戦術人形と軍人と【完結】 (佐賀茂)
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01 -戦術人形と軍人と-

ついにドルフロ二次創作小説という化け物が跳梁跋扈する魔界に足を踏み入れてしまったお許しください(一息)
一人称視点で進める練習に軽いノリで書いています。
続くかどうかは分かりません。さっと息抜き程度にやっていければなぁ、くらいです。
よかったらご賞味ください。


 俺は軍人だ。

 昨今台頭してきたPMC、民間軍事企業ではなく国家に所属している、いわゆる兵隊さんだ。国家公務員(パブリック・サーヴァント)ってやつだな。

 それなりに長い軍歴を持ち、ほどほどに任務を遂行し、まずまずの成果を挙げ、そこそこの数の修羅場も潜っているうちに、まぁ少なくない数の部下と部隊を持つことになり、なんだかんだ悪くない日常を送っていた。とは言っても、恐らく世間一般に言われる日常とはかけ離れたものだとは思うが。

 俺たちのような人間が普段相手にしているのは、テロリストだとか強盗犯だとか言う生ぬるい代物じゃあない。勿論そういう連中の制圧任務もあるにはあるが、基本的にはコーラップスの影響で大量発生した生物の出来損ない……死に損ないと言うほうが正しいか。通称E.L.I.Dと呼ばれる連中で、説得もネゴシエートも通用しない化け物どもだ。コーラップスが何かとか、どうしてそうなったとかはどうでもいい。歴史の授業をするつもりもないしな。

 で、そういう連中を相手に日々ドンパチしてるわけだが、俺、というか俺の部隊はそこまで優秀ってわけじゃない。エース部隊なんかは他の連中に任せる方針だ。名誉を得るためにいちいち命をベットしてたんじゃ今頃100回は死んでる。

 ウチの部隊は基本的な戦闘技術を学んだ後は、とにかく連携、退路の確保、逃げ方、引き際の見定めなんかを徹底的に教育する。人間命あってのモノダネよ。そんなわけで俺たちは戦果こそぼちぼちというレベルだが、部隊全体の損耗率は非常に低い。武器なんかまた作ればいい話だが、一端の軍人を直ぐに作るわけには行かないもので、お偉いさん方々はそこらへんをどうにも分かっちゃいない。いや、分かっててやってるのかもしれないが。どっちにしろ性質の悪い話だ。どれだけ逃げ方を教えたって、損耗率0%ってのは有り得ない話だしな。

 

 ま、そんな冴えない中隊長をそれなりに長い期間こなしてるんだが、そんな俺は今、数あるPMCの一つであるグリフィン&クルーガー社にお邪魔しています。

 

 んん? どうしてこうなった。

 

 改めて横を見ると、G&Kの社長その人、ベレゾヴィッチ・クルーガーが不敵な笑みを張り付けたまま微動だにせず佇んでいる。こいつ相変わらずニヒルな表情ってやつが似合う。忌々しいことに。

 

 どういうことかと言えば、俺はこのクルーガーに依頼されて、戦術人形(タクティカル・ドールズ)たちの戦術教官を行う予定だということだ。

 戦術人形というのは、第三次世界大戦頃から実用化された、所謂アンドロイドだ。人間じゃないから、金と部品さえあればいくらでも作れるし、代替が利く。今では炭鉱や農家の労働力から戦闘時の歩兵まで幅広くカバーしている世界規模のヒット商材だな。俺も任務中に何度か目にしたことはあるが、まさか教官とかいう立場で人形と向き合うことになるとは夢にも思わなんだ。

 そもそもだ。曲がりなりにも国家の軍人である俺がPMCに、しかも非常勤講師として招かれるなんざ普通では考えられない。公務員は副業しちゃダメなんです。クルーガー知ってる? いや知っててやってる顔だなこれは。

 クルーガーは昔からの顔馴染みの一人だ。戦場でも何度か同じ釜のメシを食った仲でもある。ちょっと前にいきなり退役したのは風の噂で知っていたが、まさかPMCを立ち上げているとは想定外だった。

 こいつは昔から顔に似合わず色々と"上手い"。今回俺が招聘されたことだって、きっと軍部の上層部では俺が中期の有休消化にでも入っている扱いになってるんだろう。そういう意味では信用すらしている。間違っても信頼出来るタイプの人間じゃないがな。

 色々出来るヤツだが、こいつの一番の得手は、用意周到な正面突破。いわゆる丁寧なゴリ押しだ。ゴリ押す割に周囲に禍根や遺恨を残さないから上手い。ちなみに俺の個人的感情は加味されないようだ。ヒゲ毟るぞこの野郎。

 

「そろそろお前に依頼する人形たちが到着する。高望みはせんが、とりあえずはお前のところの新人に毛が生えたくらいのレベル以上には鍛え上げてくれ」

 

 ちらりと視線を動かして、クルーガーは一方的な注文を投げつけてくる。

 うーむ。その戦術人形とやらがどの程度の能力なのかが分からんので現時点では何とも言えないが、注文内容自体はそこまで突飛でもない。クルーガーだって、ウチの部隊の平均レベルは分かっているはずだ。ただ気にかかる点といえば、新人に毛が生えたレベルまで育てるということは、今からやってくる人形たちはそれ以下のレベルだということ。戦術人形というからにはてっきりバリバリのバトルマシーンみたいなのが来ると思っていた俺にとって、これは少々想定外。

 まあ、細かいことは追々考えていこう。とりあえず教育スケジュールのゴールは決まった。後は教育対象の現状を把握してから細部の詰めだな。デキるタイプだったら教育も早めに修了出来るかもしれない。そうなれば久々の休みを謳歌でもしてやろう。

 

 とか考えていると、正面ゲートが機械的な音とともに左右に開いた。わーお近未来的。新興の会社はいいな、設備や装備が整っていて何だかんだでテンションが上がる。うちの兵舎に自動ドアなんて便利なものはない。

 

「AR小隊、M4A1以下4名。到着致しました!」

 

 いや少女じゃん。

 15歳くらい? いやよくわかんないけど少女じゃん! 大丈夫かよこれ。

 滅茶苦茶緊張しているのか、明らかに上ずった声で先頭に立っている少女が名乗りをあげる。その後ろからぞろぞろと何人かついてきているが、どれもこれも見目麗しい女の子。俺は独身だが、今の俺に娘が居たら大体これくらいの年齢なのかなぁとぼんやり思ってしまう程度には、それはもう少女だった。

 でも俺はポーカーフェイスを崩さない。想定外に焦るのは軍人やってりゃいつものことだが、その度に顔にまで出していては色々ともたない。ここは当初の予定通り、オトナの兵隊さんっぽさを出しておこう。

 

「よく来た。本日から君たちには訓練に入ってもらうが、隣の彼が戦術教官を務める。以降彼の指示に従うように」

「り、了解しました!」

 

 同じく不敵な笑みからポーカーフェイスにその様相を変化させたクルーガーが彼女らに任務を通達する。ということはやっぱりこの女の子たちが戦術人形というわけか。うーむ、戦場で見かけたことのある戦術人形といえば、もっとこう、メカメカしい感じだったんだが、時代とともにトレンドも変わったのか。

 改めて4人の少女を軽く見回して見ると、先程喋っていた気の弱そうな子、隣に気の強そうな子、逆隣にクールっぽい子、その横に明るそうな子。

 

 修学旅行かな?

 

 ま、唯一違うところといえば、それぞれが自身の武器であろうアサルトライフルを携えていることだろう。年端も行かない少女には余りにも似つかわしくない、無骨な殺人武器。それらがセットで視界に入るからこそ、どうにかこうにか戦術人形の体を成している、くらいにしか見えない。

 

 うーむ。クルーガーの指示で会話が止まってしまった。非常に気まずい。しかしまぁ、教官として紹介を受けた以上は何か喋っておかないとな。というのも、戦場でもそうだが、上の立場に居る者は如何なる理由があったとしても"ナメられる"のが一番まずい。過去にも、仲良しを履き違えたおままごと部隊が指揮命令が混乱したまま壊滅したのを何度も目にしている。別に彼女らとは所詮一期一会の関係だろうが、俺の個人的沽券にも関わる。びしっと決めておかなければならない。

 

 とりあえず、クルーガーは当然彼女らを知っているが、俺は何も知らない。自己紹介でもしてもらおう。

 

「は、はい。AR小隊隊長、M4A1です。よ、よろしくお願いします……」

「M16A1だ。よろしくな、教官」

「コルトAR-15です。よろしく」

「M4 SOPMODⅡゥ~! だよ! よろしくー!」

 

 ……遠足かな?

 

 うーむ。流石にちょっと頭が痛くなってきたぞ。これはまず軍人としての教育的指導(上下関係の刷り込み)からした方がいいのかな、とも思うが、まぁ彼女たちはPMCに属する人形であって、軍人じゃあない。別に俺の部下になるわけでもないし、大目に見ることにしよう。多分これが彼女たちの素なんだろうな。まだナメられてるってわけじゃなさそうだからセーフ。

 

 ついでに、いくつか気になる点を聞いておく。それぞれが各々の武器を名乗っているのは非常に戦術人形らしいのだが、それ以外の武器……サイドアームや近接武器なんかは扱えるんだろうか。それによって教育内容がかなり変わるしな。抑えておきたい。

 

「使えないことはない、が、やっぱり手に馴染まないし、個人的にもあまり使いたくはないな。どうしてもってんなら使うし、それで命が拾えるなら安いモンだとは思うが」

 

 俺の質問に答えてくれたのは気の強そうな子と評したM16A1だった。見た目どおり気が強そうだな、ついでに酒にも強そう。いやこれは勝手な憶測だけど。

 となると、使えないわけではないのか。まぁ、自分の武器以外はお手手が拒否して握れないんですぅ~なんて言われたら張り手の一発でも食らわせてやろうかなと思っていたから全然大丈夫。とりあえず教育課程の一つにサイドアームの訓練も盛り込んでおこう。

 

 で、一番気になるところ。ぶっちゃけ君らどれくらい強いの? ってところだ。スタート地点が分からないと教育も何もあったもんじゃない。ということで遠慮なく聞いちゃおう。

 

「強い……というのは分かりかねるけど。負ける気はしない、とだけ」

 

 冷静沈着な口調でいきなり強い言葉を使うなよ。びっくりするだろ。

 大きく出たのはピンク髪のクールビューティさん。これはまた自信満々である。ま、そこまで言うなら一周回って話は早い。早速その力ってのを見せてもらおう。ってことで早速実習に入るけどいいよね?

 

「構わん。お前に任せる」

 

 クルーガーはそれだけ言うと、人形たちへの挨拶もそこそこに踵を返してどっか行ってしまった。最後に見せた表情が何とも言えない感じだったのは何だったのか。ま、気にしてもしゃーない。

 ということで、まずは銃を中心に扱うのであれば基本中の基本、射撃能力から見せてもらうことにする。射撃訓練場へいざ行かん。クルーガーに社内見取り図貰っといてよかった。ここ無駄に入り組んでる上に広いから初見だとまず迷う。いやPMCって会社柄襲撃を気にしてとか色々理由はあるんだろうけど、ここで働く人も大変だろうなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、クルーガーが先程フクザツな表情を見せていた理由が分かった。

 場所は変わってここはG&Kの屋内射撃訓練場。戦術人形たちは自分たちの武器を扱えるのが嬉しいのか、上機嫌で準備を整え、俺の号令で一斉に的当てを始めたわけだが。

 

 この子たち、あれだな。一言で言えば、自分が持ってる銃の構造的知識と性能的知識だけをゴリゴリに押し込まれた女子高生だ。いわゆる頭でっかち。ちゃんとマガジン機構やセーフティも分かってるし、射撃体勢もまぁ見た目はしっかりしてる。間違っても変てこってわけではない。でもそれだけ。「狙いを付けるための姿勢」は知っていても「狙いの付け方」を分かっていない感じ。

 こ、これは教育のし甲斐がありますねえクルーガー君。とりあえずSOPMODⅡだっけ、君。ピカティニーレールにドットサイトやらPSO-1やら赤外線センサーやらその上にガイドスコープやらゴッテゴテに盛ってるけどこれ銃だからね? クリスマスツリーじゃないからね?

 さっき自信満々のドヤ顔で負ける気がしない、などと吹いていたAR-15に到ってはリコイル制御がまったくおっついておらず、フルオートで天井付近に蜂の巣を作っていた。うんうん分かるよ、初めて銃を撃った時ってそうなるよね。ちょっと涙目なのは多分、反動で跳ね上がったスコープで瞼上を強打したからだろう。

 比較的マトモだったのはM4A1とM16A1の二人。精度はともかくとしてとりあえず弾は真っ直ぐ飛んでいるし、上出来上出来。銃の反動はね、単発ならまだしもフルオートの衝撃を手首だけで抑えようとしても絶対に無理だから。そのためのタクティカルストックなんだから衝撃を肩で吸収して腕で抑えなさい。こんな感じに。

 タタタン、タタタン、と、軽くお手本を見せつけてみると、おぉ、と感嘆の声。一応これで教官としての面子は保てたかな。

 

 しばらくはそうやって射撃の基本をレクチャーしていたのだが、ここら辺はやはり人間と戦術人形の違いなのか、飲み込みがムチャクチャ早い。大体1度か、2度教えれば概ねその通りに動けてしまうのは電脳のスゴイところ。最初はどうしたもんかと頭を抱えたものだが、これはこれで成長が直ぐに見えて楽しいかもしれない。

 

 とりあえず基本の射撃訓練をちょこちょこと繰り返して、一通り扱いに慣れたらキルハウスでの実戦形式でも組み込んでみるか。本当はもうちょっとじっくり組むべきだと最初は思っていたんだが、予想以上に成長が早いのでどんどん詰め込んでいくことにした。勿論、本当に弾が当たってしまったら人形はともかく俺は三途の川が見えるのでペイント弾でやるけど。

 

 いやーしかし、優秀な新人というのはいつ見ても気分がいい。手がかからないし、余計なストレスもかからないし、俺が育てた、みたいな優越感にも浸れるしいいこと尽くめだ。最初の誰だこいつ、みたいな視線も先程の射撃訓練ですっかり無くなり、いい感じに尊敬を集められている気がする。

 それに、人形とは言え見た目は可愛い少女たちだ。職業軍人である以上、そんな場には間違っても縁が無かったんだが、これはこれで役得と捉えられんこともない。クルーガーのヒゲを毟るのは勘弁してあげてもいいだろう。

 

 

 とりあえず今日は顔合わせってのもあったし、基本の射撃訓練を反復して終わりにすることにした。

 うーむ、明日からちょっと楽しみになってきたぞ。ここまで飲み込みが早ければ、やりようによっては新人に毛が生えたレベルで納まらない可能性が高い。これは教官としての腕の見せ所である。俄然テンションが上がってきた。

 しかし教育スケジュールを考えるのは非常に楽しいが、俺は人間だから休める時に休んでおかないと身も心も持たない。戦場とは違い、身体的負担は非常に少ないが、モノを教えるというのはそれはそれで非常に負荷が掛かる。一応請け負っちゃった以上は最低限の責任もあるしね。

 ということで今日はちと早いがもう寝ることにする。ああ、本当に明日からが楽しみだ。ついでだ、今日はいい夢が見れると尚良し。眠りの女神が微笑むことをお祈りしておこう。




この小説にPKPは出ないし、うちのG&KにもPKPはきません(キレ


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02 -キルハウス-

投げられる時に投げておくスタイル。
色々と設定やら世界観やらガバってますが許してくださいなんでもしますから。


「んぁあ~~~ッ!! 全ッ然当たらないんだけど!?」

 

 素っ頓狂な叫び声を挙げてその場に寝っ転がっているのはM4 SOPMODⅡ。教育を受け持った4体の人形の中でも、ずば抜けて精神年齢が幼いやつだ。この訓練はちょっと早かったかなぁとも思うが、他の3人はボロボロになりながらも何とかついてきているので多分大丈夫だろう。というか、SOPMODⅡだけが他と比べてあまりにも習熟度が低い。まぁ俺から言わせれば他の3人も五十歩百歩な状況ではあるんだが。

 

 基本的な射撃訓練をベースに様々なシチュエーション、バリエーションを加味した射撃のレクチャーをしつつ、4人ともがそれなりに銃器の扱いに慣れてきた頃合で今やっているのはキルハウス内での遭遇戦訓練である。屋内に設けられた訓練スペースで俺と人形1体が対極の位置からスタート、敵陣にあるフラッグを奪取するか、銃撃で相手を仕留めれば勝ち、というシンプルなルールだ。勿論本物の銃弾が掠めれば命がいくらあっても足りないので、訓練用のペイント弾を用いている。いやそれでも当たったらメッチャ痛いんだけどね。幸い骨が折れるとかのレベルではないので、まぁ慣れたら全然大丈夫。

 

 で、今は順番に相手をしているんだけれども、対戦相手が5周くらいしたところで一旦小休止。あんまり連続でやり続けても俺の身がもちません。体力精神力で早々負ける気はしないものの、こちとら人間である。休憩無しにぶっ続けで稼動し続けられる仕組みにはなっていないのだ。

 キルハウスに寝転がるSOPMODⅡを筆頭に、人形たちはそれはもうペイント弾まみれであった。一番被弾が少ないのはAR-15のはずなんだが、それでも派手に装飾が施されているものだから見た目には全員ボロ負けである。

 対して俺は何と見事な被弾ゼロ。訓練服をクリーニングに出す必要もないって訳だ。今のところはね。

 

 うーむ。しかしどうしたものか。

 射撃訓練に於いては全員が遜色なく同じ速度、同じ精度で武器への理解を深めてたもんで幸先のいいスタートだなと思っていたんだが、いざ実戦形式の訓練にしてみると思いの外個人差が出てきてしまった。ここら辺、電脳とはいっても人間みたいな性格や思考の差が出てきて面白いなとは思うんだが、これ実戦投入するってなったら逆に不便じゃないか? 画一的な規格にした方が上下限のブレも出なくて兵器として優秀だと思うんですけど。

 

 とりあえず一番の問題児はこのSOPMODⅡ。射撃能力自体は4人の中でも高い方だと思うんだが、如何せん戦術的戦略的思考が足りて無さ過ぎる。こっちのフェイクには綺麗に全部引っ掛かるし、その度に音や声といった形でリアクションが伝わってきてしまうので御するのが非常に容易い。お前これで戦場に出てみろ、3日で100回は死ぬぞ。

 ただ、唯一の強みというか、フェイクやトラップの関係無しに時々問答無用で俺の位置をドンピシャで当ててくることがある。幸い被弾こそしなかったが、あれのレベルが上がれば一番恐ろしいかもしれん。本人曰く「なんとなくこっちに居そうだと思った」とのことだが、戦場に於いてこの類の勘は非常に大事だ。なんせ教育で教えられない数少ない要素だからな、その勘は今後も大切にして欲しい。

 しかし、勘だけで生き残れるほど戦場は甘くないってのもまた事実。それを活かせる場面を作るのが技術と知識と経験だ。特にこいつにはみっちり仕込んでやる必要があるだろう。

 

 続いてAR-15。こいつは一言で言うなら優秀だな。戦術への理解も早いし、実戦に落とし込むのも早い。ただ、なまじ頭が回る分想定外にめっぽう弱い。いわゆる「意表を突く」戦法がこいつにはとにかく刺さる。しかもそこからのリカバリーが遅いから一度後手に回るともうだめ。焦りとプライドからか、起死回生の一手を考え出す冷静さも失われるのもマイナス。

 ただまぁ、そこは場数を踏めばどうにでもなる領域だ。筋は悪くないから、今後の教育でどうとでもなるだろう。あと目に見えて悔しがっているのはいい傾向だ。本人は隠してるつもりなんだろうけど。負けず嫌いは嫌いじゃない。それで前のめりになりさえしなければな。

 

 M16A1に関しては、多分一番メンタルが図太い。現状の成績で言えば可もなく不可もなくってところだが、この訓練で一度もパニクってないのはかなりポイントが高い。勝ち負けは別として、その図太さは俺も見習いたいところだ。これまで数多くの新兵を鍛えてきたが、ヒヨっ子の時点でここまで肝が据わってるやつは見たことがない。これも電脳が成せる業なんだろうか。

 あとは単純に知識と経験が身についていけば自ずと強くなっていくだろう。SOPMODⅡやAR-15と比べると目立った欠点がないってのは大きい。ていうかこいつがリーダーでいいんじゃないか?

 

 最後にM4A1。この子はM16とは対照的で、全体を通しての印象は悪くないんだがどうにも気が弱い。こちらのアドバイスは素直に聞き入れるし、飲み込みも早いんだが、とにかく押しに弱そうな雰囲気を常に醸し出している。実際弱いと思う。訓練に於いても、積極策をあまりとってこないのはその性格があるんだろう。

 ただ、この子は何と言うか……SOPMODⅡの勘とはまた違った、一筋光る予測能力みたいなモンがある。勘じゃなくて、予測。数少ない情報から必死に構築し、俺の読みを読もうとしてる感じがある。現状ではオママゴトの延長みたいなレベルだが、教えてて一番親近感を感じるのもこの子だった。何というか、考え方が人間くさいんだよな。他の子もM4A1を隊長に据えていることに疑問を持っていないようだし、彼女はまた一味違うAIでも積んでるのかもしれない。

 

 うーむ。しかしこうして見ると各々が違った個性と欠点を持っているが、それらが合わされば悪くないんじゃないかとも思える。

 前に出がちなSOPMODⅡは他の連中が抑えに回ればいいし、実際射撃能力や勘はいいものがあるから、それを活かせる場面は他の連中が作ればいい。AR-15には高い思考力と冷静さがあるから、参謀に向いてるかもしれん。すぐにパニクるのが悪い癖だが、そこはM16が精神的支柱として居れば大丈夫だろう。M4は気が弱いが、裏を返せば慎重策を練るのが上手いし、部隊のブレーキ役にもなる。気の強いM16と冷静なAR-15の案が合わされば丁度いい折衷案が生まれるんじゃないか。

 

 うん、案外悪くないかもしれないな、この組み合わせ。

 ま、とは言ってもこの4人が常にセットで動く前提で教育スケジュールを組み切ってしまうのもよくない。戦場においては想定外なんて常について回るもんだし、それぞれが単独で動く場面もあるだろう。しっかり4人全員を新人に毛が生えたレベル以上にまでは育ててやらないとな。既に新人に毛が生えたレベルは抜けてるんじゃないかという疑問が湧かないでもないがそんなものは知らん。クルーガーからのオーダーは「それ以上」なんだから青天井ってことで。

 

 何だかんだで俺自身、こいつらを気に入っているってのはあるんだろうな。性格はそれぞれ違ってるが、皆訓練には真面目だし素直だ。飲み込みも早いし個人差はあれど目に見えて成長しているのが分かる。本人たちにもその自覚があるからか、非常に意欲的だ。教えてるこっちも流石に気分が高揚するってもんです。

 ただ、何にせよこの狭いキルハウス内、状況も環境も変わらない空間で一発も俺に当てられていないってのはちとよろしくない。しばらくは射撃訓練と遭遇戦訓練だな。どれくらいで俺に当てられるようになるのかが楽しみだ。

 ちなみに、俺の部隊員とこのゲームをやったとして、俺の装備を同じくらいカラフルに出来るやつは全体の2割くらい。流石に俺自身が育てた連中相手に一発の被弾も無しは無理があるが、それでも8割くらいのやつはそこそこ一方的に染め上げることが出来る。伊達に長く生きてないんですよ。

 この子たちには、是非俺を全身極彩色に染め上げるくらいして欲しい。それが出来る時点で新人など程遠いレベルの出来になるんだが、やっぱり目標は高く据えるべきだと思いまして。

 

「教官。もう休憩は十分でしょうか?」

 

 未来予想図を脳内で描いていたら、AR-15がやる気に満ち満ちた目でこちらに声をかけてくる。いいね、その顔。意欲と悔しさと充実感がいい塩梅で混じってるぞ。

 

「まあ待てよAR-15。次は私の順番だぜ。抜け駆けはよくないよなあ?」

「むぅ~~~~!!! 次は絶ッッ対に当ててやるんだからぁ!!」

「私も……頑張ります……!」

 

 火がついたのか、それとも既に燃えていた炎をAR-15の一言が噴きあがらせたのか。どいつもこいつもいい顔しやがって。まだ知り合って数日だが、ここまで気持ちのいいヤツらは随分と久しぶりな気がする。人間じゃないってのを差っ引いてもいいやつらだ。こりゃこっちも本気で相手しないと失礼かもしれないな。

 

「……えっ?」

 

 熱意を燃やしていたAR-15の表情が一瞬曇った。いやお前、そりゃ訓練始めたばっかりのヒヨっ子相手にいきなり本気で対戦はしないでしょ普通。どんだけスパルタだよ。今までのはあくまで「セオリー通り」に動いただけで特別なことは何もしていない。マジで何でもありでやるなら煙草に火もつけるし靴も投げる。使えるものは文字通り何でも使わなきゃ生き残れないからな。

 

「……ははっ。こりゃ藪を突いて蛇を出したか?」

 

 笑ってるけど笑えてないぞM16よ。ただ、ここで萎縮しないのは流石だな。やっぱお前がリーダーやった方がいいんじゃないか? ま、そこは部外者たる俺がとやかく言うことでもあるまい。

 そうと決まれば早速続きだ。順番的に次はM16だから、サクっと染め上げて実力の差ってやつを改めて身をもって知ってもらおう。いずれ縮まる差ではあろうが、現時点での距離をしっかり認識させておくのも悪くない。

 こいつら全員が俺に一発当てることができるようになれば、次はチームで相手してやってもいいかもしれないな。個人の力量をどれだけ伸ばしたところで、所詮単騎では頭打ちだ。部隊の強みは連携にこそある。ファンタジー世界によくある一騎当千、獅子奮迅の活躍は現実世界において余りにも非合理に過ぎる。それが出来てしまうからファンタジーなんだ。

 逆に言えば、連携をしっかり活かして点と点を線にすることが出来れば、ただ強いだけの点なんぞいいカモだ。そこら辺も早い段階で分かっておいて頂きたい。ただ、それをするには最低限の個の実力が必要ってのもまた事実。今はまだまだ下積みの段階ってとこだな。

 

 さて、俺は果たして今日という一日をクリーニング無しで乗り切ることが出来るのか。そいつは神と、こいつらのみぞ知るってね。




ここで言うキルハウスとは、サバゲーの屋内フィールドにガレキやら何やらモリモリ詰め込んだフィールドみたいなイメージです。ドルフロの荒廃した市街地を切り取って配置した、みたいな感じですね。

一人称視点だとサクサクと進む代わりに、掘り下げがすごい難しいんですよね。まぁ練習のつもりでぼちぼちやっていきます。
続くかは分かりません(定期


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03 -技術、戦術、戦略-

投げられる時に投げとくんだよォ!
ちなみに筆者はUMP40持って畳返しする指揮官とかM249ばら撒く鋼鉄の指揮官とかヤンデレに囲まれて心を痛めてる指揮官とかが好きです。


 一夜明けた翌日。俺は昨晩ガタガタとけたたましくその駆動音を鳴り響かせていた乾燥機から一式を無造作に取り出して着替えていた。

 とりあえず昨日の遭遇戦訓練はその後追加で3周ほど回ったが、何とか被弾無しで終えることが出来た。最後の1週はかなりヤバかったが運も味方したな。SOPMODⅡのラッキーショットがギリギリのところを掠めていったのは正直肝が冷えた。でかい口を叩いておきながら初日からキルマークを献上していたのでは教官の名折れだ。実に危ないところだった。

 

 さて、初日から僅か数日、物凄い勢いで成長しているAR小隊の4人。今日も今日とて基本的な射撃訓練と遭遇戦訓練の予定なんだが、実はちょっとプランを変えようかと思っている。というのも、俺たち人間を基準としたスケジュールをそのまま戦術人形に当て嵌めるのは、どうにもナンセンスなんじゃないかと思い始めたからだ。

 だってあいつら電脳じゃん? 俺たち人間の不出来な脳みそと違って、あいつらの頭の中では数え切れない電気信号が誤差無く走り続けてて、あらゆる事象を正確に記録、記憶していく。ちょっと考えてみれば分かることもかもしれんが、俺たちでいう「慣れる」という工程に対して人間よりも大幅に短い時間で済むわけだ。

 通常は新たなことを学ばせたら、それが浸透するまで慣らしていく期間が必要だ。だって一発でハイ覚えたって出来ようもんなら俺たちは全員テストで100点を取れるし、そこに出来不出来の差なんてつくわけがないからな。ところがどっこい、AIってのは実に便利なもんで、1回教えれば大体その通りに出来ちゃう。俺たちが必死こいて身体に染み付かせようとしている動きを、最適化とかいうふざけた工程で一気に推し進めてしまうのだ。

 勿論、定期的な反復訓練は生の脳みそだろうが電脳だろうが必要だとは思うが、今までの動きや成果を見る限り、この点に関しては人間と同じ感覚でやるのはちょっともったいないかなと思った次第。いつまでも訓練し続けるわけにも行かないし、ここら辺は俺も状況に合わせて最適化させていかにゃならん。

 

 と、いうことで。今日は射撃訓練と遭遇戦訓練をやるにはやるんだが、少し趣向を変えて、かつサクっと終わらせて次のステップに入ろうと思います。

 

「私たち同士で……ですか?」

 

 いつも通り時間ピッタシで集合場所に集まった4人に向けて俺のプランを告げると、まず疑問を口にしたのは緑のメッシュが眩しいM4A1。他の3人も声にこそ出しちゃいないが、同じような疑問が顔に浮かんでいるのがありありと見て取れる。君たち仮にも兵士になるんだからポーカーフェイスの練習くらいした方がいいんじゃないの。

 ま、ここで全部種明かしをしてもつまらんので、とりあえずはやらせてみることにする。ルールは昨日と同じフラッグ戦とデスマッチをあわせたようなやつ。4人居るから、総当たり戦みたいな感じで何周かやってもらうことにしよう。ついでに、俺が考えた順位予想も伝えておこう。外したらメチャクチャ恥ずかしいが、まぁ多分大丈夫。

 内容は、僅差でSOPMODⅡがトップ。あとの3人は団子っていう物凄いシンプルなやつな。

 

「へえ……? まぁいい。せいぜい派手に外して赤っ恥をかいてくれるといいさ」

 

 俺の予想を聞いて真っ先に反応を返したのはM16A1。いいなーその負けん気の強さとタフさ。そういうとこ好きだぞ。

 

「少しは期待していたのだけれど……教官、貴方の見る目の無さ、今ここで証明してあげるわ」

 

 おっと、M16の発破にAR-15が続いたぞ。初日の射撃訓練前に勝るとも劣らないドヤ顔っぷりだ。確かに初日のアレを除けば、基本的にAR-15は優秀だ。それは俺も認めている。けど今回の試みはそういうとこじゃないんだよなあ。そこに気付けないから君たちはまだヒヨっ子なんです。ただ、これでマジで順位が狂ったりして予想が外れたら本気で恥ずかしいので俺は無駄に煽らずポーカーフェイスを貫く。

 唯一、M4A1だけは目立った反応が無かったが、もしかして気付いたりしたんだろうか。いや、仮に気付いたとしても現状では変えられない結果のはずだからいいんだけど。予想を外すと恥ずかしいレベルっていうのは、裏を返せば自信があるということだ。余程のことがない限りこの予想は大きくはズレない。

 SOPMODⅡはというと、まさかの1位予想に大きくテンションが上振れている。もっというならいつも通り。この子は一体いつ落ち着いてるんだろうな。ロボペットからAI移植でもしたのかな?

 

 ま、そんなやり取りもそこそこにして、早速始めてもらおう。昨日とは違って同僚が相手ということで、彼女らにはまた趣の異なるやる気が感じられる。そりゃまぁ、多少ベクトルは違えど君たち基本的には優秀だから、皆が皆自分が1位を取って当然だと思ってるんだろう。ただね、優秀なだけで戦に勝てたら苦労はせんのですわ。それを今から彼女たちに分かってもらおうと思います。

 

 

 

 

 

「やっっったーーー!!! 当たった! 当たったーー!!」

 

 

 昨日と同じ遭遇戦訓練をAR小隊たちでやらせて、大体3周目くらい。喜びに身を任せてピョンピョン跳ね回ってるSOPMODⅡも中々に素敵なデコレーションを施されているが、他の3人に比べれば明らかに少ない。ま、それでも少なくない被弾はしているんだが、一番マシなのは間違いなく彼女だ。後の3人はそれはもうカラフルまみれ。虹の池にでも全員頭から突っ込んだんじゃってくらい。

 と、いうことで俺の予想はどんぴしゃりで当たりました。いやーよかったよかった。確かに自信はあったんだが、やっぱり不確定要素に賭けるってのはドキドキするね。どんだけ自信があっても100%じゃないんだから。ペイント弾を使ったゲームだからこそ出来るお楽しみだな、実戦じゃ絶対にやりたくねえ。

 

 さて、ここら辺で答え合わせと行こう。一旦訓練を中断して皆を集めることにする。

 あ、AR-15の悲痛な顔がヤバい。どうして……どうして……ってうわ言みたいに繰り返してる。この子ちょっとメンタル弱すぎない? M4とはまた違った角度から心配になってくるぞ。

 M16A1は憮然な表情が崩れないまま考え込んでいる。うーん、これは落ち込んでいるっていうより、どうして俺の予想が当たったのかまるで分からないって感じだな。ショックは受けているんだろうが、自分を見失うまでには至っていない。やっぱ強いなぁこの子。

 一番ショックが少なそうなのはM4A1だった。多少の落胆は見えるが、やっぱりね、みたいな感じも見え隠れしている。折角だし、どうしてあまりショックを受けていないのか聞いてみよう。ぶっちゃけちょっと予測出来てた?

 

「え、えっと……予測って言うほどじゃないんですけど……。教官と対戦している時はずっと振り回されて、後手に回ってましたが……皆も同じだったので、振り回された同士で戦ったらどうなるんだろうな、とは考えてました……」

 

 おお、かなりいい線いってる回答だぞこれ。疑問だけで終わっていて解答を得られていないのはあるが、疑問自体は本質を突いてるな。答えが分からないのは単純に知識がないだけだろう。というか、その答えが分かっていればもうちょっとマシな戦果になってるはずだからな。

 

 もったいぶっても仕方ないので答えを言えば、技術、戦術、戦略の違いってやつだな。まぁ今回に於いてはステージが狭すぎるので、戦略ってのはちょいと主旨から外れるが。

 こいつらは今のところ、全員が大体同じくらいの技術(テクニック)を持ってる。少なくとも人間の出来たてほやほやの新兵なんかよりはよっぽど上手く銃を扱えるだろう。

 問題は戦術(タクティクス)だな。こいつらは昨日、散々俺の戦術に翻弄されたわけだが、一方で自前でかつ自発的に戦術を練り、即座に発揮出来るほどのレベルには達していない。それにはまだ、圧倒的に知識と経験が足りない。俺が昨日使った戦術をパクることは出来ても、その精度はお察しだし、それ以外を知らない。もっと言えば「こうされたらこう動く」はある程度出来たとしても、「こうやって動こう」あるいは「こう動いたら相手はこう動くはず」が出来ない。だって知らないから。

 戦術ってのは何も、群れ対群れで初めて発揮されるわけじゃない。個人間の戦いでも立派な駆け引きは数多存在する。で、お互いがお互い、低いレベル狭いレベルでの戦術しか出来ないわけだから、戦況は自然と膠着してしまう。か、呆気なく決着する。

 その状態から強行突破しようとなれば、それはもう個人技、いわゆる技術になるわけだが、戦術よりも多少マシとはいえそっちもどっこいどっこいと来たもんだ。そうなれば残されるはもう泥仕合しかない。食うか食われるかのしがらみのない一騎打ちに結果として陥ってしまう。

 で、本来であればそこまでいったらもう後は運頼みの馬鹿試合になるんだが、ここには1人だけ戦場での勘ってやつが比較的冴えてるやつがいる。それがSOPMODⅡだ。

 戦略もない、戦術もない、技術は互角。そうなりゃもう後は運だとか勘だとかそういう類の出番しか残っていない。毎回毎回命をベットしてフィフティーフィフティーやるなんざ馬鹿か狂人しか居ないわけで。そういう状態にならんよう、俺たちは必死こいて戦略を立て、戦術を打ち、技術を使うわけだ。

 

 戦略(ストラテジー)で機を制し、戦術(タクティクス)で優位に立ち、技術(テクニック)で勝つ。

 戦争戦闘ってのはつまりそれの繰り返しだ。

 

 みたいなことをオトナの兵隊さんっぽさをぷんぷんに醸し出しながら説法をかましているんだが、何かまた俺を見る目が変わってきた気がする。具体的に言うと「教官って実は頭よかったんですね」みたいな視線。

 あのね、兵隊さんは頭が良くないと務まらんのですよ。イメージとして筋力や体力みたいなのが先行してしまうのはこれはもう仕方ないことだとは思うんだが、戦場って考えること沢山あるんです。というか、戦闘区域に入る前に考えて結論出すのが隊長格の仕事なわけで。それでも当たり前みたいな頻度で想定外が発生するから、後は高度な柔軟性を持って臨機応変に対応するしかないわけで、頭のキレないやつから先に死ぬ職場ですよ。伊達に長く生きてないんです。

 まぁ君たちも戦場で無駄死にしたくなければちゃんと戦術や戦略も考えられるように、知識をつけて行きましょうね、という話。

 

「……話は分かったし、納得もした。で、私らはどうすればいい? どうすれば強くなれる?」

 

 やっと仏頂面を解いたM16から声がかかる。うーん、この切り替えの早さ。惚れ惚れするほどである。きっとM16のAIを設計したやつは飛びっきりのナイスガイだな、間違いない。

 さて、ここまでがいわゆるお膳立てというやつで、やりたいことはここからが本番である。

 

 

 楽しい楽しい、座学のお時間です!

 

 

 「……うえぇ……」

 

 

 うん、君のそのリアクションは大いに予想出来ていたぞSOPMODⅡ。だがいくら嫌がったところでそうは問屋が卸しません。訓練や実戦でしか身に付かないものは確かに沢山あるが、反対に勉学でしか身に付かないものが沢山あるのもまた事実。しっかりと教育してやるから覚悟しておくように。

 まぁ、これが人間の新兵相手であれば俺も骨が折れるんだろうが、彼女らは優れた電脳を持った戦術人形である。戦術人形(タクティカル・ドールズ)の名に恥じないよう、立派な戦略からコスい戦術まできっちりみっちり教え込んであげようではないか。ぶっちゃけ、一般的な新兵を相手に行う教育スケジュールの進行度合と比べたら、大体4倍くらいの超スピードで進んでいる。俺の身が持つかどうかがちょっと心配なレベルになってきたが、俺自身楽しみになってしまっているので仕方がない。ちなみに、教科書なんていう立派なもんはあるわけがないので、勉強資料はウチの部隊が過去に作成した作戦報告書を使うことにする。後は色々アレンジしてパターン増やせばなんとかなるだろう。

 言うて、俺もあんまり好きじゃないんだけどね座学。身体動かしてる方が楽しいし。とは言っても、教官という立場を半ば無理やりとは言え引き受けてしまった以上はやるべきことはやっとかなきゃならん。後でクルーガーに文句言われるのも非常に癪だし。

 

 と、言うことでキルハウスはしばらくお休み。これからは作戦会議室が主な戦場になるだろう。電脳相手にお勉強会というのは初めての体験なので、こいつらがどれくらい覚えが早いのか、射撃訓練の時とはまた違った高揚感がある。明らかにテンションの低いSOPMODⅡは置いといて、お勉強の地へいざ行かんってね。




ぼくも色んな人形に囲まれてキャッキャウフフしたい! でもそこについては偉大なる先人方が沢山いらっしゃるので砂糖成分は他の作者様から摂取するのだ……


あ、PKPは出ませんでしたがG36Cとスオミがすり抜けてきたのでセーフです。


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04 -戦術人形-

時間の流れが本格的にガバりだしたけどゆるして


 ヤバい。ちょっと今、柄にもなく少しいやかなり焦っている。流石の俺も、ここまでのレベルだとは思ってもいなかった。いや、結果を見てから考えてみれば事前に分かっていても何らおかしくはないことではあるんだが。珍しく盛大に読みを外してしまったな、クソ。今後のスケジュールが一気に崩れそうだ。

 

「教官? 次のパターンはあるのかしら。出来れば焼き増しの作戦ではなく、新規の中規模作戦辺りを参照したいのだけれど」

 

 焦りを何とか隠しつつ、さてどうしたものかと考えていたところにAR-15の非情な声が響く。ちょっと待ってくれませんかね、もうこっちは正直ネタ切れ状態なんですけど。ふとピンク髪の後ろを覗いてみれば、AR-15に続いてM16、M4も物足りなさそうな表情をしている。なんとびっくりあのSOPMODⅡまでもが「おかわりマダー?」と言わんばかりの顔付きである。

 

 完全に読み違えた。畜生、どうしてこうなった。

 

 さて、今がどういう状況かと言えば。先日俺はキルハウスにてドヤりながら説法をかました後、ホクホク顔で場所を移し楽しい楽しい勉学のお時間を開始したわけなんだが。

 正直に言おう、俺はどうやら電脳とやらをまだナメていたらしい。初日の射撃訓練の時から電脳のスゴさってのは分かっていたつもりなんだが、まだまだ認識が甘かった。うちの部隊から適当に拝借してきた作戦報告書を配りながら、やれ作戦概要はこうだ、やれ初動の戦術はこうだ、などと最初の一日目こそ順調に授業を行えていたんだが、こいつら吸収力が半端ないの。次の日に前回の復習も兼ねて、いくつか意地の悪い質問も交えて成果の確認をしていたんだが、一度教えた部分は完全に覚えてやがるし、ご丁寧にも戦略の意図やら連携のパターンまで報告書に補足しながら教えてたもんで、それすらも全部一発で覚えてやがった。更には戦術について前回色々とお膳立てをしてしまったおかげか、早速座学で覚えた内容を自分なりの戦術に落とし込んで構築させてるときたもんだ。

 俺は本当の意味で「戦術人形」のことを分かっていなかった。こいつらの根本は記憶じゃなくて記録なんだから、そも忘れるわけがない。それこそハードウェアに致命的な障害が起きるか、容量が一杯になるかしないと無理だ。前者は戦闘で修復不可能なほど傷ついてしまえば可能性はあるかもしれないが、そうならないようにするための訓練である。後者については本当に無理で、例えるとすれば100TBの容量を持ったハードディスクにテキストエディタで作ったデータを一杯になるまで延々と突っ込んでいくようなものだ。あまりにも非現実的過ぎる。

 そして先日までのこいつらは、その膨大な空き容量を持て余した状態だった。乾いた布が水を吸収するが如く凄まじい勢いで学び、空き容量へ知識というデータを詰め込んでいったのだ。

 

 というような、戦術人形の吸収の早さを見誤っていた焦りが半分。残り半分は、考案していた教育スケジュールを前提から崩してしまった焦りだった。

 初日の射撃訓練はまぁ致し方ないとしても、ここまで座学の効率がいいのであれば、キルハウスでの遭遇戦訓練に移る前に一定の知識を詰め込んでから実践に入るべきだったんだ。そうすればより効率よく訓練を進められたはずだ。部下の資質を見誤り、教育の手順を間違える。上司が一番やっちゃいけないことだ。戦術人形にモノを教えること自体が初めてだってのはあるが、それならそれで事前に聞いておけば容易に解決できた話。どんな理由や言い訳を並べ立てたとしても、これは教育する側の失態である。ガッデム。

 

 つーわけで、AR-15が望むような新規の作戦報告書はもうここには無いってことと、結果として俺が教育方針を誤ってしまったことを素直にごめんなさいしておく。自らの非を謝れないやつに上に立つ資格はないと考えているからな俺は。誰だってミスをする。部下だってするし、俺だってする。だったらミスった時にそれを即座に清算しておかないと、後々デメリットしか残らない。

 

「い、いえ、そんな……謝られるようなことでは」

「そうだぜ教官。あんたはよくやってくれてるさ。感謝こそすれ、この程度で謝られる道理はないな?」

 

 うおお、なんていい子なんだお前たちは。AR-15は俺からの謝罪に対して逆に申し訳なさそうにしゅんとしてしまい、それをフォローするが如く我らがイケメンM16A1が素敵な言葉を添えてくれた。マジで惚れそう。

 

「そうそう! それにぃ、教官と一緒に遊ぶの楽しいから平気だよ!」

 

 SOPMODⅡがいつも通りの眩しい笑顔で元気よく振舞ってくれる。多分フォローしてくれてるんだろうけど別に遊んでるわけじゃないからね? けどまぁ、少なくとも嫌々よりは楽しみながら訓練して貰えた方がこちらとしても気が楽だし、本人も身が入るところがあるんだろう。悪くない傾向ではあるので素直にありがたく感じておくことにする。

 

「まだ、教わり始めてから日は浅いですが……多くのことを、学ばせて頂いています。M16姉さんの言う通り、私も感謝していますので……」

 

 やっぱり気の弱さは相変わらずだなM4は。それでも、精一杯俺を気遣ってくれているのは痛いほど分かる。というか、全員にここまで言われると逆にちょっと居た堪れなくなってきちゃう。

 うーん、変な空気のまま固まってしまいそうなのでリセットリセット。とりあえず、再度すまんな、と簡単に話を締め、ひとまず座学の時間は終了とする。本当はここで結構な時間を割く予定だったんだが、スケジュールが大幅に縮まってしまった。決して少なくない量の報告書を持ってきていたはずなんだが、まさか2日でオールコンプリートされるなんて考えもしなかったぞ。

 

 しかし実際にやることがなくなってしまい、教材が無くなってしまったことはもう事実として受け止めるしかないので、俺もいい加減切り替えていこう。ちょっとらしくなかったな。

 うん、折角だ。この2日間で学んだことを早速活かして貰うことにしようか。てなわけで、2日ぶりのキルハウスへとんぼ返りである。遭遇戦訓練の再開を聞いた4人は、非常に分かりやすいSOPMODⅡとその次に分かりやすいAR-15を筆頭に、皆やる気に溢れているようだ。きっと最初にやった時と比べたら大きく動き方も変わってくるんだろうな。これはマジで今日当てられてもおかしくない気がしてきた。俺も気合入れよう。頼むぞ俺の愛銃。

 

 

 

 

 

「うっしゃあ! ヒットだ! やってやったぜ、今日は祝杯だァ!」

 

 狭いキルハウス内、M16A1の雄叫びが木霊する。叫んだ本人はと言えば勢いよく握り拳を振り上げながら、その歓喜を全身で表現している。普段の大人っぽさがいい意味で鳴りを潜めており、見目相応の活発な少女にも映った。

 

 午前中に早々座学の時間が終了してしまい、場所は変わってキルハウス。遭遇戦訓練に改めて挑んだ俺とAR小隊の4人だったが、結果として4人全員にキルマークを献上してしまうという事態に陥っている。しかも、SOPMODⅡとM4A1には既に2回デスられている有様だ。トータルの戦績で言えばまだまだ俺が優勢だが、こいつらの成長速度にはほとほと舌を巻くばかりである。いやー、嬉しいやら悔しいやら。今までどれだけ筋のいい新人を鍛えていても、たかだか1週間弱で曲がりなりにも俺と戦えるレベルにまで成長するやつなんて一人も居なかった。これはもうとっくに新人に毛が生えたレベルなんて範囲じゃ収まりが利かなくなっている。確かに俺を全身染め上げるくらいにまで成長して欲しいとは思っていたが、こんなエグいスピードで実力をつけてくるなんて聞いてません。人形怖い。

 

 意外にも俺に一当てするのが一番遅かったM16A1だが、これは単純に運や相性もあるだろう。こいつは今まで感じたとおり精神的にもタフで頭もキレる、頼りがいのあるやつなんだが、個人での作戦となると案外単純、というか正面突破に近い戦術を好む傾向にある。対する俺は自分が優秀だなんて毛ほども思っちゃいないので、搦め手全般が得意技だ。こうなると相性は最悪に近くなる。逆にこの短い期間でよく俺に当てられたものだなと褒めてやりたいくらいだ。周りの3人もまるで自分のことのように喜んでおり、その光景は大変微笑ましい。うーん、何だか娘が4人出来たみたいな錯覚に陥りそうだ。

 

 おっといかんいかん。さて、盛り上がっているところ水をさすようで悪いが、一旦状況を締めて4人を集める。

 イーブンからスタートして俺に一当て出来たってことは、狭い範囲での個人戦術、技量において最低限の実力はついたと見ていい。めでたく新兵は卒業って状態だな。1週間で新兵卒業とか普通は有り得ないんですけどね。

 ということで、ここからは俺も交えて5人でチームを組んで遭遇戦訓練に入ることにする。2on2で相方を順繰りに交代して、残りの1人は見学だ。見る側とやる側を定期的に組み替えることで主に俺の体力も温存出来るし、組み合わせの偏りを防ぐことで戦術や思考の偏りも極力抑えていく方針である。今でこそ4人だが、将来的に他の人形と組む機会も当然あるだろう。特定の相方ありきの戦術で凝り固まってしまうのは非常に良くない。様々な組み合わせ、パターンに実践で慣れていくことで更なる経験値を積んでもらいたい。

 

 ま、最初は連携の不備や思考の違いやらなんやらで喧嘩や諍いも起こるだろう。だが、そういうものも飲み込んで、自分の糧にして始めて経験として生きてくるもんだ。頭と思考は常に柔らかくしておかないとな。電脳に対して柔らかく、なんて表現が合ってるのか知らんけど。

 ああ、あとクルーガー辺りに頼んで追加の作戦報告書も貰っておこう。無理して正規軍人であるうちの部隊のやつを用意して貰わなくてもいい、というか今となっては俺も初見の報告書の方が都合がいい。お互いに考えながら最適解を模索出来るし、それもまたいい経験になるはずだ。ついでに報告書の書き方とかも教えておくか。いつか役に立つだろう。

 

 当初の予定では大体2週間の基礎訓練のはずだったんだが、さてはて残す1週間でこいつらをどれだけ底上げ出来るか。クルーガーが手を回しているとはいえ、俺もずっと自分の部隊を空けるわけにはいかないしな。時間は限られているが、やりたいこと、やってみたいことは湯水のように湧いて出てくる。頑張って表には出さないようにしているが、今の俺はめちゃくちゃテンションが高い。自覚できている分まだマシだが、教官としてはあまり望ましくない。冷静になるんだ俺。

 

 

 おっと、大事なことを忘れていた。

 個人で動く分には問題ないが、チームを組む場合、最初の息を合わせるのが何より肝心だ。出足がバラついてしまえばその後ずっと響くからな。つーことで、うちの部隊では状況開始の準備が整った時にこう言ってる。別に真似する必要はないから、後で4人で色々打ち合わせるといい。

 

 それじゃ、やりますか。頼むぜ、一時の相棒さんよ。

 

 

「――You Copy?」

 




ウサギ狩りとジンジャークッキーの1日17周って結構重くない? やりますけど

この小説はとりあえずのケツが決まってるので割とサクサク書いてます。色々ガバいけどゆるして


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05 -サイドアームとオフショット-

日常的小説に日常回をぶち込んでいくという暴挙。
普段以上に緩い感じですけど文字数は何故か比較的多め。どうしてこうなった。


 あぁー、疲れた。昨日は年甲斐なくハシャいでしまったせいか身体のそこかしこが痛い。何とも表現し難い倦怠感が全身を支配している。しかし、しかしだ。あんなに教え甲斐のある連中を4人も面倒見させてもらってテンションが上がらない方が俺はどうかしていると思うね。今となってはクルーガーに感謝だな、他の戦術人形を知らないからまだ何とも言えない部分はあるが、こんな感じで教育が出来るのであれば今後も余暇次第で請け負ってやってもいいかもしれない。

 

 結局昨日は4人が満足するまで付き合ってやろうと思っていたら、あろうことか俺の体力が先に底を付いてしまった。そりゃあいつらは人形だもんね、疲労感は感じたとしても肉体的疲労なんてないだろうからね。人間の俺の方が先に限界が来てしまうのは自明の理。確定的に明らかというやつだ。

 で、その後は通常なら普通に解散して終了の流れなんだが、昨日はお互いに振り切ったテンションが収まり切らなかったのか、そのまま一緒にメシを食らいながら戦術論に関してディベートの真似事なんかをしていた。まだまだ知識量や経験で負ける気はしないが、これはもうそう遠くないうちにサクっと追い抜かれてしまうだろうなって予感をひしひしと感じた一日だったな。人間と比べてしまうのがそもそもお門違いなんだろうが、能力も資質も意欲も段違いだ。あんなのが大量生産されてしまった日にはマジで世界の救世主になってもおかしくない。戦術人形には冗談抜きでそれくらいのポテンシャルを感じる。俺が過去の任務で見かけた戦術人形は良くも悪くもメカっぽさが際立っていたが、このご時世でもしっかり技術ってのは進歩するんだなあ。いや、こんなご時世だからこそか? ま、どうでもいいことだが。

 

 そういえば、そもそもの話として何であの4人が俺に師事を請うことになったのか、ちょっと気になったので聞いてみた。クルーガーに聞いても有益な情報は何一つ出てこないことは容易に想像出来るからな、あいつは無駄口は稀に叩くが、無駄な口は開かないタイプだ。そこら辺はきっちりしている。

 で、俺の質問を受けた4人はしばしの間困惑していたのだが、「教官なら」ということでその口を開いてくれた。うーむ、Need to knowとか情報統制とかまだ甘いのかな? もしくは、そこら辺の情報価値判断が甘いのかもしれない。別段情報を悪用やら横流ししようだとかはこれっぽっちも考えちゃいないが、思った以上に重い感じになってしまったので、聞いちゃいかん情報だったのかとちょっとドキドキしちゃったのは内緒だ。

 ちなみに、答え自体は割と単純かつ納得の行くものだったので深くは気にしないことにした。戦術人形自体は既にそこそこの量とモデルが実用化されているが、M4A1を筆頭に彼女ら4人は今までの製造工程とはちょっと異なる特殊な人形らしい。要するに新型というやつだ。ワンオフモデルのフラッグシップとでも言えばいいのかな、まあそれなり以上に貴重な存在らしかった。

 で、虎の子の新製品をいきなり戦地にドーンってわけにもいかなかったらしく、色々な実験も兼ねて人間ベースの「教育」を施したらどうなるかってのをお偉いさん方は見たかったらしい。その辺の流れは彼女たちも詳しく知らないようだ。身も蓋もない言い方をすれば所詮彼女たちも商品だからなぁ、致し方なし。

 

 まあ、その新製品が何でクルーガーのところに流れてきて、更には俺なんかの指導を受けているんだっていう別の疑問は出てくるが、聞いても仕方が無いことばかりなのでそれ以上は辞めておいた。どうせ知ったところで俺が何か出来るわけでもないし、下手に突っこんて虎の尾を踏むのも御免被りたい。人間様は分相応に生きるのが長生きのコツ。

 

 そんなこんなで非常に充実した一日を過ごしたわけなんだが、今日はちょっと軽めかつ横道のメニューをやってみようと思います。正直に言うと俺の身体に少しガタがきてるというか、回復し切れていない。非常に恥ずかしい話ではあるんだが歳には勝てなかったよ。目が覚めた時から違和感はあったが、時間が経ってきてちょっと本格的にヤバそうだなって予感がしている。普通であれば後方勤務に移っててもおかしくない歳だからなあ、あーやだやだ。

 

「よう、教官。今日もよろしく頼むぜ……何だ、調子でも悪いのか? 私らのために色々としてくれるのは嬉しいが、無理はしないでくれよ?」

 

 最早恒例となった集合場所にていつものメンバーが揃って開口一番、その表情を曇らせながらM16A1が吶喊してくる。ウッソだろお前、確かに疲労を残してはいるが、それを顔に出すほど耄碌しちゃいないぞ俺は。自慢じゃないがポーカーフェイスには自信があるんだ、上がしんどいツラしてたら全体の士気に関わるからな。少なくとも今まで、どうしても無理で事前に伝えておいた時を除いて部下にコンディションがバレたことはない。それを対面1秒で見抜いてくるってどんだけだよ。びびるわマジで。

 M16の言葉を聞いてか聞かずか、他の3人も似たような感じだ。AR-15に至っては普段の態度は何処へやら、露骨にオロオロしだしている。えぇ……ちょっとどうしてくれるんだこの微妙な空気。俺を気遣って発言してくれたのは分かるんだが、逆にやりづらいわ。

 これが人間ゴリラ予備軍の新兵どもだったら一喝して終わりにも出来ようもんだが、相手は見目だけは麗しい少女4人。ちょっとそういう手段は憚られる。

 

 うーむ、どうしよう。初見で見破られてしまった以上見栄を張ってしまっても仕方が無いんだが、かといって素直に認めるのも何だか癪に障る。いやしかしここまで来てしまった以上はただの意地になってしまうなあ。ここは素直に認めたほうがいい気がする。だが絶対に休みにはしないぞ。この限られた期間で丸一日無駄にするなんて勿体無いことはしたくない。

 

「まぁ、教官が言うのならいいのだけれど……M16の言うとおり、無理はしないでね」

 

 AR-15がばつが悪そうな表情とともに言い述べる。いやそこは切り替えて欲しいところなんだが、彼女にはちょっと難しい話だったか。とりあえず気にするな、と半ば無理やり話を終わらせて訓練の話に入るとしよう。

 

 今日は今までのような射撃訓練や遭遇戦訓練ではなく、サイドアーム――いわゆる拳銃やナイフといった補助武器の鍛錬を行おうと思います。別にこれを本腰入れてやるつもりはまったくないんだが、今後戦場に出ていくうちにメインの銃器が使えなくなったり、タフな任務で弾切れになることだってあるだろう。そうなった時にたとえその場凌ぎであっても、第二第三の手段は持っておくに越したことは無い。生き残る可能性は1%でも高い方がいいからね。

 

 ということで、それぞれに拳銃なりナイフなりを持たせて改めて射撃訓練を行ったり格闘術の指南などをしているわけだが。やはりというか何と言うか、従来よりも格段に覚えが遅い。具体的に言うと、比較的優秀な人間の新兵レベルにまで落ち込んでいる。いやそれでも十分すごいっちゃすごいんだけど。

 

 とは言え、今までに比べるとあまりに覚えも動きも悪いので、やっぱりあまりよろしくないんだろうかと思い声を掛けてみたが、どうやらこれは一種の「仕様」であるらしかった。

 彼女たちはどうも自分の武器と特別な繋がりがあるらしく、リンクされた武器であれば文字通り手足のように扱えるそうな。しかし、それはあくまで「電脳側」にそういう処理を施されているだけであって、その電脳が搭載されている義体側はそうではないらしい。通常は実戦を繰り返すうち、電脳が持つ情報と義体の持つスペックのすり合わせを行う、いわゆる最適化が行われる。初日の射撃訓練でAR-15が顔面にスコープをぶつけたのも、電脳側は銃の持つ火力、連射速度、反動量などを既に知っていたが、それらを適切に制御するための義体側の情報が無かった故の失態だったというわけだ。

 彼女たちの凄まじい成長速度は、この落差が埋まっていく過程に過ぎない。より正確に言えば「成長している」ではなく「本来の性能に近付いている」と言った方が正しい。そして今行っている訓練というのは、電脳側にも情報が一切インプットされていない新規事項である。その性能や効果的な扱い方を一から学ばねばならず、そしてそれを義体に対して適切にフィードバックさせていかなければならない。本来の得物と違って習熟速度に大きな差が出ているのはここが原因だろう。

 

 うーむ。もしやこの訓練、ほとんど意味がないのでは? というか、彼女たちの言が事実であるならば、今俺がやっていることは戦術人形そのものの否定とも取られかねない。ちょっと最近読みを外しすぎているな。いよいよ引退も考えるべきなのかもしれない。

 

「そうでもないぜ教官。言われたとおり、生き残るための手段ってのは多いに越したことはない。それに、これはこれで新鮮だしな」

 

 ナイフによる格闘術に四苦八苦しながらも、イケメンスマイルを輝かせながら答えてくれたのはM16の姉貴だった。素敵。もう俺も姉さんって呼んでいい? ダメかな。歳の差考えたら厳しいもんな。

 

「そーそー! 楽しいから大丈夫だよ!」

「ええ。SOPMODⅡは置いておくとして、これもひとつの知識です。無駄ではない……あ、また外した……どうして……」

「そう、ですね。私たちは、貴方から全てを学ぶと決めましたから」

 

 M16とナイフでじゃれあいながらSOPMODⅡが。9mm拳銃で必死に的当てを続けながらAR-15とM4A1が続く。ほんっと君たち聖人かよ。人形だったわ。

 ただ、俺を気遣ってというのも多分にあるんだろうが、無意味な嘘を吐いているようにも感じられない。彼女たちが言う通り、無駄だとは思っていないようだ。であるならば、言葉に甘える形にはなってしまうがわざわざ中断させてしまうのも締りが悪いというものか。どちらにせよ、俺の体力的な問題もあって昨日のようなチキチキ耐久遭遇戦訓練コースは正直出来そうにない。座学も考えたが新規の教材が無い以上、これこそほぼ無意味だ。じゃあもうやれることほとんどないじゃんってことで、レクリエーションがてら軽めの負荷でこなしていくとしようか。お前たちも喋りながらでいいぞ、折角だし楽しみながらやろう。

 

「おお、いいね。たまにはそういうのも悪くない。それで早速なんだが、教官にいくつか質問してもいいか?」

 

 なんだ藪からスティックに。別に構わんぞ、答えを言える言えないは別だけどな。

 

「教官って結局どこの誰なんだ? 軍人なのは分かるが……逆に言うとそれしか分からん」

 

 うーん、一応念のため黙秘で。別にそれくらい言ってもいいんじゃないかとは思うが、クルーガーが俺が軍人だという情報以上を伝えてないってことはつまりそういうことだろう。多分俺とG&Kとの関わりというか、痕跡は極力残したくないんだと思う。まぁ普通に教官やってるけどバレたら普通にヤバいし。主に俺とG&Kが。座学で使った作戦報告書だって出元は流石にぼかしてある。

 

「えーつまんなーい! あ、じゃあじゃあ、教官って歳幾つなの? おじさん?」

 

 やかましいわ! 立派なおじさんじゃい文句あるか! 自分が若くないことはもう嫌でも分かってるんだが、こう年端も行かないような少女に火の玉ストレートをぶん投げられるとちょっとしんどいものがある。認めたくはないが、認めざるを得ない。つらい。

 

「こら、SOPMODⅡ。すみません教官。ところで、オフの日などはどう過ごされて?」

 

 おおっとプライベートに突っ込んできたか。まぁ逆にそっちの方が隠すことがなくて助かるんだが。特にこれといって大層な趣味を持っているわけじゃないしなあ、本を読んだり銃器の手入れとかしてるよ。俺みたいな軍人には何もない日ってのはそれだけでありがたいからな。貴重な時間をのんびりと謳歌するのもまた乙というものだ。

 

「あ、あの……そういう日はお食事とか、どうされているんですか?」

 

 んん? えらいピンポイントで突っ込んできたな。別にいいけど。大体が兵舎の食堂だよ、たまに余った配給食ったりするけど。メシなんて食える程度に味が整ってて腹が膨れて栄養があればなんでもいいからなあ。あ、戦地でメシを調達する予定がある時は香辛料は絶対に持っていけよ、世界が変わるぞ。

 

「へぇ、まあ軍人ならそういうもんか。ところで教官は……独身か?」

 

 何かどんどん突っ込む角度がエグくなってきてない? 気のせいかな? うーむ、黙秘で。唸れ俺のポーカーフェイス。

 

「あっ! 好きなタイプとか聞きたーい!」

 

 ハイ黙秘。

 

「あら、それはちょっと気になるわね。年上が好み? それとも年下かしら?」

 

 ……黙秘で。少なくとも見た目未成年は確実に守備範囲外だが、あえて情報を垂れ流す必要もなかろう。

 

「ちょ、ちょっと皆。教官が困ってるじゃない」

 

 天使かよ。

 

「はっはっは! いや、悪いな教官。訓練中に興が乗りすぎた。……で、実際のところどうなんだ?」

 

 悪魔かよ。

 

 いや、M16姉さんが仰るとおり一応今やってるのもお遊びじゃなくて訓練だからね、やると決めた以上は真面目にやってくれんと困るわけですよ。ということで質問タイム終わり。終わりったら終わり!

 そんなこんなで一見ふざけているようにも見えるが、声を出しながらも皆訓練は真面目にやっているからこれ以上強く出られないのもつらい。楽しみながらやろうって俺から言っちゃってるしね。反故にしたくもないし。

 

 ま、たまにはこういう時間があってもいいだろう。彼女たちは確かに戦術人形として、戦うためにその生を授けられている。これは否定しようがないし、俺も否定するつもりはない。だけれども、一度その手から殺人兵器を手放してしまえば、彼女らは少なくとも見た目はただの少女に成り下がってしまうのも事実だ。AIのことには明るくないが、新型ってことはこのご時世に生まれてからそんなに時も経ってないだろう。見目相応の、女子らしさが垣間見えてしまうのも無理からぬことだと思う。

 そういう部分も全部ひっくるめて、彼女たちの在り方を受け入れてあげた方がいいんだろうな。うん、たまにはいいだろ、たまには。

 

 明日には俺の調子も戻っているだろうし、今日の遅れを取り戻すくらいの覚悟でビシバシやっていかないとな。今までの遭遇戦みたいな訓練じゃなくて、屋外のフィールドを使ったより本格的なメニューでもやってみるか。普通基礎訓練の段階でここまでやらないんだが、彼女たちならきっと大丈夫だろう。というか、今までの訓練を超スピードでこなされてきた以上、こちらとしては訓練の難度を上げていくしかない。俺も今まで以上にキツくなるが、こんなおじさんの努力で未来の救世主が育てられるなら安いモンよ。

 

 というわけで、今日はこのまま比較的緩いペースでやっていくとしよう。電脳にそういうのが必要なのかは分からんが、訓練を兼ねた息抜きと捉えればそう悪くはあるまい。なんだかんだで明日には明日の風が吹くもんだ、きっと大丈夫。今までもそうやって生きてきたんだからな。




教官おじさんのイメージは大体40前後のあんまりいかつくない系を想定して書いてます。いわゆるイケオジではないタイプ。そういう内面三枚目キャラ好きなんですよね……


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06 -ストーキングトゥヘル- 前

週末だ!!!!!!!(ドドンッ
教官おじさんの話が思った以上に長くなってしまったので前後編に分けます。年寄りは話が長くていけねぇな。


 よしよし。体調もすっかり元通りになったな、これなら今日からの新しい訓練も大丈夫そうだ。

 先日のサイドアーム訓練から過ぎること一日。よろしくないコンディションを引っ張り続けるのも非常によくないということで、訓練自体も日が落ちる頃には早々に切り上げ、英気を養うために早めの就寝を心掛けたのだがこの選択はやはり間違っていなかったようだ。しかし、場合によってはもっと長期の任務に赴くことも当然あったのだが、それらを遂行していた時よりも疲労のピークの訪れが早いようにも感じる。教官という立場は、部隊の上官とはまた違った負荷がかかることは承知の上ではあったが、やはりバイタルが完全に死ぬまで動き続けたのが良くなかった。携帯端末のバッテリーだって使い切ってしまった方が消耗が早いしな。ここら辺は生身も機械も変わりないのかもしれない。

 訓練を切り上げてから、何故だかなんだかんだ遠回しに俺に気を遣ってきたり世話を焼こうとしていたAR小隊の4人だったが、そんなに心配される程落ちぶれちゃいないってことで丁重にお断りした。俺はあいつらの教官ではあるが親ではないしましてや被保護者でもないわけで、そこまでされるだけの理由も義理もないからなぁ。彼女たちには俺なんぞの心配に余計なキャパシティを割くよりも如何に早く、そして効率よく強くなれるかを追い求めて頂きたい。それが戦術人形たる彼女たちの使命だろうし、よしんば心配をするのであればもっとそれに見合ったターゲットを追い求めるべきだ。こんなおじさんをヨイショしたところで得られるものなんて何もない。

 

 さて、体調の確認も終え、問題ないことを認識した俺が向かっている先はいつもの集合場所ではなく、G&K社の外にあるフィールドである。

 

 今のご時世、何処の誰も統治していない、所有権のない土地ってのは名目上は存在しないんだが、それはあくまで名目上の話であって、実際はどうなろうが誰も知ったこっちゃ無い場所というのはそこかしこに存在している。大きく分けて"人が住めなくなった土地"と"人が住まなくなった土地"の二つだ。ただでさえ地球の7割は海だというのに、更に人の住む場所が減ってしまっては困るのではないか、という至極単純な疑問も沸くだろうが、それに対しては至極単純な答えが用意されている。それでも困らないくらいに人の数も減っているからだ。

 その直接的な要因としては、ちょっと前に起こった第三次世界大戦の影響が強い。歴史の教科書に載っているような第一次、第二次世界大戦と違い、当時は開戦当初から各国の軍事力、技術力が大いに発揮されてしまった。その最たるものの一つが核兵器である。自国の民を無碍に危険に晒すことなく、敵国の民、土地に大打撃を与える必殺のニュークリアウエポンは、初っ端から大活躍してしまった。そして、深刻な汚染を撒き散らす兵器が世界中で使われた後、EMPの影響で各国の航空戦力、海上戦力のほとんどが無力化されてしまい、残ったのは石器時代もかくやと言わんばかりの人力戦であった。核兵器と人間という限られたリソースを惜しみなく投与し続けた結果、大量の汚染された大地と、少量の人間が残ったというシンプルな話である。

 

 そうして環境的に人が住めなくなってしまった土地、その煽りを受けて人が住まなくなってしまった土地等がこの近辺にも割とそこら中にある。特に第一次産業を行っていた地方や街は壊滅的だ。土地が死ぬ上に、周りの土地が死んでしまっては買い手もつかなければ、日々の生活すら危うくなってしまう。そんなわけで、地方自治を任されているPMCが名目的に預かってはいるがしかし、実のところただの荒地という状態が続いてしまっている。というか、そのPMCの一社であるG&Kとしてもここはいわゆる訓練施設のようなものらしいので、周りに余計な人が居ない方が逆に都合がいい。こんな場所を選んだ理由もそこが大きいんだろう。

 

 まあ、そんなあわや絶滅の危機と言っても過言ではない状況にまで追い詰められた人類ではあるが、それでも尚俺たちは愚かにも逞しく日々を生き抜き、常々隣人と睨み合っている。手を取り合うなんて発想は何処の誰も持ち合わせていないようだ。死ぬのは当然嫌だが、人類は一度滅んでもいいんじゃないかなって時々思ってしまう。それか人間はそこらのシェルターにでも篭って、人形たちに全て任せてしまえばいいんじゃないかと考えるくらいには、まぁあんまり希望や未来なんて明るい思想は持ち合わせちゃいない。いやーでもやっぱり死ぬのは嫌だし、日々を生きながら死人みたいな生活をするのも好みじゃないしなあ、それなりに頑張った方がいいのかな。うん、非常に狭い範囲ではあるが教育を受け持った人形と部隊の部下たちのこともある。勝手にくたばったり思考を殺すのは辞めておこう。

 

 そんな取りとめもない無駄なことを考えながら歩くことしばし、今回限りの集合場所に指定した場所に着くと、そこには既に4人の人影が在った。

 

「あ……教官、おはようございます。その……大丈夫でしょうか……?」

 

 俺の姿を見かけるや否や、M4A1が朝の挨拶と気遣いの言葉を投げ掛けてくれる。昨日、なんだかんだで一番俺の世話を焼こうとしていたのがこの緑メッシュ気弱少女だった。心配してくれること自体はありがたいことだが、お気持ちだけありがたく受け取っておきます。残念ながらそこまで老いぼれちゃいないんです、あと10年もしたら分からんが。というかあと10年も生きてられるかどうかも分からん。職業柄いつ死んでもおかしくないからな。今まで生きてこれたのは俺個人の努力も多少はあるが、まぁ詰まるところ運もよかった。

 

「顔は……大丈夫みたいだな、よかったよかった。で、今日は何をするんだ?」

 

 俺の顔を覗きこみ、M16A1がその慧眼で様子を探る。どうやらお眼鏡には適ったようでなによりだ。姉貴のお墨付きも頂いたことだし、早速訓練の説明に入ろう。

 

 今回やろうとしているのは、言ってしまえば追跡戦だ。AR小隊の4人でチームを組んでもらい、俺を追跡、捕縛してもらう内容である。ただ、普通にノールールでやってしまえば流石に俺が不利なので、いくつかシチュエーションに条件を設ける。

 使用する弾丸は遭遇戦訓練と同じペイント弾。これはもう訓練な以上仕方ない。当たったら俺が死ぬ。で、俺もAR小隊の4人も使えるのはマガジン2個分のみ、それ以上の発砲は禁止だ。無制限に弾をばら撒かれたら人数差がモロに出てくるし、屋外の追跡戦に限らず、お互い豊富な物資を常に抱えながら戦える状況なんてあるわけが無い。今回からは、限られた物資を効率的に扱う思考力も養ってもらう。

 そして勝利条件だが、AR小隊の4人は俺を制限時間内に無力化する、あるいは1メートル圏内で俺をホールドアップさせれば勝ち。俺は4人全員をキルするか、AR小隊全員が弾丸を使い切るか、制限時間を逃げ切れば勝ち。ただし、俺はとある重要な情報を握った人物であると設定し、頭部、胸部へ弾丸が命中してしまった場合はターゲットの死亡ということで無条件で俺の勝ちとする。俺は全力で逃げながら応戦するが、俺の手足に命中した場合、その部位を使わずに行動する。

 つまりAR小隊が俺に勝つためには、両の手足にペイント弾をヒットさせ芋虫状態にするか、俺の裏をかいて接近し切るかの基本どちらかを行う必要がある。

 そして開始は同時。適当に設定したエリアの先頭に俺が、20メートル後ろからAR小隊の4人が並び、一斉にスタートだ。

 

 彼女らが戦術人形として、どのような任務に就くことになるのかは俺も知らない。多分、本人も知らないだろう。だからどんな任務に赴いても大丈夫なように、俺は俺の持つ出来る限りの全てを教えることに決めた。今回の訓練はターゲットを見失わないための追跡能力、身体能力も勿論だが、エリア内で相手がどう動くかの予測、自分たちのみならず相手の装備や状況を把握する観察眼、そして4人の連携力が大いに試される内容となっている。どこをどう間違えたとしても、新兵に施す訓練じゃあない。

 

「ははっ! こいつはやり甲斐があるじゃないか。俄然楽しみになってきたぜ」

「ええ、より実戦的な内容となれば学べることも多そうね。楽しみだわ」

「よーし! 絶対に教官捕まえてやるんだから!」

「これまでの成果を見せる時、だと思います。頑張りましょう……!」

 

 こいつらには、不安だとか不満だとか恐れだとかが無い。あるのは戦術人形として己に課せられた使命感、教育を通して得られる充足感、高揚感。小恥ずかしいが、俺に対する信頼感。そういうポジティブな感情で彼女らの電脳は埋め尽くされている。そしてM4A1が言う通り、これは今までの訓練で培ってきた全てを発揮する内容と捉えても問題ない。むしろ、今までの訓練でどこか不足な点があればこの追跡戦まで進んでいないからな。

 

 特に質問も無いようだし、早速始めることにしよう。ここで質問が無い、という時点で俺の中での期待値は既にかなり高まっている。というのも、大体こういう訓練に於いては最低限のマストさえ抑えていれば、あとは「禁止されていなければしてもいい」がまかり通るものだからだ。実戦にルールなんてあるか? 無いだろ? そこら辺、教えてこそいないがこいつらはよく理解している。ここも人間と違ったメリットだな、飲み込みもいいが割り切りもいい。

 

 全員の時計を合わせ、俺は開始地点へ移動。その間4人は簡単な打ち合わせを行っているようだ。スタート直後は恐らく単純な追いかけっこになる。遭遇戦訓練で俺の身体能力はほとんどバレているだろうから、彼女らの優秀な電脳がそれらのステータスを見誤ることはあるまい。如何に早い段階でキルゾーンから脱出して4人の目を欺けるかがカギだな。もたもたしてたら一瞬でゲームが終わってしまう。粗探しをすればそれこそいくらでもあるが、それくらいには彼女らの実力は極まりつつあった。

 

 よーし、おじさん本腰入れて逃げちゃうぞ。頼むぞ我が愛銃。俺は右手に抱えるサブマシンガン、UMP9に一瞬視線を預けながら気合を入れる。こいつほんといい銃なんだよ、ストッピングパワーこそ心許ないが挙動は素直だし、アタッチメントも豊富だ。しかもそこそこ安価。近、中距離戦においてはどんなシチュエーションでも対応できる万能さがある。勿論一通りの銃は扱えるんだが、大体の作戦で俺はサブマシンガンを好んで使う。想定外に一番対応出来るしな。アサルトライフル全般も悪くないんだが、あれちょっと機動戦するには重たいんだよなあ、弾も嵩張るし。10年前ならアレでもよかったが、寄る年波には勝てません。

 

 後ろを振り返れば、いい表情が整った4人の乙女たち。どうやら準備は万端なようで。

 それじゃ、一人ぼっちの逃避行ゴッコを始めようか。行き先は果たして天国か地獄か、それとも第三の何かか。あいつらが違う何かを見せつけてくれることを、俺は期待して止まない。




ついに銃の名前を出してしまいましたが特に本編には関係ありません。


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07 -ストーキングトゥヘル- 後

うおぉん、めちゃくちゃ長くなってしまいました。

ちなみに筆者、本日誕生日なんですがやったことといえばしこしこキーボードを叩いていたことくらいです。ウーン、孤独!


「……くっ! また見失った! SOPMODⅡ、そっちは!?」

「ダメ! 全然分かんないよ!?」

「足も速ぇが、視線誘導の技術と裏のかき方が尋常じゃないな……。気を付けろよ、案外近くに居るかも知れん。警戒は怠るな」

「ええ、このタイミングで逆に飛び出してくる、何てことも十分有り得ます。皆、気を付けて」

 

 畜生、M16A1とM4A1が鋭い。サクっと撒いた後に一当てして頭数を減らしておこうかと思ったが、このタイミングで仕掛けるのは得策じゃなくなったな。虚を突くつもりがしっかり警戒され始めたんじゃリスクがでかすぎる。近場で様子を伺い相手の動き出しを待つか、距離を取るか。悩ましい選択だな。

 

 追跡戦訓練が始まってから幾ばくかの時間が流れた頃合。今は2度目のエンカウントをどうにか凌いだ直後といったところだ。最初は俺の読み通り追いかけっこになったわけだが、流石の4人もその段階でむやみやたらに発砲するような愚は犯さなかった。お互いが走りながらの状態ではまともに照準が合わせられるわけがないし、頭部や胸部に当たってしまっては即ゲームオーバーだからな。それに今回は弾数制限もある、開幕での浪費は避けたいところだろう。

 そうして手頃なビル街に突っ込み、幸先よく4人の視線を切れたわけだが、ここからちょっと俺の想定外の事態になってしまった。というのも、てっきり人数差を活かした積極策を取ってくるものと思っていたのだが、どうやら基本をツーマンセルで固めて適度な距離を保ちつつ、じわじわと索敵網を広げて炙り出していく作戦を採用したらしい。あいつらの視線を切ってからというもの、捕捉こそされていなかったが、そのせいで逆にこちらからの捕捉も難を要した。ただでさえ人数差がある状況で、相手を見失ってしまうのはあまりにもマズい。そして、相手を見つけようとして音や足跡などの情報を必要以上に漏らしてしまうのはもっとマズい。

 

 結果、双方が頓着状態に陥った。基本的に人数差というのは余程の実力差か、環境に大幅な優劣がついていない限りは覆せない。彼女たちは既に俺一人で無双できるようなヒヨっ子ではなくなっているし、環境については現状五分である。お互いがお互いの位置を把握出来ていないという情報の差も五分。こうなってしまってはシンプルに人数差がキツい。そして俺は人間である以上、戦術人形である彼女らと違って疲労がある。制限時間切れを狙った逃げ切りもあるにはあるが、まだ序盤も序盤、そっちに舵を切るには相手の位置と動向を把握出来ているという前提条件が必須だ。このままではジリ貧まっしぐらである。

 

 と、いうことで。多少攻めすぎている感はあったが、こっちから積極的に動いてカウンター的に相手の動向を探る方針で行くことにした。こういう時は思い切りが肝要だ。下手にびびってジリジリと動いていては相手にも時間と余裕を与える結果になる。考えた結果、いくつか射程範囲内にある建物の窓ガラスを指切り射撃で割りながら、音という情報を一時的に飽和させて全力でダッシュする作戦を敢行した。これで一瞬でも戸惑ってくれたり浮き足立ってくれれば御の字。最悪のパターンは俺の予想以上に実は近場でニアミスしてたって事態。

 

 で、その最悪を見事に引き当てて必死に隠れたのがついさっきの出来事である。いやー焦った。あの瞬間ばかりはポーカーフェイスを貫けていた自信がない。対面した時多分5メートルも離れてなかったんじゃないかな。

 幸運だったのはAR小隊の方も塀を盾にしながらじりじりと進んでいたことで、突如死角から飛び出してきた俺を発見した時の初動が僅かばかり遅れたこと、そして俺は既にトップスピードに近かったことだ。誰かの銃口が何度か火を噴いたが、幸いにも被弾を免れ、しばらくの追いかけっこを経て今こうして隠れているわけであった。

 

 しかし逃げ切ってから思うが、あの至近距離で俺に動向を探らせなかったのは流石の一言だな。行軍の音も聞こえなかったし、多分言葉も交わしてない。もしかしてあいつら、俺の知らない間にハンドサインかジェスチャーでも学んだのか? 座学の時にちょろっとそういうのもあった方が便利だぞ、みたいな話に少しだけ触れた記憶があるが、これがマジなら非常に厄介だ。

 こういう場合において、一番の情報源は目ではなく耳になる。つまり、歩いている音や交わしている会話などから状況や位置取りを推察することが非常に重要だ。勿論直接目で見ることが出来ればそれが手っ取り早いんだが、こちらから目視出来る状態というのは、即ち相手からもこちらを視認出来る状態だということ。無闇に頭を覗かせるのは危険極まる。

 ここでのベストは、4人に気取られないように、かつ見失わないよう距離を取り、一方的に観測出来る場所を確保し、常に相手の動向を確認しながら後の先を打つ、ってところなんだが、そも最初の条件からしてほぼ無理である。あいつら電脳のスペックはさることながら、当然のように義体のスペックもいい。よくよく考えなくても、遭遇戦訓練でアレだけ動き回りながら精度の低下が見られないんだしな。更に動体視力や聴力といった部分も非常にデキが良く、今は一時的に情報差を作れているもののこの状態を維持したまま距離を離すのは不可能に近い。まず気取られる。

 

 うーむ。もしかしてこれ、ほぼ詰みでは? 少なくともローリスクで乗り切れるシチュエーションではなくなっている。今仕掛ければ何人かは食えるだろうが、リロード動作を挟まずワンマガジンで4人全員を沈められる可能性は低い。どれだけ動き回ろうが相手もこっちを捉えられるわけだから、間違いなく被弾はする。頭部や胸部は多分狙わないだろうから、撃たれるとしたら足だ。機動力を失えばほぼ負けである。腕が無事なら応戦は出来るが、それでも大幅に不利なことに変わりはない。

 そもそもが、この訓練を開始してから4人のうち1人もキル判定を取れていないことが想定外であった。無駄撃ちもほとんどされておらず、まだまだ弾薬の余分はあるだろう。どれだけ少なく見積もっても、全員ワンマガジン分はフルに残っているはずだ。

 俺は今まで彼女たちに射撃のことや戦術に関して教えてはきたが、追跡技能や隠密行動について教えたことは一度もない。今回が初めてだ。これは人間でもそうだが、初めての経験だったとしても「多分こんな感じだろうな」みたいな予想と見様見真似でそれらしい動きは出来るだろう。だからこそ俺は、その程度を想定していた。スタートから早々に姿を眩ませて、ドヤ顔で一人ずつダウンさせて行く算段を立てていたくらいである。ちょっと前の自分をぶん殴りたい。

 

 この追跡戦訓練、実を言えば逃げる側の俺が相当有利な条件で始まっている。いくつか設けた条件の中でも、その難易度を大きく跳ね上げているのはターゲットである俺の生死判定が勝敗に結びついていることだ。これがデッドオアアライブであれば、彼女たちの動き方も大きく変わってくるだろう。それくらい「対象を殺してはいけない」縛りは戦場に於いてキツい。敵を殺すのは状況次第で素人でも可能だが、敵を殺さず無力化し、捕縛するのは素人では絶対に出来ない。相手が現役の軍人となれば尚更である。

 そのはずなのに、始まって早々、俺の方が追い詰められている。今の状況だけで見れば五分だが、ここから巻き返すプランが浮かんでこない。正確には幾つか候補はあるが、そのどれもがリスクを伴うものだ。せめて何か突破口となるイベントでも起こればいいんだが、そんな奇跡が期待出来るほど甘い相手じゃない。うーん、どうしたもんか。

 

 

 

 ズバンッ!!!

 

 今後の作戦を色々と練っていると、銃弾の発砲音とは些か趣の異なる、それも桁違いの大音量が突如鳴り響く。続いて文字通り目も眩むような閃光が視界一帯を覆い尽くした。

 

 フラッシュ・バン(XM84)!? ウッソだろお前、そんなモン何時の間に持ち出しやがった!?

 向こうも俺の位置を精確には分かっていないのか、直撃はしなかったがそれでも有効範囲内に投げ入れてきたのは流石としか言い様がない。俺はと言えばこんな隠し球があるとは露程も思っていなかったもので、モロにその爆音と閃光を防護動作無しに浴びてしまった。

 

 ヤバい、平衡感覚が無くなっている。視界も聴覚も効かねえ、クソ、何秒経った。

 想定外の焦りが全身を襲うが、向こうは俺の位置までは詳細に把握出来ていないはずだ、今動くのは自殺行為。とにかく動かず、音を立てず、異常が収まるのを待つしかない。が、時が経つのがメチャクチャ遅く感じる。耳鳴りがうるさい。後何秒で復帰できる?

 

 ドォンッ!!!

 

 ようやっと視覚と聴覚が収まりかけた頃、直ぐ近くから先程とはまた違う爆発音が鳴り響いた。

 おいおいおいおい今度は何だ。反射的に音がした方角に視線を投げると、ビル街に榴弾でもぶち込まれたのか、派手な音とともに大いなる質量を伴った瓦礫が辺り一面に降り注がんとしていた。

 

 マジかよ畜生! やべえ!

 

 余程打ち所が悪くない限り流石に死にはしないだろうが、それでも直撃すれば確実にどこかしらにダメージが入るであろうサイズのコンクリート塊がどぼどぼと落ちてくる。隠密行動とか悠長なことを言っている暇はない、とにかく今はこの場から一刻も早く、全力で離れないとマズい。考えるよりも先に俺の手足は動いていた。まだ耳鳴りは収まりきっていないが、平衡感覚は戻っている。ただ只管に走る分には問題ないだろう。

 たまらず飛び出すと、そう遠くない位置に索敵を続けている4人の姿が視界に捉えられた。やはり閃光弾と榴弾を打ち込んだ方角を中心に見てはいたものの、若干の距離はある。これなら逃げ切れる距離だ、見事に一杯食わされたが折角方向を絞って虎の子の投擲武器を使ったんだから、間髪いれず距離を詰めるべきだったな。この状況から少しでも好転させておきたい、貴重な弾薬ではあるがあいつらに向けてある程度ばら撒いてその出足を止めておく。とりあえずばら撒くってのが出来るのもサブマシンガンの優位点だな、取り回しが軽い。

 

 

「おおっと、何処へ行くつもりかな教官? チェックメイトだ」

 

 飛び出した先、挨拶代わりのバレットシャワーを浴びせた後に一つ角を曲がって走り出せば、目の前には一体の戦術人形。ちょっと手を伸ばせば触れ合えそうな距離で、彼女は悠々とその愛器を構え、寸分違わずその銃口を俺の中心へと定めていた。

 

 んんん? あれれぇ? M16A1がどうしてここに居るのかな?

 流石の俺もこの事態には理解が及ばなかった。だってさっき見たとき4人揃ってたじゃん。もしかして戦術人形って極まれば瞬間移動も出来るの? ちょっと未来に生きすぎじゃない?

 思わぬ事態に固まっていると、直ぐ後ろから聞こえる複数人の走る音。いやーこれは詰んだ。完全に走ることに意識を割いていたから、俺の右腕は前に向いていない。今から構えて撃ち始めるには些か分が悪すぎた。多分1ミリでも右手を前に動かしたら撃たれる。そこに甘さを期待出来るレベルの相手では最早なくなっていた。

 

「あいつらと一緒に動いてるのはダミーだよ。訓練の説明を受けてから使えるかもと思って呼び出したんだが、いやぁ間に合ってよかった。まさか卑怯とは言うまいよ?」

 

 ずっりぃ! いやずりぃよそれ! どっからどう見ても卑怯じゃん! ていうかダミーって何さ! おじさんそんなの初めて聞きましたー!

 なんて、個人的には大いに感じるものはあるものの、それを卑怯などという小賢しい一言で済ませていたら今俺はここに立っていない。ずっと昔にどこかの戦場で人知れず屍になっていただろう。

 

「やったー! 教官捕まえたー!」

 

 どすん、と、後ろから誰かに抱きつかれる音と衝撃を感じる。振り向かなくても分かる、SOPMODⅡだろう。じゃれついているようにも思えるが、しっかり俺の両腕を巻き込んでホールドしてきてやがる。振り解こうにも直ぐには無理だな、周囲も固められてるし。これで武器も扱えなくなったし完全に終わったなあ。

 

 完敗、というやつだ。まさか初戦で負けるとは思ってもいなかったし、しかも負けるにしても両手足を捥がれた芋虫コースではなく、接近してのホールドアップで決着など想定外にも程がある。さらには俺は誰もキル出来ていないし、俺も含めて誰も被弾していない。正しく100点満点の追跡戦における戦果だった。内心ドヤりながら訓練の説明をしていたちょっと前では想像も及ばなかった事態である。何らかの辱めを受けてもおかしくないくらいに恥ずかしい。

 

 オーケー、降参だ。両手は拘束されていて動かせないので口から俺の負けを告げる。

 

 確かに俺は、訓練開始前に「投擲武器や補助兵装を使ってはいけない」なんて縛りを設けていなかったし、「ダミー人形を使ってはいけない」なんてことも一言も言っていない。つまり、禁止していない。ということは、やってもいいのである。訓練とは言え戦場ってのはそういうものだ。

 俺の落ち度は、彼女たちがプライマリアームしか使わないと勝手に思い込んでいたことと、戦術人形そのものに対する理解度の低さだ。別に彼女たちは外道卑劣な手段を用いたわけではない。文字通り使えるものは何でも使おうとしただけである。褒められこそすれども叱責を受けるようなことは何一つしていない。何せ俺自らがサイドアームの訓練をしていたくらいだ、逆に考えが及んでいなかった己の失態を責めるばかりである。

 

「はっは! やったぜ! やっと教官に一泡吹かせられたな!」

 

 そう言って喜びを表現するM16A1は、本当に嬉しそうだった。遭遇戦訓練でも確かに黒星は付けられたが、今回の勝利はまた違った意味を持つのだろう。正しくやり込められた俺には、素直に賞賛の言葉を紡ぐしか残されていなかった。ついでに拘束の解かれた両手を動かして、M16A1とSOPMODⅡの頭を乱暴に撫でてやる。せめてもの仕返しである、冴えないおじさんに頭を撫でられるという屈辱を味わうがいい。

 

「えへへ……えへへへへぇ……」

 

 あれぇ、何か俺の期待していたリアクションと違うぞ。何故ちょっと嬉しそうなんだ。いやまぁ、SOPMODⅡは分からんでもない、普段から犬みたいな感じだし。でもM16の姉貴は違うでしょ。ちょっと顔を伏せながらドギマギするのをやめなさい。君そんなキャラじゃないでしょう。調子狂うわ。

 

 しかし、戦術人形にダミーなんていうクッソ便利なものがあるなんて知らなかった。というか、そんなものがあるなら何故最初から出さなかったんだろうか。その疑問を素直に口に出せば、今までは出せない理由があったという。

 

 彼女たち戦術人形は先般述べた通り、電脳が持つ銃器の情報と義体の情報をリンクさせ、動きを最適化していく必要がある。いくら優秀なスペックを積んでいても、実戦における最適化が行われていない状態では銃一つまともに扱えないのは初日に判明したとおりだ。

 で、ダミー人形を操るにはその最適化がある程度進んでいないと難しいらしい。言われて見ればその通りで、自分の身体すら正しく動かせない状態で、更に遠隔で人の形を模した塊を動かすなんて無理にも程がある。だから彼女たちは最初の顔合わせの時に一人で現れた。ダミーを操れるレベルにまで習熟していなかったから。

 そしてその最適化の度合いは、専門のチェックを通すことでパーセンテージという形で可視化されるらしく。彼女たちが初めて俺と出会った当初は全員が1%だったらしいのだが、今では4人全員が70%を越えているとのこと。そのレベルまでいけば、数体のダミーを動かせるらしい。

 

 じゃあ全員ダミー連れてくればよかったんじゃないのとも思うが、そこら辺は別に考えるところがあったようだ。

 ダミー人形は何も完全な自律行動が出来るわけではなく、あまり複雑な命令もこなせないようだ。隠密行動なども多少出来なくはないが所詮は真似事レベルの出来らしく、そうなると容易に俺に見つかってしまうだろうと予測。それで明らかに頭数が増えれば俺を警戒させる可能性が高く、上手くことが運べなくなる事態を危惧したそうだ。まぁ確かに、俺からしても明らかに同じ顔した奴が増えれば疑問視もする。ダミー人形の存在自体は今初めて知ったが、事前にそれを目にしていれば対応も変わってきたかもしれない。

 そうならない為に、彼女たちは現場に合流させるダミー人形の数を最低限まで減らし、ここぞというタイミングで入れ替わって見事俺の目を欺いたというわけだ。そしてなんと、この計画の大半を考案したのはM4A1らしい。慎重策を得意とするM4らしい、だが確かに攻めの意志が一筋光る妙案だった。

 

「教官っ」

 

 説明を受けながら俺が感心していると、後ろからM4A1の引き締まった声。振り向けば、いつもの弱気な彼女とはまた違う強い表情が見て取れる。

 

「わ、私も、頑張りましたのでっ」

 

 お、おう。そりゃそうだろう。作戦の考案から実行まで、多少他のメンバーのフォローもあっただろうが見事なものだった。それは言われなくても十分に通じたし、俺も十二分に理解している。

 

 が。どーもそういうことを言いたいって感じの顔じゃないな、これは。俺みたいな冴えないオッサン相手に何張り切ってるんだか、理解に苦しむ。ただまあ、折角よくやった教え子が望んでいるんだ、無碍にするのも大人気ないってところかな。

 M4A1と、ついでにAR-15も呼び寄せて乱暴に頭を撫でてやる。優しさなんてのは申し訳ないがどっかに落っことしてしまったようなので、これで勘弁して欲しい。

 

 うーむ。しかしこれはまた随分と懐かれてしまったものである。ま、要は親の刷り込みみたいなものなんだろう。恐らく彼女たちは、戦術人形として生を受けてからここまで、特定の異性と長期に渡って触れ合ったことがないと見える。この訓練期間を長期と捉えるのには些か疑問も残るが、もしも製造したてってことならその理屈も通るだろうな。単純に俺より前に、となればクルーガーなんかも当て嵌まるはずだが、あいつはあくまで受け入れ先の責任者であって直接面倒見る立場じゃなさそうだからなあ、挨拶程度にしか関わりがなかったのかもしれん。

 

 さて、頭を撫で繰り回すのも程ほどに、これからどうするかなと思考を巡らせる。

 正直ここまでのレベルを見せ付けてくれるとは思いもしなかったもので、こいつらの教導を始めてからというものいい意味で裏切られてばっかりだ。身体能力、銃器の扱い、個人戦術、連携、隠密行動、咄嗟の判断力、どれを取っても一級品に近い。特にろくに教えてもいなかった追跡技能と隠密に関しては天晴れだ。よくぞここまで勝手に仕上がったものだと感動すら覚える。ただまぁ、手本がないなりにこなしたところもあって所々に細かい粗は見られるから、残りの時間はこの立地も活かして様々なパターンの追跡術、隠形術なんかを仕込んでいくとするか。こいつらなら今日一日でしっかりモノにするだろ。帰ったら今日の訓練内容を元にして作戦報告書の書き方もレクチャーしよう。その上で、どう動けばより効率的に追い詰めることが出来たかなんて戦術論を交わすのもいいな。

 

 やはりこいつらと一緒だと俺もワクワクする。そして今日の訓練でも、しっかりと俺にその真価を示してくれた。俺が教えてやれることはもうあまり残ってはいないが、俺の持つすべてが、少しでもこいつらの輝きの足しになってくれればと思う。

 願わくば、このまま力を付け続けてどうかこのご時世を無事に生き抜いてもらいたいものだ。戦術人形に対しては過分な望みかもしれないが、ただのアンドロイドだと切り捨てられないくらいには俺も愛着が湧いてしまっている。そして、もし許されるのであれば、彼女たちには是非真っ当なパートナーとともにその人生を謳歌して欲しい。いくら人形だとは言え、自我を持つ見目麗しい少女たちが戦場でその一生を終えるのは余りにも忍びない。というか、今更だが何でこんなビジュアルにしたんだ。メカでよかったんじゃないのか。

 

「……ふふっ。教官、次は何を教えてくれるのかしら?」

 

 AR-15の瞳が、柔らかな光を伴って真っ直ぐに俺を射抜く。綺麗に整えられていたはずの桃色の調べは、今やくちゃくちゃだ。

 

 

 ……うむ、前言撤回。ビジュアルがいい方が俺のテンションがぶち上がる。この綺麗な人形たちが出来る限り傷を負わずに済むように、俺も頑張らなきゃな。




この小説では、ゲームシステムを現実的に落とし込めないかなーってのを考えながらやってます。
Lv1の人形を新規で育てようと思った場合、作戦報告書をたらふく食わせて4-3eぶん回せば1週間で4Linkくらいいけるじゃろ? 俺はイケる。

そろそろ巻きに入る頃合なので、どうか最後までお付き合い頂ければ幸いです。


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08 -シルバーレイン-

ウオォン、思ったよりも難産でした。
書きたいことは決まっているんですが、アウトプットはやはりエネルギーを使いますな。
何とか一気に進めたいところですが、このパゥワーが続いてくれることを期待して止みません。


「……誰がここまでやれと言った」

 

 開口一番、グリフィン&クルーガー社の最高責任者、ベレゾヴィッチ・クルーガーはその渋い顔を隠すことなく俺に告げた。誰がと問われれば、そりゃお前だろと言い返さんばかりのしたり顔でもって、俺はその問いへの返答とする。こいつが俺に投げつけた注文は、新人に毛が生えたレベル「以上」に鍛え上げてくれ、というものだ。正しく注文通り、それ以上に鍛え上げたところで文句を言われる筋合いはこれっぽっちもないのだ。俺は与えられた任務を恙なく遂行した、ただそれだけである。

 

 今日はあいつら4人の訓練最終日。一応エンドはしっかりと区切ってあったので、クルーガーもこっちに顔を出している。教育の成果を見に来たってところなんだろうが、なんと彼女たち、昨日付でそれぞれの最適化工程が90%を超えていたのである。ダミー人形もネットワークシステムの上限である4体を難なく操り、その手腕は人間のベテラン兵士が尻尾を巻いて逃げ帰るほどだ。正直言って、同条件下でのタイマンだと最早俺でも勝てるか怪しい。いいとこ痛み分けってところじゃないだろうか。我ながら恐ろしい自律人形を育て上げてしまったものである。人形怖い。

 

 そして、訓練を終える日ということは同時に俺がここを去る日でもある。別段悲しいなんて感情は沸いてこないが、やっぱりちょっと心残りは出てきちゃうなあ。とは言っても、もう俺が教えられることはほとんど無いのでこれ以上ここに留まっていてもあまり意味もないんだが。

 

 追跡戦訓練で完璧な黒星を食らったあの日以降。俺は残された時間が少しでもあいつらの為になるように、色々なことを教えた。クルーガーに追加で取り寄せさせた作戦報告書を一緒に紐解き、ああでもないこうでもないとお互いの知識と発想をぶつけ合った。キルハウスの室内配置を勝手に弄繰り回し、一本道のトレーニングハウスに仕立て上げて様々なシチュエーションでの突入戦もやらせた。あえて電灯を全て切り、疑似的な夜間遭遇戦訓練なんかもやった。どうしても物足りなくて、屋外で本物の夜間行軍訓練もやった。追跡能力を更に極めるために、ビル街を活かした立体的な追跡訓練もやった。AR-15が一度、壁を掴み損ねて呆け顔のまま落下していったこともある。皆でめちゃくちゃに笑ってやった。また、ナイフを中心とした近接格闘術も息抜きがてら訓練の合間に差し込んだりもした。ダミー人形と俺とで遭遇戦を行い、ダミーの操縦技術の向上も目指した。車上から高速移動中の射撃訓練なんかもやった。車輛の運転も教えたがったが、流石に時間が足りなかった。あいつらなら半日で乗りこなしそうな気もしたが。最終的に、彼女たちに自己分析をさせて長所欠点を認識させた上でどのような訓練がやりたいか、逆にリクエストを募ったりもした。思いつく限りの訓練はやってしまったとも言えるな。

 死ぬほど忙しかったし死ぬほど疲れたが、実に良い時間だった。短いながらもこんなにも濃密な時間を過ごしたのは何時振りだろうか。もしかしたら初めてと言ってもいいくらいに充実した2週間だったかもしれない。

 

 ちなみに昨晩、俺は彼女たち4人と一緒に夜を過ごした。

 別にやましいことをしたわけじゃない。というか流石に守備範囲外です。そりゃもう最高に可愛らしいことは認めるが、幸か不幸かそこまで不埒な精神は持ち合わせていなかった。俺がそっち系の趣味を持っていたら多分危なかったとは思う。

 

 先日の訓練を終えて一息ついた後、M4A1が珍しく俺の宿舎を訪ねてきた。一体どうしたのかと理由を聞けば「お喋りしたいから」だそうな。見慣れた訓練服ではない、年齢相応の可愛らしい普段着に着替えた彼女は大変目の保養にはなったが、その表情にはどこか固いものがあった。訓練のスケジュールは最初にこいつらにも伝えていたから、今日で訓練が終わりだということ、そして明日には俺が居なくなることを分かっていたんだろう。普段の気の弱さを精一杯閉じ込めた声色で誘われた俺に、無碍に断るなんて選択肢は残っていなかった。推定未成年の女子が集まる部屋に、俺みたいなおじさんが加わっていいものかという疑念は最後まで払拭出来なかったが、何時に無く強気なM4A1にも逆らえず彼女たちの宿舎へお邪魔する運びとなったわけだ。

 

 その日は珍しく訓練や戦闘以外の、言ってしまえばどうでもいい話で随分と盛り上がった。半分くらいは俺が聞き役となって相槌を打ったり質問に答える形だったが。そういえば結局、以前黙秘権を行使した俺のパートナーの有無に関しては割れてしまったな。だからどうしたって話ではあるんだが、いい年こいたオッサンがずっと独り身ってのは面と向かって言われると割とダメージがある。

 結局ぺちゃくちゃとお喋りをそれなりに楽しんでいた俺ではあったが、やはり人間と戦術人形の違いか、先に眠気が訪れたのは俺の方だった。こちとら健康優良男児やぞ。日付が変わる頃にはおねむじゃい。

 眠気を理由に部屋に戻ろうとしたが、何故だかそのまま押し止められてしまった。なんだこいつら、何でこんなに懐いているんだ。俺はあくまで教官であって君たちのお父さんじゃありません。などと一応言ってはみるもののAR小隊、これを華麗にスルー。お前ら訓練の時は素直なくせにその頑固さは何なの。

 それで最終的に俺が寝落ちしたんだが、目が覚めたら腕枕やら腹枕やら抱き枕やらで全身の大部分を占領されており、身体の節々が今もちょっと痛い。訓練の時とはまた違うダメージが入っている。知ってるか、人間の頭って意外と重いぞ。あいつらは人形だけど。

 

 そんな一夜を明かして本日、終に彼女たちともお別れというわけだ。俺の横にクルーガー、目の前にはAR小隊の4人。初日に顔を合わせた時と同じ場所、同じ立ち位置である。一つ違う点を挙げるとすれば、彼女たちの顔付きか。2週間前、確かにそこに居たヒヨっ子どもはもう、何処にも居なかった。

 

「本時刻をもって、君たちの教育訓練課程を終了する。ご苦労だった」

 

 クルーガーがその表情を動かすことなく、端的に事実のみを述べる。こいついっつもこうなんだもんなあ。愛嬌ってやつが致命的に足りていない。まあ俺も人のことはあまり言えないが。

 

「敬礼!!」

 

 突如耳に響いたのは、今まで聞いたこともない力強い発声だった。え、今のM4A1なの? マジで? お前そんな腹から声出せるんかい。初めて知ったわ。

 彼女の号令にあわせ、一糸乱れず姿勢を正す4人。一端の軍人に成りやがってこいつらめ。

 

 答礼を返しながら、改めて4人を見つめ直す。そこに居たのは少女ではなく、戦術人形でもなく。俺の教育訓練を超スピードで駆け抜けた、可愛くも力強い、かけがえのない教え子たちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ッ! ――! ――――――!!」

 

 懐かしい夢を見ていた、ような気がする。随分と長く眠っていたような感覚を覚えたが、今何時くらいだ? あーいや、やっぱいいや。何かメチャクチャ眠い。もうちょい寝ておこう。

 

「――――! ――――――――て!! ――――ッ!」

 

 もう一度睡魔に身を任せようと思った矢先、遠くから叫んでいるかような声が聞こえた。何か聞き覚えのあるようなないような声だな。誰だっけか。割と見知った声のような気もするが、いまいち思い出せん。あと何故かめちゃくちゃ寒い。うーん、しっかり着込んでいるはずなんだが。

 

 ちょっと気になってうっすら目を開けてみた途端、何かが目の中に落ちてきた。うお冷てえ。水かこれ。雨でも降ってるのか、そりゃどうにも寒いはずだ。しかし水が目に入るってことは俺は今屋外に転がってるのか? 何でまたそんなとこで寝てるんだ。うーん分からん。外でドンチャン騒ぎして酔い潰れでもしたのかね。

 

 

 

 

「――――大尉! 目を覚ましてください!! ッ止血帯早く持って来い!! 一本じゃ足りねえ!!」

 

 おお、今度ははっきり聞こえた。ていうか近いなおい。そんな至近距離で叫ぶんじゃない、耳が痛いだろうが。止血帯って聞こえたけど何でそんなもん使うんだ。誰か怪我でもしてるのか。うーむ、尋常じゃない眠気のせいで目が上手く開かない。様子が分からんことには何とも言えないなあ。あとやっぱ雨降ってるわこれ。全身濡れてる感覚があるしザーザー聞こえるもん。

 

後衛班(バックス)! 何人残ってる!? 早くし」

 

 今度はすぐ傍で叫んでたやつの声が突然聞こえなくなった。えぇ……叫んだり黙ったり忙しいヤツだなおい。

 どうにも気になってしまい、気力を振り絞って目を開いてみれば、俺の目の前を綺麗な桜が舞っていた。あ、これ何回か見たことあるぞ、多分脳漿だ。血が混じるとこんな感じにピンク色に染まるんだよな。

 

 んん? ってことは今誰か死んだのか? やべ、状況が全然分からん。

 トォン、と。今眼前で起きた事象に精一杯追い付こうとするような、決して音速の壁を越えられない響きが遅れて届く。うわーこれ狙撃銃の音じゃないの。俺この音嫌い。

 

「……ッ! 曹長がやられた! 状況!!」

「方位60-90! 距離350-500! 数不明! 推定APHE! スナイパー!」

「煙幕張れ! けん制射撃! 他はどうした!」

「第二、第四応戦中! 劣勢! 第三、第五、第六通信途絶! 不明です!」

 

 途端に慌しくなってきた。いや、さっきから煩かったのを俺がやっと聞けるようになったのか。うーむ、てことはさっき俺の目の前で叫びまくってたのは曹長か。あいつ筋が良かったから気に入ってたんだけどなあ、惜しいヤツを亡くしたな。

 

 

 

 は? 死んだ?

 

 

 

 いやいやいやいや待て待て待て待てちょっと待て。どういう状況だこれ。何で俺が寝てて曹長が死んでるんだ!?

 慌てて飛び起きようとするが、全然身体が言うことを聞いちゃくれない。ギリギリ腕には力が入るが、他がさっぱりダメだった。何とか首を動かして周りを見渡そうとしてみるものの、寝そべったまんまじゃ視界も限られてくる。入ってくる情報は複数の足と、僅かな光をも漏らさない極厚の雨雲と、幾つかの散らばった機械片くらいのものだった。

 

 機械片?

 

 ――思い出した。思い出してきたぞコンチクショウめ。点と点の情報が繋がっていく感覚。一時的に失われていた記憶が超速度で再構築されてきた。

 

 俺の部隊はいつも通り、大集団を形成しつつあったE.L.I.Dの群れを叩くためにここに来たんだった。流石に今回は規模がでかかったから、幾つかに部隊を分けて包囲殲滅する作戦を取っていたんだが、そろそろ作戦も終わりかなって頃合で突如第六部隊が通信途絶に陥った。事前のブリーフィングでは周囲に目立った障害は認められなかったはずだから、はぐれE.L.I.Dでもいたかな? くらいに思ってたんだよな。にしても、幾ら想定外とは言え小規模のE.L.I.D程度相手に瞬殺されるようなヌルい教育はしていない。バックアタックされたにしても、全滅は有り得ない。

 とりあえず第五部隊の連中を偵察に向かわせて、その穴に第三、第四部隊を割いて、といった具合で部隊割をしてたんだが、後ろから音がしたんだよ。

 振り向いてみると、そう遠くないところで紫と白のカラーリングを基調とした無骨な機械人形が隊列組んで歩いてた。確か、鉄血工造とかいう会社のヒット商品だったと記憶している。イェーガーシリーズだったかな、軍でも幾つか買ってたみたいなんだが、精密な動きは無理にしてもとにかく頑丈で物持ちが良かったもんで、割と現場でも評判良かったやつだ。

 ただ、俺たちの部隊で使うことは基本無かったし、今回の作戦に於いても戦術人形が支援戦力として送られてくるなんて話は聞いてない。

 

 で、これは一体どうしたものかと考えていたら、いきなりあいつら銃口をこっちに向けてきやがった。そこから先の記憶が飛んでるから、多分俺もやられたんだろう。少なくとも今、自力で起き上がることが出来ない程度には深刻なダメージを貰ってしまっている。

 ていうかあいつらなんで応戦してんだよ。逃げろよ。まさか俺を放っておけないとかいう甘っちょろい考えでここに残ってんじゃないだろうな。さっさと逃げろ馬鹿野郎と一喝してやろうと思ったが、弱弱しく咳き込むばかりで声が出ない。うわ、これ肺がやられてる気がする。胴体のいいところに何発か貰ってんな畜生。E.L.I.Dを相手にする場合、機動力を重視してしまうためにケブラー程度しか着込んで来なかったのも不味かったな。

 

 そういえば今の俺はどんな状態なんだ。記憶を辿るのと現状の把握に必死で自分のことを気にしていなかった。

 首を起こして自分の身体を見てみれば、予想通り胴体にいいのを貰ってしまっている。ただ、思ったよりも出血量は少ないのが幸いか。肺がやられてるのはマズいが、まぁ即座に致命傷ってワケじゃなさそうだ。このままじゃどっちにしろ死ぬが。

 一番ヤバいのは左足だった。バックショットでもまとめて食らったのか、膝から下辺りがグッチャグチャになっていた。曹長が止血帯って叫んでたのはここかあ、確かに血の池がやばいことになっている。大腿に一本かかってはいるが、まぁ所詮応急処置だとこんなもんだろう、気休め程度にしかなってない。さっきからクソ寒いのもこの出血量のせいだな。完全に足が死んだ上に胴体に貰っているから、自力じゃ起き上がることすら出来ん。胸の辺りはクソ痛えが、左足の感覚が痛覚もあわせて完全に無くなっている。これは万に一つ助かっても切断するしかあるまい。

 

 ドチャリ。随分不愉快な音を立ててきた原因の方向を見据えれば、俺の横に誰かが倒れていた。顔こそ無事だが、その身体には綺麗な蜂の巣が出来上がっている。ほぼ即死だろうな、これは。身体の周りを感じたくもない生温い液体が、鼻の周りを嗅ぎたくもない死臭が漂っていた。

 

 周囲にはその数を秒単位で減らしていく俺の部下たち。その更に外縁には、途中から数えるのも面倒になりそうなくらいのファッキン鉄血人形ども。しかもスナイパーまで居るときたもんだ。今回の作戦には俺の部隊以外は参加していないし、そもそも戦術人形にいきなり襲われるだなんて誰も考えてすら居ない。このレベルのイレギュラーなら誰かが通信投げててもよさそうだが、完全に不意打ちだったからそれも難しいかもな。せいぜいが、帰投予定時刻になっても戻らない部隊に対して出される捜索隊くらいのものだろうが、それも果たして何時間後になるやら。

 

 人間、死ぬ間際に走馬灯を見る、と言うが、さっきの夢がもしかしてそうだったんだろうか。正確には思い出せないが、とても楽しい内容だったのはよく覚えている。そういえば、あいつらと離れて随分経つが元気にやってるだろうか。M4A1は相変わらず弱気のままだろうか。AR-15はまた変な意地を張って失敗してないだろうか。M16A1は今でも姉貴分として皆を引っ張っているだろうか。SOPMODⅡは少しは御淑やかになっただろうか。いやあいつはそのままでもいい気はするな。アレがあいつの魅力でもあるわけだし。

 

 うん、何とも締まりのない最期だとは思うが、清算してみれば悪くない人生だったと思う。死んでいった部下たちには悪いことしたな、俺が潰れたら逃げろって教えてたはずなんだが足りなかったか。すまん。

 

 

 気が付けば、先程まで鳴り響いていた銃声と怒声は聞こえなくなっていて。今にも死にそうな呻き声と、ガシャン、ガシャン、と、鉄人形が歩いてくる音と振動だけが伝わってくる。

 うーん、これは詰んだ。せめて最期は可愛い子ちゃんに看取られたかったが、相手がこんな鉄屑じゃあなあ。まぁそれも我侭というものか。愚図っても仕方がない、切り替えて逝こう。

 

 

 

 俺は、今日、ここで死ぬ。




もうちょっとだけ続くんじゃ。


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09 -Operation Anti Rain-

第8話を投稿してからPVやらお気に入り数やらガガッと伸びており困惑を隠せません。
ハハーン、さてはおめーら残酷な描写タグ好きだな? ありがとうございます。


ちなみに筆者はハッピーエンド、ビターエンド、どっちもイケる口です。


 残存兵力ゼロ。俺も含めて息のあるやつはまだそれなりに残ってそうだが、少なくとも自力で動けるくらい元気なやつはもう一人も居ない。蜂の巣をしこたまこさえて俺の横に転がり込んできた隣人を横目に、鉄屑たちが彼我の距離を詰めてくるのをぼんやりと待つこと以外、俺に選択肢は残されていなかった。どうやらヴァルハラ行きの片道切符には、使用期限までもう少々の猶予があるらしい。

 しかし何でまた戦術人形がいきなり人間を襲い出したんだろうなあ。E.L.I.Dと見間違えました、なんて粗製AIでもやらかさないような大ポカでも起きちゃったんだろうか。真相なんて俺程度じゃ毛ほども辿り着けない内容なんだろうが、いきなり人形に殺されるってのは何となくモヤモヤする。まあ、納得しようがしまいが今から人形に殺されるって事実は覆しようもないんだけども。

 

 ガシャン。ふと見上げるとそこにはファッキン紫クソ人形野郎。一応人型をしてはいるが、間接部位なんかモロにメカだし顔にもバイザーがかかっていてよく分からない。せめてこの俺に止めを刺すクソ野郎の顔くらい覚えとこうかとも思ったが、これじゃ意味がない。そう考えるとAR小隊って本当に特殊だったんだな、普通はこういう量産型にするだろうし。あいつらって製造されるのにどんだけのコストかかってたんだろうか。多分あのレベルのを買おうと思ったら見たことの無い桁が並ぶんだろう。

 戦術人形の銃口が、寸分違わず俺を狙う。止めを刺す側の人間に有り得そうな、僅かな震えも認められない。そこには感情も表情も一切なく。正しく機械が命じられた動きを繰り返すだけのような、ただのルーチンが在るだけのように感じられた。

 よーしオッケー、覚悟完了。一思いにやってくれい。つっても、仮に今見逃されてもすぐ死にそうなんだが。主に出血で。別に死にたいわけじゃないが、死にかけの体で這いずり回る趣味も無い。とっとと終わらせてくれ。

 

 

 

 

 ……って撃たんのかい! 潔く死ぬ覚悟を決めた俺のお気持ちを返して欲しい。五体満足なら直ぐにでも立ち上がってぶん殴ってやりたいところだった。

 待てど暮らせど、といっても多分10秒くらいなんだが、一向に俺の命が散らないことを不審に感じて再び目を開けてみれば、目の前の鉄血人形は何故か銃口を俺から逸らし、あらぬ方向にその首を曲げていた。何だ何だ、何を見てるんだ。お前らの獲物は俺じゃなかったのか。自分の首が回る範囲で見渡してみれば、他の人形どもも大体同じ方角にそのセンサーを向けていた。

 

 戦術人形、特に量産型などの高度なAIを積んでいないタイプは、余程特殊な命令が組み込まれていない限り、基本的に単純な脅威度の高い対象へ優先的に攻撃を仕掛ける傾向がある。襲われて早々にダウンした俺が今の今まで生き残っているのがその証拠だろう。こいつらは先般、俺に止めを刺す前に周囲の脅威、即ちまだ健在だった俺の部隊へとその照準を移した。俺もあれから戦術人形についてお勉強したんですよ。偉いでしょ。もう死ぬけど。

 うーむ。つーことは何か、この周辺にこいつらが感じる程の新たな脅威が発生したとでも言うのだろうか。とは言っても、目下の脅威であったはずのE.L.I.Dは俺たちの部隊がそのほとんどを殲滅済みだ。そもそも単純火力で言えば、人間一人とイェーガーシリーズの戦術人形一体では比較にならない。よしんば取りこぼしのE.L.I.Dが居たとて、こいつらの敵じゃないはずだ。

 

 何でだろうなあ、と、その興味も失いかけていた俺の視界の端、黒いモノが横切った。

 んん? 何じゃあれ。鳥ってわけでもなさそうだ。おお、何個か飛んでるな。何だろうあれ、何か細長い棒みたいな感じにも見える。うーむ、見覚えがあるような無いような。

 

 

 

 

 

 ズバッバババンッ!!!!

 

 

 "それ"の正体が明らかになるのと、唯一まともに動く腕を咄嗟に動かし、両耳を塞いで固く目を閉じた俺の超絶ファインプレーはほぼ同時だった。うおおおうるせえ! 眩しい! 花火かよ!

 

 XM84。大いなる爆音と閃光で周囲一帯を包み込んだそれは、戦術人形の各センサーに甚大な影響を及ぼしていた。

 これも後学のために勉強したことなんだが、戦術人形というのは基本的にフラッシュ・バンやスモークグレネードといった妨害兵装にめっぽう弱い。AR小隊のような特別製のAIを持つ一部の人形や上位AIを搭載した各社のハイエンドモデルなんかは例外だが、今俺の周りを取り囲んでいるような量産型には「防護動作」といった概念が無い。攻撃と違って防御というのは難しい。標的に向かってトリガーを引くコマンドとは比較にならないほどのロジックが必要になる。一体一体にそこまで組み込んでいては商品として成り立たなくなるくらい高額になってしまうし、製造工程が複雑化し過ぎてしまいそも量産が出来ない。だからほとんどのモデルは防御の概念を切り捨てて、その分素材自体を頑丈にしている。ここに大量に存在しているイェーガーシリーズなんかはその最たるものだ。

 そして、過分な音や光というのは、機械を大きく狂わせる。きっと今頃、その衝撃をモロに食らった人形のAIは大量のエラーを吐き出しまくっているだろう。事実、有効範囲内に居る見える限りすべての戦術人形が、その動きの一切を止めていた。

 

「クソ、やっぱりまた鉄血製の人形どもだ! 一体どうなってやがる! ……ッ数が多いな畜生! おい! 生きてるヤツはまだ居るのか!?」

 

 いつぞや不意打ちを食らった時分の俺とは違い、どうにか耳鳴りを回避した正常な耳に威勢のいい叫び声が走る。水に濡れた茂みの中から飛び出してきたそいつは油断無く周囲を見渡しながら、つい先程まで激戦区であった俺たちの作戦区域に滑り込んできた。

 んん? 1人ってわけじゃないな、何だ……5人? 何か同じような格好したやつが5人居る。その後ろにもぞろぞろと見えるが、よく分からん。あーやばい、目が霞んできた。いよいよ血が足りなくなってきたなあ。正に九死に一生を得たってタイミングではあるんだが、これ早く輸血しないとどっちにしろ死ぬ気がします。とりあえず暫定一人はまだ生きてる、はよ助けて。

 かろうじて動く腕をどうにかこうにか振り上げ、弱弱しいながらその生存を主張する。幸い俺の振り上げた腕には直ぐ気付いてくれたようで、一人が駆け寄ってきた。

 

「うお……酷い有様だが、まだ生きてるな。よかったよか…………った…………?」

 

 すぐ近くに誰かが来たことは分かるんだが、もうよく見えん。とりあえず俺の惨状にドン引くのはやめて欲しい。戦場に居たらこんなもん普通だ普通。いやそうでもないか、割と酷かったわ。左足ぐっちゃーなってるし。逆になんで俺まだ生きてるんだろう。多分、肺を除いた主要臓器に目立ったダメージが無いからだろうな。一発でもどこかに逸れてたら今以上にヤバかったかもしれん。

 というか、いつまで固まってるんだろうか。そりゃ俺の見た目が酷いことは分かるんだが、曲がりなりにも戦場に出てくる以上、思考放棄はやめて欲しい。お前だけならいいが、味方も死ぬぞ。

 

「姉さん! そろそろ鉄血のAIがエラーから復旧します! 急いで!」

 

 別の声が聞こえる。うん? 今姉さんって言ったか。そういえば最初に叫んでいた声も随分と男らしかったが、どっちかと言えば女性の声だったような気もしてきた。今新しく耳に入った声はさっき以上に分かりやすい女性だ。てことは何か、姉妹で戦場に来てるのか? 今日日女性兵なんて特段珍しくもないが、姉妹ってのはレアだな。あ、そうか。女の子なら俺の怪我に固まってしまうのも分かる気がする。控えめに言ってもショッキングな映像だろうしな。酷いもの見せちゃってすまんな。でも頑張って助けて欲しい。

 

 突如、俺の身体が浮き上がる。いでででで痛い痛い主に肺が痛い。思わず咳き込んでしまった。ああ、また余計な鉄分を放出してしまったぞ。背負うならもっと優しくしてください。いやまあ、一時的に止まっているとはいえ暴走人形が周囲一帯を取り囲むぶっちぎりの危険地帯、それもど真ん中に居るわけだからそう我侭も言ってられんのはとても分かるのだが。こちとら怪我人やぞ、もっとソフトに扱わんかい。

 だがまぁ、幸か不幸か今の衝撃がちょっとした気付けにはなったな。少し意識がはっきりしてきた。間違っても感謝なんかしないけどな、だって痛かったもん。

 

 

「M4! 作戦中断! 全機帰投だ!! 最重要目標確保!! 絶対に助ける! 絶対にだ!! SOPMODⅡ、ダミーを回せ!! カバーしろォ!!」

 

 

 俺を背負ったらしき人物が、さっきの比じゃないくらいの大声を張り上げた。

 んん? んんんんん? M4? SOPMODⅡ? なんかメチャクチャ聞き覚えのある単語なんですが。朦朧としかけた意識の中で様々な思考が渦巻こうとした矢先、先程とはまた違う揺れが俺を襲った。

 

 トォン、と。戦場において俺がぶっちぎりで嫌いな音が二度、木霊する。げ、やべえ。スナイパーの存在忘れてたわ。流石に距離が遠すぎてフラッシュ・バンじゃどうしようもない。怪我人を背負った瞬間なんて絶好の狙撃チャンスだろう。大丈夫かな。今こいつに倒れられたらもれなく死にそう。

 

「……~~ッ! 負ッけッるッかッよぉおお!!!」

 

 うお、踏ん張ったぞこいつ。背負われている立場上、顔はよく見えないが、それでも頭部の右半分からとんでもない量の血飛沫が舞っていることくらい分かる。いやいやいやお前俺を背負ってる場合じゃないだろそれ。頭を貫通こそしてないっぽいが、この血の量は掠ったってレベルじゃないだろう。

 しかしそんな俺の心配も何処吹く風か、俺を背負ったやつは猛スピードで走り出した。ちらりと視線を泳がせると、一定の距離を保ちつつも他の連中が俺とこいつを中心として陣形を組んでいるようだった。俺の他に背負われているやつは、見える限りでは見当たらない。うーむ、まだ息のある部下もいたはずだから出来れば助けてやって欲しいところなんだが、それを言える立場でも、状況でも、状態でもない。何せ今俺まともに喋れないし。口を開けたら血しか出ません。ヤバい。

 

「……!? 教官!? もしかして教官なの!? えええええええええ!!!?」

 

 俺の近くに寄ってきた一人が、いきなり素っ頓狂な叫び声を上げる。うるせえなこいつ。けど、どこか懐かしい煩さだ。こんなところで邂逅するなんざ夢にも思わなかったが、元気そうで何よりだ。いや、さっきの夢には出てきたか。しかしまあ、やっぱり変わってないなSOPMODⅡ。相変わらず御淑やかとは対極の位置で仁王立ちしてるわ。

 

「教官!?」

「教官!?」

 

 ハモんな。SOPMODⅡの叫びが伝播し、触発された残りの二人がこれまた叫ぶ。程ほどに距離は離れているから耳が痛いって程じゃないんだが、お前らここが戦場で、まだ状況が終了してないって分かっててやってんのか。感動の再会を演出する前にとっとと戦域外に脱出しろよ。M4A1、お前この小隊の隊長だろうが、しっかりしろ。AR-15も普段の冷静さはどうした。

 

「ああそうだ! そうだとも!! だが先ずは離脱してからだ! 来るぞ!」

 

 俺を背負って走ってるやつがこれまた嬉しそうな声を上げている。お前さっきからちょっとキャラじゃないぞ、いつからそんなお転婆さんになりやがったんだ、M16A1よ。ただ、何だかんだ現状を把握しているのは流石と言えるか。いや、今の状態で忘れるってのがそもそも有り得ないんだが。ていうか俺の左足と同じくらいドバドバ血を垂れ流してるけど大丈夫かそれ。割と無視出来ないレベルで失血している気がする。

 

 M16A1の背中で揺れながら脳内で文句を垂れていれば、後ろから割れんばかりの銃声と幾つかの曳光弾。鉄血人形のAIがフラッシュ・バンのショックから復帰しやがったな。距離は多少離れているから、量産型の鉄血人形では早々命中はしないだろうが、それでも物量ってのは何にも勝る武器だ。飽和射撃を一点に集中されるのは非常に不味い。うお危ね、掠った。

 せめて声が出せればいいんだが、今の俺は戦えもしないし指示も出せない、文字通りのお荷物状態だ。ぶっちゃけ俺を捨てて逃げてくれても全然構わない、というか本来そうするべきなんだが、さっきの踏ん張りを見る限り少なくともM16は死ぬまで俺を落とさないつもりなんだろうなあ。助かりたいってのは事実だが、俺が望むことは誰かの犠牲の上に成り立つ救助なんかじゃない。そこまでして助ける価値が俺にあるとは思えない。確かに未来の救世主になって欲しいと思っていたが、俺個人の救世主になる必要なんて何処にもないんだ。俺なんかを助けようとして、こいつらが死んでしまうようなことがあっては本末転倒だ。人間と人形の価値で言えば一概に言えないのかもしれないが、そういう勘定を抜きにしてもこいつらを失うデメリットの方が遥かに大きい。

 うーむ、せめて身体が満足に動けば自分自身を放り出してとっととおさらばしたいところなんだが、それすら出来そうにない自分の身体を呪う。

 

 一人でモヤモヤしていたら、俺の周囲を守っていたSOPMODⅡたちが足を止めて、鉄血の戦術人形の方へと走り出した。おいおいおいおい何やってんのと思ったが、一人だけM16と俺の横で並走している。なるほど、残ったこいつが多分オリジナルなんだろう。ダミー人形を足止めに使ったということか。便利だなあ、人間じゃ絶対に出来ない捨て駒戦法だ。

 他の連中もM4A1以外、恐らくオリジナルの自分だけを残して鉄血人形の足止めに向かわせている。オリジナルに劣るとは言え、俺の自慢の教え子12人分の戦力だ。物量差は流石に覆せないだろうが、十分な時間は稼いでくれるだろう。

 M4A1だけがダミーを残したのは、道中での接敵の可能性を考慮してってところか。ちゃんと状況が分かってるな、さっき叫んだ時は大丈夫かとも思ったがどうやら杞憂だったようで何よりだ。あーやべ、また目が霞んできた。ていうか眠い。一生懸命運んでくれているところ悪いんだが、これ下手したら間に合わんかもしれん、止血も出来てないし。多分今寝たら二度と目覚めない。俺もここまできて死にたくないしもうちょっと頑張りたい。

 

「もうすぐ私らが乗ってきたヘリに着く! 助かるぞ教官!」

 

 おお、そりゃ嬉しい報せだ。ヘリに乗れたらお前も早く止血しないとな。俺を背負って今も走ってるってことはお前がオリジナルなんだろうし、損傷が残るのは非常によくない。

 

 M16A1の言葉通り、平野から森林にその趣を替えようかというところ、ちょっとしたスペースに懐かしのG&Kのロゴマークが入ったヘリが目に入る。うおーよかった、間に合った。いやぁ、普通に死んだと思ったが人生何が起きるか分からんものだなあ。

 先頭を走っていたM4A1が操縦席に向けて叫んでいる。が、決して遠くない距離のはずなんだがいまいち何て言ってるのかが分からない。うーむ、ここにきて耳もイカれ始めたか? いよいよもってマズい気がしてきたぞ。

 

 

 漸くヘリのドアが開き、俺を含めたAR小隊はすぐさま乗り込んだ。M16A1が俺をトリアージシートに寝そべらせる。当然色は赤でした。当たり前ですよね。ていうか明らか重傷体なの俺だけっぽいしこれ必要だったか? M16A1はそのまま俺の左足の止血処理に入ったようだ。いや、お前はまず自分の止血をしろ。M4A1はさっきからずっとヘリのパイロットと言い合っているようだが、相変わらず内容は上手く聞き取れない。

 

 ふわりと、身体が宙に浮く感覚。多分M4A1とパイロットの話が決着したんだろう、ヘリが動き出したらしい。M16が相変わらず俺の左足付近で何かやっているが、もう感覚が無いので何をされているかすら分からん。ちゃんと止血してくれていることを祈る。

 

 

 

 

 

「――――。――――――!」

 

 うん? 誰かが俺に話しかけているっぽいな。耳もほとんど聞こえなくなってるし、どんどん目も霞んできているが、耐えるんだ俺。今寝たら間違いなく死ぬ。そういえばヘリはもう動いているんだよな。ローター音が聞こえないから不安だ。

 

 あー、この特徴的な色合いの髪はAR-15だな? お前とSOPMODⅡは派手だから分かりやすいわ。しかしお前、普段は冷静なくせにちょっとしたことですぐ動転する癖、まだ治ってないのか。危ないからやめろって何回も言ったけどまだまだダメだなぁお前は。AIだろ、学習しなさい。

 

 ん、この金髪はSOPMODⅡだな。って近い近い近い。ド近眼の老人じゃあるまいし流石に見えるわ。あーあー、そんな顔すんな。お前はいつも阿呆みたいに明るく朗らかに笑ってりゃいいんだよ、それがお前のキャラだろうが。笑顔をポーカーフェイスにしちまえって言っただろう、何泣いてんだ。

 

 お、M4A1だ。んん? ちょっと髪伸びたか? 緑のメッシュも特徴的だが、黒髪も綺麗だもんなあ、似合ってると思うぞ。昔はずっと弱気が先行してたが、結構マシになったじゃないか。ちゃんと周りも見れていると思うし、いい隊長になったんじゃないか。

 

 あ、M16A1、止血終わった? おお、右目を中心に顔の右半分がぐるぐる巻きになってる。結構な重傷じゃないかそれ、よく踏ん張って走れたな。そういえばあのフラッシュ・バン、お前が投げたんだろう。相変わらず正面突破が好きなやつだが、そこにちゃんと技術と戦術が伴ってるな、いいことだ。これからもお前がちゃんと引っ張って行ってやれよ。

 

 

 それぞれ声をかけてやりたかったが、声を出すどころかもう呼吸するのもしんどい。苦しみはあるが、何故か痛みは引いてきている。あー……疲れた。頑張りたかったけど前言てっかい。ちょっと眠らせてくれ。大丈夫だいじょうぶ、すぐおきるから。そんなめでみるんじゃない、おまえらあしたからまたきたえてやるから。

 

 

 

 それじゃ、おやすみ。




この小説のメインヒロインって誰なんだろうなあ、と書きながらよく考えます。
個人的にはM16姉さん推しなんですけどね、皆様にはどう映るのでしょうか。


もうちょっと、もうちょっとだけ続くんじゃよ。


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10 -リバースインザカオス-

多数のPV、お気に入り登録、本当にありがとうございます。痛み入ります。

この小説、とりあえずのケツは決まっていると以前書きましたが、そこまでのルートや結果は微妙に揺れており、最後まで案が複数残っている状態でした。

とりあえず、今回はこんな感じになりました。


 えーっと、何処だここ。綺麗さっぱり見覚えがないんですが。ふと目が覚めて本能が赴くままに瞼を開いてみれば、目に映るのは知らない天井。俺は確かヘリの中で意識を失ったはずなんだが、とりあえず目が覚めたということは、要するに生き延びてしまったということか。

 

 あの時から、どれくらいの時間が経っているのかは分からない。それどころか、今自分が何処にいるのかさえも不明なままだ。かろうじて分かることと言えば、ここが屋内であるということ、俺は今ベッドの上に居るということ、顔に酸素マスクを付けられているということ、腕からやたらとチューブが伸びていること、どうやら専門的な治療を受けられたこと、そして、生き残ったということ。

 ぼんやりと霞がかった頭で視覚的情報をのんびり処理していると、じくじくと記憶と自責の念が蘇ってくる。たらればを言っても仕方ないのは分かってはいるのだが、考えずには居られなかった。多分、俺はあのままAR小隊のやつらと再会することなく、部下ともども死んでいた方がよかったのだと思う。あいつらの驚き様からして、あそこで出会ったのは本当にたまたまだ。奇跡と言い換えてもいい。本来ならば二度と交わるはずの無かった運命線が、奇妙な偶然かはたまた神の悪戯か分からないが、交わってしまった。

 

 あいつらに、思い出と、それ以上の重荷を与えてしまった。

 

 上司と部下、軍隊と戦場というシチュエーションありきではあるが、それなりに多くの人間を見てきた。彼女たちが俺に対して、並々ならぬ好意を寄せていることくらい馬鹿でも分かることだ。その思考回路と恋愛観には正直理解が及ばないが、他人の感情を俺が否定するわけにもいかない。そんなもんただの自己中狂人である。

 だからこそ、AR小隊の4人は長い時間をかけてその気持ちを清算し、割り切っていくべきだった。新たな出会いに心を躍らせるべきだった。戦術教官という存在を、過去のものにするべきだった。そしてその未来図は、あの時までは上手く描けていたはずだった。それが、最悪の形の出会いとともに、頓挫してしまった。

 彼女たちは俺のことを忘れるべきとまでは言わないが、数多ある出会いの中の一つとして勘定すべきだと思っている。当時、AR小隊は恐らく何らかの作戦行動中だったのだろう。それを俺という存在が中断させてしまった。到底許されるべきではない。俺が彼女たちと再び出会い、助けられ、生き残ってしまったせいで、彼女たちの在り方を縛ってしまっている。過去一時ともに過ごしたことがある、名も知れぬ教官。そんなコンパクトな思い出だけを残してやるべきだったんだ。

 割と真面目に自害も考えてみたが、すぐに思い直した。別に今更命が惜しいって話じゃない。そんなことをしてしまえば、余計に彼女たちを縛ってしまうのが目に見えたから。

 

 いやーしかし、生き残ってしまったかあ。うーむ、どうしよう。今後の身の振り方をどうすればいいか普通に分からないぞ。別に俺は死にたがりじゃない。そりゃ死ぬより生きてた方がいいに決まってる、当たり前だ。だがそれはあくまで、周りに迷惑をかけることなく普通に生きていく前提があってこそである。

 感覚が未だに無いので逆に確信は持てないのだが、ほぼ確実に左足は無くなっている。こんな状態じゃあ軍籍を持ち続けるのは不可能だ。戦うどころか歩くことすらままならん。邪魔者でしかない。更には自分の部隊員を見殺しにして独り醜く生き延びた敗戦者である、一体誰が許してくれるというのか。そして俺は独身だし当然子供も居ない、両親とは既に死別している。これから俺が生きていくためには、何がどう転んでも誰かの迷惑になり続けなきゃいけない。じゃあさっさと命を絶とうかと思えば、今度はAR小隊の顔がちらつく。あいつらに理不尽な重荷を一方的にぶん投げたままお先に失礼ってのは納得行くわけもなし。

 

 うーん、これは詰んだ。進むも地獄、引くも地獄である。死にたくは無いが、生きていくビジョンが見えない。

 

 

「あら、目が覚めたのね。気分は如何かな?」

 

 ああでもないこうでもないと、思考の袋小路にどん詰まりしている俺に声が掛けられる。どーも、目は覚めているが気分は割と最悪です。マスクのせいで喋れないので、俺は声の持ち主に視線だけを投げつけた。

 端的に言えば、残念な美人がそこに立っていた。白衣のようなものを羽織っているので、恐らく医者か研究者か。しかし、白衣の中身がどう好意的に解釈しても洗ってない普段着に見えるんですけど。しかも何故か知らんが猫耳付いてるし、顔には精気も覇気もなく薄っすらと隈すら見える。ただ、そんな特大のネガティブパーツを差し引いても尚、その顔立ちは整っており生来の顔の良さを感じさせた。顔面偏差値が高いってそれだけで卑怯だよな。こればっかりは男も女も変わらん。あと非常に遺憾ながら割とタイプです。悔しい。

 

「ああ、そういえば初めましてだったね。私はペルシカリア。よろしくね」

 

 ハイ、よろしく。って終わるんかい。名前しか分からんじゃないか。何だろうこの空気、クルーガーなんかとはまた違った曲者感が漂っている。この女絶対深入りしたらあかんやつだ。こいつに関わった連中が皆不幸にはならないが面倒くさい事態に陥るパターンのやつ。ただそれでも利益にはなるから巻き込まれた方も強く言えない、そんな感じのぶっちぎりに厄介なタイプな気がする。

 初対面の相手にいきなりとんでもない評価をしている自覚はあるが、こういうマイナスイメージからなる俺の勘はよく当たるんだ。戦場じゃ役に立たなかったけどな。

 

「あ、珈琲飲む? って飲めないか……。そうそう、貴方2週間くらい寝てたのよ。何回か死んだかと思ったわ」

 

 今の俺を見て何故珈琲をお勧めしたのかを知りたい。だが、漸く有益っぽい情報が出てきたな。2週間かあ、随分と寝込んでしまったものである。そのまま安らかに逝けていたら楽だったんだろうが、そうは問屋が卸さなかったようだ。

 ところで、ここは一体何処で、このペルシカリアさんは何処の何方なんでしょうかね。正直現状に対する情報がまったく無い上にこちらは喋れないわ動けないわで、能動的な情報獲得の手段が一切無い。目の前の残念美人さんがペラペラと喋ってくれれば一番早いんだが、さてどうしたものかな。

 

 とりあえずやることもないし今のところ眠気もないので、ペルシカリアをぼんやり見つめるくらいしか出来ないわけなんだが、俺の視線から気持ちを汲み取ってくれたのか、はたまた偶然か。湯気の立つカップをすすりながら、彼女は事のあらましをやや面倒くさそうに語ってくれた。

 

 

 ペルシカリアが先ず事態を把握したのは、ヘリからの通信だったらしい。通信内容は、要救助人を確保したので任務を中断して最寄の医療施設に搬送したいとのことだった。んん? あのヘリ確かG&Kのロゴが入っていたような。ということはこいつもクルーガーの部下なんだろうか。まあ考えてても答えは分からんし、今は話に集中しよう。

 AR小隊が就いていた任務というのは、鉄血製の戦術人形が突如人間を襲い出した件についての初動捜査、周辺一帯の偵察と安全確保。バッタバッタと鉄血の群れを片付けていたら、俺らの部隊と交戦していた鉄血の集団を新たに発見したという流れらしい。ああ、そういえばあの作戦区域、そう遠くないところにグリフィンの支部があったような気がするな。作戦に関係ない情報だったから今の今まで忘れていた。

 で、当たり前だがヘリのパイロットとは揉めたそうだ。勝手に作戦を中断した上に勝手に国属の正規軍を助けるなんて、戦術人形がやっていい範囲を遥かに超えてる。そりゃ怒られるよ。最終的にパイロットの方が折れたらしいんだが、どういう説得をしたのかは分からないままだった。これ俺も知らない方が幸せなやつだと思う。

 それで大急ぎでヘリを飛ばし、G&Kもまったく関係ない民間の医療施設に飛び込んだとのこと。そこで緊急手術を行わせて、俺の容態が峠を越えたあたりでそそくさと退散、今はここ、I.O.P社の技術開発施設の中にある医療室にて半ば匿われる形で厄介になっている、と。

 

 E.L.I.Dと正規軍の戦闘中、鉄血工造製の戦術人形が突如暴走、正規軍に攻撃を仕掛け、たまたま居合わせたG&K社所属の戦術人形が乱入。正規軍の人間を救助し、民間の医療施設へ搬送、その後行方不明。ニュースの見出し風に表現するならこんなところだろうか。

 

 字面が強すぎる。どっからどう見てもヤバさしかない。一番の大目玉は間違いなく鉄血工造だが、G&Kもバレたらやべーぞこれ。唯一情状酌量が利きそうな部分は「要救助人を確保、救出」ってところだろうが、正規軍が展開している地域に民間の会社に所属している戦術人形が突っ込んできてるのは言い訳が立たない。

 場合が場合なら、俺は一躍時の人になっている。そんなのは御免被りたい。そしてそんな俺を匿ってしまっているI.O.P社も場合によってはヤバい。無関係の医療施設を介してしまっているもんだから、どうやったって調べられたら足はつく。直ぐにでも俺を所属元に突き返すのが一番ダメージが少ないだろうが、あえてそうしない理由なんてあるんだろうか。俺には思いつかない。

 

 控え目に言って地獄じゃん。もうやだ。鉄血工造は最早知ったこっちゃないが、その他の国家、企業にはハチャメチャに迷惑を掛けている。海底で貝になりたい気分だ。

 

「ああそうだ。件の鉄血工造だけど、人形の製造施設がテロリストに襲われたとかで施設内の防衛機構が動き出した結果、何か致命的なバグが走ってしまって人形が暴走、あそこの従業員ほぼ全員死んだらしいわよ。もう企業としては存在していないわね」

 

 その情報、間違いなく欠伸しながら言う内容じゃないと思うんですが。いやぁ、コーラップスの流出と第三次世界大戦で既にこの世界大分終わってる気がしてたんだが、そこから更に沈むとか考えても居なかった。最悪の中で更に最悪が起きた感じ。もうどうにでもなーれ。俺は知らん。

 あらゆる反則的手段を取ったとしても、今の事態を八方丸く収められるプランが思い浮かばない。巡り巡ってやっぱり俺が死ぬのが一番いいんじゃないのとすら思えてしまう。つらい。

 

 

「失礼する」

 

 ペルシカリアの語りが一段落し、情報を脳内で整理した結果。改めて詰みの状況を確認出来た以外に何の成果も得られなかった俺が半ば不貞腐れている最中、ノックの音が聞こえ、それと同時に見覚えのある顔がその全貌を覗かせる。

 あれ、クルーガーじゃん。そういえば訓練の依頼を受けて以降会ってないから何年振りになるのやら。ちょっとシワ増えてるなあ、あとヒゲも増えててより一層毟りやすそうになってるわ。だがこいつにしては珍しく、疲労の色が顔から見て取れる、相当疲れてんな。まぁ渦中の企業の一つであるG&Kの最高責任者だしな、事態が起きてから2週間、そりゃもうバタバタしたんだろう。一体何枚の書類が行き来することになったのか、想像したくもない。

 

 ペルシカリアの横まで来ると、クルーガーは無言で俺を見下ろす形で視線を下ろした。相変わらず表情からは何考えてるか読めない野郎だが、目は死んでいない。何か企んでる気がするな、しかも良くない方向で。

 

「……災難だったな」

 

 手頃な椅子に腰掛けて、一言。ええそれはもう災難でしたとも。色んな意味で。

 

「E.L.I.Dと正規軍の戦闘中、暴走した人形が乱入、正に修羅場と聞いた。……正規軍の部隊は全滅、唯一の生き残りは偶然そこに居合わせた傭兵崩れたった一人と来たものだ、さぞ凄惨だったことだろう」

 

 …………んんんん? 何言ってんだこいつ。

 

「君も優秀な傭兵だったと聞き及んでいるが、その状態では引退するしかあるまい。だが、我々G&Kには君に新たな職務を預ける準備が出来ている。その手腕を是非我が社で発揮して欲しいと考えているのだがどうだろうか。丁度、戦術人形とそれらを指揮する人間という戦闘システムに切り替えているところでな、君の力と知見を見込んでの話なのだが」

 

 このヒゲ野郎。読めたぞてめえ。

 

「無論、これは強制ではない。断ってくれても構わない。だが、その場合は君の救出にかかった費用諸々を請求させてもらうことになってしまうがね」

 

 おーいちょっと。クルーガーでもペルシカリアでもいいや。このマスク外せ。

 コンコン、と、指でマスクを弾く。俺の意図を察したのかクルーガーがその手を寄せ、意外なほど丁寧な所作でもって俺の酸素マスクを取り外した。

 

「おうコラファッキンクソヒゲ野郎。好き勝手に話進めてんじゃねえぞ」

 

 とりあえず文句言っとこう。話はそれからだ。強い言葉とは裏腹に、出てきた声は自分でも驚くくらい細々としたか弱いものだった。まあ2週間も寝てたしね、肺もやられてたし仕方ない。

 

「……ふっ、顔に似合わず随分と粗暴な言葉遣いだな。()()()()()()()()()()()()()()? だが、この話を飲むなら君は仮にも私の部下となる。言葉には気をつけて頂きたいものだな」

 

 無表情で話を進めていたクルーガーの口角が、僅かに浮いた。

 

 ()()()()()()()()()()

 たったこれだけのことに、どれだけの金とコネを使ったかは分からない。だが、こいつの一番の得手は、用意周到な正面突破。いわゆる丁寧なゴリ押しだ。ゴリ押す割に周囲に禍根や遺恨を残さないから上手い。そして、そのゴリ押し対象となる俺の個人的感情は加味されない。

 

 

 全快したらこいつのヒゲは毟る。絶対にだ。




もうちょっとだけ続いた結果がこれだよ。

次回で締めると思います。最後までお付き合い頂ければ幸甚に御座います。


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11 -戦術人形と元軍人と-

教官おじさんの明日はどっちだ(投げやり)

ということで、こんな感じになりました。
後書き欄にちょっと追記しているのでお暇な方はどうぞ。


 凡そ二ヶ月。俺が目を覚ましてから、あの殺風景なI.O.P社内医療室で過ごした期間だ。未だ全快とまでは行かないが、それなりに元気にはなったのでいい加減外界に出て行かないとな、新しい職場にも挨拶せねばならんわけだし。ちなみに、左足はやっぱり無くなっていた。丁度膝下辺りから綺麗さっぱり切断されておりました。いやまぁ、あの状態だとむしろくっつけておく方が頭おかしいレベルだったし仕方が無いんだけど。

 正直動けないわ娯楽もないわ、養生中は暇で暇で死にそうだったので久々に外に出られるというだけで内心かなりテンションが上がってしまっている。あの空間でのイベントと言えば、たまにペルシカリアがふらっとやってきてはちょこちょこと話をするか、医者っぽい連中が俺の容態を確認しに来るくらいだったからな。ペルシカリアからそれなりの情報は手に入ったからまったくの無駄ってワケじゃなかったんだが、やることが無いと言うのは非常にストレスが溜まる。普段は身体動かしてたから余計にだったな。あと流石に痩せた。かなり筋肉が落ちてしまったのはもう仕方ないのだが。

 

 そういえばそのペルシカリアだが、医者か研究者という予測は間違っていなかったようで、I.O.P社の技術開発部門、「16Lab」の主任研究員だそうだ。話を聞く限り、生活能力皆無のダメ女一直線って感じなんだが、なんとあのAR小隊の生みの親らしい。戦術人形というカテゴリをワンランク押し上げたのは彼女の功績だとか。紛れも無い天才というやつだ。天は二物を与えずとはよく言ったものだが、それを見事に体現していた。

 そんな彼女から、俺さえよければ義足も準備出来ると言われたが丁重にお断りした。あの女特製の、という枕詞さえなければお願いしていたかもしれん。嫌な予感しかしなかったんだよなぁ。それにたとえ動けるようになったところで、足を失う前と同等以上の機動力を持つことはどうやっても不可能だ。思い通りに動けないと多分それはそれでストレスが溜まる。であれば、いっそ「動けない」ものとして扱ったほうが割り切りも効くというものだ。俺はもう軍人ではなくなったわけだしな。

 

 結論から言えば、俺はクルーガーの目論見通りとなっている。あの時、色々と言いたいこと聞きたいことはあったが、すぐ隣にペルシカリアも居たこともあってとりあえず「演じて」やっていた。が、どうやらそのペルシカリアも一枚噛んでいたようで。言われて見れば当たり前である、あそこはI.O.P社の中だ。むしろクルーガーが居る方がおかしい。阿呆みたいな猿芝居を終わらせて真面目に話を聞いてみれば、まぁ嘘は言っていなかったようだ。

 俺がAR小隊の訓練を終わらせた後、彼女たちは指揮官と呼ばれる、戦術人形を指揮する人間の下へ配属されたようだが、それはもう素晴らしい働きをしたようだ。そりゃ俺が自信を持って送り出せる数少ない教え子たちだったからな、それくらい活躍してもらわないと困る。ただ、作戦行動時や普段の生活態度は非常に真面目らしいのだが、指揮官への対応は塩オブ塩だったようだ。幾つか転属もあったようだがそれだけは変わらなかったらしい。俺は何も知らんぞ。

 更にはAR小隊の成功例を元に、新たな戦術人形への教育訓練スケジュールも考案されたようなのだが、誰がどう頑張っても彼女たちレベルにまで引き上げることは出来なかったんだそうな。AR小隊が飛び抜けて優秀だったのか、俺の教え方が良かったのかは分からない。少なくとも、俺は戦術人形用の教育マニュアルを持っていたわけじゃないし、俺がやってきたことを何かで残したわけでもない。たまたまデキの悪い指揮官殿しか居なかったんだろうなと思うことにした。

 で、クルーガーとしても今のところ一番戦術人形の教育に成功している俺については、是非とも引っ張りたかったらしい。ただ、一時的に手を回すことは出来ても、それを複数回となると流石に国と揉める可能性が高かった。正規軍の士官を民間にぶっこ抜きなんて以ての外だ。俺も現場じゃそれなりに上の方だったしなあ、俺自身軍を辞めるつもりは無かったし。

 そこにあの大事件、そういや今は蝶事件なんて呼ばれてるんだったか、が起きた。G&Kとしては別に直接関係のある話ではなかったはずなんだが、まさかのAR小隊が正規軍の居所に独断でカチコミを掛けたせいで、対岸の火事ではなくなってしまった。I.O.P社としても、同業他社である鉄血工造だけの問題で終わらせたかったところを、自社製品が噛んでしまっているとなるとややこしくなる。しかもAR小隊はトップクラスの看板商品だ。傷を付けたくはない。

 

 と、言うことでG&KとI.O.P社の利害が一致したというわけだ。一体どれだけの金と人の首が飛び交ったのか考えたくも無い。そして更にこいつらにとって幸運だったのは、火事場の大掃除をしていたら瀕死の俺という掘り出し物を発掘してしまったことだった。既にどっぷりと裏から手を回している真っ最中である、ついでに拾わない選択肢をこいつらが選ぶわけが無かった。

 ちなみに俺の療養中、AR小隊は一度も顔を見せなかった。ふと聞いてみたらこれまた当然のことで、あいつらは独断で大ポカをやらかしている。さらには決して安くないダミー人形を十数体オシャカにして舞い戻ってきた大馬鹿どもである。きっちり営倉にぶち込まれたそうな。そして、民間の医療施設に運ばれた後の行き先を彼女たちは知らない。彼女たちの中では、俺は何とか一命を取り留め、今は軍人を辞めてどこかでひっそりと暮らしていることになっているらしい。大丈夫かそれ。不安しかないんですが。

 

 そんなわけで俺は今、I.O.P社の移送車に乗せられて新たな職場に連行されてきたところである。いやーしかし、この数年でクルーガーも大物になったものだなあ、各地にこんなに支部が出来ているとは。あ、この建物結構新しいな、外壁の経年劣化が見えないぞ。

 

「御待ちしておりました! 貴方が新しい指揮官さまですね?」

 

 I.O.P社の職員に車椅子を押してもらいながらグリフィン支部の正面ゲートを潜ったところで、おそらく俺を待ち構えていたであろう女性に声を掛けられた。ちなみに、俺の経歴を正しく把握しているのはクルーガー、ペルシカリア、I.O.P社の一部の重役くらいである。一応対外的には、身元などの詳しい経歴は不明の一匹狼で活動していた元傭兵、ということになっていた。それなりの戦果やらプロフィールやらがいつの間にか新たに用意されていたのにはビビッたが、新しい名前だけはちょっと弄らせてもらった。別に元の名前に近付けたかったとかじゃない。少しは残しておかないとあいつらに可哀想かなと思っただけだ。

 

 ここで俺の車椅子を押す係が、I.O.Pの職員から挨拶を投げ掛けてきた女性に代わる。名をカリーナといい、比較的最近G&Kに雇われた後方幕僚だそうな。片足びっこの元傭兵、という情報くらいは彼女にも渡っていたらしく、別段車椅子のことや足のことを聞かれることはなかった。いやぁ、正直に話せない内容だから助かる。

 

「指揮官さまにはこの司令部で戦術人形たちの指揮を取ってもらう形になります。そのうちの何名かは非常に優秀なのですが、その、何分癖が強くて……気にしないで頂けると助かるのですが」

 

 お互いに自己紹介やら他愛も無い会話をぽつぽつと行うがてら、とんでもない情報が飛び込んできた。うおーいクルーガーてめぇこの野郎。嫌な予感しかしないんだが? いや、いかんいかん。俺は別に戦術人形と関わりがあるわけじゃない、ただの元傭兵だ。唸れ俺のポーカーフェイス。

 カリーナの言葉に、そうなのか、と一言返すだけに留めておく。ていうか今更だが俺ってどういうキャラで行けばいいんだ。経歴なんかはクルーガーが適当に用意してくれているが、俺の人となりについては何も触れられていない。うーん、いつも通りでいいんだろうか。多分、注文がないってことはそういうことだろう。気にしないことにする。

 

 そういや二ヶ月前は気にならなかったが、俺の声って若干だけど変わってる気がするんだよな。肺がやられたせいなのか、細かいところを整形したせいなのかは分からないが。

 整形と言っても大きく変わったわけじゃない。顎周りの輪郭と目元が少しだけ変わった程度だ。元の顔を知ってるやつなら同一人物だと気付ける範囲だろう。ただし知らない人から見ればそっくりさんですよ、で何とか押し通せるくらいにはなっている。

 これは俺も納得している。流石に完全に別人に成り切るのは抵抗感が強かったが、まあこの程度なら許容範囲だろう。経歴についてはクルーガーが綺麗に洗ってくれているだろうからそこは心配していない。そういう部分は信用出来るやつだからな。

 

 

 

「それでは、先ずは主だった所属人形たちと面通ししたいと思いますが、大丈夫ですか?」

 

 後ろから押されて動くこと程なく。通信用デッキやらスクリーンやらその他雑多な機械やらが規則正しく並べられている、やや大きめの部屋に辿り着いた。ここが司令室ってやつなんだろう。軍人の時は現場で指揮を取ることはあっても、こういう場所で戦闘に望む機会はほとんど無かったから、これはこれで新鮮だ。まぁ今の状態で戦場に出るなんてただの自殺行為なんだが。

 投げ掛けられた言葉に、そのまま肯定を返す。挨拶は大事だ。俺の言葉を受け取ったカリーナは、じゃあ呼んできますね、とその場を後にする。しかし、戦術人形の部下を持つことになるとは夢にも思わなかったなあ。人生どう転ぶか分かったもんじゃない。

 

「指揮官さま、お待たせ致しましたわ!」

 

 司令室前のゲートが短い電子音を吐き出しながら左右に開く。うーむ、いつ見ても近未来的。いいなあ、俺が軍属の間に兵舎のドアが改装されることは終ぞなかった。

 

 

「ったく、別に挨拶なんてどうでもいいだろうに。誰が来ても同……じ……」

 

 カリーナのすぐ後ろから複数の人影が目に入るが、その先頭に居た人物が声と動きを止めた。

 うん、分かってた。おじさん分かってたよ。ただ、今のシチュエーションでそのリアクションはよろしくないなぁ。俺の方へ視線を固定し固まってしまった戦術人形に向けて、ポーカーフェイスを貫いたまま自身の口元に拳を持っていく。ほんの少しばかり、人差し指を浮かせつつ。多分これで通じる、あいつらは馬鹿だが阿呆じゃない。

 

「? どうかしましたか?」

「……いや、なんでもない。悪い、車椅子に乗った指揮官なんて初めて見たものでな」

 

 疑問の声をすぐ傍から投げ掛けられたそいつは、とってつけたような言い訳をさも平然と並べてその表情を従来のものへと戻した。いいね、その切り替えの早さ。流石だぞ。

 

「それで? その方が新しい指揮官なのよね? 紹介はして頂けるので?」

 

 ふと視線を横にずらすと、声を発したであろう人形の、綺麗に整えられた桃色髪が忙しなくそわそわしていた。こ、このポンコツゥー! お前横のロボペットもどきを少しは見習えよ。あいつもこれ以上はないくらいの笑顔で今にも飛び跳ねそうな感じだが、要するにこれが普段通りだから大して違和感がない。いつもは冷静沈着を貫いているであろう人形がそんなソワッソワしてたら怪しさ120%だろうが。ダメだこいつ、こと戦闘に関しては優秀なんだろうが、肝心なところがてんで治ってない。何か致命的なバグでも走ってんじゃないのか。

 

 さて、俺の自己紹介をしてもいいんだが、その前に今から面倒を見る戦術人形たちから先に名乗ってもらおうか。どうやら見覚えの無い人形も混じっているようで、とりあえず顔と名前と得意武器くらいはセットで把握しておきたい。俺から見て左から順番に自己紹介よろしく。

 

「AR小隊隊長、M4A1です。よろしくお願いします、指揮官」

「M16A1だ、よろしくな」

「……コルト、AR-15です。よろしくお願いします」

「M4 SOPMODⅡ! よろしくねー!」

「M1911といいます。これは運命の出会いですよ!」

「M14です! よろしくお願いします!」

「Vz61、スコーピオンだよー。蠍といっても毒は無いよー」

 

 ふーむ、戦術人形って別にアサルトライフルだけじゃないんだなあ。ガバメント、マークスマンライフルにマシンピストルも居るのか。銃のレパートリーもそうだが、戦術人形一体一体を見ても大変に個性的だ。この辺はやっぱり鉄血工造の量産型と比べると趣深い。この数年で色々バリエーションが増えたんだろうなあ、こいつら一人で製造費用どれくらいかかるんだろう。いや、考えるのはやめよう。胃に優しくない。

 

 本来ならばさっさと俺が自己紹介に入るべきところで大変申し訳ないんだが、物凄く気になっていることがあるので先に聞いておこう。あまり聞きたくないんだけどさ。

 

 

 M16A1、と言ったか。その眼帯は何だ?

 

「ああ、これか。過去に戦場で負った傷だ、気にしなくてもいい」

 

 戦術人形なら治療や換装も出来るだろう。何故そのままにしておく。

 

指揮官(しきかん)には関係ない話さ。これは私と教官(しきかん)の問題じゃあない、私個人のものだ」

 

 ……戦闘に支障は?

 

「無い。そこら辺は安心してくれ。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 うーむ。これ俺が何言ってもだめなやつじゃん。折角整った顔立ちなんだから勿体無い気がするんだよなあ。ていうかそんなスティグマ残される方の身にもなって欲しい。気が気じゃない。

 

 質疑応答もそこそこに、いい加減俺も自己紹介をしないとな。新しい自分に関してはちゃんと復習したし大丈夫なはず。今後、一指揮官として活動する分にはボロが出ることもないだろう。どっちかと言えば俺というよりこのポンコツ小隊が口を滑らせないかどうかが不安なんだが。

 あと、復帰して早々にこいつらと再会するなんて思っても居なかったから、ちょっと名乗るのが恥ずかしい。クルーガーの野郎、しれっと整えやがったな。可能性はゼロじゃないがグリフィンも大きくなった、早々鉢合わせることもあるまい、なんてどの口が言いやがったのか。それを信用してしまった俺も俺だが、やはり一毟りではお仕置きが足りなかったようである。次に出会ったらもうひと毟りいっとくか。文句は言わせんぞ。

 

 とは言ってもこのままの空気を続けるのも好ましくない。サクっと挨拶を終わらせて支部内の見学にでも洒落込もう。今のうちに他の職員とか施設とか把握しておきたいしな。以前の時と違ってここが新たな職場になるんだ、何時までも迷子予備軍じゃ情けないし。というかこの基地、ちゃんとバリアフリー構造になってるんだろうな。一人で動けないとかシャレにならんから頼むぞマジで。いやいざとなったら別に片足でも移動できるんだけどさ。

 

 クルーガーやペルシカリア相手だけでなく、新たな名を対外的に名乗るということは、過去の俺を捨てるということだ。未練はまぁ、程ほどには持っている。なんだかんだ悪くない日々だったしな。ただ、もう取り返すことが出来ないから、人はそれを未練と呼ぶ。だから俺も感傷はそこそこに割り切って、新しい環境を楽しんでいかないと人生損ってもんだ。

 

 じゃあな、今までの俺。こんにちは、新しい俺。まぁ今日からよろしく頼むわ。

 

 

 

「挨拶が遅れたな。本日付で諸君らの指揮官となる、タクティス・コピーだ。よろしく頼む」

 

「I copy!!」

 

 新たな指揮官の言葉を受け止めた戦術人形たち。

 そのうちの7体中、4体の返事が、元気良く司令室に響き渡った。




これにて、教官おじさんのお話は一旦一区切り。
最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。

今後、彼ら彼女らが一体どんな道を歩んでいくのか、それはまだ分かりません。
ただまぁ、なんやかんや楽しくやって行くんでしょう。今までもそうだったんですから。





ドルフロの二次創作を読み始めて、ああー何かぼくも書いてみようかなぁと思い立ち、ふわふわと設定が組み上がってきたところ半ば見切り発車のような形で始めましたが、何とか終えることが出来て今は一安心といった心地であります。
ちなみに筆者は元大陸版ユーザーで、日本版リリースを2年くらい心待ちにしていたタイプの人間です。
IWSとリベロールとスピットファイアの実装はまだですかね?

他ジャンルでも二次小説は書いてるんですが、ドルフロはサクサク書く事が出来て大変良い題材でした。
気が向いたら、一話完結方式の軽いモノでも投稿してみたいところです。

それでは改めて、お付き合い頂きましてありがとう御座いました。
またどこかでお会いしましょう。

*後書き的な活動報告をちょっと書いてみました。お暇な方はどうぞ。
あとちょこちょこ足していく場合ってこの小説に章を足した方がいいのか、別で短編を作った方がいいのかも良く分からず決めかねている状態なので、そちらももしよろしければ、活動報告の方へご助言いただければと思います。


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