ガールズ&ガンダム (プラウドクラッド)
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0話 少女が見た流星

最初はMS道がいいかなと思いましたが戦艦やMAも登場させたいのでモビル道にしました
よろしくお願いします


モビル道が誕生して100周年を迎えようとしていた…

12月24日 赤道上浮かぶ軌道エレベーター『デラーズタワー』

 

「今トレインに乗った所よ。帰るのは3日後になるから留守中の演習内容は貴方に任せるわ」

 

モビル道の名家西住流の家元、西住しほは娘である6歳のまほと5歳のみほを連れて軌道エレベーター内を通過するリニアトレインに乗っていた。トレインは高度1万kmに位置する低軌道ステーションまで昇降する事ができ、誰でも自由に宇宙へ行く事を可能にしていた。

 

「お母さま、お仕事なのに私達も連れてきてくれてありがとうございます。宇宙へ行くのははじめてなのでとても楽しみです」

 

「いいのよまほ。それよりも明後日母は休みなので行きたいと場所があったら今のうちにみほと話しておきなさい」

 

「お母さんお姉ちゃん!着くまで一緒にボコ見よーよ!」

 

元々二人を連れていくつもりはなかったがいつも留守を頼んでいた家政婦が体調を崩してしまったのと、今のうちに娘達を宇宙へ連れていくべきお思ったので連れていく事を決めた。

 

「駄目じゃないかみほ、お母さまは仕事中いつも難しいニュースを見るから私達も一緒に勉強しなきゃいけないんだぞ」

 

「ヤダヤダ!せっかく一緒におでかけするんだからつまんないのじゃなくてボコ見ようよ!」

 

「ボコは私や菊代さんといつも見てるからいいだろ、今日くらい我慢しろみほのばかっ」

 

「お母さんはいつも仕事でいないからまだ一緒に見てないもんお姉ちゃんのあほ!」

 

「二人とも喧嘩はやめなさい!隣の部屋まで聞こえてたらとても恥ずかしいじゃない!」

 

個室を取っていたので母の怒声は部屋中に響いた…おそらく廊下まで声は響いていただろう

気を紛らわそうとしほはボコのDVDをテレビに映そうとしたらアナウンスが入った

 

『リニアトレインの初期加速が終了しました。今から当トレインは緩やかな減速状態を開始し車内が擬似的な無重力状態になるので席をお外しになる際は十分注意してください』

 

「凄いよお姉ちゃん!体がフワフワ浮かんでる!」

 

「こ、これが無重力なんだ…ってみほ!あまりフワフワしてると頭ぶつけるから戻ってこい!」

 

早速シードベルトを外した二人は初めての無重力を体感していた。しほは自分の仕事のせいで退屈させてしまうのではないかと心配していたが二人ともとても楽しそうにしていたので安心していた。

 

 

低軌道ステーションに到着した3人は日本の時刻ではもう夜だったので重力ブロックのホテルにチェックインを済ませて夕食を食べた。部屋に戻った後しほは明日の仕事の準備とモビル道の近況をチェックしていた。

 

「ねぇねぇお姉ちゃん、サンタさん宇宙にも来てくれるかな?私達の手紙読んでもらえないかな…」

 

「どうだろう…トナカイさんじゃ宇宙まで来れないから別の方法で来てくれると思うけど大変そうだな…」

 

「二人とも早く寝ないとサンタさんは来ないわよ」

 

寝室にいる二人にそう言うとハーイと返事が返ってきた。無論二人のプレゼントは既に用意しており二人が完全に寝入った所で2人の枕元にプレゼントを置いてしほも眠りについた

 

翌日…みほは目覚めると枕元にプレゼントの箱がある事に気づいた

 

「お姉ちゃん起きて!サンタさん来てくれたよ!」

 

「うるさいぞみほ…せっかくカレーの国の王様になれたのに……あ!プレゼントだっ!」

 

二人が箱を開けるとみほにはサザビーのコスをしたボコのぬいぐるみと翼のネックレス、まほにはHG 1/144スサノオと十字架のネックレスが入っていた。

 

「やったねお姉ちゃん!サンタさんホントに欲しい物持ってきてくれたよ!」

 

「そうだなみほ!サンタさんも手紙を読んでくれたみたいで本当によかった…」

 

家政婦から事前に二人が欲しがっている物を聞いたしほはみほがボコのぬいぐるみなのはわかるがまほがあのガンプラを欲していた理由がよくわからなかったがとても喜んでいる顔が見れてとても嬉しかった

しかし何故あの機体なのだろうか…

 

母は今日朝から夕方まで仕事でみほとまほは部屋で留守番する事となり二人でテレビを見たりゲームをしたりお昼にピザを頼んだり勉強をしていた。そんな時間を過ごしていた時

 

「イタッ!」

 

突如みほの頭の中に頭痛が走った

 

「みほ!どうかしたのか!?」

 

ボコで遊んでたみほに何かあったのかと食器を洗っていたまほは心配そうに駆け寄った

 

「なんでもない…今ちょっとだけ頭がへんな感じになったんだけどもう大丈夫だよ」

 

「そうか…びっくりしたぁ…」

 

まほは安心して再び食器を洗い始めた。みほは今のが何だったのかわからなかったがそのまま気にせずボコと遊んだ

 

日本時刻では夕方となり二人が遊んでいるとしほが部屋へ帰ってきた

 

「お母さんおかえり!」

 

「お母さまおかえりなさい。今日はいつもより早いですね」

 

「二人ともただいま。早速だけどこれから新しいガンダムのテストをするらしくて二人にどうしても見てもらいたいらしいから一緒に行きましょう」

 

みほとまほはおめかししてホテルを出てからエレベーターに乗り別のブロックへ移動した。着いた場所は展望ブロックといい、ここでは周辺の宙域を見渡したり地球を眺める事ができた。そしてどういう訳か現在展望ブロックはみほ達以外誰も居らず貸切状態となっていた

 

「凄い…あれが地球なんだ……すっごい綺麗……」

 

「お母さま…私…宇宙に来れてとてもよかったと思ってます…」

 

「フフ、よかったわね二人とも」

 

二人が振り返るとそこにはとても優しそうで穏やかな雰囲気のある女性がいた

 

「千代さん言われた通り二人を連れてきたわ。約束通り案内しなさい」

 

「わかってますよしほさん、その前に自己紹介を二人にさせて頂戴。私は島田千代、島田流の家元で今は貴方達のお母さんと色んな仕事をしてるのよ」

 

「西住まほです、お招きありがとうございます」

 

「に、西住みほですっ、えっと…母がいつもお世話になってます!」

 

「あら二人とも可愛らしいわね。とてもしほさんの娘とは思えないわ」

 

「冗談はそれぐらいにしてさっき言っていたガンダムを見せなさい。千代さんあとで必ずぶつから覚えておきなさい」

 

しほが割と本気で怒っている事に気づいた娘二人は怯えていたがそれを意に介さず千代は誰かと無線で連絡していた

 

「お客様は連れてきたわ、あとはあなたのタイミングでいつでも始めて頂戴。さぁ皆さんこれより島田流の開発した新型MS…ガンダムNT-1のテストを行います」

 

千代が無線で連絡するとみほとまほはガラスに張り付いた二人が見てない隙にしほは思い切り千代をビンタした

 

「お姉ちゃん!モビルスーツだよ!3つもいる!」

 

「あれはゲルググだな。しかしガンダムが出てくんじゃないのかな」

 

ステーションの側に停泊していたムサイけらゲルググが3機、みほ達のいる展望ブロックの近くに展開してきた。

 

「あれは新型の性能を試す為に用意された貴方の門下生ですよね千代さん?肝心の新型はまだなのかしら」

 

「イタタ…既に出撃したと思うのだけれどもパイロットが気分屋な子だから何かあったのかも…」

 

腫れた頬を抑えながら千代は言った

 

「!お姉ちゃんあれ!流れ星だよ」

 

みほが指を指すと宙域に一筋の光が走っていた。しかしその光の主は一方向に動かず様々な軌道を残しながら宇宙を駆けやがてこちらに向かって接近してきた

 

「あれが新型のガンダム…」

 

「やっときてくれたわね」

 

機体の名はガンダムNT-1 通称アレックス。アレックスが接近すると3機のゲルググは連携してターゲットに向けビームライフルを撃った

 

「え!ちょっと千代おばさん!ガンダムにビーム射ったけど大丈夫なの!?危ないよ!」

 

「千代おばさ…大丈夫よ、モビル道に使われる武装は全て安全に配慮されてるしコクピットを形成してるパーツは特殊フレームのおかげで機体が大破してもコクピットは完全に無事なまま帰還できるから安全よ!」

 

「まだみほにはあまり教えてなかったわね。コクピットの特殊フレームはモビル道に使われる武装はおろか、大気圏だって単体で超えれる程の性能を持っているのよ」

 

千代としほが説明するもみほとまほは完全にアレックスの動きに見入っていた。ゲルググが一斉にビームライフルを撃つもののアレックスはそれらを最小限の動きで回避し、かすらせることもなくゲルググの周りを旋回していた

 

「凄い…これがガンダム…ここまで速いなんて…」

 

「凄いねお姉ちゃん…どうしてあんなに避けれちゃうんだろ…」

 

(もっと面白いものを見せてあげよう)

 

「?お姉ちゃん何か言った?」

 

「何も言ってないぞ、どうかしたのか?」

 

そんな事を言ってたらアレックスは3機のゲルググからの射撃を避けると同時に、両腕に装備されたガトリング砲と頭部バルカンを撃ち込み3機のゲルググが持つライフルを全て破壊した

 

「何今の!?お姉ちゃん見た!?」

 

「今のはマジックか…?あんなのテレビでやってた世界大会でも見たことないぞ…」

 

ライフルを破壊されたゲルググ達はビームナギナタを持ち、同時攻撃を仕掛けようとした…がゲルググが仕掛けるよりも先にアレックスはビームサーベルを1機に投げつけた。サーベルはゲルググ1機に命中し撃破判定が出た

 

「普通のパイロットがあんな動きができるとは思えない、まさか…」

 

「貴方の想像通りよしほさん。あの機体にはニュータイプが乗っている…」

 

ニュータイプ…それはアニメ機動戦士ガンダムでは宇宙へ進出した事により新たな力に目覚めた人類と描かれていた。その存在が現実に現れる事はないと誰もが思っていたが、宇宙進出の裏で新たな力に目覚めた人は確かにいたのだ。そして島田家こそ新たな力に目覚めた極一部の人類であり、代々その力を継承してきた。

 

「しかし貴方達の言うニュータイプは所詮普通の人よりも能力が高いだけの存在なのでしょう?少し自分達を過大評価しすぎなのでは?」

 

「相変わらず考えが古いのね貴方は…なら見せてあげましょう。ニュータイプが最高の存在である証拠を」

 

千代は再び無線でアレックスのパイロットに連絡した

 

(みほちゃん、今からもっと面白いものを見せるからよく見ててね)

 

「誰なの…?どうして私の事を知ってるの?」

 

みほの頭の中に誰かの声が届いた

 

(名乗る程の者じゃないよ。君を知っているのは君が特別な存在だからだよ。君は他の人とは違う、素晴らしい力を持っているんだよ)

 

「私が特別…?」

 

「どうしたみほ、もしかしてお腹が痛いのか?」

 

姉には大丈夫と言ったが、確かに誰かの声がみほの頭に聞こえていた。

その時クラッカーで牽制していたゲルググ2機がアレックスを挟み込むように仕掛けた。 ガトリング砲で迎撃するも2機ともシールドを構えながら突撃していたので防いだ。だがシールドで前面を防いだ事で視界から姿を消した瞬間、アレックスは片方のゲルググに急速接近した。突然の接近に驚いたゲルググはナギナタを投げて迎撃するも紙一重で避けられ流れるように機体の脇腹からサーベルを刺し込み撃破した

 

「凄いな…これが島田流のガンダム……」

 

「凄く綺麗……」

 

二人が圧倒されている中、もう1機のゲルググは撃破された片割れが投げたナギナタを手に入れ二刀流となり片方のナギナタを回しながら接近にしていた。しかしアレックスは射撃を行わず何故かゲルググに向かってブーストを噴かせ接近していく

 

「島田流の門下生はあのような無謀な突撃を許さないはず…何か策でもあるの…?」

 

「これじゃガンダムが落とされてしまう…」

 

誰が見てもアレックスに不利な状況の中、千代だけは笑みを浮かべていた。双方が格闘の間合いに入る直前ゲルググは2本のナギナタで曲芸を踊るように接近した。刃はアレックスを完全に捉えたと思われたが、一瞬だけ鍔競り合いの光が生じた

 

「受け止めた?いやしかし…」

 

防御した所でもう一つのナギナタに切られて終わり…しほはゲルググが勝利したと思った

 

 

しかしアレックスは受け止めた一瞬の内にナギナタをいなして生々しい動きでゲルググの右脇から背後に回り込みサーベルを刺した。これにより最後のゲルググにも撃破判定が出た

 

「テスト終了。お疲れ様美香、帰投しなさい」

 

「ありえない…あんな動きをして中のパイロットが無事な訳がない…」

 

「3対1なのにガンダムが勝ってしまったぞ…」

しほは情報を処理しきれずまほもかなり衝撃を受けていた。しかしみほだけは目を輝かせてアレックスをじっと見ていた。

 

(そんなに見つめないで欲しいな、少し恥ずかしいじゃないか)

 

「!ひょっとしてあなたがガンダムを動かしてたの?」

 

再びみほに謎の声が聞こえた

 

(そうだよみほちゃん。君にはどうしても見て欲しくて私がここに読んで欲しいとお母様にお願いしたんだ)

 

「どうして私の事を知ってるの?」

 

(それは君が宇宙へ上がってきた時感じたんだよ。私達と同じ力を持てる人がいると…そして今日それが君である事がわかったんだ)

 

あの時の頭痛はこの子のせいだったときづいた。

 

「おいみほ、本当に大丈夫なのか?帰りたいならお母さまに伝えてこようか?」

 

「なんでもないよお姉ちゃん!気にしてないで!」

 

(君のお姉さんには君とは違い普通の子みたいだね…特別な力を持てるのは君だけのようだ)

 

「特別な力ってなんなの?全然わかんないよ」

 

アレックスはみほ達のいる展望ブロックに近づいてきた

 

(私がチカラを貸してあげよう…君がニュータイプになる為のね)

 

その時アレックスの方から少女の霊体のようなものが近づいてきてみほを抱きしめた。この時暖かい感覚がみほを包み、様々な映像がみほの中を駆け巡った。悪魔のような子、家族との別れ、そして新しい出会いから生まれた新たな悲劇…

 

「何なのこれ……」

 

みほには何が何だか全くわからなかった。ただこれがもしかしたら将来の自分と関係があるのではないかと思いとても怖くなった。やがて少女の霊体は離れアレックスの中へ消えていった

 

(これで終わりだよみほちゃん。君も私達の仲間…ニュータイプになれたよ)

 

「私がニュータイプ…?」

 

(その力を使えれば君は神様になることだってできるんだよ。それじゃあ私は帰らせてもらうよ)

 

少女がそう言い残すとアレックスは去っていった。

 

「みほ、一体誰と話していたんだ?ここには私達誰もいないのに」

 

「あ…あの子の名前聞いてなかったな…」

 

まほはみほに何があったのかわからなかったから余計心配だった

 

「今日は見学させてくれてありがとうございました。新型と島田流のニュータイプの力…思い知りました」

 

「いいんですよしほさん。それよりあの新型のパイロット、私の娘なんです」

 

「…なんですって!貴方の娘さんはうちのまほと同い年だったはずよ!」

 

普段は冷静な母が私達以外に怒りをあらわにしているのを見てみほとまほは驚いた

 

「どんな危険があるのかもわからないのにMSに乗せてるなんて…ましてや宇宙でも操縦させるなんて貴方は何を考えているの!」

 

「しほさんの考えは至極真っ当よ、だけどあの子は…美香は特別なのよ。あの子のニュータイプとしての素質はこれまでの島田家の中でも最高クラス…既にニュータイプとしての能力は私を上回っているのですよ」

 

「だとしても早すぎるわ…いくら何でもまだ小学校にも入ってない子に…」

 

「私達島田流は己を高めるモビル道を貫くためにもこうする必要があるのよ…こらから先の人類をニュータイプが導くためにも…」

 

「それは貴方自身が望んでいることなの?古い大義のために家族を傷つけてしまうなど家元として…母親として許されるはずはありません!」

 

「いい母親ですねしほさんは。しかし貴方達のような力を持たない者同士がわかり合う事は何よりも難しく残酷な事なのよ…そんな悲しいことを無くすために私達の力は必要なのよ」

 

「…もう帰ります、今の貴方には何を言っても無駄なようね」

 

しほは何も言わずみほとまほを連れて帰った。二人は母が何も言わずとも怒っていることはわかった。他のブロックへ続くエレベーターに着くまで重い雰囲気が続いた

 

「ごめんなさい二人とも。母はどうしても納得のいかない事ばかりで感情的になってしまったわ」

 

エレベーターに乗ると母が口を開いた

 

「気にしてないでくださいお母さま。今日は一緒に見学する事ができて楽しかったです」

 

「ありがとうまほ……みほ?どうかしたの?母はもう怒ってませんよ」

 

「違うのお母さん…なんでもないの…」

 

その時珍しくみほの元気がなかった。私に怯えているのかと思ったがそうではないようだし一体何が…

 

「それより二人とも夕食を食べに行きましょう。母はとてもお腹が減りました」

 

「あ!私も!」

 

「わ、私もですお母さま!」

 

それから3人は夕食を食べに行き食事中に明日どこへ観光しにいくか話し合った。この2人も私の娘である以上いつけモビル道を始める。そうなればこの幸せな時間もさらに少なくなってしまうだろうからしほは大切に過ごそうと思った…

 

 

 

 

 

「美香、テスト中誰かと交信していたようだけど何をしていたの?」

 

新型のテストが終わった後、千代と娘の美香はステーション内にある島田家の別荘に帰っていた

 

「その事なのですがお母さま、ついに私達以外にも新たなニュータイプが生まれました」

 

「!それは本当なの美香?一体誰がニュータイプに…?」

 

「西住家の次女、西住みほ。彼女から強いニュータイプとしての素質を感じたので私が目覚めさせようと思いました」

 

千代にとってはあの西住流の娘がニュータイプになった事よりもこの子が覚醒させたという事が何よりも衝撃だった。千代は今日西住家の親子がとても羨ましく思った。今まで美香と遊んであげたり楽しい思い出になるような事を殆どしてあげれなかった。しほの言う通り私は母親失格なのだろう

 

「美香…本当は私を恨んでいるでしょう?まだ小さいのに私達島田流の運命に付き合わせて…」

 

「そんなまさか、私は島田流の力になれてとても嬉しいです。それに私には愛里寿がいます。愛里寿とお母さまがいる限り私は幸せなので心配しないでください」

 

本当に偉い子だ。千代はこの子に頼りすぎている自分がただ情けなかった。それでもニュータイプとして完璧である彼女の力は必要だった

 

「それではお母さま。私は愛里寿に子守唄を歌ってきます」

 

「ありがとう美香、貴方も今日はもう休みなさい」

 

美香はカンテレを持って愛里寿のいる寝室へ向かった。千代はアレックスの戦闘データの整理を始めた

 

 

蒼く眠る水の星にそっと 口づけして生命の火を灯す人よ

時という金色のさざ波は 宇宙の唇に生まれた吐息ね

 

 

美香は歌う事が好きだった。愛里寿も美香の歌を聴いて喜んでいた。この時間は島田家にとってとてもかけがえのない瞬間であり彼女達の人生には必要な事だった……

 

 

 

 

 

 

翌日みほ達3人はステーション内のテーマパークに行き買い物を楽しんだ。そして楽しい時間は終わりを迎え地球へ帰る時間になった。しほは来た時と同じ様にトレインに乗り込みの発車時間を待っていた

 

「楽しい旅行をありがとうございましたお母さま。最高の思い出になりました」

 

「私も楽しかったよお母さん」

 

2人は嬉しそうにお礼を言ってくれた。しほ自身も2人との旅行をとても楽しむことができこのまま帰るのがおしかった

千代と仲違いするつもりはなかったが今回の出来事で彼女の事がますますわからなくなってしまった。しかしニュータイプの持つ能力が自分達よりも圧倒的に上を行くことは認めざるを得なかった。彼女達の大義は理解できない

 

「地上に着いたら熊本までMSに乗るので母は少し寝るわ」

 

「わかりましたお母さま。みほも静かにしてなきゃだめだぞ」

 

みほはうんとだけいいテレビでボコのDVDを見ていた。しかしみほの頭はあの少女の乗っていたガンダムでいっぱいだった。そして自分の中に生まれた特別な力というものもわからなかった

 

「お姉ちゃん…私って何か変なのかな…なんだかよくわからないことばかりで不安だよ…」

 

「みほ…」

 

まほはみほを抱きしめた

「おまえは何も変じゃないよ。怖い事や不安な事があってもお姉ちゃんはいつでもおまえの味方だから安心してくれ」

 

とても嬉しかった。これから先悲しい事が起きても姉が守ってくれるなら心強いと思えた。

その時トレインが発車し、みほ達は低軌道ステーションから地球へ向かった。しほは先程からずっと眠っていたので起こさないようみほとまほは過ごしていた

 

(みほちゃん見送りに来たよ。外を見て)

 

(!あの子の声だ!)

 

みほは思わず廊下へ飛び出した

 

「コラ!みほ!勝手に外に出ちゃだめだ!」

 

「ちょっとトイレ行ってくる!」

 

みほは嘘をついて廊下へ出た。個室が多くあるエリアから色々な扉を開けていたら展望ブロックの様に宇宙を見渡せる場所へ出た。みほが窓の外を探すと遠くで輝く光…ガンダムが見えた

 

「ガンダム……」

 

(君のニュータイプの力が更なる覚醒を迎えた時、私から君に会いに行こう)

 

流れ星のように消えていくガンダムの光を、みほはただじっと見ていた

 

 

 

 

 

 

時は過ぎみほとまほは成長しモビル道に励んでいた…しかしある事件をきっかけにみほはモビル道を捨てるため大洗女子学園に転校する

次回 ガールズ&ガンダム『軍神降臨』

少女は神様なんかより普通の女の子でいたかった

 

 




読んでいただきありがとうございました

次回はいきなりガルパンの本編1話に時代が飛びます


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第一章 ニュータイプの声
1話 軍神降臨


色々詰め込みすぎて長くなりました申し訳ございません

今回もよろしくお願いします


とある世界の近未来

春になり学校は新学期が始まったばかりの朝…

 

 

 

「うぅん…ピーマンいらないよ……」

 

少女は寝言を漏らしながら幸せそうに眠っていた。やがて目覚まし時計のアラームが鳴り始め徐々にボリュームを上げていった

 

 

「ふにゃふにゃ……うぅん…?……ふぇ!わわわわわ!」

 

慌ただしくベッドから飛び出て少女は急いでパジャマを着替えようとしたが何かを思い出し手を止めた…

 

 

「そっか…もううちじゃないんだ!」

 

 

少女の名前は西住みほ。数日前にここ大洗女子学園へ転校し、学生寮で一人暮しを始めたばかりであった。みほは支度を終えると戸締りしたか確認して学校へ向かった。太陽が暖かく輝き心地よい風が吹いていて何かいい事が起きそうな朝だとみほは感じていた

 

 

「んん〜♡焼きたてのパンのにおい…♡」

 

 

「アラ、おはようお嬢ちゃん。悪いけどまだウチのお店まだ開いてないのよねぇ…」

 

 

「ひゃあっ!お、おはようございます!ご、ごめんなさい変な事言って!」

 

 

パン屋の前を通りかかると店の前を掃除していた中年男性に声をかけられ油断していたみほは飛び上がるように驚いた

 

「いいのよいいのよそんな気にしなくたって。お嬢ちゃん見ない顔だし新入生でしょ?うちのパンはいつでも焼きたてだから食べに来てね!」

 

《ぐっどパン屋》…今度買い物に来ますと伝え男に見送られてその場を後にした。

…がその途中で工事の看板に思い切りぶつかってかなり心配されたが笑って誤魔化し再び学校へ向かった。

 

 

 

 

 

午前の授業が終わり昼休みの時間になり、生徒達はそれぞれ友達同士で昼食を食べるために次々と教室から出ていった

 

(もうお昼休みかあ……どうしよう……)

 

みほは小さい頃はとてもやんちゃだったが成長するにつれどんどん内気な性格になっていた。だから自分から誰かに話しかける事もできず一人で過ごす事が多かった。

 

ぼんやりしていると皆教室から出て行ってしまいみほは取り残されてしまった。今日も一人で過ごす事になる……しかしそれは逃げ出した自分にとって仕方の無い事だと思えた。以前の仲間や家族を裏切ってこの学園へ来たから自分の力でどうにかするしかなかった。

ただそれでも一人ぼっちというものは辛く未来への不安が無限に積もっていくように感じていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘイ彼女!一緒にお昼どお?」

 

突然後ろから声が聞こえた。周りを見回したが自分以外には誰も居らず、振り返ると同じクラスの子が二人こちらを見ていた

 

「ふえぇ!?」

 

「ほら沙織さん、西住さん驚いていらっしゃるじゃないですか」

 

「あ、いきなりごめんね」

 

初めて同じクラスの子から話しかけられた…みほはその衝撃に放心しかけていた

 

「改めまして宜しかったらお昼、一緒にどうですか?」

 

「…え!?私と…ですか!?」

 

昼食のお誘いとわかるとみほはなんとか意識を復活させた。二人は頷きみほを連れて食堂へ向かった

 

 

「えへへ、ナンパしちゃった」

 

「私達一度西住さんとお話してみたかったんです」

 

「え!そうなんですか…?」

 

再び衝撃的な言葉が飛んできてみほは目を開いた。まさか自分を気にしている人達がいたとは…

 

「なんか私西住さんから不思議な感じがしてね、色々話がしたかったんだ」

 

「不思議な感じ…?」

 

この時彼女の言う不思議な感じが何かわからなかった

 

「あ!私の名前はね、」

 

 

「武部沙織さん、6月22日生まれ。五十鈴華さん、12月16日生まれ」

 

 

「へえー誕生日まで覚えててくれたんだ!」

 

「あ…うん、私昔から人の名前を覚えるのが得意なんだ」

 

みほは変な事を言ったと少し後悔したが二人には気にしないどころか嬉しそうであった

 

「そうだ!名前で呼んでいい?」

 

「…へ?」

 

「みほ、って呼んでもかまいませんか?」

 

「……凄い!友だちみたい!」

 

みほは踊りたくなる程嬉しかった。新しい環境で友達ができるかただただ不安だったから……まるでモノクロに見えてた世界がカラフルに色付いたかのようだった。3人はそれぞれ注文した物を受け取り席へ向かった。

華のお盆には山盛りのご飯とラーメンに大皿いっぱいにの野菜炒めがあった…正直完食できるかよりもなぜ普通に持ち運べているのかが不思議だった…

 

 

「よかったあ友達ができて。私一人で大洗に引っ越してきたから」

 

「そっかー、人生色々あるよね!泥沼の三角関係とか告白する前に振られるとか好きな男が全然女の子として見てくれないとか!」

 

「えぇ……」

 

「じゃあご家族に不幸が?骨肉の争いですとか失踪したお兄さんを探して旅をしているとか…」

 

「そういうわけでも…」

 

2人の推測は少しだけ変わっていた。そもそもみほには一握りの天才のような男について行くような事も巨大兵器と共に失踪するような身内もいなかった

 

「んー、じゃあ親の転勤とか?」

 

みほは本当の事を言えなかった。言ってしまうとこの場の雰囲気が悪くなる気がした。沙織と華はそれを察してくれてすぐ話を変えてくれた。

 

「そうだ!今日帰りお茶してかない?」

 

「え!女子高生みたい!」

 

「女子高生ですって」

 

3人はその後も楽しくお喋りしながら昼食を食べ進めた

 

 

 

 

 

大洗女子学園生徒会室にて…

 

「それは一種の情報操作ではないでしょうか…」

 

「だいじょぶだいじょぶ」

 

「わかりました。直ちにとりかかります」

 

「結構やばいなと思ってたけど…いい切り札見つけちゃった」

 

みほの生徒データを端末で見ながらツインテールの少女は笑みを浮かべた

 

 

 

3人はお昼を食べた後教室に戻り午後の授業が始まるまで色々な話をしながら待っていた。その時突然3人組の生徒が教室へ入ってきた。3人組のうち片眼鏡の子がみほの方を見て干し芋を食べてるツインテールの少女に耳打ちをした

 

「やぁ!西住ちゃん!」

 

「ふぇ?えっとあの人て…」

 

「うちの生徒会長の角谷杏さん…あと副会長の小山柚子さんと広報の河嶋桃さんだよ」

 

「西住さんに何か御用ですか?」

 

沙織と華は生徒会が突然教室に来て少し異変を感じた。生徒会が自ら生徒の元へ出向く事など今までなかったからである

 

「少々話がある…来てもらおうか」

 

みほは生徒会の3人に廊下へ連れていかれた

 

 

 

「ねぇ西住ちゃん、必修選択科目なんだけどさぁ…モビル道取ってね。よろしく」

 

生徒会長からとんでもない言葉がとんできた

 

「え……この学校はモビル道の授業は無かったはずじゃ……」

 

「今年から復活することになった」

 

片眼鏡の言う事が信じられなかった。ここまで運の悪い事が今まであっただろうか

 

「わ、私この学校がモビル道がないと思ってわざわざ転校してきたんですけど…それに必修選択科目って自由に選べるんじゃ……」

 

「いやぁー運命だねぇ。それに西住ちゃんってさぁ…………ニュータイプなんでしょ?」

 

「……え?」

 

最悪だった。一番知られたくない事が既に漏れていた

 

「とにかくよろしくねー」

 

会長がそう言い残し生徒会の3人は去っていった。事の一部始終を見ていた沙織と華だが生徒会が何を言っていたかはわからなかった…がみほの様子が明らかにおかしくなっていた事には気づいた

 

 

 

午後の授業が始まった。しかしみほはずっと考え事をしていた

 

(どうしよう……このままじゃまた前みたいな生活になっちゃう……もう転校するしかないのかな……)

 

念願の友達ができて普通の女の子としてこの新しい場所で生活していける……そう思ったのに

 

「次の問題西住さん…西住さんどうしたの!?」

 

みほの目からは涙が流れていた。先生が心配そうに声をかけるとクラスの子もそれに気づきざわめき始めた

 

「先生!西住さん具合悪いみたいなんで私保健室に連れていきます!」

 

「私も付き添わせてください!」

 

沙織と華は速やかにみほを連れて保健室へ向かった…

 

 

 

 

「西住さん、こちらにお掛けになってください」

 

「あ、ありがとう…」

 

「先生はちょっと出て行ってください!」

 

「いきなりなんだお前たち!今は授業中のはずだろ!?」

 

「いいからここは空気読んで部屋から出てください!」

 

保健室に着いて華はみほをソファに座らせ沙織は保健室の先生を部屋から追い出していた。みほは涙は止まっていたが先程と同じように浮かない顔をしていた。

 

「みほ大丈夫?何か生徒会長に酷いこと言われたの?」

 

「よかったら話してください」

 

みほは大きく息を吐いてから事情を話した

 

「実は今年度からモビル道が復活するらしくて……それで私にモビル道選択するようにって……」

 

「モビル道とは男女が嗜む伝統的な武芸の?」

 

「えー、それとみほになんの関係があるの?」

 

「……うちは代々MS乗りの家系で…だけどあまりいい思い出がなくて嫌な事ばかりで……私モビル道を避けてこの学校に転校して来たんだよね…」

 

この話はあまりしたくなかった。思い出したくない事も思い出してしまいそうで怖かった

 

「うーん…それなら無理にやらなくていいじゃん。第一モビル道なんて今どきの子はやらないし、みほの事泣かせるなんて許せないよ!」

 

「生徒会にお断りになるなら私達も付き添いますから。だから元気を出してください」

 

2人の優しさが嬉しかった。ここまで自分の事を想ってくれる友達ができて本当に嬉しかった。また涙が溢れてきたみほは彼女達の優しさに甘え思い切り泣いた。その間2人は黙って傍にいてくれた……

 

 

 

授業の終わりを告げるチャイムが鳴った

 

「二人ともありがとう。私はもう大丈夫だよ」

 

「いいんですよみほさん。元気になってくれてよかったです」

 

「よかったよかった!後はホームルームだけだし教室戻ろっか」

 

しかし突然放送が入った

 

『全校生徒に告ぐ。至急体育館へ集合せよ』

 

「生徒会の人だ……一体何なんだろう… 」

 

3人は保健室からそのまま体育館へ向かった。体育館には既に他の生徒は集められており生徒会がステージの上に立っていた

 

「全員静かに。これより選択必修科目のオリエンテーションを始める」

 

生徒会が去るとステージ上のスクリーンに映像が流れ始めた

 

 

〜『モビル道入門』〜

 

テロップが消えると映像はどこかのスタジオに切り替わった。

 

『おいシャア…本当にこれは俺達がやらなきゃいけないのか?正直他の人間に任せていいと思うが…』

 

『それは違うぞアムロ。未来の若者達にモビル道を知ってもらうためにも我々が動かなければならない。ギュネイ、カメラは任せたぞ』

 

すると脇からノースリーブ軍服姿にグラサンをかけた男と青のスーツを着た天然パーマの男が現れた

 

『皆さんこんにちは。私は世界モビル道連盟のシャア・アズナブル大佐だ。今日は皆にモビル道が何なのかを説明するためにここに来た』

 

『僕の名前はエターナル・アラン・レイ大尉です。今日はクワトロさんのサポートのために来ました』

『エターナルとは中々洒落た偽名を使うではないかアムロ。おまえも立場の隠し方というのがわかってきたようだな』

 

『このVTRでは皆さんにモビル道の歴史について軽く知ってもらいたいと思ってます』

 

『マスクを付けるとより自分を隠せている感じがしてオススメだぞ。試しに私が昔付けてたやつを使うか?』

 

『五月蝿いぞさっきから!あんまりふざけられるなら帰るぞ!』

 

かなりグダグダな進行に体育館は微妙な空気になってしまった

 

「ねぇみほ…モビル道やってる男子って皆こんな感じなの…?」

 

「いや…そんな事はないと思うけど…」

 

「会長…制作が連盟の物だからとはいえ確認するべきでしたかね……」

 

「うーん……なんか面白いからいんじゃない?」

 

『大佐、一応本番なのでそろそろまじめにお願いします』

 

『了解した。では映像を切り替えてくれ』

 

映像がスタジオから宇宙へ切り替わった。

 

『モビル道…それは宇宙へ進出した人類の伝統的な文化であり世界中で男女の嗜みとして受け継がれてきた…』

 

シャアという男のナレーションと共に様々なMSや戦艦で試合をしている映像が流れた。

 

『勇気や未知なる可能性を持ち…どんな困難にも立ち向かえる少年少女を育成する武芸でもある…さらにモビル道を学ぶ事は女子の道を極めるという事でもある!MSのように熱く激しく……戦艦のように大きな優しさを持ち……MAのように我々男子を導く存在になれるのだ!』

 

映像に出ていたアプサラスから大出力のメガ粒子砲が発射され生徒から歓声が上がった

 

『おい!なんか台本と随分違う気がするぞ!』

 

『本番中だぞアムロ!…モビル道を学べば必ずや良き妻良き職業婦人……良き母親になれることだろう!』

 

ナレーションのテンションがさらに上がる

 

『健康的で優しく逞しい君は多くの男達に好意を持たれ…求められ…やがて君を賭けた争いが始まるだろう…!』

 

言ってる事がめちゃくちゃな気もしたがその言葉に沙織はときめいてしまった

 

『少し暴走し過ぎじゃないか…?これじゃクレームが来てもおかしくないぞ』

 

『何、伝えるべき事は伝えたさ。さぁアムロ次はお前の番だ』

 

『…わかったよ。それでは僕からはモビル道のルールについて話したいと思います』

 

カメラはエターナル…アムロという男の方へ向いた

 

『先ずモビル道とはアニメ機動戦士ガンダムにおいて宇宙世紀0079〜0083までの兵器を使用する武道です。地上や宇宙でMSやMA…それらを収容する戦艦を動かす事が基本となります。もちろん使用される火器は十分環境やご自身の安全に配慮されています』

 

『しかしアムロ先生!MSはビーム兵器を持っています!それにもし宇宙に投げ出されたら帰って来れなくなるかもしれませんよ!』

 

シャアが突然質問をぶつけてきた。VTRを見てた生徒達にはこれが気になっていた子が多かった様でスクリーンに注目した

 

『(こいつ………)安心してくれて大丈夫です。使われるビームは全て熱線や光学兵器ではなく質量のない有視光線であり、モビル道に使われる装甲のみ内蔵されたセンサーがこの光線に反応することによって分離されます。尚コクピットは超頑丈なフレームで作られておりモビル道の火器はおろか実物のミサイルさえ受け付けず、MSが宙域で撃破されるとコクピットのみ離脱して回収班に位置を知らせる機能を搭載してます。尚、宙域での活動中は内側から開けない限り絶対にハッチは開かないので突然開くこともありません』

 

『うむ。要するにビーム兵器は全てモビル道に使われる装甲のみ破壊でき、コクピットがパイロットの安全を完全に確保しているという事だな?』

 

『そう言う事です。他にもわからない事があったらいつでも我々に連絡してください。皆さんのモビル道を応援してます』

 

『君達もモビル道を学び…心身ともに健やかで美しい母親になろう…!来たれ乙女達!ジークジオン!』

 

『(ジークジオンじゃないよこのマザコン!あーもうこいつのせいで俺まで処分を受けなきゃいけないのか……)』

 

〜Fin〜

 

 

 

 

映像が終わるとステージが爆発し生徒会の3人がステージ上に登った。スクリーンには必修選択科目の届け出が映されておりモビル道の欄だけ一際大きく印刷されていた。沙織と華は表には出していなかったがモビル道に大きく興味を抱いてしまった事をみほは察した

 

「実は数年後にモビル道の世界大会が日本で開催される事になった。そのため文科省から全国の高校にモビル道に力を入れるよう要請があったのだ」

 

「で、うちの学園もモビル道を復活させる事にしたんだ。選択してくれると色々特典を付けようかと思うんだ」

 

「成績優秀者には食堂の食券100枚…イケメン教官との一日デート券…さらに通常の授業の3倍の単位を与えます!」

 

副会長から発せられた特典の内容に皆衝撃を受けた。沙織はイケメン教官とデートと聞いた瞬間目の色を変え華は食堂の食券100枚が何週間分か計算していた。

 

「という訳でよろしくっ!」

 

生徒会がステージから降りていきこうしてオリエンテーションは終わりを迎えた…

 

 

 

 

放課後になり3人は帰りにケーキ屋さんに寄りケーキを食べていった。沙織と華はモビル道の事を話に出さなかったが何となく2人共モビル道をやりたいと思っていると感じた。

 

寝る前にみほはまたモビル道をやるか考えた。しかしモビル道の事を考える度に、あの日の事件と悪魔の様な少女の声を思い出してしまった

 

(せっかく黒森峰から逃げて来たのに…またモビル道始めて辛い思いをするの…?)

 

もう1人の自分が囁いてきた

 

(もう二度とモビル道やらないんじゃなかったの…?それに逸見さんとお姉ちゃんがっかりするだろうな…)

 

耐えられなかった。決勝戦での事件以来……そして不思議な力を手に入れたあの日からどんどん自分の世界がおかしくなっていった事に。家元としてモビル道を強制され、周りから特別扱いされ、自分のせいで仲間が傷つき、守ってくれると約束した姉は強くなるとだけ言い家から出ていった…

 

 

 

「ごめんね……私…どうしてもモビル道だけはしたくなくてここまで来たの…!」

 

翌日の朝、みほは沙織と華と必修選択科目の届け出を見せて向かい合っていた。届け出にはモビル道とは別の科目に丸を付けていた

 

「…わかった。ありがとう、みほ」

 

「ごめんなさいね。悩ませてしまって」

 

すると2人もみほと同じ科目に丸をつけた

 

「私達もみほのと一緒のやつにするよ」

 

「そんな!二人とも本当はモビル道やりたいんでしょ!?私の事はいいから!」

 

「いいんですよ。それに私達がモビル道をやるとどうしても西住さんに思い出したくない事を思い出させるかもしれません。お友達に辛い思いはさせたくないです」

 

「私好きになった彼氏の趣味に合わせる方だから大丈夫!だからもう心配しなくていいんだよ」

 

2人の優しさが心に染みた。みほは本当に素晴らしい人達が友達になってくれた事に改めて感動した。

 

 

 

 

 

昼休みになり、また3人で食堂に行き食事をしていると突如不穏なアラーム音と共に放送が入った

 

『普通Ⅰ科西住みほ。普通Ⅰ科西住みほ。至急生徒会室まで来ること』

 

声の主は広報の河嶋桃だった。おそらく必修選択科目の件についてだろう…

 

「私達も一緒に行くよ!」

 

「落ち着いてくださいね」

 

3人は一緒に生徒会室へ向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーんで選択してくんないのかねー」

 

「我が校、西住みほ以外にモビル道経験者は1名しかいません」

「終了です…我が校は終了です!」

 

「勝手な事言わないでよ!みほはモビル道なんてやんないんだから!」

 

「やりたくない人を無理にやらせるなんて生徒会でもそんな非道は許されるはずがありません!西住さんは諦めてください!」

 

生徒会室に入るとすぐに、沙織と華は生徒会と戦ってくれた。

 

「……そんな事言ってるとあんた達この学校にいられなくしちゃうよ?」

 

「何よそれ…」

 

「脅すなんて卑怯です…」

 

「脅しじゃない、会長はいつだって本気だ」

 

「今のうちに謝った方がいいよ…」

 

本当は2人ともモビル道をやりたいけど自分に合わせてくれた…なのに今2人が最悪な状況になりみほはまた考え始めた…私が始めると言えば2人は救われる…けれど…

 

(始めてもいいよ。この学校でモビル道)

 

もう1人の…特別な力を持つ自分の声が聞こえてきた

 

(そのかわり私はもうでてこないから…私はもう誰も傷つけたくないから…)

 

あの事件のせいで分離したもう1人の自分がそう言った…

 

(それに感じるんだ…今始めないとこれから先一生後悔するって…だからもう行っていいんだよ)

 

最後にそう言い残し彼女は心の奥へ消えていった。みほは大きく息を吸い込んだ

 

「あの!私!」

 

みほの大きな声に皆注目した。

 

「モビル道……………………やります!」

 

「「ええぇ〜〜〜〜〜〜!!!!!!」」

 

みほの出した答えに沙織と華は驚愕した。柚子は涙を浮かべながら安堵し、桃と杏はとりあえず一安心といった顔をしていた

 

 

 

 

その日の放課後、3人はアイスクリームを食べに来ていた

 

「本当によかったんですか?」

 

「無理しなくてもいいんだからね?」

 

「大丈夫だよ。私嬉しかった…2人が私のために一生懸命になってくれて……そんなの始めてだった。今まで誰も私の気持ちなんて考えてくれなかったから…」

 

沙織と華はみほの全てを知った訳ではないがますます可哀想に思った。2人はそんな彼女を慰めてあげたかった

 

「はい!私のさつまいもアイスチョコチップ入り!あーんして!」

 

「私のはミント入りです」

 

2人のスプーンが同時にみほの口へ運ばれた

 

「…ふわぁ…美味しい!どっちも!」

 

「みほのもちょうだいよね」

 

「プレーンもいいですよね」

 

「2人共そんなに取るとなくなっちゃ……華さん結構持ってたね!?」

 

3人はその後も色々な事を喋り合いながら同じ時を過ごした。みほは本当に普通の女の子になれた気がして嬉しかった

 

 

 

 

 

 

翌日……ついにモビル道の授業が始まる時が来た。生徒達は大きな格納庫が置いてあるグラウンドに集められた

 

「思ったより集まりませんでしたね」

 

「全部で18人…私達を入れて21人」

 

「ま、何とかなるでしょ。経験者の子が2人もいるしね」

 

「いよいよ始まりますね」

 

「これ以上モテモテになったらどうしよー♡」

 

「ははは…」

 

みほは集まった他の生徒の方を見た。直感でマフラーをしている子が経験者であるとわかった

 

「それでは、これよりモビル道の授業を開始する」

 

「あの……MSって何ですか?ゲルググですか…?それのも…」

 

後ろにいた女の子が質問をした

 

「えっと……なんだったっけな…確か結構凄いやつだったと思うけど……」

 

 

 

格納庫のシャッターが上がっていくと……そこには所々汚れていた黒いガンダムがハンガーにセットされていた

 

「何コレ…」

 

「汚い……」

 

「ありえない……」

 

「わびさびでよろしいのでは…」

 

「わびさびというか錆びというかただ汚いだけだよね…」

 

「西住ちゃん!実はコクピットの部分だけこの前いじって動かせるようにしてあるから動かしてみて!」

 

「わ、わかりました…」

 

みほは会長に頼まれるとハンガーに備え付けられた梯子を登った。

 

「みほー!頑張ってー!」

 

梯子を登り終え、みほは機体のコクピットハッチを開け中へ入った。コクピットの中は意外と清潔で破損も見られなかった。シートに座りその他の機能に異常がないが確認した

 

「会長!危ないので皆さんを外へ出してもらっていいですか?」

「おっ!了解だよー西住ちゃん!皆1回外でよっか」

 

会長がみんなを格納庫の外へ出しみほはコクピットハッチを閉めた

 

 

 

(お姉ちゃん……お母さん……ごめん……私行くよ……)

 

みほはガンダムを起動させた。起動音とともにガンダムの目に光が灯った

 

「システムオールグリーン…バランサー正常…動ける……」

 

みほはガンダムを一歩一歩、ゆっくり前進させ格納庫から校庭へ出た。

 

「凄ーい!超大きいんですけどー!」

 

「こんなに高いと何でもブロックできそう…」

 

「流石に大阪城程では無いな…」

 

(黒いガンダム……もしかしてRX-78-1なんじゃ…)

 

「みほ凄いじゃん!あんなの動かしてるなんて!」

 

「とても大きいですね…みほさん逞しいです…」

 

「ついに始まりますね会長」

 

「あぁ…とても楽しみだよ」

 

 

春の太陽に照らされ…ついにここ大洗女子学園艦の地に大洗のガンダム……プロトタイプガンダムが立ち上がった…!

 

 

 

 

 

 

ついにモビル道が再開した大洗女子。しかし現実は思っていたよりも過酷であり、過去はみほを逃す事を許さなかった…

次回 ガールズ&ガンダム『探し物』

この新たな道で、少女達は何を見つける

 

 




読んでいただきありがとうございました

詰め込みすぎて長くなってしまい改めて申し訳ありませんでした
次回は短くなるよう頑張りたいです


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2話 探し物

遅れましたが華さん誕生日おめでとうございます!ガルパンの中で一番かっこいいキャラだと思うので最終章がかなり楽しみです

今回もよろしくお願いします


みほはプロトタイプガンダムを皆の近くで止めた。起動は問題なくできてモニターも正常に映り、歩行も順調に行えたのでみほは他のシステムに問題がないか確かめた。マニュピレーターの動きやバーニアとスラスターに異常は無かったがかなり致命的な欠陥を見つけてしまった

 

「皆さん!機体を座らせるのでちょっと離れてください!」

 

みほは皆が離れてから機体を停止させ、コクピットを開いた。ハッチを開きガンダムの掌に乗り、皆のもとへ降りた

 

「お疲れ西住ちゃん。それでガンダムはどうだった?」

 

「それが…射撃プログラムが全てダメになっていて…武装を持つ事すらできないみたいです…」

 

「…つまりこのガンダムはビームライフル等の射撃武装が使えないということか?」

 

桃は少しがっかりしてるような様子だった

 

「はい…でも頭のバルカンは大丈夫そうでした」

 

「ガンダムが凄く強い機体って聞いてたから期待してたのに……」

 

「へー、やるじゃん小山。座布団1枚!」

 

「さしずめ砲塔を奪われたティーガーと言ったところか」

 

「この時代で刀にこだわるとは薩摩隼人に違いないぜよ」

 

「刀こそ武士の必需品…これぞ武士為に用意されたガンダム…!」

 

「いや、周りは遠慮なく飛び道具を使ってくるからこれは敗者のための機体だろう」

 

「「「それだ!!!!」」」

 

「ていうかこれ一つしかMSいないじゃん?」

 

沙織の言う通り確かに他の格納庫にMSはいなかった

 

「えっと…この人数なら…」

 

「船のクルーも確保したいので最低でも10機は必要です」

 

「ん〜〜〜じゃあ皆でMS探そっか」

 

会長の言葉に皆ざわついた

 

「探すって…」

 

「どういうことですかぁ?」

 

「我が校において何十年も前にモビル道は廃止になっている。だが当時使われていた機体がまだどこかにあるはすだ。明後日モビル道の教官がお見えになるのでそれまでに可能な限り機体を見つけ出すのだ」

 

「…して一体どこに?」

 

「いやーそれがわかんないから探すんだよねー」

 

「手掛かりとかないんですか?」

 

「無い!」

 

「では捜索開始!」

 

 

なんと無茶な注文なんだ……そう思いつつ皆しぶしぶ歩き始めた

 

「なんか聞いてたのと話が違う……モビル道やればモテるんじゃ…」

 

「かっこいい教官来るから。もしかしたらワンチャンあるかもよ?」

 

「ホントですか!?いってきまーす!」

 

会長にそそのかされ沙織は元気に走り出していった。チョロい……

 

「よーし!かーしま!小山!私達は戦艦取りに行こっか!」

 

そして生徒会の3人は学園艦の地下を目指し歩いていった

 

 

 

 

 

 

 

「とは言ったものの……どこにあるって言うのよー!!」

 

みほと沙織と華は学校の駐車場へ来ていた

 

「駐車場にMSは停まってないかと…」

 

「だって一応乗り物じゃない…誰かがそれに乗って学校に来てるかもしれないじゃん…」

 

「泥棒はよくないと思うな…」

 

駐車場には車しか停まっておらずモビル道に使えそうな物は何も無かった

「じゃあ裏の山林にいこ!何とかを隠すには林の中って言うしね!」

 

「それは森です…」

 

 

3人が移動しようとした時、みほは近くの木に誰か隠れていた事に気づいた。その子は先程校庭で見たモビル道の生徒であり、みほ達と一定の距離を保ってついてきた

 

「…あの!よかったら一緒に探さない?」

 

「えっ!いいんですかぁ!」

 

みほは勇気を出してその子に声をかけた。彼女はとても嬉しそうな様子だった

 

「あの、私は普通II科2年3組の秋山優花里といいます…不束者ですがよろしくお願いします!」

 

「こちらこそよろしくお願いします。五十鈴華です」

 

「私武部沙織!」

 

「あっ私は…」

 

「存じ上げております!西住みほ殿ですよね!」

 

なんと彼女はなぜか自分の名前を知っていた

 

「それではよろしくお願いします!」

 

こうして優花里が加わり4人で捜索へ向かった

 

 

 

 

 

 

 

学園艦には基本的に人工の山に木を植えた森林が存在する。これは海に出ると同時に山等の自然も大切にしようという文科省の思想の元造られていた。裏山へついた3人は手掛かりもないので迷わないよう適当に進んでいた。すると華が突然止まり何かのにおいわ嗅いでいた

 

「どうかした?」

 

「スンスン……あちらの方から花に混じって金属のにおいが」

 

「においだけでわかるんですか!?」

 

「華の家五十鈴流っていう華道の家元なんだよね。とはいえここまでにおい敏感になるんだね…」

 

「では!任務了解、出撃します!」

 

「何それなんかかっこいい!」

 

 

 

 

華が先導し3人はその後ろをついて行った。しばらく歩くと花畑が現れさらに進むと森を抜けた。大きく開けた場所に出ると湖に座り込むように力尽きている3機のMSがあった。

 

「やったぁ!あったあ!」

 

「ザクIIに量産型ガンキャノン……あれはジムスナイパーカスタムかな?」

 

「なんかさっきのやつと違って目が2つないね…こっちのやつはタコみたいな顔してるし…」

 

「ザクはジオン公国軍の主力量産MSでその高い汎用性と量産性で一年戦争を終戦まで戦い抜いた機体なんですよ!その性能で一年戦争初期にMSを持たない連邦艦隊に大打撃を与えMSの有用性を認めさせたのであります!連邦軍がガンダムを開発できたのもこのザクを鹵獲できたからでありとにかく機動戦士ガンダムの世界で最も活躍した機体は間違いなくザクなんですよ!……あっ」

 

「凄い生き生きしてたよ……そんなに凄いんだこれ…」

 

「すみません…」

 

優花里の機体解説に沙織は圧倒されていた。

 

「でも見つけたはいいけどどうやって運べばいいんだろう…」

 

「とりあえず生徒会の方々に連絡してみますね」

 

華が機体を見つけたと報告すると桃からすぐに回収へ向かうと返事が返ってきた。みほはMSを3機も運べるのかと考えていたら突如周りが大きな影に覆われた

 

「何!?なんか暗くなってきたよ!?」

 

「!皆さん上を見てください!戦艦でありますよ!」

 

4人が見上げるとそこには巨大な戦艦……ペガサス級強襲揚陸艦《ホワイトベース》が飛んでいた

 

「これがこの学校の戦艦なんだ…」

 

「すっごい大きい…見てるだけで首痛くなってきちゃうよ…」

 

「凄い迫力ですね…花を生けてみたいです…」

 

「凄いです!感動です!生きてて良かったです!まさかあのホワイトベースに乗れるなんて…」

 

ホワイトベースは空いているスペースに着陸すると両舷のハッチが開き中から運搬用のモビルワーカーが出てきた

 

『皆聞こえるー?迎えに来たから乗って乗ってー』

 

杏の放送が響き、4人は船へ続く階段を登った。その間モビルワーカーが見つけた3機のMSを収容しているのが見えた

 

 

 

 

「ご苦労であった。お前達の発見報告が一番早かったぞ」

 

船に乗ると4人は生徒会のいるブリッジまで案内された。船の操縦は柚子が行っており他の生徒達と機体の回収へ向かっていた

 

「やればできるもんだね。まさか3機もみつけちゃうなんて」

 

「私もあんな所に機体が放置されててびっくりしました」

 

「ねえねえ私達今空飛んでるんだよね…私こんな風に空飛ぶの始めてだから告白された時と同じくらいドキドキしてる…!」

 

「告白……された事あるんですか?」

 

「ホワイトベースはV作戦においてガンダムと共に造られた母艦でホワイトベース隊の大活躍があったから連邦軍はジオンに勝利できたんですよ!そんなホワイトベースのクルーになれるなんて…この上ない幸せであります…」

 

「秋山ちゃん見てるとこれを学園艦の底から引っ張り出して来て良かったと思うよ。なんか中にも戦車みたいなのとか旧型だけどまだ動けるモビルワーカーが置いてあったんだよね。あとこの子もか」

 

艦長席に座っていた杏は側に置いてた鞄から赤くて丸い何かを取り出した。するとポヨンと杏の手から跳ねてみほはキャッチした

 

「コンニチハ!コンニチハ!」

 

「会長これって…」

 

「それは独立型マルチAIのハロ。この前自動車部と船の中整理してたら見つけたんだよねー」

 

「ヨロシクナ!ヨロシクナ!」

 

「えー!何コレ可愛い〜♡」

 

「耳がパタパタして可愛らしいですね」

 

「宇宙世紀のハロより一回り小さいみたいです!」

 

「あんな物がモビル道の役に立つのか…?」

 

「桃ちゃんそろそろ運転替わって〜!」

 

それから捜索へ行った他の生徒と機体を回収し今日の活動は終わった…

 

 

 

 

 

翌日、グラウンドに発見されたMS達が並んでいた。

 

「アッガイが2機、Gブルイージーが1機、ザクIスナイパータイプとザクⅠs型が1機ずつ、ジム・ライトアーマーが3機、ザクⅡと量産型ガンキャノンとジムスナイパーカスタムとプロトタイプガンダムが1機ずつか…」

 

昨日の捜索でMSを多く発見する事ができた。アッガイは歴女チームが水遁の術で湖の底へ沈んでいたのを発見し、ザクⅠ達はバレー部が崖の中腹にあった洞窟で発見された。ジム・ライトアーマーは一年生チームがウサギ小屋の隣にあった用具入れに3機まとめて放置されているのを発見された

 

「どう振り分けますか?」

 

「見つけた人が見つけた機体に乗ればいんじゃない?このGブルは私が乗ってみるよ」

 

「わかりました。西住、ガンダムはおまえ達に任せる」

 

「わ、わかりました…」

 

「ではガンダムとお前達の見つけてきた3機がAチーム、アッガイとザクⅠがBチーム、Gブルイージーとライトアーマー3機がCチームだ。人数が余るチームは誰が乗るか決めておくように」

 

Aチームだけ比較的高性能な機体で編成されてる気がしたが杏が何かを企んでいる顔をしていたので敢えて何も言わなかった

 

「明日はいよいよモビル道の教官がお見えになるので各自機体の外装やコクピット内を綺麗にするんだぞ」

 

「教官…どんな人が来るのかな〜♡」

 

「やっぱり大きいなMSって…こんな身長の子がバレー部に来てくれたら…」

 

「でもキャプテン!あっちの熊さんみたいな方が可愛いですよ!」

 

「む…そちらさえ良ければ乗る機体を交換しないか?アッガイも悪くはないのだがどちらかと言うと旧ザクの方が我々の好みでな…」

 

「いいんですか!?ありがとうございます!」

 

バレー部キャプテンの磯部典子と歴女チームのカエサルが握手を交わし機体の交換が成立した

 

「私とおりょうは戦艦の方に乗りたいからカエサル、門佐。MSにはお前達が乗ってくれ」

 

「頼んだぜよ」

 

「応…まかせておけ」

 

「フッ…久しぶりの戦場に心が踊るな」

 

「とりあえず明日は私と河西がMSを操縦するから佐々木と近藤は一緒に乗って見学しててくれ!ということでバレー部ファイトーーーーッ!」

 

「「「おーーーーーーーーっ!!!」」」

 

 

「ちょっと細い気がするけどオレンジ色で可愛いね」

 

「なんとなく忍者みたいで強そう」

 

「私船のオペレーターさんになりたいな〜」

 

「私も戦艦の砲台使ってみたいなあ」

 

「え?紗希ちゃんもMSに乗りたいの?」

 

「……」

 

1年生チームもそれぞれの担当を決めていた

 

「しかし会長にはやはり船の艦長をやってもらいたいのですが…」

 

「そうですよ。それに1人だけそんな戦車みたいのに乗るなんて危ないかと…」

 

「小山もかーしまも心配しすぎだって。それに私が出るのはいざって時だけだと思うし、明日はハロも一緒に乗ってくれるからね〜」

 

「リョウカイ!リョウカイ!」

 

「こんなオモチャが役に立つとは思えませんが…」

 

「カーシマ、ウッセーゾ。カーシマ、ウッセーゾ」

 

「……このサッカーボールめ!」

 

そう言って桃はハロを蹴り飛ばしたが、Gブルの装甲に跳ね返ってきて顔面に直撃した

 

「うえぇぇぇぇん痛いよ柚子ちゃーん!」

「桃ちゃんはしゃぎ過ぎだよ……」

「ナクナカーシマ、ナクナカーシマ」

 

 

 

 

 

 

「わっ!なんかベトベトする!」

 

「コクピットの中も結構匂いますね…」

 

「所々塗装が剥げてるのも何とかしたいです…」

 

「とりあえず1機ずつ掃除していこっか……」

 

 

 

全員体操着に着替えてからMSの清掃作業が始まった。作業は一日かけて行われ、夕方になりなんとか全てのMSが綺麗にされた。

 

「よし、いいだろう。あとの整備は自動車部の部員に今晩中にやらせる。それでは解散!」

 

「あーもう、体中ベトベト〜早くシャワー浴びたい!」

 

「明日からいよいよMSに乗れるんですね」

 

「うん……」

 

華の言葉にみほは少しだけ表情が暗くなった。ついに皆とMSに乗る時が来てしまうのだ

「あの…よかったら帰りちょっと寄り道していきませんか!?皆さんと行きたい所がありまして…」

 

「へぇ〜面白そう!行こう行こう!」

 

4人は着替えた後、校門を出て優花里の言う目的地を目指した

 

 

 

 

 

 

《がんだむ倶楽部in大洗》

 

商店街の外れにあるビルの1階にその店は営業していた

 

「へぇ〜こんなお店あったんだ」

 

沙織と華はこのお店の存在を知らなかったらしく4人は優花里を先頭にお店へ入っていった。

店の中にはパイロットスーツや軍服が展示されていたり、ガンプラやガンダムに関する雑誌等が販売されていた。すると奥の方から店主と思われる赤髪の男性が出てきた

 

「優花里今日もちゃんいらっしゃい。今日は学校の友達も一緒とは珍しいねぇ」

 

「わわわ…こんにちは!私武部沙織です!」

 

「いらっしゃい。俺の名はゲイリー・ビアッジ。昔はモビル道をやってたんだがやらかしちゃってね…今は改心して学園艦でこの店をやってんだ…」

 

「何この人…!ワイルドな感じがたまんないかも…!」

 

「店長はやめておいた方がいいでありますよ。あの人現役時代は三度の飯より戦闘が好きだったらしく、それが原因でプロの世界を追われたらしいです」

 

「あの日酔っ払って市街地にMSで出てちょっと暴れてな…牢屋に入るわ賠償金は取られるわプロをクビになるわ散々だったぜ……」

 

「まぁ!刑務所帰りの人だなんて凄いです!」

 

「ハハハ…」

 

4人はそれぞれお店を見て周った。その後優花里はお店に置いてあるMSの操縦を体感できるシュミレーションゲームをやっていた。沙織と華は傍で見ていたがみほは少し離れた所から見ていた

 

『次はモビル道の話題です。昨年全国大会で優勝し冬の大会で優勝を決めたプラウダ高校の隊長と副隊長、通称バルバトスのカチューシャさんとグシオンのノンナさんにインタビューしてきました』

 

…聞きたくないニュースが始まってしまった。向こうはもう忘れているだろうけど、あのカチューシャという高校3年生とは思えない少女に言われた言葉が忘れられなかった…テレビには女性リポーターとノンナに肩車されているカチューシャが映っていた

 

『モビル道で勝利するための秘訣とはなんですか?』

 

『あまり教えたくない質問ね。まぁこのカチューシャは寛大だから答えてあげるわ!』

 

カチューシャは少しだけ考えてから口を開いた

 

『何よりも一番大切なのは自分の家族と思える人を大切にする事よ!』

 

『家族…ですか…?』

 

リポーターは意外な答えに驚いていた

 

『別に肉親じゃなくてもいいけど、とりあえず家族と同じくらい大切な何かのために頑張れる人こそ最後に成功するって私は信じてるわ!』

 

『お二人もご自身の両親を大切になさっているのですか?』

 

リポーターの質問にカチューシャは少し固まったが代わりにノンナが答えた

 

『…私とカチューシャは幼い頃から同じ孤児院で育ちました』

 

『…えっ!?ごめんなさい!私なんて事を…』

 

『いいんです。それに今の私達にはチームメイトや私達を家族として向かい入れてくれたとても素晴らしい人達がいます。私達は彼らに恩返しをする為に、いつの日か追いつく為にこれからも進み続けていくつもりです』

 

クールな印象のノンナだが、その目と言葉からは熱意が感じられた。彼女達が強いのは進み続けるために自分の道、自分のモビル道を見つけたからだろう。

『ちょっとノンナ。これアイツらに見られたら絶対に笑われちゃうじゃない』

 

『そうですねカチューシャ。許してください』

 

『……まぁ別にいいけど!あんたもいい加減泣くのやめなさい!』

 

リポーターは号泣してノンナがハンカチを渡していた。今思えば大洗に来る時も両親と全く会話をしてなかった。父は昔からほとんど家におらず、母も家へ帰ってくる事は少なかったが私がモビル道を辞めると言ってから更に帰ってくる日が少なくなった。最後に家族らしい会話をした日も覚えておらず、そう考えると悲しくなってきた。

 

他の3人もニュースを見て色々思う所があったようだ。みほの顔が暗くなっている事に沙織は気づいた

 

「そうだ!これからみほの部屋遊び行ってもいい?」

 

「え?」

 

沙織の言葉にみほは驚いた。今までそのような事を言われた事が無かったからである

 

「私もお邪魔したいです」

 

「…うん!」

 

「あのー…」

 

「秋山さんもよかったらいかがですか?」

 

「え!ありがとうございます!」

 

こうして4人は店長に挨拶してから店を出た。途中スーパーに寄って皆で夕飯の食材を買ってみほの部屋へ向かった

 

「散らかってるけどどうぞ〜」

 

みほは自室の明かりを点け3人を部屋に入れた

 

「可愛い〜!」

 

「みほさんらしい部屋ですね」

 

友達が部屋へ遊びに来たのは初めてだから少し緊張した

 

「じゃあ夕飯作ろっか!華はじゃがいもの皮剥いてね」

 

「私お米炊きます!」

 

しかし、優花里は炊飯器ではなく飯盒で米を炊こうとし、華は野菜の皮を剥こうとして指を切り、みほはそもそもいつもコンビニ弁当で済ませていたから料理ができないという事で沙織が全員分の夕飯を作ってしまった。凄い!

 

「「「「いただきまーす!!!!」」」」

 

「わぁ…美味しい!」

 

「やっぱ男子を落とすには肉じゃがだね!」

 

「落とした事…あるんですか?」

 

「それに男子って肉じゃが好きなんですかね」

 

「雑誌のアンケートに書いてあったもん!モビル道やってる男の子は皆肉が好きだって!」

 

 

 

楽しく食事を終えた後、華と優花里は洗い物をし、みほと沙織は部屋を少し整理していた

 

「あれ?このネックレスってみほのだよね?綺麗〜♡」

 

沙織は机の上に飾ってあった翼のネックレスを見つけた

 

「それお母さんが小さい頃、クリスマスプレゼントにくれたんだよね…」

 

「へぇそうなんだ!大切にしてるんだね」

 

昔MSに乗る時はお守り替わりにいつも付けていたがここに来てからはまだ付けていなかった

 

「みほのお母さんってどんな人なの?」

 

「凄く厳しい人…私なんかよりも家の方が大切で…本当に優しかったのなんて小さい頃だけだったな…」

 

「…きっと素直じゃないだけなんだよ。もしかしたらお母さん後悔してるかもよ」

 

母は西住流の家元だから私がいなくなったくらいで動じることはないだろう。だから自分は前の学園を出て大洗に来た事を後悔してないし、これから先新しい友達と新しい道を探せる思うと楽しみだった。

 

 

 

 

 

「それじゃまた明日〜!」

 

「おやすみなさーい!」

 

3人を寮の入口までみほは見送った

 

「やっぱ転校してよかった!」

 

みほはスキップしながら自分の部屋へ戻った。戻る途中とても綺麗に輝く星が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、黒森峰女学園の女子寮にて…逸見エリカは部屋の窓から空を見ていた。同じルームメイトだったみほが黒森峰を去ってから1週間近く経っていた

 

(みほは…副隊長はもう戻ってこない…)

 

エリカは後悔していた。去年の全国大会の決勝戦以来モビル道の訓練に来なくなった彼女を励ます事ができなかった。当時、体調の西住まほは修行に出ると言うことで一時的にエリカに隊長を任せていた。エリカはまほが帰還するまで黒森峰の名に恥じぬ隊長になる事ができていたが、その間みほに構ってあげる事ができなかった。西住の子だからその内復活するだろうと思い、戻ってこいと言う事も無かった

 

 

そうして月日は流れてみほはとうとうモビル道の無い大洗女子へ転校してしまった。後悔という波が今更押し寄せてきた

 

(副隊長を超えるためにモビル道をやっていた様なもんなのに……どうすればいいのよ…)

 

一晩中考えても自分の事や選んだ道がこれでよかったのかわからなかった…ふとまどから夜空を見るととても綺麗に輝く星が見えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついにMSに乗る時が来た。そして杏の計画によりみほの実力が試される

次回 ガールズ&ガンダム『RESTART』

物語は動き始める

 

 

 




読んでいただきありがとうございました
店の店長は戦争を起こすために暗躍してるわけではなくただのおじさんである事をご了承ください()
次回からようやくモビル道の試合を書きます


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3話 RESTART

前回よりも期間が空いてしまい申し訳ございません

前回補足し忘れたのですが、この世界の優花里は戦車マニアではなく機動戦士ガンダムが大好きな女の子となってます。と言っても知識は僕が知ってる事ぐらいなのであまり詳しくないかもしれないですすみません

今回も色々詰め込みすぎて長いですがよろしくお願いします


沙織達が部屋に遊びに来た翌朝、みほは寝坊してしまった。みほは沙織達が帰った後ベットで皆と過ごした時間を思い出していたら寝るのが遅くなってしまったからであった。今日は授業が早く始まるから急いで学校へ向かっていたら、前にフラフラと千鳥足になっている大洗の生徒がいた

 

「あの…大丈夫ですか?」

 

放っておくことも出来ずみほはその少女に声をかけた

 

「…生きているのが…辛い……」

 

少女は膝から崩れ落ちてしまい、みほはなんとか彼女を起こそうとした

 

「…だが行く!時はすでに私を布団から巣立たせる時が来た…なのだ……」

 

何とか立ち上がりまたフラフラ歩き出したがみほは放っておけず、彼女に肩を貸して学校へ向かった

 

 

 

 

「冷泉さん!これで連続245日の遅刻よ!」

 

ようやく校門までたどり着いたが間に合わず既にHRのチャイムが鳴っていた。どうして200日以上も遅刻し続けれるのだろうか……

 

「朝はなぜ来るのだろうか…」

 

「朝は必ず来るものなのよ!成績がいいからって留年しても知らないわよ!それと西住さん、今度から冷泉さんを見かけても先に登校するように!」

 

「わ、わかりました」

 

「…………そど子」

 

「…何か言った?」

 

「別に」

 

みほは冷泉という少女に肩を貸して玄関へ向かった。少女の体はとても軽く担いでもあまり負担を感じなかった

 

「悪かったな…いつか借りは返す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いので心配しましたよ」

 

「ごめん、寝過ごしちゃって」

 

グラウンドに着くと皆格納庫の前で待機しており、それぞれ各チームごとに集まっていた。どうやらモビル道の教官はまだ到着していなかったようだ

 

「教官も遅いよー。焦らすなんて大人のテクニックだよねー」

 

沙織がそんな事を言っていると、遠くの空から何かが2つ近づいてくるのが見えた。段々近づいてきた2つの影は、どちらもドダイに乗ったMSである事がわかった。2機のMS、ギラ・ドーガとドライセンはドダイから降下し、グラウンド近くの駐車場へ着地した。その際ギラ・ドーガが高そうな外車を踏み潰してしまった

 

「学園長の車が!!!」

 

「ぷっ!やっちったねー!」

 

柚子が悲痛な声を上げる中、杏は吹き出してしまった。2機のMSはみほ達の近くまで来ると停止した

 

「こんにちは!」

 

ギラ・ドーガから出てきた女性は元気良く皆に挨拶した。ドライセンの方からは銀髪を後ろに束ねた男が現れた

 

 

 

 

 

 

 

「どうしよう……結構渋めのイケメンが来たよ…やばい……」

 

「沙織さん落ち着いてください…」

 

本物のイケメン教官に沙織は興奮していた。みほは知っている人だったので目を合わせないようにした

 

「こちらの2人は特別講師として来てくれた、日本MS教導隊の蝶野亜美大尉とアナベル・ガトー中尉だ」

 

 

「皆さん初めまして!私は蝶野亜美。モビル道が初めての人が多いと聞いていますので皆で頑張りましょう!」

 

 

「私はMS教導隊員のアナベル・ガトー中尉であります!2年前まで黒森峰女学園の補助教官を務めていたのでわからない事は何でも聞くように!」

 

 

ガトーの険しい顔と声の迫力に皆圧倒された

 

「ちょっとガトー君。相手は女子高生なんだからもうちょっと柔らかくいきましょ」

 

「す、すみません蝶野大尉…黒森峰以外の女子校に来たのは初めてで………ん?」

 

ガトーはみほの存在に気づいた

 

「みほじゃないか……!モビル道を辞めたと聞いていたがまた始めてくれたのか!」

 

「あら?ひょっとして西住師範の娘さん?」

 

「あわわ…」

 

まずい事になってしまった。よりによって自分の事を知っている人達が来るとは…

 

「私、師範にはお世話になってるんです。お姉さんは元気?」

 

「多分元気です…」

 

「西住師範って何かな?」

 

「もしかして有名なの?」

 

「西住流ってのはね、日本のモビル道の中でも最も由緒ある流派なのよ!」

 

他の生徒はそれを聞き皆感心していた。自分が西住流の娘というだけで特別扱いされるのがみほは嫌だった

 

「教官!教官はやっぱりモテるんですか!?」

 

みほの事を察した沙織が話を逸らしてくれた。

 

「んー……モテると言うより狙った的を外した事はないわ!撃破率は120%よ!」

 

「んでガトー教官はどうなの?やっぱモテるんですかねえ」

 

「何……!?いや、私のプライベートなど今日の訓練と関係ないから却下だ!」

 

杏からの質問をガトーは焦って何とか回避しようとした

 

「ダメじゃないガトー君。さっきわからない事は何でも聞くようにって言ったじゃない」

 

「いやそれはモビル道に関する事で…」

 

亜美からも追求され逃げ場が無くなってしまった。ガトーは亜美と目を合わせる事ができず明後日の方向を向いていた

 

「それに私も知りたいから教えてよ!ガトー君好きな人とかいるの?」

 

「え、いや…自分にその様な人は…その…」

 

亜美に迫られるとガトーの顔は赤くなっていった

 

「ねぇねぇこれってさぁ…」

 

「もしかしてガトー教官って蝶野教官の事が…」

 

「うっそお!?」

 

「やばくなーい!」

 

「ヒューヒュー!」

 

「ええいやかましい!!!そんな事よりも大尉!本日の訓練の説明をお願いします!」

 

ガトーは囃し立てる一年生達に吠え、無理やり本題へ入ろうとした

 

「今日皆にはチーム事に別れて本格戦闘の実習をやってもらうわ!」

 

「「「「ええ〜〜〜!」」」」

 

今日初めての訓練なのにいきなり実戦をやるとは誰も思っていなかった

 

「いきなりですか!?」

 

「教官!私達まだMSの動かし方なんてわからないであります!」

 

「大丈夫大丈夫!MSなんてバーッと動かしてダーッと操作してドーッと攻撃しちゃえばいいんだから!」

 

「…大尉はこう言っているが基本操作は我々が教えるので安心してくれ」

 

「というわけで地図に書いてあるそれぞれのスタート地点まで行ってね!」

 

みほや各チームのMSに乗る生徒は地図を受け取ると格納庫へ入っていった

 

「みほ。悪いが君のチームの子達に操作説明を頼めるか?私と大尉で他のチームに説明しなければならくてな…」

 

「わ、わかりました」

 

「あの…会長」

 

「お、どうしたの武部ちゃん」

 

「ありがとうございます」

 

沙織は杏の元へいき熱い握手を交わした

 

「いやぁ〜でもガトー教官が蝶野教官の事がアレだったのは予想外だったよ」

 

「いいえ。とても良いものを見させてもらいました」

 

沙織はとてもいい顔をしてみほ達の元へと帰って行った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほはガンダムのコクピットに座り3人に起動手順を説明していた。この時BチームにはガトーがCチームは亜美が教えていた

 

「ここのスイッチで機体が起動して、ここを押すとモニターが映って移動できるようになるの」

 

みほはプロトタイプガンダムのコクピットで他の3人に説明していた

 

「そういえば誰が何乗るか決めてなかったねー」

 

「やっぱ西住殿がガンダムですよね!」

 

「え、いいのかなぁ…」

 

「私もみほさんでいいと思います。それに遠くから攻撃できないのは初心者の私達には難しい気が…」

 

こうしてプロトタイプガンダムにはみほが乗り、沙織は赤いからという理由で量産型ガンキャノンを、華がスナイパーカスタムを、優花里が好きな機体であるザクIIに乗る事が決まった

 

「それじゃあ皆機体に乗り込んで!訓練開始といきましょ!」

 

亜美の号令で皆コクピットの中へ入っていった。BチームとCチームは人数が余っていたので1機に対して2人ずつ乗り、Gブルには生徒会の3人と赤ハロが搭乗した

 

「これを動かすなんてできるかなぁ…あと一人で乗るなんて何か寂しいよ…」

 

「沙織さんなら大丈夫だよ。それに訓練が始まったら通信機で会話できるから安心して」

 

「先程教えてもらった通りにやれば動かせるんですよね…緊張してきました…」

 

「ついにMSを動かせるなんてわくわくします!」

 

みほ達もコクピットへ乗り込みハッチを閉めた

 

「それでは全機MSを起動せよ!まずは目的地に各MSの武装が置いてあるので回収するのだ!」

 

ガトーが号令で皆MSを起動させた。センサーやモノアイが光り各機体からハンガーが外れ動けるようになった

 

「いやっほう!やっぱMSは最高だぜ!!!」

 

「何!?今の優花里?」

 

「通信機も問題なくてよかったね…ははは…」

 

「人が変わってましたよ…」

 

「すみません…」

 

みほ達はMSを起動させてみほのガンダムを先頭に動き出した

 

「最初はゆっくり歩きながら前進して、機体をぶつけないよう気をつけて格納庫から出ましょう」

 

「わ、わ、わわわ!なんかガシャンガシャン揺れてる〜」

 

「音も凄いですね…」

 

「これがいいんですよこれが!」

 

みほ達Aチームは格納庫を出て目的地となる山の中へ向かっていった

 

「それでは我々も出るとしようか」

 

「そうだな。私が先導するから他の3機はついてきてくれ」

 

「了解です!」

 

「流石はカエサル、こういう時は頼りになるぜよ」

 

Bチームも格納庫から出て目標地点へと向かった。指揮官用ザクⅠにはパイロットのカエサルとエルヴィンが後ろに乗り、ザクスナイパーにはパイロットの左衛門佐とおりょうが同乗していた。

 

「私達も行かなくちゃ!」

 

「誰が先に出る?」

 

「………」

 

「おいお前ら!誰も行かないなら私から出るぞ!」

 

桃はGブルイージーを発進させたが機体はまっすぐ進めずに格納庫の壁に激突した。その衝撃で壁が凹んでしまった

 

「あっちゃ〜派手にやったもんだねえ」

 

「桃ちゃんこれは流石にひどいよ…」

 

「桃ちゃんって呼ぶな!」

 

「カーシマドンマイ!カーシマドンマイ!」

 

「コラァ貴様!格納庫を破壊する気か!」

 

ガトーに怒鳴られGブルは体制を立て直し逃げる様に外へ出て行った。一年生達もその後を追うように格納庫から出て行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほ達はスタート位置である山の中に到着すると大きなコンテナを発見した。側面にはモビル道教導隊のエンブレムが付いていた

 

「そのコンテナには私達からのプレゼントで各MSの武器が入ってるから持っていってね!」

 

「とはいえ事前に報告されていたMSの最低限な武装しかない為少し心許ないのは許してくれ」

 

亜美とガトーから通信が入った。みほはガンダムのマニュピレーターでコンテナを開けると中にはAチームのMSが使う武装が入っていた

 

「おお!ザクマシンガンとスナイパーカスタム専用のライフルが入ってますよ!」

 

「まぁ、こんなに頂けるなんて有難いですね」

 

「みほのガンダムの武器は入ってないの?」

 

「私のガンダムは射撃ができないからビームサーベルで頑張るしかないかな…」

 

みほは元々格闘戦は得意だったが、相手に1人経験者がいる事と他の3人を守れるかが心配だった

 

「バレー部諸君、何か問題はないか?」

 

「大丈夫です!カエサルさんの足を引っ張らないよう頑張ります!」

 

「そんな事を気にしなくていい。何事も最初の経験が未来へ繋がるのだから今日は楽しもうじゃないか」

 

「わあ…忍ちゃんカエサルさんカッコイイね…」

 

「うん…キャプテンと同じくらいカッコイイ…」

 

「キャプテン!応援してますのでドンドンスパイク決めちゃってください!」

 

「任せろ佐々木!根性とこのアッガイたんで目指せ東京体育館だ!」

Bチームもスタート地点に到着した。アッガイは昨日の夜に自動車部が弾薬を補給してくれていた

 

 

「私達も何とか着いたね…」

 

「梓お疲れえ」

 

「………」

 

「紗希ちゃん操縦上手かったよ!」

 

「なんかあゆみちゃんが乗ってるせいかちょっと機体が重かった気がする…」

 

「うっそー!てかそんなの関係無くない!?」

 

「なんかあたしらより先に一年生が着いてたね」

 

「やっと追いつきましたね……」

 

「カーシマオッセーゾ」

 

「うるさい!案外操縦するの難しいんだからな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆スタート地点に着いたようね。ルールは簡単、相手チームの機体を全部動けなくするだけ。つまりガンガン進んでバンバンやっつければいいって訳!」

「大尉…もう少し丁寧な説明を……」

 

「いいのいいの!モビル道は礼に始まって例に終わるの。一同礼!」

 

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

 

「それではこれより試合を開始する!全機出撃!」

 

ガトーが号令を出し戦闘訓練が始まった

 

「ついに始まりましたね!とりあえず適当に歩いてみますか?」

 

「闇雲に動くのは…」

 

「よかったらBチームを狙わない?教官結構イケメンだったし少女漫画みたいなの見れたから生徒会には感謝しないと!」

 

「沙織さん…理由があまりにもひどいです…」

 

「ははは…どうしようかな…」

 

みほはどう動くか考えた。しかし突然警戒音が鳴り背後からビームが飛んできた

 

「え、何!?何が起こったの!?」

 

「あ!他のチームがもう来ています!」

 

華はレーダーを見ると後ろから敵機が来ているのを確認した。攻撃はアッガイからのメガ粒子砲でステルス機であるアッガイの接近に気づくのが遅くなってしまった

 

「く、当たらなかったか!」

 

「その調子だ磯部さん!先ずはこのままAチームを叩く!」

 

背後の山の上からBチームのMSが続々と攻撃してきた。

 

「怖い!逃げようよ!」

 

「こんなに早く仕掛けてくるなんて…」

 

「山の上から攻撃されるのは危険です!ここから退避します!」

 

みほは他の3人に呼びかけ沙織を先頭に退避し始めた

 

「Aチームが逃げていきます!」

 

「このまま追いかけるぞ!門佐は一番後ろからついてきてくれ!」

 

Aチームの撤退に気づくとBチームは追撃を始めた。みほ達はザクマシンガンやビームを何とか避けながら移動しようとしていた

 

 

「どうやら始まったみたいだねえ」

 

「予定通りですね会長」

 

「え?二人とも何か隠してるんですか?」

 

「まあまあ小山には後で説明するよ。つーわけで一年生の皆!私らも移動するからついてきて!」

 

「「「はぁーい!!!」」」

 

生徒会の指示のもとCチームも移動を始めた

 

 

 

 

「優花里さん!少しでいいので牽制してください!華さんと沙織さんは足を止めないと撃てないので移動し続けてください!」

 

「了解であります!」

 

優花里は移動しながら後ろへクラッカーを投げた。それを避けるためにBチームは動きが止まったので、みほはできるだけ距離を離そうとした。その時機体が木陰で眠る生徒を察知した

 

「人……?危ない!皆止まって!」

 

「わ、わかりました!」

 

みほは機体を停止させ華達もみほの通信を聞き動きを止めた

 

「ん……うおっ!」

 

寝ていた少女は目覚めると目の前に4機のMSがいて驚いていた

 

「あ、今朝の……」

 

「あれ?麻子じゃん!こんな所で何してるの?」

 

「その赤いのに乗ってるのは沙織か」

 

「沙織さんの知り合いなの?」

 

「うん幼なじみなの。てか今授業中なのに何してんのよ!?」

 

「ただの昼寝だ。それよりも首が痛くなる…」

 

沙織の幼なじみでありみほが今朝出会った少女、冷泉麻子はMSを眠そうに見上げていた。しかし止まっていた為Bチームに追いつかれてしまい再び攻撃が始まった

 

「とりあえず外は危ないので機体の中へ入ってください!」

 

「麻子急いで!この上に乗って!」

 

「やれやれ仕方ない」

 

麻子は沙織の乗る量産型ガンキャノンの掌に乗りコクピットの中まで運ばれた。麻子が中へ入ったのでみほ達は再び撤退を開始した

 

「何かこの中酸素少なくないか…?」

 

「相変わらず麻子は低血圧なのね…」

 

「それで今朝も大変そうだったんだね」

 

「麻子と会ったんだ。だから今日遅刻してきちゃったんだね」

 

しかしカエサルのザクⅠの射撃がガンキャノンの左肩に命中した

 

「わぁぁぁ!もうやだー!」

 

「西住殿!もう一度クラッカーで足止めします!」

 

「優花里さんお願い!華さんも威嚇のために1回相手の方に撃ってみて!」

 

「わかりました!とりあえずロックオンせずにこのまま…」

 

優花里はもう一度クラッカーを投げたが途中で撃ち落とされてしまったが、その爆煙の中から華のスナイパーカスタムからライフルが撃ち出された。ビームはBチームの真ん中を通って行った

 

「河西、近藤!無事か!?」

 

「私達は大丈夫です!」

 

「ほぅ…反撃してきたか」

 

「門佐、我々も狙撃で反撃するぜよ」

 

「あぁ、我らも手柄を立てなければな」

 

Aチームが撤退し続けていると、50mほどの金属製の大きな橋がかかっている谷へ出た

 

「みほ!橋渡って向こう側行こうよ!」

 

「確かにそうすれば橋の上に来たBチームに集中攻撃できるであります!」

 

「うーん…少し危ないけど行くしかない…」

 

みほ達はは橋がMSに耐えれるか試すため慎重に橋の上へ進んだ。橋は案外頑丈であったためAチームの機体が乗っても大丈夫そうであった。しかし谷の対岸からCチームの機体が接近してきていた

 

「あ!他のチームがもう戦ってる!」

 

「もしかしてこれチャンスじゃない!?向こう側のチームと挟み撃ちにしちゃおうよ!」

 

「……」

 

一年生のライトアーマー達ははみほ達に向かってマシンガンを撃ちまくった。しかし狙いを定めてないため弾はほとんど外れて行った

 

「よぉし挟み撃ち完了!さらにあわよくばBチームも倒しちゃえば私らの勝ちだよ!」

 

「もしかして会長…最初から教官と組んでこの様な展開になるスタート地点にしたんですか?」

 

「そうそう流石は小山だ。西住ちゃんがどのくらい凄いのか知りたかったし、ここで私らが勝てば一年生達は自信つくだろうから美味しい事ばっかだね!」

 

「オイシイ!オイシイ!」

 

「それでは私も砲撃を開始します!蜂の巣にしてやる!」

 

桃もみほ達に向けてビームキャノンを打ち始めたが、何故か弾は明後日の方向へ飛んで行った

 

「挟まれちゃったよ!」

 

「前からも後ろからも攻撃が来ます…!」

 

「西住殿!ここからどうしましょう!?」

 

みほは集中砲火の中弾を避けながらどう動くか考えた。幸い相手が撃ってくる弾はそこまで当たらないので一気に接近して格闘で落とすべきかと思っていた

 

「息付く暇も与えん!まずはガンダムからだ!」

 

突如カエサルの乗る指揮官用ザクⅠがヒートサーベルを抜きみほ達の元へ接近してきた。みほは油断していたせいでビームサーベルを抜くのが遅れてしまい、カエサルの斬撃に反撃する事ができずガンダムの左腕を斬られてしまった

 

「くっ!この放火の中格闘を仕掛けるなんて…」

 

「みほさん大丈夫ですか!?」

 

「援護するであります!」

 

華と優花里がカエサルに射撃したため、やむを得ずカエサルは後退して行った。しかし攻撃は止むことなく続き、やがて一年生達の射撃も正確になりみほ達は少しずつ被弾していった

 

「きゃっ!すみません足が壊れてしまったみたいです」

 

「大丈夫ですか五十鈴殿!?私ももうシールドが持たないみたいです…」

 

「どうしようみほ…このままじゃやられちゃう…」

 

みほはどうするべきか考えた。どちらか片方のチームへ行くともう片方から攻撃されてしまうので、本来なら二手に分かれて攻撃したかったがまだ他の3人とも初心者である事と、ガンダムが左腕を失ったのと格闘戦しかできないので迂闊に動けなかった

 

「どうしよう…でもこのまま動かないと危ないし…」

 

「沙織、操縦替われ。私が行く」

 

「え!?でも麻子動かせないでしょ?」

 

「今覚えた」

 

麻子はガンキャノンのマニュアルブックを読みながら沙織と交代しシートへ座った

 

「流石学年主席…」

 

「西住さん。私はあっちのオレンジ色の奴らを攻撃するから西住さん達は後ろを頼む」

 

「!わかりました!よろしくお願いします!」

 

みほのガンダムはビームサーベルを抜いた

 

「優花里さんは冷泉さんの援護をお願いします!華さんは足をやられて動けないから、そこからBチームを狙撃してください!」

 

「了解であります!」

 

「わかりました!狙撃する時は、照準器を覗きながら…」

 

華は狙撃体制に入り、優花里はCチームの方へマシンガンを撃ち込んだ。一年生達もそれなりに回避し、Gブルも両わきの盾で防いでいた

 

「麻子ほんとに攻撃はできるの?私全然わからなかったけど大丈夫!?」

 

「大丈夫だ。キャノン砲の使い方もわかった」

 

麻子は照準器を覗き3機のライトアーマーの内1機に狙いを定めた。機体に発射体制を取らせ砲撃するタイミングを見計らった

 

(ロックオン完了…撃つ!)

 

量産型ガンキャノンの240mmキャノン砲が火を噴いた。弾はまっすぐ飛んでいき……丸山紗希が操縦するライトアーマーに命中した

 

 

「有効!Cチーム、ジム・ライトアーマー行動不能!やるわね」

 

 

「ふぅ…」

 

「凄い!麻子やるじゃん!」

 

「お見事です!」

 

麻子は初の操縦でこの戦闘訓練がで一番最初に撃破を達成した

 

「紗希ちゃん大丈夫!?」

 

「………」

 

「うげ〜私達は大丈夫〜」

 

「おのれ!よくもやってくれたな!」

 

Gブルイージーがめちゃくちゃに砲撃しながら橋の上へ突っ込んできた。優花里はスラスターを噴かせて、Gブルの側まで急速接近するとヒートホークで本体を攻撃した。ヒートホークが触れた部分が反応し撃破判定である白旗が出た

 

「あっちゃ〜やられちゃったね」

 

「桃ちゃん外しすぎたよ…」

 

「桃ちゃんって呼ぶな!」

 

「次ガンバローゼ…」

 

「先輩達もやられちゃった!」

 

「どうしよぉ」

 

「怖いから逃げよ逃げよ!」

 

「さんせ〜!もう無理〜!」

 

まだ残っていたライトアーマーからパイロットである梓とあやと同乗していた優季とあゆみがコクピットから出て走って逃げて行った

 

「おい沙織…あいつらこんな所で外に出たら危なくないか…」

 

「そうだよね…でもどうすればいいかな」

 

「とりあえず西住殿の援護に向かいましょう」

 

優花里と麻子はみほ達の援護へ向かった

 

「ライトアーマーのパイロット達!戦闘中に外へ出るとは何事だ!」

 

「ガトー君落ち着いて!とりあえず彼女達は撃破された事にするから迎えに行ってあげて!」

 

「……」

 

「なんか私達気づいたら置いてかれてたね…」

 

 

 

 

 

 

麻子がライトアーマーを撃破するちょっと前…みほはサーベルを抜いてBチームの方へ突貫していった

 

「突っ込んでくるか!」

カエサルの指揮官用ザクⅠもヒートサーベルを構えみほの元へ突っ込んだ。2機は接触し激しい鍔迫り合いが始まった

 

「フフ…この熱気!…この高揚感こそモビル道よ!」

 

「やっぱりできる人だ…だけど!」

 

みほはガンダムの馬力を利用しカエサルのザクⅠを押し返した

 

「くそっ!門佐!援護頼む!」

 

「わかった!狙い撃ちだ!」

 

しかしすぐ側に華が狙撃したビームが着弾し、左衛門佐はザクスナイパーを移動させ先に華のスナイパーカスタムを倒す事にした

 

「カエサルさん!私達が援護します!」

 

「うおおおおお!根性ーーー!!!」

 

バレー部の乗るアッガイ2機がガンダムに迫って来た。典子はアイアンクローでガンダムに格闘を仕掛ける為接近し忍は後ろから射撃武装で援護しようとした

 

(後ろのアッガイは攻撃が来ないと思って油断してるはず……だったら…!)

 

みほは忍の乗るアッガイに向けてビームサーベルを投げた。ビームサーベルは光がアッガイの胴体に命中し撃破判定が出た

「そんな!キャプテンすみません!」

 

「でもこれでガンダムの武装は…」

 

妙子はガンダムに武器がないと思っていたがもう1本持っていたビームサーベルを抜いてあっさり典子のアッガイも撃破した

 

「まともにアタックくらったー!」

 

「流石は西住流と言った所か…カエサル行けるか?」

 

「やってやるさ!寧ろここまで強い人と戦えて嬉しいくらいさ!」

 

ガンダムと指揮官用ザクⅠでサーベルの激しい打ち合いが始まった。みほは半年以上のブランクがあったとはいえここまで互角に戦える人がいる事に驚いた

 

「門佐!早く敵の狙撃手を撃破するぜよ!」

 

「わかっている!だけどさっきからつい連続で撃ってしまい銃が撃てなくなってるんだ!」

 

「落ち着いて…みほさんが言ってたようによく狙いを定めて集中して…」

 

華は照準をゆっくりザクスナイパーに合わせた

 

「発射!」

 

スナイパーカスタムが放ったビームは移動していたザクスナイパーの脇を捉え撃破判定を出させた。この時丁度Cチームを撃破した優花里達が到着した

 

「凄いですよ五十鈴殿!まさか初めての操縦で狙撃までできるなんて!」

 

「華凄いじゃん!……華?」

 

「なんだか…凄くじんじんします……」

華は初の狙撃にかなり感動していた

 

 

 

「門佐もやられたか…」

 

「まだだ!まだ終わらんよ!」

 

サーベルの激しい打ち合いが続いていたが徐々にみほのガンダムが押して行った

 

「ならば…これでどうだ!」

 

指揮官用ザクはヒートサーベルを両手に持ち、バックステップを踏み溜めた一撃をガンダムに叩きつけた。ガンダムはサーベルで受け止めたが左腕を切り落とされていた為バランスを崩し、そのままサーベルが右手から離されてしまった

 

「あっ……」

 

「貰った!」

 

「……まだ!」

 

カエサルからとどめの一太刀が浴びせられようとしたが、みほのガンダムは思い切りカウンターのタックルをぶつけた。吹っ飛ばされたザクⅠの胴体に背後の木に叩きつけるように蹴りを入れた。この一撃でカエサルのザクⅠも撃破判定が出た

 

 

「Bチーム及びCチーム全機体行動不能…よってAチームの勝利!」

 

 

 

「私達勝っちゃったの…?」

 

「みたいです…」

 

「凄いです!これも西住殿のおかげであります!」

 

「勝ったと言うべきが他のチームが脱落して行ったと言うべきか…いずれにせよ西住さんが」

 

「ううん…皆のおかげだよ」

 

 

 

「今から大尉が撃破されたMSを回収しに行く。動ける機体はグラウンドまで戻ってきてくれ……お前達、もうメソメソするな…」

 

「「「「ごめんなさい…」」」」

 

「試合中にコクピットの外へ出てしまうと攻撃に巻き込まれたり踏み潰されてしまうかもしれないからな。怖かったかもしれんがこれからは気をつけてくれ」

 

ガトーは試合中に逃げ出した一年生をドライセンの手に乗せて帰還していた

 

「ちょっとガトー君!女の子を泣かせるなんて何してんのよ!」

 

「違いますよ大尉!彼女達は私がドライセンで迎えに行った時は既に……」

 

「やはり西住みほにモビル道を受講させたのは正解でしたね」

 

「作戦通りだね〜」

 

「これで大洗のモビル道も再始動って感じですね」

 

「ケーカクドーリ!ケーカクドーリ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆グッジョブベリーナイス!初心者ばかりのはずなのにこんな熱い試合が見れてよかったわ!」

 

戦闘訓練が終わり夕方になっていた。生徒達は再び格納庫前に整列していた

 

「特にAチーム…よく頑張ったわね」

 

「えへへ…」

 

みほも皆と協力して勝つ事ができてとても嬉しかった

 

「後は日々移動訓練や射撃訓練に励む事!あと今日はやらなかったけど戦艦も動かせる様にならなきゃね!」

 

「それに関しては明日から君達の元に専属の顧問が教導隊より派遣される。今年度からの新任教師だが皆仲良くしてやってくれ」

 

「ええ!またイケメンが来るかもしれないってこと!?」

 

「沙織さん声が大きいです……」

 

「それじゃあ皆わからないことがあったらいつでもメールしてね!」

 

「一同!礼!」

 

「「「「「ありがとうございました!!!」」」」」

 

こうして初めての戦闘訓練は終わりを迎えた。

 

「みほ」

 

「あ…ガトーさん…」

 

「心配しないでくれ。家元におまえがモビル道を再開した事は黙っておくさ」

 

ガトーはみほの頭を撫でた

 

「おまえがモビル道を辞めて転校したと聞いた時は自分を責めたよ…何の相談にも乗ってやれず本当にすまなかった…」

 

「そんな!ガトーさんは全然悪くないですよ!」

 

「だが…おまえがこうして新しい友人とモビル道を始めてくれてよかった。これからは仲間達と共に改めて精進してくれ!」

 

「…はい!」

 

ガトーはドライセンに乗ると亜美のギラ・ドーガと共に帰って行った。みほ達は教官の機体が見えなくなるまで見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰女学園にて…

 

「今日の訓練はここまで。総員、解散!」

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 

「エリカちゃんお疲れ!なんか最近調子悪そうだけど大丈夫?」

 

「お疲れ様。別に大したことないから心配しないで」

 

訓練が終わるとエリカの幼なじみである楼レイラが声をかけてきた。エリカはみほという目標を失ったせいか訓練にも支障が出ていた

 

「逸見先輩お疲れ様です!」

 

「エリカ〜隊長なんだから私に甘いの奢ってよ〜」

 

「いいですよ先輩。その代わり隊長権限で卒業まで私にお昼を奢る事を命じます」

 

エリカは修行へ出たまほに隊長を託されてから後輩や先輩と友好な関係が多くできていった。彼女達の支えがあったおかげで黒森峰の隊長という大きな役職を全うする事ができていた。

 

(私は支えられるばかりで…どうしてあの子の事を支えてあげれなかったのだろう…)

 

『緊急連絡!緊急連絡!……西住まほ隊長が学園艦に帰還しました!1軍チームはブリーフィングルームに集合してください!』

 

「え!?」

 

突如信じられない放送がエリカ達の耳に飛び込んできた。去年の全国大会が終わった直後に修行へ出たまほがついに帰ってきたのだ。エリカ達は走ってブリーフィングルームへ向かった

 

 

 

 

 

 

一軍メンバーがブリーフィングルームに集まってから少し経ち、まほが迎えにいった隊員に連れられ部屋へ入ってきた。まほはいつも着ているモビル道の軍服で来たが、以前よりも風格が出ており一目見て強くなっている事がわかった

 

「久しぶりだな皆」

 

「「「おかえりなさい隊長!」」」

 

隊員達はまほへ拍手を送った

 

「学園艦に到着するまで私がいない間の記録は見させてもらった。エリカ…よく頑張ったな」

 

「隊長……」

 

「皆にも迷惑をかけてすまなかった。私の独断で半年以上もいなくなってしまい本当に申し訳ない」

 

まほは隊員達に向かって頭を下げたがそんな事は気にするなとすぐに咎められた。そもそも当時の卒業していった3年生や現在の隊員は皆まほを信用していたから、まほの決定に意義を言う者はいなかった

 

「私は今日から再びモビル道チームに復帰させて頂くが、その上でこれからは一隊員として部隊に参加するつもりだ」

 

「そんな!隊長は西住流の後継者なのですから貴方がチームを率いるべきですよ!」

 

「そう言うなエリカ。私はこれからの黒森峰の未来を見据えておまえに隊長を任せたんだ。それにこの修行で私の西住流は皆と少し違う物になってな。そんな奴が隊を率いる訳にはいかないさ」

 

エリカはまほの言葉にとても驚いた。黒森峰は西住流のチームなので、本来西住流の家元が部隊を率いるのが当然だと思っていたからである

 

「わかりました…でもやはり隊長の存在は黒森峰の象徴の様な物なのでせめて副隊長をお願いします」

 

「副隊長か……」

 

「…あ!申し訳ございません!」

 

エリカは思い切り地雷を踏んだかと思った。隊長だってみほが居なくなった事を悲しんでいないはずが無かったからだ

 

「大丈夫だエリカ。みほが転校したのは彼女の意思で決めた事だから仕方ない。だから皆さえ良ければ私が副隊長を引受させてもらう」

 

「隊長……」

 

「隊長はおまえだと言ったはずだぞエリカ。これからは私の事はまほさんと呼ぶんだな」

 

まほは優しく笑いながらそう言ってくれた。

 

「私は今回の修行で大きく成長する事ができた。今年の全国大会こそは優勝し、再び黒森峰に王者の栄光を取り戻す為に戦う事を誓おう。改めて皆、よろしく頼む」

 

まほは敬礼し隊員達もそれに返礼した。解散した後エリカは思い切ってまほを夕食に誘ったがどうやら実家に帰らなければならないようでまた次の機会という事になった。

そう…黒森峰のモビル道は王者へ返り咲くためにここから再スタートするのだ。エリカはみほがモビル道を辞めてから戦う理由を失っていたが、黒森峰の隊長として優勝へ導こうと闘志を燃やした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

引き寄せられたかのように新しい仲間や新たな協力者がみほ達の元へ集まってきた。そして日々訓練を続ける彼女達に強敵との練習試合が決まってしまった

次回 ガールズ&ガンダム『集う星々』

出会いと別れが人を強くする

 

 




読んでいただきありがとうございました

今回登場した機体やキャラの補足説明をすると

① カエサルの乗るザクⅠs型は言うなればザクⅠゲラート・シュマイザー機です。ゲームによってはヒートホークだったりヒートサーベルだったりしますが、カエサルにはサーベルの方が似合うと思ったのでサーベルを装備させました

② 楼レイラはフェイズエリカに登場するエリカの幼なじみで結構好きなキャラなので一軍メンバーとして登場させてしまいました

③ 黒森峰の制服は本編と違いガンダムooに登場する地球連邦平和維持軍の軍服となってます。パイロットスーツに関してもこれからも何らかの補足を入れていくと思います

こんな感じで続けていこうと思います。わからない部分やおかしな部分があったら教えていただけると嬉しいです


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4話 集う星々

この季節になるとめぐりあいをきくだけで泣きそうになります

今回もよろしくお願いします


みほ達は訓練が終わった後学園内にある温泉に入っていた。温泉には他に生徒会の面々も一緒に入っていた

 

「いや〜西住ちゃん今日はかっこよかったねえ。こっちも誘ったかいがあったよ」

 

「カッコヨカッタゼ!カッコヨカッタゼ!」

 

「あ、ありがとうございます」

 

口には出さなかったが誘ったというよりは無理強いに等しかったとみほは思った。

 

「そういえば今回の訓練は会長達が計画したんですか?各チームのスタート地点からして私達が挟まれるのはあまりに必然だったので…」

 

「ありゃ、バレちゃった?」

 

杏はアハハと笑いながら続けた

 

「実は西住ちゃんの実力がとのくらいか試してみたくてね、教官に無理言ってあの訓練にしてもらったんだ。それに自分達が勝てば一年生の子達に自信付けてあげれるかなと思ってさ。でもかーしまの弾が当たらなかったりAチームの皆強かったせいで失敗しちゃったよ」

 

「そうだったんですね…」

 

「ごめんね西住さん。挟み撃ちは桃ちゃんの立てた作戦だからどうしてもやりたいって言うから仕方なかったの」

 

「うぐぐ…し、しかしあと少し時間があれば確実に撃破されていただろうし今回ばかりはお前達の運がよか…」

 

「カーシマオチツケ。カーシマオチツケ」

 

「うるさいぞこのポンコツ!大体ここは女湯だぞ!さっさと出ていけ!」

 

桃は赤ハロを掴んで脱衣所の方へ思い切り投げた。ハロは壁に跳ね返ると怒って脱衣所の外へはねて行った

 

「ハロに性別とかないと思うけど…」

 

「そうだ会長!明日来る新しい教官ってどんな人ですか!?」

 

沙織は目を輝かせながら杏に質問した

 

「ん〜とりあえず顔だけはイケメンだったかな」

 

「嘘ー!告白されたらどうしよう…」

 

「沙織さん……」

 

興奮する沙織に華は少し呆れていた

 

「んじゃあたしらも上がるわ。皆また明日ね」

 

「あ、ちょっといいですか会長」

 

みほは温泉から出ようとした会長を引き止めた

 

「どったの西住ちゃん?」

 

「その、どうして会長は私がニュータイプだって知ってたんですか?」

 

みほは皆には聞こえないよう杏の耳元で話した。杏が勧誘に来た時、何故か自分がニュータイプである事を知っていたので思わず聞いてしまった

 

「あー確か西住ちゃんの転校資料が届いた後、西住ちゃんの知り合いって人から手紙が届いてね。 そこに『西住みほさんはニュータイプなので是非モビル道の戦力にして下さい』って書かれてたの」

 

手紙…一体誰がそんな手紙を送ったのだろうか。黒森峰の人達は自分がニュータイプである事を知っていたとはいえ、そんな嫌がらせに近い事をする人はいないはずだった。だとすると他校の生徒のイタズラか転校の事情を知らない西住流の分家の人の仕業とみほは考えた

 

「でも西住ちゃん思ってたよりも普通の女の子だと思うしそんな特別な力を持ってる風には見えないな。それに私も誰かに言いふらしたりしないからそんな気にしなくてもいいよ」

 

「会長〜あんまり立ち話してると湯冷めしちゃいますよ」

 

「おっとそれはちょっとまずいね、じゃあね西住ちゃんまた明日」

 

「すみません…ありがとうございました」

 

杏はみほに手を振って脱衣所の方へ駆けて行った。脱衣所で桃がピコピコハンマーを持った赤ハロに逆襲を受けていた所が見えたがみほは見なかったことにしてまた温泉に浸かった

 

「ねぇみほ、会長となんの話してたの?」

 

「え、そんな大した事じゃないから気にしないで!」

 

沙織はみほの事が少し心配だった

 

「そういえば今日の訓練凄いドキドキしたよね!でも私にはMSに乗るのは何か向いてない気がするから遠慮しようと思うんだ」

 

「え…嘘だよね沙織さん…」

 

「そんなあ!武部殿モビル道辞めちゃうんですか!?」

 

「殿方からモテモテになるのではなかったのですか!?諦めないでください!」

 

「いやいや違うよ!MSのパイロットじゃなくて皆のサポートができるオペレーターさんになろうかなって事なの!それにオペレーターさんの方がモテやすいって昨日雑誌に書いてあったんだ」

 

3人とも動揺したが沙織から沙織らしい事情を告げられ安心した

 

「確かに沙織さんは誰とでも仲良くなれるからぴったりかも」

 

「でもガンキャノンのパイロットはどうしますか?」

 

丁度ジャグジーから上がろうとしていた麻子に4人は同じ事を考えていた。適任者がいるではないか

 

「麻子!今日乗ったMSのパイロットお願い!」

 

「もう書道を選択している」

 

麻子はそう言い出ていこうとした

 

「あの、冷泉さんがいると助かります!」

 

「お願いします冷泉さん!」

 

「今日の訓練お見事でした!あんなに活躍できる人そうはいませんよ!」

 

「悪いが無理だ」

 

 

麻子は誘いに乗ってくれず結局脱衣所の中へ入っていった

 

「…麻子!遅刻ばっかで単位足りてないじゃん!モビル道取ると色々特典があるんだよ!このままじゃ留年でしょ!?」

 

沙織が大声でそう言うと少し間を空けてから麻子が再び戸を開けて戻ってきた

 

 

「…わかった。やろうモビル道」

 

麻子から合意の言葉が出て4人はとても喜んだ

 

「西住さんには借りがあったしな」

 

「いや単位欲しいだけでしょ…」

 

「借りを返すだけだ」

 

「ヨカッタ。ヨカッタ」

 

桃に仕返しした赤ハロが麻子の方へ跳ねてきた。こうして量産型ガンキャノンの新しいパイロットとして麻子を迎えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日…みほ達が訓練のためグラウンドに着くとそこには他のパイロット達によって変貌したMSがいた。カエサルのゲラザクには赤いマントが掛けられており、左衛門佐のザクスナイパーは白かった部分が紅く染められてバッパックに六文銭の旗を掛けていた。

他にもバレー部は2機のアッガイの胴体に『バレー部復活!』と大きくペンキで書いていたり、一年生達はジムライトアーマーのサーベルの柄をピンクに塗装していた

 

「やはり戦士たるものマントは必須だな」

 

「一晩中塗っていたが…かっこいいじゃないか…」

 

「おい門佐!しっかりしろ!」

 

「キャプテン!これでバレー部をアピールできますね!」

 

「ああ!これなら入部希望者が増える事間違いなしだ!」

 

「ねえねえ!今日の訓練終わった後、オレンジの部分もピンクにしない?」

 

「確かにそれも可愛いかも〜!」

 

 

「なんか皆凄い事になってるね…」

 

「自分達の専用カラーに染めるとは皆さんやりますね…」

 

「私達も色を変えるべきなのでしょうか?」

 

「それよりもこんな自由に色を変えたりしてもいいのか…?」

 

他の4人は変貌したMS達に圧倒されていたが、みほは今までこんな風に機体をデコレーションする人は見た事がなかったのでとても面白いと思いつい笑ってしまった

 

『おーいみんなー!おまたせー』

 

空から杏の声が聞こえ見上げるとホワイトベースが見え、その後ろにワイヤーで牽引されて飛んでくる船も見えた

 

「あれがMSの母艦か…随分大きいんだな…」

 

「あれ?なんか2つあるよ?」

 

「以前乗せてもらった物とは違うみたいですね」

 

「あれは…あの戦艦は…」

 

優花里はホワイトベースの後を追う船を見てワナワナしていた

 

「優花里さんあの船知ってるの?」

 

「ビーハイヴですよ!地球連邦軍のムーア同胞団の母艦を務めていた戦艦で超激レアな戦艦なんですよ!まさか大洗にあるなんて夢にも思いませんでした!」

 

ホワイトベースとビーハイヴはグラウンドに着陸した。ホワイトベースからは杏達が降りてきた

 

「皆揃ってるみたいだね」

 

「今日は私達の専属教官がお見えになる。挨拶が終わったら早速戦艦の動かし方と訓練に入るので各自準備をするように」

 

「会長殿!この2隻は一体どこで手に入れたんですか?」

 

「ホワイトベースは確か廃止する前に使われてたやつでなんやかんやあって地下で眠ってたんだよね。こっちの四角いやつはパン屋のおじさんが昔使ってたヤツを私達にくれたんだよね」

 

するとビーハイヴの中からみほの通学路にあるぐっどパン屋の店長と従業員が2人降りて来た

 

「あの、この度はこんな立派な船を私達に譲ってくれてありがとうございます!」

 

「いいのよ副会長さん。それよりもだいぶ昔に使ってたやつだから色々傷んでる部分があって申し訳ないわ」

 

「いやいやそんないいっすよ〜おかげで私達モビル道の試合ができるんでこんな有難い事はないですって」

 

杏はニヒヒと笑いながら店長に話していた

 

「しかし懐かしいですね准将。私達も昔はよくこの船に乗って戦場を策で支配してましたね」

 

「随分昔の話だなリント少佐。だが確かに懐かしい…司令もそう思いませんか?」

 

「うむ…あの頃はおまえも若かったなグッドマン准……いや今はグッドマン店長でしたな」

 

パン屋の3人はビーハイヴを見上げながら昔話に花を咲かせていた。だが皆戦艦に注目していたので話は聞かれていなかった

 

「じゃ私達は仕事に戻るね!会長さん!大洗のためにもモビル道頑張ってね!」

 

「承り〜!」

 

ビーハイヴを届けてくれたパン屋の3人はグラウンドから出ていった

 

「あのパン屋さんモビル道やってたんだね…」

 

「私も全然知らなかったよ…」

 

みほと沙織がそんな事を話していたら学校の駐車場に緑色の自動車が入ってきた。中からは緑のTシャツの上にベストを着た男が降りてきた

 

「え、何あのすっごいイケメン!」

 

「おっ教官来たじゃん」

 

杏が手を振ると男はそれに気づきこちらへ向かってきた

 

「キャー!何あのイケメン!こっち来るよ!キャー!」

 

「沙織さんお願いだから落ち着いてください…」

 

「おまえ男が来るといつもうるさいよな…」

 

猛烈に興奮する沙織に華と麻子はかなり呆れて優花里は少し顔をしかめていた。車から降りてきた男はこちらに着くと桃の隣へ立った

 

「紹介しよう。今日から我が校のモビル道専属教官、及びサポートを行ってくれるロックオン・ストラトス教官だ」

 

「よう皆!俺の名はロックオン・ストラトス。今日からこの大洗でモビル道の教官として働くから皆よろしくな!」

 

男の名はロックオン・ストラトス。彼はモビル道教導隊から派遣された新米教官であり、モビル道は宇宙でも活動するので基本的に連盟や教導隊所属の教官が同伴しなければならず、女子においては力仕事の助っ人として男性の教官が着任する事が一般的だった

 

「まあ、俺がやれる事といえば機体の修理だったり練習メニューのアドバイスくらいだが、とにかくわからないことがあったら何でも聞いてくれ!」

 

「教官!質問いいですか!?」

 

沙織が勢いよく手を挙げた

 

「おっ、早速元気いい子がいるな。いいぜ何でも答えてやる!」

 

「教官って彼女いるんですか!?」

 

「おまえまじか…」

 

沙織の質問に麻子は引いていたが沙織の目はメラメラ燃えていた。他の皆も一応答えが気になるようでざわついていた

 

「彼女はいないが狙った女の子のハートは必ず……狙い撃つぜ!」

 

「キャーーーーー!!!」

 

「いやキャーじゃねえよ。というか教官も中々痛い事言うんだな」

 

「はいはい茶番はそこまでにして今日はホワイトベースで訓練するから皆船に乗った乗った」

 

麻子が沙織に冷ややかにツッコミを入れる中、杏の言葉を聞き皆ホワイトベースに乗り込んで行った。

 

「あ、かーしま今のうち例のヤツお願い」

 

「わかりました。連絡して参ります」

 

桃はホワイトベースに乗らず本校舎の方へ戻って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほ達はホワイトベースのメインブリッジに集まっていた

 

「主にここのメインブリッジで戦艦を動かす事になっている。そんでこのブリッジに必要なポジションは先ず艦長が一人、そんでオペレーターとレーダー手が一人人ずつ必要だ。それに砲手と操縦手が2人ずつくらいいれば動かす事はできる」

 

「随分少ない人数で動かすんですね…」

 

ロックオンの説明に柚子は少し不安だった

 

「まぁデカい学校ならもっと大勢乗ってると思うがウチは人数がそこまで多くないし戦艦も2隻あるからな。それよりもMSのメカニックの事が心配なんだができる人はいるのか?」

 

「それならうちの自動車部とあそこにいるハロ達がやってくれるから大丈夫だよ」

 

杏はブリッジからビーハイヴの方を指さすと、そこには大洗女子の自動車部とモビルワーカーが4機作業していた。モビルワーカーは赤ハロの他に見つかったハロ達が乗っていた

 

「赤ハロに仲間とかいたんだね…」

 

「それなら何とかなりそうだな。じゃあ早速船のクルーを決めるが誰かやりたいポジションはあるか?」

 

こうして戦艦のクルーを希望する生徒達でポジションを決める話し合いが始まった。最終的に決まったホワイトベースのクルーは

艦長兼パイロット:角谷杏

オペレーター:武部沙織

レーダー手:宇津木優季

砲手:河嶋桃

副砲手:山郷あゆみ

操縦手:小山柚子

副操縦手:阪口桂利奈

メカニックはハロ達に任されAチームとCチームのMSが搭載する事が決まった

 

そしてビーハイブのクルーは

艦長:エルヴィン

オペレーター兼レーダー手:近藤妙子

砲手:佐々木あけび

操縦手:おりょう

メカニックは自動車部に任されBチームの4機が搭載される事になった

 

「まーこんな感じでいっか。オンちゃんもそう思うでしょ?」

 

「オンちゃんって何だよ…ま、とりあえず決まったみたいだしいいか!つー事でいよいよモビル道の訓練を始めるからパイロットの皆はMSに乗ってくれ!」

 

ロックオンが指示を出しみほ達は沙織と別れホワイトベースから降りていった。エルヴィン達も早速船を動かすためビーハイヴへ向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大洗女子……モビル道を復活なされたのですね」

 

長いテーブルが7つの席で囲まれた一室に3人の少女が席に座っていた。中央の1席に座るモビル道の指揮官と思しき少女は電話をしておりその傍らの席に他の2人が座っていた

 

「練習試合ですか…いいでしょう。楽しみにしてますわ。それでは…」

 

少女は受話器を置いた

 

「ダージリン様良いのですか?全国大会も近いのに初心者の多いチームと試合をしても…」

 

「あらいいじゃないペコ。大洗の方々は初陣の相手に私達を選んでくれたのよ。とても喜ばしい事じゃない。それに…」

 

ダージリンは席から立ち上がった

 

「私達は日本で最も気高く優雅なモビル道を誇る聖グロリアーナ女学院よ。受けて立ちますわ…真っ向からね」

 

モビル道の超名門聖グロリアーナ女学院…それに所属する多くの生徒から選び抜かれた7人の精鋭『セブンスターズ』

そしてセブンスターズの一員でありモビル道チームの総司令であるダージリンは大洗女子学園との試合を引き受けたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子ではロックオンによる猛特訓が始まっていた

 

『全員ちゃんと隊列を組んで進めよ!戦艦の護衛はMSの基本だぞ!』

 

宙を浮く戦艦と足並みを揃え移動する訓練が行われた。ホワイトベースからロックオンの声が送られていた

 

「澤と大野!列から遅れてるから気をつけろ!磯部と河西は変な方向に進んでってるから戻れ!」

 

「オンちゃん熱いね〜これなら皆もよく覚えれると思うよ」

 

「オンちゃんって何かやだな…まぁ日本の漫画に出てくる熱血教師ってヤツを勉強してきたからな。舐めてもらっちゃ困るぜ」

 

「ま、その調子で頼むね〜」

 

杏は艦長席に座り干し芋を食べながらMS隊の訓練を見守っていた

続いて射撃訓練が始まり、各機体が遠く離れたジムのデコイに向かって射撃を行っていた

 

『最初は止まっている的に当てて射撃の感覚を掴んでくれ。五十鈴と左衛門佐はせっかくスナイパーの機体に乗ってるから遠くから撃つのも意識してくれ』

 

「私も撃ってみるか」

 

麻子はガンキャノンに砲撃姿勢を取らせキャノン砲を発射させると砲弾はデコイに命中した

 

「麻子さんお見事です!」

 

『麻子凄いじゃん!やっぱ始めて正解だったね!』

 

「マニュアル通りにやってるだけさ。沙織の通信はあの船から来てるのか」

 

戦艦の移動訓練や砲撃訓練も一通り行った後、最後にMS同士による戦闘訓練が行われた。みほは優花里やカエサルと手合わせし、得意な格闘戦へ持ち込む事でいずれも勝利する事ができた

 

「やっぱ西住殿は凄いです。私なんかじゃ手も足もでません」

 

「そんな事ないよ!優花里さんだって初心者なのにとっても上手いよ」

 

「だが流石だよ西住さん。貴方程の実力者と共に戦えるなんて嬉しいよ」

 

「こちらこそカエサルさんはとても頼もしいので頼りにしてます」

 

 

 

こうして訓練が終わり既に日が暮れそうになっていた。

 

「ようし今日の訓練はここまで!皆お疲れ!」

 

「「「お疲れでした〜〜〜」」」

 

生徒は皆クタクタに疲れていた。

 

「急ではあるが今度の日曜日練習試合をする事になった。相手は聖グロリアーナ女学院だ」

 

優花里は聖グロリアーナ女学院の名前を聞き少し不安そうな顔をしていた

 

「優花里どうしたの?」

 

「聖グロリアーナ女学院は過去に全国大会で準優勝した事もあるかなりの強豪なんです…」

 

「準優勝ですか!?そんな凄い学校と試合をするなんて…」

 

「確かに聖グロリアーナはかなりの強豪だがお前達だって才能は十分にあるんだ。まあ今回は胸を借りるつもりで精一杯やろうぜ!」

 

「オンちゃんいい事言うね〜とにかく日曜は朝6時に集合だから皆よろしくね〜」

 

皆朝6時という早朝に少し不満を漏らす中、麻子はかなり苦々しい顔をしていた

 

「……辞める」

 

「はい?」

 

「やっぱりモビル道辞める…!」

 

「「「えええ!?」」」

 

麻子の言葉に沙織を除く3人は耳を疑った

 

「麻子はね…朝に弱いんだよね…」

 

麻子はそのままグラウンドから出ていこうとした

 

「待ってください麻子さん!」

 

「短い間だったが世話になった。案外楽しかったがここまでだ」

 

「モーニングコールさせていただきますから!」

 

「お家まで迎えに行きますので!」

 

「今誰もが朝はゆっくり寝ていたいと考えているんだぞ」

 

麻子はそう言いこちらへ振り返った

 

「なら学校の授業なんかの為に早起きしていて良いわけがない!見るがいいこの暴虐な行為を!遅刻ばかりする者を悪と称しているがそれこそ悪であり生徒達を衰退させているんだぞ!」

 

「言い訳はいいよ!というか麻子が留年したら私達の事先輩って呼ばなきゃなんないんだよ?それにおばぁだってただじゃおかないと思うよ…」

 

麻子はおばぁという言葉を聞くとかなり顔を引きつらせた。

 

「わかった…やる…」

 

何とか麻子の説得に成功し4人はほっとした。その直後みほは作戦会議の為杏に呼ばれたので沙織達には待っててもらい会議室へ向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたエリカ。随分浮かない顔をしているな」

 

黒森峰女学園にて、訓練が終わった後、愛機であるガンダム試作2号機の前で考え事をしていたエリカにまほが声をかけてきた

 

「たいちょ……まほさん…」

 

「隊員から聞いたぞ。今日は大丈夫そうだったが最近訓練中少し調子が悪かったそうじゃないか」

 

「ご心配おかけしてすみません…でも、もう大丈夫です」

 

エリカはみほの事をまだ後悔していたが切り替えようと思っていた

 

「いいんだエリカ…私もおまえと同じ事を考えている」

 

まほはエリカの目をまっすぐ見た

 

「みほの事だろう…?」

 

「隊長…」

 

エリカは無意識にまたまほの事を隊長と呼んでいた

 

「みほがモビル道を辞めたのは私のせいだ。昔みほを必ず守ってやると約束したのに…私はあの日カチューシャに負けてしまいみほを守る事ができなかった…」

 

まほは胸に手を当てて少し辛そうな顔をしていた。エリカはまほの方が自分なんかよりもっと辛かった事に気づき情けなくなった

 

「ごめんなさい隊長!私は隊長の気持ちも考えず自分の事しか考えていませんでした!」

 

「気にするな。それに私はあの時よりも強くなった。だからもう誰にも負けはしない…今年の全国大会で必ずプラウダを叩き潰す…そうすれば私達の元にみほが戻り、またモビル道を一緒にやってくれるかもしれない」

 

エリカはまほの言葉から決意めいたものを感じた。まほは強くなったのだ。みほを再びモビル道へ復活させるために

 

「たいちょ…まほさんの言う通りあの子ももしかしたら戻ってきてくれるかも知れませんね…そうなればとても嬉しいです!」

 

「ハハハ、ありがとうエリカ。戦ってくれエリカ…みほのため…黒森峰のために…」

「はい!!!」

 

エリカはまほに大きく返事しその場を後にした。そうだ…プラウダを倒せば彼女は戻ってきてくれるかもしれない…エリカはより強くなる事を決意した

 

 

 

「自分の事しか考えてないか……私もそうかもな」

 

まほもMSの格納庫から立ち去った。この時まほの顔には陰りが見えていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強豪聖グロリアーナ女学院との練習試合が始ろうとしていた。歴戦の猛者相手にはたしてみほ達の策は通用するのだろうか

次回 ガールズ&ガンダム『セブンスターズとの戦い』

誇り高き星々がみほ達を襲う

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました
なんとか今年中にあげれました笑

大洗女子の教官はロックオン・ストラトス(ニール・ディランディ)で行きます ロックオン推しの方はすみません

今回の補足としては聖グロリアーナ女学院のモビル道の生徒はガンダム鉄血のオルフェンズに登場したアリアンロッド艦隊の軍服やパイロットスーツを着ていると思ってください
ダージリンの衣装はラスタル・エリオンと同じという事でお願いします

次回もよろしくお願いします


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5話 セブンスターズとの戦い

前回の投稿より期間が空いて申し訳ございません

理由は某ゲームに新機体とした参戦したZZガンダムを取るためや正月は一生家で眠ってた等では決してありませんごめんなさい

今回も色々詰めてたら長くなってしまいましたが今回もよろしくお願いします


聖グロリアーナ女学院との練習試合に向けて生徒会室にて作戦会議が開かれた。会議にはみほや生徒会の他にカエサルと典子と梓が参加していた

 

「相手の聖グロリアーナ女学院は強固な装甲と連携力、そして艦隊戦を得意としている。MSは装甲強化型ジムとジム・ガードカスタムを始めフルアーマーガンダムやBD(ブルーディスティニー)シリーズを配備している。よって機体性能に関しても向こうが圧倒的に有利だと思え」

 

「という事は現状相手のMSとまともにやり合えるのは西住さんのガンダムだけのようだな…」

 

カエサルの言う通り聖グロリアーナな様な名門校の機体は全て高性能な物ばかりなので、大洗のMS達では太刀打ちできない可能性があった

 

「そこでだ。敵MS部隊を叩く為に少数が囮となり敵部隊を我々に有利な地形まで誘導する。本隊はあらかじめキルゾーンで待機させておき、囮と合流後一気に敵MSと戦艦を撃破する!」

 

「「「おお〜!」」」

 

桃の立てた作戦に皆感銘の声を上げた。みほも作戦自体は悪くないと思ったが不安要素も多いと思い顔を曇らせていた

 

「どったの西住ちゃん?もしかしてかーしまの立てた作戦に何か言いたい事とかある?」

 

「いや……その……」

 

「俺も西住の意見が聞きたいな。作戦を立てる上でも皆で提案し合うのもいい試合する為には大切なんだぜ」

 

壁に寄りかかりながら会議を見守っていたロックオンがみほに言った。モビル道の専属教官は原則として作戦を考えたり指揮する事は禁止されているのでロックオンはあくまで傍観者として会議に参加していた

 

「そーそーオンちゃんもこう言ってるし何でもいいから思いついたことは言うべきだよ〜」

 

「えっと…聖グロリアーナはこちらが囮を使う事を想定しているだろうし逆に包囲されてしまった時に撤退する事がかなり難しくなるかと…」

 

「確かに囮を使うことは悪くないが西住さんの言う通り相手の方が練度が高い故に柔軟に対応されては元も子もないな」

 

みほの意見にカエサルも同意してくれた

 

「おのれ…この私が立てた作戦にケチをつけるとは!それならおまえが隊長をやれ!」

 

「まぁまぁかーしま。でも確かに隊長は西住ちゃんの方がいいね」

 

「ふぇ!?私ですか!?」

 

「これからは私達の指揮は西住ちゃんに任せるから頑張ってね!」

 

杏が拍手し始めると皆もそれに同意するようにみほへ拍手を送った

 

「しっかし初めての試合相手が聖グロリアーナとは随分大きく出たな。相手はこっちより経験も実力も上だから盗めるもんは盗んで胸を借りるつもりで行こうぜ!」

 

「んーそういうのも大事だけどどうせやるなら勝ちたいし負けたら大納涼祭であんこう踊り踊ってもらおうかな〜」

 

「「「「あんこう踊り〜〜!!??」」」」

 

みほとロックオン以外あんこう踊りと聞き動揺し少し青ざめていた

 

「な、なんだそのあんこう踊りって?」

 

「その…大洗に昔からある伝統的な踊りなのですが…」

 

「まー日曜日に見れると思うから楽しみにしててよ。つー事で皆練習試合頑張ろうね〜てわけで今日は解散〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校を出るともう暗くなっておりみほは沙織達と合流し、帰り道に海沿いにあるベンチで休憩してそこで作戦会議の内容を話した。負けた時の罰ゲームがあんこう踊りと聞き3人はかなり嫌な表情を浮かべていたが、それでもみほ一人に踊らさせまいと負けたら自分達も踊ると言ってくれた

 

「相手はかなりの強豪ですが西住殿1人に恥ずかしい思いはさせません!」

 

「私も同じ気持ちです!精一杯頑張りましょう!」

 

「それよりも麻子がちゃんと起きてくれるかが心配だよ…」

 

麻子の事は沙織だけでなくみほ達も心配していた。試合に来てもらう為にも当日の朝に皆で起こしに行く事を決めてみほは沙織達と分かれ自宅へ向かった

 

(ついに他校の人と練習試合かぁ…私の事を知ってる人とかいなければいいけど…)

 

「みほー!」

 

名前を呼ばれ後ろを振り向くとこちらへ沙織が走ってきた

 

「沙織さん?どうかしたの?」

 

「ふぅ、みほが少しだけ憂鬱な顔してると思ってさ…ちょっと心配になって…」

 

その為にわざわざ自分を追いかけてきてくれた事にみほは驚いた

 

「もしかしてモビル道始めちゃったせいで何か嫌な事思い出してるのかなって思ってさ…ごめんね私達のために…」

 

「沙織さん達は悪くないよ!それに今は昔よりもMSに乗ってて楽しい気がしてさ…だからあまり気にしなくてもいいよ」

 

「そう?でも何か抱え込んでる気がするんだよね……悩み事とかあったらいつでも相談乗るから頼りにしてね」

 

沙織はみほに手を振って帰って行った。みほは沙織を見送りながらあの事を思い出していた。以前生徒会室へ行った時…ニュータイプの力を持った『みほ』が自分の心の奥底に沈んで行った日の事を……だがみほ自身はあの時ニュータイプである自分と決別する事ができてとても良かったと思っていた。だからみほは沙織達と同じ様に…普通の女の子としてモビル道をやって行きたいと思っていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という事でオンちゃんの教官就任を祝して乾杯〜!」

 

大洗女子の生徒会室ではロックオンの歓迎会のようなものが開かれていた。杏と桃と柚子とロックオンであんこう鍋を囲みジュースで乾杯した

 

「なんか悪いなこんな事してもらって。日本は長いがアンコウは食べた事なかったから楽しみだよ」

 

「まーまーオンちゃんにはこれからはウチらの教官としていっぱい頑張ってもらうからねぇ。小山もういいんじゃない?」

 

「煮えるまでもう少しですよ会長」

 

「しっかしあんなMSにマント着せたり旗持たせたり文字書くヤツなんて初めて見たよ…」

 

「生徒の自主性を重んじるのも大切だかんねー。それに結構機体の色変えたりデコったりする人って多いんでしょ?」

 

「まぁそうだけどよ…あと罰ゲームなんて作っちまったけどそこまでして勝ちたいもんなのか?相手はかなり強いから負けても仕方ないと思うが…」

 

ロックオンはふと罰ゲームの事が気になり杏に聞いてしまった

 

「……まぁ確かに負けても仕方ないかもしんないけどさ…でもどうしても先の事を考えると勝ちに行きたいんだよね…」

 

「先の事?なんか目標でもあるのか?」

 

ロックオンの質問に杏達は答えずに黙っていた。鍋の煮える音が部屋の中にただ響いていた

 

「…鍋煮えましたよ」

 

「食べよっか!オンちゃんのよそってあげるよー」

 

「お、おうありがとう」

 

生徒会の3人が何かを隠してる気がしたがロックオンは詮索せず今は鍋を楽しむ事にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして時は過ぎていき試合の日まで残り少ない日数の中で訓練を重ねていき、ついに練習試合当日の朝になった。みほは麻子を迎えに行こうとしていたら沙織から電話がかかってきた

 

「もしもし?」

 

「もしもしみほ!今華と麻子んちにいるんだけどやっぱ起きなくてさ!もうどうしよ〜!」

 

どうしようかと考え試合会場にら戦艦で向かう事を思い出したのでみほは先ず学校へ向かった

 

 

 

「麻子起きてよぉー!今日試合なんだあらさぁ!」

 

「冷泉さん起きてください!集合時間に間に合わなくなりますよ!」

 

「眠い……無理……」

 

沙織と華は麻子から布団を剥がそうとしていたがかなり強い力で反発されてかなり苦戦した

 

「こうなったら五十鈴家に代々伝わる奥義…十二王方牌大車併で分身を布団の中へ…」

 

「何その変な名前!というかそんな事できるわけないじゃんやめてよね!」

 

「大きなチョコパフェ……そんなの私が一口で…」

 

「あーもう夢見始めてんじゃん!麻子いい加減起きてよー!」

 

沙織と華は再び麻子から布団を剥がそうとするも麻子も寝ながら布団を離さないでいた。すると庭からラッパを吹く音が聞こえので華と沙織が窓を開けてみると優花里が来ていた

 

「皆さんおはようございます!今西住殿から連絡があってガンダムで私達を迎えに来るそうです!」

 

すると空からみほの乗るプロトタイプガンダムが近づいてきて麻子の家の正面にある水路に着陸した。着陸時の衝撃が周辺に響き麻子はビクリと布団から起き上がり近所の人も驚いた様に外へ出てきた

 

「なんだ今の音!?事故でも起きたか?」

 

「わぁ!凄いよパパ!ガンダムだよ!」

 

「うるさくしてすみません!すぐに移動させます!」

 

コクピットから制服姿のみほが出てきてガンダムの掌に乗せられて玄関へ降りた

 

「皆おまたせ!会長が私達は戦艦で試合会場へ向かってるから空で合流してだって」

 

「おっけー!ほら麻子いくよ!荷物まとめてあるから早く靴履いて!」

 

「ああ…おかげさまで少し目が覚めたよ…」

 

みほはパジャマ姿の麻子とコクピットへ入り沙織と華と優花里をガンダムの掌に乗せて3人が落ちないようにバーニアを噴かせて空へ飛翔した

 

「わわっ!凄いよ空飛んでるよ!」

 

「ガンダムに運ばれて空を飛べる日が来るなんて…本当に夢のようです!」

 

「あんまり下を見ると落ちてしまいそうですね…」

 

 

 

しばらく空を移動していると海へ出て本土へ向けて出航していたホワイトベースとビーハイヴの後ろ姿が見えてきた。みほはガンダムを接近させると通信機をつけた

 

「ホワイトベース聞こえますか西住です。着艦許可お願いします」

 

「了解でぇす。左舷ハッチオープン、プロトタイプガンダム着艦お願いしまぁす」

 

みほの通信に優季が応答するとホワイトベースは減速しMSデッキのハッチが開かれたので着陸した。ハッチが閉まってからみほは沙織達を降ろした

 

「西住殿お見事です!こんなに上手く着艦できるなんて凄いです!」

 

「でも制服姿で空飛ぶのはもういいかな…下からパンツ覗かれてたらどうしよう…」

 

「それはないと思います…」

 

みほと麻子はコクピットから出てハンガーに備えられている昇降機で沙織達の所へ降りてきた。他のハンガーにはスナイパーカスタムとザクと量産型ガンキャノンがおりハロ達が整備していた

 

「あ!麻子まだパジャマじゃん!確か更衣室あったから早く着替えてきて!」

 

「あぁ…それにしても色々とでかいなここは…」

 

沙織は麻子を更衣室へ連れていきみほと華と優花里はとりあえず会長達がいるメインブリッジへ向かった。艦内に空いてる部屋は多かったが使えそうな部屋はあまり無いようで1年生達とロックオンが食堂で休憩しているのが見えた

ブリッジに入るとそこには生徒会の3人がいた

 

「西住さんお疲れ様。冷泉さんを迎えに行ってもらってありがとね」

 

「西住ちゃん着艦すんのすっごい上手かったねー。あたしらもお手本にさせてもらうよ」

 

「いえいえそんな事ないですよ…」

 

「謙遜するのはいいがあまり私用でMSを使うなよ。事故でも起こしたら学校のイメージが大きく下がってしまうからな」

 

桃の言う通りモビル道で使う機体を私用で使う事は連盟から黙認されてはいるが、事故等を起こした場合かなり厳重な注意を受ける事になっていた。さらに無許可で定められた行動範囲外や海中や空を移動する事も禁止されていた

沙織と制服に着替えた麻子がブリッジへやって来ると試合会場となる大洗の町が見えてきた

 

「ねえねえあれって対戦相手の学園艦じゃない?」

 

「凄く大きいですね…」

 

「流石聖グロリアーナ…戦艦の数もかなり多いです…」

 

既に聖グロリアーナ女学院の学園艦は港に着いていた。グロリアーナの学園艦の船体には多くのサラミスが停泊しているのが見えた

 

「来ましたわね」

 

甲板にいたダージリンは大洗女子の戦艦に気づき、マントのように着ていた軍服を翻し自身が搭乗するサラミス改へ向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習試合の開始時刻となり両校のMSパイロットは向かいあって整列していた。ステージは崖の多い荒野から大洗の市街地に掛けて設営され親善試合でもあったので私用機体数は大洗女子の数に合わせられていた

 

「今日は急な申し出に関わらず試合を受けてもらい感謝する」

 

「かまいませんわ。私達はどんな相手にも全力を尽くしますのでサンダースやヴァルキュリア男子の様な下品な戦いは致しませんわ」

 

「西住殿…今日はセブンスターズの人は4人しか来てないみたいです」

 

「優花里さんよくわかるね…」

 

着ている服装で判別する事ができた優花里は小声でみほに教えてくれた

 

「それではこれより聖グロリアーナ女学院対大洗女子学園の試合を始める!一同礼!」

 

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

挨拶が終わり両校の生徒は自分達の戦艦へと戻って行った。ブリッジに行くと杏は艦長席に座りロックオンと干し芋を食べていた

 

「皆おかえりー。相手の学校の人どんな感じだった?」

 

「全力で我々と戦うようです。こちらを嘗めている様子はありませんでした」

 

「甘くないねぇ。ところで向こうの学校にも俺みたいな専属教官はいるのか?」

 

「わかりません。ただ強豪校ともなるとモビル道の既習者のみで艦を運行させるらしく必要ないらしいです」

 

ロックオンはその事を知らなかったらしく驚いていた。そして沙織は桃の言葉を聞きガックシしていた

「なーんだ、せっかくお嬢様学校のイケメン教官に会えると思ったのに」

 

「沙織……おまえ毎回そんな調子でいるつもりか…?」

 

「んじゃ茶番はここまでー。西住ちゃん達パイロットはMSに乗っていつでも出れるようにしといてよ」

 

「会長は試合にでないんですか?」

「私は皆がピンチになったら駆けつけるからそれまで頑張ってね」

 

「ガンバレヨ!ガンバレヨ!」

 

「よーしおまえら!もうすぐ試合も始まることだし気合い入れていこーぜ!エイエイオー!!!」

 

「やっぱオンちゃんは熱血だねぇ」

 

「雑誌とか本にはこんな感じだと生徒がついてきてくれると書いてあったけど実際どうなんだ?」

 

時間もあまりなかったのでみほ達はMSデッキへ向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それでは試合開始!』

 

審判から試合開始のアナウンスが流れついに試合が始まった。ホワイトベースとビーハイヴは離陸しMS出撃のためハッチを開けた

 

「まずは敵の出方を見に行くから優花里さん達は私の後に着いてきてください。初めてなので難しいかもしれないけど気楽にがんばりましょう!」

 

「了解です!何だかわくわくしてきましたね!」

 

「はい!相手はとても強い方々ですが良い試合にしたいです!」

 

「あぁ、まだちょっと眠いがやってやるさ」

 

『ガンダム、カタパルトデッキに移動お願いします!』

 

沙織の通信がみほに入りみほはガンダムをカタパルトにセットした

 

『射出準備完了!頑張ってねみほ!応援してるから!』

 

「うんありがとう沙織さん。西住みほ!プロトタイプガンダム出撃します!」

 

カタパルトデッキから勢いよく射出されみほの乗るガンダムは発進した。ガンダムに続いてザクIIとスナイパーカスタムと量産型ガンキャノンも発進していった

 

 

 

 

 

 

 

「サラミス改とサラミスが一隻…護衛はそれぞれの甲板にジム・ガードカスタムが2機ずつ…地上に装甲強化型ジム機が5機前進中…あとサラミス改の側面ににBD2号機と3号機…サラミスはフルアーマーガンダムが待機中…」

 

「流石名門校…綺麗な隊列を組んでますね」

 

みほと優花里は敵艦のレーダーに見つからない場所にMSを待機させてから降り、岩陰から望遠鏡で偵察していた。

 

「ガードカスタムの主兵装はビームスプレーガンで装甲強化ジムは2機がハイパーバズーカ持ちで3機が100mmマシンガンか…」

 

「強固な上に装備も強そうですね…3機だけまだ出撃していないようですね」

 

「始まったばかりだから船の中で温存してるのかな…戻ろう優花里さん、敵も段々こっちに近づいてきてる」

 

みほと優花里はその場を立ち去り自分らのMSの場所へ向かった。待機させていた場所では周囲の警戒のため華と麻子が見張りをしていた。みほと優花里はコクピットに入り機体を起動させた

 

「沙織さん聞こえますか?これより作戦行動を始めますので待ち伏せの準備をお願いします」

 

『おっけー!ビーハイヴ聞こえますか?MS隊は所定の位置で待機、船はそのポイントの後方で待機します』

 

『了解です!先制点は私達が貰っちゃいましょう!』

 

『ねーねー西住ちゃん。何か作戦名とかないの?』

 

「作戦名…ええっと……こそこそ作戦です!こそこそ隠れて相手の出方を見てこそこそ攻撃していこうと思います!」

 

「姑息な作戦だな」

 

「桃ちゃんが立てた作戦だよ…」

 

こうしてみほ達は囮部隊として行動を開始し、待ち伏せをする本隊も待機場所へ移動し始めた

 

「そういえば私は全然いいんだけどロックオン教官ってブリッジにいても大丈夫なんですか?」

 

何気に艦長席に座る杏の横に立っていたロックオンに沙織が聞いた

 

「俺は直接的な指示とかは取れないが一応おまえらの監督のような存在だし、何より何もせずに待ってるのは暇だからな…」

 

「ところで今日の試合ってどんなルールなんですかあ?」

 

「今日の試合は殲滅戦ルールで相手チームで出撃中のMSを全滅させた方の勝ちだ。このルールだと相手の戦艦や艦内で待機中のMSは落とさなくてもいい事になっている」

 

「あれ?じゃあ相手チームの戦艦は無視してMSだけ狙えばいいんですか?」

 

「確かに山郷の言う事も間違っちゃいないんだが戦艦の武装は火力が高いからなぁ…それに修理に戻られても厄介だし一応倒した方がいいと俺は思うな」

 

「ウチらみたいに初心者ばっかが乗ってると無視されちゃうかもね。まぁMSの子達がやられなきゃいい話だし大丈夫大丈夫」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほ達が囮作戦のために移動していると敵部隊の戦艦が一隻どこかへ行ってしまいサラミス改とMS数機が残っていた

 

「2手に分かれたのかな…でも今がチャンスかも」

 

「西住さん、私達はどうすればいい?」

 

「これから私が敵部隊を引き付けてあそこの谷を通って本隊の元へ誘導するので3人は谷の上に移動お願いします。華さんは私が合図を出したら牽制のため敵戦艦を狙撃してみてください」

 

「もし戦艦を落としたら中で待機してるMSってどうなるのでしょうか?」

 

「そうすると撃破判定が出てなくても戦艦に撃破判定が出ると中のMSも撃破された事になります」

 

「なるほど…結構重要ですね…」

 

「本当に西住殿1人でいいのですか?私もお手伝いしたいのですが…」

 

「優花里さんありがとう。でも囮はちょっと危ないし3人にはこの後もやって欲しい事があるから私は大丈夫だよ。それじゃ行ってくるね」

 

みほはサーベルを2本抜き二刀流となり敵部隊へ突っ込んで行った

 

「西住殿かっこいいであります…」

 

「流石経験者ですね…」

 

「私達も移動するとしよう」

 

3人は待ち伏せポイントに繋がる谷へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダージリンはサラミス改の艦長席に座り紅茶を飲みながら周囲を見渡していた

 

「ダージリン様、現在ガードカスタムが2機装甲強化型ジムが2機護衛に入っていますが私も出た方がよろしいですか?」

 

「まだ貴方の出る幕ではありませんわペコ。今は大洗の皆さんがどう仕掛けてくるか待つことにしましょう」

 

するとブリッジへ整備士の作業着を着た男が入ってきた

 

「もう試合は始まっていたのか…」

 

「………どうして貴方がここにいるのかしら?誰も貴方を呼ぶ事など無いはずなのですけど」

 

ダージリンは男を睨み強い言葉をぶつけたが彼はフッと鼻で笑った

 

「今日は大学の授業もなく訓練も休みだったので、久しぶりに君達の試合を見に行こうと思ってね。ここの整備士の子達は私の事を快く歓迎してくれたよ」

 

「整備士の人員を見直す必要があるかしら。貴方のような野良犬がもう入ってこられないためにも」

 

「あの…ファリド様もお飲みになりますか?」

 

男の名はマクギリス・ファリド。彼は聖グロリアーナ女学院の学園艦上にあるヴァルキュリア大学付属高校の出身であり、現在は本土のヴァルキュリア大学へ通っていた

 

「頂くよオレンジペコ。君の入れた紅茶は美味しいからな」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「ペコを口説くのは辞めていただきませんか?連盟に通報して二度と私達の学園艦に立ち入れない様にする事もできるのですよ?」

 

「君は相変わらず卑しい身分の者には厳しいな。それに試合前にヴァルキュリアが下品だと相手に言うなんて酷いじゃないか」

 

「貴方の身分など興味ありませんが確かに他のヴァルキュリア生の方々に失礼でしたわね。正確には貴方の戦い方が下品とでも言うべきでしたわ」

 

「ダージリン様、敵機補足しました。真っ直ぐこちらへ向かってきます」

 

レーダー手がダージリンに大洗の機体が接近してくる事を伝えた。補足されたMSはみほの乗るプロトタイプガンダムだが、依然としてビームサーベルを両手に持ちながらサラミス改へ向けて接近し続けた

 

「武装をビームサーベルしか持たないとは…言った傍から私のような選手が出てきたな」

 

(気づかれたみたいだしこれ以上近づくと敵MSからの射撃も来る……)

 

みほは急停止すると右手に持っていたサーベルを空に向けて掲げた。合図を確認した華はサラミス改のブリッジに向けてスナイパーライフルを放った

しかし狙撃はサラミス改のブリッジを掠めダメージは与えれなかった

 

「やはりこちらの注意を惹きつけ狙撃ポイントから攻撃を仕掛ける作戦のようでしたわ)」

みほのガンダムはサラミス改の高度まで飛び右手のサーベルを挑発する様に振ってから踵を返して断崖絶壁に挟まれた谷へ向かった

 

「着いてこいと言っているのでしょうか…ダージリン様如何致しますか?」

 

「もちろん敵の挑発に乗って差し上げましょう。全機、目標は前方のガンダムと敵スナイパー。恐らく敵本隊からの囮でしょうから攻撃は牽制程度に、サラミス改の防衛を最優先にお願いしますわ」

 

みほ達の一連の行動からダージリンはみほ達が囮部隊として自分達に仕掛けてきたことを見抜いた。地上の装甲強化ジムはサラミス改に足並みを揃え逃走するみほのガンダムを追跡し始めた。

華はもう一度サラミス改へ向けて狙撃したが、警戒していたガードカスタムの盾に防がれてしまった

 

「みほさんごめんなさい…あそこで撃破できればよかったのに」

 

「この距離を当てるのは誰でも難しいから気にしなくていいよ。敵部隊が挑発に乗ったから3人は崖の上から逃げながら攻撃して」

 

3人は了解と言い谷の上へ移動し待ち伏せポイントへ移動し始めた。サラミス改は谷の上空を飛び、装甲強化型ジムは華達のいる崖上移動した。みほのガンダムには戦艦のメガ粒子砲とガードカスタムの射撃で牽制し部隊は追撃を行った

 

「わわっ。敵が崖の上に来たであります!」

 

「優花里さん落ち着いて。あまり反撃はせず逃げる事だけ考えてください。麻子さんと華さんも今の距離を維持して移動お願いします」

 

「了解。しかし敵の攻撃がやけに散発的だな」

 

「もしかしてもう作戦が見抜かれてしまったのでしょうか…」

 

「そうかもしれない…次の行動も考えないと」

 

みほ達は敵からの攻撃を避けながら待ち伏せポイントを目指した

 

「ダージリン様、アッサム様へ連絡しました。この先敵の待ち伏せに適した場所があるのでそこで合流するそうです」

 

「撃破しなくてもいいのか?今なら下にいるガンダムはともかく上の3機は倒せるはずだ」

 

「あのガンダム…こちらの攻撃をかわしながら隙を伺ってる様にも見えますわ。それに彼女達に着いていけば敵本隊も会えるはずなのでここは様子を見る事にしましょう」

 

「では私は少し席を外させていただきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダージリン率いる部隊の追撃から逃げつつ、みほ達はついに本隊の元へ到着しようとしていた。ホワイトベースとビーハイヴは地上に展開したMS部隊よりも少し後方の上空で待機していた

 

『西住です!あと120秒で到着します!』

 

「了解!ブリッジを戦闘態勢へ移行、河嶋先輩とあゆみちゃんは砲撃準備お願いします」

 

「了解です!ちゃんと当てれるかわかんないけど頑張ります!」

 

「フッフッフッ……連中を蜂の巣にしてやる……」

 

「桃ちゃんセリフが悪役みたいだよ…」

 

「小山先輩と桂利奈ちゃんはいつでも移動できるよう準備お願いします」

 

「武部ちゃん凄いねぇ、あたしよりも艦長やってんじゃん」

 

「おまえも艦長なんだから少しは働けよ…美味いよなこれ…」

 

沙織が皆に指示を出す中、杏は艦長席でくつろぎロックオンと干し芋を食べていた

 

「ちょっとオンちゃんあんま食べないでくんない。今日4袋しか持ってきてないんだから」

 

「ロックオンクイスギ、クイスギ」

 

梓達のジム・ライトアーマー部隊も待ち伏せの準備を終えみほ達を待っていた

エルヴィン率いるビーハイヴも同じく準備を整えていた

 

「ついに作戦開始か、MS部隊は配置完了したか?」

 

『こちらカエサル。門佐は狙撃ポイントに到着し私も準備完了した』

 

『磯辺典子です!私達もツーアタックの準備ができました!』

 

「ツーアタック…?なんぜよその技の名前は」

 

「キャプテンがアッガイたんのステルスを生かして相手に奇襲攻撃をする作戦らしいですよ」

 

「あ!西住隊長のガンダムを補足しました!」

 

「来たか!待ちくたびれたぞ!」

 

みほ達の機影がレーダーに移り皆の待つ待ち伏せポイントに入ろうとしていた

 

 

「撃てえええええ!!!」

 

すると突然桃がホワイトベースの主砲である58cm砲をみほに向けて発射した

 

「ちょっ!河嶋先輩!?なんでみほの事撃ってんですか!?」

 

「おい河嶋落ち着け!味方に向かって撃つ奴があるか!」

 

沙織とロックオンの叫びは桃に届かず続いてミサイルを適当に撃ちまくっていた

 

「みほさん無事ですか!?返事をしてください!」

 

「大丈夫だよ華さん…当たらなかったからいいけどこんな誤射見た事ないよ…」

 

モビル道で使われる戦艦の主砲は火力が原作よりもかのり抑えられていたが命中した場所はかなりえぐれていた

 

「向こうチームは何かトラブルがあったようだな」

 

「随分ずさんな待ち伏せですわね。アッサム達も近いようですし仕掛けますか」

 

ダージリン達が待ち伏せポイントに入ると同時に、もう一隻のサラミスが別方向から現れた

 

「北西より新しく敵部隊補足しました!」

 

「うおおおお落ち着け河嶋!味方に怪我人が出ちまうぞ!」

 

「河嶋先輩落ち着いてくださいよ!」

 

「うおおおおおお話せ貴様ら!造反は許さんぞ!」

 

桃はロックオンとあゆみに取り押さえられてるとサラミス改とサラミスからMS部隊が待ち伏せポイントへ出撃した

 

「もう逃げ出さないって決めたんだから…!」

 

「よぉし行くぞ河西!撃ちまくるんだ!」

 

梓達ライトアーマーと典子達のアッガイは侵入した装甲強化型ジムに向けて主兵装のマシンガンを撃ちまくった。

しかしホバークラフトで移動する装甲強化型ジムに当てるのは容易でなく、加えて盾と装甲に防がれ全くダメージが通らなかった

 

「西住殿!敵のMSが硬すぎてマシンガンじゃ歯が立ちません!」

 

「私達の砲撃なら通るはずだが避けられるな…」

 

麻子と華も敵MSに攻撃をしていたが、狙撃が警戒されているため避けられていた。他の機体も射撃を行っていたが火力が低いのとまだ練度が低い為弾が当たらずにいた。みほも活路を開こうと敵MSの弾をかわしながら格闘を仕掛けようとした

 

「皆さんもっと落ち着いて一機ずつ狙ってください!」

 

「クソっ!門佐援護してくれ!火力が足りないんだ」

 

「すまないカエサル……撃破された……」

 

「なんだと!?一体何者の仕業だ…?」

 

カエサルは左衛門佐のザクスナイパーが待機していた高台を見るとそこには白い機体が見えた

 

「あれは陸戦型ガンダムな…?」

 

「あれはブルーディスティニー3号機…グロリアーナが誇るEXAMシステムを搭載したMSですよ!」

 

BD3号機…聖グロリアーナが誇るこの機体は陸戦型ガンダムをベースに作られ、EXAMシステムという対ニュータイプ用のシステムが搭載されていた

 

「あらペコったらいつの間に出撃していたの?」

 

『申し訳ありませんダージリン様。私もセブンスターズの一員としてどうしても成果を上げたくて…』

 

ペコはいつの間にかパイロットスーツに着替えBD3号機に乗り出撃していたのであった

 

「彼女も中々熱い志しを持っているじゃないか。そうは思わないか?」

 

「まぁいいでしょう…それより貴方はいつまでここにいるつもりなのでしょうか?」

 

ペコは高台から戦場へ飛び降りた。しかし着地と同時にペコの機体に異常が起こり突如急停止した

 

「あれ…?何なの…制御が効かない……!」

 

ペコは何度も動かそうとしたがBD3号機は言う事を聞かず……味方のガードカスタムと鍔迫り合いをしていたみほの乗るプロトタイプガンダムを見ていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『EXAMSYSTEM.STANDBY』

 

突如コクピット内に機械音声が響きモニターの半分が赤くなりEXAMの文字が表示された。そしてBD3号機の目が緑から赤に変化しペコはかなり困惑していた

 

『どうしたのペコ?まさかEXAMを起動したの!?』

 

「違うんですダージリン様!機体が突然…何もしてないのにEXAMが起動して…」

 

BD3号機は完全にペコの操作を受け付けず、ビームサーベルを抜き赤いブースターを噴出しながらみほのガンダムへ向けて突撃していった

 

「嘘……どうして勝手に……」

 

「西住さん!門佐を撃破した奴が貴方の元へ向かってるぞ!」

 

カエサルから通信が入りみほはレーダーを見ると超高速で接近してくる機影を発見した

 

「真っ直ぐこっちに向かって来る…!?」

 

みほのガンダムはガードカスタムを蹴りを入れて吹っ飛ばし、BD3号機が猛進しながら斬りかかって来たのでみほはとっさにサーベルで受け止めた。その衝撃でみほは戦場から引き離されていった

 

「今のは一体!?西住殿!」

 

「私は大丈夫です!それよりもこれ以上ここで戦うのは厳しいので、退避してください!」

 

みほのガンダムは暴走するBD3号機と共に戦線からあ離れていった

 

「西住先輩のガンダムと敵が1機ここから離れていっちゃいました!」

 

「なんかめちゃくちゃな事になってんねぇ」

 

サラミスからの支援砲撃や敵MSの攻撃により、大洗女子はどんどん押されていった

 

「くっ……段々嫌な雰囲気になってきたな……」

 

「カエサル殿!ここは我々が格闘戦を仕掛け射撃が通るよう隙を作りにいくべきでは!」

 

「落ち着け秋山さん!今突っ込んだ所で敵に囲まれるだけだ!それにしてもザクマシンガンが通らないとは…」

 

優花里とカエサルのザクが装備していたザクマシンガンでは中距離から装甲強化ジムとガードカスタムの盾を打ち破ることができずにいた

アッガイやライトアーマーの兵装も同じく強固な装甲にダメージを与える事ができなかった

 

 

「流石に固いな聖グロリアーナのMSは……しかし何故ペコの3号機のEXAMは勝手に発動したのだ?」

 

マクギリスは先程のペコの言葉といい原因がわからずにいた

 

「彼女はまだ一年生とはいえEXAMを扱うには十分な実力と素質がありますわ。それにシステムに関しても完全に不具合が出ないよう調整している…だとすると外部に原因があるはずよ」

 

「外部……EXAMシステムの発動条件は任意による起動か敵にEXAMを搭載した機体がいる場合それに反応して発動するというものだったはずだ。つまり大洗女子の残り出撃していない1機がEXAM搭載機という事か…?」

 

「それなら向こうにも同じ様に暴走している機体がいるはずですわ…そしてEXAMの発動条件はもう1つある」

 

ダージリンはペコのBD3がEXAM発動後、真っ直ぐみほのプロトタイプガンダムへ突っ込んで行ったのを目撃していた

 

 

 

 

 

「おそらく相手チームのプロトタイプガンダム……あれにはニュータイプが乗っていますわ」

 

「ニュータイプだと…?あれは島田流の血筋のみが持つ力のはず…出来たばかりのチームにいるとは思えんな」

 

「でもそれ以外に理由が思いつきませんわ。とにかくここを片付けてペコの援護に行く必要があるわね」

 

ダージリンはMS部隊に指示を出すと、グロリアーナのMS達は本格的に大洗女子のMSを落としに来た

 

「やばい!梓ちゃん弾切れしちゃったよ!」

 

「私も残り少なくなってきた…」

 

すると梓達ライトアーマーの方に装甲強化型ジムが2機接近し、一機からハイパーバズーカを撃ちあやのライトアーマーに命中し撃破判定が出された

「ちょ!嘘でしょ!」

 

「あや大丈夫!?それよりも敵が…」

 

もう一機の装甲強化ジムが梓に斬りかかろうとした

 

しかし間に紗希のライトアーマーが梓を庇うように割り込んだ

 

「紗希!?どうして…」

 

紗希のライトアーマーは早く逃げてと言うようにこちらを見ていた。梓はその意を汲み後退しながらホワイトベースへ回線を繋げた

 

『澤梓です!あやと紗希がやられました!このまま戦うよりも撤退するべきだと思います!』

 

『私も同意見だ!何とかかわしているが敵MSと戦艦からの砲撃が激しくなっている…このままでは持たないぞ!』

 

「会長どうしましょう……カエサルさんと梓ちゃんの言う通り撤退しませんか?」

 

「そうは言いたいんだけどかーしまが暴走しっぱなしだし、どっちにしろ敵MS背中見せてピンチになるだろうしさ…後あれ見てよ」

 

杏がモニターに指を指すとそこにはサラミスの甲板に立ち上がるフルアーマーガンダムが映っていた

 

「はっ!ここはどこだ!?試合はどうなっているんだ!?」

 

「やっと目が覚めたか…」

 

「先輩何も覚えてないんですか…今大ピンチですよ…」

 

ようやく桃の目が覚めあゆみとロックオンは取り押さえるのを辞めた。沙織は桃に現在の戦況を伝えた

 

「ふむそういう事か……しかし左衛門佐がいればあの作戦で退路を開けると思ったが……」

 

「何ですかその作戦って?」

 

「この前の作戦会議で西住に退路に関して指摘されてな。私なりに新たな作戦を今日用意してきたんだ」

 

桃はブリッジにいる全員に作戦の全貌を伝えた

 

「その作戦いけるかもな、だが……」

 

「みほはその作戦を許すとは思えません」

 

「そうかも知れないが非常時はこの作戦を行うとビーハイヴの連中にも納得してもらった。全責任はこの私が取る……あとは五十鈴がこの作戦を引き受けてくれるかだ」

 

 

華達は梓と典子と河西のアッガイと合流し戦艦の砲撃を岩壁でやり過ごし、敵MSとの戦闘を続けていた

 

「右から2機!左から4機来るぞ!」

 

「カエサルさんと澤さんは右を頼む。私達は左を足止めする」

 

麻子はキャノン砲で当てようと狙い撃つもののことごとくかわされ砲弾も残り少なくなってきた。すると敵戦艦から砲撃音と共にすぐ近くの分厚い岩壁が爆散した

 

「なんだ今の攻撃は…」

 

「あの機体はフルアーマーガンダム……今のはフルアーマーガンダムの360mmキャノン砲ですよ…」

 

サラミスの甲板から砲撃してきたそのガンダムは文字通り悪魔の様に見えてしまった。流石に絶望的だと思った時、華にホワイトベースから通信が入った

 

「五十鈴華です………分かりました。その役目私が引受させていただきます」

 

「どうかしたのですか五十鈴殿?」

 

「これからビーハイヴと合流しある作戦を仕掛けます。皆さんは全力で地上のMS部隊を阻止してください」

 

「あの作戦か!門佐のかわりに君がやってくれるのか!?」

 

「キャプテン……私達も全力で援護しましょう」

 

「ああ……敵エースに一泡吹かせるぞ!」

 

華は他の皆に敵MSを任せビーハイヴの元へ急いだ

 

 

 

 

 

 

 

みほのプロトタイプガンダムとペコのBD3は戦場から少し離れた場所で一騎打ちをしていた。ペコはみほを逃がさない為にビームライフルを使わず格闘で制圧しようとしていた

 

(早く皆の所へ戻らないと……)

みほはEXAM中のBD3からの斬撃をいなしつつ、両手のサーベルで連撃を加え圧倒していた

 

(ようやく制御が戻ってきたのに……このガンダムとても強い…)

 

ペコは暴走していた機体をなんとか抑え、プロトタイプガンダムからの斬撃を防いでいたがかなりの苦戦を強いられていた

 

(もう少しでEXAMの稼働時間が終わる……それから落ち着いて落とそう)

 

(この機体をダージリン様の元へ行かせる訳には行かない…!)

 

ペコはみほのガンダム押し返し斬り掛かろうとした。みほはその斬撃をかわし両手のサーベルで連撃を浴びせBD3の左肩を貫いた

 

(これでシールドは使えないし機動力も落ちる…)

 

(このままじゃやられる……でも私は負ける訳には行かない!)

 

ペコのBD3はより一層赤い光を纏った

 

(私なんかをセブンスターズに選んでくれたダージリン様に恩を返すために…私は負けられない!)

 

BD3は左腕を失ったものの、再びみほへ斬りかかった。みほが2本のサーベルで受け止めると接触回線によりBD3のパイロットの声が聞こえた

 

「私はダージリン様の剣!ダージリン様の盾!例え私が貴方より弱くても、決して負ける訳にはいかないのです!」

 

(この子はとても尊敬している人の為に戦ってるのか…凄いな…)

 

その時みほが先程までいた主戦場にてビーハイヴが敵艦へ向けて急速に前進していた

 

「あれは……いけない!」

 

ペコは何かに気づきBD3はプロトタイプガンダムを押し飛ばして、ビームライフルに持ち替えてダージリンの戦艦の方へ向かい、みほはBD3の後を追いかけた

 

「ダージリン様!敵艦二隻補足!一隻は後方でMS部隊へ砲撃、もう一隻はこちらへ急速接近してきます!」

 

「特攻でもするつもりなのかしら。全機、前方の敵艦に集中攻撃。叩き落として差し上げますわ」

 

ビーハイヴはメガ粒子砲を連射しながら急速に前進し続けていたが、敵部隊からの攻撃に晒され多くの損害を受けていた

 

「このままでは撃墜されてしまうぜよ!本当にいいのかエルヴィン!?」

 

「ああ構わん!もう少し近づけるんだ!」

 

「河西!今だ!」

 

「了解ですキャプテン!」

 

典子と忍のアッガイは事前に左腕のミサイルランチャーにスモークグレネード弾に変更して持ってきていた。2機のアッガイから放たれたスモークグレネードは空中で起爆しビーハイヴを煙で包み込んだ

 

「目眩しのつもりか…?レーダーには完全に映っているというのに…」

 

「恐らくMS部隊を避難させるための囮でしょう。この隙にホワイトベースと共に撤退し始めているわ」

 

優花里や麻子達はダージリン達が気を取られている隙に敵MSに牽制しながら後退していった

 

「彼女達の後を追わなければいけませんわね。アッサム、お願いしますわよ」

 

ダージリンからの指令を受け、フルアーマーガンダムはキャノン砲と2連装ビームライフルを数発、煙幕の中にいるビーハイヴの側面に撃ち込んだ。ビーハイヴから撃破判定の白旗が出て落下しようとしているのが見えた

 

「これで一段落ね………ん…?」

 

ダージリンが再び紅茶を飲もうとカップを手に取った時……ビーハイヴを包んでいた煙が晴れようとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると煙の中から華の乗るスナイパーカスタムがビーハイヴの甲板上に現れた

 

「な……何!?」

 

ダージリンは大きく目を見開き冷や汗が頬を流れた。さらに思わずティーカップを床へ落としてしまった。

スナイパーカスタムはビーハイヴの下構甲板に完全に密着する事で敵のレーダーを誤魔化しここまで接近する事ができた。この事を予測していた者は誰もいなかった為、サラミス改のクルーは騒然としマクギリスは冷静を保っていたが驚いている様子を見せていた

 

「そんな!ダージリン!!!」

 

アッサムも気づくのが遅れスナイパーカスタムへ射撃しようにも間に合わなかった。華はオートロックでサラミス改のブリッジをロックオンしライフルを構えた

 

「ふぅ………狙い…撃ちます」

 

華は一呼吸整えるとブリッジを狙撃しようとした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やらせません!」

 

間一髪、華がブリッジを狙撃するよりも前にペコのBD3がビームライフルを構えていた。みほは何とか追いつきビームサーベルをBD3の胴体に突き刺したが、ライフルからビームが放たれた

ビームはビーハイヴの側面に命中しその衝撃で船が大きく傾いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果、華の機体もバランスを崩し、狙撃はサラミス改のブリッジの真横を掠めていった

 

「そんな……せっかくここまで来たのに……」

 

「華さん!早く逃げてください!」

 

みほから通信が入ったが、既にフルアーマーガンダムのキャノン砲がスナイパーカスタムに命中し撃破判定が下されてしまった

 

「みほさんごめんなさい…失敗してしまいました」

 

「ありがとう華さん……おかげで皆脱出できたみたいだしよかったよ…」

 

『みほ!私達は市街地へ向かってるからみほも早く来て!さっきの作戦の事は後で説明するから…』

 

「了解です……」

 

みほは自分が戦線から離脱したが為にこの様な結果になってしまい事を後悔した。みほはその場からホワイトベースの元へ向かった

 

 

 

「ペコ!無事なの!?ペコ!?」

 

ダージリンは撃破されたBD2号機へ向けて通信を送った

 

「ダージリン様、私は大丈夫ですよ…それよりも不甲斐ない所をお見せして申し訳ございません…」

 

「全然そんな事ないわよ……全く無茶をして貴方という子は…」

 

「試合頑張ってください…ダージリン様なら必ず勝利へ導けます」

 

「無論そのつもりよ」

 

ダージリンは紅茶を飲み干しブリッジを出ようとした

 

「君も出るのか?ダージリン」

 

「ええ、私としたことが少々相手を甘く見ていたようですわ。決着は私自らの手で決めさせていただきます」

 

ダージリンはセブンスターズ専用のパイロットスーツに着替え、自身のMS………ジオン軍に強奪される以前のカラーリングのブルーディスティニー2号機の元へ向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

戦う理由があったから少女は今日まで強くなる事ができ、戦う理由があるからこそ少女はこれからも強くなる事ができる

 

次回 ガールズ&ガンダム『友のため、誇りのため』

 

EXAMがみほに審判を下す

 

 

 




読んでいただきありがとうございました

どうしてもここまで書きたかったので長くなってしまいすみませんでした

前書きでZZを取りに行ったと書きましたが、取ってすぐ上手いシャアザクにタコられたのでもう二度と乗らないと思います

これからはできるだけ早く投稿できるよう頑張りますのでよろしくお願いします


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6話 友のため、誇りのため

今回で聖グロリアーナ戦は決着です

前回書き忘れましたが当ssでの桃ちゃんは少し優秀な感じで行こうと思います

グロリアーナのbgmはガンダム鉄血のオルフェンズより『Battle of The SevenStars』 でお願いします


今回もよろしくお願いします




ホワイトベースは優花里達MS部隊と合流し破損したジム・ライトアーマーやキャノン砲の補充の為量産型ガンキャノンを収容しロックオンとハロ達が作業に入った

 

「シュウリカイシ、シュウリカイシ」

 

「お疲れ澤、冷泉!今ガスと弾薬入れるから待っててくれ!」

 

「ありがとうございます!」

 

「弾を入れたら直ぐに出る。だから急いでくれ」

 

「リョウカイ!リョウカイ!」

 

ホワイトベースの後を装甲強化型ジムが5機、ジム・ガードカスタムが1機追って来ていた。地上に残った優花里のザクとカエサルのゲラザクはマシンガンを撃ちつつ後退し、典子と忍のアッガイ達は甲板から頭部バルカン砲や右手のメガ粒子砲を撃ち距離を取ろうとした

 

「今は無理に撃破を狙わなくていい!バズーカは私が撃ち落とすから皆はとにかく撃ちまくってくれ!」

 

「了解です!何としてでも離脱しましょう!」

 

『ええい調子に乗りおって…もう逃がさないぞ!』

 

突如グロリアーナのMS部隊から声が聞こえた

 

「キャプテン!あの大きな盾を持ってる機体ですよ!」

 

『私の名はルクリリ!セブンスターズの一人であるこの私が直々におまえ達へ引導を渡してやる…有難く思いながら逝け!』

 

『ルクリリ様…そういう言葉遣いはちょっと……』

 

ルクリリが自信満々に声を張り上げる中、典子のアッガイから放たれた粒子ビームがガードカスタムの脚に命中しルクリリの乗るガードカスタムは勢いよく転倒してしまった

 

「あ、当たった」

 

『のわぁぁぁぁぁぁ!おのれええええ!』

 

『ルクリリ様!ダージリン様から集結信号ですよ!戻りましょう!』

 

後ろを見るとサラミス改から信号弾が打ち上げられていた。怒ったルクリリはホワイトベースへ突っ込もうするも2機の装甲強化型ジムに抑えられ撤退して行った

 

「戻って行った…?まさか五十鈴が成功させたのか…?」

 

「いや…さっきスナイパーカスタムとビーハイヴの撃破判定が出たみたいで…敵戦艦は2隻とも健在です…」

 

沙織の言葉を聞きブリッジ内の空気が少し重くなった。特に桃は自分の立てた作戦がこのような結果になり一番落ち込んでいた

 

「……でもエルヴィンちゃん達と五十鈴ちゃんが引き受けてくれたおかげで私達はこうして脱出できた訳だしさ…切り替えようよ、ね?」

 

「はい…あ、みほにも合流するよう連絡します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホワイトベースは大洗の市街地に到着し建物に囲まれた土地に着陸した。

その後みほのプロトタイプガンダムも合流し、補給のため船へ帰還した。他のMS達は補給を既に終えて次の作戦となる遭遇戦に備えて行動を開始していた

みほはハロ達に整備を任せホワイトベースのブリッジへ入った

 

「グロリアーナの本隊はあと5分後に到着すると思います……すみませんでした…私が敵MSに足止めされたせいで……」

 

「おまえのせいではない。全てはあの作戦を推し進めた私に責任がある」

 

みほと桃の二人を沙織は心配そうに見ていた。

 

「……どうして私達に教えてくれなかったんですか?あの作戦以外に他に方法は無かったのですか?」

 

「生憎昨日の放課後に思い付いた作戦でな。おまえは既に下校していたから、残っていたビーハイヴの乗員にだけ非常時にあの作戦を取るように伝えた。彼女達も危険も承知の上で引き受けてくれたから今回実行に踏み切ったという訳だ」

 

「…そうまでしてこの試合に勝ちたいんですか?」

 

みほは少しだけ拳を震わせながら怒りを露わにしており、桃以外のメンバーはそれに気づいた

 

「あたりまえだ。例えどんな手段を使ってでも全力で勝ちに行く事こそ私達がやらなければならない行動でそれは相手への敬意にもなる。勝たなければならないのだ…何がなんでも」

 

「そうですか……もういいです」

 

「みほ……」

 

そう言うとみほはブリッジから出ていった。

かつて黒森峰で母親に言われていた事と同じ様な事を言う桃への怒りや、自分の非力さ故に華達が撃破されてしまった事への自責念で頭の中がごちゃごちゃになっていた。もうこの試合から立ち去ろうと思っていたら杏が声を掛けてきた

 

「待ってよ西住ちゃん。まだ試合は終わってないんだから帰られちゃ困るよ」

 

「もう嫌なんです……あんな風に誰かが傷つくかもしれない作戦も…誰も守る事ができない程弱い自分が…」

 

「よく聞いて。私達は別に西住ちゃんに全部任せようなんて思ってないし、かーしまの作戦だって私達一人一人が自分で決断してやるって決めたんだよ」

 

杏はいつもヘラヘラしてる様子とは打って変わって真剣な顔付きでみほに語った

 

「確かに作戦に対して危機感とか足りなかったけどね、それでも負けたくないって気持ちや西住ちゃんの役に立ちたいって想いがあったからさ」

 

「私の…ですか?」

 

「うん、五十鈴ちゃんは『みほさんのお役に立てるようになりたいのでやらせてください』って言ってたよ。あとエルヴィンちゃん達は皆負けず嫌いでねぇ、相手のお嬢様に一泡吹かせれるなら何だってするって言ってたんだよ」

 

「そうだったんですか…」

 

みほの表情は先程までかなり険しかったが杏の話を聞き元に戻っていった。その様子を見て杏はニカッと笑い話を続けた

 

「かーしまも悪気があってあの作戦考えた訳じゃないし、私達が勝ちに行こうとするとどうしてもあんな作戦になるかもしれないからさ。だから考え直して欲しいな」

 

「…わかりました。すみませんいきなり帰ろうとして」

 

「いいっていいって〜んじゃ約束しよっか。これからは無理に危険な事はせず皆で協力して勝ちに行こうって」

 

杏が手を差し出して来たのでみほはそれに応え握手を交わした。沙織や桃達もその様子を見てホッとしていた

 

「んじゃ行こっか西住ちゃん!そろそろ敵がこっちに攻めてくる頃だからさ」

 

「え、会長も出撃するんですか?」

 

「数的にはウチが負けてるしそろそろ私も仕事しないとね。じゃ行ってくるね〜」

 

「お気をつけて会長!」

 

みほと杏は共にブリッジから出てMSデッキへ向かった。みほは整備を終えたプロトタイプガンダムに乗り、杏はGブルイージーへ乗り込んだ

 

「オイオイ大丈夫なのかよ角谷。おまえ普段から訓練の時もブリッジにいたけど本当に戦えんのか?」

 

「心配しないでよ。オンちゃんが思ってる程私は不良じゃないんだからね〜」

 

「別にそんな風には思ってないけどよ……まぁいいか!行ってこい!」

 

「おっけー!角谷杏Gブル、出撃するよー!」

 

MSデッキのハッチが開き、みほのガンダムと杏のGブルは出撃していった

 

 

 

 

 

 

 

 

華達は脱落後、試合会場から少し離れた場所にある観客席の巨大モニターで試合を観戦していた

 

「ついに市街地戦ですね…皆さん大丈夫でしょうか…」

 

「まだわからないな。こちらは4機と1隻失ったとはいえ向こうのエース機を西住隊長が撃破してくれたからな」

 

「しかしどうして私の位置があっという間にバレてしまったのだろう?敵からは見えにくい場所から狙撃できるはずだったのに……」

 

左衛門佐は大破した自分の真っ赤なザクスナイパーを見て首を傾げていた

 

「あの左衛門佐先輩……お言葉なのですがどう考えてもその真っ赤な旗が目立ってたんじゃ……」

 

「わぁぁぁぁちょっとあけびちゃん!それは言わない約束でしょー!」

 

「え……旗……?」

 

あけびの言葉を聞き左衛門佐は凍りついたかのように固まった

 

「確かに旗のせいで先輩の機体めちゃくちゃ目立ってましたよ」

 

「明らかに悪目立ちだったぜよ」

 

「あまり言いたくはないのだがこの際外すべきなんじゃ……」

 

「ハタ………ハズスノ……?」

 

左衛門佐は固まったままカタカタと震え始めた

 

「皆さんやめてください!左衛門佐さんが可哀想じゃありませんか!」

 

「そういう五十鈴さんはどう思っているんだ?」

 

「……狙撃機に乗る以上ちょっと邪魔かなって気が少し」

 

「ガハッ!」

 

左衛門佐は勢いよく地面に倒れた

 

「ちょっ、先輩大丈夫ですか!?」

 

「お前達満足か……?こんな世界で……私は……嫌だね……」

 

「いや旗を外せと言われただけでそこまで沈む事は無いだろ」

 

「それよりも試合見ましょうよ……敵部隊も市街地に到着したみたいですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「現在敵MS部隊展開中。敵艦は見当たらないので何処かに潜伏しているかと思われます」

 

「わかりましたわ。では予定通りアッサムは船から補給を受けながらここから支援攻撃を、ルクリリとニルギリの部隊は市街地へ散開、敵MSを各個撃破なさい。私はここでフルアーマーガンダムを護衛します」

 

「「「了解!」」」

 

 

市街地に到着したグロリアーナのMS部隊はダージリン指示のもと作戦を開始した。アッサムのフルアーマーガンダムは砲撃体制を取りダージリンのBD2号機は空へ飛び上がり市街地を見渡した

 

『2号機に異常は無いかダージリン?』

「……当たり前の様に通信してこないでくれませんかファリド公?それにもし愛機に異常があれば直ぐにでも気づきますわ」

 

ダージリンがBD2号機のパイロットに選ばれたのは彼女がセブンスターズに選ばれたからと言う理由もあったが、何よりダージリンは歴代のどのパイロットよりも完璧にEXAMシステムを操る事ができたからであった

 

「私はアッサムの護衛に集中しますのでもう通信してこないようお願い致しますわ」

 

『やれやれ、お姫様を護る騎士様は恐ろしいな』

 

「あの……お姫様って私ですか……?」

 

「耳を貸しては駄目よアッサム。敢えて答えるなら私の愛馬は凶暴ですので……」

 

ダージリン達との通信が切られマクギリスはオペレーターから許しを貰ってそのままブリッジで観戦することにした

 

(ニュータイプ……6年前、島田流の代表を名乗る男が公にした新たな進化を遂げた人類……ガンダムのパイロットは島田流の人間という事か……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほは優花里と麻子と合流し敵MSを迎撃するべく建物の陰に隠れていた。そしてレーダーが前方から接近するMS4機を捉えた

 

「速い奴が3機、大きな盾持ちが1機か……どうする西住さん」

 

「こちらは3機しかいませんよ…援軍を要請しますか?」

 

「いいえここで撃破しに行きます。麻子さんはここから砲撃をお願いします。私は右から回り込むので優花里さんは麻子さんを援護しつつ私に着いてきてください」

 

「了解、やられないでくれよ」

 

麻子の量産型ガンキャノンは立ち上がり、建物の陰から敵部隊へ姿を現した。みほのプロトタイプガンダムもビームサーベルを抜くと敵部隊の右側から回り込むように移動した

 

「前方敵キャノン発見。ガードカスタム前へ」

 

「左からも急速接近する機体が……ガンダムです!」

 

「貴方達はキャノンをやりなさい。私達はガンダムを落としますわよ!」

 

装甲強化型ジムが2機、みほのガンダムの進路上に現れマシンガンとハイパーバズーカを撃ってきたが、みほのガンダムは側転やジャンプで回避しつつ接近し続けた

 

「あんなに避けるなんて……ルフナ様!」

 

「私が動きを止める!その隙に撃破しなさい!」

 

装甲強化型ジムが1機持っていたマシンガンを捨てビームサーベルに持ち替えガンダムに斬りかかった。みほもビームサーベルを1本両手に持って受け止めた。しかしもう1機のジムがみほの側面に移動しバズーカを撃とうとしていた

 

「もらった!」

 

「まて!もう1機来たぞ!」

 

優花里のザクIIがガードカスタム達にマシンガンを撃ちまくりながらみほ達の方へ走ってきた

 

「西住殿!大丈夫ですか!」

 

「私は大丈夫です!優花里さんヒートホークをこっちに投げてください!」

 

「え?ヒートホークですか!?」

 

優花里はみほの言う通りガンダムの方へヒートホークを投擲した。

もう1機のジムがバズーカを発射してきたが、みほのガンダムは装甲強化型ジムの腹部を蹴り飛ばしその勢いに乗って後ろへ移動しバズーカを回避した。

 

「なっ、避けられた!」

 

そしてザクIIから投げられたヒートホークをキャッチし、バズーカを撃ってきたジムに投げつけた。ヒートホークは装甲強化型ジムの胴体に刺さり撃破判定が出された

 

「えっ?なんで…?」

 

「武器を投げるなんて野蛮な……おのれ!」

 

「ルフナ様!援護します!」

 

ガードカスタムと共にいた装甲強化型ジムはルフナ機の元に駆け付け2機は連携してみほのガンダムを仕留めようとした

 

「優花里さん!援護お願いします!」

 

「任せてください!」

 

みほは間合いに入るため接近し優花里はクラッカーを投げつけた。クラッカーは装甲強化型ジム2機の間で起爆したが2機は互いに距離を空けこれを回避した

 

「これしきの攻撃で……あっ!」

 

回避したその隙にみほは接近しサーベルでルフナ機の胴体を切り抜けた。ルフナ機は膝から崩れ落ち撃破判定となった

 

「貰ったぞガンダム!」

 

「そうはさせません!」

 

もう1機の装甲強化型ジムがみほのガンダムに切りかかろうとしたが、優花里のザクIIが飛び付き地面へ押し倒された。ザクIIは装甲強化型ジムに馬乗りをする形となりジムの胴体にマシンガンを数発撃ち込んだ

 

「いくら装甲が厚いとはいえゼロ距離なら…」

 

撃ち込まれた装甲強化型ジムからも撃破判定が出された。丁度同時に麻子の方にいたガードカスタムも撃破されていた。おそらくマニュピレーターで撃破したのだろうか、麻子の量産型ガンキャノンの両手はガードカスタムの頭部と頭を失った胴体で塞がっていた

 

「丁度そっちも終わったか。やれやれ」

 

「凄いですよ冷泉殿!一人でガードカスタムを撃破するなんて!」

 

優花里はみほが投げつけたヒートホークを回収し、麻子の量産型ガンキャノンは持っていたガードカスタムの頭部と体を地面へ置いた

 

「西住さんと秋山さんが暴れてたおかげでとまどっていたのだろう。こちらから仕掛けさせてもらったよ」

 

「凄いよ二人とも!まだ始めたばかりなのにこんなに戦えるなんて!」

 

「いやいやこれも全部西住殿の活躍があっての事ですよ〜」

 

しかし3人が合流して束の間、突然空からミサイルがみほ達の近くへ降り注いできた

 

「わわわっ!なんですかこれは!?」

 

「一体どこからだ…?」

 

「二人とも落ち着いてください!ミサイルに当たらないよう注意しつつここから移動します!」

 

みほ達3人はミサイルを何とか避けつつその場から移動を開始した

 

「カエサルさん聞こえますか!?そちらの状況を聞かせてください!」

 

『西住隊長か!今澤くんと一緒にガードカスタム2機と装甲強化型1機と交戦中だ!磯部さん達のアッガイは隊長機の様なガードカスタムに追われてどこかへ行ってしまった!』

 

「わかりました!空からのミサイルに注意しつつ持ちこたえてください!」

 

みほはカエサル達との通信を終え次にホワイトベースへ繋げた

 

「沙織さん聞こえますか?敵のミサイルを発射源の特定お願いします」

 

『ちょっと待ってね…ミサイルの軌道から多分神社の近くにある駐車場辺りからだと思う!』

 

「ありがとうございます!ホワイトベースは会長達の援護に向かってください!」

 

みほは通信を終えミサイルが降り注ぐ中目標地点へ向かった

 

 

「しかし西住達もよく頑張ってるな。4機も撃破するとは大したもんだ」

 

「あ!ロックオン教官お疲れ様です!何か飲み物持ってきましょうか?」

 

「ありがとな武部…今は試合中だからそっちに集中してくれ…」

 

「そんな事よりも早く会長の元へ向かうんだ!急げよ柚子!阪口!」

 

「あ、あいぃ〜」

 

「桃ちゃんいつの間にか艦長席に座ってるし…」

 

ホワイトベースは浮上し杏達の元へ移動し始めた

 

 

 

 

 

 

 

梓とカエサルの機体は建物の陰に隠れつつ敵部隊と射撃戦を繰り広げていた。路地の中央からガードカスタム2機がシールドを構え射撃を防ぎながら前進し、その脇から装甲強化型ジムが巧みに身を出しマシンガンを梓達に向けて撃ってきた

 

「流石に固いな聖グロリアーナ女学院は……お陰様でもう弾が無いな……」

 

「どんどん近づいてきますよ!このままじゃ私達も!」

 

「落ち着け澤くん!もう少し奴らを近づけるんだ」

 

ガードカスタム2機は攻撃を防ぎつつカエサルと梓にトドメを刺すためビームダガーを抜き走り出した

 

ガードカスタム2機が交差点の中央に出ようとした時、側方の路地で杏のGブルイージーが待ち構えていたのであった

 

「あ!右に何か待ち伏せしてます!」

 

装甲強化型に乗るニルギリがGブルに気づき伝えたが、ガードカスタム2機からはGブルの車高か建物より低いせいで死角となり、Gブルの存在に気づくのが遅れてしまった。

杏が放った砲弾はGブルと向かって手前のガードカスタムの両腕を貫き、装備していたビッグシールドとダガーが地面へ落下した

 

「うあっ!腕が!」

 

「うっしっし〜これでシールドは使えないね〜」

 

「よし!澤くん援護してくれ!」

 

カエサルと梓の機体は建物から身を出し、梓のライトアーマーはマシンガンで損傷していない方のガードカスタムを足止め試み、その間にカエサルのゲラザクはザクマシンガンを捨てヒートサーベルでガードカスタム2機に接近した

 

カエサルはサーベルで撃破しようと両腕を失ったガードカスタムに斬りかかったがそのガードカスタムの肩からバルカン砲が連射された

 

「カエサル先輩!」

 

「詰めが甘かったですわね!これで終わりですわ!」

 

「クソッ!まだだ!」

 

カエサルのゲラザクは2機のガードカスタムからバルカン砲を浴びながら最後の力を振り絞り、ヒートサーベルを投げつけた

サーベルは損傷したガードカスタムに命中し撃破判定が出されたが、カエサルのゲラザクも同時に撃破判定となりモノアイの光が消えた

 

「すまないな澤くん……あとは頼んだ…」

 

「カエサル先輩ありがとうございました……あれ?会長は?」

 

「フッフッフッ……もう残っているのは貴方だけみたいね」

 

「いやぁ〜ごめん澤ちゃんやられちゃったよ……」

 

杏のGブルイージーはニルギリの装甲強化型によって撃破されてしまい、ガードカスタムの元に駆けつけた

 

「ニルギリ様、アレを撃破してさっさとガンダムを落としに行きましょう」

 

「はい……でもルクリリ様の事も少し気がかりです」

 

「どうしよう……かなりピンチだよね……」

 

梓は敵MS2機を前に一人取り残された形となっていた。しかし梓は心を落ち着かせこの状況でも戦おうと決心しビームサーベルを抜いた

 

「ふーん……1機で私達と戦おうというのね…」

 

「!待ってください!敵機の後方より敵艦が!」

「梓ごめ〜ん!遅くなっちゃった〜」

 

梓のライトアーマーの上空に着いたホワイトベースは砲撃を開始した。グロリアーナの2機は砲撃を回避しつつその場から撤退して行った

 

「よくも会長をやってくれたな!逃がさんぞ貴様ら!」

 

「河嶋先輩落ち着いてください。梓ちゃん聞こえる?よく頑張ったね!凄いよ!」

 

『そんな私なんてまだ何もできてないですよ』

 

「なーに生き残ってれば上等だろ。機体の方はまだ大丈夫か?」

 

『私はまだ全然行けます!それよりも磯部先輩達の方が敵エースに追われて大変なのでそちらの援護をお願いします!』

 

「よしわかった。澤はこれから西住と合流してくれ。我々はこれより会長を撃破した憎きあのMSを追いかけるぞ!」

 

梓はみほ達の位置データを貰いその場所へ向かった

 

「よし!主砲副砲全部展開だ!山郷!あの2機に撃ちまくるぞ!」

 

「えぇ……いいんですか……」

 

「言い訳あるか!おい河嶋!自分の地元だってのになんでそんなにバンバカ爆撃できるんだよ!」

 

「それなら連盟が今晩中に全て修復すると聞いておりますので」

 

「そういう問題じゃねー!とにかくカッコも悪いし辞めるんだ!」

 

桃とロックオンが口論を続けているととてつもない衝撃がブリッジを襲った。するとブリッジの電気やモニターが全て消え暗くなってしまった

 

「キャーーー!何コレ!?地震!?」

 

「ここは空だから地震なんてありえないだろ!てかこれってまじかよ……」

 

「あのロックオン教官……舵が思うように行かなくて船が真っ直ぐ進まないです」

 

「そりゃそうさ……どうやら俺達もう撃破されちまったみてーだからな……」

 

「「「「「ええええええええ〜〜〜〜〜!?」」」」」

 

撃破判定が出たホワイトベースは地上へ座礁していった。原因は右側のメインエンジンが何者かの攻撃によって損壊を受けたからであった

 

 

 

 

「流石アッサム様。あの距離からキャノン砲を船に当てるとは」

 

先程撤退して行った2機は少し離れた場所にある高台からホワイトベースの位置をアッサムに送信していた

こうしてフルアーマーガンダムに攻撃させる事によって撃沈する事ができ、先程のみほ達も同様に位置が伝えらた為ミサイルベイによる迫撃を受けたのであった

 

「こちらも向こうもあと6機ですよ!アッサム様のフルアーマーと合流しましょう!」

 

「わ、わかりました!…ルクリリ様はどうしますか?」

 

「……おそらく撃破したら戻ってくると思います……私達は行きましょう」

 

装甲強化型とガードカスタムはその場から立ち去ろうとした時、ガードカスタムのパイロットがみほ達の機体を発見した

 

「あっ!ニルギリ様!あそこに敵のプロトタイプガンダムが!」

 

「あの進路……アッサム様がいる方です!急ぎましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何処に隠れたネズミ共!大人しく出てこい!』

 

ルクリリのガードカスタムは単騎で典子と忍のアッガイを捜索していた

 

「キャプテン…敵が近づいてきましたよ……」

 

「もうちょっと我慢するんだ……もう少しだけ……」

 

『怖気着いたかネズミ共め!だがこの私の機体に土を付けさせたからには後悔させてやる!』

 

ルクリリはシールドを捨て付近にビームスプレーガンやバルカンを撃ちまくり典子達をあぶり出そうとした。

周囲の建物が破壊されていくとしゃがみこんで隠れていた忍のアッガイが現れた

 

「見つけたぞ!もう逃げられると思うな!」

 

「ひっ……お願いしますいじめないで……」

 

「なんだそのアッガイ……バレー部復活だと……?私はバレーボールが苦手なんだ!許さん!」

 

ルクリリのガードカスタムは怯えている忍のアッガイにビームダガーを突き刺そうとした

しかしルクリリの背後の倉庫から典子のアッガイが屋根を突き破りながら起き上がった

 

「何!?馬鹿な!?」

 

「根性ぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

典子のアッガイはアイアンクローでガードカスタムを背後から貫いた。ガードカスタムのコクピットはその衝撃を感知し外へ射出されていき本体からは撃破判定が出た

 

「うおおおおおおおやったぞ河西いいいい!」

 

「やりましたねキャプテン!私達の勝ちですよ!」

 

「貴様らー!後ろからやるとは卑怯だぞー!正々堂々戦えー!!!」

 

射出されたコクピットが開き中からルクリリが頭を出し何か喚いていた。その先から青い機体……BD2号機が接近して来るのが見えた

 

「ルクリリったら随分派手にやってくれたわね……このままでは聖グロリアーナ女学院のモビル道に偏見を持たれてしまいますわ」

 

BD2号機は接近しながらアッガイ達に向けて腹部から有線ミサイルを2発発射した。アッガイ2機は散開しこれを回避しようとした

 

「2人であれを倒すぞ河西!今の私達ならやれるはずだ!」

 

「了解です!」

 

典子と忍はBD2へ向けてバルカン砲やメガ粒子砲を撃ったがダージリンは滑るように回避し、旋回してビームサーベルを抜き忍のアッガイへ急接近していった

 

「こっちに来る……キャプテン!」

 

「ああわかってる!いくぞっ!」

 

典子のアッガイは忍から撃破しようとしていたBD2号機の前に割って入っていった典子のアッガイは忍から撃破しようとしていたBD2号機の前に割って入り立ち塞がった

 

BD2は盾で忍からの攻撃を防御しながら典子のアッガイにビームサーベルを振りかざした。典子はサーベルの軌道を読んで回避に成功したがBD2の腹部からミサイルが発射されアッガイの両足を破壊した

 

「うわぁぁぁぁ!やられた!」

 

「キャプテン!!!よくも!」

 

忍はアイアンクローでBD2へ殴りかかろうと接近した

アッガイから渾身の右ストレートが繰り出されたが、ダージリンのBD2はアッガイの懐へ潜り込み、右腕を切断しつつ胴体を切り払った

 

「くっ……根性……」

 

両脚を破壊され這っていた典子のアッガイは背中を見せていたBD2へメガ粒子砲を発射した。ダージリンは即座に反応しシールドでビームを防いだ

 

「中々おやりになる方達ですわね」

 

ダージリンは典子のアッガイにビームライフルを撃ち込み止めをを刺してあげるとアッサムから通信が入ってきた

 

『ダージリン。大洗のガンダムが近くまで来ています。現在ニルギリ達と交戦中です』

 

「了解。これからそちらへ帰投します。……ルクリリ、あまり不甲斐ない戦いをしていてはセブンスターズとして示しが付きませんわよ」

 

「ヒイッ!申し訳ありませんダージリン様!」

 

「確かに貴方には確固たる実力はあるけれどそれに過信して油断する様では勝利は掴めないのよ。わかったわね?」

 

「ハイ!……ところでダージリン様…ダージリン様ってバレーボールできますか?」

 

「……………………………できないわ」

 

ダージリンはそれだけ言い残しBD2のブースターを点火し空へ飛翔した

 

 

「イタタ…おーい河西大丈夫か…?」

 

「大丈夫ですキャプテン……私達2人ともやられちゃいましたね……」

 

「そうだな……それにしてもあの青いガンダム……綺麗だったな」

 

「そうですよね…私もあんな風に戦ってみたいです……」

 

そう呟きながら典子と忍はコクピットから彼方へ飛んでいくBD2を見上げていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほは優花里と麻子を先導し、上空から降り注ぐミサイルベイや砲撃をかわしつつ移動し、ついに敵艦とフルアーマーガンダムが目指できる所まで到着した

 

「やっと見つけた……あのガンダムが皆を……」

 

「ホワイトベースと会長達がやられた今、完全にこちらが不利ですよね」

 

「そんな事言っても仕方ないぞ秋山さん。それに敵MSの数も私達とそう変わらないから希望はある」

 

「!前方より1機、10時の方角より2機接近してきます!」

 

前方から装甲強化型が1機、他方向よりガードカスタムとニルギリの装甲強化型ジムがみほ達に攻撃してきた

 

「あ!あの装甲強化型ジム……肩に七星の紋章が貼ってあります!セブンスターズですよ!」

 

「3対3か……面白いじゃないか」

 

「麻子さんと優花里さんは射撃で牽制をお願いします!」

 

みほはサーベルを2本抜き敵MS3機へ向かって走り出した

 

「西住殿!いくら何でも危ないですよ!」

 

「こういう時は臆病なくらいがいい物を……いくぞ秋山さん!」

 

接近するガンダムに向けてニルギリ達はマシンガンを掃射した。しかしみほのガンダムは巧みに回避しつつ距離を詰めて行った

 

「なんだこのガンダム!弾が当たらない…!」

 

みほはリロードしていた装甲強化型にサーベルを投げつけ脚部に命中させた。

ガンダムは飛び上がって宙返りし、弾を回避しながら動けなくなった装甲強化型の背後に着地するとサーベルを引き抜き撃破した

そして撃破されたそのジムを盾にして他の2機へ詰め寄った

 

「何だ……西住さんは何をしているんだ…?」

「撃破した機体で射撃を防ぐなんて…本当に初心者なの…?」

 

「格闘だけで戦おうとはなんと野蛮な!」

 

ガードカスタムがビッグシールドを構えみほのガンダムに体当たりしようとした

みほは一時停止し、ガードカスタムの突進が装甲強化型へぶつかる寸前でガードカスタムの背後に超高速で回り込みサーベルを突き刺し撃破した

 

「こんな事が…私達がこんな一瞬でやられるなんて!」

 

冷静を失ってしまったニルギリはサーベルを抜きガンダムに斬りかかろうとした。だが横から麻子のガンキャノンが放った砲弾が命中し撃破判定が出されてしまった

 

「ありがとうございます麻子さん。助かりました」

 

「凄いな西住さん……サーベルだけでここまで戦えるとは」

 

「やっぱ凄いですよ西住殿!私もお手本にさせて頂きます!」

 

『随分と暴れてくれたようね……ガンダム…!』

 

するとダージリンのBD2が建物上に現れビームライフルをみほ達に撃ち込んできた

 

「また新手か!」

 

「あのMS……西住殿!あれは聖グロリアーナの総司令ダージリンさんとブルーディスティニー2号機ですよ!」

 

「あれがグロリアーナの隊長機……」

 

BD2からのビームライフルに加えて、奥にいるフルアーマーガンダムのミサイルベイがみほ達の周辺に降り注いだ

 

「…西住さん。あの青い奴を頼めるか?私と秋山さんは向こうにいるガンダムを何とかしにいく」

 

「わかりました。二人共気をつけてください」

 

「了解であります!西住殿も頑張ってください!」

 

みほはビームライフルをかわしつつBD2へ接近していった。そして優花里と麻子もフルアーマーガンダムの撃破に向かった

 

ダージリンのBD2は建物から降り、ライフルを捨てビームサーベルに持ち替えた

 

(EXAM……やはりあのガンダムに反応しているのね……)

 

ダージリンのBD2もみほのガンダムを前にしてから、少し様子がおかしくなっていたがダージリンの制御の下、EXAMは暴走せずに済んでいた

 

みほのガンダムは射撃をかわしながらサーベルの間合いまで距離を詰め両手のサーベルで斬りかかりダージリンのBD2も斬りかかり激しい鍔迫り合いが始まった

 

「聞こえるかしらガンダムのパイロットさん」

 

「え…?何ですか…?」

 

「ひょっとして貴方ニュータイプなのでしょ?どうしてその力を使って戦わないの?」

 

「私は……ニュータイプなんかじゃありません!普通の人間です!」

 

みほはダージリンの言葉を強い口調で否定した

 

「……私はニュータイプがどういう物か知っていますの。先程から貴方の戦いぶりはニュータイプそのものと言っても過言ではないと思いますの」

 

「だから何だって言うんですか……?」

 

「けれど今こうして貴方と対面して感じるのよ……貴方が迷いながら……深く悲しみながら戦っている様にね……」

 

「そんな事ありません……私は何も迷ってなんか……」

 

みほはダージリンの機体を押し飛ばそうと更に力を加えたが、ダージリンのBD2は鍔迫り合いを切り上げ後方へ移動した

 

「なら教えて頂戴。貴方が戦う理由……今こうしてモビル道を続けている理由を…」

 

『EXAMSYSTEM,STANDBY』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優花里と麻子もアッサムのフルアーマーガンダムと戦い始めたが、フルアーマーガンダムの豊富な射撃武装と重厚な装甲を前に圧倒されていた

 

「すまないな。せっかくの試合で砲撃をしないよう頼んでしまって」

 

「いいんですよファリド様、アッサム様からもお許しが出ましたので。でもダージリン様に叱られてしまうかも……」

 

「彼女には私の方から説明するから心配しないでくれ。責任は私にあるのだからな」

 

「じゃあファリド様……例の物貰ってもいいですか?」

 

「いいだろう。チョコとサインくらいならいつでもあげるさ」

 

サラミス改のクルー達は歓声を上げお互いハイタッチ等をしながら喜んでいた

 

(ダージリン達ならMSの数が不利なくらいで勝負に影響する事はないだろう。それに大洗女子の戦いぶりももっと見せて貰いたいからな)

 

「冷泉殿!如何致しましょうか!?」

 

「さっき自分でコイツを倒しに行くと言っといて何だが実は何の策もないんだ……どうしたものか…」

 

優花里と麻子は建物を盾にしながら攻撃を凌いでいたが、フルアーマーガンダムはビームライフルやキャノン砲で建物を破壊していき、使える遮蔽物も少なくなってきた

 

「やはりこちらの攻撃を通す為にも接近するしか……私が仕掛けますので冷泉殿は援護してください!!コンビネーションです!」

 

「わかった。足は私が止めるから頼んだぞ」

 

優花里と麻子の機体は建物からフルアーマーガンダムの前に姿を現した。

優花里のザクはフルアーマーガンダムの射線上になるべく入らないよう大きく右回りに接近しようとした

 

(全弾一気に砲撃……もはや弾切れを心配する必要はないな)

麻子の量産型ガンキャノンは砲撃体制を取り、フルアーマーガンダムに照準を合わせると、両肩のキャノン砲を1門ずつ連続で発射した。

砲弾が何発もフルアーマーガンダムに放たれ何発か命中したが撃破に至らず、アッサムは麻子の機体に狙いをつけキャノン砲を撃ち込んだ。砲弾はガンキャノンの胴体に直撃し撃破判定が出されてしまった

 

「クソッ!すまない秋山さん……あとは頼んだ」

 

距離を詰めた優花里のザクIIはヒートホークを右手に持ち、麻子が撃ち込んだキャノン砲の爆煙に包まれるフルアーマーガンダムに切りかかろうとした

 

「貰いました!」

 

しかし爆煙の中からフルアーマーは手を伸ばし、ザクIIの頭部を掴み地面へ叩きつけバルカン砲をザクの背中に撃ち込み撃破した

 

「うわぁっ!そんなぁ!」

 

「生憎こういう状況は何回も経験した事がありますのでデータにちゃんと残っていますの」

 

「うわああああああああああああ!!!」

 

突然アッサムのフルアーマーガンダムの背後から隠れていた梓のジム・ライトアーマーがサーベルを構えて突進してきた

 

「何!?いけない!」

 

アッサムは梓の機体に気づきビームライフルを収束させて梓がいる方を切り払った。切り払いは命中したが、ライトアーマーのサーベルもフルアーマーガンダムの胴体に刺さり2機は相討ちとなった

 

「そんな……申し訳ありませんダージリン…!」

 

「はぁ…はぁ……やられちゃった……」

 

「凄いですよ澤殿!まさかフルアーマーガンダムを撃破するなんて!」

 

「私達2人ではとても敵う相手では無かったからな。ありがとう」

 

「そんな事ないですよ先輩……私なんてまだまだです……」

 

「後残っているのは西住さんと敵の隊長機だけか」

 

「西住殿ならきっと大丈夫です!信じましょう!」

 

 

サラミス改のブリッジではアッサムのフルアーマーガンダムが撃破されクルー達は騒然としていた

 

「まさかアッサム様がやられるなんて……」

 

「初心者ばかりのチームとはいえここまで戦えるとは驚きだな」

 

マクギリスはそう言いつつも目にはずっとみほのプロトタイプガンダムが映っていた

 

「初心者を率いて強豪、聖グロリアーナを圧倒するその力。ガンダムのパイロット……君は本物のニュータイプなのかそれとも……そこにいるのか?アグニカ・カイエル……」

 

「あの…ファリド様…何を仰っているのですか?」

 

「いや、何でもないよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

EXAMシステムを発動させたダージリンのBD2とみほのプロトタイプガンダムは激しい斬り合いを行っていた

みほは2本のサーベルを駆使し舞う様に斬り掛かるもダージリンのBD2はそれをいなし続けていた

 

(攻撃が全部読まれてる……やっぱEXAMの強制解除まで時間を稼ぐしか…)

 

「私にはね、誇りがありますの」

 

再びみほの元にダージリンから通信が入った

 

「え………?」

 

「私は聖グロリアーナ女学院のモビル道を率いる存在、当然これまでプレッシャーや不安に押し潰されそうになった事は沢山ありましたわ……」

 

ダージリンのBD2はガンダムの斬撃を受け止め、それを弾き返した

ガンダムのサーベルは宙を舞い、みほのガンダムは残った1本のサーベルを両手に構えた

 

「けれどそれでも戦う事ができたのは……私を慕ってくれる大切な部下がいたから……私を支えてくれたかけがえのない友人がいたから今日まで戦い続ける事ができたのよ」

 

「私だって………新しくできた友達のために…私の為に頑張ってくれた皆さんの為に勝利したいんです!」

 

「それでいいのよ。だから貴方も自分自身に誇りを持ちなさい。私の様に素晴らしい方々と巡り会えた自分を……もっと誇らしく思っていいのよ」

 

「誇り………」

 

みほのプロトタイプガンダムとダージリンのBD2は互いビームサーベルで斬りかかり防御し、互いに1歩も退かずにぶつかり合っていた。ダージリンがEXAMの発動時間を確認すると、もう残り30秒近くになっていた

 

(そろそろ限界ね……決めさせてもらうわ)

 

みほのガンダムはダージリンのBD2に斬撃を何度も打ち込みBD2の手からサーベルを弾き飛ばすことに成功した。しかしBD2はガンダムのサーベルを持っていた方の腕を蹴り上げガンダムの手からサーベルを手放させた

 

みほのガンダムは殴りかかったがBD2のマニュピレーターに掴まれてしまった

 

「EXAMの意思ではなく…私の意思で貴方も倒させて頂いますわ!」

 

ダージリンのBD2は掴んだガンダムの拳を引っ張りガンダムの胴体へ膝蹴りを入れた。更によろめいたガンダムに何度もパンチや蹴りを打ち込み、最後に吹っ飛ばされたガンダムへ腹部有線ミサイルを発射した

 

ミサイルはみほのガンダムに命中し撃破判定が出された

 

「優雅には程遠い戦い方をしましたが………たまにやると清々しい気分になりますわね」

 

『試合終了!聖グロリアーナ女学院の勝利!!!』

 

試合終了のアナウンスが告られた。みほはコクピットの中から自身を撃破した青いガンダムを見上げた。

みほは負けてしまったがダージリンの言葉のおかげで自分の心が少し軽くなっていくのを感じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖グロリアーナ女学院に敗れた大洗女子。この戦いが自分に自信を持てなかったみほや失態を犯した少女達を更に成長させるきっかけとなる。

 

次回 ガールズ&ガンダム『家族との離別』

 

華、運命の人に出会う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございました

EXAMシステムはパイロットにかなり負荷がかかるシステムでありますが当ssではその辺り安全に配慮されているのでパイロットは大丈夫という感じでご了承ください

ブルーディスティニー2号機はニムバス機も好きですが連邦仕様のカラーも個人的にカッコイイと思います

次回も頑張ろうと思います


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7話 家族との離別

今回オリジナルキャラクターが2人登場します

これから先もオリキャラやガンダムのキャラが当たり前のようにガルパンのキャラに干渉すると思いますのでご了承してもらえるとありがたいです

今回もよろしくお願いします


練習試合は聖グロリアーナ女学院の勝利で幕を閉じた

 

試合が終わりみほと優花里と麻子は華と沙織と合流し、修理工場へ運ばれていく自分達のMSを眺めていた

 

「ごめんね皆……最後私がやられなければ……」

 

「みほのせいじゃないよ。でも惜しかっただけあってやっぱ悔しいよね〜」

 

「そうですよ。それに西住殿の活躍ぶりがあったからあそこまで戦えたのですよ。私なんて西住殿がいなかったら撃破する事なんてできませんでしたよ…」

 

「私の方こそ早々にやられてしまいみほさんの足を引っ張ってしまって不甲斐なかったです……申し訳ありません……」

 

「…………。」

 

優花里と華はみほには一切の非が無いことを伝えようとしたが、それを聞きみほは自分が他の皆とは明らかに異質な存在であると自覚させてしまった。沙織はみほの表情が暗くなっている事に気づきすぐにフォローを入れた

 

「でもみほも凄かったけど華と優花里だって凄い上手だったじゃん!麻子なんて2つも撃破してたしさ〜流石は天才って感じだよね!」

 

「………天才か。悪くないなそれ」

 

するとパイロットスーツから正装に着替えたダージリンがアッサムとオレンジペコを付き従える様にみほ達の元へ近づいてきた

 

「何あの真ん中の人……ラスボスみたい……」

 

「あんな立派な外套を袖を通さず羽織って着こなしているなんて……ラスボスですね……」

 

「物凄いオーラが伝わってきます……もしや本当にラスボスなのでは……」

 

「ラスボス……中々変わった名前の人だな……」

 

「ちょっと。人の事を見た目だけでラスボスラスボス言わないで頂戴。私の名前はダージリンですわ」

 

ダージリンは沙織達にプンプン怒った。そして改めてみほの方へ向いた

 

 

「貴方がプロトタイプガンダムのパイロットね。貴方のお名前は」

 

「…………西住みほです」

 

「まぁ。もしかして西住流の?確かにまほさんと似ている動きだったわね」

 

「そ、そうですか?」

 

「ところで私の言葉。ちゃんと届いてくれたかしら?」

 

ダージリンがそう聞くとみほ以外の4人は何の事かと不思議そうな顔をしていた

 

「はい。おかげ様で前よりも自信を持ってやって行ける気がします!」

 

「そう。それならよかったわ」

 

「西住みほ。それが君の名前か」

 

突如ダージリンの後ろにあったコンテナから白いスーツの男が姿を現しこちらへやって来た

 

「キャー!何この人すっごいイケメン!白馬の王子様って感じ!キャー!」

 

「沙織さんキャーキャー喚かないでください…みっともないですよ…」

 

「勘弁しろよな沙織……」

 

「初めまして西住みほさん。私の名はマクギリス・ファリド。今日は聖グロリアーナ女学院のメカニックとして参加し君達の試合を見学させてもらったよ」

 

マクギリスはみほへ手を差し出し握手を求め、みほはおどおどしながらその手を握り返した

 

「え……あ、ありがとうございます!」

 

「ファリド公。せっかく私達だけで試合後の挨拶に来たというのにどうして貴方まで着いてくるのかしら」

 

「私も少し話がしてみたくてね。………西住みほさん。君はどうして射撃武装を持たずに戦っていたんだい?」

 

「それは私の乗るガンダムは射撃プログラムが壊滅的に破損してて…それで仕方なくビームサーベルだけで戦う事になったんです」

 

「そんな事情があるのか……しかし君の乗るガンダムは実に様になっていたよ」

 

そう言うとマクギリスはスーツの懐に手を入れ、中から綺麗な包み紙のチョコレートを5つ取り出しみほ達に差し出した

 

「とても素晴らしい戦いを見せてもらったよ。感謝の印としてこんな物しかないがよかったら受け取って貰えないだろうか?」

 

「おおおおチョコだ!」

 

「わぁぁありがとうございます!一生宝物にします!」

 

「武部殿…流石にチョコレートを一生保存するのは難しいし可笑しいかと…」

 

「あの……西住みほさん!」

 

突然ペコがみほに声を掛けた

 

 

「はい、何でしょうか…?」

 

「私はブルーディスティニー3号機のパイロットです。手も足も出ずに貴方に負けてしまいとても悔しかったです……いつかまた私とお手合わせしてください!」

 

「…はい!喜んで!」

 

みほはペコと熱い握手を交わした

 

 

「それでは我々は失礼致します」

 

ダージリン達3人はマクギリスと共にみほ達の元から去っていった

 

 

 

 

「全く……お菓子で異性を籠絡しようとは相変わらずですわね」

 

「そう邪険に扱わないでくれよ。君達にもあげなくてはな」

 

マクギリスは再び懐に手を入れチョコを取り出そうとした

 

「おっとすまない……後2つしか残ってなかったよ」

 

「私は別に貴方のチョコレートなんて食べたくありませんわ」

 

「そうなのですかダージリン?なら私達が頂きますね」

 

「ありがとうございますファリド様」

 

ダージリンはアッサムとペコがあっさりマクギリスの手からチョコを受け取っているのを見て目元をヒクヒクさせた

 

「ハッハッハッ。ダージリンも素直になれば後でちゃんとあげるから心配しないでくれ」

 

「……今日の事はOG会に報告する必要がありますわね。主に貴方の件について」

 

「……待ってくれ。それは話が違うぞ」

 

マクギリスは爽やかに笑っていたがダージリンの言葉を聞き一瞬で焦った表情へ変わった

 

「彼氏が他校の女子生徒と親しげに話していた……これだけ聞いてもイシュー公はさぞお怒りになるでしょうね」

 

「彼女には今日ここに来ている事は内緒なんだ……助けてくれペコ、アッサム……」

 

「ファリド公……御愁傷様です…」

 

「私もあの方に嘘をつくのはちょっと……」

 

マクギリスは膝から崩れ落ち絶望していたが、ダージリン達はそれを無視しスタスタと歩いていった

 

「そういえばダージリン。先程の西住みほさんがもしかしたらニュータイプかもしれないのよね?」

 

「ええ、けれどとても普通の女の子にしか見えませんでしたわ」

 

「ニュータイプ……あの人の事を思い出しますね」

 

「アッサム。」

 

ダージリンは険しい口調でアッサムの言葉を制した

 

「彼の話はしないで頂戴。……お願いだから」

 

「ごめんなさいダージリン!つい……」

 

アッサムは申し訳なそうに口を噤んだ。ペコはダージリンが話したがらないその人物の事が少し気になっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗の港にて

 

一人の青年がバイクに寄り掛かり、聖グロリアーナ女学院の学園艦を眺めながら携帯で電話をしていた。

 

青年は自身の金髪を逆立てて稲妻の様な前髪を一本降ろしており、ライダースジャケットを着こなしていた

 

「試合はさっき終わった所だ。グロリアーナが勝ったけど思ってたより接戦だったぜ」

 

『そうなんだ。ところであなた監視の方はちゃんとしてたんでしょうね?』

 

「監視ってあの大洗女子のガンダムだろ?本当に大隊長の言う通りアレに乗ってるのがニュータイプなのかよ?」

 

『確かなはずよ。とりあえず今日の試合の内容はちゃんとデータにまとめて提出する事!いいわね』

 

「ンな事言われなくてもわかってるよ!もう切るぞ!俺ァ腹減って死にそーなんだ!じゃあな!!」

 

『あ!ちょっと待ちなさいよレビン!まだお土産の事が……』

 

謎の青年………レビンは何か言おうとした相手を無視し乱暴に通話を切った。彼はバイクにまたがりエンジンをかけヘルメットを被った

 

「強くなったなダージリン。じゃあな」

 

レビンは聖グロリアーナ女学院の学園艦に向かってそういい残し、アクセルを回し走り去って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「西住ちゃんお疲れ〜お話は終わったかな〜?」

 

ダージリン達がみほ達の元を去った直後、杏達生徒会とロックオンがやって来た

 

「今回の敗因はほぼ全て私にあると言ってもいい。だから罰ゲームのあんこう踊りは私一人でやらせてもらう…」

 

「え……?いいんですか?」

 

「河嶋先輩………!」

 

余程あんこう踊りが嫌だったのか優花里と沙織は顔を輝かせながら桃を見た

 

「いやぁ〜カッコつけてるかーしまには申し訳ないんだけどさ〜実は役員の人に私達が踊るってもう言っちゃってるから今更欠員が出ても困るんだよね〜」

 

「え!?そんな!」

 

「ていうかそれだと事前に私達が負ける前提で話を進めてたって事ですよね……」

 

「絶対負けると思ってたんだけどまさかあんなに接戦になるとは思わなくってさ。あははははは!」

 

「ドンマイ!ドンマイ!」

 

「ドンマイじゃないよ!結局踊んなきゃいけないんじゃんもー!」

 

杏の適当さ加減に沙織は激怒し赤ハロをペシペシ叩いた

 

「まぁまぁ落ち着けよ武部。そのあんこう踊りだっけ?どんだけ恥ずかしい踊りか知らねぇけど、俺も一緒に踊ってやろうじゃねえか!」

 

「えっ……教官が……?」

 

「え〜〜〜?オンちゃんが〜〜〜?」

 

「何だよ水臭いじゃねえか。それに俺も踊れば恥ずかしさだって減るだろ?」

 

「あの〜これを着て踊らなきゃいけないんですよ……」

 

柚子が持っていた紙袋からあんこうスーツを取り出しロックオンに見せた。沙織と華と優花里はあんこうスーツを見て叫び声を上げた

 

「なんだこりゃピッチピチじゃねえか……だけど俺だって男だ!おまえらだけに恥ずかしい思いはさせねぇよ」

 

「いやオンちゃんは男なんだからさ。男がこんなスーツ着て踊ってたら普通に気持ち悪いと思うし、最悪うちのチームの評判が落ちるから踊って欲しくないんだよね?」

 

「ヤメテクレ。ヤメテクレ」

 

「あ、そういう事なんですね。スミマセン……」

 

杏からキツイ事を言われロックオンは何故か敬語になり黙り込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてみほ達はあんこう踊りを街中で踊った。技術が進歩し続けたこの世界で、大納涼祭の様な古くから続く伝統的な行事を行う街は少なかった為多くの観光客が大洗に集まっていた。そしてみほ達はその中であんこう踊りを踊ったのであった

 

 

 

 

 

 

踊りが終わってみほ達は近所の駐車場に集まっていた。すると杏と魂が抜かれた様に呆然とするロックオンがやって来た

 

「皆お疲れ〜やっぱあんこう踊りは楽しいね〜」

 

「恥ずかしがらず踊れるなんて会長殿は凄いですね…」

 

「じゃ、7時まで自由時間だから皆ゆっくりしててね〜」

 

杏はそう言うと赤ハロとロックオンと共に学園艦へ歩き出した

 

「じゃオンちゃん。予定通りスーツの注文任せてもいいかな?」

 

「………ハッ!ああ任せてくれ………ところで仮にもあの子達のスリーサイズの情報を男に握らせていいのかよ?」

 

ロックオンは我に返り杏に疑問をぶつけた

 

「んー、まぁ一応学園内の機密事項でもあるからねぇ。オンちゃんのせいで悪用されたり、オンちゃんが勝手に覗いたりしたらギロチン台行きだろうねぇ」

 

「ああ、やっぱそうだよな……え?ギロチン?嘘だろ?」

 

「あはははは。鈴の音が聞こえんね〜」

 

「おい!嘘だと言ってくれよ角谷!」

 

こうして杏達は学園艦に戻って行った

みほ達は自由時間をどう過ごすか相談していた

 

 

「自由時間ですがどうしますか?」

 

「とりあえずお昼食べにいこーよ!もーお腹ペコペコだよ〜」

 

「そうだな。私もおばあに会いに行く前に何か食べておきたいしな」

 

みほ達はお昼を食べる為に近くにあるファミレスへ向けて歩き出した。

 

 

「おいコラァ!さっさと有り金全部出しやがれ!」

 

段々ファミレスに近づいて来た時、路地裏の方から怒鳴り声の様な声が聞こえてきた

 

「え、何これ喧嘩!?」

 

狭い路地裏の方を覗いてみると、白髪で気が弱そうな少年が1人、男2人と1人の少女に囲まれていた

 

 

「私誰か呼んできます!」

 

「私も通報するよ!」

 

優花里は助けを呼びに走り、沙織は携帯で110番通報しようとした

 

「本当なんだよにいにい!こいつ私の事エッチな目でジロジロ見てきたんだよ!超気持ち悪かった〜!」

 

「僕そんな事してません!あなた達がいきなりここに連れてきたんじゃないですか!」

 

「あぁ〜んテメェ俺様の妹が嘘ついてるって言うのかコラァ!いい加減なこと言ってると刻むぞオラァ!」

 

男はそう言うとポケットからナイフを取り出し、囲んでいた少年の顔に近づけた

 

「キャッ……あの人ナイフ持ってる……」

 

「落ち着け西住さん………こんな時に限って人通りが全く無いなんて……」

 

「大人しく金を出した方が身のためだ。私の弟は本当に刺すぞ?」

 

「あれ?何その時計!凄い高そうじゃん!」

 

少女は少年がポケットに入れていた懐中時計を奪った

 

「あ!返してください!それは大切な物なんです!」

 

「テメェ!妹に触ろうとすんじゃねえ!」

 

少年は懐中時計を奪った少女に手を伸ばしたが、ナイフを持った男にナイフの柄でこめかみを殴られた

 

「嫌!ちょっとやばいって!」

 

「警察も来るまで時間が掛かるって……」

 

「…………私、止めに行って来ます」

 

華はそう言うと路地裏へ入り、不良グループの元へ向かっていった

 

「駄目だ五十鈴さん!危険だぞ!」

 

「華さん!戻ってきて!」

 

「見過ごす訳にはいきません!」

 

華は恐怖で体を震わせながらも少年を助ける為に歩みを止めなかった

 

「お願いします……返してください……それは母からのプレゼントなんです……」

 

「何こいつマザコン?キッも〜い」

 

「ハハハハハハ。それは元から母親のいない我々にとって戯言でしかないよ。だが気が変わったよ。君の様に裕福な子供は利用価値が高いから着いてきてもらうよ」

 

一番身長の高い男は少年の首根っこを掴みあげそのまま路地裏の奥へ連れていこうとした

 

「お待ちなさい!今すぐその人を解放してあげなさい!」

 

「ア〜ン?何だテメェは?」

 

華が不良達を引き止めるとナイフを持った男が振り返ってきた

 

「今すぐその人を離してください!貴方達の様な卑劣な行為は許されるはずがありません!」

 

「許す……?誰かが私達を裁くと言うのだね?」

 

高身長の男は少年を投げ捨て華の方へ近づいてきた

 

「ッ!近寄らないでください!」

 

「私達は君達と違って人の手によって造られた存在……そんな我々がこの世界で生きていくにはこうしなければならないのだよ」

 

「……何を言っているんですか?」

 

男は華の前で立ち止まりじっと睨みつけてきた

 

「………君も裕福な家庭で育った様だが今回は見逃してあげよう」

 

「だったら、あの人の事も解放してください!」

 

「それはできないな。あの少年にはまだ用がるんでね」

 

「キャッ!何よ!」

 

叫び声がした方を見ると少年が少女から懐中時計を取り返している姿が見えた

 

「テメェ妹に何しやがんだ!調子こいてんじゃねえぞ!」

 

「……ッ……逃げてください!」

 

少年はナイフの男に蹴られながらも華に逃げるよう訴えかけた

 

「な、お辞めなさい!」

 

「おっと動くな」

 

華が男の脇を通り駆け寄ろうとしたが、男は懐から拳銃を取り出し銃口を華へ向けた

 

「な……………それは……」

 

「安心してくれ。君は現地の人なんだろう?我々は観光客にしか手洗い真似はしないのでね。さぁ友達の元へ帰りたまえ」

 

「おい!貴様ら!なにをしている!」

 

すると路地の方から警官と勇敢な商店街の男達がこちらへ向かってきた

 

「おい、やべぇぞアニキ!どうすんだよ!」

 

「………運が良かったな。ここは退くぞお前達」

「ちぇっ。つまんないの」

 

不良達は路地裏の奥へ走っていき、2階建ての建物の壁に阻まれ行き止まりになっていたが、凄まじい身体能力で壁をよじ登って建物の向こう側へ消えた

 

「なんだあの不良共……!?裏だ!裏へ回れー!」

 

警官達は呆気に取られたがすぐ様路地へ出て不良達の追跡に向かった。華はうずくまっていた白髪の少年に声を掛けた

 

「大丈夫ですか!?…血が出てるじゃないですか!」

 

少年はこめかみから血を流していたので華は持っていたハンカチで傷口を抑えてあげた。

 

「痛た……すみません……おかげ様で助かりました……」

 

「ちょっと華!怪我してない!?危ないじゃんかもー!」

 

みほ達も華と少年の元に駆けつけた

 

「私は大丈夫です。それよりも沙織さん絆創膏を頂けませんか?」

 

「ちょっと待って!これでいい?」

 

華は沙織から絆創膏を受け取り、止血していた少年の傷口に貼ってあげた。少年はフラフラしながらも立ち上がり華に頭を下げた

 

「ありがとうございます!こんな事に巻き込んで申し訳ございません……女性に助けてもらうなんてかっこ悪いですよね……」

 

「そんな事ないですよ。はぁ………」

 

華は体から力が抜け思わず倒れそうになってみほと優花里が華を受け止めてあげた

 

「華さん大丈夫!?」

 

「すみませんみほさん優花里さん……とても……怖かったです……」

 

「五十鈴殿もう大丈夫ですよ。ここには私達がちゃんといます」

 

「さっきの連中ヤクザか?大洗にそんな奴らはいないと思ってたが……」

 

「ごめんなさい……僕なんかの為に………本当にありがとうございます」

 

少年は再びみほ達に深々と頭を下げた。すると突然、沙織のお腹が大きな音を立てた

 

「えっ!?嘘私!?ちょっとやだ〜!」

 

「沙織…………だが確かに私もお腹が減ったな」

 

「ふふふ、なんだか私もお腹が空いてきました」

 

華は気力を取り戻しまた皆に笑顔を見せてくれた

 

「あの……もしかして皆さん大洗女子学園の生徒さんですよね?よかったら何かご馳走しましょうか?」

 

「そんな、お礼なんて気にしなくていいですよ」

 

「いやいや僕が不甲斐ないばかりに貴方にとても怖い思いをさせてしまったので………少しばかりですがお礼をさせてください」

 

少年の押しが中々強かったのでみほ達は承諾し、少年と共に元より行こうとしていたファミレスへ入った

6人はテーブル席を3つくっつけて少年と華は向かい合うように座った

 

「何でも好きなのを注文してください。幸い何も取られなかったおかげでお金の方は心配ないので」

 

「そう言われると何だか迷ってしまうな……」

 

「うーん………では私はこのおろしハンバーグとヒレカツ定食とカルボナーラとミックスピザと後は………」

 

「ちょっと華ストップ!私達まだ決めてないんだから勝手に注文しないでよー!」

 

「いや今のは私の分を言っていたのですが……」

 

「あ、そうなんだ………ってそうなの!?」

 

各々食べたい物が決まり店員さんを呼んだ。華は結局メニューの各ページに載っている物を大体注文し、店員は驚愕のあまり目を見開いていた

 

「そういえばまだ自己紹介をしてませんでしたね。僕の名前はリュウセイと申します」

 

「私は五十鈴華と申します」

 

「私武部沙織!」

 

「西住みほです…。」

 

「秋山優花里と申します!」

 

「冷泉麻子だ」

 

「皆さんモビル道の練習試合に出てた方々ですよね?とても白熱した試合で凄かったです」

 

「まぁ、どうして私達がモビル道をやってるってわかるんですか?」

 

華はリュウセイにそう聞くとリュウセイはしまったと言ったような顔をした

 

「えっと……その……皆さんからMS独特の匂いがして……それで今日試合をしていた人達なのかなと……ごめんなさいなんか気持ち悪くて!」

 

「えっ嘘!私臭ってる!?」

 

「おまえは戦艦にいたからそんな事ないだろ」

 

「私以外にもMSの匂いがわかる人がいたとは……」

 

「優花里さんもわかるんだ……」

 

「僕、小さい頃からMSの整備士としてモビル道に関わる事が多かったので……そのせいかもしれないです」

 

「リュウセイさんはどちらの学校へ通っているんですか?」

 

華の質問にリュウセイは少し答えづらそうにしながらも口を開いた

 

「実は僕……今はどこにも通ってないんです……」

 

「え!?学校で何か嫌な事とかあったの!?」

 

「そうじゃなくて……小学校を卒業した直後に、父の推薦で宇宙開発の大学に入学させられて……今年の春に卒業したんです」

 

「そうだったのですか……でも飛び級で大学に入学だなんて凄いじゃないですか」

 

「そんな事ないですよ……周りの大人達が僕に過剰な期待をしていただけで僕なんてなんの取り柄もありませんよ…」

 

「うーん…?そういえばリュウセイくんってどうして大洗に来たの?見た感じ観光客って感じだけど」

 

沙織はネガティブな事を多く言うリュウセイに疑問を持ちながらも大洗に来た理由を尋ねた

 

 

「ここ大洗は亡くなった母の故郷なんです。昨日から滞在していて今日偶然皆さんの試合を見ることができました」

 

「え、そうなんだ……ごめんね嫌な事聞いちゃって」

 

「いいんです。母が亡くなったのも僕がまだ小さかった頃ですし大洗は昔から大好きな街なので。それにしても皆さんの試合本当に凄かったです!母が乗っていたスナイパーカスタムもまだ活躍しててとても感動しました!」

 

「え!あの機体はリュウセイさんのお母様の機体だったのですか!?」

 

「そうなんですよ。母が大洗女子学園にいた頃の写真にあの機体と一緒に写っている物もありまして……」

 

「実は私、今スナイパーカスタムのパイロットをやらせてもらっているんです」

 

「!そうなんですか!?五十鈴さんがスナイパーカスタムに乗ってるなんて凄いです!」

 

華とリュウセイが盛り上がっている中、沙織は二人を見て何かを察した

 

(ねぇねぇあの二人さ。もしかしてあれなんじゃないの?)

 

(あれ……って何?)

 

(あれでありますか……あれって何ですか?)

 

(もうみほも優花里も年頃の女の子なんだから!あれって言ったらあれだよ!)

 

(いやだからあれってなんだよ沙織)

 

(もう麻子まで!決まってるじゃん、もしかしたら二人は運命の赤い糸で結ばれてるって感じの……)

 

「「ええーーーー!!!」」

 

沙織の言葉にみほと優花里は驚きのあまり思わず大声を出してしまった

 

「二人とも……どうかしたのですか?」

 

「ううん何でもないよ!(ちょっと二人とも声大きすぎ!)」

 

(あわわごめんなさい……)

 

(でもそうなんですかね……リュウセイ殿はこうして私達5人をお昼に誘えるあたり意外とフランクな方かと思ってまし)

 

(確かにそうだよね……よぉ〜し!)

 

沙織は何かを企み、少し困った顔でこちらを見ていたリュウセイに話しかけた

 

「いや〜それにしてもリュウセイくんって凄いよね!仮にも純情な乙女な私達5人をご飯に誘うなんて」

 

(おまえのどこが純情なんだ……)

 

「え、何かおかしいですか?」

 

「そりゃそうだよ〜普通男の子と女の子が1対5でご飯に食べるなんてありえないって〜」

 

沙織の言葉を聞きリュウセイは少し俯くと、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤になった

 

「あわわわ……僕ってばなんて事を………」

 

「リュウセイさん……?」

 

「ごめんなさい!僕が間違ってました!お金は置いていきますので!ごめんなさい!」

 

リュウセイは慌てふためき席を立って逃げ出そうとした

 

「待ってくださいリュウセイさん!駄目じゃないですか沙織さん!」

 

「え!わたしのせい!?」

 

華はリュウセイの腕を掴み引き止めて何とか落ち着かせると、リュウセイは再び席に着いた

 

「すみません……僕そういう事に関してかなり疎くて……軽薄な行為だとは知りませんでした……」

 

「そういう事じゃないんだけど……ていうか知らないってのも何か凄いね……」

 

「でもリュウセイさんは善意だけで私達をお食事に誘ってくれたということでしょう?とても素敵だと思います」

 

華がリュウセイに微笑みながら言うと、リュウセイはまた顔を赤くして俯いてしまった

 

そしてようやく料理が到着し6人共色々な事を話しながら食事を楽しんだ。

何故か大量に頼んでいた華が一番最初に完食し、2周目に入ろうと悩み始めていたのでみほ達も食べ終えて店から出る事にした

 

 

 

 

「やっぱり大人数で食事すると結構かかるんですね。少しかっこつけすぎたかもしれないです」

 

(9割くらい華の分だけどね……)

 

「ご馳走様ですリュウセイさん。つい食べ過ぎてしまい申し訳ございません……」

 

「気にしないでくださいよ。誰かと楽しく食事する事なんて久しぶりだったので…最高の思い出になりました」

 

「………リュウセイさんはこれから先どうなさるんですか?」

 

「今はこうして好きな事ができるのですが……夏に父が結婚相手を紹介すると言っていたのでそれまで色んな事をするつもりです」

 

「え!リュウセイ結婚するの!?」

 

「まだわからないですけど……いわゆる政略結婚ってやつです。父の企業をより大きくするためにも僕の縁談は必要なんだとか」

 

 

リュウセイは寂しそうな顔をして語った

 

「すみませんこんな話しちゃって!それじゃあ僕は失礼させてもらいます。皆さんと出会えて良かったです!」

 

リュウセイはお辞儀をするとここから立ち去ろうとした

 

(ちょっと華。このままでいいの?もうリュウセイくんと会えなくなるかもしんないよ!)

 

(え!?でもどうしたら……)

 

(あ!それなら私にいい考えがあるよ)

 

みほは華にある事を耳打ちをして何かを言う様に促した

 

「あの、リュウセイさん待ってください!もしよかったら……私達のモビル道チームに参加してくれませんか!?」

 

「え!僕がですか……!?」

 

華の言葉を聞きリュウセイはかなり驚いた

 

「こうして知り合ったのも何かの縁だと思いますし、私達のチームは人数が少ないので良ければ力を貸して欲しいです…お願いします」

 

「あ、私からもお願い!」

 

「…わかりました。こんな僕で良ければよろしくお願いします!」

 

「ありがとうございます!リュウセイさん!」

 

華は礼を言いながらリュウセイの手を両手で握った。するとまたまたリュウセイの顔は真っ赤になってしまった

 

「やったぁぁぁぁあ!告白大成功〜!」

「いやおまえは何を言っているんだ。それと西住さんは一体何を吹き込んだんだ?」

 

「実はリュウセイくんみたいに整備士として働ける人は連盟の審査を通せば、学校のモビル道チームに参加しても大丈夫な事になっているんだ」

 

「確かにリュウセイ殿の様な飛び級生が来てくれればとても心強いですね!」

 

こうしてリュウセイは大洗女子学園のモビル道チームに参加する事を約束して、みほ達一行と別れた

 

 

 

 

 

その後、麻子も祖母に顔を見せるためにみほ達と別れ、残された4人は街中を歩いていた

 

「リュウセイくん……身長も私よりちょっと高いぐらいだしイケメンというよりは可愛い子犬って感じだよね!ああいう子も悪くないかも〜」

 

「ははは……さっき運命の赤い糸とか言ってたのに……」

 

すると前方に今では珍しい人力車を引いていた男が停まってこちらの方へ向かってきた

 

「えっ!今日2人目のイケメンだ!!!やばいやばいやばい!」

 

「武部殿落ち着いてくださいよ〜〜」

 

沙織は興奮のあまり優花里の肩を掴み体を揺らしまくった

 

「お嬢、お元気そうで」

 

「えっ!知り合い!?まさかの三角関係!?」

 

「何を言っているんですか沙織さん……この人は私の家にいつも奉公に来ている信三郎です」

 

「お嬢がいつもお世話になっています」

 

すると信三郎が停めていた人力車から和服を来た女性が日傘を差して降りてきた

 

「華さん、元気そうでよかったわ」

 

「お母様!」

 

「こちらの皆さんは?」

 

「こちらは同じクラスの武部沙織さんと西住みほさんです」

 

「私はクラスは違うのですがモビル道の授業で一緒の秋山優花里と申します」

 

「モビル道………?」

 

モビル道の単語を聞き華の母親……百合の表情は険しくなった。優花里は自分の失言に気づきしまったと言わんばかりに口を抑えていた

 

「花を生ける繊細な手で……あんな物に触れるなんて……あぁっ……」

 

「奥様っ!」

 

百合はショックのあまり気を失って倒れ込んでしまった。信三郎は百合を人力車に乗せ急いで五十鈴邸へ帰る事にし、みほ達も後からそこへ向かう事にした

 

 

 

 

 

みほ達は五十鈴邸の客間に案内された

 

「すみません…私が口を滑らせたばっかりに……」

 

「そんな…私が母にちゃんと報告していなかったのが悪かったんです…」

 

「お嬢、奥様がお目覚めになられました。お話があるそうです」

 

信三郎が客間の襖を開け華を呼びにやってきた

 

「私…お母様には申し訳ないけれどもう戻らないと……」

 

「お嬢!……お嬢の気持ちもわかります………ですがどうかお願いしますので奥様と話をしてくれませんか?」

 

信三郎は深刻そうな顔をして華に頼み込んだ。華は母と対話する事を承諾し客間を出て百合の元へ向かった

 

 

 

(こんな事していいのかなぁ?)

 

(偵察だよ偵察!)

 

みほと優花里は沙織の提案で華達の話を聞くため、襖から二人を覗いた

 

「申し訳ありませんお母様……」

 

「一体何があったの…?華道が嫌になっちゃったの…?」

 

「私……生けても生けても…何かが足りないような気がして……」

 

「……だったらどうしてよりによってモビル道なの?もっと他にも色々あったはずよ」

 

百合は華が華道を選ばなかった事ではなくモビル道に嫌悪感を示している様だった

 

「それにあなたの生ける花は可憐で清楚、五十鈴流そのものじゃない」

 

「………でも私はもっと力強い花を生けたいのです!」

 

「そんなっ……」

 

百合は体制が崩れまた倒れそうになった

 

「お母様!」

 

「あんな物の何がいいのよ……当たり前の様に草花を踏み潰し焼いて行くあんな野蛮な武道の何がいいのよ!MSなんて全部跡形も無く消し炭になってしまえばいいのに!」

 

「消し炭………」

 

百合の言葉に優花里は寂しそうに声を漏らした。昔からモビル道の問題点として自然環境への被害等が挙げられており、未だに完璧な改善策が出ていないため反発の意見も挙がるようになっていた

 

「申し訳ありませんお母様………けれど私、モビル道は辞めたくないです」

 

「そう……………ならもう二度とうちの敷居は跨がないで頂戴」

 

「奥様それは……!」

 

だが華と百合の問題に信三郎が入る余地は無かった。華は最後に失礼しますと母に言うと立ち上がり襖を開け部屋を出た

 

「帰りましょうか皆さん」

 

「でも………いいのこれで……?」

 

みほは自分と同じ様に母親と別れようとする華が心配でならなかった

 

「いいんです。いつかお母様を納得させられる様な花を生ければきっとわかってもらえる……そんな気がするんです」

 

みほは自分と同じ様に華が母と違う道を進もうとも、前向きになりいつか分かり合える日が来ると信じる華の事を改めて凄い人だと感じた

 

「お嬢!!!」

 

「泣くんじゃありませんよ信三郎。これは別れではありません……新しい門出なのだから……」

 

「五十鈴さん………私も頑張るよ……」

 

「……はい!」

 

こうして華は五十鈴家の元を発つ事となった。いつか母と分かり合えるその日まで………

 

信三郎はみほ達を人力車に乗せて学園艦のある港まで号泣しながら走った

 

「いつまでも…いつまでもお待ちしています!お嬢様ぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

「顔はいいんだけどなぁ……」

 

鼻水を垂らしながら号泣する信三郎に沙織は少し幻滅していた

 

 

 

 

 

 

 

港に着くと麻子が海を眺めながらみほ達を待っていた

 

「遅すぎるぞ」

 

「も〜夜は元気なんだからー!」

 

みほ達は急いで学園艦に乗り込み、甲板へと上がった。するとそこには今日共に戦ったモビル道チームのメンバーが集まっていた

 

「あれ…?皆さんどうしたんですか?」

 

「おぉ〜遅かったね〜西住ちゃん!帰ってくるの待ってたよ〜」

 

すると杏達生徒会とロックオンがこちらへやって来た

 

「そーそーこれ、グロリアーナの人から」

 

杏がそう言うと柚子は持っていた籠をみほに渡した。中には紅茶とダージリンからの手紙が入っていており、みほは手紙を開き内容を確認した

 

『今日はありがとう。貴方のお姉様との試合よりも面白かったわ。次は公式戦で戦いましょう……』

 

「凄いですよ!聖グロリアーナ女学院は好敵手と認めた相手にしか紅茶は贈らないそうですよ!」

 

「へぇ〜凄いじゃん。公式戦は勝たなきゃね〜」

 

みほはダージリンからの言葉を思い返して今ここにいる皆と次は勝利したいと心に誓った

 

「ところで公式戦って何?」

 

「公式戦はモビル道の全国大会ですよ!もしかして私達も参加するんですか!?」

 

「それはこれからオンちゃんが説明するから。つー事でオンちゃんよろしくぅ!」

 

ロックオンは待ってましたと言わんばかりに皆の前へ立った

 

「よぉーし皆!モビル道の全国大会に参加する事になる訳だがまだ抽選会まで時間がある………だからその前にどうしても行かなきゃならねぇ所があるんだがそれは一体どこでしょう!」

 

ロックオンはクイズのように質問し、皆どこなのだろうとざわつき始めた

 

「まさか………ローマか!?」

 

「いや!ここは代々木第一体育館ですよ!」

 

「えーどこだろう!私沖縄とか行ってみたいなー」

 

「いいね沖縄!」

 

「海行きたいねー!」

 

「違う違う!お前ら……もっと他にあるだろ行くべき所が!」

 

そう言ってロックオンは空に向かって指を指した。一同はロックオンが何故空を指しているか訳がわからなかったが、梓だけ徐々にその真意に気づき口を開いた

 

「も、もしかして………宇宙…ですか…?」

 

「………正解だ!出発は明後日!俺達だけで宇宙へ修学旅行と行こうじゃねえか!」

 

「「「「「えええええええ〜〜〜〜〜〜!?」」」」」

 

モビル道のメインステージであり人々の夢や願いが集う場所、宇宙………ついに大洗女子のモビル道チームも宇宙へ上がる時が来たのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、黒森峰女学園学園艦にて……

 

エリカは訓練が終わり着替えた後、整備班と自分のMSをチェックし帰宅しようと思った。自分の機体の隣に立つまほの機体……ガンダム試作1号機フルバーニアンのコクピットの中ではまほが仮想戦闘訓練に打ち込んでいた

 

まほが今日の訓練が午後からというのもあってか朝からヘリに乗って学園艦の外へ出かけて行くのをエリカは見掛けていたのだが……

 

帰ってきたまほは態度や表情に示してはいなかったが明らかに何かに対して怒り苛立ちを抱いている事が察せられた

エリカはそんなまほが心配になり思い切って聞いてみようと待っていたら、幼なじみのレイラがこちらへ走ってきた

 

「いたいたエリカちゃん!よかったまだ帰ってなくて……」

 

「……あんたそんな急いでどうしたのよ?何かあったの?」

 

「それがさー、今ガトー教官が学園に来たの!それでエリカちゃんを呼んできて欲しいって」

 

「ガトー教官が!?すぐに行くわ!」

 

エリカはレイラに案内されガトーのいる部屋へ向かった

 

 

 

 

 

 

エリカが応接間に入ると、椅子にガトーが座って待っていた。

 

「お久しぶりです!ガトー教官!」

 

「久しぶりだなエリカ。中等部の頃以来だな」

 

エリカは挨拶をすると一礼してガトーの向かいに座った。ガトーは昔、黒森峰の補助教官を務めると同時に中等部のメイン教官及び監督を務めていた

 

「最近おまえに元気がないと聞いて心配だったのだが……どうやらその様子はないようだな」

 

「はい……副隊長が出ていった事に心の整理がつかなくて……でもまほさんのおかげで立ち直る事ができたと思います!」

 

「…………今日はそのみほの事について話し来た」

 

ガトーは改まってエリカを見据えた

 

「この事は家元やまほには伝えないつもりでいる……みほのライバルであるおまえにだけ教える」

 

「……あの子に何かあったのですか…?」

 

「先日、モビル道を復活させた大洗女子学園に教官として出向いてな……そこには新しいチームに所属するみほがいたんだ」

 

「えぇ!?…って痛ッ!」

 

エリカはガトーの言葉に驚き思わず立ち上がろうとして、膝をテーブルにぶつけてしまった

 

「エリカ落ち着いてくれ。ショックかもしれないが、みほは新しい場所で新しい友人と共に再びモビル道と向き合おうとしているんだ………どうか彼女を許してやってくれ」

 

「新しい友人………」

 

エリカはみほが再びモビル道を始めた事にどんな反応を示せばいいかわからず戸惑ったが……エリカは無意識に笑みを浮かべていた

 

「エリカ……?なんで笑っているんだ?」

 

「……え!?すみません!私ったらなんで……」

 

エリカは嬉しかったのだ。確かにエリカはみほをチームメイトとして信頼していて選手としてもよく尊敬していた。だがそれ以上に自分のライバルとして…いつか超えるべき存在であると認識していた。

 

みほがモビル道を辞め黒森峰を去った時…エリカの燃やし続けていた炎は消されかかったが、今みほの復活を聞き再びその灼熱の想いを燃やし始めたのであった

 

「そうか!おまえさてはみほが敵として出てくる事が嬉しいんだな!?ハハハハハコイツめ!」

 

「イタタタ!辞めてくださいよガトー教官!私だって一応女子なんですよ!」

 

ガトーは大笑いしながらエリカの頭を拳骨でグリグリしてやった

 

「最初は迷ったんだがな…やはり伝えに来てよかったよ」

 

「ありがとうございますガトー教官。おかげで私も以前の様に励む事が出来そうです」

 

「…あとこの事は皆には内緒にしておいて欲しい……特に家元に知られてしまったらかなりマズいからな……」

 

「わかりました。この事は他の皆には内緒にしておきます」

 

エリカとガトーがそんな会話をする中………廊下では応接間のドアにもたれかかって二人の話を聞いていた者がいた……まほであった。まほは訓練を終えるとガトー教官が来ている事を聞き、挨拶をしようと足を運んだがみほに関して話していたので部屋に入らず内容を盗み聞きしていた

 

 

(みほ………おまえも私を捨てたのか……)

 

まほは体をガトーに挨拶すること無く、廊下を歩き始めた。力なく廊下を歩いていくと手洗場の鏡に映る自分が見えた

 

(私が弱かったばかりに……あの時おまえを守ってやれなかったばかりにおまえは私を捨てここを去ったのだろう?………だが今は違う)

 

まほは自分を映す鏡を拳で叩き割った。洗面台に破片が散らばり拳にも破片が刺さり血を流していたが、まほは表情をピクリとも変えることなく拳を強く握り締めていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新たなメンバーとしてリュウセイが加わり、みほ達大洗女子は宇宙へ上がる。その旅路が沙織をもう一人のみほと引き合わせ、ついにみほの口から過去が明かされる

 

次回 ガールズ&ガンダム 『宇宙へ…』

 

その仮面を付けるのは何が為に……

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました

今回登場したオリジナルキャラクターのリュウセイとレビンについて補足したいと思います

まずリュウセイは本編で沙織の言っていた通り白いワンちゃんみたいな男の子です。喧嘩は弱くて女の子にも慣れてなく親の言う事には逆らえず……けれどいざと言う時は勇敢になれるそんなキャラクターです。

続いてレビンですが名前が稲妻という事もあるのでイメージキャラクターはガンダムサンダーボルトの主人公のイオ・フレミング少尉です。
この先も何かと出てくると思いますが活躍するかはまだ決めてないです
サンダーボルトは結構カッコイイシーンが詰まっているのでとてもおすすめです。13巻発売が待ち遠しいです()

次回予告まで書いといて何ですが次投稿するのはおまけ回になると思います
あとキャラクターとMSが増えて来たのでそろそろまとめ資料みたいなのも出してみたいです



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おまけ ロックオンのおつかい

今回はロックオンが主役の回です

ついに因縁の宿敵と対面しますが、かなり緩い感じになっていますのでご了承してくださいごめんなさい

今回もよろしくお願いします


聖グロリアーナ女学院との練習試合が終了し、杏と共に学園艦へ戻ったロックオンは以前より立てていた宇宙で訓練を行う計画について生徒会室で杏達と会議を開いていた

会議と言っても4人でちゃぶ台を囲んで昼食に杏の作ったした焼きそばを食べながら話し合っていた

 

「めちゃくちゃ美味いな!日本は長いがこんな美味い焼きそばは食ったことないな……」

 

「だしょ〜?って言ってもありものでパパーっと作ったやつだけどね」

 

「ところで教官さん。本当に私達宇宙へ行くんですか……?」

 

柚子が少し心配そうな顔をしてとても美味しそうに焼きそばを啜るロックオンに聞いた

 

「ングング………まあお前らが全国大会に出たいって言う以上それに応えてやるのが俺の役目だからな」

 

「そうじゃなくて私達モビル道受講者全員と戦艦2隻を宇宙へ上げるには凄いお金がかかるんじゃ……」

 

「なーに金の心配はいらねえよ。新しくモビル道を始めた学校には連盟や文科省が宇宙へ上がる費用を全額負担してくれるからな」

 

「しかし我々は20年前に廃止した物を復活させたという形なのですがその場合も適用されるのですか?」

 

桃がそう聞くとロックオンは涙を流し始めた

 

「それなんだよ……新しく開講した訳じゃないって事で文科省と連盟からちょっとしか貰えなくてよ……おかげで俺の財布もスッカラカンだよ……」

 

「あっちゃ〜これしか入ってないじゃん」

 

「スッカラカン、スッカラカン!」

 

ロックオンは泣きながら束にまとめた宇宙へ上がる時に乗車するリニアトレインのチケット全員分と自身の財布をちゃぶ台に置いた

杏が財布を開けると中には小銭が数枚入っているだけであった

 

「何も自分の財産使ってまでチケット買わなくてもよかったのに。うち貧乏だけど学園艦の資金とか生徒会費からだって出せたのに」

 

「そうは言ってもお前達を今回宇宙へ連れていくのは俺の独断だからな……よそ者の俺がそこまでやらせる訳にはいかねえよ」

 

ロックオンは焼きそばを一気に完食しコップの水を飲み干すと立ち上がった

 

「ご馳走さん。んじゃ俺は皆のモビル道用のスーツを注文しに出掛けてくるよ。行こうぜハロ!」

 

「リョウカイ、リョウカイ!」

 

「いってらっしゃい〜」

 

ロックオンは赤ハロと共に生徒会室から出掛けて行った

 

「何だか教官さんいい人そうでよかったですね」

 

「会長、教官殿に例の事は伝えますか?何か力になってくれるのでは……」

 

「いや、オンちゃんは今年が初めての教官生活だからさ。あまりプレッシャーはかけれないよ……それにこれはあたしらでどうにかするべきだからさ!これ食べたらあたしらもやる事やっちゃうよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロックオンと赤ハロは学校の外へでて学園艦の商店街へ出ていった

赤ハロが調べた所によると学園艦上にパイロットスーツやクルーの制服を売っている店があるらしく、跳ねながら進む赤ハロにロックオンはついて行った

 

「ロックオン!コッチダ、コッチダ!」

 

「ハイハイ……つってもこの学園艦にモビル道関連の店なんてあんのか?」

 

しばらく歩いていると商店街のはずれに出て赤ハロがあるお店の前で止まった

 

「がんだむ倶楽部in大洗か………こんなお店があったんだな」

 

ロックオンは赤ハロと共に店の中へ入った。たまたまお昼時だったためか店には他に客がいないようだった

 

 

「いらっしゃい。お、兄ちゃん見ねえ顔だな」

 

「なっ………貴様は…………アリー・アル・サーシェス!」

 

店の奥から出てきた店長にロックオンは物凄い衝撃を受けながらも目の前にいる男の名を言い放った

 

「なんで俺の現役時代の名を……まさかアンタあの事件の……?」

 

がんだむ倶楽部の店長ゲイリー・ビアッジ、もといアリー・アル・サーシェスはモビル道プロチームの現役時代に酔っ払って街中でMSを乗り回し大暴れした過去があった

 

「貴様せいで……俺のデュナメスは………もう帰ってこなくなったんだぞ!」

 

「ちょっと待て誰だそいつは!?死人やケガ人は出なかったって聞いたぞ!」

 

「うるせえ!貴様に何がわかる…………俺とデュナメスの何がわかるってんだ!!!」

 

ロックオンは怒りと激情に駆られサーシェスの顔面を思い切り殴った。サーシェスの体は軽く浮き上がり吹っ飛ばされた

 

「ぐへぇッ!これが若さか…………じゃなかった!何しやがんだテメェ!」

 

「デュナメスとはなぁ……これからだったんだよ……いろんな場所に一緒に行こうって……約束してたんだよ………!」

 

ロックオンはシクシクと涙を流しながらサーシェスの胸ぐらをつかみそう言った

 

「まさかあの事件にそんな犠牲者がいたとは………兄ちゃんすまねぇな……本当にすまねえ……」

 

「そんな事言ってもデュナメスは戻ってこねえんだよ!せっかくバイト代コツコツ貯めてよ……父さんに内緒で中古車のアイツを買ったのに……貴様は!」

 

「いや車かよ!!!」

 

ロックオンの言うデュナメスが人ではなく車だった事を知りサーシェスは思い切りずっこけた

 

「車にそんな名前付けてんじゃねぇよ!大体車の賠償金と修理代は全部支払っただろうが!」

 

「そんな金父さんに全部持ってかれたわ!その上大学受かってないのに車買うなとか散々説教されたんだぞ!」

 

「そんなんてめぇと親父の問題だろ!つかそんなん説教されて当然じゃねえか!」

 

サーシェスは先程のお返しと言わんばかりに、ロックオンの顎を殴り抜けた。今度はロックオンの体が宙に浮きそのまま倒れ込んだ

 

「ヘッ、これでおあいこだぜ」

 

「ウーンイテテ…………いやおまえの方が強かったからあいこじゃねえ!それにさっき殴ったのは潰されたデュナメスの分………まだ失われたバイト代の分も残ってんだよ!」

 

「いやてめぇの分じゃねえのかよ!何ならとことんやってやろうじゃねえか!」

 

「うおおおおおおおおおお!!!」

 

ロックオンがサーシェスに飛びかかり、二人は店の中で子供の大喧嘩の様な取っ組み合いを始めた

 

「ケンカスンナ!ケンカスンナ!」

赤ハロは殴り合う二人を止めに入ろうとしたが、あっさり吹き飛ばされた。いい歳した大人二人の喧嘩は止まる事はないかと思われたかお互い体力に限界が来てしまった

 

「ハァ、ハァ………兄ちゃん結構やるじゃねえか……」

 

「うるせぇ………俺はまだまだいけるぞ………」

 

「フタリトモナカヨク、ナカヨク………」

 

「兄ちゃん俺に仕返しするためにわざわざこの店まで来るとはそのデュナメスってヤツがよっぽと気に入ってたんだな……悪かったな………」

 

「……………あ。」

 

ロックオンは当初の目的を思い出すと勢いよく起き上がった

 

「そうだよ!俺は皆がモビル道で使うスーツを買いに来たんだよ!すっかり忘れてた………」

 

「コノスットコドッコイ!スットコドッコイ!」

 

赤ハロは怒って耳からピコピコハンマーを出しロックオンの頭を殴った

 

「なんだ兄ちゃん優花里ちゃん達と何か関係あんのか?」

 

「フッフッフッ。俺は今あの子達の教官をやっているのさ。そんで今日は彼女達のパイロットスーツとか注文しに来たって訳だ」

 

「兄ちゃん教官だったのか………優花里ちゃんにちょっかい出してねえだろうな?」

 

ドヤ顔を決めていたロックオンをサーシェスは睨みつけた

 

「オイオイおっさん秋山の何だよ……もしかしてその歳で秋山の事……」

 

「バカがそんな訳ねえだろ!優花里ちゃんはつい最近までここの常連客だったからな……」

 

「そうだったのか。つかそんな事よりもスーツの注文をさせてくれよ」

 

ロックオンはそう言うとサーシェスに案内され店の奥の応接間に入り椅子へ腰掛けた。ロックオンはみほ達モビル道受講者のデータと杏が希望したパイロットスーツが載っているカタログをサーシェスに渡した

 

「ソレスタルなんたらの製品か……ここの会社のヤツうちには置いてないから注文しなきゃいけないな。今から注文すれば明後日には学校に届くぜ」

 

「ソレスタルビーイングだ。明後日か………俺達明後日には軌道エレベーターで宇宙に上がってるから取りに行けないな。ステーション内のホテルに届けるよう頼む事ってできるか?」

 

「ホテルの場所さえ教えてくれればいけるだろう。まあ今回は配達費の節約に俺が届けに行ってやるよ!」

 

「まじかよ!そりゃ助かるぜ!」

 

「フトッパラ!フトッパラ!」

 

「その代わり条件がある」

 

サーシェスは改まってロックオンを見据えた

 

「優花里ちゃんのザクIIをな……明後日まで貸して欲しいんだわ」

 

「何!?秋山のザクで何しようってんだ!」

 

「別にやましい事じゃねえ。ただのサプライズみたいなもんだからよ。そこん所うまく説明しといてくれねえか?」

 

「………まあいいだろう。その条件受けてやるよ。その代わりちゃんと返せよな!」

 

「契約成立だな。スーツの金は今度請求書出すからちゃんと生徒から集めてくれよ?」

 

「ケーヤクセイリツ、ナカナオリ!」

 

こうしてロックオンはサーシェスと契約し赤ハロの煽りもあって二人は仲直りの印に握手をした

だが握手を交わした瞬間、二人の顔付きが重くなった

 

 

「……………さっき殴りあってた時もそうだったんだがなんかアンタとはただならぬ因縁を感じるんだよな…まるで前世はアンタに殺された様な物をよ………」

 

「おかしな因縁の付け方じゃねぇか………けど俺も前世はアンタみたいな顔の男に殺された気がしてよ………ここらでさっきの続きでも始めるかい?」

 

「ワーーーーッ!ミンナナカヨク!ナカヨク!」

 

メンチを切り合う二人に赤ハロは激怒してピコピコハンマーで二人を殴りまくった。二人は我に帰ってロックオンは赤ハロに殴られまくりながらお店から出ていった

 

 

「イテテテテ!辞めてくれよハロ!もう喧嘩はしないって!」

 

「ミンナナカヨク!ナカヨク!」

 

「おまえ壊れちまったのか!?てかもう殴らなくていいだろ!」

 

外はもう夕方になっており、店を出ても赤ハロはピコピコハンマーで殴り続け、それから逃げる様にロックオンは走り去っていった。そんな二人をサーシェスは見送ってからまた店の中へ入っていった

 

「あれ………なんで店の中こんなに散らかってんだ?野郎片付けねえで帰りやがった!チキショーーーー!」

 

二人の乱闘で物凄く散らかった店内を見てサーシェスは空に向かって叫んだ。

こうしてロックオンはスーツの注文を終え、皆に宇宙へ行く事を伝える為に学校へ向かった

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました


原作ではただのドクズだったサーシェスですが気の良いおじさんに生まれ変わった姿を書いてみたかったので登場させました

次回からまた本編に戻ります。当ssでのニュータイプの事や宇宙関連の事を説明していきたいと思っておりますので良ければよろしくお願いします



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8話 宇宙へ…(前)

お久しぶりです。早いペースで投稿したいと思っていたのですが色々忙しかったり色々上手くいかずかなりの力不足を感じました。とても長くなりそうだったので前編と後編に分ける事にしました

今回もよろしくお願いします


モビル道の名門黒森峰女学園からモビル道の無い大洗女子学園へ転校した西住みほ。しかし転校して早々生徒会によってモビル道が復活させられ、彼女は半ば強制的な勧誘をされてしまう。黒森峰でのトラウマもあってもう二度とモビル道をやらないと誓っていたが、新しくできた友人の武部沙織と五十鈴華の存在もあって再びモビル道を始める事を決意した

 

授業が始まり新しく秋山優花里や途中から参加した冷泉麻子と友人になり他のメンバーが初心者ばかりなのもあって、皆と一緒に緩やかにモビル道を楽しんでいける……そう思っていたが突如聖グロリアーナ女学院との練習試合をする事になり結局西住流の選手として戦う事にみほは憂鬱な想いを感じる

案の定他のチームメイトから大きな期待を感じ、桃による無茶な作戦に嫌気が差してしまったが杏の言葉や聖グロリアーナの隊長ダージリンからの助言、母親から勘当されながらも進もうとする華を見てみほも前向きに向き合おうと心を入れ替えるのであった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日……モビル道の訓練は午後からなので午前中みほ達は通常の授業に出席していた。昼休みになりみほは沙織と華と食堂へ向かいそこで優花里と麻子と合流して一緒に昼食をとることにした

 

「明日の今頃ってもう宇宙に向かってるんだよね!私宇宙行くのなんて初めてだから彼氏んちに泊まりに行くのより緊張する〜!」

 

沙織の言う通りロックオンの提案でモビル道既修者は皆で宇宙へ行く事になっていた

 

「沙織さん彼氏なんていた事ないでしょうに……私は大分昔になりますが華道の展覧会を見に低軌道ステーションへ母と行ったきりですね。」

 

「私は幼稚園の頃、家族旅行で行ったことがあります!宇宙から見た地球は未だに忘れられないくらい感動的でした〜!」

 

「華さんと優花里さんはもう行ったことがあるんだね。麻子さんは?」

 

「……私もまだ行ったことがない。宇宙なんて海外旅行よりも高くつくしこれまで行く機会なんて無かったからな…」

 

質問に答えた時麻子が普段見せた事の無い寂しそうな顔を浮かべていた事にみほだけが気づいた

 

「そういえばさ!みほってもう何回も宇宙に行ったことあるんでしょ?どんな所なの!?」

 

「えっと……真っ暗で空気もないし無重力だから何処かへ投げ出されて帰れなくなるかもしれないからどっちかと言うと怖い所かな……。」

 

「え、宇宙ってそんなにやばい所なの……私帰れなくなったらやだな…。」

 

「ああっ、でも低軌道ステーションには色んなお店がいっぱいあるし星とか地球全体が見れるから絶対楽しいと思うよ!」

 

残念そうにしていた沙織にすかさずみほはフォローを入れた

 

「でもモビル道は宇宙空間へ出たりするんですよね?そう思うと少し怖い気がしてきました…。」

 

「大丈夫ですよ。女子のモビル道は男子と違って白兵戦はありませんし、パイロットスーツも宇宙で安全に活動できるよう作られているので心配ありません!」

 

「無重力か………きっとフワフワしてて寝ると気持ちいいんだろうな……。」

 

「いやいやそんな寝てたりしたら絶対どっか飛んでっちゃうから………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後昼休みが終わって5人は訓練の為MSの格納庫のあるグラウンドへ移動した。少し待っていると駐車場に緑と白のツートンカラーの車が停り、中からロックオンが出てきてこちらへやってきた

 

「お、皆もう集まってるのか?」

 

「まだ自動車部の皆が来てないけどもう始めちゃっていいよ〜。」

 

杏がそう答えるとロックオンは持っていたプリントとチケットを全員に配った

 

「今渡したのはリニアトレインのチケットと明日の持ち物を載せたやつだ。まぁもし用意出来なくても向こうで俺が買ってやるから安心してくれ。」

 

「「「キャー!教官カッコイイー!」」」

 

ロックオンに沙織や一年生達は黄色い声を上げそれを聞きロックオンは得意気な顔をしていた

 

「いやぁオンちゃんは優しいね〜。新しく可愛いパジャマ欲しかったし助かるよ〜。」

 

「な、バカ!そんな人の善意につけ込むようなことすんじゃねえ!つー事で今日の訓練は休みにして皆家に帰って明日の準備を……」

 

「あ、あの!教官!」

 

すると突然典子が挙手をした

 

「ん?どうした磯辺?」

 

「昨日の夜調べたんですが私と河西のアッガイたんは宇宙では使えないと出てきて………宇宙へ行ったら私達はどうすればいいんですか?」

 

典子と忍は不安そうな表情を浮かべロックオンに質問した。そもそも典子と忍の乗るアッガイは水中戦用に作られた機体だったので宇宙では使用不可とされていた

 

「なーにおまえら二人にはぴったりの機体が向こうで手に入るから心配すんな。つー事で今日の訓練は休みにするから皆は家帰って明日の準備をしてくれ。」

 

「出発は明日の朝8時だ。全員戦艦格納庫に遅れずに集合すること!以上、解散!」

 

こうして昼休みが終わったばかりにも関わらずみほ達モビル道の生徒達は帰宅する事になった

 

「今日の訓練も楽しみにしてたのに……ザクに乗れなくて残念です…。」

 

「てか凄くない!?向こうで4泊5日だって!」

 

沙織の言う通り宇宙には5日間滞在するとプリントに書いてあった

 

「ホントだ……なんだか修学旅行みたいだね。」

 

「私達だけ学校を休んで旅行へ行くなんて少し悪い気がします……。」

 

「生徒会が決めた事だし授業の一環として行くわけだしいいんじゃないのか?という事で沙織。私の分も荷造りしてくれ。」

 

「どういう事麻子の分までやんなきゃいけないのよ!ていうか明日こそちゃんと起きてよね!一人だけ宇宙に行けなくても知らないんだから!」

 

「……別にいいな、あまり遠くには行きたくないし。」

 

「いいわけあるかーーー!」

 

沙織はそう怒鳴りながら麻子の頭をチョップした

その後5人は帰り道に、必要な物や新しい衣服を見にショッピングモールで買い物をしてからそれぞれ家へ帰って行った。みほはモビル道を始めてからというもの宇宙へ行く事が楽しみになる事は全く無かったが、ここにきて幼少期ぶりに宇宙へ行く事がとても楽しみに思えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北海に浮かぶ学園艦プラウダ高校。

小中高一貫校であるため生徒数は全国でもトップクラスのマンモス校であり人口は約20万人近くを誇っていた。古くからモビル道既修者用の校舎が設けられている程名門でもあった事から、モビル道の為にプラウダ入学する生徒も大勢であった

 

「すぅ……すぅ……。」

その晩学園艦の一角に位置する倉庫にて、横たわる1機の青いMSとおそらくそれを整備していたであろう一人の少女が散らばった工具の上で毛布にくるまって寝息をたてていた

 

「カチューシャ。」

 

「んん………あれ?三日月…?」

 

居眠りしていた少女、カチューシャが目を開けるとそこには一人の少年が立っていた

 

「あれ、じゃないよ。また一人で機体いじってたの?帰りが遅いからノンナも心配してたよ。」

 

「そういえばあんた達今日遊びに来るって言ってたわね……皆もうお家にいるの?」

 

「うん。もうメシもできてると思うから早く帰ろ。」

 

カチューシャの前に現れた少年、三日月・オーガスはカチューシャに手を差し出した。カチューシャは起き上がって出された手を照れくさそうに握り返し一緒に倉庫を後にした

 

 

 

しんしんと雪が降る中2人は手を繋ぎながら道を歩いていた。握っていた三日月の手はとても大きく手袋越しでも熱を感じる程彼の手は熱かった。そんな事を悶々と意識している内にカチューシャの顔はどんどん紅くなっていったが、三日月の方は全く気にしてる様子もなかった

 

「ね、ねぇ三日月!」

 

「何?」

 

何とか気を紛らわそうとカチューシャは静寂を破った

 

「大学のモビル道ってどんな感じなの?やっぱ高校よりもレベル高いんでしょ?」

 

「…どうだろ。あまり覚えてないけど先週やった選抜チームとかいうのはそこそこ上手かった気がする。」

 

「大学選抜をを覚えてないってあんたねぇ…。そんな感じならもうプロでもやっていけそうね。」

 

「だからさっさとプロ入りしたいんだけどオルガとビスケットがモビル道以外でも食っていくためにちゃんと卒業しろってうるさいんだよね。俺勉強なんて全然わかんないしどうしよう?」

 

「そんなのカチューシャに聞かないでよ……私だって勉強は苦手なんだから……。」

 

そう言うとカチューシャは少し寂しそうに夜空を見上げた

 

「どうしたの?」

 

「いや……学園艦にいるのも今年で最後だと思うとちょっとね……。」

 

「そっか。カチューシャももう3年生か。懐かしいな、初めて会った時なんてあの頃の1軍にいじめられててちょっと汚かったね。」

 

「うっさいわね!何回も言ってるけどいじめられてたんじゃなくて、敢えていじめさせてあげてたんだから!それに今じゃあの頃と比べ物にならないくらい強くなったもん!」

 

「わかってる。ホントに強くなったよ、カチューシャとノンナは。」

 

「そ、そうかしら?なんなら最後だしもう一回くらいここに優勝旗を持って帰ってあげようかしら。」

 

カチューシャは腕を組んで少し照れながらそう言った

 

「あー、そういえばチョコが言ってたけどモビル道辞めちゃった黒森峰の副隊長。転校して大洗女子学園とかいう所でまたモビル道始めたんだって。」

 

「………へぇ、あの子が。向いてないって教えてあげたのに何考えてんだか。」

 

「まぁ初心者ばかりのチームらしいし全国大会には出てこないでしょ。一応俺達もカチューシャ達の試合は見に行くから頑張ってね。」

 

「ホント!?い、いや嬉しくなんてないんだから!どうせカチューシャ達が優勝するし!」

 

「そっか。ていうか腹減ったし皆待ってると思うから急ご。」

 

三日月はカチューシャを持ち上げ肩車すると勢いよく走り出した

 

「キャー!ちょっといきなり走らないで……って聞きなさいよおおおおおおお!」

 

カチューシャと三日月の2人はそのまま雪が降る夜道を駆け抜けていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月面都市フォン・ブラウン 島田家別邸にて……

 

「どうしたんだい亜里寿?もうおやすみの時間だろう?」

 

「衛おじ様。昨日言っていたテレビに出る話ですがやっぱり私も連れて行って貰えないでしょうか?」

 

「………別に構わないが一体どうしてだい?あまりこういう事興味無さそうだと思っていたが。」

 

「私はいずれ島田流を代表する身。自分自身から世間にその存在をアピールしていく必要があると思ったからです。」

 

「ははは。子供なのにそんな事を考えていたとは。そうだね、それじゃあ明日は僕と一緒にテレビ局へ行こうか。」

 

「ありがとうございます衛おじ様。」

 

「さぁ、ニュータイプとはいえ寝なければ生きていけないのだから早く寝なさい。」

 

「分かりました。それでは失礼します。おやすみなさい。」

 

亜里寿はそう言い残し部屋を出た

 

(お姉ちゃん………私も感じたよ……彼女が来る……。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌朝、みほ達モビル道チームの面々は戦艦を収容している格納庫に全員集合し船に乗り込み宇宙へ上がるため軌道エレベーターに向けて出発した。

 

「この世界では地上から3本軌道エレベーターが生えててな。それぞれダイクン、サハリン、デラーズという名前が付いている。そんで今回俺達は日本から一番近いデラーズタワーを使って宇宙へ上がるのさ。」

 

「オンちゃん誰に説明してんの?」

 

「教官殿ぉぉぉぉぉ!私のザクIIがMSデッキに積まれてないじゃないですかあぁぁぁぁぁぁ!」

 

ロックオンと生徒会の面々がブリッジにいると優花里が息を切らして勢いよく中へ入ってきて、その後に続いてみほ達も中へ入ってきた

 

「ゲッ……やべぇすっかり油断してた……。」

 

「え〜秋山ちゃんの機体積み忘れちゃったの?ちょっとオンちゃんダメじゃん〜。」

 

「アホンダラ!アホンダラ!」

 

「いや違うんだ秋山!実はおまえのザクは一足先に宇宙へ行っててな。多分今頃寂しがってると思うぜ……。」

 

「適当な事言って誤魔化さないでくださいよ!私のMSだけ積んでもらえないなんてひどいじゃないですか……。」

 

そう言うと優花里は腕で顔を隠してその場にしゃがみ込んだ

 

「わー優花里泣かないで!ちょっと教官さん!顔がいいからって何でも許されると思ったら大間違いなんだから!」

 

「よりにも人一倍モビル道に熱心な優花里さんの機体を忘れるなんてひどいです!」

 

「最低だな……。」

 

「うっ!グハッ!」

 

沙織と華と麻子からの罵詈雑言を受けてロックオンは膝から崩れ落ちた

 

「私、今から引き返して優花里さんの機体をここまで持ってきます!」

 

「駄目だ。今から引き返した所でリニアトレインの出発に間に合うわけがない。秋山には悪いが諦めてもらおう。」

 

桃の言葉を聞いて「そもそも今大洗の学園艦にもザクIIは無いんだけどね。」とロックオンは思ったが言えるはずもなくとりあえず優花里に謝り続けた

 

「すまない秋山!宇宙に着いたら特別に凄いMS借りてくるからそれで我慢してくれ!」

 

「……本当ですか?…………シナンジュでお願いします。」

 

優花里は顔を上げるとケロッとした顔でそう言った

 

「おう任せとけ!ってそんな凄い機体借りれる訳ないだろ!てか嘘泣きだったんかい!」

 

「ちょっと教官さん!自分が悪いのに女の子の頼みを聞けないなんてどうなの!?」

 

「何が狙い撃つぜですか!そうやって優花里さんを弄んで楽しいんですか!?」

 

「最低だな……。」

 

「ぐっ……女子高生からの暴言ほど心に刺さる物は他にないよな……。」

 

「あ、アハハ……。」

 

「はいはい悪ノリはここまでねー。まぁオンちゃんも色々忙しかった訳だし秋山ちゃんも何かしら借してもらえるって事で許して欲しいなー。」

 

「もちろん大丈夫であります!ザクも大好きなのですがそういう話しなら他のMSも操縦してみたかったのでむしろ感激です!」

 

「はぁ………何だったんだよ今のやり取り……。」

 

「ヨカッタ!ヨカッタ!」

 

 

 

 

 

 

こうしている内に大洗女子学園一向は軌道エレベーターに到着した。ホワイトベースとビーハイヴはあらかじめロックオンが連絡していたため、職員達が専用のリニアトレインに乗せるために運んで行き一向は発着ロビーにてリニアトレインを待っていた

 

「よーし皆、手続きは済ませたからもうちょっとしたらトレインに乗るぞ。今のうちにトイレとか行っとけよ!」

 

「「「はぁーい!」」」

 

「はぁ〜、ついに私達宇宙へ行っちゃうんだ〜!もうドキドキしすぎてまだ夢の中にいるみたいだよ〜!」

 

「ぐー…………ぐぅぅ………」

 

「麻子さんは現在進行形で夢の中にいるみたいだね……。」

 

「ちょっと麻子!ここまで来て寝てるなんてどうかしてるって!」

 

みほに寄りかかるように居眠りしていた麻子を沙織は頬を引っ張って起こそうとした。すると席を外していた生徒会の面々が大洗女子の制服を来た人物と共に現れた

 

「生徒会と一緒にいる人……一体誰ですかねぇ?」

 

「あの人は……。」

 

「はーい皆注もーく!新しいメンバーが来たから自己紹介してもらうよ〜。んじゃお願い。」

 

生徒会と共に来た人物はふわふわとした真っ白な髪をしており、俯いたまま恥ずかしそうにモジモジとしていた

 

「えっと………あの……今日からMSの整備士として参加します………せ、セイコと申します……よろしくお願いします……。」

 

「いひひっ。やっぱうちの制服似合ってんね。んじゃ皆拍手〜。」

 

「へ〜、あんな可愛い子学園ににいたんだ。一年生かな?」

 

「むむむ………。」

 

沙織がそんな事を言っていたが華はセイコと名乗る少女を凝視していた

 

「あの………もしかしてリュウセイさんですか?」

 

「え゙っ!いいえ人違いです!」

 

すると少女は杏の背後へ身を隠した

 

「えっ嘘!リュウセイくんなの!?」

 

「確かに似てるかも………」

 

「ありゃりゃ。案外すぐにバレちゃったね〜。」

 

そう言って杏は横へぴょこんと跳ねると顔を真っ赤にしたリュウセイが再び現れた

 

「では改めて紹介する。本日より我々の部隊に整備士として参加するリュウセイ・テラズだ。昨日連盟から彼の着任するとの連絡が入った為今日ここで合流して宇宙へ上がる事になっていた。」

 

「よ、よろしくお願いします………。」

 

「まずいですよ会長……リュウセイさんのお父さんは会社の社長らしいのでもしこんな事がバレたら……。」

 

「………マジ?……ごめんね〜リュウセイちゃん。本当はこんな事するつもりなかったんだけどあそこにいる男の人がやれって命令してきてさ〜。」

 

華がリュウセイの父親の事を言うと杏はロックオンの方を指差しながら罪をなすりつけようとした

 

「コラー!誰もそんな命令出てないだろ!でも可愛いから俺はその格好のままでいいと思うぞ!」

「そ、そんな〜!」

 

それを聞いてリュウセイが若干半泣きになってしまい少し可哀想になってきたのでトイレで元の服装に着替えて貰う事になった

 

「なんか出発前からすごい事になったね……。」

 

「リュウセイくん結構可愛いかったよね〜写真撮っとけばよかったかな?」

 

「…………まだ夢の中か?おやすみ。」

 

「ちょっと麻子!いい加減起きなって!」

 

「武部の言う通りだぞ冷泉。トレインの出発時間も近くなってきたしもう乗るか。皆俺にしっかり着いてきてくれ!」

 

 

 

 

ロックオンの先導の下、大洗女子一向はリニアトレインに乗車していき席へ着いた

 

『本日はデラーズ交通公社、D603便に御乗車頂き誠にありがとうございます。本リニアトレインは低軌道ステーション・ムンゾ直行便となっております。まもなく発車致しますので今しばらくお待ちください。』

 

「皆忘れ物はしてないな?もうちょっとで発車するからどっか行ったりすんなよー。」

 

「でもあたしら以外お客さん乗ってないねー。平日だからかな?」

 

大洗女子一向が使う車両は座席とテーブルが複数設けられた車両であったが偶然他の客人はこの車両の席を取っていなかったようで貸し切り状態になっていた

 

『大変お待たせいたしました。発車時刻になりましたので当リニアトレインは出発いたします。初期加速終了までは席を立たずシートベルトを付けて御着席するようよろしくお願い致します。』

 

ついにみほ達を乗せたリニアトレインは宇宙へ向けて発進したのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『リニアトレインの初期加速が終了たので本車両は緩やかな減速状態を開始し、車内が擬似的な無重力状態となります。シートベルトを外す際は十分ご注意ください。』

 

「えっ!嘘!体がプカプカする〜!!!」

 

沙織がアナウンスの入った後シートベルトを外してみた所体が宙に浮かび上がった。続いて華と優花里もベルトを外し他の面々もシートベルトを外して無重力を楽しみ始めた

 

「コラーおまえらー!あんまりはしゃぎすぎて怪我とかするんじゃないぞー!」

 

「ハハハハ。河嶋は皆のお母さんみたいだな。到着までまだ全然時間あるからゲームセンターとか喫茶店行ってもいいぞー。」

 

「「「「「はーーーーい!!!」」」」」

 

ロックオンの言う通りリニアトレインの中にはゲームセンターやコンビニ、博物館や飲食店等がいくつか設けられている車両もあった

 

「ここでしか食べれない物とかあるのでしょうか…なんだかお腹が空いてきました……。」

 

「さっきお昼食べたばかりなのに華さんは凄いなぁ……。」

 

「試しにちょっと探検しに行ってみますか?」

 

「ピピーッ!ちょっと待って二人共ー!」

 

突然沙織が何故か持っていたホイッスルを鳴らしながらみほと優花里を引っ張って

 

(沙織さんどうしたの!?)

 

(駄目だよ二人とも!せっかく華とリュウセイくんが二人きりになれるチャンスなんだから!)

 

(えっ……あの二人もうそんな関係なんですか?)

 

(いやまだだと思うけど!でも華の隣に座ってからリュウセイくんずっと顔真っ赤にしたままだもん!これはもう本命でしょ!)

 

(本命って……でもそうなのかなぁ……。)

 

「あの……三人共どうかしたのですか…?」

 

「いやいや何でもないよ!それよりも私達はもうちょっとここに残ってフワフワしようと思うんだよねー。だから私達は一緒に行けないなー。行くならリュウセイくんと一緒に行ったらどうかなー。」

 

「……ふえっ!僕なんかとですか!?でもせっかくですし友達同士で居た方が……。」

 

「いいのいいの!それにリュウセイくんだってもう私達と友達でしょ?だから気にしなくていいの!」

 

「リュウセイさん。ご一緒してもらってもいいですか?」

 

「ひ、ひゃい!もちろんです!ででででも、僕なんかと一緒で本当にいい、いいんですか!?」

 

「もー!くどいよリュウセイくん!男の人生は死ぬまで戦いなんだから!さぁ行った行った!」

 

沙織はそう言って華とリュウセイを部屋の外へ押し出した

 

「沙織さん何だか変でしたね。それじゃあリュウセイさん。一緒に行きましょうか。」

 

「は、はい!こちらこそよよ、よろしくお願いします!」

 

「ふふふっ。リュウセイさんもちょっと変ですね。」

 

華とリュウセイは美味しいお店を目指してその場を後にした

 

 

「いやぁ〜何だか恋のキューピットになった気分だなぁ〜。」

 

「沙織……さっきからうるさいぞ。」

 

「あ、麻子さん起きたんだ。まだ到着まで時間あるけどどうする?」

 

「……二度寝する。」

 

「んもー勿体ないなー。せっかくなんだからもっと宇宙を楽しむべきだよ!」

 

「フワフワしていたいっていうのは本当だったのですね……。」

 

沙織は再び無重力に身を任せて宙を浮かび始めた。気づけばみほ達の車両には生徒会の面々とロックオンと赤ハロ、沙織と優花里と麻子と自分を残し他の皆は遊びに行った事に気づいた

 

「到着すんのって夜の6時くらいだっけ?まだ結構時間あるね〜。」

 

「おまえらもどこか回ってきたらどうだ?俺は読んでない本消化したいからここにいるけど。」

 

「月でやってるニュースとか見てみたいからもうちょいここにいるよ。」

 

杏はそういうとモニターを付けた。リニアトレインの中では月面都市やステーションの居住ブロック等の地球圏外圏のみで放送されている番組やニュースを見る事ができた。みほも少し気になったので座席に座ってニュースを観る事にした

 

『続きまして最近密かに学会で取り上げられているニュータイプの話題です。本日はゲストとして現在休養中の島田流家元、島田千代さんに変わって代表を務めている従兄弟の島田衛さんと島田千代さんの娘であり、モビル道のプロチームをも撃破した特務研究機関所属チーム『νA-LAWS(ニュー・アロウズ)』の大隊長を務めている天才少女、島田亜里寿さんに来ていただきました。本日はよろしくお願いします。』

 

『よろしくお願いします。』

 

するとモニターに二人の姿が映し出された。少女の方はみほよりもまだ一回り年下なようだ、男の方は家元の従兄弟とは思えないくらいとても若々しかった。ライトグリーンの髪に美青年と思わせる様な容貌をしていた

 

「あの男は……!」

 

「……………。」

 

どういう訳か桃は画面に映るその男を睨みつけ柚子は不安そうな顔をして、杏も桃と同様に少し険悪な表情を画面に向けていた

 

『早速ですが本題に入らせて頂きます。島田さんが6年前に発表した人類の進化系とも言えるニュータイプ。それは通常の人々とはどのような違いがあるのですか?』

 

『ニュータイプは通常の人間よりも精神や意識が大きく拡張されています。これによって言葉を交わすことなく互いの心中を交換し合ったり遠く離れた場所にいても意識を送信、受信し合う事ができます。簡単に言えば超能力者と言うべきでしょうか。』

 

『そ、それはつまり相手の心を読んだりテレパシー等を送る事ができるという事でしょうか?す、凄いですね!』

 

『フフフ。思っていた通りあまり信じて貰えてないようですね。当然ながら6年前僕が発表した時と比べ話題になる事は少なくなりましたし、今では優れた人に対する比喩として使う事もありますからね。』

 

『い、いえそんな信じてないだなんて……。』

 

『とはいえこれで終わっては僕の来た意味が無くなってしまう。試しに貴方に何かテレパシーを送ってもよろしいですか?』

 

『えっ?そんないきなりですか!?』

 

企画外の言葉にアナウンサーは驚きスタジオのスタッフ達も困惑しているのが伝わってきた

 

『僕でも良いのですがここは島田流直系の完全なニュータイプである亜里寿にやってもらおうと思います。貴方の精神や身体に害は一切与えませんのでご心配なく。』

 

『そ、そうですか?ではお願いします。』

 

『亜里寿、いつも通りでいい。やりなさい。』

 

すると亜里寿は立ち上がってアナウンサーの前へ移動すると彼女の瞳をじっと見つめた

 

『……………えっ!きゃあ!!!』

 

するとアナウンサーは突如叫び声を上げながら勢いよく席を立った。さらにスタッフの何人かも同じような声を上げ少しだけ慌ただしくなっていた

 

『………やり過ぎだよ亜里寿。少し驚かせてしまいましたね。』

 

『そんな……台本ではそれっぽく反応しろって………嘘……本当に声が………。』

 

『ハハハハハ。いくら何でもテレビでそういう事は言わない約束ですよ。とはいえまだニュータイプに関してははっきりしない事が数多くあります。ただスタッフさんの中にも亜里寿の声が聞こえた人がいる様に多くの人がニュータイプの素質を持っているという事だけは断言できます。』

 

あきらかに異常な事が起こっていたためみほは画面から目を離すことができなかった。ロックオンは読書をしていた為気づいていなかったが、杏達も謎の現象を目を剥くように見入っていた。

そしてそれが起こったのは画面が亜里寿の方へ切り替わった時であった

 

『……………。』

 

亜里寿はカメラ目線になり視線をこちらへ向けてきた

 

『……………。』

 

何故かカメラは切り替わる事なく亜里寿を映し続けていた。亜里寿は逸らすことなく瞳をじっと向けまるで画面の奥からこちらを見ているかのように思えた

 

『おい!カメラ切り替えろ!CM入れないじゃないか!』

 

『それが変わらないんですよ!このカメラ新品なのにどうしてかあの子を映したまま変わらなくて!』

 

「何だか様子がおかしくないですか?………西住殿?」

 

「…………っ!」

 

優花里はみほに声を掛けたがみほは画面に映る亜里寿から目をそらす事ができなかった。さらにまるで金縛りにあったかの様に体も動かず声を出す事もできなかった

 

(………………………見つけた。)

 

すると突然みほの頭の中に誰かの声が響いた。この場にいる誰の声でもなかったのでみほはその声の主が画面に映る少女であると察しこの現象が恐ろしく思えてきた。

 

「あわわわわわわ止まんない!みほ避けて〜!!!」

 

すると天井を蹴った事で勢いがついたのか沙織がみほへ向かって頭から突っ込んでいった

 

「えっ…?」

 

みほは間一髪で頭を下げ激突してくる沙織を避けた。しかし沙織は減速できずそのまま部屋の壁に頭から追突してしまった

 

「沙織さん!」

 

「うわぁ!武部殿!」

 

「何だ?どうした!?」

 

みほと優花里の大声に居眠りしていた麻子も飛び起きた。壁に激突した沙織は力無く宙に漂っていた

 

「沙織さんしっかりして!」

 

みほは沙織の体を捕まえて声を掛けた。幸い座席が柔らかい素材で作られていた為出血は無かったが気を失ってしまった様で返事がなかった。

 

「ちょっと武部ちゃん大丈夫!?オンちゃんお医者さん!」

 

「わかってる!今呼ぶから待ってろ!」

 

ロックオンは車内電話を使って医務室へ連絡した。みほの意識がテレビから沙織の方へ移った丁度その時、画面に映っていた亜里寿はカメラから目を逸らし画面も通常通りに切り替わる様元に戻った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………いてて…。あれ、ここは……?」

 

沙織が目を覚ますと自分が何処かの薄暗い廊下に横たわっている事に気づいた。周りに人の気配は一切無くリニアトレインの中とは思えない景色が周りに広がっていた

 

(あー………夢か……。)

 

先程までいた場所とは全く違う景色が広がっていたため沙織は自分が夢の中に居ると察した。沙織は起き上がり薄暗い廊下をとりあえず進んでみる事にした。

 

「どこなんだろここ?怖い夢じゃなきゃいいな……ってあれ?」

 

沙織は歩きながら夢の中なのに何故か自分の意識がはっきりとしている事に気づき違和感を感じた。すると辺りが薄暗いせいでよく見えない中、一つだけ半分程ドアが開いている部屋を見つけた

 

「…………なんだろあの部屋。」

 

沙織はその部屋の方へ進んでいくと表札が見えそこには『西住みほ』と書かれていた

 

「みほの部屋?でもこんな所に住んでなかったよねは…。」

 

表札をよく見ると名前がもう一人分書いてあるようだったが黒い霧に覆われており読むことができなかった。沙織は恐る恐るドアを開けて部屋の中へ入った。

すると2段ベッドの下の段でうずくまっているみほを発見した

 

「みほ……だよね?こんな所で何してるの?」

 

「ッ!!!………どうして貴方がここに!?」

 

声を掛けるとみほは物凄く驚いた表情をこちらに向け、まるで怯えるかの様にベッドの隅へ動いた。よく見ると着ていたのは大洗の制服ではなく水色と青を基調とした制服を着用していた

 

「どうしてって……よくわかんないけど起きたら廊下にいてさ。誰もいなくて結構怖かったけどみほがいて良かったよ〜。」

 

「…………出て行ってください。」

 

「え?」

 

「早く出てって………今すぐ私の目の前から消えてください!」

 

みほから思いもよらない言葉が飛んできて沙織は自分の耳を疑った。

 

「消えてって……みほどうしちゃったの?なんかおかしいよ……。」

 

「うるさい!……私だって好きでおかしくなったわけじゃないのに……もう出てってよ!」

 

みほは睨みつけながら手元の枕を沙織の方へ投げつけた。夢の中だと思っていたが目の前のみほがやけにリアルに感じ沙織は真剣に向き合おうとした

 

「ちょっと落ち着いて!本当にどうしちゃったの?なんか悩みとかあるなら相談してよ!」

 

「うるさいうるさい!私がいるとあの子はもう貴方達とは一緒にいれなくなるんです!だからもう………ここには来ないでください!」

 

「それどういう事………ってきゃああああ!!!」

 

突然ベッドの上のみほからオーラの様な物が放たれ沙織の体は大きく吹き飛ばされ部屋の外へ追い出された

 

「なんなのこれ〜!みほーーー!!!」

 

沙織は吹き飛ばされながらもみほの名前を呼んだがみほはベッドの上から動く事なく部屋の扉は閉ざされてしまい再び暗い空間へ投げ出されていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………んん……。」

 

「あ、沙織さん!気がついた!?」

 

沙織が再び目を開けるとみほが心配そうな顔を浮かべながらこちらを覗き込んでいた。

 

「みほ………?あいたた……また夢……?」

 

「大丈夫!?まだ腫れてるからあまり無理しないで!」

 

沙織は今自分がみほに膝枕をされみほが手を繋いでくれている事に気づいた

 

「やっと起きたか。全く人騒がせなやつだな。」

 

「武部殿無事でよかったですぅ!私もう死んじゃったかと思いましたぁ!!!」

 

麻子と優花里も沙織が目を覚ました事に気づき優花里の方は泣きながら沙織のもとへ駆け寄ってきた

 

「あ、武部ちゃん起きたみたいだね。」

 

「おお!やっと起きたか!やれやれ心配したぜ。」

 

「ヤレヤレ。ヤレヤレ。」

 

「全く……我が校に恥をかかせる様な真似をしよって……。」

 

「怒っちゃ駄目だよ桃ちゃん。でも桃ちゃんが初めてリニアトレイン乗った時と同じで何だか懐かしいなぁ。」

 

「確かに懐かしい………じゃなくてその事はもう忘れろと言っただろ!あと桃ちゃんって言うな!」

 

「お疲れ西住ちゃん。ずっと武部ちゃんの事看てもらって悪かったね〜。」

 

「いえ……優花里さんと麻子さんも居ましたしとっても心配だったので。」

 

「みほ………。」

 

沙織はみほが看病してくれていた事が嬉しかったが、先程謎の部屋で出会ったみほの事を思い出し少し違和感を感じた。夢だと思っていたが何故か実際現実で見た事のように鮮明に記憶が残っていたため、一体あの部屋にいたみほが何だったのか気になって仕方なかった。

 

『本日はデラーズ交通公社、D603便に御乗車頂き誠にありがとうございました。当トレインはまもなく低軌道ステーション・ムンゾに到着致します。お降りの際は一度席に戻り忘れ物がないか確認し、他のお客様とぶつからないようお降りするようよろしくお願いします。』

 

「お、もう着くみたいだな。おまえら忘れ物しないようにゴミとかあったらちゃんと持ち帰るんだぞー。」

 

大洗女子学園一向を乗せたリニアトレインはようやく低軌道ステーションに到着しようとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

低軌道ステーション・ムンゾ、リニアトレイン発着ロビーにて……

 

「いやぁ〜早く来ないですかねぇ〜というか本当に来るんですかねぇ〜。」

 

「お姉ちゃん……まだそんなに待ってないのに……それにみほさんを乗せたリニアトレインもそろそろ到着するから……。」

 

何処かの制服を着た二人の少女が発着ロビーのソファに腰掛けていた

 

「う〜〜〜ん。亜里寿が今日みほさんが来ると教えてくれたとはいえどうやってみほさんに接触すればいいんだろう?」

 

「えっ!お姉ちゃん何にも考えてなかったの?」

 

「うん!!!こういうのはゴリ押しでパパーッとやっちゃいたいけどそういう訳にもいかないからなぁ〜〜〜って事でさらが考えてよ。」

 

「ええ……そんなの私にはできないよ……私お姉ちゃんみたいに悪い事考えるの上手くないし……。」

 

「あれ?姉としては良くない風に思われてる…?そんな事よりどうしよう…もうそろそろ到着しそうな気がする!」

 

「さっきまで早く来ないかなって言ってたじゃん……とりあえず今日の所は私達なりにみほさんがニュータイプかどうか判断してその後どうするか決めようよ。」

 

「さっすがさら!可愛いね〜頭いいね〜可愛いね〜!うりうり〜!」

 

「ちょっとやめてよお姉ちゃん……恥ずかしい……。」

 

黒髪にピンクのリボンを巻いた少女、桜空(さら) 。そして彼女の双子の姉である緑色のロングヘアの少女、奈桜(ナオ)。何らかの目的を旨に二人は宇宙へ上がってくるみほを待ち構えるのであった

 




読んでいただきありがとうございました



何人かオリキャラ(?)が登場しましたが次の話で説明できればと思っております

三日月とアトラがいい感じなのは声優ネタというよりは生まれ変わった世界で幸せになった鉄華団やマッキーを書きたかったからという理由です。ロックオンが出てくるのも同じ理由です。幸せになって欲しかった……

次回はもうちょっと早く投稿できる様頑張ります



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8話 宇宙へ…(後)

前回の続きになります。前回書き忘れたのですがリュウセイくんの見た目は最近話題のウルズハントのウィスタリオ・アファム君を想像して貰えると嬉しいです。ウィスタリオ君、可愛いです

今回もよろしくお願いします


リニアトレインが低軌道ステーションに到着し、大洗女子一向は発着ロビーへ移動した

 

「んん〜〜!やっと着いたぁ!私達今宇宙にいるんだよね!?」

 

「うん!沙織さん元気になってくれて良かったあ。」

 

「沙織さん……壁に勢いよく激突したと聞いたのですが本当に大丈夫なんですか?」

 

「もう大丈夫!触ると痛いけど血とか出なかったから心配しなくていいよ。……てかそれよりもさ。」

 

沙織は華の隣で足をプルプル震わせ青ざめた顔をしていたリュウセイに目をやった

 

「リュウセイくん大丈夫?もしかして乗り物酔い?」

 

「いえ…違うんです………五十鈴さんと色々なお店を食べ歩きしてたのですが……ちょっと食べ過ぎちゃって……。」

 

「ごめんなさいリュウセイさん……いっぱい美味しそうなお店があったのでつい夢中になって……。」

 

「い、いいんですよ!とても楽しかったですしこの後の作業も頑張れると思うので!それに…五十鈴さんと一緒にいれて…その…えっと……。」

 

「華と一緒にいれて何!?何なの!?」

 

「だから……その……とても嬉し……!?ご、ごめんなさ〜い!」

 

突如リュウセイは飛び上がって物凄いスピードでトイレの中へ入って行った

 

「リュウセイさん……何を言おうとしてたんでしょうか?」

 

「………頑張ってリュウセイくん。」

 

「(リュウセイはホワイトベースに直行する様言ってあるし大丈夫だな…。)よーしそれじゃあ旅館に行くから皆着いてこいよー。結構人いるからはぐれんなよー。」

 

ロックオンに先導され大洗女子一向は合宿先の旅館へ向かおうとした。そしてその一向を物陰からナオとさらが覗いていた

 

「いざみほさんを発見してもどう近づけばいいかわからないもんだね。」

 

「他の生徒さんもいてちょっと近寄りづらいね…。」

 

「不審者と思われるのも嫌だし中々難しいですな。むむむ……。」

 

「どうしようお姉ちゃん……もうみほさん行ってしまうよ……。」

 

「う〜〜〜〜〜ん………やっぱこういう時は突撃取材だよ!レディィィィィィゴーーーーー!!!」

 

ナオは物陰から飛び出てみほへ向けて一直線に走り出した

 

「お姉ちゃん!そんないきなり走ったら転んじゃうよ!」

 

「間に合ええええええええええ!え?」

 

人混みの中みほへ向かって猛ダッシュしていたナオであったが、途中でつまづいてしまい顔面から思い切り地面へ突っ込んでしまった

 

「きゃあ!お姉ちゃん大丈夫!?」

 

「イタタタ………私とした事がお姉ちゃんなのにこんなかっこ悪い姿を見せてしまうとは………グス……。」

 

「あの………大丈夫ですか?」

 

すると転んでしまったナオにみほが声を掛けてきた。みほはナオから鼻血が出ている事に気づきティッシュを手渡した

 

「ありがとうございます………あ!あなたはみ……じゃなくて!お気遣いありがとうございます!」

 

「西住殿ー?早くしないと置いてかれちゃいますよー。」

 

「もしかしてみほの知り合い?」

 

そして沙織達もみほとナオのもとに近づいてきた

 

「ううん。ちょっと転んじゃったのが見えて心配になったの。立てますか?」

 

「はい!もう元気100%です!………この人混みの中でよく見えていましたね。流石ニュータイプです。」

 

「え…………?」

 

ナオの言葉を聞きみほは手に持っていたカバンを落としてしまった

 

「みほ?どうかしたの?」

 

「他の皆さんにはまだ話していないのですか?自分がニュータイプの力を持っている事を。」

 

「にゅーたいぷ?何それ?」

 

「……ッ!」

 

沙織がみほに尋ねると突然、みほはその場から逃げ出す様にどこかへ走り出した

 

「え!?ちょっとみほ!どこいくの!?」

 

しかしみほの姿は既に人混みの中へ入り見えなくなってしまった

 

「西住殿!」

 

「みほさん!追いかけましょう!見失ったら大変です!」

 

沙織と華と優花里はみほの後を追うため人混みの中へ入って行った

 

「あちゃー、ちょっと唐突過ぎましたかねぇ。」

 

「お姉ちゃん。私達も追いかけましょう。」

 

「…………おまえ達、一体何者だ?さっきの西住さん普通じゃなかったぞ。」

 

敢えてその場に残った麻子はナオとさらに質問した

 

「フッフッフッ。別に名乗る程の者じゃあないですよ。通りすがりのプリティシスターズとでも言っておきましょうか。」

 

「誤魔化すんじゃない。それに西住さんがニュータイプとか言っていたがどういう意味だ?とにかく一から説明しろ。」

 

(あれ…………?この人どこかで………。)

 

さらは麻子の顔を見て何かを感じた

 

「みほさんの事はみほさん本人から直接聞くべきだと思います。私の方から言えるのはニュータイプとはこの世界の神様になる存在。その資格をみほさんは……正しくはみほさんが『器』としてその役目を担う、とだけ言っておきましょう。」

 

「神様?器?ますますわけがわからないぞ……。」

 

「……少し喋り過ぎちゃいました。そんな事よりどうやら荷物を忘れて行ったようなので届けに行きましょう!さら、どこへ行ったかわかる?」

 

「うん、だいぶ遠くまで行ったけど位置はわかるよ。」

 

「さっすがさら!それじゃ私達に着いてきてください………えー、お名前何ですか?私、島田奈桜って言います!ナオって呼んでください!こっちは妹のさらです!」

 

「し、島田桜空です。」

 

さらの方は少し恥ずかしそうに目を逸らしながら自己紹介した

 

「冷泉麻子だ。あんた達姉妹なのか。よく見ると確かに似ているな。」

 

「本当はさらの髪も緑なんですけどね。色々と事情がありまして。では参りましょうか!」

 

こうして麻子もナオとさらと一緒にみほのもとへ向かうのであった

 

(冷泉麻子さん………マコ………もしかして……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沙織達は発着ロビーを出てみほを追ってショッピングエリアに入った。しかしかなり混雑していた為完全にみほの事を見失ってしまった

 

「みほさんどこへ行ったのでしょうか……。」

 

「そう遠くには行ってないと思うのですが……それにしてもこうも広いと私達まで迷子になってしまいそうですね………。」

 

「……………こっちかもしんない!」

 

沙織はそう言うと突然走り出し華と優花里は半信半疑で沙織の後に続いた

 

(何だろう……………なんかこの先にみほがいる気がする……。)

 

沙織は自分でも訳がわからなかったが何故かみほの気配を感じていた。気配を追っていくと大きな噴水のある広場に出て、近くのベンチにみほは座っていた

 

「みほ!」

 

「…………。」

 

みほは何も答えずうつむいていた。沙織はみほがこれまでにない程弱っているように見えた

 

「西住殿こんな所にいたんですね!……西住殿?」

 

「みほさん……何か嫌な事を言われていたのですか?」

 

「……………3人はさっきの人の話聞いた事ある?」

 

「ニュータイプとか言ってたっけ?何の事か全然わからなかったけど……。」

 

「ニュータイプというのは機動戦士ガンダムの世界に出てくる宇宙に出た事で新しい進化を遂げた人類の事ですよ。作中ではその力に目覚めた人達は感覚や意識が研ぎ澄まされたり、超能力の様な力を手に入れ向かってくる敵と戦っていたと思います。

ただあくまでアニメの話なので先程ニュースでやっていた様に現実にニュータイプが本当にいるのかはちょっと信用しきれないです……。」

 

「ニュータイプはいますよ。実際に。」

 

するとみほ達の前にナオが現れ、その後ろから麻子とみほの荷物を持ったさらがやって来た

 

「あ!さっきの人!」

 

「先程は失礼しました。モビル道界隈でニュータイプとして有名なみほさんに会えてつい軽率な事を言ってしまいました。」

 

「ニュータイプって……西住殿がですか!?」

 

優花里は驚愕しながらナオに迫った。みほは依然として表情を暗くしたまま俯いていた

 

「ええ、先程あなたが言っていたのと同じ様な力をみほさんは持っています。……去年の全国大会は残念でしたね。でも世間がどう言おうが私達はみほさんが悪いとは微塵も思っておりません。」

 

「その話はしないでください……お願いします………」

 

「ちょっと辞めてよ!みほは前の学校で辛い事があったから転校してきたんだよ!?それを思い出させる様な事言わないでよ!」

 

「………わかりました。ただいつまでも一人で悩み続けるより誰かに話した方が楽になると思います。良ければご友人の皆さんに話すのはどうでしょうか?」

 

「あなた達は一体何なのですか……?」

 

「私達みほさんのファンなんです!みほさんの活躍は中学生の頃から見ていました!何とか元気になってもらおうと思ってたのですが、私達はもう必要ないようですね。さら!」

 

「うん。これみほさんが先程落として行った荷物です。姉が色々やかましくて申し訳ありません。本人も悪気があった訳ではないんです。」

 

さらはみほに荷物を渡して頭を下げた

 

「う〜、確かに初対面なのにやかましかったですよね………ごめんなさい……。」

 

「届けてくれてありがとうございます……。全然そんな事ないですよ………。」

 

「ありがとうございます!それではこれにて失礼します。またどこかで会いましょう!」

 

ナオは元気良くみほにそう言うとさらと共に立ち去って行った

 

「………行っちゃったね。何だか少し怪しい人達だったね……。」

 

「うん………そうだね……。」

 

「西住さん。もし良かったら西住さんが大洗に転校して来た本当の理由を教えて欲しい。」

 

意外にも麻子からそんな質問が飛んできて沙織達は少し驚いた

 

「麻子?どうしちゃったのいきなり…?」

 

「さっきの話を聞く限り西住さんがニュータイプという力を持っていて、それが原因で前の学校で何かあったんだろう。そして同じ事を繰り返すかもしれないと恐れて突然あの場から逃げ出したんだろ?」

 

「凄いね麻子さんは、何でもお見通しなんだね……。」

 

「みほさん………私も聞かせて欲しいです。悩み事があるなら一人で抱え込まず私達を頼って欲しいです。」

 

「私も聞きたいです!……西住殿にはとても感謝しきれない程の恩があるので私も西住殿の力になりたいんです!」

 

「華さん…優花里さん…………わかった。ちょっと長くなるけど話すよ……。」

 

「みほ…………。」

 

みほは顔を上げ4人にこれまでの出来事を話し始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11年前、みほは家族と共に島田流の新型MSの演習を見学していた時新型のパイロットと接触しニュータイプへ覚醒した。初めは何の変化も感じなかったが小学校へ上がりモビル道を始めてしばらく経った頃、自分に向けられている他者の意識や感情を察知する事が出来るようにまでなっていた。これによりモビル道の試合でもかなりの功績を挙げる事ができ、クラスメイトやチームメイトに披露する事で注目される存在になり家元出身でもあったが故に段々と有名になっていった

 

やがて姉と同じ黒森峰女学園の中等部に入学したみほは更にモビル道に励んだ。多くの輝かしい結果を残す中、島田流が公言した事で学会やモビル道界隈の中で話題になっていたニュータイプという存在、みほこそニュータイプなのではないかという噂が上がる様になった

 

そして極めつけは中学生全国大会決勝戦にてみほは単機で敵MSを20機撃破するという戦果を挙げ、みほは賞賛の意味や原作に登場するその存在に例えた物としてニュータイプと世間から呼ばれ始めた

 

みほは引っ込み思案な性格だったのに、学校で多く声を掛けられモビル道でもチームメイトから頼りにされ毎日が幸せだった。姉のまほは親友が一緒に高等部へ上がらず他の高校へ入学した事に気を落としていたが、自分が活躍した事で元気になってくれたのでとても嬉しかった。たまに自分に悪い感情を向けている人もいたが周りの多くの仲間が支えてくれたおかげでそんな物はなんの気にもならなかった。この時までは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第62回モビル道高校生全国大会決勝戦…………決勝戦に駒を進めたのは、大会9連覇中の黒森峰女学園とプラウダ高校だった。しかしその年のプラウダ高校は異常な事にメンバーが2年生と1年生しかおらず、中学時代から注目されていた選手も全員辞めてしまったようで公式戦において全く姿を見せた事の無い選手しかいなかった。

しかしそんなチームで一回戦から勝ち抜いて来たというのもあって隊長のまほは油断せず全力で叩き潰すと全員に言い聞かせ試合が始まった

 

 

 

『こちらアルビオン。現在ポイントB603進行中。レーダー内に敵影無し。各自警戒を怠るな。』

 

ステージは宇宙、ルールはフラッグ戦。先にフラッグ機かフラッグ艦を撃破した方の勝利で、決勝戦はMSとMA合わせて計50機と揚陸艦や戦艦、補給艦合わせて計20隻までとなっていた。

試合が始まってしばらく経ち、黒森峰とプラウダの艦隊とMS部隊がぶつかり合った結果両校共に戦力が分断されてしまった。みほはジムカスタムに乗りフラッグ機として参加していた

 

「みほ、調子はどうだ?」

 

「お姉ちゃん。私は全然大丈夫だよ。」

 

「そうか。想定よりも状況が悪くなってはいるが心配するな。おまえは必ず私が守る。」

 

姉のまほはとても頼もしかった。これまでまほと共に戦ってきた中でどんなに最悪なピンチになっても姉は最後まで必ず自分を守り切ってくれた。まほの乗るGP01フルバーニアンがいる限りみほは負ける気がしなかった

 

「ちょっと副隊長!せっかく護衛してあげてるんだから私も頼りにしなさいよ!」

 

「あれ?エリカちゃん妬いてるの?」

 

「ちょっと〜無駄な事は辞めた方がいいって。隊長が相手じゃ勝てないって。」

 

「べ、別に嫉妬なんかじゃないわよ!先輩も辞めてくださいよ!」

 

まほの他にも中等部の頃から一緒にモビル道を続けてきた逸見エリカや楼レイラ、赤星小梅や2、3年生の中でも精鋭の先輩達がいてくれた。

まほのフルバーニアン、エリカのGP02、小梅と先輩のジムキャノンIIが2機、レイラと先輩達のジム改4機、そして強襲揚陸艦アルビオンがいたからこれ程の戦力があれば最後まで戦い抜けると思っていた

 

「予定通りこのまま合流ポイントC302に向かう。総員気を抜くなよ!」

 

「………………。」

 

まほが皆を鼓舞する中、みほは隣で護衛してくれていた小梅が先程から無言を貫いている事に違和感を感じた

 

「小梅さん?どうかした?」

 

「……………。」

 

「小梅さん……?あの、返事お願いします!」

 

「副隊長?どうかしたのですか?」

 

「逸見さん!小梅さんが通信に答えなくて……」

 

みほがそう言いかけた時、先輩のジム改1機が突然撃ち抜かれた

 

「な、スナイパー!?ちょっとレーダー手は何やってんのよ!」

 

『そ、それがレーダー内には依然として敵影0です!……ミノフスキー粒子も撒かれてない様ですし……これってもしかして……。』

 

「敵スナイパーはアルビオンの、戦艦の射程距離外から狙撃をしているということか……厄介だな。全機散開、デブリを盾にしながら接近し敵スナイパーを撃破する!」

 

まほの号令と同時に先輩達の機体はいち早く動き始めた。しかしフラッグ機のみほは動けずにいた

 

「ちょっと副隊長何やってんのよ!狙撃されるわよ!」

 

「小梅さん返事して!小梅さん!」

 

しかし小梅はみほに答えなかった。エリカはみほと小梅の機体を掴み狙撃されにくいようアルビオンの影に避難した。しかしその間にもスナイパーによって先行していた先輩のジムキャノンIIが撃破された

 

「クソッ!プラウダの狙撃機といえばゲルググJ……けどゲルググJの照準補正器ってこんな遠くまで狙えるんですか?」

 

「おそらくマニュアルによる超長距離狙撃だろう。それをできる奴がプラウダにはいる。そういう事だ。」

 

まほはジム改のパイロットにそう告げながら冷静に頭を働かせた。そしてスナイパーの位置を狙撃位置を定めて、邪魔なデブリと狙撃を避けながら最大速度でスナイパーへ接近しようとした

 

「流石西住まほ………あの速度で接近してくるとは。カチューシャ、行けますか?」

 

「……行けるかですって?行くしかないでしょ!」

 

「小梅さん!無事なの!?小梅さん!」

 

「ちょっと副隊長!あーもう何なのよこれ!レイラ!とりあえず私とあんたでこの2人を守るわよ!」

 

「う、うん!」

 

エリカとレイラはみほと小梅の機体と共にアルビオンの後方へ退避した

 

『アルビオンより各機へ!前方より高速接近中の熱源1!モビルアーマーです!』

 

「何!?」

 

するとスナイパーが狙撃して来た方向から高出力のメガ粒子砲が放たれた。まほやアルビオンは何とか回避したが射線上にいたジム改が2機撃破されてしまった

 

「あのMAはビグロ……いやヴァルヴァロか!」

 

「クラーラとレーニャはノンナと一緒に奥のフラッグ機をやりに行きなさい!西住まほは私が止めるわ!」

 

ヴァルヴァロはまほの機体を抜きアルビオンの方へ向かおうとした。まほは追いかけようとしたがヴァルヴァロに取り付いていた機体が1機、まほの前に立ち塞がった

 

「ケンプファー………貴様がプラウダのフラッグ機か。大将が自ら前線に出てくるとは戦闘の基本がなっていない様だな。」

 

「私達はただ勝つだけじゃ駄目なの………あんた達金持ち共を自分の手でぶっ飛ばして……私達の強さを世界に示さなきゃならないんだから!」

 

「………おまえを落とせば私達の勝利だ。全力で行かせてもらう!」

 

「まだ止まれない……私もノンナも皆も………こんな所で止まる訳にはいかないのよ!」

 

カチューシャのケンプファーとまほのフルバーニアン。2人の魂が今、決戦の宇宙で激しくぶつかり合った

 

 

 

 

 

 

「逸見さん!小梅さん意識が無いみたいなんです!早く審判員の所に連れて行かなくちゃ!」

 

みほは小梅の名前を呼び続けていたが返事が全く返って来ない為みほは医務室に連れていくべきと判断した

 

「今攻撃さてれんのよ!?そんな事してる暇があるわけないじゃない!」

 

「そんな事って……小梅さんは私達の友達じゃないですか!だから早く……。」

 

エリカはみほのそういう所が気に入らなかった。みほが友人を大事にするあまり時と場を弁えず友を第一に行動しようとする所が癪に障った。

 

「ちょっと二人とも喧嘩しないでよ!って嘘!アルビオンが!」

 

そしてとうとうゲルググJによる狙撃でアルビオンが落とされてしまい、前方のヴァルヴァロがどんどん距離を詰めてきた。しかしそれとほぼ同時にアルビオンからの救難信号を補足していた生き残りのジム改部隊が応援に駆け付けてくれた。

 

「待たせたね逸見!楼!副隊長!援護するよ!」

 

「先輩……ありがとうございます!副隊長も援護してください!」

 

「でも……小梅さんが……。」

 

「小梅の事はいいから!あなたニュータイプとか呼ばれてんだからそれらしく戦いなさいよ!」

 

みほはエリカの言葉に大きく突き放されたような感覚がした。みほは小梅の機体を抱えてエリカ達の元から離脱して行った。そしてヴァルヴァロとそれに取り付いていたプロトタイプケンプファーが仕掛けてきた

 

「副隊長………もういいわよ!レイラ!先輩!援護お願いします!」

 

「逸見?副隊長はどうしちゃったの?」

 

「この状況下で戦いたくないとわがままを言ってるだけです!私達で敵部隊を殲滅します!」

 

みほは小梅の機体と共に戦場となっていた場所から少し距離のある所まで移動した

 

(敵の気配はない……ここなら………。)

 

みほはジムカスタムのコクピットから出て小梅の機体に近づきハッチを叩きながら小梅の名前を呼んだがやはり返事は返ってこなかった。一人で審判員の元まで小梅の機体を運んでいける自信がなかったので、みほは端末を使ってジムキャノンIIをハッキングしそれによってコクピットハッチを開く事にした

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時間が経って、ハッキングは成功しみほはコクピットハッチを開く事に成功した

 

「やった開いた!小梅さん!!!」

 

思っていた通り小梅は意識を失っており、その上どういう訳かコクピット内の酸素がほとんど無くなっておりかなり危険な状態となっていた

 

(なんでこんな事に………急がなきゃ!)

 

みほほ小梅の腕を担ぎ自分の機体まで運ぼうとジムカスタムの方へ移ろうとした

 

「見つけたわよフラッグ機!こんな所に隠れていたなんてね!」

 

見上げるとそこにはかなり損傷し左腕を失ったケンプファーがおり、近くにはノンナのゲルググJとクラーラのプロトケンプファーも待機していた

 

「嘘………お姉ちゃんがやられたの………?」

 

「?あなた西住まほの妹……あのニュータイプとか呼ばれてる子ね!あなたともやりたかったのよ〜!」

 

「お願いします少し待ってください!病人がいるんです、すぐに医務室に連れていかないと!」

 

「へぇ〜、そう………よくそんな嘘言えるわね。あんた私達の事なめてるの?」

 

「そんな……時間が無いんです!早く連れていかないと!」

 

「見た所その子酸欠みたいね。それじゃクラーラのコクピットに入れてあげるからこっちに渡しなさい。」

 

カチューシャはそう言いケンプファーの右手をみほの元へ差し出してきた

 

「それじゃあ代わりに審判員の所まで連れてってくれるんですか!?」

 

「………試合が終わってないのにそんな事する訳ないでしょ。あんたさっきから甘ったれた事ばかり言ってんじゃないわよ。いいから早くMSに乗れ。私と戦え。」

 

みほはこれ以上にない程のプレッシャーをケンプファーのパイロットから感じた。左腕をもがれ装備もサーベルしか残っておらずかなり消耗していたはずなのに、ここからが本番だと言わんばかりにモノアイを光らせこちらに闘争心を向けてきた。みほは目の前にいる悪魔のような存在を恐ろしく思い、それに加えて小梅の事が何よりも心配だった為すぐにでもこの場から逃げ出したくなった

 

そしてみほは小梅を連れコクピットの中へ入るとあるスイッチを押した。するとみほのジムカスタムのバックパックから白旗が上がった

 

『黒森峰女学園フラッグ機戦闘不能!優勝はプラウダ高校!!!』

 

みほはこれしかないと思った。小梅を医務室に運ぶために試合を終わらせるにはこれが一番の最前法だと思ったから迷わずにはいられなかった。みほはそのまま機体を動かし医務室へ運ぶため一番近くの審判員の艦へ急いだ

 

「へぇ………やってくれんじゃない………。」

 

カチューシャはあまりの後味の悪さにかなり憤りを感じていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

医務室に運ばれた小梅の容態は想像以上に深刻な物だった。命に別状はなかった物の、まだ意識が戻っておらずそのままステーションの病院に入院する事となった。医師はあと少し遅れていたら本当に危なかったかもしれないとみほに告げた。

 

その後みほは全く気乗りしなかったが帰る為にも港のアルビオンへ向かった。すると港の入口でエリカが待っていた

 

「逸見さん………。」

 

「副隊長………申し訳ございません……小梅の状態があんなに悪かったとは知らず、勝つことばかりに執着していました………。」

 

怒られるとばかり思っていたが意外にもエリカは自分の非をみほに謝ってきた

 

「仕方ないよ………だって機体の中の酸素があんなに少なくなってるなんて普通思わないよ……。」

 

「それがその件についてなのですが、小梅の機体の担当の整備士もちゃんと補給しており、出撃時も彼女から異常は無いとの報告を受けていたらしく記録もちゃんと残っていたんです。だから………おそらく小梅自身が……機体に積んでいた酸素を捨てたとしか……。」

 

「え………?それどういう事ですか?」

 

エリカにも原因はわからなかったのか答えることができなかった。停泊していたアルビオンが近くなってくると通路の壁に寄りかかるまほの姿が見えてきた

 

 

「お姉ちゃん………。」

 

「みほ………すまなかった。私がやられてしまったばかりにおまえを守る事ができなかった……。今回の敗因は全て私の責任だ。本当にすまない。」

 

まほはそう言ってみほとエリカに向かって頭を下げてそう言った

 

「そんな!隊長のせいではありませんよ!悔しいですが私達よりもプラウダの方が純粋に強かったと言うしか……。」

 

「本当にそうかしら?」

 

声がした方を見るとそこには優勝旗授与式を終えたカチューシャとノンナがこちらへ向かってきた

 

「………優勝おめでとう。我々の完敗だよ。プラウダが君達の様な精鋭を今まで隠していたとは思わなかったよ。………次は勝つ。」

 

「あなたの方こそ中々だったわよマホーシャ。……それよりもあなたがフラッグ機のパイロットね?」

 

「は、はい……私です……。」

 

「あなたフラッグ機だっていうのによくあんな事できたわね。そんなに私達の事舐めてくれていたなんて流石は家元さんね。」

 

「誤解しないでもらおうか。みほは意識不明のチームメイトを助けようとしてリタイアしたんだ。むしろ人として讃えられるべき事をしたと私は思っている。」

「ふーん。意識不明になったチームメイトを助ける為に試合よりも助ける事を優先する。随分感動的な展開ね。……それも全部ニュータイプ様の筋書き通りなんでしょ?」

 

カチューシャがみほを見てニヤリと笑みを浮かべるとまほはカチューシャの胸ぐらを掴みあげた

 

「貴様……今何と言った?」

 

「カチューシャ!離しなさい西住まほ!」

 

「大丈夫よノンナ。何度だって言ってあげるわよ。黒森峰の副隊長西住みほは、自分のエゴのために仲間をあんな目に合わせる様な奴だってね!これで世間に仲間思いの優しい副隊長って報じてもらえる訳だし、西住流にとっていい客寄せパンダじゃない!」

 

「な、あなたなんて事を!」

 

エリカが思わずカチューシャに迫ろうとしたが、それよりも先にまほがカチューシャの顔を拳で思いきり殴った。その衝撃でカチューシャの小さな体は後ろへ吹っ飛ばされその光景を見てみほとエリカは息を呑んだ

 

「カチューシャ!!!西住まほ!」

 

「イチチ……辞めなさいノンナ。口切れちゃったけど大丈夫よ。」

 

「みほが……私の妹がそんな事をする訳がないだろう!みほは確かにニュータイプだ!だとしてもこの子はそんな事をするはずがない!」

 

「だってわかってないんでしょ?意識不明になった子が宇宙での戦闘にも関わらず自ら酸素を捨てていた原因が。普通じゃありえないけどそこにいるニュータイプにはできるんでしょ?…………洗脳とか。」

 

「まだふざけた事を抜かす様だな……。貴様!」

 

まほは再びカチューシャを殴る為近づこうとしたが、カチューシャの背後から凄まじいスピードで一人の少年が走ってきてまほの首を掴むと片手で持ち上げ壁に叩きつけた

 

「がっ………な…んだ……ぐあっ…………!」

 

「きゃあああ!お姉ちゃん!!!」

 

「隊長!!!」

 

「………………………。」

 

少年はまほと同じくらいか少し低い程の身長だったのに、抵抗するまほに全く動じす無言のまま目を見開くとさらに強く絞め上げた

 

「辞めろ三日月!相手は女だぞ!」

 

「いくら何でも死んじゃうよ!三日月駄目だ!」

 

少年の友人と思しき青年が二人止めに入ったが、少年はまほの首から手を離さなかった

 

「ぐあっ…………あが………たす……け……」

 

「……辞めて三日月。私は全然大丈夫よ。いじめられてた訳じゃないから。」

 

「………………わかった。」

 

カチューシャの声を聞き少年は手を離しまほは解放された

 

「ゲホッゲホッ!ゲホッゴホッ!はぁ……はぁ……」

 

「隊長!大丈夫ですか!?」

 

「三日月が乱暴な事をしてしまって本当に申し訳ございません。ほら昭弘も!」

「あー、ウチの仲間が乱暴な事しちまって本当にすいませんでした。ったく俺らだって決勝控えてんのに何やってんだよ!さっさと謝れ!」

 

「えー、ごめん昭弘。」

 

「謝る相手がちげーだろ………なんで俺なんだよ……。」

 

「でもこいつカチューシャの事殴ってたんだよ。謝りたくないなぁ。」

 

「三日月!女の子には乱暴しちゃいけないって前に言ったでしょ!早く謝んなさい!……そうだ最後に西住みほ。」

 

カチューシャはみほに近づいてきた

 

「ここまで言わせてもらった訳だしあんたからも私に何か言いたい事があったら聞かせなさいよ。」

 

「私は自分の意思で小梅さんを助けようとしました……。たとえ優勝できなくても……仕方ないと思いました。」

 

「そう……それならもうモビル道はやめてもらえないかしら?優勝がかかってるのに何が何でも勝ちに来ようとしないなんてまともに勝負する気が無かったんでしょ?生まれた時から何もかも手に入れてるからって……私達を見下してんじゃないわよ。」

 

「そ、そんな…………。」

 

「ま、ニュータイプなんて呼ばれてる以上いい様に使われそうね。それじゃ私達はもう帰るから。じゃあね〜。」

 

カチューシャは最後にそう言うとノンナと少年達と共に去って行った。みほはモビル道に向いてない事よりも他の子達とは全く別の存在である事を確定づけられた事が何よりも辛かった

 

「すまないなみほ。怖い思いをさせて……私が弱いばかりに……。どうして私はこんなに………弱いんだ………クソっ………!」

 

まほは顔を下げて座り込んだまま静かに泣いていた。みほはまほの傍に寄り添うと同じ様に涙を流した。

 

その後全国大会で大活躍したカチューシャにはバルバトス、ノンナにはグシオンという異名が付けられ、

プラウダはニュータイプのいるチームに勝利した事からニュータイプを天使となぞらえて『天使を狩る者』と呼ばれる様になった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、何故か先日のまほとカチューシャのやり取りが何者かに録画されメディアに流出してしまった。雑誌等にも載ってしまい軽く炎上してしまった為黒森峰女学園側はまほに6ヶ月間モビル道の公式戦の謹慎処分を下す事となった。その際まほは母からの命令で西住流の関係者と共に修行に出る様言い渡され、まほは学園艦から去ってしまった。

加えて小梅の意識も未だ戻っておらず、原因も判明していなかったことや大会10連覇を逃した事でチーム内で責任の擦り付け合いが起こっていた為、流出した動画からみほが小梅を洗脳したからあの様な事が起こったという意見が多く出された。そんな確証は一切無いというのに学校でもその噂が流れ始め、皆がニュータイプという未知の存在であるみほを怯えた様な目で見るようになりあからさまに避けられる存在になっていった。今まではよく声を掛けられたりお昼を共にする人達もいたがそんな世界は完全に無くなり皆がみほに恐怖を抱いていた。モビル道の訓練も全く身が入らなくなり、周りのチームメイトは小梅の件やまほがいなくなった事からみほに強く当たる事が多くなり、みほはあまり訓練に出なくなってしまった。

たまに高等部へ上がらず転校した先輩から励ましのメールが届いたが、それでもみほは立ち直れず気づけばモビル道の訓練どころか学校にも行かなくなっていた。母はみほがニュータイプである事をはなから認めていなかった為相談しても気の持ちようだと言われ一蹴され、同室のエリカからも同じ様な事しか言わなかった

そして冬のある日、自室のポストに大きめの封筒が入っており、中には転校に必要な書類と『県立大洗女子学園』の資料が入っていた。一体誰がこんな物を入れたのはわからなかったがみほはとりあえず資料に目を通す事にした。みほはモビル道が無い事や、ニュータイプとしてではなく普通の女の子として生活したいと思いついに転校する事を決意した。母から何とか許しを得てみほは学園艦を去る前に、小梅が意識を取り戻したと聞いたので今まで一度も行っていなかったが小梅のお見舞いに行く事にした。病室を覗くとベットの上で他のクラスメイトと談笑している小梅の姿があった。みほは思い切って入ろうとしたが、彼女自身も他のクラスメイト同様みほが原因だと思っているのではないかと思い怖くなって部屋に入る事ができなかった。結局お見舞いに行く事なくみほは黒森峰女学園の学園艦から一人寂しく去り大洗女子学園に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みほ……そんな辛い事があったんだね……。」

 

「私知らなかっです……西住殿がそんな目にあっていたなんて………。」

 

「でもみほさんが誰かを洗脳しただなんて絶対にあり得ないと思います!いくらなんでもこんなの……!」

 

「事件の収拾をつける為とはいえ酷すぎるな……。」

 

みほの話を聞き終え4人はそれぞれ思いを口にした

 

「今となっては誰が洗脳してたかなんて小さな問題だよ……。ただあの時は私だけこの世界から仲間外れにされた様な気がして……もう誰も私の隣にはいてくれないと思ったから転校を決めたんだ……。」

 

「で、でも今のみほには私達がいるよ!だからもう……」

 

「ありがとう沙織さん。でももうおしまいだよ……私がニュータイプだって皆にバレた以上、また黒森峰の時と同じ様になるに違いないよ……。だからもうおしまいなの……何もかも……。」

 

「そんな訳ないじゃん!みほのばか!」

 

沙織はみほに声を大にしてそう言った

 

「え………?」

 

「だって私達みほの友達じゃん!確かにニュータイプが怖い力を持ってるって言うけど、それでも今までずっと仲良くしてこれたじゃん!私これからもずっとずっとみほと友達でいたいよ!」

 

「沙織さん……。」

 

「沙織さんの言う通りですよ。とても温かくて優しいみほさんをそんな風に見る事なんてできません。もっと私達を信じて欲しいです。」

 

「私もです!西住殿があの時声をかけてくれなかったら私は今も一人ぼっちでした。だから私も西住殿を一人ぼっちにはさせたくないです!」

 

「ニュータイプとはいえ西住さんだって私達と同じ人間だ。それにせっかくできた友人と関係を断たねばならないなんて流石に私でも寂しいぞ。」

 

「皆………。」

 

みほは顔を上げ4人を見て目からポロポロ涙を零した

 

「まだ私達始まったばかりなんだからさ、おしまいだなんて悲しい事言わないでよ」

 

「うん………!ありがとう……ありがとう皆……うわあぁぁぁん!」

 

「せっかく皆で宇宙に来たんだし楽しい思い出もいっぱい作ろうね。みほ。」

 

「うん………!うん………!」

 

沙織はみほが泣き止むまで彼女を抱き寄せた。その後みほが泣き止んでから、桃からの怒りの着信が来ていたことに気づきみほ達は急いで旅館へ向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「西住みほさん…………やはり彼女の力は未だ健在だったみたいだね。」

 

みほ達と別れたナオとさらはシャトルへ乗る為港に向かっていた

 

「ねぇお姉ちゃん。さっきの冷泉麻子って人どこかで見た気が……。」

 

「おや、さらも気付いたんだ。私もカテゴリーSがまさか大洗女子学園にいるとは思わなかったよ。」

 

「彼女の事はどうするの……みほさんだけだと思ってたけど……。」

 

「んー、今更来てもらっても仕方ないしおじさんにバレなければいいんじゃないかな?それよりもみほさんが私達の記憶を覗かなくて良かったね〜!アブナイアブナイ!」

 

「私達が事件の真犯人だとわかったら、きっとみほさんもの凄く怒るよね。」

 

「ハハハ、だろうね〜。でもあんなペラペラの動画だけで人を簡単に捨てれるなんて……オールドタイプは相変わらず酷い人ばかりだねまったく。」

 

「そうだね…。じゃあついに始めるんだね…………?」

 

「……とりあえず今日は月に戻って皆と相談してみほさんを迎えに行くのはその後にしよう!この世界を導くには私達ニュータイプが必要なんだから………。」

 

ナオとさらは『νA-LAWS』と書かれたシャトルに乗り込んでいった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、黒森峰女学園学園艦にて……まほは暗くなった自室の机の上に届けられていた小包を置いた。差出人は書かれていなかったがまほはそれが誰からの荷物なのか察していた

 

(4ヶ月………修行という名目で独り宇宙を彷徨っていた………恐怖と孤独で頭がおかしくなりそうだったよ………だがそんな事になったのも全て私が弱かったからなんだろう?)

 

まほが小包に入っていた箱を開けると中には黒い和風の仮面が入っており、まほはそれを取り出すと自分の顔に装着した

 

(ならばいいだろう……今までの私を捨て、誰よりも強く生き、いつか全てを取り戻してみせよう。待っていろ………みほ、安斎……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新たなMSを手に入れ宇宙での演習を始める大洗女子。悲しき過去を分かち合い乗り越えようとする彼女達のもとに暗躍者の影が忍び寄る

 

次回 ガールズ&ガンダム『ネティクス』

 

漆黒の野望が、少女達の計画が動き出す

 

 

 




読んでいただきありがとうございました

前回から登場しているナオとさらはパワプロクンポケット10に登場する彼女候補の二人です。出した理由は僕がただ単に二人が好きなのとフロスト兄弟の様な双子のライバルが欲しかったからです。島田衛の正体は次回明かそうと思います

まほは声優的に歌姫にしようか迷いましたが仮面キャラで行かせてもらおうと思います。まほがラストに付けていた仮面はミスター・ブシドーのと同じヤツです。名前もそれっぽくミス・モビルドーにでもしようか迷いましたが流石に変だと思ったのでボツにします。今思えばなんでグラハムをミスター・ブシドーと皆呼んでたんですかね……




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9話 ネティクス(前)

色々書きたい事書いていましたら凄く長くなってしまい結局また前編後編分ける事になってしまいました申し訳ございません

今回ロックオンが主役だったりオリキャラ(?)がまた一人登場致します

今回もよろしくお願いします


地表よりそびえ立つ三本の軌道エレベーター……はるか昔地球上のエネルギー資源をほぼ使い果たした人類は、この危機に対して一丸となり総力を上げて軌道エレベーターと太陽光発電衛星を開発。これらを静止軌道上でオービタルリングと連結させて太陽光エネルギーを供給、人類は永久的に持続可能なエネルギーを獲得する事に成功した。その後エネルギー問題を解決した人類は互いに手を取り合い新たな生活圏を求めて宇宙へ進出し月面都市や居住コロニーの開発を進めて行った。

 

 

しかし世界から紛争が消え平和な時代がやって来ても人々は同じ種でありながら己の欲望を満たす為、己が存在を示す為に競い、妬み、憎んで、その身を食い合い……己より弱き存在の声を聞こうとせず知ろうともせず全ての人々が幸せに生きていけるとは限らなかった。

 

大切な家族が傷つけられた時少女は考えた。どうすれば皆がもっと優しくなれるのか。どうすれば皆がもっと仲良くなれるのか。どうすれば全ての人々から闘争心が消え誰も傷つかない世界になるのかを。正しく導かなければ···············人類を··········私達ニュータイプが··········。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、月面都市フォン・ブラウン 島田家別邸にて

 

 

「····················チッ!また外しちまった·····。」

 

以前大洗女子と聖グロリアーナの練習試合を監視していた青年、レビンは自室で一人ギターの練習をしていたが思う様に弾けずに苦い顔を浮かべていた。レビンの部屋は彼が腰掛けていたベットとドラムセット以外は必要最低限の家具しか置かれていない簡素なものであった。

 

 

「····················レビン、もう終わった?」

 

「ん?ぬわあぁ大隊長!?いつの間に帰ってきやがった!」

 

 

気がつくと隣に愛里寿がちょこんと座っていた

 

 

「録画したボコ見たかったからおじさんより先に帰ってきた。レビンも一緒に見ようと思って部屋に来たのに無視するんだもん。」

 

「なんで俺となんだよ··········ナオとさらはいないのか?」

 

「二人とも出かけてる。今家にいるのは私とレビンだけ。」

 

「マジかよ···············仕方ねぇ、見てやるけど俺は一緒に騒いだりしないからな。」

 

 

レビンはテレビを点け愛里寿が録画したボコを再生しようとした

 

 

「ねぇレビン。この本ってレビンの?」

 

「あ?···················どわあぁぁあぁぁあぁあ!!!コラァ!人の隠しもん勝手に見つけてんじゃねぇ!!」

 

 

めちゃくちゃに焦りながらレビンは愛里寿から持っていたちょっぴりHな本を取り上げた

 

 

「お姉ちゃんが年頃の男の子はベットの下にそういう物を隠してるって言ってたけど·········本当だったなんて。」

 

「そんな目でこっち見ないでくれ·········それにこの本は全然そういうのじゃないから··········本当だよ?」

 

「本当に?··········じゃあこの女の人は何してるの?」

 

「こ、この人はな··········ソーセージを食べてるんですよ。」

 

「······························。」

 

 

愛里寿から冷ややかな目で睨まれレビンは滝のように汗を流した

 

 

「····················すまん嘘だ。頼むからこの事は黙っててくれ!大隊長に見つかったなんて皆に知られたら俺ァもうお終いだ!」

 

「どうしようかな。レビンはあまりボコが好きじゃないみたいだし、いつまでも大隊長って呼んでくるから私の事家族だと思ってないんだろうな。」

 

「いやいやそんな事ないであります!実は以前からもっとボコの事を知りたいと思ってたので今回大隊ちょ…愛里寿様に誘って貰えて大変嬉しゅうございました!」

 

「そうなの!?···············じゃあ皆には秘密にしといてあげる。今日からレビンもボコ仲間だね。」

 

「ハッ!ありがとうございます!」

 

 

レビンは何とか交渉が成功したようで胸をなでおろした。この時は愛里寿に本の事を黙っていて貰えるなら少しくらいボコを見るのに付き合ってもいいと思っていた

 

 

「レビンも私と同じくらい立派なボコーディネイターにしてあげる。」

 

「な、なんだボコーディネイターって··········?」

 

「ボコを愛しボコを極めるよう遺伝子操作された人··········後天的なものになるけどきちんと改造してあげる··········。」

 

「おいおいなんだよそれ··········エロ本隠してたくらいで改造されなきゃなんねぇのか··········。」

 

「嘘。やっぱりえっちな本だったんだね。早くテレビつけてよ。」

 

(こんのクソガキが···············!)

 

 

ブチ切れそうになるのを何とか抑えて落ち着き愛里寿とボコを観ることにしてリモコンを操作した

 

 

『やいオメーら!今オイラの名前を馬鹿にしただろ!ボコがクマの名前で何が悪い!修正してやる!』

 

「頑張れー!ボコー!」

 

(相変わらずクソつまんねぇアニメだな··········。)

 

「ねぇ、レビンもちゃんと応援してよ。」

 

「あ、ああ··········ボコー、ガンバレー、マケナイデー。」

 

「もっと真面目にやって。皆に本の事話しちゃおうかな。」

 

「うおおおおお!頑張れボコー!やっちまえー!今のお前は阿修羅すら凌駕する存在だー!」

 

 

こうしてレビンは半分泣きそうになりながらも全力で番組が終わるまで愛里寿と応援し続ける事となってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

低軌道ステーション・ムンゾ 重力ブロック

 

 

みほ達大洗女子学園一向はステーション内の宿泊施設の中でも昔ながらの和風な旅館に泊まっていた。あまりお金はかけれなかった為大広間の一室を貸し切りにし全員でその部屋で過ごす事となっていた

 

 

「ごめんね華さん·····私の残した分も食べてくれて·····」

 

「いえいえ。むしろとてもお腹が空いていたので嬉しかったです!」

 

「なんで電車でいっぱい食べてたのにお腹空いてんの····ていうかみぽりんさ、あまり食べてなかった気がするけど大丈夫なの?」

 

「うん。ちょっとトレインの中でお菓子食べ過ぎちゃったせいだから大丈夫だよ。」

 

 

沙織は先程の出来事の後、みほと優花里の呼び方を改め二人を『みぽりん』と『ゆかりん』と呼ぶ事にすると宣言していた

 

 

「私あだ名とか付けてもらうの初めてなのでとても嬉しいです·····!」

 

「そうすると私の呼び方は、はなりんになるのでしょうか?」

 

「私はまこりんか·····なんか変だけど我慢するか。」

 

「いやいや今更二人の呼び方変えろってのはちょっと違う気がする!」

 

 

そんな話をしていると大広間にロックオンと無精髭の男がダンボールと紙袋をいくつか抱えながら入ってきた

 

 

「随分安っぽい所に泊まってんだな。せっかく初めての宇宙なんだからもっといい所に泊めてやんなよ。」

 

「仕方ないだろ俺のお小遣いだってそんな多い訳じゃないんだから········。」

 

「店長じゃないですか!なんでここにいるんですか!?」

 

「おお優花里ちゃん久しぶり!今日はこの兄ちゃんに頼まれてたパイロットスーツを届けに来たのさ!」

 

 

学園艦上にて営業しているがんだむ倶楽部in大洗の店長アリー・アル・サーシェス。彼とロックオンが持ってきたダンボールと紙袋には薄紅色を基調としたパイロットスーツとバイザー付きのヘルメット、ピンクやイエロー、アメジストカラーのジャケットと制服一式が入っていた

 

 

「パイロットスーツのおまけで全員分のジャケットスーツも買ってきてやったぜ!これで他校の連中から舐められる事はねぇはずだ。」

 

「確かにそうかもな··········今度からMSのパイロットは安全のためにこのスーツを着て乗ってもらう事になる。それとクルーの皆にもモビル道用の制服を用意したから皆取りに来てくれ。」

 

 

ロックオンはそう言って生徒それぞれにパイロットスーツと制服を渡し始めた

 

 

「わぁ!何これ結構かっこいい!」

 

「これ着てMSに乗るんだよね?私似合うかな〜?」

 

「赤ではあるが··········もうちょっと赤いのがよかったな·····。」

 

「これ··········私が着ても似合うのか·····?」

 

「二人とも心配し過ぎぜよ。こういう衣装は誰でも似合う様に作られているもんぜよ。」

 

「わあぁかっこいいなあ……これを着れば宇宙でもバレーボールできるんだろうなあ…。」

 

「そうですね·····(キャプテンのパイロットスーツ小さくて凄く可愛い·····)」

 

(早く着てくれないかな··········撮りたい·····)

 

「はぁ〜·····とりあえず気に入ってくれてるみたいでよかったぜ。」

 

 

ロックオンは喜んでる皆の様子を見て安心した様に座り込んだ

 

 

「カタログ見てた時も思ったけどパイロットスーツって色んなデザインがあるもんなんだね。結構可愛いやつとかかっこいいやつがあったりしてびっくりしたよ。」

 

「確かに昔は地球連邦軍とジオン軍の2つしか無かったがそれだけじゃちょっと味気なかったんだろ。今じゃ色んなブランドや企業がどんどん新しいモデルを発売してくもんだからちょっとしたファッションみたいになってきてんだ。戦争すんのに格好なんて関係ねぇと思うけどなぁ·····。」

 

「おっさんにはわかんねぇかもしんないけど若い子はそういう時もオシャレしたいもんなんだよ。てか角谷のパイロットスーツ他の皆となんか違くないか?」

 

 

ロックオンは杏が持っていたパイロットスーツとヘルメットのカラーが他の生徒と違って薄紅色ではなくホワイトであった

 

 

「にひひ〜かっこいいでしょ〜。生徒会長だから皆のとは違うのにしようと思って店長さんに渡した生徒データんとこにこっそり書いといたんだよね〜。」

 

「いつの間にそんな事を·····別にいいけどおまえだけってのはちょっとずるい気がするな··········」

 

「あの、教官さん·····私達のスーツも皆と違う色なんですが··········」

 

 

それを聞いてロックオンはみほ達の方を見ると彼女達もまた杏と同じ様に周りとは異なるカラーのパイロットスーツが渡されていた。ちなみにみほのスーツが青色で優花里がオレンジ、華が緑色で麻子のは紫色であった

 

 

「なんで西住達まで··········これもおまえの仕業か?」

 

「うん!西住ちゃんはうちの隊長でエースだからやっぱそれに相応しい格好をして欲しいからね。でも流石に西住ちゃんだけってのはどうかと思ったからついでに仲のいい秋山ちゃん達のスーツも別の色にしちゃったって訳。」

 

「おまえなぁ··········まぁ俺もちゃんと確認して注文しなかったから文句は言えないな。四人共今更だけどもし気に入らないなら取り替える事もできるからこの合宿が終わったら言ってくれ。」

 

「は、はい!でも私はこの色でも別にいいかな。」

 

「みほさんがそう言うなら私もこのスーツを使わせていただきます。」

 

「いいんでしょうか…他の皆さんと違う色を着てても··········」

 

「こんなに色んな色のパイロットスーツがいると誰がエースなのかもどうでもよくなるだろう。あとあの色は私には似合わなそうだからこれでいかせてもらう。」

 

「なんだか私達戦隊ヒーローみたいじゃない?ちなみに私がピンクね!」

 

沙織はいつの間にか受け取ったピンクの制服に身を包んでいた

 

「おまえいつの間に着替えたんだ。それにこの後お風呂なんだからさっさと脱げ。」

 

「わー!ちょっと辞めてよ麻子!まだ教官さんと店長さんがいるんだから!」

 

「·····武部のヤツいつの間に着替えたんだろう…?」

 

「あれが魔法少女ってやつか……ガキの頃はよく見てたなぁ··········」

 

「俺も毎朝早起きして見てたっけな……ってそんな事よりまだやる事あるし俺達は艦に戻るとしようぜ。」

 

「あ、あの教官さん!私達の新しいMSってもう届いてるんですか?」

 

ロックオンとサーシェスは広間から出ていこうとしたら典子によって呼び止められた

 

 

「そういえばもう置いてあった気がするな。よかったら見に来るか?」

 

「是非!やったな河西!」

 

「ハイ!一体どんな機体が待ってるか楽しみです!」

 

(おいあの子達めちゃくちゃ楽しみにしてるぞ……そんな大層なもんじゃないのに大丈夫なのかよ?)

 

(いや、きっと大丈夫だ··········多分··········)

 

「あぁそうだ!優花里ちゃんも来てくれないか?優花里ちゃんにも新しいMSがあるんだよ!」

 

「そうなんですか!?でもどうしましょう··········」

 

優花里はそう言ってみほ達の方へ目をやった

 

 

「んじゃ私達もついて行こっか!ゆかりんの機体も気になるしリュウセイくんの事も心配だしね。」

 

「皆さん··········ありがとうございます!」

 

「そんじゃ決まりだな。港までちょっと距離があるからしっかり着いてこいよ。」

 

こうしてみほ達はロックオンとサーシェスと共に港へ向かうため旅館を出発した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

港に到着するとスペースシャトル等の貨物船、モビル道用の艦が数多く停泊しており出港や入港が盛んに行われているのが見受けられた。多くの人で慌しい港の中を歩いて行くと停めらていたホワイトベースとビーハイヴが見え、ロックオンに先導されみほ達はホワイトベースのMSデッキの中へ入って行った

 

MSデッキに入ると中では作業着を着たガラの悪そうな男達と、赤ハロとその兄弟のハロ達が整備ロボ『カレル』を操作し機体整備を行っていた

 

 

「おいおまえらー!戻ってきたぞー!」

 

「隊長おかえりなせェ!もしかして大洗の女の子も連れてきたんですかい?」

 

「やっぱ皆べっぴんさんですね!学園艦に住んでる隊長が羨ましいですわ!」

 

 

サーシェスの姿を見て何人かが作業を中断してこちらに駆け寄ってきた

 

 

「教官さん·····なんか知らないおじさんがいっぱいいるんだけど誰ですか·····?」

 

「なんかサーシェス····店長がプロだった頃のチームメイトの人達らしい。今日は俺達の手伝いの為に連れて来たと言ってたが·····。」

 

 

「いいかオメェら!あの子達に話しかけたりジロジロ見たりするんじゃねぇぞ。特に優花里ちゃんにちょっとでも近づいてみろ··········グツグツのシチューにしてやるからな··········」

 

「り、了解しやした!オイおめーらも聞いてたか!視界に入れていいのは隊長かそこにいる兄ちゃんだけだからな!」

 

 

そう言いながらサーシェスの部下達は作業に戻って行った

 

「なんかちょっと怖いと思ったけど悪い人達じゃなさそうですね。」

 

「まぁ無料(タダ)で働いてくれるらしいし西住の言う通りなのかもな。」

 

「教官さん!もしかしてあれが私達のMSですか!?」

 

 

典子の声がした方を見ると何かボールの様な形をした異形が2つ置かれていた

 

 

「何これ妖怪?ボールみたいなのに手と大砲が付いてるけど·····」

 

「妖怪なんかじゃないぞ!これはボールっていうれっきとしたMSだ!いやMAだっけ?」

 

「名前も見た目そのままなんですね。可愛らしいけど本当にモビル道で使えるんですか?」

 

「こう見えて搭載しているキャノン砲は180mmなので火力は高いと思います。丸い棺桶とも呼ばれていますが··········。」

 

「棺桶··········それってかなり最悪な意味なんじゃないのか·····?」

 

「そ、そんな事言うなって!これでも一年戦争の終盤で結構使われてたんだぞ!それにめちゃくちゃ安く買えたし··········」

 

ロックオンは苦い顔を浮かべる沙織達に何とか弁明しようとしたがボールは見た目からして頼りなくロックオン自身もボールの性能がMSと比べて著しく低い事はわかっていたので中々いい言葉が思い浮かばなかった

 

(やべぇな··········これじゃ磯辺と河西もがっかりしてるよな··········)

 

「コクピットはアッガイたんとは随分違うんですね。上手く使えるかなぁ··········」

 

「そこは根性でなんとかするんだ!神様だってそれを望んでるはずだ!」

 

しかしどういう訳か典子と忍の二人はテンションを上げながらボールのコクピットの中に入っていた

 

 

「あれ?なんでおまえらそんな喜んでんの··········?」

 

「そりゃボールの神様に乗って戦えるんですから嬉しいに決まってるじゃないですか!ありがとうございます教官!」

 

「神様って··········これがか?こんなめちゃくちゃ弱そうな奴がだぞ?」

 

「そんな事ないですよ!こんなに大きなバレーボール今まで見た事ありません!絶対バレーボールの神様に違いありませんって!」

 

典子と忍が目を輝かせながらそう言ってきた為ロックオンは少し顔を引きつり若干引いていた

 

「ははは、そうかそうか喜んでくれて嬉しいよ·····(こいつらひょっとして結構ヤバい奴なんじゃ··········)」

 

「でもあれみたいな作業用ポッドで試合に出てる選手もいるらしいから戦力としては十分なんじゃないかな。」

 

「その通り!結局の所MSの性能差が戦力の決定的差じゃないってこった!さぁ優花里ちゃん!あれが新しくなった優花里ちゃんのザクだぜ!」

 

 

サーシェスがそう言うとMSハンガーの一つがライトアップされオレンジ色のザクIIが照らし出された

 

 

「わあぁ··········かっこいいです··········」

 

「MS-06R-1A高機動型ザクII……俺の知り合いの所で強化しといてやったぜ。」

 

「あ!私この機体見た事あるかも!確かシャアって人が乗ってるのと同じやつじゃない?」

 

「確かに似てはいるがよく見るとランドセルが一新されてたり脚にスラスターが増設されてるんだ。だから普通のザクよりも性能は格段に上がってるぜ。」

 

 

MS-06R-1A高機動型ザク

通常のザクIIをより機動力を上げるためバックパックを一新し脚部にスラスターを増設、加えて機体のジェネレーターも大幅に強化された為も推進力も大きく向上していた

 

優花里の新しいザクは頭部ににブレードアンテナが備えられ、機体カラーも元の緑色かれオレンジを基調に塗り替えられ見違える姿となっていた

 

 

「いいなぁーゆかりん!自分専用のMS用意してもらって!」

 

「おまえはパイロットじゃないから別に構わんだろ。それにしても凄い存在感だな。」

 

「店長本当にありがとうございます!とっても嬉しいです!」

 

「へへっ、常連の優花里ちゃんがモビル道やるってんだから協力しない訳にはいかねぇよ。その代わりこれからもいっぱい活躍してくれよな!」

 

「ハイ!あ·····そういえば教官殿·····今日の朝はすみませんでした。私なんも知らずに教官殿を責めてしまって··········」

 

優花里は学校を出発した時ホワイトベースに自分のザクが積まれていなかった事でロックオンを責めてしまった事を謝罪した

 

「いやいや気にすんなよそんな事。それにしてもめちゃくちゃかっこいいなこれ··········見直したぜおっさん。」

 

「おっさん言うんじゃねぇ。これで兄ちゃんも車の事は許してくれるかい?」

 

「仕方ねぇな··········後20機くらいプレゼントしてくれたら許してやるよ。」

 

「調子乗んな!やっぱてめぇはダメだ!俺が教官になる!」

 

「公務員でもなきゃ連盟の職員でもねぇあんたがなれる訳ないだろ!現実見ろ!」

 

 

ロックオンとサーシェスは互いに額を擦りつけ睨み合ったかと思えばたちまち年甲斐もなく取っ組み合いを始めた

 

 

「二人とも喧嘩はダメだよ!私のために争わないで!」

 

「己の意地とプライドを賭けた仁義なき戦い·····でしょうか?」

 

「ははは··········どっちも違うと思うな··········」

 

「教官さーん!機体の調整終わりましたー!」

 

「ロックオン!ロックオン!」

 

 

すると他のMSハンガーの方からリュウセイお赤ハロがこちらへ向かってきた

 

 

「まぁリュウセイさん!お疲れ様です!」

 

「い゙っ!い、五十鈴さん!?どうしてここに!?」

 

「イテテ··········おっ、リュウセイお疲れさん!悪いな初日なのにいっぱい働いてもらって。」

 

「いえいえそんな事ないですよ。僕も久しぶりに沢山のMSが触れてとても楽しかったです!」

 

「リュウセイさんずっとここで作業していたんですか?ちゃんとお夕ご飯も食べたんですか?」

 

「あわわわっ!た、食べました!だ、だから大丈夫ですよっ!」

 

華が近づこうとするとリュウセイは何故か距離を取ろうと後ろへ下がった

 

 

「どうしたのですかリュウセイさん·····?何か気に障るようなことをしてしまったでしょうか·····?」

 

「いやいやそんなんじゃないですよ!·····ただ今の僕かなり汗臭いと思うのであまり近寄らない方がいいと思います!」

 

「····?本当ですか?くんくん·····」

 

「キャーーー!嗅がないでくださいよー!!!」

 

「やっぱ案外女々しいよねリュウセイくんって。」

 

「ああいうのは紳士って言うんじゃないのか?」

 

「うーん·····よし、リュウセイはもう上がっていいぞ!旅館に個室を一部屋予約してたからそこ使ってくれ!」

 

「え、いいんですか?でもまだ結構やる事があると思うので僕も残った方が··········」

 

リュウセイは心配そうな顔を浮かべたがロックオンは相変わらず涼しい顔で首を横に振った

 

 

「後は俺とおっさん達で何とかするから気にすんな!おまえらはさっさと風呂入って明日の訓練に備えてくれ。」

 

「··········わかりました。ではお先に失礼します。」

 

「教官さん····店長さん達もあまり無理をしないでくださいね。」

 

「心配すんな!おまえらはそんな事気にせずこの合宿を楽しんでくれ!」

 

「オォーイおまえらー!皆応援してくれてっからさっさと終わらせちまうぞ!」

 

「「「ウオオオオー!ヤッテヤンヨ!!!トゥ!ヘアーーーー!!!」」」

 

この後も作業を続けると言うロックオンが少し気がかりだったがみほ達はホワイトベースを後にし旅館へ戻る事にした。こうして大洗女子学園に新たに高機動型ザクIIとボールが2機迎えられたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほ達が旅館へ帰ってからしばらく経ち、ようやくMSの整備作業や新武装の搬入が終わりを迎えてロックオンはGブル・イージーのキャタピラに腰掛けてカップラーメンを食べながら、続々と帰宅していくサーシェスの部下達と挨拶を交わしていた

 

 

「兄ちゃんお疲れ!思ってたより根性あるじゃねぇか!こいつは俺からの選別だ!」

 

 

サーシェスの声が聞こえ下を見るとこちらに向かって缶ビールを投げてきたのでロックオンはキャッチして受け取った

 

 

「酒か、いつもは飲まねぇけどたまにはいいか。」

 

「兄ちゃんひょっとして酒は嫌いか?働いた後飲む酒はちぬ程うんめェんだぞ!」

 

そう言ってサーシェスは持っていたウィスキーボトルを開けてグビグビと喉へ流し込んだ

 

 

「はは、そうなのか·····今日は手伝いに来てくれてありがとなおっさん。秋山の機体強化してくれた上に他のMSの武器までいっぱいくれて本当有難いぜ。」

 

「ヘッ、別に兄ちゃんのためじゃなくて優花里ちゃんとあの子の大事な友達のためだからここまでやってんのさ。それより兄ちゃんこそ随分頑張るじゃねぇか········この後もまだここにいるつもりなんだろ?」

 

「まぁな··········まだ艦内の掃除とか訓練のメニュー考えなきゃなんねぇからもうちょい気張らねぇとな。」

 

 

ロックオンは頂いた缶ビールを開けようとしたら中から勢いよくビールか噴出し顔全体にモロに被ってしまった

 

 

「ブベッ!·····オイコラアリー・アル・サーシェス!よくもこんな真似してくれたな!」

 

「バカがァ!この俺がテメェにタダ酒奢るとでも思ったか!」

 

 

サーシェスは爆笑しながらMSデッキの出口へ走って行った

 

 

「あ!てめぇ待ちやがれ!ぜってー覚えてろよな!」

 

「ケッ!兄ちゃんこそ覚えておきな!··········若ぇからって働きすぎてるといつかぶっ壊れちまうからな。あんま無理すんなよ。」

 

 

サーシェスはそう言い残してその場から去って行った

 

 

「ぶっ壊れるか·····そう言われてもな··········」

 

 

ロックオンは缶の中に半分程残ってたビールを一気に飲んで立ち上がると、キャタピラから飛び降りて地面へ着地した

 

 

「よーしハロ!メシも食ったしまだ掃除してない区画とエアコンの取り付け頑張ろうぜ!」

 

「リョーカイ、リョーカイ!」

 

「ふーん、オンちゃんまだここに残ってたんだ。」

 

 

すると突然Gブルの影から杏が現れこちらへ歩み寄ってきた

 

 

「角谷!?なんでここにいるんだよ!?今何時だと思ってんだ!」

 

「そりゃこっちのセリフだよ〜。オンちゃんがいつまで経っても帰ってこないから迎えに来てあげたのに。」

 

「俺は艦の中の適当な所で寝るから大丈夫だ。だからおまえはさっさと旅館に戻ってくれ。俺ももうちょいやる事やったら休むからよ。」

 

「オンちゃんってさぁ··········前から気になってたけどどうしてそんなに熱心なの?他の学校の教官さんはここまでやってくれないと思うよ。」

 

 

杏から思わぬ言葉が出てロックオンはギョッとした

 

 

「·····そ、そうか?普通教官なんてこんなもんだって…ハハハ··········」

 

「いやいや異常だって。もしかしてうちの先生に弱味でも握られたとか?それとも好きな子がいるとか!?」

 

「そんなんじゃねーよ!大体握られるような弱みなんて持っとらんわ!」

 

「えー··········じゃあどうしてなの?お給料が上がる訳でもないのになんでそんなに頑張るの?」

 

 

いつも悪戯っ子の様な顔で話しかけてきた杏が本気で心配しているような顔を浮かべていた

 

 

「はぁ··········そんなに気になるか?俺が教官やってる理由。」

 

「うん。よかったら教えてよ。」

 

 

ロックオンはGブルに寄りかかるように座り込み杏も同じ様に隣へ座り込んだ

 

 

「··········俺もな、昔はおまえらと同じ様にモビル道をやってたんだよ。高校の頃は継続高校っていうすっげぇ貧乏なトコにいてな。昔からモビル道があるくせに受講者も少ないしMSや艦の数も今の俺達と同じぐらいで、連盟から来た教官も超やる気のない人でよ·····色々と大変だったんだよなぁ··········」

 

「やっぱオンちゃんもモビル道やってたんだ。てか私らと同じくらい厳しい学校ってあるもんなのね··········」

 

「あの頃は皆酷かったんだぜ?おまえらみたいな弱小が全国大会に出るなとか宇宙をおまえらのポンコツ機体で汚すなとか言ってきやがってな··········。

それでも夜遅くまで仲間と特訓したりMSいじったりしてよ··········そしたら最後の全国大会で何とか優勝できたんだ。あん時はめちゃくちゃ嬉しかったし何よりここまでめげずに続けてきてよかったって心の底から思えたよ。」

 

「えー!オンちゃんって全国大会で優勝した事あるんだ!それ超すごいじゃん!プロからスカウトとか来なかったの?」

 

杏がそう聞くとロックオンは少し険しい顔になって俯いた

 

 

「··········そりゃ優勝した試合にも出てたんだ。色んなプロチームからスカウトが来て俺自身もプロに上がるつもりだった。··········けど運が悪かったのか利き目が病気になってよ。すぐにでも手術しないと失明するって言われたんだ。」

 

「え··········でもちゃんと手術したんだよね!?」

 

「··········あの頃は本当に運が悪くてな。妹が一人いんだけどそいつがとんでもねぇ難病にかかっちまって……兄妹揃って手術代は馬鹿みてぇに高いし、何より妹のそばに居てやりたかったからよ……俺の手術は後回しにする事にしたのさ。」

 

「後回しって···············じゃあ…·····」

 

「もちろん間に合わなかったよ。けれどおかげで妹を手術する事ができたしこれでよかったんだ。あいつも今じゃ元気になって大学でモビル道やってるしよ。」

 

「それでオンちゃんの目はどうなったの·····?」

 

「気づかなかったと思うけどこう見えてこれ義眼なんだぜ?今じゃ視力は昔の半分程度だけど日常生活に支障はでない位には回復したよ。

けどあの頃プロの皆さんが欲しかったのはエーススナイパーとしてのロックオン・ストラトスだったみたいでな··········スカウトの話も全部無かったことにされちまったよ。」

 

「そんな!そんなのいくら何でも可哀想だよ··········」

 

「まぁ当たり前っちゃ当たり前だけどな!スナイパーにとって目は命の様なモンだし、利き目が見えてないヤツが戦場に出てきたってどうしようもないからな·····仕方なかったんだよ··········」

 

 

ロックオンは寂しそうな顔でそう言いながらも笑みを浮かべた

 

 

「だから俺は自分がプロに行けない代わりに教官になる事にしたんだ。そうすれば好きなモビル道と関わってられるし俺の代わりにプロに行くって言う夢を叶えてくれる子がいるかもしれないからな!だからその為にできる事があるならなんでもやってやるさ··········」

 

「そっか··········凄いねオンちゃんは···············」

「······························ニール・ディランディだ。」

 

「え·····?」

 

「俺の本名だよ。そのオンちゃんって呼び方が嫌な訳じゃないが今までそんなあだ名で呼ばれた事なんてなかっから未だにムズムズしてな。これからはニールちゃんとでも呼んでくれや。」

 

「·····ちょっと待って。オンちゃんの名前ってロックオン・ストラトスじゃないの?確か連盟から届いた個人データの名前もロックオン・ストラトスだったはずだけど··········」

 

杏は豆鉄砲を食らったかのように呆然とした

 

 

「いやあれは教導隊の計らいでな、俺の名前は現役だった頃のあだ名を使わしてくれるっていうからこの名前で登録したのさ!これでロックオン・ストラトスという名は未来永劫刻まれ続けるはず··········」

 

「ちょっと何それ〜!自分のあだ名で教官やる人なんて普通いないでしょ〜!アハハハハハ!」

 

「おいおい何で笑うんだよ!いいじゃねぇかこの名前気に入ってんだしかっこいいだろ··········フッ··········ハハハハハハハ!」

 

杏とロックオンの二人の笑い声がデッキに響き渡っていった

 

 

「ふぃー··········ありがとねニールちゃん。ニールちゃんの昔話が聞けてよかったよ。でもだからって働きすぎちゃダメだよ。今日は一緒に旅館に帰って休も?」

 

「そうは言ってもなぁ··········節約がてらに俺は艦の中で寝泊まり済ませるつもりだっから部屋なんて予約してないぞ?」

 

「んもーなんでそんな事勝手に決めちゃうかなー。今日の所は私の布団半分貸してあげるけど明日はちゃんと自分の部屋借りてね!」

 

「おまえはそれでいいのかよ··········まぁわかったよ。今日の所はもう終わりにするよ。待たせちまって悪かったなハロ。俺達も行くとしようぜ。」

 

「カエローゼ!カエローゼ!」

 

 

こうしてロックオンは杏に説得され共に旅館へ向かうためホワイトベースを後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、大洗女子学園一向は宇宙空間での総合訓練を行う為連盟が保有している訓練用の宙域へ出航して行った

 

 

「あー、あー、ビーハイヴの皆聞こえるかー?俺はそっちに行けないから変な事しないで常に俺の指示に従ってくれよ!」

 

『了解でーす!』

 

『我々は後をついて行けばいいのだろう?しかし地上で飛ばしていた時よりも動き安いな··········』

 

「ビーハイヴは元々宇宙艦だからなぁ··········この前の練習試合みたいに地上で使うのはあんまよくないし新しい艦も買うべきなんかなぁ··········」

 

「ハイハイニールちゃん元気出して!私ら始めての宇宙なんだから今日は教官としての腕の見せ所たっぷりだよ!」

 

「何だか会長と教官さん最近仲良いよね··········もしかして二人は··········!」

 

「沙織さん··········いくら何でも判断が早すぎる気が··········」

 

「それよりも早く到着しませんかね!私早くあのザクに乗りたくてもう待ちきれません!」

 

「確かにそろそろ着きそうだな··········よし!MSのパイロットはコクピットで待機してくれ!いよいよお楽しみの訓練の時間だぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

νA-LAWS所有強襲揚陸艦『スパルタン』MSデッキにて··········ダークグリーンとブラックを基調としたパイロットスーツに身を包んでいたナオとレビンは共にMSデッキで待機していた

 

 

「チッ··········アイツらいつまでノタクタ着替えてやがる·····!」

 

「レビレビ落ち着いてください。短気は損気ですよ。それにまだ愛里寿も来てないんですし。」

 

「大体なんでトレノの野郎も連れてくんだよ!あんなサイボーグ連れてった所で何の役にも立たねぇだろ·····」

 

「そんな事言っちゃダメですよ·····それに決めたのは愛里寿ですし·····」

 

「おおーい!ナオっち〜レビっち〜!遅れて本当に申し訳ないっス!」

 

 

ナオとレビンの元に同じダークグリーンのパイロットスーツを着た金髪ストレートヘアの青年とさらが駆け寄ってきた

 

 

「お、噂をすれば来ましたよ!トレの〜ん!超久しぶりに一緒に出撃できて嬉しいです!スーツはちゃんと着れましたか?」

 

「そりゃさらっちが手伝ってくれたからバッチリっスよ!改めてさらっちありがとうっス!」

 

「気にしないでください。私もトレノさんと出撃するのは久しぶりなのでとても嬉しいです。」

 

「オイオイ出撃つってもそいつはスナイパーだろ?後ろでコソコソ毒ヘビで遊んでる奴と一緒にされたかないね。」

 

 

突如レビンが挑発するかのようにトレノに向かって言い放った

 

 

「レビっち?何で怒ってんスか?嫌な事でもあったなら相談に乗るッスよ。」

 

「ああ今正に嫌な事の真っ只中だよ。何でこの俺がテメェみたいなサイボーグに背中預けなきゃなんねぇんだよ。足引っ張られるどころかもがれちまわねぇか心配だぜ」

 

「ちょっとレビレビ!」

 

「試験管出身はホント口が悪くて尚且つ情緒不安定ッスよね〜··········グロリアーナの隊長さんもそうやって(たぶら)かしてたんスか?」

 

「··········(コロ)ス」

 

 

レビンは目を剥いて拳を握りながらトレノに迫ろうとしトレノはそれを不敵に笑みを浮かべながら迎え撃とうとした。··········が二人の間にナオが割り込んできた

 

「ちょっとストーップ!!!レビレビもトレのんも何やってんですか!二人ともお互い言い過ぎですよ!」

 

「退けよナオ··········コイツだけは一発殴らなきゃ気がすまねぇ··········!」

 

「ガキっスね〜レビっちは。てかさっき俺の事サイボーグとか言ってたよな·····?母さんがくれた手足を馬鹿にしたんならタダじゃおかねぇッスよ··········!」

 

 

互いに獣の様な眼光で睨み合い今にも爆発しそうな二人を、ナオは間に入った物の自分じゃ止められないと確信しさらはどうしたらいいかわからずおどおどしていた

 

 

「レビン、トレノ。何をしているの?」

 

 

すると四人のもとにライトグリーンのパイロットスーツを来て同じカラーのヘルメットを抱えた愛里寿がやって来た

 

 

「愛里寿っち·····」

 

「大隊長··········」

 

「二人ともどうして喧嘩してたの?この前仲直りしたばっかりなのに。」

 

「悪いっスけど愛里寿っちは引っ込んでてくれっス。今日ばかりは黙ったままじゃいられねぇんスわ。」

 

「気が合うじゃねぇか。俺もテメェをぶちのめすまで何にもしたくねぇ気分だよ。」

 

「二人とも毎回同じ事言ってる··········どうして同じ様な本を隠してるくせに喧嘩するの?」

 

 

愛里寿がそう言った瞬間レビンとトレノは落雷に撃たれたかのように体が動かなくなり、二人の間で渦巻いていた険悪な雰囲気が一気に凍り付いていった

 

「··········あの、愛里寿っち?俺達本当は仲良しだからこんな風にじゃれ合ってるんスよ。ねぇレビっち·····」

 

「あ、ああそうだな···············ほら喧嘩する程仲がいいって言うだろ·····?」

 

「え!?なになに!?なんなのその本って!」

 

「ダメだよお姉ちゃん。絶対ロクでもない物だと思うから···············二人とも家に帰ってたら覚悟しておいてくださいね。」

 

 

レビンとトレノは後悔した。もっと見つかりにくい場所に隠すべきだったか·····それとも愛里寿が部屋に入らないよう警戒するべきだったか·····それとも最初から喧嘩せず静かに愛里寿が来るまで待っているべきだったか·····

 

どんなに後悔しようとも一番バレてはいけなかった人物さらへ愛里寿の口からバラされてしまった為二人はこの後受ける仕打ちを想像し恐怖で涙を流しながら抱き合った

 

 

「うわ゙ああああん!レビっぢ〜〜〜〜!」

 

「な゙、泣ぐんじゃねぇ、ゔお゙おおおおお!」

 

「凄いよ愛里寿〜さら〜!二人を仲直りさせるなんて流石だね〜!スリスリ〜」

 

「や、辞めてよお姉ちゃん·····」

 

「当然の事···············おふざけはここまでだ。今日の作戦を再確認する。」

 

 

突如スイッチが切り替わったかのように愛里寿がそう言うと他の四人も真剣になり愛里寿に注目した

 

 

「今回の目標は西住みほの身柄確保と10年近く前に脱走したカテゴリーS『マコ』のこちら側への誘引。西住みほは私が確保に当たり、トレノはスパルタンから支援攻撃、レビンは西住みほと他戦力との分断及び拘束、ナオとさらは『マコ』の誘引及び敵MSを西住みほに近づけさせるな。以上。総員出撃準備に入れ。」

 

 

愛里寿の指示と同時に四人は各々のMSのもとへ向かった

 

 

「レビっちさっきはすんませんっス!奢るんで夜は美味いもん食いにいきましょーよ!」

 

「バッキャロー!今日の朝飯が俺達の最後の晩餐になるかもしんねーんだぞ!··········ってあれは·····」

 

 

レビンが後方のMSハンガーを見ると大型のスラスターの様な物をバックパックに2基背負ったガンダムの姿が見えた

 

(あの機体·····()()()もくるのか!)

 

レビンはコクピットに乗り込み発進するため機体をカタパルトの上に移動させた

 

 

『進路オールグリーン。発進しろ。』

 

「島田レビン!フルアーマーガンダム行くぞォ!」

 

レビンの駆るMS『フルアーマーガンダム』は勢いよくスパルタンのハッチから宇宙へ放たれた

 

「島田ナオ、G05(ジー・ゼロファイブ)!いってきまーす!」

 

「島田さら、G04(ジー・ゼロフォー)。出撃します。」

 

 

続いてナオとさらのMSも発進して行った

 

 

「····················行こう···············お姉ちゃん·····」

 

『お嬢様。発進お願いします。』

 

「了解。島田愛里寿、ガンダムNT-X(ネティクス)。行くぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました

前半で大洗女子の皆に渡されていたパイロットスーツや制服は、全てガンダムoo2nd seasonのソレスタルビーイングのデザインと同じだと思ってもらえると幸いです。

ざっくり言うとみほが刹那、優花里がアレルヤ、華がロックオン(ライル)、麻子がティエリアの着ていたスーツを着ているもんだと思って欲しいです。それとみほ達4人と杏以外のパイロットが着ているスーツはマリー・パーファシーが着ていたスーツです

0083までの機体しか登場しないのにパイロットスーツがアナザーのとかどうなんだって迷ったのですが、色々なガンダムキャラを登場させる上でやっぱ学園別でパイロットスーツにも個性(?)を出したいと思ったのでこういう感じで行く事にしました。νALAWSの皆が着てるスーツはガンダムooのALAWSと同じデザインだと思ってください。特に愛里寿が着てるスーツはリボンズ・アルマークが着てたヤツだと思ってください。思ってくださいばかり書いてごめんなさい

優花里の高機動型ザクがオレンジ色だとありましたがイメージとしてはハイネ専用グフイグナイテッドやハイネ専用ザクウォーリアのカラーリングだと思って欲しいです

あとネティクスはナラティブの影響で出したいと思ったので出しました。これからも映像化がされてない機体が多く登場すると思います





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9話 ネティクス(後)

前回の続きになりますが冒頭は月から始まります

戦場の絆で数年間最強機体の座に君臨していたイフリートと白ザクがついに下方修正を受ける事にかなりぶったまげました。とはいえまだ全然使えそうな気がしなくもないので楽しみです

bgmはガンダムooより【invasion】でよろしくお願いします


月面都市フォン・ブラウン 島田家別邸───愛里寿の叔父、島田衛は都市の中心部に位置するこの屋敷でただ一人暮らしていた。時折愛里寿や他の面々を屋敷の地下に存在する()()()()()()()()に連れて行く為に招き入れる事はあったが、それ以外の理由で他人を屋敷に入れる事は殆どなかった

 

 

「久しぶりに連絡が来たと思ったらそんな事だったのかい?心配しなくとも君は彼女達の母親なのだから僕の許しなんて必要ないさ。好きに来ればいいものを」

 

 

自室の椅子に座りながら衛は机に内蔵された端末で通話をしていた。モニターには愛里寿の母親、島田千代の姿が映っていた

 

 

『·····ただ貴方には本当に迷惑をかけてしまったからもう愛里寿達に会わせてくれないと思って·····ごめんなさい』

 

「そんな風に思われていたとは心外だね。彼女達も君が会いにくるというなら必ず喜んでくれるはずだし僕自身君には昔から感謝しているからね」

 

 

衛はかなり衰弱している様に見える千代に優しく微笑みながら応えた

 

 

『··········愛里寿は元気にしてる?レビンとトレノも仲良くなってくれたかしら·····?』

 

「どうやら兄妹皆で一緒に出掛けた様でね。随分前にスパルタンを持ち出して月から出て行ったよ。最近はモビル道の方もよく頑張ってくれているみたいだよ」

 

『そう·····よかったわ·······近いうちに必ず行くからまた連絡するわ。それじゃあ··········』

 

 

そこでモニターの映像が消え千代との通話が終了した。衛は椅子から立ち上がりバルコニーに出てフォン・ブラウンの都市を眺めた

 

 

(感謝しているよ島田千代。君は母親としては愚かだったが道化としてはこの上ない存在だったよ。)

 

 

天井の太陽光照明に照らされ現在昼間を迎えていた月面都市。数千万人もの人々が生活していた為町はかなりの活気に溢れていた·····が町を歩く人々の瞳には光が宿っていなかった

 

 

(結局どんな世界であろうと人類は争いを止められずいずれ滅びの道を進む、だからこそ僕のようなより上位種の存在によって管理され支配を受けなければならない·········

 刹那・F・セイエイ、君に敗れこんな世界に生まれ落ちた時はかなり屈辱だったが、今度こそ下等な人類共の頂点に立ち僕の存在意義を不動の物にしてみせる·····)

 

 

 衛は虚ろな目で町を行き来する人々とフォン・ブラウンの街にいくつかそびえ立つ怪しげな電波塔を眺め邪悪な笑みを浮かべた。

 

 

「そうさ、人類を導くのは·····このリボンズ・アルマークだ·····!」

 

 

 島田衛─────リボンズ・アルマークはほくそ笑みながらそう呟き再び部屋へ戻って行った。

 

彼はかつて平和な世界を築くためにに人類を変革へと導くよう造られた人造人間であったが、自分よりも能力の低い人類の為に尽くさなければならない事を認める事ができず己のエゴのまま自身の手で世界を掌握しようとした。

しかしリボンズはガンダムマイスター【刹那・F・セイエイ】との最終決戦で敗北し彼が築き上げた歪んだ世界と共にその魂は完全に葬られたかに思われた··········が邪悪なる天使の魂は記憶を残したまま別の世界に新しく舞い降り、誤ちを省みることなく再び自身の野望を果たす為動き出していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大洗女子学園一行は訓練用の宙域に到着すると早速MSを艦から発進させ宇宙空間での移動訓練から始めようとしていた。元々宇宙空間でのMSの操作経験があったみほとカエサルは難なく行動する事ができていたが、他の皆は姿勢制御もまともに行えず水中で溺れているかのようにジタバタしていた

 

 

「きゃあああああああ!!!何これ超ヤバいじゃん梓助けてー!!!」

 

「そんな事言われても私もどうすればいいかわかんないよー!」

 

「おいカエサル話が違うぞ!モビル道は忍道と精通してるって言ってたのに!」

 

「あー、そんな事言ってたっけ··········」

 

『おまえら無闇にレバーを動かすなー!さっき教えた通り姿勢制御はAMBACと各部スラスターを駆使して何とかできるからとりあえず一回落ち着けー!』

 

 

ロックオンはホワイトベースのブリッジからパニックになっている生徒達を見かねて声を上げた

 

 

「いやー皆大変そうだねー。でも初めての宇宙なんだし上手くいかなくてもしゃーないよね」

 

「やっぱ予め宇宙空間でのシュミレーションをやらせるべきだったかな·····?俺ん時の初めての宇宙は機体ごと外へ投げ捨てられたからこんなもんだと思ってたが··········」

 

「··········ダメじゃんニールちゃん·····悪い歴史をそのまま受け継いじゃあたしらも同じ目に会うじゃんか」

 

「いやー誤算だったなーハハハ··········けどあいつらには経験者の西住とカエサルがいるし大丈夫だろ!ほら、段々皆落ち着いてきたぞ!」

 

 

みほとカエサルが指導をしていたため少しずつ落ち着きを取り戻してきた初心者達の機体は溺れていた状況からしっかりと静止浮遊できるまでに至っていた

 

 

「ふぅ·····みほさんありがとうございます。おかげでようやく落ち着けました」

 

「せっかく新しい機体を貰えたのに何にもできなくなると思ってハラハラしました〜」

 

「皆覚えるの早くて凄いよ。私なんて初めて宇宙に出た時怖くて他の人の機体にしがみついてたから·····」

 

「しかしまだそう遅い時間ではないはずなのに周りが暗いせいで目が覚めてくるな·····」

 

 

そんなたわいない話ができるくらいまで華達は落ち着きを取り戻していたが沙織は頬を膨らませてその会話を聞いていた

 

 

「何だかズルいなー!私だけ仲間はずれにされてる気分になっちゃう!」

 

「まぁまぁ武部ちゃん。オペレーターさんも大事な仕事なんだからそんな事言わないの。ニールちゃんも制服似合ってるって言ってるよ?」

 

「え!ヤダ教官さんったら!でもありがとー!」

 

「あぁ····そうだなよく似合ってるぜ··········てか角谷はなんでノーマルスーツ着てここにいんだよ?まーた訓練サボるつもりか?」

 

 

他のブリッジのクルーと同様のノーマルスーツを着て艦長席で干し芋を食べながらくつろいでいた杏を見てロックオンは若干呆れながら質問した

 

 

「そりゃGブルで宇宙に出たって仕方ないじゃん?だから今日はここで皆を見守る事にしたんだー」

「確かにそれもそうだな·····それでいいのかなぁ·····」

 

「教官殿、どの機体も準備が完了している様なので訓練を開始してもよろしいかと」

 

「おっとそういやそうだった。よーし皆今から俺の言う通りの隊列を組んで進んでくれよー!訓練開始だ!」

 

 

しかしその時、ホワイトベースのレーダーに機影が4機補足されレーダー手の優季が声を上げた

 

 

「教官さん!あっちの方から何かが4つ凄い速さでこっちに近づいてくるんですけど·····」

 

「何?·····なんだこれどこのMSだ?ここの訓練場には俺達しか来ないって聞いてたんだが·····」

 

「えっと··········映像出せます!」

 

 

沙織がブリッジのモニターに艦の光学カメラで撮影された映像を出すとそこには4機のガンダムがこちらに向かってスラスターを吹かして接近してきていた。

 

4機のガンダムのうち2機はガンダム4号機とガンダム5号機。1機はシールドを両腕とバックパックから伸びるサブアームに保持され計4枚のシールドを持ちながらも多種多様な武装を装備しており、先頭を駆っていたガンダムはライフルなどの主兵装を装備していないものの背中に巨大なブースターパックの様な物を背負っていた

 

 

「オイオイなんだありゃ?G04とG05はともかく他の2機なんて見たことねぇ·········4枚盾と羽付きって言ったところか?」

 

「··········なんか変だね。武部ちゃん、西住ちゃん達にも伝えられる?」

 

「わ、わかりました!皆聞こえる?今私達の方にどこかのMSが4機··········」

 

 

沙織がみほ達MSへ通信しようとした瞬間ガンダム4号機がメガビームランチャーを、4枚盾のガンダムがバックパックに搭載された大型ビーム砲をみほ達が集まっている地点へ向け照準を合わせ発射体制に入った

 

 

「危ない!」

 

「うわぁ!西住殿!?」

 

 

みほはこちらを狙う者の気配に気づき射線上にいた優花里のザクを突き飛ばした。その直後かなり遠方から高出力のビームが2本、みほのガンダムと他のチームメイト分断させるかのように放たれた

 

 

「え!?これは一体何なのですか!?」

 

「なんだ!?一体誰からの攻撃なんだ!?」

 

 

突然の放たれた光線に華とカエサルは驚愕し他の者達も只事ではないと察知し再びパニック状態に陥りそうになっていた

 

 

「西住殿大丈夫ですか!?」

 

「·····!行くな秋山さん!また撃ってくるぞ!」

 

 

みほの方へ行こうとした優花里のザクを麻子は肩を掴んで抑えると、今度は先程よりも遠い位置からビームが放たれみほを他の皆と引き離すように通過して行った

 

 

「キャプテン!西住隊長が離れていきますよ!」

 

「西住隊長ー!無事ですかー!」

 

「私は大丈夫です!皆さん落ち着いた避ける事に専念してください!··········一体何が来てるの·····!?」

 

 

みほ達がビームが放たれた方を見るとこちらへ接近してくる4機のガンダムの姿が見えた

 

 

「あれはガンダム4号機と5号機··········それとフルアーマーガンダムじゃないですか!?」

 

「フルアーマー?あの聖グロリアーナにいたヤツか?」

 

「いや今近づいてきてるフルアーマーガンダムはサンダーボルト版です!まさか実際に作られていたとは··········!」

 

 

 

ホワイトベースのブリッジもこちらに向かっていきなりビームを放たれた為さらに慌ただしくなっていた

 

 

「教官さん!何か本当にヤバくないですか!?」

 

「何なんだあいつら!一体俺達を狙って何がしたいんだ!?」

 

 

ロックオンはブリッジ内に置かれた緊急連絡用の通話機を使ってこの宙域内を取り締まっている小惑星基地へ無線を繋げた

 

 

『こちら資源衛星ガッデス。どうかされましたか?』

 

「こちら大洗女子学園!現在どっかのMSから突然訓練の妨害を受けている!至急自警団を派遣してくれ!」

 

『··········了解です。30分程でそちらに到着すると思います』

 

「30分!?いくら何でも遅すぎるだろ!」

 

 

ロックオンは無線に出た男の声が無気力そうな事もあって思わず声を荒らげた

 

 

『我々も今忙しいので··········別にお互いモビル道の兵器ですし大丈夫でしょう?』

 

「お、オイ!そういう問題じゃないだろ!」

 

『とにかくそちらに応援がいずれ到着すると思いますとでよろしくお願いします。それでは』

 

 

そして向こうの方から通信が切られてしまった

 

 

「クソッ!何なんだアイツら!本当に連盟の職員なのかよ!」

 

「ニールちゃん落ち着いて!大人のニールちゃんが焦ってると皆不安になっちゃうから!」

 

「あぁそうだな落ち着け··········武部、救難信号を上げてくれ!総員第一戦闘配備!ビーハイヴは連装砲で皆を援護してくれ」

 

 

ロックオンは艦内とビーハイヴに向けてアナウンスし沙織はホワイトベースから救難信号弾を撃ち上げた

 

 

「第一戦闘配備··········?何それ?」

 

「突然どうしたんだろう·····!?とりあえず危ないみたいなので皆さんノーマルスーツを着てください!」

 

 

ホワイトベースのMSデッキでリュウセイからメカニックの手ほどきを受けていたナカジマと自動車部の面々は状況がよくわからなかったが、緊迫するリュウセイの様子を見て言う通りノーマルスーツを着用した

 

 

「戦闘·····?訓練やるんじゃないんですか?」

 

「あ!レーダーに何か··········MSが4機こっちに近づいてきます!」

 

「つまりあれが敵か··········前進だ!この艦をホワイトベースの横に付けるんだ! 」

 

 

エルヴィンは指示を出すとおりょうはビーハイヴをホワイトベースの側面へ移動させあけびは連装メガ粒子砲の射撃準備に入った

 

 

一方4機のガンダムはみほが他のMS達と分断された事に気づくとさらにスラスターを吹かしてあと少しの距離まで接近した

 

「他のMSは任せる。救難信号も上げられたから急ぐぞ」

 

「了解!冷泉さんのことは任せてね!」

 

「愛里寿ちゃんも気をつけて。相手はあのみほさんだから」

 

「西住みほの事は頼んだぜ。俺達はお友達と仲良く遊んでるからよ」

 

 

先頭の愛里寿が駆る羽付きのガンダム·····ネティクスはホワイトベースの元へ戻ろうとしていたみほのプロトタイプガンダムの前に立ち塞がった。みほは相手を警戒していた為ビームサーベルを2本展開し身構えた

 

 

「貴方達は一体何者ですか!?答えてください!」

 

「···············西住みほさん。私達は貴方を迎えに来ました。私達は貴方の味方です」

 

「え··········?」

 

 

コクピットモニターにネティクスのパイロットが映し出され、そこには見覚えのある少女が映っていた。その子が昨日軌道エレベーター内で見たニュースに出てた奇妙な少女だったのでみほは自分の目を疑った

 

 

 

 

「ガンダム3機こちらに来ます!皆注意して!」

 

「よーし山郷!ミサイル対空砲火用意だ!味方には当てるなよ!」

 

「は、はい!」

 

ホワイトベースは接近してくる3機のガンダムにミサイルとメガ粒子砲を発射し、それに合わせてビーハイヴとMS部隊もガンダムに向けて攻撃を開始した

 

 

「店長が持ってきてくれた新装備ならガンダムだって!」

 

「私も使わせて貰う!」

 

 

優花里の高機動型ザクはザクバズーカをカエサルのザクIs型はラケーテン・バズを構え敵に向けて発射した

しかし優花里達の攻撃は全て回避されてしまい3機のガンダムはプロトタイプガンダムとネティクスの元へは行かせまいと進路上へ立ち塞がってきた

 

 

「あいつら練習試合の時より危ないモン持ってきてやがる。てか本当に俺がやらなきゃいけねぇのか·····?」

 

「そりゃあレビレビはジャンケンに負けましたし!頑張ればさらもさっきの事は忘れてくれるかもしれませんよ?」

 

「···············レビン君よろしくお願いします」

 

「お、オウ!任せとけ!」

 

 

3機のガンダムが一向に攻撃してこないためロックオンは一度桃とあゆみに艦砲射撃を止めさせMS部隊にも中止を呼びかけた。そして沙織の席の通信機を持ちガンダム達のパイロットに繋げようとした

 

 

「そこのMSのパイロット聞こえるか!ここの訓練場は現在俺達大洗女子学園が使用している!どういうつもりか知らないがさっさとここから立ち去ってくれ!さもなければ自警団に通報して逮捕される事になるぞ!」

 

『我々は決して怪しい者ではございません。今日はお宅の生徒さんの西住みほさんと冷泉麻子さんに御用があって来た次第でございます。先程は少しビックリさせようと思っただけでこれ以上攻撃する意思はありませんのでご安心ください』

 

「西住さんと·····私にだと····!?」

 

 

ロックオンの通信に出た男は非常に冷静な声で応答した。皆フルアーマーガンダムのパイロットが男である事に驚いていたが麻子はそれ以上に何故か自分に用があると言った事に疑念を抱いていた

 

 

「どうして麻子が·····?」

 

「男··········!?とにかくおまえらみたいなヤツに西住と冷泉を貸す訳にはいかない!話は全部俺が聞くからとりあえず皆を帰投させてくれ!」

 

『現在西住みほさんとは我々の隊長が話をしております。このまま冷泉さんと話をさせてくれないのであれば少し荒っぽい事になりますので賢明なご判断を·········』

 

「なんだと!てめぇふざけてんのか!」

 

 

しかし通信はそこで切られてしまった。そしてG04とG05が麻子の量産型ガンキャノンに向かって接近しようと動き出したがその2機を華と左衛門佐は独断で狙撃しようとライフルの銃口を構えた

 

 

「私は青い方を狙う。五十鈴さんは赤い方を頼んだぞ。」

 

「了解です。あの人達の好きにはさせません·····!」

 

 

二人は気づかれないようマニュアル射撃で狙撃しようと照準器を覗き狙いを定めた··········がその刹那、4機のガンダムがやってきた方向から再びビームが放たれ華と左衛門佐のスナイパーカスタムとザクスナイパーが持っていたライフルを破壊した

 

 

「きゃあ!!」

 

「狙撃された·····?一体どこから·····」

 

 

左衛門佐はビームが飛んできた方を見渡したが敵スナイパーの姿どころか遮蔽物の様な物もないまっ更な宇宙が広がっていた。しかし今度はカエサルと優花里の機体を狙って敵スナイパーはビームを狙い撃った

 

 

「また狙撃か!秋山さん気をつけろ!」

 

「せっかく私達も反撃しようと思ったのに··········」

 

 

優花里とカエサルはなんとか狙撃を避けようとしたがその際に高機動型ザクはザクバズーカを、ザクIs型は右脚を撃たれ損傷してしまった

 

 

「ありゃ?トレノん突然どうしたのでしょうか?」

 

「私達が攻撃されそうなのを感じて撃ったのでしょう。トレノ君は私達への()()にかなり敏感だから」

 

 

ナオは遠く離れた母艦からビック・ガンを装備したザクで待機していたトレノが狙撃し始めた事を不思議に思ったがさらはその真意に気づいている様だった

 

 

「トレノの野郎!抜け駆けしやがって······!」

 

「··········なんか向こうの皆さんもやる気みたいですしレビレビも行ってきていいですよ?」

 

 

ナオの言う通り大洗女子学園の生徒達はこの窮地から脱出しようと思い団結して仕掛けようとしていた

 

 

「その代わり私達は冷泉さんをスカウトするからちゃんと守ってよね!」

 

「ハナから大人しくしてようなんざ思っちゃいねぇさ。久しぶりにガンダムと戦場(ここ)に来たんだ·····楽しませろよなァ!」

 

 

ナオから許しが出たレビンは飢えた狂犬の様に吠え上がるとスラスターを全開にし単騎でホワイトベースに向かって突撃した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方みほのガンダムと愛里寿のネティクスは互いに攻撃を仕掛けることもなく見合ったまま無線で対話をしていた

 

 

「私を迎えに来たって··········それってどういう事なの?それに私の味方だっていうのもわからないよ!」

 

「私達は貴方と、みほさんと同じニュータイプです。みほさんはこれまで自分がニュータイプである事から辛い目に会う事が沢山あったでしょう。だから私達はみほさんを助けるために今日ここへ来ました」

 

 

自分と同じニュータイプ。信じられない発言を聞きみほは驚きのあまり思わず操縦桿から手を離してしまった。まさか自分と同じニュータイプの子供がいるとは思わなかったので驚きの中少しだけ喜びの感情が湧き上がってきた。··········がしかし目の前のガンダムに乗る少女の他に何者かの気配を感じた。向こうのコクピットには愛里寿一人しか乗ってないはずなのに何故かもう一人、それもかなり懐かしい人物の気配があった

 

 

「··········本当に私の味方なんですか·····?」

 

「はい。だから私達と一緒に来てください」

 

「でも私はもうニュータイプの力は使えないし·····」

 

「それは()()()()()()()()()()()()がオールドタイプを嫌うばかりに自分の心の奥底に閉じこもってしまったからです。でも私達なら本当の貴方を取り戻させる事ができます。だから私と一緒に来てください」

 

 

愛里寿はハッキリとした口調でみほに向かって発言しネティクスの手を取るようにとこちらへ差し出してきた。だがみほは半信半疑のまま愛里寿の言葉のまま着いて行くことを選ぼうとした

 

 

『みぽりん大丈夫!?何か変な事されてない!?』

 

 

ホワイトベースの沙織から通信が入りみほは我に返った。ホワイトベースの方を見ると他の皆がネティクス以外の3機と交戦状態に入っているのが見えみほは助けに向かおうとした。しかしそんなみほを許さず愛里寿のネティクスは進路を塞いだ

 

 

「どいてください!皆が襲われてるから助けないと!」

 

「貴方はあそこにいるべきではない。私達と一緒に来るべきです。それが貴方にとって一番幸せになれる道です」

 

「あそこには私と··········こんな私と友達になってくれた人達がいるんです!だから·····貴方達とは行きません!」

 

「··········そうですか。残念です···············本当に残念です」

 

 

突如ネティクスはみほのガンダムを思い切り蹴り飛ばした。みほは後方に吹っ飛ばされたものの体制を立て直しネティクスの方を向き直した

 

 

「ならば力尽くでも連れていく。覚悟しろ」

 

 

ネティクスは右手にビームサーベルを展開するとこちらへ斬りかかってきた。みほのガンダムも両手に持ったサーベルで斬りかかり2機のガンダムはサーベルを互いに切り結ぶと激しい鍔迫り合いを始めた

 

 

「力尽くって··········どういう事ですか!貴方達は本当に何者なんですか!?」

 

「貴様にそれを説明する必要も謂れもない。」

 

 

2機は鍔迫り合いからサーベルの打ち合いに変わり宙域を大きく動きながら斬りあっていた。みほは2本のサーベルをネティクスの左側からなぎ払おうとした、ネティクスはサーベルを左に持ち変え半身になってこれをいなした。

愛里寿はみほのガンダムから距離を取ると右腕から内蔵されていたビームランチャーを展開しみほに向かって撃ち込んだ。みほはこれを避けつつ再び愛里寿の機体に斬りかかろうと接近した

 

 

「··········行け」

 

 

愛里寿がそう言うとネティクスの背部にある2基のブースターパックの様な物が突然射出され予測不能な動きでみほに迫ってきた

 

 

「これって·····オールレンジ攻撃!?」

 

 

ネティクスの背部に有線式で繋がれていた【ビット】はみほのガンダムの周りに取り付くと高出力のビームを放ってきた

みほはこれを避けるために回避行動を取ったせいでネティクスのビームランチャーから放たれたビームを避けれず左脚を撃ち抜かれた

 

 

「うわあっ!機体のバランスが!」

 

 

みほは危険だと思い退避しようとスラスターを全開で吹かしたが愛里寿のネティクスは逃亡を許さず再びビットをこちらへ射出しながら追いかけてきた

 

 

「西住みほ··········おまえは必ず手に入れる··········今日、ここで··········!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホワイトベースの方では先程レビンのフルアーマーガンダムが突撃して来たため全員でこれを落とそうと奮闘していた。しかし無慈悲にもフルアーマーガンダムは4枚のシールドでマシンガン等を防ぎながら突撃してきた

 

 

「きゃあああ!やられたー!」

 

「あや!ってうわあぁぁ!」

 

「ヘッ、まぁ始めたばかりの寄せ集めだしこんなモンか··········ってオイオイ不意打ちは許さねぇぜ」

 

「···············!」

 

 

レビンは梓とあやのジム・ライトアーマーを撃破しつつ背後から斬りかかろうとした紗希のライトアーマーの腹部にビームサーベルを突き刺した

 

 

「いくぞ河西!根性だ!」

 

「ハイ!私達の力を見せつけましょう!」

 

 

典子と忍のボールはフルアーマーガンダムの照準を撹乱させるため不規則に周りを飛び回った

 

 

「ほぉー棺桶の癖に面白いじゃねぇか。けど相手が悪かったな!」

 

 

レビンのフルアーマーガンダムは全身のミサイルベイを展開し大量の小型ミサイルを2機のボールへ向けて一斉に放った

 

 

「そんな!いくら何でもズルすぎるー!」

 

 

典子と忍のボールは大量のミサイルを避けきれず敢え無く撃墜されてしまった

 

 

「くっ、早くあのガンダムを落とさなければ·····」

 

「冷泉さーん!貴方の相手は私達ですよ!」

 

 

すると麻子の機体の目の前にG04とG05が現れた

 

 

「その声···············確か島田ナオさんだったな!それじゃそっちの機体にはさらさんが··········」

 

「いかにも!覚えていてくれてありがとうございます〜!」

 

「麻子さん!離れてください!」

 

 

華のスナイパーカスタムが新装備のハンドビームガンを左衛門佐のザクスナイパーがバルカン砲をG05に向けて撃ったがG04がこれを庇うようにシールドで防いだ

 

 

「さら、少し頼めますか?」

 

「うん。任せて」

 

 

さらのG04は接近してくる華と左衛門佐の機体を制圧するため動き始めた

 

 

「あんた達一体どういうつもりだ!私と西住さんに用があるだけなら何でこんなことをする!?」

 

「本当はもっと穏便に行きたかったのですがそれも難しそうなので勢いだけで連れて行くことにしました。みほさんと麻子さん、貴方をね」

 

「連れて行く·····?私と西住さんをだと··········?」

 

「麻子さん··········本当の自分の事を知りたくないですか?そしてお父さんとお母さんの事も··········」

 

 

 

 

 

 

 

 

「左舷メガ粒子砲損傷!ビーハイヴの方も敵スナイパーに武装がどんどん壊されてるみたいです!」

 

「な、何だとお!?ええい相手はたかがMS数機だぞ!」

 

ホワイトベースのブリッジ内もどんどん悪くなっていく戦況に皆焦りを覚えていた

 

 

「現在4枚盾のガンダムにはゆかりんとカエサルさんが戦闘中!みぽりんは今だ羽付きと戦闘中です!」

 

「角谷!おまえのGブル借りるけどいいよな!?」

 

 

少し席を外していたロックオンがパイロットスーツに着替えてブリッジに戻ってきた

 

 

「ニールちゃん!出撃するの!?」

 

「ああ!あんなのしかないが誰か助けに来るまで時間を稼がにゃならんだろ!だから頼む!」

 

「··········わかった!その代わりあまり無理しないでね!」

 

「なーに心配すんな!アイツら全員落として帰ってきてやるよ!」

 

そう言い残しロックオンはブリッジを出てMSデッキに向かった

 

MSデッキでリュウセイがGブルイージーの調整を終えていた為いつでも発進できるようになっていた

 

「教官さん!わかってると思いますがGブルは地表上を動く為の兵器なので宇宙空間じゃただの的になるかもしれません!敵スナイパーもいるので砲撃の際はホワイトベースの影から行ってください!」

 

「了解!行こうぜハロ!」

 

「リョーカイ!リョーカイ!」

 

 

ロックオンとハロはGブルイージーのコクピットに乗り込むとMSデッキのハッチが開かれた

 

 

「ロックオン・ストラトス、目標を狙い撃つ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほと麻子を狙い突如襲来した島田ファミリー。彼女達の圧倒的力の前にみほ達は為す術もなく制圧されていくしかないのか··········

 

次回 ガールズ&ガンダム『激突宙域』

 

海賊と騎士、2つの炎が暗き宇宙に光を灯す

 




読んでいただきありがとうございました

リボンズはロックオンやサーシェスと違ってガンダムooの世界そのままの記憶を持って転生してきたという感じでございます。愛里寿の叔父になった経緯は後々話に出していこうと思います

初めての宇宙編はもうちょっと続くと思います



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10話 激突宙域

前回誤字報告をくださった方大変ありがとうございました。直してもらえて本当に助かりました。
これからはこういったミスにも気を付けて書いて行こうと思います

今回僕の大好きなガンダムキャラが登場しますのでご了承いただけると幸いです

bgmはガンダムooより『oo-RAISER』でよろしくお願いします




突如訓練中のみほ達の元に襲来した【島田ファミリー】。彼女達の作戦によりみほは孤立させられ愛里寿の乗るネティクスはみほを連れ去ろうと攻撃を開始、他の生徒達も反撃を試みようと立ち向かって行った。しかし島田レビンのフルアーマーガンダムとビッグガンで長距離狙撃を仕掛ける島田トレノにより次々と無力化されてしまい更なる窮地へ追い込まれていった

 

 

「はあぁぁぁぁ!」

 

「チッ!ちょこまか動きやがって!」

 

 

優花里の高機動型ザクは機動力を生かしてフルアーマーガンダムからのビームライフルを回避しながらマシンガンで応戦していた。そして優花里の後方からカエサルの右脚を失ったザクIs型がフルアーマーガンダムの射線上に入らないように動きつつ隙を見てラケーテン・バズを撃ち込んでいた

 

 

「くそっ当たらない!秋山さん!無茶な頼みだが少しでもいいからヤツの動きを止めて欲しい!」

 

「了解しました!やってみます!」

 

 

優花里はマシンガンを撃ちながら右手にヒートホークを装備しフルアーマーガンダムに接近しようとした

 

 

「白兵だと?ザクがガンダムに勝てるとでも思ってんのかよ!」

 

 

それに対してレビンも左手でビームサーベルを抜くとサブアームのシールドを前面に構えながら優花里のザクへ吶喊していった。2機は互いに斬りかかり数回斬撃を打ち込みあった後鍔迫り合いになったが、レビンはガンダムの馬力を生かして右足で優花里のザクを蹴り飛ばすと、ビームライフルのビームをサーベル状に収束させてそのまま優花里のザクをなぎ払おうとした

 

 

「うわあっ!やられる!」

 

「買ったばかりの新車みてぇだが··········悪いがいただくぜ!」

 

「今!落ちろガンダム!」

 

 

レビンが優花里のザクを行動不能にしようとトドメを刺そうとした瞬間、真下に潜りこんだカエサルのザクIs型はフルアーマーガンダムに向けラケーテン・バズを撃ち込んだ

 

 

「なっ!」

 

 

反応が遅れたレビンは回避しようと飛び上がったがロケット弾は命中しフルアーマーガンダムは巨大な爆煙に包まれた

 

 

「お見事ですカエサル殿!」

 

「やったのか!?··········いやまだだ!」

 

 

すると爆煙の中からバックパックをパージしたフルアーマーガンダムが現れた。どうやらラケーテン・バズは背後に命中していたようで、多くの火器とシールド2枚を搭載していたバックパックを失った為先程よりもスリムな見た目に変貌していた

 

 

「···············やってくれんじゃねぇか。正直初心者だと思って舐めてたが·········反省しなきゃなんねぇみたいだな」

 

「·····ッ!来るぞ秋山さん!」

 

「たかがモビル道でこんなに熱くなるのは久しぶりだぜ··········覚悟しな!」

 

 

レビンのフルアーマーガンダムは右手のビームライフルと左手のロケットランチャーを乱射しながら再び優花里とカエサルの機体の方へ迫って行った

 

 

 

 

 

「先輩達凄い··········」

 

 

一方撃破されてしまった梓はコクピットから謎のガンダムと激戦を繰り広げる先輩達の姿を呆然と眺めていた

 

「ねぇ梓、紗希ちゃん···············私達いつまでこのままなのかな··········」

 

「あや!だ、大丈夫だよ!きっと教官さんが助けに来てくれるから!」

 

「でも船の方も襲われてるし··········私達本当に帰れるのかな·········」

 

「····················」

 

「嘘···············そんな事あるの··········?」

 

 

あやの言葉を聞き梓は自分達の置かれてる状況を再認識した。

通信はできるものの機体を動かす事はできなくなってしまった為宇宙空間を漂っている形となっていた。さらに救援が本当に来るのかも定かではなく謎のガンダム達がいつまで暴れ続けているのかもわからなかったので、もしかしたらこのまま艦も動けない程に破壊され皆帰れなくなるのではないかという不安が募ってきた

 

 

「皆さん大丈夫ですか!?ケガ人はいませんか!」

 

 

すると作業用のプチモビに乗ったリュウセイがホワイトベースのMSデッキからクレーン付きのワイヤーを何本か持ってこちらへ向かってきた

 

 

「り、リュウセイ先輩!?私達は全員無事です!ケガ人もいません!」

 

「·····良かったぁ···············もう駄目だと思った··········」

 

「お待たせしてすみません!バレー部の皆さんを先に回収していたので遅れてしまいました!今ワイヤーでホワイトベースの方まで引っ張るので待っててください!」

 

リュウセイが回収に来てくれたので梓はほっと胸を撫で下ろし、あやは目に涙を浮かべていた。リュウセイは持ってきたワイヤーを梓達のライトアーマーに固定するとホワイトベースに連絡してワイヤーを巻き取って貰おうとした

 

(どうか撃たれませんように···········)

 

 

 

 

 

(あのちっさいの··········撃破された機体を回収しようとしてんのか··········)

 

 

遠く離れた位置で待機していた愛里寿達の母艦【スパルタン】、ザクIIに乗ったトレノは甲板上に設置されたビッグガンの銃口を梓達を回収しようとしていたリュウセイの乗るプチモビに向けその姿を射撃用スコープで覗いていた

 

 

(ああいうのも撃った方がいいスよね········でもプチモビなんかにモビル道のビーム撃つとパイロットの人絶対無事じゃ済まないッスよね········怖いし辞めとこ·······)

 

 

トレノはリュウセイ達を注視しつつ戦闘中の愛里寿達のバックアップに努めようとした

しかし突然コクピット内にアラートが鳴り響いた

 

 

「···!しまった!」

 

 

トレノのザクは咄嗟にビッグガンから退避するとホワイトベースの方からビームが飛んできて設置されていたビッグガンを破壊した

 

 

『どうしたトレノ?何があった?』

 

 

するとスパルタンから白髪で感情を持っていなさそうな表情の男がトレノに通信を送ってきた

 

 

「エトっちごめんなさい!ビッグガンが狙撃されて壊れちゃったっス!」

 

『何をやっている··········狙撃だと?』

 

「そうなんスよ!スナイパーの機体は確かにぜんぶ排除したはずなのに··········あ、そういえばあの子達の教官って!」

 

『···············ロックオン・ストラトスか。目を患っていたはずだがまさかこの距離を撃ってくるとはな』

 

「マズいっスよ!このままじゃ愛里寿っちが邪魔されちゃうっス!俺も今から援護に行って来るっス!」

 

『トレノおまえはもう帰投しろ。それに心配する必要はない。作戦は必ず成功するはずだ』

 

 

トレノは少し不安に思いながらも彼の言う事に従いスパルタンのMSデッキへ帰って行った

 

 

(ついにこの時が来たのだ···············西住みほ··········貴様の体さえあれば彼女を取り戻せる···············)

 

 

トレノとの通信を終えた白髪の青年は心の中で熱くそう呟いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メイチュウ!テキホウダイ、チンモク!」

 

「よし··········!敵スナイパーが移動してなくてラッキーだったな」

 

 

Gブルイージーで出撃したロックオンはビッグガンへの狙撃を成功させ再びホワイトベースの陰に隠れた

 

 

「リュウセイ!やられた皆の回収は終わったか!?」

 

『完了しました!皆さん無事です!』

 

「わかった!武部!五十鈴達にもうちょっと気を引くよう伝えてくれ!俺はあの羽付きを撃ち落とす!」

 

『了解です!』

 

 

ロックオンは射撃用スコープを覗きみほのガンダムに襲いかかっていたネティクスの背後を狙った

 

 

「これ以上好き勝手させるかよ··········狙い撃つ!」

 

 

ロックオンみほのガンダムを追うのに夢中なネティクスに照準を合わせトリガーに指を掛けた。敵はこちらの存在にまだ気づいてないようだったのでロックオンは確実に命中するよう狙いを定めビーム砲を最大まで充填させてトリガーを引いた

 

 

 

 

 

 

 

その時、誰かの声が宇宙に響いた

 

 

 

 

 

 

 

(······························愛里寿。後ろだよ)

 

 

ロックオンはトリガーを引いた時敵はセンサーによるアラームを聞いたとしても回避し切れない·····そう確信していた

 

しかしGブルのビーム砲からビームが発射される瞬間、ネティクスは撃たれるのがわかっていたかのようにビームの射線上から飛翔した。

 

 

「外れた··········いや避けたのかよ!?」

 

 

確実に狙いを定めて最大出力のビームがいとも簡単に避けられロックオンは驚愕してスコープを退けて再びみほを追い始めたネティクスに目を剥いた

 

 

「··········お姉ちゃん。私一人で大丈夫なんだから余計な事言わないで」

 

(そうかい?それよりもさっきからちょっと怖い顔になってるよ。せっかく遊びに来たんだからもっとのんびり行こうじゃないか)

 

「···············わかった」

 

 

愛里寿は少し間を空けてから突如語り掛けてきた謎の声に返事をした

 

 

(誰··········?今の声··········)

 

 

同じ時ネティクスに追われていたみほの頭の中に少女の声が聞こえていた。その声が誰の物なのか全くわからなかったが遠い昔··········どこかで聞いた事のあるような懐かしさを感じた

 

 

 

 

 

「····················何?今の·····」

 

 

そしてその声は何故かホワイトベースにいる沙織にも届いていた

 

 

「武部ちゃん?どうかしたの?」

 

「え···············いや、なんでもないです!」

 

「ぼさっとしてるんじゃない!非常事態だぞ!」

 

 

桃に怒鳴られた沙織であったが今起きた不可解な現象が理解できず耳に入ってこなかった。

一体誰の声だったのか、何故頭の中に直接響いてきたのか··········今まで体験する事が無かった為頭がいっぱいになってしまった

 

だがそんな事を考えている暇もなくレーダーにおびただしい数の機影が映り沙織は驚愕した

 

 

「わあっ!後方より所属不明のMS多数接近!凄い数です!」

 

「何だと!?もしかして救助隊が来てくれたのか!?」

 

「暗号通信も届きました。確か解析する時って·············ええっと··········」

 

「早く解析しろ!何やってんだ!」

 

「暗号通信··········?なんでそんなの送ってくるんだろ?」

 

「解析できました!··········『我々は知波単学園モビル道チーム。貴艦の救難信号承りましたので援護します』·····あれ?連盟の人達じゃないのかな?」

 

 

 

 

ホワイトベースのクルー達が困惑する中、おびただしい数のMSで構成された大部隊が接近しつつあった

 

 

「まさか我々と同じ様に野良試合を申し込む同士がいたとは思いもしなかったでありますな!」

 

「西絹代··········あれは本当に野良試合を申し込まれた者達なのか?大洗女子学園なんて聞いた事もないぞ·····」

 

「そうに決まってるじゃないですかマシュマーさん!とはいえ申し出を拒まれたからと八つ当たりをするなど不埒千万!よって我らキヌヨ・フリートが懲らしめてやりますよ!行くぞお前達!」

 

 

知波単学園モビル道部隊隊長西絹代··········彼女の乗る指揮官用ゲルググMを筆頭に大量の旧ザクやザクF2型が後に続きみほ達が戦っている舞台へ突撃して行った

 

 

「はぁ··········なんで偶然通りかかっただけなのにこんな面倒事に付き合わなくてはならないのだ··········」

 

「いいではないですかマシュマー様。普段から突然野良試合を申し込んでは爆散するせいで悪評ばかりだった知波単女子もこれで少しは株が上がると思います!」

 

「ええいゴットン!貴様がいつも奴らを甘やかしてるから女子の方はあまり強くないと嘗められるのだぞ!これ以上あの女にデカい胸·····じゃなくてデカい顔されてたまるか!我々も行くぞ!」

 

 

絹代達に置いてかれたザクII改は隣を随伴していたザクF2型にゲンコツを食らわせると絹代達の後を追ってスラスターを吹かして行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方麻子はナオの乗るガンダム5号機と一対一で相対していた

 

 

「おとうとおかあの事を知っているだと?なんで二人の事を·······?」

 

「麻子さんの事は色々と調べさせてもらいましたので。いやぁ〜凄いですねぇ〜。小学校の頃から今まで遅刻し放題で授業もロクに聞いてないはずなのに成績は常に学年トップで去年の全国統一模試も堂々の1位だったとか!」

 

「調べた·····?」

 

「それにスポーツも昔から何でもできちゃうらしいですね!モビル道も始めたばかりというのにあの聖グロリアーナ女学院のMSを一人で撃破するなんて!」

 

「ちょっと待ってくれ!私とあなたは昨日会ったばかりじゃないか!それなのに一体誰から私の情報を聞き出したんだ!?」

 

 

麻子は何故か自分の事を多く知っているナオに少し怯えつつもその真意を確かめるために迫った。何か嫌な予感を感じながらも··········

 

 

「·········何も覚えていないと思いますが今から10年前、麻子さんはご両親と一緒に月の研究所から地球へ逃亡しました」

 

「··········は?」

 

「研究所は脱走したあなたが何か行動を起こすのではと警戒しつい最近まであなたの監視を続けていました。なので研究所にはあなたのこれまでのデータが全て記録されていましま」

 

「ちょっと待ってくれ··········研究所?何だそれは·····そんな場所の事私は何も······うっ!」

 

 

突然凄まじい頭痛が襲いかかり麻子はヘルメット越しに頭を抑えた

 

 

「うあっ·······!何だ··········頭が··········!」

 

「麻子さん··········ご両親はあなたを思って過去の記憶を全て消してしまったようですね。」

 

「··········うるさい!私は冷泉麻子だ!それ以外の何者でもない!だからそんな研究所なんかと何の関係もあるはずがないだろ!」

 

 

麻子は大いに取り乱しながら操縦桿を握り、ガンダム5号機にマニュピレーターで殴り掛かろうとした。しかしナオはガンダム5号機のマニュピレーターでこれを受け止めそのまま力を加えて握り潰した

 

 

「なっ··········クソ!」

 

 

マニュピレーターを潰され焦った麻子はスラスターで後方へ移動し両肩のキャノン砲を放とうとした。しかしあまりに見え透いていたためナオはバックパックのビームサーベルを2本、ブーメランのように投擲し両肩のキャノン砲を破壊した

 

 

「クソっクソっ!何なんだ·····何なんだあんた達は!」

 

「麻子さん。あなたはお父さんとお母さんの事をちゃんと覚えていますか?亡くなる以前ののお二人を··········ちゃんと覚えていますか?」

 

「うるさい!そんなの覚えてるに決まってるだろ!二人とは一緒に水族館にも行ったし海にも行った!それに················あ··········あれ··········?」

 

 

大切な父親と母親との思い出があまり浮かんで来なかった。というよりも今口にした事以外を思い出そうとすると再び頭痛が襲ってきた。

絶対に答えなければならない··········これだけしか思い出せない等と納得する訳にはいかない··········そう思ったが二人と過ごしていたシーンがそれ以外頭に浮かんでこなかった

 

 

「なんで··········どうして·····どうして思い出せないんだ·········」

 

「··········あまり思い出すべき事ではないのかもしれません。全ては悪い大人達のせいで」

 

「この世界を··········裁く·····?」

 

「麻子さん、私達と一緒に来てください。そうすればあなたはご自身の全てを思い出す事ができます」

 

 

ナオは真剣な口調で麻子に語り掛けた。麻子は完全に意気消沈してしまい頭を抱えて震えていた

 

 

「お姉ちゃん。かなりの数のMSが近づいてくる。全部向こうの援軍みたい」

 

 

既に華と左衛門佐の機体を無力化していたさらは接近してくる絹代達の存在に気づきナオに伝えに来た

 

 

「ほぇー。凄い数だねぇ〜··········ちょっとあの人達の相手をしてきます。なので終わるまで麻子さんはどうするか考えておいてください」

 

「····················。」

 

 

麻子から返事は無かったがナオのガンダム5号機はさらのガンダム4号機と共に絹代達を迎え撃ちにいった

 

 

「西隊長!向こうからガンダムタイプが2機接近してきます!」

 

「よし!全機突撃!我ら知波単の伝統的突撃を見せつける時ぞ!」

 

 

絹代のゲルググMがナオ達の方に向かって指を指すと40機近くの旧ザクやF2型が一斉に突撃した

 

 

 

「ブーッ!オイオイオイオイ!なんだよありゃ!」

 

 

その様子を見てレビンは驚き思わず吹き出してしまった。彼は既にカエサルと優花里の機体を行動不能にしており左手で高機動型ザクの全身を頭部から掴みぶら下げていた

 

 

「ううう·········早く西住殿の援護を··········」

 

「オイオイあれの事は諦めろって。それに西住みほって根暗なヤツなんだろ?別に居なくなってもいいじゃねぇか」

 

「··········あなたに西住殿の何がわかるって言うんですか!西住殿はとっても優しくて··········私の大切な御友人なんです!あなたの思ってる様な人ではありません!」

 

「··········確かに何もわかっちゃいねぇし知る気もねぇな。てかオールドタイプ如きがニュータイプと友達になんてなれる訳ねぇだろ··········」

 

 

レビンのフルアーマーガンダムは持っていた優花里の高機動型ザクを放り投げると再びビームライフルからサーベルを展開させなぎ払おうとした

 

 

「秋山さん!」

 

「気に入らねぇな··········見逃してやろうと思ったがやっぱ高い修理代払わせたくなったぜ!」

 

 

フルアーマーガンダムの斬撃が迫り優花里は恐怖で目を瞑った···············しかし斬撃は優花里のザクには届かず突如現れたザクII改がヒートホークでフルアーマーガンダムのサーベルを受け止めていた

 

 

「えっ·····誰?」

 

「あぁ!?誰だテメェ!」

 

「ゴットン!今のうちに彼女達をザンジバルまで連れて行け!コイツは私が引き受ける!」

 

 

赤い薔薇のエンブレムを右肩のシールドに装飾したザクII改に乗っていた男がそう言うと後方からザクF2型が現れ優花里とカエサルの機体を掴んで飛び去っていった

 

 

「あ、あの!貴方達は一体··········」

 

「我々は救難信号を受諾した知波単学園であります!私は知波単学園3年、男子モビル道副隊長のゴットン・ゴーであります!」

 

「知波単学園·····?貴方達もこの宙域で訓練を?」

 

「いえいえ!うちのお姫様のご要望で宇宙で訓練してる学校にドッグファイトを挑もうとうろついていました!そして今あそこに居残ったのが男子の隊長マシュマー・セロ様です!」

 

 

ゴットンの言う事に優花里とカエサルはポカンとなってしまったがとにかく味方が来てくれた事を知りホッと胸をなでおろした

 

 

「テメェよくも邪魔してくれたな······」

 

「行動不能のMSに追い打ちをかけるとは騎士道精神の欠片もない奴の様だな。貴様の様な野蛮な者にはこのマシュマーが正義の鉄槌を下してやる!覚悟ォ!」

 

「俺とガンダムに喧嘩売ったんだ··········後悔させてやるよ!」

 

 

マシュマーは雄叫びを上げながらヒートホークで斬りかかりレビンのフルアーマーガンダムもビームライフルを展開し2機の斬撃が切り結ばれ激しい鍔迫り合いに発展して行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「援軍?もう到着したのか··········」

 

 

愛里寿は救援に駆けつけた知波単の大部隊をの方を見て呟いた。しかしロックオンからの狙撃は悠々と回避しながらみほへの追撃の手を緩めることはなかった

 

 

「くっ···············」

 

 

みほのプロトタイプガンダムは回避に専念する事で何とかネティクスのビット攻撃を回避し続けていたがホワイトベースが見えなくなる程距離が離れてしまい隕石群の中に追いやられていた

 

 

『西住!やっと救援が来てくれたからホワイトベースと一緒に今すぐそっちに向かう!もう少しだけ耐えてくれ!』

 

「わかりました!」

 

(へぇ、あれがあの西住みほちゃんなのか。随分実力のあるパイロットに育ったみたいだね。それとも愛里寿がまだ私のネティクスに慣れてないだけかな?)

 

「お姉ちゃん静かにして··········私だってやれるんだから··········」

 

(ははは、ごめんごめん。やっぱり楽しいね。みんなと一緒に宇宙で遊ぶのは··········)

 

「·····誰なんですか?その中にいるんですよね?一体誰なんですか!?」

 

 

また頭の中に先程の少女の声が響いてきたのでみほはネティクスに通信を送り声の主を尋ねた。するとネティクスは動きを止めビットを自機のサイドに停滞させた

 

 

「··········何だと?」

 

(おや?もしかして私の声が聞こえてるのかい?)

 

「はい··········どこかで聞いた事のある声なのですごく気になって··········」

 

(へぇ··········まだ少しだけ眠ってない力があったんだね。それにしても初めてだよ。この姿になってから愛里寿以外の誰かと話したのは)

 

 

謎の少女はとても喜んでいる様であった。とても優しそうで心落ち着くような声が頭に響いていたのでみほは思わず展開していたビームサーベルを収めていた

 

 

「あなたは誰なんですか?どこかで会った事とかありましたっけ··········?」

 

(そうか、こうしてちゃんと話すのは初めてだったね。私達は今から11年前くらいにこの宇宙で出会ったんだよ、西住みほちゃん··········いや、もう高校生だしみほさんだね)

 

「11年前···············」

 

 

11年前といえばクリスマスに母と姉と一緒に初めて宇宙へ来た年であった。

みほは当時の事を思い出した··········お母さんからプレゼントを貰いお姉ちゃんとホテルでいっぱい遊んだり二人と遊園地へ行った事··········すると今まで忘れかけていたがあの時自分に未知の力を与えた少女がいた事を思い出した

 

 

「まさかあなたは···············」

 

「··········黙れ···············それ以上何も言うな··········」

 

すると怒りに満ちた声が頭の中ではなくコクピットのスピーカーから聞こえてきた。愛里寿の声であった

 

 

(愛里寿?どうしたんだい?)

 

「私とお姉ちゃんの中に··········家族でもないくせに土足で入ってくるなんて···············恥を知れ!」

 

 

すると愛里寿の身体の内側から燃え上がる炎の様な赤いオーラが湧き上がり愛里寿自身とネティクスの全身を包み込んだ

 

 

(愛里寿!いきなり何をしているんだ!)

 

「お姉ちゃんは黙ってて·····もう終わらせるから·····!」

 

 

赤いオーラを纏ったネティクスから体を凍り付かせてしまうような凄まじいプレッシャーを感じみほはすぐさま距離を取ろうと移動しようとした

しかしネティクスから放たれた2基のビットは先程とは比べ物にならない程の挙動で動き始め、みほのガンダムの周りを囲む様な軌道を描きながらビームを発射した

 

 

「きゃあああ!」

 

 

みほは回避しようと試みたもののビットによって四方八方から放たれるビームに頭部と右腕、そして残っていた右脚を撃ち抜かれ完全に身動きが取れなくなってしまった

 

 

「やっと終わったよお姉ちゃん···············」

 

(愛里寿、心を落ち着かせるんだ。今のおまえは少し危険だよ)

 

「もう大丈夫··········さぁお姉ちゃん。()()()()()西()()()()()()()()()()

 

(···············本当にこうする以外ないのかい?)

 

「お姉ちゃんだってわかってるでしょ。お姉ちゃんと同じ位のニュータイプがいなければ私達の願いは叶えられない。そのために私じゃなくて西住みほの体を乗っ取るって決めたんでしょ?」

 

(····················わかったよ·····)

 

 

ネティクスは展開していたビットを回収するとボロボロになったみほのガンダムへ近づいていき、互いのコクピットハッチをくっつけるように抱き寄せてきた

 

 

(ごめんねみほさん。君を連れていくと言っていたがそうじゃないんだ)

 

「え·····?な、何をするんですか?」

 

(私達がこの世界の大人達を··········人類を正しくさせる為にはどうしても本物のニュータイプの力が必要なんだ。全てが終わるまで·····君の体を貸して欲しい)

 

 

みほは何を言われているのか全く理解できなかった。だがそれを考える暇もなく誰かが自分の中に入ってこようとしている感覚がした。

それが誰なのかはともかく、みほはとても心地よく優しい腕の中で抱きしめられているかのような感覚に陥り、その心地良さに段々と眠くなっていき意識が遠のいて行った

 

 

『···············りん!···············みぽりん··········!みぽりん返事して!』

 

 

意識が遠のいて行く中、自分を呼んでいる沙織の声に気づきみほは一瞬だけ意識を取り戻した

 

 

(·····何?誰かが私達の間に干渉しているのか···········?)

 

 

突如コクピット内にアラームが鳴り響いた。頭上の方からミサイルが数発ネティクスに向けて発射され、それに気づいた愛里寿は回避するためみほのガンダムから離れた

 

上を見上げるとそこには身の丈以上の大剣を持ったリック・ドムII(ツヴァイ)と上半身を隠すようにマントを纏い脚部のミサイルポッドから硝煙が立ち昇らせていたMSがこちらを見下ろしていた

 

 

「······貴様·········何者だ。」

 

 

邪魔をされた愛里寿は苛立ちながら突然現れたMSに通信を送った。マントを纏っていたMSはマントを投げ捨てる様に引き剥がすと···············純白のジムに似た姿が顕となり、急降下するとみほのガンダムを庇うようにネティクスに立ち塞がった

 

 

「あ、あの貴方は·····」

 

 

意識を完全に取り戻したみほは純白のMSのパイロットに通信を送った

 

石動(イスルギ)。彼女を安全な場所まで避難させろ。この機体は私が引き受ける」

 

 

純白のMS··········【RX-80PR ペイルライダー】のパイロットの男はリック・ドムIIのパイロットに指示を出した

 

 

「その声は確かチョコレートさん··········じゃなくてマクギリスさん·····ですか!?」

 

 

以前の聖グロリアーナ女学院との練習試合にてグロリアーナ側にメカニックとして参加していたマクギリス・ファリド。みほは彼がこんな所に突然現れた事に驚愕した

 

 

「覚えていてくれたとは嬉しいよ。西住みほさん」

 

「どうしてここに·····?」

 

「驚かせようと思って君達の訓練に混ぜてもらおうと思ったが··········まさかこんな事になっているとはね」

 

「准将。我々はここから彼女達の母艦まで退避します」

 

 

石動のリック・ドムIIは大破したみほのガンダムを抱え離脱しようとした。しかし愛里寿のネティクスがビットを飛ばしこれを制した

 

 

「逃がさない··········絶対逃がさないんだから·······」

 

 

愛里寿は激昴しながらもビームサーベルを展開した。マクギリスのペイルライダーもそれに対して両腰からビームナギナタを一本ずつ両手に持ちネティクスの方へ構えた

 

 

「凄まじいプレッシャーだな···············だが敢えて言わせてもらう。··········()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

守りたかった、ずっと傍に居て欲しかった、それでも自身の弱さ故にその願いは叶わず大切な物を傷つけさせてしまった。失念の果て、後悔の先に彼女達が選んだ道とは··········

 

 

次回 ガールズ&ガンダム『お姉ちゃん』

 

 

進まなければ··········誰よりも前へ

 




読んでいただきありがとうございました

西隊長の機体がマリーネライターなのはもう西隊長がシーマ様に似てるからです!ごめんなさい··········
当ssでは知波単学園は共学になっております。理由は僕が昔から大好きなマシュマーとゴットンのコンビをどうしてもねじ込みたかったからです。
それとマシュマーというキャラがあまりにも可哀想な奴なので幸せになって欲しいなぁという欲から出す事に至りました。ごめんなさい·····

ちなみにマクギリスが乗っていたペイルライダーはヴィンセント・グライスナー機です。理由はただの声優繋がりです()


ちなみにめちゃくちゃどうでもよいのですが僕の好きなガンダムの女性キャラクターはプルとキャラ様とリリーナ様とフレイとマリナ姫です!
でもどう考えてもいい感じに出させる方法が思いつかないので出さないと思います··········






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11話 お姉ちゃん

島田ファミリー戦は一応決着となります

今回もよろしくお願いします


みほを連れ去ろうと強行する愛里寿のネティクス、愛里寿の邪魔はさせまいと他の生徒達の前に立ち塞がる3機のガンダム。

 

まだ慣れない宇宙空間の中みほを助けに行こうと皆立ち向かおうとするも次々と行動不能にされてしまう。このままではみほが連れて行かれる···············しかし彼女達の下にホワイトベースからの救難信号を受け取った知波単学園モビル道所属艦隊、西絹代率いる【絹代・フリート】と聖グロリアーナ女学院との練習試合後に知り合った大学生、マクギリス・ファリドの駆る純白のペイルライダーが救援に駆けつけた。襲来した島田ファミリーとの戦いは最終局面を迎えようとしていた

 

 

「五十鈴さん、左衛門佐さん聞こえますか!怪我はありませんか!?」

 

 

知波単のMS達がガンダム4号機と5号機と戦闘中の間にリュウセイはプチモビで行動不能にされてしまった華と左衛門佐の機体を回収し、今度はビーハイヴのMSデッキに収容し二人の名前を呼び安否を確認していた

 

 

「私は大丈夫です。けれど冷泉さんとみほさんがまだ·····」

 

「あの2機··········凄い数のMSを相手にしながら冷泉さんの機体を守護するように動いてるぞ··········」

 

 

左衛門佐の見た通りガンダム4号機と5号機は麻子の機体からあまり離れず抜群のコンビネーションで絹代の指揮官用ゲルググMを含む圧倒的数のMSを相手にしていた

するとビーハイヴのブリッジに絹代から通信が送られてきた

 

 

『こちら知波単学園絹代・フリート司令官の西絹代と申します!あちらのガンキャノン殿は我々が必ず助けますので任せてくださいつ!』

 

「了解です!貴艦の救援大変有難く思います!」

 

「教官さん!冷泉先輩は知波単学園の皆さんが助けてくれるみたいです!」

 

『わかった!ビーハイヴはここに残ってできるだけ知波単の援護を頼む!俺達は西住を助けに行ってくる!』

 

 

エルヴィンが絹代に礼を言うと妙子はホワイトベースの甲板上からネティクスを狙撃しようとしていたロックオンに連絡を入れた。ロックオンは射撃用スコープで遠く離れた隕石群にいるネティクスを狙おうとするも隕石に阻まれ狙撃できずにいた

 

 

『くっ··········ん?他に誰かいるのか?』

 

 

するとネティクスと戦闘を繰り広げる白い機体がチラッと見えた。味方かどうかわからないがネティクスの敵ではある様だったのでロックオンはその機体を狙わないようにしホワイトベースにみほの下へ急ぐよう指示を出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほは既に左腕と胴体以外の部位を破壊され行動不能になってしまったプロトタイプガンダムのコクピットから愛里寿のネティクスと熾烈な戦いを繰り広げるマクギリスのペイルライダーを見守っていた

 

マクギリスのペイルライダーはサーベルを二刀流で持ち格闘戦を挑もうとネティクスに斬りかかるも愛里寿の格闘センスは大学生の彼に全く引けを取っておらず彼の行動に対応し、むしろ圧倒する勢いで彼の機体に斬りかかり2基のビットを駆使して本気でペイルライダーを撃墜しようとしていた

 

 

(このガンダムのパイロット······やるな·········)

 

 

マクギリスはネティクスのビット攻撃を回避しつつネティクスに仕掛けようとするも全て対応され2基のビット攻撃を避けるために一撃離脱を強要されていた。加えてネティクスのパイロットから尋常じゃない程のプレッシャーを感じマクギリスは無意識のうちに冷や汗をかいていた

 

 

「凄い··········」

 

「大洗女子学園のパイロット聞こえるか。質問に答えて欲しい。今准将と戦ってるあのMS··········パイロットは何者だ?」

 

 

すると突然みほにリック・ドムIIのパイロットの男から通信が入ってきた

 

 

「え·····私もよくわかりませんがおそらく島田流の人だと思います·······」

 

「島田流だと?古い流派とはいえあの准将をここまで苦戦させる門下生がいるとは···········」

 

 

彼の言う通りマクギリスは決して弱い選手ではなかった。少々魅せたがる戦いを好む傾向があったがそれを差し引いても彼の実力は全国の大学でもトップクラスであり、彼とペイルライダーが敗れた所など数回程しか見た事がなかった

だからこそマクギリスが今現在若干押されているがにわかに信じられなかった

 

 

「··················ならばッ!」

 

「ッ!」

 

 

ネティクスのビットからビームが発射されたのと同時にマクギリスはビームナギナタを一本投げつけた。ナギナタにビームが命中すると大きな爆煙を上げて爆発し、マクギリスのペイルライダーは爆煙の中からネティクスへ急速接近した。

愛里寿は反応が僅かに遅れ斬りかかろうとするペイルライダーのサーベルを受け止めようとした··········がマクギリスのペイルライダーはネティクス本体から急旋回するとビームナギナタで2基のビットの内1基を両断した

 

 

「なっ·····!」

 

「准将·····!お見事です!」

 

「世辞はいい。石動、ヒートホークを貸してくれ。このまま一気に叩く」

 

 

リック・ドムIIが腰に装着していたヒートホークをマクギリスのペイルライダーの方へ投げ渡した。再び二刀流となったマクギリスのペイルライダーはビットを1基失ったネティクスに攻撃を再開しようとした

 

 

(··········凄いね。まさかオールドタイプでここまで戦える人がいるとは思わなかったよ)

 

「··········私だって···············私だってお姉ちゃんのガンダムを上手く使えるんだから!」

 

 

展開していたビットを回収し愛里寿のネティクスはビームサーベルをもう一本展開し二刀流になるとペイルライダーへ斬りかかろうとスラスターを吹かせた。2つの閃光は弧を描く様に飛翔しながら互いに斬撃を喰らわせようと何度もぶつかり合った

 

 

「フフフ···············聞こえているかねガンダムのパイロット。久しぶりだよここまで心躍る決闘は!」

 

「うるさい··········私達の邪魔をするなぁっ!」

 

「!パイロットはまだ子供だと··········?面白い!」

 

 

マクギリスは高揚した笑みを浮かべながら愛里寿のネティクスと激しい鍔迫り合いを繰り広げた

 

 

「准将が抑えてくれている。奴に気づかれないうちに機体を捨てて私の方へ来るんだ」

 

「えっ·····いいんですか?でも··········」

 

「迷っている暇はない。准将は確かに強いお方だが無敵ではない·······。パイロットスーツは着ているな?」

 

 

リック・ドムIIはマニュピレーターの掌をみほのコクピットの前に差し出した。みほは彼の言う事に従おうとシートベルトを外しコクピットから出ようとした

 

 

(みほさん、もう行ってしまうのかい?)

 

 

ハッチを開けようとした瞬間、また頭の中に少女の声が聞こえてきた

 

 

「·····貴方なんですよね?あの時私にニュータイプなんて力をくれたのは············」

 

(····ああ。そうだよ)

 

「なんで··········なんであんな力を私にくれたんですか!?そのせいで私は皆から··········!」

 

「どうした?誰と話している!?早く乗り移るんだ!」

 

 

彼にはみほと話している者の声が聞こえていなかった為に彼女が誰と話しているのかわからなかった。みほは感情が昂ってしまい彼の言葉を聞かずコクピット内に留まっていた

 

 

(ニュータイプなんて呼ばれる様になったから黒森峰では仲間外れにされる様になった。そう思っているんだね?·····でもそれは違うね)

 

「違くなんてありません!私は小梅さんを助けたかっただけなのに!ニュータイプなんて奇妙な力を持ってるからって皆私のせいにして!」

 

 

 

(だから違うんだよ。確か赤星小梅さんだったかな?あの時彼女に起きた事は事故でも何でもない。全部私達が仕組んだ事なのさ)

 

「え·····?」

 

 

突然あまりにも信じられない言葉が飛んできてみほは凍り付いたかの様に固まった

 

 

「何を言って··········え········貴方達が·····?」

 

 

(本当は今日みたいにやるのが一番簡単だったけどみほさんがニュータイプと呼ばれる様になってからというもの、君のお母さんは君の事を狙う者達からずっと守っていたものだからね。

私はこんな姿になってしまったし愛里寿達もおじさんに監視されているせいで皆で地球に降りる事はできなかった。だから君が黒森峰にいる間はどうしても連れて行くことができなかった)

 

 

「··········そんな事どうでもいい··········小梅さんはとても危険な状態だったんですよ!?それを貴方達の勝手な理由であんな危険な目に合わせて··········おかしいですよ貴方達は!」

 

(君が試合を放棄してでも彼女を助けてくれる、初めからそう確信してたから実行したにすぎないよ。とはいえとても大きな賭けだったよ。君が黒森峰でモビル道を辞めて大洗女子に転校、そして復活させたモビル道を無理矢理既習させられる事までが私達の筋書きだったからね。とても回りくどいやり方だったが私達にとってそれこそ君を手に入れる確実な方法だったんだ)

 

「···············何を言って·····じゃあ小梅さんを傷つけて、私を皆から遠ざけさせて·····私を大洗女子に転校させたのも·····全部·····今日私を連れて行く為に仕向けた事なんですか·····?」

 

 

恐ろしかった。自分を連れ去る今日という日を迎える為の計画に一年前から今まで彼女達の手の上で踊らされていた事が発覚し、そこまでして自分を手に入れようとする彼女達をみほはただ恐ろしいと思う事しかできなかった

 

 

(·····それはどうかな。大きな賭けだったと言っただろう?私達は君達にとってきっかけを作ったにすぎない。

赤星小梅さんを洗脳しあの不可解な事件を起こしたのはニュータイプである君だというでっち上げを信じ、君を避けて恐れて孤立させる事を選んだのはかつての君の友達だ。そして皆からのそういった感情に耐えきれず転校の道を選んだのは君自身で大洗女子で新しくモビル道を始めようと決意したのも君だ。

だがもし君がニュータイプである事を受け止めた上で分かってくれる人がいたなら私達の思惑通りにはならなかったはずだ)

 

「何が言いたいんですか·····?」

 

(·····この世界はね、私や君のようなニュータイプを先入観だけで化け物と決めつけ、自分とは違う存在だから、自分と比べて普通じゃないからという理由だけで認めず受け入れようとしない人が沢山いる。それだけでは収まらず自分よりも立場が低い存在だから、どうでもいい存在だからと平気で傷つけようとする人達も沢山いるんだ。

なんでそんな人達が平和なこの世界に絶えず存在し続けているのかな?どうして平和な世界になっても全ての人が幸せになれないと思う?···············それはこの世界の大人達が間違っているからなんだよ)

 

「間違っている··········?」

 

(そうさ。この世界は他者を思いやる事もなく自分よりも弱い人を踏みつけ利用しようとする人ばかりだよ。そしてその感情を持つ者が子供を作ればその子にも同じ様な魂が宿る。だから人は誰かを傷つけようとする宿命から逃れられず永遠と同じような事件や惨劇を繰り返し続けるのさ··········)

 

「そんなの··········いくら何でも短絡的すぎると思います!それに貴方達だって·····私達に同じ様な事をしてるじゃないですか!」

 

 

みほには彼女の言っている事が理解できない訳ではなかったが自分達がしてきた事を棚に上げてそんな事を言う彼女に思わず怒りがこみ上げてきた

 

 

(·····確かにそうだね。けれど愛里寿や私の姉弟達もこんな世界に傷つけられてきた。彼女達の様な悲しい子供達をこれ以上生み出させない為にも私は戦わなければならない。その為に君の存在が必要なんだよ)

 

「·····私にとって貴方達だって悪い人達と何の変わりもありません!そんな貴方達に世界を勝手に変える権利なんてないはずです!」

 

(·····賢しいなみほさんは········別にこの状態からでも君の体に入ることはできるんだ。多少強引で悪いけど一緒に来てもらうよ·····!)

 

『ちょっと辞めてよ!みぽりんを勝手に連れていこうとしないでよ!』

 

再び先誰かが頭に直接入ってくる様な、意識を奪われる様な感覚がみほに襲い掛かってきた時通信機から必死に叫ぶ沙織の声が聞こえた。どうやら近くまで接近しているようであった

 

 

「沙織さん!」

 

(何····?······君は誰だ?なんで私の声が聞こえているんだい?)

 

『え?なんでって···············ていうかどんな理由があるか知んないけどあんた達の勝手な理由で嫌がってるみぽりんを連れて行くなんて許さないんだから!』

 

(そんな馬鹿な·······今までだって愛里寿にしか届かなかったのに·······何故ニュータイプでもない人間が·······)

 

 

謎の少女は沙織の言葉が聴き入らない程動揺していた様で同時にみほに取り付くのも止めた様で意識が元に戻っていくのを感じた

 

 

(まさか·····!フフフフ········そういう事かみほさん。てっきりニュータイプとしての君の人格は完全に閉じこもってしまったと思っていたがその子がどうにかしてもう一人の君と接触して···············ニュータイプの力を目覚めさせてもらったみたいだね)

 

「え·····?沙織さんが········?」

 

『何·····?どういう事?』

 

(嬉しいよみほさん。やはりあの時君をニュータイプへ覚醒させたのは間違いじゃなかった。やはり君も私と同じ··········この世界を救う神様になれる存在だ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「·····また私とお姉ちゃんの世界に·······誰か入ってきた·····!」

 

「む、何だ·····?」

 

 

斬撃を激しく打ち込み合っていた愛里寿とマクギリスであったが突然愛里寿のネティクスは動きを停め、不審に思ったマクギリスはペイルライダーの操縦を止め様子を伺おうとした

 

 

「出て行け··········お姉ちゃんの事を·····私達の事を何にも知らない奴らが··········私達の中に入って来るなぁ!」

 

「何······なんだあの光は·····?」

 

 

再び愛里寿の湧き上がる怒りに呼応するかの様に彼女の身体から赤いオーラが発現し、ネティクスも機体全身に彼女から湧き上がる燃え上がる炎の様なオーラを纏っていた

 

 

「その力、EXAMの類ではないな。どうやら私はとんでもない存在と対峙していたようだな··········」

 

「准将!援護します!」

 

「石動、おまえは下がっていろ。あれは私が······俺が討つ!」

 

 

マクギリスはデバイスを操作し『HADESシステム』の起動コードを打ち込んだ。すると奇妙な機械音と共にモニターに『HADES』と表示されペイルライダーのメインカメラと機体各部が赤く発光し始めた

HADESシステムを起動させたマクギリスは生気に満ちた表情を浮かべながらペダルを踏み込み、赤く変色したスラスターを吹かせてネティクスへ斬りかかろうとした

 

怒りのオーラを纏いし愛里寿のネティクスも両手のビームサーベルでペイルライダーのビームナギナタによる斬撃を防ぎつつ彼の機体に斬りかかるももう片方のヒートホークにこれを阻まれた。2機は熾烈な連撃の打ち込み合いを始め互いに相手からの斬撃を防ぎつつ得物で斬りかかろうとするも防がれ、一種の膠着状態とも言える程に激しい格闘戦を繰り広げていた

 

 

「HADESを使ってもこれ程とは·······本当に面白いな!ガンダムのパイロット!」

 

「黙れ·····貴様の邪魔さえ無ければ全部上手く行ってたのに!」

 

「それはお互い様だろう?君達のおかげで彼女達へのサプライズも台無しにされたのだからね········だがここまで心躍る戦いができた事に 感謝しているよ!」

 

「···········もう容赦はしない。終わらせる」

 

 

2機は鍔迫り合いを繰り広げていたが突如愛里寿のネティクスはペイルライダーに向かって頭突きを繰り出し、ペイルライダーのバランスを大きく崩した隙に左マニュピレーターを蹴り上げ持っていたヒートホークを宙へ放り出させた。マクギリスは機体の姿勢を元に戻しもう片手に残っていたビームナギナタでネティクスを刺し貫こうとした···············が愛里寿のネティクスはナギナタを紙一重で見切りながらペイルライダーの下へ潜り込みナギナタごと右腕を斬り落とした

 

 

「な··········俺が·····負ける···············?」

 

 

マクギリスのペイルライダーは後方へスラスターを吹かし脚部ミサイルランチャーを撃とうとするもネティクスはそれを許さず距離を詰めビームサーベルでとどめを刺そうとした

 

 

「これで終わり。·········ッ!新手か!」

 

 

愛里寿は自分を狙う者の気配に気づきペイルライダーへの攻撃を止めて急旋回した。すると上方から愛里寿のネティクスとマクギリスのペイルライダーの間に高出力のビームが撃ち込まれ、見上げるとそこには大型ビームライフルとレドームを装備した青と白を基調としたガンダム、ガンダム試作0号機【ブロッサム】がこちらを見下ろしていた。どういう訳かみほはそのガンダムの姿を見て青ざめた顔を浮かべた

 

 

「·········嘘···············なんでここにいるの·····」

 

「貴様も私達の邪魔をする敵だな··········!許さないんだから·····!」

 

(あの機体は···············愛里寿、時間切れだ。よりにもよってめんどうな人が救援に来たみたいだね)

 

 

ブロッサムはみほのガンダムの前に降り大型ビームライフルをネティクスへ向けながらみほ達に通信を送った

 

 

「そこのペイルライダー後退しなさい。後は私が引き受けます。ガンダムのパイロットさん、怪我はない?」

 

「·························大丈夫です·····」

 

「··········その声·····貴方みほなの!?何故貴方がこんな所にいるの!?」

 

 

ブロッサムに乗っていたみほの母親、西住しほはモビル道を辞める為に転校した自分の娘が大破したプロトタイプガンダムに乗っている事にかなり驚愕していた

 

 

(今西住しほの相手をしたら確実にみほさんを離脱させられる。私達の負けだよ愛里寿。撤退しよう)

 

「·····嫌だ。今の私なら西住しほだって撃破できる··········それに西住みほさえ手に入ればお姉ちゃんは戻ってこれるから·····!」

 

(愛里寿、目的を見誤っては駄目だ。みほさんが必要なのは私を生き返らせる為じゃない··········世界中の人が幸せになれるよう導いてあげるためだろう?それに彼女は今力を取り戻し·····私達と同じ位のニュータイプへ成長しようとしている。だから今は彼女が覚醒を迎えるのを待とうじゃないか)

 

「嫌だ嫌だ!ずっと·····ずっと今日という日を待ってたんだもん·····!それが西住みほの体でもまたお姉ちゃんと一緒に··········家族皆で一緒にいられるんだもん!」

 

 

 

 

 

(··········その他人を踏みつけてでも幸せになろうとする考えを生む世界を私達は変えていかなきゃいけないんだ。私の言う事が聞けないなら·········悪いけど無理矢理連れて行かせるよ)

 

「え·····?嫌だよお姉ちゃん!私はまだ帰りたくない!辞めてよお姉ちゃん··········まだ··········私は···············」

 

(ごめんよ愛里寿。後で必ず返すから)

 

 

愛里寿から意識を奪った。するとネティクスに纏っていた赤いオーラが消え始め愛里寿自身からも消えていった···············しかし愛里寿が再び目を開けた瞬間尋常ではない程のプレッシャーがみほやしほ、近くにいた面々に襲い掛かってきた

 

 

「准将!これは一体··········」

 

「さっきとは比較にならないこの感覚·······まるでパイロットが変わったかのようだな·······」

 

(やはりあのガンダムに乗ってるのは島田の者··········しかし昔の千代を遥かに超えている程のこのプレッシャー··········一体何者なの·····?)

 

 

周りがネティクスから放たれたプレッシャーに気圧される中、みほはネティクスのパイロットから愛里寿ではなく先程まで自分と話していた謎の少女の気配を感じていた

 

 

「··········聞こえるかいみほさん。こうして直接話すのは初めてだね」

 

 

無線機から聞こえてきたのは愛里寿の声であったがその時みほは確信した。先程まで自分に入り込もうとしていた謎の少女は今現在愛里寿に憑依し自分に話し掛けてきていた

 

 

「君が力を取り戻し、真のニュータイプへ覚醒した時また迎えに来るよ」

 

「待ってください!なんでそんなに私に拘るんですか·····他の人じゃ駄目なんですか··········?」

 

「·······確かに君じゃなきゃいけなかった訳じゃない。だがあの時君が誰よりも心優しい人になってくれる·····そんな気がしたから君を選んだんだ。今でも信じてるよ··········それじゃあね」

 

 

みほにそう言い残すとネティクスはその場から高く飛翔し飛び去って行った

 

 

「逃げんのかよ!」

 

 

みほ達がいた隕石郡から離脱したネティクスとホワイトベースはすれ違う形となりロックオンはネティクスを狙撃しようとしたがかなりの高速で動いていた為捉える事ができなかった。みほは一筋の流星の様に駆けていくネティクスの姿を呆然と眺めていた

 

 

 

 

 

「ナオ、さら、レビン!作戦失敗だ。撤退するよ」

 

 

ネティクスは未だ戦闘中にあったナオ達の元に着くと3人に無線で呼びかけた

 

 

「この感じ···············愛里寿ちゃんじゃない··········美香お姉ちゃんなの?」

 

「美香··········?どうしてみほさんじゃなくて愛里寿の体にいるの!?それに作戦失敗ってどういう事!?」

 

「説明は後。長居は無用だから早く帰るよ」

 

「美香だと!··········チッ、仕方ねぇ」

 

 

レビンはフルアーマーガンダムの左腕に装備されたグレネードランチャーをパージしビームライフルで撃ち抜いた。激しい爆発と共に大きな爆煙が生じマシュマーはフルアーマーガンダムの姿が爆煙に隠れた為視認できなくなっていた

 

 

「なっ、貴様!しっぽを巻いて逃げる気か!」

 

「ここら辺うろつく時は常にスピーカーをオンにしてな。今日は禁止されてたがジャズが聞こえたら···俺が来た合図だ」

 

 

そう言ってレビンはマシュマーのザクII改から離れネティクスと合流しに向かった

 

 

「でも美香·····本当にいいの······?みほさんの体を使えばまた愛里寿と一緒にいれるのに··········」

 

「みほさんが真のニュータイプになってくれるなら私が彼女に入る必要はない。··········それに愛里寿にも言ったが他の誰かを傷つけてまで得る未来に希望はないよ。あの子もわかってくれるはずだ」

 

「··················麻子さんは連れて行く?本人はその気じゃないみたいだけど··········」

 

「彼女はもう自分の人生を歩んでいる。選ばせてあげよう」

 

「わかった。··········麻子さん聞こえますか?私達はもう帰る事になりました!麻子さんも連れて行きたい所でしたがここは麻子さんの意志を尊重して諦める事にします。今日は突然すみませんでした!」

 

「····················」

 

 

しかし麻子はナオの言葉に耳を傾ける事無くシートベルトを外し怯える様にうずくまっていた

 

 

「お詫びに後日月行きのチケットとその他色々な特典を送らせて頂きます 。もし全てを知りたくなったら何時でも来てください。お待ちしてます!」

 

 

ナオは最後にそう言い残すと麻子との無線を終了しさらの4号機と共にネティクスの元へ退避した。丁度レビンのフルアーマーガンダムも到着し集結したガンダム4機はその場から離脱して行った

 

 

「西隊長!追撃するでありますか!?」

 

「いや我々の目的はあくまで大洗の皆さんの救援だ!深追いはするな!」

 

「あの男·········戦場に音楽を持ち込もうとは下品なヤツめ··········」

 

 

絹代は質問した隊員に指示を出し、マシュマーは離脱して行った4機のガンダムの光を恨めしそうに睨み付けていた

 

 

「撤退してったみたいだな··········はぁ··········」

 

『ニールちゃんお疲れ〜。一時はかなりヤバいと思ったけど皆無事でよかったよ~』

 

「そうだな··········てか西住と一緒にいるのは誰なんだ?あの人達がいなかったらかなりやばかったが·····」

 

 

ホワイトベースはロックオンが乗っていたGブルイージーを収容しみほ達を迎えに彼女達の元へ向かった

 

 

「退いて行った様ね···············みほ、何故貴方がここにいるのかしら?母は貴方がモビル道を辞めると言うから転校を許したのですが?」

 

「···············。」

 

「··········続きは貴方達の艦の中で聞きます。そこの二人も着いて来なさい」

 

 

しほは厳しい口調でみほにそう言ってホワイトベースへ向かった。かなり最悪な形な母親との再開になってしまったがそれ以上にみほは自分を連れて行こうとした彼女達の存在、そして閉じこもっていたニュータイプとしての自分が無意識のうちに沙織を覚醒させていたのではないかという事が気がかりでしょうがなかった。そして最後に愛里寿の中に入り込んだあの少女が··········本当に11年前に自分をニュータイプへ覚醒させたあの子なら··········何故あの様に魂だけの様な存在になっていたのかみほには理解できなかった···············

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦線を離脱したガンダム4機はネティクスを先頭に母艦のスパルタンへ向かっていた

 

 

「3人共。今日はこんな事に付き合わせて悪かったね」

 

「··········本当に美香·····なんだよね?」

 

 

無線機から聞こえてくる声が愛里寿の物なのでナオは恐る恐る聞いてみた

 

 

「ははは。いつもは夢の中だったからこうして直接話すのはかなり久しぶりだね」

 

 

「笑い事じゃねぇだろ!なんでおめぇが大隊長の·····愛里寿の中にいやがんだよ!西住みほに入るんじゃなかったのかよ!」

 

 

「確かに始めは私もそのつもりだったけどね。みほさんが私と同等のニュータイプになりつつある事がわかったからね。計画の為にも私が彼女に入るより彼女自身が私達の仲間になってくれる方がいいだろう?」

 

 

「でも美香お姉ちゃん·····愛里寿ちゃんは計画の為じゃなくて··········ただ美香お姉ちゃんに戻って来て欲しいだけなんだよ·······?」

 

 

「··········それじゃ駄目なんだ。私の生命が()()()()()()()のはその為じゃなくこの世界を救う為に生かされたんだ········だから皆には悪いがもう少しだけ待ってて欲しい。また衛叔父さんから酷い目に合わされるかもしれないけど··········本当にすまない」

 

 

「美香·············ううんそんなの大丈夫だよ!それに叔父さんのお仕置きなんてもうへっちゃらだもんね!」

 

 

「はぁ·····おまえがそう言うなら仕方ねぇな。もうちょっとだけあのドクズ野郎の遊びに付き合っててやるよ」

 

 

「ありがとう··········いつか必ず衛叔父さんをやっつけて·····この世界を人類皆が幸せに暮らせる世界に変えてみせるから」

 

 

それこそ私がこの世界に残る事を許された理由。それこそが私に与えられた最後の使命。必ずやり遂げてみせる···············だって妹達の事を誰よりも大切にするのがお姉ちゃんなのだから··········

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッハッハッハッハッ!私は知波単の騎士マシュマー・セロ!何?いつも次回予告を頑張っていたクマのぬいぐるみを持った女の子は何処に行ったかだって?本編を見てわかる通り今日はお休みだ!·····何だゴットン、早く次回予告をやれだと?それもそうだな··········」

 

「突如現れた4機のガンダムを見事撃退したマシュマー達!しかし救援に現れた開花の名を持つガンダムから降りてきたのは鬼も喰われる程怖そうな女性だった············しかしあの様に美しい意味を持つガンダムはハマーン様にこそ相応しい·····嗚呼ハマーン様·····私の熱きファンレターを読んでくれただろうか··············何だゴットン!何!?もう時間が無いだと!?ええい貴様のせいだぞこのアンポンタン!」

 

次回!機動戦士ガンダムダブルゼー··········失礼!次回ガールズ&ガンダム! 『母の住む星』

 

ニュータイプの修羅場が見れるぞ!

 




読んでいただきありがとうございました

話がちょっとシリアス目だったので次回予告をあまり活躍させれなかったマシュマーにやらせてみました()

本当はまほも出したかったのですがあまりにも長くなりそうだったので次回におまけとして書こうと思います



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おまけ まほの仮面

今回は時系列的に前回愛里寿達が撤退した時と同じ頃の話になります。おまけのつもりがめちゃくちゃ長くなったので申し訳ございません

最近コクピットではなくコックピットが正しい事に気づいてしまいめちゃくちゃ恥ずかしくなりました()どっちが本当に正しいのかもまだわかってないのですが、ちょっとずつこれまでの回を色々編集していこうと思います。コクピットじゃなくてコックピットなんだ···············

今回また僕の大好きなキャラを登場させます申し訳ありません()


bgmはガンダムooより『SPIRIT』でよろしくお願いします


宇宙へ上がった大洗女子学園が島田ファミリーとの戦闘を終えた頃地球、黒森峰女学園学園艦にて·····

 

モビル道の訓練が終わり年相応の女子高生の様な会話をしながら帰路に着く者、残ってシュミレーション訓練をしようとする者、メカニックと共に機体の整備を行う者等いつも通りの隊員達の姿を2年生ながら隊長を任されたエリカは眺めていた。だがそのいつも通りの風景の中、一人だけいつもと全く様子が異なっていた者がいた···············まほであった。

つい先週半年に昇る修行から帰ってきた彼女であったが昨日一昨日と訓練に姿を見せなかったためエリカは何があったのかと心配したが今日になって彼女が来てくれたようでよかった···············そう思ったのもつかの間何故か彼女は顔を隠す様に漆黒の仮面を付け制服の上に陣羽織の様な服を羽織って訓練に現れたのであった。いつもとは明らかに様子の違う彼女の姿に皆様々な衝撃を受けていたが決してそれを本人に面と向かって言うことはなくエリカもその内の一人であった

 

 

「ねぇエリカちゃん········西住たいちょ··········西住副隊長どうしちゃったのかな?イメチェンしたのかな·····?」

 

 

皆と同じくまほの変わり様に衝撃を受けていたエリカの幼なじみの楼レイラが小さな声でエリカに話し掛けてきた

 

 

「私だってわからないわよ··········でもあのまほさんの事だから何か意味がある事なんじゃ··········」

 

 

「確かにエリカの言う通りイメチェンではなさそうな気がするぜ」

 

 

すると3年生の先輩が二人エリカ達の元へやって来た

 

 

「先輩達って確か高等部の3年間まほさんと同じクラスでしたよね?」

 

 

「そうだけど··········あんな格好してるまほさんを見るのは初めてだよ··········」

 

 

「元々おしゃれとか興味無さそうな人だからな··········家元からあれを着ろって言われたりでもしたのかなぁ·····」

 

 

「·····なら同じクラスなんですし直接聞いてもらえませんか?もしかしたら何か悩み事でもあるのかも··········」

 

 

「えっ·····いやいやモビル道の事ならまだしも友達でもない私達があのまほさんにそんな事聞けるわけないよ·····」

 

 

「そりゃ3年間同じクラスだったけどよ··········私達みたいなただの一般人があのまほさんに気安く話し掛けるなんて無理に決まってるぜ········」

 

 

先輩二人は気を落としながらそう語った。自分もまほとは普段そういう話は全くしないがここは勇気を出して聞いてみよう··········そう思ったエリカはまるで何かを待っているかの様に腕を組んでゼフィランサスに寄りかかっていたまほに声をかけようとした

 

 

『西住まほさん。BC自由学園の理事長様がお見えになりました。至急談話室までお願いします』

 

 

突如放送が響きそれを聞いたまほは体を起こし談話室へと歩き始めた。エリカはハッとなり駆け足でまほに近づき声を掛けようとしたが彼女の後ろ姿から放たれる刺されるような雰囲気に当てたれ声が詰まってしまい結局何も聞けないまま終わってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まほは渡り廊下を抜け談話室を目指し歩いていた。談話室が見えてくるとドアの前にガラの悪そうな同世代ぐらいの少年が3人門番の様に立っており、彼女の存在に気づくと睨み付ける様に視線を送ってきたがまほは少年達を意に介する事無くドアを開けて談話室へ入った

 

 

「失礼します。モビル道部隊副隊長、西住まほです」

 

 

「やぁまほさん!しばらくぶりですね」

 

 

部屋に入るとブロンドヘアの頭に白スーツを身に纏った男が椅子から立ち上がりまほを出迎えた

 

 

「ご無沙汰しておりますアズラエル理事長」

 

 

「嫌だなぁまほさん。僕と君の仲じゃないですか。ムルタと呼んで欲しいですね」

 

 

男はたしなめるようにまほに言ったがまほは表情を変えることなく言葉を返した

 

 

「いいえ。私にとってアズラエル理事長は命の恩人。その様に扱う事はできません」

 

 

「命の恩人ね·········あの時は本当にびっくりしましたよ。お宝かなと思って漂流してたポッドを回収したら中に貴方が入っていたのですから。確か4ヶ月あそこに入っていたんですよね?」

 

 

「はい············あれは西住流の者として、モビル道を嗜む者の一人としてはあまりに弱く情けなかった自分への罰だと私は思っておりす」

 

 

表情··········元々和風な仮面に隠されて見える事はなかったが何一つ変えることなく淡々と話す彼女を見てアズラエルは口元を緩めた

 

 

「それにしてもその姿·····大変よく似合ってますね。送ったマスクも付けてくれて嬉しいです。まるで西住流"二代目"そのものだよ」

 

 

「ありがとうございます。·····それで今日はどのようなご要件でいらしたのですか?」

 

 

「おっとそうでした。今日は貴方に伝えたい事が二つあって来たんですよ」

 

 

まほが尋ねるとアズラエルは持ち込んでいたタブレットを取り出し操作するとまほへ手渡した

 

 

「その動画は先月ウチに所属してる企業のチームと月のνA-LAWS(ニュー・アロウズ)と行われた試合でね。まぁとりあえず見てみましょうか」

 

 

「νA-LAWS···············島田流ですか··········」

 

 

動画は艦の光学カメラで撮影された物のようでいきなりνA-LAWS側のMS部隊が襲来した場面からスタートした。アズラエル側の艦隊は大量のMSと共に展開していたがそれに対してνA-LAWSは10機程のMSだけで攻め込んでいた。しかし戦況はνA-LAWSのMS達が圧倒的物量で勝るアズラエル側の大部隊を蹂躙していくという信じられない展開になっていた。特に指揮官機と思われる3機の高機動型ゲルググ達による連携攻撃が艦隊とMS部隊に大打撃を与えていた

 

 

「この3機のゲルググは?」

 

 

「確か"アロウズの3M(スリーエム)"とかいう3人組だったかと。何か心当たりでも?」

 

 

「いえ··········昔見た事がある様な気がしたので」

 

 

結局その後もアズラエル側のチームが蹂躙され続けたまま試合が終わりνA-LAWSの圧勝という形で幕を閉じた

 

 

「全く情けない話ですよ。仮にも世界中からスカウトやドラフトで捕まえた選手ばかりのプロチームがお子様も混じってる様なチームに完敗だなんて」

 

 

「·····アズラエル理事長は何故私にこれを見せたのですか?」

 

 

「まほさん。貴方には"四代目"としてウチのチームに来て欲しいのです。今の貴方はかつてモビル道の黄金時代を築き上げた"二代目"と同じ様な志しを持っている。そんな方がトップに立ってくれれば後に続く者達の指揮も高まるというものです。それにニュータイプだなんて馬鹿げた世迷い言を研究してる月の連中にいつまでもデカい顔されるのも癪ですからねぇ」

 

 

「その程度の事でしたら喜んでご協力させていただきます。私の力を示す為にも月の戦士達は超えなければならない存在なので··········」

 

 

まほは先程の映像を見て動揺するどころかむしろ仮面では隠し切れない程の闘志を放っていた。そんな彼女をアズラエルは嬉しく思い先程動画を再生していたタブレットを手に取り再び操作し始めた

 

 

「いやぁ嬉しいですよまほさん。しほさんは貴方と違って二代目のファンである我々に当たりが強かった物でね。母と娘は常に相反する存在という事なのでしょうか··········」

 

 

「お母様は二代目のモビル道を受け継ぐ事なく自分の信ずる道を西住流とし三代目として伝承してきました。ならば私も同じ事をするまでです」

 

 

「··········へぇ、いいお考えですねそれ。そんな貴方の為にこんな物を用意させていただきました」

 

 

アズラエルが再びタブレットをまほに手渡すとそこには()()()M()S()の画像が映し出されていた

 

 

「この機体は·····BCの新しい機体ですか?」

 

 

「その新型··········確かに今は僕の学園のMSですがこれから貴方の物になるんですよ。まほさん」

 

 

「そちらでは導入しないのですか?こんな高性能のMSを他校に譲るなんて聞いた事がありません」

 

 

画面に映るMSのデータが通常の機体とは破格の数値を示していた為他校である黒森峰に、何よりアズラエル自身が理事長を務めている学園に導入しない事をまほは疑問に思った

 

 

「そうしたい所なのですが男子の方は乗りこなせる子がいなくてですね··········廊下に立ってたあの子達なら行けると思ったのですがイマイチ気に入って貰えなく、女子の方も年柄年中喧嘩しっぱなしで話になりませんしテストパイロットを務めてくれた子もモビル道には興味無いと言って導入を断ってきたのでね··········せっかく作ったのに腐らせてしまうのも勿体ないのでどうせなら確実に乗りこなせる人に渡そうかと」

 

 

「それが私、という事ですか?」

 

 

「ええ。あのとんでもない修行を耐え抜き二代目と同じその仮面を付けてくれた貴方が誰よりも適任かと」

 

 

「··········わかりました。ありがとうございますアズラエル理事長。必ず乗りこなしてみせます」

 

 

まほは感謝の意を表してアズラエルに頭を下げると彼もそれに応えるように返礼した

 

 

「いいんですよまほさん。我々"ブルーコスモス"は西住流"四代目"の貴方を全力でサポートさせていただきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリカはまほのいる談話室へ早足で向かっていた。先程まほに声を掛けることができなかった自分を腹立たしく思ったのと、隊長としてまほに接する事ができなかった自分が情けなく思い改めて彼女に声を掛けようと考えていた

それに加えまほを訪ねに態々黒森峰女学園の学園艦まで出向いたBC自由学園の理事長··········気になって何者なのか調べてみると、地球上の大企業や財閥が集まって構成されている地球自然保護団体"ブルーコスモス"。その巨大組織に若くして盟主たる任に着いていた青年こそBC自由学園の理事長[ムルタ・アズラエル]であった

そんな物凄い大物がどうしてあのまほさんに··········とも思ったが世界中から門下生が集まる西住流の次期後継者である彼女がそんな人と知り合っていてもなんらおかしい事はなかった

 

とはいえモビル道関連の兵器産業も手掛けているブルーコスモスのトップが来ているという事なので自分もモビル道部隊の隊長として挨拶しなければ、と思いエリカは緊張しながらも談話室へ向かった。すると談話室のドアの前で門番の様に待機している3人の少年が見えてきた。少年達はそれぞれ読書をする者、床に座り込んでゲームに夢中になってる者、ヘッドホンを掛けて自分の世界に入っている者と別々の趣味に没頭しておりそんな風紀もクソもない三人を見てエリカは唖然としていた

 

すると読書をしていた黄髪の少年がエリカに気づくと睨み付けてきたので、エリカも負けじとメンチを切り返すと少年は驚いた様に目を剥き座っていた赤髪の少年にヒソヒソと何か話し始めた

 

 

(オイ、やべーぞクロト。なんか怖そうな女がこっち睨み返して来やがった!)

 

 

「うるせーぞオルガ!··········誰アイツ?」

 

 

「おまえらうざい··········え?」

 

 

「貴方達!読書ならまだしも廊下でゲームと大音量で音楽聴くなんてどうかしてるんじゃないの!?」

 

 

我慢できなくなったエリカは三人組に叱る様に怒鳴った。三人組は全員豆鉄砲を喰らったかのようにポカンとしていたが我に返った黄髪の少年が挑発する様に他の二人を煽り始めた

 

 

「だから静かに待ってられるように本貸してやろうかって言ったのによ!ホント馬鹿だよなオメーらは!」

 

 

「あぁ!?バカはオメーだろオルガ!てか僕なんて音量消してゲームしてたしうるさかったのはシャニだけだろ!」

 

 

「はぁ?今のおまえらの方がよっぽどうるさいしうざいんだけど?」

 

 

三人組は箍が外れたかの様に互いに睨み合い今にも喧嘩が勃発しそうな雰囲気になっていた。すると突然談話室のドアが開かれた

 

 

「君達うるさいよ。どうして大人しく待っていられないんだか··········おや、ひょっとして君は隊長の逸見さんかな?」

 

 

「は、ハイ!黒森峰女学園モビル道部隊隊長、逸見エリカです!今日は遠路はるばるご苦労さまです!」

 

 

「ははは、悪いね態々挨拶に来てくれて。一応ここにはお忍びで来た訳で僕の存在を知ってるのも君とまほさんくらいなものだから気にしなくてもよかったのに」

 

 

するとアズラエルに続いてまほも談話室から出てきた

 

 

「まほさん··········」

 

 

「エリカ、私はこれからアズラエル理事長の見送りに行ってくる」

 

 

「わ、私も行きます!」

 

 

アズラエル達の見送りに行こうとするまほの後にエリカも続いて行った

 

 

 

 

 

 

学園内のヘリポートに着くと既にブルーコスモスのヘリコプターが待機しておりアズラエルは助手席へ、三人組の少年は後部座席へ乗り込んだ

 

 

「それではまほさん。新型は近いうち送らせていただきます。··········全国大会楽しみにしてますよ」

 

 

「はい。四代目として恥じぬ戦いを約束します」

 

 

まほはアズラエルに敬礼しながら言うと彼を乗せたヘリは飛び去って行った。そしてまほもその場から立ち去ろうとしたのでエリカは彼女に何故その様な格好をしているのか聞こうとした

 

 

「あ、あのまほさん!今日はどうしてその様な格好を··········」

 

 

「エリカ。私は今日から自分のモビル道を極める事に集中する。だから副隊長の任は私から他の者に変えてくれ」

 

 

思いもしなかった言葉がまほから放たれエリカは耳を疑った

 

 

「え!?·····何を言っているんですか!あなたは西住流の次期後継者なんですよ!?ただでさえ私よりも隊長であるべき貴方が一隊員に成り下がるなんて事は··········」

 

 

「私が四代目になる事とそれは関係ないだろう。私はもうお前達と同じ道を進む訳にはいかない。それでは次期後継者としての器も実力もあまりに不足しているんだ」

 

 

「で、でもまほさんは··········」

 

 

「その代わりに来月から始まる全国大会。全試合私をフラッグ機として出場させてくれ。最も私を試合で使うかどうかも全ておまえが決める事だがな」

 

 

まほはそう言い残すとエリカに背を向けて歩き始めた。エリカにはわからなかった········彼女が変わったのは風貌だけでなくその心までもが昔とは全く異なる物になっている様なので何が原因でまほが変わってしまったのかエリカにはわからなかった··········

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はお疲れ様ですアズラエル理事長。如何でしたか黒森峰女学園は?」

 

 

「あのねぇ、別に観光に行った訳じゃないんだから」

 

 

黒森峰女学園の学園艦を飛び去ったブルーコスモスのヘリの中で操縦士の男性が助手席のアズラエルに話しかけた

 

 

「では本当にあの西住まほさんに会いに行っただけなんですか?一体どうして··········」

 

 

「·····何考えてるか知らないけど下心とかは全く無いからね?君は西住まほさんが最近何をやらかしたか覚えてるかい?」

 

 

「ええっと··········確か去年の全国大会の決勝戦後に優勝校の隊長を殴ったせいで6ヶ月間謹慎処分を受けたとか··········でもようやくそれも解けて復帰できたんですね」

 

 

「復帰ねぇ··········彼女、去年の全国大会が終わった後分家の人達と修行という名目で宇宙へ上がってね。その時しほさんは忙しくてまほさんの事は分家の人達に任せっきりだったらしいんだけど·········それが原因でまほさんにとってはかなりハードな事が起きちゃってね」

 

 

「··········何があったんですか?」

 

 

操縦士の男性は息を呑んでアズラエルの方を見た

 

 

「こらこらちゃんと前を見なさいよ。···············聞くところによると西住流には二代目が考案した修行の中でね、それ専用のMSのコックピットポッドに入って宇宙空間で1ヶ月過ごすという物があってね」

 

 

「なんですかそれ··········そんな訓練にどんな意味が··········」

 

 

「二代目の意思としては1ヶ月間外部との連絡も一切遮断し、ポッド内でひたすらシュミレーション訓練に励むと同時に宇宙空間という絶対的な闇の中を独りで過ごす事で精神力を極限まで高めようという目的があるらしいんだ」

 

 

「外部との連絡を一切遮断されてるとは··········私なんて3日持つのかも怪しいです··········」

 

 

「僕もだよ。だがそんな正気じゃない訓練を二代目は世界中に広めて娘のしほさんにもやらせてたらしいよ。とはいえあまりにも危険だからしほさんは三代目に襲名されてからその訓練を禁止する様各地に呼び掛けたらしい。その甲斐あって今じゃどこの団体もやってないみたいだね」

 

「··········それでその訓練と西住まほさんと一体どのような関係が·····?」

 

 

「·····まほさんの育成を担当した人は根っからの二代目派の人でね。しほさんが三代目になる事もずっと反対していた程らしいんだけどあの人が継いでからは大人しくなったみたいで誰もその人を警戒してなかったんだ。

それで謹慎が始まってからその二代目派の人と宇宙へ上がったまほさんは例の修行の為にコックピットポッドに入れられて、西住流が所有してる宙域へ投げ出されたのさ。

 ただ問題はそこからだった。本来1ヶ月間しか行わないはずの訓練なのに何故かポッドに括り付けられた食料は2ヶ月分ほどあって酸素も4ヶ月分ほどあったらしくてね。質問しても何も答えて貰えないまま訓練は始まってしまい、まほさんは取り敢えずシュミレーション訓練に勤しんだらしい。

そして外部との連絡手段も無い極限状態の中、まほさんはひたすら訓練と寝る事でその現実から逃避し続けようやく1ヶ月経った···············しかし修行が始まってから1ヶ月の日だというのに迎えは一向に現れる気配も無く、結局誰も迎えに来ないまま日本時間でいう次の日になったらしい。そこからが彼女の地獄の始まりだよ」

 

 

アズラエルが淡々と話す中操縦士の男性は静かに聞いていた

 

 

「結局誰も迎えに来ない為まほさんは再び訓練を再開した。真面目に取り組んでいればきっと迎えが来る·····ちょっと多めにやらされているだけ·····そんな希望を持って彼女は訓練し続けた。しかしそれから何週間か、数ヶ月経っても誰も迎えに来ない為まほさんは自分の置かれている状況を真の意味で理解したらしい···············もう確実に迎えは来ない·····皆自分の存在を忘れている·····とね」

 

 

「そんな馬鹿な······誰も不審に思わなかったのですか··········?」

 

 

「らしいね。二代目派の人が定期連絡で偽の報告を続けてたらしく誰もまほさんが宇宙のど真ん中で放置されてるなんて思わなかったさ。それから彼女はポッドに供えられた食料を節約し始め、なるべく長く生きようと努力したらしい。闇に囲まれた世界の中で恐怖と孤独に耐えながら彼女はずっと助けを待っていた。想像できるかい?僕は正直この話を本人から聞いただけで暫く宇宙へ上がりたくなくなったよ」

 

 

「····················すみません·····そんなに酷い事があったとなんて知らず···············」

 

 

「それで結局迎えは来ないままポッド内でずっと独りで待ち続けてその中で新年も迎えたらしいよ。その後僕らが新年会の後近くの宙域を高速シャトルでぶっ飛ばしてたらやけに空のコンテナが周りに散らばってるコックピットポッドを見つけてね。何かオカルトめいた物を感じて拾って開けてみたらね··········中に全てを拒絶し遮断するかの様にうずくまっていたまほさんの姿があったんだ

 その後彼女を保護した僕らはブルーコスモスの支部がある低軌道ステーションまで行って彼女の回復に努めたよ。彼女を保護してから2ヶ月後ぐらいにようやく話せるレベルまで回復して彼女から事情を聞き出したという訳さ。でも凄い事にあの中にいた間、ずっとかけがえのない妹や友人の事を思っていたらしく彼女達が自分を待っていると信じる事で何とかその精神を保っていたらしい」

 

 

「凄いですねまほさんは··········本当に強い方なんですね··········」

 

 

「··········そのまま順調に回復してくれてついに謹慎が終わる時が来たんだ。僕も二代目派の人も捕まえようと刺客を送ったんだけどね、見つけた時はもうこの世から逃げた後で遺書には『復讐は実った』と書かれていたよ。まほさんは家族に迷惑はかけたくないからこれらの事は僕との秘密にして欲しいと言うもんだから、しほさんにすら伝えないまま彼女は黒森峰へ戻って行った」

 

 

「三代目にすら伝えないままですか··········それを私なんかに話してよかったのですか?」

 

 

「·····別に君に話した所で何も起こらんだろうし、君にはまほさんがどういう人か知って欲しかったからね。これはさっき聞いた話だけど、その後まほさんは高等部へ上がらず他の高校へ転校して行った親友の元へ向かってね。何とかその親友に黒森峰へ戻って来れないかと説得しようとしたらしいけど、当たり前だけど聞き入れてもらえずそれが原因で激しい口論になってそのまま帰らされたらしい·········

更にモビル道が嫌になって転校したはずの妹さんも転校先で新しくモビル道を始めたらしくてね··········彼女は言ってたよ。結局戻って来ても自分は独りのまま。あの時の孤独も何もかも初めから自分の弱さが原因で引き起こされた物。全ては初めから力を持っていなかった自分のせいだとね··········」

 

 

操縦士はアズラエルの話を聞き心を締め付けられる様な感覚に陥り口を閉ざした。アズラエルはそんな彼を察し話を終いにしようとした

 

 

「だから僕達ブルーコスモスは西住流を尊ぶ者として··········これから新たに誕生する四代目の為に全面的に協力して行くつもりさ」

 

 

「その為にあの新型を············何だかわかる気がします·····」

 

 

「別に同情してる訳じゃないからね?今のまほさんと伝説の二代目が重なって見えちゃってついつい熱くなってるのかもね··········それに新型の名前も『わがままな美女』と来た。今の彼女にピッタリだと僕は思うね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今や世界中から門下生が集まる西住流。それの次期後継者であるまほと友達になろうなどと畏れ多い事を同世代の生徒達にできるはずもなく、まほは学園で友人を作る事ができなかった···············ただ一人誰とでも分け隔てなく接する彼女を除いては。

彼女はまほが周りとは別格な存在だと知った上でまほと真正面から接し、語り合い共に同じ刻を過ごしてくれたかけがえのない存在だった···············だから彼女が自分の道の為にまほの元を去った刻、まほは初めて『孤独』という物を知った。その後彼女と一切の交流が無かった訳ではないがそれでも、彼女が傍にいないというとても受け入れ難い事実がまほを蝕んだ。最愛の妹、みほだけは失いたくない··········だが現実はまほを許容せず、結果として自分が居ない内にみほは黒森峰を去ってしまっていた

 

何故かつての親友は自分の願いを聞き入れず戻って来てくれないのだろうか。何故最愛の妹は自分を捨て新たな仲間達と新たな道を進もうとするのだろうか。何故自分はこれ程までに淋しい想いを募らせているのだろうか。·········答えはもう決まっている

 

 

「私が()()()()()()。私に()()()()()()()()。そうだろう?みほ、安斎··········」

 

 

ならば手に入れてみせる·········おまえ達が私を無視できない程の高みを········おまえ達がまた私を頼りにしてくれる程の力を········いつかまた私の傍に戻って来て欲しいから··········

 

 

まほは心の中に改めて決意を込め、これまでの弱かった自分を否定する為の仮面を深々と付け直した

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました

大好きなキャラはガンダムSEEDに登場するムルタ・アズラエルでした。いっやったあああああああああ!本当にごめんなさい()
アズラエルと3馬鹿はその内外伝で登場させると思います

今回登場した"二代目"西住流という存在。割と重要な単語になってくるかもしれないのでよかったら頭の片隅に置いといてください。多分重要になってくるかと思います()

今回まほの重ための話を書いて大分辛くなりました
ただ当ssのラスボスで且つ仮面キャラなので何とか頑張りました。次回はまた本編に戻ります
わからない事があったら何でも答えますのでコメントお待ちしております




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12話 母の住む星

前回のおまけでブルーコスモスが登場しましたが当ssではSEEDの設定程過激な事をする団体にはしないと思います()

今回もよろしくお願いします


 

 

大洗女子学園の救援に駆け付けた知波単学園と純白のペイルライダーを駆って現れたマクギリス、そしてGP00 ブロッサムに乗ったみほの母、西住しほが突如介入した事によって、みほを連れ去ろうとしていた島田愛里寿達を何とか撃退する事に成功した

4機のガンダムが撤退した後ホワイトベースとビーハイヴはエンジン部に多少の被害が出ていた為自力での航行が酷なものとなっていた。よって絹代率いる10隻程の艦で構成された絹代・フリートの戦艦にホワイトベースとビーハイヴは牽引され、一行はMSと戦艦を修理できる場を目指し出発する事となった

 

 

ホワイトベースのMSデッキへみほ達の機体が帰還し沙織を初めとするブリッジクルーはデッキへ駆け足で向かった。MSデッキに着くとペイルライダーやリック・ドムII、ブロッサムといった見慣れないMS達や損傷した大洗女子学園のMSの収容作業が行われており慌ただしくなっていた。すると量産型ガンキャノンから麻子がふらふらと降りてきたので沙織は駆け寄って行った

 

 

「麻子!どうしたの!?何か変な事されたの!?」

 

 

「沙織··········今は一人にさせてくれ············」

 

 

麻子は弱々しくそう言って沙織を振り払うと再び歩き始めMSデッキから艦内へ入って行った。沙織は麻子を心配に思い後を追おうとしたが大破したガンダムからみほが降りてこっちへ来ている事に気づいた

 

 

「みぽりん!みぽりんも怪我とかしてない!?」

 

 

「うん、私は大丈夫だよ。···············沙織さんもあの声が聞こえてたの·····?」

 

 

"あの声"··········沙織にもみほと同じく先程まで謎の少女の声が頭の中に響いていた

 

 

「うん·····あれって何だったの?あんな誰かの声が頭の中に聞こえてくるなんて初めてだったよ··········」

 

 

「··········もしかして沙織さんも·····」

 

 

 

みほが何かを言いかけた時、ブロッサムのコックピットが開かれ、中からしほが現れ周囲を見渡してからロープに足を掛けてデッキ内へ降りてきた

 

 

「おいあれって··········!西住流の家元じゃねえか!あんなすげぇ人が助けに来てくれたのか!」

 

 

「え、あの人西住ちゃんのお母さんなの?」

 

 

「··········おまえ何言ってんだ?誰が誰のお母さんだって?」

 

 

杏の言葉を聞きロックオンは目を点にして聞き返した

 

 

「何って··········ニールちゃんがあの人の事西住ちゃんのお母さんって言ったんじゃん?」

 

 

「···············いやいやそんな訳ないだろ。あの西住が西住流本家の娘な筈ないって。第一家元と全然似てないし··········」

 

 

「·········もしかして教官殿は本当に知らないのですか·····?」

 

 

「嘘·····ですよね········?」

 

 

どうやらみほが西住流本家の子である事を知らない様子のロックオンに桃と柚子は困惑した。するとブロッサムから降りて来たしほがロックオンの方へ近づいて来た

 

 

「貴方が教官さんですね?あそこにいる私の娘を少し借りてもいいでしょうか?」

 

 

「え、も、もちろんでございます!いくらでもお貸しします!煮るなり焼くなりお好きにどうぞであります!」

 

 

ロックオンが敬礼しながらそう言うとしほは踵を返してみほの方へ向かって行った。しほが近づいて来る事に気付いたみほは怯えるように俯いた

 

 

「みほ。なんで貴方がここに居るのか聞かせてもらおうかしら」

 

 

「···············。」

 

 

「ここは少し騒がしいので着いて来なさい。·····貴方は?」

 

 

「わ、私はみぽりん·····みほさんの友達の武部沙織です!」

 

 

「そう。悪いけどこの子と二人きりになりたいから貴方はここで待っててもらえるかしら?」

 

 

沙織はみほを一人にさせるのはマズい··········そう思ったがしほの威圧感が込められた視線に気圧されて言葉を返す事ができず、しほは彼女達の有無を聞かないままみほの手を引いてデッキ内から出て行ってしまった

 

 

「ちょっとニールちゃん!やばいじゃん今の西住ちゃんと西住ちゃんのお母さんを会わせちゃったら!」

 

 

「··········オイ········あの西住が黒森峰から来たってのは知ってたけどよ·····本家の娘なんて聞いてないぜ········せいぜい分家の人かと思ってたのによ··········」

 

 

杏がロックオンの方を見ると彼は静かに涙を流しながら力尽きたかの様に倒れ込んでいた

 

 

「てか教官さんなら西住ちゃんの事ぐらい知ってる筈でしょ!?すっごい有名人だったんだよ!」

 

 

「いや女子のモビル道は興味無かったせいで全然チェックして来なかったからよ·······まさか家元の娘がウチに居たとか·····短かったな·····俺の教官生活··········」

 

 

「えー!教官さん辞めちゃうんですか!?」

 

 

力無くそう呟いたロックオンに佳利奈は驚きの声を上げた

 

 

「だって西住が誘拐されそうになったし皆を危険な目に合わせたんだぜ·····?当然だけど全部事前に防げなかった俺の怠慢として処理されるだろうからクビは確定·······もしかしたら牢屋にぶち込まれるかも··········」

 

 

「·····確かに西住ちゃんのお母さんにバレちゃった訳でだからやばいかもね。それはそうとして私もちょっと行ってくるよ。このまま西住ちゃんを連れてかれる訳にも行かないからね」

 

 

「わかりました。どうか気をつけてください·····」

 

 

杏はそう告げるとしほとみほの後を追って行った。ロックオンは変わらず死んだように地面へ伏せっており赤ハロが喝を入れようと声を掛けていた

 

 

「ロックオン!ゲンキダセ!ファイト!」

 

 

「ハロ·····皆の事を頼む·····」

 

 

「状況が状況だったのでそこまで大事にはならないんじゃ··········」

 

 

力無くハロに全てを託そうとするロックオンを柚子達は気の毒に思う事しかできなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほはしほに連れられて艦内の人気のない廊下に連れてこられ母と二人きりの状態となっていた

 

 

「こうして会うのは久しぶりね··········どういうつもりなの?どうして貴方が転校先の大洗女子学園でまたモビル道をやっているのかしら?」

 

 

「え············」

 

 

「もう二度とモビル道と関わらないからと転校させろと言ったのは貴方なのよ?全て母を騙す為の虚言だったとでも?」

 

 

「···············」

 

 

みほは何も言い返す事ができなかった。実際母の言っている事は事実であり自分は黒森峰を出る為に二度とモビル道をやらないと誓って大洗女子への転校を許してもらった。それなのにMSに乗って宇宙にいたというのだからこうして責められるのも仕方ない事であった·····

 

 

「モビル道が無い学園だからと油断してましたがまさかこんな事になるなんて········やはり転校を許したのは失敗だったわね」

 

 

「わ、私には········黒森峰のモビル道は合わなかったから新しい友達と新しい道を見つけたくて··············それに黒森峰には私の事普通の子だって思ってくれる人なんていないから··········」

 

 

「·····だとしてもよ。貴方は西住の血を引く者なのだから本来私達の流派を受け継ぎ、後世に伝えて行く為に努めなければならない·······家族の伝統、家元としての使命とも言える物を忘れて身勝手に他の道を進もうなど許されるはずがないの」

 

 

わかっていた··········強豪校とも練習試合をし全国大会にも出場すると決まっていたのだから新しい学校でモビル道を始めた事がいつか母の耳に入る時が来る·········いつかその時が来るとわかってはいたがこんなにも早く母と衝突する時が来ようとは思いもよらなかった··········

 

 

「とはいえ黒森峰でモビル道をやれと言うのも無理な話ね。先程知波単学園の皆さんに私の星へ進路を取るよう連絡しました。これからは私と共にあそこで働いて貰うわ」

 

 

「そんな··········嫌だよ!せっかく新しい友達もできたのに···············もうお別れしなきゃいけないなんて·····!」

 

 

「私との約束を破っておいてまだわがままを言うつもり?·······それに先程貴方を攫おうとした連中がまた現れるかもしれないのよ。やはり私の目の届く所に居てもらわないと困るわね」

 

 

「ハイハイ待ってくださ〜い!西住ちゃんを勝手に連れてかれると私も困っちゃいま〜す!」

 

 

すると二人を追ってきた杏がしほに向かって声を掛けた

 

 

「か、会長!」

 

 

「会長·····貴方が大洗女子学園の生徒会長さん?今まで廃止していたはずのモビル道に私の娘を参加させるなんて一体どういうつもりなのかしら?」

 

 

しほは怒気を孕んだ声を放ちつつ杏に迫り険しい表情で見下ろした。だが杏はそれに怖気づく事なくしほの顔を真っ直ぐ見返した

 

 

「確かに嫌がる西住ちゃんにモビル道を始めさせたのは私です。どうしても彼女の力を借りなければならない事情があるもので」

 

 

「そう·······それは残念ね。貴方達にどんな事情があるかは知りませんがこの子はもう大洗女子からは退学させます」

 

 

「お母さん!私は··········」

 

 

「貴方は黙っていなさい。この艦は今私の星『シュヴァルツ・ファング』へ向けて航行しています。彼女はそこに残ってもらうので貴方達が地球へ降りてから退学の届け出を送るのでよろしくお願いしますね」

 

 

「よろしくお願いします·····と言われましても当の本人があからさまに嫌がっているというのに親の意向だけで退学を受理しろと言うのはちょっと認める訳にはいきませんね」

 

 

「········どうしてもみほを手放したくないようですね。こんな時期にモビル道を復活させて··········彼女の知名度を利用し自分らの学園の名を売るつもりなんでしょうけどそんな事を私が許すとでも思っているのかしら?」

 

 

「いやぁ〜確かに西住ちゃんの知名度に甘えようってのも間違いじゃないですね〜。けど西住ちゃんはもう大洗女子学園の一員です。せっかく新しい居場所を手に入れた彼女を無理矢理連れて行こうだなんて··········そんな事私も生徒会長として許せませんね」

 

 

あのいつもぶっきらぼうに振舞っていた杏が意外にも自分を守る為に母と正面からぶつかり合っていた。あの恐ろしい母の前でも怯む事無く自分を曲げずに対面している彼女をみほは素直にすごいと思った。だがしほもそう簡単には折れなかった

 

 

「先程貴方達を襲った連中·····あれが再びみほを狙ってきた時貴方達だけでは到底みほを守れるとは思えないのですが」

 

 

「西住ちゃんを狙うって·····さっきの人達の事知ってるんですか?」

 

 

「何者だったのかは大体見当はついています。あれはこれまでもみほを狙って黒森峰に間者を送って来た事がありました。事実貴方達だけだったならみほはあのまま連れて行かれてただろうし、最悪他の生徒さんにも危険が及んでいたのかもしれないのよ?」

 

 

しほのその言葉を聞き流石の杏もたじろいだ。確かにあの時母どころか知波単学園の人達とマクギリスが来てなかったら自分は確実に連れて行かれた··········最も頭の中に語り掛けてきた少女は私の体だけを頂くと言っていたが··········

 

 

「·····今回は初めての宇宙という事もありあの様な予想外の事態を想定する事ができませんでした。これに関しては課外授業として独自に宇宙へ上がってしまった私の想像不足です。

ただあの様な人攫いに近い存在は他の学園の皆さんにとっても十分危険であると思うのでそれこそ連盟や警察組織の方々が私達を守る為に動いてくれると信じたいです」

 

 

「あれを捕まえるために警察が動いてくれるならとっくの昔に解決してるの····わかって貰えないかしら?」

 

 

「·····でしたら尚更そんな訳のわからない連中の為に西住ちゃんが学校を辞めなければならないのはおかしいと思います。それにあの天下の西住流が自分達に屈したと思われ余計に付け上がらせるのでは?」

 

 

「先程からああ言えばこう言って··········なんだろうとみほは私との約束を破り西住流以外のモビル道を進もうとしました。モビル道をやるなら西住流の後継者として努めるのが我が家の掟·····したがって私の元へ還してもらいます!」

 

 

しほは目元に青筋を浮かべ感情を更に込めた声を杏に張り上げた。母が本気で怒っている事を察したみほは恐怖のあまり青ざめていた·······しかし杏の方は冷や汗をかきながらも僅かに笑みを浮かべていた

 

 

「お言葉ですが西住ちゃんのお母さん··········家元さんは西住流の娘として生まれたなら西住流のモビル道に準じるべきと仰りたいのですね?しかしその西住流という物 は家元さんが自ら信じ選んだ道であって娘だからと西住ちゃんにも同じ道を選べと言うのはちょっとあんまりだと思います」

 

 

「家族と同じ道を歩むのは当然の事!貴方にはわからないかもしれないけど本来受け継ぐべき道から外れた道を進めばその果てに待つのは歪んだ結末しかない!そんな物を次の世代に残す訳にはいかないのよ!」

 

 

「家元さんが西住流の将来を案じているのもわかります。という訳でここで一つ提案なのですが、私達大洗女子学園も今年のモビル道全国大会に出場します。もしそこで私達が優勝できたら西住ちゃんが大洗に残る事を許す、というのはどうでしょうか?」

 

 

杏の言葉を聞きみほは耳を疑った。優勝するという事は母の西住流のチームとも言える黒森峰を倒すと宣言する事と他ならなかったからだ

 

 

「·····何をふざけた事を言っているの?つい最近モビル道を始めたばかりの学園が全国大会で優勝だなんて·····馬鹿にしているの?」

 

 

「いえいえ馬鹿になんてしてませんよ。けど私達大洗女子は西住ちゃんの西住流率いるチームです。そんな私達が優勝すれば家元さんにも西住ちゃんの選んだ道と私達の強さを認めて貰えると思いまして。ねっ!西住ちゃん!」

 

 

杏はそう言ってみほに向かってウィンクしみほは母に怯えながらも頷いた。優勝しなければいけないという条件はかなり酷な気がしたがそこまでしなければ母も納得してくれないと思った。しほはそんな娘を見て思考するために黙り込んだ

 

 

「··········己の道を示す為母に立ち向かおうとするのは結構です。ただ今の貴方達に他の生徒さん達は着いてきてくれるのかしら?」

 

 

「そ、それは·····」

 

 

「ましてやみほ。貴方はまほと違って一人では何もできないじゃない。周りから孤立した位で転校して··········そんな貴方と共に戦いたいと望む人はいるのかしら?」

 

 

「いるよ!··········じゃなくて、ここにいます!」

 

 

突然杏の後方から廊下中に響き渡る程の声が聞こえそこには息を切らした沙織の姿があった

 

 

「沙織さん····!」

 

 

「貴方は·········」

 

 

「私は·····私達はみぽりんと一緒に戦います!確かにみぽりんは淋しがり屋だし一人じゃ何もできない子かもしれないけど、それでもすっごい優しいし私達の事とても大事に想ってくれてるから······だから私達はみぽりんと一緒に戦って一緒に進みます!だってこれからもずっと友達でいたいしずっと一緒に居たいから!」

 

「····················。」

 

 

沙織の言葉が心に優しく染み渡る様な心地がした。こんなにも自分の事を思ってくれている人がいる事がみほはとても嬉しかった。

沙織の声が響いてからしほは顎に手を当てて先程と一転して黙り込んだ。沈黙が当たりを包んでいたがしほはフッと沙織の方へ近付いて行った

 

 

「··········貴方はみほがどういう子で何故黒森峰から転校して来たのかも知っているのね?」

 

 

「は、はい!」

 

 

「そう··········みほとお友達になってくれてありがとうございます。これからもあの子をよろしくお願いします」

 

 

しほは柔らかく微笑みながらそう言って沙織に頭を下げた。思わぬ行動に沙織は驚きながら慌ててしほにお辞儀を返した。しほは顔を上げると次に杏の方へ向かった

 

 

「生徒会長さん··········正直貴方の事は苦手ですがいいでしょう。私西住しほと西住流は貴方の挑戦を受けて立ちます。とはいえ全国大会は毎年猛者ばかりの学園が参加する大会です。今の貴方達ではかなり苦しいかもしれませんが必ず勝ち上がって来なさい」

 

 

「··········ありがとうございます!どんなに強い相手が来ようと西住ちゃん達の居場所を守る為に私も全力で戦います」

 

 

「·····その西住ちゃんというの。私も西住なので良ければ辞めて貰えないかしら?」

 

 

「確かに被っちゃってますね。じゃあ家元さんの事は今度からママ住さんって呼ばせて貰いますね!」

 

 

「ママ·······やはり貴方の事はどうしても好きになれそうにないわ·····」

 

 

杏とそんな会話を交わしつつしほは最後にみほの前に立った

 

 

「お母さん··········」

 

 

「みほ·······貴方はどうやら私に似た様ね···············私は貴方が大洗でモビル道をやる事を認めた訳ではありません。自分の道を進みたいならば勝ち取りなさい。かつて私が二代目からそうした様に貴方も自分の西住流を勝ち取る為に戦いなさい·····!」

 

 

「··········うん!」

 

 

厳しい口調ながらもしほの言葉に込められた想いを汲み取りみほは力強く頷いた

 

 

「では私はこの艦のブリッジに行かせてもらいます。教官さんにも来てもらうよう伝えて貰えるかしら?」

 

 

「わかりました·····あのー、今回の事件の事なのですがあれは私達の教官さんも予想だにしてなかった事だったので···できればあんまり責めてあげないで欲しいと言いますか·····」

 

 

「わかっています。あの連中の事は連盟でも知らない人の方が多いはずだから無理もないわ。·····けれど貴方達を危険な目に合わせたという点に関しては少しだけ責任を問わなければならないわね」

 

 

しほはそう言い残すとブリッジを目指し歩き去って行った。しほが居なくなってから杏は全身から力が抜けた様にぺたんと座り込んだ

 

 

「ふぃ〜〜〜何とかなったね〜超緊張したよ〜」

 

 

「沙織さん会長さん··········私のために本当にありがとうございます··········」

 

 

「いいっていいって!··········けどみぽりんのお母さん超怖かったなぁ·····」

 

 

そう言って沙織もよたよたと床へ座り込んだ

 

 

「ははは、正直武部ちゃんが来てなかったら危なかったよ。正直私だけでママ住さんを説得できる自信なかったからね〜」

 

 

「けど全国大会で優勝しないとみぽりんは······いや!こうなったら何がなんでも優勝しなきゃ!」

 

 

「その意気だよ武部ちゃん。どっちにしろ優勝しなければ何もかも無くなっちゃうし気合い入れていかないとね〜」

 

 

「何もかも無くなる·····ってどういう事ですか?」

 

 

みほは杏の言葉が気にかかり聞き返してみると杏は「しまった」と言う様な顔になったがすぐさま話題を切り替えようと口を開いた

 

 

「··········そういえば西住ちゃんがどおりで強い理由。何となくわかっちゃったかもしれないよ」

 

 

「私が強い·····理由ですか?」

 

 

「確かに西住ちゃんは家元さんですっごい天才だっていうのもあると思うけどさ··········何よりお母さんから愛されてるから西住ちゃんはとっても強いんだよ」

 

 

「お母さんが私を?···········そんなはずは·····」

 

 

「いやいや西住ちゃんの事大切だと思ってなきゃ無理に連れ戻そうともしないって。家族に愛されて育った子は強いからね〜羨ましい〜!」

 

 

その場凌ぎという形で言ったが嘘や冗談ではなかった。杏はしほと言葉を交わした事で彼女がどれだけみほを想っているのかがよく理解する事ができた。みほは杏の言葉が本当なのかにわかに信じる事ができなかった··········がしほが今までみほの事を自身の星から見守り続けていたというのもまた紛れもない事実なのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後みほ、沙織、杏もしほが向かったとされるホワイトベースのブリッジへ向かった。ブリッジに到着するとそこにはロックオンとしほの姿があった

 

 

「角谷·······西住と武部も来たのか·····」

 

 

「ニールちゃん····他の皆はどうしたの?」

 

 

「あいつらは食堂か自分の部屋にいると思う·····」

 

 

「見えてきたわね」

 

 

するとブリッジから黒く巨大な構造物が見えてきた。『シュバルツ・ファング』·····黒くカラーリングされたコロニーが一基連結された小惑星をしほはモビル道の訓練地として運営しその星の所長の任を自ら務めていた。この小惑星には連日訓練のために世界中のプロチームや学生達が多く訪れていた

 

 

「何あれ!なんかでっかい石ころに煙突みたいなのが刺さってる!」

 

 

「あら、コロニーを見るのは初めてかしら。と言ってもモビル道用なのであそこに人は住んでいませんが」

 

 

「ママ住さん·····よかったらさっき私達を襲ってきた連中の事教えて貰えませんか?さっきあれが何者か知っていると言ってましたよね?」

 

 

杏がそう言うとしほは僅かに表情が険しくなりロックオンも少しだけ苦い顔を浮かべた

 

 

「·····先程教官さんにはお話しましたが···············まぁいいでしょう。貴方達には話しても大丈夫そうね」

 

 

「その話、私にも聞かせてください」

 

 

すると突然ブリッジの中に麻子が入ってきた

 

 

「麻子さん!」

 

 

「麻子!·····その、もう大丈夫なの?」

 

 

「··········わからない。ここに来て自分の事がよくわからなくなってきた········あの人達は西住さんだけでなく私も連れて行こうとしていた。だから私にもあれの正体を教えて欲しいです」

 

 

「貴方も連れて行こうとしていたですって·····?教官さん、この子は何者ですか?」

 

 

「彼女は冷泉麻子といいます。彼女はただの普通科の生徒なはずなのにどうして奴らが連れて行こうとしていたのかは全くわかりません··········」

 

 

「そうですか··········まず今回貴方達を襲ったのは恐らく月の研究機関所属チーム『νA-LAWS』。貴方達が訓練しようとしていた宙域はおそらくνA-LAWSが独自に所有している物だった為今回乱入してきたのでしょう」

 

 

しほは腕を組んで壁にもたれかかってから話し始めた

 

 

「でも訓練しようとしていただけの私達を妨害するなんて··········そんなの犯罪になるんじゃないんですか?」

 

 

「·······おかしな話だけど彼女達にはそれが許される特許の様な物を持っているわ。νA-LAWSは自分達が所有している訓練宙域を基本的に無償で使わせて、その代わり訓練中に野良試合を仕掛ける等の乱入行為を行うなどある程度の勝手が許されているのよ··········」

 

 

そうとは知らずνA-LAWSの訓練宙域を手配してしまったロックオンはそれを聞き更に表情を曇らせた

 

 

「·····けれどもしニールちゃんが他の訓練宙域を選んでたとしてもあの連中は西住ちゃんを攫いに来たんじゃ··········」

 

 

「それもそうね。RX-78NT-Xネティクス·····。νA-LAWSが今まで公式戦で出してこなかった機体があの中にいたというのもあって初めから本気で貴方達を連れて行くつもりだったのでしょう·······」

 

 

「でもやっぱりおかしいよ·······あんな風に私達を怖い目に合わせたのにそれが許されるなんて·····」

 

 

「貴方の言う通り本来こんな勝手な行為許されるはずがない·····にも関わらず誰も彼女達を処罰できないのも全て月の研究所という後ろ盾からの影響があまりにも大きいせいなのよ·····!」

 

 

月の研究所と愛里寿達の所属するνA-LAWS··········後にみほ達と大きく対立する事となる者達の姿が少しずつ現れ始めていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しほの星へ到着した大洗女子学園。友と共に過ごすため、大切な場所を守るために再起の炎を燃やし心を一つにしようとする

 

 

次回 ガールズ&ガンダム 『決意の朝』

 

 

その花は母がみほのために用意したガンダム

 




読んでいただきありがとうございました

今回登場したしほの経営してる小惑星シュバルツ・ファング。これの名前はガンダムWのホワイト・ファングを文字っただけなので特に深い意味はありません()

急ピッチで書いたので色々雑な所が多いと思うのでちょっとずつ直していこうと思います

次回はかなり長くなると思いますがよろしくお願いします


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おまけ 月の王

またまたおまけ回になってしまいました()

今回は初めて当ssの世界観や歴史について触れますがちょっと話が重い感じなので読まなくても大丈夫です。あくまでおまけなので本当に大丈夫だと思います

今回もよろしくお願いします



 

 

「月の研究所·········それって一体どういう所なんですか?」

 

 

しほの口から明らかにされた今回自分達を襲ったモビル道チームνA-LAWS(ニュー・アロウズ)······とその母体とされる月の研究所の存在は質問した麻子以外の者達にとっては初めて耳にする言葉であった

 

 

「·····月面に巨大都市がいくつか在るのは知っているわね?」

 

 

「確かより多くの人類が生活できる居住コロニーを開発するための拠点として造られた都市だったかと·····」

 

 

「麻子そんな事知ってたの!?」

 

 

「いや··········何故か今になって何処かで見たのを思い出してな」

 

 

「麻子さん凄い·······」

 

 

「貴方達もそのくらいの事は勉強しておきなさい··········そして月面都市が完成してから暫く経って表向きにはゲノム研究という目的であの研究所は造られたわ·····」

 

 

するとしほは座り込んでいたロックオンに視線を向けた。しほの鋭い視線に気づいたロックオンはすぐさま立ち上がった

 

 

「教官さん、貴方は何故モビル道が誕生したか知っている?」

 

 

「は、はい!確か人が宇宙で生活できる様になったのでその新時代を象徴する新しいスポーツとして誕生したのが所以であります!」

 

 

「教科書通りの答えね。では何故モビル道なのかしら?こう言うのは失礼ですがただのアニメであるはずの機動戦士ガンダムから登場した兵器を実際に使って武道を行うだなんて変だとは思わない?」

 

 

「え·····?そう言われましても··········えーと········」

 

 

しほの問いにロックオンは答えが全く浮かんでこず焦りからか滝のように汗を流し始めた

 

 

「あのーママ住さん·····なんでそんな関係ない事聞くんすか·····?」

 

 

「ただの例え話です。確かに新時代を象徴する武道というのも間違ってはいませんが私はただ単純に()()()()()という理由でモビル道は誕生した·····そう思っています」

 

 

「できるから·····?ってどういう事ですか?」

 

 

しほから出された解答に杏やみほ達は首を傾げた

 

 

「できるから、というのはそのままの意味です。宇宙へ進出し地球と同じ様に生活できるまでに至った私達人は何でもできると思ったのでしょう。かねてより憧れであった巨大人型兵器を動かし戦わせる事を実現しようと開発を進め完成させ、それらを使ってアニメさながらに戦うために武道という形でモビル道が誕生したのよ」

 

 

一般的にモビル道は人々が宇宙へ進出した新時代を飾るために全く新しい武道として誕生させたという考えが世界に浸透していたが、しほの言う通り科学技術が大幅に進歩した故にできるから、今まで夢にまで見た世界を実現できるから誕生させという側面も存在していた

 

 

「へぇ〜意外とリアルというかロマンのある理由なんだねぇ」

 

 

「というかなんか意外ですね··········家元がモビル道をその様に考えていたなんて····」

 

 

「あくまで例え話として出しただけです。話を戻しますがあの研究所には今言ったようにできるからやる·····作れるから作り出す·····そういった思想を持った者達が大勢集まってあそこで働いているの」

 

 

「?つまり誰もが今までできなかった事をできる様にするための研究をしてる·····って事ですか?」

 

 

杏はしほが言った事に若干の疑念を持ちつつも自分なりに考え彼女に聞き返した。世界中の人々の下で活躍するであろう物のための研究であるならむしろ歓迎すべきなのではないかと思っていた

 

 

「確かに聞こえはいいかもしれません·····がその思想故に誰もが留まる事も退く事もせず、己の名を世に残すためか、ただの興味本意や探究心からなのか、本当に人類の発展を願っての事なのか·····あの研究所にいる者達は目的のために平気で誰かを材料に研究を行っているの·········」

 

 

「材料·····?」

 

 

「えっ····そういう研究ってもしかして·······」

 

 

沙織をはじめその場にいた全員がしほの言葉から背筋が凍る程恐ろしい物を想像した。それを察ししほは主に杏と沙織に向けて言葉を掛けた

 

 

「·····みほと冷泉さん。貴方達はこれから話す事に少なからず関わっているので残ってもらいますが、他の皆さんにとっては聞かない方がよい話ですので席を外す事を勧めます。残るのであれば咎めませんが聞いたからには他言無用を約束して欲しいです」

 

 

「····私は残ります。生徒の身を預かる者として二人にとって危険な存在の事は知っておかなければならないので」

 

 

「わ、私もみぽりんと麻子が残るんだし·····二人と関係のある事なら無視できないので聞かせてください!」

 

 

沙織はしほに向かって頭を下げながらそう言った

 

 

「そう言うのであれば構いません。教官さん、貴方はどうするの?」

 

 

「·····俺も残ります。今回の件へのケジメを付けるためにもせめてあの連中の正体だけでも知りたいので·····」

 

 

「ニールちゃん··········」

 

 

「わかりました。これから話す事は自然保護団体ブルーコスモスが送ったスパイが得た情報から明らかになってきた研究所の正体です。この世界の歴史とも大いに絡んでいるので少し長くなりますが付き合って貰います」

 

 

しほは軽く息を吸うと月面都市に存在する研究所について話し始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遡ること現在より1世紀近く前··········モビル道が誕生してまだ間もない頃、木星由来の資源採掘と未知なる物の発見という任務で地球を発っていた木星探査チームと彼等を乗せた木星探査船が数年間に渡る時を経て地球へ帰還した。各国の代表や宇宙関連の企業団体はこれで何度目かになる地球と木星間の往還航行の成功に歓喜し探査船メンバーの帰還大いに喜び讃えて迎え入れた

その後探査船の成果報告会が開かれ代表達はこれを聞くために世界中から期待しながら集まり、チームリーダーを務めていた若き日本人女性が発表のために報告会へ姿を現した。しかし報告を終えた後、彼女は探査船の成果とは別に彼女自身に起きた事についてある告白をした

 

 

「私は今回人生で初めて木星圏へ行きあの地で長期間地球と同等の生活をしていました。ですが地球より遥か遠く離れた星へ到達したからでしょうか··········私自身理解し難い程未知なる力を手に入れてしまった様で·····ヒトとして新たなる段階へ到達してしまったのかもしれません」

 

 

その場にいた誰もが彼女の言っている事が理解できなかった。代表達は彼女が長旅で疲れたのだろうと思ったがその直後、彼女はテレパシーの様な物を報告会に出席していた代表達の頭の中に送り込んだ。代表達は今まで体験する事のなかったその衝撃にある者は頭を抑え、身をのけ反り、思わず椅子ごと転倒する者もいた。その時何が起こったのか誰もわからず代表の中の一人が半狂乱になりながら護衛を呼び彼女を拘束させた

 

その後彼女はメディアに報じられる事は無かったが国家反逆罪として幽閉される事となった。しかしどんなに調べようと彼女が当時着ていた服や身体から兵器や武器の様な物は見つからず、報告会を開いていた部屋と建物からも怪しい物は何も発見される事はなく彼女自身が本物のエスパーの類いなのではないかという説が濃厚になり、地球圏代表議会では彼女を木星帰りの英雄として一刻も早く社会へ戻すべきという意見や明らかに危険な存在であるため最悪殺処分も考えなければならないという提案なども現れ毎日の様に論争を繰り広げてあいた

 

しかしそんな日も長くは続かずいつもの様に議事堂が慌ただしくなっていると突如議会が開かれていた部屋の扉が開かれ、驚く事に彼女が厳重に幽閉されていたにも関わらず何故か部屋を出て議会に姿を現したのであった。大勢の議員や警備に当たっていた者達が現れた彼女の姿に仰天し、そのあまり拳銃を彼女に向かって放とうとする者もいたが何故か引き金に指が掛からず彼女を拘束しようと駆け寄る者は途中で金縛りにあったかのように動けなくなってしまった。当の彼女はというと他の者達を後目に一直線に壇上へ上がり、代表議会の議長から申し訳なさそうにマイクを受け取ると室内にいた者達に向かって宣言した

 

 

「自分は以前行った事の他に皆さんの本心を読む事も可能です。この能力(チカラ)は現在私にしか現れていない本当に未知なる存在です··········なので私自身理解できずにいるこの力を解明する事を許して欲しいです!そうすればこの力は私だけの物ではなく·····いずれ世界中の誰もが手に入れる事となれば人類その物が新たなる段階へ進化を遂げたという事になるでしょう··········!」

 

 

議員達は彼女に何も言い返す事もなくただ圧倒され、彼女もマイクを置くと直ぐに壇上から降り部屋の外へ出て行った。その後彼女は元いた部屋の中に戻ってきたらしく、部屋の看守を務めていた者が言うには無意識の内に部屋のパスワードを解いてしまったらしく他の職員達も彼女の脱走を覚えている者は誰もいなかった。後に彼女の口から「私が皆を洗脳したから脱走できた」と報告が上がりら議会の中では彼女が言う新たなる能力を手に入れたという事を信じる者が増え始めそして·····彼女の様な存在に人類が成れるのではないのかと憧れを持ち始める者も現れ始めた·····

 

 

その後地球圏代表議会は一部のメンバーで極秘裏に彼女の正式な処分を決定した。報告会と議会で彼女が起こした事に目を瞑る代わりに自身が得た未知なる能力の解明とその能力を通常の人類も使える様にまでして欲しいという任務が課せられた。彼女は元々その気だったため喜んでその決定を飲み、親しい探査船のメンバーや自身の能力に憧れや知的好奇心を抱く研究員達を集めた。研究は地球上では目立つからと禁止されたので月面都市フォン・ブラウンに研究所を設立し、月の政治を取り仕切る月議会と連携しながら研究を行うこととなった

 

それ以来彼女········島田流初代家元島田恵里寿(しまだエリス)が新たなる人類の進化と覚醒を目的として設立した【ニュータイプ研究所】では恵里寿自らが研究対象になって解析を進め、自分と同じ様な能力を持つ者を生産するため秘密裏に集めた孤児や最新技術で造り出した人造人間に修飾・改造を施しニュータイプである自身へと近づけていこうとした。そしてその能力(チカラ)を試す為にモビル道界に参入し多くの輝かしい功績を残していった··········研究所で何が行われているのか知られぬまま人々から恵里寿率いるモビル道チームは島田流と呼ばれるまでに至った。

 

その後恵里寿は結婚し子を産んだ。しかし家庭を持ちたかった訳でも愛した人との子供が欲しかった訳でもなく··············ただ自身の腹から産まれた子が自分と同じ能力を持っているのかが知りたかった·····そして恵里寿の期待通り産まれてきた子はニュータイプの能力を備えている事が判明した時彼女は全人類がいずれニュータイプになれるのを確信し自身が持つ悲願を次の世代に託す事を決意した

それから現在に至るまで彼女達島田流は代々亡き恵里寿と先代達の研究と思想を受け継ぎ同じ様に研究を続けていた·····全人類を次なる段階へ··········ニュータイプへと覚醒させるために··········

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待ってくれ·······なんだその馬鹿げた話は·····そんなの倫理的に··········常識的に考えて絶対許されるはずがないじゃないか!」

 

 

皆がしほから明かされた月の研究所の話に凍りつく中、麻子は握った拳を震わせるながら感情の昂った声を上げた。これまでの生活から到底想像する事が無かった麻子の姿を見てみほと沙織はかなり心配に思った

 

 

「麻子·····?どうしちゃったの·····?」

 

 

「ふざけるな·····何が人造人間だ何が改造だ········そんなふざけた事をしている場所で··········私は··········!」

 

 

「家元はここまで深い内情を知ってて·····警察等には通報しないのですか··········?」

 

 

「········まだ確証足る物が得られてない為議会に報告してもろくに動いて貰えないのです。更には現在家元を務めている4代目の千代が··········いや、()()()が家元の座に着いてからというもの月議会その物が研究所の傀儡と成り果て我々の監査にも妨害や隠蔽を行い研究にも莫大な投資をしているらしく······もはや誰にも止められない存在になりつつあるのよ·············!」

 

 

しほもまた眉間にしわを寄せ怒りの形相を浮かべながら呟いた。今まで何不自由無い平和な世界で生きてきたと思っていたが··········まさかそんな恐ろしい事が繰り広げられている場所をみほ達は信じる事ができなかった

 

 

「··········けどもしそんな研究所が西住ちゃんを無理矢理連れて行ったとしても····バレたらいくら月の後ろ盾があっても言い逃れできないんじゃ··········」

 

 

「·····そこなのよ。そんな大胆な事をすれば直ぐにボロが出て議会も黙ったままではいれなくなる。というのに今回仕掛けて来たのは私にも動機がわからないの··········ところで冷泉麻子さん。もしかして貴方は何か知っているのかしら?それとも先程襲撃してきたνA-LAWSから何か聞かされた?」

 

 

「私は···············いや、特に何も知りませんし何も言われていません··········」

 

 

麻子は先程戦闘中にナオから明かされた事を話す事ができなかった。正確には自分自身が研究所で産まれたかもしれないという話を信じる事ができなかった。だからこそそんな話をしほや他の皆に聞かせたくなかった

 

 

「麻子さん·····本当に大丈夫なの·····?」

 

 

「心配しないでくれ·····そういえば連中はただ私の成績がいいから誘いに来たと言ってたな·····」

 

 

「先程の反応といい何か気になるわね········何か困っている事があればできる限り力になりますが?」

 

 

「いや特には··········あ、その·····大洗に私のおばあがいて·····もし良ければおばあと電話をさせて欲しいです·····」

 

 

「わかったわ。後で大洗の役場に通信してみます。貴方のおばあさん次第ですが早ければ今日中に通話ができるかもしれないわ」

 

 

「あ、ありがとうございます··········」

 

 

麻子は少し震えた声でしほに礼を言った。みほと沙織は本当は麻子に何があったか問いたかったが彼女がそれを拒んでいる様に感じたので聞く事ができなかった

 

 

『知波単学園及び大洗女子学園の艦と断定。我々シュバルツ・ファングは非常事態の様である貴艦らの入港を許可します』

 

 

ブリッジ内にシュバルツ・ファングの管制局から通信が響くと小惑星の岩盤がハッチのように捲り上がり港への入口が現れた。そして大洗女子学園の艦2隻とそれを牽引していた絹代・フリートはシュバルツ・ファングへ入港して行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月面都市フォン・ブラウン··········ニュータイプ研究所最下層にて··········

 

 

「素晴らしい·····これ程までに柱の開発を進めていたとは·····流石は衛だな!」

 

 

フォン・ブラウンの街に建てたれた電波塔よりも更に巨大で鈍い紫色の光を内部から怪しげに放っている巨塔が何本も建てられた空間を二人の男が展望室から眺めていた

 

 

「お褒めに預かり光栄です、コーナー議長」

 

 

「おいおい衛。せっかくの休暇なのに仕事の呼び方で呼ばないでくれよ」

 

 

「これは失礼しました。アレハンドロ様」

 

 

「とはいえこれ程柱の建設が進んでいたとは·····あと何本だね?

 

「約2800です。今年中には目的の2万に到達するかと」

 

 

「そうか·····!ついにこの私が·····全人類の頂点に君臨する時が来るというのだな·····!」

 

 

島田衛(リボンズ・アルマーク)の言葉を聞き月議会議長、アレハンドロ・コーナーは両手に握り拳を作り歓喜の声を漏らした

 

 

「まだお互い幼かった頃·····研究所から君を買い取り島田家に養子入りさせたのは正解だった··········やはり君はまさしく私のエンジェルだよ·····」

 

 

「恐縮ですアレハンドロ様。僕がここまで働けたのも全て貴方のおかげです」

 

 

「フハハハハ!それでは今日もナオくんと朝まで楽しませてもらうとするよ!我々を引き合わせた運命と新たなる時代の幕開けを祝してな!」

 

 

上機嫌になったアレハンドロは高笑いしながら部屋の外へ出て行った

 

 

(前の世界と同じくらい愚かで助かるよ·····アレハンドロ・コーナー··········)

 

 

衛はアレハンドロの後を直ぐには追わず、意識を研ぎ澄ましテレパシーを愛里寿の住む島田家本邸で働くメイドに送った

 

 

(聞こえるかいマカハドマ·····愛里寿達が帰ったらナオに僕の元へ直ぐに来る様伝えといてくれ。わかったね?)

 

 

(···············かしこまりました)

 

 

メイドからの返事を聞いた衛はテレパシーを終わらせ最後におびただしい数の"柱"達に目をやり邪悪な笑みを浮かべながらその場を後にした··········

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました

話の雰囲気が段々SEEDっぽくなってきてる様な気がしながら書いてました()

やはり説明足らずな部分が多いと思うのでこの先も頑張って補足しながら進んでいけたらと思います


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13話 決意の朝(前)

今回も前編後編に分けることとなりました。新しいオリキャラ(?)が登場します

先の展開に伴って杏のキャラ設定が大分変わってしまったのでご了承いただけると嬉しいです

今回もよろしくお願いします


もはや自力での航行ができなくなっていた大洗女子学園のホワイトベースとビーハイヴ。2隻を牽引した知波単学園所属艦隊絹代・フリートはみほの母西住しほの指示で彼女が所長を務め管理運営を行うモビル道訓練用小惑星【シュバルツ・ファング】へ進路を取った。その間しほからみほ達を襲った島田流のモビル道チームνA-LAWSと彼女達が属している月の研究所の実態が明かされ、みほ達は自分達が生きる平和な時代に潜む闇の一部分を知らされる。

新たに歩み始めたモビル道。新しい友と上がった宇宙で自分を待ち受けていた者達との出会い、母との再会·····そして11年前自分をニュータイプに覚醒させたという少女の声。これまでの出来事は全て偶然の産物か、あるいは誰にも抗う事のできぬ運命が紡ぎしものなのか·········

 

 

 

 

 

 

シュバルツ・ファングの小惑星体から港へ繋がるゲートが開かれそれに促される様に大洗女子と知波単学園による艦隊はゲートの中へ入って行った。誘導灯が照らす長い搬入路をしばらく進んで行くとシュバルツ・ファングが誇る広大な港の内の一つに出て、そこには訓練の為に訪れている様々なプロチームや学生チームの艦が何隻も停泊していた

 

 

「すっごい·······これ全部みぽりんのお母さんが持ってる船なんですか?」

 

 

「そんな訳ないじゃない。けれどこれ程多くの艦を収容できる港をいくつか備えている訓練場はここくらいでしょう」

 

 

数々の艦を見て驚きを露わにする沙織にしほは少し自信げに答えた。他の艦と同じ様に停泊させてからホワイトベースとビーハイヴから絹代・フリートの艦から伸びていた牽引ワイヤーが切り離されると、艦の修復資材や専用の工具を装備した整備士の操るプチモビが何体か現れ早々と2隻の修理作業を始めた

 

 

「へぇ〜着いた瞬間修理し始めてくれるなんて超気が利くじゃん!」

 

「すみません家元·····助けてもらうだけじゃなくこうして修理まで頼まれてくれて·····」

 

 

「事が事なのでこのくらい礼には及びません。それより先程も少し話しましたが貴方は結局どうしたいのですか?確かに後任の教官なら私の方で手配できますが·····」

 

 

しほは外を眺めているみほ達には聞こえない様に言いロックオンはそれを聞き苦悶な表情を浮かべた

 

 

「··········それでよろしくお願いします。いやぁ教官なんて今の俺にはとうてい荷が勝ちすぎる大役だったんですよ·····ははは·····」

 

 

「貴方はよく動いた方だと思いますがそこまで悔やむのならば止めはしません。··········ただみほの事を救おうと立ち向かってくれた事には大変感謝しています。本当にありがとうございました」

 

 

そう言ってしほが頭を下げてきたのでロックオンは戸惑いそれを制する様に振舞った。そんな二人の会話に杏はこっそり聞き耳を立てていた

 

 

「それでは私は降りさせてもらいます。わかっているとは思いますが基本的に寝食は基本的に艦内で済ませてもらいます。もしトラブルがあれば直ぐに担当の方へ連絡してください。それと冷泉さんはお婆さんと連絡が取れたら呼びますので艦内に残ってて貰えるかしら」

 

 

「わかりました。よろしくお願いします」

 

 

麻子の返事を聞きしほはブリッジから出て行こうとしたが帰ろうとした事に気づいたみほに呼び止められた

 

 

「お母さん!·····その··········今日は助けに来てくれてありがとう·····」

 

「別に助けに来た訳ではなくたまたま通りかかっただけよ。とはいえ本当に運が良かったわ·····」

 

 

「えっと·····勝手にモビル道を始めてごめんなさい·····でもこんな事になるなんて知らなくて··········」

 

 

「アロウズの事はこれ以上貴方に対して好きにさせるつもりはないから安心しなさい。それより私が先程申したことは全て本気です。まだ大洗女子でモビル道を続けたいのならその覚悟と力を私に認めさせる事ね」

 

 

去り際に先程約束した事を言い残し、しほはブリッジから出て行った。まだ認めてもらえた訳でも分かり合えた訳でもない。それがみほにとって少し寂しかったが西住流の家元である母を納得させるためには致し方ない事、自分の力で乗り越えなければならないと心に留めることにした

 

 

「········はぁ〜めちゃめちゃ緊張した·····けど思ってたより西住のお母さんって優しい人なんだな。どうなるもんかとヒヤヒヤしたぜ·····」

 

 

「ニールちゃん·····」

 

 

「俺はこれから夕飯作るけどおまえらはもう疲れてるだろうし部屋でゆっくりしててくれ。できたら連絡するからよ!」

 

 

ロックオンは空元気気味にみほ達にそう言うとブリッジを出て食堂へと向かって行った。今思えば皆と宇宙に来てまだ二日目だというのに内容の濃い出来事ばかりだった為疲労感がどっと体にのしかかってきた

 

 

「はぁ··········なんか色んな事ありすぎて整理しきれないよ··········」

 

 

「三人とも大分疲れてるみたいだしニールちゃんの言う通り夕飯まで休んできていいよ。はいこれ寝室の鍵」

 

 

杏はポケットからカードキーを2枚取り出しみほに手渡した

 

 

「本当は仲良い子同士固めたかったけど二人一部屋だから西住ちゃんは私と同じ部屋で組んじゃった。なんかごめんね」

 

 

「そんな事ないですよ。でもこの船ずっと放置されてたから部屋の中も整理しなきゃいけないんじゃ·····」

 

 

「それならニールちゃんがこっそり綺麗にしてくれてたみたいでね。シャワーからちゃんとお湯が出るくらいまで全部やっててくれたんだよね··········じゃ私はちょっとやる事できたからまた後でねー!」

 

 

そう言って杏もブリッジの外へ出て行ったのでみほ、沙織、麻子の三人も後に続いてブリッジを出て自室へと歩き始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人はブリッジから生徒それぞれの寝室がある区画に到着しとりあえず三人は沙織の部屋で休む事にした。同部屋の華はまだリュウセイと共にビーハイヴから戻っていなかったのもあって部屋にはロックがかかっていたので沙織は杏から貰ったカードキーで部屋を開け明かりを点けた。すると簡素ながらも長年放置されてたとは思えない程整頓され床や壁にもシミ一つない部屋が目に飛び込んできた

 

 

「へぇ〜これが私達の部屋なんだ〜」

 

 

「····················寝る」

 

 

手早くパイロットスーツを脱ぎ捨てTシャツと下着姿だけになった麻子はシーツと布団が新品に取り替えられたベッドの上に倒れ込むように飛び込んだ

 

 

「あ゙ー!ちょっと麻子!そこ私のベッドなんだけど!」

 

 

「西住さんのお母さんが呼んだら起こしてくれ。それまで少し借りるぞ」

 

 

「てか本当に寝ちゃうの·····?さっきも思ったけどみぽりんを攫おうとした人達に絶対何か言われたんでしょ?今の麻子いつもと全然違うしよかったら相談してよ·····」

 

 

「··········沙織、おまえは私のおとうとおかあの事·····何か覚えてないか?」

 

 

「え·····ごめん、二人の事は私のお父さんとお母さんもよく知らなくて·····」

 

 

「そうか·····私の事は心配しなくていい。いずれ自分で解決してみせるさ··········」

 

 

麻子はそのままうとうとと眠りへと沈んで行った。仕方がないので沙織はもう一つのベッドに座り、みほはパイロットスーツを脱いで青と白を基調としたインナーと白のレギンスという新しいユニフォーム姿に着替えてから沙織の隣に腰掛けた

 

 

「麻子さん·····本当に大丈夫なのかな·····」

 

 

「·····麻子はね、今から10年くらい前に私んちの近所に住んでるおばあの家に家族で引っ越して来たんだけどね。引っ越してからすぐにお父さんとお母さんが事故で亡くなっちゃって·····」

 

 

「えっ、ごめん·····私全然知らなくて·····」

 

 

「いやいやそういうのじゃないの。あの頃は麻子の事凄く可哀想って思ったけど、あの子立ち直るのが凄く早くてね。葬式の翌日もいつも通り学校に来たし、今まで私におとうとおかあが居なくて寂しいなんて一言も言った事がなかったからさ。麻子って本当に強い子なんだよね。··········でもどうしてここにきて·····やっぱりあの人達に何か言われたのかな·····」

 

 

みほと沙織は襲撃してきた4機のガンダムの内2機が麻子と接触していたのを思い出した。最終的に麻子を連れて行こうとはしなかったものの、あの間に麻子は何か良からぬ情報をもたらされそれが原因で先程も今までにないくらいに取り乱してしまったのではないかと二人は考えた

 

 

「まだ宇宙に来たばかりなのに本当に色々な事があったね。それに凄く怖かったよ·····みぽりんがニュータイプっていう力を持ってるから研究のために連れて行こうとするなんて·····本当に捕まってたらもう会えなくなってたんだよね··········」

 

 

「·····沙織さんはあの人達がお母さんの言ってた研究のために私を連れて行こうとしてたと思う·····?」

 

 

「え?だってそうなんじゃないの·····?みぽりんのお母さんだって私達を襲ったのは月の研究所の人達だって·····」

 

 

「あの時あのガンダムに乗ってた子ともう一人·····あの子が何なのか全くわからなかったけど私の身体を乗っ取るって言ってたの·······この世界を変えるために必要だからって··········」

 

 

みほの言葉を聞き沙織は途中で声を詰まらせた。みほが持つニュータイプという力、それを欲望のままに研究している月の研究所、そしてみほと自分の頭の中にだけ届いた謎の少女の声。説明のつかない事ばかりだがニュータイプという力を持ち得ているのであれば、みほの言う誰かの身体を乗っ取る事や洗脳する事もできるはず·····そう思うと一層恐ろしく思い沙織はみほの手を大事そうに握った

 

 

「みぽりん·········本当に戻ってこれてよかったね·····ごめんね何もしてあげれなくて··········」

 

 

「そんな事ないよ。沙織さんのおかげで私は··········けど確かに怖かったな··········」

 

 

うつらうつらとしていたみほはゆっくりとベッドに横たわったかと思うとそのまま眠りに落ち小さな寝息を立て始めた

 

 

(そっか········本当に色んな事があったし疲れちゃったよね········)

 

 

モビル道に疎い沙織にも目に見えて尋常ではない存在であると判るネティクスと戦闘していたのだからここまで消耗するのも無理はない。沙織はみほの体をちゃんとベッドに寝かせてあげて自分は椅子に座ってみほの手を握った

 

 

「お疲れ様みぽりん·····」

 

 

(·························ありがとう·····)

 

 

「·····え?」

 

 

突如沙織の頭の中にみほの声が聞こえた。思わず辺りを見渡すも不振なものがあるはずもなく当のみほは眠っているためただの気のせいという事に処理した。ただその時の感覚は謎の少女の声が頭の中に聞こえたそれと全くの同じものであった··········

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ㅤ食堂のキッチンにてロックオンは思い詰めた顔を浮かべながら下ごしらえのためにじゃがいもの皮を剥いていた。彼は今異例の事態であったものの教官という立場でありながらみほをはじめ生徒達を危険な目にあわせてしまった事から自責の念に駆られていた。先程しほと二人きりで話した時はあまり気に病むことは無いと言われたが、元を辿れば連盟からの補助も無しに全国大会へ間に合わせるために独断で皆を宇宙に連れ出し、無償だったからとνA-LAWS所有の訓練宙域を借りたのも自分だったのでどうしても責任を感じずにはいられなかった

 

 

「はぁ、本当やっちまったな····何がロックオン・ストラトス教官だよ·····情けねぇ·····」

 

 

「おっ、早速お料理してるみたいっすね〜お兄さん〜」

 

 

声がしたかと思うと食堂の入口からひょっこりと杏が顔を覗かせており肩にはリュックサックを担いでいた

 

 

「角谷·····!どうかしたのか?」

 

 

「私はあんまり疲れてないからお手伝いしようと思ってね。ニールちゃん一人じゃ人数分作るのも大変でしょ?」

 

 

「気にすんなって、こうして合宿の飯作るのもやった事あるしおまえも皆と一緒にいていいんだぜ?」

 

 

「まーまーそう言わずに。それに作った事あるって言っても男子だけの合宿でしょ?女の子の好みとか詳しくなさそうだからここは頼りにしてよ」

 

 

正直今は一人になりたい気分であったが杏の言うことも一理あると思いロックオンは彼女が手伝う事を承諾した。杏はキッチンに入るとリックから自前の調理器具を取り出し調理台の空いてるスペースに並べた

 

 

「なんか色んな食材が置かれてるけど何作んの?もしかしてカレー?」

 

 

「いや俺の故郷の家庭料理を作ろうと思ってな。·········悪かったな、俺のせいであんな事になっちまって·····」

 

 

「ニールちゃんのせいじゃないよ。ママ住さんもどこの訓練所を選んでも西住ちゃんを狙いにあの人達は来ただろうみたいな事も言ってたし」

 

 

「けどよ··········いや、ありがとな」

 

 

ロックオンはそう呟いてからまた作業に戻り杏もロックオンの隣でお米を研ぎ始めた。二人は黙々と作業を進めていたがどうしても聞きたい事が杏が痺れを切らして話を切り出した

 

 

「ニールちゃんさ、さっきママ住さんが後任がどうとか言ってたけどもしかして辞めちゃうの·····?」

 

 

「聞いてたのか··········まぁそういう事なんだわ。けど明日にでも新しい教官は手配できるらしいから心配しないでくれ」

 

 

「そういう事じゃないでしょ·····!なんで勝手にそんな事決めんのさ!誰もニールちゃんに辞めろだなんて一言も言ってないのに!」

 

 

「悪ぃな··········ただつくづく思い知らされちまったんだ······俺は教官としておまえらにモビル道を教えるどころかおまえらを守る事もできないってな······」

 

 

ロックオンは手を止め悔しそうに呟いた

 

 

「結局俺は自分の果たせなかった夢をおまえらに押し付けようとしただけだったんだ······。そのせいであの連中に付け込まれて西住を·····皆を危険な目に遭わせちまってよ········最悪だよな·····」

 

 

「そうやって全部自分のせいにしないでよ!私も西住ちゃんも皆もニールちゃんが悪いだなんて全然思ってないんだから!」

 

 

杏もまた作業を放り投げ感情的な声でロックオンに怒鳴った。彼女の言葉と迫力を受けロックオンは我に返ったかのように驚いた

 

 

「それに私達を本気で優勝させてくれようと頑張ってくれる教官なんてニールちゃんしかいないって·······だから辞めるなんて言わないでよ······」

 

 

「··········なぁ、どうして角谷はそんなに全国大会の優勝に拘るんだ?確かに目標はでかい方がいいって言ったけどそれ以外に何か理由があるんじゃないのか?」

 

 

杏は少し難しい顔をして口を噤んだものの少し間を空けてから切り出した

 

 

「·······私も昨日のニールちゃんみたいにちょっとした昔話してもいいかな?」

 

 

「ああ。なんか関係してるんだったら構わないぜ」

 

 

「ありがとね。··········私んち昔っから家に両親が居なくてさ、おじいちゃんと二人で暮らしてたんだよね」

 

 

「げっ······すまねぇそういう話だとは思わなくて·····やっぱ辛いことなら言わなくてもいいぞ!」

 

 

「嫌だなぁそういうのじゃないって〜。二人とも海外で働いてるだけで多分今も生きてると思うから大丈夫だよ〜」

 

 

杏はけらけらと笑いながらロックオンの誤解を否定した

 

 

「んで私が小学校入ってからお父さんもお母さんもそれぞれ海外に仕事に行ったまま全く帰ってこなくなってさ。生活費とかは振り込んでくれたけどそれ以外の事はなんにもしてくれなかったんだよね」

 

 

「小学生でそんな生活強いられてたのかよ··········てかおまえのご両親って親として問題ありすぎなんじゃないのか?」

 

 

「んー、二人とも全く愛し合ってたなかったし何事よりも仕事を優先する人達だったからねぇ。おじいちゃんが死んじゃった時も仕事で忙しいからって言って葬式にも来なかったんだよ。おかしいでしょ〜?」

 

 

「おかしいっていうか全然笑い事じゃねぇと思うんだが········」

 

 

「んでおじいちゃんが亡くなって実質独りぼっちになっちゃったけど街のみんなやかーしまと小山がすっごい心配してくれて色々助けてくれたんだよね。嬉しかったなぁ·····皆が支えてくれなかったら私絶対耐えれなかったと思うんだ·········」

 

 

いつものぶっきらぼうな調子ではなく熱が込められた話し方だったのでロックオンも真剣に話を聞いていた

 

 

「それから大洗女子学園に入学してさ、家族は居なかったけど学園の皆や街の皆が傍に居てくれたから全然寂しい思いなんてしなかったんだ。だからかーしまと小山と一緒に生徒会造って学園を盛り上げるために色々やってきたんだけど··········やっぱ日本の学園艦の中でも一番ってくらい古い学園艦だからさ。生徒数もどんどん減ってて正直このままだとやばいかもしれないんだよね·····」

 

 

「·····なるほどな。だから全国大会で優勝して学園を有名にしたいって事なのか」

 

 

「私も今年度で卒業だからさ、今までお世話になった分恩返しがしたいんだよね。私も皆も大洗女子学園が大好きだからさ··········」

 

 

「すげー奴だな角谷って。··········けどだからこそ俺みたいな新参じゃなくてもっとベテランな教官の方がいいんじゃないのか?俺なんかじゃおまえらを優勝させることなんて··········」

 

 

「それは違うよ。最初はちょっと疑ってたけど今ならはっきり判る。こんなモビル道を復活させたばかりで何にもわかんない私達を本気で優勝させようと頑張ってくれる教官なんてニールちゃんしかいないってね。てかそんなウジウジと弱気になんないでよ〜いつも通りカッコつけなきゃ駄目だって!」

 

 

杏はそう言ってロックオンの背中をバシバシ叩きにっこりと笑って見せた。ロックオンもまた彼女から本当に頼りにされている事を受け腐っていた心が晴れていく心地がした

 

 

「··········よし!わかったぜ角谷!この俺ニール・ディランディが·····いや、ロックオン・ストラトス教官がおまえらを必ず全国大会で優勝させてやる!」

 

 

「その意気だよニールちゃん!んじゃ改めてよろしくね!」

 

 

そう言って杏は手を差し出して来たのでロックオンもそれに応えて手を伸ばし熱い握手を交わした

 

 

「·····ん?ちょっとニールちゃんの手じゃがいものせいで泥だらけじゃん!お米研いでたのに!」

 

 

「あっ悪ぃ!全然意識してなかったぜ!アハハハハ!」

 

 

「てか凄い量のじゃがいもだけど何作ろうとしてるの?並んでる食材的にも何ができるのか読めないし·······」

 

 

杏の言う通り調理台の上にはにんじんや玉ねぎの様にオーソドックスな野菜の他に紫キャベツや羊肉が置かれていた

 

 

「フッフッフッ······俺が今日皆に作ろうとしてる料理·····その名もアイリッシュシチューだ!」

 

 

「あいりっしゅシチュー?何それ聞いた事ないかも·····」

 

 

「アイリッシュシチュー·······つまり今夜の献立はアイルランド料理か。心が踊るな」

 

 

突然食堂のテーブル席の方から聞いたこともない美声が聞こえ振り向くとそこには白いライダースジャケットを着こなした金髪の美青年が自前の魔法瓶から注いだ紅茶を啜りながら座っていたので二人は目を丸くした

 

 

「えっと··········あの、どちら様·····でしょうか?」

 

 

「あんた·····もしかして西住を助けに来たペイルライダーのパイロットか?」

 

 

「私はヴァルキュリア大学モビル道遊撃部隊隊長マクギリス・ファリド。この艦の責任者に挨拶をと思い出向いたのですが取り込み中だった様なのでこうして待たせて貰いました。お会いできて光栄です、ロックオン・ストラトス殿」

 

 

みほを助けるためネティクスと激闘を繰り広げたペイルライダーのパイロット、マクギリス・ファリドは立ち上がってロックオンに会釈した。ロックオンは自分の名前と顔が多少なりとも有名である事を自覚していたもののいきなりフルネームで呼ばれたため驚きを隠せなかった

 

 

「あなたも私達を助けに駆け付けてくれたんですね。本当にありがとうございます」

 

 

「フッ、そう礼に及ぶ程の働きはしていません。それより先程の話、少し聞かせてもらいましたが大洗女子学園は今年のモビル道全国大会で優勝を狙っているそうですね·····生徒会長殿?」

 

 

マクギリスは不敵な笑みを浮かべながら杏に質問した。それと共に彼から怪しげな雰囲気が放たれていたので二人は警戒せずにはいられなかった

 

 

「まぁそうですけど·········」

 

 

「それに伴ってこの私、マクギリス・ファリドを貴女方にモビル道を教える者として、西住みほさんを不穏な連中から護る剣として是非迎え入れて欲しいです」

 

 

マクギリスはそう言ってひざまついてこうべを垂れた。突然の物言いに杏とロックオンは困惑しポカンとなってしまった

 

 

「··········えーっと、そのー助けて貰っといてこういうのも失礼なんですがよく素性もわからなければうちの学園に関係者がいる訳でもない人を迎え入れるのはちょっと··········」

 

 

「素性はこれから明かせば良いもの、それにこの間の練習試合で私は整備士としてグロリアーナ陣営に参加していました。こうして再び巡り逢う事ができたのですからもはや関係者と言って過言ではないかと」

 

 

「いやいやめちゃくちゃ強引なだな······てかあんた大学生なんだろ?学校の授業とかあるだろうし教官として雇うにも予算がな·····」

 

 

「私は元々モビル道の特待生として入学したので結果さえ残していれば授業の心配は要りません。それに教官としてではなく、一モビル道の先見者として皆さんと関わりたい所存なので無償で結果です」

 

 

何を言おうともグイグイと押してくるマクギリスに二人は余計不信感を募らせた。彼の真意がわからない以上迎える訳にもいかないので杏は思い切ってストレートに質問した

 

 

「はっきり言わせてください。あなたは一体何を企んでいるんですか?いきなりそんな事を言われても怪しいとしか··········」

 

 

「フッ··········随分と手厳しいな·········では正直に言わせてもらおう。私が望むのはみほさんを狙い現れたあのガンダムとの再戦。そのために私を貴女方大洗女子に、みほさんの傍に迎え入れて欲しいという最大の理由だ」

 

 

礼儀正しい口調が砕けマクギリスは目を光らせながらそう語った

 

 

「つまりあの羽付き·····ネティクスとかいう奴にリベンジしたいから大洗女子に来たいと··········なんつーか見た目に反して意外と野蛮なヤツなんだな」

 

 

「よく言われます。このまま中途半端に負けたままというのはどうしても我慢ならなくてね·········それでどうだね生徒会長?これが私の真意なのだが··········」

 

 

「えぇー··········まぁタダで皆にモビル道の指導してくれるのは嬉しいんですけど··········あと一つ心配なのがマクギリスさんみたいにイケメンな大学生が来るともしかしたら学園の風紀が乱れちゃうかなー·····って気がしまして·····」

 

 

「それならロックオン・ストラトス教官も十分風紀を乱しかねない容貌でしょう。それと心配しないで欲しい。私には既に将来を約束した花嫁がる故学園の生徒達に必ず手を出すことはないだろう」

 

 

マクギリスは真っ直ぐこちらを見て言い切った。理由はどうであれ彼がそれ程悪い人間ではない事がわかったしモビル道を教えてくれる者が増えるのはとても嬉しい事だったので二人は目を合わせ彼を迎える事を決意した

 

 

「わかったよ。あんたの事を歓迎するぜ、ファリドさんよ」

 

 

「ありがとうございます。私にできることであれば何でも申してください」

 

 

「んーじゃあさ!早速だけどその婚約者って人の写真よかったら見せてくんない?ちょっと気になってさ〜」

 

 

杏の無茶振りを聞きマクギリスはフッと鼻で笑うと、携帯電話を取り出し待ち受け画像を杏とロックオンに見せた。そこには杏達高校生よりも一回り··········それこそ中学生なのかも怪しい程幼げな紫髪の少女がはつらつな笑顔を見せている姿が映っていた

 

 

「これは··········妹さんですか?とっても可愛らしいですね!」

 

 

「いや、彼女が私の婚約者だ」

 

 

「えぇ·····あ、あれだろ!親の都合で将来結婚しなきゃいけないみたいな!許嫁ってやつだろ!?」

 

 

「いや、私の方からプロポーズしました。とても運命的な何かを感じたので」

 

 

真顔で、それもさも当たり前かのように語るマクギリスに杏とロックオンは血の気が引いていくのを感じた。二人はマクギリスから姿を隠す様に流し台の陰へ屈んだ

 

 

(ちょっとニールちゃん!あの人別の意味でやばい人だったじゃん!)

 

 

(落ち着け角谷··········いや、きっとああ見えて年はおまえらと同じ位なんだよ·····多分··········)

 

 

(そんな訳ないじゃん!はぁ··········なんか私本当に疲れてきちゃったよ··········)

 

 

(だな··········これ以上アイツの相手をするのは流石に面倒だよな··········)

 

 

こうして若干不安要素を持たれながらもマクギリスは大洗女子学園の助っ人として迎えられた··········ただし地球に帰った際にその婚約者を学園に連れて来るという条件も加えられていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しほ達の介入により撤退を余儀なくされた愛里寿達を乗せた強襲揚陸艦【スパルタン】は月面都市フォン・ブラウンに帰還した。MSデッキ内にて港に到着しても尚愛里寿がネティクスのコックピットに引きこもり出てこようとしなかったので、ナオをはじめ島田ファミリーの面々は心配そうにネティクスを見上げていた。するとMSデッキに蒼白い髪を膝まで下ろしたメイド服姿の女性が現れナオ達の方へ真っ直ぐ近づいていった

 

 

「ナオ、所長がお呼びだ。今すぐ来て欲しいとの事だ」

 

 

「えぇー··········また議長さん来てるんですか·····嫌だなぁ、あはは··········」

 

 

「··········お姉ちゃん!」

 

 

さらが声を張り上げてナオの腕を両手で掴んだ。その力強さから彼女が自分に行って欲しくないという意思が強く伝わってきた

 

 

「行かなくてもいいッスよ!ナオっちばかりあんなエロ親父の相手されられて··········やっぱこんなのおかしいっスよ!」

 

 

「··········。」

 

 

レビンもまた強い口調でナオを引き止め、レビンはそっぽを向きながらも自身の拳を限界まで握り固めていた

 

 

「大丈夫だよさら、トレノん。私が行かなきゃ他の誰かが行くことになっちゃうし私はもう慣れたから大丈夫だよ。だから心配しないで」

 

 

ナオはニッコリと笑顔を見せてもう片方の手でさらの頬を優しく撫でてあげた。さらはそれを受けて目に涙を浮かべながらもナオの腕を掴んでいた手を解いてあげた

 

 

「それじゃいってきます!フブキさん、バイク借りますね!」

 

 

「好きにしてくれ。その代わり壊すなよ?」

 

 

ナオはメイドにサムズアップしてから元気よく走り去って行った。島田家に仕えるメイドの女性·····フブキ・ドゥルガー・マカハドマはヒールをコツコツと鳴らしてさら達を通り過ぎネティクスの傍に来るとその脚部に手を触れた

 

 

「·························そうか。美香、それがおまえの選択か」

 

 

「··········美香はなんて言ってんだよ··········()()()()()S()さんよ··········」

 

 

レビンはフブキに向かって静かに口を開いた。その声から彼の抑えきれぬ怒気が大いに滲み出ていた

 

 

「西住みほに入る事は辞めたそうだ。やれやれ、美香が戻ってこれるように色々と手を回して来たというのに無駄骨だったな」

 

 

フブキがそう冷たい声を上げるとレビンはMSデッキの壁を思い切り蹴りつけた。デッキ内に轟音が響き渡り彼は自分が乗っていたボロボロになったフルアーマーガンダムを睨みつけた

 

 

「俺のせいなんだろ?俺みたいな失敗作(カテゴリーF)が足引っ張ったから美香は西住みほを諦めたんだろう!?」

 

 

「レビンくん!そんなんじゃないよ!美香お姉ちゃんはそんな事思ってないよ··········」

 

 

「さらの言う通りだ··········とはいえこのままでは終われんな」

 

 

フブキは身に纏っていたメイド服のスカート部分に手をかけると翻す様に脱ぎ捨てた。すると彼女の姿は胸元が大きく開いた白い軍服姿へと変貌し頭に軍帽を被ると辺りに冷気が立ち込めていると誤認する程の冷たいプレッシャーが彼女から放たれた

 

 

「西住みほは今西住しほの星にいるらしいな?クックックッ··········面白い··········」

 

 

「駄目ですよフブキさん··········美香お姉ちゃんはもうみほさんを連れて来ても中に入ろうとはしないよ··········」

 

 

「だがこのままでは愛里寿お嬢様があまりに可哀想だ。そうだろう、レビン?」

 

 

「··········俺も連れて行け····このまま引き下がれるかよ·······!」

 

 

「俺も··········って言いたい所っスけどフブキさんのやり方だと俺は本当の意味で足でまといになりそうっスね··········」

 

 

悔しそうに俯くトレノの肩にフブキは手を置き、さらとトレノ、レビンに対して口を開いた

 

 

「仕掛けるのは明後日。さらとトレノは留守番していてくれ。確かに美香は反対してはいるが実際西住みほを連れて来れれば気が変わるやもしれん」

 

 

「フブキさん·····けど··········」

 

 

「安心しろ。返り討ちにあって西住しほに捕まるなんてヘマは犯さんよ。では私は下準備に向かうとしよう」

 

 

研究所が代々進めてきたニュータイプ創造プロジェクトによる最高傑作(カテゴリーS)、フブキ・ドゥルガー・マカハドマ。彼女は西住みほを連れ去ることとは別の目的を果たすため動き始めた··········

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました

マッキーの婚約者は転生してきた訳ではありませんがほぼアルミリアだと思っていただけると嬉しいです

今回オリキャラとして登場したフブキ・ドゥルガー・マカハドマはぶっちゃけてしまうと西さんと関わりを持ってるキャラにしていこうと思っています


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13話 決意の朝(後)

今回麻子さんに加えられた捏造設定のストーリーがメインとなるのでご了承頂けると幸いです

今回もよろしくお願いします


 

杏とロックオンが皆の夕食を作る中、シュバルツ・ファングから麻子に向けて大洗の役場と通信が繋がったとの連絡が送られた。同時に職員が迎えに来ているという連絡が入り、麻子は沙織に起こされモビル道用のユニフォームへ早々と着替え部屋を出て行こうとした

 

 

「ねぇ麻子·····私も一緒に行こうか?」

 

 

「心配するな、西住さんもまだ寝ているんだからおまえはここにいてくれ。それに少しだけおばあに確認したい事があるだけだ」

 

 

心配そうな面持ちで声を掛けてきた沙織に麻子は背中を向けたまま答えた。幼なじみとはいえあのように感情を露わに取り乱した姿を沙織に見せたのは初めてだったので気にするなと言うのも無理があった。しかし自分がしほの言っていた非人道的所業を行う月の【ニュータイプ研究所】で生まれたかもしれない等と打ち明ける事は出来るはずもなく··········だからこそ麻子は唯一の肉親である祖母に一刻でも早くそれらの真偽を確認したかったので部屋を後にし早足で艦の外へ向かった

 

 

 

 

 

ホワイトベースに接舷された搭乗橋(ボーディング・ブリッジ)を通過し港のターミナルに出ると例のお迎えであろう黒い制服を身に纏った男性職員がこちらに近づいてきた。迎えに来た職員の者は懐かしい事に以前モビル道一回目の訓練で教官として馳せ参じてくれた教導隊のアナベル・ガトー教官であった。彼は日本モビル道連盟の職員であると同時に西住流の一門下生という縁もあってしほの忠臣の様にここシュバルツ・ファングで勤務していた

 

 

「冷泉君だな?家元がお待ちだ、付いて来てくれ」

 

 

ガトーの先導のもと二人はターミナルから[関係者以外立入禁止]と書かれたドアへ入り施設の中央へと進んで行った

 

 二人はほぼ初対面でありお互い寡黙な性分だったので何か会話が生まれる訳もなく長い廊下を黙々と歩き進んでいたが、前を歩いていたガトーが突然切り出してきた

 

 

「··········こんな事を君に聞くのもなんだが·····家元はみほに対して何か言っていなかったか?黒森峰に連れ戻すやら家元のチームに在籍させるなど··········」

 

 

「詳しい事はわかりませんが大洗に居たいならモビル道で私を納得させてみろ、みたいな事を言ってました」

 

 

「そうか·······!すまない、野暮な事を聞いたな」

 

 

 過去にみほの教官を務めていた事もあって母との間に確執を残したまま大洗でモビル道を始めていたみほの事がずっと気がかりだったのだろう。麻子からの返答を聞いて彼の厳格さ故の堅い口調が少し柔らかくなっていた

 それからしばらくガトーの後を付いて施設の中を進んで行くと[所長室]と書かれた部屋に到着した。ガトーがノックし部屋へ入るとしほが執務机の椅子から立ち上がりこちらを出迎えた。部屋を見渡すと様々な高級感ある家具が置かれており、壁には西住流の教訓が書かれた掛け軸やシュバルツ・ファングの周辺宙域が記された海図が掛けられていた

 

 

「ガトー君ご苦労さま。貴方はもう外してもらって構わないわ」

 

 

「はっ!」

 

 

ガトーは敬礼しながら力強く敬礼すると退室して行った。麻子はしほの執務机の椅子に座るよう促され少し緊張しながら椅子に腰掛けると机に内蔵されていたモニター付きの通信機が展開された

 

 

「先程本部から大洗の市役所に掛け合った所、丁度貴方のお祖母様が用事でいらしていたらしくこうして手早く貴方の望み通りに事が進んでくれたわ」

 

 

しほが通信機を操作するとモニターに役場の職員に怒鳴っている麻子の祖母、冷泉久子の姿が映し出された。職員はおそらく彼女に通信機の使い方を教えようとしていただけなのだろうが、元から相当頑固で意地っ張りな人だったので相変わらず手を焼かせているようであった

 

 

「おばあ··········」

 

 

『ん?なんだい麻子じゃないか!あんた宇宙にいるなんてあたしゃ一言も聞いてないよ!にも関わらずこれは一体どういう騒ぎだい!忘れ物したとかだったら承知しないよ!』

 

 

麻子の存在に気づいた久子はモニターいっぱいに顔を近づけ大声で捲し立ててきたので麻子としほは咄嗟に耳を塞いだ

 

 

「·····どうやらちゃんと繋がったようね。私は外で待っているから終わったら教えて頂戴」

 

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

 

そう言ってしほは所長室の外へ出て行き麻子はおばあに事の本題を切り出そうとした。おばあも画面に映っていた麻子の様子がいつもと違う事から彼女の身に何かあった事を察し静粛になった

 

 

「宇宙にはいきなり行く事になって報告してる暇なんてなかったんだ·······それよりもだな·····」

 

 

『··········何かあったんだね?』

 

 

「単刀直入に言う··········今日モビル道の授業中に変な連中に襲われて、その時私が生まれたのは大洗や地球でもなく月の研究所で生まれたと言われたんだ·····」

 

 

『変な連中だって?·········あんたはその話を真に受けてんのかい?』

 

 

「··········信じたくはない。けどおとうとおかあがいた頃を全然思い出せないし覚えてなくて·····凄く怖いんだ。あの人達が言っていた事が全部本当の事だと思うと········

だから教えてくれ!おばあなら私の事も、二人の事も全部知っているんだろう!?」

 

 

平静を保っていたものの堪えきれなくなり麻子は感情が昂りながらおばあに迫った。できれば全部根も葉もないデタラメだと怒鳴りいつもの様に一蹴して欲しいと思っていたが、久子は怪訝な表情を浮かべ少し間を空けてから切り出した

 

 

『·····やっぱり宇宙に行くとロクな事にならんもんだね。もうあんたも大きくなったしこれ以上隠し立てするのもかえって良くないね··········』

 

 

「それじゃ·······」

 

 

『あんたが言われた通りさね。あのバカ息子·····いきなり大手の研究機関に呼ばれたから月に行くとか言って家を飛び出して以来、連絡の一つも寄越さないまま一度たりとも帰って来なくてね。何年か経ったある日、いきなり綺麗な嫁さんとあんたを連れて帰って来たもんだからあん時はたまげたよ。こちとら結婚した事も孫ができた事も聞いちゃいなかったからねぇ·····』

 

 

「つまり私は本当に月の研究所で生まれて·····二人に連れられ大洗に来た·····って事なんだな?」

 

 

『あのバカ息子、あんたの頭から月の研究所の記憶は全部消したから絶対に喋るなと言ってたよ。その場所で何があってお月様から実家に帰ってくる事になったのかは最後まで一つも教えてくれなかったけどね』

 

 

自分が月のニュータイプ研究所で生まれた存在である事が判ったせいか身体中がざわつき始めた。加えて自分の愛によって生まれた訳ではなく、しほが言っていた様に研究所によってただ造られたモノなのではないかという新たな疑念が生まれ今までにない程動揺し始めた

 

 

「なぁおばあ·····おとうのいた月の研究所では普通の人間よりも凄い能力を持った人を人為的に造っているらしくてな·········私が昔から何でも直ぐに覚える事ができたのもロクに勉強せずに良い成績が取れたのも全部そういう事ができる様に造られたからなのかな·····?」

 

 

『·····あんた何わけわからんこと言ってんだい?』

 

 

「単なる才能だとばかり今まで思っていたが、よく良く考えれば始めたばかりのモビル道で強豪校の選手を一人で撃破できる人間なんていないだろう?けど私が月の研究所で生まれた事が本当なら全てに説明がつくんだ·····だから私は二人の子じゃなくて、単に研究の成果で出来上がった存在なんだ。きっとそうに違いない··········」

 

 

気づくと目から大粒の涙が膝に零れ落ちていた。動揺するのと同時に自分という存在が理解できなくなり胸が締め付けられる様な感覚に襲われた。涙を零しながら俯く孫の姿を見て久子は大きく溜息をついた

 

 

『ちょいと待ちな。黙って聞いてりゃあんた何とんでもない勘違いしてんだ。自分が勉強できるのも才能に恵まれてるのも全部その研究所のおかげだって?冗談じゃないよ!

ㅤいいかいよく聞きな!あんたの昔から物覚えがいい所と勉強が得意なのはあたし譲りだけど、朝だらしなくていつまで経っても子供っぽくて甘えん坊な所なんてそっくりそのまま全部父親から受け継いでんだよ!それにそんなバチあたりな事やってる研究所があったとしても朝起きれない様な要らない特徴持った子を態々造るわけないじゃないか!』

 

 

「私とおとうが········」

 

 

『それに二人が消した記憶っていうのはあんたにとってよっぽど辛くて嫌な思い出だったんじゃないのかい?人間辛い事を背負い込んだり誰かを恨みながら生きてちゃ絶対幸福にはなれないからね』

 

 

「······でもいくら辛い記憶でも消してしまったら自分が何者なのかわからなくなるじゃないか·····自分が何なのかわからないまま生きるなんて··········」

 

 

『はぁ··········麻子、()()()()()()()だよ。自分のことを深く知りたいのはわかる。けどね、たとえ昔の事を覚えてなくても変な研究所で生まれてたとしても自分の正体がわからなくてもそんなの関係ない、今ここにいるあんたこそ紛れもないあんた自身なんだ。それを超えるあんたの正体なんて他にあるはずがない、あってたまるかって話だよ』

 

 

「今の私こそ·····本当の私··········」

 

 

『あの二人だってあんたが過去に縛られずに生きる事を誰よりも望んでるはずさ。だからそんな事気にしてうじうじ悩むのはもうよしな。そんなんじゃ二人も浮かばれんし仲良くしてる子達にも気を使わせるだろう?』

 

 

たとえ過去の記憶が無くても、他人と比べ異質であるとしても、自分の正体がわからなくても今ここにいる自分こそが自分。そして今ここに在る自分こそが嘘偽りのない自分の正体。

おばあに諭され聞き暗く俯いていた麻子は崩れる様に号泣し始めた

 

 

「おばあっ·······私は·····私は今まで通りの私でいてもいいんだな·····?」

 

 

『当たり前じゃないか!あんた自分の人生なんだよ!?これから先もっと色々と厳しい事が待ってんだからこれしきの事で狼狽えてんじゃないよ!』

 

 

「うん···········おばあっ········ごめんなさい······!」

 

 

『あーもういつまでメソメソしてんだい!本当にしょうがない子だねぇ····』

 

 

 久子は呆れた様な素振りを見せつつも麻子が泣き止むまでずっと回線を開いたままにしてくれた。それからしばらく経って麻子が泣き止んだので久子は最後に『皆に迷惑をかけるな』と『土産を忘れるな』と告げてシュバルツ・ファングとの交信を終了させた。麻子はおばあの言葉を胸に深く刻むと共におとうとおかあの想いに応えるためにももう迷わずに生きる事を胸に誓った

 

 

「·····いいお祖母さんね」

 

 

二人の会話が終わるのを見計らっていたのか、おばあとの通信が終わるのと同時に何故か目の周りを赤く腫らしたしほが所長室のドアを開け部屋に入って来た

 

 

「もしかしてずっと外で待ってたんですか?」

 

 

「ええ、直ぐに終わるものだと思ってたので。悪いわね盗み聞きする様な事をして」

 

 

「··········私が月の研究所で生まれた事も聞いてたんですね?」

 

 

「·····そうね。けどお祖母さんの言う通り今の貴方はあの場所とはもう何の関係もないのだから安心しなさい。さぁ、用も済んだので帰りましょう」

 

 

しほはそう言って麻子を送るため共に所長室を出て皆が待つホワイトベースのある港へ向かおうと歩き始めた

 

 

(この子が研究所と関わりを持っているとは········ブルーコスモスが嗅ぎつける前に釘を刺しておかなければ··········)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後麻子はしほに港まで案内されてから彼女と別れた。再び搭乗橋を渡ってホワイトベースの中へ入るとどうやら自分の帰りを待っていたのかみほと沙織、ビーハイヴと知波単学園のザンジバルからこちらに戻って来ていた華と優花里の姿があった

 

 

「あ!冷泉殿ですよ!」

 

 

「麻子さんおかえりなさい」

 

 

「待っていてくれたのか。悪かったな」

 

 

「麻子さん·····何か緊急のご用事でお祖母様に連絡したと沙織さんから聞きましたが·····」

 

 

「大丈夫だ、そんな大した用じゃなかいし気にしないでくれ」

 

 

麻子は心配そうにしていた華に柔らかい笑みを浮かべそう言った。普段あまり笑わなかった麻子を見て華と優花里は不思議そうに顔を見合わせ、みほはあんなにも焦り怯えている風な様子を見せていた彼女が立ち直ってくれた様に感じほっと胸を撫で下ろした

 

 

「麻子、おばあと話せてスッキリした?」

 

 

「ああ。······沙織、私は私。冷泉麻子だ」

 

 

「へ?あんた何言ってんの?」

 

 

「·····いやなんでもない。それよりもお腹が空いた········」

 

 

日本時間では現在午後8時。とっくに夕食の時間を過ぎていたのでお腹もペコペコになっていた

 

 

「確かに私ももうお腹が空いて·····もう立っているのも··········」

 

 

「あわわわ五十鈴殿しっかりしてください!」

 

 

「みんなもまだ食べてると思うし麻子さんも戻って来たから私達も行こうか」

 

 

「そだね、ほら麻子行くよ。食べる前はちゃんと手洗わなきゃなんだからね」

 

 

いつもと変わらない友人達の姿が今の麻子には嬉しく胸内が暖かくなるのを感じた。五人は夕食を食べるため共に艦内の食堂へ向かった

 

 

 

 

 

 

 食堂にはビーハイヴのメンバーと自動車部を含む他の生徒達が集まっており既に夕食を食べ始めていた。とはいえ初の宇宙での訓練だったのに何者かの襲撃に会い台無しにされてしまったせいか、少し重苦しい空気になっていた。そんな中キッチンで桃と柚子、ロックオンと共に配膳していた杏がみほ達の到着に気づきいっぱいの笑顔で迎え入れてくれた

 

 

「おっ5人ともおかえり〜!待ってね今よそってあげるから」

 

 

「冷泉!我々はあくまで課外授業としてここに来てるのだから集団行動は鉄則だぞ!ただならぬ事情があった様だから今回は不問にしてやるが次からは勝手な行動は慎むように!」

 

 

桃からの叱咤を受け麻子は頬を膨らませた。杏から夕食を受け取った五人は空いてる席を探そうと思ったら食堂の一角で食事をしていたリュウセイと、彼と一緒にいた赤ハロがこちらを呼びながらぴょんぴょん跳ねていた

 

 

「オーイ!コッチコッチ!」

 

 

「あ、リュウセイさん、ご一緒してもよろしいですか?」

 

 

「も、もちろんです!どうぞどうぞ」

 

 

華に声を掛けられリュウセイは若干慌てながら答え座るように促してくれた

 

 

「リュウセイくんも昨日来たばかりなのに大変だったよね。まさかいきなり実戦が始まるなんてね·····」

 

 

「僕は皆さんと比べてそんな大した事はしてないですよ。··········あの人達は一体何だったのでしょうか······西住さんと冷泉さんを貸してくれなきゃ、大人しくしてなければ攻撃するだなんて正直かなり異常だと思いました····」

 

 

他の皆もリュウセイと同じ様に今回乱入してきた者達に思う事が色々とあるようで悶々としている様子だった

 

 

「皆、食べながらでいいからちょっと聞いてくれ」

 

 

するとロックオンが真剣な面持ちでキッチンから出て来たので、皆会話を止めて彼に注目した

 

 

「本当は今日皆に宇宙空間での機動訓練をして貰いたかったんだが、あのガンダム達が好き勝手襲い掛かってくる様な宙域で訓練をさせちまったせいであんな事になっちまった。危険な目に遭わせて本当にすまなかった······」

 

 

「ちょっと待ってくれ教官。あの連中はただ暴れるのと同時に西住さんと冷泉さんを、特に西住流家元の西住さんを連れ去る事が狙いで私達の訓練に乱入してきたんだろう?そのくらいあの状況を見て私達でも判断できるさ」

 

 

謝罪するロックオンに異を唱えたのはカエサルだった。他の皆も同じ事を思っている様でありカエサルに続いて梓もロックオンに質問を投げた

 

 

「あの人達は一体どこから来た人達なんですか·····?あんなに凄そうなMSを持ってる人達なんてかなり限られてくるんじゃ··········」

 

 

「·····俺達を襲ってきた連中は月にある研究機関所属のプロチーム"νA-LAWS"だ。連中は自分達の所持してる宙域内でなら他所様にドッグファイトを挑もうが、演習中に乱入してもある程度許されてしまうらしいんだ···」

 

 

「そんな·······皆憧れてるプロチームの人達がそんな事してるなんておかしいじゃないですか!」

 

 

νA-LAWSの存在に典子をはじめバレー部の一年生達も怒りを滲ませていた。競技は違えど体育会系の彼女達にとってプロの世界にそんな人達がいるなんて事は許せるはずがなかった

 

 

「そうだな、おまえの言う通りこんなふざけた話許せねぇよな·········だから俺はあんな連中のモビル道を認めたくねぇ。俺にとってモビル道は信念や意志を形にして、その心の形をライバルとぶつけ合って高め合って互いに成長していく武道だと思っている。たとえそれがパイロットだろうと艦のクルーだろうと整備士だろうと関係ない。一人一人が自分にできる事を通して自分にとって大切な何かを見つける事ができる·······そんな素晴らしい武道であると俺は信じていたい。

皆には今日怖い思いをさせちまったが、どうかモビル道を嫌いにならないで欲しい··········頼む」

 

 

そう言ってロックオンは皆に向かって深々と頭を下げた。これは教官としてではなく一人の戦士として、ただ純粋にモビル道が大好きな一人の人間として彼から皆に伝えたい言葉だった

 

 

 

 

 

「··········そうだよ。まだ何もできてないのに·····あんな人達が怖くてモビル道を辞めなきゃいけないなんて私達は絶対嫌です!」

 

 

最初に声を上げたのは梓だった。他の一年生達も含め皆同じ想いを、同じ決意を持っているのが彼女達の瞳から伝わってきた

 

 

「私達もです!バレー部復活のためにもこんな所でクヨクヨしたくないです!」

 

 

「我々もだ。あの様な不届き者のために進む事を辞めるなど誇りに関わるのでな」

 

 

「私らはただのメカニックだけどさ、選手の皆が頑張るって言うなら退く訳にはいかないよね」

 

 

典子とエルヴィン、ナカジマも梓に続いた。今ここにいる一人一人がそれぞれ熱い意志を持っている事にロックオンは心を震わされた。気づけば先程まで食堂内を包んでいた重苦しい雰囲気は完全に振り払われていた

 

 

「おまえら·····」

 

 

「まあこんな所で辞められては我々も困るし有難いな」

 

 

「桃ちゃん空気読んで!」

 

 

「へぇ·····西住ちゃん達はどうかな?まずはリュウセーくんから聞かせて欲しいな」

 

 

「ぼ、僕もですか?·············僕にはまだ皆さんの様な強い志しはありません、だけどそんな皆さんのお力になれるならできる以上の事をしてあげたいです」

 

 

「リュウセー、コレデモッテモテダナ!」

 

 

「ちょ、ちょっと!思ってもない事言わないでよ!」

 

 

リュウセイはダルマの様に顔を真っ赤に赤面させながらツッコンできた赤ハロを取り押さえた

 

 

「ふふふっ········私も自分の道を進むため、まだ立ち止まりたくないので皆さんと同じ覚悟です」

 

 

「わ、私もです!何よりモビル道とガンダムが大好きなので辞めたくないです!」

 

 

「私も単位が掛かってるんでな。こんな所で降りるつもりは毛頭ない」

 

 

「単位ってあんたねぇ·········私も将来いいお嫁さんになりたいので頑張りたいです!モビル道!」

 

 

「いやぁ〜武部ちゃんも武部ちゃんだよ〜。··········で、肝心の西住ちゃんはどうかな?」

 

 

正直どう言うべきか迷っていた。このまま皆と一緒に頑張りたいというのが本心であったが、自分が原因でνA-LAWSが襲来し皆を危険な目に遭わせたという事実がみほを迷わせた

 

 

「みぽりん··········」

 

 

「··········自分の心のままに羽ばたき、自身より強大な存在に屈さず、己の意志を貫き続けた者にだけ本当の意味で未来を切り拓く事ができる」

 

 

「·····え?」

 

 

沈黙していたみほに突然言葉を掛けてきたのはカエサルだった

 

 

「私にモビル道を教えてくれた恩師がいつも言っていた言葉だ。西住さん、自分がいると皆に迷惑がかかるなんて思わないで欲しい。貴方が悪い事をしたなんて誰も思っちゃいないのだからな」

 

 

「そーそーカエサルちゃんの言う通り!もっと自分の気持ちに素直にならなきゃ駄目だよ西住ちゃん」

 

 

「···············わかりました。········私も皆さんと一緒にモビル道をしたいです。だから皆さんと一緒に戦います!」

 

 

みほは軽く息を吸って強く宣言した。彼女の強い意志を聞き取り皆安堵して笑顔を浮かべた

 

 

「よしっ決まりだね!んじゃこうして皆の心が一つになった訳だし気を取り直して乾杯しよっか!かーしま音頭とって」

 

 

「はい!了解です!」

 

 

「おいおい唐突だな。··········けどそういうのも大事だよな!」

 

 

ロックオンもいつも通り爽やかな笑顔になりグラスに飲み物を注いだ。他の皆もコップにジュースを注ぎ乾杯の準備をした

 

 

「みぽりん、今日色んな事があって色々な事を知って大変だったよね。たがらさっき教官さんが言ってた通り私も自分のできる事でみぽりんを守るよ。って言ってもMSの操縦できない私にみぽりんを守れるのかな、ははは··········」

 

 

「沙織さんにできる事なら沢山あるよ。·····今日だって何回も沙織さんに守ってもらえたから··········」

 

 

「え、そうだっけ·····?」

 

 

「えーそれでは!我々の訓練に乱入してきた宇宙に蔓延る不届き者の撃退に成功した事と全国大会に向け皆の心が一つになった事に乾杯!」

 

 

「撃退したのは俺達じゃないが·····まぁいいか!乾杯!」

 

 

「「「「「乾杯〜〜〜〜!!!!!」」」」」

 

 

桃の音頭に合わせ、それぞれ胸の内に熱く決意を込め手に持っていたコップを高く掲げた。まだチームとして出来上がったばかりの大洗女子学園、当初は宇宙での機動訓練さえできれば目的は達成であったが、結果としてそれ以上に皆の絆を深めるという大きな課題をクリアする事に成功した

 

こうして最後は皆で楽しい時を過ごしながら、みほ達のとても長かった合宿二日目が幕を閉じた··········

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 合宿三日目、日本時間では朝5時を迎えていた。杏は何となく目が覚めてしまい体を起こすと、対岸のベッドの上でタブレット端末を眺める相部屋だったみほの姿が目に入った

 

 

「·····あれ、西住ちゃん?もう起きてたんだ」

 

 

「おはようございます会長。·····起きたらお母さんからこんなメールが来てました」

 

 

そう言ってメールの確認を終えたみほは杏に端末を差し出した。杏は眼を擦ってみほから端末を受け取りそこに映し出されていたメールの内容を見た

 

 

「これって··········」

 

 

メールの本文には滞在中シュバルツ・ファングの施設で訓練を行う事を許可するという旨が書いてあった。それだけでも有難かったが、極めつけはメールに添付されていた画像データにあった。画像を読み込むと、MS用のハンガーに眠らされている1機のガンダムとその機体の性能を載せたカタログが映し出されてた

 

 そのガンダムの名は【RX-78GP04.ガンダム試作4号機】通称ガーベラ。MSの知識がまだあまりない杏でも、カタログを見る限りその機体が破格の性能を持っている事を理解する事ができた。そしてカタログの最後のページにはしほからのメッセージが載っていた

 

 

『この機体は本来1号機をまほに送ったのと同じ様に、貴方の16歳の誕生日に送るつもりでした。しかし貴方は全国大会が終わった後直ぐにモビル道を辞めてしまった。その結果この機体を貴方に渡す理由も無くなり学園艦の最下層に眠らせる事となりました。·····ですが今再び立ち上がり私とは異なる道、自分の道という物を示すために母を越えてでも進むのならば、その覚悟があるのならばこのガンダムは貴方に力を与えるはず。貴方達の帰り道に黒森峰のアルビオン隊と合流し譲渡させますので忘れないように』

 

 

メールの内容からこの機体が大洗女子の戦力に加わると知り杏は興奮して完全に目が覚めてしまっていた

 

 

「凄いね西住ちゃん!いやぁ〜やっぱママ住さんって何やかんや優しい所あるよね〜」

 

 

「·····会長。私も頑張ります。やっぱり私大洗女子に転校してよかったです。たとえそれが仕組まれた事だとしても本当に素晴らしい人達と出会えたので·····皆と一緒に居たいので頑張りたいです!」

 

 

「仕組まれた·····?んー、まぁ西住ちゃんがそう言ってくれると私も嬉しいよ」

 

 

杏は少し違和感を感じながらもみほに笑い掛け手を差し出した

 

 

「ママ住さんに認めて貰うためにも勝たなきゃね。皆で優勝目指して戦うよ、西住ちゃん」

 

 

「·····はい!」

 

 

みほは元気な返事と共に杏の手を固く握り返した。日本各地から猛者が集う舞台、モビル道全国大会。戦士達は己の存在を、誇りを、信念を、心を、生き様を、力を世界に示すため··········今同じ朝を迎えた

 

 

 

 

 

次回 ガールズ&ガンダム『二校合同演習』

 

 

誰よりも熱く激しく、命の焔を燃やしていたい·····

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました

麻子の話はまだまだ続いて行くと思います。何故にこの様な捏造設定を加えたかというと本編で麻子さんが初めて戦車に乗った時某スーパーコーディネイターが頭に浮かんだからで·····

新しくみほの機体として登場したガーベラ。このままみほのもとに届けば良いのですが·····

話数的に丁度いい(個人的に)ので次回は他の学園のキャラクターがメインの外伝を投稿しようと思います


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13話 決意の朝(愛)

(愛里寿、いつまでここにいるつもりだい?出撃してからまだ何も食べてないじゃないか。それに皆もおまえを心配しているよ)

 

 

 みほと杏が目覚めた時と同じ頃、愛里寿は月に帰還して数時間経っていたにも関わらず、未だガンダムNT-X(ネティクス)のコックピットから出て行かずシートの上で目を腫らしながらうずくまっていた

 

 

「····また昔みたいにお姉ちゃんと一緒に、皆一緒にご飯を食べれると思ってた·····そのために今日まで皆頑張ってきたのに········なんで諦めるなんて言うの·····?」

 

 

(あのまま戦っていたら私達全員西住しほに捕まっていた、そんな事になればもう二度と家に帰らせて貰えなかったかもしれない。それにこの先もしみほさんが私達の事をもっと知ってくれる事があれば私達の味方になってくれるかもしれない。彼女の様な素敵な人が共に同じ道を歩んでくれるなんて嬉しいじゃないか)

 

 

「そんなの有り得ない·······あの人は私達を憎んでいるに決まってる······それに私達もまだお姉ちゃんを諦めたくない·····!」

 

 

(愛里寿·······そうだね、私のせいでおまえ達にはみほさんに憎まれて仕方ない位の事をさせてしまった·····ごめんよ、私がこんな姿になったばかりに········)

 

 

「お姉ちゃんのせいじゃない!·····なんで私達ばかり·······なんで私達ばかり辛い目に合ったり上手くいかない事ばかりなの········」

 

 

 愛里寿はすすり泣きながら再び塞ぎ込んだ。悔しかった、認めたくなかった、そして何よりも寂しかった。たとえその姿が別人(みほ)だったとしても姉が帰ってくるならそれでよかった··········が結局作戦は失敗し、姉と一緒に家に帰る事は叶わなかったため元々募っていた寂しさが更に大きくなっただけという始末だった

 

 

(·····みほさんも私のせいでおまえと同じ位寂しい思いをしたはずさ。·····そう、私達は同じなんだ。みほさんもおまえも同じ、他の誰かによって傷付けられた存在、この世界の傷跡なんだよ)

 

 

「傷跡·····?」

 

 

(私達はこの世界によって、みほさんは私によって大きく理不尽に運命を狂わされた。そうして傷付けられた私達は生きている間は傷跡としてこの世界に在り続ける事となる·······だが世界にとって私達という傷など気にする程もない極めて小さい物。だから世界から私達の様な存在は無くならない、むしろ癒えることなく新しい物が増え続けるだろう·······)

 

 

「·······だったら帰ってきてよ·····お姉ちゃんが帰ってきてくれれば私達の傷なんて治るんだから·······」

 

 

(それじゃ駄目なんだ愛里寿、私達の使命を思い出すんだ。たとえどんなに小さくても新しい傷が増え続けるなんて事はあってはならない。だからこの世界を私達の様な傷跡が二度と生まれない優しい世界に変える必要がある·····そんな世界へ変えることができるのは私達ニュータイプしかいないんだ)

 

 

「じゃあみほさんも連れて行こうよ!·····認めたくないけどあの人は私よりも凄いニュータイプなんでしょ?それで世界が変わってお姉ちゃんが帰ってくるなら·····」

 

 

(この世界に対してどうするか選ぶ権利をみほさんは持っている。私達と共に同じ道を進むか·····あるいは私達と同じ存在でありながら私達と違う未来を見せてくれるか··········いずれにせよみほさんも私達と同じ世界を望んでいるはずさ)

 

 

「··········みほさんが私達と一緒に来ないなら敵になるって事·····?」

 

 

(いや、ライバルと言ったところかな。私も世界を変えるために選んだこの道を今更退くつもりはない。けどみほさんが私達と同じ未来を、世界を望みながら私達の道に異を唱えたなら衝突は避けられないだろう·····

 だから愛里寿、みほさんの事は諦めよう。私達はニュータイプとしての彼女がどんな道を選ぶか見届けて、その結果彼女が立ち塞がる事を選んだなら私達は戦って乗り越えなければならない·····それが悪戯に彼女の運命を変えてしまった私から彼女へのせめてもの償いだ)

 

 

「··········でもやっぱり嫌だよ·····お姉ちゃんがいないと寂しいよ··········」

 

 

(愛里寿、私はいつでもネティクス(ここ)にいる。おまえ達を守るためにここからできる限りの事をするつもりだ····だからもう少しだけ待ってくれ)

 

 

 瞬間、愛里寿は誰かに抱きしめられている様な感覚に包まれた。とても優しく、懐かしくて大好きなその感触に愛里寿は暖かな涙を零し、刺々しく逆立っていた心も徐々に落ち着きを取り戻していった

 

 

「···············うん、わかったよお姉ちゃん。その代わりいつか絶対に帰ってくるって約束して」

 

 

(·····ああ、約束しよう。その時が来るまで皆と一緒に笑顔で待っていて欲しい。約束だよ·····)

 

 

するとコックピットハッチがひとりでに開き、外の光が中に差し込み愛里寿を照らした。愛里寿はコックピットを出て行こうと立ち上がった

 

 

「お姉ちゃん··········また来てもいいかな·····?」

 

 

(もちろん。甘えたくなったらいつでもおいで)

 

 

「うん······!じゃあねお姉ちゃん·····」

 

 

愛里寿はそう言ってコックピットを出てMSデッキへ降りて行った。愛里寿がスパルタンのMSデッキから姿が見えなくなるまで、ネティクスはその目で見守るかの様に彼女の姿を追い続けた

 

 

 本当に正しき世界への扉、それを開くのが私達ニュータイプ。大切な家族を傷つけたこの世界を私は決して許しはしない。たとえ誰かに憎まれようと大勢が望まぬ事であろうとも、誰一人傷つくことのない世界を創れるなら私には全てを賭す覚悟がある。だから愛里寿·····来たるべき時が来るまでおまえは皆と強く、優しく生きていてくれ··········

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は同じく地球。森や川などの豊かな自然溢れる学園艦《継続高校》にて、早朝ながら赤帽子のMSを整備する二人の少女と、近くの樹木の上でカンテレを弾く少女の姿が在った。するとカンテレを弾いていた少女は何かを感じたのか、薄く空に浮かんでいた月を見上げた

 

 

「·····よっし終わった!おーいミカー!レッドライダーの整備終わったよー!」

 

 

「徹夜して何とか終わったね。これで練習試合には間に合いそう·····ミカ?どうかしたの?」

 

 

「··········アキ、ミッコ。最近やけに不思議な気配を感じてね。一体なんだろう·······」

 

 

そう言って樹の上から飛び降りてきた少女、ミカの言葉に赤帽子の異名を持つMS【レッドライダー】の整備をしていたアキとミッコは顔を見合わせた

 

 

「さてはまた落ちてるモノ拾い食いしただろ?あんなに体調崩すから辞めとけって言ったのに仕方ないやつだなぁ」

 

 

「それは流石にもうやらないでしょ··········ねぇミカ、もしかして昔の事何か思い出せたの?」

 

 

「いや、最近空や風から不思議な·····嫌な感じがしてね。これから何か大きな事が起こる事を警告しているのかな·····?」

 

 

そう言ってミカは少思いつめた顔で空を、正しくは宇宙を見上げていた。いつもと様子が違う彼女にアキは少し困惑していたが突然何かを思い出したかのようにミッコが声を上げた

 

 

「あー!そういえばミカがいつも弾いてる曲!この前本土の超古いCDショップ行った時たまたま聞いたんだよ!」

 

 

「それ本当!?なんの曲だったの!?」

 

 

「確か《水の星へ愛をこめて》っていう何かのガンダムのアニメに流れてた歌って店の爺ちゃんが言ってた!ガンダムの歌なんて大分昔に規制されたらしいけどどっかで聞いた事とかあったの?」

 

 

 地球圏代表議会による政策で戦争を幇助、扇動する可能性のある映像作品やそれに関わる音楽や書物に大きな規制が掛けられ、それらが公に放送される事や販売される事は禁止されていた。よって現在は古くから永く営業しているため未だに売れ残っている、また非公認で商品を販売している店舗かマニア達が造った裏の流通ルートでしか手に入らない物となっていた

 尚機動戦士ガンダムも玩具以外は規制の対象であったが、モビル道との関係上情報公開が必要な部分もあったため、検閲が行われた上で機体性能やバッググラウンドの解説が綴られた資料や映像資料の販売は認められていた

 

 

「········残念だが心当たりがないね」

 

 

「えぇー·····映像の方はともかく音楽まで知ってる人なんてあんまりいないと思うんだけどな·····」

 

 

「歌かぁ·····もしかしてミカにとって凄く大切な歌だったんじゃない?」

 

 

「ああ········そうなのかもね·········」

 

 

ミカはこの時確かに感じていた。見上げた宇宙から、自分の周りに運ばれてきた風から······野望を掲げ暗躍する者達の邪悪な気配を·····

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます

今回投稿したのは前回書ききれなかった分です(愛ってなんやねん·····)
そろそろ世界観の方でガバが現れてくる気がしてびくびくしてます。ぶるぶる·····

外伝の方は次回投稿します


全く関係ないですがフェネクスの由来が悪魔の名前であると最近聞いてびっくらこきました。フェニックスを文字った訳じゃないんですね·····


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おまけ 木星帰りの少女

投稿期間が前後しましたがこの話はアンチョビ外伝を読んだ後に読んで欲しいです(特にPHASE-03とFINAL)

時系列的にアズラエルがまほに会いに来た時よりも前の話になります

今回もよろしくお願いします


 地球、BC自由学園理事長室にて─

 

 

「フンフ〜ン♪ンッン〜♪」

 

 BC自由学園の理事長、ムルタ・アズラエルは部屋に置かれた姿鏡に向かい鼻歌を唄いながら身支度を整えていた。すると突然、片手に扇子を持ち一点のシミ一つ無い純白の軍服に身を包んだ一人の少女がノックもせずに部屋の中へと入ってきた

 

 

「ムルタ〜いたかしら〜?」

 

「あ゙?ゲ、マリー様じゃないですか·····。こんな所に何をしに来たんですか·····」

 

 アズラエルは自室に突然入ってきた少女、マリー・タイタニアの姿を見て顔をしかめた

 

「何って私もここの生徒さんなのだから登校してて当たり前じゃない?相変わらず皆喧嘩してるみたいだけど」 

 

「ウチの生徒になりたいと言うから許可しましたけどねぇ·····地球圏(こっち)に帰ってから今まで登校どころか一度たりとも地上へ降りてこなかったじゃないですか。正直貴女みたいなややこしい人が生徒にいると色々面倒なんですよ·····」

 

「あら酷いわね。学生という身分も色々と役に立つんだからいいじゃない。それに貴方の欲しがってた変形機構のデータ、せっかくジュピトリスから持ってきてあげたのにどうしようかしら?」

 

 マリーは懐からROMディスクをおもむろに取り出すとアズラエルへ見せびらかした

 

 

「·····それ本当ですか?まさか本当に完成させていたとは·····」

 

「残念だけど意地悪するなら渡せないわ。ねぇ、ムルタ?」

 

「これは失礼しましたマリー様。久々の友人との再会を喜んだあまり少々舞い上がっていた様です」

 

「ふふっ、それでいいのよムルタ」

 

 

 マリーはにこやかに微笑みながらアズラエルにディスクを手渡した。モビル道及び連合軍が兵器として使用されているMS達において変形機構を持つ機体の開発は未だに達成されていなかった。そもそも大昔のアニメに登場していたメカを完全に再現し実兵器として導入するなど夢の様な話であったがそれらは現代の科学技術力、そしてマリー・タイタニアの様な"一握りの天才"の存在によって実現可能のものになっていた

 

 

「これで僕達ブルーコスモスは今よりも優位な地位に立てます。それともしかしてマリー様がテストしてくれていたモビル道の新型も降ろしてくれたんですか?」

 

「あのガンダムタイプのこと?新型も何もあれって昔モビル道で活躍してたんじゃないの?」

 

「今まで何処ぞの鬼ババが母親の乗っていた機体を封印するために僕ら開発企業や連盟を抑えていましたからね。そんな機体をまた新しく組み上げたのでせっかくだから新型と呼んであげようと思いまして」

 

「ふーん·····残念だけどあれはジュピトリスに置いてきたわ。地球へ降りたのも()()()()を迎えに来ただけだったから」

 

「うーん残念です。どうせなら今日会いに行った際に彼女のもとに届けたかったのですが·····」

 

「·····誰かに差し上げると言っていたわね?一体誰なの?」

 

 

 問いかけるマリーにアズラエルはその質問を待っていたと言わんばかりに口角をつり上げた

 

 

「先程言っていた鬼ババの娘、西住まほさんです。丁度この後彼女に会いに黒森峰へ行く事になっているんですよ。僕が彼女を宇宙で拾ってあげた事は以前お話しましたよね?」

 

「ふーん·····だからそんなにご機嫌だったのね。西住まほさん·····彼女にあの機体のパイロットを·····」

 

 

 西住流の長女にして次期跡取り、そしてモビル道において最強のエースパイロットと呼ばれるまほの存在を聞きマリーは笑みを浮かべた

 

 

「ねぇ、ムルタ。この世界を導くに相応しいのは男ではなく女の子であるべきだと思わない?」

 

「な、何ですかいきなり·····?」

 

「欲望に忠実すぎる男達に世界を任せてしまっては人々はずっと争い続けることになる。そんな事をもう終わらせるためにも強い力を持った女の子によって世界は·····人はより良く導かれなければならないの」

 

「だったらマリー様が指導者になればいいじゃないですか?そうすれば世界は貴女の思うがままにですよ」

 

「それは無理ね。私は所詮歴史の立会人に過ぎないの。だから私ではなくまほさんの様な強いお方に支配者として立ち上がって貰いたいわ」

 

「·····確かにまほさんは凄まじい実力を持ったお方です。けれどだからといって彼女に世界を導くなんて事できるとは思いませんね。貴女みたいな怪物とは違って案外普通の女の子なんですよ?」

 

「怪物だなんて失礼ねっ。·····なら傷付いた彼女を支えてあげるのが私の役目ね。近いうちに私も彼女に会いに行かせてもらうわ」

 

 

 マリーはそう告げると踵を返し部屋を出て行こうと扉に手を掛けた

 

 

「·····念のために言っておきますが彼女は僕のプロチームに参加するという形でこちらへ迎えるつもりです。ジャミトフ閣下からもまほさんの事は僕に一任されているのであまり派手に動かないでくださいよ?」

 

「ええ、そんなに心配しなくても大丈夫よ。それじゃあもう帰るわ」

 

 

 マリーは去り際に邪気を含んだ笑みを微かに浮かべていた。部屋を出ると廊下にBCの制服を着た少女が二人、静かにマリーが部屋から出て来るのを待機していた

 

 

「待たせたわねレナ、ルカ。それじゃあ行きましょうか」

 

 

「「ハイッ!」」

 

 

 待機していた安藤レナと押田ルカの二人はマリーの後を彼女の傍らを固める様に歩き始めた

 

 

「マリー様、ショコラティエより報告です。我々は宇宙へ上がった西住みほの防衛に向かうとの事です」

 

「あら、ティターンズでもないのに彼はよく頑張るわね。確かに妹さんをルナリアンの皆さんに差し上げると面倒な事になりそうだから助かるわ」

 

「それとマークJの事ですが如何されますか?約束通りマリー様がいない間ずっと大人しくしていましたが·····」

 

「ふふふっ、あの子ったらちゃんとお行儀よく待っていられたのね。そうね·····今度まほさんを迎えに行くついでにあの子も拾ってあげようかしら。とにかく今日の所は地球の美味しいケーキ屋さんを楽しもうじゃない。早く行きましょうか」

 

 

 安藤と押田は火花を散らすように互いに睨み合いながらマリーと共に校舎の外で待機していたヘリコプターに乗り込んだ

 

 

(そう、確かに感じる·····世界が、時代がこの私を必要としているということを。そのためにも貴女の力、私のために活用させて貰おうかしら。西住まほさん·····)

 

 

 木星帰りの少女、マリー・タイタニア。5年に及ぶ木星という僻地での生活は彼女に新たなる能力(チカラ)を目覚めさせた。そして彼女は自身の使命を果たすため、その有り余る才能を世に示すためその手で弱りきったまほの全てを掌握し手駒として利用しようと動き始めたのであった··········

 

 

 




読んでいただきありがとうございました

当ssのマリー様は原作に登場する本来のマリー様と遥かかけ離れたキャラクターになっております。というのもガンダムのラスボスキャラにおいて最も最悪なあの男をマリー様に演じて貰おうと思っているからです。詳しくはこちらの方をご参照いただけると助かります【https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=224589&uid=260037】



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外伝 千代美、その心のままに
PHASE-01 閃光の少女


【https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=219812&uid=260037】こちらをチラ見してからよろしくお願いします


 黒森峰女学園────幾度となくモビル道全国大会優勝を果たし現在大会5連覇中の超強豪校。勝利至上主義を掲げる西住流三代目、西住しほの影響と指導育成を大きく受け、加えて彼女のモビル道に信望を寄せる人々からの支援により超一級品のMSやその他兵器が提供されていたため、黒森峰でモビル道に励み無事に卒業できた者は世界レベルで見てもエリート中のエリートであるとされていた。故に日本国内のみならず世界中のモビル道で強くあろうとする少女達が西住流に憧れ黒森峰への入学に憧れた··········しかし入学への道のりはかなり厳しく、一般試験で中等部へ入学するには学力は勿論、モビル道において並以上の技量や能力が無ければ先ず弾かれ、特待生枠としてスカウトされるにも入試組以上に求められる水準が高かったのでかなり敷居の高い学園と世に知られていた

 

 

 

 そんな黒森峰の中等部に愛知県から一人、一般入試を経て入学を決めていた少女がいた

 少女の名は安斎千代美。彼女は当初私立である黒森峰に入学するつもり事など思いもせず、地元の中学校に進学するものだとばかり思っていた。しかしお世話になっていたモビル道チームの隊長が千代美の実力と才能に可能性を感じ、黒森峰女学園を受験してみてはどうかと彼女の両親に提案したのであった。それを受け元から人情に厚く面白そうな事にはノリと勢いで突っ込みに行く事が多かった千代美の両親は娘に黒森峰を受験させる事を決意。二人は()()()()完璧かもしれない受験対策問題を練り上げ、受験勉強を面倒くさがる千代美のケツを叩き入試本番まで無理矢理勉強に専念させた

 

 結果黒森峰から千代美宛に合格の通知が届き、来年の春から機甲科の中等部に入学する事が決まった。両親は自分の手柄のように喜びご近所には自慢して回り千代美も難関校に合格できた事が嬉しかったが、全く新しい環境に一人で生活する事と正直西住流のモビル道に馴染めるか不安に感じ少し気が重くなっていた

 

 

「なぁ、黒森峰ってかなり凄い所らしいんだけどさ。私みたいのがやっていけるのかなぁ·····」

 

 

その日の夜、弟の部屋にてベッドに寝転び雑誌を読んでいた千代美はふと悩み事を彼に向かって呟いた。千代美の弟、安斎千秋は3つ歳下ながらも自分より大人びており少し静かすぎる気もして心配だったが千代美にとっては頼りになる弟だった

 

 

「別に大丈夫でしょ。お姉ちゃんすっごい強いし友達だっていっぱいできるよ」

 

 

「そうだといいけど······やっぱり一番不安なのはモビル道の方だよ。西住流って昔っからあるめちゃくちゃ有名な流派らしいから、そんな人達の訓練なんて絶対厳しいだろうし着いていける気がしないなぁ·····」

 

 

「·····我慢できなかったらいつでも帰ってきていいと思う。パパとママも笑って許してくれるだろうし·····それに僕もちょっと寂しいから·····」

 

 

千秋はそう言いながら顔を隠すように漫画を再び読み始めた。実際両親も特別厳しい訳ではなくただ破天荒なだけなのでこの数ヶ月の勉強地獄に対してもそれほど憎んでいなかった。千代美はたちまちご機嫌になり千秋の髪をわしわしと撫で回した

 

 

「まったく本当に甘えん坊な奴だなおまえは!このこの〜!」

 

 

「う、うるさいよ!······ていうか黒森峰女学園って女子校なのによかったの?お姉ちゃん中学生になったら小説みたいな恋愛したいって言ってたのに··········」

 

 

「え゙!?黒森峰って女子校なのか!?··········キャンセルだ·····入学は今すぐキャンセルだ〜!」

 

 

千代美は蒼白した顔で部屋を飛び出しドタドタと両親のいる一階へ降りて行った。無論そんな理由で入学を取り消すなど許されるはずもなく叱られてしまい、千代美は高等部卒業まで恋愛が遠い存在になる事に涙を流しながら暴れ始め、千秋を含め家族全員が彼女はあれで本当に大丈夫なのかと深刻に思い始めたのであった

 

 そんなこんなありながらもついに黒森峰女学園に向かう日となり、千代美は家族と学校やジュニアチームの友人達に見送られながら胸を貼って黒森峰から迎えに来たヘリに乗り込んだ。ヘリが出発し千代美は皆の姿が見えなくなるまで手を振るのと共に、皆の期待に応えるためにも黒森峰女学園でモビル道の戦士として最期まで戦い抜いてみせると心に誓ったのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒森峰女学園に到着して数日、寮の歓迎会や入学式等を終えてついにモビル道最初の演習日がやって来た。千代美は顔を洗い自身の長い緑髪を大きなリボンで束ねツインテールを造り、パジャマから黒森峰モビル道部隊用の制服に着替え始めた。その最中まだ空っぽになっていたもう一つのベッドに目をやった

 

 

(もう一人の子はいつ来るんだ?一人は嫌だなぁ·····)

 

 

本来二人部屋であるはずなのに何故か自分しか割り当てられていなかったので、千代美は少し寂しさを感じながらも一人黙々と支度を済ませて自室から演習場へ向けて飛び出して行った

 

 

 

 演習場には寮から出ているバスに乗って向かい多くの一年生が乗車しており、到着後外へ踏み出すとかなり広大な軍事基地が目に飛び込んできた。ヘリで空から見た時も独占する様に学園艦の中央に存在している事に度肝を抜かれていたが、こうして自分の目線で見て改めてその規模に衝撃を受けた

 

 

「凄い·····こんな広い所でMSに乗れるのか·····」

 

 

とはいえ感動している場合でもなく千代美も他の一年生と同様に集合場所であるMS第1格納庫へと向かった。到着後一年生は綺麗に整列させられた。その年の一年生は特待生を含めて200人近くが入学しているらしく、ここにいる一人一人が自分以上の実力者であるかもしれない事に千代美は緊張感を覚えるのと同時に絶対に負けたくないと心に火を灯した

 

 

「ねぇねぇ見てよあの人·····西住まほさんだよ·····」

 

 

「ほんとだ····!あのまほさんと一緒にモビル道ができるなんて·····!」

 

 

隣の一年生二人がひそひそと話すのが聞こえ、彼女達の視線の先に目をやると列の中に只ならぬ存在感を放ち周りの生徒から注目を浴びていた一人の少女がいた。その少女こそ昨日の入学式に一年生代表として式辞を述べていた西住流本家の長女、西住まほであった

 

 

「なぁ、西住まほってそんなに有名人なのか?確かに結構強そうだけど·····」

 

 

「·····は?貴方······何言ってるの·····?」

 

 

千代美は少女の事が気になり隣の二人に聞こうとしたら、二人は口元を抑えながら信じられないというような表情をこちらに向けてきた

 

 

「·····まほさんは現家元の三代目、西住しほ師範の長女で西住流の次期跡取りなんだよ?」

 

 

「へぇ〜西住流の跡取りか!そんな凄い奴がタメにいるなんて知らなかったよ〜」

 

 

「··········貴方もしかして西住流の事何も知らないの?あのまほさんを知らないだなんて·····」

 

 

「いや流石に西住流の事はちょっと勉強してきたぞ!えっーと··········いつも雑誌とかテレビで特集されててほんと凄いよなー··········ははは·····」

 

 

「信じられない····なんでこんな子が黒森峰に入学してるの·····?」

 

 

二人は千代美に完全に軽蔑したような目を向け、千代美はそれを受け苦笑いを浮かべることしかできなかった。彼女達は皆西住流に憧れ入学したのだから当然西住流のモビル道を崇拝してる訳で、自分の様に西住流に興味など無いに等しくただモビル道の強豪だからと入学した者は異端中の異端である事が判明し、ここにきて自分の黒森峰への認識の甘さを痛感した

 

 

「今年の一年生は結構いるな·········皆注もーく!」

 

 

突然大きな声が響き、振り向くと列の先頭の方に二人の上級生の姿があり、千代美含め一年生達は全員静粛にし改めて気を引き締めた。声を上げた方の銀色の短髪、その上にレンズがオレンジ色のゴーグルを掛けていた上級生はその様子を見てニヤリと笑みを浮かべた

 

 

「ようこそ黒森峰女学園へ!私は中等部の隊長やってる三年のジェンダー・オムだ!皆よろしく!」

 

 

ジェンダーとその傍らに立つ副隊長と思しき人物は軍人の様に敬礼し、周りの一年生達も二人と同じように返礼した。千代美は少し遅れて敬礼しながら、おそらく海外の人と思われるイケメンな隊長に見とれてしまっていた

 

 

「·····それで早速なんだがこれから私達上級生と新入生を交えて実戦演習を行わせてもらう。人数か多いから予め参加する一年生はこちらで決めさせてもらったが、ちゃんと公平にクジで決めたから選ばれなかったからと凹まないでくれ」

 

 

初めからこちらが本題だったのかジェンダはさらさらと言い放ち、他の一年生達はそれに衝撃を受け動揺しざわつき始めた。千代美は自分には絶対関係ないだろうと思いボーッとし始め、まほも周りが動揺する中先程と何ら変わらない様子を見せていた

 

 

「全員静粛に。演習は5機一個小隊三組による殲滅戦を行います。使用する兵器は3チームごとに既に用意されているので、スタート地点に到着後編成を決めてください。これから参加する生徒の名前を呼ぶので呼ばれた方は前へ出るように。·····先ずは西住まほさん」

 

 

当然、と皆思っていた通り最初に副隊長が呼んだのは西住まほだった。その後も次々と一年生の名が呼ばれ、千代美は列を抜けていく彼女達を見送りながら一体どんな戦いを見せてくれるのかなとぼんやり考えていた。

 

 

「·····千代美さん。·····安斎千代美さん!いないのかしら!?」

 

 

「·····え?は、ハイ!」

 

 

千代美は自分の名前が呼ばれている事に気づき我に返った。周りから睨む様な目線を送られながら千代美はそそくさと列を抜け前の方へ向かった

 

 

「いやぁ大変失礼しました!まさか呼ばれるとは思わなくて!」

 

「いるのなら一回で来てくれないかしら?·····って何その頭?ウィッグ?」

 

 

「え、いやいや地毛ですよ!冗談キツイな〜もう〜」

 

 

「そう········黒森峰も随分舐められたものね·····」

 

 

副隊長は目元に青筋を浮かべながらこちらを睨みつけていたので、千代美は苦笑いを浮かべながら目を合わせないようにした。今思えばこんな髪型をしているのも自分くらいなものだったので完全に目をつけられたと思い後悔した

 

 

「副隊長は風紀委員長もやってて仕事上無視できないもんでな。あまり気に病まないでくれ」

 

 

「は、はい·····すみません··········」

 

 

「それに君はあのまほさんと同じチームだ。同じ一年の彼女に負けないようもっと自信を持って欲しいね。それじゃ面白い戦いを期待してるよ。安斎千代美さん·····」

 

 

ジェンダーはそう言って千代美の肩を叩いてから通り過ぎて行った。彼女からちょっとした違和感を感じたが千代美は切り替えてまほ達が集まってる場所へ向かった

 

 

「··········隊長。家元からまほさんを試して欲しいとの依頼があったからこんな演習を行うのですが·····何故あの様な不良かぶれを·····」

 

 

「安斎千代美の事か?あれが同姓同名の別人なら話は別だが·····おそらくかなり楽しい事になるかもしれない」

 

 

「楽しい事··········そうなればいいのですが」

 

 

「そう気を悪くするな。とにかく作戦通りに動くぞ。ここで西住まほを討つ事ができれば新入生全員に危機感をもたせることができるからな······」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千代美はまほと他のメンバーと共にジープに揺られながらスタート地点に向かっていた。自分達がこれから演習で扱うMSは全てスタート地点に用意してあるらしく、全員の準備完了と同時に実戦演習が始まる事となっていた。移動中まほは戦場になるであろう基地内を静かに見渡しており、その様子を他の三人は羨望の眼差しを送りながら彼女の妨げにならないようひそひそと話していた

 

 

「··········おい西住まほ。おまえの好きな食べ物はなんだ?」

 

 

「え·····?」

 

 

あまりに唐突に千代美が声を掛けてきたのでまほは少し驚いた様子を見せた

 

 

「いくら西住流の家元とはいえ好きな食べ物の一つや二つくるいあるだろう?こう見えて私結構料理が得意で·····」

 

 

「ちょっと貴方!まほさん失礼しました!」

 

 

すると三人組のうち二人が千代美を取り押さえるように飛びかかり千代美の言葉を遮り一人がまほへ頭を下げた。口元を封じられた千代美はじたばた暴れて二人を突き放した

 

 

「コラ!何するんだいきなり!喧嘩ならいくらでも買ってやるぞ!」

 

 

「おい、喧嘩は良くないぞ··········」

 

 

「そ、そんな喧嘩じゃありませんよ!」

 

 

まほは険しい表情でギロりと睨みつけ、千代美を押さえていた二人はゾクリとまほの視線を感じながらも千代美にしか聞こえない声で忠告しようとした

 

 

(貴方何まほさんに気安く話し掛けちゃってんのよ!?)

 

 

(気安くって·····これから同じチームとして戦うんだからそのくらいいいだろう·····)

 

 

(あのねぇ!まほさんは私達みたいな庶民が話し掛けていいような人じゃないの!もし失礼な事でもしたら退学は愚かモビル道界から消されちゃうかもしれないのよ!?)

 

 

正直二人が何を言っているのか千代美には理解できなかった。しかし彼女達から今すぐ側にいるこの西住まほという少女はそこまでの影響力を、自分とは全く違う世界に生きている人物であるという事が伝わってきた

 

 

(·····だとしてもだ。これから三年間一緒に戦う仲間を特別扱い·····いや、差別なんてできるもんか!)

 

 

(何よそれ········私達は貴方の事を思って言ってるのに!)

 

 

「ハイハイ皆さん着きましたよ〜。·····ってアレ?なんかめちゃくちゃ修羅場ってるじゃん·····」

 

 

本土の分校から派遣されて来た整備士の男子高校生はスタート地点に到着した事を伝えようと振り向くと、険悪な雰囲気になっていた千代美達の様子を見て若干引いてしまっていた。だがそんな事をいつまでも続ける訳にも行かず、千代美達はジープから降りて自分達のMSを確認しようとした。しかしそこに置いてあったのは連邦軍仕様の白いザクIIF2型が4機だけで、自分達は計5人だから1機足りないではないかと思い千代美は整備士の少年に聞こうとした

 

 

「何かMSが4機しか置いてないんですけど·····」

 

 

「ノーノー!隊長さんの計らいで貴方達のチームには特別な兵器が用意されてます!ほらアレ見て」

 

 

そう言って青年が指を指した方を見ると、F2型の影に隠れていた74式ホバートラックの姿があった

 

 

「え··········あれただの支援車両じゃん·····」

 

 

「なるほどな··········そういう事か·····」

 

 

まほは用意されていたホバートラックから何らかの意図を察し、千代美と他の三人はそれを見て愕然としていた。まほがいるとはいえ一年生しかいないというのに、こんな物に乗れというのが理解できなかった

 

 

「ンまーホバートラックとはいえ索敵システムとかすっごい良いんで馬鹿にしちゃ駄目ですよ。こんな身内の基地内ではただの足でまといですが!!!」

 

 

「いやいやこんなのおかしいだろ!抗議だ!隊長に言いつけてやる!」

 

 

「いやいやですから当の隊長様がこの編成にしたんですから無駄ですよ·····ってもげちゃうもげちゃうもげちゃう?」

 

 

怒る千代美に胸ぐらを掴まれ首を激しく揺らされていた青年は悲鳴のような声を上けだ。あの西住まほがいるからか、あるいは自分の様な落ちこぼれを乗せて的にするためにこれが用意されたかと思うと怒りが収まらなかった。まほはその様子を見て静止させる様に千代美の肩に手を置いた

 

 

「もう辞めろ。決められてしまったものは仕方ない。時間もないからこれらで編成を決めるぞ」

 

 

「そうは言っても··········あーもう、わかったよ!」

 

 

千代美は揺さぶっていた青年を解放し、5人で集まって各機体のパイロットを決めようとした

 

 

「とはいえ編成を決めるといっても問題なのはあのホバートラックだ。搭載されてる火器も20mm·····MSには到底敵わないな」

 

 

「んー、だったらこの中で一番強そうなおまえが乗れば·····」

 

 

「ちょっと!まほさんをあんな物に乗らせる訳ないでしょ!何だったらあそこには一番練度が低い人間が、貴方が乗るべきよ!」

 

 

 

「な、何ぃ〜!私の練度が一番低いだと!」

 

 

「だってそうじゃない!ずっと気になってたけど貴方の顔見た事ないもの!何処のジュニアチームに所属してたのか言ってみなさいよ!」

 

 

「げ··········いやジュニアチームじゃなくて·····私がいた所はなんと言うか·······」

 

 

千代美は答えられなかった。特にやましい事があった訳ではないが、あまり有名なチームでもなければどちらかと言うと皆から嫌われているチームだったので言い出しづらかった。それにあの頃自分を鍛えてくれた隊長や皆が馬鹿にされることが何よりも嫌だった

 

「何よそれ··········貴方そんなんでどうやって実技試験の方突破したのよ!」

 

 

「そう言われても·········」

 

 

「そこまでだ、すまないな安斎さん。このままでは収拾がつかない。どうか皆のためと思ってホバートラックを引き受けて欲しい。この通りだ」

 

 

まほは千代美に向かって深々と頭を下げた。他の三人はその様子を見て怯えるようにガタガタと震え始めたので、千代美は自分が折れるしかないと思い大きくため息をついた

 

 

「顔上げろよ·····わかったよ。私があれに乗る、それでいいんだろう?」

 

 

「すまない·····その代わり私達だけで必ず勝利する。君は危険だから後方で··········」

 

 

「いやダメだ、私も私なりのやり方で戦わせてもらう。おまえ達西住流に邪道だと笑われたくなかったから我慢しようとしたがもう辞めだ。·····だが必ずおまえ達を()()()()()()()

 

 

千代美は物怖じすること無くまほの眼を真っ直ぐに見て宣言し、まほも千代美の言葉を真っ直ぐに受け止め彼女を信用する事に決めた

 

 

「·····そうか。頼りにしてるぞ、安斎さん」

 

 

「·····安斎だ。もしくは千代美でも可!」

 

 

「そ、そうか·····それではた、頼りにしてるぞ、ち·····ちよ··········」

 

 

どういう訳かまほは顔を赤く染めて俯いてしまった。ひょっとしてと思い千代美は悪戯そうな笑みを浮かべながら、まほの顔を覗き込もうとした

 

 

「ひょっとしておまえ、下の名前で呼ぶのが恥ずかしいのか!?なんだよ結構可愛い所あるじゃないか!」

 

 

「う、うるさい!とにかく君は独自の判断で動いてくれ!任せたぞ安斎!」

 

 

まほは真っ赤な顔を上げながら千代美に声を放ち、踵を返してF2型の方へ駆けて行った。千代美は他の皆が思っている程まほが遠い存在ではないのかと思いつつ、自身が乗ることとなったホバートラックと対面した

 

 

「·····おいそこのモヤシの先輩!」

 

 

「ハイ!!!僕ってモヤシ!?」

 

 

千代美は先程揺さぶり倒した整備士の青年に声を掛け、ぐったり倒れていた青年は彼女の声が聞こえると瞬時に起き上がり敬礼した

 

 

「この車の操縦をあんたに任せたい。私は銃座から指示するからその通りに動いて欲しい。やってくれるな?」

 

 

「えぇ··········僕ただの整備士志望の青少年なのにぃ·······今日は実習サボれるから来ちまいましただけなのにぃ······」

 

 

「ええいウダウダ言うなー!黒森峰の整備士やってんなら根性見せろ!」

 

 

「ヒぇ〜〜〜最初は敬語だったのにヤンキー怖すぎ!下克上キメられました(笑)」

 

 

千代美は嫌がる青年を無理矢理ホバートラックの中へ押し込み、車両のどこにも異常が無いことを確認してから銃座に座り演習開始の合図を待った

 

 

「見せてやるよ西住流·····私のモビル道を·····」

 

 

 セモベンテ隊────イタリアを拠点としていた男女混合のアマチュアチーム。しかしその対戦相手にプロチームが現れる程の実力があり、戦場を求め日々、地球上を転々と回っていた。しかしその戦い方に少し問題があり、真っ当なモビル道をする者にとっては嫌悪感を向けられる事が殆どであった。

 そして千代美は父親がセモベンテの隊長と親友であった事から、幼少の頃より日本のジュニアチームではなく、長期休み等を利用してセモベンテ隊と共に世界を駆け巡っていた。隊長からは黒森峰に向かう前に、俺達のやり方は忘れて自分だけの道を見つけて欲しいと言ってくれたが今だけは、この怒りをぶつけるために自分が歩んできたセモベンテ隊のモビル道を西住流に繰り出す事を決意した

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました

試合本番は次回になります。アンチョビとホバートラック、僕は大好きです·····



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PHASE-02 オペレーション・ライトニング

またまた結構長くなってしまい申し訳ないです

セモベンテ隊の活躍は機動戦士ガンダム MS IGLOOで見れます

今回もよろしくお願いします


 新入生にとって初となる訓練にて。中等部モビル道部隊大隊長、ジェンダー・オムにより新入生の歓迎会を兼ねた実戦演習が行われる事となった。同じチームとして参加する事になった千代美とまほであったが、彼女達を待っていたのはザクIIF2型と4機と74式ホバートラック1台だったので誰か一人だけMSに乗れない事が明らかとなっていた。千代美は西住流とまほを崇拝する他のメンバーからトラックに乗るよう迫られ、それを見かねたまほが頭を下げて頼み込んできたのもあり、千代美は折れてホバートラックに搭乗する事を承諾するのであった。とはいえ勝負を捨てた訳ではなく、ろくな理由もなしに自分を見下すチームメイト達を見返すため、千代美は自分の戦い方でこの戦いに勝利しにいこうとしていた··········

 

 

 

 

『皆さんこんにちは!今日は黒森峰女学園新一年生の最初の訓練ということで西住師範からサポートをするよう依頼を受けて参りました、地球連合軍教導隊の蝶野亜美です!』

 

 

『じ、自分は元教導隊員のアナベル・ガトー中尉であります!現在は連盟所属の教官としてこの中等部の教官を務めさせていただいております!未熟者故至らぬ所ばかりでありますが皆さんのお力添えになれる様尽力する次第であります!』

 

 

 千代美達を含む全てのチームの準備が完了した頃、演習場内の放送スピーカーから今日のために馳せ参じてくれた女性教官と少し上擦った渋めの男性の声が聞こえてきた。このようにモビル道の選手の育成により力入れるため、連盟所属の教官とはまた別に連合軍の教導隊がモビル道の講師として派遣されるというのも珍しい話ではなかった

 

 

「教官は男の人か······結構厳つい声してる人だな····」

 

 

「ですねぇ。軍人さんって怖い人がいっぱいいそうで嫌いです·····」

 

 

トラックの銃座付きのハッチから身を出していた千代美はガトーの声に若干怯え、操縦席に座っていた本土に在る姉弟校から来た端正な顔立ちの整備士の青年は椅子をグルグル回転させながらぽつりと呟いた

 

 

『ガトーくんちょっと固すぎよ?軍だって退役してるんだから何時までもそんな調子だと師範に怒られちゃうわ』

 

 

『申し訳ありません大尉·····些か緊張しすぎてどうしても士官時代の調子に戻ってしまい·····』

 

 

「あれ、隊長?教官さんがお話してますけど聞かなくていいんですか?」

 

 

千代美達とはまた別のスタート地点にて、ジェンダーは自身の専用機である白いジム・カスタムにもたれながらイラついている様な顔を浮かべており、そんな彼女の事が気になったチーム内の一年生が彼女に声を掛けた。すると直後に二年生の先輩が声を掛けた一年生へ身を寄せ小さな声で耳打ちしてきた

 

 

「一年生、今みたいに隊長が不機嫌そうな時はあまり野暮な事は言わない方がいいよ。あの人怒ると結構怖いんだ·····」

 

 

「す、すみません!·····隊長は今怒っているんですか?」

 

 

「·····今話してた男の教官さんが宇宙生まれの人らしくてね。隊長はお父さんの影響で昔から宇宙市民(スペースノイド)の事を凄く嫌っているの。だから家元の御知り合いの人とはいえスペースノイドが教官になる事が納得できてないみたいなんだ·····」

 

 

中学生の少女とは思えない程高潔な資質と風貌を持ち、周囲からも大いに慕われている最高の指揮官·····ジェンダー・オムがそんな人物であると思っていた新入生は、この時彼女がその心中に差別的な思想を持っている等にわかに信じる事ができなかった

 

 

『どうやら各チーム準備完了しているみたいね!それではルールは3チームによる殲滅戦、最後まで撃破されず残っていた選手のチームが勝利となります。この演習基地内なら何処に行ってもOKだからガンガン動いてドンドン撃破しに行ってね!』

 

 

再び亜美の声が聴こえ試合に参加する各チームの生徒達はそれぞれ整列し、千代美もその様子を見てハッチから出てホバートラックの上に立ち上がった

 

 

『それじゃこれより実戦演習を開始します!もう知ってると思うけどモビル道の試合は礼に始まって礼に終わります。一同、礼!』

 

 

「「「「よろしくお願いします!!!」」」」

 

 

「よろしくお願いしまーす!あんたも一応参加するんだから挨拶しといた方が良くないか?」

 

 

「えぇぇぇどおぅして僕が頭を下げなきゃいけないんですかぁ〜?」

 

 

千代美はトラック内を覗き込み声を掛けると操縦席の青年から間の抜けた声で応えられ、何故か彼の服装が整備士のツナギからまるで喪服かのような漆黒のロングコートへと変身していたのもあり、その暑そうな服装と態度に少しカチンと頭にきたが彼にはトラックの操縦を任されて貰いたいのでここは抑えることにした

そんな中まほは自身のMSであるF2型のコックピットに乗り込み機体のエンジンに火を入れた。独特の音を発しながら頭部のモノアイが光りゆっくりと立ち上がるまほが乗るF2型の姿を千代美は羨ましそうに見上げていた

 

 

「うぅぅかっこいい·····やっぱり私も乗りたかったなぁ·····」

 

 

「安斎さん、そのトラックにできる事なんて偵察ぐらいなのはわかってるよね?戦闘に参加されても邪魔になるだけだから偵察が終わったら何処かでじっとしててもらえる?」

 

 

「んなっ!·······わかったよ!」

 

 

まだ機体に乗り込んでいなかった他の一年生達がそう伝えに来たので千代美は唇を噛みながら湧き上がる怒りを抑えた

 

 

「いいんですか?あんな大した事なさそうな人達の言うこと聞いちゃって。お望みであれば轢いちゃいますけど」

 

 

「正直かなりムカつくが見返してやるためにも今は我慢·····って轢くのはダメだろ!なんて事考えてんだ!」

 

 

「·····冗談ですよ☆それと後ろに置いてある荷物。どうやらジェンダーさんは意地悪のつもりでこの車を用意した訳じゃないみたいですねぇ」

 

 

彼の言葉通りトラックの中に大きめの荷箱が置かれており、千代美は中を確認するとモビル道用に開発された爆薬や煙幕がいくつか入っていた。非公式戦のみを行い男女混同のチームであったセモベンテ隊に所属していた千代美はこれらを試合中に使う事が幾度かあったが、本来女子のモビル道で歩兵用の兵器を扱う事はご法度とされていたのでまさかここに来てお目にかかるとは思ってもみなかった

 

 

(これも使っていいって事か?だったら·····)

 

 

『それではこれより三小隊対抗の戦闘演習を開始する。全機出撃!』

 

 

ガトーの試合開始を告げる声が響き、F2型4機はまほの機体を筆頭に行進を始め千代美は通信用のヘッドセットを付けてトラックを先行させた

 

 

「それじゃ他のチームの偵察に行ってくる!皆はこの先で待機しててくれ!」

 

 

「了解。·····本当にすまない。初めての訓練だというのにMSに乗せてあげれなくて·····」

 

 

「なーにもう気にするな!何時までも辛気臭い事言ってないでおまえが親の七光りじゃない事、活躍して私に証明して見せてくれよな!」

 

 

「ちょっと貴女いい加減にしなさいよ!それ以上まほさんにそんな態度取るなら蹴り飛ばしてやるんだから!」

 

 

「やめろ!·····いいだろう。君の働きに応える戦果を挙げてみせるさ」

 

 

まほの言葉を聞き千代美はニヤリと笑みを浮かべ、まほの機体に手を振りながら偵察へと向かって行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ステージとなる学園艦上の演習基地。大型のビルや兵器倉庫、MS用の格納庫が何棟も建てられており、長い滑走路に隔てられた先に戦艦ドック、コンテナが山積みにされた物資集積場が存在していた。千代美はそれらを見物しながらマップを確認し、大きく迂回して他のチームの動きを偵察できる地点までホバートラックを飛ばさせた。その道中に地雷の設置やトラップの準備しながら·····

 

 

「ブッブッブ〜ン♪ドライブブンブンブッブッブ〜ン♪」

 

 

「なんだその変な歌·····?」

 

 

「クルマの歌ですよ。たった今作りました」

 

 

「聴いてるとどうにかなりそ·····あっ!おい、車を停めろ!」

 

 

千代美が声を張り上げるとホバートラックに急ブレーキが掛けられた。千代美は振り落とされそうになるも何とか堪え双眼鏡を覗き込んだ

 

 

「いた·····!F2型4機とジムカスタムが1機··········こちら安斎!そっちから5kmの地点に敵部隊を発見。現在周囲を警戒しながらゆっくり展開している」

 

 

『了解、私達も遮蔽物に隠れながら前進する。他の部隊の姿は見えるか?』

 

 

「··········ちょっと待ってくれ·····どういう事だ?」

 

 

千代美は双眼鏡から見えるその景色に違和感を感じた。たった今発見した敵部隊より少し離れた場所に展開している4機のF2型の姿が見えた。1チーム5機の編成であるはずだからあれらが味方同士であるはずかない、しかしとっくに会敵しあっているはずの2チームは何故か交戦せず一定の距離を保ちながらまほ達の待機する地点へ向かおうとしていた

 

 

「·········まさか!大変だ!他の2チームはグルだ!現在MSが計9機そっちに接近中!」

 

 

「そんな!?私達のチームを先に叩こうっていうの·····」

 

 

「いくらまほさんがいるからって他は一年生だけなのに·····」

 

 

「··········敵機の機種と装備を教えてくれ」

 

 

「F2が計8機とジムカスタムが1機、F2の装備はおまえ達と同じだ。恐らくあのジムには隊長か副隊長が乗ってると思う」

 

 

「了解、ありがとう安斎。後は私達に任せてくれ」

 

 

文句の一つも言わないまほに千代美は驚いた。流石の西住まほもこういう時は他のメンバーの様に慌てたりするものだと思ったが依然変わりなく冷静さを保っている様であった

 

 

「敵の数はこっちの2倍、それに二年生も中に混じってるからかなり手強いはずだぞ?」

 

 

「わかっている。だがまだ戦ってもいないのに退く訳にはいかない。それに君に私の力を見せなければならないからな」

 

 

「フッ··········了解した!それじゃ予定通り私は何処かで待ってるから後は頼んだ!頑張れよ!」

 

 

千代美はそう言ってまほ達との通信を終了させ、トラックの中へ入り助手席に座った

 

 

「いやぁ〜2チームで組んで後輩をいじめに来るなんて酷ぇですねぇ〜〜〜けど僕達は職務を全うした訳ですしあの人達は見捨ててお茶会しましょうか!実は美味しいケーキ持ってきてるんですよ〜」

 

 

「おいモヤシの兄さん。ここから近い方にいる敵部隊の所まで飛ばしてくれ」

 

 

操縦席の下から嬉しそうにケーキの箱を取り出した青年は千代美の言葉を聞きその両手から箱を床へ落としてしまった

 

 

「······いやいや何言ってるんですか。偵察終わったら邪魔になるからじっとしてろってあの人達言ってたでしょう?」

 

 

「アイツらは私が戦力にならないと思っている。だがそれでも私は自分なりのモビル道を貫きたい。協力してくれないか?」

 

 

「··········仕方ないですねぇ。貴女のそのモビルドーとやらにもうちょっとだけ付き合ってあげますか。僕って優しいなー」

 

 

青年は渋々と操縦桿を握ると再び発進させ、二人を乗せたホバートラックは滑走路を横断し敵MS部隊へと前進して行った·····

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「副隊長、あそこにいるチームには攻撃しちゃダメなんですか?」

 

 

「ええ、あちらの方々にもジェンダー隊長の方から同じ旨を伝えられてるはずだからまほさんのチームを撃破するまでは味方だと思いなさい」

 

 

 千代美が最初に発見した副隊長が率いる部隊はまほ達の方面へ向けて前進を続けていた。また別の位置に展開していたジェンダーが率いる部隊には攻撃を加えない事を隊員に再三に渡って伝えていた。入学式の前日にしほから黒森峰に新入生として入学するまほを貴女達のやり方でその実力を試して欲しいとの依頼を受け今回この演習を開く事となり、ジェンダーの狙いとしては一年生と二年生を前面に出し彼女達にまほを討たせることによって士気の高揚を狙うというものであった。なので自分はあくまでサポートなので戦闘に参加することはないだろうと感じていた

 

 

「ん?副隊長·····何か来ましたよ·····」

 

 

「どうかしたの?··········ホバートラック?」

 

 

すると遠方から自分達の方に接近してくるホバートラックを発見し、副隊長のジムカスタムはジムライフルの銃口を接近しつつあったトラックへ向けた

 

 

「そこのトラック!どういうつもりか知らないがそんな物でMSに向かってもケガをするだけよ!」

 

 

「ふん!ケガが怖くてモビル道をやってられるか!」

 

 

ホバートラックは停止するとハッチが開き中から千代美が拡声器を片手に姿を現した

 

 

「安斎さん!?なんで貴女がそんな物に·····」

 

 

「あんた達が私のために用意してくれたんだろう?そんな事よりも他のチームと組んでまで私達勝ちにくるとは西住流も大した事ないみたいだな!」

 

 

「なんですって!·····いや、全機無視しなさい。あれは私達を挑発して陽動するつもりよ」

 

 

副隊長は皆に千代美を無視するよう指示を出しライフルの銃口を下ろして再び前進し始めた

 

 

「あ、逃げるのかこの卑怯者!それでも黒森峰の副隊長か!」

 

 

「副隊長·····私が撃ちましょうか?」

 

 

「無視よ無視。あんな安い挑発に乗る様ではまだまだよ」

 

 

「待てよ堅物風紀委員長!石頭!便秘!ノリが悪いぞ!そんなんだといいお嫁さんになれないんだからな!ばーかばーか!べーだ!」

 

 

千代美は拡声器で副隊長の機体に向かって罵詈雑言を放ちながら舌を出してやった。すると他の機体と共に前進していたジムカスタムは踵を返しこちらへと近づいてきた

 

 

「貴女達は先に行きなさい··········すぐに戻ります·····」

 

 

「ワォ。あんな百均並にお安い挑発に乗ってくれましたよ彼女」

 

 

「よし!ちょっと言い過ぎちゃった気もするがこれで予定通りに·····」

 

 

千代美が自信げに笑みを浮かべ腕組んだその瞬間、ホバートラックのすぐ横脇にジムライフルの90mm弾が着弾。軽い轟音と衝撃波に千代美は一瞬固まってしまったが砂礫と共に舞い上がった小石が頭にカツンと当たり再び我に返った

 

 

「······転回しろ!さっさと逃げるぞ!」

 

 

「·····なんか揺れましたけど地震ですか?こういう時ってキーは刺したまま避難しなきゃいけなくてですね·····」

 

 

「アホな事言ってないで出すんだ!やられるぞ!」

 

 

千代美は青年の肩を踏みつけホバートラックを転回させて滑走路へ入りこの場から離脱しようとした。振り返ると自分の挑発に乗った副隊長のジムカスタムが銃口を向けながらゆっくりとこちらへ向かって来ていた

 

 

「·····安斎さん。やはり貴女の様な不良には()()が必要みたいね·······覚悟しなさい!」

 

 

ジムカスタムはその場から飛翔すると逃げる千代美達のホバートラックを踏み潰さんとする勢いで急降下してきた。千代美は降りてくる巨人に目を剥き青年にもっとスピードを上げるよう叫び、急加速した事によってジムカスタムの落下攻撃を間一髪の所で回避する事に成功した

 

 

「おいおいケガどころか殺す気か!おっかないな!」

 

「え?僕ら死ぬん!?聞いてない聞いてない聞いてnothing!」

 

 

「死なないさ!いいから例のポイントまでぶっ飛ばせ!」

 

 

ホバートラックは全速力で滑走路を抜け、格納庫や建物を盾にしながら千代美が先程トラップを仕掛けた場所まで副隊長を誘導しようと急行した。しかし彼女のジムカスタムも千代美を逃さまいと走り出しホバートラックの後方を取るとジムライフルを乱射してきた

 

 

「ンヒィィィィ死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

 

「撃ってきたか·······今から私が言う方向に避けてくれ。やれるな?」

 

 

「え、いやいや相手はMSなんですよ?無理ですって追いつかれますって撒けませんって·····」

 

 

「右だ!なーに高速で移動してる小さな的に、ましてやそれを動きながら当てるなんて難しいもんさ」

 

 

千代美はハッチから身を出しながら後を追ってくるジムカスタムを見据え、ライフルから発射される弾丸に臆することなく命中弾を見切り回避方向を伝え始めた

 

 

(この子銃口を·····撃つタイミングを読んでいるというの·····!?)

 

 

「でも追いつかれた時蹴飛ばされてお終いですよぉ?やっぱりここは謝って仲間にしてもらいましょう!」

 

 

「追いつかれない様なコースで走るのがあんたの役目だろう?ゴタゴタ言わないでこんな可愛い子乗せてドライブしてるんだから絶対当たるんじゃないぞ!」

 

 

「お、横暴〜!こんな事になるなら遊びになんてこなきゃよかったなぁ·····(泣)」

 

 

青年はぼやきながらもホバートラックをできるだけジムカスタムから照準を合わせられないよう変則的に操縦し始めた。副隊長は千代美に挑発され熱くなっていたのもありホバートラックに命中させる事ができず、千代美はその隙にまほに通信を送った

 

 

「こちら安斎、西住まほ!そっちの状況はどうだ!?」

 

 

『たった今接敵した。しかし敵機の中に報告にあったジムカスタムが見当たらない。何処にいるかわかるか?』

 

 

「副隊長のジムカスタムは私が預かってるから大丈夫だ!まだ隊長の機体が姿を現してないから気をつけてくれ!」

 

 

『預かっている?·····どういう事だ?君は待機していると·····』

 

 

「心配するな!後で合流するからそれまで持ちこたえてくれよ?」

 

 

『·····了解。無理はするなよ』

 

 

まほから通信が切られ遠くから銃声が聞こえ始めたのでいよいよ本格的に戦闘が始まった様であった。その後も千代美はジムカスタムの射撃を見切り回避方向を伝え走行させ続けていた·····がジムカスタムは急に射撃を止め何故か近くの建物裏へと身を隠すように移動した

 

 

「なんだ?リロード······?」

 

 

MSがたかがホバートラックに、それも応戦せずに回避する事に専念していた小物から身を隠してリロードを行うなど普通は考えられない。千代美はジムカスタムの意図が読めずにいたが、体が本能的に何かを察知し考える前に彼女を銃座に座らせ20mmガトリング砲を握らせた。

するとジムカスタムが隠れていた建物裏からハンドグレネイドを2個投擲し、それらは大きく放物線を描きながら千代美達の進行先へと到達しようとしていた

 

 

「おいおい冗談だろ!?」

 

 

「さようなら安斎さん。この私を侮辱した報いを受けなさい·····!」

 

 

しかし千代美はガトリング砲を投擲されたハンドグレネイドを狙って乱射。放たれた無数の20mmは空中のハンドグレネイド達に命中し轟音を響かせながら空中で爆散させた

 

 

「ふぇ?今の音何?」

 

 

「ふぃ〜危なかった!容赦ないな全く·····」

 

 

ギリギリの所で危機を回避でき少し安堵したのもつかの間、撃破できなかったことで更に激昴した副隊長のジムカスタムは大きく飛翔し再び自分達の後方へ勢いよく降り立ってきた

 

 

「何なのよ貴女·····動物的な勘でも持ってるというの·····?」

 

 

副隊長は千代美に自分の攻撃か尽く読まれている事から無意識のうちにモニターに映る彼女の姿を怯えたような表情で見ていた

 

 

「到着しましたよ。もうこれで終わりにして欲しいです·····」

 

 

「着いたか!予定通りいくぞ!」

 

 

千代美達はついにトラップを仕掛けたMS用の武器庫へと到着した。作戦通りここまで敵機を誘導できたので後は仕掛けた爆薬を起爆し、倉庫内の火器に引火させて武器庫ごと敵機を撃破するだけであった。追いかけてくるジムカスタムの射撃を避けつつ、ホバートラックは武器庫の中へと突入しジムカスタムを中へ引き込もうとした·····が何故かジムカスタムは武器庫の入口で立ち止まり中へは侵入してこなかった

 

 

「ん?なんで着いてこないんだ?」

 

 

「馬鹿ね·····そんな安直な策に引っ掛かる訳がないじゃない!」

 

 

「·····やばい!早くここから出るんだ!急げ!」

 

 

ジムカスタムはハンドグレネイドを再び手に持ち武器庫の中へと放り込んだ。ホバートラックは猛スピードで一気に武器庫内を走り抜け外へと脱出し更にその場から距離を取ろうとした。すると放り込まれたグレネイドが起爆し武器庫内に置かれていた銃火器や爆薬に引火し大爆発が引き起こされた。その衝撃で走行中のホバートラックは大きく揺らされ、千代美も思わず車内へと避難し助手席へと座った

 

 

「クソッ失敗だ!引っ掛からなかった!あれでも黒森峰の副隊長なだけあるな·····」

 

 

「え?撃破できなかったんですか?なーにやってんですかもー」

 

 

青年は千代美の報告に失望感をあらわにした。これが千代美達だけの力でMSを唯一撃破できる作戦だったのでそれが失敗に終わり後は撃破されるのを待つだけ·····のはずであったが千代美はニヤリと笑みを浮かべていた

 

 

「·····まだだ!まだ罠を仕掛けた場所があっただろ?あそこまでヤツを連れていくぞ!」

 

 

「でもあんなしょっぱい爆弾じゃMSは倒せないですよ?初めからむぼーだったんですよこんなの」

 

 

「いいや端からあっちが本命さ!だからもうちょっとだけ付き合ってくれ!」

 

 

千代美は手を合わせて青年に頼み込むと彼はため息を吐きながらも千代美の指定したポイントへ向けホバートラックを加速させた

 

 

「·····貴女のような人ではない獣を修正するには作法というものがあるの········踏み潰してあげる!」

 

 

若干正気じゃなくなっていた副隊長のジムカスタムもまた爆散した倉庫から千代美のホバートラック目掛けて走り始めた。もはや射撃を当てることは困難と悟ったのか、スラスターを吹かせ一気に千代美達との距離を詰めてきた

 

 

「うにゅああああああああぁぁぁ来てるぅぅぅぅ!死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

 

「だから死なないと言ってるだろ!あともう少しだから頑張ってくれ!」

 

 

接近していた副隊長のジムカスタムはジャンプしてホバートラックを飛び越え前方へと着地し立ち塞がった。ブレーキをかけたものの慣性で停止する事ができずホバートラックはジムカスタムの方へ吸い込まれるように向かって行き、その様子を見た副隊長は歪んだ笑みを浮かべながら踏み潰そうと機体の片足を高く上げた

 

 

「さようなら安斎さん!お見舞いには行ってあげるわ!」

 

 

「··········いいや、私達の勝ちだ!」

 

 

千代美が握っていたスイッチを押すと、突如ジムカスタムの足下に置いてあったコンテナが爆発。その衝撃で片足を上げていたジムカスタムは大きくバランスを崩しうつ伏せに倒れ込もうとしてきた。ホバートラックはすれ違う形となり倒れてきた巨人の下敷きにならずには済んだが、ただ転倒させただけで撃破には至らなかった·····が何故か千代美は停止したホバートラックから出てその上に堂々と立ち上がりその片手には煙幕が握られていた

 

 

「世話になったな兄さん!ここまで付き合ってくれてありがとう!」

 

 

「え、貴女だけ走って逃げるんですか?ぼきも連れてってくださいろ〜!」

 

 

「違う違う!どうせなら最後まで見届けてくれ!」

 

 

千代美は煙幕をうつ伏せに倒れていたジムカスタムの胴体下へと投擲した。そしてホバートラックから飛び降りて一直線にジムカスタムへと駆け出した

 

 

「·····うーん。何が起きたの·····煙幕?」

 

 

副隊長は頭を抑えながらモニターに映る景色が煙に覆われている事に困惑していた。その隙に千代美は煙が立ち込めるジムカスタムの胴体下へと潜り込み、元々持っていたハッキング用の端末を取り出してケーブルをコックピットハッチに繋げた。千代美は慣れた手つきで手早く端末を操作するとジムカスタムのコックピットハッチが開かれ、突然の事態に中にいた副隊長は思わず悲鳴を上げた

 

 

「きゃああああ!何!?なんで開いたの!?」

 

 

「さぁて副隊長!ケガしたくなかったら大人しくここから出てもらおうか!」

 

 

「安斎さん!?貴女なんて事してるのよ!それに誰がそんな注文聞くもんですか!」

 

 

「うるさーい!いいからさっさと出るんだ!でなきゃパスタの具にして食べちゃうぞ!」

 

 

「ヒィぃぃぃぃ!ごめんなさいごめんなさい!今すぐ出ます!」

 

 

副隊長は中へ入ってきた千代美に怯えシートベルトを外し一目散に外へと逃げて行った。無人になったジムカスタムのシートに今度は千代美が堂々と腰掛けコックピットハッチを閉じ再び機体を起動させた

 

 

「脚は·····壊れてないな!それにしてもこんないい機体を持ってるとは流石は黒森峰·····持って帰れば皆喜ぶだろうな·····」

 

 

千代美は副隊長からジムカスタムを文字通り強奪する事に成功したのであった。セモベンテ隊は資金や賞金を全て宴会に使っていたためMSを独自に所有していなかったので、この様に試合中に敵チームから強奪して戦うというのが彼等の戦い方であった。レバーを操作しうつ伏せに倒れていた機体を立ち上がらせるとすぐ近くで腰を抜かしていた副隊長を見下ろした

 

 

「あ、あわわ·····何なのよ······聞いた事ないよこんなの·········」

 

 

「やい副隊長!私の事を踏み潰そうとしたのは勘弁してやる!その代わりこの機体は演習が終わるまで頂いて行くぞ!」

 

 

「は、はいぃ!·····隊長のバカぁー!」

 

 

「はぇ〜強奪作戦ですかぁ··············僕も()()()()()()()()()()

 

 

「あ、兄さんもここまでありがとなー!それじゃ行ってくるよ!」

 

 

千代美はホバートラックの外に出てこちらを見上げていた青年に元気いっぱいにお礼を述べ、操縦桿を押し倒しペダルを踏み込んで機体のスラスターを思い切り吹かせた。現在も二チーム分のMS達と交戦しているまほ達の援護に向かうため、千代美は更にスラスターを吹かせて基地内を駆け抜けて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、チーム内で唯一生き残っていたまほは大型倉庫の陰に身を隠し空になった弾倉を入れ替えていた。敵の機数は8機とはいえこちらは4機、数は不利ではあるがそう大した差にはならない。初めはそう思っていたが隊長のジェンダーが戦闘には加わらずに後方から隊員達の指揮を取っていたため、彼女の組み上げた策と連携によってまほ以外の三人はあっという間に撃破されてしまっていた。その後何とか4機撃破する事はできたものの後退する事を余儀なくされ、じりじりと追い詰められてしまい弾薬も今装填したもので最後となっていた。しかしこの絶望的状況でもまほは勝つために、残り4機をどう一人で殲滅するかに思考を巡らせていた

 

 

(右と左にそれぞれ2つ·······その内1機ずつ二年生がいて隊長から指示を受け取っているという事か。厄介だな)

 

 

「凄い·····まさか私達があのまほさんを追い詰めてるなんて·····」

 

 

「落ち着ついて一年生。隊長がいつも言ってる言葉だけどこういう時こそ『燃える心でクールに戦え』だよ」

 

 

「は、はい!すみません!」

 

 

まほが西住流の跡取りだからというのもあったが、それ以上にまほがモビル道界に姿を現して以来誰一人として彼女を撃破した者がいないという記録が彼女達を高揚させていた。新入生をなだめようとした二年生もまた同じであったが、あの西住まほならこの状況をひっくり返すかもしれないと思ったので隊長の言葉を思い出し冷静さを保とうと計った

 

 

「あ、先輩。副隊長が帰ってきましたよ」

 

 

「副隊長が?随分遅かったな·····」

 

 

一年生の報告通り後方より接近してくる機体を発見しそれが副隊長のジムカスタムである事を確認。あの副隊長の事だから修正と称して千代美の事を長い間虐めていたのだろう、そう思った二年生の先輩は少しだけ彼女に同情していた

 

 

「お疲れ様です副隊長。随分遅かったですね·····」

 

 

「ははは、そうかい?色々訳ありでね·····」

 

 

「·····は?ちょっと待って!誰よ貴女!?」

 

 

副隊長ではない別人の声が聞こえ二年生は振り返ったが既に手遅れで、ビームサーベルを抜いたジムカスタムに隣の一年生のF2型共々切り伏せられてしまい何の抵抗もできぬまま行動不能にされてしまった

 

 

「え!?副隊長どうしてですか!?」

 

 

「違う!なんで·····なんで副隊長の機体に違う人が乗ってるの·····!?」

 

 

撃破された二人は何が起きているのかに全く頭が追いついていないようで、まほもまた予想外の展開に目を剥いていた。これが後々黒森峰女学園にて良い意味と悪い意味両方で歴史を残した安斎千代美の初陣、そして西住まほにとって生涯唯一の親友となる彼女との初めての共同戦線になるのであった

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました

本当はもう少し書く予定でしたがあまりに長くなりそうだったので次回に持ち越そうと思います

まだ名前も出してませんが千代美と一緒にいた男の子も本編に登場してくると思うのでよろしくお願いします


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PHASE-03 二人の始まり

今回アンチョビの外伝にも関わらず他のガルパンのキャラクターが登場します。その上凄まじい程僕の趣味全開の捏造設定が組み込まれてるためもはや本来の設定とは遠くかけ離れたキャラクターになるかもしれないです

なんでそんな事するのかは後々説明しようと思いますので今回もよろしくお願いします


 副隊長の乗るジムカスタムを閃光の如く強奪した千代美。窮地に立たされていたまほの援護に駆けつけ演習は終局を迎えようとしていた

 

 

 

「あらまぁ、あんな風に戦う子がいるなんて。まるで獰猛な野獣のようね」

 

 

 黒森峰女学園学園艦の上空を監視するかの様に翔ぶ軍用の航空機。その内部のVIPルームに豪華なシートへ腰掛け大好物のケーキをお供にモニターから現在黒森峰で行われている演習を眺めるフランス人形かの様な少女の姿があった。すると管制機の操縦室よりVIPルームに老年の機長から電話が掛かってきた

 

 

『マリー大佐、間もなく出発時間ですがよろしいですかな?』

 

 

「あら、もうそんな時間?ちょっと面白くなってきたのに残念ね」

 

 

「申し訳ありません。これを機に大佐もモビル道をやられては如何ですか?まだお若いのですしこれから5年にも及ぶ木星圏の任務に出られるのです。ご退屈凌ぎにはなると思うのですが·····」

 

 

「モビル道って所詮はスポーツでしょう?この私におままごとは必要ないの。それにジュピトリスにはケーキをいっぱい貯蔵させていくのだから心配ないわ」

 

 

 地球連合軍大佐及び現木星探査船団の総指揮者、マリー・タイタニア。応答しながらフォークでケーキを掬い口へ運ぶ彼女の姿はごく普通の11歳の少女そのものであったが、軍内部では一見軍人とはかけ離れた彼女を高いカリスマ性を兼ね備え木星船団を任せられる程の優秀な人物と認識されていた。しかし子供とは思えない異彩を放つ彼女を先の未来を大いに揺るがす存在と危険視する者達もおりマリーの乗る航空機の機長もその一人であった。機長はマリーから通話が切られたのを確認し軽くため息をつくと隣に座る若手のパイロットが声をかけてきた

 

 

「正直大佐の様な幼い子が軍に、ましてや大佐という高い階級にいるなんて信じられないです。やはりジャミトフ閣下の御落胤かもしれないという噂は本当なのでは·····」

 

 

「彼女が出世したのは閣下の七光りだからとでも言いたいのか?·····私としてはその方がよっぽど安心できるな」

 

 

「ど、どういう事ですか·····?」

 

 

「閣下が以前仰っていたがマリー大佐には我ら常人には理解できぬ凄まじい感覚とこの時代を見通す力を持つ先駆者としての資質を備えているらしい。そして年相応の女子を演じながらもその胸の内に底知れぬ野心を秘めているというのだ。初めはにわかに信じがたかったが今日直接対面した時に納得させられたよ。彼女は本当だとな」

 

 

嘘の様な話だが機長の苦悶な表情からそれが冗談で言ってはいない事を表していた

 

 

「そして今日ここへ寄ったのもあの謎めいた青年を降ろすためだけではなく、後に自身を脅かす事となる者の気配をあの学園艦から感じたらしくてな。それでモビル道の演習を見学していたという訳だ·····この話だけでも少し不気味だな」

 

 

「·····出過ぎた事を聞き申し訳ありませんでした。しかしジャミトフ閣下は大佐が危険なお方だとわかっていながら黙認しておられるのですか?」

 

 

「そうとわかっていても手元に置いておきたい程に大佐は魅力的なのだろう。私は正直な所彼女という人物は時代のうねりが産んだ災厄に近い存在だと思っているが、あのお方の様な若者が後の世界を動かしていくのに相応しいのだろう·····」

 

 

機長は眉間を手で抑えながらぽつりとそう言った。マリーを乗せた航空機は黒森峰の学園艦上から去り、彼女を衛星軌道上に待機する超大形航宙輸送艦【ジュピトリス】へ届けるために軌道エレベーターへ向かった

 

 

(杞憂だったかしら?結局見つからなかったけどまぁいいわ。5年後に会いましょう、虫ケラさん·····)

 

 

航空機の窓から遠のいて行く黒森峰女学園の学園艦を見下ろしながら、マリー・タイタニアは笑みをたたえていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「·····5年後?」

 

 

演習場内に建つ灯台から演習を一望していた銀髪を下ろした少女はふと誰かの声が聞こえた気がして空を見上げた

 

 

「エリちゃんどうかしたの?かっこいい鳥さんでも飛んでたかな?」

 

 

「馬鹿にしないで。·····別に何でもないわ」

 

 

隣で観戦していた黒森峰女学園の高等部に属する姉が気にかけてきたが銀髪の少女、逸見エリカはツンと言い払った

 

 

「そう?それにしても中等部のお姉さん達かっこいいね!来年あの子達がエリちゃんの先輩になるんだよ?先輩達ともいっぱい仲良くなって一緒に甘い物食べたり買い物行ったりするのとか絶対楽しいと思うな〜」

 

 

「まだ入学が確定した訳じゃないのに気が早いわ。それにそんな腑抜けた理由で黒森峰に入りたい訳じゃないんだから」

 

 

「むー、最近のエリちゃんちょっと冷たくない!?ひょっとして反抗期!?お姉ちゃん寂しい!」

 

 

「姉さんが雑なだけでしょう·····」

 

その日偶然中等部の見学に姉と共に来ていたエリカ。直接対面する事は無かったが宿命は着実に二人を、エリカとマリーを引き合わせようとしていた·····

 

 

 

 


 

 

 

 

「せ、先輩!向こうのチーム同士討ちしてますよ!」

 

 

「副隊長どうして·····これも隊長の指示なの·····?」

 

 

 副隊長のチームと協同してまほを撃破しようとしていたジェンダー隊の二人は、どこかへ行っていた副隊長が合流するや否や味方機を斬り捨てたのを目の当たりにし何が起きたのか理解できず唖然としてしまっていた。その隙をまほが逃すはずがなく倉庫裏から飛び出すと呆然と立ち尽くしていた2機へ一気に距離を詰めようと駆け出し、千代美の乗るジムカスタムに気を取られていた二人は接近するまほのF2型に気づいた時には既に手遅れ、為す術なく胴体をマシンガンで撃ち抜かれ行動不能となり力無く地面へ倒れた

 

 

「あの動き·····あれが西住まほか·····」

 

 

千代美は他の2機を素早く撃破した事からあのF2型に乗っているのがまほであると何となく感じていた。しかし副隊長の機体に千代美が乗っているなど知る筈がないまほは撃破した敵機のヒートホークを拾い千代美を狙って投擲した。突然の事に驚きながらも千代美はシールドでそれを防いだが、息付く間もなくまほのF2型がヒートホークを片手に斬りかかろうと身を低くし高速で距離を詰めに来ていたので対応できないと思い無線機に向かって叫んだ

 

 

「待て待て西住まほ!私は味方だ!安斎千代美だ!」

 

 

「·····何!?なぜ君がその機体に·····一体どういう事だ!」

 

 

まほはジムカスタムから千代美の声が聞こえてきたので何とか踏みとどまり構えていたヒートホークを下ろした。報告にあったジムカスタムに実際に乗っていたのが味方であり尚且つ貧弱なホバートラックに乗っていたはずの千代美だったので、まほは今まで相対する事の無かったこの事態にかなり動揺させられていた。千代美から見てもまほが動揺しているというのは明らかだったので、このままでは良くないと思い千代美は事の経緯を説明するためまほを連れて他の場所へと移動するのであった·····

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどな。つまり君は副隊長の機体を自力で奪いトラックから乗り換えたということか········信じられない戦い方だが私を助けに来てくれた事に変わりはないな、ありがとう」

 

 

「なーに同じチームなんだから当たり前だろう?他の三人は持たなかったようだがおまえだけでも助ける事ができてよかったよかった!」

 

 

「だがもしお母様が君の存在を知れば黙っていてはくれない·····あの人は君のような奇抜な戦い方をする者はその周辺を感化しいずれ西住流という流派を歪めかねない存在になると考えている。この事がバレれば最悪破門を言い渡してくるかもしれないな·····」

 

 

「へ?·····ハモン?」

 

 

 モニター越しに得意げに笑いながら話していた千代美であったがまほから破門、という言葉が聞こえて両目が点になってしまった。まさか自分の戦い方一つで追い出される事になるなんて思ってもみなかったので千代美は衝撃のあまり自身の血の気が引いていくのを感じた

 

 

「おいおい冗談じゃない·····入学早々破門とか絶対パパとママに怒られるじゃないか!お願いだからだずげでぐれ゙ぇ〜!」

 

 

「と、とはいえ今日の所はMS戦にも関わらずあんな軽車両をあてがわれたのだからあまり気にする必要はないだろう。今日来ている教官の二人も寛容な方々だから事情を話せば母には黙っててくれるはずだ」

 

 

「·····は!いつも通り動いてたから忘れてたけどそうじゃないか!な〜んだ隊長達が悪いんだから全然ビビる事ないじゃん!アハハハハハ!」

 

 

コロコロと態度が一変する千代美にまほは若干圧倒されてしまっていた。だが彼女が言ういつも通り立ち回っていたという言葉がまほの中に引っ掛かっり聞かずにはいられなかった

 

 

「以前から同じ様に戦ってきたようだが、どうして君はそのように危険を顧みず戦う事ができるんだ?やはり君も勝利する事を何よりも重視しているからなのか?」

 

 

「な、なんだいきなり·····そりゃ真剣勝負なんだから誰だって勝ちたいに決まってるだろう?」

 

 

「だが勝つためとはいえ敵MSを強奪するなんて普通はできるはずがない。勝ちたいと言ってもよほど強い意志がなければ·····」

 

 

「!あ、危ない!」

 

 

僅かにスラスターの機動音が聞こえ千代美は声を上げたのとほぼ同時に、まほの後方から白いジムカスタムがジムスナイパーII用の75mmスナイパーライフルを片手に現れまほのF2型を狙って引き金を引いた。何とか反応したまほは回避行動を取ったがズガンという轟音と共に放たれた弾丸はまほのF2型の右肩を捉え右腕をもぎ取っていった

 

 

「おい西住まほ!大丈夫か!?」

 

 

「くっ·····腕が片方使えなくなっただけだ。まだいける」

 

 

「雑談は困るな一年生。まだ試合中だぞ?」

 

 

白いジムカスタムのコックピットからパイロットの、ジェンダーの声が千代美達に聞こえてきた

 

 

「あんた隊長か!よくも私達のチームにだけあんなトラックを用意してくれたな!おかげで大変だったんだぞ!」

 

 

「ハハハ、全部見ていたよ。セモベンテ隊の安斎千代美さん?」

 

 

「え、なんでその事を·····」

 

 

「昔ドイツで暮らしていた頃モビル道の野試合を見る事があってね。その時日本人の女の子でありながらチームに参列していた君の姿は今でも覚えているよ。新入生の名簿の中に君のデータを見つけた時は驚いたよ」

 

 

まさかセモベンテ隊の頃の自分を知っている人がいるとは思いもしなかったので千代美は驚く反面ちょっとだけ嬉しくなっていた

 

 

「そして今日君が乗ってくれると思ってホバートラックを用意したのも理由があってね。黒森峰のモビル道は確かに最強を誇っているが奇策や予期せぬ事態に弱くてな。歓迎会と場を使って君の様なイレギュラーな戦い方を選手皆に実際見てもらい何かを掴んでもらおうと思ってな。私の予想通り君がこの戦場を支配してくれたのだから皆驚いているだろう」

 

 

「むむむ·····喰えない人だな。けど隊長は随分期待してくれてるみたいだけど私の様に戦う奴は破門されるって聞いたぞ?」

 

 

「その心配はいらないさ。私も実の所()()()の西住流には同調していないが今日まで上手くやってこれた。あまり深く考えず自分が強くなるためだけに利用してやればいい、現代の西住流とこの黒森峰女学園という場所をな」

 

 

「そうなんだ·····私みたいなやつでも大丈夫なんだ·····」

 

 

「·····試合中に雑談はするな、という話だったのでは?」

 

 

千代美が安堵する中、口を閉ざしていたまほが生き残った左腕にヒートホークを持ちジェンダーのジムカスタムへ斬りかかった。ジェンダーはスナイパーライフルを投げ捨てビームサーベルを展開しまほからの斬撃を受け止めた

 

 

「おっと悪かったなまほさん。肝心な貴方の事を忘れていたよ」

 

 

「·····お母様の西住流に賛同しない人がいるのは存じていますが二代目が築いた歪んだモノとは違い世界に誇れる強き流派であると私は信じています。だから私はお母様の意志を継ぐためにも力を手に入れ、いずれ隊長の様な方々にもわかってもらうつもりです」

 

 

(スペースノイドを受け入れ共に歩む事で調和された強い世界を体現する流派、か···············相変わらず反吐が出るな)

 

 

三代目家元のしほへの本音を飲み込んだジェンダーは鍔迫り合いをしていたまほのF2型を一気に押し返した。そのままとどめを刺そうとサーベルの切っ先を倒れたまほの機体へ向けたが、横から千代美のジムカスタムが割って入るかのように斬りかかろう迫って来ていたのでその場からジャンプし二人から距離を取った

 

 

「やはり練度も高いな、中々厄介なのが二人も生き残ったか·····」

 

 

「ありがとう安斎、また助けられたな·····」

 

 

「西住まほ、まだおまえに私がどうしてあんな風に戦うのかを教えてなかったな」

 

 

サーベルをジェンダーの機体に毅然と構えながら千代美はまほに語り始めた

 

 

「確かに勝利する事も大切な事だがそういう結果はおまけみたいなもんで、本当に大事にするべきはそこに行き着くまでにどれ程自分が心のままに戦えたかどうかだと私は思う!だから例えどんなに最悪で不利な状況でも自分のできる事を、やりたい事を最後まで諦めず精一杯やり通すのが私の戦いだ!」

 

 

「心のままに······」

 

 

「だからこの試合も最後まで全力でやるつもりだ。行くぞまほ!勝つのは私達だ!」

 

 

「·····ああ、そうだな。私も最初からそのつもりだ」

 

 

千代美の熱意に押されまほもまた自身の闘志を昂らせ機体を立ち上がらせた。二人から湧き上がる闘志を感じジェンダーは若干冷や汗をかいたが気圧され退くことを彼女のプライドが許すはずもなく逆にニヤリと笑みを浮かべさせた

 

 

「私も実力一本でここの隊長に成り上がったのでね·····負ける訳にはいかないな」

 

 

「そりゃあいい、数で劣ってるとはいえ同じジムカスタムなんだから負け惜しみは言わせないぞ!」

 

 

「ちょっと待て··········ジムカスタムだと?私の機体はシルバーヘイズだ。間違えないで欲しい」

 

「へ?いやいや何処からどう見てもただのジムカスタムじゃ·····」

 

 

千代美の言う通り機体色が白く、シールドが特徴的な形状という点以外は紛れないただのジムカスタムであったがジェンダーは怒りを顕にし頑なにそれを否定した

 

 

「シルバーヘイズだ!次間違えたら貴様を素行不良生徒と見なし除隊処分にしてやる!わかったな!」

 

 

「な、何だって!おいおいひょっとして隊長が断トツで横暴な人なんじゃ·····」

 

 

「ふざけてる場合じゃないだろう······行くぞ!」

 

 

まほは千代美に喝を入れ、二人は共にジェンダーのシルバーヘイズへ挑もうと斬りかかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後千代美、まほの二人とジェンダーとの対決は熾烈さを極め格闘戦とは思えぬ程長時間に渡った。ジェンダーも中等部の隊長を任されているだけあってパイロットとしての実力も相当なものであり千代美一人では到底敵う相手ではなかった。しかし千代美と共に戦っていた西住まほという少女は、モビル道を初めて以来未だに誰からも撃墜された事がなくその驚異的な実力と西住流の跡取りという事から英雄の様に崇められる存在となる程優秀なパイロットであった。二人の連携に初めは対応していたジェンダーであったが次第に苦しくなり、最終的に千代美のジムカスタムを撃破したものの、その隙を付いたまほのF2型に斬り伏せられ演習は千代美達のチームの勝利という形で幕を閉じたのであった

 

 演習が終わった後の午後、新入生達はモビル道に関わる設備や規則、特例に関するオリエンテーションを受け初日の訓練は終了となった。他の生徒達が解散し帰路に着く中、まほはジェンダーに呼び出され中等部棟の隊長専用の執務室へと向かった

 

 

「失礼します。西住まほです」

 

 

「おっ、来てくれたかまほさん。今日は凄い活躍だったな。私も三代目の西住流には賛同してないと言ったが考えを改め直す必要があるみたいだ」

 

 

部屋に入ると自身の机で作業をしていたジェンダーが爽やかな笑顔で迎えてくれた。その笑顔は激闘に敗れた者にしては潔く清々しさを感じる程であった

 

 

「ところで大切な話とは一体·····?」

 

 

「単刀直入に言わせてもらう。私達三年生は夏の全国大会が終わると後輩への引き継ぎ作業と高等部へ向けての修学に励む事となる。そこで私が引退した後中等部の隊長に貴女を任命したいんだ」

 

 

「私がですか?しかし二年生の皆さんもいるというのに·····」

 

 

「現時点で貴女が隊長になる事に反発する者は誰一人としていないよ。皆伝説的な実力を持っている貴女に着いて行きたいと思っているんだ。引き受けてくれないかな?」

 

 

「·····わかりました。ジェンダー隊長の後任、僭越ながらこの私が務めさせていただきます」

 

 

まほは礼儀正しく一礼しジェンダーも満足そうな表情を浮かべていた。すると唐突に部屋のドアが開かれ間の抜けた声が部屋に響いた

 

 

「こんにちは〜!ジェンダー・オムさんはいらっしゃいますか〜?」

 

 

まほが背後に振り向くとそこには季節に似合わぬ黒いロングコートを身に纏った青年の姿があった·····しかし彼の瞳を覗いた瞬間、ゾクリとした寒気がまほの背中を走った。まほは知っていた、自分や母には兄弟や従兄弟はいないため西住の血を持つ者は自分達しかいない事を。しかしどういう訳かその青年の瞳から母と同じ気配を感じ、まほは心当たりが全く無かったため彼の存在から少し恐怖を感じた

 

 

「あら?ひょっとしてお邪魔でした?」

 

 

「私の方から呼ぶと言っただろうに·····まほさん、態々来てくれてありがとう。今日はもう寮でゆっくり休んでくれ」

 

 

「ありがとうございます·····それでは失礼します·····」

 

 

まほはジェンダーに挨拶しその場から立ち去ろうとした·····がどうしても彼の正体が気になりすれ違いざまに思い切って声を掛けた

 

 

「失礼ですが母と·····西住しほと何か関係をお持ちですか?」

 

 

「西住しほさん····?いやいや僕なんかがあんなスターなお方の関係者な訳ないじゃないですか〜やだな〜」

 

 

青年は目を細めいっぱいの笑顔をまほへ向けてきた。まほは自分の思い違いだったのかと感じ彼に礼を言って隊長の部屋を後にした。偶然居合わせただけの知らない人間から母と似たような気配を感じるなど普通は有り得ない事であったが、まほは不思議な事があるものだと処理し試合の内容を頭の中で反省しながら廊下を歩いて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、千代美は寮の自室で一人考え事をしながら窓から星空を見上げていた。初めは西住流に関して無知な自分に対する周りからの圧や、まほの言っていた家元の思想の話を聞き自分の様な者が黒森峰に居れるのだろうかと不安だったが、隊長もまた自分と同じ様に西住流に興味のない方だったので仲間がいた気がし千代美は勇気づけられていた。すると突然部屋のドアをコンコンとノックする音が聞こえてきた

 

 

「はーい、どうぞー」

 

 

「失礼します·····む、君は·····」

 

 

「あれ?まほじゃないか。どうしたんだそんな荷物持って·····」

 

 

ドアを開けて入ってきたのは両手に大きめのカバンを持ったまほだったので千代美は立ち上がり彼女の方へ駆け寄った

 

 

「今日から私も寮で生活する事になってだな。それで寮長さんからこの部屋を案内されたという訳だ」

 

 

「へー、そうかそうか!いやー嬉しいなー!今まで一人だったから話し相手もいなくて寂しかったんだよー!」

 

 

千代美は喜びのあまりまほへ抱きつき、まほは驚きのあまり思わず両手から荷物を落としてしまった

 

 

「そ、そうか。私も知り合いがルームメイトで嬉しいよ」

 

 

「本当か〜?あ、こっちは私のベットだからおまえはそっちのを使ってくれよな!」

 

 

「と、ところでその·····少し聞きたい事があるんだ·····」

 

 

改まって、そして少しぎこちない様子で話そうとするまほに千代美は何事かと思い注目した

 

 

「なんだ?ひょっとしてトイレか?トイレなら部屋を出て右に行くとだな·····」

 

 

「違う!·····君はとても勇敢で実力のある優秀なパイロットだ。そして精神面においてもこの黒森峰という場所でも流されずに自分を貫ける強い心も持っている」

 

 

「な、なんだなんだ?そんなに褒められちゃうと照れるな〜!というかおまえの方が全然凄い奴じゃないか」

 

 

「いや、私なんてまだまだだよ·····だから西住流を継ぐ者として、それ以上に大切な人を守り続けるために私はもっと強くならなければいけないんだ」

 

 

「大切な人か·····誰なんだそれって?彼氏か!?」

 

 

千代美はまほが余程大事に想っているその人物が気になり目を輝かせながら迫った

 

 

「期待してる所悪いが·····妹の事なんだ。守りたい大切な人というのは」

 

 

「ありゃ、妹さんだったか。その子は何処か体の具合いとかが悪いのか?」

 

 

「いや、そういう訳じゃない。ただ普通とは少し変わった所のある子でな。だからどんな事からも彼女を守れる強い姉でいたいんだ」

 

 

そう語るまほの真剣な表情から確固たる決意めいたものを千代美は感じた

 

「だからもし良ければ君の様に強くなるために·····私に協力して欲しい。図々しい事を言っているのはわかっている·····けど私は·····」

 

 

「よーしわかった!要するに私と友達になりたいという訳だな?大歓迎さ!」

 

 

「·····え?友達·····?」

 

 

千代美の口からまほにとって思いがけない言葉が発せられた

 

 

「だって私みたいになりたいならもっと私を知らなくちゃいけない訳だし友達になる他ないだろう?」

 

 

「いやしかし·····私は今まで友達がいた事なんて一度もないんだ·····だからそんな私と一緒にいても退屈するに違いない·····」

 

 

今まで友達がいた事がない、という言葉に千代美は驚かされた。しかし今思い返せば他の生徒達の誰もがまほと遥か格上の人へ対する時の様に接していたので、友達ができなかったというのも仕方のないことであったのだろう

 

 

「心配するな!おまえにとって初めての友達になれるなんて私は凄く嬉しいな·····それともおまえは嫌か?」

 

 

「そんな訳ない!·····だけど本当にいいのか?無愛想でMSに乗ることしかできない私と友達になるなんて·····」

 

 

「いいに決まってるだろう?その代わり私と友達になったからには毎日騒がしくなるから覚悟してくれよ!」

 

 

そう言って千代美は一点の曇りもない笑顔を広げながらまほへと手を差し出した。まほは少し戸惑う様子を見せたが思い切ったのか千代美の差し出した手を強く握った

 

 

「改めて私は安斎千代美だ!よろしくな、まほ!」

 

 

「ああ、こちらこそよろしく頼む··········安斎」

 

「んー?そこは千代美と呼んでくれるんじゃないのか?」

 

「い、いいじゃないか別に!··········ありがとう、安斎。私は今本当に満たされているよ」

 

 

「そうか?それじゃまほが部屋に来たお祝いにおやつパーティーと行こうか!」

 

 

 

こうして千代美とまほの二人は固い絆で結ばれた。その日は二人の物語が始まった日、後に互いにとってかけがえのない親友同士になるのはもう少し先の話であった·····

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。一年生編は今回で終了です
千代美とまほはガンダムで言うとキラとアスランみたいな関係にしていこうと思っております。次回からは三年生編からスタートし千代美がアンチョビになるまでの話を書いていきます


マリー様の捏造設定についてはまた本編に戻った際に解説したいと思います。そんな設定を加えようとする理由ですが僕がパプテマス・シロッコというガンダムのキャラクターとマリー様が大好きだから、それだけです()


あとがきに申し訳ないですがおまけみたいな小話を載せさせてもらいます。外伝とはあまり関係ないオリキャラ同士の会話なので無視しても大丈夫な内容となっておりますのでこちらの方に載せることにさせていただきました。ご了承いただけると幸いです

















おまけ ~僕の名前は西住シズワMarkJ〜

 
 

 まほが立ち去った後の隊長専用の執務室にて、ジェンダーはまほに見せていた爽やかな表情とは打って変わって怪訝な顔付きを浮かべ鋭い視線で先程入室してきた者、演習で千代美のホバートラックを運転していた青年を睨みつけていた
 

「貴様が二代目の隠し子と言わてれる奴だな。今日安斎さんのフォローは私の弟分に任せたはずだったが何故貴様がトラックに乗っていた?」
 

「王様にはお留守番を頼まれましたし、現代の西住流がどんな感じなのか見てみたくて縁ある男子校の方に入学したんです。でも来たのはいいけど変なのに絡まれちゃって大変だったんですよ〜(泣)」


「王·····マリー・タイタニアか。後輩の皆に害を出さないためにも分校とはいえ貴様の様な危険な者を預からせたくないな。アズラエルのBCにでも行ってもらいたいものだ」
 

「えぇーあそこに行くとレナさんルカさんに苛められるので嫌ですよぉ。ていうかジェンダーさんさ、年下の女の子に負けちゃうとかちょっと·····ぷっ」

 
「なんだと·····貴様ぁ!」


青年の小馬鹿にしてくるような態度にジェンダーは怒りを激発させ椅子から勢いよく立ち上がった
 

「ヒイィッ、怒らないで!··········良かったですねモビル道で。実戦だったら貴女·····死んでましたよ?」


「黙れ!貴様といいあの小娘といい自身より能力の高い人間がいないと思っている所が癇に障る·····馬鹿にするな!」


「あージェンダーさんは中等部卒業したら軍に志願するんでしたね〜最近バスク大佐もいい所ないみたいですし親子揃って大変ですねぇ」
 

「黙れと言った!」
 

ジェンダーは怒りのままに机上のスタンドライトを青年に投げつけた。彼はニンマリと気味の悪い笑みをたたえながら軽く体の軸をずらして避け、スタンドライトは背後のドアに叩きつけられ四散した


「いい気になるなよ!いずれ大々的に地球に巣食うスペースノイド共への粛清が始まる!そこで私は必ず功績を上げ貴様ら全員を顎で使ってやる!覚悟しておけ!」


「(こわっ·····)まぁまぁ冗談ですよ冗談。後輩の皆さんには手出ししないと王様とも約束してるので安心してください。それじゃ定時なので帰りま〜す」


 青年はくるりと踵を返すと奇怪なステップを踏みながら部屋から出て行った。一人部屋に残されたジェンダーは終始あの男とマリーから侮辱され続けた気がしそれが許せず、固めたその拳を力任せに机へと叩きつけた

 



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PHASE-04 エピオンのために

今回より中学三年生編となります

また個人的にアンチョビと似ている気がするガンダムキャラが今回より登場します(ヤザン・ケーブルみたいな台詞を言ったり扱いを受けてきましたがヤザンではありません)

加えて前回のマリー様同様に捏造設定ゴリゴリのガルパンのキャラクターが登場しますのでもはやそういうもんなんやなとご理解いただけると助かります

今回もよろしくお願いします


 千代美とまほは互いを友人として認めあった。まほは千代美のどんな時も自分を貫き行動できる強い心と誰に対しても分け隔てなく接する事のできる太陽の様な素直さに惹かれ、千代美もまたまほの家族のために強くなろうとする熱い意志に惹かれて、同い年とは思えない毅然とした姿勢の裏に孤独な一面を少し覗かせていたのでそんな彼女のために力になってあげたいと思ったからであった。

 それからまほは黒森峰女学園中等部MS艦隊の隊長として、千代美はチームを支えるMSパイロットの一人としてレギュラーメンバーに抜擢され、互いを高め競い合い数多くの輝かしい栄誉を黒森峰に残しながら二人は友情を深め成長していった。特にまほの方は目まぐるしい速さで力をつけていき学徒兵はおろか、地球連合軍に所属する正規のMSパイロットへ匹敵する程にまで成長していた。それ故に周りからの評価はより一層高くなり、以前よりも更に神格化され住む世界が違う者の様に認識され扱われる様になっていた。

 しかしそんな中でも千代美はどんな時も変わりなく友人としてまほの傍に居続けた。千代美の方も立派なエースパイロットとしての実力をつけ、現西住流の戦術と教義を吸収しつつ独自に戦法を編み出し活躍してみせていた。その結果、本来の西住流とは全く異なる新しい次世代の西住流を歩み目眩く閃光の様な速さで戦う安斎千代美という少女は、いつの間にかモビル道界隈において『閃光の新世代(ライトニング・エピオン)』という異名(コードネーム)で呼ばれるようになっていた。無論OG会等の関係者や他の生徒達は言わば邪道を披露する千代美を許せるはずがなかったが、直接的に否定すればいつも一緒にいるまほの気を悪くする危険性があったため誰も千代美を否定する事ができなかった。よって千代美はまほとは対照的に大多数から陰口を叩かれ不良の様に煙たがられる存在となってしまった。しかしそれでも数は少ないがまほを始め自分を応援してくれる者達がいるのも確かだったので千代美はその人達に応えるためにも挫けず努力し続けていき、それに呼応する様にまほも最強の座を不動の物にしながら努力する事を惜しまず千代美と共に在り続けようとした

 

 

 そして時は過ぎ中学三年生になった二人は最後の全国大会も共に戦い抜き無事に優勝旗を学園へ持ち帰り、高等部へ向けての勉強と後輩達への引き継ぎを始めたのであった。一見正反対にも見える千代美とまほであったが二人の絆は熱く強固に繋がり何人にも決して引き裂くことができない程にまで強く結び付けられていた。だからこそこの時はまだ二人共、離れ離れになってしまう事など想像できるはずもなかったのだ·····

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「··········うーんなんだこの機体·····殺人的な加速だ·····」

 

 

「安斎、安斎起きてくれ!このままでは遅刻してしまう····」

 

 

 全国大会が終わった後の夏の朝、学生寮にておかしな寝言を言いながら爆睡する千代美とそんな彼女を起こそうと必死に声を掛けながら彼女の体を揺さぶるまほの姿があった

 

 

「··········ん?あー、おはようまほ。今日もいい朝だな!」

 

 

「ああ、おはよう安斎·····ってそんな事よりも寝坊だぞ!早く仕度をするんだ!」

 

 

「おいおいまだ目覚ましも鳴ってないだろ·····あれ?」

 

 

千代美は目の前にいるまほが制服姿だった事と目覚まし時計の針が昨晩の時刻を示したまま微動だにしていない事から時計が壊れている事を察し叫びを上げた

 

 

「寝坊じだあ゙ああああ!なんでだあ゙ああああ!」

 

 

「お、落ち着け安斎!全力で走ればギリギリ間に合うはずだ!」

 

 

「わ、わかった!それじゃおまえは先に行っててくれ!」

 

 

「いいのか?いつも一緒に登校していたのに·····」

 

 

「待っててくれたのに悪いなまほ!でも隊長だったおまえがこんな事で遅刻しただなんて皆に示しがつかないだろう?それに私も直ぐに追いつくから任せろ!」

 

 

「そうか·····わかった。だが急ぎすぎて事故に遭ったりしないでくれよ。また後でな」

 

 

せっせと着替え身支度を整える千代美に従いまほは少し寂しそうにしながら部屋から出て行った。千代美はまほに悪い事をしたなと思いながら早急に着替えと仕度を済ませ、纏めた荷物を持って一階の食堂へドタバタと降りた。寮長さんに珍しく寝坊した事を笑われてしまい千代美はジャムトーストを受け取るとそれを咥えて寮から飛び出して行った。

寮から本校舎までそこそこの距離があったので千代美は咥えたトーストを食べながら一心不乱にいつもの通学路を駆けていた。まるで自分が風になったのではと錯覚する程千代美は心地よく全力で走っていたので内心余裕で開始時刻に間に合うのではと内心考え油断してしまい、そんな事に気を取られていたせいで先の曲がり角から出て来た者の存在に気づかず正面から勢いよく激突してしまった

 

 

「へぶっ!」

 

 

千代美はぶつかった衝撃で咥えてたトーストを放し吹っ飛んで尻もちをついてしまった。顔とお尻に鈍い痛みを感じ思わず泣きそうになってしまったがぶつかられた相手の男性がすぐ様膝をつき千代美に手を差し伸ばしてきた

 

 

「君、大丈夫かね?避けてあげれずすまなかった」

 

 

「い、いやいや!こちらこそぶつかってすいませんでし·····」

 

 

千代美は少しだけ涙が溜まった目を擦り謝罪しようと顔を上げたが目に飛び込んできた男性の姿に思わず言葉を途切れさせた。おそらく日本人ではないその男性は何の変哲もない地味なスーツ姿に身を包んでいたが、彼の面立ちと躊躇いもなく膝をつきこちらに手を差し出してくれたその姿から地味な服装では隠しきれない()()()()()()が滲み出ているのを感じ千代美は頬を紅く染め呆然と見とれてしまっていた

 

 

「·····立てないのか?それともどこか痛むのかね?」

 

 

「·····はっ、大丈夫です立てます!あ、ありがとうございます!」

 

 

千代美は我に返り恥ずかしさのあまり俯きながら差し出された手を取って立ち上がった。何故か胸の鼓動が高鳴り男の顔をまともに見れずにいたがそのおかげで彼のスーツの袖に自分が咥えていたジャムトーストが張り付いているのを見つけてしまった

 

 

「ゔわ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!私のジャムパンがあぁぁぁ!ごめんなさいごめんなさい!」

 

 

「ん?·····ハハハ、まさかこんな所にパンが付いてしまう日が来るとはね。汚れてしまったと思うが食べれるかな?」

 

 

「汚いなんて事ありません食べます!·····じゃなくてスーツを汚してしまい本当にごめんなさい!綺麗にして後で必ず返します!」

 

 

「何、君が気にする事ではないさ。どうやらその様子ではどこにも悪い所が無いようでよかったよ」

 

 

男は優しく微笑みながら千代美にジャムトーストを手渡した。千代美はモジモジと恥ずかしそうにそれを受け取ってそのまま口へ運びかじって見せた

 

 

「ところで見た所学校へ急いでいたのだろう?ならば私になどもう構わずに早く行きたまえ」

 

 

「で、でも·····そうだ!お名前聞いてもよろしいですか!?私、中等部の安斎千代美っていいます!」

 

 

「ふむ、·····私はトレーズ・クシュリナーダ。千代美君、学校までくれぐれも気を付けて行くように」

 

 

「はい、トレーズさん!それじゃまたいつかお会いしましょう!」

 

 

千代美はトレーズに思い切ってそう言い残して再び学校へ向けて走り出した。パンを咥えて急いでいた最中に異性とぶつかるだなんてとてもベタな展開であったが、それでも夢にまで見たその出来事と彼が初対面にも関わらず優しく接してくれた為に千代美はトレーズ・クシュリナーダという人を意識せざるを得なくなってしまった

 

そしてギリギリ校門に到着した際、また会おうと言っておきながらトレーズの連絡先を聞いてない事に気づき千代美は悶絶するかの様な大声を上げた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後千代美はいつも通り学校の授業やモビル道の訓練をこなし気づけば放課後の時間になっていた。千代美達三年生は全国大会を終え中等部のモビル道チームにおいては引退した身となっていたので無理に放課後の訓練に出る必要はなかったが、中等部の新たな隊長として選ばれたまほの妹である西住みほと副隊長の逸見エリカからこの日も稽古をつけて欲しいと頼まれたのであった。千代美はこれを承諾し彼女達を鍛えてあげようと張り切り今日も居残る事を決意した。そして約束の時間となり、演習場内にて千代美達3機のMSによる戦闘訓練が繰り広げられ始めたのであった

 

 

 

「遅い!遅いぞみほ、エリカ!おまえ達が乗っているのは機動兵器MSだぞ!だったらもっと絶え間なく機動し続けないか!」

 

 

「は、はい!」

 

 

「チッ、あんたが速すぎるんでしょうが!」

 

 

 千代美は愛機のMS、【YMS-15 ギャン】と共にみほの専用機である【MS-08TX/N イフリートナハト】とエリカが乗る黒森峰の主力量産機でもある【RGM-79C ジム改】の2機を凄まじいスピードで翻弄しながら白兵戦の間合いまで迫り一撃離脱攻撃を繰り返し仕掛け続けていた。千代美のギャンに対してみほとエリカは息を合わせて対抗するも実際にまほと肩を並べる程の格闘センスを持つ千代美に追いつくのは困難な話であった。しかしそれでも二人は千代美のその能力を吸収したいと思っていたので本気で立ち向かい、千代美もそんな彼女達の期待にちゃんと応えてあげたかったので正面から厳しく向かい合う事を心がけていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいか二人共、連携というものは一人が猟犬でもう一人がハンターになりきってやるものなんだ。そしてその役を戦闘中に何度も交代しながら動き続ければ例え数で勝る相手にだって絶対に負けないのだ!」

 

 

「猟犬とハンター·····?」

 

 

「すみません何を言ってるのかよくわからないのでもっと具体的に教えて貰えませんか?」

 

 

「なにぃ〜!?具体的に、か···············とにかく犬と飼い主になりきるんだよ!私とまほがやってたのを思い出せ!あんな感じだ!」

 

 

 練習を終えた三人はコクピットから外へ降り集まるといつもの様にミーティングを始めた。千代美はできるだけわかりやすく教えたかったが空回りする事が多く、特にエリカの方から反感をあらわにされ三人の議論はいつも騒がしく交わされていた

 

 

「でも何だかわかるかもしれません。要するに一人が標的を誘導してもう一人が確実に撃破できる状況に持っていくという事ですか?」

 

 

「おぉー、流石はみほだな!·····多分そんな感じだ!」

 

 

「感じ感じって·····そんな感覚的な事じゃなくてもっと自分達がどのように実践してるのか教えてくださいよ!」

 

 

みほとエリカは自分と同じく格闘戦を得意としており、数少ない自分を頼りにしてくれる可愛い後輩達だった。みほの方は姉のまほに隠れがちだったが彼女もまた相当の実力を持っており、加えて試合中や日常生活にて他の者では感じる事のできない気を彼女は感じ取り自分の想いを他者へ送る事ができるらしく、そこで彼女は昨今話題となっているニュータイプという進化した人類かもしれないと多くの人々に認知されていた。ただ千代美はみほが送るテレパシーとやらを全く感じる事ができなかったので、西住流という名家の生まれである事とまほの妹という事が彼女の存在感を増大させている原因な気がしそのニュータイプという言葉も半分程度にしか信じていなかった。むしろ千代美はみほよりもどちらかと言うとエリカの方に注目していた。同学年のみほの存在に隠れあまり目立っていなかったがエリカもまたエースと呼ぶに相応しい実力を有しており、更には何らかのきっかけさえあれば引き出せるかもしれない潜在的な爆発力を千代美はまほと共に薄々感づいていた。それもきっと今年の春に卒業しプロチームに入隊した彼女の姉が大きく影響しているのだろう

 

 

「とにかくこれからはおまえ達二人が中心になるんだからもっと仲良くするんだぞ?そうすれば二人共今よりも遥かに強くなれるはずだ!」

 

 

「仲良く?冗談言わないでください。私は友達を作りたくてここにいるのではありません。·····ましてや西住さんとだなんて·····」

 

 

「うぅ··········」

 

 

「こらエリカ!仲間に対してそんな態度をとるんじゃない!このバカ犬!」

 

 

「なっ!?私が犬ですか!」

 

 

見れば直ぐにわかるくらいエリカはみほに対してライバル心を燃やしていたので自分とまほのようにはいかないのが少し残念であった。だが彼女達二人もかつての自分達の様にお互い競い高めあっていたので千代美にはそれが嬉しかった。すると三人のもとへまだ顔を見せていなかったまほが息を切らしながら走って来た

 

 

「はぁ、はぁ·····安斎、大変だ!直ぐに本校舎に来てくれ!」

 

 

「た、隊長!?お疲れ様です!」

 

 

「まほ?どうしたんだそんなに急いで·····」

 

 

駆けつけたまほがいつになく深刻な顔を浮かべていたので千代美はそれが只事ではない事であると察知した

 

 

「·····お母様が来ているんだ··········それで安斎を連れて来てくれと·····」

 

 

「な゙、何だと·····?」

 

 

「お母さんが帰ってきてるの?でもどうして安斎さんを·····?」

 

 

三代目西住流家元、西住しほが自分の事を呼んでいると知り千代美は嫌な汗が流れるのを感じた。しほは宇宙に在るシュバルツ・ファングという小惑星基地型訓練所の所長を務めていたため直々に地球へ降りてくることなど滅多に無かった。だから黒森峰女学園におけるモビル道は学園関係者や門下生達に任せていたので、しほ自らがただの選手の一人に過ぎない自分を呼ぶなど思ってもみなかった

 

 

「みほ、エリカ、おまえ達は引き続き演習を続けててくれ。·····急ぐぞ、安斎」

 

 

「あ、ああ·····」

 

 

千代美は嫌な予感を募らせながらもまほと共にしほの待つ本校舎へ急いだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人は中等部の本校舎に入り来客用の応接室へ向かった。応接室の前に着き千代美はゆっくりと深呼吸して扉を開いた

 

 

「し、失礼しマース·····」

 

 

「来ましたか」

 

 

まほと共に部屋へ入ると思ってた通り西住しほ本人が待ち構えていた。顔立ちはまほと似ている箇所が多かったが、彼女から生半可な者は思わずへたれ込んでしまうような重く強大な圧が放たれているのを感じ千代美は息を呑んだ

 

 

「まほ、あなたとは夜ゆっくり話をさせてもらうわ。安斎さんと二人きりで話がしたいので先に帰ってなさい」

 

 

「お、お母様!安斎に一体どの様な要件があって·····」

 

 

「あなたには関係の無い事よ。早く出ていきなさい」

 

 

しほの鋭い眼光にまほは思わず身体をびくりとさせたがここは引かぬと言わんばかりに千代美の手を強く握った

 

 

「まほ·····私の事は大丈夫だ!だから行ってくれ」

 

 

「安斎···············わかった。·····失礼しました」

 

 

まほは心配そうな顔をしていたが千代美の言葉を受けその手を離し部屋から出て行った。応接室は千代美としほの二人きりになってしまった

 

 

「えー、それでお話とは一体·····」

 

 

「ライトニング・エピオン、随分大層な名前で呼ばれているようですね?私を差し置いて次世代の西住流でも築くつもりなのかしら?」

 

 

「いやそれは皆が私に付けたあだ名みたいなもので····」

 

 

千代美自身はエピオンという名を嫌だとは思っていなかったが、しほを始めとする西住流の関係者に次世代を意味する名で自分が呼ばれているのが気に入られないなど至極当然の事であった

 

 

「まぁ、いいでしょう。······私の母、西住シズワはとても恐ろしい人でした。先代が築き上げた西住流を誰もが絶望する程の力で強引に歪め、自身の野望を果たすためにその歪んだ西住流と思想を世界へと拡大し人々に浸透させていきました」

 

 

「·····へ?なんですかいきなり·····」

 

 

「貴女もまた西住流を歪める存在であると言いたいのです。中等部だけなら見逃す事もできましたが、高校モビル道ではよりメディアへの露出も多くなり全国大会も世界中に放送される事となっています。そこに貴女の様な者を黒森峰の選手として出せる訳がありません。どんなに実力があろうと努力しようと永遠に補欠のままだと思いなさい」

 

 

「ちょっと待て!あんた何めちゃくちゃ言ってんだ!私が西住流を歪めるだとか訳わかんない事言って·····そんな横暴許される訳ないだろ!」

 

 

強硬な姿勢を取るしほに千代美は怒りを激発させた。だがしほは表情一つ動かす事なく淡々と言葉を返した

 

 

「それが嫌なら西住流に忠誠を誓うと約束するか卒業後に黒森峰(ここ)から出ていきなさい。希望の学園があれば其方へ転校できるように私が負担させてもらいます」

 

 

「な·····そこまで私をどうにかしたいのかあんたは!まほが聞いてたら幻滅するぞ!」

 

 

「····まほは貴女達とは元より住む世界が違います。あの子もいずれ私の後を継ぎ、正統な西住流を示す強き存在として立たならなければなりません。友人などという甘えるための存在はあの子に必要ないのよ」

 

 

「あんたそれでも母親か!?まほはあんたが思ってる程強い子じゃない!私達と同じ普通の女の子なんだぞ!」

 

 

「普通ですって·····だとしたら貴女の様な存在が何時までも傍にいるからあの子は強くなれないのよ!·····先程言ったことは全て本気です。しばらく期間をあげるのでよく考えておきなさい」

 

 

しほは最後に吐き捨てるようにそう言い千代美の横を通り過ぎていった。千代美は悩んだ。このまま高等部に上がればおそらく自分の選手生命は終わりを迎え、転校すればまほと離れ離れになってしまう。そんな事どちらも千代美には選ぶ事などできない事態であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後辺りがすっかり暗くなった頃、しほは用事を済ませ本校舎から駐車場に出て自身の車へ乗りこんだ。エンジンをかける前にふと学生時代に月へ行った時の事を思い出していた

 

 

(ねぇ、しほ。いつか地球と宇宙に住んでる他の人達も皆私達二人みたいな親友同士になれると思うんだ。そのためにも私達ニュータイプとしほみたいな人達の力が必要なの)

 

 

(またその話?いつもいつもニュータイプって········本当に懲りないわね貴女は·····)

 

 

(うー、ニュータイプは本当の事なんだから信じてよ!·····負けないでね、しほ。貴女のお母さんはとても強い人だけど、貴女ならきっと西住流を変えられる)

 

 

(·····大丈夫、必ず私が勝ってみせる。だから貴女も頑張りなさいよ、千代)

 

 

(うん!私達二人で皆仲良くなれる新しい時代を作ろうね!)

 

 

 

 

 

「友など所詮一過性の存在。同じ未来を見ていても、時が経てばいずれ道は分かたれる·····」

 

 

しほはポツリと独り言を呟き、まほが待つ本土の実家へ向け車を発進させた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後千代美はただ一人学園艦の町を歩いていた。学園艦の寄港日だったためまほは寮には帰らず自宅に泊まってくると言っていたので、どうせ帰っても一人だったので千代美は寄り道をしてから帰ろうと思った。自分がどうするべきかの結論など出るはずもなく、イライラしながら歩き広場に出るとハンバーガー屋のキッチンカーを見つけた。立て看板には『macdaniel(マクダニエル)』と書かれておりメニューを見る限りサイズも大きく中々美味しそうな見た目だったのでこういう時は美味しい物を食べてイライラを発散させようと思った

 

 

「いらっしゃいませ〜!あれ?チヨミじゃん!」

 

 

「ん?げっ、おまえはケイ・フォーラじゃないか!なんだってサンダースの奴が黒森峰に来てるんだ!」

 

 

屋台の店番をしていたのはサンダース大学付属中学の千代美達と同世代の生徒であるケイ・フォーラであった。彼女はこの中学三年間ライバルとして何度も千代美達の前に立ち塞がり、同世代の選手の中で唯一まほと同等に渡り合える実力を持っているパイロットであり超優秀な指揮官であった

 

 

「なんでって出張よ出張!ウチの店が今日だけ黒森峰に屋台を出しに行く事になったから私も手伝いに着いてきちゃったの。ところでご注文は?」

 

 

「あ、ああそうだな。じゃあプレーンバーガー1つとスプライトとポテトのSサイズを頼む」

 

 

「OK!プレーンのギガとスプライトとポテトのLとチョコチップアイスのトリプルね!お会計1200円になりまーす!」

 

 

「OK!じゃないだろ!そんなに頼んでないし食べ切れる訳ないだろう!」

 

 

「アハハハ、ジョークよジョーク!できたら持っていくからそこに座って待ってて!」

 

 

千代美は元々頼んだ分だけ支払いケイに促され設けられていたテーブル席に座った。少し待つと屋台の中から金髪で口元と顎に金色の髭を蓄えた店長と思しき色黒の巨漢が出来上がった料理を持ってこちらへやってきた

 

 

「お待ちどお様お嬢ちゃん。うちの店は大きいからお腹いっぱいになるぞ!」

 

 

「お、おじさんがケイのお父さんですか!?に、似てない·····」

 

 

「ん、ワッハッハッ違う違う私はあの子の叔父だよ!もっとも血が繋がってないから似てなくて当然だがね!」

 

 

店長は豪快に笑いながら千代美のテーブルに料理を置いていった。ケイの友達だからという事で店長からのサービスで彼女がジョークで言っていた方のメニューがトレーの上に並んでいた。正直年頃の女の子が食べていい量ではないと思ったが、残す訳にもいかないので千代美は気合いを入れて食べ始めた。ケッチャップをかけながらしばらく食べ進めているとケイがキッチンカーを出て此方へ駆けてきた

 

 

「チヨミ〜なんか凄いイケメンな人があなたと相席したいって言ってんだけどいいかな?もういいって言ったけど」

 

 

「な、なに〜!?駄目だ駄目だこんないっぱい食べてる所男の人に見られたくないぞ!」

 

 

「やぁ、また会ったね千代美君」

 

 

屋台の方に今朝学校へ行く前に出会ったトレーズ・クシュリナーダがそこにいた。彼は脱いだスーツのジャケットを片腕に掛け、ハンバーガーの入った包みを片手に此方へ向かって来たので千代美は急遽食べるのを止め口の周りについたケチャップを拭き取った。その様子をケイは面白そうに笑いながら屋台の方へ帰ってしまったのでトレーズと二人きりになった千代美は慌てふためいていた

 

 

「な、なんでトレーズさんがここに!?っていうかこれは私が頼んだ訳じゃなくてお店のサービスで·····あー、食べ切れるが不安だなー!」

 

 

「何、気にせず先程と同じ様に食べればいい。あんなに美味しそうに食事ができる女性なんて魅力的じゃないか」

 

 

(み、見られてたのかー!うわー!)

 

 

千代美は恥ずかさで今にも爆発しそうな位顔が真っ赤になりトレーズと目を合わせるなどできるはずもなく、俯きちょっとずつハンバーガーを口にし始めた。しかし同じテーブル席に座ったトレーズの方はハンバーガーを食べずに千代美の事をしばらく注視していた

 

 

「失礼な事を聞くが·····何か嫌な事でもあったのかね?」

 

 

「へ!?い、いやそんな事ないですよ!」

 

 

「顔を見ればわかる。今朝にはなかった悩みの種、それもかなり困難な物のようだね」

 

 

「·····はい。すみません暗い顔しちゃってたみたいで。でもモビル道の事なので·····」

 

 

「モビル道か·····こう見えて私は春先からある学園の教官を任されていてね。良ければ聞かせてくれないかな?」

 

 

まさかトレーズがモビル道の関係者、それも教官だとは思いもしなかったので千代美は驚愕してしまった。今日会ったばかりの人に相談できる事ではないとわかっていたが、何故かトレーズがその答えを持っている様に感じ彼になら相談できる様な気がし千代美は思い切って彼に全て打ち明けたのであった·····

 

 

 

「ふむ·····学園に残りたくば従え、それが嫌なら出て行けと」

 

 

「はい·····でもきっと仕方の無い事なんです。今日まで周りから邪道だとか西住流を貶める奴だと言われてもそれを無視して好きな様にやってきました。こんな選択肢を貰えるだけでもまだ恵まれてるのかもしれません·····」

 

 

「ならば家元の言う通り西住流に忠誠を誓い学園に残ればいい。西住流は現在最強にして最高の流派だ。窮屈になると思うが黒森峰に残れば君は間違いなく最高のパイロットにして"勝利者"になれるはずだ」

 

 

「·····それは違います!」

 

 

トレーズの掛けた言葉を千代美は椅子から立ち上がり強く、熱い意志と共に否定した

 

 

「確かに西住流は最強の流派で完璧に従っていれば実力のあるパイロットにはなれると思います。でも何よりも一番大事なのは自分の心にしたがって戦えたかどうかだと思うんです!自分の意志ではなく、他の誰かに示されたままに得た勝利なんて何の価値もありません·····そんな風に勝つくらいなら自分の心のままに戦って負けた方がマシです!」

 

 

千代美ははっきりとトレーズに自分の意見を全てぶつけた。その直後自分が席を立って大声で話していた事に気づき顔を紅くしすぐ様着席した。当のトレーズの方は彼女の話を受け僅かに驚いた表情を浮かべていたが少し間を開けた後に満足したかの様な微笑みへと変わった

 

 

「·····すまなかったね、先程の非礼を詫びさせて欲しい。君が今言った事、本気と受け取っていいのだね?」

 

 

「は、はい!すみません生意気な態度を取ってしまい·····」

 

 

「いや、私はとても嬉しいよ。君の言う通り個人の意志や心は何よりも尊ばれるべき素晴らしいものだ。しかし西住流が勝利するための流派と知られている今、多くの少年少女が皆西住流に服従する事を躊躇しない。だがその行為の先に本当に人らしさという物はあるのだろうか?」

 

 

トレーズは卓上に置かれたバーガー用のソース達の中からヨーグルトソースを手に取り自分のハンバーガーへとかけ食し始めた

 

 

「トレーズさん!?それハンバーガーにかけるんですか!?」

 

 

「私はこの方が好みでね。君達にとっては先入観があるため気色の悪い食べ方かもしれないが、美味しい食べ方というのも個人個人によって違いがあるものだよ。そして君がそうである様に、モビル道における選手達も多様でなければならないのだ」

 

 

「こらこら、私もヨーグルトソースをギャグで置いてる訳じゃないんだから気色悪いと言わないでくれ。確かに日本人にはあまり人気が無い様だが·····」

 

 

屋台の店長が再び現れトレーズの肩に手を置き、それに応じてバーガーを完食したトレーズは立ち上がり、ナプキンで手を綺麗に拭き取ると懐から名刺を取り出し千代美の方へ差し出した

 

 

「己の意志ではなくただ漫然と勝者の道を行くくらいならば、私は敗者であり続ける事を選ぼう。君さえよければ私のもとへ来て欲しい。いつでも連絡してくれたまえ」

 

 

千代美はトレーズから名刺を受け取ると彼は店長と共に屋台の裏手へと回って行った。名刺にはトレーズの連絡先と[アンツィオ高校]と書かれていた。アンツィオは千代美の地元を母港としている学園艦なので存在自体は知っていたが、あの学園のモビル道は完全に廃れていた物と思っていたのでトレーズがそこで教官を務めている事と共にとても意外に思えた

 

 

「·····!結構美味いかも!」

 

 

千代美もトレーズの様に試しにヨーグルトソースをかけてみたところ中々クセになる味付けに仕上がった。これが千代美の運命を大きく変え彼女の人生に最も深く刻まれる事になるトレーズ・クシュリナーダと初めて会った日だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレーズはつかの間の休憩時間を得た店長と共に屋台の裏へ回った。今日は屋台の方は店じまいの様でケイも後片付けを初めていた

 

 

「お久しぶりですねヘンケン中佐。昔と変わらず美味しいバーガーをご馳走様でした」

 

 

「中佐だなんて止めてくださいよトレーズ総帥。連合をクビになったのも随分昔の話なんですから·····」

 

 

「ならば私も総帥と呼ばないで頂きたい。今やOZはブルーコスモスに全てを吸収され私もお役御免となったのですから」

 

 

トレーズの言葉にマクダニエルの店長、ヘンケン・ベッケナーはむず痒そうな顔をして頭を掻いていた

 

 

「·····それでトレーズさん。西住師範と会ってきたのでしょう?彼女は一体なんと?」

 

 

「今はまだ起ち上がる時ではない、決して焦るなと仰っておりました」

 

 

「·····クソッ!あの人は月のアロウズにてこずっているとはいえ少し認識が甘いんだ!今や宇宙より連合軍の方が厄介な事になっているというのに·····」

 

 

ヘンケンは焦りからか裏手に置かれていた空のゴミ箱を蹴飛ばした

 

 

「例の宇宙要塞の開発に何か動きでも?指揮者が現場の労働員に殺害されたために開発計画は頓挫するものと思いましたが·····」

 

 

「それが大変な事になっている様なのです·····スパイからの情報によると開発計画を指揮してたバスクの娘であるジェンダー・オムが暗殺された奴の後を継ぎ再びゼダンの門開発計画が再開したそうです」

 

 

「娘ですか·····兵の間では評判の良い若手指揮官と聞いた事がありますが·····」

 

 

「彼女は私が解雇された頃に入ってきたのでどういう人物かはわかりませんが、おそらく父親同様スペースノイドを嫌う地球至上主義の者に違いありません。そんな連中にブレックス准将は··········クソッ!」

 

 

「落ち着いてくださいヘンケン殿。ここで騒げば娘さんと千代美君に聞こえてしまう」

 

 

トレーズに諭されヘンケンは沸き上がる怒りを何とか抑えた。トレーズは千代美と楽しそうに談笑しているケイの方に目をやった

 

 

「彼女が暗殺されたブレックス准将のご令嬢ですか?」

 

 

「ええ、准将に似て本当に逞しい子です。モビル道においても彼の信念を胸に仲間達を引っ張る優秀な指揮官を務めているらしいです」

 

 

「なるほど、彼女もまた··········それでは私は失礼させていただきます。また何かあった時にお会いしましょう」

 

 

「その前にひとつ聞いてよろしいですかな?ケイの友達のあの子にやたらと肩入れしている様でしたが何故です?あなたがあそこまでご自身の意中を晒すとは珍しい·····」

 

 

ヘンケンは去ろうとしたトレーズを引き止め何故千代美にアドバイスを出したのか聞き出そうとした

 

 

「彼女も私と同じく獣や植物にはない我々人間だけが持つ心という物を愛しています。そして我々が理想の新たなる時代を迎えるためには、次なる世代(エピオン)の存在が不可欠です」

 

 

「それがあの子だという事か·····まだ中学生だというのに早まりすぎではありませんか?」

 

 

「彼女や准将のご令嬢が大人になる頃我々の方はすっかり老人ですよ。·····あなたの言う通り今日は少し喋り過ぎてしまったようだ。それでは·····」

 

 

トレーズは最後にそう言い残しヘンケンのもとを去った。千代美の様な次の世代(エピオン)達に未来を託すために、トレーズを初め大人達は現代の世界と戦おうとしていた·····

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました

 個人的にですがアンチョビがガンダムキャラに例えるならガンダムWに登場するガンダムのパイロット達に似てると思いトレーズを登場させる事になりました
アンチョビとトレーズとの間が恋愛物みたいな雰囲気になってましたが、個人的にトレーズというキャラクターは個人を相手とする恋愛なんて絶対にしないと思ってるのであまりそういった展開にはならないと思います

 今回当ssにおいて初めておケイさんが登場しました。以前よりケイと一番近いガンダムキャラを考えた時、何となくブレックス准将が思い浮かんでしまったのでこのような形で登場させました。それに伴ってZからヘンケン艦長も登場させることにしました。いずれエマ中尉も登場させます。二人には本当に幸せになって欲しかったです·····おのれヤザン

 それとまほや千代美の同世代のライバルにダージリンやカチューシャの名前が出てきていないのにもちゃんとした理由(捏造設定)がありますのでよろしくお願いします










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PHASE-05 迷いのない戦士

お恥ずかしながらアンチョビ細腕繁盛記などのドラマCDは未視聴なので千代美がアンチョビと呼ばれる経緯が公式と異なっております

今回もよろしくお願いします


 しほから自分を捨て西住流に染まるか、それができなければ黒森峰から出て行けと選択を迫られた千代美。迷う千代美の前にアンツィオ高校の教官、トレーズ・クシュリナーダが現れ、彼女が持つ強者に縛られず自分の意志を貫き進むその姿勢こそ何よりも尊ばれるべき物であり、現代の人類にとって最も必要な物であると彼女に示唆した。黒森峰に入学してからというもの自分にここまで共感してくれる人はいなかったので、千代美はまた会って話がしたいと思い別れ際にトレーズから貰った名刺を数日経った今でも大事そうに眺めていた

 

 

「安斎、何を見ているんだ?」

 

 

「げっ!な、なんでもないぞ!わはははは!」

 

 

ベッドに寝転んで名刺を眺めながら彼の事を思い出しニヤけていたためか、それを不思議に思ったまほから声をかけられ千代美はとっさにそれを隠し笑顔を取り繕った。まほは何を隠したのか気になる様ではあったが特に追求すること無く、軽く咳払いするとまた別の話題を千代美に切り出した

 

 

「今日こそ教えてくれ安斎。先日お母様と何について話していたんだ?君のこれからの処遇についての話だったのだろう?」

 

 

「またその話か·····それについては大丈夫だって言ったろう?そんな大した話じゃなかったから心配するなって!」

 

 

しほから言い渡された内容を千代美はまほに伝えなかった。しほの言葉を全て鵜呑みにした訳ではなかったが実際に自分という存在が傍にいる事でまほが西住流を継ぐに相応しい存在になる事を邪魔しているのではと思い、この問題は彼女に甘えず自分自身の手で解決するべきと考えたからであった

だがまほも馬鹿ではなかったので千代美がしほとの謁見で何を言われたかなど聞かずとも把握しており、それでも認めたくなかったのか毎日の様に彼女へ問いかけていた。というのもまほには恐れていた事があり、それはまほにとって唯一の友人·····否、親友である千代美が黒森峰を去り離れ離れになってしまう事で今まさにどこかへ行ってしまいそうな彼女を何としてでも繋ぎ止めようという心算であった。まほはそんな胸の内を千代美に伝える事はなかったが、千代美もまた彼女の想いを十分に感じていたのでこの日は黙ったままでいられず自分の迷いをそれとなく打ち明けようとした

 

 

「なぁ、まほ。·····もし私が他の学校に転校しなくちゃいけない事になったらおまえはどう思う?」

 

 

「·····っ!」

 

 

千代美からの問いを受け嫌な予感が確信へと変わったのかまほは表情を強ばらせた

 

 

「·····嫌に決まっているだろう。私がここまで成長できたのも今まで君が共に歩んでくれたからなんだ。それに君が居なくなったら私は·········」

 

 

「まほ·····?」

 

 

「·····頼む安斎。君が黒森峰に残るためならば私は何でもしよう。だから出て行く事なんて考えないで欲しい·····」

 

 

いつになく弱々しく俯いている親友の姿を目の当たりにし千代美は更に決断を悩まされた。当然ながら千代美もまほと離れ離れになどなりたくなかった。しかし自分が今まで貫いてきたモビル道を捨てるか、あるいは一番重要な時期と言える高校三年間を諦めるなんて事も選べる筈がなく結局自分一人で答えを出せぬまま日々が過ぎて行った·····

 

 

 


 

 

 

「ふむ·····それで私に連絡したという訳か」

 

 

「ごめんなさい、態々こっちの方まで来てくれて·····」

 

 

 夏も終わりかけのある日、悩みに悩んだ千代美はトレーズに相談に乗ってもらうため会いに行こうと連絡した所彼の方から此方へ出向くと応えられ、二人は本土の喫茶店で待ち合わせし合流した後に早速肝心の本題へと入っていた

 

 

「しかし西住師範の言う君の存在がまほ君の精進を邪魔しているという事と同じく、まほ君の存在が君の決断を悩ませているというのも事実だ。君達は常に同じ時を共に過ごしてきたため互いの存在を当たり前のものだと感じ過ぎているのだよ」

 

 

「·····そうかもしれません。まほと友達になったのは入学したばかりの頃でそれ以来私達はいつも一緒にいました。お互いの志しや戦い方は全く違いましたがそれでもずっと同じ道を歩いて行けると思っていました。··········私はどうすればいいんでしょうか?トレーズ様が褒めてくれた私のモビル道と同じ位·····まほは私にとって大切な親友なんです」

 

 

「·····残念だがその問いに答える事はできない。ただ一つだけ言えるのは君達二人の友情が()()()()ならばこれからも共にいるべきなのだろう」

 

 

「え·····その程度·····?」

 

 

トレーズは涼しい顔でコーヒーに口をつけながら突き放す様に言い放った。千代美はまさかトレーズからそんな事を言われるとは予想だにしてなかったので自分の耳を疑った

 

 

「私とまほの仲がその程度だなんて·····トレーズさんは私達の事を何も知らないのになんでそんな事が言えるんですか·····!」

 

 

「親友とは例え友が自分と遥か遠い存在になろうとも、自分と対立する立場に起たれる事になろうとも互いを信じ、想い合い、繋がっていると確信できる者の事であると私は思っている。傲慢な言い方をさせてもらったが君達が本当に互いを親友として認めているのならわかる筈だ」

 

 

「どんなに遠く離れていても·····そうか!」

 

 

簡単な話であった。例え自分が黒森峰を去ったとしてもまほは一人ぼっちなんかじゃない、二人の居場所が遠く離れたとしても互いを感じ合い信じ合う事ができればその繋がりが消える事など決してないのだ。故に私達が本当の親友同士である限り、その道は決して分かたれることがないのだ

 

 

「·····ありがとうございましたトレーズさん。また生意気な事言っちゃってすみません·····」

 

 

「私はあくまで君に標を与えただけに過ぎない。礼には及ばないよ」

 

 

「いやいや、おかげ様で答えが出せそうです!やっぱりトレーズさんにも大切な親友がいるんですか?」

 

 

「··········私のこれまでの人生にその様な人物はいないな。しかし何故だろうか·····子供の頃からよく夢の中に親友と名乗る会ったこともない青年が現れるのだ。ひょっとしたら前世で彼とそんな関係だったのだろうか·····」

 

 

トレーズは物憂げな顔でそう言いながら空を見上げていた。千代美はトレーズが自分の見た夢をそこまで気にかける人だとは思ってなかったので彼の意外な一面を知りニンマリと笑みを浮かべた

 

 

「トレーズさんも意外と乙女な所があるんですねぇ。その親友の人ってどんな人なんですか?」

 

 

「·····そうだな、彼は兵士としては甘い所があったが戦士としては誰よりも厳しい男だったよ。所詮夢の中に出てくるだけの人物だがね」

 

 

夢の人物にしては随分具体的だなと千代美は思った。その後二人は店を出て千代美の悩みを解決したトレーズはアンツィオへ帰ろうと立ち去ろとした所千代美に呼び止められた

 

 

「トレーズさん!もしよろしかったら今度アンツィオ高校の見学に行ってもいいですか?」

 

 

「勿論だとも。その気になったらいつでも連絡してくれたまえ」

 

 

トレーズは最後にそう言い残すと踵を返し歩き去って行った。千代美は親友であるまほとの友情はどんなに離れようとも不変のものであると気づきもはや迷ってはいなかった。自分の道を貫く事とこれからもまほの親友でいる事、千代美はどちらも叶えるため迷わず進む事を決断した

 

 

 


 

 

 夏が終わり秋も中頃になったある日、千代美はトレーズと共にアンツィオ高校の見学に向かった。千代美は転校するならば人として尊敬でき、こんな自分を認めてくれるトレーズのいるアンツィオにと考えていた。しかし現実は厳しくアンツィオ高校のモビル道はパイロットや整備技士など必要な人員が全く足りておらず、あまり資金が回って来ないせいで所有しているMSもボロボロの【EMS-10 ヅダ】が3機しかいないという同好会と呼ぶのすら難しい状態であった。というのもこの春にトレーズが教官として招かれるまでまともな活動は一切しておらず、今いる既習生達も今年入学した一年生ばかりであった。しかし実に心の底から楽しそうに、自分達なりに強くなろうと訓練に励む彼女達の姿を見て千代美は心を動かされていた

 

 

「今この学園の部隊に必要なのは優秀な指導者だ。しかし伝えるのは勝つための絶対的な手段であってはならない」

 

 

「トレーズ様〜!あと隣のウィッグの子もピザ焼いたから一緒に食べようぜ〜!」

 

 

「あの人達やけに盛り上がってると思ったらピザ焼いてたのか·····」

 

 

「これはこの学園の流儀の様なものだ。こういった先人達の築いてきた伝統は次の世代へと受け継がれ、今も彼女達と共に生き続けている。とても美しい事だと思わないかね?」

 

 

トレーズは自分の意見や望んでいる事を言葉にして表すことをしない人だったのでそのため千代美は時折頭を悩ませる事が多かった。だがトレーズがアンツィオ高校のモビル道とこれから新しく参加する者達に望んでいるのは勝利するために強者の意思に全てを委ね自分達は示された道をただ進むだけというのではなく、例え敗者になろうとも戦士一人一人が自分の心に従って戦い進み続ける姿勢であり、この学校の伝統の様に後の世代にもその姿勢が継がれていくことであった

 

 

「皆にそれを伝えるのが私の役目という事ですか?ハグハグ·····」

 

 

「フフ、どうだろうか?ただ自分の心のままに羽ばたき、自身より強大な存在に屈さず、己の意志を貫き続けた者にだけ本当の意味で未来を切り拓く事ができると私は思っている。君達若者は強大な力を手に入れる事よりも心こそ豊かにするべきなのだ」

 

 

「トレーズ様って難しい事ばっか言うけどそれがわかるってウィッグちゃんはすげぇな〜ピザ美味しい?」

 

 

「私の名前はウィッグじゃなくて安斎千代美です!後これはウィッグじゃなくて地毛です!ピザとっても美味しいです!」

 

 

「安斎千代美·····君アンチョビって名前なの!?すげぇウチの生徒になるために生まれてきたみたいじゃん!」

 

 

「あ、アンチョビ〜!?なんで私が料理の名前で呼ばれなくちゃいけないんだ〜!」

 

 

千代美は先輩達からヘンテコなあだ名で呼ばれ吠え上げた。トレーズの理想とする"迷いのない戦士"は千代美の様に戦える者の事であった。この時トレーズは千代美こそ自分の後を継ぎ全てを託せる"エピオン"であると確信していた·····

 

 

 

 

 それから月日は経ち季節は冬へと変わり、ついにしほと約束した日を迎えようとしていた

 

 

 

 

 


 

 

「失礼します。安斎千代美です」

 

 

 この日黒森峰女学園中等部のMS艦隊は訓練のために宇宙へ上がり、しほが運営する小惑星基地シュバルツ・ファングへと来ていた。そして千代美はしほに自分の選択を言い渡すべく彼女が待つ所長室へと入った

 

 

「お久しぶりですね。·····あの時は酷く言いすぎて申し訳ありませんでした。相手が中学生というのも忘れ熱くなりすぎてしまいました」

 

 

「辞めてくださいよ。こっちの決心が鈍るじゃないですか。それとも今さら私に残って欲しいとでも?」

 

 

以前話した時の非礼を詫びるしほに千代美はいたずらっ子の様な笑みを浮かべながら彼女を挑発するように返した

 

 

「·····その様子ではもう答えは出ている様ですね」

 

 

「はい。·····私はアンツィオ高校へ行きます。貴方達西住流がどんなに正統で最強の流派だったとしても染まる訳にはいきません。私は自分の道をこれからも歩むためここを出て行きます」

 

 

「アンツィオ·····彼に焚き付けられましたか。わかりました、転校にかかる費用は全て私が負担させてもらいます。·····それと前回言い忘れていましたが、貴女がこの私を倒せば西住流は貴女の物にする事ができます。そうすれば貴女は黒森峰に今のまま残る事ができますがどうでしょうか?」

 

 

しほは戦う気なのかスーツの上を脱ぎ座っていた椅子に掛けた。しかし千代美はそれに動じることなく以前と余裕そうな様子を見せていた

 

 

「今の私に家元を落とす事はできないでしょう。ですが覚悟しておいてください。私がアンツィオに行ったからにはいずれあなた達西住流を、黒森峰女学園を王者の座から引きずり下ろしてみせます」

 

 

「なる程、それが貴女の選んだ未来ですか·····わかりました、受けて立ちましょう」

 

 

しほは千代美の宣戦布告とも言える言葉を承諾した。千代美は所長室を出た時これで正式に転校が決まったがその前にやる事がある··········そう思っていたが千代美の転校を許せない彼女の声が響いた

 

 

「安斎!」

 

 

所長室を出て母艦を目指し誰もいない静かな廊下を歩いていた所、怒りを顕にしたまほが千代美の前に立ち塞がった。千代美はこれからまほに全てを説明しようとしていたが彼女の方から此方へ来たのであった

 

 

「どうしてなんだ安斎!なぜ君が出ていかなければならないんだ!」

 

 

「違うんだまほ·····これは私の選んだ事なんだ。私はこれからも自分のモビル道を貫くためにアンツィオへ行く。そのためには黒森峰(ここ)じゃ駄目なんだ·····」

 

 

「·····大丈夫だ。今から私がお母様を倒し家元の座を奪う。そうすれば君が黒森峰に残る事を誰もが認め逆らう者も皆消す事ができるだろう·····だから頼む·····」

 

 

「まほ·····そんな事が許されない事くらいおまえだってわかってる筈だろ·····?」

 

 

まほがやろうとしている事は正に絶対的強者による弾圧に過ぎなかった。だが決意を固めてしまった自分を繋ぎ止めるにはこんな事を言うしかなかったのだろう

 

 

「心配するなまほ。私達は親友だろう?たとえどんなに遠く離れても会えなくても、私達にはどんな事にだって壊されない強く繋がった絆がある·····だから一緒居なくても私達が進む道も見ている未来も同じ筈なんだ」

 

 

「安斎··········でも·····」

 

 

「私は何時だっておまえの親友だ。だから行かせて欲しい·····まほ·····」

 

 

「·····駄目だ!私は·····私は君の様にそんな考え方ができる程強くはない!」

 

 

まほは目に涙を溜めながら更に感情を激発させた。彼女だって千代美を送り出してやりたいがそれ以上に彼女とこれからも一緒にいたかったのだ。未だかつてない程自分の意思を押し通そうとするまほに千代美もまた泣きそうになってしまった。するとまほは涙を拭き再び千代美を見据え口を開いた

 

 

「私と戦え安斎·····!もし君が私に勝てば転校する事を許そう·····その代わり私が勝った時、君には残ってもらうぞ·····!」

 

 

「まほ·····」

 

 

実にわがままで傲慢な決闘の申し込みだった。しかしこれが不器用な彼女が取れる唯一の決着のつけ方だったのだろう。千代美も目に浮かぶ涙を拭いまほに言葉を返した

 

 

「いいだろうまほ!その決闘受けてやる!」

 

 

「受けてくれるのか!?··········ありがとう安斎。やはり私は君と違っていつまでも弱いままだ·····」

 

 

「そんな事言うな!それに今思えば私達はこの三年間まともに戦った事がなかったな。だから今ここで決着をつけるぞ!」

 

 

黒森峰から旅立つため、最愛の親友に認めてもらうため、千代美もまたまほとの決闘を望んだ。中学モビル道史の中で、最強のパイロットである西住まほと最高のパイロットである安斎千代美は初めて全力でぶつかり合おうとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決闘はシュバルツ・ファング周辺の宙域で行われることなり、千代美とまほを乗せた母艦のアルビオンは港を出て決闘の場へ向かおうとしていた。アルビオンには艦を動かすのに最低限必要な人員と二人の決着を見守るためにみほとエリカがオペレーターとしてブリッジに上がっていた

 

 

『まさかお姉ちゃんと安斎さんが戦う事になるなんて·····二人とも頑張ってください!』

 

 

「ああ!しっかり見届けてくれよ!」

 

 

「先に行くぞ安斎。西住まほ、フルバーニアン出る」

 

 

まほが以前しほから受領した彼女専用のガンダム、【RX-78GP01 ガンダム試作1号機】を宇宙戦闘用に改修したガンダム試作1号機フルバーニアンは出撃用のエレベーターでMSカタパルトへ上がり、まほと共に一足先に出撃して行った

 

 

『安斎先輩。あなたの事は人としては気に入らない所ばかりでしたが戦士としては隊長と同じ位尊敬しています····お二人の決着を見届けさせてもらいます』

 

 

「ぷっ!おいおい何だよエリカ気持ち悪いな〜!けど確かにこれで最後かもしれないもんな·····」

 

 

『進路オールクリア、出撃準備完了。安斎さん·····頑張ってください!』

 

 

「·····了解した!ライトニング・エピオン安斎千代美、出るぞ!」

 

 

自分を認めてくれ、親友としていつも傍にいてくれたまほと決着をつけるため、千代美は愛機のギャンと共に決闘の宇宙へ飛翔した

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました

トレーズ様の友情論はWガンダム本編で彼にとってゼクス・マーキスがどんな存在だったのかを、僕の独自解釈のもと妄想しながら書いたので多少違いがあるかもしれませんがご了承頂けると有難いです

次回でアンチョビの外伝はラストとなります。タイトルは『アンチョビ、その心のままに』です



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PHASE-06 アンチョビ、その心のままに

bgmはガンダムWより『Rhythm Emotion』でよろしくお願いします


 

 小惑星とコロニーを連結させた訓練所シュバルツ・ファング、その周辺宙域にて·····

 

「行くぞまほ!」

 

 

三年間共に同じ時を過ごし同じ道を歩んできたまほと決着をつけるため、千代美は親友の乗るフルバーニアンへ吶喊した

 

 

「安斎!」

 

 

千代美と同じ想いであったまほは接近してくる彼女のギャンに牽制のためビームライフルを撃ち込んだ。千代美は突出しながらスラスターを巧みに噴かせ最小限の動きでビームを回避し、お返しにシールドに内蔵されたニードルミサイルを連射した。千代美のギャンから放たれたミサイルを回避しつつ、まほはブーストポッドと各部バーニアを使って縦横無尽に機動しながらギャンへビームを乱射した

 

 

「チッ、相変わらずバッタみたいなガンダムだ!」

 

 

まほの乗るGP01FB(フルバーニアン)はバックパックに搭載された2基のユニバーサル・ブーストポッドの他に胸部や脚部にバーニアが増設されており破格の機動力を有していた。その機動力でニードルミサイルを難なく躱し常に死角へと回り込み続けるフルバーニアンに千代美は唸り声を上げたが、彼女もまた多方向から撃ち込まれるビームを回避し続けていた

 

(やはり避けるか·····流石だな!)

 

 

千代美が昔から持っていた野生動物が持つ様な勘·····それは中学三年の中で更に研ぎ澄まされ、今や視界外からの攻撃はほぼ全て察知できるまでに至り彼女に射撃を当てる事は何よりも至難の技であった

弾切れしたフルバーニアンがビームライフルのEパックを換えている間に千代美は一気に近づき格闘戦を挑もうとしたが、まほもそれに気づいておりブーストポッドと胸部バーニアを使った宙返りで千代美のギャンから距離を離した

 

 

「なんて動き·····体が壊れたらどうするんだ!」

 

 

「舐めるな!君との決着に·····出し惜しみをする訳がないだろう!」

 

 

心配する千代美にまほは激昴しその動きを更に速く激しくさせた。フルバーニアンがレギュレーション郡内でありながら使用されてこなかったのはあまりにも高い機動力とブーストポッドによってパイロットにのし掛かる負担が尋常ではなく、男女共に常人では簡単に体が破壊されてしまう程であった。だがまほはそれに耐える事ができる程肉体的にも精神的にも鍛えてきたため、しほから受け取った直後にも難なく乗りこなしてみせていた

 

 

「このままじゃ埒が明かない·····」

 

 

千代美は此処ではまほのフルバーニアンを捉えられないと思い、シュバルツ・ファングの地表へ向けて一直線に急降下した

まほはすぐ様離脱しようとする千代美のギャンの後を追い2機はシュバルツ・ファングの小惑星部分へ降り地表上を駆けた

 

 

「着いてくるか、まほ!」

 

 

「待て!安斎!」

 

 

まほは追いながら照準器を覗き前方を駆けるギャンの背部に狙いを定め、そして一発一発を確実に当てるつもりでトリガーを引いた。先程よりも回避できる方向が減った筈だが背中に目が付いてるのかと思われる程千代美はフルバーニアンからのビームを紙一重で避け続けた

 

 

「··········今!」

 

 

千代美は追ってくるフルバーニアンの方へ反転しシールドからハイドボンブを一斉射出した。まほは各部バーニアとブーストポッドを前面に噴かせ無理矢理後方へ飛翔し、ばら撒かれたハイドボンブにビームを撃ち込みそれら全てを誘爆させた

 

 

「はぁ·····はぁ··········なっ!」

 

 

身体にのし掛かったGにまほは息を切らしていたが、間髪入れずに千代美のギャンが爆煙を切り裂き此方へ吶喊して来たのであった

 

 

「おおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

千代美はスラスターペダルをいっぱいまで踏み込みビームサーベルで刺し貫こうと一気に突進した。反応が遅れたまほだがライフルにビームジュッテを展開し間一髪ギャンのビームサーベルを受け止めた

その直後まほは頭部バルカンを撃ち込もうとすると千代美のギャンはそれをさせまいとフルバーニアンの頭部に頭突きを喰らわせた

 

 

「ギャン、もっとだ!あいつの·····まほの反応速度を超えろ!」

 

 

千代美の声に呼応する様に、ギャンはモノアイの光を独特の起動音と共に更に光らせ鍔ぜっていたまほのフルバーニアンを押し返した

バランスを崩されたフルバーニアンのマニュピレーターからビームライフルを蹴り飛ばし、再び本体に向かってサーベルを刺突し片方のブーストポッド毎左肩を刺し貫いた

 

 

「ぐっ··········安斎!!!」

 

 

まほのフルバーニアンも両眼から光を放ちギャンの胴体に蹴りを入れ吹っ飛ばすとライフルを失った方のマニュピレーターにビームサーベルを展開しシールドを装備した左腕を斬り落とした

 

 

「うああっ!まほおおおおお!!!」

 

 

二人は互いの名を叫びながらビームサーベルを打ち込みあった

ぶつかり合う斬撃一つ一つに二人は別れゆく親友への熱き想いを乗せ、その心のままにその剣を振るい合った

 

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」

 

 

幾度となくビームサーベルが切り結ばれその度に生じた閃光がコックピット内の二人を照らした

格闘戦における技量が拮抗していた二人は互いに退かずぶつかり合っていたが、次第に千代美のギャンの方が機体性能差故に押され始め少しずつフルバーニアンのサーベルが掠め始めていた

 

 

「·····これが私とフルバーニアンの力だ!このまま押し切らせてもらう!」

 

 

「ああ、そうだな·····これで終わりにするぞ!」

 

 

千代美はフルバーニアンが突き刺してきたサーベルを片脚を前面に出し敢えて機体脚部のつま先で受け、刺された足がそのままサーベルの根元にまで至ると柄の部分を踏み台に後方へ宙返りして距離を取った

そして最後の力を振り絞ってまほのフルバーニアンを穿つために全力で突撃した

 

 

「行くぞギャン!おまえの力で私にまほを超えさせてくれ!うおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

「安斎·····来い!!!」

 

 

最後の突進を仕掛ける千代美の気迫にまほは気圧されながらもギャンを迎え撃とうサーベルを構えた

彼女とモビル道をやるのはこれで最後·····そう思えば胸が張り裂ける程痛くなったが唯一対等に接してくれた親友に応えるため、最愛にして最高のライバルと決着をつけるためまほは迫って来る千代美のギャンを貫こうと地を蹴った·····

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして2機の、二人の最後の一撃は同時に互いの胴を貫き、決闘は幕を閉じたのであった··········

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 決闘が終わり先程まで二人が戦っていた宇宙は信じられない程静かになっていた。二人の決着を見届けたみほとエリカはジム改に乗り込み、二人と行動不能になったギャンとフルバーニアンを回収するためアルビオンから出動していた

 

 

「お姉ちゃんと安斎さん凄かったね·····今までお姉ちゃんに敵う人はいないと思ってたよ」

 

 

「··········そうね、相討ちとはいえまさか隊長が撃破される日が来るなんて·····」

 

 

今まで誰にも負ける事がなかった西住まほ。そんな彼女が初めて撃破された姿を目の当たりにエリカは未だに信じられない様子だった。みほもまた姉が撃破されるとは思ってもみなかったので改めて千代美がまほに匹敵する程のエースである事を実感させられた

 

 

「二人の機影が見えてきたわね。私は安斎さんを回収するから西住さんは隊長をお願い」

 

 

「·····あ!待って逸見さん!まだ行っちゃ駄目!」

 

 

レーダーに二人の機体を補足したが何かを察知したみほは機体を急停止させ、エリカの機体を捕まえ二人のもとへ行くのを阻んだ

 

 

「ちょっ、貴女何やってんのよ!いきなりどういうつもりよ!?」

 

 

「お願いだからもう少し待って!今二人が大事な話をしているみたいだから·····」

 

 

そう言ってみほは機体を近くの岩陰に移動し、何のつもりかわからなかったエリカはイライラしながらもみほの言う通りにし彼女の隣へ移動した

岩陰からボロボロに力尽きたギャンとフルバーニアンの方を覗くと、コックピットから降りた千代美とまほが座り込んで何か語り合っているようであった

 

 

「いやぁ〜引き分けかぁ〜!どうする?白黒つけるためにもう一回やるか?」

 

 

「いや、もう満足だ。··········ありがとう付き合ってくれて。機体性能の差がなければ間違いなく君が勝っていただろう」

 

 

「そんな事ないって。おまえの方こそ私の得意な白兵戦に付き合ってくれたじゃないか。どうしてもっとフルバーニアンの機動力を活かした堅実な戦いをしなかったんだ?」

 

 

「·····これが君との最後のモビル道だからな·····君の全てを受け止めて悔いの残らない様にしたかった。·····だが駄目みたいだな·········やはり私はまだ君と共に······」

 

 

まほは儚げに今にも崩れだしそうな様子で語った

去りゆく友を咎める事はいたくなかったが彼女を求める想いが強いからこそ堪え切る事ができなかった

 

 

「なぁ、まほ。これで最後なんかじゃないぞ。私達は離れていてもこれからも同じ道を一緒に歩いて行けるんだ」

 

 

「だが·····遠く離れてしまえば繋がりなんて·····」

 

 

「うーん、そうだなぁ·····あ!あれを見てみろ!」

 

 

千代美はそう言って二人から遠く離れた場所で輝く一つの星を指さした

 

 

「星·····?確かに綺麗だがそれがどうかしたのか·····?」

 

 

「ああいう私達が見てる星の光ってもう何年も前に輝いていたものらしいんだ。そんな星の光が長い時を超えて今ここにいる私達と繋がっているのと同じ様に、どれだけ離れ離れになってもどんなに時間が経っても私達の友情はあの星の光みたいに輝いて繋がり続けるんだ!」

 

 

千代美はまほの手を握りめいいっぱいに笑ってみせた。千代美の熱い言葉と太陽の様な笑顔にいつも照らされ、励まされてきたまほは今日もまた彼女に感謝しその手を強く握り返した

 

 

「·····そうだな、私と君の繋がりはそう簡単に切れる程脆くなかったな」

 

 

「その通り!私達の友情は永久に不滅なのだ!」

 

 

「··········ありがとう安斎。私と友達になってくれて·····本当にありがとう·····!」

 

 

「ああ·····!私の方こそありがとうな·····まほ·····」

 

 

千代美は暖かい涙を流すまほを抱き締め、まほも千代美の身体を強く抱き返した。二人はその後も身を寄せ合い、祝福するかのように輝く遠い星の光を眺めていた·····

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シュバルツ・ファングの司令室にて、千代美とまほの決闘をモニターで観戦していた者達がいた

 

 

「終わりましたな·····」

 

 

「··········。」

 

 

決着がつき、終始怪訝な顔を浮かべていたしほは退出しようと立ち上がったが傍らで共に観戦していたガトーから呼び止められた

 

 

「お言葉ですが家元、友情とは一過性のものではありません。彼女達二人が肝胆相照らし合う仲だったからこそまほはあそこまで実力のあるパイロットになれたのです」

 

 

「·····みほはともかくまほに友情など必要ないの。·····その存在がいずれあの子の障害になりうる事はわかりきっているというのに·····」

 

 

しほは冷淡にそう呟き司令室を出た。かつて共に親友と呼びあっていた彼女は此方の信頼を裏切り闇へと堕ちて行ったのだから、自分の後を継ぐまほに同じ事を繰り返させたくはなかったのだ·····

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 それからまた月日は経ち、中等部での卒業式を終えた千代美は本土の船着き場でアンツィオから迎えに来ると言うトレーズを待っていた。高校入学まで時間はあったが黒森峰側からさっさと出ていって欲しいと言われたのと、一度実家へ帰省する必要があったので少し早いがもう出発する事にしたのであった

 

 

「安斎!」

 

 

すると潮風に当たっていた千代美のもとにまほが駆けつけてきた

 

 

「あ、まほ!見送りに来てくれたのか?」

 

 

「ああ·····それと君に渡したい物があって」

 

 

するとまほはポケットに手を入れ千代美に十字架のネックレスを差し出した

 

 

「あれ?これっておまえがよく首から下げてたヤツじゃないのか?」

 

 

「これは小さい頃お母様から貰ったクリスマスプレゼントなんだ。その年以来お母様からはモビル道に関わる物しか買って貰えなくなったからあの人がくれた唯一モビル道とは関係ない大切な物なんだ」

 

 

「おいおいそんな大事な物をあげちゃっていいのか·····?」

 

 

「君に持っていて欲しい。私からのお守りだと思ってくれ」

 

 

まほはもう悲しむ様子は一切見せず、これから新たなスタートを切る千代美を皆が憧れる強い西住まほの毅然とした姿で送り出そうとした。千代美もまほの想いを汲み彼女からネックレスを受け取った

 

 

「わかった、おまえの大事な宝物受け取ったぞ!これからはれっきとしたライバル同士になってしばらく会えなくなるかもしれないけど·····私の事忘れないでくれよ?」

 

 

「当たり前だ!君の方こそ私が居なくなったからと言ってだらしなくなるんじゃないぞ。·····来たみたいだな」

 

 

海の方へ振り返るとトレーズの操縦するクルーザーが千代美を迎えに近づいてきていた。桟橋にクルーザーは停められ中からトレーズが姿を現した

 

 

「待たせたね千代美。·····君が西住まほ君だね?」

 

 

「はい。安斎をよろしくお願いします」

 

 

「うむ、任せて欲しい。千代美、もう思い残す事はないのかね?」

 

 

「ちょ、ちょっと待っててください!」

 

 

千代美はトレーズにそう言うと再びまほの方を向き彼女を思い切り抱き締めた

 

 

「安斎?」

 

 

「じゃあな親友。何度でも言うが私達二人はどんなに離れていてもずっとずっと友達だ。·····元気でな」

 

 

「ああ·····君も達者でな·····」

 

 

二人は三年間共に同じ部屋で暮らし、共に戦場を駆け、沢山の思い出を作ってきた親友を互いに想い合いながら強く抱き締め合った

そして千代美は行く事を決意するとトレーズのクルーザーへと乗り込み、二人の表情にもう心残りが無いことを察しトレーズはクルーザーを発進させた

 

 

「安斎ー!頑張ってくれ!私はいつも応援してるぞ!」

 

 

「まほー!おまえも頑張れよー!元気でなー!」

 

 

二人とも涙は流さなかった。これは別れではなく新たなる始まりなのだから·····二人の道はこれからも分かたれることなく同じであるのだから。二人はいっぱいの笑顔でお互いの姿が見えなくなるまで声を交わし続けた

 

 

こうして安斎千代美の黒森峰女学園での生活は幕を閉じたのであった·····

 

 

 

 

 


 

 

 それからしばらくの間クルーザーに揺られているとアンツィオ高校の学園艦に到着した。千代美はトレーズに案内されるまま学園艦上の街を歩いて行きその途中黒森峰女学園から愛機のギャンが既に届けられているのを確認し、更に歩き進んで行くと小さな古城の様な建物に到着した

 

 

「ここが今日から君の住む家だ。入りたまえ」

 

 

「ここがですか!?なんか私一人で住むには大きすぎるような·····もしかして私達二人きりでひとつ屋根の下で·····!」

 

 

「そんな訳がないだろう。ここは既に私と妹が暮らしていた隠れ家のようなもので君にも使ってもらおうと思ってね」

 

 

「ああー·····トレーズ様って妹さんがいらしたんですね·····その子もアンツィオの生徒なんですか?」

 

 

落胆する千代美の問いにトレーズは何故か口を噤み答えなかった。トレーズの後について城の中を進んで行くと豪華な扉を構えた部屋へ到着した。中へ入ると広々とした空間や家具に西洋貴族風のインテリアが施されていた

 

 

「ここは我が校のMS部隊の隊長室だ。要するに君の部屋という訳だ」

 

 

「わぁ〜·····ん?なんか机に置かれてる名前が[アンチョビ]ってなってるんですけど·····」

 

 

「ああ、それはここアンツィオでの君の新しい名前だ。この学園は生徒同士互いを食物の名で呼び合うのが伝統の様で彼女達曰く君の名は今日からアンチョビという訳だ」

 

 

「えぇ〜慣れるといいなぁ·····あとさっきから気になっていたんですけどあの服ってなんですか!?」

 

 

千代美は箱型のショーケースに展示されるように仕舞われる西洋風の服飾を施された肩章付きの真っ赤な軍服に目が行っていた。見るからにモビル道用のユニフォームであり、更にはその軍服がトレーズが現在着ている物と色違いの物であるからであった

 

 

「それは私から君へのプレゼントだ。着てみるかね?」

 

 

「いいんですか!·····じゃあちょっと恥ずかしいので少しだけ出ててもらっても·····」

 

 

「む、それもそうだな」

 

 

トレーズは千代美が着替えられるよう部屋の外へ出た。千代美はすぐ様その制服へ袖を通し、下も同じく用意されていた白のレギンスとロングブーツへ履き替えた。新しいユニフォームを身に纏い千代美はテンションが上がっていた

 

 

「うわぁ〜かっこいい!とぉー!」

 

 

「よく似合っているじゃないか。正にライトニング・エピオン、アンチョビに相応しい姿だ」

 

 

「トレーズ様にそのあだ名で呼ばれるとちょっと恥ずかしいな··········色々と良くしてくれてありがとうございます。おかげで気合い十分で頑張れそうです!」

 

 

「フフフ·····ならば私に見せてくれ。君の美しい心が創る輝かしい未来を·····」

 

 

 

 絶対的な強者に屈すること無く、どんなに悪い状況でも決して諦めること無く、自分の心のままに意志のままに最後まで戦い続ける姿勢。その姿こそ何よりも尊ばれ次の世代へと受け継がれるべき物であるのだ

 

 その志を貫き続ける少女、安斎千代美·····アンチョビの新たなる物語が今幕を開けたのであった

 

 

 




読んでいただきありがとうございました

これにてアンチョビの外伝は一旦終わりになります。にわかまほチョビ(ガンダム風)に付き合ってくださりありがとうございました。もしかしたらいずれ続きを書くかもしれません

まだまだ先の話ですがまた全国大会編にてアンチョビ達アンツィオ高校の出番があります。しかしOVAと違ってかなりの強敵として登場させる事になるかもしれないので今からご了承の程よろしくお願いします


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EXTRA-PHASE アンチョビと二匹の狼

今回はアンチョビがアンツィオに来て1〜2年の間ダイジェスト形式で書きました。ドラマCDを見てないので今更ながら公式と違う設定ばかりです()
尚今回はあまり本編と深く関わってくる訳でもなく半分カチューシャの外伝になってしまった気がするので読まなくても大丈夫です(かなりの長文だし·····)



 アンツィオ高校に入学したアンチョビ。昨年から活動していた先輩達4人から温かくチームに迎えられ、唯一の経験者という事から一年生ながら隊長に任命された。手始めに廃れていたモビル道を立て直そうと奔走したが現実はそう上手くいかず、新しいメンバーが加入しても座学で覚えなければならない知識が多かったのでその厳しさからすぐに逃げ出してしまった。よってその年の全国大会への出場は叶わずに終わり、その上安斎千代美というブランドがあってもチームがあまりにも貧弱な事からどの学園も練習試合を受けてくれず、アンチョビは戦士として戦うことすら許されなかったのであった

 それでもアンチョビは宣伝するために駆け回り続け、時にはイタリア料理の屋台を開きMSを買う資金を集めながらより多くの人に自分達の熱意を伝えモビル道の再興に努めた。それは先輩達が共に油まみれになりながらもMSを整備をしてくれたから、家族やセモベンテ隊の皆が応援してくれていたから、そして親友のまほという存在がいたからであった。何度も心を折られ諦めそうになったが、まほが活躍しているとの報道を見る度に悔しさを滲ませると共に自分も負けていられないと鼓舞されたからアンチョビは自分のモビル道を貫くため諦めずに目の前の現実と戦い続ける事ができた

 結果、MSパイロットを志望する生徒は現れなかったが整備士や艦の乗組員として加わりたい生徒が何人か現れ逃げ出して行った生徒達も戻る事はなくともアンチョビと共に屋台を開いたりアルバイトをするなどしてモビル道の資金を稼いでくれた。その他にも学園艦に住む市民の方々から多額の寄付金が集まり、それらこそ自分達がひたむきに努力していた姿を評価し応援してくれる人達がいるという何よりの証拠だったのでそれを知った時、とても辛い一年だったが諦めずにモビル道を続けてきてよかったとアンチョビは心の底から嬉しく思った。その後アンチョビ達はアンツィオのモビル道が闘える事を表明するために、集まったその資金で初の宇宙艦【ヨーツンヘイム】を購入したのであった··········

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンツィオへ来て一年が経とうとしていたある日の真夜中。リボンを外しパジャマ姿となったアンチョビは自室から暗い廊下を渡ってトレーズの部屋へ向かっていた。例のトレーズの妹は本土の中学校へ通っていたので結局彼と二人きりでこの広い古城で生活していたため城の中に人の気配は一切なくしんと静まり返っていた

 

 

「ト、トレーズ様。まだ起きてましたか·····?」

 

「アンチョビ?こんな時間にどうしたのだね」 

 

 

 扉を開けると部屋の明かりは点けられておりトレーズは寝巻きのガウンに身を包み自身の軍刀の手入れをしていた。ガウンの胸元から彼の美しく眩しい胸板がちらりと覗かせており、アンチョビは自身の胸がドキッと鳴るのを感じたが何とか冷静を保ち目を逸らしつつ話を切り出した

 

 

「そ、そろそろここに来て一年近く経つので色々と思い出していたら眠れなくて·····それでトレーズ様と少しお話したいなと思って·····」

 

「もうそんな時期か·····何か入れてくるから待っていたまえ」

 

 

 トレーズは軍刀を鞘に収め壁へ飾り直してから部屋を出て行ったのでアンチョビはしめたと思い彼の椅子の上で丸くなる様に座り込んだ。トレーズは教官として最低限の役目は全うしていたがアンチョビ達がモビル道の再興に苦戦していた時、彼は打開策を示すことや手助けすることの一切をしてくれなかった。何故か見ているだけで手を貸してくれないトレーズに先輩達は不満を募らせ、アンチョビも当時は何の助言もくれない事から彼の真意が分からず見放されてしまったのではと疑った事もあった

 

 

「それにしてもトレーズ様って良い香りするなぁ·····ふへへ·····」

 

「昨晩は薔薇のエッセンスを浴槽に使ってみたんだ。今度君も試してみるかね?」

 

「·····へ?うわあああああ!ち、違うんです!トレーズ様の椅子って私のと違うから前から座ってみたかっただけなんです!」

 

「フフフ、そういう事にしておこう。ミルクティーでよかったかな?」

 

「は、ハイ·····いただきます·····」

 

 

 まさかこんなに早くトレーズがティーセットを用意して戻ってくるとは思わなかったアンチョビは顔一面を紅くしてカップを受け取った。以前までは分からなかった彼が何故敢えて自分達に手を貸さなかったのかであるがその理由をアンチョビは大体感づいていた。というのも彼はアンチョビ達一人一人に自分の意思で選んだ為すべき事を為すために行動し続けることができる強い心を持って欲しいと願っているからである。それこそトレーズが現代の人々にとって必要であると考える美学的なものであったが、彼は例えどんな些細な形であろうと他者の行動や意思を支配する事を好まなかったので自分達に何の助言もくれなかったのだとアンチョビは確信していた

 

「知った風な事を言ってごめんなさい·····けどトレーズ様は私達を成長させるために敢えて何も助けてくれなかったんですよね?」

 

「さぁ、どうだろうか。だが現に私が手を貸さずとも君達はこの学園のモビル道を再興させたではないか」

 

「それは学園艦の皆が協力してくれたからです。私達だけの力じゃ多分·····」

 

「それは違う。あの苦しく厳しい現実の中、決して諦めることなく努力し続けた君達の姿が多くの人々を惹き付け味方に付けたのだ」

 

 

 トレーズはカップに口をつけながらもその目は此方を見つめるアンチョビの瞳を真っ直ぐ見据え返していた

 

 

「だからもっと誇らしく思いたまえ。君達の闘う姿は他者の心を動かす程美しく煌めくものであると。君達はもう弱くなどないのだ·····」

 

「·····わかりました!私、もっと頑張ります!必ず私達アンツィオのモビル道が弱くない·····いや、強いという事を全国に見せつけてみせます!」

 

「うむ、その意気だ。これからも期待しているよ、アンチョビ」

 

 

 アンチョビはこの夜改めてトレーズに闘い続ける事を宣言した。自分に着いてきてくれた先輩達のために、自分達に力を貸してくれる学園艦の皆に応えるために、親友のまほが待つ戦場へ行くために·····アンチョビは更に強くなろうと胸に誓ったのであった

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 そしてアンチョビは二年生になりまた新しく新入生が入学してきた。これを機にメンバーを試合ができるまでに増員するチャンスとアンチョビは考えたが行動を起こすよりも先に新入生が一人、このアンツィオの生徒とは到底思えないお姫様の様な気品と風貌を持ち合わせていたヒナ・クシュリナーダがアンチョビのもとに現れた。その名前の通り彼女こそトレーズの言う例の妹であったのだが血縁関係ではないらしく、彼曰く彼女を家に迎えたのは10年近くも前の事で当時雨の中独り彷徨っていた所を保護したのが彼女との出会いだったらしい。それ以上詳しい事をトレーズは教えてくれなかったがアンチョビは初めてヒナを見た時何故か彼女からまほの妹、西住みほと似た雰囲気を感じ不思議に思ったがアンチョビはそんな彼女を喜んでチームに迎え自分の妹のように可愛がってあげることにしたのであった

 

 

「今日からよろしくお願いします。アンチョビさん」

 

「よろしくなヒナ!これから一緒に住むんだしお姉ちゃんと呼んでくれたって構わないぞ!」

 

「あ、ありがとうございます·····あはは·····」

 

 

 

 

 それからセモベンテ隊と浅からぬ因縁がある戦車乗りを父親に持つペパロニもチームに加わった。ペパロニというのはアンチョビが付けてあげたあだ名で、というのも出会った当初は彼女から父親の事で因縁をつけられかなり険悪な関係になりそうだったがお互いを知り合う内に意気投合し気づけばアンチョビにとってヤンチャな妹分の様な存在になったからであった

 

 

「うわー!アンチョビ姐さんの機体なんか壺みたいっすね!」

 

「壺って言うな!ギャンはこのスマートな感じがカッコよくて·····って何勝手に乗ってるんだ!降りてこ〜い!」

 

「愛車にはちゃんと鍵掛けとかなきゃダメっすよ!つっても全然動かし方わかんないな。これか?えいえい」

 

「うわぁ起動した!なんで教えてないのにできるんだよ!·····って歩き始めるなあああ!」

 

「わわわわっ止まんねー!助けて姐さーん!」

 

「ゔわ゙あ゙あああこっち来るな〜!潰される〜!」

 

 

 

 

 その後他にも新入生がメンバーとして参加し試合ができる程の人数は揃ったが、また昨年のように逃げ出してしまうのではないのかとアンチョビは不安になっていた。しかしここでも学園の皆がサポートや新入生のケアをしてくれたおかげで誰一人欠けることなく皆モビル道を続けてくれると言ってくれた。そしてこの時からチームの皆や学園艦の住民からアンチョビは隊長なのだが何故か総帥(ドゥーチェ)と呼ばれ始め、初めは気恥しい部分もあったが皆から呼ばれる内に次第に気に入っていきアンチョビは何処へ行くにも自分の存在を隊長ではなく敢えて総帥(ドゥーチェ)と名乗る様にしたのであった

 その後もアンチョビ達は訓練を重ねていき、ついにモビル道全国大会が開催される時期を迎えた。昨年出場できなかったアンチョビと三年生になった先輩達はついに全国大会へ出れる事に喜び心の焔を燃やし、新入生達も同様にやる気に満ち溢れていた。そこでアンチョビはある日広場に皆を集め全国大会へ向け今一度士気を高めようとした

 

 

「いいかおまえ達!世間では既に黒森峰女学園が大会10連覇を達成するのは確実と言われているがそれは違う!ノリと勢いに乗った今の我々に比べれば西住流など敵ではない!敢えて言おう、カスであると!」

 

「アンチョビ姐さん流石っス!」

 

「総帥·····今の発言は少し不味いんじゃ·····」

 

「え·····?ちょっと言い過ぎか?とにかく目指すは一回戦突破·····じゃなくて優勝だ〜!!!」

 

「「「「「おおおおお〜〜!!!」」」」」

 

 

 アンチョビ達アンツィオ高校の一回戦の相手はプラウダ高校。黒森峰に次ぐ強豪校と呼ばれているだけあって相応の実力者とMSが揃っている訳だが、アンチョビは黒森峰にいた頃プラウダの中等部と何度も対戦した事があり彼女達がどの様な戦法を好み、どの様に攻められば崩せるのかを大体把握していた。それに加え皆の士気がかなり高まっていたので絶対に勝てない相手ではない·····むしろ情報が全く無いこちらの方に分があるとアンチョビは感じていた

 一回戦の前夜、アンチョビは城のバルコニーから海を見渡していた。ようやく自分も全国大会の舞台に立てる、そして勝ち進めば決勝戦で親友のまほと戦える·····その日をずっと夢見続けているアンチョビはまほから貰ったネックレスを握りその意志を固めたのであった·····

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして全国大会一回戦当日。ステージは宇宙、ルールは最大20機対20機のフラッグ戦·····の筈なのだが試合開始前の顔合わせへ向かった際、どういう訳かプラウダの部隊の規模がかなり小さなものになっているのを目の当たりにした。パイロットやクルーの面子も昨年活躍していた選手は一人もおらず初めて見る顔ぶれのみで、MSはケンプファーとゲルググJの他に数機、艦に至っては【グラーフ・ツェッペリン】1隻のみであった。MSと艦の数が同等である事から、向こうは完全に此方側を舐め油断していると感じアンチョビはその驕りを真っ向から叩き潰してやろうと思った。しかし激変したプラウダを率いる小柄な隊長、カチューシャ・ダイアルプスと彼女とは対照的にモデルの様な美しい長身を誇る副官ノンナ・ダイアルプス·····二人が此方へ向けるその眼が、正に明日を生きるために獲物を追う"狼"そのものだったのでアンチョビは直ぐにその慢心を改めた。彼女達も自分と同じく勝つために、辿り着くべき場所へ行くために今ここに来ているのだと伝わってきた。プラウダに何があったのかはわからないが、だからといって自分も多くの支えや応援があってようやく全国大会に出場することができた。そして今日まで先輩や新入生達にも決して楽な訓練はさせてこなかった。だからアンチョビはどうしてもこのチームで負ける訳にはいかなかったのだ·····

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし試合はプラウダの勝利という結果で幕を閉じた。ヒナやペパロニをはじめ皆期待以上の戦いぶりを見せてくれた。ただ同じ小規模部隊でありながらプラウダの実力がもはやアンチョビの知る頃のものとは比べ物にならない程レベルアップしていたのだ。互いに譲れぬ激しい戦闘が展開されたものの、最終的にフラッグを務めていたアンチョビのギャンがカチューシャのケンプファーとの一騎打ちに惜しくも敗れ試合は終了したのであった。自分が得意としていた一騎打ちで敗北し皆を勝たせてあげれなかった事にアンチョビはコックピットの中で悔しさに涙した

 その後気持ちを切り替えるとアンチョビは皆と共に試合のスタッフや応援に来てくれた人々、そしてプラウダの面々を宴会に招待し得意のイタリア料理を振舞ったのであった

 

 

「んー、美味しいー!ノンナ!あなたも今のうちにガンガン食べちゃいなさい!」

 

「しかしカチューシャ。ここは招待してもらった身なのであまり食べ過ぎるべきではないかと」

 

「え·····そっか·····。そうだよね·····」

 

「·····ですが私は今日活躍しなかったのでお腹が空いていません。なので私の分もカチューシャが食べてください」

 

「ちょっと待てえー!!!おかわりもいっぱい作ってるから遠慮せず食べてもらって構わないんだぞ!だからそんな悲しそうな会話するなー!」

 

 

 宴会で慌ただしくなるヨーツンヘイムの食堂の中、アンチョビは何やら哀しげな様子を見せるカチューシャとノンナの二人を見つけその間へ割って入った。他の隊員によるとプラウダは今カチューシャによる変革の真っ最中で、今まで所属していた主力メンバーをほぼ除隊させたため現状これだけの戦力しか動かせなかったらしい

 

 

「本当!?やったー!!!」

 

「ありがとうございます。しかしお金も払ってないのに本当にいいのでしょうか·····?」

 

「なーに気にするな!試合が終わった後は皆で楽しく美味しい物を食べる!これが我らアンツィオの流儀なのだ!」

 

「チョビーシャって良い奴なのね!お礼にカチューシャ達が絶対優勝してやるんだから見てなさいよ!」

 

「チョビーシャ?·····それよりもおまえ達二人みたいなエースが同い年にいたなんて知らなかったよ。二人は中学の頃は何処でモビル道をやってたんだ?」

 

 

 アンチョビは中学生の頃から現在にかけて全国のライバル校やアマチュアチームに在籍する世代の近いエースパイロットの情報は逐一収集する様にしていた。なので今まで彼女達二人の様な実力者が何故表舞台に姿を見せていなかったのか不思議でならなかった

 

 

「私とカチューシャがモビル道を始めたのは昨年からでこうして女子だけの公式戦に参加するのも今年が初めてなんです」

 

「なっ·····まだ始めたばかりなのに大したもんだ!それに全国大会が初めてだなんて私達と同じじゃないか!」 

 

「あらそうなの?まぁ私達には及ばなかったけどチョビーシャ達も中々だったわ!特別にこのカチューシャが貴女の友達になってあげてもいいわよ?」

 

「むむっ、上から目線でムカつくやつだな!こいつめ!」

 

 

 アンチョビはカチューシャの体を脇から持ち上げぐるぐると回り始めた

 

 

「キャー!何すんのよー!助けてノンナー!」

 

「それそれー!軽いなカチューシャは!」

 

「ふふふ·····アンチョビさん、今日貴女と出会えて本当に良かったです。またいつか戦いましょう」

 

「そう言って貰えると嬉しいよ。ただし次やった時に勝つのは我々だ!覚えておくがいい!」

 

 

 アンチョビはカチューシャとノンナに再戦を誓いその後も二人を激励しながら宴会を楽しんだ。一回戦敗退という不名誉な結果に終わり親友の待つ舞台へ行くことも叶わなかったが、こうしてまだ誰も知らぬエースパイロットと戦い友人同士になれたのだからアンチョビにとって十分価値のある一戦となった

 

 

「俺らまで参加させてもらってありがとうございます。この借りはいずれきっちり返します」

 

 

 宴会の風景を隅で見守っていたトレーズのもとにおそらくグラーフ・ツェッペリン内で補佐をしていたと思われる褐色肌で大柄な少年と彼の後にぴったりと続く少し小柄な少年が歩み寄ってきた

 

 

「そんな気遣いは不要だよ。それにこれは全て彼女達が自分の意思で始めたことだ。礼なら私ではなく彼女達に言ってやって欲しい。·····ところで君達がプラウダ高校の教官を務めているのかな?」

 

「教官というかあそこにいる二人の後見人みたいなモンっす。確かに昔は俺らがMS戦を教えてたんですが今じゃアイツらの方が強くなっちまいまして·····」

 

「ふむ·····カチューシャ君とノンナ君と言ったね。彼女達からも迷いなく進み、戦い続ける事のできる気高い精神を感じる。そう、例えどれほど過酷で孤独な戦場にいようと強き心さえ持っていれば人は戦い抜く事ができるのだ。アンチョビが敗れてしまうのも無理はない」

 

「は、はぁ·····」

 

「故に彼女達の様な迷いのない戦士は崇高で美しい。そして美しき者達の姿形は後世に継承されていかなければならないのだ·····」

 

「ねぇオルガ。このおっさんの言ってる事よくわかんないんだけど」

 

「はっきり口に出してんじゃねぇよ·····要するに俺らもしっかりやれってことだろ。多分」

 

「ふーん。じゃあ今のうちにちゃんと食っておかなきゃね」

 

 

 トレーズの美学が込められた言葉をおそらく理解できた小柄な方の少年はオルガ・イツカの袖を引きながら空になった大皿にお代りを求め料理の方へ向かって行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後宴会が終わりアンチョビは小型シャトルで艦へ帰ろうとしていたカチューシャ達を見送りにMSデッキに来ていた。互いに今後の健闘を約束し合いカチューシャとノンナはシャトルへ乗り込もうとしたが何かを思い出したアンチョビに呼び止められた

 

 

「そういえば聞き忘れてたけど二人は姉妹なのか?同じ名前だから少し気になっていたんだが·····」

 

 

 アンチョビは二人の性が同じダイアルプスであることから二人の関係が気になり問いかけたところ直ぐにカチューシャの方が切り返してきた

 

 

「そうね、姉妹かは別として確かに私達二人は"家族"よ。最もチョビーシャのイメージしてる家族とは全然違うと思うけど」

 

「ん?それってどういう意味だ?」

 

「私達二人は見ての通り血は繋がってません。しかし私達は血の繋がり以上に固く、熱い繋がりによって結ばれています。カチューシャが私に命をくれたあの日から·····」

 

「·····そういう事。今までずっと二人一緒に生きてきたんだから舐めないで欲しいわね!私達プラウダがどこよりも一番なんだから!」

 

「そうか·····どおりで強い訳だな。初めての公式戦がおまえ達とやれて本当によかったよ。優勝目指して頑張ってくれ!」

 

「·····私達が優勝したらチョビーシャ達は最高のチームだったと壇上で言ってあげるわ。だから見てなさい、必ず私達が黒森峰を·····西住流を叩き潰してやるんだから·····!」

 

 

 その刹那、カチューシャの目が再び狼のモノに変わりアンチョビは思わず寒気を感じた。この時アンチョビは彼女達二匹の狼にとって全国大会優勝が、西住流に勝利する事がどれ程重大な事なのか知る由もなかったので黒森峰を叩き潰すというのも単なる意気込み程度のものと思っていた·····がその後もカチューシャ達はその目的のために快進撃を続けた。サンダースのケイが指揮する大部隊の連携を攻略し、聖グロリアーナのダージリン率いる大艦隊とバストライナー隊を見事突破してついに黒森峰女学園が待つ決勝戦の舞台まで進んだ

 

 

 

 そして誰もが予想だにしなかった事が現実に起こった。これまで大会9連覇を成し遂げていた黒森峰女学園がついに敗北しプラウダ高校が優勝を勝ち取った··········しかしそれ以上に誰もが最強のパイロットは彼女であると口を揃え、誰一人彼女が敗北する姿など想像しなかったあの西住まほが初めて撃墜されてしまったのだ。それもまだ一度も表舞台に立ったことのない無名のパイロット、カチューシャ・ダイアルプスに。その事実は試合が終わってないにも関わらず観客や中継を見ていた者達を大いに動乱させ、皆カチューシャのケンプファーへ畏怖の眼を向けていた

 ヨーツンヘイムのモニターに中継を受信し観戦していたアンチョビもまたその一部始終に永遠に記憶に残る程の衝撃を与えられた。というのもカチューシャのケンプファーは対峙していたまほのフルバーニアンに一度は追い詰められたものの左腕を奪われたのを引き金に、その身に本物の悪魔が憑依したのではと感じさせる様な挙動で機動し始め再びまほへ襲い掛かり始めたのだ。まほは迫る青い悪魔に最初は対応できていたものの徐々にカチューシャの人間離れしたMS捌きに圧倒されはじめ、ついに彼女のビームサーベルに胴を貫かれ討ち取られてしまったのであった。今まで誰にも敗れることのなかった親友が初めて敗北したという事実がアンチョビには信じ難かったが、同時にまほが撃破され混乱に陥った黒森峰の残存勢力を蹂躙するカチューシャ達の姿を見て、ならば次に黒森峰とプラウダを倒し優勝するのは自分達だとその心に火を灯され仲間達と共により一層精進する事を約束したのであった

 

 

 

 

 決勝戦はフラッグを務めていたみほが降伏した事でプラウダの勝利に終わったのだが、次の日信じられない事件が報道された。カチューシャ達が表彰式の壇上で優勝旗を掲げた後、まほがカチューシャに暴力を振るったという事件が報じられたのであった。誰が撮っていたのか実際にまほがカチューシャを殴りつけている動画も世に流出しまほを批判する声や庇う声など様々な意見が往来で飛び交っていた。当のまほはその責任を取るため半年近くの謹慎処分を受けそのまま修行のために宇宙へ連れて行かれるとのことだったので、その知らせを聞いたアンチョビはまほが事情もなしに手を上げたなど信じられず転校して以来初めて黒森峰女学園へ帰還したのであった。しかし到着した頃既にまほは連れて行かれており、彼女が何処の宙域へ向かったのか詳しい話を聴こうとしたが誰一人としてアンチョビに構おうとせず、それどころかしびれを切らしアンチョビへ罵声を浴びせたり物を投げつける者もいたのであった。それもアンチョビが元々黒森峰では誰からも煙たがられていた存在であったのと形式上は西住流に勘当された身であった彼女が戻ってくるなど許されるはずがなかった。そしてまほという存在がいなくなった事で昔からアンチョビの事が気に入らなかった選手達がここぞばかりに今までの不満を晴らさそうとしてきたので、まほに関して何も聞けずにいたがアンチョビは身の危険を感じ黒森峰から脱出したのであった

 しかし何やらみほが決勝戦以来学園で孤立しているとの噂が熊本本土にある男子校にて広まっていたのだ。聞くとみほがニュータイプの力を使ってチームメイトを洗脳したなどというアンチョビにとってとんでもないくらいに馬鹿げた話であった。アンチョビはその後いなくなったまほの代わりにみほのケアをしようと何度かメールを送った。返信にカチューシャがみほを否定する発言をしたからまほが暴力を振るったという事件の全貌が綴られていたが、そもそもニュータイプというものをアンチョビは全く信じていなかったので彼女にどんな言葉を掛けてやるべきなのか頭に浮かばず今一つな言葉しか送れなかった。次第にみほからの返信も返ってこなくなり少し心配に思ったがアンチョビもあまりメールを送らないようにしてライバル達に遅れを取らないよう練習に励む事にした。今や『バルバトス』、『グシオン』という悪魔の名を異名付られていたカチューシャとノンナをはじめとするライバル達に負けないために、宇宙で修行をしているまほに置いてかれないためにもアンチョビは余計な事に縛られるのを辞めいつも通りの日常へ戻って行った。だがこの時アンチョビは知らなかった·····まほが絶望的に暗き宇宙の中を漂流させられていたことなど··········

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 年が明けアンチョビ達も高校三年生になる時期を迎えようとしていたある日、トレーズは自身の部屋でパソコンのモニターに映るケイの養父、ヘンケン・ベッケナーと通話をしていた

 

 

「お久しぶりですねヘンケン殿。ご要件とは一体?」

 

『お久しぶりですトレーズ総帥·····あー、いやトレーズさん。単刀直入に報告させていただきますが、木星よりジュピトリスが·····マリー・タイタニアが地球圏へ帰還しました』

 

「··········ついに帰ってきましたか」

 

『そして彼女の帰還に伴って例の独立平和維持部隊、ティターンズが近い内にその存在を世間へ公にしようとしているそうです。奴らはいよいよ本格的に動き出すつもりだ·····!』

 

「·····それで彼女の帰還と私にどのような関係があるのでしょうか?」

 

 

 感情を昂らせるヘンケンにトレーズは冷静に問いかける

 

 

『この一年西住師範はアロウズとその他のスペースノイド達を抑えるのに手一杯でした。だからもしティターンズが動き始めた時我々が奴らを止めなければなりません。その時は私の様なただの船乗りではなく過去にOZの代表を務めていたトレーズ総帥に指導者として立ち上がって欲しいのです』

 

「私は一向に構いません。·····がしかし私よりも相応しい者が貴方のもとにいると思うのですが·····ブレックス准将のお嬢様が」

 

『なに?·····いやぁ、冗談はよしてくださいよ。ケイは兵士でもなければただの高校生なんですよ?』

 

「それはどうでしょう。以前ケイ君をお見かけした時彼女からも准将と同じこの分かたれた世界を再び一つにするために立ち上がろうとする気概を感じました。彼女も共に立ち上がらせてあげるべきかと」

 

『ふざけるな!ケイがそんな事を望んでる訳が無い!いい加減な事を言わないで貰おうか!』

 

 

 ヘンケンは青筋を浮かべ怒鳴り散らすも、トレーズは以前冷静な態度を保ったまま切り返した

 

 

「あくまで私の憶測に過ぎません。しかし人の意思とは何人にも侵されることがあってはならないのです。貴方は准将の意志を継ぐケイ君が立ち上がろうとした時どうするおつもりなのですか?」

 

『許す訳がないだろう!ケイをそんな事に巻き込める訳があるか!これ以上あの子達を·····辛い目に合わせる訳にはいかないんだよ·····』

 

「·····貴方の気持ちもわかりますが彼女達の未来は彼女達自身がその手で拓かなければ意味が無い」

 

『ご自身の美学を押し付けないでもらおうかトレーズ・クシュリナーダ!彼女に武器を取らせてたまるものか·····今日はもう切らせていただく!』

 

 

 怒るヘンケンから乱暴に通信を切られモニターは真っ暗になった。トレーズはパソコンを閉じ、一人部屋の窓から学園艦の平穏な風景を眺めた

 

 

「ただ戦うことはいけない、平和が一番大切であると言葉のみで教授するだけでは若者の心には残らずいずれ先人達が築いたもの全てが無意味な歴史となる。だから一人一人が強い心を持ち立ち向かえなければならないのだ·····」

 

 

 トレーズは願った。自分が道を示さなくともアンチョビ達一人一人が平和のために戦うことのできる強き心を持つことを··········

 

 

 

「へっくちゅ!」

 

「総帥?風邪ですか?」

 

「いや、誰かに噂されてる様な気がしてな·····そんな事より今日も訓練頑張るぞ!」

 

「アンチョビ姐さーん!今から港の市場に皆で仕入れに行ってくるっす!なんか新鮮なものばかりなのにすっげえ安いらしいんすよ!」

 

 

 気合い十分に訓練を開始しようとしたアンチョビだったがそれに反してペパロニをはじめとする他のメンバーは風の様に立ち去っていった

 

 

「お、おい!·····はぁ、またこれかぁ·····料理もいいけどもうちょっとモビル道にも意識を向けて欲しいなぁ·····」

 

「大丈夫ですよ。総帥の想いはちゃんと皆に届いていると思います。とはいえ心のままにし過ぎている気もしますが·····」

 

「うーん·····よし、カルパッチョ!私達も市場へ仕入れに行くぞ!今日の訓練はお休みだー!」

 

「ハイ!それでこそ私達の総帥(ドゥーチェ)です!」

 

 

 アンチョビはヒナ、元いカルパッチョと共にペパロニ達の後を追いかけた。アンチョビ達が日々を過ごす水面下、世界は変革期を迎えようとしていたが今はまだ彼女達にとっては関係のないことであった·····

 

 

 

 




読んでいただき本当にありがとうございました

本当は本編に関わる重要な話を書こうとしたのですが長くなりそうなので次回に投稿しようと思います

ガンダムWなアンチョビ達の様にカチューシャ達プラウダは鉄血感溢れるチームにしようと思っております。お許しください·····

早く本編へ戻りたいのですが相変わらずテンポが悪すぎる事に実力不足を感じています·····


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FINAL-PHASE その名はK

いずれ1〜2年生時での出来事を詳細に書いた話を投稿するかもしれませんが今回がアンチョビ外伝の最終回となり時間軸が本編と合流します

時系列的に言うとみほ達が聖グロリアーナと練習試合している日から宇宙で愛里寿達に襲撃された日にかけての話になります


 それからまた時は経ち、アンツィオ高校は卒業式の日を迎えアンチョビは去りゆく先輩達4人の見送りに来ていた。共に廃れていたモビル道を再び築き上げ自分に着いてきてくれた彼女達にはこれ以上ない程感謝していた。彼女達がいたからアンチョビは黒森峰を去った後も自分のモビル道を貫けたのだ

 

 

「私が自分の道を進むことができるのは先輩達のおかげです。皆さんには感謝してもしきれません·····本当にありがとうございました!」

 

「あはは、嬉しいね。私らもあんたの下でモビル道やれて楽しかったよ」

 

「最初は遊び感覚でやれればいいと思ってたけどアンチョビに熱くさせられたせいでガチでやる様になったもんな〜」

 

「そーそー!色々大変なことばかりで試合でも全然いい所見せれなかったけど、結果的にこうして心身共に強くなれた訳だし·····私、この学校でモビル道始めれてよかったよ」

 

「それもこれもアンチョビが来てくれたおかげだな。·····ありがとね、アンチョビ。あたしらもプロのパイロット目指して大学で続けるからおまえ達も頑張れよ!」

 

 

 アンチョビから例え勝利できなくとも自分の思うがままに戦うことが大切であると教えて貰った4人は、そのお礼に彼女へ熱い言葉を送り学園艦から旅立って行った。彼女達からの言葉を胸に刻み、アンチョビはついに高校最後の年を迎えたのであった·····

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 4月になり入学式を終えた後、今年もアンチョビはモビル道のメンバー勧誘するためにカルパッチョとペパロニと共に城の隊長室で計画を練っていた。するとアンチョビ達が動き出すよりも先に多くの新入生が部隊への加入を希望し彼女のもとを訪ねて来たのであった。去年の全国大会では一回戦敗退に終わり練習試合も毎度勝てていた訳ではないアンチョビ達であったが、そんな自分達のモビル道へ対する姿勢や心構えは知らず知らずのうちに世間へ知れ渡り評価される様になり、アンツィオでモビル道を始めたいがために入学したという生徒もいる程良く認められていたのだ。アンチョビはその事実に大いに喜び勇気付けられ、より完全無欠な総帥として皆を率いて全国大会優勝を目指し特訓に励み始めた·········しかしそんなある日、アンチョビのもとに一通の手紙が届いた

 

 

 手紙はまほから送られてきたものであった。それを見てアンチョビは驚きすぐに封を開けて内容を確認すると、そこには彼女が黒森峰へ帰ってきたという事と今度の日曜日にアンツィオへ遊びに来たいという旨が綴られていた。まほとはアンツィオへ入学してから電話やメールで互いの近況を報告しあってはいたが、最後に別れた時以来一度も再会を果たせていなかった。そしてこの半年以上まほが宇宙へ修行に出て一切の連絡を取り合う事ができなかったので、現在まほの方から会いたいという連絡が来てアンチョビは彼女の無事に心の底から安堵しすぐ様是非アンツィオへ来て欲しいとの返事を書き送っった。親友と会う約束ができた事でアンチョビはこの2年間まほとは一度たりとも会えず離れ離れであったが、やはり私達の絆が砕けることは無く互いを信じ、感じ合うことができていたのだと改めて確信し感慨深い思いでいっぱいになっていた

 

 

 そして約束の日曜日、アンチョビはそわそわしながら学園艦のヘリポートで待っているとついにまほの乗るヘリが到着したのであった。着陸したヘリから降りてきたまほにアンチョビは全力で駆け寄ると思い切り彼女の身体を抱き締めた

 

 

「まほ!ひっっっさしぶりだな!会いたかったぞぉー!!!」

 

「あ、ああ。久しぶりだな、安斎」

 

 

 突然抱き締められたのとアンチョビのまほは少し驚いたが、その温もりに懐かしさを感じると表情を柔らかくさせアンチョビを軽く抱き返してきた。久しぶりに会ったまほの姿を今一度まじまじと見てみると、羨ましくなる程に自分よりも女性らしいスタイルに成長しており加えて纏っている覇気も以前より遥かに大きくなっている事を感じされられ実力も相当付けている事が伺えた

 

 

「本っ当に久しぶりだなまほ〜!全く色々と大きくなっちゃってさ〜!」

 

「ど、どこを見て言っているんだ!··········そういう所は相変わらずなんだな·····」

 

「え?まほ·····?」

 

 

 まほの表情に一瞬陰りが差したのをアンチョビは見逃さなかった。そして何処と無くまほの様子に違和感を感じ何か傷つく様な出来事があったのかとアンチョビは嫌な予感を感じた

 

 

「·····何か嫌な事でもあったのか?私で良ければ幾らでも相談に乗るし力も貸すぞ!」

 

「え·····い、いやそんな事はないさ。久しぶりに君と会ったから少し緊張しているのかもしれない」

 

「親友同士遠慮はしなくていいんだぞ。本当に何もないのか?」

 

「大丈夫だ。心配させてすまない·····」

 

 

 杞憂だったのか、気になる所ではあったが彼女が大丈夫だと言うのでアンチョビは一旦深く考える事を止めた。そして気を取り直すと本来の目的であったまほに自分が今まで過ごしてきたアンツィオ高校を紹介するために彼女の手を取った

 

 

「それじゃあおまえに我が校のモビル道を紹介してやろう!美味しい屋台もいっぱいあるから楽しみにしててくれ!」

 

「ああ、期待してるよ安斎」

 

「違う違う、今の私はアンチョビだ!それじゃあ行こうか!」

 

 

 まほが手を握り返してくれたのでアンチョビは彼女の手を引き本校舎の方へ向かい始めた。まほにこの学園での生活のことや新しい仲間達のことなどアンチョビには話したいことが山ほどあった。しかしこの時彼女は知る由もなかった·····まほがその心中にどんな想いを募らせ今日ここに来たのかなど··········

 

 

 

 

 

 その後アンチョビはまほを連れ学園艦の色々な所を回った。学園内に出ている屋台を食べ歩きながら互いに積もる話に花を咲かせていたのだが、アンチョビがアンツィオのモビル道について色々と紹介していると時折まほが怪訝そうな顔を見せていたのだ。そして例の修行について聞いても頑なに何も話そうとしなかったので、先程は否定されたが彼女に何かがあったのかも明白だった。そんな何も打ち明けようとしないまほがまるで別人に変わってしまった様な気がしてアンチョビは不安に感じていた

 

 

「なぁ、まほ·····さっきは大丈夫って言ってたけど本当はどうなんだ?確かにこうして一緒に遊ぶのはかなり久しぶりだけどさ、もっとあの頃みたいに甘えてくれても·····」

 

「··········君は黒森峰での生活と現在(いま)の生活どちらが楽しいと思っている?·····どちらが今の君にとって大切なものなんだ·····?」

 

「な、なんでそんな事聞くんだよ·····?そんなの選べる訳ないじゃないか·····」

 

「おーい姐さーん!歓迎会の準備もうちょっとでできるっすよー!」

 

 

 するとアンチョビ達のもとにペパロニが大きく手を振りながら駆け寄ってきた

 

 

「ペパロニぃ!まほの歓迎会は内緒だって言ったじゃないか〜!」

 

「あれ、そうだっけ?·····あ!あんたが西住まほっすね!今日の所は歓迎してやるけど全国大会であたしら戦車隊が必ずあんたを落としてやっからその首洗って待っとけよ!」

 

 

 ペパロニはまほに対し全く臆することなく啖呵を切ると元来た方へと駆けて行った

 

 

「戦車·····?君達は試合で戦車を使っているのか?」

 

「ああ。お金が無くてMSが買えないのもあるけどあいつみたいにマゼラアタックが好きな奴もいるからな。各々が自分の心に素直になって勝利のためにやりたい様になるのが私達のモビル道なのだ!」

 

「····················腑抜けている····」

 

「·····へ?」

 

 

 思いがけない言葉を親友が呟いたのでアンチョビは思わず間の抜けた声を漏らした。そもそもあのまほが他者を否定する様な事を言うはずが無かったのできっとただの聞き間違いなのだろう·····とそう信じたかった

 

 

「·····安斎。二人きりで話がしたい。何処かいい場所はないか?」

 

「え·····あ、ああそうだな。それじゃここから近いし私の家に行こうか·····」

 

 

 この時点でまほがその心に傷を負い自分に会うため今日ここへ来たというのは明白だった。だからこそアンチョビは唯一の友としてまほの傷を癒してやらなければと思い、彼女と共に城の方へ向かったのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 城の中へ入りアンチョビは自身の部屋である隊長室にまほを招き入れた

 

 

「何か飲みたい物はあるか?お菓子とかもあるけど·····」

 

「結構だ。··········随分と楽しそうだな。私と共にいた頃よりも·····」

 

 

 机の上や壁にかけられているアンチョビと彼女の仲間達を写した数々の写真を見てまほは暗い表情で小さく呟いた

 

 

「まほ、話って一体何なんだ?·····絶対力になってやるから私になんでも話してくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

「··········安斎。こんな学園は辞めて黒森峰に戻ってきて欲しい。頼む·····」

 

「··········は?」

 

 

 まほの口からまたも信じられない言葉が出てアンチョビは思わず固まった。彼女は確かに自分に一度出て行った黒森峰へ戻って来いと言ったのだ。それは自分にアンツィオの仲間達を捨てろという意味でもあった

 

 

「な、何を言っているんだ?今更戻るなんてそんな事できるはずないじゃないか·····」

 

「心配しないでくれ。以前の様に君を妬み忌み嫌う者達がいるのならば一人残さず学園から追放し排除してやろう。それにお母様の事も心配しなくていい。今こそ私があの人を討ち西住流の全てを手に入れる·····そして君の様な戦士も認められる新しい西住流を作り出そうじゃないか」

 

「違う!私はもうこの学園で最後まで戦い抜くって決めたんだ!今まで沢山の人が私達を応援して力を貸してくれた····だからみんなの想いに応えるために私は此処から出ていくつもりはない!」

 

「安斎·····?何故だ·····どうしてそんな事を言うんだ·····?」

 

 

 幾ら親友の頼みとはいえそんな願いを聞けるはずがなかった。共に戦ってくれた仲間達や自分達を支えてくれた学園艦の皆を裏切ることなどできるはずがない·····アンチョビは確固たる意思をぶつけそれを受けまほは激しく動揺していた

 

 

「おまえこそどうしちゃったんだよ·····あの時私を応援するって言ってくれたじゃないか·····」

 

「·····私には君がどうしても必要なんだ。無理を承知で頼んでいる。この通りだ·····」

 

「そう言われても·····」

 

「帰っていたのかアンチョビ。おや、君は西住まほ君じゃないか。よく来てくれたね」

 

 

 まほがアンチョビに頭を下げその意を懇願する中、丁度トレーズが部屋の中に入って来た

 

 

「あ、トレーズ様·····今ちょっと取り込み中で·····」

 

「トレーズ?そうか貴方か·····貴方が安斎を惑わし堕落させた張本人か。トレーズ・クシュリナーダ·····!」

 

「え!?何言ってんだよいきなり!」

 

「騙されるな安斎。この男は元々連合軍のMS開発部隊のトップに君臨していたが、軍の意向に反したがために現在はその権威を全て剥奪され軍からも追われてしまった身なんだ。そしてこの学園の生徒達を己が望む私兵へと育て上げ再び元の地位へ返り咲くために利用しようというのが彼の心算だ·····」

 

「·····な、何訳の分からない事言ってんだよおまえは!そんなの嘘ですよねトレーズ様!」

 

 

 まほの言う話がアンチョビにはとても事実とは思えなかった。しかし何故かトレーズはまほの言葉を否定する事なくアンチョビの問いにも答えること無く沈黙を貫いていた。事実トレーズはアンチョビと初めて会った時よりも以前、地球連合軍直轄MS開発・試験大隊『OZ』の総帥を務めていたのだが軍の上層部や地球圏代表議会の意向に従わなかったため組織は解体、開発資料や施設は全て後任を任されたアズラエル率いるブルーコスモスに吸収され軍を追われたトレーズは隠居せざるを得なくなってしまったのだ

 

 

「·····黙っているという事は認められたという事ですね?」

 

「一つ気になるのだが一体それは誰の受け売りなのだね?西住師範とは友好的な関係を築いていたと思っていたのだが·····」

 

「それは貴方には関係の無いことです。安斎、この男が君に近づき誘惑し続けてきたのは全て君を都合のいい手駒として使うためになんだ」

 

「嘘だ!そんな訳がない·····トレーズ様がそんな人な訳あるもんか!」

 

「いや、まほ君の言う通り私が君の様な気高き戦士を欲していたのは事実さ。未来のために必要なら以前の地位へ戻りたいと考えたこともある·····しかしだねまほ君。私を何とでも言うのは構わないが、アンチョビは今まで自分の意思で戦い続けてきたのだ。自分の進むべき道を行くためにどんな時も挫けず迷わず純粋に駆け抜けてきた彼女を君は否定したいというのかね?」

 

 

 アンチョビがトレーズの手駒だと言うのなら、それは今まで自分の意思でその道を貫き続けてきた彼女の全てを否定することに等しかった

 

 

「詭弁を言う·····!その物言いで貴方は安斎をたぶらかし黒森峰から連れ去った!」

 

「まほ!もうやめろ·····一旦落ち着いて冷静になろう·····」

 

「·····私は席を外すとしよう。久々の再会の邪魔をしてすまなかったね」

 

「待て!そもそもアンチョビアンチョビと·····私の友人をそんなふざけた名前で呼ぶのは辞めて貰おうか!」

 

「んなっ!ふざけた名前だと·····?」

 

 

 まほは完全に冷静さを失いその感情を剥き出しに声を荒らげ、更にアンチョビにとって大切な人達から貰った『アンチョビ』という名前をふざけたものと唾棄してしまった。それが当のアンチョビの怒りに触れないはずがなくその拳を震わせていた。トレーズは嫌な予感がし一度二人を引き離すべきと察知した

 

 

「まほ君、少し私と二人で話そうか。不満ならばそこで幾らでも私にぶつけて貰って構わない」

 

「安斎がいて不都合なことがあるとでも?私にはわかる··········安斎が黒森峰にいた頃よりも結果を残せていないのは貴方達が安斎を堕落させているせいだ!」

 

 

 しかしまほは止まろうとせず激発させた感情をトレーズへぶつけ続けた

 

 

「それにこの学園は性能の低いMS達だけでなく戦車まで試合で使っているそうじゃないか·····そんな舐め腐り切った姿勢がモビル道で通用すると思っているとは馬鹿にしているのか!」

 

「··········黙れ·····頼むから黙ってくれ·····!」

 

「アンチョビ·····?待てアンチョビ、落ち着くんだ」

 

「貴方だけじゃない·····この学園の生徒の様な低俗な連中に何時も囲まれているから安斎は惑わされその力を日々失っている·····!安斎にとって貴様達は邪魔でしかないんだ!私の友を返してもらおうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 その刹那、アンチョビは怒りを滲ませた形相でその手で思い切りまほの頬を張った

 

 

「·····え?安·····斎··········?」

 

()()()()()まほ·····!おまえは·····おまえは本当に変わってしまったよ!」

 

「アンチョビ!」

 

 

 凄まじい剣幕でまほの襟首を掴み上げるアンチョビをトレーズは引き剥がした。まほは今アンチョビがアンツィオに来てから手に入れたかけがえのない存在の全てを否定したのだ。トレーズのことを、先輩達がくれた名前を、自分達のモビル道を、着いてきてくれる仲間達のことを·····例え相手が親友だろうとそれらを全て否定され我慢できるはずがなかった

 

 

「··········出て行け。·····さっさとここから出て行け!」

 

「安斎·····私はただ君に戻ってきて欲しくて·····また君が傍にいて欲しかったから··········」

 

「黙れ!誰がおまえの傍になんているもんか········もう絶交だ!二度と私の前に現れるな!」

 

 

 

 絶対に言ってはならない言葉をアンチョビは言い放ってしまった。まほがあんな事を本心から言える人物ではないと心のどこかではわかっていた·····だがそれを忘れてしまうほどに込み上げる怒りをアンチョビは抑えることができなかった。彼女から絶交という言葉を受けたまほは一瞬雷に撃たれたかのように固まり、その後何も言わずに部屋の外へ逃げる様に走り去って行った。すれ違う際彼女の頬に涙が伝って行くのが見えたが怒りの最中にあるアンチョビの目には映らなかった

 

 

「アンチョビ·····まほ君は君の親友だったはずだ。絶交だなんて口に出すべきではなかった」

 

「もういいんです!所詮低俗な私と西住流のあいつは友達になれる訳なかったんですよ·····」

 

 

 例えどんなに離れていようとも二人が進む道は同じ、あの日見た遠い星の光の様にどんなに時が経っても二人の絆は繋がり続ける··········お互いそう信じていたはずなのに今アンチョビとまほの道は分かたれようとしていた

 その後本来予定されていたまほへの歓迎会は中止となった。そして自分が弱いばかりに親友に捨てられたのだと感じていたまほは黒森峰へ帰還した後、みほが大洗で新しくモビル道を始めた事を聞き、己が失った物全てを取り戻せる程の圧倒的"力"への渇望を湧き上がらせた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後、アンチョビは自分のしてしまったことを悔いていた。確かにまほが言った言葉の数々は許せるものではなかったが、それでも親友なのだから彼女の言葉を全て受け止めその上でちゃんと分かり合わなければならなかったのだ。にも関わらず手を上げた上に絶交だとまほにとって一番酷いことを言ってしまったのでアンチョビはただただ後悔していた

 

 

「アンチョビ。·····やはりまだまほ君のことを考えていたのかね」

 

「トレーズ様·····何かご用でしょうか?」

 

 

 部屋の机に突っ伏しながら自責の念に駆られていると扉の向こうからトレーズの声が聞こえてきた

 

 

「君に見せたい物がある。ついてきたまえ」

 

「·····?わかりました·····」

 

 

 アンチョビは何事かと思い部屋の外へ出てトレーズの後を着いて行った。そのまま彼の部屋に入ったかと思うとトレーズは懐からカードキーを取り出し暖炉上に飾られた置物のライオン像の口に差し込んだのだ。すると暖炉が大きく横へずれ長く下へと続く隠し階段が現れたのだ

 

 

「うわっ!なんですかこれ·····」

 

「·····行こうか。足元に気をつけるように」

 

 

 片手に灯を点けたランプを持ちトレーズが階段を降り始めたのでアンチョビも彼の後に続いた。おそらく学園艦の地下へと続いているその階段はランプの明かりが無ければ何も見えない程の闇に包まれていた

 

 

「トレーズ様·····一体私達は何処へ向かっているんですか·····?」

 

「君の方こそ今何処へ向かおうとしているの?君が選んだ道は、望む未来は一体何を目指しているというのだね?」

 

「·····教えてください。わからないんです·····どうすればまほと仲直りができるのか·····」

 

 

 あれから数日、アンチョビは何度かまほに連絡を試みたが取り合ってもらえずにいた。その上直接会いに行くことは確実に叶わないためどうすればいいのかわからなくなっていた

 

 

「·····その答えを私が示すわけにはいかない。君が自分で答えを見出さなければそこには何の意味もないだろう」

 

「そうですよね·····でも今のあいつに私の声を届けられる気がしなくて·····」

 

「だが声に出さなくともその想いを伝える方法を君はもう知っているはずだ」

 

 

 そしてアンチョビは暗くてわかりづらかったが自分達が階段を抜けかなり広い空間に出た事に気づいた。その闇の中鈍い光を放つモニターにトレーズは近づき画面を操作した。すると激しい光によって空間内は明るく照らし出されアンチョビの目の前に大きな隔壁がある事がわかった

 

 

「今まで私と共によく戦い続けてくれた。そしてこれは私が君へ送る新たなる剣だ」

 

 

 トレーズの言葉と共に隔壁はゆっくりと開かれていった。そしてその中にはアンチョビの愛機であるギャンが膝をつき眠りについていた·····のだがそのギャンの姿は以前のものとは装備や外装が所々変わっておりもはやアンチョビの知る本来のギャンではなかった

 

 

「これは·····私のギャンですよね·····」

 

「君が君の戦士としての意志を貫くために、君の望む未来を切り拓くためにこの機体を使って欲しい。·····だから戦え、戦うのだよアンチョビ。その想いを刃に乗せて·····君の心のままに戦い続けて欲しい」

 

「·····わかりました。ありがとうございますトレーズ様。もう迷いません·····誰よりも戦士として、私の意志でどこまでも戦い抜いてみせます!」

 

 

戦士(クリーガー)の名を持つアンチョビの新たなる機体【MS-15KG ギャンK(クリーガー)】。生まれ変わった愛機を得てアンチョビはより迷いのない戦士として自分の意志を貫き続けることを新たに決意した··········そしてまほに想いを言葉ではなく、その刃に乗せて彼女に届けるために·····

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました

アンチョビ外伝を始めたのも全てこの話を書くためだったので今までお付き合いいただき本当にありがとうございます。ラストはアンチョビの新機体譲渡イベントで締めさせていただきました。ちなみにタイトルの元ネタは知っての通りガンダムWより『その名はエピオンです』

ここまで色々なキャラクターが登場しましたがこれからも本編に引き続き登場し活躍させる予定です。特に前回が初登場だったカルパッチョをニュータイプであるかの様な紹介をさせてもらいました。というのもガンダム作品における早見沙織さん演じるキャラクター達には共通点のような物があるのでそれ故にとご理解頂けると嬉しいです

申し訳ない事に僕が我慢できなかったために投稿期間が前後してしまいました。本当に申し訳ありません。順番的にこの話を読んだ後に此方を読んで頂けると有難いです【https://syosetu.org/novel/176900/22.html】









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第二章 灼鉄の生き様、光る風となった少女
14話 二校合同演習


今回から本編再開となります。それに合わせて目次も一新してみました

第二章では当ssの世界観の補足やそこそこ重要な話を書いて行こうと思います

本当に久しぶりの本編だったのでかなり新鮮な気分でした()


 黒森峰女学園から大洗女子学園へ一人転校したみほ。モビル道を再び始めるよう杏から強要されてしまい周囲からまたニュータイプという異能たる存在として接せられることを恐れた彼女はその力と精神を決して表に現れぬよう心の奥底に沈めた。ごく普通の女の子として新しく始めることをみほは強く望んでいたのだが、宇宙へ上がったみほを待ち受けていたのは自分と同じニュータイプである島田愛里寿であった。思念体のみとなった姉を取り戻す悲願のため暗躍し続けてきた愛里寿達はみほの身体を彼女の器へするため連れ去ろうとしていたが、偶然通りがかった知波単学園の絹代・フリートと何の前触れも無く突如として乱入してきたマクギリス、そしてみほの母親西住しほがみほ達の救援に駆けつけたため撤退を余儀なくされたのであった。その後しほから今まで何一つ聞くことも知る由もなかった月のニュータイプ研究所という平穏な時代に凄む暗部を聞かされ、みほは捨て去ろうとしていたニュータイプとしての自分と再び向き合わされようとしていた

 

 同時に地球では、妹と親友に袂を分かたれ失意の底に叩き落とされていたまほは全ての発端である弱き自分を否定し切り捨てるため、世に絶対的な力を示し失ったもの全てを取り戻すために今は亡き祖母西住シズワが所有していた武者を思わせる黒き和面を付け修羅の道を進む覚悟を決めていた。そして木星より地球圏に帰還した地球連合軍のニュータイプ、マリー・タイタニアは自身の持って生まれた使命を果たすため、その手駒にまほを利用しようと彼女へ近づき始めたのであった·····

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙へ上がり地球と月の間に位置するしほの星シュバルツ・ファングに滞在していた大洗女子学園一行はこの日基地周辺の宙域に出航しモビル道全国大会に向け宇宙空間での訓練に励んでいた。昨日はアロウズが展開している月周辺の宙域で訓練をしたため妨害を受けてしまったが、この宙域はしほが守護しているため不明勢力の侵入は許されずみほ達の安全は約束されていた。そしてこの日は昨日共に入港していた知波単学園の艦隊も共に活動していたので現在二校による大艦隊が展開されていたのであった

 

 

「知波単学園か·····強豪校じゃないって話だけど実際並んでみるとうちと比べて随分立派だよねぇ」

 

 

 ホワイトベースのブリッジから、杏は艦長席に座り持参していた干し芋を食べながら側面に並んでいる知波単学園のザンジバル4隻と旗艦リリーマルレーンを眺めていた。艦隊周辺に展開しているMS達もよく整備されたザクIやF2型、ドラッツェにゲルググMなど戦力としては十二分なものばかりであった。杏と共にブリッジ内にいた沙織とロックオン、舵を取っていた柚子も感心しながら知波単学園の艦隊に目を奪われていたが、そんな彼女達に関する資料を手にしながら桃は余裕そうな笑みを浮かべていた

 

 

「一度だけ全国大会ベスト4まで進出するなど昔は勢いがあったようですがここ数年は毎年一回戦で敗退しているらしく猪の様に突撃するしか脳の無いモビル道とのことです。仮に当たったとしても警戒する必要はないかと」

 

「うーん、最近始めたばっかのうちらからしたらあんないい艦とMS持ってるだけでも嫌な相手な気がするけどね。でもそんな知波単の方から一緒に訓練しないかって誘われるなんてツイてるよ。何があったかよくわかんないけど秋山ちゃんには感謝しないとね〜」

 

 

 この合同訓練が実現したのは昨日シュバルツ・ファングに到着するまでの間。知波単のザンジバルに乗艦していた優花里は何故かマシュマー・セロに気に入られてしまい彼からやたらと熱いアプローチを受けその中で合同演習の提案を持ちかけられ、後程みほと杏と話し合ってその話を承諾するに至ったのであった

 

 そして修理中の高機動型ザクに代わって知波単から借りたF2型で出撃した優花里は例の約束の通りマシュマーに付きまとわれる形で宇宙空間を高速で機動していた

 

 

「お上手です秋山さん!まるで湖畔に舞い降りた1羽の白鳥の様·····貴女のようなパイロットのいる大洗女子学園が羨ましいです·····!」

 

「あはは·····ありがとうございます。そ、そろそろ他の皆さんと合流しませんか?流石にいつまでも1対1というのも·····」

 

「なんと·····このマシュマーを態々気遣い労わってくれるとはなんと暖かい心を持ったお方なのだ·····!しかしご心配なさらずに!このマシュマー、誇り高きエンドラの騎士として必ずや今日貴女を立派なパイロットにしてみせましょう!」

 

(だ、駄目だ·····話が通じそうにないです·····)

 

「マシュマー様〜!駄目じゃないですか他校の生徒にばかり構ってたら!今年絹代様達がいい結果を残せなかったら私達が怒られるんですよ〜!?」

 

「む、ゴットンか!あの猿共の世話は貴様に任せると言っただろう!今いい所なんだからさっさと失せんか!シッシッ!」

 

 

 優花里に対し騎士の様に振る舞うことで自分に酔おうとしていたマシュマーは邪魔をしようとするゴットンのF2型を追い払うためマシンガンから演習弾を乱射した。そんな優花里とマシュマーの様子を見ながら沙織は頬を膨らませていた

 

 

「いいなぁゆかりんばかりイケメンな人と仲良くなれて·····ていうか知波単学園って共学だったんですか?」

 

「そういえば確かに知波単の学園艦って女子しかいなかったね?ニールちゃん同じ男子なんだし何か知ってる?」

 

「色々調べてみたがあそこの学園も色々ややこしくてな。確かコンペイトウっていう元々資源採掘用の小惑星だった星にエンドラ学園っていう学校があってな。そこが数年前に政府の決定で地球のデカい学校に併合されることになってな。それに選ばれたのが知波単学園だったって訳でエンドラ学園は無くなって知波単学園に名前を変えたって訳だ。なんでそんなことする必要があったのかは聞いた事ねぇけどな·····」

 

「ドーシテ、ドーシテ、ドーシテ·····」

 

 

 ロックオンは少し難しそうな表情で語り赤ハロも独自に検索を掛けたもののそれらしい原因が見つからなかったのかクルクルと混乱したかのように回転していた。月とL5地点にて試験的に人民移住が実施されていた十数基によるスペースコロニー群の間にコンペイトウは浮遊し多くの人々がその中で生活していた。だが資源採掘衛星なため地球圏代表議会の所有物であるコンペイトウに自治権はなく、何らかの目的を孕んでいた知波単学園への吸収も逆えぬまま強行されたのだ

 杏達は島田流と月の研究所をはじめ、宇宙で生きている人々に関して自分達は何も知っていなかったことを痛感すると共に頭を悩まされていた

 

 

「今まで一生行く事無いと思ってたから考えたことなかったけど宇宙にも沢山の人が暮らしてて地球の政治と繋がってるんだからね·····自分の人生とは関係ないかもしれないけどもっと世界について自分から知ろうとしなくちゃね〜」

 

「そうだな。こういうのは本来学校で教えたり政治番組とかで報道するべきだと思うんだが、いつからか宇宙に関する話はめっきり知らせない様になったらしいからな·····俺らみたいにモビル道始めてから宇宙でどんな問題が起きてるのか初めて知ったなんて奴も少なくないさ」

 

「どうしてそういう大事ことを知らせなくなったんですか?確かに宇宙に行かない以上関係のない話かもしれないけどもっと皆に知らせるべきなんじゃ·····」

 

「さぁな。地球で暮らしてる連中にとってどうでもいい話をしたって儲けにならないとでも思ってるんだろう。ただ例のアロウズとかいう連中·····連盟の方からモビル道やってる団体にアイツらに注意する様警告しなきゃ駄目だと思うんだが一体政府の役人さん達は何を考えてんだ?」

 

『ロックオン・ストラトス教官聞こえているか?すまないがMSデッキまで応援に来てくれないか·····?』

 

 

 突然MSデッキの方から訓練に同行してくれていたしほの懐刀、アナベル・ガトーが切迫した様子でブリッジに連絡を入れてきた。現在MSデッキではリュウセイやナカジマ達と共にシュバルツ・ファングから着いてきてくれたメカニック達により襲撃を受け大破してしまったみほ達のMSの修理が急ピッチで行われており、一部のメンバーは艦内に残ってガトーの指導のもと宇宙空間戦闘に関する指導を受けていたはずなのだが·····

 

 

『ねぇねぇ教官さん〜本当は蝶野教官のことどう思ってるんですかぁ〜?誤魔化さないでくださいよ〜』

 

『ガトー教官もバレー始めましょうよ!教官ならいいスパイク打てそうですしユニフォームも絶対似合うと思います!』

 

『その振る舞いに言い回し、教官殿も戦国時代に精通していると見た!そして貴方が意識している戦国武将はずばり本田忠勝だ!』

 

『ええいやかましい、やかましい!せっかく家元が君達のために私を遣わしたというのに無駄話をしている場合じゃないだろう·····って言ってるそばからチョロチョロするんじゃない!大人しくしとらんか!』

 

『ヒッ·····ごめんなさい教官さん··········』

 

『なっ·····す、すまない、別に怒っている訳ではなくてだな·····とにかく早く来て欲しい!私一人ではとても手に負えん!』

 

 

 ガトーは個性的で自由奔放な大洗女子のメンバー達にすっかり振り回されていた様で現場を居合わせずとも彼が当惑している姿が目に見えた。しかしロックオンはこれから始まろうとしていたみほ達と知波単の隊長である絹代の部隊による軽い戦闘演習の監督をしなければならなかったのでブリッジを離れる訳にはいかなかった

 

 

「うーん困ったな·····そうだ、ファリドの野郎に頼もうぜ!アイツなら今退屈してるだろうしあのおっさんよりも皆の世話に向いてるはずだ!」

 

「確かにマクギリスさんは私達年下の扱いは慣れてそうだしあのまま部屋でじっとさせてるのも可哀想だからいいかも!早速お部屋の方に連絡入れますね!」

 

「ちょい待ち武部ちゃん。ニールちゃん忘れたの?ママ住さんからあの人達を艦内でうろつかせちゃ駄目って出航する前に言われたじゃん」

 

 

 訓練のためシュバルツ・ファングから出航する前、基地所属の整備士達と臨時の教官兼みほを念の為護衛するため同行する事になったガトーがホワイトベースへ乗艦しに来た際、杏とロックオンは自分達の見送りに来てくれたしほからある忠告を受けていた。それはアロウズの者達が再びみほを狙いこのシュバルツ・ファングの宙域内へ侵入してくるかもしれない事、そして昨日からホワイトベースに身を置いていたマクギリスと彼の部下である石動をできる限り個室に軟禁し艦内を好きに移動させるなとの事であった

 ロックオンは彼らはただの大学生であるとしほに説明したが彼女は納得しようとせず頑なにマクギリスへの警戒を解こうとせず、みほを助けてくれた恩人とも言える彼らに何故そんな扱いをしなければならないのかロックオンは納得できず反論しようとした。だがしかし当のマクギリスが「疑われるのであれば仕方なし」と容認し現在も自習室で待機していたのであった

 

 

「確かにアイツらもアロウズみたいに俺達にとっちゃ完全な部外者だったけど西住師範は少し考えすぎなんだよ。ロリコンとはいえそこん所以外はしっかりしてそうな奴だし信用できると思うけどな」

 

「えっ·····マクギリスさんってロリコンなんですか·····」

 

「ロリコンハンザイ! ハンザイ!」

 

「ニールちゃんが言ってることもわからなくないけどママ住さんがあそこまで言ってるからなんか怪しく感じちゃうんだよなー·····ま、もし何かあればガトー教官が何とかしてくれるだろうし大丈夫そうかな」

 

 

 杏もロックオンと同じく自分達の教官を無償で買って出てくれたマクギリスを信用したいと思っていた。だがしほが何故彼をそこまで警戒し自分達に注意するよう促してきたのかも気掛かりであったため、今ひとつ彼を自由にしていいのか判断しかねていた·····

 

 

 

 

 

 一方みほは華、麻子、カエサルの3人と共に知波単学園の西絹代達と模擬戦闘演習を行うためホワイトベースから宇宙空間へ出撃していた。みほ達も優花里と同様に修理中のMSに代わって知波単から借りたMS、【MS-14F ゲルググM(マリーネ)】に搭乗し演習開始を待っていた

 

 

「それにしてもいつものコックピットと少し違いますね·····どうしてでしょう?」

 

「確かに私のガンキャノンとも随分違う気がする。基本的な動かし方は変わらない様だが·····」

 

「ああ、五十鈴さんと冷泉さんはジオン系の機体は初めてだったか。確かに二人がいつも乗ってた連邦系のMSとゲルググのコックピットは造り元が違うからな。西住さんもいつもガンダムに乗っていた訳だが大丈夫か?」

 

「私は黒森峰にいた頃いつもイフリートに乗ってたから大丈夫だよ。まさかこんなゲルググなんていい機体貸してもらえるとは思ってなかったけど·····」

 

『西住さーん!此方の準備は整いました!そちらの合図でいつでも始められます!』

 

 

 するとみほの機体のもとに少し離れた場所に待機していた絹代の方から通信が入った。戦闘演習の内容は4対4で敵機をロックするか演習用に込められたペイント弾を命中させるか、サーベルの間合いまで詰め投降させるかなどの機体をなるべく損傷させない比較的緩い撃破ルールを採用していたため全部で数試合行う予定であった

 

 

「それじゃフォーメーションは私とカエサルさんが前に出るので華さんと麻子さんは後方から援護を·····」

 

「そのことなんだが西住さん。ここは思い切って西住さんが後方支援で前衛は私達三人に任せてくれないか?」

 

「ふぇ!?私がですか!?」

 

 

 突然カエサルの方から提案を投げかけられ何故かみほは意表を突かれた様な声を上げた

 

 

「確かに機体の都合上西住さんには前へ出てもらうしかできなさそうだからたまにはいいかもしれない。それに私もこのビームサーベルというので西住さんみたいに戦ってみたい·····」

 

「この先全国大会でみほさんばかりに負担を掛けさせる訳にはいきません。それにこの機会にみほさんの射撃技術をお手本にしたいです!」

 

「あわわ·····え、えっと実は私··········」

 

「決まりだな。それじゃあバックアップは任せたぞ西住さん!」

 

「えええええーっ!?」

 

 

 みほは何かを明かそうとしたが三人ともすっかり同調していたようで加えて演習が今にも始まろうとしていたため、みほは仕方なく支援射撃に望むことにした

 

 

『それではこれより大洗女子学園と知波単学園による模擬戦を始めます!··········試合開始!』

 

「よーし行くぞ!全機突撃ーッ!!!」

 

 

 ホワイトベースの沙織から演習開始のアナウンスが響いたのと同時に、絹代のマリーネ・ライターを筆頭に僚機のゲルググM達はみほ達の方へ一斉に吶喊し始めなんの躊躇いもなく一直線に迫ってきた

 

 

「一斉突撃か!五十鈴さん冷泉さん三人で囲んで各個撃破だ!西住さんは援護を頼む!」

 

「了解です!」

 

「了解した。·····ん?」

 

 

 麻子は展開しようとしていた所自機の脚部にペイント弾が命中したことに気づいた。絹代達はまだ発砲していない··········現在この宙域でマシンガンを撃ったのは丁度援護射撃をし始めたみほのゲルググMのみであった。特に射線上にいた訳でもなかったのだが麻子の機体に命中させたのは確かにみほのゲルググであった

 

 

「あわわわわ·····麻子さんごめんなさい!」

 

「当てたのは西住さんか?誤射なら仕方ないな」

 

「あれ!?冷泉さんもうやられたのか!?」

 

「突撃ーーーーーッ!」

 

 

 麻子が早々に被弾してしまったことに気を取られ動揺する華とカエサル、申し訳なさそうに謝罪するみほに一直線に突撃していた絹代達は一陣の嵐の如くペイント弾を掃射し命中させながら駆け抜けて行った。少し気まずく何とも言えない空気の中あっという間にペイントまみれになってしまったみほ達はその場で呆然としていた

 

 

「·····と、とりあえず一旦帰投して絵具を落として次の試合に備えよう!」

 

「麻子さん·····皆本当にごめんなさい··········やっぱり私に後方支援はちょっと·····」

 

「気にするな西住さん。私はあまり気にしてないからな」

 

「私もすぐにやられてしまいましたので申し訳ないです·····次こそはもっと上手く動いてみせます!」

 

 

 気を取り直しみほ達は改めて演習を行うため艦へ一旦帰投して行った。被弾を受けた麻子は若干みほに違和感を感じたがかつて黒森峰のエースパイロットを誇っていた彼女に非の打ち所があるはずもなかったので直ぐにその疑念を払ったのであった

 

「やりましたよ西隊長!ついに私達も先輩方の様な突撃を成し遂げることができましたね!」

 

「うーん、何やら向こうは異常があったみたいだからまぐれだったんじゃないのか?とりあえず我々も一度帰投するぞ!」

 

 

 みほ達の間で何かが起きていたことは絹代も何となく察しており他のメンバーに帰投を命じ旗艦のリリーマルレーンへと一度帰って行った

 その後もみほ達と絹代達は模擬戦を何度か繰り返した。しかしどの試合でも後衛を担当するみほは初戦のように味方を撃つことは無くなったが、それでも猪の様に突撃してくるだけの絹代達に一発もマシンガンの弾を命中させることができず、寧ろ回避すれば当たってしまうという方角にしか撃てていなかったのだ。この時点で何試合かやってる途中で麻子だけでなく華とカエサルも、ホワイトベースのブリッジから観戦してた杏や沙織達もある事を確信した。今まで披露されることが全く無ければそんな弱点があると誰一人と思いもしなかったのだが、みほは射撃のセンスが低かったのだ·····それも初心者の麻子達と比べてもかなり絶望的に·····

 

 

「·····ねぇかーしま、小山。西住ちゃんのこと調べた時ちゃんと全国の中でもトップレベルのパイロットだって言う話だったよね?」

 

「その情報は確かかと。西住め、相手が弱小校だからと手を抜いているというのか·····?」

 

「あ、そういえば!西住さんが出てた試合の画像とか映像!全部ビームサーベルで大暴れしてる物ばかりだったと思います!」

 

「みぽりん性格に見合わず結構積極的な戦い方が好きなんだね·····!」

 

「オイオイまじかよ·····今まで射撃訓練をパスしてたのはガンダムだけのせいじゃなかったって事か·····はぁ·····」

 

 

 ロックオンはみほの予想外の弱点を目の当たりにしでかでかとため息をついた。かつてエーススナイパーとして名を馳せていた彼にとってみほが射撃を苦手としていることは実に受け入れ難い事実であった

 

 

「こんなに射撃が下手なのをママ住さんは知ってるのかな?·····そもそも知ってたら放っておくわけないか」

 

「仕方ねぇな、隊長がサーベルを振ることしか脳にないなんて他所に面目が立たないからこれからはビシバシ鍛えてやるとするぜ。射撃が下手な奴なんてうちには河嶋だけで十分だしな」

 

「ちょっとそれどういう意味ですか教官!というか大体西住はニュータイプとかいう凄い奴だったんじゃないのか·····がっかりさせてくれる·····」

 

「まーまーそんな事言わずにさ。ニュータイプって言っても私達と同じ人間なんだし苦手なことの一つや二つあってもおかしくないって。·····けどママ住さんがくれるって言うガンダムのこともあるし、これはちょっと全国大会までに何とかしないとマズイかもね」

 

 

 杏は先の全国大会と黒森峰女学園から譲渡される事となっていた試作4号機ガーベラの存在を見据え少し不安に感じていた。宇宙へ上がり様々な事を知りやるべき事も見つけたが今の杏にとって、全国大会で優勝すること以上に重大なことはなかった。例えそれが不可能な話だったとしても杏は戦わなければならなかったのだ·····

 

 

 

 

 

 

 

 

「··········皆本当にごめん。せっかく知波単の人達との演習だったのに私が足を引っ張ってばかりだったせいで·····」

 

 

 模擬戦が一通り終わった後、艦へ帰投する前にみほは先ず一番に麻子達へ謝罪した

 

 

「大丈夫ですよみほさん。でもみほさんが射撃戦が苦手だなんてちょっと意外ですね····」

 

「話をよく聞いていなかった私も悪かったよ·····すまない西住さん·····」

 

「謝るのはもういいだろう。だがいくら格闘戦しかできないガンダムに乗ってるとはいえこれからは射撃訓練にもちゃんと参加するべきだと思うぞ」

 

「うぅ·····わかりました·····」

 

「おーーーい!西住さーーーん!」

 

 

 昔から避けてきた射撃訓練への参加を苦々と受けたみほのもとに絹代のマリーネライターが接近してきた

 

 

「あっ、西さん。今日は一緒に訓練をしてくれてありがとうございました」

 

「いえいえお礼を言うのは此方の方です!本当に楽しかったです!こうして他校の皆さんと一緒に訓練するのは初めてだったので!」

 

「え·····そうなんですか?」

 

「私達知波単学園はこの通りかなりの弱小で数年前ちょっとした事件を起こしてしまいましてね、今じゃこういった合同演習を受けてくれる学園は何処にも無いと思ってました。·····この後リリーマルレーンの方で食事会をやろうと思っているので是非皆さんでいらして下さい!ではでは!」

 

 

 絹代のマリーネライターは此方へ手を降ってから踵を返しリリーマルレーンの方へ帰って行った。あまりにも突然な食事の誘いであったがみほ達はその言葉に甘えようと思い、皆にその旨を伝えるためホワイトベースへ帰投して行った。先程絹代の言っていた言葉をはじめ、みほはあまり知波単学園のことを知らなかったので是非彼女達の話を聞きたいと思っていた

 

 だがこの時みほは思いもしなかった。月のニュータイプ研究所が造り出したある戦士が知波単学園と、絹代と大きな関係を持っていたなど·····

 

 

 

 

 


 

 

 

 先程、ガトーからの通信により話を切られてしまったがロックオンの考えていた通りモビル道連盟の方からアロウズの存在を公にできない事には理由があったのだ。というのは杏達の様な若者達へ宇宙に住む人々の姿や彼らの置かれている環境を伝えることができないことと同様に、代表議会が古くから教育機関やメディアへ対し宇宙に関する情報において開示できる内容を徹底的に規制し容認していない情報を公開しようものなら粛清を与えるという政治体制を影で強いていたからであった

 故にスペースノイド達の情報が地球市民に伝えられることはなくなり、現在地球と宇宙の双界は同じ人類が住む地でありながら完全なる別世界の様に分かたれていたのだ。当然地球に宇宙の時事が公開されてないとなれば島田衛率いるニュータイプ研究所の様な組織が暗躍し始めることとなる··········だが彼らの行動が敢えて許されているのもまた地球連合軍内の()()()()の圧力によるものであった

 

 

「フー··········ここが大洗女子の学園艦か。黒森峰よりも小さいがのどかでいい感じじゃないか」

 

 

 みほ達が留守にしていた大洗女子学園の学園艦上に1機のヘリコプターが着陸、中からは黒地の上の襟元や袖口などワンポイントを赤くあしらった軍服の上へ漆黒の外套を纏った銀髪の女性と同じ配色の軍服を着た黄緑髪の頭にオレンジのゴーグルを掛けた少年が降りてきた。地球連合軍の従来のデザインとは異なる軍服を着ていた二人の内、愛用の黒タバコを美味そうに吸っていた女性の方は襟元に付けられた階級章から『大佐』である事が伺え少年の方は『中尉』であることを示していた

 

 

「いい加減禁煙しましょうよジェンダーさん。あんまり吸いすぎると病気になりますって·····」

 

「宇宙じゃあまり吸えなかったんだから久しぶりにたっぷり吸わせてくれよ。それにだぞラヴァ、好きになった人が私みたいな重度の愛煙家だったらおまえはどうするつもりだ?」

 

「う、·····そりゃ許しちゃうかもしれないけど身体の方が心配っつーか·····」

 

「なーに心配するな。そうだな·····スペースノイド共を残らず殲滅し父の無念を晴らした時にでも考えやるか。お、そこのかわい子ちゃん達!ここの生徒会長ちゃんに会いに来たんだが何処へ行けばいいか教えてくれないか?」

 

 

 近くを通りかかった学園の生徒を軍服姿の女性、ジェンダー・オムは取り出した携帯灰皿へタバコを処理し手を振りながら笑顔で呼び止めた。男性顔負けの端正な顔立ちを持つジェンダーから突然声をかけられ大洗の生徒二人ドキッとしたのか少し緊張した様に応えた

 

 

「せ、生徒会の人達は今皆留守にしていたと思います。確かモビル道のために宇宙へ数日間合宿に行くとか言ってたかな·····」

 

「モビル道の合宿?·····留守にしてるのなら仕方ないな。二人ともありがとう。ここは本当に住みやすそうでいい学園艦だね」

 

 

 ジェンダーは呼び止めた女子生徒二人に礼を言い、二人は恥ずかしそうにその場から走り去って行った

 

 

「モビル道を復活させたとはな·····ククク、まさかあの話を本気にしていたとはお笑い物だ」

 

「生徒会長がいないとか骨折り損すね····てかあの話って何のことですか?」

 

「そんな大した内容じゃないさ。そうだな、他に会いたかった奴もいるし会長を待つついでにダカールでの式典の日までここに滞在するとしよう。いずれこの学園艦は我らティターンズが中継基地として徴収する訳だ、色々と見て回ろうじゃないか·····」

 

 

 かつて宇宙の民から『鬼畜』と恐れられていた地球連合軍バスク・オム大佐の娘、ジェンダー・オムは心の闇が垣間見える邪悪な笑みを浮かべ新しく咥えた黒タバコに火を点けると街の方へ歩き始めた。宇宙で暗躍するアロウズと相対するかの如く、地球にもまた彼女の様に己の黒き野望を掲げ起ち上がろうとする者達が徐々にその動きを活発化させようとしていたのであった··········

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マシュマーによって開かれた食事会に参加したみほ達。しかしそこで明かされたのは宇宙という厳しい環境が生んだ事件と冷酷な現実に立ち向かっていた母の戦いの歴史であった

 

次回 ガールズ&ガンダム 『サイド1コロニーでの悲劇』

 

 明かすべき真相や歴史は、全て宇宙という無限の闇の中へ·····

 




読んでいただきありがとうございました

杏や沙織の様に地球に住んだ事しかない子供達が宇宙に関して疎いというのはΖガンダムの世界における一般人の目線を想像して書いてみました

今回からアンチョビ外伝に登場していたジェンダー・オムも本編に合流します。初めは普通にバスク・オムを登場させようと思ったのですがあくまでガルパンとのクロスなので女の子がメインであるべきと考え、オリキャラとして娘を登場させようと思ったのがきっかけです
原作のバスク・オムさながらの本当にド外道で最低最悪なキャラクターとして以後登場してくると思います。そのためちょっとしたネタバレですが当ssの大洗女子学園が廃校になる理由がかなり胸糞悪いものになってくると思いますのでご了承の程よろしくお願い致します




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15話 サイド1コロニーでの悲劇

 今回冒頭に少しだけバミューダ三姉妹が登場します。ガンダム作品には黒い三連星やヤザン隊をはじめ手強い三人組が敵として登場し主人公にたちはだかります。その中でも個人的にかなり実力があると思う三人組をモデルにさせていただきました(尚、三姉妹は0話やまほの仮面に陰ながら登場していたりします)

 今回当ssの世界設定やしほの設定など多く詰め込んだため大変情報量の多くなってしまったと思われます。予めご了承の程よろしくお願いします



 月の周回軌道からそう遠くない宙域より戦闘機の様な姿の青い機体が3機、進路上を阻む小隕石やデブリを最小限の動きだけで回避しながら月へ向けて三位一体のフォーメーションを崩すことなく高速で飛行していた

 

 

「大隊長達上手くいったかな·····なんでこんな時に限って私達だけ衛さんから新型のテストを頼まれちゃうのかな·····」

 

「軍も人手不足なんだから仕方ないじゃない。けど、こんな事頼まれなければ私達も着いていけたのにね·····成功していればいいのだけれど」

 

「大丈夫よルミ、アズミ。レビンが調子に乗ってなければいいけどよっぽどの事が無ければ成功してるはず。今は大隊長達が上手く西住みほを手に入れてると信じるしかないよ」

 

 

 月のニュータイプ研究所が試験部隊として組織しているモビル道のプロチームνA-LAWS(ニューアロウズ)。メグミ、ルミ、アズミはそれぞれの両親が研究所の職員であるため幼い頃からアロウズに所属しており、3人はこの数日間月の防衛軍が開発した新型MSの運用試験を命じられていたのであった。モビル道のプロ選手とは各々が契約したチームの選手として試合に出場することが主であったが、3人の様に軍からの要請を受け軍用MSのテストパイロットとして抜擢される事がありその動きは地球でも同様に行われていた。そして実力次第では学生も対象に選ばれる事もあり、時には正規の軍人よりも高い階級と給料を約束された上で正規パイロットとして軍に迎えられる程であった·····そして近年、特に地球では来たるべき何かに備えてなのか、優秀なMSパイロットを集めようとするその動きが更に活発に行われていた

 

 

「そういえばこのジャムル・フィンっていずれ私達の物になるんでしょ?軍用ってだけあって凄い機動性だし変形するとなんかワンちゃんみたいだから結構気に入ったかも」

 

「確かに私達三人に譲ってくれると言っていたけどテストした通りかなり癖が強かったし、試作したこの3機以降量産するつもりは無いって話だから処分に困ってた試作機を押し付けられただけって感じがするわ·····」

 

「ま、オールドタイプの私達が実戦で使わせてもらえる機体なんて限られてるし性能だって悪い訳じゃないんだからこの新型で新しい連携でも考えようじゃない。美香を奪ったジュピトリスのアイツから大隊長や皆を守るためにももっと力を付けなくちゃいけないんだから·····」

 

 

 メグミの言葉を受けルミとアズミは少し浮かれた様子からその表情を険しいものへ切り替えた。通称"アロウズの3M"と呼ばれてい3人は軍より賜った試作可変機【AMA-01X ジャムル・フィン】のバーニア出力を最大まで上昇させ愛里寿達が待つ月のフォン・ブラウンへの帰還を急いだ。3人にとって愛里寿の姉にあたる少女は幼少の頃からの付き合いで、年下ながらも自分達にモビル道を教え導いてくれた彼女は目標でありかけがえのない親友でもあったのだ····

 

 

 故に5年前のあの日、地球より侵攻し凄惨な事件を引き起こした地球の軍人達と、その事件の裏でこの上ない程傲慢な理由で親友の肉体を宇宙へ散らせ、更には姉が葬られる瞬間を目の当たりにしていた愛里寿を地球へ攫い彼女の心身に深々と癒えぬ傷を刻み付けた()()()()()()()だけは到底許せるはずがなく憎しみを抑えずにはいられなかった

 だから3人は愛里寿達よりも年上の者として、現在その魂のみがネティクスの中に残された彼女に代わり卑劣な者達に立ち向かい愛里寿達を守り抜くのだとその胸に強く決意していた。もう二度と愛里寿達を傷つかせないために·····友が創ろうとしている本当に正しき世界への扉を開くために··········

 

 

 

 

 


 

 

 その日みほ達は宇宙空間での戦闘演習の他にも色々な種類の訓練に励み、一日の終わりにシュバルツ・ファングの訓練宙域内にいくつか点在している要塞型衛星の一つに接舷していた。この要塞衛星は宙域内に15区設置されており戦艦や巡洋艦を収容できる程の規模ではないものの多くの職員やしほが働く事を認めた門下生達により大切な役割を担うため運用されていたのだ。その役割とは訓練のために宙域を利用していた艦隊が接舷した際応急的な補給や修理の提供、休息のための停泊を許可する他訓練宙域内の監視や侵入者に備えて外部宙域の哨戒を行うというものであった。そして点在する15区の要塞衛星全てが互いに連携し合うことで網のような警戒索敵システムを形成しており、何か異常があれば直ぐに全ての衛星とシュバルツ・ファング本島の司令室へ連絡が渡りエースパイロット達による警備隊が事態の収拾に出撃できるようになっていた。それらが相まってしほの星シュバルツ・ファングはモビル道の訓練所でありながらも既存の宇宙要塞とほぼ遜色ない防衛網と戦力を有していたため、みほ達や絹代達の様に利用者達の安全は確固たるものとなっていたのだ

 

 そんな要塞衛星に停泊していた大洗女子学園と知波単学園の艦隊の間では交流会を兼ねた食事会が開かれ大洗女子学園の生徒達はリリーマルレーンの船内に招かれていた。船内が両校の生徒達で賑わう中みほ、沙織、華、優花里、麻子の5人だけは皆とは別にその場から少し離れた西洋風の内装に染められた貴賓室に招かれ、同席していた絹代と当の招待してきたマシュマーと共に食事をしていたのであった。中央に薔薇の花束を生けた花瓶が置かれた長いダイニングテーブルに非常に高価そうな椅子も然ることながら、晩餐として出されていたのは本格的なフランス料理のフルコースであったため、まさか宇宙でこんな物を食べれるとは思ってもみなかった5人は慣れぬ場というのもあり少し堅くなり緊張している様子であった

 

 

「なんということだ·····西住さんがあの西住しほ殿のご令嬢だったとは。この宙域を使わせて貰っている身にも関わらず挨拶が遅れてしまい申し訳ありませんでしたな·····」

 

「いえいえ、そんな私なんかに挨拶だなんて·····」

 

「マシュマーさんの方こそ私達も食事に誘っていただきありがとうございました。まさか宇宙でこんな贅沢な物を食べれるなんて思ってもみませんでした」

 

「なんの、これぞ我らエンドラ学園の風習ですよ。それに秋山さんの御友人である皆様も招待するのは当然のことです。ところで秋山さん、料理の方はお口に合いましたかな?」

 

「は、はい!·····あまりこういう食事には慣れてないですがとても美味しいと思います!」

 

「お、おお·····それはよかった。私もこうして皆さんから大洗という美しい町の話を聞けてとても楽しいです。地球には嫌なイメージばかり持っていましたがその考えも()()()()改めなければならんようですな」

 

 

 テーブルの中央奥側に座るマシュマーは上機嫌そうにワインが注がれたグラスに口をつけた。どうやらみほ達にとって一般的な法律と違いマシュマーの住むコンペイトウでは未成年でもある程度の年齢ならば飲酒が許されている様で、小惑星移民者達にとっては数少ない娯楽の一つであったようだ

 

 

「さ、沙織。こういう料理を他所で食べるのはおまえの両親に連れて行って貰った時以来なんだが·····その、食べ方とか変じゃないか·····?」

 

「ナイフとフォークだってちゃんと使えてるしどこも変じゃないから大丈夫だよ。そっか·····確かにおばあってコース料理が出るお店とか行きたがらなさそうだもんね」

 

「ハッハッハッ、そう緊張せずとも楽にしていただき結構です。このマシュマー、皆様の下町心というものは重々承知している故いつも通りの食卓の様に楽しんでいただきたい!」

 

「そうですよ皆さん!確かにマシュマーさんの料理は小洒落てるだけでお腹いっぱいにはなりませんが見た目は宝石の様に綺麗ですし私もそこそこ気に入ってます!」

 

 

 みほと向かいあった席に座って食事していた絹代は口元にご飯粒を付けながら朗らかに語った。そう、なんと絹代は煌びやかに皿へ盛り付けられたフランス料理をご飯茶碗を片手に箸で食していたのだ。食事する姿こそ慎ましくお手本とも言える程綺麗な食し方であったがフランス料理がおかずになっているその光景はみほ達から見ても異様に思える光景であった。そんな彼女を見てマシュマーは込み上げる怒りを堪える様に手にしたグラスをふるふると震わせ静かに口を開いた

 

 

「·····西絹代。そんな私の好物を何故貴様は白米と共に食べているのだ?テーブルマナーも弁えんとは無作法な·····」

 

「へ?そりゃあ訓練の後はお腹が空きますしお米が食べたくなるのは普通じゃないですか。あ、ゴットンさんおかわりをお願いします!」

 

「ハッ、かしこまりました絹代様!」

 

 

 何故か割烹着姿になっていたゴットンは茶碗を受け取るとさも当たり前かのようにテーブル上に置かれていた羽釜からご飯をよそい再び絹代へ手渡していた

 

 

「ゴットン!さては米を炊いたのは貴様か!こうも易々と西絹代に乗せられてしまうとは何事だ!」

 

「いやぁ絹代様達の要望にはできるだけ応えるよう学園長から言われてますし·····それにエンドラエンドラって我々の母校はもう知波単学園に変わった訳ですし、昔の伝統引きずったこんな会食に大洗の皆様まで巻き込むのはよろしくないかと·····」

 

「にゃにぃ!?騎士としての生き様を忘れただけでなくこの私に対しそんな物言いをするとは·····もう良い貴様は格下げだ!これからは艦のトイレ掃除と洗濯物でも干していろ!」

 

「ええ〜!か、格下げですかぁ〜!?」

 

「大丈夫ですよゴットンさん。学園長には私の方から口添えしておきますので格下げの心配はご無用です!ということでおかわりお願いします」

 

「絹代様·····ありがとうございます!このゴットン、これからは絹代様のもとで働かせていただきます!」

 

「ぬわあぁにいぃぃ〜!?ゴットン貴様私を裏切るつもりか!ムキーーー!!!」

 

 

 絹代へ尻尾を振りすっかり服従の意志を見せてしまっていた部下にマシュマーは癇癪を起こしながら髪の毛を掻きむしった。先程まで彼が見せていた位の高い貴族の様な落ち着いた振る舞いとは打って変わり、子供のように頭から湯気を立ててカンカンに怒る姿を見てみほと華は何となく彼から親近感を感じ、沙織は若干幻滅してしまったのか引きつった笑顔を浮かべていた

 

 

「だ、大丈夫ですよマシュマー殿。私達は別に気にしてないですしこの食事会だって皆さんの親睦を深めるには素晴らしいものだと思います!」

 

「そ、そうですよ!·····それに私もちょっとお米は食べたかったので··········」

 

「は、華さん!?このタイミングで!?」

 

「むむぅ、皆様がそう言うのであれば··········くそっ。だがこれもエンドラの再興に繋がるのであれば耐えるしかあるまい·····」

 

 

 優花里達になだめられマシュマーは少しだけ落ち着きを取り戻したが、ぶつぶつと呟きながら荒々しくワインボトルを掴むと空のグラスいっぱいに注いでぐびぐびと一気に飲み干そうとした

 

 

「そ、そうだ!もし良ければ私達にもっと宇宙の話を聞かせてくれませんか?」

 

「ぷはぁー··········何、宇宙の話ですと?しかし我らエンドラと知波単の件はもうしましたし他にめぼしい話など何も·····」

 

「だったら次はスペースコロニーについて教えてくれないか?今までは私達には関係ない話だと思っていたがこの機会に宇宙で生活している人達が実際にどの様な暮らしをしてきたのか知りたいんだ」

 

 

 現在よりもはるか昔、地上と宇宙を繋げる軌道エレベーターが完成した後本格的な宇宙の開拓が始まった。手始めに月面上に巨大都市がいくつか創られ、宇宙の政治を執り行うため宇宙移民者を中心とした月議会が発足。その後は月議会主導のもと現在のコンペイトウの様にアステロイドベルトから運ばれて来た資源小惑星達を人々が住める環境への再開発などが成され宇宙の開拓は着々と進んでいったのであった。そして宇宙開拓の到達点に立った移民者達は自らの手で新たなる母なる故郷『スペースコロニー』を完成させたのだ。当初は発展途上な箇所が多く見られたたものの結果コロニーでの居住は可能であると判断され、その後も想定されるであろう人口爆発に備え『人が住むためのコロニー』の生産は進められていき現在いくつかの宙域にコロニー郡が製造されるまでに至っていた

 

 それら宇宙の歴史について教わることなければ調べる機会もなかったため、全てを全て知っている訳では無かった麻子と他の4人にとっては是非聞かせて欲しい内容であり皆期待の意を込めた目をマシュマーへ向けた·····だが何故か彼は怪訝そうに眉をひそめたのであった

 

 

「教えてくれと言われましてもな、スペースコロニーの政治など地球へ帰ってから御両親か学校の教師にでも聞けばいい話ではないですか?」

 

「·····あいにく両親は小さい頃に亡くなったものでだな。だがもっと昔から生きているおばあも宇宙の政治についてはあまり知らないと言っていた。だから宇宙の政治なんてものは外国の政治よりも皆が知らないもの様な気がするんだ」

 

「確かに私なんてコロニーを見たのなんて昨日が初めてだもんなぁ·····」

 

「····················何だと?まさか·····本当に何も知らないというのか·····?」

 

 

 麻子と沙織の言葉を受けマシュマーは絶句し、苦々しい表情で再びグラスへワインを継ぎ足した

 

 

「··········その様子では西絹代。貴様もコロニーについて何も知らんという口か?」

 

「う、宇宙には何度も来たことがあるので流石に見たことも行ったこともありますがどの様なことが起きているのかについては皆さんと同様で·····」

 

「そうか··········皆宇宙に住む人々がどれほど過酷な環境に身を置かれているのか知らんというわけか·····」

 

 

 先程と様子が明らかに変わったマシュマーに絹代を含めみほ達に緊張が走った

 

 

「落ち着いてくださいよマシュマー様。あまりお酒に強くないのに少し飲み過ぎなんですよ」

 

「私は酔っ払ってなどおらんぞゴットン。そうだな·····ここは一つ皆さんにはスペースコロニーで起きたあの事件についてお話しましょう」

 

「じ、事件でありますか·····?」

 

「ま、マシュマー様!?ダメですよ!あんな話ここでする物じゃなければ地球にお住まいの皆様とは関係ないことなんですから!」

 

「関係ない訳あるか!貴様は黙っていろ!·····どうやら貴女方はコロニーという地を空想上か夢の国としか思っていない様なのでここで現実というものを知ってもらいたい。·····あの事件は5年前の今頃に、当時私がエンドラ学園の中等部へ進級しようとしていた頃に起こりました·····」

 

 

 マシュマーはグラスに口をつけながら険しい表情で語り始め、みほ達も張り詰めた緊張感に言葉が出なくなりながらも彼の言葉に耳を傾けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 はじめにマシュマーはみほ達へ現在宇宙に存在しているコロニー郡について説明し始めた。月の公転軌道上のL(ラグランジュ)5に存在するサイド1とL4のサイド2、月の公転軌道外に位置し地球より最も遠く離れたL2のサイド3が現在人々が生活しているコロニー郡であることその他にも各ラグランジュポイントにコロニー郡は存在していたがそれらはモビル道の試合用に製造されたものであり人々が住処として使用していたコロニー郡はサイド3までであった。宇宙に住む人々はこれらスペースコロニーを永劫なる安住の地としこの先の未来も自分達と共に繁栄し続けていくと信じていた······

 しかし5年前、サイド1の13バンチコロニーにて突如として激発性の伝染病が発生、死病は瞬く間にコロニー中に蔓延し実に1000万人以上のコロニー市民達が為す術なく感染し死滅したと報道されたのであった。サイド1のコロニーは初期に造られたのでかなりの人口を誇れるにまで繁栄していたため、この報道は全宙域を巡り宇宙に住む人々の不安を大いに増大させ歴史に残る悲劇として刻まれた。だが何故この様な伝染病が発生したのか原因は明らかにされておらず、宇宙のワイドショーでも様々な憶測が飛び交うばかりでその真相は現在も公表されずにいたのであった·····

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 息を上げながらも話し終えたマシュマーは悲痛そうな面持ちのままグラスに残っていたワインを飲み干した。宇宙ではその様な悲劇が起きていたことを聞かされたみほ達は胸の内が悲愴な感情で溢れ返り今まで何も知らずに、関係ないと思い過ごしてきたことを悔やんだ

 

 

「·····そんな沢山の人達があっという間に·····そんな簡単に亡くなってしまったのか·····?」

 

「·····ええ。むしろここまで凄惨な事件が地球では報道されていなかったことが不思議なぐらいですな」

 

 

 重々しく切り出した麻子、だがそんな彼女達にマシュマーは若干呆れた様な反応を示していた

 

 

「そ、それでコロニーでお亡くなりになった方々はどうなったんですか!?まさか現在もそのままなんてことは·····」

 

「それについてだが私は今でも覚えている。西住さん、死病にまみれ誰にも手に負えず放置されるかに思われた13バンチコロニーのために立ち上がったのは他でもない貴方のお母様なのです」

 

「·····え?」

 

 

 マシュマーの言葉にみほは驚きのあまり目を見開いた。母はこの訓練用宙域の所長にして西住流の家元·····なぜそんな母がこの話に関わってくるのかみほにはわからなかった

 

 

「どうしてみぽりんのお母さんが·····?みぽりんのお母さんは宇宙じゃここの施設の所長さんってだけなんじゃ·····」

 

「貴女方地球人の間ではその認識が普通でしょうが我々スペースノイドにとってあのお方は英雄なのです。·····事実こういった事件の処理に地球の政府は動かなければ、我々スペースノイドの話を耳に聞き入れることもありませんでした·····。しかし西住しほ様はそんな地球政府とは違い我々の言葉に耳を傾け、我々の不等な現実を地球政府に共に訴えてくれているのです」

 

「み、みほさんのお母様はそんなに凄いお方なのですか?武道の名家とはいえそこまでの力はないのでは·····」

 

 

 華の言う通りみほも自分の母親がそんな権力のある人間とは思えなかった········だがその後もマシュマーの口から自分の知らない母の姿が次々と明かされた

 

 事実地球圏代表議会は宇宙の政治、大事故や災害、人々の困窮に対しては一切の手を貸さずその全てを月議会に放任し更には連合軍を差し向けてコンペイトウの様な小惑星やコロニーに対し多くの不等な公約や軍への徴集を強いていたのだ。無論月議会だけで全てのコロニーを統治できるはずがなく、多くのコロニー市民達は自分達よりも下等な生活を強いる地球政府への不満が高まり無理に地球へ帰ろうとする者、反連合の動きを見せる者達が現れる程であった

 そこでしほは多くのコロニーを巡り市民達に地球に住む人々と同様に西住流のモビル道を教える一方で、彼ら彼女らから現在の生活での不満や地球に対しての嘆願などを聞き入れ、それらを宇宙に関心を向けず地球に居座り続けようとする議会の老人達にスペースノイド達の代弁者として立ち、できる限り皆の期待に応えられるよう活動していたのであった。そして何故しほが地球圏代表議会に対しそこまでの影響力や発言力を持っておりシュバルツ・ファングの様な軍事要塞の様な訓練所を有しているのかというのも、彼女の示す道や理想に賛同する者達、例を挙げると軌道エレベーター開発公社の『Delaz(デラーズ)』をはじめ出資者として助力してくれる人々がいたからであった。彼らの支えや果たさねばならない誓いがあった故にしほは家元として人々に西住流のモビル道を教授するだけでなく、地球と宇宙の分かたれつつあった双界を人々が互いに手を取り合える世界へ変えようという理想を掲げ冷酷な現実に立ち向かい続けていたのであった

 

 

 

 

 

 

「西住しほ様は13バンチコロニーで亡くなった人々の遺体を一人一人回収し供養してくれました。そして現在も宇宙の民のために働き続けてくれているのです」

 

「西住殿のお母様が、西住流の家元がそんな偉大なことまでしていたなんて··········凄いです!」

 

「なのでそんなあのお方の拠点であるこのシュバルツ・ファングにこうして来れたことには感激しましたよ。とはいえ実際に会うまでは聖母のような姿であると想像していたのですがまるで鬼ババその物のオーラを放っていたので予想外でしたよ!ウハハハハハハ!」

 

 

 顔を真っ赤にし酔っ払ってしまっていたマシュマーはよどんでいた空気を払い飛ばすかのようにゲラゲラと笑い始めた。みほは今まで自分が知らない所で母がその様な活動をしていたなど何も知らなければ聞かされてもいなかった。母親がモビル道の家元としてだけでなく、世界のためにまで働きかけていたなんて娘として誇らしく思わない訳がなく胸が熱くなるのを感じた

 

 

「あ、あの!お母さんは他にも色々なことをしてきたんですか?良ければ教えてください!」

 

「·····何?まさか、知らなかったというのか·····?御自身の母親が宇宙で何をしてきたのかを·····?」

 

「は、はい·····。今までお母さんの方から教えてくれることは無かったし小学生になってからいつも留守にしていてあまり会えなかったので·····」

 

「なんということだ··········呆れたものだな!母親は世のために必死に戦い続けてきたにも関わらず当の娘は何も知らず地球でのうのうと過ごしていたとは!」

 

 

 突如マシュマーはテーブル拳を握り締めながら椅子から立ち上がりみほへ向けて怒りを顕にし声を荒げた。あまりにも突然過ぎたマシュマーの豹変ぶりと怒声に一同はビクリと体を震わせ、危険を感じたゴットンはすぐ様彼を背後から羽交い締めにしたのであった

 

 

「マシュマー様!ダメですってこんな所で暴力なんてしたら格下げじゃ済みませんよ!」

 

「ええい離せゴットン!なんと嘆かわしい事だ·····あのお方は誰よりも宇宙と地球の調和を望んでおられるというのに実の娘である貴様が共に立とうと意識しておらんとは何事だ!?」

 

「ちょっと待ってよ!みぽりんだってお母さんから聞かされてなかったんだから仕方ないじゃん!勝手にみぽりんばっか悪者にしないでよ!」

 

「そうですよ!お母様がみほさんに何も伝えてこなかったのは何か隠さなければいけない事情があったからかもしれないじゃないですか!」

 

 

 みほへ怒りを爆発させゴットンに抑えられながら駄々っ子の様に暴れるマシュマーに沙織と華は庇うように立ち上がり彼へ反論した

 

 

「ふん!そもそも貴様らとて同じ人類でありながら我らスペースノイドについて何も知らなかったではないか!こうして我々は不等な扱いに耐えながらも歩み寄ろうとしているのに、貴様ら地球種は宇宙のことを自ら知ろうと動くことすらなければ意識することさえもしなかったという訳だ!」

 

「·····っ!確かに今まで何もかも知らなかったことは反省している。だからこそこれからもっと宇宙や貴方達のことを知りたいと考えているんだが·····」

 

「都合のいいことをいう!所詮重力に魂を縛られた貴様ら地球種が我々に対しいつまでも不感で無慈悲であることなど明々白々なのだ!そんな貴様らとわかり合うことなどできるはずがないということだ!」

 

「マシュマー殿··········」

 

 

 暴れながらも心の内の悲痛な叫びを吐き出し続けるマシュマー、そんな彼が優花里は気の毒に思えた。今ここに居る自分達が彼らについて何も知らなかったという事実の様に彼らの言葉は地球に住む人々に届いていないということであった

 

 

「一旦落ち着きましょうマシュマーさん!叩くなら西住さんではなく私を叩いてください!」

 

「誰が貴様の様な石頭を殴れるものか!いいから離せ!西住みほ!貴様のその腑抜けた根性叩き直してやる!」

 

「あーもう埒が明かない!絹代様、私が抑えてる間にマシュマー様に()()をお願いします!」

 

「え·····しかし相手が男性とはいえ流石に·····」

 

「だ、大丈夫です!マシュマー様は心も体も変に頑丈なのできっと耐えるかと!·····多分!」

 

「なるほど、分かりました!·········はあぁぁぁぁ〜···············」

 

 

 突如絹代がテーブルを飛び越えゴットンに抑えられるマシュマーの前に立ったかと思うと呼吸を整え拳法家の様に構え始めたのであった

 

 

「離せぃ離さんか!·····西絹代?貴様一体何をするつもり·····」

 

「マシュマー様、お許しください。·····せいやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「ち、ちょっと待·····へぼぁッ!」

 

 

 絹代は大きな掛け声と共に右脚を振り上げ剃刀の様な回し蹴りを放った。蹴りはマシュマーの側頭部を捉え彼はその威力に意識を飛ばされながら背後のゴットンと共に後方へ思い切りふっ飛ばされた

 

 

「···············キュウ·····」

 

「イテテ·····おおやりましたな!気絶してくれましたぞ!」

 

「ええええ!?な、何やってるんですか!?」

 

「安心してください西住さん!手加減はしました!」

 

 

 あまりにも突然絹代がマシュマーに回し蹴りを放ち彼が完全に伸びてしまっていたのでみほは目の前でなにが起こっているのか処理しきれず他の4人も同様に困惑していた

 

 

「申し訳ありませんでした大洗の皆様!マシュマー様は医務室にとっちめておくので皆様は引き続き食事会を楽しんでいってください!」

 

「あ、あの!その人の言う通り私は宇宙に住んでる人達のことを知ろうともしなければお母さんが宇宙で頑張ってたことも知らなかったです··········だから悪いのは私なんです!」

 

「ははは、気にしないでください。マシュマー様は宇宙に住む人々が無下に扱われているみたいな事を言っていましたが実際私達コンペイトウの市民は安定して日々を暮らせています。他のスペースノイド達がどうなのかは知りませんがこの人は宇宙と地球が対等じゃ無いと思い込んで文句を言っているだけのちょっと変な人なのであまり本気にしなくて結構ですよ」

 

(変な人··········?)

 

「それでは絹代様、あとはよろしくお願いします!」

 

「は、はい·····」

 

 

 ゴットンの言葉はマシュマーと違い何処か自分とは関係ない世界事情など意識にない、それこそ今までの自分達と同じであるように感じられた。ゴットンは気絶したマシュマーを背負うと部屋から退室して行き、残されたみほ達はそれぞれがこれから自分がどうあるべきか考えさせられ苦悶な顔にならざるを得なかった

 

 

「··········とりあえず皆さん!まだ料理も残っていますしここは食事しながら話し合いませんか?私の方からも大洗の皆さんとは話したいことが沢山あったので·····」

 

「·····そうだね。せっかくの食事会なんだしもっと他のことも話したいよね」

 

 

 あまり気乗りはしなかったが嫌な雰囲気を何とか変えようとする絹代の意思を汲み沙織も同調した。すると先程から何やらそわそわしていた様子を見せていた優花里が手を挙げてから言葉を切り出した

 

 

「あ、あの!よ、宜しければ今からお手洗いに行ってもいいでしょうか!?」

 

「秋山さん·····そんなことはっきりと言わなくていいんだぞ·····」

 

「ふふっ、優花里さんらしいですね」

 

「す、すみません·····」

 

 

 優花里は顔を紅くし恥ずかしそうに頭髪を掻き、そんな彼女の様子に少しだけ重苦しかった雰囲気が和やかなものになった

 

 

「御手洗ですか?場所が分からなければ案内しますが」

 

「さっきもお借りしたので大丈夫です!それでは行って参ります!」

 

 

 いつも通りの活気に溢れた敬礼を皆に見せ優花里は駆け足で部屋から出て行った。そういえば彼女は食事前にトイレに行ったばかりで飲み物もさほど飲んでいなかった·····なのでトイレに行くには少し早すぎるのではとみほは感じたが何も口に出すことなく意中に留めた

 

 そしてみほの予想した通り、艦の廊下に出た優花里は始めからトイレに向かうつもりで部屋を出た訳ではなかったのだ

 

 

(このままじゃマシュマー殿は二度と私達や地球の人と会ってくれないかもしれない··········そんなの絶対に駄目です!)

 

 

 優花里はマシュマーの部屋へ走り出した。彼は先程のやり取りで、自分達のせいで地球へ歩み寄ろうとしていた歩を止めてしまうかもしれない。そんな事のために誰かを思いやれるそのの心を絶望させる訳にはいかないと思ったから優花里はマシュマーに改めて向き合うため彼のもとへ急いだのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 名も知らぬ誰かを想い、誰かのために尽くそうとする心。その心があれば人はどんなに遠い存在であろうと互いに手を取り分かり合えることができるのだ。そしてその暖かい感情は、ただ敵を滅ぼすためだけに造られ存在していた彼女にも宿りしものなのか

 

次回 ガールズ&ガンダム 『暖かな心』

 

 誰よりも冷たく全てを凍てつかせる女傑。彼女の名はフブキ・ドゥルガー・マカハドマ

 




 読んでいただきありがとうございました

 マシュマーは個人的にかなり好きなキャラクターで絶対に登場させたかったのでみほ達に宇宙での現実を伝える代表者として登場させました
 とはいえ彼もまたみほ達と同じ様にテレビなど誰かが発信したものを真実と捉えています。故にメグミ達視点からではマシュマーも何も知らない者ということになります。ちなみに言うまでもありませんがモデルにしたのはΖガンダムの30バンチ事件です。当ssの本編における5年前、それはまほ達三年生が中等部への入学を控えておりマリー様が木星へ向かう少し前の時期であることを留意しておいて欲しいです(念の為補足させていただきますが当ssに初期の頃から度々登場している美香と継続高校のミカは全くの別キャラです。全く別とは言い難いですがそうなった原因は二章のラストに投稿しようと思います)

 全く関係ない話ですがこの世には絶対に許せないものがあります。それは騎士ガンダムとリフレクターインコムです(ガチギレ)


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16話 暖かな心

 前回補足し忘れていましたが、しほさん率いるシュヴァルツ・ファングの組織規模はイメージ的にエゥーゴ+デラーズ・フリート並となっております(めっちゃ強そう)

 アンチョビ外伝から現在にかけて不穏な雰囲気が漂っておりますがこの先予定している全国大会は平和的にちゃんと開催されるのでよろしくお願いします

 今回冒頭と最後の方が結構エスパーな展開になっていますのでご注意ください


 地球、黒森峰女学園学園艦にて─────朱く妖美な夕焼けに照らされた帰路の中、仮面に顔を隠したまほはただ独り黙々と歩を進めていた。現在まほの隣にはかつて共に歩いてくれた友や妹の存在は影も無く、他の同世代の生徒達からは階級や位が遥かにかけ離れた人物として接せらていたため彼女へ気軽に寄り付こうとする者など一人たりともいなかった。その上まほ自身元々内気な性格であり自分から友人になって欲しいと他者へ踏み出すことなどできるはずがなく、母西住しほと同等の後継者になるべく小学生の頃より西住流の全てを叩き込まれながら育てられた彼女に年相応の女子になりきるなど土台無理な話であったのだ

 

(アズラエル理事長の言う通り今の私が世に力を示せる舞台は全国大会の他にない·····こうも生き恥を晒さなければならないとは··········)

 

 まほは仮面の奥で己の弱さに苛まれ自分の拠り所を取り戻すために苦悩する素顔を浮かべていた。最愛の親友と妹が傍にいてくれたあの日常を取り戻すには今まで母の西住流に従順に生きてきた自分を棄て、万人がひれ伏すほどの圧倒的な力を手に入れ世界に、弱き自分を見捨てた彼女達に力を示さなければならなかった。それこそがまほの目的、祖母の仮面を付けた理由だった

 彼女達に力を示すには全国大会という世に大きく知れ渡る舞台に上がらなければならない·····だが母の西住流を規範としている現在の黒森峰が母と道を違えると言うのならばいくら自分が跡取りであるとはいえ大会のメンバーに選出するとは思えず、現在の黒森峰の部隊と、エリカ達と組みするつもりも毛頭なかったため、全国大会という舞台で自分独りで戦うことが許される手立てを必死に探していたのであった。短期転校の手も考えたがモビル道も他のスポーツと同様転校して早々に転校先の代表選手として公式戦にでることは認めらていないため断念するしかなかった。アズラエルに母とは違う道を示す西住流の四代目になることを表明しておきながら、結局自分一人では事を起こすことも何かを勝ち取ることもできずただ大切なものを失うばかりな自分にまほはつくづく嫌気がさし絶望していた

 

 

 

 その時だった。青く美しくまるで妖精の様な蝶が一羽、優雅に舞いながらまほの眼前に現れたのであった

 

「···············なに·····?」

 

 それはさほど希少な種でなければまほ自身昔から見かけたことのあるアサギマダラという蝶であったのだが、まほはその存在から神秘的な何かを感じ辺りに人の気が無かったのもあって思わず足を止め独り言を漏らしてしまったのだ。蝶は何処かへ向かってゆっくりと移動し始めまほは不可思議なことにその蝶から、蝶が向かおうとしている先から何者かが自分を視ている気配を感じ、その正体を確かめようと寮への帰り道とは逆方向であったが()()が向かおうとしている方向へ誘われる様に足を運び始めたのであった

 

 

 まほは蝶の後誘われるままに進んでいくと住宅街を抜け海原を一望できる公園に辿り着いた。地平線に沈みゆく夕日に照らされるその場所はまほにとってはかつて親友と共に学校帰りに訪れ互いのことを語り合った思い出深い場所であった。この時何故か公園には自分の他に人気は全く無く、赤々な夕焼けに照らされ神秘的な雰囲気が立ち込めていたのもあってまほは自身が別世界に迷い込んだのではないのかと錯覚した。そして例の蝶がひらひらと向かっていく方を目をやると、そこにはブロンドヘアの少女が一人、海沿いのベンチに腰掛けていたのだ。その少女が軽く手をかざすと蝶は彼女の指先へ誘われたかのように着地し、その光景はまるで安らぎを求め女神のもとに辿り着いた妖精の様に思えた

 

「·····来てくれたのね。西住まほさん」

 

 背後に立つまほの存在に気づいたのか少女はベンチから立ち上がり蝶を解放し何処かへ飛び立たせると踵を返し此方の方へ近づいてきた。少女が持つ薄桃色がかかったロングのブロンドヘアは此方の姿を映し出す鏡面だと見紛う程透徹に艶めき幾本も螺旋状に巻かれることで彼女自身が大衆より遥か高等な存在であることを際立たせ、両眼に備えし碧眼は巨大な星の様な色調をしており妖美に煌めき内に秘めた徒ならぬ存在感と異彩を放っていた

 そして何よりも彼女自身から懐かしき安息感を、モビル道を始める以前まだ甘えることを許してくれた母の姿を感じたのであった

 

「き、君は一体·····?」

 

「私はマリー。マリー・タイタニア。BC自由学園から来ました。ムルタから私のことは何も聞いていないようね」

 

 ·····何らかの手段を講じ既に黒森峰女学園への上陸を果たしていたマリー・タイタニアの問いにまほは小さく頷いた。口では言うがその存在感からして彼女がBC自由学園の生徒、自分と同じ女子高生であるなどと到底信じられるはずがなかった。身に纏う白無垢の制服は生地上と襟から裾にかけて黄金の装飾が施されており下半身を飾るレギンスとブーツも同じく気品のある白に統一されていたことからその衣装は彼女のためだけに造られた特製の品であることが伺え、学生制服というよりかは更に規律深い場で着用する物に思えた。加えてあのブルーコスモスの盟主であるアズラエルを慣れ親しんでいるかのごとくファーストネームで呼ぶ者などごく限られているため、まほは今相対している彼女が何者なのか全く予測できず警戒を込めた視線で睨みつけた

 

「BCの生徒が何故黒森峰に·····偵察か何かのつもりか?」

 

「あら、ひょっとしてモビル道のこと?嫌ねぇ、私自身学園のモビル道とは何の関わりも持ってないんだからそう構えないで欲しいわ」

 

「なら何のためにこの学園へ··········それに私を此処へ誘い出したのは君じゃないのか?」

 

 まほはあくまで平静さを装いマリーに問いた。彼女の眼は先程まで蝶が目指していた先より感じた此方を視ていた者の気配と同じものであったからだ

 だがそんな自分の様子を見て彼女はクスクスと小さく笑っていた

 

「ふふふっ、それは違うわ。私はただ待っていただけ。貴女の様な傷ついた女の子がここへ来るのを」

 

「何?私が傷ついているだと·····?何を言い出すかと思えばそんな出任せを·····」

 

「見ればわかるわ。今の貴女は、貴女の魂は安らぎと温もりをただ必死に求めている。そのために私のもとへ来たのでしょう?西住まほさん·····」

 

 決して表には出さず心中に留めていた切なる望みを全て見透かしてみせたマリーにまほは思わず後退りした。初対面の人間に心の内をずばりと言い当てられ例え武士のような和面に素顔を覆っていても明らかな程まほは戸惑いを見せていた

 

「安心してまほさん。私は貴女の味方、むしろ貴女の様な女の子のためにここへ来たの」

 

「私のために·····いや、そんな訳がない。適当なことを言わないで貰おうか。今ここで初めて出会った君に私の何がわかるというんだ?」

 

「貴女を囲んでいた凡人さん達には感じられなかったでしょうけど()()()わかるの。·····ちょっとくたびれちゃったから貴女のお家にお邪魔させて貰えないかしら?実は今晩泊まる宿もまだ見つけてないの」

 

 マリーは純白の手袋を外し露わとなった白皙な素の手でまほの手を握った。急に触れてきたマリーに驚きまほは身体をびくりと震え上がらせたが彼女の掌から暫くの間包まれることがなかった暖かな温もりが伝わり失意の底に落ちていた心が満たされていくのを感じた

 

「···············わかった。寮に部外者は入れていけない規則になっているが説得してみよう。君の話はその後聞かせてもらう」

 

「ふふ·····ありがとうまほさん。貴女のこと好きになれそうだわ」

 

 少し躊躇いはあったもののまほは彼女を自身が住む学生寮へ上げることに決め、その言葉を聞きマリーはにこやかな笑みをたたえた。というのもまほ自身マリーの様に世代が近い女子から初対面にも関わらず対等に接せられたのはとても久しぶりのことであり、そして何よりも彼女の眼から、彼女の手から親友や家族の様な暖かみを感じたため少し怪しく思いながらも彼女が自分の領域に入ることを許そうとしていたからであった。

 マリーの本性を、彼女が此処へ来た真意も知らぬままに··········

 

 

 

 


 

 

 大洗女子学園と知波単学園による合同演習が終了した後、コンペイトウより絹代達の応援に参じていたマシュマー・セロにより両校の生徒の親睦を深めるべく食事会が開かれた。リリーマルレーンに招待されたみほ達であったがその食事会の席で宇宙という過酷な環境が生んだ悲劇、地球と宇宙の二極化されつつあった双界に住む人々を母西住しほがモビル道を通して繋ごうと奮闘していた軌跡をみほは初めて聞かされたのであった

 だが地球に住む若者達が、特にしほの娘であるみほが宇宙に住む人々について何も知らずに今日も過ごしているという事実は、地球政府より不等な扱いを受け続けてきたスペースノイド達の一人であるマシュマーの逆鱗に触れ、怒りを激発させることとなった。絹代の対応で激昴したマシュマーを沈めることには成功したものの、結局彼に地球への不信感を更に募らせてしまったため、みほ達は自身らの無知や今までを省みて複雑な想いに駆られていた。その最中優花里はただ一人、今一度マシュマーと対話するために彼が運ばれて行った医務室へ向かったのであった

 

「あの〜本当に入るんですか?目が覚めたとはいえまだ怒ってると思いますしやめといた方がいいのでは·····」 

 

「お願いします。せっかく招待していただいたのに私達のせいでマシュマー殿を深く傷つけてしまったので·····謝りたいんです」

 

「うーん、何だか不思議な人だなぁ·····。そこまで言うなら止めませんけど行くのはお一人でお願いしますよ。あの人酔うといつもあんな調子だし機嫌悪い時なんて一緒に居るだけでも面倒なんだよなぁ·····」

 

 優花里が医務室の前まで来てしまった所に鉢合わせてしまったゴットンはマシュマーの陰口を零しながら医務室の扉を開けてやった。優花里は少し緊張しながらも意を決して医務室の中へ足を踏み入れた

 

「し、失礼します。秋山優花里です·····」

 

「·····!秋山さん?何か御用ですかな?」

 

 ベッドに腰掛けていたマシュマーは部屋に入って来た優花里の姿を見て驚いた様子を見せたがすぐ様目を逸らし表情を曇らせた。少し頬が紅くなりつつもどうやらもう酔いは覚めているようであった

 

「怪我はありませんでしたか?見ていてとても斬れ味の良さそうな一撃だったので·····」

 

「心配せずとも私とてやわな鍛え方はしておりませんので大丈夫です。確かに西絹代の蹴りは別格ではありますがな」

 

 蹴られた箇所に氷のうを当てながら僅かに笑ってみせるもその声は暗く先程の事を気にしているのは明白であった

 

「あの、·····ごめんなさい。私も宇宙で生活している人達のことを深く知ろうとせずに今日まで過ごしていました。地球に住む私達と交流を深めようと努めていたマシュマー殿のことを思うと大変申し訳ないです·····」

 

「·····態々謝罪をしに来てくれた所申し訳ありませんがもういいのです。私自身甘えた考えに囚われていたことを先程十二分に思い知らされましたので」

 

「甘えた考えですか·····?」

 

「ええ·····私はいつか貴女方地球の若者達と共に世を正しく変え歩んで行ける時が来るものだと思っていました。しかし貴女方が我々に関して無知である様におそらく全てのアースノイドがその感心の一切を宇宙に向けてはいない、だから貴女方は大人達から何も伝えられることや教わることがなかったのでしょう。そんな世情で生まれ育った地球の若者が我々に歩み寄ろうとするはずがない、私の期待など所詮世間知らずの甘い戯れ言に過ぎなかったのです·····」

 

 唇を噛み悔しさを滲ませながらマシュマーは語った。優花里達が今回の食事会にて宇宙に住む人々の現実を初めて知ったということは即ち現在地球に住む大多数の少年少女達が宇宙に関して何も伝えられずに、知らずに今日も生活していることを意味していた。地球の若者達がそんな現状にあることを知れば彼が失落してしまうのも無理のない話であった

 

「·····先程はあの様に怒鳴り散らしてしまい申し訳ありませんでした。そして西住さんにもう怒っていない、手を上げようとしてすまなかったと伝えていただきたいです。明日の演習に私は参加いたしませんのでどうか西絹代達と修練に励んでください」

 

「あ、あの!私達はこれから先分かり合えることはないのでしょうか·····?」

 

「ないでしょうな。スペースノイドの何もかもが地球に届いていない事実こそもはや時代が我々を分とうとしている何よりの証拠。認めたくはありませんが人とは自身とは遠く縁のない他者へは無限なまでに不感に、不寛容になれる生物であるということなのでしょう·····」

 

「そんな·····けどマシュマー殿は私ばかりをあんなに気にかけてくれたじゃないですか。おかげで宇宙空間での機動もこなせる様になりましたし機体操縦にも更に磨きをかけることができたんです!」

 

 そもそも優花里がここへ来たのはマシュマーが昨日初めて対面した時より親身に接してくれ今日も演習中に付きっきりで指導してくれたことに感謝していたからであった。だからこそ彼をこのまま失望させたまま帰る訳にはいかなかったのだ

 

「それは秋山さんが·····失礼ながら貴女が人間関係に悩みを持った御方に見えたからです」

 

「え·····どういうことですか?」

 

「昨日初めてお会いした時一目見て感じました。私が言えた口ではありませんが、貴女があまり交友関係を築くことを得意としていない方に見えたので何か力になってあげたいと思い働いたのです··········最も西住さん達の様な御友人がいたのだから単なる私の勝手な思い違いだったようでしたがな。ははは·····」

 

「そう·····だったんですね·····」

 

 彼が親身になってくれていた予想外な理由に優花里は顔を俯かせた

 

「··········呆れたでしょう。私は貴女に対し先導者を気取ろうとしていたのだから地球の人々よりもよっぽど性悪で低俗な人間なのですよ·····皆貴女が帰るのを待っているはずです。どうかもう行ってください·····」

 

 マシュマーは腰掛けたまま申し訳なさそうに頭を下げ優花里に帰るように促した。彼が察していた通り優花里は自ら他者へと接し友好的な関係を構築することを苦手としていた。MSが大好きという趣味もあってか昔から学校のクラスでは孤立して過ごす時間の方が多く、その原因が自分にあることを優花里は大いに自覚し当時から仕方のないことなのだと思い込み自身の中で決めつけていた。彼女達と出会う以前までは··········

 

「·····待ってください。確かにマシュマー殿の言う通り私は昔から人見知りが激しくて周囲に馴染むのも下手で去年なんてほとんどの時間を一人で過ごしていました。けど·····そんな私にも仲良くしてくれる人達はいたんです」

 

「·····西住さん達のことですな?」

 

「はい。初めて西住殿と武部殿、五十鈴殿とお会いした日の夜家に帰ってから一日のことを思い返して嬉しい気持ちでいっぱいになっていたのですが、皆さんの様に女の子らしくもなければついついMSのことで熱くなってしまう自分はいずれ避けられてしまうのではないのかと少し怖いことも考えてしまいました。でも全然そんなことなくて皆私の話に応えてくれて今も私を輪の中に入れてくれて·····私は勝手に決めつけていただけて自分にも友達になってくれる人がいることにようやく気づけたんです」

 

「喜ばしいことですね。きっと秋山さんの人柄の良さに惹かれたからこそ皆貴女を友人として迎えたのでしょう」

 

「だからマシュマー殿も私達と分かり合える·····友達になれると思うんです!」

 

 突然優花里から発せられた熱のこもった言葉にマシュマーは顔を見上げた

 

「·····それとこれとは話が別でしょう。失礼ながら貴女の身近な人々との付き合いとは違い単純な話でなければ貴女方の他にも地球には我々に感心を抱いていない人があと何十億もいるのです。その者達全てが貴女方の様に変わってくれるとは·····」

 

「本当にそうでしょうか·····。今地球にいる人達も先程までの私達の様にただ何も知らないだけで教わることも無かった人が殆どだと思います。だから先程マシュマー殿が私達にそうしてくれた様に伝えることさえできれば皆共感して歩み寄ろうとしてくれるはずなんです」

 

「し、しかし·····13バンチコロニーでの悲劇や我らエンドラ学園が地球政府の都合で知波単に呑まれたことの様に宇宙で何が起きているのか、我々がどれ程虐げられているのか大なり小なり地球の人々は何一つ知らないのですぞ。それにただでさえスペースコロニーに人が生活しているという事実さえ知らぬ者達もいるというのに我々の叫びが市民達の耳に届くとは到底思えませんな·····」

 

「だったら·····私達も宇宙のことを他の人達へ届けるために一緒に叫びます!ただの学生で何の力も持っていない私達が声を上げても偉い人や興味のない方達には無視されるかもしれません··········でもきっと中には耳を傾けて共感してくれる人もいるはずです。だから沢山の人達にできるだけ届けていくことができればいずれは一人一人が自分とは関係なくても宇宙の人達のことを考えられる世界に変えられる·····私はそう信じたいです!」

 

 今まで宇宙のことは、我々の嘆きは何一つ地球には届いてこなかった。声として届かず聴き入れられず捨てられ続けてきた我々の意思を地球に住む自分達も共に叫んでくれると決意が込められた目と共に強く発する優花里にマシュマーは強く感銘を受けた。彼もまた地球に住む人々は皆自分達のことを見下しているのだと過去の優花里と同様に心の何処かで決めつけていたのだ

 

「信じて貰えないでしょうか?マシュマー殿の様に自分とは縁のない人のためにも親身になれることは何よりも大切なことで絶対に絶やさせてはいけないものだと思います。だからどうか諦めないで欲しいです·····」

 

 そしてこれ程までに暖かく優しい心の持ち主を目の当たりにしマシュマーは心の中で驚嘆し彼女をぞんざいに扱ってしまったことを深く恥じ己の行いを悔いた

 

「私は貴女が思っている程大した男ではありません。ですが·····この様な私で宜しければどうか貴女方と共に同じ道を進むことを、同じ世界を望むために尽力することを許していただきたい。今一度、地球の人々を信じてみようと思います·····!」

 

 マシュマーは立ち上がり此方の様子を伺う面持ちの優花里へ一度笑顔を見せてから深々と頭を下げた

 

「マシュマー殿·····!もちろんです!こちらこそ協力させてください!」

 

 彼が自分の想いを承り再び先程以前までの様子に戻ってくれたことが嬉しく優花里も満面に笑顔を広げた。住んでいる場所とそれを取り巻く文化、そして歴史もが異なる世界に生まれた二人。現在まで世の流れによって同じ人類でありながらも遥か遠く離れた存在として互いは分かたれ両者の進む未来への道は永遠に交わることが無いとさえ思われた。だが例えそんな世界であったとしても、名も知らぬ誰かのことを思い共に未来を創ろうと手を繋会おうとする心があれば人は二人の様に幾らでも分かり合うことができるのだ

 

「とはいえ今はまだお互い学生である以上派手に動くことはできないかもしれません。それこそ今回開いた食事会の様な交流の場を設けることが我々にできる最大限なことだと思います。最も嘆かわしいことに私以外の連中はその気でなかったためあの場にいた秋山さん達と西絹代にしか伝わらなかったことでしょう·····」

 

「そう簡単なことではなさそうですね·····西住殿や武部殿も絶対に協力してくれると思いますがやはり地球に帰ってから直ぐというのは難しいのでしょうか·····」

 

「なーに、そう急ぐことはありません。変えるべきは未来の姿であって今すぐに解決などできはしませんので各々ができることをゆっくりやっていただければ嬉しいです。それに何よりも宇宙には西住しほ様がいます。あの方に加えて秋山さん達も地球で声を上げてくれるのならば我々が共に歩める未来は確実ですな!フハハハハハ!」

 

「そうですね·····。わかりましたマシュマー殿!皆さんと一緒に宇宙での出来事を伝えるために先ずはできることから努めていこうと思います!それと·····宜しければこれからは友人として接してくれるととても嬉しいです·····」

 

「·····んなッ!」

 

 少し照れくさそうにそう話す優花里にマシュマーは何故か電撃が降り注いだかのような衝撃を受けた

 

(ど、どうしたのだマシュマー!?なんだこの湧き上がる熱い感情は·····一体何だというのだ!?)

 

「·····?マシュマー殿?どうかしたのですか?」

 

「え。い、いやいや何でもありませんぞ!(なんだ·····?どうして秋山さんと眼を合わせることができない!?さっきまでは出来ていただろうマシュマー・セロ!)」

 

 マシュマーは胸の鼓動が劇的に早くなるのを感じ胸を抑え、そして何故か優花里の顔を直視できなくなってしまい思わずしゃがみ込んでしまった

 

「ど、何処か痛いのですか!?もしかして西殿に蹴られたの所がまだ·····」

 

「い、いやいやいや何処も痛くなどありません!なんの心配も御座いませんぞ!(何なのだ·····どうしたというのだマシュマー!?何故こんなにも動揺している·····これではまるで変態ではないか!)」

 

 何とか落ち着きを取り戻し視線を戻すとそこには此方を心配そうな面持ちで覗く優花里の姿があった。どういう訳か彼女の顔が、彼女を形づくる一つ一つがとても可憐に、愛おしくマシュマーの眼に映り思わず後退りしてベッドに勢いよく後頭部をぶつけたが痛みなど感じない程に混乱していた

 

(·····いやいやいやいやいや!相手は秋山さんだぞマシュマー!貴様の様な男が純粋無垢な彼女に一目惚れなど··········そもそも貴様にはハマーン様がいるではないか!この阿呆!)

 

「あ、あの〜マシュマー殿?本当に大丈夫なんですか·····?」

 

「どうすればいいのだ·····私にはハマーン様がいるというのに·····そもそも選択する決定権が私にあるのか·····!?(だ、大丈夫です!本当に気を使わなくて結構です!)」

 

「·····失礼ですが言ってることと考えていることがあべこべになってませんか?」

 

 何故か急に激しく動揺し始めたマシュマーを見て優花里は苦笑いを浮かべる他なかった

 ともあれマシュマーは一度は地球へ対し失望したものの再び気を取り直し、優花里は先程までの自分達の様に宇宙のことを何も知らずにいる人を無くすために努めることを決意した。地球と宇宙に住む人々が互いのことを思いやれる·····その様な光る世界に変わるのはまだ遠い先の未来なのかもしれない·····

 

 

 

 

 


 

 

 

 月面都市フォン・ブラウン、愛里寿達の強襲揚陸艦【スパルタン】のMSデッキにて───薄暗い空間の中そこにはハンガーに静かに佇むネティクスと愛里寿にメイドとして仕える最上位の強化人間、フブキ・ドゥルガー・マカハドマの姿があった

 

「お嬢様に言われて来たが一体何の用だ?今更止めようとしても明日の支度はとうに済ませてしまったぞ」

 

(行かないでくれフブキ。もうみほさんを連れて来る必要はないんだ。愛里寿も皆もわかってくれたのだから)

 

 フブキは静かに背を預ける様に寄り掛かりネティクスから伝わってくる少女の声と対話していた

 

「わかってくれただと?間抜けなことを抜かすな。お嬢様やレビン達が何故おまえの言う事に従うのかわかっていない様だな」

 

(皆自分の意思で着いてきてくれている·····そうじゃないのかい·····?)

 

「皆無惨に殺されたおまえを憐れみ同情しているから従っているのだ。ただでさえお嬢様は誰よりもおまえが戻って来ることを望んでいたというのに·····おまえは赤の他人の西住みほを選んだ」

 

(認めたくないね·····それにみほさんは赤の他人じゃない。私には彼女の未来を変え辛い目に合わせてしまった責任がある·····だから私達はこれ以上彼女に干渉するべきじゃないんだ)

 

「フン、そんなザマになってもニュータイプだからと自惚れているな。お嬢様やレビン達の心中を知っておきながらおまえは己が思うがままの立場に皆を置き常に誰よりも上に立とうとしている」

 

(·····君は相変わらず厳しいね。私はただ皆には私の様になって欲しくないから·····)

 

「誰もがおまえの思い通りのままであると思うなよ。その自惚れはいずれ己を滅ぼし、周りの人間をも平気で喰らい尽くす。古くからの友として忠告させて貰ったぞ」

 

 島田千代率いるニュータイプ研究所の中で被検体として物心つく以前から育てられ、身体能力と精神の安定性、MSによる戦闘能力と空間認力全て高水準の数値を誇る強化人間【カテゴリーS】に分類されていたフブキ。そんな彼女もメグミ達と同じく愛里寿の姉にあたる少女は幼い頃からの親友だったのだ

 

(待ってフブキ。あのシュバルツ・ファングからみほさんを連れ去ろうだなんてあまりにも無茶だ。それにレビンも連れて行くつもりなんだろう?)

 

「やり方は考えている。レビンもアイツ自身が来たいと言っているから連れていくまでだ。それに所長からはある任務を任されていてだな。いずれにせよシュバルツ・ファングには行かなければならんのだ」

 

(衛叔父さんの··········)

 

「心配するな。私はあくまで聞ける物だけに従っているいるだけでおまえ達の味方であることには変わらんよ·····言い忘れていたがジュピトリスのタイタニアが連合の例の部隊へ入隊したという情報が入った。所長でさえあの娘がどれ程のものか計り知れていない今私達には戦力が必要だ」

 

(·····彼女も私達と同じニュータイプで宇宙で生まれた子だ。きっと分かり合うことだってできるはず·····生命を奪い合う必要なんて·····)

 

「自分を殺した相手にそんな甘い考えを望むな。おまえがその調子では今度こそお嬢様を奪われるかもしれない·····それを阻止しあの娘を討つためにも西住みほの力は必要だ」

 

 フブキはネティクスから体を起こし長く下ろした氷の様に蒼白く透き通る髪を靡かせデッキの外へ足を向けた

 

(フブキ。私が彼女に負けてしまったのは私が弱かったからなのかい?本当にみほさんの力がなければいけないのかな·····?)

 

「·····おまえはお嬢様を守ろうとして殺された。この世で死んで行くのは皆弱者だ。·····だが誰かを守るために命を賭すことは本当に強い者にしかできないことだ」

 

(·····やっぱり君は変わったね。昔よりも優しくなった。これも地球の知波単学園にいたおかげなのかな)

 

「毎度言っているが何なのだそのチハタンとかいう学園は·····あんな雑魚ばかりのアースノイドの学園と私に何の関係があるというのだか。·····帰ったらまた立ち寄らせてもらうぞ、美香」

 

 友へ別れを告げ、フブキは再び足を進めデッキの外へ出て行った。今の彼女にはもはや一片たりとも当時の記憶は残っていなかったが·····彼女は確かにかつて知波単学園のモビル道に身を置いていたのだ

 そして彼女は記録資料など全てか抹消され幻のの存在となった今でも、絹代の心には深く残っていたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰よりも熱く真正面から自分の意思を示しぶつけることを躊躇わない絹代。知波単学園の中等部へ入学した彼女が出会ったのは氷の様に冷たく絶対的に閉ざされた心を持ちながらも誰よりも確かな強さを持ち合わせていたフブキ・ドゥルガー・マカハドマであった。完全に相反していた二人。共に過ごした時間は短くとも絹代にとってフブキは、フブキにとって絹代は自分を変えてくれたかけがえのない大きな存在へなっていった

 

次回 ガールズ&ガンダム『幻の突撃王』

 

 貴女が照らしてくれたから、私はここまで強くなれた

 

 

 




 読んでいただきありがとうございました

 最終章ですら何一つ関わりの無いまほさんとマリー様ですが当ssではいずれラスボスとなるまほさんを引き立てるため木星帰りのマリー様と関わらせていこうと考えております。二人の関係はシロッコ×レコアさんの関係性をほぼそのままに書いていこうと思います(ろくなことにならなそう·····)

 優花里とマシュマーの絡みはこれから先も続いていくと思いますがしかしネオジオン軍の強化人間達の中にはマシュマーの他にも最期まで報われないまま死んでしまった男がいます。そんな彼もマシュマーの様に優花里に救済して貰うことを予定しております(尚当ssにおけるハマーン様はいずれおまけ回に登場させようと思います。といっても単なるギャグ的な存在になると思うのでご了承を·····)

 次回は西さんの過去話となります。今年中に投稿したい·····





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おまけ マリーの眼

 明けましておめでとうございます!

 本編全然進捗率10%くらいなので先に元々組み込もうとしていた内容を投稿させていただこうと思います。新年早々酔っ払いながら書いたのでかなりエスパーな内容になってます・・・ごめんなさい・・・


 黒森峰女学園の学園艦に建つ学生寮にて───その夜、そこで暮らす黒森峰の女子生徒達は、モビル道の隊員達は何処か慌てどよめいた様子で食堂に集まっていた。というのもこれまで誰よりも規律に厳格で他の生徒の模範とされていたまほが校則違反だというのにも関わらず他校の生徒を自室へ上げたからであった。まほが異様な仮面を付け始めたというのもあり他の生徒の間では他人事ではありながら動揺を隠せなかったようであった

 

「まほさんがまさか他校の生徒を連れて帰って来るなんて・・・こんなの西住師範が知ったらただじゃ済まないんじゃ・・・」

 

「ていうかあの子何者なのよ!?BCなんて弱小私達と何の親睦もないじゃない!」

 

「もしかしてかなり偉い家柄の人か、黒森峰の出資者の令嬢とかなんじゃ・・・いずれにせよあのまほさんと対等に居ようとするなんて身の程知らずもいい所。あの安斎みたいに家元に排斥されるに決まっているわ」

 

 突如としてまほと共に侵入してきたマリーに対し寮内の生徒はひそひそと様々な憶測を交わしていた

 だが耳に聞こえてくるそんな彼女達の、()()()の戯言にまほの部屋に上がり足を楽にして座り込んで寛いでいたマリー思わずクスリと笑みを浮かべていた

 

 

「何が可笑しい?」

 

「ふふふ、ごめんなさい。何でもないわ。まほさんも大変なのね、こんな場所で今まで生活することを強いられていたなんて」

 

「・・・今まで食べることと寝ることに困ったことはない。それよりもいい加減聞かせてもらおうか。君が一体何者なのか、何故この学園に一体何の目的で来たのかを」

 

 まほは寛ぐマリーを仮面の奥から高圧的な視線で見下ろした。半ば強行的に寮長を説き伏せマリーを部屋へ上げてみたものの、まほ自身彼女が何のために此処へ来たのか掴めていなかったので問い詰める必要があったのだ。まほは常人では身を竦ませてしまう程の気迫を仮面越しから放っていたもののマリーはまるで意に介していないのか、そもそもまほ程の人物であろうとも下に見ているかの様に余裕に振る舞いながら言葉を返した

 

「それじゃあ改めまして自己紹介でもさせてもらうわ。地球連合軍のマリー・タイタニア大佐です。以前までは木星探査船団の指揮者として木星へ行っていました。ただ今日は休暇で貴女のために此処へ来たというのも本当のことなの」

 

「連合軍だと!?・・・・・・そうかわかったぞ。以前お父様が軍内にみほと同じ年齢でありながら階級の高い娘がいるといっていたがそれが君だということか!大方私が西住流の跡取りだから連合軍のMSパイロットとして引き抜こうというつもりだったんだろう!」

 

 マリーが連合軍の者であると名乗った時まほは彼女に対しての構え方を一変させ声を荒らげた。彼女に対し緩みときほぐれていた意識が完全なる警戒心からなるものへと変わったのだ。それは母親のしほから現在の腐敗し切った地球連合軍に属する者が私的に接触してきた時は必ず拒絶し追い払えと常々言われて育ってきたからであり、たとえまほ自身が母に反しようとしていることにかかわらず反射的に母の教えのままにマリーへ警戒の意思を向けていた

 

「・・・駄目ねそんな感じ方では。今の貴女はまるで他人を頼ろうとしていない、自分一人の力で全てをねじ伏せ解決しようとしている。けれど今の貴女はその感じ方を変えない限りいつまでも勝つことはできないわ」

 

「黙れ!軍の人間が知った様な口を聞くな!最終的には勝利してみせるさ・・・お母様を超え、私を貶めたプラウダを討ち、そして私を見限ったみほと安斎を取り戻す!そのために私は力を示すんだ!」

 

 この時まほは激情に駆られていたのか、半ば無意識に赤裸々なまま自身の心中をマリーに暴露していた。だが自分が居ない間に大洗へ転校したみほと自分の傍へ戻ってきてくれなかったアンチョビを取り戻そうとする意志は固くマリーへぶつけたものそのままであった

 

「・・・なるほど。そういうことなのね」

 

 するとマリーは突如立ち上がり、まほの顔を覆う漆黒の仮面を掴み彼女の顔から外し部屋の隅へ投げ捨てた。あまりにも突然のことだったのでまほは抵抗できず、仮面が外れた素顔を腕で覆い隠した

 

「なっ・・・何をする!?」

 

「よくわかったわまほさん。気づいてあげれなくてごめんなさい・・・今の貴女に必要な物はこれなのよ」

 

 マリーはその言葉を告げると共に、仮面が外れ素顔を露にしたまほの顔を抱き寄せ自身の胸へ埋めた。ただでさえ仮面を脱がされ動乱する中、自分よりも小柄であるにも関わらず彼女が突如腕を回し抱き寄せられたためまほは驚愕し無意な反発をすることしかできなかった

 

「・・・!?は、離せ!何のつもり・・・」

 

「貴女はただ優しくしてもらいたかった。愛して抱き締めてもらいたかった。けれど貴女のお母様や求めることしかしない世俗は貴女に西住流の後継者としての姿を望み続けた。皆に応えるため貴女は例え自分が望むことでなくとも絶対的に強くならなければいけないと感じていた。いつかお母様に認めてもらいもう一度抱き締めてもらうために」

 

「そんな・・・また適当なことを・・・」

 

「でもその遠い未来への理想だけでは貴女の寂しさは埋まらず日々募っていくばかり。だからこそ母親の様に貴女を抱き締めてくれた友人はかけがえのない存在だった。失う訳にはいかなかった・・・」

 

 マリーの言っていることが彼女の本心からの言葉なのかはわからない、だが今自分を暖かく抱き締め暖かい言葉をくれる彼女にまほは心を揺さぶられていた。先程まで彼女は軍人であるから関わっていけない、そう思っていたはずがかつて自分を抱き締めてくれた母や親友と同じ温もりと暖かさ、愛が彼女から伝わってきたのだ

 

「けれど敗けた貴女は宇宙へ捨てられ何ヶ月間も彷徨わされた、絶望的に孤独だったに違いない。そして折角帰ってきてもそのことを知らないお母様や友人、妹さんは貴女が甘えることを許してくれなかった。誰一人として貴女の傍には居てくれなかった。寂しかった、辛かったわね・・・」

 

「・・・・・・だから力を示すしかないんだろう・・・みほや安斎を取り戻すためには・・・。世に力を示し私が弱くないことを示さなければ何も取り戻せないんだ・・・」

 

「でも人は一人では生きれない。誰かからの優しさと温もりを忘れた貴女が今のままならば勝つことはできない。だからこの私が貴女へ力を貸してあげる。貴女が世俗とお母様を見返すために、力無き貴女を見捨てた妹さんと友人さんに戻ってきてもらうために必要な力を私が与えてあげるわ」

 

「私に・・・力を・・・?」

 

「ええ。だからもう寂しがることはない、これからは私が貴女の傍に居てあげる。そして貴女が失った全てを取り戻すため私に協力させて欲しいの」

 

 マリーはまほを更に深く、優しく抱き締めた。まほは自分への想いが込められたマリーの言葉、その抱擁から伝わり染み渡る温もりに知らずの内に彼女の胸の中で涙を流していた。かつて親友がそうしてくれた様に、自分を分け隔てなく一人の人間として向きあってくれたことが嬉しかった。こんな自分を救うためにこれ程まで尽くそうとしてくれることが、自分にもまだ寄り添おうくれる人がいたことがまほにはただただ嬉しかった

 

「君はどうして・・・こんな私にそこまでしようとしてくれるんだ?とても軍の人間とは思えないな・・・」

 

「私も貴女と同じ。親に愛されないまま、抱きしめて貰えないまま育ってきたわ。確かにとても寂しかった。だからこそこれ以上私達と同じ様な子達が世界にいてはいけない、そんな世界にしないために人々を変えていかなければならないと感じている。だからもし良ければ私と一緒に来てくれないかしら?世を導くのはまほさん・・・・・・いいえ、()()。貴女の様な女の子でなければならないの」

 

「・・・わかった。君が私へ力をくれるというのなら、私もできる事があるなら幾らでも君へ力を貸そう。だからもう少しだけいいか・・・?」

 

 マリーを完全に信用するという旨と共にまほは彼女の背を掴み赤子の様に彼女から離れることを拒んだ。まだ感じていたかったのだ、彼女から感じるかつての母と同じ温もりと暖かさを

 

「ふふっ、もちろん。好きなだけ抱き締めてあげる。・・・・・・だからずっと私の胸の中にいるといいわ、まほ・・・」

 

 マリーに促されまほは彼女の胸の中で静かに涙を流しながら抱きついた。この先どうなるかはまだわからないが母や親友と同じ温もりを感じさせてくれる彼女が例え母が警視する連合軍の人間だとしても信用しない理由がなかった。マリーが自分に寄り添い力を与えてくれるのならばその返礼に彼女の望むことを果たそうという所存にまでまほの心は変わってしまっていた、今日会ったばかりの一人の少女に完全なまでに全てを呑れようとしていたのであった

 

 

 みほとアンチョビに見捨てられたと思い込み全てを取り戻せる力を渇望し自棄になっていたまほ。そんな孤独に悲しみ傷つき弱りきったまほを暖かく抱き締めてあげたマリー・・・・・・だがまほを胸の中で抱くマリーの眼は冷たく、一片たりとも彼女へ対する温情など宿らせていなかった

 その眼が見据えるは西住まほを世を導く女王(タイタニア)へ仕立て自身が彼女の操者、世の神として裏に在り続ける世界。彼女を手に入れるためならば幾らでもまほに虚言を並べ、優しき眼を向け抱き締めてやることができたのだ。自身が望む世界の女王を手に入れるためならば・・・・・・・・・

 

 マリーは胸の中で泣き沈むまほをその眼で見下ろしながら邪なる嘲笑を浮かべていた・・・

 

 

 

 




 読んでいただきありがとうございました

 前回マリー様とまほさんに関してシロッコ×レコアさんとほぼ同じと言いましたがもう少し適正な例がありました。最近ホットなSWにおけるパルパティーンとアナキン、当ssにおけるマリー様とまほさんの関係はこの二人の関係と近い感じになっていくと思います。本当に最悪なことになります

 次章まで二人の出番があまりないので予告させてもらうとまほさんは宇宙世紀において最も最悪な法規部隊のプロパガンダに近い存在として全国大会に参加することとなります。本当にろくでもない目にあいます。ファンの人にぶん殴られてもおかしくないくらいろくでもないことになります。ただその上で知って欲しいのがガルパンにおいてメインとなる女の子達、その女の子にとっての大敵パプテマス・シロッコがガンダムシリーズにおいて最も最悪な人間であるということなのです





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17話 幻の突撃王(前)

 テスト大爆発してたのでお久しぶりの投稿です。しかし不甲斐ないことに西さんの過去回だけで二万字超えそうにな気がしたので前編後編に分けることになりました。申し訳ございませぬ・・・

 それと今更ながらご報告ですが全国大会篇と関係あるのは前回投稿したマリー様がまほさんをgetする回までですので全国大会だけが楽しみと言う方々は今後(第三章含めあと20話前後)の話は一切読まなくてもおそらく大丈夫です。全国大会篇が始まる時は何らかのわかりやすい形で明示しますのでご協力よろしくお願い致します




 みほをはじめ地球の若者達は先人が築いた時世の流れ、決して宇宙の民に関して教わることも報道されることがなければ彼等とは遥か縁遠い日常の中生まれ育ってきたため宇宙というもう1つの世界を知り得ずにいた。このままではいずれ地球と宇宙の人々は同じ人類でありながら完全に乖離され互いに相反し合うこととなる・・・しかし優花里がマシュマーと和解できた様に、自分の中で他者の思いを決めつけるのを止め互いを信じ共感し合うことのできる優しく暖かな心さえあれば人はどんな離れた世界に生まれた者同士だとしても手を繋ぎ合い分かり合うことができるのだ。それは世界を変えるためには極めて小さくあまりにも微力であるのかもしれない、だがだとしても二人は分かたれつつあった地球と宇宙を繋ぐための確かな一歩を踏み出すことができたのだ

 

 一方地球、黒森峰女学園にて西住まほはジュピトリスより地球へ舞い降りたマリーと出会う。唯一の親友アンチョビに絶交を宣言され、守ると誓った大切な妹のみほにも転校先の大洗で新たにモビル道を始められてしまい深く傷つき失意の底に落とされていたまほにとって昔の母の様に暖かく抱き締め全てを取り戻せる力を与えてくれると語るマリーは心から求めていた存在だった。学生史上最強のエースパイロットと称えられ、しほの後を継ぐ者であると世間から名高く認められてはいたがまほ自身それ程強い人物ではない、まだ母や誰かからの温もりと愛情に飢える極々普通の女の子。故にマリーが例え関わるなと言われ続けてきた地球連合軍の軍人であろうと今の自分に寄り添おうとしてくれる彼女に心を許し全てを委ねようと決意してしまうのも無理はなかった・・・

 だがまほを抱くマリーには彼女へ共感しようとする意思など毛頭無く、ましてや優花里達の様な暖かな心もその胸には宿していなかった。聖母の様な愛に満ち溢れた抱擁でまほを包み込み、彼女が求めるもの全てを与えようと言えるのは西住まほという世俗に強大な影響力を持つ少女を手に入れるため、そして彼女を地球圏に住む人類を支配する女王へと仕立て上げるため・・・・・・まほの前に現れたのは十代半ばのうら若き少女ではなく他者の弱さにつけ込みその者の生き血を啜ろうと企む邪悪な怪物だったのだ

 

 宇宙と地球、分かたれつつある双界の人々が共に歩み完璧な勝利を手にすることを何よりも尊ぶ流派、西住流。その志しを広めるため現在も奮闘し続けている西住しほの跡取りとして育てられてきた西住まほは木星帰りのニュータイプ、マリー・タイタニアに全てを掌握されようとしていたのであった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば絹代さんって私達と同じ二年生なのにここのチームの隊長なんだよね?まだ三年生も引退してない時期なのに任されてるなんて凄いじゃん!」

 

 優花里が医務室のマシュマーのもとへ到着した時と丁度同じ頃、部屋に残されたみほ達と絹代は互いの学園での日常やモビル道の何気ない話題を交わしていた。その中でふと沙織の口から出た様に絹代は進級した春から知波単学園のモビル道部隊隊長を二年生ながら正式に任されていたのだ

 

「そんなことありません。お恥ずかしい話まだまだ部隊の指揮官として至らぬ所ばかりで皆から隊長と呼ばれてはいますがその実三年生や卒業生の先輩方から助言をいただきながら何とか皆をまとめているというのが現状なんです」

 

「確かに私達と比べてパイロットや他の人員の数も圧倒的に多いようだからな。全員の代表を務めるというのは簡単なことではないだろうな」

 

「そうですよね・・・この艦だけでも沢山の人が乗っているのにその他の艦にも同じ位乗っている訳ですから・・・」

 

 麻子と華が口を揃えて言う様にモビル道の部隊における隊長という存在はパイロットを初めMSや艦船の整備を行うために参加してくれているメカマン達や艦内クルーの面々も指導し部隊全体をまとめあげなければならず、多大な責任が伴うため誰にでもそう簡単にできる役職ではなかったのだ。それがどれ程なのかをかつて黒森峰女学園に在籍していた頃に傍で隊長の責務を全うしていた姉を見ていたみほも重々理解しており、今自分が初心者ばかりで且つ人数の少ない部隊の隊長であることに内心安堵していた

 

「とはいえこのままいつまでも皆に頼りきりという訳にもいきません!今の私は全国大会で勝利を連ねる部隊の指揮官としてまだまだ未熟・・・だからこそより一層精進し西住さんや他校の隊長の皆さんに追いつこうという所存です!」

 

「わ、私もですか!?私なんてまだ隊長になったばかりだから・・・」

 

「そんなご謙遜なさらないでください!西住さんは西住流のお家元にして学生史上最高のパイロットと謳われるあの西住まほさんの妹、そして例の人間が新しく進化した存在である"ニュータイプ"と噂されているお方ではありませんか!私の様な凡才にとって西住さんは天上人の様なお方なのですよ!」

 

 目を輝かせながら熱意を込めて語る絹代、しかし他者からニュータイプと呼ばれ特別な目を向けられる度にみほは自分自身が沙織や華の様な普通の女の子とは異質な存在であるのだと自覚させられていたのだ。絹代に悪気がないことはわかっていたがその感覚からみほは一言も言葉を返すことができず表情を暗くし俯くことしかできなかった

 

「そういえば!確か去年の全国大会で何やら西住さんがチームメイトの一人を洗脳して危うく大事に至る所だったと良からぬ噂が流れていましたが私はあんなの単なるでっち上げに過ぎないと思います!いくらニュータイプのが何なのか全て明らかにされてないとはいえ誰かの頭の中に入り込む様な妖怪みたいなことができるはずありませんし、それこそマシュマーさんの言っていた宇宙と自分達を隔てさせようとする人達のでっち上げに違いありません!」

 

「あ、あのさ絹代さん!話変わっちゃうけどなんで絹代さんが隊長を任されるようになったのかよかったら聞かせてくれない?初心者ばかりの私達と違ってやっぱ二年生なのに隊長になれるなんて普通じゃないと思うなぁ〜・・・」

 

 沙織はみほの様子に気づき彼女の意思を汲むと、みほを特別視することを一切憚らずに夢中で話す絹代へ半ば強引に話題を変えようとした

 

「え・・・私が隊長を任されている理由ですか?う〜ん・・・」

 

 するとどういうことか絹代は虚をつかれたかのように口を噤み先程までの熱意に溢れた様子から腕を組み難しそうな表情で唸り始めた。みほを助けるために適当な疑問を投げかけたつもりだった沙織も絹代の予想外な反応に戸惑った

 

「もしかして何か嫌なこと聞いちゃったかな・・・?答えたくなかったら言わなくても・・・」

 

「いや、そういう訳ではないのですが・・・う〜〜〜ん・・・・・・」

 

 目を深く瞑り悩む彼女の様子に他の三人も驚きを隠せず少し困惑していた。絹代はそんなみほ達を後目に沈黙のまま考え込み、そして先程よりも真剣な面持ちで切り出した

 

「・・・正直この話を、あの人の話を皆さんにしたところで信じて貰えないかもしれません。しかし私達もこれから宇宙で住んでいる人達のことをもっと知り考えなければならない今、少なからずは関係のある話な気がするんです。なのでもしよろしければ少し聞いてもらえないでしょうか?」

 

「そういうことなら全然いいけど、あの人って・・・?」

 

「ありがとうございます。・・・あの人は宇宙から知波単学園に編入生として来てくれて、一緒にいた時間はとても短かったのですがそれでも私や皆にとっては憧れの人で・・・本当に大好きな人でした」

 

 絹代は静かに話し始めみほ達も彼女の話に耳を傾けた。それは現在より四年前に絹代が知波単学園の中等部に入学しまだ間もない頃、氷のように冷たいある少女との出会いから始まった・・・

 

 

 


 

 

 春、知波単学園学園艦──────放課後となった中等部の校舎にて、まだ入学したての新入生であった絹代は困っていたクラスメイトの一人を手伝い共に教務室を後にしていた

 

「ありがとうございます西さん!一人じゃ皆のノート運ぶの大変だったから助けてくれて本当に助かりました!せっかく高等部のモビル道に行こうとしてたのにごめんね・・・」

 

「なんの!困っているご学友を助けるのは当然のことですのでお気になさらずに!ではでは!」

 

 絹代は満開の笑顔でそう言い残し脱兎のごとく走り出した。校舎の廊下を駆け昇降口へ出て校門を抜けようとした所で内履きのままだった事に気づきすぐ様下駄箱へとんぼ返りし外履きへ履き替え再び駆け始めた。それほどまでに急ごうとするのも今日もまた高等部のモビル道の訓練に混じえてもらう日だったからだ

 

「早く行かないと撤収作業の時間になってしまう・・・急がなくちゃ!」

 

 知波単学園の中等部はモビル道の授業はおろか部活としても取り入れていなかった。知波単学園は古くからの日本の文化を色濃く繁栄させており、日本という国は地球上で最も平和で豊かな国の代表格とされてきたため、モビル道が誕生した当初文化的な側面から実兵器としての運用も成されているMSを扱うモビル道を学活の一つとして迎えることはなかったのだ。だが刻の流れがそうさせたとか、次第にモビル道への評価や見識は少しずつ甘く、緩くなり誰が許したのか知波単学園にもモビル道が誕生したのだ。初めは同好会程度の規模での活動だったがみるみるうちに参加する生徒は増え続けていき、気づけば必修選択科目の一つとして当たり前のものとなり全国大会への参加にも熱心に取り組む現在の知波単学園に至ったのであった

 とはいえ先人達の意思も少しは尊重するため絹代の様に学園の中等部の生徒達にはMSや兵器に搭乗することは一切禁止されていた。その代わりに先輩達の認可のもと訓練の見学やMSの整備や修繕、宇宙での演習や渡航への随伴などある程度のことは許されており、絹代にとってはMSに乗ることができずとも知波単のモビル道に携わることができるだけでも十分だった。小学生の頃絹代はテレビで見た知波単のモビル道の、彼女達が脈々と伝統として受け継いでいるMSによる突撃戦法に強く感銘を受け自分も彼女達の様に勇ましくなりたいと思ったから知波単学園のモビル道に深く惹かれていたのであった

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・・・・なんとか間に合った!・・・ってあれ?これは一体・・・?」

 

 学園艦上に設けられたMSが戦闘演習を行える程広大な荒野を有する強化フェンスに囲まれた演習場に息を切らし到着した絹代であったが到着して早々演習場に広がる景色に目を疑った。演習場には知波単学園が地上で主に使用するMS【MSM-07 ズゴック】をはじめ数十機の水陸両用MS達が屍の様に地に伏し沈黙しており、その中央に一機の【MSM-04 アッガイ】と開かれた胸のコックピットハッチの上に立ち、辺りを見下ろす一人の女性の姿があり絹代は彼女に目を奪われ食い入る様にフェンスに手をかけていた

 

(地球の学徒達が動かすMSなど所詮この程度か・・・あまり気を入れると返って目立ってしまうな・・・ん?)

 

 同じ高等部の隊員達が乗る数多のMSを蹂躙した少女もまた遠く離れたフェンスから此方を力の入った眼で見つめる絹代の存在に気づき視線を向けた。膝下に達するほどの凍りついたかのように蒼白く透き通ったロングヘアには雪の様に白い軍帽を被り、着用する同じ配色の軍服のような衣装は胸元を大きく開くように着崩すされ、スラリと伸びる長脚もまた純白のロングブーツに包まれその姿と放たれる圧は特殊警察、または大監獄の獄長を思わせた。そして絹代は行動不能となった数多のMS達を一人佇み見下ろす彼女からまるで戦乱の世を生き抜いてきた将軍の様な圧倒的存在感、カリスマ性を強く感じ目を輝かせて思わず唸った

 

「す、凄い・・・・・・かっこいい・・・!」

 

「なんだ?あのちんちくりんは・・・?」

 

 熱い眼差しで見つめたまま眼を逸らさない絹代を少女は不思議に感じ怪訝そうに顔をしかめコックピットへと戻って行った。ハッチが閉じられアッガイはモノアイに光を灯すとその場からスタート地点へと跳躍して行き絹代もその後を追うように走り出した

 

 

 

 

 

 

 

 絹代が演習場内のMSの格納庫や大型倉庫が置かれた区画へ着くと他の隊長達や中等部の生徒達も絹代と同じ様に全員先程の光景に衝撃を受けたらしく慌ただしくなっていた。そして行動不能となったMS達を載せた回収用のトレーラーが帰ってきたのと同時にアッガイも帰還しており絹代は自分と同じ様に彼女を見上げていた現在の隊長に何が起きていたのか問おうと声をかけた

 

「隊長!あのお方は一体何方様なのでしょうか?」

 

「西、来てたのか。あの人は我が校と交流のあるコンペイトウという星から交換留学生として高等部に編入してきた一年の鉢特摩(ハドマ)吹雪(フブキ)さんだ。宇宙の出身らしくて最近地球に来たばかりらしいんだ」

 

「そ、それで一体何があったのですか?」

 

「それがだな・・・あの人は今日一日一言も喋らず静かに見学していたるだが、さっきいきなりうちの一軍全員と組手をやらせろと言ってきてな・・・馬鹿にしてるのかと思ってやらせてみたんだが見てわかる通り結果見事一機残らず撃破してくれたという訳だ。情けないけれどあそこまで強い人が味方になってくれるなら心強いな!」

 

 宇宙からの編入生として知波単学園へ入学した鉢特摩吹雪。明らかに日本人離れした容姿や地獄の名称が名字になっていることに少し怪しい様にも感じたが送られてきた彼女の書類は正式なものであったため学園は彼女を受け入れたとのことも隊長は絹代へ伝えた。フブキは昇降用のワイヤーを使わずコックピットから跳び地面へ軽やかに着地し、口だけではなかった圧倒的なその実力を讃えようと隊長はフブキのもとへ心地よく笑いながら近づいて行った

 

「本当に大したもんだよフブキさん!まさか私達一軍をこうもあっさりと蹴散らせるなんて・・・いやぁ〜あっぱれあっぱれ!」

 

「・・・おまえ達は毎年地球の全国大会だったかに出場しているのだろう?一体どの程度の戦績を修めているんだ?」

 

「お、オマエ?・・・全国大会と言えばこの数年間は毎年一回戦で敗北していて練習試合も惜しい所で敗退しているというのが現状だ。けれども先輩方から受け継いだ知波単の、私達の魂とも言える突撃だけは毎年全員で敢行し試合相手や見に来てくれた観客の皆さんへ披露している!例え試合に敗れたとしても皆さんの眼に我らの勇姿を焼き付けることができたなら華々しく散れたというもの!」

 

「そうか・・・今日はもう上がらせてもらう。まだ済ませなければならん手続きが大量に残っているものでな」

 

「?そういうことならご苦労様!明日からは本格的に訓練に参加して貰うからよろしく頼むよ!」

 

 敬礼しする隊長の言葉を半分無視しフブキは踵を返しさっさと立ち去ろうとした。今日一日彼女達の訓練を眺め、その後実際に手合わせをしフブキはこの者達がどれだけ練習を重ねようと永遠に勝利することの無い弱者であると確信していた。というのも先人達が築いたという伝統的な突撃戦法とやらを戦闘で成す事のみに一人一人がこだわり自ら独自の思考を持たずその伝統、もはや単なる形骸となり果てたその規範を受け継いでいると言い張り続け後に続く者達にもそれを浸透させ同じことを繰り返させる。そんな有様では勝てるはずがない・・・だが知波単が今後どんなに廃れていこうとフブキにとっては関係の無い話、そもそも地球へ降りここへ入学したのも全く別の目的のためだったので彼女達のことなど心底どうでも今は適当に合わせていこうと考えていた

 

「待ってください!」

 

 歩き去ろうとした所突如服の裾を何者かに掴まれフブキは足を止めた。振り返るとそこには先程フェンスの向こうから此方を見つめていた少女の姿があった

 

「・・・誰だ貴様は?」

 

「私は西絹代と申します!先程演習自体は見ることができませんでしたがその、貴女様の姿がすごく勇ましくてかっこいいと思いました!」

 

「そうか、ならば精々手本にでもするのだな」

 

「それで・・・もしよろしければ私に貴女の強さの秘訣をご教授していただけませんか!?私も貴女みたいな・・・フブキさんみたいな逞しく強い女性になりたいんです!」

 

 依然裾を掴む手を離さず加えて自分の中へ踏み込もうとしてくる絹代にフブキはイラつきを感じ射殺す様に睨みつけた。だが絹代はフブキの蒼い瞳から放たれる凍てついた視線に萎縮することなく真っ直ぐに彼女の眼を見つめ返した・・・だがその熱い眼差しはフブキの心を更に逆撫でた

 

「・・・誰がおまえのようなちっぽけな娘の教師になどなるものか。さっさと散れ」

 

「うわっ!」

 

 フブキは絹代に掴まれた手を払い除け身体を突き飛ばしてやると彼女は尻もちを着いて倒れた。二人のやり取りに隊長を含め周辺の面々が何事かと注目し始め変に目立つ訳にはいかんと感じフブキは一刻も早くにとその場から立ち去ろうとした・・・だが冷たく突き放してやったかに思えた絹代が突如脚に抱きついてきたため去ることは叶わなかった

 

「なっ!貴様何をする!?」

 

「待ってください!!!」

 

 絹代は先程のフブキの姿に余程見惚れ憧れを抱いたのか拒絶されようと退かずに彼女から教えを乞おうとした。フブキはしがみつく絹代を振りほどこうと脚を振り回したが中々引き剥がせなかった

 

「ええい離さんか!何なのだ貴様は!」

 

「お願いします!どうか私を弟子にしてください!」

 

「あれれ?フブキさんいつの間に西と仲良くなってたの?」

 

「なにぃ!?これのどこが仲のいいように見えるのだ!さっさと離れろこの小猿が!」

 

 呑気な様子で誤解する隊長に更にイラつかせられフブキはとうとう怒りの頂点に達し、拳を固めると絹代の頭へそのげんこつを落雷の様に振り降ろし鈍い音が響いた

 

「あいでっ!」

 

「はぁ、はぁ・・・おい隊長。この小猿は貴様の後輩だろう・・・一体どんな教育をしてきたのだ?」

 

「いやぁ〜そう言われましても西はフブキさんと同じこの春に入学してきた新入生ですし、今の所素行も悪くなければいつも熱心に私達の手伝いをしてくれるので良い奴だと私は思います!」

 

「チッ・・・もういい。今度こそ私は帰らせてもらうぞ」

 

 一呼吸整え欠かれた冷静さを取り戻したフブキは頭にできたタンコブを抑える絹代を後目に今度こそ立ち去ろうとした・・・だが絹代は予想以上にしつこい、一度決めたことを中々退かない性格だった

 

「待ってください!!!!!」

 

「のわっ!クッ・・・まずい・・・!」

 

 歩き出そうとしたフブキの足に絹代は地を這いながらもしがみついてきたのだ。フブキはバランスを崩し危うく前方に倒れそうになり何とか腕をバタつかせて立て直せたが静めたはずの怒りを再びふつふつと湧き上がらせた

 

「貴様・・・よくもここまで私を辱めたな・・・・・・!」

 

「私を弟子にしてくだ・・・へ?ひょっとしてフブキさん怒ってます・・・?一体どうして・・・」

 

「ああそうかならば戦争だ・・・ひれ伏そうが許さんぞこのエテ公!」

 

「さ、さすがにヤバそうだ!皆止めろー!突撃〜!」

 

 フブキが鬼の形相で絹代に飛びかかったため隊長は他の隊員達に号令を掛け総員で仲介に入り、あまりの人数でさながら乱闘の様にごった返したため土煙が立ち込め始めた。宇宙から降りたフブキはこの日初めて知波単学園の生徒達の、絹代の持つ爆発的なエネルギーをその身で感じたのであった

 

「アイタタタタ!ほっぺたつねることないじゃないですかフブキさん!さすがの私も怒りましたよ!ガブリっ!」

 

「な゙っ!・・・尻に噛み付くとは調子に乗りおって!覚悟しろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜フブキは教務課や役場での手続きを終え若干の小傷を負いながらも荷物と共に今日より寝食の場となる日本古来の木造建築による学生寮へ到着した。知波単学園の学生寮は一部屋六人で内三人が高等部の生徒、残り三人が中等部の生徒で固められておりあまり大人数の部屋で生活することに気乗りしなかったがそれでもこの学園に居続けなければならない理由がある以上耐える他なかった。今日一日変に目立ってしまったことを省みつつフブキは自分が割り当てられた部屋の襖を開いた

 

「あ、おかえりなさいフブキさん!一緒にお風呂入りましょう!」

 

「・・・なんで貴様と同じ部屋なのだ。変えてもらわねば」

 

 フブキは襖を開けた瞬間絹代の姿が一番に見えたためすぐ様襖を閉め部屋割りを返させようと寮長のもとへ行こうとした。だがフブキを逃がさまいと絹代は襖を開けて飛び出しまたも服の裾を掴み引っ張った

 

「駄目ですよフブキさん!先生方や寮長さんが私達の性格や相性を考慮して決めた部屋割りなんですから変えようだなんていけませんよ!」

 

「だったら何故私とおまえが同じ部屋なのだ?相性など傍から見ても最悪だろうに何をもってして決めたというのだ」

 

「それはたまたまというか偶然と言いますか・・・そんなに私と同じ部屋は嫌ですか?」

 

「当然嫌だな。むしろ私が抜けるのは癪だからおまえが出て行け」

 

 絹代の甘えようとした言葉にも一切揺らぐことなくフブキは冷ややかに見下ろしながら跳ね返した

 

「むむむ・・・そもそも部屋を変えようとすれば他の生徒にも迷惑がかかるのでよくないと思います!ということでもう諦めて一緒にお風呂入りましょう!フブキさんのことご聞かせください!」

 

「チッ、私のことだと?誰がおまえになど教えるものか。もう今後一切私に話し掛けるな、その名を気安く呼ぶのを止めろ。さもなければ次は狩る」

 

 フブキは親睦を深めようとしてくる絹代を冷酷に突き返ししぶしぶと本来の部屋へ入った。昼の演習場で見せた堂々とした立ち姿と絶対的な強者の存在感、だがフブキ自身の心はどこまでも冷たく永久凍土の様に溶かされぬものに思え絹代は少し寂しい念に駆られていた

 

 

 

 


 

 

 

 

「世界の真理は弱肉強食。強者が弱者を蹂躙し淘汰するのは当然のこと、か・・・」

 

「私の父と母は弱いから死んだ。弱者などいなくともこの世は強者だけが生き残れば成立するのさ」

 

「けれど例え弱い人とでも寄り添い合うことができる人、そんな人こそが本物の強者だとは思わないかい?」

 

「その弱者を守るか壊すかどうかの決定権も結局は強者にある。美香、おまえも強者なのだからわかるはずだ」

 

「それは違うよフブキ。私達は皆弱者だ。自分が排斥されることが不安だから誰かを壊すまで攻撃して自分を守ろうとする。そのためにより強大な力を手に入れようとするんだ」

 

「それこそが自然の摂理だろう・・・一体それの何がおかしいというのだ」

 

「でも私達は動物じゃなくて人間だ。言葉を交わし心を通わせることができる。傷つけるために力を手に入れることよりも誰かを想いやることのできる人の方が絶対に強いと私は思うな」

 

「・・・わからんな。弱者共のために尽くさなければならないなど考えられん・・・」

 

「いつかわかるさ、君も皆も。だから私はいつまでも信じてる。いつか宇宙と地球が一緒に光り輝ける世界に変わることを・・・」

 

 その晩フブキはニュータイプ研究所の中庭にて今は亡き親友と初めて出会った日のことを夢に見た・・・・・・

 

 

 

 

 

 




 読んでいただきありがとうございました

 急いで後日後編を投稿します。今年中に絶対全国大会終わらせたいので頑張っていこうと思います!・・・・・・終わるかなぁ・・・


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17話 幻の突撃王(後)

 前回の続きになります。西さんは真っ直ぐでちょっとお茶目で格好良くて個人的にかなり好きなキャラクターです。最終章でもカッコよかった・・・!そんな西さんと今後多く登場することとなる強化人間に深く観点を置いて書いたため結構長いです



 ごく普通の家庭に育った絹代にとってフブキの様な物語に登場する女傑の様な異彩を放つ少女は憧れの存在だった。自分も彼女のようになりたいと教えを乞おうとするも当のフブキからは完全に拒絶されたのだった

 月のニュータイプ研究所にて強化人間として造られたフブキにとって絹代が何度冷たく跳ね除けようが諦めず此方へ踏み込もうとしてくることが理解できなかった。相手は最も嫌悪する存在の弱者、そして自分には果たさなければならない目的がある・・・それを果たすまでは何人にも己の心の中に踏み入らせるつもりはなかったのだ

 

 

 

 

 だがフブキが平穏に過ごせた時間は編入した初日の夜みだった

 

「おはようございますフブキさん!一緒に朝の体操にいきましょう!」

 

 編入した次の日の早朝、支度から朝食の時間まで人目につかぬように行おうと誰よりも早く目覚めたフブキであったが洗面所から部屋へ戻ると何故か絹代が布団の上で正座して自分を待ち受けていたのだ。彼女の耳をつんざくばかりの大きな声量とそれが響いているにも関わらず寝息を立てて眠ったままの他の部屋員の姿にフブキは目覚めて早々嫌悪感に表情を歪ませた

 

「・・・何故この時間に起きている?」

 

「早起きは日課ですので!しかし今まで早起きは誰にも負けたことがなかったのにとうとう・・・流石です師匠!」

 

「だれが師匠だ。小賢しい猿め・・・もう永遠に眠っているがいい」

 

 フブキは一瞬で絹代の背後へ回り込み彼女を黙らせようと首筋に手刀を叩き込もうとした

 

「はっ!見切った!」

 

 だが絹代は何故かフブキの動きを洞察し瞬発的に跳ね上がり回避したのであった

 

「なっ・・・避けただと?」

 

「フッフッフッ、甘いですねフブキさん。その程度のスピードでは私を捕まえることはできませんよ!」

 

「・・・いいだろう、昨夜の予告通り狩り殺してやる」

 

 もはやこの時フブキの頭の中には絹代へ粛清を与えることしか頭になく獣の如く彼女へ飛びかかった。逃げる絹代と追うフブキ、ドタバタと部屋の中を駆け回る二人に他の生徒達も目覚め始め寮内は早朝から大騒ぎとなったのであった

 

 

 

 それからもフブキの絹代に振り回される日々は続いた。教えを乞おうと寄ってくる絹代に対し時には取っ組み合いになり、心無い罵倒を浴びせることもあり他の隊員達が少し怯えた様な表情を向けることもあった。それでも尚絹代は常に自分の隣に居座ろうとしてきたためか、フブキもいつまでも反撃していれば逆に悪目立ちしてしまうことに気づき彼女に嫌悪感を示し無視することはあっても絶対的に拒絶することはしなくなった

 普段は同部屋というのもあり二人は当番の炊事や洗濯、寮の掃除を共にこなすこともあった

 

「フブキさん!洗濯機を使う時は下着とタオルを一緒にして他の衣類とは別々で洗うんですよ。それにこんな山盛りに洗濯物を入れてしまうと洗濯機が故障してしまいます・・・」

 

「何、そうなのか?・・・いや別に全部まとめて洗ってもそう変わらんだろう」

 

「そういう訳にもいかなくて・・・ってわ゙ぁ!フブキさんお洗剤入れ過ぎですよ!どうして一箱丸ごと入れちゃうんですか!」

 

「ええいうるさいぞ小娘!もしかしたらこうした方が綺麗になるかもしれないだろう!私のやり方に一々口を挟むな!」

 

 立派な婦女を目指すことも心掛けていた絹代は几帳面に当番の仕事を全うしていたが彼女に対しフブキはやる気は十分にあるが事ある毎にだらしない部分が露呈しその度に二人はぶつかりあっていたのだった

 

 そして迎えた全国大会、だがフブキは何故か出場しないと言って聞かなかったのだ。日々の訓練では手を抜いたり他校との練習試合も適当にあしらっていたフブキだったがそれでも今の今まで一度も被弾をしたことが無ければ目の前に現れた敵機は必ず撃破していたのだ。彼女程の実力者がいれば今年の全国大会で勝利することも夢ではない・・・誰もが彼女を頼りにしたかったが隊長はフブキの意思を尊重し、自分達だけの力で勝利しようと隊長達を説得し皆不服ながらも受け入れるしかなかったのだ

 昨今は初めて会った時よりも心の距離を縮められたかに思っていたがそうではなかった、絹代には何故フブキが全国大会に出たがらないのかがわからず、まだ彼女が自分達には絶対的に明かそうとしない事情を胸の内に秘めているように感じたのであった。そしてその年の全国大会は幕を閉じ、季節は真夏へと移り変わっていった

 

 

 


 

 

 

 

 

「私とおまえに加えルミが調査した学園艦も空回りだったがそうか・・・お嬢様はBC自由学園の学園艦に軟禁されていたのか・・・」

 

『ええ、昨夜アズミから学園艦内の研究施設に潜入した時閉じ込められていた愛里寿と会えたって連絡が来たの。愛里寿、やっぱり生きてたんだね・・・本当によかった・・・』

 

「アズミの大手柄だな。しかしBC自由学園か・・・ブルーコスモスが直轄している学園とあらばお嬢様を救出するのは一筋縄にいかんだろう」

 

 夏の太陽がカンカンと大地を照らすある日の昼、人目につかぬ様MS格納庫の裏でフブキは携帯端末を片手に自分と同じく地球の学生として潜伏していたメグミと通話していた。財界の有力者や大手企業会長が中心に座す地球自然保護団体ブルーコスモスの構成員は皆根元からの地球至上主義者達であり、そのシンパは地球圏代表議会の閣僚や連合軍の高官、メディア界の有力者から一般市民にまで幅広く及んでいた

 

『でも私達にしかできないし他に頼る宛もない訳なんだからやるしかないよ。それとあと、・・・これはアズミから送られてきた写真なんだけど・・・』

 

「・・・何?このガンダムは・・・美香のアレックスじゃないか。何故この機体がまだ残っている?」

 

 フブキは端末に送られてきた画像を見て目を疑った。そこには親友と共に宇宙で散った彼女の愛機NT-1アレックスが外装をほぼ一新された状態でハンガーに佇む姿が映っていたのだ

 

『その機体の名前はNT-X(ネティクス)。連合の奴らあの時美香のアレックスを持ち帰って解析した後新しく修復し直したみたいなの。アレックスは美香のガンダムなのによくも・・・許せない・・・!」

 

「ネティクスか・・・地球に支出されているサイコミュ技術はEXAMのみのはずだがこの機体には無線発射可能なインコムが搭載されている。お嬢様と同じく連合に生かされていたという情報が事実ならば、この機体を開発したのは千代様ということか・・・アレックスに試験導入していたあのシステムも残ったままなのか?」

 

『うん、おそらくね・・・それで愛里寿を助けるのと一緒にこの機体も回収したいの。愛里寿にとってこのガンダムは唯一残った美香との繋がりだからどうしても取り返したいの。・・・救出と同時にやる以上警備隊に見つかることは避けられないと思うから私達が皆の囮を・・・』

 

「わかった。お嬢様を隠密に救出することが叶わんのならば派手に暴れてやるしかあるまい。私一人でブルーコスモスの警備を蹂躙し惹き付ける。その間におまえ達はお嬢様を救出し美香のガンダム、ネティクスとやらを強奪してくれ」

 

『そんな!BCはブルーコスモスが開発した最新鋭のMSを警備用に配備しているのよ!?その囮を貴女一人に任せるなんて無茶に決まってるじゃない!私もやるわ!』

 

「おまえ達にはお嬢様の救出とネティクスの強奪を最優先に動いて欲しい。それに連中から目立つ人間は少ない方がいいだろうからな、私一人でも逃げ果せてみせるさ」

 

『フブキ・・・・・・けど貴女一人にそんな危険なことを任せるなんて・・・』

 

「何、連合の雑魚共に捕らえられる程カテゴリーSは伊達ではない。それに本来はタイタニアの娘さえいれば此方から攻め込むつもりだったのだ、美香の仇も含めてブルーコスモスの連中にはせいぜい八つ当たりさせてもらうとするさ。だからいい加減いつまでもうじうじするのはやめろメグミ。おまえが私達の司令塔だというのにらしくないぞ」

 

 不安に思う感情を抑えられない通話相手のメグミにフブキは余裕そうな笑みをたたえながら語った。愛里寿やメグミ達と違って自分は実戦にて敵を殲滅する兵器として造られた強化人間、はじめから戦闘行為は自ら引き受けるつもりだった

 

『・・・・・・わかったわ。その代わり絶対無茶しないでよね!愛里寿を助け出してネティクスも強奪して皆一緒に宇宙へ帰ってやろうじゃない!』

 

「ああ、そうだな・・・」

 

「あ、こんな所にいたのですねフブキさん!やっと見つけました!」

 

 突如、端末越しではない声が生の声が聴こえ振り返ると倉庫の表側から此方を覗き込む絹代の姿があった。また彼女が現れたことにフブキは怪訝に満ちた表情へと変わった

 

「・・・何の用だ小娘」

 

「今日はとても暑いですしこれから皆さんと一緒に海にでも行きませんか?宇宙生まれのフブキさんに本物の海を見せたいと思って・・・あ、お電話中だったんですね・・・ごめんなさい・・・」

 

『え、誰の声?ひょっとして貴女友達できたの?』

 

「日取りが決まったら連絡しろ。切るぞ」

 

 乱雑に通話を切るとフブキはスタスタと絹代の存在を無視する様に通り過ぎ歩き去ろうとした

 

「ま、待ってください!一緒に海行きましょうよフブキさん!皆さん貴女が来ることを楽しみにしてるのですよ!」

 

「行く訳がないと他の者にも伝えておけ。・・・全国大会に出てやらなかったのだ。もはや皆私を同胞とは見なしていないはずだ」

 

「そんなことありません!確かに私や皆さんもフブキさんにどんな事情があるのか知りたいところですがそれでもフブキさんは知波単の一員なんですから大会に参加してくれなかった位で嫌いになるはずがありません!」

 

「・・・この際はっきり言わせてもらうが私は貴様らの様な弱者が何よりも好かん。己の意思で道を拓こうとせず先人が敷いた道を盲目に進む貴様ら弱者がな。・・・これ以上私につきまとうな」

 

 フブキはまたも冷ややかな声で絹代を突き放す様に言葉を放ち、彼女を置いてその場から去って行った。フブキの言葉が深く胸に突き刺さり絹代は何か言い返すことも彼女を呼び止めることもできず呆然と立ち尽くすことしかできなかった

 その後絹代はフブキが皆のことを嫌いと言っていたのは口外せず胸に留め挨拶や最低限の言葉だけしか掛けるだけで以前ほど言い寄るのを控えるようになった。フブキにとっては力無き弱者は否定し拒絶しなければならない存在、いつまでも彼女と心の距離を縮められないことに絹代はこの上ない寂しさを感じていた。それからまた時は経ち、季節は残暑の残る初秋へ移り始めた

 

 

 

 

 

 

 

 ある日の夜、敷き終わった布団の上で絹代は同部屋の上級生達と寝転びながら談笑していた。フブキは当初から決して自分達の輪の中に入ろうとせず皆彼女と色々な話を交わしたくとも本人が依然として乗り気になってくれなかったので複雑な心境だった。だがこの数日絹代はフブキの様子が少しだけ変化したように感じていた。以前まで彼女は周囲が凍りつかせる様な緊張感を放っていたのだが現在時折少し思い詰めた表情を浮かべていたため、先日少し耳に入った電話での会話の内容もあり絹代は彼女に何かがあったのか心配になっていた

 

『先日所属不明の一機のMSが日本有数の学園艦、BC自由学園に不法上陸しました。犯行に使用された機体はモビル道用のジム・ナイトシーカー。MSは上陸後市民からの通報により出動した警備隊のMS部隊と接触し交戦、幸い死傷者は出ませんでしたが学園艦の警備隊MS全機、及び市街地やその他施設に甚大な被害が与えられました。犯人は警備隊を殲滅後機体と共に逃走し犯行時刻学園艦近海に位置していた孤島にて犯行に使用したMSを自爆処理後現在も行方をくらましております。戦闘行為のみを行った犯人の動悸、目的は未だ判明しておりませんが現在『犯行を行ったのはスペースノイドである』という情報だけが明らかになっており警察は現在地球に滞在、在住中の宇宙出身者を中心に捜査を行っています』

 

 付けたままだった部屋に一つだけ置かれたテレビにふと目をやるとワイドショーが映されており何やら珍妙な事件が報道されていた。そもそもモビル道用のMSで警備隊に開発される実兵器用のMSに敵うはずがない、そんな離れ業をやってのけるパイロットなど居るはずがないのだ

 

「そろそろ消灯時間だ。皆布団に入れ〜」

 

 室長がテレビを消し吊り下げ灯のヒモに手をかけたため絹代達は皆布団の中へと入り明かりが消され部屋は闇に包まれた

 その日は夏の終わりを感じさせないほどの熱帯夜、窓を開けていても暑苦しく絹代は眠れないままでいた。ふと隣の布団の、いつも部屋の角端に布団を敷いて眠るフブキの方を見るといつも通り此方に身体を向けることなくふて寝していた

 

「あ、あの〜フブキさん・・・?」

 

 どこか彼女から違和感を感じていた絹代は何とか元気づけてあげたいと思い声を掛けてみた。当然返事が帰ってくることはなくもう寝入ったものだと思い絹代は悪戯っ子の様にニヤリと笑みを浮かべ布団から起き上がるとフブキの布団の中へ移ろうとした

 

「お、お邪魔します突撃〜・・・」

 

「・・・・・・起きてるぞ」

 

 布団を捲ろうする絹代にフブキは横になったまま制するように呟いた。絹代は仰天し思わず自身の布団の上に正座した

 

「お、起きていたのですか!?」

 

「声が大きい・・・一体何の用だ?」

 

「ええと・・・何だかここ最近フブキさんが何か悩んでいる様に見えまして・・・今までそういう風に見えたことは1度もなかったのでどうしても気になってしまい・・・」

 

「私が悩んでいる様に見えるだと・・・?いずれにせよ貴様には関係なければ話した所で無駄な事だ」

 

「そういう訳にはいきません。もしフブキさんに何かあったのなら一人で抱え込むことなく私でよければ相談して欲しいです」

 

  絹代はフブキの方を見据えはっきりと自分の意思を伝えた。フブキも身体を起こし見つめてくる絹代へ眼を合わせた

 

「・・・わからん。何なのだ貴様は?何故私に親しくする・・・そこまでして私に取り入りたいのか?」

 

「そんなんじゃありません!とてもお強くて気高い心を持っているフブキさんは確かに私の憧れです・・・けどそれ以上に他の皆さんと同じように貴女と仲良くなりたいんです!」

 

「仲良くなりたいだと?弱者の分際で勝手な娘だな。私には貴様らとつるむ気が一切ないというのがまだわからないのか?」

 

「はい・・・そんなに私達のことが嫌いなんですか・・・?」

 

「ならば教えてやろう。貴様ら弱者と徒党を組んでしまえば私までもが同じ弱者へ成り下がる。弱者など所詮強者の都合のいい様に利用されるだけの宿命・・・私には御免だな」

 

「・・・・・・そんなのあまりにも悲しいじゃないですか。そんな風に自分より弱い人を見下して寄せつけようとしないなんて・・・そんなの悲しすぎると思います・・・」

 

「何が悲しいのだ。強者が上に立ち弱者が淘汰されていくのは世の真理、最も自然摂理に適っていることだろう?にも関わらず何故私が弱者の気持ちを尊重してやらねばならんのだ。現に貴様ら地球人も今まで我々に()()()()()()ではないか。そんな生ぬるい思考のままではいつか本当に悲まなければならない日が来るぞ」

 

 流石にここまで言ってやれば諦めるだろうとフブキは思ったが絹代は依然として真剣な面持ちと熱く燃えるような瞳で此方を見つめていたのだ。わからなかった。フブキにはここまで何度も辛く当たり否定し続けても己の意思を頑なに変えず貫こうとする絹代に対し少し恐怖に近いものを感じ圧倒された

 

「・・・私はフブキさんか言っていることは間違っていると思います。確かに私の様な何の力も無い弱い者はフブキさんにとって嫌な存在かもしれません。けれどそれだけで他の誰かと言葉を交わそうともしないで否定しようとするのは絶対に間違ってます!」

 

「・・・間違っているだと?」

 

「だって私達は同じ人間じゃないですか。同じならどんなに考え方や好き嫌いが違っても絶対に一緒になれると思うんです。なのにそんな風に強さの大小だけで人を判断していたらいずれフブキさんの周りから誰もいなくなってしまうかもしれないじゃないですか。そんなの寂しすぎますよ・・・」

 

「・・・・・・わからん・・・何故そこまで私のことを考えられる・・・?わからん・・・何なのだ貴様は・・・?私はこんなにも貴様を拒絶しているというのにまだ・・・まだ私と仲良くしようなどと思っているのか・・・!?」

 

 わからなかった、今目の前にいる西絹代という少女が何故躊躇することなく自分へ歩み続けることができるのか、何故自分に対し親身になろうとしてくれるのかが理解できずフブキは絹代に怯える様に後ずさりした。それは自分が敵を倒すことしか能のない強化人間だから、幼き頃から出来のいい強者しか認めない醜悪な大人達に囲まれ育ってきたから・・・・・・だからフブキには図々しいと言われ跳ね返されても諦めずに他者へ親身になろうとする絹代の様に灼熱の如く熱い心を宿す人物を理解できるはずがなかったのだ

 

「私はどんな人でも真剣に真正面から向き合えば絶対に仲良くなれると思っています。一人で居るのが好きという人もいますが人は一人よりも絶対に誰かと一緒に居なきゃいけない、仲間外れになることもすることは絶対にあってはならないんです。だからこそいつも正面から真っ直ぐにぶつかっているんです!これ以外の方法を知らないので!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「だからフブキさんとも仲良くなれると信じています。絶対に諦めたくないです。せっかく出会えて一緒に毎日を過ごしているのですから・・・」

 

 わからない、わからなかった、絹代が何なのか全く理解できなかった。だが不思議と彼女から自分に初めて優しくしてくれた親友と同じ包み込まれる様な温かさを感じ彼女へ怯えていた感情は振り払われていた

 

「・・・・・・・・・・・・・・・小娘。名前は西絹代と言ったな?」

 

「は、はい!」

 

 フブキは再び布団の中へ潜り改まって絹代へその名を尋ねた

 

「・・・絹代、おまえには少し興味が湧いた。・・・これからは少しだけなら貴様らに付き合ってやらんこともない」

 

「ほ、本当ですか!?フブキさん!」

 

「勘違いするな!別におまえ達を認めた訳では無い、見定めてやろうというだけだ!」

 

「やったー!フブキさんがやっと心を開いてくれました!」

 

 喜ぶあまりぴょんぴょん跳ねる絹代を無視しフブキは不貞腐れたように布団を被りまた先程の様に絹代へ背を見せふて寝に入ろうとした。すると絹代もまたフブキの布団の中へと潜り甘えるように彼女へ背中から抱きついた

 

「なっ、勝手に入るな!暑苦しいではないか!」

 

「そんなことありません!フブキさんってなんだかひんやりしてて気持ちいいです・・・」

 

「私が暑いから出ろというのだ!お、おい!ここで眠るな!・・・全く・・・・・・」

 

 既に寝息を立て始めていた絹代にフブキは呆れたように溜め息をつき諦めて目を閉じた。この時フブキはかつて親友が自分に遺した言葉の意味をようやく理解することができた。強者とは圧倒的強大な力をもって他者を屈服させ従わせることが出来る者ではない、絹代の様にどんな相手とでも絆を紡げることを信じ何事にもぶれることなく誰かと親身に、正直に向き合いぶつかれる者こそが本当の強者であるということを

 人が皆絹代の様に熱く、強く生きれたのなら私の様な暴力しか能のない強化人間は世界に必要ない・・・人が皆彼女の様に優しくなれたのなら、美香が望んだ光る世界も実現されるのかもしれない・・・・・・

 

 この熱帯夜において寝苦しい以外の何物でもなかったはずがフブキは絹代から伝わる生命の熱を感じていたかった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 以来フブキは以前までの周囲に何者をも寄せ付けないほど冷たく振る舞わなくなり絹代や他の生徒達とそれなりに交流するようになった。何に悩んでいたのかは何者教えてくれなかったがそれでもようやく彼女が心を開いてくれた、これから仲間として絆を深められることが絹代にとって何よりも嬉しかった

 

「芋掘り大会・・・何故MS乗りの我々がこんな事に参加しなければならない?」

 

「秋の芋掘り大会は知波単恒例の伝統行事だからな!宇宙生まれの君には焼き芋大会まで是非楽しんで行って欲しい!」

 

「宇宙でも芋くらい育てている。パイロットが土で汚れねばならんなどどうかしているぞ」

 

「あれれ?ひょっとしてフブキさん・・・さては土の中で寝ているミミズさんが怖いのですね?」

 

「・・・・・・何?」

 

 既に引退した前任の隊長に不満を漏らし立ち去ろうとしたフブキであったが絹代の挑発的な言葉を受けピタリと立ち止まり彼女へ目尻をつり上げた

 

「あれ程私達のことを弱い弱いと言っておきながらミミズさんが怖いだなんて・・・やれやれですねフブキさんは」

 

「おい絹代、勝手に私を虫嫌いにするな。そこまで言うならいいだろう。 来年作物が実らん位芋もミミズも根こそぎ掘り起こしてやる」

 

 フブキは目付きを狩猟者の眼へと変えると畑の方へ進んでいき絹代も嬉しそうに彼女の後を追った

 

「あ、あのなーフブキさん?ミミズは掘らなくていいんだぞー?」

 

「フブキさん何だか随分と柔らかくなりましたね。ようやく地球での暮らしに慣れたのでしょうか?」

 

「それもあるかもしれないが・・・・・・西があの人の凍りついた心を溶かしたのかもしれないな・・・」

 

 

 

 

 

 

 そしてフブキはモビル道においてもより積極的になり訓練や度々組まれた練習試合にも自ら参加するようになった。以前は全力を出さず流すように適当にやっているのが見え透いていたがそれも無くなり練習試合ではあるが知波単学園へ勝利をもたらす程活躍した。加えて時には弱者と蔑んでいた他の隊員達にも自分の強さの秘訣を教えようとすることもあったのだ

 

「いいか、おまえ達は皆それなりに腕は立つが何も考えず無我夢中に突撃してしまうから負けるのだ。突撃に拘るのは勝手だが人にはそれぞれの実力に見合った戦法というものがあるのだぞ」

 

 この日知波単学園モビル道部隊は訓練のため宇宙へ上がり、旗艦のリリーマルレーンに各艦のMSパイロットが集められフブキ主導のもとブリーフィングが行われており着いて来ていた絹代をはじめ中等部の生徒達も同席しその様子を見学していた

 

「見合った戦法・・・・・・しかし我々にはやはり突撃以外の戦い方はありえません!実際フブキさんは試合でも突撃のみで相手をねじ伏せているのだから私達にもその極意を教えて欲しいです!」

 

「・・・極意なんてものはない。ただ目の前にいる敵に勝つ、それ以外に考えていることなどない」

 

『艦内緊急連絡!10km前方にプラウダ高校のMS小隊補足しました!』

 

「見つけたか・・・出撃する。おまえ達があくまで突撃しかないと言うのならば私の突撃を改めて見せてやるとしよう。手本に丁度いい獲物がお見えになったのでな」

 

 アナウンスを聞きフブキはニヤリと笑いブリーフィングルームを出て行こうとしたが新任の隊長が少し腑に落ちなさそうな顔で咎めた

 

「あーフブキさん?本当にプラウダ高校にその〜"どっぐふぁいと"だったかを仕掛けるのか?」

 

「無論だ。おまえ達には野良試合と言った方が伝わるか」

 

「おお、野良試合!・・・けどそれってあまりよろしくないことなんじゃ・・・?」

 

 ドッグファイトとはフブキが宇宙にいた頃仲間達とよく興じていたものらしく、宙域にて相手を求め彷徨うMS部隊同士が互いに示し合わせた上で戦闘演習を行うというものだった。ただフブキはそれをプラウダのMS部隊へ単騎で仕掛けようとしていたのだ

 

「フッ、連中が私の挑発に乗らなかったならば諦めるさ。最も先日我々が送った練習試合の申し出を奴らは返答もせず蹴ったのだ。此方を侮り格下と見なしているに違いない、だから直接面と向かって挑発し奴らに買ってもらおうという訳だ」

 

「なるほど・・・しかしお相手に突然挑んでおいて返り討ちになった時はどうするのですか?」

 

「その時は連中からたっぷり修正を受けることになるだろうな。絹代、おまえも私と来い」

 

「わ、私もですか!?でも私はまだMSを操縦したのとは・・・」

 

「私の機体に乗れと言っているのだ。さっさとスーツへ着替えるぞ。もたもたすれば獲物に逃げられてしまう」

 

 思っても見なかった展開に絹代は仰天したがフブキは意に介さず部屋を出てロッカールームへ向かったので絹代も急いで彼女の後を追った

 ノーマルスーツを着用した絹代はMSデッキに到着すると蒼色のパイロットスーツへ着替えたフブキと共に彼女の宇宙用のMS、ゲルググMのコックピットハッチへ上がった。先にコックピットへ入ったフブキからシートの後部に掴まってるい様指示され絹代はこれから初めて乗るMSを前に緊張で少し戸惑いながらもコックピットへと入った

 

「フブキさん、どうして私も連れていってくれるのですか?」

 

「死なば諸共というやつだ。おまえには入学以来随分世話になったから万一捕まった時におまえも道連れにしてやろうと思ってな」

 

「そ、そうなんですか・・・?」

 

「・・・冗談だ。おまえには一番近くで見ていて欲しい」

 

 起動したゲルググMのモノアイに灯が入り誘導員の指示に従いゆっくりと歩行し始めゲルググMの両足をカタパルトへセットし艦側部に備えられたレール型のハンドグリップを掴んだ

 

「絹代、覚悟はいいな?」

 

「は、はい!・・・できれば安全運転でお願いします」

 

「フッ、善処はしてやる。・・・鉢特摩フブキ、マリーネ出るぞ」

 

『了解です!フブキさん、大漁を!』

 

「ああ、任せておけ」

 

 カタパルトから射出された推力も乗せ二人を乗せたゲルググMは勢いよく宇宙へ出撃して行った。絹代を乗せているため普段よりも速力を落としての出撃らしいがそれでも進行方向から向かってくるGに絹代は叩きつけられるような衝撃を初めて受けた

 

「うぐぐ・・・・・・はぁ、はぁ、フブキさん!これがMSなんですか!?」

 

「ああそうか、おまえは宇宙でMSに乗るのもこれが初めてなのか。どうだ?初めてのMSは?」

 

「最高です!自分も星になったみたいというか宇宙の一つになれたというか・・・そんな感じがしてとっても楽しいです!」

 

「ほう・・・・・・その感覚は覚えておくことだ」

 

 フブキは更に機体を加速させ前方に展開するプラウダ高校の部隊へ急速接近した。プラウダの隊員達も超速で接近してくるゲルググの存在に気づきオープンチャンネルで何の用か尋ねてきたがフブキが一言二言彼女達へ猛毒を吐いてやると直後に通信が切断され火線を集中させてきた

 

「わわわっ!フブキさん撃ってきましたよ!」

 

「連中から手を出してくれたか。ならばどうとでも言い訳がつくというもの!」

 

「べ、別の方からプラウダさん達の応援が来ましたよフブキさん!本当に私達1機だけでもつのですか!?」

 

「安心しろ、帰るための推進剤は残しておくさ。・・・だからしっかり見ていろ絹代。私の戦いを」

 

 フブキは絹代へはっきりと告げビームサーベルを展開し文字通りの突撃を敢行した。プラウダの主力MSザク改達のマシンガンから放たれる火線を突進しながらも最小の動作のみで回避し格闘戦の間合いへ踏み込んで行った

 

 その後フブキの駆るゲルググMは数多の敵MSを斬り伏せ応援に駆けつけたMS達も含め全て行動不能にし文字通り蹂躙してしまったのだ。一人無双とも言える所業、だが彼女による突撃は正に知波単の皆が理想とする突撃そのものだった。そして一番間近にいた絹代は最も彼女の強く勇ましく美しく、何者にも止めることができない突撃王と呼ぶに相応しい戦いぶりを見届けていた。この宇宙を己の心のまま自由に駆け抜け燦然とした輝きを放つ彼女の姿こそ自分が目標とする本物の戦士だった。ずっと彼女の背を追いかけて行きたいと心の底から思えたのだ

 

 

 だが彼女との別れはあまりにも唐突に訪れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙から地球へ戻ってきて数日後、季節は冬を迎えていたのもあり外では雪が降り始め身震いするほどの寒さに見舞われていた。その晩絹代は寒さを防ぐため布団にくるまるように床に就いていたがふと目が覚めてしまった

 

「・・・・・・あれ?フブキさん?」

 

 ぼんやりとした視界を擦ると何故か寝巻き姿からいつもの服装へ着替えたフブキの姿がはっきりと見えた。何故か布団を押し入れへ片付け傍らに荷物が纏められていたため絹代の意識は覚醒させられた

 

「・・・起きたのか。やれやれ、おまえにだけは見つからずに行きたかったのだがな」

 

「ど、どこかへ行かれるのですか!?こんな真夜中に・・・」

 

「静かにしろ。・・・わかった、少し付き合え」

 

 フブキは荷物から厚手のコートを取り出し絹代へ放った。すると荷物を背負い早足で部屋の外へ出ていってしまい絹代は寝巻き姿のままコートを羽織り彼女を追った

 外へ出た二人、幸い天候は落ち着いておりフブキから受け取ったコートに全身がすっぽり収まったのもあり特に寒さは気にならなかった。それ以上に前を行くフブキが深刻そうな面持ちで沈黙を貫いていることが絹代は何よりも気になった。嫌な予感は確信へ変わろうとしていた、彼女は今この学園を去ろうとしているのだと。二人は言葉を交わさぬまま静寂な夜の雪道を歩き続けた。そしてコンテナが多く集積する学園艦の埠頭へ入って行くとフブキは突然静寂を破り絹代へ切り出した

 

「・・・世話になったな、絹代」

 

「フブキさん・・・?何を言っているのですか・・・?」

 

「おまえには本当に世話になった。おまえのおかげで私は変われた、本当の意味で強くなることができたのだ」

 

「へ、変なこと言わないでください!まだ始まったばかりじゃないですか・・・せっかく仲良くなれたのに・・・」

 

 堪えきれず絹代は胸の内を発した。フブキの表情から彼女が決意を固めたと、もはや引き止めることは叶わないと察していたがそれでもフブキには行って欲しくなかったのだ

 

「それに・・・それにまだフブキさんの突撃を教えてもらってません!私もフブキさんみたいに強くてカッコよくて勇気のある人になりたいんです!」

 

「おまえが私と同じである必要はない。私があの日おまえ達に突撃をして見せたのはおまえ達があくまで自分の意思で突撃に拘り続けるというのならばその指標になるかもしれんと思ったからだ。だがおまえ達はまだまだこれからだ。己の意思で選んだ道を進み己の生き方というものを定めて欲しい。それがおまえ達にとって正しい生き様となるだろう」

 

「フブキさん・・・・・・でも・・・それでも嫌です!行かないでください!」

 

「絹代・・・・・・」

 

 冷たかったあの頃のフブキには到底出せるはずがなかった灼熱の様に熱い言葉を全て受け取った絹代、それでもフブキへ行って欲しくない想いは変わらなかった。涙を零さずにはいられなかった

 

「行かないでくださいよ・・・フブキさん・・・」

 

 するとフブキは涙ぐむ絹代をそっと撫でてあげた。今まで決して見せることのなかった優しく暖かな微笑みと共に

 

「泣くな絹代。私には役目がある、遂げねばならない役目がな。そうだな・・・それが終われば直ぐにおまえ達のもとへ帰ってきてやろう」

 

「ほ、本当ですか・・・?」

 

「ああ本当だ。約束しよう。私も正しい家事のやり方とやらをまだ教わっていないからな」

 

「フブキさん・・・・・・!」

 

「だからもう悲しむな。またいつか会える・・・・・・いや、必ず会うぞ!絹代!」

 

 フブキは絹代が泣き止んだことを確かとするとその場から駆け出し積み上がったコンテナの上へ飛び上がり山の中へ入った。するとコンテナの山が崩れると共に中からフブキのMS、山の中に隠されていたアッガイが姿を現した

 

『一つ言い忘れていた。私の名はフブキ・ドゥルガー・マカハドマ。次は本当の名前で会いに来るとしよう』

 

「フブキさん!・・・待ってます!私はずっと待ってますから!」

 

『ああ!さらばだ絹代!』

 

 フブキのアッガイは飛翔するとそのまま海の中へと潜って行った。これは今生の別れではない、またいつか必ず会えることを信じて絹代はフブキを見送った。また暖かい日常を共に過ごせることを願って

 フブキもまた絹代と、知波単学園の皆と会うことを願った。自分と暖かく接してくれた皆と、自分を兵器としての強化人間から真っ当な人間へ産まれ変わらせてくれた絹代とまた会えることを祈り、役目を果たすためフブキは進み始めた・・・

 

 

 

 

 

 

 その後絹代以外の面々もフブキが居なくなったことを大いに悲しみ、彼女が残した言葉を胸に自分が思う正しき生き様を見つけることを誓った。知波単学園伝統の突撃に拘るのは未だ変わらなかったがまだまだ始まったばかり、これから自分達にとってまた別の進むべき道に気づき見つかるのかもしれない。その日までは己の憧れた姿を追うことも決して悪いことではなかったのだ

 

 だがその数週間後、知波単学園の教務課は退学したフブキが在籍していたというデータを抹消したのだ。それのみに留まらずモビル道に関わるデータ、彼女が存在していたことに関わるデータを全て抹消したのだ。絹代含めフブキを知る隊員達は無論の事ながら猛抗議した。だが教師達も皆絹代達へ申し訳なさそうに頭を下げるだけで撤回は叶わなかった。明確な理由はわからなかったがある日隊員の一人が機械的なオレンジのゴーグルを掛けた連合軍の高官と校長先生が密会しているのを目撃しそのまま影から盗み聞いた所、その密談の中である少女がダカール軍事基地に対し唯ならぬ被害を被らせた、その少女こそ知波単学園の生徒ではないのかという疑いが校長に叩きつけられていたのが発覚したのだ。教師達は何らかの伝で彼女が犯人であると知り連合軍から生徒達を守るためにフブキのデータを予め抹消した、皆がそう理解できたため彼女のことを諦めることにした。そして皆がその胸に彼女の存在を固く胸に留めておくことにしたのであった

 これがフブキのいう役目だったのか絹代にはわからなかった。だが例えフブキが何者であろうといっぱいの元気と共に彼女を出迎えてあげよう、だってまた必ず会えると約束したのだから・・・

 

 その後フブキが消えた知波単学園はまた彼女が来る前の試合に勝てない弱小の頃に戻ってしまう。だがフブキが居た一時期に知波単学園と練習試合をした選手達によって何者にも止めることも落とすこともできないパイロット"幻の突撃王"が確かにいたという噂が選手界の中で立ち込めたのであった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「・・・その後フブキさんと一番仲が良くあの人の意志を一番継いでいる者であるということから二年生ながら私が先輩方や他の皆から指示されて隊長に選ばれたという訳です。大分脱線してしまい申し訳ございません」

 

「ううん。それでそのフブキさんはあれから西さんに会いに来てくれたの・・・?」

 

 知波単学園にかつて絹代の言う幻の突撃王がいたことはみほにとって耳にすることのなかった事実であった。そして数年経った今、結局彼女がまた絹代の前に現れたのかが何よりも気になった

 

「いいえ・・・・・・あれから随分経ちましたがまだ一度も会えないでいます。でもはっきり分かるんです、フブキさんはまだ確かに何処かにいることを。だから絶対に必ず会える日が来ると今でも信じてます!」

 

「いいなぁ〜何だかロマンチックで素敵かも〜」

 

「そういう話じゃないだろう・・・こういうのは物騒だがその人が無事ならばいいのだがな」

 

「連合軍の方が学校にまで来るなんて普通じゃありませんよね・・・けど西さんはフブキさんが悪いことをする様な人ではないとわかっているのですよね?」

 

「勿論です!当番をサボったりすることはありましたが決して公序良俗に反する様なことをする人ではありません!だから早く戻ってきて・・・また一緒に洗濯物を洗いたいです・・・」

 

 何年経とうが絹代の想いは変わることなく、そして確実に彼女が何処かで生きていることを感じていた。何故絹代がそんな事を感じられるのかに理由など必要ない・・・・・・絹代はただフブキと会えることを信じ、彼女が望んだ様に熱く強く生き続けようとするだけだった。あの頃から成長した自分を大切な人に見てもらうためにも・・・・・・

 

 

 

 

 

 家族皆と過ごした平穏な日常がまたいつか戻ってくることを切に願う愛里寿。だが彼女の願いも虚しく刻の歯車は止まらず、また銀河に新たな悲劇が産み落とされようとする。目の前に現れたニュータイプの少年、デシルの言葉はもはや人類が引き返せなくなっている事を意味していた

 

次回 ガールズ&ガンダム『愛里寿の家族』

 

 

 もう、誰にも止めることはできない

 

 

 

 




 読んでいただきありがとうございました

 メグミが愛里寿を呼び捨てにしていたのは愛里寿がνA-LAWSの大隊長に就任前の頃だからであります。次回は結構前から登場していたνA-LAWSというチーム、その組織について解説していこうと思います

 これまでの話のちょっとしたおさらいも兼ねて機動戦士ガンダムにおける強化人間という存在について僕なりに解説しようと思います。本筋には大分関係ありますが全国大会にはあまり関係ないので興味のない方は読まなくても大丈夫です

 強化人間とはニュータイプへ対抗しうるための兵器、もしくはサイコガンダムなどを動かすために造られた生体CPU。そして強化人間は造り手達の悪意により戦闘に必要のない過去の記憶を消される、または戦闘に都合がいいように洗脳され刷り込みが入れられるといった非道極まりないを仕打ちを受けて完成するのです。ジオン軍と連邦では強化人間の在り方は大分違いますが上記は両軍に共通することと思えます。人の悪意のみで造られた強化人間は道具の様に扱われるだけ、そのため人から与えられる優しさというものを知りません。だからこそ彼女達を救えるのはカミーユやジュドーといった勇気があり他者の想いを自分の事のように受け止められる者だけなのです。作中でもフォウやロザミィ、プルやプルツーも皆他人へ親身になることができるカミーユやジュドーに救われ兵器ではなく人間へ戻ることができたのです(ロザミィが最終決戦でカミーユのもとに駆けつけてくれたのは彼に感謝しているから、また彼女自身も他人を道具としてしか扱わないシロッコを許せない、倒さなければならないと確信したから)。視聴者の子供達には強化人間の様な少しおかしな他人にも親身になることができるカミーユ達の様であって欲しい、そのメッセージ性は御大のガンダム作品からビシバシ伝わってきます。やはりガンダムは子供向けアニメ、子供にこそ見せるべきアニメなのです
 カミーユの様に赤の他人にも自分の事のように接し受け止め悪は悪と断ずることができる強い意思を持つことはきっととても大切なことなのでしょう。ガンダムが作中を通して伝えようとしたそのメッセージを伝えるために本作品では今までアンチョビとトレーズを通じて人が自分の意思を貫けることの大切さを、ゆかりんとマシュマー、西さんとフブキのやり取りを通して他人へ親身になることの大切さを書こうと思いました。個人的にこのことはガルパンにも通じている部分がある気がしましてガルパンのキャラクター達、特に主人公のみほは皆に優しく意思が強く女の子らしく理性的でありながらも勇敢な心を持っています。もし宇宙世紀に住む人が彼女達の様であったならグリプス戦役は勿論、一年戦争も起こらなかったのかもしれないのです

 しかし人の性格とは多様であるため皆が皆誰かへ優しくするというのも無理な話なのでしょう。次回ガンダムシリーズの悪役の中でもシロッコ、バスク、ラカンやサーシェスに並ぶただ単純に最悪が過ぎる男キャラクターを登場させます。女の子のように理性的になれず強すぎるエゴを常に抱くのが男、ΖやZZにおいても男達のそういった描写が色濃く描かれています。ガルパンの世界において戦車道は女子の嗜みとされる一方男子がやるのは一般的ではないという認識もそういった側面があるからなのではと考えることができます



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18話 愛里寿の家族

 今回は後半から愛里寿がメインの回になります。前回ほのめかしていた愛里寿がBC自由学園に捕まり宇宙へ脱出するまでの経緯は本作品完結後に彼女が主人公となる続編と合わせて投稿していこうと思います

 誠に唐突ですが今回本作品におけるダージリンの妹とアナザーシリーズの中で断トツで最も極悪なガンダムキャラクターがニュータイプとして登場します。前回の後書きに記しました強化人間の解説を思い出しながら読んでいただきとうございます




 絹代から彼女にとって大切な人物、フブキの話が終えられると丁度同じタイミングに部屋のドアが開かれそこには帰ってきた優花里の姿があった

 

「皆さん遅くなって申し訳ございません!秋山優花里ただいま帰投しました!」

 

「あ、ゆかりんおかえり!結構長かったけど何処か具合いでも悪いの・・・?」

 

 トイレへ行くと言い席を外したはずの優花里が長らく帰ってこなかったため沙織は彼女の身を案じ心配そうに問いかけたが当の優花里は部屋を出ていく以前よりも明るく元気に満ちている様子だった

 

「実を言うと本当は初めからお手洗いには行ってなくて・・・さ、マシュマー殿も入ってください!」

 

「し、失礼します・・・」

 

 優花里に促される様に彼女の背後からマシュマーが姿を現しみほ達が座るテーブルの前へ踏み出して来た。その瞬間先程彼の怒りを激発させてしまったことからみほ達に緊張が走ったが、それでもみほは彼に今まで自分が世情への認識が甘く、宇宙に住む人々への関心も薄いまま過ごしてきたことを謝罪し和解しようと意を決した

 

「あ、あの、マシュマーさん・・・さっきは私のせいで嫌な思いをさせてしまって・・・」

 

「西住さん!そして武部さんに五十鈴さんに冷泉さん!先程は無礼を働き本当に申し訳ございませんでしたッ!!!」

 

 しかしみほが言葉を全て口にするよりも先に、マシュマーは部屋が揺れんばかりの大声で謝罪すると共にみほ達に面と向かって対して突然土下座を繰り出した

 

「・・・え?えええぇ!?」

 

「ちょ、ちょっとやだ!どうしちゃったのマシュマーさん!?」

 

 あまりにも唐突すぎる彼の土下座に驚愕したのはみほだけでなく沙織も自身の眼を疑い悲鳴に近い声を上げ華と麻子、そして共に部屋へ戻ってきた優花里までもが予想外の行為に衝撃を受け愕然としていた。そして絹代は状況に理解が追いついていないのか特に反応も示さないまま残っていた料理を箸で機械のように口へ運んでいた

 

「ま、マシュマー殿!?いきなり土下座するなんて聞いてないですよ!?」

 

「・・・私は皆様が折角地球から遥々いらしてくれた方々であるにも関わらずつい感情的になりあの様な野蛮極まりない振る舞いをしてしまいました。なんの罪も無い皆様を怖がらせてしまい本当に申し訳ないです・・・」

 

「そうだとしても土下座はやりすぎだ。私達の方こそ貴方に謝ろうとしていたのに・・・」

 

「そうですよ!だから早く顔をお上げになってくださいマシュマーさん!」

 

 麻子と華の言葉を受けマシュマーは固く床へ押し付けていた額を浮かせおそるおそる顔を上げたが正座は崩さず反省の意を表そうとしていた

 

「・・・今日マシュマーさんから宇宙の人達が今とても苦しんでいることやお母さんのことを教えてもらえなければこの先もずっと知らないままだったかもしれません。もしそうだったら今まで通り自分から何も知ろうとしないまま過ごしていたかもしれません・・・そんなの考えただけでも怖いです。だからこれからは私もマシュマーさんやお母さんと同じように誰も苦しい想いをしない世界を願いたいです・・・」

 

「西住さん・・・・・・」

 

 みほは新たにした自分の想い、決意を伝えた。それは13バンチコロニーで多くの市民達が亡くなった悲しき事実をはじめ宇宙で苦しんでいる人達の情報が何一つ地球の人達には届かない現状を認められるはずが無かったから。例え自分とは遠く離れた地での出来事だとしても、不感を貫いたままでいる訳にはいかったからであった。マシュマーはみほもまた優花里と同じ暖かく勇敢な心の持ち主であったことに深く感銘を受けた

 

「勿論私達もみぽりんと同じ気持ちだよ!いくら私達と住んでる世界が遠いからって自分とは関係ないだなんてもう思えないんだから!」

 

「そうだな。学生の私達にできることはたかが知れてるかもしれないがそれでも常に頭の中で意識しておかなければならないことだ」

 

「こうして私達も仲良くなることができたのです。きっと他の皆さんにも伝えて知ってもらうことができれば通じ合えるはずだと思います」

 

 皆想いは一緒だった。今日まで宇宙という遥か彼方の世界を知ろうと自ら思考することはなく過ごすことが自然だったが今は違う、例え何の関わることのない素知らぬ者であろうと想わなければならないのだ。皆同じ世で確かに生きる同じ人なのだから・・・

 

「皆様・・・・・・ありがとうございます・・・!皆様の様な暖かな方々と出会えてこのマシュマー、騎士として・・・スペースノイドとして何よりも有難いです・・・」

 

 彼女達の暖かな言葉が身に染みマシュマーは嬉しさから涙ぐみながら土下座を繰り出し再びみほ達を仰天させ慌ただしく制された。遠く離れた世界の人同士でもみほ達は想いを共にすることができたのであった

 優花里とマシュマーは改めて元の椅子へと戻り食事を再開した。すると何処か腑に落ちないものがあるのか絹代は悩ましげな様子でマシュマーへ問いかけた

 

「しかし今日まで宇宙と地球がそんなにも仲が悪いとは思いもしませんでした。でもどうして地球では学校やニュースで宇宙のことを何も教えてくれなかったのでしょうか?」

 

「・・・・・・そのことだが察するに地球の代表議会が意図的にそういった政策を敷いているのかもしれない。それはしほ様にも変革することが未だ叶わない程深く根を下ろしている・・・あまりこういう事は言うべきではありませんが現在の地球を治めている老人達は貴女方の様なお優しい心の持ち主ばかりではないのです・・・」

 

 自分達の住む地球を治めている者達。その者達の存在などこれまで考えることなどなかったみほ達であったがこれまでの意識を改めた今、世の中というものへ確かな疑念が生まれた

 

「・・・もし私達が地球の他の皆さんに宇宙のことを伝えようとすればその人達が怒るかもしれない・・・っていうことですか・・・?」

 

「そのご心配ないでしょう。学生運動などよあまりにも目立つ行為は逮捕される可能性があるかもしれませんが、先程秋山さんにも伝えた通り私が今日開いたこの食事会の様な小さな形で伝えていく分には連中は意に介さないでしょう。それに貴女のお母様、西住しほ様という何よりも心強い味方がいるではありませんか。きっといつか世界は我々が望む姿へ変わるはず・・・しかしです西住さん。地球の政府だけでなく、現に宇宙にも悪は蔓延っているのです」

 

「それって昨日の・・・」

 

「そう、昨日貴女方を襲っていたあの妙な連中です。正直な話我々エンドラの者にもあのガンダム達がどこから来たのかわからないのです。何やら西住さんを狙っていたと聞きましたが何か心当たりはおありですかな?」

 

 マシュマーから問われたがみほは首を横に振った。昨日自分を攫いに現れたνA-LAWSという組織のことはしほから誰にも漏らさぬよう固く約束されていたため、同じく聞き及んでいた沙織と麻子も何も言わなかった

 みほには気になって仕方がなかった。何の目的があって彼女達が自分を昨日のあの瞬間に導くために暗躍していたのか、かつて自分をニュータイプへと覚醒させた少女の肉体的な感覚を何故一切感じることができなかったのか。当然みほには彼女達を許すことはできなかったが、同時に彼女達が悪とも思えなかった。そして再び彼女達が自分の前に現れることを僅かに、それでいて確実に感じていたのだ・・・

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 一世紀ほど前、宇宙へ進出した人々により月面上のクレーター内に積層構造の巨大都市、月面都市が完成された。そこは人類が宇宙で子を成し育むことのできる恒久都市として、コロニー開発をはじめとする宇宙開拓の前線基地としての役割を担うための地であり、小さなものも含め10数以上の都市が健在され現在月では数億人ものスペースノイド達が生活し栄えていた。そして地球と提携し政治的に宇宙市民達を治めるための機関として月面都市の市長や政治家、各サイド及び居住小惑星の市長といったスペースノイドを中心議員に選出した月代表議会も創立され、月は各宙域のスペースノイド達にとって世の流れや決まりごとを決定する中心的存在となったのであった。その後議会は宇宙海賊をはじめとする反社会的勢力、未知世界より来たる可能性のある侵攻者の存在を危惧、市民達を庇護し彼らの平穏を保つために、外敵の存在を常に警戒し宇宙の治安維持を図るための抑止戦力として月に人型機動兵器【モビルスーツ】や宇宙艦の開発、生産を目的とした工場の設置と初めてMSを主兵力とする軍隊、月防衛軍を結成させたのであった。そして同時に月防衛軍に所属するMSパイロット達の教導と操縦の熟達を目的にMSによる武道、モビル道は誕生した。後にモビル道はスペースノイドだけでなくMS技術と共にアースノイドへも伝えられていくこととなり、地球と宇宙の人々を繋ぐ新時代を象徴するスポーツとして定着していった・・・

 

 だが刻が現代に近づくにつれ、地球圏代表議会は宇宙で起きている経済難や難航する行政に一切の援助を行わずそればかりか各サイド圏や小惑星に対し自治権を行使し連合軍基地の設営や宇宙資源の搾取、モビル道の試合ステージ用コロニーの製造を強要させるなど不当な待遇を強い続けていた。そしてモビル道においても一般的なスペースノイド達のチームはモビル道連盟の認可なしでは地球のチームと試合や合同演習を組むことは許されず、本来スペースノイド達の領域であるはずの宙域も優先的に地球のチームへ明け渡さなければならないなど到底平等とは程遠い扱いを受けていたため当然スペースノイド達の不満と反感は膨張する一方であった

 

 そして現在より六年前、地球と宇宙の學会へ新たな進化を遂げた人類とされるニュータイプの存在を公表した島田衛の提言とその年新たに議長の座に就任したアレハンドロ・コーナーの強い推薦あって、月代表議会は既に存在していた島田千代が率いるニュータイプ研究所私設のモビル道チームを解体、改めて新たなチームとして【νA-LAWS】を結成させたのであった。表向きは以前と同じモビル道のプロチーム、しかし本来の目的は研究所で造られた強化人間を一時的に選手として所属させモビル道の試合に駆り出すことで得られる実戦的な戦闘データを蓄積させること、軍で使用する新型MSの試験運用を一任、そしてアースノイドによるチームに勝利しスペースノイドがより優等な存在であることを誇示することこそがνA-LAWSが結成された意義であった

 しかしνA-LAWSの存在は当代家元島田千代が代々受け継ぐ強化人間達の製造と試験運用も元来より快く思っていなかった地球連合軍の一部の高官やブルーコスモスのシンパ達にとっては更なる遺憾な存在でしかなくスペースノイド達への憎悪を膨れ上がらせることとなるのであった・・・

 

 

 そして現在、人類最初のニュータイプ一族とされる島田家の娘にしてνA-LAWSの指揮官に着任していたニュータイプの少女、島田愛里寿は・・・・・・

 

 

 

 

 

「「「愛里寿大隊長!アロウズの3M、ただいま帰投しました!」」」

 

「うん。三人ともおかえりなさい」

 

 月防衛軍から受けた新型MSジャムル・フィンのテストパイロットの任務を終え帰還したメグミ、ルミ、アズミを出迎えに愛里寿はフォン・ブラウンの宇宙港の一つに来ていた。メグミ達は普段からも他の隊員達にも愛里寿がνA-LAWSの指揮官であることを明確にさせるため彼女を大隊長と呼ぶようにしていた。そんな彼女達三人に愛里寿が囲まている様を付き添いとして同伴していたレビンは顔を苦くしかめ傍観し、彼の様子に気づいたメグミは悪戯そうに笑みを浮かべた

 

「あらレビン、あなたも来てくれたの?お姉様方の帰りがそんなに待ち遠しかったのかしら?」

 

「別に来たくて来てやった訳じゃねぇ。帰りに大隊長と買い出し頼まれたから仕方なくだ」

 

「またまたそんな事言っちゃって。本当素直じゃないよなーレビンは」

 

「この前大洗に行くために地球へ降りた時もちゃんとお土産で美味しい物買ってきてくれたものね。皆のことをちゃんと考えてくれてるのもわかってるんだから」

 

「うぐっ、一々うるせぇよ・・・」

 

 メグミに続いてルミとアズミも茶化しに参戦し始めレビンは追い詰められるかのようにたじろいだ

 

「ん?どーしたのレビン?あんたもしかして照れてんの?」

 

「て、照れてる訳ねーだろ!本っ当にうっせーよなあんたらは!」

 

「ははは、可哀想だから辞めてあげなよルミ。ていうかこの後買い出し行くんだよね?後でお小遣いあげるからついでに美味しいお酒も買っておいてくれない?」

「チッ、仕方ねぇな・・・(なーにがアロウズの3M(スリーエム)だ。3B(スリーババア)の間違いだろ・・・)」

 

「む、あなた今物凄い失礼なこと考えてるでしょう?・・・・・・それよりも大隊長。西住みほは・・・美香を連れ戻すことには成功したのですか?」

 

 アズミは真剣な面持ちへと一変し愛里寿へ迫った。対する愛里寿は何も言葉を返せず沈黙のまま俯き三人は彼女の計画が失敗に終わったことを悟った

 

「・・・でももう大丈夫。お姉ちゃんがみほさんのことを諦めた訳なんだからもう仕方ないしお姉ちゃんとはいつでも会えるから・・・だから心配しなくても大丈夫だよ」

 

 気を持ち直そうとする振る舞う愛里寿の様子メグミ達は胸が痛んだ。初めは愛里寿の言う強奪したネティクスの中で姉が生きているという事実が信じられなかった。しかし後々三人にもネティクスのコックピットに彼女がいることを確かに感じられたのだ。まだ生きていようとする、愛里寿を守ろうとする強い想いがガンダムにしがみつかせたのか、これもニュータイプという本当に実在するのかも未知な存在に為せる所業なのか。いずれにせよ彼女がまだ生きているなら、愛里寿が望むのならばどんな事をしてでも彼女を取り戻しまた以前の日常を取り返してあげたかった・・・

 

「大隊長・・・・・・わかりました。私達は一度基地の開発部にテストの報告をした後大隊長のお家にお邪魔させていただきます。それではまた夕方お会いしましょう」

 

「・・・二人共元気出していこうよ!何か他にも美香を取り戻せる方法があるかもしれないしさ・・・。それじゃまた後で!」

 

 ルミは元気づけようと愛里寿とレビンの頭を優しく撫でてやった。別れを告げてメグミとアズミと共に防衛軍の本部へ向かう三人を愛里寿は軽く手を振って見送った。こうして自分を暖かく守ろうとしてくれる人達がいることが愛里寿には嬉しくその一方いつまでも彼女達の世話になる訳にもいかないとも思えた。そして隣で表情を険しくさせるレビンが、まだみほを連れてくることを諦めていないことが伺え何か嫌な予感がしたのであった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さらから頼まれたもんは全部買えたよな・・・帰るぞ大隊長」 

 

 その後メグミ達と別れた愛里寿とレビンはショッピングモールへと赴き、さらより預かったメモに記された品を全て買い終えモールを出て帰路へ着こうとしていた

 

 

「荷物持ってくれてありがとうレビン。ナオはおじ様の所に行っちゃったしトレノは義足の調子が悪いみたいだったから・・・」

 

「別にどうってことねぇ。ほら、はぐれんなよ」

 

 レビンは買った食品で膨れた大きめの紙袋を小脇に抱え空いた片方の手で愛里寿が迷子にならならぬよう彼女の手を取り共に街道を進んだ。街は多くの宇宙市民で賑わい若者向けや家族連れ向けの店が多く出店し歓楽に溢れていた、街の中で一際異様な雰囲気を放つ電波塔を除いては・・・

 

「サイコウェーブ増幅装置・・・チッ。急ぐぞ大隊長。また所長があれを起動させるかもしれねぇ」

 

「うん・・・」

 

 あの謎のタワーを建てたのは現島田流の当主にしてニュータイプ研究所の所長、そして愛里寿の叔父にあたる島田衛。議会からの承諾を得てフォン・ブラウンの市街地にあれを乱立させたのは、研究所が所有する強化人間から発せられる感応波を試験するため、行く行くは兵器として軍事転用するためであった。タワーは現在フォン・ブラウン中に三本建てられており一本あたり強化人間が一人タワーのコアルームへと入り感応波を発信、増幅された後音波のようにタワーより市街地へと放たれる。感応波を受けた市民は一時的に感覚が虚ろになる、成人と関わらず生命として後退した行動を取るといった結果が出ていた。あくまで試験であるため衛曰く人体的、精神的な害には及ばない様調整しているとのこと・・・

 だがタワーによる感応波は愛里寿達が住む家、月防衛軍の本部や月代表議会の議事堂や議員達の住まいをはじめ一般市民よりも位が高い者達への生活圏には届かないような場所に敢えて建てられていた。月の一般市民をも実験体とする衛を愛里寿達は許せるはずがなかったが彼を止める術などあるはずもなく、ただ目を黙り瞑ることしかできなかったのだ・・・

 だがタワーが起動していなければ街は平和そのもの。愛里寿はかりそめの平穏に不安を感じながらも(じかん)の歯車がこれ以上暴走しないことを、誰一人として悲しまない世をただ祈り続けていた

 

「・・・・・・こうして一緒に街を歩いてると地球にいた頃を思い出すね。ダージリンさん元気かな・・・」

 

「・・・まだあん時のこと覚えてんのかよ?」

 

「うん・・・レビンはもう忘れちゃったの・・・?」

 

「さぁな・・・・・・あいつはもうあんたが大嫌いなアースノイド共といることを選んでんだ。俺達とは住む世界が違ぇってのは分かってんだから向こうでのことなんかさっさと忘れちまおうぜ」

 

 ぶっきらぼうに、どこか切なげに呟くレビンに愛里寿は罪悪感を感じた。ブルーコスモスからの追っ手から逃れるため自分と共にとある学園艦へ身を隠していた間、レビンはそこで一人の女子生徒と出逢い彼女に強く心を惹かれたのであった。それは彼女に恋心を抱いたからではない、彼女が他者を一切信じることも受け入れることもできず憎しみを爆発させようとしていた自身を生まれ変わらせてくれたから・・・幼少期は強化人間として失敗作の烙印を受け周囲から蔑まれ続け、唯一自分を理解してくれた友も理不尽に生命を奪われた彼にとって彼女の存在は計り知れないほど大切な人だったに違いなかった・・・

 しかし彼は自分を宇宙へ還すため、この先も自分を守り続けるため地球で平穏に暮らす彼女への想いを断つことを決意し自分と共に宇宙へ上がってくれたのだ。彼には地球へ残ることも選択できた・・・だがその上で自分の傍に居続けることを選び、自分には一切の非がないと言い隣を歩いてくれる彼に愛里寿は心から感謝すると共にいつか彼に本当の意味で幸福になって欲しいと願った。だからこそ彼には危険な目になどあって欲しくはなかったのだ

 

「・・・ねぇレビン。またみほさんの所に行こうとしてるんだよね・・・?」

 

「・・・だったらなんだよ?」

 

「お姉ちゃんがもうみほさんのことを苦しませたくないから諦めようって言ってたの・・・だから私達も辞めようよ。もしレビンが危ない目に会ったら私嫌だよ・・・」

 

「・・・・・・・・・。」

 

 不安げな愛里寿の言葉にレビンは口を閉ざし沈黙した。やはり彼はもう一度みほを連れ去るために行こうとしているのだ。何も言葉を返されぬまま彼に手を引かれ二人は家までの近道である市内の自然公園の中へ入った

 

「・・・美香の言うことは絶対だ。俺だって分かってる。だけどよ・・・・・・あんたは本当に美香が家に居ないままでいいのかよ?」

 

「お姉ちゃんはいつもガンダムの中にいるから・・・いつでも会いに行けるから大丈夫だよ・・・」

 

「・・・・・・ガキのくせに強がんな。姉ちゃんが居ないままで大丈夫な訳ねーだろ。よくよく考えれば美香が諦めるつってもあんたがアイツに戻ってきて欲しいと望んでいる以上無視する訳にはいかねぇ。だから俺は行くぞ、美香を連れ戻すために本物のニュータイプの体は必要だ」

 

 レビンは既に己の中で意を決していた、何としてでも自分のためにみほを連れ去ろうと。確かに本心では例えどんな姿であろうとお姉ちゃんが戻ってこれるならばどんな手段でも講じたい・・・だがみほが今いる場所は西住しほが管理するシュバルツ・ファング。西住流の中でもしほに直々に認められた門下生達や地球連合軍及び月防衛軍に元々所属していたMSパイロット達が警備を行う宙域であるため現時点でモビル道用のMSしか所有していない自分達にみほを連れ去ろうなど不可能に違いなかったのだ

 

 

「・・・あら?愛里寿様にレビン()()()()ではございませんか。ごきげんよう」

 

 二人が公園中央部の噴水広場に差し掛かったところ、背後から自分達の名を呼ぶ声がし振り返るとそこには一人の少女と彼女の両脇にまだ幼げな、それこそ愛里寿よりも一回り身長が低いまだ幼げな二人の少年の姿があった

 

「・・・!ラピス・ファフニール・・・なんでテメェがここに居やがる?」

 

「お義兄様ったらご挨拶しただけなのにそう邪険になさることないではありませんか。それに今の私の名はラグナロク・・・もうラピスという名前はとうの昔に捨てたと何度も言っているではありませんか?」

 

 愛里寿にとって三人共初めて対面する人物だったがラグナロクと名乗る真ん中の少女からどこか覚えのある雰囲気を感じた。彼女が持つ蒼い瞳と龍の尾のような風格を示しながらも優雅にして繊細な三つ編みを完成させているブロンドヘアは間違いなく自分達が地球の学園艦で出会い同じ刻を過ごした少女と同じ血が通った物であった

 

「・・・・・・っ!いやっ!」

 

 しかし突如として、愛里寿は凍りつく様な戦慄に襲われラグナロクへ向けていた意識はその隣の、林檎の様に真っ赤な赤髪の少年へと移された。目が合い薄く微笑みながら此方を見つめてくる少年に愛里寿は自身の目と感覚を疑い怯えた。自分よりも明らかに年が低く、姿顔立ちも純粋無垢な少年そのものであるのにも関わらず何故か彼から血の様な香りが、何人もの生命を確かに殺めてきた者が持つ禍々しき波動が放たれていたからであった

 

「大隊長?・・・オイテメェ・・・何もんだそのガキ共は?」

 

「あぁ、紹介が遅れていましたわね。デシル、ゼハート。貴方達も愛里寿様達に挨拶なさい」

 

「ごきげんよー愛里寿様!僕デシル!デシル・ガレットって言うんだ!」

 

「弟のゼハートです。こんにちは愛里寿様、レビン様」

 

 淡い紫がかかった白髪の少年ゼハート・ガレットは礼儀正しく会釈と共に挨拶し、例の赤髪の少年デシル・ガレットは無邪気な子供らしい屈託のない笑顔で愛里寿へお辞儀をした

 

「ふふふ・・・この二人は私達の様な強化人間とは違いマスターが見つけ出した正真正銘本物のニュータイプ。特にデシルの方は既にMSパイロットととして防衛軍一の実力を、それこそ亡くなってしまった美香様と同等の数値を出していますの」

 

「美香をこんな小便臭いガキと勝手に比べてんじゃねぇ・・・。そもそもこんなちっぽけなガキ共がニュータイプだと?笑わせんな」

 

「そんな感性だから貴方はカテゴリーFなのよ・・・・・・そういえばお義兄様は一週間前地球にいらっしゃったのでしょう?ソフィアお姉様はお元気だったかしら?」

 

「黙れ・・・誰がお義兄様だ。誰がテメェなんかにアイツのことを教えてやるかよ」

 

 レビンは依然としてラグナロクを警戒する視線で睨み続けた。対する彼女は嘲笑を崩すことなく口元から鋭利な牙の様に犬歯を覗かせていた

 

「・・・お会いになってないのでしたら結構ですわ。父の仇も取ろうとせず、あろうことか地球種達と共にモビル道を嗜んでおられる臆病者のお姉様なんてもう忘れてしまおうかしら・・・」

 

「アイツの方がよっぽど冷静だ。復讐に取り憑かれているてめぇよりもな」

 

「私はお姉様と違って家族を何よりも大切にしておりますの・・・では私達はこれで失礼させていただきます。行くわよ二人共」

 

「待ちやがれ。テメェの他にもサイド3に篭ってた強化人間の連中が月に来てんだろ?一体何の命令があって来やがった?」

 

 去ろうとした所をレビンに呼び止められ、ラグナロクはクスリと微笑し彼へ言葉を返した

 

「それはお教えできませんわ。マスターから直々に賜った極秘の任ですので外部に漏らす訳にはいきませんの」

 

「所長がだと・・・?」

 

「ええ。もう宜しいですわね?お義兄様に愛里寿様、またお会いしましょう?」

 

 ニュータイプ研究所製の強化人間の中でも最もニュータイプに近い最高傑作、カテゴリーSと評された強化人間ラグナロク。彼女の父ラステイル・ファフニールは月代表議会の先代議長であり西住しほと同じくモビル道を通して宇宙と地球の調和を図ろうと邁進していたが、地球に滞在中何者かに暗殺され志半ばのままその生涯に幕を閉じた。彼女が自ら強化人間となり名前までも変え、現在防衛軍の強化人間部隊の指揮官の任に就いているのは父親の復讐を果たすため、そして地球に住むアースノイド達へ終末をもたらすため・・・・・・全てを喰らい尽くす龍の様な風貌を纏う少女ラグナロクは愛里寿とレビンに別れを告げ立ち去って行った

 

「・・・平気か大隊長?」

 

「う、うん・・・ちょっとびっくりしただけだよ・・・」

 

「そうか。ならさっさと帰るぞ」

 

 再びレビンに手を引かれ愛里寿は家へ歩き始めた。彼女達が何者なのか、何を目的にサイド3から月へ来たのか知り得なかった愛里寿だが自身の中で未来への不安が募るのを感じた・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・あれ?ラ、ラグナロク様。デシル兄さんがいません・・・」

 

「・・・え?なんですって?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 愛里寿達の住まいの屋敷は市民達で栄える市街地の中心より少し離れた、比較的木々や小川といった自然の多い場所に位置していた

 

「ただいま」

 

「オウ、帰ったぞ」

 

「あ、レビン君に愛里寿ちゃん。おかえりなさい」

 

 玄関に上がるとメイド用のフリル付きエプロンを腰につけたさらが廊下に掃除機をかけながら出迎えてくれた

 

「・・・おい、なんでおまえが掃除なんてしてんだ?バカハドマの奴はどうした?」

 

「フブキさんならリビングで休んでるよ。それにこれは私が好きでやってるだけだから・・・」

 

 さらが言い切るよりも前にレビンは早足で上がり込みリビングへのドアを開けた。リビングでは本来この屋敷のメイドであるはずのフブキがソファに座りテレビを見ながらくつろいでいた

 

「ん、帰ってきたのかレビン。おかえりなさいませお嬢様」

 

「ただいまフブキ」

 

「オイ・・・またさらに家事やらせてんのか。メイド長が仕事しねーでサボってるとかどうかしてるぞ・・・」

 

「フッ、女にとって家事とは言わば戦場。戦場には戦争をしたい連中だけ行けばいい・・・違うか?」

 

「ちげーわ!適当ぶっこいてんじゃねーよバカ!」

 

 自信げに言い訳を吐くフブキにレビンはかんしゃくを起こしまくし立てた。二人の喧騒はいつものことなので愛里寿は特に気にすることなく手を洗いに行こうとした

 

「ああ、お嬢様。今から庭の花壇に水やりを頼めますか?」

 

「オイ!それもメイドのテメーの仕事だろ!」

 

「私は別に大丈夫だよレビン。行ってくるね」

 

 愛里寿は快くフブキからの頼みを受け屋敷の中庭へと出て行った

 

「オメーなぁ・・・本当にあのカテゴリーSなのかよ・・・」

 

「レビン。お嬢様に聞かせる訳にはいかないがおまえ達にだけは話しておかなければならんことがある。千代様と所長についてだ」

 

「何・・・?」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

『愛里寿、この子達も私達と同じ生命を持っている。今この時も私達と一緒で生命の鼓動を刻み続けているんだよ』

 

『お花さん達がわたし達といっしょ?』

 

『ああ。私達の生命が誰かから愛されて育ったように私達も他の生命を愛して大切にしなければならない。そうやって私達の世界やこの宇宙は支えられていくんだ』

 

『わたしにはよくわかんないよ・・・お姉ちゃん・・・』

 

『いつかおまえにもわかる時が来るさ。・・・だけど今この世界には他の生命を大切にすることを忘れてしまった人が多すぎる。だから私達ニュータイプが皆を導いてこの宇宙を愛に満ちた世界へ変えてあげなければいけない。それが誰かを愛することの大切さを知る私達の使命なんだよ。愛里寿・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 中庭の花壇に植えられた花はお姉ちゃんが大切に育てていたものだった。彼女が居なくなった今、愛里寿は毎日花々の面倒を見ていた。例えどんなに小さな存在でも生命の鼓動は誰かの愛の証、必ず誰かから必要とされているものであると教えてくれたお姉ちゃんの言葉通り愛里寿はできるだけ他の生命を大切にしたかった

 

「へぇ〜ここが愛里寿様のお家なんだ〜!おっきくて綺麗だな〜!」

 

 愛里寿が花に水やりをしていると屋敷を囲む塀の上から耳に残る様な甘い声が聞こえた。振り向くと塀の上にはぺたんと腰掛け落ち着きのないように両足を揺するデシルの姿があった

 

「あ、こんにちは愛里寿様!面白そうだからお家まで着いてきちゃったよ」

 

「貴方は・・・私達の家に何の用?」

 

 デシルから放たれるプレッシャーに臆することなく愛里寿は警戒し塀上の彼に構えた。そもそも彼はνA-LAWSの隊員でなければ先程の話から衛の配下であることも伺えたため愛里寿にとっては不審にして不可解な存在だった

 

「フフフ・・・そんな怖い顔しないでよ愛里寿様。僕はただ愛里寿様を地球へ遊びに行くお誘いに来ただけだよ」

 

「地球へ遊びに・・・?どういうこと・・・?」

 

「えーっとね、ギカイのおじちゃん達の中に愛里寿様が戦うのを反対してる人もいるからマスターは連れて行けないって言ってたの。だけど愛里寿様本人が望んだのなら話は違うなって思ったんだ」

 

「なんなの・・・?一体何の話をしているの・・・?」

 

 愛里寿には彼が何の話をしているのか見えてこなかった。困惑する愛里寿の様子を上機嫌に見下ろしながらデシルは金色の瞳を細め小悪魔の様に不気味な笑顔を浮かべた

 

「うーん、それじゃ愛里寿様には特別に僕達が何をしに月へ来たか教えてあげる。実はマスターからのお願いで来月から僕達皆で地球の軍隊さん達の基地とか工場とかに遊びに行くんだ」

 

「衛叔父様の・・・?そんな所に遊びに行くってどういうことなの?」

 

「そんなの決まってるじゃん。とっても強い地球の軍人さん達とMS同士でいっぱい殺し合いするんだよ。今までは大学生のお姉ちゃん達とかプロチームの人達しか襲えなくて正直飽きちゃってたからもう楽しみで楽しみでたまんないよ!」

 

 甘い声でけたたましく笑いあげるデシルに愛里寿は息を詰まらせ絶望で足が竦みそうになるのを感じた。この少年の言葉通りであるならば月議会は、衛は本格的に地球圏を支配しようと動き出そうとしている。地球に住む多くの人の生死を厭う事なく彼らを解き放とうとしているのだ

 

「そんなの間違ってる・・・!同じ人なのに殺し合いに行くだなんて・・・そんなの絶対に間違ってるよ!」

 

「う〜んそうは言うけど愛里寿様だってホントは来たいはずだよね。だって愛里寿様のお姉ちゃんって地球の軍人さん達に殺されたんでしょ?大好きなお姉ちゃんを殺した人達なんて許せる訳ないよねぇ〜?でも僕達と来ればお姉ちゃんの仇が取れるんだよ・・・」

 

 邪悪に微笑みながらデシルは復讐という言葉を持ち出してきた。確かに愛里寿にとって地球連合軍の軍人達を許せる訳がなかった。世界で一人しかいない大好きな大好きなお姉ちゃんの人生を奪った彼女達が憎くて仕方なかった・・・・・・だが復讐のために他者に粛清を与えようなどお姉ちゃんが一番望んでいないことであると愛里寿は分かっていた

 

「確かに私は地球の人達が大嫌いだよ・・・・・・だけど・・・だからって復讐のために生命を奪おうだなんて絶対に間違ってる!」

 

「ふ〜ん・・・意外と賢いんだね愛里寿様。けど確かに復讐復讐言ってる人ってなんか馬鹿っぽいし一生不幸なまんまでつまんない人生送りそうだもんね〜。あ、今のラグナロク様には内緒だよ?」

 

「なんでそんな酷いこと言えるの・・・?貴方おかしいよ・・・なんでそんな風に人を見下して・・・いっぱいの人を傷つけようとできるの!?」

 

「・・・うるさいなぁ。そんなの楽しいからに決まってるじゃん。愛里寿様だって好きな遊びくらいあるでしょ?それと同じだよ・・・僕はただ楽しい楽しいゲームで皆といっぱい遊びたいだけさ!」

 

 愛里寿は今目の前にいる少年があまりにも純粋な邪悪、生粋の悪魔の権化であることを確信した。信じられなかった。誰よりも人に優しくなれ人と人とを分かり合わせ手を繋ぎ合わせることができる存在、それこそがニュータイプだと信じてきた。だがお姉ちゃんの生命を奪ったあの少女といい、ニュータイプでありながら他者の生命や心をただぞんざいに扱い踏みにじり人殺しをゲームの様に楽しむことのできる者がまた新たに現れたのだ。このデシル・ガレットという少年もまたニュータイプでありながらお姉ちゃんを殺したあの少女と似通う思考を持っていること、自分が信じ続けてきたニュータイプの在り方を全て否定する存在であることに愛里寿は胸を抉られる様な感覚がするほど哀しみ、目からは悔しさ故の涙が静かに零れた

 

「あれれ?泣いちゃったの愛里寿様?僕なんか酷いこと言ったかな〜?」

 

「・・・・・・どうして・・・どうして貴方みたいな子が・・・貴方みたいな子がニュータイプなの・・・・・・?」

 

「よくわかんないけどニュータイプって誰よりも優れてる人のことを言うんでしょ。だったら僕がニュータイプなれたのも当然のことなんだよ?・・・・・・けどもういいや。愛里寿様も来てくれると思って誘いに来たけど全然乗り気じゃなさそうだから僕もう帰るね。その代わり今度僕と一緒に思う存分()()()()()・・・約束だよ愛里寿様・・・」

 

 デシルは含みある邪悪な笑みと言葉を残し塀から降りて愛里寿の前から去って行った。彼らが地球へ行ったのならば、地球と宇宙はいよいよ二極化された世界となり争い憎み合うこととなる・・・だが今の愛里寿にもはやデシル達を、衛を、刻の歯車を止めることなどできるはずがなかった。お姉ちゃんが願った光る世界へ世が変わることを自分も思い続けた、祈り続けたがそれも虚しく、今平穏なる日々に新たなる火矢が放たれようとしていた

 

(そういえば愛里寿様達って昨日は地球から来たニュータイプを捕まえに出かけてたんだっけ?・・・気になるなぁ・・・地球に行く前に僕と遊んでくれないかなぁ・・・?)

 

 

 

 

 

 

 

 

次回 ガールズ&ガンダム『親子の絆』

 

 

 言葉にせずとも、形にせずとも子への愛は確かにそこに在る

 

 

 

 

 

 




 読んでいただきありがとうございました

 現世へ大きな心残りを残したまま散った生命は死した後も現世へ留まり続け、生者へのテレパシーの送信や生者達の体への憑依、その者達の生命を連れて行こうとするなど様々な怪奇的な現象を引き起こす。生きてる人からすればとんでもなく迷惑なことですが亡くなった人達も彼女達が望みさえすれば現世の生者達へ干渉することができる、それこそがゼータを発動させる引き金の一つとなるのです

 今回初登場のラグナロクやデシルはモビル道をやらないため全国大会には一切干渉させません。彼女達は現在連載中の本作品ではそれほど活躍しませんが続編にてみほや愛里寿達にとってのライバルではなく敵という位置づけで登場してくることとなります
 ただデシルの方はまた近いうちに再び登場します。本来ガンダムシリーズにおける"子供"という存在は理不尽に戦争へ巻き込まれ挙句半ば無理に戦わされるか、何らかの哀しみを背負い初めて戦場へ赴くものですがデシルは違います。デシルはどのキャラよりも幼いというのにも関わらず自ら嬉嬉として自ら戦場へ出て殺し合いをゲームの様に堪能しているのです。そのくせガンダムシリーズの子供キャラらしくめちゃくちゃ強いので正直良い意味でなんでこんなキャラクターを考えたのか理解できないです。AGEは賛否両論分かれると聞きますがデシル・ガレットというキャラクターだけでも他作品の追随を許さない唯一の魅力があると思います。そんな彼と近いうちに戦うのはみほ達ではありませんがそこそこ胸糞悪くなるような戦闘になるためご注意ください(尚次回はちょっとした箸休め回になります)

 今回も本作品の世界観を書かせてもらいましたがまだまだ書けていない要素が仰山残っていますのでこれからも要所要所で書いていこうと思います(年表時系列順にまとめた方がいいのかなぁ・・・)
 一応今ここで本作品の世界観を簡潔に一言で表させていただくと"ザビ家によるジオン公国軍が誕生せず一年戦争も勃発しなかった宇宙世紀"であると覚えていただきたいです。もしジオン軍が誕生せず一年戦争が起こらなかったとして宇宙世紀は平和な世界になったのでしょうか・・・

ちょっと大事なことを活動報告に載せました。よろしくお願いいたします
 ↓
【https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=233231&uid=260037】


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19話 親子の絆

 前回のあとがきで次回は箸休め回になりますと予告しておきながら尺や時間の都合上全然そんなどころの内容じゃなくなってしまいました。本当に申し訳ございません・・・。この第二章にのみ限り前回登場したデシルによってかなり胸くそ悪い描写が多くなりますのでご注意ください

 今回はタイトルの通り親子がテーマです。親子といえばしほさんの話になりますがガルパンの劇中における彼女のみほへ対する姿勢は個人的にガンダムの悪役的ポジション、みほが自分の意思で決定し行動したことを許容しようとせず否定し最上とする自分流でなければ認めようとしなかったその思考はかなり大袈裟でありますがシロッコやハマーンに通ずる部分があると思います。ただ本作品におけるしほさんは何度か本編中で述べてきた通り古くから活動し続けてきたライトサイドのポジションになります。いい母親であるかどうかは別として・・・



 愛里寿の前に現れたまだ年端もいかない幼き少年デシル・ガレットは彼女が信じ続けてきたニュータイプの意義そのものを全て否定する存在だった。今まで何人もの生命を遊戯の様に殺め続け未だその残虐極まりない狂気を抑えることなく無邪気に発散させようとするデシル、彼やラグナロク達強化人間を地球へ解き放とうする叔父の衛。お姉ちゃんの願う誰一人として傷つかない愛に満ちた生命溢れる世界が遠のいていくことに愛里寿は涙し、心の中で強く嘆いた・・・

 

 

(じかん)を止めてよ・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 食事会が終了しみほは絹代と明日の合同演習のスケジュールを合わせた後、皆と共に物資運搬用の小型シャトルへ乗り彼女達知波単学園の隊員達とマシュマー達エンドラ学園の隊員達に見送られながらホワイトベースへ帰還した。帰還する際にマシュマーが別れを惜しんでか優花里へやたらと熱心に話題を交わそうとし、シャトルが発着した際も流石に少し困惑を隠せない優花里へ姿が見えなくなるまで延々と手を振り続けていたのだ。そんな彼の様子から沙織は不服そうに頬を膨らませながらみほへ耳打ちした

 

(むぅ〜、ねぇねぇみぽりん!ゆかりんばっかちょっとズルくない!?)

 

(え?ズルいってどういうこと?)

 

(だってマシュマーさんってば絶対ゆかりんにぞっこんじゃん!やっぱりパイロットの方が男子にモテるのかなぁ・・・)

 

(そ、そんなことないと思うけど・・・)

 

 マシュマーはみほ達にとって初めて出会った宇宙で実際に産まれ生活し続けてきたスペースノイドだった。彼から宇宙という今まで知り得ることのなかった世界の現実を聞いたことにより、一度彼の失望を買ってしまったことで自身の浅はかさを知ったことによりみほ達は自分達の間だけでなく宇宙の人々を想い繋がり合おうとする大切さを地球に住むより多くの人々へ伝えていきたい、二つの世界のために何か小さなことからでも立ち上がりたいと勇志を抱くことができたのであった

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

『アハハハハハ!アハハハハハハハハ!』

 

 映像はとある宙域にて、宇宙巡洋艦のブリッジに内蔵された光学カメラから録画されたものだった。映像を映すモニターには黒く染められた戦闘機の様な形をした謎の機体が2つ、巡洋艦付近に展開した2機の【RX-81FC ジーライン・フルカスタム】からの射撃を不規則な軌道を描きながら超速で機動し一発も掠めされることなく回避していた。そして謎の機体達からはパイロットの聴けば耳に残る程甘ったるく、まだ幼さが残る少年の嗤い声がけたたましく響き渡らされていた

 

『動きが見え見えなんだよねお姉ちゃん達!一回でも僕に当てることができたらお姉ちゃん達の勝ちなんだからもっとちゃんと狙ってよ!』

 

『いや・・・!お願いだから当たってよ・・・!どうして当たらないのよ!』

 

『ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・お願いだから許してください・・・』

 

『どうして謝るの?お姉ちゃん達がモビル道用のMSになんて乗ってるから僕がせっかくお姉ちゃん達に合わせたゲームを考えてあげたのにもしかして楽しくないの?・・・・・・だったら死んじゃえよ』

 

 パイロットの少年は口を尖らせ不機嫌そうに呟くと機体を横方向にローリングさせながら本体下部にマウントされたビームライフルを片方のジーラインフルカスタムへ照準。狙いをすますと少年は悪魔の様な笑みを浮かべながらトリガーを引くとライフルの銃口は発光し標的へ熱線を発射した

 

『あぁ・・・!パパ・・・ママ・・・・・・!』

 

 放たれたビームは機体の胴を捉えパイロットの女性隊員を、大気圏突入にも耐えうる程の特殊フレームで造られたコックピット共々撃ち貫き機体本体を爆散させた。そう、戦闘機に装備されたビームライフルはモビル道用のビーム兵器ではなく、軍用のMSが使用する実物のメガ粒子砲だったのだ。そして周辺には今撃破された機体の他にも既に撃ち抜かれた何機ものMSが無惨な残骸へと成り果てて宙を漂っていた・・・

 

『プっ!大学生のくせにパパとママだってさ!ダッサ〜い!』

 

『な、何なのよ・・・・・・何なのよこの子・・・!』

 

 襲撃されていたのは地球の女子モビル道大学選抜の一部隊だった。演習中突如として乱入してきた謎の戦闘機を駆るパイロットの少年から強制される形で彼の提案した遊戯(ゲーム)に巻き込まれ、巡洋艦内のクルー達も出撃したMS隊を艦砲射撃で援護しあの機体に一発でも射撃が命中することを祈った・・・・・・だがもう()()()()()()()MSはあと1機。この宙域の管理局に通報し応答に出たスペースノイドはいずれ救援が駆け付けると言っていた救援部隊などいつまで経っても来る気配がなく、皆ただ目の前で行われている惨劇に恐怖し怯え絶望し泣き出し身を震わせることしかできなかった

 

『あれれ?もうあと1機しか残ってないじゃん。こっちは全然本気出してないんだから頑張ってよねお姉ちゃん達〜』

 

『お願いします!このことは絶対に通報しませんし誰にも言いません・・・!だからもう見逃してください・・・・・・お願いだから・・・・・・!』

 

『ふーん、当てれば逃がしてあげるって言ったのにそんなに嫌なんだ・・・ならもういいや。そんなに止めて欲しいならもう終わりにしてあげるよ。残ったお姉ちゃん達には最後にいいモノ見せてあげるね』

 

 少年は並列飛行する2機の戦闘機を一度大きく散開させ、その後2機共旋回し対面しあう形で合流しようとしていた。その最中、2機の戦闘機は突如として姿形を変え初め少年の声が発せられてた方の戦闘機本体からは頭部とビームライフルとシールドを携えた両腕が顕現し上半身へと、もう片方の機体は下半身へと変形し2機はドッキング。そのシルエットはまさしく人型、1機のMSへと変形したのであった

 

『凄いでしょ?かっこいいでしょ?このバウは僕専用のモビルスーツ・・・新しく造ってもらった僕専用の玩具なんだ・・・』

 

『嘘・・・・・・そんな・・・・・・』

 

 緑のモノアイを鈍く発光させる漆黒のMS、そのMSは今まで一度たりとも目にしたことがない姿形をしていた。モビル道用でなければ地球連合軍に配備されている従来のMSでもなく表舞台に出てきたことのない完全なる新型、あるいはこれまでこの宇宙でなりを潜め続けてきた異星人を思わせた。するとMSは左腕のシールドの内側から先端部にかけて両刃の熱刃、ビームアックスを展開し此方へ見せつけるように掲げた

 

『遊んでくれてありがとうお姉ちゃん達。ちょっと物足りないけど楽しかったよ・・・・・・それじゃあバラバラにしてあげるよ!』

 

『いや・・・いやぁーーーー!!!』

 

 漆黒のMSはバーニアのスラスターを噴かし残った最後のジーラインフルカスタムへ急速接近しビームアックスで一閃、機体をコックピットごと真っ二つにし続けざまに映像の視点となっていた巡洋艦へ向けてゆっくりと接近した

 

『きゃあああああああ!!!』

 

『ふ、艦に穴が空いてる・・・!・・・・・・いやぁ!来ないでぇ!』

 

『いや・・・いやだいやだいやだ!死にたくないよぉ!』

 

『うはっ!死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえー!アーッハハハハハハハハハハ!』

 

 巡洋艦内の隊員達から発せられる叫び声と泣き声に少年は温情を見せる素振りなど一切見せず機嫌良く高嗤いを響かせながらいたぶる様に艦本体へ攻撃を開始、残虐非道極まりない。そして漆黒のMSがブリッジにビームアックスを振り下ろした瞬間、録画映像は途切れてしまった

 

 シュバルツ・ファング本部の司令室にて、大型モニターでこの映像を見ていたしほは昂る怒りに表情を鬼のように険しくさせ、司令室内の他の局員達はしほと同じく怒りを顕にする者もあれば、ある者はあまりにも凄惨な光景に映像から目を逸らし、無惨に殺された少女達に同情し涙する者もいた。だがモニター通信を介してしほ達と共に映像を見ていたニュータイプ研究所現所長にして現在モビル道を通して人類の進化を促すことを根底とする流派、島田流家元の座に着く島田衛は無表情のまま目立った反応を示すこともなく、今日自分に通信による対談を持ち掛けてきたしほの様子を見ていた

 

「・・・この映像は昨日其方の月防衛軍が演習地として私有する宙域にて残っていた艦の残骸から回収し解析された映像です。既存のモビルスーツ群に機種が登録されていないこんなMSを製造できるのは貴方々しかいない・・・これは月防衛軍の所属と見て間違いありませんね?」

 

 しほは今にも激発せんとする怒りを抑え冷静さを保ちつつ衛へ問い詰めた。宇宙へ上がっていた女子大学選抜の本隊から独断で何処かへ行ってしまった艦一隻がしばらく経っても本隊へ帰還せず行方不明になったかもしれないと通報を受け、しほは昨日調査のために出撃。月近くの宙域にて残骸と成り果てた例の艦を発見した際は何があったのかと息を呑み、残骸のブリッジ部から映像データを入手、シュバルツ・ファングへ帰投した後にデータを解析した所この映像が出てきたという訳だった。帰投中に同じ宙域にて娘のみほが襲撃されている所にも遭遇したため、この件と共にしほは今日こそ月議会の、陰から全てを操る島田衛の悪行を問い詰めはっきりさせるつもりでいた

 

『・・・勘違いをしてもらっては困りますね西住しほ様。我々の開発部が製造する製品にこの様な機体は存在しません』

 

「認めて下さらなくて結構。・・・この件は貴方々のこれまでの悪徳を含め地球圏代表議会に報告し地球圏全域に公表させます。そうなれば軍需技術を発展させてはならないという禁忌を破った貴方と月議会の現議員達は検挙され総辞職、研究所と代表議会の解体は免れません」

 

『僕とこうして話す度に貴女はいつもそう仰る。現に連合軍の人間が直々に僕達のもとへ出向いたことは一度もない。皆僕達が潔白であると承知しているようだ』

 

「・・・・・・今まではそうだったかもしれません・・・だがこの宇宙で何の罪もない生命が人の悪意によってこうして無惨にも奪われたのです!もうこれ以上代表議会にも・・・貴方々にも言い逃れをさせる訳にはいかない!」

 

 母が歪めた世界を正すため今まで戦い続けてきた。地球と宇宙、分かたれつつある世界に住む人々が本当の意味で手を繋ぎあうことのできる真の平和を実現するために。先代月議会議長ラステイル・ファフニールや連合軍准将にして地球圏代表議会議員の一人ブレックス・フォーラ、彼らをはじめ自分と志しを共にしてくれた何人もの同士達が悪意ある者達により謀殺されてきた。だからこそしほは宇宙へ移住した人々へ一切の関心や協調を示そうとしない地球圏代表議会の議員と地球連合軍の高官達、地球政府の実情をいいことに跳梁し続ける月代表議会や衛のニュータイプ研究所の存在だけは絶対にのさばらせたままではいられなかった。世界を変えなければならなかった・・・

 だがしほの言葉に衛は依然として無表情を崩すことなく憤怒に燃える彼女の出方を伺おうと見据え続けていた

 

『・・・西住しほ様。貴女はシュバルツ・ファングの指揮者でありながら何もお分かりになっていない、世の都合というものを洞察できていないようだ』

 

「・・・なんですって?」

 

『地球圏の人類が永劫に繁栄し続けるには世は再生という名の変革を成さなければならない・・・そのためには人類の未来を導く新たなる創造主が必要なのさ・・・・・・。その映像を提出するために貴女が議会へ赴くのは懸命ではありません。それでも思いとどまるつもりはないのですかな』

 

「無論です。この期に及んで何を言うかと思えばまたわからないことを・・・覚悟しなさい。いつまでも自分達が世界の中心に居座り続けられるとは思わないことね。新しい時代を創るのは私達老人であってはならないのよ」

 

『フフッ・・・これは警告だよ。貴女もそう簡単に世が自分の思い通りに動くと思わないことだ』

 

 しほを逆撫でるように衛は微笑し、彼女との通信を切断した。こうして衛と対談したのは初めてではない、彼は対談の度に此方の心情や出方を全て見透かしていたかのようにほくそ笑み、事実彼の思惑通り此方が提出し続けてきたニュータイプ研究所と現月代表議会の解体が可決されることはなかった。だが自分がこの映像を提出すれば地球圏代表議会も重い腰を上げるはず・・・しほは湧き上がる怒りを堪えオペレーター達をねぎらい司令室から渡り廊下へと出た。廊下には扉の前でオレンジのパイロットスーツを着込んだ二人の男が待機しており側近のようにしほの両脇を固め彼女の後へ続いた

 

「・・・あの映像に出てきた子供とモビルスーツ、やはりニタ研の連中が関わっていると見て間違いないようですな。本当に胸糞の悪い連中だ・・・」

 

「ええ。もうこれ以上彼らの好きにはさせない・・・来月の代表総会で決着をつけ必ず彼らを解体させるわ。ただ先程も言いましたがアロウズの中にみほを狙っている者達がいる・・・アロウズはモビル道のチームとはいえ連合軍の正規パイロットを遥かに凌ぐ実力を持つ者達。このシュバルツ・ファングにも仕掛けてくるかもしれないわ」

 

「懲りずにアロウズの連中がみほお嬢様を攫いに来るってんなら俺とリカルドで追っ払ってやりますよ。それに向こうにはガトーだっているんだ、俺達に任せてください」

 

「悪いわねアンディ、リカルド。・・・ただみほのもとへは私も行かせてもらいます」

 

 しほの言葉に後へ続いてたアンディ・ベイとリカルド・ヴェガは仰天した

 

「しほさんまで来ることはありません!貴女は司令としてこの本部で構えているべきだ!」

 

「貴方達のことは勿論信用してるわ。ただ・・・・・・ひどく胸騒ぎがするの。それにこれ以上ニュータイプだのという夢想でしかない存在のためにみほを振り回させたくないの」

 

「・・・そういう事ならば了解しました。我々は今からでも出発できますが機体はどうしますか?ブロッサムは現在調整中なので出せませんが・・・」

 

「私の分のドダイとディジェを準備するよう伝えておいて。スーツへ着替えたらすぐデッキへ向かうわ」

 

「ディジェで出られるのですか?教導用じゃなくて実戦用のモビルスーツで出るなんてほどでは・・・」

 

 しほが所有しているMSは普段モビル道の指導に使用するガンダム試作0号機ブロッサム、そしてシュバルツ・ファングの警護とあくまで武装勢力を検挙する目的で用意させた【MSK-008R リック・ディジェ】の2機だった

 

「相手はそれ程の手練よ。昨日はモビル道用の機体だけだったが次は映像の少年の様に実兵器を装備してくるかもしれない・・・貴方達はリック・ディアスのコックピットで待機しておくように」

 

「了解です。しかし相変わらずしほさんはみほお嬢様には甘いですな。まほお嬢様が嫉妬なさいますぞ?」

 

「茶化さないでリカルド。まほには私の後任として後を継ぐ使命がある。それはあの子自身も自覚している。・・・・・・もし私が倒れた時あの子が私の復讐を果たすことに燃えたなら世界を破滅に導いてしまうかもしれない。だからまほにとって私は良い母親でいる訳にはいかないの」

 

「倒れるだなんて不吉なこと言わないでください。貴女にはまだやるべきことがあるはずだ。娘さんもしほさんも俺達が体張ってでも守ってみせますよ」

 

「ありがとう二人共。ただ何度でも言わせてもらうけれど私のために命を落とすようなことだけはしないと絶対に約束しなさい」

 

 MSデッキへ向かう二人と別れしほはパイロットスーツへ着替えるためロッカールームへ向かった

 引っ込み思案で大勢を先導することを苦手とするみほと比べまほは臆することなく人々の先頭に立つことができる芯の強い心を持っており自分の後を継ぐ"四代目"になることへの才覚と自覚も持っていた。故にまほが自分の跡を継ぐ者になることに悪影響を及ぼさせないため彼女が持とうとする趣味へは徹底的に管理制限しモビル道に関してもはじめから西住流を志させることから何もかもしほ自らが決定し、幼少の頃から誰よりも厳しく接し指導し後継者になるために必要なことを叩き込み続けてきたのだ。それでもまほは一切の弱音を吐かず応えようと着いてきてくれたから愛おしかった。しかし唯一誤算だったのは中学時代にまほが友人を作ってしまったことだった。まさか単なる一般人の娘が、それこそ黒森峰女学園の生徒がまほへ寄り付こうとするなど思ってもみなかったが高等部へ上がる前に排除することに成功したのであった。一時は不安だったがその後彼女は誰にも進むべき道を惑わされることも妨げられることもなく成長し自分の後任、自分を凌駕する指導者になりうる程の実力を着実に備えてくれた。そんなまほの成長にしほは心から安心し彼女へより厳しく自分の思想を継承し自分の果たすべき役目に没頭することができた

 そして現在、昨年の全国大会で敗れてしまったことも誤算の一つであったが改めて跡を継ぐ者として相応しくさせるため部下に任せた修行も完璧にこなしてくれた。その頃自分は地球連合軍とνA-LAWS及び月防衛軍との小競り合いを止めるためまほを気にかけている暇はなかったが届けられた報告には安心させられた。みほはニュータイプなどと称され周囲から好奇の目を向けられることがあったため何かと気を配り陰から手を回し守ってあげる必要があったが、まほは外部から志しを揺るがされる様な心配など一切する必要がないほど誰よりも強く気高く、大衆から圧倒的羨望を受けるまでに成長してくれたためしほ自身も絶対的な信頼を彼女へ寄せるに至っていたのだ

 だからこそしほは自分が同士達の様に倒れた時まほの心を揺らがせたくはなかった。まほのことを愛しているからこそ彼女を褒めることや直接愛を示してあげることは一切せず、ただ信頼しいずれ彼女に全てを託そうとしていた。まほとみほを愛しているからこそ彼女達の未来のために自分達老人が創り上げてしまった隔たれた二つの世界を正しい世に変えるために己の身を捧げ戦い続けることを決意していたのだ

 

 

 だがしほは知る由もなかった。そんなことになり得るはずがないと考えることすらなかった。この時地球にいたまほは既にマリー・タイタニアの手中へ堕ちていたなどと・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ、そう・・・・・・ルナリアン達の方も面白い役者を揃えているようね・・・」

 

 地球、黒森峰女学園学園艦の学生寮にて・・・その晩まほの自室に泊めさせてもらっていたマリーは部屋の窓から夜空の向こうに広がる宇宙を見つめ何かの気配を感じたのか微笑みをたたえていた。窓から差し込む薄明るい月の光は寝巻きとして貸してあげた白のYシャツのみを着用していたマリーの全身を照らし妖艶な雰囲気が立ち込められていた。外した仮面を枕元へ起き床に就いていたまほは眠ろうとする気配を感じさせないどころか生気を発する彼女が不思議でならなかった

 

「・・・まだ眠らないのか?」

 

「あら、起きていたのね。もう少ししたら私も休むから気にしなくていいわ。・・・それとも貴女も眠れないのかしら?」

 

 眠れない、それは事実だった。絶望的に暗く闇に包まれた宇宙空間を一人孤独に何ヶ月も漂流していたあの時の事が時折悪夢として現れたから、親友も妹も居なくなった故自分の傍に居ようとしてくれる人物が居ないことに絶対的な孤独を感じながらも決してそれを表に出すことは許されず皆が世間が期待する西住流の西住まほを演じなければならず自分一人になった時にしか弱さをさらけ出すことができなかったから。アズラエルに保護され回復し地球へ帰ってきた後も毎晩うなされ孤独故の涙でベッドのシーツに沢山のシミを作っていた。だが今日という日の晩は涙を流すことはなかった、それは今日出会ったマリーがこれからは自分のために傍に居てくれると言ってくれたから。眠れずにいたのはこの先自分がどうするべきか分からず悶々としていたからであった

 

「一つ聞きたいことがある・・・」

 

「何かまだ悩みごとがあるようね。私に相談してくれないかしら?」

 

「・・・君は私に力を与えてくれると言った。みほと安斎を取り戻すために必要な力を・・・だが具体的には私はどうすれば今よりももっと強くなれるんだ?」

 

「ん〜そうねぇ〜・・・・・・まほ、貴女はとても大きな才能を持ち合わせておきながら今までお母様の示した通りに生きてきた。お母様の期待に応えるために彼女の言うことに従い続けてきた。こんな窮屈な学園に通っているのも母と世俗大衆が求める西住流の跡取り西住まほという役者を演じなければならなかったから。違うかしら?」

 

「私が役者だと・・・?」

 

「ええ、けど役者というよりは今の貴女は西住しほにとっての所謂操り人形かしら?母親の言うことに反することも疑いを持つこともない単なる操り人形に世の俗人達を思いのままに動かすことはできない。力を持つことはできないのよ」

 

「・・・確かに私はお母様から示された道をただ言われるがまま進んできたのかもしれない。だがそれは私がみほを守るため・・・大切なものを失わない力を手に入れるためだ。誰よりもパイロットとして強くなることができるからお母様の西住流に沿って従い続けてきたんだ・・・結局その西住流と共にあって敗れたのだからもはやどうすればいいか分からなくなったよ・・・」

 

 マリーの言っていることは正しかったのかもしれない。事実仮面を付ける前の自分は強くなるために世間一般が最強と認める西住流にただ沿って成長してきた、母の後継者になれる程強くなれればみほとアンチョビから見限られ見捨てられることは決してないと思っていた。力しか取り柄のない自分にはその方法しか思いつかなかったから・・・・・・するとマリーは窓の方から此方の方へ歩み寄ると頬へと手を伸ばし優しく撫で柔らかく微笑んできた

 

「誰よりも強くなる、そんなのとても簡単な話よ。貴女には才能があるのだから自らの意思が望むまま行動すればいい。そしてこの私と一緒に来てくれることさえ望めば必ず強くなれるわ。そのためには先ずお母様の教えとこの学園を捨てなければならないけど・・・」

 

「・・・黒森峰を出ることはできない。この学園に居ない限り私は全国大会に出場できない・・・全国大会の舞台に上がれなければできない相談だ・・・」

 

「それは違うわまほ。この黒森峰女学園に所属しているのは貴女のお母様や世俗が求めるシュバルツ・ファングの後継者とした象られた西住まほ。その仮面を付け今生まれ変わろうとしている貴女とは全くの別人よ」

 

「別人・・・・・・だからといって何が変わると言うんだ・・・?」

 

 黒森峰女学園に生徒として、母や皆が知る西住まほは今現在の私ではない・・・マリーがそう言っているのは伝わってきたがそんなものは私感でしかないはずだった。自分が転校先でモビル道を始めることを正当化できる手段などあるはずがないと思っていた・・・

 

「別人なら他の学園に転校して新しくモビル道を始めてもなんの問題もないはずでしょう?それにそもそも私のお爺様のジャミトフ閣下にお願いしてしまえば貴女が転校先でもモビル道を続けられるよう連盟に認めさせるなんて容易いことなの。最も貴女が私と同じ様にあの方に忠誠を誓う必要があるけれど」

 

「なっ・・・・・・連盟を脅迫するつもりなのか・・・!そんなことをしてまで私は・・・」

 

「強くなるということはそういうことよ。時には他者を蹴散らしてでも自身の望みを押し通さなければならない時がある・・・・・・ただ今私が言ったことを貴女は拒むことだってできるわ。全てはまほ、貴女次第なのよ?私と一緒にムルタの学園へ転校して新しいまほとして新たな力を手に入れるか・・・それとも私とは行かずこの学園で世の俗人達が求める西住まほを演じ続けるか・・・・・・」

 

 非常に決定し難い選択肢に思えた。自分が弱き故に去っていたみほや安斎を取り戻すための力を手に入れるためとはいえ自分の帰還を待っていたエリカ達皆を完全に裏切るなど・・・まして関係ない多くの人にも多大な迷惑をかけてまで自分が望む未来を掴もうとするなんて間違っているに決まっている・・・・・・・・・

 

 

 

 ・・・・・・否、彼女達だって()()()()()()ではないか。己の道を進み未来を掴むために自分を裏切って遠く離れて行ったではないか。そして何よりも彼女達と違いマリーはいつまでも私に寄り添い抱きしめてくれると言ってくれた。そんな彼女の言葉を信じ着いて行くことになんの誤りがあるというのか。ならば私も・・・・・・

 

「ふふっ、答えは決まったようね?」

 

「・・・・・・わかった。私も君と共に行かせてくれ。この学園も西住の籍も全てを捨て去ってでも君と共に行くことを選びたいんだ。これは全て私が独断で決めたこと・・・みほと安斎と同じく私も己の意思で私が望む未来を拓くために進ませてもらう・・・」

 

「ふふふ・・・・・・貴女はもう西住まほじゃない。今ここで西()()()()西住まほは死んだ。これからは新しいまほとして私と一緒に進みましょう?」

 

 マリーは満足気に微笑み手を頬から離し握手を求める様に差し出した。差し出された彼女の白く透き通った肌の手をまほは何の躊躇もなく彼女の手を固く握り返した

 

「こんな私で良ければよろしく頼む、マリー・・・」

 

 今自分を愛してくれるマリーへ尽くすため、みほとアンチョビを自分のもとへ取り戻せる力を手に入れるため・・・母の後継者として誰よりも西住流を培ってきた自分を捨てマリーと共に行くことをこうも簡単に選択してしまったのであった

 

「ありがとうまほ。共に世界をより良く導くために戦いましょう?・・・先ずは早速だけれど私と一緒にジュピトリスへ来て欲しいわ。出発は明日になるけど大丈夫かしら?」

 

「ああ、転校の手続きは後からでもできるから問題ない。私がBCへ転校するなんてアズラエル理事長には大層驚かれるだろうな・・・」

 

「それもそうね。ならムルタだけじゃなく皆も驚かせてあげましょ。生まれ変わった貴女を誰も無視できるはずがないのだから披露してあげなくちゃ・・・・・・なんだか私も眠くなってきちゃったわ。隣で寝てもいいかしら?」

 

「あ、ああ。窮屈かもしれないが許してくれ・・・」

 

「うふふ、ありがとう。やっぱり貴女は誰よりも可愛いわ、まほ・・・」

 

 マリーはまほのベッドへ上がると当たり前のようにまほを抱きしめてきた。まほは突然の抱擁に身体を強ばらせたが次第にマリーの温もりによって自然と安らぎ眠りへと落ちていった

 母の期待、隠された愛を感じることが出来なくなる程まほは今の自分と親身に接し寄り添おうとしてくれるマリーの完全な虜になってしまっていた。西住流も母の後継者になることなどもはやどうでもよい、彼女と共に行くことに自分の未来をも全て賭けようとしていた。だがしかしそれは忠義を尽くす相手が母からマリーへ変わっただけ・・・・・・それこそまほはマリーにとって正真正銘の操り人形へ成り果てようとしていたのだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 母の星で全国大会の試合に向けて絹代達知波単学園と共に着実に実力を備えていったみほ達。だがフォン・ブラウンからみほを狙い母の星へ向け特攻してきたフブキ達と激突することとなる。みほを守るため急行するしほ、そして同じニュータイプであるみほに興味を示したデシルはシュバルツ・ファングへ向けてサダラーンを出航させる・・・

 

次回 ガールズ&ガンダム『引かれ合う魂』

 

 みほを巡り三つ巴の戦いが幕を開ける

 

 




 読んでいただきありがとうございました

 しほさんの部下として今回登場したアンディとリカルドはガンダムCDAの設定になりますがアポリーとロベルトのエゥーゴ在籍前の名前になります(多分本名。CDAにアンディの性が出てこなかったからアンディ・ベイにしたのは許して・・・)。本作品の世界におけるブレックス准将は宇宙世紀と同様の実権者でありますが既に亡くなってしまったという設定です。ただブレックスにはアンチョビ外伝に登場している通り亡くなった彼の意志を継ごうとしている娘が居るということを覚えておいて欲しいです
 前回をはじめ何度か解説してきましたが本作品の世界におけるモビルスーツの存在、モビル道用MSと実戦用MSの差異の設定は次回以降より明るみにしていこうと思います。これより下記は僕個人の持論になります。本編にも関わってくる内容でありますので興味のある方はよろしくお願いいたします






 主な内容は言ってしまえば本作品のラスボス、西住まほさんに関してです。先ず僕の独自解釈の話になりますがガルパンの全国大会決勝戦にてみほがまほに勝利したのは必然だったのだと考えています。まほは国際強化選手に選ばれ高校戦車道最強の黒森峰女学園の隊長を務めている様にとにかく最高の選手であることが伺えます。そんなまほは自身の戦車道は母しほの戦車道そのものであると劇中で発していますがしかしそれは自分の意思で決定し見出した戦車道ではありません。まほ自身母の戦車道を受け継ぐことこそが、長女としてみほの代わりに自分が跡取りを務めようというのが彼女の意思によるものであったとしてもそれはあくまで自分以外の人間を主体に置いている、自分の意思で自分独自の道を切り開いていないのです
 そんなまほに対してみほは自分の意思で決定した自らの道を貫き続けました。故に母の敷いた道を進んでいたまほはみほに勝てるはずがない、敗けてしまって当然だったのです。シャアの名言にもある通り新しい時代を創るのは老人達ではない、若者達は誰かに操られること圧せられること流されることなく自分の意思で自分の未来を創らなければならない、それを理解している大人にならなければならないのです。みほが最終的にまほに勝利したことと同様にこれらのことはアムロやカミーユ、アナザー作品から挙げるならばヒイロやキラなどの主人公達が最終的に敗れることなく勝利できた所以であると感じています(対して歴代ガンダム作品の主人公達と違い自分の意思で未来を開こうとせずオルガの言う事を聞くだけだった三日月は最終的に殺されてしまいます。鉄血のオルフェンズ自体何を伝えようとして描かれていたのか分かりませんが)。上記のことあって僕はしほさんに定められた道に従うだけだったまほさんを敢えて弱々しく描くことに至りました。パイロットとしての実力は最上級でも自分自ら望んだ未来を切り開こうとすることができる程心が強いとは限らない、その心理はごく普通の女の子なのだから。そしてアンチョビ外伝にて自分の心のまま望む未来を掴むための使命に燃え貫き進み続けていたアンチョビをトレーズに操られていると言い放ったまほは皮肉にもマリー様につけ込まれ踊らされることとなります。これを言ってしまうとΖガンダムのファンとして非常にナンセンスですが人が皆ニュータイプと称されている彼らの様に己にとって正しいと思った行動を貫き世界の平和な未来を掴もうと立ち向かえるほど強く生きることは通常難しいことなのかもしれません。
 これらは僕個人のガルパンにおけるみほとまほ、そして宇宙世紀でニュータイプと呼ばれている者達への解釈なので本当に正しいかは別です。これだけは断言出来るのが両作品のキャラクター達から伝わってくるように自らが見出した道を曲げられることなく貫き続けることができる者が最強であるというのは必然なのでしょう。ただ注意しておいて欲しいのはそれらは現時点の本作品におけるアンチョビや西さんをはじめとする善良な心の持ち者だけでなく彼女達とアンチテーゼ的存在ともいえる己がエゴのためにしか動かない完全なる悪人達にも当てはまってくるということです


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20話 惹かれ合う魂(前)

 前回尺が足りず入れれなかった内容があるのですがそちらを書くよりも今は二章完結への進行を優先させていただきます。その内容というのも華さんとメカニックマンとして同行しているリュウセイの話と先の展開上かなり重要になるみほと杏の絡みであるので投稿の方はまた別の回として二章が終わるちょっと前くらいにしようと思います
 尚誠に申し訳ないことに尺の都合上今回も前編後編に分けることになりました。デシルは今回登場しませんが次回冒頭より彼の愉快な男友達と共に登場させる予定です(なんか毎回普通に書いてるだけなのにめちゃくちゃ長くなるので物語を書くのって本当に難しいのだなと痛感しまくりです)



 しほからまほへの愛。それは現在謀殺を謀られかねない立場に身を置く自分がもし討たれた時まほを迷わせないため、自分を超えるより完璧な指導者へ成長させるべく敢えて母として愛情を与えず感じさてやらずに彼女を育ててやることであった。だがしほの想いとは裏腹にまほが誰よりも強くなろうとしていたのは母の期待に沿うことができればまたいつか幼かった頃のように愛し抱きしめてもらえると愚直に信じていたから、妹と親友が孤独な自分の傍にいつも居てくれるのは自分に力があるからだと歪んだ思い込みを持っていたからであった。誰かから自分を愛してもらいたいという個人が持つ極々普遍な感情がまほを学生史上最強のパイロットと賞賛されるにまで至らせ未だ力への渇望を抑えさせなかったのだ

 しかし妹と親友に見捨てられた今、もはや母の示していた道には自分が求める強さや価値など無い。新たなる絶対的な力を手に入れ二人を取り戻さなければならない・・・・・・その手段に思い悩むまほへマリーは目を付けた。まほを自身の傀儡へ仕立て利用しようと企むマリーは甘く魅惑的な言葉でまほの弱みへつけ込み間もない時間で彼女に忠誠を誓わせた。常人とは遥かかけ離れた才を持つマリーにとってか弱き少女一人の意思を掌握し手駒にする事など造作もなく片手間で成した事に過ぎなかった・・・

 

 しほとまほ、親子としては到底正しいと言えないながらも互いを確かに想い繋がっていた。だが二人の絆は刻の歯車が産みし抗えぬ運命、人それぞれが辿りし道を平気で狂わせ悪戯に弄ぶマリーの介入によって引裂かれようとしていたのであった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ンだと・・・マザーが連合の監視から脱走して・・・その事を知ったトレノのバカがマザーを助けに地球に家を出ていっただと!?」

 

 愛里寿が庭の花壇へ水やりに向かった後、ソファに座るフブキが放った言葉にレビンは凄まじい剣幕と共に怒張していた。それはかつて愛里寿と共に地球へ連れて行かれ地球連合軍の監視下のもとモビルスーツ開発に協力させられていた島田千代が先日軍の監視下より脱走し潜伏先から月へ交信を送ってきたとの事だった

 千代からの通信に応じていた衛から伝えられたフブキはこの報を愛里寿に知られないため誰にも口外するつもりは無かったのだが帰宅後、居合わせていたトレノに何故かこの事を悟られてしまい千代に養子として育てられてきた彼は地球でまだ彼女が生きているということを知るや否や即座に助け出すべく地球へ向かおうと家を飛び出したのだ

 

「テメェ・・・なんであのバカを止めなかった!?アイツがンな事知っちまったらマザーを助けに行くに決まってんだろ!・・・まだ地球行きのシャトルは出てねぇから間に合うはずだ、今からあのバカとっ捕まえてくる!」

 

「待て。トレノには過去の記憶がない、奴の過去を知っているのは千代様しかいないというのはおまえも知っているはずだ。トレノが地球へ行くのは母親となってくれた千代様を救出するため、そして何よりも己の過去の記憶を取り戻すためなのだから我々が止める謂れなどあってはならない。わかってやれ」

 

 強化人間として造り上げるためニュータイプ研究所へ迎えられた子供達・・・・・・彼らにはより優秀な強化人間へ造り上げるため場合によって脳内から必要のない過去の記憶や情報の抹消、偽造された記憶の刷り込みや洗脳の施術が行われていたのであった。その末に過去の記憶の一切を奪われたトレノ、そして彼と同様にフブキも愛里寿救出のため地球滞在から宇宙へ戻った後衛によって新たな刷り込みと強化が成されたことで地球での記憶を上書きされ、必ず再会することを約束し合った大切な者の記憶までも今の彼女からは忘却させられてしまっていたのだ

 故にフブキは強化人間として自身と同じ、それ以上の境遇にあるトレノに少なからず同情していたため彼の独断による行動を止めることができなかったのだ。本来戦闘能力のある強化人間には闘争と敵を殲滅することしか考えられないよう徹底された洗脳が行われるのだが、親友や今や忘却の彼方へ消えてしまった何者かが与えてくれた暖かな感情がフブキに誰かを思いやらせていたのだ

 だがフブキの意向にレビンは変わらず反発し依然凄まじい剣幕のまま彼女へまくし立てた

 

「ざけんな!もしあのバカが連合の犬にでも捕まりでもしたら二度と帰って来れなくなんだぞ!ンな事になったら大隊長が・・・愛里寿がまた哀しむに決まってんだろ!」

 

「私は美香からおまえ達一人一人の事を託されている、お嬢様の望みだけを尊重している訳にはいかない。それにそもそも私と共にこれからシュバルツ・ファングへ行こうとしているおまえが言えたことなのか?しくじりでもして西住しほに捕えられたならおまえが今言ったように二度とお嬢様のもとへは帰れなくなるのだぞ?」

 

「・・・・・・クソッ!なんだってんだよ・・・アイツはまだ13なんだぞ・・・・・・なのになんで愛里寿ばっかこんな辛い目に合わなきゃいけねぇんだよ!テメーらまでアイツを追い詰めんのかよ!?」

 

「そういう意味ではない。お嬢様のことばかりではなくおまえももっと自分のことを大切にしろと言っているのだ。・・・時期に私も所長が議会に採択させた侵攻作戦の尖兵として地球へ行かされる事となる。私が傍から居なくなればいよいよ所長はお嬢様とおまえ達を私兵に仕立てるため連行しに来るか、あるいはこの先もはや邪魔者にしかならないお嬢様を処分しようと動くはず。いずれにせよ所長や連合へ対抗し得るには強力な戦力が必要なのだから西住みほというニュータイプを味方に付けなければならんということだ」

 

 フブキは立ち上がりレビンの胸ぐらを掴み彼の顔を引き寄せた。いつにも増してつり上がった彼の目からは西住しほと彼女の私兵が守護する要塞シュバルツ・ファングへ向かう覚悟、必ず愛里寿のためにみほを連れて帰るという強い意志が感じられた。フブキがシュバルツ・ファングへ向かいみほを連れ去ろうとするのは私達に愛の温もりを教えてくれた親友の妹愛里寿の幸福を守り続けるために・・・彼女を脅かす悪意ある者共へ対抗できる戦力が必要であるため何としてでもニュータイプを手に入れなければならなかったのだ・・・

 

 

 

 

 


 

 

 

 しほがみほを守るためシュバルツ・ファングの本島から出撃した頃、みほ達は絹代達と共に合同演習を行うため停泊していた中継衛星より出航しシュバルツ・ファングの領海宙域内における最外縁部に近い地点へ到着していた。この地点では宙域内のステージギミックとして投棄された巡洋艦やスペースコロニーの太陽光ミラーの断片が漂流されており、杏をはじめ現在それぞれの艦から出撃中の大洗女子学園と知波単学園のパイロット達の提案と希望あってそれらを生かしたアンブッシュ戦等より実際の試合に近い戦闘演習を行っていたのであった

 

「西住さん!射撃の瞬間ライフルの銃口がブレていますぞ!自動照準へ頼りきりの射撃に当たる者などそれこそ西絹代達位しかいないのだからマニュアルで当てれなければ意味が無い・・・もっと落ち着いて相手をよく狙うのです!それと西絹代!貴様は私の言う通り今日は回避運動の習熟に集中しろと言っただろう!所々で突撃しようと機会を伺うんじゃない!」

 

「は、はい!もう一度お願いしますマシュマーさん!西さん!」

 

「ううう・・・突撃したい・・・うぐぐぐぐ・・・」

 

 みほはこの日リュウセイとシュバルツ・ファングの整備士達によって損傷箇所の修理、そして元来より壊滅していた射撃プログラムの完全修復が成され本来の姿へ復活したプロトタイプガンダムと共に演習用の光線を放つよう設定したビームライフルを携え、マシュマーの指導のもと自身の射撃技術を向上させるため射撃訓練に励み、同時に絹代はマリーネライターを駆り何時もの様に吶喊しようとする衝動を何とか堪えながらみほからの射撃の回避に専念していたのであった

 そしてみほ達が繰り広げる演習の様子を遠方に待機していたホワイトベースにてごく一般的なノーマルスーツを着用した杏とロックオン、私注の薄紫のパイロットスーツを装備したガトーの三人は右舷甲板上へ登り観戦していた

 

「西住のヤツ随分張り切ってるみたいだな。ようやく皆と一緒に自分達のモビルスーツでまともな訓練ができてるんだから当然と言えば当然か」

 

「うん。そうみたいだね・・・・・・」

 

「ん・・・?」

 

 しかし感心する自分とは対照的に杏はどこか浮かない表情でみほのガンダムの光を追っていた。ふと思い返せば彼女とみほが同じ部屋割りだったことを思い出しロックオンは何か二人の間にトラブルでもあったのかと不安なものを感じた

 

「なぁ角谷。やけに意味深な顔してどうかしたのかよ?昨日の夜西住と何かあったのか?」

 

「え・・・・・・そ、そんな事ないって!いやだなぁニールちゃんは〜!それよりも一昨日初めて宇宙に出た時とは見違えるくらい皆上手に動けるようになったねぇ。これもニールちゃんとガトーちゃんが皆にわかりやすく教えてくれたおかげかな?」

 

 杏は少し焦った様子でみほ達とは少し離れた宙域にて機動訓練を行う他のメンバーのMS達へ半ば強引に話題を逸らすよう仕向けた。この距離ではMS達の挙動までを目視することはできなかったが、杏の言う通りそれぞれの機体が閃かせるスラスター光は戸惑いもなくかつ俊敏に様々な残光を描いており彼女達が確かに宇宙空間を高速機動している事が観て取れた

 

「誰がガトーちゃんだ。・・・私は彼女達へは新米パイロット向けの訓練メニューと宇宙でモビルスーツを操縦する上で初歩的となる知識しか教えていない。だがしかし現在彼女達一人一人がこの宇宙空間において機動戦闘が行えるほどモビルスーツを操縦してみせている・・・まだ挙動に粗は見えるが通常あの域にまで達するまでには一月近くは費やさねばならんと言われているにも関わらずにだ」

 

「へぇ〜。初心者でもすぐに覚えちゃうもんだと思ってたけど結構意外なことなんだ」

 

「・・・昨日一日中みっちり教えこんでやったとはいえ確かに言われてみればかなりまともに動けるようになってるよな。けど単純にアイツらが強くなろうとするやる気がそれ程あるってだけじゃないのかよ?」

 

「すなわちそれはみほさんと同じく彼女達もまたニュータイプである・・・ということではないのでしょうか?」

 

 バイザー越し故に少し曇らされながらも透き通った美声が背後より聞こえ振り向くとそこには自前の白と蒼を基調としたパイロットスーツを身に纏い背部のバーニアを使って甲板上へ上がってきていたマクギリス・ファリドの姿があった。彼もまた昨日より臨時の教官として皆へ指導を行っていた

 

「皆がニュータイプ・・・?何言ってんのファリドちゃん・・・?」

 

「あくまで可能性の話です。ここまで早く宇宙という環境に順応できる人間などそうそう居たものではない。みほさんのみがニュータイプであるという確証も無ければ他の皆さんが素質を持っていても何らおかしくないはずだ」

 

「ニュータイプねぇ・・・俺は聞く度にイマイチピンと来ねぇんだけどおまえは信じてるのかよ?」

 

「ストラトス教官、角谷君。これ以上その男の話に耳を貸す必要はない」

 

 平静な声とは裏腹に敵意を剥き出しにしてマクギリスを睨むガトーに杏とロックオンは驚かされた

 

「私には随分と手厳しいのですね。ガトー教官殿」

 

「黙れ。何がニュータイプだ・・・あんな物は己こそが優等な種であると驕り高ぶる夢想家達がそれらしい理論と共にでっち上げた妄想物に過ぎん。ましてみほが超能力者だのという根も葉もない偽りを口にするじゃない、耳障りだ」

 

「ガトー教官はニュータイプを信じてはおられないと・・・・・・確かに進化した人類ニュータイプの存在を世へ提示した男は実歴のある学者でなければ詳細な身元属籍が不詳である人物。そして存在の確固たる立証も未だ成されておらず、ましてやニュータイプの名称は大昔のSF作品に登場していた同じく覚醒した人類を指す者の名から引用し命名しているときた。到底現実味を帯びているとは考えられるはずがない・・・だが我々の世界にも確かにニュータイプは存在している、私はそう確信しています」

 

「ふん・・・貴様も焚き付けられた者の一人ということか。何の信念も持たずにいればあの男の様な邪な者の言葉に踊らされて当然なのだろうな」

 

 しほと同じく元よりニュータイプの存在など端から信じていないガトーはマクギリスの言葉へ関心を示そうともせずその全てを一蹴した。だが当のマクギリスは確信に満ちた態度を一切崩さず、まるで自分は本物のニュータイプの存在を目の当たりにしてきていると言わんばかりに自信げな微笑をたたえていた。両者の間には決して互いに相容れようとしない険悪で張り詰めた空気が流れるも二人のやり取りに置き去りにされていた杏に破られた

 

「ちょ、ちょっとガトーちゃんにファリドちゃん!どうしちゃったのさ急に!喧嘩なんて止めてよね!」

 

「・・・これは失礼しました。少し横柄が過ぎたようです」

 

「おいガトーさんよ。あんた昨日からファリドにだけ対してそんな調子だけど一体どうしてなんだよ?いい加減教えてくれたっていいじゃねぇか」

 

 杏とロックオンは確かにマクギリスの話には首を傾げるしかできなかったがそれでも彼を不審がるまでには至らなかった。みほによれば彼とは聖グロリアーナ女学院との練習試合以来の顔見知りらしく、経歴自体も特に不審な点は無く現在も日本における有名私立大学の一つであるヴァルキュリア大学の一生徒にしてモビル道部隊の隊長であるとのこと。そして何より彼は襲撃されていた自分達を助けに駆け付けてくれたため、だからこそ何故ガトーが彼を敵視し警戒しているのかが気がかりでならなかったのだ

 

「君達には関係ないことだ・・・彼女達がものを呑み込むまでの時間が通常よりも早い様だがその実力はまだ他の学園のパイロット達からすればまだ序の口の段階。確かにパイロットとしては稀有な人材ではあるが天才と称するには至らない。狐の様なこの男の言葉に惑わされず気を緩めないことだ」

 

「フッ・・・私が狐ですか。しかしガトー教官も実際に対面すればお分かりになるでしょう。ニュータイプの存在が真実か偽りかを・・・・・・」

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 その時あまりにも突如として、強く明瞭な感覚が稲妻の如く頭の中へ襲来した

 

(・・・・・・っ!?な、なんだ・・・?)

 

 なんの前触れもなく突然不思議な感覚が頭の中に閃き電流の様に奔り抜けた。あまりにも突如襲来したその衝撃に操縦桿を握る手は操作を止めスラスターペダルに載せていた足も自然に離れた。激しく操縦していたMSを急停止させ頭部のメインカメラを回転させ謎の気配の出処を探すように周辺を見回した

 

(なんだろうこの感じ・・・・・・誰かの声が聴こえたような・・・・・・?)

 

「む、いきなりどうしたのだ?まだ演習は終わっていないぞ」

 

 回避行動の訓練に付き添ってくれていた男の不思議がる声が聴こえたが彼に耳を傾ける暇は無かった。誰かが自分を呼んでいる・・・この宇宙の何処かにいる誰かが・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「西さん?どうかしたの?」

 

「・・・・・・・・・あっちからだ!」

 

 絹代は足元のペダルをいっぱいに踏み込み各部スラスターの出力を全開にさせ現在の場から自分を呼ぶ何者かが待つ方角へ躊躇することなく一直線に向かった

 

「何!?どこへ行く西絹代!演習中に勝手な行動は許さーん!」

 

「え・・・?ま、待って西さん!そっちはこの宇宙の外だから行っちゃ駄目!戻ってきて!」

 

 だがみほとマシュマーの制止に絹代は答えることなくマリーネライターの速力を上げ離れていきシュバルツ・ファングの演習宙域外へ出ようとしていた。絹代を止めるためやむを得なく二人も演習を止めその場から飛び立ち彼女の後を追った

 

「あれは西隊長?一体どちらへ行くのでしょうか・・・」

 

 また別の地点でザクIに搭乗し演習に出ていた隊員の福田は何故か演習中の地点からどんどん距離が離れていく絹代とみほ、マシュマーの3機を目撃し不穏に思った

 

「ん?どうしたの福ちゃん?」 

 

「ボール殿!西隊長と薔薇の騎士殿と・・・其方の西住隊長殿がこの宙域より離脱しようとしているのです!」

 

「なんだって・・・・・・こちら磯辺機!武部さん応答お願いします!西住隊長達が・・・!」

 

 福田と同様に典子も異変を感じすぐ様乗機のボールからホワイトベースの沙織へ緊急の通信を送った。その間もみほ達の機体は更に遠ざかり続けスラスター光も次第に小さくなっていた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「何!?みほ達が隊列を離れ単独行動を取り始めただと!?彼女から応答はあったのか!」

 

『みぽりんはマシュマーさんと一緒に突然何処かへ向かい始めた西さんを追ってこの宙域の外へ向かっているみたいです!みぽりんには今も通信を送っているのに回線に異常が出てるみたいで全然繋がらなくて・・・・・』

 

「なんだと・・・!通信が繋がらないだと・・・・・・クッ!不覚を取った!」

 

「な、何?何かあったのガトーちゃん・・・?」

 

 沙織からの報告にガトーは緊張し顔をしかめ杏とロックオンも彼の反応から何か異常が発生している事を察した

 

「現在みほが知波単学園の生徒を追って現宙域より離脱しシュバルツ・ファングの外へ向かっている・・・。外縁部へ行くこと許可したことがまさかこんな事になろうとは・・・・・・私の失態だ!」

 

「つ、通信が繋がらないってどういうことだよ・・・?今なんて試合用のミノ粒なんて撒いちゃいないし武部はレーザー通信の使い方だってもう覚えてんだぜ?」

 

「・・・シュバルツ・ファングの最外縁部の宙域には民間や軍隊が()()()()()不法投棄していったデブリが今も処理し切れず大量に残留している。それらがレーザーを妨げているのに加え彼女達の進行先からミノフスキー粒子を散布している者がいたとすれば・・・・・・」

 

「おいおいなんだよそれ・・・・・・ってことはまさかまたアロウズの連中が来たってのかよ・・・」

 

「まだ侵入者が来たと決まった訳ではない。いずれにせよ私がみほ達を今すぐ連れ戻しに行くまでだ!武部君!直ちに近隣の中継基地へこの事を通報してくれ!」

 

『もう通報済んでます!今からみぽりん達が向かった方へモビルスーツ隊を応援に出動させて訓練中の他の団体さん達にも緊急避難警報を出すみたいです!』

 

「・・・本当か!?よくぞ迅速に対応してくれた武部君!後は我々に任せてくれ!アストナージ、私のドライセンは出せるな!?」

 

 ガトーはMSデッキ内のシュバルツ・ファング直属のメカニックマンチームへ通信を回しながら甲板上より降下しデッキ内へ入った

 

「大丈夫だ!リュウセイと自動車部の皆が手伝ってくれたからドライセンとドダイの補給も済んでるからいつでも出せる!」

 

「何だと・・・!?学生に実戦用のモビルスーツを弄らせたというのか!」

 

 デッキ内へ降り立ったガトーはシュバルツ・ファング所属のメカニックマンチームのリーダー、アストナージ・メドッソの胸倉を掴みあげ彼へ怒声を上げ傍にて備品の整理中だったリュウセイとナカジマ達自動車部の面々は突然のガトーの怒鳴り声に驚き身体を縮み上がらせた。ガトーの【AMX-009 ドライセン】はシュバルツ・ファングの開発部より生産された実兵器搭載のMS、モビル道用のMSとは違いといえば実物の装備する実弾火器がモビル道で使用する火器と違い火力を最低まで低くしていないこと、外装にモビル道にて使用されるビーム兵器に対応した特殊センサーが内蔵されていないため教導用の光線を受けても一切影響が出ないないことが挙げられる

 そして以前大洗へ出向した時とは違いシュバルツ・ファングの警護を目的とした実戦用兵器を装備するガトーのドライセンを点検整備するために下手な素人を起用することなど許されるものではなかったのだ

 

「この子達がやりたいと言ったから手伝わせてやっただけだ!それにあくまで装甲のチェックと工具の受け渡しをして頼んだだけで危ない所は一切触らせちゃいない!」

 

「アストナージ貴様・・・今は言い合いをしている場合ではないが帰ってきたら修正してやる!覚えておけ!」

 

 ガトーはアストナージの身を乱暴に投げ捨てドライセンの胸部へと跳躍した。そのまま開かれたコックピットハッチの中へ入ろうとしたがマクギリスが自機のペイルライダーへ近づいて行くのが見えたためガトーはハッチを掴み身体を固定し彼へ喚起を上げた

 

「待て!貴様の出撃は許さん!此処へ残っていろ!」

 

「何故です?非常事態なのでしょう?私もこの機体を修理して貰った恩を返したいと思っているのですが・・・」

 

「そうだよガトーちゃん!一昨日西住ちゃんを攫おうとしてた子達がまた来てるかもしれないっていうのにそんな余裕なこと言ってられないよ!」

 

 彼の後に続きロックオンと共にデッキ内へ降り立った杏はガトーを見上げながら彼の判断を非難した

 

「・・・貴様が信用に足らん以上みほへ近付けさせる訳にはいかんのだ。武部君の通報で既に中継衛星からも援軍が出撃したはず・・・貴様の手など借りるまでもない!我々でみほ達を連れ戻す!」

 

 ガトーはマクギリスへそう吐き捨てドライセンの中へ入り機体の動力に熱を入れた。杏はこの期に及んでもマクギリスの行動頑なに制するガトーの真意が理解出来ず少し反感を抱いたが、当のマクギリスは大して気に病む様子もみせずあっさりと引き下がった

 

「了解しました。ここは貴方の指示に従いましょう。ただせめて演習中の生徒皆さんの安全確保だけでもやらせて欲しいです」

 

「・・・勝手にするがいい!全員進路を空けろ!アナベル・ガトー、ドライセン出るぞ!」

 

 デッキ内の者達がドライセンの進路上より退避させた後ガトーは搬入口まで歩み出てデッキ内から宇宙空間へと跳躍、中央デッキより出撃された無人のドダイと合流しサブフライトシステムの接続の完了後、バーニアの出力を最大戦速にしみほ達の居る方角へ向かって行った

 

「また西住が狙われてるってか・・・そう奴らの好きにさせてたまるかよ!何か出せるモビルスーツはないのか!?」

 

「・・・落ち着いてニールちゃん。西住ちゃんはガトーちゃん達に任せて私達は外に出てる皆を呼び戻して安全に避難させるのが先だよ。ファリドちゃんも手伝ってくれるよね?」

 

「勿論。しかしまさか一度のみならず二度までも現れるとは・・・まして不落の砦と謳われるこのシュバルツ・ファングからみほさんを奪えると踏んでいるとは余程の自信があるようだな。ルナリアンめ・・・」

 

 遠のいて行くガトーのドライセンを見据え僅かに口角をつり上げ微笑を浮かべるマクギリスに杏は少し怪しさを感じた。思えば彼は練習試合後に知り合ったとはいえ今後再会するのかなど知り得ないはずのみほへ再び接触するために自ら出向いて来たこととなる。しほからの忠告と先程のガトーの対し方から鑑みればまさか彼もまたニュータイプとしてのみほを狙う者の一人ではないのだろうか・・・・・

 彼への疑念が一瞬頭を過ぎったがしかし、彼はみほを護るために盾となり戦ってくれたのだ。そして初心者である自分達に無償でモビル道を教えてくれると共に力の無い自分達の代わりにみほを護衛しようと言ってくれたのだから信用に足る人物であって欲しいと杏思いたかった

 

「あ、あのさファリドちゃん。ファリドちゃんがあの時来てくれたのは本当に偶然というか教えてくれた通り西住ちゃん達を驚かせるためだったんだよね?さっきやけにニュータイプの話で熱くなってたけどファリドちゃんのこと信じてもいいんだよね・・・?」

 

「・・・・・・ええ。私はただ友人のみほさんを外敵からお守りしたいと思い君達と同行することを望んだまで。そこに嘘偽りは無ければみほさんがニュータイプであるということも関係ありません。それでも私が信じられないかな?生徒会長・・・?」

 

「い、いや・・・そりゃファリドちゃんの事は信じてあげたいけどね。たださっきはちょっと普通じゃなかったなって気がしてさ・・・」

 

「フフフ・・・私にとってニュータイプは言わば憧れの様な存在。先程は貴女の言う通りガトー教官に否定されたため少々熱くなっていたのかもしれません・・・・・・では、私も行かせていただきます。隊長のみほさんと西絹代さんが突然居なくなったことでおそらく皆さん混乱しているかもしれませんので」

 

 マクギリスは依然として涼し気な様子のまま告げると地を軽く蹴りペイルライダーのコックピットハッチへと上がって言った。そもそも現時点で杏達には知る由もなかったのだ、何者かの意思でマクギリスがあの場へ参じみほを護ろうとしていたなどと・・・

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 宇宙という人々が生命を紡ぎ繁栄するもう一つの世界は地球から搾取を受け続け過酷な生活を強いられていた。しほはその現状を打破するため西住流のスポンサーや同志達の支えのもとシュバルツ・ファングを組織し活動を行った。モビル道を通し宇宙市民達と共に在ることの大切さを伝播していくと同時に自ら地球政府と対立し地球に住む人々の意思を変えようと立ち上がったのだ

 未だ地球圏代表議会の議員達をはじめ地球における強権者達の関心を宇宙へ向けさせることはままならずにいたが彼女の活躍で搾取政策の方は年々に縮小されて行った。それは宇宙に住む市民達にとってしほの活躍は崇高且つ有難い施しであり誰もが彼女を英雄として賞賛し感謝していた・・・・・・だが全ての宇宙市民達がしほの活動を良しとしている訳ではなかった

 

 数刻程前、艦船の亡骸や小隕石など大量のデブリが漂流する宙域の中から3隻の大型輸送船がシュバルツ・ファングの領海内へ入ろうとしていた。その内の先頭を進む1隻はシュバルツ・ファングの司令部からの通信に応答していた

 

『確認完了しました。本日はようこそお越しくださいました。物資の受取は第6中継区域にて行います』

 

「はい、かしこまりました」

 

『・・・随分と難しい航路を渡って来たのですね。現在其方の宙域を哨戒中の部隊を向かわせますので彼女達の誘導にしたがって進行してください』

 

「はいはい、どうかお構いなく・・・・・・と、これでシュバルツ・ファングの中へ堂々と入れますぜ?フブキさん?」

 

 船の操縦士は司令部からの通信を切り背後で腕を組み静かに佇むフブキを見やった

 フブキ達が同乗していた輸送船隊はこの日シュバルツ・ファングへ月の近隣小惑星から資源物資を届けようとしていた資源流通公社の企業貨物船、だが事前にフブキからの言伝を預かっていた彼女の旧友達により本来の操縦員であった派遣社員達から船を物資輸送の任務と共に買収し小惑星より出航、その後フブキ達と彼女達のモビルスーツを拾い上げシュバルツ・ファングの中へ送り届けようとしていたのであった

 

「ああ、でかしたぞ。やはり持つべきものは悪友といったところだな」

 

「悪友だなんて嫌だなぁ。ま、フブキさんとは宇宙海賊やってたガキンチョの頃からの仲なんだ。こんくらいのことなら協力しますよ」

 

「しかし手助けできるのはここまでだ。俺達はこのままこの船が本来果たすべき任務を果たして帰らしてもらう。貴女方をこの宙域まで送りモビルスーツも用意させて貰いましたが例のニュータイプを捕まえて帰還しようってのは自力でお願いしやす」

 

「わかっている。急な頼みの上にこんな事に付き合わせて悪かった。礼を言う」

 

 フブキは旧友達へ余裕そうな笑みを送りドアのロックを解錠し操舵室から退室、渡り廊下へ出て大量の物資コンテナが貯蔵されている収容デッキへ向かった

 フブキが収容デッキへ入ると中では激しくもリズムの調和が取れた楽曲が響いており、下層には既にνA-LAWSのユニフォームでもあるダークグリーンのパイロットスーツ一式を装備し待機していたメグミ、ルミ、アズミの三人の姿があった

 

「待たせたなおまえ達。準備はいいか?」

 

「ええ。トリモチランチャーガンの準備もバッチリよ」

 

「これで私達も実戦用のモビルスーツと何とか戦えるって訳だ。燃えてくるね」

 

 デッキ内に数多く積まれたコンテナに隠されるように壁際へ佇む3機の高機動型ゲルググに目をやりながらメグミとルミは答えた。各機のマニュピレーターにはいずれも【トリモチ】を発射するカートリッジ式のピストルランチャー、トリモチランチャーガンが装備されていた

 トリモチはコロニーや月面都市の外壁が損壊した時応急処置として緊急修繕させることができる粘着性の充填材。シュバルツ・ファングをはじめそれら施設に穴が開けばが何が引き起こされるのかを()()()()()()組織のMSにはマニュピレーターに内蔵される形で装備され使用されていた。そしてモビル道用のMSも装備出来るようにとメグミ達の高機動型ゲルググが標準装備するロケットランチャーを基の形状に開発されたのがトリモチランチャーガンだった

 

「・・・まさかおまえ達三人まで着いて来ると言い出すとはな。咎めはせんが今回の相手はおまえ達が普段相手にしている者達ではなく実戦のプロフェッショナルだ。それ相応のリスクが伴うこととなるのは覚悟しているのだろうな?」

 

「その言葉そのまま貴女に返させてもらうわ。私達が着いて来たのは大隊長から貴女とレビンが捕まらないように守ってあげて欲しいと頼まれたからなのよ?いくら優れた強化人間でもあのシュバルツ・ファングから人一人を連れ去るだなんて不可能に決まってる・・・それなのに貴女達ってば勝手に行こうとするんだから少しは取り残された私達が不安になることくらい考えてよね」

 

 アズミは少し怒りを顕にさせながら冷ややかな口調でフブキへ諭した

 

「だけどまぁ私達も美香の事関係なく西住みほさんがどうしても必要だっていうのは分かってるから今更止める気なんてないし協力するつもりだよ。けど仕切り直すにしてももうちょっと後でもよかったんじゃないの?例えばみほさん達が地球へ帰ろうと出て行った時とかさ・・・」

 

「・・・・・・すまんなルミ。お嬢様へはまだ伝えていないが近い内に私はお嬢様の傍を離れなければならなくなる。お嬢様の召使いという役目を失い所長に手網を握られた強化人間として闘わされるためにな。故に今シュバルツ・ファングへ滞在している西住みほを奪うことが私にとってお嬢様と美香へ恩を返せる最後の機会ということだ・・・」

 

「フブキ・・・・・・・・わかったわ。だけど貴女をつまらない殺し合いになんて絶対連れて行かせないんだから。そうね・・・トレノも地球へ向かったしこれが終わった後ナオも助け出して皆一緒に地球の何処かへ逃げましょう?確かに地球に住んでいるのは心が冷たい人達ばかりだけどさ・・・きっと静かで平和な毎日を過ごせる居場所が私達にだって必ずあるはずよ?」

 

 メグミは明るい笑顔で前向きになれる言葉を発した。彼女は昔から一番のリーダーシップを持っておりいつも皆が前向きになれるポジティブな言葉を送ってくれた。今この時も彼女のおかげで渦巻いていた暗い空気も一蹴されルミ、アズミ、フブキの三人もメグミと同様に笑顔を零した

 

「そうだな・・・断言はできぬが私もできる限り所長に抗うとしよう」

 

「そうこなくっちゃ!それじゃ出撃前の円陣やるよ!」

 

「あ、コラ!そこでさっきから音楽聴くフリして盗み聞きしてるツンツン頭!いつまでも一人で黄昏れてないでこっち来い!」

 

 ルミが後ろ手のコンテナへ向かって声を掛けると先程まで響いていた音楽が止みその陰から同様のパイロットスーツを着用していたレビンが呼ばれるがまま渋々と姿を見せた

 

「・・・ンだよ。気づいてたのかよ・・・」

 

「お姉様方を差し置いてヘッドホンもしないで音楽聴くなんて貴方も相変わらずね。それに貴方が好きなそのジャズっていうのも私には聴いててよく分からないわ・・・」

 

「アズミはジャズ苦手なんだ。私はそんな嫌いでもないかな〜」

 

「はっはっはっ。アズミおば様とは違いルミお姉様はジャズの魅力がわかる良いセンスをお持ちのようで。私弟分として光栄であります」

 

「・・・貴方たかが2つ下のくせに私の事おばさんだなんていい度胸じゃない。帰ったら思い切りボコボコにしてやるんだから覚悟しておきなさいよ?」

 

「はいはい喧嘩は終わり!二人も恥ずかしがってないで早く輪になるよ!」

 

 メグミに急かされ五人は輪を描くように寄り合い円陣を創り輪の中心へ各々手を重ね合った

 

「おい・・・本当にこんな青臭いことをやる必要があるのか?」

 

「いいじゃない気合い入るんだし!サンダースにいた頃なんて皆で必ず試合前にはやってたし大隊長だって気に入ってるんだからフブキも好きにならなきゃ!」

 

「はぁ、全く・・・・・・各々覚悟はいいな?これより我等が向かうは西住しほと奴の私兵達にとっての本拠点。何より西住しほは我々が目的とする西住みほの実の母親、娘を狙う者等容赦なく殲滅しにかかってくるはずだ。だから今ここで約束しよう、必ず私が西住みほを捕えおまえ達をお嬢様のもとへ帰還させてやると・・・」

 

「貴女も一緒じゃなきゃ駄目でしょフブキ。それに貴女ってばいつの間に私達よりも強くなったのかしら?」

 

「そーそー。守ってやろうだなんて上から目線なセリフ、ちゃんとタイマンで白黒はっきりさせてから言えよなー」

 

「フッ・・・そうだな。そういえばおまえ達とはロクにやり合った事が無かったな・・・」

 

 他の皆を守りきれるかフブキは気がかりだったがアズミとルミの言葉により一切の不安が取り払われた。ニュータイプでもなければ強化人間でもない彼女達三人、だがそのパイロットとしてのセンスはフブキにも引けを取らない程であり確かな実力を持ち合わせていた

 

「さーて、皆準備はオッケーね?西住みほを捕まえて皆一緒に脱出できたら私達の勝ち!絶対に成功させて大隊長・・・愛里寿と美香のもとへ帰ってやろうじゃない!」

 

「よっしゃ!」

 

「ええ」

 

「ああ」

 

「・・・オウ」

 

「それじゃあ行くわよ!‪チームスリーMアンドスパルタン!レディー・・・・・・GOーーーーーーーー!」

 

「「「おおおおーーー!!!」」」

 

 声高々とはつらつな掛け声と共にに拳を上げるメグミにルミ、アズミ、フブキも同様に続いた。レビンは羞恥心からか掛け声は出さなかったが渋々合わせるように拳だけ突き上げていた

 

「ちょっとレビン!あんたも声出しなさいよ!」

 

「う、うっせー!ンなガキくせー真似できっかよ!」

 

「ところでレビン。私が使うモビルスーツは一体どれだ?」

 

「ああ、オメーのは確か俺のガンダムの傍に置いてあったヤツだ」

 

 そう言ったレビンはメグミ達の高機動型ゲルググとは反対側の方へ行き後に続いていくと、そこにはバックパックを外した状態で連れて来たレビンのフルアーマーガンダムの隣で静かに佇む1機の細くスリムなジム、【RGM-79V ジム・ナイトシーカー】の姿があった

 

「ナイトシーカーか・・・やはり奴らではモビル道用のモビルスーツしか手配できなかったか・・・」

 

「宇宙海賊に実戦用のモビルスーツが用意できる訳ねぇだろ。つかおまえスーツはどうしたんだよ?まさか未だに着ねーで毎度乗ってたのか・・・?」

 

「当たり前だ。あんな品あっても無くても弾に当たりさえしなければ必要ないだろう。武装はサーベルにダガーにジャベリンか・・・奴らめ、私の趣向を分かっているようだな」

 

 フブキは満足そうに笑みを浮かべながら旧友達が用意してくれたナイトシーカーを見上げ、コックピットハッチへ跳躍した。中へ入り動力に火を入れ機体を起動させ他の四人も同様に機体を起動させた事を目視し各自へ通信チャンネルを開いた

 

「私が先行する、おまえ達は後に続け。デブリが無数に漂っているこの中を最短且つ最速で西住みほのもとまで向かう・・・遅れるなよ」

 

「そういえば一つ気になってたんだけど貴女西住みほがこの広い宙域の何処に居るのか知ってるの?」

 

「・・・先日から何者かが私を強く求め呼んでいるかのような気配を感じ取ってていた。そして現在も奴の方からの私に対し強い意思を送ってきている。間違いなくこの感覚はニュータイプが放っている物・・・正確な位置が分かる程にまで強くはっきりとしているのだ」

 

「何それ・・・オールドタイプにも分かりやすく言ってよ・・・そんなの全然感じないんだけど・・・」

 

 メグミからの問いに曖昧な答えを出すフブキにルミは気を落としコンソールへもたれかかった。その間にフブキはナイトシーカーのマニュピレーターで解錠レバーを操作し輸送船の搬入口の大型ハッチを開かせついに出撃しようとしていた

 

「私には分かるのだよ。これから行く先に必ずニュータイプは居る・・・・・・フブキ・ドゥルガー・マカハドマ。ナイトシーカー出るぞ」

 

 今私を呼んでいる者の気配が伝わってくる。身体全身を包み込む様な強く明瞭な感覚、このシュバルツ・ファングへ来て更にその強さは増され確実に距離がせばまっている、この感覚を発信しているニュータイプへ近づいている事を確信できた

 

 

 

 だがフブキが感じ取っていた自身を呼ぶ何者かの気配、それを発信していたのはみほではなかった。みほであるはずがなかったのだ。誰よりもフブキとの再会を望む者がこの宙域には居たのだから・・・・・・

 

 

 

 

 

 




 読んでいただきありがとうございました

 今回にかけて本作品の世界設定や今後の展開に繋がる大事な話を書いてきましたが次回からはかなり久しぶりのモビルスーツ戦になります。アンチョビ外伝以来書いていないというのもあり正直不安ですが持てる力を尽くし書かせていただきます

 念のため補足させてもらうと以前にもちょいちょい登場していたトレノですが彼が千代さんを探しに地球へ向かったということだけは一応覚えておいて欲しいです。彼にはいずれあるガルパンのキャラクターにとってΖガンダムにおけるフォウ・ムラサメの様な恋人になってもらいます。あのフォウ・ムラサメです。言ってしまえばいずれガルパンのキャラクター達の中から一人Ζガンダムの主人公カミーユ・ビダンに相当する人物として登場するキャラクターがいるからです。その都合上かなり行き過ぎた捏造設定も加えられるので今の内にお詫び申し上げさせていただきます(一応今まで何度か登場しているキャラクターです。ここまで言うと誰なのか察せるかもしれません)
 あと本作品において初期の頃から登場していた千代さんですがその詳細の解説は現時点では明かせません。本編で何処まで書けるかわかりませんがおいおい明らかにしていこうと思います。尚千代さんと同様本作品前半から度々登場しているマッキーもまた今の所は詳しく語ることは控えさせていただきます

 今更ながら第二章は宇宙で暮らす人々と強化人間達が直面していた現実等宇宙世紀という世界から汲み知るべき大事な要素や意義を交えながら書き綴ってきたので章タイトルはサイレントヴォイスの方が良かったのかなとちょっぴり後悔してます。だったらΖとZZ見た方が手早くてわかりやすいだろという話になりますが()


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20話 惹かれ合う魂(中)

 誠に無力な事に今回もあまりに長くなりそうになったため怒涛の中編後編編成を取らざるを得なくなりました。本当に申し訳ございません

 今回本作品の世界における軍に属する者達、MSに乗る男達について解説するためデシルと共に個人的に一年戦争終結後における連邦とジオン双方の軍人達を象徴していると思うキャラクターの一人が登場します。ただ終結後の世界といってもサイドストーリーや0083、ユニコーンをはじめ後付けにあたる作品の軍人像は一切考慮していないためいずれかの作品ファンの見解とはかなりの齟齬が生じていると思います。ポイントとして敵でありながらも情に厚かったラル隊やドアン、彼らの様な軍人が大戦後の物語であるΖからZZにて一切敵として登場していなかったことが何を意味しているのか、そして本作品の世界は今の所過去から現在にかけて戦乱の起きていない平和な時代であるという点を少し抑えて読んでみて欲しいです




 月の周回軌道上よりしばらく外れた宙域、真紅に染められし一隻の戦艦がシュバルツ・ファングへ向け進路を取り前進していた。艦の名は【サダラーン】、サイド3と月面都市共同のもと新造された実戦用の機動戦艦であり月防衛軍に配備されていた従来の戦艦や巡洋艦に比べサイズは一回り小さく搭載されている武装の数やMSの収容数も劣っていたが、戦艦としての単純な足回りや速力等の機動面は優れており大気圏内への降下も可能としていた

 そんなサダラーンのブリッジ内にて、艦長用の座席に腰掛けたデシル・ガレットは頬杖をつき両足を揺すりながら傍らで気落ちした表情を見せる弟のゼハートを後目にモニターに映るシュバルツ・ファングの空域を楽しそうに眺めていた

 

「デシル兄さん・・・やはり引き返すべきです。シュバルツ・ファング偵察の任務はマカハドマさんが確かに一人で完遂すると言っていました。なのに僕達まで行く必要なんて・・・」

 

「何言ってんだよゼハート。元々は僕達と一緒に行くはずだったフブキお姉ちゃんがいきなり一人だけで行かせろってお願いしてきたんだよ?怪しいと思わなかったの?」

 

「確かに単独で行くことを作戦本部へ嘆願しに来たと聞いた時は僕も少し違和感を感じました。だけどマカハドマさんはカテゴリーSの強化人間、破格の能力だけでなく精神も常に安定域にあり他の強化人間達と違って暴走の危険性はありません。それに一個艦隊で大々的に行動するよりもカテゴリーSの強化人間一人を仕向け隠密に任務を終えられるならばそちらの方が合理的かと・・・」

 

「はぁー、おまえは僕と違って出来が悪いから何にもわかってないんだな。あの宙域には今地球から来たニュータイプのお姉ちゃんがいる、フブキお姉ちゃんはそのニュータイプを捕まえて帰って自分だけいっぱいマスターから褒められようとしてるって訳さ。ズルいよな〜・・・でも一人だけ抜けがけなんて許さないんだから」

 

 デシルは無垢な少年らしい真ん丸な瞳を狡猾そうに細めニタリと口角をつり上げた。みほを連れ去ることとは別に本来フブキには作戦指揮者としてサダラーンでデシル達を率いシュバルツ・ファングの周辺宙域へ向かいしほ達の動向の偵察を月防衛軍司令部より命じられていた。だが愛里寿達のみほを連れ去る作戦が失敗に終わったことを受けフブキは司令部へ現時点で姿を公に見せていない新造艦サダラーンは温存すべき、任務は自身単独で行うと提案。フブキ・ドゥルガー・マカハドマという最高の強化人間にMS戦闘で勝る者などそれこそ西住しほの様なエースパイロットクラスしか存在しないと認めていた司令部は彼女の案を快諾したのであった

 しかし現在、デシルの独断と指揮のもとサダラーン隊は地球から宇宙へ上がってきたニュータイプ西()()()()()()()()()()に停泊していたフォン・ブラウンより出航、フブキ達が乗り込む大型輸送船の後を追いシュバルツ・ファングの周辺宙域へ到達しつつあった。まだ10にも満たない幼少な少年でありながらも純然たるニュータイプであるためデシルには独自に作戦指揮を執り行える特許が月議会より与えられ防衛軍の戦力と人員を好きなように扱うことが許されていた。当然防衛軍の上層部や兵士達の中には納得がいかない者も少なからずは居たが議会の決定に背くことも異を唱えることも許されないため彼の独断によるシュバルツ・ファングへの侵攻作戦を咎めようとする者など同じ特許を与えられた弟のゼハートを除き誰一人として居なかったのであった

 

「デシル様、現在位置よりこれ以上進めばシュバルツ・ファングの警戒網に補足されてしまいます。サダラーンで進めるのはここまでが限界かと」

 

「そっか。じゃあここから先はモビルスーツ隊を出さなくちゃね・・・」

 

 観測手からの報告を受けデシルはようやく自身の出番が来たと言わんばかりに一層邪悪な笑みをたたえ座席より両足から下りた。出撃の支度に向かおうとする兄へゼハートは無謀ながらも再度説得を試みようとした

 

「待ってくださいデシル兄さん!僕達に本来与えられていた任務はせいぜいシュバルツ・ファングへの牽制であって戦闘ではありません!それともまた先日の様に民間人を虐殺するつもりなんですか!?」

 

「うっさいなぁ。そもそもフブキお姉ちゃんが勝手に任務とは関係なくニュータイプを捕まえて帰ろうとしてるんだし僕達も他の目的で出撃したって別にいいじゃんかよ。それにあのラスボスの西住しほが住んでる宙域を攻めるならそれなりの装備と戦力を揃えて行くのはゲームの基本だろう?」

 

「ゲームだって・・・・!?・・・それにモビルスーツ隊で仕掛けるにしても隊の人選に問題があると思います!いくらマスターが見込んだパイロットとはいえあんな男も同行させるなんて危険です・・・」

 

「あんな男、というのは俺のことかい?坊ちゃん?」

 

 背後から男の声が聞こえゼハートは振り返ると開かれた出入口用のドアへ腕を組んでもたれ掛かる防衛軍の男兵士が目に入った。地肌が浅黒く顎髭を蓄えたその男は全身にかけて筋骨隆々と鍛え抜かれた逞しい身体付きをしており、防衛軍所属兵士が着用するベージュカラーの制服の上からマント付きの甲冑の様なプロテクターを身に付けていたためその姿は豪傑な武人を思わせる風格を放っていた

 

「そう邪険にされてしまっては悲しいな弟くんよ。俺達は同じ志を持った同胞じゃないか?」

 

「ラカン大尉・・・・・・失礼しました・・・」

 

「あ、ラカンおじちゃんだ。どうかしたの?」

 

「デシル・ガレット。貴様と貴様が連れてきた小娘共が乗るモビルスーツの出撃準備が整ったから呼びに来てやったのだ。部隊の殿はおまえが執るのだろう?」

 

 月防衛軍大尉、ラカン・ダカランは自身と半分程の背丈しかないデシルとゼハートを見下ろし二人のポンポンと頭を軽く叩いた。デシルは無邪気に喜び笑うもゼハートの方は気乗りせず複雑な表情のままだった。このサダラーンへ乗艦し初の対面を経て以来ラカンは自分達を別段子供と見下し侮蔑する様子を見せることはなく友好的に接してくれていた・・・だがしかしゼハートは確かに感じていたのであった。このラカン・ダカランは正規の軍人でありながら()()()()()()()に分類される男だと、そして兄デシル・ガレットと同じ種の人間であることを・・・

 

「えへへっ。・・・ようやくお楽しみの時間って訳だね」

 

「ら、ラカン大尉!今回はあくまで偵察と牽制が主任務であるので戦闘は止むを得ない状況でない限り避けるべきだと思います!」

 

「ほう、弟の方は随分真面目だな。真っ向から意見を申し立ててくる奴は嫌いじゃない、ゼハートに免じてできる限り善処してやるとしよう」

 

「余計な事言ってないで行くぞゼハート。そんなに戦うのが怖いんだったら後ろの方でコソコソ隠れてるんだね・・・・・・その代わり僕の邪魔だけは絶対にするなよ」

 

 冷ややかな言葉と共に横目で睨みつけるデシルの瞳からな紛うことなき殺意が放たれゼハートは凍りつく様な恐怖が背筋へ走り何一つ言葉を返せぬままデッキへ向かう兄の後に続いた

 例え血の繋がりのある兄弟だろうとも己の道を阻む者であれば一切躊躇することなく排除する、兄デシル・ガレットはそれができる種の人間だったのだ。しかし兄がこれ程まで残虐な本能を抑えきれず自身こそ誰よりも優良且つ至高であると信じて疑わない人間に成長したその責任の一端は弟の自分にもあったとゼハートは感じていた。自分にも兄と同等のニュータイプの才覚があれば彼が屈折したまま成長させることはなかったはず、何処かで止めてやることができたかもしれなかった

 しかしゼハートの想いは叶わずデシルはMSパイロットとしてモビル道のプロ選手はおろか正規軍のパイロット達の追随を許さない程の実力に至り現在も純粋無垢な少年らしく爆発的に成長し続け、その最中にも高慢にして悪魔の様に凶悪な人格は揺らぐことのない確固たる本質へとなってしまったのだ。だが彼もまた人類を導く()となる存在ニュータイプ・・・・・故にゼハートは兄に自分達が与えられた使命を違えさせないため彼の傍に居続ける事を誓っていた。ニュータイプとして宇宙の民を照らし皆で地球という楽園(エデン)をこの手に掴むため、穢れし地球種達から水の星を解放するために・・・・・・

 

 

「・・・ガレット兄弟。例のニュータイプとやらがどれ程の手並みか拝見させて貰おう・・・・・・これより出撃をする!シュバルツ・ファングへ向けジャマー信管発射!敵の目を潰してやれ!」

 

「了解」

 

 ラカンの号令でサダラーンのミサイル発射口より通信機器への電波妨害粒子が込められたミサイルが射出された。信管が発動し妨害粒子が散布されるタイミングは自身らMS隊がシュバルツ・ファングへ突入する直前、ラカンもデッキへ向かおうとブリッジを出た

 

「ラカン大尉。お疲れ様です」

 

「む、貴様パイロットではないか。何故こんな所をうろついている?待機命令は出したはずだ」

 

「申し訳ありません・・・自分これが初めての実戦出撃で・・・緊張してお手洗いの方で少し・・・」

 

「貴様新兵か?この艦には選り抜きの若手か強化人間しか乗っていないと聞いていたが・・・まぁいいついてこい。名は何と言う?」

 

「自分の名はゴールド。ジャバウォック・ゴールドと申します。ハイスクール卒業式後の先月より防衛軍へ正属となり階級は少尉、本日はパイロットの補充人員といしてこのサダラーンへ派遣されました」

 

 廊下で鉢合わせた防衛軍の青年士官、ゴールドと共に壁に備えられたリフトグリップを掴みMSデッキへ向かった

 

「・・・ところでだゴールド少尉?貴君は何故防衛軍に就職した?こんな時代だ、軍へ志願するよりももっと楽な仕事は山ほどあるぞ」

 

「・・・?自分が防衛軍に入隊したのは社会奉仕のためです。学生時代に培ったモビル道でプロの道へ進むよりもこれを軍務に活かし宇宙の治安維持に貢献できる事がしたいと考え軍への入隊を決意しました」

 

「社会奉仕か、真っ当な軍人を志すに実に誠実な動悸だな。・・・・・・だが貴様の様な兵士こそいい様に操れる格好の駒でしかない。そもそも我々の上司や議会に本気で世を太平に導く気があるとでも思っているのか?」

 

 ラカンは背後に続くゴールドへ振り向き含みのある邪悪な笑みを見せながら問うた

 

「どいうことでありますか・・・?自分は月議会と月防衛軍が掲げる意義は宇宙の人々へ恒久的な平和と繁栄をもとらすことにあると聞き及んでいたのですが・・・」

 

「考えてもみろ?あんな物議会が軍へ民意を集めるための建前に過ぎんと気づくはずさ。だがおまえの様なお利口さん達はその建前をのうのうと正義であると信じ従い疑わない。結局は上の連中が決して表へ見せない腹の一物も洞察できぬままいいようにこき使われる定めということぞ。それこそが俺達軍人という職業であり役目なのだがな」

 

「・・・それは単なる貴方の私観です。軍人の本質がそんな物であるはすがない・・・・・・ならば何故ラカン大尉はそう理解されていながら今も軍に居られるのですか?」

 

「決まっているだろう。貴様と同じモビルスーツ乗りを稼業とするためさ。それもモビル道などという飯事ではなく、軍が開発した最新のマシーンで敵と殺り合いたい。俺はその生きがいのためだけに軍へ入隊したのだよ」

 

「なんだと・・・狂っている!アンタ一体軍人を何だと思っているんだ!?市民と世の治安を守り維持するのが俺達軍人の役目!その使命を放棄しただモビルスーツで公然と殺し合いをするためだけに軍に身を置いているなど許されるはずがないだろう!」

 

 ゴールドは軍人としての責務を一切感じていない目の前の男へ怒りを顕にし激しい口調で迫った、だがラカンは微塵も表情が揺らぐことは無くむしろ余計ゴールドが気に入ったのか更に嘲笑を浮かべた

 

「貴様にはこうして出会った誼みとして特別に気づかせてやっているのだぞ?正義など所詮は政を行う者達に繕われた物、俺達兵士は奴らの使いとして現場で全うするだけの存在でしかない。そもそも俺達一兵卒に世を動かすことなど出来んのだよ」

 

「馬鹿な・・・・・・俺はコロニーの家族や皆を・・・秩序を守るため軍へ入隊した・・・貴方とは違う・・・!」

 

「フッ、ちと青すぎるな。もっと己の本能へ忠実になれ少尉・・・・・・俺達は"男"だよ。他者と競い、闘い、圧倒し己の力を誇示するために生きるのが俺達男という生物だろう?俺達が他者のためだ世を導こうなどと考える必要はない、軍人として従う対価として議会の連中が掲げる正義を蓑に闘争へ没頭しようではないか」

 

「・・・そこまで戦いたいのであれば何故モビル道ではいけないのですか?そこまで人と殺し合いがしたいのですか?」

 

「俺は道と名のつくものが心底嫌いでな。特に武道など決められた規律(ルール)の中でしか闘う事を許されんのだから反吐が出る。男ならば何にも縛られず敷かれた道など歩まず己が本能のまま命の駆け引きがしたいというもの、それでこそ生を実感し謳歌できているというものだとは思わんか?」

 

 確実に人として大切な情が欠落しとめどなく狂気を滾らせている、ゴールドはラカンがそういう人間であることが判り彼へ畏怖を抱いた。だがラカンの言葉は何処か筋が通っているようにも聞こえてしまった、もしかすれば彼の生き方こそ男として正しい姿なのではないのかと感じてしまったいた

 そして気づけば二人はMSデッキに続く扉の前に到着していた

 

「・・・ラカン大尉は何故俺にこのような話をしてくれたのですか?特別優秀な成績が無ければただの新米士官でしかないこんな俺に・・・」

 

「・・・貴様から何故か俺と同じ臭いを感じた。闘いの中でしか生を見出すことの出来ない男の臭いがな」

 

「俺が貴方と同じだと・・・?ありえない、何かの勘違いでは?」

 

「ヌハハ言うじゃないか。ついでに一つ肝心な事も教えてやろう。俺達軍人はただ使われるだけの駒とはいえ己の身あって殺し合いができるというもの、一体度奴を上の人間として据えるのが最善か見極めてやる必要がある。防衛軍元締めの月議会か、あるいは実質的に議会を上手いこと操っている島田家の男か・・・」

 

「あのニュータイプ研究所の所長がですか?」

 

「ああ。俺の見立てではあの男、この世の人間ではないはず。正確には前世の記憶を持ったまま産まれ落ちたとでも言うべきか・・・とにかく面白く興味深い奴なのだよ。奴の下に着いておけば今日の様に暴れさせて貰えるしな」

 

「・・・御助言ありがとうございました大尉。ご武運を祈ります」

 

「貴様には期待しているぞゴールド少尉。間もなく時代は変わる、俺達戦士達の時代が来るのだよ。だがその時代を迎えるためには先ず俺達にとって何よりも邪魔なシュバルツ・ファングと西住しほを討たねばならない。それそほあの女のせいで俺達軍人は今まで軌道上での軍事演習かモビル道でしかモビルスーツに乗れず鬱憤が溜まるばかりだったのだからな。引導を渡してくれる・・・」

 

 ラカンは拳を固めデッキの中へ入り自身のMS、月防衛軍の主力量産機であるグレーカラーの【AMX-011 ザクIII】の下へ向かって行った。正義感に溢れ世の秩序のため熱い志を胸に月防衛軍へ入隊したジャバウォック・ゴールド、しかしラカンの言葉を受け彼は抱いていた若き正義感へ疑念が生まれ乱されようとしていたのであった。そしてラカンの様な生き方こそがこの世の軍人として、男として真理にして在るべき姿なのではないのかと芽生え始めた。自身の中で正しき正義を見出し確立する事ができる程、ゴールドが強い少年では無かった故に・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 サダラーンのMSデッキ内では来るべき出撃に備えパイロット達は集いメカニックマン達はMSの整備点検を行い準備を急いでいた。サダラーンが搭載するMSは全機月で開発された実戦用の機体のみ、そして技術者とMSパイロット達の主な面子は防衛軍の若き青年士官達をはじめ中にはまだあどけなさが残る幼い子供、ν-ALAWSでの試験を経てニュータイプ研究所より遣わされた強化人間の少年少女達で占められていたのであった。地球侵攻作戦の一番槍を飾ることとなるサダラーン隊、当然デシルのみならず一人一人が軍の正規パイロットから選り抜かれたと言っても過言でない程の腕前と試験数値を記録していた

 そしてデッキ内に佇むMS達の中でもデシルの専用機である漆黒に染められたMS、【AMX-107R リバウ】にはより大勢のメカニック達が集まり綿密な点検と整備が行われていた。だが何故かリバウの側方にはモビル道用のゲルググが4機並ばされており足下では研究員と思しき男が一人とノーマルスーツの上から手枷を掛けられた四人の少女の姿があった

 

「これが君達が今回乗ることになるゲルググだ。カートリッジ式のビームライフルを装備しているがそもそもコックピット内は操縦桿もフットペダルも備えられていない上にその拘束具も付けたまま乗ってもらうことになるから()()が直接撃つことはない。簡単に言えばただシートへ座ってるだけでいいということだ」

 

「あの・・・本当にこれが終わったら私達を地球へ帰してくれるんですか・・・?」

「・・・ああ。試験が無事に終わったらな。もし試験中に何か緊急事態が発生した時は通信機からオープンチャンネルで思い切り助けを呼ぶといい」

 

「待ってください・・・・・・何かおかしいですよ。機体が中から操縦できない様になっているのにどうして私達を乗せる必要があるんですか・・・?それにこの方達は地球の大学生の生徒さん達だって聞きました・・・・・・いくら新兵器のテストだからってこんなの絶対に普通じゃありません!貴方達軍隊の人達は何もおかしいとは思わないんですか!?」

 

 四人の少女の内の一人、この日愛里寿達のもとへ帰して貰えず連行されて来ていたナオは研究員の男へ現状への募り募った疑問を強くぶつけた。ナオ以外の三人は地球の女子モビル道大学選抜の隊員・・・・・・デシルが敢えて殺さずに生かし月へ拉致してきた生存者だったから。そして現在サダラーン所属のパイロット達や実戦用のMSと共に出撃させられようとしているのだからナオは地球人とはいえ民間人である彼女達を兵器のテストに使おうとする軍隊があまりにも理解し難く醜悪に感じ反発せずにはいられなかったのだ

 

「・・・君は確かナオ・ヨシヅキだったな?あの少年のおかげで議長の嬲り物にならずに済んだのだぞ?あまり彼を逆撫でる様では処分されることとなるぞ・・・」

 

「だったらそんな新兵器のテストなんて私一人にやらせればいいじゃないですか・・・!この人達も巻き込むのなんて絶対におかしい!今すぐ地球に帰してあげるべきです!」

 

「・・・私だってこんな悪趣味な作戦になど加担したくないさ・・・だがこれも仕事なのだよ。どうか恨まないでくれ・・・」

 

「お姉ちゃん達もう来てたんだ。今日はよろしくね!」

 

 するとナオ達のもとに特殊なデザインのパイロットスーツを着用したデシルが現れ研究員の男は彼が来るや否やそそくさと逃げるように立ち去った。彼の間の抜けた明るく甘い声を聴いた大学選抜隊の三人は震える様に怯え身体は竦み上がってしまいデシルは彼女達の様子を面白可笑しく嘲笑い見下ろしていた

 

「そんなに怖がらないでよ。この作戦が終わったらちゃんと約束通り地球のお家へ帰してあげるからさ。ナオお姉ちゃんも僕の言うこと聞いてれば本当のお父さんに会わせてあげることだってできるんだよ?」

 

「お父さんに・・・そんな事よりもこの船の指揮官は君なんでしょ?お願いだからこんな事辞めさせて!君だっておかしいと思うでしょ・・・まだ子供なのに実戦用のモビルスーツへ乗らされて・・・死んじゃうかもしれない所に行かされるんだよ!?そんなの絶対におかしいよ!」

 

「うるさいしムカつくなぁ・・・僕のこと子供扱いすんのかよ。それにナオお姉ちゃん何か勘違いしてるけど僕がマスターから頼まれたのはバウのテストだけ、シュバルツ・ファングへ攻めに行くのとお姉ちゃん達が乗る新兵器を考えたのは全部僕なんだよ?今はまだ分からないと思うけど楽しみにしててよね・・・お姉ちゃん達にはあそこにいる強い大人達をいっぱいやっつけるために大活躍してもらうんだから・・・」

 

「ひっ・・・・・・もういや・・・お家に帰りたいよぉ・・・・・・」

 

「だ、大丈夫ですよ!絶対無事に帰れますから落ち着いて・・・・・・君は一体何を考えているの・・・?他の誰かをそんな風に利用しようとする事が許されると思ってるの・・・?」

 

「当たり前じゃん。僕はニュータイプだよ?何の才能もない馬鹿や雑魚じゃなければナオお姉ちゃんみたいな失敗作の強化人間でもない選ばれし人類、それがこの僕なのさ。むしろ光栄に思ってよね、ニュータイプに武器として使ってもらえるんだからさ・・・それとこれ以上僕をムカつかせたら愛里寿様達とナオお姉ちゃんの大事な妹のさらお姉ちゃん、僕が皆みーんな殺しちゃうかもしれないから気を付けてよね・・・・・・」

 

 デシルは悪意と邪気に満ちた笑みを満面に見せながら昇降用のワイヤーでリバウのコックピットへと昇って行き、彼の傍にいた強化人間の兵士達から強引に押し込まれる様にナオ達もゲルググのコックピットへと乗せられた。愛里寿よりも年下であるはずのデシルがここまで人の心を持たぬ冷血な悪魔の様な少年である事にナオは表情を青ざめさせ全身が震え凍りつく様な恐怖に襲われた。この少年は自分達にとって危険過ぎる、逆えば皆殺されてしまう・・・・・・ナオはデシルがそれ程までの力と狂気を兼ね備えている事を洞察し神へ縋る様に願った・・・この魔少年を止める英雄が現れることを・・・

 MSハッチが開かれ今、デシル・ガレットによる狂気に満ち満ちたシュバルツ・ファング強襲作戦が開始されようとしていた・・・・・・

 

 

 

 

 




 読んでいただきありがとうございました

 後日本来予定していた部分も書いて後編という形で再投稿する可能性もあるのでよろしくお願いします。今回はちょっとコロナで鬱ってるというのもありこの段階で投稿させていただきました

【https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=237648&uid=260037】
 ↑
 今回初登場したラカンについて僕なりにまとめました。興味のある方は御一読ください。そして現在ニュータイプとして登場しているデシル、彼もまた本質的にはラカン達と同じベクトルの人間です。これから二章の終わりにかけて更にダークな回が続きますがよろしくお願いします




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20話 惹かれ合う魂(後)

 最近YouTubeにて公式サイトの方からΖガンダムのアニメが続々公開されていたのでとても嬉しかったです。期間が限定されているとはいえ公式の方から最終回まで無料配信されていくであろう今これ以上本作品の連載を続けてる理由は殆ど無くなりましたがぼちぼち投稿して行こうと思います(と言いつつ実の所更新ペースが著しく遅くなった半年近く前より始めたサバゲーに何時も暇な時間を割かれて従来の1000%筆が進まないからです・・・)

 今世界中がとんでもない事になっているからこそ沢山の人にΖを是非見て欲しいです



 一方シュバルツ・ファングの宙域外縁部では物資輸送船より出撃したフブキ達は漂流する残骸となった艦船をはじめとしたデブリ達、小隕石を一重にかわしながら高速で突き進んでいた。正面に広がる風景はまるで密林の様に開けておらず進行の障害物を回避するには機体を細かく縦横に機動させ時には急停止させる必要もあったためメグミとルミは苛立ちが募ってきたのかスピーカー越しに毒をつき始めた

 

「もーさっきから本当にひっどい空域ね!傷が付いたらどうしてくれんのさ!」

 

「こんなんじゃ船どころかモビルスーツもまともに通行出来そうにないじゃない!民間にも提供してる訓練用の宙域が聞いて呆れるわ!」

 

「二人共落ち着きなさい。ここは毎日の様に連合軍の軌道艦隊や防衛軍やコロニーのプロチームの部隊が処分の面倒な廃棄物を投棄していくのだから撤去するにしても追いついてないんでしょう。・・・全く皮肉なものね。エネルギー枯渇と自然環境の汚染を懸念して人は地球から宇宙へ移り住んだのに結局同じことを繰り返してるのだから・・・」

 

「ブルーコスモスの連中みたいな事言ってんじゃねぇよ。そもそもシュバルツ・ファングと西住しほはスペースノイドとアースノイド両方のために我々は活動してると自称してるが実際13バンチ事件がありのまま報道されてないように奴らが地球側へ肩入れしてるのは明らかだ。だからスペースノイドがこの空域にゴミを山ほど捨ててくのなんて当然のことだろ」

 

 レビンは今周囲に広がる現実を悲観するアズミの言葉を冷々とした調子で一蹴した。だが彼女の言葉通りシュバルツ・ファングの宙域のみならず各コロニー圏や小惑星の周辺の宙域にも処理が追いつかず放置された投棄物やデブリが大量に顕在化しておりその現状が意味している通り人々は宇宙へ出ようともそうそう変わることなどできない、同じ過ちを繰り返す悲しき宿命に囚われているという事は明白であった。そしてそれは自然環境への配慮のみに留まるはずもなく・・・

 

「だがアズミの言い分こそ現実だぞレビン。人の不感と悪意が自然環境を汚染している現状を当然のことだ俺達には関係ないのだと開き直ってしまえば私達のような強化人間が今も悪戯に造られ続けている事実をも黙認することとなるのだぞ?」

 

「・・・それとこれとは話が別だ。拉致したガキ共を勝手に強化人間へ改造すんのと周辺の環境へゴミを散らかすことのどっちが本当に許されねー行為かなんて考えなくてもわかるだろ」

 

「そういう事ではない。男のおまえにはわからんか・・・・・・まぁいい、無駄話はここまでだ」

 

 フブキがそう告げるとほぼ同時に何かが補足されコックピット内に警告音(アラーム)が鳴り響くと前方より接近してくる4機編成のMS隊が現れた。向かってくる4機は【RGM-79R ジムII】、演習用に設けている宙域の外郭部の警護を行う一隊で哨戒中に行動しているMS数機の反応を補足し現場へ急行してきたのであった

 

「ゲルググ3機にナイトシーカー・・・あれは最近発売されたモデルのフルアーマーガンダムか。5機全てがモビル道用のモビルスーツのようです。此処へ侵攻してきた訳ではないのか?」

 

「演習中に迷い込んだのかな・・・保護しますかエマ隊長?」

 

「馬鹿ね、家元のお嬢様を攫おうとしていた部隊はモビル道のモビルスーツで使用して侵入して来る可能性もあると報告にあったでしょう?・・・けれどスポーツ用のモビルスーツが相手ならまともな戦闘へ発展することはないはず。さっさと追い払うわよ」

 

 隊長機の女性パイロット、エマからの指示で3機のジムIIは一斉に散開し瞬く間にフブキ達の進路を完全に阻む形へ展開し携行していたビームライフルを構え銃口を向けた

 シュバルツ・ファングに属している者達は皆しほと同じ宇宙と地球に住む人々の調和を叶えようとする意志を持ち性別も男女問わず一人一人がしほと共に戦うために彼女の下に集っていた。その中でもMSパイロット達には治安維持や有事の際に備えるために実戦闘用のMSが手配され割り当てられていたが、しほが認め信頼を置く者達なだけあって一人一人が実兵器を相対したMSの撃破及びパイロットの殺傷に振るうことは一切なく、あくまで蛮行や悪事を犯す者達への抑止を行う手段として・・・そしてしほが断ずるべきと定めた悪を打ち倒すための力として皆コックピットへ搭乗していたのだ

 

「そこの貴女達止まりなさい。貴女達が月のアロウズの所属であることはもう分かっています。今からでも直ちに引き返すこと・・・しかしこれ以上進もうとするのなら確補させていただきます!」

 

「ゲッ、もう見つかってんじゃん・・・ちょっと隠密に済ませるんじゃなかったの?初っ端から状況ヤバいじゃんかよ」

 

 突如襲来したかと思えば瞬く間に囲まれ道を阻まれた事に相手が手練である事を悟ったルミは殿を務めていたフブキへ無線越しに若干八つ当たり気味になじった

 

「監視網に掛からぬ様万全を期して出撃したつもりだったがこうも早く補足されるとはな。・・・さてどうする?おまえ達だけでもこのまましっぽを巻いて退却するか?」

 

「冗談。ここまで来たんだし最後まで付き合わせてもらうんだから。ルミとアズミもいいよね?」

 

「ええ、勿論」

 

「・・・ったく仕方ないな。バレちゃった以上やるしかないしね」

 

「フッ、やはりそうでなくてはな・・・だが今はまだトリモチは節約していろ。特にレビン、おまえは一切手を出すなよ」

 

「・・・はぁ!?なんでだよ!」

 

「おまえの戦い方とそのガンダムの攻撃は一々派手すぎる、余計に目立ってしまえば帰り道が困難になるだろう。それに唯一モビル道の武装のみを装備しているおまえには西住みほの周辺を固めているもの達を任せたいからな・・・・・・行くぞ」

 

 その瞬間、武器も構えず無防備無抵抗の状態だったフブキのナイトシーカーは突発的に前方のエマ機のジムIIへ向けバーニアのスラスターから火を噴かせ躍り出ていった

 

「っ!突撃しようというの!?そんなモビルスーツで!?」

 

「そんなモビルスーツとは随分と余裕だな。だが安心しろ・・・私にはオールドタイプの相手などモビル道の機体で足りるのだよ」

 

 今自身らを囲んでいるジムIIは全機本物の火器を装備しているのにも関わらず臆する様子は一切見せずフブキのナイトシーカーは敵の隊長機へ距離を詰めた。そしてその最中まだいずれの標的ともかなりの間合いがあるというのにフブキは腰部へ携えていたビームジャベリンを掴み先端にモビル道用のビームの刃を形成させるとおもむろに見せつけるかのように振り回しながら更に加速させた

 

「ビームのジャベリンを展開した・・・?危険ですエマ隊長!発砲の許可を!」

 

「貴方達はまだ動かないで!・・・それ以上近づくのなら撃つ!これが最後の警告よ!」

 

 だがフブキのナイトシーカーは依然として止まる気配を見せず吶喊し続けてきた。複数機からライフルを向けられ且つモビル道用のMSでは何一つまともな応戦をできるはずがない状況に置かれているのに全く動じず恐れない。隊長機のパイロットはナイトシーカーのパイロットへ畏怖を覚えたがこれ以上近づけさせれば白兵の間合いに入る、そしてもしかすれば()()ビームジャベリンが実兵器である懸念も少からず抱いていたためライフルのビームを最小出力に調整し照準を合わせできるだけコックピットから離れた部位を撃ち抜こうとした・・・

 

「どうして・・・貴女が近づいてくるから!」

 

「撃ってくるのか・・・だが遅かったな。残念だがここはもう私の間合いだ」

 

 銃口から放たれた閃光は一直線にナイトシーカーへ向かい命中するかに見えた・・・・・・しかしフブキは速度を維持したまま機体をきりもみ状に旋転、見事なまでのバレルロールでビームを紙一重で回避してみせるとその勢いを乗せたままジャベリンをエマのジムIIへ向けて投擲した

 

「直撃コースだったのに避けてみせた!?敵は子供じゃないというの・・・?」

 

 エマは回避行動をとるため意識を僅かにナイトシーカーから投擲されたジャベリンを移し機体の高度を落とした・・・だが本来回避する必要など無かったはず、だってあれはモビル道用の擬似ビームが展開された武器だから。ならば何故自分は避けたのか、敵は此方へ投擲してきたのか・・・・・・そう疑念が浮かび気を取られたその一瞬の間に、フブキのナイトシーカーは真正面まで距離を詰めていた

 

「やはり避けてくれたか。当然だ、モビル道の兵装は全て実物へ精巧に似せられ造られた得物。例え偽物とわかっていたとしても常人ならば回避して当然というものだ」

 

「え・・・今の一瞬で・・・!?」

 

「一瞬ではない。ここまで詰めるにはあまりに十分過ぎたぞ」

 

 格闘の間合いに入られ焦ったエマは反射的ににビームサーベルに手を掛けようとした。しかしその行為を置き去りにするかの如くフブキのナイトシーカーは瞬く間にジムIIの下方向へもぐり込んだかと思うとバーニアで速力を付け機体の全質量を乗せた飛び膝蹴りを胴体へと見舞った

 

「ぐぅ・・・・・・っ!」

 

「言ったはずだ。ここはもう私の間合いであるとな」

 

 間髪入れずフブキはマニュピレーターでジムIIの頭部を殴りメインカメラを粉砕、そしてライフルを持つ方の腕を掴み背後へ回ると関節を組み固め片方の腕をへし折り無力化させた。所詮スポーツ用の武器で、MSで軍隊でも使用される実戦用のMSに太刀打ちすること等本来到底叶うはずなどないことであったがマニュピレーターやその他部位を用いた肉弾戦ならば唯一可能であるかもしれないと仮説立てられている手段ではあった。だがしかし・・・・・・

 

「エマ隊長ー!!!」

 

「コイツ!調子に乗るなよ!」

 

 待機させられていた隊員達の内2機のジムIIはエマが攻撃されたことに怒りビームサーベルを引き抜きフブキのナイトシーカーへ斬り掛かろうとした。二方向から迫り来る敵に対しフブキは一方へはエマ機を蹴り飛ばして激突させ、もう一方からの冷静さが欠けた斬撃は悠々と見切りカウンター張りにネモの頭部を掴み傍を漂っていた小隕石へ叩きつけそのまま両のマニュピレーターでコックピットハッチを機関銃の如く息もつかせぬ連続的な殴打を浴びせた

 

「ぐあっ!がっ!や、やめ・・・ろ・・・・・・」

 

「どうした?おまえ達はシュバルツ・ファングの兵なのだろう?その程度の力でこの先他の強化人間達とまともに殺し合えるとでも思っているのか?」

 

 フブキは例え搭乗するMSがモビル道用の物だったとしても確実にどんな相手でも沈め勝利できる人間、それを成し得る兵器が求められたがために造られた強化人間だった。戦闘に特化するために身体から精神に掛けて強化改造できる箇所に全て手を加えられ造り上げられた最高傑作の兵器、それはもはや人を超越し並のMSパイロットでは到底並ぶことのない域に達していたのであった

 だがこの時背後へ残り1機のジムIIに回り込まれてしまい銃口を向けられ状況は一転しフブキはいつでも撃たれてしまう身に置かれてしまった

 

「そこまでだ!大人しくしろ・・・さもなければ撃つぞ!」

 

「ほぅ?ならば撃つがいい。私は強化人間にしてスペースノイド。おまえ達地球人が忌み嫌い地球外生命体(エイリアン)と呼んでいる者なのだぞ?躊躇う理由があるのか?」

 

「俺だって宇宙の生まれだ!・・・だがおまえ達とは違う!何が強化人間だ!家元は俺達スペースノイドの生活を変えるために立ち上がってくれているというのにおまえ達は子供を誘拐しては改造して・・・いずれ報いを受けることになるぞ!」

 

 此方へライフルを向け訴えてくるパイロットの青年の言葉を理解できないながらもフブキは沈黙しつつも耳を傾け言葉の意を理解しようとした・・・・・・すると突然、フブキの頭の中へ男の声が響いた

 

(ククク・・・報いとは可笑しなことを言うじゃないか。だが地球圏で生きる全ての人類を支配しこの世界を我がものにしようとしている西住しほこそ倒さなければならない真の"敵"。そうだろう?マカハドマ・・・)

 

「ッ!・・・・・・了解。所長(マスター)・・・・・・」

 

 意識の内側へ何かを注ぎ込まれたのか、フブキは眼の光が失せ代わりに全てを凍りつかせるような冷たい覇気に似たプレッシャーを放ち始めた

 

「な、なんだ・・・この寒気は・・・・・・・・・」

 

「・・・報いを受けるのは西住しほと奴に従うおまえ達だ。我々の友を奪った地球人も奴らを庇い立てするおまえ達シュバルツ・ファングもこの世にあってはならない倒すべき敵・・・撃たんのならば私からこのパイロットを刻ませてもらう・・・・・・」

 

「な、寄せ!」

 

 フブキは内部のパイロットが気を失い動かなくなったジムIIから離されたビームサーベルを取り上げようとマニュピレーターを伸ばした・・・・・・だがフブキが実物のビームサーベルを手にするよりも先にアズミの高機動型ゲルググがナイトシーカーの脇から飛び蹴りを入れて吹き飛ばしこれを妨害した。同時にメグミ、ルミの高機動型ゲルググも駆けつけ2機による連携でフブキの背後のジムIIとエマ機との激突から復帰しフブキへ攻撃しようとしていたジムIIへ一瞬の内にトリモチランチャーガンからトリモチを各部位の駆動部へ命中させ各機体の動きを完全に封じ込めた

 

「うわぁ!なんだ!?」

 

「悪いわねお兄さん達」

 

「しばらくの間大人しくしててもらうよ!」

 

 メグミとルミの二人は無力化又は動きを封じられた3機のジムIIを一箇所に集めるとそこへトリモチを更に撃ち込み互いが吸着し合った団子の様な塊へと成り果てさせすぐ傍の小隕石へ固定させた。その間にアズミは抜け殻のように微動だにしなくなったジムIIを掴み見据えるフブキへ駆け寄った

 

「フブキ!聞こえてるんでしょフブキ!貴女今何をしようとしていたの!?」

 

「くっ・・・・・・ん?アズミか・・・?どうしたのだ・・・?」

 

「どうしたのだじゃないわよ・・・貴女今凄く気持ちの悪い感触のプレッシャーを出していたのよ?その人をどうするつもりだったの・・・?」

 

「・・・大方所長からパイロットを殺せって命令されたんだろ。おいバカハドマ。テメーは()()俺達の味方って事でいいんだよな?」

 

 後続で待機していたフルアーマーガンダムのレビンも合流したがフブキを不信に思ったのか険しい様子で彼女へ迫っていった

 

「・・・・・・あぁ。私はお嬢様とおまえ達の味方だ。お嬢様を守るため・・・ニュータイプを手に入れるために私は今ここに来ている。・・・先を急ぐぞ。もうあまり時間が残されていない」

 

 フブキは少し焦りを顕にした様子で皆を避けるように再び前進を再開した

 

「ちょ、ちょっと待ってよフブキ!私らも急ごうよ!置いてかれたら元も子もないっての!」

 

「ええ、わかってる・・・ねぇレビン。貴方フブキが研究所の所長から命令を受けてるって言ったけど今も続いてるの・・・?」

 

「・・・そうみてぇだな。そもそも俺みたいな遊びで造った強化人間と違って軍の戦力にするのが目的の戦闘特化型の強化人間には初めから相手が敵なら何の躊躇いもなく殺す様に脳みそへプログラムされて造られている。そいつらの中でもマカハドマは群を抜いた実力を持ってるから所長が一方的にアイツの意思を覗き込んで逆らわない様監視してついでに何時もの調整も加えてるって訳だ。なんでそんな事ができてどうやってんのか俺は知らねぇがな・・・」

 

「なんだそれ・・・本当何者なんだよあのオッサン・・・」

 

「・・・けど地球に居た頃のフブキって所長と交信してる様子も操られてる事も無かったはずよね?月に帰った後また地球へ行く前のフブキに戻っちゃった訳だしもしかしたら地球へ連れて行くことさえできれば助けられるかも・・・」

 

「どうやって地球へ連れて行くってんだよ?今のアイツは何もかも所長に筒抜けだって言ったばかりだろ?」

 

「そうだけど・・・だからってこのままあの子に何もしないでいられる訳がないじゃない・・・」

 

 不安な想いを吐露するメグミ、そしてルミとアズミも全く同じ気持ちをフブキへ抱いていた。彼女は自分達にとって家族とそう変わらない大切な友人、だが彼女は防衛軍が敵を殲滅するための兵器として使用する強化人間だった。兵器として存在させられている彼女をどうすればこの呪縛から救い出せるのかメグミ達には分からず、友を救えない無力さをただ悔いる事しかできなかった

 

「・・・ンな事俺だって分かってるっつーの。アイツが戦争に連れて行かれちまえば俺達や大隊長も安全じゃなくなるって話だからな。所長の好きにやらせないためにも今は進むぞ」

 

 レビンは三人へただそれだけ告げるとフブキの後を追いフルアーマーガンダムを発進させた。彼も少なからずはフブキを救うために何かしてやりたいとは思ってはいたがそれがどれ程酷であるか、何を敵に回す事になるのかをメグミ達よりも知っていたから半ば諦め気味にならざるを得なかった。だから今はせめてフブキの存在が欠けたとしても愛里寿の平穏を守り続ける新たな戦力としてこの世界と時代を導く存在ニュータイプを、そのニュータイプであるみほを此方の手札として迎える必要があった。そのためにレビンは何が何でも今日みほを捕らえるのだと決意していたのであった

 

(・・・なぜ殺さなかったんだいマカハドマ?この僕に歯向かうつもりなのかな?)

 

「いいえ・・・申し訳ございません所長。敵陣へ潜り込んだのは今回が初めてですので戸惑いがあったようです」

 

(僕が愛里寿達を自由に踊らせてあげるのは全て君の働きに期待しているからなんだよ?君が与えられた命令通りに動けないのならば愛里寿達にも働いてもらわなければね・・・)

 

「そんな・・・!どうかそれだけは・・・お止め下さい所長・・・」

 

(フフフ・・・マスターと呼んでもらおうか。そうとも・・・僕とリンクしている以上君は勝手な行動を取ることも自由になりたいと願うことすら許されないのさ・・・わかったのならニュータイプと言われている西住しほの次女を僕のもとまで連れて帰ってくるんだ。楽しみにしているよ)

 

「はい・・・かしこまりましたマスター・リボーンズ・・・・・・」

 

 彼の気を損ねればまた頭の中を弄られるかもしれない、彼に逆らえば自分はまだしも親友から守って欲しいと託された愛里寿達にも危機が及ぶかもしれなかった。彼の呪縛から救い出してくれる救世主が現れるはずもなければ声の限り叫ぼうとも誰一人とし兵器でしかない自分へ手を差し伸べてくれる事は無い、故にフブキは頭の中に響く声の主にただ従順に従わざるを得ず現在も感知していたニュータイプの気配がある方角へ向けただ進むしかなかったのだ・・・

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 一方何の前触れもなくシュバルツ・ファングの宙域外へ向かい始めた絹代を止めるためみほとマシュマーは気を抜けば見失ってしまう程の速さで離れていこうとする彼女のマリーネライターを追い続けていた

 

「コラー!いい加減止まらんか西絹代!貴様一体全体何処へ行こうというのだ!」

 

「戻ってください西さん!西さん!」

 

(近い・・・!もうすぐそこにまで来ている・・・!)

 

 みほとマシュマーからの必死な声掛けに全く動じることなく絹代は進み続けた。既に元々いた演習地点からかなり離れてしまい点在し視界の妨げとなるデブリの量も先程の比ではなくなっていた。そしてこの時マシュマーは通信が母艦へ繋がらなくなっている事に気づきみほへ無線を送った

 

「む、これは・・・・・・西住さん!西絹代は私が一人で追います。後は私に任せ貴女は今すぐ元来た道を戻って皆のもとへ先に帰ってください!」

 

「え・・・どうしてですか?私も追い掛けます!」

 

「艦と交信が繋がらなくなり何か様子がおかしいのです。もしやすれば先日貴女を誘拐しに来た者達が今侵入して来ているのかもしれません。貴女はニュータイプなのだからいつ何時狙われて当然のはず、さぁ早く!」

 

「・・・・・・・・・違います・・・」

 

 マシュマーは当然みほに身の危機を感じてもらうため伝えたつもりだった。だが彼の注意を受けたみほほ暗く俯き小さく震えながらに声を絞り出した

 

「違います・・・・・・私は・・・私は・・・・・・」

 

「ん?どうかしたのですか西住さん?さっさと戻って・・・」

 

「私は・・・・・・私はニュータイプなんかじゃありません!」

 

 みほは感情が昂った激しい声調で言葉を返したかと思うとスラスターペダルを更に踏み込みマシュマーのザクII改を後目に絹代のマリーネライターへ向かって行った

 

「に、西住さん!?貴女まで一体どうしたと・・・だぁぁぁもう西絹代といい近頃の乙女はどうして淑女らしくお淑やかでいる事ができんのだ!」

 

 呼び掛けに応じず立ち止まる素振りを一切見せない絹代に加えてみほまでもが話を聞き入れなくなったことへ憤るのと同時にマシュマーはいよいよこのままでは3機共本当に宙域の外へ脱してしまう事に焦りを感じ何とかして彼女達を連れ戻そうと追いすがった

 その直後気づけば周辺には投棄され骸と成り果てた廃船やその残骸が無数に漂う空域へ到達した絹代。しかしその時点で意識の中を通して自分を呼んでいた何者かの気配は途絶え絹代は周辺を見渡したが辺りにはデブリが無数に広がっているだけで人らしき気配を発している物は何も無かった

 

「西さん!やっと追いついた・・・!」

 

「西住さん?ついて来ていたのですか?」

 

「は、はい・・・・・・どうして突然こんな所に来たんですか?ここは危険だから早く戻りましょうよ・・・」

 

「そういう訳には行きません。確かにこの辺りからずっと聞こえていたんです。誰かが私を探している声が・・・助けを呼んでいる様な声がずっと聞こえていたんですよ」

 

「え、・・・・・・それってどういうこと・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたぞ、ニュータイプ・・・」

 

 突如所属不明のMSが補足されたことで警戒音が鳴り響き、みほと絹代はモニターに識別された反応の方を見ると頭上の方向から此方を見下ろす5機のMS達の姿があった

 

「あ・・・!あのガンダムは・・・!」

 

 みほは5機の内の1機、大質量のバックパックが取り払われていたもののその機体が先日現れたフルアーマーガンダムである事に気づいた。そしてフルアーマーガンダムのレビンも今前方にいるのがみほの乗るプロトタイプガンダムである事を存じていたため、まさか本当にフブキが向かおうとしていた先にみほが居た事に半信半疑だったのもあり目を剥き驚愕していた

 

「嘘だろ・・・マジでいやがった!それもこんな宙域の外側によ!」

 

「凄い・・・もっと中心まで行かなきゃ駄目だと思ってたけどやるじゃないフブキ!」

 

「メグミ。おまえ私の言う事を信用していなかったのか」

 

「西絹代!西住さん!・・・・・・な、何者だ貴様らは!?さては貴様らが西住さんを狙う不届き者達だな!?」

 

 後より追いついたマシュマーのザクII改はみほと絹代の機体達の盾となるように前へ出てフブキ達に対してヒートホークを手に取って構え立ち塞がった

 

「ま、マシュマーさん!」

 

「お逃げください西住さん!ここは私が食い止めます!西絹代も早く行け!」

 

「い、いや私は・・・・・・」

 

「へぇ、そっちの方が頭数少ないのに戦おうだなんてかっこいいじゃん」

 

「はぁ、無駄な抵抗はしないで欲しかったけれど仕方ないわね。早く捕まえて退散しましょう」

 

「そこまでだ!全機今すぐ機体を停止させて投降しろ!」

 

 すると側方よりドダイを使い超スピードでみほ達を追いかけてきたガトーのドライセンが現れた。ガトーのドライセンはドダイを乗り捨てるとマニュピレーターに持つ槍のように長い得物の先端にビームトマホークを展開しフブキ達の方面へ向かって宙を穿った

 

「ガトー教官・・・、?」

 

「みほ!君達も後退するのだ!・・・断っておくがこれは本物のビームで形成されている。モビル道用のモビルスーツとはいえ直ちに降伏しなければ容赦なく叩き斬らせてもらう・・・!」

 

「ヌハハハハ!白髪のサムライ殿が来てくれたようだな!参ったか侵入者共!」

 

「・・・誰が白髪の侍だ。おまえ達が皆アロウズの手の者である事はわかっている。だが例え敵が子供とてこのアナベル・ガトー容赦せぬぞ・・・」

 

「ほぉ・・・大した兵士はいないと思っていたがそうでもないようだ。ならば楽しませてもらうか・・・」

 

 フブキはガトーのドライセンを標的に仕掛けようとした・・・・・・しかしフブキが仕掛けるよりも早くメグミ、ルミ、アズミ三人のゲルググがガトーのドライセンへ向かって行った

 

「コイツの相手は私達に任せて!貴女は西住みほを捕まえて!」

 

「何?おまえ達一体どういうつもりだ」

 

「どういうつもりも何もアンタのモビルスーツには武器になる物なんて一つも持ってないだろう?どう見てもこのオッサン格闘だけで倒せる程優しくはなさそうだし私らに任せなって!」

 

「さっきみたいに暴走されても困るからね。貴女にはレビンと残った3機を任せるわ」

 

「ぬぅ!こやつらトリモチを装備しているのか・・・!小癪な真似を!」

 

 相手がモビル道用のMSを扱う、それもパイロットが子供である以上ガトーは口にはしたものの本気で斬ろうとは断じて考えていなかったが悠長に構えていられる程メグミ達三人による連携は甘くなく、瞬く間に三人はガトーのドライセンを囲み込み彼の足止めを開始したのであった

 

「ヘッ、カッコつけんじゃねぇかアイツら。・・・俺達もさっさと済ませて援護に行くぞ」

 

「・・・ああ。雑魚の2機はおまえに任せる、ニュータイプは私がやらせてもらうぞ」

 

「クッ・・・・・・早く逃げるんだ二人共!ここは私一人で・・・!」

 

「マシュマーさん一人じゃ危険です!それに向こうの目的は私なんです・・・だから私も戦います!」

 

「何を揉めているのだ?さっさと私の相手をしてもらおうか・・・・・・ニュータイプ・・・!」

 

 フブキのナイトシーカーはバックパックからビームサーベルを抜き展開すると高々と振り上げ、そしてその切っ先を決闘相手を指名するかの様に刺し向けた・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがフブキのナイトシーカーがビームサーベルの刃を向けていたのはみほのガンダムではなく、絹代が乗るマリーネライターの方だった

 

「え・・・・・・私・・・?」

 

「・・・は?おいマカハドマ何してんだ。西住みほが乗ってるモビルスーツは隣のガンダムの方だぞ・・・?」

 

「間違いない・・・おまえだろう?私をずっと呼んでいたニュータイプはおまえなのだろう・・・?」

 

 フブキはレビンの声に耳も貸さずマリーネライターを真っ直ぐに見据えコックピット内のパイロットがニュータイプであると確かに断言しそれは冗談を言っている様子でもただ誤解している訳でも無かった

 

「・・・西住さん、マシュマーさん。お二人は逃げてください」

 

「え、何言ってるの西さん!?」

 

「馬鹿な事を抜かすな!貴様ごときがあのモビルスーツと戦えるというのか!」

 

「元々こんな事になったのは全部私がここに来たのが原因ですし・・・それに向こうのお方は私と戦うことを望んでいるようです。何を意図しているのかはわかりませんが・・・けど私自身も今ここで死力を尽くしあのモビルスーツと闘わなければならない、そう確かに感じるのです」

 

 絹代のマリーネライターはみほとマシュマーのMSよりも前へ出て、ビームサーベルを腰部より抜いて展開しナイトシーカーへ真っ向から対するように構えた

 

「西さん・・・わかりました。その代わり絶対に無理はしないでください。絶対に助けを連れて戻って来るので・・・」

 

「・・・はい!ありがとうございます西住さん!」

 

「ど、どういう事だ?私にはさっぱり何も分からんのだが・・・」

 

「行きましょうマシュマーさん!ここは西さんに任せて早く!」

 

「ええ!?私が食い止めるのでは・・・・・・な゙ぁぁぁもう近頃の乙女はどうして男よりも格好良く目立つのだ!勝てよ西絹代!」

 

 絹代の言葉に従いみほとマシュマーは現在位置から元々演習を行っていた座標へ向けて踵を返し退いて行った

 

「おいマカハドマ!ニュータイプが逃げちまったぞ!」

 

「何を分からんことを言っている?雑魚はおまえに任せると言っただろう」

 

「・・・クソッ!やっぱおまえバカハドマだよ!クソッタレが!」

 

 レビンは怒りを激発させながらも退散して行ったみほ達を追いかけに向かった

 

 単なる偶然が、刻の歯車がそうさせたのか二人きり居残った絹代とフブキ、張り詰めた緊張感が走る中両者からは今にもはち切れんばかりの闘争心が機体の外にまで溢れ滲み出されていた

 

(これだ・・・この感覚・・・この数日ずっと私の存在を呼び続け、そして私がずっと求め探し続けていた者・・・それこそがおまえなのだろう・・・?)

 

(なんだろうこの感じ・・・よくわからないけれど・・・・・・とにかく今はただ()()()には絶対に負けたくない・・・!私がずっとずっと戦いたかった相手がこの人なんだ・・・!)

 

 お互い相手が何者であるのかはわからなかった、だが不思議と何故か初めて相見える者とは思えずどこからか懐かしさが感じられその一方で宿命の好敵手へ対する様な対抗心も胸の内で燃え滾り続けていた。絶対に敗ける訳にはいかないと・・・・・・

 そして保たれていた静寂はついに破られ、互い目の前の相手へ向け一直線全速力で吶喊した絹代のマリーネライターとフブキのナイトシーカー2機のビームサーベルが切り結ばれ決闘は幕を開けた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絹代とフブキ。かつて師弟の様な、実の姉妹の様な絆で結ばれ同じ刻を過ごし分かち合った二人の決闘・・・・・・絹代にとってかつての恩師にして大好きな憧れの人へ成長した己の生き様を示すための決闘の行方は。永久凍土の如く不動にして絶望的に冷たく何人にも溶かせぬ程凍りつかされた強化人間の呪縛に磔にされたフブキを絹代は救い出すことができるのか

 

次回 ガールズ&ガンダム『灼鉄の二人』

 

 この瞬間を・・・・・・ずっと、ずっと待っていた

 

 

 

 




 読んでいただきありがとうございました

 3編構成となりとても長くなってしまい申し訳ございませんでした。次回は西さんvs超強い強化人間のフブキの回になります。正直この先更に忙しくなるため月一投稿すら怪しいやもしれませんがネタも最終回まで仕上がっているのでエタる事はないと思います。何とかモチベーションを維持しながら頑張っていけたらなと思っていますのでよろしくお願いいたします



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