八八艦隊召喚 (スパイス)
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プロローグ1
八八艦隊前日章


こんにちは、スパイスと申します。
小説投稿は初めてで、かつこれが初の作品です。
ですので、あたたかい目で御覧いただければ幸いです。
どうかよろしくお願いします!


「では、会議を始める。」

 薄暗い会議室に、低い声が響いた。

 この会議の参加者は、ざっと見ただけでも様々な服装や年齢の者がおり、普通の会議ではないことが一目で分かる。

「各参加者は、自由な意見を述べてよろしい。」

 その声をきっかけに、様々な意見や声が、煙草の煙と共に会議室に充満する。

 

「ワシントン会議がわが国の反対で流れてしまった以上、米国も英国も新型戦艦の建造を、より一層促進するに違いない。」

 

「本当に条約を蹴ってしまってよかったのだろうか……このままでは国際社会におけるわが国の信用はがた落ちだ。」

 

「財政の問題もあるぞ。関東大震災の復興予算と艦艇の建造予算は両立できん。このままでは財務官僚が過労死するぞ。海軍もな。」

 

「だが、八八艦隊計画の完遂は皇室と皇族の方々の御意思だ。あの『存在』が告げたことが本当であれば、向こう20年でわが国は危機的な状況に陥ることになる。」

 

「しかし本当に実在するのか?その『存在』とやらは。私には荒唐無稽なおとぎ話にしか聞こえないのだが……。」

 

「1904年の日露戦争時以来、我が日本はあの『存在』に助けられてきたじゃないか。おかげで旅順、奉天、ハルビンと我が陸軍は少ない犠牲で大勝利をおさめ、日本海海戦では短時間でバルチック艦隊を撃滅できた。おかげで有利な立場で講和が結べ、樺太全島と少ないながら賠償金も手に入った。」

 

「韓国併合もやらなくてよいと、『存在』が伊藤さんと桂さんに告げたから、莫大な借金も抱え込まんですんだ。伊藤さんは残念だったが……。」

 

「それだけじゃあない。世界大戦の時だって海軍を派遣したおかげで、ユトランド沖海戦では名実共に英国と我が遣英艦隊の大勝利となった。南洋諸島の割譲に英国がとやかく言わなかったのは、それがあるからだ。」

 

「でも、今回の『存在』からのお告げは無茶だ。『向こう20年以内に、世界第一級の海軍戦力を整備せよ。さすれば御国は安泰とならん。』だと?金はどこから捻り出すんだ?」

 

「しかし、皇室と皇族の老若男女の方々全員、政府と陸海軍の重鎮達が皆同じお告げを聞いているんだ。これを夢の一言で片付けるには限度がある。現に我々の中にもお告げを聞いた者が少なくない。」

 

「関東大震災では物的損害はまだしも、人的被害は驚くほど少なかった。これも『存在』のお告げに従い、避難訓練を国民一丸でやっていたお陰だ。」

「結局、やるしかないのか……。」

 

「議論は出尽くしたようですね。」

 

一人の海軍軍人が立ち上がって言った。

 

「八八艦隊計画は、当分の間は予定通り遂行する。しかしこのままでは我が国の財政は破綻するため、適当な段階で新たな軍縮条約を米英に提案するか、米英が軍縮を持ちかけてくるのを待ち、条約を締結する……。

これで宜しいですか?」

 

「戦艦の建造は制限しない方針だぞ。分かっているんだろうな?」

 

他の海軍軍人が念を押すような声で言った。

 

「もちろんですとも。」

 

そう、先に言葉を発した海軍軍人……「山本五十六」は微笑んで言った。

 

時に、1924年11月のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大日本帝国海軍

 

(戦艦)

 

・金剛型戦艦

同型艦:金剛、比叡、榛名、霧島

基準排水量、全長、全幅、武装、速度等は、史実と同じ。

 

帝国海軍最古参の戦艦であり、史実と同じ改装が成されている。

元々は巡洋戦艦であったが、二度の近代化改装により高速戦艦に生まれ変わった。

浅間型超甲巡の就役に伴い、1945年には退役する方針であったが、異世界への転移により、帝国とその同盟国を防衛するには、少しでも多くの艦船が必要と判断され、退役は無期延期となった。

 

・扶桑型戦艦

同型艦:扶桑、山城

基準排水量、全長、全幅、武装、速度等は、史実と同じ。

 

1915年~1917年に完成した、日本初の純国産戦艦。

史実とほぼ同じ近代化改装が成されている。

異世界転移時には旧式艦であり、大和型の就役に伴い退役・解体が決定していたが、金剛型と同じく退役は無期延期となった。

 

・伊勢型戦艦

同型艦:伊勢、日向

基準排水量、全長、全幅、武装、速度等は、史実と同じ。

 

1917年~1918年に完成した戦艦。

元々は扶桑型戦艦の三、四番艦として計画されたが、扶桑型の防御装甲の欠陥が指摘されたため、改設計されて就役した。

史実と概ね同じ近代化改装が施されている。

扶桑型と同じく異世界転移時には旧式艦であったため、解体が決定されていたが、日本国との交流により航空戦艦への大規模改装が決定、後には帝国海軍初の垂直墳進弾(ミサイル)搭載戦艦となった。

 

・長門型戦艦

同型艦:長門、陸奥

基準排水量、全長、全幅、武装、速度等は、史実と同じ。

 

1919年から20年にかけて就役した、日本初の41cm砲搭載戦艦。

八八艦隊計画の第一陣として建造されたため、随所に新技術が盛り込まれており、また国民への知名度も高い。

史実と同じ近代化改装が施されている。

 

・加賀型戦艦

同型艦:加賀、土佐

基準排水量:4万3600トン(改装後)

全長:241.6m

全幅:34.8m

兵装:45口径41cm連装砲5基10門

   50口径14cm単装副砲14基14門

   40口径12.7cm連装高角砲4基8門

   25mm三連装機銃18基54挺 連装機銃6基12挺

速度:25.5ノット

機関出力:9万1000馬力

水上機2機

 

八八艦隊計画の第二陣として設計、建造された戦艦。

1924年から25年にかけて就役した。

改装は長門型と同じ回数施された。

これにより、艦橋は長門型戦艦の近代化改装後のものとほぼ同一となり、またバルジを設置したことで、対魚雷防御が充実した。

装甲は長門型を上回るものが施されている。

 

・天城型戦艦

同型艦:天城、赤城、愛鷹、愛宕

基準排水量:4万5400トン(改装後)

全長:256.2m

全幅:34.4m

兵装:45口径41cm連装砲5基10門

   50口径14cm単装副砲12基12門

   40口径12.7cm連装高角砲6基12門

   25mm三連装機銃20基60挺、連装機銃2基4挺

速度:29.5ノット

機関出力:13万2000馬力

水上機3機

 

八八艦隊計画の第三陣として、1925年から27年にかけて就役した戦艦。

元々は巡洋戦艦であったが、海軍の艦種類別変更に伴い「戦艦」に変更された。

改装は二回実施され、そのため煙突が二本一纏めとなり、バルジも設置、艦橋構造も長門型に準ずるものに、また防御力も強化された。

装甲は第一次大戦の「ユトランド沖海戦」の戦訓を取り入れ、垂直装甲は傾斜装甲となり、また水平装甲や弾薬庫など、場所によっては加賀型を上回る防御力が施され、ほぼ「高速戦艦」といえる。

関東大震災により「天城」が被災するものの、建造が予定より進んでいたために艦体が小破するのみに留まっている。

 

・紀伊型戦艦

同型艦:紀伊、尾張、駿河、常陸

基準排水量:4万6200トン(改装後)

全長:254.1m

全幅:35.2m

兵装:45口径41cm連装砲5基10門

   50口径14cm単装副砲12基12門

   40口径12.7cm連装高角砲6基12門

   25mm三連装機銃22基66挺、連装機銃2基4挺

速度:28ノット

機関出力:13万2000馬力

水上機3機

 

八八艦隊計画の中核を成す戦艦として、1928年から30年にかけて就役した。

米国の主力戦艦である「サウスダコタ級」の情報に基づき、完全な新規設計の戦艦になるはずであったが、財政問題やメンテナンス、および建造速度の促進等の理由から、天城型の図面を流用して設計・建造された。

比較的新しい戦艦であるため、大規模な改装は一度しか行われていない。

 

・穂高型戦艦

同型艦:穂高、蓼科、乗鞍、戸隠

基準排水量:5万4800トン

全長:274.3m

全幅:36.8m

兵装:45口径46cm連装砲4基8門

   50口径14cm連装砲6基12門

   40口径12.7cm連装高角砲8基16門

   25mm三連装機銃28基84挺、13mm連装機銃2基4挺

速度:29ノット

機関出力:15万馬力

水上機3機

 

八八艦隊計画の最終艦、かつ最強の艦として、帝国海軍が1933年から35年にかけて建造した戦艦。

米国のダニエルズ・プラン艦に対抗すべく、設計当初より46cm砲の搭載が決定されていたが、1926年に締結された「ジュネーブ軍縮条約」により、16インチ以上の主砲を搭載する戦艦の建造は禁止されていたため、艦体と艦上構造物のみ建造した後は工事を中断、名目上の竣工の後は予備艦として保存されていたが、1937年に条約が失効すると工事を再開し、予定通り46cm砲を搭載して完成した。

帝国海軍初の46cm砲搭載艦であるため、竣工当初は不具合も多かったものの、異世界転移時には完全に不具合を修正しており、戦力としてカウントできる状態になっていた。

なお、水上機用のカタパルトは艦体中央に設置されており、主砲発射時の爆風を防ぐことができるようになっていた。

艦橋の形は大和型とほぼ同じ。

 

・大和型戦艦

同型艦:大和、(武蔵)、(信濃)、(近江)

基準排水量:6万5000トン

全長:263.4m

全幅:38.9m

兵装:45口径46cm三連装砲3基9門

   60口径15.5cm三連装砲2基6門

   40口径12.7cm連装高角砲10基20門

   25mm三連装機銃36基108挺、13mm連装機銃2基4挺

速力:28ノット

機関出力:15万8000馬力

水上機:7機

 

「マル3計画」「マル4計画」で二隻ずつの建造が決定され、完成が急がれている帝国海軍史上最大最強の戦艦。

計画された当初の対空火器は僅かであったものの、各国で新型の艦上攻撃機、艦上爆撃機が開発されていること、またドイツ戦艦の「ビスマルク」が英艦上機のソードフィッシュに舵を破壊され、それが沈没の遠因になったことや、「タラント空襲」による英軍の戦果が予想以上であったことなどから、対空火器の増強が図られた。

また八八艦隊計画で戦艦を多数建造、改装した経験から、隔壁や注排水装置等のダメージコントロールシステムは史実よりも増加され、また艦底部分は三重にされて魚雷に対する防御も強化、各部の装甲配置も適正化、副砲も装甲化されるなど「改大和型」とでも呼ぶべきものとなっている。

三、四番艦では、高角砲を10cm砲に変更する予定である。

一番艦の「大和」は1941年12月に完成し、文字通り帝国海軍の「顔」とでも呼ぶべき存在となった。

 

 

(航空母艦)

・鳳翔

史実と同じく、世界初の空母として完成した。

 

・龍驤型空母

同型艦:龍驤、龍鳳

基準排水量:1万2500トン

全長:199.5m

全幅:20.4m

兵装:40口径12.7cm連装高角砲4基8門

   25mm連装機銃8基16挺

搭載機:常用32機、補用4機

 

八八艦隊計画により、1925年から26年にかけて就役した航空母艦。

当初「翔鶴」という艦名が予定されていたが、変更されて今の艦名になった。

戦闘機のみを搭載した「オール・ファイターズ・キャリア」として、艦隊の防空を担当する。

 

・飛隼

基準排水量:2万4200トン

全長:243.6m

全幅:22.5m

兵装:40口径12.7cm連装高角砲6基12門

   25mm三連装機銃8基24挺、連装6基12挺

搭載機:常用66機、補用9機

 

軍縮条約の枠を利用して「マル1計画」にて建造された航空母艦。同型艦は無い。

 

・蒼龍

・飛龍

「マル2計画」で建造。史実と同じ。

 

・翔鶴型空母

同型艦:翔鶴、瑞鶴、麟鶴

米国の「エセックス級空母」に対抗するため、「マル3計画」にて建造された空母。

史実と同じだが、一隻多い。

 

・大鳳型空母

同型艦:大鳳、天鳳、海鳳

「マル4計画」にて建造が決定された航空母艦。

史実と同じだが、二隻多い。

 

(重巡洋艦)

※おおむね史実と同じ。

 

(軽巡洋艦)

※おおむね史実と同じだが、川内型軽巡の数が三隻から六隻に増加。

 

※駆逐艦以下の艦艇の型名は史実と同じだが、駆逐艦の数は神風型が三隻、吹雪型、朝潮型、陽炎型が四隻多い。

 それ以外は史実とほぼ同じ。




いかがだったでしょうか?
次回はダニエルズ・プラン艦の概要を投稿したいと思います。


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ダニエルズ・プラン前日章

設定集のみの投稿はご法度だったんですね。
お恥ずかしながら、全く知りませんでした。(汗)
ですので、修正させていただきました。



 1925年6月

 アメリカ合衆国 ワシントンDC

 ホワイトハウス、大統領執務室

 

「海軍長官、本当によかったのかな?」

 

海軍長官であるカーティス・ウィルバーに向かってそう言ったのは、合衆国第30代大統領であるカルビン・クーリッジであった。

 

「何がです?」

 

「日本が軍縮条約を蹴ったことだ。おかげで我が国はダニエルズ・プランを推進するしかなくなった。

ただでさえ健全とは言えない財政状況の中、膨大な数の海軍艦艇を整備するのは、いくら豊かな我が国でも至難と言わざるをえん。」

 

「おっしゃることはよく分かりますが、仮に軍縮条約が結ばれていたとしても、結局は建艦競争は終わらなかったでしょう。

軍縮条約の内容は、主力たる戦艦の建造は制限するものの、巡洋艦の建造制限に関する部分はほぼ手つかずでした。

今頃は巡洋艦の建艦競争が起こっていたでしょう。」

 

「だとしても今の海軍は金食い虫だ。君たち海軍が要求した予算はここ7、8年で莫大な額に上る。

戦艦10隻に巡洋戦艦6隻、そしてこれを補助する空母や巡洋艦等の補助艦艇多数の建造予算、既存戦艦の改装予算、そして航空隊の整備予算だ。

これに海軍軍人の給料や手当等の人件費が加わったら、もういくらになるか見当もつかん。

海軍は国を破産に追い込むつもりかね?」

 

「いいえ、決してそのようなつもりはありません。

しかし、日本が『八八艦隊計画』なる大規模な艦隊整備計画を推進している以上、対抗してこちらも戦力の増強をしなければなりません。

万が一の事態は、常に念頭に置かなくては。」

 

「君のような政治家上がりはともかく、軍人は敵と戦うことしか考えんでもよいが、私はそうはいかん。

現に議会からは、非難の声が上がっている。

『大事な国民の税金を、敵対する可能性の低い極東の国家に対抗するために使うのか!』

等が、その筆頭だ。」

 

「はぁ…」

 

「日本は極東における大事なパートナーだ。現に満洲や朝鮮半島の共同開発事業や鉄道経営では大きな成果を上げているし、外交関係だって平穏そのものだ。

なぜ日本は、国が破産しかねん軍備拡大を続けるのだろうか……

まるで、何かに憑かれているかのようだ。」

 

「そのことですが大統領、我々が独自に情報を探ってみたところ、日本の政府や軍内部に

は、ある秘密があるようです。

彼らは厳重な箝口令を敷いており、詳細な情報は得られませんでしたが、彼らはある『存在』から方針を提示されて動いているらしいのです。」

 

「ある『存在』だと?それは何なのだ?」

 

「いえ、全く分かりません。」

 

「分からないんじゃ、どうしようもないな。

ともあれ、このままでは国家財政は悪化する一方だ。

現にイギリスは建艦競争から脱落しかかっている。

日本にある程度譲歩しても良いから、軍縮条約を結ぶように働きかけてみようか…」

 

「それがベストだと思います。」

 

この一年後、世界各国は二度目の軍縮会議を開催し、条約が結ばれることになる……。

 

 

 

 

ダニエルズ・プラン

 

・コロラド級戦艦

同型艦:コロラド、メリーランド、ワシントン、ウェストバージニア

具体的な諸元は、史実と同じ。

 

前級のテネシー級の改良型として、1917年に建造が開始された戦艦。

元々は14インチ砲搭載艦として設計されていたが、日本海軍の「長門型」が16インチ砲を搭載することが建造途中で判明したため、急遽新開発の16インチ砲を搭載して完成した。

しかし防御力に関しては、対14インチ砲弾防御のままで手が加えられておらず、それについては不安の残る艦でもある。

 

・サウスダコタ級戦艦

同型艦:サウスダコタ、インディアナ、モンタナ、ノースカロライナ、アイオワ、マサチューセッツ

基準排水量:4万3200トン(竣工時)

全長:208m

全幅:32m

兵装:50口径16インチ(40.6㎝)三連装砲4基12門

   53口径6インチ(15.2㎝)単装副砲16基16門

   50口径3インチ(7.62㎝)単装高角砲8基8門

速度:23ノット

機関出力:6万馬力

 

コロラド級に引き続いて建造が開始され、1924年から26年にかけて完成した戦艦。

主砲は前級よりも新しく、また機関出力や装甲も強化された、まさに「決定版」であった。

 

・レキシントン巡洋戦艦

同型艦:レキシントン、コンステレーション、サラトガ、レンジャー、コンスティテューション、ユナイテッド・ステーツ

基準排水量:4万3500トン(竣工時)

全長:266.5m

全幅:32.2m

兵装:50口径16インチ連装砲4基8門

   53口径6インチ単装砲16基16門

   50口径3インチ単装高角砲6基6門

速度:33.3ノット

機関出力:18万馬力

 

ダニエルズ・プランに基づいて建造された巡洋戦艦。1925年から1927年にかけて就役。

当初は7本煙突(?!)の艦容を持つ戦艦として計画されたが、技術の進歩に伴い、二本煙突に変更されて完成した。

駆逐艦並みの速力を生かして、敵艦隊をかく乱することが任務である。

 

 




いかがだったでしょうか?
早く本編に入りたい……


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陸海軍航空狂騒曲

 1936年4月

 大日本帝国 東京

 

「とんでもない話だ!」

「断固承服しかねる!」

「海軍は陸軍を何だと思ってるんだ!」

 

 東京にある通称、「三宅坂」の陸軍航空本部内の会議室に、罵声が巻き起こった。

 

「陸軍機と海軍機の一体化だと!我々に海軍の指揮下に入れというのか!

 海軍は傲慢にもほどがある!」

 

 陸軍航空本部長である畑俊六中将はそう言い放って、向かいに座っている山本五十六海軍航空本部長を、まるで親の敵でも見るような目で睨みつけた。

 

「指揮下に入れと申し上げている訳ではありません。

 ましてや、我々海軍は伊達や酔狂でこんなことを言っている訳でもありません。

 戦闘機だけ別々に作って、爆撃機と航空発動機の一本化を推し進めたいだけです。」

 

 山本中将が平素と変わらぬ口調で穏やかに言うと、陸軍側の第二部員の一人が、立ち上がって言った。

 

「しかし山本中将、これには無理がありますよ。

 陸軍機と海軍機とでは、求められる性能も役割も、まるで違います。

 だからこそ別々に設計や開発をしているんじゃないですか。」

 

「それが無駄だと言っている。」

 

 山本はぴしゃりと言って、その部員を鋭い眼光で見据えた。

 

「現時点で海軍は九六式中攻を開発して配備しているが、この機体の総合的な性能は、速度と防弾を除けば、今君たち陸軍が開発しているキ21(後の九七式重爆)と比較しても、何ら遜色ない。

 そもそも、今までの航空行政そのものに無駄が多過ぎだ。

 爆撃機だけでも機体を統一し、航空機の生産能力を上げるべきであると僕は思う。」

 

 山本がそう言うと、隣に座って話を聞いていた航空本部総務部の池田中佐が、立ち上がって言った。

 

「これは何も悪い話ではありません。陸海軍で航空機を共用出来れば、その分大量生産が可能となり、また価格も安く出来ます。

 また発動機を共通のものとすることにより、整備の手間が省け、整備兵の教育も一本化出来ます。

 我が海軍は予算の大半を艦艇―特に戦艦の建造と維持に回しており、航空関係の予算はそんなには回ってきませんから、陸軍の方々との共同開発とすれば、開発費用や製造費用は陸海軍とも節約できます。

 これには大きなメリットがありますよ。

 もちろん、すぐに共通化せよとは言いません。次の爆撃機開発からで結構です。」

 

「ううむ……」

 

 陸軍側からは何とも言えないうなり声が発せられた。

 たしかに、陸軍関係の予算は海軍と比べると、お世辞にもいいとは言えない。

 「海軍と共通の機体を使う」というのは何とも悔しいが、現実として金が無いのだ。

 

「……分かった。爆撃機は陸海共用としよう。

 ただし、戦闘機は独自開発させてもらうぞ!これは譲れん!」

 

「もちろんです。任務が違いすぎますから。」

 

 山本はそう言って、微笑んだ。

 

 

 その後、九六式中攻と九七式重爆の後継機開発計画がスタートした際、海軍は陸軍の意見を導入、開発に反映させた。

 後に「一式陸上攻撃機『呑龍』」と呼ばれることになる機体が、産声を上げた瞬間であった……。

 




 いかがでしたでしょうか?
 感想等は随時受け付けておりますので、どしどしお願いします!


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プロローグ2
世界の果てで……


UA1000件越え、お気に入り登録が20件だと……

これを見たとき、思わず二度見しました。
本当に感謝です!


 そう遠くない未来

 ラティストア大陸、およびラヴァーナル帝国出現予想海域

 

 

「ラティストア大陸の出現予想時刻まで、あと三十分。」

 

 「ブルーリッジ」を参考にして建造された指揮専用艦「おおよど」の薄暗いCICの中に、無機質なオペレーターの声が響く。

 その声を受けて、今回の「対魔帝世界連合艦隊」の総指揮官である上原 則之海将は、オペレーターに向かって頷くと、隣にいる幕僚長の森本に声を掛けた。

 

「こうして待つというのは、やはり緊張するな。来ないでくれと思いつつ、どこかで来てほしいと思ってしまう。

 しかし、本当にラヴァーナル帝国の出現はこの海域なのか?

 エモール王国の『空間の占い』だって、詳しい日時や場所は判らなかったじゃないか。

 もし座標が間違っていたら、とんでもないことになるぞ。」

 

「ありとあらゆる情報や報告、証言および条件を総合的かつ詳細に分析、判断した結果、この日時、この場所で間違いないと断言できます。

 特にアニュンリール皇国から鹵獲・押収した文書や機械、捕虜とした有翼人を尋問して得られた証言、神聖ミリシアル帝国やレムリア連邦、メガラニカ共和国の情報部が、最大限の努力を払って届けてくれた情報が役に立ちました。

 絶対にこの日、この海域です。」

 

 森本幕僚長は未だ心配そうな上官に向かって、力強く言った。

 

「しかしまあ…艦橋から見てみたが、とんでもない数の軍艦が集結したな。特にミリシアルとムーはもちろんだが、米国や大日本帝国の艦船も多い。レムリア連邦やメガラニカ共和国の船もだ。

 『海が三分に、船が七分』とはよく言ったものだ。」

 

「参加艦艇の数なら、我が海上自衛隊も負けていません。海自の八割以上の護衛艦と第七艦隊の全艦がここに居るんですからね。

 しかも、付近の航空基地に展開している空自の部隊や帝国陸海軍、米国の航空部隊や、この世界各国の選りすぐりを集めた『世界連合航空隊』に所属する『風竜騎士団』等の航空戦力もいます。

 それを合わせて考えると、七分ではなく八九分にも届くかもしれませんよ?」

 

「全くすごいものだ。これほどの大艦隊を指揮する立場になってみると、誇らしいと思うよりも緊張が先に立ってしまうな。

 他にも適任者は居るだろうに…」

 

 すると、これまで黙って隣で話を聞いていた、竜人族のウージが心外そうに言った。

 

「お前はこの大艦隊を見て緊張するのか?

 私ならば誇らしいと思うぞ。武人の誇りここに有りだ。今すぐにでも代わりたい。」

 

「いえ、沢山の命が私一人の命令ミスで失われるかもしれないと思うと、どうにも…」

 

「もう賽は投げられたのだ。今更どうこう言っても仕方ない。ここに居る我々が負ければ、この世界はラヴァーナル帝国の支配下となる。

 命がどうこう言っている場合ではない。全滅しても勝利を勝ち取らなくては。」

 

「ウージ殿の言うとおりです。この作戦に参加している者は全員が死ぬ覚悟でいます。ラヴァーナル帝国の噂が本当ならば、我々に残された道は、死か奴隷です。

 そうならない様に、そして貴方が判断を誤らないように、精一杯補佐するのが私達『連合参謀団』の役目です。我が国は日本国には恩がありますから、尚更です。」

 

 ムー国から派遣された参謀の一人、シットラスがそう言うと、他の各国の参謀達からも、口々に同意の声が上がる。

 

「大丈夫ですよ上原海将。我々帝国海軍は、海上自衛隊と何度も合同演習をしていますし、日本国から提供された噴進兵器の運用にもすっかり習熟しました。

 子孫の兵器を搭載し、生まれ変わった八八艦隊と帝国海軍を、どうかご信頼ください。必ずや戦果を挙げてご覧にいれます。」

 

 帝国海軍の第一種軍服に身を包んだ千早 正隆大佐がそう言うと、アメリカ海軍から派遣されたグレース・ホッパー大佐が続けて言った。

 

「今回の作戦は、敵であるラヴァーナル帝国に対して先制攻撃を加え、迎撃体制を整えさせる暇を与えずに大打撃を加えることが目的です。

 その為に我がアメリカ軍最新鋭の戦略爆撃機、「B-56」の無線操縦型を500機余り後方に展開させています。

 いくら連中が知覚系の魔法に優れていても、懐かしの古巣に戻ってからすぐに攻撃を受けるとは思わないでしょう。

 歓迎パーティーの準備は、相手に秘密で行うものですからね。」

 

 そうホッパー大佐が茶目っ気たっぷりに言うと、CICの中に笑いが巻き起こった。

 

 今回の対ラヴァーナル帝国先制攻撃作戦……『オペレーション・レジスタンス(侵略への抵抗作戦)』は傍目に見れば、いたって単純なものである。

 つまり、ラヴァーナル帝国が『ただいまー』と玄関をくぐった矢先に、『こっちくんな』とばかりにミサイルによる飽和攻撃と艦砲射撃で袋叩きにし、その後敵本土への上陸を敢行して、戦争遂行能力を完全に奪うことがその骨子なのだ。

 

(ありがとう、ホッパー大佐、千早大佐。)

 

 上原は心の中で、緊張を解してくれた二人に礼を言った。

 そう、もはや後戻りはできない。

 改めて気を引き締め直した直後、オペレーターの声がまた響いた。

 

「出現予想時刻まで、あと十五分。」

 

「では、そろそろ取り掛かりますか。」

 

 上原はそう参謀達に告げて、前を見据えた。

 CICから直接見ることはできないが、そこには大艦隊が展開している。

 彼らを一人でも多く生きて帰すことが、自分の使命だ――。

 そう、思うのだった。

 

 

 

 同日、同時刻、同海域

 戦艦「戸隠」艦上

 

 

「そろそろかな。」

 

 戦艦「戸隠」艦長を今年に拝命したばかりの坂本 信吾大佐は、振り返って副長の田坂中佐にそう告げた。

 

「はい。作戦開始まであと十五分くらいですね。」

 

「そうか。あと十五分か。

 それにしてもこの光景には未だに慣れないぜ。

 合同訓練で飽きるほど見てきたけど、船の博覧会みたいだっていつも思うんだよなぁ。木造船から未来の船までが揃って航行してんだから。」

 

「そうですね、私も慣れませんよ。

 しかもこの『戸隠』も、他の姉妹艦も、他の八八艦隊の戦艦も、艦容がすっかり変わってしまいました。

 何せ後部砲塔を全撤去して、代わりに対艦、対空噴進弾をごまんと搭載しましたので。改装後の姿を見たときは『これが戦艦かよ…』と私でさえ思いました。」

 

「全くだな。だがあの噴進弾…ミサイル、とか言ったか?

 あの兵器の威力は実戦で証明済みだ。本物より多少性能を落としてでも開発・量産したのは正解だったな。」

 

「その通りだと思います。」

 

 坂本は信頼する副長の言葉に頷き、改めて艦橋より周辺を見た。

 左側を見ると、『穂高』、『蓼科』、『乗鞍』の他の姉妹艦が、揃って海原を進んでいる。紀伊型、天城型など、他の八八艦隊計画艦もいるし、少し遠くには大和型、派遣艦隊旗艦の飛騨型の姿もある。

 

 右側には、ミズーリ級やルイジアナ級、ワイオミング級や『ユタ』などの米海軍の戦艦に交じって、戦艦『フロリダ』――元『グレードアトラスター』の姿が見える。対グ戦争終結後、鹵獲されていたものを賠償艦として米海軍が接収、運用している戦艦だ。

 

 少し遠くを見てみると、神聖ミリシアル帝国のミスリル級、ゴールド級などの魔導戦艦や、ムーが運用する『ラ・カサミ』級も見えるし、米国と血みどろの戦いを繰り広げたレムリア、メガラニカ両国の魔導戦艦群も見える。

 

 ここからでは見えないものの、アガルタ法国やトルキア王国、二グラート連合などの「文明圏国家」が運用している魔導戦列艦や魔法船団、先の戦争の敗戦国であるグラ・バルカス帝国――今は共和国だが――の艦船も何隻か、共に進撃しているはずだ。

 

 さらに後方には、艦隊上空の直掩と航空攻撃を行うために、空母や竜母が五十隻以上展開している。      

 もちろん日本国の海上自衛隊も、多数の護衛艦を繰り出している。

 

「出現まで、あと十分!」

 

「総員、第一種戦闘配備!」

 

 あちこちで似たような命令が飛び、復唱が返される。

 

 戦いの狼煙は、もう上がっているのだった……。

 




 いかがでしたでしょうか?
 感想は随時受け付けています!

 次回から本篇です。


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第一章 異世界での遭遇
第一話 邂逅


 感想欄で、地理について質問されている方がいらしたため、復習も兼ねて「日本国召喚」を読み直していたら、遅くなりました!
 やはりみのろう先生は素晴らしいです!
 いよいよ本篇です。
 お気に入り登録をして下さった皆様、本当にありがとうございます!


 中央暦1639年 1月24日 午前8時

 クワ・トイネ公国 第6飛竜隊

 

「今日も問題なしだな……」

 

 クワ・トイネ公国軍、その中でも最精鋭と謳われる「飛竜隊」に所属している竜騎士のマールパティマは、のんびりと呟いた。

 哨戒任務は戦闘と並び、とても重要な任務の一つであるが、こうして何もない状態が続けば、あくびの一つ二つは無意識に出てしまう。

 しかも単独での哨戒ともなれば、話し相手も相棒のワイバーンくらいしかいないため、余計に退屈なものとなる。

 

(このまま何も起こらなければいいなぁ……

 しかし、お偉方は気を張り詰めさせすぎだぜ。三週間以上も前のことを、まだ引きずっているなんて……

 振り回される兵隊のことも、ちょっとは気にかけて欲しいな。)

 

 マールパティマは胸の中で、上層部に愚痴をこぼす。

 彼の言う「三週間以上も前のこと」とは、年明け早々に起こった「夜が昼間のように明るくなる」という不可解な出来事が、ロデニウス大陸中で観測されたことをを指す。

 その現象が一夜という短時間の内に三回も立て続けに起きたため、公国政府と軍部は「天変地異の前触れ」という見解で一致し、直ちに軍を警戒態勢に移行させただけでなく、予備役の招集も併せて行った。クワ・トイネ公国の同盟国であるクイラ王国も、同じような行動をしている。

 それだけではない。

 両国にとって不俱戴天の敵と言える「ロウリア王国」の軍隊の動きが、ここ数日で国境付近を中心に活発化しており、軍はそのことでも頭を痛めていた。 

 現在両国の外務局が「国境から軍を引いてほしい」と働きかけているが、なしのつぶてだという。

 

「……そろそろ変針位置だな。」 

 

 マールパティマはひとりごちると、相棒のワイバーンに合図をしようとした。

 その時、

 

「んん?」

 

 マールパティマは前方を凝視して、合図するのを止めた。

 何かが、キラリと光ったような気がしたのだ。

 それも一度ではない、何度もだ。

 

「何だ!あれは!」

 

 マールパティマが驚いている間にも、「それ」は黒い形を成して近づいてくる。

 それも、かなりの高速でだ。

 あきらかにワイバーンのそれではない。ましてや味方でもない。

 それが近づき、形がはっきりし始めると、マールパティマはある「異常」に気づく。

 

「羽ばたいていない、だと?」

 

 信じられない表情で、そう呟いた。

 「航空機」というものをついぞ見たことも聞いたこともない彼には、それが信じられなかった。

 思考が混乱している間にもそれは接近し、高速で横を通り過ぎる。

 その物体は、彼の――この世界の人々の――常識からみれば、途轍もなく大きかった。

 翼らしきものには小さな風車のようなものが四つ付いており、先端は点滅していた。

 マールパティマはようやく我に返り、慌てて後を追う。

 しかし、

 

「くそっ!追いつけないっ!」

 

 マールパティマは罵声を上げる。

 自分が騎乗するワイバーン(三大文明圏にはより上位の種が存在するらしいが)は、時速235kmと生物の中ではほぼ最速を誇る。

 その俊足をもってしても追いつけないということは、単純にその物体がそれ以上の速度を出していることを物語っていた。

 彼は震える手で魔力通信機(最初期の携帯電話に近い形)を取り出すと叫んだ。

 

『司令部!!司令部!! こちら第6飛竜隊のマールパティマ! 我、未確認騎を発見、確認しようとするも、速度が違いすぎて追いつけず、困難なり! 

 未確認騎は現在、本土の『マイハーク』方面へ進行中! 繰り返す、マイハーク方面へ進行中!!

 大至急、応援求む!!』

 

 マールパティマは報告しながら思った。

 (これは、とんでもないことになる。)と……

 

 

 西暦2015年 同日 同時刻

 海上自衛隊 八戸航空基地所属 第2航空群第2航空隊 P-3C機内

 

 

「レーダー手。何か反応はあるか?」

 

 機長の山田 洋二3等海尉はそう言って、レーダー手を務める太田 弘毅海士長に問いかけた。

 

「いえ、まだ何も。」

 

 その答えに少し落胆しながらも、山田は次に航法士である尾崎 幸一に問いかける。

 

「航法士、現在の機位は?」

「現在基地からの東南東、1500Kmの辺りです。」

「よし。引き続き、総員警戒態勢を維持せよ。」

 

 その声に全クルーが答えるのを確認した後、山田はちらと海面を見やる。

 青く広漠な海原は、一見自分たちが何度も見ている普通の海に見える。

 だがこの機に乗るクルーは全員、この海が未知の海であることを知っていた。

 

(やれやれ、これでやっと半分まできたな。しかしいくらこの『P-3C』が6000Km以上の航続距離を持っているからと言って、ここまでやると遭難機がでるぞ。

 それにしても『異世界転移』か……小説の中だけだと思っていたが……)

 

 山田はそう思い、自分達の任務の重大さを改めて実感するのだった。

 『P-3Cによる長距離偵察を実施し、何らかの陸地を発見せよ。』との命令が山田達に下令されたのは、昨日の昼頃だ。

 そして今日の午前五時半に八戸基地を離陸、現在に至る。

 本当であればこの任務は厚木基地か、下総基地の任務になるはずであったが、下総は練習航空隊の基地であり、ヒヨッコをこのような重大な任務に投入できないこと、厚木に所属する第51航空隊は実験開発航空隊であり、このような任務には不適当であることと、既にC-130Rによる探索で手一杯であることから、八戸にこの任務が回ってきたのだった。

 

(しかし異世界ならシーサーペントとかいるのかねえ。だとしたらこの海で海水浴するのは御免だな。何が蠢いているか、分かったもんじゃない。

 そうならない為にも、クルー全員がしっかりしないと……)

 

 山田はそう思い、操縦桿を握り直した。

 さらに一時間が経過した時、

 

「機長、レーダーに反応です。大きさからみて船舶かと。」

 

 太田が緊張を隠し切れない声で報告した。

 

「船だと?大きさはどの程度だ?」

「はっきりとは分かりませんが、一万トンクラスの船が二隻と2~3000トンクラスの船が四隻程度です。

 このままの進路でいくと、正面から正対します。船までは約100Kmほどの距離ですね。」

「距離と今までの期間から考えて、転移に巻き込まれた不幸な船っていう訳でもなさそうだな。

 よし、確認する。」

 

 山田はそう言って、正面を見据えた。

 それが、日本の運命を変えるとも思わずに…… 




 いかがでしたでしょうか?
 こんな感じで書いていきたいです。
 少し、適当な部分もありますが……(苦笑)

 感想、ご意見など、どんどんお願いします!


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第二話 触接

 UA2000越え、お気に入り登録28件……
 読者の皆様、本当に感謝です!


 昭和17年(1942年)1月24日 午前9時

 ”元”日本海 大日本帝国海軍 第七戦隊

 

 

 この時、第七戦隊第一小隊の重巡洋艦『高雄』『阿蘇』の二隻は、第十駆逐隊の『細雪』『淡雪』『春雪』『粉雪』の四隻の朝潮型駆逐艦と共に、哨戒任務に当たっていた。

 手すきの乗員は皆甲板上に上がり、目を皿のようにして周囲を警戒している。

 日本海――今はそれに『元』がつくが――が、もう周知の海ではないことを、全ての乗組員が理解しているが為の行動であった。

 今より三週間以上前(より正確には三週間と三日前)の元旦に、日本全土を震度3弱の地震が襲った。これによる被害は全く無く、地震も直ぐに収まったため、国民の大部分は気にも留めなかったが、それを境として米国以外の世界各国との通信が途切れてしまった。

 帝国政府と軍部は「遂に来るべきものが来た」と判断し、直ちに陸海軍の全部隊に警戒態勢を整えさせると共に、新聞やラジオを通じて国民に「非常事態が発生したため、物資を配給制とする」旨を告知した。

 国民は突然の事態に混乱し、不安に駆られたが、天皇が「心配せず、通常通りの生活をするように」とラジオを通して呼びかけたため、表向きは混乱は収まった。

 また政府は米国へ特使を派遣すると共に、この非常事態に対して協力を要請。アメリカ側としても帝国との協力態勢を拒む理由は無いため、特に問題なく協力が決まった。

 同時に海軍は連合艦隊に対し、周辺海域の探索と哨戒を命令、水上艦と潜水艦、航空機による哨戒網の構築が図られた。

 既に伊号潜水艦と飛行艇が、帝国の西南西の海上に『未知の砂漠の陸地』を発見したため、近く日米合同で調査隊が送られる予定だという。

 

「司令、そろそろ変針時刻です。」

 

 哨戒部隊の旗艦である重巡『阿蘇』の艦橋で、艦長の伊集院 松治大佐より報告を受けた、第七戦隊司令の上月少将は頷いて言った。 

 

「変針。進路――」

「艦長!西上空に国籍不明機!」

 

 左舷見張り員が緊張をはらんだ声で報告した。

 

「国籍不明機だと?進路は?」

「まっすぐこちらに向かってきます!」

 

 その報告に、艦橋内は直ぐに緊張に包まれる。

 

「高度は?」

「三〇(3000m)!」

「分かった。艦長、念を入れて対空戦闘の準備を。ただし、合図があるまで発砲は禁ずる。」

「了解しました。対空戦闘用意!」

 

 上月が落ち着き払った声で命じると、伊集院は『待ってました』とばかりに対空戦闘の準備を命じる。

 『対空戦闘用意』のラッパが吹き鳴らされ、左右両舷に二基づつ、計四基設置されている高角砲や多数が設置されている25mm機銃に、キビキビとした動作で兵員が取り付いてゆく。

 猛訓練の賜物か、直ぐに戦闘態勢を整えることが出来た。

 他の艦も準備を完了したようだ。

 

「不明機、高度を落としました!」

「分かった!命令あるまで発砲するな!」

 

 見張り員の報告に、伊集院は各所に伝声管で命令を伝える。

 上月はふと思い、通信参謀の永倉少佐に向かって告げた。

 

「通信参謀、近くの航空隊に戦闘機の応援を頼めるかな?出来たらでいいんだが。」

「海軍の航空隊でしたら、舞鶴の航空隊が近いです。陸軍の戦闘機隊もたしか近くにいたかと。」

「よろしい。この際だ、応援は陸海を問わない。」

「承知しました。」

 

 永倉少佐が通信長に命じようとしたとき、また見張り員の報告が飛び込んだ。

 

「不明機、高度一〇(1000m)で当隊の周りを旋回しています!」

「何のつもりだ。連中?」

 

 伊集院が首を傾げたとき、驚愕の報告が飛び込んだ。

 

「不明機の機体に日の丸があります!」

「なんだと!」

 

 その報告に、上月は目をしばたたかせた。

 

 

 西暦2015年 同日 同時刻 

 同海域 海上自衛隊 P-3C機内

 

 

 山田は目の前にあるものが信じられなかった。

 自分が見ているものは、紛れもなく前時代的な軍艦――それも帝国海軍の軍艦である。

 昔プラモデルで作ったことがあるためか、それが重巡の『高雄型』であると直ぐに分かった。

 しかし、それはあり得ない。

 帝国海軍は既に解体された組織で、その艨艟は全部沈んでしまったはずだ。だから我々海上自衛隊が発足されたのだ。

 周辺の国だって、こんな古い軍艦はもう造っていないし、保有しているという情報もない。

 

 しかし、現実にそれは海の上を走っている。

 旗竿と艦尾に旭日旗を誇らしげにはためかせながら。

 こんな、ことが――

 

「機長、機長!どうしましょうか?」

 

 副機長の田中が問いかけるなか、山田は我に返って言った。

 

「写真を撮れ、急げ!」

 

 クルーの一人が慌ててデジカメで撮影を始める。

 

「機長、国籍不明艦の奥に陸地が見えます。どうやら向こうも哨戒中みたいですね。

 それにしても…よく似ていますねぇ、旧海軍の軍艦に。」

 

 尾崎が言うと、山田も答えを返した。

 

「全くだな。昔作ったプラモを思い出したよ。でも何で旭日旗を掲げてるんだ?

 俺たちは『異世界転移』したんだろう?今度はタイムスリップか?」

「分かりませんよ。ですけど、これだけは分かります。

 俺たちは、とんでもないことに巻き込まれてるってことが。」

「機長!不明艦が無線を発しました!おそらく味方に連絡したと思われます!

 退避を具申いたします!」

「まて!ギリギリまで触接を続ける!」

 

 無線手が怯えたような声で告げると、山田は断固たる口調で言った。

 しばらく不明艦の周りを旋回し、艦隊の全容と陸地の写真を撮り続ける。

 不明艦隊は重巡二隻と駆逐艦らしき護衛艦四隻で構成されており、全ての艦に旭日旗がある。

 向こうも『敵』と断定しかねているのか、撃って来ない。冷静な指揮官がいるのだろう。

 15分ほどそうしていると、

 

「機長、レーダーに反応あり!速度から考えて、おそらく戦闘機です!

 後五分ほどでやってきます、直ちに退避を!」

「分かった!全速力で退避!」

 

 レーダー手の太田が告げると、山田は退避命令を出した。

 『P-3C』がいくら時速700Km以上出せるとは言っても、所詮は運動性能など期待できない鈍重な四発機だ。

 対戦闘機戦闘が任務の戦闘機とは比べるまでもない。

 最悪、撃墜される恐れがあった。

 

(それにしても、何なんだろうな。この世界は……

 分からないが、その答えはあそこにあるような気がする……)

 

 山田はその思いを胸に抱きながら、現空域を離脱した。

 

 

 重巡『阿蘇』艦橋 同日 同時刻

 

 

「逃げたようですね。」  

 

 伊集院艦長がそう言って額の汗を拭うと、艦橋内の全員が、不明機から攻撃がなかったことに安堵の息をついた。

 応援に派遣された零戦隊は、しばらく後を追っていたらしいが、やがて悔しそうに戻ってきた。

 どうやら捕捉することはかなわなかったらしい。

 上月司令官は戦闘態勢解除を命ずると、連合艦隊司令部宛に電文を発した。

 

『発、第七戦隊司令部。宛、連合艦隊司令部。

 当隊は〇九〇〇、第十駆逐隊と共に日本海の哨戒任務中、国籍不明機と触接せり。

 不明機は西方より、高度三〇にて当隊に接近。後に高度を一〇に落として周りを十五分にわたって旋回せり。

 攻撃は受けなかったものの、偵察任務と思われる。

 不明機の機体形状は四発機、おそらく爆撃機と認む。

 機体には日の丸が描かれ、機体側面に「海上自衛隊」の文字列を確認。

 速度は非常に速く、戦闘機でも追いつけず。

 より一層の厳戒態勢が必要と具申す……』

 

 

 後日、日本政府は山田機の撮影した写真を解析し、これが本物であることと、陸地の稜線が日本海沿岸地域と一致したことを確認。この国――仮称「もう一つの日本」に、使節を派遣することを決定した。

 最初に見つけた未知の大陸には『いずも』を派遣することが決定していたため、もう一つの日本には『いせ』と『ひゅうが』、更には念を入れて、ミサイル護衛艦の『はたかぜ』と『しまかぜ』並びに汎用護衛艦の『まつゆき』『あさゆき』を派遣することとした。




 いかがでしたでしょうか?
 海上自衛隊の派遣艦隊の艦艇がバラバラなのは、転移による混乱の為とお考え下さい。
 また文中での政府の呼称は「日本国」の場合は「日本政府」、「大日本帝国」の場合は「帝国政府」「帝国海軍」等と区別化することにしました。
 感想、ご意見等お待ちしております!


・高雄型重巡洋艦
同型艦:『高雄』『阿蘇』『鳥海』『摩耶』
基準排水量:1万3400トン(改装後)
全長:203.8m
全幅:20.7m
速力:34ノット
機関出力:13万馬力
兵装:50口径20.3㎝連装砲5基10門
   40口径12.7㎝連装高角砲4基8門
   61㎝4連装魚雷発射管4基 魚雷24本
   25㎜3連装機銃4基12挺 連装機銃6基12挺

「昭和2年度艦艇補充計画」に基づいて、1932年に就役した重巡洋艦。
前年に締結された「ジュネーブ海軍軍縮条約」に基づき、排水量を1万トン以内に収めるはずであったが、1300トンほど超過して竣工した。これは補助艦制限のため、多くの兵装を詰め込んだことが原因である。
水雷兵装を搭載したことにより、場合によっては「戦艦さえも撃沈し得る巡洋艦」として帝国海軍内で活躍している。

・朝潮型駆逐艦
同型艦:『朝潮』『大潮』『満潮』『荒潮』『朝雲』『山雲』『夏雲』『峯雲』『細雪』『淡雪』『春雪』『粉雪』『霰』『霞』 計14隻
基準排水量:2000トン
全長:118m
全幅:10.4m
速力:35ノット
機関出力:5万馬力
兵装:50口径12.7㎝連装砲3基6門
   61㎝4連装魚雷発射管2基 魚雷16本
   25mm連装機銃2基4挺
   爆雷36個

艦艇補充計画「マル2計画」によって、1937年~39年の間に14隻が完成した駆逐艦。
軍縮条約の制限の中で建造された『初春型』『長雨型』の性能に満足出来なかった帝国海軍は、その不足を補うべく駆逐艦戦力の整備を決定。艦形を『吹雪型』とほぼ同じ全長に戻し、武装も強化した。
水雷戦隊の中核戦力としては『陽炎型』にとって代わられた感があるが、強力無比な雷撃力を活かし、敵艦艇を攻撃する。


・零式艦上戦闘機(零戦)
あまりにも有名なため、割愛。


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第三話 交渉1

 評価バーに…色がついた…だと?
 (この時の作者の行動)
   何かの見間違いだろう……
     ↓
    寝る
     ↓
    起きる
     ↓
   眼鏡を拭く
     ↓
  改めてマイページを見る
     ↓
    変わらず
     ↓
    フアッ!?

 読者の皆様、そしてお気に入り登録して下さった方々。
 本当にありがとうございます!  


 中央暦1639年 1月27日

 クワ・トイネ公国 経済都市マイハーク マイハーク防衛司令部

 

 

 マイハークに基地を構える防衛司令部は、緊張に包まれていた。

 つい先ほど、公国海軍第2艦隊に所属する軍船『ピーマ』から、緊急通信が飛び込んだからである。

 通信は『我、マイハーク港沖合約60Km付近にて、不審な大型船を発見。不審船は船の常識を遥かに超えている可能性大。これより臨検に向かう。』という内容であり、去る三日前の国籍不明騎によるマイハーク上空侵入によって、警戒感に満ちていた司令部は、この報告によって更に緊張感を増した。

 

「ノウカ司令、軍船『ピーマ』が送ってきた通信は本当でしょうか?この『常識を超えている可能性大』という報告自体、本官には信じられないのですが……」

 

 防衛司令部を束ねる司令官のノウカに向かって、若手の幹部が疑わし気な口調でいうと、ノウカは厳しい声で、その幹部を諫めた。

 

「『ピーマ』が展開している方角は、三日前に飛来した不明騎が去って行った方角とほぼ同じであり、誤認と決めつけるのはまだ早い。それに『ピーマ』の船長であるミドリは、そんな勘違いをする男ではない。

 部下の報告を信じるのも、上に立つ者としては大切だぞ。」

 

「……失礼致しました。司令。」

 

 若手幹部が恐縮した顔で敬礼した時、更なる続報が飛び込んできた。 

 

「司令、『ピーマ』よりの続報です!

 『大型船の臨検を行ったところ、同船に敵対の意思は感じられず。なお、同船には派遣先の国「日本国」の外務担当者が乗船しており、以下の旨を伝えてきた。

 〇日本国は、約一月前に突如としてこの世界に転移してきた。

 〇元の世界との全てが断絶されたため、哨戒騎にて付近の探索を行っていた。その際『未知の大陸』を発見したため、確認のため上空に侵入した。なお、哨戒活動中に貴国の領空を侵犯したことについて、正式に貴国に謝罪したい。

 〇貴国の外務担当と会談を行い、友好的な関係を構築したい。

 なお、船の大きさは目測で長さ250m、幅40mほどあり、帆やオールのようなものは確認できず。次の指示を請う……』

 以上です!」

 

「バカな!国ごと転移してきただと!」

「荒唐無稽なおとぎ話も大概にしてほしいものだ!」

「それに我が国の上空に侵入しておいて、『謝罪したい』だと!我々を愚弄するのもいい加減にしろ!」

 

 幹部の間に「日本国」に対する罵声が吹き荒れる。

 

「司令!攻撃しましよう! 今なら先手を打てます!

 『日本国』だか何だか知りませんが、国ごと転移するなどという話をする連中など、信用できません!

 そもそも北の海域には、国なんて存在しません!直ぐに攻撃許可を!!」

 

 若手幹部の一人が、顔を怒りで赤くしながら言うと、他の幹部も口々に同意する。

 しかしノウカ司令官は、幹部達を見回すと一喝した。

 

「馬鹿者!!貴様らは先の通信を聞いていなかったのか!!

 得体の知れぬ国とはいえ、外交使節を乗せた船を攻撃せよというのか!

 それも政府の許可なくだ!軍人として恥を知れ!!」

 

 ノウカ司令は幹部達を叱りつけると、口調を幾分か和らげて続けた。

 

「確かに私自身、信じられないような内容ではある。しかし先方がそう言っている以上、一概に嘘だと決めつけるのは、少し早計ではないかな?

 それに、彼らは一月前に国ごと転移してきたと言った。これは『あの現象』が起こった時と同じだ。

 彼らの言い分を聞いてみようじゃないか。まあ、首相の指示を仰いでからだが……」

 

 ノウカはそう言って、通信員に告げた。

 

「『ピーマ』に伝えろ、『船を監視しつつ、現状を維持せよ。』とな。

 あと、公都の政治部会にこのことを早急に報告せよ。カナタ首相の指示を仰ぐ。」

「了解しました、司令。」

 

 通信員は、ノウカに一喝されてうなだれている幹部達を横目に見つつ、仕事に取り掛かった。

 

 

 同日 同時刻

 クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ 政治部会

 

 

 クワ・トイネ公国の首相であり、この政治部会の議長でもあるカナタは、現在進行形で頭を悩ませていた。

 議題はもちろん、三日前に突如マイハーク上空に侵入した『国籍不明騎』に関することと、約一月前の『天変地異』に関することだ。

 この内『天変地異』に関することは、全くと言ってよいほど議論が空回りしている。

 どういう対策を取ればよいのか、誰も分からないからだ。

 唯一『魔帝復活の時、それは昼間、世界が一瞬闇に包まれるとき』という言い伝え……子供でも知っている伝承しか、手掛かりが無いためだ。

 しかし、一月前に観測された現象は『夜が一瞬、昼間のように明るくなった』であり、それが一夜に三回も確認とあっては、少なくとも古の魔法帝国の復活という最悪の事態ではない、と考えられる。

 現在部会が中心に討論している議題は、もっぱら『国籍不明騎』のことであった。

 

 

「……でありますので、この『国籍不明騎』は、第二文明圏の大国『ムー』が運用している飛行機械である可能性は、ほぼ皆無であると思います。

 彼の地は我が国から遠すぎることに加え、最新のものでも時速350㎞ほどと思われますので。マイハーク防衛騎士団のイーネ団長からの報告も、これを裏付けております。」

 

 情報分析部長が発言を終えると、今度は軍務卿が手を挙げて発言を求めた。

 

「ムーの飛行機械ではないことは、よく分かった。だが第二文明圏の外れで『第八帝国』なる新興国家が、わりかし強い軍隊を保有しているという未確認情報もあるそうだな。

 連中は第二文明圏に属する国家全てに宣戦を布告し、暴れまわっているというじゃないか。

 情報分析部長、三日前のはそれではないのかね?

 現にクイラ王国にも、同様の飛行機械が現れて東の方角に飛び去っていったというではないか。」

 

「その可能性はありますが、私個人としては違うと思います。

 『第八帝国』は軍務卿が申されたように、第二文明圏外に属する国であり、彼らがここまで遠征してくる可能性はゼロに近いです。

 まあ、第二文明圏全てを敵に回すという無謀な挑戦をするような連中ですから、どんな兵器を持っているか、楽しみではありますが。」

 

 情報分析部長が言うと、会場内に笑いが渦巻いた。カナタもつられて笑った。

 第二文明圏の全国家に宣戦布告するなど、非常識を超えて無謀すぎる。

 諜報部では、早晩敗北するだろう――との見方が強い。

 

「連中でもないなら、この『不明騎』は一体何なのでしょうねぇ?

 まさか東の海の遥か向こうに存在するという『地上の楽園』から来たのでは?」

「それこそありえん話だよ、今じゃ冒険者でも信じていない、子供の御伽噺じゃないか。ワハハハハハ……」

 

 リンスイ外務卿のジョークに、軍務卿が高笑いした時、

 

「失礼します!!」

 

 外務部の若手幹部が、息を切らせて飛び込んできた。

 

「何事だ!!」

「ノックもしないとは、非常識な……」

「騒々しく入ってきたからには、重大ごとなんだろうな!」

 

 自身に浴びせられる苦言や文句に構わず、その若手幹部が言った。

 

「報告します!!

 マイハーク防衛司令部より緊急信です!

 『我、国籍不明船と遭遇す。同船には「日本国」なる国から来た外交使節が乗艦しており、公国政府との会談を希望している。

 なお、日本国外交使節は「約一月前に国ごと転移した」と述べており、「異変」と関係があるものと思われる。首相の判断を請う。』となっています!

 さらに、クイラ王国より緊急の通信です!

 『王国の北東海岸沖合で、国籍不明の艦隊と触接せり。艦隊には「大日本帝国」「アメリカ合衆国」なる国家の外交使節が乗艦しており、我が国とクワ・トイネ公国に国交樹立を前提とした会談を申し入れている。急ぎ返事を寄こされたし。』とのことです!!」

 

 瞬間、会場は大きな驚きに包まれた……。




 いかがでしたでしょうか?
 感想、ご意見等、ドンドン募集しています!
 何でも良いので、よろしくお願いします!



ここで、登場する国家の概要をば。

・日本国
史実と同じ歴史を歩んでいる日本。転移位置は原作と同じ。
西暦2015年より転移してきた。
軍隊は保有しておらず、代わりに「自衛隊」が存在している。

・大日本帝国
史実とは違い、「八八艦隊計画」を戦艦のみだが、完遂したパラレルワールドの日本。
転移位置は、緯度は日本国と同じだが、日本国より東に3000㎞ずれた位置である。
帝国本土の他、台湾と樺太全島、南洋の全委任統治領が転移してきた。
史実と違って「韓国併合」「満洲国建国」や「日中戦争」などが無く、また工業力も史実より高い。
(米国には劣るが、英・独に迫る)
異世界転移では『存在』からのお告げもあり、一番落ち着いて行動している。

・アメリカ合衆国
これも史実と違い、帝国に対抗するため「ダニエルズ・プラン」を完成させたパラレルワールドのアメリカ。
転移位置は、ロデニウス大陸と同じ緯度で、東に6500㎞ずれた位置である。
アメリカ本土の他、アラスカ、ハワイ諸島、フィリピン諸島、グアム島、ウェーク島、サモア諸島等の太平洋にある米国領の島すべてと、プエルトリコ島が転移してきた。(ただし、ハワイ諸島とミッドウェー等の日付変更線から西の島々は、元大西洋側に緯度はそのまま転移)
帝国とは満洲開発などで比較的友好的な関係であり、この異世界転移現象では一時パニくるものの、帝国からの協力もあり、落ち着いてきている。


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第四話 交渉2

 感想を書いてくださる読者の皆様、本当にありがとうございます!
 だからみんな! オイラに感想を!


 二週間ほど前

 昭和17年(1942年)1月15日

 アメリカ合衆国 ワシントンDC 国務省

 

 

「……俄かには信じがたいお話ですな。ミスター・クルス。

 しかしながら、ここ二週間の間に我が国に起こった様々な不可思議な出来事を勘案すると、貴国の情報には一定の信頼性があると判断せざるをえません。

 それにしても……『異世界転移』ですか……」

 

 国務省の応接室で、アメリカ合衆国国務長官のコーデル・ハルは、大日本帝国の全権特命大使として来米した来栖三郎と、駐米日本大使の野村吉三郎の顔を交互に見つめながら、疲れたような口調で言った。

 

(国務長官も相当疲れているな。この状況に…

 まあ、しかたのないことではあるが。我が国だって前もって『お告げ』が無かったら、正気ではいられなかっただろう……)

 

 野村大使は、ハルとアメリカを取り巻く状況に同情を覚えた。

 この二週間、米国の状況は『パニック』と表現しても差し支えなかった。

 新年に入った時刻を境として、次々と不思議なことが全米で発生したからだ。

 まず、米本土全域で震度3弱の地震が観測されたのを皮切りに、北にあるメイン州からワシントン州までの州政府から『カナダが無くなって、海が出現した!』という悲鳴のような報告が飛び込んできた。

 さらに南部のテキサス州やニューメキシコ州、アリゾナ州、カリフォルニア州からも、『メキシコが無くなった!』という報告が矢継ぎ早に連邦政府に届き始めた。

 大統領であるフランクリン・ルーズベルトは、この時点で『何らかの異常事態が発生した』と判断し、州政府に情報の統制を要請、同時に陸海軍と沿岸警備隊には厳戒態勢に入らせ、各州政府も州兵を動員し始めた。

 ハワイの太平洋艦隊司令部も命令を受領したのち、直ちに飛行艇と潜水艦で哨戒に当たらせたが、西に向かった飛行艇群より『ニューヨークが見える!』という報告が相次ぎ、騒然となった。

 また『アラスカの東側が海になった』『何千キロも離れているはずのマーシャル諸島が、カリフォルニアの西1500kmの地点にある』『五大湖が消滅』『ハワイが大西洋にある』『ハワイの東方海上に向かった飛行艇と連絡がつかなくなった』……などなど、数え切れないほどの通信や報告がホワイトハウスに飛び込んだため、政府関係の職員は全く家に帰れない状態だという。

 さらに、人の口に戸は立てられなかったらしく『アメリカが沈没する!』『宇宙人が攻めてきた!』『ドイツ軍が海を渡って侵攻してくる!』などの流言が国民の間を飛び交ったため、各地で混乱や暴動が発生、内陸に逃げ出す人々が相次いだらしい。

 ルーズベルト大統領以下、政府の報道官が新聞やラジオを通して『心配はいらない』『何かが攻めてきたわけではない』『落ち着いて行動し、政府の発表を待ってほしい』と呼びかけたのが功を奏し、家に戻ってくる人は増えたが、まだ混乱や不安は収まっていない。

 そして追い討ちをかけるように、この日本の情報である。

 野村は、ハルがかわいそうとこれほど感じたことはなかった。

 

「信じてもらえないのは、我が国としても承知しております。

 しかし、これは紛れも無い事実です。

 現に我が国も、貴国以外の国と連絡が全く取れません。『存在』の言うことが正しかったことは、これではっきりしました。もはや帝国と貴国は、別の世界に転移してしまったのです。」

 

 来栖が言うと、ハルは首を傾げて質問した。

 

「貴国のこれまでの未来を見通すかのような行動が、その『存在』なる者のお告げであったことは分かりました。しかし、何者なのです?その『存在』とは?」

「我が国の一部の人間は、天皇陛下とその皇族の方々が中心となってお告げが下賜されていることから、我が国の神話に登場する『天照大神』であると主張していますが、はっきりと断定するには証拠が不十分でして……」

「つまり『正体は判らない』、そういうことですね?」

「ええ、そういえます。」

 

 来栖がそう言うと、ハルはため息をついて言った。

 

「たしかにこれは、人智の及ばない者の仕業かもしれませんね。まあ、『人』であるかどうかもあやしいですが……

 ですが、それを伝えにわざわざ来られたわけではありますまいな、特命大使殿?」

「仰るとおりです。国務長官閣下。

 我が国と貴国は長年の間、友誼を結んで参りました。それを今回の事態を踏み台として、より上の関係に発展させたいと、我が国の政府は考えております。」

「つまり……我がアメリカと、同盟を結びたいと?」

 

 ハルが外交官としての顔になって聞くと、来栖は頷いて、持参していた箱から文書を取り出して言った。

 

「はい。軍事同盟だけではなく、技術交流の面でも関係を深めたい、というのが総理大臣と軍部の考えです。

 異世界に転移してしまった現在、この世界にどんな国家、勢力が存在しているか、全く情報がありません。最悪、我々の常識が通用しない世界であった場合、国防上重大な問題が発生する可能性があります。それを共同で対処し、解決していこうというのが、同盟を提案する理由です。

 こちらが、その同盟に関する我が国からの仮提案の概要と、近衛文麿総理大臣の親書になります。

 そしてこちらが……」

 

 来栖はうやうやしい手つきで、綺麗な黒い漆の箱を取り出した。

 それを見て、野村はハッ、となった。

 箱の蓋には、菊花紋章が大きく描かれている。

 ハルもそれを見て、目を僅かばかり見開いた。

 

「天皇陛下より、ルーズベルト大統領閣下に宛てた親書になります。

 陛下からは、貴国に対し、最大限の協力と援助を惜しまない旨、伺っております。」

 

 来栖がそう言って笑みを浮かべると、ハルも会談に入ってから、初めて笑みを浮かべた。

 

「エンペラーからそう言って頂けるとは、本当に感謝に堪えません。

 同盟の話と親書は、大統領閣下に必ず、お届けするとお約束しましょう。」

「ありがとうございます。国務長官閣下。」

 

 来栖と野村は、揃って頭を下げた。

 

 

 

 

 西暦2015年(中央暦1639年) 1月28日

 日本本土より東に2700km 護衛艦『いせ』艦内

 

 

 航空偵察で確認された「もう一つの日本」に対して派遣された、外交官の一人である進藤昭三は、『いせ』の艦内で緊張していた。

 つい昨日、日本の南西にて発見された、『未知の大陸』に対するファーストコンタクトに、一応成功した外務省は「この調子で『もう一つの日本』とも国交を樹立せよ」と、現場に発破をかけている。

 

(だからと言って、中央は性急すぎるだろう……)

 

 とは、進藤の言である。

 向こうと同じ『日の丸』を掲げているからといって、相手が友好的に出迎えてくれるという保障は無いし、そもそも海岸線が同じだからといって、同じ日本とは限らないのだ。

 最悪、別物の国家という可能性だってあるし、同じ日本人が住んでいるという確証も無い。もし領海侵犯と思われて攻撃でもされたらどうするのか。

 一応、万が一の為に海自のミサイル護衛艦と汎用護衛艦が二隻ずつ付いているし、外交官や自衛官達は、書店から買い集めた『自衛隊と帝国陸海軍』が出てくる架空戦記を読み漁って接触に備えているが、それでも緊張は拭えない。

 もし、攻撃されたら?

 もし、常識が通用しなかったら?

 もし、日本と何の関係も無い国だったら?

 

「外務省の方。」

 

 振り返ると、自衛官が立っていた。

 

「CICからの報告で、水上艦の反応を捉えました。こっちにやって来ています。ご準備を。」

「ああ、分かった。」

 進藤はこの心配が杞憂であってくれと、これほど願ったことはなかった。

 

 

 同日 同時刻

 護衛艦『いせ』 艦橋

 

 

「もうこれで何回目だ?接触は?」

 

 護衛艦『いせ』の艦橋内で、艦長の犬塚文治1等海佐は、窓から上空を仰ぎ見た。

 視線の先には、単発の水上機が、艦隊の周りを旋回している。

 明らかに海自の所属ではない。

 しばらく旋回した後、水上機は情報を得て満足したのか、東の方角に引き上げていった。

 これで接触を受けるのは五回目だ。内訳は水上機が二回、飛行艇が二回、戦闘機らしき単発機が一回である。戦闘機が来たときはヒヤヒヤしたが、別段何もせずに引き上げていったので、胸を撫で下ろした。

 他にも潜水艦の存在が確認されており、定期的に無電(もちろん暗号化されている)が飛び交っていることから、艦隊の動きは全て通報されていると判断してよい。

 もうすぐ、臨検のために水上艦艇がくる。

 

「CIC、相手の反応はどうだ?こちらに近づいているか?」

「ええ、真っ直ぐこっちに向かってきています。速度は26、7ノットですね。

 反応は一万トンクラスが二隻、これは重巡洋艦と思われます。それを囲むようにして五~六千トンクラスの反応が一隻、そして二千トンクラスが八隻です。二千トンは、おそらく駆逐艦でしょう。」

「判った。引き続き頼む。」

 

 犬塚はそう言って、再び窓の外を見た。

 

 

 同日 同時刻 同海域

 帝国海軍 第十戦隊 

 

 

「そろそろ謎の艦隊を捕捉できそうだな、艦長。」

 

 第十戦隊から分派された重巡『鈴谷』の艦橋で、司令官の栗田健男少将は、艦長である小林大佐に向かって言った。

 艦橋からは僚艦である『熊野』の他、第四水雷戦隊の軽巡洋艦『那珂』、そしてその隷下にある第四駆逐隊の駆逐艦『萩風』『嵐』『野分』『舞風』、第九駆逐隊の『朝雲』『山雲』『夏雲』『峯雲』が見える。全てここ数日の内に増派された艦艇だ。

 日本海に突如として現れた『謎の艦隊』に対して臨検を実施すべく、現在艦隊は27ノットで東に向かっている。

 先に触接した水上機の報告によれば、『謎の艦隊』は空母らしき艦二隻と、その護衛艦らしき艦四隻で構成されており、20ノット程度の速力で本土に接近中だという。更に水上機は『不明艦は全て、マストに日の丸を掲げている』と報告しており、それがより一層の得体の知れなさを感じさせていた。

 

「本艦の前方に、不明艦出現!」

「距離は!」

「約一二〇(1万2000m)!」

 

 見張り員の報告に、栗田は良く通る声で下令した。

 

「よし、ゆっくりと接近せよ。ただし発砲は別命あるまで禁止とする。

 同時に不明艦に発光信号、『我、大日本帝国海軍軍艦「鈴谷」、貴船は何者なるや?』だ。」

 

 艦隊はゆっくりと、しかし着実に近づいてゆく。

 発光信号を送って少しすると、空母らしき艦の艦橋から返答の信号が返されてきた。

 

「不明艦より返答!『我、日本国海上自衛隊護衛艦『いせ』、当方に交戦の意思あらず。

 なお現在、我が艦には外交使節が乗艦しており、貴国政府と会談を希望する。』以上です!」

「日本国?海上自衛隊?」

「聞いたことがあるか?」

「いえ、全く……」

 

 『鈴谷』の艦橋が騒然とする中、栗田は比較的落ち着いていた。

 

「艦長、あの船にカッターを出せ。外交使節が乗っているのが本当なら、無下にはできない。

 直接見て確かめるんだ。万が一に備え、なるべく腕の立つ者で編成せよ。また、高圧的な態度は厳に慎むように。」 

「了解いたしました。司令官。」

 

 小林艦長が部下に下令する間、栗田は双眼鏡で不明艦を見た。

 かなり大きく、旗竿には日本人にとって馴染み深い『日の丸』が潮風にはためいている。

 それを見て、栗田は思うのだった。

 (これは、帝国にとって大きな転換点になる。)と………

 

 

 

 この三日後、日本国の使節は、無事に帝都東京に到着。外務大臣の東郷茂徳と会談することに成功した。そしてこの一週間半後には無事に国交が樹立される運びとなり、内心で国民の期待を一身に背負いつつ、この世界に不安を抱えていた日本国および帝国外務省は、大きく胸を撫で下ろした。

 この時に日本国と大日本帝国は、それぞれが『似ているようで違う』ことを改めて実感したという。

 さらに、国交樹立の一ヶ月後には、アメリカ合衆国とも友好条約を締結することに成功した。

 

 一方、ロデニウス大陸でも、日本国、大日本帝国、アメリカ合衆国はクワ・トイネ公国、クイラ王国とも、最初の接触から一ヶ月後にはそれぞれ国交を樹立、友好条約を締結した。

 しかし、まだ誰も分かっていなかった。

 これから巻き込まれていく波乱の、ほんのひと時に過ぎなかったことに……

 




 いかがでしたでしょうか?
 夢中で書いていたら、時間があっという間に過ぎてしまいますね。
 感想、ご意見等、ドンドンお願いします!
 メッセージでも構いません!



・最上型重巡洋艦
同型艦:『最上』『三隈』『鈴谷』『熊野』
基準排水量:1万2200トン
全長:200.6m
全幅:20.2m
速力:35ノット
機関出力:15万2000馬力
兵装:50口径20.3㎝連装砲5基10門
   40口径12.7㎝連装高角砲4基8門
   61㎝3連装魚雷発射管4基 
   25mm3連装機銃4基12挺、連装機銃2基4挺

「マル1計画」によって建造された巡洋艦。1935年から37年に就役。
当初は軍縮条約の制限に従って、60口径15.5㎝3連装砲を5基15門搭載した『軽巡洋艦』として建造されたが、1937年に条約が効力を失うと、主砲塔を換装して重巡洋艦に生まれ変わった。
なお、この艦のせいで、米海軍や英海軍に「小口径砲多数を搭載した巡洋艦」というやっかいな『軽巡洋艦』が多数誕生したのは秘密である。
また『鈴谷』以降は機関の缶数が違うため、『鈴谷型』と呼ばれることもある。

・川内型軽巡洋艦
同型艦:『川内』『神通』『那珂』『加茂』『木津』『名寄』
基準排水量:5195トン
全長:162.5m
全幅:14.2m
速力:35.3ノット
機関出力:9万馬力
兵装:50口径14㎝単装砲7基7門
   61㎝4連装魚雷発射管2基 魚雷16本
   25mm連装機銃2基4挺

「八八艦隊計画」によって建造された、水雷戦隊旗艦用の軽巡洋艦。
当初は八隻建造の予定だったが、軍縮条約のために六隻に減らされた。
老朽化が進んでいること、新鋭の駆逐艦が多数就役していることなどから、代艦の建造が望まれている。


・陽炎型駆逐艦
同型艦:『陽炎』『不知火』『黒潮』『親潮』『早潮』『夏潮』『初風』『雪風』『天津風』『時津風』『浦風』『磯風』『浜風』『谷風』『野分』『嵐』『萩風』『舞風』『霜風』『沖津風』『早風』『大風』 計22隻
基準排水量:2000トン
全長:118.5m
全幅:10.8m
速力:35ノット
機関出力:5万2000馬力
兵装:50口径12.7cm連装砲3基6門
   61cm4連装魚雷発射管2基 魚雷16本
   25mm連装機銃2基4挺
   爆雷36個

「マル3計画」で18隻、「マル4計画」で4隻が建造された、『朝潮型』に続く新鋭駆逐艦。1939年から41年にかけて完成した。
『朝潮型』では航続距離が短く、また旋回範囲が大きいなど不満があった帝国海軍は、艦隊型駆逐艦の集大成として『陽炎型』を計画、航続力を強化した。
また竣工当初より酸素魚雷を標準搭載した最初の駆逐艦でもある。
本級が搭載する酸素魚雷は、うまく使えば戦艦などの大型艦をも一撃で撃沈しうるものであり、今後の活躍が期待される。


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閑話 それぞれの違い

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 これからも感想、ご意見等、ドンドンお願いします!

 また、評価・お気に入り登録してくださった方々、本当に感謝です!
 


 国交締結より二週間後

 昭和17年(1942年)2月25日

 大日本帝国 帝都東京 政府・軍連絡会議

 

 

 

 大きな会議室の中には、多くの人間が座っていた。

 年齢、服装等、様々な人がいる中で、彼らに共通する事は、全員が会議室正面に掲げられた巨大な映写幕に見入っていた、という事であった。

 映写機はとある街並みを映し出していた。

 

 ニューヨークもかくやと言わんばかりの、巨大なビル群。

 その中でも一際目立つ、バベルの塔のような白い電波塔。

 沢山の自動車が走る、綺麗に舗装された道路。

 見慣れた電車とは似ても似つかない、未来的な通勤電車。

 『弾丸列車』とは隔絶した高速で走る、白く流麗なデザインの列車。

 空港に並べられた、何機あるかも分からない巨大なジェット機。

 『すまほ』なる小型端末機を、手足の如く操る人々。

 それらの人々を支える、完璧なインフラ。

 

 映像が変わり、今度は別の映像が映し出される。

 

 巨大な大砲を持つ戦車が高速で走りまわり、目標に的確に砲弾を撃ち込む。

 完璧に統制され、その通りに行動をする迷彩服の兵士たち。

 兵士たちが銃を構えると、凄まじい発射速度で銃弾が飛んでいく。

 その兵士たちを輸送する、沢山の装甲兵員輸送車やトラック。

 大砲が一門しかないが、凄まじい破壊力と命中精度を発揮する噴進弾を多数搭載した艦艇。

 どんな目標であろうと完璧に捕捉し、相手を攻撃できるレーダー。

 『原子力』なる動力で動く、島のような空母。

 音速を超える速度で、高空を飛翔するジェット戦闘機。

 

 映像が終わると、参加者達は口々に感想を言う。

 

「すごいな……『未来の日本』とはあんな感じなのか……」

「見ているだけで国が豊かなのが分かる。」

「敗戦からたった七十年で……やはり違う世界でも『よかった』と思えるな。」

「未来の兵器とはいえ、凄まじい威力と精度だなあ……」

「それだけじゃない、それをささえる通信や電波兵器の進化も目覚ましいものがある。」

 

 頃合いを見計らって、首相の近衛文麿が立ち上がると、周りは一斉に静まり返った。

 

「参加者の皆さん、ご覧いただいた映像は六日前に撮影した『未来の日本』を映したものです。

 我が国とは何もかもがまるで違う。人々を支えるインフラ整備の凄まじさや兵器の進化もですが、我々の予想以上の進化、発展をあちらの日本は成し遂げている。

 この『平行日本』とどう付き合っていくか、皆さんのご意見を賜りたい。」

 

 近衛が座ると、軍令部総長の山本五十六大将が立ち上がって言った。

 

「この『平行日本』を様々な視点からみたが、兵器の進化は隔絶したものがある。音速を超える航空機や、特殊兵器を搭載した軍艦もだが、一つはっきりしたことがある。

 これから我が海軍が採るべき道は、航空戦力を中心とすべきだ。

 あちらの『過去の戦争』で、航空機が戦艦を撃沈した事例が五度もある以上、『航空機と戦艦は、どちらが優位か』という長年の論争は、もはや決着したといえる。

 これからの海軍軍備は、空母と航空機が中心となるべきだ。」

 

 山本が言い終わるか終わらない内に、海軍軍服の列から否定的な声が上がった。

 

「山本総長、それは少々結論を出すのが性急ではないか?

 これらの戦艦が撃沈されたのは、戦場での制空権をほぼ喪失していたからこそ起こった事例であり、例外的なことであると思われる。

 それに『あちらの歴史』を調査したところ、五度の内一度は、ドイツ軍が少数運用した『フリッツX』なる特殊兵器によるものであり、これをカウントするのは無理がある。

 それに『我々の歴史』では、過去に航空機が戦艦を傷つけた事例はあっても、撃沈した例は無い。

 山本総長の言い分は、無理矢理に過ぎる。」

 

 連合艦隊司令長官の嶋田繁太郎大将が山本を見据えながら言うと、山本も負けじと言い返す。

 

「しかし、航空機が戦艦を撃沈したのは事実だ。それに、航空機の援護が必要なこと自体、戦艦の限界を示している。

 そもそも戦艦という艦種の汎用性は、無きに等しい。」

「だからといって、また検証が不十分な段階で航空戦力の拡充など……」

「お二人とも、その辺で。」

 

 海軍大臣の堀悌吉大将が、宥めるように言った。

 

「今回の会議の骨子は『未来の日本』とどう付き合っていくかです。

 その議論は海軍の中でしていただきたい。」

 

 陸軍大臣の東條英機大将が咎めるような口調で言うと、隣に座っている参謀総長の永田鉄山大将も頷いた。

 

「分かりました…」

「………」

 

 二人がしぶしぶ席に着くと、枢密院議長の原嘉道が立ち上がった。

 

「この映像からも判るとおり、『未来の日本』は驚異的な技術を数多く有しています。

 これらの最先端技術のうち、少しでも我が方に取り入れられるものがあれば、積極的に取り入れるべきであると思う。」

「いえ、それは難しいと思います。」

 

 原の言葉を否定したのは、情報局総裁の谷正之であった。(ちなみに『情報局』とは1940年に新設された内閣直属の政府機関で、史実とは異なり『内閣調査室』のような完全な情報収集機関である。)

 

「あちらでは異世界転移に伴い、『新世界技術流出防止法』なる法律が施行され、中核的な最先端技術や軍事転用可能な技術は、輸出そのものが禁止されているようです。

 そもそも、未来の技術を我々が活かせるかどうか、まだ不明点が多すぎます。

 映像にあった機械は、全て『コンピューター』なる高精度な計算機があるからこそ運用できているのであり、そのようなまだ構想すら固まっていない技術は、手に余ると思います。」

「しかし、何か導入できるものはあるんじゃないか? あちらだって何でもかんでも禁止している訳でもあるまい。でないと国交を結んだ意味がない。」

 

 商工省の岸信介が言うと、外務大臣の東郷茂徳が言った。

 

「それに関しては追々結果が出てくると思います。現在我々とあちらの担当官同士で詳細を詰めているところですが、軍部の方々が熱望している軍事技術の輸出には、あちらも難色を示しているようです。」

「彼らにとっては旧式でも、我々には最先端の技術になるものもですか? 映像に出てきた『90式』や『10式』は無理でも、『74式』か『61式』なる戦車は、我が陸軍に是非とも導入したい。

 あれがあれば、どんな戦車が来たって大丈夫だ。『チハ』がおもちゃに見えてくる。」

 

 永田陸軍大将が興奮を隠しきれない声で言うと、山本海軍大将も目を輝かせた。

 

「あちらの軍事組織『海上自衛隊』が運用している護衛艦も、我が海軍にとって垂涎の的だ。

 艦砲の届かない遠方から、戦艦を1、2発で廃艦にできる噴進弾などは、旧型でもよいから見せてほしいな。

 あと、ジェット戦闘機…とかいったか? あれの情報も少しでいいから持ち込みたい。」

 

 いい年をした男たちが、顔を子供のように輝かせて議論しているのを見て、近衛首相はため息をついた。

(全く、これだから軍部は……)彼は胸の内で呆れた。

(しかし、民生技術は此方としても欲しいな。そうすれば国民をもっと富ませることができる。そうすれば、陛下もお喜びになるだろう……)

 近衛はそう思って、期待を膨らませた。

 

 

 後日、詳細が詰められた技術の輸出に関する話し合いでは、軍事技術に関する物は導入がキッパリ断られたものの、民生技術に関しては、1940~50年代の中核技術のみ輸出が承認された。

 また、軍事技術や戦術・戦略に関すること、また戦記や戦訓の報告書も、それが記載されている書籍等の購入は問題ないため、しばらく日本国の大型書店では、陸軍や海軍の軍服を着た男たちが列をつくっていたと言う……

 

 

 

 

 西暦2015年 2月27日

 日本国 東京 

 

 

「以上が、『大日本帝国』に関する報告になります。」

 

 使節の一員として帝国を訪れた、外交官の進藤はそう締めくくった。

 周りがざわめく中、報告会に参加している防衛大臣が力なく笑って言った。

 

「唯でさえ『異世界転移』で頭が一杯なのに、今度は『パラレルワールド』か……それも『八八艦隊』だと?

 俄かには信じがたいな……」

 

 彼が言うと、経済産業大臣がそれに相槌を打つ。

 

「全くですね。ここまで様々なことが重なると、もう何にも驚きませんよ。

 しかし、よくそんな艦隊を建造、維持するお金があったもんだ。下手すりゃ国ごと破産だぞ。」

「あちらでは『韓国併合』も『満州事変』も『日中戦争』も起こっていないんです。それくらいの予算は捻出できたんでしょうよ。おまけに樺太での石油の大規模な採掘と輸出、国内の産業基盤強化も平行して進めているっていうんですから、大したものです。

 周辺国との軋轢がほとんどないのはうらやましい……」

 

 外務大臣がため息をつきつつ言う。

 

「ともあれ、『大日本帝国』がどのような国かは概ね理解した。ぜひともかの国とは友好関係を保っていきたいと思うが、どうだろう?」

「それが一番だと思います。」

 

 総理大臣の言葉に真っ先に賛成したのは、防衛大臣だった。

 

「かの国とは3000kmしか離れていませんし、国土の安全を保つためにも友好関係の構築は必須です。

 また彼らは『もう一つのアメリカ』とも密接な関係を持っているため、無視することはできないと考えます。」

「私も賛成です。クワ・トイネ公国から食糧の輸入条項に関しては概ね合意がなされていますが、まだこの世界の文化や常識が十分判明していない以上、一つの国に食糧輸入を頼るのは危険があります。

 もし彼らが禁輸でわが国に言うことを聞かせようと迫ったり、戦争が起こった場合、国民の食糧事情は瞬く間に悪化することでしょう。

 その点、彼らは農業上位国であるアメリカと関係を保っており、彼らと手を携えていくことは大きな利点があります。

 リスクの分散は、常に考えるべきです。」

 

 農林水産大臣が続けて賛成すると、他の閣僚も次々と賛成していく。

 最後には文部科学大臣だけが残された。

 

「どうした、文部大臣?」

 

 総理が訝しげに問うと、文部大臣は躊躇いつつ言った。

 

「……こういうことを言うのは心苦しいのですが、もし『大日本帝国』と友好的な関係が構築できたとしても、それは一時的な事にすぎないのではありませんか?

 だって、あの『大日本帝国』ですよ? もし将来、あちらが帝国主義に走って、戦争になったらどうします?」

「……私だって、そうは思いたくない。しかし、あちらが戦争を仕掛けてくるようなことがあれば、我々は全力で受けて立つことになるだろう。

 でも、彼らは違う世界線とはいえ、同じ日本人だ。同族同士で殺しあうのは、あちらだって嫌だろう。

 少なくとも今は、彼らを信じようじゃないか。」

 

 総理が言うと、他の閣僚たちも頷いた。

 そこで納得したのか、ようやく文部大臣も賛成した。

 

 

 

 「日本国」と「大日本帝国」はこれでお互いの事を理解するきっかけを得ることができた。

 しかし、異世界は全てがそうではなかった。

 両国は二人三脚となって、異世界に立ち向かってゆくことになる……




 いかがだったでしょうか?
 お互いに理解し合うのは、難しいことであると思います。
 次回からは、『ロデニウス戦役編』をお届けします。
 これからも『八八艦隊召喚』を、よろしくお願い致します。


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第二章 ロデニウス戦役
第一話 ロデニウスの暗雲


 これを見てくださっている読者の皆様、ありがとうございます!
 今回は作品の都合上、みる方にとっては少し「嫌だな」という表現があるかもしれません。
 予めそれを踏まえた上で、ご覧下さい。
 よろしくお願いします。


 中央暦1639年 3月22日午前

 クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ

 

 

「すごいものだな……あの三カ国の技術力は……

 このままいけば、我が国の技術水準や国民の生活は、文明圏にも劣らぬ――いや、超えるかもしれん。」

 

 首相のカナタは興奮冷めやらぬ口調で、秘書官に語りかけた。

 

「そうですねぇ。ここらへんの地域もすっかり変わりました。

 文明圏外国が文明圏に匹敵する軍事力と生活を手に入れるなど、世界の常識から考えれば考えられないことですが、このままいけば本当に我が国は文明圏国家を超えるでしょう。」

「そうだな。使節団からの報告は、全てが本当だった。

 少年の時のように年甲斐もなくワクワクしてしまったよ。しかも私の在職中に国が発展していく……これほどやりがいのある仕事があるとは、就任したときは思わなかった。」

 

 カナタはそう言って、官邸から窓の外を見た。

 朝日を受けて輝いている公都は、一か月前とは少し外観が違っていた。

 小規模なビルがあちこちに建設されているし、電気、ガス、水道等のインフラも整備され始めている。

 またマイハーク港では、近代的な港湾設備が建設されつつあった。

 ここからでは見えないが、郊外にある練兵場では、大日本帝国やアメリカから入手した『銃』や『大砲』『戦車』を使って、両国から派遣された軍事顧問団の指導を受けつつ、兵士たちが日夜訓練を重ねているはずであった。

 まだ一か月しか経っていないため、公都など一部の地域にしかこれらのインフラは普及していないが、それでも劇的な変化といっても良いだろう。

 また大事な隣国のクイラ王国も、同様な発展を遂げているはずであった。

 日本国や大日本帝国、そしてアメリカからの情報によれば、あの国は地下資源の宝庫らしく、いち早く帝国とアメリカの合弁企業が進出、大規模な金属精錬工場や加工施設、石油化学工場やその採掘施設等を、日本国から通達された公害対策を反映させつつ、急ピッチで建設中だと言う。

 

「しかし、彼らが平和的な国家で助かりました。もし最初の判断を間違えていたら、我が国は今頃は滅亡していたでしょう。」

「全くだ。判断を誤らないで本当に良かった。特にアメリカという国は、使節の報告では大規模な軍拡を実行中らしい。

 何でも、この数か月の間に島のような大きさを持つ戦艦を四隻も完成させる予定だとか。」

「噂に聞く『ノースダコタ級』ですね。アメリカの国力は底知れずです。敵対だけは絶対にしたくないですね。」

「まだあるぞ。戦艦の他に『航空母艦』とか言う竜母に近い船や、沢山の『巡洋艦』という船も造るらしい。大使館からの報告では、四十隻以上建造予定だとか。私はこればかりは眉唾だと思うがね。」

「………そんなに造ってどうするんですかね? まさか我が国にくれるんでしょうか?」

「あんな大きな船をもらったって、肝心の乗組員がいないんじゃどうしようもないよ。それより……」

 

 カナタは声のトーンを落として、秘書官に尋ねた。

 

「大日本帝国からの情報は本当なのかね? ロウリア王国が国境に大部隊を展開しているというのは……」

「こちらの情報と照らし合わせた結果、まず間違いないようです。

 近いうちに――それも三週間以内に攻めてくるだろうと、軍事顧問団が軍務卿に警告してきました。」

「そうか、避けたかったが、遂に来るか。

 数か月前の我々であれば、ロウリアに怯えるしかなかっただろう。

 しかし、我が国はもう過去の我が国ではない。ロウリアが侵攻してくるなら、迎え撃つまでだ。」

「ええ、連中に思い知らせてやりましょう。『銃』と『戦車』、そして『大砲』があれば、怖いもの無しです。

 ですが、念のために国境の町や村に疎開勧告を出してはいかがでしょうか?」

「そうだな……いや、『疎開命令』に変更してくれ。勧告程度では地元の民は動かん。

 軍の部隊による強制疎開も検討させて、明日中に報告をまとめるよう軍務卿に伝えておいてくれ。」

「承知しました。そのように伝えます。」

「あと、外交担当のヤゴウに伝えろ。『大日本帝国かアメリカの大使館に行って、万が一の援軍を要請しろ。』と。

 日本国にも頼みたいが、かの国は憲法で武力解決や軍事的支援を禁じているようだしな。あまり当てにはできん。」

「わかりました。」

 

 秘書官はテキパキとカナタの言葉をメモし、部屋から退出していった。

 それを見送りながら、カナタは呟いた。

 

「もはや、彼らと我々は一蓮托生なのだ。どうか、援軍が来ますように……」

 

 そう、彼は祈った。

 

 

 

 

 昭和17年(1942年) 同日 同時刻

 大日本帝国 帝都東京 永田町

 

 

 近衛文麿総理大臣もまた、官邸の窓から外を見ていた。

 帝都は今や活気に満ちている。二か月前の不安や混乱に満ちていた帝都とは思えないほどだ。

 それもこれも、初めての『異世界との接触』が成功し、国交が締結されたことで、段々と不足が目立ち始めていた生活物資や必需品――主に食糧――が、十分市場に出回り始めたからだ。(戦前の日本は、米の輸入国だった)

 また米国との貿易が復活したことで、資源などの不足も解消されつつある。

 それに、それ以外の国――特に日本国――との交流も、順調に進んでいる。

 彼らがもたらした民生技術(より高性能な無線装置やクロスバ交換機などの電気通信技術、パイプライン輸送技術、極初期型のコンピュータ、トランジスタ、各種エンジン、卓上計算機等の設計図などなど)は、帝国にとってまさに『未来の技術』であり、各担当者達はこれを少しでも早く模倣・改良・量産化して国民に普及させるべく、日夜奮闘中だという。(もちろんアメリカにも技術情報は渡っている)

 また農業技術(これは制限されなかった)も伝えられたため、来年から北陸や東北の農家でこれを試験的に導入、効果が確認されたら、大々的に全国の農家に広める方針だ。

 さらに、今まで治療が『困難』『不可能』と言われてきた結核や日本脳炎、天然痘、インフルエンザ、麻疹などの感染病も、日本国から提供されたワクチンや薬剤のおかげで、助かる患者が出てきているという。また、衛生の概念(手洗い・うがい・マスクの習慣)も少しずつ国民の間に広まっているため、病気の発症率は減少するのではないか――と厚生省の担当者は興奮気味だという。

 

(やはり、『民生技術と医療技術を第一に導入せよ』という陛下の判断は正しかった。直接的な軍事技術の導入こそ出来なかったが、国民が豊かに、健康に生活できる下地が手に入るのに比べたら、そんなものは些事にすぎん。

 陸海軍の連中は残念がっていたようだがな……)

 

 近衛はそう思いつつ、机の上にある書類に目をやった。

 書類は東條英機陸軍大臣と、陸軍参謀本部からの報告書で、『ロウリア王国に開戦の兆しあり』というものだった。

 また永田鉄山陸軍参謀総長からは『桑公国(クワ・トイネのこと)や久王国(同じくクイラのこと)にある我が国や同盟国の資産・人員を防衛するため、早急に軍を派遣するを要とす』という意見が毎日のように提案されていた。

 

(陸軍は海軍に比べて予算に恵まれていないからな。この機会に名を挙げて、発言力を高めようというのだろう……

 しかし、もし陸軍の意見を容れたとして、勝てるだろうか?)

 

 近衛にとっては、そこが唯一の不安だった。

 ロウリアに潜入している諜報員やクワ・トイネから提供された情報によれば、敵の装備は中世レベルの武器と、若干の大砲――それも先込め式の青銅製――があるだけだ。正面から戦えば圧勝できるだろう。

 しかし、この世界には魔法がある。見たこともない『魔獣』や『ワイバーン』という動物も運用しているという。

 異世界の情報に疎い我が軍がそこを突かれ、思わぬ損害を受けたら……

 

 近衛は『戦争が起こらないように』と、祈るしかなかった。

 

 

 

 

 西暦1942年 3月31日

 アメリカ合衆国 ワシントンDC ホワイトハウス

 

 

 

「……では何かね?君たちはクワ・トイネ公国とクイラ王国を救援するために、軍を派遣することがベストだと言うのかね?

 まだ国内の混乱が完全に鎮静化したとは言い難い、この時期に?」

 

 ホワイトハウスの一角、大統領執務室の中で、この部屋の主であるフランクリン・ルーズベルト大統領は、そう言って陸軍長官のヘンリー・スティムソンを、じろりと見据えた。

 

「はい、大統領閣下。

 ロウリア王国が両国に三週間以内に侵攻する可能性は、99パーセント間違いないと参謀本部では結論づけています。これが本当なら、折角クイラに建設した施設や工場がロウリアの手に渡ってしまうことになります。そうすれば、我が国は異世界で築いた最初の橋頭保を失うことになるでしょう。」

 

 スティムソンはそう言って、ハンカチで汗を拭いた。

 

「ふむ、君の言う通りかもしれんな。

 現在日本国と大日本帝国……ええい、ややこしいな。

 『二つの日本』とは経済協定に基づき、『それぞれの経済圏を侵害しない』ということになっているから、当然それを守るために、彼らも派兵をするはずだ。

 もし我々だけが派兵しなかったら、世間の笑いものになる――君はそう言いたいわけだな。

 しかしだね……」

 

 ルーズベルトはため息をもらすと、窓の外を指し示した。

 そこにはかなりの数の群衆が、プラカードや横断幕を持って何かを訴えていた。

 『戦争反対!!』『子供を異世界に送るな!』等が主な内容だ。

 

「……彼らが承知するかね? 我が国は民主主義国家なんだよ、スティムソン君。

 もし私が民意を無視して派兵したら、私は大統領から引きずり降ろされるよ。」

 

 スティムソンは「はぁ……」と言うしかなかった。

 現在、アメリカは揺れている。

 揺れている理由は『突然転移した異世界と、どう付き合っていくか』という問題である。

 大統領を始めとする政府や、金儲けの匂いを嗅ぎつけた一部の大企業は『積極的に付き合っていく』との方針を維持していきたい考えだが、何の予告も無しに異世界に放り込まれた一般民衆は、『この世界とは極力関わらない』という意見が大多数なのだ。

 特に亜人――獣人やエルフ、ドワーフ――には、『人間とは違う』等の理由から、白人至上主義者を中心に露骨に嫌悪感を示す者が少なくなく、また異世界に『魔法が存在する』という情報が発表されると、よく分からない力の登場に、民衆の不安はなお一層膨らんでいた。

 ルーズベルト大統領自身は、亜人や魔法に対して何とも思っていないが、人間というものは自分の理解が及ばない出来事には、本能的に拒否感を示す。

 現在のアメリカ国民は、モンロー主義もびっくりの鎖国体制を望んでいる。

 今は止めておいたほうが良いのではないか……それをルーズベルトは言いたいのだった。

 

「……たしかに国民は、ロデニウス大陸派兵にあまり積極的ではないかもしれません。しかし、両国が頭を下げてまでして派兵を頼んできました。この機会を失えば、永久に我が国はこの世界の国々から信用されなくなるでしょう。

 それにロウリア王国なる国は、正直私自身はあまり好感が持てません。彼らは『亜人撲滅』を国是に掲げており、それを否定する人間や国家も殲滅対象としているようです。

 特にロウリア王国軍の『アデム』なる将官は、それが顕著であり、彼が率いた軍勢はそこかしこで虐殺を繰り広げた――そのような情報が現地の大使館を通じ、報告が入っています。

 それにロウリア王国とコンタクトを取ろうにも、彼らは無視を決め込んでいます。一週間前の『ヒューストン砲撃事件』を大統領はお忘れですか?」

 

 コーデル・ハル国務長官が述べると、ルーズベルトは眉をひそめた。

 『ヒューストン砲撃事件』とは、ロウリア王国とコンタクトを取ろうと、ロウリア南部の海岸に接近した重巡洋艦の『ヒューストン』が、ロウリア王国軍の沿岸砲台から何の警告もなく砲撃された事件を指す。

 この事件では、乗っていた外交使節にも『ヒューストン』の乗組員にも死者・負傷者ともゼロであった(そもそも砲弾は命中どころか、届いてすらいなかった)ものの、『ヒューストン』は大事をとって引き返し、この事件はアメリカ政府に『こんな国も存在する』という認識を抱かせることになった。

 

「確かに、あの事件はロウリア王国の危険さを証明した事件だったな。

 しかし、国民に派兵を理解してもらうには、まだ時間が掛かる。

 同盟国たる日本帝国の対応を見てからでも、遅くはないと思うがね。」

「分かりました、大統領。この件は保留とします。

 続きましては、偵察に向かった機が次々と行方不明となっている、ハワイ東方海域の調査ですが……」

 

 アメリカの決断は、まだ掛かりそうだった……




 いかがでしたでしょうか?
 リアリティを出してみようと頑張ったら、少し後味の悪い感じになってしまいました。
 読者の皆様、そしてこの作品をお気に入りとしてくださった皆様には、申し訳ないと思う次第です。
 次こそ、ドンパチ回に入れると思います。


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第二話 戦争勃発

 この小説をご覧になって下さる読者の皆様、本当にありがとうございます!
 また、新たにお気に入り登録してくださった方々にも、深く感謝申し上げます!
 いよいよドンパチ回の始まりです!


 中央暦1639年 4月1日 夜

 ロウリア王国 王都ジン・ハーク

 

 

 

 ロウリア王国はロデニウス大陸の西半分を領有する大国であり、人口は3800万人をかぞえるが、亜人は全く存在していない。

 それもそのはずで、ロウリアは国是として『亜人撲滅』を掲げており、この為クワ・トイネ公国・クイラ王国とは常に緊張状態にあった。

 今、その王都ジン・ハークの中央にあるハーク城で、御前会議が行われようとしていた。

 会議場には国王であるハーク・ロウリア34世の他、宰相や将軍達など国家の重鎮達が顔を揃えていたが、中には薄気味悪い黒装束の男達も何人かいる。

 会議場には松明が幾つも灯され、参加者たちの顔を明るく照らしていた。

 進行役である宰相のマオスが会議の開催を厳かに告げると、国王がまず最初に口火を切った。

 

「皆の者、私はこの場を借りて礼を述べたい。

 ある者は厳しい軍事訓練に耐え、ある者は寝る間も惜しんで戦争の財源確保のために奔走し、またある者は武器と兵器の生産に注力し、ある者は命を賭して敵の情報を届けてくれた。これらの者達の苦労と努力があったからこそ、我が国は悲願である大陸統一と亜人――害獣どもの撲滅に向けてようやく踏み出せる。

 本当にご苦労であった」

 

 国王がそう言って少し頭を下げると、会議場は重鎮達の恐縮の声で一時満たされた。

 それが静まると、マオスは今回の軍事作戦の責任者――王国防衛騎士団将軍のパタジンに向かって話し始めた。

 

「将軍、貴官はロデニウス大陸の統一は目前であるとおっしゃられるが、今回の戦争では、クワ・トイネ公国とクイラ王国の二カ国を同時に相手取ることになる可能性が高いと考えられます。二カ国を相手にして勝利することはできますか?」

「その点については勝利を断言できます。クワ・トイネは農民の集まり、クイラは不毛な大地に意味もなく蔓延る連中で、しかも両国とも亜人が多数おり、結束は弱いでしょう。また戦力という点では質・量とも我が方が完全に優位にあり、勝利は間違いないと言えるでしょう。ただ……」

 

 パタジンは一度言葉を切って、国王の顔をちらりと見た。

 国王が手を振って続きを促すと、パタジンは話を続けた。

 

「我が国の国境において、この数週間の間に正体不明の『鉄飛竜』の姿が何度も守備兵によって目撃されており、これが少し気になるところであります。

 この鉄飛竜は東の方角から我が国の上空に侵入しては、何度か旋回して去っていくという謎の行動を繰り返しており、また非常に高速で、ワイバーンでも全く追いつけません。

 一度、竜騎士隊が鉄飛竜の進路に回り込んで捕捉しようと試みたことがありますが、これまた正体不明の攻撃を受けて、ワイバーンが一騎撃墜され、鉄飛竜は逃走しました。

 また一週間前には『アメリカ』なる国の使者を乗せた巨大な鉄の船が、王国南部の沿岸地域に姿を見せて不遜にも交渉を要求してきました。幸いにも沿岸砲台の奮戦によって、連中は尻尾を巻いて逃走しましたが、『砲弾は一発も届かなかった』と砲台の指揮官は報告しているため、船には全く損害を与えることが出来なかったと思われます。

 私はこれらの事件は、一か月前に我が国に接触してきた『日本国』の仕業ではないかという可能性が僅かにあると思っています。

 これが差し当たっては、唯一の懸念事項です」

 

 パタジンはその鉄飛竜が『航空機』と呼ばれるもので、『一〇〇式司令部偵察機』と大日本帝国陸軍が呼称する高速偵察機であることなど、この時点では全く知らなかった。

 

「なるほど、よく分かりました。

 しかし、将軍の懸念は無用に終わると思います。まず『日本国』はクワ・トイネから1000kmも離れた北の沖に存在している新興国家であり、軍事的に影響があるとは考えにくいこと。そして、奴らの使者が最初に我が国に接触してきた時、竜騎士隊とワイバーンを見て『初めて見た』と言っていたことから、ワイバーンも知らない蛮族であると思われるからです。

 ワイバーンを知らないのに、鉄飛竜など飼いならせる道理がありません。私の推測ですが、おそらく山脈に生息している新種の竜でしょう。

 大陸統一後に亜人の生贄でも捧げれば、大人しくなると思います」

 

 マオスが言うと、パタジンはもう一つの懸念を口にした。

 

「そうですか。ではもし日本国の連中が出張ってきても、鎧袖一触で蹴散らせますね。

 ですが、アメリカの情報はどうなのです?」

「アメリカに関する情報は本当に少ないので、はっきりしたことは言えませんが、鉄で出来た船を保有している所から考えて、注意すべき国であると考えています。

 ですが、大砲の砲撃程度で驚いて逃げ出すような連中である以上、戦闘意欲に乏しい蛮族であることに変わりはありません。大陸を統一したら攻め込んで、鉄の船を我が物としてしまいましょう。何も心配することはありません」

「分かりました。確かに懸念は無用でしたね」

 

 パタジンはそう言って、口の片方の端を吊り上げた。

 その後も会議は順調に進み、とうとう終盤に差し掛かった。

 途中、黒装束の男達――今回王国に支援をしてくれているパーパルディア皇国の使者――が口を挟み、国王の機嫌が悪くなるという一幕もあったが、概ね順調に作戦案はまとまり、国王は気分よく会議を終えることができた。

 

「よろしい! 作戦開始日は4月12日と決定する!

 今宵は人生最良の日だ!! クワ・トイネとクイラに対する戦争を許可する!!」

「ハハーーーーーッ!!!」

 

 国王の言葉に、重鎮達は一斉に頭をたれてそれに答える。

 しかし、彼らは他にも会議の内容に聞き耳を立てている者がいることに気づかなかった。

 掃除夫に変装して、天井の空間から会議をこっそり聞いていた者――帝国陸軍特務機関に所属する諜報員である近藤(もちろん偽名)は、会議が終わると、直ちに城を抜け出した。

 

「なるほど。部下を気遣う辺り、国王は思想はともかく、君主としてはそんなに悪い奴じゃなさそうだな……

 だが、こっちも仕事なんでね……」

 

 近藤は王都の端っこにある掘っ立て小屋に着くと、周囲に誰もいない事を確認してから中に入った。

 床下の板を上に上げると、無線機が姿を現す。

 さほど間を置かずに、暗号無電が放たれた。

 

『ロウリア王国はクワ・トイネ、クイラに対する戦争を開始する決意を固めたり。

 侵攻作戦の開始は4月12日と判明、両国に警報を送られたし……』

 

 

 

 

 中央暦1639年 4月3日 早朝

 クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ 日本国大使館

 

 

 

「……今日は忙しくなりそうだな」

 

 大使館員である田中は、奇妙な予感とともに目を覚まし、窓の外を見た。

 クワ・トイネは農業国であることもあってか自然が豊かであり、空気がきれいで小鳥のさえずりが聞こえるなど、寝起きのよい朝を迎えられることが多かった。

 洗顔をして朝食をとろうとした時、職員が慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「大使! クワ・トイネ公国の外交担当者の方が、アポなしでこられました。

 何でも、火急の用件とか」

「こんな朝早くに? 分かりました、直ぐに向かいます」

(何かあったな。こりゃ……)

 

 田中が応接室に赴くと、室内では外交担当のヤゴウが緊張した顔で待っていた。

 

「田中殿、前もって通達もせずに来たことの無礼をお許しください。

 しかし、早急にお伝えせねばならない事態が発生いたしましたので」

「分かりました。先ずはお掛けください」

 

 田中が座るよう促すと、ヤゴウは座るなり言った。

 

「昨日の夜、我が国の軍務局に大日本帝国の大使館付き武官の方から緊急の連絡が入りました。

 ロウリアが我が国に対し、侵攻してくるとの情報を入手したとのことです。

 我々の方でも独自に調査した結果、この情報は精度が高いと判断しました。 戦争です」

「せ……戦争ですか!」

「はい。その為開戦となると、貴国に対して約束していた食糧の輸出はほぼ不可能になります。

 条約を反故にするのは本当に心苦しいのですが……」

 

 田中はしばし絶句した。

 食糧の供給が無くなる――それは日本国にとって死刑判決も同じだった。

 現在日本国はアメリカ合衆国と食糧の輸出協定の交渉に入っているものの、新しい航路の設定や海域調査などに時間が掛かっており、アメリカから食糧を積んだ船が到着するのはまだ随分先の話だ。

 加えて、アメリカは日本帝国にも食糧を供給しており、いかにアメリカでも現時点では余裕が無い。

 従って、今はクワ・トイネ公国からの食糧のみが唯一の頼みの綱なのだ。

 食糧が絶たれれば、日本国は一年以内に餓死者が続出するだろう。

 田中にはその悪夢が見えるようだった。

 

「何とか出来ませんか……?」

「おそらく無理です。ロウリア王国はこの大陸で最大の軍事力を保有しており、我が方がいかに軍事援助を受けていても、都市を幾つか放棄せねばなりません。そうなれば流通を維持するのは非常に困難です。また軍の物資輸送に輸送路を確保しなくてはならないため、さらに難しくなります。

 申し訳ありませんが……」

 

 ヤゴウは言って、ちらりと田中の顔を見た。

 

「そこで提案なのですが、援軍を派遣して頂くわけにはいきませんか?

 現在、大日本帝国の金田大使殿に問い合わせたところ、我が国に対して『派兵を検討中であり、最大限の軍事援助を約束する』とのお言葉を頂きました。アメリカのクロフォード大使殿は『現時点では答えられない』と回答されておられますが、まだ希望があります。

 あなた方も参加してくだされば、この上なく心強いのですが」

「……我が国は、武力による紛争解決の放棄が憲法にあります。同じ『日本』という国号を戴いていても、違いがあるのです。残念ながら、軍事的支援は……」

「分かりました。では残念ですが、食糧の供給は困難となるでしょう。

 我々はあなた方の国内問題に口を出せる立場にはありませんから……」

 

 この数日後、大日本帝国はクワ・トイネ公国に対して『協定に基づき、援軍を派遣する』と決定。艦隊と航空兵力、陸上戦力を派遣した。

 アメリカは派兵問題で国内が揺れていたが、政府による『ロウリア王国の危険性』の宣伝が功を奏したのか、半数以上の国民が派兵に対して前向きな姿勢となったため、クイラ王国を中心に部隊の展開が行われることが決まった。

 これらの動きを見た日本国も、『憲法を拡大解釈して海外派兵すべきだ』との論調が政府内で強まったため、多分に政治的な意図(帝国とアメリカに乗り遅れるとこの世界で軽く見られてしまう、との危惧)ながら、自衛隊が現地に派遣されることが決定された。

 

 

 

 中央暦1639年 4月11日 午前

 ロウリア王国東方国境付近 東方征伐軍先遣隊 野営地

 

 

 

「明日はギムの町、そして一か月後には公国西部、三か月後には蛮地全土が我が国の配下に……ヒヒヒ、楽しみだ」

 

 先遣隊の指揮をパンドール将軍より任されている副将アデムは、そう独りごちた。

 アデムが率いる先遣隊は、それだけで三万人という大軍であり、このことからも王国が多大な期待を自分にかけていることが分かる。

 しかもこの内訳には、この世界で『最強の航空戦力』であるワイバーンを操る竜騎兵150騎と、アデム自身が陣頭に立って訓練を施した魔獣使い250人が含まれており、そのことが一層嬉しさと満足感を倍増させた。

 また、最新鋭の兵器である大砲も30門預けられており、これは王国全軍の保有する大砲の一割に上ることも、彼の機嫌をより一層良いものにしていた。噂ではこの大砲のサンプルをパーパルディア皇国から譲り受ける際、皇国は常識では考えられない屈辱的な要求を王国にしたようだが、彼はそんなことは全く気にかけていなかった。

 クワ・トイネ公国の外務局からは「軍を国境より退去させて欲しい」と、再三に渡って魔力通信が送られているが、全部無視するようにと彼は通信兵に言い含めていた。

 彼は伝令兵を呼ぶと、獰猛な笑みを浮かべながら言った。

 

「全部隊に伝えよ。ギムでは戦利品は好きにしていい、とな。

 町の連中はなるべく残虐な方法で殺し、一人も生かして町から出さないように…………

 いや、待てよ。いいことを思いついた」

 

 アデムはもう可笑しくてたまらない、といった表情をしながら追加の命令を出した。

 

「100人ほどは殺さずに開放せよ。恐怖を連中に広めるのだ…………

 クックック……アッハッハッハ!!」

 

 伝令兵は逃げ出すように彼に背中を向け、部隊に命令を伝えた。

 

 

 

 中央暦1639年 同日午後

 クワ・トイネ公国 西部方面騎士団 ギム基地司令部

 

 

 

「どうやら市民の疎開は間に合いそうだな」

 

 西部方面騎士団団長のモイジはそう言って、幕僚たちに笑みを見せた。

 西部方面隊の兵力は歩兵、弓兵、騎兵、重装歩兵、軽騎兵を合わせて3500名と、飛竜24騎に魔術師が30名であり、ロウリア軍の先遣隊の十分の一程度に過ぎない。これでもかなりの兵力が割かれているのだが、どうしても見劣りがする。

 しかし司令部に詰めている者達の表情は皆晴れやかだった。

 それもそのはず、ギムの町とその周辺地域の集団疎開がほぼ完了したとの報告が、つい先ほど届いたからだ。

 これまで公国政府はギム市民に対して『疎開命令』を発令し、軍までも動員して強制的に市民の疎開を推し進めた。そのため腰の重い地元民たちでさえ次々と疎開に応じざるを得なくなり、現在ギムには一人の市民も存在していない。

 彼らが全員無事逃げ切れるかどうかは神のみぞ知るだが、自分たちは少なくとも『国民を守る』という任務は成し遂げたのだ。

 軍人にとって、これほど誇らしいことがあるだろうか。

 

「団長、そろそろ我々も行きましょうか」

「うむ! 司令部にある重要文書は全て焼却処分だ! 魔力通信機も破壊し、使用不能とせよ! 町にも火を放つ準備だ! 周辺の畑や倉庫の食糧も処分し、井戸には毒を投げ入れろ! ロウリアには何も渡すな!

 我々の使命は、国民が1m、1cmでも奴らから遠く逃れるための時間を、一分一秒でも長く稼ぐことにある!!

 各員はそのことを常に頭に置くように!!!」

「オオーーーーーーッ!!!」

 

 幕僚たちはモイジの檄に応じると、直ちに行動に移り始めた。

 それを確認すると、モイジは懐に手を伸ばして一枚の紙を取り出した。

 そこには、最愛の妻と娘の絵が描いてある。

 妻と娘は疎開する際に泣きながら「離れたくない」と言ったが、モイジは心を鬼にして後方に疎開させた。

 ここで少しでも長く戦うことは、家族を救うことにもつながるのだ。

 モイジは改めて、そう決意した。

 

 

 

 

 中央暦1639年 4月12日 早朝

 クワ・トイネ公国 ギム

 

 

 

 この日の朝は、ロウリア軍側からの航空攻撃と砲撃で始まった。

 アデムは機嫌よく配下の砲兵に指示を出してゆく。

 

「さあ始めよう……殲滅の宴を! 撃てぇぇ!!」

 

 アデムの号令一下、30門の大砲は次々と砲弾をクワ・トイネ側に撃ち込む。

 

「クククク……しかしこの『大砲』という兵器は実に凄いですねぇ……

 敵の攻撃範囲外の1km先から一方的に打撃を与えることが出来るとは…私好みの兵器だ」

 

 アデムは砲声に酔いしれながら、部下に前進を始めさせる。

 号令に従い、竜騎士を乗せたワイバーンが空から、歩兵や騎兵が地上から次々と国境を突破する。

 この時になって、敵側から赤い狼煙が上がり始めた。

 おそらく国境突破をギムの連中に知らせるものだろうが、もう遅い。

 ギムの市民――特に亜人は、一人残さずなぶり殺しにするつもりなのだから。

 

 アデムはこの時、楽に勝利を収められると思い込んでおり、それは配下の兵士たちも同様であった。

 しかしそれが間違いであったことを、彼らは思い知らされることになる。

 

 

 

 昭和17年(1942年)4月13日 深夜

 大日本帝国 広島県 柱島泊地

 

 

 

 この時、帝国海軍最大かつ最重要の拠点である柱島泊地は、夜の闇に沈んでいた。

 しかし突然、停泊している複数の艦から、ある戦艦に発光信号が放たれるや、各艦は一斉に動き出す。

 先ずは軽巡『木津』を先頭として、第一水雷戦隊に所属する12隻の吹雪型駆逐艦が整然と出港してゆく。

 続いて第一二戦隊の軽巡『北上』『大井』が、続いて第八戦隊の重巡『妙高』『那智』『足柄』『羽黒』が、これまた一切の逡巡のそぶりも見せずに出港する。

 また陸軍部隊や補給品を満載した輸送船団も、艦隊に付き従って外洋へと進んでゆく。

 泊地の艦艇は次々と出撃してゆき、最後は小山のような大艦――戦艦が動き出す。

 艦隊と輸送船団は全てが外洋に出ると、輪形陣を組んでゆっくりと西に向かって進みだした。

 ごく少数の関係者以外、このことは誰も知らない。

 

 

 

 中央暦1639年 4月13日 夕方

 クワ・トイネ公国 ギム 

 

 

 

「やってくれたな……モイジよ……

 お陰様で私の経歴に土がついてしまったではないかぁぁぁ!!」

 

 アデムは燃え盛るギムの町を背にしながら、憎々しげに捕虜となったモイジを睨みつけて地団太を踏んだ。

 一方のモイジは、捕虜の立場でありながら不敵な笑みを臆することなく浮かべている。

 確かにアデムはギムの町を陥落させたものの、先遣隊は町を陥落させるまでに大幅な侵攻予定の遅れを来しており、それはアデムを苛つかせるには十分であった。

 苛々したアデムは、本隊が進軍を開始するまでに町を陥落させるために先遣隊の全兵力で町を包囲して攻撃し、守備部隊を全滅させたが、その過程で先遣隊は500名もの損害を出してしまった。

 極めつけは戦利品としてなぶり殺しにする予定だった市民が一人もいないという事態で、とうとうアデムは癇癪を爆発させた。

 

「貴様ぁ! 戦利品どもをどこへやったぁ!!」

「それに答える義務は何所にもないな。それに副将ともあろう者が子供のように癇癪をおこすとは……みっともないにもほどがあるぞ」

「黙れぇぇ!! 質問をしているのは私だぁぁ!!」

「ふん。その顔を見れただけで一日半も町で籠城したかいがあったというものよ……

 もう市民は全員避難した。残っているのは軍のみだ。今頃避難民たちは遥か遠くにいる。お前は一人も捕まえられんぞ。

 少し遅かったな。ハッハッハ」

 

 モイジの言葉は途中で遮られた。

 何故ならアデムが剣を振りかざして、モイジの体を刺したからだ。

 その後もアデムは奇声を上げながらモイジの体を、自身が血まみれになるまで刺し続けた。

 何十回も刺した後でようやく気が済んだのか、アデムは周囲にいる部下たちに向かって叫んだ。

 

「何をぼんやりしてるんだぁぁ!! さっさと追撃部隊を出せぇぇ!!

 蛮族どもを一人残らずぶっ殺すんだぁぁぁぁ!!!!」

 

 血まみれになり、悪魔のような形相のアデムに怒鳴られた部下たちは、慌てて行動を開始した。

 しかし、アデムは気づいていなかった。

 これが破滅に至る道のほんの始まりにすぎなかったことに……      




 いかがでしたでしょうか?
 少し更新が遅くなってしまい、申し訳ないと思います。
 感想、ご意見などお待ちしておりますので、よろしくお願いします!


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第三話 ロデニウス沖海戦1

 いつもこの小説をご覧になってくださる読者の皆様、ありがとうございます!
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 ドンパチ回はまだまだ続きます!
 戦闘シーンのBGMはアニメ版『ジパング』の「戦闘『みらい』」でお楽しみ下さい。



 中央暦1639年 4月22日

 クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ 政治部会

 

 

 

「……現状をまず聞こうか」

 

 首相のカナタはそう言って、重苦しい雰囲気の参加者達を見渡した。

 ロウリア王国が公国に侵攻してから、今日で十日余りが経過している。

 既にギム以西は完全に敵の勢力圏となっており、ギムは陥落、守備隊も全滅した。

 唯一の朗報は、直接戦闘に巻き込まれたギム市民が一人もおらず、非戦闘員の犠牲者はごく最小限度に留まっていることだったが、これとて安心できる情報ではない。

 ロウリア軍が亜人や非戦闘員に対してどんな蛮行を働くか、公国で知らない者は居ないからだ。

まず最初に軍務卿が口火を切る。

 

「……現在確認されている敵の作戦参加兵力ですが、先遣隊だけで3万人を擁しており、諜報部からの報告では全体の総兵力は50万人を超えるとのことです。もちろん敵も予備兵力を本国に待機させていますから、この差はさらに開きます。

 またこれに航空戦力としてワイバーンを500騎、さらに最新鋭の武器である大砲を全体で300門保有しているようです。この情報に関して諜報部は『パーパルディア皇国がロウリアに軍事支援をしている』との未確認情報を入手しています。

 またつい先ほど、4千隻以上の軍船が港を出港したと報告が入りました」

 

 誰もが深刻な表情で軍務卿の発言を聞いている。

 ロウリアは本気でこちらを滅ぼすつもりで侵攻してきた。それも自分たちの約十倍という圧倒的な兵力でだ。

 それでも参加者達の表情が絶望や諦めに染まらないのは、一週間前に大日本帝国の大使から公国外務局に対してこのような通達が入ったからだ。

 

「我が国は貴国の現状に心から同情しており、また国交開設の際に同時締結した軍事協定には『一方が第三国の攻撃を受けた場合、残るもう一方は自動的に参戦する』となっています。

 従って我が国はロウリア王国に宣戦布告し、貴国に対して最大限の軍事援助を申し出たい。既に貴国を救援するための艦隊と輸送船団が向かっており、十分に期待に応えられるでしょう。

 また我が帝国はロウリアに大使館を設置していないため、貴国の外務局からロウリアに宣戦布告の通信をしてもらいたい」

 

 というのがその概要だ。

 またアメリカも一昨日「ギムの町で起こったロウリアの残虐な行為は到底許されるものではなく、このような国家は早急に叩くべきであると思われる。そのため、我がアメリカも貴国に最大限の援助を惜しまない」との発表を公国政府に対して行った。

 両国から軍事援助が行われる以上、まだ負けと決まった訳ではない。

 少なくとも援軍が来るまでは、どんなに犠牲を払おうと負けるわけにはいかないのだ。

 

「首相、つい先ほど日本国大使館からも、『日本国政府は、貴国の町ギムで発生した武装勢力による捕虜の虐殺行為を、とても見過ごすことは出来ないため、貴国からの要望があれば、武装勢力鎮圧のために自衛隊を派遣する用意がある』との連絡がありました。使節団の報告を信じる限り、彼らの軍事能力は日本帝国やアメリカよりも優れています。彼らが参加してくれれば怖いもの無しです」

 

 外務卿が言うと、全員の顔に笑顔が浮かんだ。

 

「なるほど、日本国も動く、か……

 よし! 直ちに武装勢力鎮圧の要請を出せ! わが国の領空、領海、領土の自由通行権も合わせて許可しろ!

 軍務卿、貴官は公国軍の全部隊に当てて、三国の軍に対して全面的に協力するよう伝えろ!」

「分かりました!」

 

 軍務卿が会議室から走って出て行くと、カナタは安堵の息をついた。

 

「これで国は救われたな……良かった」

 

 

 

 中央暦1639年 4月24日 午前

 クワ・トイネ公国 マイハーク港

 

 

「大日本帝国の援軍が今日来るだと?」

 

 マイハーク港に基地を置く、クワ・トイネ公国海軍第2艦隊の提督パンカーレは、副官であるブルーアイのその報告に対して聞き返した。

 現在第2艦隊は急ピッチで出撃準備を進めている。

 彼らにとっての『海戦』とは、相手の船に乗り込んでの白兵戦が主流であるため、水夫たちは敵船に乗り込むための梯子や武器の点検を熱心に行い、また船に攻撃するためのバリスタや火矢、点火用の油壺などをせっせと軍船に運び込んでいる。

 艦船の数は50隻ほどであり、それらが港に集結している様子はなかなか壮観であるが、敵艦隊の数は4000隻以上と見積もられており、数の上では圧倒的に不利である。全滅は免れないだろう。

 このためパンカーレは、援軍の到着を心待ちにしていた。

 

「はい。海軍本部からの伝令です。『本日正午に大日本帝国海軍の第一艦隊50隻、並びに陸軍部隊を乗せた輸送船団とその護衛部隊9隻が、援軍として到着する。各艦隊は援軍の艦隊が停泊する場所を空けられたし。なお、観戦武官として1名を帝国海軍の旗艦に搭乗させるように指令する』、以上です」

「ふん。全て合わせて59隻か。

 これに我が第2艦隊の50隻が加われば109隻になるが、帝国海軍とやらも大言壮語だな。

 軍事顧問団の連中が『地球世界第二位の海軍』というから大戦力を送ってきてくれるのかと思いきや、我が軍とほぼ同じ数ではないか……」

 

 パンカーレが失望したような口調で吐き捨てると、ブルーアイが続けて言った。

 

「それと提督、本日の夕刻には日本国の『護衛艦隊』なる部隊も、援軍として来るようです。

 こちらはもっと少ない数で、8隻だとか」

「たったの8隻だと! 帝国海軍の援軍より少ないではないか!!

 連中にはやる気があるのか!!」

 

 パンカーレは今度こそ絶望したように怒鳴り、帽子を床に叩きつけた。

 

「これで敗北は見えたな……我が第2艦隊は今や勇敢に死ぬことを知っているだけだ……

 しかも観戦武官だと? 部下を死地に送れるものか!」

「……でしたら、私が参ります。

 自慢するつもりはありませんが、私はこの中で一番剣術の腕が立ちますから。

 それに、彼らも何の考えもなく少ない戦力を送ってよこした訳ではないでしょう。もしかしたら勝算があるのかもしれません」

「君がかね! しかし――」

「提督、どうかお願いします」

「……分かった。すまぬが、頼むぞ」

 

 

 

 

 同日正午

 マイハーク港 

 

 

 

「……なあ、私の目の錯覚かもしれんが……あの先頭にいる船、とんでもなく大きくないか?」

「……ええ、そう見えます。常軌を逸した大きさですね……まるで山を浮かべたようです……」

 

 パンカーレ提督とブルーアイが呆然とした表情で、先頭に立つ船――戦艦を指さしながら言うと、他の幹部も口々に騒ぎ出す。

 

「なんて大きさだ……城なのか!?」

「いや、城でもあんなに大きくはないぞ!」

「お化け軍船が来た……」

「前後にあるものは何だ? 巨大なバリスタか!?」

 

 その騒ぎは軍港のみならず、付近の町にも飛び火してゆく。

 兵士住民を問わず、誰もがあんぐりと口を開けて海の方角を見ていた。

 すると、一隻の戦艦から小さな船――内火艇が降ろされ、港に向かってきた。

 内火艇はパンカーレ達の居る桟橋に接近すると、中から紺色の軍服を着た軍人が現れ、パンカーレ達に敬礼した。

 

「クワ・トイネ公国海軍、第2艦隊長官のパンカーレ提督とお見受け致します。

 自分は連合艦隊司令部、連合艦隊司令長官の嶋田繁太郎と申します。此度は援軍の到着が遅れてしまい、誠に申し訳ありません」

「れ、連合艦隊司令長官!?」

 

 パンカーレが慌てて敬礼すると、幹部達もそれにならう。

 

「いえ、援軍の到着、ありがとうございます。

 ですが、本当に大きな船ですね」

「ええ。我が国の誇る八八艦隊の一艦、紀伊型戦艦の三番艦『駿河』です。

 他にも11隻の戦艦が来ていますよ」

「じ、11隻ですか……」

「もちろんです。大切な盟邦を守るためですから。

 後で第一艦隊司令長官の古賀峯一も挨拶に伺いますので」

「は、はあ……」

 

 もはや考えることを放棄したパンカーレ達に向かって、嶋田はにっこりと笑った。

 

 

 

 

 同日夕刻

 マイハーク港外 連合艦隊旗艦戦艦『駿河』艦橋 

 

 

「ここがマイハークか。とても綺麗な場所だな。

 こんな時でなければ観光に行きたいくらいだ」

 

 連合艦隊司令長官である嶋田繁太郎大将がそう言うと、参謀長の伊藤整一少将が言った。

 

「全くですね。本当に観光が出来ないのが惜しいですよ。

 特に港の周りにある奇妙な岩には、一度で良いから登りたいですな」

「まあ、さっさと仕事を終わらせてのんびりしたいところだな。

 ところで、物資の揚陸は順調に進んでいるかね?」

「はい。物資は予定以上の速さで揚陸できています。

 日本国が港に設置した大型クレーンが役に立っていますよ。未来技術様様ですね」

 

 伊藤が笑って言うと、嶋田も笑みをこぼした。

 ――クワ・トイネ公国への救援に、第一艦隊を投入する――

 この決定には政府や陸軍はもちろん、海軍内でも反対意見が多く、特に堀悌吉海軍大臣などは「過剰戦力だ」との批判が相次いだ。

 しかし、投入される敵の戦力が4000隻以上と見積もられることや、盟邦に対して「絶対に見捨てない」という意思表示をするには、これが一番であると山本軍令部総長が力説したことや、嶋田が「自身で艦隊を率いる」と表明したことがきっかけとなり、第一艦隊の派遣が決まった。

 また艦隊は本当であれば、マイハーク港に22日には到着しているはずだったのだが、未知の航路を進みながらの航海や、大陸沿岸を回り込むコースを取るはずが大きな暗礁に遭遇し、これを迂回するなど回り道をしたために、二日ほど遅れて到着した。

 さらに、マイハーク港の収容能力では艦隊と輸送船団の全てを収容することは不可能であるため、輸送船は港に一隻ずつ入港後、物資を揚陸した後は港外で錨を降ろすことになっていた。

 もちろん戦艦等の大型艦は、全て港外で投錨である。

 

「未来の技術か……参謀長、私は未来の日本の軍事組織『海上自衛隊』にとても興味があるよ。

 あそこには明日、観戦武官を派遣するとはいえ、出来れば自身の眼で未来技術を見たいものだ」

「私も見たいですよ。しかしそれは情報参謀に任せましょう。彼ならきっと有益な情報を持ち帰ってくれます」

 

 伊藤がそう言った直後、艦橋見張り員が声を上げた。

 

「北方より艦影! 海上自衛隊の『護衛艦隊』であると思われます!」

「もう来たか……どれ、見てみるか」

 

 嶋田が双眼鏡を目に当てると、艦橋の参謀たちもそれに倣う。

 双眼鏡を覗くと、戦闘艦としてはシンプルな艦影が8隻確認できた。

 のっぺりとした形状で、複数のオートジャイロのような物を乗せた艦が一隻、これは空母であろう。

 また大砲が一門しかない、妙に角ばった艦も何隻かいる。

 何れも灰色の塗装が施されており、全体的に暗い色合いの帝国海軍の艦と比較すると、戦闘する船という感じがあまりなさそうであった。

 しかし、帝国海軍軍人たち――特に連合艦隊の参謀たちは知っている。

 その船が内に秘めている戦闘力は、自分たちが保有するどの艦よりも高いことを。

 

「通信参謀、私の名で打電してくれ。『後輩たちの参陣を心より歓迎する』と。

 あと、私がそちらに挨拶に向かっても良いか伺ってくれ」

「承知いたしました」

 

 通信参謀が出ていくと、嶋田は呟いた。

 

「海上自衛隊か……その戦闘力、見せてもらうぞ……」

 

 

 

 

 同日 同時刻

 マイハーク港沖 海上自衛隊護衛艦『いずも』

 

 

 

 

「あれがパラレル日本が保有する紀伊型戦艦か……

 しかし写真で見るのとはまるで違うな。実物はやはり凄い。島みたいだ」

 

 『いずも』艦長の山本が言うと、副長が苦笑いして言った。

 

「当然でしょう。この海自最大の護衛艦『いずも』の基準排水量は1万9500トン、全長は248mにもなりますが、あちらは排水量だけで4万6000トン越え、全長は254mにもなるんですから、スケールが違いますよ」

「そりゃそうだが、こちらだって大きさと戦闘力は負けちゃいない」

「あちらからすれば未来の船なんですから、当たり前ですよ」

 

 山本と副長が言葉を交わしていると、通信室から報告が上がってきた。

 

「艦長、帝国海軍の連合艦隊司令長官、嶋田繁太郎大将からの通信です。『我、後輩たちの参陣を心より歓迎す。共に敵に立ち向かおう』との内容です。

 あと、こちらに挨拶に向かいたいと申しています」

「連合艦隊司令長官自らとは……すごい行動力だな。

 分かった。遠慮なく来てくださいと先方に言ってくれ」

「了解しました」

 

 通信室への受話器を置くと、副長も驚いた表情をしていた。

 

「何らかのアプローチがあるとは予想していましたが、司令長官がわざわざ来るとは……予想が外れましたね。

 大急ぎで軍楽隊と応接室の準備をします」

「分かった。頼む」

 

 『いずも』の艦内は、戦闘とはまた違った喧騒で包まれた。

 

 

 

 

 同日夜

 ブルーアイの日記より

 

 

 私は本日、無事に大日本帝国海軍の戦艦『駿河』に搭乗することができた。

 この艦は異常なほど大きく、また夜でも艦内は明るく、一定の温度が保たれている。

 先ほど嶋田司令長官と会見したが、彼らは我々よりも先に敵と交戦し、これを撃滅するらしい。

 既に敵艦隊の位置は掴んでおり、予想される進路も速度も把握できているという。

 私は「無茶だ」と言ったが、嶋田長官は笑って「大丈夫です」と絶対的な自信を見せていた。

 なるほど、水兵の数は我々の軍船よりも多いし、船上にある塔は上から火矢を射かけるにはもってこいだろう。それにこの船は鉄でできており、矢などで破壊するのは困難なはずだ。

 また日本国海上自衛隊の護衛艦隊も後方で支援してくれるらしい。こちらの船も負けず劣らず大きいので、同じことが可能だろう。

 もしかしたら、勝利の瞬間を目撃できるかもしれない。

 

 

 

 

 中央暦1639年 4月26日 午前9時

 ロデニウス大陸北方海域 ロウリア艦隊

 

 

 

「いい景色だ。美しい」

 

 ロウリア王国軍東方征伐海軍の海将シャークンは、そう独語して後ろを仰ぎ見た。

 見渡す限り船、船、船で、海が見えないほどだ。

 6年という月日を掛け、さらにパーパルディア皇国の援助も受けてまで完成させた4400隻の大艦隊。

 これほどの大艦隊を持ってすれば、第三文明圏のパーパルディア――ひいては神聖ミリシアル帝国すら打倒できるような気がしてくる。

 そこまで考えて、彼は自軍に課せられた任務を思い出した。

(いかんいかん。危うく余計なことを考えてしまうところだった。我が艦隊の目的はマイハークの制圧だ。

 それに文明圏国家の打倒など、今の国力では夢物語ではないか……)

 シャークンは頭を振って、自身から余計な考えを振り払った。

 しかし、彼と彼の艦隊は気づいていなかった。

 自分たちを見張る、空からの『眼』――零式水上偵察機がいることに。

 

 

「長官、偵察機からの報告です。

 『我、敵艦隊を発見す。西方100浬、速力5ノット、敵陣容は小型船多数なり』

 以上です」

「ふむ、事前に『日進』から水上機を索敵に出して正解だったな。おかげで敵を早く捕捉出来そうだ」

 

 第一艦隊司令長官の古賀峯一中将は、参謀長の宇垣纒少将にそう言った。

 

「ええ。おかげで敵の陣容もつかめました。しかし勝てるでしょうか?

 敵は4000隻以上とありますし、数で押し切られたら厄介です。また、敵が運用する『ワイバーン』という航空戦力も気になります。もし戦艦に傷がついたら――」

「大丈夫だよ、参謀長。そのために海上自衛隊がいるんじゃないか。

 私も報告書を見ただけだが、彼らの対空戦闘力は我々とは比較にならないほど凄まじいそうだ。

 未来の武器、とくと見せてもらおうじゃないか」

 

 古賀は「黄金仮面」とあだ名される参謀長の肩を軽く叩いて言った。

 

 

 

 

 

 同日 午前9時半

 ロウリア艦隊

 

 

 

 海将シャークンは緊張していた。

 つい先ほど白い面妖な飛行物体が自分たちに接近し、「直ちに引き返せ」と警告してきたからだ。

 もちろん味方であるはずもないため、弓矢で攻撃したが、それは軽々と矢を躱し、引き返していった。

 水兵たちはそれを見て「逃げ出しやがった」と大声で嘲笑っていたが、シャークンは見たことのない敵の出現に気を引き締めた。

 

 やがて水平線から敵らしき船が現れると、シャークン以下の水夫達は言葉を失った。

 先頭にいる船はとんでもなく大きく、島一つが動いているようだ。

 

「い、一体何なんだ……あれは! と、とにかく大砲を撃て! 近寄らせるな!!」

 

 シャークンの命令は直ちに復唱され、船先に一門しか据え付けられていない大砲が敵船に向けられる。

 また弓兵たちも油壷の油に弓矢の先を浸し、火をつけて構える。

 敵との距離が1kmを切ったところで、

 

「撃て!!」

 

 号令一下、大砲を据え付けている船全てが一斉に発砲する。その数100隻。

 命中すれば、敵船など木端みじんに粉砕できるとシャークンは確信していた。

 

「ワハハハハ! どうだ大砲の力は!

 貴様らなんぞ所詮蛮族……………え?」

 

 一度は呵々大笑したシャークンだったが、直後に目を剥いた。

 確かに何発かは敵に命中したのに、敵は傷を負っていない。

 それどころか、煙の一つすら上がっていないのだ。

 

「な、何という防御力だ!」

 

 シャークンが呻いた直後、敵船の前に付いている4本の棒が動き始めた。

 棒は4本ともこっちを向くと、盛大に煙を吐き出した。

 

(何だ? 誘爆したの――)

 

 シャークンの思考は突然断たれた。

 突然前方にいる味方の船が十隻以上、白い水柱につつまれたからだ。

 船は全て転覆するか、木端みじんとなって水夫と共に沈んでゆく。

 一拍遅れて、雷鳴もかくやとばかりの音が轟き、鼓膜を叩く。

 あり得ないことだった。

 

「な、何の攻撃だ? まさか――」

 

 シャークンが狼狽している間にも、他の敵船も棒を向けてくる。

 この時になって、シャークンはそれが自分たちが持っている大砲と同じものだと気づいた。

 しかし、敵の大砲の方が遥かに大きい。彼にはそれが信じられなかった。

 

「急げぇ! 早く撃て!! 撃つんだぁぁ!!!」

 

 シャークンが半ば正気を失って叫ぶと同時に、敵は次々と発砲した。

 そして―――

 

 ズザザザーン!! ドドーン!! ズズーン!!

 ズザザーン!! ガガーン!! ドガガーン!!

 

 もはやそれは、戦闘と呼べるものではなかった。

 一方的な、殺戮だった。

 

 

 同日同時刻 

 海上自衛隊 イージス艦『みょうこう』

 

 

 

「敵艦隊、帝国海軍第一艦隊と交戦開始しました」

 

 CICから報告を受けた海原は、頷くと艦橋の窓に向き直った。

 現在帝国海軍の戦艦群は、「戦闘」という名の地獄を創出することに躍起となっており、その戦場音楽は艦橋からでも容易に聞き取ることが出来た。

 出来れば無駄な流血は避けたかったが、向こうが引かず、しかもヘリコプターが攻撃を受けたとあっては応戦せざるを得ない。

 しかし、『みょうこう』が出来ることは今のところない。

 敵は全て帝国海軍が引き付けており、自分たちの役目は精々残敵掃討程度だろう――そう思っていたが、

 

「艦長、対空レーダーに感! 敵味方不明機接近中! 数、およそ250!!」

 

 CICより出された警報に、海原は唸り声を上げた。

 これが敵であることは、西側から来たことで確信している。おそらく「魔力通信」とやらで敵艦隊が呼び寄せたのだろう。

 数秒間思考をめぐらし、結論を迅速に出す。

 

「よし、準備出来次第迎撃する! 対空戦闘用意!

 帝国海軍にも連絡せよ!!」

「了解!」

 

 最強の盾が蠢動を開始する。

 

 

 

「長官、海上自衛隊より緊急信です!

 『敵騎多数来襲、これより迎撃する』とのことです!」

「ほう、空襲か。来るとは思っていたが、意外と早いな。

 通信参謀、三航戦に連絡、直掩機の手配をさせろ」

「分かりました。伝えます」

 

 第一艦隊司令部でも、素早く意思決定が行われる。

 すると、海上自衛隊の護衛艦がいる辺りから、白い光の矢――対空ミサイルが次々と放たれ、まだ見ぬ敵へ向かってゆく。

 

「あれが……未来の兵器……」

 

 第一艦隊の古賀と宇垣、そして嶋田達連合艦隊司令部の面々も、驚愕に染まった顔でミサイルを見送った……    




 いかがでしたでしょうか?
 年明けまでに何とかもう一話投稿しておきたいと思い、頑張って書きました!
 少々長くなってしまったため、二つに区切ることにしました。
 今後とも、『八八艦隊召喚』を宜しくお願いします!


 では、艦隊の概要をば。


 連合艦隊司令長官 嶋田繁太郎大将
 直率・・・第一戦隊 戦艦:紀伊、尾張、駿河、常陸
 第一艦隊 司令長官 古賀峯一中将
  第二戦隊・・・戦艦:加賀、土佐、長門、陸奥
  第五戦隊・・・戦艦:伊勢、日向、扶桑、山城
  第八戦隊・・・重巡:妙高、那智、足柄、羽黒
  第十二戦隊・・・軽巡:北上、大井(重雷装艦)
  第一水雷戦隊・・・軽巡:木津
   第六駆逐隊、第十一駆逐隊、第十二駆逐隊
  第三水雷戦隊・・・軽巡:川内
   第十三駆逐隊、第十九駆逐隊、第二十駆逐隊 
  第三航空戦隊・・・空母:飛鷹、隼鷹  水上機母艦:日進
   第二十八駆逐隊

 護衛部隊
  第八水雷戦隊・・・軽巡:夕張
   第二十九駆逐隊、第三十駆逐隊


 ※駆逐隊の内容や軍艦の性能は、別の話で書いていきたいと思います。


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第四話 ロデニウス沖海戦2

 皆様、遅ればせながら明けましておめでとうございます!
 投稿が遅くなってしまい、大変申し訳ありません!
 引き続きBGMは『ジパング』の『戦闘』でお楽しみ下さい。


 中央暦1639年 4月26日

 ロデニウス大陸北側海上 連合艦隊旗艦『駿河』

 

 

 

 「あれが……未来の兵器……」

 

 連合艦隊司令部の首脳陣は、驚愕の気持ちでその兵器――対空ミサイルの攻撃に見入っていた。

 海上自衛隊の護衛艦から次々と放たれるそれは、垂直に発射されたかと思いきや、次の瞬間には弧を描きながら空へと飛翔していく。それは見ようによっては芸術的な美しささえ感じさせる光景であった。

 

 「あれは『SM-2、スタンダードミサイル』といって、艦隊を防衛するための防空誘導噴進弾だそうです。何でも、数十から百以上の目標を同時に攻撃出来るとか」

 

 連合艦隊参謀長の伊藤整一少将が言うと、未来の兵器を見ていた幕僚たちは口々に意見を述べはじめる。

 

 「数十の目標を同時にか……やはり未来技術はすごいな……」

 「やはり共同戦線を張って良かったな。これほどのものが見れるとは」

 「情報参謀が帰ってきたら、質問攻めにせにゃならんな」

 

 幕僚たちの声を横で聞きながら、司令長官の嶋田繁太郎大将は思った。

 

 (未来でこのような対空兵器が開発されている以上、それだけ航空機の脅威度が高いという事か……しかし百発百中の対空兵器があるからには、やはり航空機の能力には限界があるのかもしれん。

 頼むぞ、一つでも多く情報を持ち帰ってくれ、情報参謀……)

 

 嶋田はそう情報参謀に呼びかけた。

 

 

 同日同時刻

 ロデニウス大陸北側海上 ロウリア王国竜騎士団

 

 

 

 ロウリア王国竜騎士団団長のアグラメウスは、この時既に勝利を確信していた。

 海軍救援のために飛び立ったワイバーンは総数250騎。この世界では、ワイバーンは10騎で地上であれば1万人の歩兵を足止めできると言われているため、単純計算で25万人を相手取れるということになる。まして今度の相手は動きの鈍い軍船であり、効果的な回避行動などできる訳がない。

 海軍部隊からは「島の様に巨大な軍船が高威力の魔導兵器を発射して、我が部隊は危機的状況に陥っている!」と悲鳴のような救援要請が届いていたが、アグラメウスは「大方見間違えだろう」と思っている。

 仮に報告が本当だとしても、島のように巨大な目標であるならば、導力火炎弾を命中させるのは容易いことだ。

 これだけの数の我らを止められるものは、どこにも存在しない。クワ・トイネ公国どころか、伝説の魔帝軍だって滅ぼせる。

 そう思っていたが――

 

 「ん? あれは何だ?」

 

 目の良い竜騎士が真っ先に気づくと、他の竜騎士たちも気づきだす。

 しかしそれは、彼らにとってはかえって不幸であったのかもしれない。

 竜騎士たちが見つけた「それ」は、一瞬で竜騎士たちとの距離を詰める。

 

 「光の――矢!!?」

 

 彼らが叫んだ瞬間――

 

 ドドーン!! ズドドーン!! ガガーン!!!

 

 凄まじい爆発音が轟き、前衛のワイバーン隊が一瞬で爆炎に飲み込まれる。

 瞬く間に23騎が撃墜され、バラバラになって海に落ちていく。

 何が起こったのか誰も理解できぬまま、さらに数十秒後には12騎が、また次に18騎が、まるで虫けらか何かのように撃墜されていく。

 ありえないことだった。

 

 「何だ!? 何が起こっている!! 敵の攻撃か!!?」

 

 アグラメウスが狼狽して叫ぶ間にも、仲間たちは次々と墜ちてゆく。

 苦楽を共にした仲間や戦友が、そして何よりも世界最強の航空戦力であるワイバーンが、敵の攻撃に全く手出し出来ぬまま、ひたすら効率的に殺処分されていく。

 しかし、彼らも無策であった訳ではない。

 一握りのベテランは驚異的な動体視力で回避行動に移ろうとするが、光の矢はその動きを読んでいるかのようにワイバーンを追尾し、撃墜していく。しかも光の矢の爆発威力は凄まじいため、爆炎に巻き込まれて撃墜される者も一人や二人ではない。

 悪夢だった。

 

 『な、何なんだ!! これはぁぁぁ!!?』

 『助けてくれ!! ぐぎゃぁぁぁ――』

 『バカな!! 追ってくる!! うわぁぁぁ――』

 

 魔力通信機には部下や仲間の悲鳴がひっきりなしに届くが、アグラメウスにはどうすることも出来ない。

 ただ、この悪夢が早く過ぎ去ってくれと、祈るほかなかった。

 

 

 

 同日同時刻 同海域

 海上自衛隊 イージス艦『みょうこう』艦橋

 

 

 

 観戦武官として海上自衛隊に派遣された情報参謀の磯崎中佐は、圧倒された思いでいっぱいだった。

 というより、戦闘の推移が早すぎてついていけなかった、というのが正しいだろう。

 「対空戦闘!」と命令が発令されてからたったの数分で、この「護衛艦」は対空戦闘を開始し、そしてただひたすら効率的に敵の数を減らしていく。

 ほんの五分ほどで敵の数は250騎から100騎ほどに減少していた。

 帝国海軍の常識であれば、ありえない撃墜記録だった。

 

 「すごい……」

 

 磯崎は、ただそう言うことしか出来なかった。

 隣にいるアメリカ海軍の観戦武官、ロバート大佐も驚愕の表情を浮かべている。

 そうしていると、この『みょうこう』の艦長だという海原が近寄って話しかけてきた。

 

 「どうですか? 未来の戦闘を見たご感想は?」

 「正直に申し上げて『展開が早すぎてついていけない』と感じています。我が合衆国海軍で……いえ、我々の世界の常識であれば、対空目標をたった五、六分程で150騎以上撃墜するなど、夢物語に過ぎません。しかし、あなた方はそれをやってのけました。それも人的損害無しで、です」

 

 ロバートが「信じられない」という感情を滲ませながら答えると、海原は苦笑いして言った。

 

 「こうした戦闘が出来るのは、レーダーや通信技術の進化もむろん関係していますが、一番の理由は『C4I』などに代表される情報処理システムの登場が大きいでしょう。軍事上の機密ですのであまり申し上げることはできませんが、本艦に搭載されている『イージスシステム』は、艦載武器システムとしては世界最高水準の情報処理能力を発揮出来ます。こうした戦闘における情報の処理能力の速さ――人間でいうと『神経』の発達が、こうした戦闘展開を可能にしている一番の要因と言えるでしょう」

 「なるほど、やはり未来は凄いんですなぁ……」

 

 磯崎はそう海原の説明に相槌を打ちながら、感嘆の思いで艦橋を見回した。

 この海戦の前、磯崎は「CIC」とかいう戦闘管制室を見学したいと希望したのだが、「軍事機密に当たる」との理由で海原に断られてしまったため、艦橋にいるのだった。

 帝国海軍――第二次大戦時の軍艦では、戦闘は数百名から数千名の乗組員全員が一心同体となって行うのが当たり前だ。

 だからこそ、猛訓練で少しでも早く戦闘における対応ができるようにし、文字通り「以心伝心」となって艦を動かす。

 しかしいくら猛訓練で鍛えても、艦を動かすのが人間中心である以上、どうしても遅れや無駄、誤認の発生は避けられない。

 そこで高性能の機械――レーダーやソナー、高度な電子計算を行うコンピューター――を人間が操作することで、戦闘をより効率的に素早く行なってゆく。

 磯崎は新しい戦争の在り方を、見せつけられた思いだった。

 

 (とりあえずCICとかいう戦闘管制室の設置は急務だな。電波探知機や電波探信機の開発は我が国でもしているが、より人員や予算を増やすことも必要だと報告せねばならん。あと『ミサイル』という噴進兵器の開発や戦闘情報処理システムの開発も、上に具申しなくては……)

 

 磯崎は上に提出する報告書をどうするか、早くも考え始めていた。

 

 「対空ミサイル第一波、撃ち方終わりました。敵騎は尚も進撃しています」

 「よろしい、第二波の発射に入る!」

 

 CICより報告を受け取った海原は、直ちに第二波の対空ミサイルの発射を命じる。

 磯崎は「また発射シーンを見れるのか」と期待して窓に歩み寄った。

 

 

 同日同時刻 同海域

 ロウリア王国竜騎士団

 

 

 一通りの攻撃が終わるころには、味方は100騎ほどに減っていた。

 それでも味方の艦隊が見えたことで、残存部隊は落ち着きを取り戻し、編隊を再度組み直す。

 艦隊の上空に到達すると、団長のアグラメウスは全部隊に命じて、超低空飛行に切り替えさせる。

 彼の眼には、既に敵――戦艦『駿河』しか見えていなかった。

 

 「あいつか! あの船かぁーーーっ!!」

 

 アグラメウスは怒りと憎悪のこもった声で吼えると、部下に攻撃準備を命じる。

 確かに敵の軍船は驚くほど大きい。気を付けなければ遠近感が狂ってしまうほどである。

 それでもあれだけ大きければ、攻撃を加えるのは容易いはずだ――アグラメウスはそう考えていた。

 しかし敵は彼が考えるほど甘くはなかった。

 

 「――――っ!! 『光の矢』再度接近!!! ぐぎゃっ――」

 

 部下からの決死の報告に、アグラメウスは驚愕した。

 見れば、「光の矢」は巨大軍船の後方に居る軍船から飛んでくるようだった。

 瞬く間に、さっきと同じ地獄が出現する。

 

 「おのれぇぇぇ!! 別働部隊がいたのか!! 50騎は後方の敵を攻撃せよ!! 残りは私に続けぇぇ!!」

 

 アグラメウスは部下に指示を下し、残りの竜騎士を率いて敵に突進する。

 すると巨大軍船の舷側から、凄まじい勢いで大小無数の「火矢」が向かってきた。

 あるものは至近で炸裂して鋭い破片をまき散らし、またあるものは炸裂せずにワイバーンを絡め取って撃ち落としていく。

 瞬く間にワイバーンの数は減っていき、気づけば味方は2騎ほどしかいなかった。

 

 「くそっ!! だがここまで近づけばっ!!」

 

 アグラメウスはワイバーンに翼を広げさせて導力火炎弾の発射準備をさせるよう、残りの2騎にも合図を送った。

 しかし彼は怒りのあまり、その行動が自身の被弾面積を広げてしまうとは思いつかなかった。

 恰好の的となった3騎のワイバーンに、対空砲火が集中する。

 

 「く、くそぉぉぉ――」

 

 アグラメウスは、自身のワイバーンと共に散華した。

 

 

 

 「我々は……一体何と戦っているんだ……」

 

 ロウリア艦隊海将シャークンは絶望に染まった顔で、辛うじてそう呟いた。

 他の幹部や水夫達も、例外なく驚愕と絶望の表情をしている。

 竜騎士団が頭上に来た時、誰もが「勝った」と歓声を上げ、笑顔でワイバーンを見上げていた。

 しかし敵はその行為を「無駄だ」と嘲笑うかのように、ワイバーンを次々とよく分からない攻撃――おそらく魔導兵器――で撃ち落としていった。

 辛うじて巨大軍船に肉薄した僅かな数のワイバーンもすべて撃墜され、後方の敵に向かったワイバーンも同様の運命を辿ったとの報告が寄せられた。

 足が勝手に震えだし、のどは必死に呼吸をしようと浅い息継ぎを繰り返す。

 「何かを命令しなければ」という考えはあるが、頭がそれについていけない。

 そして、先ほど艦隊に絶望と悲劇を撒き散らした大砲が、再びこちらを向き始める。

 

 「ぜ、全船、敵に肉薄せよ!! 懐に飛び込めば勝機はあるはずだ!!」

 

 シャークンが喉から絞り出すように命令を発すると、艦隊はやけくそを起こしたかのように再び前進を開始する。

 ロデニウス大陸の歴史において、海戦を制するのは水夫同士による白兵戦と相場が決まっている。大砲の登場によりその戦法はやや廃れた感があるが、大砲そのものの数が少ない以上、嫌でも主戦法とせざるを得ない。

 敵の懐に突っ込めば、敵は同士討ちを恐れて大砲を撃たなくなるかもしれない。いや、4400隻の軍船を揃えて攻撃すれば、数で圧倒できるはずだ。

 シャークン以下の誰もがそう信じ、敵に近づいてゆく。

 自滅の道を歩んでいると、半ば理解しながら。

 

 

 

 「敵艦隊、進撃を再開しました! まっすぐこちらに突っ込んできます!」

 

 艦橋見張り員からの報告に、嶋田大将は唸った。

 敵は何が何でもこちらを攻撃するつもりらしい。あれほどこちらの力を見せつけたにも関わらず、大した執念だ――そう嶋田は思った。

 

 「長官、如何なさいますか? 一旦退いて態勢を立て直しましょうか?」

 

 参謀長の伊藤少将が、嶋田にお伺いを立てる。

 第一艦隊の各艦は、先ほどのワイバーンによる航空攻撃に対応するために陣形を若干乱しており、このまま敵に当たれば各艦が衝突する可能性があった。

 伊藤もそれを危惧しているのか、暗に「後退」を勧めてきた。

 だが、嶋田の考えは違った。

 

 「いや、このままいく。各戦隊に命令。反航戦だ! 敵艦隊の側方に展開して敵を叩く!

 第一、第二戦隊は右砲戦! 第五、第八戦隊は左砲戦!

 敵艦隊を両側から攻撃し、撃滅せよ!

 第一、第三水雷戦隊は敵艦隊の後方に回り込み、敵の退路を塞げ!

 海上自衛隊に連絡、『正面の敵を相手取られたし』だ。急げ!」

 

 嶋田の号令に、連合艦隊司令部の面々は一斉に動き出す。

 

 

 

 二時間後

 ロデニウス大陸北側海上 ロウリア艦隊だったもの

 

 

 海将シャークンは今や絶望を通り越して、諦観の境地に至っていた。

 敵は四方八方から好き勝手に攻撃を浴びせ、さながら辺りは狩場の様相を呈していた。

 巨砲による攻撃も圧倒的な破壊をもたらすが、シャークンが驚いたのは正面から攻撃してくる敵だった。

 自分たちと同じく一門しか大砲を載せていないにも関わらず、その速射能力は二秒に一発と恐るべきものであり、しかもただの一発も外していない。

 正確無比な砲撃と圧倒的な破壊力の砲撃のダブル攻撃により、味方の船は凄まじい勢いで減ってゆく。

 特に巨砲による攻撃は、味方を数十隻単位で破壊し、水夫もろとも水葬してゆく。

 

 「ちくしょう!! 化け物だぁぁ!! あんなのに勝てるかぁぁぁぁっ!!!」

 

 そういってシャークンの命令を無視し、独断で逃げを打つ者もいるが、敵は見逃してくれはしなかった。

 いつの間にか後方に回り込んでいた敵――帝国海軍水雷戦隊による砲撃により、あえなく沈められていく。

 無理矢理包囲の突破を図る船もいるが、高々5ノット程度の軍船が駆逐艦に速力で勝てるはずもなく、たちまち追いつかれて撃沈された。

 また、空からも敵のワイバーン――シャークンにはそれが『攻撃ヘリコプター』や『零戦』だと知らなかった――が攻撃を仕掛けてきて、味方を殲滅していった。

 結局、数の優位云々で倒せる相手ではなかったのだ。どうやっても勝てない。

 シャークンが撤退を命じようにも、退路も塞がれていては撤退もできない。

 かと言って降伏しようにも、ギムで捕虜を虐殺した自分たちロウリア人を、敵が許すとは思えない。良くてなぶり殺しにされるだろう。

 このまま部下と共に果てるのみか――そう考えた時、ふいに敵からの攻撃が止んだ。

 

 「どうした? なぜ攻撃を止めた?」

 

 シャークンが呟くと、一隻の敵船から大音声が聞こえてきた。

 

 『こちらは大日本帝国海軍連合艦隊、司令長官の嶋田繁太郎大将である! 

 貴軍は今や完全に包囲されている! 今降伏すれば、貴軍の将校、部下の生命は保障する!!

 降伏するのであれば、マストに白旗を掲げて欲しい!!

 十分以内に回答を寄こされたし!!』

 「降伏勧告か……」

 

 シャークンが呟くと、幹部の一人が叫ぶように言った。

 

 「シャークン様! 今ここで降伏しても殺されるだけです!! こうなったら徹底抗戦し、敵に我らの意地を見せましょう!!」

 

 シャークンも一瞬それを考えたが、ふと思い直した。

 敵が攻撃を中断したということは、それだけ相手に余裕があるということだ。そしてこれ以上部下を死なせたくもない。

 シャークンは数分逡巡した後、結論を下した。

 

 「いや、ここは降伏しよう……これ以上部下に犠牲は出したくないし、全滅するまで戦っても相手にはかすり傷すら負わせられないだろう。それよりは降伏し、部下だけでも助けてくれるように相手の慈悲に縋ろう。

 私はもう敗軍の将だ。この命一つで部下が助かるなら安いものと思わなくては。

 皆、本当に申し訳ない……」

 

 シャークンがそう言って頭を下げると、幹部達や部下の水夫達の間から嗚咽がもれた。

 数分後、シャークンの旗艦のマストに白旗が翻った。

 これが後に「ロデニウス沖海戦」と呼ばれるようになる海戦の終わりであった……




 いかがでしたでしょうか?
 久しぶりの投稿なので、少しおかしな部分があるかもしれません。
 感想、ご意見など、ドンドンお願いします!


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第五話 影響

 いつもこの小説をご覧になってくださる読者の皆様、本当にありがとうございます!
 また投稿が遅れてしまい、大変申し訳ありません!
 これも全部試験っていう奴のせいだ!

 先日、UAが一万を超え、また新たにお気に入り登録をしてくださった方もいらっしゃいました。大変ありがとうございます!
 これからもお待たせしてしまうかもしれませんが、どうかよろしくお願い致します!
 


 中央暦1639年 4月30日

 クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ 政治部会

 

 

「……以上が、『ロデ二ウス沖海戦』における、戦果報告になります」

 

 4日前に行われた海戦の様子について、参考人として政治部会に招致されたブルーアイがそう報告を締めくくると、真剣に聞いていた参加者たちの間からは唸り声や溜息が満ちた。

 というより、帝国海軍や海上自衛隊の戦果があまりにも凄まじいため、彼らに対するある種の恐怖が満ちていた、と言ったほうが正しいだろう。

 最初に軍務卿が口を開いた。

 

「……では何かね? 大日本帝国の『第一艦隊』はたったの50隻で、ロウリア王国艦隊の4400隻もの大艦隊に挑み、その結果3500隻以上を撃沈、900隻余りを拿捕して敵を事実上全滅させたばかりか、敵の海将シャークンも捕虜としたと?

 さらに海上自衛隊の8隻の『護衛艦隊』は、『大規模な爆裂魔法の様なもの』で敵竜騎士のワイバーン250騎を迎撃して、全てのワイバーンの撃墜に成功。それでも両艦隊には全く損害が無く、我が国の艦隊は出る幕すら無かった……そう君は言いたいのかね?」

「いえ、大日本帝国海軍の戦艦が敵に攻撃した際、大砲の砲弾数発が船体に直撃しています。ですので、全く損害ゼロというわけではありません。まあ人的損害も無く、塗装が若干傷んだだけでしたが……」

「それを損害なしと言うんだ、馬鹿者!」

「ですが、何かしら被害を書かなければ報告にならないと思われたため、記載致しました。

 因みに連合艦隊司令長官の嶋田大将と、第一艦隊司令長官の古賀中将は『敵があんな小船とは思わなかった。貴重な主砲弾を消費してしまった』と嘆いておられましたので、帝国海軍の懐には被害があったかと――」

「分かった分かった。もういい……」

 

 軍務卿は疲れたように手を振って、ブルーアイを黙らせた。

 そして外務卿であるリンスイに向かって問い詰めるような口調で言った。

 

「外務卿! 大日本帝国はともかく、日本国は『必要最小限度の自衛戦力』しか保持していないはずではなかったのかね? さらに日本人は『魔法が使えない』というのが君が送った外交使節の報告だが、彼らは大規模爆裂魔法を使って最強の戦力たるワイバーンの大群を殲滅し、あまつさえ被害なしというとんでもないことをやってのけた。一体どちらが本当なのかね!?」

「……私にも分からない。使節団の報告は本当のはずだ。それにこんな現実離れした話を聞かされても判断に困る。 ……あ、いや、決して君の部下を信用していない訳ではないが、本当にどう判断していいか分からないだけなんだ」

 

 自国の軍人の報告を「現実離れしている」と評された軍務卿が目を剥いたのを見て、リンスイは慌ててその場を取り繕う。

 

「そ、それにこちらからも朗報があるぞ。帝国海軍は今回拿捕した敵の軍船を、調査が済んだら全て我が国に譲渡してくれるそうだ。彼らの話では『こんな時代遅れな船はいらない』らしい。

 何もせずに戦力が増えたんだ。ありがたいことじゃないか」

 

 リンスイが冷や汗を流しながら笑みを浮かべると、軍務卿の機嫌はますます悪くなった。

 帝国海軍に「あんた達は足手まといだ」と遠まわしに言われた気がしたからだ。

 軍務卿は不機嫌そうに鼻を鳴らすと、ブルーアイに向き直った。

 

「で、君から見た感想はどうなのかね、ブルーアイ君?」

「ワイバーンを殲滅した日本国の攻撃は、あくまで爆裂魔法の『様なもの』であり、決して魔法であるとは一言も申し上げておりません。これは私の憶測ですが、彼らが使用したのは大砲や銃などと同じ『武器』ではないかと思っています。つまり魔法ではなく、彼らの言う『科学』を駆使した兵器を使用したのだと思います」

 

 ブルーアイが自身の考えを述べると、会議場の端から「そんなことは不可能だ!」との野次が飛ぶ。

 ブルーアイが反論しかけたのを首相のカナタが手で制して立ち上がると、会議場は静まり返った。

 

「とにかく、今回のロウリアの侵攻は防げた。これも彼らが援軍を送ってくれたお陰であり、そこは感謝しよう。

 それに彼らは拿捕した敵軍船を全て我が国にくれるらしいし、これでロウリア海軍もこれで行動不能になったはずだ。なにせほとんどの軍船を失ったばかりか、指揮官まで捕虜になったんだからな。またワイバーン部隊も半数が殲滅された以上、制空権の奪取も不可能ではないし、侵攻速度も大幅に鈍るはずだ。

 軍務卿、陸の情勢はどうかね?」

「現在、敵部隊はギム周辺に陣地を構築しております。海からの侵攻が失敗し、ワイバーンも半数を失った現在、ギムの守りを固めてから再度進撃してくると考えられます。電撃的侵攻はもはや無いと判断してよろしいかと」

 

 軍務卿は手元にある諜報部や、大日本帝国から寄せられた情報の紙束を読みながら答えると、カナタは続けて問いかけた。

 

「二つの日本やアメリカの動向はどうだね?」

「援軍に駆けつけてくれた帝国海軍第一艦隊なのですが、一旦帝国本土に引き上げるようです。なんでも整備と補給がマイハークでは出来ないらしく、これと入れ替わりに第二艦隊が来てくれるらしいです。ですので、海上優勢は引き続き確保できると思います。

 また、日本帝国が城塞都市エジェイの東側5km先のダイタル平野に建設していた飛行場が三日前に完成したと、日本帝国の基地設営部隊から連絡が来ました。現在彼らはここに航空戦力を展開したいと申請書を提出しております。これは日本国も同様で、同地に飛行場を建設したいとの要望を出しております。

 またアメリカは現在クイラ王国に前線基地と駐屯地を建設中で、施設が完成しだい部隊を展開させると、さっき連絡武官が報告してきました」

「そうか、ついに彼らも動くか。

 海戦であれだけの戦果を挙げた彼らだ、きっと陸戦でも強いだろう。こちらも彼らと肩を並べるにふさわしい精鋭部隊を派遣しなくてはな。

 航空戦力の展開申請については後で私のところに書類を回してくれ」

「分かりました、首相」

 

 こうして、政治部会はお開きとなった。

 

 

 同日同時刻

 マイハーク港 連合艦隊司令部

 

 

 

「明日、内地に帰還する」

 

 嶋田は「駿河」艦内の会議室に参謀たちを集めるや、開口一番そう言った。

 対する参謀たちは「やはりそうなるか」といった反応が大部分であり、特に反対意見も出ない。

 現在第一艦隊はマイハーク港外で補給作業の真っ最中であり、これが済み次第内地に向けて出港する手はずであった。また、この穴を埋めるために第二艦隊が来ることになっており、もう明日には到着する予定だという。

 この段階で内地に引き上げることになった理由は、ひとえに「主砲を撃ち過ぎた」ことと「予想外の砲弾の消費」が原因だ。

 戦艦の主砲には「砲身命数」というものがあり、これを超えてしまうと命中精度が大幅に低下し、最悪の場合砲身が破裂することになる。第一艦隊の戦艦群は、12隻中7隻がその段階に達してしまっていたため、内地の工廠で砲身の内筒を交換する必要があった。

 また砲弾の消費は遠征前にも検討されており、弾薬運搬船も同行させてはいたものの、砲弾の消費量が予想以上であったために全く数が足りなかった。そのため、第一艦隊は大事を取って内地に引き返すことにしたのだ。

 しかし、連合艦隊司令部の幕僚たちが会議室に参集しているのは、それを話し合うためではなかった。

 

「では、今回の海戦で得られた戦訓と情報について、報告会を始めようと思う。

 まずは戦務参謀、報告してくれ」

「はい長官」

 

 嶋田に指名された戦務参謀の渡辺安次中佐は、立ち上がると発言した。

 

「我が軍は今回の海戦で数多くの捕虜を得ることが出来ましたが、捕虜の中にこの世界で『文明圏国家』と呼ばれる『パーパルディア皇国』の観戦武官であるヴァルハルという男がおりました。

 この者を尋問したところ、彼はパーパルディアの『国家戦略局』なる部署に所属しており、この組織が中心となってロウリア側に軍事支援を行っているようです」

「ということは、やはりロウリアの後ろにはパーパルディアがいることがこれではっきりしましたな」

 

 首席参謀の中瀬大佐が「やはり」と言った感じで頷くと、政務参謀の山本祐二中佐が続けて発言する。

 

「パーパルディア皇国がどれだけの援助をしているのか、その規模はまだ分かりませんが、この後の展開によってはパーパルディアがこの戦争に介入してくる可能性があります。そうすれば最悪の場合、相手側の戦力によっては泥沼化もあり得ると思われます」

「しかし連中は木造の小舟しか保有していなかったではないか。入ってきた情報によれば、パーパルディアも帆船程度の戦力しか保有していないというぞ。

 仮にパーパルディア皇国が介入してくるとしても、我が方の勝利は動かないと思うが?」

 

 参謀長の伊藤整一少将が疑問を述べると、情報参謀の磯崎稔中佐が発言した。

 

「相手側の戦力が旧式だからといって、過小評価するのはどうかと私は考えます。

 ここは魔法なる超常の力が存在する異世界です。パーパルディア皇国に関する情報はとても少ないため、我々の常識では思いもよらない兵器を開発、運用している可能性は十分考えられます。また彼らが『文明圏国家』なる大仰な名を自称している以上、先入観で判断するのは危険が伴います。

 もちろん最終的にはこちらが勝利するとしても、犠牲が生じることは避けられないでしょう。そこで――」

 

 磯崎はクワ・トイネ公国より譲り受けたロデニウス大陸西部の地図を机の上に広げた。

 参謀たちが集まって地図を覗き込むと、磯崎は指示棒である一点を指した。

 

「これまでに集まった情報を精査した結果、敵の首都ジン・ハークの北側40kmには軍港が存在しており、敵艦隊はここから出撃したと考えられます。ここに上陸して橋頭堡を構築し、一気に敵首都を攻略すれば、敵はクワ・トイネどころではなくなり、まともな指揮官ならば侵攻部隊を撤退させるでしょう。

 また敵首都の攻略に成功し、敵の首脳部を纏めて捕虜、もしくは抹殺した場合、敵軍は戦意を喪失して崩壊することも考えられ、戦争の早期終結も不可能ではないと思います。

 ただし、これはあくまで私見に過ぎません。本分を逸脱していると思われたのでしたら、謝罪致します」

 

 磯崎が自身の考えを述べると、参謀たちの間から「ほう」という感嘆の声が漏れた。それほど磯崎の案は魅力的だったのだ。

 

「……仮に情報参謀の案を採用するとしても、先ずは陸軍の協力を仰がなくてはならんな。

 しかし、陸軍が首を縦に振るだろうか……」

 

 中瀬が苦笑しながら言うと、それまで黙ってやり取りを聞いていた嶋田が口を開いた。

 

「いや、実に魅力的な作戦だ。詳細は詰める必要があるだろうが、この案は捨てるには惜しいな。

 だが、先ずはエジェイに向かっている陸軍の結果を待って、それから考えよう。

 皆、報告を続けてくれ」

 

 嶋田はそう言って、再び目を閉じて報告を聞き始めた。

 

 

 

 同日同時刻

 ロウリア王国 王都ジン・ハーク ハーク城

 

 

「……パタジンよ。その報告は間違いないのか? 自信を持って送り出した大艦隊が全滅し、あまつさえ全ワイバーンの半数を失うという大敗北を、我が国は本当に被ったのか?」

「……事実でございます、陛下。

 艦隊指揮官のシャークンより『我が方の戦力八割喪失、これより降伏する』という魔力通信があり、またワイバーン隊が全騎未帰還となった以上、そう判断せざるを得ません」

 

 パタジンが汗を流しながら震える声で報告すると、ロウリア王は激怒するよりも悄然とした表情で椅子に腰を下ろした。

 

「何ということだ……艦隊だけでなくワイバーンまで……

 しかし何故だ! なぜ日本に負けた!?」

「落ち着いてください陛下。シャークンが最後に送ってきた報告があまりにも荒唐無稽な内容のため、現在原因の再調査と、報告の信憑性を確認しているところです」

 

 もはや半狂乱で問い詰めてくる王に対し、パタジンも余裕のない表情で答える。

 「勝てる!」と確信していたこの二人――というより、ロウリア首脳部にとって、この完全敗北は文字通り寝耳に水だったのだ。

 

(というか何だ! あの要領を得ない報告は!!)

 

 パタジンは心の中で、ここにはいないシャークンに向かって悪態をつく。

 それほど彼が送ってきた最後の報告は信憑性の薄いものだった。

 

 曰く、「敵は巨大な鉄製の軍船で攻撃してきて、それに搭載されている大砲は、一撃で我が軍の軍船十数隻を吹き飛ばした」

 曰く、「敵船はとんでもない速度で我が軍の退路を断ち、正確無比な攻撃をしてきた」

 曰く、「日本軍が放った『避けても目標を追い続ける光の矢』が、遠距離から飛竜隊を襲い、ワイバーンを全滅させた」

 などなど、数え上げたらきりがないほどである。

 普通であれば「酔ってるのか!」と怒られてもおかしくない。

 

 しかし現にワイバーンが全滅し、残った艦隊も降伏したとなっては、パタジンも「何らかの強力な魔法攻撃を敵が使用した」と推測するしかなかった。

 それでも、ワイバーンと軍船を一撃で破壊するほどの魔法力など想像もつかない。ましてや「巨大な鉄製の軍船」など、想像することすら馬鹿馬鹿しかった。

 なので、王には「調査中」と報告するに留めたのだ。

 

「……いずれにせよ、被害は事実だ。今後このようなことがあっては困るぞ。

 軍はこの敗北の原因を、必ず突き止めるように」

 

 ようやく精神が落ち着いたのか、王が厳命すると、パタジンも首肯した。

 

「ははっ!! 海戦の敗因は必ず突き止めてご覧に入れます。ただ、王もご承知の通り、陸上戦に関しては数がものをいいます。現にギムは陥落済みであり、ここを拠点として以降の作戦を進めておりますゆえ、陸上戦力だけでも公国を占領することは容易でございます。

 陛下におかれましては、戦勝のご報告を大いにご期待くだされ」

「うむ、そなたには期待しておるぞ」

「ははっ!! ありがたき幸せでございます!!」

 

 そうは言ったものの、パタジンにはどこか自分の声が無理をしているように聞こえた。

 王もその日は、一日中不安に苛まれながら過ごした。

 

 

 

 同日同時刻

 クイラ王国 カサブランカの海岸

 

 

「よし、これでこの倉庫の物資は全部記録できたな」

 

 アメリカ陸軍の上等兵であるジョン・スミスはそう言って、倉庫の外に出た。

 薄暗い中で作業をしていたせいか、太陽がいつもより眩しく感じる。

 周りを見ると、同じような蒲鉾形の倉庫が幾棟も建っており、その間でフォークリフトが働き蟻のように忙しなく動き回っている。

 

 アメリカ軍は今、このカサブランカの海岸とその内陸に大規模な港と基地を設営しつつあり、既に幾つかの施設と飛行場は稼動していた。軍港のほうはもう少し掛かるが、あと一週間もすれば一個~二個任務部隊が丸ごと収容できる港が完成する予定だ。

 現在も簡易桟橋に複数の輸送船が接舷して、建設資材や軍需物資、戦車などの装甲車両を荷卸ししている。

 ここで陸揚げされた物資には、内陸に建設された道路を通ってクイラ王国軍に供与される予定のものもある。それもこれも全て、平和を脅かす野蛮なロウリアをコテンパンにぶちのめす為のものだ――そう兵士たちは聞かされていた。

 また飛行場には、フィリピンから来た「極東航空軍」の戦闘機部隊が展開しており、まもなく爆撃機も展開する予定だという。

 

 (休憩所でコーラでも飲むか…)そう思って歩き出したとき、突然一台のジープが目の前に停車した。

 危うくぶつかりそうだったため、文句の一つでも言ってやろうと口を開きかけたとき、後部座席にいた男が立ち上がって質問してきた。

 

「ちょっとそこの君、司令部はどこだね?」

 

 ジョンはその人物を見て絶句した後、大慌てで敬礼した。何故なら、その男はアメリカ軍人ならば誰もが知っている人物であったからだ。

 

「し、失礼致しました。司令部でしたら飛行場の傍にあります」

「ありがとう、助かったよ。君の名は?」

 

 フィリピン軍の軍帽にレイバンのサングラスを掛け、口にコーンパイプをくわえたその男は、笑顔を絶やさずに聞いてきた。

 

「はい! ジョン・スミス上等兵であります!」

「スミス君だね、憶えておこう」

 

 そう言って男は運転手に合図し、走り去っていった。

 

「いやぁ、あの人が来るなんて思わなかったな。まあこのクイラはフィリピンから近いし、あの人が出張ってきてもおかしくないか……何にせよ、これから忙しくなるぞ」

 

 ジョンはそう言ってジープの男――ダグラス・マッカーサー陸軍大将の顔を思い浮かべた。

 

 




 いかがでしたでしょうか?
 次回は「エジェイ攻防戦」をお届けします。
 感想・ご意見など、どんどんお願い致します!!



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設定集:兵器解説(大日本帝国編) 加筆・修正版

 この小説をいつもご覧になってくださる読者の皆様、本当にありがとうございます!
 今回は「エジェイ攻防戦」に入る前に、大日本帝国がどのような兵器を運用しているのか解説したいと思います。
 艦艇は過去に解説したものも、加筆・修正した上で解説します。


 最近、小説執筆の勉強に「異世界総力戦に日本国現る」という本を読んだのですが、とても面白いと思いました。
 こんなにも日本に厳しい異世界転移ものがあったとは……


 帝国海軍

 

(戦艦)

 

 

・金剛型戦艦

同型艦:金剛、比叡、榛名、霧島

 

具体的な諸元は、史実と同じ。

 

帝国海軍最古参の戦艦であり、史実と同じ改装が成されている。

元々は巡洋戦艦であったが、二度の近代化改装により高速戦艦に生まれ変わった。

浅間型巡洋戦艦の就役に伴い、1945年には退役する方針であったが、異世界への転移により、帝国とその同盟国を防衛するには、少しでも多くの艦船が必要と判断され、退役は無期延期となった。

また高速戦艦に改装されたことにより汎用性が高まり、空母機動部隊の護衛、味方艦隊の前衛、夜戦時の火力支援、敵艦隊の追撃など様々な用途に投入できると期待されている。

「比叡」のみは異世界転移による水兵の大幅な増員により、練習戦艦へと変更されており、また各種の新装備の実験艦としても使用される予定である。

 

 

 

・扶桑型戦艦

同型艦:扶桑、山城

 

具体的な諸元は、史実と同じ。

 

1915年~1917年に完成した、日本初の純国産戦艦。

史実とほぼ同じ近代化改装が成されている。

異世界転移時には旧式艦であり、大和型の就役に伴い退役・解体が決定していたが、金剛型と同じく退役は無期延期となった。

またクワ・トイネ公国が本艦の購入に興味を示しており、場合によっては売却も考えられる。

 

 

 

・伊勢型戦艦

同型艦:伊勢、日向

 

具体的な諸元は、史実と同じ。

 

1917年~1918年に完成した戦艦。

元々は扶桑型戦艦の三、四番艦として計画されたが、扶桑型の防御装甲の欠陥が指摘されたため、改設計されて就役した。史実と概ね同じ近代化改装が施されている。

扶桑型と同じく異世界転移時には旧式艦であったため、解体が決定されていたが、日本国との交流により航空戦艦への大規模改装が決定、後には帝国海軍初の垂直墳進弾(ミサイル)搭載戦艦となった。

 

 

 

・長門型戦艦

同型艦:長門、陸奥

 

具体的な諸元は、史実と同じ。

 

1919年から20年にかけて就役した、日本初の41cm砲搭載戦艦。

八八艦隊計画の第一陣として建造されたため、随所に新技術が盛り込まれており、また国民への知名度も高い。

史実と同じ近代化改装が施されている。

八八艦隊計画艦としては一番最古参ということもあり、老朽化が懸念されているものの、41cm砲の威力は今なお通用するものであり、もうしばらく第一線に踏みとどまると思われる。

 

 

 

・加賀型戦艦

同型艦:加賀、土佐

 

基準排水量:4万3600トン(改装後)

全長:241.6m

全幅:34.8m

兵装:45口径41cm連装砲5基10門

   50口径14cm単装副砲14基14門

   40口径12.7cm連装高角砲4基8門

   25mm三連装機銃18基54挺 連装機銃6基12挺

速度:25.5ノット

機関出力:9万1000馬力

水上機2機

 

八八艦隊計画の第二陣として設計、建造された戦艦。

1924年から25年にかけて就役し、改装は長門型と同じ回数施された。

これにより、艦橋は長門型戦艦の近代化改装後のものとほぼ同一となり、またバルジを設置したことで、対魚雷防御が充実した。

装甲は長門型を上回るものが施されている。

 

 

 

・天城型戦艦

同型艦:天城、赤城、愛鷹、愛宕

 

基準排水量:4万5400トン(改装後)

全長:256.2m

全幅:34.4m

兵装:45口径41cm連装砲5基10門

   50口径14cm単装副砲12基12門

   40口径12.7cm連装高角砲6基12門

   25mm三連装機銃20基60挺、連装機銃2基4挺

速度:29.5ノット

機関出力:13万2000馬力

水上機3機

 

八八艦隊計画の第三陣として、1925年から27年にかけて就役した戦艦。

元々は巡洋戦艦であったが、海軍の艦種類別変更に伴い「戦艦」に変更された。

改装は二回実施され、そのため煙突が二本一纏めとなり、バルジも設置、艦橋構造も長門型に準ずるものに、また防御力も強化された。

装甲は第一次大戦の「ユトランド沖海戦」の戦訓を取り入れ、垂直装甲は傾斜装甲となり、また水平装甲や弾薬庫など、場所によっては加賀型を上回る防御力が施されたため、名実共に「高速戦艦」の名にふさわしいといえるものになっている。

関東大震災により「天城」が被災するものの、建造が予定より進んでいたために艦体が小破するのみに留まっている。

 

 

 

・紀伊型戦艦

同型艦:紀伊、尾張、駿河、常陸

 

基準排水量:4万6200トン(改装後)

全長:254.1m

全幅:35.2m

兵装:45口径41cm連装砲5基10門

   50口径14cm単装副砲12基12門

   40口径12.7cm連装高角砲6基12門

   25mm三連装機銃22基66挺、連装機銃2基4挺

速度:28ノット

機関出力:13万2000馬力

水上機3機

 

八八艦隊計画の中核を成す戦艦として、1928年から30年にかけて就役した。

米国の主力戦艦である「サウスダコタ級」の情報に基づき、完全な新規設計の戦艦になるはずであったが、財政問題やメンテナンス、および建造速度の促進等の理由から、天城型の図面を流用して設計・建造された。

比較的新しい戦艦であるため大規模な改装は一度しか行われておらず、また連合艦隊の旗艦を務めた期間の長さもあって、国民の間でも知名度が高い。

 

 

 

・穂高型戦艦

同型艦:穂高、蓼科、乗鞍、戸隠

 

基準排水量:5万4800トン

全長:274.3m

全幅:36.8m

兵装:45口径46cm連装砲4基8門

   50口径14cm連装砲6基12門

   40口径12.7cm連装高角砲8基16門

   25mm三連装機銃28基84挺、13mm連装機銃2基4挺

速度:29ノット

機関出力:15万馬力

水上機3機

 

八八艦隊計画の最終艦、かつ最強の艦として、帝国海軍が1933年から35年にかけて建造した戦艦。

米国のダニエルズ・プラン艦に対抗すべく、設計当初より46cm砲の搭載が決定されていたが、1926年に締結された「ジュネーブ軍縮条約」により、16インチ以上の主砲を搭載する戦艦の建造は禁止されていたため、艦体と艦上構造物のみ建造した後は工事を中断、名目上の竣工の後は予備艦として保存されていたが、1937年に条約が失効すると工事を再開し、予定通り46cm砲を搭載して、全艦が1938年に完成した。

帝国海軍初の46cm砲搭載艦であるため、竣工当初は不具合も多かったものの、異世界転移時には完全に不具合を修正しており、戦力としてカウントできる状態になっていた。

なお、水上機用のカタパルトは艦体中央に設置されており、主砲発射時の爆風を防ぐことができるようになっていた。

艦橋の形は大和型とほぼ同じであるが、これは新戦艦建造のために試験導入したものである。

 

 

 

・大和型戦艦

同型艦:大和、武蔵、信濃、近江

 

基準排水量:6万5000トン

全長:263.4m

全幅:38.9m

兵装:45口径46cm三連装砲3基9門

   60口径15.5cm三連装砲2基6門

   40口径12.7cm連装高角砲10基20門

   25mm三連装機銃36基108挺、13mm連装機銃2基4挺

速力:28ノット

機関出力:15万8000馬力

水上機:7機

 

「マル3計画」「マル4計画」で二隻づつの建造が決定され、完成が急がれている帝国海軍史上最大最強の戦艦。

計画された当初の対空火器は僅かであったものの、各国で新型の艦上攻撃機、艦上爆撃機が開発されていること、またドイツ戦艦の「ビスマルク」が英艦上機のソードフィッシュに舵を破壊され、それが沈没の遠因になったことや、「タラント空襲」による英軍の戦果が予想以上であったことなどから、対空火器の増強が図られた。

また八八艦隊計画で戦艦を多数建造、改装した経験から、隔壁や注排水装置等のダメージコントロールシステムは史実よりも大幅に増強され、また艦底部分は三重にされて魚雷に対する防御も強化、各部の装甲配置も適正化、副砲も装甲化されるなど「改大和型」とでも呼ぶべきものとなっており、また三、四番艦では、高角砲を10cm砲に変更する予定である。

一番艦の「大和」は1941年12月に完成し、文字通り帝国海軍の「顔」とでも呼ぶべき存在となっている。

 

 

 

(航空母艦)

 

・鳳翔

 

史実と同じく、世界初の空母として完成した。

 

 

 

・龍驤型空母

同型艦:龍驤、龍鳳

 

基準排水量:1万2500トン

全長:199.5m

全幅:20.4m

兵装:40口径12.7cm連装高角砲4基8門

   25mm連装機銃8基16挺

速力:32ノット

搭載機:常用32機、補用4機

 

八八艦隊計画により、1925年から26年にかけて就役した航空母艦。

当初「翔鶴」という艦名が予定されていたが、変更されて今の艦名になった。

戦闘機のみを搭載した「オール・ファイターズ・キャリア」として艦隊の防空を担当することになっており、二艦合計64機という数字は敵機を撃退するには十分であると考えられている。

 

 

 

・飛隼

 

基準排水量:2万4200トン(改装後)

全長:243.6m

全幅:22.5m

兵装:40口径12.7cm連装高角砲6基12門

   25mm三連装機銃8基24挺、連装6基12挺

速力:32.2ノット

搭載機:常用66機、補用9機

 

軍縮条約の枠を利用して「マル1計画」にて建造された航空母艦。同型艦は無い。

この空母の建造には様々な紆余曲折があったため、「難産空母」とのあだ名がある。

1930年代当時、日本海軍は大型空母の建造にそれほど重きを置いておらず、小中型空母の建造で十分と上層部が考えていたこと、また軍縮条約で航空母艦の建造が制限されていたこともあり、「条約範囲ででどれくらいの大きさの空母が造れるか」というペーパープランに近いものに過ぎなかった。しかし米海軍がレキシントン級巡洋戦艦の船体設計を流用した世界最大の空母「ディスカバリー」を竣工させたため、これに対抗する必要から本艦の建造が決定された。

当初は二段式飛行甲板であり、また決戦海域に投入することを考慮して15.5cm砲が搭載されていたが、艦載機の性能が向上するにつれて正面から敵艦艇と交戦する可能性が小さくなったことから、近代化改装の際に撤去され、飛行甲板も全通一段に改められている。

現在は第一航空艦隊の旗艦として活躍しており、ベテラン搭乗員が大勢乗り組んでいる。

 

 

 

・蒼龍

・飛龍

 

「マル2計画」で建造。史実と同じ。

軍縮条約の枠内で建造した最後の空母であるため、二隻とも中型空母になった。 

 

 

 

・翔鶴型空母

同型艦:翔鶴、瑞鶴、麟鶴

 

「マル3計画」にて建造された空母。具体的な諸元は史実と同じだが、一隻多い。

元々日本海軍は空母の役割を「艦隊決戦のための制空権確保」と位置付けており、その為には中型空母を多数建造した方が、発艦機数が増やせるために合理的であると考えていた。しかし艦載機の能力向上に伴い、機体が大型化する傾向にあったこと、また米海軍が軍縮条約明けに、大型空母である「エセックス級」の建造を開始したことなどからこれに対抗する必要が生じたため、新たに設計されて竣工した。

今後は帝国海軍機動部隊の主力として、縦横無尽に活躍すると思われる。

 

 

 

・大鳳型空母

同型艦:大鳳、天鳳、海鳳

 

「マル4計画」にて建造が決定された航空母艦。具体的な諸元は史実と同じだが、二隻多い。

帝国海軍は艦隊決戦を行う際に、航空戦力による制空権の確保が必須と考えていたが、従来の空母では防御力が弱く、僅か一発の爆弾で飛行甲板が使用不能になることもまれではなかった。そこで帝国海軍は英海軍の「イラストリアス級」を参考にした重防御の航空母艦を計画、1941年度より建造を開始した。

飛行甲板に装甲を施したことにより、大鳳型は500kg爆弾数発の直撃にも耐えることができ、戦場に踏みとどまって任務を続行できる可能性が高くなった。

本艦の防御性能は米海軍も注目しており、新世代の空母として活躍が期待されている。

 

 

 

 

(重巡洋艦)

 

・古鷹型重巡

同型艦:古鷹、加古

 

 

・青葉型重巡

同型艦:青葉、衣笠

 

 

・妙高型重巡

同型艦:妙高、那智、足柄、羽黒

 

 

・高雄型重巡

同型艦:高雄、阿蘇、鳥海、摩耶

 

 

・最上型重巡

同型艦:最上、三隈、鈴谷、熊野

 

 

・利根型重巡

同型艦:利根、筑摩

 

 

・伊吹型重巡

同型艦:伊吹、鞍馬

 

基準排水量:1万2400トン

全長:200.6m

全幅:20.2m

兵装:50口径20.3cm連装砲5基10門

   40口径12.7cm連装高角砲4基8門

   61cm4連装魚雷発射管4基

   25mm3連装機銃8基、同連装機銃2基 計28挺

速力:35.5ノット

機関出力:15万2000馬力

水上機:3機

 

「マル急計画」で建造が決定された、最上型重巡の改良型。

1937年に軍縮条約が失効すると、帝国海軍は「最上型」四隻、「利根型」二隻の主砲を20.3cm砲に換装して重巡に変更し、米海軍と重巡の数で対等となったが、米海軍も「クリーブランド級」「ボルチモア級」などの新型巡洋艦を多数計画中であるとの情報が入ってきたため、これに対抗する形で計画された。

当初は「マル5計画」にて建造が計画され、艦形も新型になるはずだったが、1942年に「異世界転移」が発生したために軍事力を増強する必要から多数の艦艇を建造する必要にせまられ、「最上型」の図面を流用する形で艦形が決定した。

帝国海軍巡洋艦にふさわしく水雷兵装が前級よりも強化されており、また新型の魚雷発射管制装置も導入される予定のため、「帝国海軍最強の重巡」との呼び声も高い。

 

 

 

(軽巡洋艦)

 

・天龍型軽巡

同型艦:天龍、龍田

 

 

・球磨型軽巡

同型艦:球磨、多摩、北上、大井、木曾

 

 

・長良型軽巡

同型艦:長良、五十鈴、名取、由良、鬼怒、阿武隈

 

 

・川内型軽巡

同型艦:川内、神通、那珂、加茂、木津、名寄

 

「八八艦隊計画」によって建造された、水雷戦隊旗艦用の軽巡洋艦。当初は8隻建造予定であったが、軍縮条約によって6隻に減らされた。大正年代に竣工したために老朽化が懸念されており、また新型の駆逐艦が多数就役していることから代艦の建造が望まれているが、異世界転移に伴う戦力増強のため、もうしばらく第一線にとどまると思われる。

 

 

・阿賀野型軽巡

同型艦:阿賀野、能代、矢矧、酒匂

 

「マル4計画」で4隻が計画されている軽巡洋艦。

軍縮条約の失効に伴い、新型の駆逐艦が次々と就役していること、また列強各国の海軍で砲火力に優れた軽巡洋艦が建造されており、「5500トン型軽巡」では力不足であると判断されたために建造が決定された。しかし本型は砲力よりも水雷性能に重点が置かれており、帝国海軍の「魚雷狂い」の一端が垣間見える艦でもある。

続く「マル5計画」では砲力に改良が加えられた「改阿賀野型軽巡」が計画されている。

 

 

・大淀型軽巡

同型艦:大淀、仁淀

 

「マル4計画」で2隻が計画されている軽巡洋艦。

帝国海軍が長年研究している「漸減邀撃作戦」において、潜水艦を使って敵艦隊を攻撃する案が構想されたため、その為の潜水艦指揮艦として建造されている。

また強力な対空火力を活かし、艦隊の防空戦闘に使うことも予定されている。

 

 

 

(巡洋戦艦)

 

・浅間型巡洋戦艦

同型艦:浅間、黒姫、吾妻、生駒

 

基準排水量:3万2400トン

全長:246.5m

全幅:30.8m

兵装:50口径31cm3連装砲3基9門

   65口径10cm連装高角砲8基16門

   25mm3連装機銃22基66挺、同連装機銃4基8挺

速力:33ノット

機関出力:17万馬力

水上機:3機

 

 帝国海軍が「マル4計画」及び「マル5計画」で二隻ずつ計画している巡洋戦艦。

 帝国海軍は明治時代より艦隊決戦前の「夜戦」を重視しており、夜戦時の混乱のただ中で艦隊を指揮する為「金剛型」に高速性能を付与することにより、火力支援と指揮通信任務に従事させていた。しかし金剛型は建造後20年が経過しており、耐弾性能や夜戦時の指揮能力に不安が残ること、加えて米海軍の「アラスカ級」やドイツ海軍の「ドイッチュラント級」や「シャルンホルスト級」、ソ連海軍の「クロンシュタット級」など、列強各国に「条約巡洋艦殺し」を任務とする艦が就役し始めたことから、早期の代艦建造が必要との認識が帝国海軍内に持ち上がってきたため、本艦の建造が決定された。

 本艦の就役は1944年頃とされており、夜戦において効果的な支援をすることや、強力な対空戦闘力を駆使して戦艦や空母の護衛をすることが期待されている。

 

 

 

(駆逐艦)

 

・峯風型駆逐艦

同型艦:峯風、澤風、沖風、羽風、汐風、秋風、夕風、太刀風、帆風、野風、波風、沼風

 

 

・神風型駆逐艦

同型艦:神風、朝風、春風、松風、旗風、清風、軽風、真風、追風、疾風、朝凪、夕凪

 

 「八八艦隊計画」にて12隻が建造された駆逐艦。具体的な性能は史実と同じである。

 

 

・睦月型駆逐艦

同型艦:睦月、如月、弥生、卯月、皐月、水無月、文月、長月、菊月、三日月、望月、夕月

 

 

・吹雪型駆逐艦

同型艦:(Ⅰ型)吹雪、白雪、初雪、深雪、叢雲、東雲、薄雲、白雲、磯波、浦波

    (Ⅱ型)綾波、敷波、朝霧、夕霧、天霧、狭霧、朝露、夕露、白露、草露

    (Ⅲ型)朧、曙、漣、潮、暁、響、雷、電

 

 「八八艦隊計画」並びに軍縮条約後の「昭和2年度計画」で建造された駆逐艦。

 当時としては画期的な性能を示し、列強各国の駆逐艦建造に大きな影響を与えた。

 

 

・初春型駆逐艦

同型艦:初春、子日、若葉、初霜、有明、夕暮

 

 

・長雨型駆逐艦

同型艦:長雨、時雨、村雨、夕立、春雨、五月雨、海風、山風、江風、涼風

 

 

・朝潮型駆逐艦

同型艦:朝潮、大潮、満潮、荒潮、朝雲、山雲、夏雲、峯雲、細雪、淡雪、春雪、粉雪、霰、霞

 

 

・陽炎型駆逐艦

同型艦:陽炎、不知火、黒潮、親潮、早潮、夏潮、初風、雪風、天津風、時津風、浦風、磯風、浜風、谷風、野分、嵐、萩風、舞風、霜風、沖津風、早風、大風

 

 

・夕雲型駆逐艦

同型艦:夕雲、秋雲、巻雲、風雲、長波、巻波、高波、大波、清波、玉波、涼波、藤波、早波、浜波、沖波、岸波、朝霜、早霜、秋霜、清霜、妙風、晴風、村風、里風、山霧、海霧、谷霧、川霧(予定)

 

「マル4計画」「マル急計画」にて建造されている駆逐艦。陽炎型の改良型。

主な改良点としては、主砲仰角の引き上げによる対空戦闘能力の強化、速力の統一化、新型水測装置(ソナー)の搭載などがある。

28隻の建造が予定されているが、時局によっては追加建造される可能性もある。

 

 

・秋月型駆逐艦

同型艦:秋月、照月、涼月、初月、新月、若月、霜月、冬月、春月、宵月、夏月、満月、花月、清月、大月、葉月

 

「マル4」「マル急」両計画で建造されている、帝国海軍初の防空駆逐艦。

当初は水雷兵装を搭載しない防空専用艦として予定されていたが、用兵側の意向により魚雷発射管が搭載された。

主砲として搭載されている「65口径10cm高角砲」は、対空戦だけでなく対水上戦にも威力を発揮する主砲として注目されており、今後の活躍が期待されている。

 

 

 

 

 帝国陸軍

 

 (戦車)

 

・九七式中戦車「チハ」

 

帝国陸軍が開発、配備している中戦車。

形状は史実の「チハ改」そのものである。

元々帝国陸軍上層部はチハよりも軽量・小型・安価な戦車である「チニ車」の開発を優先しており、こちらの戦車が採用される可能性が高かった。しかし、仮想敵国であるソ連の「BT-7」「T-26」、ドイツの「三号戦車」、アメリカの「M3軽戦車」などが、チニ車が搭載する短砲身57mm砲よりも攻撃力に優れており、また中国国民党とソ連軍との間で行われた「中ソ国境紛争」における戦訓から、より攻撃、防御に優れた戦車を配備する必要に迫られたため、長砲身47mm砲搭載の本車の採用が決まった。

その後、1939年5月に起こった中国国民党とソ連軍の大規模武力衝突事件「ノモンハン事件」にて、本車は日本義勇軍の一翼として参戦、ソ連軍戦車の大軍を巧みな戦術で撃退した。

現在、後継戦車である一式中戦車「チヘ」の配備が進められているが、本車の車体は発展性の余地がある為、もうしばらくは主力戦車として前線にとどまるとみられている。

 

 




 いかがでしたでしょうか?
 今回は時間がなかったため、航空機に関する解説はまた今度にしたいと思っています。
 また、艦船の解説は時々投稿するので、楽しみにお待ちください!

 次回こそ「エジェイ攻防戦」をお届けしたいと思います。


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第六話 反撃開始

 この小説をご覧になってくださる読者の皆様、ありがとうございます!
 今回は「エジェイ攻防戦」をお届けするはずでしたが、話が膨らんでしまったために含めることが出来ませんでした。
 大変申し訳ございません!

 今回の話は作品の都合上、残酷なシーンが多々あります。
 苦手な方はご注意ください。


 中央暦1639年 5月21日

 クワ・トイネ公国 国境近くの草原

 

 

「もう少しだ! もう少しで味方の陣地に着くぞ!」

 

 200名ほどの集団の先頭にいるエルフがそう言うと、村人達は疲労の色を滲ませながらも頷いて、足を前へと進めていく。

 彼らは公国軍の陣地を目指して自主疎開をしている難民の集団で、元はギムから東へ20kmほど離れた小さな村の住民たちであった。外との交流が少ないために、政府が出した強制疎開命令が十分に伝達されていなかったのだ。

 運よく他の地域から疎開してきた人々から開戦の報を聞き、村人全員で疎開を開始したものの、他より疎開が遅れてしまったことに変わりはなく、村人達は「無事疎開できるだろうか」と不安な日々を過ごしていた。またロウリア軍の遊撃部隊が付近で出没しているという情報を耳にすると、その不安は一層大きくなる一方であった。

 また集団で固まって行動していることが祟ったのか、進行速度はとても遅く、まだ村から10km程しか離れることができていない。

 

(あと25km程だ……そこまで行けば公国軍の基地がある。それまで妹だけでも守らなくちゃ……)

 

 集団の真ん中で妹の手を引いている少年パルンは、そう心の中で改めて誓った。

 しかし、敵は彼らを見過ごしてはくれなかった。

 

「まずい! ロウリアの騎馬部隊だ!!」

 

 集団の最後尾にいた若いエルフが叫ぶと、村人達はたちまち悲鳴を上げて逃げ始めた。

 しかし、走ったところで騎馬から逃れることなど到底無理であり、死の足音は着実に迫ってきた。

 

__________

 

 

 ロウリア王国ホーク騎士団に所属する、第15騎馬隊隊長の”赤目のショーヴ”は、久しぶりの獲物に舌なめずりをしていた。

 彼の部隊はギムの攻略戦に参加していたものの、ギムでは住民たちが全員疎開してしまっていたために戦利品にありつくことができず、またこれまでの任務でも戦利品を見つけられなかったため、配下の部下たちの間には不満が溜まっていた。そのため、ショーヴは反抗的な部下を何人か「処分」することにより、自身の鬱憤を晴らすと同時に部隊の規律を保っていたが、それにも限度がある。

 そろそろ手ごろな獲物と遭遇しないと、部下が反乱を起こすかもしれん――そんな焦慮を抱いていたところに今回の難民発見の報である。ショーヴは神に感謝したい気持ちだった。

 

「よし野郎ども! 久しぶりの獲物だ!! 思う存分狩りまくれ!!」

「「「「ひゃっはぁぁぁーーーーーっ!!!!」」」」

 

 彼らは下品な歓声を上げながら、難民たちの群れへと向かってゆく。

 ものの五分もすれば追いつけるし、その後は「お楽しみ」の時間を過ごすだけだ。

 彼らはそのことだけを考え、騎馬を駆ってゆく。

 周囲や上空を、ろくに見ようともせずに。

 

__________

 

 

 パルンは妹のアーシャとの手を引いて、懸命に走った。

 

「アーシャ、絶対に離れるなよ! お兄ちゃんが守るからな!!」

「うん」

 

 パルンは気丈に振舞うものの、内心は恐怖でいっぱいであった。

 何しろ相手は平気で自分たちを殺そうとするロウリア軍である。捕まったら最後、自分も妹も嬲られた上で殺されるのは確実だ。

 どうして自分たちがこんな目に遭うのだ、何もしていないじゃないか――そんな気持ちを抱いたとき、ふと死んだ母親が夜に聞かせてくれた話を思い出した。

 

 ――遠い昔、北の大陸に魔王が出現して侵略を開始すると、多くの集落が飲み込まれ、沢山の人々が殺された。

 人間、エルフ、獣人、ドワーフなどの種族は連合軍を組織し、一致団結して戦ったものの、強力な魔王軍の前に敗退を続け、やがては海を渡ってロデニウス大陸に後退した。

 魔王軍も連合軍を追ってロデニウス大陸に侵攻し、やがて連合軍はエルフの聖地「神森」まで追い詰められた。

 エルフの神は我が子同然の種族を守るべく、自分たちの創造主である「太陽神」と「星の神」に祈りを捧げた。

 太陽神と星の神はエルフの神の名前と引き換えにこの願いを聞き入れ、「太陽神の使者」と「星の勇者」をこの世に遣わしてくれた。

 太陽神の使者たちは空を飛ぶ神の船や鋼鉄の地竜に乗って現れ、雷鳴のような強大な魔導で魔族を焼き払った。星の勇者たちも同じような神の船や巨大な鋼鉄の島を使って魔族を討ち滅ぼし、連合軍を助けてくれた。

 主力を失った魔王軍は神森より撤退するも、使者と勇者たちはロデニウス中の魔族を駆逐し、さらに北のフィルアデス大陸にいた魔王軍をも完膚なきまでに殲滅した。

 連合軍の人々は自分たちを助けてくれたお礼に、使者と勇者たちに沢山の財宝を渡そうとしたが、彼らは受け取らずに、神の船に乗って帰っていった――そんなお話だ。

 

(母さんは全部本当の話だって言ってた……なら神様、太陽神様、星の神様! どうかお願いします! 僕たちを助けてください!!)

 パルンは妹の手を引きつつ、必死に祈った。

 しかし、何も起こらない。

 ロウリア軍はもうすぐそこまで迫っている。あと数分もしないうちに虐殺が始まるだろう。

「お願いします、神様!! 勇者様!! 助けてください!!!」

 パルンが天に向かって叫んだ直後――

 

 ロウリア軍の先頭が、轟音と共に消し飛んだ。

 

__________

 

 

「い、一体何が起こったんだぁぁ!!?」

 

 ショーヴは轟音に驚いて後ろ立ちになった馬の手綱を引きつつ、信じられない思いで前方を見た。

 つい先ほどまで先頭にいた部下たちが、文字通り木っ端微塵に吹き飛んだからである。

 慌てて上空を見ると、奇妙な形の物体が「バタバタバタ……」と音を立てて空に浮かんでいるのを発見した。

 物体は黒くて無機的な外観をしており、どう考えてもワイバーンではない。

 

「な、何だありゃあ!!?」

 

 訳が分からずショーヴが喚いた時、「それ」は光を放つと、何かを凄まじい速度でこちらに飛ばしてきた。

 

「光の――槍?」

 

 隊で一番目が良い部下がそう呟いた瞬間――

 

 ズドドーン!!

 

 光の槍は地面に突き刺さるや否や、大爆発を起こして部下達をただの肉片に変えた。

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!!」

 

 本能的に「あれには敵わない」と感じたショーヴは、部下を見捨てて直ちに反転する。

 しかし、そのような目立つ行動をする奴を放っておくほど、その物体――攻撃ヘリ『AH-1Sコブラ』の乗員は馬鹿でもお人好しでもない。

 直ちに攻撃手段を『M197 20mmガトリング砲』に切り替え、敵騎馬部隊に撃ち込む。

 

 ヴォオオオオオオォォォン!!!!

 

 ガトリング砲は的確にその任務を果たし、敵を小間切れにしてゆく。

 そしてその矛先は例外なく、指揮官のショーヴにも向けられた。

 

「く、くそぉぉぉ!! 助けてくれぇぇぇ!! がっ――」

 

 ショーヴは体に強烈な打撃の感触を感じた瞬間、意識を永遠に閉ざした。

 

__________

 

 

「お、お頭が……」

 

 運よく最後尾にいた部下たちは、自分たちの隊長が正体不明の攻撃で、血しぶきと共に肉片に変わるのを見てしまったため、たちまち戦意が萎えてしまった。

 ただ心の中にあるのは「逃げなければ全滅する」との恐怖心のみ。

 元々彼らは盗賊や山賊の出身であり、引き上げ時も心得ていたのだ。

 

「ひ、引け、引けーーーっ!! 撤退だぁぁぁ!!!」

 

 撤退より「逃亡」の方が正しいと思えるような感じで、騎馬隊の残りが反転しようとしたとき――

 

「おい、何か変な音が聞こえないか?」

 

 一人がそう言って西の方角を指すと、草原の中から土ぼこりを上げて「何か」が次々と出現した。

 彼らはそれを見ると、たちまち顔色を失った。

 何故なら、見たこともない「鉄の化け物」が猛スピードでこちらに向かってきていたからだ。それも一体二体どころか、何十体もである。

 しかも、それらには川底の泥の様な服を着た連中が乗っており、短い槍の様なものを持っている。

 どう見ても味方ではない。

 

「て、敵だ!!」

「うろたえるな!! あんな短い槍では馬上の俺たちを突き刺すことは出来ない!! 一点突破すれば勝機があるぞ!!」

「「「おおおおっ!!!」」」

 

 一人が恐怖を払うように大声で鼓舞すると、全員が応じて新たな敵に突撃してゆく。

 どうせ蛮族だ、こちらが本気を見せれば混乱するだろう――彼らの思い込みは、最悪の形で裏切られた。

 彼らは鉄の化物から素早く降りると、こちらに向かって槍を構えてきた。

 

「何のつもりだ、一体――」

 

 騎馬部隊の一人が呟いた瞬間、「バン!」という音が敵から聞こえてきた。

 その音が一回ではなく何回も続けて響いた途端、騎馬兵達は何が起こったのかも分からず、もんどりうったかのように次々と倒れていった。

 

__________

 

 

 パルンを含む村人たちは、信じられない思いで一部始終を見つめていた。

 まず、空飛ぶ船の様な物体が光の槍を発射して、ロウリア軍騎馬部隊の三分の二を殲滅したのみならず、後方から出現した鉄の化物やそれを操る連中が、見たこともない魔導を使って残りの敵を倒したからだ。

 村人達が「自分たちも殺されるのでは」と恐怖におののく中、東の空から空飛ぶ船が多数出現して、中から緑色の服を着た人間が次々と降りてきた。また西からも鉄の怪物とそれに乗る人間たちが現れる。

 彼らは村人たちに向かって「怪我はありませんか?」と口々に問いかけるが、難民たちの中で応じるものは無く、ただ固まって震えていた。

 しかしパルンを含む何人かの村人たちは、彼らの着ている服や兜、そして彼らが乗ってきた船や怪物に「赤い丸」や「星の印」が描かれているのを発見した。

 

(――! 太陽の印が描かれている! 本当に神様が使者様や勇者様を遣わしてくださったんだ!!)

 

 パルンは意を決し、彼らの方に歩み寄った。

 

「助けてくれてありがとうございます! あなたたちは太陽神の使者様と星の勇者様ですか?」

 

 パルンの問いかけを聞いて、難民たちの輸送について話し合っていた緑の服と土埃色の服の男達――自衛隊員と帝国陸軍兵たちは、揃って首を傾げた。

 しかし子供の言う事であり、時間が差し迫っている中で説明するのも面倒くさいと感じた彼らは、頷いて答えた。

 

「うん、そうだ。我々は君たちを助けに来たんだ」

「ああ、もう心配はいらない。安心していいよ」

 

 そう自衛隊員と帝国陸軍兵が言うと、エルフたちの間にどよめきが走った。

 

「た、太陽神の使者様と星の勇者様だと!?」

「確かに、太陽の印が服や船に描かれている!」

「あの土色の服を着た者達の兜にも、星の印が付いているぞ!」

「神様、感謝いたします!!」

 

 村人達は彼らに歩み寄り、ひれ伏して口々に感謝を伝える。

 それを見て顔を若干引きつらせながら、自衛隊員と陸軍兵士たちは村人たちに告げた。

 

「あ、あの。とりあえず乗って下さいませんか?」

 

 

 自衛隊と帝国陸軍の間で話し合いが持たれた結果、結局全ての村人をヘリで輸送することは無理であると判断されたため、残りの村人は帝国陸軍捜索連隊が乗ってきた軽装甲車やトラックに分乗することになった。

 

「小隊長殿、敵兵の遺体は如何なさいますか?」

 

 部下に尋ねられた小隊長は、少し考えてから言った。

 

「適当で良いと思う。こいつらはパルチザンみたいだしな。連中の重要書類や日記があったら回収し、認識票があったら自分の所に持ってきてくれ。後は穴を掘って埋めておけば良いだろう。少なくともカラスに喰われるよりはマシだ」

「了解しました。軽戦車に排土板を着けておきます」

 

 やがて排土板を装着した軽戦車が二両、あちこちに散らばる敵兵の死体を、まるで物の様に集めては穴の中へと落としてゆく作業を開始する。

 死者への敬意など微塵も感じないその「作業」に、小隊長はゆっくりと顔を背けた。

 

「嫌だねぇ……戦争っていうのは……」

 

__________

 

 

 中央暦1639年(西暦1942年) 5月25日午前6時

 ロウリア王国南部 クイラとの国境沿い

 

 

「あーあ……暇だなぁ……」

 

 クイラ王国との国境守備を担当する、ロウリア軍第62国境守備隊の兵士ダージは、重い瞼をこすりながら東の方角を見据えていた。

 戦闘が行われているクワ・トイネ戦線と比較して、クイラ側の国境は平穏そのものである。

 というのも、そもそも貧国であるクイラ王国はロウリア王国と比較して満足な戦力を揃えておらず、クワ・トイネが陥落してから侵攻しても問題ないとロウリア軍の上層部は考えており、また仮にクイラが逆侵攻を企てたとしても、国境守備隊だけで十分に守り切れると現地の部隊が楽観的に判断していたこともあって、この地域に駐屯している兵士たちは緊張など全く持っていなかった。

 また、優秀な兵士をクワ・トイネへの侵攻作戦に振り向けていることも手伝って、守備隊兵士の質は劣悪なものとなっており、国境の向こう側で何が起きているのか全く察知出来ないでいた。

 

「あと一時間で交代かぁ……やっと眠れるぞ」

 

 ダージがそう言って、あくびをしたその時

 

 ドロドロ……ゴロゴロ……

 

 東の方角から稲妻のような閃光と、雷鳴のような音が立て続けに聞こえてきた。

 

「ん……? 雷か?」

 

 ダージは目を細めて、監視塔から東の空を見る。

 (もし雷雨になったら、ずぶ濡れになるな)彼がそこまで考えた瞬間――

 

 ドカーン!! ダダーン!! ドドーン!!!

 

 何かが破裂したような凄まじい爆発音と共に、監視塔がグラグラと揺れ、周囲の地面が吹き飛んだ。

 

「な、何だぁ!? 地震か!!?」

 

 ダージが狼狽する間にも爆発音は間断なく轟き、周囲に被害を及ぼしてゆく。

 ふとダージが空を見上げると、高空から異形の物体が「グオオォォォ……」と音を轟かせながらこちらに向かってくるのが見えた。

 数はざっと百は下らないだろうか。

 

「まさか……敵!?」

 

 ダージが呆然と呟いた時、ようやく「敵来襲」の警報が鳴り渡った。

 しかし、訓練通りに配備につける兵士はほとんどいない。予期せぬ敵と見たことのない攻撃に、大多数の兵士は武器も持たずに右往左往するか、頭を抱えて震えているかのどちらかであった。

 

「と、とにかく上官に――」

 

 ダージが上空の敵騎のことを報告しようとした時、監視塔の至近に爆弾が命中して、監視塔はついに倒壊し始めた。

 

「うわわわーーーーっ!!!」

 

 ダージは監視塔が傾いた拍子に体を柱に打ちつけ、気を失った。

 

__________

 

 

「ふむ、予定通りだな」

 

 そう腕時計をみて呟いたのは、今回の作戦で先鋒を任されているアメリカ軍第2軍の司令官、ジョージ・パットン少将だった。

 彼は今、自分の指揮戦車である「M3中戦車」から顔を出し、部隊の様子を見ていた。どの兵士の顔も緊張に染まっているが、臆病そうな表情をしている兵士は一人もいない。

 中には「狩りの時間だぜ!」と不敵な笑みを浮かべている兵士もおり、パットンは満足だった。

 少し離れた後方では、砲兵部隊が「M1 75mm榴弾砲」や「M2A1 105mm榴弾砲」、「M1 4.5インチカノン砲」などの重砲が、次々と砲弾をロウリア王国に撃ち込んでいた。

 

 今回のロウリア王国侵攻作戦「スレッジハンマー(大鎚)作戦」には、機甲師団三個と歩兵師団十二個の陸上戦力が参加しており、それぞれ北部、中部、南部に展開していた。

 この作戦の目的は、ロウリア王国南部に展開している敵戦力を分断して包囲し、これを殲滅することで南部地域を完全に掌握することにある。特にパットン率いる第2軍は中部の担当であり、ロウリア軍の主力を南北に分断して捕捉、撃滅することが求められていた。

 また作戦に参加する師団は全てハーフトラックや通常のトラック、スカウトカーなどで自動車化されており、日本帝国陸軍の師団とは違って、機動力に関しても折り紙つきである。そもそも米陸軍の師団は、歩兵師団であっても戦車大隊と対戦車駆逐大隊各一個を編成内に持っているため、機甲戦力においても帝国陸軍を凌駕していた。

 またクイラ王国領内に建設した飛行場からは、最新鋭爆撃機である「B-17」「B-25」や、「A-20」などの攻撃機が夜明けとともに離陸し、護衛の戦闘機と共にロウリア軍を攻撃することになっていた。

 

「いかがですかな観戦武官殿、我が軍の力は?」

「……正直に申し上げて『常識外』であると思っています。ロウリア軍でさえ少数保有するのが精いっぱいの大砲を、あなた方は何十門と並べて敵に撃ち込んでいる。その上『飛行機』で敵を爆撃し、行動を抑えたうえで間髪入れずに攻撃を仕掛ける手際の良さ、高度な連携を可能とする通信能力の高さ、全てが我が軍にとって常識外です。この力が我々に向けられたらと思うと、身震いすらしますよ」

 

 そうパットンに向かって言ったのは、クイラ王国軍より派遣されたコルムという若いドワーフであった。この男はクイラの外交担当であるメツサルの息子で、今回の作戦ではアメリカとクイラの間における連絡役と相談役を請け負っている。

 

「まあ、この戦術は我々が作り上げたものではないんですよ。元々はドイツという国の軍隊が作り上げた『電撃戦』戦術を、我が軍向けに少し練り直しただけものです」

「それでも凄いですよ。でも、この準備砲撃はいつまで続くんです?」

「あと三、四時間は続きますよ。その間、コーヒーを飲みながら武器の話でもいかがです? 私は昔サーベルを設計したこともありましてね、あなたの腰にある短刀にとても興味がある」

 

 戦争と葉巻をこよなく愛するこの将軍は、コルムの腰にある短刀を見ながらそう言った。

 コルムも断る理由が無いので、それに応じて戦車から降りた。

 

 砲撃と爆撃は、まだ終わる気配を見せなかった……




 いかがでしたでしょうか?
 次こそ「エジェイ攻防戦」をお届けします。

 感想、批評などドンドンお願いします!


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第七話 エジェイ攻防戦1

 この小説をご覧になって下さる読者の皆様、毎度のことですが本当にありがとうございます!
 お陰様でUAは18000を越え、お気に入り登録して下さった方は200件以上にもなりました!
 これからもよろしくお願いします!


 中央暦1639年 6月9日

 クワ・トイネ公国 城塞都市エジェイ

 

 

「ふむ、今日も異状なしか……」

 

 クワ・トイネ公国西部方面師団を束ねる将軍ノウは、そう呟くと後ろを仰ぎ見た。

 そこには、クワ・トイネ公国軍の自慢であるエジェイの城壁が、まるで巨人の如くそびえ立っている。

 このエジェイは、ロウリアとの軍事的緊張が高まりつつあった頃に、首都への侵攻ルートを防衛するために作られたもので、街そのものが巨大な要塞と言っても過言ではない。

 建築技術では右に出るものがないクイラのドワーフ達の手によって、わざわざ山脈から切り出されて加工された花崗岩を原材料とする城壁は無論のこと、街の建物も全て石造りとすることで難燃性を高めている。またあちこちに大型のバリスタが据え付けられており、ワイバーンへの備えも万全だ。また城内にはきれいな水が湧き出る泉が何か所もあり、倉庫にも膨大な食糧備蓄があるため、敵は「兵糧攻め」という手段を取れない。

 

(それに、こちらには新兵器がある)

 

 ノウ将軍は心の中で言うと、訓練に励む配下の兵士たちを、満足そうに見下ろした。

 ノウが指揮する西部方面師団は、騎兵3千名と弓兵7千名、歩兵2万名を主力とする大部隊で、ほかにワイバーン50騎の航空戦力がいる。

 このうち歩兵の十分の一に当たる2千名は、同盟国である大日本帝国から供与された「三十年式歩兵銃」「三八式歩兵銃」に武装を変更した上で、首都から直接エジェイに派遣された増援部隊であり、ノウも銃の威力を見せつけられていた。

 このためノウ将軍は『100万の敵が、100年掛けてもエジェイを陥落させることは不可能である』と事あるごとに豪語していた。

 

「ノウ将軍、日本国自衛隊と大日本帝国陸軍の方々が来られています。『エジェイの防衛戦略について話し合いたい』と言っておりますが」

 

 幹部の一人がそう述べると、ノウは不愉快そうに眉をひそめた。

 

「もう来たのか……随分と早いな……

 まあいい、応接室で待たせておけ。私は忙しいんだ」

「しかし、公国政府からは最大限協力するように通達されていますが……」

「そんなの知るか。いいかね、連中が来たら『ノウ将軍は部隊視察中のため、一時間ほど遅れる』と伝えろ。連中がごちゃごちゃ抗議しても、それで通すんだ。

 そもそもここは我々の街だ。連中の手を借りなくたって守れるさ」

 

 ノウは幹部に念を押すと、部隊が訓練している方向へ歩き出した。

 

(ふん、人の国に土足で上がり込んできおって……何が『話し合いたい』だ! 黙って武器だけ渡しておればいいものを!)

 

 ノウは心の中で、日本国自衛隊と大日本帝国陸軍に対して悪態をつく。

 それほど彼は、彼らのことが嫌いだった。

 

 日本国はクワ・トイネの領空を公然と侵犯し、力を見せつけた後に接触してきているため、ノウは「圧力外交に他ならない」と判断し、心証を大きく害していた。大日本帝国にしても、巨大軍艦で使節を送り込んでいるから、れっきとした砲艦外交である。

 さらに、彼らは『ロデニウス沖海戦』で、敵艦隊を事実上「一隻残らず」殲滅し、あまつさえ増援に訪れたワイバーンも「全て」撃墜したというが、これとて信用できるものではなく、脚色が大幅に含まれているとノウは考えていた。そもそもそんな出鱈目な戦果が、魔法もろくに知らない連中に上げられるはずはない。

 連中が提供してきた「銃」の性能については、自分の眼で見たためによく分かっているし、提供してくれたことには感謝してやらんでもないが、クワ・トイネ公国は自分たちの国であり、自分たちで守れる。

 同盟国だからといって援軍を送り込んでくるとは、上から目線の同情に過ぎない――ノウはそう決めつけていた。

 

 結局ノウが応接室に足を運んだのは、一時間と20分を過ぎてからだった。

 

__________

 

 

「遅いなぁ……」

 

 エジェイに援軍として派遣された、帝国陸軍第二十五軍の参謀長を務める鈴木宗作中将が、そう腕時計を見ながら舌打ちすると、応接室にいる他の将官たちも苛立ちの色を濃くする。

 

「しかし……『部隊視察中』ということですので、想定外のことが起こって遅れているのでは?」

「甘いですよ、大内田陸将。これは一種の嫌がらせに違いありません。

 助けてほしいというから援軍に来たのに、この対応とは……馬鹿にしとるのか!」

 

 空気を和らげようと発言した、陸上自衛隊第7師団長の大内田に向かってぴしゃりと言い放ったのは、第二十五軍の中核部隊である第五師団の師団長、松井太久郎中将であった。

 軽んじられていると憤る松井中将に対して、第二十五軍司令官の山下奉文大将は、応接室の椅子に腰を下ろしながらなだめるように言った。

 

「まあそう言うな、松井中将。

 この扱いは私自身思うところがないではないが、そんなことを言ってもしょうがない。協力関係の構築はこの戦いにおいて必須なのだからな。ここは辛抱だ」

「しかしですなぁ……」

 

 なおも言い募る松井に対し、山下が口を開きかけた時

 

「失礼します。ノウ将軍がお戻りになられました」

「やれやれ、やっと来たか」

 

 西部方面師団の幹部が応接室に入ってそう告げると、鈴木参謀長が待ちくたびれたように言った。

 程なくしてノウが応接室に入ってくると、帝国陸軍と陸上自衛隊の将官たちは、立ち上がって一礼した。

 最も、松井中将は仏頂面のままだったが。

 

「これは皆様、お待たせして大変申し訳ございません。私はクワ・トイネ公国西部方面師団将軍ノウと申します。

 この度は援軍を派遣して下さり、大変感謝しております」

 

 ノウが全く申し訳ないと思っていない口調で謝罪すると、山下もにこやかな表情を作って挨拶する。

 

「いえいえ、こちらこそお忙しい時に伺ってしまい、申し訳ないと思っています。

 私は大日本帝国陸軍、第二十五軍司令官の山下奉文と申します」

「参謀長の鈴木宗作です」

「……第五師団長、松井太久郎です」

 

 帝国陸軍の将官たちが自己紹介すると、大内田たち陸自の番になった。

 

「日本国陸上自衛隊、第7師団長の大内田です。

 それでは時間ももったいないですし、さっそく会議を始めてもよろしいですか?」

「構いませんとも」

 

 ノウも了承したので、そのまま戦略会議が始まった。

 

「山下将軍、貴官もごそんじの通り、ロウリア軍は国境の町ギムを陥落させた後、5月31日まで同地にとどまっていましたが、6月に入ってから侵攻を再開しております。このまま行けば後10日程でエジェイに到達するでしょう」

 

 ノウは一度言葉を切ってから、高圧的な態度と口調で山下と大内田に言い放った。

 

「しかしながら、皆さんもご覧になった通り、エジェイは鉄壁の防護を備えた要塞都市です。これを陥落させることは、どんな大軍にも不可能でしょう。

 我々はロウリアによって侵略を受けており、かの国に一矢でも報いてやろうと立ち向かっております。我が軍の誇りと名誉に掛けて、ロウリアは必ずや撃退いたします。

 あなた方はどうぞ安心して、後方支援に専念して頂きたい」

 

 ノウがほぼ直接的に『邪魔だからすっこんでろ』と言うと、案の定、松井師団長と鈴木参謀長が不機嫌そうな色を濃くする。

 『怒ればいいんだ』と、ノウは腹の中で嘲笑った。怒って出て行ってくれれば、自分たちの力でロウリア軍を叩きのめすことが出来る。連中にこれ以上大きな顔をさせてたまるか――

 周囲の人間が『外交問題になるのでは』と冷や冷やする中、山下は泰然自若としてノウに言った。

 

「分かりました、いいでしょう。我々は後方支援に徹します。その代わり、エジェイに連絡要員の派遣と通信隊を置くことを認めて頂きたい。あと、我が軍は必要であれば、独自の行動を取らせて頂きますので、その許可もお願いしたい」

 

 山下がそう言うと、大内田も身を乗り出して要件を伝える。

 

「我々自衛隊にも、帝国軍の方々と同じような許可をお願いします。あと、敵の位置や戦局を作戦本部に伝える必要がありますので、観測要員を50名ほどエジェイに置かせて頂きたいのですが……」

「観測要員? まあ、貴国も戦局を本国に伝える義務があるんでしょうな。

 分かりました、こちらは構いません」

 

 こうして、必要最低限の情報交換と挨拶を交わしただけで、会談は終了した。

 

__________

 

 

「全くあの将軍は!」

 

 エジェイの城門の前で迎えの車を待つ間、松井師団長は怒りもあらわに吐き捨てた。

 

「あの男は我が軍が活躍するのが、よほど嫌らしいな。おかげさまで友好的な関係を構築することも出来なかったじゃないか。何が『後方支援に専念してくれ』だ!」

「落ち着け、松井中将」

 

 山下はそう言って、松井の肩に手を置いた。

 

「あの会談は決して無意味ではないよ。我々は自由裁量権を手に入れたし、後はノウ将軍と敵の度肝を抜くことだけを考えればいいさ。

 大内田陸将、例の作戦は進んでいますか?」

「もちろんですよ山下大将。既に作戦の骨子は各部隊に通達済みですし、後は我々自衛隊とあなた方帝国陸軍が、いかに連携できるかにかかっているでしょうね」

「そこが難しい所ですな。何しろ保有する兵器や装備に70年以上の開きがあるんですからねぇ。この差を埋めるのは、並大抵の苦労じゃ済まないですよ」

「鈴木参謀長の言うとおりだな。悔しいことだが、我が軍の装備水準はあなた方自衛隊とは比較にもならない。

 まあ未来の軍事組織と比較することそのものが間違っているんだが……」

 

 山下と鈴木はそう言うとため息をついて、大内田の顔を見た。

 陸上自衛隊と帝国陸軍の交流そのものは、エジェイに到着したその時から始まってはいたものの、自衛隊側が保有する防衛装備品(事実上は兵器)に対して、帝国陸軍側は圧倒されてばかりであった。何しろ大砲一つ取っても性能は段違いであるし、戦車などに至っては大人と子供ほどの差があるのである。

 このため自衛隊と帝国軍は、最初からお互いに混ざり合って共同歩調をとる事を放棄しており、むしろ戦場での役割を分担することによって、エジェイを効果的に防衛する作戦を構想中であったのだ。

 もちろん、自衛隊と帝国陸軍が共同作戦をすることはこれが初めてであるため、どこまでやれるかは未知数であり、困難が予想される。

 

「そこは仕方ありませんよ。ですが、我々陸自も猛訓練を重ねております。ご期待には必ずや沿うことができましょう」

「ハハハ、頼りにしております」

 

 山下と大内田はそう言って、固い握手を交わした。

 

__________

 

 中央暦1639年 6月10日

 ロウリア王国 東方征伐軍東部諸侯団 司令部

 

 

 一方、東部諸侯団の司令部でも、ある人物に対する苦言が吹き荒れていた。

 

「全く、あの男は何を考えているんだ!!」

 

 諸侯団を取りまとめるジューンフィルア伯爵は、机の上にある指令書をバンバンと叩きながら、男――アデムに対する怒りを露にする。

 

「王国本土に敵が侵入しているこの非常事態に『万難を排してエジェイ攻略作戦を実施する』だと!

 基本的な軍事常識さえ分からんのか、あの大馬鹿者は!!!」

「落ち着いて下さいジューンフィルア様。アデムの手の者に聞かれたら、それこそ首が飛ぶどころではありませんぞ」

 

 ジューンフィルアの部下である魔導師ワッシューナは、そう言ってちらりと窓の外を見やる。

 幸いにも、付近には誰もいない。

 

「う、うむ、少し軽率だったな。

 だがなワッシューナ、本土に敵が攻め込んでいるんだぞ。ここは防衛に転じた方がよくはないか?」

 

 ジューンフィルアは額の汗を拭いながら、そう述べる。

 ロウリア軍の総司令部より『敵が南部国境より侵攻を開始』の第一報が入ったのは、先月の26日午後であった。敵が25日早朝より侵攻を開始したことを考えると、とんでもない遅さである。

 東方征伐軍の幹部達はこの報を受けて直ちに会議を開始し、指揮官のパンドールの意見によって一度は『作戦を中止して、防勢に徹する』という方針に固まりかけていたのを、会議の席上で『クワ・トイネ公国攻略を完遂すべし』という意見が、アデムを始めとする数人の指揮官達から出たのだ。

 アデムはこの意見の根拠として『敵は不遜にも我が王国の本土に逆侵攻してきたが、王国南部には十分な予備兵力が存在しており、弱体な敵は間もなく撃退されるであろう』と述べ、また『エジェイを早急に攻略すれば、クワ・トイネは瞬く間に崩壊し、クイラに対する援助が出来なくなる。両国を早期に屈服させ、薄汚い亜人どもをこの世から駆逐して大陸に安寧をもたらすためにも、作戦は続行したほうが良い』という持論をパンドールに披露して変更を迫ったため、『作戦中止』に傾きかけていた征伐軍の空気が『続行』に変わってしまったのだ。

 

「まあ、アデム殿はギム攻略戦の一件で、少しケチがついてしまいましたからな。それを取り戻そうと必死なのでしょう」

「それは単なる私怨なのではないかな?」

「あの人の考え方からして、それが大部分でございましょう」

「結局、あの男は亜人を殺して回りたいだけか……」

 

 ジューンフィルアはため息をついて、指令書を再度見やる。

 指令書には『東部諸侯団は直ちに本陣より出発し、エジェイに威力偵察を行なうこと。また、エジェイには避難民が多数集結しているため、住民に「敵が迫っている」という恐怖を与えて、敵軍の士気崩壊を誘うよう努力する事』と書いてあり、これだけでジューンフィルアは胃が痛む思いだった。

 何しろエジェイは『城塞都市』として名を轟かせており、ギムなどとは防御の次元が違うのである。ギムだけであれだけの損害を出した以上、敵の抵抗は比べ物にならないほど苛烈になるであろう。

 また、偵察に出したホーク騎士団第15騎馬隊が、正体不明の攻撃を受けて一人の生存者もなく全滅した件もあり、これにもジューンフィルアは嫌な予感を感じていた。

 しかしこの指令を拒否すれば、アデムは東部諸侯団の幹部達を容赦なく粛清するであろう。それでなくとも、最近のアデムの機嫌は悪いのである。

 

「仕方ない、行くとするか」

 

 ジューンフィルアは自身の嫌な予感を打ち消すようにそう言うと、席を立って部下たちの所へと向かった。

 

 しかし後に彼は、自身の『予感』を信じなかったことを、ひどく後悔することになる……  




 またもや投稿の間隔が空いてしまい、大変申し訳ありません!
 インフルエンザと重要課題のダブルパンチ……きつかったです……


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第八話 エジェイ攻防戦2

 小説をご覧の読者の皆様、いつも読んでいただきありがとうございます!
 皆様のおかげで、評価バーの色が赤となりました!
 本当に感謝です!

 小説の展開は遅いですが、これからもよろしくお願いします!


 中央暦1639年 6月13日朝

 城塞都市エジェイ 西の門

 

 

 ギムより出発したロウリア軍東部諸侯団先遣隊は、行軍の途中で敵の妨害を受けることなく、無事に2万の兵をエジェイ西側5kmの地点に展開させることが出来た。

 既に少数の兵を偵察に送り込んでいるため、敵の様子も間もなく判明するはずだ。

 

「なのに何だ、この嫌な予感は……」

 

 東部諸侯団団長のジューンフィルアは、湧き上がる不安を拭い去ることが今でも出来ないでいた。

 幸い現時点までに敵による攻撃や妨害を受けたことは全くなかったため、兵たちの士気は全く衰えていない。しかし攻撃を受けていないこと自体が、かえって不気味であるとジューンフィルアは感じていた。

 もしかすると、敵は既にこちらの意図に気づいていて、様子を窺っているのではないだろうか?

 そう考えていると、部下の一人が楽天的に声を掛けてきた。

 

「しかし、なんとか期日までに布陣を終えることが出来ましたね、ジューンフィルア様。

 敵も我々を迎撃することなくエジェイに閉じこもっているようですし、こりゃ楽勝ですよ」

「油断するなよ、第15騎馬隊を全滅させた攻撃の正体がまだ分からないんだ。気を引き締めんと、思わぬところで足元を掬われるぞ」

「しかし攻撃は行軍中にも、部隊展開中にもなかったじゃありませんか。

 もしかすると、我が軍に恐れをなして撤退してしまったのでは?」

「そうだろうか……」

 

 ジューンフィルアは部下を戒めつつ、敵の動向に考えを巡らす。

 そうなってくれていたら、これほど幸運なことはない。だが敵も軍事組織である以上、何らかの罠や計略を巡らせている可能性は十分考えられる――いや、そうに違いない。

 何しろ一個騎馬隊を生存者も無く殲滅した敵だ。むしろ手くずね引いて待ち構えているだろう。

 しかしその攻撃の正体が分からない。現時点で考えられるのは『高出力魔法による攻撃』だが、その痕跡が全く無い以上、その可能性は限りなく低い。

 では、それは何か――

 思考が堂々めぐりに陥りそうになった、その時、

 

「ジューンフィルア様! あれを!!」

 

 東部諸侯団の幹部達が叫んで、空の一点を指し示す。

 見ると「バタバタバタ……」という音を立てながら、奇妙な白い飛行物体が接近してきた。

 行軍の疲れを取るために休憩していた兵士たちも、何事かと空を見上げて騒ぎはじめる。率いてきた馬たちも、空気を叩くような音に驚いて暴れだし、騎兵たちが慌ててなだめにかかる。

 

「何だ! ありゃあ!?」

「新種のワイバーンか何かか!?」

「いや、ワイバーンとは違うぞ!!」

 

 瞬く間に野営地は混乱のるつぼと化すが、その物体は地上で繰り広げられている騒動など知った事ではない――と言いたげに、野営地上空の弓矢も届かない高空で停止すると、白い紙を大量にばら撒いて去っていった。

 部下の一人が、拾った紙をジューンフィルアのもとに持ってくる。

 それを一読して、ジューンフィルアは凍り付いた。

 

『二時間以内に現陣地を撤収し、全軍をこの地より退却させよ。

 我々は貴軍の位置を完全に把握しており、全ての攻撃手段を貴軍に対して使用する用意がある。

 退却の意思が見受けられなかった場合、我々は貴軍を攻撃する。

                   日本国陸上自衛隊第7師団 師団長 大内田和樹陸将

                   大日本帝国陸軍第二五軍 司令官 山下奉文陸軍大将』

 

(ついに来たか……)

 

 ジューンフィルアは噂に聞く強敵の出現に、思わず武者震いを覚えた。

 今のところ、自分たちが負ける道理は何一つない。兵の士気は旺盛だし、武器だって最高のものを取り揃えている。しかも、こちらは2万人という大軍なのだ。日本軍が何万人揃えてくるのかは分からないが、ちょっとやそっとで崩壊する兵力でもない。

 

(しかし、攻撃日時を事前に知らせてくるとは……どうにも解せんな。

 敵将は余程戦に自信があるのか、あるいは単に律儀なだけか……どちらにせよ、油断は禁物だ)

 

 ジューンフィルアは頭の中であらゆる可能性を考えてみたものの、納得する答えは見いだせなかった。

 そのため、とりあえずは隊列を組ませて戦闘に備えつつ、周りを警戒せよとの命令を下した。

 

__________

 

 

「敵部隊、隊列を整え始めたり。戦闘準備と見受けられる」

 

 エジェイに派遣されている通信隊からの報告に、山下は「やはり」といった様子で頷くと、野戦司令部の天幕に詰めている参謀たちを眺め渡した。

 

 

「皆。聞いての通り、敵は徹底的に戦うつもりのようだ。

 参謀長、『鯉』兵団に連絡。『各部隊は作戦通りに移動し、攻撃準備にかかれ』と伝えよ」

「分かりました。通信兵!」

 

 鈴木参謀長が司令部付きの通信兵に命じると、通信兵は即座に山下の命令を無電で伝え始めた。

 それに伴い、司令部天幕の中も、参謀たちの声や紙の擦れる音などの喧騒に満ちてゆく。

 

__________

 

 2時間後

 陸上自衛隊 第7師団の野戦陣地

 

 

「これは……一体……?」

 

 陸上自衛隊第7師団、その砲撃陣地に運び込まれてきた兵器群を見て、帝国陸軍の観戦武官である加藤少佐が発した疑問の呟きを、大内田は聞き逃さなかった。

 

「ああ、あれは『MLRS』という兵器でして、直訳すると『多連装ロケットシステム』といいます。この兵器は広範囲の面積に展開する敵を制圧するために米国で開発されたもので、あの箱状の中に12発のロケット弾が装填されていて、1発あたり644個の子弾が内蔵されています。あれが空中で炸裂すると、1台で7728個の子弾が敵陣に飛んで行く計算になります。我々第7師団はこれを12台持ってきているので、総数9万発以上の子弾を目標に対してばら撒けることが出来るということになります」

「なんと! 9万発以上ですか……」

「ええ。でもこれは本来は国際条約で使用禁止にされている弾種なんです。しかし、我々自衛隊の懐事情はお世辞にも良いものではありません。なので廃棄処分待ちのものから使おうということになったんです」

「なるほど。ところであちらの兵器は? 見たところ戦車のようですが……」

「あれは『99式155mm自走りゅう弾砲』といいまして、名前の通り榴弾砲を搭載した自走砲です。射程距離は30km以上にもなりますよ」

「それは凄いですなぁ……羨ましい限りですよ。我が軍の榴弾砲は外国のものと比べると、射程距離で若干劣っていますので……」

 

 加藤少佐がそう深いため息をついたのを見て、大内田は苦笑を浮かべた。

 これは別に帝国陸軍の野戦重砲の質が悪いためでも、ましてや兵士たちのせいでもなく、陸軍の大砲行政そのものに根本的な欠陥がある。

 当時の帝国陸軍は大砲の更新時期が近づくと、外国より最新の大砲を輸入し、それを研究して模倣することによって技術の蓄積を図ってきた。しかし外国の軍がおいそれと最新の大砲をくれる訳もなく、必然的に帝国陸軍は列強各国と比較して技術的に一歩出遅れるのが常となっていたのである。

 米国との友好関係によってその傾向は徐々に改善されつつあるが、第一次大戦による大砲の射程距離の進化を見抜けなかったことや、国力の問題で数を揃えやすい野砲や山砲を重視してきたこと、そもそも狭い国内の演習場では野戦重砲を使う訓練に多くの制限があることなどから、未だに全面的な解決には至っていない。

 

 ――――閑話休題。

 

 大内田と加藤が話をしている間にも、MLRSと自走砲の群れはあらかじめ決められた場所に陣取って、砲撃準備を整えてゆく。加藤少佐にはそれが、獲物を今か今かと待ち受ける猛獣の行動のように感じられた。

 傍らでは大内田が、側近の幹部に問いかけた。

 

「では、敵に撤退する様子はないんだな?」

「はい、一切ありません。それどころか隊列を組み、戦闘態勢を整えつつあるようです。今ノウ将軍にも確認を取りましたが、エジェイの外に友軍が展開していることはあり得ないとのことです」

「そうか……なら仕方ない。攻撃を許可する」

 

 大内田が目を瞑りながら命令すると、部下の自衛隊員たちはそれに従って、テキパキと配置についてゆく。

 

「座標、エジェイ西側に展開している武装勢力!! 多連装、斉射用意……撃てっ!!」

 

 その号令と共に、湾岸戦争とイラク戦争で『スチール・レイン(鋼鉄の雨)』とイラク兵から恐れられたクラスター弾が、各車両より4、5秒ごとに連続して発射され、空に消えてゆく。

 さらに自走砲も砲撃を開始するのを見て、加藤は場違いにもこう思ってしまった。

 

(俺たちの仕事はあまりなさそうだなぁ……目標が生き残っていればの話だが……)

 

__________

 

 

 ジューンフィルアら幹部達が立つ丘の下にある平野部では、東部諸侯団配下の兵士たちが整然と列をなして、攻撃開始の命令を今か今かと待ち受けていた。

 一応敵の攻撃を警戒して、一部の兵には散開して警戒線を敷くよう命令している。この陣形であれば、どこから敵が攻撃してきても、即座に対処可能なはずだ。

 二時間前に飛来した奇妙な飛行物体から投下されたビラも、彼らの戦意を喪失させるには至らない。それどころか、兵士たちは自分達が挑発されていると勘違いして、一層士気を高揚させていた。

 そんな中ジューンフィルアは、敵の意図を未だつかめないでいた。

 

(もうすぐ敵が予告した時刻になるが、未だに何もないな……やはりハッタリか?)

 

 ジューンフィルアは疑念を抱きながらも、部下に攻撃命令を下そうとした。

 その時――

 

(――!!)

 

 ジューンフィルアは突如、言いようも知れぬ嫌な予感を感じた。

 その嫌な予感はたちまち形を成して、彼の心に大きな影を落としてゆく。

 もしかするとそれは、生き物としての本能的な危機察知能力が、彼に与えた警告だったのかもしれない。

 それが「死」であるとジューンフィルアが気づいた、その瞬間――

 

 ドガーン!!! ズドーン!!! バババーン!!!!!

 

 突如として、隊列の真ん中が大きく炸裂し、続いて巨大な爆発音が辺りに轟き渡った。

 爆発は平野部にあった土と、そこにいた人間をまるで紙切れの様に吹き飛ばし、バラバラにして空に放り出す。 兵士たちは完全に恐慌状態となり、四方八方に逃げ惑うが、上空から振り下ろされる死の鎌は誰一人逃しはせず、平等に死をもたらしていく。

 それはもはや戦ではなく、一方的な虐殺に近いものだった。

 

「な……な……何だっていうんだぁ!! これはぁっっ!!!」

 

 ジューンフィルアは茫然と立ち尽くし、その現実離れした光景を見ることしか出来なかった。

 平野部には連続して巨大な爆発が起き、国内外から精鋭無比と謳われた部下たちが、敵の姿を見ることも、剣を交えることも叶わずに、ただひたすら情け容赦なく、そして効率的に死へと追いやられてゆく。

 絶望的だった。

 ありえないことだった。

 あってはならないことだった。

 

「ひ、引け……引けえっ!! 退却せよょっっ!!!」

 

 ジューンフィルアは自身も半ば恐慌状態に陥りつつも、必死に命令を飛ばして部下を退却させようとした。

 しかし、そんな彼の努力を嘲笑うかのように、死神は彼の元にもやってきた。

 

「!!!――」

 

 ジューンフィルアは、ふわりとした浮遊感を感じた瞬間、爆発と共に空中高く放り投げられた。

 ふと、彼は自分の体を見てみる。

 下半身と、右腕が無くなっていた。

 そのまま、彼は意識を閉ざした――

 

__________

 

 

「な……何なんだ……一体、何が起こっているのだ!?」

 

 エジェイにある城の作戦会議室から望遠鏡を使うことにより、戦場の様子を眺めていたノウは、正確無比な日本の攻撃を見て絶句していた。

 敵陣からは猛烈な爆発が立て続けに起こっており、土煙で詳しいことは分からない。しかし爆発の度に人間らしきものがなぎ倒されていくところや、折り重なっている死体が見えることから、敵が大打撃を受けているらしいことは辛うじて分かった。

 日本の連中がどんな風に戦うのか楽しみだ、と高みの見物を決め込んでいただけに、これは予想外かつ衝撃的な光景だった。

 

「バカな! 5kmも離れているのにどうして……!?」

「な、何なんだ!? 爆裂魔法か!?」

「いや、爆裂魔法でもあんな攻撃は不可能だ!!」

「だとしたら何だ! 日本は神竜を味方につけているのか!?」

 

 騒ぎ立てる参謀達と魔導師達だったが、そこに横から答えが返ってきた。

 

「これが『科学』ですよ。我々は科学によってあのような攻撃を可能としてるんです。

 少しは分かっていただけましたか? 我々の軍事力がどのようなものか」

 

 聞きようによってはノウ達を馬鹿にしているような口調でそう言い放ったのは、第二五軍の連絡将校として派遣されていた辻政信中佐であった。

 ノウは辻の顔を見ると、顔を真っ赤にしながら詰め寄る。

 

「しかし、あのような攻撃は魔法無しでは不可能だ! 君たちは『魔法が使えない』と聞いていたが、秘密裏に魔術師を多数養成していたのではないのか!?」

「ですから、その前提からして間違っているんですよ。我々は魔法などという曖昧かつ効率が悪いものではなく、科学技術という確固たるもので文明を築いているんです。

 まあでもこれで、科学は魔法よりも上の存在であることがはっきりしましたな。後は我が帝国陸軍にお任せ下さい。あなた方公国軍の助けなど必要ありませんので」

 

 もはや完全に挑発している辻に対し、参謀や魔導師達は怒りに満ちた視線を送る。

 それに構わず、辻は通信兵を呼びつける。

 

「司令部に通達。『作戦第一段階終了、第二段階に移られたし』だ」

「了解しました!」

 

 辻は通信兵を見送ると、満足そうに作戦会議室を見渡した。

 

「さあ、ご質問はありますか?」

 

__________

 

 

「隊長、司令部より通達! 『作戦開始』とのことです!」

「よし、いよいよだ! 全戦車に通達『前進せよ』!」

 

 第三戦車団に所属する前川少佐は、待ってましたとばかりに指揮下の全戦車に前進命令を下す。

 第二五軍の直轄部隊である第三戦車団は、戦車連隊一個と複数の自動車化部隊で構成された部隊で、機械化があまり進んでいない帝国陸軍にとっては、文字通り虎の子の部隊である。

 この部隊はあらかじめ二手に分かれた上で、エジェイの南北に布陣して命令を待っていた。

 作戦はごく単純なもので、ロウリア軍が自衛隊の攻撃を受けて混乱しているすきに、すかさず南北より敵部隊を包囲、殲滅することが第三戦車団には求められていた。

 

「さて、初めての陸戦だ。敵さんのお手並み拝見といくか」

 

 前川はそう言うと、まだ見ぬ敵に思いをはせた。  




 感想、評価をよろしくお願いします!
 また投稿が遅れました……

 最近、新しい小説を構想中です。構想が固まり次第、書いていきたいと思っています!


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第九話 壊滅

 いつもこの小説をご覧になって下さる読者の皆様、ありがとうございます!
 いよいよこの『ロデニウス戦役』編も佳境に入りました。
 引き続きご覧ください!


 中央暦1639年 6月13日

 城塞都市エジェイ 西の門 ロウリア軍東部諸侯団陣地

 

 

 陸上自衛隊による激しい砲撃によって、2万の東部諸侯団は一瞬にして1万2千人もの兵士を失うという大打撃を受け、指揮系統は大混乱に陥っていた。

 しかし一部の部隊は散開して警戒線を敷いていたこともあって損害は軽微であり、また元が練度の高い兵士で構成されていたこともあってか、一部の上級指揮官達はこの被害にもひるまずに反撃を画策していた。

 

「急げ! 偵察部隊を直ぐに飛ばして敵部隊の位置を探らせるんだ!! そうすれば反撃が出来る!!」

 

 猛烈な砲撃によって戦意を失いつつあった兵士たちを鼓舞するのは、東部諸侯団の中でも若い部類に入る一人であるザンダル侯爵であった。

 ザンダルが率いる2千人の部隊は、ジューンフィルアが命じた警戒線の構築に携わっていたために被害を免れており、このため彼は東部諸侯団の残党をもかき集めて即席の戦闘部隊を編成、敵に一矢報いてやろうと画策していた。

 

「し、しかしザンダル様。敵は猛烈な爆裂魔法を使用していると思われます。ここは引いた方が――」

「だから何だ? これだけの損害を受けておきながら、敵を見ることもなく撤退するのかね? 冗談じゃない!!」

 

 砲撃から辛くも生き延びた諸侯団幹部の一人が恐る恐る意見を述べると、ザンダルはその幹部を声を荒げながら睨みつける。

 

「確かに敵はとんでもない爆裂魔法を使っている。しかしあれだけの魔法をもう一度放つにはかなり時間が掛かるはずだ。日本軍が何人魔導師を運用しているのかは分からんが、少なくともその間に敵を探し出せばこっちのものだ! 魔法攻撃の射程が長くないことを考えれば、連中は必ず近くに隠れている! やつらの懐に入り込んで一撃を与え、その後で引けばよい!!」

「ですが、あれだけの攻撃ができる魔導師など聞いたことがありません! いえ、あんな攻撃は何人大魔導師を揃えても不可能です! 今すぐ撤退しなければ全滅もあり得ます!!」

「だからこそ敵を知る為に攻撃が必要なのだ! ジューンフィルア様が戦死なされた以上、少しでも反撃して敵の情報を持ち帰らねば散っていった将兵に申し訳がたたん!!」

 

 日本に一矢報いたいザンダルと、日本の攻撃の威力を間近で体験した幹部。

 どちらの意見にも一理あるため、ザンダル部隊の幹部もどちらの意見が正しいのか図りかねていた。

 再び激論が交わされようとした、その時、

 

「魔力通信がきました! 偵察部隊からです!!」

 

 伝令兵が天幕に駆け込んできて、大声で報告した。

 

「読み上げます! 『我、敵部隊を発見す。敵は地竜らしき鉄製の怪物を先頭として進撃中なり。部隊の被害甚大、これより撤退す』以上です!」

「な、なに! 地竜だと!? それは本当なのか!?」

 

 ザンダルは顔を青くして通信兵に問いただす。

 地竜といえば、第三文明圏の雄であるパーパルディア皇国が運用している『リントヴルム』が有名であり、この竜を飼育、育成する技術があったからこそ、パーパルディア皇国は第三文明圏の覇者として君臨することが出来たのである。

 つまり、日本軍が本当に地竜を運用しているのならば、日本軍はパーパルディア皇国並みの軍事力を有している、ということになる。

 ザンダル達にとって、その報告は絶望的であった。

 

「と、とにかく部隊を展開して防げっ!!」

 

 ザンダルは冷や汗をたらしつつ、前線部隊に檄を飛ばした。

 

__________

 

 

 

「き、来た! 来たぞぉっ!!」

 

 最前線にいる兵士たち――歩兵と騎兵の混成部隊――は、迫りくる日本軍の地竜に対して緊張に染まりながらも戦闘準備を整えていく。

 ついさっきまで本隊の惨状を目撃していただけに、兵士たちの表情には若干怯えが混じっている。しかしそれでも総崩れとならずに攻撃態勢に移っているあたり、いかにこの部隊の練度が高いかを物語っていた。

 やがて視界に入ってきた日本軍の姿に、兵士たちの顔が引き締まる。

 

「何だありゃあ……生き物なのか?」

 

 一人の古参兵があっけにとられたように呟く。

 何故なら、日本軍の地竜は彼らが想像していたものとは全く異なっていたからだ。

 まず生き物なら当然あるはずの足が無く、代わりにギザギザした輪っかのようなものを「キュラキュラキュラ……」と前後に回転させながら前進しており、頭と思しき部分には変な棒が突き出ていた。胴体も鉄製らしく、鈍色に輝いている。

 色も土色と緑と黄が混ざり合った汚らしい色合いで、およそ美意識というものが全くない。

 そんな物体が「ヴドロロロロ……」という騒音(もちろんディーゼルエンジンの音であるなど、彼らは知らない)を立てながら、30体ほどがこっちに向かってくるのだ。

 兵士たちが戸惑うのも無理はなかった。

 

「全隊突撃せよっ!! 蛮族どもに目に者見せてやれぇっ!!!!」

「「「「おおおおっっっ!!!!」」」」

 

 指揮官の号令一下、兵士たちは猛然と突撃を開始する。

 騎兵は馬を駆り、歩兵は自分の足で走りつつ、喊声を上げながら敵に接近してゆく。

 対する日本軍は何故か地竜を停止させると、突き出た棒をこちらに向けてきた。

 

「何をするつもりだ――」

 

 指揮官が疑問に思った、その時――

 突き出た棒が次々と火を噴き、その瞬間彼らの隊列中や周りに連続して爆発が巻き起こる。

 

 九七式中戦車の47mm砲弾と一式中戦車の57mm砲弾が、810m毎秒という高初速で着弾した結果だった――

 

__________

 

 

 

「目標に命中!!」

「よくやった! よし次!!」

 

 戦車部隊を預かる前川少佐は、自身が乗る戦車の部下たちが敵のど真ん中に砲弾を命中させるのを見て、思わず喝采をあげた。

 前川が乗る一式指揮戦車は部隊を指揮するための通信機器を搭載していることもあり、通常型の戦車と比べて砲弾の数は半分ほどしかない。そのため指揮戦車の乗員は高い練度が要求されるのである。

 前川も自身の乗員の腕を信頼しているが、部下たちの訓練の成果を自分の眼で見られるのは嬉しかった。

 周りでも配下の戦車が敵部隊に砲弾を浴びせており、それらはほぼ外れることなく敵に命中していた。対する敵は何が起こったのか分からないようで、こちらに突撃しては損害を増やしている。

 稀に戦車の近くまで接近してくる敵兵もいるが、それらは戦車の前面にある7.7mm機銃や、後方にいる一式装甲兵車、一式半装軌装甲兵車から降車した歩兵たちによって、戦車に取り付く間も無く掃討されていく。

 

(敵さんのお手並み拝見と思っていたが、こりゃ余りにも一方的すぎるな……)

 

 前川は敵を圧倒しているという興奮を覚えつつ、その一方で自軍と敵の余りの差に思わず同情する。

 そうこうしているうちに敵は戦意を喪失したのか、こちらに背を向けて敗走し始めた。すかさず歩兵部隊が戦車の代わりに前に出て、敵残存部隊の掃討に取り掛かる。

 前川も「撃ち方止め!」の命令を出そうとしたが――

 

「た、隊長! 敵騎兵が一騎、こちらに突撃してきます!!」

「何だと!」

 

 前川は報告に驚愕し、すかさず車長用のバイザーから前方を見た。

 確かに一騎の騎兵が突撃してくる。歩兵部隊が阻止しようと小銃を撃つが、馬が早すぎるのか銃弾は全て外れてしまう。

 

「内田! 機銃で阻止しろ!!」

「了解!!」

 

 前川の命令を受けて、無線手兼銃手の内田一等兵が九七式車載機関銃に取り付いて発砲を開始し、7.7mmの曳光弾交じりの実包が毎分450発の発射速度で敵に向かう。

 しかし敵は馬の進路を頻繁に左右にずらすことで銃弾の雨をかいくぐり、尚も突撃してくる。

 

「クソっ!」

 

 前川は罵声を漏らすと、腰の十四年式拳銃に手を伸ばした――

 

__________

 

 

「うおおおおおおぉぉぉっ!!!」

 

 東部諸侯団に所属する女騎士イザベルは、愛馬を駆って鉄の怪物――戦車に向かって突撃する。

 既に苦楽を共にした戦友や部下はこの世に居らず、この場にいるのは自分だけだ。それでも彼女は敵である日本軍への攻撃を止めようとはしなかった。

 

(おのれ!! よくも仲間たちを!!)

 

 彼女はその復讐心だけを頼りに突き進んでゆく。

 今片手に持っているのは、貴族階級である彼女の一族に代々伝わる騎兵槍であり、一族の人間は皆これを持って戦場に出たのだという。

 元々東部諸侯団にはイザベルの父が参加するはずであったが、前日になって父が病に倒れたため、代わりに彼女が領地の兵を引き連れて出征することになったのだ。しかし今や、その兵達も日本軍の攻撃で壊滅してしまっている。 

 だからこそ彼女は、自分たちの常識外の攻撃をした日本軍を許すことは出来なかった。

 

(もう少しだ!)

 

 イザベルは心の中で自身を叱咤しつつ、愛馬を駆る。

 途中で鉄の怪物から見たことのない火矢の様なものが放たれるが、イザベルは乗馬が得意だったこともあって難なくそれを避けることが出来た。

 

「これで終わりだっ!! 怪物がぁぁっ!!!」

 

 イザベルは叫びながら、戦車に向かって勢いよく槍を突き刺した。

 しかし――

 

 ――バキィッ!!

 

 ――突き出された彼女の槍は、一式中戦車の表面硬化処理された50mmの装甲を貫くことは出来ず、先端が砕き折れてしまった。

 

「な、何だとっ!!」

 

 イザベルは折れてしまった槍を見て、思わず呆然とする。

 その時怪物の上面が開き、中から敵兵らしき人間が出て来た。慌てて剣を抜こうとするが、敵の方が一足早かった。 

 敵が持っていた変な鉄の塊が火を噴くや、イザベルは胸に熱い衝撃を感じ、その場に崩れ落ちた――

 

__________

 

 

「女だったのか……」

 

 前川少佐はたった今射殺した敵兵の顔を見て、思わず呻いた。

 敵を阻止するために無我夢中で拳銃を撃ったものの、相手が17、8歳ほどの女性であると分かると少し罪悪感がこみ上げてくる。だがこれも戦争だ、仕方ない――彼はそう自分に言い聞かせた。

 

(しかしアンタ、よくここまで来たよ……)

 

 前川はそう心の中で賛辞を贈ると、名も知らぬ敵兵に向かって敬礼をした。傍らでは他の部下達も同様に敬礼をしている。

 戦いは既に掃討戦に移行しており、通信によると最後の敵部隊が降伏したという。

 名実ともに自分たちの勝利と考えて間違いないだろう。

 

「やれやれ、やっと終わったな……」

 

 前川はそう呟くと、上空を仰ぎ見た。

 そこには何十機という航空機の群れが一路西を目指している。

 ロウリア軍の本隊を叩くための爆撃機部隊であった――

      




 いかがでしたでしょうか?
 感想、評価など、よろしくお願いします!!


 では、今回登場した兵器の紹介を。

・一式中戦車「チヘ」

全長:5.75m
全幅:2.37m
全高:2.4m
重量:自重15.5t
速度:44km/h
行動距離:210km
武装:48口径57mm戦車砲×1(砲弾100発)
   7.7mm九七式車載重機関銃×2[車体前方、砲塔後方](弾薬4000発)
装甲:車体・砲塔正面50mm、側面30mm、後面25mm(表面硬化処理装甲)
エンジン:240馬力空冷ディーゼル
乗員:5名


 日本陸軍はノモンハンにおける一連の戦闘において「チハ」の能力に満足し、当面はこれを主力とすることを決定した。しかし1939年9月に欧州大戦が勃発、列強各国の戦車が驚異的な進化を遂げるにあたり、陸軍上層部は慌てて新型戦車の開発を開始した。その結果誕生したのが本車である。
 主砲である48口径57mm戦車砲はイギリスが開発した「6ポンド対戦車砲」を輸入し、これを参考に開発されたもので、870m毎秒の初速で85mmの装甲を1km先から貫徹することが可能だった。また自身の装甲はドイツから導入した「表面硬化処理装甲」を導入、防御力の向上に大きく寄与した。
 現在は九七式中戦車の後継としてその数を増やしつつあり、戦車部隊の中核となることが期待されているが、異世界転移により日本国の「61式戦車」「74式戦車」の情報や、「過去の」戦争の情報が入ってくると、これでも力不足であると見なされるようになり、現在後継戦車の開発が急がれている。



 読者の皆様には大変申し訳ありませんが、作者の都合により一か月~二か月ほど更新が止まるかもしれません。
 ですが、都合がつき次第再開していきますので、どうか長い目で見て頂けるとありがたいです。
 これからも『八八艦隊召喚』をよろしくお願いいたします!


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