ハイスクールD×D Einherjar Nigredo (紫陽花)
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Einleitender Teil

 人生において死は唯一無二のものである

一度きりだからこそ、生は輝き尊いものとなる

故にやり直しが効き、繰り返しのある「生と死」には価値がない

 

いや、永劫に「死人」である俺に生はなく死もない

この終わりのない永劫回帰の中、生きる事も、死ぬことも出来ず

黄金の獣(ラインハルト )に囚われながら在り続け、水銀(メルクリウス )の操り人形と化している

 

勝つことの出来ない戦争

守るべきである自国民への虐殺(ホロコースト)

兄弟との最後の聖戦(殺し合い)

 

あと何回、繰り返せば終わる?

あと何人、守るべき民を殺せばいい?

あと何回、戦い合えばいい?

 

 

あと何回、唯一無二である俺の死を汚せばいい?

俺はそれ(真実の死)を齎すであろう約束を果たす為に

甘んじて苦汁をなめよう

 

 

 

 この身が至高の終焉を迎える、その時まで

 

 

 

********************************************

 

 

 

 五感が外部からの刺激を感じる。ありえないはずの、再度感じる事のない刺激に驚く。

 

 何故? 何故俺は今此処に在る?

何故躰がある。灼けた鉄の臭いがする慣れ親しんだ躰。

先の闘いを経て、今度こそは終わりだと、この手にしたと確信したその輝かしき栄光が何故ない。

まだ、終わらないというのか? あれだけの事をして、まだ続くというのか。

 

 要らない、もうあれは要らない。

 

血の赤も、骨の白も――焼け爛れる肉の黒も腹から噴き出る臓腑の灰も……

 

 

――思考が途切れる。そして感じる、違和感。

躰が違う。確かに聖遺物を感じるのにチガウ。

■■が■■だした以前の躰ではない。それなのに……聖遺物が共にあるという感覚。

 

 認めたくない現実・理解が出来ない事実が、降りかかってくる。

いつもとは違う――圧倒的なまでの未知が俺を包む。

 

 

 何者かの声が聞こえ、目を開く。

目の前には見も知らぬ男女の姿、周りを見て病室の一室である事が解る。そして自分の躰が赤子となり、ベッドに寝かされているのを理解した。

改めて目の前にいる男女の姿を見ると、アジア系の顔立ちをしている。会話から察するに俺は、目の前の人間の養子で、この場所が日本の病院である事を知った。

 

 なんだ、これは?

 

 繰り返しや蘇生でもなく、転生とでもいうのか。俺はこんなものなど望んでいない!

これも■■の仕業だというのか? それにラインハルトや兄弟はどうなったというのか。疑問が尽きない。

 

 

                    †

 

 

 あれから暫く時が経ち、現状を少しずつではあるが理解していった。

俺は日本の一般家庭の子供として生まれ変わった。

今は昔と違い、嘘のように平和だ。血の赤も、骨の白もなければ――焼け爛れる肉の黒も腹から噴き出る臓腑の灰もない。虐殺も、黄金も水銀もいない。

 

 

 しかし、真のヴァルハラもない。

 

 

 この記憶いや、■■■という個我がなければ幸せな環境だろう。

虐待する親もなく・戦争もない、不自由のない日常。それこそ……兄弟が愛したであろう平和な日常。

 

 だからこそ、俺には似合わない。

戦場で生まれ、戦場で消える。そういう存在だからだ。

間違っても、平和な日常を過ごす人間ではなく――戦火と共に消えさるべきである死人。しかし自ら命を絶つほど、俺の死は軽くなく、矜持がそれを許さない。だからこそ何時か終焉に辿り着くと信じ、奴らとの約定を果たす為、半身とでもいえる兄弟と闘い、断頭の一撃を受け敗北をした。

 

 しかしここには奴らはおらず、諏訪原という市もない。だが聖遺物がある以上素直に死ねるとも思えない。未だ囚われているのではないかという疑念がわく。

 

 

 死したとしてもまた蘇るのではないかと?

 

 故に、終焉を求めるこの生に意義はなく、ただ流されているだけの空虚な生。

常時発現していた聖遺物も、今では無用の長物となった。俺を象徴していたそれが、象徴たりえず埋もれていく。

 

 そしてまた、一日が始まる。

兄弟が心から渇望し、俺が望まなかった平穏な時間が。

 

                    

 

                    ◆

 

 

 

 私立駒王学園

 

 近年女子高から共学となった、一見何処にでもありそうな学園。

設備が整っており、学生からの評判も良い。その為、優れた才を持つ生徒も数多く在学しその噂を聴き、年々志望者数が上がっている人気の学園である。その上教師陣も、優れた才を持つ者・優秀な成績の者の発掘に力を入れている。というのが表向きの面で、一般人には知られていない裏の面もある。

 

 世界には人間だけではなく悪魔、天使、神など空想と信じられていた存在が実在する。此処駒王学園は悪魔の中でも、特に力を持った「グレモリー家」次期当主であるリアス・グレモリーの領土いや、所有物である。その為、学園のトップも悪魔関係者で占められ、生徒にも悪魔が多数在籍している

 

 

 

 彼に出会えたのは運が良かった

私、姫島朱乃はそう思う。

 

 私がまだ中学3年生だった頃、偶然路上で見かけたが、一目見ただけで違うとわかった。私と同じリアスの眷属である、金色の髪・爽やかな容姿を持った青年――木場祐斗の様に神器を持っている。そう感じた。

 

 しかし感じるそれは非常に禍々しく、彼を見ているだけで私の本能ともいえる部分が警鐘を鳴らした。部長へ即座に報告し彼――大竹剛を監視・保護の意味も含めて、駒王学園に勧誘することになった。

 

 そして私は彼と同じクラスになり、不本意ではあるが周りに気付かれないように観察をしていた。

 

 彼はとても物静かで、寡黙という言葉がピタリと当てはまる様な人。まるで同年代というよりも年上の人という錯覚すらしてしまう程。

 

 また制服の上からも判る程鍛えられた身躯からは圧倒的なまでの威圧感があり、入学したての頃はクラスメートに怯えられていた彼だが、慣れてきたのか稀にではあるが話しかけられている。その際口数は少ないが、寡黙な所も併せて「背中で語る男みたい」と男子からの評判ではある。

 

 そんな人格的に何の問題が見られない彼だからこそ、あんなにも禍々しい気を放っている神器を所持しているのがとても心配。何時か、その力を奪おうとする輩に襲われてしまうのではないかと。もし襲われてしまったら、命の危険すらもある。

 

 授業が終わり、私はオカルト部でリアス――部長と話をしていた。勿論観察対象である大竹君について。部長も彼の噂を聴いていた様で、危険性は低いと判断し近い内に招待する事に決まった。今この場にはいない眷属である木場君と、子猫ちゃんも呼んで。

 

 話し合いも終わり、部長へ紅茶を出そうとした時魔力の行使を感じた。勘違いでなければ可笑しい。普通ならば結界を張ったりして秘匿すべき筈なのにそれすらも行わないとは、私達への挑発なのか。それとも結界も張れない程の小物かもしれない。

 

「朱乃!」

部長も感じたのか、私へと叫んだ

 

「解っております、部長」

 

「なら今すぐ向かうわよ。この地で……このリアス・グレモリーの前で狼藉を働くなんて、到底見過ごせる事ではないわ」

 

「まったくですわ。うふふ。このようなおいたした子は、しっかりと『オシオキ』をしないといけませんわね」

 

 そう言いながら私達は、全速力で魔力のする場所へ向かった。

周囲に被害が出ない内に――絶対に逃がさない為に。

 

 3、4分ぐらいかかっただろうか、目的地に到着し私は……言葉を失った。

二階建ての普通であった家――玄関のドアが四散し、外からでも見える廊下の壁に出来た大きな穴。

 

そして今でも聞こえる家が壊れる音。即座に結界を張り、部長と共に突入した。

 

 温かみのある木造の廊下も今では木片が散らばり、寝室と思わしき部屋にはどす黒い粘性のある液体が一面に飛び散り、部屋の中央には無作為にナニカが、二つ転がっていた。

 

 それは生々しいピンク色で、鈍白色の固形物が所々見えていた。

 

「「…………」」

 思わず息を呑んでしまった。目を背けたくなる光景。間に合わなかった、助ける事が出来なかったというやるせなさが襲いかかる。

 

「部長……」

 

「わかっているわ、朱乃。今すぐは無理でも手厚く弔いましょう。そしてこんな事をした下手人を仕留めるわよ。塵一つ残しもしないわ」

 

 部長も私と同じように心を痛め、まだ見ぬ敵に対して義憤を感じている。

到底許せる事ではない。

 

 そう思った瞬間、上から圧倒的なまでの死の予感を感じ砲撃が着弾したかの様な激しい轟音が聞こえた。急いで二階へ上がり最初に見えたのは、黒い翼を持ち、横たわった男。

 

 まるで近距離から拳銃の弾丸を直撃したかのように、頸部から上が弾けていた。当然死んでいる。その光景に、私も部長も言葉を無くした。

 

……ありえないと。

 

 最悪の予想として、彼らが殺されているという事態は想定したが、襲う側が殺されているなんて事態は考え付かなかった。だからこその異常。そして死体から目をそらし、真正面を向き彼を見た。

 

 鋼の如く鍛え上げられた体躯に、隙を感じさせない構え。刃物の様に鋭い眼光で此方を見ている彼に尋常ではない武威を感じ、体が震えた。見ているだけで私の本能から死を感じさせるその姿が、学園での彼と一致がしない。一般人である筈の彼が生物を殺して錯乱もしておらず、此方を冷静に観察している。

 

 それに加えて彼は、人外である堕天使の頭を弾き飛ばしたというのに身に寸鉄すらも帯びていない。

 

 所謂、徒手空拳。

 

 ただの拳であのような事、私や子猫ちゃんですら厳しいのに彼はやってのけた。そして未だに彼は此方の様子を観察しながら戦闘態勢を解いていない。とてもではないが反応だけを見ると、ただの一般人のそれではない。

 

 しかし調べ上げた彼の過去が一般人であると証明する。両親は普通の一般人。彼も可笑しな経歴はなくごく普通の高校生。ならば所持している神器の影響か?幾ら考えていても答えは出ない。

 

 このまま、見詰め合っても埒が明かない為、此方も警戒しながら主である部長が話しかけた。

 

「私はリアス・グレモリーという者よ。私達は貴方に危害を加えないわ。こんな事があって、信じてなんて虫のいい話だけどお願い、そのままでいいから話を聴いて」

 そして私も続いた。

 

「学園ぶりですわね、大竹君。クラスメートの姫島朱乃と申します。彼女の言うとおり私達は危害を加えません。寧ろ貴方を救出する為に来たのです。どうか信じて下さいませ」

少し考えたのだろうか、一息おいてから彼は答えた。

 

「……いいだろう」

 

 低く、重厚感のある声。感じるそれには険があり、敵意が見え隠れしている。

 

「ありがとう。本題に入る前に貴方に言わなければいけない事があるの。此度は貴方のご両親を助ける事が出来なくてごめんなさい」

 

 そう言い部長は頭を下げた。私も彼女に続いて頭を下げた。

今頭を下げるのは危険ではあるが、何の罪もない人を守れる事が出来なかった私達にはそれしか出来なかった。これがただの自慰行為である事はわかっている。それでも頭を下げずにはいられなかった。

 

 苦しい。襲われると危惧していて、守る事も出来ず彼の御両親を死なせてしまったのが。大竹君はご両親を亡くされてもっと苦しい筈なのに、表情を出さずにいるのを直視するのがとてもつらい。

 

 貴方は大丈夫なの? 

 

 ご両親が亡くなって、命を狙われて、生命を奪ってしまって。

肉体は大丈夫かもしれないけれど、心は大丈夫なの? 

悲しい時は泣かないとココロが死んでしまう。

だからそんな表情しないで欲しい。

 

 しかし彼は私達の対応に特段気にした素振りも見せず聴いてきた。

 

「本題は何だ?」

 

「その事については長い話になってしまうから、貴方には酷な話だけれど先に下のご両親を弔いましょう。いつまでもあのままでは可哀想だわ」

 

 彼はその言葉を聴くと何も語らず一階へ降りて行った。

 

「本当に彼は大丈夫なのでしょうか、部長?」

 

「私にもわからないわ、朱乃。辛くない筈がない。それでも彼はその姿を見せないのならば、今出来る事を迅速にしましょう。そして……独りにならないように、これ以上辛い思いをさせない為にも私達で、彼を支えましょう」

 

「わかりましたわ部長。……そのぐらいしか出来ない我が身が歯がゆいです」

 

「…………。行きましょう、朱乃」

 

 

 その後、彼と一緒にご両親を簡潔ではあるが弔った。

両親の痛々しい変わり果てた姿を見ても表情を崩すことなく手を動かし続けた。

そして一言「 Schlafen Sie friedlich( 安らかに眠れ)」と言ったのが印象的だった。

 

「弔い感謝する」

 彼からの感謝の言葉に私は救われる気持ちになった。こんな僅かな事でも力になれたのだと。

 

「力になれてこちらも嬉しいわ。それで話についてなんだけど、時間がとてもかかりそうなので、一旦駒王学園に来て頂いてもよろしくて? あそこは私達の本拠地でもあるの。この家に対する後始末もあるし、この後のことも決めなくてはいけないわ。絶対に悪いようにはしないから、ねっ?」

 

「そうですわよ、大竹君。このままじゃ寝る所もままならないですわ。後は関係者の方にさせますので是非とも来て下さい」 

 

 先程より幾許かは敵意の緩んだ彼に尋ねた。

 

「……いいだろう、着いていこう」

 

 彼の返事を受けてから、部長は学園関係者に連絡をして迎えの者と、後始末の人員を呼んだ。

 

 

 学園へ向かう車の中、彼は一時も警戒を解かずに坐していた。

その鋭い瞳で、耳で、目でと、ありとあらゆる五感を以って己の安全の確保に傾注していた。何か話そうと思っても彼から放たれる――武道の達人が放つような厳粛な、場が引き締まるような空気。否が応でも背がピッとなってしまい自然と口が閉じてしまう。そのまましじまの空間で時を経て学園に到着した。

 

 

 

 旧校舎にあるオカルト研究部に招き入れ、改めて自己紹介をした。

「改めまして、駒王学園一年リアス・グレモリーよ。こう見えても、悪魔をしているわ」

 

「同じく一年の姫島朱乃です。私も悪魔をしておりますわ」

 そう言い私達は背中から悪魔の象徴である漆黒の翼を出した。

 

 彼はこの話を聴き、翼を目にしても何の反応もせず、ただ私達を見ている。

本当にぶれないお人。両親が殺されて、悪魔という未知の生物の存在を知ってなお、変わらない、ぶれない姿勢。

 

 長話になる為、人数分の紅茶を入れ部長の隣に腰を下ろした。

 

「この世界には人間以外にも、悪魔、天使、堕天使など所謂ファンタジーとされている生物が存在しているわ。勿論それらの存在は普通に生きていて出会うことは稀よ。表の世界に生きる一般人と裏の世界に生きる異端者って棲み分けね。基本的に貴方達は日中に生き、私達は夜に生きる。わかりやすいでしょ?」

 

 彼は一貫して黙して語らず、ただ聴いている。話を自分の中で咀嚼している。

会話以外の音は時折部長や私が紅茶を飲む音だけ。彼は身動きせず紅茶にも手を出さない。

 

「貴方を襲った男は堕天使。元は神に仕えていた聖なる存在だったわ。邪な感情や行為をしてしまった為に堕ちた存在。私達悪魔陣営の敵でもあるの」

 

「そして貴方が狙われた理由は神器という物を所持していたから。神器というのは、特定の人間に宿る特別な力の事なの。例を挙げるとアーサー王や、聖ジョージ等の歴史上に名を残す偉人達が神器所持者だと言われているわ」

 

「現在でも神器を所持して活躍している方はいらっしゃいますわ。勿論私達の中にもおります」

 

「そして大半は人間社会規模でしか機能しない物ばかりよ。自分の肉体を頑強にしたり、傷を癒したりなどね。だけれど中には悪魔や堕天使を脅かす程、強力な神器もあるの。そういった神器を奴ら堕天使達は狙っているわ」

 

「神器を宿すのは先天的に人間若しくは人間の血を引く存在だけなので、持っていない者が幾ら努力しても所持する事は不可能。その為に所持者は殺められるか、奪い取られてしまいますわ。最悪な場合ですが」

 

「此処までは大丈夫かしら? 常識の埒外の事だから理解するのは大変だと思うけれど、必ず理解して欲しい事柄だから理解出来るまで何回も説明するわ。貴方の命に関わる大切な事なのだから」

 

 と部長が彼の眼を見ながら、窺っている。話について来ているかを

 

「話は理解できている。真実かどうかは別としてな……だが何故そこまでする? 何が目的だ」

やはり彼は疑っているみたい。何故そこまで親身になるのかと。

 

 何の見返りも求めず此処まで親切にする事は、何も知らない人からすればとても不思議な事。

特に彼みたいな立場からすれば、下手に借りを作れば後で取り返しがつかない事態になってしまうかもと考えても可笑しくはない。

 

 だからこそ、此処できちんと理解してもらわないといけない。貴方はもう平和な表の世界で生き続けるのは難しいと。非常に酷な話しだけれどこの事を避けてはいられない事なのだから。

 

「貴方が不審の念を持つのも、仕方ない事だと私は思う。それでもこの場では私を信じてとしか言えないわ。そして此処からがその事に関する大事な話よ」

 

「私達悪魔は堕天使達と数える事が億劫になる程昔から、いがみ合って来たわ。冥界――所謂地獄という場所の覇権を巡ってね。二分されている領地を互いが互いに増やそうとしているの。悪魔は人間の願いを叶えて代価を貰い、力を蓄える。堕天使は人間を操って直接・間接問わず悪魔を滅ぼしている。当然イタチごっこよね、これじゃあ。片方は蓄え片方は滅ぼす。本来ある十に一たしてから一引いても同じ事。実際はこんな単純な事ではないのだけれど簡単に言えばそういう事。だけれど、もし其処に強力な力を持つ神器があれば形勢は変わるわよね?」

 

「神器次第では一騎当千も可笑しくはなく、ただ強力な神器持ちがいる。其れだけで一気に勢力図を変えてしまう程の影響があります。当然の如く両陣営とも神器の獲得には力を入れておりますわ。それが引きこむか、剥奪かという手段かはまた別としてです」

 

「其れが誰が見ても直ぐにわかり、とても禍々しく感じる物となれば、強大な力を持っていると推測し誰も放っておかないわよね?」

 

「俺を引き込むつもりか」

 

 先程もそうだけど、彼は理解が凄く速いと思う。こんな空想染みた話でも、事の真偽は置いといてすんなりと理解の色を示す。

 

 まるで最初から、そのような存在を知っているかのように。

 

 本当に今迄知らなかったのか……それすらも疑わしくなってしまう。

そもそも、一般人が突然襲われて悪魔やら堕天使などの話をされて冷静でいられるものなのか?

 

 いや、どんな冷静な人でも驚くぐらいの反応はする筈。その点から言えば彼もまた一般人ではないという事かもしれない。その精神が、その在り様が。

そう考えている中でも話は続いている。今日は本当に思考が脇道にそれてばっかりだ。注意しないといけない。

 

「卑怯な言い方になってしまうけれど、貴方は今迄通りの平和な日常を享受出来ないわ。こうして堕天使に見つかったが最期、もう無関係ではいられない。貴方にもわかっているのでしょう? 関わるという選択肢しかない事が」

 

「そんな急に選択を促しても仕方ありませんわ部長。どうするにしても今は考える時間が必要でしょうし。大竹君もそれでどうですの?」

 

「私はそれでいいわよ朱乃。少し焦っていたみたいね。ごめんなさいね、大竹剛君」

 

 彼からの明確な返答はないが、何も言わない所肯定でいいのかしら?

 

「何もないようなら、取り敢えず今日はもう遅いし、明日はちょうど土曜日で学園が休みという事で終わりにしたいのだけれど大丈夫かしら? 貴方については安全面の確保という点で此処で寝泊まりして欲しいのだけれどダメかしら?」

 

「貴方にとって此処が未だ信用ならぬ場所で安心出来ないのはわかっているわ。次善の策としてホテルも用意できるけどどちらがよろしいかしら? ただホテルの方は安全上の点からボディーガードやその他諸々をつけさせて頂くけれど。若しくは第三の案を出しても平気よ。その場合は一応折衷案という形で譲歩をして頂けると助かるのだけれど」

 

「何も私達は、貴方を縛ろうという訳ではないです。貴方がどの形であれ選択をするまでは最初に申した通り守護させてくださいな。これは私達悪魔の契約でもありますのよ。代価は選択した結果を教えて頂く事。ですので選択するまでは私姫島朱乃の名を以って貴方に一切の危険がないように守り抜く事を誓いますわ」

 

「ふふふ、言いたい事は全部朱乃に言われてしまったけれど、私リアス・グレモリーも名前を以って誓うわ」

 

「最初の案で問題ない」

 

 彼は悩む事もなく即答した。

 

「ありがとう。では部屋に案内するわね、此方よ。言い忘れていたけれど私達も一緒に眠るけど、幾ら私達が美人だからって襲っちゃダメよ。朱乃も今日一日ぐらい大丈夫でしょう?」

 

 と部長が人差し指で自分の頬をつつきながらにこやかに言った。

 

「あらあら、部長私は大丈夫です。お泊まり会なんて私も久しぶりですもの、とても楽しみですわ。大竹君もお年頃だから仕方ありませんが、私達に手を出してはメですわよ」

 

 私も彼にからかい半分に言ってみたけれど、無反応で私達は女として見られていないのではないかと思ってしまう。このぐらいの男の子は異性に興味津津と聞いていたが彼はそうではないのかもしれない。

 

 一応私にも女としてのプライドがあるので、あんまりがっつかれても困るけれど、こうも無反応もなのもちょっと傷つく。部長もスルーされて頬笑みが引き攣っている。

 

 

 部屋に着き、彼は宛がわれたベッドを使わず、直接床に座り壁にもたれかかった。片膝を曲げ、膝頭に腕と頭をのせ眼を閉じている。

ベッドで寝ず、こういう風にするのを彼らしいと思ってしまった。

 

さて、私も準備をしましょうか。

 

 

 

 

 

 



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Eine Stufe zu einem Bündnis

 瞑目し先程聴いた話について彼は熟思する。

 

 悪魔や堕天使など空想上の生物が存在している事柄については死人である自分が存在しているのだから特段不思議な事ではないと即座に切り捨てる。

 

 彼にとって気になる点は別である。こうして力のある組織に見つかり形式的ではあるが保護された事。襲撃を受けている所に、この地域の責任者が直々に救助に来る。

まるで見計らったかの様な間の救助、そして保護。言葉にすれば何ら可笑しな事ではないが、余りにも出来過ぎていると疑念を抱いている。

 

 この一件については尋常な人間ならば、「救われて運が良かった」とそう感じる。この地域一帯を領地とする組織による保護。身の安全は約束され、特異な力の制御も学べる。

 

 正しく最善の一手。

 

 また尋常ならぬ人間でも領主とのコネは魅力的であり、交渉次第では傘下にと考える。

 

 どちら側に立っても利点が多い選択。

 

 逆に保護されない事を選択しても、得られるのは何時崩れるかもわからない日常のみ。他の要因が入ってこない限り保護を受けない選択肢はなく、素直に受けるべきと彼は考える。

 

 そう考える。自然にそう考える。そこに一片の違和感などなく、筋道もしっかりしており徹頭徹尾、今回の出来事が良く出来ている物語の様に彼は見える。傍から見れば何の力も持たない人間が、特異な力を持ち、未知の世界に関わる。そして周りにいるのは頼もしい仲間達。

 

 なんて事ないありふれた筋書き。ありふれた英雄譚。まるで何処かで読んだかのような文学作品の序幕を想起させる出来事。

 

 ふと彼の脳裏に、蛇の影が遮った。全て奴が仕組んだものではないかと。

 

 聖遺物の力に似た、神から給う"神器"

 ヴェヴェルスブルグ城に囚われていた自分が転生した事。

 現実味がなく何処か物語染みた今迄の軌跡。

 

 考えれば考える程、判断材料は少ないが、否と。力強く否定も出来ない。彼の者を知っているならば、勘繰ってしまう一連の流れ。

 

 (そもそも俺は、この出来事に遭遇するのは本当に初めてだったのか? ただ気付いていないだけで、何回も繰り返しているのではないか?)

 彼の思考に病的なまでの不審の念がわく。

 奴ならば出来るという嫌悪すべき心慮。

 

 息をつく……熟思したが、結論は出ず。

彼はそう判断し、次の事項へ意識をシフトした。

 

 この先の事についても同様。

 

 蛇も黄金もおらず、兄弟もいない。我が身にかかった祝福(呪い)も解けたかすらも不明。

かつての蛇との契約すらも、今となっては無きに等しい。

 

 このまま何もせずに生き、そのまま死して、真実死に逝く事が出来るかも解らない。

かといって、死す為にすべき"ナニカ"が現状不明な為に何も出来ず。

前進も後退も出来ず、手詰まりの状態。

 

 現状はグレモリー陣営に属して情報を収集し、すべき事を見つける。

そして……至高の終焉を目指し、自分の手で掴み取る。ただそれだけを為す。

 

 その他有象無象はどうでもいい。

今までと変わらない結論に行き着いた。

 

 帰するところ、彼のパーソナリティーは以前と寸分違わず変わっていない。別個体への転生という既存の常識を打ち破るかの現象を体験し、悪魔や天使といった空想でしかあり得ない者達が存在する世界を知る。総じて価値観や性格の変化、所謂個我が歪むのが当たり前の状況にいても彼は変わらない。

 

“敵対する者には武威を以って征し、無用な戦は避けて進む。全ては切望するソレを叶える為”

至極単純な考えではあるが、だからこそ彼は揺らがない。

それ以外に興味・関心など無く、彼自身で完結しているが故に、外部の影響を受けない。感じない。

 

 

 そして、思索にふけるのを終えた彼は眠らずに、夜が明けるのを待った。

 

 

 

                     ◆

 

 

 

 夜が明け、彼は再びオカルト部の部室に案内され席に着いた。

協力するか否かの問答に答える為。

 

「一夜経ったけれど考えは纏まったかしら」

 

「そちらに協力するのはやぶさかでないが……条件がある」

 

 予め条件付きでの協調を推察していたのであろう、彼女は即座に対応をした。

 

「条件? 此方に出来る事なら最大限協力させてもらうわ」

 

「俺の目的の邪魔をしなければいい。そして情報を求める。ただそれだけだ」

 

 何とも曖昧で判断し辛い内容の為か、彼女は応と答える事が出来なかった。

目的次第では犯罪の片棒を担ぐ事になってしまうので、学園周辺を領土とする彼女は安易に判断せず、彼にその目的の委細を尋ねた。

 

「目的と情報? 失礼なのは承知で聴いてもよろしいかしら? その目的と情報についてね。協力すると言っても人の倫理や尊厳を破るような事は、協力出来ないし、絶対にさせないわ」

 

「……俺の目的は徹頭徹尾俺自身に関する事だ――他に影響は与えん。情報については、その目的を成就する為に必要なだけだ」

 

「もう、全然質問に対して答えてないじゃない。わかったわ、目的については詳しく聴かない。ただこれだけは聴かせて。……貴方の目的は誰かを不幸にするものかしら?」

 

 一拍おき、今までと違う、嘘を許さぬといった口調と毅然とした眼差しで彼女は問い掛けた。

その問いに対し彼は否定の意を表し、引き続き話を続けた。

 

「そう。大竹君、貴方の言葉信じさせてもらうわ。知りたい情報とやらについては、また後ほどでも宜しいかしら? さて話は変わって、貴方に協力してもらいたい事について、説明するわね。朱乃お願い」

 

 協調の話も粗方ついた為、今後の細かい点を、後ろで控えていた朱乃が話しだす。

 

「こちらについては部長に変わりまして、私からご説明させて頂きます。まずは、貴方が所持している神器が何なのかを御調べいたしますわ。その後、より詳しく此方側の様々な説明・神器の制御方法を学んで頂きます」

 

「そして御自身の身を守る為の力を付けて頂きたいのです」

 

「今の貴方には酷な話だけれども、昨夜話した通り貴方は私達の様な裏の者からすれば……いいえ表の者達からしてもとても目に付くのよ」

 

「そして、他の神器所持者と比べ物にならない程、異彩を放っている者が唯の人間であるというのは、力を求めている勢力からすればリスクを冒してでも、求める価値があると判断してしまう程よ。唯でさえ珍しい神器所持者だけれど私も此処まで強く力を感じるのは初めてよ」

 

「憶測だけれども貴方の神器は――神器の中でも特に力を持つと言われている神滅具(ロンギヌス)と呼ばれる代物かもしれないわ」

 

 ロンギヌス。特に力がある神器をロンギヌスと呼称すると、彼女はそう言った。

彼にとって忘れもしない。いや出来ないあの黄金の聖遺物。

 

聖約・運命の神槍(ロンギヌスランゼ・テスタメント)

 

 此処に来て、更に疑念が強くなる。

唯の偶然なのだろうかと。

 

 神器の中でも、特に力を持つ物の代名詞がロンギヌス。

またしても彼の者の影が、彼の頭を過ぎる。

 

「無論此方も全力で貴方を守るわ。それでも、神滅具クラスともなると、遮二無二襲いかかってくる輩がいないとは言い切れない。その他にも悪魔・堕天使関係なく自陣営へと取り込もうとする動きも出てくるわ。そうなった時、貴方自身に力がないと身を守る事はおろか、何も選択出来ずになってしまうかもしれないの。そうならない為に、力を付けて欲しいの」

 

「ほんの僅かな時間しか貴方と関わっていないけれど、貴方は無暗矢鱈にその力を使う事をよしとしない筈。出会ってからずっと見ていたけれど、歩く時ですら身体の芯がぶれずに動き、服の上からでもわかる程鍛え上げられた肉体。その手に疎い人が見てもわかるわ、この人は強いってね。そんな貴方が誰にも暴力を振るわず穏やかに暮らし、私達に対しても力ではなく、会話で事を済ました」

 

「とても好ましい程の実直さよ。現に私達は貴方の人柄を好ましいと思っているわ。だからこそ、とても心配。貴方がどんなに鍛えていても、私達悪魔や堕天使とは肉体のスペックが桁外れに違うの。この前はただ運が良かっただけかもしれない。逆に、貴方の方が単純に強かっただけなのかもしれない」

 

 グレモリーが一息置いて更に語りだした。

一目で、彼を心配している事がわかる――他愛の精神が感じられる、憂い顔。

人が人たらんとする善性の発現。

 

「……それでも人の身では限界があるわ。それに幾ら所持している神器が神滅具クラスといっても使いこなせなければ、無用の長物。貴方が現時点でも強いというのはわかるわ。私達が貴方に『守る』と言って、貴方の自尊心に傷を付けたかもしれない。若しかしたら今の貴方の方が私達よりも強いかもしれない。それでも現状の強さに慢心せず神器を使いこなせるよう努力をして欲しいの。貴方が生き続けていく為にも」

 

「…………」

 

 死を、唯一真の死を望む彼に対して「生きて」という彼女。

 

 彼にとって、生きるという事は苦痛でしかなく、その言葉は呪いにも等しい。

 

 彼女にとって、新しく出来た仲間あるいは友人にとって理不尽な死が無い様、心の底から彼を案じて言った。

 

 お互いの裡を知らない両者は、致命的なまでに擦れ違っていた。

 

 彼が黙ってから無言のまま時が流れた。

そんな中、リアスはおどけた様な声色で話しかけ、場の厳粛な雰囲気を一掃した。

 

「ふふっ。まだ私達の言う事が信じられないかしら? 今はそれでもいいのよ。取り敢えず、貴方の現状と周囲がどう思っているかが、再認識出来たなら十分よ」

 

「さて、お堅い話はここまでにして、昨夜いなかった私の眷属悪魔を紹介するわ。予め呼んでおいたから、もうそろそろ到着する頃合いかしら」

 

 

 

 

                     ◆

 

 

 

 あれから20分程経った頃、彼女が言う眷属達が入室してきた。少年と少女の二人。どちらも容姿に優れていた。

 

 少年の方は光り輝くかの様な金髪をし、柔和な雰囲気を纏った彼はまるで何処かの皇子と言われても可笑しくはないものであった。

 

 少女の方は、少年とはまるで正反対かの様に、一点の穢れもない見事な白髪、幼さを感じさせるが、感情が余り見えない冷淡な表情をしていた。

 

「初めまして、大竹先輩。僕は木場祐斗といいます。まだ中学3年生なので学園生活で関わる機会は余りないと思いますが、悪魔としての立場では関わる事が多々ありますので宜しくお願いします」

 

「……塔城小猫と言います。お願いします」

 

 共に見目相応の話し方をし、ある意味で解りやすいパーソナリティーであった。

 

「戦闘の際は二人とも前衛で活躍してくれるインファイターよ。貴方との手合せは主に、この二人が相手になるわ」

 

「こう見えても、木場君も子猫ちゃんも、とてもお強いですわ。見た目に騙されてはメっですわよ」

 

 と朱乃が、見た目に戸惑っていると思われる彼に対して、身内贔屓が多少はあるだろうが、紹介された二人が、容姿からは想像出来ない実力者である事を語った。

 

 だかしかし、一般人ならともかく彼は、殊戦闘において外見に囚われて相手を軽視するという事をしない。勿論、戦闘以外でもいえる事であるが。

 

そもそも彼は、そのようなものに興味や関心が無いので、付け込む隙が無い。

故に

「用件はこれで終いか?」

 

 彼にとって顔合わせなど些事でしかない為、この煩わしい時間を締めくくるべく切り出した。

しかし、リアスが答えたそれは、彼が望んでいたものではなかった。

 

「もうっ……大竹君、貴方ったら一番重要な事を忘れているわ。――まだ皆に自己紹介していないじゃないの。これから共に歩んでいく間柄なのだからね? それに祐斗と小猫も貴方の事を知りたいと思っているわ。勿論私と朱乃もね」

 

「…………まだ名乗っていなかったな。無意味だが言っておこう――駒王学園一年大竹剛。お前達の好きな様に呼べば良い。俺は名などはどうでも良い」

 

「もう、そんな事言って。貴方を愛していた御両親から頂いた名前をそんな風に、軽んじてはダメよ。……貴方の呼び名の事だけれど、私は剛って呼ぶわね」

 

 リアスは、両親を殺害されて自棄になっているのだと思い、やんわりと彼を窘め、自分達とは仲間なのだという事を、彼に理解させる為の第一歩として、名前で呼んだ。

 

「では私は、剛君と呼ばせて頂きますわ」

「僕は大竹先輩と呼ばせて頂きます」

「……大竹先輩と呼称します」

 

 彼は其々の呼称について一切反応せず、ただ坐している。

その為、話の区切りが付いたと見なしたリアスは、部室の時計を見て立ち上がり、一同へ提案をした。

 

「さて、簡易ではあるけれど自己紹介も済んだし、親交も兼ねて少し早い昼食にでもしましょうか。皆もそれでいいかしら?」

 

「あらあら~なら準備をしないといけませんね。腕がなりますわ」

 

「僕もそれで大丈夫です」

 

「……皆で食べるご飯楽しみです」

 

 彼女達リアス側は満場一致で賛成という、まるで出来ゲームの様な結果である。

 

「ふふっ、反対意見はないみたいね。貴方はどう? 何か不都合があるならば、要望を聴くけれど?」

 

 彼からすればこの結果は予想出来たものである為、否も無い。例え毒を盛られようが、そもそも最初から彼は口に入れる気など無く、些事が増えただけで、特に警戒すべき事も無いのでリアス達の好きにさせた。

 

「……好きにしろ」

 

「なら一緒に食事を摂りましょう。朱乃、準備お願いできるかしら?」

 

「ふふっ、承知しましたわ部長。早速準備に取り掛かります」

 

 彼はこの後の食事会を想像し、静かに目を閉じた。

 

 

 

                     ◆

 

 

 

 昼食を済ませ、彼はグレモリー一派から質問攻めにされていた。

 

 基本的に無言である彼が自主的に口を開く事はなく、初対面である小猫が質問をしたのを切っ掛けに、この様な流れになった。

 

 但し、彼も全てに対して回答する訳でもなく、言えない事に対しては沈黙を回答とし、返答しても一言二言で済ましてしまう。

 

 その様子を見て、初対面である祐斗と小猫は直ぐに彼の寡黙な性格を察した。

祐斗はそんな彼を見て、小猫ちゃんよりも喋らないなぁと思い、小猫は自分よりも無愛想な人だと感じた。

 

 リアスが考えていた「親交」を交えた昼食会は、彼の人柄を祐斗と小猫の二人に

知ってもらうという点では成功したが、彼との親交を深めるという点では余り満足いく結果は得られなかった。

 

 但し彼女は初めから、そう上手くいくとは考えてはなく、これから少しずつでもいいから彼と親交が結べる様にと、思案していくのだった。

 

 それに対し彼は表情には出さないが内心、この食事会をとても煩わしく感じていた。

終焉を求め生き続けている彼にとって、他者との触れ合いなど必要なく、リアス達ともあくまでギブアンドテイクの関係で、最低限の関わり合いで済まそうと考えていた。

 

 

 

 

 漸く問答も終わり、再度部室へと移動し、神器についての話し合いが始まった。

 

「具体的に言えば神器というのは剣や槍などの武具だったり、治癒の力や創造の力など何か特異な能力だったりと、種々雑多で私達でもよく解っていない物が多いのよ」

 

「もし貴方の所持している神器が私達の方で判別出来なくても、能力だったり使い方が所持者本人の頭に急に浮かんだり、声が聞こ」

 

「既に解っている。故に判別は不要だ」

 

 リアスの話を遮って彼はそう口にした。

 

「あら、そうなの? もしかしたらと思っていたのだけれども、本当にそうだなんてビックリだわ。なら、貴方の神器について教えて頂けないかしら?」

 

「……お前は信の置けぬ人間に手の内を明かすのか?」

 

 リアスに対して彼は質問で返した。

いや質問などというものではない。正確には拒絶の意が込められている皮肉のようなものである。

お前は自分の切り札を誰彼構わず吹聴する様な、愚か者なのかと?

 

 彼の言葉に込められた意味を理解し、リアスは自分の考えが甘い事を悟った。

彼女は、いや彼女達は彼を既に仲間と認識していた。そして建前上、今はまだこちらが保護する立場ではあるが、ゆくゆくは己の領地を共に守り、信頼しあえるパートナーとして隣に立つ事を思い描いていた。

 

 彼女達らしい情に満ちた考えである。

 

 しかし彼は、そこまで現状を甘く見ず、とてもシビアに考えていた。

リアス達と協力関係になったがそこには信用も信頼も生じず、敵対から警戒へと下がっただけである。

 

 それにこの協力関係について言えば所詮は口約束であり、何の効力も持たない。更に言えば彼女たちは彼に危害を加えないかもしれない。しかしそれ以外の者達はどうだろう?

 

 確かに頭であるリアスは、彼に対して敵意を持たず、協力の要請をした。

しかしトップが決めた事が破られない様、配下全てに行き届くだろうか?

 

 ……答えは否である。組織があれば当然派閥が出来る。上から下まで意志が統一している組織など、ありえないと言ってもいい程だ。各々が秘すべき思惑を持って、組織を形成している。

 

 鷹派に属する人間が、神をも殺すと言われている、神器を持っているかもしれない人物を引き込むのではなく先手を打って、何も出来ない時に始末し奪掠する可能性もある。

 

 無論、誰であろうが敵対する者には容赦はしない彼だが、そこに情報のあるなしで対処の仕方が大幅に変わってしまう。

 

 自身の手の内を教え、其れに対して十分な対策を取られ襲撃をされたら、彼とて危ういかもしれない。未だ神器や悪魔等の事をよく知らない身故に、自分に対して致命的な一手がないと否定も出来ない。

 

「……私なら教えないわね、ごめんなさい、配慮が足りなかったわ。……そうよね、あんな事があってから直ぐに他人を信用するなんて、どだい無理な話ね。今の話は聴かなかった事にしてちょうだい」

 

 彼に言われて、直ぐ様己の言動が配慮に足りぬものたった事を悟ったリアスは前言を撤回し、直ぐ様彼へ謝した。同様に朱乃達眷属も頭を下げ、彼への誠意を表わした。しかし、その事に対して彼は特に見向きもせず、対等の関係である事を考え、一部情報を開示した。

 

「しかし協力する身として最低限の事は言っておこう。……分類は武具。戦闘時は拳を主とする体術を用いる。以上だ」

 

 一時は緊迫した空気が流れたが、彼が情報を開示した事で、元通りとまではいかないが場が落ち着き、話を再開した。

 




という事で第二話です。

大変お待たせして申し訳ありませんでした。
感想などで更新はまだかとのコメに御返事出来ず心配をお掛けしました事を
此処で謝罪させて頂きます。

仕事やら遊びやらとで執筆の時間が取れず、期間が空いてしまいました。
出来る限り活動報告をして状況をお伝えしたいと思います。

あれっ前もこんな事をいっ(ry

一応三人称で執筆していきましたが、ちゃんとなっているのかが甚だ疑問で仕方が無いです。
1.8人称ぐらいになっていればいいかなと……まだまだ勉強あるのみですね。

長くなってしまいましたが、これにて後書きを終わらせて頂きます。

不定期更新なので何時と言えませんが、次話も七千文字以上を目安に執筆していきます。

なので速度については、余り期待しないで貰えると嬉しいなぁ(*´ω`*)


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