。すると、彼女の体から紅のオーラのようなものが溢れ出し始めた。

 

「フム……流石の私も無事では済まないでしょうね。仕方ありません、ここで失礼させてもらいましょう」

 

 そう言った異形はパチンッと指を鳴らした。すると、彼の後ろに夜の闇とは別の闇が生まれた。異形はその闇の中に入っていく。

 

「おっと忘れていました。私の名は『魔導のスライ』。いずれ、また会いましょう……」

 

 異形の体が完全に闇に包まれ、そして、闇と共に消えていった。

 

(た、助かった…のか……?)

 

 陸はその場にへたり込む。そんな彼に、紅髪の女性が話し掛けた。

 

「あなた、大丈夫かしら?」

 

「あ、はい。あの…助けてくれて、ありがとうございます。ぇ、えっと……リアス・グレモリー先輩ですよね?」

 

「あら? 私のことを知って───って、あなた、駒王学園の生徒ね」

 

 そう言った紅髪の女性、リアス・グレモリーは納得したような顔をする。

 

 なにせ、彼女『リアス・グレモリー』は陸が通う駒王学園の誰もが憧れる『学園二大お姉さま』の一人。学園内で知らないものは誰もいないほど有名な人物なのだ。

 

「さて……とにかく、まずはその子ね」

 

 リアス・グレモリーが陸の隣で踞っている一誠を見る。今の彼は血を流しすぎたせいか、顔色が青くなっていた。

 

「そ、そうだッ! きゅ、救急車を呼ばなくちゃ「その必要は無いわ」───え? ど、どういうことですか?」

 

「言葉通りの意味よ。その子は私が助ける。救急車を呼ぶ必要は皆無だわ」

 

「で、でも───」

 

「大丈夫。私を信じなさい」

 

 陸は戸惑う。しかし、リアス・グレモリーの真っ直ぐな瞳に見つめられ、ただ頷くしか出来なかった。

 

「ありがとう。彼はリアス・グレモリーの名に置いて、絶対に助けるわ。

 

 ───だけど、ごめんなさいね」

 

「へ───」

 

 リアス・グレモリーの人差し指が陸の額に触れる。次の瞬間、陸の意識は深い闇に沈んでいった。

 

 

 

 




魔導のスライ

陸たちに突然襲い掛かった謎の存在。悪魔のような顔が特徴。
陸のことを何か知っているようだが……


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





はい。
それでは今回はここまで。
感想、評価を御待ちしております。


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悪魔なヤツら

 ウルトラマンR/Bが終わって数日。
 ちょっと遅れてしまいましたが、新話の投稿です。
 それではどうぞ。





「……ッ! ……クッ! リクッ!」

 

「んぅ……黒歌…もう少し、寝させて……」

 

「さっさと起きろニャアッ!」「コッヴッ!?」

 

 早朝、猫状態の黒歌の飛び蹴りが布団に潜っていた陸の腹に突き刺さる。強制的に起こされた陸は腹を抑え、復活するまでに5分かかった。 

 

「おはよう、黒歌───って、まだ5時じゃん。もう少し寝てても良かったじゃん」

 

「いつもならね。……でも、説明しなくちゃいけないから。昨日現れた奴について」

 

「現れた奴? 黒歌、何言って───」

 

 そのとき、陸はふと疑問に思った。自分はいつの間に布団の中に入ったのだろう、と。どういうわけか、布団に入った記憶がなかった。

 陸は一旦、昨日の出来事を振り返ってみた。

 

(えーと……確か、昨日の朝は塔城さんと登校して…教室で令人と喋って…そして……───ッ!)

 

 そこで、陸はようやく思い出した。

 消えた幼馴染みの彼女、謎の黒ずくめ。そして、謎の異形に紅髪の女性『リアス・グレモリー』。

 

「あぁ……やっぱり記憶封印がかけられてたかニャ」

 

「記憶封印って……黒歌、何か知ってるのッ!?」

 

「知ってる。チョー知ってる。それを今から説明するニャ」

 

 それから暫く、陸は黒歌の話……『三大勢力』について聞かされた。

 

「まず、この星には『三大勢力』と呼ばれる奴らが存在するニャ。

 人と契約して魂を奪う『悪魔』。人を唆し、悪魔を滅ぼそうとする『堕天使』。そして、その二つの勢力を滅ぼそうとする『天使』。昨日、リクの前に現れた黒ずくめは堕天使ね。

 そいつらは、今も小競り合いを続けている。会ったら殺し合いになる可能性が大ニャ」

 

「ちょっと待って……俺は悪魔じゃないのに、何で襲われたの?」

 

「アイツの狙いはリクじゃない。隣にいた、兵藤 一誠の方ニャ」

 

 この時、陸は自身の聴覚を疑った。

 『狙いは一誠』。そして、『堕天使は悪魔を滅ぼそうとしている』。以上の事から、あることが考え出される。それは────

 

「イッセーが…悪魔……? ちょっと待ってよ。イッセーが悪魔なわけがない。小さい頃から一緒だったんだぞ? イッセーは人間のはずだッ!」

 

「確かに、兵藤 一誠は人間だった。けど、それはついこの前までの話。彼は一昨日か、それくらいに悪魔に転生した」

 

「て、転生って……」

 

「実は、ちょっとした事情で純血の悪魔って結構少ないの。それを補うために、他の種族の者たちを自分達の(しもべ)として悪魔に転生させているって訳ニャ」

 

 陸は黒歌という存在……正確には猫魈という存在を知っていたため、悪魔や堕天使等の存在を教えられても『そんなのもいるんだ』で済んでいた。

 しかし、黒歌が言った『転生』。それは『生まれ変わること』。そんなことを、一体誰が予想出来ただろうか? さらに、『僕となる』という言葉がより陸を不安にさせた。

 

「……まあ、多分酷いことはされてないはずだから大丈夫ニャ」

 

「……どうしてそう言えるの?」

 

「兵藤 一誠を転生させた奴が誰か、目星がついてるからよ。リクはそいつをよく学園で見てるニャ。そいつの名前は───リアス・グレモリー」

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 お昼頃、陸は学園で授業を受けながら、今朝の黒歌の説明を思い出していた。

 

(まさか、あのリアス・グレモリーが悪魔だなんて……それに───)

 

 チラリ、と陸は右隣の席に座ってペンを走らせている小猫を見た。

 

(塔城さんも悪魔だったとは……まだいそうだなぁ……)

 

 なお、その考えは当たっていたが、陸は知りもしないだろう。

 だがしかし、陸の頭は既に別の事を考えていた。それは『魔導のスライ』を名乗っていた黒い異形について……。

 

(黒歌に言うべきだったかなぁ……まぁ、悪魔とかは人と見た目が変わらないみたいだし、それとかじゃ無さそうだったけど……)

 

 なお、黒歌は『堕天使(カラス)どもの動きが気になるから、暫くは帰ってこれないニャ』と言って、星雲荘を出ていっている。

 その事も合わさって、陸は余計に頭を悩ませていた。

 

「はぁ…どうすればいいのかなぁ……」

 

「……悩みごとかい、朝倉君?」

 

「はい…そうなんですよ……」

 

「そうだね。まだ高校生活が始まったばかりで、君も思うことがあるのだろう。

 ───例えば、私の授業よりも重要な、ね」

 

「え? ……あ───」

 

 そこで、陸はようやく気づいた。自分が無意識の内に誰と話していたのかを。

 視線を自分の右斜め前に向けると、そこには現代文の教科書を片手に持って、笑顔で陸を見下ろす教師『伏井出(ふくいで)(けい)』の姿があった。

 

「悩みを持つことは知性ある生物の特権だが、流石に授業はしっかりと聞きたまえ」

 

「す、すいません……」

 

「聞いていなかった分は個別で教えてあげよう。放課後にね。

 それじゃあ、授業を再開しよう。朝倉君。教科書の87ページの6行目から読んでくれ」

 

 伏井出に言われ、陸は指定された場所を読み始める。そのとき、陸の隣では小猫が誰にもバレないように彼を見ていた。

 

 

 

 

 

 

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 黒歌の説明があった日から数日後の午後6時。制服姿の陸は買い物袋を片手に商店街を歩いていた。袋の中には鮪の赤身の塊が入っている。

 

(結構奮発しちゃったけど、大丈夫だよね。黒歌、喜ぶかな……)

 

 陸は歩きながら、黒歌の喜ぶ顔を思い浮かべていた。

 少しして、陸は商店街と星雲荘の間にある別荘地を歩いていた。いくつか廃墟があるそこは、時間のせいか薄気味悪く感じさせた。陸は早く抜けようと足を早めようとする。

 そのときである。ふと気づくと、陸が歩いている数メートル先に一人の小さな女の子が立っていた。

 小さな帽子を被り、ワンピースを着たごく普通の少女。しかし、今の時間を考えると、そこに一人でいるのはおかしいと陸は思った。

 

 少女は陸を一瞥すると、すぐ側にある建物の中に入っていった。陸は『帰ったのかな』と思ったが、そこは誰も住んでいない廃屋であることを思い出した。

 陸は不思議に思い、建物の中に入ってみた。

 

 

 

 

 

 

 建物は長い年月使われていないためか、至るところにクモの巣が張り巡らされ、床は所々穴が開いていた。

 

(お化けとか出そうだなぁ……)

 

 暗い廊下を慎重に歩いていく。少しして、陸はとある一室に入っていくあの少女の姿を見つけた。陸は少女か入った部屋の扉を開ける。しかし、妙に天井が高い部屋の中には誰も居なかった。『あれ?』と不思議に思った陸は部屋の中に足を踏み込んだ。

 

 ───そのときだ。

 

『キヒヒヒ……』

 

「───ッ!?」

 

 部屋の中に響き渡った、不気味な笑い声。突然のことに驚き、陸は部屋を見渡すが、誰もいない。そんなとき、ピチャリ…と陸の肩に何かがかかった。触れてみると、それは妙な粘着性のある液体。陸は恐る恐る上を見上げてみた。

 そこには先程の少女が天井に立っていた。しかも、月明かりで見える少女の口は耳元まで裂けていた。その姿に畏怖した陸は腰を抜かしてしまう。

 少女が天井から降り、陸の前に立った。

 

「キヒヒ…かかったかかった、今日の獲物。変わった匂いがするな。初めて嗅ぐ匂いだ。旨いのかな? 不味いのかな?」

 

 舌なめずりをする少女の言葉に、陸はすぐ理解した。このバケモノは自分を食べる気なのだと。

 陸は叫び声を上げ、すぐさま部屋の外に出ていった。

 

「おいかけっこか? なら、食事前の運動だ。キヒャヒャヒャッ!」

 

 不気味に笑う少女。次の瞬間、少女の体は上半身が大人の女性、下半身が異形の姿をしたバケモノとなった。

 バケモノはケタケタ笑いながら陸を追いかけていく。

 陸はバケモノの笑い声を聞きながら一目散に走り続ける。だがしかし、この時の陸は気づいていなかった。自分が慌てていたあまりに、出口ではなく廊下の奥に向かっていることに。

 

 陸は走り続ける。少しして、陸は廊下の一番奥にある大きな扉の前に来た。陸はすぐさま扉を開け、中に入る。そのとき、陸は床に転がっていた()()()()を踏んで転んでしまった。

 満足な受け身もとれずに体を打ち付けてしまう陸。

 陸は痛みをこらえ、すぐさま立ち上がろうとした。

 しかし、出来なかった。今の彼の目の前に転がっていたものが、小さな人間の頭蓋骨だったからだ。

 

「───ッ!?」

 

 息を飲む陸。確認してみると、自分が先程踏みつけたのは人の骨だった。

 

「な、なんなんだよ、ここ……ッ!?」

 

 陸は恐怖を抱きながら、部屋を見渡す。

 

 そして、彼はあるものを見つけた。それは小さな帽子と血に濡れたボロボロのワンピース。バケモノとなった少女……いや。バケモノが化けていた少女が身に付けていたものに酷似していた。

 

 陸が目の前の物に唖然としているなか、バケモノが部屋の中に入ってくる。

 

「獲物が自分からゴミ捨て場に来てくれるなんて、手間が省けた」

 

「ゴミ捨て場…? じゃ、じゃあ、さっきの姿は───」

 

「あれは一番最初に食べた奴さ」

 

「え───」

 

「よかったなぁ。生きたまま腹を割いて、叫びを聞きながら食ったあのときは最高だった。まあ、それはどの獲物も同じだったが。

 それからは他の獲物を誘うための擬餌さ」

 

 バケモノがニタリと笑みを浮かべながら言う。

 その言葉を聞いた瞬間、陸の中にはあるものが渦巻き始めていた。それは単純な『怒り』。命を奪ったことに対する『怒り』。死んでもなお利用するバケモノに対する『怒り』など……。あらゆる怒りが陸の中を満たしていった。

 

 そして───プツンッ、と陸の中で何かが切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 陸の幼馴染み、兵藤 一誠が天野 夕麻……いや。堕天使レイナーレに殺され、リアス・グレモリーの『兵士(ポーン)』として悪魔になった。そして、リアスの眷属としてオカルト研究部に入ってから一週間近く。

 リアス・グレモリーとその眷属は町中にある、とある廃墟に来ていた。

 

「部長。今日は何を……?」

 

「今日は上からの命令で、ここに住まうはぐれ悪魔の討伐よ」

 

「はぐれ悪魔?」

 

 リアスの答えに疑問符を浮かべる一誠。そんなとき、一誠が思わず聞き返してしまった『はぐれ悪魔』というワードを側にいた金髪の青年、リアスの『騎士(ナイト)』である『木場 祐斗』が答えた。

 

「はぐれ悪魔って言うのは、主の元を離れて暴れまわる悪魔のことさ」

 

「大半の理由はその力を私利私欲の為に使いたいから。

 そういった存在の討伐を上から司令されるときがありますの」

 

 木場の説明に、リアスの隣に立つ黒髪の女性、リアスの『女王(クイーン)』『姫島 朱乃』が続く。二人の説明でなんとなく理解できた一誠は『なるほど』と相づちをうった。

 

「さあ、突入するわよッ!」

 

 リアスが号令をかけ、廃墟の中に入ろうとする。しかし、それをリアスの『戦車(ルーク)』である小猫が止めた。

 

「…ッ! 部長、止まってくださいッ!」

 

「? どうしたの、小猫?」

 

「…何か、来ますッ!」

 

「何か? それって一体───」

 

 『何?』、とリアスが続けようとしたとき、突然扉の右側の壁を突き破って、中から一体のバケモノが飛び出してきた。……いや。地面に叩きつけられる所を見ると、飛び出したと言うよりも『ブッ飛ばされた』の方が正しいだろう。

 それを見て、リアスはその出てきたバケモノの名前をいった。

 

「あれはバイザーッ!?」

 

「部長、もしかして、アイツがはぐれ悪魔何ですか?」

 

「そうよ。けど───」

 

 リアスは改めて出てきたバケモノ……はぐれ悪魔のバイザーの姿を見る。

 そいつの姿は傷と痣で一杯だった。さらには、その片腕が無くなっており、足も歪な形に曲がっていた。

 

 バイザーがリアスたちに気づく。そして、バイザーが発したのは救いを求める言葉だった。

 

「た、助けてくれッ! 殺されるッ! アイツに殺されるッ!」

 

 バイザーの言う『アイツ』。それは何なのか疑問符を浮かべるオカルト研究部一同。

 しかし、それはすぐに分かった。

 

 ───ガラリ…と瓦礫を踏む音が聞こえる。見ると、先程バイザーが出てきた穴からある人物が出てきた。そいつを見て、一誠、そして、小猫が自分の目を疑った。何せ、その人物とは

 

「「───リクッ!?」」

 

 そう。一誠にとっては幼馴染みで、小猫にとってはクラスメイトの朝倉 陸である。だがしかし、今の彼を一誠たちはいつもの彼とは呼べなかった。

 

「~~~……ッ」

 

 赤く爛々と輝く瞳。両腕からは黒い稲妻が走り、全身を血のような赤黒いオーラが被っている。その姿に、リアスたちは思わず構えた。

 しかし、陸はリアスたちを見ていない。見ているのは、バイザーただ一人。

 

「~~………~~~~~ッ!」

 

 陸が叫び、右腕を振りかぶり、左腕を前につきだした。すると、両腕に走っていた稲妻がより激しくなった。

 陸は腕を振り下ろし、自身の前で十字に交差させた。

 次の瞬間、陸の右腕から黒い稲妻を纏わせた黒い光線が発射された。光線は容易くバイザーを飲み込み、バイザーは断末魔の叫び声を上げて消滅。

 

 目の前で起こった現象。リアス、朱乃、木場はより警戒心を強める。

 しかし、

 

「~……~……───」 

 

 バタリ、と陸がその場に倒れる。すると彼が纏っていたオーラや稲妻が霧散した。

 それを確認した一誠と小猫はすぐさま彼に駆け寄る。

 

「リクッ! おい、リクッ!」

 

 陸の体を抱き上げ、一誠は彼の名を呼ぶ。しかし、返事はない。陸は完全に気絶していた。一応生きていたことにホッとする一誠。

 そんな彼に、リアスが話しかける。

 

「イッセー。その子は……」

 

「え? ああ。こいつは俺の幼馴染みのリクです。こいつとは幼稚園からの付き合いで───」

 

「イッセー。そういうことを聞いているんじゃないの。

 単刀直入に聞くわ。

 ───その子は人間?」

 

「───……はい。リクは人間です」

 

「そう。……とりあえず、今日はここで解散しましょう。朱乃」

 

「はい。分かりましたわ」

 

「イッセー。朱乃をその子の家まで案内して上げて」

 

「わ、分かりましたッ!」

 

 

 

 こうして、リアス・グレモリーたちのバイザー討伐は幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[───Bの因子のエネルギーを感知。基地をスリープモードから移行]

 

[───これより、Bの因子保持者を捜索開始。ユートムを起動させます]

 

 

 




伏井出 慶

駒王学園で一年の現代文を担当する新人教師。
彼の授業はとても分かりやすく、生徒たちからの信頼はとても厚い。学園内では小さなファンクラブもある。




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 最近、境ホラやジョジョを見始めた自分。
 そして、思った。境ホラとビルドの作品が書けないかなと。まあ、あくまでも予定ですので期待はしないでください。





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エクソシスト、現る

 ・・・境ホラとベストマッチするのはディケイド、ビルド、ジオウ、ジョジョのどれなんでしょうか?
未だに悩んでいるメンツコアラです。
それではどうぞ。





 気が付くと、陸は見知らぬ場所に浮いていた。

 何処までも続く青い空。足下を埋め尽くす白い雲。天には輝き続ける太陽。

 初めて見る光景に、陸はただ単純に『美しい』と思った。そして、その景色を全て記憶に納めようと辺りを見渡す。

 

 

 そのときだった。

 

 

 後ろに振り向いたとき、陸は少し離れたところで対峙する二人の人影を見た。

 その二人には胸の中心と頭部の瞳に当たるところにクリスタルが輝いているという共通点があった。そして、その二人には真逆な部分があった。

 太陽を前にして浮いている者は全身が黒く、その上に赤い模様が描かれおり、まさに闇の化身というべき姿をしていた。

 一方、太陽を背にして浮いている者は白銀の体に黄金の模様が刻まれている。その姿は、まさに光の化身だった。

 

 互いを睨み合う二人。そんな光景を、陸は何故か懐かしく思った。

 

 陸がそんな疑問を持つ中、光の化身が闇の化身に問いかけた。

 

「お前は持っていないのか、守るべき者を……」

 

「何ぃ……?」

 

「何故奪うだけで、守るものを持とうとしないんだ……」

 

「何を…何を言っているんだッ!」

 

 光の化身の言葉が分からないのか、闇の化身は声を荒らげる。そんな彼に対して、光の化身は拳を握りしめていた。そして、光の化身は闇の化身に対してハッキリと言った。

 

「お前だって───

 

 

 

 

 

 

 

 

【ピピピピッピピピピッ ピピピピッピピピピッ】

 

「……ん、んん……」

 

 目覚ましのアラームが、陸を夢の世界から呼び戻す。

 モゾモゾと布団から這い出てきた陸は寝惚けながらもアラームを止めた。そして、再び布団の中に潜っていく。

 

「あらあら。もうそろそろ起きないと遅刻しますわよ?」

 

「もう、5分……」

 

「困りましたねぇ。せっかくの朝食が冷めてしまいますわ」

 

(…………んんッ!?)

 

 何時もと違うことに漸く気づいた陸はすぐさま起き上がる。そして、彼が見たものは……

 

「おはようございます」

 

「………………え?」

 

 駒王学園の制服に身を包み、その上からエプロンを着けた黒髪の女性。陸はその女性の顔に見覚えがあった。なぜなら、彼女は学園内でもトップを争うほど人気の高いのだから。その女性の名前は、

 

(……何で姫島 朱乃先輩が僕の部屋に?)

 

 学園の誰もが憧れる二大お姉様の一人が自分の住むアパートの部屋でエプロン姿。

 そんな一誠、松田、元浜の変態トリオが聞けば血の涙を流しそうな目の前の光景に、陸は数秒間だけフリーズしてしまう。そして、ある結論に達した。

 

 『ああ……これは夢なんだ』と。

 

「そういうわけで、おやすみなさい」

 

「何をどうしたら『そういうわけで』になるのか分かりませんが、起きて貰えませんか? 早く布団から出ないと───踏みたくなってきますわ」

 

「すぐにおきますッ!」

 

 

 突然背中に走る謎の悪寒。すぐさま陸は布団から起き上がり、その場で正座した。その時見た朱乃の顔が若干赤くなっているのは彼の気のせいだろう。

 

 陸が起きたのを確認した朱乃は、彼に着替えるように言い、台所の奥に消えていった。陸は言われるがままに従う。

 数分後。星雲荘の陸の部屋で、陸は朱乃と卓袱台を挟んで向かい合っていた。卓袱台の上には白米、みそ汁、だし巻き卵、ほうれん草のおひたしといった美味しそうな朝食が陸の前に並べられていた。

 

「あ、あの……何で、姫島先輩がうちに?」

 

「それに関しましては放課後説明しますわ。とりあえず、朝食をどうぞ」

 

「いや、どうぞって……」

 

 『言われても』と陸は続けようとしたが、ニコニコと笑みを浮かべる朱乃を前に何も言うことができなかった。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 その日、学園で陸は男子生徒に追いかけ回されていた。

 理由は単純。二大お姉様の一人と一緒に登校してきたのだから。

 

『『『待てやゴラアアアアアッ!』』』

 

「いやああああッ!」

 

 全速力で校内をダッシュする陸。彼の後ろには端から見れば、何処かの宗教集団の格好をした陸のクラスの男子たちが鎌や釘バットといった凶器を片手に追いかけていた。

 

「諸君、我々は何だッ!」

 

「「「最後の審判を下す法廷を見守る者ッ!」」」

 

「異端者にはッ!」

 

「「「裁きの鉄槌をッ!!」」」

 

「男とはッ!」

 

「「「愛を捨て、哀と共に生きる者ッ!!!」」」

 

「姫島お姉様と登校してきた朝倉 陸にはッ!」

 

「「「有罪(ギルティ)ッ!!!! 即刻死刑をッ!!!!!」」」

 

「だから何でそうなるのォォォッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

(疲れた…なんか、もうダメ……)

 

 帰りのSHRも終わり、各々が部活や帰宅の準備をするなか、陸は机の上で突っ伏していた。

 無理もない。何せ、休み時間はほとんど逃げに使い、昼食もまともにとっていないのだ。

 

(腹へったぁ……帰り、どっか寄ろうかな……。

 そう言えば、今朝黒歌を見なかったけど、何処に行ってるんだろ?)

 

 そんなことを考えていたときだった。隣に座っていた小猫が陸に話しかけた。

 

「…あの、ちょっといいですか?」

 

「塔城さん? どうかしたの?」

 

「…私と付き合ってください」

 

 小猫がそう言った瞬間、少し騒がしかった教室がシン……と静まり返った。

 その現象に疑問符を浮かべる陸と小猫。そんな所に、クラスメイトの一人が小猫に話しかける。

 

「と、塔城さん。今の言葉って……」

 

「…? どうしたんですか? 言葉通りの意味ですが───あ」

 

 そこで小猫があることに気づくのだが、時すでに遅し。教室に黄色い歓声が響き渡った。

 

「ついにッ! ついに告白したわッ!」 

 

「しかもこんな大勢の前でッ!」

 

「塔城さん、大胆~ッ♪」

 

「議長。どうやら朝倉がまた掟を破ったそうです」

 

「よし、即座に刑を執行する」

 

「「「Roger !!!」」」

 

 エトセトラ etc.……。周りが騒ぐにつれて小猫の顔も赤くなっていく。心配になった陸が声をかけるが、小猫は『早くいきますよ』と小さく言い、ツカツカと教室を出ていった。その後ろを慌てて追いかける陸。

 

 

 

 

 しばらくして、二人は校舎のすぐ隣にある旧校舎の中に入った。

 『何でこんなところに?』と陸が問い掛けるが、小猫は『着けば分かります』と返すだけ。

 旧校舎の中を歩いて三、四分。二人は『オカルト研究部』という札が掛けられた扉の前に到着した。陸が疑問符を浮かべるなか、小猫が慣れた手つきで扉を開ける。

 その奥に広がっていたのは、巨大な魔方陣が描かれた薄暗い部屋だった。ソファーや机、棚等の備品だけを見れば普通の部屋だが、床の魔方陣や部屋の薄暗さが如何程な雰囲気を醸し出している。

 だがしかし、そんなことよりも陸の視線を奪うものがあった。それは……

 

「…部長、連れてきました」

 

「ありがとう、小猫」

 

(リ、リアス・グレモリーッ!? って、その後ろにいるのってイッセーに姫島先輩にイケメン王子と名高い木場先輩ッ!?)

 

 ちらりとリアスの後ろに視線を移すと、そこには一誠の姿もあった。さらに彼の両隣には姫島 朱乃と木場 祐斗の姿もあった。

 

「朝倉 陸。ようこそ、オカルト研究部へ。まあ、立ち話も何だし、座ったら?」

 

「は、はい…じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

 言われるがままにソファーに座る陸。そんな彼に朱乃が紅茶を差し出す。その香りから、かなり値が張る代物だと分かるが、今の陸にそれを認識する余裕などなかった。

 リアス・グレモリー、姫島 朱乃、木場 祐斗、塔城 小猫、兵藤 一誠。駒王学園の有名人たちのオンパレードに、陸は緊張していたのだ。それに、

 

「(リアス先輩と塔城さん、それとイッセー。黒歌の言う通りならこの三人は悪魔だ。てことは、「朝倉 陸?」一緒にいる姫島先輩「朝倉 陸?」や木場先輩も……「朝倉 陸くん?」)…あ、はいッ!」

 

「大丈夫? ボーとしているようだったけど」

 

「す、すいません。あまりに美味しい紅茶だったんで」

 

「……そう。ならいいけど」

 

 とりあえず誤魔化せたことに内心ホッとする陸。

 

「さて、それじゃあ朝倉 陸……どうせだからリクと呼ばせてもらうわよ。単刀直入に言わせてもらうと、私たちは

 

 ───悪魔なの」

 

 

 

 

 

 

 それから十数分間の間。陸はリアスから悪魔に関する説明を受けていた。もっとも、黒歌からある程度は聞いているため、初めて聞くふりをしていた。

 

「───とまあ、だいたい分かったかしら?」

 

「えっと、まあ……」

 

「なら良かったわ。それじゃあ、本題に入らせてもらうわね」

 

(あの長い説明、前置きだったのッ!?)

 

 驚く陸を他所に、リアスは彼の前に一枚の写真を見せる。それには一体の異形が写されていた。

 

 

「(あれ? こいつ、どっかで見たことあるような……)あの、これは……?」

 

「そいつはバイザー。主を殺し、力に溺れたはぐれ悪魔。

 ───昨晩、あなたが殺した存在よ」

 

 この時、陸は自分の耳を疑った。

 

 彼女は何と言った? 

 ───あなたが殺した。

 あなたとは誰か?

 ───リアスと話していたのは陸だ。

 誰を殺したのか?

 ───リアスが言っていたのは写真の悪魔だ。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいッ! 僕が殺したって、何の冗談ですか?」

 

「いいえ。これは事実よ。

 あなた、昨晩のことを覚えてないの?」

 

「昨晩ですか? えっと、放課後に夕食の材料を買って。それで───あれ?」

 

 陸は困惑した。何故か、昨晩の記憶がすっぽりと抜け落ちているのだ。夕食の買い物をしていたのは覚えている。しかし、そのあとが思い出せない。

 必死に思い出そうとする陸。しかし、結局思い出すことは出来なかった。

 

「……どうやら、記憶が無いみたいね」

 

「す、すいません」

 

「まあ、思い出せないものは仕方ないわ。ただ、これだけは聴かせてちょうだい。

 

 ───あなたは何なの?」

 

 リアスからの質問。その言葉の意味を、陸は理解することは出来なかった。しかし、彼ははっきりと答える。

 

「………僕は陸。朝倉 陸。何処にでもいる人間です」

 

 リアスの瞳を真っ直ぐ見つめ、堂々と言う陸。

 ほんの数秒……しかし、何時間にも感じさせるその静寂に、その場にいた数名が息を飲んだ。

 そして、

 

「……分かったわ。変な質問をしてごめんなさいね」

 

「い、いえッ! 別に気にしてませんから」

 

「そう、なら良かったわ。

 

 

 ───ところで、話が変わるのだけれど、貴方、悪魔になってみない?」

 

「───……はい?」

 

 思わず聞き返してしまう陸。リアスの後ろを見ると、一誠が陸と同じようにポカンと口を開け、他の三人は『始まった』とでも言いたげな顔をしていた。

 

「確かに怖いわよね。でも、悪魔になるって悪いことばかりじゃないの。永遠に近い寿命も得られるし、今の若さも保つことが出来るわ。それに───」

 

 突然始まったPRに唖然とする陸。このときだけは、あの学園内人気トップのリアスがただの美人セールスマン、もしくはテレビショップ番組で商品を紹介するタレントに見えた。

 それから約5分の間、リアスのPRが続いた。最後に、リアスはどうかしら? と陸に問いかける。それに陸は、

 

「せっかくなんですけど……保留、にさせてもらっていいですか? もうちょっと考えたくて」

 

「なら、この部活に入ってみたら? あなた、どの部活にも入ってないらしいじゃない。悪魔になるかどうかはこの部活でゆっくりと考えてもいいと思うの。もちろん、悪魔にならなくたってここの部員として除け者にすることはないから安心しなさい」

 

「えっと…じゃあ、それでお願いします」

 

 ペコリと頭を下げる陸。そんな彼に彼女は笑顔で一言。

 

「ようこそ、リク。私たち、オカルト研究部はあなたを歓迎するわ」

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 陸がオカルト研究部に入ったその日の夜。

 陸は一誠が運転する自転車の荷台に座り、夜の町の中を走っていた。

 その理由は、悪魔の仕事を知るため。

 リアス曰く、悪魔の仕事はまず魔方陣を刻んだチラシを配り、それを使っての召喚に応え、自身を召喚した人と契約を結び、その者の願いを叶えること。

 ちょうど一誠に依頼が来ていたため、その仕事を見学することになったのだ。

 

「まさか、初の2人乗りがお前となんてな……巨乳美女が良かったぜ……」

 

「イッセー、聞こえてるよ。そんなんだからモテないんじゃない?」

 

「うるせぇ……」

 

「……ねぇ。イッセーは何で悪魔になったの?」

 

「……殺されたんだよ。夕麻ちゃんに。

 なんか、俺の体の中には神器(セイクリッド・ギア)っていうスゲェ物があって、それを睨まれて殺された」

 

「……なんか、ごめん」

 

「いいんだよ。悪魔になって、ハーレムを作れるかもしれない可能性が出てきたんだ。部長や朱乃さんとも御近づきに慣れたし、今は万々歳ってところだぜ?」

 

「なんだよ、それ。結局は変態思考かよ」

 

「変態とは何だッ! ハーレムは男の夢なんだぞッ!」

 

「それはイッセーの夢でしょ? 少なくとも、僕はそんなこと思ったことない」

 

「なんだとぉ……なら、お前にハーレムの良さを教えてやるッ!」

 

「結構です」「いーや、教えるねッ!」「結構ですッ!」

 

 途中の暗い雰囲気は何処へやら。

 彼らはその他愛もない会話を楽しみながら夜道を走っていった。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 深夜、陸たちが自転車を止めたのは何処にでもある、ごく普通の一軒家だった。

 

「ここが今日のお客様がいる家だ」

 

「で? どうやって中に入るの?」

 

「玄関から」

 

「……───は?」

 

「玄関から」

 

「……ねぇ。それって悪魔要素というか、ファンタジー要素ゼロだよね?」

 

「言うな……自分でも分かってるから」

 

「いや、でも…ええぇ……」

 

「ああもうッ! さっさと行くぞッ!」

 

 陸のかわいそうな物を見る目に少し涙目になりながら、一誠は門にあるインターホンを押そうとする。しかし、それを陸が止めた。

 

「どうしたんだよ、リク」

 

「いや…ドアが、開いているんだけど」

 

「はぁ? こんな夜中にそんなわけ……本当だ」

 

 こんな夜遅くに開いたままのドア。陸たちは不審に思いながらも家の中に入っていく。

 薄暗い廊下を慎重に歩いていく陸と一誠。

 少しして、彼らは僅かに開いた扉を見つけた。その中からはほんの僅かに光が漏れている。扉を開けると、そこはリビングだった。その中では、何故か蝋燭が灯されていた。

 

「何だ、この部屋。なんで蝋燭なんかつけてるんだ?」

 

「……ねぇ、イッセー。この部屋、なんか匂わない?」

 

「そう言われてみれば…何だこの匂い? 錆びた鉄みたいな……」

 

 その時だった。部屋の中に入っていく一誠の右足がネチャリ…と水っぽい何かを踏みつけた。不快に思った一誠はそれが何なのか確認するために、右足の裏に触れてみた。そして、彼の手に付いたのは

 

 

 ────赤黒い液体だった。

 

 

「な───ッ!? これって───」

 

「イ、イッセー…あれ……ッ!?」

 

 陸が部屋の奥を指差す。

 その指が差すの先にあったものは、腹を八つ裂きにされ、壁に太い釘で縫い付けられた人の死体だった。

 

 その酷さに胃の中のものが込み上げてくるが、一誠はなんとか耐える。

 目の前の光景に『なんなんだよ、これ……ッ!?』と陸が呟いた時だった。

 

「『悪いことをする人にはお仕置きよー』ってね。聖なる御言葉を借りてみたのさ」

 

 突然、陸たちの後方から若い男の声がした。

 振り替えると、そこには神父らしい格好をした白髪の若い男が立っていた。男は陸たちを見るなり、ニンマリと笑みを浮かべる。

 

「これはこれは、悪魔くんではあーりませんかー♪ その隣の子はそうじゃないみたいだけど。もしかして、そこの悪魔くんの友達かなー♪」

 

 実に嬉しそうな男。彼は紳士ぶった態度で陸たちに名乗る。

 

「俺の名前はフリード・セルゼン。とある悪魔祓い組織に所属している少年神父でござんす♪」

 

「し、神父だとッ!? てめえ…これはお前がやったのかッ!?」

 

「Yes. Yes. Yes ! 悪魔に頼るなんて人として終わってしまっていること。ENDですよッ! E・N・Dッ! だから殺してあげたんですぅッ♪」

 

 狂気的な笑みを浮かべる神父フリード。彼は懐に手を伸ばし、そこから一丁の拳銃と刀身のない剣の柄を取り出した。

 ブィンッ、と空気を振動させる音。すると、フリードが持つ剣の柄から光の刀身が作り出されたではないか。

 

「さあさあさあッ! 今から君たちの心臓にこの刃を突き立てて、このメッチャイカす銃で君たちのアタマに必殺必中フォーリンラブしちゃいますッ!」

 

 ダッ!、と二人に向けて駆け出し、光剣を横凪ぎに払うフリード。陸たちは咄嗟に各々別方向に避けた。光剣は二人にかすることなく宙を切る。

 しかし、一誠が突然倒れ、左ふくらはぎを押さえて呻きだした。それは、まるで苦痛を堪えているようだった。

 

「イッセーッ!?(そんなッ!? あの剣は避けきったはずッ! ……まさかッ!?)」

 

 陸はフリードの持つ拳銃に視線を向ける。その拳銃は銃口から煙をあげていた。

 

「エクソシスト特製の祓魔弾ッ! 今度は君が味わいナッ☆」

 

 フリードが陸に向かって引き金を引く。

 音もなく発射された光の弾丸は真っ直ぐと陸の方に飛んでいき、陸の頭を貫く。

 

 

 

 

 

 

 

 

    ───はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

「───……はい?」

 

 思わず呆けた声を出してしまうフリード。

 無理もないだろう。祓魔弾は通常の弾丸と同じスピードで飛んでいた。常人では反応出来ないほどのスピードだ。

 だがしかし、陸は違った。陸は飛んでくる祓魔弾の動きをしっかりと捉え、そして避けきったのだ。

 

 目の前の出来事に自分の目を疑うフリード。

 その一瞬の内に、陸はフリードの懐に入り込み、がら空きの腹に拳を叩き込む。そして、その攻撃で怯んだフリードの右腕を掴み、貼り付けられた死体の向かいにある壁に投げつけた。

 投げ飛ばされたフリードは壁を突き破り、そのまま隣の部屋へ消えていった。

 

 その出来事を見ていた一誠はあり得ないものを見る目を陸に向ける。しかし、この場で一番驚いていたのは陸本人だった。

 

(なんだったんだ、今の……ッ!?)

 

 フリードが祓魔弾を放ったとき、不思議なことに、陸にはその速度は早くても避けれない程の物ではないように見えたのだ。

 そして、先程の動き。陸は今まで喧嘩や戦闘をしたことがない。だがしかし、反射的に体が動いたのだ。まるで普段から戦いなれているかのように、自然と体が動いたのだ。

 さらには力。人間は追い詰められたときにとんでもない力を発揮するというが、フリードを投げ飛ばした陸の力はそんなことでは説明がつかない。

 

(……とにかく、考えるのは後回しだ。今はイッセーを連れて逃げなきゃッ!)

 

 陸は考えるのを止め、一誠の元に向かう。

 

「リク…今の、は……ッ」

 

「俺も分からない。けど、今は逃げよう」

 

 そう言って、陸が一誠を担ぎ上げようとしたときだった。

 

「フリード神父さま? 物音がしましたが、何か───って、イッセーさんッ!? なんでこんなところに───ッ! き、きゃあああああッ!?」

 

 突如部屋に響き渡る悲鳴。見ると、扉の所にシスターの姿をした金髪の少女が立っていた。少女の視線の先にはは壁に縫い付けられた死体。

 その少女を見た瞬間、一誠の顔が驚愕に染まった。

 

「アー、シア…なんで……」

 

 金髪の少女、アーシア・アルジェントの登場に一誠は困惑する。そんな一誠に、陸は『知り合い?』と問いかけようとした時だった。

 

「あ、あなたが……あなたが殺したんですか? 何故こんな事をッ!」

 

「え……僕……? ちょっと待って。なんか誤解しているよ。あの人を殺したのは僕じゃない。殺したのは「俺ちゃんですよッ!」───ッ!」

 

 フリードの声に振り返る陸。しかし、後ろからの奇襲に反応が遅れてしまい、胸を切られてしまった。幸いにも傷は浅いが、それでも痛いものは痛い。

 

「ざまあぁッ! 油断しすぎなんだよ、バーカッ!」

 

「フ、フリード神父さまッ! 一体何をッ!? それに、今の言葉の意味は……」

 

「おやおや? 誰かと思えば、助手のアーシアちゃんじゃあーりませんか。意味も何も、あの壁の奴をヤったのは俺ちゃんでーす☆ そういや、アーシアちゃんはこの類いは初めてでしたかねぇ? ならならぁ、よーく見ておきなYO♪ あれが悪魔に魂を売った人間の末路ってやつっすよ」

 

「そ、そんな……じゃあ、この人たちは……」

 

 アーシアの視線が陸たちを捉える。そんな彼女に、フリードは呆れた。

 

「人? 違う違う。今切った奴はともかく、そこの奴は悪魔だよ~ん」

 

「───ッ。イッセーさんが……悪魔……?」

 

「なになに? 君ら、知り合いなわけ? だとしたら残念ッ! 悪魔と人間がッ! ましてや、教会関係者が悪魔と相成れることはないッ! それに、俺もアーシアたんも堕天使さまからの御加護がないと生きていけないハンパ者でっせ~?」

 

 『堕天使』。その言葉をフリードが口にした瞬間、一誠の表情が険しくなる。無理もない。何せ、彼が死んだのも堕天使のせいなのだから。

 

「さーてと……それじゃあ、パッパと終わらせますかぁ? 覚悟はOK?」

 

 フリードが笑みを浮かべながら、その銃口を陸たちに向ける。さすがの陸たちも死を覚悟した。

 

 ───そのときである。

 

 アーシアが陸たちとフリードの間に立ち、陸たちを庇うように両手を広げたではないか。それを見たフリードの顔が険しくなる。

 

「フリード神父さまッ! お願いです……どうか、この方たちを見逃してあげてくださいッ! どうか御許しを……ッ!」

 

「君ぃ……自分が何をしているのか分かってるのかな?」

 

「分かっていますッ! でも、例え悪魔だとしてもイッセーさんはいい人ですッ! それにこんなこと、主が御許しになる筈がありま───」

 

 それから先をアーシアが続けることはなかった。

 バキッ!、と硬い何かで殴打する音。それはフリードがアーシアの顔を拳銃で殴った音だった。

 床に倒れるアーシア。彼女の頬には殴られて出来た痣がくっきりと残っている。

 フリードはその顔に怒りを浮かべながらアーシアの顔を掴んだ。

 

「……堕天使の姉御から君を殺すなって言われてるけどさぁ。さすがの俺ちゃんもアングリーフルスロットルよ。君みたいな奴はねぇ、虫酸が走んのよッ! だからさぁー、R18指定のことしていいよね? いいよねッ! まあ、君の意見は聞かないけど~」

 

 光剣をアーシアに向け、彼女の纏う衣類を切り裂こうとするフリード。だがしかし、フリードはその手を止めた。何故なら、

 

「……おやおやぁ? どうやらすぐに死にたい見たいですねぇ~ッ♪」

 

 そういう彼の後ろでは、足の痛みをなんとか堪えて立ち上がり、自身の神器の籠手を構える一誠。そして、胸の傷を押さえながらも鋭い目付きで睨み付ける陸の姿があった。

 

(自分の神器の使い方も分からねぇし、俺は最弱の兵士(ポーン)。勝てる確率なんかねぇ。でも───)

 

(さっきの動きがどうして出来たかも分からないし、リアス先輩が言っていたはぐれ悪魔をどうやって倒したかも分からない。それでも───)

 

「「庇ってくれた女の子を放って、逃げられるわけないだろッ!!」」

 

「オーケーオーケーッ! それじゃあ、お前ら細切れにして、世界記録にでも挑戦しますかあッ!」

 

 フリードが陸たちに切りかかる。そのスピードは始めよりも早い。万全な状態でなら避けれたかもしれないが、今の陸たちには出来ない。改めて、陸たちは死を覚悟する。

 

 ───その時だった。突然、彼らの間に魔方陣が浮かび上がったのは。そこから出てきたのは、騎士(ナイト)である木場 祐斗だった。

 

「待たせたね、二人ともッ!」

 

「「木場ッ!」先輩ッ!」

 

 木場が持つ剣とフリードが持つ光剣が火花を散らす。フリードは鍔迫り合いはせず、すぐさま後ろに跳んだ。

 魔方陣から出てきたのは木場だけではなかった。

 

「あらあら。これは大変ですわね」

 ───女王(クイーン) 姫島 朱乃。

 

「……エクソシスト」

 ───戦車(ルーク) 塔城 小猫。

 

 そして、

 

「イッセー、リク、大丈夫?」

 ───(キング) リアス・グレモリー。

 

 今ここにオカルト研究部全員が揃う。

 彼女たちの登場にフリードは興奮する。

 

「マジですかッ! 団体さまの御登場ですかッ! いいねいいねッ! 最高だねッ! 皆仲良く、俺にチョンパさせてくれるんだねえッ!」

 

 自分の体を抱きしめ、うっとりとした表情を浮かべるフリード。そんな彼を余所に、リアスは傷付いた陸たちを見ていた。

 

「……ねぇ、あなた。私の可愛い下僕たちを傷つけたのはあなたなのかしら?」

 

「EXACTLYッ! そうですがなにか───ってうおぉッ!?」

 

 フリードの言葉を全部聞く前に、リアスが魔力の弾を飛ばして攻撃する。

 フリードはそれを咄嗟に避ける。

 避けられた魔力の弾はそのまま机を消し飛ばし、床に穴を開けた。

 

「私は私の下僕や仲間を傷つける輩を決して許さないことにしているの。後は言わなくても分かるわよね?」

 

 リアスが魔力を発しながら、鋭い目付きで睨み付ける。それだけで彼女がどれ程怒っているのかが分かる。しかし、

 

「───ッ! 部長、堕天使らしき反応が複数近づいていますわッ! このままでは、こちらが不利になりますッ!」

 

 朱乃の言葉に、リアスは驚愕の表情を浮かべ、すぐさまフリードを睨み付ける。

 彼を始末することは簡単だ。しかし、彼は堕天使たちが来るまで抵抗するだろう。

 リアスはフリード始末を諦め、朱乃に転移の準備をするよう指示した。

 

「部長ッ! あの子もッ!」

 

 一誠はアーシアも連れて逃げようとするが、

 

「……それは出来ないわ。魔方陣を移動できるのは悪魔だけなの」

 

「そんな……ッ!? て、待ってください……悪魔だけってことは、リクは……ッ!?」

 

「…………残念だけど」

 

 一誠が陸を見る。彼は負傷しているため、長距離を移動することは難しい。

 身近な人が死んでしまう。

 そんな未来に絶望したときだった。

 

「じっとしていてください」

 

 突然、アーシアが陸に近づき、彼の傷口に手をかざした。その行為が何か分かったフリードは二人に斬りかかった。しかし、

 

「……させません」

 

 自身の小柄な体格を利用し、フリードの懐に入り込んだ小猫が彼の腹に強烈な右ストレートをぶちかました。

 『戦車(ルーク)』の特性で強化された拳はフリードの体をいとも容易くぶっ飛ばし、壁を突き破って部屋の外まで飛んでいった。

 

 その間に、アーシアは自分の中にある力を使った。

 アーシアの両手に優しいライトグリーンの光が宿った。すると、その光が陸の胸の傷を完全に治したではないか。

 次にアーシアは一誠に近づき、陸と同じように傷を癒す。

 一誠の傷を治したアーシアは彼に笑顔を向ける。

 

「私が出来るのはこれまでです。今までありがとうございました」

 

「そんな、アーシアッ!?」

 

「イッセー、行くわよッ! リク、絶対に逃げ切るのよッ!」

 

「───ッ! リクッ! アーシア───」

 

 一誠が陸とアーシアの名を呼ぶ。その間に、一誠たちは光に包まれ、最後には光と共に姿を消した。

 

 残された陸はアーシアを見る。彼女の瞳からは一筋の涙が流れていた。

 

「……さあ。あなたも早く逃げてください」

 

「でも……それじゃあ君が……ッ」

 

「私は大丈夫です。

 ……もし逃げ切れたら、イッセーさんに伝えてくれますか? 『また何処かで会いましょう』と」

 

「ッ………分かった」

 

 陸は唇を噛み締め、その場から去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

(クソッ……クソクソクソ……ッ!)

 

 自分の無力を呪いながら夜道を走る陸。

 ここまで自分の力の無さを呪ったことは無いだろう。

 

(……あの時誓ったのに……誰かの笑顔を守れる人になるって誓ったのに……ッ!)

 

 唇を噛み締めながら走り続ける陸。だがしかし、その足は止められてしまった。

 ドガンッ!、と彼の背後で爆発が起き、その爆風で前方に転んでしまう陸。

 打ち付けた肘や膝からの痛みを堪えながら、自分の後ろを振り返る。そこには黒い翼を広げて空中で浮かぶ二人の人影があった。

 

「あちゃー。外したみたいっすね」

 

「ちゃんと狙いなさいよ、ミッテルト」

 

「分かってるっすよ、カラワーナ」

 

 体のラインがハッキリと分かるスーツを来た堕天使『カラワーナ』。

 ゴズロリ姿のツインテールの堕天使『ミッテルト』。

 

 彼女らは空中で陸を見下ろしながら問いかける。

 

「おい人間。お前、ドーナシークを何処にやった?」

 

「キリキリ吐かないと、酷い目にあうっすよ」

 

 明らかに陸を見下しての物言い。

 しかし、陸は答えない。すぐさま起き上がり、駆け出した。

 それを見た堕天使たちはすぐさま追いかける。

 いつも以上に長く感じる夜道。時折聞こえてくる罵声と嘲笑。そして、襲いかかる光の矢。

 それが五分も続くと、陸も体力の限界が訪れる。

 このままじゃ追い付かれてしまう。

 そう思った時だった。

 十字路に差し掛かった時、突然陸の腕を誰かが引っ張り、強制的に右の道路に入らせた。まさか遂に捕まったか?、と思ったが、陸の腕を掴んでいたのは、彼の相棒である黒歌だった。

 黒歌は驚く陸を抱きしめ、口に人差し指を当てて『静かにするように』と合図を送る。すぐにミッテルト、カラワーナの姿が見えたが、

 

「あれッ!? あの人間、消えたっすよッ!?」

 

「そんなバカな……近くにいるはずだ。よく探せッ!」

 

 黒歌の力によって、陸たちが見えていないミッテルト、カラワーナは何処か別の場所に飛んでいった。

 

「……よし。もう大丈夫みたいだニャ」

 

「……ありがとう、黒歌」

 

「まったく……心配したわよ。昨日は悪魔に担がれて帰ってくるわ、今日は堕天使に追われてるわ。一体何があったの───って、リクッ!? 急に泣いてどうしたのッ!?」

 

「え? 僕が、泣いて……」

 

 陸は自分の目元に触れてみる。すると、指先が滴のようなものに触れたのが分かった。

 

「大丈夫ッ!? 何処か痛いところでもあるのッ!?」

 

「大、丈夫……大丈夫、だから……」

 

 陸は理解した。今、自分が流しているのは悔し涙なんだと。無力な自分に対する悔し涙なんだと。

 

「ごめん……急に泣いたりして……ごめん……ッ」

 

「………帰ろ。私たちの家に。話はそこで聞いてあげるニャ」

 

「うん………」

 

 涙を流す陸の肩をそっと抱く黒歌。

 二人は並んで、この暗い夜道を歩いていった。

 

 

 




 初めて10000文字を越えた。
 かーなーりしんどかったです。
 まあ、これで一巻の中間は終わり。
 次はいよいよあれですよッ!





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秘密基地にようこそ

すいません。
題名をハイスクールGEEDに変更させていただきました。
それと3話目の最後に出てきた『ヒュートム』を『ユートム』に変更しました。
誠に身勝手ですが、申し訳ありません。


 陸たちが『はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)』のフリードと出会い。そして、陸が自分の無力さを呪った次の日の放課後。

 パシンッ、とオカルト研究部の部室に乾いた音が響き渡った。

 

「何度言ったら分かるの? ダメなものはダメよ。あのシスターの救出は認められないわ。あなた一人の行動が私たちに多大な影響を及ぼすのよ。それを自覚してちょうだい」

 

 陸、朱乃、木場、小猫が見守るなか、リアスが一誠に冷たく言い放つ。

 一誠の頬には赤い紅葉が出来ていた。

 

「じゃあ、俺個人で行きます。眷属から外してもらっても構いません」

 

「バカ言わないでちょうだいッ! そんなこと、出来るわけないでしょッ!」

 

「でも、アーシアは俺の友達です。大切な友達を放って置くことは出来ません。それに、堕天使たちは敵です。敵をブッ飛ばすのがグレモリー眷属じゃなかったんですか」

 

「………………」

 

 睨み合う二人。二人の間に重苦しい空気が流れる。

 そんなとき、朱乃が険しい顔でそそくさとリアスに近づき、耳打ちをした。それを聞いたリアスの顔がさらに険しくなっていく。

 リアスは一誠を一瞥し、次に部屋にいるオカ研メンバーを見渡した。

 

「急な用事が出来たわ。私と朱乃は外に出るわ」

 

「待ってください、部長ッ! まだ話は終わってな───」

 

 扉へ向かうリアスを一誠が呼び止めようとするが、その時、彼女の人差し指が一誠の唇に触れた。

 

「イッセー。あなたは『兵士』を弱い駒だと思ってるみたいだけど、『兵士』には『プロモーション』という能力があるの。私が敵の陣地と認めた場所なら王以外になることが出来るわ。あなたはまだ悪魔になったばかりだから女王は無理だろうけど、それ以外なら問題ないはずよ」

 

 そして───、と一誠の唇に触れていたリアスの指が彼の胸の中心まで下がる。

 

「想いなさい。神器(セイクリッド・ギア)は想いの力で動き出すの。だからこそ、強く想いなさい」

 

 その言葉を残し、リアスは朱乃と共に部室を出ていった。

 残された一誠、陸、小猫、木場の四人。

 木場が一誠に問いかける。

 

「兵藤くん、本当に行くのかい?」

 

「当たり前だ。止めたって無駄だぞ」

 

「いや、止めるつもりはないよ。だって、部長も行くことを許可したんだし」

 

「は? 何を言ってんだよ?」

 

「なんであのタイミングでプロモーションの事を教えたと思う? あれは遠回しに『リアス・グレモリーが敵陣地と認めた』って言ってたんだよ。もっとも、一人で行かないことが条件付きだろうけどね」

 

「じゃあ───」

 

 一誠の問い掛けに、木場は自身の武器である剣をその手に持つ。

 

「僕も行くよ。教会には、個人的な恨みもあるしね」

 

「……私も行きます」

 

 そう言って、アーシア救出作戦に小猫も立ち上がる。

 

「……二人だけだと心配ですから」

 

「ありがとう、小猫ちゃんッ! 俺は心から感激しているッ!」

 

「……あれ? なんか僕の時と反応が違わないかい?」

 

 こうして、アーシア救出に行くメンバーが三人揃った。

 それを見ていた陸は一誠に少しだけエールを送った。

 

「イッセー。僕、力がないからさ、皆と一緒に行っても足手まといになるだけだから、皆の帰りを信じてることしか出来ないけどさ……アーシアさんを絶対に助けろよな」

 

「……おう。分かってるよ」

 

 一誠が陸に拳をつき出す。その拳に、陸は自分の拳をコツンッ、と軽くぶつけた。

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 一誠たちがアーシア救出に出発してから十数分後。

 陸は星雲荘に帰ってきた。

 

「ただいま……」

 

「おかえりニャンッ! ご飯にする? お風呂にする? それともワ・タ・シ?」

 

 いつもの着物姿にエプロンを着けた黒歌がお玉を向けてポーズをとる。それに対し、陸は『ご飯で』と小さく返した。

 

「(……あれ? なんか暗い? 何時もなら顔を真っ赤にするのに)リク? なんかあった?」

 

「別に? 大したことじゃないよ」

 

 そう言って持っていた鞄を片付ける陸に、黒歌はエプロンを脱いで陸の前に座り、

 

「───リク。そこに座って」

 

「え? なんでそんな事を───」

 

「いいから座ろ? ね?」

 

 そう言って笑顔を向ける黒歌。しかし、その笑顔は断ることをさせないほどの凄みがあった。

 陸が黒歌の前に座ると事情聴取が始まった。

 それから数分後。

 

「───なるほどね。それで自分から辞退したけど、納得できてない自分がいる、と」

 

「いや、納得できてない訳じゃないんだけど……胸の奥がモヤモヤするっていうか……」

 

「それを『納得できてない』って言うの」

 

 黒歌に言われて、顔を下に向ける陸。

 そんな彼に黒歌は一言。

 

「行っちゃえばいいんじゃない?」

 

「え、でも……」

 

「確かにリクは戦えないかもしれないけど、それでも何か出来るかもしれない。ジーッとしていられないなら、自分から探していかないと。

 こういうときこそ、『ジード』でしょ?」

 

 『ジード』。それは陸のポリシーの略語。

 

「ジーッとしてても、ドーにもならない……」

 

「そういうことニャ。もちろん、私も出来る限りのサポートはするから」

 

「黒歌……ありがとう。なんか、行ける気がするッ!」

 

「そのいきそのいきッ! それでこそリクニャッ!」

 

 陸は立ち上がり、黒歌と共に外に出ようとする。しかし、扉を開け、階段に向かおうとしたとき、ゴチンッ!、と陸の額に鈍い音が響いた。陸はそのまま後ろに倒れ込む。

 黒歌は陸を慌てて受け止めた。

 

「だ、大丈夫、リク?」

 

「いってぇ……何だ、今の?」

 

 陸は目の前……正確には自分の額があった位置を見た。そこにあったのは、

 

「───ボール?」

 

 そう。そこにあったのは銀色の模様が描かれたオレンジ色のボール。その中央には赤いランプが付いていることから、機械だと言うことが分かる。

 陸たちが『何だこれ?』と警戒するなか、ボールから音声が流れた。

 

〔細胞を入手。DNA検索を開始。

 …………検査完了。Bの因子を確認。

 基地の全システムを起動。

 …………起動完了。権限が上書きされました。これよりマスターの転送を開始します〕

 

「はッ!? ちょっと何を───」

 

 『言ってんだ?』、と陸が言おうとしたとき、陸たちの足元に機械的な魔方陣が現れ、彼らはその中に消えていった。

 

 

 

 

 気がつくと、陸たちは星雲荘とは別の場所にいた。

 

 そこは周りが金属の壁に包まれた部屋。陸たちの後ろにはスライド式の扉があり、二人の前……正確に言うと、部屋の奥には大きな電球のような黄色い球体が天井から吊り下げられている。

 

 陸たちが目の前の光景に眼を丸くするなか、ボールが黄色い球の真下にある円形の台まで飛び、その台の上に降りる。すると、黄色い球体がヴゥン、という独特の音と共に起動した。

 黄色い球体からボールと同じ声が流れる。

 

〔ようこそ、マスター。私は報告管理システム。声だけの存在です。

 ここは駒王町の地下五〇〇メートルに位置する中央指令室。ここの基地はマスター、貴方に譲渡されました〕

 

「……えっと……マスターって、僕のこと?」

 

 陸の問いに黄色い球体……報告管理システムが『はい』、と肯定した。

 

「……僕のこと、誰かと勘違いしてない?」

 

〔いいえ。DNA検査を行っているため、誤認などではありません。

 マスター。貴方にお渡しするものがございます〕

 

 報告管理システムがそう言うと、台の上に、二重螺旋を模したようなシリンダーが中央に付いた赤いアイテムと、持ち手と二つの穴が空いた黒いアイテム。そして、掌サイズのカプセルが数本とそれを収める為のケースが現れた。殆どのカプセルの中には何もないが、二本だけ例外があった。

 その内の一本には銀と赤の色合いの人の絵、もう一本には黒と赤色の体を持つ人の絵が、どちらも上に手をつき出すように描かれていた。

 

〔フュージョンライズ専用のマシン『ライザー』と『ナックル』。そして、『ウルトラカプセル』です〕

 

「……ねぇ。僕にくれるって言ってたけど、なんで?」

 

〔これは運命です。

 これらを使うことによって、マスター、貴方は本来の姿と力を取り戻す事が出来ます〕

 

「本来の、姿……?」

 

〔単刀直入に言います。あなたは()()()()()()()()()

 

「───ッ!?」

 

 報告管理システムの言葉に自分の聴覚を疑う陸。

 

「ちょっと待つニャ。リクが人間じゃない? そんな出鱈目を言って何を企んで───」

 

〔出鱈目ではありません。それに、貴女は猫又の上位種と見受けられます。そのような存在がマスターの存在が人間か否か、分からない筈がありません〕

 

 報告管理システムの言葉に、黒歌は言葉に詰まってしまった。そんな彼女に、陸は問い掛ける。

 

「……黒歌。黒歌は始めから分かってたの?」

 

 陸が黒歌を見つめる。その目は『嘘だと言って』、と訴えかけていた。しかし、

 

「…………ごめん、リク」

 

 黒歌は俯き、そう小さく言った。

 

 黒歌は陸と初めて出会った日から分かっていたのだ。陸の放つ気から、陸が人間ではないと。それを今まで黙っていたのは、偏に陸の事を思ってのことだった。

 その事を言えば、陸は悲しむと思ったから。

 その事を言えば、自分から離れていってしまうと思ったから。

 

 黒歌は固く眼を閉じ、来るであろう怒声に身構える。だがしかし、それらが陸の口から出てくることはなかった。

 

「頭を上げてよ、黒歌」

 

「……怒って、ないの?」

 

「確かにちょっとイラッとしたけど、黒歌は僕の事を思って黙ってたんでしょ? だったら、怒る事なんて出来ないよ」

 

 陸の言葉に、黒歌は涙を流しながら抱きつく。

 陸は泣く黒歌をなだめ、改めて報告管理システムと向かい合う。

 

「ねぇ。僕が君の言う本当の姿に戻ったら、どんな事が出来るの?」

 

〔どんな、とは?〕

 

「えっと……例えば、テレビのヒーローみたいに誰かを助けたりとか」

 

〔それは、貴方次第です。マスターがその気になれば、その力は善にも悪にもなります〕

 

「どういうこと?」

 

〔それほどまでに貴方の力が強大だということです。

 なぜなら貴方は

 

 ───ウルトラマンの遺伝子を受け継いでいるのですから〕

 

 その言葉に、陸は再び自分の聴覚を疑った。それは黒歌も同じだった。

 『ウルトラマン』。クライシス・インパクト時に確認された光の戦士たち。その遺伝子を自分が持っている。

 そう思った陸は、自然と台の上のカプセルを手に取っていた。その時、陸の手の中にある『ウルトラマンカプセル』と『ベリアルカプセル』が僅かに熱を放ったように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃。

 アーシア救出に向かっていた一誠は因縁の相手、堕天使レイナーレとの決着をつけようとしていた。

 

「レイナァァァァァレェェェッ!!」

 

『Explosion !! 』

 

 傷だらけの体を動かし、一誠はレイナーレにとどめをさす為に、神器に包まれた左拳を握り締める。

 一誠の神器から音声が流れ、手の甲の宝珠が一際強く輝く。

 始めは手の甲を覆うだけだった一誠の神器は、今や肘から下全てを覆う籠手になっていた。

 

「この腐れ悪魔がぁぁぁぁぁッ!」

 

 レイナーレが光の槍を片手に飛びかかり、それに対して一誠は左拳を構えて殴りかかる。

 重なる二つの影。 

 勝利したのは……、

 

「うおらああああぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 一誠だった。レイナーレの槍は一誠の体に触れることはなく、一方の一誠の拳はレイナーレの顔面をとらえていた。一誠はそのまま腕を振り抜き、レイナーレの体を前方の壁までブッ飛ばした。

 顔面を殴られた衝撃と壁にぶつかった衝撃で気絶したレイナーレはそのまま床に倒れた。

 それを見て、自身の勝利を確信した一誠は体力の限界により、その場に膝をついた。

 

「イッセーさんッ!」

 

 一誠の名を呼ぶのは、彼の戦いを離れた場所で見ていたアーシアだった。

 アーシアは一誠に駆け寄り、自身の神器『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』で一誠の傷を治していく。

 

「サンキューな、アーシア」

 

「お礼を言うべきなのは私ですッ……こんな傷だらけになりながらも、私を助けてくれて、ありがとうございますッ……」

 

 涙を流しながら感謝の言葉を述べ続けるアーシアの頭を、一誠はそっと優しく撫でる。

 そんな彼らの元に、祭壇の裏の隠し階段から少しボロボロになった木場と小猫が姿を現した。

 

「お疲れさま、イッセーくん」

 

「……お疲れさまです」

 

「おっせーよ。ボロボロじゃねぇか」

 

「今の君ほどじゃないさ。それに、部長から手を出すなって言われてたしね」

 

「部長が?」

 

 一誠がそう問い掛けた時だった。

 カツンッ、と乾いた音が教会に響き渡る。見ると、隠し階段の登ってリアスが姿を現したではないか。彼女の後ろには朱乃の姿もあった。

 

「よくやったわね、イッセー。流石は私の兵士(ポーン)だわ」

 

 リアスは一誠の頭を愛しい子に触れるように撫でる。

 そんなときだった。

 

「ぐッ…………」

 

「あらあら。汚ならしいカラスが起きたみたいですわよ」

 

 朱乃の言葉にその場にいた者たちの視線が起き上がろうとするレイナーレに集まる。

 リアスはそんなレイナーレに体を向ける。

 

「ごきげんよう、堕ちた天使さん」

 

「貴様ら……ただで済むと思うなよ……ッ! 直に応援が───」

 

「残念だけど、他の堕天使は始末させてもらったわよ」

 

 そう言ったリアスはスカートのポケットから二枚の羽を取り出す。微妙に色合いが違うそれらを見たレイナーレは眼を見開いた。

 

「貴女なら、この羽根が誰の物か分かるわね? ここの羽根の持ち主たちにちょっと挨拶したら、今回の一件は貴女の独断行動だって、すんなりと答えてくれたわよ」

 

 それを聞いた一誠は、自分が苦戦した堕天使を二人も倒したリアスに戦慄する。そんな彼に、朱乃たちはリアスが『紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』と呼ばれるほどの実力者であることを教える。

 

「さて、堕天使レイナーレ。貴女の敗因はイッセーの神器を勘違いしたことよ。これは『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』。十秒毎に所有者の力を倍加させる神滅具(ロンギヌス)よ」

 

「神滅具だと……ッ!? 神すら屠れる力を、そんな下級悪魔が……ッ」

 

(ブーステッド・ギア……そんなスゲェ物を持ってたのか……───まてよ? ってことは、俺の悪魔出世伝説は約束されたようなモノなのではッ!?)

 

 リアスたちの会話を聞いていた一誠は自分が悪魔として出世していき、夢であるハーレムを築く自分の姿ににやけてしまう。

 そんな浮かれた彼を見たリアスは『今回は相手が油断していただけだ』と釘を指しておいた。

 リアスは改めて、レイナーレの方を向いた。

 

「さて……それじゃあ、貴女には消えてもらうわ」

 

 リアスは冷たい目でレイナーレを見下ろし、両手に滅亡の魔力を籠める。その姿を見た一誠は味方だとしても恐怖を抱いてしまった。しかし、

 

「…………フフッ……フフハハハハハハッ!!」

 

 レイナーレの口から出たのは命乞いではなく、大笑だった。

 恐怖のあまりにおかしくなったのか、と一誠たちは思ったが、彼女の瞳は一切恐怖に染まってなかった。

 

聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)ッ! そして赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)ッ! 強力な神器が今目の前に二つもあるッ!

 なんて私は運がいいのかしら? これをあの御方に捧げれば、私はあの御方の側に置いていただけるッ!」

 

「何を言ってるのかしら? 堕天使の総督がそんな事で貴女を側近に───」

 

「堕天使の総督? そんな奴ら、あの御方に比べればゴミ屑にも等しい」

 

「───何ですって?」

 

 リアスはレイナーレの言葉に思わず問い掛けてしまう。それほどまでに驚いてしまったのだ。それは朱乃、木場、小猫も同じ。

 堕天使や悪魔等にとって、上級は憧れの存在。それがその種族のボスともなれば尚更だ。しかし、レイナーレは自身のボスを『ゴミ屑』と言ったのだ。

 

「私が忠誠を誓うのはアザゼルやコカビエルではないッ! あの御方こそ、この世界を───いや。全ての宇宙を支配すべき御方ッ! その御方の側に立つために、貴様らの神器は絶対にいただくッ!!」

 

 そう叫んだレイナーレはスカートの下に手を伸ばし、太ももに着けていた持ち手の付いた黒いアイテム『装填ナックル』を取り出した。そして、ポケットから二つの黒いカプセルを取り出し、その横に付いたスイッチを入れた。

 

「ゴモラッ! レッドキングッ!」

 

 スイッチを入れた事で光を宿したカプセルをレイナーレはナックルに装填し、どこから取り出したのか、シリンダーの付いた赤いアイテム『ライザー』を顔の横に掲げた。

 

「───さぁッ! 終焉の時間だッ!」

 

 レイナーレはライザーにナックルに装填したカプセルを読み込ませる。すると、シリンダーの二重螺旋にカプセルが放つ光が宿った。レイナーレはライザーのトリガーを押すと胸前に掲げた。

 

【 フュージョンライズ !】

 

 シリンダーが回転し、そこに宿っていた光が混ざり合い、別の光となってレイナーレの体を包み込む。その光に危機感を覚えたリアスは魔力弾を放つが、その光に拒まれてレイナーレに当たることはなかった。

 

【 ゴモラ! レッドキング!

 ウルトラマンベリアル! スカルゴモラ!】

 

 どす黒い音声が教会に響き渡ると光は巨大化を始めた。

 このままでは潰されると判断したリアスたちはその場を撤退し始めた。

 

 そして、リアスたちが教会の外に出たとき、ソイツは教会の屋根を突き破って姿を現した。

 

「グルゥシュアアアアアッ!!」

 

「な、なんなんだよ、あれ……ッ!?」

 

 雄叫びを上げるレイナーレだったそれに一誠だけがそう呟いたが、その言葉は誰もが言いたかったことだ。アーシアに至っては恐怖のあまりに気絶しそうになる。

 

 所々に黄土色のゴツゴツとした鱗が並ぶ、五〇メートル以上はある黒い巨体。頭部には血のような赤黒く太い双角が生えており、瞳は爛々と双角と同じ色に輝いている。その姿を一言で表すのなら『怪獣』以外に何があるだろう。

 

「……祐斗、小猫。イッセーとアーシア・アルジェントを連れて逃げなさい。朱乃、ここに残ってあれの足止めをするわよ」

 

「部長、何言ってんすかッ!? 部長も逃げないと───」

 

「あれの目的はあなたたちなのよッ! アーシア・アルジェントが一緒にいる今、転移は使えないッ! だけど、固まって逃げれば町の方に被害が及ぶわッ! 私たちが時間を稼ぐからその間に逃げなさいッ!」

 

 そう言ったリアスは朱乃に合図を送り、共に怪獣、『ベリアル融合獣 スカルゴモラ』に向かって飛び立った。

 一誠は彼女についていきたかったが、祐斗たちがそれを止め、四人は町の方に逃げていった。

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 駒王町の地下五〇〇メートルにある地下中央指令室。

 陸は報告管理システムから渡されたライザー等をベルトに装着しながら、モニターの映像を見ていた。そこには突如町に現れた怪獣……つまりはスカルゴモラが映っていた。

 

「これ、どこの番組?」

 

〔球体型偵察機ユートムが撮っているリアルタイムの映像です〕

 

「ちょっと待つニャッ!? リアルタイムってことは、こんなのが上で暴れてるのッ!?」

 

 黒歌の問いに、報告管理システムは肯定で返す。さらに、

 

〔どうやら悪魔が二名交戦中のようです。映像を拡大します〕

 

 そう言った報告管理システムは映像の一部を拡大する。そこに映っていたのは、

 

「部長ッ!? それに姫島先輩ッ!?」

 

「えッ!? その人たちって、今教会にいるはずだよねッ!?」

 

〔どうやら怪獣は教会から出現したようです。なお、そこから町に逃げ込む悪魔を三人とシスターを一人確認しています〕

 

 報告管理システムがハッキングした教会周辺の監視カメラの映像を映す。そこに映っていたのは一誠たちだった。

 一応、無事であることにホッとする陸たちだが、このままでは怪獣は町に入ってしい、逃げる一誠たちに被害が出るかも知れない。

 そう考えた陸は報告管理システムに問い掛けた。

 

「ねえ。僕が本当の姿になったら、どれくらいの大きさになるの?」

 

〔およそ五〇メートル程と推測されます〕

 

「リク……? まさかとは思うけど……」

 

「僕があいつを倒す。多分、あいつをどうにか出来るのは僕だけだから。そうだろ、レム?」

 

〔レム、とは私のことですか?〕

 

「報告管理システムって呼びづらいからさ。……ダメ、かな?」

 

REM(レム)……Report、Managementのイニシャルですね?〕

 

「えッ、あ……えーっと、うん。そんなところ。あっ、それと僕はリクって呼んで」

 

〔分かりました、リク。それでは、転送を開始します。連絡は装填ナックルを触れることで可能ですので〕

 

 報告管理システム改めて、レムの言葉に陸は『分かった』と答える。

 陸の目の前に魔方陣が現れる。陸がそれを通ろうとするなか、黒歌がエールを送った。

 

「リクッ! 絶対に帰ってきてねッ!」

 

「───ああッ! 約束だ、黒歌ッ!」

 

 陸は魔方陣の中を通っていく。

 その向こう側は、人気のない公園だった。 

 町にはサイレンが鳴り響き、少し離れた所からは人々の叫び声も聞こえる。

 その反対側にはスカルゴモラの姿があった。

 

『聞こえますか、リク?』

 

 ナックルからレムの声が聞こえる。陸はナックルに触れ、その通信に答えた。

 

「ああ。大丈夫」

 

『怪獣が町に入りました。このままでは、避難している人々に到達するのも時間の問題でしょう』

 

「マズイッ! 早くなんとかしないとッ!」

 

『やり方、覚えていますね?』

 

「……えッと、どうすればいいんだっけ?」

 

『カプセルを二本起動してナックルに装填。それをライザーで読み込めば、フュージョンライズ出来ます。

 フュージョンライズ後の呼称を決めてください』

 

(呼称……ってことは、名前だよね? えッと…じゃあ───)

 

 陸は自分が決めた……自分を表すその名前を高らかに言った。

 

「───ジード…ウルトラマンジードッ! そして、これは僕が使うライザーだから『ジードライザー』だッ!

 ────よし……

 

ジーッとしてても、ドーにもならねぇッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 そう叫んだ陸は左腰のケースからウルトラマンカプセルを取り出し、そのスイッチを入れる。

 

「融合ッ!」

 

 ウルトラマンカプセルをナックルに装填し、次に取り出したのはベリアルカプセル。

 

「アイ、ゴーッ!」

 

 ベリアルカプセルをナックルに装填。次にライザー……いや。ジードライザーを掲げた。

 

「ヒア、ウィー、ゴーッ!」

 

 起動させたジードライザーに、ナックルに装填したカプセルを読み込ませた。するとシリンダーにカプセルの光が宿る。

 

【 フュージョンライズ!】

 

「決めるぜッ! 覚悟ッ!」

 

 決め台詞を言った陸はジードライザーを上に掲げ、そして、胸元まで下ろしトリガーのトリガーを押した。

 

 

「ジイィィィィィィドッ!!!」

 

 

 シリンダーから光……いや。カプセルに宿っていたウルトラマンとウルトラマンベリアルの力が溢れだし、決して一つになることがなかった光と闇が混ざり合いながら陸と一つになっていく。

 

 

【 ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!

 

 ウルトラマンジード! プリミティブ!】

 

 

「シュアッ!」

 

 ジードライザーから流れた音声と共に陸は……いや。その戦士は右腕を掲げ、光と共に夜の空へ飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 辺りがすっかり夜に包まれた午後八時。

 本来なら静寂が包む時間帯だが、今日だけは違った。

 そこらじゅうから聞こえてくる悲鳴と走る人々の足音。鳴り響くサイレンは鳴り始めてから十分経った今も鳴り続けている。

 逃げる人々の中には、教会から逃げてきた一誠たちの姿もあった。

 

「大丈夫か、アーシアッ!」

 

「は、はいッ!」

 

 アーシアの手を引っ張って走り続ける一誠。その後ろを走っていた祐斗たちはレイナーレが持っていたライザーについて考えていた。

 

「……先輩。先程のあれ、まさかとは思いますが」

 

「いや。あれは神器(セイクリッド・ギア)じゃない。僕も神器持ちだから分かるんだ」

 

 『だからこそ、あれが何かは分からない』と答える木場。

 彼らの後方からは今もスカルゴモラの足音が聞こえる。リアスたちも奮闘しているのだろうが、その音の間隔が変わらないところから大して効いていないのだろう。

 それでも一誠たちは彼女たちの行動を無駄にしないために走り続ける。

 

 

 ────そんなときだった。大地と空気が大きく振動したのは。

 

「───ッ!? 今度は何なんだよッ!?」

 

 一誠たちは……いや。逃げていた人々はその衝撃に足を止め、後ろを振り向いた。そこにいたのは、

 

「───光の、巨人?」

 

 一誠の言った言葉は振り返った誰もが思ったことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 空中でスカルゴモラの進行を少しでも妨害しようと奮闘していたリアスたちも、突如現れたその巨人に攻撃の手を止めてしまった。

 

「なんなの、あれ……ッ!?」

 

 光の巨人がゆっくりと立ち上がる。

 五〇メートル程ある、赤と黒の模様が走った銀色の体。胸の中心と瞳の蒼いクリスタルは暗闇の中で爛々と輝いていた。

 

「───ッ!? あの瞳の感じ……まさかッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、フュージョンライズに成功した陸……いや。ウルトラマンジードは自分の身に起きた変化に少し戸惑っていた。

 

「僕、どんな姿になったんだ?」

 

 見えるのは首から下の部分のみ。

 手を握ったり開いたりして感覚を確認する。その際に返ってきた感覚は変身する前と変わらないことに少しホッとする。

 だが、それはほんの少しの間だけだった。

 

「グルルルル……」

 

 スカルゴモラの唸り声がジードの耳に入る。見ると、スカルゴモラが歩きながら真っ直ぐ睨み付けているではないか。

 

「これ以上先には行かせないッ! ハアァァッ!」

 

 ジードは跳躍し、スカルゴモラとの距離を一気に縮める。

 スカルゴモラの目の前に降り立ったジードはスカルゴモラの頭部に掴みかかった。しかし、それを振り払ったスカルゴモラに頭突きを放った。それを諸にくらったジード、側にあったビルに倒れ込んでしまい、そのビルはいとも容易く崩壊してしまった。

 

(いってぇ……けど、なんだこれ? ビルってこんなに柔らかかったっけ?)

 

『リクッ! 聞こえるかニャッ!』

 

「(黒歌ッ!? なんで───て、そうか。基地からナックルを通して通信しているのか)黒歌、どうなっちまったんだッ!? 建物も道路も、まるで砂で作ったみたいに柔らかいッ!」

 

『今のリク…まるで……───ッ! リク、前ッ!』

 

 黒歌に言われ、ジードは倒れる自分を踏みつけようとするスカルゴモラに気づく。慌てて横に転がって回避したジードはすぐさま起き上がって構える。

 スカルゴモラはそんなジードに対して自身の豪腕を振るってきた。ジードはスカルゴモラの脇を潜ってそれを回避。背後に回ったジードはスカルゴモラに一発殴ってやろうとしたが、そこにスカルゴモラのテールアタックが炸裂。避けることが出来なかったジードは再び地面に叩きつけられた。

 

「キシュアアアッ!」

 

 スカルゴモラが再び豪腕を振るう。ジードはすぐさま立ち上がり、バク転で避けながら距離を取っていく。

 

「(単純な力は僕の敗けだ)───ならッ!」

 

 ジードは再び跳躍し、今度はスカルゴモラの背中に馬乗りになった。そして、スカルゴモラの太い首を力いっぱい締め付ける。

 

「グルアァ、アア……ッ」

 

「よしッ! 効いているッ!」

 

 悶え苦しむスカルゴモラ。必死にジードを振りほどこうとするが、ジードはスカルゴモラの首にしっかりとしがみつき離れようとはしない。

 このまま行けば勝てるッ!、と自分の勝利を確信したジード。

 しかし、現実はそう甘くなかった。

 

「グルゥゥ……アアアアアアッ!」

 

 スカルゴモラが背中から倒れ、ジードを地面と自分の体でサンドした。

 スカルゴモラの体重は約五九〇〇〇トン。その圧倒的重量に押し潰されたジードは腕を離してしまった。

 スカルゴモラはすぐさま立ち上がり、ジードに突撃していく。

 ジードはなんとか立ち上がり、それを受け止めた。しかし、突如スカルゴモラの双角が光だし、そこから放たれた『スカル超振動波』をゼロ距離でくらってしまった。

 ブッ飛ばされるジードの体はそのまま後方にあったビルを崩しながら倒れ込んでしまう。

 

「くそッ……なんて破壊力だ……ッ」

 

 そのときだった。

 フィコンッ、フィコンッ、フィコンッ……と胸のクリスタル『カラータイマー』が音を鳴らしながら点滅を始めた。その現象に戸惑うジードに、レムが報告する。

 

『まもなく活動限界です。エネルギーが尽きた場合、変身が解除され、次にフュージョンライズ出来るのは二〇時間後になります』

 

「そんな……ッ!? 今なんとかしないとッ!」

 

 彼の前ではスカルゴモラが背を向け、再び逃げる人々の方へ歩み始めている。このままでは、逃げる人々も、その中にいる一誠たちも蹂躙されてしまう。

 陸は怪獣をどうにかして倒す方法がないか聞く。それに対してレムは、

 

『光子エネルギーを放射すれば可能です』

 

「光子エネルギー? やり方はッ!?」

 

『既に御存知のはずです』

 

「はあッ!? お前、何を言って───」

 

 そのときだった。ドクンッ、とジードの中で何かが脈動し、彼の頭の中にある情報が流れ込む。

 その情報がなんなのか。

 ジードはすぐに理解した。

 

「───いや……今、頭の中に思い浮かんだッ!」

 

 ジードは立ち上がり、本日三度目の跳躍をする。今度はスカルゴモラと人々との中間地点に降り立った。

 ここから先へは行かせない。その思いを胸に構えるジード。

 スカルゴモラはそんな彼に怒りを覚えたのか、双角にエネルギーを滾らせて駆け出した。

 

 それに対して、ジードは両腕を下でクロスさせ、エネルギーを貯めていく。エネルギーが貯まるにつれ、彼の両腕から黒い稲妻が迸った。

 

「ハアァァァァァァ……ッ!」

 

 その稲妻は、ジードがクロスさせた腕を上に掲げ、横に広げていくとこで強まる瞳の光と共により激しくなっていく。

 そして、エネルギーの稲妻が最高潮に達した時、ジードは雄叫びと共に放った。

 

「アアァァァァ────ディアッ!!!」

 

 十字に交差させた腕から放たれた、黒い稲妻を纏った光の光線はスカルゴモラに直撃。その光はスカルゴモラの全身に巡り、その巨体を爆発、四散させた。

 

 

 

 

 

 

 

 その光景をすぐそばで見ていた人々。その内の一人が、『助かった……』と呟いた。助かったことからの安心感か、その喜びはすぐさま全体に広がり、夜遅くの町に人々の喜びの声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 地下の中央指令室では、

 

「か、勝った……ニャ?」

 

〔はい。先程の光線は『レッキングバースト』です〕

 

「よ、よかった……けど、リクのあの姿。まるで……」

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 スカルゴモラが四散した中心。

 そこにはボロボロになった一人の堕天使、レイナーレが倒れていた。彼女の前には煙を放つ黒いカプセル、『ゴモラカプセル』と『レッドキングカプセル』が落ちていた。

 

「ぐッ……まだ、私は……ッ」

 

 レイナーレがカプセルに手を伸ばす。しかし、その手がカプセルに触れることはなかった。

 別の手がカプセルを拾い上げる。

 レイナーレは『誰だッ!』と叫ぼうとしたが、その人物を見て止めた。

 

「貴様は……ストルム、星人……」

 

 『ストルム星人』。そう呼ばれたフルフェイスのヘルメットを被った黒ずくめの男はカプセルを仕舞いながらレイナーレを見下ろす。

 

「随分と無様な姿だな。堕天使 レイナーレ」

 

「なにを……バカにしに来たのか……」

 

「いいや。私はあの御方の言葉を伝えに来ただけだ」

 

「あの御方のッ!?」

 

 レイナーレが目を見開き、驚きを露にする。

 そんな彼女に、ストルム星人は言った。

 

「あの御方はこう言っていた。

 『堕天使 レイナーレ。

 

 ───貴様はもう用済みだ』、とね」

 

 

「へ───」

 

 次の瞬間、堕天使 レイナーレはこの世界から消え去った。

 さっきまで彼女がいた場所を一別したストルム星人は踵を返し、その場から去っていく。

 

「さぁ……物語は始まった。貴様はどうする。あの御方の遺伝子を持つ者よ……」

 

 

 

 

 

 

 




ウルトラカプセル

各々のウルトラマンの力を宿したアイテム。掌に収まる程の大きさしかないが、たった一つで戦局を大きく覆す可能性を秘めている。
同じように怪獣の力を宿した『怪獣カプセル』が存在するが、それらの関係は……。




ライザーとナックル

フュージョンライズ専用アイテム。これにウルトラカプセルを読み込ませればウルトラマンに、怪獣カプセルを読み込ませれば怪獣へと変身することが出来る。
しかし、変身するには条件を満たさないといけない。その条件とは……。



報告管理システム『レム』

駒王町の地下五〇〇メートルに位置する中央指令室のサポートAI。なぜ、自分がこんなところにいるかは覚えていないが、とある資格を持つ者を全力でサポートしないといけない、という使命は覚えていたらしい。
では、その資格とは……。




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はい。今回はここまでです。
感想、評価を心から御待ちしております。




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エピローグ

今回は一章の最後なので短めです。
それではどうぞ。





 ジードとスカルゴモラの戦闘があった日の翌日。

 駒王学園は一週間ほど休校することになった。もっとも、休校となったのは駒王学園だけではない。昨日、あんなことがあったのだから無理もないだろう。

 しかし、そんな日でもリアスはオカ研メンバーを召集した。

 もちろん、リクもその召集に応じた。

 

「こんにちわ~」

 

 陸がオカルト研究部の扉を開く。挨拶をすると部室に居たものが返してくる。だがしかし、陸はその時に何時もとは違う声を聞いた。

 

 陸は部屋にいたメンバーを確認してみる。

 

 まず目に入ったのは羊羮を食べているクラスメイトの小猫。

 次に一人用のソファーで本を読んでいる木場。

 その隣の二人用のソファーに座っている一誠。そして、

 

「アーシア、さん……ッ!?」

 

「お久しぶりです、リクさん」

 

 駒王学園の制服に身を包み、そう答えながら陸に笑顔を向けるアーシア。悪魔の天敵であるシスターのアーシアがなんで此処に、と陸は混乱してしまう。

 

「えっ、ちょっ、なんで此処にッ!?」

 

「実は…………」

 

 アーシアが陸に背を向ける。そこにはコウモリのような羽根が生えていた。

 

「あ、なるほど……部長の眷属になったんだ」

 

「はい。これからよろしくお願いします」

 

 ペコリと御辞儀をするアーシア。その姿に何故か和まされていた陸に、一誠が詰め寄ってきた。

 

「それよりもリク。昨日、店長から『リクがアパートにいねぇ』って連絡来たぞ。何処に行ってたんだよ?」

 

「い、いや~……ちょっとTSU○AYAに行っててさ」

 

「TSUT○YAって……なら、せめて連絡ぐらいしろよな。店長心配してたぞ?」

 

「ごめんごめん……以後気を付けます」

 

「本当だろうな~?」

 

 手を合わせて謝る陸と、その彼をジト目で見つめる一誠。

 そんな二人を見て、アーシアはクスクスと笑いだした。

 

「イッセーさんたちって、本当に仲がいいんですね」

 

「まぁな。今じゃ、互いに秘密にしていることなんてほとんどないし」

 

「あー……イッセー。実はちょっと話が────」

 

 『あるんだけど』、と陸が続けようとしたときだった。

 部室の出入り口の扉が開き、そこから朱乃を連れたリアスが入ってくる。陸たちは彼女に挨拶するが、そのときのリアスの顔は少し険しく見えた。

 

「おはよう、皆。昨日はお疲れ様。今日は新しく僧侶(ビジョップ)として眷属に加わったアーシア・アルジェントの歓迎も含めて、ささやかなパーティーをしましょ───……ていきたい所なんだけど、その前に大切な話があるの」

 

 そう言って、リアスは机の上に数枚の写真を置いた。そこに映っていたのは、昨日現れた───陸からすれば、自分が変身した姿。つまりはウルトラマンジードだった。

 

「これ、昨日俺たちの前に現れたあの巨人っすよね?」

 

「そうよ。次はこれを見て」

 

 そう言ってリアスが取り出したのは炎に包まれた崩壊した町。その写真に、陸は何処かで見た覚えがあった。

 

「あれ? これって……」

 

「……クライシス・インパクト時の写真」

 

「そうよ。小猫の言う通り、これはクライシス・インパクトの時の写真よ。

 当時の記録はテレビに出ていたこれ以外残ってないと思われてるけど、それは記録のほとんどを私たち三大勢力が隠蔽しているからよ」

 

「隠蔽って……なんでそんなことを?」

 

「それほどまで、この存在が驚異だからよ」

 

 リアスは机の上に魔方陣を作り出し、3Dホログラムのような物を投影した。

 

 それは、ジードに似た黒い体を持った人形の何か。その体には赤黒い模様が刻まれており、瞳のオレンジ色のクリスタルは睨み付けるようにつり上がっている。

 一誠たちよりも悪魔を思わせるその姿に陸は覚えがあった。

 

(こいつって…あの夢の中に出てきた……)

 

「その写真に写っている物がこいつよ」

 

「こ、怖いです……」

 

「確か、ウルトラマン…ベリアル……でしたっけ?」

 

「ええ。テレビに出ていたあの学者の言う通り、クライシス・インパクトはこいつ、ウルトラマンベリアルによって引き起こされたものなの。その驚異は冥界や天界にも及んだわ。もちろん迎え撃とうとしたけど、手も足も出なかったそうよ」

 

「……あの、そのベリアルという存在がどれ程危険かは分かりました。ですが、なんで今その事を?」

 

 小猫の質問に、リアスではなく朱乃が答えた。

 

「昨晩、あの巨人が立っていた場所に行って、その場に残っていた僅かな魔力を採取して鑑識に回したんです。そしたら────」

 

「───一致したのよ。クライシス・インパクト時に採取したウルトラマンベリアルの魔力とね」

 

「───ッ!?」

 

 その場に居た者の誰もが驚いた。

 しかし、その誰よりも驚いていたのは陸だった。

 そして、陸はレムが言っていたことを思い出す。

 

『なぜなら貴方は、()()()()()()()()()()を受け継いでいるのですから』

 

 ────ク……───ク…───リク…

 

「───リクッ! おい、リクってばッ!」

 

「───え、あ……」

 

「大丈夫か? 顔色がすげえ悪いけど」

 

 気がつけば、周りの者が心配そうに陸に視線を向けていた。そんな彼らに『大丈夫です……』と小さく答える陸。

 

「すいません、部長……ちょっと気分が悪いんで、今日は失礼します……」

 

 そう言って、陸は飛び出すように部屋を去っていった。リアスたちの呼ぶ声が聞こえていたが、陸は脇目も振らずに走り続ける。

 そして、人気のない新校舎の裏に回り、ナックルに触れてレムに通信を入れた。

 

『どうかしましたか、リク?』

 

「……レム、教えてくれ。僕の親は誰なんだ……ッ!」

 

『……答える前に、先程のオカルト研究部部室内の話はナックルを通じて聞いていました。なので、リクがどんな答えを求めているかも分かります。

 ですが……ごめんなさい。DNA鑑定の結果、九八パーセントの確率で一致しました』

 

「───嘘だ……嘘だ…嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だウソだウソだッ!」

 

『嘘ではありません』

 

 レムは先の質問に答えた。陸がその時に最も聞きたくなかった答えで。

 

 

 

 

『貴方の父親の名は────ベリアル。ウルトラマンベリアルです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次章『戦闘校舎のソリッドバーニング』



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戦闘校舎のソリッドバーニング
二章 プロローグ


 ハイスクールGEED二章『戦闘校舎のソリッドバーニング』スタートです。





 駒王町に謎の怪獣と巨人が現れてから数日。

 あと一週間足らずでGW(ゴールデンウィー)が訪れようとしているなか、陸は町の中を一人でトボトボ歩いていた。

 

「はぁ……」

 

 自然と溜め息が出てしまう。

 理由はもちろん自分の父親が、世界を破壊しようとしたウルトラマンベリアルだった事だ。

 

(ベリアル…世界の破壊者……そして、僕はその息子……)

 

 現在の心情のせいか、あれ日からオカルト研究部には行けていない。授業も上の空だ。

 それを見かねた黒歌が陸に『気分転換でもしてみたら?』と外に出したのだ。

 

「……まあ、僕の気分転換はこれしかないけどね」

 

 そんな彼が訪れたのは、商店街にあるホビーショップ。

 中に入った陸は五分もしないうちに目的の物を見つけた。

 

「見つけた……ドンシャインのフィギュアの限定版ッ!」

 

 そのパッケージを見た瞬間、先程まで暗かった陸の表情が嘘のように明るくなった。

 

 『爆裂戦記ドンシャイン』。陸が物心つく前に放送開始した特撮番組。今でも絶大な人気を誇っており、多くの世代に愛されている作品だ。

 

(今回は劇中名シーンのポスター付きッ! 一三〇〇〇以上と下手すれば半月分の食費になりかねない値段だけど、仕方ないよネッ!)

 

 ……とまあ、仕方ない事は無いことを考えながら陸はフィギュアの箱に手を伸ばす。しかし、その手が箱に触れることはなかった。

 

「え───」「あら───」

 

 横から出された自分のものよりも小さい手。見ると、彼の横にはロールを巻いたツインテールが特徴的な金髪の少女が立っていた。

 

(誰だろ、この子? ここら辺じゃ見たこと無いけど……)

 

 女の子がこのような店に来ることが珍しかったのか、陸はついつい見つめてしまう。

 

「……なんですの? さっきからジロジロと」

 

「あっ、いやっ、ごめんなさい……」

 

「まったく……罰として、これは貰いますわよ」

 

 そう言ってフィギュアの箱を手に取ろうとする少女。

 陸は慌てて少女を止めた。

 

「いやいや待って待ってッ! 何をどうなったらそうなるのッ!?」

 

「貴方は私にジロジロとイヤらしい視線を向けてたのだから、私にこれを譲る義務がありますわ」

 

「イヤらしい視線で見てないしッ! だからってドンシャインを譲るつもりはないッ! それに僕は半月分の食事を白米だけで過ごす覚悟で此処に来たんだからッ!」

 

「そういうのは生活を優先すべきでしょッ!? それに、私はこれを手に入れる為にわざわざここまでやって来たんですからッ!」

 

「なんだよ、その言い方ッ! なら此処に来ないで通販で買えばいいじゃんッ!」

 

「こういうものは直接買うことに意味があるんですわッ! そうでなかったらこんな所に来ませんッ!」

 

 二人は口論を続ける。

 さて、ここで問題だ。先程から二人はそれなりに大きな声で口論している。さらに言葉の中には『こんな所~』や『わざわざ此処に~』等のワードが飛び交っている。そんな事を言われ続けられている店はどんな行動をとるのだろう?

 まだ口論を続ける陸と金髪の少女。そんな二人に店の制服のエプロンを身につけた、やたらがたいのいいサングラスの男性店員が近づいた。その男が取った行動は……。

 

「お客様。他の方々のご迷惑になりますので、他所でやってくれませんか?(さっさと店を出ていきな)

 

 二人は店員に襟を捕まれ、あっという間に店の外に放り出された。

 二人の間に沈黙が流れる。それを先に破ったのは少女の方だった。

 

「……あなたのせいですわよ。あなたがさっさと渡さないからこうなってしまったんですッ!」

 

「僕だけのせいッ!? 君だって『こんな所』とか『わざわざ』とか貶してるような言い方してたじゃないかッ!」

 

「それはあなたも同じでしてよッ! どうせ、ドンシャインをあまり知らない癖に限定版って言葉に目をくらませたくちでしょうッ!」

 

「そんなことないしッ! 少なくとも、君よりかは詳しいッ!」

 

「なら、ドンシャインの身長、体重、ジャンプ力、走力、パンチ力、キック力の設定を全て答えられるかしら?」

 

 少女の出した問題はかなりマニアックな物だった。どんなファンでも、全部を答えることは困難を極める。

 しかし、

 

「身長 1.8メートルッ! 体重 90キロッ! ジャンプ力 20メートルッ! 走力は100メートル6.6秒台にパンチ力は25トンッ! そしてキック力 7トンッ!」

 

「な───ッ!? まさかの全問正解ッ!?」

 

「バ~カッ! こう見えて、僕は自他共に認めるドンシャインオタクなんだッ! それくらいは基本だよッ!

 今度はこっちだッ! 

 ドンシャインに出てきた怪人、ベースボール伯爵が出たのは第何話のなんという題名の時か? そして、伯爵の必殺フォームはッ!」

 

 またもやマニアックな問題。しかし、先程ドンシャインの身体能力設定を問題に出した少女だ。答えられないわけがなかった。

 

「第43話『炎の一球勝負 ドンシャイン対悪魔球団』。ベースボール伯爵の必殺打撃フォームは『ダークネス一本足打法』ですわ」

 

「一秒も経たない内に答えたッ!?」

 

「ふふん。私、これでもファンクラブに所属していますの。そこら辺のマニアとは違いますわッ! 

 次の問題ッ! 『危うしタカコ! ドンシャイン危機一秒前!』に出てきた────」

 

 こうして、二人のドンシャイン好き対決は続いた。

 端から見たらうるさいとしか思わないやり取りはどんどんヒートしていき、最終的に───

 

「───で、そこで明かされたタカコの正体には驚きましたわ」

 

「分かるッ! 僕、再放送の奴で見たんだけど、内容知ってた幼馴染みがネタバレしてきてさ。そのときは結構怒ったなぁ」

 

「確かに。ドンシャイン好きとして、それは許せませんわね」

 

「でしょうッ!」

 

 何故か和解していた。

 しかも、場所は変わってファミレスに。二人はドリンクを片手に談笑していた。

 

「……それでさ、さっきは色々とごめん」

 

「謝る必要はありませんわ。ドンシャインを思う気持ちを考えれば、当然のことですから」

 

「ありがとう。……なんか、いいよね。こうやって、誰かとドンシャイン話すの。僕の周りさ、ドンシャイン好きがあんまりいなくて。さっき言ったネタバレした幼馴染みは幼い頃に遠いところに引っ越して、こういうこと話す人いないんだ」

 

「それは私も同じですわ。私にはお兄様がいるんですけど、年中スケベなことばかりで……」

 

「なんか……苦労してるんだね。僕でよかったら何時でも話し相手になるから」

 

「本当ですの? なら、連絡先を交換しませんか?」

 

「別にいいよ。……あ、そういえば、名前言って無かったね。僕は陸。朝倉 陸。気軽に『リク』って呼んでよ」

 

「私は『レイヴェル・フェニックス』。これから同じドンシャインファンとして、よろしくお願いいたしますわね」

 

 互いに名乗った後も談笑を続ける陸と金髪の少女『レイヴェル』。二人は一時間もの間、ドンシャインについて語り合った。連絡先を交換し、別れる時の二人の顔はキラキラと輝いていただろう。

 

 

 しかし、近い内に再会することを、この二人はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 




今回はプロローグなので短め。
レイヴェルのキャラ崩壊に、レイヴェルファンの皆様、誠に申し訳ありませんでした。
しかし、後悔も反省もしていないので、そこら辺は御了承してください。







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不死鳥、参上

「あの……塔城、さん? なぜ、僕は引き摺られておられるのでしょうか?」

 

「……部長から連れて来るよう言われてます」

 

「だからって、引き摺るのはどうかと思うんだけど……」

 

「……半幽霊部員になりかけた人が何を言ってるんですか?」

 

「イッセーッ! 木場先輩ッ! アーシアさんッ! 僕、おかしな事言ってないよねッ!?」

 

「まあ、幽霊部員になりかけていたのは確かだね」

 

「部長や朱乃さんも心配してたんだし、大人しく引き摺られてろ」

 

「あ、あははは………」

 

 とある日の放課後。

 陸は小猫に連行され、一誠たちと共に旧校舎へ向かっていた。襟を捕まれ、引き摺られる陸は小猫の小さな体の何処にこんな力があるのか不思議で仕方がなかった。

 

「……で? なんで最近来なかったんですか?」

 

「何か、悩み事でもあったのかい?」

 

「えッ!? そ、それは、その~……」

 

 自分がベリアルの息子で、色々ショックだったから行けなかったと言うこともできず、陸は言い淀むしか出来なかった。

 

「……言いにくいのなら、言わなくていいです」

 

「ごめんなさい……」

 

「気にしなくていいよ。人に言えない悩み事なんて、誰でも一つは持ってるものさ」

 

「悩みって言えば……なあ、木場。部長って、なんか悩み事でもあるのか?」

 

「? どうしたんだい、急に?」

 

「いやさ……昨日色々あって、な」

 

「部長の悩み事か……グレモリー家に関わる事じゃないかな? 多分、朱乃さんなら知ってると思うよ。あの人、部長の懐刀だし」

 

 何かあったの?、と問い掛ける木場の質問に、一誠は先程の陸と同じように言い淀んでしまった。

 

(まさか、部長が夜這いに来た、なんて言えないしなぁ……)

 

 そんな内に、陸たちはオカ研部室の前に到着しが、木場がドアノブに手をかけようとした時だった。

 

『───ッ!?』

 

「あれ? 皆、どうしたんだよ?」

 

 何かを警戒するように構える木場、小猫。そして、陸。

 

(なんだよ、この悪寒は……ッ!?)

 

「……まさか、僕がここまで来て初めて気づくなんてね」

 

 そう言った木場は扉を開く。そこにいたのはリアスと朱乃。そして、メイド服を来た銀髪の女性だった。

 メイドは陸たちの方を向くが、陸を視界に捉えると眉をひそめ、その鋭い目で陸を睨み付けた。

 

「御嬢様。なぜ此処に悪魔以外の者が?」

 

「グレイフィア。陸は眷属ではないけど、私たちの仲間よ。邪険に扱わないでちょうだい」

 

「そうですか……申し訳ございませんでした。私、グレモリー家に使えるグレイフィア・ルキフグスと申します。以後、お見知りおきを」

 

「あ、はい……こちらこそ……」

 

「さて、これで全員揃ったわね。今日は部活を始める前に大事な話があるの」

 

「御嬢様、私から話しましょうか?」

 

 グレイフィアの提案に、リアスは『大丈夫』と返して陸たちと向かい合い、『大事な話』をしようとする。

 しかし、その時、部室の中心にある魔方陣が強く輝き始め、グレモリーの紋章から別の物へ書き換えられていく。

 その紋章を見た木場は言った。

 

 ───フェニックス家の紋章、と。

 

「ふぅ……人間界に来るのも久しぶりだな」

 

 魔方陣から溢れる炎が弾け、その中から一人の男が現れる。男はリアスを見つけると馴れ馴れしく近寄っていった。

 

「よお、愛しのリアス。会いたかったぜ?」

 

「私は会いたくなかったけどね、ライザー」

 

 片や下品な笑みを浮かべるライザーと呼ばれた男。片や嫌悪の表情を浮かべるリアス。だがしかし、リアスの態度を気にせず、男はリアスの肩に触れた。

 そこで我慢の限界が来た一誠は男に掴みかかった。

 

「てめえッ! さっきから部長が嫌がってんだろッ! つーか誰だよ、あんたッ!」

 

「あん? ……なんだよ、リアス。俺のこと、話してねぇのか?」

 

「話す必要なんてないわ」

 

 一誠の言葉に驚く男の問い掛けに、リアスは冷たく返すが、そんな彼女に代わって、グレイフィアが説明した。

 

「この方はライザー・フェニックス様。純血悪魔で、フェニックス家の三男であり、

 

 ────グレモリー家の次期当主……つまり、リアス御嬢様の婿殿であらせられます」

 

 

「………………はいぃぃぃッ!?!?!?」

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 あれから数分後。ライザーはソファーに腰かけたリアスの隣に座り、朱乃がいれた紅茶を堪能していた。

 

「……フム。リアスの女王がいれた茶は旨いな」

 

「ありがとうございますわ」

 

 そういう朱乃だが、その顔に笑みを浮かべず、冷たい目でライザーを睨み付けるが、当のライザーは一切気にせず、リアスの肩に手を回し、『結婚の日取りは何時にする?』だの『どんな場所がいい?』だのと語りかけていた。

 だが、ついにリアスの堪忍袋の緒が切れた。

 

「いい加減にしてッ! 私は貴方とは結婚しないって何度も言ってるでしょッ!」

 

「俺も言ったはずだ。そんな余裕は君の家にないだろ、と。純血悪魔が減衰した今、俺たちのような純血悪魔同士の結婚は重要なのは君も知ってるだろ? もし、君がこれ以上駄々をこねるなら」

 

 ───君の眷属を殺す。

 

 そう言った瞬間、リアスの後ろに控えていた一誠たちの周辺に炎が迸った。

 

「ライザーッ! 貴方───」

 

「お止めを、ライザー様。これ以上は流石の私も黙っている訳にはいかなくなります。サーゼクス様の名誉のためにも手加減はいたしませんので」

 

「……俺も最強の『女王』とやり合うつもりはないんでね。だったらリアス、ここは一つ、『レーティングゲーム』で話をつけないか?」

 

「───ッ!?」

 

 ライザーの言葉に、リアスとその眷属たちは息を飲み、唯一それを知らなかった陸は近くにいた朱乃、小猫にレーティングゲームとは何か、小声で問いかけた。

 

「……あの、姫島先輩。レーティングゲームって何ですか……?」

 

「レーティングゲームは上級悪魔同士が眷属を従え争うゲームのことです。本来なら成熟した悪魔でないと出来ないのですが……」

 

「……こう言った身内や御家同士のいがみ合いなら参加できます」

 

「なるほど……」

 

 

 

「いいわッ! 受けて立とうじゃないッ!」

 

「……よろしいかな? グレイフィア殿」

 

「リアス御嬢様が拒否した場合、元よりそのつもりでしたので」

 

「しかし、リアス、君の眷属は此処にいる面子だけか?」

 

「そうよ。陸以外は私の眷属よ」

 

「りく? そいつは、そこの悪魔じゃない奴の事か?」

 

「そうよ。人間だけど、私たちの大切な仲間よ」

 

「……おいおい。リアス、正気か? 片手で数えられる程度しかいないじゃないか。しかも、どいつも弱い。戦力として見れるのは『雷の巫女』と呼ばれている君の女王ぐらいじゃないか? なんなら、そいつを参加させてもいいぞ?」

 

「結構よ。これは悪魔である私たちの問題。人間の陸を巻き込むわけにはいかないわ」

 

「あ、そ。じゃあ、せめてものハンデとして10日間やろう。いいよな?」

 

 ライザーの提案。普段のプライドの高いリアスなら断るだろうが、今回ばかりはそう言ってられない状況だと、リアスは理解していた。

 

「ええ。ゲームは10日後にやりましょう」

 

「じゃあ、俺はここで失礼するよ。次のゲームでまた会おう」

 

 そう言って、ライザーは立ち上がり、魔方陣の中へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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少女の願い

長きにわたって、この作品を待ってくださっていた方々。
誠に申し訳ありませんでした。
本日より、ハイスクールGEEDを復活させます。
投稿スピードは遅いですが、御了承ください。
それでは本編をどうぞ。







 GW(ゴールデンウィーク)。多くの若者がその日を笑顔で過ごしており、逆に暗い顔で過ごしている者もいるだろう。

 銀河マーケットでは、後者に分類される者がいた。

 

 

「はぁ………」

 

「十三回目。そろそろウザくなって来たニャ」

 

 

 納品の間にちょくちょく溜め息を吐く陸に、黒歌はジト目で睨んでいた。

 

 

「ねぇ、酷くない? 心を痛めてる相棒を慰めようとは思わないの?」

 

「横であからさまにはぁはぁはぁはぁ溜め息を吐き続けられたら、そんな気も失せるニャ。ジーっとしてても、ドーにもならないって言ってるのに、なんで一緒に行かなかったの? あの焼き鳥野郎を倒すために修行するんでしょ?」

 

 

 そう。今、陸以外のオカ研メンバーはライザー妥当の為にとある山で修行を行っていた。

 もちろん、オカ研に所属している陸も行こうとしたが、

 

 

「一般人の僕を悪魔の争い事に巻き込むわけにはいかないからって、グレモリー先輩に……」

 

「で、いざというときの転移用魔法陣だけを渡され、自分は残ってバイトに勤しむと……ちょっと前に似たような事で後悔したのは何処の誰だったかニャ?」

 

「う゛ッ……それは、そうだけど…………」

 

「もうさ、さっさと話したら? 自分はウルトラマンだって」

 

「言えるわけないよ。だって、クライシス・インパクトを起こしたベリアルの息子だよ? それに……」

 

 

 陸が顎で示したのはテレビの画面。そこにはちょうど前に陸……正確にはジードの話題を取り上げられていた。

 

 

『ベリアルに似た謎の巨人ッ! 敵か、味方かッ!?

 当局ではあの巨人に対しての世論調査を行いました』

 

 

 写し出される円グラフ。そこにはジードの事をベリアルと同じ存在だと思っている人が85%を占めていた。

 

 

「これって、皆が僕に怯えてるって事でしょ? 先輩たちも警戒しろって言ってたし、僕があの時のウルトラマンだって言ったら怖がるに決まってる」

 

「そうか二ャ? 意外とすぐに受け入れてくれるんじゃない?」

 

「……無理だって」

 

(逆ジード状態か。めんどくせぇ~……)

 

 

 逆ジード……すなわち、『ジーっと考えすぎて、ドーにもなってない』。そんな陸に黒歌は深く溜め息を吐く。

 

 そんなとき、レジをしていた晴雄が陸に声を掛けた。

 

 

「陸。お前にお客さんだぞ」

 

「僕に……?」

 

「おお。しっかし、お前も隅に置けないなぁ。あんな可愛子ちゃんと友達なんて」

 

 

 晴雄がどうぞどうぞと外に立っていた客を中に招く。

 その招かれた客は、

 

 

「……お久しぶりですわ、リク」

 

「レ、レイヴェル……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ、粗茶だけど……」

 

「ありがとうございますわ」

 

 

 場所は変わって、星雲荘の陸の部屋。晴雄が気を利かせ、休憩時間をずらしてくれたので、陸はゆっくり話が出来るように招いたのだ。

 

 お茶を出した陸は机を挟んでレイヴェルの向かい側に座る。

 

 

「それで、今日はどうしたの?」

 

「リク……あなた、リアス様とお知り合いだったのですわね」

 

 

 レイヴェルの口から出てきた自分の先輩の名前に、なぜ知っているのかと驚き、困惑する陸だったが、彼女のフルネーム……『レイヴェル・フェニックス』を思い出した。

 

 

「まさか……レイヴェルって……」

 

「おそらく、そのまさかは正解ですわ。私はライザー・フェニックスの妹であり、お兄様の僧侶(ビショップ)ですわ」

 

「悪魔の駒って家族にも使えるんだ……」

 

「ええ。もっとも、なったのはつい最近ですけれど」

 

 

 苦笑混じりで返答するレイヴェルだったが、陸にはその表情がとても疲労しており、同時に辛そうに見えた。

 

 

「……それで? なんで、僕の所に?」

 

「……本来ならリアス様に直接言うべきですが、連絡が取れませんでしたから、何処にいるか知っているであろうリムに言伝てを頼みに来たのですわ」

 

「ことづて? なにそれ?」

 

「伝言のことです。それで、その内容なのですが……

 

 

 ───レーティングゲームを棄権して欲しいのです」

 

「───……は?」

 

 

 陸は思わず聞き返してしまう。

 

 

「……ちょっと待って。棄権してってどういうこと? 先輩たちに負けろって言うの?」

 

「そういうことですわ」

 

「言えるわけないッ! だって、グレモリー先輩は自由の為に、他の皆はそんな先輩の為に一心になって戦おうとしてるんだよッ! そんなことを言えば───」

 

「無理なのは百も承知ですッ! ですが、そうしないと……」

 

 

 

 

 

 

 

「───リアス様の眷属の誰かが死ぬ可能性があるんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───と、いうことがありまして……」

 

『まさか、あなたが彼女と友人だったとはね』

 

 

 携帯越しに、リアスの驚く声が聞こえる。

 あれから暫くしてレイヴェルが帰った後、陸はリアスに連絡を取り、レイヴェルとの会話を報告した。

 

 

『しかし、私の眷属から死者が出る、ね……』

 

「レーティングゲームって、そこまで危ないもの何ですか?」

 

『いいえ。出場者の命に関わると判断された場合はすぐさま戦線離脱(リタイア)させられるわ。死者が出るなんて絶対に起きないの』

 

(でも、レイヴェルのあの表情……あれは嘘をついているようには見えなかった……)

 

『とりあえず、こっちも警戒はしておくわ。それじゃあ』

 

 

 リアスとの通信が切れる。

 

 ライザーとの試合まで後僅か。

 陸の内を埋め尽くすのは、得たいの知れない不安だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遂にレーティングゲームが始まった。

 陸は特別観客者として、VIPルームに案内された。

 

 

「それでは、ごゆっくり」

 

 

 陸を部屋まで案内したグレイフィアがその場を去っていく。

 残された陸は一生に一度見れるか見れないかの豪華な内装に圧倒されていた。

 

 

(なんだろう……この圧倒的な場違い感……)

 

 

 丁寧に整えられた内壁。並べられた椅子やテーブル。壁際に置かれている机の上には高級そうなワインやウイスキーなど。圧倒的な高級感が、貧乏な陸にとって眩しく見える。

 だからなのだろう。自分が来たときには既に先客がいたことを気づかないでいるのは。

 

 

「───そんなに珍しいかな?」

 

「────ッ!?」

 

 

 見れば、並べられた椅子の一つにリアスのような紅毛の男性が座っていた。驚く陸に男性は座るように言う。

 

 

「立ったままでは疲れるだろう。さあ、座りたまえ」

 

「は、はい……」

 

 

 男性から溢れ出るセレブ感に、陸は圧倒されていた。

 正直、今すぐにでも部屋を出るか、それが出来ないにしても椅子を離れた場所に移動させたい。だが、逆にそれが失礼だと思い、とりあえずは言われた通りに男性の隣の椅子に座った。

 

 

「確か……君はリアスの協力者、だったかな?」

 

「そ、そうですけど……貴方、は?」

 

「私かい? 今はリアスの関係者とだけ言っておこう」

 

 

 二人の会話はそこで一旦ストップした。

 時々、男性が『飲むかい?』をグラスを差し出して来たが、陸は未成年であり、かつ今の状況で水も喉を通りそうになかったので断っていた。

 

 試合開始まで残り一分。

 男性はどちらが勝つと思うか、陸に尋ねてきた。

 

 

「君は今回のレーティングゲーム、どちらが勝つと思う?」

 

「それは…………えっと……」

 

「おや? リアスが勝つとは言ってくれないんだね」

 

「本当は、そう言いたいんですけど……実は相手の眷属の一人とちょっとした交友関係があって……それで、その子から、ちょっと……」

 

「そうか……まあ、何はともあれ、彼らは今、自分が出せる全力で戦うだろう。我々はそれを見守ろうじゃないか」

 

「…………はい」

 

 

 

 

『これよりレーティングゲームを開始します』

 

 

 VIPルームにグレイフィアの声が響き、レーティングゲームが開始させる。陸は胸の内に不安を抱きながら、試合の行く末を見守ろうとモニターに視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時間後、リアスたちは負けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回は出来たらソリッドバーニングを出そうと思います。

 感想、評価、お気に入り登録。心から御待ちしております。






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燃やすぜ!勇気!

 ちょっと……いや、なんかかなりグダグダした感じにはなってしまいましたが、ハイスクールGEED 戦闘校舎のソリッドバーニング編のバトルシーン完結しました。
本当なら何回かに分けた方がいいかなぁ、と思いつつ投稿しました。
それではどうぞ。


 リアス対ライザーのレーティングゲームから3日。

 陸は黒歌と共に地下秘密基地で、こっそり撮っていたレーティングゲームの内容を見返していた。

 

 その試合でのライザーの戦い方を一言で表すなら『残酷』。

 自身の兵士(ポーン)の子や戦力的に見て劣る子を囮にして、小猫や祐斗を撃破。眷属が巻き添えを食らおうが知らんぷり。

 一度は自身の左腕を犠牲にして禁手(バランス・ブレイカー)を発動。『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』をその身に纏って圧倒したのだが、突然、ライザーが今まで見せていなかった力を披露したのだ。

 

 

「紅の雷に赤黒い斬擊。明らかにフェニックスのちからじゃないニャね」

 

神器(セイクリッド・ギア)、とか?」

 

〔ライザー・フェニックスは純血の悪魔です。後付けしない限り、神器を使うことはあり得ません〕

 

 

 では、ライザーが使った力は一体何だったのか?

 その力を見せられたとき、陸は勿論、隣に座っていた男性も驚いていた。

 

 

 繰り広げられる残酷なワンサイドゲーム。

 退場させられず、かつ一誠が死なないギリギリの攻撃。

 リアスの目の前で赤龍帝の鎧を砕き、その下の肉体を殴り、切り裂き、焼き、顔の形が変わるまで殴り……

 だが、一誠はリアスの為、降伏しようとはせず、最後まで足掻こうとした。

 

 だからこそ、リアスがリタイアを宣告するまで時間はかからなかった。

 

 

「兵藤一誠は?」

 

「今も眠っているって。看病しているアーシアさんが言ってた」

 

「他の奴等は?」

 

「グレモリー先輩とライザーの婚約パーティーに出席してる」

 

「そっ……リクはどうするの? 一応は誘われているんでしょ?」

 

「僕はいいよ。イッセーの方が心配だし、御見舞いに行ってくる」

 

〔リク。その件について報告なのですが、つい先程、兵藤 一誠が冥界へ向かいました〕

 

「えッ!? でも、イッセーは今───」

 

〔神器が使えない状態です。今、ライザーと戦っても敗北は確定。最悪の場合、死亡する可能性があります〕

 

 

 最悪の可能性を提示され、陸の中に迷いが生まれる。

 

 ───自分がウルトラマンとして戦えば結果を変えられるかもしれない。

 

 ───だけど、ベリアルの子だと言って、イッセーや他の皆が離れていくのが怖い。

 

 

 心の中で葛藤する陸。それ故に、彼は気づくことが出来なかった。

 目の前に立ち、怒りの形相を向ける相棒に。

 

 

 ───パンッ。

 

 

「───え?」

 

 

 乾いた音が指令室に響く。

 最初、陸は何が起こったか理解できなかったが、徐々に伝わってくる頬の鈍い痛みに、自分は平手を食らったのだと理解した。その相手は、

 

 

「黒、歌……?」

 

「…………ろ」

 

「え? 今、なんt───」

 

 

 

「いい加減にしろッ!」

 

 

 

 普段、あまり大きな声を出さない黒歌の怒声がすぐ側にいた陸の耳に響く。

 

 

「さっきからウジウジとッ! いつまでそうしているつもりニャッ! そうやっていて、何か解決に繋がるのッ! 助けに行きたいなら、助けに行けばいいじゃんッ!」

 

「でもッ! 僕はベリアルn「それがどうしたッ!」───ッ」

 

「確かにクライシス・インパクトを起こしたのはウルトラマンベリアルニャ。でも、リクは関係ないッ! ただベリアルの遺伝子を持っているだけッ! それ以外、ベリアルとは何の関係もないッ!

 破壊者の息子ッ!? じゃあ、リクは何かを破壊するのッ!? 誰かを殺すのッ!?」

 

「───そんなことするもんかッ!」

 

「じゃあ、リクは何? 何者なの?」

 

「僕は───……」

 

 

 ジードライザーを手に持ち、胸の高さまで持ち上げる。

 思い返すのは初めて戦ったあの日。

 

 戦うのが怖かった。

 怪獣が恐ろしかった。

 でも、何より……イッセーたちや街の人たちを救えたことが嬉しかった。

 

 

「───陸。朝倉 陸。それが僕だ」

 

 そして、

 

「───僕はジード。ベリアルの遺伝子を持って、自分の運命に立ち向かい、それをひっくり返す、ウルトラマンだッ!

 

 行こうッ! 黒歌ッ!」

 

「ジーっとしてても、ドーにもならないニャッ! まあ、私は行けないけどニャッ!」

 

〔兵藤一誠の現在地は把握しています。向かいますか?〕

 

「あぁッ! 頼むッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは突然の出来事だった。

 リアスとライザーの婚活パーティーに一誠が乗り込み、リアス取り返し宣言を言おうとした瞬間、彼の前に今まで見たことのない魔法陣が現れた。

 そこから現れた人物にすぐ側にいた一誠は勿論、リアス、朱乃、小猫、祐斗、レイヴェルの顔は驚愕に染まった。

 

 

「「「「「「リクッ!?」」」」くんッ!?」」

 

「悪魔の皆さんッ! 僕はグレモリー先輩の協力者の朝倉 陸って言いますッ! 今回はこの婚約に異議を申し立てに来ましたッ!」

 

 

 会場がざわつく中、陸は一誠が言おうとしていた宣言を声高らかに言い放った。

 

 

「貴様ッ! 悪魔でもない奴が何のようだッ!」

 

 

 会場の中央。赤いタキシードに身を包むライザーの鋭い視線が陸を捉えるが、陸は動じることなく、自身の拳をライザーに向けた。

 

 

「ライザーッ! グレモリー先輩をかけて、僕と決闘しろッ!」

 

「……ククッ、クハハハハハッ! 笑わせてくれるッ! 貴様のような悪魔でもない奴と戦って、俺に何の得g「得ならあるッ!」───なに?」

 

「僕という存在を倒せば、お前は確実に名声を手に入れられるッ! なぜなら───」

 

「り、リク……?」

 

 

 側にいた一誠は、決心を固める彼の横顔に気づく。

 長い付き合いだからか、その顔が決心したときのものだと知っていた。

 では、何を決心したのか?

 その答えはすぐに分かった。

 

 

「僕の父親はベリアルッ! ウルトラマンベリアルッ! クライシス・インパクトを起こした張本人だッ!」

 

『───ッ!!?』

 

 

 今度は会場全体が驚愕に染まる。

 

 無論、陸の言葉を嘘だと言う者もいたが、その会場に集っていた強者たちは彼の言葉に嘘偽りが無いことを見抜いていた。

 

 

「どうする? 僕のはベリアルの遺伝子を持っている。勿論、力も。そんな僕を倒せば、お前は有名人になること間違いなしだ」

 

「……下らん。出任せを言ったところで、その決闘に受ける価値なd「受けてあげなさい」───サーゼクス様。今、なんと?」

 

「受けてあげなさいと言ったのだよ」

 

 

 『サーゼクス』。そう呼ばれた紅毛の男性……あのレーティングゲームの日、陸の隣に座っていたリアスの兄であり四大魔王の一人、『サーゼクス・ルシファー』は笑顔でライザーの質問に答えた。

 

 

「ライザーくん。先日のレーティングゲームは中々面白かった。だが、ゲーム経験のない素人同然のリアスが、強者であるライザーくんと戦うのは分が悪かったかなと思ってね」

 

「……あのゲームに不満があると?」

 

「いやいや。魔王の私がとやかく言ってしまったら、旧家のお顔が立ちますまい。

ただ、私は妹の婚活パーティーをより盛大にしたいと思っていてね。朝倉 陸くんだったね? 本来なら、赤龍帝の兵藤 一誠くんと戦ってもらうつもりだったのだが、あのベリアルの息子VSフェニックス。この対戦カードには敵わないでしょう。もし、彼の言葉が嘘だとしても、それならライザーくんが負け、恥をかくこともないだろうしね」

 

 

 サーゼクスの言葉に納得したのか、反論しようとしていた悪魔たちが全員静かになる。

 

 サーゼクスはライザーから陸へ視線を移し、御膳立ては済ませたと言わんばかりに細く微笑んだ。

 

 

「さあ、若きウルトラマン。君の力を我々に見せてくれないかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、特別に用意されたバトルフィールド。

 ローマのコロッセオを思わせるその場所で、ライザーと陸は対峙していた。

 

 

「貴様がどれだけの力を持っていようと、この俺の炎の前では無力であることを教えてやろうッ!」

 

 

 上着を脱ぎ捨て、両手に炎を纏わせるライザー。

 一方の陸は、まだウルトラマンに姿を変えておらず、深く深呼吸をしていた。

 

 ライザーが『先程の言葉はやはり嘘か』と嘲笑うように言うが、陸はその言葉を無視し、自分の内に秘めた思いを叫ぶ。

 

 

「イッセーッ! 皆ッ! 本当にごめんッ! 僕はずっと逃げていたッ! 自分がベリアルの息子だって分かって、それを知った皆が離れていくのが怖かったッ! 皆が敵になるのが恐ろしかったッ!

 

 ……───でもッ! 僕はもう逃げないッ! 勇気を燃やして、僕はこの運命と向かい合うッ! もう誰の涙も流させないためにッ!」

 

 

 

 

 

「融合ッ!」「シャァッ!」

 

「アイ、ゴー!」「シュアッ!」

 

 

「ヒア ウィ ゴーッ!」

  【フュージョンライズ!】

 

 

「決めるぜッ! 覚悟ッ!

 

 

 ───ジィィィィィィドォッ!」

 

【ウルトラマンジード!プリミティブ!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パーティー会場。ウルトラマンに変身した陸の姿を見て、その場にいた者たちが一斉にざわめき出す。

 

 一方、プリミティブの姿を知る一誠たちはあまりの驚きに目を見開いていた。

 サイズは圧倒的に違うがつり上がった青い瞳や胸のクリスタル、体の模様など。その姿は間違いなく自分達を助けてくれたあの巨人のものだったのだから。

 

 

「リク……お前はずっと、俺たちを……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか本当にウルトラマンだったとはな。

 ───だが、俺の炎の前では通用しないッ! 焼かれて死ねッ!」

 

 

 フェニックスの炎球が陸に……ジードに迫る。

 だが、彼は落ち着いていた。あのときの怪獣と比べると、その炎がちっぽけに見えたからだ。

 

 

「ゥラアッ!」

 

「なッ!? ───がッ!?」

 

 

 迫る焔を腕の一凪ぎで払い落とす。

 驚くライザーだが、そこで出来た隙を逃さず飛び膝蹴りをライザーの顔面に直撃させる。

 

 勿論、フェニックスの力によって物理的な傷はすぐに修復される。しかし、ライザーを怒らせるのには十分な一撃だった。

 

 

「このガキがァァァッ!」

 

 

 ライザーは地面に手を着き、全体を埋め尽くす程の規模の炎を発生させる。

 回避不可能に近い攻撃。だが、ウルトラマンであるジードはフィールド全てが領域。空中に飛ぶことで、その炎を回避する。

 

 

「レッキングリッパーッ!」

 

 

 腕を振るう事で放たれた波状光線がライザーを襲うも、さすがはフェニックス家の才児と呼ばれるだけあって簡単に回避行動を取られてしまい、少しかすった程度にダメージを抑えられたのだが、

 

 

「ぐッ、があぁぁぁぁッ!?」

 

 

 

「かすっただけなのに苦しんでいる?」

 

〔光子エネルギーによる多大なダメージを確認。不死身といえど、光に対する悪魔の特性は健在のようです〕

 

「だったら、こいつでッ!」

 

 

 ジードは前回と同じように腕を下でクロスさせ、エネルギーを貯めていく。

 

 

「レッキングバーs───」

 

 

 だがしかし、それはジードの左後方から放たれた光線が直撃し、阻まれてしまった。

 

 

「アァッ!?(くッ!? なんだッ!?)」

 

〔新たな敵を後方に()()確認。すぐに回避を〕

 

(二体ッ!? ───ッ!)

 

 

 咄嗟にその場を飛び退くジード。その瞬間、ジードのいた場所を妖しく光を反射する何かが二つ回転して通り過ぎた。

 それはそのままジードの右後方に飛んでいき、そこに立っていた()()の頭部にトサカとして収まった。

 

 そいつらが暗闇から姿を現す。

 黒とブロンズ色に彩られた体。胸から上を覆うダークシルバーの鎧に不気味に光るモノアイの瞳。そして、胸の中央には妖しく輝く白いクリスタル。

 

 

「胸にクリスタル……あいつら、ウルトラマンなのか?」

 

〔否定。あれはダークロプスゼロ。あるウルトラマンを模して作られたロボット兵器です〕

 

 

「クハハハハッ! どうやら本当に俺の言うことを聞くみたいだなッ!」

 

『ライザーくん。これはどういうことかな?』

 

 

 フィールドにサーゼクスの少し怒りが籠った声が響き渡る。

 

 

「見ての通りさッ! あれらは俺が使役しているッ! ()()()に保険ということで貰い受けたが、これは中々いい具合だッ!」

 

『私が望んだのはあくまでも一対一の決闘だ。こうなった以上、君は不正行為とみなして敗北n───』

 

「黙れッ! 例えウルトラマンだろうが、魔王だろうが、俺に指図は許さないッ! 俺は強大な力を手に入れたッ! この力で俺は邪魔な者を全て消し去るのさッ!」

 

 

 ライザーがズボンのポケットからあるものを取り出し、それを見た陸は驚くことになった。

 

 

「あれは……───カプセルッ!?」

 

「───ふんッ!」

 

 

 ライザーが手に持った黒いカプセル『怪獣カプセル』を自分の体に突き立てる。

 次の瞬間、ライザーの体が黒と赤。そして、背にはダークシルバーのトゲ、両腕にはトゲと同じ色の刃を備えた鎧に包まれた。その兜は凶悪な獣を模していた。

 

 

最凶獣の鋭刃鎧(ヘルベロス・クローズメイル)ッ! さあ、仕切り直しと行こうかッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パーティー会場は喧騒に包まれていた。

 打ち首されてもおかしくない魔王サーゼクス・ルシファーに対するライザーの言動。そして、ライザーが纏った謎の鎧に誰もが驚きを隠せないでいた。

 

 一方の一誠たちはライザーが使っていた黒いカプセルに目を疑っていた。

 

 

「あのカプセルって、レイナーレが使っていた……ッ!」

 

「でも、あのときみたいに怪獣にはなっていないし、何よりもあの姿……まるで神器みたいだね」

 

 

 『最凶獣の鋭刃鎧(ヘルベロス・クローズメイル)』。ライザー自らがそう呼んでいた鎧は僅かではあるものの神器に似た強力なオーラを放っていた。

 

 

「サーゼクス様。御報告することが……」

 

「どうしたんだい、グレイフィア? ………───なんだって?」

 

「どうしたの、お兄様?」

 

「……ライザーくんと陸くんの強制退場が出来ないらしい」

 

『───ッ!?』

 

 

 サーゼクスの言葉はリタイア不可能を意味し、例え致命傷を負ったとしてもどちらかが動かなくなるまで続けることになる。

 

 

(リク……ッ!)

 

 

 兄であり、親友でもある一誠はただ見守ることしか出来ないのかと唇を咬んだ。

 

 ……そんな中、誰もがモニターに集中していた為、気づいていなかった。

 たった一人、会場からバトルフィールドに向かう者がいたことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほらッ! さっきまでの威勢はどうしたッ!」

 

「くッ……」

 

 

 迫る斬擊やトゲのミサイル、ダークロプスゼロスラッガーやモノアイ放たれる光線を紙一重で回避していくジード。

 いくら戦闘経験があったといってもたったの一回。しかも、その時は一対一でギリギリの勝利だったのだ。いきなり相手が三人は流石に無理があった。

 

 

「ウルトラマンと言えどッ! 俺の力の前では無力同然ッ! どうせだッ! お前を倒して、リアスの眷属にいる女どももいただくかッ! 性欲の捌け口にはなるだろうしな」

 

「お前……ッ、ふざけるなッ! そんなこと、絶対にさせないッ!」

 

「だったら止めてみろッ! もっとも、それは不可能だろうがなッ!」

 

 

 ライザーが腕の刃にエネルギーを貯め、また斬擊を放とうとする。

 

 ……だが、その時、横から放たれた火球が当たり、ダメージを負うことはなかったが、攻撃の手を止めた。

 

 

「……なんのつもりだ、レイヴェル?」

 

 

 ライザーが攻撃の手を止め、火球を放った人物、レイヴェルの方を向く。

 

 

「お兄様、もうお止めくださいッ! 決闘を無視し、あまつさえサーゼクス様に対するあの言動ッ! しかもリアス様の眷属をせ、性欲の捌け口になんてッ!

 今ならまだ許されますッ! 早く皆様にあやまr「何を言っている?」───え?」

 

「何故、俺の邪魔をしてくる奴の言うことを聞かなければならない? 俺は強者だ。強者は何をしても許される。それがこの世の中だ」

 

「だからって、眷属を無下にしたり、他者を踏みにじるなんて……そんなの間違っていますわッ!」

 

「ほう……───お前も俺に口出しするか?」

 

「───ッ!?」

 

 

 

 兜越しに伝わるライザーの冷たい視線にレイヴェルは動けなくなってしまう。そんな彼女にライザーは容赦なく斬擊を飛ばし、動けなくなったレイヴェルは避ける術もなく、その身を両断される瞬間を待つしかなかった。

 

 だが、それを良しとしない者がいた。

 

 

「レイヴェルゥゥゥッ!」

 

 

 ジードが彼女に飛び付き、押し倒す形で彼女を斬擊から守った。

 

 

「リク……」

 

「大丈夫、レイヴェル?」

 

「ちッ……避けられたか」

 

「お前、レイヴェルは大切な家族じゃないのかッ!」

 

「だからどうした? 邪魔者を全て消し去ると言ったはずだ」

 

「だからって家族を傷つけていいはずがないッ! 僕に家族はいないけど、それくらいは分かるッ!」

 

「家族など下らんッ!」

 

「下らなくないッ! レイヴェルが家族の事を話すとき、その笑顔がすごく眩しく見えたッ! でも、今は違うッ! 彼女の笑顔が今のお前のせいで消えているっていうのなら、僕が絶対に止めてみせるッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(リク……───)

 

 

 少女と少年の出会いは、本当に偶然の出来事だった。

 外の世界で人気の特撮ヒーローのフィギュアを買いに行き、そこで同じものを買おうとした少年と喧嘩。はじめは小生意気な人間と思っていたが、会話してみると認識が同士(オタク)に変わった。

 

 そして、今。彼は少女や多くの者たちの為に戦っている。

 そんな彼の背中は彼女の好きなヒーロー(ドンシャイン)と重なった。

 

 故に、少女は……レイヴェルは願う。

 

 

(お願い、リク……お兄様を───)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その青年は、自分が敗北することをはじめから分かっていた。

 神器が使えない。傷も完全には癒えていない。

 

 それでも自分の恩人を助けたい。彼女を助けたい。

 

 そんな自分の思いを代弁するかのように今、弟分とも言うべき幼馴染みが戦っている。かつて、もう一人の幼馴染みと見たヒーローショーに出てきたヒーローのように。

 

 

(頼む、リクッ……部長を───)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───助けて……ッ!

 

 

 その時、不思議な事が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー、あなた、それ……ッ!?」

 

「え……───」

 

 

 リアスに言われ、一誠は自分の胸元が輝いている事に気づいた。神器の光などではなく、純粋な光。本来なら悪魔にとって猛毒でしかないのだが、その光は寧ろ力を与えるかのように思えた。

 光はそのまま球体となって、一誠の体から出ていき、バトルフィールド……正確にはジードの元へ向かった。

 

 

 その現象はレイヴェルにも起きていた。

 

 

「これ、は……?」

 

 

 光はジードの元へ向かい、一誠の元から訪れた光と共にジードのカラータイマーに吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ジードの中……陸が立つ、多数の細胞組織のような模様が蠢く空間『インナースペース』に二つの光が現れ、陸の腰に掛けていたカプセルホルダーに納められていた二つのカプセルの中に入っていく。

 陸はそのカプセル二つを取り出し、確認すると二人の紅の戦士が描かれていた。

 

 

「これってッ……!」

 

〔『レオカプセル』、『セブンカプセル』の起動を確認。『ソリッドバーニング』に変身可能になりました。リク、カプセルの交換を〕

 

「よし……

 

「───ジーっとしてても

     ドーにもならねぇッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「融合ッ!」「シュアァァァッ!」

 

 

 インナースペースの中で、陸はレイヴェルから受け取った光で起動したカプセル『セブンカプセル』のスイッチを入れると、彼の右前方に肩や胸を白銀のプロテクターで身を包んだ紅の戦士。『真紅のファイター』と呼ばれるウルトラ兄弟の一人『ウルトラセブン』の姿が投影される。

 

 陸はセブンカプセルをナックルに装填し、次のカプセルをホルダーから取り出す。

 

 

「アイッ、ゴーッ!」「イヤァァッ!」

 

 

 一誠から受け取った光で起動したカプセル『レオカプセル』のスイッチを入れると、獅子を模した特徴的な頭部と腹部に『レオ』を意味するシルバーのシークレットサインを持った紅蓮の戦士。宇宙拳法の達人にして、獅子座L77星の戦士『ウルトラマンレオ』の姿が投影される。

 

 陸はレオカプセルをナックルに装填し、ジードライザーを掲げた。

 

 

「ヒア ウィ ゴーッ!」

 

 

【フュージョンライズ!】

 

「燃やすぜッ! 勇気ッ!」

 

 

 陸はジードライザーを胸元に掲げ、そのトリガーを押した。

 

 

「───ジィィドォォォッ!」

 

 

【 ウルトラセブン!

 ウルトラマンレオ!】

 

 

 ジードライザーのシリンダーに宿る青と赤の光が混ざり合い、琥珀色の光となって陸の体を包んでいく。そして、光と焔と共に現れた戦士はプリミティブではなかった。

 

 

 【ウルトラマンジード!

  ソリッドバーニング!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何が起こった……ッ!?」

 

 

 ライザーの目の前で、突然ジードが焔に包まれた。さすがのライザーも驚きを隠せず、自決したのかと思ったが、次の瞬間、その焔が爆散し、そこにはジードではなく、別の戦士が立っていた。

 ……いや。目の形やカラータイマーの形などからジードであることに間違いはないだろう。

 しかし、その姿は大きく変わっていた。

 

 肩や胸を覆うシルバーのアーマーや全身の赤いアーマーが複雑に可動し、背中や腕など、節々にあるブースターから蒸気を吹き出している。

 

 

 この姿こそ、レオとセブンの師弟コンビの力でフュージョンライズしたパワー特化の形態。

 

 その名も『ウルトラマンジード

        ソリッドバーニング』である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 プリミティブからソリッドバーニングに変身したジード。

 もちろん、ジード自身も己の変化に驚いていた。

 

 

「なんだこれ? 胸の奥がすっごく熱くなってくるッ!」

 

〔ウルトラマンジード ソリッドバーニング。近接戦闘に特化した、勇気を燃やす紅蓮の形態です〕

 

「なるほど……───よしッ!」

 

 

 ジードはファイティングポーズを取り、ライザーやダークロプスゼロたちと向かい合う。

 

 

「ふんッ! 姿が変わったところで、俺には勝てんッ!」

 

 

 ライザーが飛び掛かり、ジードの顔に拳を叩きつけようとするが、ジードはその拳を易々と片手で受け止め、

 

 

「───デュアァッ!」

 

「ごふぁッ!!?」

 

 

 腕のブースターで加速させ、威力が上がったジードの拳がライザーの纏う鎧の兜を砕き、ライザーの顔面を捉えた。その衝撃はライザーの体をいとも簡単に吹き飛ばし、バトルフィールドの壁に激突させる。

 一方のジードは兜を砕いたというのに、その拳にダメージは一切無かった。

 

 

「全然痛くないッ! 鎧を着ているみたいd「リクッ!」───ッ!」

 

 

 レイヴェルの声でハッとなるジード。見ると、ダークロプスゼロの一体の胸部パーツが展開され、胸のクリスタルがキャノン砲に入れ替わっていた。

 キャノン砲から紫色の強力な光線が放たれるが、

 

 

「ソーラーブーストォォォッ!」

 

 

 ジードは胸部のプロテクターから高出力の光線技『ソーラーブースト』を放ち、ダークロプスゼロの光線と真っ向勝負にでる。

 僅かな均衡の末、ジードの光線はダークロプスゼロの光線に押し勝ち、その機械の体を貫いた。

 

 

 

 

 休む暇もなく、残るダークロプスゼロが頭部から雌雄一対の刃『ダークロプスゼロスラッガー』を取り出し、ジードに斬りかかってくるのに対し、ジードも頭部から宇宙ブーメラン『ジードスラッガー』を取り外し、迎え撃つ。

 

 手数では二刀流のダークロプスゼロが上。しかし、ジードはその差を物ともせず、スラッガーを弾き、ダークロプスゼロの体を切りつけた。

 ダメージに怯むダークロプスゼロ。ジードは畳み掛けるべく、足のスロットにジードスラッガーを装着した。

 

 

「ブーストスラッガーキックッ!」

 

 

 ブースターの推進力で回転力を高めた回し蹴りがダークロプスゼロを両断し、ダークロプスゼロは爆発と共に消滅した。

 

 

 

 

「残りはライザー……お前だけだッ!」

 

 

 ジードは壁に手をついて立ち上がるライザーと向かい合い、構えを取ろうとする。

 ……が、それをライザーが掌で制した。

 

 

「ま、待てッ! もう終わりにしようッ! 俺の敗けだッ! リアスの事は諦めるッ!」

 

「……本当だな?」

 

「ほ、本当だッ! 信じてくれッ!」

 

「…………」

 

 

 必死になるライザーを見たジードは少し考え、終わったと言わんばかりに背を向けてバトルフィールドを去ろうとする。

 

 ……一方、そんなジードの背中を見て、ライザーはニヤリと口角を上げた。

 

 

「バカめッ! 死ねぇぇぇッ!」

 

 

 ライザーが隙だらけのジードの背中に渾身の斬擊を放つ。それはジードの装甲を切り裂き、鮮血をライザーに見せる。

 

 

 

 

 ───そう、ライザーは思っていた。

 

 

 

「リクッ! 後ろッ!」

 

「───ディアッ!」

 

「な───ッ!?」

 

 

 ジードの裏拳が斬擊を弾き飛ばす。

 

 

「レ、レイヴェルッ! 貴様ァァァァッ!」

 

 

 ライザーがレイヴェルに向かってトゲのミサイルを放つが、ジードが額のクリスタルからレーザーを放ち、全て打ち落とした。

 

 

「ありがとう、レイヴェル」

 

「御礼は結構ですわ、リク……兄を御願いします」

 

「───分かった」

 

 

 ジードは正面をライザーに向け、右手首の装甲を展開してエネルギーを充填していく。

 流石にライザーもあれはヤバイと判断したのか、必死になってジードを止めようとする。

 

 

「ま、待てッ! 悪魔でもない貴様が何故リアスの為に戦うッ!? 富かッ!? 女かッ!? なら、俺はそれ以上のモノをお前に与えr「そんなんじゃないッ!」───ひぃッ!?」

 

「大切な友達が泣いていた。大切な仲間が泣いていた。

 ───それだけで十分だッ!」

 

 

 充填が完了し、右腕に目映い光が宿る。

 

 

「や、やm───」

 

 

 逃げようとするライザーに対して、ジードは正拳突きの姿勢でエネルギーを解放した。

 

 

 

「ストライクブーストォォォォォッ!」

 

 

 72万度。焔を纏った爆熱光線がライザーに直撃。断末魔と共に爆炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

「お兄様ッ!」

 

 

 爆炎が収まると、そこには鎧が解除され、倒れ伏すライザーが一人。

 レイヴェルが駆け寄り、ジードも彼女に続いて、ライザーの安否を確認する。

 

 

「レム、ライザーの容態は?」

 

〔フェニックスの力によって外傷は治っています。ダメージの大きさに気絶しているだけのようです〕

 

「良かった……レイヴェル。ライザーの命に別状はないよ」

 

「リク、本当にありがとうございますわッ! なんとお礼を言えば良いのか……」

 

「別に御礼なんて……ん? これって───」

 

 

 ジードはライザーの手から転がり落ちた()()()()()()を拾い上げる。見ると、そこには凶悪な見た目をした異形が描かれていた。

 

 

〔確認。先程、ライザーが使用していたカプセルで間違いありません。データと照合……照合完了。どうやら『最凶獣 ヘルベロス』の力が籠められているようです。恐らく、ライザーはこのカプセルに精神を犯されていたのでしょう〕

 

 

(これがライザーを……一体、誰が渡したんだ?)

 

 

 疑問が浮かび上がるが、ジードはそれを一旦後回し。立ち上がり、この試合を観ている全ての悪魔に向かって叫んだ。

 

 

「この勝負は僕の勝ちだッ! もし、この結果に文句があるなら直接僕の所に来いッ! 僕は逃げも隠れもしないッ! いつでも相手になってやるッ!」

 

 

 その後、ジードはレイヴェルの代わりにライザーを抱え、皆が待っているであろう会場に戻っていった。




次回はエピローグ。
それでは、本日はこれにて。

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エピローグ

 はい。今回はエピローグと閑話を少し。
 ちょっとぐだぐだした感じはありますが、それはまぁご了承下さい。
 それではどうぞ。





《戦いを終えて》

 

 

 クライシス・インパクトを起こしたウルトラマンベリアル。その息子であるウルトラマンジードの名は瞬く間に冥界中に広まった。

 ただでさえ不死身の強者であるフェニックス家の才児、更には謎の力で強化されたライザーを倒したのだから無理もないだろう。

 

 ジード……陸は殆どの悪魔に恐れられ、貴族たちから討伐対象にされる筈だったのだが、

 

 

『彼は私の妹の為、その眷属の為。そして、大切な友の為に戦った。そんな優しい心の持ち主が、はたしてベリアルと同じ危険な存在だろうか?』

 

 

 サーゼクスのその一言が貴族たちを黙らせ、陸は何時ものとはいかないが、日常に戻ることが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、陸とライザーの対戦から2日。

 陸はリアスたちを地下秘密基地に連れてきていた。

 

 

「ど、どうぞ……」

 

『おぉ~』

 

 

 転移を終え、目の前の光景に驚きの声を上げるリアスたちにレムが自己紹介をする。

 

 

〔ようこそ、リアス・グレモリーとその眷属の皆さん。私は報告管理システム『REM(レム)』と申します。声だけの存在ですが、以後お見知りおきを〕

 

「あら。随分と高性能なAIね。冥界でもこれ程の物は無いわ」

 

「に、日本ってスゴいんですねッ!」

 

「いや、俺も聞いたことないっす」

 

「というよりも、これはこの星の技術では無理だと思いますわ」

 

〔ええ。私は地球人製のAIではありません〕

 

「……返答もスムーズ」

 

「驚くしかないね、これは」

 

 

 レム程のレベルが高い人工知能を見るのは皆初めて。それ故に関心がレムに集中している為、どのタイミングで話を切り出せばいいのか陸は迷ってしまう。

 しかし、そんな陸の心情を察してか、リアスたちから問いかけてきた。

 

 

「……それで、リクはどうして私たちをここに呼んだのかしら?」

 

 

 皆が陸の方に向き直り、代表してリアスが問いかける。

 また、陸の心を恐怖が埋め尽くすが、勇気を出し、陸は皆の前で頭を下げた。

 

 

「ごめんなさいッ!」

 

 

 突然の謝罪に戸惑うリアスたちだが、陸は頭を上げようとはしない。

 

 

「俺がウルトラマンだってもっと早く打ち明ければ、グレモリー先輩が悲しむ事なんて無かったし、イッセーたちが傷つくこともなかったかもしれない……なのに、俺h「顔を挙げろよ、リク」───え?」

 

「確かにお前の言う通りかもしれないけどさ、それって結局は予想論だろ? 最後には、お前は俺や部長、悪魔全員を敵に回す覚悟で助けに来てくれた。結果は俺たちの勝ちだろ? それに、サーゼクス様のお蔭で敵に回ることもなくなった。なら、何の問題もねぇよ」

 

 

 一誠の言葉にリアス、アーシア、朱乃、小猫、祐斗が頷く。

 

 

「イッセー……みんな……」

 

 

 受け入れられた……いや。最初からそうだったのだろう。恐らく、リアスがベリアルの話をしたとき、自分がウルトラマンだと伝えても問題はなかった。

 他の者たちはともかく、一誠たちはそうだ。そういう人たちだ。

 なのに、自分はビクビクと怯えていた。それが情けなくて、でも受け入れてくれたことが嬉しくて、気がつけば陸は泣いていた。

 

 

(良かったですね、リク)

 

(リク、良かったニャア)

 

 

 レムは声に出さず、黒歌は別室でモニター越しに陸の事を見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《閑話 その一》

 

 

 

 あれから数日。

 星雲荘の一室では、慌ただしく引っ越しの作業が行われていた。

 

 

「よし。服はこんな物かな」

 

「……食器、纏め終わりました」

 

「後は運ぶだけですわ」

 

「ありがとうございます、姫島先輩、塔城さん」

 

 

 動きやすい服装で陸の引っ越し作業を手伝う朱乃と小猫。黒歌は用事があると言って、二人が来る前に出掛けていった。

 

 ───さて、そろそろ説明するとしよう。

 何故、陸は引っ越しをしているのか。その理由は陸自身……正確には、陸のおサイフ事情にあった。

 きっかけは先日の家賃の振込の時。陸は学生だからと、晴雄が家賃を安くしてくれているとはいえ、電気代や水道代などを加算すると一人の高校生としてはかなり痛い出費になる。バイト代の殆どはそれらに消え、食費を抜けば自由に使えるお金はほんの僅か。オタクの陸にとって、それは辛い事だ。

 そんな陸にレムが一言。

 

 

『なら、地下秘密基地(ここ)に住めばよろしいのでは? ここなら電気代、水道代、その他諸々は必要ありませんし、現マスターはリクですので、ここはリクの家のような場所です』

 

 

 それを聞いた陸はすぐさま地下室に移り住む事を決定。

 昨日の内に晴雄に引っ越す事を伝え、今まで御世話になりましたと挨拶を終えた。

 勿論、金が理由で引っ越しますと正直に言える訳もなく、学校近くで寮が出来たからそこに引っ越すと嘘をつき、朱乃の催眠術で誤魔化した。

 

 

 

 話を戻して、荷造りをある程度終えた陸たちは休憩をとることに。今は卓袱台を囲んでお茶を飲んでいた。

 

 

「ふぅ……改めて、ありがとうございます。態々手伝って貰っちゃって」

 

「いえいえ。陸くんには御世話になりましたから」

 

「……借りを残しておくのが嫌だっただけです」

 

 

 朱乃は小さく笑い、小猫は何時ものように答える。

 

 

「そう言えば、グレモリー先輩も引っ越ししたんですよね……イッセーの家に」

 

「ええ。今頃おもしr───大変な事になってるでしょうね」

 

「……今のは聞かなかった事にしてあげます」

 

「あらあら。何の事でしょう───」

 

 

 お茶を片手に話を弾ませる三人。

 そんなとき、部屋にインターホンの音が響いた。

 陸は二人に断りを入れ、玄関へ。扉を開けると、そこには紙袋を抱えたレイヴェルが立っていた。

 

 

「ごきげんよう、リク───って、頭にタオルなんて巻いてどうしましたの?」

 

「あ、ごめん。今、引っ越しの作業をしていて。それで、レイヴェルは何でここに?」

 

「先日のお礼をしに来ましたわ。これを」

 

 

 そう言って、レイヴェルは手に持っていた紙袋を差し出した。受け取った陸は許可を貰い、袋を開けると、中には前に買い損ねたドンシャインのフィギュアが入っていた。

 

 

「これって……ッ!」

 

「あの後、観賞用と保存用とで二つ買っていましたの。その内の一つを差し上げますわ」

 

「いいの?」

 

「ええ。お兄様を助けてくださったお礼ですので。むしろ、まだ足りないくらいですわ」

 

「そうなんだ……まあ、ありがとう。引っ越しが終わったら、すぐに飾るよ」

 

「そう言えば、どこに引っ越されるのですの?」

 

「あー、えっと……」

 

 

 まさか『地下に引っ越す』なんて素直に答えるわけにも行かず、とりあえず『近くに引っ越す』と答える陸に、レイヴェルは少し遠慮しながら問いかけた。

 

 

「その……引っ越しが終わったら、遊びに伺っても宜しいですか? またドンシャインの話をしたいので……」

 

「───うん。何時でも電話して。迎えに行くから」

 

 

 陸の言葉にレイヴェルの表情がパァッと明るくなった。

 

 

「それでは、私はこれで失礼しますわ」

 

「うん。また、今度ね」

 

「……と、すいません。一つだけ忘れ物をしましたわ。リク、目を閉じて下さいまし」

 

「え? 何d「いいから」───は、はい」

 

 

 レイヴェルに言われた通り、陸は目を閉じ、視界を黒一色に染める。結果、敏感になっていく視界以外の五感。

 その時、

 

 

  ────チュッ。

 

 

「───え?」

 

 

 僅かな時間、唇に感じる柔らかい感触。

 目を開けると、顔を赤く染めるレイヴェルの姿。

 

 

「レ、レイヴェル? 今のって……」

 

「そ、それではッ! 今度こそ失礼しますわッ!」

 

 

 そう言って、走り去っていくレイヴェルを陸はただ見つめることしか出来なかった。

 唇には先程の感触がまだ生々しく残っている。

 

 

(今のって、やっぱり……───)

 

 

 指先が自然と唇に向かい、

 

 

 

 

「「ジー…………」」

 

「にゃあああッ!!?」

 

 

 背後から感じる二つの視線がそれを拒んだ。

 

 

「ふ、二人とも、何時から見てたのッ!?」

 

「わりと最初からですわね」

 

「最初からって……?」

 

「……ごきげんよう、リク」

 

「本当に最初からだったッ!?」

 

「……すけこまし」

 

「それは違うッ! 違うからッ!」

 

 

 絶対零度にも等しい視線を向ける小猫に、何故か『誤解だ』と言い続ける陸だった。

 

 

 

 

 

 一方、星雲荘の近くでは、

 

 

「あの泥棒焼き鳥めぇッ! 私だってキスしたことニャいのにぃッ!!」

 

 

 と、隠れて見ていた黒歌がハンカチを噛んでいたのは、また別のはなし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《閑話 その二》

 

 

 

「~~~♪」

 

 

 とある教会。その建物の廊下で、聖歌とはまったく違う歌を歌う、聖職者の衣装に身を包んだツインテールの少女がいた。

 聖歌のように落ち着いた曲ではなく、日本の特撮アニメのオープニングに流れるような、リズミカルな曲。

 

 

「~~~~「ミス紫藤ッ!」は、はいッ!」

 

 

 名前を呼ばれ、慌てて歌を止める少女『紫藤イリナ』は自身の後ろに立っていた上司に当たる男性の方へ体を向ける。

 

 

「聖歌以外の曲はできる限り歌うなとあれほど言ったのに、また歌っていましたね」

 

「申し訳ございません、牧師ッ! ですが、ドンシャインは私のヒーローd「言い訳は結構ッ!」す、すいません……」

 

「まったく……これから任務を与えようと思った矢先でこれとは……」

 

「任務、ですか?」

 

「ええ。重大な任務です。貴女には日本に向かって貰います。詳しい任務の内容はn「日本ですかッ!」急に大声を出さないッ!」

 

「す、すいませんッ!」

 

「まったくッ! 貴女と言う人は───」

 

 

 少女に対して説教を始める牧師だったが、当のイリナは殆ど聞こえていなかった。

 

 

(やったぁッ! 久々の日本ッ! ()()会えるッ!)

 

 

 少女の頭の中に、まだ幼い『彼』の姿が思い浮かぶ。

 元気にしているだろうか。どんな風に成長しているか。

 彼女は今すぐにでも日本に向かいたい気持ちで一杯になった。

 

 

(早く会いたいなぁ───リっくんに)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《閑話 その三》

 

 

 

 場所は陸たちがいる宇宙から遥か彼方。

 一人の戦士が旅立とうとしていた。

 

 

「本当に行くのですか?」

 

「俺たちを置いて、一人で向かうのか?」

 

「あぁ。バラージの盾も、あの戦いの傷が完全には癒えてない。お前らと一緒は無理だ」

 

「なら、完全に修復するのを待つべきだ」

 

「いや。それだと手遅れになる気がするんだ」

 

「それはどういうことだ?」

 

「今も頭から離れねぇんだよ。あの時の……炎に包まれた中で嘲笑うような、ベリアルの野郎の笑い声がな」

 

 

 

 

 

 

 




次回は少し時間を置いてから投稿します。
それでは今回はこれにて。

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