僕のポケモンアカデミア (黒兎@寝ていたい。)
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改めてよろしく相棒達

 主人公が死亡~転生して一匹目のポケモンと会うまでです。
 最初は全てのポケモンを紹介しようと思っていましたが、やはり一匹ずつにしました。


ある年、中国の軽慶市で見つかった「発光する赤児」の報道以来世界各地で超常現象が報告され、世界総人口の約8割が超常能力“個性”を持つに至った超常社会。

 

だが、そんな超常社会でも『生まれ変わる』という超常現象を経験したことがある人物はおそらく俺くらいだろう。

 

今から最低でも十五年前のこと。

 当時、大学卒業間近で就職も決まっていた俺は大好きなポケモンをやりながら、実家へ帰るための夜行バスに揺られていた。

 最高に格好良くて、可愛くて、美しくて、賢くて、たくましい俺の自慢のポケモン達を手持ちに加え、最近ようやく手に入れた限定のポケモンのレベル上げをしていた最中だった。

「――がッ!?」

 頭が揺れ、酷い痛みが額を中心に全身に広がって、許容を超えた痛みに意識は切れた。

 

「・・・・・・」

 目を覚まして感じたのは、やたらと鼻にくるガソリンと鉄の匂い。

 眼は開いているハズなのに、あたりは暗い闇の中で、不自然に呼吸が重かった。

「――ここは、」

 「どこだ」と顔を振ることができない。体中から力が抜け、首を回すだけの力が俺の身体にはもう残されてなかった。それどころか、首から下の感覚が全くなくなっていた。ただ、頭はやけに冷静で、自分がのった夜行バスが転落してこんな状況にあると言うことは数分後には理解できた。 

 そして、自分の命の終わりかけていることも理解できた。

 

 勿論、否定はしたかった。

 ようやくとった内定の知らせを、今まで世話になってきた両親に自分の口から伝えたかった。地元の田舎で待っている歳下の彼女に、給料三ヶ月分の指輪を渡せるめどがついたことを伝えたかった。

 --そして、なにより。まだ、ポケモン達と一緒に遊んでいたかった。

 

 

「――ああ、そっか。もう終わりなのか」

 意味もわからずこの言葉が口から出てきた。

「・・・・・・・・・・・・でも、ポケモンと一緒に死ねるのなら。それもまた、いっか」

 そのあと二度呼吸をする前に、俺の意識は完全に途絶えた。

 

 そのはずだった。

 

 熱で朦朧とする意識の中、声が聞えた。 

『産まれてきてくれてありがとう』

 俺は抱きしめられたまま、今にも息を引き取りそうな男女の涙と笑顔を見て、再び意識を失った。

 

 あれから十五年がたった。

 あのあと、俺は成長し色々な事を知っていった。

 この世界には“個性”という超常の力があるということ。

 ポケモンというゲームが存在しないということ。

 

 俺を抱きしめていた男女がこの世界での俺の両親だったということ。

 

 そして、俺を守るために超常能力犯罪者――所謂“ヴィラン”によって殺害されたということも。

 

 俺はそれらのことをいつもこの左手を見る度に思い出す。

 俺が両親から受け継いだもの

 俺が前世から受け継いだもの

 それらが起こした化学反応の結果とも言えるだろうこの左腕は、生まれた時から俺が持つ誇りで、俺がセイギノミカタっていう小学生以下の夢を真面目に叶えようと思う原動力だった。

 

 俺の個性は幻獣召喚。

 そして、その幻獣ってのは――

 

「コウガッ!!」

「はいはい、行こうかゲッコウガ。」

 勿論、ポケモンである。

 



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今の家族と左手の六匹

 主人公の簡単なプロフィールと今の家族についてのお話し。3話目は割とすぐに投稿できそうです。

 2019/02/03に手直しをしました。誤字報告ありがとうございます。


ポケアカ登場人物紹介ファイル No.1

 

 法華 紋次朗(ほうか もんじろう)

 名前の由来はそのまま『ポケモン』(ぽけ もん+じろう)

 性別:男

 年齢:16歳 

 誕生日:2月27日

 個性:幻獣召喚

 左手首から肘の間に等間隔で六つのボールの形の痣がある。痣に触れると手の中にボールかBURSTハートを出すことができる。

 個性の特性上、死の直前の手持ちしか使うことができない。それに加え、主人公は恐ろしいほどのポケモン好きではあるもののバトルガチ勢ではないので、勝てる手持ちではない。だが、この世界ではテキストの効果が増加しているため、前世の数値以上の活躍もできなくもない。

 幻獣が活動できる範囲はほぼ無限。だが、回収及び召喚できる範囲は半径十メートル以内。しかも回収の場合は赤い光線が当らないと回収できない。それに加え、光線はボタンから出るので非常に当てづらい。だが、回収すれば幻獣は死んでいない限り即座に全快する(その分、個性使用者に疲労が蓄積される)。

 甲のくぼみは『ポケモンReBURST』のようにBURSTハートをはめることができ、紋次朗をバースト戦士にすることができる。しかも、本来のBURSTハートの設定とは異なり、手持ち全てを一時的にBURSTハートに変え、変身することができる。

 

 性格

 出生直後にヴィランによって両親を亡くし、その場にいたヒーローの養子となる。現在の両親を殺されたこともあり、直接的な原因であるヴィランとヴィランが主に用いていた個性による爆発に嫌悪感を抱いている。

 産みの両親と養父への恩返し、そしてポケモンという存在をこの世界に刻み込むためにヒーローを目指す。ポケモンが好きすぎる仏頂面の男子高校生。

 

 

 

 あの、駅前ヘドロ事件が解決した翌日のこと。

『ピピピピピピピ』

 部屋の中に機械音が鳴り響き、心地よいまどろみから現実へとたたき起こされる。

「うるさいッ!!」

 俺こと法華 紋次郎(ほうか もんじろう)の朝は、一般的な男子中学生に比べると格段に早い。

 まあ、普通の家庭だと朝飯だとか、洗濯だとかを早起きしてやってくれる母親がそもそもいないってのも俺が早起きする理由ではあるのだが。それ以上に、養父さんに家事をして欲しくないというのが俺が家事をする理由だったりする。

 ・・・・・・まあ、どうしようもなく不器用なのだ。家の養父は、卵を焼けば木炭を作り、洗濯をさせれば洗剤が入っていないなんていうことはザラなのだ。

 それに、俺の養父は非常に多忙だ。五年前に大怪我を負って以来、少しは休むことを覚えたらしいが、それでも正直ワーカーホリック気味であるため、家では嫌と言うほど休ませているのだ。

「HAHAHAHA!おはようジロー!なにか手伝えることはあるかな?」

「無いぞー、てか結構おそようなんだけど」

 なぜなら、俺の養父は日本で一番のヒーローにして、社畜。オールマイトこと八木俊典だ。

 

 

「HAHAHAHA!おはようジロー!なにか手伝えることはないかな?」

「二度聞かれても無いものはないよ」

「・・・・・・本当になにもないのかい?」

「……なにもないよ。諦めて世話されてろ」

「Oh・・・マジか。父親として情けないなァ・・・・・・」

 と言っているが、ここで俺が折れると嬉々として世話を焼いたあげく失敗するのだ。

 まったく、ヒョロヒョロの骸骨みたいになっても、まだ全盛期並に働こうとするのは家の養父の悪い癖だ。

「・・・・・・そうだ!!ジロー、キミに伝えなければならないことがあったんだ」

 すると、養父(とう)さんがいきなり立ち上がって、こっちを見た。

「ハイハイ、今火つかってるからちょっと待ってて」

「あ、ハイ」

 真剣な表情から一転して、しぼんだ風船のような表情で席に着く父親を横目に、俺はフライパンを巧みに操り、焦げ目一つ無いオムレツを空中で一回転させる。

「っと、はい朝ご飯。冷めないうちに食べろよ?」

 空中散歩から帰ってきたオムレツにトマトソースをかけ、個性を使ってテーブルの上に“テレポート”させる。

「ん?ああ、そうだね」

 一瞬で机に並んだオムレツ、焼きたてのバゲット、厚切りベーコンと野菜のスープを見て、養父(とう)さんは『いただきます』と笑顔で合掌してから、いつものようにナイフを握ってバゲットにバターを塗り始める。

 

 

「・・・・・・はっ!?つい、朝食を堪能してしまった。だが、そうじゃない!ジロー、キミに伝えることがあるんだ!」

「ん?養父(とう)さん朝はパン派だろ?何か違ったか?」

「いや、それはあってるとも、私は根っからの朝はパン派さ。ただ、そうじゃない。もっと重要でとくに今ジローに伝えなければならないことがあるんだ」

 三〇分ほどして朝食をゆっくりと食べ終わった養父(とう)さんは、食器を水につけると俺の前で服をたくし上げて、五年前の傷跡を見せる。

「五年前、私はこの傷ができたときにキミにこの個性を継いで貰いたいといったね」

「もちろん、覚えてるさ。そもそも俺が治した傷だったよな、それ」

 俺は養父(とう)さんの腹部にある抜糸痕を指さす。

 五年前のオールフォーワンとの戦いで、養父(とう)さんが受けた傷。普通に外科的治療を施したなら、呼吸器官半壊、胃袋全摘という日常生活すら、まともにできないような大怪我になるはずだった。

 ただ、その場所には俺がいた。俺は手持ちのあるポケモンの“いやしのねがい”をある手段で増幅させて、臓器の損傷などの致命傷をある程度まで回復させた。

 だが、細かい組織や付与されていた個性による影響を取り除くことができず、全快には至らなかった。結果、養父(とう)さんの活動には制限が付き、マッスルフォームを常時維持する事はできなくなった。

「ああ、私もよく覚えている。・・・・・・目が覚めたら隣のベッドで息子が寝ているという経験は、もう二度としたくないと思うくらいにはね」

 いやしのねがいは元々自分の体力を全て消費し、次のポケモンを回復させる技だ。それを人の身で使った代償はそれなりに大きかった。

「で、父さんはその一件以来、後継者を探すようになったんだろ」

「そうさ、私ももう年齢的に全盛期というわけではないということを思い知ったからね」

 “プロはいつだって命がけ”それを誰よりもわかっているからこそ、養父(とう)さんはその力を次につなげようとした。

「んで、その第一候補が俺だったんだろ。知ってるって、何回その話されたと思ってるんだよ」 

 俺は、自身の個性を真に使いこなすために、幼い頃から『目指せ二代目No.1アメリカン・ドリームプラン』を受けており、五年前の時点でも、個性を受け継ぐだけなら問題ない程度の器を持っていた。

 けれど、俺は個性を受け継ぐことを拒否した。しかも、悩むことなく即答でだ。

『――いや、俺にはもう個性があるし。むしろ無個性のヒーロー志望の子に受け継がせるべきだろ。養父(とう)さんみたいにな』

 とまあ、そう言って断ったんだが。俺にはちょっとした目標があってそれを達成するためには養父(とう)さんの個性を受け継ぐわけにはいかなかった。 

 まあ、それに受け継ぐのは俺じゃないって、ウチのエスパータイプが言っていたからね。

 

 

「だからこそ、キミに伝えるべきことなんだ」

養父(とう)さんの個性を知っている俺だからこそ知るべきこと?」

「――見つかったんだ。後継者が、私の個性を受け継ぐに値する志を持った少年がね!!」

 両腕を広げ、養父(とう)さんは俺に満面の笑みを見せる。

「・・・・・・へぇ。じゃあ、俺達もウカウカしてらんなくなったってことだ」

「ウン?」

 その笑みを見た俺は、不思議と笑っていた。今こそ、俺がヒーローになる本当の理由を言ってやろうと思った。

「そろそろ、本格的に鍛えるべきだと思ってたんだ。俺の個性やコイツらを」

 左腕の中から伝わってくる六匹の鼓動、俺と●●●●●(前世の自分)が誇る最高の六匹が此処に居ると証明したくなってくる。

「――俺が、俺の力だけで二代目平和の象徴になるために」

 それが、この世界で俺を愛してくれた人達(産みの両親と養父)への最大の親孝行になると思うから、それが俺のヒーローを目指す二つの理由の一つ。もう一つはポケモンで頂点になりたいっていう個人的な願望なので、こっちは基本的に話さないけど。

「ジ、ジロー。キミって子は・・・・・・」

 すると、案の定養父は泣き出した。

「だから明日から、祖父ちゃん家で鍛えて貰ってくる」

「――ッ!?考え直せ!!ジローが先生――違った、おじいちゃんが先生になったときの怖さを知らないから――」

 俺の鍛えて貰ってくる発言から一秒もしないうちに滝のように流れていた涙を止めた。いや、どんだけやらかしたんだよ、祖父ちゃん。

「でも、その方が強くなれるだろ、なにより俺の個性はちょっと複雑だからさ、あらかじめ事情を知ってる人の所に行った方がいいだろ」

「なら、叔父さんの所に行けばいいだろう!!彼も歴としたプロヒーローなんだ、彼から学ぶことだって多いはずさ!」

「ナイトアイ叔父さんだと、出力を上げる系統の修行ができないだろ」

「ウッ、確かに」

 俺に図星を突かれ、顔をしかめる養父(とう)さん。養父(とう)さんは別に自分の元サイドキックであるサー・ナイトアイが弱いとは思っていない。ただ、ナイトアイの戦闘スタイルと俺が求める修行が噛み合わないと言われるとそれも事実で。俺が求める修行をつけてやれるのは自分か、俺が祖父と呼び慕うもう一人の師匠だけだったしかいないということを痛感しているんだろう。

「わかった、行ってきなさい。――ただし」

「ん?」

「絶対に雄英に合格すること。そして、私を超えるヒーローになる事だ。キミの本当の両親のためにもな」

「――そんなの、わかってる」

 『そう、わかっている』とさんに告げると俺はそのままテレポートで消えた。

「・・・・・・さて、私も緑谷少年の所に行かねば」

 消えた背中と、かつて抱きしめた背中を思い出し。オールマイトは少しだけ泣いた。

 




 実はミッドナイトがお母さんという案もあったんですが、こっちの方がいいかなぁって思ったのでオールマイトが主人公のパパになりました。


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見せつけろ!雄英入学試験!酸と新種と電気エンジン!!

 一応、この世界で最初のポケモンの戦闘です。正直、ポケモンという存在を強く書きすぎたかなって言う感じはありますが。後悔はしてません(笑)




「よし、そろそろ時間だろう。行ってきんさい」 

 壁に掛けられた時計で時刻を確認した祖父(正確には養父の師匠)が、俺の背中を叩く。

「うん、十ヶ月間助かったよ。ありがとな」

 パシンと響く音は、その老いた細腕が未だに健在であると実感させられた。

「いい、いい。なにしろ、可愛い孫のためだしな」

 まあ、この十ヶ月間になんどこの細腕に意識を持って行かれたかわからないレベルなんだが。今となってはいい想い出だ。

「ま、主席合格は当然だろうが。気を抜かずにやりんさい」

 修行は厳しいくせに、評価がやたら甘いのはやはり養父さんと似ている。

「了解。じゃ、行ってくるさね」

 そんなことを思いながら、俺は東京都にある雄英までテレポートした。

「・・・・・・寂しくなるな。いっそのこと、俺も東京に行って俊典達と暮らすべきか?」

 人が一人いなくなっただけだというのに、大分部屋が広く感じたグラントリノは本格的に、弟子と孫との同居を考え始めた。

 

 

「っと、ついた。やっぱりテレポートは便利だな」

 そう言うと俺はプレシャスボールを出して、そのポケモンを休ませる。

「さてと、此処が雄英高校か、流石は国内一ってだけあるな」

『――此処が、雄英』

『ぼさっと突っ立ってんじゃねぇ!!どけ――』

「・・・・・・まあ、血気盛んなのはいいことなんじゃないか?」

 やたらと血気盛んな髪の毛が逆立っている子とか、緑の髪のすごい意思の強そうな目をしてる子がいる。それだけで、これから始まる受験が――学校生活が楽しみで仕方が無い。

「――俺は、此処から世界に俺達を刻んでみせる」

 その発言に呼応して、右手の中のボールが揺れたのはきっと気のせいじゃないと俺は思う。

 

 

 

 筆記試験は特に問題なく終わり、俺は実技試験の説明会場に来ていた。隣には、おそらく異形系の個性だろうピンク色の肌の子が座っている。横目で見た感じはかなり可愛いと思うけど、まあ、今は試験の説明を聞くことに集中しよう。なにせ、試験監督があの人だしな、マジで聞き漏らしが起こりそうで怖い。

「今日は俺のライブへようこそ!エビバディセイヘイ!」

「「「・・・・・・」」」

 ボイスヒーロー プレゼント・マイクのコールが説明会場に響く。いや、誇張表現とかじゃなくてマジにだ。ポケモンに指示を出さないといけないという個性の特性上、俺は普通の人間よりも五感が鋭く、声帯も強靱だ。だが、その反面大きすぎる音などは少し苦手なんだ。

「コールが無いとはコイツはシビィーー!!それじゃあ――」

 ジンジンと響く声に耐えながら俺は必死に説明を聞いた。

 ・・・・・・が受験概要はかなり単純で、まとめると『ロボットをひたすらたおせ』だ。わかりやすい分、回復系や情報操作系の個性の人間がまともに受かりそうにない試験内容なのはいただけない。

 受かるにせよ、受からないにせよ。今年からここの教師になる養父さんには、この試験方法を変えてもらえないか打診してもらおうかな?

「ハイ、スタート!!」

 と雄英の試験内容について考えていると、どうやら試験が始まったようで、既に周りの受験生達は賭けだしていた。

「おー行った行った」

 だが、他の受験生とは異なり、元から周りに誰かがいなくなるまで動かないつもりだった。別に舐めプをしているわけじゃない。むしろ、その逆。

圧倒的な力の差ってを見せつけるためには、十分な空間が必要不可欠だったんだ。

「よし、これなら100体くらいに分身しても余裕だな」

 一番左手首に近い痣――上が赤で、下が白のもの--に触れ、右手の中にモンスターボールを出現させ、俺はそれを空中に放った。

「来い、ゲッコウガ」

「コウガッ!!」

 するとボールは空中で開き、中から青いカエルのような忍者のようなポケモンが姿を現し、俺の目の前にひざまずく。

 彼はゲッコウガ。しのびポケモン。素早さと特殊攻撃、攻撃に秀でいる万能アタッカー兼かっこよさ担当。

「--流石は俺の手持ち一のイケポケだな!!この青い肌と言い、しなやかな足と言いいつ見ても最高--やっば、試験中だったわ」

 だから、思わずペタペタと頭をなでてしまうのは俺のせいではない。意外とじめっとした肌が触り心地が良いせいだ。

「まずはゲッコウガ“かげぶんしん”な」

「コウガッ」

 ゲッコウガは鳴き声を上げ、すぐさま忍者のように印を結んで技を使う。本来のゲームでは回避率を上げるだけの技だが、この世界では実体を持った分身を出すことができる。 

ただし、影分身とはよくいったもので、一撃でもダメージを受けると消滅してしまう。それに分身同士が邪魔にならないようにそれなりに開けた場所が必要でもある。

「よし、手当たり次第にロボットを破壊しろ。ただし、他の人達が既に戦っている奴を横から奪うのはナシだ。あと、怪我人や危なそうな人は率先して助けてやれな」

「コウガ!!」

「よし、行ってこい」

 俺の命を受けたゲッコウガはその場から消えた。すでに会場中に散らばり、ロボット達と相対しているだろう。

「じゃあ、次はコイツだ」

 左手首に一番近いゲッコウガのボールから一番遠い赤だけのプレシャスボールを取り出し、空中に放る。

「来い、ミュウ」

 ホントは何処かの美少女三姉妹のようにマイステディ!!とか言って出したいくらいに可愛いのだが、それをやるには流石に性別と年が許してくれない。

「ミュウ!ミュウミュウミュウ!!」

 虹色の光に包まれたピンク色の彼女はミュウ。しんしゅポケモン。全ての能力が一律して高く、全ての技を使うことができる規格外な幻のポケモンで、俺の手持ちのかわいさ兼裏方担当。

ちなみに、俺が手持ちに入れている二体の伝説・幻のポケモン内の一体で、“エメラルド”の時から俺と冒険をしている2番目に俺と付き合いが長いポケモンだ。

 養父さんの傷を治したのも、今まで散々使っていたテレポートもミュウの能力だ。チャームポイントは意外とふかふかなピンク色の肌だ。

「じゃあ、ミュウはサイコパワーで敵が多いところを探して、テレポートで俺を転送してくれ」

「ミュウ?」

 敵は倒さなくていいの?とでも言うようにミュウがこちらを見つめてくる。

「ああ、それはコイツに頼む。来い、エレキブル」

「ェレキブルゥ!!」

 エレキブル、らいでんポケモン。すばやさとこうげきに秀でているポケモンで、俺の手持ちの前衛担当。たくましい外見だが、すばやさに秀でていることもあり、そこまで耐久力があるわけじゃないが俺の手持ちのたくましさ担当でもある。

 あまり鳴き声を上げる方ではないエレキブルも今日は気持ちが高ぶっているのか、チリチリと放電しながら拳をぶつけ合わせていた。

「じゃあ、ミュウ早速頼む」

「ミュ!」

 エレキブルの横に立つと同時に、ミュウがテレポートで俺達ごと移動する。

「よし、周りにはだいたい六体ぐらいか。――いい場所に来たな、エレキブル“エレキフィールド”を展開してから、“ひかりのかべ”を積め」

 エレキブルの強みである物理攻撃力をエレキフィールドで上昇させ、ひかりのかべで特殊防御力を補う。

「手当たり次第に、“かみなりパンチ”だ」

 そして、膨大な電気エネルギーが込められた拳を振るわせる。耐電性の低いロボット達では一瞬でその回路が壊れるだろう。まあ、それ以前にエレキブルの力なら、一発でスクラップだろうけども。

『『『ブッ殺――』』』

 予想通りに、あたりにいたロボット達は台詞を言い切る前に爆発四散した。

「--ミュウ、次だ」

「ミュ!!」

 ミュウは意気揚々と応えると、次の場所に俺達を転移させた。

 テレポートでロボットの密集地帯に行き、かみなりパンチでロボット達を蹂躙して、またテレポート。この一連の動作を二~三回続けた頃だろうか。

「見ろ!なんだあの馬鹿でかいのは!?」

「お邪魔ギミックってやつか・・・・・・!」

「にげろー!!」

 0ポイント仮想ヴィラン、超巨大ロボットが現れた。他の受験生は飛び出すようにチリヂリに逃げ出していく。

「……デカいな。でも、これ絶対巻き込まれる奴いるだろ。――ミュウ、サイコパワーでここら辺に人間が残っている場所を探して俺を飛ば――いやその前に、ゲッコウガを呼び戻せ--アレを使う」

「――ミュ!!」

 細かくミュウに指示を出し、ゲッコウガを呼び戻している間にエレキブルをスーパーボールに入れて痣の中に戻す。

「コウガッ」

「よし、ゲッコウガ。アレをやる。――やってくれるか?」

 目の前にひざまずくゲッコウガを見つめ、意思を確認する。

「コウガッ!!」

 だが、ゲッコウガはやる気に満ちあふれた瞳でむしろ俺を見つめ返してきた。

「よし、行こうゲッコウガ――BURSTだ」

「コウガッ!!」

 俺はゲッコウガをボールに戻し、左手の甲の上で、右手の中のボールを握り混む。すると、ボールがBURSTハートへと変化し、ぴったりと窪みに収まる。

 俺の周りに水が集まり、身体の中から力が溢れてくる感覚になる。

「--いくぞ」

 俺と一体となったゲッコウガと確かなつながりを感じる。これなら、何でもできると思えるほどの力が体中を巡っていた。

「ミュウ、俺を飛ばせ。”テレポート”だ」

「ミュッ!!」

 そうして、今日何度目かのテレポートで俺は再び転移した。

 

 

(いたたた、どじっちゃったなぁ・・・・・・)

 ピンク色の肌の少女と紋次郎に呼ばれていた少女、芦戸三奈は0ポイント仮想ヴィランによる瓦礫の中で動けなくなっていた。

 芦戸は自分で倒したロボットが崩れただけなのでそこまで大怪我はしなかったが、おそらく骨に罅くらいは入っているだろうということを覚悟しながら、自分の雄英受験が終わってしまったことを悟っていた。

 なぜなら、彼女は自身の敵ポイントはおそらく合格ギリギリ。今すぐにでも、ここから抜け出して、ロボットを倒さなければ合格圏とは言いがたいだろうと考えていたからだ。

(悔しいなぁ・・・・・・、あたしもヒーローになりたかったなぁ・・・・・・」

 思わず目から涙が零れた。その時だった。

「――なら、諦めんな。そして、誰かに言ってやれ。『私が来た』ってな」

「――え?」

 そう言うと、その少年は自分を押さえつけていた瓦礫を水で吹き飛ばした。

「えっと」

「ーちょっと時間が無くてな、手短にやらせてもらう。ミュウ“いやしのはどう”。」

 あまりにもいきなりのことで呆然としていると、その少年が自分の左足――おそらく罅が入っている箇所を触ったあとに、ふよふよと浮いているピンクの生物に指示を出した。

 ミュウと呼ばれたピンクの生物が左足に触れると、その生物の手から緑色の柔らかな光が左足に放出され、数秒もすると痛みが消えていた。

「よし、治った。じゃあ、俺はあのデカブツスクラップにしてくるから、お前も試験頑張れ」

 それだけ言って、目の前の少年は姿を消した。

「え?・・・・・・っえ!?」

 この数十秒の時間の間に起きたできごとの濃さに驚いたが。少年が態々こちらに気を使って手短に処置を終わらせてくれたことを思い出し、すぐさま立ち上がりそのまま別のロボットを探しに行った。

「(一体、さっきの男の子はなんだったんだろ?そういえば、不思議な恰好をしてたし)」

 芦戸三奈は消えた少年のことを頭の隅で考えながら、残り少ないロボットを探しに行くのだった。

 

 

 0ポイントが暴れ回るビルの屋上で、俺はかげぶんしん達を囮にし、時間を稼ぎながら、0ポイントを観察していた。

 あれだけ啖呵を切っておきながら、すぐに破壊しないのは、ゲッコウガの火力ではあのデカブツを倒しきることができないかも知れないからだ。

 まあ、今すぐにゲッコウガとのBURSTを解除して、ミュウとBURSTすれば問題は無いのだが、ミュウを含む伝説のポケモンとのBURSTは一度も成功したことがないのだ。

 というより、成功するにはするが一歩も動けなくなるほど体力を消耗し、すぐに変身が強制解除されてしまう。

それに、BURSTは一度の変身だけで相当な体力を消耗するため、すぐに変身できるかと言われると微妙なのだ。

 ただ、あの養父ならこういうとき如何するかとちょっと考えてみる。

『――私が来た!!』

 ああ、絶対にそう言うだろうな。なら――

「――息子らしく、真似してみるか」

 俺は、かげぶんしんたちを全て消し、0ポイントの前に移動した。

「いくぞ――まずは、“なりきり”」

 本来なら自分の特性を相手と同じにする技だが、この世界では強くイメージした人物の能力を再現できる限り再現することができる“なりきり”

 もちろん、イメージするのは筋骨隆々のあの男。

 “ビルドアップ”を使ったわけでも無いのに、何段階もすばやさやこうげきが上がった様に感じる。

 ただ、それだけならただの猿まねだ。だから、俺はさらに技を重ねる。

 イメージするのはどんな激流だろうと逆らうような一撃。

「――“たきのぼり(SMASH)”!!」

 俺の激流を纏った拳が0ポイントを貫いた。

 

 

 あの受験の日から数ヶ月が経った。俺は、新しい制服に袖を通し、登山用の巨大なバックパックを背負って玄関に立っていた。

「さて、そろそろ行くぞ」

「ミュ!」

 バックパックから顔を出したミュウが短く鳴く、彼女もまた新たな環境が楽しみなようだ。

「あ、そうだ。くれぐれも養父さんに弁当を渡すとき以外は他の人に見られないように気をつけろよ?」

「ミュ!」

 初めての教師としての出勤に緊張したのか、1時間以上前に仕事に行った養父さんは案の定俺が作った弁当を忘れていった。全く、行き先が同じで良かった。

「――じゃ、頼むわ」

「ミュウ!」

 鳴き声が耳に届くまでの時間に視界が入れ替わる。

 無人となった部屋には一枚の紙切れと、小型の空間投影装置が置かれていた。

 空間投影装置の下に敷かれた紙切れにはサラサラとメモが走り書きされていた。

『筆記テスト 合格

 実技テスト 敵ポイント 87点 

       救助ポイント 94点

       合計     181点

            首席合格!』

 

 



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個性把握テスト……と報連相

 いつも応援ありがとうございます。ONDです。今年最後の投稿ですが、楽しんもらえれば幸いです。ただ、戦闘シーンがないので、内容的に大分地味になってしまった……。

 2019/02/03に手直しをしました。誤字報告ありがとうございます。


 プロフィール更新

 法華紋次郎

 身長 183㎝

 体重 90キロ(左腕が異様に重い)

 体脂肪率 12%

 艶のない墨色の短髪と赤い目が特徴。実は個性の影響で肉体構造が半分以上アニメポケットモンスターの人間になっており、骨密度や筋密度、脳内麻薬の量などが常人の非ではない。  

 

 左腕の痣

 手首に近い方からモンスターボール(ゲッコウガ)、スーパーボール(エレキブル)、ハイパーボール(●●●●●)、プレミアボール(●●●●●)、プレシャスボール(ミュウ)、プレシャスボール(●●●●●)

 後ろの二匹が伝説、幻のポケモンで、ハイパーボールに入っているのが色違いのポケモン。

 

 個性“幻獣召喚”

 厳密に言うと幻獣を召喚することは自由にできる個性でしかないので、今のようにアイコンタクトだけで指示を出すにはかなりの年月が必要。

 

 メガシンカ・キズナ現象(ゲッコウガのメガシンカ)について

 本作(というより作者)では、メガシンカに必要なのはトレーナーとポケモン間のキズナであり、メガストーンなどはそのキズナを補強するためのアイテムだと解釈してます。今までゲッコウガがきずなへんげを使っていないのは、そのためのキズナが足りないから、ということです。

 

 BURSTについて

 BURSTは人間とポケモンの力のかけ算なので物理攻撃力だけでも、オールマイトレベルの力が手に入りますが、変身をするたびにまとまった体力を一気に消耗し、さらに変身を持続するだけで体力がじりじりと減っていきます。そのため、BURSTの切り替えというのは基本的にできません。

 

 Z技について

 本作にはZクリスタルがないので、通常Z技はつかえません。ただ、何処かからエネルギーを供給すればつかえるかも?

 

 

 試験当日

 

 数多くのディスプレイが埋め込まれた暗い部屋の中には、多くの雄英教師――現役のヒーロー達が集まっていた。

「実技総合成績出ました」

 ディスプレイの表示が戦闘時の映像から、生徒の総合成績と順位へと変化する。

「この2位と8位は対照的ねぇ」

「2位は救助ポイントなしで77点、しかも他の受験生が後半で鈍っていく中、派手な個性で寄せつけ迎撃し続けた。タフネスの賜物だ」

「それに引き替え(ヴィラン)ポイント無し、けどあのデカブツをスクラップにしたのは久しぶりにみたよ」

 などなど、多くの受験生に対する批評が行われていた。

「まあ、そんな粒ぞろいのなかでもダントツなのが1位だけどな」

 そして、2位以下の生徒の評価がある程度終わり、ついに1位の受験生へと話が移った。

「敵ポイントは2位を若干上回り87点、救助ポイントも最高の8位を上回って94点。――正直、コイツは俺ら教員に匹敵する実力があるな」

「それになにより、あの人の秘蔵っ子だからな」

「ほぼ全てのヒーローがその存在を知りながらも、世間から隠し続けた男の子って、マジ主人公じゃねぇか」

 といいながら、その教員の額には脂汗が浮かんでいた。

 だが、この結果に焦りを抱いていたのはその教員だけでは無く、ほぼ全ての教員が万が一彼と対峙する未来を幻視し、恐怖していた。

「まあ、堀り立てでもほとんど完成してても原石は原石だからね。僕たちが見ていくことには変わらないよ」

 多くの教員が萎縮していたが、校長のその一言で生徒への批評は終わった。

 

 

「・・・・・・しっかし、こう広い割には定員が少ないんだよな」

 養父(とう)さんに弁当を届けに向かったミュウと別れ、俺は長く広い廊下を歩いていた。

 

 国立雄英高等学校。

 日本一のヒーロー育成学校と名高いこの高校のヒーロー科の倍率は、なんと三百倍。毎年多くのヒーローを目指す受験生が涙を飲む狭き門を、運良く首席で突破して俺はここに通えることになった。

「おお、ドアでか」

 裏方担当のミュウがいなかったため、少し迷ったものの。始業前十五分前には俺は一年A組にたどり着いていた。 

「おおー、バリアフリーだ!!」

 すると、後ろから陽気な女子の声が聞えた。

「だなぁ……。って、あのときの」

 なんとなく聞き覚えがあり、後ろを振り向くと、入学試験の日に助けたピンク色の肌の子がいた。

「あ!君ってもしかして、試験の時の蒼い人!?」

「あ、ああ。い、一応そうだけど」

 あまりに笑顔で話しかけてくるので、同年代の少女(しかも、見た目はかなりいい)話した経験が少ない俺は、大分どもってしまった。

「入学試験の時はありがとう!!アタシは芦戸三奈、改めてよろしく!!」

だが、明らかにコミュ障だとわかる行動をしながらも、ピンク色の少女は俺の手を両手で握りしめて満面の笑みで感謝の言葉を言ってくれた。

正直、かなり嬉しい。それに、このまま仲良くしてくれて友達とかになれたりしたらと思うと心が弾む。・・・・・・引っ越しが多くて友達らしい友達なんて作れなかったからな。

え?入学試験の時の気障ったらしい発言は如何したって?BURSTしてたからテンション可笑しかったんだよ。普段の俺はただのコミュ障だ。

「……俺は法華紋次郎だ。これからよろしく頼む、芦戸」

 俺は表情筋を全力で使って笑顔を見せる。

 おそらくこれで彼女は俺を友達だと思ってくれているはず、この調子でいけば100人とは言わずとも、今年中にクラス全員と友達になれるのではないだろうか?

 

「机に足をかけるな!雄英の先輩方や、机の制作者方に申し訳ないと思わないか!?」

「思わねーよ!てめーどこ中だよ、端役が!!」

 前言撤回。なれそうにないわ。

 だって、コミュ力の塊の芦戸さんも隣で固まってますもん。

 ・・・・・・いや、なんなんだあの二人は。とくに、あの口が悪い爆発頭は。本当にヒーロー志望か?

「ボ・・・俺は私立聡明中学出身 飯田天哉だ」

「聡明~~!?くそエリートじゃねえか、ブッ殺し甲斐がありそうだな」

「君ひどいな本当にヒーロー志望か!?」

 ナイスだ真面目眼鏡君。俺が言いたかったことをそのまま代弁してくれ。

「いやー、あの頭のすごい方。すっごい(ヴィラン)っぽいよね」

「なあ、芦戸。俺の隣であの爆発頭にターゲッティングされるような発言は控えて貰っていいか」 

 と、芦戸がぽろっと失言をしてしまったが、おおむね入学式までの時間は穏やかに進んだと思える(少なくとも俺と芦戸は)

 だが、そこに寝っ転がってる担任教師を見る感じ、なんかヤバい気がする。

「早速だが、体育服着てグラウンドに出ろ」

 いや、やっぱりかい。というかフラグ回収早いな。

 

 

「「「「個性把握・・・テストォ!?」」」」

 うおっ、耳いてっ!?てか、受験前に何ができて何ができそうかくらい、確かめてあるんじゃないか。と思っていると、相澤先生は俺達を外に出した理由を話し出した。

“ヒーローになるならそんな悠長な行事出る必要ないよ”

“雄英は“自由”な校風が売り文句、そしてそれは“は先生側”はもまた然り“

“ハンドボール投げ、立ち幅跳び、50メートル走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈。中学の頃からやってるだろ?“個性”禁止の体力テスト“

“国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けている、合理的じゃない。まぁ、文部科学省の怠慢だよ。”

 というわけだそうで、生徒全体の個性の限界を知りたいらしい。まあ、あの入試じゃとれないデータもあるだろうし、理解はできた。

 ……俺としては無事に入学を果たしたという後継者君を探したかったんだが。……まあ個性を見れば一瞬でわかるだろうし、クラス全員の個性を見れる今がいい機会か。

「爆豪、中学の時ソフトボール投げ何メートルだった」

 まあ、少なくてもこの爆発頭は違うだろう。

「・・・・・・67メートル」

「じゃあ“個性”をつかってやってみろ。円から出なきゃ、何してもいい。早よ」

「んじゃまあ、――死ねえ!!!」

 うわぁ……。もし、戦闘訓練とかで彼奴に当ったら気をつけないと不味いぞ。

 あの(ヴィラン)顔で、しかも個性が“爆破”だからな、嫌でも俺の産みの親を殺した(ヴィラン)を思い出してしまう。ていうか、過保護なアイツらなら、ついうっかりであの爆発頭を殺しかねない。

「まず、自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 とウチのモンスターにボコられた爆発頭――爆豪の姿を思い浮かべ冷や汗を浮かべていると、ボールは綺麗な星になっていた。

「705メートルってマジかよ!!」

「“個性”思いっきり使えるんだ!!さすがヒーロー科!!」

 いつのまにか隣にいる芦戸を含め、個性を抑圧されてきた他の生徒達は大分盛り上がっているが、俺としては何とも言えない。

 だって、ここは全国一と言われる高校のヒーロー科だぞ?ただ、能力を推し量るだけで終わるはずがない。

「――よし、八種目トータル最下位成績の者は、見込みなしと判断し除籍処分としよう」

 おいおい、やっぱりか。 

 

「じゃあ、次は法華だ。普通のソフトボール投げと同じ要領で、円の中から出なければ何したっていい」

 なるほど、何をしたっていいのか。なら――

「やっぱりお前が適任だろ。来いミュウ」

 右手を左手首から数えて五番目に位置する痣から、プレシャスボールを取り出し、そのまま上空に投げる。

「ミュウ!!」

 出てくるのは勿論俺の手持ちの万能手のミュウ。

「さっき帰ってきたばっかりで悪いが、もう少し頑張ってくれ」

「ミュウ!」

 まかせて!と言わんばかりに胸を張るミュウの頭をなでる。

「じゃあ、早速このソフトボールを大気圏外に“テレポート”してから投げてきてくれ」

「ミュ?ミュウ?」

「まあ、お前には簡単だろうけどな」

 それだけでいいの?と疑問符を浮かべているミュウの頭をなでてやると、ミュウは「ミュッ!!」と鳴くとすぐに姿を消した。

「・・・法華、お前何をしたんだ?」

 相澤先生は少し驚いていたが、淡々と俺が何をしたのか尋ねてきた。

「……俺の個性“幻獣召喚”で幻獣を呼び出して、その能力でちょっと宇宙までボールを投げに行ってもらってます」

「……ちなみに、その幻獣はどこまで行けるんだ?」

「位置情報があればどこへでもですね。銀河の果てとかも行けると思いますよ。……試したことはないですがね」

「………親が規格外なら子も規格外か」

 こちらに聞えない声でボソリと呟くと、俺のソフトボール投げの記録の数値が∞になった。

 ちなみにミュウのテレポートでどこまでも行けるというのは嘘だ。でも、地球上のどこへでも行けるのは事実だし、月にもテレポートできるので、完全に嘘って言うわけでも無いから問題なしだ。

 

 それから、次々と測定は続いていった。

 

 50メートル走――

 

「記録、0秒01!」

「早いとか、そう言うレベルじゃねぇ……」

「また、あのピンクの小さい幻獣だ。法華君は能力って言ってたから、あの幻獣の能力はテレポートであることに違いない、でも……」

 足に車のマフラーみたいなのがついてる真面目眼鏡君――飯田君を抜いて1位。まあ、人間の指示を聞いてから殆どラグ無しで行動できるポケモンの反応速度は人間の非じゃ無いからね、ましてや幻のポケモンであるミュウだから、あらかじめ何をやるか指示していればこれくらいの結果はヨユーだ。

 

 立ち幅跳び――

 

「記録、∞」

「てか、浮いてね?」

「ああ、浮いてるな」

 サイコキネシスで浮遊できるので当然結果は∞。

 

 握力――

 

「ここで選手交代だ。戻れミュウ」

「ミュ~」

 痣からボールを出してミュウに向けると、ミュウは不満そうにこちらを見てくる。本人としてはまだ頑張りたいのだろうが、他のポケモンも活躍させないと他のポケモン達の不満がたまるからな。

「今日はもう充分頑張っただろ。だから、休んでてくれ」

「…ゥミュウ」

 優しく頭をなでてボールに入ってもらい、プレシャスボールを痣にしまう。

「さて、力仕事はお前の出番だ。こい、エレキブル」

「レキブルッ!」

 スーパーボールを開き、中から雷鳴と共に2m近い巨体が現れる。

「さてと、じゃあエレキブル、これを握りしめて“かいりき”を使え」

「!!レキブッ」

 エレキブルに握力計を投げ渡し、指示を出すとエレキブルは軽く放電しながら技を発揮する。

 すると「バキッ」という音と共に、握力計が砕けた。

「記録、測定不能」

 正直、測定不可で落とされるかと思ったけどまあ良し。

 

 反復横跳び――

 

「“かげぶんしん”と“でんこうせっか”だ」

「レキブルッ」

「す、すげぇ。早すぎて残像が見える!!」

 勿論記録は測定不能。残像を出す技なので、これも測定不可になるかと思っていたが、まあ良し。

 

 上体起こし――

 

「1,2,3,4,……」

「普通だ」

「普通ね」

 エレキブルを人間に支えさせるのは無理があるので、普通にやった。それでも72回は好成績だと思う。

 ……BURSTするには肉体の鍛錬が必要不可欠だからね。ちなみに、地味に3位。

 

 長座体前屈――

 

「記録、308㎝」

「……アレ、ありか?」

「一応、個性は使ってるけどな」

 エレキブルの両腕を伸ばしたまま、うつぶせに寝かせて距離を稼いだ。アウトっぽかったがセーフだった。因みにこれは二位だったりする。

 

 

 持久走――

 

「ハァハァ・・・・・・法華は素でも・・・ハァハァ・・・バケモノかよ」

「・・・バイクで走ってる八百万や、個性があってる飯田は兎も角・・・・・・ハァハァ・・・なんで、三周差もつけられるんだよ・・・ハァハァ」

 鍛えないと身体が内側からパァンするからだよ。ちなみに、こちらも上体起こしと同じで三位。

 

 って感じで個性把握テストは終了した。

 と言いたかったんだが、ちょっと問題が起きた。

 それは、緑の髪のすごい意思の強そうな目男の子――緑谷君が個性を使った場面だ。

 結果は確か700メートル後半。だが、それは別に問題じゃない。問題なのは、その個性と彼の幼馴染みである爆発頭の発言だ。

 緑谷君は指の骨を粉々にしながら使った個性は、指先だけでソフトボールを800メートル近くまで投げる超パワーという規格外なものだった。

 だが、あの爆発頭は緑谷君が個性を使う前に確かに言ったのだ。

 『無個性のクズ』と。

 

 そこまで情報が得られれば、もう簡単だ。

 ――緑谷君はOFAの後継者だ。確信がある。

 だからこそ、怒り狂って突進した爆発頭なんかにうっかり殺されたらたまったもんじゃない。

「コラァ!!――オぼぼぼぼっ」

「――だから、ちょっと落ち着けよ」

 俺の右手から飛び出た影はそのまま爆発頭の眼前に移動し、みずのはどうを用いて爆発頭を水の檻の中に拘束した。

 未だ俺達の絆は“きずなへんげ”が使えるレベルには至ってないが、俺はゲッコウガを含む全ての手持ちとある程度のことなら言葉を交わさずに指示を出せる。

「ただ、力加減を間違うのが悪い癖なんだよな。もう大丈夫だゲッコウガ、みずのはどうを解除してくれ」

「コウガッ」

 酸欠で意識を失った爆発頭がべしゃっと力なく地面に落ちる。だが、これをどうするか

「・・・・・・少々手荒だが助かった。が、どうするか」

「一応強引になら起こせますが」

「外傷もなさそうだし、それでいい。やってくれ」

「じゃあ、――ミュウ、“めざましビンタ”」

「ミュッ!!」

 爆発頭の処理に困っていると思わぬ所から助け船が出たので、そのまま強引に目を覚まさせた。

 眠っている相手に大ダメージを与える技だが大丈夫かって?タイプ一致じゃないから問題ないはずだ。

 

 

 と他にも相澤先生の合理的虚偽に驚かされたりなど色々と濃い一時間を過ごし、ぞろぞろとみんな教室に戻ろうとしていた。

 だが、俺はある人物を探していた。

「っといたいた。緑谷君、ちょっといいか」

「どうしたの、法華君?」

「いや、きっと緑谷君って保健室行ったことないだろ。俺が案内してやるよ」

「え?いいの?・・・・・・えっとでも、」

「案ずるな、俺はズルができるからな」

 先ほどからマフラーのように巻き付いているピンク色を指さすと緑谷君は納得したように頷いた。

 

「それにしても、すごい個性だよね。テレポートだったり、サイコキネシスだったり」

 ミュウの道案内で保健室まで向かう途中、緑谷君がミュウを見つめてそう言った。

「まあ、使いこなせればの話だけどな・・・・・・」

「えっとどういうこと?」

「俺の個性は“幻獣召喚”。・・・・・・別に召喚した幻獣を自由自在に操れる個性じゃない。意思疎通も必要だし、奥の手を使うには阿呆みたいに鍛えないと身体が内側からはじけ飛ぶ。恐ろしいだろ」

「なるほど、そんな欠点があるんだ」

怪我をしていない左手で顎を押えて頷いているのを見ると、彼の疑問を少しは解消できたらしい。

「まあ、扱いずらいって言ったら緑谷君のOFAもだろうけども」

「うん、まあそうなんだけ……ッ!?」

柔和な表情で頷こうとした瞬間、緑谷君は俺から距離をとった。まあ、そりゃそうだよな。養父さんの個性の名前を知っているのは、ごく一部の味方と――

「……法華君、君は何者なの?」

 ――敵しかいないからな。

 本当に失敗した、て言うか緑谷君も俺のことを知らないのね。把握。

「……まあ、簡潔に言うとだな」

 なんとも締まらない俺とは異なり、緑谷君は緊張した表情で俺の一挙一動を見ている。

 いや、そりゃそうだよな。俺がもしヴィランなら平和の象徴の秘密を知っている幹部クラスってことだし、さっきの診断テストの結果から実力差がどれだけあるか想像つくだろう

しな。

「元候補者なんだよ」

「え?」

「だから、俺は元OFAの候補者なんさね」

「え?えええええええええええええええええええええ!?!?!?」

 

「えっとつまり、法華君はオールマイトと個人的に関係があって、五年前の事件の時に真っ先に候補者になったけど、受け取りを拒否したってこと?」

「まあ、そういうことだ。一応このことはオフレコで頼む。…ああ、もちろんオールマイトには言っても大丈夫だけどな」

 俺がオールマイトの養子だとは言えないので、大分誤魔化したが、なんとか信じてくれた。ホント、ウチの平和の象徴が前もって説明していればこんなにめんどくさくならなかったんだけどなぁ……。

 

 

 



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個性とポケモン~対人戦闘訓練(前編)

 あけましておめでとうございます。ONDです。

 今年もポケアカをよろしくお願いします!!
 
 2019/02/03に手直しをしました。誤字報告ありがとうございます。


 法華紋次郎

 性格 基本的にはコミュ障だが、一度打ち解けると会話が弾む。あと、戦闘時やポケモンがいるときはテンションが高い。

 

 

「法華の個性把握テストの結果です。……一体、どんな教育をしたらあんなバケモノみたいになるんですか?」

 相澤君がジローのテスト結果が書かれた紙を見せながら聞いてくる。

 彼はジローが私の養子だと知っているからこそ、そう聞いているのだろう。実はジローの存在は殆どのヒーローが知っている。むしろ、今のプロヒーローの中でジローの存在を知らないヒーローはいないはずだ。

 なぜなら、今の世代のプロヒーローはプロヒーローとして活動をすることが許されたら真っ先にジローの存在を知らされ、同日中に書類と個性によって口封じがされるからだ。

 しかも、口封じを行うのはただの勢力じゃない。

 この国の政府だ。

 まあ、ジローの存在が明るみに出れば、肉親や恋人を持たない私にとってかなり有効な人質になる。

 そして、万が一にも私が凶刃のもと倒れでもしたら、日本の超人社会は崩壊する。

 だから、ジローを引き取ると決めた当初は、ナイトアイや先生にやめろと何度も言われた。

 でも、ジローを抱いた途端に二人は感極まって泣いちゃって、そのまま政府に掛け合ったんだから、子供の力って言うのは凄まじいね。

「うーん、むしろ特別なのはジローの方なんだけどね」

「と言いますと?」

「ジローはね、5歳の頃から休まずに私が作ったプラン通りにトレーニングを続けているんだ」

「まあ、養父が平和の象徴ですからね。ヒーローを目指して特訓するのはおかしくないでしょう」

「……まあ、そうかも知れないけどね。……物心ついたばかりの子供が、テレビもゲームにも興味を出さないで、身体を鍛え続けるのは流石に普通じゃないだろ?」

「――それは、」

 相澤君の言葉が詰まる。きっと、彼もジローの精神の早熟さに驚いているんだろう。

「…何度友達と別れることになっても、一度も授業参観にでれなくても、私が父親であるせいで誘拐されかけたときも、ジローは私に恨み言一つ言わなかった。……むしろ、私を安心させるためにジローは必死に身体を鍛え、個性を伸ばして力をつけ続けてきた。遊びや趣味に没頭する心の余裕を私は与えてやれなかった」

 平和の象徴だなんだと言われた私だが、父親としてジローに選択する機会を与えてやることができなかった。

「じゃあ、オールマイトは、法華にヒーローになってほしくないんですか?」

「そんなことはないよ。ジローがヒーローを目指すというのは、すごく嬉しいさ。でも、私がもし平和の象徴じゃなかったら、ジローは他の選択をすることができたんじゃないか、って考えると私の父親としての力不足を痛感するよ」

「状況が法華にヒーローを目指させてしまった、と」

「そういうこと。だから、相澤君。私の息子をよろしく頼むよ」

「わかりました。しかし貴方の息子が生徒だなんて私も肩の荷が重いですよ」

「ハハハ!まあ肉体的にはかなり頑丈だから、気張らずにむしろ他の子達より無茶させても大丈夫さ!!」

 謝る相澤君に対して、大きな声で周りの教師達にも聞えるように、ジローへの思いを伝える。

「了解です。じゃあ、今日の授業は頼みましたよ」

 そう言ってHRに向かう相澤君。

 ……ジローのことだから友達もまだできて無いんだろうけど、今日の合同訓練で一人ぐらい友達ができればいいな。

 っといかんいかん。初教師として、そして父親としてジローや緑谷少年にカッコ悪いところは見せられないな。……やはり、カンペは暗記した方がいいだろうか。

 

 

 

 

 個性把握テストをポケ力本願で一位になったり、緑谷君がOFAの後継者だっていうのを知ったりと色々あったが、俺の高校生活はだいたい無事にスタートした。

「ミュ!!」

「うん?」

 後ろから人が近づいてきたらしく、首に巻き付いていたミュウが浮き上がる。俺もミュウに合わせて後ろを振り向く。

「おはよー!!法華、ミュウちゃん!」

 後ろから来たのは芦戸だった。なぜだか芦戸を気に入っているらしいミュウは芦戸に身体をすりつけるように飛んでいた。

「ミュウ~!」

「お、おはよう芦戸。朝からテンション高いな」

 ……俺のポケモン達は基本的に人見知りをするのに、二回しか会ってない芦戸にここまで懐くのは正直予想外だ。

「そうでもないよー?あ、それより、なんで昨日は先に帰っちゃったのさ!!いろいろ話そうと思ってたのにー」

 いや、このコミュ力を考えればミュウも懐くか。

「あー、色々あってな。此処はミュウを撫でさせてやるから許してくれ」

「う~ん、まあ今回はミュウちゃんに免じて許す。にしても、やっぱミュウちゃん可愛い~、サラサラ~」

「ミュウミュウ~」

「だろ、ミュウはウチのポケモンの中でもかなりのきれい好きで、自分磨きに余念が無いからな。毎日三十分はトリートメントをしてるんだ」

 ちなみに、ウチのミュウは本人の主張によりメスだと判明している。だからと言うわけじゃないが、彼女は非常に風呂が好きだし、自分の身体の手入れに余念が無い。

「ミュウちゃんやゲッコウガを見てて思ってたけど、やっぱり個性がちゃんとあるんだ。あ、性格って意味だよ」

 ミュウの頭を撫でながら、芦戸は納得した表情で頷いていた。

「まあなー、一匹一匹個性が濃いから結構苦労するんだ」

「例えば?」

「そうだな。――あ、例えばエレキブルは、すっごいストイックでさ、特訓だっていって雷が落ちるときはいつも外に行って、わざと落雷を受けて蓄電量を増やそうとしてるんだよ」

「えっ!?」

 そんな俺の自慢のポケモン達の話をしながら俺達は教室まで向かった。

 

 

「お、緑谷君おはよう」

 教室に入ると、緑谷君らしいモジャモジャ頭が目に入ったので、近づいて挨拶をしてみた。

「あ、法華君、芦戸さん。おはよう!」

「おはよう!法華君!芦戸さん!」

「おはよー、法華君、芦戸さんー!」

 なんと、緑谷君は俺と同族だと思っていたのに、もう話をする友達を三人作れるほどのコミュ力があったらしい。……凄まじいな、流石は平和の象徴の後継者。

 ぐぬぬ、俺にもコミュ力があれば……

 

 と俺が授業中も自らのコミュ力を高めるために試行錯誤していると、時間はドンドン過ぎていき――

 

「わーたーしーがーー!!!!」

 

「普通にドアから来た!!

 養父(とお)さんの授業が始まった。いや、ドア以外にどこから来るんだよ?

「すごい!!シルバーエイジ時代のコスチュームだ!!」

 いや、緑谷君。感動してるところ悪いけど、それ見た目は全く同じだけで別もんだから。本当のシルバーエイジ時代のコスチュームは今頃コスチューム会社で、醤油の染み抜き

しているから。

「あー、ゴホン!授業を始めてもいいかな?」

 養父(とお)さんがわざとらしく咳払いをする。まあ、周りのみんなからすれば平和の象徴であるオールマイトは憧れだからな。仕事帰りに祖父ちゃんとナイトアイおじさんと一緒に行った外食でテンション上げすぎて、大事なコスチュームに醤油零した人と同一人物だなんて知らないもんな。

「ん~~っ、ババン!!!と言うわけで今回は早速コレ!戦闘訓練だ!!」

 養父(とお)さんが“BATTLE”と書かれた札を教卓に出して、説明を始めた。

 まあ、内容は先週末から相談されて知ってるので、話半分に聞いてれば問題ないだろう。

「んんん~~~聖徳太子ィィ!!」

 ……まあ、教職課程を受けてないド素人だし、テンパるのは仕方ないとは思う。ただ、教員採用試験に現役合格した身としては、教育法とか模擬授業とかの練習をした方が良かったんじゃないかね。

と養父の最初の授業は中々に散々だったのだが。

「―――来いよ、有精卵ども!」

 最後のエールだけは、平和の象徴としての凄みが感じられた。

 

 

 

 

 その後は特に騒ぎもなく、被服控除で申請されたコスチュームを受け取り、着替えてから演習場へと集合した。

「あ、来た来た。法華―!ってえええええ!?」

「お、法華も来たかーって完全にアレじゃねえか!?」

 俺に気がついた芦戸や数名の生徒は俺の今の姿に大分驚いていた。

 まあ、そりゃあそうだよ。明らかにオカシイからな、俺のコスチューム。黒いスラックスと白いワイシャツに黒のベスト、臙脂色のネクタイにモンスターボールが彫られたネクタイピン。そして、肩に黒いジャケットを羽織り。最後に黒の中折れのハットを少し傾けて頭にのせる。

 そう、その姿は正しく――マフィアのドンだった。

「…えっと、すごいヴィランっぽいけど似合ってるよ!!」

 着ている俺ですら、アカンと思っているのに、芦戸は一周回って俺を気遣ってくれた。ううっ、ええ子や。……でも、コレ。一応、申請通りなんです。

「……まあ、“防弾、防刃、耐電、耐熱、耐冷で黒め”としか申請しなかった俺が悪いんだ」

「で、でも別に大丈夫だよ!ほら、法華は変身ができるんだから!」

「まあ、そうなんだけどね。俺もBURST前提でこのコスチュームにしたんですけどね……」

 俺は溢れそうな涙を必死に押えて、このヒーローらしからぬコスチュームを出してきた、コスチューム会社へのクレームの内容を考えていた。

「なにも無いにしても、瀬呂路線の方が良かったんだけどなぁ……」

 

 

 

 

「みんな揃ったね、じゃあ始めようか――」

 先ほどのコスチューム事件から傷心した養子(むすこ)をスルーし、養父(とお)さんはカンペを見ながら対人戦闘訓練の詳細を説明していく。

 まず、ヴィラン側の勝利条件は、制限時間の間核爆弾を守り通すか、ヒーロー全員に確保テープを巻き付けること。

 次に、ヒーロー側の勝利条件は、制限時間内に核爆弾を確保するか、ヴィラン全員に確保テープを巻き付けること。

 ずいぶんと単純な内容だが、初回の授業でしかも何ができるかもわからない相手タッグを組むという状況も踏まえてあるんだろう。まあ、養父(とお)さんにしては頑張った方だと思う(ナイトアイおじさんに相談とかしてたのは知っているけども)。

 カンペがあるのがちょっと残念だが、殆ど失敗らしい失敗をしていない養父(とお)さんを見て安堵していたのがいけなかった。

 俺は、もっと目の前の脳内アメリカン野郎に警戒しておくべきだったのだ。なぜなら、奴は身近な人間になればなるほど――容赦をしないのだから。

「……あのー、俺だけ余ったままなんですけど?」

 他のみんなが、和気藹々とタッグ間で自己紹介をしている中。俺はおそるおそる手を上げる。

 すると、恐る恐る上げられた俺の手を見て、養父(とお)さんはニヤリと笑った。

 不味い、手を上げるのは早まったか。

「大丈夫、勿論法華少年のことも考えてある!!みんなにも関係あることだからよく聞いて欲しい!」

 キラリと白い歯を見せつけ、養父(とお)さんはそう言った。

「今年度の入試トップの法華少年には、一回ごとに選ばれるMVP全員を相手にして貰う――つまり、五対一だ!!」

 ……よし、今日の養父の夕飯は梅干しのみにしよう。

 養父の無茶ぶりを聞きながら、俺はただただ無意識に報復の内容を考えていた。

「すいません!発言宜しいでしょうか!!」

 ビシッと空気が切れる音を出す勢いで飯田君が手を上げる。

「ん!なんだい飯田少年!!」

「見るからに法華君が不利な条件ですが、どのような意図があってのことなのでしょうか!!」

 ピンと伸びた手をそのままに、飯田君は真面目に俺の不利な条件について何らかの意図が存在するのか聞いていた。

 ……いや、存在しないだろ。授業内容はあらかじめ聞いてたけど、俺が五対一なんて無茶なことやらされるなんて聞いてないし。

 そういえば、ナイトアイおじさんとも相談してたよな。……もしかしてこの五対一って、ナイトアイおじさんの入れ知恵か?

 だったら、なんか意味があるハズだよな。

 いくら、あのおじさんが俺のことを心配しすぎて、小学校中学年まで毎日俺の一日を未来予知していた半ストーカーだとしても、だ。

「ああ、もちろん!!その理由は二つだ!!」

 そう言うと、養父(とう)さんは今まで開いていたカンペをポケットに戻し、別のポケットからスマホを取り出した。

 どんだけ長い文章なんだよ。

「まず、五対一という状況はどちらにも難しい状況だからさ!!特に、五人という人数は奇数だからチームを分けるのにも苦労するし、分け方も三組にするか二組にするかで、かなりチームの方針が変わるからね!!短時間で指揮系統を確立させて、なおかつどういう方針で動くかというのを決定するしなければならない状況というのは、君たちがヒーローになったときに必ず直面する状況だ!!!」

 なるほど、確かにスリーマンセルやフォーマンセルっていうのはよく聞くし、人間がい一度に把握できる人間の数は三~四人っていうのも聞いたことあるけど。五人は中々聞かない。

 それに、五人一組は戦隊ものとかでよく使われるけど、アレは分かれないことが前提だからな。

「なるほど、チームでの効率的な運用のための訓練というわけですね!!では、もう一方の理由はなんなのでしょうか!!」

「ああ、それは……ナイショだ!!」

「「「「「はあああああああああああああああああ!?」」」」」

 たっぷりと一呼吸以上の間を開けたというのに、養父(とお)さんは二つ目の理由を話さなかった。

「HAHAHA!!!いやー悪い!二つ目の理由を話すのには法華少年がいたら意味が無いんだ!!だから今は話すことが出来ないんだ!!」

 どうやらカンペを見ている途中で注意書きでもしてあったんだろう。養父(とお)さんは申し訳なさそうに飯田君を含む生徒達に謝っていた。

 まあ、ナイトアイおじさんなら、養父(とお)さんの抜け具合をよく知っているから、手を回すはずというのは理解していたが……。

「「「「……」」」」

 無言の視線が辛い。だが、俺こそなんで俺がいたら二つ目の理由が話せないのか知りたいくらいなんだ。その視線はやめてくれ。

「他に質問はないかな?――よし、じゃあ第一回戦はヒーローチーム緑谷&麗日VSヴィランチーム飯田&爆豪だ!!!」

 まあ、無茶ぶりをされるのはわかっているんだ。考えたって意味は無い。

 俺はそう割り切って、緑谷君の対人戦闘訓練を見る事にした。

 頑張ってくれよ、次期平和の象徴。

 

 

 

 

「――よし、ではみんなに二つ目の理由を話そう!!」

 インカムから法華君がビルに到着したという連絡を受けたのだろう。オールマイトは、先ほど話さなかった二つ目の理由を僕たちに話し始めた。

「二つ目の理由は、君たちに一度伸びきった鼻を折って貰おうと思ったからだ!!」

 皆は困惑した表情でオールマイトを見つめた。

 けれど、僕はその二つ目の理由を聞いたとき、ふと昨日の放課後に法華君から明かされた秘密を思い出した。 

「君たちは倍率三百倍の雄英入学試験を突破したいわばエリートだ。だが、ヒーローとは挫折の末になるもの。成功だけを積み上げたヒーローなんていない。かくいう私も学生時代はよく気絶したり、血反吐をだしたりしたものさ!!」

 学生時代の所から、段々とオールマイトの顔が青くなる。そんなに厳しい先生がいたのだろうか。ただ、ここまで聞いて僕はオールマイトが僕たちに何をさせたいのか、そして――

「だからこそ、君たちにはこの雄英にいる間に多くの挫折を経験して欲しい。そして、その一発目が法華少年との戦闘ってわけだ!!」

法華君と僕たち――いや、僕の間にある差というものを見せたかったんだ。元無個性と産まれながらの個性持ちにある力の差、そして僕が乗り越えていかなきゃならない壁を!!

 

 

 

 

「じゃあMVPに選ばれた飯田少年、轟少年、瀬呂少年、常闇少年、耳郎少女のヒーローチームVSヴィランチーム法華少年――戦闘開始!!!」

 インカムから流れる叫び声を聞きながら、俺は四階でヒーロー達を待ち構えていた。

 さて、俺の勝利条件と敗北条件、そして俺が背負っているハンデについて確認していこう。

 俺の勝利条件は制限時間いっぱい核爆弾を守り切ることと、五人全員に確保テープを巻くこと。敗北条件は制限時間内に五人全員が核爆弾に触れることと、五人全員に確保テープを巻かれること。

 まあ、五人全員っていう縛りがあるのは人数的な不利と、俺に課せられたハンデのせいだろう。

 なにせ、俺このビルの中にいる間は一言もしゃべれないんだわ。つまり、手持ちのポケモン出しても指示できないし、途中でBURSTなんてできないし、色々と準備もしなきゃならんから、もうすでにBURSTしてるしな。

 まあ、持久戦に備えて“にほんばれ”はしてあるし、回復のために天井は“ソーラービーム”でぶち抜いた。“グラスフィールド”も展開済みだし、罠も仕込んだ。

 さて、一体どんな結果になるのやら。

 

 

 




 前後編と分けたので、今回は戦闘描写無しです。
 それと、最後に四匹目の手持ちがどんな存在か少し出て来てますが、次回登場予定です。 殆どノーヒントですけど、皆さんわかりますかね?ヒントは今まで出てきたポケモンとはタイプが違うってことと伝ポケじゃないってことくらいですかね。あと、なにげに厳選した色違い(ハイパーボール枠)だったりします。




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個性とポケモン~対人戦闘訓練(後編)

 ハーメルンで投稿しているもう一つの方でやらかしたのと、成人式などイベントが重なって多忙になり遅れてしまいました。
 できれば、次の話は来週までに出したいです。
 ちなみに、今回は轟君sideからのスタートです。

2019/02/03に手直しをしました。誤字報告ありがとうございます。



轟side

「よし、作戦を確認しよう」

 飯田がそう言うと、俺を含む四人がそれぞれ頷いた。なにせ、相手はNo.1ヒーロー・オールマイトにああまで言わせる法華だ。一欠片の油断すら命取りだと皆認識しているんだろう。

「まず、轟君の個性でビルごと冷却。その後に耳朗さんの個性で法華君の居場所を探知し、一人ずつ部屋に突入する。突入後は轟君と常闇君がブラインド役で法華君の視界を遮るように攻撃、他の三人が死角から奇襲。あわよくば、視界が限定されている間に核を触ってカウントを稼いで核を奪取する。……問題ないだろうか?」

 俺達の勝利条件だと、あいつを気絶させるか五人全員が核爆弾に触れる必要がある。それも踏まえた作戦。殆ど穴はないはずだ。

 無いはずだ……。

 

 そうして、始まった演習だったが。意外にも、先手を打ってきたのは法華だった。

『ナンデダ?力ガ出ネェ……』

 おそらく、法華の幻獣召喚で呼び出された幻獣の個性の影響だと思うんだが。常闇の黒影が日光を浴びると急に弱体化した。

「どーなってんだよ常闇」

 瀬呂は黒影の急な変化に驚き、常闇に問いかけるが。

「……なぜだ?……いや、そんなことが?……」

 肝心の常闇は顎に手を当てて、考え込んでいた。

「――ああ、スマン。原因がわからないわけじゃない」

「なんだよ。で、一体お前の黒影はどうしたんだ?」

 瀬呂は未だに力が抜けている黒影を見て不安そうな表情で、常闇に尋ねた。

「おそらく、弱体化させられたんだろう」

 常闇はそう言うと、黒影の性質について話し出した。

「そもそも、黒影は闇が深ければ力を増し、光があれば安定するという特性を持っている。だが、闇が深くなれば獰猛性が増し、安定しない。また、強すぎる光も弱点だ。光が強ければ、黒影は弱体化していく」

 常闇は唐突に空を指さす。

「皆も薄々感づいているだろうが、日の入りが迫っているのに、先ほどよりも日差しが強くなっているだろう?」

 そういえば、もう十五時を回っているのにさっき戦ったときよりも日差しが強くなっている。……明らかにおかしい。

「……信じられないと思うが。おそらく、コレは法華の妨害だろう。……彼奴は俺の黒影の弱点を見抜き、何らかの方法で日光を強くしている」

「な」

「冗談でしょ」

「マジか」

 飯田、耳郎、瀬呂が驚きのあまり、言葉を漏らす。 

 格が、違いすぎる。昨日の個性把握テストで見た黄色やピンクの幻獣も規格外の能力、パワーを持っていたというのに、法華は天候にすら干渉できる。

 だが、それは法華の力のほんの一端だった。

 

 

「……凍らねぇ」

 ビルに触れて、丸ごと凍らせようと個性を使ったはずだった。

 だが、ビルは四分の一ほど凍結しただけで、さっきのように完全に凍らせることができなくなっている。……おそらく、無理をしたとしてもこのビルを完全に凍らせるのは無理だ。

「……法華君の幻獣は個性阻害の能力もあるのか!?」

 飯田は大分驚いていたが、多分そうじゃない。

「……違う、ウチの個性は使えてるから。きっと、凍結系の個性の阻害だと思う」

「――糞っ」

 思わず俺は悪態をつく、右側だけを使ってヒーローになると決めたときから、俺の弱点の存在を考えなかったわけじゃない。ただ、炎や熱で対抗するんじゃなく、凍結阻害なんてピンポイントな個性は流石に考えてなかった。

「……仕方ないが、凍結は諦めよう。耳郎さん、法華君の居場所は割り出せたか?」

「ゴメン、四階にいることはわかるんだけど。……四階の部屋全てから全く同じ音がする」

 どうやら耳郎も法華の個性で探索を妨害されたらしい、申し訳なさそうな表情をしている。

「音での探知も阻害か、なんていう個性だ」

『理不尽ダナ!!』

 黒影と常闇は法華の手腕に驚嘆していた。だが、敵として法華は厄介すぎる。個性の阻害、多彩な手札、そして圧倒的な出力。おそらく、個人であいつに勝つのは相当難しいはずだ。

「だが、四階にいるのはわかっているんだ。そこから虱潰しに探していけばいい」

 しかし、それでも飯田は指揮官らしく、耳郎を含む俺達全員を鼓舞した。

 

 だが、四階に着いた。その瞬間だった。

「お、やっときたな。――と言ってもお前らはすでにゲームオーバーなんだけどな」

 突然、頭に声が響いた――

 ――その瞬間、俺達は動けなくなっていた。

 

 

 法華 side

 

 俺はツタを操って作った即席の椅子に腰をかけて、敵であるヒーロー達の到着を待っていた。

「(まあ、準備が終わったのはついさっきなんだけどな)」

 まず、天井と壁をぶち抜いた俺がやり始めたのは核爆弾の保護だ。

 第一に俺は核爆弾の周囲に“やどりぎのタネ”をばらまく。

 次は栄養補給をしなければならないんだが、“にほんばれ”を解除して“あまごい”をすると轟君の凍結の威力が元に戻るだろうし、常闇君の黒影の弱点が強い光だった場合も考えると“にほんばれ”は解けない。

「(……なら)」

 手元に生命のエネルギーを集めて“エナジーボール”を作り出す。ただ、これだけならただの特殊攻撃だ。

 だが、“エナジーボール”にはある逸話がある。

 それは、アニメポケモンでサトシのハヤシガメが“エナジーボール”を吸収して一時的なパワーアップをしたという話だ。

 つまり、“エナジーボール”はただの攻撃技として放つのではなく、ただの草タイプエネルギーとして打ち出せるのなら。そう考え、俺はある草タイプのポケモンとBURSTし、“エネジーボール”を威力〇、高エネルギーというかんじに割り振って“やどりぎのタネ”に打ち込む。

 すると、“やどりぎのタネ”は恐ろしい速度で育っていき、核爆弾にまとわりつく。

 これで、轟君が炎を使わない限り、俺が核爆弾に触れられて負けるという可能性は0になった。

 だが、俺は君轟が核爆弾に触れるために炎を使うとは思っていなかった。

 轟君には、きっと何か抱えているものがある。

けれど、俺達は人の命を背負う立場の人間だ。出せるものを出さずに勝とうなんて、――甘すぎる。

「(まあ、炎を使ったら速攻で“あまごい”を使えば問題ないんだけどな)」

 だが、俺は元々この対人戦闘訓練で相手に何かさせる気は無かった。

 

 だからこそ、初手で“しびれごな”。

 流石にゲームとことなり確実というわけじゃないが、呼吸で吸い込めば100%。素肌に触れれば9割弱と、かなりの確率で相手をしびれさせ動きを制限できる。

「(――呆気ないもんだな)」

 俺の両手の薔薇から放たれた、“しびれごな”を避けられなかった五人は、ものの見事にしびれて動けなくなる。……はずだった。

「ダ、黒影(ダークシャドウ)ッ!」

 常闇君の|黒影(ダークシャドウ)が俺をめがけて突っ込んできた。

「(なるほど、俺と同じタイプの個性。……なら、なんで効かないんだ?まっとうな生命体なら、確実に痺れるはずなんだが?)」

 “しびれごな”は肌と肺から体内に取り込まれ、その生物を痺れさせる。つまり、生物であるなら、“しびれごな”を耐えられる存在は居ないはずなのだ。

「(ってことは、あの黒影(ダークシャドウ)はエネルギーの塊か、幽霊のどっちかか)」

 ただ、“しびれごな”が完全に効かない相手というのも一応存在する。それは、肌がなく、呼吸をしないものだ。

 そのいい例が幽霊やゴーストタイプのポケモンだ。ゲームではゴーストタイプのポケモンにも効果がある“しびれごな”だが、“しびれごな”は体内に取り込まれない限り効果が無いので、臓器を持たなくなったこの世界のゴーストタイプのポケモンは“しびれごな”では麻痺しなくなった。

「(仕方が無い、他の方法でコイツは黙らせるか)」

「なっ!?不味い、耳郎あの炎を弾をかき消せるか!?」

「え!?そんなこと言われたって無理だって!!?」

 常闇君は俺の腕から放たれた“ウェザーボール”を見て焦り出す。

 耳郎さんも突然の出来事に反応仕切れずに、“ウェザーボール”に衝撃波を当てることができない。

 そして、そのまま“ウェザーボール”を地面に向かって進んでいき、“グラスフィールド”で展開した草原に火をつける。

 そもそも、常闇君の黒影(ダークシャドウ)は暗闇か光が弱点だというのは黒影(ダークシャドウ)という名前から察しがついた。ただ、そのどちらが弱点かまではわからなかったので、まずは大量の光を作り出してみた。まあ、影が濃くなるってことで、強くなる可能性もあったが、その場合は“あまごい”で日光を遮ってしまえばいい。“にほんばれ”が解除されて、轟君の右側がいつも通りに使えるようになったとしても、“しびれごな”で麻痺している今なら問題は無いし。

「(まあ、これで俺の完封しょ――ッ!?)」

「――まだだ!!!」

 ブォンというエンジンの排気音が耳を劈く。

「(ここまで手も足も出てないってのに、まだ折れないってか!!)」

 飯田君の足からでる白煙が、彼らの周りに滞留していた“しびれごな”を吹き飛ばす。

「(これで、“しびれごな”の効果がいつまで持つかわからなくなったな。ただ、飯田君は大分無茶な個性の使い方をしたっぽいから、その自慢の足は使えないハズ)」

 ただ、それでも自己治癒力や運がいい奴なら、すぐに麻痺から回復するだろう。元となるゲームでも、時間が固定されてなかった名残か状態異常はかけ続けていない限り、対象の自己治癒力や運によってはすぐに回復されてしまうことがある。

 まあ、そのいい例がウチの養父(とお)さんだ。何だかんだで運がいいせいか、状態異常はだいたい一分ぐらいしか効果が無い。

「ま、まだまだ戦えるっての!!」

「舐めんな!」

「(だが……。わりと面倒臭いな、見えない攻撃と見える攻撃の連鎖ってのは!!)」

 だが、予想に反してMVP組の五人は奮闘していた。

 飯田君がエンジンで、“しびれごな”を吹き飛ばし。耳郎さんがスピーカーで衝撃波を、瀬呂君がテープを射出し、まき散らすことで俺を遠ざけ。麻痺から回復するための時間を稼ぐ。

「(しっかし、彼らは状態異常がすぐに回復するって知らないはずなんだが。……本当よく、頑張ってるよ)」

 自分たちができることを最後までやるっていうのは、中々に難しい。だが、目の前の五人は、今も僅かな可能性にかけて必死に足掻いている。

「行けるな、黒影(ダークシャドウ)!」

『オウヨ!!』

 耳郎さんの衝撃波で炎がかき消されたおかげで、黒影が戦線復帰。より相手の手数が増えていっている。

「まだ、まだだァ!!」

 瀬呂君と耳郎さんはどうやら麻痺が取れてきたらしい。二人とも立ち上がって攻撃をし続けている。

「――形勢逆転だな」

 最大火力の轟君もしびれが解けてきた様で、氷のつぶてをマシンガンの様に打ち出してくる。ひざしがつよいことによる凍結阻害を考慮して、妨害に徹しているんだろう。まあ、作戦としては悪くない。

「(だが、俺を相手取るには役不足だ!!)」

 両足に力を込め、“めざめるパワー”で遠距離攻撃を全てかき消し、未だ階段付近に固まっている五人に接近する。

「させるか!!黒影(ダークシャドウ)

「(――ちょっと黙ってろ!!)」

 飛び出してきた黒影(ダークシャドウ)を“くさむすび”で拘束し、両腕に力を込める。

「くそっ!!拘束を破壊しろ黒影(ダークシャドウ)!!」

 黒影(ダークシャドウ)が地面に縫いつけられ、壁役がいない五人に狙いをすます。

「(“パワーウィップ”)」

 両手の薔薇から鞭を伸ばし、右手の鞭を瀬呂君に向かって叩きつけながらさらに接近する。

「――ガッ!!?」

「「「「瀬呂(君)!!?」」」」

 痺れて足が動かない瀬呂君に“パワーウィップ”は命中し、そのまま瀬呂君は背後の壁に衝突し、失神する。

「(次――)」

 右手を振り切った反動を利用して、そのまま左手の鞭で常闇君を狙う。

「耐えろ黒影(ダークシャドウ)!!」

「(“くさむすび”から抜け出したか、――でも遅い)」

「グ……がぁ」

 突き刺すように鞭を振るい、黒影(ダークシャドウ)ごと常闇君を壁に押しつけると、鞭の衝撃と圧迫により常闇君は意識を失った。

「瀬呂!?常闇!?」

「なんて早業だ!!この一瞬であの二人を――」

 耳郎さんと飯田君は動揺のあまり視線を俺から外す。

「耳郎!飯田!!法華から目を離すな――」

 轟君は二人が俺から目を離したことに感づき、氷の壁を作り出そうとする。

「(残念。二人とも脱落だ)」

 だが、氷の壁が二人と俺を遮る前に俺は両の掌から“エナジーボール”を打ち出す。

「――しまっ」

「――え」

 寸分違わず“エナジーボール”は着弾し、緑の爆風に飯田君と耳郎さんは吹き飛ばされる。

「クソッ!!がッ――」

 吹き飛ばされた二人には目も向けずに、轟君は目前に迫った俺を氷の中に閉じ込めようと個性を使うが。

「(お前は元々眼中にはないんだよッ!!)」

 轟君の足下から竜巻が発生し、そのまま壁に叩きつけられる。

 “リーフストーム”、俺と一つになっているポケモンのタマゴ技。特別技の出が早いわけじゃないんだが、あらかじめ葉をばらまいておけば、その葉を操る事で出の早さと射程を誤魔化すことができる。

 

 

「(よし、コレで全員分巻き終えたな)」

 気絶した五人にそれぞれ確保テープを巻くとすぐさま勝利のアナウンスが流れる。

「さて、これで喋れるようになったしそろそろいいか」

 そう言って俺はBURSTを解除する。

 すると、身体から力が抜けていき、その力が空中に集まり一体のポケモンの形を作り出す。

「おつかれ、ロズレイド」

「ロズ」

 ロズレイドは舞踊手の様に優雅に地面に降り立つと俺に頭を下げる。 

「……ああ、撫でて欲しいのか。よしよし、頑張ったな」

「………ロズ」

 少しぶっきらぼうだが、甘えたがりなロズレイド。彼女は、俺が手にした一番最初のポケモンゲーム『エメラルド』の頃から一緒にいるポケモンで、しかも色違いだ。

 手の薔薇は黒と紫と落ち着きと気高さが感じられ、少しだけ黄色い体色は若草のような活発さを感じさせる。

 もともと、ロズレイドの進化前のロゼリアの頃に四〇日以上最高の状態を求めたポケモンだけあって妥協はしておらず、個体値は無論6V。

 そして、この世界だからこそロズレイドの力は際立つ。

 まず、彼女は天気系の技を二つ……“あまごい”と“にほんばれ”を使うことが出来る。つまり、小規模ながらも天候を操作できるというのは凄まじい力だ。

「まあ、この世界でポケモンと個性持ちの人間じゃ格が違うんだよな」

 これは、この世界に来てからよく考えることだ。

 例えば上鳴とエレキブルがただ電気の出力で戦えば、余裕でエレキブルが勝つ。シンリンカムイとロズレイドが木を生やし合えば、かなりの余力を持ってロズレイドが勝つ。

 そして、その差は何なのだろうかと俺は考えた。

 考えに、考え、俺はある結論に行き着いた。

 それは、ポケモンと人間では身体の構造が圧倒的に違うということだ。

 まず、個性持ちの人間は進化したとかなんだとか言われながらも、未だに人間の特徴が多い。つまり、人間から完全に進化したわけじゃないってことだ。

 例えば、あの爆発頭なら彼奴は全身じゃなくて腕の汗腺にしかニトロを出すことができない。それはつまり、個性を主軸に身体ができていないということだ。

 だが、ポケモンは違う。むしろ逆だ。能力とか異能では収まらないのだ。

 言うならば概念。

 ポケモンは概念に肉体がついているといえるような生き物なんだ。

 わかりやすく言えば、自転車にモーターをつけて無理矢理バイクにしたのが個性持ちの人間。エンジンを中心にフォルムを決めて設計したのがポケモンという感じだろう。

 だからこそ、個性持ちの人間とポケモンが戦えばまず出力の差でポケモンが勝つ。だが、その反面、ポケモンは弱点に耐えられない。

 強くなった反面脆くなる。それが、この世界に受肉したポケモン達の弱点だった。

 

「……(気まずい)」

 養父(とお)さんの講評(まあ、殆ど八百万さんが言ってしまったが)を終え、俺は一人で帰り支度をしていた。

 そう、一人で、だ。どうやら、先ほどの演習でやり過ぎたらしい。うう、周りの連中の視線が痛い。でも、大丈夫。俺もういい年だし、一人でカエレルシ。と俺が鞄を持ち上げ席を立とうとすると。

「ちょちょっと待ったー!!!」

 芦戸が俺の机の上に滑り込んできた。

「べぇあ!?」

 なんか変な声がでた。ああ、俺の口からな。決して、摩擦で胸部を擦った芦戸が出した声じゃない。……痛そ。

「法華も一緒に反省会行こーよ!!」

 胸を押えたまま、芦戸は机の上で仰向けになってそう言った。

「えぁ?俺も行っていいのか?」

 俺は急な芦戸の誘いに驚き、発案者らしい上鳴を見た。

「もちろんだ!」

 とサムズアップをしてくれた。……煩悩で頭がつまった奴だと思っていたが、いい奴みたいだ。

「なら、誘われてみる事にするか」

 というわけで、俺は初めてクラスメイトとファーストフード店に行くことになった。

 

 



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マスコミと敵の影

 テストが多く投稿が遅れました。
 大学生なのに、まだ二十歳なのに教員採用試験の勉強をしなければならないという現状が辛い(泣)
 でも、投稿を辞める気は無いので、次の投稿も首を長くして待っていてください。


 対人戦闘訓練の日の翌日

 

 いつも通り俺はミュウを首に巻いて学校に向かっていた。毎回テレポートだと道が把握できないしなー。

「――オールマイトの授業はどんな感じです?」

「え!?あ…そのすいません、僕保健室行かなきゃいけなくて…」

 すると、見覚えのある緑色のモジャモジャ頭が記者らしき人間に絡まれていた。というか、結構絡まれてる知り合いがいるらしく。ちらちらと人混みの中に見覚えのある頭が見える。

「そのー、ちょっと急いでるんですけど…」

 その中には俺の友達第一号である芦戸もいた。しかし、あのコミュ力の塊とも言える芦戸がマスコミに囲まれてうろたえているとは……。

 正直、意外だが。いつも芦戸には世話になっていることもあり、俺は芦戸を助けることにした。ただ、俺のコミュ力的に記者と芦戸の会話に割って入るのは無理だ。

「――ミュウ“アクアリング”で俺の姿を消してくれ。ついでに、消せる物は全部消しといて」

「ミュ」

 だから、隠密かつ迅速に芦戸を助けることにした。

 まず、ミュウに指示したアクアリング。これは、俺の身体を水の輪で覆い、光の屈折現象を利用して透明になるためだ。

 それに加え、足音や衣擦れはサイコキネシスで音振動を相殺。体臭はあまいかおりで打ち消す。これだけやれば大抵の相手からは見つからないだろう。

 満を持して俺は芦戸に近づきその肩に触れる。

「――飛ぶぞ、じっとしてろ」

「え?」

 芦戸が俺の方向を振り向いた途端、テレポートでそのまま昇降口の中に転移する。

「おはよう、芦戸。困ってたみたいだったが余計なお世話だったか?」

「そんなことない、よ?ありがと」

 と芦戸は引きつった笑顔で俺を見ていた。……というか、心なしかもぞもぞしているような……。

 ………………………………………………あ、なるほどそういうことか。

「じゃ、また教室でな」

 俺は、なぜ芦戸がマスコミに捕まっていたかを察し。土足のままその場から走り去った。

 ……上履きはあとで取りに行けばいい。それよりも、男には守らなければならないものがあるのだ。特に、乙女の尊厳とかな。

 ……ちなみに、ソースは俺の前世の彼女だ。女の子は大変なんだそうです。

 

 

 

「昨日の戦闘訓練おつかれ。Vと成績は見せて貰った。……爆豪、お前もう子供みたいなことをするなよ」

 芦戸が乙女の尊厳を守り切った後のHRは相澤先生のお小言から始まった。

「……わかってる」

 最初に注意されたのは爆発頭。……いや、その顔。完全にまたやる顔だよ、やる気というか殺る気満々だよあの顔。ただ、短絡的で爆発物のようなコイツなら『うるせぇ!わかってんだよ!ぶっ殺すぞ!!』ぐらいは言うと思ったんだが。……まさか、緑谷君に一杯食わされて、今までの行いを悔い改める気にでもなったのか?……いや、ないか。

「緑谷、お前はまた腕をブッ壊して一件落着か。いつまでも個性の制御『できないからしかたない』じゃ通さねぇぞ」

 次に相澤先生の叱咤が飛んだのは緑谷君だ。うん、先生の言っていることは紛れもない正論だとも。 ただ、緑谷君は年単位で見守っていかないと厳しいんじゃないですかねって思うわけですよ。

 祖父ちゃん曰く、養父さんは天才な肉体の持ち主だったことに加え、まだ八代目ということもあって、コントロールが最初からできたらしいが。あの筋肉ダルマの力が追加されたOFAは、力を蓄えるという個性の都合上。代を重ねる度に制御難易度が上がっている。というのにそんな規格外の代物を載せている器は、たった一年でつけた急造品。そりゃあ、使う度に器に罅くらい入るでしょう。ってのが俺の感想だ。

 ……ただ、OFAのことは相澤先生も知らないからなぁ。

「うっ……」

「俺は同じことを言うのが嫌いだ。それさえクリアできればやれることは多い。焦れよ緑谷」

「はい!」

 ……まあ、俺としても緑谷君には早くOFAをものにして貰いたいのは確かだ。同じ二代目平和の象徴候補っていうのもあるけども、それ以前にOFAは唯一俺を止められる可能性がある個性だからだ。

 

 ……俺の手持ちの最後の一匹である伝説のポケモン。

 未だにBURST状態にすらなれてないが、あのポケモンをBURSTした状態で暴走した場合。いや、想像したくもないんだが。おそらく暴走した場合、確実に日本の一部が海に沈むだろう。むしろ、あのポケモンのテキストから考えれば、どんな天変地異が起きるか想像がつかない。

 それほどまでにあのポケモンは膨大な力を持っている。

 だが、普通の個性ではまず太刀打ちできない。おそらく、相性が有利の個性を並べたところで、そもそも当てることすら難しい。

 けれど、もし緑谷君がOFAの100%を常時使えるようになったなら……あのポケモンを押さえ込める確立はかなり上がる。

 ……今から暴走したときのことを考えるのは気が早すぎと思われるかも知れない。けれど、BURSTは精神状態にかなり依存している。――だから、もし俺の目の前で誰かが死んだりしたら、俺は……。まあ万が一のことだ。別に起きるとは思ってないし、俺には頼もしいポケモン達がいる。……きっと、どんな状況でも何とかなるだろう。

 

「それと轟。……ハッキリ言ってお前が一番ダメだ。個性を半分しか使わないなんて舐めたヒーローは、まず要救助者に信用されない。――正直、緑谷より致命的だ。すぐに改善しろ」

「……っ」

 轟君は歯を食いしばりながら頷いた。

 だが、コレは相澤先生が正しいと俺は思う。まあ、轟君の過去に何があったかは知らないけども、俺達は人を助けるためにヒーローを目指しているんだ。

 人の命を背負う人間が、自分の過去を背負えなくてどうするよ。

 

「さて、HRの本題だ。……急で悪いが君らに……学級委員長を決めてもらう」

長いための後、相澤先生は学級委員長を決めるという何とも面倒くさくなりそうなことを言い出した。

「学校っぽいの来たー――!!!」

 クラスの中が沸き立つ。いや、そこまでテンション上がるか?俺としては、この性格がカルピ●の原液並に濃いこのクラスを牽引する自信なんて、微塵もない。

 むしろ、爆発頭とか緑谷君とか轟君とかが問題起こしそうなのは目に見えてるから、デメリットの方が多くないか?

 と思っていたのだが。わりと立候補者は多く、飯田君なんてあまりのやる気に言動と行動が正反対だった。

 ただ、その後に委員長決めの進行役をやってくれたのは助かった。……別に、俺に白羽の矢が向くとは思ってないが、クラスメイトの前に立つなんていう苦行をする可能性はできる限りゼロにしたいからな。

 

 ちなみに、芦戸は一貫して立候補しなかった。

 あまり付き合いが長いわけじゃないので、断言はしないけれど。俺から見た芦戸はこう言うイベント事は積極的に参加する少女だと思っていたので、意外だった。

「ん~、でも私よりも向いてる人がいると思うしね」

 そう言うと、芦戸は誰かしらの名前が書かれた投票用紙を教壇の上にある投票箱に入れていた。

 昨日の対人戦闘訓練では結構なアホの子ぶりを見せた芦戸だったが、たぶん彼女はアホというより純粋なんじゃないだろうか。……まあ、昨日上鳴君と鬼ごっこしていたのを見ると、完璧にアホの子疑惑が晴れたわけじゃないんだけどな。

 

 とまあ俺の友人第一号はそんな感じだったんだが。結果は荒れた。

「えー、緑谷二票、八百万二票、飯田二票、その他は麗日、蛙吹、芦戸以外一票だ。同票だから誰が委員長、副委員長をやるか放課後までに決めとけ」

 なんと、同票者が三人いたのだ。ただ、俺が気になるのは誰が委員長になるかじゃない。

 ……なんで飯田君に入れたハズの俺が零票じゃないんだ?

 

 ただ、その謎の答えは割と早く本人の口から教えられた。

「もー、せっかく法華に票入れたのにー」

 投票の後の昼休み、俺と芦戸と数名のクラスメイトが教室で昼食を取っていた時。芦戸はランチラッシュ特性のサンドイッチを頬張りながらぶー垂れていた。

「……あー、そのすまん」

「ん?なんだよ法華。票を入れて貰ったのに嬉しくないのか?」

 俺の表情が強張っていたのを察したのだろう、一緒に食事をしていた切島君が俺に声をかけてくる。

「いや、嬉しいには嬉しいんだ。だが……人前に立つのはどうも苦手なんだよ」

「つってもよ。昨日の訓練とか見る感じ、法華って何でもできそうな感じあるよな」

 いやいや、そんな分不相応な期待は辞めてくれ、むずがゆい。

「……いや、そんなことはないだろ。特にコミュニケーション能力は低い自信がある」

「そうか?別に普通に話せてると思うぜ?」

「なら、嬉しいけどな」

 俺は自分で作った弁当を食べる。ちなみにミュウは芦戸の膝でゴロゴロしている。

 ……なんだかいいな、こういうの。前の高校生活が三年間ずっとボッチ飯だったのもあり、こういう同級生と談笑しながら食事をするということが思ったよりも楽しく感じられる。

 だが、突如として事態は一変する。

『ウウ――』

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難してください』

 警報が鳴り響き、避難を促すアナウンスが校舎中を駆け巡る。アナウンスに驚いた上級生達が我先にと食堂から出ようとしており、それに吊られた下級生もまた外に出ようと出口に詰め寄っている。しかも、俺達がいる食堂は人がごった返しており、このままでは怪我人が出る。

「きゃー!!」

「うわぁ-!!」

 ちなみに、俺と食事を取っていた二人はいつの間にか人の波に流されていた。

「あー、ミュウ。サイコキネシスで二人を引き上げておいて。俺はちょっと原因を探してくる」

 プレミアボールを痣からだして、空中に放る。

「頼むぞ、シャンデラ」

「――シャン」

 空中に浮かぶ紫の炎と黒の骨。それが俺の手持ちの四匹目にして賢さ兼遠距離担当のシャンデラだ。

「よっと」

 シャンデラの骨にぶら下がり、そのままシャンデラと共に食堂の天井をすり抜ける。

 シャンデラはゴーストタイプで、物理的な隔たりはすり抜けられる。しかも、俺くらいの人一人なら一緒に壁抜けすることも可能だ。

「され、と。報道陣が侵入してるってことは把握してるんだが。――雄英バリアーを破った奴が何処かにいるはずなんだ。探せるか?」

「――シャン」

 短くシャンデラの紫色の炎が揺れ、膨らんだ炎の波動があたりに広がる。

 シャンデラは魂を喰らうポケモン。そのため、魂をサーチすることが可能だ。

ただし、ミュウのサイコパワーによる探知よりも範囲が狭かったり、人間以外はサーチできないというデメリットがある。

「シャン」

 シャンデラは数秒の間の後、校門付近へと炎を伸ばす。どうやら、今回の下手人が見つかったようだ。

「ナイスだシャンデラ。このまま影の中を潜って接近して捕縛するぞ」

「――シャン」

 シャンデラは返事をすると、自身の影を広げる。そのまま広げた影の中に入り、影の中を移動するためだ。ギラティナの固有技であるシャドーダイブが近いが、俺が影移動と呼んでいるこの現象は技として成立するほどの威力が無い。というか、シャドーダイブはギラティナの規格外の能力があって初めて技として成立している説が俺の中ではある。

 

「………」

「どうしたシャンデラ?」

 俺とシャンデラが潜れる程度に影は広がったのだが、一向にシャンデラが影の中に潜ろうとしない。

「-シャン」

「は……?」

 シャンデラはいきなりおにびを展開して、影に打ち込む。だが、おにびは一つも影の中に入っていかず。そのままコンクリートの上で燃える。

「――どういうことだ?こんな現象、起こるはずが…」

 今までに影移動を使ったことは何度もあるが、影の中に入れないということは一度もなかったため。俺もシャンデラも困惑していた。

 だが、俺には影移動ができなかったことでわかったことがあった。

「いや、可能性としては低かったけど、そういえば、確実に空間干渉系の技を阻害をできる個性があったな」

 影移動――つまり、空間干渉による移動が阻害されたという事実から辿り着いた可能性。それは、敵陣営に空間干渉系の個性持ちがいるということだ。

 

 さて、 “なぜ空間干渉による移動が阻害されたこと”と“敵陣営に空間干渉系の個性持ちがいるということ”がイコールになるのだろうか。

 

 ここで注目すべきなのは、そもそも人間を超える出力をもつポケモンがなぜ出力勝負で負けて、技が阻害されているのかということだ。

 それは簡単。空間に干渉するのに一番適したタイプがみず・ドラゴンの複合タイプだからであり、みず・ドラゴンタイプが権限が上だからだ。

 前にも言ったとおり、ポケモンは相性に逆らえない。それに加え、いわれが強いほどポケモンはその概念に干渉する力が大きくなる。

 今回の例でいえばパルキアとギラティナを比べればわかりやすい。

シンオウの神と呼ばれるポケモンである二匹は、共に空間に干渉できるポケモンだが、片方はくうかんポケモン。もう片方ははんこつポケモン。つまり、どちらが強く空間という概念に干渉できるかは明白だ。

 そして、それは他のポケモンが同じ空間という概念に干渉するときにも影響するし、タイプとして明言されてない概念に干渉する場合、いわれがつよいポケモンがその概念に対して管理者権限を持つという事実でもある。

 わかりやすくいうと、空間を司るパルキアと同じみず・ドラゴンのポケモンと他のゴーストやエスパータイプのポケモンが同時に空間に干渉すると、ゴーストやエスパータイプは弾かれるってことだ。

 でここまで来れば相手に空間干渉系の個性持ちがいることは容易に推察ができる。

 空間干渉系の個性持ちはタイプでいうならみず・ドラゴン。ゴーストタイプのシャンデラの影移動は当然弾かれる。だから、相手に空間干渉系の個性持ちがいることは確定ってことだ。

  

「――ちょっとコレはヤバいんじゃないか?」

 予想外の敵陣営の層の厚さに声が漏れ出る。

 いくら天候を素手で変えられる養父さんとはいえ、空間断裂には耐えられない。

 まあ、総じてそう言う個性はスピードが遅いから足止めがいるだろうが、大抵のヒーロー相手には必殺できるだろう。

「…コイツを使う覚悟をしなきゃな」

 俺は何れ来るだろう決戦を思いながら、一番肘に近いもう一つのプレシャスボールを撫でる。

 コイツは、本当にヤバい。

 流石にシンオウレベルではないが、パルキアやディアルガのように概念を司る神のようなポケモンだ。

「――あと、三年もあれば俺の身体も伝説のBURSTに耐えられるようになると思うんだよなー、それまで様子見し続けてくんないかねぇ……」

 はじけ飛ぶ自分の五体を想像しながら、俺はため息を吐きだす。

 ……シャンデラの背に乗って見た青い空がやけに澄んで見えた気がした。

 

 



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孤軍奮闘

 どうも、遅れてすいません。黒兎です。
 大学生活の二年目ももうすぐ終わりを迎え、そろそろ来年の教員採用試験に備える時期が私にもやってきました。そのため、暇で気が乗った時に書くというスタイルの私はおそらくもっと筆が遅くなっていきます。申し訳ないです。ですが、かならず完結はしますんで、それだけは安心してください。……オリジナルが終わる前に終わりたいなぁー


マスコミの起こした騒動から数日後。

「あ、そうだジロー」

「ん?どうしたんだよ養父(とう)さん」

 教師生活にもだいぶ慣れたのか、今まで通りの時間にゆったりと朝食を取っている養父さんはバターロールを飲み込んで口を開く。

「今日の救助訓練、私も出る予定だからボロを出さないように頼むよ」

 いや、何度も弁当を忘れてそのたびにミュウに届けさせて身バレの可能性をドンドン引き上げてたの養父(とう)さんだよな?

 と思わず口が滑りそうになるが、ぐっとこらえる。

 なにせ、養父(とう)さんは自分の失敗が俺に影響するとかなり凹むからだ。きっかけは俺が養父(とう)さんに引き取られて二年が経った頃くらいの出来事だった。

 

『――ジロー、本当にヒーローになりたいのかい?』

 今ではもう懐かしい話だが、その時の養父(とう)さんは俺にそんなことを聞いてきた。

 その頃にはもうこの世界で骨を埋める覚悟をしていたし、俺の左腕に宿るポケモン達と一緒にこの世界の頂点に立つっていう漠然とした目標を持っていた。ヒーローになるのはその目標を達成するための一番の近道だとも思っていた。

 だから、俺は大して考えもせずにその問いに頷いた。その時から養父(とう)さんは何かにつけて、習い事を勧めるようになった。今思えば、それは俺にヒーロー以外の選択肢を与えたかったんだろうと思う。

 けれど、普通の子供ではない。――前世の記憶がある俺は、ヒーローという目標に向かって邁進していった。身につける技術や知識は全てヒーローになるためと生きるために必要な物だけ。得たいものだけを取捨選択し、俺は今の俺を作り上げた。才能は人並みだったから、当然得られなかった物もある。けれど、普通の子供と比べれば俺は明らかに異常な存在だった。けれど、養父(とう)さんはそんな俺を気味悪く思うことなどなく。むしろ、自分が構ってやれなかったのが原因だと思い込んで、ますます俺へ過保護になり、凹みやすくもなった。

 本当は俺が上手くやれば良かった。……子供らしく、はしゃいで無邪気に走り回る演技ができていれば、養父(とう)さんも今ほど自分を責めることにならなかったと思う。……いや、どのみち胃袋全摘は治すから意味ないか。

 でも、自分のミスだけじゃなく、他人のミスも自分が抱え込むっていう面倒くさい性格じゃなければもっと楽に生きられたと思うんだが。……だからこそ、No.1ヒーローなんだろうけど。

「了解。まあ、養父(とう)さんも活動時間切らして授業にでれないなんてことになるなよ。襲撃があるかもしれないんだからな」

「ああ、わかってるともさ!!」

 養父(とう)さんはサムズアップして最後のバターロールを飲み込んだ。

 いや、本当に大丈夫かな。

 

「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイトともう一人の三人で見る事になった」

「ハーイ!なにするんですか!?」

「災害水難なんでもござれ『人命救助訓練』だ!!」

 相澤先生は『RESCUE』と書かれたプレートを見せてくる。

 ――三人体制ねぇ…。一応、俺の警告を聞いた上でその人数なんだろうけど。些か少なすぎじゃないか?……てか、コレって絶対俺も戦力としてカウントされてるよな。

「レスキュー…今回も大変そうだな」

「バカおめー、コレこそヒーローの本分だぜ!?鳴るぜ!!腕が!!」

「水難なら私の独壇場、ケロケロ」

「--おい、まだ途中」

 と、まあ俺の襲撃を前提とした感想は兎も角。皆は自分の個性と人命救助の相性について話したりしている。

 そういえば、今日のヒーロー基礎学をみるのは相澤先生と養父(とう)さんともう一人いるみたいだが、実質今日の授業を見れるのは二人だけだろうな。

 なにせ、登校途中にひき逃げ犯見つけてそっちに全力疾走してったしな。どうせ、今日の授業はでられないだろうよ。まあ、三十分ぐらいは残すでしょ。

「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない、中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく、以上。準備開始」

「法華ー、行こー」

 おっと、そろそろ時間か

「おう、今行く」

 なぜだか、嫌な予感がして声に力が入らなかったが。何とかなると思いたい。

 ……あと、飯田君。バスの席順について考えているみたいだけど。おそらくそれは無駄になると思うよ?あのバスの中ってリムジンタイプだったから。

 

 飯田君の采配が見事に空振りした後、俺達は救助訓練を行うための会場へとバスに揺られていた。

 しかし、大丈夫だろうか。

 あのマスコミの一件で、敵側にワープ持ちがいるのは確定だ。だが、養父(とう)さんも根津校長もコレと言った対処はしていない。

 まあ、正確に言うと対処できないってのが正しいんだが。

 ワープ系の個性に対抗するにはワープ系の個性が必要だ。だが、雄英の先生にはワープ系の個性持ちはいない。だから、原始的な手段……ヤバいと思ったらすぐ回避を徹底させるくらいしか対処法がない。

 それは養父(とう)さんですらそうだ。いや、むしろ養父さんはそれしかできない。シンプルすぎてそう言う搦め手にはめっぽう弱いんだよ、アレ。

 

 それと、……これは雄英のカリキュラム――つまり情報が敵側に漏れているという前提の話だが。おそらく敵は今日、襲撃を仕掛けてくるだろう。

 まあ、考えてもみてくれ。

 弱った標的、対処できないワープ能力、護衛はたった二人で足手まといが20人弱。

 俺なら間違いなくこの日を襲撃する。

「…気が重いな」

 未だ来るかもわからない敵を思いため息が漏れる。

「ん、どーしたの?」

 声をかけられて気がついたが、隣に座っている芦戸が俺の顔を覗いていた。

「――ああ、大丈夫。……ちょっとこのコスチュームのデザインの改案を考えてただけだよ」

 まあ、それも全く考えてなかったわけじゃないから嘘じゃない。

 なにせ、コスチューム。いくら性能が優れているとはいえ、見た目が完全に特殊で指定のある業務の頭にヤのつく自営業の社長。

 いくら緊急時だとしても、この恰好で「助けに来た」と言われても中々信じられないだろう。……俺だったら即行で逃げ出す。

「あー、真っ黒で怖いからねー。ちょっとヴィランに見えなくもないし」

「だろ?もう少しまともな感じに仕立て直して欲しいんだよ、コレ」

 あと、今日の戦闘でおそらく使い物にならなくなるから。

「俺のBURSTは変身時に服も一応『肌』の延長として認識しているらしくてな、BURST前に着用していた衣服分の防御力が加算される。ただ、BURST状態で傷を負えば、衣服にも受けたダメージのみ反映されるっていうデメリットがあるんだわ」

「――?そういう変形型の個性で服にダメージが反映するのって普通じゃないの?」

 少し間をあけて芦戸が頭に疑問符を浮かべたままでいる。

「いや、ダメージが反映されるのは普通なんだ。ダメージが反映するのはな?」

「???」

 ――頭の上の疑問符の数が一気に増えた。……かつてこんなにも考えが顔にでる人を俺は見たことがない。

「普通の変形型の個性は変身中に受けたダメージ以外にも色々反映するんだ。けど、俺の変身――BURSTはダメージしか反映しないんだよ」

「????????????????????」

 ダメだ。芦戸の脳みそがパンク寸前だ。

「……例えば、何らかの理由で俺の腕がもげたとしよう」

「もげるの!?」

 ……本当にこの子は大丈夫だろうか。いやね、ここまで心配してもらえるのは友達冥利に尽きるってもんだけどさ。流石に純粋すぎるっていうか……ちょっと心配になるよね。

「例えばの話な。――で、俺が何らかの技で傷を治して全快したとする。だが、反映されるのは受けたダメージのみ。……つまり、傷を負ったら最後。服のダメージは回復しないし、もちろん服がなくなっているわけだから、防御力の加算も無し」

 要するにいくら体力や傷を回復する能力があるとしても、社会的にも物理的にも失うものがあるので、ダメージを負いすぎるのは危険ってことだ。

「へー……?」

 まだ少し頭の中が混乱しているのか、芦戸はそのまま考え込んでしまった。

 まあ、何というか俺の個性は割と穴だらけなんだよってことだ。――ん?

「私、思った事は口に出しちゃうの……緑谷ちゃん?」

 なんだか嫌な予感がして周りに視線を移すと蛙吹さんが緑谷君に声をかけていた。……羨ましい。俺は未だに芦戸と切島君以外からは碌に声をかけてもらえないぞ。まあ、爆発頭と轟君以外は、こっちから声をかけたら答えてくれるけどな。それだけでも大分進歩したと思う……思いたい。

「あ!?ハイ!?蛙吹さん!?」

「梅雨ちゃんと呼んで」

 緑谷君もあまり女子との会話に慣れていないのか、所々声が上擦っている。

「あなたの“個性”オールマイトに似てる」

「「!!!」」

 ――まじですか。もうですか。はやくないですか。しかも相手は蛙吹さん、A組屈指のコミュ力を持つ芦戸に匹敵するコミュ力を持つバケモノ女子高生だ。精神年齢アラサーでも友達一桁の俺とはレベルが違う。

 いや、まだだ。モジャモジャ頭で幼馴染みがアレだが。緑谷君もコミュ力で言えば入学日に友達を二人も作れる猛者。この境地もなんとか乗り越えられるハズ……。

「そ、そ、そ、そ、そうかな!?いや、でも、僕はその、えー……」

 ――やばい、吹けば倒れるレベルだ。

「(助けてという意思がヒシヒシと伝わってくる視線)」

 ……いや、緑谷君。そんな視線を送られても。俺に会話での援護射撃は無理だ、諦めてくれ。

 俺はそんなメッセージを込め、静かに首を横に振った。――頑張れ緑谷君。

 だが、思わぬ所から援護射撃がきた。

「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトはケガしねぇぞ、似て非なるアレだぜ」

 ナイスだ切島君。流石は俺の友達第二号(仮)兼芦戸と同じ中学なだけある。

「しかし、増強型のシンプルな“個性”はいいな!派手で出来ることが多い!」

 ……まあ、派手の代名詞とも言える存在が増強型の個性だからそう思ってるのかもしれないけどさ。アレはどっちかっていうと本人のキャラクターが濃いから派手に見えるだけだと思うんだが……。

「俺の“硬化”は対人じゃ強えけど、いかんせん地味なんだよなー」

「僕はすごくかっこいいと思うよ、プロにも十分通用する“個性”だよ」

 これは俺も緑谷君に同意だな。硬化っていうのはかなり使える個性だ。硬ければ硬いほど物理的な攻撃でダメージを受けなくなるし、弱点も少ない。まあ、熱や電撃なんかの属性系の攻撃や、防御不可能の空間系の攻撃さえ注意すれば殆どの状況で戦える――戦うことすらできないっていう状況は少ない個性だ。

「プロなー!しかしヒーローも、やっぱ人気商売みてえなところもあるぜ!?」

 まあ、そうだよな。消防や警察みたいに地区や規模を考えて仕事を割り振る部署なんて無いわけだから、知名度がなければ自分が何が得意なヒーローなのか知ってもらうことが出来ない。つまり、知名度の多寡はヒーローとして活動が出来ないことにも繋がるわけだ。

「僕のネビルレーザーは派手さも強さもプロ並み」

 ……そうか?レーザーも細いし、強さって言っても見た感じはそれほどでもなかった気がするんだが。多分、俺の手持ちはあのレーザーが直撃しても碌にHPは減らないだろうな。当て続けてようやく一割削れるかってところか?

「でも、おなか壊しちゃうのはヨクナイね!」

 あと、芦戸も言ってるように持続性に難がある現状は戦えるかっていうと微妙だよな。

「そもそも射角が丸わかりなのはダメだろ」

 それにネビルレーザーは青山君の向いている方向にしか飛ばない。射角かかなり限定されてるってことは、三次元的な機動が出来る麗日さんや、高速移動ができる飯田君なら簡単に避けられる。

……まあ、他にも“そもそもレーザーなのに光速じゃないの”ってことや“射程が結構短い”ってことまで言うと青山君がヒーロー科を去りそうなので言わないでおく。頑張れ青山君、俺は君を応援しているぞ。

「派手で強えっつったら、やっぱ轟と爆豪と法華だな」

「ケッ」

 いや、爆豪。お前はきっとなんでナンバーワンの俺が他の連中と同格に見られてんだ……的なことを考えているんだろうけどさ、現実を見ようぜ。

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」

「んだとコラ出すわ!!」

「ホラ」

「無理だろ、鏡を見ろ」

 予想通りすぎる爆豪の反応に思わず俺も言葉が出る。

「この付き合いの浅さで、既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」

「てめぇのボギャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」

いや、無理だって。お前は性格も言動もまともじゃないんだから。そもそも、緑谷君がでるところに出たら、お前のヒーローとしての道は完全に終わると思うんだけど。

 でも、緑谷君からしたらアイツは目標で、ライバルなんだよなぁ……。

「爆豪はこんなんだから人気がでなそうだけど、法華は小さい男の子とかに人気でそうだよな」

 ん?なんか話変わった?

「あ、それわかる!!」

「そうかしら?法華ちゃんの個性なら小さい女の子の方が人気でそうよ」

「なあ、それって完全に俺個人の人気じゃないよね。ポケモン達の人気だよね!?」

 まあ、俺は単なるコミュ障だし。俺よりもポケモン達の方が見た目がいいのはわかるけど。

「もう着くぞいい加減にしとけよ……」

「「「「ハイ!!」」」

 

 USJ、嘘の災害や事故ルーム。

 ちょっと版権が危ない名前の此処は、スペースヒーローであり人命救助の専門家である十三号先生が作った演習場だ。

「で、十三号。オールマイトは?ここで待ち合わせをしているハズだが」

 ん?養父(とう)さんがどうしたんだろ。……まさかな、あれだけ朝言ったんだぞ?いや、あのワーカーホリックならあり得なくもない…か?

「先輩、それが……通勤時に制限時間ギリギリまで活動してしまったみたいで」

 やっぱりかい。

 ヤバいな。活動時間が少ない養父さんはいいカモだ。敵がどんだけの規模で来るかは解らんけど、規模によっちゃあ足手まといが多いこの状況なら――手札次第なら殺せ無くもない。――そうだな、空間干渉系がいるならまず生徒を飛ばして人質にして、足止め役と空間干渉系を守る壁役を用意すれば――殺せるだろうな。

「えー、始める前にお小言を……」

 俺は十三号先生のスピーチを聞き流しながら、周囲を警戒する。なにせ、此処は死地だ。足手まといは多いし、相澤先生は火力低めだし、十三号先生は機動力と戦闘経験が少ない。で、俺は手数も質もそれなりに用意できるけど、俺が動くと他の生徒も動いてしまう。

 あーもう、爆豪あたりは先に拘束しておきたい。

「以上、ご静聴ありがとうございました」

 拍手に包まれながら十三号先生がスピーチを終える。――あ、ヤバい。コレは不味い奴だ。

 俺の直感が全力で警笛を鳴らしている。

「全員出てこい!!俺は良い、他の連中を守れ!!」

 俺は最後の一つのボールを除いた全てのボールを左手から射出し、ボールからポケモン達をだす。

「何だありゃ?入試の時みたいにもう始まってんぞパターン?」

「一塊になって動くな!!死ぬぞ!!」

 おそらく俺が雄英に入ってから初めて出すような怒声。むしろ、威嚇に近いそれを受けてほとんどの生徒が硬直する。

「――助かったぞ法華。あのまま動かれたら、助かるモノも助からん」

 相澤先生もゴーグルをつけて、戦闘態勢に入っている。

 

「十三号に……イレイザーヘッドですか…。先日いただいた教師側のカリキュラムではオールマイトがここにいるはずなのですが」

 俺は一言一句聞き逃さぬように敵の言動に意識を集中させる。

「どこだよ…、せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ…オールマイト…平和の象徴いないなんて……」

 十五年前。俺の両親を屠った者が纏っていたモノと同種の気配。曇り無く、澄んでいる――墨のような色の感情。純粋な混じりっけの無い悪意。

 更生の余地無し、殺さないと後悔するタイプの手合いだってのは理解した。これでも子供の頃から星の数ほど敵を見てきたんだ。それくらいは感覚でわかる。

「十三号避難開始、学校に電話を試せ!センサーの対策も頭にある敵だ。電波系の個性で妨害されてる可能性もある。上鳴も個性で連絡を試せ」

「っす」

「それと――」

「転移で助けを呼ぶのは無理ですよ」

 相澤先生が何を言おうとしたか察しがついた俺は先に結論を口に出す。

「ミュウのテレポートは純粋な空間に干渉した転移じゃないんです。だから、ああいう純粋な空間干渉系の個性持ちがいる時点で、ミュウのテレポートは使えません」

「――わかった。お前は十三号をフォローしながら他の連中を守れ」

「了解です」

 多分、それが最善だろうと俺も思う。なにせ、こっちには攻勢に出られるような戦力がない。つまり、撤退戦がベストだ。

「先生は!?一人で戦うんですか!?あの数じゃいくら個性を消すっていっても!!」

「――やめろ、緑谷君。君は人のことを心配するよりやることがあるだろ」

 おそらく、そう言い出す生徒がいるとは思ってた。そして、それが緑谷君になるだろうってのは確信があった。彼は養父(とう)さんに選ばれる心を持った後継者だ。

「君が今やるべきなのは此処で死ぬかも知れない戦いに身を投じることじゃないだろ!!」 

 だから、彼はこの場にいる誰よりも生きなければならない。守られなければならない人間だ。

「……法華君――でも!!」

 知っているとも、なにせ俺と君のルーツはおんなじだ。だから、なにか言いたくなるのは解る。だからこそ、君には理解して欲しい。……命は等価値じゃないんだ。

「安心しろ、緑谷。一芸だけじゃヒーローはつとまらない」

 だが、俺がその言葉を言うことはなかった。

「十三号、法華。後はまかせた」

 そう言って相澤先生は敵の中に突っ込んでいった。

 

 

 

「嫌だな、プロヒーロー。有象無象じゃ歯が立たない」

 おそらく特殊な繊維で織られている布を使い、相澤先生は立ち回っていた。

「すごい……!多対一こそ先生の得意分野だったんだ」

「分析してる場合じゃない!早く避難を!!」

 飯田君、本当に君は良いことを言ってくれる。シャンデラ、ミュウ、ゲッコウガ、エレキブルの四体で生徒を守っているとはいえ、上昇志向の塊である爆豪や、正義感が強い切島君、そして緑谷君。彼らは敵以上に厄介だ。もし、相澤先生の攻撃を抜けてきた敵が現れれば、おそらく真っ先に突っ込んでいくだろう。そうなったら、俺はもうフォローがしきれない。

「させませんよ」

 フラグ回収が早すぎるッ!?くっそ、念のためロズレイドは俺の近くに待機させてたけど、こんなにいきなり来られたらいくら何でもBURSTしてる時間が無い!!

「初めまして――」

 黒い影が毅然とした態度でこちらに話しかけてくる中。右側に思い切り跳躍しながら、空中で身体をひねりロズレイドに左腕を伸ばす。

「――ロズッ」

 ロズレイドも俺の方向に跳躍しており、俺の左腕につるを伸ばしていた。

「――私の役目はこれ」

 影がゆらりと揺れてさらに広がるが、俺はつるを左腕に巻き付けて引っ張る。BURSTは俺の左の手の甲にBURSTハートがないと出来ない。つまり、ポケモンを引き寄せてBURSTハートにしないと俺はBURSTができない。

「その前に俺達にやられることは考えてなかったか!?」

 やばい、切島君と爆豪が飛び出してきやがった。

「危ない危ない………そう、生徒といえど優秀な金の卵」

「良いから下がれ!!」

「ダメだ!!!どきなさい二人とも!!」

 ゆらゆらと揺れる影を目の前に構えを崩さず抗戦の姿勢をとり続ける二人に、俺と十三号先生は絶叫する。

 ダメだ、間に合わない。十三号先生の個性が当れば空間ごと消し去れた……だが、それよりも早く生徒が飛ばされる。

「――俺は良い、他の生徒を守れ!!」

 黒い影に覆われる直前、俺は外に出していたポケモン達全員に指示を出す。おそらく、俺達はこの個性で何処かに飛ばされる。なら、今手持ちに戻すよりも他の生徒を守らせた方が良い。

 

「みんなは!?いるか!?確認できるか!?」

 飯田君の声が飛ぶ。どうやら、彼は俺と同じく飛ばされなかったようだ。

「散り散りにはなっているがこの施設内にはいる」

「…………委員長!」

「は!!」

「君に託します、学校まで駆けてこの事を伝えてください」

 どうやら、十三号先生は飯田君を走らせて救援を呼ぶらしい。

「――しかし、クラスを置いていくなど委員長の風上にも…」

 だが、自分が走らなければならない事情を聞いた上で、飯田君は行こうとしない。まあ、ヒーローを志し、正しくあろうとする彼ならきっとそうなると思った。だが、今は時間が惜しい。

 言うべきか?いや、俺の親のことを言ったらむしろ混乱してダメだ。だから、他の言葉が必要だ。

「行ってくれ飯田君。君は俺が選んだ委員長なんだ」

 けど、今の俺にはコレしか言えない。

「外に出れば警報がある!だからこいつらはこん中だけでことを起こしてるんだろう!!」

「外にさえ出られりゃ追っちゃこれねぇよ!お前の脚でもやを振り切れ!!」

 ナイスだ砂糖君、瀬呂君!!

「救うために個性を使ってください!!」

「食堂の時みたく、サポートなら私超できるから!するから!!――お願いね!委員長!!」

 十三号先生も麗日さんもナイスプレーだ!コレで必要なモノが揃った!!

「手段がないとはいえ、敵前で策を語る阿呆がいますか」

「――語ればお前は待っててくれるからな!!」

 マジカルリーフを両手の薔薇から打ち出す。何を油断したのか解らないが、目の前の敵がわざわざこっちの兼ね合いを待ってくれていたおかげで、俺は無事にBURSTすることができた。最悪、肉弾戦で時間を稼ごうと思ってたからな。

 それに、俺の攻撃にあわせて十三号先生も個性を使っている。だから、俺はギリギリまでブラインドに徹すれば良い。

「十三号。災害救助で活躍するヒーロー、やはり……戦闘経験は一般のヒーローに半歩劣る」

 そう思っていた。だが、敵は俺達よりも上手だった。

「先生!!」

 不味い、先生の個性を逆手に利用された!!これじゃあ、十三号先生はもう戦えない。

「芦戸!麗日さん!十三号先生を頼んだ!!」

 パワーウィップを揺らしてモヤに攻撃を仕掛ける。

「飯田ァ!!走れって!!」

「くそう!!」

 佐藤君と障子君が飯田君の周りにあるモヤを散らし、飯田君を守る。ナイスだ。

「それだけ広げれば、本体を守るモヤは減るだろう!!」

 パワーウィップを引っ込めて、いあいぎりの刃を展開し接近する。

「くっ!!」

 敵が散らしていたモヤを集め俺を飛ばそうとしている。

「“ギガドレイン”!!」

 俺は右手をつきだし、敵から体力を奪う技を使う。すると、黒いモヤが徐々に拡散していき、俺の前からモヤが消える。おそらく、モヤからエネルギーを抜き取ったことで霧散したんだろう。

「……応援を呼ばれる。ゲームオーバーだ」

 そして、飯田君の妨害に回していたモヤも集めて俺を排除しようとしたわけだから、とっくに飯田君はUSJの外に出ている。

「らしいな、さっさと帰れよ敵」

 これであと必要なのは時間だけだ。だが、目の前のモヤ相手なら後ろの四人を守るのはわけない。

 ……と思っていたのだが。

「消えた!?」

 芦戸の言うとおり。目の前のモヤは一点に集まり、そのまま消えた。

「――相澤先生がヤバい」

 俺は中央広場の方に首を動かす。すると、敵の首領らしき手が体中に着いている敵と、脳みそが丸出しの敵が相澤先生を追い詰めていた。

「みんなは十三号先生を安全な所に!!」

 それだけ言い残し、俺は全力で跳躍する。

『ゴッ』

 不味い、思い切り頭をコンクリートに叩きつけられた。アレはすぐに治療しないと後遺症が残りかねない。だが、俺が足音や気配を消したままあそこにつくにはあと十秒弱はかかる。

「死柄木 弔」

「黒霧、十三号はやったのか」

 よし、運がいいのか解らんが。相澤先生への追撃はとりあえず止まった。

「行動不能には出来たものの、散らし損ねた生徒がおりまして。……一名逃げられました」

「……は?」

 あと七秒。まだだ、まだ喋っててくれ。

「は――…はあ――。黒霧、おまえ……おまえがワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ」

 あと五秒。もう少しで良いから喋ってろ。

「流石に何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ、あーあ…今回はゲームオーバーだ。――帰ろっか」

 あと三秒。ついでに水際で大して気配も消さずに隠れてつもりでいる三人にも気がつくなよ!!

「けども、そのまえに平和の象徴としての矜持を少しでも――」

 視線は変えずに指だけが動いた。方向はあの三人に向いている。 

不味いな、アイツら三人に気がついている。あの紫葡萄が梅雨ちゃんに変なことしなきゃ、水音もそんなにしなかったってのに――いや、そんなことはどうでも良い、今は俺がなにかアクションをしてこっちに意識を持たせないとあの三人のウチの誰かが死ぬ――

「へし折って帰ろう!」

 死柄木と呼ばれた敵が梅雨ちゃんの前に転移し、顔に触れる。おそらく、殴りかからないのは、掌で触れた方がダメージが大きいからだろう。

「…………本っ当かっこいいぜ。――イレイザーヘッド」

 だが、梅雨ちゃんに触れても何も起こらなかった。おそらく、相澤先生が個性の発動を止めているんだろう。

 それだけあれば十分だ。

「“マジカルリーフ”!!」

 俺は気配を隠すのをやめ、大声で技名を叫ぶ。狙ったところに当る必中技をあえて外す。

「逃げるぞ、捕まってろ!!!」

 “マジカルリーフ”を交互に打ち続けながら、跳躍。三人の後ろに着水し、後ろから左手の蔓で三人を固定して、右手の蔓で俺の身体事引き上げる。

「脳無」

 だが、俺の逃走策は上手くいかなかった。

「――は」

 右手の蔓が断ち切られている。パワーウィップに使うのと同じ蔓がだ。

「着地頑張れッ!!」

 全力で三人を敵から遠い方向に投げて、“みがわり”

 “みがわり”を使ったことで体力が減ったが、俺のみがわりがあるはずの場所から爆発音が聞えているあたり、俺の選択肢は間違ってなかったようだ。

「いい動きをするなぁ……もしかして、君が例の秘蔵っ子かな?」

「……わざわざ着地するまで待っててくれたのか」

 俺が地面に着くまでの一秒足らず。あの脳無と呼ばれた敵は追撃をしてこなかった。おそらく、あの死柄木という敵の指示が無い限り、行動ができないのだろう。だが、養父さん並のパワーがあるコイツ相手に立ち回るのは少々面倒くさい。というか、ロズレイドだと相性が悪すぎる。

「もう大丈夫――私が来た」

 さあどうするか、というところに最後の役者が現れた。

 峰田君は泣いて喜んでいる。まあ、気持ちはわからなくもない。

「さあ、反撃開始と行こうか」

 なにせ、ようやく攻勢に出られるのだから。

 



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最後の一匹

 どうも、不定期更新の黒兎です。いつも遅くてすいません。
 ただ、思ったより点数が上がらず、本業である教員採用試験への勉強に時間を取る必要が出てきまして、なかなか筆が執れない状況にあります。
 いつもいつも投稿が中々安定せず申し訳ありません。


 

「嫌な予感がしてね……校長のお話を振り切りやってきたよ」

 もうもうと広がる砂煙の中から、ウサギのような形の金髪が現れる。

 

「ミュ!!」

 

 その後ろには俺の手持ちの万能手であるミュウもいる。緑色に淡く光っているのは“いやしのはどう”を使っているからだろう。“いやしのはどう”じゃ碌に活動時間は回復できないのに……どうやら、数分すら惜しいくらいには活動時間が無いらしい。

 

「ああ、キミがいなかったら来るのはもっと遅れてしまっただろうな」

おそらくだが、ミュウは飛ばされた後に生徒の安全を確保してからUSJの外に出てテレポートで養父さんを呼んできたようだ。

 

「彼女の“テレパシー”でだいたいの状況は把握している。――もう大丈夫」

 ミュウの本来の特性は“シンクロ”だ。だが、ミュウがテレパシーを使う方法はある。

“へんしん”だ。メタモンの“へんしん”とは異なり、幻のポケモンであるミュウの“をへんしん”は特性も完璧にコピーする。それで、ラルトスやソーナンスあたりの“テレパシー”を特性として持つポケモンに変身し、記憶をそのまま養父さんに送り込んだんだろう。

 

 だから、なのか。

 

「“私が来た”」

 

 ウチの養父は中々に……キレていらっしゃった。

 

 おそらく、突然襲撃してきた敵に対する憤りもあるだろう。だが、大きいのは教師という立場でありながら守るべき生徒を危険にさらしたこと。先輩として後輩に当る相澤先生や十三号先生を守れなかったこと。師として緑谷君についていれなかったこと。……そして、親として俺に危険が迫っているのを見過ごしたこと。――最後のは少し違うか?

まあ、それはそれとして、割と貧乏性の養父さんがネクタイを引きちぎるなんて、よほどキレてないとしないからな。

 

 と巫山戯るのは程々にしておこう。それよりも、どうやら養父さんが動くらしい。

 

「――ッ」

 

 腰を低く構えた瞬間、養父さんの姿がブレる。

 

「……相澤くん、すまない」

 

 鳩尾、頸椎に鋭い一撃を入れ、多くの有象無象を失神させて相澤先生の所に現れた。聴覚が強化されてる俺だから聴きとれたが、相澤先生を真っ先に助けるだろうってのは予想がついてた。

 

「皆、入り口へ相澤君を頼んだ。――意識がない、早く!!」

 

「え!?え!?あれ!?速え……!!」

 

 養父さんが瞬きほどの早さで行動したこともあり、峰田くんはかなりおどろいている。 

 

 いや、俺も立ち止まってる場合じゃないか。この場で数えられる戦力は俺と養父さんしかいないんだ。

 

「良い天気だ。これならすぐにみがわり分くらいは回復できるか」

 

 先ほどの攻防との時に作ったみがわり、そして今までBURST状態を維持して消耗した分の体力を回復させるために歩きながら“こうごうせい”を使う。

 

 ただ、勝機は未だに薄い。

 

 なにせ、相手の首領は兎も角。あのモヤモヤと脳みそ丸出しは状態異常とか効かなそうだし。で、効かないとなるとこっちも物理で殴るしか出来ないんだが。リーフストームは連発効かないし、パワーウィップは遅いし、マジカルリーフは威力弱いしで、なんとも勝ち目が見えない。

 

「ふーん、動きは確かに早いな。けど、見えないほどじゃない。――けど、ダメだな」

 

 BURSTした俺の強化された聴覚は死柄木の口からでるボソボソとした声すら拾う。てか、ダメってわかったならさっさと帰ってくれませんか。

 

「せっかくチンピラ共をかき集めて、先生に頼んで秘密兵器まで用意したけど、――ダメだ」

 

 ボリボリと頭を掻いて死柄木は舌打ちをする。

 

「オールマイトは弱ってる。――けど、タイムリミットはわからない、生徒は強い、例の秘蔵っ子は脳無とそこそこ戦える。……チュートリアルの難易度じゃないだろ!!クソが!!」

 

 死柄木は語尾を強くして、頭を掻きむしる。

 

「仕方ないか、あの秘蔵っ子にオールマイトもいる」

 

 しかし、死柄木は急に冷静に手をぶら下げる。そして、顔にぴたりと張り付いている掌の隙間から見える素顔は不気味に嗤っていた。

 

「――ッ!!!」

 

 死柄木が何をしようとしているかは解っている。どうやってことを成すかも解っている。解らないのは誰を狙っているかだ。

 

 ワープゲートの個性の持ち主である黒霧なら、視界外の対象も狙えるだろうが。攻撃をするのは死柄木だ。つまり、あいつが狙うのは視界内にいる誰かというのは容易に想像がつく。

 

 そして、おそらく狙いはゲート前の十三号先生の周りの生徒の誰か。緑谷君達も一応狙える範囲内にはいるが、そこは流石に養父さんが近すぎる。いくら衰えているからとはいえ、あの早さだ。ワープゲートのための黒いモヤが少し出た位のときに動かれれば確実に殺害は失敗する。そう考え、俺は足に力を込めよう――とした。

 

「――せめて子供の一人の人生くらい台無しにしてかないとな」

 

 黒いモヤが現れたのは――芦戸の顔の前だった。

 

 

 

 その時、頭の中で考えていた全ての思考が吹き飛んだ。

 

 左腕の肘の近くにある痣から緑色のBURSTハートを出してそのまま腰を動かして、左手で掴む。

 

 伝説のポケモンとのBURST。

それは、俺の肉体に多大な負荷を与える。もし、俺の肉体の強度が足りてなければ、俺は風船のように身体の中に流れこむ力に耐えられずに破裂する。

 

 前に養父さんの傷を治すためミュウとBURSTしたときは、最大まで積み技を詰んだミュウのバトンタッチで肉体の強度などを底上げした状態で“いやしのねがい”を使った。それでも俺は意識不明の重体で二週間寝込むことになった。全く身体強化をしていない現状じゃ俺の身体は確実に破裂するだろう。

 

 けどな、二度の人生で初めて作った友達を見捨てるほど、甘い覚悟で頂点目指してないんだわ。

 

「―――傅け、レックウザ!!!」

 

 左手の中から膨大な力が身体に流れ込み全身の筋肉が軋んでいくのが解る。

 

 くっそ、傅けなんて命令口調使ったからちょっとご立腹なのか?練習でBURSTする時よりも力の勢いが強いんだが。……まあいい。

 

「“しんそく”」

 

 思考がオーバークロックし、時間の流れが止まったかのように周りの動きが緩慢になる。

 

「――」

 

 空中に道があるように駆け上がり、芦戸と死柄木の間に入る。

 

「――なっ!?」

 

「……残念だったな」

 

 死柄木と手を合わせている俺の右手は、死柄木の個性の影響で崩れていく。だが、そんなことはどうでも良い。

 

「――法華?」

 

 どうやら芦戸は後ろで震えているらしい。けれど、間に合った。それで十分。

 

「ああ、大丈夫。――すぐに片付ける。だから、芦戸は一寸待ってて」

 

 死柄木の手をそのまま黒いモヤに押し込み、両手で黒いモヤを掴む。

 

「なっ!?正気ですか!!」

 

 空間干渉系の個性はドラゴン・みずだ。両方は無理でも、片方なら用意できる。

 

「“ドラゴンクロー”オオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 龍の気を両手に満たし、爪の形にする技“ドラゴンクロー”。これなら空間をこねくり回すことはできなくとも、閉じかけている穴を力業で妨害することくらいはできる。

 

 レックウザとのBURSTで変形した口に、体内で練られた龍の気が集まっていく。

 

「脳無!!!あの緑の奴を引き離せェ!!!」

 

 流石は敵の首領をやっているだけはある。けれど、遅い。

 

「“りゅうの――」

 

 それに、俺はこの穴を通して死柄木を攻撃しようとしているわけじゃない。

 

「――はどう“」

 

「死柄木弔!脳無を呼び戻してください!!」

 

 切り札を封殺する。そうすれば、時間ギリギリの養父さんとクラスメイト達でもなんとかなる。

 

「--―――」

 

 しかし、養父さんを倒せる戦力だとは言ってたけど、体積が三分の二になっても生きてるとは。だが、こっちも時間に余裕はない。

 

「――早々に決めさせて貰う!!」

 

 再び両手に龍の気を満たし“ドラゴンクロー”を展開し、何度も脳無を切り裂く。

 

「―――――」

 

「力自慢はウチの養父だけで間に合ってんだよ!!」

 

 脳無の左拳を右手で掴み、そのまま握り潰す。いくら超再生とはいえ、再生するにはエネルギーが必要になる。そして、そのエネルギー源はおそらく体内にため込まれたカロリーだ。どんなモンスターマシンだろうが、エネルギーがなければただの鉄屑になる。車と同じだ。

 

「――脳無!」

 

 そして、ある程度脳無がボロボロになれば死柄木が脳無を呼び戻すように指示を出すだろうというのは予測できていた。

 

「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!」

 

 だから、“ハイパーボイス”で指示を妨害+衝撃波で細胞にダメージを追加する。

 

 それに、切り刻む前に逃げられるのは俺としても都合が悪いんだわ。なにせ、まだ一分と少ししか変身してから時間が経ってないっていうのにもう意識が落ちそうで、追撃のために“しんそく”なんて使っている余裕は無い。

 

「――――」

 

「オラァッ!!」

 

 脳無の拳を避け、または受け止めながらこっちは“ドラゴンクロー”で脳無を切り裂く。それを、目にも止まらぬ早さで打ち続ける。しかも空中でだ。

 

「糞ッ!!」

 

 届かない。――どうやら、ドラゴン技に使う龍の気が底を品切れらしい。両手に纏う龍の気が徐々に薄まっている。

 

「がッ!?」

 

 ヤバい。龍の気の残量に気を取られて、一発顎に貰った。

 

「――“エアスラッシュ”」

 

 けれど、まだだ。まだ、離してやれない。

 

「俺の“げきりん”に触れたんだ。最後に一発貰ってけ」

 

 身体の内側から溢れ出る膨大な力と破壊衝動が、意識が殆ど飛んでいる俺の身体を巡る。そのエネルギーを右拳に集中し、一発で押し込む。名付けるなら--

 

「“DRAGON SMASH”ッ!!」

 

 ……手応えはあった。即席の割にはいい威力だっただと思う。しかし、右手の拳を振り切った瞬間。俺の意識はブツンと切れていた。

 



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