Fate/UMA night (赤兎じゃないよ)
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召喚されたUMA

赤兎よ。いいネタをくれてありがとう。


彼――衛宮士郎は自宅の土蔵で青い槍兵に追い詰められていた。

 それは、学校帰り赤と青の人間の形をした人間ではない者たちの……まっとうな人間であれば目撃してはならないものを見てしまったが故の追手。

 一度学校で心臓を貫かれて殺されてしまったなんてのを思い返す暇もなく、自身の命を奪うために再度対峙した全身青タイツのぱっと見、変質者ともとれる格好の男に土蔵まで吹っ飛ばされてしまう。

 

 「ふざけるな、俺は――」

 

 こんなところで意味もなく殺されてやるものか――!!!

 

 刹那、青い槍兵の一撃は何者かによって弾かれていた。

 

「え――?」

 

 次の瞬間、士郎が目撃したのは、土蔵に差し込む月明かりに照らされた――

 

「――問おう。貴方が、私のマスターか」

 

 四本の脚の他に、二本の腕を持つ白馬のようなナニカが意味不明な言葉を発しながら士郎の答えを待っていた。

 

 ……う、馬が喋ってる!? そもそも馬なのか!? 甲冑を着込んでいるのはまだいい。なんで腕が生えているんだ、この馬は!? 幻想種ってやつか!? 半人半馬はともかく、この生物は上半身も下半身も馬だ。腕が生えている以外はまっとうな馬のはず。いや、馬がいきなり現れるってなんでさ。

 

 彼は完全に思考が明後日の方向に行っている。魔術の世界に踏み込むからには殺す時には殺すし、死ぬときは死ぬ。それは自覚していた。

 しかし、目の前のソレは理解不能な現象としか映っていなかったのだ。

 

「サーヴァント・セイバー、召喚に従い参上しました。マスター、指示を。ブルルン!」

 

 士郎とて魔術師の端くれ。契約の意味は理解している。それを問いただす前に、馬らしき不思議生物の視線は土蔵の外へと向かっていた。

 その先には間違いなく、青い槍兵がいるはず。馬もどきがいる意味は理解できないが、ソレがやろうとしていることは瞬時に予想できた。

 

 次の瞬間、馬と槍兵は激しい剣劇を繰り広げていた。それこそ、馬があんな剣技持ってるのなんでさってツッコみたくなるほどの規格外さで青いのを圧倒していたのだ。激しい攻防の後、間合いが離れ。

 

「どうしたランサー。止まっていては槍兵の名が泣こう。そちらが来ないのなら、私から行くが」

 

「どこからどう対処すればいいか分かるわけねーだろうが! 貴様、その姿はなんだ!? その見えない武具はおそらくは剣だろうが、どこの英霊だ!? 馬の恰好なんかしやがって!」

 

「ランサー、その目は節穴か? ここまで分かりやすい姿をしているというのに、私の真名に心当たりがないとは」

 

 腕が生えてる馬の正体なんて分かるわけがない。チラッと士郎とランサーの目が合い、同じ思考で心が通じ合った様な気がした両者だった。

 

「この白い毛並み。青い召し物。そして白銀に輝く甲冑。見えない剣。そう――」

 

 馬は何でか知らないが、名乗りたくてウズウズしているようだ。本当に馬かどうか疑わしい生物(ナマモノ)の正体が気になる士郎と、労せずして相手の真名を把握できるランサーはゴクリと唾を飲み込み、馬の次の言葉に聞き入っていた。

 

「我が名はアーサー・ペンドラゴン。ブリテンの騎士王にして、聖剣エクスカリバーを携える者!」

 

 瞬間、馬以外の時が止まった。馬のみドヤ顔で鼻息を荒くしながら、士郎とランサーの反応を楽しみにしているといった雰囲気だった。

 

「……き、騎士王? ブリテンは馬に統治されていたのか? 馬がどうやって国を治めたんだよ!? 騎士王の馬じゃないのかよ!」

 

「……なんでさ」

 

 士郎もランサーも馬をあり得ないモノを見る目で凝視してしまっている。

 

「どこからどう見てもアーサー王その人でしょう。さてランサー、私、無性に貴方蹴り飛ばしたいので、蹴っていいですか? 魔力放出を持つ私の『ドゥン・スタリオンキック』は、貴方の霊核ごとき一撃で粉々にできます。さっさとかかってきて下さい」

 

 今……、はっきり『ドゥン・スタリオン』言ってたな。今日あったことは、眠って全部忘れたい。

 

 士郎がそんな現実逃避をしているうちに、ランサーも相手していられないとばかりに、屋敷の塀を一足飛びで飛び越え撤退していった。




セイバー
真名:アーサー・ペンドラゴン(嘘)
ステータス
筋力:B
耐久:EX
敏捷:B
魔力:B
幸運:B
宝具:C

スキル
直感(馬)A
魔力放出(馬)A
カリスマ(馬)B

続かないかもしれない。


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人参に想いを馳せるUMA

「なっ……!? う、馬が空から降って来た……だと!? 貴様、ライダーか!」

 

「失礼な! どこからどう見てもセイバーそのものでしょう!」

 

「ぐあっ……!?」

 

 屋敷の塀の外側で、グシャっと人の肉と骨を叩き潰すようなヤッバイ音が響いていた。どう考えても、外にいた客人がお馬さんに蹴られて、ちょっとどころじゃない傷を負ったのは、その場面を見ていない士郎でも容易に想像できた。

 

 槍兵が撤退してすぐに、サーヴァントの気配がすると屋敷の外に駆けたセイバーを名乗る馬だったが、外から聞こえて来た音に対して、下手すれば傷害事件になるんじゃ……、お隣が藤ねえの家(すじもの)なのでそっちに嫌疑が行くんじゃ……とか考えていしまっていた。

 そんなのを考えていたのも束の間。

 

「そんな……!? Aランクに相当する魔術なのに効いてないなんて!?」

 

「今のは良い攻撃でした。しかし! このアーサー・ペンドラゴンは対魔力Aです。私に傷を付けたければそれ以上でなければ!」

 

 それは士郎にとっても聞き覚えのある声だった。だったら家の前で犯罪馬を作るわけにはいかないと屋敷の外に出ると。

 

「えっと……。だい……じょうぶ……か?」

 

 そこには倒れ込み、脇腹を抑えて悶絶している色黒で白髪の赤い外套の人物――素人目で見ても大丈夫じゃない、すぐに治療した方が良いと思われる人物と。

 

「馬!? アーサー? 腕が生えてるから幻想種!? どうなってるのよ!?」

 

 学校では見せた事の無いヒステリックな声で、困惑している遠坂凛がそこにいた。

 

「マスター制圧完了しました。双方、命に別状はありませんので、ご心配なく」

 

 馬は自慢げにそう告げていたが、凛はともかく、もう一人の方が命に別状が無いのは、どう考えてもおかしい。

 そんなのを直感的に感じ取ってしまったらしく。

 

「そう心配そうな顔をしないで下さい。霊核(きゅうしょ)は外していますし、何より峰撃ちですから!」

 

「み……峰撃ちって……」

 

 馬の蹴りに峰撃ちがあるのかとツッコみたくなった士郎だったが、対する馬は得意げに。

 

「普通なら蹄の面で叩きつける様に蹴るのですが、蹄尖と呼ばれる先っちょの部分だけを当てましたから、ダメージは軽微のはずです!」

 

 どの道、馬の脚力で蹴られたら重傷を負うはずでは……と、意見を述べたかったが馬に理屈を解いても無駄そうな気がしたので、もう無言を貫いていた。

 

 

 

 

 このままでは埒が明かないので、アーチャーと呼ばれていた赤いのと遠坂凛を屋敷内に入れて、今回の顛末を聞くことになったのだが、アーチャーの方は脂汗を垂らしながら馬を警戒している。

 本来なら、霊体化しても良いのだろう。しかし……、この場の馬っぽいナニカは危険生物だと感じ取ってしまったらしく、自身の主を守るために無理を押して実体化していた。

 

 聖杯戦争、サーヴァント等々、今の自分の境遇を凛より説明されていた士郎だったが、そんな事よりも目を奪われてしまう光景が自宅の居間で繰り広げられていた。

 

「……一つ……聞きたいのだが……」

 

 アーチャーは居間で凛の傍らに佇んでいる。だというのに、その声は震えてしまっている。

 

「ああ、お気になさらずに。私の癖の様な物ですので。はむはむ」

 

 アーチャーの疑問に応えるように、自称アーサー馬が嬉しそうに言葉を発していた。

 

「良いわけがあるか! 何故、私の肩をかじっているのだ、貴様!?」

 

 そう、凛が聖杯戦争の説明をしている間、馬さんはアーチャーの肩を咥え、ガシガシとかじりまくっていた。

 

「だって、貴方は赤いじゃないですか。赤いと人参みたいじゃないですか。それでかじるな……なんて、私に対する冒涜です! そちらの赤いお嬢さんでも良いのですが、戦闘態勢でもない女性に危害を加えるのは、王としてどうかと思いまして……」

 

「やっぱり……人参、好きなのか?」

 

かじられて、馬の涎まみれになっているアーチャーを尻目に士郎が恐る恐る質問を投げかけていた。

 

「勿論ですとも! 人参……それは憧れの食材。飼葉だけでは不満だった時もあります! 飼葉が食べれるだけ良いのですが、やはり草だけではなく野菜も食べたかったものです! あの赤いお宝を夢見たものですよ!!」

 

 人参について力強く語っている馬に、それ以外の三人は。

 

 やっぱり馬そのものじゃ……。

 

 そんな視線を送ってしまっていた。

 

「ち、違いますよ! 私は馬ではなく、セイバーのアーサーです。ほら、人参って名前が良いじゃないですか! 人参(キャロット)とキャメロットって響きが似ているでしょう? アーサー的には親近感が湧くのですよ!」

 

 どう考えても、こじつけとしか思えない馬の言い訳に一同ゲンナリしながら、聖杯戦争の監督役が住む教会へと向かって行った。




赤いと大変だなあ……。(遠い目)


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変装するUMA

 教会にて言峰綺礼より聖杯戦争の説明を受け、改めてこの争いに参加する事を決意した士郎だった。

 それはともかくその神父に対して、問いただしておかなければならないことが一つ。

 

「……なあ。英霊ってのは、動物もいるのか……。例えば馬とか」

 

「ふむ。まるで人の姿をしていない英霊(モノ)を召喚した様な言い方だが……。例えば、彼の征服王イスカンダルの愛馬ブケファラスも英霊の座には存在しているという。ならば、他にも人間以外の英霊がいても不思議はあるまい」

 

 神父の答えに、その上、言葉を喋って自分をアーサー王だと名乗る腕が生えている馬がいたりするのか。と追加で確認をしたかったが、あまりにも非常識過ぎる質問なので、口を噤んでしまっていた。

 隣の凛に視線を向けると、もう訳が分からないといった雰囲気で頭を抱えている。

 あの馬は聖杯戦争の常識からしても異分子過ぎるのだ。

 見た目は馬。心は(自称)アーサー王。自分の真名はばらし放題。だというのに、ランサーやアーチャーをものともしないくらい強い。

 

「衛宮君、もう行きましょう……。私も家で色々と情報を整理したいから」

 

 疲れた様な――実際外でアーチャーと一緒に待機させている馬のせいで疲労感が半端ないだろうと思われる凛からの提案に首を縦に振り、教会の外に向かうと。

 

 

 

 

 ――はむはむはむはむはむはむはむ……。ガリッ! はむはむはむはむはむはむガリガリ。はむはむはむはむはむはむはむはむ。 ガリッ!!!

 

「貴様、私の肩を食いちぎる気か!? 今のは鳴ってはいけない音だった気がするのだが!?」

 

「この草食系アーサーが肉なんて食べるわけはありませんよ。今のはちょっと顎に力が入っただけのコミュニケーションです!」

 

 外でアーチャーの肩をひたすらはむはむとかじる馬と、さっきの音は骨が折れたんじゃないかというくらいの心配をしてしまうアーチャーの姿があった。

 馬の方は士郎を見ると、アーチャーの肩に噛みつくのを止め。

 

「マスター、お話は終わりましたか? 出来れば霊体化して近くで守護すべきだとも思ったのですが、この教会は香辛料臭くて私にはキツいのです。何ですか、あの匂い? 私に何か恨みでもあるのですか!」

 

 馬は嗅覚も優れているらしいが、香辛料臭いってなんでさって士郎は問いただしたかった。しかし、そんなのをすると、また面倒な事になるのではないだろうかと、その言葉を喉元で止めている。

 

 

 そして教会からの帰り道。凛と別れようとしていたその時。

 

「――ねえ。お話は終わり?」

 

 そこには銀髪で紅い瞳の幼女と、3mはあろうかという体格の筋骨隆々の巨人と呼ぶにふさわしいサーヴァントが佇んでいた。

 数度の会話の後、幼女――イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは貴族の様にスカートをつまみ優雅な挨拶で自己紹介をすると、次の瞬間。

 

「じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

 バーサーカーと呼ばれていたサーヴァントにそう命じていた。

 

 普通の人間、否、魔術師であっても敵対すれば死は免れないバーサーカー。対するはよく分からない馬と、その馬さんのせいで傷を負い、全力を出せないアーチャー。

 まともに戦えばこちらが確実に負ける。それは誰の目から見ても明らかだった。

 アーチャーとランサーを圧倒したアーサー馬でさえ、単純に力負けをして後退してしまっている。アーチャーも本調子ではなく、凛の傍で弓による攻撃をしているが、まるで攻撃が効いていなかった。

 そのうち、イリヤが優越感に浸った瞳で士郎たちに視線を向け。

 

「そこにいるのはヘラクレスって魔物。あなたたち程度が使役できる英雄とは格が違う、最凶の怪物なんだから」

 

 その言葉に反応したのは一人……。といって良いか分からない、一匹の馬だった。

 

「ヘラクレス……ですか。そうですか」

 

 まるで真名が分かったので、対処の仕様があると言わんばかりの馬だった。彼はアーチャーに視線を向け。

 

「アーチャー、弓を貸してください。さっき使ってたでしょう! 早く出してください。アーチャーなんですから」

 

「!? こ、これでいいか!」

 

 アーチャーが弓を馬に向かって投げつけたその瞬間、彼の馬にその場の全員の視線が集まっていた。

 

「……茶髪で長髪の……かつ……ら?」

 

 そこには何故かは分からないが、かつらを被り弓を構えるといった奇行に走っている白馬の姿があった。

 

「な、何をやってるんだ!? っていうか、かつら……どこから出したんだ!?」

 

 士郎や凛が馬を見て固まってしまっていたが、それだけではなく。

 

「ど……どうしたの!? バーサーカー!? 何で気まずそうな雰囲気で止まっちゃったの!?」

 

 バーサーカーの主のイリヤでさえ、自身のサーヴァントの突然の停止に理解が追い付いていなかった。対する馬はアーチャーから受け取った弓を投げ捨て、今度は拳を突き出してまるで巨人と徒手空拳で戦闘するかのような、そんな構えを見せている。

 

「どうです? これがウマクラチオンです。続きをしましょう、バーサーカー!」

 

 『ウマクラチオン』ってなんだ!? とその場の全員が心の中でツッコんでいたが、バーサーカーのみ小刻みに震えながら、戦う意志は無いとばかりに霊体化してしまい、それを見たイリヤはオロオロしながら。

 

「きょ、今日のところはここまでにしておくわ! 次にあったら絶対に殺してやるんだから!」

 

 まるで悪役の捨て台詞の様な言葉を吐いて、足早に立ち去って行った。

 

「マスター、どうやら敵は撤退した様です。追撃は?」

 

「い……いや、それは良いけど……その格好……」

 

 馬は真面目に戦っていたつもりらしく、キリッとした表情で士郎に提案をしていたが、それよりも気になるのは何でかつらをかぶったのかという事だ。

 

「これですか? 私の直感によると、こうすればいいと思い浮かんだもので、実行に移したのですが?」

 

 茶髪で長髪のかつらを被ってヘラクレスを撃退。どういう理屈だと全員が首を傾げていた。すると凛がハッとした顔をして。

 

「そういえば……、ヘラクレスの師でもあるケンタウロス族の大賢者のケイローンって、ヘラクレスのヒュドラの毒矢で誤射されて、それが死因になったって話があった気がするわ……」

 

「ケンタウロスって……半人半馬の……か?」

 

 それに頷く凛だったが、すかさず馬から。

 

「おそらく……狂戦士(バーサーカー)のクラスで現界しているので、認識能力が落ちていたのでしょう」

 

 そんな想像を巡らせていたが、それ以外は。

 

 腕は生えてるけど、かつらを被った馬をケイローンと見間違えるなんて……。もしかして、ケイローンは顔が馬に似ていたのか!?

 

 一部の聖杯戦争関係者で、『ケイローン馬面説』が誕生した瞬間だった。




ケイローン「解せぬ」


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タイガー道場 その1

これは、士郎がマスターになる事を拒否したバッドエンドです。


「セイバー、俺はマスターを降りる」

 

 教会で聖杯戦争の概要を知り、衛宮士郎の下した決断はそれだった。お馬さんは、驚くわけでもなく真っ直ぐに士郎を見詰め。

 

「――シロウ。一度だけ聞きます。マスターを降りるという意志は変わりませんか?」

 

「俺は殺し合いをする気はない」

 

 士郎も相応の覚悟の上で、セイバー馬に対してその言葉を告げた。すると馬は途端に泣き出しそうな顔をして。

 

「シロウ……、マスター!? ほんとにほんとにほんとにほんとにほんとにマスターを降りるのですか!? 私、ランサーもアーチャーも倒しましたよ! この超強いセイバーなら聖杯戦争勝ち抜いて聖杯ゲットも夢じゃありません! シロウでしたら私のこの毛を好き放題モフっても構いません。私を好きに出来るのですよ!? お願いですからマスターを降りないで下さい!!」

 

 途中から何を口走っているのか分からないが、士郎に対してマスターを降りないでくれと(こうべ)を垂れて懇願している馬だった。

 

「い……いや……そうじゃなくて、セイバーだって俺みたいな半人前より、真っ当なマスターと契約した方がいいだろ? なっ?」

 

 オロオロしながらお馬さんを慰めている士郎だったが、馬はヒヒーンと鳴きながら泣き止む気配が全くない。

 

「例えば遠坂とかと契約すれば、セイバーだって十分に力を発揮できるだろう? 赤いのだって大好きだし……」

 

 どうにかこうにか馬の説得を続けていた士郎だったが、不意に周りの景色がスローモーションで動いている様な錯覚に襲われた。

 

 ――死を目前にして、脳が通常よりも活発に活動して、その死を免れようとしている。その他には馬の悲痛な叫びが聞こえる。

 

「シロウの……」

 

 その声と共に馬は後ろ脚を士郎へと向けて、その尋常ならざる速度で駆ける事が可能な筋力と魔力放出を合わせた後ろ足蹴りを彼へと叩き込もうとしている。

 

「馬鹿あああああああああああ!!!」

 

「がぁっ……!?」

 

 どてっ腹に直撃したその蹴りは衛宮士郎の筋肉と内臓を一瞬にして粗挽き肉に変え、蹴られた士郎は教会までふっ飛ばされ。

 

「え、衛宮士郎……。教会に保護を求めるのならば、玄関から入ってきたまえ。修理費用も馬鹿にならん……。んっ……?」

 

 言峰は自分の頭に直撃しようとしていた士郎を拳で迎撃して、床に置いた後で注意を促そうとしていた……。その拳から放たれた一撃は背骨を砕くような音が聞こえていたが、それは無視し。

 

「既にこと切れていたか……。仕方あるまい、後で埋葬くらいはしておこう。安らかに眠れ」

 

 士郎の惨状を目の当たりにし、十字を切って彼の冥福を祈っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬に蹴り飛ばされ、一瞬で意識が彼方へと逝ってしまった士郎が次に目を開けて目の当たりにしたのは、自宅の道場によく似た風景と。

 

「ああ……。Fate本編を上回る最速バッドエンドとは! 士郎、お姉ちゃん悲しいぞ? こんな子に育てた覚えはないのに!」

 

 虎竹刀を持ち、剣道着を纏っている藤村大河と。

 

「私のポップでキュートなジェノサイドの出番がなくなっちゃったー!? 多分、あっちの私はバーサーカーと一緒に待ちくたびれてるわよ!? どうしてくれるの!?」

 

 長い銀髪で紅い眼の少女が体操着にブルマを着て、自分の出番が取られたとばかりに涙目になっている。

 

 対する士郎は何故か二人の前に正座されられていた。しかし、この場にいたのはそれだけではなく。

 

「シロウ、あれであの仔は繊細なのです。どこでどうなって、あんなにはっちゃけたのかは分かりませんが、泣かせてはいけませんよ?」

 

 金髪を編み込んだ髪型に、深緑の瞳。ぱっと見では十五歳程度の少女が、指を立てながらメッと士郎に注意を促している。

 

「分かりましたか? でしたら指切りをしましょう」

 

 彼女の提案で小指と小指を合わせて指切りをしていると。

 

「ゆびきりげんまん♪ 嘘ついたら約束された勝利の剣(エクスカリバー)ぶっぱするっ♪ 指きったっ♪」

 

 優し気な雰囲気にもかかわらず、針千本飲ますよりヤバい発言が聞こえて来たので、思わず脂汗を垂らしてしまった士郎だった。

 それだけならばまだ良かったが、士郎は彼女の姿を直視できなかった。何故なら……。

 

「弟子二号、何だその格好は!? この神聖な道場で水着とは! あざといにも程がある! 着替えて来なさい!!」

 

「これは私の戦闘スタイルの一種です。武器だってちゃんと持っています。大体、本来の姿でしたら、私の正体がバレバレじゃないですか!」

 

 弟子二号と呼ばれた金髪の娘は水着姿の他に、水鉄砲らしき物を持ち、それには神造兵装っぽい黄金の剣が括り付けられている。

 

「その剣を見せてる時点で、正体なんてバレてると思うけど……」

 

「大丈夫です! 今の私はセイバーではなくアーチャー。主武装はこの水鉄砲ですから。剣も使いますが、弓を使わないアーチャーなんて珍しくはないですし、気にしないで下さい」

 

 ロリブルマの方はツッコミどころ満載の弟子二号に物申していたが、そんな物はどこ吹く風といった水着少女だった。

 そうこうしているうちに、道場の外から鎧を纏った人間が歩いて来るようなガシャガシャといった音が聞こえ。

 

「タイガー道場というのはここで良いのか? この場もあの時間神殿と同じく時間の外にあるとは……」

 

「し、師しょー!? 大人な弟子二号が現れました! どう対処すれば良いですか!? しかも最果てっぽい槍まで持ってます!」

 

 弟子一号――イリヤが突然の来訪者に驚きを隠せなかったが、その人物はアーチャーを名乗る少女をそのまま大人にしたような、それでいてボンッキュボンのスタイル抜群で上乳が少しばかり見えている美女が士郎へと詰め寄っている。

 

「貴様があの(もの)のマスターか? いいか、あれほどの名馬を手放すとは何を考えている? とある特異点では私と共に最後まで戦い抜いた程の猛者だ。あの馬ならば、最後まで勝ち残る事が出来るだろう」

 

 子供をあやすような注意の水着の方とは違い、大人な雰囲気で説教をしてくる美女に対して思わずうんうんと頷いてしまう士郎だった。

 しかし、それに心中穏やかではないのが二名程。

 

「み、水着なセイバーちゃんだけならともかく、大人なセイバーちゃんがタイガー道場を訪れるなんて!? 最近のFateはどうなっているの!? 他の違うバリエーションのセイバーちゃん来たりしたら、タイガー道場の危機よ!? タイガー道場がアルトリア道場になっちゃうわ!」

 

「し……、師しょー、こうなったら私達も別バリエーションで対抗するしかないと思います!」

 

 藤村大河とイリヤは士郎がバッドエンドになった後の自分達のポジションが危ういと、アルトリアたちに対抗する算段を道場の隅で相談している。

 

「弟子一号、ちなみにそちらはどんなバリエーションがあるの?」

 

「魔法少女と、赤いアーチャーをインストールしたもう一人の私と……、最近だと複合神性のアルターエゴもいるはず……」

 

 意外に多い弟子一号バリエーションだが、もう一方の大河は顎に手を当て、ふうむと唸りながら。

 

「私は……、ジャガーと……小学校教諭?」

 

「師しょー、小学校教諭は完全に脇役……。い、痛いです、師しょー……」

 

 イリヤのツッコミに思わず虎竹刀を振り下ろしてしまった大河だが、まだ情報を整理しなければならず。

 

「それと……セイバーちゃんのバリエーションは?」

 

「今いる水着と大人の他に、オルタのセイバーとランサー。サンタオルタ、水着オルタ。謎のヒロインXとXオルタ、水着のフォーリナー。顔が似てるのは……、薔薇の皇帝と新選組の一番隊隊長です!」

 

 その答えに顔面蒼白になってしまった大河だった。

 

「緊急緊急! 圧倒的物量差よ!? こうなったら仕方ないわ……。この看板を入り口に立てましょう!」

 

 大河がどこからか取り出した看板にはこう書かれていた。

 

 『タイガー道場は一回でアルトリア二人までとします。これを破ったら出入り禁止です。というかアルトリア顔が多すぎ。大河を増やせ』

 

「こ、これで安心だわ……。Fateの真のヒロインたるこの私の領域をは守られた……」

 

「私はもうスピンオフで主人公(ヒロイン)してるから良いけど、やっぱり個別ルートが欲しい~!!」

 

 イリヤの何気ない一言に大河が鋭い視線を向け、それでいて羨ましそうに。

 

「Fateの日常の象徴たる私は……”衛宮さんちの今日のごはん”のヒロインにぴったりな筈なのに!? 今日の藤ねえの弁当コーナーとか、本日の藤ねえのおつまみコーナーとか! そんな一幕があったって良いじゃない!!」

 

 大河が自分が主の筈の道場の隅っこで吠えているのだが、バッドエンド救済のために訪れている主人公(しろう)は。

 

「あの仔も悪気があったわけではないのです。ちょっとじゃれた様なものだと思って、寛大な心で許してあげてください」

 

「むしろ、あの名馬の一撃を体で受けて、どれほどの実力かが分かっただろう? あの馬と共に戦場を駆ける栄誉を誇らしく思うがいい。あやつの背は中々心地いいぞ? 一度乗ってみるのを勧めるが」

 

 二人のアルトリア――しかも聖剣と聖槍を携えている両名から逃げ出す事すら出来ない状態のまま、ひたすら彼女達の説得を聞き続けていた。それに対して、大河がハッと我に返り。

 

「士郎! 今回はいわば士道不覚悟。背中を見せたら切腹よ……的な選択肢が招いたバッドエンドだから、違う方を選びなさい。そうすれば先に進めるから! というか、セイバーちゃん、特に大きい方はもう帰れ! ここはタイガー道場よ! 過分なアルトリア分はこの私が許さない!」

 

 そうして、士郎は現実へ。ランサーの方のアルトリアは大河に背中を押されて、道場の外へと叩き出されてしまった。




セイバー、水着で弟子二号として爆☆誕!


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馬に化けるUMA

 バーサーカーとの戦闘を経て、彼の大英雄ヘラクレスに対抗するために、一時的に同盟を結ぶことになった士郎と凛だった。

 前回の戦闘では、白馬のセイバーがケイローンに変装して、ヘラクレスの動揺を誘い彼を撤退させてどうにかしたが、毎回そんな奇策が通じるはずもない。

 次にはお互いの全力を以って打倒しなければ生き残れない相手だからこその選択だった。

 その際、凛が衛宮家に下宿するといった話で、藤村大河と一悶着あったりもしたのだが……。

 

 その他には――

 

「士郎、士郎!? 何で……家の庭に馬がいるの!?」

 

 確かに大河の言いたい事は分かる。馬は馬であまり霊体化したがらないのだ。曰く――

 

「だって、霊体化すると草が食べれないじゃないですか? 草むしり替わりだと思っていて下さい。もぐもぐごっくん」

 

 との事だった。それよりも、腕が生えている馬を見てどうとも思わないのかと、そちらをツッコみたかった士郎だった。

 

「はえー。このお馬さん、良い毛並みねえ……。士郎、この馬どうしたの?」

 

「ふ……藤ねえ、それだけなのか? もっと……こう」

 

 馬の背中を撫でながら、サラサラした毛並みに感心している大河を尻目に士郎は困惑の色を隠しきれていなかった。

 

「それよりもどうしたのよ!? いつから馬を飼うようになったのよ!? 私に相談も無しで!」

 

「そ、それが……、こないだ親父の遺言が見つかって、実は馬を買って、他所に預かって貰ってたから引き取ってくれって……」

 

 士郎からすれば苦しい言い訳ではあったが、とりあえず養父の名を出して説得すると。

 

「切嗣さんの? うーん、あの人ならあり得なくはない気がするけど……。いきなり馬ってどうなのよ? 餌代だってかかるでしょ?」

 

 現在進行形で草を食べているが、実は餌代なんてかからないサーヴァントな馬なんだとは説明できずにいた。すると、馬の方から大河に顔を近づけ、頬ずりをしてから彼女の目をジッと見つめていた。

 

 ――ぼく、悪いお馬さんじゃないよ? ここにいても良いよね? 良いでしょ? ぼく、ここにいたい!

 

 そんな透き通った眼差しのキラキラとした瞳で、そう訴えかけている様に思えた。すると大河は後ずさってしまい。

 

「良いわ! ずっとここにいなさい! 何だったら、家の草だって食べに来ると良いわ!」

 

 ……と、草食動物の馬に完全敗北してしまった肉食動物の様な名前の女性だった。

 それよりも士郎には、先程から気になる事が一つだけあり。

 

「……なあ、何で藤ねえは……お前を普通の馬にしか見えてないんだ?」

 

「失礼な。私はアーサーです! 馬じゃありません。まあ……これはとある魔術師が絡んでいまして……」

 

 腕が生えている、一見するとUMA(ユーマ)にも見える不思議生物が自分語りをしているので、そちらに耳を傾けると。

 

「ええ……、その魔術師は一言で言うと、とんでもないロクデナシのトラブルメーカーでした。私が王になる前の修業の旅にも同伴していましたが、ヤツのせいであの娘とその義兄がどれほどの苦労に見舞われたか……。目の前に現れたら、”マーリン死すべしヒヒーン!”と言って、蹴りをかますところです!」

 

「そ……そうなのか……。その魔術師がどうしたんだ?」

 

 そこから馬は感慨深そうに。

 

「そのロクデナシは言いました。もしキミが英霊に昇華されて、あまつさえ馬っぽいナニカとして召喚されるかもしれない。その時の為に誤魔化しの魔術をかけよう。一般人にはキミの正体が分からないように。キミの場合、アガートラムとかいらないはずだから、それだけにしておこう。というか……、それを持たせても面白そう……、いや、周囲が大惨事になりそうだからね」

 

 士郎はただ静かに聞き入っている。セリフだけで、とんでもない迷惑な人物なのは何となく想像できたが、馬は続けて。

 

「……そう告げて、あの史上最大の詐欺師は私に魔術を掛けました。……と、いうわけで私はこの場で霊体化しなくても普通に過ごせているのです」

 

 途中で出て来たアガートラムってなんだ!? とか問いただしたくなったが、聞くと長話になりそうなのでそこは知らない振りをしていた。すると……。

 

「ほーら、お馬さん! 人参沢山持ってきたわよ! 丁度頂き物があったから良かったわ。たーんと食べななさい!」

 

 いつの間にかいなくなってた大河が腕一杯の人参を馬に差し出すと。

 

「こ、これは夢ですか!? 夢じゃないですよね!? 人参をお腹いっぱい食べれるなんて、ここはもしかして全て遠き理想郷(アヴァロン)ですか!?」

 

 今、普通に言葉喋ってたよな!? 大丈夫なのか、それ!?

 

 ……と、士郎は動揺した表情を見せていたが。

 

「あら! お馬さんもヒヒーンって鳴いて大喜びね。まだ沢山あるから好きなだけ食べなさい」

 

 どうやら誤魔化しの魔術によって、馬の発した言葉も鳴き声に変換されているらしい。それが分かり、ホッと胸を撫でおろす士郎であった。

 

 




フォウ「自分のセリフ取られたフォウ」


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侍と対するUMA

 間桐慎二からの情報で、柳洞寺にマスターの一人がいるという情報を得て、自宅に帰宅後それをセイバーや凛にその事を話していると。

 

「シロウ! 乗り込みましょう! カチコミです! 最近誰も蹴っていないので、私は欲求不満なのです! そうしなければ、そこのいたいけなアーチャーを蹴ってしまうかもしれません!!」

 

「待て! 何故、凛や衛宮士郎が外れているのだ!? 私だけターゲットとはどういう事だ!?」

 

 一度白馬に蹴られて、重傷を負っているアーチャーが納得がいかないとばかりに抗議の声を上げている。

 

「当り前じゃないですか! シロウやリンでは一撃死しちゃいます! そんなのはいけない事です!!」

 

 力説する馬だったが、士郎は柳洞寺に向かうといった意見に真っ向から対立する姿勢を見せていた。

 

「セイバー……、あのな? せめてアーチャーが回復するまでは、手を出すのはよさないか? あそこのマスターが町中から生命力を集めてるんだったら罠とかありそうだろ? 入り口までの石段にトラバサミとかあるかもしれない……」

 

「つまり……、階段の一番下から一気に寺院の入口までジャンプすれば罠には掛からないんですね! 分かりました、マスターご忠告ありがとうございます! それでは行って、ちょっと蹴りを入れてきます!」

 

「私を咥えてどうするつもりだ!? 離さんか、この駄馬がーーーーーー!!」

 

「私、この町は詳しくは無いんです。アーチャーだったら目は良いでしょう? 寺院まで案内して下さい」

 

 話を聞いている様で、全く聞いていなかった馬さんは、アーチャーの襟首をハムっと咥えると猛スピードで寺院へと駆けだしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして士郎や凛が止める間もなく、並の人間であれば気絶する様なスピードで衛宮家から柳洞寺へと十分程度の時間でついたのも束の間。

 

「では、あの入り口までジャンプします……よ?」

 

 馬が柳洞寺に殴り込みをかけようとジャンプすると、山門の手前に着地をした。

 そこにいたのは……。

 

「侍……ですか……」

 

 馬はその和風な格好の人物――どう考えてもサーヴァントであろう、その侍を真剣な表情で注視していた。

 すると、その侍は……。

 

「アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎」

 

 歌うようにその真名を口にしていた。それに対して、お馬さんは、

 

「セイバーのサーヴァント、アーサー・ペンドラゴン」

 

それがもう当たり前だと言わんばかりに、自分自身も名乗りを上げている。そして、二人が注目しているのは、この場にいる後一人の赤い外套の騎士であり。

 

「何故、名乗らねばならんのだ!? 貴様等、聖杯戦争だと分かっているのか!?」

 

「すいません、この人ちょっとズレてまして……。そちらが名乗ったのに名乗り返さないなんて、人の風上にも置けません。仕方ないので、アーチャーのサーヴァント、『ナナシノゴンベエ』とでも呼んでおいてください」

 

 馬は申し訳ないとばかりに頭を下げながら、アサシンに対して謝罪をしている。変な名前を付けられた当人は。

 

「『ナナシノゴンベエ』って、なんでさ!? せめて『無銘』とでも呼べばいいだろう!?」

 

「この国では名前の無い人をそう呼ぶと、聖杯からの知識でありましたが?」

 

 聖杯め、余計な知識を……。と、アーチャーは苦虫を噛み潰した様な顔を見せていたが、

 

「名の事は気にするな。言葉で語ることなど皆無。サーヴァントとはそういうモノであろう?」

 

「良かったですね、アーチャー。あちらは気にしていない様です。寛大な心に感謝して下さい」

 

もう、言葉を発するのも億劫になってしまったアーチャーだった。それからすぐに戦闘が始まったが、馬と佐々木小次郎のみ打ち合っていた。アーチャーは傷が万全ではないので、周囲の警戒のみに留まっている。

 

「姿は奇怪だが、その剣技は驚嘆に値する。さぞや戦場(いくさば)を潜り抜けて来たと見えるが?」

 

「そちらの太刀筋こそ驚かされます。剣と打ち合うには不向きの筈の刀で、ここまで私の剣を捌くとは……!」

 

 馬とのやり取りだけでどっと疲れてしまったアーチャーを尻目に、戦っている一匹と一人は互いの剣技を称賛しあっている。

 

「貴様ほどの相手ならば仕方あるまい。我が秘剣を見せてやろう」

 

 そうしてアサシンは身構えて、次の瞬間、彼の”秘剣”が放たれていた。

 

「こ……これは!? 多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)!? ちょっとこの人ヤバいですよ! 剣技だけで宝具の域までイッちゃってます!」

 

 同時に放たれた二撃を階段を転がり落ちる事で回避したセイバーだったが、アサシンの秘剣、『燕返し』は本来、三撃同時に放たれる回避不可能な絶技。それに真っ向から対峙しても自分が亡き者になる。それを理解したセイ馬ーは。

 

「アーチャー、協力して下さい! 確か貴方は二刀使いと聞いています。三撃同時に放たれるのなら、私の剣とアーチャーの剣、計三つで止められます! 私に乗っかっても良いですから!!」

 

「い、いや……待て。いきなり何を……」

 

 アーチャーとしては馬のやる事には出来るだけ関わりたくなかったので知らない振りをしていたが、こちらを勝手に指名してきたのだ。狼狽えているアーチャーに納得いかないとばかりの様子だった。

 

「もしかして……、乗馬をした事が無いんですか? そんな騎士みたいな鎧と外套を着てるのに?」

 

「私には騎乗スキルは……無いが?」

 

「だとしても、乗っかるくらいはできるでしょう? とっととしてください! 三騎士なんですから!!」

 

 馬さんはこれしか方法が無いとばかりに、説得を繰り返している。ついには。

 

「もしかして、女の子に乗るのしか得意じゃないんですか? そんなのだとその内、マッチョの変態呼ばわりされて、いたいけなアイドルに指を突き付けて処女認定されたとか言われますよ! ついでに紳士動画にノミネートされたりもします!」

 

「言っている意味が分からんわ! 何だその私の名誉を著しく傷つける状況は!?」

 

「私の直感です! これほど確かな根拠はないですよ!!」

 

 アーチャーはもう勘弁してくれと言わんばかりに捲し立てていたが、アサシンは何やら気配に気づいたようで。

 

「そこまでにしておけ。どこぞの恥知らずが我らの戦いを盗み見ている。丁度、貴様らのマスターも来たようだ。そやつらが襲われぬうちに、今日のところは退くがいい」

 

 アサシンからの提案で勝負は一時預かる事になったお馬さんは、帰り道にて。

 

「ちょっとシロウ聞いてくださいよ。アーチャーは騎士の癖して乗馬は出来ないで、異性に乗るのは得意らしいですよ。サー・ランスロットですら両方出来たというのに。まったく、これだから最近の騎士は……」

 

 その発言を聞いた士郎だったが、何故か……。

 

「す、凄まじく……、他人事じゃない気がする……」

 

「良いですか? シロウはアーチャーみたいになってはいけませんよ? 女の子を変に泣かせたりしたら、月まで蹴り飛ばされると思ってください!」

 

 鼻息が荒い……お馬さんとは違い、漠然と自分の将来に不安を感じてしまった士郎であった。 




ステータスが更新されました。

アーチャー
真名:ナナシノゴンベエ(馬命名)


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