東方恨炎記 (黒フードの狼)
しおりを挟む

プロローグ

報復の炎は、やがて世界を焼き尽くすだろう。

朦朧とする意識のなかで、誰かがそう呟くのが聞こえた気がした。


幻想郷。

 

 

人間、妖怪、妖精、神に至るまで様々な種族が入り交じって暮らす残酷な楽園。

 

 

これは常識に囚われてはいけない幻の世界『幻想郷』で起きた、とあるちっぽけな男の物語である……。

 

 

 

――――――

 

季節は秋。だいぶ上にいる時間が短くなった太陽が、肌寒い風を運んでくるようになった幻想郷の大地を照らしている。

 

 

その幻想郷の一角にたたずむ一件の洋館がある。

 

 

周囲の紅葉よりもさらに深い紅色のレンガで作られた吸血鬼の根城『紅魔館』ではこの日、門番の紅 美鈴が庭に積もった落ち葉の処理に当たっていた。

 

 

「はあ……集めても集めても切りがないですね…。全く、なんでこんな雪のように落ちてくるんでしょう。」

 

 

ただ庭中の落ち葉を集めて、燃やして処理する。たったそれだけの仕事だ。

 

 

たったそれだけなのだが、その庭中の落ち葉の量は果てしなかった。

 

 

先程から黙々とかき集めた落ち葉は庭の片隅で大きめの山となっている。

 

 

それでも次から次へと降ってくる落ち葉はやむ気配がない。一体どこからこんなに落ちてくるのかと思うほどだ。

 

 

「まあ、ああだこうだ考えてても仕方ないですからねぇ。さっさと処理してしまいましょうか。」

 

 

落ち葉集めに区切りを付け、美鈴は落ち葉の山に向き直る。

 

 

懐から取り出したマッチをすり、数本風に吹かれて無駄にしながらもなんとか松明に火を付け、その松明を山に向かって放り投げた。

 

 

乾いた落ち葉は松明の炎で一気に燃え上がり、瞬く間に大きな火の山となって燃え上がった。

 

 

「おお、暖かい。これで仕事は完了ですね。いや~、焼き芋焼きたいなぁ…。」

 

 

そんなどうでもいい事を考えながら、美鈴は門に腰かけて燃え上がる火の山を見つめた。

 

 

落ち葉を灰に変えていく炎が、不自然にその火力を上げている事に気がつかぬまま…。

 

 

―――――――

 

 

所変わってこちらは紅魔館の一室。

 

 

館の主であるレミリア・スカーレットの部屋だ。

 

 

まだ幼さを感じる吸血鬼の少女は、部屋の中央にある赤い椅子に腰かけていつも通りに紅茶を飲んでいる所であった。

 

 

今日も普段通り、静かな部屋で過ごす優雅?なティータイムになるはずであった。

 

 

…そう、なる『はず』であった。

 

 

「…外がやけに騒がしいわね。」

 

今日は外がやけに騒がしかった。よく聞き取ることは出来ないが、何かの悲鳴や指示を飛ばす声も聞こえる。それに混じって何かゴォォォォォと言う大きな音が聞こえる。

 

 

確か今日は美鈴が庭に落ちた落ち葉の処理をやっていたはずだったのだが―

 

 

「失礼致します!お嬢様!」

 

 

そこまで考えた所で部屋のドアが勢いよく開かれ、メイド長である咲夜が息を切らしながら入ってきた。顔には焦りと疲労の色が浮かんでおり、これから報告されることが嫌でも重要な事であることは理解できた。

 

 

「門番から救援依頼です!落ち葉を燃やした炎の火力が何故か徐々に上がっているそうです!庭の約半分が既に灰になってしまっています!」

 

 

「なんですって!?」

 

 

そうしている間にも、外から聞こえるあの音が徐々に大きくなってきている。なるほど、あれは燃え盛る炎の音だったのかと納得する。

 

 

「館中の人員を大量導入して消火に当たりなさい!間違えても館には焦げ1つ残さないように!」

 

 

「畏まりました!」

 

 

咲夜に指示を飛ばし、レミリア自身も様子を見るために玄関に向かって走り出したのだった。

 

―――――――

 

先程とはうって変わり、庭は騒然としていた。

 

 

綺麗だった庭は半分ほどが跡形もなく白い灰に変わっており、その中央ではものすごい大きな火柱が上がり、沢山の妖精メイド達が手に水がたっぷり入ったバケツや消火器を持って炎を消火しようとしていた。

 

 

妖精メイド達は皆必死の形相で半狂乱になりながら手にしたバケツの水を炎に浴びせかける。しかしいくら水をかけても炎は一向に弱まる気配がない。

 

 

むしろ水をかけられた事でさらに火力が増しているようにも見える。まるで焚き火に乾いた薪を入れた時のように…。

 

 

「この炎は一体…。」

 

 

その光景を目の当たりにして、レミリアは早々に言葉を失っていた。

 

 

それもそのはずだ。明らかに目の前の炎は普通の炎ではない。ではこれは一体なんなのだろうか。誰かの能力?では一体誰の?もしくは考えすぎているだけで、ただの行きすぎた自然現象に過ぎない?自然に火力を増した炎が、自慢の庭のほぼ全てを跡形もなく灰に変える事が出来るだろうか?

 

 

そこまで考えて、レミリアは考えるのを止めた。ぼんやりしている暇はない。急いで消火しなければ、火が館に燃え移る可能性がある。

 

 

レミリアがまさに消火活動に加わろうとした、その瞬間だった。

 

 

炎が鳴いた。

 

 

これまたなんとも不思議な話であるが、まるで生き物の鳴き声、人間の悲鳴、生物の咆哮のような、怒りとも憎しみともつかない、よく分からない不思議な鳴き声を炎が上げたのだ。

 

 

突然の出来事に消火活動をしていた全員の手が止まり、全員の視線が炎に向けられる。

 

 

そしてそれを待っていたかのように、炎は変化をはじめた。

 

 

炎の中に周囲の灰が集まり、何かを形作っていく。まるで灰が小規模の竜巻のように一ヶ所に渦巻き、やがて一人の人間の男の姿を形作ったのだった。

 

 

そして灰が男を形作った瞬間、それまでものすごい火力で燃えていた炎は嘘のようにゆっくりと消えていった。

 

 

焦げた血のような色の長い髪をフードで隠した、黒いズボンと赤いTシャツにボロボロのコート姿の青年。

 

 

その体は血まみれで、身体中傷だらけだ。よく見ればその体にはおびただしい程の古い傷がついている。

 

 

苦しそうに血を吐き出し、しかしその眼で周囲を一瞥した男は、ゆっくりと唇の弧を上に吊り上げ始めた。

 

 

「ああ…俺が…ここにいるって事は……俺…は…賭けに勝ったんだな…。」

 

 

意味不明な言葉を口にしたとたん、男は意識を手放し、そのまま地面に倒れこんだのだった。




プロローグ終了です。

語彙力無いし主人公の登場意味分からないしで本当にすいません!

面白かったらお気に入り登録をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1話 目覚め

貴方の名前は?生年月日は?能力は?ああ、落ち着いてください。あくまで確認です。無理に喋らなくてもいいですから。

すっきりしない頭に、そんなような言葉が聞こえた気がした。

その声が、なぜかすごく綺麗に聞こえた事を覚えている。


あの火災から約一週間が経過しようとしていた。

 

 

半分以上灰になってしまった庭も修復工事を終え、紅魔館はいつ戻りの日常を取り戻し始めていた。

 

 

…ただ1つを除いては。

 

 

「あれから一週間。いまだに眼を覚ます気配がない…本当に生きているのかしら?」

 

 

紅魔館の地下にある一室。レミリアの妹であるフランドールの部屋とは別の部屋に咲夜は来ていた。

 

 

その眼前では一週間前、炎の中から出現した青年が身体中に包帯を巻いた状態で、まるで死んだように眠っていた。

 

 

――――――

 

一週間前。

 

 

「…し、死んだの?…いや、まだかろうじて息はあるわね!」

 

 

謎の言葉を残して倒れた青年を覗き混んだレミリアが、青年から微弱な霊力が放出されているのを感じ取った。

 

 

周りにいる妖精メイド達は、その様子をなにもせずにただ見守っているだけだった。

 

 

なにもしなかったのではない。なにも出来なかったのだ。

 

 

無理もないだろう。自分たちはつい先程まで、突如として火力を増した炎の消化作業に追われていたはずだったのだ。それがどうだ。急に炎自体が生物のような鳴き声を発したかと思った次の瞬間に青年が出現し、かと思えば次の瞬間にはあれほど何をしても消えなかった炎が唐突に消えたのだ。

 

 

事態が急展開過ぎてついていけない。頭が軽いパニックを起こし、思考が停止しているのだ。

 

 

「とりあえず…分からない事をはっきりさせなくてはね。咲夜!この青年を中に!パチェの回復魔法で治療して貰いなさい!」

 

 

「か…畏まりました!」

 

 

咲夜が青年を抱え、紅魔館の中に運び連れていく。そしてそれと同時に、固まっていたメイド達も動きを取り戻した。

 

 

慌てて他に怪我人がいないか確認する者、パチュリーを呼びに行く者、持ち場に戻る者など様々だ。

 

 

皆それぞれ自らの持ち場に戻っていき、やがて半壊した庭には人っ子一人居なくなったのであった。

 

 

――――――

 

その後、運び出された青年はパチュリーの応急処置と魔法治療を受け、なんとか命に別状ないと言う判断に至った。

 

 

しかし問題は、いつこの青年が目覚めるのか、と言う所にあった。

 

 

治療したパチュリー本人によれば、普通の人間であれば即死に近い程の出血をしていたらしい。体内の血液は致死量寸前でギリギリ残っている程度で、あと少し輸血が遅ければ出血多量で死亡していたとのこと。

 

 

その他にも上げれば上げるほど、この青年には普通の人間ではあり得ない点がいくつもあげられる事が判明したのだ。

 

 

結局一命はとりとめたし、どうせ後から本人に確認するのだからという事で、パチュリー本人も匙を投げてしまったのだと言う。

 

 

そして現在。あれから約一週間が経過したが、青年が眼を覚ます気配は一向にない。

 

 

毎日青年の容態を確認に来るのが咲夜の日課になっているが、いつもボロボロの遺体のような青年の姿を眺めるだけで終わる日が続いてしまっている。

 

 

そして今日も普段と変わらないと判断し、咲夜が部屋を出ようとしたその時だった。

 

 

「……ん、うん?…どこだ、ここは?」

 

 

なんと、先程まで死んだように眠っていた男が突然目を覚ましたのだ。

 

 

「き、気がついたぁ!?」

 

 

驚いた咲夜は普段は出さないようなすっとんきょうな声をあげてしまったが、まだ意識がはっきりしないのか青年はそんな咲夜をぼんやりと見つめているだけだった。

 

 

聞きたいことは山のようにあったが、まずはこちらの状況を教えなくてはならない。落ち着きを取り戻し、咲夜は青年に声をかけた。

 

 

「目が覚めた見たいですね。まず、聞こえていますか?貴方の名前は?生年月日は?能力は?ああ、落ち着いてください。あくまで確認です。無理に喋らなくてもいいですから。」

 

青年の意識があるかどうかを確認するために、ゆっくりとした口調で語りかけていく。

 

 

「…ここは…ここは、どこだ?あんたは…?」

 

 

青年の口からがらんどうのような声が絞り出された。どうやら意識はあるらしい。

 

 

「ここは紅魔館。私は十六夜咲夜。この紅魔館のメイド長を勤めています。」

 

 

「紅魔館…。咲夜…でいいのか?…一体なにがあった?俺は何日昏睡していた?」

 

 

どうやら会話をしている間に意識がはっきりしてきたらしく、青年は上半身を起こしながら問いかけた。声の質が先程よりもしっかりしている。

 

 

「貴方は一週間前、紅魔館の庭で落ち葉を燃やした炎の中から突然現れたんです。」

 

 

咲夜はこれまでの経緯を簡潔に青年に伝えて言った。青年は咲夜の話を割りと真剣に聞いているようであったが、その態度に咲夜はある違和感を覚えた。

 

 

そう。話を聞く青年には、少なくとも見ている限りは『驚き』や『驚愕』と言った感情が感じられなかったのだ。

 

 

まるで、最初からこうなることが全て分かっていたかのような。まるで完成した建造物を説明書を見ながら点検するかのような感覚で、青年は咲夜の話を聞いていたのだった。

 

 

「主が貴方の事について話してほしいとおっしゃっておりました。今は動く事ができますか?」

 

 

「…ああ、問題はない。まだ頭はすっきりしないが、質問になら答えられるぜ。」

 

 

そう言って青年はベッドから降りて立ち上がった。その姿は今の今まで死んだように眠っていたとは思えない程の回復力だが、まあここは幻想郷だからと無理やり自分を納得させた。

 

 

地下室を出て、そのままレミリアに部屋に向かう。

 

 

なお、これは咲夜自身も驚いたことだが、レミリアは青年が目覚めた事を自身の能力で既に知っていたのだった。

 

 

――――――

 

部屋のど真ん中に置かれた少し大きめの豪華なテーブルに咲夜とレミリア、そして青年が座り、簡単な自己紹介をする。

 

 

それが終わってから、館の主であるレミリアは口を開いた。

 

 

「それじゃあいくつの質問に答えて貰うわね。まず、貴方の名前は?」

 

 

こな質問に対して青年は少しの間天井を見上げて何かを考えていたが、不意に何かを思い出したような顔をするとゆっくり口を開いた。

 

 

「俺は、レイジ。あんたらの好きに呼んでくれて構わない。」

 

 

レイジと名乗る青年はそう言った後、次の質問を待つようにレミリアを見た。まるで、警戒心を剥き出しにしている状態で自分の主の命令に忠実に従う猛犬のようだ、と咲夜は感じた。

 

 

「へぇ、レイジ…ね。じゃあ、次の質問よ。貴方はどこから来たの?」

 

 

すると、この質問に対してレイジの動きが止まった。

 

 

何かを考えてるように宙を見つめたまま動かない。そのままややしばらく無言でいたが、やがて諦めたようにレイジはおずおずと口を開いた。

 

 

「なんと言うか…その、覚えていないんだ。」

 

 

「…え?」

 

 

その言葉に全員が言葉を失った。

 

 

話によると、レイジは自分の名前以外一切の記憶がないと言うのだ。

 

 

当の本人が覚えていないことを他の誰が覚えているものか。結局レミリアは、レイジが何者であるのかを追求する事を早々に諦めるほか無かった。

 

 

―――――

 

「結局分かったのはレイジって名前だけね。」

 

 

「最悪だ。全くなにも思い出せねぇ…。」

 

 

それからしばらくの間いろいろと質問を繰り返して見たが、やはり自身に関する事は全く覚えていなかった。

 

 

分かったのはレミリアがいった通りレイジと言う名前、少なくとも幻想郷には元々居なかった人物であると言うこと、そして記憶喪失でなにも覚えていないと言う当たり前と言えば当たり前の事実だけだった。

 

 

その時、レミリアはふとこの後レイジはどうするのかが気になった。

 

 

元々レミリアの考えとしてはレイジが幻想郷の住人ではない事が分かった時点でレイジを元の世界に送り返すつもりでいたのだが、どこから来たのかも分からないような奴を一体どこに送り返せばいいと言うのだろうか。

 

 

仮に幻想郷の人里で住むにしても、常人なら死亡レベルの出血をして驚異の速度で回復したこの男を本当に普通の人間と呼んでもいいのだろうか。

 

 

「ねぇ、レイジ。貴方紅魔館に住まない?」

 

 

突然のレミリアの提案に、横で話を聞いていた咲夜が眼を見開いた。それはレイジも同様だった。

 

 

「……いや、大丈夫なのか?こんなどこのどいつかも分からねぇ馬の骨を住まわせるなんて。」

 

 

「別に構わないわよ。ただでさえだだっ広い館なんだから、1人くらい人員が増えたところで何も問題は無いわ。ただし、ただでは住ませるとは言っていないからね?」

 

 

それは単なる言い訳に過ぎなかった。

 

 

実際、レミリアにはこの後のレイジの運命が見えている。

 

 

その運命はレミリアにとってこれまで類を見ない物であったため、この正体不明の青年を近くで見てみたいと言う欲望でもあった。

 

 

「……分かった。なら遠慮はせずに住まわせてもらうとしよう。それで、俺は何をすればいい?」

 

 

「そうね、副業として咲夜のサポートに回って貰うわ。咲夜が忙しい時は応援として咲夜を手伝って上げなさい。」

 

 

「私はそれでも構いませんが……」

 

 

「副業として?じゃあ主体的には?」

 

 

レミリアの唇の弧が、上にぐっとつり上がった。

 

 

何故か分からないが、こいつは今楽しんでいる。レイジは直感的にそう思った。

 

 

「あなたが灰にした、庭の管理をお願いするわ。正確には管理と言っても、正門を突破した侵入者を館内に侵入前に迎撃することね。応援が必要だと判断した時には、ずっと庭に止まっている必要性は無いわ。」

 

 

「要するに庭内の見張りか。」

 

 

「庭内も館程では無いにしろ広いことには変わらないわ。でも館内の人員を庭に裂いているだけの余裕は今のところないのよ。残面ながら門番もすごく有能って訳でもないしね。それとも、戦闘は苦手かしら?」

 

 

その門番は大丈夫なんだろうか?よく今まで解雇にならないで門番をやっていけてるもんだ。

 

 

やんとなくレイジはそう思ったのだった。

 

 

「了解した。普段は庭を巡回して、暇なときは咲夜を手伝えばいいんだな?」

 

 

「ええ、そんなところよ。」

 

 

かくしてこの日、レイジと言う名前の記憶を失った青年が新しく紅魔館の一員となった。

 

 

先に言っておくが、これはまだこの物語の序章に過ぎない出来事である事は、レミリア意外はまだ知らない。




1話終了です。

なんかわけわからない感じですいません。

2話もお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話 仕事

仕事は自分の役目を果たすためにやるんじゃないのか?


俺の考え方は大体こうである。


レミリアとの話し合いからさらに3日が経過した。

 

 

この3日でレイジはさらに驚くべき回復力を見せつけ、あれほど酷かった怪我を完治させてしまった。

 

 

だがレミリアとパチュリーから怪我が完治するまでは絶対安静を言い渡されており、「こんなに暇なら寝てるより動いた方がましだ。」と、たまに様子を見に来る館の住人達に愚痴っていた。

 

 

だが、そんな退屈続きの日々は今日で終わりを迎える。

 

 

怪我が完治したため、レイジは早速紅魔館での仕事を始めるように言い渡されたのだ。

 

 

――――――

 

「…思ってたよりは狭いけど、それでも結構な広さがあるんだな。」

 

 

午前中、彼は咲夜に連れられて庭に来ていた。

 

 

一週間程前に彼の出現によって半分以上が灰になってしまった庭だが、今は修復工事も終了して元の状態に戻っていた。

 

 

「あら、規模が大きくて怖じ気づきましたか?」

 

 

「まさか。むしろ退屈しないで済みそうだ。」

 

 

ニヤリと笑いながら咲夜が問いかけると、彼も同じような笑みを返しながら肩を大きく回したのだった。

 

 

仕事の内容は庭の整備、そして門から館までの間の見張り。そこまで難しい物でもないが、そこそこの広さを持った庭を見張るため根気がいる作業だ。

 

 

「それでは、お願いしますよ。あ、最後にもう一つ。巡回途中に正門に行くことがあったら、門番が仕事をしているか確認してください。もししていなかった場合は、たたき起こしちゃって構いませんから。」

 

 

「たたき起こす?一体どういう状況なんだ?」

 

 

「まあ、見れば分かると思いますよ。」

 

 

そう言い残すと、咲夜はレイジの目の前から一瞬で消えたのだった。

 

 

当のレイジはと言うと、いきなり咲夜が目の前から消えた事実に驚きを隠せず、しばらくは咲夜がたっていた場所を調べたり踏んだり殴ったりしていた。

 

 

そう、彼はまだ『能力』と言う概念を知らないのだ。

 

――――――

 

その後は特になにもなく平和だった。

 

 

広大な庭を整備しながら巡回し、のらりくらりと過ごす。

 

 

別に侵入者がいなければ空いた時間は自由に使ってもいいとのことだったので、持ち場から離れない程度で庭を散策していた。

 

 

そして巡回しながら庭をぐるぐるしていると、仕事をしない門番がいると言う正門が見えてきた。

 

 

「…まさか本当に仕事をしていないとはな。」

 

 

正門に近づくと、咲夜が言っていた意味が理解できた。

 

 

驚くことに、チャイナ服を着た赤い髪の門番が堂々と正門に持たれて鼻提灯まで作って気持ち良さそうにいびきをかきながらよだれを垂らして眠っていると言う状態だった。

 

 

しかも、その閉じた瞳には上から黒いマジックか何かで開いている目のようなものが書き込まれていた。

 

 

これで門番が仕事をしないと言う言葉の意味がはっきりしたのだった。

 

 

ここまで気持ち良さそうに眠っていると起こすのも躊躇われたが、言われた事だから仕方がないと自分を納得させ、レイジは眠っている門番を起こすために横に移動した。

 

 

そして…

 

 

「起きろっ。」

 

 

もっとまともな起こし方は無かったのかとうかがいたくなるぐらいの勢いで、眠っている門番の頭に思いっきりチョップを繰り出したのだった。

 

 

バシィッと快い打撃音が辺りに響き、いきなりの攻撃を食らった門番は痛みと驚きですぐさま跳ね起きたのだった。

 

 

「痛ぁっ!?ね、寝ていませんよ咲夜さん!?寝ていませんし、しっかりばれないように眼も書いているじゃないですか!?」

 

 

「咲夜はここには居ねぇよ。そして自分で眼を書いた事も言っちまったじゃねぇか、意味ねぇよ。」

 

 

寝起きで状況が掴めて居なかったのか、門番はしばらく眼をぱちくりさせていたが、やがてしっかり開いた目でこちらを見てきた。

 

 

「貴方は確か、私が燃やした落ち葉の炎から出てきた人…ですよね?」

 

 

「そうらしいな。レイジだ。えーと…美鈴(みりん)だったっけか?」

 

 

「みりん!?そんな調味料みたいな名前じゃないですよ!美鈴(めいりん)です!紅 美鈴です!」

 

 

思いっきり名前を間違えたが、とりあえず門番を起こすと言う目的は達成したため、レイジはその後美鈴と二、三語言葉を交わし、寝ないようにと念を押した後、庭の巡回に戻ったのであった。




2話終了です。

次回は戦闘描写をいれる予定ではあります。

ついにレイジの持つチート能力が明らかになる…?


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。