Re:聖なるかな…え? 原作になんて参加しませんよ (ぴんころ)
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プロローグ

気づけば消えていたので別にいいかなぁなんて思ってましたが、捜索掲示板で探されていたのともう一つの当時書いていた作品の匿名を解除したら、それとは別の作品の感想で質問されたので復活です。ただし、前回もプロットなんてなかったので全く同じになるとは保証できません。更に言えば結構更新頻度も遅くなると思います。




そして幼女が来た理由はお前が神剣と契約しているからだよ。してなかったらしてなかったで、おbsnにこれからする可能性があると未来視されたから監視されてたけどな


 『転生』という概念がある。俺はこれをした。

 

 いや、この世界……永遠神剣シリーズに元から存在する「転生」ではなく、前々世によくあったネット小説のテンプレ転生。それも神様転生ではない方だ。

 前々世に関しては俺も普通の人生だったと言える。よくある二次小説の主人公みたいに何も特徴がなく、よくいる二次小説の主人公とは違って転生したからと言って前々世の価値観から前世の価値観へとすぐに移行することはできなかった。

 そんな俺の前世は帝国アドラーとかいう場所で生まれて、第十三星辰小隊という場所の配属されていたのだが、それが壊滅した中で俺のグループだけが唯一生き残ったのだ。それ以降も色々とあって、剣の師匠に修行をつけてもらいながら日常を過ごしていたのだが、その世界で最終的に世界規模の聖戦みたいなものが発生する中、元上司であるギルベルト・ハーヴェスと戦う中で死んだ。

 

 

 で、転生したら、今の人生から二つ前。この世界での幼馴染たる『世刻望』の存在で、この世界が望が主人公であるゲーム、「聖なるかな」の世界だと理解した。一旦捨て去った現代での価値観を取り戻すのは少し苦労したが。

 

 

 まあ、そんな感じでこの世界がどんな世界か、そしてこの世界の危険性がわかってしまったら逃げられるところは逃げたいと思うのはおかしくないだろう。ヘリオスとかいう『正しい姿』は前世でみたけれど、その姿を体現するために命をかけられるかと言われれば『死にたくないから無理』と答えるしかない。

 そうしてどうにか原作から逃れようとする最中で『自己の生存』に対する強い想いに同調した第一位の永遠神剣、永遠神剣『調和』が契約を持ちかけて来て、『死なない』というただ一点において俺たちの心は一つになったので契約もした。

 

 

 それで、望たちが受かった物部学園に俺はわざと落ちて、別の近くの高校に向かった。そして最近、原作がスタートしたことを物部学園が消失したことで知り、つい昨日戻って来たことで、原作の終了を理解した。

 一体誰のルートを進んだのかはわからないので、望の電話番号が残っていることから少なくともエターナルになるルートは進まなかったことだけはわかった。

 

 

「望!? 無事なのか! 急に、消えてた物部学園が戻って来たってことを知ったから連絡してるんだけど!」

 

『あはは、心配かけて悪い……』

 

 

 なのでまず電話をかける。”何も知らない友人”枠なら戻って来たと感づいたならこの対応をすることが正解だろう。

 

 

『ちょっと今からそっちに行ってもいいか?』

 

「え? 別にいいけど……どうしてだ?」

 

『報告したいことがあるんだ』

 

 

 望の恋愛は、この旅の中で成就する。幼馴染としては希美と結ばれていてほしいなんて思うがこればっかりは俺にはどうしようもない。この報告が『希美と付き合うことになりました』であることに期待しよう。……ちなみに、その場合は希美の貧乳については「望が大きくしてくれる」とフォローするのが役割になるんだろうな。

 

 

「ん、別にそれはいいけど。まさか以前から付近の高校で腐女子の間に出回ってる『望×暁』の薄い本が厚くなるような報告じゃないだろうな?」

 

『そんなわけないだろ!?』

 

「冗談に決まってるだろ。まあ、待ってるから。今、高校の方だよな。それなら……だいたい一時間ぐらいか? とりあえず何人来るのかだけ教えてくれ。そろそろ時間も夜だし、飯ぐらいなら作って置いてやるよ」

 

『助かる……さすがに今日は自力で用意する気になれないしな』

 

 

 この時、もしも俺が断っていれば俺の日常は今も続いていたのだろうか。

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

「ん、来たか」

 

 連絡があってから一時間弱。玄関のチャイムが鳴ったことを理解した俺は、『三人で来る』と聞いたので俺の分も含めて四人分の夕飯を用意してから、玄関の方に向かう。

 

 

 正直に言って、望以外は誰が来るのかよくわからない。幼馴染であることを考えれば希美もやって来そうだが、もしも希美以外と付き合うことになったなら一緒に来るとは思えない。特に『報告』なんて言い方をしていたのだから、多分「○○と付き合うことになりました」ってことだろうし。

 

 

「おかえり、って言えばいいのか、それともいらっしゃいと言えばいいのか。まあとりあえずいらっしゃい望。希美」

 

 

 玄関を開けると、そこには望と希美が。三人と言っていたのに二人しかいないことに疑問を覚えたが、よく見てみると望と希美よりもはるかに背丈が小さいせいで気がつかなかっただけで悠久のユーフォリアもそこにはいた。……なぜユーフォリアはここにいるのだろうか? 彼女の目的は「叢雲の解放」であって原作が終了したならそれは終わっているはずだが…… まあ、考えても仕方ない。

 

 

「ああ、ただいま」

 

「ただいま、ーーちゃん!」

 

「は、初めまして! ユーフォリアって言います!」

 

 

 ちょうど俺の名前を呼ぶタイミングで図ったかのように強風が吹いて名前が聞こえなかった。それはまあいいのだけれど、風が強くなって来たことと天気からしてそろそろ雨が降りそうだ。

 

 

「ほら、報告とやらは飯の後に聞くから。とりあえず雨が降る前にそっちの小さい子(ユーフォリアちゃん)も含めてうちに上がれ」

 

『はーい』

 

 

 三人を家に上げて用意していた……とは言っても最初から数日分として用意していたカレーを振る舞う。飯を食べ始めた三人の内、この世界出身である望と希美はカレーが懐かしいのかバクバク食べている。二人が望む分だけおかわりを入れて、ユーフォリアの方も伺う。

 

 

「ユーフォリアちゃんもおかわり欲しいならよそうけど?」

 

「あ、大丈夫です。お構いなく」

 

「うん、それなら良かった。……それで、報告ってなんだ、二人とも」

 

 

 のほほんとした団欒も望たちが満腹になったことで終了し、俺が報告について尋ねると神妙な顔をする。……ただ、口元にカレールーがついているので微妙に締まりが無い。

 

 

「えっと、この度、俺と希美は付き合うことになりました」

 

「これまで色々と協力してくれてありがとう!」

 

「ついに望を落としたか!」

 

 

 希美と一緒に来た時点である程度の予想はついていたが、実際に言葉にされると感動も大きい。ついつい椅子を蹴飛ばして立ち上がってしまう。

 

 

「良かったな希美! それにしても、一体どうやって、この『乙女心をわかる日が来たらその日は多分世界が終わる日だろう』なんて呼ばれてる望を落としたんだ?」

 

 

 一応、原作のヒロインだということは覚えているが、もうかなり昔にやったゲームなのでシナリオまでは詳しく覚えていない。なので詳しい話を聞きたいのだが、「それは長くなるからまた今度ね」なんて苦笑した希美からごまかしを受ける。ちなみにこの異名をもらっている望はどうやらその異名に文句があるらしい。……つけたの俺だけど。

 

 

「それで、今日一緒に来たユーフォリアちゃんなんだけど、この子もよくわからないけど用事があるみたいなの。話聞いて上げてくれないかな?」

 

「ん? それぐらいなら別にいいけど」

 

 

 希美たちの報告を待ってたユーフォリアの方に視線を向ける。すると彼女はこちらに向き直って真剣な眼差しで俺を見つめて

 

「では、改めまして」

 

 居住まいを正してから彼女はもう一度、今度はエターナルとしての自己紹介を始めた。

 

「カオス・エターナル所属。永遠神剣第三位『悠久』の担い手。”悠久のユーフォリア”です」

 

「はあ……これはご丁寧にどうも」

 

 とても礼儀正しく自己紹介されたのでこちらもついつい頭を下げてしまう。だが、エターナルとしての自己紹介をしたということは俺の正体についてもバレているということなのではないだろうか?

 

 

「あなたを監視しに来ました!」

 

 

 ……………………………………………………

 

 ………………………………………………

 

 …………………………………………

 

 ……………………………………

 

 ………………………………

 

 …………………………

 

 ……………………

 

 ………………

 

 …………

 

 ……っは!

 

 

 衝撃的な発言にしばらくの間意識が吹っ飛んでいた。ほら、望と希美もいきなり監視なんて言い出すから驚いている。……でも、そうなると今の俺にできるのは一つだけだな。

 

 

「ふーん、そうなのかー。ユーフォリアちゃんはそんなことのために一人でこんなところにやってくるなんて偉いなー」

 

「あ、えへへ……」

 

 

 今世は一人っ子だが前々世と前世に関しては妹や弟がいた。撫でることには慣れている。なのでまずは褒めるように撫でる。できる限り言葉が棒読みにならないように。それに夢中になっている隙にとあることを確認して

 

 

「ほぇ?」

 

 

 撫でられて相好を崩しているユーフォリアの首根っこを捕まえて持ち上げて、そのまま窓の方に持って行く。

 

 

「間に合ってます」

 

 

 そして、すでに鍵が開いていた窓を全開にしてそこから放り投げた。




前回は虚空のバロックの「甲信特異震災」からの一連の事件で死んだけど、今回は違いますね。light作品ではありますけど。そしていきなり監視宣言をしなかったので家には入れたユーフィー。ただし放り出される。


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第一話

「間に合ってます」

 

 

 その一言と共に私は外に放り出された。つい先ほど撫でられた頭は未だにその心地良さが残っていて、こんな冷たい一言……それも感情が一切乗っていない言葉で追い出されるとは思わずに少しばかり反応が遅れてしまったが、外の冷気に頭が冷えて元の調子を取り戻し追い出された窓の方を振り向く。

 

 

 まずい。すでに窓を閉めようとしている。しかも目が絶対零度だ。さっきまでの暖かな視線はどこにも存在しない。……なんだかムカムカしてきた。あんなに気持ちのいいナデナデをしておいてそんな目を向けないでほしい。どうにかしてあのどうでもいい相手を見る目からちゃんと私個人を見る目に戻ってほしい。

 そんな気持ちを持っていても、このままではどうしようもない。なぜかゆーくんの力もちゃんと働かないのでマナによる強化はできない。このペースだと私が部屋に入り込む前に閉まってしまう。……仕方ない。

 

 

(ごめんね、ゆーくん!)

 

【え? ちょ、ちょっとユーフィー!?】

 

 

 私は、思いついた方法を試した。

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

「間に合ってます」

 

 

 その一言と共に俺は窓を閉めようとする。それを見た瞬間あの幼女はどうにかして侵入しようと走り出してきた。

 

 

(『調和』!)

 

【ごめんねユーフィーちゃん。私もまだ死にたくないの。恨むなら戦闘に巻き込みかねないことをしようとした、貴女に指示を出した人物を恨んでね?】

 

 

 『調和』の能力が発動する。その名の通り彼女の能力は『調和』すること。今の空気中のマナの状態で調和がとれているのだから、外部からの刺激を与える行動をとらせない。彼女の能力が発動している空間ではあらゆる『調和を乱す行動』は意味をなさない。例えば、神剣を使用してマナによる身体強化も、周囲に僅かながら影響を与えるから使うことはできない。……まあ、神剣を武器として呼び出すだけなら可能だが、それでもただの鉄の塊にしかならないのだ。

 

 

 だから、見た目相応の身体能力しか持たない状態のこの幼女が俺が閉めるよりも先に入り込むなど不可能。

 

 故に驚いた。

 

 

「ゆーくん!」

 

 

 『悠久』を手元に召喚したこの幼女は、槍剣という形状を活かして、俺が窓を閉める前にそこに挟み込んできた。

 

 

「なっ、おま、自分の神剣もう少し大事に扱え!」

 

「そういうんでしたらこの窓開けてください……!」

 

(『調和』)

 

【はーい】

 

 今度はこの窓……ガラス部分の状態を『調和のとれた状態』にした。この調和のとれた状態からの変化は強引に止められるので、他の連中が神剣の能力を使えない状況で『調和』によって一人だけ強化された状態の俺がこの窓を閉めようとすることで、ただの鉄クズ状態の『悠久』はこのままいけば多分砕ける……はずだ!

 

 

「あーけーてーくーだーさーいー!」

 

 

 ようやく自分の最大の懸念がなくなって自由に暮らせると思ったのに、こんなことをされては俺の優雅(笑)な生活が邪魔されてしまうではないか。以前「望相手の人質に〜〜」とか言ってやってきた『光をもたらすもの』を殺さないように撃退するのは大変だったんだ。大きくなったら「高校生の時にいい歳して中二病なエヴォリアとか呼ばれてた女とかベルバルザードとかいう女の尻に敷かれたおっさんに絡まれたんだ」と酒のネタにする予定なんだよ。これ以上変なネタを増やすな。

 

 

「どうしても開けないっていうなら……!」

 

「開けないっていうなら……?」

 

「ご近所さんにこの家から追い出されたって言いふらします!!」

 

「ふ、ふざけんなよお前! そんなことしたら俺はこれからどういう顔でこの付近を歩けばいいんだ!」

 

「というかこのまま騒いでると普通にご近所さんにバレそうな気がするんだけど」

 

「そうだよね、望ちゃん」

 

「おいこらそこぉ! なに人の家でくつろいでんだ!? お前ら連れてきたんだからどうにかしろ!!」

 

 

 のほほんとしている二人。確かに久しぶりの元の世界だからそんなことをしたくなる気持ちもわからないでもないが、真横で上位神剣の力をこんなことに使ってるんだからもう少し違う反応をしてほしい。

 

 

「ぐぬぬぬぬ………!」

 

 

 このままご近所さんを歩けなくなっても困るので、断腸の思いで窓を閉めることをやめる。すると全力で窓を開けようと「ぐぬぬぬ」して顔が真っ赤になっていた幼女も、今度は笑顔になって部屋に入ってくる。

 

 

「はぁ……とりあえずシャワー……の前に希美。この幼女の着替えを何か持ってないか?」

 

「あー、ごめんね。今はなにも持ってきてないの」

 

 

 地面に落としたので土が……しかもさっきから雨が降り始めていたようで泥になってついている。このままだと家の中が汚れてしまうので、一旦シャワー浴びてこいと言おうと思ったがうちには幼女用の着替えなんてない。だからわざわざ連れてきたこいつらならその辺り持ってるんじゃないかと思って尋ねてみたが、やっぱりこいつらも持ってないらしい。今日の夜のパジャマはどうするつもりだったんだろうか?

 

 

「俺のお古貸してやるからシャワー浴びてこい」

 

「はーい」

 

 

 ニッコニッコしながらシャワーを浴びに行こうとリビングから出て行ったのを確認してから望たちに向き合う。少し落ち着いたのか、何か聞きたそうな顔をしている。……うん、さっきまでのはどう考えてもギャグ描写だったから聞けるようなタイミングではなかったよな。

 

 

「それで、何が聞きたいんだ?」

 

「それじゃ、まず……」

 

「お兄さーん!」

 

 望が何か口にしようとしたところで幼女が戻ってきた。シャワーを浴びてくるには早すぎると思って振り向いたが、まだ泥だらけ。こいつ何しに行ったんだと思ったところで

 

 

「お風呂どこですか?」

 

「……望、少し待ってろ」

 

「……おう」

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

 Q.いつから神剣を持ってたんだ?

 A.中学生の時に契約を持ちかけられた。

 

 Q.俺たちが神剣使いだって気づいてたのか?

 A.ノー。

 

 Q.じゃあなんで頭がいいはずのお前だけ物部に落ちたんだ? 俺たちから離れようとしたからじゃないのか?

 A.さすがにこんな大きな力持ってたらこれを狙ってくる奴がいるかもしれない。そんな時に人質にされたらと思うとな。

 

 

 最初の一個以外の質問の答えは全て嘘である。それでもまあ納得はしてもらえたようで。そしてそんなタイミングでちょうどよく幼女も戻ってきた。

 

 

「むふー!」

 

「おい、この幼女なんだかすごくご満悦って感じの表情しててムカつくんだが。とっとと連れ帰ってくんね?」

 

「やですー。私はここに監視に来たんですー!」

 

 

 この幼女って確か「良い子」の具現化したような存在だった覚えがあるんだが。なんだかすごく我儘ではなかろうか?

 

 

「うん、とりあえず、このことを沙月先輩は聞いてたはずだから明日そっちに相談してからまた来てみるよ」

 

「頼んだぞ、望、希美……! お前たちが俺の最後の希望だ……!」

 

「うわ……期待が重い」

 

「そ、そんなに期待しないでね?」

 

 

 そんな会話をしながらも二人は帰っていく。残されたのは未だにご満悦な幼女と俺の二人。

 

 

「とりあえず、俺の部屋のベッド貸してやるからそこで今日は寝とけ。明日には引き取ってもらえるそうだから今日だけは俺ので我慢しろ。俺はリビングで寝てるから何かあったらそん時は聞きにこい。良いな、下手に何かに触るんじゃないぞ」

 

「はーい!」

 

 

 ニコニコしながらも俺の部屋の場所を聞いてそちらに向かう幼女。その姿を見て明日からの生活がどんな地獄みたいなことになるのか不安だ。さっきの「世間様の目を利用する」ということをこれから先もやってくるであろうことを考えるとそれだけで憂鬱だが、今の俺にはどうしようもない。……今日すぐにするのは難しいけど、一週間以内にあいつを油断させて夜逃げすることを目標にしておくか。

 

 

 そんな誓いを立ててリビングに敷いた布団に入ると、さっきの攻防で疲れていたのかすぐに眠りについた。

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

「うにゅ……監視〜」

 

「いた〜」

 

「おやすみ……」

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

 なんだか寒い。なんでこんなに寒いんだろう。冬に近くなったら、起きる時間のだいたい1時間から30分前ぐらいに暖房がつくようにタイマーつけてるんだけど。……あ、でもなんかお腹のあたりすごく暖かい。なんだろこれ? 抱き枕? でも家にそんなものあったっけ? というか普段のベッドとは少し違うような……

 

 

 そこで、何かが落ちる音を聞いた。多分、ビニール袋か何かだと思う。そういえば今日は望たちが来るんだっけと思って、合鍵渡してあるし入って来るのはおかしなことではないと寝ぼけ眼を無理矢理に開けて、その音が聞こえた方向を向く。するとそこには望たちの他にも、ちょっと知り合い程度でしかない物部学園の生徒会長を始めとした原作メンバーらしき人物たちがいた。全員驚愕と侮蔑の目で俺のことを見ている。……いや、正確には俺の上、だろうか?

 

 

「な、な、な……!」

 

「うにゅう……」

 

 

 するとそこには真っ裸になった幼女が俺に抱きついて眠っていた。しかも、俺がさっきまで抱き枕と思っていたのもこの幼女だったようで、俺が裸の幼女を抱きしめている絵面。うん、俺が彼らの側でも同じ視線を向けると思うわ。って、ええい斑鳩。なぜ写真を撮る!?

 

 

「貴方がユーフォリアちゃんの監視を受け入れないなら、これをユーフォリアちゃんだとわからないように加工して世間様に『子岬和也(実名)くんはロリコンである』という情報とともにばら撒くわ」

 

「て、テメェ……! なんて恐ろしいことを……」

 

 

 ちなみに『子岬和也』は俺の名前である。

 

 

「ぐ、ぐぬぬぬ……」

 

「お兄さんあったかーい……」

 

 

 まだ半分以上寝ながら幼女は俺に抱きついている。この状況ではあいつがネットに公開するよりも先に奪うことは不可能。仕方、ないのか……

 

 

「……わかった。こいつを我が家に置けば良いんだな……?」

 

「ええ、よろしくね」

 

「ふにゅ……?」

 

 

 どうやら当人は寝惚けて聞いていなかったようだ。




まさかの前作では決まっていなかった主人公の名前がこんな形で公表された事実。


・永遠神剣第一位『調和』

 形状は太刀。属性は赤と黒。あとはちょっとオーラフォトンが使えるので白属性も一応。能力としては神剣の名称の通り”調和”。わかりやすい効果としては一定空間内部で自分以外の人物のマナの使用を禁止したり、物の状態が劣化したりしないようにする。ちなみにこの神剣が死……砕かれることを恐れる理由には、この神剣は当人すら理解できないほどの深層に「元の一本だった頃の神剣が砕かれた記憶」がこびりついているから。この小説内部でその事実が発覚することはないのでここで発表された。

・叢雨の太刀

 主人公最強技。多分使用される機会はやってこない。ゲーム的に言うならカットイン有り。シルヴァリオシリーズに出てくる「絶刀・叢雨」の劣化版。この主人公は心技体のうち技と体はともかく圧倒的に心が足りてない。ので劣化版。


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第二話

「それじゃ、私ここで住んでいいんですね!」

 

 

 斑鳩の言葉を聞いてわーいと喜んでいる幼女と反比例するように俺の心は落ち込んでいく。それもこれも全てこの幼女が夜中に裸で俺の布団に潜り込んできたことが原因である。あれさえなければ朝にやってきた神剣使いの集団……『旅団』の面々に写真を撮られて脅迫されることはなかったからこいつをここに住まわせて後で俺だけどこか遠い地に引っ越せば終了したのに……

 

 

「で、ここで暮らすにせよ、着替えとか全く待ってきてないだろ、昨日の荷物とか見ると。その辺りはどうするんだ。今日買いに行くのか?」

 

「ふっふっふ。その辺りは私たちがちゃんと持ってきたわよ」

 

 

 そう言って斑鳩は持ってきた紙袋を持っていた腕を見やすいように上げる。さすがに幼女を裸のままにしておくわけにもいかないので、着替えの間は俺も含めた男性陣全員が外に出て、今は昨日の夜着ていた俺のお古をもう一度着用している。

 

 

 そうしてもらった袋の中から一着の服を取り出して……っておい!

 

 

「ここで着替えるな! ちゃんと洗面所行ってこい!!」

 

「はーい」

 

 

 トコトコ歩いていく幼女を眺めて、あんなのと一緒に暮らすことに不安を抱いていると他の旅団のメンバーが何やら微笑ましいものを見る目でこちらを見ている。

 

 

「おい、なんだその目は。言ってみろ望、希美」

 

「いや、『お兄ちゃん』やってるなと思って」

 

「うーん、どっちかっていうと……お父さん?」

 

「やめろ」

 

 

 どこからかオーラフォトンノヴァが飛んで来そうな気配がしてくるだろうが。

 

 

「っていうか、私たちと一緒にいた時よりも子供っぽくなってるような気がするんだけど」

 

「そうね。ユーフォリア、これまで『良い子』だったから。あそこまで子供っぽいのはちょっと驚いたわ」

 

「でも、別に悪いことじゃないんじゃねーか?」

 

「誰も悪いなんて言ってないでしょ、馬鹿ソル」

 

「誰が馬鹿だ、誰が!」

 

 

 背後でも何やら会話が弾んでいる。やはりあの幼女は原作時よりも少しはっちゃけているようだ。このままはっちゃけられると色々面倒なことになりそうな気配がする。

 

 

「……とりあえず、この家で暮らす上でのルールを決めておく必要はあるかなぁ」

 

 

 あと、食器とかの生活必需品。服に関してはこれである程度はどうにかなったが、それ以外はまだ何も解決していない。というか未だにあの幼女と一緒に暮らすことを認めたくない。

 

 

「着替えました!」

 

 

 どうですか似合いますかなんて言ってグイグイ迫ってくる幼女。認めるのは癪だが、彼女の母親の容姿が色濃く受け継がれているので、元がスピリット(妖精)と言われる程の容姿ーー実際には戦闘用の種族だがスピリットという種族はだいたい容姿は整っていることもあってある程度の服であれば順当に着こなすことができる。

 実際、今の服装はベージュのセーターに黒のミニスカート、それとニーソックスという至ってシンプルな服装であるにもかかわらず、ロリコンでなくても誰もが振り返りそうなほどには愛らしい少女になっていた。

 

 

 ただ、もう一度言うが認めるのは癪なので

 

 

「着ている奴がお前でさえなければなぁ……」

 

「むー!」

 

「ちょ、おま、神剣の力を引き出して蹴るんじゃない!」

 

 

『仲良いなぁ』

 

 

 止めろよ!

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

 今も眼前に立つ人の脛を蹴り続ける。私の身長だとどうしてもこの辺りを蹴るのが関の山だ。ただ、私が蹴りたくなる気持ちもきっとわかってもらえると思う。

 あんなことをしておきながら、それ以降は私のことを邪険に扱っている。一度あの気持ち良さを知ってしまったらもう離れられない。その責任を取ってほしい。

 

 

【ユーフィー】

 

(どうしたの、ゆーくん?)

 

 

 そんなことを考えているとゆーくんが話しかけてくる。その声はどこか疲れているようにも思えるけど、多分このタイミングで疲れるようなことはないはずだから、多分気のせいだろう。

 

 

【今考えてたこと、絶対に口にしちゃダメだよ。そんなことしたら多分さらに嫌われるから】

 

(そうなの?)

 

【うん。今の時点で結構、厄介ごとを運んでくる相手だと思われてるみたいだし】

 

 

 やっぱり、「監視しに来ました」と真正面から堂々と言ったことがダメだったのだろうか。でも、『魔法の世界』で望さんたち旅団に拾われる前に監視していた時は後ろから追いかけたりしていたけど、警察官に補導されそうになったから、あれはダメだし。『住む場所がないから』も「望さんと知り合いならそっちに泊めてもらうか、もしくは旅団の本拠地に行けばいいだろう」と言われるかもしれない。だから真正面からぶち抜くつもりだったのに。

 

 

 でも、私はまだ諦めるつもりはない。彼を監視、そしてあわよくばカオスに引き込めるのであればいつかはまた()()をしてもらえるかもしれない。そのことを思えばこそ、今どれだけ邪険にされようと頑張れる。そう、全ては

 

 

もう一度頭を撫でてもらうために!

 

 

【なんだか目的がしょぼい気がするなぁ】

 

 

 そんなことはないよゆーくん。私にとっては一番重要なことだよ。

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

 旅団メンバーがとりあえず俺たちがうまくやって行けそうだから、と俺が蹴られているのを放置して帰ってからしばらくして、俺と幼女は二人して買い物に出ていた。

 一応、幼女も幼女で旅団で動いていた時のことがあってお給金のような形で貴金属をいくつかもらっていたらしい。それを知り合いに頼んで換金してきてもらって生活費として持ってきた、ということを聞いたので特別に何か俺の方から金を出す必要性はないらしい。……のだが、どう考えても幼女に自分で金を払わせているようにしか見えないので見栄えが悪い。結局俺が払うことになるのだろう。

 

 

「はぁ……」

 

「どうかしたの、お兄ちゃん?」

 

「いや、いつになったらお前は消えてくれるんだろうかと思っただけだ」

 

 

 しかも気がつけば俺のことを「お兄ちゃん」と呼んでいるし、敬語も抜けている。さっき誰かと連絡を取ってからだが、その連絡で一体何を言われたんだ。俺の発言を聞いて幼女が不満を示すように頬を膨らませたので、その頬を押し込んで萎ませる。

 

 

「ぷー。監視する理由がなくなるまでお兄ちゃんと一緒だよーっだ!」

 

「だったら、それはいつなのか教えろ」

 

「さあ?」

 

 

 殴りたい、この笑顔。

 

 

 しかし、今この場で殴るのは周囲の目があるので難しい。グッと握り込まれた拳が動くのを我慢して、気になる敬語についてを尋ねてみた。

 

 

「うん、これ? こんな外で敬語使ったり、名前で呼んだりしたらお兄ちゃんが周囲から変な目で見られるんじゃないかと思ったんだけど。これなら義理の兄妹ってことでおかしくないでしょ?」

 

「そんなことに気を使えるなら監視される俺の心境も気遣ってくれ」

 

「なのでこの世界での私の立ち位置は『子岬和也の両親が拾ってきた、義理の妹の子岬夕陽』なの。よろしくね、お兄ちゃん」

 

「話聞けよ」

 

 

 ニッコニッコしている幼女……当人の言ったことに合わせて外で名前を呼ぶ場合は夕陽でいいのだろうか? とりあえず心の中では幼女のままでいいか。あとついでに言えばこの場合は『あんな小さな女の子に”お兄ちゃん”呼びさせてるよあいつ』になるだけなので変な目では見られずとも白い目では見られることにこいつは気がついてないんだろうか。……気がついてないんだろうな。

 

 

「ま、いいか。とりあえず行くぞ」

 

「はーい!」

 

 

 さっきの服装の上からコートを羽織っている幼女と手を繋いでデパートの方に向かうのだが、やはり周囲からはロリコンを見る目で見られている。ここで周囲の目を気にしてしまったら『あいつ、あんなにこそこそしてあんな小さい子をどこに連れ込もうとしているんだ』なんて思われて通報されるかもしれない。できる限り堂々と、かつおかしくなさそうな受け答えをして、ある程度の関係性がある間柄なんだということを見せないといけないだろう。

 

 

「ほら、夕陽。迷子にならないように手でも繋ぐか?」

 

「え、いいんですか?」

 

「この世界だと『俺の妹』なんだろ、立ち位置は。それなら兄貴として最低限はちゃんとするさ。そうでないとどういう関係なのかよくわからないせいで通報されそうだからな」

 

「だったら……えいっ!」

 

「おわっ!」

 

 

 幼女は俺と手を繋ぐ……のではなく、俺の腕に抱きついてきた。人の話を聞いてなかったのだろうか。

 

 

「誰が腕に抱きつけって言った。手を繋ぐ程度までしか許した覚えはないぞ」

 

「ぶー!」

 

「ぶーたれてもダメ」

 

「仕方ないなぁ……」

 

 

 やれやれ、なんて感じの声を出して手を繋いできたが、その繋ぎ方はなぜか恋人繋ぎ。けれど手を繋ぐことを提案したのが俺なこともあり、手の繋ぎ方も特に指定していないので文句を言うに言えず、そのまま溜息を吐いてデパートへ向かうのだった。できれば、クラスメイトや知り合いには見つからないことを祈ろう。

 

 

 

 

 

 

 

「おや、あれは……?」

 

「どうかしましたか、マスター?」

 

「見てみろ、ナナシ。あんなことを言っておきながら和也の奴。一日も経たずに恋人繋ぎなんかしてるぞ」

 

「……本当ですね。ロリコンだったんでしょうか」

 

「さあ、どっちにせよあれを写真に撮って異世界に飛ばされた一般生徒に見せたら面白そうだとは思わないか」

 

「それは……バレたら危険な気がしますが。一応、一位の神剣と契約していると言う話ですし」

 

 

 二人が歩いているところから少し離れたところで、そんな会話があったことを二人は知らない。




あんなこと=ナデナデ


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第三話

ちなみにユーフォリア以外だったら戦争と感想欄に書きましたが、ユーフォリアなら大丈夫なことにいくつか理由を挙げると

・望の知り合いであり、望の紹介で望たちと一緒にやってきているからいきなり殺すのは、ってことで話を聞く気になった

・そもそも人を騙すことが壊滅的に苦手そう

・あと妹属性

っていうのがあります。ロウが来たら「エターナルは皆殺し!」になってた。色々と巻き込まれそうだからね。


 幼女が我が家で暮らす上で必要となるであろう品を買ったことで休日は終了し、いつものように俺は学校にやってきていた。まさか学校にいる時間が休憩みたいな感じになるとは思いもよらなかったが、それならそれで学校の新しい楽しみ方が一つ増えるというもの。代わりに家という安らぎ空間が消えたことに目を瞑ればいいことである。

 そんなこんなでやってきた昼休み、俺もいつものようにクラスメイトたちと集まって弁当を広げようとしたところで、ちょっとしたミスに気がついた。

 

 

「あ、やべっ。弁当忘れた」

 

「おいおい、何やってんだよ子岬」

 

「うっせ。こっちはこっちで昨日色々と大変だったんだよ」

 

 

 別に弁当を作り忘れたわけではない。昨日も昨日で幼女が夜寝るときにしがみついて来たので、朝にあの幼女を起こすワンアクションが加わったことで少し遅くなっただけだ。……それにしてもどうしてあの人の迷惑省みないあの幼女を俺の監視に置いたのだろうか。どう考えてもロウが接触して来たらロウに着く要素にしかならないと思うんだが。

 

 

「お? お? まさか彼女できたとか言わないよな? 言ったら戦争だぞ? 『うちのクラスの人間は全員非リアであれ』と教師からの職権乱用で俺たちは非リアだと決まってるだろうが」

 

「毎度思うけど、それ頭おかしいよな」

 

「……言うな」

 

 

 何が悲しくて担任のガチ泣きを見せられないといけないんだろうか。恋人ができた人が出るたびにいびり始めるのはやめてほしい。しかも相手のことを責めるための言葉ではなくて、相手にやましいことがある時にのみダメージを与えられそうな言葉を選んでるからいやらしいのだ。

 

 

「って、なんか廊下騒がしくないか?」

 

「ん、確かに……」

 

 

 廊下の方から「きゃーかわいい」などの女子の姦しい声や、男子の「ハァ……ハァ……あの子、かわいい。僕のお嫁さんになってくれないかな」なんて声が聞こえてくる。最後だけやばいので通報しておかないとダメだろう。……なーんか嫌な予感がするな。

 どんどんその声が近づいて来て、最終的に教室の扉が開く。その先にはつい最近ーーというか今朝も見た顔が立っていた。

 

 

「夕陽!?」

 

「うん! お弁当、届けに来たよ!」

 

 

 テテテーっと走り寄って来て弁当の包みを渡してくる。一瞬俺が入れたのを抜き取って周囲に俺の妹と認知させる作戦かと思ったが、よくよく思い返してみると俺には今日弁当を入れた記憶がない。一応感謝しておくか。……こいついなければ多分忘れることはなかっただろうけど。

 

 

「ん、ありがとな」

 

「えへへ……」

 

 こいつが持ってこなければ今日飯抜きで午後の授業を受けることになったことには違いない。とりあえず感謝の印として撫でていると、こいつの髪の毛サラサラだなぁ、などのどうでもいいことばかり思い浮かんでくる。こいつの顔も撫で始めると人様には見せられないほどに緩んでいるようにも見えるが、ギリギリ微笑ましい様子で済んでいる……はず。

 

 

「お、おい子岬。お前、ロリコンだったのか……」

 

「おいおい、待て待て。こいつ、弁当を届けに来てくれたらしいぞ。つまりそれって一緒に住んでるってことだろ?」

 

「ハァ……ハァ……そんなロリコンのところは危ないよ、お嬢ちゃん。飴さんあげるからこっちおいで……?」

 

「いやいや待て待て。俺はロリコンじゃない。こいつはうちの両親が拾って来て養子縁組したことでできた義理の妹だ」

 

「子岬夕陽です。よろしくお願いします!」

 

 

 ほら、と促すよりも先に頭を撫で続けていた幼女が挨拶をする。なぜか今までよりも輝く笑顔に、可愛いもの好きの女子たちも、『義理の妹』という普通の人にはいないであろうものに気を惹かれるオタク男子たちも、さっきからやばい発言をしているロリコンどもも、フラフラと夕陽に近寄り始める。

 

 

「子岬くん! 妹さんうちに頂戴!」

 

「いや、そんな可愛い子ならうちに!」

 

「ハァ……ハァ……こっち、おいで」

 

「ひっ!」

 

 

 さすがにちょっと危ない人たちの集団に詰め寄られるのは恐ろしいのか、俺の後ろに隠れようとしたのだが、俺としてもそこまで庇ってやる必要性がない。……まあ、さすがにロリコンの男子や性犯罪者っぽいやつらに明け渡すのはどうかと思うので女子に渡すとしよう。

 

 

「お兄ちゃん……」

 

 

 しかし、そこでジィッと俺のことを見つめる幼女に気づく。ちょっと不安そうである。こうして見られるとギルベルトと戦う前夜の前世の妹のことを思い出してしまうのでやめてほしいのだが、そんなことを実際に口にできるわけもない。……というか前世の妹も前世の妹で、最初に会った時に俺は母方に引き取られたからあいつのことを知らないというのにいきなり「あなたが私の兄さん、なんだよね。ごめんなさい。こんなことは言いたくないけど死んで」なんて言って来たので、この幼女よりもひどい出会いだった気がするぞ……? なんであそこまで良好な関係を築くことができたんだ?……思い出したら怒りが湧いてきた。とりあえずギルベルトは殺す。

 いや、今はそれは関係ないか。ここで重要なのは『この幼女を見捨てられるか』ってことで、さすがにこの目をしてる幼女を見捨てるのは……仕方ないか。

 

 

「悪いけど、こいつは俺の(妹)なんだ。だから他の誰かに渡すつもりはないぞ」

 

「あ、えへへ……」

 

 

 ため息をついてからそう言うと、一瞬何を言われたのかわからなかったのか惚けて、直後先ほどよりも笑顔になる幼女。それと同時に周囲のクラスメイトがざわざわし始めるが、何かそんなざわざわするようなことが起きたのだろうか? 前世の知り合いのアッシュが普段から言ってそうな言葉だったはずだけど。

 

 

 

「お、お前。ロリコン兼シスコンだったんだな」

 

「は?」

 

 

 こいつは何を言っているのだろうか。シスコンだけならともかく、ロリコンに関しては文句を言わざるを得ない。

 

 

「いや、だってお前今、『こいつは俺の(女)だ』って」

 

「おう、こいつは俺のだぞ」

 

「お、お兄ちゃん……!」

 

 

 そんなことを言っていると、背後に隠れてひょっこり顔を出していた幼女が、潤んだ瞳ではあるものの俺のことを笑顔で見つめて次の瞬間顔を腹のあたりに埋めて来た。

 

 

「おう? どうした?」

 

「ぎゅーっ!」

 

 

 しっかりと抱きついてくるのを見て微笑ましいものを見つめる目で周囲が見ている。と言うかこうして見ていると妙に前世の妹に被る部分が多いように思える。ええい、一度そう思うとそうにしか思えなくなって来たぞ!

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

 えへへ……

 

 

【おーい、ユーフィー】

 

(はっ! な、なに、ゆーくん?)

 

【いや、別にあいつのことを好きになるのは勝手だけどさ】

 

(べ、別にお兄ちゃんのことなんて好きじゃないよ!?)

 

【はいはい、ツンデレ乙。僕にしか聞こえないツンデレには意味ないよ。ってそうじゃなくて、どう考えても第一印象最悪だから、なかなかその恋は厳しいと思うんだけど】

 

(だ、だーかーら!)

 

【ぶっちゃけ『監視しに来ました』はアウトな気しかしないし】

 

(……やっぱり、ゆーくんもそう思うよね)

 

 

 さすがにあれは今思い返すと自分でもないなと思う。そもそも私も監視を命じられただけで、なんで監視しないといけないのか、何が起きたら報告しないといけないのかは教えてもらっていない。とりあえず今のところは、一日に起きた出来事を報告しているだけだけど、なぜかナデナデが気持ちよかった話をしたらパパが血涙を流していたのが印象的だった。なぜか時深さんもため息を吐いていたけど。

 

 

【一応、ロウ・エターナルが入って来たことは報告したけど、それって彼に関わることなのかもわからないんだよねー】

 

(うん。ロウの人たちが入って来たのは驚いたけど、やっぱりこのタイミングでこの世界にやって来たってことは、お兄ちゃんのことを狙って、ってことだよね。多分、接触させたらダメな感じの)

 

【時深さんはそのあたり何も教えてくれなかったからねー。まあ、接触させたらダメだと思うけど……】

 

 

 今はこの世界にはいないみたいだけど、一度入って来た事実はかなり大きい。できればお兄ちゃんに接触する前にどうにかしたい。

 

 

【ま、仕事のことを忘れてないならいいよ。彼と恋人関係になるために全力を尽くすなら僕も手伝うし】

 

(うん、ありがとう、ゆーくん!)

 

【あ、今度は否定しないんだ】

 

 

 絶対にニヤニヤしてるとわかる、生まれた時から一緒のゆーくんの言葉にちょっとため息をつきたくなるが、さすがにそれはこの場ですると目立つ。というかここまでの会話を全てお兄ちゃんに抱きついたまましているので、しばらくの間抱きつかれているお兄ちゃんが動けなくて困っている気配も伝わってくる。名残惜しいけど離れなければ。

 

 

(帰ったら時深さんに男性を落とす方法を尋ねてみよう!)

 

【やめておいた方がいいと思うなぁ……】

 

 

 ゆーくんはどうして止めるんだろう? 時深さんは大人の女性だし恋に関しても百戦錬磨な感じがするけど。




主人公、昔の妹とユーフィーを重ねて微妙に受け入れるの巻。これでズレが出て来たら大変だぞー


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第四話

「子岬」

 

 

 ある日のこと。というか幼女が学校にやってきてクラスメイトたちに『子岬家の末っ子』と認識された週の金曜日に、あの日の馬鹿騒ぎに加わっていなかったクラスメイトが話しかけてきた。

 

 

「お前さん、確か妹がいるんだろ? これやるから行ってきたらどうだ」

 

 

 渡されたのは遊園地のペアチケット。こういうのは普通恋人がいる相手に渡すものでは……いや、このクラスでは恋愛禁止法が施行されていたか。確かにそれなら遊園地を好みそうな年代の女の子を妹に持っていると思っている俺に渡してくるのもおかしくはない……のか?

 

 

「あ、ああ。ありがとう。でも、本当にいいのか? こんなのもらっても俺が何か返せるとは思えないんだけど」

 

 

 せいぜいできるとしたら神剣を使っての闇討ち程度だ。

 

 

「別にいいって。あ、でもどうしても、ただもらうのが気になるって言うなら……」

 

「言うなら?」

 

「今度お前の妹さん紹介してくれ!」

 

「死ね、ロリコン」

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

「マズいなぁ……」

 

 

 帰り道で、さっきペアチケットをもらった時の応対を思い返して呻く。正直に言ってこの間のアレのせいで幼女を前世の妹と重ねて見てしまうことが増えてしまい、ついつい前世の妹に近寄ろうとしていた輩に対する応対が前面に出てくるようになっていた。そのせいで余計にロリコンシスコン疑惑が高まり、外堀が埋められていく。というか埋める気ないのに自分で埋めてしまっている。

 

 

【とりあえず、帰るまでにいつもの調子に戻ってね。じゃないと多分色々と聞かれることになると思うよ?】

 

(わかってる。あの幼女、そのあたり結構しつこいしな)

 

 

 まあ、結局もらってしまったことに変わりないので、明日か明後日にでも二人で行ってくるとしよう。せっかくくれたわけだから。

 

 

 そんなことを考えながら歩いていると家にたどり着く。これまでと違って帰ってきた時点で家に誰かいるというのは一人でないことを実感できてホッとするが、次の瞬間「でも、いるのは監視役だしなぁ」と思い直す。玄関を開けて家に入ると、帰ってきたことに気がついて、パタパタとスリッパの音がして幼女がやってきた。……こいつ、俺が学校にいる間はどうやって監視しているんだろうか?

 

 

「あ、お兄ちゃんおかえりー!」

 

「ただいま」

 

 

 幼女の姿を一目見たいと、俺の妹としての地位を盤石にした日にたくさんのクラスメイトがやって来たのだが、その時に今と同じく「置いてもらっているから」と家事をし始めたエプロン姿の幼女が玄関にまで来たことで、またもやクラスメイトが阿鼻叫喚の事態になっていた。ちなみにその時の叫びとしては「幼妻とかずりーぞてめー!」だの「家事が得意でお兄ちゃんが大好きな義理の妹とかsneg(それなんてエロゲ)?」だの。このゲームは『聖なるかな』というゲームですと返したくなったが、そこに関してはぐっと我慢した。ちなみに家事をし始めたところで、別に見直したりするつもりはない。「褒めて褒めて」なオーラを当人も気がついてないだろうが出していたのでスルーした。

 

 

「明日遊園地行くぞ」

 

「ほぇ?」

 

「クラスメイトからもらった遊園地のペアチケットあるから行くぞ」

 

「……はいっ!」

 

 

 一度目では理解できなかったみたいだが、もう一度詳しく言うと理解できたようで顔を綻ばせて力強く頷いた。

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

「そういうことで、明日は遊園地に行くことになりました!」

 

『そ、そうですか……』

 

 

 私は時深さんに、今日何が起きたのかと、明日の予定を連絡していた。もしも何かあった時のために、どこにいるのかわかっているのとわかっていないのでは合流までにかかる時間がわずかに差が出ると思ったからだ。だけど最近、なぜか時深さんが辟易しているように見えるのは気のせいだろうか?

 

 

『ユーフォリア。わかっているとは思いますが……』

 

「はい! お兄ちゃんにロウが接触しないように! それとできればカオスに取り込むために!」

 

『カオスに関してはそこまで期待できないでしょうけどね……』

 

「ごめんなさい……」

 

『いえ、別にユーフォリアが謝る必要はないですよ。ユーフォリア以外が行くと余計に面倒なことになっていたでしょうし。”もっといい方法が存在する”ことと”それを実行できる”ことは別ですからね。私たちは私たちの取り得る選択肢の中で最も良い選択肢を選ぶしかないんです』

 

 

 なんだか難しいことを言っている気もするが、それでも今できることをしっかりとやれと言われていることはわかった。なので威勢良く返事をして、連絡を終える。今の私にできることは明日の準備。とりあえず、明日はしっかりとおめかししないと!

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

「夕陽。ちゃんと言ったことは覚えてるな?」

 

「うん! 基本的に手を繋いで行動! お兄ちゃんがトイレに行ってる時とかに話しかけてくる人にはついていかない! 迷ったらスタッフさんに聞いて迷子センターに! 最悪の場合のみゆーくんを使っても良い! だよね!」

 

「よし!」

 

 

 遊園地にやってくるまでに少し電車に乗る必要があったが、やはり周囲からは変な目で見られた。とりあえず幼女に変な目を向けている連中にはガン付けをしていたので話しかけられることはなかったが、やはりああいうのを見ると、こいつは無駄に容姿は整っていることを実感する。

 

 

「で、何から乗りたい?」

 

「えとえと、それなら……」

 

 

 今回に関しては、『クラスメイトがくれたもので来ている』ので、来週の月曜日にはクラスメイトに『妹も喜んでいた』と報告できるように幼女を楽しませることが目的のお出かけとなる。そのため、幼女が乗りたいものに乗ることになるのだが……

 

 

「さ、行こう!」

 

 

 幼女に引っ張られてお化け屋敷に向かうことになった。

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 私はため息を吐くしかない。その理由は横のいる人たちにある。

 

 

「ぐぬぬぬ……!」

 

「ユウト、落ち着け」

 

「でも……」

 

「ユーフィーが子供らしく笑顔で遊んでいる。それに文句をつけるわけにはいかない」

 

 

 始まりは昨日のユーフォリアからの連絡。そのタイミングで悠人さんとアセリアさんがやって来ていたことがある。

 ユーフォリアの任務内容を彼らは知らず、今はどんな調子なのかをどうしても気にして私の元に聞きに来ていたのだが、そのタイミングで当人からの連絡。「自分一人でやる」と言っていたユーフォリア相手に、その様子を聞きに来ていた悠人さんたちを見られると、ユーフォリアは信用されていないのかと思ってしまうだろうから、と連絡が来た時悠人さんたちは全力で隠れて盗み聞きしていた。

 

 

 

「でも……あんなに笑顔で……俺たちの時と同じくらい笑顔で……こう、親として築いて来た時間と監視対象と筋つ過ごしただけの時間がほとんど一緒って……」

 

「あの少年はそれだけ、子供の扱いに慣れているんだろう」

 

「そこが謎なんですよね……」

 

「謎?」

 

「ええ」

 

 

 私は彼のことを調べてまとめた資料を思い返す。ログ領域を使用して調べ上げたので、どこで誰と知り合ったかなどの細かい部分までしっかりと理解できているにもかかわらず、彼が年下の子供と関わった機会というのは全くない……とまでは言わずとも両手の指で数えて済む程度の回数だ。しかも、それすらもほとんど関わっているとは言えないようなもの。その割に年下の扱いに慣れすぎている。

 

 

「この数日間でここまで仲良くなった可能性もありますけど、初日に聞いた話だといきなり『貴方を監視しに来ました』と言ったそうですし、当たり前に考えればもっと邪険にされてそうなものです」

 

「いや、なんでそんなことを言ったんだユーフィーは……」

 

「下手に監視の方法を教えておくと、それを意識しすぎて失敗しかねませんし。自然体で監視してくれた方が監視とはバレづらい……と思ったんですけど。まさかいきなり監視をしに来たことを暴露するとは」

 

 

 流石にそんな詳しい部分にまで未来視を使ってはいない。私が見たのは「誰も監視につけなければいつロウが彼に接触するのか」ということと、「彼に接触した場合、一番カオスにとって良い結末になる可能性が最も高い相手は誰なのか」程度。

 

 

「なっ!?」

 

 

 「監視に来た」と直球で伝えたと初めて聞いた時の衝撃を思い返しながら、お化け屋敷の中を暗視でユーフォリアたちの後を追いかけていると悠人さんがいきなり驚愕の声を上げる。その視線の先ではユーフォリアが監視対象にどこか嬉しそうに抱きついていて……

 

 

「あんのクソガキィ……! ユーフィーに抱きつかれてデレデレしてやがる……! ぶちころ……」

 

「落ち着け」

 

 

 悠人さんが暴走しそうになったところでアセリアさんがぶん殴って止める。

 

 

 ユーフォリアがいきなり出て来たお化け役に驚いて監視対象である彼に抱きつき、そのことに自分で気がついた後に顔を隠すようにしてさらに力強く抱きついていた。ただ、どう見ても嬉しそうであることには変わりなく、抱きつかれてる方も面倒臭そうな顔をしているので、デレデレしているようには見えないが。まあ、そこは親バカというやつなのだろう。

 

 

「とりあえず行きますよ」

 

 

 あの様子を見ていると、もう少し監視の体制を変えないと行けないだろうか? このままだとユーフォリアはカオスから彼個人についてもおかしくなさそうだ。



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第五話

ところでこの作品、クロスオーバータグはいるのだろうか?


 最初のお化け屋敷で幼女は俺に抱きついて来た時に変な気配を感じたような気がしたが、それ以降は特に何もあるわけなく、コーヒーカップやらジェットコースターやら、とにかくいろいろと乗った。幼女と繋いでいる手を見るジトッとした視線はあったが、それは敵意を向けているわけではないのでどこぞのロリコンやら自称善良な人々やらが色々な思惑で向けているだけだろうと判断してガン無視することにした。

 

 

「普段からゆーくんに乗ってもっと変態的な機動してるはずなのに、どうしてあそこまで興奮するんでしょう」

 

 

 ジェットコースターから降りた直後の微妙に虚無った表情の幼女の最初のセリフである。すぐに元気いっぱいな表情に戻って「これはもう一回乗って確かめるしかないですね!」なんて言って俺を連れてもう一度乗りに行ったりもした。

 幼女の作った弁当を食べたりしながらも時間が過ぎていき、今は時間的に最後となるであろう観覧車に乗っていた。

 

 

「うわぁ……」

 

 

 キラキラしたお目目で観覧車から外の風景を眺める幼女。それを正面から眺めながらも思い返すはこいつが来てからのこと。

 

 

 なんてことはなく、前々世と前世を含めてたった一度だけのデート……それも異父兄妹に当たる妹とのデートなので悲しいことにデートと呼んでもいいのか謎なお出かけのことである。これが恋人と乗っていたり、好きな人と乗っていればこれまでのことを思い返したりするのかもしれないが、俺とこいつの間柄で考えると、思い返しても特別良い思い出などない。

 最初に出会ったころは殺そうとして来た妹も、なんだか途中から凄い懐いて来ていたことを思い返すと、最初から近くをうろちょろしていただけのこいつはまだマシな部類に思えて来るのが不思議だ。

 

 

「見て見て、お兄ちゃん。外綺麗だよ!」

 

「おー、そうだな」

 

「むっ。こういう場合は『お前の方が綺麗だよ』っていう場面だよ」

 

「恋人とのデートでもないのにか?」

 

「でも、です!」

 

 

 前世を思い返す度にこいつがだいぶマシに見えて来るから困る。前世の妹の場合はここでニッコリと笑って褒めることを強要して来たので、言葉にして来るだけのこいつが本当にマシに思える。まずいぞこれは。前世の場合は同じ隊で、しかもあいつの母親の親戚でもあるアヤに尋ねたら「アマツとは愛が重い種族ですので」と諦めるようにやんわりと言われたが、今回に関しては特別愛が重い族でもない。今から矯正しておけば「さようなら」する頃にはまともになるだろうか?

 

 

「お前の場合、見た目的には『綺麗』よりも『可愛い』の方が合ってる気がするけどな」

 

「あ……えへへ。私可愛い?」

 

「どっちかっていうと綺麗系より可愛い系だろ」

 

「えへへ……」

 

「……ん?」

 

 

 どこかから今敵意を含んだ視線を受けた気がしたが気のせいだろうか? いや、『調和』の能力からしてその辺りを間違うとは思えないし……

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

「グンヌヌヌヌヌ………!!」

 

 

 一方その頃、観覧車に乗らずに外から見張っている悠人、アセリア、時深の三人は、中の状況……何を話しているのかを確認できないために悠人(親バカ)が人様には見せられないような表情になっていることを除いては、そこまで険悪な仲ではなさそうなことにホッとしていた。

 

 

「観覧車という密室ですから、もしかしたら外では出せないような罵倒なども出るのではないかと思いましたがそんなことがなさそうなのはホッとしますね」

 

「ん。ユーフィーも良い子であろうとしてない。子供としての我儘もちゃんと言ってることが今日わかった。……ほら、ユウト落ち着け」

 

「どうにかして奴を殺さないと……! こうなったら奴が学校に向かう最中にオーラフォトンノヴァで狙撃して……クペッ!?」

 

「アセリアさん!? さすがにこの場で神剣をいきなり使うのは……」

 

「大丈夫だ、誰も見てない」

 

 

 時深は不安を感じている。

 

 

 具体的には、今奇跡的に成り立っている監視対象とユーフォリアの良好に見える関係が親バカ(悠人)の介入によって崩されて、最悪の場合は彼が敵に回るだけではなくユーフォリアも「パパなんて嫌い」と言い出して彼についていく未来に至るのではないかと。

 流石にそんなことはないと信じたいのだが、ぶっちゃけた話、未来視が勝手に発動したことでその可能性が見えた。

 

 

「悠人さん」

 

「グヌヌヌヌ……! ……どうかしたのか時深?」

 

「彼に手出ししてはダメですよ。それをしたらユーフォリアに嫌われるかもしれませんよ」

 

「な……ははは……ユーフィーに嫌われるなんてそんなバカな。あの子はあんなに良い子なんだ。そんな……そんな……ウワァァァアァ!!」

 

「落ち着け」

 

 

 もはや色物集団になっている。このままだとバレてしまうのも時間の問題だろう。時深はそう判断してアセリアと視線を交わして悠人を引っ張っていく。

 

 

「そうだ。こうなったらロウをけしかければ……」

 

「不可能なことを言わないでください」

 

「そうだぞ。それにユーフィーが危険だ」

 

「それに、ユーフォリアの様子を見ている限り彼のことが好きなようですし、ロウをけしかけた結果として彼が死んでしまうようなことになれば、それこそ『マモレナカッタ』と塞ぎ込みかねませんよ」

 

「グゥ……!」

 

「まあ、監視対象に感情移入しすぎるともしもの時にちゃんとした判断をできない可能性もありますので、何か対策は考えておきます」

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

「えへへ……」

 

「どうした夕陽。何でそんなに嬉しそうな顔なんだ?」

 

「お兄ちゃんに遊園地に連れてってもらえるなんて思ってなかったからね」

 

「それに関してはクラスメイトがくれたからなんだけどな」

 

「でも、もらったことを隠してもよかったのに連れて行ってくれたんだから、やっぱり感謝してるの!」

 

 

 感謝の言葉はちゃんと受け取りなさいなんていう幼女だが、ちょっとだけ驚いた。

 

 

「連れて行ってもらえないであろうことをしてる自覚はあったんだな……」

 

「う……そりゃね。さすがにいきなり『監視しにきました』はアウトかなーって」

 

「それが理解できてるならどっか出て行けよ……」

 

「うーん。それはちょっと……」

 

「おい今度は何があったこれ以上俺を厄介事に巻き込もうとするんじゃない」

 

 

 出ていくことを躊躇う幼女に対して、躊躇うだけの理由が何かあると驚き、今度はそれに巻き込まれるのではないかと問いただす。今ようやく幼女がいるこの生活にも悲しいことに慣れてきたところで、さらに面倒事をドンと送り込まれるとか嫌すぎるのだ。

 

 

「えっとね。私たちと敵対してる相手がこの時間樹に入ってきたらしくて……」

 

「お前らが目をつけている俺を殺そうと?」

 

「うーん、どうなんだろ? 時深さん……あっ、私のパパとママの知り合いなんだけど、その人から昨日、誰もついてなかったらついてなかったでやってきて無理矢理にお兄ちゃんを連れて行こうとしてたってことを聞いたんだけど。わざわざ警戒されてるタイミングで来るのかなぁ?」

 

 

 理由はわからないが、先にやって来ることだけでもわかっているのは大事なことだ。誰がやって来るのかはわからなくとも、誰かがやって来ることがわかっているだけでも警戒の度合いは変わる。

 

 

「……いや、別に接触して来るのは難しくないだろ」

 

「へ?」

 

「お前、俺が学校に行ってる間とか、学校から帰る途中とか傍にいないし」

 

「さすがにそこまで一緒にいたらクラスメイトさんから変に思われるし……」

 

「なんでそんな配慮ができるのに、俺に対しては一発目であんな発言を繰り出したのか」

 

「わ、忘れてー!」

 

 

 なんというか、前世のことを思い出すやり取りである。こんな光景もあの頃はよくよくあったものだけど……

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

「タキオス」

 

「はっ」

 

「私は今から、あの男の勧誘に向かいます。その間は任せますよ」

 

「わかりました」

 

 

 一方その頃、ものベーに乗っていた面々が『元の世界』と称する世界の片隅で幼女のような見た目のコアラ……失敬、コアラのような見た目の幼女が、筋肉質な男を呼び寄せていた。

 

 

「ですが、どうやらファンタズマゴリアで誕生したエターナルである聖賢者と永遠、その間に生まれた娘と時詠のが監視にいるようですが……」

 

「まあ、そこらへんはなんとかなるでしょう。これまでの様子を見ていると、どうやらあの男はロリコンのようですし。こういう時、この見た目は便利ですわね」

 

「はぁ……」

 

「……なんですか、タキオス。その気のない返事は」

 

「いえ、なんでもありません」

 

 

 そんな簡単にいくのかと思うタキオスと呼ばれた筋肉質の男だが、実際のところ自分に比べて頭が良すぎるこの幼女が『それで上手くいく』と考えているならそれに従うべきだろうと判断してそれ以上は何も言わなかった。実際、時詠がまだ本格的に接触していないので、今のうちに友好関係を築いておけば、悠久の小娘を騙してしまえばどうとでもなると考えている。

 

 

 しかし、この世界にいる誰も知らないことがあった。あの新しいエターナルはすでにこの幼女……法皇テムオリンのことを知っているということを。そして彼の中でのイメージがコアラであるということも。



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第六話

「おっ、子岬。どうだった遊園地?」

 

「夕陽のやつは結構喜んでたよ」

 

「そりゃよかった。……さて、ところで相談なんだが」

 

「なんだよ」

 

「あの子の写真を俺にくれぇぇぇぇ!!」

 

「捥ぐぞロリコン」

 

「そこをなんとか! お義兄さん!!」

 

「誰がお兄さんだ」

 

 

 週明けの月曜に学校にたどり着くと、ペアチケットをくれたクラスメイトが話しかけてきて暴走を開始した。暴走そのものは十分程度で終了したが、その後の「遊園地に遊びに行ったことが楽しかったのか、それともお兄ちゃんと一緒に過ごせたのが嬉しかったのか。一体どっちだろうなぁ?」とニヤニヤしながら聞いてきたのはうざかった。つい殴ってしまう程度には。

 

 

「そういや、今日はなんだか妙にクラスがざわついてないか?」

 

「いや、なんだか今日は転校生がやってくるとかなんとか。そんな情報が隣のクラスの情報通からもたらされたせいでうちのクラスの情報通が『う、嘘だ。僕を騙そうとしてる……』とか言い出して叫んでから倒れ伏したんだよ。……そんなに隣のクラスのやつに情報を手に入れる速度で負けたことが悲しかったのかね?」

 

「でも、この間は逆に向こうのクラスのやつがこっちよりも手に入れる速度が遅くて、『くっ、負けてしまったことはしょうがない。ならば、貴方に、忠誠を、誓おう!』とか叫んでなかったっけ?」

 

「そうそう」

 

 

 そんな会話をしながらも、時間は平等に過ぎていく。朝礼前のチャイムが鳴り、だべっていた面々や、チベットスナギツネのような顔をしていた情報通、さらには普段から己の才能を信じている自称神などが自分の席に座っていく。

 

 

「はい、皆おはようございます。今日も特にうるさくしてませんよね? 結構な頻度で職員室に轟いているこのクラスの悪評とか気のせいですよねー? 今日から新しくクラスの仲間になる人間がいるんですし、このクラスの地味に濃いメンツは普通の人間っぽく振舞ってくださいねー? 特にそこの自称神とか、チベットスナギツネとかのこと言ってるんですよー」

 

「せんせー、神が『神の才能持ってしても勝ち目が見えないあの教師は何者なんだ』とかうるさいでーす」

 

「まともに聞き取れないほど早口なので問題ないです。っていうかこんなこと言わせるんじゃないって言ってるんですよ!」

 

『はーい』

 

「無駄に揃ってるのがムカつくなぁ!」

 

 

 ……ちょっとこのクラス、本当に大丈夫なんだろうか? これまでも感じていたけど、濃さで言ったら物部学園よりもこっちの方が上な気がするぞ?

 

 

「ま、そういうわけなので、新しいお仲間ですよー。倉橋さーん、入ってきてー」

 

「はい」

 

 

 そう言って入ってきたのはどこかで見たことのある人物。名前と、その髪の……色素の薄い茶に近い色と感じ取れる神剣の反応からして、もう俺の考えている人物で間違い無いだろうが、とりあえず自己紹介を聞くしか無いだろう。……微妙に顔が引きつっているような気がするのはこのクラスのメンツが濃いからだろうか?

 

 

「倉橋時深です。2年の終わりという時期に転校してきましたがどうかよろしくお願いします」

 

『美少女きたー!!』

 

【うるさいねー?】

 

(そうだなー)

 

 

 考えていた通りの人物だった。なので一言だけ、心の中で言わせてほしい。

 

 

 ーー年齢考えろ。おbsn……!?

 

 

 殺気を感じた。しかも黒板の前に立つ倉橋から。まさか……考えていたことがバレたというのか!? 微妙にこちらを見つめる顔に青筋が浮かんでいるように見える。……ああ、なるほど。こんな色物枠だからうちのクラスに配置されることになったのかこいつ。

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

 倉橋はうちの濃いメンツにも結構簡単に馴染んでいたので特に問題など起こることもなく昼休み。俺は少しでも離れたくて屋上に来たのだが、なぜかそこにすでに倉橋がいた。

 

 

「初めまして、子岬さん」

 

「……初めまして、倉橋さん。うちにいる幼女引き取ってもらえません?」

 

「おや? もしかして私がユーフォリアと同じ組織に所属していることを知っているのですか?」

 

「土曜日、あの幼女と一緒に出かけた時に『時深さん』って名前が出て、その翌週の月曜日に神剣の反応がある当人がやってくるとか、それ以外考えられないと思うんですが」

 

「……それは確かに」

 

 

 多少は『幼女』という共通の話題で気が緩んだところで、一気に本題に入ることにする。

 

 

「それで、貴女も監視ですか?」

 

「ええ。申し訳ないですけど、仮にロウに接触されでもしたら面倒な事態になるので、学校に関しては私が監視することになりました。後、ユーフォリアの父親が『ユーフィーを何処の馬の骨ともわからんやつにはやれんぞぉぉぉぉ!!』とうるさいので、特にそんなことはないということも確認させてもらうことも目的です。……なんでああまで親バカなんでしょう」

 

「それは、うん。なんというかお疲れ様です……」

 

 

 なんというか美人であるというだけで疲労の色が見えると心配してしまうのが悔しい。いや、幼女よりもまともそうなイメージはあるっていうのも理由にはあるのだが。

 

 

「……一応聞きますけど、貴女も我が家に侵入してこようとか考えてませんよね?」

 

「さすがにしませんよ、そんな非常識なことは」

 

「ですよね。さすがにそれは非常識ですよね!」

 

「とはいえ、不測の事態が起きた時のためにも家は近くですし、後でユーフォリアにも伝えるために家にお邪魔させてもらうことにはなると思いますが。……今日は予定などは?」

 

「特にないですよー。……そのまま幼女も引き取ってもらえると楽なんですけど」

 

 

 無理なんだろうと思うとため息をついてしまう。いくら慣れてきたとは言っても、幼女(異物)がいる生活とか早くなんとかしたい。ロウが接触しようとしているのが理由ならカオスに入ってしまうのも手なのだろうけど、それをしたら戦いを強要されるわけだし。かと言ってニュートラルであっても狙われる……というか今ニュートラルなのに狙われてるのだから、そこも意味はない。

 その事実を再認識して、もう一度ため息をつくのだった。

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

 放課後。今日はまだこちらに越してきたばかりということで荷解きがある時深は一緒ではないのだが、今となっては無理にでも一緒に帰った方が良かったのではないかと思ってきた。なぜなら……

 

 

「……」

 

 

 なんか、いる。

 

 

 具体的にはコアラと前世で揶揄されていたエターナルっぽい何かが。ガチムチの褐色っぽい肌の男性がその前で漆黒の大剣を振り上げている。今すぐに飛び出せば助けられそうだが、俺は飛び出す気になれない。滅茶苦茶全力で感知しないとコアラ……”法皇”テムオリンに関しては神剣の気配を感知できないが、ガチムチの男性の方はわかりやすい

 

 

 ーーあれ、『黒き刃のタキオス』だよなぁ。

 

 

 なんでこんなところで仲間割れしているのかは謎だが、関わる必要もない。これがあいつらのことを何も知らない神剣使いなら『あんな小さい子が神剣使いに襲われてる! 助けないと!!』ってなるのかもしれないが、知っている俺からすれば全てが嘘っぱちにしか思えない。特にあの法皇が怯えてる様とか、知らない人間なら『ただの小さな女の子』としか取れないだろうけど、知ってる俺からすれば『ただの演技なんだろうなぁ』としか思えない。

 

 

 つまり助ける意味はない。

 

 

 少し離れて、この光景の写真を撮る。そしてそのままさらに離れて携帯の電話としての機能を使う。

 

 

「えっと、110っと」

 

『!?』

 

 

 背後で驚愕している気配がするが、そこらへんはどうでもいい。とりあえず警察につながってしまえばこちらのものだ。

 

 

「ええ、ええ。〇〇って交差点で幼い少女がガチムチの男性に殺されそうに……」

 

『!?』

 

 

 次の瞬間、投げられた杖が俺の携帯電話を打ち抜き、破壊した。

 

 

「ちょちょちょ! どういうつもりですの!? いきなり電話だなんて!?」

 

「いや、当たり前に一般人がやることとしては何も間違ってないだろ……」

 

「……それもそうですが」

 

「それに、神剣使い同士が戦った結果なら介入する方が失礼だし」

 

「へぇ……」

 

 

 その言葉を受けた直後の法皇の表情を見て返事をミスしたことを悟るも、倉橋ではない俺からすれば過去に戻って発言を変えることなど不可能。

 

 

「貴方、私が神剣使いだと気づいていたんですね。……ふふっ、なかなか面白そうな人材ですわね」

 

「帰ってください」

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

「お兄ちゃん、おかえ、り……?」

 

 

 結局家にまで付いてきたコアラを見て、幼女はキョトンとしている。うん、俺も気持ちはわかるのだが、下手によくわからないところから監視されるよりも、幼女がいるところで幼女に一緒に監視してもらった方がいいかなと思ったのだ。

 

 

「あー、うん。俺のついでにこいつも監視しといて」

 

「ほへ?」



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第七話

この主人公が周囲に能力を作用させるのが上手いのは、実は前世の能力がそれ系だったという裏設定。


 「ほへ?」と間抜けな声を出した幼女だが家にコアラを引き入れることを説明したところ、「私の時は追い出そうとしたくせに、私と同じ面倒事を持ってくるエターナルは引き入れるってどういうことですか」と言わんばかりの表情でこちらを見てきたが、こちらにだって言い分はある。

 

 

「お前が俺を監視するなら、ついでにこいつが俺を変な方向に惑わそうとするのも監視して食い止めといてくれ」

 

「むぅ……」

 

「お前なら信用できるから言ってるんだ」

 

「もう……しょうがないなぁ」

 

 

 頬を膨らませているが、それでもロウの接触を食い止めてロウに行かないようにするためには尽力してくれるらしい。倉橋曰く、俺はこの幼女がいないとロウに入ってたらしいし。というか頬を膨らませているのもただのポーズにしか見えない。『頼られて嬉しいです』と顔に書いてあるようにも見える。

 

 

「ちょっと、目の前で二人だけの空間を作らないでもらえます?」

 

「え、えへへ」

 

「いや、『つい今日やってきたばかりのコアラ(見知らぬ人)』と『数日間一緒に暮らしてきた妹枠』なのに全く同じ扱いだったらそっちの方がアウトだろ」

 

「む……」

 

「ちょっと待ちなさい。今あなた、何に『見知らぬ人』のルビを振ったんですの!?」

 

「え、そりゃ……」

 

 

 『妹枠』といったところでむすっとした幼女は放置して、コアラの質問に答えようとしたところで玄関のチャイムが鳴る。多分、さっき言っていた倉橋だろう。当たり前に考えれば家の中にすでにいるわけだし、居留守を使うのはどうかと思うのだが……

 

 

(この状況を見せていいものか……)

 

【見せちゃったら殺し合い始まりそうよねー】

 

 

 そう、ここには彼女の天敵たる”法皇”テムオリン(コアラ)がいるのである。見せたら殺し合いが始まりそうなのだ。『調和』は呑気に言っているが、このまま入れてしまったら家が消し飛ぶ可能性すらありそうで。

 

 

「あ、はーい」

 

「ちょ、ま……!」

 

 

 が、俺のそんな想いなど、結局のところ他人でしかない幼女が細部まで把握できるはずもなく、俺が食い止めたことに疑問を抱きながらも扉を開いてしまい……

 

 

「こんな時間にすみませ……ん」

 

「あら、時深さん。こんな夜分遅くにやってくるとか常識がないのでは?」

 

「家まで勝手についてくる貴様も十分非常識だと思うぞコアラ」

 

 

 固まった倉橋を放置して、そわそわと「私は私は」と言った感じでこっちを見てくる幼女にはお前が一番非常識だと伝えておいて、ショックを受ける幼女を無視しながら倉橋の方に視線を戻す。

 

 

「な、な、な………なんでテムオリンがいるんですかぁぁぁぁ!!

 

「倉橋、うるさい」

 

「私がいても何か問題があるわけじゃないでしょうに」

 

「時深さん、近所迷惑になるんじゃ……」

 

 

 三人からの連続ダメ出しによってうぐっと唸りながらも声を潜める倉橋。コアラはともかく、幼女に言われたのはショックだったようだ。

 

 

「それで、どうしてテムオリンがここにいるんですか?」

 

「私は、彼について来たら入れてもらえましたの。……どこぞのカオスとは違って

 

「こいつを放置した結果どこかで悪巧みに巻き込まれるぐらいなら家に入れてこの幼女に監視してもらったほうがマシかと思った」

 

「えへへ……時深さん! 私信頼されました!!」

 

 

 幼女の無邪気な笑顔が、何か企んでいるのではないか、それともロウに降ったのかと俺に疑惑の視線を向けていた倉橋に突き刺さる。さすがにそれで疑いを向けることをやめる、なんてことにはならないが、心は痛いのだろう。少しだけ汗がにじみ出ている。

 

 

「それに、倉橋がやってきたのに、倉橋から何も聞かされていないタイミングで倉橋の仲間が来るとは思えなかったからな。下手にどこかで出会って殺し合いが始まりました、結果時間樹が滅びましたなんてことが起きたら悪夢なんだよこっちからすれば」

 

「ぬぬぬ……」

 

「その場合は俺からすればお前らは全員敵になるわけだけど……」

 

 

 わざわざ印象最悪にしたいの? と問いかける。幼女の第一印象が最悪だったことは言うまでもないが、倉橋に関しては今の所は『常識人』なイメージを持っている、と倉橋は考えているはず。そうなればわざわざ印象を悪くするようなことはしないだろうし、コアラの方に関しても味方に引き入れるならより少ない労力の方がいいと考えているから自発的に協力できるように悪いイメージを抱かせないようにしてきた。そうでもなければこの幼女のように無理矢理に入り込めばいいだけだ。……俺が気付いたのでそれも不可能に終わったわけだが、そこの準備をしていたことだけは評価できる。

 

 

「とりあえず、こいつもこの幼女に監視させるぞ」

 

「え、ですが……」

 

「任せてください、時深さん!」

 

「こいつもやる気だし。お前ら二人にして殺し合い始められても面倒だし」

 

「………………仕方ありません。ですが、何かありそうならすぐに私の携帯に連絡を」

 

 

 そう言って携帯……と言うかスマホを取り出す倉橋だが

 

 

「倉橋」

 

「どうかしましたか?」

 

「この世界ではまだその通信端末はない」

 

「……え?」

 

「ガラパゴスケータイだけだ」

 

「…………え?」

 

「私も持ってますよー」

 

 

 見てくださーいと俺と同じ型式の色違いの携帯を取り出す。もしもの時のためと持たせたものだが、それについての倉橋の反応がない。これまでなら「よかったですね」くらいの反応はありそうなものだが、固まっている。

 

 

「やはり年寄りはダメですね。その辺りの簡単なところすら予想できていないとは」

 

 

 やれやれと首を横に振るコアラを見て、倉橋は顔を一瞬で真っ赤にして詰め寄っていく。

 

 

「あ、あなたの方が私より二周期年上でしょうに! そう言うあなたはどうなんですか!?」

 

「私はそもそも『家族を殺されて心が傷ついた少女が殺人犯から助けてくれた男性のもとで心を癒す』と言うストーリーでここに潜り込むつもりだったので。そんなケータイを常に持っている幼女とか嫌すぎるでしょうに。……ってどうしたんですか、時深さん。そんな床にうずくまるなんて。いくら掃除されているからって迷惑だとは思わないんですの?」

 

 

 幼女のように振る舞うコアラを想像して笑いを堪えきれないのか、口を押さえて床にうずくまる倉橋。それをコアラを冷たい目で見つめているが、人の家に、良心につけこんで潜り込むつもりだった奴が言っていいセリフではないと思う。

 

 

「お前ら全員、我が家にやってきたことで俺に迷惑かけてるから五十歩百歩だ」

 

 

 エターナルになると常識がなくなるのだろうかと思い恐ろしくなり、よくよく考えればこいつら全員人間の倍以上は生きているわけだから、こいつらの生きていた世界や時代ではこれが普通だったのかと思ってまた恐ろしくなる。

 

 

「……って言ってもまだ倉橋はマシなんだが」

 

 

 ちゃんと引越しの挨拶をしたり、そもそも我が家に住み着いて座敷わらしになろうとしていないのでそこに関しては一番まともだ。今ですら「青髪の座敷わらし」とか言う噂が我が家に出ているし。確かに家事はこいつがしているし、結構幸せな感じもするが、それでも家にやってきた時点でマイナスだ。ようやくゼロに戻ったあたりだろうか?

 

 

「お?」

 

 

 

 そして、そんな話をしているタイミングでまた玄関のチャイムが鳴る。今度は一体誰だろうと玄関にまで向かう……ことをやめて、幼女にお出迎えを頼むと視線で伝えて

 

 

「ん? 今、何取り出してた? 俺には永遠神剣のように見えたんだけどなぁ?」

 

 

 俺の視界から外れた瞬間にマナの気配を感じさせないように神剣を取り出した二名を正座させる。『調和』が教えてくれなければきっと気づけなかった。二人に対して厳しい視線を向けていると、先ほどのチャイムの主がやってきたようだ。

 

 

「望さんたちでしたー」

 

「遊びに来た……ぞ。……え、何これ?」

 

「なんで時深さんがこんなところに……?」

 

 

 どうやらやって来たのは望カップルのようだ。そして、やってきた二人は倉橋を見て驚いている。そう言えばこいつら、『写しの世界(ハイ・ペリア)』で世話になってたって話だもんな。知ってて当然か。



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第八話

明日は更新なしかなー


「どうしたんだよ、望、希美」

 

「いや、ユーフィーとの生活はどうなんだろうかって話になってきたんだけど……」

 

 

 なんで時深さんが、という視線を向ける二人。

 

 

「学校内での俺の監視だとよ」

 

「じゃあ、もう一人の女の子は?」

 

 

 そう言って今度はコアラに視線を向ける二人だが、コアラは一切動じずに

 

 

「私はそこの男の勧誘に来ましたの」

 

「勧誘? それってユーフィーと時深さんがいるからいらないんじゃ……」

 

「所属する組織が敵対してるんです。こいつは私たちの敵なんですよ」

 

 

 今この場で殺しあおうとすればさすがに俺が出張るので、下手に悪印象を与えないためかこの場では何もしていないが、それでもいつ殺しあいが始まってもおかしくはない間柄の二人だ。

 

 

「まあ、こんなところにまで足を運んだ甲斐はすでにありましたけど」

 

 

 そう言って倉橋を見るコアラだが、もしや何かこいつの弱みを握ることに成功したのだろうか?

 

 

「まさか、いい歳こいたおば(時深)さんが、自分の年齢も考えずに学生服を着ている姿を見ることができるとは思いもよりませんでしたから」

 

「あ、あなたの方が私より二周期年上でしょうが!!」

 

「ですから、私はこの場に合わせた格好をしているでしょう? あなたとは違って、恥というものがありますから」

 

 

 ふふふと嘲笑うコアラに、俯いてふふふと笑う倉橋。直後、倉橋は『時詠』を取り出して

 

 

「殺します」

 

「と、時深さん!?」

 

 

 ダメですよー、なんて言いながら倉橋を全力で食い止めようとする幼女の姿を面白がって見ているコアラ。何をすればいいのかわからないのかオロオロしているカップル二人。

 

 

「ほら、コアラさんも謝ってください!!」

 

「ちょっと待ちなさい、ユーフォリア。一体なんですか、その呼び名は」

 

「ほぇ?」

 

 

 コアラは理解して煽っていたが、幼女に関しては自己紹介されていないという前提があっての無自覚な煽りなので特に文句を言えないコアラである。ついでにその呼び名を聞いて倉橋は爆笑していたし、もうどうなるのかわからなくてさっきよりも恐れおののいていたカップルもいる。

 

 

「私の名前は先ほど時深さんが叫んでいたでしょう!? 近所迷惑省みずに!」

 

「でも、まだ自己紹介されてないのに名前を呼ぶのもどうかと思いますし……」

 

「どう考えてもコアラの方が失礼な呼び方でしょう!?」

 

「えー、コアラ可愛いじゃないですかー」

 

「貴女の感性と一緒にしないでもらえます? 貴女、例えば……そうですね、犬と呼ばれたりして嬉しいんですの?」

 

「わんわん!」

 

「待ちなさい、一体どころからその犬耳を取り出したんですか! というかなぜそんなものが……?」

 

 

 「犬」と言われた途端、どこからか犬耳を取り出して着用した幼女へのツッコミを入れるコアラだが、その犬耳をつけた幼女を神剣の力を引き出して高速で連写している倉橋については触れなくていいのだろうか。

 しかも、ツッコミを入れた直後、俺がそんなものをつけさせたのではないかと、ロリコンを見るような蔑んだ視線を向けてきたので、俺は何も関係ないぞと睨み返す。

 

 

「えっとですね。さっき、夕飯の買い物に行ってた時に優しいおじさんがくれたんです。君にはこれが似合いそうだって。なんだか息を荒げてて、警察官に連れて行かれたんですけど、なんだったんでしょう?」

 

「それは優しいおじさんじゃなくて、やらしいおじさんだったからだろ」

 

「ユーフィーちゃん。そんな危険な人に話しかけられても答えちゃダメだよ」

 

 

 幼女の発言を聞いて、その男を殺害しようと思ったのか飛び出そうとした倉橋を鎮圧しながら、幼女と望たちの会話を聞く。

 

 

「でも、あのおじさん。私が『お兄ちゃんともっと仲良くなりたい』って相談したら。お兄ちゃんもこれさえあればイチコロだって言ってくれたんです」

 

「よし、倉橋行ってこい」

 

 

 その言葉を聞いた途端、取り押さえていた倉橋を離して、それを聞いた倉橋は突っ走り始めた。

 

 

「どう、お兄ちゃん。似合う?」

 

「似合ってるけど趣味じゃないな」

 

 

 似合ってると聞いて喜んで、趣味じゃないと聞いて落ち込む幼女だが、その度につけてる犬耳が動いているのはどういうことだろうか? 聞いてもわからないだろうし、どうしても知りたいというほどでもないので別にいいのだが、よくわからないものをつけさせたままというのも……

 

 

「とりあえず、お前はそれを外せ」

 

「あー! なんで取るの!?」

 

「いや、取るに決まってるだろ……」

 

 

 返してーと叫びながらぴょんぴょん跳ねる幼女を見てほっこりしているカップルを尻目に、こんな得体の知れないものをつけて何かあったらどうするつもりだと問えば、なぜか顔を赤くして照れる幼女。

 とりあえず、遠くから爆発音が聞こえてきたので明日の朝刊には『一体何が!? ○○に轟く轟音! カメラが捕えたのは機動兵器”MIKO”』とかそんな感じの、倉橋がやらかしたことを示す何かが出たりするんだろうか?

 

 

「とりあえず、コアラが一匹増えたからその分の飯の用意もいるな……買い物に行くぞ、幼女」

 

「はーい」

 

「望たちはどうする? 一緒に食べてくか?」

 

「いや、俺たちは様子を見にきただけだし」

 

「今日は望ちゃんも一緒にうちでご飯食べるんだ」

 

「そっか。それならしょうがない」

 

「ちょっと待ちなさい。貴方がコアラ呼びの原因ですか!!」

 

 

 背後から聞こえる声は無視して、幼女を連れて買い物に出る。それと同時に望たちも今日の目的は果たしたからと家を一緒に出たので、そのまま二人を見送ってから買い物のために市街地に向かう。

 

 

「それで、今日はどうするつもりなんだ?」

 

「んとー、テムオリンさんが来たわけだし、今日はお鍋でいいかなって」

 

「……まあ、俺ら三人ともエターナルだから飯を食べる必要はないんだけどな」

 

「一応、時深さんが来た時のために、四人分用意しておこっか!」

 

「そういや倉橋ってどこに住んでるんだろうな? 俺の監視をするらしいから近くなんだろうけど」

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

『あっ』

 

 

 翌日、家から出て学校に向かうタイミングで倉橋に遭遇した。それも、お隣さんである。

 

 

「……おはよう、倉橋」

 

「……おはようございます、子岬さん」

 

 

 まさかのお隣さんという事実に、どれだけ俺の日常を侵食すれば気がすむんだという視線を向けたところ、さっと視線をそらされた。一応、日常を崩していることそのものには罪悪感はあるらしい。

 

 

「で、なんでお前はお隣に引っ越して来たわけ?」

 

「いえ、ユーフォリアが貴方の日常を監視する、私が学校生活で貴方がロウに接触されないか監視する。それなら学校に向かう最中は私が一緒に登校するのが筋だろうという話になりまして」

 

 

 実際、ユーフォリアが付いてくるよりは私と一緒の方がマシでしょうと。そう言った倉橋だが、こいつは一つ忘れている……いや、こいつはまだこっちに来たばかりだから知らないのか。まあ、いい。相手が非日常な存在ではあるが、これもうちの学校では日常なのだ。しっかりと洗礼を受けてもらうとしよう。

 

 

「まあ、いいけど。……お前も少しは苦労するといい」

 

「はい?」

 

「ところで、夕陽ーーああ、ユーフォリアはこの世界での自分の立ち位置を『子岬和也の妹の子岬夕陽』ってことにしているから外では夕陽って呼んでやってくれ。あいつとコアラを二人きりにして大丈夫なのか?」

 

「ええ。一応、『出雲』の方から人を呼んでありますし」

 

 

 問題ないでしょうと言う倉橋のことを信じて、帰ったら幼女がコアラのような目になったりしていないことを祈るとしよう。

 

 

 そんなことを考えながら学校に着くと、思っていた通りに視線が大量に集まる。倉橋は初体験だからか驚いているが、これからもっとひどいことになると知ったら逃げ出すのだろうか?

 

 

「来たか……」

 

「え、え、なんですかこの状況?」

 

 

 教室にたどり着いた途端、俺と倉橋を取り囲む嫉妬マスクを被ったクラスメイトたちの姿に倉橋は驚いている。

 

 

「倉橋、覚えておくといい」

 

「な、なんですか!?」

 

「うちのクラスは男女で登校した場合、そいつらはカップルだと判断してこうなる」

 

「は、はい!?」

 

「そしてこうなった奴らは……」

 

『異端審問じゃー!!』

 

「こうなる」

 

「わ、わけがわかりませんよ!」

 

 

 つまり、逃げないと拷問ということだ。



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第九話

 ここで今更な話ではあるが、今の状態に至る前……俗に原作と呼ばれる物語においてこの世界の望が辿ったのと同じルート。即ち、望の恋人が誰になるかという点で考えるとこの世界は希美ルートということになる。

 その希美ルートだが、最後にどうなったのかということを思い返すと、『みんなが一緒にいられる世界』を望んだことでこれまでに巡ってきた世界が全て混ざりに混ざった、という結末である。……ちなみに希美は豊胸を望んでいたが、そんなことにはならなかったが、そこは今は関係ない。重要なのは、『世界がごちゃ混ぜになった』ということだ。

 

 

 この世界では、ごちゃ混ぜになるタイミングが遅かった。

 

 

 言ってしまえば、今こんなことを考えているのは、このタイミングになってようやく世界が混ざっていたからだ。あいつらが帰ってきてからだいたい一月。これまで何も変化がなかったから完璧に忘れていた。

 

 

「それで、この辺りにあるものの説明を頼んでもいいか幼女?」

 

「うん、任せて!」

 

 

 そして、こんなに色々と混じった世界では、俺のいた世界よりも幼女が通ったことのある世界の方が多く、幼女の方がそこらへんに関しては詳しい。なので色々と案内を頼んでいたのだ。

 

 

「で、あれが……なんだろ?」

 

「いや、お前もわからないのかよ」

 

「だって私が行った世界にはあんなのなかったもーん」

 

 

 とは言っても、こいつが旅に加わったのは『魔法の世界』の終盤。つまりそこに至るよりも先の、『剣の世界』や『精霊の世界』の建造物はわからない。なので、今は『幼女がわかるもの』はそれで普通にどこの世界のものか聞くし、わからなければその建築材が何かでだいたい判断する。木材なら『精霊の世界』で木材でなければ『剣の世界』、という程度の雑なものだが。

 

 

 プイッとあらぬ方向を向いた幼女だが、ちょっと頭を撫でてやればすぐに機嫌が戻るので案外扱いやすい。

 

 

「ふぅ……特にめぼしいものはないですわね」

 

「コアラも、今は大人しいな」

 

「エターナルとしての時間で考えれば百年は確かに長いですが待ちきれない時間でもないですしね。それぐらいなら、貴方の気が変わるのを待つのもいいかと思っただけですわ」

 

 

 コアラは優雅に紅茶を飲みながら言っているが、外で空中浮遊しながらそんなことをしても違和感しかない。とりあえずはたき落として、地面を歩かせる。

 

 

「いきなり何をしますの」

 

「飛ぶんじゃない。目立つだろ」

 

 

 いきなり世界融合した影響で世界中がてんやわんやしているのだ。こんなところで「空を飛ぶ」なんていう異世界っぽさを出して目立つ必要はない。……のだが

 

 

「あら、すでに外に出ているから十分に目立ってますわよ。未知の代物があるにも関わらず、こんな堂々と外を出歩けるなんて、その時点で一般人から見たら異常に決まってるでしょう?」

 

「それでも、だ。わざわざさらに目立つようなことまでする必要はない」

 

「……仕方ないですわね」

 

 

 面倒だというのにとぼやきながらも徒歩に変わるコアラ。ちなみに今は倉橋はついてきていない。顔を真っ赤にして布団にこもっているらしいので風邪でも引いたのだろう。エターナルのくせに。

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

 一方その頃。

 

 

「なんですか、あの未来視……」

 

 

 倉橋時深は今朝見た未来視のせいで絶不調であり、まともに応対できる自信がなかったので監視(デバガメ)は他の面々に任せていた。そして、彼女が見た未来視というのは

 

 

「どうして私が子岬さんと結婚する未来なんてものがあるんですかっ!!」

 

 

 そう、時深がこれまで一度たりとも見たことのない、全く予想外の未来を見てしまっていた。

 

 

「どうやって顔を合わせろと……」

 

 

 かつて悠人のことを見たときは、それにより時深が惚れるだけだったので、生まれる前から出会ったときのための準備をしていたので問題なかったが、今回はすでに出会っている人物と今とは違う、より深く踏み込んだ男女の関係になっていることを視てしまったために、対処するための時間がなかった。

 

 

「……というかこれ、ユーフォリアに知られたらまた面倒なことになりそうですね」

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

「むっ!」

 

「どうした夕陽」

 

「なんだか嫌な予感がした!」

 

「お前にそんな直感ないだろ」

 

 

 幼女が馬鹿げたことを言い出した。

 

 

「女の勘ってやつだよ!」

 

「あーそれならあるかもな」

 

 

 まだ女と呼んでいい年頃か知らないし、実際にあるとは思えないが、それを口にしたらまた面倒くさいことになりそうなので今はとりあえず同調しておく。コアラはどうやらそんな俺の内心を見抜いているようで、ため息をつきながらも何も言わない。

 

 

「あれ、なんだろう?」

 

「うちの学園の嫉妬マスクだな。男女で歩いてたらそいつを取り囲んで尋問するんだ。まさか異世界の住人だろうと一切躊躇せずに取り囲みにいくなんて……あ、吹っ飛ばされてる」

 

「大丈夫かな?」

 

「大丈夫だろ。あいつらだけギャグ時空に生きてるし」

 

「あら、でしたらミューギィと戦っても生き残れるかもしれませんね」

 

「……真面目に生き残りかねないから反応に困るなぁ。寿命以外で死ぬ状況を想定できない。確実に死ぬはずなんだけど……」

 

 

 そんな中、稀によく出てくる嫉妬マスクたちが異世界人に吹き飛ばされたり、人外の様相をしているせいで精霊が男女同士なのかわからないけどとりあえず囲んで吊るし上げてルプトナにぶっ飛ばされたりする光景が見られるたびに、幼女に説明していく。旅団内部で『元の世界』と呼ばれる世界の代物は俺が説明し、それ以外は幼女が説明する。コアラはそれを聞いて悪巧みらしきことをしている。

 

 

「なんか目立ってるな」

 

「まあ、こんな色物集団ですしね」

 

「テムオリンさん……色物って自覚あったんですね」

 

「どう見ても兄妹には見えないし、全くこの状況にも驚いてないし。そりゃ『あいつら何者だ?』ってことにもなるか……」

 

 

 とりあえず、早めにこの場から離れたい。目立つと言っても、今はまだ嫉妬マスク(馬鹿たち)の方が目立っているので、俺たちに注意はそこまで向いてはいない。それなら今のうちに離れてしまった方がいいだろう。

 

 

「っていうわけで離れるぞ二人とも」

 

「はーい」

 

「仕方ないですわね」

 

「って、コアラは浮かぼうとするんじゃない!」

 

 

 また飛ぼうとしたコアラを飛ぶより先にはたき落として、それが誰かに見られたかどうかを気にしている余裕もないので幼女とコアラを米俵のように担いで走り出す。そんなことをすれば目立つのはわかっているが、さすがにコアラが飛ぼうとした瞬間を誰かに見られるよりもマシだろうと思い、エターナルとしての持てる技法と前世で師匠から習った技術を組み合わせてその場から脱出。あの世界で今も生きているであろう師匠には心の底から謝罪しておく。

 

 

 そうしてしばらくの間走っていて、ふと気がついた。

 

 

「……ここ、どこだ?」

 

「どこだろ?」

 

「さあ、私はあなたに抱えられてましたから?」

 

 

 迷子、ということになるのだろうか? 倉橋の神剣の反応を探れば普通に帰宅することは可能なので迷子と呼んでもいいのかわからないが。とりあえず、色々な世界が混ざっている影響で、これまで普通に暮らしていた空間も、これまでとは全く違う様相になっていることがある。それを考えると、慣れない道を歩くのは危険だ、ということは理解した。……明日は普通に学校はあるみたいだが、迷ったりしないだろうか?

 

 

「……とりあえず帰るか」

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

 そして翌日。学校にたどり着くと、人はそこまでいなかった。倉橋とともに学校に向かったのに、たどり着いても襲いかかって来る嫉妬マスクの団員が一人もいない程度には。

 

 

「じゃ、今から文化祭の準備の話をしますねー。え? いない生徒? どうせあの変な建造物に気を取られて、そっちに突撃してるだけでしょ? 学校に連絡も入ってるし。そいつらに関してはきつい仕事任せていいから」

 

 

 そして、クラスの約七割がやってきたところで授業……とは言っても今の時期は文化祭のための準備期間に入る頃合いなので、一日かけてその辺りの話をすることになる。

 

 

「ま、このクラスで何をするのか知らないし興味もないけど責任だけは私がかぶることになるので節度だけは持ってねー」

 

『よっしゃ、発禁ものの出し物しようぜー!!』

 

「だから『節度持て』ってっ言ってんだろうが、このクソジャリども!!」

 

 

 ……話し合いになるんだろうか?



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